せめて、皇帝らしく (亭々弧月)
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万里一空ジルクニフ
暗澹冥濛


 鮮血帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=二クスはいつも通り頭を抱えていた。

 

 端から見ても情けない姿をしているであろうということは想像に難くない。

 

 自身の率いてきたバハルス帝国が魔導国の属国になるということに対して改めて様々な感情が湧いては次々と心に重くのしかかっていく。

 

 かつての皇帝達に胸を張れる国が出来上がる道が見えてきた矢先、かの至大至剛にして蓋世之才を持つ超越者アインズ・ウール・ゴウンが現れたのだ。あのアンデッドによって己が計画をこれまで悉く完膚なきまでに粉砕されてきたジルクニフにとって魔導王はもはや恨みや憎悪の対象から外れ、打つ手など無いと匙を投げてしまいたくなるほどであった───いや属国となることを願い出てしまった時点で匙はもう投げてしまったようなものかもしれない。

 

 魔導国の属国となることが伝わった時は自国内の神殿勢力だけでなくスレイン法国からも国家に対する公式文書でここまで罵倒できるものなのかと驚くほど激しく糾弾され、騎士団では皇帝はかの大虐殺の前に既にあの魔王に魂を売り渡していたなどという噂が真しやかに語られていた。

 

 しかし現在、秀外恵中と自他ともに認めるジルクニフは己の政治手腕、容姿、人脈を今まで歩んできた苛烈な人生すら楽に思えるほどに最大限活用し、彼らに「あの強大な魔導王の前では仕方がないことで虐殺の矛先が向くよりはマシではないか」とある程度思わせることに至っている。

 

 そんなジルクニフにとって救いといえば、魔導国によるバハルス帝国の統治が存外平和なものになりそうなことと、引き続きジルクニフに帝王の座に君臨することが認められ、ある程度の自治権が与えられそうなことだ。

 その後に聞かされた全種族平等という魔導国の方針や、伝説にも謳われるアンデッドによる国内の警備、霜の竜(フロスト・ドラゴン)による物資の長距離運送計画などによって目から出た鱗で山が出来るのではないかというほどに驚くことになったのだが。

「っ...また胃が痛むか」

もう日課となった胃痛に、これまた日課となったポーションの服用を慣れた手つきで済ませる。自室のソファーに座り、足を投げ出し虚空を眺める。

 

「──ついにこの日が来てしまったか...」

 この頃独り言が増えたと自分でも思うが、それも仕方ないだろう。なにせ今日はバハルス帝国が魔導国に膝を屈したことを晒すことになる恥辱の日なのだから。

 

エ・ランテルにて開かれる魔導国との会談───会談とはいえ魔導王の意向により簡易なものになるとは聞いているが、バハルス帝国皇帝という権力の頂点にいた者がアンデッドの前に跪くということはエ・ランテルに住まう人間にとっても帝国臣民にとっても大きな意味をもつ。それをさせるのがあの魔導王の狙いなのだろう。

 

 しかし、例えあの死の権化に首輪を嵌められ手綱を握られることになろうとも自分がバハルス帝国皇帝であるという肩書は変わらない。会談とやらに向けて所有している衣服や装飾品の中でも最高級のものを身に着けていくつもりだ。

 

(まぁ奴の身に着けているものに比べれば安物なのだろうが……)

ジルクニフはあの墳墓の神々しい玉座の間で見たアインズ・ウール・ゴウンの格好を思い出す。あれほどの装飾品やマジックアイテムは誰が作り出したのか、あの居城にいつから住んでいるのかなど気になることは山ほどある。そのような疑問の数々に思案を巡らしているうちに予定の時間が訪れた。

 

 今回の会談に際しては魔導国による転移の魔法で帝都アーウィンタールとエ・ランテルを繋いでいるため直ぐに向こうにつく手筈となっている。便利かもしれないが今のような状況ではあまり嬉しくはない。

 

(魔導王め、私に心の準備をさせるまでもなく会談に臨ませその上揺さぶるつもりか……)

 転移の魔法などというものは元主席宮廷魔術師のフールーダ・パラダインのような英雄級の魔法詠唱者(マジック・キャスター)にしか使えぬ技。いくら皇帝とはいえそう何度も経験するものではない。加えてこちらからはエ・ランテルのどこに繋がっているかが伝えられていないのだ。会談に赴こうとする時から心理的圧力を与えてくるというのか。

 

 しかし、もうなるようにしかならない───どうせ自分が何を考えていようと先手を取られるのだろう。ならばむしろ何も考えないほうが良いのではないかとさえ思えてきた。

 

 一応護衛として四騎士のバジウッドとニンブルが同行するが、死の騎士(デス・ナイト)を数百単位で意のままに操る魔導国が相手では意味をなさないだろう。だが属国とはいえ一国の皇帝が供も連れず宗主国の王に会いに行くわけにもいかない。

 ここ最近のあらゆる変化に対してある種の諦めが浮かんできたがそれを振り払い決心する。

 

 

「─よし、行くか」

 




ありがとうございました。

暗澹冥濛(あんたんめいもう)・・・暗くてはっきりせず先が見えないようす。前途に希望のないことのたとえ。


投稿テストも兼ねた文字数少なめの投稿ですが、今後もおそらくこのぐらいになるかもしれません。


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神機妙算

幕間のような前フリのような そんな話。











「アインズ様、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「どうした、デミウルゴス。」

咄嗟のことで軽く返事を返してしまったことをアインズは少し後悔する。相手はナザリック随一の知者たるデミウルゴス。何を聞かれるか分かったものではない。

 加えてこのエ・ランテルの執務室にはアインズ当番のメイド以外には誰もいないためいつもの手が使えない。

 とはいえ断るわけにもいかず、覚悟してデミウルゴスの言葉に無い耳を傾ける。

 

「私の見立てでは王国より帝国を優先して属国にしようとした場合、例えアインズ様の力をお借りしても一か月程度かかるはずでした。しかしアインズ様は帝国に赴かれて三日と経たないうちに皇帝の心を打ち砕かれております。いったいどのような策を用いられたのですか?」

 

 聞かれるなどと夢にも思ってなかった問い、されど抱いて当然の疑問にアインズは狼狽える。

(まずい。────どうする?───どうすれば)

 たまたま闘技場に行ったら偶然ジルクニフがいて、挨拶したら何故か急に属国になりたいと言ってきた、などと言える筈がない。

 

 アインズが策謀の全容を言うべきか迷っているように見えたのかデミウルゴスは跪き首を垂れながら願い出る。

 

「神機妙算の主たるアインズ様の秘策を教えてもらおうというのは出過ぎた真似かもしれません!しかし今後のナザリックの繁栄のためにもその雄略のヒントだけでも頂けないでしょうか!」

 

 どこからどう見ても真剣で本気のデミウルゴスを見て逃げ場がないことを悟る。

(どう答えたらいいんだ………ん?ヒント?───そうか、もしかしてデミウルゴスならそこであった出来事を要約して話すだけでうまいこと繋げられるのではないか?それにもしこの手法が上手くいけば今後も使えるし試す価値はあるかもしれない)

己の閃きに感謝しながらアインズは無い口を開く。

 

「ふむ、そうだなデミウルゴスよ。私があのとき何をしていたかを今からかいつまんで話すのでそこから考えてみるとよい。」

 

「おぉ…ありがとうございます!」

 

 デミウルゴスの嬉しそうな様子を見てアインズは少し安堵する。しかしここからが本番だ。それっぽくヒントが隠されているかのように話さなければならない。

 

「…あの時私は冒険者組合長とともに帝国の闘技場を訪れていてな。この前話した魔導国の冒険者の件で帝国の冒険者を引き抜こうと考えたのだ。それには力を見せつけるのが一番良い。だから帝国最強と言われていた武王を打ち負かし宣伝しようと計画した。…ここまでは分かるな?」

 

デミウルゴスは頷き、より一層真剣に一言一句聞き逃すまいと全神経を眼前の偉大な主人に向ける。普段はあまり自分の考えを口には出してはくれない主人が多くを語ってくれるまたとないチャンスだからだ。その智謀の一端でも掴むべく全身全霊の努力をしなければならない。

 

「そして試合の日、偶然にもジルクニフがその場にいたのだ。偶然な。…そして挨拶に向かったところ、どこぞの使者か誰かが皇帝と一緒に貴賓室にいたのだ。いくつか書類が机の上に散らばっていたのを記憶しているが、おそらく何かを話し合っていたのだろう。そういえばあの時ジルクニフは体調が悪かったのか顔色が良くなかったな…。まぁそれはいい。そして試合を終えて再び挨拶をしに行ったときに彼は従属を願い出てきた。というわけだ。」

 

 窓の外を眺めながら、必死にさほど中身のない一日を意味深な雰囲気で語ったアインズが恐る恐る視線を戻すと、そこにはこちらを凝視し口を半開きにしながら体を震わせているデミウルゴスがいた。

 

(え?もしかして余りにもくだらなさ過ぎて呆然としているのか?まずい、どうしよう。もしそうならヤバいぞこれは……)

 

 2,3度精神鎮静化を繰り返したぐらいでデミウルゴスが口を開く。

 

「───なんと………アインズ様はそこまで見通されていたのですか……。完璧なタイミングで相手の急所を抉るということですか……。それほどまでに張り巡らされた智謀にはただただ感激することしか出来ません。───このデミウルゴス更なる忠節を捧げさせていただくつもりです!」

 

(あれ?もしかしてうまくいった…?)

