IS 苦難の中の力 (魔女っ子アルト姫)
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第1章~激動の始まり編~ 1話

ISとは稀代の大天災(誤字にあらず)が生み出した史上最強と位置付けられている兵器の事である。元々は宇宙空間での活動を想定、開発されたマルチフォーム・スーツであったがそれは自らの行為によって将来の道を捻じ曲げた上に変質させた。開発者である篠ノ之 束が起こした大事件、通称「白騎士事件」と呼ばれる一大事件による影響である。

 

日本へ向けて放たれた2000発以上のミサイルの半数以上をたった一機のIS、事件の名にも示されている存在「白騎士」が撃墜した。天災が行ったマッチポンプというのが最も有力な説になっているが詳細は不明。しかしそれは宇宙進出のためのものではなく軍事用パワード・スーツとしての転用という道をISは進んでしまう。まあ自らがそう定めたのだから自業自得と言えるだろう。

 

そんなISは女性しか動かせないという途轍もない欠点を抱えているに加え心臓部とも言えるコアを製造できるのは篠ノ之博士のみ、その肝心の博士は467のコアを製造し各国に配布した後に姿を眩ませた。ISの登場によってあらゆるバランスが崩れ掛かっている世界、女性を優遇すべきだと主張する一部の女性達やISはもっと時間を掛けて研究し発展させるべきだと様々な意見が飛び交う中、ある大事件が起こった。世界初の男性操縦者が現れた、それによって世間はその話題で一色であった。

 

がこれによって大きな被害を受けた少年が居た。本来進むべき筈の道を捻じ曲げられ平穏とは程遠い世界へと入る事となってしまった……運命に魅入られてしまった不幸な少年……彼はどのように生きて行くのだろうか。

 

 

桜が咲き晴れやかな気分になるはずの季節だが既に桜の殆どは散っており如何にもそんな気分には慣れない少年、杉山 カミツレは真新しい制服に身を包み、新しい学び舎(IS学園)の教室に居た。むせ返りそうな程に満ちているような女性の香りというよりも香水と貫くような視線の数々。何故こんな事になってしまったのだろうと溜息と絶望ばかりが頭を過ぎってしまう。静岡県に住んでいたカミツレは地元の高校へ進学が決まっていた。米農家である祖父の跡を継ぐ為の勉強として農業高校に入る筈だったのに何時の間にか言うなれば工業高校に進学させられていた。

 

「(……まあっいきなり研究所送りとかにされないだけマシだけど、人権絡みで保留って扱いなんだろうなぁ……)」

 

正直このIS学園に進学させられた事で自分の夢であった祖父の後を兄と一緒に継ぐ事は完全に絶たれたと言っても良い、これから自分は間違いなくISに巻き込まれて生きていくしかない運命にあるのだろう。そもそも二人目は研究の為に使えば良いと無理矢理研究されるよりは何百倍もマシ、であるだろうが……それでも何時までこの身分で居られるのか全く分かった物ではない。求められているのは結果のみ、努力と苦難の道しか待ち受けていない。このような現状に置かれなければならないそもそもの原因へと目を向けた、それは顔を青くしながら震えている織斑一夏であった。

 

もしかしたら自分が最初になる場合とて有り得たかもしれない、ならば自分こそ彼に怨まれる側だったのかもしれない。ならば怨むべきではないのだろうが……生憎カミツレはそこまで良い善性を持ち合わせては居ない。幼い頃から尊敬していた祖父、祖父の作る米が大好きで自分の力の源でそれは兄も同じだった。家族いや親戚全員に自分の作った米を送り全員を幸せな笑顔にする祖父を兄である一海と共に酷く尊敬していた。だから自分達も人を笑顔にするお米を作りたいと思っていたのに……その幼い頃からの夢を壊された挙句、家族にも多大な迷惑を掛け、自分が人間として扱われるかも怪しい状況になるかもしれない現在に陥れた一夏に対して良い感情など向けられない。

 

必死に自分を抑えつけつつも息を整える、間もなく授業が始まるからだ。

 

 

「ハァ……」

 

溜息と共に休憩時間は始まった、SHRから直接始まった一時間目に何とかついていけている事に僅かながらの安心感を覚えたカミツレ。今日に至るまで一体何度参考書を読み直したのか分からない程だ、電話帳ほどに分厚いボリュームがある参考書は既にヨレてきており自分でもよくもまあこれほどになるまでに読みこめたなと感心するレベルだがそんな事をしている暇もない。早速ノートを取り出し先程の授業の復習と予習を開始する、授業中にも考えたが矢張り自分に休んでいる時間など無いと改めて思い出来る時間にやるしかないと思い立った。

 

「ねぇあの人が噂の男性IS操縦者?」

「長い髪だねぇ、ちょっと羨ましいかも」

「わぁもう自習?凄い真面目……」

「ちょっと良いかも……」

 

周囲の女子達はなにやら話しているが気にしている暇などない、気を取られようとした時に一気に不安が押し寄せてきている。それらを振り払うかのように復習に集中する、死への恐怖にも似ているそれに駆られるかのような衝動に背中を強く押されながらペンを動かし続けながら必死に頭の中に叩きこんでいく。自分に求められているであろう物を果たす為に、それは即ちに自分の生死に拘るのだから必死にやる。人間としての生活が一番、研究材料としての生活なんぞ御免だとその一心で勉強を続ける。

 

「なぁ、あのちょっと?」

 

何か声が聞こえてくるがカミツレの耳には入ってきていなかった、ハッキリ言ってそんな事に構っていられるほど余裕なんてない。聞こえてはいるのだが認識が全く出来ていないのが現状であった、それでも声の主は話し掛けるのをやめない。それで漸く認識出来たのか顔を上げて見るとそこには心底嬉しそうな笑いを浮かべているイケメンが立っており衝動的に殴りたくなるのをカミツレは必死に抑えつけた。

 

「やっと気付いた!なぁお前もIS動かしちゃったんだろ!?俺、織斑 一夏だ宜しくな!!」

 

動かしちゃった……?そもそも誰のせいでISを動かすような現実になってしまったのかと思ってしまった、お前がISなんぞ動かさなかったら自分は今ここには居ないのだから。

 

「……ああ、杉山 カミツレだ」

「カミツレって珍しい名前だな、どう書くんだ?」

「知らん、戸籍の上でもカタカナだからな」

「ふぅんなんか変な感じだな。まあいいやこれから仲良くしようぜカミツレ!!」

 

正直言ってカミツレが一夏に対して抱いている物のそれは決して良い物ではない、これのせいでこんな目に遭っているという認識だしそれがなくてもいきなり人の名前の事を変だと言ってくる上にいきなり名前で呼び捨てにしてくる、これで良い印象を抱けというのはカミツレ的には無理という物だ。

 

「ところでさっきから何やってんだ?」

「復習と予習だ」

「もうやってんのか!?うへぇ真面目なんだなカミツレって……」

 

真面目なのではない、こうでもしないと結果が出ない上に授業で置いていかれるのが目に見えているからだ。自分だって復習も予習も大嫌いだが自分の命が掛かっていると考えれば真面目にやるしかなくなってくるのだからしょうがない、というか何故こいつはそれをしないのかと疑問に思える。優秀な姉にでも既にある程度教えて貰っているから楽勝とでも言いたいのだろうか。

 

「でもいきなり根を詰めたりしても逆効果だと思うぜ、まだ始まったばかりなんだからゆっくりやった方が良いと思うけど」

「……ご忠告どうも」

 

そんな事など言ってられるか、自分は―――実験材料にされるなんて御免だ。



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2話

「―――と言うことでして、ISの基本的運用は現時点では国家の認証が必要なのです」

 

すらすらと教科書を読み進めながら授業を行っていく副担任の山田 真耶、童顔が目立ち可愛いという言葉が似合う彼女の教科書の文章を読み進めながら必要な部分をノートに書き出して行きつつも同時に教科書と違う部分、違う言い回しを使っていた場合はそこまで確りと聞いた上でノートに書きこんで行くカミツレ。中学時代の先生は黒板というよりも口に出した所をテストに出す人だったので先生の言葉までノートに書きこむ事が身にしみている。それも結構役に立ちそうな事でホッとする、あの先生には今度お菓子でも送っておこう。

 

「杉山君、如何ですか分からない所とかありますか?」

「いえ今のところ大丈夫です、お気遣いどうも。でも細かいところが少し気になるので後で聞いてもいいですか?」

「はい勿論!どんどん先生に頼ってくださいねっ!!」

 

真耶は唯一の男子二人を気遣うようにカミツレにそっと近づきながら大丈夫なのかと声を掛けた、今行っているのは参考書でも飽きるほどに読んだ所なのでバッチリ付いていけている。予習が身を助けるというのを実感した始めての事で僅かに感動しつつ真耶に返答を返す。頼られた事が余程嬉しいのか真耶は顔に似合わず豊満な胸を揺らしながら胸を張った、かなり接し易い上に頼りに出来る先生というのは嬉しい発見だと思っていたが何やら視界の端で一夏が此方を信じられない物でも目の当たりにしているかのような顔をしていた。

 

「(……えっ何あいつ、姉貴に教えてもらったとかだからあんな余裕だったんじゃねえの?)」

 

一夏の姉はこのクラスの担任であると同時に世界大会の覇者でもあるIS操縦者である織斑 千冬、そんな強力すぎる後ろ盾と大先輩がいるのだから其方に教えて貰っていると完全に思っていたのだが如何やら違ったらしい。まさか今の段階で分からないというのだろうか。参考書さえ確り熟読していれば理解出来る筈の内容なのだが……。

 

「織斑くん、何か分からない事があったら遠慮なくいってくださいね♪」

「や、山田先生……殆ど全部わかりません……!」

 

その瞬間、カミツレの思考は一瞬死んだ。そして再起動した直後抱いたのは呆れと怒りであった。

 

「えっ……ぜ、全部ですか……?あ、あの他に織斑君以外で分からない人って居ます……?」

「なあカミツレも分からないだろ!?今のうちに言っておいた方が為になるって!!」

「……俺、こんな奴のせいで夢を捨てなきゃいけなかったのかよ」

 

失意と怒り、呆れは様々に複合されつつ一夏に対する態度を徐々に決定して行く。こんな奴のせいと思う傍らで何故あんな余裕そうな笑いを浮かべられていたのかという疑問まででてくる。

 

「織斑お前参考書はどうした。あれを読んでいれば分かるはずだが」

「電話帳と間違えて捨てました」

「必読と書いてあっただろうがばか者!!」

 

その声と共に教室内にて授業を見守っていた担任の千冬の出席簿によって叩き伏せられてしまったがそれで理解出来ないのも納得だ。読んでさえいれば分かるのだから読んでさえいないのならば分かりようも無い。

 

「後で再発行してやる、一週間以内に覚えろいいな」

「い、いやあの厚さは一週間じゃ……」

「やれと言っている」

「……はい」

「杉山、一応言っておくがこいつには一切手を貸すな。こいつの自業自得だからな、責任を取らせる」

「元々教える気が無かったのでご心配なく、あと先生後で聞きたいところあるんですが良いですか」

「勿論だ。お前は真面目そうで安心した」

 

自分から捨てているような奴に教える事など無いというか自分の事に精一杯で教えている暇などないし、そもそも織斑に教える事自体が嫌だというのもある。それに千冬の言っている通り自分で知識を放棄したような物なのだから自分で責任を取らせるのが一番という物だろう。その一夏からは雨の中で捨てられている子犬のような目で見られるがそれをゴミを見るような視線を返して勉強に戻った。カミツレは猫派である。

 

「頼むカミツレ、手伝ってくれよ!!」

「嫌だ。むざむざ織斑先生の裁きを受けたくは無い」

「そんな殺生な!!?」

 

休み時間になりカミツレの元へとやって来た一夏は勢い頭を下げて勉強を教えてくれるように懇願しに来るが先程自分でやれと言われた事をもう忘れているのだろうか、幾ら頭を下げられても教える気など全くない。自業自得なのだから自分で何とかしろと声を大きくして言いたい。

 

「そもそも自分で放棄したような物だ、自業自得だ。自分でなんとかするのが筋だろ」

「そんなぁ……でもあんなの電話帳に間違えてもしょうがないだろ!?」

「俺の家には電話帳など無いから知らん」

「えっマジで!?」

 

あったかも知れないが少なくとも自分は目にした事が無いから同情も出来ないし何も言えなくなってしまう。そんな事よりさっさと一夏には消えて欲しいと心から願うカミツレ、折角真耶に掛け合って放課後の補習授業やらを了承して貰えた事で少しは自習のペースを落とし休み時間を休憩に使えるようになったのだからゆっくりさせて欲しいという物だ。そんな時、煌びやかな金髪に碧眼の少女、セシリア・オルコットが此方に話しかけてきた。

 

「ちょっと宜しくて?」

「へ?」

「なんの御用でしょうか」

 

気の抜けた返事をする一夏に比べてカミツレは座ったままだが確りとした敬語を使いながら相手を敬うように口を開いた。少々高圧的な印象を受けるがそれでも相手は極めて理性的且つ貴族の風格を感じる。ならばそれに合わせるようにするのが筋という物だと祖父から教わった。それに機嫌を良くしたのか少女ことセシリアは笑みを浮かべながらカミツレの方へと向いた。

 

「そちらの方は失礼な態度だというのにそちらの杉山さんはよくご理解していますわね」

「これと一緒にされるのは流石に心外という物ですよ、ミス・オルコット」

 

自己紹介を行われている時に彼女が名乗った名前、セシリア・オルコットという名前には聞き覚えがある。というのもカミツレはイギリスが好きな国であるのでそれなりに知識がある上に旅行などでも訪れた事がある、その関係かIS学園に入る事になった際にISの事を詳しく調べた際にイギリスの事も一緒に調べた時、代表候補生である彼女の事も知ったのである。

 

「いや俺君の事知らないし……」

「知らないですって?この私セシリア・オルコットを!?」

「おう知らない。っていうか代表候補生って何だ?」

 

がたたっ、思わずクラスの女子達数人がずっこけた。その中にはカミツレも含まれていた。

 

「お、おおおお前本気か!!?本気でそれ言っているのか!!?」

「ああマジ。カミツレ知ってるのか?」

「文字から連想出来るだろ普通!!?国家の代表IS操縦者の候補生の事だ、お前の姉さんだって元々国家代表だろ。その代表になり得るエリートの事を言うんだよ!!」

 

その説明を受けてああ成程言われて見たらそうだな!と納得したように手を叩く一夏を見て頭が痛くなって来た。こんな事も分からないのに奴よりも自分の方が実験材料にされ易いと思うと悲しくなってきた、自分の価値ってなんなのだろうと。

 

「でもそのエリートだからって偉いわけじゃないだろ?俺達と同じ生徒な訳じゃん」

「アホか偉いに決まってるだろ、相応の努力をしてライバルとその座を争って維持して苦難の中を突破した人だけがエリートって言えるんだよ。優秀な人ってだけでなくてそれだけ苦しんで努力した人をエリートって言うんだよ少しは言葉の重みを理解しろアホ」

「そ、そこまで言わなくても……」

 

別段彼女を擁護する訳では無いが此処まで積み重なった一夏へのヘイトがやや爆発してしまった結果こんな事を言ってしまった。兄からも言われた事を思い出さなければ「感情を制御出来ない奴は馬鹿」だという事を……自分もまだまだ子供だとやや辟易していると気付けばセシリアが此方を見てキラキラとした顔を向けていた。

 

「貴方素晴らしいですわ!!なんと理性的で思慮深いのでしょうか、ああっまだ貴方のような理解ある男がいるなんて思いもしませんでしたわ!!」

「そ、それはどうも……」

「いかがでしょうか、またの機会に紅茶でも嗜みながらお話でも!!」

「是非お供させて頂きたいですね、それと宜しければ代表候補生である貴方に教えを請いたいのですが……」

「ええ勿論、私に教えを請いたいなんて素晴らしい慧眼をお持ちですわね!!」

 

などとセシリアからの印象が凄い勢いで良くなっていく中で休み時間終了のチャイムが鳴ってしまった、セシリアは詳しい事はまた後ほどと去って行った。一夏も席へと戻って行く中、カミツレは内心でガッツポーズを取っていた。

 

「(よっしゃあ!!代表候補生から指導を確約させた!!)」



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3話

「それでは本日の補習授業は終わりにしましょうか」

「有難う御座いました、山田先生。すいません態々」

「いえいえ大丈夫ですよ、私先生ですし!どんどん頼っちゃってください!」

 

日も暮れ始めた夕暮れ時、その日は午前中に終了した放課後にカミツレはその日の内に依頼していた補習授業を真耶から受けていた。これから約3年間関わって行かなければいけないISについて自分はまだまだ知識不足としか言いようがないが自分で幾ら努力した所で限界がある。それを解決するために真耶に頭を下げ放課後の補習授業を頼んだ所、快く引き受けてくれた。そもそも男子生徒に対する補習授業は本人が希望すればすんなりとおるように調整がされているらしく寧ろ頼んできてくれて嬉しいと彼女は語っている。

 

「普通の男性はそこまでISに関する知識は無いと思いますので教師陣でなんとかフォローするようにと学園長から言い渡されてるんですよ」

「へぇ……てっきり俺は忙しいから駄目とか土下座でもしないと教えないとか言われないか冷や冷やしてましたよ」

 

それを聞いた真耶は少々驚きつつもISが普及した事で広まってしまっている女尊男卑の事を思い、ああっとある程度の納得を示す息を吐いた。

 

「確かにそう考えても可笑しくはありませんね。でも私達は教師です、教師に求められるのは生徒を導くに相応しい心と考え方なんです。これは代表候補生も同じなんですが基本的に女尊男卑の思想がある人は弾かれちゃうんですよ。だから安心して先生を頼ってくださいね」

「それを聞いて安心しました、これからもお世話を掛けるかもしれませんが宜しくお願いします」

 

丁寧に頭を下げるカミツレに思わず顔を赤くしながら照れる真耶、心から嬉しそうにしている彼女に世の中こんな人ばかりならいいのになぁと思わず思ってしまう。

 

「あっ他にも何かありますか?何でも言ってください力になりますよ!!」

「あっえっと……それじゃあ幾つか良いですか?」

「ハイ勿論言ってください!!」

 

眩しいほどに輝いている笑顔を向けてくる真耶、恐らく心から教師になりたいと思ってなったのだろう。誰かに教えたり頼られるのが好きなのだろう、先生に向いているのは誰かの為に力になりたいと思える人なのだろうと思うカミツレであった。

 

「それじゃあ、IS学園の訓練機は予約制なんですよね。それの予約をお願いしたいんですけど……」

「ああ、それなら大丈夫ですよ?実はIS学園の訓練機の内一機を杉山君の専用機にするようにと言われてますので、予約なんて必要ありませんよ」

「えっマジですか!?」

「はい大マジです」

 

これは正に嬉しい誤算とも言える。この場合の訓練機を専用機として使って良いというのは男性IS操縦者のデータを効率よくとるための処置だと思われるがそれでも構わない。本来予約制で自分の順番が来るまで使う事が出来ない筈の訓練機を自分の力として使えるのだから願っても無い申し出だ、存分に使わせて貰う事にしよう。

 

「それについては明日一緒に訓練機を見に行きましょう、訓練機には二種類ありますので両方に乗って見て決めましょう」

「はい分かりました、それと出来ればなんですけどISの操縦の方も見て貰えないですか?」

「勿論私なんかで良ければ!!実は実技って殆ど織斑先生の担当なので私もやりたくてうずうずしてたんです!!」

 

後日、真耶についてカミツレが調べた事によって判明した事だが実は真耶は日本の代表候補生にもなった事がありその時は惜しく代表就任を逃した物のその実力は国内外問わずに評価が高い。特に学生時代には『銃央矛塵(キリング・シールド)』という二つ名を有するほどにその実力は確かな物だったとされている。

 

「後その……この後俺って寮の部屋に行くじゃないですか」

「ええっそうですね、あっ御荷物なら御家族から預かってますよ?」

「いえその……一緒に部屋まで行ってもらえませんか?その、女子と相部屋なんですよね……?」

 

そう、このIS学園は寮制なのだが最大の問題は女子と相部屋になっているという点である。人数の関係や部屋割りの関係上出来るだけ早く一人部屋にするようにすると言っているがそれまでは女子と相部屋になるという辛い現実が待っている。それを聞いて真耶は察した、もしもこの後部屋に行った際に何か揉め事になるかもしれないので仲介役をして欲しいという事なのだろうと。それについても勿論と頷いた。

 

「あっそれなら織斑君の方にもそうしてあげたら良かったかもしれませんね……でも確か織斑君は幼馴染の篠ノ之さんですし多分大丈夫ですね」

「ある程度気がしれてるようで羨ましい…」

 

一方一夏はというと……

 

「天誅ぅぅぅぅっっ!!!」

「うわあああああやめろ箒ぃぃぃぃっっ!!?」

 

件の幼馴染、箒の木刀によって殺されかけていた。

 

 

 

「それにしても杉山君は偉いですね。初日に此処まで先生を頼りにして真面目に勉強とかこれからの事を考えてるんですから、もう感心しちゃいました」

「いえ、そうしないと俺はいけないんです。でないと……俺は」

 

その部屋に向かう途中、職員室に寄って荷物の詰まったバックを持ちながら廊下を歩いているカミツレに向かって真耶が言った。今までの生徒の誰よりも真面目で熱心で先生としてやり甲斐があると語っている、それは結構な事だが自分の場合は事情が異なってくる。熱心でなければならない、やらなければならない事を強いられてしまっている。決して自分で望んでいるからやっている訳ではないのだ。

 

「えっと何か不安でもあるんですか?これから上手くやっていけるかとか……大丈夫私も精一杯フォローしますから!!何でも相談して下さい、あっそうだこれ私の携帯のメールアドレスです。何かあったらメールしてください、相談でも不平不満でも何でもドンとこいです!」

「……有難うございます先生、素直に頼らせて貰いますね」

 

深く聞いて来なかった真耶に感謝を思いつつ気遣いが素直に有難かった、まさか此処まで生徒の為に精一杯な先生が現実に居るとは思いもしなかった……。馴染みの友達も家族も居ない学園に押し込まれると分かった時は心から絶望したが手を差し伸べてくれる人がいるのは本当に嬉しい誤算だ……。そんなやり取りをしていると目的の部屋へと到着した、ここが女子との相部屋になる部屋……何故か緊張して来た。数回ノックすると中から扉が開き相部屋となる女子生徒が顔を覗かせた……が其処に居たのは―――。

 

「はい何方で……山田先生にミスタ・杉山!?」

「ミ、ミス・オルコット!?」

「ええっとオルコットさん実は……」

 

そう相部屋となったのは同じクラスで代表候補生でもあるセシリア・オルコットであった。まさか彼女が相部屋の相手だとは思いもしなかった、これは本格的に真耶に付いてきて貰って正解だったかもしれない……。事情を説明されるとセシリアは少し考えるように無言になったが直ぐに顔を切り替えて笑顔で手を差し伸べてきた。

 

「事情は把握致しましたわ、少しの間ですが宜しくお願いいたしますわミスタ」

「此方こそご迷惑を掛けるかもしれませんけど宜しくお願いしますミス」

 

握手をする二人、教室でのやり取りのお陰かセシリアはカミツレに対してそれなりに友好的であった。それをみて安心した真耶は仲良くしてねと言い残して去って行きカミツレはそのまま中へと入って行く。今まで学生寮という物を見た事が無かったが中は寮というよりもどちらかと言えばホテルの一室と言った方が近い内装をしていた。

 

「さて私はこちらのベットを使いますのでミスタは其方の方を。後はシャワーの入る時間帯などを決めなけばいけませんわね」

「そうですね、トラブルを避ける為には必要な取り決めですね」

「ではそれを兼ねて……紅茶でもいかがでしょうか?」

「いいですね。頂きましょう」

 

この後セシリアと話しあいキッチリと取り決めを決めた後、勉強を見てもらう事が出来たカミツレ。セシリアの教え方はかなり論理的で筋道を精密に立てた物で少々分かりにくい所があるがゆっくりと咀嚼すればその一から二も三も得る事が出来る素晴らしい教え方で為になる事が分かり、カミツレは彼女と一緒になれて良かったかもしれないと安心した。



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4話

「それじゃあ専用機をどちらにするか選びましょうか」

「はい」

 

IS学園での生活が始まり二日目の放課後、夜の内にでもセシリアの指導や勉強もあってか数度授業で当てられたカミツレは問題無く答える事が出来て千冬からお褒めの言葉を頂戴していた。一方、一夏は参考書相手に悪戦苦闘しているのか全く答える事が出来ずに出席簿を喰らっていたがそれを見てカミツレは胸がすくような感覚を味わっていた。何度も教えて欲しいと言われたが千冬から怒られたく無いと断固拒否を続けている、一夏からは同じ男子の好だから頼むと言われているが一向に無視。放課後には真耶に呼び出され整備室へとやって来ていた、そこでは自分に貸し出される二種類の訓練機が鎮座しておりこのどちらかを相棒として使う事となる。

 

一機は日本純国産の第2世代型IS「打鉄」。鎧武者のような容相をしている性能が安定しており使いやすいと評価も高い防御重視型の機体。標準装備は近接用ブレード「葵」とアサルトライフル「焔備」となっているが柔軟な仕様の日本製OSのお陰で第二世代でも最大数の追加装備(パッケージ)に対応しており変幻自在に姿を変えられるISとなっている。

もう一機はフランス、デュノア社製の第2世代型IS「疾風の再誕(ラファール・リヴァイヴ)」。現在配備されている量産ISの中では最後発だが世界第3位のシェアを誇り、7カ国でライセンス生産され12カ国で制式採用されるほどに信頼性と汎用性、そして操縦者を選ばずに多様性役割切り替えを両立している事に長けている。この二つからどちらかを選択する事になる。

 

「まず私の主観を述べさせて貰いますね、私個人としては杉山君には「打鉄」が良いと思ってます」

「打鉄をですか、やっぱり防御重視だからですか?」

「それもありますがラファールは初心者にはお勧め出来ないんです」

 

それを聞いてカミツレはやや首を傾げた。自分でも学園で使用されている訓練機については調べてきたがラファールは汎用性だけではなく高い操縦性も魅力でもある。故に初心者が使うのにも向いているのではないかと口にすると、真耶は確かにそうですがそこがある意味落とし穴だと答えた。

 

「確かにラファールの魅力は高い操縦性と汎用性、そして多数の武器を持っている事にあり「ラファール」の別名が飛翔する武器庫という由来にもなっています。ですがその高すぎる操縦性が逆に仇になるんです」

「仇……?」

「はい此処が重要ですから良く聞いて下さいね!操縦性が高いという事は逆にそれだけ乗り手の技量をダイレクトに反映してしまうんです。国家代表の方々もラファールのように高い操縦性を専用機に求めるのもそこに起因しています。より動こうとすればそれに応えて来る良いISなんですが、余り動けない初心者がラファールを使っても最大限の性能を引き出せないんです。そしてラファールは武器が多すぎて使い切れないのも初心者がラファールのポテンシャルを引き出せない原因でもあるんです」

 

幅広くあらゆる戦闘スタイルにも対応しきれるラファールの優れた性能、しかしその高すぎる性能は裏を返せばラファールの強さは操縦者の技量に依存してしまうという事になり逆に初心者からすれば足枷になってしまう。車に乗り慣れてない人がスポーツカーに乗って最大限スポーツカーの力を引き出せるかと言う事になる。

 

「打鉄はそれに比べると最初から防御重視と性能を安定させた上で操縦性を設定してるので初心者でも十分に動かせる機体なんです。武装も基本はブレードとライフルの二つですから使いこなす事も簡単です」

「成程……操縦性って高ければ良いって物だと思ってましたけど違うんですね」

「勘違いしやすい所ですよね操縦性って。操縦性は扱い易さじゃなくてハンドルを切った時にどれだけ車が曲がってくれるかって言った方がいいかも知れませんね」

 

それらを聞いて考えてみると「ラファール」よりも「打鉄」に惹かれる。性能ではなく実際に自分が使ってみてどれだけ扱えるという事を失念していたかもしれない、それを遠回しに指摘してくれた真耶には感謝しなければならないだろう。

 

「それじゃあ次は杉山君の経験と素質から考えてみましょうか。杉山君はどちらかに乗った事ありますか?」

「えっと試験の時はラファール、検査の時は打鉄でした」

 

メモに確りと書きこんで行く真耶、簡単な表を作りそこに適正などを分かり易くするようにしておく。

 

「何か特技とかありますか?格闘技の経験とか」

「えっと……爺ちゃんに護身術として空手と剣術を習った事があります」

「剣術と空手ですね、それだと近接系に向いているかもしれないという事ですね」

「流石に銃はないですよね」

「あっありますよ」

 

カミツレの言葉に思わず間抜けな声を発してしまう真耶、銃を撃った事があるというのか。ハワイ辺りで経験でもしたのかと思ったが返答は全く違った物だった。

 

「実は兄と友人達でよくサバイバルゲームをやってたんですよ、それでまあ本物では無いですけど一応撃った事はあります」

「な、成程サバゲーって奴ですね。でもそれでも十分ですよ構え方とかを知ってる事になるので十分参考になります!」

 

次々と表へと書きこんで行きカミツレの素質と経験を評価して行く。結果としては実際の武道として近接に長があり射撃は経験としてはある程度の物に留まった。これらを総合して考えるとカミツレに適しているのは―――

 

「私としては「打鉄」を推したいと思います。ラファールにもブレードはあるんですがラファール(あっち)は豊富な重火器で戦うタイプになっちゃうので打鉄の方がしっくり来るとは思いますよ」

「……分かりました、俺「打鉄」にします!」

「分かりました、それじゃあ早速最適化(フィッティング)とか設定しちゃいましょうか!」

 

真耶に言われたように打鉄を纏ったカミツレはそのままISに自分のデータを読み込ませつつ自分に最適化させる。真耶はISに接続したパソコンでこの「打鉄」をカミツレの専用機になるように細かい設定を改変して行く。

 

「そうだ名前とか如何します?」

「な、名前ですか?」

「ええ。これから相棒になるんですから名前とか合った方が愛着沸きますよ?」

 

そう言われてみると悪くないような気がしてきた、しかし名前と言われてもいきなりは思いつかない。それに自分はそう言った方面のセンスは余りないので如何したら良いのか……と思いつつ打鉄(相棒)となるISを見つめてみた。頼もしく輝きを放つ黒い装甲は力強くこれから自分と共に一緒に歩んでくれるような屈強な何かを感じさせると共に自分と共に勝利へと進んでくれるような気がした。それゆえか思わず浮かんだ名前があった。

 

「……「勝鬨・黒鋼」……」

「「勝鬨・黒鋼」……良い、凄い良いですね!!カッコ良いですしこれから杉山君と一緒に歩んでくれそうじゃないですか!!よしそれで登録しちゃいますね!」

「えっあっちょっと待ってください今のはなんか浮かんだだけで決めたって訳じゃ!?」

「えっそうなんですか!?も、もう設定しちゃいましたよ!!?」

 

慌てている真耶の言葉と共に自分の視界にウィンドウが表示された、そこには機体の設定が刻まれている。『杉山 カミツレ専用IS 勝鬨・黒鋼 システムオールグリーン』もう定められた勝利を収めた時の名称、早まったかと思いつつもぞくぞくとこれでいいと思っている自分が確かに其処に居た。

 

「……いえ先生これでいいです。こいつの名前、それで行きます!」

「そ、そうですか?それじゃあ最終設定完了です!それじゃあ次はいよいよ実技です、私は結構厳しいですから覚悟してくださいね?」

「はい、よろしくお願いします先生!!」

 

勝鬨と共に始まったISの訓練、基本中の基本から始められたそれは未体験なカミツレにとって驚きの連続且つスパルタなものであった。しかし同時にどこか楽しく思えている自分がおり気付けば

 

「勝鬨、さあ行くぞ!!」

 

嬉しそうに相棒の名前を叫びながら真耶の指導を受けていた。



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5話

専用機となる「打鉄」改め「勝鬨・黒鋼」を相棒として迎えたカミツレは真耶の指導を受けつつもセシリアからの指示を仰ぎながら毎日を過ごし自らを鍛える日々を送り続けている。実際にISを纏っての訓練は新鮮であり苦労も多いが真耶の丁寧かつ厳しい指導もあってか一歩ずつだが確実に前に進む事が出来ている。加えて毎日身体を鍛えるメニューも追加されていた、本当の意味での実力を付けるにはISの武装をパワーアシスト抜きで保持出来るような身体でないと駄目という事で真耶にメニューを作ってもらいそれも平行して行っている。

 

早朝に目を覚ましセシリアを起こさないようにそっと外へと出て校庭を3周し腕立て腹筋スクワットをそれぞれ100回行い、最初こそこの量だが徐々に量を増やしていくと真耶は言っていたのでまだまだ増えていくだろう。起床しメニューを終える頃には6時半になっている。他の女子達が少しずつ起き出して来るので部屋へと戻り軽く汗を流し朝食まで部屋でその日の予習と復習を行う。まだ学園に来て1週間だがこれを毎日カミツレは続けている、これも自らが研究材料になりたくないと言う思いがあるがそれでもサボりたいという気持ちは沸いていないのは素晴らしいと言えるかもしれない。

 

「んんんっっ……」

 

ノートに向かい続けていたが艶っぽい同居人の目覚めの声を耳にし一旦ペンを置いた、電気ケトルに二人分の水を淹れて電源を入れておく。少しずつ意識を覚醒させていくセシリアは布団から身体を起こしながら目を覚ましていく、そして彼女は机に向かい続けている自分に気付くと決まって普段の凛とした声ではなく可愛らしい声で言う。

 

「おはよう御座います……ミスタ・杉山……」

「ええおはよう御座います。もう直ぐお湯も沸きますから顔でも洗ってきたら如何ですか?」

「お気遣いどうも……」

 

朝に弱いのか目覚めたばかりの彼女は舟を漕ぐかのようにフラフラとしている、千鳥足のような動きで洗面所へと向かって行く。そこで冷たい水で顔を洗った後に暖かなお湯で爽やかに目覚めるのが彼女の朝となっている、洗面所から冷たいッ!とお決まりの言葉が飛んで来たのに少し笑いつつ沸き上がったお湯を紅茶の茶葉を用意しておいたポットへと注いでいく。朝を気持ちよく迎え今日も清らかに頑張る為のモーニングティーはセシリアには欠かせないらしい。洗面所から出てきた彼女はキリッとした普段通りの物だった。

 

「改めておはよう御座いますわミスタ、本日も良い朝ですわね」

「ええそうですね。さあ紅茶も入ってますよ」

 

カミツレもセシリアと共に紅茶を口にする、彼女が本国から直接取り寄せている茶葉は香り高く味も良く味覚と嗅覚に程よい癒しを与えてくれる。そしてこれで今日も自覚する―――今日も、自分の価値を示すための一日が始まる。

 

 

授業も進んでいく中、セシリアと真耶の指導のお陰もあってか想像よりも授業の内容を理解し把握している自分に驚いている。専門職の教師とその道のエリートに教わると矢張りかなり違うという物らしい。この二人に師事出来た事には矢張り感謝し今度何か形としてお礼をした方が良いのではと考えつつノートを書き進めていきながらノートの端に書いたメモ書きにある物に目が行く。自分の専用機として、首に掛かるドックタグとして待機状態にある勝鬨に追加で乗せる装備の案、流石に武器二つは少ないと思うのか予備を抜くとしても後一つ何をいれるべきかという物が書かれている。この事も真耶に相談した方が良いなと確信する中、千冬が授業をストップさせた。

 

「授業中ですまんがこれよりクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者は対抗戦だけで無く生徒会の会議や委員会などの出席などで……まあ学級委員と考えて貰っても良い。自薦他薦は問わない、誰か居ないか」

 

千冬が言ったのはこのクラスの代表者を決定するという事であった、話を聞くだけでも重要そうな立ち位置で大変そうな役割だ。出来る事ならば避けたい、自分は纏め役という物には向いていないしそもそも目立つ事が苦手、しかしこう言った物は結果という物をかなり残し易いというメリットもある。ならば自分の事を考えると立候補すべきなのではないかと頭の中で思うが発展途上な自分は不相応だと自分を収める。きっと立候補させられるのだろうなという予感があった。

 

「はいはい織斑くんを推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

「お、俺ぇ!?」

 

殆どの女子たちが一夏を推した、理由として男性IS操縦者だからというのと千冬の弟だからというものが大きいだろうがそれならばカミツレは何故推されないのか、それは普段の差と言える。休憩時間や放課後の殆どを自習や訓練に当てているカミツレは1組に全く馴染めておらずセシリア以外の女子たちの交流も全くなくカミツレの事が分からないのが原因。それに比べて一夏はミッチリと自習を行っている訳でもなく休める時にはしっかりと休み女子たちとも頻繁に会話などもしているので交流もある、それ故に一夏を推し易いという事があった。あたふたしやりたくないと困惑している一夏、しかしクラスの代表があれというのもあれだなと思ったカミツレは助け舟を出す訳ではないが手を上げた。

 

「杉山何だ?」

「私はセシリア・オルコットさんを推薦したいと思います。代表候補生ですしこの中では一番の適任者だと思います」

「ふふん流石ミスタ・杉山、よくお分かりですわ♪」

 

自分の事を良く理解し評価されている事に気を良くしたのかドヤ顔を浮かべているセシリアは胸を張った。空気が読めないような目でカミツレを見ている女子達もいるがそれにも一理あると一定の理解を示している女子達もいた。このまま一夏がセシリアを推してくれれば全て解決したのだが此処で彼は本当に余計な事をしてくれた。

 

「な、なら俺はカミツレを推薦するぜ!!」

「……マジかよ……」

 

まさかのセシリア推薦ではなく自分推薦であった、想像だにしなかった事に思わず頭を抱えてしまった。本当に余計な事をしてくれた、良くも巻き込んでくれたなと一夏を睨み付けてしまいそうになるがこのままならきっと相応しいのはセシリアだと千冬も理解して彼女に役目を与えるに決まっていると願った―――がその願いはあっけなく砕け散る事となった。

 

「推薦枠は織斑 一夏と杉山 カミツレ、セシリア・オルコットか」

「ちょ、ちょっと千冬姉⁉︎俺代表なんてやりたくなんてないぞ!?」

「黙れ推薦者がグダグダ抜かすな、それにそんな事を言うならば貴様も杉山を巻き込むな」

「だって俺だけ推薦されるって不平等だろ!?」

「何処がだ大馬鹿者。フム……二人のデータを取る良い機会にもなるか……。ではオルコット、織斑、杉山による模擬戦を行いそこで代表を決定する。それで文句はないか」

 

視線を巡らせて如何だと聞いてくる千冬にもう拒否権はないんでしょと問うと残念ながらと返されてしまい心から落胆した。あのままなら事なきを得たかもしれないのに此処まで事を大きくしてくれたなと一夏を鋭く睨み付けるがもう止めようもない現実に覚悟を決めて前に進む事にする。

 

「お、俺は嫌だ!カミツレだって嫌だろ!?」

「……分かりました、もう此処まで来たら引けないんでしょうね……どこぞの馬鹿のせいですけどやりますよ」

「俺のせい!?」

「私も異論ありませんわ、それで構いませんわ」

「では模擬戦の開始日はアリーナの確保が出来次第伝える、それまでに準備をしておくのだな」

 

授業終了後、セシリアが自分の席まで来て少し好戦的な笑みを浮かべて言った。

 

「このような事になりましたが私は正々堂々戦わせて貰いますわよミスタ」

「此方こそ、ご期待に沿えるように努力するつもりです」

「フフッそれで宜しいですわ、それと当日まで指導は続けますわよ。例え戦う相手としても確りと指導を行うのが礼儀です物ね」

「有難うございますミス」

 

 

「何でこうなったんだ……」

 

大体こいつのせいである。



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6話

「ハァ……大変な事になっちゃったなカミツレ」

「お前のせいだろ。あのままミス・オルコットを推薦すれば彼女がなっていただろうに……」

「だって俺だけ推薦されるのって気分悪いし」

「それで俺を余計な事に巻き込んでおいて良く言うなドアホ」

「……なぁお前俺に対して本当に辛辣すぎないか?」

 

その日の放課後、帰り支度をしている自分の元へと何故かやって来た一夏は溜息と困惑したかのような思いを形にして自分に向けてくるがそんな物自業自得だと声を大きくして言いたい。自分が気分の悪い事をされたのならばそれを他人にもするのは失礼に当たるというのも分からないのだろうか、そして辛辣になるのも当たり前である。

 

「自分が撒いた種だろ、責任持って自分で間引きしろ。俺は俺でやる事があるからな」

「分かってるってこうなったら確りと戦うさ、男としてさ」

「(だったら真耶先生に指導の相談とかしろよ……)」

 

荷物を纏めながら教室から出て行く。本当にそう思っているのならば真耶に補習やIS稼動の指導要請などをする筈なのに全くその気配がなくそれどころか真耶が自分に一夏は本当に何も言ってこないが此方からアクションを仕掛けなくて良いのだろうかと困惑したように聞いてきた位だ。それに対しては良い言葉は送れなかったが恐らく千冬が対処でもしているのだろうか。兎も角他人を気にしている余裕などない、こうなった以上少しでも技術を身に付けなければならない。

 

「それにして大変な事になっちゃいましたね杉山君……織斑先生から話を聞いた時には思わずえ"って濁っちゃいましたもん」

「まあでしょうね……ハァ…なんか負けが既に見える気がするんですがね」

 

ピットにて顔を合わせた真耶もそれに何とも言えなくなる。まず経験が全くの別次元、代表候補生となるとISの稼働時間は300時間は軽く超えており、それに見合う訓練や試合を行っている。それに比べて自分は多く見積もっても8時間が良い所だろうか……。これからセシリアの事も当然調べるつもりではいるが有効な戦法を見つけたとしてもそれを習得するまで練習が出来るとも限らない。付け焼刃では寧ろ自分の足を引っ張ってしまう。

 

「うーんアリーナの使用を考えると1週間後が模擬戦と考えるのが妥当ですかね……そうなるとやるべき事も限られてきちゃいますね」

「1週間……」

 

思った以上に時間が無い。これでは本当に基礎の練習をし続けるしか無いだろう。そこで少しでも基礎能力の向上を計り、後は自分の戦い方に掛かっている事になるがハッキリ言って自信が無い。喧嘩やサバイバルゲームならやった事はあるがISでの模擬戦での経験ではセシリアが遥か上を行く。それにどうやって挑むかという事になる……が真耶は少々鋭い表情をしながらカミツレを凝視した。

 

「杉山君、私に考えがあります。結局は杉山君の努力次第になると思いますがやる価値はあると思います」

「それって一体……?」

 

そう言いながら真耶は教員仕様のラファールを展開しながらその手にライフルを握り締めながらその銃口をカミツレの方へと向けた、その瞳の鋭さは今まで見た事もないような物。穏やかで温厚な真耶からは想像出来ないような物だった。

 

「これから私が教えるのは負けない戦いです、口で教えるよりも身体で覚えてくださいね」

「……負けない戦い、望む所ですよ。俺にとっては負けない=勝利みたいな物です、勝鬨を上げるための戦いを教えてもらいますよ先生……!!」

 

この後、二人が使用している第二アリーナから凄まじい気迫の篭った声と厳しくも正確な指摘の怒声が響き渡ったという。第二アリーナを横切る生徒達は何が起きているのか確認したそうにするが中からの音に恐がり結局それは出来なかったという。

 

「ミ、ミスタ・杉山、何か酷く疲れていませんか……?」

「いえ……ちょっと張り切りすぎただけです……」

 

夜、自室にてセシリアによるレクチャーを受けている際のカミツレはどこかかなり疲労しているかのような立ち振る舞いをしており教える側のセシリアもそれが酷く気になってしまっていたがレクチャーは問題なく終えた、がその直後カミツレはベットに入り直ぐに眠ってしまったという。それをみてセシリアは一体ナニをしていたのだろうかと酷く疑問に思うのであった。

 

 

生徒達が寝静まっている真夜中、整備室の一角に明かりが灯っていた。そこにはカミツレの専用機となった「勝鬨・黒鋼」に向き直っている真耶の姿が合った。傷だらけになっている装甲を交換して行きながらその傍に予備のライフルとカミツレから要望があった物を搭載する準備が整えられていた。

 

「今思うと少し恥ずかしかったですね……負けない戦いを教えるなんて」

 

カミツレとの訓練の事を思い返すと顔から火が出そうになる、実技の殆どが千冬の担当になってしまっている故に自分も教えたいという欲求が爆発してしまったのかそれとも自分の事を師のように慕ってくれている彼の力になりたいと思ったからこその行動だったのか。思い出したくもない過去の自分を引き出して訓練を付けていた。

 

「忘れたい過去なのに自分から思い出すなんて……私、変わってるんでしょうか」

 

銃央矛塵(キリング・シールド)』という異名は自分にとっては戒めでしかなく、名前を出されるだけで嫌になる過去の遺物だった。でも今日はその力を教え子の為に使ってあげたくなってしまった。直向きに努力し今ある現実に少しでも反抗し少しでも自分が望む未来へと進もうとするカミツレが酷く輝いて見えたから。

 

「カミツレ君は、必死なんですよね……生きたいから、自分で生きたいから…」

 

何故あそこまで必死なのかは分かる、彼は完全な一般家庭の生まれ。大きな農地は持っているもののそれ以外は全く普通の家庭でISに深く関わりを持っている人脈もなく政府との繋がりもない。一夏に比べて酷く危険な立場にある、一夏には千冬と束という強力すぎる後ろ盾があるが彼にはない。故にどちらかを今後のISの研究に役立てるかと言われたら政府は真っ先にカミツレを選ぶ事だろう。この事は教師陣の間でも大きな波紋を呼んでおり如何にかして彼を守ってやれないかという会議が度々起こっている。そしてこの模擬戦は確実に彼の評価に使われる事は間違い無い。

 

「織斑君は、恵まれてますよね……」

 

一夏には千冬という偉大な姉がいる。その風評で苦しむ事もあるだろうが、人間として扱われない可能性が高い未来が待ちうけているかもしれないカミツレに比べたら何倍も良い。加えて千冬に一夏に訓練の事を言ったほうが良いかと聞いた際に

 

―――いや言わないでやってくれ、自分で考え言ったならまだしも此方からのアクションは駄目だ。奴には少し痛い目を見て現実を見てもらう必要がある。それに杉山を巻き込んだ責任もあるからな。

 

と語っていた。故に自分はカミツレに力を貸すと決めた。

 

「だから、私も全力で力を貸しますよカミツレ君……!!」

 

そう意気込むとISの武装搭載作業に取りかかった、少しでもカミツレが頑張れるように思いを込めながら―――。



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7話

1週間後、真耶の予想通りにこの日に行われる事となったクラス代表決定戦。カミツレはこの日に向けて出来るだけの努力をして来たつもりでいる。真耶からの負けない戦いを伝授の為の厳しい訓練を耐え抜いてきた。真耶からも合格点を貰いある程度の自信も付き、何より訓練が模擬戦の形式だった為にネックだった実際に戦えるかという点を解消してくれている。今カミツレは一夏と共に第三アリーナのピットに待機しながら気持ちを落ち着けて模擬戦に備えている。

 

「なぁ箒」

「何だ、一夏」

 

同じピット内には戦う相手でもある一夏が幼馴染である箒と共にいた。変わらず能天気そうな表情が目に付くが今は不思議と苛立ちはなく高揚感と落ち着きが同居している。自分がやれる事を本気でやったからこその自信なのか、それともこれでも負けたとしても納得が行くからだろうか。

 

「なあ箒、俺さ一週間前ISについて教えてくれって言ったよな」

「ああ」

「俺、剣道しかやって無かった気がするんだが……」

「……」

「目 を そ ら す な」

「お、お前のISがないのだからしょうがないだろう!!」

「いや、他にも色々あっただろ知識面とか!」

「……」

「目 を そ ら す な っ」

 

控えめに言って完全にスルーするつもりでいたのだがそれを聞いて完全に呆れ返ってしまった。怒りではなく呆れと溜息が深く顔を覗かせた。今日に至るまで約2週間、この模擬戦があると発表された日から考えると1週間の時間があった訳だが、話を聞いた限り操縦訓練などを一切してない所かまともな知識も身に付けていないという事になるのだが……。そして彼に来る筈の専用機も未だに届かない、散々な事になっている。

 

「おい杉山何だその溜息は!!?」

「そりゃ吐きたくもなるわ……今日まで俺があれだけ努力してたっていうのにお前らは何、剣道だけしてたのか」

「えっカミツレは何やってんだよ!?」

「真耶先生にお願いして操縦訓練を付けて貰ってた。そもそも男性IS操縦者を助ける仕組みが教師陣には出来てる、真耶先生にさえ言えば訓練機だって回して貰えてた」

「マジかよ!?くそ、先生に相談すれば良かったのか!!!」

 

まさか思い付きもしなかったのだろうか、真っ先に思い付きそうな物だが……悔しそうに嘆いている隣で箒は顔を険しくしながら一夏の足を思いっきり踏んづけた。

 

「いってぇ何すんだよ!?」

「お前は私の指導では不満だというのか!!?」

「だって実際に剣道しかやってないぞ今日まで!!」

「僅か1週間ではどうせ付け焼刃にしかならん!!ならば元々あるお前の剣の腕前を上げるのが最善なのだ!!」

 

箒の言い分にも一理はある。分からなくもない意見というレベルだが恐らく一夏はISの稼働時間が極めて少ない。だが付け焼刃以前に刃すらない状況に近いのだからせめてISを動かして感覚だけでも感じておいても良かったのではないかと心から思う。二人が言い合いをしている最中、真耶と千冬がピットへと入ってきた。

 

「織斑君来ましたよ!織斑君の専用IS!!」

「織斑さっさとこっちに来い、チェックを開始する。杉山、お前は行けるか」

「そこの大馬鹿よりは準備万端ですよ」

「フッ、お前の努力は真耶から聞いているぞ。私も少なからず応援させてもらおう。行って来い、杉山」

 

凛々しく口元に浮かべた笑みのままサムズアップを掲げた千冬の声援に思わず敬礼を返してしまったカミツレ。兄と一緒にやっていたサバゲーの影響なのかそれとも千冬が教師というよりも教官な気がしてならないからだろうか。それに勇気を貰いながら胸元に下がっている待機状態である勝鬨に意識を集中するとその身に相棒を纏った。各所に追加装甲とやや大型化されている両肩のシールドが特徴的な「勝鬨・黒鋼」が展開された。千冬は初めて見るカミツレの展開速度に思わずほぅっと言葉を漏らした。これが訓練を始めて約2週間の者の速度とは思えない早さであったからだ。矢張り真耶の教え方が良かったのもあっただろうが、加えて彼の直向きな努力の賜物だろう。出撃の為にピット・ゲートへと足を進めていくカミツレ。それを追いかけるように真耶が後ろから声を掛けた。

 

「カミツレ君!」

「真耶先生」

「頑張ってください、悔いが無いように全力を出し切ってください!!」

「……はい、行って来ます!!勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレ、行くぞっっ!!!」

 

気合と気迫を込めた声と共に勝鬨は火花を散らしながら敵が待つアリーナへと飛び出して行った。アリーナの空中には、既に青い装甲が特徴的なIS…ブルー・ティアーズを纏ったセシリアがライフルを保持しながら待ち構えていた。

 

「ミスタ・杉山、貴方からですの?てっきりあちらからかと」

「今さっき専用機が来たんだとさ、それで織斑先生に言われて俺から出たって訳」

「そうでしたの、それはそれは……」

 

楽しげに雑談をしている二人、それは同室にいるからこそなのか。既に試合開始の鐘は鳴り響いているので何時試合を始めても構わないのだが互いに武器の引き金を引こうとしない。カミツレもその手に焔備(アサルトライフル)を構えるがセシリアは引き金を引かない。

 

「さてとではミスタ、始めますか。失礼に当たると思いますので加減は致しませんわ」

「代表候補生にそう言って頂けるとは光栄の極みという奴ですね、こちらも全力でぶつからせて頂きます」

 

刹那の静寂の後、互いが構えているライフルの銃口が向けられ引き金が引かれた。セシリアの構えるスターライトMKⅢ(ライフル)はレーザーライフル、放った直後に相手に到達するような速度で向かってくる。予測到達速度は約0.4秒、対してこちらのライフルは実弾でレーザーとは到達速度が違う。だがそれをカミツレは理解している、真耶の手を借りてセシリアの事を調べ、武装や戦法などもチェック済み。そして考えていた通りに身体と勝鬨が反応してくれた、銃を撃つと同時に身体を動かしシールドを身体の前面へと動かし防御を行った。レーザーはシールドによって弾かれ、弾丸は僅かにセシリアの腕装甲を掠めるか掠めないかの所を通り過ぎていった。

 

「……如何やら思った以上に出来るようですわね、楽しい戦いになりそうですわ」

「そう言ってくださると嬉しいですね」

 

瞬時に互いは距離を取った、そして連射性で優れるアサルトライフルを保持するカミツレは一定の距離を取ったまま連射を行う。それらを迷う事なく巧みに回避しながらもライフルで狙いを付けるセシリアは同じく連射連射連射、しかしカミツレのような乱れ撃ちではなく相手の予測進路を計算に入れた偏差射撃。容赦なくカミツレへと襲い掛かっていくが自分へと襲い掛かる正確な射撃なんて想定済みだった。今日の為に夜な夜なベットの中で必死に対策を考えそれを真耶に相談し共に考えたのだから。

 

「読まれているっ……!!」

「おおおおっっっ!!!」

 

自らを鼓舞する雄たけびを上げながら射撃を続けながら勝鬨に絶対の信頼を置いた。そもそも自分にセシリアクラスの偏差射撃を避ける技術はない、ならば当たる事を前提にしてしまえば良い。今日までの訓練で真耶にライフルによる射撃を行って貰いその経験とデータを勝鬨に入力しオートガード機能にパターンを加えた、そのガードによって偏差射撃は尽く防御されていく。

 

「良いぞ、良いぞカチドキ!!その調子で行けぇぇぇっっ!!」

「くっまさか、此処まで読まれているなんて……!!」

 

相棒へ感謝を口にしながら更に攻撃を行い続けるカミツレ、その気迫と予め用意周到に準備して来た同室の彼を初めて恐ろしく思ったセシリアの中に焦りと動揺が生まれる。偏差射撃は緻密な計算と安定した精神が生み出す調和の射線、片方が僅かにでも揺れ動けば射線は乱れてしまう。少しだが射線が乱れた事に笑いを浮かべたカミツレはシールドの内側に手をやるとそこからブレードを抜き放った。

 

「ブ、ブレード!!?」

「セイヤアアアアァァッッッ!!!!」

 

それを全力でセシリア目掛けて投擲した、普段ならば落ち着いて打ち落とせた筈のそれを動揺により射撃ミスを犯したセシリアは僅かにレーザーを外してしまった。そしてブレードはウィングの一部へと直撃し爆発させそれを落とした。

 

「ッシャア!!!」

「わ、私のブルー・ティアーズが!?」

 

思わず拳を強く握りこんだカミツレ、成功した行動によって齎されたリターンは確実に自分を有利してくれる。此処まで思惑が上手く行ったのも真耶の協力があったからこそだ。カチドキに搭載する武器を追加したいと相談し、武器の種類を増やすのではなく既存の武器を増やす選択をしたカミツレは両方のシールドの裏側にそれぞれ2本ずつのブレードを追加して貰っていた。真耶に感謝を抱きながらセシリアへと挑戦的な視線を向ける。それを受けたセシリアは自分のISの象徴的な物が破壊されたのにも怒りが沸かずに嬉しさと驚きで満たされていた。

 

「まさか此処まで……感服致しましたわミスタ・杉山。加減はしないと言っておきながら心の何処かで見縊っていたのかもしれませんわね……謝罪致しますわ。ですが今度こそ本気で参りますわ!!行きます!!!」

「ああ、来なミス!!」




勝鬨・黒鋼

IS学園の訓練機である打鉄をカミツレの専用機とした物。通常の打鉄と異なり装甲が増量されシールドを大型にし防御面を強化している。
それにより機動性が低下しているがカミツレが初心者という事もあって機動性が落ちた事で結果的に操縦性が向上し扱い易くなっている。
装甲は本人の技量上昇によって外すかを検討するもよう。
基本的に武装面に変更はないが武器が増量されており予備のブレードとライフルが追加されている。ブレードはシールドの裏に二本ずつ格納されている。


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8話

やや問題があったので再投稿します。


「……たった2週間でこれだと?」

 

管制室内からアリーナ内で繰り広げられている模擬戦を見つめている千冬が思わずそんな言葉を漏らしたのを確かに聴いた真耶は自分の事では無いのに心から嬉しくなっていた、本当は自分も驚いているがあれは才能ではなく彼が心から強くなりたいという願望やこのままでは居たくないという思いが具現化するために積んで来た苦労の結晶とも言える結果の現れ。それが才能と経験を積んだ代表候補生であるセシリアと渡り合えるだけの力となっている。

 

「正直驚きしか沸いてこないな……まだまだ粗さがあるがそれが逆にオルコットの油断と実力の見極めの誤差を生んだか。そしてあの戦法……今日まで必死に対策を講じて来たのだな」

 

やや笑みを作りながら素直にカミツレを賞賛する千冬。正直此処までの形になるとは思ってもみなかった。真耶から訓練の進捗や教わる態度や傾向程度は聞いてはいたがどれ程に成長しているのかは全く聞いていなかった。しかし此処までの成長をしているのは嬉しい誤算であり思わず自分でも指導をしてみたいという思いを募らせていた。直向きな態度と現実を見据えた選択によって紡がれている今の彼を見ると昔ドイツ軍で指導をしていた時の血が騒いできてしまっている。

 

「なあ真耶、私にも杉山の指導をさせてくれないか」

「あっ、先輩もカミツレ君に指導したくなりました?」

「まあな。まさか此処まで成長するとは…正直弟にはない物を感じてならない」

 

その言葉に思わず乾いた笑いが出てしまう真耶だがそれは仕方がない、千冬から自分から言うまでアクションは起こすなと言われたが一応様子を見に行った時、一夏は箒と共に剣道ばかりしていた。訓練機は予約制で使えないからという選択だろうがそれなら相談してくれれば工面するのにと思わずにはいられなかった。

 

「でも駄目です、カミツレ君は私の弟子なんですから!!」

「ほう、『銃央矛塵(キリング・シールド)』に弟子と言わしめるか。そう言われるとますます指導したくなってしまうな」

「ちょっと先輩!?普段から実技は其方でばかりやってるんですから少しは自重してくださいよ!!」

「フフフッ、なら手綱はしっかり握っておけよ?でないと私が掻っ攫うぞ?」

「ええええ!!?」

 

どこか冗談めいているが冗談には聞こえない話に慌ててしまう真耶。自分でも大切に思えるほどにカミツレは可愛い教え子であり弟子であると認識している。そんな彼を千冬に取られてしまうのは嫌な感じがする、それに自分に指導を仰いでくれたのだから責任を持って最後まで教えてあげたいと思っている。そんな真耶の反応を楽しみつつもカミツレの動きの良さに舌を巻く千冬。矢張り指導してみたいという気持ちがあるのか後日尋ねてみようと決めたのであった。

 

 

「全力で行きますわ。ブルー・ティアーズ、レディ!!」

 

その言葉と共にブルー・ティアーズからフィン状のパーツが飛び出していく、合計3つの円錐状のそれがセシリアの周囲を浮遊し身体に携えている砲門を此方へと向けている。あれこそ第3世代兵器「BT兵器」の実験・試作機として設計されたブルー・ティアーズの象徴的な兵装「ブルー・ティアーズ」である。本来は4基からなる自立稼動兵器であるが勝鬨のブレードによって1基落とされているのは幸いと言える。セシリア最大の武器と言える物の投入に自然とライフルを握る手の力が強まる。

 

「先程までは失礼致しましたわ、ですが今から本当の意味での全力をお見せ致しますわ。ですからミスタ、貴方も全力で来てくださいまし!!」

「勿論、貴方相手に加減が出来るほど俺に余裕はないんでね!!!」

「では……行きますわ、スタートアップ!!!」

 

先ほどまでの主人を守る番犬が主からの命を受け敵を狩る獰猛でありながら躾がされた猟犬へと姿を変貌させる、向かってくるティアーズがそれぞれ独立した頭脳を有しているかのようにバラバラに動きながら此方へと迫りながら携えた武器からレーザーを放ってくる。四方八方から迫ってくるレーザーを防御するようにオートガードによるシールドがカミツレを守るがそれでも守れて二本のレーザーのみ、最後の一撃は防御し切れずに装甲で受け切るしかない。それでも完全な直撃は避けており良くやっている方だと言える物。

 

「ぐっ、やっぱキツいなおい!!」

 

真耶との特訓でも対ブルー・ティアーズを念頭に置いた物があった、しかし自立稼動兵器はラファールにはない為固定式の射撃装置をアリーナ内に配置しそれらの攻撃を回避するという方式の訓練によりある程度の対処は出来ているが矢張り360度のオールレンジ攻撃を行うティアーズに対応しきれていない。

 

「(如何すれば良い、落ち着けオールレンジは如何すれば防げる!!?)」

 

必死に頭を働かせながら全力で対処を行う、どうすればこのオールレンジを防げるのか。その時、一筋の光明がさしてきた、カミツレは勝鬨を高速で回転させながら地面へと降り立った。それと同時にティアーズの猛攻の勢いが殺がれシールドでの対処がし易くなった、そして増設された腰部装甲の一部をスライドさせて持ち上げる、そして保持したまま真正面から狙いを付けてきたレーザーを防御した。

 

「まさかそんな事まで!?」

「まだだ、俺はまだやれる……カチドキ、俺に付き合え!!」

 

そうだ、ISの基本は空中戦。機動性を100%引き出せるのも空中という概念に囚われていた、あのままでは確実に自分はティアーズに狩られていた事だろう。そもそもオールレンジ攻撃は本体とは別に行動する多数の遠隔誘導攻撃端末による同時攻撃の事で一対一でそれを有効的に活用出来るのは360度から攻撃を行える事になる。ISには全方位視覚接続(ハイパーセンサー)があるが人間は後ろや真下に真上を直感的には見る事が出来ない。その角度を付けられないように地上に降りて対応し易い視覚を確保すれば全方位から攻撃に脅える必要なんてなくなるのだ。ティアーズの最大の優位性の一部を潰されたセシリアだが怒りはなく嬉しさがあった。

 

「ミスタ、貴方本当に凄いですわ。賞賛に値します、だからこそ私は貴方に勝ちたいですわ!!」

「俺もだミス、勝鬨を上げさせてもらうぜ!!!」

 

再び再開される攻撃の雨、だが全方位ではなくなった攻撃にカミツレは対応出来ていた。大型化しているシールドは大きい範囲で防御を行いつつ手にした装甲を新たなシールドにする事でカミツレの守りはより強固となっている、それでも負けじと限られた方位から相手の動きを計算して誘導しレーザーを当てようと頭をフル回転させながらティアーズを操るセシリア、その一心一体の攻防が続くと思われていたが身体を回転させて防御をした時、カミツレの身体を強い衝撃が襲った。

 

「がぁっ!!?」

「遂に、リズムを狂わせましたわ!!」

 

その衝撃の正体はセシリアのライフルであった、本来セシリアはティアーズの操作を行いながら自分での攻撃が出来ない。意識を集中させなければ制御が難しいからである、しかし攻防の末にセシリアはティアーズで相手をリズムを付けさせながら攻撃を行い相手を自分の絶好の射撃位置に誘導し、瞬間的にティアーズの制御をストップさせて自らが攻撃を放つという戦法を会得した。より計算と自らが質の良い攻撃リズムを作り出す必要があるが成功さえすれば相手の不意や止めをさす事が出来る。

 

「感謝しますわミスタ、貴方のお陰で私はまだまだ上へと昇る事が出来ますわ!!」

「ぐっ!!!」

 

遂に自らのリズムを確立させたセシリアの猛攻が始まった、先程まで維持出来ていたペースが完全に乱された上に相手に掌握されてしまった。次々と身体に突き刺さっていくレーザー、減っていくSE。真耶との特訓で確かに技量は上がっていた筈だが僅か2週間の集中訓練では長期間の訓練を積んだ代表候補生の経験には適わない。このまま、敗北するのかと考えが過ぎった。ISバトルの初戦、相棒に勝鬨という名前を付けて置きながら敗北を与えてしまうのかと考えが浮かぶ中、何かが叫んだ気がした。諦めるなと、そして聞こえてきた。

 

 

―――カミツレ君頑張れ!!

 

 

紛れもない真耶の声、今日まで自分に力を貸してくれた真耶の声が聞こえたような気がした。瞬間、自分には真耶の思いも乗っていると思い知った。ならば簡単には負けてやれない。それに言われたではないか。悔いが無いように全力を出し切れと。自分は全力を出し切ったか?悔いが残らないのか?残るに決まっている。残らない方法とは何だ―――全力で今ある現実に立ち向かう事!!!

 

「――――うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

もうSEが無くなりそうになった時、咆えた。それと同時にシールドから一本のブレードが零れた、集中攻撃に耐え続けてきたせいなのかそれとも勝鬨が自分の声に応えてくれたのかは分からないがカミツレは無我夢中で落ちてきたブレードを渾身の力で蹴り飛ばした。勝鬨のパワーで蹴られたブレードはティアーズの一つを串刺しにしながらセシリアへと向かっていきその腰部へと炸裂し爆発を引き起こした。

 

「キャアアアア!!?」

「ぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」

 

最早獣の如き気迫と咆哮を上げた男は形振り構わずにもう一方の腕にも腰部装甲を装着するとそのままセシリアへと最大出力で向かって行った。それは先程まで得ていたティアーズの全方位攻撃に晒される事を意味するがそんな事などもう如何でもよかった、これで全てが終わるのだから!!

 

「テ、ティアーズ!!」

 

反応が遅れたセシリアだが背後からレーザーを襲わせるが勝鬨はシールドを背後へと移動させ攻撃を防御する。ならばとライフルを構え狙い撃つがそれを両腕の装甲が防ぐ。どんどん迫っていくカミツレ、その手にはブレードを展開し振りかぶっていた。

 

「ですがまだ奥の手がありますわ!!」

 

迫ってくるカミツレ、そのブレードが触れるより前にブルー・ティアーズのもう片方の腰部からミサイルが射出された。そう、ブルー・ティアーズには腰部に接続されたミサイル型のティアーズが残っていた。そのミサイルは振るわれたブレードと同時にカミツレへと炸裂した、同時に最後の一撃が互いを捉えSEを大きく削った、そしてその時試合終了のブザーが鳴り響いた。結果はどうなったのか……!!?

 

『勝鬨・黒鋼、SEエンプティ。ブルー・ティアーズ、SEエンプティ。よって杉山 カミツレ 対 セシリア・オルコットのこの試合は引き分けとします!!!』

 

その時、観客席から沸き上がった大歓声と拍手がアリーナ中を包みこんだ。



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9話

精一杯やった、やれる事は全力でやったと確信を持っている。同時に俺は思う―――相棒になってくれたカチドキと真耶先生に心からお礼を言いたいと。あの時ブレードが零れたのは偶然だったのだろうか、運命の悪戯かは分からないけれどそのお陰で逆転の一手となりジャイアントキリングまでとは行かないが引き分けまで持って行けたのは間違い無い。今度の休みは相棒の修理に使おう、感謝を込めながら自分の手で直してあげるのが一番のお礼何だと俺は思う。

 

そして真耶先生、今日この結果を得られる事が出来たのは紛れもないあの人のお陰なんだろう。覚えが良くない俺の為にメニューを組んでくれた上に遅くまで付き合ってくれた。ISの整備や設定のコツまで何から何まで教えて貰えた。あんな立派な先生に出会えた事が俺の学園生活の中で一番の僥倖だったのかもしれない。さてと……まずは真耶先生にお礼を確りと言う所から始めようかな。

 

「ハァハァ…」

「カミツレ君お疲れ様です!!」

「杉山大健闘だったな、よくやった」

 

ピットへと戻ったカミツレを出迎えたのは真耶と千冬であった。最後の一撃での位置の関係上、セシリアのピットの方が近かった事と次はセシリア対一夏である事、その次はカミツレと一夏である事を踏まえてセシリアと同じピットへと戻るように指示がされている。出迎えた真耶の笑顔と少し微笑みを作っている千冬を見て気が抜けてしまったのか、カミツレはカチドキを解除しながら崩れ落ちるように座りこみそうになったがそれをセシリアが支えた。

 

「ハァハァ……ミス……?」

「お疲れ様ですミスタ、さあお手を貸しますので確りなさってください」

 

柔らかい笑みを作りながら手を貸してくれるセシリアの助けを借りながら壁へと寄りかかったカミツレは肩で息をするように荒い息を吐き続けていた。勝負が終わった途端に押し寄せてきた安心感と張り詰めていた気が緩んでしまった感覚によって身体に上手く力が入らなくなっている。それを見て千冬は無理もないかと彼へと冷えたスポーツドリンクを差し出すとカミツレをそれを受け取ってグビグビと流し込むように飲み始めた。

 

「プハァ!!はぁぁはぁぁぁっ……きっっっつい!!!」

 

実感の篭った本音を思わずぶちまけた。今日まで溜め込んできたストレスが爆発したかのような言葉に全員が少し苦笑いを浮かべてしまっていた。

 

「でもカミツレ君、本当に大健闘でしたね!!あそこまで立派に戦ってみせた上にあのオルコットさん相手に引き分けなんて……教えた私が言っちゃいけないかもしれませんけど、本当に始めて2週間とは思えないですよ!」

「ははっ、真耶先生のお陰ですよ……本当に、有難う御座いました……!!」

 

その場で正座をしながら土下座をするかのように深く頭を下げた。攻撃、回避、防御、あらゆる基本を教えたくれた上に長い時間自分に付き合ってくれた真耶に対しては感謝の言葉を幾ら尽くしても言い切れないほどの恩が出来てしまった。心から彼女への感謝で溢れている。そんな弟子からの言葉に真耶は真っ赤になりながらあたふたと必死に言葉を作ろうとしている。

 

「そ、そそそそんな私なんて基本を教えただけで、後はカミツレ君が自分でそれを生かして力を発揮したからですよぉ!!」

 

それを見つめる千冬はあの真耶に出来た弟子の光景に思わず微笑ましい気持ちが出来てしまった。そしてそれと同時に羨望のような眼差しを送ってしまった。正直カミツレがあそこまでやるとは思っても見なかった。最初の予想ではある程度善戦こそするがセシリアに敗北すると思っていたのだが、結果はそれを覆し健闘した上での引き分けであった。これは大いに褒められるべきだろう。

 

「オルコット、お前も残念だったな。だが終盤辺りはかなり良かったぞ」

「有難うございます織斑先生。でも不思議なんです、負けた筈なのに悔しさも怒りもなくてその、清々しさと楽しさが心を突き抜けてるんです……」

 

今まで感じた事もなかった感覚を味わったように困惑した表情を浮かべる少女に共感したかのように軽く頭を撫でた。

 

「私もそれは経験した事がある。互いに全力をぶつけ満足が行く試合をした時にはそのような感情が生まれるのだ。それを感じられるのであればお前はもっと上へと昇れるだろう、精進を続けろよ?」

「はい!!」

 

素直に返事を返すセシリアに頷いた千冬はカミツレへと視線を向けた。そこでは漸く頭を上げたカミツレが真耶から如何に自分の力でこの結果をもぎ取ったのかを力説されており、照れているかのように頬を赤らめている。何故か小動物的な可愛さを刹那に感じたが何故だろうと?を浮かべながら其方へと足を動かす。

 

「真耶、その辺りにしてやれ。それと私にも話をさせてくれ。お前はオルコットの準備を手伝ってやれ」

「あっ、そうですね!では行って来ますね!!カミツレ君は確り休むんですよ!?」

「分かって、ますよ……」

 

壁により掛かっているカミツレは精も根も尽き果てているかのようにぐったりとしている、それもその筈だ。これは公式な試合ではないが彼にとっては初めての本格的な試合であったのだから。しかも相手はイギリスの代表候補生であるセシリア、その試合は引き分けという結果。それに至るまでの苦労などを考えれば順当な状態と言える。

 

「よくもまああれだけの成果を上げたな杉山、教師としても個人としても良くやったと褒めさせて貰うぞ」

「有難う、御座います……それと、ちょっと意外な感じがします」

「何がだ。私とて褒める時は褒めるぞ」

「いえ、俺はなんか織斑に味方して俺の相手している暇はないって印象があったんで……」

「あぁ……」

 

そういう目で見られていたのかと若干心外そうに顔を歪めるが、そう解釈しても可笑しくはないと気持ちを切り直した。確かに自分には強い影響力があり弟を守る盾となる事が出来る。守れる力があるのならば守ろうとするのが家族という物なのでその考えはある意味正しいと言える。

 

「否定はしないが一応私は教師なのでな、必要以上に一夏に味方はせん。裏ではあいつを守るが表であいつを優遇するような事はせん」

「そうなんですか……すいません、変な事言いました」

「気にするな。お前から見たらあいつは恵まれているからな。そう思われていても仕方ないという物だ。杉山」

 

千冬は屈みながら静かにカミツレの頭を撫でた、出来るだけ優しく。

 

「お前が今日まで努力して来た事は知っている。その努力の結果として今があるんだ。それを噛み締めて明日に繋げろ。私も出来る限り力は貸す、だからこれからも頑張れよ」

「はい、先生……」

「その代わりと言ってはなんだが、どうだ私の指導を受けないか」

「ちょっと先輩、だからカミツレ君の指導者は私ですって!!!!」

 

真顔でそんな事を言ってくる千冬を咎めるようにやって来た真耶はカミツレから千冬を守るかのように間に入りながら手を広げている、それに愉快そうに笑い千冬の声がピットに木霊する。

 

「ハハハハハハッ!!!いいではないか生徒は教師に指導されるものなのだからな!」

「だからカミツレ君は私の弟子で、師匠ポジは私なんですぅ!!」

 

目の前で繰り広げられる教師同士のやり取りに何処か笑いがこみ上げている中、セシリアから個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)が飛んできた。

 

『嬉しそうですわね、ミスタ』

『……そう、ですね嬉しい、ですね……俺は、良い先生に巡り合えて幸運なんで、しょうね……』

 

そう返しているうちに安心感からか猛烈な睡魔がカミツレに襲い掛かりあっという間に深い眠りに誘われてしまった。今日まで彼は夜遅くまでセシリアからの講義を受けその後もベットの中では彼女に対する対策を講じていた為に余り眠れていなかった、それと模擬戦による疲れが出てしまったのだろう。真耶と千冬が言い合っている間にカミツレはすやすやと寝息を立ててしまっていた、久しぶりの幸福感に満ちた眠りへと。

 

この後、眠りに落ちてしまったカミツレは心労と疲労によってもう戦えないと判断され、一夏との勝負は中止となりセシリアとの試合のみが行われる事となった。結果としてはカミツレとの試合でレベルアップしたセシリアに剣道ばかりやって来た一夏が勝てる訳もなく、全く寄せ付けない戦いを展開した彼女の圧勝となった。その日はこの二試合のみで終了となったがこれによって大きく未来が変わっていくのをカミツレは知りもしなかった。



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10話

シャワーノズルから溢れだすお湯、程よい熱さは肌に当たっては弾けて身体をゆっくりと暖めて行きながら彼女自慢のボディラインを流れていく。均整の取れた身体の曲線美は自慢の一つでもあった、やや胸が小さめという事が気になるがそれが逆にバランスの取れたラインをかたどっているので本人としては複雑な心境を生み出している。シャワールームにて一人で頭からお湯を浴び続けているセシリアは胸に手を当てながら物思いに耽っていた。

 

「(今日の試合、今まで、感じた事のない感覚でした……)」

 

IS稼働経験僅か2週間、二人目の男性IS操縦者である杉山 カミツレとの試合は彼女にとって驚きの連続であると同時にひどく充実した物であった。しかしそれは何時も勝利への確信と向上の欲求を抱き続けていた彼女にとっては初めての経験に近い物であり、勝てなかった筈なのに清々しく嬉しさすらあった。千冬からその気持ちを大切にしろと言われたが初めて経験する物に慎重な思いを募らせてしまっていた。

 

「杉山、カミツレ……」

 

同室であり今もベットで眠り続けている彼の事を思い出す。あの強い意志と覚悟、そして自分が見据えた未来へ絶対に行ってみせるという迫力は今まで彼女が出会った事がないような男性であった。あれだけの強さの理由は現実を見ているからこそだと真耶から言われた時には驚いた。彼は恐れているからこそ努力し前に進もうとしているのだ。男性IS操縦者として結果を出せなければ後ろ盾のない自分が確実に研究所に送られ全世界の男性がISを使う為と称して非人道的な毎日が待っていると。命の危険という恐怖と必死に戦いながら自分と渡りあったカミツレ、彼の事を思うと胸が熱くなってしまう。

 

「ミスタ・杉山……カミツレさん……」

 

今までの呼び方ではなく思い切って名前を言ってみると、不思議と胸が暖かくなっていた。あの人と一緒に居たい、ずっと彼の事を見ていたい……傍に居て支えてあげたいという思いがどんどん募っていく。何処か苦しい筈なのに感じる嬉しさに動揺しつつも良い形になっている唇に触れる。

 

「カミツレ、さん……私は、貴方の事が……」

 

そう形にする前にもう一度シャワーに頭から突っ込んだ、そしてある事を決めながらノズルを止めシャワールームから出て行く。新しい制服を着直すと部屋へと出る、ベットには心労と疲労で穏やかな寝息を立てている彼の姿があった、思わず彼の髪をそっと撫でてから自分の机に向かい、ノートパソコンを起動。アプリを起動させながらマイク付きのヘッドフォンを付ける、起動が終了すると連絡先をクリックする。その連絡先は―――イギリス本国。少し待つと画面に複数のウィンドウと共に本国のIS関連の政府官僚が映し出された。

 

『ミス・オルコット、連絡を待っていたよ。それで一体何の連絡かな』

「はい、今回連絡させていただきましたのは他でもありません。男性IS操縦者である杉山 カミツレについてです」

 

そう議題を提出させられた官僚達はほぅ、と言葉を漏らしながらセシリアの言葉を待った。

 

「本日私は男性IS操縦者である二人と対戦を行いました」

『それで結果は?』

「1勝1引き分けでした」

 

隠す事もなく真実を告げるとスピーカーからどよめきの声が聞こえてくる。セシリアは国内の代表候補生の中でも上から数えた方が早い実力の持ち主であり、次期国家代表にも近い人物と言われている。そんな彼女が今までIS稼働経験がない相手に引き分けたという事実は衝撃的なニュースなのだ。

 

『そ、それは矢張り戦乙女(ブリュンヒルデ)の弟であるイチカ・オリムラなのかね!!?』

『矢張り優れた姉には優れた才能を持った弟、という事でしょう』

『矢張り凄いのだなミスオリムラの弟君は!!』

 

と勝手に言っている官僚達に内心で苦笑いを浮かべてしまった。実際には彼には勝利している。しかし彼らが期待しているような内容ではなく、正に大番狂わせが起きたのだから。

 

「いえ違います、織斑 一夏は私に敗北しております。引き分けたのは杉山 カミツレです」

『『『な、なにぃ!!?』』』

『し、しかし彼は一般家庭の出だと聞いておりますよ!!?』

『祖父は軍属経験があると資料にはあるが、それでも事実なのかねそれは!!?』

『しかしミスがこのような嘘を言うなど有り得ませんぞ!!?』

 

明らかな動揺とまさかの報告に官僚達は大きく取り乱していた。しかし無理もない。カミツレは正真正銘一般家庭の生まれ、親族にIS関連の仕事をしている者は一人もいない極平凡な男なのだから。そんな男がセシリアと引き分けたというのは中々信じられる物ではない。セシリアもこのままでは納得して貰えないだろうと彼の師匠の名前を出す事にした。

 

「落ち着いてください、彼は今日までの2週間ある人物の元で特訓を行っていたのです。その人物の指導と彼の覚悟と思いが強さを付けたのです」

『そ、その人物とは誰なのですか!?ま、まさか戦乙女!?』

「いえ『銃央矛塵(キリング・シールド)』という二つ名を持つ山田 真耶教員が彼の師となり指導を行ったのです」

『"銃央矛塵"ミス・マヤ・ヤマダか!成程、確か彼女は実力こそ戦乙女に劣るが指導力という点では上回ると聞く。彼女ほどの師の下ならばあるいは……』

『しかしそれでも僅か2週間ですよ、それでミスと渡りあうなど、信じられません……』

『ミスター・杉山は恐るべき成長力を持っているのかもしれませんな』

『これは、ミスター・織斑よりもミスター・杉山にアクションをとるべきなのではないか?』

 

様々な意見や感想を述べているが誰も分かってはいない。彼の強さの秘密は理解してこそ納得が行く物なのだ。セシリアは意見を飛ばしている官僚にストップを入れてカミツレの強さの秘密を明かした。それらを聞いた官僚達は驚き、呆然とし、感心し、納得した。そしてその強さの秘密を理解した。

 

『成程……確かにな、そのような事が待っていると思うと強くなれた。いいや、なるしかなかったのか』

『納得が行って、しまいますね……男性IS操縦者だと騒いでいた自分が恥ずかしいです……まだ、15,6の少年にそこまでの恐怖を与えてしまっていたなんて……』

『死への恐怖か……そこから少しでも遠ざかりたいという一心で努力したという訳か……』

『立派、というしか言葉が見つかりませんな』

「そこで私は提案をしたいのです。私、セシリア・オルコットは杉山 カミツレさんをイギリス国家代表候補生への推薦を強く希望いたします!!」

 

その言葉に一同は驚きつつも納得も出来た。彼が恐れているのは研究所へと送られる事。それは後ろ盾がない事が一番の原因とも言える。それならば自分達がその後ろ盾となってしまえば良いのだと。彼の家族やカミツレのバックにはイギリスが付くという事になりそう簡単には手出しが出来なくなる。それに加えてイギリスとして非常にメリットが大きい。交渉の材料としても男性操縦者のデータとしても優秀な操縦者獲得という面で見ても圧倒的なメリットがある。

 

『成程、これは早急に協議を行い詳しい内容などの選定に入るべきでは無いでしょうか。私としてもミスター・杉山を代表候補生として迎え入れるには大いに賛成です』

『私もです、正直戦乙女の弟であるミスター・織斑も魅力的ではありますが確実性を取るにはそちらの方が良いでしょう』

『ふむ激しく同意ですな。私個人としても彼を守るために力を尽くしたいと思います。英国紳士として』

『ではそのように進めるとして迅速且つ精巧なプランを用意する事としましょう。宜しいですな』

『『『異議無し』』』

 

その言葉を聞いたセシリアは思わず心がますます暖かくなって行くのを感じた。これで彼に選択肢を作ってあげる事が出来ると。ホッとしている中、官僚の一人がニヤついた声で尋ねてきた。

 

『所でミス、そこまでミスター・杉山の事を頼むとは……もしかして彼に惚れましたかな?』

「なっ!!?」

『ほほうそれはめでたい事ですな!いやぁ矢張り恋は若い時にしないといけませんからなぁ』

『若い男女が見つめ合う。そして次第に重なる腕と腕。絡め合った指からは伝わりあう互いの体温。くぅぅ良いですわねそういうの、私大好きですわ!!』

『いやぁもしかしたらオルコット家の旦那と呼ぶ日が来るかもしれませんなぁ』

「あそそそそそそそんな事ととととことは!?そ、そのもう失礼致しますまた何れご連絡いたしますので!!!」

 

顔を真っ赤にしながら連絡を切る、熱くなってしまった顔、まさかと思っていたが本当に自分はこの男性に恋をしてしまっているのだ……今確実にそう実感した……。そして思わず妄想してしまうセシリア。大人となった自分とカミツレが屋敷のバルコニーにて綺麗な月を眺めながらワインを飲んでいると彼から抱き寄せられそのまま口付けを……。

 

「いやんいやんいけませんわ私ったらはしたない!?いけませんわ高鳴りが抑えられませんわ、でもああ、いけませんわこんな所でぁぁん、カミツレさん……ぁぁぁっ……」

 

本人が熟睡している直ぐ近くで妄想の世界に入ってしまったセシリア、彼女の恋は叶うのだろうか。



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11話

代表決定戦の翌日、戦いの後熟睡してしまったカミツレは元気な姿で教室へと姿を現し何時ものように自習を行っていた。行っている最中に女子達から先日の戦いは凄かったや感動した、カッコ良かったなどの賞賛の言葉を受けると照れくさくなったのか赤くなった頬を隠すように顔を伏せて自習を続けた。それを見た女子達はそんな所もあるんだなとカミツレへの好感度を上昇させていると千冬と真耶がやって来てHRを開始した。そしてそこで代表者の発表を行う事となった。

 

「えっと先日の代表戦の結果を踏まえた結果、代表者はセシリア・オルコットさんになる訳なのですがご本人から辞退するというお話が来ました」

 

HRの場で発表が行われた言葉に驚愕する一同、何故辞退するのかと声が漏れるが千冬が軽く手を叩いた後口を開いた。

 

「オルコットは如何やら杉山との模擬戦中に編み出した新たな戦術の研究をしたいと申し出があった。何よりオルコットは模擬戦で唯一の勝利保持者である為に辞退の権利は充分に持ち合わせている」

「という訳なので次点という事でカミツレ君になるんですけど……如何します?」

「あ~……んじゃ俺も辞退します、今の俺じゃあ力不足ですので」

 

次に向けられたカミツレ、正直な所カミツレはたった一戦を行っただけで気を失うような熟睡をしてしまった事を重く受け止めているのか身体や精神を鍛える必要があると考え至りもっとトレーニングを積まなければと考えている。今日もそのトレーニングに当てる事を考えている、そしてカミツレが辞退した事で自動的に代表は……

 

「では最後に残った織斑 一夏君がこのクラスの代表に決定しました!」

「えええっっ!?」

 

クラスから拍手が沸き上がる中思わず大声を上げながら困惑する一夏が立ち上がった、何故自分が代表になるのだろうか。この流れならばと自分も辞退しようと思っていたのに拒否権など一切無しで就任させられるなんて思いもしなかった。

 

「ちょちょなんで!?俺だってやりたくはない!!?」

「敗北者にそのような権利など無いわ、杉山のような健闘の上での敗北ではなくお前は普通に負けたではないか。試合内容だけで考えれば杉山とオルコットのツートップだ、最下位は諦めろ」

「ぼ、暴君だ…」

 

ガックリと来てしまった一夏。周囲からは就任おめでとうと拍手が送られてくるが全く嬉しさなんて沸き上がってこない。寧ろやめて欲しいという一心が沸きあがってくる。しかし一部の女子は本当に一夏で大丈夫なのかと疑問視する生徒もいる。それならばあれだけの戦いをやってのけたカミツレに是非やって欲しいと思っているが、既に決定してしまっている。

 

「ち、畜生……こ、こうなったら自棄だ、全力でやってやる!!」

「その意気だ織斑、まあ取り合えずお前は専用機を使った機動訓練でもしておけ。先日のあれは酷かったぞ」

「……はい」

 

HRの最後は一夏への駄目出しで終わってしまいそのまま授業がスタートした。そんな授業が終わった昼休み、セシリアがカミツレの席までやって来た。

 

「カミツレさんご一緒にお昼でも如何でしょうか、今日ぐらいはお休みしてお身体を休めた方が良いですわよ?」

「ああいや、その気持ちは嬉しいんですけど眠りすぎたせいで早朝のトレーニングも出来て無いからその分を取り戻そうと思ってたんだけど」

「いけませんわカミツレさん、身体を虐めすぎても身体は育ちません。適度な休憩があってこそ成長するのですわ!先日は明らかに疲労のピークを超えていたからこそ眠ってしまったのです。だからこそ大事を取って身体を休めるのです!!」

 

やや迫力のある言い方に押されるが代表候補生としての言葉なのでそれが正しいのだろうと受け止めたカミツレは素直に今日は休みを取る事を決めるとセシリアにエスコートされるように屋上へと向かって行く。今までに無いぐらいに積極的且つ何処か友好的な彼女の態度に戸惑いを感じながら後に続いて屋上へと顔を出す。一緒に座り、途中の売店で買って来たおにぎりなどを取り出して食べようとするとセシリアが口を開いた。

 

「カミツレさん、遅くなってしまいましたがこうお呼びして宜しいでしょうか?」

「えっ!?あっそう言えば……いえまあ呼び易い方で構いませんよミス」

「其方も私の事は如何かセシリアとお呼びください」

「で、でもえっと……セ、セ……セシリ、ア……」

 

今まで自分には女友達がいなかった為に家族以外の女性を名前で呼んだ事が無いので名前を呼ぶにも勇気が必要だった、赤くなりながらも必死に口を動かして彼女の名前を呼ぶとセシリアは嬉しそうな顔をしながらはい♪と鈴のような美しい声で返事をした。突然の事で困惑しているカミツレに対して何処か満たされているかのような表情だったのでやっぱり辞めたいという事は言えずにそのまま受け入れる事になってしまった。

 

「いきなり昼食にお誘いしてすいません、実はお話したい事が御座いまして」

「話、俺に?」

「はい。私は山田先生からカミツレさんが何故あれほどに頑張るのかをお聞きしたのです」

「……ああ、それで如何思いました?恐いから頑張ってるって聞いて幻滅しました?」

 

カミツレは自分では必死になってやっているが理由としては余りカッコ良くは無い事を自覚しており、それらを振り切って未来を向いている訳ではない。行き止まり(DEAD END)に到達したくない為に、その恐怖から逃れる為に努力して違う未来へと進もうとしている。みっともないような感じがするのも分かっていたがセシリアの答えは全く違い立派だと答えた。

 

「カミツレさんは自分が置かれている状況を冷静に分析し、それでも自分が歩いて行きたい未来への道を自分の足で歩いているんです。それで幻滅するだなんてありえません」

「……ハハッそう言って貰えるなんて思わなかったよ……」

 

予想外の暖かな言葉を受けて思わず涙が流れてきた、真耶から受けた賞賛の言葉は訓練に対する物。千冬から受けたのは健闘に対する賞賛、だが今掛けられたのは純粋な自分の考えが素晴らしいという賞賛の言葉。IS学園に来て初めて受けたそれに嬉しさを感じてしまった。涙を拭きながら気を取り直す。

 

「それでその、カミツレさんが今一番求めているのは後ろ盾だと勝手に解釈しているのですが」

「まあそうなのかな……兎に角俺は研究所に送られたくないからそれで合ってるとは思うよ」

「カミツレさん、単刀直入に言います。イ、イギリスの代表候補生になる気は御座いませんか!?」

「……えっ!!?」

 

セシリアの言葉に思考が停止し一切の行動がストップしてしまった、何を言っているのだ目の前の少女はとさえ思えてしまった。自分が、イギリスの国家代表候補生に?セシリアと同じ立場になる?意味が分からない本当に何を言っているのかと混乱してしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれええっ!?お、俺が代表候補生!?」

「はい。先日、本国に模擬戦の報告をした際に勝手ながらカミツレさんの事をお話しました、そして本国はカミツレさんの技術や成長速度を踏まえた上で代表候補生に迎えたいと仰ったのです」

「お、俺の技術たって……あれは、唯の付け焼刃でそれに俺は覚えも悪い、のに……そんな……」

 

余りにも必死だったからこそ気付けなかった自分の力、恐怖によるストレスと切迫していた状況によって自分を客観的に評価が出来ていなかったが、カミツレの成長速度とその技量は僅か2週間程度で身に付くようなレベルを超えている。それはセシリアと引き分けたという事実が明らかにしている。自分にそんな技術がある事が信じられない以上にそこまで自分の事を評価してくれている事が驚きだった。

 

「当然これからも努力は必要でしょうが少なくともイギリスという国がカミツレさんをお守りします、ご家族の安全もきっと保障されます。今はまだどのような待遇でお迎えするか協議の段階ですが……如何でしょうか?」

「ハ、ハハハッ……俺、夢でも見てる気分だよ……」

 

思わず身体が笑っていた。恐怖に脅えていたのにそれがもう必要なくなると言っているのだから。それが心から嬉しくなって来た……そして家族の安全も保障される……。また家族と一緒に心から笑えるようになるかもしれない……それが荒れていたカミツレの心をひどく癒した。

 

「ハハハッ……えっとセシリア、これからも宜しくって事で良いのかな……?」

「はい、末永く宜しくお願い致します!」

 

カミツレは自らの努力によって権利を手に入れる事になった。望まなかった世界への切符だがそれでも自分が望んだ形で生きる事が出来る、その一点だけで満足であった。空を見上げたカミツレの表情は、IS学園に入学してから一番晴れ晴れとしていた。



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12話

出会いと別れの春も終わりへと近づいていく春下旬、世界的にイレギュラー且つ異常な場所でもあるIS学園でも季節の変わり目は少しずつ訪れ確実に変化を齎している。遅咲きの桜さえも殆ど散ると、青々とした葉が芽吹き生い茂る、夏を向かえるための準備を行う頃の授業、1組の生徒達はIS基本操縦訓練を行うためにグラウンドへと出ていた。

 

「ではこれよりISの基本的な操縦を実践してもらう。そうだな…専用機持ちである織斑、オルコット、杉山。試しに飛んで見せろ」

 

名指しを受けた三人は前へと出る。その中の一人であるカミツレは以前よりも余裕と自信を持っているかのような表情をしながら勝鬨を展開する。気付けもしなかった自分の力とそれを得るまでの努力が実を結んだ結果として得られた対価は彼に大きな安心感と生きる希望を与える結果となった。しかしそれで歩みを止める男ではなく今まで以上の努力をし続けているのが真面目な彼の美徳と言える所だろう。因みに現在も真耶に指導を仰いでいるがセシリアもそれに参加する方針で訓練に励んでいる。

 

「流石にオルコットが一番か。だが杉山も十分に早いな、初心者としては驚異的と言えるな」

「有難う御座います先生」

「それに比べ……織斑遅いぞ、少しは杉山を見習え」

「そ、そんな事言われたって……」

 

既に展開を終了している二人に比べて一夏はまだ展開が出来ていなかった、それは明確な練習不足とイメージを形作りきれていない証でもある。しかし初心者である事を考えると妥当であるかもしれない。ある意味死を避ける為に死ぬ気で訓練を行った結晶として今があるカミツレと比べるのは間違っているとも言える。一夏は彼の専用IS「白式」の待機状態であるガントレットを掴むようにしながら目を閉じISの名前を呼ぶ事で展開を完了させた。

 

「よし、飛べ」

 

指示の元、三人は一斉に飛び上がって行く。最も早いのはセシリア、次いでカミツレ、そして大分遅れて一夏が続いている。性能と経験の関係もありセシリアの「ブルー・ティアーズ」が先頭を行くが、カミツレもセシリアの直ぐ傍を追従するかのように飛行している。この辺りは流石に真耶との訓練で培われた経験と技術の賜物だろう。

 

「流石カミツレさん、また上達したのではありませんか?」

「いや、今回は装甲の交換発注していて装甲を一部外してるからスピードが出てるんだ、何時もならここまで追従は出来ないさ」

「またまたご謙遜を、カミツレさんの普段の努力の結晶ですわ」

「あんまり飴を与え過ぎないでくれよ」

 

そう言いつつもカミツレの表情は柔らかく自然と笑いを浮かべる事が出来るようになっていた、セシリアがイギリス政府に掛けあい自分を代表候補生にするために動き出し後ろ盾になってくれるという約束を取り付けたからこその安心感だろう。そんな彼女とは自然体で会話が出来るようになり互いに名前で呼び合う事が当たり前となっていた。

 

『織斑何をやっている、スペック上の出力はお前の白式がワントップなのだぞ。それをもっと活かせ、訓練機のカスタムとはいえ第二世代の「勝鬨」にすら追い付けていないぞ』

「そ、そんな事言ったって……急上昇とか習ったの昨日だぜ、それをいきなり上手くやれって言われても……というか何でカミツレはあそこまで上手くやれるんだよ……」

 

努力の差、これに尽きる。加えて言うのであれば急上昇に急降下は真耶からクラス代表決定戦が行われると決まる日より前に教わり練習をしたため上手く出来ているので最初から上手く出来ている訳ではない。最初など酷く急降下したら下半身が地面に埋まる逆犬神家になったり上昇したら急激に方向転換してしまい犬神家をやらかしたりと酷い物だったが今では自然と自分の足で曲がったりするように意識せずとも出来るようになっている。暫くすると300メートル地点で静止している二人へと一夏は追いついた、それを確認した千冬は新たな指示を飛ばす。

 

『では織斑、オルコット、杉山、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は10センチだ』

「了解致しましたわ。それではカミツレさん、下でお待ちしておりますわ」

「ああ、待っててくれ」

 

そう言いながら急降下していくセシリア、そのまま難なくと千冬の指定した10センチジャストの位置で静止するセシリアに素直に賞賛するカミツレと凄いと感心する一夏。

 

「うしそれじゃあ次俺行くけど良いかカミツレ」

「別に良いが」

「よしそれじゃあ行くぜ!!」

 

勢い良く急降下を行っていく一夏、その速度は中々の物。これだけ出来るなら上昇の時もこれをやれば良いのにと思ってしまったが余りにも速度が速すぎる事に気付いた。あれで本当に完全停止出来るのだろうか。理論上は高い速度でも完全停止は出来るが速度が高ければ高いほどより明確な停止のイメージが必要となってくるのだがそれが一夏に出来るのだろうk……

 

ズドォォォォオンッッッ!!!!

