悪神殺しはD×Dの世界へ (ヴォルト)
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カンピオーネ報告書

 正史編纂委員会『六人目の神殺し鬼崎摩桜に関する報告書』より

 

 

 

 鬼崎摩桜(きざきまお)は、十七の時にまつろわぬ神を殺しカンピオーネとなる。

 その際に殺した神の名はどちらもゾロアスター教の神で、火神アータルと悪神アジ・ダハーカである。

 アジ・ダハーカが顕現した事でアータルが連鎖的に顕現して二柱が戦っているところを殺した様である。

 

 

 彼の王は、同時期にカンピオーネとなった剣の王サルバトーレ・ドニとは真逆な性格である。

 

 

 しかし、真逆と言ってもそれは私生活などにおいての事であり、まつろわぬ神、神獣、神殺し相手には、面倒と口にしておきながら笑って闘いに赴く。

 

 

 

 彼の王の普段の姿を一言で現すなら『怠惰』である。

 

 何も用事が無ければ自宅にずっと引きこもってテレビゲーム、小説、ドラマを見ている。カンピオーネの中で一番サブカルチャーに嵌まっている王でもある。趣味の為に色々と金策──魔術の講師や癒しの霊水を売る──をして金を稼いでいる。

 そしてたまたま近くに住んでいた媛巫女に身の回りの事を勝手に世話されている。王本人は、「正史編纂委員会(お前ら)が命令してないのは知っているし、俺から頼んだ覚えはないのに何時の間にか世話されていた」と、話していた。

 

 草薙護堂が天性の女誑しなら鬼崎摩桜はある女性、具体的に言えば世話好き、心が強く優しい、聖女の様な女性、天然気質、責任感が強く真面目な性格、以下が含まれる女性を惚れさせる才を持つ。

 一緒にいる媛巫女・万里谷祐理はこの条件に該当する。

 

 他のカンピオーネとの交遊関係では、同時期のカンピオーネであるサルバトーレ・ドニとジョン・プルートー・スミスとの仲は比較的良好。

 剣の王とは半年に一回あるかないかで戦っていた。彼の王の権能でなるべく被害が出ないようにしてもらっているが少なからず何かは必ず壊れる。剣の王の権能が彼の王が張った結界を斬ってしまうためである。

 

 ロサンゼルスの守護聖人とは魔術関連で度々話をする間柄の模様。そして夜に一緒にロサンゼルスをパトロールをしたりしていた。

 

 黒王子アレクサンドル・ガスコインからは一方的に毛嫌いされている。理由としては彼の王が持つ権能と性格が原因かと思われる。鬼崎摩桜の権能の使い方のリスペクト先である事も要因の一つでもあるかもしれない。

 

 同郷のカンピオーネである草薙護堂とはあまり良い関係とは言い難い。原因はカンピオーネとしての方向性の違いによるものだと判断する。

 草薙護堂の権能である『白馬』の発動条件である「民衆を苦しめる大罪人」には当てはまらないらしい。

 

 グリニッジ賢人議会の依頼でプリンセス・アリスの身体を治した事もある。

 

 その魔術の腕と智識、権能を持つカンピオーネとして畏敬の念を込め『魔導王』と魔術師の間でそう呼ばれている。

 他の呼び名は、『悪神殺し』、『龍魔王』等がある。

 

 

 割りとまともな感性と理性のある善性の神殺しではあるが、戦いにおいては完全にスイッチが入り他の神殺しと大差ないが周りに結界を張ったりする心配りはある。

 

 

 

 不利になったり相性が悪い相手に当たると、躊躇いなく毒を使って確実に殺しているので、まつろわぬ神を倒した数は多いが権能が増えないのはそれが原因だと思われる。それでも権能の数は他のカンピオーネよりも上である。

 まつろわぬ神と多く戦っているがその殆どが連鎖的に顕現したまつろわぬ神と戦っているからである。

 

 

 基本的にのんびりとした人柄で来る者も去る者も拒まずだが、一度敵対すると慈悲や容赦が無くなり権能をフル活用して徹底的に潰すなり殺すなりして二度と動けない様にする。

 

 殺すのは敵対する者が反省する事の無い悪と判断した時だけの行動なので、心優しき者や弱い者には眠らせるだけに留めている。

 

 

 

 まつろわぬ神から簒奪した権能の数は現在判明している物は七つであり、一つを除いた六つは攻撃系統の権能である。しかし、彼の王は多くのまつろわぬ神を殺しているのでまだあるかもしれない。

 

 

 火の神アータルから簒奪した権能『聖なる炎雷』。

 

 火の神であるアータルは稲妻となる逸話も有している。その影響か、炎と雷を片方若しくは両方を纏ったり、黒王子の様に身体を雷に変えて神速で動いたり、炎になって身体の傷を無くしたりと応用が利く。炎と雷を同時に扱うと呪力の消費量が倍になって扱い辛くなる模様。黒王子の『電光石火』の様に攻撃形態があり、グリニッジ賢人議会で決められた名は『白き炎雷』。草薙護堂の『白馬』並みの破壊力で灼き尽くすが黒王子と同様に身体を変化させる事が出来なくなる。

 

 

 悪神の竜蛇アジ・ダハーカから簒奪した権能『千魔の邪龍』。

 

 アジ・ダハーカの千の魔術を扱う権能と思われていたが、千の魔術はオマケであり本質は、身体をアジ・ダハーカに変化させる権能である。

 そのままの身体の大きさで完全変化したり三つ首の内の二つだけを出したり、翼を出したりとこの権能も応用が利く。本能のままに暴れる『魔竜の逆鱗』なる敵味方関係なく破壊する攻撃手段があるらしい。左右の首にペインとディストと名を付けている。名前の由来は痛みと苦悩から来ているらしい。

 力を隠していた時の権能の名は『千の魔術』。

 

 

 天使でありながら蛇でもあるサマエルから簒奪した権能『神を侵せし毒』。

 自分自身の血を生物はもちろん神すら殺す猛毒に変える事ができる。

 権能を使用すると身体に赤い蛇の刺青が入る。

 

 この神すら殺す猛毒を彼の王はあまり使おうとはしない。理由としてはあまりにも効果が強すぎる為であると考えられる。

 

 以前話し合いをしていた際に、剣の王の『聖なる錯乱』で権能が暴走したら自分自身も毒を喰らって死ぬ上に周囲一帯、具体的には半径五キロ程度が生物、植物も住めない汚染された地獄になると愚痴を溢していた。汚染された場所は広がるようである。

 

 

 ギリシャ神話にて最強格の怪物にして嵐の神でもあるテュポーンから簒奪した権能『幻獣創造』。

 

 神話にてテュポーンの血を持つ幻獣、怪物、又は生み出した幻獣と精霊を己の呪力を分けて神獣として顕現させ使役する。大きさと強さは込めた呪力で変わり、カンピオーネの膨大な呪力を沢山込められた本気の幻獣は同じカンピオーネか、専門の神獣狩りが百人いても倒せないレベルだと思われる。顕現できるのは一種類につき一体、召喚は一日一回の制約がある。やろうと思えば幻獣の行進(マーチ)ができるらしい。幻獣を一ヶ月顕現出来なくさせる代わりにテュポーンを神獣として顕現させる事も出来る。テュポーンを顕現させると呪力がほぼ無くなる様である。

 

 現在確認されている幻獣は、ネメアーの獅子、オルトロス、ケルベロス、ラードーン、エトン、キマイラ、スキュラ、スピンクスである。

 

 

 ソロモン王が使役した72の魔神の一柱で侯爵位の悪魔フェネクスから簒奪した権能『灰より出でる炎鳥』。

 

 攻撃系統ばかりの権能の中で珍しい、完全な補助系統の権能。この権能は一度死なないと発動しない権能で、死ぬと同時に身体が灰になって灰から不死鳥フェニックスとなって蘇生する。リスクは一度この権能が発動すると一週間程度はそのままのフェニックスの状態になってしまい、アータルの炎とアジ・ダハーカの魔術以外は使えなくなる。

 不死鳥の状態で死んでも蘇りはするが、蘇生する際に消費する呪力が増えるとの事。

 

 不死鳥の状態の時にしか出せない不死鳥の涙は、死んでいなければ体力以外を完全に治す霊水で、魔術師やカンピオーネに高値で売っている。カンピオーネでも経口摂取ならば効果がある事は確認されている。

 

 

 ゾロアスター教の虚偽を司る悪神アンダルから簒奪した権能『偽りの雷雲』。

 

 アンダルはインド神話におけるインドラの事で、悪神ドゥルジと同じ虚偽を司る。

 

 権能の名の様に雷を扱う権能でもあるが本質は虚偽、騙すのが本来の力で、雲を発生させ相手の五感、特に視覚を偽る事に特化している。カンピオーネですら一時的なら騙せる。羅濠教主、サルバトーレ・ドニには効果が薄いらしい。

 

 

 海の怪獣レヴィアタンから簒奪した権能『捻れてマガレ』。

 

 指定した空間を捻じ曲げる事が出来る。空間内にある物の強度関係なく破壊するが呪力の放出や空間外に逃げれば意味を成さない。指定する空間が小さければ早く発動し、空間が大きい程空間を捻じ曲げる速さが遅くなる。相手を自分に近付かせない為に使用している。物理法則に喧嘩を売る権能ではあるが、空間を視認出来ないと使えない、発動までが遅いという欠点ばかりで本人も「凄いが使い勝手が悪い」と愚痴を溢していた。

 

 

 

 

 

 アータルの権能以外は悪に属する神の権能である為に色々と言われているが、本人は気にする事なく「そういう星の下って事だろ?」と、仰っていた。

 

 

 

 現在、彼の王は一緒にいる媛巫女と共に行方不明である。

 

 『最後の王』と自身の権能の相性を考えてアイーシャ夫人の『通廊』に入って平行世界へ行っているからである。

 

 現在、草薙護堂が権能の次元間移動で探しているが見つかっていない模様。

 恐らく、羅濠教主と黒王子の様に自力で次元間移動方法を編み出した可能性がある。

 その証拠に彼の口座のお金が減っていた。防犯カメラには映ってなかったので権能で偽っていたと考えられる。移動先から帰ってきたが、『最後の王』の件が終わっている事が分かった為にまた、次元間移動したと思われる。

 

 

 

 正史編纂委員会は出来れば鬼崎摩桜に帰って来ていただきたい。主にまつろわぬ神と神獣による被害削減の為と新米の魔術師と巫の魔術の講師をして欲しいからである。

 

 

 



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一話

 

 

「きゃああぁぁーーー!?」

 

「何でこーなるんだよ…」

 

 

 現在、『悪神殺し』の異名を持つカンピオーネ・鬼崎摩桜と御付きの媛巫女・万里谷祐理は、カンピオーネであるアイーシャ夫人の『通廊』を通って出た先で何故かスカイダイビングしていた。

 

 カンピオーネの中でも傍迷惑筆頭の権能はやっぱり傍迷惑だと思いながら、自身の権能である悪神のアジ・ダハーカから簒奪した権能『千魔の邪龍』を発動させ、背中から翼を出して祐理をお姫様抱っこして空中を漂う。

 

 

「あ、ありがとうございます、摩桜さん…」

 

「どういたしまして。さて、アイーシャの『通廊』から出て早々大変な事になってるな………」

 

「摩桜さん?その言い方ですとまだ大変な事があると聞こえるのですが………」

 

「実際、大変だと思うぞ?祐理、下見てみ」

 

「下、ですか……?」

 

 

 疑問符を付けながら下を見る祐理。

 

 

「……え?これってどういう事ですか?」

 

 

 祐理が驚くのもムリはないだろう。

 

 何故なら東京タワーが無傷(・・)で建っているからだ。

 

 黒王子(ブラック・プリンス)アレクサンドル・ガスコインからテロリスト呼ばわりされていた、平和主義者(自称)(草薙護堂)によって融解されたからだ。テロリスト……まあ、合ってるから何とも言えないな……甘粕から聞いた話だと被害額が億越して兆になったらしいからな。そもそもカンピオーネに壊すなって言うのは無理な話だけどなぁ~。カンピオーネが壊さなくてもまつろわぬ神が壊すし。それでも草薙は勝つためなら率先して建物──結構有名な建造物──を壊していくからな。

 

 ブーメランだ?

 

 確かに何度か壊した事はあるがその度にボランティアしてやってるっての。主に魔術と呪術の講師をしたり、壊した物を退かしたり、怪我した奴に無料で霊水使ってやったり。

 

 

 

 戦闘用の権能以外は全部秘匿しているからな、戦闘用以外は発動条件がアレなので発動させる事が出来ないのとそもそも戦闘に使えないからだ。

 

 

 動物と意思疎通するだけ(キュベレー)の権能と象の像を造ることで運気(ガネーシャ)を上げるだけの権能と自宅を鉄壁の城に(刑部姫)変える権能……これをどうやって戦闘に活かせと?

 

 キュベレーの動物と意思疎通をする権能は役立っている、幻獣が何が言いたいかが分かるからな。特別呪力を喰う訳でもないし聖句も唱えなくてもいい、地味権能その一。

 

 

 ガネーシャの権能は微妙過ぎる。象の像を材質は何でもいいので作らないといけなく、一度作った物に減った呪力をもう一度流してやれば再利用できるエコ仕様。幸運要素が規格外(EX)の俺にはあまり効果がないけど周りの人、つまり祐理とかにとっては効き目があるらしい、地味権能その二。

 

 

 刑部姫の自宅を鉄壁の城に変える権能も微妙だ。自宅と定めた所に一ヶ月は住まないと発動しない。しかもこの一ヶ月っていうのがまた面倒な事にその家から外に出てはいけないというふざけ仕様である。まあ、その一ヶ月をクリア出来れば『白馬』でも『魔剣』でも『魔弾』でも無双の剛力だろうと破壊出来ない。鉄壁の城なのだが、洪水に弱いという弱点ありの地味権能その三。

 

 

 

 

 

 今が何時なのかとか色々と確認したいから認識阻害の魔術を掛けて地面に降りる。

 

 近くのコンビニに入って雑誌を読んで一つの仮定というか結論が出た。

 

「祐理、たぶん…というか、確定…というか……」

 

「摩桜さん、今度は何ですか?」

 

 

 言うより自分の目で確かめた方がいいので雑誌を渡して目を通させる。

 

 

「二年前の三月という事は、過去に来たのは分かりますけど……これって普通の漫画雑誌ですよ?」

 

「よく読んでみろ。雑誌の名前とか漫画の名前が微妙に違うぞ」

 

 

 あっ!?という祐理の気付いて驚いた声を聞く。

 

 

「甘粕さんが言っていた漫画にそっくりですね」

 

 

 甘粕の話聞いてたんだな……。甘粕って出来る忍者だけど、俺と同じでサブカルチャー好きだからな、俺の悪巫山戯に乗ってくれる貴重な人材だ。

 

 

「これで分かる通り、俺らは俺らが居た世界とは別の平行世界に来ちまったみてーだな……」 

 

「そう見たいですね……」

 

 

 二人してため息を吐いた後、飯を買って近くのホテルに入って今後の方針を決めることにした。

 

 



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二話

 

 

 近くに在ったホテルの中にて………。

 

 

「よし、一旦帰るか」

 

「何を言ってるんですか、摩桜さん……」

 

 

 ん?ああ、主語がなかったかな。

 

 

「元の世界に帰るかって言ったんだが?」

 

「何となく分かってましたけど……どうやって帰るんですか?通廊が何処にあるか分からないのにですか?」

 

 

 頭が痛いかのように頭を抑えている。

 まあ、呆れてるだけだろうな。

 

 

「確かに通廊が何処にあるかは俺も分からんが、帰れると思うぞ?祐理も知ってるだろ、俺が刑部姫から簒奪した権能をさ」

 

「確か、自宅を聖域に変える権能のはずですけど……」

 

 

 聖域……まあ、間違ってはない。

 

 権能を発動させれば俺が許可しないと入れないからな。

 

 

「その刑部姫の権能がな、この別世界でも機能してるのが分かるんだよ。今ここで発動させる事も可能だ。アレって発動すると家の中なら何処でも転移出来るんだよ」

 

「えーっと…つまり、元の世界に戻れるかもしれないと?」

 

「そういうこと。まあ、一応まだかもしれないってだけどな。やってみる価値はあるだろ?……と言うわけで、早速やってみっか!」

 

「……え?…ちょちょちょっと待ってください!?摩桜さん、聞いてますか!?」

 

 

 祐理の静止の言葉を無視して聖句を唱える。

 

 まったく、祐理も知ってるだろうに……俺が有言実行派なのをさ。

 

 

「我、望むは城。我、望むは理想郷。平穏を望む者なり。世の繁栄と栄光は此所より始まる……」

 

 

 聖句を唱える事で身体から呪力が高まっていくのを感じながら聖句を唱え続ける。

 

 

「そして、一夜の虚栄も此所より始まる。世界に理想郷は非ず。砂上の楼閣なれば、失う物は無し。我は此所に栄光を打ち建てよう。我は此所に虚栄を張ろう。何故ならばこの城が我が望む理想郷なのだから……」

 

 

 権能……発動はしてるな……けど、転移が出来ないな。

 

 何かに阻まれている感覚があるな……ちゃんと調べた方がいいな。

 上着を少しずらして別の権能を発動させる。

 

「ペイン、ディスト出てこい、仕事だ」

 

 

 アジ・ダハーカの首を肩からニョキっと生やして会話する。

 

「中から視てたから知ってるけどよー」

 

「阻まれているならこっちからやれば良いだけの話だろ?」

 

「こっちから?」

 

 

 阻まれているならこっちから?

 つまり、阻まれる前からこっちから邪魔すれば良いって事か?

 なら、結界を張ってから空間を曲げてみるか……。

 

 

「ペインは空間に作用する結界張ってくれ」

 

「りょーかーい」

 

「ディストは転移できるか視といてくれ、俺は空間を捻じ曲げる」

 

「へーい」

 

 

 次の権能を意識する。

 

 空間に作用する権能ならレヴィアタンの権能が一番だ。

 範囲は人間二人分の大きさで……。

 

 

「曲がれ。渦を巻くが如くに捻れて曲がれ」

 

 

 権能が発動して空間が、ぐにゃっ、と渦を巻く様に捻れていく。

 これで上手く行けば良いんだが……。

 

 

「お?おっ!これなら行けんじゃねぇか、マオ!」

 

 

 ディストの声を聞いて直ぐに、刑部姫の権能に意識を向ける。

 何となくだが捻れた空間から刑部姫の権能の力が糸の様になって繋がった事を確信して直ぐにこの空間に楔となるモノ、『幻獣創造』を使って幻獣オルトロスを柴犬程の大きさで顕現させてから祐理の手を掴んで転移する。

 

 

「──あ、あれ?……此所って摩桜さんの家のリビング…ですよね?」

 

 

 リビングに置いておいた象頭の木像を見て俺が作ったガネーシャ像である事を確認した。だって俺の呪力が籠ってるしな。

 

 

「おっしゃっあー!次元を跨いだ転移成功ー!向こうに楔を打ったからまた向こうに転移して行けるぞ!」

 

「いえーい!」

「オレらサイキョー!」

 

 

「行けるぞ、ではありませんっ!」

 

 

「ぐふぉっ!?」

「あでっ!?」

「あたっ!?」

 

 

 リビングに何故か置きっぱなしだったハリセンで頭を叩かれた。

 ちゃっかりとペインとディストも叩いている。

 

 

 それから正座で祐理に説教されること三十分────。

 

 

「───とりあえず、金とか必要な物を持っていくか……。あぁ、祐理はどうすんだ?」

 

「どう…とは?」

 

「いやさ、これから俺は別の世界線に行って色々するつもりだが、祐理はこの世界での生活があるだろ?俺に付いていくと家族と会えなくなる可能性だってあるからな……せっかく戻って来たんだ。このまま元の生活に戻った方がいいと俺は思うぞ?まあ、さっきまで一緒に別世界行ってたけど……」

 

 

 会えなくなる可能性はあるかもしれないし、ないのかもしれない。

 

 またも上手く行くとは限らんからな……。家族がいない俺は特に未練的なのはないし。だいたいの面倒事は草薙に押し付けてるしな。誰が好き好んで委員会の盟主なんざするかっての。今までの様に協力関係、依頼とかの窓口的なもんで十分だ。

 

 ま、俺は嫌な事はノーと言える人間だからな。一時盟主やれって、スサノオ(クソジジイ)──比喩でない──に言われたけど、あのオンボロの家を超魔術的な四元素を混めたもんで吹き飛ばしてから何も言わなくなったから、俺を縛る事が出来ないって考えたんだろうな。

 

 

「……摩桜さん…。私が一緒に居ないからって、ジャンクフードしか食べないつもり…何じゃないんですか?」

 

 

 ジト目でこっちを見て言うなって……。

 確かに魅力的だな、それ。

 

 ヴォバンのジジイとドニと俺の三つ巴で戦った時に偶々助けてから、二年後に家に来て家事をするようになってから外食とかジャンクフードばっかりだったのだが、用事があって家にいない時しかジャンクフード食ってないな……。

 

 

「そんな事ねーよ?」

 

「ねーよ?」

「少しあるけどなー」

 

 

 あ!?

 

 ペインのバカっ!何口走っていやがる!

 

 

「やっぱり!私を遠ざけて、自堕落な生活をするつもり何じゃないですか!決めました、私も付いて行きます。普段から自堕落な生活をしているのに更に堕落するつもりの様なので見張らせていただきます」

 

「いやいやいや、そんな事で決めるなよ。もう少し考えたら───」

 

「……イイデスネ…」

 

「アッ、ハイ…」

 

 

 ヤバい、何かヤバい。

 

 祐理の目からハイライトが消えた様に見えたぞ……。

 

 ヤンデレか?ヤンデレの素質でも持ってんのか?

 

 ペインとディストが身体の中に入っちまったぞ……そんなに怖いのかよ……。

 

 

「はぁ~…、好きにしろっての…。まあ、祐理の料理は好きだから良いけどよ…」

 

 

 そういえば、ガネーシャ像の残りの呪力量を見ないとな。その後に、刑部姫の権能が解けないようにしておかないとないけないだろうな。

 

 

「……卑怯ですよ、摩桜さん……」

 

「ん?すまん、祐理。集中してたから聞こえなかったんだが、何か言ったか?」

 

「あ!い、いえ、ただの独り言ですから大丈夫です!」

 

「そうか?ああ、付いてくるなら三時間以内で荷物をまとめて来てくれよ。楔がちゃんと機能するか分からんからな」

 

「は、はい。直ぐに準備して来ます!」

 

 

 家から出ていく祐理を見て俺も準備に取り掛かる。

 

 とりあえず、金を下ろしに行って、家のコンセントを抜いたりしておくか……。

 

 家に置きっぱなしにしてた金、たぶん億はあるけど向こうでアパートやマンションを借りたりするだろうから……銀行に行って一千万下ろせば十分かな?必要なら向こうで霊水売れば良いし。

 

 

 そういえば、祐理って今走ってたか?身体の弱さは普通の人並みにしたけど、体力はないままのはず……。

 

 

 明日は筋肉痛かねぇ……。

 

 



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三話

 

 自分の準備が出来次第、祐理の自宅に行って荷物に召喚の魔術を掛けて、家に戻る。

 

 

「祐理……確認しておくが良いんだな?当分家族には会えないし、もうほとんどの媛巫女の仕事とかもしないって事にもなる。向こうに行ったら友人関係もリセットだ。それでも、俺に…俺の側に居るんだな?」

 

「はい。摩桜さんの隣に居させてもらいます」

 

 

 嘘のない、本心の言葉を聞いて祐理の覚悟を理解する。

 

 俺の隣か……。

 

 ああ、そうだよな……俺の事が好きでもなければ、一緒に行こうなんて言わねーよな……。

 

 

「分かったよ。祐理の好きな様にしな。それじゃあ、先に荷物を転移させてから行くか…幸運の置物(ガネーシャ像)の力が働いているから大丈夫だな」

 

 

 召喚した祐理の荷物と俺の荷物をまとめて転移させてから祐理の手を掴んで俺たちも転移する。

 

 

 

 無事に転移は成功した。

 

 そして、楔として置いてった幻獣オルトロス───名前はダブラス───に置いていった事に対する愚痴を言われた。

 

 キュベレーから簒奪した権能のお陰で何を言ってるのかが分かるが……たまに、どうでも良いことを言っていたりする。因みに動物の括りが存在しており、今の掌握度なら哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の声を聞けるがある程度の大きさが必要、でないと話をする知能がないので虫とかはまずムリだ。

 

 

「さてと……何処に拠点を置くかを決める前に……確認したい事があるから先にそっちを済ませても良いか?」

 

「私は大丈夫ですよ。それで、確認したい事とは何ですか?」

 

「ああ、それはな……この世界に来たときから何となくだが、アジ・ダハーカの力を感じとったんだよ」

 

「それは……本当何ですか?もし本当なら顕現するかもしれないという事ですよね?この世界のアジ・ダハーカと摩桜さんが弑逆したアジ・ダハーカとは違うと思いますけど………」

 

 

 真剣に考えてるだろうけど俺と、ペインとディストの考えが正しいなら…………。

 

 

「確かに、この世界のアジ・ダハーカと俺が殺ったアジ・ダハーカは違うかも知れんが同位存在だからか、しっかりと気配とか力が感じとれる。でも、感じとれる力が微弱だからな…たぶん竜骨になってる可能性が高い。だからちょっと回収してくるわ」

 

「出来れば私も付いていきたいのですが……」

 

「悪いが此所で待っててくれ。千の魔術の中には霊体でもダメージを与えるのがあるからな……もし、顕現したら戦いに集中しちまうからな。一応、幻獣を置いてくから何かあったら幻獣に話掛けてくれ」

 

「分かりました。今回は、待たせていただきますね」

 

 

 幻獣を三匹───オルトロスとエトンとネメア───と風の精霊を顕現して祐理を守る様に命令して置く。

 

 結界も何重に認識阻害とか気配を偽るのを掛けておく。同族か魔術関連の神、智慧の神にしか分からないだろうレベルのモノにした。

 

 

 話をしている時からペインとディストに身体の中でアジ・ダハーカの力がある場所を探してもらっていたので直ぐにホテルの屋上に転移して長距離転移の準備をする。

 

 

『見つけたぜぇー。ほとんど力の質が変わってないから簡単だったぜい』

 

『まつろわぬ神だったオレらに比べたら劣るけどなー』

 

『それな!』

 

 

 身体の中で会話する二匹の声に耳を傾けていたが……まつろわぬ神だった時より弱い、か……。

 

 この世界のアジ・ダハーカは悪神じゃあなくて竜だって事かな?

 

 ま、行けばわかるか……。

 

 

 

 長距離転移が終わり、周りを見渡すとそこには……廃墟が広がっていた。

 

 相当古い建築物だが今は、アジ・ダハーカの竜骨が優先だ。

 

 

 探して十分もせずに物凄く分かりやすい祠を見つけた。ご丁寧に三つ首の竜蛇の石像が置かれていた。

 

 隠す気があるのだろうか……?

 

 でも結界は張ってあるな……。とりあえず、結界を壊さない様に侵入するか……。

 

 ペインとディストと協力して、結界を解読して無害に結界を解除して祠の中に入る。

 

 

 祠の中央付近に台座の上にある宝玉が目に入る。

 

 その宝玉からアジ・ダハーカの力を感じるからこれが竜骨なのだろう。

 

 

 宝玉に手を置いたら割れてしまった。

 

 宝玉そのものが結界、封印みたいなものだったみたいだ。

 

 そりゃ、俺が触ったら壊れるわなぁー……。

 

 

 

 お、何か魂みたいなのが出てきたな………。

 

 

「よし、取り込むか。同位存在ならもしかしたら権能の力が増すかもしれないしな。ペインとディストもそれで良いか?」

 

「おう、取り込め取り込め!」

 

「レベルアップしようぜ!」

 

 

 浮いた魂を鷲掴みして身体に押し込む。

 

 

「うぐっ、アッツ!コイツ、魂の状態でも生きてんのかよ!?」

 

 

 マジで身体が熱い。

 

 この感覚、ペインとディストが俺に反抗していた時に似ている。

 

 つまり、俺の身体を乗っ取ろうとしてるのか……。

 

 ハッ。上等だ、この程度の熱さで乗っ取れると思うな!

 炎になれる俺に生半可な熱さは逆効果だ。このまま魂を権能の一部として取り込んでやらぁ!

 

 

『チッ……まさか、封印から解かれたと思ったら人間に取り込まれるなんてな……しかも、オレの力に呑まれないなんて…テメェ本当に人間か?てか、何でオレの力を持っていやがるんだよ!?しかもこの嫌な感じは……まさかアータルの力か!?オイ、テメェー!本当に人間か?!何で神の力を持ってんだよ!?』

 

「意識が出てきたと思ったら質問ばっかりか……まあいい、その疑問に答えてやるよ。まず、俺の名前は鬼崎摩桜。カンピオーネ…つまり、神殺しに成功してその神の力、権能を簒奪した人間だ」

 

『ハァッ?!ただの人間が神殺しをして力を奪っただ?!信じられるか!』

 

「それじゃあ、俺の中にあるアータルの力や、お前のアジ・ダハーカの力があるのはどうしてだ?」

 

『確かにな…力を奪ったのはまだ分かる。だがアータルはまだ生きているはずだ!神殺しはあり得ねー!』

 

 

 神が生きてる……だと?

 

 

 ……あ、俺が別世界から来たって言ってないな。

 

 

「言い忘れてたが、俺はこの世界じゃない別世界から次元を越えてきた人間だ」

 

『……何だって?』

 

 

 そこからはずっとアジ・ダハーカの疑問に答えてやって行きながらこの世界の事も聞いていく。

 

 

「この世界は神が実際に生きている世界何てな……しかも人間だけの武器神器(セイクリッド・ギア)て言う厄ネタ、聖書の三勢力、お前ら邪龍の存在、二天龍と無限と夢幻の龍神……面倒事ばかりだな…」

 

「元の世界じゃあ、あり得ねぇな!」

 

「まっ、こっちは、まつろわぬ神と『最後の王』がいるけどな!」

 

「まさか、お前の世界のオレを殺して奪った力がオレになる力とはな……。しかも、真ん中の意志だけ無いとかありかよ…一番大事な頭なのによぉ」

 

 

 この世界のアジ・ダハーカの魂を取り込んだ事で権能に影響があるか調べてみたが、どうやら真ん中の三本目の首がこの世界のアジ・ダハーカになった様だ。

 

 

 今まで通り顕身も出来る上に、この世界の魔法の智識も入ってきた。千の魔術と似たのもある。この世界だと魔力は悪魔と契約しないといけねぇのか……。まあ、自前の呪力使えば問題はないな。

 

 

 元々規格外に多いカンピオーネの呪力量が倍以上に増えた感じがする。

 

 

 これなら戦いの時にモルス──〈死〉のラテン語から取ったこの世界のアジ・ダハーカの名前──に戦いを任せて権能の操作をしたりも出来るかもしれないな。

 

 

 そろそろ帰った方がいいな祐理に心配掛けるのは……ってモルスの事で絶対心配させる上に怒られるな、たぶん……。

 

 

 

「成り行きだがこれからよろしく頼むぜ、モルス(相棒)

 

「頼むぜー」

 

「ヨロー」

 

「クククッ、ああ、イイゼ!悪神のオレを殺したんだ。マオは、この『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカの力を振るうに相応しい人外(人間)だ。これからよろしく頼むぜ、マオ(相棒)!」

 

 

 更に魔術の精密操作が出来るようなって数秒で長距離転移が出来た……が、事情を説明し終わった後の祐理の説教で霞んでしまった。

 

 

 

 



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四話

 

 

 アジ・ダハーカの魂を取り込んで数日後、日本神話の土地なのに何故か悪魔の領地になってる駒王町のマンションに住む事にした。因みにペットオッケーのマンションだ。これで幻獣を出しても怪しまれないだろう。

 

 

 そして、祐理にお願いされ一緒に高校──駒王学園──に入る事になった。俺って一応二十歳越えているんだがな……まあ、カンピオーネになってから高校を中退したから丁度良いか?