「う、うむ。日頃からお前には本当に助けられている。今後も頼むぞ」

 アインズはデミウルゴスの言動から自分の作戦が上手くいったことを薄々感じ取り鷹揚に頷いた。

 

 ただでさえいつも姿勢の良いデミウルゴスが更にシャキッとしているように見える。そしてその顔には清々しいまでの満面の笑みが浮かんでいる。彼の中でどう理屈付けがなされたのかアインズ自身が一番知りたがっているのだが、当然聞ける筈がない。仕方なく話題を変える。

 

「それはそうとそのジルクニフだが、今度ナザリックで歓迎でもしようと思ってな」

 

「ほう、()()ですか。それは面白そうですね」

 

「あぁ折角闘技場の一件で武王を手に入れたのだ。今度はアンフィテアトルムでハムスケと戦わせてみようと思ってな。私たちにとっては少々つまらないが、人間には良い見世物になるだろう。」

 これはいわばアインズなりの歓迎パーティーだ。

 今回の出来事を例えるならバハルス帝国は魔導国という企業の子会社になるといったものだろう。鈴木悟だった頃の世界では大企業の子会社になった所は大抵いいようには扱われなかったと記憶している。

 

 しかしアインズはそんな酷いことをするつもりはない。ハッキリした上下関係が先に出来てしまったのが少し惜しまれるが、魔導国の傘下に入れば豊かな暮らしが送れるというテストケースにするため帝国には今まで以上に繁栄してもらうつもりだ。

 そこでエ・ランテルでの会談という名目でジルクニフを呼び、サプライズパーティー的な感じでジルクニフとの親交を深めようという計画である。親会社の本社ビルに行くとなれば緊張もするだろう。そこでこの歓迎があれば緊張もほぐれ、一歩踏み込んだ信頼関係も築けるに違いない。

 

 帝国の闘技場で見た限りジルクニフは武王の大ファンだ。そしてその相手がアダマンタイト級冒険者の従える魔獣ともなれば箔が付くだろう。これほど良い余興があるだろうか。

 

 そんな計画の狙いは明かさぬようにしてアンフィティアトルムでの観戦を余興とすることについてのみを伝えると、デミウルゴスは先ほどの清々しい笑顔ではなく不敵な笑みを浮かべた。

「素晴らしいご計画です。成功すればきっと魔導国と帝国の関係は一層揺るぎないものになるでしょう。あの皇帝がどのような顔をするのか今から楽しみで仕方ありません。」

 

「うむ、日取りは追って伝えるので細かい調整は頼んだぞ?」

 

「はっ、このデミウルゴス、アインズ様のご期待に必ずや応えて御覧に入れましょう」

 

(…デミウルゴスの顔に浮かんだ邪悪な笑顔がちょっと気になるけど、素晴らしいと言ってくれたので問題ないだろう)

 

 

 自信に満ちた歩き方で執務室から退出するデミウルゴスを視線で見送りながらアインズはサプライズパーティーの成功を夢見るのだった。

 

 

 

 

 




神機妙算=神算鬼謀


手柄を横取りしたことでアインザックに多少の罪悪感を抱いてる描写を入れたかったのですが自分の拙い文章力が故に上手く入りませんでした。申し訳ありません。


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毛骨悚然

 着替えを済ませ、侍従に身だしなみを確かめさせた後、ジルクニフは外で待機していた帝国四騎士の二人──“雷光“と“激風”を連れ中庭に向かう。

 

 今回の会談においてはフールーダの高弟は引き連れないことに決めていた。何故なら、これ以上彼らを魔導王と接触させると自分たちも魔導国へ行きたいなどと言い兼ねないと思われた為だ。最大戦力であるフールーダが裏切った現状では今更かもしれないが、それでも人材流出というのは極力避けねばならない。

 

 程なくして中庭に到着する。今でもあの闇妖精(ダークエルフ)の姉妹が竜に乗ってここに降り立ち、手塩にかけて育てた騎士や近衛兵や魔法詠唱者(マジック・キャスター)たちを生き埋めにした光景が昨日のことのように思い出される。未だ消えることのない地割れが勢いよく塞がった跡がその凄惨さを物語っており、今から自分が向かう先が死地に等しい場所であることを改めて痛感させられる。

 そして中庭の中心の方に目を向けると、その闇妖精(ダークエルフ)の主人たる魔導王アインズ・ウール・ゴウンに仕える美しきメイドの二人が佇んでいるのが目に入った。

 

かつてあの墳墓に赴いた時、場違いなログハウスから最初に現れた二人。

(確か名前はユリ・アルファとルプスレギナ・ベータだったか?しかし究極の美貌というものは何度見ても言葉がでないな)

 

 こちらを視認したであろう二人のメイドは同時に一礼し、髪を結い上げた女の方が口を開く。

「お待ちしておりました。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下。ただ今より転移の準備を行いますので少々お待ちください」

 

そう言ってユリが後ろを向くと、突然まるで空間から取り出したかのように大きな木枠が現れた。よく見ると精緻な彫刻が施されており、額縁のようにも見える。それは絵を入れずとも飾れるのではないかと思えるほど立派なものであった。

「さぁ、どうぞ、お入りください。」

 

 そう言われて枠の中を直視すると、その向こうに見えるのは中庭ではなく、通路。それも磨き抜かれた大理石の床に絢爛たる絨毯が敷かれた荘厳な通路だった。

ユリに先導され枠を抜け、その通路に足を踏み入れる。

 ─── ここで違和感がジルクニフを襲う。

(おかしい、エ・ランテルにこんな広く立派な通路を持つ建物などあったか?いや、最近エ・ランテルで何か大きな建造物が出来上がったという話は聞いていない。それともあの魔導王ならあっという間に作れてしまうものなのだろうか。……それにしてもあの墳墓で通った通路に似ている……。いや、まさかな…)

 胸中に湧き上がる嫌な予感を持て余しながら先へと進む。

 

「この先でございます」

 言われるがままメイドについて行くと、突き当りの壁にさっきと同じような、それでいて遥かに大きい枠がかかっていた。その枠内には七色に光る膜のようなものが広がっているため、向こうの様子を窺い知ることは出来ない。

 

「では、先ほどと同じようにお進みください」

 てっきり会談を行う部屋への入り口へ案内されると思っていたジルクニフは面食らうが、それを表に出すことはない。しかし、転移を続けて2度行うというのは不思議に思われた。

 

(いや、そもそも何故2回転移を挟むのだ?魔導国の間諜対策なのか?)

 かのカッツェ平野での大虐殺の時、アインズ・ウール・ゴウンは転移魔法のようなもので兵を呼び寄せたと聞いている。魔導王が行使する転移魔法は、十三英雄に匹敵する魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるフールーダの行使する魔法より上位のものと思われるため情報が無く、どのような魔法か詳しくは分からない。

(……もしかして何かデメリットのようなものでもあるのか?───しかし本当にそうだとしてもあの魔導王なら私に悟らせずに事を運ぶなど容易いはず。ならば何かしらの防衛策と見るのが妥当か)

 

 そんなことを考えながら歩を進め枠の前に立つ。

 ジルクニフの右にはバジウッドが、左にはニンブルが並ぶ。彼らを横目で見ると此方が笑いそうになるほど酷く緊張した面持ちだった。彼らの怖気づいた顔を見て逆に冷静さを少しばかり取り戻したジルクニフは意を決して枠の向こうへ足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋に入った時に最初に抱いた印象は、気品に溢れ華美でそれでいて落ち着いた雰囲気を持つ貴賓室のような部屋、というものだった。しかし壁の一面が大きく開いていて、その向こうに広く横に長い立派なテラスが備わっており、そこには40はあろうかという豪奢な椅子が十分な間隔を持って外に向かって並べられていた。

 

「では皇帝陛下。こちらの席でお待ちください。」

そういってユリは先ほど見た豪奢な椅子───外を眺めるための特等席とも言えるであろう場所にジルクニフを案内する。

 

その席に近づくにれて目に入ってきた光景は驚愕を禁じ得なかった。

 

 眼下には何層にもなる客席が広がる。そしてそこに座る無数の動像(ゴーレム)達。それらが中央の空間を囲んでいて日の光が差し込む、まさに闘技場というべき場所であった。帝国の闘技場に自信を持っていたジルクニフだが、それに勝るとも劣らない光景が広がっていたのだ。

 

 ジルクニフは肩越しに後ろ─────ここまで付いてきた二人の配下を見る。

 バジウッド、ニンブルともにこの目の前に広がる光景に驚きを隠しきれていない。それもそのはず、エ・ランテルに闘技場があるなどと聞いた試しがないのだ。エ・ランテルで情報収集に当たらせてる部下からもそのような話は聞いたことがなく、この闘技場の外がどうなっているのか中から見えないのがもどかしい。

 

ジルクニフはバジウッドとニンブルに椅子の後ろに待機するよう命じ、腰を下ろす。

 

(一体、ここはどこなんだ?エ・ランテルとは別の場所に闘技場を作ったとでもいうのか。……しかしあのような大量の動像たちをどうやって…)

 動像(ゴーレム)を作るのは大変だ。かつて帝国でも労働力として動像(ゴーレム)を使用する研究を行っていたが、その余りにも膨大な費用故に研究が凍結されたことは記憶に新しい。

 

 ジルクニフは闘技場の上に覗く青空を眺めながら、これからこの身に起こる事が悲劇でないのを神に祈った。

 