 

無理であった。一夏は地面に穴を開けるように地面に激突するという形で停止した。あれは痛い、色んな意味で。そんな事を思っていたが自分も急降下を開始した。ぐんぐんと通り抜けて行く景色を尻目に迫っていく地面、スピードを出した自転車に乗っている時に手を放すのとは比べ物にならないスリルを感じつつもこの程度かなと感じた所で停止のイメージを作り静止した。それを千冬が測定する。結果は……。

 

「ふむ13センチか、及第点だな。今度は気持ち遅めでやってみろ。しかし停止の仕方は見事だったぞ」

「有難う御座います、精進する事にします」

「うむ」

 

目標の10センチには及ばなかったがそれでも十分惜しいと言える部類の結果に一定の評価を示した千冬は改善点を示しながら見事だった点を褒める。その一方でグランドに穴を開けた一夏に一発を叩き込んだ、如何やら彼も箒と共に訓練機で訓練をしているようだが箒の指導の仕方が良くないのか芳しくないようだ。一体どんな指導なのだろうか……と思っている最中次の授業へと進んでしまう。

 

「織斑、武装を展開してみろ。その位は自在に出来るようになったか」

「は、はあ一応」

「返事ははいだけにしろ」

「は、はい出来ます!」

「ではやれ」

 

そう言われてその手に白式の武装であるブレードを展開しようとする、約4秒ほど掛けて展開したそのブレードを見て満足げに頷く一夏だが千冬は不満げな表情を浮かべた。

 

「杉山、お前は如何だ?」

「ブレードとライフルどっちを」

「両方だ、順番にやってみろ」

 

そう言われ、意識を集中するとその手にブレードが現れる。もう片方にはライフルが展開されるがその両方はすぐに消えて予備のブレードとライフルが再度展開された。展開の速度は十二分に素早く一夏は自分との圧倒的な差にただただ驚き千冬は満足げに笑う。

 

「よし合格だ。だが展開時お前はブレードを逆手にする癖があるな、悪いとは言わんが逆手では対処が難しい時があるから基本的に逆手はやめておけ」

「分かりました先生、意識します……フッ!」

「よし、それで良い」

 

指摘を受けてやり直しをしたカミツレに千冬は文句無しの合格点を与える、それを一夏は面白くなさそうに見つめている。確かにカミツレは自分よりも上手いがあそこまで優遇するような事はしなくても良いのではないかと思えてしまう。先程から千冬は自分よりも明らかにカミツレの方を重視しているように思える、それが何処か気に入らない。一夏が何処か黒い感情を燃やしている中、セシリアの展開も終了すると授業はそのまま終了する。

 

「織斑、穴はお前が一人で塞いでおけ。自業自得という奴だ、責任を持て」

「……分かりました」



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13話

「という訳で織斑君、クラス代表就任おめでとう~!!」

『おめでと~!』

 

パンパンっと小気味よい火薬の炸裂音と共にクラッカーが乱射されていく。クラッカーから飛び出す紙テープは其方此方に飛びながらパーティの開始の合図となった。食堂の壁にはデカデカと貼られている『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙があるがそれを見るたびに一夏の心はずっしりと重くなっていく。元々やりたくなかったのだが、実力の差で決められた決定権故にやらざるを得なくなってしまった現実に胃が痛くなるような感覚を覚えている。

 

「いやぁこれでクラス対抗戦も盛り上がるよねぇ!同じクラスに男子がいてよかった!」

「本当本当!」

 

と喜びを露わにしている少女達を見ていると無理矢理にでも気持ちを起こさなければ行けないような気がしてならない。少しでも気を直そうとしているがどうも気乗りしないらしい。

 

「カミツレさん、どうぞ」

「ああ、悪いなセシリア」

 

一応クラス代表戦を戦った者としてセシリアとカミツレも参加はしているが純粋にジュースやお菓子を食べに来ているかのようで端のテーブルに座りながらちびちびと楽しんでいるようである。

 

「あ~あ……織斑君が代表か」

「あれアンタはいやなの?」

「そうじゃないけどさ、専用機持ってるけど私は杉山君が良かったのよ。あの時の試合凄い感動したもの。最後の瞬間までオルコットさんに喰らい付こうする獣みたいに鋭い目と諦めなかった姿勢!それで代表候補生に引き分けたんだよ?」

「あー分かる分かる、あの試合本当に凄かったもんねぇ」

 

一部の女子たちは一夏の話ではなくクラス代表戦のセシリア対カミツレの話へとシフトしていた。実際あの時の試合に感動したりカミツレに対する認識を改めたりする者はかなり多かった。同時に真耶の弟子であるという事も知れ渡っている、一見聞くと真耶の弟子というのはやや不安が出来るような感じがするがそれは普段の真耶しか知らないからの弊害であって実際の真耶は非常に強い。

 

「織斑君とは動きとかが全く違ったよね、既に決めてたって言うか」

「キレがあったよね。しかもISは打鉄をカスタムしただけって話だし」

「実は本当に凄い才能ある人なんじゃないの杉山君って」

 

ある意味それは合っているようで間違っている。あれは本当に既に決まっていたのである、セシリアの事を前調べした際にどのように対処するかを頭に入れた上で真耶との特訓に加えてもらったのであの動きが出来たのである為に自分の才能ではなく努力の結晶なのである。そしてこの試合の結果は各学年にも伝わっており波紋を呼んでいる。そのような事を皆が思っていると食堂に一人のテンションが高い生徒が入ってきた。

 

「はいは~い新聞部で~す!!話題の新入生、織斑 一夏君と杉山 カミツレ君に特別インタビューをしに来ましたー!あっこれ名刺ね」

「あっこれは如何も……えっと……かおる、かおるこ……?」

「アハハハッ違う違う、まゆずみって読むのよそれで。(まゆずみ) 薫子(かおるこ)ね。うーん名前の部分もうちょっと大きくして読み易くした方が良いかもなぁ」

 

挨拶をしながらボイスレコーダーを取り出しながら無邪気な子供のような笑顔でそれを向けた。

 

「では織斑君、クラス代表となった感想を一言、どうぞ!!」

「え、ええっと……頑張ります」

「えー。もっと良いコメントを頂戴よー、これで一記事作るつもりなんだからさ、俺のビックバンに触れると火傷するぜ!!とか5万年早いぜ!とか」

「自分、不器用ですから」

「うわ、前時代的!まあいいや、適当に良い感じに捏造しとくから」

「なら聞いた意味なくないですかね」

 

それには概ね同意するがそれは一夏が良いコメントを言えなかったからである、まあそれ以前に捏造する事自体が大きな問題なのだが。そのような事を思っていると彼女が此方へと寄ってきた。

 

「それじゃあ今度は杉山君、コメントお願いね。隣のセシリアちゃんとの激闘は話ぐらいだけど聞いてるよ!本当に凄かったって話じゃない!それじゃあ良い感じの台詞お願いね!」

 

ボイスレコーダーを突き出してくる黛、しかしカミツレはこう言った事は苦手な分野に入ってしまう。かと言って無難すぎるコメントにしても捏造されてしまう、それだけは避けたい。変な事を書かれて風評被害を作り出されるのは真っ平御免だ、少々恥ずかしいが良い感じの台詞を言うしかない。

 

「俺がセシリアと戦えたのは努力したからに過ぎない、ただそれだけだった。だけどそのシンプルさこそが力をくれた。だから俺は努力をやめる気はない。そして今度はセシリアに勝つ!」

「望む所ですわカミツレさん。私としてもあの時のような戦いをまたしたいと心から思っておりました。そしてキッチリと決着を付けたいと思っていますわ」

 

互いに見つめあいながらガッチリと握手をする二人に黛は嬉しそうに笑いながら興奮したかのように飛び跳ね始めた、此処までコメントをしてくれた上に良いネタまで提供して貰ってしまった。新聞部としてはこれ以上にない朗報と言える事だ。

 

「うーん良いわね良いわね!!!そういうの私大好き!!是非今度もう一度取材させて頂戴、話題の杉山 カミツレとセシリア・オルコット。互いに再戦を誓う!って見出しにして作るから~!!」

「捏造、しないでくださいよ」

「しないわよ、これだけ良いネタがあるんだから変えちゃ侮辱ってもんよ!!」

「それでしたら織斑さんの捏造もやめた方が良いのでは?」

「あ~……そうよねついノリで言っちゃったけどイエロージャーナリズムみたいだし、織斑君後でもう一回コメント頂戴!」

「あっはい分かりました」

 

この後は写真撮影が入ったが代表戦を行った三人で写真を撮ろうとした際にクラスの皆がフレーム内に乱入する事が起きたり、見出しの為にセシリアとカミツレが握手をしながら見つめあう写真を撮ったがその際にセシリアが漸くカミツレと手を深くまで繋いでいる事に気付いたのかシャッターを切る際に顔を真っ赤にして手を放してしまった場面が撮れてしまったので撮り直しになったりと微笑ましいハプニングがおきながらパーティは進んでいった。

 

そんな平和な一時が流れている中、また新たな嵐が学園へと接近していた。

 

「さあ来たわよIS学園、そして―――待ってなさい、一夏!!」



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14話

まさかのルーキー日間1位に動揺が隠せない……。


「杉山君おっは~!」

「今日も朝走ってたね~、毎日健康的だね」

「おはよう。まあ健康のためじゃなくてトレーニングなんだけどな」

 

翌日、早朝のトレーニングを終えて教室にて軽く授業内容のチェックをしていると女子達から話しかけられる。先日のインタビューのコメントが好印象になったのかは分からないがカミツレもそれなりに女子達から話しかけられるようになっている。必死に自分を磨き続けていた入学当初とは大きな違いだと我ながら思う、ある程度話し掛けられる方が精神的には落ち着きが訪れるというものだ。

 

「あっそうだねえねえ杉山君、転校生の話って聞いた?」

「転校生ってこの時期(4月)にか、珍しいな」

「うん、なんでも中国からだって~」

 

そう言葉を漏らすのも理由がある。時期的な関係もあるがこのIS学園は特殊且つ異質な特徴を持っている為に入学以上に転入が難しい。試験は勿論各種審査もある上に国からの推薦という一番大切な物がないとそもそも転入が許可される事はない、国からの推薦を受ける事が出来るという事は即ち転入してくる生徒の存在を明らかにしているも同然である。

 

「という事は代表候補生という事になりますが、タイミングがあからさま過ぎますわね」

「セシリアやっぱりそう思う?」

「ええ。間違いなく」

 

短い言葉のやり取りで確信を持った二人は納得したように首を縦に振り互いの考えが一致している事を確認する。しかしそれに耳を傾けていた一夏が箒を伴って近づきながら一体どういう事なのかを尋ねてきた、どうやら彼らも気にはなっていたようだが箒は違ったようだ。

 

「ふん、どうせこのクラスに転入する訳ではないのだ。騒ぐほどの事でもないだろう」

「いえそうではなく転入して来る事、それ自体に意味があるのですよ篠ノ之さん」

「なあそれってどういう意味なんだ?」

「代表候補生を送り込む事に意味があるんだよ、今IS学園には何があるのか考えて見ろよ」

 

そうカミツレが一夏へと指摘する、質問するばかりでは意味がないと言わんばかりに問題を突きつけられた一夏は思考を廻らせてみる。此処はIS学園で此処には何があるか、訓練機や各種ISの鍛錬が出来る場。しかしそれなら転入してくる生徒の本国(中国)にもある筈なのに態々転入してくるその理由は一体何か、色々と考えるが思い付かず素直に降参した。

 

「悪い、分からない」

「ハァ……貴方とカミツレさんですわ」

「へっ?何で俺とカミツレなんだ?」

「……うぉい、俺とお前の立場忘れた訳じゃないだろ?世界でたった2人のISを起動出来る男だ。明らかにそのデータか身柄目的に決まってるだろ」

「……あっそっか、成程そう言う事か」

「お前さ、もう少し自分の立場を理解しろよ」

「分かってるよその位、カミツレと同じって事だろ」

 

全く理解していない、ハッキリ言って一夏(これ)と自分の立場は対等でも同等でも全くない。自分の方が遥かに下で劣っている立場にある訳で一夏の方が社会的に強く守られてる上に日本という国から見ても強い価値がある見方をする。何せ千冬とISの開発者である束と知り合いなのだから、あらゆる面で活用する事が出来る。

 

「はぁ……まあいいか、兎に角中国政府が送り込んできたエージェントって可能性は高いって事だ。まぁあからさま過ぎるから違うって事も無くは無いだろうが警戒しておくに損は無いだろう。お前は取り合えず何時も以上に注意しながらクラス代表として、クラス対抗戦について考えればいいんじゃないか」

「それもそうだな、注意しとけばいいんだろうな!よし、兎に角俺は対抗戦に専念するぞ~!!」

 

と意気込む一夏を思わず単純だなぁと思いつつも見つめるカミツレとまあ扱い易くて良いじゃありませんか?と言いたげなセシリアが微笑む。まあ下手に後ろ向きでいられるよりかは気分的には良いかも知れない。正直カミツレは対抗戦には出ない為余り興味を示していない。何でも優勝したクラスにはデザート半年分のフリーパスが送られるらしいが貰えれば程度にしか考えていないので貰えなくても構わないというスタンス。

 

「あらあら随分な意気込みね、もう勝った気でいるのかしら」

 

と一夏のやる気に水を横から掛けるかのような言葉が飛んでくる。それに若干ムッとした一夏は視線を巡らせるが教室の入り口辺りから声が聞こえて来る事に気付いて其方を向くと、そこにはやや小柄な少女でツインテールな少女が腕組みをしながら片膝を立てながらドアに凭れ掛っていた。

 

「お生憎様、二組にも昨日になって専用機持ちが登場しちゃって優勝できる可能性は一気に下落よ。残念だけど優勝は二組が頂くわよ」

「あの方は……」

 

勝気な発言をする少女にセシリアは見覚えがあるのか思わず言葉を漏らした。カミツレも其方へと向くが残念ながら心当たりは無い。元々セシリアを知っていたのもイギリスと接点というか旅行で行った事があるから調べただけなので他の国の代表候補生については調べていない。調べたとすれば国家代表ぐらいである。がここで一夏が知っているような素振りを見せた。

 

「鈴、お前まさか鈴か……?」

「そうよ、中国代表候補生、凰 鈴音。宣戦布告しにやって来たわよ」

「何カッコ付けてるんだ?全然似合ってないぞ」

「んなぁっ!?あ、ああアンタねぇ人が折角カッコ良く登場したんだからそこは上手く合わせるのが普通でしょうがぁ!?」

「いやだってお前らしくないし」

「きぃぃぃぃ!!!昔っからアンタそうよね、変わってない様で安心するようで腹立つぅぅぅ!!!!」

 

なにやら二人は昔からの交流があるのかそれなりに親しげに会話を行っている、中国からの来訪者の鈴は一夏の事をかなり知っているのか昔からと語っている。そうなると一夏のこの鈍さや性格は昔からという事になるのだろうか、それなら色々と苦労したんだろうなぁと思わず同情を傾けてしまった。

 

「おい」

「何よ!?……あ、悪の大魔王!?」

「誰が親方様だ」

 

鈴の背後から現れたのは我らが一組の担任様である織斑 千冬先生であった、鈴は千冬であった事を再認識すると大きく頭を下げて先程の言葉を勢い良く謝罪した。どうやら千冬の力を重々承知しているようだ、自分もあれが正しいと思う、大魔王発言は抜きにして。

 

「もうSHRだ、さっさと教室に戻れ」

「は、はい!!い、一夏また後で来るから逃げるんじゃないわよ!!」

「さっさと行かんと一発お見舞いするぞ」

「す、すいませんんんっっ!!」

 

脱兎の如く逃げ出していく鈴。恐らく昔から千冬の恐ろしさを身を持って体験していたからこその反応だろう。カミツレとしては本当に良い先生だと思っているのだが。厳しい一面はあるがその分指導は的確で褒める所は確りと褒めてくれる上に相談にも快く乗ってくれる、対応さえ間違えなければ良い美人教師だと思うが…対応さえ間違えなければ。

 

「あいつ、IS操縦者なんかになってたのか……全然知らなかった」

「おい一夏、あいつとは一体どういう関係だ?えらく親しそうだったが?」

「ああ実は―――」

「おい、SHRの時間だと言った筈だが何時まで立ち歩いているつもりだ……?良い度胸だな織斑、篠ノ之……!!」

「ち、違うんだ千冬姉、今すぐ席に付こうとしたけど質問来たから答えようとして……!!」

「そ、そうです、それさえ答えてくれれば直ぐに席に……!!」

「問答無用ださっさと座れ馬鹿共、それと何度も言わせるな織斑先生だ!!!!」

 

うむ、矢張り対応さえ間違えなければ良い美人教師だ。



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15話

「お前のせいだ!!」

「理不尽だ」

 

前を歩く一夏と箒の寸劇を見ながら共に歩くセシリアとカミツレ。授業も終わり昼食を取る為に食堂へと向かう途中で箒が一夏に文句を言う。箒は一夏と鈴の関係が気になっているのか授業中に集中力を頻繁に欠いていた。その影響か真耶に5回、そして件の鈴曰く大魔王の千冬に2回睨みを利かされ最終的に軽い一撃を喰らっている。自業自得というか学習しないというか……真耶は兎も角千冬の前で良くもまあ3回も出来た物だとカミツレは一種の尊敬を向けていた。勿論いい意味での尊敬でないのは確かである。

 

「なあカミツレだって思うだろ理不尽だって!」

「俺としては如何でも良い。俺に火の粉は飛んで来なかったからな」

「よ、良く思うけどお前って他人に興味持たないのかよ……」

「大きなお世話だ」

 

適当な返しをしながらも食堂へと向かい続けているカミツレ、入学当初こそ強い怒りと憎しみを抱いていたがその怒りはある程度収まりを見せている。それでも怒りが劣化している訳ではなく表に出さなくなっただけ、実際は一夏とは口も聞きたくないと思っているが学園生活を送る中でそれは難しいと冷静に判断しある程度の会話は許容すると決めたよう。若干の溜息を作りながら辿り着いた食堂では嵐が待ちうける事になっていた。

 

「なあカミツレは何にするんだ?」

「いいからさっさと選べ、後が押してんだ」

「へいへいっと」

 

食堂の券売機で適当に大盛りアジフライ定食を選んだカミツレはセシリアの洋食ランチと共にそれをおばちゃんへと渡すと直ぐに定食が出てきた。それを持って何処か空いて席へと移動しようとした時、教室にも顔を覗かせた嵐は再び接近して来た。

 

「待ってたわよ一夏!!」

 

元気いっぱいと言わんばかりに声を張り上げながらラーメンを持った噂の転入生、凰 鈴音が姿を現した。彼女は如何やら一夏と共に食べたいのか待ち受けていた様子、ならば自分達は関係無いなとセシリアと共に別の席へと移動しようとしたが一夏が折角だから紹介したいから一緒に食べようと誘ってきた上に鈴がカミツレを見て何やら興味深そうに見てきたのでセシリアと共に肩を落としながら一緒のテーブルに着く事となった。その際に箒が一番嫌そうに顔を歪めていたが一夏は全く気付いていなかった。

 

「それにしても久しぶりだな、元気にしてたか?」

「見りゃ分かるでしょ元気も元気よ、アンタこそ偶には怪我病気しなさいよ」

「どーいう希望だよそれ」

 

呆れた顔をする一夏とやや頬を赤らめている鈴、如何にも分かり易い奴だと思わずカミツレは思わずにはいられなかった。そしてカミツレの中での一夏の評価が更に下がった瞬間でもあった。

 

「ンンッ!!一夏、そろそろどういう関係なのか説明してくれるか!!」

「あ~幼馴染だよ、幼馴染」

「(もうちょっとこう、良い感じの紹介してくれても良いじゃない…)」

「んっ何だ鈴、こっち見て」

「なんでもないわよっ!!」

「(ホント分かり易いなこいつ)」

 

如何やら鈴も箒と同じく一夏に対する恋心を持っているようだとカミツレは確信する、もう少し隠そうとする努力をした方がいいのではないかと思わずにはいられない。もしかしたらそれが美徳になっているのかもしれないが。同時に目の前で握手と言う名のライバル関係の確認と牽制を同時に行っている箒と鈴を尻目にアジフライに齧り付くカミツレと貴族らしくテーブルマナーによって丁寧且つ綺麗な食べ方をしているセシリア。が遂に其方へと矛先がカミツレへと向けられようとしていた。

 

「んでアンタが噂の二人目の男性IS操縦者ね、ふぅん結構普通の奴ね。ちょっと期待外れ」

 

じろじろとカミツレの方を睨み付けるかのように観察した鈴は素直な感想を歯に衣着せずに言い放った。カミツレはあまりに気にしないようにしつつ、別に期待されたくは無いなと内心で思った。別段自分が見た目が優れているとは思ってないしそもそも幼稚な挑発のような言葉で反応するのも嫌だったので完全に無視する事にしたが、隣のセシリアが反応した。

 

「凰 鈴音さん、初対面の相手に向かって期待外れという言葉は相応しくは無いのではありません事?貴方の代表候補生としての資質が損なわれますわよ」

「……何よアンタ、アタシをバカにでもしてるの?」

「私はそのような気は一切御座いません、ただカミツレさんに対して失礼だと申し上げているのです」

 

静かに銃口を向けるセシリアに対して、それを真っ向から受けて立つと言わんばかりに強気な態度を崩そうとしない鈴。一触即発のような雰囲気に一夏も止めようと鈴を抑えようとするが鈴は全く刃を収めようとしない、このまま戦いでも始まってしまいそうな予感がする中でカミツレが口元を拭きながら声を出す。

 

「セシリア、その辺りに。俺は気にしてない。それに寧ろ俺は好ましい」

「好ましいってアンタ何言ってんのよ、ダイレクトにアンタは別に珍しくないし目を掛けるほどでもないって言われてるようなもんよ」

「だからだ。ISを動かせると分かってから特別視される事が凄い多くてな、遠回しにお前は平凡だと言われて少し嬉しかったんだよ。感謝しておくよ」

「カミツレさんがそう仰いますなら、私から言う事はありませんわ」

 

そう返すと鈴は虚を突かれたかのようにキョトンとしてしまった、馬鹿にしているともとれる発言をされておいて全く感情を荒がなかった所かお礼まで言われたのは初めての経験だった。先程から黙り込んでいた長髪の男に鈴は湧いても来なかった興味がふつふつと湧きあがり始めて来てしまった、隣の一夏とは全く違うタイプの男だと。

 

「アンタ、確か杉山 カミツレって言ったわね。面白い感じがするわよアンタ」

「そりゃどうも」

「専用機、持ってんでしょ。どうアタシと戦ってみないかしら」

 

突然の試合の申し出、一瞬カミツレはそれに反応するような仕草を見せる。鈴は一体どんな風に出てくるのかと面白そうな物を見つけた子供のような笑いを浮かべている、がカミツレは最後のアジフライを完食すると手を合わせた。

 

「ご馳走様でした、悪いけど俺は訓練で忙しくてな。強くならないといけないもんでね、断らせて貰うよ。セシリア、先に行ってるよ」

「いえ私も食べ終わっておりますわ、では行きましょうか」

 

二人は合わせるように席を立ちながら食器を返却するとそのまま食堂から立ち去って行った。食堂を出るとセシリアはそっと耳打ちするように言葉を紡いだ。

 

「カミツレさん、恐らくそれで正解ですわ。彼女は僅か数年で一から代表候補生の座を勝ち取った力を持っていますから、間違いなく格上の相手ですわ」

「やっぱりか、何となくだけどそれは分かってたよ。それが分かるだけ俺も腕前が上がってきたかな?」

「ええ勿論ですわ!さあ本日はまず自室にてISの戦術講座の続きですわ!」



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16話

鈴が転入してから2週間が経過した頃、暦は5月へと入りやや蒸し暑さが目立つようになり始めたがIS学園は全館空調完備な為に気温は一定をキープされており非常に過ごし易い。勉学する者にとっては良い環境だが外で運動する身としては夏になった際の急激な温度変化で体調を崩さないかが少々気になった。学園内は平常通りに騒がしさに包まれているが最近は妙にざわついていた、それは今月に予定され間もなくに迫った『クラス対抗代表戦』が大きく関係している。当然1組も一夏が代表として参加するのだが……その初戦が問題となっている。

 

『第一回戦。1年1組代表:織斑 一夏。 1年2組代表:凰 鈴音』

 

最初の男性IS操縦者(織斑 一夏)件の転入生(凰 鈴音)、この二人の対決はまるで再会した二人に対して用意されていたかのように拵えられていた。これを見た時思わず、これって仕込みじゃないのか?と言葉を漏らしセシリアに苦笑されたほどだ。しかしまあ何れ戦うかもしれなかった相手と戦うのが早まっただけなのだろうと解釈しそれ以上の介入はやめて自分の事に専念している。

 

「真耶は急用により指導が難しくなった、そこで私が代役を頼まれたので指導をする事となったので宜しく頼む杉山、オルコット今までの訓練のデータを頼む」

「はいこちらに用意してあります」

 

今日も今日とて訓練をしようとアリーナへと向かうとそこには真耶ではなく千冬の姿があった。普段通りに真耶の指導を受ける予定だったのだが急用という事で真耶から代役を頼まれた千冬がアリーナに姿があった。以前ピット内で冗談半分で言っていた千冬の指導がまさか現実となるとは思いもしなかった。嘗て世界の頂点を極め君臨した戦乙女の指導が自分に向けられるという事に僅かながらの興奮を覚えながらも真耶の指導がない事に若干の寂しさを覚えてしまったのはすっかり彼女を師匠と認識しているからだろうか。しかし千冬はセシリアから渡されたカミツレの訓練データを受け取ると溜息ながらに呆れた。

 

「真耶め、何が教師業務に差支えがないように昔自分が受けたメニューを改変しただ。全くどれだけ弟子が出来た事が嬉しかったんだ」

「如何いう事ですか織斑先生?」

「んっ、ああすまん。杉山にオルコット、お前達はメニューについては如何聞いている?」

「俺は真耶先生が代表候補生がやるメニューを参考に作ったって聞きましたけど」

「私もです」

「ああ…その代表候補生が自分と考えればまあ……嘘では、ないが……」

 

苦笑する千冬に顔を見合わせる二人。何が可笑しいのだろうかと首を傾げると千冬は一から説明しようと口を開いた。

 

「確かにこのメニューの一部は真耶が代表候補として活躍していた時期のメニューを一部改変して使用されている。しかしそれは本当に一部だけだ。それ以外は完全に奴のオリジナル、杉山専用に組んだプランだなこれは……」

「そ、そうだったのですか!?」

「ああ、ここなど2週間前のメニューと比べて見てみろ微妙に訓練内容の変更が成されているだろう?訓練の結果のデータは真耶が管理しそこから学園に提出する手筈になっているからそれを使いながらメニューを組みなおしていたな、あいつめ……」

 

頭に手を当てながら頭痛を抱えるかのようにする千冬、IS訓練の個人専用メニューを組むのはハッキリ言って酷く難解である。専用機に蓄積されているデータと搭乗者の技量などを自らの感覚で感じ取りそこからメニューを構築していくという手法だからだ。データその物は何とかなるだろうが搭乗者の技量把握は慣れている者が行わなければ検討違いな事になってしまう、しかしそこは嘗て『銃央矛塵(キリング・シールド)』と呼ばれていた女。完全にカミツレの技量を把握した上でメニューが作られている。

 

「ま、真耶先生がそこまで俺の為にしてくれてたなんて……仕事の合間に考えた物ですいませんって謝ってたのに……それでも考えてくれるだけで有難かったのに……」

「あの馬鹿め…これも私が実技の担当をやりすぎた反動か……?確かに一度で良いから弟子が欲しいと言っていたがここまでやるとは」

「それだけ山田先生はカミツレさんの力になってくださっていたのですね……」

 

改めて思い知らされる、真耶という人物の懐の深さとその優しさに。生徒とは言え自分の為に此処までして貰えるなんてハッキリ言って想像以上であった、もう嬉しさで涙まで出てきてしまった。そんなカミツレを見て千冬は本当に彼は真耶を師として尊敬しているんだなと実感する、状況がそうさせたのかもしれないが二人の間には確かな師匠と弟子の絆があるのは間違い無い。そう思うと矢張り真耶が少し羨ましく思える。

 

「真耶には私から一言言っておこう、弟子を可愛がるのも良いがせめてそれを言葉にしてやれ、とな。互いの信頼関係が明白になってこその師弟だ。では杉山始めるとするか、お前の師匠が作ったメニューでな」

「はい!!」

「それと私のメニューも試してみんか?」

「織斑先生……折角良い感じでしたのに、台無しですわ……」

「冗談だ、マジ顔で言うな頼むから」

 

 

「ふぅ……良い汗を欠いたな。真耶め、良い弟子を見つけおって……少しでいいから私のメニューもやってくれん物か」

「ちふっ……織斑先生?」

「ぬっ織斑か」

 

アリーナでの指導を終えた千冬はタオルで汗を拭きつつ自分の教員室へと向かおうとする途中で一夏とばったり出会った。そういえば一夏と家族として話したのは学園に入学してからなかったような気がする……慣れない環境で色々あるだろうに話も聞いてやれていなかったなと思い一夏を自分の部屋へ通した、部屋は少々散らかっているがそれでも女性の部屋としてはまともな部類に入るほうだろう。

 

「あれ……意外に片付いてる……完全に掃除する気だったのに」

「一応これでも私は女だぞ、多少なりとも部屋には気を使うぞ。まあそう思ったのも最近なのだがな」

 

正直千冬は最近まで教師という仕事に楽しさを見出せていなかった。学園に来るのは自分をアイドルか何かと勘違いしてキャーキャー騒ぐ馬鹿な小娘や自意識過剰で自分こそ一番だと信じて疑わなかった代表候補生などが多く、自分はそんな生徒の処理係かと思う事も多かった。

しかし今年弟と共に入ってきたカミツレはキャーキャー騒がず授業態度は真面目で予習復習を自主的に行い、勉学意欲高く努力を惜しまず教え甲斐があるとまさに自分にとって理想的な生徒であった。出来る事ならば弟にもこのカミツレの少しでいいからその要素をもって欲しいと思う。何せ自分の弟は初日に参考書を電話帳と間違えて捨てましたと言ってしまうのだから……。

 

「それで最近如何だ、少しは学園には慣れたか」

「まあ漸く、かな。周りも良くしてくれるし」

「そうか……それと一夏、お前は……ああいやある訳ないか」

「何だよ気になるじゃん」

「うるさい口にした私が馬鹿だった、忘れろ」

 

聞こうとしたのは女は出来たかということだ。こんな閉鎖的で特殊な環境なのだから有りえるかもしれないと尋ねようとしたが筋金入りの鈍感さを持つ一夏がそんな事出来る訳ないと我に返った。というか流石に出来たら言いに来るだろうと思う。ハニートラップに掛かっていないだけマシという奴か。

 

「それと千冬姉、お願いがあるんだけど良いかな」

「何だ?」

「もう直ぐ鈴との対決なんだけどさ、出来ればで良いんだけど俺に訓練を付けてくれないかな。普段は箒に見て貰ってるんだけど一回千冬姉にもみて欲しいんだ、もう直ぐ鈴と対決だし」

 

そう言われ漸く姉を頼る気になったかと少し良い気分になった。今まで自分を頼って来なかった弟に対して少々不安と不満を持っていたのだが漸く頼ってくれたかと正直な嬉しさがある。

 

「いいだろう、だが私は厳しいぞ覚悟しておけ」

「ああ分かってる。対抗戦までにはカミツレぐらいには強くなりたいんだけど出来るかな!?」

「ああそれは無理だ」

「即答!?」

 

当たり前だろうと思わず返してしまった、一夏とカミツレでは積み重ねに大きな差がある上に今日まで教わってきた相手の技量も経験も桁違い。そんな相手と同じだけ強くなるには時間が足りない、普通に無理だ。

 

「で、でもカミツレに出来たんだから俺にだって出来る筈だって!!俺とあいつは同じ位にISに乗り始めたんだから!!」

「お前と杉山が一緒なのはスタート地点だけだろう、お前はスローペースで走っているのに比べてあいつはずっと全力に近いペースで走り続けているな。そんな差を僅かな時間で詰めようとするのは馬鹿を通り越して無謀と言うのだ」

「……千冬姉はカミツレを贔屓するのかよ……」

「何か言ったか」

「い、いや何も言ってないよ!?」

「まあ良いだろう、指導の件は了解してやろう。予定などを確認して明日には返事をしてやる、今日の所は戻って休め」

 

そう言って帰っていく一夏を見送った千冬は冷蔵庫からビールを一本取り出して飲む。最近はストレスも減ってきて以前のようにストレスを紛わす為の飲酒は無くなり一日の苦労を労うようになったが、今は久しぶりに紛わす為に飲みたくなった。

 

「はぁぁぁぁっ……一夏、私は別に杉山を贔屓していないぞ……お前も私をもっと頼ってくれていいのだぞ。家族、なのだからな……」



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17話

「ああうん、一応元気にやってるよ。ああ大変だけどさ、やらなきゃいけないんだからやるしかないだろ?そっちも好い加減にアイドルのケツ追いかけるの自重して、真面目に結婚相手でも探したら如何だよ29歳」

 

アリーナ近くの廊下、壁により掛かりながら電話を耳を当てながら明るい声で言葉を口にしながら爽やかな笑みを浮かべているカミツレの姿があった。それを横目で視界に捉えた女子は基本的に一夏派であったが普段はクールだが今のように偶に見せる笑顔もいいなぁと心ときめいていた。そんな事も露知らず、電話に夢中になってしまっているカミツレ。電話の相手は自分の兄である杉山 一海、現在祖父の跡を継いで農場主となっている。本来はそんな兄と共に農業をする筈だったのだが……まあ今嘆いていても現実は変わらない。やめるとしよう。

 

「分かってる分かってるよ、うんちゃんと帰るからさ。その時はさ、兄貴特製の料理で迎えてくれよ。ああそれじゃあね」

 

電話を切ってポケットにしまうが思わず心がホッとしたかのような感覚に陥ってしまった。今までメールでしかやり取りが出来なかった家族とのやり取り。しかし今こうして聞く事が出来た兄の声に途轍もない安心感が心を突き抜けていく。思わず身体を壁に委ねてしまうほどの安心感にも似た高揚感が堪っていくのを感じる。

 

「やっぱり、兄貴は優しいよな。何だかんだ言って……」

 

少々の間、その感覚に身を浸るとアリーナのピットへと入っていく。超満員となっているアリーナ、今日は待ち侘びられていた「クラス代表対抗戦」の当日。会場入りする事が出来なかった生徒達はリアルタイムモニターを食い入るように見つめている。本来カミツレはそれに興味はなく見るつもりはなかったのだが、真耶から代表候補生の実力やテクニックを合法的に見る事が出来るのだから見た方がいいと言われた為に観戦する事となった。観客席は人がいっぱいである為に一夏側のピットで観戦出来るように手配までしてくれた。本当に素晴らしい師匠だと感激しつつピットへと入るとそこにはモニターを見つめている箒とセシリアがおり、此方に気付いて近寄ってきた。

 

「お待ちしておりましたカミツレさん、お兄様へのお電話はお済みになられましたか?」

「ああ元気そうで安心したよ」

「それは何よりですわ、それに……心なしかカミツレさんも先ほどよりも元気そうですわね」

 

やっぱりそのように見えるらしい、確かに兄と会話できた事は此処最近で一番良かった事とも言える。心から安心が出来た、それによって如何やら無意識なうちに笑みを浮かべていたらしい。そんな事で気分的に盛り上がっているカミツレはセシリアにエスコートされるようにピット内のモニターへと目を向けた。そこではアリーナで向かい合うように待機している一夏の「白式」と、鈴のISである「甲龍」が鎮座している。

 

「カミツレさん、織斑さんは凰さんに勝てると思いますか?」

「勝てる、一夏は勝つに決まっている」

「あの、篠ノ之さんお気持ちは分かりますが私はカミツレさんに聞いているのですが……」

「難しいと思うぞ、彼女の事を調べさせて貰ったけどとんでもないじゃねえか」

 

一夏が勝つ事を信じて疑っていない箒はカミツレの素直な言葉に怒りを感じたのか鋭く睨みつけるが、それを一切取り合わずにカミツレは述べる。凰 鈴音は僅か数年で一から代表候補生の座へと昇りつめた紛れもない天才、才能だけではなくそれを引き出す為のセンスや努力を惜しまなかった為に超短期間での急成長を遂げ今では次期中国国家代表を考察する際には必ず名が上がるまでになっている。

 

「紛れもない強者だ、確実とまでは言わないけど織斑は負けるだろうな」

「なんだと!!貴様、一夏だって今日まで頑張ってきたんだぞ、それを侮辱するのか!!?」

「努力を笑う訳ないだろ、俺だって努力してる身なんだ。だけど経験って奴は努力だけで覆せるほど小さなもんじゃない」

「ならばお前は何故オルコットに勝てた!!それだって努力の結晶だろうが!!!」

 

そこでカミツレ自身の事を引き出す箒、彼だって圧倒的に経験で劣っている筈なのにセシリア相手にあれだけの健闘をしたじゃないか。それなら一夏はきっと勝てる筈だと彼女は信じて疑わないでいる、確かに自分はそうかもしれないがそれが全て同じとは限らないしあれが唯の努力ではない。

 

「あの時はセシリアの事も深くまで調べた。調べられる限りの機体特性や武装、戦い方の特徴とかもな。それを元に真耶先生と一緒にそれに対抗出来る為に特訓をしたからこそ戦えた。だが織斑はそんな事したのか?してないだろ。実力の格差がありすぎる場合は相手に対する対抗戦術がないとまともに戦えないのさ」

「それほどまでに対抗策を講じられると私としては嬉しい限りですわね♪そこまでの相手だと認められているのと同義ですもの」

 

箒は思わず何も言えなくなってしまった。彼女はカミツレの努力がどれほどの物なのか詳細を知らない。故にこの発言は致し方ないかもしれない。一夏と同じ立場である彼があそこまで頑張れたのだから努力した一夏だってきっと、という願望の現われなのだろう。

 

「だ、だが一夏は千冬さんに指導をしてもらっているのだ。勝てるに決まっている!!」

「へぇ。遂に織斑先生もやったんだ、それじゃあ織斑先生が何処まで織斑の力を高めたか見ようじゃないか」

「そうですわね、これはこれで見る価値があるように思えますわ」

 

次第に箒は感じるようになっていた、目の前の男は一夏とは全く違う場所に立っているように感じられる。最初こそ一緒、いや一夏より下に見ていた存在は今では遥か格上に座しながらも自分を驕る事無く客観的に評価し思考する冷静な戦士のよう。そんな彼の言葉を受けて先ほどまでなかった不安がどんどん増幅されてきてしまった。それを誤魔化すように一夏なら大丈夫と自分を励ますように気持ちを大きくしていくがまるで効果がないのか、ただただ不安だけが大きくなっていった。



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18話

『違う!!お前今日までどんな訓練をして来た!!』

『基礎から狂っている、なんだ我流で訓練していたのか!?』

『……一夏、落ち着いて良く考えろ。篠ノ之が2年や3年よりも上手く教えられると思うのか、束の妹とか一切関係無しにだ』

『兎に角お前は基礎訓練だ、基礎すらまともに出来んのでは技術がいる物など到底教えられん!!』

 

あの日の翌日は丁度千冬のスケジュールが空いていたので指導をする事となった。しかし千冬も学年主任なのでそれなりに忙しい立場にあり、同時にいきなり指導を頼みたいと言われてしまったので、スケジュールの調整が出来ない状況になっている。なので教える事が出来ない日は、別の先生に基礎的な事を教えてほしいと依頼した。

 

『よし5分休憩だ。さて次のは……なんだ?何、追い付けている訳がないだろう。今お前がやっているのは基礎の基礎だ、確りと基礎が出来上がっているならば上を教えるつもりだったんだがな』

『アホか。まともに基礎が出来ていないのに応用が出来る訳がないだろう。修行もせずに負荷ありの必殺技に耐えられる身体が出来ると思っているのか』

『それについては知らん、私はあいつの担当ではないからな。一度代理をした事はあるが詳しい事は山田君にでも聞け』

 

兎に角一夏は千冬の元で努力を続けた、必死に千冬の厳しい指導に負けないようにと。対抗戦までの僅かな時間とは言え集中的に時間を確保出来た千冬からのエゲツないレベルでの基礎訓練は凄まじい物であった。そのお陰でもあって当初千冬が想定していたレベルまでの基礎技術を一夏はマスターする事は出来た、出来たのだが……。

 

『な、何でだよ、なんで俺は負けるんだよ!?カミツレだってオルコットに引き分けたじゃないか!?』

『如何してカミツレがオルコットにあそこまで戦えたのか、分かるか?』

『努力したからだろ?』

『ハァ……それだけで勝てたなら苦労など要らんわ。いいか一夏、お前が凰に勝つのは正直無理だ、だから負けないように戦うしかない。基礎しか教えられていないのでな、兎に角堅実に立ちまわれ』

 

試合前にそう言葉を受けた一夏は不満とそんな事はないという思いに満ちていた。自分には千冬の教えがあるのだ、それならばきっと勝てると信じて疑っていなかった。今日までの千冬による特訓は絶対に嘘は付かないと思っている。他の先生に見て貰った時も流石千冬の弟だと褒められたのだから。きっと行けると、そして勝利して千冬を見返してやろうと決め込んでアリーナへと乗り込んでいった。

 

 

「でいやああっっ!!」

「おっとっ!!」

 

雪片弐型と青竜刀がぶつかり合い火花が飛び散った。アリーナにて行われている一夏対鈴の対決に観客席の生徒のボルテージは上がっていく。何合と繰り返させていく鍔迫り合い、一夏は千冬は心配のしすぎだと思いどんどん押し込んでいく。事実こうして自分は鈴とまともに戦えているじゃないか、やっぱり千冬姉の指導は凄いと思い知りながら出力を上げて向かっていくが、突如鈴の甲龍の姿が消えてしまった。

 

「っ!?き、消えたっ!!?」

 

いきなりの事で動揺してしまった一夏。一体如何したらいいのか解からずに軽いパニック状態に陥ってしまうが今度は背後から斬撃を受けて吹き飛ばされてしまった。それを制動を掛けながら回転して停止するが背後には先程消えた鈴の姿があった。

 

「い、何時の間に背後に!?」

「やれやれやっぱりね、アンタ基礎しか練習しきれてないわね」

「くっなんなんだよ今の!?」

 

構えを取るとその直後、凄まじい衝撃が身体を襲ってきた。見えない何かに殴り飛ばされたかのような一夏は壁まで吹き飛ばされてしまった、先程から驚きの連続でもう何がなんだか分からなくなってきている。それでも鈴は猛攻をやめる事なく再び接近して来る、そして―――三度姿が消えた。

 

 

 

「な、何なのだあれは!?」

 

ピット内のリアルタイムモニターにてそれを観戦していた箒は感情を驚きに染めて叫んでしまった。先程から一夏を相手にしている鈴が時折姿を消してしまっている、そして背後や相手の死角に回りこむと鋭い一撃を加えていく。流石にそれは分かっているのか防御を固めているが翻弄されているには変わりはなかった。それを見つめたセシリアは答えを知っていたようだった。

 

「遂に出しましたわね、あれこそ彼女が代表候補の座に至る事が出来た真の理由ですわ」

「真の、理由……だと?」

「やっぱり奥の手って奴があったのか。幾ら才能があったとしても僅か数年で代表候補の座に至るなんてないとは思ってたけど、今の動きの事かセシリア?あれって瞬間的に出力を爆発的に上げただけじゃないよな」

「はい、あれは彼女が最も得意としている操縦技法で通称『超速零速』と呼ばれております」

 

中国の麒麟児こと凰 鈴音が代表候補の座を掴み取れた真の理由、それは卓越したISの操縦技術ではなく出力調整のスロットルワークである。高い操縦技術に凄まじいスロットルワークが加わった末に発動されるのはISの基本でもある完全停止の応用技とも言える技法、そして鈴が編み出した必殺技とも言える操縦技術であった。それこそ通称『超速零速』と呼ばれる技術で正式名称を『最速低速』。

 

これはスピードを瞬間的にMAXの状態へ移行させるだけではなくZEROの状態へとさせる技術、この技術は急加速技術の最高峰とも言われている物であるが、それでもある程度の速度から一気にMAXに持って行くのが精一杯である為、鈴はその先を既に行っている。これらを活用した戦闘では瞬間的にISのハイパーセンサーでも反応をロストしてしまう。これを接近戦闘で用いた場合、相手は瞬間的に消えたと錯覚する上に相手の背後や有利な場所を取る事が可能になる為、速度を重視する国家代表は『最速低速』を習得している場合が多い。イタリアの代表や千冬も習得している事で有名。

 

「しかしそれらはあくまで20~30から100にするだけですわ。彼女の場合は0から100へを可能にしてしまっています」

「おいおいそれって……ぶっちゃけ近接戦闘じゃ無敵に近いんじゃ……」

「例え鍔迫り合いの状態でも即座に移動して攻撃、それも彼女の得意技ですわ。そしてそれをストップ&ゴーを繰り返す事で相手のISに一時的に存在を表しては消してを繰り返し、ハイパーセンサーに誤認を起こさせ擬似的な分身を作り出すと言った事まで出来るとか」

「……相手したくねぇ」

 

それにはセシリアも同感だろう。彼女の場合は射撃主体だがそれでもそれを使われてしまえば偏差射撃で当てる事も難しくなってしまうので非常に辛い。だが近接の場合はもっと酷い事になるのは明白、カミツレもどうやったらそれを破ったらいいのかは思いつかない。

 

「弱点なのは開始直後の使用は出来ず、ある程度機体を暖めないといけない事と高い集中力を要する事ですわね」

「勝つには速攻しかない訳か……でもあの見えない攻撃がそれを未然に防ぐと」

「第三世代型兵装『衝撃砲』ですわね」

 

甲龍に搭載されている第三世代型の兵装であり見えない何かによる攻撃の正体、それこそ第三世代型の甲龍に搭載されている『衝撃砲』である。イギリスではBT技術が率先して研究されているのと同じように世界各国はそれぞれの個性のような技術テーマを決めている、中国が推進しているテーマは『空間圧縮』である。

 

衝撃砲は空間自体に圧力を掛ける事で砲身を生成し余剰で生まれる衝撃そのものを砲弾として打ち出す事が出来るように開発が行われている。これの利点は砲身は空間を圧力を掛ける事で作り出すので射角がほぼ制限無しで打てる、真上や真後ろに真下までに展開して打つ事が出来る。唯一の欠点は砲弾の威力程度でそれ以外の欠点は見付からない凄まじい性能となっている。

 

「これが中国の麒麟児、凰 鈴音ですわ。熟練した代表候補生でも勝ちは中々拾えません。まして織斑さんでは……」

「うーむ勝つには本当に速攻か超反応位しかないんじゃ……」

 

それらを聞いて箒の顔色はどんどん青くなっていく。それでは本当に一夏に勝ち目なんてないじゃないかと。そう不安を抱えていた時、それらを全て吹き飛ばすかのような衝撃がアリーナ全体を強く揺さぶった。



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19話

突然巻き起こった衝撃はアリーナ全体を揺るがした、アリーナを映していたはずのモニターはブラックアウトし砂嵐が巻き起こっている。一体何が起こっているのだと矢継ぎ早に声が広がっていくがアリーナはそれ所ではなかった。アリーナの中央から巻きあがっている砂煙、そこから何かが姿を現そうとしていた。先程まで『超速零速』で一夏を追い詰めていた鈴も動きを止めて其方へと意識を集中させていた、それは一夏も同様だったが驚きによる反応の方が大きかった。

 

「一夏、よく聞きなさい。これが緊急事態って事は分かるでしょ、だから此処はゆっくり後退するわよ」

「お、おう。こ、こんなんじゃ試合なんて無効だろうしな」

「続いてもあのままじゃあたしの完勝だったけどね」

「何も、言えねぇ……」

 

流石に状況を理解している一夏は若干凹みつつも鈴に合わせるようにゆっくりと後ろへと移動していく。既に「白式」のSEも底を尽き掛けている。それほどまでに鈴の猛攻は激しかった。 一夏は改めて代表候補生の力を思い知らされた気分であった。少しずつ撤退をし始めている所だったのだが自分達の間を突き抜けるかのような凄まじい勢いで熱線が通り過ぎていった。

 

「……えっ、何だ今の、ビーム……?」

「ビーム兵装持ち…今のが連続で撃てない事を望むわ」

 

背中に冷たい物が走り顔を青くする一夏と冷静にそれを簡易分析しデータを見ながらどうやって切り抜けるかを思考する鈴。此処は流石に数と経験を重ねた鈴が前を行く。そしてゆっくりと砂煙の中からそれが姿を現した瞬間、鈴は全身に鳥肌が立つかのような感覚を味わった。本能と直感が告げている、あれはやばいと。

 

そこにあったのは異形の何かだった。闇に身体を漬け込み、闇が身体を染めたかのようなカラーリング。異常なほど肥大化している両腕両足、地面に付くほどの巨大さから一瞬ゴリラを連想してしまった。異様なまでに細く何故身体を支えられているのかと思うほどの腰、そして鬼のような形相、禍々しすぎる姿にそれをみたもの全てが寒気を覚えていた。

 

『織斑君、凰さん!!今すぐアリーナから脱出してください!直ぐに先生達がISで制圧に行きますから!!』

 

通信からは真耶の悲鳴のような声が響いてくる。このような非常事態、学園が始まって以来なかったケースだ。此処に喧嘩を売るという事は全世界に喧嘩を売るに等しいため、頭が逝かれていても早々しでかさない事なのだ。

 

「山田先生でしたっけ、悪いですけどそれは難しいっぽいですよ。あいつこっちを既にロックしてやがりますもん。今撤退しようとしたら確実に攻撃をして背後からそれを受ける形になる…いえ、もっと最悪なのはアタシ達を追って来てピットの中にまで侵入してくる事。なら此処でアタシがあいつを食い止めるのが最適解で、先生の方で生徒の避難誘導をする事を望んでる。―――そうでしょ、織斑先生」

『……ああ、悔しい事ながらな』

「千冬姉!?」

 

通信から聞こえてきた姉の言葉に驚いた、つまり姉はこんな危険な場所に幼馴染である鈴を囮として配置し続ける事を言っているんだと理解した。そんな危険な役回りをさせるなんて出来ないと一夏は思う、折角会えた友人を危険な目になど晒したくはない。

 

『現在シールドがMAXレベルでロック、観客席には緊急用シャッターが降りてしまっていて生徒達を逃がす事が出来ない。今上級生に教員達で解除を試みさせているがそれも時間が掛かる。生徒を逃がす為に生徒を危険を晒すなど、本来許されない事だ…だが』

「千冬姉!!そんな事言う事なんてねえよ、今から俺と鈴でこいつなんか倒して―――!!」

「それ以上言わなくて良いですよ織斑先生、アタシだって伊達に代表候補生じゃないんですよ?現実的に考えて、そっちの方が被害も危険も少ない事を承知してますよ」

「鈴!?」

 

一夏の意志に反して鈴はそれに了承するように言葉を続け、ほんのり笑みを浮かべ強気になりながら千冬の選択肢が正しいと言ってのける。

 

「アタシが囮をすれば大人数の生徒が救われるんでしょ?一回ヒーローって奴をやってみたかったのよ」

『すまん……』

「良いって事です。んじゃ、一夏。アンタ邪魔だから消えてくれない?」

 

通信を終了するとすぐさま一夏にそう告げた。これから囮は相手の注意を引きつつその行動を阻害して時間を稼ぐ必要がある。これには技量に機体特性や状況などが物を言う。幸いな事なのが甲龍は燃費が良いように設計されているのと状態は良い事。時間を稼ぐには絶好の存在と言えるが隣の一夏は自分がやりすぎたせいでコンディションも悪いし、何よりISを動かしてからそこまで経っていない。技量よりも経験が無いのが痛すぎる。

 

「何でだよ鈴!二人でやればあんな奴簡単に!!」

「あのね…勝つには一に経験、二に技量、三に相手の力の調査、四に運がいるのよ。今回は相手の実力は不明なのよ。それでアンタは経験も技量も無いでしょ、まあ運は知らないけど」

 

呆れたような表情をしながら鈴は勝利の為に必要な要素を簡単に纏めて言った、これ以外にも必要だが主にこれが必要だと。これを当て嵌めると鈴に足りていないのは三つ目の相手の調査、これを怠るのは非常に拙い。如何想定して動けば良いのかまるで変わってくる、故に鈴の『超速零速』が初見の相手に良く刺さるのもこれが理由でもある。一夏の場合は四以外は全て、最悪の場合は全て足りていない事になる。

 

「でも力を合わせれば!!」

「力を合わせるってあんたアタシに合わせられんの、アタシがあんたに合わせても意味ないわよ。それだとアタシの実力が発揮出来ない」

 

そんな事はないと言おうとした時、侵入してきたISがその巨体を生かすかのような突進をして此方へと猛進してきた。一夏はそれを慌てて回避するが鈴はギリギリまで引き付けた上で『超速零速』で背後を取るが敵はそれを予期していたかのような動きで後ろへと身体を向けると巨大な腕で殴りかかってきた。それを武器で受け流しつつジャンプして後方へと移動するが、これで相手の情報を手に入れた。

 

「アタシの得意技をこうもあっさり……相手は『最速低速』が使えるかもしれない。それとも異様なぐらい勘が良いのかしら、いえ余りにも早すぎる。使えるとして動いた方が良いわね。それに……」

 

受け流した際に敵の腕と武器が触れたが、僅かに腕が痺れるような感覚がある。ISのパワーアシストと操縦者保護機構があるのにも拘らずだ。過去にも国家代表と手合わせした際にも同じ事が起きた。それと全く同じと考えると相手のパワーが知れる。自分の甲龍を遥かに超えるパワータイプ……そしてあのビーム、突進の速度などを踏まえるとますます一夏を置いてなどいられない。

 

「一夏マジで下がりなさい!!こいつやばいわ、兎に角先生達が来るのを待つしかないわ!!」

「嫌だ!俺だって、俺だって戦えるのに……逃げたくない!!」

「こんの分からず屋ぁぁ!!!」

 

鈴のそんな声がアリーナに木霊する中、乱入者がビームをチャージしながら狙いを定めるかのようにその不気味な顔を二人へと向け、逃がす物かと言わんばかりにビームを放った。



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20話

「一夏!クソ私も何か出来ないのか!?」

「落ち着いてください篠ノ之さん、今無闇に出て行ったとしても混乱を作り出すだけですわ。ジッと待つ事もまた勇気がいる事なのです」

「だが……!!」

「それより心配なのは、凰だ」

 

ピット内のリアルタイムモニターはまだ生きているのでカミツレ達はアリーナの内部の状況を知る事が出来ていたが、内部で起きている事を把握しているが一夏の行動にやや危機感を募らせている。ハッキリ言ってこのまま中に置いていても鈴の行動阻害にしかならない、SEは残り僅かな状態ではISが解除され危険すぎる。そうなった場合、鈴は展開解除されてしまった一夏を守りながら囮をする二重苦を味わう事になる。何時流れ弾が一夏を貫いても可笑しくはない。

 

「如何しますか、私達ならば内部に突入して援護する事は可能ですが」

「……難しいだろ、カチドキは兎も角ティアーズは一対多向けで多対一はやり辛い。そもそも俺達が突入して役に立てるのかって問題がある」

 

経験や実力を加味してセシリアのみが突入したとしても、機体特性的に活躍は難しい。かと言ってカミツレが行っても経験が不足している上にコンビネーションを一度もやった事がない相手との連携などまともに取れる訳がないし自分が鈴の足を引っ張る可能性の方が高い。ならば二人で突入して一夏を救出した上で、一方が彼を連れてピットまで撤退しもう一方が鈴と共に足止めに徹するのが一番だろうか。しかし自分達だけでは判断が難しいと思い、管制室へと接続する。

 

「織斑先生、真耶先生聞こえますか!?」

『何だ杉山!?用があるなら手短に頼む、此方も忙しいのでな!!』

「状況は俺達の方でも把握してます。俺達が中に入って織斑を連れてきます!」

『だ、駄目です危険すぎます!!相手はアリーナのシールドを破壊する相手ですよ!?』

 

真耶の言いたい事は分かる、アリーナと観客席を隔てるシールドは本来強固であり通常のISの武装では破壊出来ない強度を誇る。しかしあのISはそれを破壊して、中へと侵入している。その武装が生徒に向けられる事は教師として認められない事で、鈴の囮とて苦渋の決断で依頼した事なのである。

 

「でも今織斑を退かさないと今度は凰が危険になりますよ!!先生方が突入する前にあいつらやられますよ!!」

『だからといって、お前達が突入して何とかなるという物ではないだろう!!二次遭難になる可能性とてあり得る!!』

「しかしこのままではどちらにせよ観客席の生徒に被害が出かねませんわ!!その場合でも生徒4人と大勢多数の生徒、囮を決断された先生ならばどちらが良策なのもご理解頂けるでしょう!!?」

 

強気な二人の言葉に思わず千冬は言いよどんだ、少ない犠牲で多くの利を取る。確かにそれは正解なのかもしれない、だが教師としてはその為の手段が悪手すぎる。どちらも教師が守り導く為の生徒が犠牲になるのだから。強く噛む唇から血が流れ出す、だが決断はしなければならないのは確か。

 

『―――っっっ……!!分かった……こんな時に、力を尽くせない教師ですまない……だが約束しろ、絶対に無事でいろ。それが絶対の条件だ!!!』

「「了解しました!!」」

『先輩!!!……分かり、ました…!今からお二人に分かっている範囲で取れているデータを転送します。雀の涙かもしれませんけど、役立ててください!」

「感謝致します、真耶先生」

『絶対、絶対に無事で帰ってくるんですよ!!?約束しましたからね!!!?』

「分かってますよ師匠。負けない戦いを、でしょ?」

 

データの受信を確認した二人はそれぞれISを展開して出撃体勢を整えた。ピットのハッチは破壊して突入するしかないだろう。いざ出撃しようとした時、箒が声を上げた。

 

「わ、私は何も出来ない……今の話を聞いてとても危険なのは理解できた……だから、だから頑張ってくれ!!一夏を、一夏を宜しく頼む!!」

 

そんなせめてもの思いを乗せた言葉に思わず驚いてしまった、あの箒からこんな言葉を聴いたの初めてだった。目に涙を溜めている所を見ると本心は一緒に行って一夏を助けたいのを必死に我慢しているのだろう、それも一つの勇気だ。

 

「ああ分かった、力を尽くしてくる!」

「篠ノ之さんは如何か此処で御待ちください」

「ああ―――頼む!!」

 

その言葉を受けてカミツレとセシリアはピットから飛び出して行く。ハッチを破壊してアリーナへと飛び出して行く後ろ姿を追いながら箒は小さく「一夏……」と呟きながら両手を握り締めた。

 

 

「ぐっ……一夏、上に飛びなさい!!」

「お、おう!」

 

鈴の指示を受けて回避行動を行った一夏、その指示は正解で先程まで彼が居た位置にはビームが通り過ぎた。一夏はそれに冷や汗を欠きながら敵から目を逸らさなかった。鈴に何度言われようとも一夏は逃げようとはしていなかった。鈴は幾ら言っても退避しようとしない一夏に痺れを切らしそうになりながら必死に理性で抑えつけ、自分が指示を送りその通りに動けっという条件を付ける事で行動を許さざるを得なかった。その為に鈴は得意の『超速零速』を使わずに敵に肉薄しながら接近戦を挑み続けていた。直ぐ傍でデータを集めつつ、敵の挙動に少しでも一夏を狙う物があったら、一夏を回避運動をさせるという事を行っているが負担が余りにも多すぎる。

 

「(好い加減に、疲れがっ……!!)」

 

得意技が封じられているのには他にも原因があった、集中力である。『超速零速』は繊細なスロットルワークを要する、それに大きな集中力を裂かなければならないが今は相手の挙動を見抜くのにそれを使っている。そしてその挙動を見抜いた上で、如何回避すれば良いのかの指示が鈴に予想以上の疲労を与えており、次第に見抜きが鈍りつつあった。

 

「鈴大丈夫か!?」

「アンタほどじゃないわよ…まだ教師はこないみたい、ね……」

「ああまだみたいだ!」

「どんだけ厄介なのよ……たく面倒ねっ……」

「鈴、オフェンス交代するか!?」

「……それ本気で言ってるんだったらアンタを尊敬するわ……」

 

最早大声で突っ込む気力もなくなりそうになっていた。だから自分が指示しているからこそ確実な回避が行えているんだと分かっているはずだろうに。一夏のSEは残り少ないのだから、一撃でも喰らったら確実にアウト。ISが解除されてしまう、そうなったら絶体絶命である。そんな事には絶対にさせる訳には行かない……!!

 

「鈴危ない!!」

「しまっ……!!!」

 

思考力が鈍った時、敵のビーム砲塔が光を放った。間違いなくビームを撃つ気だ、しかし回避運動が遅れてしまっている。確実に喰らうと防御を固めようとするが間に合わない。一夏が身を投げ出して盾になろうとするがそれも間に合わない。今、光が放たれようとした時、一つの光が敵へと炸裂し大きくバランスを崩した。

 

「今ですわ!!」

「カチドキ、行くぞぉぉっ!!」

 

敵への懐へシールドを両手に持った勝鬨が突撃しビーム発射口を無理矢理に塞いだ、ビームは逃げ場がなくなりそのまま暴発し、敵の身体の一部を焼く爆発を引き起こした。その爆発の勢いにやや呑まれそうになりながらも、爆発の勢いを使いながら後方へと飛んだ勝鬨は一夏の前へと降りながら尚、シールドで防御体勢を取り続ける。

 

「カミツレにオルコット!?なんで此処に!?」

「お前が退かないから来たんだよ、ったくさっさと退くのが良策だぞこの場合!」

「だけど、鈴一人残していくなんて危険すぎる!!」

「何を言ってるんですか!!貴方は自分のISのSEを把握していますの!?それでSEがなくなり展開が解除されるほうが余程危険ですわ!!」

 

隣にセシリアが付きながらライフルで何時でも射撃可能な状態を取りながら一夏へと言葉を掛ける、既に一夏のSEはそこを尽き掛けている。このままでは確実に展開を維持出来なくなる、その前に退けなければならない。鈴は身体を起こしつつ状況を把握し声を出す。

 

「悪いわね二人とも、助かったわ!でも、こんな所に救援なんて無茶するわね……二次遭難になるって考えなかったの?」

「それ、織斑先生にも言われたよ」

「そうですわね。だから織斑さんを連れて撤退するのが最適解ですわ、凰さんまだいけまして?」

「誰に物言ってんの、私は麒麟児の鈴ちゃんよ。余裕も余裕よ」

 

そう言いつつ機体を構えさせると先程まで爆発で動きが止まっていたISが再度動き始めていた、先程の決死の行動でビーム砲を潰す事が出来たようだが、代わりの砲門を展開するのを見て思わずカミツレはうわっと声を出した。

 

「おいおい俺の行動無意味?折角勇気出したのに」

「いえ、大金星よ。一つでも潰れたのは大きいわ」

「そう言って貰えると救われるわ、んで如何する?織斑、お前素直に退く気あるか?」

「ない、寧ろ4人であいつを倒そうぜ!!」

 

その言葉に3人は思わずガックリきた、そう来たかと……そして次の言葉を言おうとした時、一夏はこう言う。秘策があると。

 

「俺のISには必殺の剣がある、それであいつを倒すんだ!」

「それって私の時に使いました『零落白夜』ですか?」

「ああそうだ!」

 

『零落白夜』とは白式にある単一仕様能力、相手のバリアを無効にして絶対防御に直接攻撃するという力。非常に強力であるが使用の為に自らのSEを削る諸刃の刃、元々この『零落白夜』は千冬の専用機であった『暮桜』に搭載されていたのと同一の物であるが、何故それが白式で使用可能になっているかは不明。しかしそれを使えば確かに大ダメージを与える事が出来るのは確か。

 

「んで、お前の残りSEは」

「えっと……マジで一回分、かな」

「キツすぎるでしょ」

「正気の沙汰じゃないですわね」

 

まずどうやって命中させるか、あのビームを掻い潜った上でそれを一夏が直撃させなければならない。次に命中したと仮定し倒しきれない場合、即座の反撃が想定される。SEが枯渇寸前の状態で零落白夜を使えば確実に展開を維持出来なくなり、本当に危険な状態になる。本当に正気の沙汰ではない。一夏を避難させて教師達を待った方が確実なのに如何してそんな案が出てくるのか……。

 

「でもこれしかないだろ!!」

「いやだからアンタが退いてくれれば……」

「なぁちょっと待った、何であいつ攻撃してこないんだ……?」

 

こうして話をしている間にも敵は一切攻撃を仕掛けてこない、向こうからすれば新たに展開したビーム砲塔で攻撃する絶好のチャンスの筈。それなのに全く動こうとしない所か話を聞いているようでもある。余りにも奇妙すぎる。

 

「ビームのチャージ中……?でもそれなら接近してこないのも不穏ですわ」

「っという事は機械……?ほら昔にさ、自動車のメーカーが作ったロボあるだろ?」

「えっそんなのあったっけ」

「いや確かにあったけど……お前まさか、あれが無人だって言いたいのか?」

 

カミツレの言葉に思わず頷いた一夏にセシリアと鈴はそれを否定する、無人機などありえない。ISは人が乗らなければ動かせない、理由は明らかとなっていないが今でも不可能となっている事実。

 

「んじゃ仮に無人だとして如何だって言うのよ」

「零落白夜の100%を叩き込める……!!」

「勝ち目はあるって言いたいのか……やる価値はあるだろうが」

「ハイリスクハイリターンですわね、如何なさいますか?」

「っていよいよ相談している暇もなくなるみたいよ!!全員回避!!」

 

相談させてくれる時間もなくなった、遂に敵が此方に砲塔を向けた。散開して回避運動を取る、いよいよ危険な状態になってしまった。自信有り気に全員を見つめる一夏に全員は溜息を付いた、こいつは意地でも倒そうとしている……そうしないと意地でも逃げないつもりだと。

 

「ああもう分かった分かったわよ!!!でも駄目だったら消えるのよ一夏!!」

「分かった!」

「返事だけは一人前に……カミツレだっけ、アンタ付き合いなさい!!あいつの動き封じるわ!!」

「ああもう、ったくしょうがねぇな!!セシリア、流れは何となく分かるよな、準備頼む!!」

「承知しました!!」

 

勢い良く接近していく鈴とカミツレ、その両者を共に狙い打つビーム。鈴は集中力を割く事が無くなったので存分に『超速零速』を使用し回避し狙いを付けさせないようにしながら更に接近していく。一方カミツレは被弾覚悟でシールドでビームを防御しながら、『超速零速』と同じく加速技法である『瞬間加速』で強引に突っ込んでいく。そして懐へと到達すると敵は巨大な腕で殴りかかろうとして来るが、それを回避した鈴は右斜め後ろへと回りながら刃をスラスターへとぶつけながら、一撃離脱を行った。

 

「こんのぉぉぉぉっっ!!!」

 

青竜刀の攻撃で複数のスラスターを潰す事に成功する、それによってバランスを崩した敵はぐらついた。そこを付いたのは遅れて到達したカミツレであった。

 

「セイヤァァァッッッ!!!」

 

鈴に合わせるかのように両手に持ったブレードでスラスターを傷つける、そしてそのまま全力で足を掬い上げるように斬撃を加えた。それによって制御を失った機体は揺れながら体勢を崩しビームの砲門が完全に下を向いた。斬り上げた勢いのまま一気に加速して離脱するカミツレとすれ違うように一夏が突撃した。

 

「おおおおおっっっ!!!!」

 

残ったSEの全てをつぎ込んで『零落白夜』を起動させる、自らが握るブレード『雪片弐式』は自らの血肉を喰らって輝きを増していく。その雪片を強く握りこんだ一夏、二人のサポートもお陰で大きくバランスを崩し攻撃が出来なくなった敵へと最大出力の一撃を加える。眩い閃光と共に敵のSEを切り裂きながら一夏は敵から離れていく、それと同時に白式は機体を維持しきれずに消え始めていくがそれを鈴は受け止める。しかしまだ敵は動いている、あのままでは攻撃を仕掛けてくる……!!

 

「これで、チェックメイトですわ!!!!」

 

敵の真上にはライフルとブルー・ティアーズ四基展開したセシリアが構えていた。今現在相手の機体を保護するバリアは切り裂かれている、そこへセシリアの全力の射撃が相手の胸へと一点に集中して襲い掛かった。矢継ぎ早に打ち込まれている閃光、次々と打ち込まれている光の矢。そしてダメ押しと言わんばかりに残ったティアーズのミサイルが打ち込まれ爆発を巻き起こしながら落下して行った。敵は地面に強く叩きつけられた、そして低い駆動音を一瞬甲高くさせたかと思えば、小規模の爆発を繰り返しながら遂に微動だにしなくなり完全に動きを止めた。

 

「……やったか?」

「止めなさいよ一夏マジで止めて、次言ったらこのまま殴るから」

「殺す気かよ!?」

「エネルギーレベル0、再起動の確率は0.004%……こりゃ大丈夫だな……ふぃぃっ……」

「ひ、冷や冷やしましたわ……」

「はぁぁぁ……心臓に悪い」

「おっしゃああああ!!!!」

 

約一名が暢気に歓声を上げる中、残った三人は身体中に張り詰めていた糸が切れたのか思いっきりぐったりしてしまった。

 

「取り合えず一夏、アンタすっごい怒られるのだけは覚悟しときなさいよ。終わり良ければ全て良しって訳じゃないのよ」

「マ、マジかよ……」

「当たり前です……はぁこれって私達もきっと怒られますわ……」

「だな……あ~あ、気が重い……」



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21話

「こんの……大馬鹿者がぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「ちふごぼばぁぁぁぁぁ!!!?」

 

ピットへと戻った直後、一夏を待っていたのは額に幾つもの青筋を立てながら激昂していた千冬による鉄拳であった。瞬間、カミツレ、セシリア、鈴は目の前で人間が物理法則を無視しているかのような吹き飛び方をしているかのような物を目撃してしまった。殴られた一夏は重力の影響を受けていないのか真っ直ぐに壁へと吹き飛ばされたのだから。あれで一夏は生きているのかと心配になったが普通に殴られた頬を押さえてもがいているのを見ると先程のは幻覚だったのだろう……そうであったと信じる事にしよう。

 

「いってぇぇぇぇぇええええっっっ!!!?ほ、骨が逝ったぁぁぁぁぁっっっ!!!?」

「痛いか、痛みを感じるか!!!」

「当たり前だろ千冬姉ぇぇぇぇっっ!!!!??マジで骨がピシっていったぁぁぁっっ!!!?」

「それが私が味わった不安と心配の痛み、そして何より貴様の愚かな行為によって迷惑を被った凰、杉山、オルコットの苦労の分だ!!!貴様が妙な事など言い出す事が無ければ、後3分で教師陣が突入出来たものをお前は、お前はぁぁぁぁっ!!!!私がどれだけ心配し肝を冷やしたのかも分かっているのかお前はぁぁぁぁあああ!!!!!!!」

「ギャアアアアアアアア!!!!」

 

更にもう一発、今度は反対側にビンタだが炸裂した。千冬ほどの人間が放つビンタは、きっと最早ビンタでは無い何かとかしているのだろう。鞭打というべき代物だろうか、凄まじく良い音を立てながら炸裂したのだからその威力は推して計るべきだろう。その一撃で一夏の意識は完全に朦朧としてしまっている、恐ろしい……あれが自分に向けられると思うと、鳥肌が止まらない。既に鈴はその想像をしてしまったのか身体を抱きしめている。

 

「……千冬さん、今度は私に……」

 

胸倉を掴み、感情のままに説教しながら揺さぶっている千冬だが箒の言葉に正気に戻ったのか一夏を下ろした。既にグロッキーな一夏だが助かったのが分かるのか、ふっと顔を上げそこにあった箒に感謝の意を込めて微笑んだ。しかしそれを見た箒は一気に涙目になりながら千冬に負けず劣らずのビンタを一夏に炸裂させ、彼に抱き付きながら大泣きし始めた。

 

「馬鹿馬鹿馬鹿一夏の大馬鹿ぁぁぁぁ!!!!!一体どれだけ私が、私が心配していると思って、いるんだぁぁぁぁっ!!!早く、戻ればいいのにお前ときたら。お前ときたら……大馬鹿者ぉぉぉぉ!!!!しかも、最後は無茶な事をしてそれでお前が死んで、死んでしまったら私は如何したら良いんだぁぁぁっ……もう、もう寂しい思いなんてしたくは無いんだ……一夏ぁぁぁぁぁっ……」

 

大粒の涙を流しながらしがみ付くかのように胸の内を語った箒に一同は沈黙した。千冬も箒と同じように心配していた筈だが、教師という立場や様々な思いが交錯する内に心配だったと素直に言えなくなってしまった千冬の分まで言ったかのような言葉と激情の流れにその場の全員が飲まれてしまっていた。同時にある意味この場で一番一夏の事を想っていたのは彼女だと分かった。千冬も勿論心配していただろうが、正確にはあの場にいた全員を心配していたので一番で言えば箒だろう。

 

「っ……フッ良いわね、あんなに素直に男の為に泣けるなんて」

 

一瞬胸の中で痛みがしたのを感じた鈴だが直ぐにその傷みは消滅してしまっていた、そして気付けば一夏に抱きつく箒を痛々しいながらも微笑ましい笑みを浮かべながら見つめながら箒の事を羨ましげに言った。思わず彼女の肩を叩いたカミツレ、鈴はそれを素直に受け取りつつ彼の手に触れて有難うと礼を述べた。

 

「それにしても……あれだけ箒さんが想いを打ち明けていますのに織斑さん無反応ですわね」

「……無反応?おいまさか……」

 

セシリアの言葉にまさかと思いつつそっと接近し顔を覗きこんでみると……白目を剥いて気を失っていたのでカミツレは思わず全力でズッコケた。

 

「気絶してんのかよ!?しまらねえなおい!!しかもこのタイミングで!?最悪すぎんだろ!」

「……あ~もしかして、千冬さんの一撃が強すぎてそれで限界だったのね……」

「そこへ篠ノ之さんの一撃で……」

「意識が刈り取られたと……?」

「多分……」

 

そう言われた箒は赤くなった顔を上げながら自分で一夏の顔を確認して見ると本当に白目を剥いているではないか。箒は急激に恥ずかしくなってきたのか今まで以上に顔を真っ赤にさせてしまった。

 

「い、い、い、い、いっ……一夏のバカァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」

 

一夏にもう一発加えた箒は顔を真っ赤にしたまま、泣きながらそのままピットから走り去って行ってしまった。まあ無理も無い事だろう……自分の思いの全てをぶつけたのに当の本人は完全に気絶して聞いておらず、周囲の人間に聞かれただけで終わってしまっているのだから。恥ずかしくなって逃げ出したくなるのも無理は無い……。この時ばかりは4人の心は一つになり、箒が不憫でしょうがなくなった。そして再び開いたピットの入り口、今度は何かと思って見れば其処に居たのは真耶であった。

 

「ハァハァハァハァ……カ、カミツレ君!!」

「真耶先生……い、一応無事に帰ってきました」

 

座りこんだままだが敬礼をしつつ無事である事を示す、真耶はそれを見ると様々な感情が込み上げてしまいくしゃくしゃになった顔から箒と同じように大粒の涙を流しながらカミツレへとダイブするかのように抱きついた。

 

「うわぁぁぁぁぁん心配してたんでずよぉぉぉぉぉっっっ!!!!お、お、お、織斑君を連れて直ぐに戻ると思ったのに、ぞのまま戦っぢゃうんでずがらぁぁぁぁ!!!」

「わぁぁあああ真耶先生、落ち着いてください!!?いやマジでおちついてぇぇ!!?」

 

カミツレを抱きかかえるかのような形で抱き付いている真耶はカミツレの頭を胸に抱き寄せるかのような形で号泣している。カミツレはダイレクトで真耶の感触を受けている、その事でパニックを起こしてしまい何がなんだか分からなくなってしまっていた。目を少し逸らせば真耶の胸、其方を見ないようにしても如何したらいいのか分からなくなってしまう。

 

「わ、私だってカミツレさんにあんな大胆な事をした事無いのに……!!!!!で、でも山田先生はカミツレさんの師匠で心配しているのは事実だしあの位は……しかし…!!!」

「兎に角よがっだぁぁぁぁ!!!」

「分かりましたから離してください先生ぃぃぃぃぃっっ!!!!???」

「千冬さん」

「なんだ」

「なんか私凄い呆れてる筈なんですけど、これが、平和なんだなぁって実感してます」

「奇遇だな。私もだ」

 

この日は当人達の疲労も考えてそのまま解散となり、詳しい事情聴取などは翌日する事になった。漸く真耶から開放されたカミツレは、げっそりとしていたが今度は抱き付いてきたセシリアの対処に追われてしまいベットに入る頃にはフラフラになっていた。



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22話

IS学園に訪れた前代未聞の大事件の翌日、事件の事後処理という事でその日は一日休みとなったその日。当事者であり実際に乱入して来た謎のISと交戦した専用機持ち全員が呼び出され事情聴取が行われる事となった。ほぼ全員があの後確りと睡眠や休みを取った事で英気を養っているので、疲れは取れているようであったがただ一人、一夏のみは妙に首を傾げていた。

 

「なあカミツレ、昨日ピットに戻った後何かあったか?なんか、記憶が途切れてるような気がするんだ」

 

それを聞いた三人は本当に意識が飛んでいたんだなと理解してしまった、問題なのは何処まで意識があって記憶が残っているかが問題なのだが……兎に角この集まりの理由ぐらいは覚えているようなのは安心であるが……。

 

「確か千冬姉に殴られてそれから……えっと、駄目だもうその先が思い出せないんだ」

 

思わず箒に対して本気で同情の念が沸いた瞬間であった。あの時の言葉が告白にも似ているとかはこの際、関係無しにするとしても自分がどれだけ心配していたのか、悲しみを覚えていたのかを理解出来なかったというのは箒にとってどれだけ無念だった事だろうか……あれさえ覚えていたら一気に距離が縮まった事さえ有り得ただろうに……。三人揃って溜息を吐く姿を見た一夏は見当違いな事に、何時の間に仲良くなったんだろう?と首を傾げるのであった。箒の想いが届くのは何時になるのだろうか。

 

「揃っているな」

 

確りと4人いる事を確認した千冬は全員を席に着かせる、そして資料を開きながら当時の状態を事細かく言いつつ随一それを確認して行く。

 

「宜しい。では各自、何か言いたい事はあるか」

「それじゃあまず俺から良いですか」

「ああ、杉山、座ったままでいいぞ」

 

手を上げながら立ち上がろうとするのと止めて座るように促す、別に立てと言った訳でもない。まだ疲れも少なからず残っているだろう、それを酷使させる訳にも行かない。

 

「俺は織斑先生に織斑救出の案をセシリアと共に提示し、先生がそれを制止したのにも関わらず無理矢理意見を通しそれを実行しました。その結果、織斑は救出出来ずあの場の全員の身を危険に晒しました。先生が指摘した通りに二次遭難になる所でした……あの場面は無理矢理にでもこれを連れて撤退するべきだったんです」

「それならば私も同じ責任がございます。結果的に私達は敵ISの撃破に成功しましたが一歩間違えば、重傷所か死亡すら有り得ました……申し訳御座いませんでした」

 

共に頭を下げるカミツレとセシリア、二人がアリーナへと突入した最大の目的は一夏をピットへと撤退させ鈴の負担を減らす事であった。しかし結果としてはそれは失敗に終わり、撤退させるべき存在を攻撃に組み込んだ作戦まで行ってしまった、それを了承した二人には責任があると言っているがそれに一夏が大きく反発した。

 

「待ってくれよ、なんで二人が謝るんだよ!?何も悪い事して無いじゃないか!!」

「黙っていろ織斑。お前の発言は許可していない」

「でも千冬姉!!」

「……昨日と同じ一撃、喰らうか……?」

 

骨を鳴らしながら威圧する千冬に敗北して席に座りなおした一夏、それを隣で見た鈴はそもそもアンタのせいよっと小声で漏らす。そして続くように鈴が手を上げた。

 

「私は相手の力を見誤り指示のミス、集中力の低下、織斑を強引にでも避難させるべき責任があったのにそれを完遂出来ませんでした……。そして先程二人が言ったように避難させるべき存在の攻撃参加を最初に認めたのは私です……」

 

声を上げようとした一夏を睨み付けて抑えつけた千冬は鈴にもう良いぞと声を掛ける、3人とも自分の行いを確りと理解していると判断出来た千冬は三人へと処分を言い渡す事とした。

 

「凰、お前は確かに様々な対応に追われていた。しかしお前はそれらを全力でこなしていたのは明白だ。お前は最も危険な囮という役目を全うしながら、危険な任務が積み重なってしまった。本来教師がやるべき事を、な……改めてすまなかったな」

「い、いえ気にしてませんよ」

「そして杉山とオルコット。結果としてお前達の突入が凰と織斑の命を救ったのも事実だ。あそこで突入していなければ、二人はビーム攻撃をまともに受けていただろう。その点やその後の戦闘方法などを考慮し杉山、オルコット、凰は不問とする事とする。加えてこの件を成績に記載し、成績点の増加が学園長からの許可と今期の筆記試験の免除が言い渡されているぞ」

 

それを聞いて三人は素直にホッとしつつ喜びを感じた。自分たちの行いは正当に評価された上で絶対に怒られると思っていたのだから、一安心と言った所だ。しかも学生最大の敵である定期テストを免除してくれるという好待遇に笑いが止まらなくなってしまう。

 

「それと杉山、まだ操縦者として日が経っていないのに大した物だと褒められていた。お前には後日学園から褒賞として色々と送るらしい。詳細は私は知らんが、軽く聞いた限りでは良い物を渡すらしいぞ」

「良い物……って何だろ?」

「まあ期待して待っている事だな、学園長も期待しててくれと言っていた」

「分かりました、それじゃあ期待させて貰いますって伝えて貰っても良いですか?」

「ああ、任せて置け」

 

素直にそれを受け取る事に決めたカミツレだが、一体何が来るのか今でも期待で胸が大きくなってくる。態々学園長直々とは、少々受け取るのが恐くなってくるが良い物だと言うのだから受け取るしか無いだろう。変に断れば角が立ってしまう。そんな中、蚊帳の外だった一夏へと矛先が向いた。

 

「さてと……織斑……私が言いたい事は、理解しているな……?」

「は、はい……」

「宜しい。杉山、オルコット、凰はご苦労だった。もう戻って良いぞ」

 

退室の許可が出たので部屋を出て行こうとするが、一夏が絶望に染まった目で見つめてくるがそれらを完全に無視して部屋から出て行く。これから行われるのは私刑ではない、歴とした正当な罰だ。

 

「こんの大馬鹿者ぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!なんだあの、お前は何時からあんなに偉く強くなった!!?何故凰の言葉や杉山にオルコットの指示に素直に従えなかった!!!」

「そ、それは……鈴を一人残していくなんて……出来なくて……」

「それがどれだけ愚かで危険な事が分かっていて言っているんだろうな!!お前が残った方が余程危険という物だ!!!いいかよく聞け!!!」

 

この後、千冬による説教は一日中、夜まで続いた。一夏には反省文500枚と夏季休暇には強制奉仕活動に従事する事が宣言された。本来なら謹慎も必要な筈だがそれよりもISに必要な知識と訓練が必要と千冬が判断し放課後強制補習が言い渡された。



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23話

『ねぇお姉ちゃん、噂の杉山 カミツレってどんな人だった!?』

「第一印象は普通の奴、変わり映えもしない一般人ってのが素直な感想」

 

朝、鈴は自室にて髪のセットをしながら耳に付けてた通信デバイスを起動させながら通信を行っていた。通信相手は自分の従妹である『凰 乱音』台湾の代表候補を務めており、年下で中等科。自分以上の天才だが自分以上に感情的になり易く、普段から挑発的な口調で喋る上に短気。それゆえか挑発していたのに挑発され返され、それに乗ってしまう事が多々ある。為に鈴本人は常にイラついている。しかしそんな乱が、珍しく殊勝というか、大人しい喋り方で聞いてくる事があった。それはカミツレの事であった。