 

 

 カンピオーネになったせいか、身体が成長してないんだよなぁ……そこらの魔女みたいに見た目を変えてる訳じゃないんだよな……。四年経っても高二の時と変わってない。変化の魔術使えば良い話だけど、呪力が漏れるからやりたくない。呪力が駄々漏れすると厄介事が来るかもしれないから今は、結構ムリして呪力を身体の中に蓄えている。いざとなれば、呪力の放出だけで戦いが終わるかもしれないな……。

 

 カンピオーネとまつろわぬ神以外ならって付くがな……。

 

 

 

 

 三月という事もあってか駒王学園への編入はすんなり──少し催眠暗示を使ったけど──と済んだ。

 

 

 そして、四月になり高等部二年に編入した。因みに祐理と同じクラスでもある。

 

 

 クラスの三人程人外がいた。モルスが言うには悪魔らしい。

 

 確かに気配が少し変わってるのが判るが、それでも何故か人間の要素の方が強いな……。これが転生悪魔って事か?

 

 もっと語られてる悪魔を想像してたんだがな……まあ、悪魔も姿を変えれるよな。

 

 殺したフェネクスは、人と鳥の中間みたいな見た目だったし……。

 

 

「よぉ。俺は、匙元士郎だ。何か分からん事があったら訊いてくれよ?こう見えて生徒会役員だからな」

 

「さっきも自己紹介したが…鬼崎摩桜だ。了解、何かあったら訊かせてもらうよ、匙」

 

 

 流石に俺の隠形で偽ってる気配を見抜くのはムリがあるか……。

 

 そもそも俺の隠形を破れる奴なんて、羅濠のババアと剣バカぐらいしかいない。あ、後は、祐理の霊視と祐理の妹であるひかりの禍祓いぐらいか……。

 

 

 姿、権能の力や呪力、気配、熱、匂い。考えられる要素を全部偽ったのに正確に攻撃仕掛けてくるからな…あの二人は、俺にとってはまつろわぬ神より厄介な相手だ。

 

 

 そして、万里谷姉妹も敵にすると厄介だよなぁ……。ひかりの禍祓いに幻獣たち強制脱出させられるからな。一日一回の制約に刺さるんだよな……。家に遊びに来た時に偶然分かったからな…ひかりが家に来た理由って祐理の行動に疑問に思って尾行したんだっけ……。それで、幻獣と遊んでた時に禍祓いを発動させてしまい幻獣を消してしまって泣いちゃったんだよな……。小学生で、俺の噂とかカンピオーネの事を聴いていたと思うし、殺されるとでも思ったんだろうな。泣き止ましてから空中散歩とかしたのは良い思い出だ。

 

 

 

『(オイ、マオ。そいつから悪魔と微かだが、ヴリトラの匂いがするぞ。ヴリトラの魂を封じ込めた神器を持っている様だぜ)』

 

 

 モルスが心に語りかけてくる。

 

 ペインとディストは、一応アジ・ダハーカの権能だから発動させないと話せないが、モルスは魂その物を身体に入れて力は権能に吸収したが、意識はどうやらそのままになった様だ。

 

 

「(どういう事だ?神器は、人間しか持たないんじゃないのか?それに、ヴリトラってお前と同じ邪龍だったよな。ヴリトラの意識は無いのか?)」

 

『(原則的にはその筈だ。ここで考えれるのは…そいつが悪魔と人のハーフの場合、他人から移植した場合、神器を持ったまま悪魔になった場合……単純に考えられるのはこれだろうな……。後、ヴリトラの奴の意識は無いみてーだな。恐らく、魂を斬り刻まれて封印されたんだろうな。ヴリトラは邪龍の中でも肉体が滅んでも一年ぐらいで復活するからな。魂を刻んで封印したのは復活させないための措置だと思うぜ?)』

 

「(成る程な…参考になったぜ、モルス。魔術関連とかこの世界の事に詳しくて助かる)」

 

『(クククッ、今のオレとオマエは、一心同体だしな。神殺しという頭がイカレてる事をしたオマエを視ていてーからな。後、女の尻に敷かれるオマエを見るのも楽しいしなっ!)』

 

「(モルス、アータルの炎を口の中にブチ込むぞ……)」

 

『(チョイ待てや!?嫌がらせにしてもそれは、オレにとっちゃあタチがワリーぞ!?)』

 

 

 神話の通りならアジ・ダハーカは、アータルに「口から入って腹の中から燃やすぞ」と、言われて撤退したと云われている。

 

 アータルの炎を扱える俺はその言葉を有言実行できる。口の中に炎をブチ込んだら身体の中が弱点のカンピオーネでも死ねるけど、アータルの炎を使うなら死ねないよなぁ。自分が出した物で傷付くのか?炎になれる俺に効果は無いよな。そういえば、自分が出した炎で傷付いた事無いな。

 

 

 そして、授業が終わり放課後になった。

 

 

「匙は、これから生徒会か?」

 

「ああ、特に何もなければそのまま生徒会室だな。この学園の生徒会って結構仕事が多くてな。色々と大変だけどそれなりに遣り甲斐があるんだよな」

 

「へぇ、匙は──「待てぇぇぇ!変態三人組ーー!!」──何だ、今の………」

 

「ハァ~…また、彼奴らか……」

 

「また?どういう事だ…」

 

「去年の時から女子の更衣室を覗いたり、教室内での猥談やそういう雑誌を堂々と広げてる変態三人組が同じ学年に居てな……」

 

 

 ………はぁ?

 

 何やってんだ、その三人は……。

 

 

「匙、普通ならそいつら停学か退学にならねぇか?ならなくても厳重注意とか反省文とか、警察沙汰にならねぇのか?生徒会に苦情とか来ねーのか?」

 

「やっぱり鬼崎の様な疑問が出るのが普通だよな……。生徒会と風紀委員で注意はしてるんだが効果が無くてな…生徒会にかなりの苦情が来てて会長もあまりの多さに眉間に皺を寄せててな……」

 

 

 大変そうだな、生徒会……。

 

 とりあえず、祐理にそういう目を向けない様に(まじな)いを掛けておくか……被害に遭った後じゃあ遅いからな。

 

 

「摩桜さん、そろそろ買い物に……お話中でしたでしょうか?」

 

「うん?ああ、大丈夫だ。じゃあな、匙。そろそろ帰るわ、生徒会頑張れな」

 

「お、おう。またな、鬼崎」

 

 

 

 匙と別れ、祐理と一緒に夕飯の買い物に行く。もちろん、俺は荷物持ちだ。

 

 

 スーパーからの帰り道で、カンピオーネとしての直感がイヤな予感がする事を報せて来る。

 

 

「摩桜さん、何かイヤな予感がします……」

 

「奇遇だな、俺も感じた」

 

「神殺しである摩桜さんの直感は当たりますからね」

 

「そういう祐理もよく当たるだろ?」

 

 

 得体の知れない何か、と思ったが学園でも感じた悪魔の気配を町の隅から感じた。

 

 結界は、マンションの周りにしか仕掛けてないから気付かなかったな。

 

 

「俺は今から気配を追ってみるが祐理は……」

 

「ご一緒します」

 

「そう言うと思ったよ。ま、結界で護るし、幻獣も陰から見てるから大丈夫か」

 

 

 気配を追って行き廃工場に辿り着いた。

 

 

「確かに此処になんかいるな……念には念を、と…」

 

 

 祐理に更に魔術を掛けていく。魔術師でも最高位クラス二十人以上ではないと突破出来ないレベルの結界だ。

 

 

『(過保護過ぎねぇか?)』

 

 

「(カンピオーネとかまつろわぬ神が相手だと、これでも足りないっての……カンピオーネは魔を弾いてしまうから魔術は効きが悪い、まつろわぬ神でも魔術神とか智慧の神だと今の結界を結構簡単に解除される事もあるからな……)」

 

『(アアァ……確かにそんな奴らと戦えばそうなるか……)』

 

 

 

 廃工場の中を進んでいくと、裸の女が立っていた。

 

 

「あれは()、ですか?」

 

「祐理、あれの後ろをよく視てみろ。その疑問の答えがあるぞ」

 

 

 日が沈んで薄暗くなっていたが、まだ見えるだろう。

 

 

「まさか、あれが……!?」

 

「そうだな、たぶんあれが『はぐれ悪魔』だ」

 

 

 女の擬態の後ろに蜘蛛みたいな姿をした、化け物がいた。

 

 

 三月に祐理と一緒に日本神話の神がいる高天ヶ原に行き俺の存在を知らせ、日本神話の神と裏京都の大将と関東の大将との間に協定を結んだ。

 

 簡単に言えば、敵の排除とお互い行き過ぎた干渉をしない事が大体の内容だ。……他にも細かい事もあるが概ねそれで良い。

 

 

 俺の正体を教えたり、アジ・ダハーカの魂を取り込んだ事を報せた時の奴らの驚いた顔は中々良かった。

 

 

 駒王町の事や聖書の三勢力の問題を教えてくれたのは日本神話である。

 

 後、偶々拾った黒猫の妖怪で転生悪魔である黒歌からだ。

 

 確か、猫魈っていう猫又の上位種らしく、仙術の使い手で気配を探っていたら違和感のある俺の所に来たが、俺がキュベレーの権能で声を聴いたので、取っ捕まえてお話をした。事情訊いた上で現在は、マンションに匿っている。

 黒猫から人の姿になったのは驚いた。後、祐理にだらしないって叱られてたな。服装の事で……。

 

 

「見た感じだと力に溺れた方だな、コイツ」

 

「そうですね、王を殺して逃げた黒歌さんとは違ってますね……。つまり、黒歌さんが力に溺れたとは言えない証拠ですね」

 

 

 裏京都の大将八坂の話だと力に溺れた転生悪魔の猫魈だって言ってたな。……キュベレーの権能のお陰で黒猫状態の時に本音は聞いているからな。キュベレーの権能の良い所は、本音を聞く事が出来る所だな。ま、動物が嘘を言うとは思ってないけどな。

 本音を聞いたからこそ匿うって決めた。

 

 

「そうだな。とりあえず、コイツを排除しておくか……」

 

「排除されるノハ貴様らの方ダ!」

 

 

 痺れを切らして襲い掛かってきた。

 

 ただ祐理と話していた訳ないだろ。

 

 お前を視認したときから魔術を使ってたっての……アジ・ダハーカの権能を手に入れてからほとんど無詠唱で出来るからな。力に溺れて考えなしで良かった。

 

───バチッバチバチバチバチ!!

 

 

「ギィィィヤァァァ!?」

 

 

 結界魔術の中でも初歩である〈地雷(マイン)〉。単純に、結界に入ったら爆発する魔術だ。その〈地雷〉を改良した〈電撃地雷(エレクトリック・マイン)〉。

 

 普通ならスタンガン程度の電流で良いけど、今回は強めに設定しておいた。

 

 

 長引いても特に意味もないからアータルの権能の聖句を唱える。

 

 

「我は世界を脅かす悪を挫き、世界を守護する者なり。いと聖なる御方よ、我が聖なる焔を以て行う、我が聖なる献身をご覧あれ」

 

 

 アータルの炎を使う時の聖句を唱え、右手に生み出した炎を名も知らないはぐれ悪魔に放つ。

 

 

 電撃で痺れて体が動かせなかったのか声も出せずに燃え尽きた。

 

 

「人を喰うはぐれ悪魔が隠れてるのに暢気だなこの町の領主とやらは……」

 

「……どうか安らかにお眠りください……」

 

 

 祐理の言葉を聞いて、祐理の体の向きの先を見て納得する。

 

 血痕と男性用の靴が置かれていたからだ。きっと、さっきのはぐれ悪魔に喰われたのだろう。

 

 

 これがこの世界の現実か……。

 

 語り継がれる異形が跋扈する、ただの人には厳しい世の中。

 

 

 元の世界も神とカンピオーネがいて荒れていたが、この世界は、それ以上かもしれないな……。

 

 

 



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五話

 

 はぐれ悪魔を倒して直ぐにマンションに帰ったが、完全に日が沈んでしまった。

 

 

「ただいまーっと…」

 

「ただいま帰りました」

 

「摩桜、祐理、おかえりにゃ~。今日は遅かったけどどうかしたかにゃ?」

 

 

 匿っている猫又の転生悪魔である黒歌がソファーの上で寛いでいた。

 

 常に追手から逃げて、やっと見つけた安全な場所に腰を落ち着かせた反動なのか普段の俺の様にだらけきっている。

 

 

「町の廃工場にはぐれ悪魔がいたから燃やしてきただけだ」

 

「………その、さも当たり前かの様に言うのやめにゃい?」

 

「黒歌さん、諦めてください。摩桜さんは、同じ神殺しか神以外は倒せて当たり前って考えてる節がありますから……」

 

「邪龍の魂を取り込む摩桜ですら倒すのが難しい相手が他にもいる事に驚きを隠せないにゃ……」

 

 

 呆れながら台所に行く祐理を見送りつつ考える。

 

 

 そうなんだよな……アジ・ダハーカの魂を取り込んで権能を強化したけど、同じカンピオーネに勝てるかって訊かれても素直に首を縦に振れない。

 

 

 俺の戦い方は、魔術と権能を用いた中・遠距離攻撃主体の常に相手と距離を取って攻める戦い方だ。

 

 近距離は幻獣に任しているが、たまに強化の魔術とアジ・ダハーカに顕身して肉弾戦もする。

 ……羅濠のババアと剣バカ以外にしかしないけど……。

 

 そもそも近距離が超得意なあの二人に合わせて近距離攻撃なんてしたくねーよ。

 

 戦ってる場所の事を考えず、魔術とアータルの炎と雷、アジ・ダハーカのブレスを雨の様に隙間がない様に降らして漸く足を止めるんだよ、あの二人は……。そんな攻撃しても倒せないのが常だ。

 

 

 スミスと黒王子、アイーシャとは闘った事がないから断定は出来ない。

 この三人とは共闘だけしかしていないので判断材料が少ない。

 

 

 ヴォバンのジジイは、三つ巴の時と祐理を拐った時だけで何れもあやふやで終わってしまった。三つ巴の時は、ジジイの劫火に紛れて逃げたし、祐理を拐った時は草薙が闘いを止めろって言いながら横から『白馬』や『山羊』、『猪』で攻撃してきたけど、『白馬』はジジイに喰われて『山羊』はアータルとアンダルの権能を合わせた雷で相殺した。『猪』はジジイの狼軍団と俺の幻獣オルトロス、ネメアー、カルキノス、スピンクス、キマイラ、ヒュドラで一緒に倒した。横槍が入って何故か共闘してしまった事に白けてしまいお開きになった。

 

 

 草薙とはガチで殺りあったことはない。結界で囲んで一対一の状態で権能と魔術を使わず殴りあっただけだ。だって草薙の権能って発動条件が相手や自分の体の状態で発動する権能で発動すれば周りに甚大な被害をもたらす。だから、わざと権能を使わせない様にした。……物的被害がなくてカンピオーネの闘いにしては平和的だったと俺はそう思う。

 勝負の結果はマウントを取った俺がなんとか勝った。もし、草薙にマウントを取られてたら負けていただろう。

 

 

 

「キャリアとか権能の数関係なく、相手を倒すのがカンピオーネ…神殺しなんだよ。実際に、神殺しに成ったばかりの新人が神殺し歴四年の人類最強の剣士と痛み分けしてるんだよ」

 

 

「何それ、怖いにゃ……摩桜もそういうことをしたのかにゃ?」

 

「俺の場合は、大半はあやふやにしたり痛み分けにしてたが…羅濠のババア、二番目に長生きしてる神殺し羅翠蓮に眼つけられて殺し合いして彼奴の腕を二ヶ月ぐらい使えなくして撤退させたんだが俺、一回死んだんだよな……」

 

「死んだのに何故生きてるにゃ……」

 

「そりゃあ、死んでも甦る権能を持ってるからだよ。本当に運が良かった。その権能を手に入れてから数日後の出来事だったからな」

 

 

 いきなり現れて、問答無用で腹に孔を開けられたっけ……。直ぐにアジ・ダハーカの身体に顕身したから即死せずに済んだ。

 

 

 闘いは格闘戦から魔術戦に移って最終的にサマエルの毒で相手が生み出した植物諸とも毒に当ててやった。羅翠蓮の貫手が腹を貫通したお陰で腕にべっとり付いた血を丸ごと毒に変えて腕を毒で侵してやったが、カンピオーネの耐性のせいで効き目がいまいちだったが、腕を使えなくさせた事と魔術の腕が自分並と上から目線な事を言ったと思ったら帰っていった。

 ダメージは大きかった──腹部貫通と骨折数ヶ所──が、フェネクスの権能のお陰で死んで直ぐに治った。

 

 それでフェネクスの権能の効果を知る事が出来た。

 

 

 

 

 

 話終わったら丁度祐理が夕飯を作り終わったので、三人で一緒に食べた。

 

 黒歌がベッドに入り込んで来るのでやめて欲しい祐理の視線が痛いから……。

 

 

 

 

 

 それから数日経ち、学園に行くと悪魔の気配が増えていた。

 

 

 何故増えているのだろうか……土日は、三人で伊勢神宮に行っていたから、土日のどちらかで悪魔に成ったのかも知れない。

 

 

 せっかく逸般人(一般人)やって、裏の世界と関わりがないように──表向きは──しているのに……。

 

 大事が起きたら流石に出ないとダメだよな。日本神話との約定もあるし、カンピオーネいる所に争い有りだしな。

 

 気休め程度だが元の世界の自宅から持ってきた予備のガネーシャ像に呪力込めておくか……有るに越したことないから。

 

 

 

 コンビニに行く途中で金髪シスターに会った。

 

 見たところ道に迷ったんだろうな。そして、金髪って事は外国から来て言葉が分からないって事かもしれない。

 

 

「そこのシスター、大丈夫か?」

 

「あ、あの、すみません。…言葉が…」

 

 

 イタリア語か……ドニのせいで分かる様になったのがここで役立つとはな……。

 

 

「あ、ああ~、うんっ。…これで言葉の問題は解決したぞ」

 

「イタリアの言葉話せるんですか?かなり流暢ですけど……」

 

「知り合いがイタリア人でね。そいつからイタリア語を学んだんだよ」

 

「そうだっだんですね。助かりました、皆さん言葉が分からない様なので大変でした。あ、私はアーシア・アルジェントと言います」

 

「俺は、鬼崎摩桜だ。言葉に関しては仕方ない。日本は外国語を話せる人が少ないからな。それで、何か困った事が有ったんじゃないのか?」

 

「そ、そうでした!?すみません、教会が何処に在るか知りませんか?」

 

 

 駒王町の教会?

 

 確か其所って廃教会のハズ……。シスターって事はクリスチャンなんだろうが、廃教会でミサか?いや、それはないだろう。

 

 何かしらの裏が……つまりこのシスターが裏の世界を知ってる可能性がある。

 

 

「悪いが駒王町の教会はとっくに潰れているから誰もいないハズだぞ」

 

「そ、そうなんですか?で、でもこの町の教会に来いと言ってましたので……」

 

 

 来いって……上から目線だな。高慢な奴がいるみたいだ。高慢って言えば羅濠のババアも高慢だったな。ま、羅濠のババアは力があるからこその高慢だったからまだ許容範囲だったが、力が弱い奴がやると滑稽な上にイラッと来る。

 

 

「一応、教会まで案内するから付いてきな。もし、誰もいなかったらその時にまた考えよう」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

 

 

 教会に行く道の途中で転んで怪我した子供にアーシアが向かってしまったので追いかける。

 

 怪我した場所に手を翳したら両手の中指に指輪が出現し、光を放つと怪我を治していった。

 

 

 成る程、これがこの世界の人間が持つ武器、神器(セイクリッド・ギア)か……。

 

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「え、えーと?」

 

 

 あ、日本語分からないんだったな。

 

 

「今の子は、ありがとう、お姉ちゃんって言ってたんだよ」

 

「すみません、つい…」

 

「気にしないで大丈夫だ。そんじゃ、行こうか」

 

「……訊かないのですか?」

 

「アーシアは、訊いて欲しいのか?」

 

「え!?あ、あの、いえ、その……」

 

 

 会話が途切れたが、歩みを止めず教会まで辿り着いた。

 

 そして、またしてもイヤな予感がしてきた。教会から人でも悪魔でもない気配がする。つまり人外が居るって事だ。逃がさない様に結界張っとくか。

 

 

『(マオ、カラスども…ああ、堕天使がいるぞ)』

 

「(堕天使が悪魔の領地(仮)に何で居るんだ?敵対関係のハズなのに…どう考えても無断で独断だよな……何が目的だ?殺されても文句は言えないハズだろうに……)」

 

『(さぁな、羽虫の事なんざ考えても仕方ねぇだろ。それよりもそいつらをどう料理するかを考えた方が有意義だろ?)』

 

「(ま、そうだな。羅濠のババアみてぇにいきなり目ん玉抉ったり、耳を削ぎ落とすとかはせんが、敵対する奴に慈悲をやる心なんぞ持ち合わせてねぇからな。敵対者には徹底的にブチのめして心を砕いて歯向かわせない、基本中の基本だ)」

 

『(クククッ、違い(ちげぇ)ねぇ。敵対者は徹底的に潰す。まともだと思ってたが、相棒はやっぱり邪龍(オレたち)側の思考してやがる!)』

 

「(おいおい、何言ってやがる。神を殺す奴にまともな奴がいると思ってんのか?)」

 

『(グァーッハハハハッ!確かに神を殺す奴にまともなのがいるわけねぇわな!一本取られたぜ、相棒!)』

 

 

 心の中でそんな会話をしていたら、教会から誰かが出てきた。

 

 視認して分かった。

 コイツは、人間じゃあねぇな。

 気に食わねぇ、人間を見下してますって面してやがる。

 カンピオーネになってから洞察力とか観察力とかが上がってるからな……まあ、カンピオーネになる前から人の顔をよく視ていた影響もあるだろう。

 

 

「遅かったじゃない、アーシア。そこの人間に案内してもらった訳?」

 

「レイナーレ様……」

 

 

 レイナーレって言うのかこの堕天使。

 

 それにしてもコイツ弱いな、結界を張った事に気付く様子がない。……まあ、同族か神以外に気付かれるヘマなんざしない。最強の魔術師と言われて、魔導王の呼び名まで付けられたんだ。俺にだってプライドがあるんだよ。汚くても最後は勝てればいいと思うけど魔術で負けるのは俺が赦さない。

 

 

 堕天使の方に行こうとしたアーシアの前に腕を広げて止める。

 顔に出過ぎだぞ堕天使。イライラしてるって顔面に出ている。

 

 

「おい、堕天使。お前の目的は何だ」

 

「へぇー、私が堕天使だって分かってるのね。目的?あんたみたいな下等生物に言うわけないでしょ」

 

 

 そう言って光の槍を造り出して、黒い羽を広げる。

 

 ヤバイどうしよう。挙動が遅過ぎる。

 

 あ、槍投げてきた。

 

 羅濠のババアと剣バカのせいで神速レベルじゃないと遅く感じる。あの二人が神速と同じ速さで動けるのが問題なんだよ。俺が苦労して権能と魔術の応用で安全な神速状態の維持が出来るようになったのに笑って追い掛けてきたり、見切ったり。

 

 タイミングを合わせて正拳突きで迎撃。特に呪力を込めてない拳──少しだけ漏れ出てたけど──で光の槍が粉々になった。

 やっぱり、カンピオーネの体質は卑怯だ。

 

 

「な、何でただの人間の拳が私の槍が砕けるのよ!?」

 

「そんなの俺がただの人間じゃないからに決まってんだろ。さぁ、とっとと目的を言え……言っておくが、仲間に連絡も、転移も出来ないからな」

 

 

 結界は空間遮断、人避け、気配隠蔽等々を織り混ぜた簡易的な物だ。簡易的な物だが効果は折り紙付きだ。

 

 

「マ、マオさん……」

 

「アーシアは少しだけ待っててくれ。あれに訊きたい事があるんでな……それで言う気になったか?俺は、あんまり我慢できる人間じゃないから早目に言えよ」

 

 

 言いながら、呪力を少しずつ解放していく。顔がどんどん青褪めていく堕天使。アーシアには結界張ってるから影響はないハズだ。

 

 

「き、貴様は、何者だ!?」

 

 

 俺が何者か……言っても良いか、逃がすつもりはないし。

 

 

「俺が何者か?俺は、ただの通りすがりの神殺しだ」

 

 

 

 



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六話

 

 

「俺が何者か?俺は、ただの通りすがりの神殺しだ」

 

「神殺しだと?ふざけるな、グファッ!?」

 

 

 ふざけてないし、嘘も吐いてないっての。うるさいので背中に魔術で作った圧縮空気弾をぶつけて地面に落とす。

 

 

「ふざけてないし、嘘も吐いてない。俺の正体を言ったんだからとっととお前が何で悪魔の領地になってるここに来た目的をはよ言え」

 

 

「う、ぐっ、こ、この町に来たのは、私の計画を進める為にここに来た…」

 

「計画の内容は?」

 

「そ、それは……言います!?言いますからどうか!」

 

 

 俺が挙げた右手に反応して、口を開く堕天使。

 

 

「そこの天界陣営の教会から悪魔すら治す神器を持つとされ異端として追放されたアーシアの神器を抜き取って、私が至高の堕天使になり、アザゼル様の寵愛を受けるための計画……」

 

 

「人の神器を抜き取ったらどうなるか知ってるのか?」

 

「ええ、知ってるわ。神器を抜かれた所有者は死ぬわ。けど、そんなの貴方には関係ないでしょ」

 

「……うん?」

 

 

 何言ってやがるんだ?この堕天使は……確かに関係ないな……。至高の堕天使に成りたいなら強くなれよ。神器を抜き取る事より、身体鍛えた方が良いハズだろ?ここじゃあ違うのか?

 

 

「教会から捨てられたアーシアを私が拾ってその命をどうしようが、私の勝手でしょ?」

 

 

 ……………よし。

 

 レヴィアタンの権能で捩じ切って殺ろうと思ったが、この悪党にはアレ(・・)の実験台にするか。この世界のアジ・ダハーカを取り込んで得た智識で知ったけど、使う機会がなかったから丁度良い。

 

 アーシアは、祐理と似たような感じがする。首から上を捩じ切る光景を見せるのもあれだし。まあ、見せないように出来るけど……。

 

 

「計画の内容を話したでしょ。早く、私を解放しなさい!」

 

「お前、今の状況を分かってんのか?何でそんなに偉そうな口が出来るんだよ……。俺は、お前の様な反省とか無縁な敵対した悪党は殺すことにしてるけど、特別に命は取らないでやるよ」

 

「ほ、本当に…?」

 

「本当だとも」

 

 

 ()は、取らないよ。命はね………。

 

 

『(おい、どう言うことだ相棒?殺さねーのか?)』

 

「(うん?いや、殺すよ。悪の心を持ったコイツを…だけど)」

 

『(どういう意味だ、それ?)』

 

「(〈善悪反転の魔(リバーサル・ハート)〉を使うって事だよ)」

 

『(マジかよ!よりにもよってそれを使うのかよ!オレ様の魔法の中でも一、二を争う扱い辛い禁術じゃねぇか!アンラ・マンユから押し付けられた対象の善悪を反転させるだけの物だぞ。そして、かなりの魔力…呪力を持っていかれるぞ!オレ様の七割以上は持っていく代物だぞその魔法は…)』

 

「(安心しろって、お前を取り込んで呪力量は増えてるし此処んところ呪力は貯めてたし足りるよ。なんとなくだけど今の四割五分は持ってかれるだろうね。……コスパ最悪過ぎるだろ。何故にこんなの創ったんだよ悪神……)」

 

『(奴に創られたオレ様でも奴の事は分からん。……というか、悪神がそんな事考える訳ねぇだろ。絶対(ぜってぇー)面白半分で創ったに決まってんだろ)』

 

「(そうだな。神なんて面白いって理由で天変地異を起こしたりするもんなぁ……)」

 

 

 

 

 この善悪反転は、魂に作用するから元に戻ることはない……いや、違うな……魂のあり方を最初っから作り替えるが正しいか。だから戻るって事が起きない。

 コイツの場合なら最初っから善人だったって事になるだろう。効果はそれなりにスゴいと思うけど一人だけにしか出来ないってのは……。

 

 

 堕天使の頭に手を置いて、術を発動する。

 

 うぐっ……。モルスの言う通りかなりの呪力が持っていかれてる。これは確かに禁術だな。ただの人が発動したら絶対、生命も吸われてミイラ確定だぞ。モルスも一、二回だけ使って効果がちゃんとあることは分かっている様だからあれこれ言わない。

 

 

「う……あっ……」

 

 

 堕天使の眼が虚ろだが魂を弄ってるからな仕様だろう。

 

 術が終わり、堕天使はふらふらしている。一、二時間ぐらいで動き出すだろう。

 

 

「マオさん……レイナーレ様に何をしたんですか?」

 

「ん?ちょっとこの堕天使に善の心を与えただけだ」

 

 

 流石に魂を弄った、とは言えないな。

 

 

「そんな事より、アーシアはどうするんだ?この堕天使はお前を殺すつもりだったんだ。例え、善人になっても仲間の堕天使に神器を抜き取られ殺されるかもしれないだろ?これからどうするんだ?これも神の試練だって言って、座して死を待つのか?」

 

「そ、それは……」

 

「宗教とか信仰を俺は、別に否定するつもりはない。信じるモンは人それぞれだからな。けどな…人生の大事な選択肢で神なんて不確かなモノにすがって変わるのか?神が目の前に現れて助けてくれるのか?全ての選択肢を決めるのは自分自身だ。断じて神じゃねぇ」

 

 

 人生の選択か……自分で言ったけど、俺の場合は確かに目の前に神は現れた。しかも、二柱。

 死にたくなかった。

 理不尽の塊(まつろわぬ神)に抗って生にしがみついて勝者(カンピオーネ)になった。

 これもまた選択の果て。

 

 

「選択する意思がねぇなら…意地汚く生きるつもりがねぇなら此処にいれば良い。堕天使の仲間が殺してくれるぞ。……俺だってな、死にそうな女の子を見捨てるつもりはないけど、生きるつもりがねぇなら助けたいと思わんし、助けてとも言われてもいないのに助ける善人じゃあないんでな。何にもないなら俺は帰るぞ?」

 

「マオさんは…何が出来、ますか…」

 

「何が出来る、か……。そうだな、日本神話の後ろ盾と日常生活するための家の提供…かな。必要なら闘うためための術も教えよう」

 

 

 天照に連絡しておかないとな、電話でもいいけど実際に会ってもらった方が良いからな。

 

 

「マオさん……私を、助けて…ください…ますか?」

 

「分かった。俺の出来る範囲でアーシアを助けよう。お前を害するモノは俺の全力を持って排除しよう。……ふぅ、とりあえず家に行くか。安心しな、はぐれを助けるのはこれで二回目だ。俺の同居人とも仲良く出来ると思うぞ」

 

「……すみません」

 

「こういう時は、謝るんじゃないぞ?」

 

「はい。ありがとう、ございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、転移で家に帰るから手を出してくれ」

 

「は、はい!」

 

 

 手を握った瞬間に転移してマンションの部屋の玄関前に転移する。

 

 転移する意味があるのかって?大有りだっての。

 

 あの結界の外に堕天使の他に悪魔が隠れていた。人避けとか掛けていたがアレは結界に気付かない様にするためのだったから、教会の方を見ていたのだろうな。駒王町の悪魔…つまり学園にいる悪魔の気配は覚えているがその何れでもない物だったから大事をとって転移で帰ったのだ。

 

 

「此処が現在の俺と同居人が住む部屋だ。ただいまーっと」

 

「……お邪魔しますぅ」

 

 

 声が掠れてる様に小さくなったな……。

 

 

「おかえりなさい、摩桜さん」

 

「おかえりにゃ~」

 

「おう、二人とも今日から同居人が増えるからそのつもりでな」

 

「それは…どういう……ああ、そう言うことですか……」

 

 

 あれ?祐理の眼が鋭く、光りが消えたように一瞬見えたぞぅ。俺の後ろに隠れていた存在、アーシアを見たからか?

