ガーベラに寄り添うネリネ (勿忘草)
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『人物紹介 - Parsonal Data- 』


プロフィールを書きました。
現世編よりも前なので背景としては身長や体重は尺貫法で書いてます。
カラブリ準拠で能力を書いても良かったのですが、かなり均衡がとれないため断念しました。
原作巻頭のようなポエムを追加しました。


過去編

『初めて笑いあえた(ひと)は貴方、最後に笑いあえた(ひと)も貴方』

 

現世(尸魂界)編

『貴方居た世界、理想郷 貴方居ない世界、絶望郷』

 

現世(破面)編

『思い出は火種、愛しさが薪、貴方が傍に居るだけでもう何も怖くない』

 

名前:斑鳩(いかるが)(たける)

身長:六尺五寸(195Cm)→七尺(210Cm)

体重:二十六貫(97.5Kg)→二十貫(75Kg)

誕生日:十月十七日

好きな食べ物:餡蜜

嫌いな食べ物:銀杏

趣味:研究、鍛錬、読書

得意な事:戦い

苦手な事:女心の理解

 

斬魄刀:『年輪』

解号:『刻め』

始解時の能力:経年で一定の月日が経つと、長さや刀に宿る霊圧が倍になったり刃の厚みが増して、より殺傷能力が高くなる。

一度、一定の月日が経って成長したら次の成長にはその倍の年数を要する。

 

卍解:『年輪重歌』

能力発動で使用する解号:『印せ』

卍解の能力:不明

 

護廷十三隊所属履歴:

四番隊(最高位:副隊長 勤続年数:五十年)→十番隊(最高位:隊長 勤続年数:四十九年)

→十二番隊(最高位:副隊長 勤続年数:百年)

 

 

来歴:

真央霊術院を三年で卒業。

当時、最年少での卒業という事で天才扱いを受けていた。

卒業してからかなりの年月が過ぎて、志波海燕がこの記録を破る二年で卒業。

今では日番谷と市丸の一年と海燕の二年に次ぐ記録となっている。

卒業試験の『斬拳走鬼』においては

『斬』においては当時八番隊隊長の京楽春水を相手に木刀とはいえ叩き折った。

『拳』で戦闘部隊である十一番隊の平隊士を一方的に殴り勝つ。

『走』では頭脳を活かし相手の失敗を誘って合格を勝ち取った。

『鬼』では後に鬼道衆へ入る有昭田鉢玄以上の完成度を見せつけて驚かせる。

それだけの凄まじさの正体は娯楽や人の関わりを削ぎ落した錬磨の果ての賜物であった。

 

その後、のちの想い人である猿柿ひよ里と出会う。

初めての出会いが卒業試験後で疲れてしまい、倒れ込みそうになるという、相当だらしない形であった。

同期は猿柿ひよ里、平子真子、六車拳西、鳳橋楼十郎、愛川羅武、有昭田鉢玄、久南白、矢胴丸リサ。

 

護廷十三隊所属において、自分の力が発揮できるなら何処でもいいやと思っていたところ、『回道』を学び、後方支援もできるように。

人付き合いの改善や心遣いができるようにと言う計らいから、人と関わる事が多い医療部隊の四番隊へ。

そこで師である卯ノ花烈と出会う。

元々、鬼道の扱いに長けていたので『回道』の習得も同期の平隊士を遥かに超える速度で行っていた。

 

ある日、卯ノ花隊長に呼び出されて隊首室に向かうと、強くなりたいか否かを問われる。

その言葉に頷き返した時、卯ノ花隊長の正体を知った。

二百年たった今も他言無用の条件で稽古をつけられている。

 

その錬磨の果てに培った強さは、現在在籍している隊長格でも群を抜いており、指折りの実力者である。

負ける相手がいるとすれば総隊長である山本元柳斎、恩師である卯ノ花烈、敬っている隊長として挙がる京楽春水の三名。

それ以外の人物に関しては体の調子や確実性に欠けるので、聞かれた際は首をかしげて煙に巻いている。

 

三十年で副隊長職まで上り詰め、そこから二十年もの間副官として卯ノ花隊長を支え続けてきた。

席次が上がるにつれ恐ろしさが周知されたのか、四番隊全体に過度な雑用を押し付けられることもなくなっていた。

 

副隊長就任から二十年後、四番隊に所属してから五十年後。

巣立つ形で隊首試験を受けて十番隊隊長に就任。

現在、綱彌代歌匡が副隊長として支える隊である。

まだ四番隊の席官だった時に助けた縁からか、その行いに恩を返す形で移籍してきた東仙要。

あと、たびたび不法侵入を繰り返した『蛆虫の巣』から涅と阿近を引き入れる。

その引き入れから元々隠れて行っていた研究に熱を入れて進展させていく。

長年の努力と研究の末『眠計画』を実現。

産まれた命を我が子同然にかわいがっている。

幸せの絶頂から急転直下になったのは隊長についての四十九年後。

藍染が誰かにそそのかされた結果、早とちりをして同期と浦原、四楓院、握菱の合計十一名が追放された。

その際に内緒で協力をしていて、以後百年間常に動き続けている。

設備等の整った場所での協力、および猿柿ひよ里の居場所を守る為、十二番隊副隊長兼技術開発局二代目室長に就任。

 

恋愛に関しては猿柿ひよ里だけしか見ていない。

指輪を送る中に多少の思惑があるが悪意は微塵もなく基本は愛している。

思惑も何かしらの問題から避けさせるため。

時折、どうしていいか分からないときは曳舟隊長や矢胴丸リサが助け船を出している。

 

特別扱いとして女性陣を上の名前でしか呼ばないのに、一人だけ下の名前で呼んでいる。

男性陣は呼びやすい方がいいから下の名前で呼んだり様々。

 

本作オリジナル斬魄刀

 

名前:『年輪』

使用者:斑鳩傑

 

能力:経年で一定の月日が経つと、長さや刀に宿る霊圧が倍になったり刃の厚みが増して、より殺傷能力が高くなる。

一度、一定の月日が経って成長したら次の成長にはその倍の年数を要する。

 

卍解:『年輪重歌』

能力発動で使用する解号:『印せ』

能力:老いを司る力。

錐の様に噴出しており、触れたものを経年劣化させていく。

人体ならば白骨化をしたりする。

最後は空気中に塵となるのが共通。

所持している間は自分は影響を受けない。

もしくは自分の霊圧で防げる。

 

名前:『薄刃蟷螂』

使用者:東仙要

解号:『()け』

 

能力:鎖鎌への形状変化。

刃の厚みを自在に変えたり、元々の刃の厚みを越えない範囲であれば薄くして枚数を増加させる事が可能。

 

卍解:『獲姫(かくひめ)大蟷螂(おおかまきり)

能力:自分が今までに切ってきた相手の霊圧を凝縮して鎌の生成を行う。

霊圧の為、伸縮や拡大縮小も自在。

空中に舞わせてブーメランみたいに使える。

 

名前:『銀蛇(かねへび)

使用者:阿近

解号:『蝕め』

 

能力:毒の生成。

自らの霊圧から作るもので基本的に抗生を作る事は不可能。

もしくは切りつけた相手の霊圧から生成することもできる。

莫大であればあるほど効きが遅くなるという欠点がある。

 

名前:『夢弦(ゆめつる)

使用者:黒崎真咲

解号:『射貫け』

 

能力:弓矢に変化する。

矢は常に手元へ戻ってくるため連射性能や速射性能も高い。

なおかつ攻撃力が霊圧に比例するため高い。

本来鬼道や一握りの斬魄刀でしか実行できない遠距離攻撃がコンスタントに行える恐ろしいもの。

 

卍解: 『夏遊護心弓(かゆごしんきゅう)

 

能力:矢に二つの能力が追加される。

夏遊弓は小型の炎熱系斬魄刀の一撃となる。

護心弓は追尾型の結界で精神干渉の効果や精神系の攻撃を無効化する。

 

名前:『天守(あまかみ)

使用者:井上昊

解号:『抱け』

 

能力:結界による盾の生成と敵の治癒能力を阻害する斬撃を放つことができるようになる。

盾の強度は『断空』とほぼ同じ。

 

卍解: 『天恵守王(てんけいまもりのきみ)

 

能力:六個の錐のような形へ変わる。

それを突き刺した所の事象の拒絶を行う。

囲めば周囲と範囲は広がる。

これは実の妹である井上織姫と同様の能力。

ただ、一本でも局所的に行えるあたり柔軟性がある。

 

『第2部』

 

『君に贈るのは憎悪と怒りで育てた『殺意』という花』

 

名前:(はなぶさ)雄喜(ゆうき)

身長:181Cm

体重:77.5Kg

誕生日:七月十日

好きな食べ物:チンジャオロース

嫌いな食べ物:納豆

趣味:将棋

得意な事:フラッシュ暗算

苦手な事:見捨てる事

 

完現術:『剣道三倍段の枷(トリプルスコア)

宿っているもの:薙刀【刀身は三尺で柄は五尺の大型】

能力:『刀を手に持った相手』の実力を三分の一に変換する力

対策としては上昇させる術が有ればよかったり、刀が無くても十分な実力を有しておけばよい。

また、刀と明確に判断できるものでない場合【例としては朽木白哉の『千本桜』や大前田希千代の『五形頭』】は効果がない。

 

来歴:

空座市に住む高校生。

普段は学年でも上位に入る優等生であり文武両道。

黒崎や茶渡といった友人にも恵まれている。

しかし天然ボケらしく、名前を素で間違えたり,道の隅っこで歩くと段差を踏み外したりなど笑いを誘う面もある。

 

薙刀を幼少期からやっているため、その実力はインターハイ優勝という『日本で一番強い高校生』の称号を手に入れるほど。

 

