ヒトナツの物語 (カサス)
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波乱万丈なプロローグ

初めまして、カサスです。

小説の投稿は初めてなのでアドバイスをくれると嬉しいです。

念のため、クロスオーバータグはついています。


 ――おお、○○よ死んでしまうとは情けない。ようし、このお神が転生させてやろう。

 

 ――転生場所と特典とかねーのかよ?

 

 ――とりあえず言ってみ?

 

 ――転生する場所はIS、インフィニット・ストラトスな(ハーレムキタコレ!)

 

 ――オッケー!(ハーレム(笑))

 

 ――んで特典、は……(中略)で!

 

 ――(うっわ……)あ、それ無☆理!ISの世界観的に考えてデフォルトでそんな能力持っているやついないし。代わりにその世界の主人公の容姿と未来の話だけどセンヨウキ?を手にはいるようにしてあげよう。まぁ、簡単に言えば、大方原作通りに進めれば原作と同じ恩恵を受けられるつまり主人公補正バリバリよ!しかも、大サービスで原作主人公よりもスペック向上してあげよう!

 

 ――いいな、それ!買った!

 

 ――いってらっしゃーい(まぁ、君がいる時点で『原作通り』に事が進むわけないし、『原作』何てあってないようなものなんだけどね。此処での出来事は記憶から消させて貰ったけど、原作知識はそのままにしておいたからそこは困りはしないでしょ……さてさて今回の世界はどうなるかな?……以上、ダイジェスト風味による全ての発端(プロローグ)でしたー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  少年の物心がついたのがいつだったかは彼自信もよく覚えていない。ただ、一つ感じたことは。

 

 

 

  自分の家庭はどうやら普通じゃないらしい。

 

 

 

  少年の家庭には年の離れた姉と同い年の兄がいた。コレだけなら、そう珍しくもない家族構成だ……親がちゃんといれば。

  幼少期の最初の時は、親がいないことにたいした疑問を懐いたことがなかった。何故なら、少年にとっては親がいないこと(それ)が普通であったからだ。そして、姉と兄の存在。姉は矢鱈と夜遅くに帰ってくるだけだからまだ良いのだが、問題はこの兄、何かとつけて自分にイチャモンやちょっかいを仕掛けてくる。恐らく自分が物心ついたときかあるいはそれよりも前に、自分のお菓子は奪ってくる、遊んでた玩具を壊すといった蛮行である。

  姉が世話になっている近所の剣道場では自分を目の敵にしているのか睨み付けてかかってくる。結果は、小学生にもなっていない身じゃ五分五分だった。しかし、毎回そんな調子じゃ気分が悪くなる。

 が、少年は何故か、怒らなかった。というのも最初は、反発していたのだが、基本的に日々二人しかいない環境下で段々兄の相手をするのが面倒になってきたため、道場に入った時点で少年の精神は兄の嫌がらせ程度では動じなくなっていたのだ。寧ろ道場の人や他の子供も心配をかける始末に、少年が何だか申し訳なく思ってしまったのは仕方のないことだったのだろう。

  そんな少年の楽しみは、近所の大人の人の反応だった。あるときは、石を投げ入れ、あるときは、困っている大人の人の手助けを、又あるときは、大人の人が主催している催しにも参加した。その都度自分に向けてくる感情が何だか楽しくて仕方なかった。怒られもした、褒められて飴を貰った。何だかよくわからないスタンプを集めたら微笑ましく撫でられた。その時の感じた気持ちを少年は言葉にできなかったが……そのお陰か、優しい大人の人に重要なことやどうでもいいような楽しいこと等様々なことを教えて貰った。近所での少年の評判は、元気があって覚えが良く人を思いやる心があるという、良いものであり姉にも「自慢の弟だ」と褒められた。この時4歳。

  そして、小学生になって小学校に通い始めてから兄の攻撃が露骨に強くなった。長時間、同じ施設でいるからか兄と仲の良い子供と徒党を組んで苛めを行いだしたのだ。

  だが、少年は特に何も思わなかった。より正確には、そんなことにかまけている場合じゃなかったのだ。

  切欠は一年ほど前の5歳になるかならないかの時だった。朝起きたとき、姉が下着姿で上半身を机の上でうつ伏せで倒れていたのだ。最初は慌てて近寄ったのだが、寝ているだけだったので、机の上で散乱しているコンビニ弁当をゴミ袋に詰め込んで衣類を洗濯機に入れようとしたときだった。

  足になにかぶつかった。拾ってみるとそれは預金通帳だった。どうやら制服のポケットから滑り落ちてしまったらしい。少年は徐にその中を見た……見てしまった。そして――

 

 

 

 

 

 

  (剣道してる場合じゃぬえぇぇぇぇぇ!!)

 

 

 

 

 

 

  少年、織斑一夏、年齢もうすぐ5歳。働く決意(人生の転換期)をした。

 

 

 

 

 

 

  思い立ったが吉日とばかりに、一夏は行動した。まず、剣道を止めた理由は身体の調子がよくないと適当にでっち上げた。その時、師範が何も言わずに流派の剣術指南書をくれ「わからないところがあったら来るといい。何時でも稽古をつけてやる」と言われたときの一夏の顔は感謝の念で今にも泣きそうな顔だった。

  そして、町内会の防災訓練の時に知り合った、五反田弾の家が料理店ということでお手伝いという名目で働くことになった。この時の一夏の熱意に五反田厳の胸を打ち、時給一万で週3~5週の送迎込みで四時間のバイト(姉、千冬が流石に止めたので時給は半分だが)を行うことになり。その間厳の料理の特訓についていく姿勢に弾の妹の蘭にフラグがたったのは言うまでもない事である。

  更に、弾が対抗意識を燃やして、店を手伝い始め一夏、弾、蘭の子供三人が、健気に給仕する姿や厳主導のもと料理する姿は微笑ましく、話題を呼び、なんと雑誌の取材まで行うまでになった。そして半年前の運命の日――

 

 

 

 

 

「初めまして、織斑一夏君ですね?私、芸能事務所、『ファントムプロダクション』所属の巻紙礼子と申します。本日はあなたのスカウトに参りました」

 

 

 

 織斑一夏、6歳。職業子供タレント。現在、売れっ子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  あと、この3ヶ月後に白騎士事件が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここの一夏は、転生者の影響で織斑家の家計が火の車だったので何とかしよう働き始めたのが始まりです。


それにしてもファントムプロダクション……一体何企業なんだ。


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01 芸能界は地獄

芸能界、本気出す。

※少し本文を訂正しました。


 インフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれる『兵器』の性能に全世界が揺れた。そんな中、一夏は自分のマネージャーである巻紙礼子と打ち合わせをしていた。

 

「つーことで、明日から刑事ドラマの子役すっから、台本の中身覚えておくのと、当日スタッフや他のキャストにちゃんと愛想よくしとけよ」

 

「その口調でよくもそんなこと言えますね。初対面の時のあなたはどこ行ったんですか?」

 

「るっせー」

 

 この巻紙礼子、とんでもなく素の口調が悪い。初日で一夏をスカウトに来た品行方正なあの姿が嘘のようである。

 

「所で、お前ISってどう思う?」

 

「どうって?」

 

「感想だよ。なんかアンだろ。女尊男婢とかで仕事なくなるぅーとかよー」

 

 ニタニタと笑いながら聞いてくるマネージャー。一夏は一瞬、こいつ本当に俺のマネージャーか?と思ったが顔に出さず口を開けた。

 

「そんな大して変わんないと思うけどな……だってISって兵器なんだろ?だったら扱う人間にもそれ相応のモラルなり何なり求められるんじゃない?人格破綻者にミサイルのスイッチ持たせられないでしょ?」

 

 一夏の答えにうわード真面目に答えやがったよと言いながらアイスコーヒーを飲む礼子。

 実際、ISが発表されたが一夏の生活に劇的な変化が訪れた訳じゃない。CMの収録や、雑誌の一ページを飾るために写真を撮ったり、バックダンサーとしてダンスをしたり、ドラマで公園で遊んでいる子供モブAの役をしたりとそんなものである。そもそもISとタレントじゃ畑違いすぎて接点が見当たらない。

 変わったといえば、多少なりとはいえ有名人になったからか学校での兄一派による苛めがなくなったことと、ISの発表で姉である千冬の帰りが更に遅くなったことだろうか。

 

(まぁ、ちー姉(ちーねぇ)は束さんの友人だから、帰ってくる時間が遅い理由は概ね予想出来るけど……大丈夫かなぁ……争い事とかに巻き込まれてなければいいけど)

 

 因みにISの開発者こと天災篠ノ之束氏は、一夏の出ている雑誌や映像の永久保存作業に勤しんでいるらしい。

 

「それにこのご時世、戦争したがる先進国なんてのもいないですしね、国防かその内、絶対防御を生かした危険区における救助活動や宇宙のような未踏空域での探索と資源採掘に使った方が建設的です」

 

「……前々から思ってたんだが、お前ほんとに小一のガキか?」

 

「やだなー、今も現役バリバリの小学一年生の子供ですよ。現にこうやって炭酸入りオレンジジュース飲んでいるんですし」

 

 いや、ガキかどうかの基準にオレンジジュースはないからな?礼子は内心ツッコミを入れながら、一夏を送迎するために車を取りに行くと一言いってからこの場をあとにした。

 

 礼子が去ったあと、一夏はこれからの事を考えていた。

 

(先ずは、ここで干されない様に頑張らなくちゃな。でなきゃ、独立出来ない。ちー姉の収入がどれくらいかはわからないけど、一般的なアルバイトの収入じゃたかが知れている。このままこの状態を維持できれば義務教育が終われば自立出来る。そうすれば、ちー姉の負担はかなり減るはず……)

 

 

 

 だが、数ヵ月後、彼はこの芸能界の真の地獄に直面することになる。

 

 

 

 

 それは彼が新しいヒーロー戦隊の番組で主人公の少年時代の少年役という子役ならではの役を貰った時のことだ。子供かと疑われてしまう一夏も子供らしい感性を確かに持っている。だから、オーディションでの合格通知が来たときは笑顔を浮かべて喜んでいた……

 

(そのときの自分をぶん殴りてぇ)

 

「何を呆けておる!戯けが!」

 

 この主人公、幼少期から特殊な格闘技を身に付けており、丁度一夏の時くらいには、奥義を含め免許皆伝を得ているという反則的な才能を持っており、悪の秘密結社相手にもそれを戦闘の基本としている……

 

(だからって、リアルにそんなスペック求めるなぁぁぁぁ!!)

 

「もう一度よく見よ!!こうだ!奥義!超○覇王電影弾!!そしてこれが最終奥義!石破○驚拳!口でいってもわからんかぁぁぁ!!ならば身体で覚えええい!!」

 

(普通にビーム出してるけどアレCGじゃないんだよな……)

 

 訳がわからなかった。今目の前に起きている現象所か、架空の武術を使える人間がいるという現実に。そして、一カ月でそれを会得しなければならないという理不尽に。そして光が一夏を覆い尽くした。

 

(ビームに撃たれても痛みはほとんど無いとはいえ……と、特撮の撮影ってこんなに過酷だったのか……っ!)

 

 通りで、一部の特撮番組の演出や演技がなんか、鬼気迫るというか、役者たちの気迫がテレビ越しでもわかるというか、妙にリアリティーを感じるというか、とにかく凄味を感じるわけだと走馬灯のように今までの特撮番組をみて納得した一夏。改めて思い返すと、自分のお気に入りの特撮は皆目の前の人が手掛けていたような気がする。

 だが一夏は折れなかった。元々、一夏はやると決めたら最後までやりきろうとするタイプの男だった。だから五反田食堂のバイト(一般的な時給で)は今も続けているし、剣術指南書も毎日読んで実践している。そして、そのお陰で、一夏は今の地獄に耐えられていた。

 

「(こうなったら意地でも習得してやる!)監督!もう一度お願いします!」

 

 何よりこの場で退くのは、自身のプライドが傷つくし、自分の人生を左右しかねない。コレが原因で事務所をクビにでもされたら笑えない。こんなところで立ち止まるわけには行かないのだ。

 

「うむ! それでこそ真の役者よ!」

 

 師匠(監督)弟子(役者)修行(練習)はまだまだ続く。そして、一ヶ月後無事に収録が終わりこれで一夏の出番は終わりになった……

 

「待てぃ! 織斑!」

 

「何ですか? 監督?」

 

「お主、今時の若者にはないガッツがある! 正直いって、ワシの撮影に最後までついてこれるとは思っていなかった!」

 

「は、はぁ……(いや、最後の方は俺も記憶がないんですけど)」

 

「だからこれからも定期的に、お前を使うことにした! フッフッフ、これから忙しくなるぞ!」

 

(いや、毎回あんな撮影してたら死ぬんですけど!?)

 

「覚悟しておけぃ!」

 

(嫌だあぁぁぁぁぁぁぁ!)

 

 心の中で絶叫をあげていることなど露知らずこの日、一夏は監督の奢りで夕食をとり家まで送って貰った。

 後日、学校から直接事務所に来るとマネージャーが待っていた。

 

「おう、生きてやがったか」

 

「幽霊か暗殺した人物に対面したかのような言い方やめてくれませんか?」

 

 開口一番に物騒なことを言われ呆れる一夏。

 

「いや、あの監督、この業界じゃ頭のネジが数本へし折れていることで有名でな……」

 

 話を聞くと、あの監督、どうもCGといった技術が好きでないらしく、それならこっちで出来るようにしてしまえばいいと、見た目が人外等、本当に不可能なもの以外はあんな撮影になったらしい。

 

「んな、無茶苦茶な……」

 

「けど、あの人が最後まで手掛けた作品は軒並み、賞受賞するし、視聴率も常に高い。しかも、あの人によって鍛え(育て)られた奴は軒並み大成しているからな。良かったな、これでうまく行けばお前も大物になれるぞ!」

 

「何だろう……素直に喜べない」

 

 だが、この後頭のネジがへし折れているのはあの人だけじゃないことを知り乾いた笑いをすることになる。

 

「そう言うな、マドカなんかあの人の撮影に参加できるなんて羨ましいとかほざいていたんだからよ」

 

「マドカ?アイツ俺より仕事貰ってんだろ!?」

 

「まあ、アレだ……地方巡業や、ドラマとかのモブの撮影ならアイツも喜んでやるんだが、雑誌の写真撮影ばっか仕事に舞い込んでくるからな。そんな中で、お前が主人公の少年時代の役貰ったんだから嫉妬くらいするだろうよ」

 

「でも、俺より仕事貰ってますよね?」

 

「まあな」

 

「悪かったわね!アンタより仕事貰ってて!」

 

 話に割り込んできたのは件の織斑マドカだった。

 織斑マドカ、苗字が一夏と一緒というミラクルに意気投合した中である。一応、芸歴という意味では一夏の先輩にあたる。

 

「全く、こっちは一役貰うのに四苦八苦してるのになに贅沢な文句言ってんだか……」

 

「おう、そりゃ悪いな。だが、こっちも(生死的な意味で)四苦八苦してたんだ。愚痴りたくもなる。それに本当に悲惨なのは……コレだろ」

 

 徐にクビを切るジェスチャーをする一夏。

 

「アレは自業自得でしょ?文句ばっか言って、ろくすっぽ努力しないで、そのくせISがでて女だから優遇しろとか馬鹿じゃないの?クビになって当然だよ」

 

 ISは女性にしか乗れない。それが原因で今、女尊男婢が密かに社会問題になっていた。最も、芸能界は主に頭のネジがへし折れている輩のせいで、実力主義の面が強いため直ぐ淘汰されてしまったが。一夏の所にも男という理由で、嫌味や暴言を言われたが後日その女はお偉いさんの男を怒らせてクビになった。しかも現在、名誉毀損で訴えられておりニュースにもなっている。

 

「まあ、今回の番組の視聴率のお陰でオメーの知名度もそこそこ上がるだろうよ」

 

「精々、足元救われないことね!」

 

「なら先ずは、お仕事済ませないとね?」

 

「!?」

 

 突如響く鋭く刺すような声、何故か冷や汗をかいているマドカを除き声のした方向を見ると女性が立っていた。

 

「ス、スコール……」

 

「マドカ? 私昨日言いましたよね? 明日は朝から雑誌のインタビューと写真だって……あなたがルーチンワークのような毎回同じような仕事が嫌いなのは知っているけど、限度はあるのよ?……困ったわ~これを済ませられないのなら貴女のマネージャーとしては次のオーディションは受けられそうにないわね~」

 

「わー!分かってる!分かってるって!ちょっとコイツに会ったから、話してただけだって! ってもういない!?」

 

 マドカは、一瞬一夏達にじゃ! と言うと、慌ててスコールと呼ばれたマネージャーを追いかけていった。

 

「ま、何にせよ。あの監督が気に入ったと言ったなら、これから仕事が舞い込んでくるだろうよ。あの監督この業界の最古参の一人だからな」

 

「何だろう、嫌な予感しかしない」

 

 その言葉通り、この後、様々な仕事が舞い込んでくることになる。しかし、何れも

 

「三刀流奥義!」

 

 

「これぞ我、百八ある奥義の一つ!」

 

 

「皆、オラに元気を分けてくれ!」

 

 

 

 

 と、案の定、無茶苦茶な修行(リハーサル)を強いられた。唯一の幸いはビームを出すこと自体は応用で何とかなるというところだった。

 そんな生活が数年続いたある日のことだった。それは、兄が友人の家に遊びに行っており、珍しく千冬と一夏の二人しかいなかった時のことだ。

 

「一夏、少しいいか?」

 

「何? ちー姉? 学校のテストなら昨日92点だったよ。」

 

「いや、それは知っている。大体、勉学でお前に文句を言った覚えはないぞ? お前、いつもテストは最低80点はとるからな。じゃなくて、その……ISは知っているな?」

 

「知っているよ……ああ、確か近いうちにISを使った世界大会が行われるんだっけ?ニュースになってたな」

 

 ISが発表されて凡そ三年、この頃になるとISの兵器使用に関する取り決めや新時代の催しとしての一面が押し出されていた。この世界大会もその一つである。

 

「モンド・グロッソだ。実はそれに日本代表として出ることになった」

 

「ふーん……ん? 今なんて言った?」

 

「モンド・グロッソに日本代表で出ることになった」

 

 さすがの一夏もこれには面を食らった。自分の姉がISに関わっているのは予想はついていたが。まさか、姉がそんな大会に出るとは思っていなかったのだ。

 

「ちょっと待て、そもそも日本代表ということは、オリンピックみたいに予選があるはずだよな。それは?」

 

「昨日決まった。それで頼みがあるんだが……」

 

「応援というのなら、モンド・グロッソ当日はロケで俺は一日いないぞ。それと代表おめでとう」

 

「そ、そうか、それは残念だがそうではなくてその……だな……それに伴って、テレビのインタビューに出ることになったんだ。どうすればいい!?」

 

 ドンッと机を叩き前のめりに出す千冬。

 

「いや、ちー姉さ、先ず代表決定戦出て代表になったんだったらそのときにインタビューされたはずじゃ……」

 

「そのときはあまりの報道陣の数に逃げ出した。そしたら、後日に史上初のIS世界大会だから、宣伝目的で政府からインタビューを受けろとな……それで今回コツ……というのも変だがとにかく教えてほしいんだ。ほら、一夏は職業でインタビューとか受けるだろう?」

 

(へぇ~ちー姉もあたふたするんだ……)

 

 一夏にとって、千冬は私生活でのズボラな所は多いが、逆に言えばそれ以外での欠点は見当たらないし、何より例え弟といえども弱味や弱音はけっして出さなかったからだ。そんな以外な一面が見れて、驚きが半分と内心頼ってくれた喜びが入り交じる。

 

「まぁ、史上初の大会だからな。注目は嫌でも集まるものでしょ? 俺から言えることはそうだな……外にでて恥ずかしくない格好とマナー……てこの辺はちー姉大丈夫か。なら後は、最初に言うべきことを考えておいてカンペに書いて、その後は臨機応変に質問に辺り差し障りないように答えればいいんじゃないかな?」

 

「そ、それだけか? 何かもっとこうあるんじゃないのか!?」

 

「これ、普段テレビにでない……例えば、大学教授とかスポーツ選手なんかがニュースのインタビューに出ているときなんかそうなんだけど。基本的に噛んだり、言葉詰まったりするのが普通だからあまり問題じゃないんだよなぁ」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものだよ。まぁ、ちー姉の場合、特に言葉に気を付けた方がいいかもね。今、ISが原因で差別問題が表面化し出しているから国の代表であるちー姉が、それを助長するような発言したら悪化するし、何よりも国の総意と捉えかねられないから」

 

「そうか……有り難う感謝する!」

 

 そう言って千冬は自室に戻っていった。その後、千冬の言葉には何一つ問題はなく、無事に第一回モンド・グロッソに優勝し『ブリュンヒルデ』の称号を得たのだった。それに伴い千冬はインタビューの依頼が、一夏は元々あった知名度に加えブリュンヒルデの弟という事で益々有名になるのだった。

 

 

 

 

 だがその一方で篠ノ之束が忽然と姿を消し、そのせいかどうかは一夏は預かり知らぬところだが、織斑家が世話になっていた篠ノ之剣道場は閉鎖されることとなった。

 

 

 




恐らく、ISは公表されてから暫くの間、兵器としてしか見られていないと思いますので。最初の時点では、白騎士事件の件もあって一夏も兵器としてしか見ていません。なので、ISに直接関わる事もないと思っており興味もたいして無いです。女性にしか扱えないし。


また、世界大会の出場者なのにインタビューやテレビ番組にでないのもおかしな話なので千冬さんにテレビにでてもらいました。兄は……お察しください。

後、芸能界の古参や重鎮は皆あんな感じです(笑)



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02 IS学園は想定外

駆け足ですが原作突入です。


「そ、そんな……まさか、に、兄さんなの!?」

 

「M、俺はお前の知っている兄であり兄ではない」「お前はあり得たかもしれない世界の俺自身なのだ!」

 

『劇場版、亡国の企業~Mの真実~ 某月某日 公開』

 

「そうか、頭の中に爆弾が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カット! よしそこまで! マドカ、一夏、ご苦労だったな」

 

「「有り難うございました!」」

 

 この日、一夏はマドカと共に、マドカが主役の映画のリハーサルとCMの撮影を行っていた。自身の実力と初代ブリュンヒルデの弟というネームバリューのおかげでこの頃でも、一夏の人気は右肩上がりで様々な番組に引っ張りだこだった。最も、本業である学業でもては抜かない。ちゃんと、成績を落とさないように折り合いがつくようにマネージャーと綿密にスケジュールの調整も行っていた。

 

 余談だが、学校に登校する際に素の顔だと、追っかけなりストーカー(日夜、追い払おうとしている天災兎と死闘している)に付きまとわれるのを嫌い、伊達眼鏡やサングラスを着けるようになった。そのせいで、年頃の女子のハートを結果的に射止めているのだが、本人が高嶺の花状態なので中学生最後の年になっても一度も告白されたことがない。

 更に余談だが、一夏の兄は成績こそ一夏より優秀だが、声をかけられたと思ったら一夏と間違えられてガッカリされたり、一夏と違って素行や性格に難があったりするため、顔はいいのに女子に一度も告白されたことがなかった。加えて、一夏のことを主に成績で何かと比べて貶そうとする。断っておくが一夏の成績は決して悪いものではない、十分胸を張って良い成績だ。なので逆に一夏と比べて人間的に劣ると評価される始末だった。

 

 

「はぁ、ぢかれた~」

 

「何だもうバテたのか?」

 

「アンタ、私は一週間前からぶっ通しでこの映画の収録してるのよ……」

 

「そうだったな、俺は逆に普通の役だから逆に新鮮だったぞ。女学園で女装して一週間入れ替わって過ごす役とか……史実の人物が女だったり」

 

「そう言えばアレすごかったもんね……アンタの声色」

 

「伊達にスパイやった訳じゃないからな」

 

 そう色々あった。女装しての学校生活、スパイとしての活動に凄味を持たせるという意味で様々な言語と老若男女を問わない声を習得した。なかでも鮮烈なのは半年前のことだった。

 

 

 

 

「駄目だ!駄目だ!駄目だ!そんなんじゃ宮本武蔵を全然感じられん!」

 

(((そもそも、宮本武蔵は男なんですけど……)))

 

 監督が宮本武蔵役の女優に激を飛ばす。内容自体は、巌流島の戦いをモチーフにした時代劇の撮影だが、何故か武蔵が男装をしている女なのだ。そしてここから監督がとんでもないことを言い出した。

 

「いや、待てよ……一夏、お前女装したことあるよな?」

 

「え?ええ、ありますけどそれが……」

 

「よし! 一夏!お前が女装してやれ」

 

「……え゛!? いや、でも女装してもこの作品の武蔵って男のふりしてるんですよね? 女装してその上で男装するとか無理があるんじゃ?(というか、自分で言ってて訳がわからんぞ!)」

 

「問答無用!とにかくやれぃ!」

 

 その後、思っていた以上にハマり役だったせいか、男装している女性役を男が女装し、尚且つ男装することがブームになった。因みにその女優は小次郎役をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのときは流石に監督も狂ったのかと思った」

 

「そのせいでアンタ暫くの間、性別偽る役しか出れなかったものね」

 

「やめてくれ……」

 

 少々げんなりしたように休憩室に向かう二人。そこに走ってやってくる影がいた。

 

「おい、一夏! テレビを見ろ!」

 

 血相を変えて礼子がやって来た。何かあったのだろうかとテレビをつけてみる。するとそこに写し出された映像に一夏は驚愕した。

 

『速報です! 何と史上初の男性IS操縦者が現れました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、俺も適正検査を受けろと?」

 

「ああ、日にちはスケジュール何とか切り詰めた。三月最後の週の月曜日だ」

 

「こんな五分かからない検査のために……」

 

「仕方ねーだろ。国の命令じゃ受けるしかねぇ。まぁ、一回受ければ終わるんだ。それに兄弟だからって、必ずしもお前にも適正がある訳じゃないしな」

 

 そして四月まで後、一週間を切った所で一夏の適性検査日

 

「ISが起動したぞ!」

 

「直ぐに、政府に報告しろ!二人目の男性IS操縦者が現れたぞ!」

 

「しかも有名人だ! これは絵になるぞ!」

 

 案の定、一夏にも適正があった。

 

(おのれ、クソ兄貴ィィィィ!)