 

 

「はぐれのシスターのアーシアだ。殺されそうだったし、助けを請われたから連れてきた」

 

「アーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

 

「イタリアの方、何ですね」

 

 

 う~ん。ここは日本だし、イタリア語は目立つよな……手っ取り早く〈教授〉で教えるか。情報量が少ないなら一週間は持つしな、その間に日本語を喋れる様になってもらうか。

 

 

「アーシア、ちょいとデコを出してくれ」

 

「こう、ですか?」

 

 

 前髪を上げてもらい、右手の人差し指と中指を当てて〈教授〉の魔術で必要な情報をアーシアの頭に流す。

 

 

「応急措置だが、一応これで日本語が分かる様になったハズだがどうだ?」

 

「あ、あれ?マオさんの言葉が…分かります」

 

「祐理、夕飯前だがお茶と菓子の準備だ。ちょいと長い話になるからな。黒歌、お前も混じれよぉ」

 

 

 

 

 お茶と菓子の準備を終えて椅子に、ソファに座って説明を始めた。

 

 

 

 



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七話

 

 

 長ったらしい事は抜きにして、簡潔に……。

 

 

 俺とアーシアの説明で祐理と黒歌は、納得してくれた様だ。

 同居の件も許可してくれた。この部屋じゃなくても隣の部屋も借りてるから良いんだけど。

 

 

 話終わったら直ぐに天照に電話して後ろ盾の件を伝えると明日の午前中に会う事になった。

 

 

 俺や祐理の事、黒歌の事も夕飯の後に話して情報の共有を行う。〈教授〉でもいいけど、話す内容はそこまで多くないのでやめておいた。

 

 

 戦ってもいないのに呪力を半分も使ったのは初めてだな。呪力がある限り俺は死ぬことはないからな……もう少しペース配分を考えた方が良いかな?いや、今回の魔術がダメなだけだから今と同じでいいか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、四人で高天ヶ原に転移して、アーシアが日本神話所属となって後ろ盾を貰える事になった。宗教と信仰は今までと同じで良いらしい。流石は日本神話だな。八百万の神がいる神話だな。因みに、俺以外は日本神話所属の扱いになっている。俺は日本神話の食客魔術師(呪術師)という扱いだ。神殺しだってバラすまでの仮の扱いだ。

 

 神殺しと仲の良い神話何て色々言われるだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 高天ヶ原から帰って来てそのままデパートに行きアーシアの服などの生活用品を買いに行った。

 

 女性陣と一旦別れ──黒歌は気配とネコ耳と尻尾を隠した上で隠形による隠蔽を行った──俺は一人でデパートを散策した。

 

 

 

 

 

 そして、見てしまった………。

 

 

 あの、名状しがたい奴を………魔法少女のコスプレをした漢女?を見てしまった……。

 

 

 一体何で魔法少女何だ?パッツンパッツン過ぎるだろ。もう少し大きいサイズないのか……。

 

 

 元の世界でもあんなマッスル(筋肉)見たことがない。

 皆どっちかって言うと引き締まった細い肉体だった。

 

 

 しかも、あの魔法少女(仮)強い………。

 

 

 権能と魔術が使えなかったら確実に負ける。避けるだけなら行けるかもしれないが……。

 

 

 陸や草薙の愛人ズと互角に闘えるんじゃあなかろうか。

 

 

 足運びと体捌きが一般人じゃねぇ。確実に逸般人の領域に突っ込んでいる。威圧感はハンパネェのに気配は薄っすらとしか感じられない。体術は達人レベルかもしれない。

 

 絶対(ぜってぇー)人類最強、歴史に名を刻めるレベルだ。神殺し出来るんじゃね?割りとマジで……。

 

 

 アレだ。ヘラクレスの血とか魂持ってるって言われても納得できるかもしれん。……したくないけど。

 

 

 ほんの出来心で聴覚を強化して声を聞いてしまった。あの姿と声の低さで「にょ」ってないだろ、飲んでたジュースを吹き出すところだった。

 

 

 規格外って案外近くに居るんだな………。

 俺も規格外の一人だけどさ、規格外に成る前は普通の一般人だぞ?サブカルチャー好きの。

 

 アータルとアジ・ダハーカを殺していなければ魔術師にもならなくて転移した先々でまつろわぬ神にも逢わなかったハズだ。

 

 

 ま、神殺しした事に後悔なんてしてないし、やらかしの反省もたま~に本当にたま~にならするさ。闘った被害は俺に言うな、俺はなるべく壊さないようにしてるが──幻獣出したら道路が抉れる──神を殺せるなら安いだろう?

 

 

 

 

 フェネクスの不死を手に入れてから、カンピオーネの中でも規格外(武闘派)二人にサンドバックにされる回数が増えたのがいけないんだ。毎度毎度全身斬り刻まれたり、全身粉砕骨折とかされるから抵抗して色々と地形を吹っ飛ばしたりする。一回だけ三つ巴した時に見た、陸のあの生意気な面が優しくなった時はマジで泣きたくなった。

 

 

 アジ・ダハーカの完全顕身を、的がでかくなった、で済ます。アンダルの雲の偽りも効果薄い。神速を破る心眼。相性悪すぎる。

 

 

 フェネクスの不死は呪力ある限り甦るけど痛いんだよ。痛いと思ったら生き返ってた事もあった。サマエルの毒を浴びさせても時間が経てばまた遊びに行く感覚で来るから嫌だ。

 二人とも懲りずにサマエルの毒を食らう分まだいい。毒に当たったら戦闘が終わるから、如何に二人の動きを先読みして当てるかが問題。

 

 まあ、ドニと姐御──本人が近くに居る時はこう呼んでる、呼ばないと身体に孔が開く──の技術盗んでるから儲けになるか?ドニからは剣の振り方や体捌き、姐御からは縮地法などの方術を盗んだ。

 

 縮地なら舌打ちでも他の動作でも出来る様にした。縮地ってなんかカッコいいと思ってからかなりやり込んだな。神速を使わない戦闘でしか使わんが……普通の転移のが慣れてるのもあるけど。

 

 

 

 昼飯を食べる為に一度集まったが、黒歌の姿が見えないと思ったら自前の隠形で隠れていただけだった。

 

 

「何してんだ、黒歌」

 

「その…ね、妹が、白音がすぐ近くに居たから…つい…にゃ」

 

「俺の隠形を破れるのは同族と神だけって言ったろ?匂いも偽ってんだから楽にしろよ」

 

「うん、ありがとにゃ、摩桜」

 

 

 出会って一月くらいだけど明るい黒歌が沈んでるとこっちも調子が狂うな……。

 

 黒歌の問題はなるべく早く片付けたい。

 

 悪魔の親玉と直に話が出来れば良いんだがなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この気配、人間?でも、神の力、感じる。不思議。そいつなら、グレートレッド、倒せる?……あれ?気配消えた」

 

 

 無限の力を持つ龍神が興味を持った人?を探そうと起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!何だあの人間は!僕のアーシアを拐いやがって……!必ずアーシアを僕の物に、そしてあの人間は殺す!必ずだ……」

 

 

 

 そして、神殺し(邪龍)の逆鱗に触れようとする愚者(悪魔)が一人。

 

 

 

 

 

「にょ?何だか視られてる気がするにょ……。もしかしてミルキーのファンかにょ!」

 

 ………勘違いをする規格外(漢の娘)が一人いた。

 

 

 

 



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幕間 『剣の王』が語る『魔導の王』

 

 

 

───サルバトーレ卿、御時間頂いてよろしいでしょうか。

 

 

「ん?ああ!誰かと思ったら日本の忍者の人じゃないか。どうしたんだい僕の所に来るなんて」

 

 

───実は、摩桜さんの資料を作ってまして……。摩桜さんと交流が多かった貴方に話を聞きに来たんですよ。

 

 

「成る程~。うん、良いよ。丁度暇をもて余していた所だったからね」

 

 

───ありがとうございます。では、早速ですが摩桜さんと出会ったのは、ヴォバン侯爵の『まつろわぬ神招来の儀』の時……サルバトーレ卿がまつろわぬジークフリートを倒した後でよろしいでしょうか?

 

 

「合ってるよ。初めて視たときは驚いたよ。灰色の人狼と三つ首の龍人が戦っていたんだからさ!それを視た僕は一目散に駆けつけて三つ巴をしたけど……あんなにも心踊ったのは今でもなかなかないよ」

 

 

───そこまで言いますか……。

 

 

「言っちゃうよ?後は摩桜と羅濠のばぁさんと三つ巴した事かなぁ?後は、護堂とかだから今は良いよね」

 

 

───ええ。次に摩桜さんとしっかりと相対したのは摩桜さんが三つ目の権能を手に入れてからですね。

 

 

「そうそう。人間の姿を見ていなかったからのと、摩桜って二年目までフットワークが凄く軽かったせいでなかなか捕まえられなかったけど、丁度良く摩桜とバッタリ会っちゃってね。そこから一緒にランチしてから殺しあったんだ」

 

 

───確か、エベレストの麓で殺りあってエベレストの一部が崩れましたね……。

 

 

「摩桜酷いんだよぉ。山に思いっきり吹っ飛ばして減り込んでいた所に毒を流したんだよ!危うく死ぬ所だったよ。それにしても摩桜のあの毒は僕らカンピオーネに効くよね。ばぁさんですら治すのに苦労してたみたいだし。僕の『鋼』すら溶かすからねあの毒ハッキリと言って卑怯だよね」

 

 

───ですが、余り使ってない様でしたけど……。

 

 

「ああ、僕とばぁさんと闘う時は、バリバリ使ってたよ。しかも、狙いが手とか足ばっかりでさ、身体を動かす方の僕とばぁさんに遠慮せず狙ってきたよ」

 

 

───成る程。では、摩桜さんの内面的な事を訊いても良いですか?

 

 

「内面、か……。まあ、僕らと闘うのは拒まないから付き合いは良いよね、彼。護堂と違って確実に殺しに来るし、面倒臭がりでオタクでありながら知識欲と苦労人気質で自分の領域を害される事を極端に嫌うのが彼かな?」

 

 

───(苦労人気質なのは貴殿方のせいですよね……)自分の領域ですか?

 

 

「自宅と自分が定めた身内の事さ。一度彼の自宅に行こうとしたら海に叩き落とされたからね……」

 

 

───では、摩桜さんの才能についてはどうですか?

 

 

「……そうだね。摩桜は僕とは真逆の才を持つ天才だね」

 

 

───それは術士、としてですか?

 

 

「そう。皆僕の事を剣の天才である『剣の王』って言うでしょ?摩桜は逆、魔術の天才である『魔導の王』ってね。実際彼は天才だ。いくら魔術関連の権能を手に入れたっていってもセンスが無いとね。護堂の様に権能で上手くなっている訳じゃないのは確かだね」

 

 

───良く分かりましたね。摩桜さんに魔術の才があるって。

 

 

「最初は半信半疑だったよ。けど、闘う内に分かったけど彼って魔術使う時に詠唱せずに無詠唱で発動させるからね。それで摩桜は魔術の天才だって分かったんだ。しかも、彼って権能の聖句は口に出す癖に魔術は無詠唱が当たり前って考えてるよ絶対。いや、ホントに……」

 

 

───何処かズレてるんですよね。摩桜さんって本当に護堂さんと同じ様に一般家庭で魔術師の家系でもないんですけどね。神殺しをして権能を手に入れたお陰で埋もれていた才能を開花させたでよろしいでしょうか。

 

 

「そうだね。普通の人は魔術何て使わないからね。僕としては嬉しく思うよ、その才を持って同じ舞台に立っている事をさ」

 

 

───そうですか。そう言えば、摩桜さんが不死の権能を手に入れてから何度も戦ってますが……。やはり死なない同族相手と戦うのは高みを目指す剣士として最高ですか?

 

 

「全く持ってその通りだよ!摩桜が不死の権能を手に入れてから何度も戦ってその度に、毒を浴びせられて治して戦うを繰り返したのはとても良かった。ばぁさんですらそうしていたからね。まあ、殺り過ぎたせいか摩桜が痛みに鈍くなって、顔色一つ変えずに攻撃して来る様になったかな?カンピオーネの身体は痛みに強くなるけど、腕や身体を斬り刻まれたら流石に顔を顰めたりするハズなんだけど摩桜はそれが無くなっちゃったんだ」

 

 

───ええ……。

 

 

「三つ巴の時にやった魔術と権能とドラゴンブレスによる絨毯爆撃。後、幻獣もヤバかった。ライオンとか蟹とかヒュドラとかオルトロス、僕の剣やばぁさんの拳があんまり効かなかったのは驚いたね。幻獣倒した後のラスボスの如く出されたテュポーンはヤバイの一言だけだ」

 

 

───ヤバイ……他の言葉はなかったんですか?

 

 

「だってさぁ、ばぁさんの衝撃波を風で相殺したり、僕の呪力を込めた大地の剣でさえもビクともしないんだよ?奥の手と言える代物だよ、アレは。消耗していた時に出されると本当に面倒ではあるけど、倒しがいがあると思うね」

 

 

───その言い方は倒してないのですか?

 

 

「そうなんだよ。テュポーン(幻獣)に集中し過ぎたせいで毒を浴びせられてゲームオーバー。ラスボスを倒そうとしたら真のラスボスに攻撃されちゃったのさ」

 

 

───成る程、流石はカンピオーネ。一瞬の隙を逃さなかったということですか……。それでは、私はそろそろ帰りますね。御時間頂いてありがとうございます、サルバトーレ卿。

 

 

「どういたしまして。ああ、そうだ。護堂と摩桜が戻ってきたら殺し合おうって言っておいてよ?摩桜は来てくれると思うけど、護堂は拒否するからこっちから行くねって伝えといてよ。ああ、護堂が無視したら護堂の大切なモノを斬ってあげるって言っておいて」

 

 

───分かりました。しっかりと伝えます。

 

 

 

 

 

 

───はぁ……。(サルバトーレ卿は、人の逆鱗に触れてまで何故戦おうとするのでしょうかねぇ。ああ、また何処かが護堂さんによって世界遺産か建築物が破壊されるんですね……。護堂さんも摩桜さんもまだ帰ってこないで下さいよぉ)

 

 

 

 

 

 

 



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八話

 デパートから帰ってからそこそこの日にちが経った、アーシアに日本語を教えながら簡単な魔術を教える。

 

 

「アーシアは、支援系の魔術の才能があるな。癒しの神器と性格の影響があるかもしれんな……」

 

「そう…なんですか?自分ではよく分かりませんので……」

 

「アーシアさん、自信を持って良いですよ。摩桜さんは、元の世界で『魔導王』と呼ばれるほどの魔術の腕と知識を持っています。そんな摩桜さんが才があると言うのであれば、アーシアさんには支援系魔術の才があるって事ですよ」

 

「うう…そんなスゴい人に私は、教わっているんですね……」

 

 

 本当に支援系の才能は祐理に劣らないだろう。

 

 優しい性格が原因かは分からないが、攻撃系は全然のようだ。

 それが彼女の才能……持ち味なのだろう。ならば、その持ち味を昇華できる様に教えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐理?それって権能があるからじゃないのかにゃ?」

 

「違う様ですよ……摩桜さんは、権能を使う時は聖句を唱えますけど、魔術は無詠唱で行使するぐらいの才能……天才と呼ばれるほどの才と力量があって、しかも魔術は全部独学で修得したみたいなんです」

 

「ええ……。存在が既に規格外なのに、魔術に対しても規格外だったのかにゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……おっと?

 

 どっかで俺の噂を言った奴がいるな。ドニが戦いたいとでも言ったのか?彼奴は戦う為なら何だってするからなぁ……善い事だろうと、悪い事だろうと……。

 

 

 

 

 

 複数あった堕天使の気配が消滅したみたいだ……。

 

 

 権能を掌握するために日常でも使ってる『幻獣創造』で呼び出した不死の鷲エトンが報せてくれた。不死と言っても身体をバラバラにされたり身体を消滅されたらダメなんだけど。翼だけなら直ぐに再生するしカンピオーネの様に魔術の耐性が高いから特攻か偵察か護衛用の幻獣だ。

 

 

 この町の領主らしいリアス・グレモリーが漸く動いたようだ。しかし意外と遅い対応だな……。敵なんだからとりあえず倒すぐらいはしておけばいいのに……自分の領地(仮)なんだから侵入者として処理しても文句なんて言われないと思う。独断の行動なら悪魔と堕天使の戦争にはならないだろ、たぶん。

 人間に寄生してないと種族の繁栄が出来ないのに争う暇があるのか?人間界で争うなら俺が出ないと行けないだろう。人間代表としてな……。冥界で争うならどうぞ好き勝手にやってくれ。

 本来なら冥界にいて当然なのにな……何で人間界に居るんだろう?

 

 他の神話体系は自分たちの領域に籠っているのに何で聖書の三勢力は人間界に居るんだろうか……。冥界より人間界が好き、とか種族を越えた恋愛だの結婚して移り住むならまだ分かる。

 やっぱり、悪魔の駒が原因かなぁ。蘇るのは凄いと思うけど、黒歌の話だと無理矢理だったり殺した後に眷属にしたり。歯向かったらはぐれ悪魔にされて殺される。

 

 そろそろ他の神話体系から喧嘩売られるだろ……。

 

 戦いになったらとりあえず、各神話体系の軍神が出てくるハズだ。

 日本神話の須佐之男、武御雷、建御名方。インド神話ならシヴァ、インドラ、カーリー辺りか?ゾロアスターならヤザタ…つまりアータルやウルスラグナ等が。ギリシャ神話ならゼウス、ポセイドン、アーレス。北欧ならオーディン、トール、ヌアザは出るだろう。斉天大聖も出るよなきっと……。

 

 戦争とかになったら今の所助けるなら黒歌の妹だけ。それ以外はどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアは学校に行った事が無いらしいので編入できる様にしてもらった。教員の中に日本神話所属の退魔師が居たのでお願いした。

 

 まあ、居るよね普通。

 

 リアス・グレモリーに領地としての許可をした覚えがないのだが……前任者のクレーリア・ベリアルには許可していたらしい。

 

 態々自分たちに許可を求めてきたらしい。駒王町の土地神が何処かに行ってしまったらしく、繋ぎとして許可したらしい。

 

 そして、何故かクレーリア・ベリアルが死んでしまったらしい、眷属も一緒に……。

 

 退魔師の家系を派遣していたらしいが内輪揉めに巻き込まれてしまい居なくなってしまい、フリーの退魔師を派遣していたらいつの間にか──二年前に──グレモリーの領地にされていたらしい。

 

 前任者は悪魔でありながら人格者で誠意を持って許可を求めてきたのにリアス・グレモリーは許可をもらいに来たことがない、と天照は愚痴ってた。

 

 

 俺から言わせればどっちもどっちなんだけどな……。

 

 前任者が死んだ時点で暇してる神を派遣すればいいのに……。

 

 グレモリーもグレモリーだ。前任者の悪魔が居たから悪魔の領地ではない、ここは日本だ。日本の土地は、日本神話の土地だ。断じて、悪魔の土地じゃあない。

 

 

 

 

 

 

 投げ出すつもりはないが……。

 非常に面倒臭い問題ばかりで嫌になる。

 

 一度戻って、ドニと殺し合おうかな……ストレス発散に……。

 

 

 

 祐理と一緒にアーシアを連れて学園に向かう。今日からアーシアが高校デビューする。クラスは一緒にしてもらった。因みに祐理とアーシアは従姉妹である設定だ。それが無難だと思ったからだ。

 

 

 

 学園に着いたら悪魔の気配が増えていた。

 

 どういう事だろうか?

 

 

 幻獣(エトン)を出して置きたいが人が多い今は保留だ。怪しまれない幻獣が少ないからな……大きさは変えれるけど姿は変えれない。イヤ、出来るハズだが幻獣たちが許可しないだろう。強いけど意志があるから強要出来ない、したら絶対反発するから。

 

 

 

 アーシアの自己紹介が終わったらクラスの男どもから嫉妬の念が漂っていた。アーシア用の(まじな)い掛けなきゃ。

 

 

 

『(やっぱり、過保護だろ。相棒)』

 

「(アーシアは人が良すぎるんだよ。それがアーシアの良い所だが、良すぎたせいで悪魔の罠に嵌まっちまったんだよ)」

 

『(お、相棒もそう思うか?)』

 

「(当たり前だっての。何で好き好んで敵が居る教会に傷付いた悪魔が来るんだよ。明らかに罠だろ…アーシアを狙った…な。きっと罠に嵌めた悪魔は、頭が逝かれた下種野郎だ。見つけたらプロメテウスと同じ刑にしてやる)」

 

『(あ~、それってつまり、磔にして腹を鷲に啄まさせるって事か?)』

 

「(ああ、そうだよ。エトンはプロメテウスの腹啄んだ鷲だから丁度いい。お、磔に使う十字架は祝福儀礼済みのにするか、悪魔にとっちゃあ苦痛でしかねぇだろうな)」

 

『(クククッ、愉しそうだな相棒。なぁ、だったら十字架に磔てオレかアータルの炎で焼くのはどうだ?良い声で鳴くと思うぜ?)』

 

「(モルスだって愉しそうじゃねぇか。アーシアが気に入ったか?)」

 

『(祐理とアーシア二人とも、だな。あの二人は、聖女の素質を持った女だ。雄の(ドラゴン)は、心が綺麗な女が好きなのが多いってのもあるが、邪龍のオレ様との会話を臆さなかったのもポイントが高い)』

 

 

 あの二人はどうやら龍に好かれやすい様だな。

 

 さぁーってと、龍の逆鱗に触れるのはどんな奴かな?

 

 飛びっきりの下種野郎なら殺りがいがあるってモンなんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 増えた悪魔はどうやら善人にしてやった堕天使のレイナントカだった様だ。

 

 

 アーシアが驚いて堕天使の名前を言ってしまった。

 

 元堕天使の隣に居た変態三人組の兵藤だっけ?に聞かれてしまった。

 

 

 モルスが言うには、二天龍の片割れである赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)、赤龍帝ドライグの神器を持っているらしい。

 

 

 黒歌の情報では、十三種類の神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる、極めれば神を殺せる(・・・・・)かもしれない(・・・・・・)神器の一つに赤龍帝ドライグの神器〈赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)〉があるとの事。

 

 

 神を滅する道具……ねぇ……。

 

 御大層な名前を付けたもんだな。

 

 俺から言わせれば…かもしれない程度で神滅具だぁ?

 

 

 ちゃんと殺してもいないのに道具に神を殺すなんて謳い文句付けんな。付けるならちゃんと殺してから付けるべきだ。

 

 道具…神器に付けるより扱う奴が凄いと思うのだが……違うのかねぇ?

 どんな能力を持っていようが上手く扱える方が俺は凄いと思う。

 

 

 

 

 放課後にイケメンの木場だっけ?が来た。

 

 

「アーシア・アルジェントさんは居るかい?」

 

「私が、アーシアですけど……」

 

「グレモリー先輩の遣いで来たんだ。旧校舎のオカルト研究部まで付いてきて───」

 

「アーシア、買い物行くから帰るぞぉ」

 

 

 イケメンの言葉を遮ってアーシアを呼ぶ。

 

 

「───欲しいんだけど……」

 

「悪いなイケメン。用事があるなら用事がある本人が直接来いって言っておけ」

 

「え、あの、すみません!」

 

 

 

 

 

 買い物行く途中からつけられている。おそらく使い魔で監視しているのだろう。

 拒否した事による処置か?グレモリー先輩はプライドが高い様だ。

 

 エトンに監視している使い魔を攻撃させてもいいけど、話が拗れそうだから撒くか。

 

 

「偽りの雲よ、立ち篭めろ。我が望む偶像を魅せ給え。我が望む景色を魅せ給え。世界を、万人を欺き給え」

 

 

 アンダルの権能を発動させ使い魔の目に映るものを偽る。使い魔の目には自然に道を歩いているように見えているだろう。時々曲がったりして同じ場所を回るようにしておいて、俺らが家に着くまで動かしておく。家に着いたら自然な感じで消滅させる様にする。

 

 

 

 

 

 

「さてと、明日絶対グレモリーが来るからどうすっかね?」

 

「とりあえず、日本神話所属なのは言うべきかと……」

 

「そうだな……ああ、二人とも、俺が神殺しだって事とアジ・ダハーカの魂を持ってるのは秘密だぞぉ。俺は魔術師……呪術師で通すからな」

 

「分かりました」

 

「は、はい……」

 

 

 

 明日、悪魔はどう来るかなぁ。

 

 



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九話

 

 

 悪魔との対話が拗れたらどうしようか……。

 

 

 戦闘になったらネメアだけでいいか?ああ、でもネメアって物理耐性凄いけど魔術耐性が意外と低いんだったな。

 

 物理耐性をモノともせずに羅濠のババアに撲殺されたけど……。

 

 

 カルキノスか?物理と魔術の耐性は高いけど動きが遅い。

 動きが遅いせいで、ドニに関節を切られて動けなくなった。ドニの魔剣は治癒を阻害するから再生出来ない。ヒュドラもでっかくなった魔剣に首を斬られてしまいアウト。

 

 

 

 金羊毛の番竜(コルキオン)とラードーンとデルピュネーは、拠点防衛用の幻獣だし……。

 

 

 

 

 無難なのはスピンクスか……。

 

 耐性もあるし、知能が高くて空も飛べる。戦いになったらスピンクスでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 

 

 

 リアス・グレモリーとその眷属がいるのは分かるが、何で生徒会長までいるんだよ……。悪魔だって知ってたけどさ。

 

 

 

「さぁ、言われた通り此方から来て上げたわよ」

 

 

 ……上から目線だなぁ。

 

 悪魔って自尊心だけは高そうだ。実力が伴っているなら別段言う事はないのだが……。

 

 そういえば、悪魔って貴族社会だっけ?ああ、弱かろうが家柄だけでふんぞり返る奴がいそうだ。

 

 

「ああ、そうですか」

 

 

 ────パチンッ。

 

 

 指を鳴らして俺ら三人と悪魔の周りを結界で囲む。効果は人払いと認識阻害と防音だ。指を鳴らさなくても他の動作でも出来るが、演出は大事だ。

 

 

「結界!?今の一瞬で、ですか……」

 

 

 生徒会長が冷静に分析しているが、こんな簡単な結界で驚かないで欲しいな。付与した効果は最低限のものだし、強度はほとんどないに等しい。

 

 

「面倒なのでとっとと自己紹介しますね。俺は、日本神話の食客呪術師をしている鬼崎摩桜だ」

 

 

「私は、日本神話所属の媛巫女をしています。万里谷祐理と申します。現在は、摩桜さんとペアを組んで仕事をしています」

 

 

「私は、教会でシスターをしていました。アーシア・アルジェントです。今は、日本神話所属の巫女見習いで、摩桜さんと祐理さんの元で生活しています」

 

 

 

 祐理とアーシアの立場は、天照に認可されている本物である。

 

 

「日本神話の人間が何で此処に居るのよ!?」

 

「何でって此処は、日本神話の土地だぞ?日本神話所属の人間が居ても普通の事だろ」

 

「此処はグレモリーの領地よ。日本神話の土地じゃないわ」

 

「はぁ……まあ、分かってはいたがな。悪いけど前任者が居たからとか言うなよ?アンタの前任者であるクレーリア・ベリアルは、日本神話から駒王町をお金で借りていたんだ。前任者のベリアルが死んだ時点で駒王町は日本神話の土地に戻っている。つまり、アンタは日本神話の許可を得ず、勝手に駒王町を領地と言っているんだぞ」

 

 

 そこまで言うと悪魔の顔がどんどん悪くなっている。

 

 

「う、嘘よ!?そんな話聞いてないわよ!」

 

「残念だが、日本神話の主神である天照から言われてるから本当だぞぉ。天照の手元にベリアルとの契約書有ったからな。あ、今更だけど天照に電話するか?ちゃんと金払うならそのまま領地にしていいって言ってたがどうする?」

 

 

 考えてるな……。前任者が死んだ時点で駒王町は日本神話の土地になっているのをずっと悪魔の領地だって言ってるから凄いと言える程代金が溜まっている。

 グレモリーは一応学生だから親に相談するだろうな。

 

 

「一度、両親と話をさせてくれるかしら……」

 

「構いませんよ。グレモリー先輩は、一応学生で未成年ですからね」

 

 

 悪魔の寿命とか年齢とかは知らんが、学生しているんだから未成年って事だろうな。

 

 

「失礼ですが、何で日本神話はそんな大事な事を言わなかったのですか?」

 

 

 生徒会長の支取蒼那からの質問か……。

 

 天照に俺もその疑問をぶつけた。そして、返ってきた答えは……。

 

 

「ああ、その疑問は俺も直接天照に訊いた。どうやらグレモリーが超越者と呼ばれる魔王の妹だったからだそうだ。下手に動けば戦争になるし、現在の日本神話は、アンタらが野放しにしているはぐれ悪魔の対応に追われているのも原因の一つだ」

 

「野放しになんてしてないわよ!」

 

「そうか?そう言うけどこの町にもはぐれ悪魔が隠れてたぞ。しかも、犠牲者が出ていた」

 

 

 唇を噛んでるな。領地と言っているのに、野放しにしてないって言ったのに、はぐれ悪魔が隠れてたからプライドが傷付いたか?

 

 

「領地と言うぐらいならちゃんとやってくれないと困るのはそこに住む無辜の民だ。出来ないなら領地と言わない方がいい。まあ、ほったらかしにしていた日本神話も悪いがな……」

 

 

 貴族社会って面倒しかなさそうだなぁ。体裁とか評価を気にしてんのかね。

 

 

 まあ、他人よりも自分が大事なのは、普通だ。俺だってそうだから。

 

 心にもない事を言ってる自覚はある。

 

 俺もドニの様に君臨すれど統治せずだったし、草薙がカンピオーネになってからは丸投げしていたからどの口が言うかって甘粕に言われそう。

 

 

 

「おい!部長が悪いみたいに言うのやめろ!」

 

 

 兵藤か……変態って言われてるのに熱血なのか、自分の正義を疑わない奴か……?偽善者……だな。自分が悪い事をしてる迷惑野郎って自覚がなさそうだな。

 

 

 カンピオーネたる俺に言うのは間違ってる。俺は自覚がある迷惑野郎だ。草薙は一緒にするなって言ってたがブーメラン過ぎて笑った。他の奴らは苦笑いだった。

 

 

「ん?全部悪いとは言っとらんだろ。ほったらかしにしていた日本神話も悪いって言ったろ?」

 

「言ってないかもしれないけど。お前の言い方はそう聞こえるんだよ!」

 

「……そうか。それは悪かったな……」

 

「悪かったなんて思ってないだろ!ちゃんと謝れ!」

 

 

 あっちゃー、バレたかー。

 

 それにしても、ちゃんと謝れ……か。それがブーメランだって事を分かっているのかねぇ?いや、分かってないから言ってんのか。

 

 女生徒に対して、ちゃんとお前は謝ってんのか?