 しばらくしてユリが、ジルクニフの余り望んでいない言葉を告げる。

「お待たせしました。アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下のご入室です。」

 

 

 

 

 

 

 メイドが主人の入室を告げたとき、ジルクニフの右の席から少し離れた辺りに先ほど通った木枠に広がっていた虹色の膜に似たものが浮かび上がる。そこから誰が現れるか悟ったジルクニフは席から立ち上がり、膝をついて首を垂れる。

 

 背後から控えていた二人の騎士が息を呑むような音がしたが、続いて耳にした金属音から彼らもひれ伏したことを察する。

 

 

 その刹那、周囲の気温が下がった。

 何か悍ましい寒気のようなものがジルクニフの背中を駆け上がる。先ほどの青空がまるで一瞬のうちに凍てつく暗夜になったかのようであった。

 そしてその寒気の中心にいるであろうその存在────無量の叡智を持ち、人智を超越した魔法詠唱者(マジック・キャスター)にしてアンデッド。

 今首を垂れたジルクニフ自身を空虚な眼窩に灯った灯火から見下しているであろうその人物。

 魔導王アインズ・ウール・ゴウン。

 この存在の前では人類の生み出すあらゆる策謀は児戯に、人類の持つあらゆる力は風の前の塵に等しい。

 その畏ろしき死の権化は、人の残滓を残すかのような声でジルクニフに語りかける。

 

「……面を上げてはくれないか?」

 

 

 

 




毛骨悚然(もうこつしょうぜん)・・・非常に恐れおののく。髪の毛や骨の中にまで、ひどく恐れを感じるということ。



本当はもう少し先まで入れたかったのですが、その後の展開が他作品と酷似していることが判明した為に大幅な軌道修正が必要となったので、しばらく更新が出来ないことをこの場を借りてお詫び申し上げます。


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嚆矢濫觴

「……面を上げてはくれないか?」

 

 悍ましき死の権化はジルクニフを見下しながらそう言った。

 かつて対面したときは墳墓の主とバハルス帝国の皇帝という関係だったが、今となっては宗主国の王と属国の皇帝。覆しようのない上下関係がそこにはあった。

 

「お招きにあずかりまして光栄です。至高なるアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下」

 慣れない敬語、慣れない立場ではあるもののジルクニフはそつなくこなす。

 

「うむ……。今日はそういう堅苦しいのは抜きでいいだろう。君と私の仲ではないか」

 

(───「君と私の仲」だと?互いの仲は主従関係に等しいことを再確認させようとでもいうのか?)

 

「寛容なご配慮に感謝申し上げます。しかし……」

 

 ジルクニフは表に出せぬ思いを腹の底に押しとどめ、心から笑っているかのような笑顔で答えようとする。しかし、目の前の存在はそれを見越したかのように遮った。

 

「そうか?気軽にアインズと呼んでくれて構わないぞ?ジルクニフ殿」

 

 

 

 圧倒的上位者からの「気軽に」という言葉ほど怖いものはない。どの程度までが許されるのか推し量ることが求められるからだ。本来ならば普段の言動に加え相手の顔や目の動きなども考慮した上で立ち回るのだが、髑髏の顔を持つアンデッド相手にそれは通用しない。

 

(私を試している?───いや弄んでいるのか……)

 本来ならばゴウン陛下と答えるところだが、自分のことを「ジルクニフ」と呼んだことから此方も「アインズ」の方で答える方が適していると思われた。しかしだからといって「アインズ陛下」ではおかしい。

 

 

「承知しました。ではアインズ様と……」

「……あぁ、それで頼む」

 

 ジルクニフの眼に魔導王の佇まいがどこか物悲しそうに映ったのは気のせいだろう。機嫌を損ねたようには見えなかったので少し安堵する。

 

 アインズはジルクニフに椅子に座るよう勧め、ジルクニフが座った後に腰を降ろした。その仕草は支配者として過ごしてきた悠久の時を思わせる威厳あるものだった。

 

 

 

 

「さて、ジルクニフ殿。ここが何処だか分かるかね?」

 

「───闘技場のように見えますが、エ・ランテルにこのような立派なものがあったとは寡聞にして存じませんでした」

 

 

アインズはジルクニフの方を向くと不気味に笑いながら種を明かす。

「くっくっく……実はな、ここはエ・ランテルではないのだよ。ナザリック地下大墳墓の階層の一つなのだ」

 

「────は?」

 

 瞬間、思考に空白が生まれる。

 

(何を言ってるんだ。からかっているのか?嘘は言ってないように見えるが…)

 

「……いえ、あの……空が見えるのですが?───墳墓の階層とは地下のことではないのですか?」

 

 戸惑うジルクニフに更なる混乱を与えんと、アインズが答える。

 

「あの空は偽物だ。ジルクニフ殿の言う通りここは地下。地下と言っても森も湖もあるがな」

 

 肩越しに後ろに控えているバジウッドとニンブルを見ると、二人して目を見開いて呆けている。

 偽の空を作る魔法など聞いたことがあるはずもなく、もし実在するなら神の御業とも呼ぶべき行為だ。

 

(────本当にここが墳墓の地下なのか真偽の程は定かではないが、ここはとりあえず話に乗っかり少しでも情報を得るしかない……)

 

 

「……こ、ここはアインズ様がお創りになったのですか?」

 

「アインズ・ウール・ゴウンが創ったという意味ではそういうことになるな」

 

 なんとも引っ掛かる言い方だ。しかし掻き乱されたジルクニフの心はまだ落ち着きを取り戻していない。今の言葉の真意を紐解くより何故自分たちがここにいるかを明らかにすることの方が先だと判断するので精いっぱいだった。

 

「そ、それに会談はエ・ランテルで行うと……」

 

「……あぁ、虚偽の目的地を伝えたのは悪いと思っているが、ちょっとしたサプライズだと思ってくれ。闘技場に来てもらったのは試合を観戦するためでもあるからな」

 

 ジルクニフも最初はこの忌まわしき骸骨がまたしても荒唐無稽なことを言い出したと思った。しかし、この状況には経験がある。そう、帝国の闘技場での一件だ。

 

 法国との極秘会談を剔抉された上、アインズが人には殺せぬ存在であると思い知らされたあの日。そして、ジルクニフが自らの国を魔導王に差し出すと決めた日である。

 

(───もしかして私への意趣返しだというのか。あの時の私がいかに愚かであったかを何より私自身に痛感させるため、雪げぬ恥を首輪として私に嵌めるつもりかっ……なんということだ……)

 

「それに今回ここで戦うのはジルクニフ殿も応援していた武王だ。しかも相手はあのアダマンタイト級冒険者モモンの従える魔獣。これ以上ないスペシャルマッチだとは思わないかね?」

 

「……え、ええ、非常に楽しみです…」

(本当に闘技場での出来事を再現するつもりかっ……。その上あの配下に加えたという冒険者モモンの魔獣だと?───人類の英雄すらも己が下僕だと喧伝するのが目的か!)

 

 抵抗心を完膚なきまでに打ち砕くためであろう今回の催しの前では、ジルクニフも自身の矮小さに恥すら覚える気がした。

 帝国最強の武王を奪い、英雄の騎獣と戦わせる。それはまさに圧倒的強国の栄耀栄華の発揚に打って付けだと思われた。

 

 

 策が嵌まったと感慨に耽っているかの如く嬉しそうにアインズは笑う。

「ふふ、それは良かった。……もうすぐ始まる頃だ。飲み物も準備してあるので好きに頼んでくれ。果実水や紅茶にアイスマキャティアもあるぞ」

 

 

「恐れ入ります。では、果実水をいただきたく……」

 

「だそうだ。ユリ、持ってきなさい」

 

 しばらくしてメイドが果実水と思わしきものが入ったデキャンターとグラスを運んできた。中に入っているものが果実水であると確信できなかったのはその水が透き通った黄金色をしており、なにか高級な蒸留酒かのように見えたからである。

 メイドがグラスに注いだ時、辺りに芳醇な香りが漂う。そしてジルクニフの椅子に横付けされた小さなテーブルにグラスが置かれた。

 

「あぁ、すまない。ありがとう」

 軽くメイドに礼を言いながらグラスを一瞥する。その馥郁たる香りに今すぐにでも飲み干してしまいたい衝動に駆られるが、さすがにそのような浅ましい真似は出来ない。飲むのは試合が始まってからにしようと決めた。

 

 

 わずかの間をおいて、どこからか跳躍する影が一つ闘技場の中心に降り立つ。魔法を使ったようには見えず身体能力によってなされた技巧であるなら一体どれほどの存在なのかと思ったが、よく見るとあの時帝城にやってきた闇妖精(ダークエルフ)の一人だった。

 金の髪から突き出した耳をピクピクさせながらその整った顔には笑顔を浮かべている。

 

「────さあ、まずは帝国最強の武王、ゴ・ギンの入場だぁあ!」

 手に持つ棒か何かで増幅されたであろうまだ幼い声が闘技場にこだまする。その声に応えるように客席の無数の土くれが足を踏み鳴らす。

 

 

 鉄格子が持ち上がり、入場してきた武王はジルクニフの記憶にあるものと違う見た目をしていた。身に纏う鎧は帝国四騎士に与えているものより高価そうで魔法の光を宿していた。その手に持つ大きく無骨な大剣も同様に魔法の輝きを放っている。いわゆる魔化された装備とは少し輝きが違う気がしたが、その理由は分からない。

 