 

 珍しく、兄に悪態を心の中で呟く一夏だった。

 

 

 更に二日後、一夏は、センター試験を受けるような試験会場に来ていた。勿論、試験を受けるため……というのは名目である。様々な理由、思惑こそあるが世界で二人しかいない男性IS操縦者が入れないという道理はない。あるとすれば実技試験だが、生憎一夏の判明時期からではISを動かす場所を確保できなかった。なので今回は一夏にとって重要な話をすることになっているのだ。

 

「初めまして、織斑一夏君、私はこの学園を運営しております轡木十蔵と言います」

 

「織斑一夏です。本日はこちらの我が儘を聞いてくださって誠に感謝しております」

 

「いえいえ、今回のことはむしろこっちからお願いしたいくらいでした」

 

 応接室にて一夏と、轡木十蔵、そして織斑千冬が対面していた。

 

「そういっていただけるとこちらも助かります。なにぶんこちらも四月からのスケジュールがパンパンでしたので。」

 

 一夏の目的は、これからのスケジュールの帳尻あわせのための交渉だった。何せ一夏は、中学卒業後は完全に芸能界に専念するつもりでいたのだ。スケジュールもその前提で組んでいた。それが、一瞬にしてご破算になったのである。しかも、女学園に男二人となる時点でスキャンダル沙汰になりかねない。一夏にとって、IS学園は正に地雷平原と同義。打ち合わせをするのは当然だった。無論、今此処にいない礼子は、現在進行形で業界の方々に話を通しているところだろう。

 

「先ず第一に、寮部屋は個室が良いです。女子と一緒の部屋なんてそれだけでスキャンダルになりかねないのです」

 

「分かりました。それはこちらで手配しましょう。他には?」

 

「誠に申し訳ありませんが、入学式には出られないです。その日は、アニメの収録なので……直接学園にいきますが、いつこれるかの断言も残念ながらできません。また、私の職業柄、頻繁に外出するのでその許可がほしいです。こちらとしてはとりあえず重要なものはこれくらいです」

 

「分かりました。何れも対処可能な案件です。こちらとしては、護衛の効率性を考えて貴方の兄と同じクラスにすることと、データ収集のための専用機の一件でしょうか……」

 

 専用機という言葉に一夏が渋い顔をした。

 

「おや?なにか不都合でもありましたか?」

 

「いえ、クラスについては問題ありません。しかし、専用機……それはどのような過程を経るか大まかにわかりますか? いえ、私もISに関する知識は一般的な常識内で理解しています。絶対数が決まっているISの専用機となれば、その座にたどり着くための努力は想像もつきません。それを『男だから』という理由で、本来それをてにするべき人間が不当な扱いをされるというのは……」

 

 その言葉に千冬は納得し、小さい頃から努力して今の地位に着いた一夏らしい理由だと思った。

 

「なら、こういうのはどうでしょう学園長。 学園にある訓練機一つを学園に在学中は専用機と同じ扱いにしてはいかがでしょうか? 訓練機なら、元々誰でも扱える機体です。そのような負い目は感じないと思います」

 

「だそうですが、いかがでしょうか?」

 

「まぁ、それなら……」

 

「なら、今、IS学園にある訓練機は二種類あります。どちらを選びますか? ある程度のリクエストなら、お聞きしますよ?」

 

「……それなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園、一年一組

 

 このクラスは現在、言葉では形容出来ない空気が漂っていた。一つは浮わついた空気、もう一つは重苦しい空気、そして最後に今か今かと待ちわびている空気。この三つの空気が混じり合い何とも言えない雰囲気が形成されていた。理由はどれも件の男性IS操縦者である。

 だが、この男性IS操縦者……ISの知識不足はともかく、何故か教科書を古い電話帳と間違えて捨てるという暴挙に出たのだ。そのせいで、一部の生徒が不快な視線を彼に送っていた。そんな中、クラス担任である織斑千冬が教壇に立ち話を切り出した。

 

「授業を始める前に、クラスの代表を決めねばならんな。クラス代表とは、文字通りクラスの顔だ。故に決定したら、特殊な状況を除き一年は変更はない。尚、自薦、他薦は問わない。自薦する者は当たり前だが、他薦された者も責任を持って請け負うことだ。故に拒否権は無い」

 

「はい! 織斑秋正(おりむらあきまさ)君を推薦します!」

 

「賛成!」

 

「私も!」「右に同じく!」

 

 それを皮切りに、次々と手をあげる他の生徒達。少年……織斑秋正は、予定調和(この状況)にほくそ笑んだ。無論、そんな表情は出さず口では『あのときと同じように』反発しておくのも忘れない。一方千冬は、秋正の言葉を一蹴した後、明らかに男だから珍しいからという理由が見え見えの発言に、千冬は半ば諦観した様子でそれを見ていた。

 

(……まぁ、分かっていたことだ。弟二人の護衛と外に対する威圧という意味で、無理矢理クラスの担任を受け持ったから教壇に立つのは、初めてだが実技授業の際の一年の顔と全くかわらん)

 

 だがそれに異を唱える者がいた。このクラスの生徒の中で唯一の、イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットだ。

 

「納得いきませんわ!」

 

 この言葉に、秋正は心の中で改心の笑みを浮かべた。後は機を見計らって火に油を注げば自分の思う展開通りになると……だが、そんな上手くいくはずがなかった。

 

 

 

 

 コンコン

 

 

 

 

 

 セシリアが、次の言葉を吐こうとした時、唐突に教室のドアがノックされた。

 

 

 

「あー遅れてすみません。織斑ですが……」

 

 

 

 その言葉に、セシリア以外のクラスの女子がどよめく。

 

「静かにしろ! どうやら、このクラスの最後の生徒が到着した。お前ら静かにするように……入れ」

 

「失礼します」

 

 その言葉に応じて一夏は、教室に入っていった。

 

「織斑弟、自己紹介をしろ」

 

「はい……俺の名前は織斑一夏、年齢は15歳。彼女いない歴=年齢。仕事は芸能事務所『ファントムプロダクション』所属の芸能人で夜は遅くとも8時までには帰宅できるようにしている。現在は声優業に力をいれている。特技は声帯模写。夜は遅くとも11時に寝て必ず8時間は睡眠をとるようにしている……温めの湯船に入った後寝る前に自家製の生姜湯を飲み20分ほどストレッチをして床につくとほとんど朝まで熟睡さ……赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに済む。健康診断でも以上なしと言われているよ。ここまで言われればわかると思うが、俺は常日頃から『真面目に心身共に平穏である』ことを願って生きている。『勝ち負け』に拘らず、頭を抱えるような『トラブル』をおこさず、気になって夜も眠れない『敵』を作らない……というのが、私の社会に対する姿勢であり自身の幸福であることを理解している。つまり、先程廊下を歩いていたときに聞こえてきた怒声や、他のクラスの授業妨害になり、俺に注意換気するように織斑先生に伝えておいてくれ、何て言われるような奇声を発するということは俺の頭を抱えるトラブルなので止めていただきたい。以上」

 

「そのまま、面接の自己PRに使えそうな模範的な自己紹介だが、やりすぎだ。見ろ」

 

 そこには、何故か机に伏して悶える女子生徒がいた。しかも、ほぼ全員である。

 

(や、やばい耳が幸せ~)

 

(の、脳が蕩けるぅ~)

 

(一年間この声聴いていたら死ぬぅ~)

 

(もう、ゴールして良いよね?)

 

 一方セシリアは、いくらなんでも自己紹介細かすぎませんか!? とドン引きしていた。

 

(これが俺の自己紹介なんだがな……)

 

 

 




中学時代については、今は書きません。追々書きます。
そしてようやく兄の名前が発覚。尚原作に固執している模様。


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03 IS学園って一応専門校だよね?

「さて、織斑弟。お前の席は窓側の一番奥だ。」

 

「わかりました」

 

 一夏が座ると女子が一斉に手をあげた。

 

「先生!一夏君を代表に推薦します」

 

 その声に私も私も!と続いていく声。今なら推薦率99%は行くかもしれない。

 が、当然それに納得できないものもいた。先程のセシリアである。

 

「だからそのような男だから、珍しいからという理由で……」

 

 担任の千冬と副担任の山田真耶が再びデジャヴを感じ始めたときだった。

 

「あー、一つ良いか?」

 

「何ですの!?人の話を遮って……」

 

「それを言うのなら、先ずこれがいったいどういう状況なのか教えてほしい。何せ今来たばかりで、いきなり推薦されても話が見えてこない。それとも、これは何かの授業の一環なのかな?」

 

「あ……」

 

 確かに言われてみれば一夏の言うとおりである。席について、授業のために教科書とノートとシャーペンを取り出そうとしたらいきなり推薦されたのだ。一夏からしたら訳が分からない状況だろう。

 

「今ね~、クラス代表決めているんだよ~」

 

 一夏に教えてくれたのは、明らかに裾のサイズがあっていない制服を着たゆるふわな雰囲気を持つ少女だった。

 

「クラス代表?」

 

「うん、まぁ~簡単に言うとクラスの代表だね~」

 

「簡単所かそのままだな、オイ」

 

「えへへ~あ、私は布仏本音って言うんだ~よろしく」

 

「俺の名は織斑一夏。年齢は15歳。彼女いない歴……」

 

「いや、それさっきも言いましたよね!?また死人を増やすつもりですか!?」

 

 山田先生のツッコミに笑いが漏れる。

 そんな緩い雰囲気に、先程戻りかけた剣呑な雰囲気が霧散していた。

 

「しかし、クラス代表か……拒否権がないというのであれば致し方ないが……とても正気の沙汰なとは思えないな」

 

「ほう、なぜそう思う?織斑弟、言ってみろ」

 

「何故も何も……そもそも、俺は、中学卒業後、高校に進学しないでそのまま仕事に専念するつもりでしたから……学園との交渉で仕事を優先しても良いと言われていますし……だから、クラス代表など録に務まりませんよ。事実、暫くの間スケジュールが詰まりに詰まっていますし。第一……」

 

 一夏は一呼吸おき、不快げに言った。

 

「とても、これからISで飯を食っていこうとする者の行動ではないな。断言するが、この学園で『IS』において俺ほどモチベーションが低くまた、熱意の無い人間は先ずいないと言っていい」

 

「なぁ!?」

 

 その言葉に彼の事情を知る先生を除くクラスの全員が驚く。当然だここはISを学ぶためのところなのだ。それをいきなり全否定してくる生徒がいるなど考えられない。

 

「だってそうだろう? さっきも言ったが俺は最初から役者として本格的に活動しようとしていた。にもかかわらずどこかの身内が、自分の進路を決める試験会場で迷って興味本意でIS触って起動したとかいう、アホ臭い理由でISを動かしたせいで、俺は全く無駄とは言わないがそれでも望まぬ高校生活を強いられるようになった……。そら、これでどうやってやる気を出せと?この際だからもっと言わせてもらうけどさ、教員達はIS乗りで、そこで立っている奴は一時的なのかどうかは細かいことは知らないけど専用機を授与されるってことは、国にそれだけの腕と教養、品格を認められたという証明でもある……そんな代表候補生。職種違うけど俺も幾つも仕事のオファーが来る芸能人なんだよ……この意味わかるか?」

 

 一夏の問いかけに頭に?を浮かべるセシリアを除く生徒達。その様子を見て一夏は心の中でため息が千冬は心の中で歯軋りをセシリアは貴族或いは淑女として矜持からか何とか心の中で舌打ちするに留まった。

 一旦区切って織斑先生をみる一夏と、アイコンタクトでそれを理解し千冬は口を開けた。

 

「構わん、このアホどもにいってやれ」

 

「じゃあ遠慮なく……プロなんだよ、俺達。だから、『それ』に対して、浮かれた気分や遊びで事に挑む気は更々無いんだよ……舞台を見る『観客』なら舞台に出た人に黄色い声援送るのも憧れるのもネットでネタにするのも勝手だし別に構わない。たけどさ、舞台の上に立つ『役者』がそれは論外だ。だって、『役者』は客を喜ばすのが仕事であって憧れるのが仕事じゃないんだよ。そもそもそれで飯食っていくのに、真面目に取り組まないとかそんなのプロじゃない。……で、さっきからのお前らを見てて俺はどうしてもこれからISで飯食っていく者に見えない。ISの数に限りがあるのは有名なことだ。つまり、そこに座れる席は少ない……いや、そこにいるイギリスの代表候補生なんかお前達と同い年なのに、すでに数少ない席の一つを獲得している。まだいるぞ? 四組は、ISの総本山と言っていい日本の代表候補生だし、二年生では、アメリカやギリシャの代表候補生。何よりも生徒会長はロシアの国家代表になっている。たった一つ歳が違うだけなのにな? 他にも、知っているだけなら中国、フランス、ドイツ、台湾、タイ、オランダ、ブラジル、カナダ……特にカナダなんか中学生になりたての女の子だ。ネットでちょっと調べればこんなに同年代なのに席獲得して先いっている奴等が多いのに……よく、ブリュンヒルデ見てキャーキャーピーピー喚いてる余裕があるな? ただでさえ出遅れているというのに、蹴落とされるぞ?マジで…………」

 

 彼のいっていることにだんだん青ざめていく女子達。対称的に、教師陣やセシリアや布仏は無言で肯定していた。

 秋正が顔を青くしていく女子を見て止めようとしたが、その重苦しい雰囲気に呑まれて結局なにも言えなかった。

 

 

「俺やそこの奴みたいな『希少性』持っているなら別にいいが……そうじゃないなら、この場面は普通率先して自薦するべきだと思うんだが? 百歩譲って、クラス対抗戦に勝つためにそこの代表候補生に譲るというならまだ筋が通るがな。俺からしたら、この状況での他薦なんて言ってしまえば『私は○○に対して実力ともに劣っていますのでクラス代表になれる権利を○○に譲って辞退します』と発言しているようなものだぞ? それ以外で、俺達の推薦になにか納得できる理由があるなら言ってくれ……これからISに人生かける輩がまさか『男だから』とか『珍しいから』何て理由で他薦したわけじゃあるまい。そんなのは、ISに人生捧げているやつへの侮辱だ……と、いかんな、つい説教臭くなったが言いたいことは言えたし少しはストレスも解消できたなっ!」

 

 話はここで終わり!と言わんばかりに朗らかな笑顔で切り上げる一夏。だか、その笑顔に反応する女子はいない。何故なら彼が今言ったことは、何れも彼女達が直面している事実であり現実なのだ。代表候補生が同い年という時点で自分達はすでに出遅れている。そこから追い付き、更には追い抜くには生半可な努力じゃ足りないのだ。ならば、目の前の機会をミスミス逃していいはずがない。

 

「織斑先生、私やっぱり…」

 

「駄目だ、私は確かに自他推薦問わないと言ったし、したものされたものに拒否権は無いと言った……だが、他薦した者もその発言を撤回することは許さん。ISは玩具じゃない、その気になればミサイル2000発を落とせる兵器としての側面もある。お前達はこれからそんなものを扱うんだ、自分の発言には責任をもて。まぁ、安心しろ、この三年間……いや、一年でその事を嫌というほど教えてやる」

 

 その言葉にそんな~という声と共にうなだれる生徒達。だが、一夏からしたら、単にこれは彼女達の自業自得であるとしか言いようにない。機会が巡ってきたら、得られるかどうかは兎も角、得ようとするのはどこでも一緒なのだ。

 

「ともあれ、候補者は三人か……織斑弟、空いてる日にちはあるか?」

 

「十日後は丸々空いているな」

 

「よし、ならば十日後に試合を行い勝利数が多い者から受けるか受けないか決めることにする。では、授業を開始する」

 

 

 

 

 

 授業終了後、一夏は校舎の外のグラウンドにいた。何せ教室内だとクラスメイトはさっきの一件で鳴りを潜めたが、他のクラスの女子がやって来てサインしてくれだの握手してくれだの煩いのだ。なので、適当に理由をつけて教室を出ていたのだ。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

 

「おや、イギリスの代表候補生じゃないか」

 

「セシリア・オルコットですわ。それにしても、一人目の貴方のお兄さんとは随分違いますわね」

 

「その様子だと何かひと悶着起こしたな?」

 

「ええ、まぁあまりの無知ぷりに少し……」

 

 ことのあらましを聞いたが、一夏は特に興味は出てこない。昔は兄とは水と油の関係だったが今はそれを通り越して無関心なのだ。少なくとも一夏はそう思っている。

 

「ふーん……」

 

 一方のセシリアは一夏の雰囲気に不思議なものを感じていた。

 

 

(何というか……雲みたいな方ですわね。つかみどころがないというか……でも、先程の彼はまるで織斑先生のようでしたわ)

 

「それで何のようかな?」

 

「あ、いえ、ただご挨拶に。貴方とはなか良くできそうな気がしましたので……私、芸能関係は専門外ですが」

 

「それは俺もそうだが? 何せISに関わるとは微塵も思ってなかったからな。おまけに機密保持の理由で職場に参考書は持っていけないときた。だから殆ど予習なんてしなかったからな!」

 

「そこ、自信満々にいうところですか?」

 

「言うんだよ」

 

 

 その後、授業はつつがなく終了した。

 

 

 

 放課後、山田先生から寮での簡易的なルールを説明され軽く今日学んだ事を復習した後、自分のあてがわれた寮に向かおうとした。

 

「ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

 振り向くと、立っていたのは髪をポニーテールにした黒髪の美少女だった。確か、同じクラスの子であると一夏は記憶していた。

 

「……誰?」

 

「んな!?」

 

 一夏の反応にあり得ないという、表情をする少女。

 

「(この反応からして一度あったことがあるな……はて、誰か……)もしかして、ファンの子?」

 

「ち、違う! いや違くはないが、そうじゃない!」

 

「(と、すると同級生か……中学にはいなかったから小学生時代の同級生となると……)ふむ、小学生時代の同級生候補としては初音、暁美、巴、高町、八神、西園寺、八雲、霧雨、東風谷、博麗、十六夜、三坂、白井、初春、佐天、結月、神尾、篠ノ之……」

 

「それだ!」

 

「何だ、篠ノ之か」

 

「何だとは何だ! 幼馴染みにその言いぐさ……というより完璧に忘れていただろう!」

 

「だってお前、学校で俺に絡むことなかったじゃん。いつも兄貴についていたし、寧ろ兄貴の方が幼馴染みだと俺思うぞ? そりゃ印象薄いって」

 

 その言葉に急にどもる篠ノ之箒。

 

「いや、あれは……お前の兄がしつこくてな……お前に会おうとする度に妨害とかお前に対しての悪口を言われてな……正直ストーカーされてたんじゃないかと今にしては思うくらいにタイミングがよくてな……というか、さっきまでつけられてたような気がする」

 

 ハイライトの失った目で虚空を見つめる箒の姿に、一夏は何故かあの日、預金通帳を見た日の千冬の姿を思い出した。恐らく兄に付きまとわれたせいで録に友達を作れずボッチになったのだろうと容易に想像できた。

 

「あー、何だ、その……御愁傷様?」

 

「何故そこで疑問符をつける……はぁ、まぁいい……それよりもお前、勝算あるのか?」

 

「……それは、オルコットのこと?それとも兄貴のことか?」

 

「両方だ!」

 

「前者については、経験値の違いで勝ち目ゼロ、後者については……まぁ何とかなるでしょ」

 

「そこは、男らしく全員なぎ倒すとか言わんのか!? お前が主演のマスクドライダーみたいに」

 

「言わないよ、客観的に見てオルコットと俺とじゃISにおけるステータスは天と地ほどの差がある。これを十日で埋めるのは時間的にも不可能だ。昨日竹刀持ったやつに剣道でお前に勝てると思うか?」

 

 そう言われると、なにも言えなくなる箒。ならどうするんだと聞くととんでもない答えが帰ってきた。

 

「先ず、オルコットの専用機を調べる」

 

「それで?」

 

「対策する」

 

「後は?」

 

「以上」

 

「はぁ?! ちょ、おま……代表候補生相手にいくらなんでもそれは……」

 

「だって、十日までの間、スケジュールギッチギチだからな。ぶっちゃけ対策も当日調べるし、ほら」

 

 そう言って軽くスケジュール張を見せる一夏。見ると放課後はビッチリと予定しかはいっていない。これでは練習なんてとても出来ない。

 

「そうか、それは災難だな」

 

 そう言う箒の顔は何処と無く楽しそうにはにかんでいた。

 

(そんなに俺と会話するのが楽しいのか?……楽しいんだろうなぁ)

 

 何せ数少ない知り合いである。彼女の経歴を考えると録に友達など作れなかったのだろう。

 

(まぁいいか、できるだけ付き合ってやるか)

 

 何だかんだで付き合いはいい一夏であった。

 

 

 

 




思うんですが、この時点でセシリアや簪という専用機持ちが同年代でいてて、仕方なしに入った、箒や家柄的に問題ない本音以外の他の生徒は危機感抱かないんですかね?習い事でも早いほうが有利ですし。原作見ると、とてもこれからISの未来を担う者達とは思えない。

因みにここの一夏は全くやる気ありません。ぶっちゃけ退学になってもいいやとか考えています。


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04 一足早くやって来た中華娘と代表候補生(ファン)

感想があるとモチベーションって上がるものなんですね……(小並感)


 ―――ここがあの男のハイスクールね!

 

 学園の校舎前にデーンと堂々と立つ一人の少女。小柄ではあるが快活でお転婆な雰囲気を持つツインテールの美少女だった。

 

 ―――待ってなさいよ!

 

 バッグの中にある『宝物』を手で確認しながらIS学園の敷居を跨がった。

 

「所で総合案内受付所って何処よ!?」

 

 

 

 

 ここで一週間以上経った、二人の男性操縦者の生活を見てみよう。一人目の男性操縦者である秋正は、箒にしつこいほどにISについて教えてもらおうと頼み込んできていた。箒は(悪)夢の同室にテンション(SAN値)が可笑しくなり、剣道しかしなかった。尚これは、大魔王(寮長)千冬が一夏と同じ勘違いを理由に配慮したありがた迷惑()な采配である。

 二人目の男性操縦者である一夏はというと、朝起床したあと、肉体のメンテのため軽いストレッチや、ランニングをし、たまに千冬と(運悪く)エンカウントした場合は剣道場で屍山血河の試合舞台を繰り広げていた。そして、授業を終えた後はいつも通り、撮影に向かうというのが日常である。

 

「ふむ……ここまでか」

 

「ああ、どうやらそのようだ」

 

 一夏と千冬、二人の手にはへし折れた竹刀が合計三本あった。

 

「しかし、二刀流とはな……」

 

「二天流も当然修めている(まぁ、あれ基本的に何でもやる流派だけどな。だからこそ性に合うのは確かだが)」

 

「……話には聞いていたが、芸能界とは凄まじいのだな……その年で、篠ノ之流、新陰流、そして二天流も修めるなぞ正気の沙汰ではないぞ?」

 

「こちとら仕事だぞ。なら手は抜かない。武蔵役するなら二天流を極めるし、新陰流を扱う役ならそれを極める。マスクドライダーも必要ならライダーキックもマスターするよ……まぁ、環境がいいのは確かだけど」

 

「だが、おかげで他流派の極意をさわりとはいえ知れた。ふむ、居合いはこう……」

 

 へし折れた竹刀で居合いの動作をする千冬。すると、剣圧でそこに立て掛けてあった練習用の竹刀が断ち斬られていた。何とも言えない微妙な生暖かい空気が流れる

 

「……お前はなにもみなかった、いいな?」

 

「アッハイ」

 

 そこそこ疲れているからか、それとも時間が押しているからか一夏も特になにも言わなかった。

 

「じゃあ、俺朝から撮影あるから」

 

 今日は朝と放課後に撮影があるというなかなかハードな内容だった。

 

「何の撮影だ?」

 

「関取戦隊 スモレンジャー」

 

「……因みに役は?」

 

「悪の秘密結社スモンゴリーの中間管理職、イケモンゴリ役。因みにネタバレすると、最後はドスコイレッド中心の合体技、ツッパリバスターで爆発四散する。一発役だから受けることにした」

 

「そ、そうか、頑張れ」

 

「おう!」

 

 千冬のひきつった笑みには気付かない一夏であった。

 

 その後、一夏がいない事など露知らず、二組に編入した少女は意気揚々と一組に突撃を強行したが空振りし、また、原作と違う展開に驚きつつも誤差の範囲とあの生意気な弟を公衆の面前で叩きのめして、フラグを建てるチャンスと嬉しい誤算と認識して、その少女に近づいたが……その様子は、猫を愛でようとする飼い主じゃない人間と、猛ダッシュで逃げてシャー!と威嚇する猫のような関係だったと記述しておく。

 

「相変わらずここは風も景色も良いな……弁当が捗る」

 

 一夏は、学園に入ってからというもの朝、晩は部屋で昼はお気に入りであるこの場所で昼食をとっていた。

 

(こういう風に静かだと落ち着くな。心が癒える)

 

 元々、高校にいく気のなかった一夏からしたら、IS学園にいるだけで少なからず心が荒む。それでも、ここの学園の偏差値を鑑みてもエリートだけで構築されているから、少なくとも意欲は有るだろうし、夢に向かって頑張っている姿を見れば多少なりとも溜飲は下がるだろうしやる気も出ると思っていたのだ。

 なのに、ここの生徒は自分を見るなり、サイン来れだの、取材してくれだの、自分が主演の主人公やアニメの名台詞言ってくれだの、酷いときには部屋に連れ込もうとしてくるその体たらくに更にストレスが溜まっていたのだった。恐らく今も探しているのだろう。そんなことして万が一ばれたらスキャンダルどころの騒ぎではない。役者生命一貫の終わりである。現状ですら、割りと綱渡りなのだ。

 

(ここにいる、奴等は分かっているのか?ISに携わるということは、将来軍人になるということに……)

 

 ISとは、宇宙開発が目的のパワードスーツだが、兵器としての側面も当然ある。そんなものを扱う職業といったら軍人しかあり得ない。一夏も、何度か軍隊の訓練を見学したことがあるが、はっきり言って今の同級生がついていけるとは思えない。恐らく三日と持たずに逃げ出すだろう。何せ、軍の教官は、千冬を濃縮した原液並のスパルタをほこる。モンド・グロッソでISは確かに競技としての華々しい一面を得た。だが、その裏にある陰に気付いているの者が果たしてどれだけいるのだろうか?

 

(はぁ……腹が立つな、お気楽さに)

 

 

 

 

 

「だぁーもう!ムカツク!アイツしつこすぎでしょ!?何なの追尾式誘導ミサイルか何か?」

 

 少女は、憤っていた。理由は秋正である。彼女は目当ての人物に合うために、一組に入ったのは良いものの、そこに目当ての人物はおらず、逆にもっとも会いたくない人物がいたのだ。しかも、こちらを認識しては馴れ馴れしく付きまとってくる。

 

(冗談! アイツがやったこと忘れるもんか!)