しかし過去の出来事が原因で手に入れた強さである。

彼の母親は彼がまだ生まれる前に虚に襲われた。

その際に負った怪我が理由で出産後に他界。

その後の五年間には親戚一同を、さらに八年後には父と姉を失った。

親戚一同は高齢や病、事故など様々な理由だが、父と姉に関しては母を襲った虚にやられた。

以来、八歳から天涯孤独の身である。

以降、虚を狩ってかたき討ちをのぞむ生活を並行して行っている。

仇は『第五十刃』ノイトラ・ジルガ。

現世と虚圏で交戦したものの痛み分けで終わっている。




まだまだ今後追加する内容も増えます。
何か指摘があればよろしくお願いします。


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『第1部:尸魂界過去編』
『邂逅 - First Contact -』


この度、BLEACH熱が再燃しまして書きたくなったので書きました。
主人公を初期から強キャラにするのが初めての試みです。
最終的な強さは上位ですが最強にはなれないという所でやっていきます。


「これより卒業試験を始める」

 

その一言で俺の『真央霊術院』での卒業を認めるかどうかの試験が始まる。

先日の練習用の虚も討伐を完了させた。

 

「まさか学業課程を3年で終わらせるとは……」

 

六年かかると言われた学業課程を半分の期間で終わらせてきた。

血を絞り出すような努力。

誰ともあまり関わらなかったために実現した。

 

「ざわつくのもそれくらいにして始めるぞ」

 

そう言って、死神に重要とされる『斬拳走鬼』を見る。

まずは『斬』の試験。

相手は……

 

「山じいが行って来いなんて言うから来たけど男の子かぁ」

 

その飄々とした口ぶり。

そして真剣ではなく木刀の二刀。

眼光は冷たくこちらを見ていた。

 

「八番隊隊長……京楽春水殿が相手とは」

 

まさかこんな相手とやりあう事になるだなんて。

こちらもじろりと見て相手の間合いを図る。

そして踏み出して仕掛けた。

 

「甘いよ」

 

一方の木刀で逸らしてもう一方の木刀で打ち込んでくる。

回避をしてみるが髪の毛を風圧だけで切り裂く。

真っ向勝負じゃあだめだ。

少し悪いが……

 

「ふっ!!」

 

草履を顔面に飛ばす。

それと同時に駆けていく。

狙うのは一箇所のみ。

 

「足癖が悪いねぇ」

 

草履を払った隙をついて跳びあがる。

そして一方の木刀へ一撃を叩きつけた。

狙い通りだ。

二刀でなければ多少はやりやすいはず。

 

「ふんっ!!」

 

防いでいたとしても力任せ。

さらには跳びあがった勢い。

その結果、片方の木刀を圧し折って一刀同士となる。

 

「やってくれるじゃないの」

 

片手が痺れているのだろう。

目が笑っていない。

ここから気を引き締めるのだろうか。

 

「いくよ!!」

 

突きが放たれる。

反応ができる速度ではない。

喉では無く腹部へめり込んでいた。

さらに胴に横薙ぎの一撃。

横に吹っ飛んでいく自分を瞬歩で先回りをする。

 

「これでお終いだ」

 

呼吸に苦しんでいる自分をしり目に木刀を振り下ろす。

咄嗟に木刀で受ける。

すると、すこんと小気味のいい音を立てて木刀の先が地面に落下する。

つまりは刃物のようにこちらの木刀を切ったのだ。

凄まじい練度と実力がないと出来る芸当ではない。

 

「武器がない以上は続けられない」

 

そう言って木刀を地面に置く。

受けていた木刀がぱっかりと分かれている。

圧し折るよりも美しい。

相手が悪かったというように試験官も口を開いた。

 

「『斬』の試験を合格とする」

 

その言葉を聞くと京楽隊長は満足そうな笑みを浮かべる。

木刀を置いて一礼をする。

 

「君みたいな子は嬉しいね、待っているよ」

 

笠をかぶりなおして、掌を振りながら去っていく。

そして次の『拳』の試験へ。

 

「十一番隊の平隊士とやってもらう」

 

さっきに比べたらぬるい条件だ。

そう思って構える。

相手は瞬歩を使って背後に忍び寄る。

しかしそれは読んでいる。

 

「はっ!!」

 

前方へ転がっていく。

肘打ちが放たれていた。

こちらも同じく瞬歩で接近。

 

「しっ!!」

 

足を掴んでひっくり返す。

受け身を取ろうとするが片手を取り、馬乗りになる。

ここから逃れる手はほとんどない。

隊長や上位の席官ならば問題ないだろうが。

 

「これでお終いだ」

 

そう言って淡々と顔を殴打する。

反撃の隙も与えない。

意識を無くすまで叩き続ける。

 

「そこまで!!」

 

しばらくして試験官が止めに入る。

相手は気絶をしていて鼻の骨が折れており、歯も数本折れている。

圧倒的な勝ち方とは言える。

 

「……『拳』の試験を合格とする」

 

平隊士に対して敬意なく平然と殴打。

暴力性があると思われたのかもしれない。

少し訝し気な目線を向けていた。

 

「次の『走』は『鬼事』を行い、いくらの時間を逃げ切れたかで判断する」

 

そう言って隠密機動第五分隊の裏廷隊の方が出てくる。

隠密機動の面子にかけても捕まえると気合が入っている。

そして始まる『走』の試験。

 

「ふっ!!」

 

一瞬で間合いを詰められる。

瞬歩がキレキレだ。

しかし京楽隊長に比べれば、怖さはない。

 

「ひゃっ!!」

 

前転跳躍で逃れる。

着地をして瞬歩で間合いを開く。

相手の方が無駄がない。

 

「だが……」

 

こっちも易々と掴まりたくはない。

相手の周りを瞬歩をしてくるくると旋回する。

相手はじりじりと詰めてくる。

 

「しっ!!」

 

痺れを切らして手を伸ばしてくる。

その腕を影にして動く。

伸ばした腕からさらに外側へ。

逆の腕で捕まえるには隙が大きい。

それは逃げるには十分。

 

「ちっ!!」

 

距離が離れた瞬間、こちらに向かって動いてくる。

それもさっきよりも速く。

それを利用していく。

 

「はっ!!」

 

相手の股を抜いていく。

そして相手は反転する。

しかし、速度を出しすぎていたので……

 

「がっ!?」

 

ブチリと腱が切れる音がしてしゃがみ込む。

急停止によって足に負荷をかけすぎたこと。

瞬歩を使おうとしたら尚更だ。

作戦勝ちという事だ。

 

「『走』の試験を合格とする」

 

試験官が苦笑いをしていた。

まさかこのような結末になるとは思っていなかったのだろう。

気合の空回りというわけだ。

次の試験は『鬼』。

最も得意とする部門。

護廷十三隊の現役隊士にも負けないほどの自信がある。

 

「この木人へ己が思う最大の破道と縛道を詠唱して唱えよ」

 

目の前に出された立派な木人。

それに向かって放つ。

隊士よりは気が楽だな。

思う存分やらせてもらおう。

 

「ちなみに此度の卒業試験で最も優れた方は何番台を?」

 

聞いてみたかったのだ。

度肝を抜くために。

すると試験官は口を開く。

 

「破道と縛道を共に四十番台を放っていた」

 

現役の席官並みか。

大した方もいたものだ。

ならばそれ以上を見せないと。

 

「始めよ」

 

その言葉と同時に木人へ指先を向ける。

詠唱破棄ができるのだ。

それもそこそこのものを。

それこそが己の才。

度肝を抜く見世物の幕開けだ。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

目の前に円形の盾を繰り出す。

一気にどよめく。

詠唱破棄の三十番台。

力の減衰は見られずとの判断。

詠唱ありきで四十番台ならば破格の動きである。

 

「すみません、詠唱してなかったのでもう一度やり直しますね」

 

そう言って詠唱による最大の縛道を放つ。

指先に力を込め、言葉に力を乗せる。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ 縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』!!」

 

六つの帯状の光が胴を囲うように突き刺さり動きを奪う

格好をつけて詠唱破棄をしていたのではないという証明。

十番以上離れた強力なもの。

きっと隊長格ならばこれ以上の事は出来る。

だが、胸を張ってもいいはずだ。

 

「次……破道をやってもらおう」

 

そう言ってきたのでこちらも呼吸を吐き出して力を込める。

得意な破道。

これでもう一度度肝を抜く。

ここは様子を見ずに詠唱でいいだろう。

 

「『君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ』」

 

詠唱の時点で息を呑む音が聞こえる。

これこそが一番得意な破道にして最大のもの。

木人に向かって放つ。

 

「『蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ』、破道の七十三『双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』!!」

 

両の手のひらから蒼い爆炎が木人に向かって炸裂する。

木人がその一撃で半身が破壊される。

こちらの破道が終わるころに見えたのは首以外が塵となり無残になった姿だった。

 

「『鬼』の試験、合格だ…」

 

試験官の顔色が悪かった。

これで全ての課程が終了。

最後の七十番台で疲れがどっと押し寄せる。

戦いではろくに使えそうにない。

まだまだ錬磨しなくてはな。

 

「後日、結果を送る」

 

その言葉を最後に試験場から出る。

ふらついてしまったせいで女性とぶつかった。

丁度、卒業試験を終えたところだったのだろう。

 

「お前、どこ見て歩いとんねん、このハゲ!!」

 

尻餅をついてしまった人がこちらを睨んで言ってくる。

申し訳ないと思い、手を差し出す。

それを掴んでくる手は小さい。

 

「すみません、卒業試験での緊張がどっと出てきて」

 

俺の手を支えにして、立ち上がった女性に頭を下げる。

背丈が自分の腰ほどしかないが大人な感じがする。

どうやら年上のようだ。

 

「貧弱やのう、お前」

 

はあっとため息をついて呆れられる。

しかしこちらをじろりと見た後、にやりと笑ってくる。

 

「お前がさては噂の天才君か?」

 