「そして対戦者はあのアダマンタイト級冒険者モモンの従える魔獣!森の賢王ことハムスケ!!」

 

 声が響き渡るとほぼ同時に武王が入ってきた門の反対側の鉄格子が持ち上がり、森の賢王が入場する。

 その美しい毛並みに威厳ある風貌や鋭い眼光はまさに森の賢王という名にふさわしく思われた。その身にはこちらも魔化された防具を着用しており、その実力が窺われる。

 どちらが勝つのか見当がつかない組み合わせに、正直楽しみにしている自分がいることをジルクニフは認めざるを得なかった。

 

 両者が対峙し、間に立った闇妖精(ダークエルフ)が試合開始の合図を告げる。

 

 

「……それでは両者位置について─────始めっっ!!!!」

 

 




嚆矢濫觴(こうしらんしょう)・・・物事の始まり・起こり。「嚆矢」はかぶら矢の意。転じて、物事の始まり。昔、戦いを始めるときに、かぶら矢を敵の陣に射かけたことからいう。

試合の戦闘描写はバッサリ行く予定です。



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一陽来復

〆の回のため短めです









 その戦いは見事と言う他なかった。

 

 武王がその手に持つ大剣を信じられない速さで振り下ろすのを、魔獣が尻尾で跳ね返し体当たりを食らわせたところなど、興奮のあまり声が出るのも仕方ないというものだ。

 

 はっきり言って楽しかった。会談の合間の余興というには見応えがあり過ぎたのだ。

 

 かつて帝国の闘技場で魔導王と武王が戦った時は、とても試合を楽しめるような状況ではなかった。確かに今回も突然のことで動揺はしたが、あの時ほどではない。

 

 結果は武王の惜敗ではあったものの、魔導王に蘇生されてからまだ月日がそう流れていないことから考えると十分なものだったと言える。

 

 それに、果実水も非常に美味だった。以前来た時とはまた別のものではあったが、皇帝という立場上、日頃から己の所作には気を付けているジルクニフをして浴びるように飲みたいと思わせるほどの一品であった。

 

 それらのことに気を囚われ、試合後の魔導王との会談でどう立ち回るか考えるのを忘れていたことに気付く。

(……もしかして、それも奴の狙いか?いや、考え過ぎか……)

 

 闇妖精(ダークエルフ)の終了の宣言と共に両者が退場し、動像(ゴーレム)達がひとしきり足を踏み鳴らした後、闘技場に静寂が訪れたタイミングで魔導王が口を開く。

「……さて、ジルクニフ殿。楽しんでいただけただろうか?」

 

「え、えぇ勿論です。このような試合はそう見れるものではないでしょう」

 

「それは良かった。で、この後なんだが、そもそも今日は会談という話だったが貴殿も知っての通り帝国の今後についてはすでにうちの部下から聞いていると思う。今回の件はこれから何かと二国間の関りが増えると思われるので互いの関係を良好に保つために催したものだと知っておいてほしい」

 

「……はい、私どもの為にここまで用意していただき誠にありがとうございます」

 

「まぁ、そう畏まらないでくれジルクニフ殿。今言った通り現状ここで早急に話し合わなければならないような議題など無いのだ。今日の催しは我々なりの歓迎。それならば最後までもてなすというのが筋。食事と宿泊の準備もしているのでゆっくりしていってくれ」

 

(これが狙いか!ここに滞在させその間に洗脳でもする気かっ……) 

 しかし、前回と状況は違う。ここまで言われては断るわけにもいかないのだ。属国になった手前、宗主国には従順であることを魔導王に示す必要がある。

 

 それに今更何ができようか。

 (……あの魔導王のことだ。本当に洗脳する気があるならこちらが気付かないようにだって出来るはずだろう。ここは受け入れるしかない……)

 

「身に余るご配慮に深謝申し上げます。ではお言葉に甘えさせて頂きたく……」

 

 ジルクニフは覚悟を決め、申し出を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 幻のようなひと時であった、とジルクニフは思う。 

 

 出された食事はその暴力的な美味によって脳が痺れるかの如き錯覚を引き起こすほどのものであり、あてがわれた部屋はその豪華な調度品と内装ゆえ皇帝として贅を尽くしてきたという自覚を持つジルクニフ自身ですらそわそわと落ち着かず部屋を歩き回ってしまった程である。

 

 供として連れてきた四騎士の二人が宿泊したのがどのような部屋だったかは定かではないが、翌朝顔を合わせたときの様子から見るに似たような経験をしたに違いない。

 

 我々人間など魔法で洗脳するまでもないということなのだろう。あれほどのもてなしを受けてなお心が揺さぶられない者などいないに違いない。

 

 帝城に戻り一人執務室にいるジルクニフは、色々あった墳墓での滞在を振り返り、時には恥じ、後悔し、情けなくなったりもしたが諦めの感情が大半であった。

 

 一度諦めてしまえば気楽である。なにせ全ての不満や面倒ごとを魔導王に投げればいいのだ。既に一日にこなすべき業務の量もかなり減ってきており、その内かつての半分以下になる見込みだ。魔導王に感謝すべきとすら言えよう。

 おそらくこの世界で誰も敵う存在がいないであろう神の域に達する圧倒的強者の庇護下にあると考えれば未来は明るいとすら思える。

 

 皇太子として、皇帝として、苛烈な日々を送ってきたジルクニフにとって初めて抱く安心感というものがそこにはあった。

 

「───もう、いいか。全て魔導王陛下に任せよう……。抗うだけ無駄だし、おそらく最初の属国として当分の間はいい思いが出来るはずだ……」

 

 椅子から立ち、窓を開けると涼やかな風が部屋に流れ込む。

 窓から見える雲一つない快晴の空とあわさって、これからの未来はそう悪いものではないと励まされているかのように思われた。

 




一陽来復(いちようらいふく)・・・悪いことが続いたあと、ようやく物事がよい方に向かうこと
万里一空(ばんりいっくう)・・・目標や目指しているものを見失わずに努力し続けること

急ぎ足になって申し訳ありませんがいったんここで終わりです。

無謀にも新章突入の予定なのでタイトルを変えました。


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紫電清霜ジルクニフ
肝胆相照


 幸せだ。

 

 なんとも清々しい。

 

 気分は清爽極まりない。

 

 

 ジルクニフの顔に浮かぶのは莞爾(かんじ)たる笑いであった。

 そこにあるのは安堵と解放感。

 長く続いた曇天模様の空が一瞬のうちに晴れ渡ったかのようである。

 

 それもそのはず、本格的に属国としての執政が始まって以来、行政権のほとんどは魔導国へと譲渡された為にジルクニフの仕事が激減したのだ。

 それだけではない、魔導国の属国になったということはジルクニフの後ろにいるのは他ならぬ魔導王。あの圧倒的な存在の前に不満を漏らす者など皆無であり、己に対するあらゆる糾弾を魔導王の名の下に封殺できるようになった。

 

 自分が最高権力者でなくなったが故に責任という責任から解放され、悠々自適とはいかないまでも、胃を痛め続けていたあの頃に比べて遥かに気楽な日々を過ごしているのだ。ジルクニフを殺すということが魔導国への反逆に等しい現状、暗殺の危険性もない。

 

 それゆえジルクニフは今までの短く熾烈な人生の中で最も平穏で安らかな日常を送っている。

 これが笑みをこぼさずにいられようか。

 よく笑うようになった、と側妃に言われるのも仕方のないことである。

 

 だが今日の機嫌がすこぶる良いのはその限りではない。今日は親友のリユロが訪ねてくる日なのだ。

 

 今日もまた楽しいひと時を過ごせるかと思うと楽しみでしかたがない。

 

 そして警備兵やジルクニフ本人からの許しを得て入室してきた配下が待ち望んだ言葉を告げる。

「陛下。ご予定のお客人が───」

 

「おお!今すぐ入れてくれ」

 今日の仕事はとうに終わっている。

 何一つとして後ろめたいことはない。

 まぁ、たとえ仕事が残っていたとしても気にしないだろう。

 親友と会えること以上に大事なことなど今の自分にはない。

 

 配下に案内された友人が入ってくる。

 ジルクニフは立ち上がり、心の底からの嘘偽りのない満面の笑みを浮かべ両手を広げ歓迎の意を示す。

 

 入ってきたのはモグラのような外見を持つ亜人。右手には布袋を持っていた。おそらく何かを差し入れに来てくれたのだろう。

 

「ああ!よく来てくれたな!我が親愛なる友、リユロよ!」

 

「おお!我が真なる友、ジルクニフよ!またこうして会えることの何と喜ばしいことか!」

 

 共に優しく抱擁し、ひとしきり抱きしめ合った後、どちらからともなく離れる。

 

「私も会えて嬉しいさ。リユロ」

 

 リユロが笑みで応える。彼を知らぬ人間が見れば恐れるかもしれない面構えだが、ジルクニフにはそれが心からの笑みであることがすぐさま理解できる。それほどまでに彼とは懇意にしているのだ。

 

(───ふふ。以前の私なら恐れをなすかもしれないな。……亜人が最初の友人となった人間などそうはいまい)

 

 クアゴアという亜人種の王であるリユロとは、同じ王という立場にいながら魔導王の前に屈するという憂き目を見た共通点がある。それは亜人と人間という種族の壁を超えてなお強い親近感を抱かせるには十分過ぎるほどであった。

 