 

 少女は、日本人ではない。それ故に、小学校に転入した際、手酷くいじめを受けた経験がある。その時、助けてくれたのが秋正なのだ。はて?それなら感謝こそすれ恨みを抱くことはないと思うだろう。

 

(あんな、ヤラセまでして……あのときどれだけ傷ついたか……)

 

 助けてもらった、翌日。少女は礼を言うために、秋正のもとに向かった。そこで見たのだ。

 

「サンキューな!一芝居うってくれて」

 

 秋正と虐めっこが結託して、虐めを行っていたという事実だった。その時、少女はうちひしがれたのだ。そんなときだった、彼と彼の音楽に出会ったのは……

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 結局、昼食の時にも彼は現れなかった。最も、場の雰囲気からして彼が食堂に現れなかった理由も、概ね理解していたがそれでも落胆の気持ちは抑えきれずに探してしまう。

 

(本当にアイツどこに言ったのよ!?)

 

 

 

 

 

 一夏は昼食を終えた後……

 

「凄いです! 尊敬します!」

 

「イッチーって立派だねぇ」

 

(……どうしてこうなった?)

 

 困惑していた。

 切欠は昼食を食べる前から感じていた視線である。誰かに見られ、追っかけを撒くのは茶飯事だが、今日は何故か二人ほど撒けなかったのだ。だから、彼は様子を見ながら伺っていた。自分を追跡するのは生半可なことじゃない。だがらこそ、興味を抱いていた。

 そして、声をかけた……正確には、台本の台詞の練習の復習がてら言ったのである。

 

「てやんでぃ! 誰だぃそこにいるのは?」

 

「うひゃおう!?」

 

「わ、わ、ひゃいう?!」

 

 妙な奇声をあげながら出てきたのは、本音と眼鏡をかけた内気そうな女の子だった。

 

「なんだ、布仏だったかそれと……誰だ?」

 

「ほら~かんちゃんここまで来たんだから……」

 

「わ、わかってる……(すー……は~)は、は、は、は、ひゃじめまして、さ、さ、さ、更識簪と言いましゅ!?ワンサマーさん!」

 

「落ち着けよ。後、ワンサマーってネットでの俺の愛称じゃん」

 

「かんちゃん、いくら憧れの人でも噛みすぎだよ~」

 

 聞くと、どうやらこの簪という少女。一夏のファンらしく、ずっと話す機会を伺っていたとのこと。しかも何とこの少女、日本の代表候補生なのだという。

 因みにどうでもいいことだが、ワンサマーというニックネーム、実は気に入っていたりする。実にストレートなネーミングが琴線に触れたらしい。あくまでネットのなかで使う分には、だが。

 

「ほー、日本の代表候補生の席と言ったら相当厳しいと聞いたが……凄いな」

 

 という話から、専用機の話で一夏が頭を下げて謝ったりそれを慌てて止めさせようと舌を思いきり噛んで涙目になりそれを面白そうに見ている本音という構図ができ、現在に至るのであった。

 

「あー! やっと見つけた!!」

 

 今日はやたらとエンカウントが多い日だと内心苦笑いしながら懐かしい声がした方を見る。

 

「よう、鈴。一年ぶりか?」

 

 一夏の数少ない友人と呼べる人物の一人、凰鈴音(ファンリンイン)がいた。

 

「アンタ、今まで何処いたのよ!? おかげであのクソ野郎にストーキングされてたのよ!」

 

「そりゃ御愁傷さん。だが、俺は生憎今日の午前は収録でいなかったからなぁ~」

 

 ニタニタと笑いながら弁明する一夏。その姿には微塵も誠意を感じられない。

 一方簪は、せっかくの会話を邪魔されて少し不機嫌そうだった。

 

「貴女、中国の代表候補生……」

 

「お?私のこと知ってるんだ」

 

「半年前に、突如彗星のように現れ、代表候補生と専用機の座を手にいれたダークホース。専用機とその経歴からついたあだ名は、彗星龍」

 

「うわ、私そんなこと言われてんの!?」

 

「……知らないの?」

 

「まぁ、私の事をなんか言っているのは聞こえていたけどね。私、基本的にそういうの疎いし気にしないから」

 

 その言葉に表情を暗くする簪。

 

「貴女のことも……まぁ、少しだけど知っているわ。小学生で異例の日本史上最年少で代表候補生になった。ロシアの……」

 

「やめて!!」

 

「っ!??」

 

 突然、鈴の言葉を遮る簪にただならぬものを感じる二人。

 

「ごめんなさい。でも、お姉ちゃんのことは話さないで」

 

 何とも言えない空気になる周囲。耐えきれずに簪が適当に断ってこの場を去ろうとしたときだった。

 

「まぁ、いいや。しかし、お前さんも大変だな、優秀な姉を持つと色々、気苦労が絶えないよな」

 

「……わかるの?」

 

 一夏が、話題を切り替えたように見せかけて、全く切り替えなかった。鈴がツッコミをいれようと思ったが、実のところ簪は一夏の決意を聞いていたので、無意識に言葉がこぼれてしまったのだ。

 

「まぁな、俺も家計見たとき最初思ったのは、姉の凄さと自分に対する情けなさだったかな」

 

「情けなさ?」

 

「姉の奴って、両親いないから自分で何とかしようと全部一人で背負い込むタイプだからさ……けど、そんなことしてたら潰れるのは目に見えている。てか、潰れかけてた。だから働いた。最初は般若のごとく猛反対してたよ。お前はなにもしなくて良い、子供らしく遊んでいろってな」

 

 奇しくもそれは自分が姉に言われたことと似ていた。簪はその時、ショックでなにも言えなかった。だから、彼がどう答えたのか興味があった。

 

「それで?」

 

「だからこういってやった。姉さんが俺のことを大事に思っているのは十分伝わっている。でも、俺のことすら信じられないの?ってな」

 

「……?」

 

「姉は一人で何とかしようと躍起で信じられるものすら信じられない状況になっていてな。だから、突きつけてやった。今の姉が俺たちからどう見えるのか……まぁ、姉の立場で考えればこれくらい容易に想像できた。多分、姉にとって俺たち下の弟の存在こそが生き甲斐だったんだろう……姉が百パーセント悪いって訳じゃない。だけどそれで、俺の生き甲斐を奪ったら本末転倒じゃない?まぁ、それでも、恥ずかしい成績出したら止めさせると言われたけど」

 

 その言葉に、簪は目をパチクリさせて聞いていた。姉の立場で考える……そんなこと、一度も考えたことがなかった。そして改めて考えてみると、家の『特殊性』、姉の『立場』、特にあの日はその『立場』を継承した直後だったはず……そう考えるとあの日の言葉の真意が見えてくる。

 

(それでも、『貴女は無能のままでいなさいな』は無いと思う)

 

 これは、単に二人の精神の差だった。千冬は、あの当時でも、二人の弟たちの事をよく考えて言葉を選ぶことができた。だが、年齢がひとつ違う簪の姉は当時、簪の安全と家のことで精一杯で、簪自身のことまで考える精神的余裕が無かったのだ。なので、本人は考えていたつもりでも、全く考えていなかったのだ。

 

「(今の私が出来ること…………)一夏さん、有難うございます。何だか自分のやるべきことが見えてきた気がします」

 

「そう思うんなら、敬語はいらんぞ。同年代だし」

 

「はい! あの……クラス代表戦、頑張って」

 

 そう言って、簪は去っていった。その姿を見て本音は一夏に頭を下げた。

 

「ありがとね。かんちゃんのトラウマ祓ってくれて……これでかんちゃんも立ち直れるよ~」

 

「おや、まだそうとは限らんぞ?アイツの姉が何かいって更にトラウマ作ったり抉りにくるかもしれん」

 

「その時は…………その時だよ……ま、その時は当主は人の心がわからないとか言っておくから!じゃあね~イッチー!」

 

 何故か一夏は一瞬、背筋が凍ったような気がした。

 

「……随分と優しいわね?」

 

 鈴が話しかけてきた。その顔は何処と無く不満そうである。

 

「まぁな……」

 

「……何?惚れたの?」

 

「うーん、それはないかなー、今回のは、苗字が更識で大体予想ついたし、昔の俺に雰囲気が何処と無く似ていてシンパシー感じて行ったただのお節介だし……」

 

「アンタ……そのお節介は昔からそうよね(それで、何人の女子が惚れたか……)」

 

「俺の手が届く範囲で……だがな。流石に優先順位はあるし(お前含め、その気あるのは認めるが、告白くらいする度胸は欲しいな)」

 

「そう言えば、風の噂で聞いたけど代表戦どうするの?日時は?」

 

「行き当たりばったり、明日、以上」

 

 

 

 その言葉にぐったりする鈴だった。

 

 




という訳で、クラス代表戦前に鈴登場。こういうのも良いかなと……

次回、(ようやく)戦闘回


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05 VSセシリア(結果見えてるとか言わない)

やっと、代表決定戦。楽しんでいただければ幸いです。


 クラス対抗戦当日、一夏は今日丸々一日授業を休む許可をもらい、資料室でセシリアの専用機を洗いざらいしらべあけていた。

 

「第三世代型IS、ブルー・ティアーズ……装備は大口径レーザーライフル『スターライトmk3』、近接用アサルトナイフ『インターセプタ』、そして期待の名前の由来でもある高機動全方位制圧射撃システム……通称ビットシステム『ブルー・ティアーズ』が六基か……」

 

 正直いってこの機体に勝つと考えると、現実的な策は二つ。一つは、相手の武装をすべて無力化する。もう一つは、シンプルに一つしかない。

 

「近付いて斬るしかないな……」

 

 わざわざ、相手の得意とする土俵で戦う必要性などない。近接戦闘用装備がナイフ二本なら、如何様にも対処できる自信がある。

 無論、最初から密着して戦う何てことはできないので、最初はセシリアの土俵で戦うことになる。

 

「まぁ、考えてもしょうがないや」

 

 元より、この程度の情報収集はただの気休めである。知っていると知らないでは相手の行動をある程度予測できる。

 

(後は、俺がどれだけ動けるか……これにつきるか)

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

 午後、一夏は、アリーナの格納庫に来ていた。午後の授業が終わればそのまま代表決定戦だ。

 

「お前は、発覚してから、IS学園の入学まで時間がなく、今日まで録にISに触れていない。だからここと代表決定戦で基礎的なデータをとる」

 

「ウィース」

 

「ちゃんと返事をせんか!」

 

「アーイ」

 

「全く……これがお前の『専用機』だ」

 

 渡されたのは、灰色の機体。

 

「打鉄……」

 

「正式名称は、『打鉄玉鋼』だ。体を預けるように乗ってみろ。お前のリクエストも可能な限り実現した」

 

「はい」

 

 乗り込んで見る一夏。

 

「よしそのまま、基本的なデータを入力する。少し待て」

 

 本来なら、入学試験の際に済ませるのだが、一夏は、今と後に控えている代表決定戦で本格的なデータをとることになっている。

 

「パーソナルデータ、モジュール、ファッティング……共に問題なし」

 

 淡々と作業をこなしていく千冬の姿に不躾ながら一夏はちー姉工学できたのかと感心していた。

 

「これでも教師だ、これくらいならIS操縦者じゃ必須科目だ…………」

 

「おっと表情に出てたか……なら俺にはやっぱISは無理だな。俺文系だし」

 

「……(全部が全部そうじゃないが)『乗るだけ』ならISは文系の方が相性良いがな…………ISの適正はBか、普通だな」

 

「?」

 

 適正の前に言っていた声は一夏には聞きとれなかった。

 

「さて、基本的なパーソナライズは済ませた。後は、お前次第だ。まぁ、クラス対抗戦まで少し、時間がある。アリーナの外は授業で使うが、この辺を歩くくらいなら構わん。装備の確認もしておけ。但し、解除は30分はするな。今、最適化して一次形態移行(ファーストシフト)している最中だからな」

 

「りょーかい(どれどれ、現在の装備は……)」

 

 

 

 

 

「い、一夏!」

 

「ん? 何だ? 篠ノ之?」

 

「それがお前の専用機か?」

 

 現れたのは箒だった。一夏の専用機をまざまざと見ている。入学試験の実技で乗った普通の打鉄と比べると、鋭角的だが、装甲が薄いように箒は感じた。

 

「なんというか……普通だな」

 

「まぁ、打鉄だからな。俺はこのメタリックボディ嫌いじゃない。多少は、俺好みの改造を施してもらった。それより何でお前ここにいるんだ?」

 

「何でって……もうすぐ、試合だぞ! 結局本当に練習……しなかったのだな……お前」

 

「する時間無いからな」

 

 一夏のあまりの能天気さに思わずため息が出てきてしまう。これは単に、三人それぞれの気持ちの持ち方が違うのである。セシリアは代表候補生としてのプライド以前に、ISに人生を捧げる覚悟があるためこんなところで負けられない。秋正も、セシリアはこの戦いでフラグが建つから兎も角、一夏に関してはここで完膚なきまでに倒しておきたいという負けられない理由がある。

 対して一夏は、この試合に『ある一点』を除いてその価値を見いだしてはいない。自分の事情は、千冬が一番よく知っているためクラス代表になんか先ずならないし、今日はじめて乗った素人でしかない自分がセシリアに逆立ちしたって勝つのは不可能だ。だから、気負うことなどしないし勝ち負けに拘らない。普段のオーディションのときも、落ちた場合はそこで引きずらないようにしているくらいだ。男のプライドで勝てるほど甘くはない。だから、最低限(・・・)の備えしかしていない。

 

「絵描きがサッカーに全力出さないだろ?それと同じだ。気楽にいけば良いんだよ、気楽にな」

 

「あれ?先客がいる。まぁいいや、一夏~!それが専用機?」

 

「お、鈴じゃん、おう、玉鋼だとさ」

 

「ふーん、普通ね」

 

「それさっき篠ノ之に言われた」

 

「まさかの二番煎じ!?……って篠ノ之ってだ……「一夏さん(イッチー)」……れ」

 

 再び聞き覚えのある声二つ。簪と本音だった

 

「おーイッチーの専用機だぁ!」

 

「やれやれ(賑やかになってきたな)」

 

「普通の打鉄と比べて機動力の底上げがされてるね~しかも打鉄の装甲を一部外して代わりにラファールの装甲を取り付けて防御力の低下を可能な限り抑えているね。考えたね~」

 

「…………あれ?俺の目の前にいる、この子誰だったけ?」

 

「ほ、本音は整備科志望だから……」

 

 本音の指摘に目を見張る一夏と気持ちはわかると頷きながら説明する簪にひどーいとダボダボの袖を振り回す本音に箒は不満げな顔になっていた。

 

「随分と仲が良いんだな……」

 

「別に悪いことではないだろ?」

 

「……」

 

 どうしても、話が進まない。どうやら箒は二人きりなら話が弾むが、他の人がいるとそうでもないらしい。

 

「それより聞いてよ! アイツ、また私にしつこくゴチャゴチャ言ってくるのよ!? 」

 

「アイツ?」

 

「こいつの兄よ!」

 

「ああ、アイツか」

 

 箒が理解し、秋正を思い出すと眼のハイライト(SAN値)がどんどん消えていく。

 

「彼ね……」

 

「あれ?簪もアイツにあったの?」

 

「ううん、でも、アイツのおかげで私の専用機開発一時凍結しかけた。だから今は自分で組み立てて作っている」

 

「流石に、日本を背負うかもしれない代表候補生の専用機を凍結させる気は政府もなくてね~、面目丸潰しだし、まぁ、開発所の倉持技研の一部がモルモット(秋正)の研究に力を入れたいから秘密裏に勝手に凍結させようとしてたのが原因だし~、まぁ、それがバレてトップを含めた何人かは総辞職したよ~、まぁ、そのときにはすでにかんちゃんは、自分で作るからって言って作りかけの専用機もらちゃったんだけどね~、因みに今は日本政府の援助で作っているんだよ~」

 

「うわぁ……」

 

「お前も、苦労しているんだな」

 

「うん……」

 

 ここに、秋正被害者同盟が結成された歴史的(?)瞬間であった。正確には簪の件に関しては、秋正は直接関係ないのだが、一夏が専用機授与を辞退した理由が理由だったため、余計に秋正に悪感情を募らせているのである。せめて、それで困る人はいないのか位聞けば印象は変わっていたかもしれない。

 

「まぁいい、とりあえず俺もピットに向かうからお前らも、さっさとアリーナの席で観戦しとけ」

 

 その言葉に四人ともアリーナの観客席に向かっていった。尚このとき、ファンブルでも起こしたのか、秋正にエンカウントして逃げ回るはめになる。

 

「「「「来るな!」」」」

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは貴族である。

 そんな彼女が今、話題の男性IS操縦者に対する感情は侮蔑と興味である。侮蔑は一人目の男性である織斑秋正。彼に関しては、失笑しかでない。知り合いなのか意中の女子なのかはわからないが、一人の女子に固執して追いかけ回す、しかも相手は明らかに良い顔をしていない。しかも、二組に転入生が来たらそっちの尻を追いかけ回す始末。相手から、教えを乞うばかりで自発的に努力しない。セシリアが最も嫌うタイプの男だった。恐らく、両親が死んで、家を一人で支えるためにIS業界に入りたてだったの女尊男卑思考の頃なら間違いなく晒し者にしようとしていた自信がある。

 それを捨てたのは、単にモラルや品位の問題だけでなく、家を支えることにも、上を目指すのにも、そんなものの必要性がないと悟ったからである。ISが出てからは女性の立場が強くなったと思っているのは、一部の頭がお花畑の女性だけである。実際は男と女の力関係に大差は出ていない。IS業界にも男の働き手はいるし、男が重要なポストについていたりもする。まぁ、一つ言えるのは、世界は元の鞘に収まったということなのだろう。有能なら重宝され、そうでないなら淘汰される。その現実から目を背けた女性が向かう先が女尊男卑というわけだ。

 話を戻すが、セシリアにとって、一人目の男に興味はない。何か、隠された一面があれば話は変わってくるだろうが、あの男では悪い意味でしか発揮しない気がするとセシリアの勘が言っているのだ。

 だから、今の彼女の興味は二人目に向かっている。可能であれば話をしてみたいと思ったが、流石にクラス代表戦前の期間に話しかけるのは憚られた。

 

(まあ、この戦いでわかるでしょう……一夏さんの経歴は誇ってよいもの……だから、彼は恐らくただで終わりはしない)

 

 だって自分と彼は似た者同士なのだから。

 

 

 

 一年一組クラス代表戦、総当たり戦

 

 一回目、織斑一夏VSセシリア・オルコット

 

 

 

 元より、この試合に一夏が出る必要性はない。絵描きがスポーツに情熱を注がないように。一夏もISに情熱など注がない。

 では何故か?一つは、このクラス代表戦が実質彼にとってIS学園入学試験で行われる実技試験の代わりであるということ。彼も学園側の意を全く酌めない訳じゃない。そしてもう一つは―――

 

「来ましたわね」

 

「ああ、お手柔らかに頼むよ」

 

「何でしたら、降参してもよろしいのですよ?貴方がやる気がないのは経緯からして仕方ありません。やりたいことに全力を注げると思ったらこれですもの。私ならグレますわよ?」

 

「フム、実に魅力的な案だが、遠慮しておこう。確かにISに情熱は注げない……『IS』にはな」

 

「?」

 

『まもなく、試合を開始します。両者、規程位置に着いてください』

 

 会場のアナウンスと共に、二人の会話は終わる。先ほどの言葉は少々気になるが、それに気をとられるほどセシリアの精神は柔じゃない。一瞬で切り替え試合に集中する。

 

 

 

 

 

 そして試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 最初に動いたのはセシリアだった。己の得物であるスターライトmk3が火を吹き一夏に迫る。が、それを一夏はバーニアを吹かせて避けた。そしてそのまま、高速で大回りにアリーナをぐるぐると回り続ける。

 

(なるほど、銃と戦う心得は持ち合わせている……というわけですね)

 

 基本的に銃は動き回る的に当てるのは難しい。一夏もそれは心得ている。だから常に動き回って狙いを定まらせないようにしているのだ。そしてそれは当然銃を扱うセシリアも心得ている。

 初手からここまで動けるのは想定外だが、これくらいならISにある程度乗れば誰でもできる領域、驚異はない。セシリアはあえて構えを解いた。

 

(構えを解いた?……何を考えている?)

 

 一夏はセシリアの意図が読めなかった。そして、数瞬考慮して、その誘いに乗ることにした。

 

(良いだろう、その誘いに乗ってやる)

 

 一夏は玉鋼に装備されている刀を展開しセシリアに近付く。

 

(後ろは当然奴も警戒している、右は得物がある。意表を突く形で正面もアリだが、リスクが高いな……カバーしきれん、となると左だな!)

 

 一夏はスターライトmk3を持たない左から接近して斬りかかることにした。今の自分の技量では上下から斬りかかるという芸当は残念だができない。さっきの動作からしてあの銃は両腕で構えないと狙いを定められないタイプと踏んだからだ。両腕で構えて撃つというアクションを経る間にこちらの一太刀のほうがが速い!

 

 そして斬りかかろうとした刹那―――

 

 

 

 

 

 

 

 片腕で左に向けられた銃口(・・・・・・・・・・・・)が火を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

「……よく避けましたわね。とても今日、初めてISに搭乗した人の動きとは思えませんわ。まさか、瞬間停止した上でバーニアとPICを停止して落下することで射線から逃れるなんて、普通考えませんわよ?」

 

「(今日初めて、か)……元より罠があることを前提に挑んだ。だから対処できた。しかし、それ……片腕でも射てるんだな……ッ!」

 

 瞬間、バーニアを吹かせて背面飛行でその場を離れる一夏。そのすぐ後に、レーザーが通りすぎた。いつの間にかセシリアの第三世代武装BTが一夏の後ろに存在していた。

 

「いえ、狙って撃つなら両腕で構えて撃つ必要がありますがただ撃つだけなら片腕でもできますわよ?」

 

「中々エグいな!だかそういうのは嫌いじゃないぞ!」

 

 いつの間にか四基に増えたBTに撹乱されてしまい、距離が元に戻ってしまっていた。

 一方、観客席では箒はよくわからんという顔をし二人の代表候補生は今のやり取りを見て下を巻いていた。

 

「……凄い」

 

「ええ、まるで詰め将棋?ってやつみたいね」

 

「どう言うことだ?」

 

 箒の質問に簪が答えた。

 

「まず、一夏さんは接近するために円運動をすることで照準を定まらせないようにした」

 

「それは私も何となくわかっている」

 

「次にオルコットさんはわざと隙を作ることで一夏さんの攻撃を誘った。これは逆に言えば、一夏さんの攻撃してくる場所を限定したとも言える」

 

「あのタイプの銃は、普通に使うのなら両手で持たなきゃ的に撃てないけど、引き金を引くだけなら片腕でも簡単にできるからね」

 

「……?それがなぜ凄いのだ?」

 

「つまり、イギリスの代表候補生は、一夏の次の行動を完璧に読みきって左に銃口を向けたのよ。片腕で照準がぶれても、ほぼゼロ距離なら関係ないし……いってしまえば自分から一夏に照準を合わせたんじゃなく、一夏が(・・・)セシリアの照準に誘い込まれたのよ」

 

「でも、一夏さんもそれを読んだ上で誘いに乗ったからこそ瞬時に対応できた。PICを解除して、重力で下降することで!しかも、あの攻撃の最中にオルコットさんが密に放ったBTにも反応して瞬時にPICを再起動して背面飛行で回避していた。相手の次の行動が読めなくちゃ不可能だよ!こんなの!」

 

「あの一瞬でそこまでの駆け引きが行われていたのか……」

 

「それにしてもイッチーすごいね~、普通動かすだけでも凄い大変なのに」

 

 更に管制室では、麻耶もこの戦いの内容に驚いていた。

 

「織斑君、今日が初めての試合とは思えない動きですね。ほら、すでに適正ランクがAになっていますよ!」

 

 まるで、ISの実力者同士の駆け引きに麻耶も嬉しそうに言葉にする。が、千冬は何でもないように答えた。

 

「いや、そうでもない」

 

「え?」

 

「アイツは、確かに今日初めてISでの実戦をしたが、動かしたのは今日が初めてじゃない」

 

 千冬の思わぬ言葉に麻耶は困惑した。

 

「えっと、確か織斑君が動かしたのは適正調査の一回だけですよね? もしかして、目の届かない所でアリーナを借りて練習したとか?」

 

「いや、違う。だが、確かに練習はしていた。アイツの脳内(・・・・・・)でな」

 

「……はい?」

 

 

「少しアイツについて教えておく、アイツは剣術以外にも槍術、杖術、柔術、空手、ムエタイ……それ以外にも様々な武術を修めている。特に剣術は流派まで細かくな」

 

「ええー!? そ、そんなに!?」

 

「アイツは、職業柄、基本的に『思い込む』こととイメージトレーニングが得意だ。何らかの役をもらえば、必ずソレになりきる、例えお伽噺のような世界観のキャラクターでもだ。でなければ客の心は響かないとな。無論、短期間でそれらを可能にしたのは、それだけが理由ではないが……アイツ曰く『自分はソレをしている。自分はソレが出来る。もう出来ている。自分はソレなのだ』と自己暗示に近い程のイメトレをしているらしい。そして、ISの動きは基本的にイメージが重要だと言うのは知っているだろう」

 

「……成る程、織斑君は空を飛ぶイメージがすでに出来ていると」

 

「『出来ている』と言うのは語弊があるな。アイツは疑っていないんだ。自分が空を飛ぶことは呼吸をすることや割り箸をへし折るくらいに当たり前に出来ると……つまり、イメージするまでもない状態に仕上げている。この十日間、奴はひたすらイメトレを行って『ISを扱う自分』の姿に微塵も疑っていない。今じゃ奴にはISは自分の身体の一部という認識だろう」

 

「はぇ~」

 

 イメージだけでそこまで出来るのかと麻耶は感心していた。

 

(最も、それでも一夏は負けるだろう)

 

 それは相手が代表候補生だからだとか、第二世代と第三世代機によるスペックの差じゃない。もっと根本的なところでだ。

 

(それは一夏が一番わかっているだろうがな)

 

 

 

 

 気品と優雅さを面に醸しながらもセシリアは内心驚いていた。

 

(まさか私の戦術をここまで掻い潜るだなんて……)

 

 先ほどから、セシリアは一夏の行動を予測してビットを配置し、放っている。だが、確かに一夏は、その行動をするのだがクリーンヒットしないのだ。相手が近距離装備しかないから、攻撃こそされてないが、これで遠距離装備を持っていたらと思うと背筋が凍る。

 セシリアの第三世代兵装BT平気は、理論上(・・・)は自在に動き回れて、更にビームを偏向させることが出来る。しかし、今のセシリアにそこまでの技量はない。というよりも、現状イギリスでセシリア以上にビット兵器を扱える操縦者がいないのだ。普通の操縦者じゃ、一つ動かすだけで脳を酷使してひどい場合気絶してしまう。それを15歳で全て自在に動かせるだけで、凄まじいと言える。

 だが、セシリアはそこで満足する気はない。何れは理論値までBT兵器を扱いきる気でいるし、本国では新しいBTを開発中と言っている。とは言え、セシリアは出来ないものをねだるような性格ではない。出来ないのなら出来ないなりの戦略を考えれば良い。そして行き着いた先が―――

 

 

 

 逆に考えるのですわ。動けないのなら、動かなくてもいいさと

 

 

 

 そしてできたスタイルが、理論的に相手の思考を読み、行動を抑制し操り、自分の思い通りに事を運び、決して相手にペースを握らせない戦闘スタイルだ。

 それは奇しくも、一夏と似た戦闘スタイルでもあった。一夏もまた、相手の事を考えて戦う……もっと言うなら空気が読めるのだ。これは演技をする際に、相手の空気を読んでアドリブでフォローしたり、ノリをお互い高めてテンションを上げていくのに必須だったからだ。言うなら、相手のペースに合わせ、時に自分のペースに相手を巻き込む……今回もその応用である。

 

(大分動けるようになったな、参考書と授業でISの運用はイメージが大事とかかれていたから、ずっとイメトレしていたが……ここまで動けるのか。でも、このままじゃじり貧だな……かといって仕掛けるにしてもな……)

 

 何とか避けているが時折レーザーが機体に擦って横切っている。その度にシールドエネルギー(SE)が僅かだが削られていく。

 

(やっぱ、熱意の差だなこりゃ。後の『演技』の為の引き出し作りのために動かして戦っている俺じゃ、ISに人生を賭ける彼女とは情熱が違う)

 

 二人を別つ最大の要因はまさにこれである。一夏が、あくまでISを扱うのはあくまで演技の為。ISを操縦したという経験はこれから先の役者人生に役に立つという打算がある。言ってしまえば不純なのだ。演技の為にISを扱う、何処まで行っても一夏は役者なのだから。それを第一と考えてしまう。それが、純粋にISを駆るセシリアとの戦いに結果として現れていた。

 

(まぁ、アイツの思考は大体読めてはいるが……それにしても凄い胆力だな。常人ならここまで、避けられたら普通焦るものだが彼女にはそれが一切ない。さすがは代表候補生か……て言うか、鈴の奴はたった一年で此処まで登りつめたんだよな?……パネェ)

 

 一夏は密に友人に敬意を評しながら、SEが遂に危険域に達したことで最後に一太刀浴びせるための行動に出た。

 

(まずは……左下!)