余りそう思われるのは癪なのだが頷く。

するとますます笑みを強くする。

 

「大方ええかっこしよ思て無茶したな」

 

ずばり当たっている。

図星だった俺は少し恥ずかしさから頬をかく。

 

「まあ、それはええわ、名前教えてもらおか」

 

ずいっと顔を近づけてくる。

少し驚いてしまう。

しかし落ち着かせて名前を名乗る。

 

斑鳩(いかるが)(たける)です、よろしくお願いします」

 

頭を下げて名乗る。

自分よりも先輩なはずだ。

礼節足りた存在でないといけない。

敬わないといけない。

 

「名は体を表すって奴やな、お前の三年先輩の猿柿(さるがき)ひよ()や」

 

そんな姿を見て感心した猿柿先輩が名乗る。

そして先輩が手を差し出してくるのでこちらも握る。

小さな手に似合わずタコや血豆がある。

『浅打』を何度も何度も振って努力をしてきた人の掌だ。

 

「お前も卒業試験に合格しとったら、ウチと同じ護廷十三隊かもしれんな」

 

先輩は死神を志望しているのだろう。

体は女性と比べても小柄の部類に入る。

推測するに、きっとそれを活かした動きなどが上手なのだろう。

先輩として敬わないといけないな。

 

「お前の事もビシバシ鍛えたるからな、覚悟しとき」

 

猿柿先輩はそう言うと元気一杯に駆けていく。

心臓の鼓動が少しばかり落ち着かない心。

卒業前にあれだけ女性に接近されたこともない。

つまり女性に全くと言っていいほど免疫がないのだ。

 

「勉強の虫になればいいってわけではなかったな」

 

護廷十三隊に入れたら多くの人と関わっていこう。

それも男女などの性別を問わず多くの話をしよう。

そう思って家路へ着くのであった。




今作のヒロイン登場です。
主人公が十分天才的な才能を見せていますが、原作ではこの後ギンがそれ以上の成績で卒業したりなどあるのであくまでその立ち位置にしています。
次回は護廷十三隊での引き取り先を決める予定です。
ちなみに原作や小説で死ぬキャラが生存するのでそのしわ寄せを受ける奴が当然います。

指摘などありましたらお願いします。


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『給金 - Salary -』

同期の死神については皆さんお気づきとは思いますが今回で出していこうと思います。
強さだけ見たら間違いなく十一番隊か、一番隊になるのですが考えた結果の所属先です。


「諸君らの誇りある護廷十三隊への入隊を認める」

 

護廷十三隊総隊長である山本元柳斎重國が声をかける。

真央霊術院で卒業した方々が一堂に会し言葉を聞く。

卒業が決まった生徒は、護廷十三隊での所属などが話しあわれて通知が届く。

 

「皆、この護廷十三隊の隊士の誇りを胸に、より一層励むように、以上じゃ」

 

そう言って去っていく。

そう思っていた次の瞬間、息の詰まるような霊圧が押し寄せる。

 

「やはりまだまだ未熟じゃのう」

 

そう言って髭に隠れた笑みが僅かに見える。

試してみたかったのだろう。

結果として自分と残りの八名以外は倒れ込んでいた。

気絶はしていないようだ。

 

「はあっ…はあっ…」

 

呼吸をして片膝付いた状態から立ち上がる。

猿柿さんも両膝ついていたが、ぐぐっと力込めて立ち上がっていた。

 

「まあ、九名も残ったことは嬉しいがな」

 

そう言ってこちらからじろりと眺めていく。

猿柿さんを含めた女性が三名。

男性が五名。

自分を除いた場合の内訳だ。

 

「一刻も早くその『浅打』を始解できるようになり、尸魂界の平和に尽力してもらいたい」

 

そう言って総隊長は本当に去っていく。

そして所属の隊舎ごとに分けられる。

自分が所属する隊舎の隊長は誰なのか?

 

「皆さん、初めまして」

 

穏やかな声が聞こえる。

その声の主の方向を見る。

隊長羽織から『竜胆』の刺繍が覗く。

 

「私が四番隊隊長を務めております、卯ノ花烈です」

 

その眼の奥に見えるのは優しさ以外のものがあった。

厳しさもある。

当然と言えば当然。

最早、学生の時は過ぎた。

平和の礎の為に粉骨砕身する気構えで挑む。

 

「四番隊は霊力を治癒能力に変えることができる死神を中心に組み立てられた隊です」

 

つまりは後方支援。

戦う事が苦手な人。

自分の鬼道の才などを考慮した結果だろう。

 

「当然、例外の方もいらっしゃいますがそれは技術としての習得の為でもあります」

 

じろりと見られた気がした。

役割というものを自覚させる。

重要な心を教える立場を買って出たのだろう。

 

「皆さんがいなければ兵站は崩れます」

 

俺達の治療がないと戦線の維持が難しくなる。

それをきっかけに隊士が死んだりも有り得る。

総崩れにさせないために自分たちの努力は不可欠だ。

 

「戦えるとしても回復の手立てを持つのは自分だけだという意識を持っていくように、お忘れなく」

 

護廷十三隊である以上、ある程度は戦える。

だが、戦える隊士は言い方は悪いが何人だっている。

しかし治せるのは四番隊の隊士だけ。

それを踏まえた動きをしていくのが重要だ。

 

「それでは本日より錬磨するように、よろしいですね?」

 

その言葉に勢いのある返事を返す。

俺自身も一員として、精進することを誓った。

 

.

.

 

「むむむ……」

 

今日も今日とて唸りながら俺は怪我を治す。

配属されてから一週間。

毎日怪我だらけの隊士が来る。

霊力を回復の力に変えるのは難しい。

席官の人の力も借りながら治していた。

 

「速く治しやがれ、唸ってるんじゃねえ」

 

十一番隊に配属された同期の真央霊術院卒業生が言ってくる。

名前は六車拳西。

戦闘集団と言われるだけあって誰か一人がかわるがわる毎日来る。

 

「はい!!」

 

俺は元気よく返事をして治していく。

治癒能力に変わってからは速いが、その制御が難しい。

つまり霊力の運用がまだまだなのだ。

 

「治ってはいるが、唸る暇があるなら速く手を動かすか集中しろ」

 

そう言って拳西さんが去っていく。

そう言われたので俺は集中力を高める。

治癒能力に変える事を考えながら深呼吸をする。

 

「苦労していますね」

 

卯ノ花隊長が声をかけてくださる。

穏やかな目ではあるが威圧感がある。

何か怒らせるような真似をしただろうか?

 

「申し訳ないです」

 

そう言うと首をかしげる隊長。

そして口を開く。

 

「何を謝る必要があるのですか?」

 

だって治すのに時間がかかっているんですよ?

努力をしてはいるけれども、難しくて席官の方の力を借りている状態ですし。

 

「一週間で重軽傷問わず頼まれている時点で察するべきですよ」

 

他の隊士に目を向けていないから、己の凄さに気づけない。

そう言われてぎくりとする。

自分が頑張ると決めているから、隊士の人の出来を知らない。

 

「確かに重傷は席官が手伝ってはいますがその調子ならば十分なれてきます」

 

ですから気にせず精進なさい。

卯ノ花隊長にそう言われる。

俺はその言葉で肩の荷が下りていた。

気を張りすぎだったんじゃないかと一瞬思えるほどに軽く感じていた。

 

.

.

 

その言葉を聞いてからさらに三週間。

一ヶ月も経った。

仕事が終わった夜にお給金をいただく。

巾着に包まれている。

 

「こんなに貰っていいのかな……」

 

死線を掻い潜っている人に比べては少ない。

しかしそれでも多く感じる。

そんな事を考えていると後ろから叩かれる。

 

「何、しけた面しとんねん、イカ!!」

 

声の主は猿柿さんだった。

呼び方が上二文字なのは言いやすいからだといっていた。

こっちがお金を持っているのを見て察する。

 

「四番隊は少ないんか?」

 

巾着を渡すと重さで気づくのか、ほうほうと頷く。

勘違いを受けてはいけないと思って、感じていたことを素直に言う。

 

「多いんじゃないかと思うんですよ」

 

だって、皆さん命を懸けてますし。

自分たちは基本的に安全圏にいる。

そう考えると、これでも多い気がする。

 

「かまへんやんけ、貰っとき」

 

お前のがんばった証や。

自分を否定するようなことはすんな。

そう言われて巾着を返される。

 

「真面目にするのもええけど自分へのご褒美ぐらいは考え」

 

それが思い浮かばない。

贅沢とかそう言うのがわからない。

そんな俺を見て呆れたのか、猿柿さんは溜息をつく。

 

「しゃあないな……御飯のええとこ紹介したるからついてきい」

 

頭をかきながら仕方ないというように言って案内をしてくれる。

提灯が揺れていて、お酒と料理が出るところらしい。

こういった場所にはいかない。

学術院時代の名残で丸薬を作り空腹を満たしていた。

 

「ひよ里やん、誰やその若い男の子」

 

席を探している間に厠から出てきたのだろう。

方言交じりの女性が声をかけてくる。

頭を下げて挨拶をする。

羽織からは『極楽鳥花』が覗く。

八番隊に所属しているのか。

 

「リサ、学校飛び級した奴や、名前ぐらいは聞いたことあるやろ?」

 

猿柿さんがリサと呼ばれていた女性にそう返すと、後ろに気配を感じる。

振り返ると、座敷に男性がもう一人いた。

すごく面白いもこもことした髪形をしている。

座っているが背丈は大きい。

 

「納得するほどの霊圧はあるな、大したもんだ」

 

その声に気づいて猿柿さんも振り返る。

座敷に居たため見えにくい。

 

「なんや、ラブもおったんか」

 

そう言うとラブと呼ばれた人が居る座敷へ移動していく。

猿柿さんが手招きをするのでそっちについて行き、四人掛けの座敷に座る。

 