 二度目に出会ったその場で意気投合し、度々会っては色々と悩みを打ち明けあいながら互いの苦労を労っている。今まで友人と呼べる人間がいなかったジルクニフにとってリユロ以上の存在はなく、こればかりは魔導王のおかげだと少しだけ感謝したい気持ちもあった。

 

「今日も君の口に合うとびきりの馳走を用意させている。楽しみにしてくれ」

 

「おお!すまないなジルクニフよ。お礼と言っては何だが、人間が好むと聞いたキノコを少しばかりではあるが持ってきた。今度感想を聞かせてくれ」

 

そういってリユロは右手に持った袋を差し出してきた。独特の芳醇な香りが漂う。

 

「それは楽しみだ。後で料理人に調理を頼もう。……では、行こうか」

 

 二人は並んで部屋を出て、目的地へと歩き出した。

 

 

 

「美味い!美味いぞジルクニフ!」

 用意した料理をリユロが美味しそうに次々と口に運び込む。

 

 マナーなどあったものではないが彼は亜人だ。人間のルールを押し付けるのも良くない。それに大きなモグラのような見た目をした亜人が嬉しそうに食事をとる様は彼の厳つい顔を差し引いても微笑ましさすら覚える。

 

「気に入ってもらえて嬉しいよ、リユロ。さぁどんどん食べてくれ」

 

(───思えば誰かと向かい合って対等な立場で食事を楽しむことなどリユロと会うまでなかったな……)

 

 ジルクニフは誰からも次代の皇帝候補として育てられ扱われてきた。おそらくどこかで寂しさを感じていたのだろう。仕事に追われることも命の危険に脅かされることもなくなった今だからこそ分かる。そんな自分の心の隙間を埋めてくれたリユロという存在には感謝しかない。

 

「────ふぅ、実に美味しかった。……この前飲んだあの冷たい飲み物は何と言ったか……」

 食べ終えたリユロは鋭い爪を持つ手で器用に裂かぬように布を持ち口を拭いている。彼なりに人間であるジルクニフに合わせた所作を心掛けているのだろう。

 

「アイスマキャティアのことかな?」

 

「そう、それだ。あれは甘くて忘れられない味だった」

 

「勿論、準備してるとも」

 控えさせていたメイドを呼び持ってくるように命じる。事前に用意するよう伝えていたのですぐさまメイドがアイスマキャティアの置かれた盆を運んでくる。

 

  リユロはそれを葦の茎で作った長い管のようなもので吸い上げて飲んでいる。彼の口ではグラスに口をつけて飲むのは難しいからだ。種族の違いというものは予想以上に様々なことを気付かせてくれる。

 

「───それでジルクニフ。最近はどうだ?」

 

「聞いてくれるかリユロ……」

 

 ジルクニフは先日あったことを話す。魔導国からエ・ランテルにて会談を行うと言われ行った先がナザリック地下大墳墓であったこと、地下に闘技場があったこと、あそこの食事や寝室は異様に素晴らしかったことといった様々な体験を話す。

 話が進むにつれてリユロの先ほどまでのにこやかな顔は見る見るうちに神妙な面持ちへと変わっていった。

 

「……属国になったからこそ、力を再び見せつけようとしたのかもな」

 

「リユロもそう思うか。……まったく、もう少し驚かせないようにして頂きたいものだ。……いや本当に。それでそっちはどうなんだ?」

 

 リユロの表情が曇る。いかにも何か悲しいことがあったと言わんばかりの顔だ。

 

「それがな……。我々の種族は幼少期に食べた金属で後の強さが決まるのだが、それを知ったあのお方が試してみたいと言い出してな……。」

 

 ジルクニフの背中に寒気が走る。

 あの悍ましい死の権化はやはり命を弄ぶことに何の抵抗もないのだろうと。

 

 リユロは暗い顔をしながら先を話す。

 

「俺だって断れるものなら断りたかったさ……。他に何をされるか分かったもんじゃない。でも……」

 

 魔導王陛下には逆らえない。それが被害者二人の共通認識だった。

 

「それは辛かったな……」

 

 ジルクニフはまるで自分の身に降りかかったことかのように案じ、同情する。自分だって魔導王が帝国騎士で作ったアンデッドが一般人から作ったアンデッドより強いか気になるから寄越せと言われたら差し出さざるを得ない。

 

「ああ……。でも子供たちは皆帰ってきたんだ。楽しいことでもあったかのような顔をしていたと聞いている」

 

「それは……」

 ジルクニフは先日の墳墓での滞在を思い出す。自分と同じようなことを彼らも体験したのかもしれないと。

 

「話を聞いたが金属を与えられたこと以外は何もされてないようなんだ。しかもどうやら相当に高品質な金属だったたらしい」

 

「アダマンタイトか?」

 

 ジルクニフにとって思いつく限りで最も希少価値の高い金属と言えばアダマンタイトだ。おそらくほとんどの人間にとってはそうだろう。なにせ最高位の冒険者をアダマンタイト級と呼称するくらいなのだから。

 しかし、リユロの答えは予想外のものであった。

 

「いや違う。どうやらより上の金属が何種類かあるらしい。それらを与えたので他の子供と比べながら経過観察をしてほしいと頼まれたんだ」

 

「そんなものがあるのか……」

 

 アダマンタイトより上の金属があるとは聞いたことがない。独自に調査してみたいという気持ちが湧いたが余計なことをすればジルクニフだって何をされるか分かったものではない。

 特にジルクニフが恐れているのは魔導国の宰相アルベドだ。

 あの絶世の美女と幾度か面と向かって話して思ったが、妖艶な笑みの後ろに何か悍ましいものの存在を感じた。我々のことを虫けらか何かだと思っていたとしてもおかしくはない。

 

 そんなことを考えていると、ふと恐ろしい考えが頭をよぎった。

 口にするのを躊躇うが二人の間に隠し事は無いようにしている。それにリユロの意見も聞きたかったので、恐る恐る口を開く。

 

 

「なぁ、リユロ。前に魔導王陛下は未知を求め、世界を知りたいと思う者は魔導国に来いと言っていたことがあるんだ。もしかしてあらゆる種族を全種族平等の方針を掲げて集めているのは……」

 

「───魔導王陛下の知的探究心を満たすためだと?」

 

 リユロがジルクニフの言わんとすることを察する。彼は力に訴えるだけでなく理知でもって種族を治めた存在だと聞いている。事実、下手な人間より遥かに頭が切れるのだ。

 

「あぁ、何か想像もつかないような壮大な実験を行っているのかもしれない。私の知る限り魔法詠唱者(マジック・キャスター)というのは全てを払ってでも知識を求めようとする者たちばかりだ」

 

 否定したくとも否定できない推測を前に、二人の間に沈黙が流れる。

 本来なら絶望するようなことかもしれない。

 だが魔導王の力を知る二人の抱いた感情は諦めに近いものだった。

 

「まぁ、それが本当だったとしても何もできないがな」

 

「そうだな。私もそう思う。……これから何が待ち受けてるか分からないが、こうしてリユロと過ごせる日が少しでも多くあればと思うよ」

 

「ああ……俺も同意だ」

 

 リユロと同じようにジルクニフも中空を見上げる。

 

 二人の瞳には諦めがあった。何があっても受け入れるしかないのだ、と。

 

 二人は心の中で互いの絆を確かめ合っていた。何があってもこの友情だけは疑うまい、と。

 

 




肝胆相照(かんたんそうしょう)・・・お互いに心の奥底までわかり合って、心から親しくつき合うこと。心の底まで打ち明け深く理解し合っていること。

ジルクニフとリユロのシーンは13巻でもお気に入りです


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法界悋気

一方その頃アインズは……








 ここはナザリック地下大墳墓の一室。

 

 久々に居城に帰ってきた墳墓の主である魔導王アインズ・ウール・ゴウンは最近では珍しく予定のない今日をここで過ごそうと考えていた。

 

(やっぱりこっちの方が合っている……。これが帰巣本能とかいうやつなのかもしれないな)

 

 エ・ランテルの部屋はナザリックに比べ遥かに見劣りする。それでも鈴木悟だった頃に比べれば十分に広く、ナザリックの寝室ほど広すぎもしないために最初はエ・ランテルの方が気後れせずに済むので良いとさえと思っていた。

 しかし、ここ二週間ほどエ・ランテルでの業務が続いた後にはすっかり帰りたくなってしまった。そういう訳で今日は一日ナザリックで過ごすことに決めたのだ。

 

 今日は仕事のない日ではあるが、何をするかは決まっている。

 そう、ジルクニフ観察である。

 ここ最近忙しかったためにすっかりほったらかしになってしまっていたのだ。

 

(……これから王として嫌でも他人の前に立つことが増えるだろうし、もう少し王の態度というものを学ばせてもらおう)

 

 広い一室に一人、鏡の前の豪華な椅子に座る。そして鏡に向かって少し大げさに手を動かすと墳墓の外の景色が映る。この遠隔視の鏡ならば空からあらゆる場所を眺める事が出来、さらにスクロールを使えば室内を覗き見ることだって可能だ。

 

 目的の人物を見るべく手を動かして覗く場所を変える。そうこうしているうちに、鏡面には帝都アーウィンタールに聳え立つ帝城が映った。

 さらに近寄って執務室と思われる部屋を外からジルクニフを覗く。

 

「どれどれ……。ジルクニフのやつ今は何をしてるんだろうか……。──────む?」

 

 そこでアインズが見たのは、今まで見たことがない清々しい笑顔で誰かと話しているジルクニフの姿であった。

 