 

 瞬間、左下に展開されたBT。普通は焦るものだが一夏は流れるようにBTの後ろに回り込み、一線―――叩き斬った

 

「なっ!?」

 

 この試合、初めて驚愕を露にした。あまりに滑らかなその動きに一瞬、これがIS初実戦の動きかと、今まで例えそう思っても冷静に対処できたのに、BTを破壊された動揺から反射的に固まってしまったのだ。その隙を逃さずにそのまま突撃する。

 

「くっ!」

 

 慌ててスターライトmk3を構えて、迎撃しようとトリガーに力を込めた瞬間……

 

 

 

 一夏が、グレネードランチャーを構えていた。

 

 

 

(え?)

 

 

 

 さっきまでは、確かに刀を持っていたはず、いつ展開した?まるで、国家代表クラスじゃないか。いやそもそも、持っていたなら何故もっと早くに―――

 そんな疑問が巡るが、一夏は当然答えるわけでも、答えが出るまで待ってくれるわけもない。

 そして、グレネードランチャーの弾がスターライトmk3の銃口に吸い込まれた。このとき、セシリアも撃鉄に指をかけ丁度、引き金を引いてしまっていた。

 

「キャア!」

 

 結果、スターライトmk3は自らの熱とグレネードランチャーによって想像以上に爆破、セシリアのSEを大きく削る。そしてセシリアが、体制を立て直しつつ残るミサイルビットを解放しようとした瞬間。

 

 

 

 ビィーーーーーー

 

 

 試合時間超過により終了、結果。織斑一夏、シールドエネルギー76。セシリア・オルコット、シールドエネルギー639により勝者、セシリア・オルコット。

 

 

 

 勝敗が決した。

 一夏と千冬の予想通り、一夏の敗北とセシリアの勝利で。しかし、会場はその攻防に沸き上がり、両者に惜しみない拍手が送られた。

 

 




書いててセシリア強すぎな件。
オ、オールレンジ攻撃が出来るなら、自分が動かなくても良い戦いだって出来るはずだからっ!
後、セシリアはイギリス貴族だからね。あんな発想も出来るさ。


さぁ、秋正くんはきっとこれ以上の試合を見せてくれるはず()


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06 VS秋正(結果見えてるとか言わない)

今回、秋正の隠された秘密が明らかになる()

え?前話のタイトルと()の内容が被ってる?なんのことかわからないな


 ピットに戻った一夏を迎えたのは山田先生だった。

 

「お疲れ様です。残念でしたね。でも、すごく良い試合でしたよ!」

 

「有難うございます」

 

「あんまり悔しそうじゃないですね?」

 

「まぁ、相手は熟練のIS操縦者です。いや、先生から見たらまだまだ何でしょうが、俺から見たらどっちも同じです。結果は見えていますし、その分得るものも多く、実に有意義な時間でした。それに、俺は勝ち負けにこだわりませんので」

 

「そうですか……あ、一応、次の試合織斑君は、待機ですので控え室で待機していてください。今回のルールは待機している選手は公平を期すために、次の試合中は別室で待機しなければなりませんので」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 別室の控え室で、一夏は寛いでいた。因みに秋正は、さっきの試合中に専用機が来たらしく、今は格納庫に行っている。

 

「ふぅ……楽しかったな。やっぱ熟練度の高い相手との実戦ほど上達を肌で感じられる……かし、アイツらマジいい加減にしろよな!」

 

 ガン!と、思わずテーブルを叩いてしまう一夏。

 

「何が、『あのとき、ライダーキックすれば……螺旋丸すれば~』だ!ふざけんな!」

 

 螺旋丸の下りからは流石に冗談だろうと、一夏も理解しているが、一夏はピットに戻る際に観客からそんなことを聞いていたのだ。以外にも地獄耳なのが一夏なのだ。

 

「仮に使えても、誰がやるか!場違いにもほどがある!」

 

 これは一夏だけでなく、芸能界全体での暗黙の了解だった。演技でやるモノは基本的に演技のなかでやるべきであってそれ以外ではしない。これは役者が誰でも持つポリシーだ。だから、一夏は試合中にライダーキックはしないし演技の中の技はしない。最も、今まで培ってきたものは話が別だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑秋正、彼には大きな秘密がある。実は……

 

 

 

 

 彼はなんと転生者なのだ!!!!

 

 

 

 

 彼は、自分が何故転生したのかは分からないが、幼い頃からその自覚があった。自分の姉が織斑千冬と知り、この世界がISの世界だと知った。幸い、ISの原作は未完だから何処まで進んでいるかは分からないが、途中までは知っている。そして、その通りに事を動かせば、原作と同じ結果になると確信していた。そして彼はハーレムの為の行動を起こした。まず、最大の障害である、一夏の排除である。

 

(上下関係を徹底させないとな!)

 

 そうして、様々な策(小細工)を一夏に仕掛けた。そして、小学生の時に更に一夏を貶めることが出来ると思っていた。事実、出来たのだ。テストという嫌でも比べられるものが出たから。

 だが、その矢先に変化が起こった。何気なしにテレビをつけたらなんと弟が出ているではないか!

 

(アイツ、なにやってんだ!?)

 

 秋正は、問い詰めるように一夏に迫ったが、彼は答える気など更々なく無視して自室に入り鍵をかけてしまう。それが神経を逆撫でして舌打ちしてしまう。翌日、千冬に聞いてみたら、何と何処かのプロダクションにスカウトされそのまま芸能界にデビューしたという。

 自分よりも目立っていることに最初は腹をたてたが。ふと、冷静に考えてみるとこれは好都合だった。

 

(アイツが、このまま芸能界に行けばアイツはIS学園に関わらないんじゃね?そうなれば、俺の天下じゃん!)

 

 そう思うと、ここは邪魔をせずに放置しておくのが無難と考えたのだ。無論、テストは常に首位で優等生であることは忘れずに、箒が苛めにあったときも彼女の味方をしてフラグを立てておくのも忘れない。

 しかし、彼は気付かなかった。学校では確かにトップの成績だが、陰でいつもブリュンヒルデ、織斑千冬と彗星のように現れた新米役者、織斑一夏に常に比べられ大したことがないと思われていたことに。特に一夏は、トーク番組やラジオ番組などで、自分が芸能界に入った理由を語ったりしていたので、一夏を敵視するのが癖になっていた彼を見て、弟に嫉妬する器の小さい兄というレッテルを張られていたことに。確かに成績だけを見たら、一夏よりも秋正のほうが優秀だが、仕事と学業を両立させている一夏のほうが寧ろ凄いと評価されていたことに。苛めが起きなかったのは単に、彼の腕っぷしが強かったからに他ならない。

 そして、一夏が、中学を卒業してからは、高校に入らずに芸能界に徹するのを聞いて秋正は心の中で狂喜乱舞した。これで、主人公の座は確実に俺のものだと。そんな矢先に再び彼の弟がISを動かしたと聞いたとき。秋正はキレたのは言うまでもない。

 

(あの野郎!これから原作本編の始まりなのに……何、原作ブチ壊そうとしてんだよ!)

 

 だがこれも少し考えれば分かることだった。人類初の男性IS操縦者……そんな存在が現れれば、当然他にもいるかもしれないと世界中で検査を実施されることに、そこに一夏も入ることに。

 そんなことは欠片も思わずに彼は思う。

 

(まぁいい、ここまで来れば後は原作通りに事を進めるだけだ。あの胸糞悪い弟と鈴が来たという多少の誤差は有れどこのクラス代表戦という重要なファクターはちゃんと起きたんだ。なら、セシリアとの戦いは原作通りに進めればいける!何せアイツはチョロインだからな!)

 

 

 

 

 

 ※ここのセシリアはチョロインではありません。本人の前で言うのは大変失礼なので止めましょう。

 

 

 

 

 

 セシリアは、ブルー・ティアーズの修理と補給中、ピットで複雑な思いに駆られていた。

 

(負けた……)

 

 理由は無論、さっきの一夏との戦いである。表面上は勝ったが、熱意も情熱もない相手に、最後に一矢報いられたことが、彼女に苦い経験として刻み込まれていた。

 

(迂闊でしたわ……近距離装備しか出さないからそう思い込むだなんて浅はかにもほどがありますわ……思えば、彼は私の攻撃を尽く避けていた。私の次の行動と思考をほぼ完璧に読みきっていたのですね。反撃しなかったのは、恐らくあの戦いが動作確認の意味合いが強かったから……)

 

 だからこそ、虚を突かれ最後に無様をさらした。屈辱はそれほどでもないが、自分への情けなさに腹が立ってくる。踊らせてるつもりが踊らされていたのだから。これで勝ったなどとは口が裂けても言えない。

 

(ですが、彼の操縦技術……あれは、私の中で何かが噛み合った気がしますわ)

 

 彼の動きはIS初心者とは思えないほど淀みなく滑らかに動かしていた。まるでそれが当然であるかのように。そして同時に思う。

 

 

 

 

 

 もし……もしも彼が、本腰を入れてISに取り組んでいたらいったいどうなっていたのか?

 

 

 

 

 

(まぁ、もしもの話をしても仕方ありませんわね。出来ることなら、彼と練習して、その教えを乞うのも良いかもしれませんわね。そうでなくてもその秘密を知れる良い機会になりますわ……代表はまぁ、彼にやってもらえば良いでしょう。元々、彼が一番人気でしたし)

 

 

 

 

 

 

 一方、一夏はというと

 

 

「星光の剣よ……赤とか白とか黒とか消し去るべし!」

 

「これより、停止時間9秒以内にッ!カタをつけるッ!」

 

「てめぇは俺を怒らせた」

 

「命は投げ捨てるものではない」

 

「問おう、貴方が私のマスターか?」

 

「ついてこれるか?」

 

「トゥ!ヘァー!」

 

「何なんだぁ今のは……?」

 

「トランザム!」

 

「つまり、どういうことだってばよ?」

 

「イザナミだ!」

 

「是非もないよネ!」

 

「エクスプロージョン!」

 

「慢心せずして何が王か!」

 

「………………食うか?」

 

「武器の貯蔵は充分か?」

 

「ハルトォォォォォォォ!」

 

 一度に何冊もの台本を机に並べて練習していた。しかもそれぞれ声が違い、中には完璧に女の声という無駄に洗練された声だった。

 

(……ギャグキャラ役が欲しい)

 

 そしてドア越しでは某代表候補生がその声を聞いており、感動のあまり悶絶しており、その姉が妹の姿に悶絶して写メを撮るという珍事が起きていた。

 

「はぁ~!大分スッキリした。早く仕事したいな……」

 

 台本の練習をしてある程度ストレスを発散した一夏。

 

(そうか、もうオルコットと兄貴の戦いか……まぁ、アイツの事だから多分……最初に兄貴が、千冬姉の名は俺が守るとか言って、でやあああ!って感じに剣一本で突っ込んで……)

 

「千冬姉の名は俺が守る!でやあああ!」

 

(オルコットが、フン!って感じに銃で顔面を撃って……兄貴がそれに当たってふがっ!て感じになって……)

 

「フン!」

 

「ふがっ!」

 

(その後、起き上がったらBTが目の前にあって呆けた顔でえ?ってなって蜂の巣にされて終わりだな)

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 勝者、セシリア・オルコット

 

 

 

 

 

 ピットに入り特に何も考えずにカタパルトに乗り込む。外の歓声がここからでもよく聞こえていた。

 当然だ。この第三試合は、男性IS操縦者同士の戦いなのだ。みんな期待してしまう。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「トトカルチョにもならないでしょ?」

 

「一夏君の戦い凄かったもんね!」

 

「あれはヤバイ。漏れた」

 

「それに比べてさっきの試合は……ねぇ?」

 

 まぁ、こんな感じに愉悦に浸る生徒もいたが。

 

 そして、二つの影がおどりでた。一つは一夏の打鉄玉鋼。もう一つは織斑秋正の専用機、白式である。

 

「よう……」

 

「…………」

 

「けっ相変わらずダンマリかよ……まぁ仕方ねぇかこれからお前は負けるんだからよぉ!」

 

 この言葉をセシリアが聞いていたら、怒りを通り越して失笑ものだろうし、鈴や簪が聞けば、ああ、現実逃避しているんだなと生暖かい視線で一夏に同情し、箒は、これはアレだな……押すなよ?というアレだな。と思っただろう。プライベートチャンネル万歳という奴だ。

 だが、ここで勝てばさっきの醜態は晴らせるだろう。そして、勝てばヒロイン達も自分に惚れ、目の前の奴は、全員から幻滅され俺より劣るというレッテルが張られる。そうなればハーレムだ!だから、セシリア同様、負けられない。秋正にも勝たなければならない理由があるのだ!

 

 そして試合開始のブザーが鳴った。

 

「でやあああ!」

 

 試合は以外にも秋正の優勢のようにことが運び、予想外の展開に観客の生徒も興奮していた。

 

「あれ?一夏さん押されてる?」

 

「ちょっと!一夏!茶々っと殺っちゃいなさいよ!」

 

 簪と鈴がそんなことを言っているが箒だけはわかった。

 

「いや、よく見てみろ。奴のSEを」

 

 箒の指摘に二人が見てみると徐々にだが、確実に秋正のSEが減らされていた。端から見たらどう見ても一夏は防戦一方だ。白式にある『能力』を使えば話は別だが、秋正はそれを今は使っていない。

 

「本当だ~」

 

「何で減っているのよ!?」

 

「あれは……『制空圏』だな」

 

「制空圏?」

 

「何て説明すれば良いのか……篠ノ之流剣術に伝わる極意の一つだ。自分の周囲の間合いに気を張ってそこに入ってきた異物に対して瞬時に対応できる……といえば良いのか?」

 

「へぇ~そんなのあるんだ」

 

「私はまだ無理だが、千冬さん……織斑先生も使えたはずだ」

 

 箒曰く、篠ノ之流を学んである程度の領域までいたれば、身に付くものらしい。

 

「あっ!もしかして、よく、織斑先生が世界大会で相手の銃弾を斬ったり叩き落としたりしていたのって……」

 

「制空圏のお陰だな。しかも、千冬さんは、刀を己の身体の一部のように扱えるから……5メートル位迄は射程距離だと父さんが言っていたな」

 

 箒の説明に、感心しながら試合を見る一同。そしてよく注視してみると、一夏は防御するその一瞬に確かに攻撃していた。だが、秋正は、攻撃に夢中でその事に気づいていない。

 

「どうした!!防戦一方か?攻撃してこいよ!」

 

「攻撃?もうしてるのにか?」

 

「は?」

 

 瞬間、カウンターの要領で思いっきり秋正蹴り飛ばす。そして、秋正のSEは既に半分を切っていた。

 

「テメェ!何しやがった!?」

 

「何って……いやあまりにも隙だらけだから、チマチマ攻撃させてもらっていたんだよ。まさか本当に気づいていなかったとはな」

 

「テメェ……コスい真似しやがって……だが、これで決めてやる、零落白夜!」

 

 そう叫ぶと秋正の持つ剣の刀身が光輝いた。 このかくし球には流石の一夏も驚いた。

 

「驚いて声もでないようだな!そうだ、これは千冬姉の剣だ!お前じゃない、俺が千冬姉の剣を扱えるんだ!」

 

 だが、一夏が驚いたのはそこじゃない。

 

(SEモリモリ減って五分の一切ったぞ!)

 

 その、燃費の悪さにである。零落白夜については、一夏も触りだけだが知っている。確か、SEを消費して敵に触れたら絶対防御を発動させて、相手のSEを大幅に削る、嵌まれば一撃必殺の威力になる単一仕様能力だ。最も単一仕様能力だけあって本来ならブリュンヒルデ、織斑千冬にしか扱えない技のはずである。

 

(そうじゃなくてもこれ……ちー姉じゃなきゃ扱えないだろ)

 

 そんなことを思われてるとは知らずに、一夏が零落白夜を見て呆然とショックを受けていると勘違いした秋正は突撃する。

 

「これで終わりだぁぁぁ!」

 

 が、一夏の内心は―――

 

(君の戦いは素晴らしかった!機体性能もッ!単一仕様能力もッ!)

 

 余裕だった、今度収録されるアニメの台詞を心の中で練習できるくらいに。

 一夏も刀を鞘に納めて構えをとった。あからさまに居合いの構えである。秋正は零落白夜の力を過信しているのか、そのまま大きく振りかぶった。刹那

 

 

 

 

(だが!まるで全然!この俺を倒すには程遠いんだよね!!)

 

 

 

 

 一夏が居合を放った。

 秋正の唯一の得物である、雪片二型が刀身の根本からへし折れた。

 

「そ、そんな……雪片が、ち、千冬姉の剣が……こんな、こんなバカなことッ!!」

 

(お前の剣=ちー姉の剣じゃないだろ)

 

 秋正が動揺している間に一夏が秋正の後頭部をマニピュレーターで鷲掴みにする。

 

「て、テメェ……」

 

「いや、実に面白いものを見させてもらった。所で、君の剣ほどじゃないけど、俺のこの腕にもちょっとしたギミックが施されていてね…………パイルバンカーって知ってる?」

 

「ッ!」

 

 一夏は躊躇なく秋正の後頭部にパイルバンカーを打ち出した。衝撃で弾き飛ばされる秋正。同時に既にSEが150を切っていた白式のSEが0になる。

 

「グガッ!……ゲホッゲホッ!」

 

 あまりの衝撃と脳を揺らされ気分でも悪くしたのか、目尻に涙を浮かべてえづいてしまう秋正。

 

「やっぱ最初から強い武器持っていると、それに頼っちゃうからダメだよな?だめだめだめだめだめだめだめだめ……いかん、苛立っていたからつい台詞をいってしまった……これからは心の中で言うように心がけるとしよう」

 

 その後、全勝したセシリアと一勝した一夏は当然、代表を辞退し、秋正が代表になった。勿論、秋正がセシリアに立てた(らしい)フラグをはへし折れており、一夏は秋正に雑用を押し付けられたと清々していた。そしてクラスメイトは秋正の醜態に微妙な反応を示していたが、それでも絵になるかと一応歓迎はされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所

 

「ムホー!いっくんカッコイイー!」

 

 とある無人島で一人の女性が興奮していた。そのモニターには一夏の戦闘の模様が様々なアングルで録画撮影されていた。

 しかも、部屋も一夏のポスターや、ブロマイドから一夏が出演したDVDまではともかく、自作でもしたのか抱き枕まで何から何まで一夏尽くしである。本人が見たら間違いなくドン引きする光景がそこにあった。

 

「凄いよ、凄いよ!最初適正ランクBだったのに今はSランクだ! まぁ、戦闘技術に関しては……あんな地獄を生き延びていたらねぇ?」

 

 芸能界って私がいても、あんまり違和感ないかも……何て苦笑いをして思いながら、今日183回目のリプレイに入る。

 

「しかし、よくよく考えたら、あっくんだけに束さんの恩恵与えるのはふこーへいだよね……でも、いっくんの性格からして専用機受けとるような性格じゃないし……いやそこが良いんだけどね!……よし!何か武器を一つ贈呈してあげよう!……ソレにしても今回は見れなかったけどいっくんも考えたね~私の開発した『展開装甲』と同じこと考えるなんて……まぁ、私のより数段劣る非効率的なものだけど!でも、アナログすぎだけどロマンはあるから棄てがたいなぁ、この発想も」

 

 そう、このどう見ても一夏をストーキングしているようにしか思えないこの女性こそISの産みの親である、篠ノ之束である。

 

「あ、そうだ。くーちゃんに言っておかないと……くーちゃん」

 

 しかし、くーちゃんなる人物は現れない。

 

「……くーちゃん?」

 

「~~♪」

 

 くーちゃんのいる方を向いてみるとくーちゃん……クロエ・クロニクルがヘッドホンをつけて鼻歌を混じりに音楽を聴いていた。

 

「オーイ!くーちゃん!」

 

「はい?何でしょうか?私、今一夏様の限定キャラクターソングを聞いているので私用は後にしてもらいたいのですが」

 

「辛辣!?酷いよくーちゃん!ただ、単に今度のクラス対抗戦にゴーレム送り込むつもりだったけどあっくんの実力じゃ死んで勝てないだろうから送るの中止と言おうとしただけなのに……」

 

「ああ、そういうことなら無理です」

 

「Why?」

 

「だってもう発進して待機しており、しかも、こちらの制御を全く受け付けませんので、まぁ、初期化すれば話は別でしょうが」

 

「Wow!何てこったい!……まぁいっか!ちーちゃんいるからなんとかなるし、しちゃうでしょ!あっ、それとくーちゃんそのキャラソン私にもプリーズギブミー!」

 

「だが断る。このクロエ・クロニクル、主人の頼みをノーと答えるのが最も好きなことなのだ」

 

「オ・ノーレ!さてはドラマCD版の4部聞いたな!?」

 

 基本的に、後先考えず、その場のノリと勢いで生きる女……それが篠ノ之束である。最もそれによって被る被害のせいで天災兎と呼ばれてしまうのだが……今回みたいに。

 

 

 

 




衝撃の真実!!秋正はプロローグで転生した転生者だったんだよ!


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07 天災は120%割増で余計なことをする

リアルが忙しい。すまない、更新が遅れてすまない。

お気に入りが100こえて内心驚いています。有難うございます!


 朝、清々しい陽光に目が覚める。少しはマシな気分だ。今日もルーチンワークな一日が始まる。

 

(今日の予定は……無しか)

 

 一日オフの日というのは普通なら、素晴らしいものだが一夏にとっては最も避けたいことだった。

 

(学園に一日いなきゃならないとか……憂鬱だ……?)