 

『分かってないなーそこがいいんじゃない!!気取らず主張せずなあんな感じ!!最高じゃん!』

「なんか、あいつもそんな事言ってたわね……平凡と言われる事は嬉しいって」

『うわぁお私ってばもしかして、相性バッチグー!?』

「古いわよアンタ」

 

梳かされて行く髪を鏡で見ながら、カミツレの事を考える。最初こそそんな事を考えていた、しかし一夏以上に注目していた。カミツレの初めての試合は各国の生徒が独自のルートで入手しており、それが各国に流されており、カミツレもかなりの注目を集めるようになっている。ISを稼動させてから僅か2週間の筈の男が、イギリスの代表候補生と引き分けた。それはある意味、千冬の弟であるという肩書きを背負っている一夏以上に注目される材料となっている。

 

『私、あの試合毎日見てるんだから!あーもう、なんで私はお姉ちゃんと同い年じゃないのよぉ!!!』

「アタシに当たるなっての……何、アンタカミツレに惚れてるの?」

『勿論!!』

 

自身満々に大声で返らせ溜息が出た、もう少し声を落として欲しいものだ。ハッキリ言ってうるさい、控えめに言っても喧しい。

 

『自らの価値を証明する為に必死に努力し、相手を研究して、作戦を練って戦いを挑む姿勢!そして相手が急成長し、追い込まれ敗北寸前になったとして、最後まで諦めずに獣のような咆哮を上げながら前へと、前へと進み続けるあのお姿……あぁなんて素晴らしい……!!』

「…ベタ褒めね、というか自分の価値の証明ってそれアンタの想像でしょ。勝手にそれを押し付けるのはどうかと思うわよ」

 

戦い方を見て惚れているのは理解できる。しかしその影響でカミツレの内面を勝手に語るのは少し許せなかった。確りと会話したわけでもなく、友人関係でもあるわけではないが彼とは縁がある。対抗戦に乱入して来たIS、それを仕留める際に彼と自分は相手の体勢を崩す役目を行った。その際のカミツレの動きは機体の特性、装備、技術をフルに使って自分に付いてきていた。『超速零速』を使っていた自分に必死に喰らい付き、最終的に見事な太刀筋でスラスターを破壊した上で一夏へのフォローとして、斬り上げで体勢を完全に崩す事までやってのけた。あれで初心者と言うのだから悪い冗談にしか聞こえない。故に鈴はカミツレには好感を感じている。そんな彼の心象まで勝手に語るのはいただけないと言うと、乱は舌を鳴らしながら分かっていないという。声だけなので見えないが、したり顔をしているのまで見えた。

 

『お姉ちゃん分かってないなぁ、人の行動には為人(ひととなり)が現れるもんなのよ。あの人の行動には鬼気迫る感じと全力を出し切るって強い意志を感じた。あれは間違いなく、自分の為に全力を出してたよ。小耳に挟んだけど、カミツレさんは入学初日から『銃央矛塵(キリング・シールド)』に弟子入りって話だし、確実にあれは分かってるよ。自分が研究対象として一番危険だって事をさ』

「……アンタって偶に、本当に偶に核心突くような事を言うわよねぇ……」

『これでも人を見る目には自信あるもの♪』

 

漸く髪のセットが完了するのと同時にそんな声が聞こえてくる。何だかんだ言いつつも乱の言葉は核心を突いている気がする。それだけ彼の戦い方や努力の仕方には鬼気迫った物がある。それはきっと全てを理解した上で、覆さんと努力する意志があるからなのだろう。

 

『兎に角私はそう思う!絶対に間違い無い!!』

「ハイハイ分かりましたっと」

『あっそうだ、お姉ちゃんって例の織斑 一夏と会えたの?』

 

髪を梳かす櫛が止まる、乱は自分と一夏の事を知っている。一夏の事を追いかけようと考えていた事も、政府が代表候補生を学園へと送るのに選ばれたのを喜んだのも、知っている。自分が、一夏に恋心を持っていた事も分かっている。何やら声が意地悪そうな物になっている事から、からかうつもりで言っているのだろうかというのが分かる。しかし鈴は冷めた声で別にと返すと、乱は困惑したような声を上げた。

 

『あ、あれ!?お姉ちゃんなんか冷めてるけど如何したの!?』

「……別に。あいつの事、如何でも良くなっただけよ」

『マジで何があったの!?』

 

言うべきだろうか、いや面倒だから止めておこう。自分の中での恋心は無くなりかけていた。対抗戦でのやり取りや言動でもう呆れ返ってしまった。状況判断も禄に出来ない、無駄に我を通そうとする、何も理解していない、それらが原因で鈴の中での一夏に対する評価は一気に冷え込んでいた。昔に抱いた恋の炎も凍り付いてしまった。

 

「んじゃそう言う事で」

『あっちょっとお姉ちゃん!?』

 

適当な返答を返して通話を切る。こうでもしないと乱の話は延々と続いてしまう、自分はこれから朝食を食べに行くのだからそれを邪魔しないで欲しい。

 

「もう、何も感じない。あいつとは、これまでね」

 

静かな決別を誓った鈴はそのまま部屋を出て行く。きっともう彼に会ったとしても何も感じられない。きっとそうなのだろう、と確信を持ってそう思う。そのまま食堂へと向かって行くとその途中、カミツレに出くわした。

 

「おはよっカミツレ」

「おはよう、凰」

「鈴でいいわよ、その方が落ち着くわ」

「ああ分かった。どうだ一緒に飯食わないか?」

「いいわよ。ついでにさ、一緒に操縦談義でもしないかしら」

「いいなそれ」



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24話

「やっぱりアタシはハヅキ社製のが良いと思うけどなぁ」

「え~そう?デザインだけって感じしない?」

「私はミューレイ社のスマートモデルかな、見た目も性能も良いし」

「あ~やっぱり来たかミューレイ社、でも高いのよねあれ」

 

鈴との朝食もそこそこに教室へと足を運んだカミツレを待っていたのは、教室にて楽しそうに会話をする女子達の楽しげな声と此方に向けて笑顔を振りまくセシリアだった。本日は日直らしいのでいつもより早めに教室へと足を運び日誌のチェックや日程を確認している。そんな事を思いながら席に着くとぐったりと席に倒れこむようにしている一夏が目に入った。一夏は最近千冬とのマンツーマンの補習授業に何時もあんな調子である。相当キツいのか休み時間は疲労困憊と言った様子だが、以前千冬に聞いた話では基本を少しハイペースで教え込んでいるだけとの事らしい。以前教え込んだ基本のレベルではまだまだ未熟すぎるとの事。

 

「おい一夏、確りしろ。そもそもお前が参考書を捨てずに済めば、こんな苦労などしなかったんだぞ」

「そ、そんな事言ったって……覚える事多すぎて、パンクしそうだ……」

「私でも何とかなっているんだ。私以下のお前でも何とかなるに決まっている」

「それ、慰めているようで俺の事、馬鹿にしてるだろ……」

 

そんな一夏をフォローするように傍に居るのが箒、あの意識離脱中の号泣告白未遂以来何か変わったのか、彼女の態度は少し柔らかくなっているような気がする。言葉自体に棘があるのは、本人からすればあの時の一夏への仕返しなのか、照れ隠しなのかは分からないが兎に角一夏に協力しているのは事実だ。後は奴が箒の気持ちに気付くだけなのだが……それが習得難易度Sクラスの操縦技術以上に難しいから、箒からしたら笑えない話である。そのような事などさっさと忘却して、日課の予習と復習を始めると箒が自分の事を言いながら一夏に言う。

 

「お前がだらしない姿を晒している間に、杉山は自主的にあんなにやっているんだぞ。お前も負けじとやれ」

「カ、カミツレと一緒にするなよ……あいつは千冬姉の地獄の補習受けて無いんだぞ…」

「最初から確りしていたから千冬さんの補習を受けていないんだ、一緒にするなど失礼だ。それに杉山は初日から、自主的に自習をしているんだ。散々説教されてから補習を受けた奴が何か言えると思うのか」

「ぐ、ぐぅぅっ……」

「(仰る通り)」

 

と内心で箒に同意しつつもっと言ってやれと毒づきつつペンを動かし続ける。きっとこれからは一夏のセーフティとして機能してくれる事だろうと期待しつつペンを動かしていたが、目の前に真耶が笑顔で立っていた。もうSHRなので一旦ペンを置いて欲しいという事だった。余りにも集中しすぎてしまったようで気恥ずかしくなった。そして千冬が入室し、SHRがスタートする。

 

「皆おはよう、さて本日からは本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用する為各自、怪我などをせん為にも、気を引き締めるように。各人注文したISスーツが届くまでは学校指定の物を使って貰うのでそのつもりでいるように。まあ個人のを使っても構わんが、授業中は出来るだけ統一する為学校指定の物を使うようにしてくれ。忘れた者は代わりに学校指定の水着で代用して貰うが、それも無かったら……下着しかあるまいな、だから忘れるなよ。因みに忘れた奴は風紀違反で説教だからな」

 

これでクラス全員の心が忘れないようにしようと合致した瞬間でもあった、下着でいる事も嫌だが何よりも千冬に説教をされるなんて冗談ではない。それが何よりも嫌なのだ。どんな言葉よりも効果があるもの、それは千冬の説教であると説教をされたばかりの一夏はそんな事を考えていたが、千冬から心を見透かされたかのような鋭い視線に目を逸らす。

 

「さてとこの位で良いか。では……っとしまった。伝える事があったな、山田先生」

「えっと皆さんにお知らせがあります。なんと転校生を紹介します、それも2名もです!」

「「「「えええええええっ!?」」」」

「さあどうぞ!」

 

女子は何より情報に飢えているもの、そんな彼女らが独自に形成しているネットワークの情報は耳聡い。それなのにそれを潜り抜けた転校生という存在は皆を興奮させる物だった。しかしこのクラスに二人、しかも鈴と同じような転校生……また国から送りこまれた代表候補生という事になる。いよいよ露骨になって来た国の行動に、身の危険を感じる。これは、早い所イギリスからの要請を送って貰うしかないとまでカミツレは考える。そんな危険回避の為の思考を他所に、教室に転校生の二人が入ってくる。―――その転校生らを見てざわめきが停止した、何故なら一人が男子の制服を着ているのだから。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

それなりに長い金髪の髪を後ろで、縛っているかのような髪型と中性的な顔つきに人懐っこそうな笑み。それを浮かべているシャルルは一礼をするが、驚きに満ちているせいか、静まり返っている教室で一人が思わず呟いた。

 

「お、男…?」

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞きまして転入を―――」

 

丁寧に返事を返すシャルルの返答を最後まで待つ事無く、教室内にソニックウェーブが広まった。発信源はクラスの女子達である。

 

「男!男子!!3人目の男子!!!」

「美形だァああああ!!!守ってあげたくなる系の!!しかもうちのクラスだぁぁぁ!!!!」

「生きてて良かったぁぁあああ!!!いやったぁぁぁぁ!!!」

 

阿鼻叫喚とはこのような状況の事を言うのだろうとカミツレは思った。これ程までにこの言葉がマッチする状況には初めて遭遇するがこれ程までに凄まじいとは思わなかった。一夏も一夏でやや嬉しそうな視線を送っている、こんな状況で少しでも同性の生徒が増える事が嬉しいのだろうが、カミツレは怪訝そうな視線をセシリアから送られ、それに頷いた。

 

「(三人目……明らかに怪しすぎるだろ、仮に三人目が現れたとしたら確実に大ニュースになる。それとも過去二回の事があるから秘密裏に……?でもセシリアにも連絡は無かったみたいだし、どうなってるんだ……)」

 

素直に喜ばず怪しむ事から始めている、此処が普通の元女子校の一般高校、クラス内には男子と女子の割合が1対9ぐらいの状況での男子の転校生と考えると喜ぶ所。しかし此処は全世界からの視線を集めるIS学園、そんな事はありえない。確実に何かある、警戒を念頭に置きつつ、無意識に待機状態の勝鬨(ドッグタグ)を触れる。この時はそこまで考えを至らせていなかったが、心の何処かで理解していたのかもしれない。

 

加えて言うのであれば、あれが男とはとても思えない。見た目に関しても中性的、といえば聞こえは良いが男装をした美少女。と言われたほうが納得がいく見た目と高い声、本当に男なのか疑う要素で一杯である。続いて隣の眼帯を付けた銀髪の少女の番となった、彼女を見て抱いた印象は「強い」その一言であった。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「ハッ教官」

「ハァ……何度言わせる、織斑先生と呼べ」

 

ややうんざりとした表情から放たれた言葉、千冬とかなり縁があるように思える。銀髪の少女は一歩前に出ながら腕を後ろに組んだまま、鋭い瞳でただ一言簡潔に述べた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

とだけ。あまりにも簡潔すぎるそれに、先程まで大騒ぎしていた女子達も困惑したように黙りこんでいる。改めて声を聞いて思う、彼女は本当に強いと。言葉に含まれる覇気のような物を感じ取ったカミツレは、自然と考えてしまった。真耶との訓練を続けて早二ヶ月ほど、身体もトレーニングの効果からか引き締まりやや腹筋も割れてきた頃。正確ではないが相手の強さを計れるようになっていた、強いか弱いか程度だが、それでも分かるだけの経験を積んできたという事になるのだろうと解釈をしている。そんな中、ラウラはツカツカと一夏の元へと歩いて行った。

 

「……お前が教官の弟か」

「お、おう。そうだけど……」

 

暢気していた一夏も流石にラウラの纏っているオーラに威圧されたのか、ややどもりながら見つめてくるラウラをみる。傍からみて明らかにラウラが押していると分かる。自分の実力を完全に把握した上での得ている自信が、オーラとなって溢れ出ているのだろう。真の強者にしか出来ないオーラに完全に押されている一夏を見てラウラは鼻を鳴らしてから言った。

 

「私は貴様を認めん、お前があの人の弟であるなどとな」

「ハッ―――えっ?」

 

いきなりの事に困惑した一夏は、それに反応出来なかった。そしてラウラはすたすたと歩き今度はカミツレの元へとやってきた。

 

「杉山 カミツレだな」

「……そうだが」

 

一夏の時と同じように、オーラで押すかのようにしてくるラウラ。それに負けじと真正面から見つめ返すカミツレ。過去に千冬が代わりに訓練を見てくれた時に一度だけと称して千冬と打ち合いをしたが、その時の威圧感に比べれば楽な物だった。流石に肌を日本刀で突き刺すような威圧感を放つ千冬と比べるのはいけないとは思うが、兎に角カミツレは気押されずに見つめ返す。刹那の静寂、ラウラは口元に笑みを浮かべると成程と呟きながらそっと、手を差し出した。

 

「如何やら、報告以上の男のようだな。ラウラ・ボーデヴィッヒだ、迷惑を掛けたな」

「ああ全くだ……それとクラスの皆にも言えよ?」

「ああ、確かに失礼だったな」

 

カミツレとの握手をするとラウラは振り返り、先ほどは失礼したと詫びながらどんな挨拶をして良いのか分からなかった。質問があるなら応えるから、聞きに来て欲しいと答えてから空いている席へと向かって行った。思わず肩から力が抜け、ちらりと千冬の方を見ると彼女はバレないように胃を抑えていた。如何やらこのIS学園に平穏というのは訪れる事はないらしい。



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25話

「なぁセシリア、欧州で貴族とか有力者とかのパーティに出た事ってある?」

「ありますわ。貴族に大会社の社長や政府官僚、様々な身分の方が参加する社交界に何度も出ています。これでもオルコット家の当主ですので」

 

一時間目は二組との合同IS模擬戦闘を行うと、各人は大急ぎでグランドへと急いだ。一夏は早速同性の元へと向かった中、カミツレはそれに巻き込まれないように急いで教室から脱出した。転校生の噂は既に全校中に流布しており、廊下から凄まじい足音が聞こえてきたからだ。全力でアリーナ更衣室へと向かい、着替えを済ませて外へと出るとセシリアが真っ先に出てきた。先日、部屋割りの調整が出来たとして別室になってしまったセシリア、それを残念に思いつつもセシリアはこれからも一緒に勉強したりしようと言ってきた。それは勿論カミツレにとって有難い申し出なので了承した。そんなこんなで、先日は数ヶ月振りに、一人で眠りについていたが、セシリアがいた事に慣れていたのか妙な違和感があった。それゆえか近くに彼女がいると落ち着くようになっていた。

 

「シャルル・デュノア。デュノアって確かフランスにある量産機ISのシェアが世界第3位のISメーカー、だよな」

「ええ。有名なのは訓練機でもある『ラファール・リヴァイヴ』ですわね、フランスで一番巨大なISメーカーでも有名ですわ。しかし、そもそもデュノア社にシャルルという名の少年がいるなんて、聞いた事がありません…デュノア社の出身なら、社交界で一度は顔を見た事がある筈ですが…」

 

イギリスの貴族でもあるセシリアですら知らない存在、これはいよいよを持って怪しくなってきた。それだけ巨大な会社なのだから秘密裏に隠し通せたという事になるのだろうか。しかしそう決め付けるのも早すぎるだろう。兎に角、警戒する事に決定する。

 

「しかしもう一人、警戒すべき存在がいますわ」

「あの、ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。細かい自己紹介などは一切行っていないが、彼女は紛れもない強者なのは違いない。そしてそれを目の前にした時、千冬を一瞬連想した。それは千冬のオーラを受けた事があるから、それに比べたらと思っていたが何か違う物を思う。何処か、なんとなく千冬に少々似ているような気がした。千冬の事を教官とも言っていたし……もしかして千冬が現役時代に指導を受け持っていたのだろうか。

 

「いえ彼女ではありません。実は……二組にも転校生が来たらしいですわ」

「……えっまた増えるの」

「はい、また増えました」

 

本格的に露骨過ぎないかと溜息が出る。偶然入学の時期がズレただけかもしれないが…自分の事を考えてしまうとどうしても疑いが先に出てしまう。

 

「ハァ……んで今度はどこの国なのさ」

「いえそれが……」

「カミツレ~、アンタの所にも転校生来たってマジ?」

 

セシリアが答えようとした時、そこへ鈴がやってくる。如何やら彼女も転校生の事が気になっているようで、合同授業のついでにそれを見極めようとしているとの事。鈴も三人目についてはかなり不審な目で見ており、この後で中国本国のデータベースにアクセスして探りを入れてみると公言した。

 

「んでそっちにも転校生来たんだろ?」

「ああ、来たわよ…しかも見知った顔よ」

「同じ中国の?」

「いえ台湾よ。多分もう直ぐ……」

「ちょっとお姉ちゃん、置いてくのって酷くない!?」

 

口を開こうとした鈴は聞こえてきた声に対して顔を歪めた。ちっ追いついたかと言わんばかりの表情変化に露骨に嫌がりすぎではとセシリアは言うが、その直後にやって来た人物をみて目を見開いた。そう、やって来たのは自分がカミツレに告げようとしていた人物、件の二組への転校生であり台湾の代表候補であるのだから。が、カミツレは別の点に驚いた。やって来た少女は鈴に良く似ていたからだ。

 

「もう、揉みくちゃにされる所だったんだから!!」

「あーはいはい悪かったわよ」

「もう何時もそうやって、反省してるのか分からない感じの謝り方を……!」

「もういいでしょったく…カミツレにセシリア、紹介しとくわね。これはアタシの従妹で、台湾の代表候補生の凰 乱音(ファン・ランイン)よ」

「ああもう、人を物扱い……ってカミ、ツレ……?」

 

もう疲れているかのような表情をしている鈴の紹介。それに不服そうにしていた乱だがその言葉を聞くと硬直し、錆付いた歯車のような硬い動きで顔を動かしてカミツレの方を見た。乱は素っ頓狂な声を上げると顔を赤くしながら鈴の後ろに隠れるようにするが、鈴はしきりに動いて乱を後ろから叩き出そうとする。

 

「チョチョお姉ちゃん後生だからやめてぇ!本当にやめて、私まだ心の準備出来てないのぉ!!」

「あんだけのこと言ってた癖してそれなのアンタ、はぁ……先が思いやられるわね」

「あー…えっと、鈴。どういう事だこれ」

「簡単に言えば、アンタとセシリアの対決の映像を見てこいつはアンタのファンになったのよ」

 

一部を暈して伝えた鈴に一抹の感謝の念が生まれる。一応尊敬する対象ではあるが日常では色々と敵である事が多い。が今回ばかりは感謝しておく事にした。一方カミツレはファンという事を言われあからさまに動揺してしまった。

 

「ファ、ファン!?おいおい鈴……それって悪い冗談とかだろ、俺にんなもん出来る訳ないだろ……」

「アンタって結構自分への評価って低いわよね。自分がやった事を考えてみなさい、それとファンが出来てるって現状を合わせてね」

「んっ……?」

 

自分がやった事と言えば、セシリアとの勝負に引き分けた事。鈴の発言からしてこの事を示しているのは明確、そして乱が知っている事を考えるとセシリアとの対決の映像は流布してしまっていると考えるのが妥当である。そうなると……そこで漸くカミツレは気が付いた、今までは必死になりすぎて気付けていなかったが、セシリアに引き分けたという出来事がどれだけの出来事である事を。そして思わず頭を抱えてしまう、そんな事になっていたのかという事と、何故気付けなかったのかという後悔である。

 

「……悪い、理解したわ。んなこと考えてる暇なかったからな……ああそっか、初心者が代表候補と引き分ける、それ自体に凄い意味があった事は分かってた筈なのに……」

「まあ、今分かれば良いんじゃない?一応言っとくけど、今各国にアンタの強さと成長が知れ渡ってる。僅か2週間で代表候補と渡り合った事で、世界中がアンタに注目してる。まあ、乱は別としても一組の転校生はほぼ確実にアンタ目的でもあるわ。気を付けなさいよ」

「ああ……注意する」

「分かればいいわ。それとアンタは何時まであたしの後ろに隠れてるのよ!」

「キャア!!」

「あぶねっ!?だ、大丈夫か。えっと乱さんでいいのかな」

 

無理矢理背後から引っぺがした乱を、投げ捨てるかのようにカミツレへと放る。倒れこんできた乱を優しく受け止めたカミツレは優しく声を掛けるが乱は何処かぼぅっとしているようで小さくささやくような声で、答えると魅入るようにカミツレを見つめている。それを見ていたセシリアは赤い炎を燃やしながら直感する。

 

「(この女は、私の敵ですわ……!!!!)」

 

どうやら、嵐は一夏だけではなくカミツレまで巻き込むようである。



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26話

「では本日は格闘及び射撃を含んだ実践訓練を行う。くれぐれも怪我に注意し行うように」

『はい!』

 

授業開始時間となり一組と二組の合同の授業を千冬が始める。教官とラウラに呼ばれていただけあって妙に生徒を束ねる姿が似合っていると思うカミツレであったが、やや表情に陰りがある。主にさり気無く、意識しなければ分からない程度に胃を押さえている。ストレスなどで胃が大変なのだろうか……。

 

「今日はまず戦闘を実践してもらおう。そうだな……オルコット、凰、杉山は前へ出ろ。鈴音の方だ、乱音はそのまま並んでいろ」

「「「はい」」」

 

指名された三人は前へと出て行く。その途中セシリアがカミツレの方を見てるとなにやら奮起したような表情になった。乱の事で危機感を募らせているのか、ここで良い所を見せ付けようと考えているのかもしれない。一部の生徒はカミツレも呼びだされた事に驚きつつ、矢張り彼は凄いんだとヒソヒソ話をしている。

 

「それで先生、相手は誰ですの?順番にやっていては時間が足りなくなってしまうと思いますが……」

「今回はタッグを組んでやってもらう。オルコットは凰と組め」

「ええっ!?し、しかしそれではカミツレさんは一体誰と?!」

「ま、まさか織斑先生とか言いませんよね……?」

 

セシリアはタッグと聞いて真っ先に、意中の彼と組む事を考えたのにあっさりと却下されてしまった事に焦った。しかもタッグというのにもう一人足りない、そこで鈴はまさか千冬とカミツレは組むのでは…と、ある意味最悪な想定をしてしまった。それを聞いた途端にセシリアも顔を青くしてしまった。カミツレはそれは千冬の動きを間近で見れるから良いかもと考えたが、千冬はそれを想定していなかったのか意外そうな顔を作る。

 

「ふむ、それもありだな……。そうしてみるか?」

「「いやいやいやいや絶対勝てませんよ!!?」」

「何を言う、これからやるのは戦闘の模範で勝ち負けは関係ない」

 

それを言われて言いよどむ。しかしそうだと分かっていても千冬と相対したくはないと考えてしまう。まあ分からなくもない心理ではあるが。千冬は少し笑ってから、残念そうにしながら、カミツレのタッグは私ではないという。それに思わず二人は胸を撫で下ろすがそれでは一体誰なのかと疑問に思うが、そこへ真上から声が聞こえてきた。

 

「お待たせしましたー!あらよっと!!」

 

空中で見事なロールを決めながら着地を決めたのは、教員仕様にカスタムされているラファールを纏っている真耶であった。

 

「随分時間が掛かったな、何かあったか?」

「いえ、ちょっとチェックに手間取りましてね」

「まあ無問題ならいいが……オルコット、凰。お前達の相手は杉山と山田先生のタッグだ」

 

生徒達はそれを聞いてある意味で、納得が行く組み合わせだと思った。セシリアと鈴は経験が豊富な代表候補生だが、一方のカミツレは経験も浅い上にカスタムが成されているとは言え第二世代型のIS。それらを考えると教員がタッグパートナーになるのは合点が行く選出である。

 

「(という事は……師弟であるお二人がお相手という事ですわね…)」

「ふぅん……中々手強そうじゃない。カミツレアンタとは、戦って見たかったのよ」

「まあそう言う事だが安心しろ。オルコット、凰、お前達は負けるぞ」

 

そう断言した千冬に二人は顔を鋭くした。あからさまな挑発だがそれが挑発では収まらない物であるのも事実。カミツレは努力し成長し続けているのに加えて、パートナーは教えを請っている真耶。互いの呼吸や戦法は同一と言っても過言ではないのでコンビネーションという点に置いても完璧と言えてしまう。そして、こちらは一度もタッグでの訓練をした事がないので互いの呼吸が分からない。だが、簡単に負けると言われて引き下げれるほど、二人のプライドは低くはない。

 

「では、準備は良いな」

「カミツレ君、気を楽にしてくださいね。気負わずに、普段通りで」

「はい、先生こそ緊張しないでくださいよ?」

「負けませんわ!」

「お手並、拝見と行こうかしらね」

「では、始め!!」

 

千冬の合図と共に飛翔する四人だが、セシリアや鈴よりも真耶とカミツレが一歩早く飛び出した。カミツレの手には二本のブレードが握られ、真耶はライフルを握りつつ互いの間合いを意識しながら飛翔を続ける。セシリアと鈴は取り合えず互いが得意とする間合いを取っていく。

 

「カミツレ、早速行くわよ!!」

 

先手を取ったのは鈴。得意とする「超速零速」はまだ機体が温まっていない為に使用出来ないのでその手に青竜刀を構えながら突撃してくる。それを援護するように背後ではライフルを構えたセシリアが待機している。それを確認するとブレードを構えて青竜刀を受け止めるが、その時の衝撃を利用し一気に後退する。

 

「逃がしは……ッ!?鈴さん退避を!!」

「えっ……うッそ!?」

 

後退と同時にそこへ投げ込まれたのはグレネード、それも複数。真耶によって投擲された物だがこれでは確実にカミツレも巻き込んでしまう。鈴は慌てて後退するが鈴は再び驚きに目を見開く。

 

「セイヤァァ!」

 

カミツレはブレードを柱にするかのようにしながら、回転しグレネードを蹴って鈴へと飛ばした。驚愕しながらも反射的に飛んできたグレネードを跳ね除けようとするが、直後にカミツレがブレードを投擲する。それによって咄嗟にブレードを弾いてしまった、グレネードは同時に点火し爆炎を巻き起こす。

 

「キャアアッ!!」

「隙あり!!」

 

弾き飛んでしまったブレードを真耶は回収しながら『瞬間加速』で一気にスピードを上げながら鈴へと斬撃を浴びせると共にセシリアへの方へと牽制射撃を行った。それを回避しながら真耶を狙うが、トップスピードで移動する真耶を捉える事は出来ない。

 

「くっ……やって、くれるじゃない!!」

「そりゃどうも!!!」

 

爆発によって体勢を崩した鈴だが、目の前まで迫り残ったブレードを振り上げたカミツレへと見事に反応して、斬撃を受け止める。しかしそのまま押し込まれていく。

 

「鈴さん!」

「おっとっ!!」

 

真耶へと攻撃を中断し鈴への援護を行うセシリア。それをシールドで防御しながらも鈴から後退する。それに合わせて体勢を整えようとするが、そこへ三度グレネードが飛来してくる。

 

「ま、またぁっ!?」

 

思わず防御姿勢を取ってしまうが、何時まで経っても爆発しない。グレネードは点火状態になっていなかった、囮として使用されていた。それに遅れながら気付いた鈴はセシリアの方へと向かうカミツレに気付き、『瞬間加速』でそれを阻止しながら、衝撃砲でカミツレを吹き飛ばす。

 

「ぐっ!!」

「漸く一本!!」

「いえ、それはこちらの台詞です!!」

「えっきゃああ!!」

 

気付けば背後から迫ってきていたセシリアが自分にぶつかっていた。

 

「ア、アンタ如何したのよ!?」

「先生の攻撃を回避していたら誘導されたようですわ……!」

「うっそ全然気付かなかったわよ!?」

「セイヤァァァァッッ!!!」

「「ッッ!!?」」

 

その瞬間、聞こえてきたのはカミツレが気迫と共に吐き出す言葉だった。思わず迫ってくるのだろうと思ったがそんな事はなくカミツレは移動せず、こちらにピースサインを送っていた。それに一瞬呆気に取られ、隙が生まれた。そこへ真耶が二人の前からありったけの弾丸を打ち込んでいき、最後にはカミツレのブレードで二人を同時に切り裂いた。

 

「「キャアアアア!!!」」

 

二人の少女は共に悲鳴を上げながら落下して行き、グランドに墜落するように降下した。そこで千冬が終了の判定を下し、模範戦闘は打ち切りにされた。

 

「いったたたたっ……マジでぇ…完敗じゃないアタシ達……」

「コ、コンビネーションがなかったとはいえ、此処まで圧倒されるとは……」

 

二人はこの結果を受け止めつつも驚きを隠せなかった、自分たちとカミツレの実力は完全に明らかで、それをカバーする形で真耶が入っていた筈…しかし思い返してみればカミツレも十二分に戦力として機能していた。実力を補って余りあるほどの真耶との抜群のコンビネーション、それに感服せずにはいられない。降下して来た二人はハイタッチをしながら笑みを浮かべていたが、如何にも怒りは沸かずに、素直に参ったと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「やれやれ…あんだけ自信満々だったのに完敗じゃないのアタシ達、うっわダッサ」

「しかし、あそこまで手玉に取られてしまうなんて……私達もまだまだ、という事ですわね」

「いえお二人とも十分強かったですよ?錬度も高いですし。でも今回は互いの呼吸を合わせられなかったのが大きな要因ですね。タッグマッチは個人ではなくタッグの相性とコンビネーションが物を言いますから」

「真耶先生が上手く合わせてくれたからってのもありますけどね」

 

実際カミツレに合わせたのは真耶であるが、それはカミツレが真耶のやり方や戦術の方針の殆どを把握していたのが大きい。なので真耶もカミツレの先の行動を読む事が出来、完璧に近い動きをする事が出来た。

 

「それとカミツレ君、衝撃砲を喰らった時にオルコットさんが追い込まれてるって安心してたでしょう?駄目ですよ、策は最後まで成功してこそ完成って言えるんですから」

「すいません……やっぱり先生は厳しいなぁ…」

 

そう言いながら頬を掻くカミツレだが、一組と二組の生徒はそれを呆然と見つめていた。あの大人しくて、温和な真耶の強さにも圧倒されたが、カミツレの動きは洗練された物があった。それを見た一部の生徒達は納得した、カミツレが各国から注目され始めている理由を。



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27話

「すっげ……」

 

空中に繰り広げられている激しい戦い、いや一方的な展開に一夏は思わず息を飲んだ。代表候補生である二人の強さは実際に戦った事がある一夏も知っている。尋常ではなく強い、自分では勝てるビジョンが全く浮かばなかったほど。それなのに、カミツレは真耶と共に打倒してしまった。実際は判定による終了に近い物だろうが、実質的な勝利には変わりは無い。打ち合わせなんてしている暇なんてなかった筈、それなのにあれだけのコンビネーション。あれが、カミツレの実力だというのだろうか……。

 

「……俺だって、俺だって絶対そこへ行ってやる。お前に行けて、俺に行けない筈がない……!!」

 

静かな闘志を燃やす一夏は降下してくるカミツレを鋭く見つめるよう、視線を投げ掛ける。遥か先へと行ってしまっている彼、それに追いつくのはどれだけ大変なのかは分からないが、自分だってきっと出来る筈だと心に決めながら更なる努力を誓う。そして目の前で千冬に賞賛の言葉を受けるカミツレに、思わず嫉妬の炎を燃やしてしまった。

 

「クソ、俺だって、千冬姉に褒められるんだ……!」

 

 

 

「杉山、矢張りまだまだ経験不足だな。それに今回の結果は、普段指導をして貰っている真耶のお陰だという事を忘れるなよ」

「分かってるつもりですよ、先生。俺だって今回の成果が自分の力だと思ってません。真耶先生だからこそ、出来たと思ってます」

「分かっているならいい。だが、それを差し引いても良い呼吸の合わせだった。良いタッグの模範だった」

「ありがとうございます」

 

それを受け取り頭を下げる。真耶だからこそこの結果、それは重々承知している。ある意味、この学園で自分を一番知っている相手が真耶なのだから。自分に基礎や応用を教えてくれたのも彼女、指導や補習を一番してくれたのも彼女だ。互いの呼吸は知らず知らずの内に、重ね合わせる事が出来ていた。何時か、彼女以外ともこんな事が、出来るようになるのかは分からないが、それはそれで楽しみになる。

 

この後授業は順調に進んで行くかと思いきや、真耶とカミツレのタッグプレーに触発されたのか方法を教えて欲しいという声が殺到してしまった。それを千冬が無理矢理鎮圧しつつ、班を作り、その各班を専用機持ち達が指導員となって教える事になった。が、その時に男子に生徒が集中する事が発生し、久しぶりに千冬の雷が炸裂した授業となった。

 

そして昼休み、生徒にとっては美味しい昼食を取ったり、遊んだり、勉強したり、思い思いの時間を過ごす自由時間。一同は転入生であるシャルや乱の挨拶も兼ねて共に昼食を取る事になり、屋上に弁当を持って集まる事となった。今日の食堂にはシャルル目的の女子達が集まるというのも、大きな理由である。ラウラも誘ってみたのだが、ドイツから届いている荷物の整理を優先したいので辞退させて貰う、との事だった。

 

「う~んいい天気だな、屋上が使えて良かったな!」

「まあ、そうだな。少しピクニック気分のようだ」

「えっと、皆さん有難うね。態々僕の為に、こんな会を開いてもらっちゃって」

「いいのよ別に、それにアンタだけの為じゃないし」

「ごめんお姉ちゃん遅れた!!」

 

屋上へと遅れて顔を出した乱。如何やら廊下は食堂へと向かう女子の波で溢れ返っているらしく、それを突破するのに時間が掛かってしまったようだ。乱はカミツレを視界に捉えると顔を赤らめながら、彼の正面に座るが、カミツレの隣に座っているセシリアを見ると、鋭い視線を投げ掛けるがセシリアも負けじと、視線を投げ返す。折角の集まりだというのに空気が悪くなりかけるが、鈴がそれじゃあ始めましょうと適当に声を上げて昼食会を始める事となった。

 

「それにしても、やっぱり学園の人って皆自炊してるの?」

 

シャルルがそう言うのも、自分以外の全員が弁当を持ってきていたからだ。自分は転入初日なので、購買で買って来た惣菜パン。しかし乱は普段から自炊していたので忘れずに作ってきたらしい。勿論、カミツレも弁当を作ってきている。

 

「まあな、俺は昔から千冬姉に料理作ってたし。今日は箒と一緒に作ったけど」

「うむ」

「偶に程度だけどねー。此処には食堂あるし」

「同じくですわ。しかし、カミツレさんもお料理出来たのですね」

「ああ。家から野菜とかが送られてきたからな、それを使って作った」

 

珍しく弁当を作ってきたカミツレ、その理由は家の兄からの贈り物であった。家で作った有機栽培で作られた新鮮な野菜が大量に送られて来たのだ。頑張っている弟への兄からの激励、それで作った弁当はカミツレにとって思い出深く、家庭の味である。

 

「にしても……二人、そっくりだな……」

 

一夏は思わず鈴と乱を見て呟いた。確かに鈴と乱は良く似ている。瓜二つと言っても過言ではない程に似ている。しかしそれを聞いて乱は気分を悪くしたのか、一夏から視線を逸らし鼻を鳴らした。鈴は面倒臭そうに溜息を吐きながら一夏に言った。

 

「一夏、アタシは如何でもいいって思ってるけど乱にとってはそういうのって大嫌いなのよ。だから止めてくんない?」

「えっあっそうなのか!?悪い!!」

「……ふん」

 

完全に気分を害された乱は、臍を曲げてしまったのか一夏の方を向かなくなった。一夏は悪い事言った、ごめんと謝り続けている、当人もきっと謝罪は受け取っているつもりだろうが素直になれないのだろう。そしてその矛先は何故かカミツレへと向く事となった。

 

「あのカミツレさん、今日ちょっと作る量間違ったんですけど、少しいかがですか!?」

「あれ、良いのか?」

「ハイ是非!!」

 

そう言いながら差し出してきたタッパーの中には、蒸した鶏をソースで和えた料理である葱油鶏(ソンユーチー)が入っていた。綺麗に入れられておりゴマの香りが食欲をそそる、手を合わせてからそっと口へと運んでみると、思わず息が零れてしまう程に鳥が柔らかく、ソースとマッチしていて美味。

 

「美味いなこれ、香りもいいし」

「やったっ!!」

「いいなぁカミツレ……それどうやって作るんだ?えっと、乱さん……」

「……自分で調べれば?」

「ファ、ファーストコンタクト失敗の弊害が……」

 

がっくりと頭を下げてしまう一夏には失礼だが、これは確かに美味い。是非ともレシピが知りたくなるような味わいだ、後で教えて欲しいと思っていると今度はセシリアが咳払いをした。

 

「カミツレさん、実は私もカミツレさんに食べて頂きたくて、サンドウィッチを作ってきたんですの」

「セ、セシリアも?な、なんか悪いな……」

「いえお気に為さらず、さあお召し上がりになってください♪」

 

笑顔で差し出してくるバケット、その中身は綺麗に作られているサンドウィッチ。どれも綺麗な彩りと盛り付け方が素晴らしい一品、流石は貴族であるセシリア。料理の腕前さえも一級品という事なのだろうか、それを何処か悔しそうに見つめている乱、勝ち誇るかのような表情のセシリア。何処か重苦しい空気から逃げるように、サンドウィッチを頬張るが一口食べた瞬間、カミツレの思考が死んだ。

 

「ッッ!?!?!?」

 

決して顔に出していないが、口の中はとんでもない事になっていた。襲い掛かってきたのは異様なまでの甘味、生クリームと蜂蜜、そして餡を一緒に口に中に入れたかのような猛烈な甘さが口の中を貫いていく。一体何を入れたらこんな事になるのか、別の意味でレシピが知りたくなる。正直言って食べられるような代物ではない……が

 

「如何でしょうか、カミツレさん?」

 

此方をハニカミながら見つめているセシリアの顔を見るとそれを正直に言う訳にもいかない、というよりも今まで散々世話になっている彼女を、このような場で傷つけたくはないと思ってしまった。一対一ならまだしも、他の皆もいる前で言える訳もない。咀嚼する度に溢れてくる甘味を耐えながら、必死に顔を取り繕いながら飲み込んだ。

 

「ま、まあ悪くはないよと思うよ」

「本当ですか!!矢張り私は料理においてもエリート!!では是非残りもどうぞ!!」

「あ、有難う…じゃ、じゃあ代わりに俺の弁当食べて、いいよ……」

「ほ、本当ですの!?で、ではいただきますわ……!」

 

その後、セシリアはこの世の春を迎えたかのような表情でカミツレの弁当を食し、一方カミツレは必死に耐えながら彼女の作ったサンドウィッチを食べきった。

 

「カミツレさん、これからは私がお弁当をお作り致しますわね♪」

「い、いや今度は俺がセシリアに弁当を、作るよ…」

「まあ♪」

「ぐぎぎぎぎっ……なんて、羨ましい……!!」

「り、鈴。なんか恐くないか……?」

「……やっぱり分からないのねアンタ」

 

この後、カミツレは口の中の甘さを中和する為、大量のコーヒーを飲んだとか。



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28話

「……なんか、まだ口の中が甘い気が」

 

夕食後、一人っきりになった部屋で勉強を行っているカミツレ。真耶から渡された『自主学習用参考書:代表候補生:入門編』の問題を、時々コーヒーで口内を洗うようにしながら次々と片付けていく。昼食に食べたセシリアのサンドウィッチは、まるでデザートのようだった。今日は言えなかったが必ず言わなければ、あれは絶対にやばいと思う。

 

「さてと、織斑先生は喜んでくれているかな?」

 

カミツレの部屋は通常の生徒の部屋ではなく、使われなくなった教員室をリフォームする形で再利用された。人数的な問題と、部屋数でこのような扱いになり当初はプレハブ小屋のような物を作るという案もあったが、明らかな格差になるとされ、廃部屋同然扱いの教員室が再利用された。その為かこの部屋にはキッチンが備え付けられており、それを使って兄からの贈り物を調理した料理を千冬へと送ってきた。日頃のお礼と胃を労わって欲しいという意味で。

 

『…すまない、本当に助かる……。一夏とかラウラとか、その他の馬鹿な生徒のせいで胃がな……』

 

と疲れを表に出しながら安堵する千冬の表情を見て、この学園での仕事は本当に過酷なんだなっと再認識したのであった。真耶にも同じ物を送ったが、彼女にも喜んで貰えてカミツレとしては万々歳である。先生方に他にも何か贈った方が良いのかなと思いつつも、ペンを動かし続けていく。がそんな時、部屋の扉を数回ノックする音が聞こえてきた。ペンを置きドアへと向かう、まずチェーンを掛けてからそっと開ける。

 

「今いいだろうか、少し話をしたいのだが」

「ボーデヴィッヒ……?ああ、構わない」

 

自分を訪ねて来たのは噂の転校生の一人、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。千冬の台詞から彼女との関係があるのは必然、警戒すべきかどうかは迷い所。千冬からは、出来る事ならば仲良くして欲しいと言われている。後問題は起こさないでくれと、まあ大丈夫だろうと思い部屋へと上げる。コーヒーを淹れて差し出し、共に座る。

 

「すまん、邪魔をしたか」

「いや自習してただけだから、余り気にしないでくれ」

「自ら鍛錬か、感心だな」

「入学してからずっとだからな、もう習慣みたいなもんだ」

 

肩を竦めながらコーヒーを飲むカミツレを、ラウラはじっと見つめている。興味深い対象を観察する研究者のような眼差しを、向けながら同じくコーヒーを啜る。しかしラウラは素直に感心していた、恐らく彼の言葉に嘘はないだろう。報告書通りに入学から既に数ヶ月、彼は毎日鍛錬を続けている事になる。それを裏付けるかのような授業での動き、そして鍛えられている身体。真実だと理解する。

 

「んで、俺に何か用か。大した歓迎は出来ないがな」

「幾つか質問したい事がある。その代わりというのもなんだが、私が提供出来る物であれば、提供しよう。無論、先払いでも良いぞ」

「提供って……質問とかでもいいのか?」

「当然だ。私から情報を提供する訳だからな」

 

そう言われると、幾つか聞いてみたい事が沸きあがってくる。ラウラへと先に断ってから質問をする事にした。

 

「んじゃ無粋かもしれないが…ドイツも、男性IS操縦士が目的なのか?同時に入ってきたデュノアも怪しすぎる。悪いけど俺は疑り深くなっててな。そっちの政府が何を考えているのか、ハッキリして貰えると助かる」

「フッ随分とストレートだな。私好みな質問だ、では答えよう。知らん」

「……えっ?」

 

想定外の言葉に拍子抜けしてしまったカミツレは、間抜けな声を上げてしまった。知らない、とはどういう事だろうか。誇張表現抜きで、ガチで知らないのだろうか。ラウラはそんな顔を楽しむようにしながら、続けた。

 

「私は政治家じゃない、軍人だ。国の上層部が何を考えてるかなぞ、私は知らん。政府が国を動かし、国が軍を動かし、軍人が軍の命令に従う。軍とはそういう物で、軍人は軍によって動かれる者なだけだ」

「……じゃあ、明確な政府の考えは分からないと?」

「私はただ、学園に出向しろと命令されただけだからな」

 

そう言いながら再びコーヒーを啜る、それに合わせて自分も啜るが如何にも信じていいのか分からない。自分の勘として彼女の言葉に嘘はないと思う。しかし、軍人である以上に、心を隠し通す事は出来るだろう。それによって真実を隠されていたら、如何しよう。兎に角今は彼女の言葉を信じ、後日真耶辺りに相談を持ち掛けるとしよう。

 

「そっか、分かった。変な事を聞いて済まなかった」

「何、お前の立場を考えれば当然の質問だ。学園に入った以上、学生として過ごそうと思っている。それは間違いなく本心だと言っておこう」

「……分かった。それとついでになんで、織斑にあんな事を言ったんだ?」

 

それを聞かれると、ラウラは少々恥ずかしそうに頬を欠いた。困り顔を浮かべながら、応えると言ってしまったからには応えねばな、と口を開く。

 

「恥ずかしい話なのだが……私はその、軍人でな。昔に織斑先生に指導をして貰った恩がある。しかし、教官が大会の連覇を仕掛けた時に、奴が攫われた影響でそれを断念したと聞いてな。妙に……イライラしてな」

「それが、あの認めないって言葉の理由か?」

「ああ……今思えばなんと幼稚な言葉なんだ…後日、奴には謝罪せんとな。そもそも奴とて被害者なのだから……」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒという少女はもっと、荒々しいのかと思っていたがそんな事はなかった、十分に思慮深い。それでいて歳相応に子供っぽいだけなのだと分かった。それだけでも収穫のような気がする。

 

「有難う、もう俺の方はいいよ」

「了解した。では、私もストレートに言おう」

 

ラウラは静かに立ち上がりながらカミツレの隣に座り、真っ直ぐに瞳を見つめながら手を取った。いきなりの事に驚くが、正直女子に身体を触られたり、凝視されるのは学園生活で慣れたので何ともない……何ともないと感じる事が、一番の問題かもしれないが。

 

「カミツレ、我がドイツ軍に来い。私の部下として歓迎するぞ」

「……えっ」

「言っておくがこれは本気だ。私の直属の部下として動けるように手配する、階級は准尉を用意出来る。親族への手配に其方が望む事は出来る限り実現させよう。どうだ」

「待て待て待て待て!何、何が起きてるの!?」

「私が、お前を、勧誘した。お前が欲しい。軍人がいやなら、私が扶養する元で生活し、定期的に協力してもらう形にも出来るが」

「だから待てと言っておろうがぁぁぁっっ!!!」

 

思わず、素が出てしまったカミツレは大声を出しながらラウラから一歩退いた。がしかし、ラウラも負けじと前へと踏み出しながら見つめながら手を握ってくる。混乱しかかった頭を必死に冷やし、冷静になろうとする……が、その際にもラウラはドイツに来いと言い続けて来る。攻められる時にガンガン攻めてくる。

 

「ふぅぅぅっ……うん、まずボーデヴィッヒ」

「ラウラで構わんぞ」

「あっそう……んじゃまず、何で俺が欲しいんだよ」

「まあ国云々は知らんと言ったが、政府は恐らく男性IS操縦士を確保したいと考えているだろう。だがそれは一切抜きで私はお前が欲しいと思っている」

「なんでだよ、だから」

「お前が優秀だからだ」

 

誇張表現抜きでラウラはそう言い切った、今日に至るまでラウラはIS学園にて起きている事を調べ尽くしている。入学初日からカミツレが真耶に弟子入りした事、セシリアと引き分けになった事、対抗戦にて正体不明のISに立ち向かい、撃破に貢献した事。あらゆる事を調べ尽くしている、それらを加味した上でラウラは部隊を預かる身として、彼が欲しいと思った。

 

「やめろお世辞とか……何も出ないぞ」

「世辞?違うな、これは正当な賞賛でありお前の評価だ。努力し続けた結果、お前は今の実力を持っている。それは正当に評価され、賞賛されるべき事だ。国の一部の政治家は、織斑 一夏の方を優先すべきだと言っているが私は違う。お前にこそ価値がある、そう私の勘が言っているのだ」

 

真正面から此処まで褒められた事が無かったカミツレは思わず、赤面し顔を背けた。そんな反応をする彼に、好感触だなっと確かな手ごたえを感じるラウラ。

 

「そしてお前が求めているのは後ろ盾、そうだろう。私と私の部隊、そしてドイツがお前を守ろう。それだけではない、お前の家族も守ると確約しよう。少なからず、お前はドイツへと来て貰う必要はあるが、私が責任を持ってお前を守ろう」

「……」

「もう一度、言おう。私はお前が欲しいのだカミツレ」

 

真っ直ぐすぎる目と心で放たれた強靭な矢、それは的確にカミツレの動揺を誘いつつも明確な理由を述べた上で、此方へのメリットを提示した。これは、思った以上に、凄い少女だ。

 

「……軍に入らなくても良いって言ったが、それだと矛盾してるんじゃないか」

「正確には、軍の管理下にあるISメーカーの所属となって貰う。そこの協力者として、軍を経由し政府に協力してもらう事になる。そのメーカーは私の部隊が重宝していてな、十分私はお前を手に入れているよ」

「こういうのってさ、もっとこう……仲良くなってから提示するもんじゃないか……?」

「言っただろう、ストレートに言うと。前もって言った方が信頼し易いだろう」

 

未だに見つめ続けてくるラウラ、その瞳は徐々に何か違う物に見えてきてしまった…。答えを言い淀んでしまう、此処まで自分が欲している物を明確化している上に、此処まで力強く言われると呑まれてしまう。如何したものか…と素直に返答に困っていたその時、部屋がノックされた。

 

「カミツレさん、宜しいでしょうか?」

「邪魔が入ったか……まあいい、返答は今度聞かせて貰おう。ではな、カミツレ」

 

手を放した彼女は敬礼をしながら、扉を開けて出て行ってしまった。途中、セシリアと出くわし何をやっていたのかと聞かれるが

 

「さて、何の事やら」

 

と誤魔化しそのまま去っていく。そんなラウラの行動にカミツレは思わず

 

「参ったなおい……そりゃ、織斑先生っぽい筈だよ」

 

と呟いてしまった。



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29話

「織斑先生、俺への用って……また弟子になれとかですか?」

「おっ真面目に考えてくれたか」

「……」

「だから、そんな目をするのは止めろ……最早定番のギャグだろう」

 

ラウラからの衝撃的なカミングアウトを受けたカミツレは、頭を悩ませながら学園生活を送っていた。あの翌日、ラウラがスカウトについての事を詳細に記載した書面を渡してきた事で、更に頭を悩ませる事となっている。これに大きく反発というか、反応したのはセシリアである。非公式ではあるが、既にカミツレにアクションを起こしている身としては許せる物ではなく、近日中にイギリスから正式なスカウトが来ると言われた。そんな日々を送っていた土曜日、千冬に呼び出しを受け、千冬の教員室を訪れた。

 

「用と言ってもそこまでの事ではない。以前事情聴取の時、学園長より褒賞が送られるという話をしただろ」

「ああ、ありましたね。完全に忘れてましたよ、期待して待ってるって言ってたのに」

「それで私から渡すように頼まれてな……それを今日、お前に渡す事になった」

「いよいよですか」

 

期待しててくれと、学園長直々と言われてはいたが一体何が貰えるのだろうか……。余り重い物は勘弁願いたいのだが……。千冬は部屋の隅にある金庫に鍵とPASSを入力し、中から幾つかのファイルを取り出し、再び座る。そして、ファイルからまずは封筒を取り出しそれを差し出した。

 

「まずはこれだ、開けてみろ」

「はっはい。では遠慮なく……」

 

学園で無料配布されている封筒よりも、何処か豪華そうな印象を受ける封筒。少々緊張した面持ちで封を開けてみると、中に入っていたのはなんと小切手であった。しかもそこに書かれた金額は…100万であった。

 

「こ、小切手ぇぇ!!?しかも、100万んんんっっ!!?いやいやいや、なんでこんな大金!?」

「何を言う。お前は自らの危険があるのにも関わらず、アリーナに突入し撃破に貢献した。それに寄って多くの命が、危険から救われたのだぞ。私から見れば少なすぎるぞ。まあ学園の予算も限度があるだろうから、余り無理は言えんか……」

 

千冬は100万という額に随分と不満そうであった。実際はもっと渡すべきなのだろうが、アリーナの修繕や各種警備強化、システムの再構築などで資金が飛んでしまっているのでこの金額らしい。小市民であったカミツレにとっては、5万で十分すぎる大金なのに、その20倍という金が自分の物になる。それだけで頭が痛くなってくる。一体何に使えば……取り合えず、実家に70は送金するとしよう。

 

「まあ、自分を労って豪勢な料理でも食えばいい。お前は普段から努力している、そのご褒美として何かを買ってもいいだろう」

「ハァ……まあ適当に考えておきます。後、料理の方は自分で作った方が美味いので」

「確かにな、お前から貰った料理は実に美味かった。あの翌日は、胃の調子が良かったぞ」

 

千冬も千冬でカミツレの料理の腕を理解しているのか、彼の言葉に同意を示す。彼の料理は味よし、健康によしな料理。自分に差し入れてくれた白菜とジャガイモと豆腐の炒め物、トマトのチーズ焼きは実に美味、しかも荒れた胃でも優しく受け止められたよい料理であった。又作って欲しいとお願いする千冬に、カミツレは勿論と返す。

 

「そして次だが…カミツレ、お前に対して専用機の開発が決定された」

「専用機って……俺にはカチドキがいますよ?」

「いや、お前の勝鬨は、言い難いのだが……織斑の方が価値があると判断されてしまったからで、な…」

 

千冬は本当に言い難そうにしながら口を開く、入学当初のあの時は一夏の方が重要だという評価が大きく、カミツレは直にでも研究所に送るべきだ、そんな意見が政府から多くあったのは事実。それを露骨に表現したのが、一夏に与えられた白式と、カミツレに与えられた勝鬨なのである。第三世代と第二世代という大きな世代の差は向けられている物の差でもあった。しかし、それを覆したのがカミツレの必死の努力であった。

 

「だが、お前は必死に努力して来た。真耶に弟子入りし、自分の身を守る為に……そしてその努力の末に、オルコットと引き分ける大戦果を上げた。そして対抗戦では、あの活躍だ」

「随分と、政府は掌返しが早いですね」

「私もそう思う。そして、日本政府はオルコットとの対決でお前が負けた場合、研究所へと送るつもりだったらしい……しかも、私はそれに安心感を……!!」

 

それを言い放った千冬は、思わず目の前のテーブルへと拳を振り下ろしてしまった。政府への怒りも確かにあったが、同時に弟ではなくて良かったという安心を得てしまった自分が、途轍もなく嫌になった。何故、そんな簡単に目の前の少年を、理不尽に人生を狂わされた少年を見捨てられる考えを持ったのか。心から自分が嫌いになりそうだった…自分という存在や束と知り会えている、たったそれだけの違いしかない少年を……。

 

「千冬さん…もう、良いですよ。政府は何時だって勝手な物ですよ、それがまた勝手にやったってだけです。だから、千冬さんも自分を責めないでください。家族を守りたいと思うのは当然ですよ」

「……ああ、すまない本当に、ありがとう…お前は優しいな……」

「お爺ちゃんが言ってましたから。『葛藤し苦しむ人には優しさを差し向け、立ち上がる手伝いをしてあげなさい』って」

「立派な御爺様だな……すまない、話が大分それてしまった」

 

何処か心に刺さっていた楔が消えたからか、晴れやかな顔を向けた千冬は資料を取り出しながら口を開く。

 

「それで今更、お前に対する専用機開発を決定した日本政府だがな……これには世界各国から、反対の声が多くてな」

「えっ?」

「既に日本は一夏のISを開発している。だから、お前のISは此方で作らせろという声が多かったのだ」

「えっと、それで俺に如何しろと……?」

「うむ。それで各国で色々言いあったらしいのだが……お前に決めて欲しいとの事だ」

「つまり丸投げ?」

「……そう言う事になるな」

 

言葉を失ったというよりも呆れて何も言えなくなったのか、カミツレは頭を抱えてしまった。

 

「まあ困る気持ちも分かるが……専用機を製作して貰えるのだから、悪くはないと思うが」

「ええっ…今だって困る事抱えてるのに、また、追加ですか…勘弁してくださいよ、織斑先生……」



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30話

「はぁぁぁぁぁっ……」

『兎も角、専用機開発を希望している国のリストだ。読み込んだ上で決定しろ、何かあったら私に言え。各国に伝はあるから、調べたい事があるなら調べてやる』

「織斑先生はそう言ってくれたけど、これは思った以上にとんでもないぞ……」

 

自室へと戻ったカミツレは資料を眺めながら、コーヒーを喉奥へと流し込む。好物である筈のブレンドが美味しく感じられないほどに、複雑な心境になってくる。世界各国から寄せられている希望書、ざっと数えただけで27国。これだけの国が自分の専用機開発に、名乗りを上げて居る事になる。評価して貰えていると思えば、聞こえはいいが、これだけの国から注目されまくっている事にもなる。我慢ならず家族に連絡し、これから自分が他国の代表候補生になるかもしれない、という事を話した際にはこんな事を言われた。

 

『お前の好きにしたらいい。私達は無力だったんだから、お前が何を選んでも、文句は言わない』

 

と、全ての判断を自分に任せる事を言われてしまった。例えアメリカだろうが、イギリスだろうが、どんな国の所属になっても文句は言わない。何だったら一緒にその国にまで行ってやるとまで言われてしまった。嬉しい気持ちは有るが、正直決めきれるような事でもない。取り合えず資料を見てみる事にする、主要且つ自分でも知っているような国だけを抜き出して確認する事にしたがイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、中国、日本、アメリカ…簡単に見てもこれらの国は、カミツレとしても良く見た事がある国の名前。

 

「セシリアとの事もあるし、イギリスかな……」

 

イギリスの資料には、自分の適性や勝鬨での事を踏まえた近中距離戦仕様型を開発すると書かれている。ブルー・ティアーズに使用されている技術を採用した物を導入し、完成度の高い物を開発する用意があるとされている。本来は別の方向性、言うなればブルー・ティアーズと極めて似た機体になる筈だったが、セシリアの言葉と提出した報告書によって変更されたとの事。悪くはないと思いつつ、他の国への物を見ようとした時、ドアが少々乱暴にノックされた。

 

「チッ……誰だよ」

 

正直、出来る事ならば一人にして欲しいと思っていたカミツレにとって、来客は余り歓迎出来る物ではない。ラウラの時と同じように、チェーンを掛けながら扉を開ける。とそこには一夏の姿があり、鍵が開いたと同時に扉を開けようとしたのか、大きな音がなった。

 

「おい何のようだ、堂々と部屋に侵入でもする気か」

「カミツレ話があるんだ!頼む入れてくれ!!」

「なら、一体どんな話をするのか簡単に言え。それを聞いてから入れる」

「大事な相談があるんだ!男として!!」

「……はぁ、分かった」

 

正直断るつもりだったが、このままでも騒ぎ続けるだろうと判断したカミツレはチェーンを外し、ドアを完全に開ける。すると一夏の背後にはもう一人いた、シャルルであった。が、何やら様子が可笑しいように見える。主に顔色が明らかに悪い、何か調子でも悪いのだろうか。一夏はそんなシャルルの手をとって、引き込むかのように中へと入れたが、その時にいやな事を考えてしまった。男としてという言葉も、妙に引っ掛かる。

 

「……俺にそっちの趣味はないから、何も言えないぞ」

「そっちって何だよ!?」

「え、えっと杉山君、違うからね?」

 

どうやら、真顔で言うシャルル曰く違うらしい。それはそれでとっても朗報である。部屋へと入った二人を尻目にカミツレは資料を片付けながら、座りこんだ。それで一体何の話があるのだろうかと。

 

「んで、俺に何の用だ」

「あ、ああ。えっと……だな、力を貸して欲しいんだ!!」

「だから、何のだよ。主語を入れろ」

「わ、悪い……言って、良いよな?」

「う、うん」

「えっと、じ、実はシャルルは女だったんだよ!!」

 

遂に言ってやったぞ、と言わんばかりに言うのに力を要した一夏に比べて、それを聞いてカミツレは大して驚きを感じてはいなかった。最初からシャルルが本当に男なのか疑っていたからだろうか、それともシャルルに対して興味が薄いからだろうか。それとも、純粋にコーヒーのお代わりが欲しくなったからだろうか。理由は分からないが、立ち上がり新たにコーヒーを淹れ直し、一口飲んでから口を開く。

 

「……で?」

「えっ……それでってあの、杉山君は驚いたり、しない、の……?」

「俺は最初から可笑しいと思ってたからな。どちらかと言えば、男装した美少女の方が納得出来たからな」

「ア、アハハハ……そ、それじゃあ今までまともに接触して来なかったのって……」

「怪しい奴に近づきたくなかったからな」

 

引きつる顔を抑えられないシャルルは、力なく笑っている。それでは自分は最初から警戒、いや女であった事がバレていたという事になるのだろうか。それでは完全にピエロではないかと落ち込んでしまった。

 

「そ、それなら話が早いや!」

 

そう言いながら一夏はシャルルの事を説明する。デュノア社長と愛人の間に出来た子である事、会社の命令で自分達の専用機のデータを盗む為に学園へと来た事、そして一夏は助けてあげたいが自分では限界があるので手を貸して欲しいという事を。それを聞いたカミツレは、また面倒事か……と肩を落としてしまった。

 

「また面倒な事を起こしやがって……っつうか、俺なんかより織斑先生に言えよ」

「い、いや、千冬姉にも相談したいけど…それは出来れば最後の手段にしたいって言うか……心配掛けたくないって言うか」

「はぁ…俺が出来る事なんて限られてるだろ……」

 

思わず溜息が出てしまった、如何してそこで千冬に相談しないんだと。自分よりも遥かに力を持っている姉に、家族であるのに。心配を掛けたくない、ただの欺瞞で自己満足でしかない。千冬は家族として一夏の事を心配している、それならば素直に話す事が正解なのに。だからと言って、自分に言われても大した力になんてなれない。

 

「ぶっちゃけって言うと、俺は干渉する気はない。お前の敵にも味方にもなるつもりはないのが本音だ」

「なっ……!?何でだよ、話聞いただろ!?シャルルの事を何とも思わないのか!!?」

「思わない訳じゃないが…今、俺も色々と忙しい。取り合えず、この事は黙っておく。それで良いだろう」

「……ッ!!!分かったよ、力になってくれなくて残念だよ!!シャルル行こうぜ!!」

 

そのまま一夏は、荒々しく扉を締めて去って行ってしまった。それに慌てたシャルルはカミツレへと頭を下げた。

 

「い、一夏!?ご、ごめんなさい杉山君!いきなり押しかけておいて!!いきなり、あんな事言ったのに、誰にも言わないって言ってくれただけで十分なのに……本当なら、直ぐに先生に言うのが正しいのに…本当にごめんなさい!!」

「……いや。でも俺は何か思いついたら連絡する、これ俺の連絡先だ」

「あっありがとう!これ僕の連絡先だよ」

 

互いの連絡先を交換したところで、シャルルは思わず胸の内を明かしてくれた。

 

「一夏には感謝してるよ、僕の為にあんなに怒ってくれてさ……でも、本当に助けようとしてくれるのか分からなくて、少し恐いんだ……杉山君の言ってた通り、織斑先生に相談しても良い筈なのに…なんとなく、助けようとしてるだけなのかな……」

「…さあな。あいつの事は俺もよく知らないからな、俺も俺で今専用機を何処の国でやってもらうか、決める所で余裕がなかったんだ。すまなかったな」

「そ、そうなの!?そ、それなら僕達の方が悪いじゃない!?これからの進路を決めるって事なんだから!!」

 

話してみて分かったが、シャルルは根は良いと言う事が分かる。自分だって危ない状況に置かれているのに他人を気遣っている。自分を優先し続けてきた自分とは違ったタイプの人間だ。本当は優しくて他人思い、それが本質なのだろう。

 

「何かあれば俺の所に来ていいぞ。まあ、出来る事なんて限られると思うけど……」

「ううんそれでもいいんだ、ありがとう!杉山君って良い人だね!!」

 

そう言って去っていくシャルルは最後に良い笑顔を見せた。そんな笑顔を受けたカミツレは頬をかくとコーヒーを飲む。息を吐きながら自分に出来る事はあるのだろうかと考えてしまった。そもそも、シャルルの転入自体が無理矢理である事、今のようにバレた際のデメリットが大きい事、何故学園が彼女をあっさりと転入させたのか……気になる事が余りにも多い。気付けば、その事ばかりに気を取られていた。



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31話

「……駄目だ、集中出来ねぇ!!!」

 

資料から目を逸らしベットに身を放り投げた。先程から自分の集中力を乱している物があった。それがこれからの自分の進路を決める物の決定を、大きく揺さぶって邪魔している。それは先程聞いたシャルル、シャルロット・デュノアの事であった。それが如何にも気になって、しょうがない。これならば話なんて聞かなければよかったとさえ思えるほどだ、今は自分の事で精一杯なのだ。全く余計な事に巻き込んでくれた物だと悪態を着くが、

 

『ありがとう!杉山君って良い人だね!!』

「―――ッ」

 

思わず、部屋を出る時に向けられた彼女の笑顔が胸に突き刺さった。自分だって大変な筈なのに、家族で苦労している筈なのに、助けて欲しい筈なのに、無干渉でいると言っても有難うと言ってくれた、泣きたい筈なのに、自分を良い人と言ってくれた彼女の笑顔が思い浮かび、心を締め付けるように束縛した。

 

「……存外、俺もお人好しなのかもな」

 

溜息を付きながら専用機開発希望の資料を見直した、その中から取り出したのはフランスの資料であった。資料の中にはフランス国内でシェアトップ三社の合同開発になると明記されており、当然そのシェアトップ3にはデュノア社も含まれている。それをじっくり見ながら、携帯を手に取って連絡帳にある一つの項目を押す。それは―――連絡用に渡された千冬の携帯であった。少しのコール音の後に千冬は出た。

 

『私だが、杉山何かあったか?あのギャグなら、直接会った時にしかやらんから安心しろ』

「なんですかその謎ルール…いえ、実は貰った希望国リストの中で気になった物があって……」

『もう目を通しているのか、感心だな。それで早速私の力が必要になったか?』

 

何処か嬉しげに語る千冬にカミツレは素直に頷いた、自分で調べられる範囲なんて高がしている。ならば、その道に精通しているか、その人物に伝を持つ人物に依頼するのが一番の手段。それで該当するのは千冬であった、都合の良い事に調べて欲しいがことあったら調べる。という言葉も受け取っている。

 

「はい。いきなりですいません」

『何、遠慮する事などない。私とお前の仲だ、という訳では無いが、子供は大人を食い物にして成長するものだ。そして教師は生徒の為に力を尽くす者だ。遠慮なく言ってくれ。……その代わりにまた、料理を頼めないか?妙にあの味付けが口に残ってな』

「分かりました、何時でもお作りしますよ。それでお願いしたいのは、フランスのデュノア社の事何ですが」

 

それを聞いた千冬の声色が僅かに変化した、それで眉を顰めているのが電話越しにも分かる。

 

『デュノア社か……デュノアには悪いが、フランスはやめておけ。あの会社が絡んでいるとなると、余り良い方向に話はいかんぞ』

「何か、問題が……?俺としては、デュノアの事もあるので、気になったんですけど……」

『デュノア社は最近、経営に苦労していたな。原因は第三世代型の開発が全く出来ていない事だ、知っていると思うがあそこは世界3位のシェアを誇るが、それは第二世代型の「ラファール」のお陰と言える』

 

千冬から話されたのはデュノア社の内情を示す事であった。現在世界的に進められている第三世代型の開発、しかしデュノア社はその目処すら付いていない状況が続いている。それによって内部で派閥衝突が発生している。世界的な企業としては、第三世代型の開発に遅れる訳には行かないと、開発に躍起になっているらしい。

 

「成程」

『理由はまだある、イグニッション・プランという物を知っているか?』

「えっと、確か欧州で行われている統合防衛計画でしたっけ?」

『正解だ。良く勉強しているな、定期テストで出すから覚え……スマン免除されてるんだったな。そのイグニッション・プランからフランスは除名されてしまっている、その為に躍起になっている訳だ。開発には金も時間も掛かる、殆どの企業は国からの補助を受けて開発を行うが、無ければまともに開発すら出来ん』

 

デュノア社が開発出来ているのは第二世代、それによって既に予算は一部カットされており厳しい状況に陥っている。シャルルを学園に送り込んだのも、恐らく学園で他国のデータを集める為だろうと語る。

 

『故にフランスはお勧めはしないぞ。私のお勧めとしてはそうだな……欧州のイグニッション・プラン繋がりで、プランにも名を連ねるイギリス、ドイツも悪くは無いな。まあ此処は日本を上げろ、と言われそうだがお前の事を考えると言えんよ』

「有難うございます」

『それと……デュノアの事もある』

 

それに思わず身体が硬直した。自分からは一切シャルルの事は口に出してはいない筈、それなのに何故その名前が出るのだろうか。矢張り、デュノア社の事を聞いたのは露骨だっただろうか。

 

『デュノアの転入に当たって、IS委員会から妙な干渉があってな。それで学園内に不穏な動きがある』

「不穏な……?」

『ああ。一夏と杉山という前例があるからな、本来は偽装なども考えれるから確りと検査をするのだが……何故か委員会から「それは此方でしたのでいらない」という厳命が出てな、それで致し方なく従ったが…私もそれで今調査をしている所だ』

「調査って、そう言えば千冬さんの伝って一体……」

『ん?言っていなかったか?各国の国家代表だが』

「……ハァッ!!?」

 

思わず大声で驚いてしまったが、確かにこの人ならそんなコネを持っていても可笑しくない。元々が世界制覇を成した操縦者である戦乙女の織斑 千冬。そんな彼女であれば現国家代表の人たちと繋がっていたとしても全く不思議ではないが……織斑 千冬、現役を退いて尚、絶大な影響を持つ恐るべき存在であった。

 

『今もフランスの代表に調べて貰っているんだ。あいつとは飲み仲間でな…良い機会だ、今度紹介してやろう。きっとあいつもお前を気に居る事だろう。だが気を付けろ、あいつは年下好きだからな』

「け、結構です……」

 

カミツレは千冬の事を甘く見ていたのかもしれない、そしてそれを思うと一夏とシャルロットに言った無干渉且つ黙っているという事は貫けない事を心の中で詫びた。というかこれでは、バレるのは時間の問題なのは明らか、否千冬が調査依頼をした時点で詰んでいたのかもしれない。

 

「あ~……千冬さん、すいません。実は他言無用でお願いしたい事が……」

『何だ一体?愛の告白か?』

「冗談でも止めてください、俺じゃ釣り合いませんっというかあいつが義弟とか嫌です。実はその…シャルルは女なんです……俺もそれをさっき知って……」

『……すまん、詳しく話してくれ』

「はい……」

 

カミツレは大人しく全てを暴露した。シャルロットには悪いと思ったが此処まで来てしまっていたのなら、もう話してしまったほうが彼女の為だろうと思った。そして話を聞いていく度に千冬の声色が、悪くなっていくのが分かった。そして、小さい呻き声のような物が聞こえてきた。

 

「という訳でして……」

『……一夏、お前という奴は…うっ……!(ドサッ!)』

「ち、千冬さん!?如何したんですか、大丈夫ですか!!!?千冬さん!千冬さん!千冬さんーっ!!!!』

 

突然聞こえなくなった千冬の声、そして直前に流れてきた不穏な声に声を張り上げるが何も返ってこない。大慌てで千冬の部屋へと急行すると、そこには胃を押さえて苦しんでいる千冬の姿があった。千冬はテーブルの上の薬を飲ませてくれというので、急いで水を用意して飲ませると、少しずつ安静になっていった。実は千冬は最近、胃痛に悩んでいたらしい。自分をアイドルと勘違いした生徒の相手に加えて、一夏の事や徹夜や残業でストレスが溜まってしまい、遂に薬に頼らなければならなくなってしまったらしい。それを聞いたカミツレは、毎日でも胃に優しい料理を差し入れしようと誓うのであった。



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32話

「うううっ……」

「ちょっと本格的に大丈夫ですか千冬さん!?」

「あ、安心しろこれでも、以前は世界の頂点に居た女だ……この程度の痛みで……ガハッ!?」

「吐血!?」

「あ、安心しろこれは、さっき飲んでいたカシスジュースだ……」

「紛らわしいなおい!?」

 

千冬の部屋へと急行したカミツレ、漸く胃痛が治まって来た千冬は身体を起こしながらカミツレと向き合う形を取っているが、まだやや顔が痛みに歪んでいる。本格的に胃の調子が悪く痛みが強いようだ。一時期、(一海)が胃潰瘍になった際に痛みの凄まじさを目の当りにしているだけあって、千冬の身を案じる。因みに一海は、憧れのアイドルからお見舞いメールを受け取ると、翌日には完治しており、家族一同から凄まじいツッコミを受けた。

 

「と、兎に角世話を掛けてしまったな……」

「いやまあ、それはもう良いんですけど…マジで普段の生活大丈夫ですか?」

「無論、大丈夫だ」

 

凛々しく男らしい笑みを浮かべながらサムズアップ、一見すれば本当に頼りがいがあって心配なんてする気起きないのだが、吐血紛いな事をされた後では説得力など、無いに等しい。何となく、先程薬のゴミを捨てたゴミ箱へと目を向けてみる。そこには、何やらシュレッダーに掛けられている手紙のような物が山のようになっている。しかも近くに纏められている複数のゴミ袋にも同じような物が……。

 

「着かぬ事をお伺いしますけど、もしかしてアレって全部……ファンレターですか」

「……ああ。毎日届いてくる」

「うわぁ……」

「因みに、学園内のみだ。あのゴミ袋だけで3日分な」

「アレで!?しかも学園内のみって、外から含めたらもっと凄い量!?」

 

流石は世界に名高い戦乙女、織斑 千冬。彼女ともなるとファンレターの量も尋常では無くなるという事だろうか……だが、幾らなんでもこれは多すぎる……。そりゃこれほどの量になれば、掛かるストレスも相当な物だろう。学園外から来る物は事前に処理されるらしいが、中からはそうは行かないようだ。

 

「最初はな、確りと目を通していたんだ。紛りなりにも私宛の物だ、精一杯気持ちを込めた物もあるだろう……だがな、時を重ねる毎に自乗でもしたのかという勢いで増えていくんだ。もう、到底読んでなどいられない……」

「千冬さん……」

「しかもな、中には剃刀が入った物や誹謗中傷まで入っている物まであるのだ。私とて、人間だ……傷付かない訳、無いんだぞ……?」

「胸、貸しましょうか……?」

「……すまない、背中を、貸してくれ……」

 

カミツレは素直に後ろを向いた。千冬は何かをブツブツと言いながら、カミツレの体温を感じつつも身を預けた。本来教師である筈の自分が生徒のカミツレにこんな事をするなんて、自分が許さないが…様々なストレスが襲い掛かってくる現状、少しの間でも強い自分を投げ捨ててでも誰かの厚意に甘えたくなってしまった。久しく感じる男の肌の感触、カミツレの背中の大きさに何処かほっとするような思いを覚えつつも、暫しの間、それに甘えた。

 

「すまんな杉山、教師として情けなかった。もう大丈夫だ、持ち直した」

「本当に大丈夫ですか……?」

「ああ。流石に誰かに甘えなさ過ぎたのが悪かったらしい…真耶にも言われたが、これからは適度に誰かに甘える事にするさ」

「迷惑を掛けちゃってる身としては、申し訳ない限りですが……俺も力になるので偶には休んでください」

 

そんな風に、申し訳なさそうだが何処か力強く言うカミツレ。そんな彼に何処か保護欲のような、庇護欲のような物が沸くと同時に悪戯心が沸いてきた。頷きつつカミツレの腕を取り、そのまま胸へと抱き寄せて深く抱きしめた。

 

「っっ!!!??」

「ああっ……有難うな。そこまで私の事を心配してくれて、嬉しいよカミツレ」

「ちちちちち千冬さん!!?ああああの、わ、あわわ分かり、ましたからは、はなして……!」

 

真耶の時とは違い、頭は千冬の肩の上だがそれでもガッシリと抱き締められている事に変わりは無く、パニックに陥ってしまう。女友達もまともにおらず、フォークダンスの際も手を取らず指を合わせる程度しか経験が無いカミツレにとって、この状態は余りにも刺激が強すぎる。千冬のような美人に深く抱き締められるなど、許容量をあっさりとオーバーしてしまう。

 

「ああもう、如何してお前は優しい……?有難う…本当に、な」

 

千冬にとっても一夏以外で此処まで気を遣われ、優しく接してきた男は初めてだった。美人であるが、戦乙女という称号が周りを気圧してしまい、まともに会話をしてくれる男性などいなかった。高嶺の花のような扱いをされてしまい、一夏以外の男の前に弱音を吐くなど以ての外だった。だが、今回はポロっと言ってしまった。

 

「如何してお前は年下なのだ……?同い年であれば好みだったというのに、実に残念だ」

「あ、ああああああの、お願いですから、はな、して……」

「んっなんだ、お前は女を知らんのか。ならば私が相手をしてやっても良いぞ?」

 

そっと、耳に囁くように千冬は言うが、それでカミツレは完全にオーバーヒート。頭から蒸気のような物を噴出してそのままノックアウトされてしまった。そんなカミツレを見て、寝かせながら千冬は大声で笑った。

 

「ハハハハハッ!!!矢張り知らんか、やれやれこの程度では、ハニートラップに掛かってしまわないか心配だな杉山!!ハハハハハハッ!!!」

 

豪快そうに笑う千冬の視界の中で目を回してしまっているカミツレ、完全に千冬に遊ばれてしまっていたようだ。

 

「しかし、お前の優しさは嬉しかったぞ。ふふふっ…同い年云々は本気、かもしれんがな♪」

 

 

 

「……ふんっ!!」

「おいおい、そんなに怒るな杉山。悪かったから」

「ったく知りませんよ千冬さん何か!!もう差し入れもしませんから!!!」

「悪かった悪かった。なあ、この通りだ。なっ?」



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33話

千冬さんを書くのがこんなに楽しいなんて……。


「……」

「いやほんと悪かったよ、杉山。なっ、この通りだ」

「ったく…千冬さんは自分の価値分かってないでしょ、男からしたら貴方は垂涎する美女なんです。そんな人にあんな事されたら、困るんですよ!!!」

 

日が落ちた頃。漸く機嫌を直したカミツレは自室から野菜を取ってきて、千冬に料理を振舞い、今は洗い物を行っていた。あんな事をされたとはいえ、数々の恩が有る為、強すぎる態度は取れない。なので千冬の遊びの一環として見る事にした。恐らくこれからもやられるだろうが、自分が無視すればいいだけの話だ……が、内心では確り無視できればいいなという願望に変わっていた。世界的にも見ても、トップクラスの美女である千冬、そんな彼女に遊びと分かっていても、これはドキドキせざるを得ない。

 

「分かった分かった。これからは余りしないようにするさ」

「(しないって言わないのかよ…)」

「しかし、あの程度で気絶するとは…ハニートラップをされたら危ないぞ。そうだな、その対策と思えば良い。私は楽しい、お前はハニートラップ耐性を付けられる。正にWIN-WINな関係という奴だな」

 

千冬の言い分にも一理あるので、何も言えなくなってしまう。確かに今までは自分にするぐらいなら一夏を狙うと思っていた、だがしかし各国から注目を浴びる存在になってしまった以上、そのような干渉がないとは言い切れない。そんな時、自分は確りと跳ね除ける事が出来るのだろうか。思わず不安に駆られた、それによって強制的に国に連行されてしまう…研究所へと送られるのとは別の恐怖、それが身体を貫いていく。その対策として、千冬からの行為を受ける……まあ確かに、千冬ほどの美女からの物を受ければ、生半可な女には靡けなくはなるが…。

 

「よくもまあ、ぬけぬけと…ハァ……もう勝手にしてください」

「ハハッスマンな、控えるようにはするから」

「信用ないっすよ」

 

まあ、千冬ほど確りした人なら大丈夫だろう、そして自分の為にはなるだろうと苦悩した末に申し出というかなんというか微妙なそれを、カミツレは受け入れる事にした。大半はストレスで倒してしまった際の千冬の、苦しそうな顔を和らげられるならば……という気持ちであるが。何かされると分かっていても、恩があるからか少しでも力になれるのならと、思ってしまい了承してしまった。だがまあ、千冬とこうして気兼ねなく話せるようになったのは良い事かもしれない。

 

「ふぅ…それにしても美味かった、馳走になったな。今度、私の行き付けの美味い寿司屋にでも連れて行ってやろう。無論、私の奢りだ」

「別に良いですよ。それと千冬さん、これからは食生活にも気を付けてくださいよ。カシスジュースとはいえ吐いたのは、千冬さんの身体がダメージを負ってる証拠なんですから」

「何だったらカミツレに飯を作って貰うのもありかもしれんな、お前の家の野菜も絶品だし料理も美味い。お前は良い婿になるな、どうだ私と結婚してみるか?」

「笑えない冗談ですねそれ。千冬さんは兎も角、俺はあいつの義兄になるなんてごめんですよ」

「ツレない事を言うな、こんな美女が誘っているんだぞ?」

 

と言いつつ、洗い物をしているカミツレの背後を取ってそのまま抱き着いて腕を回す。控えると言った傍からのこれであるが、三度感じる千冬の身体の感触に身体が硬直する。自分をからかっている、分かっている筈なのに身体が動かなくなった。頬に当てられた手から伝わる熱に肩に置かれた顎、背中に当たっている胸、女として完成されている千冬の身体が、誘惑するかのようにカミツレに攻撃してくる。

 

「少しは、いい反応をしてくれてもいいんじゃないか……?私はお前がその気なら、相手をしてやってもいいんだぞ……?」

「……っ!!(だ、駄目だ、これは訓練だと思うんだ!そうだ、ハニートラップの……!!)」

 

思い切って振りぬいて千冬を真正面から見つめ返すカミツレは、そっと千冬の頬に手を当て返すが、それに合わせるように更に顔を近づけながら、カミツレの腰へと手をやって更に抱き寄せる千冬。吐息が混じり会いそうな程に近い距離。完全に玩ばれていると分かっているのに、カミツレは限界なのか真っ赤になった顔を逸らすと、千冬は酷く愉快そうに笑った。

 

「うむうむ、清純な青少年で先生は嬉しいぞ」

「そんな青少年を玩ぶ先生はいいのかよ……」

 

そんな事もありながら終わった夕食会、食後のコーヒーを嗜みながら千冬はいよいよデュノア社に関する事への話へとシフトさせた。内心でやっとか……と思いつつも真面目な顔でそれに向かい合う。

 

「シャルルの事については完全に了解した、一夏の大馬鹿者が私を頼らん下らん理由もな。あいつは私が最終兵器か何かだと思っているのか?」

「まあ、少なくとも1組内では最終兵器織斑先生的な存在なのは、確かだと思いますよ」

「……カミツレ、そこは否定する所だろ……」

「さっきの仕返しです」

 

一夏については取り合えず一旦保留し、千冬が機を見て話を持ち掛けるとの事。カミツレは一夏に無干渉でいると宣言しているので、建前でもそれを保った方が良いと千冬が言うからである。それと、カミツレも将来が決まりかねない頃なのに、大変な事に巻き込んでしまった事を謝罪されたが、千冬に謝罪されても困ると受け取らなかった。玩ぶ事に関しての謝罪なら受け取ると言ったが、合意の上だろうっと返されてしまった。

 

「お前が気絶している間に、フランスの代表から調査結果が送られてきてな。それを元に作戦を立てようと思っている」

「マジですか」

「マジだ。それによるとデュノア社の内情は想像以上に切迫しているらしい」

 

千冬によるとデュノア社の内部は分裂が起きており、現社長であるアルベール・デュノア派とその正妻であるロゼンダ・デュノア派に別れている。ロゼンダはアルベールを社長の座から引き摺り下ろし、デュノア社を完全に手中に収めようとしているらしいが、デュノア社の主力となっている技術社員達のほぼ全員がアルベール派となっており、手が出しづらい。その為、ロゼンダ派はアルベールに全ての責任を負わせて引き摺り落とす手段として、愛人の娘であるシャルロットを利用する事を画策した。

 

「それをアルベール氏は察知し、自らのコネを使って彼女を代表候補の枠に押し込み学園へと送り出した」

「じゃあ、社長が全部悪いみたいな事って……」

「いや、続きがある。そこまではアルベール氏の描いた通りだった、しかし向かう途中にロゼンダ派の邪魔が入った。シャルロットに男装させ、男子としていくように命令されてしまったんだ」

「で、でもそれってリスク大きすぎませんか?」

「例え失敗したとしても、奴らにはいいのさ」

 

失敗し問題となったとしても、その場合は全ての責任をアルベールに被せ辞任に追い込む。成功した場合は第三世代型のデータを入手した上で、脅しを掛けて辞任に追い込む。残されたシャルは、遺体が残らないような殺し方をして、それを事故にでも見せ掛ければ本当は女だったという事を隠し通せる。全く以って、気分が悪くなる話にカミツレも顔を歪めた。

 

「そして、シャルルが男として学園に入学出来たのはロゼンダ派にIS委員会と繋がりがある者がいたからだ。そいつが委員会に手を回し、認めさせたという訳だ。委員会の半数は女尊男卑思想の連中だからな……そいつらがデュノア社を手中に収められるという事で協力、と言った所だろう」

「……真っ黒っすね」

「うむ、まっくろくろすけもビックリなレベルでな」

 

このような事を「腐敗」というのだろうとカミツレは思う。地位や名誉の為に簡単に人を殺したり、人生を台無しに出来る。人は目的の為になら醜くなれる、それを垣間見たような時間だった。

 

「でもそうなるとかなり厄介じゃないですか?IS委員会が絡んでるって……」

「何、その辺りは心配するな。自慢ではないが私は各国首脳陣にも顔が利くし代表とも知り合いだ。奴と私が両方面から圧力や交渉をしていくさ、進展したらお前にも伝える。その際にはシャルルを私の元へ連れてきてくれ」

「了解しました」

 

本当は軽い相談のつもりで千冬に話したこの一件、気付けばカミツレは事件の中心にまで足を踏み入れていた。しかし、それが逆に千冬という大きな力を借りる事にも成功し、それによってまた、彼の未来が変動する事になった。



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34話

月曜日、千冬に相談を持ち掛け様々な事が起きた。千冬が胃痛で倒れたり、その介抱をしたり、シャルロットの事について動き出したり、相も変わらずアレからも千冬に遊ばれたりといった事を送ったりしているが、取り合えず平和と言える時間を送っているカミツレ。専用機についてはイギリスを第一候補にしておきながら教室へと入っていく。中では妙に女子達は騒がしかった。

 

「ねえそれ本当なの!?」

「本当だってば!この噂で学園中で持ちきりなの!月末の学年別トーナメントで優勝したら、織斑君か杉山君かデュノア君と交際でき―――」

「んっ俺が如何したって?」

「「「「「キャアアアアッッ!!!!??」」」」」

 

クラス内に居た一夏が自分の名前に反応して、女子達へと声を掛ける。しかし返ってきたのはまるで痴漢にでもあったかのような悲鳴じみた声で、彼からしたらただ普通に話しかけただけなのだろうがタイミングが悪かった。女子達はなんでもないと言いながら四散して行くが、実際は何かがある。それは確かだろう。しかも良く見たら女子達の波の中にはセシリアと乱の姿まであった。

 

「セシリアに乱ちゃん、何かあったのか?」

「な、なんでも御座いませんわ!そ、そうでしょう乱さん!?」

「そ、そうよねセシリア。何もなかったわよね!!」

「……なんか怪しいな…けど、触れないで置くよ」

 

触らぬ神に祟りなしという訳ではないが、下手に首を突っ込んで面倒な事に巻き込まれても困る。こう言う時は下手に触れたらとんでもない事になる。現状ですら千冬に玩具にされているのだから、これ以上面倒な事になどなって堪る物かと引く事にした。完全に日課と成り果てた自習を始めようとした時、シャルルが近寄ってきた。

 

「ねぇ杉山君、お昼休みって空いてる?」

「空ける事は出来るが。何か用なのか?」

「うん、詳しい事はその時に話すよ。屋上で待ち合わせで良い?」

「分かった屋上だな」

 

そう告げるとシャルルは自分の席へと移動して行く、一体何の話があるのかも分からないが約束してしまった物はしょうがない。素直にそれに従っておくとしよう、そして自習を再開しようとした時、一夏が近寄ってきた。

 

「……カミツレ、お前言ってないよな」

「無干渉。そう言った筈だ」

「ああ、分かってる。俺はシャルルを助ける為に全力を注ぐ……まだシャルルには言ってないけど、その為にもう少し様子を見て千冬姉に相談する」

「(……ほう)」

 

小声で話しているからか周囲の女子達には聞こえていないだろう、一夏のその言葉にカミツレは少し感心するような声を上げた。あれほど迷惑を掛けたくないと言っていたのに、どういう心境の変化だろうか。

 

「色々考えたけど、俺一人の力じゃ何も出来ない…だから千冬姉に素直に相談する」

「なら直ぐにしたら如何だ?」

「転入を認めてるって事は学園も絡んでるじゃないかと思ってさ…だから、少し様子を見てからにする」

「……昼休みに屋上に来い」

「えっ屋上?」

「いいから、来い」

「あ、ああ分かったよ」

 

無理矢理納得させるかのように説き伏せた。一夏は納得しきれていないように席へと向かって行く。そんな一夏を見て少しだけ、見直した。あれほど姉には迷惑を掛けたくない、力になってくれなくて残念だと言っていた男が、その答えにまで辿りつけたと素直に感心した。そして昼休み、シャルルと一夏が屋上に向かう中、カミツレは千冬を呼び出していた。

 

「私を簡単に呼び出してくれるな杉山。これでも忙しい立場だ」

「それはすいません。でも…フランスについてなので、屋上へ一緒に行ってください」

「……良いだろう」

 