(あいつ、あんなに笑うやつだったか?いったい誰と話してるんだ……)

 

 ジルクニフの営業スマイルならばアインズも幾度か見たことがある。しかし、あのような心底幸せそうな満面の笑みは初めて見る。

 相手が誰か知りたい気持ちを抑えられなくなったアインズはすぐさまスクロールを使用し、部屋の中を覗く。

 

「何……あれはクアゴアの王じゃないか……。確か名前は……リユロ?だったか。いつの間に……」

 

 ジルクニフとリユロの間に交友関係があったとはアインズは思いもしなかった。確かに魔導国の方針に全種族平等を掲げたのはアインズ本人である。しかしアインズ自身この世界で種族の違いによる摩擦はよく見てきたので、種族を超えた信頼関係が築かれるのはもう少し先だろうと思っていた。

 

(どうしてあいつら仲良くなってんだ……。二人とも俺の前ではよそよそしいのに……)

 

 友達になりたかったのに上手くいかなかった相手が新しい友達と楽しそうにしている。

 そんな光景を目の当たりにしたアインズの心にはごく小さな嫉妬の炎が灯った。そしてそれはその小ささ故に抑制されることなく残り続ける。

 

 彼らがいつ出会ったのか、どれほど仲が良いのかなど気になることはたくさんあったが、ふと気が付けば二人は揃って部屋から出てしまっていた。

 

 彼らの関係が一体どういうものなのか気になって仕方がないアインズはそのまま彼らの後を追い続ける。

 しばらくして、二人の足が扉の前で止まった。秘密の会談でもするのかと思っていたらそこにあったのは料理の数々。ナザリックの料理に比べれば見劣りするが、精いっぱいの礼を尽くしていると思える程には手の込んだものに見えた。

 

 そして席に着き食べ始めた彼らは食事中も相も変わらず楽しそうに話している。

 

 アインズは楽しそうにしている二人をこっそり覗いているという自分の状況がいかにも友達のいない人間のやることではないかと思い至り、鏡を見るのをやめる。

 

(何してるんだ俺……。まぁいい……今日の覗き見はこれくらいにしとこう。何か敗けた気がするが気にするのはやめだ。─────さて)

 

 予定よりも早くジルクニフ観察を切り上げてしまったので、余った時間をどうしようかと考えだす。支配者の演技の練習をしてもいいのだが、今それをすると夜にやることがなくなってしまう。それに何を考えていてもついさっきのジルクニフとリユロの姿が頭にちらついて集中できない。

 

(ったく……どこで知り合ったんだあいつら。仲良すぎだろ……)

 

 アインズは鏡の置かれた部屋を出て廊下を歩きながら今日の残りの時間をどう使うか考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、マーレと今後エ・ランテル郊外に建設予定の冒険者訓練用ダンジョン建設の打ち合わせをしていたところ、デミウルゴスが入室を願い出てきた。アインズは許可を出し、デミウルゴスと近況についてしばらく話し合っていた。

 

「────そういえばデミウルゴス。この前ジルクニフとクアゴアの王とが仲良くしているのを見かけてな」

 

「そ、それは……」

 

「余りにも仲がよさそうだったから人間とクアゴアで一緒に冒険者パーティを組ませてみるのも面白いかもしれないな」

 

その瞬間、本来窺い知ることのできないはずのデミウルゴスの眼が見開かれたように見えた。口を少し開けて驚いているようにも見える。アインズは自分が何か失言をしたかと焦りだす。

 

「……流石はアインズ様。今から私がお見せしようとした報告書の中身を言い当てられた上にその先の計画まで考えられているとは……。このデミウルゴスいつまでたってもアインズ様の叡智に驚かされるばかりです。もはや報告書も不要なのかもしれませんね」

 

(えっ……)

 

「ど、どういうことですか。アインズ様、ぼ、僕にも教えてください!」

 問いかけてくるマーレに対して、アインズは表情の浮かばない自分の顔に感謝する。

 

(いやいや何のことかサッパリ分からんし報告書やめるとか勘弁してくれ……。なんて言えるわけもないし……)

 

 アインズの中に罪悪感が募る。しかし真実を吐露するわけにもいかないことも重々承知だ。腹をくくってギルド長の証であるスタッフをデミウルゴスに向ける。

「……デミウルゴス、マーレに分かりやすく説明してあげなさい」

 

 アインズは興味なさげに視線を逸らしつつも、今からデミウルゴスの話す内容を一言一句聞き逃すまいと全神経を集中してこっそり耳を傾ける。

 

「はい、畏まりました。……アインズ様は帝国の皇帝とクアゴアの王とが非常に仲がいいという情報を手に入れられた。なのでそれを利用して種族を越えた友好関係というものを国内外にアピールするため人間とクアゴアで冒険者パーティーを組ませようとお考えになった。ここまではいいね?」

 

「は、はい」

 

「そしてそれは正式に魔導国の冒険者組合が設立され活動を開始したこともついでに宣伝できるのだよ。加えてちょうどこの前試作品が出来上がったドワーフ製のルーン武具を支給して使い心地を聞き、評判が良ければ広めさせる。というように一度にいくつもの収穫を得る事が出来るという素晴らしい計画。流石はアインズ様、報告内容を事前に察知した上にそれを利用した策を既にご用意されているとは……。このデミウルゴスいつまでもアインズ様の叡智には驚かざるを得ません」

 

「な、なるほど……。さ、流石です。アインズ様。あ、あの、憧れちゃいます」

 

「う、うむ。デミウルゴスには即座に見抜かれてしまったようだな……」

 

 アインズはそんなこと考えてないと言いたくなる気持ちをぐっとこらえる。真実を知った時の彼らの落胆が恐ろしく、立場もあって言えるわけがないからだ。それにデミウルゴスの話は確かに名案に思えたので実行に移して良いとも思えた。

 

 しかし、何かに気付いた顔をしたマーレが問いかけてきた。

 

「えっと、あの、その、お姉ちゃんが言ってたんですけどクアゴアって日光で目が見えなくなるって……」

 

「あぁ、それは問題ない。この前頼んでいたモノが量産体制に入ったので今年中にほとんどのクアゴアが日中でもエ・ランテルの街を歩けるようになるだろう。そうだろう?デミウルゴス」

 

「はっ!その通りでございます」

 

 

 

 少し前であれば人間とクアゴアを組ませて冒険者パーティーを作るなどというのは却下していただろう。というより不可能であった。その原因はクアゴアという種族の抱える特性がネックだったからだ。

 

 クアゴアという種族は夜目がきく。一見便利そうに思えるそれは逆に日光などの強い光のある場所では盲目同然になるというデメリットを抱えていた。

 エ・ランテルで挨拶がてら今後の統治について話そうとリユロを呼ぼうとした時に先方からどうか室内か日没後にしてほしいと懇願されたのはアインズの記憶に新しい。

 

 これからエ・ランテルに用事のあるクアゴアは増えるだろうし、他にも光に弱い種族がいるかもしれない。したがって彼らが日中でもエ・ランテルの街を歩けるようにする必要があった。

 

 マーレの力を借りてエ・ランテルの地下に街か何かを作ろうとも一度は考えたのだが、今は冒険者用の練習ダンジョン建造の仕事がある。それに一万ものクアゴアやその他の種族も暮らせるような空間を地下に作るとなると、上の街が沈んでしまわないかという心配がある。

 

 そこで思いついたのが日光を遮断するサングラスの生産であった。しかし、この世界においてサングラスそのものをたくさん作るのは難しい。その結果パンドラズ・アクターの案で作られたのが動物の革製のアイマスクのようなものに横に細長い切れ目を入れた遮光器であった。

 サングラスに比べ遥かに単純で作りやすい皮革製品であり、別件でナザリックに連れてきたクアゴアの子供に試したところ効果はてき面だったので量産を命じていたのである。

 

 これを使えば日中で盲目同然になることもない。加えてもともと視力の良い種族であり、制限された視界でも十分に活動できると聞いている。もう既に1000個ほど製作され順次配布されており、評価も上々だ。

 

 遮光器によって日中の活動が可能になったクアゴアと職を失った元帝国騎士を組ませれば、昼は騎士が前線に立ち夜はクアゴアが活躍するという適切な役割分担が可能になる。そして彼らにはルーンを刻んだ武具を支給して、使い心地を聞き今後に生かす。

 

 この計画が上手くいけばあらゆるメリットがもたらされる。

 

 全種族平等思想のもと種族を超えた友好関係のアピール、魔導国冒険者組合の旗揚げ、ルーン武具の宣伝。これらを一度に可能にしてしまう妙案だとアインズは表情の出ない骨の顔でほくそ笑む。

 

 あらためて思い返してみてもさほど大きなデメリットがあるとは思えない。せいぜいドワーフ製の武具をクアゴアが拒絶するかもしれないぐらいのことだろう。

 

 

 その後アインズはおおまかな計画の内容についてデミウルゴスと話し合い、と言ってもほとんど相槌を打っているだけだったが、今度アルベドも含めた会議で議題に取り上げようという結論に至る。

 

「……そこまで急ぎではないが、聖王国の件もある。今から着々と準備を進めていこう」

 

 守護者二人の意気込む返答を受け、アインズも覚悟を決めた。

 

 

 

 