「お前らの話し声が聞こえたからだよ」

 

そう言ってラブと呼ばれた人は奥の席へ移動する。

その時に見えたのは『菖蒲(しょうぶ)』の刺繍。

七番隊所属の隊士。

護廷十三隊の隊花はすべて頭の中に入っている。

ちなみに猿柿さんの羽織には『(あざみ)』の刺繍だ。

すると口を開いて横の座敷を指さす。

 

「ちなみに後の四人も来るからな」

 

ラブと呼ばれていた人が座ってから口を開く。

初めての給金で祝う席だったのか。

なんだか悪い気がするな。

 

「ハッチは?」

 

四人で計算が合わないのだろう。

猿柿さんが聞くとリサと呼ばれていた人が答える。

その人が卒業試験で四十番台をやった人だな。

 

「鬼道衆は時間が違うから後日頼むっていっとったわ」

 

鬼道衆は別動隊のような部分があるからな。

仕方ないと言えばそうなる。

そんな中、聞き覚えのある声が聞こえる。

殆ど皆勤賞の六車さんだ。

羽織に『鋸草(のこぎりそう)』の刺繍がよく映える。

 

「拳西、この子だーれ?」

 

髪の毛が波打ったような感じになっている女性。

元気というかふわふわというか何だか緩そうな人だ。

羽織の刺繍には『白罌粟(しろけし)』があしらわれている。

九番隊所属の隊士という事がわかる。

 

「白、四番隊の斑鳩で俺らの同期で飛び級した奴だ、前にも話しただろうが」

 

そう言いながら苛立っているような顔をしていた。

どかっと音がするような座り方をする。

するとまた別の声が聞こえる。

 

「拳西、美学に反する振る舞いだよ」

 

長い髪の毛で片眼が隠れているような形をしている。

ゆったりとした座り方で音もたてずに静かだった。

羽織の刺繍には『金盞花(きんせんか)』があしらわれている

この人は、三番隊所属の人か。

 

「こういう所で美学なんてねえだろ、ローズ」

 

そう言って肘をついている。

女性陣も移動していく。

ローズと呼ばれた人の方にリサと呼ばれた人が向かいに座る。

 

「あのハゲ、まだ()おへんのか」

 

いらいらしているのか猿柿さんが水を飲む。

それに倣うように俺も水を飲んで時間を潰す。

それを見てたのか猿柿さんにじっと見られていた。

 

「何、真似しとんねん」

 

飲み方を知らないし、どうしていいかわからない。

だったら同じことをしておけば間違いはないはず。

だから真似をした。

そう伝えると……

 

「お前、娯楽知っとんのか?」

 

猿柿さんが口を開けて、まるで異物を見るような目で俺を見る。

俺だって娯楽ぐらい知っている。

巻き藁を『浅打』で斬る事。

自分の斬魄刀の名前を聞く事。

逆立ちをして隊舎を一周。

そう答えるとまたもやため息をつく。

 

「そんな娯楽は存在せえへん、それはただの『鍛錬』や」

 

そんな事を言ってたら最後の人が来た。

サラサラの長髪。

にやけ面をしている。

羽織には『馬酔木(あしび)』の刺繍が施されていた。

 

「すまんすまん、遅なってしもうたわ」

 

そう言うと軽やかに座敷に座る。

こっちが詰めてラブと呼ばれていた人の向かいになる。

俺の存在に気づくと猿柿さんの方を見て聞いていた。

 

「こいつ、誰?」

 

指をさしてきょとん顔で言っている。

猿柿さんは喧嘩腰に言っていた。

 

「うちらの同期で飛び級したガキや、娯楽も何も知らんつまらん奴やさかい、この席に参加させたんや」

 

ホンマおかしい奴や。

猿柿さんにそう言われて頬をかいていた。

それを聞くとじろりと見て一言。

 

「なんか嘘がへたくそな感じがするわ」

 

平子さんがそう言うと六車さんが同調するように口を開いた。

皆勤賞だけあってよく知っているもんな。

 

「全部真剣に答えて全力投球してるような奴だぜ」

 

肩の力抜かねえとしんどいぞ。

そう言ってくるのでお辞儀で返す。

 

「とりあえずは自己紹介しよか」

 

リサと呼ばれた人が手を叩く。

すると順番をどうするかの話になる。

 

「番隊の順でいいんじゃないか、僕が初めで特別に真子が最後で」

 

そう言ってローズと呼ばれていた人が立ち上がる。

緩やかに伸びるように。

しかし背筋は芯があるように。

凛とした佇まいを保ってこちらに近寄る。

 

「僕の名前は鳳橋(おおとりばし)楼十郎(ろうじゅうろう)、気軽にローズと呼んでくれ」

 

手を差し出して握ってくる。

全ての行動が軽やかで感嘆させてくる。

独自の『美学』が成せるものなのだろうか?

 

そして自分の番になる。

番隊順であれば三番隊の次は四番隊。

普通の話である。

 

「俺の名前は斑鳩傑です、呼び方に関しては名前から呼びやすい形で呼んでください」

 

そう言ってから自己紹介が進む。

面白い髪形の人は愛川(あいかわ)羅武(らぶ)さん。

方言交じりの人は矢胴丸(やどうまる)リサさん。

波打った髪形の人は久南(くな)(ましろ)さん。

六車さんと猿柿さんは知っているから省略。

最後にサラサラの長髪の人は平子(ひらこ)真子(しんじ)さん。

平子さんは卒業時に主席という凄い方らしい。

一番出世するだろうと言われていた。

ちなみに今日来れなかった鬼道衆の方は有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)というらしい。

 

自己紹介が終わるとお品書きを猿柿さんが取る。

それに続くように久南さんが取る。

 

「初めての給金だからってなんでも頼んで足出すんじゃねえぞ」

 

久南さんの気性を知っているのか六車さんが釘をさす。

それを聞いて平子さんが笑顔で制する。

 

「まあまあ、こういう時ぐらいはええやろ」

 

それを言ったが最後。

雪崩のように久南さんが頼む。

猿柿さんもそれに続いて行こうとするが……

 

「食べれる量にしましょう」

 

こっちが釘をさす。

飲みたい人間もいる中、輪が乱れる。

ここはあの席の残ってしまう事を考えましょう。

このような場面の食事は勝負事みたいに競わなくてもいい。

そのようにやんわりという。

 

「分かったわ、食べたいもんだけちゃんと考えて頼む」

 

そう言ってお品書きを見ていく。

その姿を見て平子さんが驚く。

 

「なんや、ひよ里、こいつの前やったら偉い素直やんか」

 

笑いながら冷やかすように言う。

すると睨みながら平子さんに言い返す。

 

「年下の前で年上がみっともない真似できるかい、それに年下の言う事聞いたるのも優しさや」

 

そう言うと苦笑いで平子さんが「正論やな」と言っていた。

その発言を聞いていた六車さんが久南さんに再度言っていた。

 

「でも頼んじゃったよ?」

 

その一言でハアッとため息を皆がつく。

何故なのかと聞く。

すると愛川さんが額に手を当てたまま、口を開く。

 

「白の頼むのはマジで多いんだ、しかもこっちまで巻き込む」

 

これは酒飲んでる暇ねえな。

愛川さんがそう言っていた。

それは可哀想だから、助け船を出す。

 

「最初の乾杯の一杯だけ飲んでその後、食べる方に専念しますよ」

 

そう言うと愛川さんが小さな声で「任せる」と言ってきた。

そして最初の酒が届く。

 

「みんな、これから躍進するで、乾杯!!」

 

平子さんの言葉で乾杯をする。

そして飲むまでに食事がどっさりと届く。

 

「やっぱりつまみになりそうにもねえ米まで頼んでやがる……」

 

愛川さんが苦い顔をしながら言う。

これはきついと思って久南さんと向かい合わせになる形で席を移動する。

聞いたら頼んだ数は二桁以上。

しかもすべて一人前の多さではない。

 

「皆さん、必要と思える分だけ取ってください」

 

俺はそう言って取り分けて残ったのをむしゃむしゃと食べる。

久南さんは健啖家なのだろう。

段々と取り分けた後の食事を消していく。

 

「結構食べるんだね、たけるん」

 

久南さんはこの短い間に呼びやすい形を決めたらしい。

残すと申し訳ないでしょう。

そうしないようには食べないといけない。

だから一心不乱に食べているんです。

自分で食べられる量を分からず頼むなんて無茶苦茶ですよ。

 

そんな事を考えながら食べていたら飲んでいた人たちが酔いつぶれていく。

まずは矢胴丸さん。

次に鳳橋さん。

次が猿柿さん。

そこで止めた。

皆、千鳥足に近くなっていた。

 

「俺がリサを連れていく」

 

愛川さんが背負う。

隣の隊舎だからだ。

それなら俺が鳳橋さんを運ぼう。

そして六車さんが猿柿さんを。

 

「明日、こんな状態で仕事が成り立つのか……?」

 

鳳橋さんを背負って隊舎へと帰っていく中。

俺は酔っていない頭で冷静にそんな事を呟いていた。




拳西は血の気の多さから十一番隊に初めは所属。
それ以外は原作での隊のままです。
四番隊所属は色々なことができる万能隊士への道のりです。
少しずつ、主人公のプロフィールを書いていこうと思います。

何かご指摘などありましたらお願いします。


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『掌 - Tender Heart -』

平隊士のころから隊長なのは考えられないので、原作で隊長になっている方も現在は席官で出てきます。
勉強やりすぎて加速度的に強くなっている気がしますが気にしないでください。


給金をもらって飲んだあの日から二ヶ月ほど過ぎたある日のこと。

俺は猿柿さんに怒られていた。

理由は単純な事である。

 

「ウチはお前に娯楽を見つけろって言うたよな?」

 

腕を組んだ状態で怒りを十二分に表現している。

俺は少し冷や汗をかきながらも、正座をしている状態で頷く。

 