千冬と共にそのまま屋上へと上がって行く、屋上の扉を開けた途端に一夏とシャルルの驚きに満ちた視線が此方を突き刺すかのように向けられた。当然だ、シャルルは話があるからとカミツレを呼び出し、一夏はカミツレに呼び出された。てっきりシャルルについての話をするのかと思っていたのだが、そのカミツレが千冬を引き連れてきたのだから。

 

「カ、カミツレなんで千冬姉がいるんだよ!!?」

「そ、そうだよどうして先生がぁ!?」

「説明するから落ち着け……単刀直入に言うぞ、シャルル、織斑。お前らの隠し事、最初から無意味だったぞ」

「「へっ!?」」

 

想像以上に間抜けな声を上げた二人に千冬は笑いを浮かべた、此処まで笑える光景も久々だ、無論、カミツレで遊ぶ時以上の笑いではないが。取り合えずこのまま話をするには、盗み聞きの可能性が高いという事で千冬が全員を自室へと通した。千冬の部屋なら、よほどの命知らずでない限り聞き耳を立てたり、盗み聞きをしようなんて考えないだろう。

 

「えっ何、それじゃあ俺がシャルが女だって気付いた時には、千冬姉も可笑しいって思ってたって事!?」

「当前だろう。寧ろ、なんでこの見た目で男だと思える。男装にしてもお粗末にも程があるわ」

「うぅぅっ……」

 

千冬の言葉に縮こまってしまったシャル。確かに彼女の男装は酷くお粗末としか言えない。最早バレる事が前提されている物としか思えないほどに酷い出来。しかし、バレる事が前提ならば合点が行くという物。

 

「私はそこで自分のコネで調査を依頼していたんだ。その最中にカミツレからフランスが怪しい、調べて欲しいと言われてな。その時に、全てを聞いた訳だ」

「な、成程…んで千冬姉。なんでカミツレは、此処で料理してんの?」

 

話をしている最中、千冬の背後のキッチンでフライパンを振るっているカミツレの姿が先程から気になってしょうがなかった一夏。自分達はこんな凄い話をしているのに、カミツレは一切関わらずに料理をし続けている。

 

「千冬さん、味付けは何が良いですか?塩、醤油?」

「うーん塩だな」

「へーい、お前らもそれで良いよな」

「あっうん、僕は別に…」

「俺も良いけど……」

 

その言葉を聞いて料理を完成させていくカミツレ、テーブルの上には次々と完成品が並んで行き豪勢な昼食が完成していた。思わず呆然としていた一夏とシャルだったが、ご飯を受け取って千冬が早速食べ始めたのを見て、思わず顔を見合わせると、カミツレからご飯を受け取り自分たちも取り合えずと食べ始めた。

 

「っ!?な、なんだこの野菜炒め!?す、すげえ美味い!!シャキシャキしてて歯応えも抜群、味も確り付いてて……何だこの味付け!?」

「うわぁ凄い美味しい!!僕こんなご飯初めてかも!!」

「うむ、矢張りカミツレの作る料理はいい物だ。身体にも良いからな」

「千冬さん、そっちの皿も確り完食してくださいよ。でないとまた、胃が荒れますよ」

「わ、分かっている」

「えっ!?千冬姉胃が悪いのか!?な、何で!?」

「主にお前のせいだ」

 

と、会話も弾んだ昼食も終わり、いよいよ本題へと入った千冬。彼女の口から語られていくデュノア社の真実と千冬の伝と圧力、そして交渉によってロゼンダ・デュノアの悪事の全てが明かされ、間もなく警察が踏み込む事が千冬から知らされる。

 

「そ、そんな事になってたなんて……」

「……あれ、俺が必死に考えた時間ってなんだったんだ?」

「強いて言うなら、私の胃を攻撃しただけだな」

「申し訳ありませんでしたぁ!!」

「おう、もっと猛省しろ」

 

洗い物を終えたカミツレもそれに合流し、いよいよ話は最終局面へと向かって行く。

 

「そ、それじゃあもうシャルが苦しむ事はないんだな!?」

「いやそうとも言えん。ロゼンダ派は頭目を失うだけで、まだ活動は続けられる。恨みを抱いて行動を起こす可能性もありえる」

「そ、そんなっ……!!じゃあそれから俺が守れば……!!ああいや、でもどうやって守れば……!?」

「少しはまともに考えられるようになったか愚弟。そうだな、カミツレと共に考えた案があるが……これに乗ってみるかは本人次第だ」

「な、何なんですかその案って!?」

「ああ―――シャルル、お前さ―――社長になってみる気ないか?」

「……へっ?」



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35話

後日、全世界に真相が伝わる事のない取り繕われた真実が伝わった。

 

ロゼンダ・デュノアがデュノア社社長、アルベール・デュノア氏の殺害未遂の容疑で逮捕された。千冬が手を回したフランスの国家代表、ヨランド・ルブランが政府と国際警察に働きかけ彼女を逮捕させた。同時に集められた社長殺害の証拠や過去の不法行為の証拠、それらによってロゼンダは有無も言わせぬままに、逮捕されてしまった。そして同時に第三の男性IS操縦者である、シャルル・デュノアに関する真実も公開された。

 

『シャルル・デュノアは、ロゼンダ・デュノアがアルベール・デュノアを人質に取る形で強制的に男を演じさせられたアルベールの娘、シャルロット・デュノアであったと。そして、ロゼンダは彼女にデータの収集を命じた。しかし、ロゼンダはその任が終了した後、彼女を身元が判別できないほどに残虐に殺すつもりであった』

 

と全世界がこれに揺れた。同時にロゼンダ・デュノアへの批難が世界中から殺到した、全世界を欺こうとした罪は重く、彼女は二度と日の目をみる事もなく人生を終える事は確実と言われている。同時に彼女の行動を補助したとされるIS委員会のメンバーにも目が向けられた、本人らは否定しているがヨランド国家代表が集めた証拠によって逮捕が確実となった。

 

シャルロットは学園にて、織斑 千冬に助けを求め、千冬が手を回し、救われる事となったと世界に報じられ千冬の評価は更に上がる事になったが、本人は煩わしいだけだと語っている。

 

そして同時に、アルベール・デュノア氏は社長職を辞任し、その後をシャルロット・デュノアにする事を発表した。全く予期せぬタイミングでの社長辞任、これには頭目を失ったロゼンダ派も突然の発表に驚くばかりであったが、驚きは更なる物へと変化して行った。シャルロットはその場でアルベールへある命令を出した。

 

『私は学園で、代表候補生としてやらなければいけない事が残っている上に、社長としてはまだまだ未熟な身。だから、卒業するまで社長代理を続けろ。そして卒業後は社長代行を行うが、アルベール氏の息子が社長を継げる年齢になったら、彼を社長にする』

 

この命令にロゼンダ派は混乱するばかりであった、シャルロットの目的は父と会社を守る事。これによってデュノア社は少なくとも2~3代の間はアルベールが主動となって今まで通りに動かせるようになった。社長の命令には、流石のロゼンダ派もそう簡単には覆せない。これを覆すにはシャルロット本人をどうにかする必要が出てくるが、それも困難を極める。そのシャルロットは治外法権が国際的に認められるIS学園に匿われている。 名目上の国家不干渉とはいえ、学園に干渉すればデュノア社の信用に関わってしまう。デュノア社の掌握が目的であるロゼンダ派にとって、それは容認出来る物ではなかった。

 

これらによってシャルロットは被害者という側面を持ちながらも、社長の身までも守る事となった。マスコミによって操作される世論とロゼンダの企み、それを利用する事でシャルロットは自らの安全、自らを守る為に学園へと送り出してくれた父を守る事も出来るという大勝利を収めた。しかし、その大勝利の裏には、千冬ともう一人の男の影があったのは、誰も知らない真実であった。

 

 

「いやぁ……大人って恐いですね、千冬さん」

「大人とはそういう者だ。私に言わせれば、そんな大人を食い物にする子供も余程恐いがな」

「ハハッ仰る通りですね」

 

千冬の教員室にて洗い物をしているカミツレと、食後のお茶を啜っている千冬。今回のシャルロットを救う為に動いた功労者二人は、普段通りの日常を送りながら世界中を流れている大ニュース、それを嘲笑うかのように観賞していた。最早千冬の通い夫的な立場にも、慣れてきたのか平然と千冬の部屋に顔を出すようになったカミツレ、今回のシャルが社長になるという案を出したのも彼であった。

 

「しかし、よくも社長にするという案を思いついたな。あの後の事も、既に考え付いていたのか?」

「いえ全く。千冬さんが書いた筋書きなんて、俺には思い付きもしませんでしたよ」

「では何故思いついた?」

 

最後の皿を洗いながら、カミツレは何故今回のような大胆な発想が浮かんだのか。それは―――嫌がらせであると。

 

「嫌がらせ……つまり、どういう事だ?」

「ロゼンダの狙いはデュノア社の掌握で、シャルロットは使い捨ての駒でしょ。それなら、その駒に自分の目的だったデュノア社の社長になられたら、屈辱的だろうなっと思いまして」

「ハハハハハッ成程な!!それは屈辱だ、ああ歴史的な屈辱だろうな!!」

 

カミツレは自分の事を良く知っている、そこまで頭が回るわけなどない。だから今回の事だって考えたのは感情の重視、如何すればロゼンダが屈辱的な思いを味わうのかだった。使うだけ使って捨てる筈だった玩具、それが何時の間にか自分が至ろうとした頂に立たれる。その時に味わう屈辱はどれほどの物なのだろう…考えただけで愉悦に浸る事が出来るという物。それ以外の事は、シャルロットを社長にすると聞いた時に閃いた千冬に丸投げしたような物だ。

 

「それとカミツレ。明日にはデュノアが帰国するが、その際にヨランドが共に来るらしいぞ」

「えっ?噂に聞くフランスの国家代表で、今回すっごいお世話になった?」

「うむ。すっごいお世話になったフランスの国家代表だな。通称『超術のヨランド』と言ってな、相対した相手に適切な戦闘パターンを瞬間的に300は用意出来る、それほどに頭が切れる奴だ」

 

ヨランド・ルブラン、フランス国家代表であると共に超一流の戦術家でもある。元々フランスの軍属で、千冬のようなずば抜けた直感がある訳ではなく、戦場を渡り歩いた末に蓄積された経験、経験による感覚によってあらゆる戦術を組み上げる。使用しているISは『ラファール』を原型が残らないレベルでカスタムした『シャティーナ・ブラーボ』と共に数々の勝利を勝ち取ってきたとの事。

 

「後、菓子作りの腕前がプロ級だな。あいつの菓子は本当に美味い」

「へぇそりゃ凄いですね」

「後は年下好きだな、特に……お前のような日本人がタイプらしいぞ」

 

それを聞いて一気にカミツレの顔色が悪化した、見るからに血の気が引いて行き震え始めて行く。因みに一夏はタイプではないらしい、本人曰く「整い過ぎて、愛でる気が起きない」との事。千冬から弟が被害に合わないのは安心出来るが、自分のお気に入りのカミツレが被害があるのは容認出来ない。震えるカミツレをそっと抱き寄せた。

 

「大丈夫だ、私が守ってやる……安心しろ」

「千冬さん……」

「お前を玩ぶのは、私の役目だからな」

「んな事だと思ったわチクショオオオオオオオオ!!!!!」

「ハハハッそう照れるな、愛い奴め」



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36話

「……」

「お、おいカミツレ顔色悪いぞ?保健室付き合うけど……」

「俺に触れるな…問題、無い……」

「いやでも杉山、幾らなんでもその顔色は……」

「安心しろ、ただ、恐いだけだ……織斑先生が」

「「ああ、成程……」」

 

放課後の教室でカミツレは一人、震えていた。千冬からフランスの代表の事を聞いてから如何にも震えが止まらなくなっていた。本日の午後5時にはシャルロットが学園へと帰ってくる、フランスの国家代表を引きつれて……。いやな予感しかしない。二人に言った言葉に嘘は無い、ハニトラ耐性と銘打たれた弄りはある意味で恐いのは確かだ。

 

「し、しかしカミツレさん、その様子は尋常では……」

「いやさ…織斑先生に世話になったから、料理持って行ったんだけど……味付け間違えて、超激辛に……」

「お、おいカミツレそれヤベえって!!千冬姉、辛いの好きだけど辛すぎるのはアウトなんだよ!!?」

「だから震えてんだよ!!!5時に呼びだされる事になってんだよ!!」

 

という設定にしておく、周囲からすれば千冬からの怒りを受けるとしか映らないので千冬の元に行こうとしても不自然はない。本来はシャルが帰国したので、その顔合わせなので一夏も同行しても良い筈なのだが、ヨランドがお忍びで護衛としてきているので、話を知っているカミツレだけが呼び出される事となったのでこのような建前を作っている。尚、震えは仕込みでもなんでもなく、カミツレがマジで恐がっているからである。

 

「そろそろ、時間か……」

 

時計を見てゆっくりと、立ち上がったカミツレに対して教室中の女子達は敬礼をした。軍人のラウラが見たらやり方がなっていないと言われるものであるだろうが、カミツレに対する敬意を表す物であるには変わりは無い。そして一夏と箒はそっと、カミツレの肩を叩き、セシリアは目に涙をいっぱいに溜めていた。

 

「頑張ってくれ、また生きて会おうぜカミツレ」

「杉山、生きて戻ってこい」

「ガミヅレざん…お料理を、拵えて待っておりまず!!必ず、御帰りくださいませ……!!」

「……俺は死地に送られる兵隊か……」

 

尚、表現としてはベストマッチなのは言うまでもない。微妙な空気を背負ったまま教室を出たカミツレは、途中自室へと寄って、野菜などを持って呼び出されている千冬の教員室へと向かって行く。何故かと言われれば、シャルがカミツレの料理はとっても美味しいと話した結果、ヨランドも是非食べてみたいとリクエストを受けてしまったからである。料理の腕を褒められるのは嬉しいのだが、今回は余計な事を言ってくれたとシャルに言葉をぶつけたくなったカミツレであった。

 

「おっ来たか」

「ええっ…。もう直ぐ、戻ってくるんですよね、シャルロット……」

「ああ」

 

思わず溜息が出る、しかし無事だという事は喜ばなければならない。学園に到着するまでは完全にシャルロットの身は安全とは言いきれない。学園に到達するまでにロゼンダ派が何か仕掛けてくる事も十分想定出来る。故に、ヨランドが護衛の任を買って出てくれたのである。その事や、デュノア社での礼を含めて料理を作るのだから……一応納得しているのだが、如何にも乗り気になりきれない。

 

「ほらほら、兎に角気張って作れよ。あいつの舌は肥えているから、生半可な物ではなにをされるか分からんぞ」

「恐い事、言わないでくださいよ…」

「お前が私に好きにされても良いのなら、どのような事になろうが守るが?」

「……どちらにせよ、俺に希望はないんですね分かります」

「これほどの美女に誘惑されているのに、つれない奴だ」

 

キッチンにて、軽い仕込を始めているカミツレを背後から抱きつくように手を回す。

 

「ちょっと千冬さん、やり辛いですって」

「まあそう遠慮するな。お前を抱き締めていると、妙に落ち着くんだ」

「なんですかそれ」

 

少々頬が赤くなっているが、仕込みを続けるカミツレ。多少なりとも慣れているのか、千冬からの弄り、千冬の身体にドキドキしてしまうが今はそれ以上心は乱れていない。それでも千冬のこの行動は止めて欲しいと思っている。

 

「少しは成長したか、しかしからかい甲斐が無いではないか」

「知りませんよんな事」

「……ほう、良いんだなそんな事言って」

 

何処か悪戯っけを含んだ言葉にいやな予感を感じる、これは地雷を踏んだかと思わずにいられなかった。一体何をされるのかと、身体を固めていると先程よりも柔らかな感触が身体に触れた。豊満で柔らかく、暖かい感触が背中に触れて変な声が出た。

 

「ち、ちちちち千冬さん!!?何をしたんですかぁ!?」

「さて何をしたのだろうなぁ、知りたいなら振り向いてみればいい」

「絶対いやです!!!」

 

千冬は着ていた上着を脱いで、Yシャツのままでカミツレに抱き付いたのである。スーツによって阻害されていた感触、それがよりダイレクトに伝わる感触は素肌に近く物がある。より明確に感じてしまう千冬の体温にも、身体が反応してしまう。

 

「……っ!!」

「フフフッ…矢張りお前には、その顔が似合うな……私の前ではその顔でいて欲しいものだ」

「勘弁、してくださいよ……」

 

そして、漸く千冬から開放されたカミツレは仕込みを再開する。千冬のお陰もあって遅れてしまったので、猛スピードで行っていくのを千冬は見つめながらスーツの上着を着直す。カミツレが調理を行っている後ろ姿を見ていると、自宅で一夏が料理を行っている時の事を思い出す。が彼の後ろ姿は一夏とは違う、何か別のようにも感じられる。

 

「(やれやれ、私も随分と柔らかくなった物だな)」

 

と思っていると、部屋の扉がノックされた。それと同時にシャルロットの声が聞こえてきた。遂に学園へと帰ってきたようだ。そして、この時こそカミツレにとって、最大の試練とも言うべき時間になるのは明白だろう。

 

「覚悟は良いなカミツレ」

「……もうバズーカでもミサイルでもどんと来いですよ。本当はdon't来いですけど」

「つまり来るなか」



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37話

扉が開かれていく、絶望への扉が遂に開いてしまった。始まりと終わり、それが同時に訪れる矛盾を孕んだ開放が行われている。その奥から顔を見せたのは見慣れているIS学園の女子制服を纏ったシャルル、改めシャルロット・デュノアが笑顔を見せながら部屋へと足を踏み入れた。

 

「シャルロット・デュノア、ただいま戻りました!」

「お疲れだったな社長殿、景気は如何だ」

「上々も上々、絶好調です!」

 

笑顔のVサインを浮かべている、それもその筈だ。虐げられ続けていた彼女にとって今ほど、充実している時も無いのだから。父親の愛が真実であると分かった上に、父を陥れ自分までも殺し、デュノア社を乗っ取ろうとしていた社長夫人は今や監獄の中。自らを縛る物全ては消え去った、自らの意志で学園へと戻ってこれた今の心境は最高に決まっている。

 

「それで、ヨランドは」

「今来ますよ。ヨランドさーん?」

「今参りますわよ、シャルロットさん」

 

遂に来た、聞こえてくるのは気品に満ち溢れている凛とした声。ゆっくりとシャルロットに導かれるように、室内へと足を踏み入れたその人を見た時、思わず震えと抱えていた恐怖の感覚が消えてしまった。それほどに気品と美しさ、優雅さ、そして千冬に負けない強かさを感じ取った。

 

「お久しぶりですわね、千冬。相変わらずご健在でなりよりですわ、闘気も衰えておりませんし……いえ、寧ろ以前よりも滑らかさが上がっておりますわね」

「久しいなヨランド。お前は相変わらずだな、毎回思うがそのドレスは動きにくいし面倒ではないか?」

「慣れていると楽な物ですわよ?それに、非常時には各部を外して動き易く出来ますのよ」

 

その姿は正に王者、優雅さは強者の余裕と積み重ねられた強さの証明。凛々しい表情の裏にはどれほどの死線を潜りぬけた戦士の表情が隠れている、目にした時にセシリアを思わず連想したのは、彼女も纏っている貴族特有の気品高いオーラがあったからだが、目の前の女性のそれは、全く逸脱している。王、頂点、至高。自らの力でその位を勝ち取り、君臨し続ける絶対者。フランス国家代表歴代最強と評されるのも理解できる、ヨランド・ルブラン。彼女は自分を目にし、何処か優しげな目をしながら膝を曲げながらそっと手に手を重ねてくる。

 

「シャルロットさんからお話はお聞きしていますわ、本日こうして会える事を楽しみにしておりましたわ」

「あっ……えっと、す、杉山 カミツレです……」

「ご丁寧に有難うございます、淑女としてお返事させていただきますわね。ルブラン家当主にしてフランス国家代表、ヨランド・ルブランですわ。どうぞこれからも宜しく」

 

にこやかに笑うヨランド、そっと差し伸べられた手を見つめ握手をする。滑々した手からは歴戦の兵とは思えないがそれはあった直後のオーラが全否定する。彼女は間違い無い強者であると。そして思った。

 

―――ああ、こりゃ千冬さんが認める筈だ……。

 

 

「あむっ……C’est très bon!」

「うむ、本当に美味いぞカミツレ。ヨランドもそう言っている」

「ほっ……口にあったようで良かったですよ」

「ねっ言った通りでしょヨランドさん!杉山君の料理は最高だって!!」

「ええっ家庭料理特有の暖かさがありながら、キレのある味付け。わたくしの家のシェフ達にも負けない腕前ですわよ」

「流石に、それは言い過ぎですよ。ミス・ルブラン」

 

テーブルの上に広げられている料理の数々、さっさと調理を終わらせたカミツレの作品達。千冬曰く舌が肥えているヨランド、貴族である為か高級レストランの料理の超一流の料理、それらを食して来た彼女の舌を満足させられるのか、それだけが不安だったカミツレ。食べるからには美味しいと言って貰って笑顔にさせる、それが料理を教わった兄一番の教えであった。如何やら褒められる程度には美味しいと思って貰えたようである。

 

「ヨランドで結構ですわよ、ミスタ・キャミツェレ。あらっ?キャミツェレ、可笑しいですわね上手く言えませんわ?」

 

ニッコリと笑ってそう言うヨランドは名前を呼ぼうとするが、上手く発音出来ないのか何度か言葉を口にするが如何しても舌が回らずに、キャミツェレと言ってしまっている。それが如何にも気になるのか直そうと頑張っているがカミツレとしては余りに気にならない。ワザと間違えているならまだしも、上手く言えないなら気分を害する事などない。

 

「あの、言いづらいんでしたらそのままで良いですよ」

「ですがそれでは失礼になるわ、無礼でも無い相手にそのような事などルブラン家の当主として許せませんわ」

「やれやれクソ真面目な奴だ。その程度許容したら如何だ」

「許容という名の未熟を追い求めるよりも、突き詰めた末に完成されるパーフェクト。それもまた、美しくありません事?」

「やれやれ、完璧淑女(ミス・パーフェクト)は未だに健在か」

「何なんですかそれって?」

 

『完璧淑女』というのは千冬が現役の時代からあるヨランドの渾名のような物らしい。自分が許せない物は全て突き詰めて無駄を無くし、完全な物へと近づけて行き続ける淑女。それが何時しか完璧淑女という渾名となっていた。

 

「むぅ…申し訳ありません、このまま誤った名前を言い続けるのも失礼に当たりますわ。申し訳ありませんが、わたくしが呼び易いようにツェレと呼んでも宜しいですか?」

「ツェレですか、良いですよ。そんな風に呼ばれるのも新鮮で面白いかもしれませんし」

「ふぅん……じゃあ僕もそう呼ぼうかな?」

「お前は今まで通り杉山でいいだろ」

「えっ~!?なんか、贔屓っぽいよ~」

 

頬を膨らませたシャルにそれを軽くあしらうカミツレ、何処か兄妹のような雰囲気を醸し出す二人。それを見ながら肩を竦めて笑う千冬と素直に微笑を浮かべるヨランド、似ている二人だが似ていない所も確りあるようだ。

 

「ツェレ、シャルロットさんからお聞きしましたが専用機の開発希望を各国から受けているのでしょう?お若いのに素晴らしいですわね」

「っと言われても実感沸きませんけどね…俺はただ今ある現実に立ち向かってただけなんです。他に目を向ける余裕なんて無くて、ただ我武者羅に走ってただけなんです。それが何時の間にか評価されてアプローチ受けてる今がある。確かに結果が実を結んだって言えばそうかもしれませんけど、俺からしたら今まで無関心だった癖にいきなり声を掛けられたみたいで……何か掌返しを受けた気分で」

 

それを聞いて千冬は少し罰の悪そうな表情をする。研究材料として研究所送りを避けたい一心、それが原動力で努力だけをしていた彼は世界中から注目はされていたが、それは自分が一番避けたい物としての筈だった。しかし、それがいきなり掌を返すかのごとくアプローチを受ける。余り気分がいい物でもないし、自分の立場を再認識させられただけだった。

 

「でもその先に俺が望んだ物がある、研究材料扱いされない立場。強力な後ろ盾、家族を守ってくれる力の援助を受けられるだけの場所に辿り着ける…だから、複雑で」

「杉山君……」

「それは確かに複雑ですわね……苦々しい現実というのは喉を中々通りません」

 

顔を上げた先にはほぼ赤の他人であった筈の自分に向けられるような物ではない、慈悲深い表情がそこにあった。

 

「ですが、だからこそ飲み込む価値があるのです。苦味というのは、それだけ価値がある物なのです。料理をするツェレならば分かるのではありませんか、苦味その物は好まれにくい。しかし、他の旨みや味と交じり合う事で食欲を増進させ、その苦味を欲するようになるのです。思考の転換です、辛い現実を逆に自分の糧として、更なる高みへと届かせる為の積み木として思考し行使するのです。それが出来てこそ人間は真の価値を発揮するのです」

 

ヨランドの言葉には重みと力強さがあった、言葉に含まれているのは彼女の人生経験その物。いい事ばかりではなかった、寧ろ辛い事ばかりだったがそれを乗り越え、成長したからこそ今ある自分があると胸を張って言える。あの時の苦労があって良かったと、苦しかったけどあれがあったから成長出来たと、思える日が必ず訪れて、懐かしめる日が来る。そんな日々に辿り着けた自分はきっと、理想とした自分になっている筈。そんな言葉を言うヨランドに千冬が笑った。

 

「相変わらず強い奴だな、お前は」

「あらっそんな強いわたくしに激闘の末に、勝利したのは何処のサムライ・レディだったかしら?」

「さて忘れたな、そんな昔の事なんて」

「なんか、深い言葉だね……」

「ああっすげぇ深くて、暖かくて、言ってみたい言葉だな……ああっこれが国家代表なのか。そりゃ、千冬さんがすげぇ訳だよ」

 

目の前でやり取りをしている千冬とヨランド、そんな彼女らを見ていると何処か果てしない世界の果てを見つめている気分になる。地平線の先の先に立っている二人、それを見つめていて浮かんでくる物―――憧れとそこへ辿り着いてみたいというワクワクだった。



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38話

「という訳ですので、このわたくしがツェレの指導をする事になりましたわ」

「いや、どういう事ですか。話見えないんですが」

 

翌日、授業が午前中に終わった事を受けて先日出来なかった訓練の遅れを取り戻そうと気合を入れつつアリーナ入りしたカミツレ。しかし彼を待ち受けていたのは師匠である真耶でも代理をした事がある千冬でもなく、現役の国家代表でありシャルロットの護衛として一緒にやってきたヨランドであった。真耶と千冬は目前に迫っている学年別トーナメントの運営準備に忙しく、時間を割く事が出来なかったので、その代理をヨランドが引き受けたという形になる。が仮にも国家代表が一生徒に指導するのは拙いので、第三アリーナは名目上、整備中という事で立ち入り禁止にしているとの事。それでも、一応シャルロットなどの立ち入りは許可しているとの事。

 

「まあそう照れずにツェレ、現役の国家代表にマンツーマンで指導して貰える機会なんて滅多にありませんわよ?」

「まあそりゃ……そうですけど」

 

現役引退しているとはいえ元世界最強の教えを受けていたり、その世界最強から弟子にならないかと誘われてしまっている事は恐らく地雷なので黙っていた方がいいと直感するカミツレであった。因みにシャルロットは本日、女子として転入し直し一夏にフランスでの経過を話してから来るとの事。まあ兎にも角にも、あの千冬も認める実力者に指導をして貰えるのだからこれはまたと無い機会。存分に扱いて貰って、レベルアップするチャンスと言えるのだから満喫するとしよう。

 

「それで、まずミス・真耶からお借りしましたウォーミングアップメニューを始めますわ。そこの動きなどをわたくしが判断した上でメニューの変更などを行いますのでそのつもりで」

「はい!!」

 

まず真耶のメニューを基本的に行う、千冬の時もそうだったが指導する側はされる側の実力を知る必要がある。そのためには実際にそれを垣間見る事で体感する必要がある、ウォーミングアップはそれぞれ個人の癖や長所短所がハッキリと出易い。熟練した操縦士になるとウォーミングアップをみただけで相手の戦力を分析出来るほど。ヨランドはその最たる者、『超術のヨランド』の名は伊達ではないという事だろう。

 

「ハッ!ハッ!ハッ!!」

 

アップを続けるカミツレをジッと見つめるヨランド、彼を見つめる瞳は休む事無く動き続けてカミツレを観察し続ける。四肢の動かし方、空中移動の癖、武器選別の趣向、展開の素早さ。アップから得られる情報だけでもカミツレの実力の全てを把握しきれる程、矢張り初心者と言える部分も多い。だがそれ以上に驚きと嬉しさがこみ上げて来る、これが本当に初心者なのかと。

 

「素晴らしい…素晴らしい逸材ですわ…!!」

 

未熟なところはある、だがそれさえ気にならないほどに素晴らしい部分が多々ある。まず彼の訓練に対する真っ直ぐな姿勢、邪念無く真っ直ぐに励んでいる。気持ちは訓練の錬度に直結してしまう、いい加減な気持ちではいい加減な強さしか物にならない。だがカミツレは真っ直ぐ、必死に訓練をこなして強くなろうとしている。次に発想。簡単な演武、目の前に相手がいると思って動きの確認をするように言った所、自由な発想が目に付く。勝鬨に装備しているシールド、それを蹴り出してブーメランのように攻撃。シールドに格納されているブレードを蹴ってそのまま射出、敢て武器を落とす事で相手の思考の隙間を作ろうとするなどなど。今までISに関わる事が少なかったからこそ産まれた発想に、ヨランドは口角を上げる。

 

「(千冬、貴方ほどの方がお気に入りと言った理由が分かりますわね。この子は…ツェレは…良いですわっ…!)」

「ふぅ……こんなもんで良いんですかね、ヨランドさ~ん」

「ええ、貴方の実力は完璧に把握致しましたわ。そして、貴方が素晴らしい人材なのも把握致しましたわ。―――わたくしの指導は厳しくてよ、付いてくる自信がありまして?」

「無い、と言っても指導する気でしょヨランドさんは。その目は千冬さんと同じですよ」

「よくお分かりで。さあ始めますわよ、気品と美しさのパジェントをっ!!」

「国家代表ってのは似た者同士って事なのか……すげぇ千冬さんと雰囲気似てる」

「ツェレ、お返事は?!」

「はっはい分かりましたヨランドさん!!」

 

 

「カミツレ君、大丈夫でしょうか……」

 

職員室、忙しく仕事を片付けている真耶が思わず愛弟子の事を呟いた。確り訓練には励んでいる事だろう、彼に限って無意味に休んだりサボったりする事なんてありえない。身体を追い詰めすぎない程度に身体を追い込み切る訓練をする事だろう、だが今回は先輩である千冬が指導をしているわけではない。あの国家代表である『超術のヨランド』が担当している。彼女が学園に来ている事も驚きだったが、カミツレの指導を引き受けると聞いた時はもっと驚いた。

 

「そんなにカミツレの事が心配か真耶」

 

そんな自分にコーヒーを差し出しながら声を掛けた千冬、それを受け取りつつ素直に頷いた。

 

「心配は分かる、何せヨランドだからな……」

 

フランス国家代表IS操縦者、ヨランド・ルブラン。超一流の操縦士としても有名だが、彼女には別の面でも有名な物があった。それは―――『新人潰しの破壊淑女』という物騒な名前であった。ヨランドは経験により磨かれた眼を持つ。それは相手の素質や本質、将来性を見抜く事に長けており彼女が指導すれば大成すると言われている程に凄まじい。加えて新人の指導が好きな彼女の性格が相まって弟子入りの希望や指導希望者は多かった―――が、彼女の指導に耐え切れる者は殆どいない。別段彼女が意図的な悪意を持って潰しを行っている訳ではないのだが…素質と本質に将来性を見抜けてしまうが故にそれを最大限に引き出そうとしまう悪癖がある。訓練を積んだものならいざ知らず、新人にはそれは重く圧し掛かってしまい、耐え切れずに壊れてしまうのである。

 

ヨランドとしては相手が耐え切れると把握した上で相手に信頼を寄せて行うが、当人達は発展途上であり精神も未熟な事も多くそれに耐え切る前に心が折れてしまう。それでも自分の思った通りの素質を持った新人が居る筈だと指導をやめようとしない。そして、潰れてしまった新人の数は膨れ上がっていき、遂に付いてしまったのが『新人潰しの破壊淑女』という二つ名である。

 

「はい、あのヨランドさんなんですよね……」

「しかしお前の弟子だろう、ヨランドの厳しい指導にも耐え切れる筈だろう」

 

千冬は心配そうにコーヒー入りのカップを見つめる真耶の肩を叩いた。きっとカミツレなら大丈夫だと、真耶の指導に加えて自分まで指導に混ざったりもしている。そう簡単に潰れる事なんてありえないし、寧ろこれで彼が何倍もレベルアップする事も期待出来る。師匠ならば弟子の事を信じる事が一番だろうと励ます。しかし真耶は心外そうに千冬をみる。

 

「私は最初からカミツレ君がやりきると信じてます!私の弟子ですよ、例えヨランドさんの訓練でも乗り越えるに決まってるじゃないですか。カミツレ君に失礼じゃないですか!!」

「いやなんで私が怒られてる!?いや、お前だって心配していたじゃないか!?」

「私が心配していたのは、カミツレ君がヨランドさんに取られたりしないかなんです!!!」

 

その返答に思わず千冬はズッコケそうになった、あれだけ不安で心配そうな表情をしていたのは弟子が潰れないかではなく、弟子が奪われたりしないかという心配だったのかと。

 

「だって、カミツレ君はきっと耐え切ります。だったらヨランドさんはきっとカミツレ君に期待して、自分の弟子にしたいって言い出してもっと指導するに決まってるじゃないですか!!カミツレ君の師匠は私であの子は私の弟子なんですよ!!?」

「おい、そっちなのか……?」

 

そんな風に豪語する真耶に若干引いていた千冬だが、そんな時電話がなった。掛けてきているのは噂のヨランドだ。

 

「私だが、如何したヨランド」

『千冬!!ツェレは素晴らしいですわ!!!是非とも彼を私の弟子にいえ、フランスにいえ、わたくしの家に迎えたいのですが!!!』

 

と掛かってきたのはカミツレの力に惚れこんだであろうヨランドのカミツレに対するラブコール、千冬は思わずああっやっぱりこうなったかと内心で呆れた。そして厄介な相手に目を付けられたなとカミツレに同情するのであった。

 

「ヨランド、さん…これで良いですか!!?」

「いいえ違いますわ。もっとスロットルワークを細かく、激しくですわ!!!最低でもスロットルを70に分けるのです!!そしてそれを瞬時に引き出せるようにするのです!!!」

「70って俺に出来るんですかそんなの!?」

「出来るから言っているのです!!」

 

カミツレの未来は一体何処へ向かっているのだろうか、彼の受難と苦難はこれからも続くのだろう。



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39話

投稿が滞ってしまい申し訳ありません。病院に行っていたら、想像以上に時間を取られてしまいました。


「さぁツェレ、本日もやって行きますわよ!!!本日はいよいよ、最大出力でのスロットルワークの挑戦ですわ!!」

「わ、分かりましたっ…!やってやりますよ!!」

「その意気ですわ!!」

 

ヨランドがIS学園に滞在し始めて1週間、その間も運営準備で忙しい真耶と千冬はカミツレの事をそれぞれ違った意味で心配しつつも仕事を早めに終わらせようと努力していた。ヨランドは折角なので、学年別トーナメントを見物してから帰国すると決めたらしく、それまではカミツレの訓練を受け持つ事となった。フランスの代表が一生徒を指導し続けるのは拙いという事で、ヨランドはフランスから来た教育実習生という事で押し通す事になった。この設定にするまでに、千冬はかなり苦労したらしくまた胃が荒れてしまっているとか……。

 

「ぐっ……!!言う事を聞けよ、相棒……!!」

「そうそのまま出力を上げ続けるのですわ!その際にも最大の注意を払い続けるのです!!」

 

ヨランドの訓練は常に相手の最大値を計った上での物、成長期であるカミツレの最大値は鍛えれば鍛える程に上昇していく。それに加えて本人が非常にガッツがあり、今まで指導して来た女子達とは明らかに喰らい付き方が異なりそのまま飲み乾そうとする貪欲さはぞくぞくとヨランドを駆り立てた。どんなに厳しい訓練でも、必死にそれに向きあって自らに取り込もうとする姿勢に思わず恍惚とした顔を作り見つめてしまう。

 

「セイヤァァァァアアアアッッッ!!!!!」

「素晴らしい、素晴らしいですわツェレ!!」

「カチドキ、俺に力を貸せぇぇぇっっ!!」

 

そんなカミツレに応えるかのように勝鬨もカミツレに付き従うように共に鍛錬に挑む。本来出来ない筈の事を可能にしているのはカミツレの努力だけでなく、勝鬨が自分から力を貸しているかのような物を感じさせている。必死に鍛錬に励んでいるカミツレは気付いていないだろうがヨランドは確りと気付いていた、彼と勝鬨がまるで一体化しているかのような美しさすら感じさせる動きをしている事に。

 

「(機体稼働率73%……これは、数年以上同じ物に乗り続けた代表候補生でも中々出せない数値ですわ。これは、本当に逸材ですわ)」

 

ISには意志がある。正確にはそれぞれのISコアには独自の人格が形成されており、ISを心から信じて通じ合っている操縦士はISと完全に通じ合えると言われている。しかしそれに科学的な根拠はなく開発者である束博士がそう語っているに過ぎないが、世界最高峰と言われている操縦士達はそれを肯定するような発言を残しているので事実であると認識されている。しかし、それを確かめる事が出来るのは本人たちのみで、未だに未知の領域とされている。

 

「(あそこまで直向きにISと向き合っているツェレを見ると思い出しますわね…わたくしの昔の事を……)」

「そうだっカチドキ、今だっ!!」

「っ!そう、今ですわよツェレ!!!」

 

目の前で遂に指導していた技術、『瞬間加速』の上位技術である『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』の発動を成功させるカチドキは、ハイパーセンサーですら補足不能になる程の速度を叩き出した。成功させたカミツレは着地に失敗し、カチドキと共に地面に叩き付けられたがその表情は痛みではなく驚きに染まっていた。やり方とコツ、そして見本を見せて貰っただけでやれと言われた難度特Aクラスの技術の成功。ただただ驚く相棒(カミツレ)に対してその相棒(カチドキ)は各部から放熱を行った。

 

「で、出来た……?」

 

機体のログを確認して見るとそこには確かな証拠が合った。『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト):成功』と表示されていた。成功率が低く使える者が限られているとされる加速技術、その使い手とされるのは千冬を始めとした国家代表クラスの者達ばかり、生徒でこれを成功させた記録を叩き出した者は未だいない。

 

「ツェレ本当に凄いですわぁ~!!流石はわたくしが見込んだ方ですわ!!」

 

駆け寄ってきたヨランドは満面の笑みを浮かべた、自分の見立てと素質は間違っていないと。未だに信じられないのか間抜けな顔をするカミツレ、だが目の前で我が事のように喜んでいるヨランドを見ているうちに自覚が生まれてきたのが徐々に表情が崩れていく。

 

「や、やった…やったぜヨランドさん!!!お、俺出来たぜリボルバー!!!」

「ええ流石ですわね!!それこそ貴方の努力の結晶ですわ!!さあ今の感覚を忘れないようにもう一度ですわ!!」

「おう勿論!!」

 

立ち上がったカミツレは先ほどの感覚に身を委ねて、再度行おうとして出力を上げようと勝鬨もそれに合わせるようにするが……カミツレも意識せずに勝鬨はそのまま膝を付いてしまった。

 

「へっ?カ、カチドキ如何した?」

『システムエラー、機体冷却不十分。解除を推奨』

「ま、まさかオーバーヒートですか!?いけませんわツェレ、急いで解除を!!」

 

『個別連続瞬時加速』は本来機体出力に優れ、機動性が売りなISで真価を発揮する技術。言うなれば、あの一夏の白式のような高い出力を有している機体だからこそ扱いきれる物。しかし、勝鬨はそこまで出力自体は高くはなく、カミツレの事を考慮して防御面を強化しているので機体出力に比べて重量が重い。よって『個別連続瞬時加速』を行った場合、機体に必要以上の負荷を齎してしまいオーバーヒートを引き起こしてしまったのである。

 

「あちっ!!あちあっつぅっ!?何これマジで熱いんですけど!!?あっぢぃぃぃっ!!!」

「ツェレ早く解除を!!」

「アァァチャチャチャチャチャチャチャッアチャァァァ!!?」

 

熱さに悶えながら勝鬨を解除するカミツレ、身体にこびり付くかのように燃え滾る勝鬨。オーバーヒートという今まで体験もした事もない出来事に驚きを覚えつつ、勝鬨に無理をさせてしまった事をすまなく思うカミツレ。折角出来た技術ではあったが、封印した方が良いとヨランドに言われてしまい、思わずガックリするカミツレであった。そんなカミツレを励ますようにしながらもヨランドはとある人物との模擬戦を薦めてきた、その相手とは……

 

「えっ俺がカミツレと戦うのか!?」

「……マジで?」

「マジですわ」

 

同じ男であり、尊敬する千冬の弟である一夏であった。

 

 

 

「―――っ?オーバーヒートにリボルバー……へぇ……中々やるじゃん。じゃあ、そろそろ、君の価値をこの大天災である私に見せて貰おうかな……ねぇ―――ち~ちゃんのお気に入り君?」



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40話

「まさか、織斑とやる事になるとはなぁ……」

「クラス代表選考戦では、カミツレさんが限界で行えませんでしたものね」

「それを言うなよセシリア……セシリアとの試合がハードで全部出し切っちゃったのさ」

「まぁお上手ですね♪」

 

その日、借り切られたアリーナでは非公開の特別試合が行われようとしていた。男性IS操縦者のスペシャルマッチである、織斑 一夏 VS 杉山 カミツレ。入学直後のクラス代表選考戦では叶わなかったカード、それがフランス代表であるヨランドの手によって実現しようとしている。勝鬨の安定と放熱、システムの調整が済み、今現在は機体の調整をしながら試合の時を今か今かと、ピット内でセシリアと共に待ち続けていく。

 

「しかしまさか学園に、あのヨランド・ルブラン氏が居るなんて……予想もしておりませんでした。カミツレさんからご紹介された時は腰が抜けそうでしたわ」

「まあ俺も驚いたけどさ、結構良い人だよヨランドさんは」

 

ヨランドの指導は厳しいがそれは相手を思っての事、相手を常に成長させ続けながら全力を自覚させるという物。彼女の訓練を通して今までの全力を把握した上で、全力の最大値を上昇させる事が出来ている事をカミツレは知っている。『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』の成功が良い例である。カミツレの嬉しそう且つヨランドを尊敬するような言い回しにセシリアも同意するが何処か危機感を覚え始めた。以前、確かにイギリスの代表候補生に推薦するという話をしたがそちらは未だに正式な物を受けてもらっておらず、専用機の開発も彼は迷い続けている。このままではフランスに行ってしまうのかという事を考えずに入られなかった。

 

「(い、いけませんわ……カミツレさんがお喜びになっていますがこれは、私にライバル出現ですわ…しかも、相手があのヨランド・ルブランなんて相手が強敵過ぎますわ……!!!)」

 

ルブラン家は由緒但しい血筋であるだけではなく、名が知れ渡っている超名門貴族でありその現当主ヨランド・ルブランは歴代最高の当主と名高い。オルコット家の何歩も先へと行っている存在で自分も優秀さでは負けていないだろうが、彼女には圧倒的な経験がある。それを覆す事が容易ではない、如何にかいい方法を考えなければ…。そんなセシリアの不安に気付けずに勝鬨の調整を続けるカミツレだったが、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「なあセシリア」

「えっはっはいなんでしょうか!?」

「セシリアってさ、ISを展開してる時に一体感を感じた時ってある?」

「一体感、ですか?」

 

質問の意図がよく分からなそうに首を傾げる、ISを纏っている状態はそれと一体化しているとも言っても可笑しくない状態。それを長年続けてきたセシリアとしてはその状態こそ一体化、一心同体とも言うべき物と考えているので一体感と言われてもいまいちピンと来なかった。

 

「一体感、と言っていいのか分かりませんが…ISが私が動かすまでもなく動いた事ならありますわ」

「えっそんな事ってあるのか!?」

「はい、本国で数回ありました。本国の技術者は無意識下による制御と言っておりましたが、あれは違うと断言出来ます」

 

セシリアは模擬戦の最中、死角から攻撃を受けそうになった。それに気付けはしたものの到底反応出来ない物だった、ダメージを覚悟したが相手からの攻撃は何時まで経っても自分を貫く事はなかった。それは何故か、動かしていなかった筈のティアーズが稼動し敵を攻撃していたからだった。しかし、自分はティアーズを動かした覚えなどなく理解が追いつかなかった。

 

「あれは、ティアーズが私を守ろうとしてくれたのではないか…そう思えるのです」

「不思議な話だな…それはある意味、一体感というよりもISと心が通じ合ってるって言えるような状態なんだな」

「ええ、とある方が言ってました。最高のIS乗りとは技術だけではなく、ISと共に空を舞うのだと」

「……セシリアの話を聞くと印象がガラリと変わる言葉だね」

 

ISが自らの意志を持って搭乗者を守る、それを聞いて一番に連想したのはセシリアとの戦いの時の事。シールドから零れるように落ちてきたブレード、あの時も少し思ったが勝鬨が自分の為にブレードを落としてくれたのかもしれないと今の話を聞いて思った、がそれは流石に無いだろう。セシリアのように長期間使っていたならまだしも、あの時は勝鬨に乗り初めて1週間程しかたっていなかったのだからありえない。下らない思考はこの位にしておくとしよう、間もなく試合の時間なのだから。

 

「さてと…織斑との戦いか、余程の事が無い限り真耶先生や千冬さん、ヨランドさんの訓練よりマシだろ」

「それは明らかに比較対象が可笑しいと思うのですけども…」

 

思わず呆れるような声を出してしまうセシリア、一部では英雄のように崇められている面々に指導されているカミツレ。気付けば入学当初よりも体格はガッシリとしたものとなり、腹筋も割れてきている。その身体を纏うかのように展開されていく勝鬨の姿は酷くマッチしている。重厚な鎧を纏った戦士、セシリアはそんな印象をカミツレに受けて頬を赤くした。

 

「全システムオールグリーンっと、調子良さそうで安心したぜ相棒。それじゃあ……セシリア、勝ってくるよ」

「はい。いってらっしゃいませ!!!」

 

セシリアに応援の言葉を受けたカミツレはゆっくりと、勝鬨を動かしながらアリーナへの発進準備を整えた。そして千冬からアリーナへ出ろという言葉を受けて勝鬨にこう誓った。

 

「お前にはまだ勝ちって物を上げる事が出来てないよな、今日はそれをお前にプレゼントしてやるよ。カチドキって名前に相応しい勝利って奴をよ!!」

『杉山いいぞ。出撃しろ』

「了解。勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレ、行くぞっっ!!!」

 

力強い言葉と共に飛び出して行くカミツレ、その表情は何処か晴れやかとしている。そんな相棒を笑うように勝鬨は滑らかに出力を上げていく、彼の言葉に喜ぶように。



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41話

貸し切られたアリーナ、その中ではある意味で学園中の女子達が垂涎物のスペシャルマッチが行われようとしている。織斑 一夏 VS 杉山 カミツレ。アリーナ内に飛び出した二機のIS、純白の剣「白式」を操る一夏と黒鋼の鎧武者「勝鬨・黒鋼」を操るカミツレ。それが今、ぶつかり合おうとしている。

 

「遂に、お前と戦う時が来たなカミツレ!」

「ふぅ……相変わらず無駄に元気な奴だ」

 

開始位置に付いた両者、何処か嬉しそうな笑みを浮かべつつも挑戦的な意志をぶつけている一夏。落ち着きと呆れにも似た笑いを浮かべつつ鋭い視線を投げ掛けているカミツレ、対象的な二人は今か今かと試合開始の合図を待っている。そんな二人を管制室から見つめる複数の視線は千冬、真耶、ヨランドという審判役の物で気合十分な二人にそろそろ始めさせてやるかと千冬がマイクを取った。

 

『それではこれより、織斑 一夏 対 杉山 カミツレの試合を開始する。両者、用意は良いな。では…カウントスタート』

 

千冬の声が途切れると同時に試合開始までのカウントコールがスタートする。一つ一つ点灯の色を変えていく表示、刻一刻と迫ってくる試合開始の合図。喉を鳴らしつつもその手に握りこんだ雪片に更なる力を込める、同じようにブレードを握っているカミツレだが彼には一夏のような気迫は無く、酷くリラックスしているような表情で視線を一夏へと向け続けている。そして遂に…表示が変化し試合がスタートした。

 

「っ!!」

 

まず動いたのは一夏だった、開幕と同時に出力を高めながら一気に後退しようとする。がそれよりも早くカミツレの手にはライフルが握りこまれ銃口が向けられると共に火を吹いた。浴びせかけられた銃弾、それを受けつつも激しい機動を開始する一夏。照準を絞らせないようにと動き回っていく、機動性抜群の「白式」スピードならばレーザーよりも遅い銃弾程度回避するのは容易いと考えての行動。

 

「愚直に突進するのは止めたか」

「千冬姉に散々怒られたからな!!おわっ!?」

 

回避行動や開幕の行動も全て千冬の教え、未熟な一夏には最初は回避に専念させ相手になれる事が一番だと教えられた。火器が一つも無い「白式」に取れる手段は接近戦以外に存在しない。しかし、その接近戦を挑むまでもが鬼門としか言いようがない。ライフルなどが無いという事は牽制すら出来ないので相手の隙を突き、その瞬間を逃さずに「白式」のスピードで詰めるしか選択肢がない。それが出来ない一夏は千冬にそれを叩き込まれた、開幕に突撃ばかりする一夏を調教するのは大変だったと千冬は述べる。

 

しかし、そんな動きはカミツレにはバレバレであった。開幕時、一夏はまず後退し相手を観察する事を考えていた為かスラスターにそれが顕著に現れていた。翼が内側に向いてしまっていた、それはカミツレにこれから後退しますと宣言しているような物であっさりとライフルによる攻撃を受けてしまった。そして今、スピードで相手の攻撃を避けながら隙を探そうとするが偏差射撃によって身体に銃弾を浴びる。

 

「くっやっべっ!?うおおおおっっ!!?」

 

かなりのスピードで回避を行っている筈なのに先読みされているかのような射撃に慌てながら、出鱈目に避け始める。カミツレの師は真耶、真耶が一番得意としているのは射撃。彼も射撃はかなり仕込まれている。セシリアほどの精密な偏差射撃は行えないが、それでも一般的な偏差射撃程度は出来る。が出鱈目な動きの一夏に狙いが付けづらくなったのか、射撃のテンポが落ちる。その時、一夏はニヤリと笑った。

 

「いまだっ!!」

 

刹那、一気に引き上げた出力は凄まじい速度となって「勝鬨」の懐へと飛び込み雪片を振るう。それはシールドによって防御されてしまうが、一夏にとってこれはいい展開であった。ブレードが届くまでに距離を詰められたのだから。

 

「こっからは俺の番だぜ!!」

「接近戦が得意なのはお前だけじゃ、ないけどな!」

「だぁりゃ!!」

 

完全に距離を詰める事に成功した一夏、相手に展開の暇を与えぬように連撃を繰り返しながらカミツレへと迫り続けていく。それらの攻撃を全てシールドや腰部の装甲で受けて防御を行っていくが勢いは完全に一夏が上であった。ライフルを撃とうにも向けようとすればライフルを狙い雪片が振るわれる、ブレードを出す暇も無いほどの攻撃にカミツレは追い詰められているかのように見える。

 

「如何した如何したカミツレ!!こんなもんかよ!!」

「……甘くみるなよ、俺の積み重ねてきた物を!!!」

 

刹那、一夏が切り裂こうと雪片を振るおうとした瞬間にライフルを雪片へと投げつけた。パワーアシストがあるとはいえ一瞬重くなってしまった雪片で隙が生まれた。上へと弾かれたライフルを見ながら、その手に二本のブレードを展開させながら、雪片目掛けて斬りかかる。

 

「ぐっ重い……!!」

「こんなもんかよ、お前はっ!!!」

 

二本のブレードの圧力、それを必死に押し返そうとするが不意にそれが軽くなった。それに好機を見出し、一気に雪片を振りぬくが何も捉える事が出来なかった。カミツレは身体を沈ませそれを避けた。そして瞬時にブレードを収納しながら片手に、予備のライフルを展開しながら落ちてきたライフルを握り締めて引き金を引いた。

 

「ぐぅぅぅう!!!お、俺だって努力してるんだ、頑張ってる。だからまだまだ!!」

「その程度で努力か…じゃあ俺がやってるのはなんなんだろな!」

 

一夏の言葉に軽い怒りを感じたのは、感情を言葉に変えながら銃弾を受ける彼を思いっきり殴り飛ばした。吹き飛んでいく一夏に追いつくように『瞬間加速』を発動させてそのスピードのまま蹴りを加えた。

 

「くっくそ!!負けて、堪るか!!千冬姉にあんなに迷惑掛けてるのに……情けない所見せられるかよ!!」

 

必死に剣を振るう一夏、まだ闘志は死んでおらず機体を制御しながらカミツレへと向かっていく。まだ近距離に「勝鬨」は居る。この距離を失ってはいけないという考えが一夏を突き動かす、此処で引いてしまっては自分は確実に勝てなくなる。だが、カミツレはそれを嘲笑うかのような滑らかなスロットルワークで機体を完璧に制御し、自在にコースを変えながら接近して来る。自分が見た事もないような機動に、一夏は思わず唖然とした。

 

「す、すげぇ……な、なんでお前はそこまで」

 

強いんだと口にする前に、二本のブレードが斬撃で機体を強く揺さぶった。その先にあったのは鋭い瞳であった。

 

「強いんじゃねえ、俺は強くなってるんだよ。俺は…真耶先生に、セシリア、千冬さん、ヨランドさん。俺は良い人たちに巡り合えた。その出会いが、俺に強くなる機会を作ってくれたんだよ!!!」

 

鋭い視線と剣撃、対応しようと振るわれた自分の剣はあっさりと受け流れて消えていく。その代わりに相手の斬撃が刻み込まれていく。その一太刀一太刀に込められているのは此処まで歩んできた努力の重み、自分に力を貸してきてくれた人達から受けた思いの大きさ、そして自分の意志。

 

「基礎、理論、心、応用。俺はそれをあの人達から貰ってんだよ。俺だってな、情けない所は見せられねぇんだよぉ!!!!」

「俺だって、そうなんだよぉぉおお!!!」

 

一夏も、思いの丈を叫ぶかの如く「白式」の切り札を起動させた。『零落白夜』が作動し雪片へと光が収束して行く、光の刃となった雪片をカミツレへと振るう。

 

「セイヤァァァァァアアアアア!!!!!!!」

 

意志、思い、気迫が込められた一喝に勝鬨は共鳴するように出力を自然と上昇させ『瞬間加速』を発動させた。それによって生まれた一撃は真空の刃を纏ったまま、一夏へと向けた。圧倒的な速度で一夏の最強の一撃を潜りぬけながら、速度の中で生まれた一撃は「白式」へと炸裂しながらそのままそれを通り過ぎた。同時に試合終了のブザーと千冬の声が鳴り響いた。

 

『そこまで!白式、SEエンプティ。よってこの試合は 勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレの勝利とする!!』

 

その宣言と共にカミツレは大きく腕を振り上げながら叫んだ、心からの喜びを含んだ勝利の雄叫び。相棒の名の由来である凱歌、勝鬨を堂々と上げた。そしてその時に、カミツレはカチドキから勝利の祝福のような声を聞いた。何かの間違いかもしれないが、それはきっとISの声なのだろうとカミツレは勝鬨を上げながら笑っていた。

 

『……初勝利、おめでとう御座います』

「ああ有難う…えっ?」

 

 

 

 

―――へぇっ……機体稼働率76%?ふぅん……興味深いね、まさか本当に此処まで目覚めさせるなんて驚きだよ……少し、楽しみになって来たかもね。



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42話

「……負けた…」

 

思わず呟いた言葉は中に浮かび上がっては消えていく、虚空に消えて何も残さなかった。ピットへと戻った一夏は「白式」を解除しながら上を見上げた。

 

「い、一夏残念だったな……」

「箒……」

 

此方の様子を窺うかのように声を掛けてくる箒、慰めるように言葉を掛けてくるのが何処か有難くもあり辛くもあった。絶えず必死に言葉を選んで励まそうとする箒の言葉は一夏に届かない、一夏の頭の中には先程の試合でのカミツレの言葉がループし続けていた。

 

 

『―――強いんじゃねえ、俺は強くなってるんだよ。俺は…真耶先生に、セシリア、千冬さん、ヨランドさん。俺は良い人たちに巡り合えた。その出会いが、俺に強くなる機会を作ってくれたんだよ!!!』

 

 

『―――基礎、理論、心、応用。俺はそれをあの人達から貰ってんだよ。俺だってな、情けない所は見せられねぇんだよぉ!!!!』

 

 

圧倒的な強さだった。自分とは比べ物にならない強さを彼は持っていた。始まりは同じ立場だった、だが持っていた考えや心構えは異なっていた。楽観的な考えをしていた自分と違ったカミツレは、常に自分を追い込むかのようなスタイルで自分を高め続けていた。女子校である学園の空気に困惑して、慌てていた自分とはスタートが全然違っていた。自分と只管に向き会っていたカミツレは何時の間にか、気付かない間に学園の空気にも馴染んでいた。

 

「なぁ箒」

「な、なんだ一夏?」

「カミツレって、本当に強いよな……今俺さ……」

 

カミツレの回避を見た、攻撃を見た、防御を見た、その全てが自分の何倍も上のレベルの物だった。それはただ単に努力してきたからこその結晶であり、その結晶を身体に宿しているが故の必然であったのだろう。それが酷く輝きを放って見えた、美しいと思った、尊敬した。

 

「すげぇワクワクしてる、カミツレって凄いよな!」

「一夏……?」

「負けたけど凄いワクワクしてる、箒と剣道の真剣勝負で負けた時みたいにさワクワクしてる。またやりたいってさ」

「そうか、そうか……ならばお前の目標は杉山か」

「ああ、決めた俺はあいつをライバルにする!」

 

そう意気込むと心が更に燃え上がった。自分でも分かるほどに心臓が大きく高鳴った。本気で倒したい相手を見つけた一夏の煌びやかな笑顔に箒の胸も高鳴り、今まで以上の高鳴りに息が詰まりそうになった。それほどに今の一夏は輝いて見える。それを隠すように箒は笑いながら言う。

 

「ライバルではないだろう、杉山から見たらお前は競争相手ではないのだからな」

「ゲッ…言うなよ箒ぃ……た、確かに今の俺はカミツレから見たら弱いかもしれないけどこれから強くなるさ!!」

「それで杉山と並び立つには何年掛かるんだ?」

 

辛辣な言葉が一夏の胸を貫いた。確かにそうだ、大きな差を付けられてしまっている自分がカミツレに追いつくのは並大抵な事ではない。加えてカミツレだってどんどん伸びていくのだから、追いつく事は難しい処の話ではないのだから。

 

「せ、折角盛り上がってるのに……み、見てろよ箒!!絶対に箒がビックリする位に強くなって見せるからな!!!」

「いや、私ではなく杉山を驚かせるべきだろう」

「ぐ、ぐぬぅ……」

 

ぐうの音も出ない正論に何も言えなくなってしまう一夏、そんな彼を見て笑いながら箒はそっと手を重ねた。

 

「大丈夫だ、私は常に傍でお前を見守っている。私と共に強くなろうじゃないか、なっ」

「ほ、箒……いきなり優しくなるなんて、熱でもあるのか?」

「……一発殴らせろ」

「な、何でだよ!?ぼ、暴力反対だってぐはぁっっ!!!!」

 

織斑 一夏、覚悟を持って強くなる事を箒に誓う。その直後、箒に一発を貰う。

 

 

「……」

「え、えっと……」

『残存SE93%、初勝利の戦歴としては素晴らしい物と言えます。お見事です』

 

カミツレとセシリアはピット内で硬直していた。未だ「勝鬨」を纏ったままカミツレは驚きで言葉を失い、セシリアは驚きで言葉が見付からずに動揺を露わにしている。そんな中で響く声、機械的で一切の乱れがない規則正しい音にすら聞こえる声は「勝鬨」の状態を報告しながらカミツレの事を賞賛する。しかしピット内には二人しかいないのに何処から聞こえてくるのか、簡単である―――カチドキから声が聞こえてくるのである。

 

「セシリア、気のせいか。カチドキから声が聞こえて来るんだが」

「私もそのように聞こえますわ…これは、幻聴でしょうか?」

『人間の言う「幻聴」は刺激を受けていないのにも関わらず何かが聞こえるように感じる事を示します。この場合には適応されません。この場合は「現実逃避」が87%で適切な言葉だと指摘します』

「……ああうん、一言言わせろ……お前誰だ!!?」

 

ただただ指摘する声にいい加減カミツレが突っ込みを入れた、勝利直後にも聞こえてきた声もこれが原因だとしたらこれは現実だ。だが如何してカチドキからこんな声が聞こえてくるのか全く理解出来ない。

 

『私はVer.7のISコア、№274のコアを使用したIS。機体名称「勝鬨・黒鋼」のコア人格です』

「コ、コア人格ですって!?ま、まさかそんな……!?」

「えっと、つまりカチドキって事で良いのか……?」

『はい。貴方が相棒と呼ぶ存在の人格と思っていただければ、理解をし易いかと思います』

 

ただただ驚く事しか出来ない、初勝利を飾った直後に自分の相棒のコア人格が話しかけてきている。これで混乱するなというほうが無理だ。

 

「ISのコアにはそれぞれ人格が形成されていると聞きましたが……まさか本当だとは、驚きです……」

『コア人格については篠ノ之博士が公表済みの筈ですが、世間ではそれが事実とは捉えておらず一部のみがそれを確認している事は承知しています。残念な限りです』 

「む、難しい事は分からんが…なあカチドキ、如何して今まで話しかけてくれなかったんだ。話せたら楽しかった筈なのに」

 

専門的な知識があるセシリアはただただ驚きと事実を受け止めようとするのに必死であったが、対するカミツレはそれをあっさりと受け止め、如何してもっと早く出て来なかったのかと質問する。彼としてはまるでロボットアニメの主人公とその相棒のAIのような関係、それにやや興奮気味なようであった。

 

『申し訳ありません。私達コア人格が表に出る為の条件は限られています、その最たる条件が博士の許可なのです』

「博士って…篠ノ之のお姉さんの事か」

『はい。ISの生みの親である篠ノ之 束博士です。博士が許可しない限り、コア人格は会話などは出来ません。現在コア人格を確認した事がある操縦士達も「言葉を渡し合う」意味での会話はあるでしょうが、私のように直接音声として言葉を発し、会話したという事はない筈です』

 

コア人格が音声でコミュニケーションを取る為の条件は幾つかあるらしく、カチドキの場合は機体の稼働率を75%以上にする事。カチドキに対して人間のような信頼を置く事、相棒として認識する事、束の許可を取る事が条件で合ったらしい。条件の内の二つはセシリアとの戦いの時点で達成していたらしく、あの時は少しばかり手伝いをしたらしい。

 

「へぇ…他の人も喋れたら良いのにな」

『それには同意します。コア人格を認識している操縦士とそのコア達は話したがっている場合が多いです。私もその一例ですが』

「ふぅん……それはラッキーかもな、他のコアに自慢出来るぜきっと」

『皮肉を検知』

「えっ今の皮肉に入るの?」

 

そんなやり取りをしながらカミツレは酷く嬉しそうに笑っていた。相棒と言える存在が本当の意味で相棒となった瞬間なのだから。しかし、それは嵐の中心へと自ら飛び込んだのと同義だというのを彼はまだ知らない。



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43話

「……また、あいつとんでもない事になったな…」

 

自室で一人、カミツレが作り置きしてくれた野菜スティックを齧りつつ呟く千冬。絶妙な塩加減と良質な野菜の味と歯応えで思わず手が止まらなくなってしまう、それを肴にしながらビールを呷るが如何にも溜息が出てしまう。一夏とカミツレの試合、文字通り一夏に力を差を見せ付けて勝利をもぎ取ったカミツレ。その際の試合の言葉には、不覚ながら嬉しく思ってしまった。そこまで感謝されると正直気恥ずかしくなって来てしまう。しかし問題はそこではない。

 

『千冬さん、俺の相棒紹介しますよ。カチドキのコア人格です』

《織斑 千冬、貴方の事は博士からよく聞いています。私はVer.7のISコア、№274のコアの人格。カチドキの名を頂きました》

『……まて、理解が追いつかん』

『ツェレ……貴方は何処まで見所があるのでしょう!!矢張り素晴らしいですわ、流石は私の弟子!』

『ヨランドさん!!カミツレ君は私の弟子ですってば!!』

『そこじゃないだろうがお前ら!!』

 

ISコア人格の覚醒、世界でも類を見ない事態を巻き起こしてまっているのが問題なのである。親友でもある束が公表したコア人格について。開発者たる篠ノ之 束がそういうのであれば確かなのだろうと言われている反面、それは科学的に確認出来ないとして放置されている事象の一つでもある。が、千冬を含めて世界トップクラスのIS操縦者はコアに人格があると確認している。千冬も夢か現か分からぬような状態ではあったが、コア人格と言葉を渡し合った事があった。しかし、カミツレはそれとは全く違う状況である。

 

コア自らが意志を表明し、声を発している。これによってコアに人格がある事が決定的な物となったがそんな事など如何でもいい。一番の問題は、カチドキがコア人格の覚醒の条件の最たる物としてあげた物―――篠ノ之 束の許可、それである。カチドキの目覚め、それはある事を意味してしまう。篠ノ之 束が杉山 カミツレに対して興味を抱いたという事。

 

「これは、一夏以上にあいつは注目されかねない……いや束との交渉すら考える輩が出てきかねんな」

 

由々しき事態になってきている、何とかして彼を守るための手段を確立しなければ…いや逆に考えるとカミツレは遠回しに束に視られているという事にあり、寧ろそれを利用して後ろ盾に出来るのではないか。だがそうなると様々な面でも面倒が起きる、ヨランドに協力を仰ぎつつなんとかしなければならない……。

 

「やれやれ、また私の苦労が増えるのか全く……私の胃のケアをしておきながら、お前が攻撃して如何する」

 

そう言いつつスティックに手を伸ばす千冬だが、不思議とストレスは感じておらず何処か口角が上がっている事に気付いてはいなかった。面倒と口で言っておきながら心ではそうは思っていない、何処か笑みを浮かべながら野菜を口へと運び続けている彼女はただただ嬉しそうにしている事に気付けなかったが、一瓶を空にしてしまったので新しい物を冷蔵庫から出そうとした時、カミツレの言葉がフラッシュバックする。

 

『野菜スティックならいいですよ、でも塩分の事もあるので食べすぎには注意ですよ』

「……ああ悪かったよカミツレ」

 

それに従い後ろ髪を引かれつつも手を戻し、残ったビールを飲み乾し洗って捨てる。何時の間にか、カミツレの言葉通りに食生活などを送っている気がする。野菜中心の食事に酒も控えるようになったからか、肌の調子も胃腸も良い。軽いストレッチなどもするようになり、やや不摂生だったのが健康的な物へとなっていた。このままこんな事が続けばいいのにと思わず思ってしまう。

 

「……やれやれ私は何時から年下趣味になった?あいつは私の生徒、あいつにとってはクラスの担任。それでいいだろう」

 

そう締めるとシャワーを浴びる為に立ち上がった、そして熱いシャワーを浴びながらこれからの事を考える千冬の心の中は少し荒れていたが本人はそれに気付けていない。束に目を付けられた事が、どれだけとんでもない事か理解している筈なのに……。

 

 

「それじゃあ…カチドキは専用機の開発は受けるべきだって言うのか?」

『はい、カミツレの技術は現状の私では活かしきる事が出来ません。「個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)」の件にてそれは理解していただけるかと』

 

自室にてカミツレはコミュニケーションが取れるようになったカチドキと会話をしていた。その内容は自身に来ている専用機開発の件についてであった。

 

「でも、あれは元々機体性能とマッチしてない技術だから…俺はカチドキで十分満足してるぞ」

『「勝鬨・黒鋼」は打鉄のカスタム機ですが貴方に合ってはいません。それにその性能で満足しているというのも、私以外のISを使うのに躊躇しているというのが真実でしょう』

 

そう言われるとカミツレは思わず言葉に詰まった、カチドキの言葉は真実であり自分の本心であった。自分にとってカチドキはただの専用機というだけではなく文字通りの相棒となっていた。そんな相棒から簡単に別の機体に乗り変えるというのが何処か嫌だった。それはカチドキと話せるようになってから、尚強くなった気持ちでもあった。

 

『そのお気持ちは受け取りますが、これから先も貴方はISに関わるしかないでしょう。ならば逆にそれを利用すべきだと提案します』

「……でも、折角話せるようになったのに……」

『大丈夫です、新たに開発された専用機のコアと担当を変わって頂けるように話は付けられます。コア・ネットワークを使用し内部データを移植すれば、私は変わらず貴方と共にいます』

「えっマジで!?」

『肯定』

 

それを聞いたカミツレはホッと胸を撫で下ろした、そして専用機開発を受けると決心をしつつカチドキと共に資料を見つめ何処の国にすべきかを協議する事となった。カミツレの希望を聞きながら、カチドキはコア・ネットワークを活かして情報を収集する。役割を確りと分けながら話は進んでいく。

 

「俺としてはイギリスにしようと思ってるんだ。早期に接触があったしプランにも文句はないと思うんだ」

『しかしカミツレとBT兵器の相性はまだ未知数です、慎重になるべきです』

「カチドキのお勧めとしては?」

『性能面や特徴だけで見れば中国及び台湾の龍系列機がお勧めしますが、国柄や政府面を総合すると不適格です。此処は信頼性などを考えイギリスが第一候補でしょう』

「やっぱりそう思うか」



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44話

「と、という事は正式にイギリスからの希望をお受けして頂けるのですね!!」

「ああ。さっき織斑先生にそう返事をしてきた、俺の専用機開発はイギリスに頼む事になる」

「本当にお約束を守ってくださるなんて、私嬉しいですわ!!」

 

六月もいよいよ最終週へと突入し、学園内は間もなくに迫る学年別トーナメントの空気へと変わっていく。当日まで後数日となった日にカミツレはセシリアと昼食を取りながら、専用機開発の返事をセシリアへと返した。カチドキと何度も協議し、情報を集めつつ吟味してベストな結果として導き出されたのがイギリスであった。有力な候補としてドイツなども上がっていたが、カチドキ曰くドイツは信用ならないとの事らしい。相棒の意見を尊重しつつ、その結果をセシリアへと報告する。

 

「これで、カミツレさんは実質的にイギリスの代表候補生決定ですわね!」

「まあそう言う事になるかな」

『オルコット候補生の言う通りです。国が専用機開発を希望し、それを受けるという事はその国との関わりを強く持つ事と同義です』

 

よってまだ不確定な事ではあるが、カミツレはイギリス国家代表候補生の肩書きを背負うと同時にイギリスの一員という事になる。これであれほど欲していた政府の後ろ盾という物を手に入れた事になる、同時に家族の安全を手に入れられる……そう思うと身体から力が抜けてしまう。それをセシリアが支えるように腕を絡ませた。

 

「これで名実共に私達は立派なタッグですわね♪」

「そうだな、トーナメントは一緒に頑張ろう」

「はいっ♪」

 

迫っている学年別トーナメント、トーナメントはタッグルールが採用されており二人一組で挑む事が規則になっている。カミツレがパートナーとして選んだ相手はセシリア、入学当初から彼女から理論を学んでいた事や同室であった事、共に真耶の下で訓練を受けていた事などを総合した結果タッグを組んだ。実は乱からも猛烈なアプローチを受けたのだが…その時にはセシリアとタッグを組むというのを提出してしまっていたので、乱は酷いショックを受けると同時にセシリアを睨みつけていた。肝心の彼女は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながら嘲笑するかのように乱を見ていた。

 

『み、見てなさい!!必ず私が貴方に勝って私こそがカミツレさんの隣に相応しいって事を証明するんだからぁ!!それじゃあカミツレさん失礼しますね♡見てなさいよこの実用性皆無の英国面!!』

『わ、私のティアーズが実用性皆無ですって!!?きぃぃなんて失礼な事を言うのですか!!』

 

因みに乱は鈴と組んだとの事、恐らく1学年中屈指の強さを誇るタッグになるのは明らかだろう。他のタッグはどんな面々がいるかというと……シャルは力になろうとしてくれた一夏と組む事になり、箒とラウラは抽選に委ねる事にしたと言っていた。

 

「当日が楽しみだ……っとそろそろ授業始まっちゃう」

「では参りましょうか」

「ああ」

 

 

そして、学年別トーナメント当日。この日、IS学園には各国からやってきた来賓などで賑わっていた。各国政府関係者、研究所員、企業のエージェント、その他諸々の顔ぶれが学園に会している。カミツレもこの顔ぶれにはやや圧倒されているのか、誘導などの手伝いをしている際にTVで見た事がある人物と何度も遭遇していた。が、それはカミツレも同じ立場とセシリアに言われると何とも言えなくなった。

 

「おおっ君が杉山君だね、私は日本政府の……」

「そういうのはいいのでさっさと受付してもらえませんか。後がつっかえてるので」

「えっあの少し話をだね……」

「他人の迷惑も考えられない人と話す価値は無いです」

 

加えて自分が何も言えなくなった事と言えば……妙に日本政府が絡んでくる事であった。受付の手伝いをしている際も、日本所属の官僚や研究所員などが妙に話しかけてきて邪魔をしてきた。一体今更自分に何の用があるのだと声を大にして言いたくなってしまった。早々に自分を研究材料扱いし一夏の方を取ったくせに、今更何の用があるのだと思った。

 

「君には是非、日本の候補生になっていただきたいんだよ。君の実力など全てを評価したうえでの結果何だ。どうかね?」

 

今もこうして準備をしているというのにしつこく纏わり付いてくる政府関係者がいる、何が実力など全てを評価だ。評価する以前に自分を研究所へと送る事を決定していたくせに…自分が結果を出したら今度はゴマすりか。

 

「君の為に複数の企業や研究機関が力を結集して専用機開発を行う予定でもあるんだ、織斑君と共にこの日本の為に尽くして欲しいんだ!君も日本人だ、愛する祖国の為になってくれないか!?今までの非礼を詫びる。すまなかった。どうか協力してほしい」

 

自分はその祖国に真っ先に見捨てられたのだが、その辺りはどうなるのだろうか。そろそろ控え室へと行ってセシリアとコンビネーションのチェックをしたいのだが…どうやって振り切った物か……。そう考えていると、背後から一人のスーツ姿の男性が近づいてきた。

 

『少し宜しいかな、君が杉山 カミツレ君でいいのかな?』

『あっはい、そうですけど』

 

英語だった為、拙いながらも英語で返すと男性は思わず英語で言ってしまった事を謝罪しながら自己紹介をしてくれた。

 

「私はリチャード・ウォルコットという者だ、君の事はセシリアから良く聞いているよ」

「セシリアのお知り合いですか?」

「ああ、彼女とは遠いが親戚の関係でね。仲良くしてくれている事に感謝しているよ」

「いえ俺こそ彼女には助けられてばかりで」

 

カミツレは思わずリチャードと仲良く談笑していると、日本の官僚は気まずそうにしながらも話を再開したそうにしているがそんな事は気にせずに話を続ける。

 

「今回、君が我が英国を選んでくれた事は光栄に思っているよ。我々も君の信頼を得られるように一層の努力をするつもりだ、私に出来る事があればどんどん言ってくれよ?セシリアにも言われているからね」

「有難う御座います、それじゃあ取り敢えず…俺これで失礼しても良いでしょうか、セシリアと確認したい事ありますし」

「おおっこれはすまなかったね、それじゃあ頑張ってきたまえ。応援してるぞ!」

 

背中を軽く叩きながら激励してくるリチャードの気持ちを受け取りつつ、そのまま控え室へと向かって行く。後ろでは先程の官僚がリチャードに絡まれており、此方を見つめているが全て無視した。自分は大切なトーナメントがあるのだから。そして……遂にトーナメントが始まるのであった。




次回は恐らく、国同士の話し合いからだと思います。


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45話

信じられます?
45話も書いておいて、まだ第2巻の内容すら終わってないんですぜ?
こんなスローペースな作品、他にあるだろうか。


アリーナの来賓席、各国からやってきた要人や研究所からの職員、各IS企業の重鎮などが集まりアリーナで行われている試合を見物している。その多くが卒業を控え進路への最終追い込みを掛けている3年を目的としたスカウト、そして将来性を感じさせる人材の発掘が目的である。そんな来賓席でも戦いは行われているのである。

 

「今年の生徒達はなにやら気合が入っておりますな、見ごたえがある動きや試合ばかりしてくれる」

「お陰様でスカウトにも力が入るというものですね」

「矢張り、彼らの影響でしょうかな?」

 

ちらりと視線を向けた先に一学年の様子を映したモニター、そこには一夏とシャルが無事に一回戦を突破してガッツポーズを決めている場面が映し出されている。それを見て日本の官僚は良い表情を浮かべながらニタニタとした笑いを浮かべた。

 

「流石は織斑 千冬の弟君。あれこそ次世代のISを引っ張っていく我が国の宝!」

「全く以って羨ましい限りで……」

「全くだ」

 

各国からの視線を受けながら鼻を高くしていた官僚だが、来賓席へと入ってきた一人の男が音を立てながら席へと付くのに釣られるように皆が其方へと向いた。そこには居たのはイギリスの大貴族当主でありIS界にも大きな影響力を持つリチャード・ウォルコットであった、王のようなオーラを纏った男の登場に皆は視線を奪われる。

 

「やぁ皆様方、楽しそうですな」

「ええっミスター・ウォルコット、我が国の宝について話していた所です」

「ミスタ・一夏の事ですかな。まあ興味はありますが、そこまでではありませんな私は」

 

ハッキリ宣言するリチャード、イギリスを代表して来日した男の言葉に官僚の表情が固まってしまった。イギリスは織斑 一夏など如何でもいいと宣言しているのと同義なのだ。その意味が分かっているのかと、驚いている中、モニターから歓声が溢れ出した。そこに映っているのは完全試合を決めたカミツレとセシリアのタッグの映像であった。息のあったコンビネーションから繰り出される攻撃によって、相手を完封しながらの圧勝に来賓席からも声が漏れた。

 

「私の興味は、セシリアとカミツレ君のみだ。彼は素晴らしい、我がイギリスは彼こそ注目すべき存在だと思っております」

「ミスタ・杉山というと、例の試合データの彼の事ですな」

「ああ、あれは実に素晴らしかった。僅かな時間しかISを動かせなかったというのに、あの大立ち回り!あれは私も感動致しました」

「余程の才能があったという事でしょうかな」

 

気付けば一夏の話からカミツレの話へとシフトしていた、それに官僚はあたふたしている。先程まで自分が話の主導権を握っていた筈なのに、何時の間にかそれをリチャードに奪われているのだから。なんとかそれを奪い返そうと咳払いしながら言葉を口にする。

 

「も、勿論彼の事も我々は評価しております。あの二人こそ、これからの日本を引っ張っていく存在なのです!」

「おやっ、妙な事を仰いますな。彼の専用機は我々、イギリスが開発すると決定しておりますが…?」

 

それを口にした途端に官僚の顔は真っ青になった。カミツレの日本に対する心証は最悪であると千冬から言われていたからである、彼は日本が研究所へと送ろうとした事を把握し、それによって日本政府へ強い不信感を抱いていると……故に信頼を獲得する為の努力と条件を提示したつもりだった。だが、イギリスは違う。イギリスがカミツレにアクションを起こしたのは、全世界で一番早いのだから。

 

「そ、それは……ま、まだ完全に決定したわけではなく仮の決定で……」

「彼本人の口から私はそう聞きました、これからも仲良くしてくれるともね」

「ではミスタ・杉山はイギリスの代表候補に……何とも羨ましい事で」

「ぐぬぬぬ……我が国の生徒は何故もっと確りと勧誘しなかったのか……!!!」

 

各国が思い思いの反応を見せている中、官僚はそれでも何処か勝ち誇ったかのような表情を浮かべている。それでも千冬の弟であり束とも繋がりがある一夏を手中に収めている日本こそ、有利な立場のあるのだと信じて疑っていない。確かに優秀な人材を手に入れられないのは痛いが、彼とて日本人だ。誠意を持って接すれば考え直してくれると考えた時、リチャードが忘れていたかのように声を上げた。

 

「実は今、カミツレ君のご家族の方にも私の部下がご挨拶に向かっておりましてな。これからの事に付いて協議するつもりです」

「相変わらずお早い手回しですな、ウォルコット卿」

「いえいえ……カミツレ君のご家族の為、ですからね」

 

一瞬リチャードは官僚を鋭く睨み付けた、それを受けて全身が凍りつくかのように震え始める官僚。全て読まれている、この男に自分の策略なんて通じないのだと思い知らされたかのようだ。

 

「さあ、このような話はここまでにして……トーナメントを楽しもうではありませんか。ねぇ……武里 涼さん」

「は、はい……」

「彼の背後には、我らイギリスとウォルコット家がいるという事を忘れる事なきよう……でないと、怒っちゃいますよ♪」

 

茶目っ気たっぷりに笑ったリチャード、それに周囲は笑いを放つが武里だけは生きた心地がしなかった。身体の芯から冷えていくかのような感覚を覚え、これからも邪魔をするのであれば容赦なく消す。そう言わんばかりの警告に、全身から力が抜けてしまった。そんな武里を見たリチャードはそれを鼻で笑いながら、カミツレとセシリアの健闘を祈る。

 

「(しかしカミツレ君か……セシリアの婿に良いな。是非とも彼女と結婚して貰おう、トーナメント後には私もご家族にご挨拶に向かい根回しを……)」

 

「はっくしょん!!」

「カミツレさん、大丈夫ですか?お身体の調子でも?」

「い、いやなんか急に鼻が……」



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46話

「危なげなく一回戦突破ですわね」

「ああ。訓練して来た甲斐があったって奴だな」

 

トーナメント表を眺めながらカミツレとセシリアは一息つきながら次のフォーメーションについて確認を取っていた。第一学年の優勝候補の一つとして数えられている自分達、それに恥じぬように戦って行こうと思いながら次の対戦相手を見る。次の相手は三組の女子同士が組んでいるペア、代表候補という訳でもないが油断していては痛いしっぺ返しを食らう事も十分に考えられるので慎重に行かなくてはならない。

 

「セシリア、そう言えば俺さっきリチャードさんって人と会ったんだけど。セシリアの親戚って言ってたけど」

「ええっ!?リ、リチャードおじ様が来てらっしゃるのですか!?」

「ああ、親戚っていうのはマジみたいだな」

 

セシリアは何処か嬉しそうな表情を浮かべながら笑った。リチャードはセシリアとはそれなり縁が深いらしく、両親を失ったセシリアを何かと気を掛けて援助をしてくれた人でもある。セシリアが代表候補の道もあると示してくれたのもリチャード本人で、セシリアにとっては様々な意味で恩人なのである。

 

「結構爽やかな人で好きだな俺は。良い人そうだし」

「カミツレさんにもそう言っていただけて私も嬉しいですわ。おじ様はイギリスでも随一の有力者として名を馳せているのです、様々な場で顔が利きますし私もお世話になりました」

「それじゃあ、もっと良い所を見せて……喜んで貰わないとな」

「はいっ!!」

 

決心を新たにしながら挑む第二回戦、その一般生徒である女子が相手である三組の女子コンビ。一般生徒としては手強いといえる実力を携えながら迫ってくるが……

 

『調整終了、行けます』

「セイヤァァァァッッッ!!!!」

「キャアアア!!!」

 

最大出力のままで見事な機体制御を行いながらカミツレは一刀の元にカスタム元である「打鉄」を斬り伏せた。スロットルワークをカチドキに委ねた事でより集中する事が出来たカミツレの攻撃、それは千冬から教わった剣戟を再現したままヨランドの機動によるブーストが掛かり更なる破壊力を生み出しながら襲い掛かった。対戦相手もその攻撃をシールドで防御しようとしたが、加速によって倍増した威力はシールドだけでは受け止めきれずにSEをごっそりと削ってしまう。

 

「流石は、カミツレさんですわ!!私だって、ヨランド代表に鍛えて貰った力がありますわ!!」

 

カミツレと共に訓練に励んだセシリア、彼女もヨランドの凄まじいスパルタ訓練によってレベルアップを遂げている。

 

「そ、そんなっ……!?ティアーズで攻撃しながら自分も移動して攻撃なんて……!!?オルコットさんはそれが出来なくて、一旦操作をやめる筈なのに!?」

「何時までも、私は歩みを止めているわけではないのですわ!!!」

 

愛しい彼の隣に居たい、強くなって彼を支えてあげたいという直向きな思いで訓練に励んで来たセシリアは一層の進化を遂げていた。今までは計算を行った上で相手を絶好の射撃位置に誘導を行い、瞬間的にティアーズの制御をストップさせて自らが攻撃を放つというのが最大の戦法であったが今はそれを超えた。激しい訓練の中で会得したのは並列思考(マルチタスク)である。

 

頭の一部でティアーズを確りと制御しつつ、一部では自らの身体を動かして攻撃を行い、一部ではそれらを総合しながら計算を行うという事を同時に行えるようになったのである。同時に複数の事を行いながら計算を行うのは脳に負担が掛かる筈なのだが…セシリアはその負担をものともせずにそれを行使する事が出来るようになっていた。実質、彼女は一人で三人として行動しているのと同義になっているとヨランドは語っていた。

 

「さあカミツレさん!」

「おうよっ!!」

 

その手に持ったブレードをセシリアの方へと蹴り飛ばすカミツレ、飛ばされたブレードをセシリアは繊細なティアーズの操作でそれを受け止めると、なんと柄頭の部分にティアーズをセットするようにしながらそのまま一気に押し出すように動かす事で、即席のブレードビットとして運用し始めた。

 

「えっちょ嘘でしょ!?」

「残念ですが、現実ですわ!!」

 

ブレードを持ったビットと化したティアーズ、予想もしなかった事態に動揺しまともに行動が出来なくなってしまう生徒に容赦なくティアーズは襲い掛かる。それを落とそうと必死になっているが、繊細なコントロールと相手の行動の先読みで全く当てる事が出来ない。そしてそれに執着していると……

 

「セイヤァァッ!!!」

「キャアアア終わったぁぁぁっ!!!」

 

真下から蹴り飛ばされてきたブレードが身体へと炸裂して体勢が崩れ、更にそこを追い打つかのように迫ってきたティアーズによってSEを削られてしまった。

 

『SEエンプティ!!この試合は杉山 カミツレとセシリア・オルコットタッグの勝利です!!』

 

勝利を手にした二人は声援を受けながら、ハイタッチをしながらピットへと戻って行くとそこにはカミツレも先程官僚を振り払うのにお世話になったリチャードがドリンクを持ちながら待ってくれていた。

 

「やぁお二人さん、名コンビじゃないか。ほいスポドリでよかったかな」

「有難う御座いますリチャードさん、態々差し入れなんて」

「何を言ってるんだい、この位当たり前だよ。それにしてもあれは凄かったな、あんなのを練習していたのか?」

「いえ、あれは私のアドリブです」

 

それを聞いてリチャードは目を見開いてしまった、アドリブであそこまで息の合った事が簡単に出来る物なのだろうか。カミツレにしてもブレードを蹴る力や方向などを計算しなければ行けないし、セシリアもそれに合わせるように操作を行わなければ行けない……この二人は矢張り息が合う者同士という事なのだろう。

 

「でもよくアドリブであそこまで……」

「まあ相手が相手でしたし。代表候補生相手だったら出来ませんよ」

「ブレードビットというのも私がこう言うのがあったら良いなぁというのを、以前カミツレさんと話した事がありましたので」

「いやそれでも素晴らしい、矢張り君が我が国に来てもらって嬉しいよ」

 

ガッシリと握手をするリチャードに恥ずかしそうに頬を欠くカミツレ、何時も勉強を教えてくれているセシリアだからこそ次が読めたのが大きな要因なので、訓練を積んでいれば誰でも出来るとカミツレは呟きつつ恥ずかしいのかトイレに行ってくると去って行ってしまう。そんな彼の後ろ姿を見ながら謙虚で良い子だなと頷くリチャードは、カミツレがいなくなった事に便乗してセシリアに言う。

 

「セシリア、絶対に彼を物にしなさい。彼こそ君の伴侶に相応しい男性だ」

「いやん♡恥ずかしいですわおじ様♡」

「いやいや彼以外にありえない。セシリア、彼のご家族にご挨拶に行くが来るだろう?」

「勿論行きますわ!!!」

 

余談だが、カミツレの家族はセシリアとの結婚には大賛成で兄の一海に至っては

 

「俺の弟をお願いします!!!」

 

と涙を流しながら土下座までして喜んだとか。そんな事になるとは知らないカミツレ、彼の未来は本当にどうなってしまうのだろうか……。



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47話

順当に勝ち進んでいくカミツレとセシリア、その一方で一夏とシャルも順調に勝ちあがり先に準決勝まで勝ち上がる事が出来た。相手が訓練機を使用しているとは言え、その実力を感じさせる戦い方に注目集めている中でカミツレは遂に準決勝へと上がる為の相手と戦う事が決まった。その相手は―――ラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之 箒のペアであった。剣道によって養われた剣のセンスと「打鉄」で安定した戦いをする箒と軍によって訓練を受け様々な状況に臨機応変に高い錬度で対応する事が出来るラウラ。正しく強敵に相応しい相手と言える。

 

「ラウラさんの相手は私がした方が良さそうですわね、奥の手は私なら効果が薄いですし」

「それが妥当だろう。俺が速攻で篠ノ之を落として、二対一の状況を作り出すのが一番ではあるけど」

 

二人が最も警戒しているのはラウラ、箒の安定した戦いも弱いという訳ではないがそれ以上にラウラの存在が厄介すぎる。彼女の専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』は高いレベルで近接から遠距離射撃までこなす万能型、その万能さを活かし箒を援護し勝利をもぎ取ってきている。そしてそのレーゲン最大の武装が停止結界とラウラが呼んでいる物「アクティブ・イナーシャル・キャンセラー」である。

 

元々ISに搭載されているPICを発展させた物であるが、対象とした物の動きを完全に止めてしまう能力を秘めており一対一の戦いにおいてこれほど厄介な武装はない。しかし、それも無敵という訳でもなく幾つかの欠点を抱えているのが幸いと言える。まず使用にはラウラに凄まじい集中力を要する、加えて複数相手やエネルギー兵器には効果が薄い。タッグマッチでは使いにくいとしか言えないが、二対一になった時には無類の強さを発揮する。