 

 このままだと兵藤の言い方で話が拗れそうだから終わらせよう。俺がイライラして手を挙げない為にも。

 

 

「リアス・グレモリー、親との相談が済み次第、自分に声を掛けて下さいよ。日本神話の主神天照に連絡しますので」

 

「ええ、分かったわ。…感謝するわ」

 

「この程度で感謝する必要はないですよ。それでは今日の所はこの辺で……」

 

 

 ────パチンッ。

 

 結界を壊して元に戻す。

 

 

「ウチの猫が腹を空かせていると思うので失礼しますね」

 

 

 お開きとなったけど少し失敗したな。

 

 あの白髪の娘、黒歌の妹である塔城小猫(白音)が何かを確信したかの様に、じっとこっちを視ていた。後、鼻を少しヒクヒクさせていたから黒歌の匂いを嗅がれた可能性があるかも。

 

 

 

「摩桜さん、よく我慢出来ましたね」

 

「祐理さん、どういう事ですか?」

 

「先程の兵藤さんの言動に対して、摩桜さんが少し苛ついていたのが分かっていましたので」

 

「スゴいです、祐理さん!私もそれぐらい分かるようになるでしょうか?」

 

「一緒に暮らしていれば自然と分かる様になりますよ。本来なら火か雷が飛んでてもおかしくありませんからね」

 

 

 そういえば、祐理って俺が神殺しになって三年目の時から学校とか神事以外は家に居たっけ……。たまに転移による日帰り旅行にも一緒に行ったりしたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───そんな訳で悪い(わりぃー)な黒歌。お前の妹にお前と接触してるってバレたかもしれん」

 

「何がそんな訳にゃ!いつもの警戒心は何処行ったにゃ!うぅ~、白音に会いたいけど、依然としてはぐれのままだから色々面倒事が起きるにゃ~……」

 

 

 葛藤で身体が捻れてる。そこまで捻れるか……あ、ちょい待て、和服がはだけて胸が見えるって……。

 

 

 

 

 

─────ゾクッ!

 

 

 

 ヤバイ。この感覚はいつものアレだ。

 

 身体が戦闘体勢に移行する感覚。日本神話の神と会う時もこれでちょいと苦労したが仕方ないそういう身体だからな!

 

 いかんいかん、口角が上がってるのが分かる。

 

 

「摩桜さん、どうしました!?」

 

「ちょっと何で嗤って…まさか、神が来たかにゃ!?」

 

 

 得体の知れない力の塊がマンションの頭上に現れやがった。

 

 アーシアと黒歌の二人は俺の異変に気付いたみたいだ。祐理の方は……丁度霊視している。

 

 

 

「死と再生…円環…身喰らう蛇……無限……、摩桜さん!?」

 

「わぁーってるよ。今の霊視で大体分かったからな。……我は全てに死を与えるモノなり。モルス」

 

 

 聖句の一部分だけ唱えてモルスを呼び出す。

 

 

「相棒、相手は祐理の霊視通りの奴だ。しっかし、よく此処が分かったな……遮断した上で気配とか違和感が無い様に相棒と一緒に作り上げた結界のハズなんだがな。流石は『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスだ」

 

 

 この世界でのツートップの片割れ。

 

 無限を司る龍神か……。頭の中がどう倒そうかと動いてる。最悪、毒を使えば良いがつまらない事はしたくはない。

 

 

「ちょちょ、ちょっと待つにゃ!オーフィスってあのオーフィス?!今近くにいるのかにゃ!」

 

「マンションの真上でスタンバってるぞ?そろそろ行かんと向こうから来そうだから俺、行くから」

 

 

 

 

 転移でマンションの屋上に到着。

 

 力とか隠してるのに伝わるこの気配。

 

 龍のオーラの方が強く微かだが確かに感じる神気。

 

 姿は、あのアテナよりも幼い容姿をした痴女なロリが無限の龍神オーフィスか……。

 

 

 ……あの服装はふざけてんのか?ゴスロリなのに前が無くて乳首の所にバッテンのテープ貼った感じなんだよ。

 

 

「色々考えてる所悪いが相棒。オーフィスには決まった姿が無いんだよ。封印される前に会った時はジジイの姿だったからな」

 

「マジかよ、相棒」

 

 

「その声、アジ・ダハーカ?何で人間の中にいる?」

 

 

 感情がイマイチ分からん表情で問い掛ける無限の龍神とのファーストコンタクトである。

 

 

 



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十話

 

 

 

「アジ・ダハーカ。そこの人間、本当に人間?人間なのに神気を持ってる。アジ・ダハーカが中にいるのに龍のオーラが無いは何故?」

 

 

「質問ばっかだな、オーフィス。簡単に言えば、この人間…相棒に魂を取り込まれて一体化したんだよ。龍のオーラが無いのは相棒が龍じゃねぇからに決まってんだろ」

 

 

「神気は?」

 

 

「あ~…相棒、言っていいか?オーフィスは基本的に無害な奴だ。純粋って言って良いかもしれん。戦おうとしてる所ワリィーが相棒が望む戦いはできんと思うぜ」

 

「神気を持ってる事を知られた時点で言い逃れできんし……確かに見た所、やる気が無いのが分かるからな。おい、オーフィス」

 

「?、何……」

 

「今から言う事、誰にも言うんじゃねぇぞ」

 

「分かった。誰にも言わない」

 

 

 

 本当に分かってるのか?

 

 アジ・ダハーカの言葉が正しいなら純粋だから守ってくれそうだな、勘だけど……。

 

 勘は勘でもカンピオーネの勘だ、信じるに値するモノだ。

 

 

「俺は、この世界ではない別の世界から来た神殺しだ。神気を持ってるのは、殺した神から力を奪ったからだ」

 

「人間が神を殺した?なら強い?」

 

「神を殺す奴が弱いと思うのか?」

 

「神殺し、ならグレートレッド倒すの手伝って」

 

 

 グレートレッド?それって、この世界のツートップのもう一体か。夢幻を司る龍神だったか……。

 

 

 カンピオーネとしては本能にグッ、と来るモノだけど、確か次元の狭間を只泳いでる人畜無害の存在なんだろ?

 

 暴れてるとかなら一目散に飛んでいきたいけど……無害な奴殺しても虚しいだけだと思う。

 

 

 

「悪いが他当たってくれ。確かに戦ってみたいが無害な奴と戦っても意味はねぇからな。……何でオーフィスはグレートレッドを倒したいんだよ」

 

「我、故郷の次元の狭間で静寂を得たい。なのにグレートレッド、我を次元の狭間から追い出した……」

 

「追い出された理由は知ってんのか?」

 

「外を視てこいって言ってた」

 

 

 

 

 ……え?そんだけの事なのか?

 

 この世界のツートップ結構つまらん理由で争ってんのかよ……。

 

 純粋って言うか…無知って言うか…。

 

 たぶん、グレートレッドはオーフィスに世界を知って欲しいのだろう。……何もせず泳いでるだけなら一緒に見て回るぐらいしてやれよ……。何も知らない子供を外に放っても何も意味を成さねぇだろ……。

 

 

 

「ハァ~……。とりあえず、オーフィス。飯食ってくか?」

 

「……食べる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「摩桜さん、本当に分かってますか?報・連・相って言葉、知ってますか?」

 

「わぁーってるよぉ、そんくらい」

 

 

「……流石は、本妻にゃ。理不尽の塊である神殺しが見事なまでに尻に敷かれてるにゃ……」

 

「黒歌さーん、お皿並べて下さーい」

 

「……ご飯」

 

『(カオス過ぎて笑いが止まらん……クククッ…)』

 

 

 

 オーフィスを夕飯に誘って部屋に戻ったら祐理に説教された。……良いじゃん、飯に誘うぐらい……。

 

 

 祐理は、俺を説教しながら予備の巫女服をオーフィス用にサイズを直している。運動と機械操作以外は一通り出来るからな。

 

 性別がないオーフィスではあるが、今は女の姿であるから祐理がちゃんとした服を着なさいってオーフィス叱ったが無知なロリであるオーフィスは、よく分かってない様子だった。

 

 

 アレがこの世界のツートップの片割れって……なんだかなぁ……オーフィスに対して、カンピオーネとしての闘争心とか殺る気がでなくなった 。

 

 

 無限って事は力とかの限界が無いって事だろ?そんなの普通勝てるかっての……俺はたぶん勝てる、サマエルの毒と()と蛇殺しの力を混めた魔術(禁術)を使えばワンチャンあるハズだからいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご飯、また食べに来る」

 

 

 アーシアが作った夕飯を食べ終え、巫女服を着たロリはそんな捨て台詞を吐いて帰っていった。

 

 

 ……アイツ、また来るって…飯、気に入ったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロリ龍神との邂逅を終え、二日後。

 

 

 領地の件でグレモリーによばれたので、旧校舎にあるオカルト研究部に祐理とアーシアを連れて三人で向かう。

 

 悪魔がオカルトの研究するってどうなん?何も知らない人間からしたら悪魔もオカルトじゃねぇのか?

 

 

 

 どうでもいい事を考えていたら旧校舎の周りに張られていた人払いの結界を壊してしまった。──が、直ぐに結界を張り直した。セーフだセーフ、壊して一秒で張り直したんだからな。……グレモリーに何か言われそうだな。仕方ないだろ、そういう身体なんだから。

 

 

「失礼しますよー」

 

「鬼崎君、さっき結界が壊れたのだけれど、何か知らないかしら?」

 

「あ、やっぱり分かりましたか。俺は魔を跳ね返す体質なんですよ。結界壊しても直ぐに張り直したんで文句は受け付けませんよ。それよりも……どちら様で?」

 

 

 あえて視界に入れていなかった銀髪のメイドの方をチラッと見る。

 

 

「私はグレモリー家に仕えております、グレイフィア・ルキフグスと申します。今日はグレモリー家現当主の名代として此処におります」

 

 

 当主の名代……か、今日は領地の件の事だからかなり信頼されてるって事か……そして、実力もあるって事か……。

 

 

 

「分かりました。では、今から天照に連絡───」

 

 

 天照に連絡しようとしたら、魔方陣が現れた。

 

 いきなりなんだってんだよ。タイミング悪すぎだろ……こんなことなら転移出来ない様に結界を張っておくんだった。

 

 

「……フェニックス……」

 

 

 イケメンが微かにフェニックスって言ったか?この世界だとフェニックスって悪魔なのか……紛らわしいわ!悪魔ならフェネクスにしろよ。霊鳥のフェニックスと被るっての。

 

 

 

 

 そういえば同位存在なら権能の強化出来るか?

 

 アジ・ダハーカは、魂その物を身体に入れたけど、別の物……フェネクスの魔力()を取り込めば強化出来るハズだ、たぶん。

 結構な数死んだせい(剣バカとババアのお陰)でフェネクスの権能の掌握は済んでいる。アジ・ダハーカの権能の掌握も魂を取り込んだ時点で掌握は済んでいた。

 掌握が強化の条件なら後は、アータルとテュポーン、キュベレーなら出来る。後少しならサマエルが掌握出来る。

 

 

 

 

 転移して来たライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの話を黙って聞いていたが、貴族の政略結婚なんて普通じゃねぇのか?自由に恋愛したいのは分からなくはないけどさ……。

 

 元の世界で一度だけ、なんか知らんが勝手に花嫁候補とか言って女を送り込んで来たっけ……そんな事した上の奴等に話をつけに行ったこともあったな。ほぼ脅し──アータルの炎で上の奴等の家を中途半端に燃やした──だったが後悔も反省もしてない、だってムカついたんだもん。

 

 

 男が「だもん」は無いな、キメェわ……。

 

 

 

 あ?なんで此処でキスしてんだ?……兵藤の夢がハーレムねぇ……そんなのどうでもいいか、関係ないし。

 

 

 

「そういえば、そこの人間たちは一体何だ、リアス?」

 

「そこの三人は日本神話の関係者よ。ライザー、貴方が来たせいで話が出来て無いの。だから早く帰ってちょうだい。呼んだのは此方だから早くしたいのよ」

 

「ふぅーん、日本神話の関係者ねぇ……」

 

 

 手の先が熱で揺らいでる。炎でも使って脅すか、攻撃か?それって戦争をご所望って事か?フェニックスなら不死だよな……一、二回殺しても良いか……サンドバッグに丁度良さそうだ。

 

 コイツ、祐理とアーシアの方をそういう目で見たからな……潰すぞ、焼き鳥風情が……。

 

 

「ライザー・フェニックス様、それ以上の行為は看過出来ません。日本神話と戦争を起こすおつもりですか……」

 

「まさかそんな事をする訳ないじゃないですか……リアス、十日後のレーティングゲーム楽しみにしてるぜ」

 

 

 そんな事を言って帰ったけど、グレイフィア・ルキフグスがいなければ攻撃くらいならしてただろうな……あ~あ、フェニックスの炎取り込めなかったか、残念。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、天照と連絡を取り駒王町をそのままグレモリーの領地として貸す事となった様だ。

 

 

 

 お金は指定の口座に振り込むらしい。そういう事は現代のやり方なんだな……。

 

 

 

 



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十一話

 

 

 

 グレモリーとその眷属が十日間の付け焼き刃の特訓をしに山に行った。

 

 

 一応、学生だよな……あんた等。

 

 そこまで政略結婚したくないって事か……。

 

 

 他の眷属は、本気で闘えば勝ちに行けるだろうな。堕天使が二人と猫又、剣士、神滅具持ち。

 ついこの間まで一般人だった兵藤は、流石にムリがあるだろう。俺らカンピオーネとは違うんだぞ、幾らスゴい力を持つ武器を持とうが使い手が未熟なら十分な力を発揮しない。

 

 

 

 権能と神器の違いが分かるな。権能はカンピオーネの才能や性格に合った力になったりする。

 俺の権能にハッキリとした近距離・物理系はない。

 中・遠距離な魔術師極振りなモノばかりだ。

 

 

 神器は確かにスゴいが使い手を選ぶし、所有者を選ばないからメンドイ。もし、剣の神器を持っていても、所有者が本当は槍が得意だった場合剣の神器を扱いきれないから、宝の持ち腐れになる。

 

 そう考えると、神器の特性を理解した上で、身体を鍛えないとダメだ。神器だよりではいざという時に身体を動かせない。

 

 

 

 悪魔の弱点である光を使える者が二人もいるんだ。てこずっても勝てるだろ。

 

 

 フェニックスか……まつろわぬフェネクスとは違うのだろうか?不死だから特攻ばっか出来るから有利だ。俺も結構その手を使うからその怖さを知っている。

 

 

 まあ、こちらに被害がなければ取り敢えずなんだっていい。

 

 

 フェニックスで思い出したけど、こっちに来てから癒しの霊水作ってなかったな……。

 

 

 冷凍保存できるから結構便利なんだよなぁ~。癒しの霊水は祐理がいたお陰で出来た物だ。

 

 

 

 作り方は簡単だ。フェネクスの権能を発動した状態──不死鳥状態若しくは鳥人状態──で涙を流して容器──五百ミリリットルのペットボトル──に五滴程入れて、女性の涙も五滴程入れてから水を入れてシェイクして冷蔵庫に入れて一日置いたら、癒しの霊水が出来るのです。

 

 いやぁ、作り方はなんとなく分かっていたけど、女性の涙を貰うってハードル高すぎ。

 

 祐理に事情を説明してやっと出来た物だ。因みにひかりにも手伝ってもらった。

 

 

 

 材料費?ペットボトルのお金、百五十円ぐらいですけどなにか?一本五十万以上で売ったら意外と買われたから問題なかった。ドニとスミスが結構買って行った覚えがある。………今さらだがドニの奴霊水使って毒治してたのか?ドニの保護者であるアンドレアに一ダースで売った事があったがそういう事か……失敗した。そんな事ならもっと値段高くしておけば良かった。

 

 

 

 

 グレモリー達がいないから幻獣を町に放って巡回させておくか。

 

 怪しい奴がいたら取っ捕まえてくれるだろう……五体満足だったらとてつもなくラッキーだ、一生の運を使うかもな。

 

 拠点防衛用の幻獣とケートス(水辺専用)以外を出して幻術掛けておけば大丈夫。

 

 

 

 

 十日後の深夜、エトンの視界を共有化してから学園に向かわせてレーティングゲームを観に行かせた。

 

 リアルタイムで観てみたかったが別空間でやっていた。中の様子を確認するのに二十秒も食ってしまった。

 

 エトン越しで観たが、確か…姫島って言ったか?何で光を使わねぇんだ?使ってたら簡単に倒せたろ。フェニックスの涙?俺の霊水と似た効果があるのか……。

 

 姫島先輩……紙装甲過ぎねぇか?魔術師タイプなら身体を鍛えんとな。俺は強化の魔術とアジ・ダハーカの権能による顕身に頼ってるけど。俺が魔術を教えていたテンプル騎士のが強いだろう。剣と魔術が両立出来てこそだからなテンプル騎士は……。

 

 

 他の奴も観ていくが……木場と天野夕麻だっけ?ぐらいしか力を出せてないな。塔城はまだ仙術が使えんのか?黒歌に仙術教えて貰ったけど、内から外に出すは簡単だけど、外から内に入れるのは中々上手くいかない。溢れるぐらい呪力があるのに追加で詰め込んだらパンクする。完全に出来ない訳じゃないが、ある程度呪力が減った状態で使った方が俺にとってはいいだろう。

 生命力ありありの俺が使ってもな……仙術使わんでも魔術で事足りるし……。

 

 

 兵藤の根性は認めたいが、普段の行動と女性の服だけ破る魔力って……祐理とアーシアに使ったら取り敢えずもいでやる。安心しろ、ちゃんと霊水は使ってやる。

 

 滅びの魔力と光が交互に休みなく与えていれば良かったかもしれんが、そう簡単にビギナーズラックがあってもな……。

 分かりきっていた結末だった。──が、現ルシファーは、グレモリーの兄でシスコンらしいから絶対何か仕込みをしてるだろう。そうでなきゃ、経験者と素人を闘わせるか?違うなら経験を積ませるって事が妥当だな。

 

 

 

 

 

 グレモリーとフェニックスのゲームが終わり二日後。

 

 生徒会長に呼ばれたので生徒会室に匙と一緒に向かう。

 

「鬼崎君、来てくれてありがとうございます」

 

「礼は必要ありませんよ。それで、今回はどのような件でしょうか?」

 

「リアスの婚約話のその後を知ってますか?」

 

 

 その後?グレモリーの姿を見てねぇから知らん。

 

 

「いえ、知りませんよ。自分は町を巡回していただけなんで」

 

「そうですか、町の巡回ありがとうございます。それで、レーティングゲームはフェニックスが勝ち婚約は成立しました。その為、ライザー・フェニックスの眷属がこの学園に編入する事になりました」

 

 

 魔王が何か仕込みをしてるだろうと思っていたが、何もなかったのか。

 

 その後、二、三言葉を交わして生徒会室を後にした。

 

 

 

 帰ろうとした矢先、塔城小猫(黒歌の妹)が待ち伏せしていた。

 

「鬼崎先輩、こんにちは……少し話したいことがあるのですが、いいでしょうか?」

 

「構わんよ、近くの喫茶店で話すがいいか?」

 

 

 首を縦に振ったので一緒に喫茶店まで向かう。

 

 

 

「それで、塔城は何の話だ?お前の王の事か、それとも……」

 

「……黒歌姉様の事です」

 

 

 ────パチンッ。

 

 

 塔城がビクついたが、急に結界を張ったから驚いただけだろう。

 

「安心しろ、周りに俺達が普通に会話している様に見せる結界を張っただけだ。外部に聞かれたくないからな。それで、お前の姉の事が知りたいのか?」

 

「はい、鬼崎先輩からいえ、アーシア先輩と祐理先輩からも姉様の匂いがしていました。何故先輩たちから姉様の匂いがするんですか。……教えてください…!」

 

「お前の姉の黒歌はSS級はぐれ悪魔だ。知ってどうするんだ」

 

「……会って話をします。…何であんな事をしたのか……きちんと本人の口から言って欲しい…どうして、私を置いていったのか、知りたいんです」

 

 

 唯一の肉親の凶行とも取れるし、事情も知らない悪魔どもが勝手に力に溺れたとか言い回ってるから不安なんだろう。

 

 

「……まあ、良いか。うだうだ考えるのはショーに合わん!分かったよ、塔城。お前の姉に会わせてやる」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「本当だって、嘘だったら俺の命をくれてやるよ」

 

 

 まあ、甦るけどな。

 

 

「わ、分かりました。後、小猫でいいです」

 

「そうかい、ならこっちも摩桜で構わんよ」

 

 

 

 会計を済まして、小猫と一緒にマンションに向かう。

 

 

 

「(なぁ、モルス。このまま二人会わせていいと思うか?)」

 

『(あ?そんな事、オレに訊くんじゃねぇよ)』

 

「(だってさぁ、黒歌って今ぐうたらしてるだけじゃん。そんな姿を何年も会ってない事情を知らない妹に見せたら有らぬ誤解を生むと思うんだが……)」

 

『(いや、知らねぇよ。だらけた姿を見られるのは、あの猫又の自業自得だろうが……)』

 

 

 まったくもってアジ・ダハーカの言う通りだからいっか!

 誤解を生みそうだったらフォローしてやれば良い。

 

 

 

「此処にお前の姉、黒歌がいる。……覚悟しろよ」

 

「そこまで、言うんですか……!」

 

 

 ゴクリ……と喉を鳴らす小猫を後目にドアを開けて部屋に入る。

 

 

 

「ただいま~」

 

「マオさん、お帰りなさい」

 

「摩桜、お帰りにゃ~」

 

 

 アーシアと黒歌の声が聞こえたが祐理の声がしないって事は夕飯を作っているのか。

 

 

 因みに小猫が見えないようにしている。音や匂いでばれない様にもしている。仙術が出来る黒歌でもここ最近家のなかじゃ使ってない事は知っている。

 

 

 ソファの上でだらしなくだらけている黒歌を見た小猫の眼がゴミムシを見るかのような眼をしている。

 

 仕方ないよな。指名手配されてる姉が呑気にテレビ見てたらそうなるか……。

 

 

 黒歌の後ろに立ち、その手がぐうたら猫(黒歌)の頭を掴んだ瞬間に掛けていた術を全て解く。

 

 

「こんな所で何をしているんですか……黒歌姉様……?」

 

「し、白…音…?何で此処に……って、摩桜どういう事にゃ!?」

 

 

 

 こうして離れ離れだった姉妹は笑える(感動の)再会をしたのでした。

 

 




イッセーは、婚約パーティーが終わった後で目を覚ました事になりました。


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十二話

 

 

 

「聞いてるんですか、姉様……」

 

「聞いてます、にゃ……」

 

 

 さっきまでだらしなくだらけていた黒歌が正座している。ちゃっかりとカーペットがない硬い床で……。

 

 

 イカン……笑えてきた……。

 

 冷たい視線を放つ白音()と正座して萎縮してる黒歌()

 

 部屋に入る前のシリアスが一気に飛んじまった。

 

 

 

「……プフッ……ククッ……」

 

「そこッ、何笑ってるにゃ!こうなったのは摩桜のせいにゃ!」

 

「いや、知らんがな。だらけてテレビ見てたお前が(わり)ぃんだろ」

 

「連絡くれたらちゃんとしてたにゃ!」

 

「連絡したらヘタレ猫のお前は逃げるだろうが」

 

「…………逃げる訳ないにゃ……」

 

「おい、その間は何だ」

 

「……姉様」

 

 

 おいおい、お前の妹が呆れた眼を向けているぞ。

 

 

「事情を説明してくれますよね、黒歌姉様?」

 

「うぅ……」

 

 

 

 これは、長くなりそうだったので、裏技を使う事にする。

 

 やったことは無いが、出来るハズだ。

 

 黒歌が了承すれば、だが……。

 

 

「黒歌、口に出したくねぇなら俺が代わりに全部教えるが……どうする?このまま夕飯食う時も引き摺られるのは、イラッとする。自分の口で言うか、俺が代わりに言うか、二つに一つだ。とっとと選びな」

 

 

 

 

 黒歌は、観念したのかはぐれ悪魔になった理由などを全て話した。

 

 

 因みに、俺がやろうとしたのは、〈教授〉系魔術の応用で対象者の記憶を俺を中継点にして他の人の頭に直接視せる〈記憶渡し〉という魔術だ。俺を中継点にするのは、記憶を視せる事で起きる発狂などを防ぐ為だ。

 

 

 

 

 理由(わけ)を知り、誤解が解けた事で感情が爆発したのか、二人とも泣き出した。二人の周りに防音の結界を張っておく。

 せっかくの再会だからな、そっとして置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 泣き止んだ二人と共に夕飯を食べた後、小猫に何時でも来てもいいように、アジ・ダハーカに顕身した時にできる鱗を渡す。魔術を掛けた通行証の様なものだ。

 

 

 俺の事を口に出すのは面倒だったので、小猫に〈教授〉して教えた。

 

 最初は信じてなかったが、腕を龍のモノに顕身したら信じてくれた様だ。

 

 

 

 数日後、ライザー・フェニックスの眷属が転入してきた。

 

 特筆すべき事が起こってないので、書くことがないが、兵藤と天野って付き合ってんのか……。天野を善人に変えてやったけど……効果ありすぎるな。誰だよって言いたいぐらいなのと、兵藤が覗きをしなくなった模様。彼女が出来て真人間になったのか?

 しかし、表情があまり良くないのは、リアス・グレモリーの事を引きずってるのか……小猫にそこら辺の事って聞いてないからよく分からん。駒王町の管理を疎かにしなければ、俺はそれでいい。

 後は、球技大会のバスケで匙と一緒に無双した事ぐらいだろうか。勝負事になるとついつい気分が上がってしまうから困ったもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 動物たちが騒がしい。

 

 キュベレーの権能で声を聞いたが知らない誰かが来たらしい。後、血の匂いがするとも言っていた。一体何が来たのだろう。

 

 昼休みに生徒会長から訊いたら教会の使者が来た、と言っていた。放課後にグレモリーと話をするらしいので俺もその場に行くことにした。

 

 

 

 放課後……旧校舎。

 

 

「失礼するぞ、グレモリー先輩」

 

「誰だ、お前は……」

 

「鬼崎君……」

 

 

 青髪と栗毛の二人が教会の使者か……。

 

 

「日本神話の食客呪術師をやってる鬼崎摩桜だ。生徒会長から教会の使者が来たって聞いたから来たんだが……そういうあんたらは誰だ」

 

「教会の使者のゼノヴィアだ」

 

「紫藤イリナです」

 

 

 

 どうやら話をする直前に俺が来た感じのようだ。

 

 小猫に後で訊くのは面倒だからな、丁度良い。

 

 

 

 話を黙って聴いていたが、天界陣営の教会も随分身勝手だなぁ。

 日本神話に連絡しろよ。そんな危険人物と物が来たって言いやがれ。天照から連絡来ないから報せてないだろうな。他神話の土地なら好き勝手して良いとでも考えてんのか?流石は、異教徒ってだけで人を殺す野蛮な歴史がある宗教なだけはある。

 

 上層部が信用してないって言ったのに悪魔の言葉を鵜呑みにするのは矛盾しているように思えるのは気のせいか……。

 

 悪魔は介入するなって事は人間?の俺は介入して良いという解釈でいいよな。

 

 

 聖書にその名を刻む堕天使コカビエルか……まつろわぬ神と同等とは思わんが、せめて加護の無い従属神、神獣ぐらいはあって欲しいのが本音だ。

 

 

 相手が悪神だったなら喜んで首を突っ込むんだがな。

 

 悪神殺しの面目躍如ってね。

 

 

 ……というか、二人で戦うつもりかよ。

 

 この二人、強いのか?せめて草薙の愛人ズの少し下程度なら良いんだが……視たところ下っ端テンプル騎士やあまり戦わない甘粕のが上だろうな。

 

 本人の強さより武器がそれなりにスゴいってだけだろう。

 エクスカリバーねぇ……。グィネヴィア、まつろわぬアーサー、ランスロット、神槍……うっ、頭痛くなってきた……。

 

 

 

 何で天界陣営がエクスカリバーを持ってんだ?湖の乙女に返還されたんじゃねぇのか……もしかして湖の乙女から奪ったのか?そりゃあ、担い手でもなんでもない奴が振ったら壊れるだろうさ。

 

 

 破壊と擬態のエクスカリバー、取って付けた感があるのは俺の気のせいか?伝説にそんな機能あっただろうか……。

 

 

 

 ……此処に来てからずっと殺気出してる奴、そろそろ鬱陶しく成ってきたんだが……教会に恨みでもあんのか?

 

 

 

「───アーシア・アルジェントか?」

 

 

 色々考えてたから聞き逃したが、アーシアが何だ?

 

 

「は、はい……」

 

「……まさかこんな地であの魔女と会うことになるとはな」

 

 

 そういえば、アーシアは教会から魔女として追放されたんだっけ。

 

 

「……あなたは確か、一部で噂になっていた元聖女さん?悪魔をも治癒してしまう力のせいで教会から追放された……」

 

 

「何故此処に……悪魔に成ってはいないようだが……君はもしかして、まだ神を信じているのか?君からは罪の意識を感じながらも神を信じる信仰心が匂う。私はそう言うのに敏感でね」

 

「……捨てきれない、だけです。……ずっと、信じてきたものですから……」

 

 

 面倒くせぇ……教会関連……クソ面倒くせぇ……。

 

 

「悪いがそこまでだ。教会の事情なんざ知ったこっちゃ無いが、今のアーシアは日本神話に所属している。それ以上アーシアを貶める事言ったら……潰すぞ、狂信者ども……」

 

 

 声のトーンを落として、殺気と呪力を一瞬だけ解放する。これで大人しく尻尾巻いてどっか行ってくれれば良いんだが……相手と自分の実力差も分からんなら奴なら、その身に刻み込んでやろう。

 

 

「……クッ!?」

 

「……ウッ!?」

 

 

 当てられただけでプルプル震えてらぁ。これなら殺気も呪力も必要なかったな、俺の全力の一割程度の威圧で震える戦士なんて弱いに決まってる。

 生意気なテンプル騎士や日本の上役に何回かやったことあるから効果があるのは分かってる。一割ぐらいの威圧で耐えれん奴はテンプル騎士にはいなかった。聖ラファエロにしごかれてるからだろうか?