「やのにお前はまた回道の練習ばっかりやんけ」

 

そこそこの値が張る人型の人形を買って練習していたのを見られたのだ。

それを見ていた猿柿さんには溜息をつかれた。

そして次の瞬間には耳を掴まれてしまった。

力ずくで部屋から引きずり出されて縁側で正座をしていた。

 

「息抜きできとるんか?」

 

そう言われたので俺は頷いて話し始める。

甘味処に行ったり、店を探したりなど散歩はしているが……

そう伝えると、ふむふむと首を振る。

 

「前よりはましになっとるわ」

 

ローズに覗かせりゃええけど、一応な……

そう言って、猿柿さんは去っていこうとする。

その時に警報が鳴る。

 

「現世で虚の反応!、虚の反応!!」

 

すぐに俺は用意をする。

後方支援として猿柿さんと共に出る。

数は三。

平隊士でも十分な小型の出現。

 

「行くで!!」

 

猿柿さんが地獄蝶を手につけて走り出す。

こっちも同様に腕に付けてついて行く。

いままでの鍛錬のおかげで置いて行かれることもなく動ける。

猿柿さんと同時に出て、あたりを見回す。

 

「霊圧としてはばらついてへん」

 

確かに三体が集まって動いている。

これはできれば分断しておきたい。

それを伝えなくては、そう思って口を開く。

 

「縛道で動きを止めていくんで一体ずつ倒してください」

 

そう言うと刀に手をかけてこちらに向かって猿柿さんは一言呟く。

それは信頼を示す言葉。

 

「任せたで」

 

その一言を合図に駆けてゆく。

勉学の成果でさらなる飛躍を果たした鬼道を見せよう。

指を敵の二体へ向ける。

猿柿さんに向かわせはしない。

 

「縛道の三十『嘴突三閃(しとつさんせん)』」

 

『二重詠唱』では二種類の鬼道をするという事が出来る。

しかしそれは高等技術。

それを一時的に簡単にできる方法。

 

「それは同じ鬼道にすればいい」

 

そうすれば多少楽になる。

その目論見は上手くいき、虚の動きを止めていた。

一体だけならば猿柿さんは決して後れを取ることはない。

 

「オラァ!!」

 

猿柿さんが虚を頭から切り裂いて真っ二つにする。

さらに返す刀で動きが止まっていた虚の首を切り落とす。

最後の一体。

そんな事を考えていると霊圧を感じる。

これは虚としては別物だ。

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)やな、そこそこ強い奴やで」

 

猿柿さんがそう言うと残っていた一体の虚が踏みつぶされて吸収される。

そして目をこちらに向けると……

 

「アガアアアアアアアア!!」

 

虚が咆哮をあげる。

空気がびりびりと震えていた。

そして俺には目もくれず、一直線に猿柿さんに向かっていく。

ここは防御が重要だ。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

俺が鬼道で一撃を防ぐ盾を猿柿さんの前に出す。

其れにぶつかって僅かに虚がのけぞる。

そこに間髪を入れず、さらに二重詠唱で詠唱していた最大の縛道を発動。

 

鉄砂(てっさ)の壁 僧形(そうぎょう)の塔 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい) 湛然(たんぜん)として終に音無し 縛道の七十五『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!!」

 

五つの五角柱が空に現れる。

こちらが腕を振り下ろすと、相手の五体へ刺さる様に落ちて動きを封じる。

 

「お前には過ぎた代物だろう」

 

大虚(メノスグランデ)ぐらいに使うであろう七十番台の縛道。

振りほどけない状態だ。

大きく振りかぶって猿柿さんが跳びあがる。

 

「『西瓜(すいか)()り』!!」

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)の頭が斬られる。

途中で食い込んだままだったので顔面を蹴って抜け出していた。

まだまだ筋力が足りていないのだろう。

まさか巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が出るなんて予想外だからな。

 

巨大虚(ヒュージ・ホロウ)は初めてや……!?」

 

そう言っているとその巨大虚(ヒュージ・ホロウ)の後ろに、別の巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が降り立つ。

そしてその巨大虚(ヒュージ・ホロウ)に嚙り付いて共食いをしていく。

霊圧が上がり、平隊士で太刀打ちするのが厳しい次元になっている。

 

「かかってこんかい!!」

 

刀を構えて相手を睨んでいる猿柿さん。

相手の動きに合わせこちらも縛道を使う。

腕を振るってくる。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

再度盾を出して防ぐ。

とは言っても威力が高い。

さっきは大丈夫だったのに今の相手では砕け散ってしまうのだから。

 

「くっ!!」

 

その隙を狙って刀を振るうが、切り傷程度にしかならない。

『浅打』ではまだ突き立てるのも難しいのか。

 

「それならば……」

 

こちらは援護をする。

破道と縛道の両方を『二重詠唱』をする。

そこに刀を突き立てればいい。

頭部に刺さりさえすれば何とかなる。

 

「破道の五十八『闐嵐(てんらん)』!!」

 

竜巻によって虚が舞い上がる。

翼がないのだからあとは落下するしかない。

俺はここでもう一つの縛道を使う。

だがその前に猿柿さんに声をかける。

 

「跳躍してあいつの頭に刀を突きさす準備を!!」

 

それを聞くと理解したのかぐっと力を入れて跳躍する。

そして相手を追い越した。

 

「オンナ……クラ!?」

 

無防備で相手が舞いあがるだろうというこちらの考えは狂った。

しかしこの場合においては特に何も問題はない。

相手の身動きが取れなければそれでいいのだから。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!!」

 

太い鎖が蛇のように巻きついて体の自由を奪っていく。

頭の部分だけは露出しているが、危険な牙などは覆われている。

そこめがけて攻撃を猿柿さんは放った。

 

「終りじゃ、ボケェ!!」

 

猿柿さんが虚の頭に刀を突きさしてそのまま重力に従って落下。

頭を一撃で叩き割る様に。

しかし相手の体が想像よりも大きい。

 

「グゲ……」

 

猿柿さんの着地の勢いで虚から血飛沫が舞い散る。

体格もあってか、頭を真っ二つにはできなかった。

ただ、それでも相手に対して致命傷を与える事は出来た。

緩やかに崩れたのを見て猿柿さんが刀を収める。

だが、まるでその瞬間を狙ったかのように虚が動いた。

 

「猿柿さん、後ろ!!」

 

その言葉に猿柿さんは振りむく。

俺は前に円閘扇(えんこうせん)を出す。

しかし相手は地を這うように飛びのく猿柿さんの足を掴んでいた。

 

「ガアッ!!」

 

狸寝入りからの一撃を虚が繰り出していた。

此方が全体を覆う様な軌道を展開できなかった。

その結果、猿柿さんの足を握り潰して骨を砕いていく。

 

「ぐっ!?」

 

着地で崩れたところに猿柿さんに噛みつきに来る。

しかし相手の動きは緩慢。

こちらが猿柿さんを抱えて距離を取る。

 

「死にぞこないが……」

 

悪態をつく猿柿さんを降ろす。

相手も速い速度で迫っては来ない。

その間に俺が回道で猿柿さんを治す。

このまま放りだして止めを刺すなんて真似は良くないだろう。

隊士の治療を行い、戦闘において万全の状態を作るのも四番隊の役目だ。

 

「そのままの体勢でいいですからね」

 

猿柿さんの足に手をかざして霊力を治癒能力に変換。

この三ヶ月で良くここまで伸びたと自分でも思う。

回道も元々鬼道ができる分、急速に伸びているのが理由だろう。

こうやって戦いの中で即時的に治せるのが今は何よりも嬉しい。

 

「なんか温かいもんやな……」

 

猿柿さんが意外そうな顔をする。

元々、俺の手の温度が高いからでしょうか?

拳西さんはそんなこと言ってなかったですけど。

 

「治ったみたいやな、やるやんけ」

 

こっちが手を退けると猿柿さんは立ち上がる。

そしてゆっくりと足を振って具合を確かめる。

うんうんと頷いて刀をもう一度取り出す。

 

「止め刺しに行くで」

 

まだきっとあの虚は這ってくるだろう。

しかしもうすでに死に体なのだ。

こっちも即座に詰め寄って首を落とせばいい。

そう考えて向かっていると、前方から声が聞こえた。

 

「お前らこないなボロボロの奴ほっといて何やってたんや?」

 

平子さんがボロボロになっていた虚の頭部を破壊していた。

いや、後方支援の身としては現世から帰る前に回復をさせておかないと。

四番隊がいて重症のまま帰らせたらそれこそ名折れだろう。

卯ノ花隊長に烈火の如く怒られてしまう。

そんな事を考えていると猿柿さんが怒りを露わに平子さんへ詰め寄る。

 

「おいしいところ取るなや、アホ!!」

 

そう言って怒っている猿柿さん。

無理もないだろう。

怪我もしたし決して楽な相手ではなかった。

それなのに最後だけ平子さんに取られる。

救援にしては遅いし、ちょっと良い気はしない。

 

「とりあえず帰りましょう、ねぎらいで何かおごらせてもらいますよ」

 

猿柿さんを宥めるようにしてそのまま地獄蝶を二人ともつける。

ゆっくりと尸魂界へと帰っていく。

報告としては小型の虚を二体討伐。

二体の大型虚に多大な損傷を与えた。

この形になるだろう。

 

「ほんま、あのボケ……イライラするわ!!」

 

手柄を横取りされて猿柿さんが怒っている。

団子を頬張りながら地団太を踏んでいた。

 

「荒れてるねぇ、ひよ里ちゃん」

 

そう言って現れたのは綺麗な大人の女性だった。

霊圧は平隊士とは格が違う。

おそらく高位の席官だろう。

 

「曳舟はん、お疲れ様です!!」

 

猿柿さんは口に付いたあんこも拭かずに頭を下げる。

そして立ったままの俺を小突いて小声で言う。

 