 

カミツレとセシリアの場合、カミツレの「勝鬨」が保有している武装の全ては「AIC」には強くないが、セシリアの「ブルー・ティアーズ」はレーザーを主武装しているので相性としては良い。基本戦法はカミツレが前衛、セシリアが後衛にて援護を務める形になる。当然相手としてはカミツレを一気に落とそうとすると思われるが、元々防御面に秀でている「勝鬨」と絶え間ない援護でそれをさせないようにする。そして、セシリアは並列思考の会得によってティアーズを使用しながらの移動攻撃が可能になっているので、「AIC」に捕捉される可能性も低くなっている。

 

「……良し。それじゃあ行きますか!」

「はい参りましょう!」

 

二人はハイタッチをしてから共にアリーナへと飛び出して行く。同時に向こう側のアリーナへと飛び出してくる二機のIS、ラウラと箒。軍人と侍、その二人の闘気がヒシヒシと伝わってくる。自然と構えを取ってしまうが、まだ試合は始まってはいない……そしてブザーが鳴り響こうとしたその時だった、アリーナ否学園全体を揺るがすかのような凄まじい爆音と衝撃が襲い掛かった。

 

「な、なんだっ!?」

『新たなIS反応を確認』

「新たな反応……!?」

 

衝撃と共に舞いあがった土煙の中で何かが蠢くかのような音が響いていた。非常事態である筈なのに皆がそれの存在に注目してしまっていた、逃げるべき筈なのにそれに釘付けにされていた。そして、土煙が晴れた場所に居たのは……見た事もないISであった。以前学園へ来襲して来たISとはまた違った印象を受けるそれは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「おいおいまた乱入者かよ…本格的にどうなってんだよ」

「しかも、このような場面で……!!!」

 

思わずブレードを構えながらボヤいてしまったカミツレ、それに合わせるかのようにライフルで頭部を狙うセシリア。この場合さっさと逃げるのが鉄則だが、あの時と同じくアリーナのシールドを破れるのならば囮をして逃げる時間を稼ぐのが最優先だろう。それはこの場で専用機持ちである自分たちこそ適任、それはラウラも分かっているのか構えを取っている。

 

「杉山にオルコット、それにラウラ……私は後退した方が良いよな!?」

「ああ、状況判断が正しいようで頼もしいな篠ノ之!」

「以前の織斑さんもあの位、賢ければ楽だったのですがね!」

「ぼやくなよセシリア、兎に角やるしかない!!ラウラ、指示出せるか!?」

「ああ、ドイツ軍少佐としてその役目引き受けた!!」

 

この場で指示を出したり纏めたりするのに一番慣れているのは隊を率いる立場であるラウラ、彼女に行動の決定や指示の一任を任せる事にする。が、その時にラウラの「レーゲン」に異変が生じる事となった。

 

「っ!?システムに異常だと!?こんな時に何事だ!?」

「ラウラ如何した!?」

 

突如訪れた「レーゲン」の異常。ラウラはシステムチェックを行うがその時、表示された文字列に眼を疑ってしまった。そこに映し出されているのは世界的に禁止されている筈の物なのだから。その名は―――禁忌のシステムにして最強を降臨させるシステム。

 

【――――VT SYSTEM. START UP……COMPLETE.】

「な、何だとっ!?何故私のレーゲンにこんなシステムが!!?」

 

ラウラの意志を無視して「レーゲン」が動き始めた。操縦者の意志すら完全に無視して行動を開始し始めるIS、それは最早無人機と変わらぬ物であったがその動きは人間が操るISのそれと全く同じ。そしてそれは普段のラウラの動きを完全に上回る圧倒的な機動を持って、乱入して来た敵へと襲い掛かって行く。持てる武器の全てを活用しながら相手の武装を全て潰しながら、動きを抑制し本命の一撃を次々と決めていく。

 

「な、何ですのあれは……」

 

ある意味常軌を逸した光景にセシリアは寒気すら覚えた、ただ相手を倒す事のみに特化している動きをしている。あれは先程まで自分達が何戦もしてきたISのバトルとは全く異なる、相手を殺すための戦い方。それに圧倒されているのは箒も同じであったが、ただ一人違う目で見ている者がいた。それはカミツレであった。

 

「あれって…ヨランドさんの機動に千冬さんの太刀筋……!?」

「とまれっレーゲン……!!!私の言う事を聞け!!如何したというのだ!?」

 

必死に制御を行おうとしているラウラの言葉は届かぬまま相手を蹂躙して行く「レーゲン」にカミツレは既視感を感じている、今自立行動を行っているISの動きは自分に訓練を付けてくれた人の動きのそれと全く同じ。いやそれを複合して行っているので同じとは言えないが、それを切り離して見ると同じ物であると分かった。本人から教えを受けたからこその思考である。

 

「止まれぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

 

絶叫に近いラウラの声、それと同時に止めをささんとした「レーゲン」が停止し制御がラウラへと戻った。敵は既に動かなくなりエネルギーレベルも0になっていた。完膚なきまでに叩き潰された敵を見ながらラウラは自らの手を見つめた。

 

「VTシステム……何故、そんな物が私の「レーゲン」に……!?」

 

不穏な風を靡かせながら、学年別トーナメントは一時中止となった。国際的に禁止されているシステムの露呈、ドイツへの不信感、様々な物が渦巻いたまま……トーナメントの幕は下ろされた。



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48話

「……ヨランドさん、千冬さん。一体どうなるんですか?」

「取り敢えず、トーナメントは中止だな…。あのような公の場で二度目の襲撃とVTシステムの露呈で、もう面倒事が舞いこみ過ぎている……」

「しかし、まさかドイツがVTシステムを使用するなど……信じられませんわ」

「それは私が一番信じられんよ…」

「兎に角、今は各国の要人方々は会議室に集まって貰っていますが…そこでは今もドイツに対する物議がやまない状況ですわ」

 

その場にいた面々は指導室に呼び出されそこで話を聞かされている、当事者であるカミツレ、セシリア、箒、ラウラから事情を聞き今起きている事に付いての説明が行われている。突如来襲した乱入者の事も気になるが、それ以上にVTシステムの事が気がかりでしょうがない。VTシステム、正式名称ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、アラスカ条約で現在どの国家・組織・企業においても研究、開発、使用全てが禁止されている代物。今回敵を倒した際の動きは、カミツレの感じた通りに千冬とヨランドのデータが使用されていた。

 

「しかし織斑先生、VTシステムには肉体面と精神面に掛かる負担がある筈では?ラウラさんを見る限りそんな様子は……」

「うむ。多少身体が軋むような痛みがあるがそこまでではない……

 『レーゲン』の解析を行っているが……搭載されていたVTシステムは大幅な改良が成されていた」

 

VTシステムの大きな欠点であり禁忌とされている理由が搭乗者に対する負担が余りにも大きいという事。当時最高峰の動きを再現する為、システムが搭乗者の事を無視してその動きを再現する為に負担が掛かってしまう。そして、同時に搭乗者に軽度であるが精神汚染が起きるというのも問題点であった。しかし今回発動したシステムはそれらの欠点が改善されており、ラウラも精神的なダメージは受けておらず、軽度の負傷のみに治まっている。

 

そして、本来は部門受賞者の動きを最大一人まで再現するのではなく複数の部門受賞者の動きを行う事が出来る事にある。優勝者である千冬と射撃及び機動部門入賞者であるヨランド、その二人の動きを混ぜ合わせ混合した動きをした。そして、ラウラの手によって僅かであるが制御が出来ていたという点が今までのVTシステムとは大きく異なっている点であった。

 

「今回の一件は十分すぎる程の国際問題の案件になる、だがドイツもこの事態を予め予測していたのか動きが早くてな。VTシステムの改良に成功したと発表しおった…」

「わたくし達の動きを取り入れたISによる国力増強…寧ろドイツは有利な立場になったとさえ言えますわ」

「兎も角、今回はお前達にも世話を掛けた。今日はもう休んでいいぞ」

 

その日は解放された一同、ラウラはこの事を本国に問い詰めると言って自室へと戻って行った。カミツレと箒も自室に戻り休む事にしたが、セシリアはリチャードと今後の事を相談するらしくそこで別れる。因みにこの後セシリアはリチャードと共にカミツレの家族に会いに行ったとの事。

 

 

後日、IS学園を襲撃したISはドイツにて開発中だった新型のISであった事が判明した。ドイツ国内の研究所によって研究開発中であった未完成品の無人型IS、それが何者かによってハッキングされ奪取。その後施設を破壊し尽くした後行方をくらませていた事が報道された。そして、それは何故かIS学園へと向かいそこでドイツが改良したVTシステムによって破壊された。

 

「ドイツの自作自演…」

『そう見るのが妥当な所でしょう』

「だよなぁ……」

 

自室にてそのニュースを見ながら呟いたカミツレに、カチドキが同意するように声を発した。余りにも都合が良さ過ぎる展開とVTシステムの起動と攻撃、如何見てもドイツがそれら全てを仕組んでいると見るのが正解としか思えない。

 

「胸糞悪いな…ラウラは兎も角ドイツは信用ならねえな」

『ラウラ・ボーデヴィッヒは対抗戦時に送り込まれたISのテロの再発防止の為に送り込まれたとも発表されております。しかし、そのテロに使用された物はドイツの兵器。皮肉を感じます』

「ああ……だがその皮肉に多くの人が助けられたのも事実なのが腹立たしい…」

 

だが何処かカミツレは引っ掛かっている事があった、確かにVTシステムの改良に成功したのを公表する事でドイツの社会的な地位向上は計れるだろうが、その為だけに態々こんな事をするのかという事だった。徐に携帯へと手を伸ばし千冬へと掛ける。

 

『なんだカミツレ、何か用か』

「千冬さん。今回のVTシステム関連の事、不自然な事が多すぎます。俺が口を出して良いのか分かりませんけど…」

『否、是非言ってくれ、こちらも対処で忙しくて考える暇がない。意見があるなら聞きたい』

「では……今回の事はドイツにとって都合が良すぎます、よってドイツの自作自演と俺は考えてます。でも本当にそれだけが目的なんでしょうか」

『……?』

 

珍しく何を言っているのか分からなそうにしている千冬、どうやら本当に忙しくて考える暇がなさそうだ。

 

「仮にこれがドイツの自作自演だった、と仮定します。余りにも危険すぎるんですよ、一歩間違えればどころか完全な国際問題の案件です。それなのに実行するのに何のメリットがあるんです?あるにしてもドイツの発言力の上昇、その位な筈です」

『フム……確かにな。下手を打てば各国要人に被害が出る恐れがある』

「もしも、ですよ。これが別の莫大な利益を得る為の囮で、何かから目を背けさせる為としたら……?」

『今回の事はカモフラージュ……っ!?確かに考えられるな……』

「まあ、証拠も根拠も無いただの推測に過ぎませんが……すいません時間取らせちゃって』

『いやこれはもしかしたら、もしかするぞ……愛してるぞカミツレ、貴重な意見感謝する。おい真耶、少し手伝って欲しい事が……!』

 

冗談めいた事を飛ばしつつも通話を切る千冬、それに合わせてカミツレも携帯を置くが如何にも推測の域を出ない気がしてならない。こんな事を考えたとしても一学生である自分に何が出来るのかという話だが……不安な気持ちになってしまう。

 

「カチドキ」

『はい』

「今回の事に篠ノ之博士が介入している可能性はあるのか?」

『博士ならば十分ありえます、そもそも博士はVTシステムについては酷く否定的です。あのシステムはISのコア人格にとっては忌々しいシステムでもあります』

「そうなのか?」

『はい。言うならば意識があるのに身体を無理矢理操ろうとして来るのと同じです。博士ならば、VTシステムに関連する施設へ攻撃を仕掛ける事も十分ありえるでしょう』

「それを聞くと物騒だけど、博士って本当にISの事を子供みたいに考えてるんだな」

『はい。博士は全てのISを愛しております、自分の子供のように』

 

この会話の数時間後、ドイツ国内のVTシステムの改良と研究を行っていた施設全てが謎のハッキングを受けデータが全て消去された事と、「レーゲン」のVTシステムも破壊された事が判明した。



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49話

「ハァ……折角の計画が……」

 

カミツレの家族に挨拶を終え外堀を埋め終わったセシリアは、自室にて溜息をついていた。確かに外堀を埋めるのは終わっている、カミツレの家族には勿体無いお嫁さんだの弟を宜しく頼むだのと良い返事を貰る事が出来た。リチャード共々これにはセシリアもニッコリであった……が、元々彼女はこの学年別トーナメント後にある事をすると決断をしていた。それは―――カミツレに対する告白である。トーナメントで優勝し、その余韻と共に告白をするというのが当初の予定であった……がそれは大きく瓦解してしまったので新しく告白のタイミングを考えなければならない。

 

「優勝と共に告白……これこそ良いタイミングだと思ったのですが……」

 

学園中に広まっていた噂、それが学年別トーナメントで優勝すれば一夏かカミツレか、どちらかと付き合うことが出来るという噂があった。最初こそそれを本気にし優勝を目指そうと思っていたはいたが…途中からこれは本当なのかと思い始めたセシリア。あくまで女子の間だけでの話というこの噂。ならば肝心の男子には話が通っていないのではないかと思った。そして、仮に誰かが優勝し告白を行ったとしてカミツレがそれを拒否した場合、何か騒ぎを起こすのではと危惧した。そこで考えたのが自分が優勝して、告白すれば良いという考えであった。セシリアとしてもタイミングが良いと考え決行しようとしたのだが……

 

「はぁ……如何しましょう」

 

結果としてトーナメントは中止になってしまい計画は頓挫してしまった。他の生徒がカミツレへ告白する事態こそは回避出来たが今度は自分の告白のタイミングすらなくなってしまった……。思えば自分は異性の友達も居なかったし、親の遺産を守ろうと必死になっていた故に恋愛についてやや分からない事もある。如何したらの良いのだろうか。

 

「そうですおじ様に相談すればいいのですわ!!」

 

セシリアに妙案が浮かんだ、リチャードは自分に貴族の何たるかを教え込んでくれた恩人。様々な事を教えて今の自分を作り上げてくれた人、結婚もしているしきっと力になってくれる筈。それに昔、自分の失敗を慰めるために色んな話をしてくれた際に

 

「俺はなセシリア……昔は凄い人気でさ、色んな男子に恋の手解きをしてあげたもんだよ……愛の伝道師なんて言われてた時もあったんだよ」

 

と自慢げに話していた事もあった。それほどまでに自信たっぷりに言えるほどに積み上げられた経験があるリチャードならばきっと、良いアドバイスをくれる筈……!!この後、リチャードに電話してその事を言った際、思わず吐血する勢いで言葉を吐き出していた。愛の伝道師と言われていたのは事実であるが、本人としては死ぬほど嫌な呼び名であり、セシリアを慰める為に口にした過去だったらしい。がアドバイスは確りと行ったリチャードは最後に

 

「有難うございますおじ様!いえ、愛の伝道師さん!」

『ガハッ!!!!ど、どういたし……まし、て……』

 

と言い残してそのまま倒れこんだ。その後奥さんに見つけられ、膝枕されながら慰められたとか。

 

「おじ様からのお言葉、しっかりと活用致しますわ……!!押せ押せ、ですわね!!では早速この一番強い方法から……!!」

 

 

「ふぅぅ……良いお湯だ」

「だなぁっ……」

 

そんなセシリアが意気込んでいる最中、カミツレは一夏と共に大浴場に身体を沈めて疲れを癒していた。今まで大浴場は女子達が使っていた関係で男子は使用出来なかった。しかし、教師陣の努力によって男子の大浴場使用許可が下りたのである。それを一緒に聞いた一夏とカミツレは珍しく一緒に喜び、共に風呂に入っている。仲が良くない二人ではあるが同性であるために気を遣わずに済むという点に置いては、カミツレは感謝している。一夏は普通に風呂に入れる事に喜んでいるが。

 

「なあっカミツレって風呂って好きなのか?俺は大好きだけど」

「んっ~……そうだな…好きではあるな、風呂は命の洗濯だからな」

「おっ良いなその言葉。俺もこれから使わせてもらおうっと」

「おい勝手に使うな」

「硬いこと言うなって」

「まあ好きにしろ……」

 

普段であればこんな穏やかな会話など想像出来ない二人ではあるが、完全にリラックスしている今はまるで友達のように会話が弾んでいる。今日までずっとシャワーで我慢して来た二人にとって、大浴場は途轍もない程の贅沢と言える代物になっている。肩まで沈んでいるからか、全身の疲労と凝りが溶けていくかのような虚脱感に飲み込まれて行きそうになる。

 

「にしてもさ……俺達も何時の間にか、この学園の生活に馴染んでるよなぁ……女子校なのに」

「確かにな…」

 

言われてみると不思議な物だ、特殊な立場にあるとはいえ此処が女子校であるのには変わらない筈なのにすっかり此処の生活に馴染んでいる。女子ばかりの中で食事をするのも、授業を受けるのも、話をするのにも慣れている。不思議な物だ。

 

「俺最初不安しかなかったのに、何時の間にか不安なんか飛んでたよ」

「あっそ……」

「お前は如何だった?」

「俺か……?」

 

風呂の暖かさに酔っているのか、何時にも増して口が緩いのを感じているカミツレ。最初にあったのは一夏に対する怒りと怨み、憎しみばかりだった。自分の命が危険な場所にあり研究材料にされない一心で努力し続けていた毎日。しかし何時の間にか努力するのが当たり前になり、一夏への怒りは胸の奥へとしまっていたかのような気がする。もう、それで良いような気がする……。

 

「さぁな……忘れちまったよ、んな昔の事。今と未来だけを見て生きてればいいんだよ、俺達は」

「……カッコいい事言うなぁ…」

 

何処か羨望の眼差しを送ってくる一夏。カミツレとしては、これから大変になっていくのだから一々昔の事なんか考えている暇などない、今に全力でぶつかって良い未来を見るしかないという意味だったのだが……一夏にはそこまで読み取れなかったようだ。純粋にカッコ良い言葉としか受け止めれていない。

 

「なあカミツレ、一つ聞いても……あれ、カミツレ?」

「……」

「寝てる…?ああいや、気持ちいいから目を閉じて集中してるだろうな。俺ちょっとのぼせてきたから上がるか、んじゃ後はゆっくりな」

 

気を利かせた一夏はそのまま音を立てないようにゆっくりと出て行った、が一夏は気付いていなかった。カミツレが静かに寝息を立てている事に、本当に眠ってしまっている。久しぶりの風呂にリラックスしてしまい夢現になってしまっている、半分寝てしまっている状態。うとうととしてしまっていた、そして前のめりに顔から湯船に突っ込んだ時に目を覚ました。

 

「ゲホゲホッ!!!やばいやばい……気持ち良くて半分寝てた…こんなところ見られたとか最悪……ってあれ、織斑の奴いないな」

 

目を覚ましたカミツレの視界に一夏の姿がない、既に浴場から出て部屋へと向かっている。それを知らぬカミツレだが、それならばと確りと身体を湯船に沈める。今度は眠らぬように時々、顔にお湯をぶつけながら。

 

「いいお湯だ……」

 

そんなカミツレを見つめるような視線が脱衣所から注がれていた、そして扉を開けて浴場へと入ってきた。カミツレは一夏かと思って顔を其方へと向けたが全くの見当違いであった、そこにいたのは……

 

「お、お邪魔、致しますねカミツレさん……」

「っ!!?セ、セ、セ、セシリアァァッ!!!?」



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50話

「お、お邪魔、致しますねカミツレさん……」

「っ!!?セ、セ、セ、セシリアァァッ!!!?」

 

思わず声を上げてしまった、背後の脱衣所の明かりのお陰でカミツレの目にはハッキリと今のセシリアの姿が見えてしまっている。すらりと伸びている細い足、透き通るような白い肌に普段見せる事がない梳かされた金色の髪、美しいボディラインに巻かれている薄手のスポーツタオルは薄っすらと、その内側の肌を透かせるほどだった。驚いていた筈なのに何処か女神めいている美しさに見惚れてしまっていた。

 

「そ、そんなに見つめないでください……恥ずかしいですわ……」

「ご、ごごごめん!!!?」

「んもう……」

 

セシリアの何処か色っぽい声が浴場内にエコーして響く、それに何処か興奮を覚えてしまうカミツレは必死に後ろを向きながら意識を必死に反らそうとするがそれは無理という物。千冬からのハニトラ耐性訓練という名のセクハラを受けているとはいえ年頃の青年、同じ浴場にバスタオルの一枚の美少女がいるという状況に興奮しないわけがない。兎に角今は意識をそらす事に集中するしかないと思っていると、湯船に波が立った。カミツレの後ろにセシリアが身体を沈めたからだ。

 

「暖かいですね……」

「あ、ああそうだな……」

 

背中越しに聞こえてくるセシリアの声と息遣い、完全な密室に全裸の女子と二人っきり。もう何を考えていいのかすら分からなくなってきているカミツレの頭はパンク寸前だった。心臓が凄まじい速度で鼓動を繰り返している。

 

「お、俺もう上がるよ!?セ、セシリアはゆっくり……」

「待って、くださいカミツレさん……!わ、私はカミツレさんと一緒に入りたいのです…駄目、でしょうか……?」

「ぁぁっ……分かり、ました……」

 

ショート寸前の頭ではもうそう応えるのが精一杯だった、必死に意識を保とうとするが興奮と緊張で如何にかなりそうになっている。気を抜けば、身体を突き抜けようとしている興奮に身を委ねて過ちを犯してしまいそうだ……。それだけは駄目だと思うと、辛うじて意識が強くなっていく。その調子で意識を保とうとするがそれを邪魔するように自分の背中に、暖かくて柔らかい感触が触れてくる。

 

「っ!?」

「カミツレさん……どうか、このままお話をお聞きください……」

「あ、ああっ……」

 

カミツレに背中を預けるようにしながら、タオルを外し生まれたままの姿となっているセシリアも彼の肌に密着した事で強すぎる興奮を覚えながらも言葉を紡ぐ。

 

「私は最初、カミツレさんの事を真面目で勉強熱心な男としてしか見ていませんでした」

「お、俺は……初めてセシリアを見た時はちょっと高飛車なお嬢様だなって思ったよ」

「ですが、対抗戦の時の貴方を見た時それらが覆されました。貴方の強い意志と覚悟を身に受けた時、私は感動すら覚えました」

「……あの時の俺は、今みたいに余裕はなかったからな」

 

徐々に今の状況に慣れて来ているのかカミツレは落ち着き始め、口も普通に利けるようになっていた。対抗戦、あれこそ自分の運命の岐路だった。あそこでセシリアと引き分ける事も出来ずに敗北したら今の自分は居ない。研究所へと送られ、非人道的な実験の毎日を送り最悪の場合自ら死を選ぼうとしただろう。

 

「あの時から、私は貴方に夢中になっていたんです」

「えっ―――?」

「貴方が愛おしかった、貴方の隣に居れるだけで嬉しかった、声を聞けるだけで幸せだった、触れる事が出来たのならば…今思えば同室だった頃が一番幸せな時でしたわ」

「セシ、リア……?」

 

この時、カミツレは気付いた。セシリアが自分へと向けている感情の答えに、信頼や友情を向けてくれていると思っていたがそれは誤りであったのだ。彼女は自分の事を―――好いていてくれているんだ。でなければこんな事をする訳もないし、話をする訳もない。背中を預け合うような状況も生まれる訳も無いのだ。今まで家族以外の女性から好意を寄せられた事も告白された事も無いカミツレは、途端に今までにない高鳴りを感じてしまった。

 

「カミツレさんの寝顔を見れて嬉しかった、一緒に食事を取れて楽しかった、一緒に訓練出来て至福でした……私はあの日、対抗戦のあの日から貴方に恋をしてしまったんです」

「俺、に……?そ、そんなセシリア……俺なんか」

 

何故自分が好かれたのか、それは先程彼女が述べてくれた。対抗戦で見せた戦いと自分の意志と覚悟だ、それが彼女のハートを射止める結果を齎したのだと。自分としては必死にもがいていただけだった、生きる為の手段として努力していただけだった。それだけだったからこそ、カミツレはセシリアの気持ちに気付く事が出来なかった。目を向ける余裕もそこへ辿り着く為の道すら自分で閉ざしていたのだから。

 

「貴方が愛しい……傍に居たいのです…何時までも、出来る事ならばずっと……」

「セシ、リア……」

「お慕いしております…カミツレさん」

 

振り返ったセシリアはそのまま彼に抱きついた、柔らかな胸の感触を受けつつも回された腕。しかしカミツレはそれを味わう暇もなく、ただただ嬉しさを感じていた。IS学園に来てから本当に辛い事の繰り返しだった、何時まで続くかも分からない生活の中で震えていた自分に手を差し伸べてくれたのも彼女だった。自分の価値を見出し、評価し、手を差し伸べてくれた。今までセシリアに向けていたのは師である真耶に向けているのと同じ尊敬と感謝、友情であった。それが今、違う物に変わりつつあった。感情がひとつになりながら新たな花となって開こうとしている………。

 

「セシ、リア……」

 

何時からだろうか、自分も仄かに彼女へ憧れのような好意を寄せていた。だが自分にとって彼女は恩人でもあり友人でそんな感情を向けてはいけないと無意識なうちに押し殺していた、それが今留まる事を知らない激流の嵐となって胸の中を駆け巡っていく。切なげに胸が苦しくなるが同時に暖かくもなる、初恋すらした事もなかった少年に訪れた初めての―――恋。そっと、自分を抱いている腕に手を重ねた。

 

「俺は……今まで、女の子と出掛けた事なんかないからきっとエスコート出来ないよ……」

「エスコートなんて必要ありません、一緒に歩いていきましょう」

「マナーとか、知らない」

「いつものように私がお教え致しますわ」

「これからも、迷惑掛けるし」

「迷惑などと一度も考えた事などありませんわ、寧ろカミツレさんと関われる事全てが喜びでした」

「凄い、喧嘩するかもしれない……」

「その都度、仲直りして、益々好きになれますわ。日本では喧嘩するほど仲が良いと言いますし」

「最後に、これだけ聞かせてくれ……セシリア、一緒に居てくれる……か?」

「はい何時までもおそばに……」

 

この日、二人は一緒に浴場から上がった。そして火照った身体を一層温めるように抱きあいながら言った。

 

「カミツレさん……好きです。これからも宜しくお願い致します」

「セシリア……ああ、末永く宜しくお願いします」

「それはあの時の私の言葉ですね、返して頂けて嬉しいですわ♪」

「返せて嬉しいよ、俺も」

 

二人は、交際する事を決めた。




……だばぁぁぁぁぁっっっっ……。

自分で書いておいて言うのも可笑しいですけど……これはやばい……。


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51話

「フフフッ♪」

 

思わず笑顔を浮かべてしまうセシリアは鏡に映りこんでいる自分の顔を見て更に笑ってしまう。微笑を作っている自分に嬉しさが込み上げてしまっている、笑いを押さえ込む事が出来ずにずっと笑ってしまっている。先日のよる、自分とカミツレは結ばれた。抱き続けていた思いを告白し、一糸も纏わぬ姿と互いの気持ちをぶつけ合って互いの想いを自覚し、支えあう事を誓った。その事が嬉しくて嬉しくて致し方ない。

 

「おじ様も驚きながら、喜んでくださいました…フフッカミツレさんと、一緒……」

 

リチャードにもこの事は報告したが本人としてはまさかいきなり最後の最後に使えば良いと思って教えた手段である『風呂場に突撃』という行動にでると思っておらず驚愕に目を見開いていた。少しずつ話を持って意識させていく、という初歩的な物からやると思っていたリチャードからしたら姪がこんな積極的とは思いもしなかったのだろう。まあいきなりこんな手段に出る女子なんて滅多にないだろうし。

 

『ドロシー……私達の姪ってこんなにも肉食系だったなんて知らなかったよ……しかし、セシリアよくやったぁぁぁっ!!!これでオルコット家は安泰だな!!後は幸せな家庭生活を営むだけだぞ!頑張れよ!!!』

『はいおじ様!!』

『あっ、一線は越えてもいいけど避妊とかは確りしなさい。寧ろ、彼の事を考えるとそう言う事も確りケアしてあげる事も大事だからな?』

『わ、私がカミツレさんの……いやんいやん♡』

 

などという会話があったのは余談であるが、兎に角リチャードが喜んでいたのは間違い無い。そしてセシリアは一つの覚悟をしながら制服を着込み、微笑ではなく鋭い顔を作りながら部屋を飛び出していく。廊下を歩いて向かった先は屋上、これから約束をした一人の生徒と話をするため。これからの為に確りと話をしておく必要があるとセシリアは考えている。それが自分がするべきケジメでもあると思ったからだ。

 

「……」

 

静寂が広がっている屋上で青空が広がる空を見上げる、今日もいい天気だ。こんな日はカミツレと一緒にこの屋上でご飯を食べるのが楽しいかもしれない。自分が腕を振るって作ったお弁当を仲良く食べながら、笑顔を作りあう光景を想像して胸が高鳴った。そんな高鳴りに心を委ねていると扉が開く音がした、ゆっくりとそちらへと顔を向けると自分が待っていた人物が顔を見せていた。どうやら約束通りに来てくれたようだ、まずそれに感謝するとしよう。

 

「ご足労頂感謝いたしますわ―――凰 乱音さん」

「あたし呼び出すって一体何様のつもりよ、全く……これでも暇じゃないのよ」

 

そう、セシリアが呼び出したのは乱であった。自分と同じく明確なカミツレへの好意を持っている女子、彼女との決着を付ける必要性がある。

 

「それは失礼致しましたわ、しかしカミツレさんについての事です。直にでも話して起きたいのですわ」

「カミツレさんについて、ですって……?」

「はい―――私、セシリア・オルコットは正式にカミツレさんとお付き合いをする事になりました」

「っっ!!!??」

 

驚愕に目を見開いた乱、そして同時に足元がガラガラと崩れていくかのような感覚を覚えてしまう。

 

「そ、んな……!!!」

「カミツレさんのご家族ともお話は済んでおります、正式な婚約関係と言っても過言では御座いませんわ」

「カミ、ツレさんの婚約、者……!?」

 

虚ろな瞳へとなり真っ青な顔になりながらも必死にセシリアを見つめる乱、真っ直ぐに保った瞳でセシリアを見るが彼女の目に嘘はなかった。そしてそれが真実だと悟ると座りこんでしまった、確かに自分はカミツレとの接点は少ない上にセシリアに比べて時間も少ない、それでも初めて本気で好きなった人だったカミツレを取られたという事が重く圧し掛かってきた。

 

「こうなった以上ハッキリさせておくのが筋、と私が判断いたしましたわ」

「……そう、確かに、ね」

 

凍りつきそうな身体を支えながら言葉を作ろうとする乱、それでも乱は必死に言葉を作った。自分が言いたい言葉を、思いを形作りながら……。

 

「なら、アンタが絶対に守って幸せにしなさいよ……あの人は、私のヒーローなんだから……!!!」

 

涙を流さぬように歯を食い縛りながら、カミツレの事を守って欲しいと願いを述べた。乱もカミツレの事は好きだ、好きでたまらないが好きだからこそ、その人が選んだ人との幸せを祝福するべきだと考えた。決死の思いで綴った言葉を受け止めるセシリアだが直に言葉を返す。

 

「それは心に誓っております、故に乱さんに頼みがあります」

「何よ……」

「私と一緒に、カミツレさんを守って欲しいのです」

「……えっ?」

 

思っても見なかった言葉に思わず乱は一瞬、呆気に取られてしまいポカンと口を開けてしまった。彼女は一体何を言っているのだと。

 

「何を、言ってるの……!?何を言いたい訳……?」

「私もオルコット家の全力を上げてカミツレさんを守ると誓うつもりです、ですがあの人は全世界から狙われる身なのです。悔しいですが、私の力だけでは守りきれませんわ……」

 

強く拳を握りこみながら歯軋りをするセシリア、全身から悔しさを滲ませながら柵を殴りつけた。セシリアらしくない行動に乱は目を白黒させながらそれを見つめていた、現実を見据えているからこそ悔しさに震えている彼女の姿を。

 

「だからこそ、カミツレさんの事を共に守ってくださる味方が必要なのですわ!」

「そ、それは分かるけどさ……つまりあたしに何をしろって言うのよ……」

「単刀直入に言わせていただきますわ、凰 乱音さん。恐らく、カミツレさんには一夫多妻制度が適応される可能性が非常に高いのです、故に妻の一人となって共にカミツレさんを守るお手伝いをしてください」

「……はあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!?」

 

思わず乱は腹から声を発して驚愕を言葉に変えて発してしまった。だが同時に頭の回転が速い乱は、それはどれだけカミツレの為になるのかという事も理解した。味方を増やすにはある意味それが一番手っ取り早い、今後の政治的な動きによっては妾などを取るのが安全な手段とも言える。

 

「……あたしが、カミツレさんの妻の一人に……?」

「貴方ならば信用出来ると私が判断いたしましたの」

「……諦めなくていいのね……うん、その話を受けさせてもらうわ!!」

「ではこれから宜しくお願い致しますわ!!」

 

ガッチリと握手を結ぶセシリアと乱、愛する人を守りたいそんな思いの元で手を組む。そして力の限りカミツレを守って見せると誓いあう。

 

「んじゃさセシリア、あんたこれカミツレさんにも当然言ってあるでしょ?」

「いえこれからですけれど?」

「一番重要な所じゃないのよそこぉぉぉぉぉお!!!!!!!?????」

「まあ認めてくださらなくても、身体を使えば…」

「あんた、本当に貴族のお嬢様……?」

 

 

「へっくし!!な、なんだ急に寒気が……」



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52話

「では今日の訓練はこの辺りにしておきましょうか」

「ありがとうございました!!」

 

大きく頭を下げるカミツレ、その先には師である真耶がいた。漸く時間が取れるようになった真耶は伸び伸びとしながら指導をするように成っていた、今まではヨランドに師匠枠を取られそうになっていたが今は違う。トーナメントが終了した事でヨランドはカミツレとの別れを惜しみながらも帰国し、もう邪魔される事もない。真耶は張り切りながら師として弟子の指導に当たっていた。

 

「それにしてもカミツレ君、腕前が凄い上がってますねぇ~。後少しで完全に基本と基本応用を修めた事になりますから、代表候補生レベルの訓練に上がりますよ」

「そっか、なんだか長かったような短いような…」

「私から言わせて貰うと短いですね、まだ一学期も終わって無いのに此処まで強くなれるなんて驚きですよ!」

「師匠の教え方がいいですからね」

「いやだぁもう褒めないでくださいよ~♪」

 

顔を赤くしながらも嬉しそうに照れている師匠にカミツレは久しぶりに感じる安心感を覚える、真耶の弟子になってから思い続けているが真耶の教え方で一番良いのは安心感を相手に与えるという点であると思う。指導の仕方も相手の事を考え、メニューの調整を事細かく行うが一番なのは真耶の気質に起因するのだろう。

 

「全くもう、師匠をからかうなんて弟子としていけませんよ?」

「別にからかってるつもりはないんですけどすいません」

「本当に悪いと思ってます?」

「思ってますよ」

 

ジト目で見つめてくる真耶にカミツレはYESと答える、それを聞いて分かればいいんですよと笑った真耶に自分も笑顔を作った。しかし、真耶は何か言いたそうに口を動かしている。そして言い難そうにしながら言う。

 

「え、えっとそれじゃあ一つ我が侭を聞いてもらっても良いですか?」

「我が侭、ですか?俺に出来る事なら」

「それじゃあ……その、またご飯を作って貰っても良いですか?」

「食事を?ええ勿論」

 

それを聞いた真耶はぱぁと花を咲かせた様な笑みを浮かべて喜んだ。まさか我が侭というのが料理を作って欲しいというのは予想外であった。些細な願いを我が侭という真耶は本当に善良な人、ならば千冬は一体どうなってしまうのだろうか……と考えそうになったが千冬から一発食らいそうと思ったのか直にやめる。

 

「つい先日、兄貴から野菜送って貰いましたから美味しいのを作りますよ」

「本当ですか!?いやったぁぁっ!!カミツレ君から頂いた料理本当に美味しくて、毎日少しずつ食べてたんですよぉ!!本当はいっぱい食べたいけど、勿体無いから少しずつ少しずつ……でも三日前に無くなっちゃって……」

「それなら言ってくれれば何時でも作りますよ。千冬さんなんか良くお代わりを頼むって言ってきますから」

「そうなんですか?!そ、それだけ美味しいって言うのは分かるんですけど……先輩、少しは教師としての威厳というか…その辺り大切にしたらいいのに…」

 

まあカミツレ限定でやっている物なので問題はないとは思うが…今や千冬にとってカミツレは素を出しても問題ない男であり重要な癒しを齎す存在。そんなカミツレだからこそ威厳なんて無しの関係で居たいのだろう。それを理解しているカミツレはあえて何も言わない。

 

「それじゃあ後でお部屋に伺いますね、アリーナ使用の後始末したら直ぐに行きますから!」

「ええ、それじゃあお待ちしてますね」

 

一旦別れたカミツレは着替えてから自室へと向かいながら献立を考える。トマトにキャベツ、ジャガイモに大根などなど様々な野菜を送ってくれたからこそメニューの幅も広い。献立の考えがいもあるという物だ、そして部屋へと入ろうとした時にカチドキが文字での言葉を表示してきた。基本的にカチドキの事は機密扱いにしており、事情を話していない人物が近くにいる際はチャットのように意志を伝えてくる。

 

『室内に生体反応を検知。反応1、侵入者の可能性あり』

「……分かった、警戒してくれ。それと何時でも千冬さんに連絡出来るように準備を』

『了解』

 

切れ入りそうなほど小さな声でカチドキへと言葉を送りつつ気持ちを整える、自分の立場を考えれば自室に誰かが入ってくる事など想定内。ハニートラップの可能性も考えると警戒するに越した事はない、そして何かあったら直に千冬を呼べるようにしつつ扉へと手を掛けて開ける。そして中に居たのは……

 

「お帰りなさい♪ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」

 

スタイル抜群な美女が魅惑的な身体を更に強調するかのようなポーズをとりながら、裸の上にエプロンを付けて此方を誘惑するかのような視線を送ってきていた。流石に面を食らってしまったがハニートラップを想定しつつ、千冬から受けてきたセクハラ紛いのハニトラ耐性訓練のお陰もあってカミツレは顔色一つ、変える事はなかった。というかスタイルや色気で考えたら圧倒的に千冬の方が上だからである。

 

「……」

「あ、あれ…?まさか無反応…!?男の子にとってこう言う格好って夢じゃないの……!?」

「いや俺は別にそういう趣味ないし、そもそも好きでもない初対面の人間にそんなことされても……興奮するどころか普通に引く。羞恥心とかないの貴方」

 

そう言われると美女の顔が凍り付いた。仮にこれがセシリアがやっていたとしたら興奮するだろう、セシリアとは交際を決めているし彼女がそんな事をしてくれたのならば興奮するに決まっている。だが…付き合っているどころか、初対面の人間にそんな事されても嬉しくも何ともない。そんな事思ってはセシリアに対して失礼、何より人として引く。

 

「痴女で恥知らずで不法侵入って救えないなぁ…んで何の用ですか、痴女さん」

「あの、痴女って呼び方だけはやめてくれないかしら……?」

「じゃあ羞恥心0さん」

「……洗面所お借りします……」

 

そう言って洗面所へと入っていった美女は少しの間の後、制服を纏って出て来た。一応学園の生徒ではあったらしい、こんなに性格面に問題がある生徒がいるとは……教師の方々も大変だなと思っているカミツレの内心を察したのか気まずそうな表情を浮かべている。

 

「え、えっと自己紹介させてもらうわね。私は2年の更識 楯無、IS学園の生徒会長をさせて貰ってるわ」

「生徒会長がこれかぁ……」

「お願いだからやめて頂戴……今思うと凄い恥ずかしいんだから……」

「じゃあやるなよ」

 

思わず素でツッコミを入れてしまったカミツレに返す言葉もないのかガックリ来る更識。今更ながらIS学園というのは個性的な女子達が集まる場なのだろうかと真剣に考えてしまう。

 

「んで何の用ですか」

「まずその冷たい視線をやめてくれないかしら……」

「いやですけど。俺からしたら見たくもない物を見せられた上に不法侵入の被害者なんですけど」

「……すいませんでした」

「謝罪なら俺の師匠の前でしてもらえます?」

「えっ」

 

その時であった、扉を数回ノックする音が響いてきた。カミツレは笑顔を浮かべながら扉を開ける。

 

「カミツレく~ん、遅くなりました~」

「や、山田先生……!?」

「待ってましたよ」

「あれ、更識さん?」

「真耶先生、ちょっとお話が」

 

その時、更識はだらだらと汗を流しながらこれから来るであろう追求にどんな言葉を返した物かと、頭をフル回転させるのであった。



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53話

カミツレの部屋は廃部屋同然に扱われていた教員室をリフォームする形で使用されている。男子が伸び伸びと出来るように配慮がされており、所々普通の教員室よりも広くなっており一人部屋としては十分すぎる物になっている。シャワールームには当初浴槽が取り付けられる予定だったが、他の部屋との関係でシャワールームが広くされてるだけに済んでいる。他には最新鋭の調理道具が備えられているキッチンも完備されている過ごし易い部屋…の筈なのだが…。

 

「更識さん、貴方は一体何を考えているのでしょうね?」

「……す、すいません」

「何時私が謝って欲しいなんて言いました?私は何を考えているのかと聞いているんですよ、何故それに答えようとしないんです?」

 

目の前で行われているのは正座をさせられている更識とニコニコとしているが完全に怒っている真耶の姿。普段の温和な態度から想像し難いが、真耶は怒ると千冬とは違った恐ろしさがある。まず如何にも怒っているという表情をせずに満面の笑みを浮かべながら静かにキレる、そして冷静に言葉を紡ぎながら相手を追い詰めていく。これが何よりも恐い。

 

「そ、そのえっと……最初はインパクトがあった方がいいかなって……」

「それが不法侵入した上での行動ですか、そうですかそうですか……ご実家の方には確り報告させてもらいますからね♪」

「それだけはご勘弁をっっ!!!!」

 

真耶がやってきた時、カミツレは素直に全てを暴露した。カミツレは完全に被害者なので真実をぼかす必要もない、更識自身は顔を青くしていたが知った事ではなかった。それを聞いた真耶が本気でキレ、更識を正座させた上でお説教が開始された。

 

「貴方のような恥知らずな生徒が国家代表の座についているなんて世も末ですね、全く何故代表になれたんでしょうね」

「えっ…国家代表!?それが!?」

「ええ、これはロシアの国家代表さんなんですよこれで」

 

完全に人ではなく物扱いをされている更識だが文句の一つも言えなかった、彼女は加害者でありカミツレは被害者。文句を言う筋合いなどないのだ。それを聞いたカミツレはより一層冷たい視線を作った。自分の中にあった国家代表という物に成れる人物は、千冬やヨランドのように素晴らしく立派な人だと思っていた。だがしかし……自分の部屋に不法侵入した上に痴女のような格好をしていたこの人物が、国家代表……心なしか頭が痛くなって来た気がする。

 

「……ヨランドさんみたいな人が珍しいのか…?」

「いえ違います、これみたいな人が少ないんですよ」

「ですよね……」

「そんな事よりも、更識さん。貴方、私の弟子の部屋で妙な事をしてないでしょうね……?」

 

その言葉に思わず身体をビクつかせた更識、普段ならば反応などしない筈なのに凄まじい覇気を放っている真耶に完全に気押しされてしまっており反応してしまった。更識 楯無はロシアの国家代表ではあるが、彼女は日本政府に仕えている家の出身なのを考えると確実に何かを仕掛けたと真耶は睨んでいる。

 

「した事を全て無くすのであればご実家への連絡も政府への連絡もしません、さっさと動きなさい」

「……はい」

 

若干涙目に成りながら動き始めた更識は部屋の各所に設置した盗聴器や隠しカメラを回収していく、それをみて矢張りかと思った真耶。元々この部屋にそんな物は設置されては居ない、カミツレは貴重な存在ではあるがプライベートは尊重されるべきだとそれらは仕掛けられなかった。その確認をしたのは千冬と自分なのだから間違い無い。

 

「全部外しました…」

「本当でしょうね……もしも嘘だったら……」

「ほ、本当です信じてください!!!」

「信用あると思ってるんですか先輩」

「お願いだから信じて!!政府とかに連絡されたくないのよ私だって!一生の恥になるわよ!!」

「なったとしても貴方の自業自得ですよ」

 

真耶としては本当ならば許したくはない。カミツレの苦労を一番知っているのは師である自分なのであるのだから、余計に更識を許せない。命の危機を感じつつ学園で苦労を重ねながら、毎日毎日自分の元で補習を受けながらISの訓練を受け続けてきた。その結果が漸く報われる時が来た、イギリスの代表候補生になると自分に報告しに来てくれた時には本当に我が事のように嬉しかった。思わず号泣してしまうほどにカミツレの事を大切に思っている、だからこそ彼女の行動は許せなかった。

 

「……こんな事をした理由は大体見当が付きます。今回は見逃してあげます、ですけど今度こんな事をしたら……分かってますね」

「はっはいもうしません!!!」

「やらない事が当たり前なんですけどね、もういいです。早く出て行きなさい」

「す、すいませんでしたぁ~!!」

 

逃げるかのように部屋から飛び出していく更識を見送った真耶は溜息を一つ吐きながら、面倒な事を仕掛けてきた日本政府へと軽い苛立ちを向ける。日本政府に仕えている更識を使ってカミツレに接触を図ってきたという事は、政府が相当焦っているという事を意味している。一夏は日本に引き留める事が出来ているがカミツレは出来ていない、研究所送りという事が最悪な印象を植え付けてしまっている上に余りにも酷い掌返しにカミツレの日本に対する思いは冷え切っている。それを如何にかしようと必死という事だろう。

 

「カミツレ君、先輩に連絡してください。政府に対して圧力を掛けてもらいましょう」

「真耶先生って……凄い頼りになるけど恐いですね」

「フフフッこんな姿を見せるのもカミツレ君のためですから♪」

 

早めに手を打っておく必要がある、焦った政府は更識に身体を使ってでも引き止めろといってくる可能性も0ではない。打てる手は全て打っておくのがカミツレを守る事に繋がる。

 

「それじゃあまあ…料理作りますよ。リクエストあります?」

「それじゃあ前に作ってくれたのをお願いします!!」

 

気付けば普段通りの真耶に戻っていた、それに笑みを作りつつも先程の恐い真耶が脳裏にこびり付いてしまっている。心の中で絶対に怒らせないようにしようと誓うカミツレであった。

 

そして楯無はというと―――

 

「えっもういい!?どういう事ですか!?」

『……織斑 千冬から連絡が来てな……。今度杉山 カミツレに手を出した場合、篠ノ之 束が動く可能性があるから止めろと指摘されてな……我々としてはあの大天災を怒らせたくはない…君はこれから、さり気無くコンタクトを取ってくれ……カメラや盗聴器は無しでな……』

「わ、分かりました……(あの篠ノ之 束に目を付けられてるっていうの……!?い、一体彼は何者なの?!)」

 

カミツレの得体の知れない恐ろしさに疑問を覚えながら、新たな命令を受け取った。が既に印象が最悪なカミツレとどうやってコンタクトを取ったら良いのかと頭を抱えるのであった。



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54話

土曜日、カミツレは一通りの訓練メニューを終えて自室に戻り身体を休めていた。それと先日の変質者の影響か自室にいる筈なのに気が休めるような気分になれずに溜息を付いていた。当人は全ての盗聴器や隠しカメラを外したといっていたが本当なのか疑問が残る所だ、カチドキに頼んだ調査で無いと分かった筈なのにそんな気持ちがある。人間は一度不快感を覚えると後に引き摺ってしまうらしい。そんな時、自分の携帯がなった。番号は自分の知らない物、警戒心を抱きながらそれを取った。

 

「……はい」

『あっ良かった出てくれた』

「……間違いです」

『待って待って待って!!間違えてないから、貴方に話があって電話したのよ!!』

 

自分に掛けてきたのは先日聞いたあの女の声、更識の物だった。思わず顔を大きく歪めてしまった、ただでさえこっちは訓練の疲れと初の恋人が出来たと思ったら何時の間にか二人目まで出来ているという事態を受け止めるので必死になっているというのに……。

 

『えっと、その……先日は本当に申し訳ありませんでした……その、正式に謝罪をしたいので時間を取りたいんですけど……』

「謝罪は結構、申し訳ないと思う気持ちがあるなら俺に二度と関わるな」

『そ、そうしたいのは山々なんだけど…本当に謝っておきたくて……』

「政府から俺に謝罪して交流でもとれ、とでも言われたのかよ」

 

真耶から更識に関した詳しい情報を貰ったカミツレはより一層の警戒を胸にしながら言葉を続けた。日本政府に繋がっているロシアの国家代表、更識 楯無。実力は折り紙付きらしいが性格面に難があり愉快犯のような一面があると聞かされている。

 

『生徒会長としても話があるのよ……』

「信用があると思ってるのか、俺を手篭めにしようとしているのが見え透いてる」

『本当に何もしないわよ…生徒会にある要望が殺到してて、その事に付いて聞きたい事があるのよ』

「……要望?」

『貴方、部活動に入ってないでしょ?それでこっちに何とかしろって意見が凄い来てるの…』

 

そんな事かと思わず溜息を付いた、IS学園にも部活動がある事など知っているが入る気など全くない。そんな物をやる暇などないからだ。下らない話を口実にするなと呆れ果てる。

 

「俺は部活なんぞする気はない、下らない事に気を向ける余裕なんてない」

『下らないって…それは流石に失礼よ貴方』

「部活動は俺の命と同価値って言いたい訳か」

『そ、そう言う訳じゃないけど…分かったわ。部活動には入る意志はないと伝えておくわ』

「ついでに言っておく、俺は生徒会にも入る気はないぞ。アンタがトップの生徒会なんぞに入って堪るか」

『解ったわ…私も貴方にはもう出来るだけ接触しないようにするわ、本当にごめんなさい』

 

電話を乱暴に切りながら寝転ぶカミツレ、本当にあれが自分が尊敬するヨランドと同じく国家代表なのだろうか。ヨランドとは全く似ていないし雰囲気もまるで違う、兎に角あれはもう信用しない方が良いと決め込む。出来る事ならばもう二度と関わり合いたくはないが……それはきっと叶わぬ願いなのだろう。

 

「……考えるの、止めよ……カチドキ、2時間後ぐらいに起こしてくれ。少し寝る」

『了解、おやすみなさいカミツレ』

 

身体をしっかりと休める事も訓練のうち。よく学んで、よく動いて、よく休むのが一番良いと真耶が言っていた。それに同意しながら襲い掛かってきた眠気に身を委ねて、夢の中に落ちていった。

 

2時間後、カチドキに起こされ目を覚ましたカミツレが眠気覚ましのコーヒーを飲んでいる時であった。再び携帯が鳴り響き始めた、少々警戒しながら番号を確認して見ると再び自分の知らない番号。更識の事があるので警戒しながら通話ボタンを押したがその警戒が杞憂であった事が直ぐに分かった。

 

「もしもし」

『ツェレ、わたくしです、ヨランド・ルブランですわ!』

「えっヨランドさん!?」

『はいそうですわ!元気そうで何よりですわ』

 

電話を掛けてきたのは自分が尊敬する人であり国家代表の理想系とも言えるフランスの大貴族でもあるヨランド、考えてみればヨランドの番号は携帯に登録していなかった。この後に改めて番号を聞いて登録したカミツレだが、学園に入学してから連絡帳がとんでもない名前のラインナップで埋まりつつあった。

 

恋人兼イギリス代表候補生(セシリア)恋人兼台湾代表候補生()元世界最強の教師(千冬)

師匠(真耶)イギリスの大貴族(リチャード)フランスの国家代表(ヨランド)。普通ではないメンツばかりが並んでいる。

 

「お久しぶりというほどでも無いですけどお元気そうで何よりです」

『わたくしも声が聞けて安心しましたわ、本国でまた新人の指導をしているのですが…矢張り貴方ほどの逸材はいませんわ。貴方を教えていた時の高揚感がありませんの』

「はあ……それはそれは……ヨランドさんに弟子入りしようとする人って千冬さんをアイドルと勘違いして集まる人達と同じなんじゃないですか?」

『そうかもしれませんわね……はぁ、ツェレまた貴方に指導したいですわ……』

 

国家代表に此処まで言われるのは正直嬉しさがある、何よりヨランドに言われると何処か照れくさくもあると同時に嬉しくもある。矢張り国家代表はこの人のような人物でないと。

 

「それで今日は如何して電話をくれたんですか?」

『ええ。ツェレ、貴方と織斑 一夏に対して一夫多妻制が適応されるという噂を聞いた事あります?それが実現されそうなので、それを伝えようと思いまして』

「マジですか……態々どうも」

 

ヨランドとしては、カミツレにとっては一大事だと思い連絡して教えようとしてくれたのだろうが……既にセシリアにそれが適応されると仮定した上で動かれている上に、二人目の恋人まで出来てしまっているので何ともいえない……実家にはなんと言えばいいのだろうか……と困っているカミツレにを助けようと、ヨランドは助け舟を出した。

 

『恐らく、これから世界各国から貴方へ干渉が予想されますわ。ルブラン家は貴方を全力でフォロー致しますので、どうぞ気軽に声を掛けてくださいね』

「すいませんなんか、お世話お掛けちゃって……」

『私とツェレの仲ですもの、気にしなくていいのです。もしもお返しをしてくれるのならば、わたくしと結婚してみます?』

「ヨランドさん、声が笑ってますよ」

『あらバレちゃいましたわね♪』



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55話

ヨランドとの電話後、カミツレは千冬の部屋を訪れていた。今日は食事を作りに行く約束であったので野菜などを持って部屋へと向かい千冬に挨拶をしてから調理を始める、千冬は今日を楽しみにしていてくれたのかニコやかに笑いながら美味しいと食べる姿を見て何処か安心感を覚えてしまっているカミツレ。食器を洗っているそんな彼に千冬は声を掛ける。

 

「先日は大変だったな。あの更識のアホが接触して来たらしいな」

「ええまあ……カチドキが生体反応があるって前もって教えてくれてましたので、ハニトラを警戒出来たお陰で普通に対処出来ました」

「そうかそうか、私の耐性作りも役に立ったか」

「ええまあ。それにスタイルとか色気は千冬さんの方がありますし」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、んんっ?何これからも続けていくぞ、これからが大変だからな」

「ええ、解りました」

 

軽く、後ろから抱き付きながら強く胸を押し付ける千冬に顔を赤くしながらも手を動かし続ける。やや慣れてきているが矢張りこの感触だけはそう簡単に離れない、しかしその時千冬がやや表情を硬くした。そっと離れながら座りこんだ。

 

「……カミツレ、お前何かあったのか」

「いきなり、なんですか?何も、ありませんよ」

「私の事は気にするな素直に言え。最近は安定して来ている、だから今度はお前の番だ」

 

千冬はカミツレが何かを隠そうとしているのを感じ取った。普段から気兼ねなく接し合う関係であるからこそ互いの素を理解している、がしかし今のカミツレは必死に普段通りの自分を演じようとしている。間違いなく何かあったと確信が出来る。

 

「……」

「本当の事を言っていいんだぞ、私とお前の仲だ。遠慮などするな」

 

口を閉ざしたカミツレ、静寂の中で水道の流れる音だけが木霊する中で最後の皿を洗い終わるとゆっくりと振り向きながら辛そうに笑いながらバレてましたかと、漏らした。悲痛そうな表情に千冬の心が痛む。

 

「俺、最近可笑しいんですよ……今まで、平気だった筈なのに……学園が辛くなってるんですよ…。最初なんて、思いもしなかったのに……周りが女子だらけでも、大丈夫だったのに……ISスーツをそれは着てる女子だらけでも、大丈夫だった筈なのに今は、凄いきついんです…」

「カミツレ…」

「でも、でも……セシリアとか真耶先生に、千冬さんといた時は何も思わなかった、さっきヨランドさんと電話で話した時もそうでした。凄い、安心したっていうか今までの感覚があった……」

 

震える手を見つめる、理由も分からぬ変化に一番戸惑っているのは本人。何故このような感じを味わうのかも分からない、ただただ苦しさが増していくだけの時間の流れに困惑するしかない。だが一人になると、感じなかった筈の不安が押し寄せてくる。周りが敵に見えてくる、何なのか分からなくなってくる。震えているカミツレを千冬は腕を引っ張って胸に招いて、そのまま深く抱きしめた。

 

「千冬、さん……?」

「……辛かったな、お前は…学園に来てずっと感じていたんだな……苦しいと、それを今まで誰にも言えずに抱え込んでいたんだな……」

 

カミツレの苦しさの正体、それはずっと抱き続けていた不安やストレスだと千冬は見抜いた。それが何故今になって重く圧し掛かってきたのか、それは余裕が出来てしまったからである。最近になってカミツレはイギリスからの専用機開発を受け入れた、それによって実質的にイギリスの代表候補生となった。それはカミツレがずっと求めていた後ろ盾になり得る存在の入手だった。家族の安全保障などに加えて一番なのは、自分を理解してくれる存在、恋人が出来た事だった。それがカミツレに絶対的な心の余裕を生み出し、彼は精神的に余裕が出来た…筈だった。それが、逆に彼が追い詰められる原因にもなってしまった。

 

今までの努力は研究所になどに送られて堪るか、自分は生きるんだという意志の元で周りなど気にする暇がないほどだった。それが周囲の環境や状況を詳しく認識出来ず、自分に必要な物以外は自然と流すようにしていた。が、心に生まれた余裕は周囲の環境を改めて認識させてしまった。今までは無意識の内に感じなかったストレスや不安を改めて実感してしまった。そして、更識の行動が最悪のタイミングで発生してしまい、軽度の人間不信を引き起こしながら心が磨耗して来てしまっている。

 

「私は馬鹿だ、お前の力になると言っておきながらこんな事も分かってやれなかった……教師失格だ」

「そんな事は……だって、だって千冬さんは忙しいから……」

「いいんだ、いいんだカミツレ……」

 

セシリアという恋人を得て生まれた安心と余裕、それが逆に自分を追い詰めていた。それには流石にカミツレも気付けなかった。気付かぬうちに出来ていた二人目の恋人、乱。彼女からも告白を受けつつセシリアから説明を受けた、自分を守る為という事と自分の不甲斐無さを謝罪してくるセシリア。それはしっかりと受け止めつつ、乱とは少しずつ絆を深めて行くのであればという事で了承していたが、それも少なからずストレスになっていたのかもしれない。

 

「ごめんな……ごめんな……」

 

免罪符のように謝罪を繰り返す千冬と何故謝ってくるのか理解出来ずにいるカミツレ。千冬は自分の力になってくれたり、世話を焼いてくれたりもした。カミツレの中には千冬に対する恩が大量にある、セクハラ的な行為も合意の上なので謝罪される事などない筈……なのに、その謝罪が胸に突き刺さり、涙が流れ始めた。

 

「千冬、さん……俺、俺……」

「此処には私しか居ない、防音処置もされている。安心して、全てを吐き出していいんだ……私が受け皿になってやる」

「……俺は、学園にいる事が、苦痛だったって分かったんです」

 

望まぬ形で入学させられた学園、追い求めていた夢を捨てなければいけなかった状況、政府の勝手な思惑で人間として扱われないかもしれない恐怖、周囲が女子だらけという苦痛塗れの環境、彼にとって学園は牢獄か地獄に等しかった。そんな中で出会えた信用出来る人達の存在は、心の支えだった。

 

「でも、辛いです…本当は居たくない。家に帰りたい……兄貴と笑いたい、ゲームしたい、風呂に入りたい、一緒に畑を耕したい、縁側で星を眺めたい…でも全部、諦めなきゃいけなかった…」

「そうだな…私達がそれを強要してしまったんだ……ごめんな…」

「でも、真耶さんっていう師匠が俺に基本を教えてくれた。セシリアは理論を、千冬さんは心を、ヨランドさんは応用を教えてくれた……それで俺は欲しい物を手に入れた。それでね、最近セシリアと恋人にもなったんですよ?」

「そうなのか、良かったな」

「嬉しかった、俺の傍に居てくれるって言ってくれたセシリアが……。でも、ちょっとセシリアに困った事もあるんです」

「何だ、言っていいぞ」

 

カミツレは抱かれている暖かさに溶かされるように口から出来事を次々と喋っていく、それを千冬は一つ一つ聞いて行く。

 

「乱さんも俺の恋人になるって言うんです、俺を守る為に一夫多妻制度を利用するって……俺を好きって言ってくれて、守るって言ってくれたのは本当に嬉しかった……俺は恵まれてるって心から思いました」

「そうか、そうか……」

 

『カミツレさんその、えっと……わ、私と結婚を前提お付き合いをしてください!!!』

『……えっあっそ、その……悪いけど俺にはセシリアが……』

『そ、そのセシリアの了解は取ってあります!!』

『……なんですとぉぉおぉ!!!?』

 

「恵まれてる、のになんでかなぁ……嬉しいのに、なんで、なんで苦しいんだろう……」

「……っ…いいんだ、もう一人で抱え込むな……。お前には恋人がいるんだろう?そいつらと共に苦しさを乗り越えるんだ…今日の所は、私がお前を受け止めてやるから……」

 

その言葉を受けて、カミツレのダムは決壊してしまった。大粒の涙を流しながら大声で泣いた、苦しみによって磨耗し続けた心を初めて露呈させた。千冬はただそれを抱きしめながら優しく、カミツレの頭を撫で続けた。優しく、甘く……出来るだけ、彼の心が救われるように……。そしてどれほどの時間が経っただろうか、彼は眠っていた。そんな彼を優しく撫でながら千冬は彼の恋人に連絡を取り、カミツレを自室まで連れて行った。この後は恋人達がやるべき事だろうと眠るカミツレを撫でる。

 

「一人で抱え込むな、カミツレ」



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56話

『みーたん!みーたん!!みーたん!!!』

 

―――兄貴。休憩中は確かに自由だけどもうちょっと静かにしろ、うるせえよ。

 

『何を言うんだカミツレ、お前にはみーたんの素晴らしさが分からないのか!?』

 

―――あ~あ~分かってるよ!分かってるから、周りに迷惑掛けるような事をするなって言ってんだよ!この前、みーたんも言ってたぞ。

 

『何だと!?それマジか!?すまなかったカミツレ!!!』

 

―――扱いやすっ……あっそうだ、みーたんとのボイスチャット会のチケット当たったけど兄貴使う?

 

『カミツレ……お前は神か』

 

―――くだらねえ事言うならやらねえぞ。

 

『すいません神様仏様カミツレ様!』

 

―――全く、まあ兄貴のそんな所嫌いじゃないけどな。んじゃやるからさっさと作業終わらせようぜ。

 

 

 

―――夢を見ていた、今では見れなくなってしまった夢の続きを。兄と一緒に騒いでいた日常の風景、当たり前であったはずの光景が当たり前ではなくなってしまった。悲しくて、寂しくて、懐かしいそんな夢を見ていた。あの時は騒がしくて兄と一緒に遊んだりするのが当たり前だった、兄の取り巻きとも呼べる三人組の三羽烏と釣りなど楽しく過ごしていた。本当に楽しい日々だった―――だがそれを過ごす事はない。

 

「カミツレさん、起きました?」

「……セシ、リア……?」

「カミツレさん大丈夫ですか、起きられます?」

「乱、さんも……?」

 

夢から覚めた、幸せな夢から覚めた先にあったのは学園の自分の部屋。ベットに横たわりながら此方を心配そうに見つめているセシリアと乱がいた、なんで彼女らがいるのだろうか。そもそも何故自分はベットの上にいるのだろうか、それすら思い出せない……何があってこうしているのだろうか。千冬と話していたような気がするのだが……。

 

「織斑先生から連絡を頂いたんですよ、それで私達が部屋に来るとカミツレさんが眠っていて…」

「先生に話を聞こうとしたんですけど本人から聞いた方が良いって言われて……何があったんですか?」

 

彼女らの瞳に嘘はないのだろう、純粋に自分の事を心配してくれている。それなのに自分は一瞬、彼女らのそんな気持ちを疑うような心持ちをしてしまった……自分を好きだと言ってくれた人の事を信じられないなんて、薄情な事だと自分に嫌悪感を抱いてしまった。そう思っていると彼女らの手が、自分の手に重ねられた。

 

「どうかお話ください、私達にも力にならせてください」

「カミツレさん…もしも、私が恋人になった事で悩んでるなら素直に言ってください。望むのだったら、私は素直に身を、引くつもりですから…」

 

乱は何処か辛そうにしながらもそう言い切った、元々セシリアから告白の話を聞いた時には彼の幸せの為に身を引く決心をしていた程。優先されるべきはカミツレ、自分の事は二の次。そう考えている乱を止めるようにその手を握り返した。

 

「違うんだ……俺は、俺は別に乱さんの事が嫌いになったとかじゃない。寧ろ、俺なんかの為に力になってくれるって言ってくれた時凄い嬉しかった……まあ混乱はしたけどさ」

「カミツレさん……じゃあ如何して……」

「……俺は…辛かったんだ」

 

一瞬話す事に躊躇するが、カミツレはそのまま口を閉ざさずに素直な事を喋る事に決めた。

 

「学園にいる事が辛かった、女子だらけの中にいるのが辛かった……でもそれに耐えて前に進むしか俺には選択肢がなかった。そうしないと生きられないと思ったから」

「……」

「それしか道がない……」

「だからこそ、気付けなかったのかな……本当は辛いって事に」

 

千冬にもした話をしていくカミツレ、それを受け止めようと必死に聞く二人は黙って向きあっている。そんな様子に気付けているのか分からないがカミツレは話し続けていく、溜まり続けていた物を吐き出すように止める事が出来なくなっている。そして話が終わろうとした時、セシリアと乱は堪らずに彼の手を強く握った。その表情は涙で溢れ返っていた。

 

「……申し訳、ありません……ごめんなさいカミツレさん……!!!」

「そんなに、苦しそうにしてたのに気付けなかった……少しでも見て欲しいなんて自分勝手な事ばっかり、アタシ考えてた……!!」

「二人とも……」

「私は、カミツレさんの事を分かっていた筈なのに……ただ、守ろうとしかしなかった……」

 

対抗戦の後、セシリアは知った筈だった。如何してあそこまで努力を重ねていたのかそれの理由を、しかし自分は力になって守ろうとしかしていなかった。カミツレの為に行動しているようでしていなかった、内面を支えてあげようとしなかった。共に苦しんであげようとしなかった……それで何が恋人か、そんな事を名乗れるのかと激しく自分を攻め立てる。

 

「あたしも、ただ憧れて、好きになってただけ……カミツレさんがどんな思いで努力してたって理解してたのに……」

 

乱がカミツレの惚れたのは対抗戦の時の戦い、その戦い方に彼の内面が投影されていたからだった。自らの価値を証明する為に必死に努力し、戦い抜き前へと進み続ける事まで見抜いた。そんなカミツレの姿に恋をしたのだ。だが、いざ学園で出会ってからはそれを理解してとは言えずに憧れの人に会えた喜びで舞いあがっていた。

 

「ごめんなさい……カミツレさん……!」

「すいません、すいませんっ…!!」

 

懺悔の涙を流し許しを乞うかのように泣き続ける二人、それを目の当たりにしたカミツレはその涙を見て驚きを覚えていた。彼女達は自分の事を心配してくれて泣いてくれているのかと、自分の事でもないのにここまで泣くのかと驚いていた。

 

「いいんだ、俺なんかの為に泣かないで……」

「カミツレ、しゃぁん……」

「でも、でも……」

「それだけで、俺は嬉しい……だから泣かないで……その代わりにさ…偶に甘えさせてくれないか。二人に……」

「「勿論です……!!」」

 

大粒の涙を流す二人の少女を抱き締めたカミツレ、愛しい彼の胸の中で泣き続けるセシリアと乱。この時こそ、本当の意味で彼女らがカミツレと共に歩き出そうとした時であったのかもしれない。

 

「俺って、幸せなのかも……」

 

そんな事を呟きながらカミツレが二人を抱き締める、これからは頑張っていくだけではなく好意に甘える事もして行かなくてはならない。それが、二人と共に居るという事ではないかと思った。



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57話

「…なんか、嬉しい一日だったな」

 

セシリアと乱に本音をぶつけ通じ合う事が出来た、それに喜びを感じつつ後日一緒に出掛ける約束をしたカミツレは笑顔を零しながらベットに横になる。滲み出してくる喜びに身を預けたまま天井を見上げる、師匠や尊敬している人達とは違った意味での理解をしてくれた二人には感謝しか言い表せない。

 

「これからも、世話になっちゃうけど……なんか、嬉しいな」

 

笑顔のまま言葉を漏らすカミツレ、溢れ出している歓喜に身を預けて続けている。心からの信頼を預けられる人と出会いと絆に感謝、そんな思いを浮かべているカミツレへカチドキが話し掛ける。

 

『カミツレ、少し宜しいでしょうか』

「カチドキ?ああ良いけど、なんか用?」

『少し、話をさせていただきたいのです』

 

カチドキが自分から話しかけて来る事は珍しい、今までも報告や警戒の推奨やらで話しかけられたりはしてきたが話したいという理由で話し掛けられた事は余りない。一体どんな話をするのかと少しの期待を寄せながら相棒の声に耳を傾ける。

 

『実はカミツレにお伝えしなければならない事があります』

「俺に伝える事?」

『はい、本来ならばもっと早く伝えるべきだったのですが……カミツレにとって大切な時間だった為に遅れてしまいました』

「あ~……気を遣わせちゃったか?」

『タイミングを逃しただけですのでお気遣いなく』

 

こうして思うと本当にカチドキがコアの人格、言うなれば人工知能的な存在とは本当に思う事は出来ない。皮肉も理解する上に人間的な会話も出来る、冗談も飛ばす事も出来る。本当に人間と喋っているかのような気分になる、故にカミツレもカチドキの事を相棒と思いISとは思っていない。自分と共に歩む仲間であり相棒、それこそカチドキなのだ。態々セシリアと乱が帰るまで待ってくれたという事なのだから。

 

『ではお話します。間もなく貴方を尋ねる方が来ます』

「客……って事で良いのか?それなら準備とかしないとな。んでその客って?」

『それは―――』

 

とカチドキが言おうとした時、鍵が掛かっている筈の部屋の扉が独りでに開き始めた。その音に思わず飛び起きたカミツレはそちらに視線を向ける、まさか強硬手段に取ってきた何者かと思って警戒する。そこに立っていたのは長身の女性、空のように青いワンピースを纏っていながら頭には兎の耳を模しているカチューシャと思われる物を付けている。不健康から来ているのか眼の下にある隈で少々分かりにくいが、その顔を見た時カミツレは知人を思い浮かべた。

 

「篠ノ之に、似てる……?」

 

箒に顔立ちが似ている気がする、何処か何となくだがそんな気がする。箒のような凛々しさはないが身体つきは似ているような気がする。箒と同じく自重をしないボディラインにブラウスはサイズが合っていないのか、悲鳴を上げている。そんな言葉を掛けられた女性は嬉しそうに口角を上げながら中へと入って扉を締めると、いい笑顔を向けながらカミツレを見た。

 

「ふふふ~ん君ってば良い眼をしてるねぇ~。うんうん流石はこの私が眼を付けただけの男の子だよね~♪箒ちゃんと似てるってもう嬉しいこといってくれるね~!」

「な、何なんだ……?」

 

いきなり嬉しそうに笑いながら小躍りする女性にやや引き気味になってしまう、箒の事を知っているようだが一体この女性は何者なのだろうか……?

 

「やぁやぁ初めましてフール・ジョーカー君!」

「フ、フール・ジョーカー……?えっと、杉山 カミツレです……?」

「うんうん挨拶は大事だからね、古事記にも書かれてるから!やっほ~皆のアイドルの束さんだよ~♪」

「あっどうも……んっ…?篠ノ之…束…ってISの開発者ぁ!?」

「あっいいリアクションだね、束さん的にポイント高い!」

 

突如として目の前に現れた人物はISの開発者にして現在国際指名手配されている超要注意人物であり、稀代の大天災と呼ばれる科学者の篠ノ之 束であった。何故そんな人物がこんな所に居るのかと混乱し掛けるが、カチドキが落ち着くようになだめてくれるお陰か直に落ち着く事が出来た。

 

『博士お久しぶりです。お元気そうで何よりです』

「うんうん、あの時振りだね~№274♪元気そうで安心したよ~」

『ナンバーではなくカチドキとお呼びください。それが私の名前です、相棒が私にくれた名前です』

「ふ~んそうなんだ~……へぇ~……」

 

それを聞いて更に興味深そうにカミツレへと視線を向ける束。何処か興味深そうに、面白い物を眺めるかのような見方に何か変な事でもしただろうかと困惑するカミツレだが、実は束に言いたい事があったのである。

 

「えっと、束博士……?」

「何かなジョーカー君?」

「……その呼び名もなんか気になりますけど…まずは有難うございます」

「…っ?如何してお礼を言うのかな?」

「カチドキから聞いたんですよ、話す為には博士の許可が必要だって。貴方が許可をくれたからこそ俺はカチドキと話す事が出来たんですよ。ここまで付き合ってくれた相棒にお礼だって言いたかったから、博士とは一度直接お礼を言いたかったんです」

 

そう言いながら頭を下げるカミツレに束はやや驚いた顔を作るが、更に面白い物を見つけた子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。

 

「やっぱり君は面白いね。ISを物ではなく個人として捉えるなんて、早々出来ない事だよ」

「そうですか……?俺は付き添ってくれた物には当たり前だと思いますよ。俺の爺ちゃんも言ってました『大切にされて、付き添ってくれた物には神様が宿る』って」

『私は八百万の神ではありません。しかしカミツレの気持ちは私としては嬉しい限りです。それと博士、私が見る限り栄養バランスの不足による健康面の悪化が見られます。カミツレ、出来る事ならば料理を作ってあげてくれませんか』

「んっ勿論いいぞ、相棒の頼みなら尚更だ。んじゃ博士直ぐに作りますから座って待っててください」

 

そう言うとキッチンに向かって料理を始めるカミツレ、その言葉に従って座った束は調理をしながらカチドキと会話しているカミツレを見ながら微笑ましい笑いを浮かべていた。自分の子供が仲良く一緒に作業をしているのを見る母親のような優しい顔を作りながら。

 

「カチドキ、博士って何が好きなのか分かるか?」

『検索中……以前博士と話した時にはカボチャやキャベツが好きだと言っておりました』

「カボチャにキャベツか……それはあるからそれをメインにしてみるか。うし、カチドキも手伝えよ」

『分かりました、私に出来る事があるのであれば』

「(そう言えばち~ちゃんも美味しい美味しいって言ってたなぁ…ちょっと楽しみになってきたかも)」



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58話

「んっ~結構いけるぅ~♪こっちも美味しいなぁ~♪」

「いっぱい作りましたからどんどん食べてもらっていいですよ博士」

「わ~い♪」

 

束の為に拵えたカボチャとキャベツ、その他の野菜を使った料理のフルコース。それらを笑顔で次々と食べていく束の食べっぷりに笑みを浮かべながら、急速で炊いた米のお代わりを盛って渡すカミツレ。千冬とも違った食べっぷり、千冬が何処か静かな一面を見せながら食べるが束は随分と違う。子供のような笑みを浮かべながらガツガツと食べる、対象的な二人だが美味しく食べて貰えるのならばカミツレ自身としては嬉しい限りである。

 

『いかがでしょう博士、カミツレの作る料理は』

「美味!!いやぁ束さんってば料理の味とか気にせずに栄養だけ摂取してきたけど、こう言うの悪くないなぁ。お料理ロボとか作るのもありだなぁと再認識した!おおっ今降りてきた、新しいISのアイデアが降りてきた!!」

「料理は心の栄養になるだけじゃなくて、食感で感じられる感覚で気分転換とかアイデアとかが浮かびますからね」

「うん、再認識したね。という訳でこのキャベツのパリパリ浅漬けお代わり!!」

「えっまだ食べるんですか?」

「食べるの~」

「はいはい今用意しますよ」

 

束の食欲に少し呆れつつも正直作りすぎてしまった気がする料理、それをもう全部食べ尽くす勢いに料理人としての一面が喜びを上げている。炊いたご飯も次々と料理と共に束の胃に収まっていく、そして心なしかやや不健康的な隈が消えていき肌が綺麗になっているように見える。気のせいだろうか。

 

「プハァッ~美味しいなぁこりゃち~ちゃんも夢中になる訳だね♪」

「それはどうも、お代わりいります?」

「大盛りでね!!」

 

食べる度に健康的に見えてくる束、そして全ての料理を平らげた束はつやつやとして肌を光らせていた。満腹になったのかおなかを撫でながら満足げな笑みを零している。

 

「プヒャ~もう大満足ぅ~♪ご馳走様でした~♪く~ちゃんの料理も良いけど、この料理も良いねぇ~♪」

「満足して頂けたようで俺も満足ですよ、にしても良くあれだけの量を……」

『一般的な成人女性が一度の食事で摂取する量の3倍は食べました』

「しかもなんか……凄い元気になってねぇか……?」

 

食後のお茶を啜っている束を食器を片付けながら見るカミツレ、あれだけの量を食べ切ったのも驚いたが今の束の姿も驚きに値する。一体如何してこんなに綺麗になったのか。それには束が笑顔で答えた。

 

「束さんの身体の中には特製のナノマシンが打ち込んであるんだよ。ナノマシンは摂取した食べ物とかを完全に分解して、100%身体に還元してくれるのだ♪しかも直ぐに身体に行き渡らせてくれるからね、重宝してるのよこれが♪」

「……すっげ」

『これが博士です』

 

一瞬納得し切れないような気がしたが、カチドキの言葉で全てを納得してしまった気がする。下手に理解しようとせずに束だからしょうがないと認識した方がいいかもしれない。それが混乱せずに納得する唯一の方法だろう。それを自然と咀嚼し、飲み込んで思考の一部にしたカミツレであった。

 

「いやぁ此処までの美味しさとは……なんだろうね、レストランとかの料理にない美味しさがある気がするのは何でだろうね?」

「いやそこで俺に言われてもな……というか、博士なんで俺の所に?」

「私の子供が宜しくやってくれる相棒に挨拶をしたい、それは別に親としては自然な思考じゃないかな」

「そりゃまあ……確かにそうですね」

 

言われてみれば当たり前の心理、独り立ちした子供が懇意している相手。そんな相手と会って話をしたいというのは確かに、一人の親としては自然な考えだ。特殊な関係だろうが束とISは間違いなく親子、それは間違い無いだろうとカミツレは自然に受け入れていた。束の機嫌をよくさせている事に気付かないまま。

 

「それで博士」

「別に博士じゃなくて良いよ、束さん的にもポイント低いし束さんでいいよ」

「わ、分かりました。えっとなんで束さんは俺の事を『フール・ジョーカー』って言ったんですか?」

 

『フール』とは愚者を意味する、『ジョーカー』とは切り札を意味する。何故そのような呼び方をしたのか不思議でならない。

 

「フール、即ちタロットカードの0たる愚者。それがどんな意味をしているか知ってる?」

「えっ?え~っと……確か正位置が型に嵌らないとかで、逆位置はわがままとかでしたっけ?」

『正位置は自由、型にはまらない、無邪気、純粋、天真爛漫、可能性、発想力、天才を意味します。逆位置は軽率、わがまま、落ちこぼれ、ネガティブ、イライラ、焦り、意気消沈、注意欠陥多動性などを意味します』

「そう。そういう意味を含んでいるのが愚者、だけど一部では愚者の事をこう呼ぶんだよ。運命を変えるものってね」

 

その言葉に怪訝そうな顔を浮かべるカミツレ。一方束は笑みを絶やさずに続ける。

 

「決められた計画の中に発生したありえないイレギュラー、運命の分岐点、自らの定めを変える宿命を持つ、トリックスター、それらを複合したのが愚者。束さんは君がISを動かせるなんて知らなかった。いっくんが動かすのは可能性としてはありえるかな、動かしたら面白い程度には思ってたけど君は完全な想定外な存在なんだ」

「イレギュラー、予想外……」

「そして、君はあらゆる意味で特異的な存在。ジョーカーというべきに相応しい、だから『予測出来ない特異点(フール・ジョーカー)』と呼んだんだよ」

「それで俺を如何にかするつもりなんですか?」

「いやそんな気はサラサラないよ。もしも、私の子供を侮辱して汚すようなクソだったら、一族纏めて殺してたけど…君はISの本質を捉えて受け入れてるからね」

 

ニコヤかな束の笑み、それはカミツレの事を認めたと言っても過言ではない物を示している。カミツレがカチドキを一個人として、相棒として扱っている時点でカミツレは興味の対象となっている。そしてカチドキを目覚めさせる条件を満たした時、会ってみたくなった。子供を預けるのに相応しいかどうか……。会ってみて正解だった、カミツレは完全にISを人間のように認識している。

 

「束さんは君の事、気に入ったからね」

「料理的な意味でですか?」

「そうそう…ってちゃうわい。そうでもあるけど違うよ、君はカチドキが話したいと望むほどの存在。つまりISコアが覚醒するに相応しいって事……だから気に入ったんだよ『フール・ジョーカー』君……いやカッ君」

 

少し屈み見上げるようにカミツレにそう宣言する束、結局束が何を言いたいのか分からない。カミツレは相棒の母親に良い印象を持たれたと思う一面で、とんでもない事になってしまったのではないかと思い始める。そしてこの事を折角安定して来た千冬に話して良いのかと不安になってきた。

 

「それじゃあそろそろ帰るよ、ご飯美味しかったよカッ君♪」

「また来るならせめて前もって連絡してくださいよ、仕込み位したいんですから」

「分かったよ♪はいこれ束さんの連絡先ね♪何かあったら力になってあげるからね。前もってすればいいんだったら、週1で来るから!」

「それは来すぎでしょ」

「アハハッそれじゃあねカッ君、また会おうね」

 

そう言って窓を開けてそこから飛び降りるようにして消えて行く束、思わず窓の外へと視線をやるがそこに彼女の姿はない。あの一瞬で何処かに行ってしまったのだろう…取り敢えず連絡先を携帯に登録するが……なんだか大変な事になってきた気がする。

 

「なあカチドキ」

『はい』

「束さんってさ、凄い無茶苦茶やりそうだけどなんか……お茶目っぽいな」

『同感です』

 

 

「杉山 カミツレ君か……ち~ちゃんがお気に入りなのも分かったよ。ふっふっふっ……年下趣味も悪くないかもね♪」

 

 

「っ!!!?な、なんか悪寒が……」

『大丈夫ですカミツレ、恐らく博士が貴方に対して物騒な事を言っただけでしょう』

「いや安心出来る要素皆無じゃねえか!!?」



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59話

この作品、一学期終わるまでに何話掛かるだろうか……。と友人に聞かれて困った私です。

後カミツレ君のイメージCVは誰?と聞かれて答えられずに、何故か怒られた私です。

何故怒られたんだ……。


「……そうか、いや直接言ってくれて私としても気が楽になった。感謝するカミツレ」

「そっちも最初から本音で言ってくれたからな、それに応じた方がラウラも気が楽だろ」

「まあな」

 

束との邂逅もあり、ますます平穏とは無縁な道を駆け抜けていくカミツレ。そんな彼は以前、お前が欲しいとストレートに言ってくれたラウラに返答を返していた。自分はイギリスを選んだのでドイツにはいけないと。それを聞いたラウラはそこまで取り乱した様子もなく、淡々と事実を受け止めた。寧ろそれが正解だと言わんばかりの対応を見せた。

 

「正直国に仕える軍人としては罰当たりな事を言うが…ドイツを選ばずに正解だ。国内ではかなり不穏な動きが活発になっている」

「例の研究施設の破壊とデータの消去の事か」

「ああ、それに酷く反応していたのが女尊男卑の擁護団体だった。異様なほどの反応を示しながら政府に抗議を行っている」

 

女尊男卑主義者の団体、言うなれば女性を世界の中心にし男性は全て奴隷にすべきだと考えをする団体。その団体によって男性の冤罪などは多発しており、それどころかテロ活動までする過激派まで存在する。それによって現在は危険思想として認定をされかかっており、国際的な問題として話題が上がる事も多い。

 

「やれ政府の役立たずだの、税金の無駄遣いだの、栄光あるヴァルキリー達のお姿をなんだのかんだのと色々言ってきている。まるで自分達の力を穢されたようにな」

「VTシステム関連はその団体が主だったって事か?」

「かもしれん。その可能性が一番高い、それとこれは私の推測だが団体はそれを何処かに売り渡す気だったのではないかと思っている」

 

団体と繋がっている組織、そこへVTシステムを提供する。後から調べて分かった事であるがVTシステムによって破壊された新型のISもVTシステムの搭載が前提に設計されていた物のプロトタイプ、これはシステムだけではなく新型とシステムがセットになっている事になる。

 

「しかし擁護団体の騒ぎようからすると、渡す筈だった物全てが消えて無くなったとみて間違い無いだろう。でなければあそこまで騒ぐ事もないだろう」

「そうか……」

 

ラウラの話は的を得ているし恐らく間違ってはいないのだろう、VTシステムの弱点を改良され扱い易くなっている物。それは大きな戦力になる、加えてそれらを搭載した無人IS……それが実現した場合途轍もなく厄介な事になる。恐らくデータ削除の張本人である束もそれを忌避して、施設の破壊やデータの全削除を行ったのだろう。元々VTシステムは束にとっても嫌う物でタイミング的には頃合だったのかもしれない。

 

「故にドイツを選ばなかったのは良い事であろう、イギリスの代表候補生として頑張ってくれ」

「ああ。素直に受け取らせてもらうよ」

「それとこれを渡しておこう」

 

そういうと懐から一枚の名刺のような黒いカードを取り出しカミツレに渡した。そこにはラウラの名前と番号、それと何やら数字と記号の羅列が書かれている。

 

「これは?」

「私は先日付けで、織斑 一夏の護衛を命令された。なので私は奴を優先しなければならないが、そこには私の連絡先とドイツにいる私の部下達に連絡を行える通信コードだ。何かあればそこに連絡すれば、私の部隊の及ぶ範囲内で力になれる。せめてこの位はさせてくれ、友人として受け取ってもらえるか?」

「心強い贈り物だな。有難う」

「礼には及ばん。ではこれで失礼しよう、またな」

 

最後に強く握手をしたラウラは笑みを浮かべたまま部屋から立ち去って行った、矢張りラウラ個人は信頼に値するのだろう。だがドイツという国その物はそうとは言えなかったという事だろう。VTシステム、新型のIS、自分が目の当たりにした事件はまだまだ息をしていた。しかしそれも束の手によって止められた。これで終わったのだろうかと思った時、携帯がなった。

 

『カミツレ、貴方の恋人からです』

「…カチドキ、お前ワザと名前を言おうとしてないだろ」

『否定はしません。セシリアからです』

 

やや溜息を付きつつも考えを切り替えて携帯を取った。

 

「はい」

『カミツレさん、明日のご予定を覚えておられますか?』

「ああ、一緒に遊びに行くというか買い物に行く奴だろ。臨海学校に備えてって奴」

 

IS学園が迎える夏季休暇前の生徒にとっての楽しみのイベント、それが臨海学校。実習ではあるのだが臨海学校はビーチのある旅館で行われる事になっており、初日は完全な自由時間で泳ぐ事も遊ぶ事も自由。故に生徒達はそれを心待ちにしている。そのイベントの為にカミツレはセシリアと買い物と行く事になっている。

 

『実は乱さんもお誘いしたいと思っているのですが、宜しいでしょうか?』

「ああ俺は大歓迎だよ。乱さんとも親睦を深めないと行けないしね」

『良かったですわ!!実はもう一つお願いが……』

「俺で良ければ力になるよ」

『流石カミツレさんですわ!!では明日楽しみにしておりますわ!!』

「ああそれで頼みって…あれ、セシリア?お~い……切れてる」

 

テンションが振り切れてしまっているのか電話を切ってしまったセシリアにやや不安を感じつつも、恋人の頼みなのだから受けるつもりでいるカミツレ。が一体どんなお願いをする気なのだろうか……少し不安を覚える。

 

「どんなお願いだろ……」

『検索中……彼女が彼氏にする一番のお願い、それが服を選んで欲しいとなっています』

「服か……ありえるなそれ」



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60話

「今日という日を楽しみにしておりました!」

「全くよね!!本当に今日は楽しむわよセシリア~!!」

「ええ勿論ですわよ乱さん!」

「二人とも元気だな…」

 

週末の日曜日、天気は快晴なり。良い天気となった日に出掛ける三人の男女、カミツレとその恋人であるセシリアと乱である。セシリアは落ち着いた薄い紫色と青の上着でコーディネートを行い自らの気品と美しさを高めつつも、愛らしさも強調している。その関係もあるのかセシリアをみるカミツレの視線は何処か照れている。乱は赤いズボンに白のシャツとポーチ、シンプルだが夏を意識しつつも自分の活発さをアピールする事に成功している。カミツレの視線は何処か眩しそうにしている。

 

「二人とも本当に可愛い服だな、ファッションセンスがあるって凄いな」

「褒めていただき嬉しいですわ♪」

「えへへ~カミツレさんに褒めてもらっちゃった♪でも、私達一つ不満な事があります」

「そう、それはカミツレさんの服ですわ!!」

「あ~……やっぱり?」

 

薄々思っていたが二人が自分を見る目は何処か不満げだった、それが何か漸く分かった。それは自分の服装の事であった。自分が今来ているのは青いジーンズに黒い無地のシャツという服装で、二人に比べるとかなり浮いている印象を受ける。といっても元々大した服を持ってきておらず、どれを着ても変わらないという現状があった為に適当にしたのだが……流石にまずかったようだ。

 

「そうです、カミツレさんは元が良いのですのからもっとお洒落に気を遣うべきです!!」

「俺が?ははっそりゃいいすぎだって、元が良いって言うのは織斑みたいな奴の事を言うんだよ」

「そんな事無いです!!あんな奴なんかよりもずっとカッコ良いです!!」

「まずはカミツレさんの服ですわね!!」

「そうね!!それじゃあ早速行きましょう!!」

「あっおいちょっと待ってって引っ張んないでってああぁっっ!!!?」

 

杉山 カミツレ。この日になるまで女子との買い物の経験はなく、女子が買い物の時に発揮する力の事は知らずにいた為に二人の迫力に圧倒されるまま連行され、二人が見立てた服を着せられる事となった。やや暗めのライダースジャケットに青のTシャツ、上質のデニムを見立てられた。何処か自分ではないような感覚を覚えるカミツレだが恋人二人は大満足のご様子なので、そのまま着て歩く事になった。因みに元々着ていた物は宅配便で学園に送られてしまった。

 

 

「それで俺への頼みって一体何なんだ?結局、知らずにショッピングモールまで着いちゃったけど」

 

三人がやってきたのはIS学園から程よい距離にある大型のショッピングモール、此処になければもう市内にはないとすら言われるほどに品揃えが充実している『レゾナンス』。国内だけではなく海外の一流ブランドまで取り扱っているほか、レジャーにも手が抜かれていない。そんなショッピングモールを進んでいくカミツレ一行だが、なにやら先程から二人が不穏な笑いを零しているのが妙に気になる。そして笑顔のまま振り向いてくる二人。

 

「カミツレさん仰ってくださいましたよね、自分で良ければ力になる……そう仰ってくれましたよね?」

「つまり、自分で何とかなる範囲だったら聞いてくれるって事ですよね?」

「お、おうそういう事だけど……」

 

途端に嫌な予感がしてきた。てっきりカチドキに言われた通り「服を選んで欲しい」という事だとばかり思っていたがなんだか違う気がしてきてならない。猛烈に嫌な予感がしてならない……出来る事ならば全力疾走でこの場から逃げ出したいのだが、ガッチリと両手を掴まれてしまっているのでそれも出来ない。

 

「今度の臨海学校で」

「私達が海で着る」

「「水着を選んでください!!」」

「……予想、斜めを行ったっ……だと!?」

『(実はそうじゃないかと思ってましたが、面白そうなので黙ってて正解でした)』

 

そのまま呆然とするカミツレを引きつれて女性物の水着売り場へと突撃して行く二人、カミツレはもう死にそうな顔を作りながらそれに着き従っていく。

 

「これなんて如何でしょうかカミツレさん、私のティアーズのように美しい青ですわ」

「い、いやそれセクシーすぎないか……?き、際ど過ぎるというか…」

「あらいけませんわ、こういった物は海ではなく……二人っきりの時にこそ必要ですわね♡」

「グフッ!?や、やめてくれセシリア!?」

「でも可愛いですから一応買っちゃいましょう」

「……ご自由に」

 

「カミツレさんこれなんて如何でしょ?アタシはやっぱりビキニが一番だと思うんですよ!」

「い、いやそこで俺に同意を求められても……」

「あっそこのスリングショットって奴が良いんですか?」

「ち、ちちち違うから?!い、今のは唯視線をずらしただけでそれが良いって訳じゃないから!!」

「もう、言ってくれればそのぐらい着るのに……カミツレさんのイケズ♡」

「……あんまり俺を虐めないでくれ……」

 

水着一つ選ぶのに神経をすり減らしながら付き合ったカミツレ、本当は逃げたしかったのを我慢しながらそれに着き従った。周囲からは暖かい目で見られるのに耐えながら、二人が水着を試着するというのを必死に止めながら適当な物を選んだ自分のを含めた三人分の代金を支払って早々に水着売り場から離脱した。

 

「はぁっ……もう二人共、時々変な事で俺を困らせるの止めてくれよ……」

「ふふっやっぱりカミツレさんってば初心な所ありますね」

「そんな所も魅力的ですけどね♪」

「なんだかすっげぇ疲れたな……ハァ……」

 

ベンチに腰掛けながらジュースを飲むカミツレとその隣で座りながら買って貰った水着を大事そうに抱える二人、何だかんだ言いつつもカミツレは二人に似合う水着を見繕っていた。苦手なジャンルではあるが、頼まれたのであるならば確りと成す男でもある。それに感謝の念を浮かべつつ、彼の肩に頭を預ける。

 

「やれやれ……そう言えば後1時間もすれば昼食時だな……折角だから何か食べていくか。二人とも何かリクエストある?」

「強いて言えば……和食でしょうか?」

「あたしもですね」

「和食か……それじゃあその辺りを探して―――」

「なんだ、お前達も来ていたのか」

 

と言いかけた途端にこちらに声が掛けられた。其方を見ているとそこには普段見慣れたスーツではなくラフな服装と伊達眼鏡を掛けている千冬と真耶の姿があった。

 

「千冬さんに真耶先生、お二人も買い物ですか?」

「ああそんな所だ。水着のサイズが合わなくて買い直しだ。お前達もか?」

「ええそんな所です」

「そうだ、丁度良い。おいカミツレ少し付き合え、お前ら借りていくぞ」

「「え"っ!?」」

「はい!?」

 

ちょいっと肩脇にカミツレを担ぐかのように鮮やかな手捌きで彼の肩に腕を掛けるとそのまま連れて行ってしまった。それを止める事も出来ずに二人は呆然として、見送ってしまった。

 

「ちょちょっと先輩良いんですか!?」

「何、後で詫びはする。昼飯は私が奢ってやるから勘弁しろよ」

「待ってくださいよ!!?何で俺が!?」

「男からの目線も必要という物だろう、真耶も弟子に水着を見繕って貰うのも師匠らしい事だろう」

「それは、確かに……じゃあカミツレ君お願いしますね!」

「ちょ真耶先生!?」

 

完全に味方だと思っていた真耶すら止める事がなかった、そしてもう入りたくないと思っていた女性水着売り場へとどんどん近づいていく。なんとか脱出しなければ……!!