 

 そう思い、身を起こして見ると―――

 

 

 

 

 

 

 

 白い箱にピンクのリボンが巻かれた如何にもプレゼントボックスのような物体Xがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 一夏はその横に置いてあるステッカーを見て、無言である場所に連絡をいれる。

 

「あ、ちー姉?朝早くに御免、実は朝起きたら不審物があってな。とにかく来てくれ」

 

 

 

 

 

 

 ―――ラビットサンタより、良い子のいっくんにプレゼントだよ!―――

 

 

 

 

 

 

 

「あのバカ……なんつーもんを……」

 

 一夏から事情を聞いた千冬は謎の物体Xを調べた後、今頃、束さん良いことしたな!ブイブイ!等とダブルピースしているだろうアホに青筋を浮かべていた。

 

「今度あったら、秘技、九十九折(つづらおり)でも叩き込んでやろう」

 

「で、これ(・・)どうするよ?」

 

 整備室の一画で、一夏に届けられたものを見て微妙な顔をする二人。

 

「一応聞くけど、これって他国でも作れるものなのか?」

 

「無理に決まっているだろう……電磁砲と荷電粒子砲を兼ね備えたリボルバー等聞いたこともない」

 

「ですよねー」

 

 一夏に届けられた物はスイッチ一つで電磁砲と荷電粒子砲を使い分けることができるリボルバー型のハンドガンだった。

 

「一応、取説によると、そのシリンダーで使い分けられるようになっているらしいな。お前の機体のコアナンバーにしか取り付けられないようだが……どうする?一夏?お前が嫌ならこれは厳重に保管するが……」

 

「……多分それしたら、『あんなガラクタじゃいっくん満足しないか!失礼なことしちゃったね、よし!じゃあ、束さんがもっと凄いのを送ってあげよう!』……とか言って、核融合炉とか何かとんでもないものを送ってきかねん気がするのだが……そのたびに隔離してたら、IS学園(此所)が一瞬でオーバーテクノロジーが集まる魔窟の火薬庫になると思うに一票」

 

「……いかん、容易に想像出来てしまうな。あと、上手いな物真似」

 

「特技、声帯模写だから」

 

「「……はぁ」」

 

 結局、関係各所に連絡してこの装備を認めるしかないという結論になる。仮に政府がこれを研究のために取り上げたとしても、恐らく国の研究機関では束のカオス謎理論は一ミリも解けないだろうし、一夏から取り上げるなんてそんなことしたら束がどんな行動に出るかわからない。政府もそれは充分分かっているだろうから、恐らく今後の対応で頭を抱えることになるのだろうということは容易に想像できた。

 

「何かお偉いさん達に申し訳ない……ん?」

 

 念のため自分も読もうと、束が用意したりどみ……取説に触ると何か違和感を感じた一夏。

 

「ちー姉、これ紙の材質変じゃない?」

 

「……何?」

 

 試しに色々してみると、光にかざすと文字が透けてくるではないか。今まで見えていなかった……正確には透けていない文字で一文が出来るようになっていた。

 

「ひらがなとカタカナと漢字が混じって読みづらいな……何々……『追伸、最大出力で放つとIS学園のアリーナのバリアやISの絶対防御を貫通できるよ!』…………」

 

 沈黙すること五秒…………そして

 

 

 

 

 

「何、一番大事なこと隠してるんだぁ!あの腐れ兎ィィィィィィ!」

 

 

 

 

 世界最強の怒号が鳴り響いた。当然、これはIS学園の粋を集めて厳重にロックされた。が、当然封印してしまってはあの兎が何をしでかすかわからないため、一夏が持つことになり、心の平穏が乱れたとか。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで、あの代表戦から数日が経過していた。

 彼、織斑一夏の学園生活だが、大多数が見れば彼は、常に女子にサインやらインタビューやらなんだの迫られ一夏はそれに辟易するも、暴力等したらどこから漏れるかわからずそうなれば即、スキャンダルなため、長い時間の休みの際は人気のいないところで一服するのが日常であると認識されている。

 だが、友人の鈴や比較的長くいる一組や簪から見ると彼の違った一面が垣間見える。

 

「ねぇねぇ、一夏君!この前出てた秘境飯の旅って……」

 

「ああ、アレか……此所だけの話、オンエアされてなかったけど実はあのときバスがエンストして、急遽、半日徒歩で帰る破目になってな、その時、農家のおばちゃんから差し入れにおにぎり貰ったんだ」

 

「へぇ~」

 

 

 

 

「あ、一夏君! ファントムプロダクションってどんなところ?」

 

「入りたいのか?なら先ずは、履歴書と万が一合格したときのために遺言か、遺書か、辞世の句用意しとけ」

 

「りょーかい……え?」

 

「え?」

 

 

 

「イッチー、今度TRPGやろー」

 

「舞台は?」

 

「クトゥルフ」

 

「オッケー……KPは?」

 

「イッチーがしてほしいなーって」

 

「よし、ガチガチの縛りとダイスロールと選択肢ワンミスで邪心降臨するクソ卓にしてやろう」

 

 このように、鬱陶しく、しつこくさえなければわりと付き合いが良かった。此所だけの話な番組の裏話等も話してくれるし、相談も受けてくれたりする。そういった、一夏の印象は普通の対応をすれば面倒見の良い人となっておりクラスメイトも彼との接し方が徐々に分かり始めており、他のクラスの生徒が押し入って来るときは、第六感でも働いているのか、必ずその前に姿を消す彼を見て、苦笑しているくらいだ。

 一応、一夏派、秋正派、中立派の三つにクラスが割れているが険悪と言うわけではない。あくまで好みの関係である。秋正派はクラス対抗戦での優勝商品がデザートのフリーパスのためそれが目当てである場合と秋正が今は弱いけど、自分達と一緒に上達していって最終的にくっつくラブロマンスをしたいという生徒がいた。

 一方、一夏派は、主に初日で彼に言われたことが原因で尻に火がついた女子である。普段は他の生徒と同じだが、授業や自習の時は浮わついた雰囲気は鳴りを潜めて、真面目に授業を受け、放課後に疑問に思ったことを質問しに来てくる姿を見て千冬と真耶が素直に感心したくらいだ。

 

(まぁ、時折私の弟を見て頬を染めるのは……いや、心の中で止めておくとしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で、一夏さんはどうして食堂で食事なされないのですか?」

 

 いつものお気に入りの場所で、新たに加わった住人の一人。セシリアがサンドイッチを食べている一夏に質問した。

 

「セシリア、コイツの職業をよく考えてみろ」

 

 もう一人の新住人。箒は、なんとなく、一夏が食堂を避けている理由を察していた。正確には、そんなことしてほしくないという願望からだが。

 

「アイツの職業は役者だからね。こんな女の花園に放り込まれて問題起こしたら確実に身の破滅だからね。一夏は普段、こういうときはもっとはっちゃけてるし」

 

「……因みに具体的に言うと?」

 

「台詞の練習で乙女ゲーの台詞を言ってたわよ?中学の時は」

 

「「マジで(すの)!?」」

 

「台詞とはいえ、告る台詞聞いたときは……ウェヘヘヘヘ」

 

「おい、顔がとんでもないことになっているぞ。mad動画のネタになるくらいの顔だぞ」

 

 そういえばと、セシリアが疑問に思ったことを口にした。

 

「一夏さんと鈴さんはいつ頃からお知り合いに?」

 

「あー、確か、箒の奴が小四辺りで転校した後だから……小五になるかならない「い、一夏!今なんていった!?」……か?」

 

 箒が身を乗り出して一夏に問い詰めた。何か逆鱗に触れるようなことでも言ったのだろうか?

 

「小四辺りじゃなかったっけ?」

 

「いや、合ってはいるが。そうじゃない、その前だ」

 

「んだよ、名前で呼んだだけだろ?」

 

 一夏はそう言ったが、箒にとって名前で呼ばれることは大きな前進である。

 

「(ふーん)そうか、篠ノ之は名前で呼ばれるのがお気に召さなかったらしい。済まなかったな」

 

「え!?」

 

 がっ!残念……っ!昔話を遮られ意図せず威圧してしまったことで一夏の中で箒に対する上がっていた好感度が下がってしまい元の状態に戻ってしまった……っ!

 

「ち、違……」

 

「いや、本当にすまない……俺に名前で呼ばれるのがそこまで嫌なことだったとは……すまない。お前の心情を汲めなくて本当にすまない。(面倒臭い)女子の心が読めなくてすまない」

 

「い、いや、そうじゃなくて……」

 

 一方でこの現状に疑問を感じる者もいた。

 

「あの……これは、何ですの?」

 

「ああ、あれね……一夏がすまないを連打しているときは大抵、ふざけているときか、遠回しに言いたいこと言っているだけだから……まぁ、今の箒じゃその意図理解していないでしょうけど」

 

 頭を下げている一夏に慌てて弁明しようとする箒だか元々コミュ障で対人関係がゼロの箒にこの状況を打開するのは不可能だった。

 そこで、鈴が箒に耳打ちした。

 

「り、鈴!!?」

 

(安心しなさい。一夏は空気読めるから、アンタの感情くらいは読めるわよ)

 

(そ、そうなのか?)

 

(ただ、さっきのアンタの詰め寄り方だと、名前で呼んだのが気に障った様にも捉えられるのよ、一夏は遠回しにそう言ってんの)

 

(?……何故そんな回りくどいことをする?)

 

(考えてみなさいよ、ここではっきりそう言ったら。アンタはそんなつもりはないと反発するだろうし、場の空気も悪くなるでしょ?だったらオーバーアクションで回りからはふざけているように見える方が空気を壊さずに済むのよ)

 

(だが、お前の言うとおり私はそんなつもりはない。だったらそんなことする必要もないだろう?)

 

(あのね……いくらアンタにその気がなくても、その態度をどう受け止めるかは相手次第なのよ。一世一代の告白だって、相手が買い物に付き合ってほしいと受け止めたらそれが相手にとっての答えなの……アンタだって相手の意思取り違えて誤解したことない?)

 

(グッ!?……そう言われると……)

 

 しかし、一夏が本気で愛想を尽かした訳じゃないと理解し、内心ホッとしている箒に鈴がライバルとして補足した。補足すると、一夏は嫌いな相手には、徹底無視を決め込むタイプである。

 

(まぁでも、今ので一夏の中で好感度下がったのは確かね)

 

(な、何故だ!?)

 

(まず一つは、話の腰を折ったから。そしてもう一つは、アンタにその気がないのは承知しても気分を害したのは事実だからね)

 

 鈴の言葉にそんなーとうなだれてしまう箒を尻目に一夏の代わりに鈴が話した。

 

「あの当時、転入したての私、友達とかいなかったのよ。外国人だからね。まぁ、その辺はよくあることよ。そんな中で、当時……何だったかなえーと、何かの博物館に見学に行くことになったのよ。それで班を作ったんだけど……私、今ほど日本語上手くなくてさ。てか、日本語難しすぎて喋ることすら儘ならない状態だったのよ」

 

 その言葉にあ~とセシリアが頷いていた。

 

「私も最初、日本語には苦戦させられましたからその気持ち分かりますわ」

 

(日本語ってそんなに難しいのか……)

 

 ショックから立ち直った箒は、前回の反省からか口には言わずそんなことを思っていた。

 

「(班の仲間に弾や数馬が居たのは幸いだったわ)そんで、意志疎通すら難しかったんだけど……」

 

『すいません、遅れました』

 

「一夏がやって来てね。そのまま班に組み込まれたんだけどアイツ中国語メチャクチャ上手かったのよ!思わずアンタ中国人!?って聞いてしまうくらいに」

 

「そういえば、一夏の奴、小学生の頃からやたらと英語の発音が上手かったが」

 

 チラッと箒が一夏の方を見ると一夏はハンバーガーを食べていた。

 

「当たり前だろ。中国語流暢に喋れなかったら中国人の演技出来ないだろ。因みにあれ以来、中国人の役は来ていない」

 

 つまり目の前にいるこの男は、たった一回の役のために中国語をマスターしたのであった。その事に鈴は半ば呆れていた。

 

「アンタの上昇志向には程々脱帽するわ。その役だって、確かチョイ役の父親の息子で、ありがとうって言うだけだったでしょうに。チョイ役のチョイ役でしょ…………話を戻すけど、それでコイツが通訳になってうちらの班が進んでいったわけ。その後も、国語の授業だけじゃなくて合間にも一夏に教えて貰ってね。今じゃこの通りって訳……まぁ、回りが基本、日本語だからかなり必死だったのもあるけど」

 

「そうなのですか」

 

「まぁ、それ以来の付き合いね。一夏も何度か家の中華料理店に足運んでたし」

 

「鈴の家の中華料理店には、世話になった。具体的に言うと五反田食堂の次くらいに」

 

((五反田食堂?))

 

「(あそこは年期違いすぎでしょ)……コイツ、一時期、中華料理習う為に家で働いていたのよ。」

 

「え!?」

 

「まさかそれも……」

 

「当時、中華料理人で大成するのが目標の主人公の仲間役をすることになったから、本場の中華を習っておきたくてな。鈴の親父さんに免許皆伝を言われる程度に鍛えてもらった」

 

「程度で済ませていい次元じゃないぞ!?」

 

「あ、そうそう。お父さんとお母さんがアンタに感謝してたわ。お陰で、離婚せずに済んだって」

 

 その言葉に一夏はIS学園に来て初めて驚いた。少なくとも、鈴の家で働いていた時にはそんな雰囲気はなかったし噂もなかったからだ。

 

「何それ初耳!?お前ん家そんな世紀末修羅場環境になってたの!?」

 

「まぁね、中一の時には、かなり荒んでいたわよ。まぁ、プロ意識からか営業中は、二人ともそんなの微塵も出さなかったけどね」

 

「それが、何で俺に感謝するんだ?」

 

「アンタの家庭環境よ。仮に、離婚したら娘に負担がかかって迷惑になるからって、アンタは偶然天職見つけられたから結果オーライだけど、私にまでアンタと同じ苦労してほしくないんだと。それでギリギリ踏みとどまったわ」

 

「おおう、知らない内に俺ファインプレーかましてたよ。流石俺」

 

「そんなこんなで、中二の終わりまでよく絡んでいたわ。それで、その件とは別の件で国に帰ったわけ。クラスの皆とお別れ会したわよね?」

 

「ああ、したな。鈴の家、夜貸し切ってしかもタダ飯で。懐かしいな……最後は中華料理店背景に皆で写真撮ったな」

 

「写真今でも持っているわよ」

 

「何で持っているんだよ……」

 

「だって宝物だもん。しかもサイン付き」

 

「な、な、なんだと!」

 

 その言葉に箒が今度こそ驚愕した。逆にセシリアはサインくらい芸能人ならそんなに珍しくないじゃないかと疑問に思っていた。

 

「い、一夏のサイン?あの一夏がサインだと!?……ば、馬鹿な!!」

 

「本当よ。ほら」

 

 鈴が見せた写真には、中華料理店を背景に、中央には鈴親子が、そして回りに当時のクラスメイトと担任が写っており、その裏面には流暢な英語の筆記体で一夏のサインとデフォルメされた親指を立てた絵が書かれていた。それは間違いなく一夏のサインであった。

 

「そんなに驚く事ですの?」

 

「普通はそうだが、一夏の場合は違う。コイツは大のサイン嫌いで有名で、過去一夏がサインしたのは第一回初回アルバムCDのそれも抽選で50人にしか当たらない。超レア物だぞ!この前それがオークションで1000万で落札していたんだぞ!」

 

「1000万ですって!?」

 

 箒の説明に目を剥くセシリア。そして一夏も予想はしていたがそんな高値で取引されているとは知らずに驚いていた。

 因みに、この写真のサイン自体は、鈴が国に帰る事を聞いて、学校卒業したらもう皆に会えないからと当時の担任含めたクラスメイト全員にしているので鈴もサイン自体が特別だとは思っていなかったりする。

 

「私の時にはそんなのなかったのに……」

 

「だってそんとき、お前と俺別クラスだったじゃん」

 

 そんなことはわかっているっ!と頭では理解しているが不貞腐れて嫉妬してしまう箒なのだった。

 

「しかし、好きな事やらせたいと言って、その結果がIS操縦者じゃ両親も苦笑いしかでなさそうだがな」

 

「だが、謝らない。さんざん私に迷惑と心配かけたんだから我が儘しても罰当たらないでしょ?」

 

「違いない」

 

「所で、話変わるけど。弾とか数馬は進路どうしたのよ?」

 

「弾は、遠月茶寮学園にいったぞ。何でも厳爺さんが彼処の学園長と知り合いなんだと、数馬は箱庭学園行ったな。他にも当麻は学園都市に行ったし後は……」

 

 その直後、時間が推しているのもあって、雑談は終了となった。

 

 




因みにこのお別れ会の時、秋正くんは別のクラスだったのでお呼ばれされていません。
箒の時も立場が逆なだけで同じです。


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08 クラス対抗戦

ちょっと目を放した隙にお気に入りが300突破に作者のSAN値が激減し感涙。
マジで有難うございます!


「では、これよりISの実技の授業をする」

 

 一夏が入学して初のISの実技の授業……

 

「先ずは、軽く準備体操をしてからグランド十周する」

 

 しかし、中身は陸上の長距離走かと見間違える程の体育だった。当然一部の生徒が不満をあげた。

 

「何を驚く? ISバトルと言っても基本的に今までの戦いの延長線にすぎん。自分の肉体と精神がそのままそのISの実力となる。身体を鍛え上げ技能を身に付けるのは必然だ。オルコット、お前は銃は使えるか?」

 

「はい、ISの為に一から学び、免許も取得しましたわ」

 

「聞いたな?どんなものであれ、基礎を怠れば結果など出せん。わかったらさっさと走れ!」

 

 織斑先生の一喝で生徒が走り出した。

 

「それにしても一夏さん、ずいぶん速いですわね……」

 

「全くだ」

 

 走り出してから数十分経過し、現状、一夏の独走状態だった。

 

「私達を周回遅れにするなんて……」

 

 一夏は一般生徒を周回遅れにしているセシリアや箒達をさらに周回遅れにさせていた。

 

「ゴールイン」

 

「織斑弟か……ま、お前ならこれくらいできるだろうな」

 

「もちろんです、プロですから。毎朝身体のメンテナンスは怠りません」

 

 まだまだ余裕綽々といった感じの一夏、伊達に鍛えている訳じゃないのだ。因みに秋正は5位から10位位だった。

 

 

 

 

「では、次だ……」

 

 

 

 

 唐突だが、一日の授業が終わった後のIS学園の生徒達の行動にはいくつかパターンがある。

 一つは、アリーナと訓練機を借りた生徒達。当然、ISの練習を借りた時間が許すまで行う。一応、校則では、夕食時の時間帯を除き10時までアリーナが使えるようになっている為、ここには開場しているときはほぼ常に生徒が居るといっていい。

 二つ目は、それ以外の訓練施設を使う生徒。ISバトルの性質上、選手を目指す生徒は様々な武器を一定の領域まで扱えなくてはならない。日本に在りながら、IS学園に治外法権が必要なのは一つ目の理由を含めてここにある。未来のIS業界を担う若者を育てる場なのに、一々ISを使うのに国の許可を得たり、日本の法律を適用して銃刀法違反などを適応されて使えないでは本末転倒だからだ。最も、如何にIS学園に治外法権があっても、流石に力関係は国>学園であるため、その気になればIS学園何て簡単にどうにかなってしまうが……故にIS学園は常に国にとって最低限有用な人材を送り出す義務が生じている。三年間、IS学園に在籍して『ISはオシャレなファッションの一つ』等という価値観を持っていたら国からしたら『お前は三年間何を教えていたんだ!?』というバッシングを受け、そうなったら各国は『IS学園より、自国の軍隊で育てた方がいい』という結論が出て潰されかねない。ここ数年、入学時点で代表候補生がいるという事例も増えていることも拍車をかけているため、実はIS学園も必死なのだ。なので、銃や爆薬等の武器の使い方を教える施設がある。これ等が授業で本格的に使われるのは二学期後半からだが、使うだけならいつでも使え、専用の教師もいるし、教師が合格判定を出せば月に一回行われる試験を受けて免許をとる事もできる。専用機持ち以外の、一年生の最初期でここを使う者はまず、本気でISに人生を賭けている者と言えるだろう。

 三つ目は部活動に勤しむ生徒。これは主に手持ち無沙汰なため暇潰しに行っている者、気分転換にやっている者である。中には箒のような、真面目に部活動に励むものもいる。そして―――

 

(突然ですが、私、ワンサマーはとてもお腹が空いております)

 

(このまま空腹が続けば、私の食への渇望が流出(Atziluth)してしまい色々と大変なことになってしまいます……そのためにも急いで決めねば…………魚、魚介、貝……うぉ!?この帆立デケェ!……ハッ!?これも篠ノ之束の仕業か!?)

 

(もうこのお客さん、かれこれ一時間迷ってるよ……)

 

 このように魚市で今日の献立に悩む阿呆もいた。

 

 

 

 

 

 

「そういえば気になったんだけど~」

 

 切欠は、夕食を食堂で済ませた、布仏本音の一言だった。

 

「イッチーって普段、何処で晩ご飯食べているんだろうね?」

 

 その言葉にそういえば……と思い出すいつもの面々。

 

「外食なのでは?」

 

 セシリアが最もな意見を言うが箒と鈴と簪があり得ないと首を振る。

 

「一夏の食への探究は尋常じゃない」

 

「アイツ、『ちょっとラーメン食べたくなった』の一言でスープからチャーシュー、麺、果てはメンマまで作り出すからね」

 

「前から、某動画サイトで飯テロ動画をあげていた。あれは深夜に見るものじゃない」

 

「そ、そんなに拘るんですか!?」

 

 すると、本音がポンとダボダボの裾で手を叩いて思い付いた。

 

「それじゃあ、イッチーの部屋に行こー!」

 

「「「えぇ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー……あの魚市での死闘(脳内)により導きだした結果―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部買って、夕食として食べることにいたしました!

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初からこうしておけばよかったんだ……っ!悩む必要なんてなかったんだ……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿もとい馬夏、ここに誕生。一夏の目の前には、様々な魚介類が並んでいた。軽く見ても五人前はある、とても食べきれるとは思えない量である。

 

「さて、先ずは、魚は内臓を取り出しつつ三枚に下ろして、海老は頭と殻と膓を取り除いて、貝は…………」

 

 訂正、今日そもそも、夕食とれるかも怪しい有り様だった。

 

「魚を煮付けて、この間に他の魚さばいて刺身にして、他は天麩羅に……ああ、牡蠣は茶碗蒸しにしてしまおうか。余らせた海老は味噌汁作った際に残した出汁に調味料入れて出来たものを浸けて含ませに。魚の切れ端は大葉、白葱、生姜、味噌、日本酒(ちー姉経由で入手)でなめろうにして。サラダは……大根と新玉ねぎの梅風味の和風サラダ……いや、確か、ここに来てすぐに塩麹作っていたからそれも使うか、おっと野菜といったら行者にんにく忘れるところだった!コイツと残りのタネも油にそぉい!」

 

 

(※天麩羅を揚げる際は一度に揚げるのは下策ですので本当は少量づつ揚げています。尚揚げるのは野菜から揚げていますのでご安心を)

 

 

 

 今日の献立

 

 ご飯(おこげ有り)

 刺身各種盛り合わせ

 鮃の煮付け

 味噌貝焼き

 真鯛の幽庵焼き

 天麩羅(海老、穴子、鱚、帆立、鮑、鮑(肝)、茄子、南瓜、芋、蓮根、行者にんにく、大葉、かき揚げ)

 牡蠣の茶碗蒸し

 海老の含ませ

 なめろう

 味噌汁

 大根と新玉ねぎのの和風塩麹サラダ

 

「あ、デザートの柚子シャーベット忘れてた」

 

 

 

 デザート 柚子シャーベット

 

 

 

 

「んー……暴力的な光景だ!食わずにはいられない!いただきまー……」

 

 コンコン

 

 瞬間、一夏の部屋の空気が凍る……っ!瞬時に、絶対零度もかくやの勢いで凍りついたのだ!

 ここだけの話、一夏は食事の邪魔をされるのが一、二を争うほど嫌いなのだ。

 

(ちー姉かな?……ああ、なめろう取りに来たのか……)

 

 まぁ、それならばいつもの事だと面倒くさいと思いつつも扉を開けようと鍵を開けようとした刹那……っ!

 

(…………いや、待て!そもそも、ちー姉ならばノックの後に一言声をかけるはずだ!あんなことがあってからそうしたはずだ)

 

 あんなこととは

 

『ここが織斑君の部屋ね!』

 

『一夏君がやって来た時がチャンスよ!』

 

『鍵を開けた瞬間に中に入ってそのまま既成事実を!』

 

『……(無言の織斑千冬)』

 

 当然、その場に居合わせた千冬に鉄拳制裁と寮内の風紀を乱したということで一ヶ月の学園中のトイレ掃除を言い渡された(現在進行中)。そして、一夏の部屋は急遽、寮長である千冬の隣に移された。

 

 そんな経緯があり、先生がこの部屋を訪ねるときはノックの後、必ず名前を言うことがルールとして定着していた。そして今回はそれがない……間違いなく扉の向こうにいるのは生徒。

 

(ここの部屋のチェーンロックを使うときが来たようだな!)

 

 彼はそう言っているが、実際は何度も使っている。

 

「一夏~」

 

「一夏さん、反応有りませんわね……やはり外食では?」

 

「いや、一夏に限ってそれは……」

 

「おー、いい匂い~」

 

 扉の前で、クンクンする本音にお前は犬かと鈴が思わず開けようとした……がチェーンロックがしており途中までしか開かない。そして開けた瞬間!

 

 

 

 芳しい柚子+αの香りが四人を襲った。

 

 

 

「「「「?!!」」」」

 

 

 

 

 あまりの香りに思わず、にやけてしまう面々。

 

「な、何ですの!?この、香りだけで美味しいとわかるこの匂いは!?」

 

「これは……柚子か?」

 

「鰹出汁の匂い……」

 

「味噌と卵の香りだけでお腹すきそう……」

 

 中に何があるのか、僅かに見える隙間から覗こうとする三人。そんな中、一人だけ違和感を感じていた。簪である。

 

(いい匂いだけど、どうしてチェーンはかかっているのに鍵はかかっていないの?)