 

 

 

「ふん、その程度の実力でよぉ吠えたな。アーシア、祐理、帰って天照に連絡と結界を張りに行くぞ」

 

「仰せのままに、我がお、ぅ…摩桜さん」

 

「は、はい!」

 

 

 祐理……今の結構ギリギリだぞ。我が王って言おうとしたな。

 

 

「ま、待て!約束が───」

 

「約束?それは悪魔との約束だろ。俺は日本神話側の人間だ。悪魔じゃないから約束の適応外に決まってんだろ。……それとも何だ?力ずくで言う事を聞かせるか?俺は構わんぞ」

 

 

「……良いだろう。エクスカリバーの錆びにしてやる……!」

 

「その勝負、僕も参加するよ。個人的に天界と教会は許せないからね……」

 

 

 

 

 

 天界と教会陣営、真っ黒過ぎねぇか?まさか、人体実験とかしてんのかよ……。

 木場が恨んで当然だろ。いっその事天界と教会の上層部滅ぼした方が世界のためになるかもな……。いや、それだったら聖書の三勢力全部のがいいかもしれん。

 

 

 

 取り敢えず、紫藤イリナとの勝負に目を向けるか……剣士の対応はドニのせいで嫌という程、身体に染み着いている。

 

 

 擬態のエクスカリバー……形が変わるなら少し間合いを取るか……。

 

 

「所詮は、呪術師……接近すればこっちのモノよ!アーメン」

 

 

 日本刀に変形させたエクスカリバーで突っ込んで来る。

 呪術師だから近接が出来ないって本当に思ってんのか……。

 

 相手の遅い振り下ろしに対して俺は……右手で掴んで止める。ドニ相手に白羽取りなんてしないが……こんなにも遅い剣なら強化した手で十分だ。

 

 

「遅いんだよ」

 

「う、嘘!?この、な、何で!離れないの!?」

 

 

 掴む力を強化してんだ、簡単に離せる訳ないだろ。

 

 

『(相棒、分かってんだろうな……)』

 

「(言われなくても大丈夫だ。カンピオーネの勝負時の集中力嘗めんな。隠さん殺気を感じ取れないとでも思ってんのか……)」

 

 

 身体を左向きにして後ろから迫っていた大剣を左手で視ずに掴む。

 なかなか重い一撃だがこの程度、姐御の拳の一撃のが重い。……比較の対象が人類最強の剣士(規格外)人類最強の拳士(規格外)なのが、おかしいだけか?そもそもまともに人と戦った事って無いんだよな…あの二人以外で……。

 

 

 掴むのも面倒になったので剣を引き寄せて二人をぶつけて…ハイ、終わり。

 

 

「キャッ!?」

 

「がぁっ!?」

 

 

 これで、文句を言う事はないだろう。言ったらもう一回叩きのめすだけだ。

 

 

 木場がフラフラして何処かに行ったみたいだが、取り敢えず帰って報告と結界を張らないとな。

 

 日本神話と三勢力との対応に追われる日々になるかもしれん。

 

 

 

 





 摩桜は、アジ・ダハーカの権能を持っているから魔術が出来て当然と考えており規格外の自覚はあるが、自身が魔術の天才だという自覚がない。

 規格外二人に並ぶ人類最強の魔術師。
 


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十三話

 

 

 

 

『またか、聖書連中……この日ノ本で争いを起こすなど………天岩戸に引きこもりたい……マジで……』

 

「引きこもったら殺すぞ、天照。お前が天岩戸に入ったら日食が起きるだろうが……俺が動くからそこまで心配しなくてもいいだろ。お前は聖書連中に対しての抗議文でも考えてろ。……もしかしたら、俺の正体をバラすかもしれんからそっちの準備もしとけよ」

 

『うむ……分かっておる。主神たる余が、しっかりせねばな……神の胃に効く薬は無いだろうか……思兼神(オモイカネ)なら知っておるか……?ここまで胃が痛くなるのは、素盞嗚命(糞弟)が余の神殿でやらかした時以来だ……』

 

 

 そういえば、天照の神殿で素盞嗚命って糞したんだよなぁ、それで引きこもりに成ったんだったな……頑張れ、天照の胃。

 

 

 

 天照との連絡が終わり結界の準備をする前に動ける幻獣を全員喚ぶ。アネモイ・テュエライと拠点防衛組とケートスは、留守番である。アネモイ・テュエライは強いけど言う事を聞かないから出さない。

 

 

 ケルベロス、ネメア、オルトロス、パイア、カルキノス、キマイラ、エトン、タゲス、スピンクス、ヒュドラを俺の一割程度の呪力をさらに十に分けて顕身させる。

 

 全員小動物程の大きさではあるが、骨ぐらいなら砕く事ができるだろう。幻獣の中で最速のエトンとタゲスなら亜音速ぐらいまで弱体化している。一割をさらに十に分けてるからな。

 耐性は基本そのままだが、身体能力はかなり弱体化しており、大騎士なら一人で確実に倒せるくらいに弱いだろう。

 

 

 掌握による制限緩和でこれまでは出来なかった、追加で呪力を注いでパワーアップが出来るからそこまで問題はない。

 

 

 『怪しい奴を見つけても直ぐには攻撃するな』、『怪しい奴を見つけたら俺に連絡しろ』、『相手が攻撃してきたら取り敢えず、そいつの手か足の骨を砕け』、『意識の無い負傷した者は保護しろ』と命令して、魔術の幻惑を掛けてから町に放つ。

 

 

 次の日。

 

 日付けが替わると幻獣は消えるが、掌握によって出来る様になった呪力の注入と幻獣の意志で一日までなら消えずに残れる。

 

 隠れているのか堕天使の反応が無い。

 

 幻獣たちの鼻と直感、それぞれの特異性から隠れるのはムリがある。

 もしかしたら、この町に隠れていないのかもしれない。態々見つかりに来るような事をするだろうか。

 

 

 

 太陽が沈み夜になり、タゲスとカルキノスから視覚共有が入り二体の視界を見る。

 

 グレモリーの眷属三人と匙、白髪の神父、禿げたオッサンが見える。このままタゲスとカルキノスだけで捕まえるか……でも、事情を知らん小猫以外に邪魔される可能性もあるから二体にそのまま監視しておけ、と念を送り視界を覗き見る。

 

 

 

 さて……俺はどう動こうか……。途中からやって来た聖剣使い二人と木場が神父とオッサンを追い掛けて行ったのでタゲスに追跡と逃げた方向にいるスピンクスとキマイラと一緒に死なない様に見張るように命令する。

 

 

 結界を張らなくても幻獣たちが見ているから、俺は権能の準備をしておくか……。奥の手とも言えるモノだが、認識しないと使えない代物だ。だから、時間を掛けて準備する。準備に集中すると周りが見えないのが難点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───!───さん!─摩桜さん!」

 

「──ん?あぁ、すまん祐理。何か有ったか?」

 

 

 いつもの巫女服を着ている祐理に現実に戻された様だ。

 

 

「有りました、有りまくりですよ。……コカビエルが現れて、駒王学園にて争いを起こすと小猫さんから連絡が有りました。後、タゲスとスピンクスとキマイラが負傷した聖剣使いの一人を保護して帰って来ました。今は、アーシアさんの神器と、黒歌さんの仙術で癒しています」

 

「霊水は使ったか?」

 

「はい、運び込まれて直ぐに」

 

 

 霊水を飲ませておけば取り敢えずは死なないし、アーシアと黒歌の二人による回復で傷ひとつ無い状態になるだろう。

 

 

 幻獣たちが今何処に居るかを確認して命令を下す。

 

 ────駒王学園の周辺に集まり待機しろ。悪魔らに死人が出そうなら割って入って助けろ。手助けは最低限に留めておけ。

 

 

 外にいる幻獣に念を送ったのだが……明らかに不満だ、という念が返ってきた。

 

 仕方ないだろ。お前らが暴れると地面や建物が抉れるんだぞ。

 そうでなくても、悪魔の領地となってる此処でおもいっきりの攻撃は出来ないだろ、結界張ったら良いけど……。

 

 

 

「よし、出遅れているが俺らも行くぞ」

 

「はい、御供します」

 

「私も行きます!」

 

「私も行くにゃ!」 

 

 

 

 聖剣使いの……確か、紫藤イリナだったな。紫藤の怪我を治してたハズだろ。もう終わったのか。

 

 黒歌を連れて行くのはちょっと不安があるな……いや、コカビエル退治に貢献したという交渉材料になるだろう。

 それをダシにちょっと脅し(お願い)をすれば万事オッケーな気がするぞ。

 

 

「ま、待って、私も行くわ!……って身体が軽いんだけど!?」

 

 

 さっきまで倒れていたはずなのに、もう起き上がったか。霊水と神器と仙術で治したんだ。万全と言える状態になっている。

 

 

「得物が無いのにか?さっきまで倒れていたんだから休んでればいいのに……此処で待ってな、このマンションは結界が張ってあるから安全だしな」

 

 

 本当にこのマンションはオーフィスクラスの攻撃じゃないと突破出来ないだろう。刑部姫の権能使ったらスミスしか破壊出来ない無敵要塞だ。

 

 

 

「それでも、私は行くわ」

 

「あっそ、好きにしなぁ」

 

 

 準備を整えて学園前に転移する。

 

 学園を覆う様に結界が張られている。かなり綻びがあるな……結構急いで作ったなこの結界。ちょっとした衝撃で破壊されるぞ。

 

 専門でもないのが作ればこんなものか……いや、一般人に知らせないって目的なら十分に効果はある。

 

 生徒会長たちが結界が壊れない様にしている。維持だけならそれで良さそうだが、匙が震えてる。細かい操作は苦手って事か……。

 

 

 

「匙~、生徒会長~」

 

「鬼崎!?」

 

「鬼崎君!?何故此処に」

 

「何故ってお手伝いですよ。死人が出来ない様にするついでにコカビエルでも殺そうかなぁって」

 

「ついでの方が物騒だな!?……っていうか出来るのかよ!?」

 

「朝飯前だっての。ああ、俺がもっと頑丈な結界作るから退いて………ってか邪魔……」

 

 

 校門側の結界に触れて結界を壊す。カンピオーネの体質が無くても殴ったら壊れるだろうけど。

 

 

「おい、鬼崎!?」

 

「鬼崎君!?何を……えっ……?」

 

 

 おお、驚いてる驚いてる。壊れて数秒で結界が出来て、その内側にいるからだろう。

 

 

 

 

 

「な、何あの人……結界ってこんな簡単に出来るの?」

 

「普通はムリにゃ。いくら結界とかを使う悪魔でも彼処まで出来るのは魔王以上じゃないと出来ないにゃ」

 

「マオさん、スゴいです!」

 

「摩桜さん……手を抜いてますね」

 

「「「……え?」」」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 さぁ~てと、結界作り直したし、幻獣たちも結界壊した一瞬で入って来てるし、このままグラウンドの方に行って見物するか。

 

 

「SS級はぐれ悪魔の黒歌!?何故此処に……」

 

「摩桜、先に行ってるにゃ……」

 

 

 黒歌には、はぐれ撤廃の為の材料として活躍しておけと言ってあるし、家族を守るという大義名分もある。これでいちゃもん付けてきたら取り敢えず殴ってやる。

 

 

 生徒会長に黒歌は唯一の家族を助けに来ただけ、と伝えて納得させる。後で、一緒にいる訳を訊かれそうだな。

 

 

 祐理とアーシア、紫藤イリナと生徒会長とその眷属がぞろぞろと歩いてグラウンドの方に歩いて行く。

 

 

「摩桜さん、周りに居るんですよね?なんとなく分かりますけど……」

 

「居るぞ。見えないだけで近くにスタンバイしてる」

 

 

 やっぱり、祐理には幻獣が居るって分かるか。

 

 因みに、上空にスピンクス、最後尾にカルキノスとヒュドラの異父姉弟がついてきている。

 豪華なボディーガードではなかろうか。

 

 

 

 グラウンドに着くと、光の柱が上がった。白と黒が混ざり合うかの様な力を感じる。

 

 

『(おい、相棒!聖と魔の融合だぞ。スゲェー物が見られるぞ)』

 

「(聖と魔の融合か……相反する属性を一つにするって並大抵の事じゃねぇな。俺は親和性のある属性の融合なら出来るけど、反する属性の融合は出来んな)」 

 

 

 アータルの炎と雷の融合なら何時もやってる事だから出来るけど、他は試した事ないから分からん。

 

 

 

 ……ん?オッサンが何か喚いてる。

 

 神が死んでる?

 

 へぇー。聖書の神って死んでるのか……まあ、その内出てくるだろうけど。

 

 あ、オッサンが光の槍に腹貫かれた。

 

 

 あれがコカビエルか……ベラベラと情報を吐いてる。アーシアと紫藤が崩れ落ちてる。そこまでショックだったのか……。

 神が死んでもその内また顕現する事が分かっている祐理はアーシアを支えながら驚いてはいるが、微妙な顔をしている。

 

 

「聖書の神って…死んでいるのか……まあ、別にいいか。祐理、俺はあそこにある魔方陣壊しに行くからアーシアの介抱よろしく~」

 

「分かりました、お気をつけて」

 

 

 コカビエルと戦ってる奴等を後目に魔方陣の前に着いた。フェニックスとか黒歌いるみたいだし、ほっといても大丈夫そうだな。

 

 

 

 うわぁ……この魔方陣ムダ多すぎ。いくら時限式だからってお粗末だろ。コカビエルを倒さないと解除出来ない様にしてるつもりなんだろうけど……魔方陣の根本を破壊したら機能せずに終わりじゃん。取り敢えず、壊すか……。

 

 魔方陣を踏み、壊れた魔方陣は消えていった。

 

 

 後ろから迫っていた光の槍を横に一歩ずれてやり過ごす。あ、校舎が吹っ飛んだ。

 

 

「貴様…何をした」

 

「何って見て分からんのか?あぁ、烏だから頭が悪いのか、スマンスマン。気がつかなかったわぁ~」

 

「いいだろう、貴様から殺してやる」

 

 

 うわぁ……煽り耐性無さすぎ~。

 

 殺してやる……か、殺されるのはお前の方だけどな。

 

 

「我は世界を脅かす悪を挫き、世界を守護する者なり。我は稲妻と成りて駆け抜け、悪を討ち倒し世界に恵みをもたらす者なり」

 

 

 アータルの雷を使う方の聖句を唱え、身体の左側を雷に顕身して神速の準備をする。

 

 

「雷か…バラキエルの娘よりも強い───か?」

 

 

 全てがスローモーションになっていく。

 

 神速の準備が整ったのでそのままコカビエルに向かって、神速の雷パンチを叩き込む。

 

 

 スゲェー簡単に雷パンチが決まったな。コカビエルが吹っ飛んだ先に居た呪力を注いだネメアの凶悪獅子()パンチを喰らって地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 ………あれ?コカビエルが動かないぞ。

 

 もしかして、死んだのかコカビエル?

 

 ………マジで?

 

 

 



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十四話

 

 

 神速の雷パンチとネメアの猫パンチでコカビエルが動かなくなった。

 

 

 ネメアに近づいて確認しろ、と念を送る。

 

 ネメアの前脚がちょんちょんしているが、反応が無い……ただの屍のようだ……。

 

 

 マジかぁ……。

 

 

 神獣を倒すノリで殴ったのがいけないのか……。神獣ぐらいに強いかなぁって、神速で殴ったくらいで死ぬとは思わなかった。これからは神以外に神速は禁止だな、戦いの「た」の字も出来ずに終わっちまう。

 

 神速を解いて縮地法で祐理とアーシアの前に跳ぶ。

 

 

「祐理~。コカビエル死んだから帰るぞぉ」

 

「え、もう終わったんですか……」

 

「そうなんだよ。神獣と戦う感じで殴ったら死んじまった。神以外に神速はムリがあるみてぇだ。アーシアは…大丈夫そうか?」

 

「精神的に参ってしまったみたいです。信仰する存在が死んでいるのはショックだった様で……」

 

 

 教会の聖剣使いですら知らなかった事実。教会の一部の上層部と天使たちによる情報統制……だろうな。一般の信者が知るモノじゃない。

 

 

 何か悪魔どもが俺らを囲んでいるが何するつもりだ?捕まえるつもりか?コカビエル殺したの見てないのかよ……。

 

 

 ────パキパキパキ……。

 

 

 ん?結界に罅だとぉ……。

 

 

 ────パリィーンッ!!

 

 

 へぇー、よく壊したな。一応頑丈に作ったハズなんだが……。イイネェ……強い奴は歓迎するぞ。

 

 ……おっと、イカンイカン。これじゃあドニみてぇじゃねぇか。あんな脳みそ筋肉バカと一緒の思考はさすがに俺も嫌だ。

 

 結界を壊したのは所々に青い宝玉のある白の全身鎧の悪魔の様だ。……悪魔?全身鎧が神器なら人間とのハーフか?

 

 

 

「苦労して結界を半減して壊したは良いが、もう終わった様だな。……コカビエルを倒したのは誰だ?」

 

「俺だ。あんたは、何処の誰だ?」

 

「君か……俺は、ヴァーリ。一応堕天使側の人間である白龍皇だ。そう言う君は何処の誰だ?」

 

 

 へぇー、堕天使側の神器保有者か……。

 

 ……ん?よく考えれば今って聖書の三勢力が揃ってるじゃん。

 

 丁度良いじゃねぇか。どうせバラすつもりだったんだ、今此処で名乗っても支障はねぇな。……天照の胃に支障が出るかもしれんが、神殺しの俺には関係無いな!

 

 

 

「俺か?俺は、カンピオーネ…神殺しの鬼崎摩桜だ」

 

「神殺しだと……?」

 

「そうだ。人でありながら神を殺す事に成功し、神の権能を簒奪した罰当りな規格外(人間)だ」

 

「つまり、強いって事で良いのかい?」

 

「ああ、俺を殺せる存在は同族か神以外あり得ん。……オメェーから知り合いの同族と同じ匂いがする。オメェー、戦闘大好き野郎だな」

 

「確かに俺は、戦う事が好きだ。出来れば、今此処で君と戦いたい。……けど今日はアザゼルからコカビエルを連れて帰ってこい、と言われているからまた今度戦おうか」

 

 

 そう言ってコカビエルの方に飛んでいく。

 

 

『……無視か、白いの?』

 

 

 兵藤の左手の神器から声が響く。今の声が赤龍帝ドライグって事か……。

 

 

『何だ、起きていたのか赤いの』

 

『まぁな。宿主がまだまだ弱いからな』

 

『そうか。しかし、赤いの。以前のような敵意が感じられないが?』

 

『それこそお互い様だ。俺もおまえも、今は戦い以外の興味対象があると言う事だ』

 

 

 

『(相棒!正体バラしたならオレの事も言えよ!…てかオレにも話させろ!)』

 

「(分かったっての)……我は全てに死を与えるモノなり」

 

 

 アジ・ダハーカの聖句を唱え首を出す。

 

 

「よぉ、久し振りだなぁ、ドライグにアルビオン」

 

『何!?その声は、何故邪龍のキサマが其処に居る!』

 

『答えろ!《魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)》アジ・ダハーカ!』

 

「ご紹介どうも~。なぁに簡単な話だ。この罰当りがオレの封印を解いてオレの魂を取り込んだせいで、一心同体の存在に成ったんだよ」

 

『なん…だと。邪龍の魂を取り込む人間だと……』

 

『信じがたいが、キサマが其処に居るという事は、本当と言うことか……』

 

「ま、そういう事だ。お、そうだ。アルビオンの宿主に言っておくが、相棒と勝負したいなら生前の二天龍以上で龍神レベルじゃねぇと勝負にならねぇぞ?」

 

『な、その人間はムゲンどもと同じレベルだと言うつもりか!?』

 

『そこまで言うか、アジ・ダハーカ……』

 

「クククッ、そうだぜ。覚えときな!オレ様の相棒は、三大勢力が束になった所でその全てを蹂躙するだけの力を持っているという事をよぉ!」

 

「フッ……面白い。ライバル君は正直、期待外れだけど彼は、俺を楽しませてくれそうだ」

 

 

 俺は楽しめなさそうだな。ドニがもう一人いる感じがしない事もないが、一つの武を極めようとする武芸者で、心眼や無念無想の境地に至ってでもなけりゃあ勝負にならねぇぞ?意図的に俺がお前のレベルまで下げれば戦いになるだろうけど。

 

 

『ヴァーリ、お前は最強の白龍皇に成るだろうが、止めておけ。邪龍筆頭格のアジ・ダハーカを取り込んでいるという事は、アジ・ダハーカの魔法全てを扱える可能性がある。生前の私の能力があれば対処できるが、〈半減〉と〈吸収〉だけでは、まず勝てないだろう。『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を極めてからでも遅くない』

 

 

 お、パートナーから良い助言貰ってるじゃねぇか。

 

 最強の白龍皇ねぇ……そこまでの境地に至ったなら面白いだろうな。

 

 

「ま、戦いたいなら何時でも掛かってきな。俺の力の半分は引き出せるぐらいに成ってくれよ?」

 

「……ああ。俺の力が何処まで通用するか試させてもらう」

 

 

 そう言ってヴァーリと呼ばれる奴はコカビエルを担いで帰っていった。

 

 

 そろそろ俺らも帰るか……。

 

 

「待ちなさい」

 

 

 グレモリーか……もう帰って寝たいんだけど。

 

 

「………何だよ。俺は、もう帰って寝たいんだよ」

 

「ちゃんと事情を聞かせてくれるんでしょうね」

 

「……気が向いたらな……そんじゃ、後始末よろしく~」

 

 

 

 今回は珍しく何も壊してない──ネメアが抉った地面のみ──ので悪魔たちに後始末を投げる。悪魔が管理しているなら片付けるだろう。

 祐理等と絶望してる聖剣使いの二人──そのままにしておくのは忍びないので──も一緒に転移してマンションに帰る。

 

 

 祐理に聖剣使い二人を隣の部屋に案内させて寝かせてもらった。絶望して自殺されても面倒だから、幻獣たちを近くに寝かせておく。

 寝ようとしたらアーシアがくっついて離れてくれないので一緒に寝る事になった。疲れているだろうし、今日くらいは一緒にいても良いか。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 

 

 酷い顔をした聖剣使い二人と共に朝食を食べる。アーシアはどうやら持ち直してくれた様だ。寝る前に言った、「神という存在は人が紡いだ神話が有る限り不滅であり、悠久の時を経てまた、その姿を顕すだろう」が効いたのだろう。

 

 

 

 

 朝食を食べた後、聖剣使いのゼノヴィアとイリナに、もし教会に今回の事を報告して教会から追放されたら行く宛がないと思うから、この部屋の合鍵とマンションに入るための龍鱗と連絡係兼護衛のエトンとオルトロスを押し付けてから学園に向かった。

 

 

 

 学園はすっかり元通りになっていた。悪魔の魔力って案外使えるんだなぁ。

 

 教室で匙が何か言いたそうな顔をしている。何も説明せずに帰ったからだろう。チラチラこっち見んな、腐った連中に目をつけられるだろ………。

 

 

 

 放課後に当然の如く、呼び出されたっていうか、匙に引き摺られながら旧校舎の方に向かう。

 

 グレモリー、シトリー、フェニックスが勢揃いだ。

 

 

「さぁ、あなたが何者か訊かせてもらうわ」

 

「おいおい、随分と上からな物言いだな。あんた等は、コカビエルを殺した俺に感謝して下手になるのが適切だぞ?まあ、話が進まんから今回はスルーしておくわ。それで、俺が何者かは昨日言ったろ?神殺しをした人間だって」

 

「人が神を殺す事なんて出来る筈ない……」

 

「信じる信じないはご自由に。俺は、嘘なんか吐いてないんでね。……ってか、コカビエルを殺した時の俺、見てないのか?匙、お前見てたろ、俺の姿見えたか?」

 

「え、俺!?いや、確かに見てたけど……鬼崎の身体が雷纏ったと思ったら鬼崎が消えてコカビエルが吹っ飛んで、いきなり現れたライオンがコカビエルを前脚で触ってたのしか見てないぞ!?」

 

「いや、それ十分に見てるからな、匙。ああ、因みにそのライオンは、ギリシャ神話に出てくるネメアーの獅子だ」

 

「ま、待ってください!?ネメアーの獅子は、神滅具の獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)に魂を封印されてるのに何故、ネメアーの獅子がいるんですか。それでは矛盾しています」

 

 

 生徒会長鋭いな……。ああ、俺がこの世界の住人じゃない事言ってないな。……この中じゃあ、小猫にしか教えてないから分からないか。

 

 

「頭の良い生徒会長の指摘通りネメアーの獅子は一体しかいない。では何故封印されてるネメアーの獅子がいるのでしょうか……小猫正解言っちゃってぇ。後、俺の事とかもついでによろしく~」

 

 

 俺の急な無茶ぶりに小猫が驚き、部屋にいる者が小猫の方に視線を向ける。

 視線が集まる中、一度息を吐いた小猫が答えを口にする。

 

 

「………摩桜先輩が言う昨日のネメアーの獅子は、摩桜先輩が神から奪った権能から造り出した物で、摩桜先輩と祐理先輩はこの世界ではない……違う世界から来た人間……です……」

 

 

 突然の別世界から来た発言に部屋が静まりかえった。



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十五話

 

 

「……ちょっと待って!何で小猫がそんな事を知ってるのよ!?」

 

 

 グレモリーが当たり前すぎる疑問を口にする。

 

 みんな突っ込まなかった事を敢えて言ってくれたな、リアクション芸人に転職する事をオススメする。

 

 

 

「この前集まった時に、小猫の姉である黒歌と会ってる事を小猫にバレてなぁ、そのついでに色々教えたんだよ。昨日、コカビエルと戦ってた黒の和服着た猫耳と尻尾生やしたのが黒歌だ」

 

 

「何故、あの場にはぐれ悪魔である黒歌が居たのか、お訊きしてもいいでしょうか……」

 

 

「それも昨日、生徒会長には言ったでしょ?小猫を守る為だって……ていうか、黒歌がどうしてはぐれ悪魔になったか本当の理由知ってんのか?……いや、知らねぇから聞くんだよな……」

 

 

「仙術の暴走で王を殺したのではないのですか?私が聞いたのはそういう理由でしたが……」

 

 

「私もそういう理由としか聞かされていないわ……」

 

 

 詳しく調べないのか、それとも調べさせないのか。悪魔が腐ってるのは確定的だ……この場にいる比較的マシなのは少数なんだろうな……。

 

 魔王は代替りしているのに意識改革とかしないのかねぇ。やりたいのかやりたくないのか、どっちかな……。

 

 

「俺は、黒歌の記憶を読んだから全部知っているから。後、小猫も知ってるからな。真実を言っても良いが、悪魔にとっちゃ知られたくない闇その物だ。腐った上層部…確か大王派だったか?そいつらに目ぇつけられるだろうよ、最悪口封じされるかもな。それでもいいなら教えてやるよ」

 

 

 グレモリー、シトリー、フェニックス、それぞれが険しい顔をしている。理由教えたら悪魔の腐った部分を知る事になるから、反応を見るのも面白そうだ。

 

 

 

 

「鬼崎君、訊きたい事があるんだけどいいかい?」

 

 

 木場からの質問か……憑きもんが取れた感じだな。

 

 

「良いぜ、木場。聖と魔の融合なんていう、おもしれぇ物見せてくれたからな。俺が答えられるモンなら構わねぇよ」

 

「あはは…ありがとう。さっそくだけど、鬼崎君が神殺しなら神を殺している。その殺した神の事を訊いてもいいかな?」

 

「それぐらいなら大丈夫だ。名前を教えたぐらいで対処なんて出来ないからな」

 

 

 まあ、名前からの連想で分かるのもあるけど……。

 

 …………そういえば、草薙って何で神の事を調べようとしないんだ?知っておけば直ぐに『戦士』が使えて手札が増えるのに……毎度毎度キスしてるが、アレがしたいから調べようとしないのか?事実だったら、呆れを越して感心するよ、ホント………。

 

 

「先ずは、ゾロアスターの善神アータルと悪神アジ・ダハーカと悪神アンダル。聖書からはサマエルとレヴィアタン。ギリシャ神話はテュポーン。ゴエティアの魔神フェネクス。……以上が、俺が殺してその権能を奪ったまつろわぬ神だ」

 

 

「フェネクスって……私とお兄様の事……ですわね……彼方の世界では魔神なんですか?」

 

 

「ああ、そういえば、あんたはフェニックスだったな。魔神と言えるだろうなぁ。ま、あんたの様な可愛いフェニックスじゃなかったがな。いやぁ、フェネクスを殺すのにホントに苦労したよ。絶対致命傷だろって攻撃しても不死と再生の象徴なだけあって、直ぐに再生しちまう。奥の手を使って漸く不死と再生を放棄させて、やっと殺せたんだよ。……そういや祐理、その時俺って何か壊したっけ?」

 

 

「(今、自然に口説きましたね)………私の記憶が正しければ、ピラミッドの一つの四分の一が溶解した、と思うのですが……」

 

 

 溶解……そういえば、サマエルの毒を当てる為に大量にぶん投げてたな、結界すら溶かすから危険なんだよサマエルの毒って……。血を使うから貧血になりかけたな……。

 

 後、何でジト目なんだ?カンピオーネの破壊活動は付き物だろ?

 

 

「まつろわぬ神、というのは……」

 

「語られる神話に背いてあっちこっちで災厄を振り撒く神々の事だ。神話で語られる神王や伝承の英雄、天使や怪物なんかもひっくるめて、まつろわぬ神と呼んでる。そんで、その自然災害とも言える傍迷惑な存在を殺しちゃった人間の事を神殺し、カンピオーネって言うんだよ」

 

「なんかスゲー軽く言ってるけど、神ってそんな軽く殺せるモノなのか?」

 

「アッハハハ、ムリムリ。蟻一匹が竜を殺すような偉業だぞ?俺が最初に神殺しした時なんて右半身が炭化したし、その後も何度も死にかけたし、フェネクス殺して不死になった後は、身体ばらばらにされたり、全身の骨を粉砕されたり………」

 

 

 ……なんだろうなぁ。口に出すと、死んだ方が楽な感じがする。

 

 

「神殺しの方々は、その特異性故に物を壊そうが、人を殺めようが罪に問われません」

 

 

「ど、どうして……」

 

 

「ただの人では、抗えないのと殺せないからです。摩桜さんも入れて八人のカンピオーネがいますが全員が国を、世界を滅ぼす程の力を有しています。そんな人たちの逆鱗に触れたくないのと、まつろわぬ神という天災を倒せるのは原則カンピオーネのみである為、まつろわぬ神が現れたら人類代表として戦うこと……その義務さえ守ってくれたらそれで良い、という暗黙の了解があります」

 

 

「何か……魔王みたいだな……」

 

 

「実際にカンピオーネの方々を魔王と呼んだりしてますよ。神と戦うのは良いのですが、神を殺すためなら周りの被害を考えないので、カンピオーネの皆さんを歩く天災、理不尽の塊が服を着て歩いている、と認知されていますから」

 

 

 

 歩く天災って………いや…まあ、事実だから何も言えないわなぁ。

 

 

 気晴らしに行った姫路城でまつろわぬ刑部姫と出会して、姫路城を半壊させたっけ……。でも、あれって刑部姫の攻撃避けたら城に当たったから厳密に言えば俺のせいではない、ちゃんと結界を張っていたけど………そんな所で戦うな?…無茶言うな。

 

 テュポーンの時はカシオス山を崩しかけたな……地面に結界は効果薄いから。

 

 

 

「呼び方の大体は、権能の力からとった二つ名や通り名で呼んでいます。因みに、摩桜さんは『魔術師の王(ロード・オブ・メイガス)』や『魔導王』、『悪神殺し(イヴィルゴッド・スレイヤー)』、『龍魔王(ドラゴニック・デーモン)』などと呼ばれています」

 

 

 

 

「…………中二病…………」

 

 

「ゴフッ……!?」

 

「マオさん!?」

 

 

 

 小猫の放った何気無い言葉という名のボディーブローが俺の胃に炸裂した。

 

 

 スマナイ、小猫……。中二病という言葉(それ)は俺に効くんだ………。

 

 俺は、中二病患者じゃねぇ!

 

 甘粕が三徹した頭でノリと勢いで報告書に書いた物が、グリニッジ賢人議会の奴等が読んでからそう呼ばれるようになったんだ。

 

 断じて俺から言ったモンじゃねぇ!