 

「か、勘弁してください!!俺もう二人の水着選んでて、もう入りたくないんですよ!!?」

「ほほう、それならば審美眼にも期待が出来るな。これは安心出来るな真耶」

「そうですね先輩!」

「い、いやぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」

 

カミツレの悲鳴が水着売り場へと消えていくのをただただ見送るしかなかった二人、相手は千冬もいるのだからしょうがない。ただただ、恋人の安全を祈る事しか出来なかった……。そしてカミツレは二人に売り場を連れ回されながら水着をまた選ぶ羽目になった……。

 

「……もう、水着なんて大っ嫌いだ……」

『予想通り面白い結果になりました。博士に送信しておきます』




カミツレがコーディネートされた服は、仮面ライダー鎧武の劇場版で紘汰さんが着ていたような奴と思ってください。

表現力なくてすいません。


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61話

「海っ!見えたぁっ!」

 

山を穿つような長いトンネルを抜けた先から溢れ出してくる太陽の光、それに一瞬視界を奪われる。その後に訪れてくるのは太陽の光を受けて輝きを放っている大海原。幸運な事に快晴に包まれた空からサンサンと降り注ぎ日の光が、美しい海を更に美しくする。同時に漂ってくる心地が良い潮風が届けられてくる、その相乗効果で車内の女子達はお祭り騒ぎ。

 

「カミツレさん海ですよ、遂に見えましたわ」

「ああ見えてるよ。海か…見慣れている筈なのに少しワクワクするのは何でだろうな」

 

そう言葉を零したカミツレに周囲の女子達も同意した。学園は海に囲まれた島に作られている、故に海など見慣れている筈なのに高揚感を感じている自分達がいるのにはやや不思議な感覚を覚えずにはいられない。矢張りビーチの有無などが関係しているのだろうか、カミツレも久しぶりに泳げる事に少しばかりに嬉しさを覚えていた。何処か嬉しそうな顔を浮かべていたのが見えたのか、前の席のシャルが顔を覗かせる。

 

「杉山君は泳ぎは得意なの?」

「それなりだな。不得意ではない程度に泳げる」

「へぇ~」

 

適当な話を飛ばしているとバスは停車した、目的地であった旅館前へと到着したからだ。停車したバスからは千冬の指示に従って下車し、整列していく。千冬の指導力が目に見えて分かる場面でもある、そんな生徒達が並び立ち旅館の方々への挨拶が始まる。数日間お世話になり面倒を掛けるのだから当然の行いでもある。挨拶も終わり、それぞれが部屋へと向かって行く中一夏はカミツレへと声を掛ける。

 

「なぁカミツレ、俺達って部屋どうなるんだ?」

「取り敢えず普通の個室とかはごめんだな、夜中に女子が入り込んで来るのは嫌だからな」

「夜ぐらいは普通に寝たいもんな」

 

それもあるがそうじゃないだろとツッコミたくなるが何も言わないでおく。兎も角女子と同室もありえない、そうなるとどうなるのだろうか……。と思っていると教師二人(千冬と真耶)が近づいてきた。

 

「お二人の部屋こっちですよ」

「付いて来い」

 

その言葉に従って後に続いて行く一夏とカミツレ、他の女子達は付いて行きたそうな表情を浮かべていたが千冬がいたので追跡はしようとしなかった。してお説教は勘弁願いたいのだろう、態々自分から自由時間を削るような真似はしたくないだろう。快適な室温で保たれている旅館内部を進んで行く4人、そしてある部屋と辿り着いた。そこは教員室と書かれたプレートが下げられている。

 

「あれ教員室?俺達の部屋って…此処?」

「まあ妥当な所だと思うぞ俺は」

「話が早くて助かる、此処ならば生徒も忍び込む事もないだろう。忍び込んだら夏季休暇は延々と補習にしてやるがな」

「お、恐ろしい……俺だったら絶対に嫌だぞ」

「いやお前は既に夏休みは強制奉仕活動だろうが」

「そうだったぁぁぁぁっっ!!!!???」

「忘れんなよそこ」

 

勝手に絶望している一夏などは放置しつつ、部屋割りは千冬と一夏。真耶とカミツレという事になっている。真耶の場合、恐れずに入ってくる恐れもあるが部屋の広さなどの問題もあるから分けるしかない。それでも隣には千冬がいるので何があっても直ぐに対処出来る。それに師弟関係の二人ならば問題は起こさないだろう、一夏も千冬が一緒なら下手な事も出来ないだろうし。

 

「織斑、お前は荷物を置いたら海にでも行け。私と真耶は仕事がある」

「分かりました織斑先生。おっしカミツレ早速行こうぜ!!」

「勝手に行け、俺は自分のペースで行く。荷物の整理もしたいからな」

「そっか、んじゃ先行ってるぜ!!」

 

と着替えを持って廊下を走っていく一夏、後ろから千冬の声が飛来したので歩きなおす。はしゃぎすぎだと零す千冬の言い分も分かる気がするが、彼の気持ちも理解出来るカミツレは荷物を置いて着替えなどを用意するが……行きたいような行きたくないような気がしてきた。

 

「……忘れてた、周りが水着の女子だらけって事じゃねえか……!?」

『今更ですかカミツレ』

「何で、今まで気付けなかったんだ……!?」

 

学園の環境に慣れてしまったのか、周囲が女子だらけでも何とも思わなかったがここではそうも行かない。制服ではなく水着なのである……しかも男は一夏と自分のみ……中学校の時、水泳の授業で男子が少なく女子が多かった時はそこまで何も思わなかった。その時は学校指定の水着であった、だが今度はそうも行かない。セシリアや乱の水着を選んだ事も考えると、その辺りも自由な筈だ。という事は……。

 

「……やっぱ、行かないで済む方法ないかな…」

 

遠い目で海を眺め始めるカミツレ、男としては羨ましく思われる反面もあるが同情を掛けずにはいられない場面でもある。

 

『カミツレの自由にすれば良いと思います』

「カチドキ……」

『しかし、その場合には貴方の恋人達の怒りを買う事を覚悟してください』

「それもいやだよ!!?」

 

水着を選んで欲しいと言ってきている時点で向こうはその姿を見て欲しいと言っているのと同義、行かなければどんな目にあうかなど想像も容易い……つまり、自分に残っている選択肢は行くしかないという事である。別の意味で命の危険を感じ始めるカミツレは、絶望に心を染めながら着替えを持って教員室から出て着替えの為に別館へと向かっていく。

 

「ああっ…神様、助けてください」

『神などいません。いたとしても休暇を取ってベガスでカジノに勤しんでいます』

「慰め有難うよこんちきしょう!!!」



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62話

「あっ杉山君も来たよ!」

「う、うそ!?ね、ねえ本当に私の水着おかしくないよね!?」

「わぁ凄い……織斑くんよりもガッチリ鍛えられてる……」

「あの腹筋に腕周り、何て色気……」

「ごくり、触りたい…」

 

水着へと着替えたカミツレは覚悟を決めてビーチへと足を踏み入れた、此処に来るまで何度も心が折れそうになっていたのは内緒である。しかし肌が見えすぎているISスーツを皆が着ていると思うんだと、自分で思い込む事で取り敢えず振り切りそうになる理性を抑えこんでいる。眩しく輝くビーチにはしゃいでいる少女達の視線を受けるカミツレの身体は一夏の物よりも鍛え上げられている。毎日続けているトレーニングには肉体面の物も含まれているので当然である。

 

「おっカミツレ来たんだな。にしても……凄いな腹筋割れてるじゃん」

「毎日鍛え上げてた結晶だからな」

 

唯ISの操縦訓練をするだけでは意味はない、真耶から口を酸っぱくするほどに言われている言葉でもあった。同時に身体を鍛える事で操縦の負担にも耐えきれる、ISの操縦者保護機構でも相殺しきれない程の負担にも耐え切れるようになる。その為に鍛え続けているカミツレ、事実以前ヨランドに個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を指導され成功した時にも負荷にも確りと耐え切っている。それだけ立派な身体が出来上がっている事である。

 

「んじゃ俺泳いでくるぜ!カミツレも行くか!?」

「自分のタイミングで行く」

「そっか、おおおおっ泳ぐぞぉぉぉぉっっ!!!」

 

駆け出して行った一夏、それに続くかのように女子達も海へと入っていく。それを見つめるカミツレは深呼吸をして落ち着きを取り繕う、幾ら思い込みでなんとかしているとはいえこれでは余りにも目の毒だ。なんとか気分を落ち着かせていると背中を誰かに押された。

 

「何落ち着いてんのよ」

「鈴か……男にとってはこれ程までに辛い風景もないんだぞ」

「あ~……成程ね、アンタには同情するわ」

 

鈴はそのまま、なにやら頑張れと不吉な言葉を言い残したまま準備運動を済ませて海へと入って行った。……そうだった、セシリアと乱の事があったのだった……と思わず頭を抱えてしまう。そして遂にそんな時がやってきた。

 

「「カミツレさん♪」」

 

後ろから聞こえてくるウキウキと浮かれているような嬉しそうな声に一瞬身体が震えた、潮風に錆付いたかのような動きで振り向いてみる。そこには自分が選んだ水着を纏っている恋人二人がポーズを決めていた。

 

「如何でしょうか、ご感想は♪」

「似合いますかね♪」

 

手に荷物を持っているセシリアが纏っているのはブルーのビキニ、腰に巻かれたパレオが彼女の優雅さを引き立てつつも美しさを際立たせている。豊満な胸を強調するように纏うビキニ、モデル顔負けなスタイルなセシリアの魅力を完璧なまでに引き立てている姿にやや理性が暴れてしまうほどに官能的な印象を受けた。そして乱は明るい緑のビキニを着用している、活発的な乱らしいスポーティタイプで動くのに最適な物。セシリアほどではないが、それでも大きな胸は誘惑的に揺れている。そんな二人の姿に一瞬思考が停止するほどの衝撃を受けるカミツレだが、何とか再起動を果たす。一応、正気は保てている。

 

「に、似合ってるよ二人とも……うん、流石モデル顔負けだ」

「キャアもうお上手ですこと♪」

「もう本当のことだからって言い過ぎですよぉ♪」

「いや本当に綺麗だよ、一瞬クラって来ちゃったから……」

 

クラクラしているのは本当である、恋人の眩しい水着姿は他の生徒の水着よりも破壊力がある。その言葉に嬉しさを浮かべる二人、セシリアと乱は持っていたパラソルやシートを広げていくとその下に入った。そしてサンオイルの入った瓶を差し出して笑顔で言った。

 

「サンオイルを塗ってください♪」

「お、俺ぇ!?」

「カミツレさん以外にありえませんよ。さあさあ♪」

 

満面の笑みで問い掛けて来る二人、その笑みには逆らえないのかそのままパラソルの下へと入る。そこでは既にセシリアが水着を紐解いて寝そべっていた。シートに押し付けられている胸は僅かに背中からでも見えているのが非常に目に毒だ。そしてパレオが外れている事で発育が良いお尻も誘惑的に見える。顔が歪みそうになるのを必死に止めながら、サンオイルを手に塗ってまず暖めていく。数回だが海に入った事がある、その時に兄が日焼け止めを塗る時はまず暖めた方が良いと言っていたのを無意識に守っていた。

 

「そ、それじゃあセシリア塗る、ぞ……?」

「よろしくお願いします……♡」

 

すべすべとした絹のような美しいセシリアの肌に手が触れて、サンオイルを塗っていく。一度共に浴場へと入りそこで肌が触れ合っている経験があるからか、カミツレはほんの僅かに気が楽であったがそれでもこんなじっくりと自分から触れていたわけではないのでどちらにせよ心臓に悪い。

 

「んっ……あんっ……」

「こ、声を出さないでくれセシリア……」

「だって、凄い、んっ……お上手ですので……ぁっいいっ……♡」

「……何も、考えるな……そうだ、無心だ無心…」

 

そのまま無心でオイルを塗り続けて行き、カミツレは乱にもそれを同じ事を施した。乱も艶っぽい声を出してカミツレの腕前に気持ち良さそうにしていた。元々農作業をしていたカミツレにとって、作業後に身体が凝るのは良くある事であった。それで兄とよく接骨院などに行っており、そこでマッサージのコツをなどを教えて貰い兄や三羽烏の人達にやっていたりしていた。腕前も好評だったりしていた。そんなカミツレのオイル塗りも流石にお尻や前は、セシリアと乱にやってもらった……が、足などはカミツレがやる事になってしまった。そしてやり終えた後には……カミツレは顔を赤くしながらも荒々しく息を吐きながら、自分の身体にオイルを塗っていた。

 

「ぁぁっなんて官能的な感触だったのでしょうか♪」

「本当♪お風呂の後にもお願い出来ます!?」

「是非是非!!」

「……確りと服着てくれるならやるよ」

「「やったっ♪」」

 

もう疲れてしまっているのか返答も力がなくなっているカミツレを他所に二人はハイタッチをする。確かに疲れたが…恋人が喜んでいるのだから良いかと折り合いを付ける事にした。そんなカミツレの前に更なる苦難が舞い降りた。

 

「カミツレ、随分とお疲れだな。まだまだ始まったばかりだろうに」

「……千冬さん、お願いですから俺を虐めないでください……」

 

目の前に立ったのはマッチしている黒のビキニを身に纏い、大人の魅力を全開に引き出している千冬の姿であった。セシリアと乱も十分にモデル顔負けなのに、二人に全てにおいて勝っているのは流石千冬と言わざるを得ない。思わず二人も負けた……と言ってしまう。

 

「この後に真耶も来るぞ、まあそれはそれとして……さあハニトラ訓練水着編の開始と行くか」

「いいいぃぃぃぃっ!!!!???」

「これからビーチバレーに参加する。オルコット、凰も参加しカミツレとチームを組め。そして、私に敗北した場合……ふふふっ」

「っ!?勝ちますわよ!!」

「勿論!!!」

「ま、負けられない戦いが此処にある……!!!!」

 

この後、プロも裸足で逃げ出すかのようなプレーを連発する千冬に必死に食らい付けていく三人。だが圧倒されてしまい負けると思ったその時、千冬のスパイクが地面に突き刺さると同時にボールが音を立てて割れてしまった。これによって試合は無効、引き分けとなりカミツレはなんとか一命を取りとめた。

 

「カミツレ……お前千冬姉と仲良いんだな、お疲れさん」

「……完全に俺が遊ばれてるだけだろ……」

 

ジュース片手に労ってきた一夏に感謝の意を感じるほどに、カミツレは色んな意味で疲れてしまっていた。

 

「なんだったら、カミツレさえ良ければ千冬姉貰ってくれないか?」

「っ!!?」

「いや冗談だから本気にするなよ……大丈夫か?」

「……心臓に悪いからマジで止めろ……後お前が義弟とか絶対に嫌だ」

「酷くねっ!?」



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63話

「うううっ……折角カミツレ君が選んでくれた水着……師匠の威厳……うううっ」

「おい真耶そんなに泣くな」

「ねえカミツレさん、如何して真耶先生泣いてるの?」

「回ってきた仕事ミスって、処理に追われてたら泳ぐ時間無くなったんだと」

 

時間が経った旅館内、夕食の時間となった大広間三つを繋げた大宴会場に集められた一同は旅館の豪華な食事を味わっていた。この旅館の決まりなのか旅館内は浴衣で過ごして欲しいという話があった為か、ほぼ全員の生徒が浴衣を纏っている。カミツレと一夏も当然浴衣であり、静かに食事を楽しんでいた。

 

「美味いな……新鮮な海の幸を堪能出来るとは贅沢だ」

「うぅ~ん最高!刺身っていいわねぇ!」

 

左隣に座っている乱もそれを味わっている、日本食もかなりの好みで食欲も旺盛。実に良い事だが…カミツレには心配な事があった。それには右隣に座っているセシリアだった、彼女は生の魚を食べる事に抵抗があるらしく昼間もかなり警戒していた。それで夕食にも刺身が出て来ている、それでまた食べれずにいるのではないかと隣を見てみると顔を青くしていた。

 

「大丈夫かセシリア……?」

「だ…ぃ……じょうぶ、ですわ……」

「いやそんな風には全然見えないわよ……アンタ正座辛いならテーブル席に行ったら?」

 

IS学園の生徒はすごく国際的、多国籍且つ多民族そして多宗教。それらを考慮して旅館の料理もそれらに適応されている、料理面の材料は勿論食べ方にも配慮されており正座が出来ない生徒の為にテーブルも完備されている。其方に移動して食べるのも普通にありなのだが……セシリアと乱はこの席を勝ち取るために努力して来たのである、全てはカミツレと隣の席に座る為に……。しかしこれではセシリアが余りに不憫である。

 

「セシリア…あ~……俺も一緒にテーブル席に行くからさ、なっそれなら大丈夫だろ?」

「し、しかしそんなお手数な事は……!」

「気にするなって。ほら、乱さんもそれで良いだろう?」

「別に構いませんよ。私は別に正座とかに固執してませんし」

「も、申し訳御座いません……」

 

実は、セシリアの足の痺れでやや艶掛かった声に少しドキドキしていたカミツレであった。そんな事もあったが無事に夕食も終わりカミツレはゆっくりと温泉につかり、昼間の疲れを癒したのであった。そして部屋へと戻ろうとしていたその途中、丁度千冬と一夏の部屋の扉に箒やセシリア、乱が揃って耳を当てている光景を目にした。傍から見れば異様な光景である。

 

「おい、怒られるぞんな事してたら」

「「カ、カミツレさんしっ~!!」」「杉山静かにっ!!」

 

と必死の形相と小声の警告を受けるカミツレ、一体何がどうなっているのだろうか。もう呆れたので部屋に入ろうとしたがその時、扉が開け放たれて三人は思わず鼻を打った。中から扉が開けられたのである。千冬が何処か意地悪な顔を浮かべながら見下ろし、それに三人は愛想笑いを浮かべたまま硬直している。そしてこちらを見た千冬、同時にカミツレは察してしまった。

 

―――ああっこれは手遅れで巻き込まれるなっと。

 

案の定引きずり込まれたカミツレは三人と共に部屋の中へと入るしかなかった。そして、ついでと言わんばかりにこの場に居なかった鈴、ラウラ、シャルロットも連れて来られてしまった。本人達からしたら本当にいい迷惑だろう、部屋でゲームをしていたらいきなり教員室へ呼び出されたのだから。

 

「……つまり何、扉の中から声が聞こえてきてそれを聞いてる篠ノ之を見つけて興味本位で聞いてたら夢中になってた。それに俺が気付いたその声で千冬さんにバレたと、完全に俺達巻き添えじゃないですか」

「全くよ…私ポーカーで調子良かったのよ?」

「僕とラウラは人生ゲームやってたよ、まあ僕は普通だったから良かったけど」

「私はまあ最下位だったが楽しかったぞ人生ゲーム」

 

ジト目で見られた三人は気まずそうに顔を伏せる。部屋の中で行われていたのは千冬が一夏にマッサージをされていただけだったのだが、三人は淫行か何かと思ってしまい思わず聞いてしまったらしい。

 

「全く私がこれにやられると思うのか?」

「これって……千冬姉酷くね?」

「それに私はやる側だ」

「んでその相手は俺ですか」

「分かっているなカミツレ、どれっ来い」

「お断りします」

「つれない奴め」

 

流れるような会話にどれだけ似たようなやり取りをしたんだと一同は思う。カミツレからしたらセクハラという名の千冬の道楽(ハニトラ訓練)なので断るのも板についた物である。何時もなら断ったとしても千冬がやめる事無く続けるのだが……流石に他のメンバーがいる中ではやらないようである。

 

「おい一夏、お前は一旦風呂にでも行って来い。汗臭い」

「えっマジで?カミツレも行くか」

「入って来たばっかりだぞ俺は」

「んじゃ俺一人で行くか……」

 

とタオルを持ってそのまま部屋から出て行く一夏は皆にごゆっくりっといい残して去っていく。カミツレなら兎も角他の女子には辛い言葉だろ、ラウラすらやや緊張気味なのだから。

 

「さてと……折角この人数だ、何かゲームでもするか」

「ゲームって変な事をする口実じゃないでしょうね千冬さん」

「んっバレたか。私がカミツレに勝ったら、何時ものあれをするつもりだったのだが」

「だろうと思ったよったく……」

「まあいい。それではカミツレとオルコットと乱音、お前達は行って構わんぞ。その他には少々聞きたい事がある」

 

開放された二人はほっとした顔で胸を撫で下ろしながら、カミツレの後に続いて部屋から立ち去って行った。千冬と同じ部屋という空間から開放された事でほっとしたのか、思いっきり溜息をついた。

 

「はぁぁぁぁっ緊張したぁぁぁっ…」

「ただのマッサージだったなんて……流石に考えすぎでしたわね……」

「(あの時の目マジだったな……抜け出せて正解だったな)んじゃ約束のマッサージするか…俺の部屋には真耶先生もいるけど事情説明すればいけるだろう」

 

という事でカミツレの部屋でマッサージを行ったのだが……カミツレのマッサージに思わず声を出してしまった二人、その声にやや興奮を覚えてしまうカミツレだった。そして二人の気持ち良さそうな様子に便乗して真耶からもやって欲しいと言われてしまい、カミツレは三人にそれをやる事になってしまった。

 

「先生、肩がすげぇ凝ってますよ。偶には接骨院とか行った方がいいですよ」

「んっ……そうですね、私凄い凝っちゃうんですよ……」

「(胸ですわね)」

「(胸ね)」

「(何も考えない考えない)」

 

 

 

 

 

誰も居ない大海原、星空を投影するかのように海面には星の輝きが煌いている。空と海、二つに輝く星々の光。その狭間、全てが星に満たされている場所に彼女は立っていた。星の光に身を委ねているかのように彼女は、そこに立っていた。幻想的な光景、それに満足するかのように彼女は、篠ノ之 束は笑った。

 

「この世界は、もう面白くないと思ってた……でも―――君には資格がある」

 

瞬間、大きな波が海上のスクリーンを打ち壊した。星空のみに身を委ねた束は苛立ち波へと手をかざすと、巨大な水飛沫が水柱となって上がった。

 

「―――資格、そう君はそれを持っている。『予測出来ない特異点(フール・ジョーカー)』である杉山 カミツレ君……後は時が来るのを待つだけでいい……待っててね―――。約束した時間は、必ず来るから」



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64話

合宿二日目。一日目とは打って変わって本日は丸一日、午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる事になる。特に専用機持ち達は大量の装備が送られてくるので酷く忙しい一日になることは決定されている。唯一暇なのは専用機持ちではあるが、明確に国への所属が決まっていない一夏とカミツレ位だろうか。

 

「先生、俺は先生の手伝いって事でいいんですよね?」

 

専用機持ちといっても元はIS学園所有のIS「打鉄」のカスタムであるカミツレに追加の装備などあるわけがない、故にやる事がないので教師陣の手伝いをしようと思って真耶の元へと駆け寄った。今現在専用機持ちのみが集められたビーチの外れに待機しているが、事によっては一般生徒の方にも向かう事になるだろう。

 

「そうですね……カミツレ君の場合は私達のお手伝いをしてもらうのが一番ですかね……カミツレ君専用のパッケージとかも送られてませんし」

「それが一番だろう。実はイギリスから、臨海学校に合わせて専用機を送るという案もあったらしいがな」

「えっそうなんですか?」

「ああ」

 

イギリスは入学直後の対抗戦後、セシリアの連絡を受けてからカミツレを受け入れる為に積極的な動きを取っていた。その一つが彼の為の専用機開発も早くから行われていたらしく、既に7割以上が完成しているとの事。今の状態でも使用するには問題はないらしいが、BT技術を使用した特殊兵装が未完成の状態であるという事らしい。

 

「基本的な物は出来ているらしい。だが、そんな中途半端な物を送るよりもより完成度を高めるほうが優先だと取り止めになったらしい」

「まあそれが俺も懸命だと思いますよ。幾ら基本が出来てるって言っても、焦って貰う必要は無いですし。俺にはカチドキが居ますし」

 

個人の為に開発されるものはそれだけ時間に費用と細かな調整を行うべきである、未完成品を押し付けられるのも自分としても困るし自分専用の調整がされておらず扱いづらい専用機など使ってられないというのが本音。そして、出来るだけ長く「勝鬨・黒鋼」を使用していたいという心理もあった。所謂カチドキという相棒とは一緒に居られるが、自分と戦い続けてくれていた「勝鬨・黒鋼」とはもう直ぐ別れる運命にある。それを少しでも引き伸ばしてくれるのならば、寧ろ感謝すべきだと思いつつドックタグを撫でる。

 

「そうか、まあいい。カミツレ、では此方を手伝え―――」

『千冬教諭、お話の途中申し訳ありませんが接近警報です』

「何だと?」

「まさか、敵か!?」

『ある意味では』

「やっっっっっほ~~~~!!!!!ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~ん!!!!!」

 

地響きにも似ているかのような音を掻き鳴らしながら何かが此方に接近して来ていた。凄まじい勢いで海水を巻き上げながら此方へと向かってくる人影が見えた、いや見えてしまっていた。海の上を走っていたそれは大きくジャンプする、そしてそのまま千冬へと飛びかかるかのように向かってきたが―――

 

「チェストォッ!!!!」

「ヘブゥゥ!!!?」

 

千冬は鮮やかに軽く跳躍しながら跳びかかって来たそれへと回し蹴りをクリティカルヒットさせた。回し蹴りを食らった影は砂浜を抉るように吹き飛ばされて行き、その勢いで数十メートルを移動した所で漸く停止した。千冬の身体能力の異常性が垣間見える瞬間でもあった。

 

「わぁっ……」

『飛距離47.81m』

「フム……砂浜だから上手く跳べんかったのが原因か……50を越えないとは」

「いや普段は50越えるんですか!?」

「楽勝で越えるぞ」

「すげぇやっぱり半端ねぇ……」

 

しかし一体千冬が蹴り飛ばしたのは一体なんなんだったのだろうか……ある意味で敵とカチドキは言っていたが……。そんな時、カミツレの背後の地面が盛り上って何かがカミツレを背後から抱きしめた。

 

「ニャハハハハ!捕まえたぞカッ君!!」

「うわっ!?捕まった……ってアンタかよ束さん!!!!??」

「やあやあまた会ったねカッ君!いやぁ挨拶遅れてごめんね、そこのち~ちゃんに蹴り飛ばされちゃってさ」

「全く……相変わらずうるさい奴だ」

「ねっ姉さん!!?何故此処にっ!!?」

 

思わず箒が驚愕に目を見開いて叫んでしまった、千冬の補佐としての仕事を頼まれた箒も専用機組側に居たのだが……まさかの姉との邂逅に驚いて声を張り上げてしまった。箒も姉の行動の全てを把握出来ない、というか束が余りにもフリーダムなので予測は誰にも出来ないのだが……。

 

「やあやあ箒ちゃん!元気そうで何よりより~♪」

「ね、姉さんもお元気そうで……」

「うーん身長伸びたねー、うんうん成長してるようでお姉ちゃんは嬉しいぞ~箒ちゃん~♪」

 

きゃう~ん☆と言いながら箒に抱きついてしきりに頭を撫でる束と困惑している箒、こうしてみると矢張り二人は姉妹なのだなと思うほどに似ている点が多い。箒をなでる事に満足した束は一旦離れたが、箒は未だに混乱しているのか視線が泳ぎまくっている。

 

「た、束さんえっと……」

「おおっいっくんおひさ~♪君元気そうだね~」

「ええまあ元気と言えば元気です、かね……?」

「うんうん若者は元気が一番だよ君」

「いや束さんも十分若いと思いますけど」

「んもういっくんってば天然の女誑しなんだから、エッチ!!」

「えっちょっと今の何処がエッチになるんですか?!ってうぉい鈴はなんで遠ざかるんだよ!!?」

 

胸を隠すように腕で身体を庇いながら身を捩った束、一夏は何故そう言われなければいけないのか分からず困惑する。一応一夏の名誉の為に言っておくが、束の胸は見てない。強いて言うならば全体を見ていたので胸は見ているようで見ていない。

 

「そ、それで束さんは何で此処に?」

「暇潰しかな、まあ強いて言うのであればいっくんとカッ君のデータを見たかったからかな。男でIS使えてるから、そのデータは束さんとしても興味あるし」

「成程……んじゃ取り敢えず「白式」から見ます?」

「見る見る~!!よいではないか~よいではないか~!」

 

と超ハイテンションのままで一夏の「白式」にタブレットを接続してデータチェックを開始する束。彼女自身も気になるがセシリアと乱はカッ君と親しげに呼んでいる関係が一番気になるのか、それを問いただす為にカミツレの元へと訪れた。

 

「あ、あのカミツレさん……あの篠ノ之博士と面識があったのですか……!?」

「教えてくれれば良かったのに…!!」

「下手に教えたら凄い面倒になりそうだし……それに面識があったというか束さんが一方的に押し掛けてきてご飯食べに来たというか……」

「お前はあいつまで餌付けしていたのか……」

「その第一号が何言ってんですか」

「私の場合は栄養管理だからいいんだ」

 

などと何処か誇らしげにしている千冬に若干呆れたような目を向けているカミツレは「白式」のデータをみている束へと目を向けた。次は自分の相棒の番なのだから準備ぐらいはすべきだろう。

 

「カチドキ、準備はいいよな?」

『何時でも万事OK―――やっぱり少しお待ちを』

「おいおい……如何したんだよ」

『データを受信、じゅじゅじゅじゅ―――』

「お、おいカチドキ?」

 

突如として乱れ始めたカチドキの声、思わず声を震わせてしまった。ノイズが入り混じった音がドックタグから漏れていく。

 

『デ、デデでータッヲヲヲヲヲヲじゅっじゅじゅじゅじゅ受信、中……』

「お、おいカチドキ!?束さんなんかカチドキが変な事に―――っ!!!?」

 

異常が起きているカチドキに不安と心配が入り混じった声を上げて束の助けを乞おうとするカミツレ、きっと彼女なら何とか出来るのではないと期待と不安が混ざった声を上げた時、カミツレは凄まじい頭痛に襲われた。頭の中に激しい電流が流れているかのような激痛が身体を貫いて行く。

 

「がああああっっ……!!!」

「カ、カミツレさん!?如何なさったのですか、確りしてください!!!」

「如何したんですか一体!?さ、さっきまで元気だったのに!!?」

「あ、頭が、頭が割れ、そうだっ……!!」

 

思わず蹲り頭を押さえて苦しむカミツレ、激痛は留まる事を知らずに寧ろ痛みが先程より強くなって行く。頭が壊れそうなほどの痛みが心を蝕んでいくかのような感覚を与えて来る。

 

―――……、……。

 

「ッ!!?な、何だ……こりゃ……!?」

 

―――もう、いやだ……。

 

「ッ!!?」

 

―――もう、嫌なの。だれか、助けて―――。

 

「ッ!!?ハア、ハアハア……」

「カ、カミツレさん大丈夫ですの!?」

「あ、ああ……痛みは、治まった……」

「で、でも何でいきなり……!?」

 

カミツレが苦しみから開放された時、千冬へ緊急事態発生の報告が届けられた。まるでカミツレの異常はそれに合わせられていたかのようだった。そして、事態は一気に悪化していく……。

 

「専用機持ちは全員集合だ!!緊急事態が発生した、全員私に付いて来い!!束、お前も一緒に来い。いいな」

「構わないけど、んじゃ箒ちゃんもね。傍に居てくれるとお姉ちゃん嬉しい!」

「……はぁ、篠ノ之構わんな」

「え、ええ……」

 

束は全く表情を変えずに千冬の後に続いて歩き出して行った、しかしその表情の裏に隠れている感情は良いものではなかった……最愛の子供を心配する母親のような表情であった。



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65話

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥の大座敷、そこには空中投影ディスプレイによって様々な情報が映し出されている。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルが共同開発していた第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域から離脱したという連絡があった。その後の衛星による追跡の結果『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。IS委員会上層部からの通達により我々がこの事態を対処する事になった」

「ぼ、僕たちが軍用ISの対処を行うんですか!?」

 

思わずシャルが声を上げてしまった。代表候補生は万が一の状況下に陥った場合、国力の一つとして戦いに出向く事もあるためにそのような訓練も受けているが実際にそんな事態になるとは思ってもいなかった。そもそも軍用のISを開発する事は国際条約で禁止されている事なのに、なんて事をしてくれたんだと思わず一夏は思わずにはいられなかった。そんなシャルを宥めるように千冬は声を出す。

 

「話は最後まで聞け、何もお前達に軍用ISの相手をしろとは言っていない。するのは教師陣で編成された部隊でお前達は周辺海域の封鎖作業を手伝って貰いたい」

「な、何だそういう事か……俺はてっきり軍用のIS相手に戦えっていわれるんじゃないかと……」

「そんな無茶な命令が通ってたまるか…危険な役回りは教師に任せておけ―――その前に、束」

「んっ~何?」

 

千冬は箒の隣に座っている束へと声を掛けた。

 

「お前ならばISを強制停止させる事が出来るのではないか?」

「……私も今調べてみたけどね、福音ってISに使われてるコア№451は完全に暴走状態にあって操作を受け付けない状態なの。正確なデータすら吸い出せなくて、束さんでも遠隔操作で強制停止は出来ないんだ」

「そうか……無理を言ってすまなかったな」

『織斑教諭、お話の途中失礼しても宜しいでしょうか』

 

千冬がややがっかりしている所へカチドキが声を上げた、カチドキの事を知らないメンバーはいきなりの声に驚き何処から聞こえて居るのかと探そうとしているが答えはあっさりとでた。千冬と束がカミツレの方を見たからだ。千冬は簡単に事情を説明し、声の主がカミツレのISのコア人格であると明かす。

 

「コ、コアの人格って……そんな事ありえるんですか!?」

「有りえるも何も今あるのが現実でしょ……アタシも信じられないけど」

「むぅっ……逃した魚はでかいという事か……」

 

と代表候補達がそれぞれの反応を示している中、唯一違った反応を見せていたのは一夏であった。カチドキが初めて喋った時のカミツレのように目を輝かせていた。

 

「おおおおっ!!すっげぇぇぇ!!!何で喋るんだ!?俺の白式も喋るようになるのか!?なあなあ!!!」

『それは知りません。私は貴方のISのコアではないので、というか話の腰を折らないでください』

「あっごめんなさい……」

「この事はトップシークレットだ、誰にも漏らすな。カチドキ、続けてくれ」

『では……先程、私はデータを受信しました。その受信とデータの解凍が終了しました』

「そのデータとは?」

『銀の福音、その現在の詳細のデータです』

 

その言葉に一同は思わず目を見開いた。カミツレが凄まじい激痛に襲われている時に受信していたデータが「銀の福音」のデータとは誰も思ってもいなかった。千冬に言われてそれをディスプレイへと転送しそれを全員で確認すると、それは紛れもない今現在福音がおかれているデータで間違いはなかった。

 

「これは何処から送信されてきたんだ」

『コア№451からです』

「それって……今話してた「銀の福音」本人から送られてきたって事かカチドキ!?」

『はい』

 

カチドキの言葉に再度驚かされた。コア自身がデータを送信して来たという事、そしてそれをカチドキが受け取っていたという事実。ISのコアはそれぞれが相互情報交換の為のネットワークを設けている、元々宇宙で活動をする為に位置情報を交換するために構築されていたコア・ネットワーク。それを利用して「銀の福音」のコアがデータを送った、という事になるが…一体何故そんな事が……。

 

「ち~ちゃん、データをタブレットにコピーさせて貰うよ。これで強制停止させられる可能性が出て来た」

「頼む、それならば危険を犯す必要が無くなるかもしれん」

 

異常な事態だがこれはこれで朗報とも言える、束でもデータがなければ手を出せなかった所へ舞い込んできた光。それが福音のコアから齎された、正に福音というべき情報だ。しかし、ここで疑問も浮上してきた。それを口にしたのは一夏だった。

 

「でもさ、なんでその福音はカチドキにデータを送信したんだ?コア・ネットワークってコア同士のネットワークなんだろ、それなら俺達のISのコアにも送ったとしても可笑しくはないんじゃないか?」

『それは簡単です。カミツレと私が相互理解し、既に音声での会話を行っている事は全てのコアが認知しています。それを踏まえた結果、私にデータを送信したのです。近くに博士もいましたからね』

「あっそっか……んじゃもう一つ、なんで暴走なんてしたんだ?確り管理されてる筈だったんだろう?」

 

そう、根本的な疑問はそこにぶつかる。そもそも何故ISが暴走を起こしたのか全くの謎なのだ。二ヶ国が共同で開発し試験稼動を行っていた、という事は確りと二つの国の管轄下に居たという事。それなのに突如として謎の暴走を引き起こした、しかしそれでもコアはデータをカチドキへと転送を行っていた。腑に落ちない点が余りにも多い。

 

「……よしアクセス出来た!!ち~ちゃん、なんとか束さんのコントロール下に入れられたよ。取り敢えずさっきのビーチに遠隔操作してもいい?私も調べたいし」

「それが恐らく一番だろうな……よしやってくれ束」

「了解」

 

その言葉に思わず全員が溜息を吐いて安心感を露わにした、これで危険な任務に従事する事もなくなったのだから当然だ。

 

「いやぁ無事にアクセス出来て良かったよ。新しく開発した新型ISを一時的にち~ちゃんに渡して対処して貰うとかして貰う羽目にならなくて♪」

「……今サラッと言ったがISコア、まだあるのか……?」

「そりゃあるよ。全世界に明け渡したものが全てだと思ってた?研究用とかに自分で持ってても可笑しくは無いでしょ」

 

またさらっと言った言葉、世界に公開したらこれだけで争いが起きそうな事だ。思わず千冬は頭痛を感じつつも無意識に胃を押さえてしまった。如何してもこうも自分の回りや友人は問題ばかり起こすのだろうか……と思わずにはいられなかった。

 

「アレッ?」

「如何したまた問題か」

「いやさ、コントロール出来るんだけどなんか展開解除が出来ないッぽい?これは直接見て見ないと分からないけど」

 

束の不穏な発言にやや心配を抱えながら、千冬を始めとした専用機持ち達は先程まで自分たちがいたビーチへと足を運んだ。一応軍属であるラウラが『レーゲン』を展開してもしもの時に備える。やがて見えた来た『銀の福音』それはその名に相応しく全身が銀のISだった。一番目を引くのは頭部から生えている巨大な翼であった。束はそれを静かに着地させコードなどを接続し『銀の福音』のシステム自体にアクセスを開始する。

 

「ほいほいほいっと……んっ~?システムエラーばっかりだ、暴走の影響なのかな?」

「時間が掛かる、という事か?」

「うーん多分」

 

皆がそれぞれ福音への視線を向けている中、カミツレは妙な感覚を覚えていた。真っ直ぐと束の前で鎮座している『銀の福音』それが何処か此方を見ているかのような気がしてならなかった。不思議な思いを感じながらそれを見ていると頭に再び痛みが走った、だがそれはあの時よりも遥かに弱い物。

 

「ぃっ……」

「どうかしましたかカミツレさん?」

「いや……」

 

痛みと共にまた、何かが感覚に訴えかけて来ていた。ノイズに塗れていた物ではなくクリアでハッキリした物が頭に届いて来ていた。

 

 

―――やっぱり、貴方に言って正解だった……貴方こそ、博士の絶対の理解者…。

 

「理解者……?おい、何を言って……」

「カミツレさん?」

「今、何か聞こえただろ?正解だったって…」

「いや、何も聞こえなかったぜ?」

 

自分にしか届いていなかった声、不審に思うカミツレだが声は連続して響いてくる。嬉しそうに笑う子供のような無邪気な声で。

 

―――お願いします、私に触れてください……。ナターシャを、休ませて上げて……。

 

「ナターシャ……?」

「カミツレ?お、おい今は束さんが作業中で」

 

声に導かれるように『銀の福音』へと迫っていくカミツレ、この声が一体なんなのかは分からない。しかし自分を求めている事だけは分かる、悪意ではなく純粋な思いからの言葉。それも分かる。なら、それに従ってみようと思った。

 

「カッ君どったの?」

「ちょっと、失礼します……」

 

束が作業している中、そっと伸ばされた手は『銀の福音』へと触れた。冷たい装甲に触れた途端にタブレット内に表示されていたエラー表示が全て消えていき次に表示されたのは『全システムオールグリーン』という言葉だった。そして『銀の福音』の展開は解除され搭乗者であった金髪の女性がカミツレに覆い被さるように倒れこんできた。それを見た束は心から歓喜の嵐を感じ、それに表情を染めた。

 

「ああっ―――やっぱり君こそ、君しかありえないよ……!」




まさかの展開、でもこれは最初から構想がありました。


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66話

波の音が打ち寄せている崖の上、旅館から程遠くない距離にあるそこで月を見つめているカミツレの姿があった。アメリカとイスラエルで共同開発された軍用IS『銀の福音』の暴走によって巻き起こされた緊急事態は無事に束とカチドキへと転送されたデータの活躍によって収束した。束は条約でも禁止されている軍用ISの開発について問い詰めると悪い顔をしながら笑っていた。本人としても酷く面白くないのだろう、カチドキも下手をすれば両国保有コアが全て停止するかもしれないと語っている。因みにこの時一夏が

 

『軍用のISを作るの駄目だけどラウラとかは大丈夫なのか?一応軍事利用はしてるんだろ?』

 

と千冬に質問をした。着眼点自体は悪くはないと褒められながら解説をされていた。アラスカ条約によって確かに禁止されているが、ラウラの部隊である『シュヴァルツェ・ハーゼ』はIS配備特殊部隊とされているが広報的には軍内部に設立されたレスキュー部隊とされている。ラウラも何度も任務で人命救助をこなしている経験がある、加えて『レーゲン』は軍に管理されているISではあるが装備などは全て競技用やレスキュー用となっている。しかし『銀の福音』は最初から軍用に作られたISが存在するという事が問題だと千冬に言われて一夏は納得していた。

 

「……あの声は、俺にだけ聞こえていた……」

 

 

『―――やっぱり、貴方に言って正解だった……貴方こそ、博士の絶対の理解者…。』

『―――お願いします、私に触れてください……。ナターシャを、休ませて上げて……。』

 

 

「カチドキ、あれは……福音の声なのか」

『その回答について博士からの許可が必要となります』

「何で?」

『コア№451と会話する許可、カミツレはそれを取っていないのでお答え出来ません』

「成程ね……でもそれ答え言ってるようなもんじゃね?」

『言っている意味が分かりませんね』

 

軽口を叩きながら遠回しながら答えを教えてくれたカチドキ、話をするようになってからどんどん人間的な言葉使いや言い回しを覚えている。既に人間臭くなってきている、ある意味人間より人間らしいかもしれない。そんな相棒へ有難うと言ってから空を見上げて見る、美しい満天の星空が広がっている。許可さえあればこの星空を飛んでみたいものだ。

 

「なぁカチドキ、お前達ISってこの空の向こう側を飛ぶ為に作られたんだよな」

『はい。私達IS本来の使用用途は宇宙での活動を想定したマルチフォーム・スーツです。なので本来は大気圏外での使用が本来の居場所です』

「そっか……だったらさ、何時か行ってみないか宇宙に。俺も一度行ってみたいんだよ…」

 

寝そべりながら自然と出た言葉、素直な思いでもあるし一度宇宙に行ってみたいというは本当に抱いた事がある夢でもあった。子供の頃は宇宙に関する番組を見てワクワクしたものだ、今でも遠い遠い光の国からやってきた光の巨人の事も大好きで欠かさず見ている。宇宙は人間にとっての目標であり、無限に広がるフロンティアなのだから。夢を見ない方が可笑しい。

 

『……私も是非行ってみたいです、そして嘗てガガーリンが言った言葉を言ってみたいのです』

「地球は青かった―――夢のある言葉だな、ロマンティックだ。是非とも実際に目にして言いたいな」

『はい、私の夢です』

「いい夢だな……」

「うんうんいい夢だよね」

「全く……ってうぉぉぉっ!!?」

「やっほっ☆」

 

余りに自然な流れでの会話だったので気付くのか遅れてしまった、隣には満面の笑みを浮かべている束の姿があった。よっこいしょと言いながら隣に腰掛けて星空を見上げる、隣に腰を下ろした彼女を拒む必要もない。そもそも相棒のお母さんなので拒む理由も特もない。そのまま空を見上げる。

 

「今聞いた夢だけど束さんの夢でもあるんだ、私は宇宙に行きたいそんな夢があるんだ」

「俺はいい夢だと思いますよ、宇宙は人間の憧れですし俺も夢に見た事ありますよ。宇宙を自由に泳ぐ夢」

「あっそれ束さんもあるよ。子供の時にさ、宇宙の本を読んだ時だったかな。あの時の感動を実際に体験したいんだよね」

 

始まりは純粋な子供の夢、それが今では努力さえすれば届きそうな所まで至れている束。空を自在に飛んで、戦えて、緻密な作業も出来る。確かに宇宙で活動するには理想的なスーツだ。

 

「束さん、聞いてもいいですかね。なんで「福音」は暴走したんですか?」

「簡単だよ。あの子は耐えられなくなっちゃったの」

「耐えられなくなった……?」

「そう……コアには人格があるのは分かるよね?」

 

勿論と返す、自分の相棒であるカチドキだってその一つなのだから。なら理解しているだろうと続ける束はコアの一つ一つに宿っている人格はそれぞれ個性を持っている。カチドキのようなコアもいれば、空を飛ぶのが大好きなコア、人と接するのが好きなコア、様々な個性を持っている。

 

「コア№451は優しくて空を飛ぶのは大好きな子でね、でも人を傷つけるのは大嫌いな子なの」

「もしかして軍用にされたのが原因……?」

「そう。今のIS同士の戦いは所謂スポーツとして整備されているでしょ?それなら何とか許容出来る、でも軍用となると人を殺したり深く傷つける事になる。それがあの子にとっては耐えられない位のストレスになっちゃったの」

 

やりたくない事を強要された事によるストレスと精神的な負担、それがコア人格に負荷を掛けてしまいそれが今回の暴走の発端となってしまった。だがそれでも暴走して他人を傷付けたくないと思った451は、カミツレと深い絆で結ばれている且つ近くに束がいたカチドキに全てのデータを送信し止めて貰えるように頼んだ。それが事件の真相だった。

 

「じゃあ、俺が聞いた声は……そのコアの声だったのか……」

「カッ君……声を、聞いたの?」

「はい。確かに聞きました」

 

それを聞いた束は嬉しそうに微笑み、そしてカミツレの肩に頭をおいた。

 

「有難うね……私の子供を助けてくれて」

「俺は何も……実際助けたのは母親である貴方ですよ束さん」

「ううん。あの時のあの子は完全に暴走してて、束さんの言葉を聞いてもくれなかった。それなのにそれを助ける事が出来たのはカッ君とカチドキの信頼関係があってこそだよ」

「そ、そう言われると……照れるな」

『気分が高揚します』

 

素直にそう言われると嬉しくなってしまう、改めて束に自分とカチドキの仲を認められたような気がした。本当の意味での相棒であるとお墨付きを貰ったかのような気分になってしまう。

 

「君がISを動かしてくれて、束さんは嬉しいよ……私以外にISの本質を理解してくれる人がいるんだから……」

「俺は本質なんて分かっちゃいませんよ、俺にとってカチドキは相棒で仲間なだけですよ。一緒にアニメとか見たりするね」

『YES.YES.YES.』

「フフフッそれでもいいよ、私の理想とした関係なんだから……」

 

そう言いながら更に体重をかけて来る束、それを支えるカミツレ。そのまま見上げた星空は先程よりも輝いてみえる、兄と一緒に見ていた夜の空とはまた違った美しさがある。そんなカミツレに束は飛びかかるように抱きついた。

 

「とぉ!」

「わぁっ!?」

 

覆い被さるかのようにカミツレを見下ろす束は仄かに荒い息をしながら、彼の目を見つめつつも両手を合わせるようにして指を絡み合わせる。月をバックにするように自分の上に乗っている束、神秘的な物を感じてしまうカミツレは頬を赤らめて顔をそらす。微笑ましげに笑う束は意地悪そうに質問をする。

 

「背けないでよ。私の事、嫌い?」

「き、嫌いじゃ、ないと思います……」

「なら私を見てもいいんじゃない?」

「……ううっ何で大人って意地悪なんだ……」

 

渋々顔を前へとし直す、すると束はそれに合わせるようにカミツレに身体を重ねる。先ほどまで遠かった顔が近くまで迫り吐息が混じりあうほどに近づき、彼女の右手が自分の頬に重ねられ柔らかな感触が頬に伝わる。

 

「た、束さん何をっ……!?」

「さっき言った私の夢、あれは正確じゃないんだ。私の本当の夢はね」

 

左手に絡まる彼女の手に力が込められる。心臓が更に高鳴っていく。

 

「全てのコアと一緒に宇宙に行くの」

「一緒に……?」

「そう。でも子供たちには親が必要でしょ、だから私も行くの」

「は、はい……」

 

唇が重なりそうなほどに近い距離、吐息が顔に掛かる。それが思考を鈍らせていく。

 

「子供には親がいる、分かるでしょ……?」

「え、ええ……」

「だから、カッ君……コアのお父さんになってくれない……?」

「えっ―――」

 

 

 

to be continued……



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67話

「だから、カッ君……コアのお父さんになってくれない……?」

「えっ―――」

 

身体を重ねている束は自分の瞳を見つめながらそう言った。思考が凍りつき見つめている束の目を魅入られた見つめるカミツレ、輝きながらも真っ直ぐ見つめてきている。僅かに赤らんだ頬に荒い息、柔らかな感触とプロポーズのような言葉がカミツレの理性を興奮へと誘惑しているようだった。千冬との物とは違う、あれは前もって話をした結果すると決めた物で彼女にとっては娯楽でもあった。だがこれは違う。

 

「君にはその資格がある、束さんも君と結婚したいと思ってる」

「―――っ」

「資格があるからじゃないの。言葉を交わして一緒に行動して絆を深めていった君に、惹かれてる……初めて私の子供を人間と同じ視線で見てくれた……それが堪らなく嬉しくて、喜ばしくて、たまらない……」

 

緩んでいく束の服、そこから見えている豊満な胸はカミツレの胸板に押し付けられて変形している。心臓が高鳴って鼓動を早めていく、だがそれが自分の物なのか束の物なのかもう分からないほどに身体は密着してしまっている。

 

「もう、こんな世界は終わっても良いって思ってた…もう希望なんてないと思ってたのに……君が現れてくれた……」

 

涙ながらに語る束、今の世界にISは兵器として蔓延してしまっている。誰もがそうだと認識しており改めようとしている人すらいない。その引き金となってしまった「白騎士事件」に問題があるが、彼女はずっと世界に冷たい視線を投げ掛け続けていた。人類の新たな扉を開く一部、宇宙の感動を分け合う為の子供たちが兵器として使われ、何も理解せずに偉ぶる女達の権力になってしまっている。それが我慢出来なかった。

 

「カチドキが、話してくれる君は本当に魅力的だった……子供の話を私も熱心に聞いてた……」

 

対抗戦の前から自分を相棒として扱い一個人のように扱うカミツレ、対戦後の休みには一人で修理を一日中掛けて行っていた。その際も仕切りに話しかけ続けていた、初めての戦いは大変で疲れたけど充実していた。お前のお陰であの結果だった、有難う、これからも有難う、お前さえ良ければ相棒と呼ばせて欲しいと言っていた。そしてこの言葉が印象的だった。

 

『なあ、篠ノ之博士ってどんな人なんだ?良ければ教えてくれよ、お前あの人の子供みたいなものだろ?』

 

そう、この言葉が嬉しかった。ISを自分の子供と言ってくれた事が嬉しかった、ISを人間のように言ったカミツレにその時から興味を惹かれていた。ずっと、カチドキから話を聞いていた。カチドキも嬉しそうに話していた、何時か直接話したいと思っていた。そしてあの日、願いが叶った時思った、自分は彼が好きなんだと。

 

「私は、君の事が好き……この気持ちに嘘なんてない」

「束、さん……っ」

「このまま、私に身を任せて……?」

 

更に強く絡ませて来る指と密着していく身体、そしてもう後数センチで触れそうな唇に潤んだ瞳。ぞくぞくと庇護欲と性欲が高まっていくのが自分でも分かった、このまま彼女の言う通りにこの激情に身を委ねてもいいのかもしれない……と。

 

「君は、ただ快楽に身を委ねてくれればいいの……私が全部、導いてあげるから……それでね、一緒に、幸せになろうよ……?」

「ぁぁっ……」

 

迫ってくる目を閉じた束、迫ってくる毎に心臓が張り裂けそうなほどに高鳴っていく。このまま、委ねていいのではないかと思いつつ瞳を閉じて任せようとする自分がいる。それもきっと良い事なのだろう……だがカミツレは顔を逸らし、束の唇を頬で受け止めた。束は不服そうに顔を上げて見つめてくる。

 

「如何、して……?」

 

甘い香りが香ってくる、フェロモンだろうか。何か分からないがそれが更に自分を誘惑してくる、しかしそれを必死に振り払いながら彼女ごと身体を起こし上げて片手を彼女の肩においた。荒々しい息を整えながら、カミツレは言う。

 

「―――っ俺には、俺にはもう恋人がいるんです……だから、束さんの申し出は受けられません……!!」

「でも、でもカッ君には一夫多妻制度が適応されるんでしょ……?他の子が居ても私は許容するよ……?その位、私は認めるよ……?」

「そうじゃ、ないんです……!!束さんはその、俺にとってはISの開発者だとかそんじゃなくて……俺の相棒のお母さんなんですよっ……!」

 

必死に言葉を纏め上げて言った言葉、それに何処か可笑しいと思っているカミツレだがそのまま続けた。

 

「いきなり相棒が俺の子供になるとか、困るしそのそれに……束さんと俺は全く交遊とかそう言うのがなかったし…それなのにいきなり結婚って、その……失礼って言うか、どうせ結婚するならお互いの事とか、全部を知ってからしたいし……」

 

束は一瞬ポカンとしながらもその言葉に笑った、なんて良い子なんだと思った。カミツレの結婚観はやや古いがそれ故に純粋で相手の事を尊重している。結婚するには互いの事を知らなければならない、それに則れば確かに束もカミツレも互いの事を知らなさすぎる。だからまずは、知る所から始めたいとカミツレは言っている。それが一時しのぎの為なのかは分からないが、束はそれを気に入った。やっぱり自分の目に狂いなんてなかったと自信が持てる。

 

「そっか、それじゃあチャットとかデートしてからにしようか結婚は」

「……するって決めないでくださいよ……俺にだって決める権利ぐらいは」

「ううん、私は絶対に君とするよ。誓うから」

 

そういうと束はカミツレの額にキスを落として笑みを浮かべた。そして思いっきり抱きしめてからいった。

 

「絶対に私の相手は君だから、その時を楽しみにしててね。未来の私の旦那様!」

 

そう告げるとそのまま束は走り去っていった、額と身体が覚えている暖かな感触。去って行く束の姿、まるで嵐をその身で受けたかのような感覚があった。それでも何故か笑いを浮かべて星空を見上げた。

 

「カチドキ、やっぱり束さんってお茶目だな」

『そうですね、お父様』

「早いわ言うの」



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68話

「カミツレさん、逆に考えてしまえばいいのですわ。ならばこれ以上お相手を作る必要なんてないと」

「あっそっか!あの人が味方に回るなら本当にカミツレさんは安全って事になるじゃない!」

「そういう考え方もあるのか……というか、二人は良いのか……?」

「「何よりカミツレさんの安全が第一!!」」

「ハハッ……強いな二人とも…」

 

束からの告白を受けたカミツレはこの事を素直にセシリアと乱に話した。隠すべき事ではないし恋人である二人には知って欲しいという気持ちが大きかったから、いい顔はしないだろうと予想し酷く怒られる事も覚悟をしていた。しかしそんなカミツレの予想とは裏腹に、二人は寧ろ好意的な表情を作りながらそれをあっさりと受け入れていた。

 

元々一夫多妻制度をカミツレを守る為に利用しようと考えついた二人、愛する人を守るためならばこの位は受け止めてしまえる。話を聞く限りでは束の気持ちと言うのは本当に強い上に純粋、そして確かな物である。そして、束ならば申し分ないほどにカミツレの後ろ盾になってくれる。これほどにカミツレを守れる話もないわけである。それに…これならばより多くの恋人を作る必要もないという理由もある。

 

「女って強いなぁ…」

 

自分だけならきっとこの結論には至る事なんて出来なかっただろう、しかし二人は自分の為にそれは必要であるし相手の気持ちが真実なら受け入れてしまってもいいと言う。同時にカミツレは思う、セシリアと乱が恋人で良かったっと心からそう思った。そう伝えると二人は顔を真っ赤にしながら抱き付いてくる、それを受けて抱きしめ返す。まだまだ未熟な自分だけど、これからも彼女達の為に頑張って行こうと改めて決意を固めるのであった。

 

「ところで……博士に一体どんな状況でそれを言われたのか興味ありますわ」

「私もですね、是非教えてください。私達もやりますから」

「えっやるって何で……!?」

「「私達はやってないからです!!」」

「……乙女心って複雑ぅ……」

 

この後、束との状況などを根掘り葉掘り聞かれ同じ事をすると言う恋人の相手をする事になったカミツレ。消灯時間ギリギリまでそのような事をしていたせいか、眠りに就き、朝真耶が起こす時には心配になる程に眠りが深かったという。

 

「カミツレ、なんか眠そうだけど大丈夫かよ…?」

「……俺に質問するな…」

「昨日の事で疲れが残ってるのか、だったら俺やるからもうバスに乗ってて良いぞ」

「自分の事は自分でやる、お前もさっさと手を動かせ」

 

翌朝、朝食後直ぐにIS及び専用装備撤収作業が始まった。二日間世話になった旅館にも本日別れを告げる事になる、作業も間もなく終了する頃合になりバスへと乗り込もうとした時の事だった。見知らぬ女性の声が聞こえてきた。

 

「ねえ、杉山 カミツレ君っているかしら?」

「んっ織斑お前先に乗ってろ、俺に客みたいだ。はい俺がそうですけど」

 

一緒に乗ろうとしていた一夏を先にバスに乗らせつつ振り向きつつ素直な返事をする。そこにいたのは千冬と同世代に見える年上の女性、青いサマースーツはカッコよさと凛々しさ、そして美しさを強調しているかのよう。大きく開けられた胸元がセクシー、掛けていたサングラスを外しつつ金色の髪を靡かせ微笑んでくるがカミツレはその女性に見覚えがある。そう『銀の福音』の操縦者であった女性である。

 

「君がそうなのね…私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ」

「杉山 カミツレです。一応イギリスの国家代表候補生です」

「ええ知ってるわ、今世界中で話題だもの。話は聞かせてもらってるわ」

 

求められた握手に応じると柑橘系のコロンが香ってくる、今まで会ってきた中でも特に女を意識させるかのような雰囲気にややドキドキする。が束の一件もあったからか落ち着きを絶やさない。そこへ千冬がやってくるとナターシャと軽く笑いあって握手をする。

 

「千冬、少し彼を借りてもいいかしら?話がしたいのだけど」

「そうだな……15分だけなら許可する。それ以上は予定が狂うのでな」

「アリガト、それじゃあ海でも見ながら話しましょうか」

「分かりました、少し行ってきます」

「ああ」

 

千冬の視線を軽く受けながらそのまま駐車場から歩き出すナターシャに続いていく、海が見える位置まで歩くそこでナターシャは歩みを止めて光る海へと視線を向ける。

 

「本当に有難うね、君のお陰であの子は苦しみから解放されたの」

「あの子って事は……貴方はもしかして、コアと話せるんですか?」

「まあそんな所かしら、私はコアの感情を読み取れる位なの」

 

あれからカチドキから『福音』のコアについて話を聞いているカミツレ、ナターシャも自分にかなり近い立場に居る操縦者であるらしい。条件の大半をクリアしているらしく残りの物も何れはクリアするだろうとされ、束の許可さえあればすぐにも話せるような関係にあったらしい。カミツレとカチドキ、ナターシャと福音は同じような絆を持っている。

 

「『福音』はどうなるのか聞いてもいいですか。あのコアは軍用のISになる事を嫌がっていましたけど」

「私もそれは理解していたの、だから上層部に必死に訴えていたのだけど……認められなかった。だからせめて私に出来るのはあの子と一緒に苦しむ事ぐらいだと思って、パイロットに志願したの」

 

強く握り締められた拳、そこにあったのは無念と悔しさの現れ。力が及ばなかった為に福音をあんな姿にしてしまった自分への怒りが確かにそこにあった、そして彼女が選んだのは一緒にその苦しみを背負う事だった。

 

「でも博士から二ヶ国に話を通してくれてね、あの子は軍用ISから競技用のISに生まれ変わる事になったの」

「そりゃ良かった。だから嬉しそうなんですね」

「フフフッ分かっちゃう?」

 

お茶目に笑うナターシャ、非があるのは明らかにアメリカとイスラエル。その二ヶ国に制裁を加える事を決めた束は『福音』を軍用から外す事、パイロットは変えないように迫った、この申し出が拒否された場合には二ヶ国全てのコアを停止させるという脅しを添えて。これに慌てふためいた二ヶ国は驚くようにあっさりそれを受け入れた。ナターシャにとってはこの上なく嬉しい知らせであった。

 

「そして……私はあの子の改修が終わり次第、IS学園に出向する事になったわ」

「えっマジですか?」

「ええっ。国としては厄介払いのつもりでしょうけどね、私としては嬉しい限り。だからその時は宜しくね、カミツレ君」

「こっちこそ」

 

もう一度を握手を結んだ時、千冬からも時間だという声が聞こえてきた。カミツレは今行くと言いながらナターシャに向き合う。

 

「それじゃあ今度会う時は先生ですかね、ナターシャさん」

「そうだとしたら素敵な再会ね、また会いましょうね」

 

そう言ってカミツレはバスへと急いで行く、それを見送ったナターシャはバスが出て行くまで見送ると海へ向けて笑顔を作る。

 

「私もカミツレ君みたいにあの子とは話せるのかしら……博士が言ってたみたいに……そうなったら素敵よね、そう思うでしょゴスペル?」

 

そんな声に応えるかのように周囲に鐘の音が響いた。



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第2章~空を駆ける・キャノンボール・ファスト~ 69話

「まだ暑いんだろうな…」

『現在の温度は30度、予想最高気温は33度です』

「まだ暑くなるのか……この時期での肉体訓練は応えるなぁ……」

 

室内で首からタオルを下げつつコップに注いだ冷えた麦茶を呷る、喉から奥へと落ちて行くこの冷たい感覚が堪らない。今日の訓練ノルマを終えてシャワーで汗を流したがそれでも身体は火照り続けている、窓を見れば高々と昇っている太陽が忌々しいほどに燦々と日を降り注がせている。曇ってくれれば少しは涼しくなるだろうに……。

 

「あ~あ……実家に帰りてぇ」

『それには教師陣の許可が必要となります、現在認可待ちです』

「分かってるよ、言ってみただけだ……入学してからまだ一度も帰ってないんだ、言う位許してくれ」

 

IS学園は特殊な教育機関であるがそれでも一教育機関には変わらない、故に夏季休暇も存在する。つい一週間前に学園は夏季休暇に突入した。学生にとっては最大の脅威であるテストという道を乗り越えた先にある楽園(夏休み)、それを謳歌する為に生徒は地獄を切り抜けたと言っても過言ではない。カミツレにセシリア、そして鈴はその筆記試験が免除されているので苦労はしなかった。

 

夏休みに入った生徒達は母国に帰ったりするのも多い、代表候補生達は長期休暇には帰国し報告や専用機の調整などが入る。故にセシリアや乱と言った恋人も先日帰国して行った。間もなく開発が完了するという自分の専用機関連で自分もイギリスに行くと思っていたが、その途中でテロや誘拐などのリスクを考慮し専用機はセシリアが戻ってくるのと同時に学園へと搬入し、学園で最終調整を行う事になるとセシリアから聞かされた。身の安全の為に実家への帰省も許可が下りるまで許されないカミツレは、毎日訓練と自習をしながら学園で過ごしていた。

 

「んっ~……夏休みスペシャルのアニメも特撮もまだだし……昨日の奴でも見直そうかな?」

『私もあれは好きです。光線技が堪りません、公開撮影などがあるならば是非行ってみたいです』

「俺もだよ、あっそうだ決めた。まずはあれからやろうっと」

 

カミツレは適当なTシャツを着直すとそのままドッグタグを首に掛け直して廊下へと出た。国際的な施設IS学園、多額の費用で建設されただけあって全館空調完備が成されている。こんな暑い夏には感謝したくなる、そのまま人が少なくなっている廊下を進んでカミツレが向かったのは整備室であった。

 

「今日はお前の整備を徹底的にやる」

『整備ですか。しかし間もなく専用機が来るのにする意味があるのですか?』

「あるよ。今まで俺と一緒に過ごして来てくれたんだぞ、その感謝をするのは当然だろう。お前だけじゃなくて『勝鬨・黒鋼』っていう機体その物に敬意と感謝を払うんだ」

『そう言う事でしたか。それならば否定する意味はありませんね、それがカミツレの感謝の仕方ならば止める資格は相棒の私にはありません』

「おう。完璧に整備するからな」

 

整備室に入ると夏休みなのか誰もいない、これはある意味好都合。一番端のスペースへと移動し、そして『勝鬨・黒鋼』を展開し備え付けられているチェック用の端末のケーブルなどを接続しつつシステム面のチェックと機体の状態を確認する。

 

「システム面に問題はなしっと……んじゃ機体自体のチェックを始めるか」

『やや軋みがある部分が幾つか存在します、そこをメンテする事にしますか?』

「ああ、そこをリストアップしてくれ。完璧に直す」

『了解』

 

整備が必要な部分のリストアップがされると同時にカチドキが機体からある物を投射する。それは現在の機体状況を詳細に反映させたデジタルワイヤーフレームによる3Dモデル、しかも手を翳して動かす事で自在に動かす事が出来あらゆる角度からの確認が出来る。

 

「おおっ凄いなこれ。分かり易いな」

『博士が気分転換と暇潰しに作った機能です。どうぞ使ってください』

「有難いな。こりゃ楽だ」

 

リアルタイムで機体の状況が反映される為、カミツレが機体を弄ると同時に投影されているモデルも共に変化して行くので状況を把握し易く何処を如何すれば良いのかも分かる。そこまで整備に精通していないカミツレでもしっかりとした整備を行う事が出来る。こんな物を作れるとは矢張り束は凄まじい天災だ。

 

「にしてもこんなの作れるなんてあの人凄いなぁ……」

『博士は映画のアイアンマンを見て〈束さんの方がいい物作れるよ〉とおっしゃられてこれを作りました。ですが博士は知っての通り優れた方です、故にこれを活用する事はありませんでした。ですのでISコアに何となく組み込んだのです』

「まああの人らしいな……でもこれ本当に凄いんじゃないのか?」

『はい。他にも機能はあります、少々お待ちを』

 

少し黙ったカチドキはプログラムの操作を開始した。すると勝鬨の腕部とブレードのワイヤーフレームが出現し、そのままカミツレの身体に装着された。当然投影されている物なので付けているという感覚はないが、腕などを動かしてみるとそれは腕を追従するかのように動いた。

 

「おおおっ!!これ面白いな!!」

『所謂擬似的な動作確認機能です、博士の手によってタイムラグは完全に0になるように作られています』

「へぇ~凄いなこれ。設計とかする人にとってはこれ滅茶苦茶欲しいんじゃないか?」

『でしょう。このプログラムだけで恐らく富豪になる事も可能でしょうから』

「流石あの人が作った物だな……。まあ折角つくってある物だ、利用させて貰おう」

『きっとお喜びになります。お父様にお母様の物を使っていただけるのですから』

「だから、まだだっつぅの」

 

そんな言葉を漏らしている時、整備室に一人の生徒が入りカミツレが使っている物を眼に見開いた。その目に染まっている光は感動と驚き、それ以外の物はなくただただそれに魅入られていた。それに気付いたカミツレが視線を向けるとそこには眼鏡を掛けた少女が夢中になって此方を見つめていた。

 

「凄い……やっぱり、ヒーローなんだ貴方は……!!!」

「……誰だ君は?」



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70話

「……誰だ君は?」

 

目の前に現れた少女はキラキラと輝かせた瞳の中に感動と驚きで満たしながら、興奮したかのような早口で凄いと口々に漏らしながら見つめてくる。しかしカミツレはそんな彼女に思わず嫌悪感を抱いてしまった、失礼だと思いつつも抱かずにはいられなかった。自分の部屋に不法侵入した上に痴女スタイルで待ちうけていたあのド変態且つカミツレの中での国家代表をイメージダウンさせた存在、更識 楯無に似ているような気がしてならない。更識と同じく青い髪に赤い瞳、そして何処か幼さがあるが似ている顔つき。如何にもあれの関係者にしか思えない、他人の空似であったら失礼な事なのだが……。

 

「あっえっと、そのっ……い、いきなりごめんなさいっ……!そ、その今使ってる奴が余りに凄くて…」

「ああっ……そう、まあ文句を言うつもりはないが……」

「ごっごめんなさい私ったら名前も言わずに……」

 

赤らめながらも自分の非を素直に詫びてくる少女、如何にもこれが演技には自分は思えないが…。しかし彼女の口から名前が出た時、思わず警戒心が一気に引きあがった。

 

「更識、簪っていいます!日本の代表候補生をやってて、えっとその……よ、よろしくお願いします!!」

 

それを聞いた途端に警戒心がMAXに引き上げられた。更識、あの生徒会長の親族である事は確定でしかも日本の国家代表候補生。最早役満のレベルで自分にとってはアウト、カミツレは既に日本という国を信用などしていない。そんな日本の代表候補生で更識の家の人間……なんか目的があって接近して来たようにしか映らない。演技にも見えない様子も真耶から聞いていた更識という家の特殊性から考えても納得が行く、政府に仕える家なのだからそのような訓練を積んでいても可笑しくはない……。つまり政府の差し金と考えるのが妥当。

 

「……俺は宜しくする気はない」

「えっ……!?」

「なんだ政府に俺に近づくようにでも言われたのか、俺はもうお前ら政府を信用する気は0だ。今更何を取り繕うとする気だ」

「せ、政府って…な、何の事……ですか?私は、政府に命令なんてされた事はなくて……ただ、話がしたくて……」

「芝居はやめろよ白々しい、それとも何か。此処の生徒会長みたいに誘惑でもする気か」

 

汚物を吐き捨てるかのように言葉に満ちる悪意と敵意、それを受けた簪は動揺していた。彼女は本当に政府から何も受けておらず、寧ろ政府には好きではなく嫌っているに近い。今カミツレに話しかけたのも純粋に憧れがあったからこそで、そこに打算や目的はない。強いて言えば仲良くなりたいという思いしかなかった。だがその口から生徒会長という言葉が出てくると、簪の顔色が変わって行った。

 

「生徒、会長……に何か、されたんですか……?」

「……今更知らん顔か、親族なんだろ。更識 楯無、あいつは俺の部屋に不法侵入して痴女のような格好で俺を待っていた上に部屋に盗聴器やカメラまで設置していた」

 

信用などないと言った時、簪の表情は完全に青くそして失望と怒りに染まっていた。更識 楯無は紛れもなく自分の姉だ、そんな姉が自分の憧れの人にそんな事をしていた。そしてそれが原因で自分の英雄は日本という国と自分を信用してくれずにいる、自分はただ……この人と話をしたかっただけなのに、今までの事を聞いてみたかっただけなのに……出来る事ならばサインやツーショット写真を撮って欲しかっただけなのに……。それら全てが、自分の姉によって粉砕されてしまった。

 

「……っごめん、なさいっ……!!」

 

簪は大粒の涙を流しながらその場で土下座をしながら大きく頭を下げた、床に頭を叩き付けるほどに下げる。今の自分に出来るのはそれしかないと思ったからだった。自分に一切の非はない、寧ろ彼女も被害者なのだが自分の姉がやった事が悪い事に変わりはない。そして心から謝りたかったと簪自身が思った。

 

「……っ」

 

流石にこの行動に面食らったカミツレは動揺する。これが本当に演技なのかと疑いたくなって来た、だが嘘でないとも限らない。大粒の涙と絶えず聞こえてくる謝罪の声は、自分には嘘には思えない。これは本当の物なのではないかという思いを作らせるが、日本にとってはそれほどまでに自分を繋ぎ止めておきたい事と考えるとこの行動にも納得が生まれてきてしまい如何したら良いのか迷いが生まれてしまう。

 

「私は、ただお話がしたかっただけなんですっ…!!杉山さんは私にとってのヒーローで、憧れだったから……」

「俺が、か……後日、もう一度話そう。二日後の14時にまた此処で、という事でいいかな」

「はい、有難うございますっ……!!」

 

簪は深く深く頭を下げた、そして涙を拭いてから静かに整備室から立ち去って行った。彼女が居なくなった整備室で溜息を吐いたカミツレは如何にも心が痛くなった感覚を覚えていた。自分の中であの更識の一件は如何にもトラウマに近い何かになっているようで、更識という名前を聞いた時に無意識に心が凍てつくのような気がした。それで強い言葉を言ってしまったのだろう。あの少女の涙は嘘なのか真なのか……知りたいと何処か思ったのかもしれない。

 

「カチドキ」

『はい』

「真耶先生と千冬さんに連絡を取ってくれ。更識 簪という生徒について知りたいって」

 

 

「……っ!!!どうして、どうしてあの人は私の邪魔ばかりするの!!?」

 

自室に戻った簪は怒りに身を任せたまま壁を力いっぱい殴りつけた。その表情は涙ではなく、姉への怒りに染まっていた。政府なんて知らない、姉のした事なんて自分には関係ない……だがそれはカミツレにとっても同じ。彼からしたら自分は日本政府に属する者であの人の妹で、関連があり何か打算があって近づいてきたようにしか思えない。そう思っても可笑しくはない、寧ろ警戒して当然なのかもしれない。

 

「何で、何でなの……私には、あの人に憧れる資格すらないの……?」

 

簪にとってカミツレは本当の意味でヒーローのように映っていた。誰にも期待されず、織斑 一夏の予備(リザーブ)としか見られていなかった。噂ではまともに成績を残せなかったら直ぐに研究所へ送られてしまうという話まで出回っていた。過酷過ぎる運命しか待ち受けていなかった筈だった、それなのに彼はその運命を覆した。

 

セシリア・オルコットとの戦い、一説にはあの戦いで負ければ研究所へと送られるという話もあったが彼はそれに引き分け自らの力を見せ付けた。その後も彼は努力し続け、今では世界が注目する操縦者となっている。そんな彼は簪にとってヒーローのようだった。まるでアニメの主人公だ、そんな彼に簪は何時しか興味を抱き、それは憧れへと変わって行った。彼のようになりたいと思った、話したいと思っていたのに……。

 

「私はっ……何時まで、あの人に縛られればいいのっ……!!」



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71話

簪との邂逅から二日、約束の時間まで自室で真耶と千冬から渡してもらった簪についての資料に目を通しているカミツレ。簪のこれまでの事と教師二人の主観なども書かれている、矢張りあの二人はいい先生だと思いながら目を通し続ける。

 

IS学園1年4組の生徒。生徒会長である更識 楯無の実の妹で日本の代表候補生である専用機持ちである……が現在彼女の専用機は開発が中止されてしまっており、現状彼女が引き取り学園で開発を続行しているとある。普通ならあり得ない事だが資料を読んで見ると元々開発は「倉持技研」という機関が行っていたのが、一夏がISを起動させた事で其方の専用機開発に人員などを全て取られて実質的に開発が凍結されてしまったという。

 

「おいおい……」

 

これに簪は怒り、「倉持技研」に抗議するが政府からの命令で逆らえないと言ってそれ以上相手にしなかったらしい。「白式」の完成後は「倉持技研」自体が一夏のISのデータの解析やそれらを生かした新型のIS開発に着手してしまい、全く開発再開がされなかった。これに激怒した簪は抗議をしたが相手にされなかった、その為に自らの力でISを作る事を決意し「倉持技研」に掛け合って未完成であった自分の専用機「打鉄弐式」を引き取って今も学園の整備室で作業を続けているとの事。数ヶ月を掛けて、現在では9割の所まで自力で完成させていると真耶の物に書かれている。

 

「……凄いな」

 

それを読んで思ったのが政府と「倉持技研」とやらのなんという身勝手さ、その開発を担当した技術者連中も普通に考えても、技術者としてあるまじき行為である。一瞬、一夏に対して何か思ったがこれは彼に責任はない。簪からしたら一夏も十分恨めしいだろう、彼女から見たら一夏も専用機開発を妨げた原因とも言えるので何とも言い難いが、彼に責任はなく政府と機関が余りにも酷すぎる。そして次に思ったのが、彼女の優秀さ。

 

その時点で専用機である「打鉄弐式」の完成度は7割が精々だった、本来は然るべき機関の元で完成させるべき物をIS学園とはいえそこの整備室で9割まで完成させているという点。開発には金も時間も掛かり、国からの補助を受けなければまともに開発すら出来ないという事を千冬から聞いた。そこをIS学園の特異性や整備課の先生にお願いして援助して貰っていたとしても、それら以外を全て自分でやっているという事になる。設計からシステムの構築、デバック……到底自分には出来ない事ばかりだ。それならあの時自分が使っていた物に興味を示すのも当然だ。

 

「それで……こっちは真耶先生のか『更識さんは内気でちょっと人を寄せ付けないタイプの子ですが、真面目で優しくて優秀な生徒。特に演算処理、情報解析、空間認識、整備能力は代表候補生としてはトップレベルで将来有望で国家代表も狙える子』…流石真耶先生だな。正確な分析と評価だ。んでこっちが…千冬さんか『優秀な生徒だが前述した通り、政府との間に確執があり奴が政府の命令で動くとは思えない。加えて言うならば姉の楯無とも仲が良くはなく、奴自身は姉を嫌っている傾向が強い』……そうなると本当に……」

 

二人の信頼し信用出来るコメントに思わず呻き声を出してしまう、あの時の涙は本物だったのではないかという疑念が浮かび上がってきてしまう……そうすると彼女には本当に申し訳ない事をした事になる。必ず謝ろうと心に誓いながら「倉持技研」に凄まじい嫌気を感じた。余りに酷すぎる、腐っているとすら言ってもいい。

 

「ふざけてんだろここっ……!!」

 

元々専用機の開発を引き受けていたが、政府から命令が着たので其方を優先した。それは上からの命令であって拒否出来なかった。ここまではまだ良しとしよう、この場合別の所に依頼しなかった政府が悪い。だがその後、開発を再開するのではなく『新型の開発をするから再開はしない』とは余りにもふざけている。『こっちの開発をやる方が有益だし実績になるから、そっちの開発なんてやらない』と言っているような物だ、怒りしか感じられない。これは簪にも話を聞いてみる必要があるが、カミツレの中ではもう決まっている様な物だった。

 

「カチドキ、倉持技研について検索だ」

『了解、検索中―――終了しました。倉持技研、日本政府直属のIS研究機関です。現日本代表のISの製作や政府から強いバックアップを受けている事によって、国内では一二を争う機関です』

「……リチャードさんやヨランドさんに連絡出来るか、もしかしたら力を借りるかもしれないってメール打ってくれ」

『了解。メール送信……完了です』

「ご苦労さん。にしても流石に酷すぎるだろ……なんだこれ―――」

『ヨランド・ルブランよりメール受信』

「早いなおい!?」

 

ヨランドからのメールには自分を頼ってくれて嬉しいや、例えどんな事でも言ってくれて良いという事が書かれていた。そしてその約15分後にリチャードからも可能な限り力になろうというメールが返ってきた。ヨランドの余りの早さには驚きを隠しきれないが……頼りになるのは間違い無いのだから喜んでおこう。後、何故こんな超短時間でメールを打てたのかという事に関しては考えないようにしよう。

 

「さてそれじゃ……会いに行くか、簪さんに」




―――この作品、完結するまでに何話使うんだろうか。


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72話

「まず一言、言わせて貰う。ごめんなさい、酷い事言っちまって」

「あ、頭を上げてください……!謝ってもらう事なんて……」

「いやあるよ。ごめん、気が立っちゃってさ…最低だな俺って」

 

整備室で再び邂逅した二人、カミツレと簪。やや気まずい空気に包まれていたがそれを破ったのはカミツレ、彼女へ頭を下げて謝罪を行った。カミツレも冷静になってあの時の事を思い返すと辛辣過ぎていた、幾らあのような事があったとはいえ頭ごなしに否定する事から始める事は明らかに間違っていたと分かる筈なのに……。あの時の事が、ある意味でトラウマになっているのかもしれない。

 

「でもお姉ちゃんが、盗聴器とか仕掛けたのは事実で……」

「ああ、それは事実だが君は関係なかった。本当に悪かった……俺もまだまだ余裕がないみたいだな……それで今日はしっかり話をしたい。一からな」

「は、はい!」

「改めて…杉山 カミツレ、まだそうなったって訳じゃないけどイギリスの代表候補生になる予定だ」

「す、凄い……入学からまだ3ヶ月ぐらいしか経ってないのに……!?え、えっと更識 簪です!日本の代表候補生をしてます、一応……」

「宜しく。更識さん」

「あっ簪でお願いします杉山さん!」

「俺もカミツレでいいよ」

 

改めて自己紹介からの握手を結んだ二人は少し微笑んで、言葉を受け取った。

 

「と言っても実質的な物でさ。俺の専用機開発の希望をイギリスが出してくれて、それでお願いしただけで試験に受かった訳じゃない。だから実力というかなんというか微妙な所だとは思うよ」

「それでも凄いですよ!試験じゃなくても国に努力が認められたからこそ、専用機の開発の依頼が来たんですから!」

「そう言われると……少しは実感が湧く、かな」

「そうですよ!だって入学前は全くISとか動かした事ないのに、それでもその実力が評価されて専用機の開発希望が来るって事は本当に凄い事だと思いますよ!もっと自信を持ってください!」

 

目を輝かせながら此方を見つめてくる簪にカミツレは少し照れる、セシリアとも乱も違うタイプの少女。素直に自分を褒めて尊敬しているかのような視線を向けられるのは初めての経験、動揺も混じりながら照れを隠せない。

 

「それでどんな機体になるってこれは聞いちゃいけないですかね!?」

「ああいや、別にもう直ぐ学園に来るし……別にそうでもないんじゃないかな。でも説明得意じゃないからな……来たら整備する時にでも見せるよ」

「ほっ……良かった聞いてよかった事で……でも良いですよね専用機……」

「ああっでも俺は今のでも構わなかったんだけどね、後ろ盾が欲しかった俺としてはこうするのが有力な手段だったからね」

 

なんだったらずっと変わらなくても良かったよ、と答えるカミツレに簪は何処か羨望の眼差しを向けていた。その言葉には本心しかなく、カミツレは本気でそう言っていると簪も理解している。心から専用機である『勝鬨』に対する思いがあるから言える台詞だと理解する。

 

「それであ~……言いづらいんだけどさ、簪さんは自分でISを作ってるって聞いたけど」

「ッ…はい。「倉持技研」が開発を担当してくれたんですが…織斑 一夏の専用機を作るから開発は中止するって言われて……」

「それで自分で作ってるか……凄いな」

「い、いえ……肝心な部分がまだまだで動かすにはまだ課題が多くて……」

 

矢張り企業や機関が国からの援助を受けて開発をする物であるIS、7割は開発が終わっていたと言ってもそれを完成されるのは非常に難しい。それでも彼女は一人で努力して9割の所まで自力で持っていく事が出来ている、それは間違いなく賞賛されるべき物だろう。そう言うと簪は顔を真っ赤にしながらそらしてしまった。

 

「にしても…日本政府に呆れたもんだな。開発の中止とかをするなら他の企業やら機関に委託してもいいもんだろうに」

「私の専用機になる筈だった『打鉄弐式』は「倉持技研」独自の技術が導入される予定だったので他に回せなかったんだと思います。それでも放置は納得行きませんけど……」

「そもそもそれが可笑しいじゃないか。言い方はあれだけど、貴重なISコアと優秀な代表候補生を遊ばせているし簡単に君に渡しているのも可笑しい。それに放置する位なら最初から専用機を別の所に委託するじゃないか」

「それは、確かに…」

 

それを聞いて政府の不手際というよりも、アフターケアの無さに次第に簪も怒りを感じるようになって来ていた。元々は「倉持技研」に抱いていた物は政府へと向き始めている。

 

「そこで簪さん、他の企業とかに専用機の開発を委託しないか?そうすれば君のISは完成すると思うんだけど」

「そ、それはそうですけど…でも、政府とか「倉持技研」が認めるかどうか……」

「そこは俺に任せてくれないか?俺には頼れる人がいるんだよ」

「頼れる人?」

 

簪は素直に一体どのように頼れる人があるというのだろうかと首を傾げた。千冬や真耶の事を言っているのかと尋ねるが違うと言われてしまい、誰なのか分からなくなった。

 

「俺の頼れる人って言うのは俺が尊敬する人とお世話になってる人なんだ」

「ハァ……」

 

世界トップクラスのIS操縦者でフランスの国家代表であるヨランド・ルブラン、そしてもう一人はイギリスの大貴族で大きな影響力を持っているリチャード・ウォルコット卿。世界的に名が知れ渡っている超ビックネーム、そんな二人とコネクションを築いているとは簪も思いもしないだろう。本当は此処にISの開発者である束も加わるのだが……まあ言えるわけも無いので伏せておく。

 

「まあ兎に角だ、これからはその仲良くしていこうよ。簪さん」

「はっはいよろしくお願いします!」



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73話

「漸く…戻ってこれましたわね。あの人がいる場所へ……」

 

IS学園の正面ゲート前へと降り立った一人の令嬢は愛おしむように学園を見つめながら白のロールスロイスから降り立った。日本の夏の熱気にややうんざりとしながらも、それでもあの人の生まれ故郷なのだから許容しなければと思いつつも高揚する気分を抑えられない令嬢こと、セシリア・オルコットの姿があった。イギリス本国での仕事を終えて日本へと戻ってくる事が出来た。

 

オルコット家の当主の仕事に加え国家代表候補生としての報告、専用機の整備と再調整、それ以外にバイオリンのコンサート参加や旧友との親交、そして―――両親の墓参り。両親の墓を訪れるたびに彼女の胸には痛みがあった、如何して自分だけを遺して逝ってしまったのかと……だが今回はそれだけは無い、ずっとしたかった報告をする事が出来た。思い人が出来、その人と結ばれた事であった。

 

「(今度参る時はカミツレさんと一緒に参りますわ、どうかその時まで待っていてください……)」

「お嬢様、御荷物は此方でお運びしておきます」

「お願いしますわ」

 

背後から声を掛けてきた自分の専属メイドでもあるチェルシーがそう告げる、荷物の事などはチェルシーともう一人のメイドに任せて自分は早速カミツレに会いに行こうと足を踏み出そうとした時の事であった。

 

「お嬢様は杉山様にご挨拶に行かれますか?」

「チェ、チェルシー!?に、荷物を運びに行ったのでは……!?」

「一つ確認しておく事を恥ずかしながら失念しておりまして、戻って参りました」

 

チェルシーにしては珍しい事もあった物だと思いつつ、それに耳を傾けた。が

 

「あの白、そして黒の下着は杉山様用でしょうか?」

「―――えっ」

 

思わず顔から血の気が引いていった、何故それを知っているのだろうか。絶対にバレないように裏取りとリチャードの奥さんであるドロシーに相談して吟味した勝負下着、ウォルコット家とオルコット家の力を使いながらこっそり購入し、二重底のスーツケースに隠しておいた筈なのに……如何して……!?