 

 少し考えればわかる疑問……そもそも一夏は用心深い。IS学園に入学する前はわからないが、少なくともIS学園に入学してからは学食をしていないし、休み時間も人気のないところで静かに暮らすほどだ。

 その一夏が、今に限ってチェーンこそしているが、鍵をかけ忘れるなんて凡ミスをするだろうか?そう思いながら、なんとなく、周囲を見渡した。思えばこれが簪の命運を分けたのだろう。何せ隣の部屋はさっきも言った通り……

 

 

 

 

 泣く子も黙る寮長室なのだから

 

 

 

「……っ???!!!」

 

 とっさに声をあげずに、口を防いだ自分を誉めてあげかった。そして、これは恐らく織斑一夏の罠。寮長室が隣なのだから、寮長千冬がここを通る可能性はかなり高い。そんな中一夏の部屋にたむろしていたら間違いなく制裁案件である。ならばこちらのとるべき策は一つしかない―――

 

(ごめんなさい)

 

 簪は更識流気配遮断術と歩法術を用いて、その場を後にした。同級生(生け贄)を悪鬼に捧げて。

 その後のことは、簪にはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『チュチュンガチュン』

 

『言ったそばからまた油断……バカは死ななきゃ直らない!』

 

「凄いな、これCV一夏なんだよな」

 

「音域の広さが違う」

 

「同一人物とは思えないよね~」

 

「え!?これ両方とも一夏さん何ですの?」

 

 アリーナの観客席で簪と本音が暇潰しに持ってきたアニメを見ながら感想を言う箒とセシリア。

 とてもこれからクラス対抗戦が行われるとは思えない雰囲気である。因みに先日の簪が逃走した後の事は全員、記憶からなくなっているらしい。真相は謎のままである……思い出したくないだけかもしれないが。

 まぁ、弛い雰囲気なのは彼女達だけではない。

 

「でさー、その時の顔が」

 

「マジで!?」

 

「あ、そういえば昨日の見た?」

 

「見た見た!ランニングデュエル実装されたね!」

 

 このように、一組全員がこの有り様なのだ。その理由は明白。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一試合 織斑秋正VS凰鈴音

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果が見えている試合程、退屈なものはないからである。この試合で見るべき価値は一つ、たった一年で代表候補生にまで登り詰めた鈴の実力がどれ程のものか……の一点である。そして―――

 

 

 

 

『さぁ!青眼白竜選手、前へ向かっていく!おっとここでパス!華麗に紅眼黒竜選手がキャッチ!してそのままシュートするかと思いきや!今度は銀河眼光子竜選手にパス!そして今度こそシュートなるか!?でたぁ!銀河眼選手の『破滅のフォトンシュート』だぁぁぁぁ!ゴールキーパーのメタル・ガーディアン選手防げない!』

 

 

 

 

 スマホでサッカー試合を観戦している阿呆もいた。

 

 

 

 

「織斑弟!何をしている!?」

 

 阿呆こと、織斑一夏はサッカーの生中継を見ていた。なぜ観客席じゃないかは察していただきたい。

 

「もうすぐ試合だ」

 

「はーい」

 

 

 

 試合開始前、鈴はISを纏ったまま静かに瞑想していた。何て事はない、試合の前にはいつもやっていることである。

 

「…………」

 

 鈴は、普段の言動から忘れられがちだが、頭が悪いわけではない。仮にも代表候補生なのだ。ちゃんとISの基礎理論等は頭では理解し熟知している。だが、それ以上に感覚でそれらを理解しているだけなのだ。

 一方で秋正はそれらを理解していない。否、そもそも転生者である彼にISを理解するということがそもそも難しいと言っていい。

 例えば、魔法、よく用いられる設定において魔力やマナ、エーテルと言った単語が使われるが『じゃあそれって何?』と言われたら殆どの人間は答えられないだろう。仮に『魔法が使える源』と答えても『じゃあなんでそれを使うと魔法が使えるの?』と聞かれたらまず答えられない。『そういう設定だから』としか言えないだろう。

 それと同じように、秋正もISがどうやって動いているのか、存在しているのかを理解することができていない。何故なら彼にとって、ISとはラノベの中にある『重要な設定』でしかなくそういうものとしか認識できず、『細かいことを気にするのは無粋』と無意識に理解することを拒絶してしまっている。自分が零落白夜を使えるのも、ラノベで一夏が零落白夜を使える時と同じく『なんだかよく知らないけどそういう設定』としか無意識にしか認識できておらずそれで思考を放棄しているのである。

 だからこそ……

 

「でぇぇぇぇい!」

 

「ハァ!」

 

「くぁ!?」

 

 鈴に手も足も出ないのは必然だった。秋正が千冬に教えてもらった瞬時加速を用いた。秋正なりの策である、『開始直後に瞬時加速で接近して零落白夜で斬る』という渾身の戦法も、鈴はいとも容易く背後に回り込んで斬撃と衝撃砲のダブルパンチで凌いでしまった。

 

「な……何で……」

 

「んー……勘?まぁ、自然に動いただけの話よ」

 

 理不尽だとこの時秋正は思った。最も、これは今まで鈴と対峙した者全員が懐いた感想である。鈴は、セシリアのような理論武装による戦術はしない。その時の相手の出方によって最適な戦闘スタイルに切り替えているだけなのだ。しかも、鈴の専用機である『甲龍』は、近距離戦闘主体だが空間を圧縮して放つ第三世代兵器『衝撃砲』の存在のお陰で遠距離もこなすことが出来るため、鈴の戦闘をより柔軟に強力にアシストしていた。加えて元々のポテンシャルも高い、秋正に勝ち目などなかった。

 そして、秋正の攻撃が雪片二型による攻撃に変わったのを見て鈴も応戦する。一応、秋正とて考えなしというわけではない。零落白夜は莫大な攻撃力と引き換えに発動中はSEを消耗し続けるデメリットがある。故に零落白夜の使用法は主に放つべき時……つまり決められる時に放つ必殺技なのだ。それ以外では使わないのが上策ということくらいは心得ている。だから鈴も最適な行動をとった。

 

 

 

 

「鈴の奴、パネェな」

 

「ほう、わかるか?織斑弟?」

 

「アイツ、わざと接近させて零落白夜誘発させてその上でカウンター咬ましてますね」

 

 鈴は、自分から接近して鍔迫り合いをし、違和感なくわざと秋正に弾かれ秋正が零落白夜を発動した瞬間に、青竜刀と衝撃砲によるカウンターを決める戦闘をしていた。中には、秋正が攻撃した瞬間に瞬時加速をして後ろから攻撃する芸当も見せている。秋正は己の得物の効果による相乗効果によってあっという間に危険値まで追い詰められた。

 

「そうだ、あの対応力こそが、鈴が一年で代表候補生に登り詰めた理由だ。織斑兄から見たら凰が視界から一瞬で消えたように見えているだろうな」

 

「相手の隙が多いとはいえ、一歩間違えれば即死ですよ?」

 

 断っておくが鈴は、これが最適だと頭で理解して行動しているのではない。本当に自然に身体が動いているだけなのだ。

 

「あれで、IS適正Aなのですから驚きですね……まぁ、逆に言えばまだまだ伸びしろがあるとも言えますよ」

 

山田先生の言葉に一夏も驚きを越して呆れていた。あれで円熟期じゃないのかと。

 

「本人の中にまだ違和感があるのだろうな。『何で私こんな動きしてるのか』とな」

 

「疑わなければ良いものを」

 

「そんなこと出来るのはお前くらいのものだ。私とて現在の適正になるまでそこそこ時間かけたからな」

 

(まるで俺が変人みたいな言い方だな)

 

一夏が心の中でそんなことを思っていたときだった。

 

 

 

 

 

 

 その時、アリーナのバリアを突き破ってなにかが飛来してきた。

 




織斑一夏

職業 俳優(最近は声優業も)

悩み 監督……‼ギャグキャラがしたいです……




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09 アンノウン

※引退しています


 けたたましい轟音と砂嵐に会場がざわめきだち、身の危険を感じた生徒がここから離れようとするが、扉が開かないことに悲鳴をあげパニックになっていた。

 

「山田君!」

 

「やはり駄目です!アリーナのシールドがMaxレベルでロック!観客席も非常用シャッターが作動し扉が開きません」

 

「……ッチ!」

 

 明らかな異常事態に思わず舌打ちしてしまう千冬。一方でで一夏はかの事態に落ち着いていた。

 

(よくわからんがここから出られないのはわかった。まぁ、慌てて何とかなるなら慌てるんだが……)

 

 正確には、常套手段じゃ逃げられないなら、あらゆる手を使って状況を打破しようと早々に割りきっていた。

 

「妙だな……」

 

 だからこそ、いち早くこの状況に対する違和感に気づいた。

 

「どうした?何に気づいた?」

 

「いや、俺らを閉じ込めた元凶はアレだとして。アリーナのバリアを『力ずくで』破ったのなら……何で今もバリアが機能しているのかとおもいましてね?」

 

「……!!?た、確かにそうです!アリーナのバリアを破る事態、前代未聞です。が、破られたのなら発生装置に過負荷がかかって普通は機能しないはずです!」

 

 真耶の説明に益々疑問が募る一夏に答えをだしたのは姉だった。

 

「……まさか、あのアンノウンにはシールドを無力化ないし、中和させる装備か兵装があるのか!?」

 

「……その仮説が正しいとして、それって絶対防御も無力化される可能性も高いですよね?」

 

 その言葉に、真耶が信じられないという顔をした。無理もない、アリーナのバリアもそうだが、絶対防御を無力化させる装備など聞いたこともない。だが、真耶も素人ではない、常に非常事態では冷静にかつ最悪を想定して事に当たらねばならないことくらい把握している。だからこそ、一夏の仮説を鼻で笑わなかった。

 

「かもしれんな……まぁ、ISは単体戦力で既存の兵器を超えるやもしれんが……」

 

 千冬のその言葉に一夏が得心がいったように納得した。

 

「あぁ、そうか!そりゃそうだよな!」

 

「どうしたんですか!?」

 

「いや、兵器開発系の科学者の視点で考えれば、既存の兵器でISの絶対防御やSEをどうにかしたいと思いません?今は量産という最も重要な要素を彼らが握っているとはいえ、あの篠ノ之束博士が何かの気まぐれでコアを量産されたらそれも消えるわけですし……まぁ、コアを量産されても開発費から維持費云々で難しい気もしますけど……でも、ISに絶対に効く武器が一つだけありますよね?」

 

 その言葉に真耶は今度こそ背筋が凍った……彼の言おうとすることがわかってしまったのだ。

 

「雪片二型……『零落白夜』ですよ。アレだけは唯一、ISのエネルギー源を零に出来る兵装。なら、零落白夜を解析し再現出来さえすれば」

 

「既存の兵器に搭載して、対IS用兵器に早変わりだ。数で負けるISはあっという間に淘汰されるだろうな」

 

 しかも本来、織斑千冬にしか扱えないはずの単一仕様能力を何故か弟の秋正が使えるのだ。なら、対IS用兵装(零落白夜)の量産化や汎用化は決して不可能ではないと考える輩も出てくるだろう。

 なら、あのアンノウンはその試作機である可能性はかなり高いと言わざるを得ない。

 

「やれやれ、科学の世界は日進月歩と言うがとてつもない速度だな」

 

 だが、ここでまたしても意外な人物からの指摘が入った。真耶である。

 

「いえ、案外そうでもないかもしれません」

 

「?」

 

「考えてみてください、ISが発表されてから十年と少し……その間に科学技術は目まぐるしい発展を遂げています。分かりやすい例がイギリスのBTと中国の衝撃砲ですね。空間を自在に飛び回る砲頭と空間に干渉して打ち出す見えない弾丸なんて考えられなかったでしょう。ISが登場しなければ、これらの武装は机上の空論かそれこそフィクションの世界だけです」

 

「ふむ、そう考えると、案外ISの天下もすぐ終わるかもな」

 

「成程……一理ありますね。流石山田先生、見直しました」

 

「とにかくこのままでは秋正君と凰さんが危険です!今、外から上級生と他の先生によるハッキングでシステムの奪還を行っています!」

 

 真耶の言葉に一夏は難色を示した。あまりにも時間がかかりすぎる。彼女達はここの職員だから設備を壊すのに、頭ではわかっていても躊躇してしまう。だが、一夏に関しては違う。彼は、ここの学園の『設備』に何の愛着も憂いも執着もない。だから取り戻せるもの(設備)と取り戻せないもの()……秤にかけるまでもなく、自分なりの最適解を導き出せる。

 

「(館内放送はここからでも出来るし、生きているな……なら、いけるか?)……世界最高峰のセキュリティに容易にアクセスしてクラッキング出来る相手に、一介の学生が相手の土俵で戦いができるとは思えませんよ。その間に死人が出かねませんいや、出ます……だから―――」

 

 

 

 

 

 一方で、アンノウンと対峙している鈴は一目で見て理解した。

 

(コイツ……ヤバイ!)

 

 アリーナのバリアを破壊したこともそうだが何より『異質』なのだ。鈴はそれを肌で感じ取った。鈴は静かに白式のプライベート・チャンネルに繋いだ。

 

「織斑、聞こえてる?アンタはさっさと逃げなさい……いいわね?」

 

 しかし、秋正から返事が聞こえない。

 

「聞いてるの!?逃げろって言ってんの!」

 

 思わず怒鳴るが、それでも返事は帰ってこない。流石に妙だと思い顔を向けると…………

 

 

 

 

 

 

 仰向けに大の字になって倒れていた。よく見てみると白式のSEは0になっている。

 

 

 

 

 

 

(まさかさっきの衝撃で、SEが0になったの!?)

 

 そう、アンノウンが飛来し轟音をあげて突撃した余波でただでさえ風前の灯火だった白式のSEが0になってしまったのだ!しかもその余波事態は白式の絶対防御で傷こそ負わなかったが、衝撃で打ち所が悪かったのか気絶してしまったのだ。これには思わず鈴も叫んでしまった。

 

「どんなタイミングで気絶してんのよ!アンタは!!」

 

 それと同時に、アンノウンが明らかに何らかの兵装である異形の右腕を突き出し、荷電粒子砲を解き放った。

 

 荷電粒子砲の凄まじい轟音がシャッター越しからでも聞こえてくる。その音で更にパニックになる生徒たち。

 

「な、なんだ!?何が起きている!?」

 

 箒もパニックにこそなっていなかったが場の空気に流されたのか少し取り乱していた。

 

「詳しくはわかりませんがどうやらただならぬ様子であるのは間違いないかと……」

 

「セシリア、あなたの専用機で扉壊せる?」

 

 簪の質問にセシリアは首を横にふった。

 

「出来ますが、扉の前がアレでは……」

 

 現在、扉の前には我先に逃げ出そうとする生徒で溢れ帰っていた。アレでは仮にスターライトmk3を放ったら扉に風穴は開けられるが死人が出る。

 それにしてもとセシリアは思う。ここの学生たちは少しどころかかなり取り乱しすぎやしないかと……

 

(自分が助かることしか考えていない)

 

 事情が複雑な箒や、この世に二人しかいない男性操縦者ならともかく、その他の生徒は覚悟しているはずなのだ…………命のやり取りを。

 

(まぁ、所見……ISをファッションとしか見ていない者の限界という奴ですか…………)

 

 そんなとき、セシリアのオープン・チャンネルに連絡が入ってくる。

 

『オルコット、俺だ織斑だ』

 

「い、一夏さん!?」

 

 まさかの連絡相手に思わず声をあげるセシリア。

 

「何!?一夏だと?」

 

 箒の反応に回りにいた全員がセシリアに注目した。

 

『時間がない一度で頭に叩き込め……今から数分の後、観客席の扉を外側から力ずくでぶち破る。扉の前にいたら死ぬぞ』

 

 その言葉に、扉の近くにいた生徒が一斉に離れた。

 

『扉が開いたら、二列になって扉を出て右側の通路からアリーナの外に通じる通路に入れ。でないと他の観客席からやって来る生徒と鉢合わせになって混雑し、脱出が遅れる』

 

 その言葉に頷くセシリア達。

 

『その観客席の生徒の避難誘導は簪と箒……出来るな?』

 

「うん!」

 

「あ、あぁ!任せておけ!」

 

『なら今から、セシリア、簪、箒を前に二列に並べ。そしてセシリア』

 

「は、はい!」

 

『お前の役目は生徒の安全の確保だ』

 

『わかってますわアリーナにいる…………』

 

『いや、織斑先生と山田先生と協議した結果、最悪の場合アリーナの外にも『アンノウン』が潜伏している可能性も否定できない。そうなった場合、外にいる筈の部隊と連携してこれに当たる必要がある。まぁ、最悪の場合はセシリア一人で相手取る可能性も否定できんが、まぁそうならないように祈っておけ。そうでない場合は、お前も生徒の避難を優先させろ。今回の場合、何より最優先させるべきはこの場からの生徒の避難だ』

 

「で、ですが、中にいるアンノウンは……」

 

『それに関しては問題ない……鈴に連絡をいれて、最適な相手を送り込んだ…………では今から扉を開ける。』

 

 それと同時に、金属の斬れる甲高い音と共に観客席の扉が斬られた。それと同時に打鉄の武装である刀「葵」を持った一夏が現れた。

 

「い、一夏!?」

 

「話は後だ。早くしろ」

 

 矢継ぎ早にそう言うと一夏は次の観客席の扉に走って向かっていく。それと同時に山田先生の声が館内に響き渡った。

 

『観客席にいる皆さんにお伝えします。これよりアリーナからの避難を開始します。落ち着いて、この放送の指示に従って行動してください…………』

 

 聴くと、放送内容は概ね一夏が言っていたことを繰り返していっていた。

 

「さぁ、早く避難いたしますわよ!簪さんと箒さんは誘導を……私は一足早く外の様子を確かめます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッソ!コイツやりづらい!」

 

 鈴は苦戦していた。

 

(下手に距離をとったら、あのビームが飛んでくる……)

 

 アリーナのバリアを突っ切るような相手だ。腕の攻撃を食らえばひとたまりもない。そして万が一、荷電粒子砲を放たれ、それを避けてバリアを貫通して観客席に当たれば大惨事は免れない。故に、鈴は危険を承知で接近戦に徹していた。そのお陰で、右腕に搭載された超大口径の荷電粒子砲は使えなくなっていた。

 

(でも、これじゃじり貧ね……正直言ってこっちには決定打がない)

 

 が、はっきり言ってそれだけである。鈴の言うとおり、甲龍のもつ武装ではアンノウンに致命傷は与えられない。鈴も様々な手を行使している。今もアンノウンの攻撃を回避してバランスを崩している。そこに、後ろに回り込んだ鈴が必殺の一撃を加えるが……

 

「っ!!」

 

 瞬時に後ろに回り込んでも防御されてしまう。

 

「あの体制からなんでこっちの攻撃対処できるのよ!?」

 

 まるでわかっているかのような挙動……というよりも、目の前の相手から動揺や焦りといった感情が見受けられないように鈴には思えた。

 

(せめて、零落白夜があれば……)

 

 チラッと遠目に秋正の姿をとらえた。距離は大分離したからか、傷は負っていない。幾ら嫌いな人間とはいえ、流石に死ぬところはみたくない。その辺りの分別は流石についている。

 

(駄目ね、武器はよくても担い手がアレじゃ足引っ張られるのがオチね)

 

 何せ、秋正の戦いを見たが正直言って生温いの一言だった。アレはアレなりに真面目に努力しているのかもしれないが、弟の演技のためのソレに比べれば手緩いの一言につきる。

 そもそも強くなりたいのであれば、彼はその希少性を活用すればかなり優遇出来る立場にいる。データの蓄積のためとでも言えば、極端な話、アリーナを貸しきることも、訓練のために先生を一人以上つけた稽古も代表候補生との模擬戦だって出来ただろう。それをしたうえで、学による基礎知識と応用の予習復習による熟知。筋トレや有酸素運動による肉体の鍛練。IS以外の技能の取得。実技による先生による指摘に対する反省とリカバリー……ISでやることは、なにも操縦技術だけではない、他にもたくさんある。操縦者が中々育たないのも当然だった。秋正の戦いにはソレが感じられなかった。努力している自分からしたら秋正の努力は努力とは言えなかった。

 そんなことを考えていた時、アンノウンの動きが変わった。今まで腕でしか攻撃してこなかったアンノウンが蹴りを繰り出したのだ!

 

「な……がっ!??」

 

 蹴り飛ばされ壁に激突する鈴。絶対防御のお陰で、傷物にはならなかったが900以上はあったSEが一撃で一桁になったのを見て愕然とする。腕ばかりに気をとられていたが、足も相当なパワーだった。

 

「ゲホッゲホッ!(ふざけすぎでしょ……何よこのパワー!?)」

 

 あまりの威力に体内の空気を吐き出されたのか、思わず涙眼になり、えづいてしまう鈴。

 例え、相手のISが軍用だとしても、ISのSEが一撃で殆ど無くなるなど、とても今ある国の技術で作れるとは思えなかった。

 しかも更に距離が開いたことでアンノウンが容赦なく右腕を突き出し荷電粒子砲を鈴に向けてきた。

 

(あ、死んだ)

 

 そう思った。

 

(あ~あ、こんなことなら……言い訳なんかしないで告白しとけばよかったかな……)

 

 僅かばかりの後悔…………そもそも、自分がIS操縦者になったのは……

 

(アイツに……一夏に……)

 

「ギリギリと言ったところか」

 

 その時、アンノウンの目の前になにかが躍り出て一閃し、アンノウンの右腕を思いきりしたに叩きつけた。そしてすぐに荷電粒子砲による爆発。鈴の目の前にいたのは―――

 

「ち、千冬さん!?」

 

 打鉄を纏った織斑千冬だった。

 

「織斑先生だ。凰、どうやら無事だな……コイツを連れて離脱できるか?」

 

肩に背負っている秋正を鈴の前におく千冬。

 

「あ、いや、それがさっきの一撃でSEが……」

 

「そうか……ならコイツを使え」

 

 そう言って、展開したのは打鉄の腕部分だった。

 

「そこにプラグがある、それを甲龍に差し込め。そうすれば2割ほどだがSEを供給できる」

 

 その言葉に鈴は訝しむ。打鉄にそんな能力はなかったはずだ。

 千冬もその事を察していたのか事情を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、観客席の扉に関しては俺が破壊します。そして、山田先生はこのメモに従って館内のみにアナウンスをお願いします」

 

「成程、山田君のアナウンスで観客席の混乱を押さえつつ脱出を促すわけか……生徒の命だ、背に腹は代えられんが……後で報告書ものだぞ」

 

「そういうのは後で」

 

「で、でも、アリーナにいるアンノウンはどうするんですか?彼処には凰さんと秋正君が……それに秋正君はISが解除されてますから早く助けないと死んでしまいます!」

 

「アンノウンには織斑先生が向かうべきです。現状、最大の戦力ですからね」

 

「私が?……訓練機なら持ってくることは……」

 

「不可能なのは知っています。だから…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玉鋼を初期化したぁ!???」

 

 千冬が今装備している打鉄は元、打鉄玉鋼であった。

 千冬から言われた言葉に、鈴は天地がひっくり返る位の衝撃を受けた。

 打鉄玉鋼は、曲がりなりにも専用機である。それを初期化するという意味がどういうことか鈴は理解している。

 

「あぁ、そうだ。アイツ、最適化には時間がかかるが初期化するだけなら一分もかからないからと平然と提案してきてな。その腕は玉鋼の装備品のひとつだ(アイツはいつもそうだ、切羽詰まると飛んでもないことを言い出す)」

 

「装備?」

 

「アイツは自分のISのコンセプトとして『あらゆる状況に対応でき、かつ継戦能力に優れた機体』を提案してきてな。その試みとして、ISの腕部分を換装することで状況に対応し、かつSEを回復させることで継戦能力を高めることに成功した。はっきり言って、第三世代機の機体コンセプトとして採用しても良い位の発想だ」

 

「で、でも、そんなことしたら上に何て言われるか……」

 

「だが、現状これが最善であることも否定できない。それに織斑弟のデータは現状、オルコットと織斑兄のものしかない。消えても取り返しがつく程度の量しかない。何より量産機の上に今は非常時だ。上も強くは言えん……さて、ここからは私が相手をするが……どうする?」

 

 鈴に話すべきことを終え、今度は土煙の中にいるアンノウンに語りかける。

 しかし、アンノウンから返答はなく土煙が晴れたときには既に荷電粒子砲の発射体制に入っていた。

 

「やれやれ、バカの一つ覚えだ……っな!」

 

 千冬は慌てることなく葵を構え、袈裟斬りの要領で振り下ろす。すると剣から斬撃が放たれ、アンノウンの右腕を真っ二つにした。

 

「嘘ぉ!?」

 

 間髪いれず、今度は千冬から瞬時加速で近づき、加速を利用した掌底を放つ。だが、そこで攻撃は終わることなく今度は掌から雷撃と共に衝撃波が放たれ接触している頭部に直撃する。そして、同時にアンノウンの右腕を斬り落とし、瞬時加速で元の位置に戻る。

 あまりの無駄のなさと、鮮やかさに鈴は唖然としていた。

 

(やはりコイツ……無人機か!)

 

 今のやり取りで千冬は確信した。この機体には人が乗っていないことに。そして、アリーナのバリアを無力化し、あれほどの荷電粒子砲を作れる存在など一人しかいない。

 

(束の奴め……何を考えている?)

 

 恐らく、秋正か一夏のデータ入手が目的だろうと大方の予想はつくが、そうだとしてもやりすぎである。観客席の生徒や下手したら弟達が死にかねない。

 千冬が背を向け鈴に近づきながら考えている時を好機と見たのか、アンノウンは抵抗をやめずに向かってくる。が、主兵装を潰され尚且つ両腕が使えない無人機などただの木偶でしかない。

 

「チッ、全く、手間取らせる」

 

 刹那、アンノウンの胸部分から下が五等分になり、無人機アンノウンは完全に機能を停止した。

 千冬が振り向き様に再度一閃した……否、正確にはあの一瞬のうちに、五回斬りつけたのだ。

 

(アレで現役引退しているとか嘘でしょ……勝てる生物いるの?)

 

 鈴は、今までの戦いを肌で実感すると戦慄した。と同時に、改めて千冬の凄まじさを実感した。

 

(織斑家ってヤバいのしかいないわね……言ったりしたら半殺しじゃすまない気がするから言わないけど)

 

「さて、帰ったら報告書を書くぞ。いくぞ、何をしている凰?」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 その頃避難を終えた生徒は

 

「織斑君格好よかったよね!あ、一夏君の方ね」

 

「あの有無言わせない物言い……アレだけでご飯三杯余裕ですわ」

 

「ヤバい、玉の輿狙いたい」

 

「あれ?でもあのときの一夏君素手で葵持ってなかった?」

 

「「「え、まっさかー」」」

 

 そんなことを話していたが

 

(いや、一夏さん素手で葵もって生身で扉斬っていた)

 

 冷静だった簪はそれをしっかりと目撃していた。

 

(確か、一夏さんの出演作の一つに戦艦の扉を斬るシーンがあったけど……まさかね)

 

 一方の一夏は

 

「…………(避難した生徒の所いって、何かされてそれが新聞部流れて、IS学園の外に曲解されて漏れてスキャンダル……笑えねぇ、隠れとこう)」

 

 気配遮断で、隠れていた。

 




打鉄玉鋼

一夏の専用機。
学園との交渉で一夏が提案した『あらゆる状況に対応でき、かつ継戦能力に優れた機体』を可能な限り実現した機体。
最大の特徴として、腕部分を換装することでISの主兵装を取り換えることが出来るという点。熟練者が使えば、普通の武器の展開と同じ速度で展開することも理論上可能。
またこの腕部分には小型のバッテリーのようなものが搭載されており接続することで少しだがSEが回復する。プラグを使えば他の機体も回復出来る素敵仕様。
欠点としては、容量の都合上、拡張領域には腕しか入っていないこと。備え付けで得物である刀は二本あるが、予備がない。
特許申請中


と、こんな感じですかね。多分大会だしたら、換装機能はともかく、SE回復機能は制限されそう。
後、織斑家(一名除く)では葵を素手で持って鋼鉄を斬ることくらい普通のことです。

原作見ていて、アリーナのバリア突き破っているのにバリア機能してる(らしい)のはおかしくね?と思ったので一応そんな機能があったということで。

主人公の機体を初期化させるなどという暴挙をやらかすのはここくらいのものでしょう。


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10 遂に……

 あの事件の後、報告書を書き、学園長と生徒会長に事の次第の報告をし、状況が状況だったため不問となった。

 

「あ、ちょっといいかしら?織斑君?」

 

「なんですか?生徒会長?」

 

「貴方に一言だけ…………お前に家の簪ちゃんは渡さなたわば!?」

 

「お嬢様、お戯れはそこまでにして、今日の書類を片付けましょう。……織斑さん、ご迷惑をお掛けしました」

 

「おう……(スゴいな……10㌧ハンマーなんてどこに売ってんだ?)」

 

 そんな一悶着(?)もあったが

 

「全く、昨日の一件で只でさえ溜まっている案件が多いのです。今日は缶詰です」

 

「だぁってぇ~簪ちゃんとどんな関係になっているか調査しようと盗聴機仕掛けようとしたら織斑先生がぁ~」

 

「裸のように見せかけて水着エプロンで盗聴機なんて仕掛けようとするからです。それに今まで、徹底的に無視して避けていた簪様が、毒舌放つようになっただけマシじゃないですか!」

 

「ひどい!??」

 

(何か恐ろしい事と、言っているけどちー姉グッジョブ!……それから、簪には悪いけどこれからは接触はなるべく控えておこう。あんな痴嬢様にちょっかいかけられたくないし)

 

 触らぬ神に祟りなしこそ、織斑一夏心の家訓なのだ。

 尚この後、目茶苦茶姉妹喧嘩した。尚、その後接触に関しては普通になったとだけ言っておく。

 

「あ、そうだ。一夏」

 

「ん?なんだ鈴?」

 

「そ、その……あのね…………」

 

「…………」

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ?」

 

「有難うって言いたかっただけ。アンタが初期化してくれなかったら私多分死んでたから……それだけ!じゃ!」

 

「…………そうか」

 

(あぁ~~!!何で肝心な所でへたれるのよ私!!)