 甘粕の自腹で回らない寿司を食べさせてもらったがな。

 

 

 魔王ロールした事は何回かあるさ。上のジジイどもを脅した時とか、脅す時とか、脅迫する時とか………あ、脅すも脅迫も一緒か……。

 

 相手を脅迫する時しか魔王ロールしてないな……。

 

 

「『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』!………は、効かないんでしたぁ……」

 

 

「神器が効かないのですか?」

 

「神器が、と言うより異能の力が、効かないんだよ。良いも悪いも含めてな。呪力……ああ、悪魔の魔力も俺には効かないから殺したかったから物理しか効かないからそのつもりで」

 

 

「か、完全に悪魔殺しな身体ですわね……」

 

 

 確かに悪魔殺しの体質とも言えるな……悪魔はどうやら魔力だよりの様だし物理系は少数だろう。

 

 

「つまり、そこにいるフェニックスと一緒って考えてもらって結構だ。悪魔じゃないから聖水とかは効かないがな……」

 

「い、一緒……」

 

 

 何で顔を赤くしてんだ?おかしな事なんざぁ、一言も言ってないハズなんだが………言ってないよな……。

 

 

「……疑問というか、聴いてて思ったことなんだけど……」

 

 

 次は、兵藤からか……。

 

 

「おう、答えられるモンなら答えてやるよ」

 

「何で神を殺そうとしたんだ?自然災害な奴等なら逃げるだろ普通は……それに鬼崎の他にも神殺しがいたんだろ?そいつらに任せれば良いんじゃないかって思ったんだけど……」

 

 

「ま、普通は逃げるだろうさ。……全員に訊くが、お前らは蟻を気にして常に歩いているか?歩かねぇだろ。たまに下向いた時に視界に入れるぐらいだろ?まつろわぬ神にとって同じ神かカンピオーネ以外は、等しく蟻なんだよ。視界に入れないんだよ、入れてもそれは単なる気紛れだ。死にたくなかったけど、それ以上にムカついたんだよ。直ぐ側にいるのに気にせず暴れる奴等を視たら身体が勝手に動いたって感じだ」

 

 

「たったそれだけの理由で……?」

 

 

「俺にとっては、そんだけで十分なんだよ。他の神殺しも大差無いと思うぞ?」

 

 

 

 そろそろ時間だから締めに一応言っておくか。

 

 

「一応言っておくが俺は、今の聖書の三勢力を信用していない。お前たちは、それだけの事をしているからだ。俺の身内に手を出せば、冥界だろうと天界だろうと他の神話群だろうと俺の全てを使って滅ぼす。……お前らはこの世界に来たのが、俺である事に感謝しろよ?他の神殺しは、問答無用で殺しに来るからな……割りとマジで……」

 

 

 ヴォバンのじいさん、姐御、ドニは当然として、スミスと草薙は理由が出来たらやるだろうな……正義感強いから。

 黒王子とアイーシャは、分からん。邪魔したら戦うだろうな、きっと。

 

 

 祐理が苦笑いしてるから、祐理もそう考えているだろう。

 

 

「日が沈むからそろそろ帰らせてもらうぞ。ああ、最後に一つ、俺は何処かの勢力に付く気はない。魔王どもに言っときな、此処は人間が住む人間の世界だ。テメェ等が我が物顔で踏み荒らす権利なぞ有りはしない。次、人間の世界で聖書勢力の争いが有ったら神獣を冥界と天界に放ってやる。それが嫌なら他の神話体系の様に自分等の領域に引っ込め。これは人類代表をしている神殺しの魔王からの忠告だと伝えな。そんじゃあ今日はこの辺で……」

 

 

 何か言いたそうなのが居たが、無視して転移して帰る。

 

 部屋に入ると……怠け者が三人に増えていた。

 

 



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十六話

 

 

 増えた怠け者は、元教会の聖剣使いのイリナとゼノヴィアである。

 

 教会に神が死んでる事を問い質したら案の定、追放された様だ。

 

 追放されたらはぐれになるからと、押し付けたエトンとオルトロスは出番が無かった事に不満だった様だが、二人のブラッシングで満足してくれた。

 

 

 

 

 

「そういえば、二人とも得物は持ってるか?」

 

「私は、デュランダルの担い手でデュランダルを持っているから大丈夫だが……」

 

「私が使ってたエクスカリバーは、教会に返したから今は得物が無いの……一応、念のために法儀礼済みのナイフならあるけど……」

 

「得意な武器は、刀でいいんだよな?エクスカリバー使ってた時に刀に変えてたし」

 

「え、ええ。しっくり来るのは刀だけど…………」

 

 

「………丁度良く、アレ(・・)を持ってきてたな。俺は、武術と剣術のセンスがないから使わず仕舞ってたから埃被ってるが……まあ、いいか」

 

 

「摩桜さん……アレってアレですか?確かアレって盗んだ物ですよね……。戦利品とか言ってましたけど…アレは、三種の神器に並ぶ神宝ですよ……渡しても大丈夫なんですか?」

 

 

「死ぬ一歩手前まで追い込んで、扱える様にさせるから、大丈夫大丈夫。」

 

 

「あの……何を持ってくるんですか……。今、聞き間違いが無ければ、神宝って聞こえたんですが………というか、死ぬ一歩手前ってナニィーー!?」

 

 

 

 押し入れに仕舞っていた刀を取り出し見せる。

 

 

「かの速須佐之男命が持っていた、神宝が一つ……天羽々斬だ」

 

 

 ゼノヴィアとアーシアは首を傾けているが、黒歌とイリナは顎を落として絶句している。持っている事を知っている祐理は苦笑いしている。

 

 

 スサノオのジジイの家を超魔導的なモンでぶっ飛ばす直前に家の中を物色して戦利品として貰っていった物だ。

 

 天叢雲劍と違い、刀に意識は存在しないが鞘に入れておかないと風を起こして鎌鼬を飛ばす面倒な奴だ。

 

 ある程度の技量を持つ担い手なら我が儘は、あまりしないっぽい……。

 俺が扱った時は、刀身を呪力で被えば制御は可能だった。

 

 

「この天羽々斬は、元の世界で速須佐之男命から借りパクしたモンだが当()が取り返しに来ないからそのまま俺が持っているんだが……さっきも言ったが俺は、剣術のセンスが無い。剣士の真似事なら出来るが、戦いで使える物じゃねぇ。ハバキリも仕舞われてるより使ってもらった方がいいだろうしな。そんな訳でイリナには天羽々斬を使える様になってもらう修行すっから覚悟しろよ?」

 

 

「そ、そんな……天羽々斬を使えるって事に喜べばいいのか、これから始まる地獄に泣けばいいのかわからない………」

 

 

 何でそんなに絶望した様な顔をしてんだ?

 

 例え怪我しても、癒しの霊水とアーシアの神器の回復と黒歌の仙術という最高のサポートがあるのに嫌がる必要が何処にあるってんだ。

 ここまでサポートに力が入った修行はないだろ?

 人間は、死ぬ一歩手前になったら嫌でも強くなるモンだ。……俺は毎度死んでるがな。

 

 

「頑張れよ、イリナ」

 

「ああ、ゼノヴィア。お前も強制参加だからな」

 

「……なん……だと……」

 

「他の三人はお前らと違って術士タイプだからそっち方面の修行をするが、イリナとゼノヴィアは剣士だが地が弱い。元の世界の下っ端テンプル騎士よりもハッキリと言って下だ。戦闘に使える基礎の魔術を教えると同時に俺が呼び出す幻獣と闘って経験を積んでもらう。安心しろ、幻獣に加減する様にさせるし、癒しの霊水とアーシアと黒歌もいるから怪我しても完璧に治すから大丈夫」

 

 

 

 

 

 修行前に二人とも駒王学園に通う事になった。……が、修行を疎かにはさせない。

 マンションの屋上に張った、俺が扱う結界の中でも空間を断絶させる最高位の結界〈絶界〉の中で、ネメアやパイア、ヒュドラ、カルキノスたちに跳ねられたり、叩かれたり、遊ばれたりして傷だらけになりながらもイリナとゼノヴィアは、経験を己の血肉に換えていく。

 

 

 ゼノヴィアは剛の剣を、イリナは柔の剣を修めて欲しいが俺は剣術とか詳しく調べてないからダメだが、ある程度の力──呪力五パーの幻獣と渡り合えるくらい──を持ってくれれば取り敢えずは、それで良い。

 

 

 

 ドニの真似をして剣士として二人と闘い対人戦闘の経験も積ませる。

 二人とも驚いていたが、俺はセンスが無いだけで剣が使えないとは言ってない。

 動きの速さまで真似すると相手にならないので二人の速さより一、二段階上で訓練する。

 

 

 

 魔術も教えているが、得意不得意が別れた様だ。

 

 イリナは色々と覚えているが、ゼノヴィアは強化系の魔術しか出来てない。脳筋だと薄々思っていたが……魔術まで脳筋だったとは誰が思うか。

 

 死ぬ一歩手前の訓練によりイリナは、天羽々斬を鞘から出して三十秒までなら扱える様になった。

 

 元々コンビだったからか、連携攻撃が上手い。呪力一パーセントのパイアに二人とも全力の状態で食らい付いていけてたから今度から二パーセントだな。

 

 成果が出ていて良かった良かった。

 

 

 

 

 

「授業参観……か……」

 

「どうした、イリナ?」

 

 

 夜の時間帯に〈跳躍〉を用いたパルクール中──エトンとタゲスの妨害有り──にイリナが呟いた言葉が耳に入った。

 

 授業参観……そういえばそんなこと言ってたな。

 

 

「イリナの両親って日本に居るのか?」

 

「ううん、パパもママも海外に居るけど……パパは教会の戦士だから…私、はぐれになっちゃったから……」

 

「母親だけでも事情を話してみるか?場所さえ分かれば俺の転移で行けるからな。まだ、時間はあるから考えとけば良いさ」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 全く、家族がいるのに問答無用で追放って何様だ。アーシアの場合もそうだが組織の為に「個」を切り捨てる事に躊躇いが無さすぎだろ。よくもまあ、『隣人を愛せよ』なんて言ったな、その隣人を蔑ろにしてどうする。

 

 

 

 ピョンピョン跳躍しながら考えていると、堕天使が目の前に現れた。……一般人に見えない様にした幻術だから分かる奴には分かるか。

 

 

「お前さんがコカビエルを倒したっていう神殺しか?俺は、堕天使の総督をしてるアザゼルってモンだ」

 

 

 一勢力のトップがいきなり現れるとは思わなかった。

 

 うーん………コカビエルよりは、強いんだろうなぁ……総督だし。

 取り敢えず、話だけでもするか………。

 



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十七話

 

 

 

 堕天使の総督アザゼルが現れた。

 

 

 選択肢は、一.取り敢えず殴る(雷or炎パンチ)。二.おはなし(物理系魔術)。三.汚物は滅却(ドラゴンブレス)。四.普通に会話(催眠魔術)。五.無視して帰る(転移魔術)

 

 

 ………イカンイカンほぼ脳筋の考えだわコレ。

 

 

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督、アザゼル……!」

 

「来て……!」

 

 

 ゼノヴィアとイリナがそれぞれデュランダルを異空間から、天羽々斬をマンションの部屋から召喚して構える。

 

 

「デュランダルか……成る程、教会から追放されたっていう聖剣使いがあんたか、ツインテの嬢ちゃんも聖剣使いなんだろうが、何だその刀……何で神力纏ってんだ?霊剣、神剣の類いか……」

 

 

 

 へぇー、少し出ている神力を感じて直ぐにその答えに行き着いてるな。

 頭は意外と柔軟だってことか……取り敢えず、二人を落ち着かせるか、まだ二人の練度じゃあ勝てん。

 

 

「落ち着けって二人とも、まだ武器に振り回されてる今の段階じゃあ勝てんよ……それで?堕天使の総督が何の様だ、コカビエルを殺した件か?」

 

「コカビエルの件はアイツの独断だし、殺そうとしたら逆に殺されたって感じだろ?そもそも俺は戦争なんてしたくねぇし、趣味の研究が出来ればそれで良いからな。今回、お前に会いに来たのはヴァーリの興味の対象になった神殺しを一目見ようと思ってな……」

 

 

 ヴァーリ……ああ、あの白い全身鎧の奴か。

 

 

「興味の対象ねぇ……どうせ、戦う相手くらいにしか見てないだろ」

 

「そりゃあ、アイツは戦う事とラーメンの事ぐらいしか考えてねぇ戦闘狂だからな。良かったな、戦闘狂に好かれて」

 

「良かねぇっての……ただでさえ戦闘狂の知り合いが多いのにこれ以上増えてもなぁ……」

 

「え…マジかよ、戦闘狂の知り合い多いのかよ……」

 

 

 

 カンピオーネっていう存在がすでに戦闘狂だからなぁ……ブーメラン刺さってるな、俺もドニや姐御と戦うと気持ちが昂って周り視ないでたまに焼き払うからな……結界張ってるから被害は少ないけど。

 

 

 

「用はそんだけか?こっちは二人の修行中だからそろそろ行くぞ」

 

「そいつはすまんな。最後に一つ……駒王学園で俺たち三大勢力のトップで会談をするんだが、お前さんもそれに出てくれねぇか?」

 

「ふぅ~ん。まぁ、別に良いけど……それって日本神話に連絡したか?」

 

「あ?何で日本神話に連絡すんだよ」

 

「アホか、まるでダメな中年堕天使総督。悪魔に貸しているが、此処は日本神話の土地だぞ。その土地に傍迷惑三勢力のトップが集まって会談をするんだぞ?このまま無断で会談したら外交問題になるかもしれんぞ……。まぁ、無断でお前が今此処にいること事態、問題になってるんだが……そこん所どうなんだ?」

 

「うっ……確かに、お前さんの言う通りかもしれんが……いや、わぁーったよ。ハァ……サーゼクスとミカエルに連絡して日本神話に話を通さんとな、争いの種は無いに越したことはねぇからな」

 

「まぁ、賠償とかあるだろうけど頑張んな。名前負けしない様に、いない神に祈ってやろうか?」

 

「けっ!心にもねぇ事言うんじゃねぇよ、神殺し」

 

 

 そう言いながら翼を羽ばたかせて帰っていった。

 

 

「そんじゃ、今日はこのまま走って帰るとするか」

 

 

「摩桜くんって、結構さらっと流すよね……」

 

「頭の切り替えが早い事は良いことだと思うぞ、イリナ」

 

「それは…ゼノヴィアがそうだからでしょ……」 

 

 

 

 マンションに帰る途中で思ったが、この世界に来てから動いてばっかだな。

 

 ドニと姐御、まつろわぬ神が来なければ家から出なかったのに……。

 イリナとゼノヴィアは、最低でも剣の腕は大騎士レベルになって欲しいから修行は続けるが………。

 

 

 息抜きを兼ねて夏休みで世界を回るのもよさそうだ。まつろわぬ神が出てこないなら、のんびり過ごせるだろう…………フラグは無いよな?

 

 

 

 

 

 部屋に戻れば、巫女服オーフィスが黒歌と一緒になってソファーで横になってテレビを見ている。

 

 黒歌の妹である小猫(白音)には悪いが、こっちの二人の方が姉妹に見える。姿が似てるから。

 

 どうやらこの間の飯を食べに来るを有言実行しに来た様だ。祐理とアーシアが簡単な夜食を作っている。

 

 

「なぁ、オーフィス。お前って普段なにしてんだ?」

 

「我禍の団(カオス・ブリゲード)の拠点で〈蛇〉渡したり、寝てる」

 

「…禍の団って何だ?」

 

「グレートレッド倒すの手伝ってくれる。悪魔、魔法使い、神器保有者がいる」

 

 

 グレートレッドを倒すのを手伝う悪魔と魔法使いと神器保有者だと?

 

 怪しい……ってか、オーフィスの力…その蛇ってのを貰う為だけに集まったんじゃねぇかそいつら。

 

 オーフィスって無知だから騙されてるって考えてないんだろうな。

 

 

「オーフィスよぉ、お前が勝てない相手にそこら辺の塵芥どもが集まっただけで勝てると思ってんのか?そいつらは、オーフィスから蛇を貰う為だけに近付いた塵芥どもだ。きっとグレートレッドを倒す事なんか考えてねぇ下種どもだから、とっとと縁を切る事を勧める」

 

「でも……」

 

「考えてみろ、オーフィス。約束を守らない塵芥どもと一緒にいるか、此処で祐理とアーシアの美味いご飯を食うのどっちが良い」

 

「……ん。我、祐理とアーシアのご飯を食べる方が良い」

 

「よし、今から禍の団の所行って縁切ってこい。安心しろ、ここには俺とアジ・ダハーカの合作の結界が張ってある。魔術神でもない限り破る事はおろか見つける事すら出来ないモンだ。まあ、お前には見つかったけど……。それに…少なくとも此処にいる者はお前を蔑ろにはしない…だから此処がお前の家だ」

 

「此処が…我の家…。分かった、我今から行ってくる」

 

「おう、行ってこい」

 

 

 そのまま消える様に飛んでいくオーフィスを見送る。

 

 

 

「摩桜、良かったのかにゃ……?私とかの問題があるのに、これ以上問題を抱えるって……もしかして摩桜ってM……?」

 

「止めいヘタレ猫。俺はどちらかと言うとSだ…規格外と戦いすぎて痛覚が鈍くなってるがな。今さら問題が一つ、二つ増えようが関係ねぇよ。一度決めたモンを投げ出す薄情者じゃあねぇし、敵が向かってくるなら捻ればいいだけだ」

 

 

 

「……ホント摩桜って馬鹿にゃ」

 

 

「神を殺す奴がまともな訳ないだろ……割りとマジで……」

 

 

「う~ん。言葉の重みが違うにゃん」

 

 

 



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十八話

 

 

 時差の関係で授業参観の三日前にイリナと一緒にイリナの母親の下に行き、事情の説明をして説明が終わった後に、授業参観に行きたいと言ったので直ぐ様準備をしてもらい、一緒に転移してマンションに戻る。

 

 

 イリナを保護してくれたお礼だと言われ、ご飯を作って貰った。

 

 お店を出しているだけあってかなり美味い。

 

 オーフィスですら美味いと太鼓判を押していた。後、祐理らがレシピを教えてもらっていた。

 

 

 これからも娘をよろしくって言われた。………深い意味があるモノだろうな………きっと。

 

 

 

 

 

 授業参観当日。

 

 なんか……悪魔多すぎね?

 

 隠してはいるがこの前会った、アザゼルと同じかその上程の力を感じる。魔王でも来てんのか?

 

 そういえば、グレモリーとシトリーって現魔王の身内だったな。それなら学園に来てもおかしくはないか……。

 

 

 

 黒歌とオーフィスは、バレないように徹底的に隠蔽を施した。小猫にだけ分かる様に術を組んだから大丈夫だ。

 

 しかし、小猫にビックリしたから予め連絡して下さいと文句を言われた。良いじゃん、サプライズくらい……。

 

 

 後、何故か体育館に魔法少女が居たらしい。

 

 何で授業参観の日にコスプレして来るんだ……。その魔法少女の身内…絶対恥ずかしい思いをしたんだろうな。そういうイベントじゃねぇからな授業参観って……。

 

 

 コスプレか……アニー(スミス)は、コスプレ(アレ)が正装みたいなモンだったし、人格が替わって違和感無かったからスルーしていた。

 

 

 

 

 

「やあ、君が神殺しの鬼崎摩桜くんでいいのかな?」

 

 

 紅髪の優男が話し掛けてきた。紅髪……って事は、グレモリーの兄か?つまりコイツが魔王ルシファーか……成る程、確かに超越者と呼ばれるだけの力を身体から感じる。………いや、悪魔(ヒト)の成りをした別物って所か。

 

 

「だったら何だ、ルシファーの名を騙るグレモリーさんよ。いや、どっちかと言うとバエルのが良いか?」

 

「確かにルシファーの名を騙ってるかもしれないね。だけど今は、私がルシファーさ……後、バエルじゃなくてバアルだよ。バアルの滅びを受け継いでいるが私はグレモリーだ」

 

「身体的特徴だけだろ、その異質な身体でグレモリーは無理があるだろ。……バアルは嵐の神であるバアル・ゼブルから来ているモンだ。悪魔ならバエルだろ?確かに悪魔には神から堕とされた者もいる……て言うか、ルシファーは堕天使だろ悪魔ならサタンじゃねぇのかよ……」

 

「い、いやぁ……私に言われても困るな。私は初代七十二柱の悪魔ではないから、詳しく知ってる訳ではないんだ。それよりも……よく分かったね、私が異質だって……」

 

「あんたの妹と比べればよ~く分かるよ。まぁ、その差違が分かるのは俺ぐらいだろうけどな」

 

「成る程、神殺しの名は伊達ではないって事か……出来れば私の身体の事はオフレコで頼むよ。それと結果的にだけど三大勢力の会談がちゃんと行える様になったのは君の指摘があったお陰だから礼を言わせてもらうよ」

 

「あっそ。俺からしたらどうでもいいが……争いを持ってこなければそれでいいからな。時間が決まったら小猫に頭下げて連絡を頼みな。お前ら悪魔は小猫とその姉である黒歌に土下座する義務があっからな」

 

「……了解した。決まり次第、連絡してもらう様にお願いするよ。それじゃあ、私はこの辺で失礼する」

 

 

 

 異質か………。人間から神殺しになった俺も、人間としては異質な存在だな。

 

 

 

 

 イリナの母親をイギリスに帰す時に、旦那がいなければ私も………って呟いていたのを聴いてしまった。何を言ってんだこの人妻は……。

 

 

 

「イリナ、お前の両親って仲悪いのか?」

 

「え?普通に仲良いけど何で?」

 

「いや、イリナの母さんが旦那がいなければ私も……って呟いていたからちょっと気になってな」

 

「ちょちょちょっと!?ママ何言ってんの!?それよりも摩桜くん!いつの間にママを口説いてるのよ!?人妻も守備範囲なの!」

 

「ちょっと待て。イリナはイリナの母さんとほぼ一緒だったろ、俺が話をする時だって近くに居ただろ?口説いてないのはお前がよく分かってるだろ」

 

「そうだけど………はっ!まさかさっきの転移後に密談したんじゃ!?」

 

「俺が転移して此処に帰ってくるまで一分くらいしか経ってないぞ」

 

「あっ、そうだった。でも口説くだけなら一分で……」

 

 

 自分の世界に入った様なので無視して風呂場に向かう。

 

 

 

 

「祐理って摩桜くんと付き合い長いと思うけど、いつもあんな感じなの?」

 

「摩桜さんは、いつもなら家から出ることや誰かと親しくする事が稀でしたから、あまりらしくないかもしれません」

 

「え、引きこもりだったの?」

 

「ただ、面倒臭がっただけですよ。お役目の時は、しっかりしているんですが……家の中では無防備でしたから」

 

「へぇーそうなんだ。今は無防備って感じがしないけど……」

 

「黒歌さんが勝手にベッドに入るから警戒してるだけなのでその内無くなるかと……」

 

「そうなんだ。それで、その~祐理と摩桜くんって──シた事あるの?」

 

「ゴホッ、い、いきなり何を言うんですか!?」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと気になっちゃって……そ、それでシた事あるの?」

 

「い、一度だけなら……」

 

「その話詳しく聞かせるにゃ!」

 

「祐理さん、私にも教えて下さい!」

 

「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて下さい!?」

 

 

 

 ああいうのを姦しいって言うのだろう……。

 

 

 

 

 

 小猫からの連絡を受けてから数日後……傍迷惑な聖書の三勢力との会談が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「祐理、アーシアたちが俺の事を見てるが何か言ったか……?」

 

「い、いえ。何も言ってないですよ?」

 

「何で疑問形何だ?」

 

 



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十九話

 

 

 学園に行く為の準備を整える。

 

 一応祐理たち、全員を連れて行く。

 

 各々、自分の正装を着ているが………何で皆巫女服なのだろうか?俺的には巫女服は好きだから別に良いけど……。

 

 それに俺も和服だから人の事言えない。

 

 

「なあ、何で皆巫女服を着てんだ?自分の正装で良いとは言ったが……アーシア・ゼノヴィア・イリナ(教会三シスターズ)は、修道服じゃあねぇのか……?」

 

 

「ん?ああ、確かに修道服でも良かったが、破門された身だからな、何を着たら良いかをユリに相談したらマオは巫女服を着た女性が好きだと聞いてな……ユリに頼んで日本神話の神からわざわざ取り寄せて貰ったんだ。……似合ってるだろうか……」

 

 

 祐理め……何暴露してんだよ。俺が巫女服好きになったのはお前がいたからなんだぞ……。

 

 

「ああ、似合ってて可愛いぞ、ゼノヴィア」

 

「そ、そうか…ありがとう、マオ……」

 

 

 頬を赤くしているゼノヴィアの頭を撫でてやる。撫でていたのを見ていた他の娘が目で訴えていたので、同じ様に頭を撫でる。

 

 

 

 首に蛇状態のオーフィスが、肩には黒猫状態の黒歌がいる。どちらも見えない様に隠形で隠している。

 見つかったら絶対騒がれるからな。

 

 

 準備を終えて校門の近くに転移し、待っていたグレイフィア・ルキフグスと共に会議室に向かう。

 

 

 

 

 会談を行う部屋に入ったが、悪魔と天使と思われる奴は既に座っていた。堕天使のアザゼルはまだのようだ。

 

 シトリーとフェニックスが居るがグレモリーの姿が見えない。

 

 

「あなたが神殺し鬼崎摩桜殿ですね。私は熾天使(セラフ)のミカエルと申します。後ろに控えている女性は私と同じ熾天使のガブリエルです。本日は、宜しくお願いします」

 

 

 ミカエルの言葉に後ろのガブリエルも頭を下げる。

 

 アーシア、ゼノヴィア、イリナは驚いているな……まあ、元職場の上司が来たらそうなるか……?

 

 

「あっ、私はセラフォルー・レヴィアタン!レヴィアたんって呼んでね☆」

 

「ん…ああ、鬼崎摩桜だ」

 

 

 レヴィアタンって事は、魔王の一人……だよな?

 

 あっ、生徒会長がため息吐いてる……。この無駄にテンション高い魔王と姉妹か……生徒会長の真面目さは、この姉を反面教師としていたからか。

 

 

 案内された椅子に座って直ぐにアザゼルが入ってきた。後ろの銀髪イケメンは、ヴァーリって奴か……なんかめっちゃこっち見てんだが……後で闘えとか言いそうだな。

 

 そういえば、ヴァーリは戦闘狂だったな。

 

 

 

 そして、数分もせずにグレモリー等がやって来て会談が始まった。

 

 

 

 はぁ~……なんかただ座って話を聞いてると眠たくなってくるな……。

 

 

「───神殺し鬼崎摩桜の攻撃によりコカビエルが倒され事件は解決されました」

 

 

 今のは、コカビエルの起こした事件の話か……。

 

 

「そんで、神殺しがコカビエルの件に首を突っ込んだ理由は?」

 

「理由?小猫から助けてくれって連絡が有ったからだが……後、町を破壊する魔方陣を処理するためだ。コカビエルを殺したのは、ほぼ成り行きと言う名のノリだよ」

 

「お前さんは、ノリで殺すのかよ……ってか、コカビエルは成り行きで殺されたのか」

 

「神殺しになった奴みんな成り行きで神を殺してるからな~。今回もそうだったってだけだ」

 

 

 

 ちょくちょく話しながら会談が進む。

 

 そして、三勢力は和平を結ぶ様だ。俺からしたらどうでもいい事だ。

 

 

「その和平を結ぶに置いて考えなければならないのが赤龍帝、白龍皇の存在だな。とりあえずお前らの意見が聞きたい…ヴァーリ」

 

「俺は強い奴と闘えればそれでいい」

 

「強い奴なんて五万といるさ、そこの神殺しみたいにな」

 

 

 あのダメ中年俺を出汁にしたな……。幻獣たちでコロコロすんぞ。

 

 

「赤龍帝、お前はどうなんだ?」

 

 

「えっ!?えっと、いきなりそんな小難しい話を振られても……」

 

「じゃあ噛み砕いて説明してやろう。兵藤 一誠、戦争してたらリアス・グレモリーは抱けないぞ?」

 

「和平でお願いします!!」

 

 

 少しは変わったと思ったが中身は全然変わってないって事か。

 

 

 

 

 

「鬼崎摩桜殿も我々と和平───」

 

「あぁ?何で俺がお前等と和平なんて結ばにゃあいかん」

 

 

 鳩が豆鉄砲食らった顔をしてるな。そんなにも俺が和平を結ばないって言ったのが信じられないのか?流れなぞ知るかよ。

 

 

「何故か訊いても……」

 

「第一に俺がこの世界の人間ではない事。第二に俺がお前等傍迷惑三勢力を信用してないって事。第三にただ単に面倒くさいからだ。……何だ?そんなに驚いた顔して、俺が言った理由がそんなに気に食わんのか?」

 

「いやぁ、普通はそんな事言わねーだろ……」

 

「御生憎様、『普通』なんて言葉は神殺しになった時点で燃やしたわ。別にお前等から攻撃しない限り敵対するつもりはないから安心したら?ああ、そうだ。悪魔、天使、堕天使に言う事があんだがいいか?」

 

 

 魔王二人とミカエルとアザゼルの顔を見る。

 

 

「俺は構わねーよ」

 

「私も構いませんよ」

 

「此方も大丈夫なのでどうぞ」

 

 

「悪魔と天使には黒歌、アーシア、ゼノヴィア、イリナのはぐれの撤廃と堕天使…と言うか、三勢力に対してだが俺の身内に手ぇ出した奴だけ(・・)を殺す許可。俺からはそれだけの要求を通して欲しい。ま、信用してないがな」

 

「そいつは、お願いじゃなくて命令って言うんだぜ神殺し」

 

「そんなの分かってるっての。でもコレを飲まないって事は、一つの種族が滅んでもいいって事だぞ?滅ぶよりも俺が言った要求を通す方が良いと思うが……どうなんだ?」

 

 

 俺が要求は、はぐれの解除と手を出した奴だけを殺すというモノだ。種族全体と手を出した奴……比べるべくもない。

 

 

「俺としては、有り難い話だが……そんだけの要求でいいのか?もっと吹っ掛けると思ってたぜ」

 

「俺は干渉されなければそれでいいって思ってるからな。そのためにも『はぐれ』って言う無駄な物を無くした方が良い、違うか?」

 

「分かりました。天界側は、その要求を飲みます。この会談が終わり次第三人のはぐれを取り消します。システムを守る為に切り捨てた信徒が一番信仰深いのは皮肉でしかありませんね……。アーシアさん、イリナさん、ゼノヴィアさん、長としてこの場で謝罪させていただきます。……本当に申し訳ありません」

 

 

「そ、そんな、頭を上げてください!?」

 

「私たちは、今の生活がとても充実しているので……」

 

「この出会いをさせてくれた主に感謝しています」

 

 

 

 天使と堕天使は良いようだが……悪魔はまだか……。

 

 

「私としては直ぐにその要求を飲みたいが……」

 

「はぐれを取り消した前例が無いし、おじいちゃんたちが口を挟んでくるよね絶対……」

 

「俺がそのクソジジイどもに直接話をしてやろうか?なぁに、頭が腐った老人が何人か死ぬだけだから安心しな」

 

「い、いや、流石にそれは……。無理にでも認めさせるからやめて欲しい」

 

「別に認めさせなくても良いぞ?手ぇ出したって事にして滅ぼしてやるから。政治に口を挟むクソジジイが居なくなるんだぞ?クソジジイ数人の命で悪魔が助かるんだが……」

 

「それでも、だ。同族を売る様な真似はしたくはない」

 

 

 天使みたいに切り捨てるのに躊躇が無ければ良かったのに……。そのクソジジイどものせいで悪魔が減ってる自覚……は無いか……。

 

 

 ───敵意と殺気!?

 

 

「───チッ」

 

 

 舌打ちで祐理とアーシアを結界で囲んだら、時間が止まった。

 

 

 



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二十話

 

 

 スッゲェ~……マジで時間が止まってるな。規模と範囲がデカイな、この学園全体か……クロノスかカイロスでも来たのか?でも身体が反応してないから魔術師による時止めの禁術か?でも止められる時間なんて凡人魔術師百人くらい居て精々十秒から六十秒くらいのハズ……もしかして神器の能力か?何でもアリだな~。

 

 

 一部分の時止めって代償あるよな普通……龍脈とか止まってないよな?ダムみたいになって下手したら土地が死なねぇか、コレ……此所って土地神が居ないから多分……。

 

 

 

 

「摩桜くん……私とゼノヴィアにも結界掛けて欲しかったな~なんて……」

 

「……ん?ああ、危機管理能力のテストみたいな物だと思え。わざとらしく修行の時に殺気とか出してたからそれぐらいは反応できる様になっただろ?一瞬で武器を持つぐらいはやって欲しかったからな。二人とも武器出して動けてるからホンの少しだけ強くなってるって事だ」

 

「ハハハ…あんな修行をしていたら嫌でも身に付くさ……」

 

 

 イリナとゼノヴィアの眼から光りが消えて、遠くを見ている。

 

 死ぬ一歩手前の攻撃をしてるからトラウマになっちまったか?強くなればもう少し余裕が持てるだろうけど……後、一ヶ月以上は掛かるだろうな。

 

 

 

「それぞれのトップとヴァーリとガブリエルとサーゼクスの女王、神殺しとそのお付き、聖魔剣使いだけしか動ける者がいないって事はこいつはハーフ吸血鬼の『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を強制的に暴走させたって所か……」

 

 

 アザゼルの考察が耳に入る。

 

 ハーフ吸血鬼?そんな奴居たのか?