法界悋気(ほうかいりんき)・・・他人のことに嫉妬すること。

パンドラズ・アクター→ドッペルゲンガー→埴輪っぽい顔→土偶?→遮光器土偶!
てな感じで連想した挙句の案。

活動報告にも記載したように更新が遅くなるので書きあがった時は出来るだけ事前に告知しようと思います。


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回光返照

 その日、エ・ランテルの街は繁栄の到来を思わせる虹色の輝きにむせていた。

 

 人々は外に繰り出し広場へと向かう。そこにアンデッドに怯えるかつての市民の姿は無かった。そんな彼らのお目当ては今からまさに出発せんとする冒険者たちだ。

 

 国を挙げての式典は、集まる人々のうねりに伴って徐々に祭りの様相を呈し始めた。路上には露店が立ち並び、音楽を奏でる者や伝承を語る吟遊詩人(バード)が現れた。今日はアンデッドたちによって執政、警備、運送が行われるこの魔導国において生者たちが活躍する最初の時なのだ。未だにアンデッドを恐れ、魔導国の方針を疑問視する者もいるが、市民は徐々に自分たちを生者という括りでもって種族を超えた一体感を感じ始めている。

 

 また、最近になってあらゆる種族の知識人による様々な種族の特性や考え方について記された本が出回り始めた。それによって亜人や異形でもアンデッドよりはマシかもしれないと思う者たちが増えてきたのである。最近では他国の研究者や魔法詠唱者がさらなる交流や知識を求めこの国を訪れることも多い。

 

 

そして今、多くの市民が魔導国冒険者組合の始まりを祝っている。

 

 街の中央の広場に設営された舞台の上には魔導王やその側近だけでなく、冒険者組合長やバハルス帝国皇帝に加えクアゴアの王がいる。皆今日の式典にて冒険者たちを激励するために招待された。その舞台の前には冒険者たちが誇らしげな顔で並んでいた。

 

 今回の遠征で組織された彼らは「冒険隊」と名付けられ魔導王による勅令の下に任務が与えられている。その任務は「ドワーフの国までの安全な交易路の確保に伴うアゼルリシア山脈の探索」となっている。これは将来的に両国間に魂喰らい(ソウルイーター)による馬車鉄道を敷設することを目標としている。鉱山資源をドワーフの国から輸入し、魔導国からは酒や食品やアンデッドを輸出するというこの貿易構想は魔導国の更なる発展には欠かせないものだからだ。

 

 そして一台の馬車が到着した。馬車から出てきたのはこの街の英雄モモンであった。その瞬間、群衆の歓声が渦巻きモモンを称える声がそこらじゅうから湧き上がる。モモンはそれを手で制して拡声器を受け取り、人々に向かって語りだす。

 

「今日この日は魔導国にとって、この国に生きる者たちにとって、冒険者たちにとって喜ばしい日だ。ここにいるバハルス帝国皇帝とクアゴアの統合氏族王の両名が種族を超える友情があることを我々に教えてくれた。それでもまだまだ不安を抱く者も多いだろう。しかし、この目で魔導王をそばで見てきた私が言えることは、この王ならば更なる繁栄が望めるということだ。そしてそこには種族の垣根など存在しない。生きとし生ける者皆が手を取り合っていこうではないか!」

 

 モモンの呼びかけに応じて歓声が、拍手が、沸き起こる。観衆の顔には笑顔が浮かぶ。

 

 そもそも王がアンデッドであることを除けば、順調にかつ急速に発展を遂げる素晴らしい国なのである。まだまだほんの少しではあるがモモンに対する信頼もアインズ・ウール・ゴウン魔導王への信頼へと変わりつつあった。

 

 広場から大通りへ出て門までの道のりを冒険隊が練り歩く。群衆は彼らの勇気を称え凱旋を願っている。やがて門に着き準備された馬車に彼らが乗り込んだ。未踏の地を進む冒険隊のために魔導国からは特別に魂喰らい(ソウルイーター)の引く馬車が用意されているのだ。これから大規模な冒険隊が編成される時には特別に貸し出されることになっている。

 

 やがて彼らを乗せた馬車が見えなくなるまで、集まった人々は手を振っていた。

 

 

 

 

「くそっ、やられた……」

 

 ジルクニフが今回の異種族混合冒険者パーティー計画について聞かされた時、最初に抱いたのはしてやられたという思いである。リユロとの関係は魔導王にはすべてお見通しだったというわけである。しかもすぐさまそれを利用してきた。機を見るに敏とはこのことである。

 

 魔導国側からは、種族を超えた交流は魔導国の理念に沿うものであり非常に喜ばしく思っているなどと書かれた文書が届いたが、ジルクニフにしてみればお前のプライベートだろうがおかまいなしに常に監視しているぞという脅し文句にしか思えなかった。

 

(……式典を執り行うのでエ・ランテルに来いとのことだが、まぁ視察がてらというのも悪くなかろう)

 

 式典当日は壇上に上がって群衆の前で冒険者たちに激励の言葉を贈ることになっているが、自分の容姿が人より優れていることを自覚しているジルクニフはそれを利用してエ・ランテルの市民に一人の人間として好印象を抱かせようとも考えていた。

 

 それだけでなく、ジルクニフは魔導国の首都をこの目で見る必要があると思っている。部下から色々伝え聞いてはいるもののどれも想像のつかないものであり、実際に目の当たりにするまで理解できないだろうという結論に至ったからだ。第一、そこかしこを死の騎士(デス・ナイト)が歩き回って魂喰らい(ソウルイーター)が馬車を引いて空にはドラゴンが飛び交っているなどと言われてもピンとこない。

 

それに首都というのは国の顔である。将来的に帝国にも取り入れられるであろう制度を確認しておこうというのは自然なことだろう。しかしどうしても魔導王がまた何かを企んでいるのではないかと疑ってしまう。

 

「ただの式典で終わればよいのだがな……」

 

 

 

 

 

 結論から言えば特にハプニングや想定外のことが起こることもなく式典は終わった。長い間敵国であった王国の民たちが多いエ・ランテルで自分が受け入れられるのかという心配はあったが、自分のスピーチの際に観衆の様子を窺ったところなかなかいい感じだったと思う。当然モモンほどの人気ではなかったが。

 

 この後は視察と称して3日ほどこの魔導国に滞在する予定となっていた。今まで見た限りでは帝都ほどの繁栄はしていないものの、今日のエ・ランテルはそこかしこにお祭り気分が満ちており、ジルクニフの予想以上に人々は幸せそうであった。

 だが、視察するからにはただ見学して終わりというわけではない。

 

 (何もかもが完璧な国など存在しないはずだ。魔導国の農村部はどうなっているかも知っておきたい……)

 

 例え属国となったとしても、いや属国だからこそ宗主国の情報は怪しまれない範囲で収集したい。というのは建前で本音のところは好奇心によるものだ。下手な好奇心は身を滅ぼしかねないが、帝国に将来導入されるであろうシステムの把握はしっかりしておきたかった。

 帝国の行政はほとんどを魔導国任せにしているものの、自分の国が将来どうなるかは覚悟しておきたい。

 

 そこでジルクニフはエ・ランテルの視察を終えた後、農村部で行われているというアンデッドによる大規模農耕の見学を申請した。魔導国側から正式に許可が下りた以上都合の悪い部分は見せてこないとは思うが、行く価値はあるという判断だ。

 

(そのうち我が国でも始めるだろうしな。元々考慮していたとはいえ、心構えぐらいはしておかねば……)

 

 

 

 

 

 

 

 そして農場視察の日、ジルクニフを待ち受けていたのは想像を絶する光景であった。

 

 どれほどの広さか予想もつかない広大な農地を何頭もの魂喰らい(ソウルイーター)が車輪付きの(すき)と思しきものを高速で引いて耕している。その速さゆえに土埃が舞うぐらいだ。また別の畑では何体もの死の騎士(デス・ナイト)が土をひっくり返している。そしてその耕された後の畑に大量の骸骨(スケルトン)が種を蒔く。

 

 アンデッドが農業に従事するという名状しがたい不気味で異様なその光景は事前に覚悟していたジルクニフをしてなお震え上がらせるに十分であった。

 

 聞けばちょうど魂喰らい(ソウルイーター)死の騎士(デス・ナイト)のどちらが早く畑を耕起できるかの実験を行っているらしい。より効率的なアンデッドを使用した農法を模索し続けていくとのことだ。

 

(─────アンデッドの導入だけでも使用料をとられそうだというのに効率的な利用法まで確立されるとこちらの立つ瀬はあったもんじゃない……。食糧生産の全てを握られるというのは……)

 

 今回の視察では予測よりも遥かに帝国は魔導国に依存する状況に置かれるということが分かった。

 

 それに魔導国産のアンデッドは魔導王の支配下にある。農民が何か怪しい行動を起こしたら鎮圧せよと裏で命令を下されているかもしれない。

 

 本来ならば危機感を覚えて奔走したりするのだろうが、今のジルクニフにはそのような行動をとる気などない。

 

(まぁ私にできることなどないからな。全て魔導国に委ねるしかないのだ。どうせ当分の間は周辺国へのアピールとして多大な援助のもと繁栄が約束されているんだしな……)

 

 すっかり諦め癖がついてしまったと自分でも思うが仕方ない。仕方がないのだ。

 

 

 

 

 視察を終えエ・ランテルに戻りいくつかの公務を済ませ、翌日ジルクニフら帝国使節団は帰路についた。それに際して魔導国側から転移魔法を使って送ろうという申し出があったがジルクニフは丁重に断った。転移で一瞬のうちに移動できるのは確かに便利だか少し味気なく思われたからだ。