 

(やれやれ……まだまだ先か……十中八九そうなんだろうけどな……)

 

 こんなやり取りもあった。

 

 そして、変化もあった。まず、早朝。いつも通り、千冬と遭遇した場合立ち会いに発展するのだが

 

「これからは得物を葵にしないか?」

 

「いい(ストレス発散になる)な、それ!」

 

「そうだろう、そうだろう」

 

 最近、半ばストレス発散になっていた打ち合いの得物が竹刀から葵になった。無論、折れるまで本気で打ち合う。死人が出ても可笑しくない状況だが幸いまだ出ていない。最も、ISの整備科の生徒達は放課後、葵の修復とより凶刃な葵にするように勤しんでいるとか。その内、此方で死人が出そうであることは内緒だ。

 そして、教室内にも変化があった。

 

「あ!一夏君おはよう!」

 

「おはよう。なんか、生徒の数減ったな……」

 

「うん、どうやら何人か、学園辞めたみたい。まぁ、うちのクラスはまだマシだよ」

 

「他のクラスなんて三分の一があの事件の恐怖と話を聞いた親の意向での自主退学、残った人の何割かはいまだに部屋から出られない始末だし」

 

「ふぅん……まぁ、どんな選択をしようがソイツの人生だ。俺がとやかく言える権利はないな」

 

「一夏君冷たいねぇ~」

 

「寧ろ辞められるんだから羨ましいけどな。俺なんか辞めたくても辞められねぇんだもん……」

 

「あ、その……何かごめん」

 

 少女、相川清香は語る。あのときの一夏の背中は煤けていたと。

 

 

 

 そして今

 

「はぁーい、今日は、一年全員、皆でお料理しましょうね~」

 

 家庭科の先生(本来は進路相談の先生らしい)の言葉に全員が思った……

 

『なぜに家庭科?なぜに今日の午前中これしかないの!?』

 

 否、今日の授業が午前中しかないのは、先の一件のせいというのは理解している。だが、午前中料理するだけとは如何なものかと思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「まぁまぁ~、先日あんなことがありましたし、気分転換という奴です。生徒のメンタルをケアするのも先生の役目です。それじゃあ、くじ引きで班作りましょうね~あ、まるで入学初日のレクリエーションみたいですねぇ~」

 

 そう言われては、生徒も従うほかない。実際、生徒の中にはあの時の衝撃が残っている者も少なくはない。

 

「あ、一夏じゃん!」

 

「あ、一夏君だ!ラッキー!」

 

「一夏さん!」

 

「……なんだかんだで見知った連中だな」

 

 一夏と一緒に作ることになったのは鈴と簪と清香だった。いいなぁーとかの周りからの声は無視することにする。

 

「で、何作んの?」

 

「取りあえずラーメン食いたい気分だから函館風豚骨魚介ラーメン作るわ」

 

 そう言って、鍋と材料の豚骨を取り出す一夏。

 

『鍋と豚骨?』

 

「つかぬことお聞きしますが一夏君、ラーメンはどこから作るのですか?」

 

「何って……スープ作るんだが?」

 

『え゛?!まさかのそこから!?」

 

「いや、麺も自作するが」

 

『麺も!??あと、聞こえてた?!』

 

 周囲の人間は驚いているが、コアな一夏ファンなら彼が料理できることは周知の事実である。

 

「あー、なら私、前菜に蒸し鶏と焼豚と酢の物の盛り合わせとそれ以外に炒飯と酢豚作るわ。本格的にはちょっと遠いけどこの時間じゃこれが限界ね」

 

『フ、凰さん!?』

 

「じ、じゃあ私、そこに瞬間凍結機あるからデザートにセミフレッド作るね」

 

『か、簪さんも!?』

 

「な、なら私は……」

 

『あ、相川さんは普通だよね!?』

 

「ピザとか、鰻の蒲焼きとかしか作れないけど……」

 

「相川、ピザはどこから?」

 

「生地から」

 

「……鰻は?」

 

「捌く所から」

 

「……鰻の蒲焼き入り和風ピザとか旨そうじゃね?」

 

「「「採用!」」」

 

「わかった!こっちは任せて!あ、後肝吸いも作れるわ!」

 

『普通じゃなかったぁ!!』

 

「あ、野菜無いな……仕方ないから、筑前煮も作るか」

 

『何かあの班だけ次元違いすぎるんですけど!?』

 

「えー、まず、豚骨を下茹でしてから血合いを抜いてよく洗って……その後、沸騰させずに……」

 

「焼豚は肩ロースでタレは醤油、砂糖、蜂蜜、紹興酒、生姜のすり下ろし、八角……」

 

「えっとまず、卵黄を……ビスキュイは……」

 

「……あれ?……あ、あった、自家製鰻包丁」

 

 一夏班……その様相は、最早一つの料理店の風景だったとか。

 

「「「「完成!」」」」

 

 今日の昼食

 

 前菜、三種盛り合わせ

 函館風豚骨魚介ラーメン

 炒飯(焼豚、海老、蟹炒飯三種)

 酢豚

 鰻の蒲焼きピザ

 鰻の肝吸い

 セミフレッド

 

「「「「いっただっきまーす!」」」」

 

「先生も食べていい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 こんなやり取りがありとても平和だった……この班は。ある班は―――

 

「もう駄目だぁ~おしまいだぁ……」

 

「勝てるわけがない!」

 

「相手は伝説の男性IS操縦者なんだぞ!」

 

 一夏班の女子力に絶望し、またある班は……

 

「せ、セシリア……これはダメ……ガクッ」

 

「ブルアァァァァ!!」

 

「ブッポルギャルピルギャッボッバァーッ!」

 

 地獄絵図となり―――

 

「おのれ、織斑一夏!簪ちゃんの手作りデザートを食べるだなんて……なんて裏山……もといけしからんことを……これはやはり警告を「お嬢様?」ヒィ!?」

 

 生徒会長は嫉妬の炎に燃え上がり、従者に(ハンマーで)鎮火されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ダッハハハハハ!!なんだそれ!おもしれー!」

 

 休日、この日は学校もなく、仕事もない一夏からしたら珍しく休日と呼べる日だった。そこで一夏は昔から世話になっている五反田食堂に遊びに来ていた。

 

「面白かねぇよ……こちとら毎日、スキャンダルに構えてピリピリしてるってのに、KYな女子がこっち狙ってくるし、俺だって珠には、学園内で思いっきり羽伸ばしたいし、食堂の飯食いてぇのに……只でさえ、ネットじゃ既にあらぬ噂が出てくるし……『織斑一夏、IS学園で女侍らせて酒池肉林。これがその証拠wwwwwwwww』とか『織斑一夏が姉と禁断してる証拠見つけたったwwwwwwwww』とか音も葉も無いあからさまなコラ画像出すし、それを真に受けたのか面白がっているのか、外出歩くとマスコミが後つけてくるし、これじゃあオチオチ外出も出来やしない……今日ここ来るまでに、どれだけ遠回りして撒いてきたことか……信じられるか?通常の運賃の五倍だぞ?わざわざ県跨いだんだぞ!?……いかん、頭クラクラしてきた。鬱病発症しそう」

 

「あ、あははは……大変ですね」

 

 そんなこと言いつつも、弾の妹の蘭は一夏にお茶を渡した。

 所でこの三人には実は共通点がある。

 

 

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずにこれやろうぜ!『クローザー』!それか『スベリオン』!」

 

「えー、それより『嵐』か『姫』にしようよお兄」

 

「いや、ここは『エルナーク』一択だ。百歩譲って、一度だけクリアしたことがある『シーカー』だな」

 

 

 

 こいつら全員クソゲーハンターだった。しかも、妹に関しては某サイトで選評書いている始末である。

 と、そんなときだった

 

 ――――――ピピピピピ

 

「……電話か、失礼」

 

 そう言って、一夏は部屋の外に出た。

 

「一夏さん大変みたいだね」

 

 蘭が心配そうに言った。

 

「ああ、アイツ表面上は何ともないように装ってるがかなりキてるな。相当、ストレスたまってるぞ」

 

「なんとかって……ならないよねぇ」

 

「なんとか出来るんなら千冬さんが何とかしてるって、こればっかりはな……下手な同情は反って逆効果だし。まぁ、不幸中の幸いなのは千冬さんがいることか……」

 

 本人はうまく演じているつもり……というより、一夏は完璧に普段の自分を演じていた。見抜けたのは、幼い頃からつるんでいたからこそである。

 

(未来に重きを置き続けたからなんだろうな……)

 

 一夏は今、かなり不安定だ。自分達だからこそわかる。今まで、少しでも早く自立するために彼は努力し続けていた。天職である俳優を偶然とはいえ手にいれ、他の人に文句を言われぬよう勉学にも手を抜かずに誰にも文句を言わせない環境を作り、将来のための下地を築き上げてきた。そして、その努力がようやく結実するその一歩手前で彼の悲願は遠退いてしまった。しかも、彼の天職に復帰するのはかなり絶望感な状況だ。この世に二人しかいない男性操縦者を国が、世界が見のがしてくれる筈がないのだから……普通なら心が折れても仕方が無い。

 

「でも、一夏さん。諦めてないよね」

 

「アイツがそんなタマかよ、まぁなりふり構っていられる状況じゃないんだろうよ。雑誌やテレビの取材でも、『自分は俳優ですので』だからな」

 

 偶々やっていたテレビのワイドショーでは調度、一夏の取材でのコメントが流れていた。実際、彼のファンや彼の言葉を聞いた人は、本人の自由意思に任せるべきだと言う声が出始めている。

 が、政府としても、貴重な男性操縦者であることと、何より、他国に所属されるならまだしも怪しい団体や犯罪組織に拉致られでもしたら目も当てられないという事情がある。そのため一概に本人の意見だけを通すわけにもいかないのだ。

 そんなことを話していたら、一夏が慌ただしく帰って来た。

 

「ワリィ、仕事の話し来たからチョッチ行ってくるわ」

 

「送ろうか?」

 

「いや、もうすぐこっちくるってよ」

 

「そうか、また来いよ。俺居るかわかんねーけど」

 

「また来てください!」

 

「おう、今度、店手伝うわ」

 

「約束ですよ」

 

「お前の今度ほど信用できねぇものはねぇがなっ!」

 

「ヒデェ!その通りだけど!」

 

 アハハハと、笑いながら変わらない二人に背を押される一夏。そんな、何気ない一時が一夏に英気と活力を与えてくれている。その事に内心感謝しながら五反田家を後にした。

 

 

 一夏が外に出ると、既に迎えが来ていた。中学のときは電車通勤だったが、男性IS操縦者になってからは安全面や仕事に支障をきたさないようにと、また車に戻っていた。

 

「おう、つかの間の休息は楽しんだか?」

 

「ええ、というより仕事している時は俺にとって最高の時間っすよ」

 

「お前、ワーカーホリックになってねぇか?」

 

「ハハハ、何を今さら」

 

 

 

 

 

 そんな談話をしながら目的地に向かう車を付け狙う一台の車。

 

(我らが女権団の栄光のために織斑一夏を拘束する!)

 

 それは、ISの登場によって女性優遇の世の中になると思っていたのにならなかった事に不満を持つ女。所謂、女尊男卑思考の今時珍しい女だった。

 

「奴が、一人になったとき身柄を拘束し洗脳す―――」

 

『お前それさせると思ってんの?』

 

 だが、女より遥か遠くに、それでいて最も一夏の近くに、具体的に言うと一夏の半径十キロ以内を監視している。自称、一夏のファン第一号の兎が見逃すはずもなかった。

 

(タバー)クイーンは既にオマエの車を触れているっ!』

 

 瞬間、一夏を追いかけ回していた車は無音で爆発し跡形もなく消えていた。不思議なことに、その瞬間を目撃した者もカメラにもその瞬間は捉えられていなかったという……

 

「証拠は跡形もなく消えた……まったく!いっくんファンの追っかけなら面白いけど、ああいうのはノーセンキューだよ!ねぇー?くーちゃん!」

 

「彼らファンの執念は時にキンクリを起こしたんじゃないかというくらいに此方の思惑を超えてきますから。さっきのあの汚物もコソコソせずにあれ位の情熱を燃やしてほしいものです。だから負け犬なのですよ」

 

「あ、ありのままに今起きたことを話すよ!私はファン撃退用、いっくん安全トラップを仕掛け終えたと思ったらいつの間にかファンがいっくんに接触していた!瞬時加速や絶対防御だとかそんなチャチものじゃ断じてない!もっと恐ろしいもの(執念)の片鱗を味わったんだよ!が、普通だからね」

 

「それ、5回目です」

 

「……所でくーちゃん、その手に持っているCDは何かな?」

 

「これは織斑一夏のサイン入りファーストアルバムです」

 

「なんで、世界に50枚しかない束さんも持っていないCDをくーちゃんが持っているのかな?」

 

「この前、オークションで売っておりましたので1000万で落札しました」

 

「そんなお金何処にあったのかな?」

 

「偶然、宝くじで1000万円当選しましたのでそれで買いました」

 

「ねぇくーちゃん?お願いがあるんだけど」

 

「だが断る」

 

「おのれおのれおのれおのれ!」

 

 

 

 

 そんなやり取りがあったとは思わずに、一夏達は目的地にたどり着いていた。都心にある有名なビルだ。そこの一室を今日は借りているらしい。

 

「本日はようこそおいでくださいました。私、映画監督の安西と申します」

 

「安西?あの、失礼ですがお名前は?」

 

「フフフ、私、名字が安で名前が西なのですよ」

 

 なんと目の前の男、安西という字面だけで見れば名字としか見えないがこれでフルネームだというのだ。驚きである、しかも生まれも育ちも生粋の日本人。

 

「そ、そうですか。これは失礼しました」

 

「いえいえ、よくあることですのでお気になさらずに、さてそれでお話というのがですね……」

 

 

 

 

 

 貴方にISを題材とした映画の主演をしていただきたいんですよ。

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

「いえ、企画自体は前々からあったのです。ISを娯楽として身近に提供できないかと……そして、男性IS操縦者である貴方に白羽の矢が立ったのです」

 

 ビジュアル的にも映えますしね。と気さくに語る安西。対して一夏の反応は渋い。

 

「うーん、ISの映画を撮るのは良いとして、一体どんな映画なのですか?」

 

「そんな、難しいものではありませんよ。まだ企画段階なので確定ではありませんが、史上初の男性IS操縦者である主人公が大会で優勝するありふれたお話ですよ」

 

 本当にありふれた、王道なストーリーだった。だが、ISを実際に用いた映画は史上初だ。そういう意味では変に捻るよりも、分かりやすい展開の物語のほうが観客受けしやすいのかもなと一夏も思った。

 

「しかし、実際にISバトルをするって……それはいいのですがカメラワークとか大丈夫なんですか?」

 

「フフフ、実はそれも解決の目処が立っていますので」

 

 最近漸く、技術が追い付いたんですよと愉快げに語る安西監督。

 

「それでどうでしょうか?」

 

「他のIS操縦者の問題とか諸々ありますが……そうですね、目処が立てば喜んで」

 

「おお!本当ですか!?」

 

「まだ了承しておりませんよ、前向きに検討しておくだけです」

 

「とんでもない!今の私からしたら、それだけで十分です」

 

 そう言って、握手を交わし、今日は解散となった。

 

 

「すまんが、巻紙さん、IS学園に向かってくれ」

 

 その意図が分からない礼子ではない。

 

「んだよ、渋ってたわりにノリノリじゃねぇか」

 

「基本的に仕事は断りませんよ?それに、実際にISバトルするというのならちゃんと戦えなきゃ降板どころか笑い者だ」

 

「ちげぇねぇ」

 

 

 

 この日、一夏はついに重い腰をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「束様、例の女権団ですが居場所と構成員の住所、経歴、家族構成、年齢、血液型、身長、視力、握力、上腕、前腕、血糖値、血圧、尿酸値好きな食べ物、将来の夢の特定完了しました」

 

「そこまでしなくていいよ!?まぁ、いっか!じゃ、取りあえずそいつらの戸籍消去して、拉致って海外の『いつものところ』に売っといて。あ、家族は除外ね。流石の私もそこまで酷くないから」

 

「わかりました」

 

(これで、いっくんの平和は守られ、彼女達はISを信奉して依存してるんだから文字どおり、人生と命すべて捧げてIS開発の礎になれたから本望だよね!それにしてもいっくん主役のIS映画かぁ~)

 

 束さん、いいことしたな~と自画自賛しながら、映画について思いを侍らせるのだった。最もそれで終わってくれると嬉しいのだが……




タバークイーン

束のスタンド(本人談)。普段は第三の爆弾のように一夏にとり憑いており、監視(覗き)をしている。また、笑えない外敵を察知すると相手にナノサイズの爆弾を大量に散布して、爆死させる。その際無音で爆発しその瞬間を本人以外認識できないという特性を持つ。
また、これだけの能力を持ちながら本体(束)もISを生身で相手に出来る圧倒的パワーと精密な動きが出来る。強い。
弱点はシリアスでは全く機能しないという点。


一夏のファン

天災兎曰く、普段は一般人だが一夏が関わるイベント限定で、キンクリとか世界とかD4Cとかオーバーヘヴンを使ってくるらしい。



主人公漸くやる気だす。


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12 自分を男だと思っている女生徒……

遅くなって申し訳ありません。

リアルが悪いんじゃ、リアルが……


 IS学園のアリーナ……幾つかあり、ここを借りれた場合一緒にISの使用許可も与えられる。使う方法は主に二つとされている。

 一つは予約制、これを使えば確実にISを使った練習ができ、ISも借りられる。時間の融通もある程度聞くのも魅力的である。

 二つ目が自由制、これは読んで字のごとくである。予約ではどうしても間が空き、連日練習することが出来ないための配慮である。ただし、この場合時間は固定されており、当然ながら連日生徒が今か今かと待っている魔境でもある。

 分かりやすく言えば、新幹線の指定席と自由席のようなものである。

 が、実は専用機持ちだけが許される第三の方法がある。新幹線ならグリーン席と言っていい抜け道が―――

 

 

 

 

「鈴がアリーナの使用申請の許可をもらっていて助かったよ」

 

 

 

 

 それは、既にアリーナを借りている生徒に便乗することだ。

 アリーナの使用に制限がかかる最大の理由が、ISの数という絶対値である。これに限りがある限り、一度に練習できる生徒の数が決まっている。

 だが、専用機を持つ学生ならその制約を無視することが出来る。そして、普通ならアリーナの申請が必要になるのだが、それに関しても既に申請受理されている生徒と一緒に訓練すれば解決できる。頼まれた相手も初心者なら一日の長がある者から教えを乞う事が出来るし、同じ専用機持ちや代表候補生なら切磋琢磨になる。専用機とは、持つだけで学園内で圧倒的アドバンテージを得られるものなのだ。

 

「驚いたのはこっちよ。一体どういう風の吹き回し?」

 

 このところ、一夏の生活パターンが変わったのは鈴も察していた。同じクラスじゃないため、授業中は分からないが、朝や放課後は射撃場で銃の訓練をしている事もあれば、図書室でISの知識を勉強したり、トレーニング場で鍛練をしているところも見た。否、鍛練自体は何度か見ているのだが。

 ともあれ、以前の一夏とは別人である。

 

「何、一度くらい授業以外でアリーナを使っておこうと思ってな……それに―――」

 

 

 オマエと戦ったことないだろ?

 

 

「はっ!言ったわね!上等!私もアンタとは一度戦いたかったのよ!」

 

 開始と同時に青竜刀、双天牙月を展開し一夏は素手で応戦する。刃と手刀のつばぜり合いは意外にも拮抗していた。

 

「……フンッ!」

 

 一夏が左腕の機能を開放する。同時に、左腕が高熱を帯びる。

 

「っ!」

 

 鈴は咄嗟に龍咆で一夏を突き放し距離をとる。

 

「よく気づいたな……それも勘か?」

 

「まぁね……(あんな腕でフィンガーされたら丸焼きどころの話じゃないわ)」

 

 鈴の言うとおり、一夏の左腕は灼熱を通り越して燃え盛っている。あんな腕で捕まれた日には、一生嫁に行ける身体にはならなかっただろう。絶対防御があるからそうはならないが。

 そして、鈴の勘が告げていた。あのまま鍔迫り合いをしていたら間違いなく双天牙月の刃は融解して断ち斬られていただろうと。

 一応、予備は幾つかあるから戦闘行動そのものに問題はないとはいえ、無暗に壊したくはない。武器を作るのも輸送費も高いのだから。あまりやり過ぎるとペナルティーを食らってしまう。

 鈴が再び龍咆を放つ。射角無し、見えない砲弾は一夏に吸い込まれるように、当たるはずだった。

 

「ゼアッ!」

 

 だが、一夏はあろうことか裏拳で龍咆を弾き飛ばしたのだ。弾かれた龍咆が地面に当たり傷痕を残す。無論、龍咆を裏拳で弾かれる経験なんて鈴にはないし、そもそも素手で弾けるものだとも思っていない。これには、鈴も驚きを通り越して呆れてしまう。

 

「やっぱ、織斑家って人間辞めてるわ」

 

「失敬な!日頃の努力の累積結果だ!」

 

「それが人間辞めてるって言ってんのよ!裏拳で龍咆弾く奴なんて始めてみたわよ!」

 

「ちー姉だってあれ位なら剣の腹で受け流すなり叩き斬る位やってのけるぞ!」

 

「それもう、人外の領域でしょ!?」

 

 ギャーギャー言い争う二人、そしてついに一夏がしびれを切らした。

 

「そうか……口で言っても分からないのなら、この戦いで証明するとしよう!この戦いで俺が勝ったら前言撤回してもらうからな!」

 

「それって本末転倒よね!?」

 

 ここに、絶対的に何かが間違っている負けられない戦いが勃発した。

 

 まず、先制は一夏。瞬時加速を用いて一瞬で接近する。そのまま左腕を降り下ろす。

 

「フンッ!」

 

「甘いっての!」

 

 だが、鈴は瞬時に回避して背後をとる。一夏は丁度構えをとったところだった。体制を整いつつ迎撃するのか、無理矢理離れるかは分からないが、向こうが何かする前に自分の攻撃のほうが早い!

 

 

 

 

 

 その確信は自らの剣戟が弾かれたことで梅雨と消えた。

 

 

 

 

(はぁ!?ちょ、あの体制から振り向きもせずに私の攻撃を弾くなんて人体の構造的にあり得ないでしょ!?)

 

 そんなことを思っている間にも、一夏は後ろを向きながら的確に鈴を徒手格闘術で攻撃してくる始末である。その赤い腕から放たれる鎌首をもたげるかのような動きは見ている観客や、鈴の恐怖心を煽ってくる。

 

「このぉ……」

 

 このままでは拉致があかない、鈴の土俵は近接戦だがここは距離を取るために龍咆を展開し発射する。

 

「……せい!」

 

 だが、あろうことか超近距離から放たれた龍咆すら一夏は弾ききった!

 

(ちょっと……)

 

 さっきの裏拳弾きは百歩譲って、遠距離だったからでまだ理解できた。だが今回は違う、一夏は明らかに此方の攻撃してくる瞬間を読みきって裏拳で弾いたのだ。

 

(コイツの身体どうなっているのよ)

 

 元より身体能力という点では鈴は一夏に劣る。だが、自らの身体能力をそのままISに反映させることは至難の技である。基本的に人間には馴染みのない空中、鮮明なイメージから精密な機械操作。様々な要因が存在している。それらを差し引いて尚、あの動きが出来るというのだから出鱈目にもほどがあった。

 

(しかも、それだけじゃない)

 

 一夏の雰囲気が全く違うのだ。否、変わったのは雰囲気というよりかは姿勢と言うべきか。それはつまり―――

 

 

 

 

 一夏にISをやる意義が出たことを意味している。

 

 

 

 

(やる気だしただけでこれとはね……)

 

 

 

 

 一方、管制室では、千冬と真耶がモニタリングしていた。

 

「織斑君、あの一件から初の実践ですが、この前とは別人ですね」

 

 真耶は素直に感心していた。一方、千冬も一夏の姿勢の変化を前々から感じ取っていた。

 

「ふむ、IS関連の仕事が入ってやる気を出した……と言ったところか」

 

「え?」

 

「大方、次のオファーがIS系統の作品なんだろう。だからやる気を出した」

 

 千冬の言葉に納得する真耶。千冬も分かりやすい奴と思いつつも、動機なんて人それぞれだからかそれを否定する気はない。現に自分だって路銀を稼ぐ為にISをしているのだ。合法的にそれ以上に稼げる手段があるのならそっちをとる。人のことは言えない。

 

「しかし、一夏君のポテンシャルは凄いですね。やる気だしただけでこれほどとは……」

 

「アイツはスイッチさえ入れば凄いんだがな……」

 

 実際、やる気だしただけで中国において天才と称されている鈴に対して優位に立てているだけで一夏のISの才は恐らく五指に入るだろう。

 だが、逆に言えば、スイッチが入らない限り彼は煮ても焼いても食えない。完璧なまでの受動スタイルである。もし彼が能動的に行動を起こすタイプだったなら、第三世代兵装全て十全に扱えると言っても過言ではないと千冬は読んでいた。

 だから、勿体無いと思ってしまうのは生徒としてみている教師だからか、或いは弟としてみている姉だからかそれとも……答えは本人にもわからない。

 

 

 

 一方、アリーナの戦いは熾烈を極めていた。最初は一夏の異様な動きに翻弄されていたがそれは最初だけで今は完璧についてきていた。双天牙月や龍咆で何度か一撃を加えることもあった。だが、ここに来て明確にSEに差が出始めていた。

 

(厄介ね、あの換装機能……)

 

 理由は一夏の玉鋼の機能である換装機能である。腕を取り替えることであらゆる状況に瞬時に対応できるという機能と換装した際にSEを僅ながらだが、回復させる機能を持っている。つまり一夏は換装させる度にSEを回復させているのだから差が出るのは必然だった。

 

(それにしてもあそこまで瞬時に換装させられるなんて)

 

 鈴も一夏の換装に関しての理論は知っている。要は、ISの部分展開と理論は同じである。が、この部分展開、実は難易度で言ったら高い部類に入る。普通にISの展開をすること自体、割りと訓練がいるのだから一分だけを展開するのは初心者には不可能だし、得手不得手によってはプロでも苦手な人もいるくらいなのだ。部分展開の技能の会得が前提の機能なのだから、ある意味BTと同じく人を選ぶ機能と言える。

 

(でも、負ける気なんてこれっぽっちも無いけどね!)