 

 

「なあ、そのハーフ吸血鬼ってのは?」

 

「ギャスパー・ヴラディくんと言って、リアスの眷属の一人なんだけど……恐らく旧校舎の方を襲撃され捕まってしまったんだろうね、この場に居ない塔城小猫くんも多分一緒に捕まっている筈……」

 

 

 小猫が居ないのはその吸血鬼と留守番してたからか……仕方ないから黒歌に行ってもらうか。

 

 

「(黒歌、今から旧校舎に転移させるから小猫を助けに行ってこい)」

 

「(ありがと、摩桜。直ぐに助けてくるにゃ)」

 

 

 念話で会話して旧校舎に転移させる。俺から離れたから隠形は消えたが黒歌の仙術なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「摩桜さん、このまま待機ですか?」

 

「ああ、今旧校舎に黒歌を送ったからその内時止めは消えるだろうから蹂躙の準備だけはしておくがな」

 

 

「おい、神殺し。今、黒歌を旧校舎に送ったって言ったか……?」

 

「言ったがそれが?黒歌ならずっと猫の状態で俺の肩に乗ってたよ。まあ、隠形で隠したけど……」

 

「この近さでも気付けない隠形とは……レベルが違い過ぎますね」 

 

 

「そりゃあ、あれだ。俺は神殺しであると同時に魔術師でもあるんだよ。このぐらい出来てもまつろわぬ神と同族は普通に破って来るからメンドイんだよなぁ……」

 

 

 ため息を吐きながら聖句を唱える。

 

 

 

「耳を傾け我が言霊を聞け、神を畏れさせる怪物の血を継ぐ怪物共よ。我が力喰らいて今一度常世にその姿を顕し全てを蹂躙し尽くせ…デルピュネー(コーリュキオンの番人)スキュラ(美しき女怪物)コルキオン(金羊毛の番竜)ラードーン(黄金林檎の守護竜)

 

 

 

 聖句を唱え幻獣たちを呼び出す。

 

 

 最初に顕れるのはデルピュネー。下半身がドラゴンの半竜半人で頭が少し緩い……要はバカであるが戦う時は本能で戦うから問題はそこまで無いが、難しい命令が出来ないのが難点だ。……いつも何故かタンクトップとホットパンツの姿で顕れる。まあ、真っ裸よりかはマシだから良いんだけど……。

 

 

 

 次は、スキュラ。下半身が魚って言うか蛇で普段は隠しているが、腹の部分から犬の首が六個飛び出す。後、攻撃方法が剣である。……コイツは何故かポニーテールでビキニ着けてやって来る。ホンの少しだけ聖ラファエロに剣術を教えてもらった影響かもしれない。今思ったがスキュラをゼノヴィアとイリナの修行相手にすれば良いじゃねぇか。

 

 

 

 金羊毛の番竜としか名前がなかったのでコルキオンと名付けた。眠らないドラゴンのハズなのに、魔術で眠らされて金羊毛を盗られてあまり活躍してない奴だ。まあ、今は神獣だから呪詛系が効かないのでネメアとカルキノスと同じく盾要員でもある。

 

 

 

 ラストは、ラードーン。頭が百ある大蛇で敵が多い時なんかには重宝している。頭全部から吐き出される炎の範囲の広さは遠い目をしたくなる程圧巻だ。

 

 

 

 

 

 

 あれ?何かラードーンがおかしい。

 

 呪力は一%で呼び出したから小さいのだが……。

 

 色は同じ茶色だが赤い双眸で………何で枯れ木みたいな身体(・・・・・・・・・)をしているんだ?

 

 

 ………まさか、もしかして…コイツ。

 

 

 

『(おいおい、スゲェーな相棒の権能はよぉ。まさか、オレと同じ様に滅んで魂だけのハズのラードゥンを呼んじまうなんてな!)』

 

 

 

 

 アジ・ダハーカ(モルス)の声を聞いて理解した。

 

 

 

 俺が呼んだラードーンは、この世界のラードーンである邪龍の一体『宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)』ラードゥンであると………。

 

 

 メンドイな~……アジ・ダハーカの話を聞く限りだと邪龍って自分勝手を貫く奴で命令を聞くような存在じゃあねぇんだよな……。ああ、カンピオーネの俺にとっちゃブーメランだな。

 

 

 

 

 ま、いいか。

 

 そもそも今の体は、俺の呪力で創られたモンだし。

 

 

 

 それに木ならアータルの白炎で燃やして消すか、ヒュドラ呼んで同じ死に方をさせるか、サマエルの毒で確実に殺れば良いな。呪力も渡さなければ言い訳だし。

 

 

 

 うん、なんとかなるだろ。

 

 

 

 

「フム、(ヒュドラ)の毒で死んだハズの私が何故、意識と身体を持っているのしょうか?」

 

「エー!まさかコイツ、ラードーン!?アッハハハ、面白ーい!!枯れ木みたーい!」

 

「ええ、本当に……。頭の多さとコルキオンと同じ様に眠らないのが売りで少し引っ込み思案な性格の()ですからね、ラードーン(あの子)は……」

 

「グルゥ、グルルゥ……(そういえば、アイツってそんなだったな……)」

 

 

 

 自分の状態を確認しているラードーン。

 

 その身体を見て面白がる天真爛漫な感じのデルピュネー。

 

 淑女なお姉さんな感じで剣を回しているスキュラ。

 

 スキュラの言葉に相づちを打つコルキオン。俺はキュベレーの権能があるから言っている事は、把握している。

 

 

 

 トップ共が警戒しながら遠い目をしているな……ああ、滅んだハズのラードーンを一時的に蘇らしたからか。

 

 

 

 コレは、俺も予想していなかったから知らねぇよ。

 

 

 

 後、そこの戦闘狂はギラギラした眼と上がりまくった口角でこっち見んな。幻獣たちでコロコロさせるぞ。

 

 

 



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二十一話

 

 

 

 未だに自分の状態を確認しているラードーンの首を掴んで振りながら質問する。

 

 

「おい、ラードーン。お前は何が出来るんだ?とっとと吐けや。答えねぇと口にヒュドラの毒突っ込むぞ」

 

 

「ウゲェ!?分かり、ました!言う、から、身体を、振るな!後、私の、名前は、ラードゥン、です!」

 

 

 首を掴んだまま振るのを止めてやる。

 

 

「ハァ…ハァ……。私は、障壁や結界を得意としています。邪龍の中でも私の防御を突破するのはクロウ・クルワッハとアポプスとアジ・ダハーカ、二天龍、龍神や主神クラスですよ」

 

 

「成る程。そんじゃあラードゥン、今から外出て湧いてくる害虫共を潰してこい。外出たら逃げられないように学園全体と校舎に結界を張れ。後、余計な事したら燃やす……あ、デルピュネーとコルキオンはラードゥンと一緒に外に出て掃除しに行け、スキュラはここで待機して守れ」

 

 

 ゴキブリの様に湧いてくる魔術師らしき奴等がいるのでラードゥンに脅迫(お願い)する。

 

 デルピュネーとコルキオンはラードゥンの手伝い。スキュラは祐理たちのボディーガード。

 

 

「何ですか、この人間は…邪龍である私を脅してくるなんて……」

 

 

「ラードゥン。言っておきますが、主殿の命令を無視して好き勝手すると文字通り焼滅されますよ」

 

「グルゥ、グォオウ(言われた事をちゃんとすれば、それなりに自由にやらせてくれるぞ)」

 

「そうそう!ご主人様って色々と命令するけど基本的にアタシらの事を自由にさせてくれる人だもんね!」

 

 

 

 文句を言うラードゥンを諭す様に声を掛ける三体。

 

 

 確かに命令通りに動くならそれなりに自由にさせてはいるが、それってドニや姐御、まつろわぬ神相手の時にしか自由にさせてない気がするが……まあいいか。

 

 

 タイミング良く時間が動き出した。黒歌が小猫と吸血鬼を助け出したみたいだな。

 

 

 窓を開けて飛び出す三体を見送り、直ぐに俺は旧校舎に転移して黒歌たちを連れて転移する。

 

 

 部屋に戻るとヴァーリが居ないから多分外に出たアイツらを見に行ったのだろう。

 

 

 

 そして褐色肌の女悪魔がいる。

 

 何か偉ぶって色々とペラペラと喋ってる。

 

 

 ああ、成る程。こいつらがオーフィスの蛇目当てに集まった『蛾』共………禍の団だったか……。

 

 

 

「主殿。アレ、不愉快なので斬り捨てても良いですか?」

 

「放っておけ。あんなザコを相手にするだけムダだ……よっと」

 

 

 飛んできた魔力弾を握り潰して消す。

 

 

「人間風情が…この真なるレヴィアタンである私を…雑魚ですって……良いでしょう、貴方から殺してさしあげましょう!」

 

 

 何か知らんが逆ギレされたのだが……。

 

 コイツがレヴィアタンねぇ……。まあ、俺が殺したのは雄の方だから力を取り込んでも意味は無さそうだ。

 

 取り敢えず、魔王ルシファーに殺して良いか訊くか。

 

 

「なあ、サーゼクス・ルシファー。アレ、テロリストなら殺しても構わんよな?」

 

「……カテレア、降る気はないって事でいいのかい?」

 

「ええ、あなた方を殺し、私達が魔王となります」

 

「ふぅ……鬼崎摩桜殿、カテレア・レヴィアタンの後始末をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

 

 サーゼクス・ルシファーからの殺しても良いとの宣言に笑いながら応える。

 

 

 

「クックック、良いだろう。この『悪神殺し』鬼崎摩桜がカテレア・レヴィアタンの後始末を承った」

 

 

 

 結構ノリノリで言ってしまった事に軽く自己嫌悪したくなったが、今から始まる蹂躙(お遊び)に集中しよう。窓から出て魔術で空中に浮かんでおく。

 

 因みにオーフィスは、祐理に預けておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 端から視ればただ単に魔力弾を撃ち合っているように見えるが、分かる者が視れば一方の技量の高さに眼を見張るモノがある戦いだ。

 

 

 ここでの一方と言うのは、神殺し鬼崎摩桜の事である。

 

 

「凄いな彼は……まるでアジュカ(アイツ)みたいだ」

 

「サーゼクスちゃんもそう思う?」

 

「なんだお前らもか?」

 

「あそこまでの技量を持つ者が少ないですからね。そう思うのは自然かと……」

 

 

 

 トップ達が勝手に納得している事に疑問を覚える若手悪魔達。

 そもそもアイツ──アジュカ・ベルゼブブ──の戦っている所を観ていないから仕方がないであろう。

 

 

 

「お兄様、どう凄いのですか?」

 

「ああ、それはね。鬼崎君がアジュカの様な事をしているからさ。アジュカの『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』ではないけど似通った事をしているんだ」

 

「アジュカってアジュカ・ベルゼブブ様ですか!?まさか彼がアジュカ様と同レベルとでも言うのですか!?」

 

「同レベルかは判断に困るけど……才能、ポテンシャルはアジュカと肩を並べるだろうね……」

 

 

 魔王の口から出た言葉に驚く者とよく分かってない者。

 

 それぐらいは有るだろうな、と考える者。

 

 それ以上の規格外だと思う者、様々である。

 

 

 

「えっと……万里谷さんだったかしら。彼はそこまでの才能を持っているの……?」

 

 

 リアス・グレモリーの質問に対して万里谷祐理は一度眼を閉じてから息を吐き質問に応える。

 

 

 

「そのアジュカ・ベルゼブブという方は知りませんが、摩桜さんは元の世界にて人類最強の魔術師と呼ばれる程の力量と他の追随を許さない才能を有しており、神から簒奪した権能を使わずとも魔術だけで他を圧倒する技量を持っています。ですが同じ神殺しには魔術が効きづらい為に苦戦を強いられる事も有りますが、それを覆す事はよくあります。はっきりと言ってあの人の魔術の技量や理解力、応用力なども含めて規格外と呼んで良いでしょう。『魔術師の王(ロード・オブ・メイガス)』の名に恥じない力を持つ者、それが私が慕い仕える鬼崎摩桜という神殺しの魔王です」

 

 

 

 はっきりと言われる規格外という言葉に息を飲む三勢力の者達。

 

 

 

「今の戦いも本気で真面目にやれば一瞬で勝負が着く筈なのに未だに呪力の撃ち合いをしているのは遊んでいるからでしょう。視ての通り、摩桜さんは腕を組んだままなので、恐らく力は10%も出してない筈です」

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーの言うアジュカ・ベルゼブブの『覇軍の方程式』に似通った事というのを簡単に今の場合で言えば、出てきた魔力弾を瞬時に威力や性質を見抜き相手の攻撃より少しだけ強い物で反発しない性質の物を当てて魔力弾を取り込んで掌握して相手にそのまま返している。

 

 

 似ている部分は、現象を瞬時に見抜き相手の嫌がる事をしている所だろう。

 

 

 

 

 カテレア・レヴィアタンは既にオーフィスの蛇を体に入れているが、いくらパワーアップするドーピングであろうが、異物を体に入れて馴染めてもいないのに強くなったと錯覚している。少しでも肉体を鍛えていれば、絶対に勝つことはなくても端から視れば善戦ぐらいは出来ていただろう。

 

 

 自分の魔力を取り込んで威力と速さを増して向かってくる攻撃を避けているが、攻撃を避けた瞬間別方向から魔力を感じたために周りを見渡すとさっきから避けていた魔力弾が浮いていた。

 

 

 

「はい、終わり」

 

 

「しま───!?」

 

 

 全方向からの攻撃に避けられず全弾当り爆発する。

 

 

「き、貴様ーー!!こうなったら───」

 

 

 

 ボロボロの身体から最後の攻撃らしい、腕を触手の様に伸ばし絡み付かせてきた。

 

 しかも身体にくっついて離れない。

 

 

「これは私の命を使った特別製。三大勢力のトップを殺せないのは残念ですが、貴様の様な危険人物をこのままにはさせません!」

 

 

 

 引き千切ろうとしたが千切れない。特別製と言うのは本当のようだ。

 

 

「自爆か………まぁ、いいか。おい、ラードゥン!呪力少し渡すから俺とこの悪魔の周りに結界と障壁張っとけ!」

 

 

「ハァ……龍使いの荒い人間……いえ、デルピュネーとコルキオンの話を聞く限りだと神殺しですか……」

 

 

 結界と障壁が張られたからこれで被害がなくなった。

 

 ついでにフェネクスを使うか……。一度肉体を一新した方がいいかもな。

 

 自爆に巻き込まれても死にはしないだろうけど、身体のくっついている所が抉れるかもしれないし、このババアと一体化したとか鳥肌が立っちまうしな、発動しておいて損はない。

 

 

 

「我は死なず。この肉体が滅び灰となろうと魂は不滅なり。輪廻に加わらず、輪廻を越え、何度でも常世に舞い戻ろう。朽ちぬ灰より出で、この身は燃え盛る鳥と成り大空を羽ばたかん!」

 

 

 フェネクスの聖句を唱え終わったと同時に爆発が起きて意識が飛ぶ。

 

 

 

 

 次に眼を開ければ、二対四枚の燃え盛る翼と孔雀若しくは鳳凰の尾と鳥の足、一体化している翼腕、髪は腰まで伸びて紅蓮に燃える。

 

 

 

 この姿が魔神フェネクスの権能の聖句を唱えた時に出来る、身体を不死鳥に顕身するその鳥人バージョンだ。

 

 

 



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二十二話

 

 

 ふぅ……。

 

 遊び過ぎたな……ハンデとして呪力を出来る限り少なくして呪力を放出しなかったのが仇になってしまった。

 

 くっついた後に呪力を放出しても意味はないから。

 

 それにしても、まだ力の加減がいまいち上手く定まらん。本気出すとコカビエル、遊び過ぎるとレヴィアタンの様になる。

 

 遠慮をしない殺し合いばっかしていた影響だなこれは……。

 

 

 バサバサと翼を羽ばたかせ、火の粉を散らしながら窓の近くに行く。

 

 

「摩桜さん、遊びすぎですよ。いくら不死の権能を持っていても不死(それ)が絶対ではない事は分かっている筈ですよね」

 

「ああ、まあな。それは分かっとるから言わなくてもいいっての……」

 

 

 草薙の『戦士』に権能を斬り裂かれたらアウトだしな。

 

 ………俺の権能って類似性多いから下手したら詰むかもしれない。

 

 一番斬られたくないのが『蛇』だ。『蛇』の類似性を突かれるとアジ・ダハーカ、サマエル、テュポーン、レヴィアタン、四つも使えなくなる可能性がある。

 『蛇』から『死と再生の象徴』の類似性に換えることが出来たらフェネクスが斬られる。

 『火』だとフェネクスとアータル、テュポーンが斬られる。

 

 

 

 詰む可能性が高いが、事前に智識を頭に入れておく必要があるから草薙の愛人ズと接触(キス)させない様にすればいいのだが『強風』や『鳳』で移動される可能性があるから気をつけても無駄に終わるだろうな。

 

 

 俺の不死は呪力を使う。まつろわぬ神や同族との戦いで死ねる回数は、三回が限度だ。それ以上死ぬといくら神との戦いで呪力が体から湧いて増えたとしても呪力が足りなくなるだろう。

 

 

 

「相手の最期の攻撃を何故受けたのですか?転移や縮地、神速で避ける事ぐらいはできた筈ですよね?」

 

 

「いやぁ、遊びすぎてうっかり、身体から呪力を出さずにしてたらさ……接着剤がくっつく感じでくっついちまってな。剥がそうと思ったけど自爆するみたいだったから便乗しようかなぁって……」

 

 

「私は死なないと分かっていましたが、他の人は見たことがないのですから……説明するの大変でした。何故フェネクスの権能をお使いに?」

 

 

 事前に死なないって言ってたと思うのだが……。やっぱり口頭説明だけじゃあダメって事か。

 

 

「だってさぁ…あんな風にベタベタと触られて不愉快だったからのと、身体を新しくするついでに修行に使う霊水でも作ろうかと思ったんだよ」

 

 

 イリナとゼノヴィアの修行でちょくちょく使ってるからそろそろ補充しないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、随分派手なフェニックスだな……。悪魔のフェニックスよりフェニックスらしいんじゃねぇか?それにしても女の尻に敷かれてるなぁ……」

 

「それだけ信頼されてるって事だろうね。私の方も───」

 

「私の方も何ですか?」

 

「え、あ、いや、グレイフィアちょっと待ってくれ」

 

 

「アレが私達と同じフェニックス……綺麗……」

 

 

「に、人間の分際で……フェニックスの力を持つだと……」

 

 

 

 殺気?彼奴は確か……フェニックスだったか?

 人間?の俺がフェニックスの力を持つ事が気に食わないってか。

 

 

 格の違いでも教えようか……。

 

 後ろの方でもヴァーリが殺気出してるからちょっと面倒になってきたな……。

 

 

 

『(相棒ー、オレ様も暴れさせろォー!ラードゥンとアルビオンついでにドライグとも戦わせろ!)』

 

「(戦いになるのは、俺の権能で呼んだラードゥンだけだぞ。ラードゥンは邪龍でありながら今は神獣でもあるんだぞ?戦う事も出来るが、下手したら全盛期以上の力を使えるから、戦うと此処等一帯が更地になるからやらんぞ)」

 

 

 神獣に渡す呪力量は最高で二十%までしか渡さないがこれだけでもまつろわぬ神と同族に勝てるとは言わないが、相手取るには十分だ。

 

 

 今のラードゥンは八%……たまに顕れる神獣と同程度はあるだろうからこれ以上呪力を渡さなければ苦戦せずに倒せる…………因みにこれは周りの被害を考えないものとする、が後ろに付く。

 

 

 

 

「セイヤァーー!」

 

 

 後ろから飛んできた魔力を竜の翼を広げたデルピュネーが蹴って破壊する。

 

 

 デルピュネーが間に入らなくてもこのフェネクスの権能を発動している状態での俺は身体が傷付いても一瞬で治るのだが………そんな事関係無いと言わんばかりの羅濠のババアの掌底で内臓がバウンドして身体に響くし、ドニの魔剣で斬られると傷が増える。

 

 

 

 

「おい、ヴァーリ!何やってやがる、まさかとは思ってたが、お前が裏切り者か……」

 

「悪いなアザゼル。俺はやっぱり戦いたいからな、アース神族と戦ってみないかと言われてね。禍の団の誘いを承ける事にした」

 

 

 

 

 禍の団が此処を襲撃出来たのは、ヴァーリが手引きしていたからなのか。

 

 ヴァーリってルシファーの血を持ってるのか……だから悪魔の気配がするのか。

 

 

 

 あれ?オーフィスって抜けたハズなのに未だに名前使われてるのか……ついでに言っておくか。

 

 

「───そのオーフィスがついこの間、抜けると言って姿を消してしまってね。禍の団全体が騒いでたよ」

 

「はぁ?いなくなっただ?なんじゃそりゃ……」

 

 

「あ、オーフィスなら此処にいるぞ」

 

 

『はぁ?』

 

 

 おお、声が揃った。

 

 

「なぁ、神殺し。聞き間違えじゃあなけりゃあ、オーフィスが此処にいるって言ったか?」

 

「言ったが?オーフィスは黒歌と同じ様に見えなくしていたんだよ。ほら、そこにいるだろ」

 

 

 指をパチンッ、と鳴らしながら祐理の横側の方に指を向けると巫女服を着た幼女(オーフィス)がト〇ポを食べている。

 

 

「え、あれってオーフィスか?」

 

「ん?あ…アザゼル久しい」

 

「お、おう。オーフィス久しぶり……。おい!?神殺しどういうこった、これは!?」

 

「どうも何もオーフィスは今、俺ん家に住んでるんだよ。禍の団を抜ける様に言ったのは俺だよ」

 

 

 

 三勢力のトップが頭を抱えてるが、お前らの事情なんて知るかよ。

 

 

 

「神殺し鬼崎摩桜。俺と戦ってくれるんだろ?今、此処でやらないか?」

 

「俺と戦う前に自分のライバルと戦って勝ってからにしな。そうしたら戦ってやるよ」

 

「な!?おい、鬼崎!俺を売るんじゃねー!」

 

「ふん。文句言う暇あんなら戦って勝ちゃー良いんだよ、勝ちゃーよぉ。この先弱いままだと死ぬぞ?敵はお前が強くなるのを待つことはねぇんだよ」

 

「俺は、あんたやヴァーリみたいに強くないんだぞ!そんな簡単に言うな!後、勝手に決めんな!」

 

「そうよ、私のイッセーにあなたが命令しないでくれるかしら」

 

 

「俺はあんた等が言う下等な存在である人間だぞ?見下してる存在に言われて悔しくないのか?俺は、あんた等みたいに魔力や神器なんて持たないで神を殺したんだぞ。肉体のスペックも高い悪魔の癖に逃げんのか?言っとくがヴァーリは戦闘狂だぞ。戦う為ならなんでもするぞ……例えばお前の家族を殺してでもな」

 

 

「な……、そんな事……」

 

「無いって言い切れるか?おい、ヴァーリ!お前は戦う為なら兵藤の家族を殺すか?」

 

「フッ、確かに必要ならそうするかもな。いや、赤龍帝である君が強くなるなら……良いね、そうしようか」

 

 

 

 やっぱり、コイツも頭がトンでやがるな。

 

 はぁ………何でこう……俺は、頭が残念でダメな奴に逢うのかな、不思議な縁だ……いや割りとマジで……。

 

 

 怒った兵藤はアザゼルからリングを貰って赤い全身鎧を纏ってヴァーリに突撃して行った。

 

 

 

 

「一時的に禁手化に成っているがどうなるかね……。近接戦闘を極めたらなる可能性が高い全身鎧を纏ってるから……」

 

 

「おい、アザゼル。今、近接戦闘を極めたらって言ったか?」

 

「言ったが……それが何だ?」

 

「いや、あの程度で極めたって言われるなんて……この世界の近接戦闘はお遊戯レベルだなって思っただけだ」

 

「お遊戯って……お前の世界の近接戦闘はもっと上って言いたいのか?」

 

「そうだよ。比較する相手が俺と同じ神殺しで、剣術と武術で軍神を驚かせる程の規格外だけどな。そいつ等と何度も殺し合いをしてるから仕方ないかもしれんが……」

 

 

 あの二人は、無念無想と心眼を持つ規格外だ。対抗する為に緩急自在だけでも身に付けたいが、今はイリナとゼノヴィアの修行と祐理、アーシア、黒歌の修行も並行して行ってるから時間が取りづらい。

 

 ま、それは後でエトンとかを呼んでからにするか。丁度良くラードゥンの結界で被害を少なく出来るしな。

 

 

 

 

 

「……あの神殺し、変な事考えてないですよね……」

 

「グルゥ、グオゥ(それは、フラグだぞラードゥン)」

 

「ご主人様の事だから、ラードゥンの結界で被害を少なくしようって考えてるかもよ?」

 

「蘇ったら雑用係にされそうに成ってる件について……」

 

「グオゥオウ……(ドンマイ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フザケンナァーーーーー!!!」

 

 

 アザゼルと会話した赤龍帝がいきなりキレた件について…………。

 

 



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二十三話

 

 

 アザゼルと会話していた兵藤がいきなりキレて力が跳ね上がった。

 

 

「ははは、何だよそりゃあ、マジかよぉ。主様の胸が小さくなるって理由で力が跳ね上がったぞ」

 

「おいおい、さっきの親を殺されるって理由よりも力上がってるじゃねぇか。親の命より女の胸って……」

 

「親御さんが哀しむでしょうね……」

 

「イッセー君……」

 

「今代の赤龍帝は性欲に正直過ぎるな」

 

「ドライグ、可笑しくなった?」

 

 

『やめろぉー、オーフィス!オレは可笑しくなどなっていない!可笑しいのは相棒の頭だーー!』

 

『ドライグ………お前……』

 

『アルビオン!そんな残念な奴を見た様な声を出すなー!うおおおぉぉん!オレは可笑しくなどなってない!さっきのシリアスな感じはどうした相棒!せっかくアルビオンの力を奪ったのにこんな、こんな……』

 

 

『(ブフッ!クックックック、は、腹イテー!あの、ドライグがほとんど邪龍みてーに好き勝手やってた二天龍の片割れが泣いてるなんてレアだぜ、レア!)』

 

 

「フフフ、まさかドライグが泣くとは……あの宿主は相当ですね。龍の中でもプライドが無駄に高いドライグを泣かす性欲ですか……面白いモノを見れたので、今は蘇らせてくれた事を感謝しますよ神殺し」

 

 

 

 兵藤一誠の性欲に赤い龍が泣いた。

 

 尚、トドメは純粋な無限龍の一言の模様……。

 

 

 

「胸だけで強くなるって……お巫山戯が出来る余裕があるなら、丁度良いか……」

 

 

「おい!今、おっぱいの事をお巫山戯って言ったか!」

 

「アア?戦ってる最中に性欲を爆発する余裕があるなら、十分巫山戯てんだろ」

 

 

 巫山戯てるだろ、実際。殺し合いの最中に女の胸なんか考えてるんだから。

 

 普通なら格上相手をどう殺すかを考えてるだろ。

 

 

「つーかテメェは、さっきから偉そうにしやがってヴァーリより先にテメェからぶっ殺すぞ!」

 

 

 へぇー。俺をぶっ殺す?大きく出たな変態赤蜥蜴が……。

 

 

「ククク、クハハハハ!面白れぇ、俺をぶっ殺すだと?殺れるモンならやってみろ変態野郎!ヴァーリとさっきからガン飛ばして殺気出してるフェニックス!お前らもついでに掛かってこいや!まとめて格の違いを魂に叩き込んでやる」

 

 

 翼を広げて空へ飛び出す。

 

 

「まさか、三対一を望むなんてな……白い龍と赤い龍と不死鳥の共闘か…面白い。そして相手は神を殺した人間。心が踊るな、行くぞアルビオン!」

 

『気を引き締めろよ、ヴァーリ。邪龍であるアジ・ダハーカを取り込み、ラードゥンを従えさせる相手だ。さっきの赤龍帝よりも警戒しろ』

 

 

「ふん、人間如きが…本当のフェニックスの炎を食らわせてやる!」

 

 

 

 

 

「あ~ぁ、摩桜君の犠牲者が新たに三人追加………」

 

「鼻が天狗に成ってるし、丁度良いと思うにゃん」

 

「それは言えてるな」

 

「やり過ぎて結界を破壊して学校を壊さなければ良いんですが……」

 

「主殿がそれを気にするでしょうか?」

 

「オーフィスちゃん、チョコが付いてますよ」

 

「ん……アーシア、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 鳥人状態でライザー・フェニックスの炎に正面から突っ込んで無傷でライザー・フェニックスの前に出る。

 

 

「そんな温い炎で俺を傷つけるなんて一生ムリなんだよっと!」

 

「そんな、俺の炎が……ゴファッ!」

 

 

 姐御に文字通り身体に叩き込まれて覚えた掌底をがら空きの腹に叩き込む。

 

 衝撃を逃がすこともせず、そのまま吹っ飛んで校舎に張られていた結界にぶち当たってから地面に沈んだ。不死性に胡座をかいてロクに体を鍛える事もしていなかったみたいだな。

 

 劣化コピーの掌底一発で沈むなんて不死性を持つのも考えさせられるな。

 不死だろうが鋼の様に固かろうが内臓を攻撃されたら動けなくなるモンだ。

 

 

 フェネクスの権能を一度解除して元に戻り、次の準備をする。掌握が進んで権能を解除出来るようになったが解除しても一週間はONの状態になるので死んで甦るときに消費する呪力が増えてしまう。

 

 

 

骨無しチキン(フェニックス)をフェネクスで倒したなら……二天龍を倒すなら同じ龍じゃねぇとだめだよなぁ、相棒!」

 

『(全く以てその通りだぜ、相棒!あの生意気な二天龍を倒すなら同じ龍だよなぁ!)』

 

 

「こんのぉー!当たれぇーー!!」

 

「ハアッ!」

 

 

 フェイントとかもしないで、ただひたすら突っ込む事しかしない赤の鎧と白の鎧の攻撃を全て避けながら、俺の呼び名の基になった権能の聖句を唱える。

 

 

 

「悪辣なる神よ、嗤え!災厄は此処に来たり、厄祭は此処から始まる。恐れ慄け、悲嘆に暮れよ。私は全てに苦痛を与えるモノ也、俺は全てに苦悩を与えるモノ也、我は全てに死を与えるモノ也!輝く輪を以て、生きとし生けるもの全てに絶望を贈るモノ也!」

 

 

 身体がどんどん膨れていき、黒い鱗に被われていく。

 

 首が増えて三つ首になり、三対六枚の龍翼、人の様な身体付きから伸びる手足には鱗と爪が映える。

 

 真ん中の首は緋い双眸、右側の首は黄金の双眸、左側の首は白銀の双眸が耀く。

 

 

 この世界に来て、初めてのアジ・ダハーカの権能の完全顕身である。

 

 

 

 

 

「『おい、どうした二天龍!オレ()の姿を見てビビったか?クハハハ!だらしねぇなぁー……おい、どうした?奇跡な存在みてぇな最強の白蜥蜴ちゃんよぉ?さっき、オレをぶっ殺すとか息巻いてた赤蜥蜴ちゃんよぉ?何、ぼぉーっとしてんだよ!掛かってこいよ、殺し合いはまだまだ始まったばかりだろうがぁー!』」

 

「殺し合いだろうが!」

 

「掛かってこいや、タマ無し共がー!」

 

 

 

 俺とアジ・ダハーカが一緒に喋っているような声に変わり、ペインとディストも表に出てきて喋っている。

 

 

 幽体離脱をしてモルスに戦いを任せるのも良いかもしれないが、やり過ぎたらいけないからこのままで戦う。

 

 

 

「何だよ、アレ……。クソ!ドライグ、アスカロンに溜めた力を全部譲渡だ!」

 

『Transfer』

 

 

 アスカロンって聖ジョージ……ゲオルギウスの竜殺しのアレか……。

 

 竜殺し(ドラゴン・スレイヤー)か……その選択は間違ってない。今の俺は、蛇…つまり()だから有効打になり得る。

 

 

 まぁ、イリナが今持ってる天羽々斬を使えばワンチャン有っただろう。速須佐之男命は天羽々斬で八岐大蛇を殺しているから、天羽々斬には蛇殺しの概念が宿っているから斬るなら天羽々斬の方が良かった。

 

 

 

「これでも喰らいやがれぇー!」

 

 

 

 ──パキィーン……………。

 

 

 

 兵藤の殴った左腕の鎧が砕けた。

 

 

「…………は?」

 

 

「『ククク、随分と柔らかい鎧だな。竜殺しを使ったのは良い選択だ。流石はゲオルギウスの竜殺しだ。針に刺されたみたいな痛みが流れたぞ。けどなぁ、そんな腰も力も入ってないへなちょこパンチで沈むオレじゃねぇぞ!言っておくが、光輪(クワルナフ)すら出してねぇから、力なんざぁ十%も出しちゃねぇからな』」

 

「殺したかったら、全てを切り裂く魔剣でも持って来いや!」

 

「無双の剛力でもイイゼ!」

 

 

 ──バゴンッ!