 

(どうせすぐ帰っても暇を持て余すだけだ。それにあの言いようだと馬車の中ぐらいは覗かれてないだろう。……多分)

 

 

 晴れた空の下、一面の草原を馬車は颯爽と駆けていく。しかしそれでも魔法が施された車内は静かだ。ジルクニフは考え事をしながらぼんやりと窓の外の地平線を眺めている。

 いろいろと口に出したいことはあるが、向かいに座っている部下たちの手前、独りごつわけにもいかない。

 

(確かに気は楽になった。しかしこれからどうなるかサッパリ分からん。ある日突然用済みだと消されるかもしれん。まぁ、それも仕方ない────その日が来るまで……せめて、皇帝らしくあれればよいのだが……)

 

 

 

 

 ふと気づけば、すでに草原が茜色に染め上げられていた。蜜柑色の太陽もすでに下半分が埋まっている。

 

 この地平線の彼方に沈まんとする夕日が闇夜の暗黒時代の到来を示唆しているのか、はたまた一時の夜の後に来る光り輝く新時代の日の出を仄めかしているのか。ジルクニフには見当もつかなかった。 

 

 

 

 

 




回光返照(えこうへんしょう)・・・自らの光を外へ向けるのではなく、 内なる自分へ向けて、心の中を照らし出し、自分自身を省みること。
紫電星霜(しでんせいそう)・・・容姿がすぐれていて意志が固い人のたとえ。

強引な感じもしますがここでいったん終わりです。(気が向けば番外編みたいなのを書くかも)

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

(誤字報告ありがとうございます)


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雲外蒼天ジルクニフ
盲亀浮木


アニメ三期放送中ということで短めですが一話完結の番外編を書きました。






 なんと美しい部屋だろうか。

 おそらくこの部屋を目にした者は皆、中に踏み入ることを忘れてその場に立ち尽くすに違いない。

 

 そう思わせるこの部屋を絢爛たらしめているのは計り知れぬ価値を持つであろう宝物たちだ。

 

 淡い虹色の光を放つ魔獣の牙を丸々一本使った精緻な彫刻。

 杢目調の模様が絶えず流れるように動き神秘的なオーラを放つ壺。

 切っ先から柄頭に至るまで余すところなく宝石で装飾が施された宝剣。

 

 他にもどのようにして作られたのか想像もつかない美術品がいくつも置かれている。

 

 またそれら全てを違和感なく纏め上げる部屋の内装も素晴らしいと言う外ない。

 

 

(一体この地にはどれほどの財宝があるのか考えるのも馬鹿らしくなるな……。何度訪れても底が知れん)

 

 

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=二クスは一人この部屋――――ナザリック地下大墳墓第九階層の応接室――――に設けられた椅子に座っていた。

 

 この応接室は人間が数十人入ってもなお余りある程の余裕があるのだが、家具といえば一基のテーブルとそれを挟んで向かい合うように二脚の椅子があるばかりである。

 

 片方の椅子に着座したジルクニフは自分の向かいに座る予定になっている人物を待っている。先ほど話したメイド曰く、本来は相手の方が先に入室する筈だったのだが所用で少し遅れることになったらしい。

 

 扉の方でずっと立っている一人のメイドのことが少し気になりだした頃、ようやくその人物が部屋に入ってきた。

 

 かつてよく見ていた頃より明らかに血色も良く足取りにも自信か希望のようなものが滲み出ている。身に纏うのは強力な魔化が施されていると思しき漆黒のローブ。以前着ていた衣服とは段違いに価値のありそうなものだ。

 

 その老人はジルクニフの向かいの椅子の横に立つと一礼した。

 

「遅れて申し訳ありません陛下。フールーダ・パラダイン、ここに参上しました」

 

「あぁ、かけてくれ」

 

 帝国の臣下の中でジルクニフが最も信頼していた者にして真っ先に裏切った男、元バハルス帝国主席宮廷魔術師フールーダ・パラダイン。

 

(このような形で再会することになろうとはな……)

 

 

 

 

 

 話は二週間ほど前に遡る。

 

 魔導国への訪問から月日は流れ新しい体制にジルクニフも徐々に慣れてきたころである。減った仕事もさらに効率よくこなせるようになり昼には仕事がほぼ終わる程になった。そしてそれを見計らったかのようにかの国から一通の書状がジルクニフのもとに届いたのだ。

 宗主国と属国という間柄であっても王から王へ送られた書状なので例によって儀礼的な文言も多いのだが、かいつまんで説明するとこうである。

 

「そちらも少し落ち着いただろうし、ナザリックに来て久々にフールーダに会ってみないか?昔のよしみもあるだろう」

 

 何ともふざけた内容である。己が目的の為にジルクニフと帝国の両方を切り捨てた裏切り者と会わないかと言うのだ。その書状を読んだ時など怒りそのままに破り捨ててやろうかと思ったぐらいである。

 

 しかし冷静になって考えると情報収集という面では悪いことではない。最近フールーダが魔導国で新たな役職に就いたという話も聞く。どのみち今となっては両者とも魔導国に属している身内のようなもの。

 恨みや怒りというものは確かにある。だがジルクニフが知る限りでもフールーダという人物が魔導国側につくというのは魔導王の力を知ったのなら仕方のないことだったかもしれない。

 

 遺恨はあるので以前のような関係には戻れないだろうが、バハルス帝国そのものが魔導国の属国になった今ならお互い話しやすくもなる。

 

 (仮に嫌だと思っても断る権利など無いしな……)

 

と渋々魔導王の提案に従ったのだ。

 

 

 しかし実際にこうやってフールーダと会うと思っていたより親近感が湧いた自分にジルクニフは驚いた。

 悍ましきアンデッドよりはマシだからか長い間世話になっていたからか。ハッキリとした理由は分からないが想定以上に会話は弾んだのだ。

 

 まぁ、裏切ったことを何とも思っていない様子なのが少し癪に障るが。

 

「──────して、爺よ。最近なにやら魔導王陛下から役職を頂いたというのは本当か?」

 

「ええ、その通りでございます。恐れ多くも魔導技術開発局の局長という大任を任されました。しかしこの偉大なる墳墓には神々の知識が山のように眠っておりそれを紐解くので精いっぱいでして……。加えてドワーフ達のルーンという技術もまた興味をそそられるものでこれが─────」

 

 フールーダが恍惚の表情を浮かべ自分の世界に囚われたようだったので慌てて引き止めようとする。

 

「───も、もうよいそれぐらいにしてくれ。……しかし爺の様子を見るに天職のようだな」

 

「誠にその通りでございます。開発局で作られた技術は帝国へ還元されることもありましょう。しかしせめて後100年早く魔導王陛下にお会いする事が出来れば……」

 

 帝国のことも多少は気にしているということをアピールしようしているのかもしれないが、フールーダの態度から実際は帝国など歯牙にもかけてないのが見てとれる。

 

 フールーダがこういう人物であることは分かっていたが、ジルクニフの胸中にあるのは怒りというより寂しさに近いものだった。自分に歯向かう者たちを悉く叩き潰してきた鮮血帝だからこそ最も信頼していた者の裏切りが心に爪痕を残していたのだろう。

 

 ジルクニフはメイドの用意した果実水の入ったグラスを手に取りその細緻な装飾を眺めながらフールーダに語りかける。

 

「まぁ、そのような仮定を考えたところで今が変わるわけではあるまい。今後はなかなかこうやって話す機会も少ないだろう。……息災でな」

 

 そう言って目線を戻すとフールーダは目を少し丸くしていた。そしてその後かつてよく見た優しさを感じさせる笑顔を見せる。

 

「陛下もお変わりになられましたな。以前の陛下ならその目に怒りを宿して私を問い詰められたでしょう」

 

「そうかもしれん。しかし諦めがついたというかな。魔導王陛下の力を知ればこうなるのも仕方がないというものだ」

 

「確かにその通りでございますな。いと深きあのお方の力を知ればその御前に平伏するほかないものです」

 

 長い顎髭をさすりながらうんうんと頷いているフールーダに少しイラっとしたジルクニフだが、やはり魔導王さえいなければと今でも時々思う。

 

 もちろん口には出せないことだ。

 以前に帝城の廊下でそのような事をぽろっと口にした時に壁と天井から言い知れぬ殺気を感じて慌てて虚空に向かって取り繕う羽目になったのは記憶に新しい。

 

 

 その後しばらく他愛のない話をしていると、フールーダがそろそろ仕事があると言いだしたので彼の退出の申し出をジルクニフは受け入れた。

 憂鬱なことに今回のナザリック訪問はこれで終わりではない。当然ここの主であるアインズ・ウール・ゴウンにもう一度挨拶をしなければならないのだ。

 それに加え、フールーダとの面会が終わったら話があると言われたのが気になって仕方がない。

 

(出来れば無理難題は勘弁して頂きたいものだな……)

 

 フールーダが退室してしばらくするとメイドから魔導王陛下の準備が終わったので案内する、と言われた。

 

 緊張からか額に汗が滲み出たが半ば諦めの気持ちでジルクニフは立ち上がりメイドの後を追うように応接室を出た。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに今回のジルクニフとフールーダの会合がアインズ・ウール・ゴウンの完全な善意により設けられたものだということは言うまでもない。

 

 

 




盲亀浮木(もうきふぼく)・・・めったに出会えないことのたとえ

以降の投稿は雲外蒼天ジルクニフの章で管理する予定です。

黒フールーダ……


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