「うちの上司の曳舟第七席や、頭下げぇ!!」

 

そう言われて俺は急いで頭を下げる。

すると曳舟七席はけたけた笑っていた。

 

「随分、ひよ里ちゃんに頭が上がらないみたいだねえ」

 

そりゃあ、真央霊術院での先輩ですし。

なんだかんだで俺によく声をかけてくださいますから。

 

「ひよ里ちゃん、今後こんな程度の相手には飽きるほど出会うから掠め取られても大丈夫さ」

 

だから気にしないで、次に向かって奮起するんだよ。

曳舟七席はそう言って、猿柿さんの頭を撫でて去っていった。

 

「随分と姉御肌の人みたいですね」

 

内心では『猿柿さんみたいだなぁ』と思いながら言う。

すると猿柿さんが胸を張って誇らしげにしていた。

 

「せやろ、自慢の上司や」

 

うちはあの人の力になるのが夢やと言っていた。

それも清々しい笑顔で。

そんな笑顔を見ると自分もなぜか嬉しくなる。

意味はよく分かっていないけど。

 

「今度一緒に出る時は、また今日みたいに援護とか頼んだで」

 

そう言って猿柿さんは、十二番隊の隊舎へと戻っていく。

俺は団子を土産にして四番隊の隊舎へと戻った。




今回で曳舟さんを出しました。
現在は鉄斎や浦原さん、夜一さんも出せないので時間を飛び飛びやっていく予定です。
次回ぐらいに始解に目覚めさせようと思います。

指摘などありましたらお願いします。


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『会話 - Speak -』

主人公強化タイム。
出世頭にしてはいますが四番隊の隊長にはなれないです。



あの初めての連携任務から三年ほどの時間が経った。

皆よりも速くに席官となったので、さらに精進するように。

そう心に誓って絶え間なく練磨する日々。

席官とは言っても二十席。

まだまだ駆け出しの末席である。

 

「……お前の名前を聞かせてくれ」

 

今日も今日とて斬魄刀の会話を試みる。

練磨してきた甲斐があって、少しずつだが声が聞こえてきた。

だからこそ始解を速くに身につけたい。

俺は皆より席官になったのが速い。

ならば俺はそれに見合う努力が必要だ。

 

「……毎日飽きないものだ」

 

刀から声が聞こえる。

努力自体は決して悪い事ではない。

だが毎日話しかけて貰おうとするのをよくここまで欠かさずするものだ。

半ば呆れたような声を出してくる。

 

「人の世には『石の上にも三年』とある」

 

その努力に教えないと思っていた刀も諦めがついたのか。

はたまたすでに認めてくれていたのか。

我が名を教えようと言ってきた。

ただ決して落胆はするな。

この名に違わぬものなのだから。

 

「良いか、聞き漏らすでないぞ……」

 

そう忠告を受けてから斬魄刀の名前を聞く。

意気揚々と始解をすると今までと違う刀が目の前にはあった。

 

「あいつは落胆するなって言ったけれど……」

 

全然その忠告の意味がわからない。

へんてこな物でもなく、小太刀の形状をしている。

とは言っても大きいものではない。

他と比較しても小さいと断言できるほどの小ぶりな形だ。

確かに『浅打』に比べると小さくはなった。

しかし霊圧は上がっている。

ならば何故『落胆するな』と刀自身は言ったのか?

 

「分からないなぁ」

 

直接攻撃をするにしても大きくはないからか?

しかしそれならば戦いを優勢にするような特殊な力でもあるはずだ。

その能力の条件が厳しいのか。

はたまた些細なもので大して力になりそうにない能力なのだろうか。

いずれにせよこの刀に対しては依然として謎が深まるばかりである。

 

「『警報、警報』」

 

虚の出現。

今回は小型の虚が十近くの数。

誰が今回の仲間だ?

 

「よっ」

 

同伴するのは拳西さんだ。

どうやら席官入りを次の討伐如何で考慮すると言われたらしい。

ここは拳西さんが結果を作って席官入りできるように全力で協力しないと。

斬魄刀についてはまたあとで考えればいいや。

 

「頼んだぜ」

 

肩を叩かれて二人とも揃って腕に地獄蝶をつける。

現世での戦いでの被害は言うほど起こってはいない。

相手が小型で時折大型が来るぐらいだからだ。

 

「真子の奴に取られることはねえな」

 

あの時以来、手柄を横取りされるのを警戒している。

結局、平子さんの手柄になってしまったからな。

あの後に曳舟第七席が弁解したけれども変わらなかった。

その時、謝ってくれたがあの人が謝らないといけない事は一つもなかった。

俺と猿柿さんは二人して申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

「まあ、あれはちょっとおかしいですから」

 

霊圧感知したら、俺達がどこに居るのかは分かるだろう。

それにあんな状態の虚だから、とどめを刺してないなんて何かしらあったと察するはず。

それをまさかろくに感知もせずに、平然と横取りするか?

そんな不思議な気持ちと苛立ちであの時は一杯だった。

 

「そうだよな……おっ、見つけたぜ」

 

群れを成している虚。

それでは心置きなくやりますか。

 

「オラッ!!」

 

拳西さんが手始めに小型の虚の首を切り落とす。

やはり体の大きな死神なだけあって猿柿さんのように切り込めないといった事がない。

中型の虚もいたが唐竹割りで仕留める。

 

「そっちに行ったぞ!!」

 

拳西さんが言ってくる。

分かりましたよ。

さて……仕留めさせて貰おうか。

 

「破道の三十二『黄火閃(おうかせん)』!!」

 

一体を仕留めた返しの刀で斬魄刀の名を呼ぶ。

試し斬りと行こうじゃないか。

 

「『刻め』」

 

解号を呟く。

霊圧の上昇を感じ取った拳西さんが振り向く。

本当は猿柿さんに一番に見せようと思っていたんですけどね。

さて……行こうぜ。

 

「『年輪』!!」

 

小太刀の状態になった一撃でも向かってきていた虚を真っ二つにできる。

拳西さんを回復しながら、取りこぼしを鬼道と斬魄刀の一撃で退治する。

瞬く間に虚の討伐は完了した。

 

「まさか始解を習得したとはな」

 

拳西さんから聞こえたのは驚きの声だった。

酒を飲む時間を会話に当てたりしてました。

趣味としては最近絵を描くようにしています。

人に見せられるだけのものになっているかはわかりませんが。

 

「なんか差をつけられている気がするな」

 

そう言って、拳西さんは『浅打』を握り締めていた。

地獄蝶をつけて現世から尸魂界へと戻っていく。

今回も成果としては最善の形となった。

 

.

.

 

その討伐から数日後。

俺は隊長に呼び出されていた。

 

「六車拳西隊士を本日付けより第二十席として任命する」

 

ついに俺も席官か。

あいつの次に真子。

その次ぐらいってところか。

聞くとまだ真子も始解を身につけてはいない。

ひよ里に聞くと暇さえあれば、あいつは刀に話しかけていたらしい。

 

「呆れるぐらい努力するな……」

 

そりゃあ、こっちと力の差もつくわ。

こっちも先輩としてあいつに負けないように努力しないとな。

そう考えているとあいつを見かける。

書類を持って十三番隊の方へと向かっていた。

仕事もこなしているみたいだな。

 

「四番隊は雑用任されてるって聞くけど凄いな」

 

あいつは瞬歩を使いまくってすぐに届ける。

掃除もきちんとこなして評判はいい。

まあ、それはどうでもいい事。

 

「すぐに追いついてやるからな」

 

そう言って俺は十一番隊の訓練場に入っていった。

血の気の多い先輩との鍛錬に熱を上げるために。

 

.

.

 

「どういった御用でしょうか?」

 

席官になってから始解が出来て数日。

俺は卯ノ花隊長に呼ばれていた。

すると声が聞こえる。

 

「入ってきなさい」

 

いつもの優しい声ではない。

有無を言わさぬような冷たさ。

怒りではない。

 

「失礼します」

 

体感温度が下がるほどの威圧感。

しっかりとこちらの眼を見据える。

そして卯ノ花隊長が口を開く。

 

「強くなりたいですか?」

 

当然の問いだ。

俺は頷く。

すると卯ノ花隊長が刀を抜く。

 

「私があなたにイロハを教えてあげましょう」

 

突きつけられた切っ先から漏れる威圧感。

これ、医療専門の四番隊の隊長が出す次元ではないと思うのだが……

夜に郊外の森へ来るようにと言われた。

 

「ここでいいのだろうか」

 

俺がそう言うと同時に後ろから殺気が押し寄せる。

刀を抜いて切っ先を受け流す。

そして体勢を整えて相手を見る。

 

「まずはこの程度の突きは避けますか」

 

卯ノ花隊長は髪の毛を降ろした状態でこちらを見ていた。

いつもとまるで雰囲気が違う。

そんな事を考えていると鋭い斬撃が飛んできた。

 

「くっ!!」

 

この一撃を真正面から受け止めてはいけない。

その判断からまたもや逸らす。

剣速について行くのも精一杯だ。

 

「始解をする暇も与えない」

 

始解をやってから来なかったのは、完全にこちらの失態だ。

卯ノ花隊長もそれは分かっている。

戦いで相手がこちらをおとなしく待つ道理はない。

そう呟いて斬撃を繰り出してくる。

 

「かあっ!!」

 

横っ面を叩くようにして斬撃をかわしていく。

集中力を全開にしてまたもや難を逃れる。

そのまま前転をして居合の形をとる。

 

「『刻め』、年輪!!」

 

小太刀の居合。

その速度には卯ノ花隊長でも間に合わない。

そう思っていたが……

 

「甘い」

 

俺は肩口から斬られていた。

目で追えぬ速度で既に深々と。

血が噴き出して袖まで濡らしていく。

 

「始解をした後の居合の速度も霊圧さえ感じれば脅威にはならない」

 

ゆらりとこちらの動きを見て対応していく。

長い刀でありながらこちらの小太刀と同じような動き。

こちらが刀の振る音を聞くがそれよりも速く。

考えて打ち込みに行くがそれよりも鋭い。

 

「くっ……」

 

卯ノ花隊長に斬られているのに俺の傷が治っていく。

回道を戦いの最中にやってのける。

これが卯ノ花隊長の力。

 

「考えるな!!」

 

刀の一撃を受け止めて跳躍。

振り下ろすが避けられて掌底を喰らう。

読まれているのか?