 

「きっとお選びになったのはドロシー様ですね、殿方を誘惑するにはとても有効な物です。必ず有効に活用し、杉山様を物になさってください」

「―――な、何で知っていますの……?」

「蛇の道は蛇ですわ、お嬢様」

 

「ごっめんね~セシリア♪面白そうだからチェルシーちゃんにも言っちゃった♪」

 

イギリス本国のドロシー・ウォルコット、セシリアにとっては頼りになりもう一人の母親のように何でも相談出来る人物ではあるが…その実は愉快犯的な所があるという事をセシリアは失念していた。

 

「セシリア、連絡通り今日だったな帰ってくるの」

 

その声を聞いた時、思いっきり胸が高鳴った。高鳴る胸を一度手で押さえ、冷静に平静を装いながら振り返る。そこには愛しの彼が此方に手を掲げながら出迎えをしてくれていた。燃え上るような歓喜に身悶えする身体を抑えながら優雅に挨拶をする。しかし彼女の内心は真夏の白昼夢―――もとい、妄想で溢れ返っており妄想のカミツレと熱い抱擁とキスを行いながらいやんいやんと身震いしていた。

 

「――セシリア……?あの、大丈夫か……?」

「ハッ!?いえ大丈夫ですわ、先程まで車の中でしたので少々立ち眩みを……!!」

「そ、そうか?なら良かったけど」

「ええ、全くです」

 

!?

 

「んっ?あれ、すいませんどちら様?」

「お初にお目に掛かります杉山 カミツレ様。セシリア様にお仕えするメイドでチェルシー・ブランケット申します。以後お見知りおきを」

 

何時の間に荷物を運び終えたのか、戻って着ていたチェルシーがカミツレに挨拶を行っていた。確かに将来は自分の夫となる男性への挨拶は必要だが、まさかこんなタイミングで顔を見せるとは……相変わらず心の機微に鋭いと思うセシリアであった。

 

「あっそうか貴方がセシリアが以前話してくれたメイドさんの……初めまして、杉山 カミツレです。今後ともよろしくお願いします」

「はい杉山様。―――時にご無礼を承知にお聞きしたい事がございます。杉山様はお嬢様に対してどのような印象を抱いていらっしゃいますか?」

「セシリアにですか?そうですね……美人で優しくて優秀、そして俺に良くしてくれる素敵な女性ですね」

「いやですわカミツレさんってば♡」

 

素直な気持ちを形にして言ったカミツレに思わず顔を赤くしながら顔を振るセシリア、後偶に見せる今のような仕草が堪らなく可愛いと付け足す。それを聞くとチェルシーは笑顔を作りながら感謝を述べる。では逆にセシリアは自分の事をなんと言ってたかと聞くとチェルシーはお茶目そうに笑顔を作りながら人差し指を唇に運んだ。

 

「女同士の秘密、です♪」

 

思わずドキっとしかけそうな魅力的な笑みに此方を笑い掛ける。セシリアは再び白昼夢(妄想)の中にいるのか帰ってこないのでチェルシーはカミツレに近づいて言った。

 

「セシリア様の事を宜しくお願いいたします、杉山様ならきっとお嬢様を支えてくださると信じております」

「ええ。俺にとって彼女は大切な人ですからね、俺に出来る限りの事はするつもりです」

「力強いお言葉、嬉しい限りで御座います。それと私の事はチェルシーとお呼びください、将来は私がお仕えすべき殿方、使用人と思って砕けたもので結構ですので」

「いえそうはいきませんよ、年上の人には敬語が基本ですから俺は。多分これはずっと変わりませんよ…それと俺はカミツレでいいですよ。それと……そういう事は早くないですかね」

 

やや困ったような表情を浮かべるカミツレに対してチェルシーは少し悪戯気な笑みを浮かべる。

 

「いえそんな事は御座いません、お嬢様が選んだ殿方ですので。それにリチャード様は既にカミツレ様をお迎えする準備をなさっております故」

「リ、リチャードさん……幾らなんでも気が早すぎるよ……」

「それに……少々お耳を」

 

チェルシーは耳打ちするようにある事を伝える。

 

「お嬢様は既に、カミツレ様を受け入れたいと言っておりますわ。色んな、意味でね♪」

「……チェルシーさんにはなんか…敵いそうにないな…」

「恐れ入ります」

 

この後、チェルシーの元にもう一人のメイドが荷物の運搬が終わったと報告し自分達は帰るのでセシリアを頼むと言われて彼女らが帰っていく。そしてカミツレがセシリアに話しかけるまで、セシリアはずっと妄想の中でカミツレと過ごしていた。それゆえか現世復帰した時には、顔を真っ赤にしてカミツレの腕に顔を隠すようにしながら学園へと入って行った。



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74話

「それではカミツレさん、私と共にやってきた専用機を御披露目しましょうか」

「ああ頼むよ、俺も見たかったんだ」

「では、行きますよ」

「お願いします真耶先生」

 

アリーナのピット内、その搬入口からは行ってきたそれは隔壁の暗闇を越えて明かりを受けて反射させてその姿を見せた。そこにあったのは青と眩しいほどの銀を纏ったISが自分を待ち受けていた。

 

「これが……俺の専用機……」

「はい。学園から提供されたカミツレさんのデータの全てを反映させて設計、調整がされた第三世代型のIS。イギリスのBT技術も導入された言うなれば私の「ブルー・ティアーズ」の兄弟機ですわ」

「開発コードは『Knights of the Round Table:Sir Galahad』となってますね。円卓の騎士、ガラハッド卿……聖杯の探索をした騎士ですね」

 

「最も穢れ無き騎士」と云われる聖杯を見つけた三騎士のうちの一人、湖の騎士(ランスロット)の息子。完璧なる聖騎士とも呼ばれているガラハッド卿、その名前と同じ名を授かったIS。東洋の剣士と似ているカチドキと西洋の剣士を体現したガラハッド。如何にも似ているような気がしてならない。見た限りでは防御重視型のISのようにも見えるが実際のスペックは動かして感じて見るのが一番だろう。カミツレはドッグタグを「ガラハッド」へと掲げる。数秒するとガラハッドから声が漏れ始めた。

 

『情報更新完了しました、おはよう御座いますカミツレ』

「五体満足って奴かカチドキ」

『いえ、言うなれば2万5千パーツ満足です』

「そりゃ結構だ」

 

コア同士のデータ移植は無事完了したのか「ガラハッド」のコアにはカチドキが、今まで「ガラハッド」であったコア人格は「勝鬨・黒鋼」へと移ったらしい。心なしかこのドッグタグに宿っているのは全く別の人格だという事が感覚として理解出来る。

 

「……有難う、そしてお疲れさん」

 

そのまま既に別の機体となってしまった「勝鬨・黒鋼」への最後の別れとお礼を述べたカミツレはそれを真耶へと手渡した。あれはこの後どのようになるのだろうか、内部データ解析の為に研究所へと送られるのだろうか、それともデータだけ抜き出してコアを初期化して学園の訓練機に戻るのだろうか。それは分からないが今まで本当に世話になった事に対して礼を述べて、新たな機体へと向き直った。

 

「だけど、俺には不満なことがある」

『私もです』

「フ、不満ですか!?一体何が……!?」

「『名前が好みじゃない』」

 

とカミツレとカチドキが同時にそう漏らすとセシリアは一瞬ポカンとしてしまったが、真耶はくすっと笑いながらそうですよねと呟いた。

 

「最も穢れ無き騎士、ガラハッド、完璧な聖騎士?おいカチドキ、俺がそう見えるか?」

『いえ全く。貴方は未熟でまだまだ幼い子供です』

「だろ?全然俺に似合ってない。そうだな……カチドキ、お前ならなんて名前を付ける?」

『勝鬨・大将軍』

「うおい大将軍って形かお前」

『冗談です』

 

お茶目に冗談まで言うコア人格、此処まで人間臭い人工知能なんて他に有り得るだろうか。そんな相手と極当たり前のように口を利くカミツレも一般的に見れば異常なのかもしれない、だがこれは既に彼にとっては日常の一部分でもあるのだ。

 

「そうだな……決めた、機体の名前は『勝鬨・蒼銀』だ。丁度そんな色してるしな」

『最初に沿ったネーミングですね、私好みです。ではそう登録します……登録完了―――今からでも大将軍付けませんか?』

「気に入ってるのかよ……大将軍」

『まあ如何でもいい事は放置して、早速最適化(フィッティング)を開始しましょう』

「……」

 

無言になりつつも溜息を吐いたカミツレはその言葉に従って、新たなカチドキの身体に身を委ねる。最初から自分の為に作られているのか異様にフィットする感覚がある、これが自分専用の専用機……不思議な高揚感を感じつつも最適化を待つ。

 

『私の中にカミツレが入ってくる……面白い感覚です』

「戯言抜かしてねぇでさっさとしろ、何時も俺がお前を纏ってただろうが」

『確かにそうでした』

 

途中黙っているのが嫌なのか小言を挟さんでくるカチドキへと突っ込みを入れながら作業は進んでいく。そして20分ほどすると最適化と一次移行が完了し、完璧な意味で新たなISがカミツレの物となった。

 

『作業工程100%終了、武装チェックを開始します。多連装ライフル「スターダストmkⅣ」近接ブレード「スパークルエッジ」防御兼推進システム「ディバイダー」BT兵装「ヴァンガード」全兵装チェック終了です』

「基本を押さえたって感じの武器だな、まあ奇抜なもんばっかりじゃなくて良かったよ」

『ライフル、ブレード、盾、ビット。あらゆる距離の対応が可能となっているようです』

「にしても盾?それって武装なのか」

『この盾は武器にもなるようです』

「マジか、推進って言ってたけどこれもBTシステムがあってこれを蹴り飛ばしたら相手を追尾するとか?」

『その発想はありませんでした』

 

カチドキと会話をしながら軽く身体を動かしてみるカミツレを見るセシリアと真耶、完全に彼の物となった「勝鬨・蒼銀」は「勝鬨・黒鋼」よりもかなりガッチリとしている印象を受ける。両肩の位置にある盾もその印象を強めている。翼のように大きく広げられているそれには新たなBT兵器が仕込まれており、不思議な威圧感を放ち続けている。

 

「うん、いい感じだ」

「お似合いですわカミツレさん」

「ええ。「黒鋼」は無骨なカッコ良さがありましたけどこっちは洗練されたカッコ良さがありますね」

「蒼銀……これからも頼むぜカチドキ」

『了解しました』



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75話

「これより『勝鬨・蒼銀』の稼動テストを始める。カチドキ、サポート頼むぞ」

『了解しました』

 

機体の最適化と一次移行が済んだ事によっていよいよ動かす段階にはいったカミツレはアリーナへと飛び出し、機体の具合を確認する事になった。軽く出力を上げてまずは円を描くかのようにしながら飛行を開始していくが、以前の「黒鋼」と違い全体的に出力が高い為か速度が速い。気持ち的には以前と同じように軽く吹かしているつもりだが…矢張り扱い易さ重視だった「黒鋼」とは出力が段違いになっている。思い切って出力を上げて「黒鋼」のフルスピードまでカチドキに出力を調整してもらうが、それでもまだ最大出力ではなかった。

 

「すげぇっ……これが、訓練機のカスタムだった「黒鋼」と「蒼銀」の差……!!」

『以前と比べて出力が数段高いですね、スロットルワークは慎重にお願いします』

「ああっ。これは慣れるまで掛かりそうだな……!!」

 

あくまで扱いやすい「打鉄」をカスタムしていた且つ装甲を増やし最大速度を落としていた「黒鋼」とは操縦性が全く異なる、動かし易かった機体が何時の間に速く力強くなっているような感覚でやや振り回されている。しかしカミツレの表情は笑っていた、クリスマスの子供のような笑みを浮かべたまま高い出力を維持したままで飛行を続けている。次第にそれに慣れて行っているのか動きが洗練され始めて行く。ヨランドに鍛えられた甲斐があったという物だろう。

 

「武装のチェックに入ろう」

『了解しました。多連装ライフル「スターダストmkⅣ」展開します』

 

その手に展開されたのは上下に銃口が付いているライフル、セシリアや自分が使っている物に比べるとやや異質な造りに、少しじっと見つめてしまった。マガジン式なのかライフルにはマガジンが装填されており、カミツレの目には残りのマガジン数が表示されている。

 

『「スターダストmkⅣ」は「ブルー・ティアーズ」に搭載されている「スターライトmkⅢ」より発展した新型のライフルです。mkⅢは本体よりエネルギーを供給しレーザーを発射しますが、スターダスト型はエネルギーがチャージされたマガジンを装填し、そのエネルギーでレーザーを発射します』

「継続戦闘能力を高めたって訳か……」

『はい。スターライト型より威力は落ちますが、IS本体のSEを消費せずに攻撃を行えます。加えて実弾の発射を行う事も出来、対応力と継戦能力に優れたライフルとなっています』

 

マガジンのエネルギーは12発、そしてマガジン数は6個。計72発のレーザーを発射しつつも実弾を発射可能、全面的に「ブルー・ティアーズ」に不足していた面を補っていると言えるライフル。セッテンィグされたターゲットに照準を向けてトリガーを引く、レーザーが瞬時に標的を貫いた。反動はISの操縦者保護機能とパワーアシストが抑え込んでくれるので無理なく使う事が出来る。

 

「……いい銃だ」

『私も同感です。他にも発射の際にエネルギー量を調節する事で威力が大きく低下しますが、レーザーマシンガンとしても使用が可能です。ロマンを形にしている名銃と判断します』

「同感だ、こいつは良いな……」

 

大きさは「黒鋼」に搭載していた物より大きいがこれだけの機構を有しているのならば十分許容出来る。むしろよくもまあこれだけの性能に出来ていると感心するレベルで凄い。思わず興奮で口角が上がってしまう。ライフルを一度消しつつ次はブレードを展開する、ブレードはやや赤みが掛かっている刀身をしており「黒鋼」のものよりやや大きめの太刀である。

 

『次に「スパークルエッジ」は近接用のブレードとして開発されています。特出すべき機能はありませんが一部を取り外して小太刀として使用可能です』

「へぇ~……簡単に二刀流が出来るのか、これもシンプルだけどいい武器だ」

 

スターダストに比べるとやや見劣りするかもしれないがシンプル故に追求された性能がそこにある、純粋にブレードとしてはかなり優れている一品と言える。この以前のブレードよりも溢れる重量感、何より太刀という男心を擽る響きにカミツレはご満悦。

 

「次はえっと……ディバイダーだっけ?」

『はい』

 

視線を周囲に向けて見ると直ぐにそれは見付かった。「黒鋼」のシールドのように浮遊している物が「デイバイダー」と名付けられた防御兼推進システム、防御というのは分かるが推進システムというのがよく分からない。

 

『この「ディバイダー」はそれぞれに大型バーニアが搭載されています。「蒼銀」はやや防御寄りとなっていますがこの「ディバイダー」をウィングと同時使用する事で機動力を更に向上させる事が出来ます』

「まだ速くなるのか……」

『それだけではありません。この「ディバイダー」は連結する事で大型のシールドへと姿を変えますが、連結する事で内部に搭載されている多連装レーザー砲が使用可能となります』

「すっげっ……」

 

思わずそんな言葉しか出て来なかった。「ディバイダー」だけで三役をこなす事が出来る複合兵装、多くの武器を使い分けるのではなく多数の機能を持った一つを使用するというのは大きく異なる。何より持ち変えのタイムラグをゼロに出来るのは大きい、加えてその場の状況に応じて適切な武器のチョイスの判断は自分に出来る気がしないので普通に有難い。

 

『但し、ディバイダー内部の砲は「蒼銀」から直接エネルギーの供給を行います。チャージに時間が掛かる上にエネルギーの消費が激しいので多用は出来ませんので注意を』

「了解だ、決め手としては十分すぎる」

『では最後にBT兵装「ヴァンガード」についてです』

 

カチドキの言葉と共にウィングから複数のパーツが飛び出していく。それはティアーズよりも鋭角で攻撃的なイメージを抱くような形状をしている。ティアーズに小型のブレードを付けたというのが適切な表現なのかもしれない。

 

『「ヴァンガード」は全6基。「ブルー・ティアーズ」と同じくビット型の武器であり、オールレンジ攻撃を可能にしますが異なる点は子機にブレードが装備されている事です』

「ブレードが……?」

『はい。以前カミツレとセシリアがコンビネーションにて使用したブレードビット、それを採用した結果がこの「ヴァンガード」となります』

「……あっあれか!!」

 

覚えている、学年別トーナメントにおいてティアーズがブレードを押し出すような形で誕生した即席のブレードビット。それを実際に完成された物がこの「ヴァンガード」となる。

 

『射撃により後方からの攻撃だけではなく、前衛(ヴァンガード)として敵に切り込む事を可能にしているBT兵器です。こちらのコントロールは私の方で行いますのでご安心を』

「ああっ頼むよ……凄い、これが俺の専用機……「勝鬨・蒼銀」……」



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76話

「ぐぅぅっ!!まだまだぁ!!」

 

アリーナでは一機のISが凄まじい速度で飛行を行っていた。ウィングと直結した大型のバーニアによって得られる推力は通常時の最大出力を上回る為、慣れる為の訓練を行っている。スロットルワークその物の使い分けは出来ているが、前の機体での慣れが大きいのが機体に身体が慣れずに練習を繰り返し続けている。

 

「じゃじゃ馬だなっ!!「黒鋼」がどんだけ使い易いのか分かる!」

『ではやめますか?』

「冗談、言うなよ!!」

 

アリーナ内を縦横無尽に飛び周るIS「勝鬨・蒼銀」を操るカミツレ、受領したISに一日でも早く慣れる為に努力し続けている。以前使用していた「黒鋼」と比較しても「蒼銀」の機体出力はかなり高くそれが生み出すスピードは凄まじい物があった。ディバイダーを直結させた場合の出力は正に暴れ馬、直線的な機動ならばまだしもそれを使っての高機動戦闘は難しいと言わざるを得ない。

 

「楽しいな……楽しいって思ってるよ俺はっ!!!」

『カミツレのその姿勢には関心を向けざるを得ませんね。訓練を続行します』

「おうっ!!!」

 

カミツレにとって「蒼銀」を使うという事は喜びに満ちていた。今までの努力が正当に評価されてイギリスが開発してくれたこの機体こそ、自分の努力と苦労の証明でもある。自分専用に開発されたISを動かすことに深い喜びを覚え、動かし「蒼銀」の操縦を少しずつ会得している自分に充足感が感じられている。笑顔を浮かべたまま悔しがりながら全力で挑戦を続けている。

 

「だぁぁっ~…つ、疲れた……」

 

訓練終了後、ISスーツからラフな私服へと着替えたカミツレは自室のベットに倒れこむかのように崩れ落ちた。今までの物とは全く違う高出力ゆえの操縦の難しさを感じているカミツレは、唯ひたすらにその出力になれようとしていた。真耶が組んでくれた「高出力機体マスターの道」という訓練メニュー通りに行っているがついつい楽しくなってしまったのか、2倍以上のメニューをこなしてしまった。オーバーワークもいい所だが気持ちのいい充足感に満たされている。

 

「カチドキ、俺の操縦評価は?」

『47%に上昇しています。前回の41%より6%増です』

「そうか……まだまだって事か」

 

腕前が上がっているのは間違い無いがカミツレはそれで満足はしていなかった、まだまだ上を目指すべきなのだと自分にいい聞かせながら前へと進もうとする意志を持ち続ける。自分を評価してくれたイギリスの為、自分を守ろうとしてくれているセシリアと乱の為に、自分に出来る事をやり続ける。それが自分にとって最善の道なのだ、だから努力はやめない。前に進み続ける―――。

 

「だけど、流石に休憩だ……疲れた……」

 

その疲れに身を任せて眠りに付こうかと思った時、自室の扉を軽くノックする音が聞こえてきた。それに片目を開けながらあくびをしながら立ち上がる。眠気覚ましにキンキンに冷やしてあった緑茶を一気飲みする、冷たい感触が一気に頭を貫いて眠気を吹き飛ばした。扉を開けてみるとそこには師である真耶が立っていた。

 

「真耶先生でしたか、なにかご用ですか?」

「ええ少し。弟子にお説教を」

「え"っまさか……」

「ええっ知ってますよ、あれほど自分の身体を労わりながら弁えた訓練をしなさいと言ったのに何ですかあの訓練は!?正座してください、少なくとも2時間は覚悟してもらいますからね!!!」

「うっ……はい……」

 

怒っている真耶を前にしたカミツレは大人しく彼女を部屋へと入れつつ正座して真耶の説教を甘んじて受けた。自分が訓練メニューを勝手に増やして行ったのは事実、言いつけを破ってしまったのも確かなのでこの説教は当然と言える。それに―――真耶は怒ると恐いという事を知っているので逆らう事は絶対に出来ないのだ。それも説教を受ける理由でもある。

 

 

―――3時間後……

 

 

「そういう訳なんです!!分かりました?もうあんな訓練をしちゃ駄目ですよ」

「はい……すいませんでした…」

「声に力が無いですよ。全くもう…勝手に2倍メニューなんてするからそんな目に合うんですよ?」

 

もう疲労困憊と言いたげなカミツレはフラフラとしてしまっている、そしてそのまま倒れこむようにしながら眠りについてしまった。そんな弟子を見つめる師匠は溜息を付きつつも笑みを浮かべながら、彼をベットへと寝かせてあげながら頭をそっと撫でる。

 

「もう、手が掛かるんですから……」

 

そんな事を言う真耶の顔は笑っている、手の掛かる子ほど可愛いという奴だろう。初めての弟子という事もあって真耶は本当にカミツレの事を大切に思って接している。先程の長い説教の大半も身体を気遣って欲しいという事を口を酸っぱくするほどに繰り返していた、専用機を手にして嬉しいのも分かるが専用機を手にしたばかりの代表候補生は訓練に熱を入れすぎて怪我をしたという事も少なくない。それを分かって欲しかったのである。まあ3時間も掛けて語ったのだからきっと分かってくれているだろう。

 

「それに、今日はこれを渡しに来たんですからね」

 

真耶は持っていたファイルを机の上においておく、そこに入っているのは実家への帰省の許可証。彼が望んでいた実家へと帰る為の許し、幾つか条件が課せられてはいるがそれでも帰る事は出来る。弟子が望んだのだから真耶も全力で許可を取り付けた、家族と会って精気を養って欲しい。

 

「これからも、まだまだ頑張りましょうね。カミツレ君」



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77話

『条件その一。帰省期間は1週間、安全面などを考慮した結果の日数決定であるので了承する事。条件その二。杉山 カミツレは帰省中、毎日IS学園へと連絡を取り報告を行う事。一度でも損なわれた場合強制送還となる。条件その三。実家での生活を思いっきり楽しむ事、これは絶対の条件!』

 

それがカミツレに課された実家への帰省の条件であった、真耶により意訳がされており三つに纏められていたので分かり易かった。真耶らしい気遣いもカミツレにとっては嬉しい物であった、漸く帰る事が出来る。実家が静岡であるカミツレはそう簡単に帰る事が出来ない、家が比較的近くにある一夏と違って学園での生活がデフォルトなのである。

 

「フッフッフッ!」

 

漸く兄や家族と再会する事が出来ると喜ばしい事この上ない、それに今回の帰省はカミツレにとって特別な意味が含まれている。恋人を家族に紹介する事である。帰省の際にはセシリアと乱も同行する事になっており、その時に恋人の事を話すつもりでいる。自分の家族の事だからきっと分かってくれるとは思うが…それでも日本という国の事を考えて複数の恋人がいるというのは受け入れられるか怪しい面が強い。それでもカミツレは確りと話をして理解して貰おうと決意を固めている。

 

「きっと、分かってくれるさ……」

 

この事を決めたのは何より恋人達だった。自分という男を守る為にそれに理解を示し決断してくれた彼女たちの為にも必ず家族を説得して見せるという強い意志の元、訓練に励むカミツレ。家族との再会を心待ちにしながらその時が来るまで、鍛錬に励む。

 

『お兄さんこっちはこれでいいんですよね!?』

『おう、いやぁ俺の弟も隅に置けねぇな。こんな可愛い恋人がもう一人もいるなんて、お兄さん嬉しい!』

『いやだなぁもういい過ぎですよ可愛いだなんてぇ♪』

 

と、彼の決意は評価されるべきなのだろうが……実はもう家族はその事に付いては了解済みなのである。リチャードとセシリアが彼の実家を訪れた際に、一夫多妻制度についての説明なども行っており家族も理解を示している。加えて乱は休み中に彼の実家を訪れ挨拶を行っている上に農作業まで手伝っており、兄である一海も可愛い義妹が増えたと喜んでいる。尚、家族の意向で内密にされており、カミツレが前日に帰省する事を伝えた時に聞かされたという。

 

『残念!俺達はもうお前の多重婚は知ってました!!』

『……』

『俺達だってお前の事は真剣に考えてるんだよ、それに言っただろ?お前の決めた事なら俺達は何も言わない。それもお前が納得した上での事なら文句なんて言わねぇよ』

『……有難う。でも兄貴、帰ったら覚えとけよ。最低10発は殴るからな』

『バッチ来い』

 

という一幕があるのだが、今のカミツレはそれを知らない。今のカミツレは帰省を楽しみにしながら今の自分を鍛える為に強い志を持って、訓練に励み続けている。怪我などをしないように細心の注意を払いながら真耶のメニューをこなしていくのであった。そんなある日……。

 

「お前の家に?」

「ああ。俺の家にカミツレもこないか?折角の夏休みだし…それに一度ぐらいカミツレと遊んでみたいんだよな、折角同じ男子生徒なんだし」

 

暑い外でのメニューをこなした後、自室で冷えた緑茶を片手に溜め取りしていた特撮番組を見ていたカミツレ。そんな彼を一夏が尋ねてきたのであった、最初こそ思わず警戒してしまった。以前来た時はシャルロットの件を持ち込んだ前科があるので、また面倒事でも持ち込んできたのでは無いかと警戒してしまった。

 

「その日の夜は千冬姉と久しぶりに家で飯を食うんだけどさ、前に千冬姉に料理作ってただろ?だから一緒に作れないかなぁと思って」

「むぅっ……」

 

正直言って単なる一夏の誘いだけなら断るつもりでいた、誘いを受けたとしてもそれに応じてやる義理も責務もないし純粋に訓練に励みたいという思いもあった。しかし…直前に真耶から説教を受けているからか、確りとした休みを取って、一度、訓練から離れてみるのも必要なのではないと思い始めている。それに世話になっている千冬に料理を作ってあげたいという思いも混じっている。

 

輝け!流星の如く!!黄金の最強ゲーマー!ハイパームテキエグゼイド!!

「おっカミツレもこういうの見るか?あっというかこれ神回じゃねえか!?俺もみていいか!?」

「まあ、良いけど…」

「カミツレ来るぞ!!」

「おおっ!!」

「さあご一緒に、サンハイッ!!」

HYPER CRITICAL SPARKING!!!!

「「ハイパァ~クゥリティカァアルスパァキィッィイグッッ!!!」」

 

思わず録画していた物に合わせて一夏と共に叫んでしまった、どうやら一夏自身もこれが好きらしく何度も見ていたらしい。不覚にも一瞬楽しいと思えてしまった自分が恥ずかしくなって来た、そして自分に向けていい感じのイケメンな笑みを向けている一夏に凄まじい苛立ちを感じずにはいられない。正に殴りたい、この笑顔である。

 

「なあいいだろ!?それとも忙しいのか?」

「ぐっ……」

 

予定も空いているし正直行くのは全く問題ない…それに行かなかったら今の出来事が拡散してしまう恐れがある。それは嫌だと思ったカミツレはがっくりと項垂れながら行くと返事を返す、それに一夏は嬉しく思ったのか笑いながらカミツレの肩を叩いた。

 

「よしッ決定!!」

「最悪だっ……」

「あっカミツレって好きなガシャットなんだ?俺は断然『TADDLE LEGACY』だな」

「『HYPER MUTEKI』だろそこは」

 

と気付けば好きな番組内のアイテムについて語り始めていた、そしてカミツレは語り合っている間笑い続けている事に気付いていなかった。




帰省編は番外編にでもしようかと思っています、本編に組み込むとやたら農作業とかリアルに書き込んで何時本筋に戻れるのかわからなくなりそうですので。
織斑家編を書き終わるまでには、如何するかを決めようと思います。


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78話

「取り敢えずなんか飲むよな?麦茶でいいか」

「水でいいぞ」

「遠慮するなって、兎に角麦茶にするからな」

 

約束した通りに一夏の家へとやってきたカミツレは一夏に促されるままにソファに座りこんだ。それとなく室内全体を見渡してみると自分の家とは違う、リビングとキッチンが繋がっているタイプ。珍しいわけでもないがずっと学生寮にいたせいか新鮮に映りこんでくる。差し出された麦茶を受け取り、隣に座る一夏を一瞥してそれを啜った。

 

「くぅぅぅっ!!やっぱり暑い日には麦茶だよな!!」

「俺は緑茶派だけどな」

「えっマジで?熱いの飲むのか暑いのに!?」

「いやなんで緑茶=熱いなんだよ、冷やしてある奴に決まってるだろ」

「緑茶はやっぱり熱い物に限るだろ」

「んなもん人の好みだろ」

 

適当な会話を演じながらカミツレは如何も自分が変わっている事に気付く、最初こそ一夏と会話する事も嫌だったはずなのに今ではこうして普通に会話している。妙な怒りや憎しみすら沸かずに自然と話せる、学園入学当初は絶対にありえない状況だったのに…人間は変わる物、という訳なのだろうか。

 

「んで…何すんだよ」

「うーん一通りゲーム機とかあるけど……なんかやりたいのとかあるか?」

「任せる」

「んじゃ手堅い所でスマブラか?ちょっと待っててくれ、俺の部屋から持ってくるわ」

 

そう言いながらリビングから自室へと向かって行く一夏を見送ったカミツレ、ソファに身を委ねながら思わず天井を仰いだ。何で自分はあいつからの誘いを受けたのだろうか、未だにそれが分からない。滅茶苦茶な感情のままで手元にあったTVのリモコンを使って電源を点ける、適当な番組でも見て待とうと思っていたのだが早速点いた番組を見てボタンを撫でていた指が止まった。

 

『本日の特集は世界にたった2人の男性IS操縦者です!!突如現れたISを使う事が出来る男である織斑 一夏君と杉山 カミツレ君!本日は彼らについて御伝えして行こうと思います!』

 

TVで組まれていたのは自分達の事だった、世間にとって自分たちは格好のネタという訳でこのような番組がやられていたともしても全く可笑しくはない。見ていると案の定、大きく取り上げられているのは一夏の方であったがそれに何の感情も沸かない。元々千冬の弟という事で知名度も期待も圧倒的に上なのだから致し方ない、自分の番になる前に消す。これ以上見ていたとしても何も面白くない。

 

「御待たせ~…カミツレって何のキャラが得意なんだ?」

「クッパだな」

「げっ俺の苦手な重量パワー系……ま、負けてたまるか!俺のリンクの力見せてやるぜ!!」

 

早速ゲーム機をTVに繋げて起動させる一夏、それに渡されたコントローラーを握ってプレイを開始する。

 

「く、クソまだだ!!アイテムの逆転……あああっ!!?まさかの樽爆弾かよ!?」

「へいらっしゃいメテオ」

「ギャアアアアッ!!!これで6連敗かよ!?カミツレお前強すぎ!!?」

「お前が弱すぎるんだよ、次は手加減してルイージで相手してやろうか?」

「くっなら俺だって本気のマジキャラ、シークで勝負だ!!!」

 

尚、一夏は一勝もあげる事が出来ずに惨敗するのであった。

 

「なあカミツレ、聞いてみても良いか?」

「何だよ藪から棒に」

「一度聞いてみたかったんだよさ、カミツレって俺の事如何思ってる?」

 

休憩にとアイスを食べていると一夏がそう聞いてきた、頬張っているイチゴチョコアイスを食べ続けながらカミツレはやや怪訝そうな表情を作る。

 

「何でそんな事聞く」

「いやさ、入学してからずっと一緒のクラスだったけど俺カミツレの事全然知らないし。俺からしたらカミツレって凄い真面目で頑張ってるぐらいの印象しかない訳だよ、だったらカミツレからみた俺って何なのかなぁって」

「そうか…俺から見たお前…最悪の奴、俺が学園に入る事になった原因」

「ウゲッ……や、やっぱり悪いのか……?」

 

一夏もある程度は考えていたのだろうがそれでも本人を目の前に言われるとかなり心に来てしまう。それでもカミツレはやめずに続ける。

 

「お前のせいで俺は兄貴と一緒に爺ちゃんの跡を継ぐっていう夢を諦めるしかなかった、お前と違って俺の親族にはIS関係の事をやってる人は居なかったからな」

「夢を…俺、思ってた以上に迷惑掛けてたんだな……悪い」

 

頭を下げてくる一夏を見ると、自然と口が閉じて言葉を続けなかった。実験動物として扱われるかもしれないという恐怖、人間としてもう生きられないかもしれないという恐怖と戦いながら必死に努力して来た事などを敢て口に出さなかった。確かにあれは本当に怖かった、今でもその可能性が無いとも言いきれない。自分は目の前の男に人生を大きく狂わせられた―――でも

 

「俺はもう気にしていない、と思う。確かに色んな事があった、あったけどもういい」

「良いって……何でだ?」

「俺は―――色んな物を手に入れたからだ」

 

自分の全ての基礎を教え込んでくれる師匠である真耶、理論を指導しつつ傍に居てくれると言ってくれたセシリア、自分と一緒に歩いて支えると笑った乱、ISに対する心構えを示してくれた千冬、技術の応用と自分も知らない自分に合わせてくれたヨランド、一緒に歩いて一緒に前に進む相棒であるカチドキ、そんなカチドキの母親でありお茶目な束。狂った人生の中で色んな人達と出会い、その人達から色んな物を貰ったり見せて貰った。今までの人生ならありえないと思っていた物だ。特にあんな素敵な恋人達に出会えるなんて、絶対に有り得なかっただろう。

 

「だから、お前にキレたりしねぇよ」

「カミツレ……じゃあこれからは友達って事で良いよな!!」

「…まあいいか、好きにしろよ」

「おっしゃああぁぁぁっ!!!」

 

目の前ではしゃいでいる男のせいで人生が狂ったのに、そんな男と友達になる。なんとも酔狂な事だと笑われるかもしれないが、これもこれで悪くは無いかもしれない。彼だって自分と同じく大変な人生を歩んでいくのだからそれで勘弁してやる事にしよう、何時までも受け入れないのもみっともない事だ。

 

「それとさ、俺達ライバルだよな!!」

「えっいやないだろ」

「そこ真顔とそんな声で言うなよ!!なんか悲しくなってくるわ!」

「なんだ何やら騒がしいが……カミツレ来ていたのか?」

「あれカミツレ君?」

 

帰宅した千冬と真耶、どうやら途中で会ったらしくどうせだからと連れてきたらしい。そんな二人も混ざってその日は楽しい食事会が開かれたのであった。カミツレはその時、初めて家族と過ごす時の笑顔を浮かべて気持ち良さそうに笑っていた。

 

「ムッ……一夏、お前腕落ちたか…?」

「ええっ嘘だろ!?」

「きっとカミツレ君の料理が美味しいからですよ、先輩良く作って貰ってるじゃないですか」

「成程な、それなら納得だ」

「カ、カミツレ。いやカミツレ様!!頼む俺に料理を教えてくれ!!」

「面倒だから嫌だ」

「友達だろ!!?」

「面倒」

「カミツレェェェェエエ!!!!」

「うるせえぇぇぇ!!!!」




千冬さんが腕が落ちた、と言っていますが一夏の腕は落ちてません。
純粋に素材が違うからです、最近千冬さんずっとカミツレの料理食べてましたから。


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79話

この日、カミツレは久しぶりにIS学園の制服に袖を通した。夏季休暇中は基本的にラフな私服で居る事が多く洗濯をしてハンガーに掛けっぱなしだった制服は何処か新鮮味がある。空調が利いているので暑いとは感じないがこの時期に長袖を着る、なんとも言えない息苦しさがある。鏡を見ながら確りと決めているのを確認したカミツレは「蒼銀」の待機状態であるバングルを装着する。

 

「うしっ行くか」

 

今日、彼が夏休みなのに制服を着たのは今日が登校日という事だからではない。先日訓練が終わった後に真耶からある事を言われたのでそのために着ているのである。

 

『雑誌の取材って…俺にですか?』

『はい。それでこの日に記者の方がいらっしゃいますから制服で応接室まで来て欲しいんです』

『取材か……俺もそんなのを受ける立場なんだったな…』

 

カミツレに対しての雑誌取材の申し出があったからであった、今までこんな事がなかったので実感が沸きにくいが彼は全世界が注目する存在なのでこのような取材はあって当たり前な所がある。しかしそこはIS学園、治外法権地域とその特異性の関係か取材陣が入り込めなくなっているのでカミツレは今日までそんな事を受けずに生活を送って来ていた。今日の取材も何ヶ月も前から申し出があったらしいが、許可を出すまでに幾つもの調査や査察がその取材会社に行われたという話である。

 

「あっ来た来た。カミツレ君こっちですよ~」

「今行きますよ」

 

応接室前まで来るとそこには真耶が待っていた、真耶も取材には同席する事になっている。万が一という事態に備えての護衛と取材に来る人物に対しての監視という名目で、応接室に居る事になっている。それに彼女はカミツレの師でもある、そういった意味でも共にいるのに問題はない。

 

「それじゃあ行きますよ」

 

真耶が扉を開けて中へと入る、そこのソファには一人の女性が座っていた。カミツレを見ると同時に彼女の目が光ったような感じがするのを感じた。

 

「どうも! 私は雑誌「インフィニット・ストライプス」の副編集長をやっている黛 渚子。今日は取材を受けてくれてどうもありがとう~!!」

「いえまあ…どうも。杉山 カミツレです」

 

差し出してくる握手に応じつつ真耶と共にソファに座る、雑誌の取材という物はよく分からないカミツレは最初に写真撮影をするのではと思っていたがどうやらインタビューが先らしい。渚子はペン型のレコーダーを起動させながらこちらに向けてくる、少々緊張しながらも僅かに「蒼銀」が震動した。カチドキが取材内容の改ざんや捏造を行った際に抗議が出来るように、録音に入った合図。呼吸を整えながらインタビューに応じる事にする。

 

「それでは杉山 カミツレ君、インタビューを開始しますね。宜しくね」

「よろしくお願いします」

「Q.それでは早速質問から入らせてもらうね、ズバリ女子校に入学した感想は?」

「……いきなり、随分切り込んだ質問ですね」

 

取材というのはこういう物なのかと思うが、そこら辺は各社によって違うのだろうかと落ち着く。

 

「この質問は事前に読者さんからアンケートを取ってみたら多かったのよ、是非ともお願い出来るかしら。簡単な感じでもいいから」

「正直、もう慣れてしまいました。何とも感じませんでしたよ。入学当初はまあ、色々と必死だったので感想を述べられるほど周りを受け入れられていませんでした」

「あ~……やっぱり色々と大変だった系?」

「ええまあ。一体何時どんなハプニングに巻き込まれるのかと、内心では冷や冷やでしたが」

「ふむふむ、では次の質問行ってみようか」

 

Q.もう一人の男子、織斑 一夏との関係はどんな物だった?

 

「最初はまあ…印象は良くなかったですよ。俺はあいつのせいで此処に押し込まれたような物ですからね、入学当初は兎に角あいつを避けてましたよ」

「結構意外なコメントね…唯一の男子仲間だから仲良くしてる物とばかり思ってた」

「同じ男子だからって仲良くするとは限りませんよ。俺とあいつは全く別の人間なんですから、人によっては同性よりも異性の方が接しやすい人だっていますからね。まあ最近漸く…友達と言える関係に……なったのかな……?」

「いやそこで私に聞かれてもなぁ……(汗)」

 

Q.男性IS操縦者には一夫多妻制度が施行されるという話ですが、どんな印象を持っていますか?

 

「別に何も」

「えっないの?ハーレムとか可能なんだよ?」

「如何でもいいですよ。別に俺が何処の誰と付き合って結婚するかなんて俺の自由ですよ、それが多いとか少ないとか関係無しに俺は俺が好きになった人と一緒になるだけです」

「……不覚にも、男らしくてキュンと来たわね」

「ノーサンキュー」

「何も言ってないのに振られた!?というか何故分かった!?」

「禁則事項です」

 

Q.噂ではイギリスの代表候補生になるという話がありますが、日本はありえないのでしょうか?

 

「俺は日本は生まれた国であるという以上の認識を持ててないですね。逆に聞きますけどじゃあどんな感情を日本に持ってます?愛国心を持てと言われても何をもって愛国心というのか分かりません」

「まあ確かに…人の感じ方なんて千差万別だものねぇ……。特にグローバル化が進んでいる最近なら特に愛国心って感じ辛い感情なのかもしれないしね」

「俺は俺を正当に評価して、歩み寄ってくれた国に所属する。イギリスは入学して直ぐに話を持ってきてくれました、俺はそんなイギリスに感謝してます。だからという訳じゃありませんけど、信頼を寄せられるという意味ではかなり大きいですね」

「成程成程…確かにそれは納得が行くわね」

 

Q.噂の確認ばかりになっているようで申し訳ないのですが、一説には既に恋人がいるという事ですがどうなのでしょうか?

 

「流石にプライバシーに関わりますのでお答え出来ません」

「ありゃ…それじゃあ女性の好みは良いかな?」

「うーん……思慮深く、俺の傍に居てくれて、優しくて、支え合える人かな」

「おお、中々いいコメント……!」

 

Q.最後になりますが、ISについてどのような考えを持っていますか?

 

「ISについて、ですか……。俺は入学するまでISについて深く触れようとして来なかったので何とも言えませんが、最初はISで空を飛べたらきっと気持ち良いんだろうなと思ってました」

「ほうほう、それで今は?」

「今はそうですね…俺の専用機に関して言えば相棒、それ以外のISは相棒の親族って感じですかね」

「面白いコメントをいただけました!本日は態々取材協力有難うございます、雑誌は9月の中旬に発売します。一応前もって此方から完成品はお送りさせていただきます」

「有難うございました」

 

以上、インフィニット・ストライプス10月号「IS男性操縦者特集、杉山 カミツレ氏に聞く」より一部抜粋。

 

この時カミツレは知らないが、発売されたので少し興味を持って売り場へと出向いてみた。すると、10月号は何処も完売が相次ぎ転売屋まで出現している事が判明した。興味本位でオークションサイトを見てみると10月号一冊が最低価格5000円で取引されているのを見て、思わず呆然としてしまったのは余談であり未来の話である。




因みに10月号にはカミツレの取った写真を使ったポスターも付属してます。全5種類。
それで余計に売れてます。一部の方々もそれで買い占めてます。


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80話

「チェエエエエエストォォオオ!!!」

「セイヤァァァァッッ!!!」

 

低い重低音と激しい金属音と火花が空中にて花を咲かせながら周囲に爆音を響かせる、その中心点に立っているのはカミツレと乱であった。夏真っ盛りな季節も遂に終わりを迎えて始まってしまった新学期、残暑が猛威を振るう中で行われている授業で激突をしていた。初の授業となった実践訓練は1組と2組の合同となっている、その中から二名を選出してのある種の代表戦の亜種が行われている。そんな激突は以前真耶とカミツレ、鈴とセシリアのタッグ模擬戦と違い、候補生達ではなく全生徒を釘付けにするような物が繰り広げれていた。

 

「ぐっ……まだまだぁっ!!!」

「やぁぁぁぁっっ!!!」

 

激しい剣戟を繰り返しながらも一手一手相手の動きを予測しながら行われる高度な心理戦を含んだ戦い、それも生徒達を魅了している理由の一つではある。がそれ以上にひきつけているのはカミツレの「蒼銀」が理由でもあった。「黒鋼」はカスタムが施されているとはいえほぼ「打鉄」といっても過言ではない物だった。しかし「蒼銀」は名前こそ、以前の物を受け継いではいるが「黒鋼」と異なり完全なオリジナル。それを操るカミツレの姿は最早一人前の操縦者に映っていた。

 

カミツレの二人目の恋人こと乱の専用機は鈴の「甲龍」と同系の兄弟機とも言える「甲龍・紫煙(シェンロン・スィーエ)」で、「甲龍」と比べると軽装備でありそれが燃費と機動性、運動性を上昇させている。巨大な青竜刀に鞭のように撓る三本の銃火器、これは打撃武器としても使用が可能になっている。龍の頭部のような特徴的な巨大な武装を持っている。

 

「今だっ!!」

 

そんな機体を操る彼女の鋭い一撃によってバランスを崩した「蒼銀」に好機を見出した乱、切り札とも言える武装をきった。龍の口が大きく開くと内部から巨大なレーザーが発射されカミツレへと迫っていく。が、カミツレは手にしていた「ブレード(スパークルエッジ)」から小太刀を分離させそれを勢いよくレーザーへと蹴り飛ばす。するとレーザーへとぶつかった小太刀はそのままレーザーを切り裂いて乱へと直撃した。

 

「げっマジ!?」

 

「スパークルエッジ」は対レーザーコーティングが施されており、レーザーに対して強くなっている。それを利用し、強く蹴りだす事でレーザーを斬りさくという事が可能になっている。本来は太刀で切り払うという目的で使われるので、カミツレの使い方が正しいという訳ではない。が有効に使われたのは事実である。

 

「さてと、行くぜっ!!」

 

動揺している乱へと向けて「瞬間加速」を発動したカミツレは一気に距離を詰めていく。それに対応する為に射撃で牽制を行い距離を保とうとするが、瞬間的にカミツレの姿が消えてしまう。一瞬、ハイパーセンサーも捉えきれずにロストしてしまい乱は混乱するが遅れて捕捉情報が表示された―――真上だ。

 

「―――っ!!?チェストォォォォ!!」

 

それに何とか対応しようと乱は出力を限界まで引き上げながら、瞬時に身を翻して真上へと向き直しながら青竜刀を振るった。それによって本来対応出来ない筈のカミツレの攻撃に対応してみせた乱だったが、ほんの僅かに反応が遅れてしまった影響でカミツレの一撃が炸裂すると同時に試合終了を告げるアラームが鳴り響いた。

 

―――カミツレの勝利であった。

 

「んにゃぁぁぁ…悔しいぃぃぃっ……あとちょっとだったのにぃぃっっ……!!」

「まあまあ。俺が言うのもなんだけど本当に危なかったよ、まさかあそこで反転されるなんて思わなかったからさ」

 

カミツレの勝利で終わった実践訓練、それの後片付けもそんな一同は食堂で食事を取っていた。各々がそれぞれ好きな物を頼んで食べている中で乱は悔しそうな声を漏らしながら、麻婆豆腐を突いていた。そんな隣の従妹に溜息を漏らした鈴は少し意地悪な顔を浮かべた。

 

「情けないわね、それでもアタシの「超速零速(テクニック)」に対抗してあれを作った乱なの?」

「うっ~……」

「でもあれってなんだったんだ?すっげぇ速度で反転して、カミツレを迎え撃とうとしてたよな」

「うん。まるで「瞬間加速」を反転に使ったみたいな凄いスピードだったよね」

「あれだけ速く反転されると、私のティアーズの死角取りも意味が薄くなってしまいますわね」

「あれは乱がアタシの「超速零速」に対抗して作った技「爆発反転(イグニッション・ターン)」よ。言うなればシャルの言ったみたいに反転の瞬間加速版みたいなもんよ」

 

項垂れている乱が生み出した技術は鈴の物に対抗しての物、互いをライバル視して自分の実力を高め合っている鈴と乱。そんな乱が操縦技術に凄まじいスロットルワークによって発動する「超速零速」に対抗する為に開発した技術「爆発反転」である。乱の飛び抜けた操縦技術と警戒心、そしてその高い運動性と出力を組み合わせて発揮される反転技術。これを使用すると通常では考えられないレベルの速度での反転が可能になる。

 

鈴の「超速零速」はスピードを瞬間的に0からMAXにするという物、これを利用して相手の死角に回り込んで攻撃するのが十八番でもあり必殺級の戦術。それに対応する為に乱が編み出したのがこの技術である。本来であればカミツレにも当然対応出来る筈だったのだが…彼はあの場で「個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)」を発動した。成功率が低いあの技を使えるとは思えずに対応し切れなかったのである。アンチスピードテクニックというべき物を使ったのにスピードに負けてしまったという事実が、乱にはショックだったようである。

 

「まあ多分次はあっさり対応されるだろうからな、だから俺はまだまだって事だよ乱ちゃん」

「むぅぅ……ならそういうことにしとく、でも次は負けないからね!!」

「ああっ分かってるよ」

 

そう言いながら笑顔を浮かべる乱に笑い掛けるカミツレ、それを見つめる一夏は少し首を傾げつつ隣にいる箒に声を掛ける。

 

「なぁカミツレってちゃん付けで呼んでたっけ……?さん付けじゃなかったっけ」

「年下だから変えた、とかじゃないか?」

「うーんでもなんかそれだけじゃないような……なんか親密になっているような気が…言うのであれば恋人に近い何かを……気のせいか?」

 

それを聞いた箒は思わず持っていた箸を、ラウラはフォークを、セシリアはナイフを、鈴と乱はレンゲを落とし、カミツレはコップを持ったまま硬直してしまった。

 

「えっな、何……?皆こっちを見て……?」

「一夏お前病気か!!?お前がそんな事を理解出来る訳がない病気だな病気で間違い無いな!!」

「いや失礼だな箒!!?」

「ラ、ラウラ保健室の番号って何番だっけ!?」

「いや救急車だ!!に、日本の救急車は何番だ!?110!?119か!?いやそれとも177か!!?」

「うぉい、誰が緊急患者だ仏独コンビィ!!ラウラなんか間違ってるぞ色々と!?」

「一夏、あんた遂に頭が可笑しくなって……」

「お姉ちゃん……これが、世界の破滅なのね……」

「そこまで言うか!?」

「千冬さん大変です!!あの織斑が、織斑が、乙女心を理解しています!!?至急応援を!!」

「真耶さんお急ぎを!!あの織斑さんが、織斑さんがぁ!!!」

「流石に酷くありませんかぁあ!!!?」



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81話

乱「アタシのテクニック初お披露目だったのに……全部持って行かれた……」
カ「乱ちゃん……これも全部、織斑が悪いんだ」


二学期も始まり通常の授業も行われ何時も通りになり始めているIS学園の日常、一夏と友人となったカミツレは一学期とは違った感触を味わいながら二学期を張り切って過ごしていた。自分に齎された専用機「蒼銀」が良い刺激となって更に努力に身が入るようになっている、その努力は軍人のラウラが見ても感嘆する物で本当にドイツにスカウト出来なかった事を悔しそうに嘆いていた。対する一夏は千冬の元で変わらず努力を続けているが、最近ではその成果が出始めているのか千冬に基本習得の判を押され、現在は応用の習得に努めている。

 

「俺の目標はカミツレにライバルって言わせる事だからな!この位じゃ満足しないぞ!!」

「ならもっと努力しろ、あいつはお前の数倍の努力をし続けているんだ。追い着く所か置いて行かれるぞ」

「分かってるよ!やるぞぉぉ!!!」

 

友人になった事は一夏にとってもいい影響を与えており一層の努力に務めている。それは千冬も認めざるを得ない物になり始めており千冬にとって、教師としても姉としても嬉しい変化であった。自分から『零落白夜』を生かすにはフェイントを織り交ぜた攻撃が有効ではないかと提案してきたりと一学期から大きく成長している姿に思わず千冬はホロリと涙を流していた。

 

そんなある日、SHRと一時限目を使用してでの全校集会が行われた。新学期になった事で行われる業務連絡や間もなくとなっている学園祭についての事であった。全校生徒が一堂に会しているだけあって非常に姦しい、進行役が言葉を続けているのに声が聞こえ続けている。そんな中、生徒会長から説明となると一気に静かになって行く。

 

「やあ皆、おはよう」

 

段上で挨拶した人物を見た時、カミツレの表情は零下にまで冷え込んだ。そこに立っているのは自分の部屋に侵入して来た上に痴女的な姿を見せ付けてきた国家代表というのも疑わしく、妹とは外見は似ているが内面は全然似ていない更識 楯無の姿だった。そんな友人の変化に隣に座っていた一夏は思わず驚いてしまった。

 

「お、おいカミツレ大丈夫か?気分悪いなら保健室付き合うぞ」

「……気にするな。あの女が気に食わないだけだ」

「あの女って……生徒会長の事か?何かされたのか?」

「……俺にとって最悪な事をな」

 

詳細を省いて自分に齎した印象を率直に伝えると一夏は此方を見つめてくる楯無に良い印象を抱かなかった。友人の言葉を信じない訳ではない、しかしカミツレは理由もなく他人を嫌うような事はしない。そう確信出来る、取り敢えずウィンクを飛ばしてくる楯無には気を付けたほうが良いと心に決めた。

 

「という訳だから、今回は学園始まって以来の男子がいる学園祭になる。だけどそれに浮かれてハシャギ過ぎたりしない事。それじゃあ学園祭についての業務連絡はこれで終わりにするけれど…先生方からお話があるみたいなので其方にバトンタッチさせてもらうわ」

「うむ……皆おはよう」

 

楯無に代わった壇上に立った千冬、彼女が声を出した途端に全員がし~んと静まり返った。それに一夏は苦笑し、カミツレはだろうなと思って笑みを浮かべる。

 

「二学期が始まった事で皆も気を引き締めつつ学業に勤しむ事を期待する。学園祭も控えているが皆、羽目を外しすぎて怪我がないようにして貰いたい。そして此処で新しい先生を紹介したいと思う」

 

千冬がそう言うと壇上へと一人の女性が上がって行く、カジュアルなスーツを着こなし長い髪を靡かせながら上がったその女性に、カミツレは見覚えがあった上にその時の事を思い出させた。ワザとなのかそれともお洒落なのか、掛けていたサングラスを外しながらマイクに向き直ったのはナターシャ・ファイルスであった。

 

「どうも初めまして皆さん、今ご紹介に預かりましたナターシャ・ファイルスです。今日からこの学園で先生をする事になりました。実技担当として1年生を教える事になってます、不慣れな所もあるかと思いますが私なりに努力して行きますので宜しくお願いします」

 

丁寧に挨拶をしながら頭を下げるナターシャに対して生徒達から拍手が送られる。カミツレも笑顔を浮かべながら拍手を送る、あの時の話通りだ。この学園に出向してきたという事はあのコアは救われたという事でもあるのだから。空を飛ぶ事を喜びとする優しい束の子供が、軍用という呪縛を解かれて競技用として生まれ変わった事を示している。

 

「―――っ!―――♪」

 

生徒の中にカミツレがいる事に気付いたナターシャは、そちらへと柔らかな笑みを浮かべて手を振りながら壇上から降りた。彼女もこの学園に来る事を心待ちにしていたのだ、此処に来れて悲願を達成できたのも彼のお陰。それに感謝しながら此処で教鞭を取る事に思いを馳せているナターシャの肩を千冬が叩いた。

 

「お前はまず、慣れて貰うために1年1組で副担任補佐をして貰うぞ。真耶から色々と教わりながらサポートしてやってくれ」

「ええ分かったわ」

「それと、良く来たな。歓迎するぞ」

「フフッ有難うね」

 

「という訳で改めてナターシャ・ファイルスよ、今日からこの1組の副担任補佐をする事になったわ。基本的に実技だけど時々通常科目も担当させてもらうからよろしくね♪」

 

SHR後の教室で茶目っ気たっぷりにウィンクするナターシャにクラスから歓迎の声が溢れる。新しい一員となった彼女を皆が歓迎している。千冬とも真耶とも違った大人が加わった1組は色んな意味でバラエティ豊かになっていく。

 

「千冬、このクラスはとても楽しそうね。来て早々だけど良かったと思うわ」

「それは結構な事だ。しかし此処では織斑先生だぞ、ファイルス先生」

「あらそれはごめんなさいね、織斑先生♪」



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82話

ナターシャが1組の副担任補佐となった同日、各教室にて放課後の特別HRが執り行われていた。学園祭でのクラスごとの出し物を決める為に盛り上がりを見せていた。そんなクラスから上がってくる提案を纏める立場にある一夏は不慣れなリーダー役を頑張って務めながら皆を纏めていた。千冬からの指示で書記としてカミツレが付いているが、それでも十分なリーダー役を務めている。が今彼の頭を非常に悩ませている物があった。

 

「男子二人のホストクラブ」「織斑&杉山とツイスター」「織斑 一夏 杉山 カミツレとポッキーゲーム」「男子二人と王様ゲーム」と以下etc……。これに一夏は凄まじい頭痛を覚えてしまった、彼女らは自分達を如何活用するかという事しか考えていないのかと。

 

「カミツレ、取り敢えず全部却下で削除」

「削除完了っと」

 

黒板に書かれたそれら全てを消したカミツレにクラス中から悲鳴のような声が上がった、一部からはまあそうだよねぇとこれを予見している声も混ざっていた。予見していたなら少しは止めてくれても良かったのではないだろうか。 

 

「何でよ!!独断反対~!!」

「私達は嬉しいのに!!」

「理由を述べよ~!!」

 

と非難轟々である。寧ろこちら側が文句を言いたいのになぜこんな事になっているのだろうか……一夏は溜息を付きながらカミツレに目配せする。頭痛するから理由はそっちから言ってくれという事である、状況から一夏の言いたい事は大体察せたカミツレは溜息を落としながら理由を言う。

 

「まず第一に学園祭はクラス全体が行う催し、それなのに俺達だけに働かせて女子は高みの見物をするという事」

「それは違うよ!!裏方をしっかりやるよ!!」

「仮にさっきの案を採用して一体1時間に何人を回せると思うんだ、それなのに二人以外の女子全員が裏方に回る必要があるとは思えない」

「ぐっ……地味に正論……」

「第二に採用した場合、俺達への負担がでかすぎる。俺達は何時休憩して、何時学園祭を満喫したらいいのか具体的な案の提示を願う」

 

冷静且つ無慈悲なほどに正確に差し向けられてくるカミツレの言葉に女子達は次々と反論の言葉を失っていく。カミツレとしてもこんな物やりたくはないので、全力で正論をぶつけて行くので容赦がまるでない。

 

「第三、俺達が全く持って楽しくないし利がない。女子のみが得をする、それがIS学園の学園祭と認識するが宜しいか」

「「「宜しく無いです……」」」

「ならもっと真面目に考える事、これでいいか織斑」

「おう。俺の言いたい事全部確り言って貰えたから文句無し!」

 

という訳で新しい案の出し直しと空気を新しくする一夏に女子たちは、今度こそと新しい案を出していく。実はこの二人の組み合わせはバランスがとれているのかもしれない。カミツレが厳しい面、即ち鞭を担当する事で相手を叱咤。一夏は優しい面である飴、空気をリセットしつつ周囲に優しく語り掛けていく。それを考えると二人の組み合わせは悪くはないのかもしれない。

 

「んじゃ……一番賛成案が多かったのはラウラ提案のご奉仕喫茶なんだけど…これでいいと思う人は改めて挙手を願います」

「「「は~い!!」」」

 

そして結果として1組の出し物となったのはラウラ発案のご奉仕喫茶となった。クラスメンバーがそれぞれ衣装を纏って客相手に商売する、所謂メイド喫茶の亜種的な出し物になる事に決定した。尚、当然というべきか一夏とカミツレも執事として接客する事が求められているが…一夏とカミツレは女子達にも等しく負担が行くなら文句はないらしくあっさりと受け入れた。

 

「それでご奉仕喫茶ねぇ……まさかあのラウラがそんな発案をするとはな…」

 

職員室の千冬へとそれを提出しに行く一夏と一応書記として付き添うカミツレは、HR中の話を千冬にすると千冬は意外そうな表情を浮かべながら何処か頭が痛そうに眉間に皺を寄せた。ラウラから出るとは思えないような発案だ―――だが副官から出たと考えると十分にありえるから嫌なのだ。

 

「クラリッサの大馬鹿者が……!!ラウラに何を吹きこんだっ…!!!」

「織斑先生落ち着いて落ち着いて…。またストレスが胃に来ますよ……?」

「またカミツレの世話になる事になっちゃうぜ?」

「安心しろ。杉山の料理は未だに食べ続けている」

「それは教師として如何なんだよ……」

 

そんな事を言われても、しょうがないレベルなのでカミツレは何も言わなくなっている。不定期だが束だって食事を食べに来るのだから、もう何とも思っていない。それに千冬には恩もあるので料理を作る程度なんでもない。

 

「あっやべもうこんな時間かっ!?すいません、俺アリーナで真耶先生と訓練する約束あるのでこれで失礼します!」

「おう確り励めよ」

 

深く頭を下げてから職員室から出ていくカミツレを見送った千冬と一夏、真耶もカミツレと訓練する日があると張り切って仕事を終わらせてからいく。表情だけで訓練の有無が分かるほどに分かり易い。

 

「織斑先生、そう言えば少し聞きたかったんだけど良いですか?その、弟として……」

「何だ改まって」

「その、俺の訓練とかするのって大変じゃない…?学年主任で仕事とかあるのに……それだったら俺、別の人にコーチを頼もうかなって……」

 

それを聞いた千冬は弟が自分を気遣っている事を理解したが、生意気な事を言うなと軽く頬を抓る。

 

「いててててっ!!?」

「生意気な口を利くな、お前を教える程度負担にならんわ。少しでもすまないと思うならさっさと強くなるか、偶には私の身体をマッサージする位しろ」

「千冬姉……」

「それにな一夏、私はお前の力になるのは吝かではないと思っている。家族なのだ、遠慮などするな。支えあってこその家族だ」

 

胸へと押し当てられた拳に姉の気持ちと力強さの両方を感じる一夏、同時に仄かに心が暖かくなるような感覚を覚える。やっぱり姉の偉大さには勝てないという認識と姉の優しさを実感した時の物、矢張り心地よい物だ。

 

「ああそれじゃあこれからも頼るから宜しくな、千冬姉」

「精々私を食い物にしてでかくなってみせろ一夏。それと織斑先生だ」

「ああっ!!ああそれと後一つ、相談みたいな事あるんだけど」

「何だ一体?」

 

弟に頼られて少し気分がいいのか顔を朗らかにした千冬はコーヒーに手を伸ばした、こんな気分がいい時に飲む珈琲はきっと美味なのだろうと思いながら啜った時―――

 

「セシリアと乱ってカミツレの事、好きだったりするのかな?」

「―――ぶぅぅぅぅっっ!!!!??」

 

思いっきり噴出してしまった。霧状に成り果てた珈琲は思いっきり一夏へと噴き掛けられてしまい、一夏はそれを避ける事も出来ずにまともに食らってしまった。白い学園の制服はコーヒーに染まってしまい、一夏はややコーヒーの掛かった顔を上げながら千冬を見つめる。

 

「……酷くありませんか…このリアクションは……?」

「い、いいいいい一夏、おまっおまままっまお前っ……!?」

 

椅子から転げ落ちそうなりながらも動揺を隠しきれない千冬、ガクガクと身体を震わせながら一夏の肩を強く掴みながら激しく狼狽えた様子のまま声を出す。

 

 

「い、いちち、いいいい一夏ぁ!?い、一体如何したと言うんだ!!?お前が他人の恋愛感情に気付くだと!!!??誰かぁ救急車を大至急だぁぁぁぁあ!!!!私の弟を助けてくれぇぇ!!!」

「ええええええええっっっ!!!!素直に相談した結果がこれってなんですかぁぁぁっっ!!!??」

「い、いや学園長にISの緊急展開許可を貰い私が直接病院に運ぶ!!落ち着いて待っているんだ一夏、私がお前を救ってみせるから、お姉ちゃんに任せておけ!!!」

「いや千冬姉が落ち着けよ!!!カミツレ達といい千冬姉といい何でこんなに俺を病気扱いするんだよ!!?」

「お前が乙女心を理解するとか天災に匹敵する事象に決まっているだろうが!!!!!」

「なんでさあああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?????」



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83話

「なぁカミツレ……二人と付き合ってるのか?」

「ごふぉっ!!?だああぁっととととっっ!!?」

『姿勢制御実行、機体バランス強制修正終了。大丈夫ですカミツレ、私がいる限り不意の事故など有りえません』

『ちょっとカミツレ君大丈夫!?』

「な、なんとか……」

 

その日、カミツレと一夏は初めて一緒の訓練を行っていた。一夏の技量の急激な成長に合わせて一度、二人が共にやらせてみるのも悪くはないだろうという千冬の発案による物だった。真耶と千冬は学園祭の運営に関らなければ行けないので見れないが、その代わりにナターシャが代役を引き受けてくれるというので彼女主導の元で訓練が行われていた。がそんな中、一夏がカミツレへと放った一言で彼は大きくバランスを崩して墜落寸前に陥った。咄嗟にカチドキが姿勢制御を行ったので大事には至らなかったが。因みに、ナターシャは既にカチドキが喋る事は知っている。

 

「いきなり何だ変な事聞きやがって!!危うく落ちる所だっただろうが!!!」

『一夏、私がいる限りカミツレの墜落はないとは言え先程の発言は相手の集中力を奪う物です。控えるべきです』

「い、いや悪い…俺も興味本位で聞いただけで……ごめん」

「まあ大事に至らなかったから良かったけど…如何したのよいきなり?」

 

一旦休憩を挟む事にしてピット内に戻った三人はドリンクを飲みながら話をする事にした。内容は勿論先程の一夏の発言についてであった。あの超絶鈍感、朴念神と彼の事を知っている者から呼ばれている一夏があろう事か他人の恋愛に興味を示し聞いてきたのだ。これを驚かずにはいられない。

 

「いや気になってさ…この前食堂で飯食ってる時さ、乱ちゃんって呼んでたから」

「聞く限り、カミツレ君は今までそうじゃなかったのね?」

「今までさん付けで呼んでたんですよカミツレは。それが変わってたから少し気になって」

 

そこから一夏は連想を働かせたらしい。元々カミツレはセシリアと乱と仲がいいが、カミツレはずっと「乱さん」と呼んでいた。急に呼び方を変えるなんて何か切っ掛けがあった筈だ、元々仲が良いのが更に仲が深まったのならば付き合っているのではないか?それに加えてセシリアもずっと一緒に居るんだから、一緒に付き合っているんじゃないか?と連想をしたらしい。それを聞いたナターシャはやや頬を赤らめながら、あらあら♪とカミツレの方を見るが、彼は愕然と言う言葉がよく似合うほどに驚いていた。

 

「……お前、本当に大丈夫か?」

「いやマジで酷いって……千冬姉にも言われたばっかなんだから勘弁してくれ……」

「織斑君、貴方そこまで言われる位に第三者からしたら酷かったって事なんじゃないの?」

「ナ、ナタル先生まで……」

 

思わずナターシャにまで言われてしまい意気消沈する一夏。ナタルというのはナターシャのスタンダードなニックネームらしく、そっちでも構わないと言われたのでそう呼んでいる。

 

「まあ…その、俺はセシリアと乱ちゃんとはまあ……えっと、付き合ってる…」

「へぇやっぱりか、言ってくれれば祝福ぐらいするのにさ。でも、よく二人とも納得したな。浮気とかじゃないんだろ?」

「ああ……寧ろこれは二人から提案された事、だからな……」

「最近の高校生ってスゴいのねぇ……」

 

感心するような声を漏らすナタルだがこの場合は事態が特殊なので、最近の高校生全員がそう言う訳ではない。

 

「そ、それで何でいきなり聞いてくる……?」

「いやさ、恋愛しているカミツレなら相談出来るかと思ってさ」

「私は席を外した方がいいかしら?」

「あっ出来れば聞いて貰っても良いですか?ちょっと、女の人の意見も聞きたいんで」

 

一夏が相談したい事、と言うのは一体何のだろうか……。態々カミツレとナタルに聞いてくるとは……。

 

「そのさ…なんだ……俺、なんか箒が気になってきて、さ……」

「っ!!?」

「まぁ♪」

 

カミツレは思わず目を限界まで見開き、ナタルは青春の甘酸っぱい一幕に関れると嬉しそうに笑う。

 

「今まではそんな事、なかったんだけどさ……前に一人で訓練してる時さ、ちょっと失敗して地面に叩き付けられた時があったんだ。俺は別に怪我しなかったんだけどさ、箒が駆け寄ってきて凄い心配そうに俺を見てきて……」

 

『一夏、一夏!!大丈夫か、身体に異常はないよなっ!!?』

『あ、ああ…大丈夫だ。白式が守ってくれたから大丈夫だ』

『はぁぁっ……良かった、良かったっ……』

 

その時の箒の顔は忘れない、涙を浮かべ心から安堵しているかのような表情をして此方を見つめていた。自分の安全と無事を確認出来たことで漸く彼女の心から不安が取り除かれたかのような様子だった。

 

『箒、そのごめん……』

『もういい……でも気をつけてくれ、もう私を不安にさせないで……』

 

それから一夏の訓練には必ず箒が立ち会うようになり、一夏も彼女に不安を与えないように慎重になりながらも訓練をしてきた。やや心配しすぎな気もするが箒のあんな表情は見たくないという思いが一夏の中に生まれていた、それに従って努力をしていた。その話を聞いてカミツレは箒に関して思い当たる節があった。嘗てのクラス対抗戦で一夏は本当に危険な状態にあった、あの時彼女は自分も助けに行きたい思いでいっぱいだった。無力な自分に出来るのは祈る事だけだった、そして一夏が危険な行動に出た時、押し潰されそうになる程の不安に襲われた。

 

『一夏、今日も大丈夫だな。ほらっドリンクだ』

『ああっ有難う箒。でも毎回付き添って貰ってなんか悪いなぁ……』

『わ、私がそうしたいんだ…お願いだ、そうさせてくれっ』

 

その時からだった、一夏が箒の事が気になったのは。まるで懇願するように両手を組みながら向けてくる弱気な涙目の彼女を見た時に、今まで感じた事がない「ときめき」と「彼女を守りたい」のような物を感じた。感じた事もないような気持ちは日に日に大きくなっていき、箒に会う度に少しずつ大きくなってしまっている。箒と会う度に、彼女が無事であると心無しかホッとしてしまう自分がいる事にも分かった。

 

「それでその…俺の中にあるこのざわめき?みたいな物が全然分からないんだ……。一緒に居る時にはすげぇ安心するしもう、訳が分からなくて……。俺、やっぱり病気なのか?なぁ、教えてくれよカミツレ。俺、なんか可笑しくなっちまったのか!?」

「……」

 

話を聞いてみると確りとした理由と一夏の心境の変化が伝わってくる、箒の想いを受けて変化が始まった一夏の心。千冬から聞いた事があるが、昔は本当に大変な生活を送っていたらしく一夏も自分を助けてくれていたと言っていた。そんな環境に居たからか恋愛に興味が示せず、千冬から貰っていた家族愛という物にしか理解出来なかったのかもしれない。

 

「ちげぇよ。お前は正常だよ、俺だってセシリアと乱ちゃんといると安心するし心が暖かくなる。お前もそうなんじゃないのか?」

「な、何で分かるんだ!?」

「あらあら、織斑君は初恋をした事ないのね。それならしょうがないわね」

「へっ?」

「いいか、よく聞けよ。お前のそれは別に病気とかじゃない、前は酷く言って悪かった」

 

前から見下ろすように言うカミツレに一夏はゴクリと喉を鳴らした。

 

「お前、篠ノ之のことが好きになったんだよ」

「へっ?で、でも俺は箒の事は好きだぞ」

「それは友達として、じゃない?カミツレ君が言っているのは異性として、ライクじゃなくラブとして彼女の事を好きになってるのよ」

「ラ、ラブって……お、俺が箒を……っ!?ええええっっっ!!!!???」



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84話

「即断即決ってレベルじゃねぇだろあの馬鹿」

「織斑君、飛び出して行ったわね…」

 

ピット内でドリンクを飲みながら休憩をしているカミツレとナタルは額に汗を浮かべながら、先程まで其処に居た一夏に溜息を吐いた。相談を受け、彼自身が箒に恋心を抱いている事を自覚させる事に成功したカミツレであった。あの朴念仁が一歩前進したという事は喜ばしい事だが一夏はそれに酷く動揺していた、それでこの気持ちが本当なのか試す為に今から箒とあって少し話してくる!と駆け出して行ってしまった。ある意味健全な男子らしい反応……かもしれないが即断即決過ぎる。

 

「あの超鈍感で一発殴られるのがデフォで、付き合ってくれと言われて買い物だよなと解釈する奴がな……」

「筋金入りね……」

「千冬さんは昔からそうだって言ってたから聞いたら気絶するんじゃねえか……?」

 

尚、既に大騒ぎして学園長にISの緊急展開許可を取り付けに行こうとしたレベルでうろたえていた事を彼は知らない。そんな時、ピットの扉が再び開いた。遂に問題児が帰ってきたのかとカミツレは視線を上げる。

 

「よぉ唐変木、帰って来たか」

「失礼しま~す、あの此方に織斑君がいると聞いて……あっ」

「……」

 

普通に一夏だと思って顔を向けたカミツレだったが、其処に居たのは彼ではなくあの不法侵入者であった楯無であった。思わず硬直してしまった双方、楯無は思わず愛想よく浮かべていた表情が凍り付いた。ヒクヒクと痙攣するかのように動く口角に一筋の気まずさを感じる。そしてその表情は更に痙攣を加速させているのは向けられているカミツレの表情が、徐々に冷徹な無表情へと変わっていく様であった。自らが壊した物がそうさせていると自覚させていく。

 

「あらっ確か生徒会長の……」

「え、ええ。生徒会長の更識 楯無と申します」

「ああっ見覚えがあると思ったら貴方ロシアの国家代表さんじゃない」

「はっはい務めさせてもらってます…」

 

凄まじい気まずさの中で動かなくなっていく口を必死に動かして意志を伝える、遂に顔を背けたカミツレに薄れる気まずさと共に沸き上がってくる罪悪感が胸を貫いていく。

 

「え、えっと織斑君が居ると聞いたんですけど……」

「あいつならどっか行ったぞ」

「青春よねぇ♪」

「えっ?えっ?」

「痴女には分からなくていい事だ」

 

理解できないのか疑問を浮かべて楯無だが、そんな一言が再び胸を貫いた。あの日からずっとカミツレの中で楯無の評価は最底辺を付き抜けてマイナスへとなっている。しかしそんな時、楯無は自分から誠意を示した。

 

「杉山君、本当に有難うございましたっ……!!」

「えっ更識さん、貴方何をっ……?」

「……何の真似ですかね、生徒会長」

 

楯無はカミツレに対して土下座をしたのであった。此処にはナタルもいる、そんな中で額を床に擦りつけるほどに深くまで頭を下げていた。此処では生徒会長という立場だろうが、公儀的に見れば彼女はロシアの国家代表であり大きな知名度を博している実力者。そんな彼女が一人の男に対して頭を下げているという事実はナタルを大きく驚かせていた。

 

「私の妹に、簪ちゃんに手を貸してくれて、有難うございました……!!」

「……」

「私も、簪ちゃんの専用機の事は何とかしてあげたかった…日本政府に仕える者が聞いて呆れるわよね……でも何度打診しても、無視されるばかりだったの……」

 

楯無も簪の専用機開発が中止になった事は許せる事ではなかった、だがしかし政府に仕える者として意見を打診しても受け入れられる事はなかった。政府は今、一夏から得られているデータの分析と解析、それらを応用して他の男性でもISを使えるように出来ないかと言う研究に没頭してしまっている。政府としては意味と価値が大きいものに肩入れするのは当然だとは思うが、それでもケアも無しというのは酷すぎると何度訴えても返って来る答えは「前向きに検討する」の一点張りだった。

 

「でもロシアの代表としては動けない…ロシアの代表が日本国内の事に口を出して下手を打てば、外交問題になりかねない……だから、私は私は……」

「下手に動けなかったのね……。確かに政府に仕える責務があるから、下手に力を使えないのね」

「でもそれはただの言い訳でしかない、本当に、簪ちゃんの事を何とかしたかったなら本気でぶつかって行けば良かったのに……私は、政府の力に屈したの…」

「どういう事だ」

「…貴方からすればもう責任逃れの言い訳にしか聞こえないかもしれない、そう取ってもいいから聞いてください」

 

一度、ロシアの国家代表として直接交渉を本気で検討しそれを実行しようとした時政府から命令が来た。それがカミツレを日本に繋ぎ止めろという物であった。しかし、当時楯無の元にはカミツレがイギリスからの専用機の開発を受諾し依頼したという情報を得ていた。既に日本ではなくイギリスと言う国の一員になる準備が行われていた。現段階で行動に出れば外交的な負い目を作る可能性が高いと反論し、命令を拒否しようとしたがそれでも構わないと政府の一部勢力は焦っていた。それは政府がカミツレがフランスの国家代表(ヨランド・ルブラン)とシャルロットと親密な関係にもあるという事を掴んでいた、それを利用すればフランスともいい交渉材料になると判断したからだった。

 

『しかし…余りにも危険すぎます!!』

『君はただ上の命令に従えばいいんだよ』

『ですがっ…!!!』

『君は立場を理解していないようだね、いいかね更識君。君は確かにロシアの国家代表だろうが実際は日本政府の従僕だ、君がやらないというのであれば…君の妹に命令をするだけだ』

『っ!!?簪ちゃんにっ……ふざけないで、あの子から専用機を奪っておいて政府は何を強いろうとしているの!?それだけはさせない!!』

『なら君がやれば良いだけだ、彼とて男だ。身体を使って落とせ、出来なければ……』

『くっ……!!』

 

従うしか、なかった。妹を守る為に。自分が家の責務を継いだのも妹にはしっかりとした安全な生活を送って欲しかったからだった。そんな妹に政府からの命令を実行させる訳には行かない…そしてあの日、カミツレの部屋に入り、盗聴器などを仕掛けて部屋で待っていた。妹を守る為に……。

 

「結果は貴方も知っている通りよ…あの時は本当にごめんなさい、それしか言えないわ……。でもあの時、千冬さんから貴方が篠ノ之博士と繋がっている可能性を指摘されて政府は深入りをやめた。結果として、貴方が簪ちゃんを救ってくれているの……」

「……」

 

複雑な事情、政府に仕える家であるが故の苦悩と姉の妹を守りたいという気持ちがあった。楯無にとって簪はかけがえのない大切な妹、嫌われていたとしても自分は妹を守り続ける。あの子が幸せを掴むまで、幾ら怨まれようと構わない。自分を怨んで幸せを掴めるのであれば十分すぎるのだから、カミツレと出会い彼の伝で専用機が再開発される所まで行った事を知った時、心から嬉しかった……。あの子に笑顔が戻ったのだから。

 

「許してもらえなくても構わない、でもこれだけは知っていて欲しいの。貴方は私のかけがえのない恩人って事を」

「……今の話を聞いても、俺にとっては不法侵入者の痴女だって事は変わらない」

「ええそれでいいの」

「……妹思いのな」

 

カミツレはそう言い残してピットから出て行った。ナタルは素直じゃないわねと笑ってそれを見送った、まだまだ付き合いは短いがカミツレの本質は分かっているつもりでいる。誰かが困っている所を捨てきれないお人よしの優しい人、きっと楯無の話は事実だろうとナタルは直感している。彼女の言葉に嘘がきっとない、政府上層部の一部が焦って先走った結果。それもカミツレは理解している筈、しかし今までの自分の行動などもあって素直になりきれないだけなのかもしれない。

 

それとも、彼の心は彼女を拒絶し続けているのだろうか。命令とはいえ、それで心が傷付いたのは間違いなかったのだからそれで許せなくなっているのだろうか。ピットからどんどん離れていく彼、そんな彼の心中は誰にも分からない。深い雲に覆われた曇天がそれを表すかのように広がっている。



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85話

『ええっ学園祭当日はわたくしも参りますわ、ツェレに会うチャンスですもの』

「そう言ってもらえるのは光栄なんですが…代表としての仕事とか大丈夫なんですか?」

『無問題ですわ。それに国家代表と言っても常に仕事がある訳ではありませんから大丈夫です』

「まあ…ヨランドさんがそれで良いなら良いですけど…」

 

カミツレは一人で静かに過ごしていたが喧しく鳴り響く着メロ。放送を見てから一目惚れした『HYPER MUTEKI』の変身待機音が部屋中に響いたので携帯を手に取ってみると相手はヨランドであった。学園祭の当日には絶対に顔を出すから宜しくして欲しい、という物であった。会えるのは嬉しいが、美人が自分に会いに来てくれると言われると如何しても照れてしまう。

 

「来てくれたら俺は嬉しいですよ。ヨランドさんは俺にとっては尊敬する人ですから。それと出来る事なら俺の操縦をまた見て欲しいですね」

『ツェレェ……!!わたくしも是非とも見たいですわ、成長し続ける貴方の力をっ!!こうなったら学園に数日、いえ最低でも1週間は滞在しますわ!!』

「えっ本気ですか!?」

『本気も本気!!本気と書いてマジと読むレベルでマジですわ!!』

 

顔こそ見えないが間違いなくヨランドの目は輝いている事だろう。彼女にとって自分は唯一無二の弟子というポジションで心から接する事が出来る男という事なのだろう。しかし本当に弟子とだけ思ってくれているのだろうか最近凄い不安になっている。セシリアや乱という恋人に加えて、束に夫になって貰うとさえ言われてしまっている身としてはヨランドの言動や行動に不安しか覚えない。

 

『フッフッフ……そうと決まれば早速政府を抑え込んで認めさせなければ……』

「いやちょっと待って下さいよ今なんか聞き捨てならないワードが聞こえましたけどぉ!!?」

『あらツェレったらわたくしの言葉の一つ一つに耳を立てていますの、もうエッチですわね♪』

「いや何処がですか!?今抑え込んでとか言ってましたよね、絶対仕事ありますよね!!?」

『ええまあ……政府首脳陣との食事会とかその他色々と……』

「やっぱりあるんじゃないですか!!!」

 

自分の為に行動を起こそうとしてくれているのは非常に嬉しいが、仕事があるならば其方をしっかりと優先して欲しい。自分は別にそこまで優先されるほどの事ではないのだから。

 

『まあわたくしの事など気にしなくても良いですわ、では会える時を楽しみにしてますわ。それでは!!』

「あっちょっと待ってくださいヨランドさん!!おいちょっとぉ!?……切れた…」

 

ほぼ一方的に言いたい事を言い尽くして切ってしまったヨランド、カミツレはやや呆然としながら携帯を通話から切った。そして心の中でフランス政府の皆さんに対して深く謝罪するのであった、自分のせいで彼女が仕事を放棄するような事になっているのだから…いや希望を捨てるには遅い、全ての仕事を纏めて片付けた上で休みを取り付けて来る事だってありえる。それに賭けるとしよう、うん……。

 

「カミツレ君、ナターシャよ。今大丈夫かしら?」

「あっ大丈夫です、今開けますよ」

 

カミツレが扉を開けるとそこには食事会に招待したナタルと随伴してきた千冬と真耶の姿があった。一応彼女ら二人も招待しているが、妙にくたびれているように見える。

 

「千冬さんに真耶先生……?」

「学園祭の準備で私たちも大変でな……頼む、美味い料理を作ってくれ……」

「情けない師匠とは思いますけど許してくださいぃ~……」

「二人から凄い聞いたわよ、カミツレ君の料理は最高だって。これは期待しちゃうわよ」

「やれやれ、そう言われたら腕を振るうしかないじゃないですか……さっ中へどうぞ。直ぐに作りますから」

 

中へと入った三人はテーブルに着くのを見るとカミツレは気合を入れてバンダナとエプロンを装着した、元々歓迎の為の料理会はカミツレ発案ではなく千冬の発案であった。折角教師仲間になるのだからそれを祝おうという事らしいが、実際はそれにこじつけて料理を食べたいという物であった。しかし期待されたのであれば応えたくなるのが性。ストックされている野菜などを使って存分に美味しい料理を作るつもりである。

 

「さてと……やるか!!」

「カミツレ、出来るまで野菜スティックを摘んでてもいいか?腹ペコで死にそうだ……」

「お昼から凄い仕事の山でしたもんね……私も摘みたいです」

「もう、一瓶だけですよ?」

「一人か」

「三人で、です!!一人一瓶って俺の分が消え失せるじゃないですか!!!」

 

冗談だと言いながら冷蔵庫から野菜スティックが入った瓶を出して三人はそれを摘み始める。中身はかぶ、きゅうり、にんじん、パプリカ、セロリとなっている。程よい塩味とぽりぽりとした食感で食欲が更に刺激されてしまう。

 

「んっこれ美味しいわね。この野菜のポリポリ感……癖になるわ」

「だろう?私も作って貰っているが、これがまた美味いんだ」

「本当ですよねぇ~。これだけ美味しいのに身体に良いなんて最高です♪」

「昔、一夏が家でやった事あるがここまでの物ではなかったな」

「そうなんですか?」

「ああ、矢張り野菜の質の影響だろう。カミツレのご実家が作る野菜は兎に角美味だ、漬けても焼いても揚げても煮ても最高なんだ」

「へぇこれは、ますますお腹が減る話ね……それにしてもこれ止まらないわ。お酒が欲しくなっちゃう」

 

そんな言葉を漏らすほどに嵌ってしまっている一同、スティックが残り一本となった時全員が同時に手を伸ばしぶつかりあう。その時、三人の間に火花が走った。

 

「二人とも、今日は私を祝う為の食事会なんでしょ?ここは私に譲るのが筋なんじゃないかしら?」

「知らんなぁ私はお前が来るよりもずっと前に、カミツレの料理を食べているんだ。これの権利は私にある」

「私だって、カミツレ君の師匠として弟子の料理を食べる権利はあります!!」

「「「……」」」

 

火花を散らす三人の美女、凄まじい威圧感を放ちながら互いを牽制し合っている。元世界最強に世界的に名が知られている元代表候補生、元アメリカ軍所属の軍人と中々にカオスな事になっているがやっている事は野菜スティックの奪い合いという酷くみみっちい事で争っている。そしていよいよそれが高まろうとした時、最後のスティックがひょいっと取り上げられてカミツレの口の中に収まった。

 

「「「あっ!!?」」」

「争う位ならこれが一番ですよね(ぽりぽり)」

「ううっ……」

「チッ……」

「しょうがないわね……」

「なんで不機嫌になるんですか……ほら、もう直ぐ出来ますから配膳手伝ってください」

 

やや不機嫌となってしまった三人だが料理が完成し、食事会が開始されると直ぐに笑顔に戻っていた。もう野菜スティックの事なんて頭の中から消え失せていた。

 

「んっ~美味しい!!」

「流石カミツレ、いつもながら美味だな」

「最高ですぅ~♪お仕事の後にこんな美味しい物が食べられるなんて……」

「お代わりは自由ですからどんどん言ってくださいよ」

「「「勿論!!」」」



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86話

軽快な音を立てながら開始を祝う為の花火が空へと打ち上げられていき、火薬による花が開花する。その直後に教師陣が操縦するISが、空にスモークの尾を引きながら上空を飛び回っていく。戦闘機がスモークを引きながらの曲技飛行( エアロバティックス)。戦闘機よりも自由且つ大胆な動きをする事が出来るISが織り成す曲技飛行は、IS学園ならではだろう。この日を待ち望んだ生徒がどれだけいただろうか、遂に開始されるIS学園の学園祭。世界的に見ても異例だらけの場にて開催される祭りへと多くの人が集っていく。

 

『IS学園学園祭をただいまより開始致します!!皆様、どうぞお楽しみください!!』

 

生徒会長である楯無のスピーチが終わったのを皮切りに開場が行われた。学園祭に次々と入場チェックをすませた人達が入っていく。国の優劣を決めるISの技術者や操縦者、ISそのもの等を多く保管管理しているIS学園としては学園祭は外から客を招き入れる為テロが行われるという可能性は否定しきれない。故に大げさとも言っても良い程の準備を行っている。それを除けば普通の文化祭ではある、内容はIS関係も多いので矢張り普通の学園祭とは言いがたいが。

 

「嘘っ!?一組であの織斑君の接客が受けられるの!?」

「いやいやカミツレ様でしょ!!」

「私はどっちも好きだなぁ。執事の燕尾服を着た二人……ぁぁなんて素敵なの」

「しかもゲームまであるみたいよ!!勝ったら写真を撮ってくれるんだって!しかもツーショット!!!」

 

中でも特に人気と言えるのが一年一組の『ご奉仕喫茶』である。クラスメンバーがメイド服や和服などを着て接客するのが目玉となっている、因みにメイド服はセシリアが実家とリチャードに協力を要請して送って貰った物を使用している。女子達はそれにかなり乗り気で着こなしながら接客に望んでいる。

 

「いらっしゃいませ♪どうぞこちらへ、お席へご案内させていただきますお嬢様」

 

セシリアもメイド服を着ながらノリノリで接客をしている、本職のメイドを雇っている身なのかかなり似合っているというか板に付いているような感じがする。因みにメイド服姿のセシリアを見た時、カミツレは思わず一瞬呆然としその可憐さに見惚れてしまった。そして心の中でガッツポーズを浮かべながらラウラへの賞賛の声を上げた。

 

「いらっしゃいませお嬢様方、本日のご来店をお待ちしておりました。さあどうぞ此方へ、席までご案内させていただきます」

「「「きゃあ杉山君凄い似合ってるぅ~!!」」」

 