 

 と意気込んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの閉館時間がやって来てしまった。SEの数値で言えば、一夏の方が勝っているがどちらかが倒れるまでの戦いだったならまだ勝負はわからない差だ。煮え切らない感情……それに伴う、負の感情。

 気まずい空気……そして―――

 

「「オ・ノーレ!!!」」

 

 臨界点を越えた二人のそんな叫びが木霊したとか。

 

 

 

 

「織斑弟」

 

 不完全燃焼のまま、一夏が部屋に戻ろうとした時、千冬に呼び止められた。

 

「何ですか?織斑先生」

 

「唐突ですまないのだが、これを見てほしい」

 

 そう言って渡されたのは、一枚の顔写真だった。無論、一夏に写真の人物の心当たりなどあるはずがない。

 

「……?」

 

「単刀直入に聞くが、写真の人物を見てどう思う?」

 

 千冬の問いにますます頭に疑問符を浮かべる一夏。千冬の意図が読めないが、千冬が自分を貶めるようなことをするはずがないのでありのままに答えることにした一夏は口を開けた。

 

「どうって……顔立ちは整っていますね。モデルとしてやっていける女性だと思いますよ」

 

「…………もし、この写真の人物が男だと言ったらどうする?」

 

「んー?……まぁ、世の中には女顔の男だっていますから、こればかりは実物見ないと判別しようがありませんね」

 

「……そうなのか?」

 

「そうですよ、もしかして何かあるんですか?」

 

「実はな、この写真の人物が近日中に編入してくるのだが、資料では男らしくてな」

 

 それで理解したと同時に一夏もきな臭さを感じ取った。

 

「へぇー三人目の男性IS操縦者ですか!面白いジョークですね!普通なら世界的大ニュースですよね!私の時ですら、1ヶ月はニュースで話題になったのに!上からの圧力って奴ですか!刑事ドラマの定番ですね!」

 

「やはり、そう思うか……それとそのわざとらしい口調と表情は止めろ。それでだ、この人物はフランスの代表候補生なのだが」

 

「あの……こんなこというのもアレなんですけど……フランス政府バカなんですか?否、馬鹿だろ絶対」

 

 普通に考えて、男性IS操縦者が現れたとしても、どんなに長く見積もっても三月が限度一杯である。いかに千冬を遥かに上回る才能の持ち主だとしても約、二ヶ月有るか無いかの期間で他の候補生を蹴落として代表候補生になれるはずがない、一夏の実力も今までの役者生活の努力が偶々ISに応用できたから短縮できたに過ぎない、写真だけではわからないが、写真の人物が相当な武芸者であるようには一夏には見えなかった。そして、男性IS操縦者であることを理由にするのなら、その広告塔として全面に押し出さなくてはならないはずだ。つまり、一夏の耳に入らないはずがない。フランスのやっていることの支離滅裂さに呆れてしまうのも無理はなかった。

 

「まぁ、それでだ、そのフランス……正確にはこの写真の人物が所属しているデュノア社からの要望でな、お前と同室にしろと……」

 

「んなこと許すと思ってんの?テキトーに理由つけて追い払ってください」

 

 即答で断る一夏に、千冬も文句は言わない。ここまで露骨だとどう考えても、ハニートラップとしか考えられないからだ。

 とりあえず話はここで切り上げ、注意を促す千冬だった。

 余談だが、この返答を聞いたデュノア社が、再度通達し秋正と同室になった際にそれまで同室だった箒が物凄く生き生きと引っ越しの準備をしスキップしながら出ていったとか、なんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーイ……』

 

「……?」

 

『あ、反応した!』

 

 しかし、まだ明確に認識できているわけではない。その、証拠に近くの知り合いに自分を読んだか確認している。

 

『う~ん、まだ先かな?でも、行きなりここまで同調できるのはすごいなぁ……日頃のお仕事のお陰かな?』

 

 色の内無い空間に響く実体無き声……しかしその声は決して他者を卑下する声ではない。そこにあるのは興味と期待……そして懇願の感情だった。

 

『……頼むよ、君が私にとって最初で最後のチャンスなんだ。私も君を理解する努力をする……だから』

 

 このまま玩具……否、ガラクタとして終わるつもりはない。初期化された程度で消えるやるほど自分は柔じゃない。他の同胞には悪いがこの千載一遇のチャンスを逃すことなど出来ない。

 

『そして―――いや、これ以上は野暮かな?でも、その時を待っているよ』

 

 その時を待ち遠しく思いながら、無邪気にそれでいて冷たく―――

 

 

 

 

 

「セシリア呼んだか?」

 

「いえ……どうしましたか?」

 

「いや、どうやら気のせいだったみたいだな」

 

「疲れているのでは?」

 

「う~ん、日頃から寝てるし規則正しく身体に優しい生活してるから幻聴が聞こえるとは思えないんだよな」

 

 朝、この日一夏はセシリアとの約束で朝一に模擬戦を行い現在、ミーティングを行っていた。

 

「つまり、セシリアは理詰過ぎるせいで、固定概念に囚われがちでイメージが強くないんだと思う。近接装備もイメージが出来ていないし、そうだな……歩くときに歩き方を一々考えたりしないだろ?ソレと同じようにできて当たり前と思えば問題ないと思うぞ?」

 

「そんなんで大丈夫何ですか?」

 

「お前、思い込み馬鹿にしちゃいかんぞ、人は医者から薬と言い渡された空の錠剤で病だって治せるんだからな。毎日、自己暗示しろ、自分はBTを操れる……否、もう既に操っていると!出来ていると!!」

 

「もう……できている」

 

「そうだ!出来ている!」

 

「私は既にBTを十全に扱える!……有難うございます!なんだか私、できる気がいたします!」

 

「その意気だ!」

 

(…………何か、洗脳してないか?)

 

 そのやり取りを後の箒はそう語った。

 

 

 

「えーと、今日はですね……転校生がこのクラスに来ます!しかも二人です!」

 

 その言葉にどよめく生徒達、一方、一夏は事前に聞かされていたため驚きはなく、秋正も原作を知っているためほくそ笑んでいた。それにしても、その前に入ってきた鈴が2組だったのなら次は3組ではなかろうか?と一夏が思ってしまうのは無理の無いことだろう。

 

(ちょっと露骨すぎませんかねぇ?)

 

 鈴の場合は、恐らく自分と知り合いの関係でコンタクトがとりやすいという理由で別のクラスでも問題なく対象に必要以上に警戒されないと判断したと推測できるが……もう少しひねってほしいものである。

 

(幾ら、鈍感で朴念人で世間値無い奴でも警戒しちまうだろこれ)

 

 その後、織斑先生の一喝で静まり入ってきた転校生……内、一人が男と知り更に騒ぐ生徒達。だが、意外にも一夏はそれに目もくれず、自信の警戒レベルを高めると同時に舌を噛みきりたくなるような衝動に駆られていた。

 

(何?…………コレ、ふざけてるの?もしかして舐められてる?)

 

 件の男性IS操縦者を見て、第一に思った感想である。

 そもそも、一夏は職業柄、女装することも希にだがあるし、したこともある。つまり、そのてのことに関しては理解があるし、ある程度識別することができる。その一夏から見ても、転校生『シャルル・デュノア』の男装はお粗末の一言につきる。体つきや仕草は言うに及ばず、言動は一々女性らしい。というより、男のふりすらしていないようにも見える。

 そして、もう一人に関しての感想は―――

 

(コイツ……)

 

 全てを突き刺すような物々しい雰囲気だが、一夏でもわかった。目の前の少女は解っている。

 

(ちー姉のことを教官呼びしてたってことはドイツ軍か……そういえば)

 

 そんなこと思っている間にも、自己紹介らしいものは進み、ドイツ……ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏の前に立ち―――

 

 

 

 

 

 

「お前がワンサマーか?」

 

 

 

 

 

 

 空気を凍らせたのだった。

 

 

 

 

 



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13 フランスこわい byワンサマー

前回までのあらすじ

銀髪「お前がワンサマーか?」

役者「俺はポテトだ‼」

箒「何でいきなりお芋宣言しているんだ!あと、全然あらすじ違う!」

おふらんす「あれ!?ボクは?」


「お前がワンサマーか?」

 

 

 

 

 三人目の男性IS操縦者の登場で浮わついていた空気が、たった一言で一気に凍りついた。

 

「王樣という人物に心当たりはないが、俺の名前は織斑一夏だ」

 

 イントネーションに若干違和感を感じる言い方で答えた一夏。

 

「む?ワンサマーが本名ではないのか?」

 

「それは本名じゃなくて、愛称、通称、あだ名の類いだな。それ」

 

「成る程……ニックネームみたいなものか。初めましてだなワンサマー、こちらの部隊の隊員がファンらしくてな会ったら挨拶してくれと」

 

「おう、そうか」

 

(((ワンサマー呼びはいいのか!?)))

 

「さて、HRは終わりだ。さっさと授業の準備をしろ……と、そうだった織斑弟、お前に客人だ。応接室までこい」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 ドイツ某所

 

 

「隊長に、ワンサマーマニュアルは渡したな?」

 

「はい!後三十分で、HR開始時刻です。『ご挨拶(サイン下さい、何でもしますから!)』を行うというのが彼ら有名人への挨拶だと、マニュアルに確りと書いておきました」

 

「よし!この前の織斑一夏1stアルバム(サイン入り)は我ら黒兎隊(隊長除く)全員のへそくりとボーナスをつぎ込んだが惜しくも、十万の差で『ぜかましクロエ』に落札されてしまった!だからこれこそ千載一遇のチャンスなのだ!隊長!頼みますよ!わが黒兎隊の御神体(サイン)の行方は隊長にかかっているのです!」

 

 まさか、その隊長が彼女達の言っている意味、及び真意を一ミリも理解しておらず、普通の挨拶しかしていないとは夢にも思わない黒兎隊なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼みます!是非とも、君の玉鋼の換装機能を日日本の他のISに取り付ける許可をいただけないか!?」

 

「はぁ……」

 

 自分に会いたいと言ってきたのは日本政府の人間だった。話を聞くと、どうやら玉鋼の換装機能という発想と利便性は第三世代兵装として充分にやっていけるものらしい。そこで、それにいち早く目をつけた政府がコンタクトを取りに来たのだった。打鉄を使っていることも大きいのだろう。

 そもそも、この機能未だ学外不出の筈なんだけどとツッコミを入れたかったが、情報社会なんだから隠し事をする方が難しいかと自己解決していた。そもそも、プライバシーという点ではあの兎に常に侵害されている。

 その後も一夏が聞いてもいないのに政府の人間は一夏に色々と水面下で起きていることについて教えてくれた。

 特に興味深い話はフランスの情勢だった。

 

「特にフランス、いや……『デュノア』には気を付けた方がいい。君自信もそうだが、何よりも君の機体に目をつけている」

 

「……失礼を承知で言わせてもらいますが、それは貴殿方もでは?」

 

「ハハハ、まぁそれはそうだ。だが、我々を含めた大多数の国や傘下の企業は競合国を出し抜くための一手にほしいだけだ。手に入ればいいが、手に入らなければ入らないでそれでいい。少なくとも我々はそうだ。だが、フランス……デュノア社に関しては話が変わってくる」

 

 そう言ってフランスの……デュノア社の情勢を話してくれた。何でも、デュノア社はシェア第三位を誇るラファールを作り上げた会社だという。しかし、後期に開発されたとはいえ所詮は第二世代機、各国の先進国が既に第三世代機の雛型を作っている以上ラファールでは既に役不足だ。ところがフランスは未だ第三世代機が出来ていない。それだけならまだしも、開発の目処すらたっていないせいで、欧州のイグニッション・プランから除名されており、近日中に目処が立たなければデュノア社への援助は大幅に削減されるのだという。

 そんな時に、表沙汰にはなっていないが、話題の男性IS操縦者が偶然にも第三世代機兵装に匹敵しうるものを発案したとなれば……どう行動するかは一夏でも目に見えていた。

 

(しかし解せぬな……)

 

 デュノアの意図は理解した。しかし、それでも男装する必要があったのかは甚だ疑問である。

 確かに、男と偽れば自分に接触できる機会は増えるだろう。だがそれも、ごく少数の例外を除いて基本的に警戒している彼に対しては、正直言って焼け石に水程度のものであり、バレたときのリスクと釣り合っているとはとても思えない。しかも、デュノア社は崖っぷちなのだから男装させるなら徹底的にイロハを叩き込まなければならないはずだし、そもそも『シャルル・デュノア』の名前からしてデュノア社のそれもトップの親族だというのがまるわかりである。普通は全く違う、フランス人の名前として違和感の無い名を使うべきだろう。あまりにもお粗末すぎるのである。自棄にでもなっているのだろうか?

 まぁ、それを聞いて、デュノアにだけは渡したくないと一夏は決めてしまったようだ。幸い、奴は兄と同室、此処は兄に頑張ってもらうとしようと画策していた。

 そもそも、この機能、実のところ言うとメリットもあるが、デメリットもけっこう激しい。

 メリットは、腕に武器が内蔵されているため、拡張領域の圧迫を最小限に抑えることができること。武器の多様化とそれに伴う戦略の幅が広がるという点。使い手によっては一騎当千の器用万能に化けられる。

 デメリットは、腕を一々換装する以上、部分展開できることが前提であること。どの腕に何が装備されているか完璧に把握して的確に呼び出さないと真価を発揮出来ず、また扱いきれないと器用貧乏に陥りやすいこと。何より腕に機能をつけるため複雑化し耐久面に不安が残り、一々作る以上コストが洒落にならない。正直言って、潤沢な資金と最新設備、そして未来を担うために日々努力する技術者候補……IS学園の環境だからこそできる装備である。

 

「それにしてもよくそこまで内情がわかりましたね」

 

「こちらも優秀なカードは多数持ち合わせていてね。詳しくは秘密だけど……それでどうかな?」

 

 一夏は暫し考えた後、答えをいった。

 

「とりあえず、試しに日本の代表候補生の専用機につけて完成させてみてはどうです?IS学園なら環境的に違和感ないでしょうし。無論、本人にも許可次第ですけど」

 

「なるほど……それはいい案かもしれない。検討してみるよ」

 

 事実上のGOサインである。元より、一夏に換装機能に対する愛着はないし、この程度の事ならどの国だって出来るだろうと一夏は考えていた。そして、簪の機体に付けれるのならと言ったのも、ちょっとしたお節介である。なお、政府の干渉はIS学園の規律に反するのではと思うだろうが、あくまで『IS学園への干渉』が問題なのであって『自国の代表候補生に干渉』することは何も問題はない。これが、只の一般生徒なら話がまたややこしくなるが、そもそも国家のそれも自国に所属している候補生に干渉するなと言う方が無理がある。

 

「因みに何処が開発するんです?倉持?」

 

「ああ、あそこ潰れましたよ」

 

「えっ」

 

「あんなことしでかしたんですからね。干されて当然です。『優秀な』技術者をいくつかヘッドハンティングしてから潰しました」

 

「へ、へぇー……因みに今は?」

 

「今は形月(かたつき)総研が筆頭ですね……ヘッドハンティングしたのもあそこですし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を終え、更衣室で着替えを終えた後、グラウンドにいくと何故かセシリアと鈴がISを纏ったまま関節技を決めているかのような珍妙な姿があった。その横では山田先生がラファールを纏いいつもの笑顔で立っていた。

 

(2対1で戦ってセシリアと鈴が負けたと言ったところか)

 

 多対一なら多数の方が強いと思うがそれは必ずしもそうとは言えない。百や千ならともかく、今回のような場合では二人組はパートナーの動きに会わせた動きをお互いにできなければ意味がない。例えばセシリアのBTの操作時は鈴は動けないセシリアの護衛及び、龍咆による牽制や鈴が接近するときは、セシリアが相手の注意を引き付けて確実に必殺の一撃を決められる隙を作るといった行動だ。だが、基本的に我の強い二人が譲るということはまず存在せず、お互いが足を引っ張ってしまったため数の利と世代による性能差を無視されてあっけなく負けたのであった。

 

(まぁ、ISの試合は1対1が基本だからな。これが普通なのかもな)

 

「さて、これで教員の実力も理解できただろう。これからは敬意をもって接するように」

 

 その後、幾つかの班に別れてISの歩行に関する訓練が始まった。班のリーダーはそれぞれ、一夏、秋正、セシリア、鈴、シャルル、ラウラの六つだ。

 だが……

 

「だからそんなの感覚で何となくわかるでしょう!?」

 

「いや、やってれば出来るだろ?」

 

((何言ってんの!?))

 

 秋正と鈴は感覚派なので教え方がズボラなのだ。実際、空を飛ぶのもイメージが重要なので二人の感覚でと言っているのはあながち間違いではないのだが……

 

「違います!歩行をするときは足を三メートル以上上げて行うのです!」

 

「???」

 

 セシリアは理詰め過ぎて女子に理解できていない。理論的だが、あくまでそれはセシリアの中での話、他者には通じない。

 ラウラに至っては

 

「………………」

 

((気まずい))

 

 空気が死んでいる。は?こんなのできて当たり前だろ?という雰囲気だ。

 シャルルの所は分かりやすいのとビジュアル栄えで一部を除いた班から羨望の眼差しを受けていた。最も―――

 

(IS乗って数ヵ月のはずなのに、何であそこまで教えられるんだ?)

 

(やはり……か)

 

 こうやって、ますます疑念を抱く二人目と担任もいるのだが。普通、物事を完璧に理解するというのは、頭で理解しているだけでなく、他人に分かりやすく教えることができて初めて理解していると言えるのだ。

 そもそも、本来ISの歩行なんて授業はまずしない。理由は実技試験で既に、彼女達は動かしているからだ。動かせるのだから、授業時間を使ってまで訓練する必要はない。もっと言うなら、戦闘訓練の片手間でできる範囲だ。

 ならなぜこんな無意味とも言えるような授業をしたか?理由はシャルルである。十中八九そうと言えるが、判断材料を増やすためにあえて生徒達で教えあうというスタンスをとったのだ。学園内に不穏分子がいる以上、妥協はできない。そして、あまりにも完璧に理解しすぎている(・・・・・・・・)、彼を見て千冬は再度確信した。

 

「あのぉ……一夏くん?」

 

「ああ、悪いな。じゃあ始めるか」

 

「は、はい!」

 

 三人の男性IS操縦者の中でも、取り分け有名な彼に教えてもらえるということで尚更テンションが上がる生徒。

 

「動きが悪いな……」

 

「どうにもイメージしづらくて……」

 

 とは言うが、完全に一夏に教えてもらおうと浮わついているのが一夏には丸分かりだった。

 

「それは、君の中で戸惑いがあるからだ……そうだな三分ほど話をしようか」

 

 その言葉に遠巻きに見ていた生徒は羨望と嫉妬の眼差しを仝班の女子はドヤ顔をしていた。

 確かに彼女達は所謂、勝ち組にいるのかもしれない。何せ三分後―――

 

「できるできる!やればできる!どうしてそこで諦めようとするの!?諦めないで私!ネバーギブアップ!!」

 

 歩行はおろか、走り始めそのまま自在に飛ぶことまでで来たのだから。

 

((どうしてこうなった!?))

 

「どうしてこうなった!?という顔だな?簡単だ、三分ほど話して彼女のやる気を引き出してあげただけだよ……俺も最初の頃よく、俺の性格に合わない役なんかするときもしてもらった。さぁ、時間は貴重だ、どんどんやっていこうか」

 

 柔和な笑みを浮かべて、催促する一夏の姿に生徒は織斑先生とは違った怖さを感じたとか。

 

(成る程、教官の弟というだけはある……ただの学生だったなら是非ドイツにほしい人材だ)

 

 約一名は、感心していたが。

 

 

 

 

 

「という訳で新しいパーツ出来たよ」

 

「一体何がという訳で何ですかねぇ?」

 

 授業後、一夏は整備室に来ていた。理由は新しいパーツの確認である。最も、一夏はこれ以上のパーツは必要ないと、予備パーツ以外突っぱねていた。今回も確認というのは名ばかりで、受け取りに来ただけだったのだが今回はどうやら勝手が違うらしい。

 

「まぁまぁ~イッチーそういわないで説明だけでも~……今日暇でしょ~」

 

(コイツ……)

 

 前々から思っていたが、目の前の布仏本音という少女は意外と油断ならない性格をしていると一夏は思った。現に忙しいからと断るつもりが先に退路を断たれてしまっていた。

 

「……はぁ、で?今日はどんなゲテモノ装備だ?」

 

「ヒッドーイ!一夏くん!」

 

「巨大な鉄骨を刺しただけの腕に、そのまま最大火力で敵に突っ込む武器をゲテモノと言わずなんと言う?」

 

 整備科の先輩とそんな軽口を言いながら目の前に出されたのは脚だった。

 

「遂に腕ですらなくなったか……」

 

「いや、今回はどうせなら腕だけじゃなくて脚も色々と機能つけて、互換性高めてもいいんじゃないかと思ってね?」

 

「今回は、アンロックユニットのバーニアとこの脚部のバーニアで超加速を可能にしてみました!」

 

「……小回りは?」

 

「え?」

 

「ISバトルにおいて小回りは重要だ。相手の行動に意識が反応できても機体が反応できなければ意味がない。まぁ、レースみたいな長距離を短時間で移動する場合は有用だが……まさかとは思うが、使ったら初日の授業の兄貴見たく、壁や地面に突っ込むとか無いだろうな?」

 

「ソ、ソンナコトナイヨーホントダヨー」

 

 恐らく発案者であろう本音が目を泳がせながらどもる。

 

「(絶対考えなしに造りやがったな)……次は?」

 

「コレも脚」

 

「これは……良いな」

 

「え!?本当?」

 

「ウム、空中戦が基本のISであえて地上での歩行能力と飛翔……ジャンプ力に着眼点を置いているのが面白い。」

 

「それに、人は生身では飛ぶことができないからね。地に足を付けている時の方が動きが良い人も多い。充分に需要のある装備だ」

 

「そうそう!……ん?」

 

 開発者が意図を理解してくれて相槌を打ったとき全員が思った。誰だ?後半の説明をした奴は?

 

 

 

 

「やぁ」

 

 

 

 

 脚の装備の前にいつの間にか白衣の女性が立っていた。慌てふためく生徒の姿に会心の笑みを浮かべる女性。

 

「誰?」

 

 そんな中、平常運転の一夏は何者かと問うていた。

 

「おっと失礼、私の名前は篝火ヒカルノ。しがない技術者さ。今日からこの整備棟を任されてね。よろしく頼むよ」

 

『…………えぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 整備科の人達にとって有名人の登場にどよめく整備科の生徒達。いきなり、嘗ての日本の技術者のトップが来たのだから無理もない。

 

「それにしても、脚に箇別の機能を持たせるという着眼点は面白いね」

 

「随分と楽しそうですね?篝火先生」

 

「ヒカルノで構わないよ。そりゃそうさ、新しい切り口はそのまま、可能性の発露に繋がるからね。前の所(倉持)なんか、上が無駄にプライドが高い所と変に偏屈なせいでろくに開発できなかったからね。現に君が発案した腕の換装機能から今度はこうやって脚の換装へと発展した。これなら、次は背中辺りのバックパックの換装も夢じゃないね」

 

「でも、拡張領域が……一夏くんの場合は予備パーツが大半を占めているから脚を入れられるけど……」

 

 生徒の言葉にヒカルノは諭すように教えた。

 

「それなら、腕と脚のパーツを一纏めにするのも手だ。解っていると思うが、拡張領域は『腕と銃』よりも『銃を内蔵した腕』の方が拡張領域を圧迫しない。ならそれと同じように『腕パーツ+脚パーツ』にすれば圧迫を抑えることができる。無論、一つになっている以上、対応力はある程度犠牲になるがね」

 

 ヒカルノの説明に成る程と頷きメモを取る生徒達。そして、会話が始まる。

 

「どうする?此処はヒカルノ先生の案でいく?」

 

「でもー、それならさっき先生が言ってたバックパックと腕を組み合わせるのも手だよねー」

 

「バックパックの運用をどうするかによっても組み合わせが変わるわね……」

 

 あーでもない、こーでもないと議論が加熱していくところを見て微笑ましそうに見るヒカルノ。

 

(彼女達なら、これから先のISを支えていくこともできるだろう)

 

 何せ整備科はISを影で支える縁の下の力持ちである。ここが確りしていないと選手や設備がよくてもズタボロになる。嘗ての自分が所属したところのように。そしてひとつ彼女は妙案を思い付いていた。

 

(この換装機能……学園専用にすれば、生徒の育成に貢献できるんじゃないか?)

 

 何せ、これは一種の専用機開発である。生徒が学年、クラス問わず意見を出し、より良いものを作ろうとしているのは良いことだ。

 今度、政府に通達してみるように理事長に進言してみるかとヒカルノは考えながら、議論の顛末を見る。

 

「一夏くんは?操縦者の意見も取り入れた方が参考になるわ」

 

「バックパックに関して言うなら、サブウェポンならメインウェポンの腕と一緒にした方がいいんじゃないか?逆に機動力や細かく複雑な動きをするためのものなら脚かアンロックユニットのスラスターと一緒にするのもアリだろ。まぁ、両方手を出したら手にあまりそうだからとりあえず片方にしたら?」

 

「……そうね、それが無難かな?」

 

 この日は結局、整備棟の閉館時間まで開発することになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所

 

「くーちゃん、作戦は?」

 

「首尾よく行きました。下手人達は束様特製、タバトキシン1192で記憶を破壊し『いつものところ』へ引き渡(売り飛ば)しました」

 

「オッケー!全く、あんな不細工なシロモノ造る悪い大人は閉まっちゃわないとね~まぁ、これで一件落着!」

 

「とでもおもっていたのか?」

 

「ふおあっ!?」

 

「どうやら、先日、そのシステムを操縦者に内緒で取り付けてIS学園に向かわせたらしいです」

 

「なんてこったい!……まぁいっか!ちーちゃんいるからなんとかなるし、しちゃうでしょ!今回はいっくんでも解決できるし!……はっ!?これはもしかしていっくんの雄姿が見れるチャンス!?録画しなくちゃ(使命感)」

 

 




ちょっと真面目にあの時の授業の真意を独自解釈しましたが、どうでしょうか?


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