 

「霊圧を読むのです!!」

 

刀に宿る霊圧。

それは時に雄弁に場所を語る。

そう、卯ノ花隊長は伝えたいのだろう。

 

「感じ取り、本能のままに敵に向かう、そう言った野生のようなものがない」

 

卯ノ花隊長の斬撃が、こちらの刀を弾き飛ばす。

切っ先を向けたまま、語ってくる。

俺がまだ理性で戦っている、頭でっかちとでも?

 

「貴方は弱い」

 

そんな事ではいずれ、虚の戦いで死にますよ。

そう言って突きを繰り出す。

死にたくはない。

 

「ガアッ!!」

 

今まで出したこともない声で。

必死に這いつくばるようにその突きを避ける。

飛びついて『年輪』を確保して、攻撃を繰り出す。

 

「良いですよ、その我武者羅さ」

 

そう言って卯ノ花隊長はこちらの攻撃を受け止める。

だがそれがどうした。

受け止められた後に相手の刀を跳ね上げる。

 

「かあっ!!」

 

狙う場所などはない。

ただ切り裂くのみ。

その刀は卯ノ花隊長の羽織をかすめただけ。

だとしても……

 

「シャッ!!」

 

もう一度、俺は突きを繰り出す。

届かないわけがない。

だが相手の気配が目の前から消える。

 

「下だ!!」

 

跳躍をすると凄まじい速度で懐に入り込み、胴を切り裂こうとしている卯ノ花隊長が見える。

足を切り裂かれたものの、またもや治る。

 

「フッ!!」

 

俺は着地をして、その勢いのまま刀を振る。

それを振り向きざまに卯ノ花隊長に防がれる。

こちらも霊圧を読んで反撃を回避。

ほんの僅かだが徐々に動きが良くなっていく。

反応して考えていた動きが反射で応じるようになっていく。

自分の中で何かが変わっている。

 

「むっ……」

 

そんな事を思った矢先、いきなり暗くなった。

月光が隠れてしまう。

これ以上は朝焼けが出るだろう。

 

「今日はこれにてお終い」

 

卯ノ花隊長もここで止め時と思ったのか

そう言って刀を収める。

そう言われた瞬間、倒れ込みそうになる。

虚の相手なんてこれに比べればお遊び同然。

しかも隊長は幼子をあやすかのように動いていた。

つまりは全く本気ではない。

それなのに汗だくになってしまう。

死を予感させられる。

隊長格は全員これほどの実力を持っているのだろうか?

 

「あなたがその羽織を脱ぐその日までこの鍛錬は続くのですよ」

 

そう言って卯ノ花隊長は軽やかな足取りでこちらより先に出ていく。

いずれは別の隊に異動すること。

もしくは隊長職につくであろう。

その時までこの鍛錬は続く。

その先にどれだけの強い己が居るのか。

 

「夢に近づけるのならば如何なることも惜しまない……」

 

俺は立ち上がって隊舎に向かう。

願わくば目につく全ての人を護れるほどに。

そしてそれが始まりとなりますように。

自分の強さへの欲が尽きないまま過ごしたい。

刀を鞘に納めて足取りを徐々に軽くしていったのだった。

 




主人公が後に四番隊から別の場所へ移動するのは確定事項です。
地味に拳西の絡みが多いのは、たぶん兄貴肌で動かしやすいからですね。
ひよ里ももっと出せればと思います。

指摘などありましたらお願いします。


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『貴族 - Noble -』

死亡キャラを一人救済。
助けられない相手もいますがそれは原作につながる為のやむなしでも有ります。


卯ノ花隊長との鍛錬。

もとい蹂躙という名の斬り合いを始めて速くも二十年が経った。

四年に一度の周期で、席次が一つずつ上がっていった。

理由としては、仕事が元より出来ていたからというのも有った。

それ以外にあげるのであれば、回道の腕もここ二十年で飛躍的に上がった事。

治してもらえない時は自分で自分を治していたため、それが原因だ。

それは四番隊の者として一番利となる事。

 

「追い抜いて行かれたけどな……」

 

他の仲間たちが僅か二十年とはいえめきめきと頭角を現していった。

とはいっても先が遠いというのもあって苦戦しているようだが。

ちなみに平子さんが十二席。

拳西さんが十三席。

愛川さんと鳳橋さんが十四席。

女性陣では矢胴丸と久南さんが十三席。

猿柿さんが自分と同じ十五席だ。

 

「卯ノ花隊長が急に仕事押し付けへん為にしてくれてると思い」

 

俺たちは昼下がりの十二番隊の隊舎の縁側で話していた。

わざわざ雑用で来た自分を猿柿さんが労ってくれたのだ。

ここは俺は男として『元気です』と強がっても良かった。

しかし猿柿さんの優しさに甘えたくなった。

 

「最近なんか眠いわ……」

 

そう言うと欠伸をする猿柿さん。

うつらうつらと舟をこいでいる。

普通ならこんな状態を見ると『起きていろ』と言う。

しかし何故か優しくしてしまう。

それはきっとこの人だからなのかもしれない。

もしここに居るのが矢胴丸さんや久南さんなら、有無を言わさずに起こしていただろう。

 

「……」

 

徐々に猿柿さんの身体が傾き始める。

気づいて反対方向へは動かない。

やがて角度と重力に押し負けていく。

そして俺の膝元に頭を乗せていた。

 

「よく頑張っていますからね……」

 

俺はその体勢のまま、起きるその時まで待ち続ける。

ゆっくりと休んでほしい。

しかし大きな懸念がある。

それは隣が十一番隊の隊舎であること。

 

「起きるような音は鳴るなよ」

 

いつものように騒がしくするな。

むしろ今日は普段以上におとなしくしておけ。

この安らかな寝顔を壊すなよ。

壊したら出向いて、一人一人ぶん殴ってやる。

そう思いながら耳に手を当てる。

せめての気休めと思い耳栓代わりにさせる。

 

「あらあら、寝ちゃったのかい、昼時だってのに」

 

曳舟五席が来たので俺は手ぶりで静かにするように示す。

察してそっと歩いて席に着いた。

そしてこっちを見ていた。

 

「しかし、あんたも雑用とはいえひよ里ちゃんによく会いに来るねえ」

 

それに長居もしたりさ。

少し口角を上げて言ってくる。

何か言いたそうだが……

 

「あんたみたいな若い子にはまだよくわからないだろうからいいけどね」

 

そう言って曳舟五席は去っていく。

猿柿さんは寝息をすぅすぅと立て始めた。

ゆっくり休んでください。

そう思って僅かたりとも動かない。

後で卯ノ花隊長には叱られるだろう。

夜の斬り合い、もとい鍛錬がさらに厳しくなる。

 

「まあ、いいか」

 

理由さえ言えば理解はしてくれる。

聞く耳持たない、分からず屋というわけではないのだから。

 

「んっ……」

 

ぴくりと動く。

その時に僅かに髪が指に当たる。

その思わぬ接触に、耳栓代わりにしていた手で、髪を梳いたり頬に触れてみたいという思いをとどめる。

時折、このような気持ちが鎌首をもたげる。

これが何かはよくわからない。

 

「うぅん……」

 

猿柿さんが寝返りを打つ。

気持ちよさそうに寝ている。

それを見ると気持ちが静まる。

この幸せな顔を壊してはいけないと。

 

.

.

 

「よぉ、寝たわ」

 

そう言ってウチは目を開ける。

頭が縁側の硬い場所に無いのがわかる。

まるで柔らかい枕のようだ。

 

「んっ」

 

首を動かしてよく方向を見る。

枕にしてはやけに高さがある。

普段使っている枕ではない。

服が見えるという事は、誰かが膝で枕をしてくれているのだろう。

 

「おはようございます」

 

そう言ってきたのはイカやった。

こいつ、ウチに膝枕をずっとしとったんか。

話も聞かずに寝て、こんな事させてなんか申し訳ないな。

そんな事を考えていると、ふと気づいてしまう。

 

「……あれ?」

 

つまり昼からずっとウチの寝顔を見とったんか!?

こいつ……思ったよりもやらしいやつや。

そう思っていたが、顔を見るとそんなやましい感情がない事は分かる。

純粋な善意でずっと膝枕をしていたのだろう。

それならば、これぐらいは許したるか。

なんたって大人やからな。

 

「わざわざ悪いな、仕事あんのに」

 

起き上がって頭を下げる。

それを見てイカが立ち上がる。

そしてぽつりと一言。

 

「俺の膝ぐらいいつでも貸しますよ」

 

そう言って十二番隊の隊舎から出ていった。

頬をかいて苦笑いで見送る。

そう何回も世話になってたまるかい。

これがアホの真子やったら笑いの種にしよって延々といじるからな。

ホンマにあいつで良かったわ。

 

.

.