 

 おっと。背中をヴァーリに殴られた。

 

 

「フッ、油断し過ぎだ。これで戦いは終わる……」

 

 

 確か彼奴の能力は〈半減〉と〈吸収〉だったな。俺の呪力を半減して吸収するつもりか………なら……。

 

 

『Divide』

 

 

 能力が発動した瞬間、ヴァーリの鎧に罅が入り崩れ落ちる。

 能力が発動する前に抑えていた呪力を解放したからかなりの量がヴァーリの神器に流れたのだろう。

 

 

「ぐっ、まさかたった一回の半減吸収で俺のキャパを超えてしまうとは……」

 

『ヴァーリ!?これ以上は神器が機能不全を起こして禁手が一時的に出来なくなるぞ……ヴァーリの総容量を軽く超える力か……。下手したら数十倍…いや、百倍近くはあるかもしれん』

 

「先程の奇跡って言葉は俺の為にあるのかもって言ったのは訂正した方が良さそうだな……力のない人間で神を殺した彼とその同族に言った方が正しいだろうな」

 

 

 

 

『アレはヤバイぞ、相棒。奴の力は生前のオレとアルビオンを確実に超えている。一人の人間が持って良い量じゃない。理不尽の塊が服を着て歩いている、か……これ程分かりやすい喩えは無いだろうな……』

 

「おい、何弱気になってんだよ!まだ終わってないだろ!」

 

『悪いが相棒……そろそろ腕輪の効果が切れるからもう無理だ。まあ、例え相棒が禁手に至れていても結果は変わらないだろうがな』

 

「そんなのやってみねーと分かんないだろ!」

 

『相棒が彼奴に質問した時に彼奴が言ったことを覚えてるか?「蟻が竜を殺す様な偉業」……今のオレ達はその蟻の方だ。アレを殺したいなら奴と同じ場所に立つか、奇跡や幸運を連続で起こして奴を一撃で葬る力が必要だろうな』

 

「なんだよ、それ……勝てる、勝てないの問題じゃあねぇだろ。ただの理不尽だろ」

 

『奴が殺したまつろわぬ神ってのは理不尽な天災。つまり、理不尽を殺した奴もまた理不尽って事だ。アレは人間じゃない、化け物だ。認識を改めた方がいい』

 

 

 なんかボロクソ言ってんなぁ。

 

 正しい認識をしたならそれで良いか。

 

 

 

「『何だよ、ドライグとアルビオンの宿主は全然ダメだな。アルビオンの宿主は天才と呼べる才能を持っているのに胡座かいてて技術が成ってねぇ。接近戦がしたいのか中、遠距離がしたいのかよく分からん。テメェにバランスよく両立して熟す才能は無いな。やるなら一つに絞れや。態々神器を鎧にしたなら近距離格闘の技術を極めてから他のモノに手ェ出せや』」

 

「触らないと能力使えないのになー!」

 

「そんなだから素人に足元掬われんだよ!」

 

 

 この際だ、色々と言ってやろう。

 

 

「『ドライグの宿主は才能が無い……いや、そもそも鍛えてねぇんだから当たり前だな。ドライグの力を存分に振るいたいなら、下地を鍛えて鍛えまくって空手とかの道場なんかに行って専門家から技術を手に入れないとな。独学は神の才とも言える才能を持つ者が行えるモンだ。お前らがやっている事は喧嘩の延長だ、闘いですらない』」

 

 

 まつろわぬ神とドニと姐御と戦う時に正直に真っ直ぐな攻撃なんてしない。裏をかいて確実に殺す様にする。

 

 

「『ああ?何だその顔は……言っておくが俺の才能は魔術に特化し過ぎてるせいで剣術や体術の才能が丸で無いんだぜ?それなのにお前らはオレに攻撃を当てられなかった、何故だと思う?………答えは簡単だ、剣術を使う規格外と体術を使う規格外と何度も殺し合いをして対処の方法を身体に文字通り切り刻まれ、叩き込まれたんだよ。まあ、これは不死の権能を持つオレとかそこで伸びてるフェニックスにしか出来ないがな』」

 

 

 俺のアドバイスを聞いてこいつらは変われるだろうか………。ま、きっかけ作りにはなるハズだ。

 

 それよりも二人ともダウンかよ……。俺、フェニックスにしか攻撃らしい攻撃をしてないな。

 

 二天龍はどちらも自爆だし。ちょっとイライラを解消する為に地面を殴ってその衝撃で二人を吹き飛ばす。

 

 あ~あ、不完全燃焼だわ~、ちょっとラードゥンと殺し合うか。

 

 

「『おい、ラードゥン!オレ、不完全燃焼だから今から次元の狭間か冥界に行って殺し合いすんぞ!』」

 

「フフフ、いいですね。私も不完全燃焼気味でしたので丁度良いです。邪龍らしく好き勝手に殺し合いましょうか」

 

「『スキュラ、デルピュネー、コルキオン!祐理達を家までちゃんと護衛して行けよ!』」

 

 

 それだけ言って俺はラードゥンと一緒に転移してその場から立ち去る。

 



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二十四話

 

 

 三勢力の会談が終わり夏休み間近になった。

 

 部屋でだらけていたら黒猫状態の黒歌が膝に乗ってきた。

 

 

「白音から連絡あって一応なんとなく知ってるけど、摩桜。転移した後何してたにゃ?」

 

 

「最初は次元の狭間でラードゥンと殺しあってたんだよ。誰も居ないから一発で駒王町を一瞬で焼け野原に出来る炎を投げたりして、やりたい放題してたらグレートレッドがやって来て、ここで暴れんなって言ったと思ったら、空間に裂け目作って、強制的に冥界に落とされた後、しばらく落とされた場所で殺しあってたら虫共が湧いてきて、ブンブン五月蝿いからイラついて、ラードゥンとその虫共を一緒に光輪(クワルナフ)の熱線で周りの地形諸とも溶かして終わらせた、以上」

 

 

「摩桜が暴れてた場所って禍の団の旧魔王派の奴らの土地だったらしいにゃ。……その土地が熱で溶けたみたいになったって言ってたのはそれでか………後、虫って呼ぶけどそれって旧魔王派のクルゼレイ・アスモデウスらしいよ~。ねぇ、クワルナフってそんなに凄いの?アジ・ダハーカの権能って事かにゃ?」

 

 

「ん?ああ、光輪は、権能じゃなくて神具ってやつだよ、天羽々斬と同じの。光輪の能力は、光と熱を吸収して放出するだけのモンだ。因みに、アータルとアジ・ダハーカが顕れて、暴れた理由が光輪の奪い合いでな………彼奴らが戦ってる隙に光輪奪って、彼奴らが暴れて発生した光と熱を吸収してブッパして同時に殺して俺は神殺しに成りましたとさ、ちゃんちゃん……」

 

 

 左の手首にある金色のリングを見せながら説明する。

 

 光輪(これ)のお陰で死にかけたが、光輪(これ)の力に賭けた事で俺はカンピオーネに成れた。

 

 奪った光輪を後光の様になるまでアータルの炎の熱を吸収してチャージしたけど、炎その物は消えなかった為、右側を犠牲にした後、光輪の熱で身体を焼いてしまった。

 アータルとアジ・ダハーカがお互いを見ていて、()を見逃したから勝った。

 

 

 

光輪(クワルナフ)を手にした者が、大地を支配出来るとされると同時に王権の象徴でもあるけど、カンピオーネでもない奴が光輪を一度でも使えば、こんがり肉が一つ出来上がる。まあ、カンピオーネが使っても肌がちょっと焼けるけどな………」

 

 

「それってマオさんが使っても同じって事ですよね?大丈夫なんですか?」

 

 

 冷えた麦茶を持って来てくれたアーシアの言葉に続ける。

 

 

「光輪を使う時は、アータルの権能で炎か雷に顕身した時か、アジ・ダハーカの権能でアジ・ダハーカに顕身した時にしか使わないからそこまで危険はねぇよ………………俺だけはな」

 

 

 

 

 

「ちょっ!?それってどういう意味にゃ!」

 

「光輪は吸収した光と熱を溜め込んで熱線として一気に解放する。……攻撃は真っ直ぐ進むけど、熱って放射状に拡がるんだぞ?物を蒸発させたり、気化させるぐらい熱いんだ。周りにも被害出るだろ、普通……」

 

 

 使う時は、空中か海上で……海上だと水蒸気爆発するかもしれないけど……。

 

 

「それよりも、黒歌のはぐれも無くなったし、そろそろ夏休みだから旅行に行こうと思うんだが……」

 

「それって、もちろん転移で……?」

 

「それ以外で何かあるか?パスポートは…まあ、頼めばいいけど、時間かかるし、飛行機とかだと金もかかる。金が減ったらまたベガスで稼げば良いけど……」

 

 

 元の世界でカジノを潰す勢いで稼いだっけなぁ~。

 

 カジノ出たら柄の悪い奴等に絡まれたっけ、そんでボコッて土下座させて『私は人に裸を視られて興奮する変態です。』って書いた板持たせてパンイチで表を歩かせたな……。

 

 うん、平和的な解決だな。

 

 

 

 

 

「行きたい場所があるなら言ってくれよ?一ヶ月弱で回るつもりだし、宿題を終わらせてからだけど……」

 

「何処でも良いの?」

 

「ああ、日本国内でも構わんぞ。あ、でも京都は修学旅行で行くらしいから裏の方を行くのもいいか……」

 

「私もですか?」

 

「そうだよ。この話は、イリナたちにはもう言っててな……今、イリナ、ゼノヴィア、祐理の三人で旅行の情報誌とかを見に行ったから帰ってきたら一緒に選んでおいてくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 

 小猫と話をした喫茶店の中、俺の目の前にはレイヴェル・フェニックスがいる。

 

 向こうからちゃんとアポを取りに来ている。何処かの悪魔はアポなんざ取りに来てないから、この娘には好感が持てる。

 

 

「本日は御時間をいただきありがとうございます……」

 

「俺としては丁度良いタイミングだったから構わないよ。それで、今日はどういった用件だ?」

 

 

 修行ばっかりだったので、イリナとゼノヴィアには今日は休みにして体を休ませる事にした。

 

 

「実は…会談の時、鬼崎さまとお兄さまが闘い、お兄さまの炎が効かずたった一撃で負けた事で、火の鳥…鳥人恐怖症になって実家に引きこもってしまい、グレモリー家との婚約が白紙となり私もお兄さまの眷属から離れフリーになりました」

 

「火の鳥って自分の事だろうに……お前……あー、レイヴェルって呼ぶけど良いか?そっちも摩桜で良いから」

 

「は、はい!分かりました…ま、マオさま…」

 

 

 なんだろう……会ったばかりの祐理を思い出す反応だな。

 

 

「様は…まあ、いいか。そんで、ライザーの恐怖症って家族に対しては大丈夫なのか?」

 

「一応、問題はないのですが、フェネクスという言葉に過敏に反応しています。……フェニックスでも微妙に反応しますが……」

 

「豆腐メンタルかよ……精神面の弱さが表に出たなぁ~。不死であるからこそ精神面を強くしないといけねぇのにな……俺だって不死の力持ってるけど負ける時は負けるし……」

 

「あの二天龍を軽くあしらう程、マオさまは御強いのに…ですか?」

 

「まぁな………そんで?そんな事を言う為に来たわけじゃあないんだろ?」

 

 

 ただ単に世間話な訳ないだろう。身内の恥を言うだけで終わったらちょっとな……。

 

 

「は、はい……。マオさまは魔法使いであられますね……」

 

「……正確に言えば、魔術師だけどな」

 

「聞いた話では、フェニックスの涙と同じ様な物を作れるんですよね……」

 

「……作れるな」

 

「五人の女性と同居して、いらっしゃる……」

 

「……その質問はいるのか?」

 

 

 ぷるぷる震えて俯いてしまった。今の質問は何を意味しているのか………。

 

 

「で、出来れば…いくつかのメリットを提示して、契約を結んでいただきたいと、思っていましたが……メリットが無い上にマオさまは、聖書の三勢力を信用していない……」

 

「契約か……まあ、結んでも良いけど…俺が上でレイヴェルが下でいいなら───」

 

「本当ですか!?」

 

 

 あれ?何か食い付いて来たんだが………。

 

 

「一応、レイヴェルは貴族だろ?そういうのって気にするんじゃないのか………」

 

「あの、そのぉ……契約云々は建前と言いますか……ぶっちゃけますと、マオさまと交際を…男女の関係に成りたいんです!」

 

 

 開いた口が塞がらないって言うのだろうか……。この発言は俺の予想の斜め上を行った。

 

 俺ってレイヴェルを口説いた事って有ったか?そもそもレイヴェルと会話した事なんて片手で数えるぐらいのはずだ。

 

 

『嫌な予感がすると思い来てみれば、案の定ですか……』

 

「視線があるなぁと思ってたが、やっぱり祐理か……」

 

 

 幽体離脱をして霊体を飛ばして付いて来た様だ。

 

 

「ゆ、ゆゆ幽霊!?えっ、でも万里谷さんは生者の筈では……」

 

「幽体離脱ってそんなに珍しいのか?まあ、素養が無いと霊体すら作れないし……。それで祐理、全部聴いてたんだろ?」

 

『はい、聴いてました。レイヴェルさん』

 

「は、はい!」

 

『私も摩桜さんと同じ様に聖書の三勢力を信用していません。三勢力の行いが、摩桜さんの逆鱗に触れれば冥界は滅びるでしょう。それでも貴女は、摩桜さんを愛するのですか?』

 

「はい。ここで誓ってもいいです」

 

『分かりました………では、後の判断は摩桜さんに委ねますね』

 

 

 それだけ言って消える様にして祐理は帰って行った。

 

 判断だけ委せられるのはちょっと面倒なんだけどなぁ~………。

 

 

「互いの事も知らないでいきなり付き合うのは、ちょっと待ったを掛けるけど……本気なのは分かったから。レイヴェルはこのあと空いてるか?」

 

「は、はい。予定は入れていません」

 

「なら、今から俺が住んでるマンションに行くぞ。結界で居住者以外は辿り着けない様にしてるからな」

 

 

 レイヴェルに魔術を施した龍鱗を渡す。

 

 

 

 



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二十五話

 

 

 

「やっぱり摩桜って節操ないにゃー」

 

「言っておくが、俺は狙った事なんて一度もないからな……」

 

 

 レイヴェルを連れて部屋に帰ったら黒歌に節操がないって言われた。

 

 

「え~、本当にぃ~。祐理、実際どうだったかにゃ?」

 

 

 そもそも俺って人との接触を最低限にしていたはず………甘粕を窓口にして、巫女や魔女や魔術師、テンプル騎士…裏の関係者位しか会ってない。

 

 

 中学、高校の同級生とはカンピオーネに成ってからは一度も会ってないし、仲の良い奴も然程もいなかった。ましてや、女子となんて業務的な事以外で喋った事が無い。

 

 だから女子と喋る様になったのは神殺し後だ。

 

 

 

「今だから言いますけど………摩桜さんを慕っていた女性は少なくなかったですよ……」

 

 

「あれ、マジで?」

 

 

「はい……ほら、摩桜さんって聖ラファエロさんと一緒にテンプル騎士の方々に教えてましたよね。ラファエロさんが剣を教えて摩桜さんが魔術を教えて……その時の教え方とか魔術を手取り足取り教えてたのが原因で、魔術の話が分かる神殺し…とか、剣を重視するラファエロ派と魔術を重視する摩桜派が出来たとか……因みにその摩桜派の人の殆どが女性のようですよ」

 

 

 そんな派閥が出来ていたとはな……男女関係なく教えていたハズなんだが……。

 

 魔術の話が分かる神殺しか……俺からしたら他が出来な過ぎってだけだし……どうやったらマッチを折ろうとして樹を折る魔術が発動するんだか……。

 

 

「やっぱり、節操ないにゃ」

 

「テンプル騎士のみんなとは業務的な話しかしてないんだがな……ラファエロさんとは世間話ぐらいならしてたけど……」

 

「マオ、何故、その聖ラファエロと呼ばれる人だけさん付けなのだ?マオは猫をかぶっていなければ、基本的に誰にでも呼び捨てのはずだ」

 

 

 ああ、確かにそうだな。

 

 理由話すから、そんな半眼でこっち見るなよ………。

 

 

「あの人は、俺がカンピオーネに成ってぶっ倒れていたところを匿ってくれた人であると同時に、魔術の基礎を教えてくれた師匠でもあるんだよ。だからかな?」

 

「あれ?摩桜の魔術って独学じゃないのかにゃ?」

 

「基礎を教えてもらった後は、全部独学……って言うか、視た魔術を自分用にアレンジしただけなんだがな」

 

 

 魔女術を視て仕組みを理解して自分用に組み換えて使用している。自爆した奴と戦っていた時に空中に浮いたのは飛翔術を自分用にしただけだ。

 

 

「そういえば、みんな何処行くか決めたか?」

 

「私はお世話になった教会に……」

 

「私はママの家かなぁ~」

 

 

 

 

 

 ……………………え~っと、整理すると……イタリア、イギリス、ギリシャ、冥界に行くのか。

 

 

 

 レイヴェルから冥界で若手の集まりがあるらしく、一緒に来て欲しいとの事、それぐらいなら大丈夫だから了承する。

 

 

「そうだ。レイヴェルも力を鍛えるか?俺の側にいるなら少しでも強くなって欲しいからな。炎の扱いは得意だから色々教えられるけど、どうする?」

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 修行にレイヴェルが加わり数日。終業式が終わって帰っていた時、目の前に悪魔が転移して来た。最近何もなかったから警戒してなかった。

 

 

 

「アーシアさん、むか────」

 

 

「哈ッ!!」

 

「ゴフッ!?」

 

 

 アーシアはその悪魔を視界に入れた瞬間、俺が教えた姐御の動きを真似た武術を使い、悪魔の鳩尾に呪力を籠めた掌打をぶちかます。因みに、アーシアは神器を発動させて、悪魔を攻撃すると同時に回復させている。

 

 

 アーシアは人を傷付ける事が苦手なので、逆転の発想を………つまり、相手を攻撃してダメージを与えてもアーシアの神器『聖母の微笑』で攻撃と回復を同時に行えば、相手を傷付けることなく相手を無力化出来ると教えて修行した。

 

 武器を使えない時の為にイリナとゼノヴィアも一緒にデルピュネーに頼んでスパーリングさせていた。

 

 

 そんなこんなで誕生したのが、殴りながら癒す拳系聖女なのである。

 

 修行の結果、アーシアはゼノヴィア、イリナに次いで格闘が三番目に強い。その後ろに黒歌、レイヴェル、祐理と続く。祐理は運動音痴のままだからしゃーない。

 

 

 

「哈、哈、哈ッ!」

 

「やめ、グホォ、や……」

 

 

「思い、出しました!貴方は、教会に、現れて、私が、癒した、悪魔!」

 

 

 アーシアが教会から魔女だの言われて追放された原因の悪魔ってコイツなのか……。

 

 そして、アーシアはマウントを取ってその悪魔を殴りながら、喋って、癒している。

 自分が貶められた原因が目の前に現れたら俺だって殴る。やっぱり、アーシアに武術を教えたのは間違っていなかった様だ。

 

 

「───ふぅ……。これで悔い改めて下さい」

 

 

 手に血が付くほど殴って癒したアーシアは、その悪魔の上から退いた。

 アーシアの神器のお陰で怪我は治っているが、涙と鼻水で顔面が酷いことになっている。

 

 

 

 俺以外のみんながアーシアの行動にドン引きしている。

 

 

 いや、まぁ……俺も殴るまでで終わると思ってたけど、マウントを取るとは思わなかった。

 

 アーシアの言うことは聞いた方が良いだろうな。その内殴られるかもしれん………。

 基本的に甘いから早々手を出す事はないハズだ。………たぶん。

 

 

「はい、アーシア。タオルと水使って血ィ落とせよ」

 

 

 タオルと水を召喚してアーシアに手渡す。

 

 

「マオさん、ありがとうございます」

 

 

 

「それで、コイツどうする?」

 

「リアスさんに連絡しておけば良いんじゃないの?」

 

「あの~………この人、たぶんディオドラ・アスタロトだと思うのですが……」

 

 

 レイヴェルの言葉に首を傾ける。アスタロトって確か魔王の身内じゃなかったけ?そんな奴が、怪我した状態で教会に……アーシアの前にやって来たのか……教会にこの悪魔と繋がっている奴がいるだろうな。

 

 

 

 

「まぁ、良いか。ほっといても大丈夫だろ。それよりも早く帰って宿題片付けるぞ~」

 

「旅行先は流石にダメだよねぇ……」

 

「イリナさん、それはちょっと……」

 

 

 気絶した悪魔を放置してマンションに帰り、宿題を消化していく。

 

 



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二十六話

 

 

 旅行先で色々と有って大変だった。

 

 

 ギリシャに行ったら英雄を名乗る集団がやって来て返り討ちにしたり。

 

 イタリアに行ったら何故か生きてたタラスクがアーシアの使い魔になったり、壊れてないコロッセオ見て少し「おお」と声を出したり。

 

 イギリスに行ったら親バカと戦い、魔法使いが勝負を挑んできたのを返り討ちにして、メガネのシスコンが突撃して来たが、メガネの連れである猿と白龍諸ともパイアで轢き逃げしたり。

 

 冥界では、フェニックス家現当主に何故かお礼を言われた。

 

 

 

 

 意外と中身が濃い夏休みであっただろう。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 ギリシャに着いてすぐに紫色の霧に囲まれた。

 

 

 

 反射的にアンダルの権能を発動させ、アンダルの雲を発生させて雲で霧を押しのけていたら、オーフィスが腕を横に薙いだ衝撃で霧だけを吹き飛ばした。雲だけ操作して飛ばないように動かし盾の様にする。これに包まれたり、当たるだけで幻覚を見せる事が可能になる。

 

 そして、霧の中から人が現れた。

 

 

「流石はオーフィスだな。ゲオルクの霧を風圧だけで吹き飛ばすなんてな」

 

「テメェは何者だ?」

 

「人の名前を尋ねる時は、自分の名前から言うモノだって親から教わってないのかい?」

 

 

 こいつらはオーフィスを知っているって事は、禍の団だろうな。オーフィスが言っていた、神器を持つ人間たちだな。

 テロリストでもあるんだったか?聖書勢力に恨みを持つ人間って事か、それともただ単に暴れて破壊したいだけなのか……どっちかな。

 

 

「残念ながら物心ついた時点で死んでたから知らんね。まぁ、何となく訊いてみただけだし、お前らの名前なんざぁ興味ないから……取り敢えず、俺の邪魔するつもりなら半殺しで勘弁してやるよ」

 

 

 左手に雷、右手に焔を発生させて見せつける。

 

 

「おお、怖い怖い。これは勧誘しても無駄かな」

 

 

 聖なる力を感じる槍を持ち、槍を肩に当てている漢服らしきものを着ている青年がくだらない事をほざく。

 

 勧誘ねぇ………俺の逆鱗に触れないならどうでもいいし、今回は観光で来ただけだから俺から争うつもりはない。

 

 

「ムダだな、俺は組織とか大っ嫌いでね。自由気ままに過ごしたいし、テロ行為ぽいのはやった事あるし、魔術の研鑽もしたいし、神と殺し合いして殺せればそれでいいからな」

 

 

 背を向けて街の方へ歩こうとして止める。

 

 背後で剣がぶつかり合う音が木霊する。

 

 ゼノヴィアとイリナが相手側の剣士二人の攻撃を防いでいた。丁度良いな、二人がどのくらいレベルアップしたかチェックしないとな。

 

「丁度良い。ゼノヴィアは男の方で、イリナは女の方な。……因みに負けたら、これから食う飯がゲテモノになるからなぁ~」

 

「ゼノヴィア!負けないでよ!?」

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

 

 二人は叫びながら各々の相手に向かっていく。男の方から龍の気配がしたからイリナは女の方にした。蛇殺しのハバキリに斬られたら一発で死ぬ可能性があるから仕方ない。

 

 

「ジャンヌとジークフリートを相手にして彼女らは無事じゃあ済まないだろうけど、良いのかい?」

 

 

 コイツ……ニヤニヤしててウゼェ……。

 

 視たところ相手の二人はそれなりの練度……と言っても人間にしてはだろうな。はっきりと言ってゼノヴィアとイリナの相手としては物足りないだろう。幻獣やドニの劣化コピー剣技を相手に死ぬ一歩手前まで闘ってるからレベルが違う。それに、相手の二人は慢心してるから簡単に倒せる。

 

 ジャンヌとジークフリート?

 

 英雄、偉人の名前を使ってんのかこいつら………馬鹿馬鹿しくて何も言えん。

 

 

 

 俺はまつろわぬジークフリートとは戦わず、ヴォバンのじいさんと戦ってたから詳しく知らんけど……ドニがジークフリート殺したせいでじいさんキレるし、それで劫火落とすし、巫女や魔女を逃がすのに大忙しだった。

 

 

 

「おい、曹操!オレも行くからな!」

 

「分かった。行ってこい、ヘラクレス」

 

 

 ジャンヌ、ジークフリートに続いて曹操とヘラクレスか……。ジャンヌとジークフリートと曹操はまだ分かる。人だからな、でもヘラクレスって神に成ったハズだ。この世界は神が実在しているから、ヘラクレスは神の一柱として居るハズだけど………コイツ、自称か?それともヘラクレスは半人半神だったから、神に成る際に人の部分を削ぎ落とした結果がアレか?

 今の所考えられるのは、その二つの可能性だろうな。

 

 

「───出てこい、ネメア」

 

 

 テュポーンの権能を発動させて喚び出すと空中からシュタッ、と降ってきて着地するネメアーの獅子。

 

 

「グルルゥ…(何用か、主…)」

 

「彼処にいるデッカイ奴がヘラクレスらしいから遊んでやれ」

 

「ガウ?ガルルゥ…?(なに?アレがヘラクレスだって?)」

 

「らしいよ……物足りないだろうけど、アイツの心をへし折るくらいやって良いから…………今度、戦ってやるから働いてくれ」

 

「……ガウ(……了解)」

 

 

 汎用性が高く、耐久性も抜群な為に雑用が多いネメア。

 

 打撃とか斬撃が効かないハズなのに殴殺されたり斬殺されたりする割りと苦労獣な一体。

 

 ネメアがのそのそとヘラクレス(仮)に近付くと爆発が起きる…………のだが無傷で立っているネメアと驚くヘラクレス(仮)。

 

 

「何でオレの神器の爆発食らって、無傷なんだよ!?クソ、もう一ぱ──グハァ!?」

 

 

 ネメアの体当たりが炸裂し、吹っ飛んでいくヘラクレス(仮)。

 のそのそ歩いていたのに何故当たる………驚く暇があるなら動けば良いのに……。

 ネメアが溜め息を吐きながら吹っ飛ばした相手の方に歩いて行った。

 

 

「ヘラクレスを吹っ飛ばす一撃…だと……。あのライオンただの使い魔じゃないのか!?」

 

「落ち着けって、ゲオルク。まぁ、今回は動かなかったヘラクレスが悪いさ。敵が攻撃をしないなんてあるはずがないのに、考えなしの脳筋が悪い」

 

 

 脳筋……バカっぽいとは思ってたが、本当のにそうだったのか。

 後、ゲオルクって誰だ?そんな偉人か英雄いたか?コイツらは、英雄・偉人の名前を語るテロリストだからたぶん、ゲオルクってのもそれに類するんだと思うがピンッと来ない。

 他が有名過ぎるせいで、マイナーな事まで頭が行かないようだ。

 

 

「なぁ、祐理?」

 

「何でしょうか?」

 

「ゲオルクって名前の英雄か偉人っていたっけ?」

 

「……すみません。覚えがないです……」

 

 

 

 相手にも聞こえる様に会話したからか、ゲオルクと呼ばれる眼鏡が項垂れている。

 

 …………そんなにも知らんかったのがショックなのか。自意識過剰な奴か……エゴサーチしてみろ。自尊心が傷つくだけだろうがな。

 

 

「え~っと、槍持ってるお前。お前らって何がしたくてテロリストやってんだ?」

 

「まぁ……禍の団は色々と派閥があるから人それぞれではあるが、俺たち英雄派は、聖書勢力に対しての復讐や、ただ単に自身の力が異形たちにどこまで届くか、とかそういう理由が大半だ。因みに俺は後者さ、英雄曹操の子孫として、この聖槍…『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』に選ばれた者として、どこまでいけるか試してみたいのさ」

 

「ふぅ~ん、あっそう。案外下らない理由だな…………」

 

「………下らない、だと………」

 

「ああ、下らんな。英雄の子孫だから?たかが聖人が死んでるか確認する為に刺した槍を持ってるから?はぁ……せめて、生まれだの何だのより、槍一つで世界最強に成るとか言って欲しかったのが本音だわ~」

 

 

 ありゃりゃ、顔を赤くしてるな。もしかしてなけなしの自尊心が傷ついたか?

 

 

「どうでもいいが、学生服に漢服っていう変な奴と知名度無い眼鏡野郎は、戦わないのか?今ならこの『魔術師の王』が、血筋とか神器とかない弱っちぃ人の身で神を殺した神殺しの魔王が相手をしてやっても良いぞ?人間の超越者と呼ぶべき俺から尻尾巻いて逃げるか、自称英雄共?まぁ、別に戦わないで逃げても良いぞ。そん時は、お前らは相手にビビって逃げた臆病者(英雄)に成るけどな」

 

 

 わざわざ英雄の名前を名乗るなら俺から逃げるのはアウト。

 名前に泥を塗るだけだから逃げる選択は先ずないだろう。プライドだけは高そうだし。

 

 

 

「好き放題言ってくれたな……。ゲオルク、禁手を……ゲオルク?」

 

 

 反応が無いのは俺の雲の幻術に囚われているからだ。相手の移動手段を潰すのは普通の事だ。

 

 

「叩いてもムダだぞ。今そいつは、ヤンデレに追いかけられるっていう終わりの無い幻を視てるから動けんよ」

 

「ヤンデレって………摩桜?それって私たちにも視ることって出来るかにゃ?」

 

「うん?ああ、ちょい待ってろ。見えるようにするわ」

 

 

 アンダルの権能を発動している状態から更に聖句を唱える。

 

 

「悪魔に堕ちし偽りの雷雲よ、魅せたまえ。我、望むは囚われ人が視る夢なり。」

 

 

 雲をスクリーンの様に広げて、第三者の視点で映像が映る。

 

 

 

『───ゲオルク、ねぇ、待って。』

 

『待ったら手足を切り落とすつもりだろ!』

 

 

 走り続ける眼鏡を両手に包丁を持ったジャンヌと呼ばれていた女性が追いかける。

 

 

 

 随分とテンプレなヤンデレの幻を視ている様だな………。

 

 



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