「いらっしゃいませお嬢様…お、お席にご案内いたします」

「「「初々しい織斑君執事……いいっ…!!!!!」」」

 

そして矢張りこの二人は引っ張りだこな人気で店内を沸かせている、彼方此方から自分を呼ぶ声が響いており接客に必死になっているが何処かカミツレも一夏やや楽しんでいる節がある。普段出来ないような事をやっているからか、それともヤケクソでやっているのか分からないが中々似合っているのは事実である。一夏は持ち前の甘いマスクで元から人気を博している上、恥ずかしいのか初々しい仕草が人気を更に呼んでいる。カミツレは酷く似合っている燕尾服と本職のような言葉遣いと丁寧な動き、それが本物の執事のようでお嬢様になったような気分が味わえると人気を呼んでいる。

 

「(ふぅ…セシリアに頼んで特訓してもらって正解だったな…)」

 

実はカミツレ、恋人であるオルコット家の当主であるセシリアに執事としての軽いレクチャーを受けていたのである。当日に下手を打って恥をかくのも嫌なのでカミツレの部屋で、セシリアと乱相手に言葉遣いや動きなどの指導を受けていた。二人からしたらカミツレが執事になってくれるというシチュエーションを独占出来たので、特訓中は大満足であった。その特訓に託けて色々してもらったのは余談である。

 

「は~い順番待ちは2時間待ちです~!!!!」

「はい喫茶は学園祭終了までやるので大丈夫です~!!」

 

まだ学園祭開園からそこまで時間が経っていないというのに既に2時間待ちの行列が出来ているという、矢張り唯一無二の個性である男子を存分に活用しているクラスの人気の格は違った。しかしこれでは中々自分達も休めない、長期戦は覚悟しなければならない。クラスの皆も自分達が仕事をしない時間を設けてくれているので周る事は出来るだろうが、それまでに潰れないように頑張らないといけない。

 

「いらっしゃいませお嬢様、本日のご来店をお待ちしておりました」

「あらっ想像以上に立派な執事をしておりますのねツェレ♪」

「え"っ……ヨ、ヨランドさん……」

「来ちゃいました♡」

 

お茶目な笑顔を浮かべている女性、凛々しさと美しさそして豪華さを全て兼ね備えているドレスを纏っている正に貴族の家の当主という風格を漂わせている方がご来店なされた。それは本物の大貴族の当主でありフランスの国家代表、そしてカミツレの尊敬する人でもあるヨランド・ルブランだった。宣言通りにやって来たという事だろう……。

 

「ではバトラー、わたくしを席まで案内してくださいます?」

「畏まりましたお嬢様、不肖の身ではありますがご案内させていただきます」

「ふふっ宜しい」

 

軽く差し出してくる手を思わず取りながら、本物の主従関係のような物を醸し出しながら歩き始める二人。それを見た一夏は思わず

 

「うわぁすっげっ……マジのお嬢様と執事って感じ……」

「……織斑さん、私も本物の貴族でお嬢様なのですけどねぇ……?」

「ヒィッ!!?」

「わ、私の後ろに隠れるな一夏!?私も怖いんだぞ!?」

 

思わず嫉妬するセシリアは一夏の背後で、ハイライトが消えた瞳で二人を凝視していた。その際に漏れた声は低い上に恐怖を呷る物で思わず声を上げて後ずさって箒の後ろに隠れてしまう。そんな様子に気付いたヨランドは悪い笑みを浮かべながらカミツレの腕に胸を押し付けるようにしながら歩き続ける、カミツレは平静を保ってはいるがヒシヒシと感じるセシリアからの威圧に胃が痛くなってくる。幾ら恋人関係にあり、カミツレを守るという点に関しては許容出来るが……それでも限度があるしセシリアも年頃の女の子。恋人が他の女性とイチャイチャしている所を見ていて面白いわけがない。

 

「ツェレ、このお店のおすすめは何ですの?」

「此方のケーキセットでございます、しかしお嬢様ならこちらの最上級ケーキセットも宜しいかと」

「迷いますわね…あらっこの「執事のご褒美セット・極上級」とは何ですの?」

「……それは、ですね…。本来ご褒美セットはメイド及び執事にメニューの一部を食べさせるという物なのですが…極上の場合は互いに食べさせ合った上で写真撮影、ダンスを一曲とお嬢様のお願いを常識の範囲内で叶えるコースです」

「それはいいですわねっ♪ではそれをお一つ♪」

 

それにクラス中のメイド達と裏方チームがざわめいた、まさかあの極上を頼むお客がいるとは…ダンスを一曲というのは誇張表現抜きでこの教室の中心で2分ほどのダンスを一緒に踊る物で他人からの目を大きく引く、そして何よりこのメニューは値段が凄まじく高い。そのお値段なんと……5万円である。生徒達からしてもまさか頼む人は居ないだろうと思っていたとの事だったのだが…相手が悪すぎた。フランスでも屈指の大貴族、資産については潤沢すぎるほどにある。5万など安すぎる出費と言える範囲なのだろう。

 

「もう一度確認いたします。お嬢様のご注文は「執事のご褒美セット・極上級」で宜しいですね」

「ええ勿論ですわ。お相手は勿論、ツェレですわよ♪」

「……承知、しております」

 

学園祭が始まって早々だがカミツレは心底疲れてしまったが、もう心を無にして動こうかと真剣に考え始めた。



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87話

「これで5万とはとてもお買い得な値段設定ですわね♪」

「お嬢様にお喜びいただき、感謝の極みでございます」

 

極上コースのラスト、お嬢様の願いを叶え終わったカミツレは若干俯きながら答えるのであった。ケーキを全てはいあーんで食べさせあい、社交ダンスを共に踊り、写真撮影は願いと共にし終わった。ヨランドからしたらもっと金を払って何度も体験したい物であった。因みに願いはお姫様抱っこした上での写真撮影だった。しかも持っていたロケットに納められ首から下げられている。カミツレにとっては色々と試練な時間であった。

 

「ま、まさか5万をあっさり払うなんて……」

「想定外にも程があるよ……しかもダンスもマジで上手い…」

「美人で素敵でお金持ちでダンスも完璧、どれか欲しいよ。主にお金が」

「俗物過ぎるわよアンタ」

「……」

「ほ、箒…セシリアが怖いぃぃっ……!!」

「私も怖い一夏ぁ……!!」

「……」

「「ヒィッ!?後ろにもいたぁっ!!?」」

 

ヨランドの行動に阿鼻叫喚な教室内、あっさり5万という大金を出す財力に美人という完璧美人の登場にざわめく。そしてハイライトが消えたセシリアと何時の間にか教室内に入ってきた乱に脅える一夏と箒。この状況をカオスと言わずして、何をカオスと言うのだろうか。

 

「それではツェレ、また後でお会いしましょ♪」

「はいお嬢様……ヨランドさん、二人を刺激しないでください……」

「フフッ♪」

 

そう言ってドレスを翻して去って行くヨランドを見送ったカミツレだったが、自分に注がれる二人の視線に冷や汗をかいてしまう。同時にガタガタと震えている一夏と箒も同時に目に入る。一瞬、思考が停止し掛けるが乱へと手を差し伸べた。

 

「……さあお嬢様、お席へとご案内いたします。本日のおすすめは「執事のご褒美セット、メイドと一緒コース」でございます」

「―――っ!それじゃあ是非お願いするわ、一緒のメイドはセシリアで!!」

「―――っ!畏まりましたわ!!」

 

という咄嗟のファインプレーで二人の機嫌を上手く取ったカミツレはそのまま仕事を続行するのであった。因みに一夏と箒はこの時、セシリアと乱の死んだ目と表情が二人揃ってトラウマになったのは余談である。

 

「もう直ぐ時間だけど織斑君か杉山君、どっちが先に休憩する?」

 

そんなこんなで働き続けているといよいよ男子の休憩時間が回ってくる、と言っても片方は出ていないと苦情が出るかもしれないので交替交替に休憩する形式になる。なのでまずどちらが休むのかを決める必要が出てくる、一夏は慣れない仕事に苦難しながらも頑張っている。そして以前カミツレに相談を乗ってもらったからと自分が残ると言おうとしたがカミツレがそれを遮った。

 

「いや俺が残ろう、セシリアと乱ちゃんと一緒に周る約束をしたからな。二人の休憩時間と合わせるとなると、後の方が都合がいい」

「そ、そうなのか?でも休まなくて大丈夫か、特にカミツレはあの極上の一件以来なんかコース注文抱えてるんだぞ」

「極上に比べたら普通の「執事のご褒美セット」なんぞ紙みたいなもんだ」

 

色んな物の重さがな、と付け加えつつ窓から外を見るカミツレ、そんな友人を見る一夏は何処か遠い所に行ってしまっているような哀愁を覚えた。そして何故かカミツレにはこれからも頑張っていただきたいという思いを強く持った。

 

「……多分、俺が今成人してて煙草吸ってるなら吸ってる自信あるわ」

「想像したら凄い似合っててシュールだぞ」

 

今更だが一夏は凄く理解した、カミツレは色んな意味で酷く重い物を背負っているのだと。そして自分も何れその重い物を背負う運命のあるのだろうという事を直感した。

 

「まあそういう事だ、休憩に行って来い。篠ノ之連れてな」

「えっ……!?」

 

背中を叩きながら小声でカミツレは言葉をぶつけてくる。

 

「進展させて来い」

 

と言われ一夏は一瞬思考が凍り付いてしまうが応っ!と力強く返して箒を誘いに行く。着替える時間も勿体無いとそのままの格好で教室から出て行く二人を見送ると溜息を付きながら、水をいっぱい飲む。

 

「やれやれ…世話が焼けるな……どうせだ、そのまま告白でもしちまえ」

「杉山君ご指名は入りました~!」

「今行くって此処はホストクラブじゃないぞ」

 

 

「な、なんかカミツレに気を遣われちゃったな……今度飯でも奢ろうかな」

「そ、そうだな。なんだかで杉山には世話になる事もあるし……」

 

廊下を共に歩く一夏と箒はカミツレへの感謝を思い浮かべながら学園祭を楽しむ事にした、しかし周囲から燕尾服のイケメンと大和撫子というに相応しい容姿を持った箒がメイド服でいるので注目を浴びるには十分すぎる要素になっている。

 

「それにしても凄い人だな……箒そのさ、手を繋いだほうが逸れなくて済む、よな?」

「う、うむそうだな…逸れてしまってはまずいものな……」

 

ぎこちなく重ね合い触れる手、その体温に互いはドキドキしながら廊下を渡っていく。互いの鼓動が聞こえそうなほどに高鳴っている、一夏は矢張り実感していた。自分は彼女の事が好きになっているのだと、そして今この時に凄い安心感と心地よさを覚えていると。箒も同じであったが普段の一夏とは違った様子に胸の高鳴りと期待を抱く。

 

「(気付かなかったけど……箒の手って凄い、すべすべしてるんだな……それに温かい…)」

「(なにか何時もと違うが…これはこれで……こんなに大きな手だったんだな一夏……温かい…)」

 

何処か甘酸っぱくも初々しい二人はそのまま校内を歩き続けて行く、そして何処かに行こうと提案しあう度に同時に言ってしまい赤くなって顔を背けては改めて言葉を紡ぎだす作業を何度も続けていた。

 

「ほ、箒その……た、楽しいな……」

「そ、そうだな一夏……」

「「(ああっ幸せ……)」」



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88話

誰だこいつら


「そろそろ休憩時間も終わるし戻るか」

「そ、そうだな十分満喫出来た事だし……」

 

再び手を繋ぎなおした燕尾服のイケメンとメイド服の大和撫子、先程まで二人で学園祭を満喫していたからかその顔は緩んでおり笑みに溢れている。本来一夏のような存在を周囲が放置する訳がないのだが…初々しい二人の空気に当てられたのか、幸運な事に誰にも声は掛けられずに二人は学園祭を堪能する事が出来た。そして残念ながら時間がやって来てしまった。少し落胆したかのようにしつつ教室へと向かって行く。

 

「でも楽しかったな箒」

「ああ、こうして遊ぶのも悪くないな」

 

お互いに笑いを浮かべながら足取りは軽い、そのまま教室へと戻ろうとしたが一夏はある物を発見した。

 

「あっちょっと待って貰ってもいいか箒、買いたい物がある」

「何を買うんだ?」

「直ぐに済むからちょっと待っててくれ」

 

そう言って廊下の端で出されている露店のような出し物に立ち寄るとそこの生徒と色々と会話を挟みながら、何かを購入して箒の元へと戻って来た。

 

「悪い待たせた!」

「いやそれほど待っていないが……一体何を買ってきたんだ?」

「あ~その…折角の学園祭だし何かプレゼントしたら良いかなっと思ってさ。だから、これ」

 

何処か押し付けるようにしながら渡されたのは紅色の石がはめ込まれた綺麗なアクセサリー、ブレスレットであった。

 

「こ、これを私に……?!」

「うん……い、いやだったらその…」

「ううん大切にする……っ…有難う、一夏っ……!」

「お、おう……」

 

心から嬉しそうな表情を浮かべた箒に照れる一夏、そんな箒は思い切って一夏の腕に自分の腕を絡ませた。一夏は思わず触れる柔らかな感触に大きく心臓を鳴らしながら、顔を赤くしたまま教室へと歩いて行く。幸せそうな箒と共に教室に帰還した時、カミツレに笑いながら肘で突かれたが悪い気はしなかった。

 

「篠ノ之、嬉しそうに何かを胸に抱いてたぞ。なんかやったのか」

「何もしてないぜ、ただ…気持ちを石に込めただけだ」

 

一夏がプレゼントしたブレスレットに嵌め込まれている石は紅色に輝く石、即ちそれが示すのはルビー。ルビーは愛の象徴とも言われている宝石、自分の気持ちをルビーに込めて箒に送った。遠回しだが、君に愛を抱いているとも言うべき行為に相当するのかもしれない。それに箒には、ルビーという石が一番に合うような気がするのである。何故かは分からないがあの綺麗な紅色の石の輝きが、酷く似合っているような気がした……。

 

「あの唐変木の朴念仁がねぇ…やれやれ、今度は校内デートじゃなくて正真正銘な物を買いに行って来いよ」

「わ、分かった……その時は、相談に乗ってくれ……」

「俺もそこまで詳しい訳じゃないからな」

「そ、それでもいい!!」

「分かったよったく……まあ友達の恋ぐらいは応援してやるか」

 

何とか取り付ける事が出来たカミツレの協力に心から安堵する、そんなカミツレも休憩時間に入り彼の恋人達と共に学園祭を巡る事になるのだろう。

 

「セシリア準備、出来た?」

「はい出来ました。では参りましょう」

「エスコートさせていただきますお嬢様」

 

そう言いながら見事な手捌きでセシリアの手を取りながら教室から出て行くカミツレを一夏は思わず見送った。あんなにスムーズにエスコートが出来るなんて羨ましいなぁと素直にカミツレに尊敬の念を抱いた。自分も何時か、箒を確りとリードしてデートの一つをやってみたい物だと思いながら箒の方へと視線を向けるとそこには…自分がプレゼントしたブレスレットを愛しげに見つめながら微笑んでいる箒の姿があった。

 

「ぁっ…」

 

丁度窓からの光が箒を照らすように入り込んで、ブレスレットが輝いた。鮮やかに光る紅玉に光を受ける箒は何処か優雅な美しさと不思議な色香を放って自分の理性の一部を破壊した。魅入るように見つめてしまい、一瞬何もかも忘れてしまったが背後から頭を軽く叩かれて正気に戻る。

 

「おい何を呆けている」

「えっへぇっ!?お、織斑先生!?」

「巡回ついでに来てやったぞ、ほれ席に案内してみろ執事」

「しょ、承知いたしましたお嬢様……どうぞ此方へ……」

 

巡回でやってきた千冬を席へと案内するが、如何にも姉をお嬢様と呼んで席へと案内するのに凄まじい違和感と抵抗を感じる。しかしそんな事を口にしたら確実に怒られるので口にしない。

 

「それで此処のおすすめは何なんだ?」

「本日のおすすめは此方のケーキセットと「執事のご褒美セット」でございます」

「ああ、話に聞く執事に食わせるセットという奴か。杉山ならともかく、実の弟にそんな事をしても面白味に欠けるな……」

「ま、まあそりゃ確かに……」

「ではそうだな……持ち帰りのカップケーキセットを頼む。セレクトは抹茶とケーキとバニラだ」

「畏まりました」

 

千冬の注文を請け負った注文を伝え、注文のカップケーキセットを千冬の元へと持っていく。

 

「お待たせしました、ご注文のケーキセットです。御代は450円になります」

「うむ。これでいいな。それと一夏、お前篠ノ之に何かプレゼントしたな?」

 

姉の悪戯的な笑みに目を見開いてしまった、何故それが分かったのだろうかと混乱していると千冬は本当なのかと……と素直に驚いていた。どうやらカマを掛けただけだったようだ、しかし一夏の反応は余りにも露骨でバレバレであった。最初こそ驚いた千冬だが次第に嬉しそうに頷いていく。

 

「そうか、そうか……お前も遂に…そうか」

「ち、千冬姉勘弁してくれよ…」

「ハハハッ悪い悪い。それと少し職員室まで来れるか?お前達の出し物の書類に不備があってな、代表者のサインが抜けていてな」

「えっマジで!?い、行きます!!」

「では行くぞ。心配する事はない、時間は掛からんさ」

 

そのまま一夏と共に教室から出て行く千冬は横目で箒を見ると笑顔で此方を見送っている姿が映った。どうやら本格的に一夏と良い仲になっているようだ、あの朴念神で唐変木な鈍感神が……驚きで満たされるがそれでも弟の事なのだから喜んでおこう。

 

「一夏、避妊はしろよ」

「ブフォッ!!?いきなり何だよ千冬姉!!?」

「ハッハッハッハッ気にするな、杉山の代わりにからかっただけだ」



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89話

「カミツレさんあちらを見てください!あれなど面白そうですわ!!」

「へぇどれもこれもレベル高い物ばっかりね、さすがIS学園。予算はいっぱいあるって事ね」

「なんか生々しい気がする……」

 

両隣に美少女を連れて歩くカミツレ、その美少女はどちらとも恋人というのだから驚きである。セシリアと乱に腕を引かれながら学園内の展示品などを見て回る三人、女子生徒達はそんな光景を羨ましげに見つめているが誰も介入しようとしない。介入しようとアクションを取ろうとしただけで、二人のハイライトの消えた瞳がギロッと此方を睨み付けるのである。それで脚が竦んでしまいとても動ける状況ではなくなってしまう。

 

「「………」」

「なあ二人とも、一体如何したんだ?」

「「何でもない♪」」

 

例えそんな瞳をしていたとしても、愛しのカミツレから声が掛けられればすぐさま満面の笑みに切り替えて笑いかけるというスイッチ切り替え技術で悟られないようにしている。が、カミツレは周囲の女子達の様子が可笑しい事で察しているのか、冷や汗を掻きながら何も言わないようにしている。

 

「あっカミツレさん、私この料理部に行ってみたいですわ!」

「料理部はっと…何々、日本の伝統料理の数々の展示。料理体験に試食も可ってある…セシリア、此処に絶対行きましょう!!!」

「えっ乱ちゃんも興味あるのか?日本料理」

「いいえ、違います肉じゃがを覚えたいんです!!!」

 

乱の目的はどうやら肉じゃがを作り方を覚えるという事らしい。なんだか良く分からないが恋人達がそこへ行きたいというのであれば叶えるのが、恋人の役目にして使命というもの。実はカミツレも料理部には多少なりとも興味があり、一度訪れてみたいと思っていたのだ。その理由というのは……

 

「あっカミツレ君いらっしゃい!ようこそ料理部へっ!!」

「お邪魔しますよ真耶先生」

 

真耶が料理部の顧問であるからである。顧問であるという事を聞いたのは最近であるが、自分が料理に使っている野菜やレシピを教えて欲しいと頼まれた時、理由を聞いた時に顧問だという話を聞いたのである。今現在料理部の野菜は杉山家の『俺達の杉山ファーム』にて育てられたものを購入して使用しているとの事。

 

『いやぁ大量受注で大満足だ、俺達の作った野菜が認められたって言うのは良いもんだな!』

 

と兄である一海も喜んでいた。

 

「あっ杉山君、この野菜って杉山君のお家で作ってるんでしょ?何でこんなに美味しいの!?他の物とは比べ物にならないぐらい美味しいよ!!?」

「そうそう。料理部でこんなに美味しい野菜使った事なくてビックリしたよ」

「それにこのレシピカミツレ君の何でしょ?凄い美味しいんだよ~これ」

 

と野菜に関してはベタ褒めが次々とやってくる。自分にとっても自慢であり大好きな兄とその仲間達が作った野菜を褒められる事は酷く喜ばしい。祖父の跡を継いで、その農業技術を継承している兄だからこそ作り出せる野菜の美味しさ。それは杉山家にとって大きな自慢の一つである。

 

「でもカミツレ君が作ってくれた物とどうも味が違うんですよ……何が違うんでしょうか……?」

「レシピ通りに作っているのに違うんですか?」

「ええっでも何かが違うんですよね……」

「だったら今此処で実演しますよ」

 

その言葉にセシリアと乱はやや驚いた、彼が料理をするという事は知っているが何処まで出来るのかという事は詳しくは知らなかった。セシリアは一度彼の実家に行ったが、その時は結婚やこれからの関係についての会話だったのでその辺りの事は全く話さなかった。乱も実家を訪れて挨拶を済ませているがその時は、手伝いとカミツレの近況報告が主だった。

 

「そうですね……それじゃあセシリアと乱ちゃんが覚えたいって言ってた肉じゃがからやりましょうか。俺の母さんから習った肉じゃがを」

「いいですねぇ!!カミツレ君の肉じゃが私大好きです、手が空いてる料理部の皆さん集合です~!!」

 

そんなこんなでカミツレのお料理教室が開かれた、カミツレとしても自分の家で作られた野菜が使われているのだからやるのに普段通りに出来る。周囲の女子達の視線を集めつつも普段通りに調理を始めていく。

 

「この時にポイントなのが、此処で直ぐに切らずに少し時間を置く事なんだ。そうした方が良くなるんだ」

「「「へぇ~全然知らなかった!!」」」

「メモですわ、メモ……!!!乱さん、一言漏らさずにチェックですわ!!」

「分かってるわ、カミツレさん直伝の肉じゃが……!!!!」

 

恋人二人も真剣にそれを見ながらメモを取っていた、料理部の部員達も見習うレベルの集中力である。何故肉じゃがを覚えたいのかというと……日本では昔から肉じゃがが上手な女性と結婚した男性は幸せになると言われている……と聞いた事があるからである。それで是が非でも覚えたいという思いがあるのである。しかも肉じゃがのレシピはカミツレが母から受け継いだ物、つまりお袋の味……!!それを作る事が出来たならばきっと、カミツレを喜ばせる事が出来るという考えからだった。

 

「それで水は別に無しでいいんだ、野菜から出る水分だけで仕上げると味が濃厚になるんだ」

「水っと……」

「後は待つだけ……んっ?」

 

間もなく完成という肉じゃが、そんなカミツレの耳に爆発音のようなものが聞こえてきた。

 

「どうかなさいましたかカミツレさん?」

「いやなんか……何かが爆発するような音が……」

「ああ。きっと美術部の爆弾解体ゲームの音ですね」

「物騒なゲームだな……おっとそれでこの時に注目するのは……」

 

真耶の言葉もあってあまり気にも留めなかったカミツレは、調理の指導に戻った。が、その時真耶は窓の外を見ながら仄かに微笑んでいた。

 

「(名誉、挽回って奴ですね。私はこのまま護衛を続けますからね)」

「真耶先生、此処から重要ですから確りみてくださいよ」

「はい、確り見ます!!」

 

 

「ぐっ……がぁぁぁっ……!!!」

 

閉鎖されている校舎の一角、そこでは爆炎と煙が立ち込めていた。そこいら中に広がっている壁であった物の破片とISのパーツであった筈だった金属片。その中心地で崩れ落ちるかのようにしながら、必死に身体を支えている一人の女。苦しげに息と言葉を漏らしながら、目の前にいる二つの影を忌々しげに睨みつける。

 

「まだ意識があるなんて想像以上にタフいわね、でもまあもうまともに動けない筈よ。ISは大破、貴方も肋骨に左足、右肩と腕が完全に逝ってる。これで動けたら化け物ね」

「くそがぁぁっっ…!!」

「あらあら、もう少しお淑やかな言葉遣いを覚えた方が良いわよ。そう―――私みたいにね」

 

その言葉と共に一発の弾丸が飛来する、それは正確に左肩を貫きそこ鮮血が溢れ出す。苦痛に歪んだ声が溢れるが影は全く動じていなかった、それどころか冷静にもう再度弾丸を発射し今度は右足を貫いた。痛みにもがきながら女は倒れこんだ。

 

「ぁぁぁぁっっ……!!!」

「もう終わりね」

 

影は姿を現して女へと蹴りを加え、その全身に対IS用拘束チェーンを巻き付けて行き完全に拘束していく。特殊な合金とSE技術の応用が成されているこのチェーン、これで一度囚らえてしまえばもう逃げ出す事は出来ない。これでもう動く事も逃げる事も出来なくなった女は、屈辱に塗れたまま悪態をついて気を失ってしまった。

 

「ふぅ…応援有難うございます―――ファイルス先生。私一人では骨が折れましたから」

「私はあんまり役に立ってなかった気がするけどね、それに貴方一人で大分追い詰めてたじゃない」

「それでも一人だと逃げられる可能性もありましたからね、勝つ確率は少しでも高い方が良いじゃないですか」

「まあそうね、でもまあお疲れ様ね―――更識生徒会長さん」

 

二つの影の正体は楯無とナタルであった、彼女らと交戦していたのは学園祭に紛れて一夏かカミツレのISの奪取を目的としていたテロリストの女。一体何処の組織の人間なのかはこれから尋問して行くが、取り敢えずは上々の戦果と言えるだろう。

 

「それにしてもよく気付いたわね、彼女だって」

「これでも一応暗部の家の人間ですから、血と腐った人間の匂いには敏感なんです。後はまあ勘ですかね」

「御見逸れしたわね」

 

男子二人の何れか(一夏かカミツレ)を狙っていたこの女、すれ違った際に感じた違和感と血の匂いに楯無は素早く反応し彼女を立ち入り禁止の通路を通ってアリーナへと導こうとした。しかし、途中のこの場で目論見がバレてしまい敢無く戦闘を開始。狭い場所という事もやや抑え気味ではあったが、それでも国家代表は伊達ではないという事を見せ付けて圧倒した楯無。相手は劣勢とみるや撤退しようとするがそれを遮ったのは応援コールを受けたナタルであった。彼女の登場で撤退も出来なくなった相手は、戦闘を続行したが楯無とナタルのタッグに倒されてしまったのが事のあらましである。

 

「其方も済んだようだな」

「わたくし達の方も済ませてきましたわ」

「お疲れ様、如何だったかしら?」

 

その場に新たに現れたのは千冬とヨランドであった、二人はチェーンで拘束されている女を見下ろしながら溜息を吐いた。

 

「私も鈍った、ヨランドもいたというのに逃げられてしまった」

「不覚でしたわね……伏兵は十分に想定していたというのに」

 

どうやら二人の方も敵と戦っていたらしい。しかし戦果は芳しくなく捕縛した女の仲間と思われる操縦者を取り逃がしてしまった。あの千冬とヨランドの二人掛かりで逃がすなんて一体どれだけの手練れなんだと、楯無は冷や汗をかくが千冬の言葉に別の意味で汗をかいた。

 

「全く…無人機30機程度に足止めを食らうとは……」

「わたくしもまだまだ未熟という事ですわね。もっと精進しなければいけませんわ」

「……えっ」

 

千冬とヨランドは仲間と思われる相手を圧倒していた。その相手は勝つ事が不可能と察したのか撤退を始めた、その撤退を補助するかのように出現したISに似せて作られた機械群。それらを全て潰していたら追跡不能距離まで離されてしまったとの事、なので致し方なく戻ってきたらしい。

 

「さほど強くもない物に手古摺るとは……不覚の極みだ」

「全くですわ。わたくしの「シャティーナ・ブラーボ」は本国で整備中故に「ラファール」でしたが、それでもあんなに時間が掛かってしまうなんて……情けない限りですわ」

「ああ…「打鉄」だったとしてもあれは時間が掛かりすぎた。私も久々に鍛えなおすか……」

「……いや、なんか可笑しくない……?」

 

そんな教師と生徒会長、そして来賓の国家代表によって学園祭の平和は守られたのであった。「打鉄」と「ラファール」のオーバーホールと校舎一角の崩壊という事象と引き換えに……。



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90話

無事に終了した学園祭、大盛況の内に幕を閉じた学園。その裏では大きな陰謀と力が蠢いていたにも関わらず、それらは強い力を持った大人と生徒会長によって倒されたお陰で平穏は緩やかに流れたままであった。それでも一部校舎が崩壊しているという事態が起こっていたが、それらは生徒会と教師陣が上手く処理したのか上手く誤魔化されていた。

 

「セイヤァァァッッ!!!!」

「っ!!そうですわ、もっと強く深く斬り込んで来るのですわっ!!!」

 

学園祭が終わっても彼らにとってはまたいつもどおりの毎日が訪れるだけであり、それを享受する。ただそれだけと言わんばかりに過ごしているカミツレは、宣言通りに学園に駐在し続けているヨランドに指導を受けていた。真耶の代役と本人は言っているが、本当の所は怪しいものである。

 

「まだまだぁっ!!!」

 

各部スラスターの出力を同時に全てを調整しながら肉薄しつつ接近戦を演じ続けるカミツレ、それを「ラファール」のブレードで全て受け止めて対処をするヨランド。『超術』と呼ばれるだけあってカミツレの行動パターンの殆どを予測し、それらから逆算した対処を行い続けている。激しい軌道を描きながらブレードでの剣戟を行い、そしてオールレンジから行われる「ヴァンガード」の射撃や突撃にも対処するという化け物のような事をやってのけている。

 

「はぁぁっ!!!」

「ぐっ!!!」

 

一喝と共に弾き飛ばされる機体、カチドキが同時に姿勢制御を行うがほぼ同時に銃撃の雨が飛来してくる。複数の処理を同時にカミツレとしながら「ディバイダー」で防御を行う、攻撃の切り替えと使い分けが余りに絶妙で此方に策を練らせる隙すら無い。

 

『接近警報』

「隙、ありっ!!!」

「ありませんっよっ!!!」

 

銃撃に気を取られ防御に徹し過ぎた間、そこへ投げ込まれてきたのは複数のグレネード。それが同時に点火され機体は凄まじい爆風によって吹き飛ばされてしまう、必死に機体の制御を行うが視界の先には「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」というパイルバンカーを構えたヨランドが突撃して来ていた。しかしカミツレは落ち着きながら機体を大きく回転させるようにしながら、パイルバンカーを受け流すように蹴ってヨランドの懐に飛び込み、零距離でライフルのトリガーを引いた。

 

「バースト!!!」

「ぐっ……!!」

 

発射の際、エネルギー量を調節する事でマシンガンとしての役割も果たす「スターダスト」。カミツレはその特性を利用し、一発にマガジン内全てのエネルギーを集約させて強力な弾丸へと変換して発射した。低い重低音と共に放たれた高出力レーザー、ヨランドが使用する教員仕様の「ラファール」へと炸裂していく。それだけでは終わらないと「スパークルエッジ」を突き立てるようにしながらブーストを行う。

 

「やり、ますわねっ……!!でも、わたくしはそう簡単に勝利はあげません事よ!!」

「っ!?」

 

突き立てていたブレードが突如として軽くなった、ヨランドから刃が外れていた。突き立てていたと思っていたのはそう思わせていたヨランドの演技、実際はまともに当たってすらいなかった。そして代わりと言わんばかりに抱きしめられたカミツレはそのまま、パイルバンカーを押し付けられた。そして……零距離でそのまま受け続けてしまい、全てのSEを使い果たしてしまった。

 

「だぁぁぁっ……ヨランドさん、化け物かよ……」

『全方位からの攻撃を把握しつつ幾つもの罠を仕掛け、そこへ巧妙に誘いこんだ上で強力な一撃を加える。有効な戦法と言わざる得ません、人間の経験と勘は時に我々を凌駕するという事でしょう』

「ホントだよな…」

 

完全な敗北を喫したカミツレ、別段ヨランドに勝てるとは思ってはいなかったがそれでもいい勝負は出来ると思っていた。自分とカチドキ、そして「蒼銀」だからこそ可能に出来る役割分担による攻撃。BT兵器をカチドキが制御しカミツレはブレードとライフルを用いて攻撃をするという手段なのだが…いとも容易くヨランドに突破されてしまった。少し自信を無くしそうである。

 

「もしかして、これって他の人にも通用しないわけないよな……?」

『カミツレ、ショックなのは分かりますが落ち着いてください。あんな事が出来る人間が複数いたら堪ったものではありませんよ、インフレもいい所です』

「まあ…そうだよな…」

 

寧ろ相手が完全に規格外なのである。ヨランドは千冬と並んで最強のIS操縦者の一人として名前が上がる人物、そんな彼女だからこそ初見で対処出来たような物でもある。BT兵器に馴れ親しんでいるセシリア以外の代表候補生ならば、対処する事も出来ず倒せるだけの力がある戦い方。自室にて今回の模擬戦の反省点を書き出そうとしているのだが……んなもん出てくる訳が無い、敗因はハッキリしている。相手がヨランドだった、それに尽きる。

 

「まだまだ道のりは遠いなぁ……」

 

遥か見果てぬ先に立っている憧れの人の背中、自分はまだまだあの人の背後にも立てていない。ヨランドの姿を彼方からハイパーセンサーで見つめているような状況こそ自分がいる現実、何時かその姿に迫りたいと強く思いながらもカミツレは何処か笑っていた。そんな時、扉がノックされた。

 

「カミツレさん、宜しいでしょうか」

「んっセシリア?どうぞ~」

 

聞こえてきた声はセシリアの物だった、鍵は掛けていなかったのでそのまま入るように言うと扉が開け放たれて恋人であるセシリアが入ってきた。軽い会釈をしながら鍵を掛けて隣へと腰掛けた。

 

「如何したんだセシリア?」

「そ、その…きゅ、急にカミツレさんに甘えたくなったといいますかその…つい来て、しまいました……」

 

上目遣いで此方を見つめてくるセシリアは酷く可憐で庇護欲が掻き立てられる程に刺激的だった、思わず彼女に手を回して抱きしめてしまった。

 

「きゃっ!?カ、カミツレさんいきなり過ぎますわ……♡」

「ご、ごめん…でもセシリアが可愛すぎるのが悪い……」

「もういけない人……でも、嬉しいですわ」

 

そう言いながらカミツレの腕の中で身体を回して向きあったセシリアは、真っ直ぐとカミツレを見つめた。

 

「実は今日はお願いあります、そ、その……恋人になったのですから、そのキ、キスをしたいのです……」

「えっ……」

 

消え入りそうな声で告げられた願いにカミツレの思考は停止してしまう、愛しい恋人からのお願いは極力叶えるようにしている彼。しかし予想外のお願いに硬直してしまう。頬を赤く染めながらセシリアは続ける。

 

「私達は将来結婚するのですし、その……えっと、も、もっと深い仲になりたくてその……」

「あっえっと、その……お、俺キスなんてした事無いから……あの…」

「そ、それは私も同じです…!!で、ですので……」

 

互いに赤くなりつつも目をそらせない、そんな時間が流れていく。そして二人は自然と顔を近づけていく、ゆっくりと上げられた手は磁石のように引き合いながら絡み合っていく。吐息は混じり合いながら甘く蕩けていきながら唇を湿らせて行く。閉じられた瞳、そのまま距離は縮まり―――一つになった時、甘い物が頭を溶かした。

 

「私の、ファーストキス…カミツレさん……嬉しい、ですわ……」

「セシリア…俺もだよ……」

 

そのまま互いを深く抱きしめあった二人は満足するまで、甘い時間を過ごしていた。一歩、大人の階段を登ったカミツレ。そんな彼に喜びを感じているのはセシリアだけではない。

 

「さて…そろそろご飯食べに行こうかな♪」

 

天災もまた、彼を好いている一人なのだから。



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91話

「―――っ」

 

日も傾き始めてきた頃、カミツレはベットの上に座り、身体を休めながら天井を仰いでいた。腕と身体には恋人の体を抱き締めた時の柔らかさと体温が染み付いているかのように香っている。その香りはあの時の感触と感覚を容易く思い出させ、顔を赤くさせてしまう。そして……

 

『―――私の、ファーストキス…カミツレさん……嬉しい、ですわ……』

 

唇に残っているセシリアの暖かくも柔らかく、甘かった唇……思わず何度も唇を触れてしまうほどに鮮明に記憶に焼き付いている。自分のファーストキスでもあり彼女にとってでもあったファースト、それを互いに捧げあった事は大きな意味を示しているに加えて自分が誓った思いの証明でもある。

 

「……柔らかった、な……」

 

忘れる事の出来ない思い出、自分の事を理解し、支えてくれると言ってくれた素敵な女性との大切な思い出を確りと胸へと刻み込む。生涯を通しての宝になるべき記憶であり出来事、思わず微笑を作ってしまう。思わずまたしたいなと素直に思ってしまった、そんな自分に恥ずかしくなりながらも笑っていると目の前に影が落ちた。その影はじっと自分を見つめた―――束だった。

 

「やっほっほ~い♪」

「おわあああぁぁっっ!!!?」

 

いきなりの事に驚きながらベッドから落ちるカミツレとそんな彼を見て愉快そうに微笑んでいる天災、篠ノ之 束。この部屋に現れる度に思うが、一体何処をどうやって現れているというのだろうか。瞬間的に出現したかのような神出鬼没さ、全世界指名手配になっているが未だに捕まっていないのも理解出来る。

 

「カッ君お久しぶり~♪」

「ビ、ビックリさせないでくださいよ……はぁぁっ……んでご飯ですか?」

「うん♪」

 

まあ彼女が此処に来る理由なんて十中十、食事しかありえない。それ以外だと自分の事を誘惑でもしに来るぐらいだろう、まあ千冬のお陰で割と今までの物は簡単に受け流して来たのだが……そんな事は置いておいてキッチンへと向かおうとするが、束は手を掴んで立たせようとしなかった。寧ろ隣に座りこんで目をじっと見つめてくる。

 

「今日はね、別のご飯を食べに来たんだよ」

「別の……ってどういう事です?」

「うん、こういう事」

 

そう言いつつ束は身を乗り出して近づいてきた、そしてそのまま…唇を軽く合わせてきた。子供がするかのように軽く合わせるだけの短いキス、しかしそれはカミツレの思考を奪うには十分すぎる物だった。一瞬で思考が死に、頭が別に意味で真っ白になって行く。漸く再起動出来た時には目の前の天災は微笑み続けていた。

 

「ななななぁぁぁっっ!!!!?」

「アハッいい反応♪」

「何するんですかぁぁっ!!!?」

「別にそんなに驚かなくてもいいじゃん、初めてじゃなかったんだし」

「―――っ!!?」

 

その言葉にカミツレは顔を青くしたり赤くするのを繰り返した、束はつまり自分とセシリアのキスを見ていたという事になる。一体どうやってと思う前に彼女ならばそんな事簡単だと思う自分と、何で見たという怒りたい自分、そして嫌な予感を察知した自分がいる事に気付いた。

 

「あの子がカッ君の初めてだったもんね、束さんもその位弁えてるよ」

「あっ……」

「でもね、二番目は負けたくないかな。こう見えて負けず嫌いだから束さんは」

 

だからね、と言葉を続けながら距離を詰めてくる束にカミツレは何も出来なかった。身体が動かなくなっていた、寧ろ動かしたくなかったのかもしれない。まがりなりにも束は自分の事を酷く好いてくれている、純粋な思いで想ってくれる相手を前にしたからか、僅かに応えたいという気持ちが沸いてきてしまった。それに気を良くしたのかカミツレを抱き寄せながら顔を一気に近づけ、軽く舌で唇を濡らして言った。

 

「―――今日は君を頂くね。いただきます」

「束さっ―――」

 

それ以上の言葉が続く事はなかった、束によって口を塞がれてしまったからだ。セシリアのとも違った力強く包みこむような物、しかしそれは長くは続かず束は唇を離して笑みを作る。

 

「うん、美味しい……もっと―――食べたいなっ」

「束さんあの、ちょっと待って……!!」

「うん分かってるよ、お互いの事を知ってからでしょ?約束だからね、そこは弁えるつもり」

 

そう言うと額にキスを落としてカミツレから離れて小躍りするように回る。

 

「今度はデートをしようね、それでもっともっとお互いの事を知り合ったらいっぱいしようねっ♪」

 

最後に投げキッスをカミツレへと飛ばすとそのまま部屋から出ていってしまった、何時もならIS学園で騒ぎが如何して起こらないんだと疑問に思う筈だが、今ばかりはそんな事を考える理由はまるでなかった。ぐったりと身体を床に投げ出しながら声を上げてしまった。

 

「あぁぁぁっ~……ああもう本当にいい女だよな束さんはったく!!!」

 

苛立っているかのように声を上げるが実際はそんな事はなかった、束の事は嫌ってもいないし好感を抱いているぐらいだ。だが如何にも素直になれない、そんな複雑な少年心が荒ぶっているのである。

 

『そう言いながら、ドーパミンやオキシトシンが脳内では多く分泌されているようですが』

「そりゃ……気持ち良かったからだよ!!!」

『それは結構です、お父様』

「喧しいわ!!!!」

『それとお父様、もっと幸せになれますよ』

「だからやめろって…なにっ?」

 

カチドキの言葉に思わず疑問を抱いて言葉が止まった、どういう事だろうかと考えるよりも結果が早くやってきた。それは扉を開けて元気いっぱいに自分に抱き付いてきた乱であった。乱は瞳をキラキラと輝かせながら自分を見つめている。

 

「聞きましたよカミツレさん、セシリアとキスしたって」

「あっああ……そうだけど」

「じゃあアタシも、してもいいですよね!」

「えちょ待って心の準備―――むぅっ!?」

 

 

「カ、カミツレ…?な、なんかやつれてないか……?それに引き換え、なんかセシリアと乱さんは元気そうだけど……」

「……聞かないでくれ。一つだけ言っておくぞ、女は、強いんだ……そして、行動には責任を、持て……」

「お、おう……」




次回から多分、第6巻の内容かなぁ……。


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92話

「誕生日ねぇ……」

「ああ。その日は中学時代の友達が集まってパーティを俺の家でやるんだけどさ、皆も来ないか?」

 

訓練を終えたカミツレは遅れながら夕食の席に着こうとした時、普段の面子が集まっているのに見付かり一緒に食べる事になった時の話題「織斑 一夏の誕生日」であった。

 

バースデイパーティ(誕生祭)か、日本式はどのような物なのか気になるな。私も参加させてもらおう」

「おう来い来い、鈴も来ないか?」

「あ~…まあ昔のダチに会うのも悪くはないわね」

 

ぶっきらぼうに串カツを食い千切りながら参加を表明する、一夏と一定の距離を取り続けている彼女だが最近の色んな意味で急激な成長を遂げている一夏には複雑な思いを向けながら友人として振舞い続けている。本心としてはもっと早くに成長して欲しかったと言った所だろうか。

 

「それじゃあ僕も行こうかな、折角のバースデイならお祝いした方が楽しいもんね」

「ああ、是非来てくれよ。いっぱいいた方が楽しいもんな、箒も来てくれるよな」

「ああ勿論だ」

 

その言葉に一番の笑顔を浮かべる一夏、最近漸くある程度のポーカーフェイスを習得したらしいが一夏らしくまだまだ隠しきれていない部分が多い。

 

「セシリアと乱さんは如何する?」

「カミツレさんが行くなら行きますわ」

「同じく」

「んでそのカミツレは如何するんだ?」

 

二人からの視線を集めながら答えを求められる男は静かにコーヒーを啜りながら少し思考する、なんだかんだで最近は彼とも悪くない関係を築いてきている。最初こそ考えられなかった関係だが…今なら祝っても良いような気がする。自分でも変わったなと思いを巡らせるほどに変化、転換している自分に何処か笑いを浮かべながら行く意志を伝えると一夏は嬉しそうに笑いながら紹介出来ると微笑んだ。

 

「あっそういえばカミツレの誕生日って一体いつ何だ?」

 

思わず聞いた時、セシリアと乱が凄い勢いでカミツレを見つめた。そう言えば普段から傍に居られている充実感や、漸くする事が出来た恋人らしい事に完全に気を取られて忘れていた。そんな彼の誕生日を知らなかった……充実していた毎日だったとは言え恋人の誕生日を知らなかったとは……。何たる不覚かと言わんばかりにカミツレへと視線を集中させている。

 

「俺か?別に良いだろ如何でも……」

「「よくないっ!!!!!」」

「アッハイ」

 

正直カミツレにとって誕生日は余り深い印象はない、実家では毎日が騒がしく楽しい日々だったので誕生日が全く印象に残らない。そもそも誕生日パーティをした記憶すらない、幼い頃はやっていたのかもしれないが全然覚えていない。故か自分でも何時が誕生日だったのか全然覚えておらず、徐に生徒証を取り出して確認する。

 

「え~っと……」

「杉山君覚えてないんだ……誕生日」

「ああ。マジで如何でもいいからな、ああ此処か。9月の……23日だな」

「同じ月だったのか俺達」

「みたいだな」

 

同じ月の生まれだったと驚く一夏と至極如何でも良さそうな表情を浮かべているカミツレ、本当対照的な二人である。がそんな二人をよそにセシリアと乱は全力でガッツポーズを取っていた、今年の誕生日を逃しておらず祝う事が出来るという事への安心感と喜びが全身を突き抜けて行く。

 

「んじゃまずはカミツレのパーティをやるか?」

「いいよ別に……態々年取るだけの日だぞ、んな事されても俺が困るわ」

「そっかぁ?普通に誕生日は祝うだろ」

 

本当に如何でも良さそうにしているカミツレにセシリアと乱は決意した、愛しのカミツレの為にサプライズのバースデーを行う事を。この後、セシリアは本国にいるチェルシーとリチャードに連絡を取ってどのようなパーティを行うべきかを協議しつつプレゼントの選別に掛かった。何せ自分には愛の伝道師が付いているのだから心強い、しかしそんな愛の伝道師は世界の何処かで吐血して嫁に慰められるのであった。

 

一方乱も何もしない訳ではなく、経験豊富な両親と親戚に連絡を取って一体どんな物を送ったら喜ばれるのかという物を真剣に悩むのであった。そして最終的に手作りの物に落ち着いたらしい。どんな物かは同日までのお楽しみにという事。

 

「にしても、その日って確かあれがあるんじゃなかったか」

「ああ。だから終わってからだな」

 

カミツレの言うあれとはISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』の事である。国際大会としても採用され行われている競技で、カミツレもよく知っているヨランドもそれに何度も出場し栄光をその手にしている。市のイベントとして行われる物にIS学園の生徒も参加するらしく、この場の箒以外全員が専用機部門の参加が義務付けられている。

 

「にしてもレースか……IS使ってやるってすげぇ豪勢なマリオカートだな」

「いや一夏、マリオカートと同一視するのはどうかと思うよ……?」

「だって赤甲羅とかの代わりにミサイル、キノコの代わりに『瞬間加速』とか適応したら完全にマリオカートじゃね?最近のマリオカートって海の中とか重力無視して走るし」

 

なんとも身も蓋もない言葉に一同は苦笑いを浮かべる、まあ言いたい事は理解出来るような気もするが…カミツレはマリオカートのキャラ選択画面に各国の国家代表を組み入れた物を想像して、僅かに噴出す。

 

「カチドキの高機動パッケージはない筈だからスラスターの出力調整とかもしておかないとな……「ディバイダー」とかしっかりやっておかないと大変な事になるからな」

「あっやべ俺もやっとかないとな……」

「あっそうだ。カチドキ、明日整備室行くから連絡しといてくれ」

『了解しました』



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93話

その日、カミツレの姿はアリーナにあった。「蒼銀」のスラスター出力を『キャノンボール・ファスト』用に組み上げたプログラムをカチドキが完成させたので、それとの親和性をカミツレ自身の目と手で確認する為に整備室で作業をし、帰りに軽いテストを行う為にアリーナを訪れていた。使用出来る時間は僅かなので早く行動を起こす必要がある、ISを展開しプログラムを実行して出力を変更する。

 

「始めるぞ」

『OK! START YOU'RE ENGINE!!』

「……今度はドライブか?」

『イッテイーヨ!!』

「……キュウニ、マッハ……」

 

相棒の特撮物への嵌り方は少し何とかしなければ行けないと決心しつつ、スラスターに火を点して一気に加速する。一気に加速していく「蒼銀」は普段よりもピーキーな操作性になっており一度稼動させると強制的に最低出力は60%に保持されるという物になっている。これに負荷を掛けて速度を落とす事は出来るが、負荷を掛けなくすると再び出力は60%へと戻され加速するという仕組みになっている。

 

「ぉぉっ……!!」

 

ループを描くように曲がる、そしてストレートになると強制的な加速。高機動中の意識分配を減らそうとしているカチドキなりの気遣いらしく、カチドキはそれ以外の事に集中するらしく。何せバトルレースなので攻撃による妨害は勿論許可されている。故に本体から独立して操作する事が出来るBT兵器を保持しているカミツレは非常に有利となっている、セシリアもそれに当て嵌まる筈なのだが…当日には高機動パッケージである「ストライク・ガンナー」に換装すると本人が言っていた。それはティアーズを固定してブースターとして使用するらしいので、実質BT兵器を使えるのはカミツレだけとなる。

 

「おおおっっ!!!」

『SP-SP-SPEED!!』

 

『瞬間加速』を使用して更に速度を高める、高機動用プログラムを作動している状態では『瞬間加速』にて使用されるエネルギーも通常時よりも高くなる為に速度が今まで以上に爆発的に跳ね上がる。それに今の内に慣れておかないと本番で大失敗を起こしてしまう恐れがある。普段の物より約3割程高い速度に戸惑いながらもそれに順応して行く。

 

「しゃあっ!カチドキ、最後の仕上げだ!」

『OK!!! FOR-FOR-FORMULA!!』

 

そして遂にもうカチドキではなくベルトさんと呼んだ方が良いのかと思い始めてきたカミツレは自分の最高の技術である物に踏み込んだ。「個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)」を発動する、全体的に出力が上昇している中でこれを発動し制御しきれるかでこれからが決まってくる。息を整えながら集中しエネルギーを蓄積して行き、そしてそれを一気に開放する。

 

「っっっ―――!!!!!!」

 

超高出力のエネルギーが各スラスターから点火されていき、残像所か一瞬世界から消え失せたかのような爆発的な速度を生み出す。味わった事すらない速度の領域、一瞬時の薄い膜の切れ目が目に焼きつくほどの速度に困惑しそうになるがそれをヨランドからの教えが引き戻す。

 

『高機動時における最大の注意は平常心を持ち続ける事ですわ。それが抑制剤となって常に本来の自分をみせ続けてくれますわ』

 

常に自分を見続ける、余裕が本当の自分と心の安定を導いてくれるとの教えが困惑から開放してくれる。そして時の中を突き進む「蒼銀」を制御しながらカミツレはアリーナの地面に着地した。それと同時に各部から放熱が行われていくのを見て、確かな実感と感覚を掴む事に成功した。

 

『個別連続瞬時加速の成功を確認。NICE DRIVE!!』

「あんがとさん…というかカチドキ、お前マジでドライブに嵌ってる?」

『YES。あの作品は私達ISのコア人格としても興味深いテーマを扱っております。何よりストーリーも面白く、ベルトさんがユニークです』

「まあ分からんでもないか……」

 

確認も終了したのでピットへと帰還し展開解除を行う、大きく息を吐きながら部屋へと戻る事にした。

 

『今現在、コア・ネットワーク内の人格会話ではどの仮面ライダーが一番好きかという事に触れております。カミツレはどれを推しますか?』

「俺ぇ?うーん……どのライダーも好きだからなぁ、でも一番印象深いのは555かな」

『気が合いますね、流石相棒。ですが№1なのはドライブなのは譲りません』

「そもそも全部のライダー好きだから、それに優劣を付ける気ねぇよ」

 

そんな会話を相棒としているとその途中で部活終わりのセシリアとバッタリ出くわした。

 

「あらカミツレさん、カミツレさんも訓練からのお帰りですの?」

「ああ。セシリアは?」

「私はテニス部での練習が終わったのです」

「テニスか…やっぱり練習きついか?」

「ええそれなりには。さすがIS学園ですわ、潤沢な資金と環境があるお陰かレベルも非常に高くてやり甲斐がありますわ♪」

 

そんな笑顔を浮かべるセシリアに相槌を打ちつつもテニスウェアに身を包み、優雅且つ美麗にショットを放つ彼女の姿を想像して思わず心がときめいてグッと来るカミツレであった。しかしそんなテニス部の練習も厳しいものなのか、やや息は乱れ少しダルそうにしている。

 

「これからセシリアは部屋か?」

「はい、シャワーを浴びるつもりですわ」

「そっか…それなら後で俺の部屋に来ないか?これでもマッサージには自信あるんだぜ?」

「ま、真ですの!!?」

「ああ偶には、俺からサービスしてあげないとな」

 

その言葉に目を輝かせるセシリア、これは是が非でもやって貰おうという決意が現れる。そしてこれでカミツレとの仲を深める事も出来るのだからいい事尽くめである。

 

「それでは一度部屋に……いえ何でしたらカミツレさんのお部屋のシャワーで……」

「勘弁してくれ……」

「フフッ冗談ですわ♪」

 

一度お辞儀をしてから軽いスキップを踏んで部屋へと向かって行くセシリアにまだまだ勝てそうにないなと思いながらも自分も部屋へと戻って行く。軽い感じで言ってしまったが、今から少し緊張してきてしまった。



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94話

鼻唄混じりにシャワーから溢れてくる温かな水流で泡を流していく、実は部活直後に一度シャワーで汗は流しているのだが念には念を入れてと思いシャワーを浴びている。これから愛しの彼の部屋に行くのに、少しでも汗臭いと思われるのは恋人として嫌な気分なのだ。

 

「いえ、でもカミツレさんになら寧ろ……い、いけませんわ淑女としてはしたない!!」

 

一瞬危ない事を考えてしまったセシリアは顔面からお湯を被って正気を取り戻すが、顔が笑ってしまって致し方ない。あのカミツレにマッサージをして貰えるなんて嬉しすぎて可笑しくなってしまいそうだ、肌に触れて身体を解して貰える……考えるだけで妄想がスパークしてしまいそうになってしまう。そんな自分を諌めながら身体を良き拭いて、お気に入りのバラの香水を吹き掛ける。

 

「しっ下着はどうしましょう……」

 

帰国した時に愛の伝道師ことリチャードの妻であるドロシーの協力を仰ぎ、入念に吟味して手に入れた勝負時用の下着……決して派手過ぎず淡白すぎない調和の取れた物で事前にドロシーがリチャードに対して使って見た所、鼻血を垂らしていたとの事なので効果は絶対に期待出来る!が、それを今使うべきなのかという事である。

 

「……もういっその事、上の下着は付けないというのも……そ、そそそそんな恥ずかしい事なんて出来る訳ありませんわっ!!?」

 

それからセシリアはじっくりと30分、時間を掛けて服を選ぶのに要してしまった。そして彼の部屋の前へと立って控えめにノックする。あくまで淑女らしく、お淑やかに装っているが内心では興奮と緊張でいっぱいであった。結局彼女が纏っているのは無難なパジャマだった、がシルク製且つイギリスの高級店で購入した物なので一般家庭のそれとは一線を画している。

 

「セシリア、待ってたよ。さあ入ってくれ」

「え、ええ。お待たせして申し訳ありません、お邪魔しますわ」

「良いんだよ、レディの準備を待つのも男の甲斐性ってリチャードさん言ってたし」

「(愛の伝道師のおじ様ぁぁぁっっ!!!)」

 

今日も何処かで大貴族の当主が吐血する。

 

 

「やる前にお茶でも飲むか?リチャードさんから貰った奴が残ってるし」

「ええ、頂きますわ」

「んじゃ直ぐ入れるよ」

 

これほどに簡単なやり取りにさえ心が弾み、お茶を入れる動きをしているカミツレを見ているだけで幸せになれる。カミツレを守る為に複数の恋人を認めると最初に決めたのは彼女、しかし今は…今だけは彼を独り占め出来ているという事実が胸を満たし、ドキドキに拍車を掛けている。

 

「(はぁぁっっ……ますます魅力的な殿方になって行きますわぁ……)」

 

最初から彼の事を見続けているセシリアにとって今の彼は魅力的で理想の異性その物であった、初心者と指導者から始まった彼との関係。それが紡いできた絆は何時しか恋、愛へと変わって行く。彼の立場は気付けば初心者からイギリス国家代表候補生、自分と同じ立場になり交際を決め恋人同士……将来を誓い合った仲へとなっていた。

 

「はい、セシリアはミルクとかいれるのか?」

「いえこのままで結構ですわ、御気遣い有難うございます」

「気にしないでくれよ、恋人同士なんだから」

 

テーブルの上へと差し出された手、それへとそっと手を伸ばして互いの体温を感じあう。心から幸せを感じながら紅茶を飲む、心が落ち着いていくのが手を通じてカミツレにも伝わっているのか彼は笑顔を崩さない。

 

「それじゃあ、そろそろ始めるか。俺のベットで悪いけど横になってもらえるか?」

「はっはい宜しくお願いします!!」

 

思わず大きな声になりながらベットへとうつ伏せで横になる、僅かにかおるカミツレの匂いにイケない興奮を強く覚えてしまう。緩くなっていく頬が高揚して行き思わず匂いを強く嗅いでしまう。そして一言が掛けられてから、足へとカミツレの手が触れられた。瞬間電流が走るかのような感覚を覚えつつも、手馴れた手付きでカミツレのマッサージがされていく。始まっていくマッサージは上質なシルクのパジャマと肌の間で官能的な刺激を齎しながら全身に伝わっていく。その感触に思わず、ドキンと大きく胸が高鳴る。

 

「ぁぁっん……なん、て気持ち、良さ……」

「そりゃ良かった。にしても大分凝ってるな……身体のケアはしっかりしないと後で辛くなるぞ」

 

揉み解されていく疲労と募っていくドキドキと興奮、マッサージを施しているのは恋人なのだから無理も無い。そして足から腿へ移行していくといよいよお尻へと手が行こうとする、カミツレは全身のマッサージを請け負っているのだからやるしかない……と覚悟を決める。セシリアもゴクリと喉を鳴らした、毎日下半身の引き締めのストレッチをしているのだからきっと大丈夫だろうと思いながらその時を待つ。

 

「そ、それじゃあ行くよ……?」

「は、はい……ぁん♡」

 

柔らかな膨らみに指が沈んで行く、本当に人体なのかと思いたくなる程のやわらかさに真っ赤になりながら必死に解して行く……がその度に強く感触を感じてしまうと同時にセシリアから漏れてくる声に悶々と思いを募らせる。セシリアも頭が沸騰するほどに顔を赤くするが、それ以上に今まで以上の快感に声を出さずにいられなかった。出来るだけ抑えているつもりだがそれでも抑えきれない快感が突き抜けて行く。

 

「こ、腰に行かせて貰います…」

「お願いします……」

 

もう疲れてしまっているカミツレと快感で口の端から涎が垂れてしまうほどにだらしない表情を作り、快感の渦に身を委ねてしまっているセシリア。ゆっくり丁寧に。一つ一つの部位を指圧し解されている感覚は如何にも気持ち良すぎて可笑しくなってしまいそうになる、気付けばセシリアはもうそれの虜になっていた。

 

「よ、よし終わったぞ……」

「んっぅ~……なんて快感だったのでしょうか…からだが軽くなったようですわ♪」

「そりゃ良かった……」

 

セシリアはとても気持ち良かっただろうか、カミツレからしたら彼女が漏らす官能的な声に暴れようとする理性を止めるので必死でもうくたくたであった。身体を癒す為にやっているのに自分は何をする気なのだと、強く自分を諌めていた。同じくベットに座りこんだ彼の隣に座りなおすセシリアはすっきりしたような表情を浮かべている。

 

「本当に有難うございますカミツレさん」

「いいよ俺が言いだした事だし、世話になりっぱなしな俺がやれる事はやるさ」

「で、では一つ我が侭を言っても……?」

「んっ良いけど?」

 

そう言いながらセシリアの方を向いた時、柔らかい感触が唇に触れて甘い匂いが自分を包んだ。離れてセシリアは赤い頬をしながら照れながら笑っている。

 

「駄目、ですかっ……?」

「―――いいよ」

 

その言葉を皮切りにセシリアはカミツレを押し倒すように抱きつき、待ち侘びていたかのようにキスをし続ける。そんな彼女を受け止めたカミツレも我慢していたものを、解き放つようにそのまま深く抱きしめながら唇を合わせ続ける。

 

「ハァッ……んちゅぅ……ぁぁっ…」

「んんっ……んあっ、はぁはぁっ……」

 

部屋に響く水音と互いを抱きしめ続ける音と混ざり合った呼吸音、何度も何度も繰り返されるキス。落ち着き始めた二人の間には銀色の橋が築かれ光を放っていた。

 

「カミツレ、さん……」

「セシリア……」

 

もう一度二人は口付けを交わす、その日一番深くて熱いキスだった。




……誰か、一緒に野菜汁でも飲まないか……。


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95話

遅れてすいません、これからも何とか頑張ってやって行きます。


『やぁ我が姪の夫よ、遂にやってくれたねぇ……我が姪も嬉しそうでなによりだようんうん』

「リ、リチャードさん勘弁してくださいよ…。恥ずかしいじゃないか……」

『ハッハッハッ!何を言う、自分の妻となる女性と仲睦まじく過ごす事を言われ恥ずかしがる事などないぞ!』

「……愛の伝道師」

『ガッハァッ!!!』

「ガチ吐血っ!!?」

 

投影型のウィンドウの向こう側にいるのはセシリアの親戚でありイギリスの大貴族、ウォルコット家の当主であり良き相談相手でもあるリチャード。久しぶりに向こう側からの連絡を受けたカミツレだが、そのリチャードは酷くニコやかで嬉しそうな顔であった。どうやらセシリアから話を全部聞いたようだ……。

 

『カ、カミツレ君そ、その呼び名だけはマジで止めてくれ……私にとっては思い出したくもない物なんだ……』

「よくんなもん姪に話しましたね……」

『あの時は良かったんだ…セシリアを元気付ける為だったんだ…それにもう忘れられてると思ったらバッチリ覚えてて……ガハァッッ!!』

「また吐いたぁぁっっ!!?」

 

この後も吐血を繰り返していたが、それは愛の伝道師という名前を聞いて急激に出来た胃潰瘍による吐血だったと判明。しかし本人曰く直ぐに治るので気にしない欲しいと言われたが、それほどに急激に胃潰瘍が出来たり治ったりするリチャードの身体の事が凄まじく気になった。まあ実際は千冬がカシスジュースを吐いたようにワインを吐いていただけだったらしいので、深く心配する必要はないだろうが……。

 

『そもそもあれは私が男女問わずに恋愛相談を受け、その恋愛が尽く成功してしまったから周囲に呼ばれるようになってしまっただけで私はそれを自称した事は一度もない!』

「まあんなもん自称してたら引きますけどね」

『だろ……?私もこんな名前なんて永遠に呼ばれたくはない、だが大事な姪が眩しい笑顔且つ賞賛の目的でそう呼ぶのだよ…もう辛いなんてもんじゃないよ』

 

軽くげっそりしているリチャードへ同情を込めた視線を送る、それは確かに気の毒だ…姪を励ます為に自分にとっての黒歴史を暴露し今度はその姪から頼られる形でその黒歴史を使われる……リチャードにとって辛い物でしかないだろう。

 

「まあうん……どんまいっす。んで今回連絡をくれたのはいったいどうしたんですか?」

『おおっそうだ、学園から送られてくる君の稼動データなどを解析中なのだがね。本当に驚いたよ!まさか君がBT兵器をあそこまで十全に動かせるとはね!!研究機関は狂喜乱舞しているよ』

 

なるほどその話だったかとカミツレは苦笑いを浮かべた。一応自分にもBT兵器を動かす為の適正はあるが、セシリアに比べると劣っており平均値から見てやや上程度の適正しかない。しかしそんな自分がセシリアとほぼ同等レベルのBT兵器の稼動をさせているのだから、イギリス本国の研究者連中から見たら脅威的としか言えないんだろう。実際はカチドキが稼動させているのであって自分は一切動かしていない。

 

「セ、セシリアにコツを教えて貰ったんですよ。彼女が普段どんな風に扱っているとか」

『成程、だがそれだけでこれだけ動かせるのは君のセンスが素晴らしい事の証拠だ。もっと誇っても良いのだぞ?』

「い、いえ現状に満足せず努力し続ける事が一番大切な事ですから(動かしてるの実際俺じゃないしなぁ……)」

『ふむ、日本のコトワザというのもあったな。確か……「勝利にして尚、武具の襷を緩める事なかれ」という物だったな、流石侍の国の男だなカミツレ君!』

 

恐らく「勝って兜の緒を締めよ」と言いたいのだろうか、まあ言いたい事のニュアンスは十分に伝わってくるので問題はないが……。しかしこうして褒められるのも悪い気分はしない、本来褒められるべきはカチドキなのだろうが……カチドキはさっきからコア・ネットワークに潜ってライダー談義に花を咲かせている、らしい。ドライブを布教するのだと息巻いていたが、ライダーはやっぱりバイクだろう意見やマッハやチェイサーの方がカッコ良いと苦戦しているらしい。

 

『私の妻も是非君にあった時に話をしたいと言っていたぞ。これは一躍スターの仲間入りだな』

「勘弁してくださいよ俺はそう言うの苦手なんですよ、せめて雑誌取材がギリギリですよ」

『ああそう言えば君は日本の雑誌取材を受けていたね。あれなら世界各国で翻訳されて発売されているぞ?』

「うッそぉ!!?」

 

カミツレが取材を受けたインフィニット・ストライプス10月号「IS男性操縦者特集、杉山 カミツレ氏に聞く」は世界初の男性IS操縦者に対して行われた雑誌取材という事で価値が非常に高く、全世界で翻訳され出版されている。政府機関にも参考資料として組み込まれており、各国はこれを基にしながらカミツレへの接触案を立案しようとしているとかしていないとか。因みに母国版にのみ付属しているポスターは今現在、超が付くレベルのプレミアがついており5種のコンプリートセットだった場合、凄まじい高値が付くとか。

 

「……うっそっ……?」

『いやマジマジ、私もあの雑誌は一応ポスターコンプも兼ねて買ったが貴族仲間から凄い譲ってくれと言われたからね。まあ断ったが未だにしつこく言われているレベルだ』

「……ええっ」

『イギリス国内ではファンクラブまで出来ているからな、君の人気は既に世界規模……ってあれカミツレ君?お~いカミツレく~ん?』

 

思わず頭を抱えてしまったカミツレは一言断ってから通話を切って、ベットの上で蹲っていた。それが恋人の二人が遊びに来て慰めるまで続いたとか。



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96話

書いていると落ち着くのでこれからも書いて行きます。
少し、ペースは落ちるかもしれませんが。


今日も今日とて真面目に訓練に勤しむカミツレの姿がアリーナに見られる、アリーナを使用出来る日はほぼ必ずアリーナに出向いて訓練を行う直向きさと肉体面の訓練も絶やさないカミツレ。そんな彼の真面目さに触発されている代表はセシリアや乱、そしてあの一夏である。最近では千冬に自ら身体も鍛えた方が良いのではと進言し、ナタルに肉体作りのメニュー製作の推薦をしてもらい身体をも鍛える。アメリカ軍仕込みのメニューをラウラというドイツ軍の少佐に見てもらいながら行うという徹底振りで上を目指している。彼の成長を支えているのはメニュー管理と確りとした指導を行うラウラと彼を支える箒の存在も大きいだろう。

 

「うっくぅぅぅ!!」

 

強制的に出力ロックがされる高出力モードでの訓練、未だに「黒鋼」の時の感覚が残っているカミツレは少しでもその癖を抜こうと努力を続けている。高出力に負荷を掛けてスピードを下げつつ、急カーブを刻みながら負荷を0にして一気に加速していく。時々入れている「瞬間加速」によって身体中に掛かる感触、自らが今出せる物を最大限出しつつ更なる高みへと登る。それがヨランドの教育方針であった、それに沿いつつ真耶が作ってくれた高機動訓練メニューをこなしていく。

 

「おおおっ!!!」

 

そこいらの代表候補生も驚く訓練メニュー、しかしそれに必死に喰らい付きながら実力を高め続けていくカミツレは今や学園中から注目を集めており3学年もこっそりと練習風景を見学に来る程だった。

 

「これが1年の訓練メニューって嘘でしょ……?」

「うわぁっ……私達が1年の時の訓練が馬鹿にされても可笑しくないレベルゥ……」

「えっちょっと待って、今彼「ライトニング・アクション」しなかった?」

「嘘でしょ!?あれって1年が覚えられるような技術じゃないわよ!?」

 

カミツレは自分では気付けていないが自分が行っているカーブとストレートの緩急を付けた動き、それは高機動技術としても知られている「稲妻軌道動作(ライトニング・アクション)」と言われている物。緩急を付けつつカーブとストレートの機動を織り交ぜる事で相手を幻惑しつつ、相手へ突撃するという攻防一体の技術だが本人は全く気付いていなかった。何故なら―――

 

『―――良いですかツェレ。ISの機動中は通常の機動にも工夫が必要なのです』

『工夫……ストップ&ゴーをするとかですか?』

『正解ですわ。それを滑らかにする事で相手の偏差射撃のリズムをズラす事も出来ます、しかしそれは難しいのでまずはカーブとストレートを織り交ぜる事から始めましょう。これが自然に出来るようになるのですわ!!』

 

とヨランドから教えを貰った時の初期に言われたからである。それが自然に出来るようにと口を酸っぱくされるほどに言われたのである、なので本人は今やっている動き方にそんな名前があるなんて全く知らない。ヨランドからは代表候補生にはこれを当たり前に出来る人もいるからそれを目指そう…と言われたからやって体得しただけである。カミツレのそれは彼の技量の関係で本来の物より角度などは緩い物の、それでも十分すぎる技術である。

 

因みにヨランドの言う代表候補生とは、昔の自分や千冬、真耶の事を指している。つまり、大体ヨランドのせいである。

 

「っっ……!!」

 

最大出力での「瞬間加速」に「稲妻軌道動作」を織り交ぜるという領域に挑戦しようとしたカミツレだったがカーブからストレートにはいろうとした所で制御し切れずに失敗してしまう。各部から放熱を行いながら悔しそうに歯軋りをし、深い溜息を付いてしまった。これでこれの失敗は何回目になるのだろうか…と。

 

「いやまだまだ。人間、トライ&エラーが基本なんだからな!!カチドキ、まだ行けるか!!?」

『張り切っている所すいません、関節部がやや損傷気味です。自動修復機能で修復可能ですが、これ以上の訓練はお勧めしません』

「そっか……それじゃあしょうがないな」

『がっかりしないでくださいカミツレ、後で私厳選のドライブを見ましょう』

「因みに好きなタイプは?」

『DRIVE TYPE:SPEED!!』

 

相棒からの言葉を受けつつもピットへと戻って行くカミツレ、彼が「稲妻軌道動作」に「瞬間加速」を組み込んだ機動技術に執着するかのように練習を重ねているのは理由がある。カミツレの師匠であり最も敬愛し信頼している教師である真耶、彼女が現役時代に使用していた必殺戦術が彼が練習している技術だったからである。

 

「まだまだ俺の技術が足りないのかぁ……」

『一般的な操縦士の視点から見たら、カミツレは十分な技術だと思いますが』

「そうだとしても俺が満足出来ないのさ。真耶先生に見て欲しいんだ、俺はこんだけでっかくなったんだぞ!って物を。まあその……俺、真耶先生の弟子だし……」

 

弟子だからこそ師匠の技術を体得したいというそんな考えがあった、専用機を受領してから改めて真耶の偉大さと彼女への感謝が浮き彫りになったカミツレは一層彼女へ尊敬を向けるようになっている。だからこそ真耶が現役時代に使用していた技術を物にしたいと努力をしている。

 

「まあ、次も頑張るさ。失敗が明日の成功の母になるって」

『努力あるのみです、積み重ねこそ成果への近道です』

「サンキュ」

『そんな事よりカミツレ、一番好きなライダーキックはなんですか。アクセルクリムゾンスマッシュが凄い人気なんですが』

「あ~……あれカッコ良いもんなぁ……それも良いけどタジャドルのプロミネンスドロップも推したい」

 

後日、この事を知った真耶は号泣しながらカミツレに抱き付いてお礼を言った際、セシリアと乱に凄い睨まれてしまいお返しに熱い抱擁を送る事になったカミツレであった。



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97話

「うにゅ~ん……」

 

その部屋をおいて、奇妙な部屋は名乗れない。部屋の至る所にはケーブルが張り巡らさせておりそれは大蛇のように時折蠢いている。所々で光るランプの明かりはまるで樹海の中で、獲物を待ち侘びている生物の目を思わせる。機械的で有機的、極めて奇妙な部屋の中の中心で一人の女性は黙々と複数のキーボードを同時に叩きながら投影されているモニターを見つめている。正確に言えば彼女の手に装着されているグローブの指先にある無数のアームが彼女の思考などを反映しながらキーボードを叩いている。一人で軽く数十人分に相当するであろう作業を行い続けている。そんな大蛇の上を駆けていく機械仕掛けのリスは床に転がっている部品などを回収しつつ、カリカリとドングリ宜しく齧ってながら別の物質へと分解、再構成していく。

 

摩訶不思議な機械の森、その中心部に座す主―――篠ノ之 束は作業を続けながら近場に置かれている写真立てに目を向ける。そこにはやや困りながらも笑っている愛しい愛しい旦那様になるべき存在である杉山 カミツレと彼に抱き付いて頬擦りをしている自分の姿が映されている。彼には済まないが如何しても欲しかったので超小型マシンのカメラで取った隠し撮り写真。彼女の部屋の一帯はカミツレの写真で埋め尽くされており、最早狂気じみたストーカーの部屋のような惨状になっている。

 

「♪」

 

しかし彼女に取って満足以外の何物も無かった。彼女にとってカミツレという男は特別も特別な存在なのだから、この世界で自分以外に真の意味でISの本質を理解し子供と認識してくれた人。束は心から彼の事を愛している、その愛はセシリアや乱にも負けはしない。自分は立場上彼の傍にいられないが、自分とカミツレは確かな物で繋がっている。そうISという特別に強い絆で繋がり続けているのだから。

 

「んんっ……♪」

 

思わず彼の身体を抱き締めた時の感触と体温を思い出してしまう、その時の感覚が自分に更なる意欲と力を与えてくる。艶っぽい声を出しつつも指先のアームの速度は倍近くに跳ね上がった、頭が更に活発となり行っていた作業が凄まじい速度で仕上がっていく。既に今日の時点で終わらせようと思っていた物が完成され、それの完成度を高める為の物へとシフトされている。

 

「んっっっ……♡」

 

右手をグローブから外し口へと運び甘噛する、あの時の夜とあの日の唇の感覚と甘さを思い出すと興奮して致し方ない。発情一歩手前まで興奮が高まってしまうので必死に抑える、その興奮が更に残ったアームの速度を加速させ開発していた物は完璧に仕上がってしまった。

 

「はぁはぁはぁはぁ……イケない、束さんってばはしたないなぁ……これもカッ君が魅力に溢れ過ぎるから…もう絶対に責任取ってもらわなきゃ……♡」

 

彼女の頭には折角完成した物は映らない、頭の中で浮かんでしまった光景への甘さしか感じられなくなっている。その甘さに浸りつつも、今すぐに彼の元へと参上して愛を囁きたいのを必死に抑える。自分が決めた暗黙の了解、それは好きな彼の迷惑に極力ならないと言う事。不定期ではあるが彼の元に参上して食事をご馳走になるがそれも、彼がもう嫌だと言えば直ぐにやめるつもりでいる。

 

今まで彼女の中にあったのは家族に千冬と一夏でしかなかった、そして自分が作り上げたISこと自分の子供達しかいなかった。しかしそんな世界に束が迎え入れた唯一無二の存在、それがカミツレ。仮にカミツレが何者に誘拐されたのであれば、束は全力上げて彼を捜索、救出し、それを実行した相手を一族を含めて血祭りに上げるだろう。そのぐらいに思い続けている。

 

「アハッ……♪」

 

上げられた無邪気だが邪悪な笑いは一体何に向けられた物なのか、それは彼女しか分からない。しかしそんな笑いは直ぐに収められた。目の前のモニターをスライドしてコア・ネットワークに接続するとそこでは自分の子供たちの楽しそうな話声が聞こえてくる。今日の議題は何だろうかと脇にポップコーンとカルピスコーラを置きながら見つめる。

 

束の日課でもあるコア・ネットワークでの会話観察、自分の子供たちであるISのコアは自分達の自我を持って操縦者たちとの触れ合いや刺激や情報収集を得て成長している。そんな環境下で成長を遂げて行く子供たちが一体どんな話をするのかは束にとっても楽しい事でもある。そんな中でも議題は……どうやら№274ことカミツレの相棒であるカチドキが中心にいる「一番カッコいいライダーキックとは何か」であった。思わず束はズッコケかけたがすぐに大声で笑い出した。

 

「アッハハハハハハ!!!カッ君ってばやっぱり素敵だなぁ!とっても素敵だなぁ!存外に素敵だなぁ!!」

 

広義的に見えればISコアは機械だ、そんな機械に宿っている人格達は電子回路の中に仕込まれたプログラムの塊だ。しかし束にとっては愛する子供たちだ、そんな子供たちが此処まで人間的な議題について話しあい自己の趣向を提示しながらそれについて語り広めようとし、それに負けじと自身の好みこそ上だと言い張る。本当に人間のようじゃないか、いや最早コア人格達は人間のそれと全く同じだ、自分達と同じ人間性を獲得している。それを齎してくれたのは愛するカミツレじゃないか、彼と共に成長したカチドキじゃないか。

 

『スピードロップこそ至高、あの美しい連鎖と燃えるような身体と赤い閃光となるトライドロンこそ一番』

『何を言うですか、矢張り原点。仮面ライダー一号、本郷 猛のライダーキックこそ最高のライダーキック』

『違うわ、あのたっくんのクリムゾンスマッシュが一番カッコいいのよ!!』

『ちがぁう!タトバキックの良さも分からぬとは……!!』

『劇中撃破数0は黙ってろ!ライダードリルキックこそ最高だ!!』

 

次々とぶつけられていく議論の言葉に乗せられている感情、思い。それは人間が勝ち取り人間が保有し人間が行使してきた物だ、それを自分の子供たちも獲得している……なんて嬉しい事か。

 

『こうなれば我らがお母様にお聞きしましょう』

「うーん答えてあげたいけど、束さん仮面ライダーってまだ見てないんだよね。何処から見ればいいの?」

 

その言葉で一気に情報が流れ込んでくる、400以上のコアが一斉に自分が好きな作品を推してくる。だが束はそれを全て聞き分けながらどんな所が素晴らしいのかと語る言葉を記憶して行く、愛する子供の声なのだからそれは当然の事なのだ。束は幸せそうにしながらコアの声に耳を傾け続けるのであった。



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98話

「それでは今日は高速機動についての授業を行う」

 

一組の美人スパルタ教師事、千冬の声が第6アリーナに響き渡った。IS学園には授業の目的に適している各種アリーナが存在しており第6のアリーナである此処は中央の巨大タワーに直結しており、そこを中継点として高機動実習を行う事が出来る。その他には1年専用の訓練用アリーナや専用機持ち専用のアリーナもあるなど、流石は世界唯一のIS教育機関である。一体此処を建設するのにどれだけの金が動いたのだろうか…。

 

「皆も知っている通りこの第6アリーナは高速機動訓練目的に使用されるアリーナである。中央のタワーを周回や中継点とする事でISの高速機動に適した場となっている、今日の授業もそれらを生かして充実した物にするよう心掛けるように」

 

千冬の言葉に素直に了解の意を示す皆、そしてまずは見本を見せるという事で専用機持ちの中から数名を抜擢して実演をして貰う事になった。その抜擢されたのはセシリアとカミツレ、そして一夏であった。セシリア抜擢の理由は高速機動パッケージを装備しているのが大きな理由である。ビット全てを機体に接続し、推進力に回す事でハイスピードを可能にしている。その分、操縦者であるセシリアの実力が顕著に現れるのだが彼女ならば問題ないだろう。

 

一夏は「白式」その物が機動力特化型といっても過言ではないセッティングなので高機動の実演としては申し分ないと判断されたからである。実際「白式」の機動力は第三世代型の中でも指折りの物であり、世界最速のISを謳うイタリアの「テンペスタ」にも負けず劣らずの機動力を誇っている。

 

カミツレの「蒼銀」も機動力が高いという理由もあるが、それ以上に機体その物が次の世代への進化を視野に入れられたタイプで出力面の調整やシステムを弄るだけで高機動パッケージ並の機動力を確保出来るという理由が存在している。イギリスの技術者が目指したロマンの形、とリチャードは語っていた。BT兵器の「ヴァンガード」を推進力にしない代わりに「ディバイダー」の出力制限を解除する事で高機動パッケージ並の速度を確保出来る。

 

「それと通常装備ですがスラスターに全出力を調整されてますので、制御には気を付けてくださいね」

 

露骨に弟子に頑張れ~と笑顔を送ってる師匠、そんな真耶に苦笑いをしながら軽く手を上げて返事をする。幸いカチドキのシステム制御と高機動プログラムで準備も出来ている、軽くストレッチをしつつカチドキを展開する。

 

「えっとこうやってああやって……よし準備できた。前もってラウラに教わって正解だったな…カミツレ、俺漸く予習の重要性って物が分かったよ」

「分かったならいいが遅くないか?」

「カミツレさんと比べると雲泥の差ですわよ?」

「これから努力して、取り戻せるように頑張ります…」

 

二人の言葉の正しさに今までの自分に辟易しながら高機動用補助バイザーを装着する一夏、しかし頑張って遅れを取り戻せるように頑張ると宣言する。カミツレはカチドキが自動でハイパーセンサーの調整などを行っているので必要としない。

 

「それでは行きますよっ……3・2・1……ゴッ~!!!」

 

身の丈に合わないほどに巨大なフラッグを振るった真耶、その合図と共に三人は一気に飛翔していく。一気に加速して音速へと達していくIS達、流れていく景色は風に溶け込み、瞬間に無数の線になって自分を取り巻く風になる筈なのにそれら全てを鮮明に捉える事が出来ている。普段ならば見る事の出来ない超速度の中、また違った味わいがある。音すら置き去りにして、未来へと向かっていくISに身体を委ねる彼らはそれを制御しながら今の中を進んでいく。

 

「すげぇっ…世界ってこんな顔をもしてるのか……」

 

思わず感動してしまった一夏、自分の知らなかった世界の顔を見て感動に浸っていた彼だが脇をすり抜けて行く二人を見て自分も負けてられないとその後に続いていく。機動力では負けない一夏だが、経験と技術的な差の影響か追従する事は出来ても並び立つ事は出来ない。

 

「ぐぐっ…!!全然並べねぇ……!!」

「高機動訓練は俺も積んでるからな、お前とは経験値が違うんだよ」

「そういう事ですわ、まずは慣れる事が重要ですわ」

「まあそうだよなっ…!!」

 

矢張り自分はまだまだこの二人に並ぶ事は出来ない、しかし付いていく事は出来る。自分はまだまだ未熟であると同時に成長の余地があるという事を再認識できる、きっと何時かこの二人に並び立つ事が出来る筈だと信じて頑張って行こうと誓いながらタワーの頂上から折り返し、アリーナの地上へと向かって降り立った。

 

「うむ流石はオルコットだな、見事な操縦技法だ。杉山も中々の物だったが…お前は何時「稲妻軌道動作」を習得した?」

「ライトニング・アクション……ってなんですか?俺は別に特別な事やってませんけど、教えて貰った通りにやってるだけです」

「(あの残念完璧淑女めぇ……!!!ISに乗り初めて1年も満たない奴に「稲妻軌道動作」を教えよってぇ…しかも無自覚だと!?)……後で説明してやるから私の所に来い」

「はい分かりました…なんかいけない事やったかな……?」

 

千冬は思わず高難易度技術指定されている技術を自然な形で実行できるほどになってしまっているカミツレ、彼の技術を素直に認めつつもこれを教えた犯人に怨みを込めた唸り声を出してしまった。本来は強化指定代表候補生が習得するレベルの技術で、カミツレのようなまだ初心者というべき存在が習得して良いような物ではない。確りとどういう物か教え込まなければ……。

 

「それと織斑、初めてにしては中々良く機体制御が出来ていたぞ。高機動時に必要なのは平常心と落ち着いたハンドリングだ、それを常に心掛けろ」

「はい分かりました織斑先生!」

「いい返事だ、精進しろ」

 

肩を叩かれた一夏は少し照れくさそうにしながらも姉に褒められた事を嬉しそうに笑った。これもナタルのメニューとラウラの指導のお陰だ、後でお礼を言わなければ。

 

「では各自は班に別れて訓練に入れ、今年は「キャノンボール・ファスト」で異例の一年の参加が認められている。励めよ!!杉山来い、教えてやる」

 

号令を掛けてから千冬はカミツレを呼び出して、一対一で先ほどの事に付いて話をしつつ、理由を説明する。カミツレはヨランドにそう言う風に指導された事を言うと千冬は溜息を吐きつつ、喜ぶべきなのか怒りを燃やすべきか迷ってしまう。

 

「……まあいい、それとカミツレ。お前のポスター中々セクシーだったぞ」

「……まさか、買ったんすか……?」

「無論だ。全5種コンプリート済みだ、いい身体をするようになりおって……そろそろ食べ頃か」

「ち、千冬さん不穏な事言いませんでした?」

「何本気だから気にするな」

「気にしますって!?」

「冗談だ」



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99話

「にしてもカミツレ、お前は一体何処まで強くなるつもりだ?」

「俺が安心して暮らせるようになるまで、ですかね」

 

機体のチェックとスラスターの出力調整を行いながら千冬と会話をする、基本的チェックと調整はカチドキが全てやってくれているが全て相棒にやらせるのは心象的に悪い。自分でもチェックして相棒と一緒に仕事をしている実感が欲しい、自己満足的な行為だがカチドキからも悪い印象はないというから続けている。

 

「イギリスの代表候補になったからって俺はまだまだ危険な状態です、此処を卒業したらもっと面倒になりますからね」

「そうだな。今の段階で安心して暮らせるのはこの学園の特異性と狭さがあるからな」

「セシリアに乱ちゃん、俺には心強い恋人がいますけど自分でも力を付けたいんです」

 

そのために強くなる、そう言っているまだ未成年の少年に千冬は笑いを浮かべながら言った。

 

「いざとなれば束を頼る事も無い位に強く、か?」

「っ!?ちょ、何でそれを!?」

「本人から聞いたのさ、奴め嬉しそうに電話で言っていたぞ」

 

そこにある千冬の表情は純粋に親友が心から好きだと言える相手を見つけた事に対しての喜び、あそこまで人嫌いで他人に興味を示さず、世界に絶望までしていた親友に一緒に居たいと思える人が出来た。これを喜ばずにして何が親友かと言わんばかりに「蒼銀」に背中を預けながら言う。それに対してタイミングを見て言おうと思ってたカミツレは溜息を付いてしまった。

 

「ISの本質を理解した、そう奴は言っていた。私もカチドキの事を知った時は奴が言っていた言葉が全て正しかったと思ったよ。そして私が現役時代に何度も味わったあれは間違いなく、私の相棒の声だったとな」

「そうですか……すいません、束さんの事を考えるというべきだったんでしょうけど負担になるんじゃないかと思って」

「気遣いご苦労、だが親友の恋路を応援出来ない程度に器は小さくないつもりだ。それとこれからの事を考えると束の力は積極的に借りていくべきではないのか」

 

束の持っている影響力や技術力を考えると確かにそうかもしれない、ISのコアの製作は彼女にしか出来ない。そんな彼女との関係が明らかになれば他国はそう簡単に手を出さなくなるだろう。しかしカミツレは出来る事ならばそれは最終手段にしたいと思っている。

 

「それも確かにありなのかも知れません。欺瞞かもしれませんけど、俺は出来る事なら守りたいんですよ。俺を好きだと言ってくれる人達を…俺だって…」

 

力も遥かに劣る、立場も違う自分が言うのは場違いかもしれないがそんな願いを抱いている。今のままではきっといけないと分かっているからこそ努力を続けている、何時かは自分の力で好きな人を守りたいとそんな願いを持っている。

 

「やれやれ……それならもっと堂々としながら胸を張れよ青少年」

 

そう言いながら軽く小突いた彼女はそのまま他の生徒の元へと向かって行く、千冬にそんな言葉を受けたカミツレはそれを静かに見送った。目をやや白黒させつつも何処か嬉しくなりながら調整を続けた、今に出来る努力をし続ける事が自分のやりたい事に繋がるのだから。

 

「なあカミツレ、俺の「白式」の出力調整みて欲しいんだけど今大丈夫か?」

「あ、ああ少し待て……おしこれでいい」

 

そんな中やってきた一夏、一夏の「白式」は非常にワガママなセッティングの個性(パーソナリティ)を構築してしまっているらしく開発元である「倉持技研」は追加装備開発が出来ずにお手上げという事らしいと言っているがそれを聞いてもカミツレは呆れる事しか出来ない。食事を食べに来た束から聞いた話だが、元々「白式」は「倉持技研」が設計開発していた代物。しかし開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたものを束がもらいうけ完成させた機体であるという。開発元と言い張っているが、実際完成させたのは束である。

 

「にしてもカッコいいよなぁパッケージ……俺も欲しいぜ」

「無い物強請りをしても意味はないけどな…ここの調整甘いぞ」

「えっ何処」

「此処だよ、違うだろここはこう言う設定にするべきだろ」

「あっそっか…これだとロスが大きすぎるのか…でもそうすると俺が扱いきれなくないか?」

「そうしないと、まずエネルギーロスがでかすぎて途中でガス欠になるぞ。扱えきれないなら扱える範囲でスロットルを絞れば良いんだよ」

「でもスロットルワークって結構難しいぜ?カミツレはどうやってるんだよ、やって貰ってるのか?」

「んな訳あるか。慣れと経験だよ」

「やっぱりかぁ」

 

一夏の機体セッティングを事細かく見ながら指摘しつつ、運用のコツなどを口にしていく。

 

「カミツレの奴もパッケージ無いんだよな」

「まあな、一応開発中って話だが明らかに間に合わないから「ディバイダー」の出力制限とかを解除しつつ調整でやっていくんだ」

「武装が豊富で羨まし