 

結局、この日は元々仕事が少なかったためにお咎めは無かった。

しかし、理由を告げようにも猿柿さんに迷惑がかかるので気をつけないといけない。

そう思って、気を引き締めた。

 

その次の日。

今日も雑用を押し付けられる。

押し付ける奴全員にちょっと痛い目を見せたい。

ちょっと席次が上、もしくはお荷物部隊だと思い込んで馬鹿にしやがって。

 

「今日は九番隊か」

 

そんな事を言っているといきなり霊圧の乱れを感じる。

あまりにも急な減衰。

これはかなり重症、もしくは死の間際の時に現れる。

 

俺は急いで九番隊の隊舎へと向かう。

四番隊からは遠いので一刻を争う。

息を切らしながら、九番隊の隊舎の扉を開ける事もなく飛び越える。

後で怒られるだろうが急な患者だ。

四の五の言ってられはしない。

 

「これはえげつないな……」

 

血を噴き出している高位の席官。

斬った相手の袖に光るものがある。

特殊な隊士だとすれば推測するに、『隊長格』と呼ばれる人だろう。

 

「なんて真似をするの!!」

 

それに対して抗議をする女性。

視線を上に上げると男性の顔が明らかになった。

その顔を見たら即座に分かった。

なぜならば、男性の方は有名人だからだ。

 

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!!」

 

抗議している女性に斬りかかろうとしていた所を止める。

自分の非を認めずに斬りかかるとは大したものだ。

性根に問題がある。

 

「くっ!?」

 

刀を弾かれたのに驚いている。

『二重詠唱』で別の鬼道を発動。

 

「縛道の三十『嘴突三閃(しとつさんせん)』」

 

それで相手の動きを止める。

しかしまだまだやる事はある。

 

「縛道の七十三『倒山晶(とうざんしょう)』」

 

四角すいを逆さにした形で、周囲から中が見えない霊圧の結界を出現させる。

その中で血を流している方の治療に取り掛かる。

 

「かなり深々と斬られていたようですね」

 

重症なのは想定していたが危うい。

このままでは確実に出血多量で死に至る。

俺はできるだけの速度で速く傷を塞ぐ。

その過程で治療相手の血を作り出す機能を向上。

本格的な治療の前に失われた血液の不足分を埋めていく。

 

「出血は止まっていますが、予断を許さない状態の為、四番隊へその方を」

 

僅かな時間で救急の処置は完了。

相手も縛道を破ったようだ。

ここから出る時にもう一度かましてやろう。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!!」

 

出てくるのを待っていた相手に蛇のように絡みついていく。

その時に見せた顔。

まさに邪悪そのものの顔だった。

 

「貴様如きが邪魔をするか!!」

 

相手が刀を勢いよく振り下ろす。

俺はそれを避けて抜刀。

鋭く喉元に突きつける、無論殺気を込めて。

そこまでに要した時間はごく僅かなものだ。

 

「救命が我ら四番隊の役目ですので」

 

邪魔する輩を切り裂いたうえで連れていく。

何故ならば治せるから。

逆らうにもそうなれば命が我らの胸三寸、匙加減。

それを理解しない愚か者の多い事。

お荷物などではないのだ。

 

「この……『綱彌代(つなやしろ)時灘(ときなだ)』に立ちはだかるか!!」

 

お前をこのままにしていいわけがない。

悪辣さがにじみ出た眼差し。

きっとあのまま斬っていたら自分を悲劇の存在として周囲に見せただろう。

貴族に相応しくない振る舞いだな。

 

「無論、それが平定をもたらすのであれば」

 

同じ護廷十三隊で一人が同僚と自分を咎めた女性を殺害。

そのような事になれば混乱しか起こらない。

本性を隠されると厄介極まりない。

 

「京楽や浮竹ほど強くもないものが私に勝てるわけもない!!」

 

呼び捨てにするという事はすなわちそれ相応のもの。

同期卒業生なのだろう。

あのお二人が突出しているだけ。

我々もおかしな速度で昇進を続けているが、本来はこの地位が正しい。

 

「お前の命もここで散れ!!」

 

相手が横薙ぎに刀を振る。

それをこっちが刀を滑らせて受け流し、早々と懐へ入り込む。

無理に相手の攻撃を受け止める必要はない。

 

「なっ!?」

 

驚愕に染まる相手の顔に何も感じはしない。

できる事ならばあの人以上の殺気を。

できる事ならばあの人以上の速度を。

できる事ならばあの人以上の鋭さを。

 

「持ってきてから考えろ」

 

そう言って俺は刀を振り下ろす。

お前には全く足りていない。

貴族としての振る舞い。

死神としての強さも。

 

「始解もなしに……舐めるなよ!!」

 

相手が刀を受け止めて距離を取る。

そして鞘から斬魄刀を抜くと頭上に掲げる。

 

「『中心に廻れ、独尊己天(どくそんこてん)』!!」

 

相手が始解を発動させる。

毒々しい紫の刀身。

さらに渦を巻いた細い刃。

一体どのような能力を持っているのか?。

 

「かっ!!」

 

相手が振り下ろした刀が石畳を抉る。

元から当てる気がなかったかのようだ。

 

「その程度の距離でいいのか?」

 

相手が笑みを浮かべている。

ここからが面白い事が起きるのだというように。

邪悪さを惜しみなく出した凶悪な笑みだ。

 

「なっ!?」

 

石畳が棘のようになって迫りくる。

まさかこれが能力か!?

 

「斬りつけた対象は私にとって都合のいい事象を起こしてくれる」

 

その能力に寒気を感じる。

事象の歪曲を限定的に引き起こす。

神に等しい力を有した最高峰の斬魄刀。

こんな悪党が持っていてはいけないほどの強力な代物だ。。

 

「破道の七十三『双蓮蒼火墜』!!」

 

石畳を粉砕してそのまま接近。

斬りかかってくる。

俺の斬魄刀を無効化するつもりなのだろう。

 

「甘い」

 

持ち手を瞬時に変える。

そして隠していた無銘の刀を持って受け止める。

片手で刀を振り、その片方で何もしないと思うなど……

 

「戦いを真に楽しめてはないな」

 

防がれたせいでその半身ががら空きとなっている相手。

片手で何かをしてももう遅い。

相手は初めからこちらに対して用心していなかった。

俺がそんな輩に負けるような鍛錬を積んでいる訳がない。

 

「はっ!!」

 

肩口から大きく切り裂く。

そして相手を蹴り飛ばす。

さらには相手の斬魄刀を破道で吹き飛ばしておく。

抵抗するならもう少し重症にしてから連れていく。

あとは使い捨ての武器で斬魄刀を砕いておくか。

 

「どういった騒ぎなの、これぇ?」

 

ここは九番隊隊舎。

そこで騒いでいる。

挙句の果てに霊圧の乱れや上昇がこの短時間で確認。

そんな緊急となればこの人が出る。

隣の隊である八番隊。

その最高責任者、すなわち八番隊隊長。

 

「京楽隊長……」

 

普段の飄々とした感じがない。

ぞっとする。

卒業試験でやる気になったあの時と同じような雰囲気。

 

「京楽……こいつが私の同僚と妻を襲ったんだ!!」

 

立ち上がった相手が嘘を告げる。

自分がやっておきながら……大した精神だな、

そう言うと京楽隊長がこちらと相手をじろりと見る。

傍から見たらその言葉が通ってしまう。

片や涼しい顔で刀を振るい、片や切り裂かれた状態で荒く息をつく。

それをじろりと見ると京楽隊長は綱彌代副隊長の肩に手を置く。

 

「言わなくてもいい、分かっているさ」

 

これは……

俺は刀を握る力を強める。

俺は京楽隊長の事は信頼はしている。

しかし、同期として情に流され向けられた時はやむなし。

呼吸をして、いつでも対応ができるように動向を見る。

 

「君が嘘をついているってことぐらいね」

 

氷のように冷たい目が相手を射る。

苦い顔になってしまった相手。

そんな顔をすればすべて暴露しているようなもの。

 

「君の本性は見抜いていた」

 

『生まれついての悪』であること。

今はただ力を蓄えていたという事。

いずれは大惨事を引き起こすことも予測済みだったと。

 

「同期のよしみで変わってくれると思って待っていたが……」

 

ここまでの事になればもう無理だ。

そう言って二番隊の方を呼ぶ。

俺は治さない。

治してしまったが最後、斬ってでも逃げるという判断をするから。

 

「あまり良いものじゃあないね、同期を『蛆虫の巣』に入れるなんてのは」

 

綱彌代時難が連れていかれる姿を見て、京楽隊長が溜息をつく。

しかしこうしておかないと洒落にならない。

副隊長の乱心なんて護廷十三隊に泥を塗る。

 

「悲劇が起こる前で良かったよ」

 

そう言ってこっちを見てくる。

そして口角をあげる。

少しばかり悪戯を仕掛けてみようというように。

 

「それ!!」

 

居合の要領で二つの斬撃が煌く。

それを横に動いて、隙を作らないように回避する。

気配を感じた瞬間、掌を背後に向けて呟く。

 

「破道の三十三『蒼火墜』」

 

その一撃を京楽隊長はさらに瞬歩で回避。

その一瞬でこちらも始解を済ませて、京楽隊長のいる方向を見据える。

 

「本当にあの日から強くなっちゃって……」

 

だが既に京楽隊長は刀を鞘に納めていた。

まぐれで勝ってしまったのかとでも思ったのかな?

まあ、相手が油断していたというのももちろんあるんですけれどね。

 

「彼だって副隊長として申し分はないんだけどねぇ」

 

君は本当に恐ろしい。

そう呟いて少し嬉しそうに、八番隊の隊舎へ帰っていった。




卯ノ花隊長との斬り合いで化け物の領域へ徐々に足を踏み入れていきます。
副隊長って強いはずですが初代剣八に比べると月とスッポンほど違いますよね。

今回のオリジナル斬魄刀
名前:『独尊己天』
解号:『中心に廻れ』
能力:斬りつけた対象が所持者にとって有益な結果を残すように動く
限定的ではあるが事象を操作できる極めて稀有な斬魄刀
凶悪な能力ですが、使い捨ての武器とかで防いで腕を切り落としてしまうなど対処法はまだあります。

指摘などありましたらお願いします。


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『固辞 - Decline -』

前回、副隊長を倒してから時間が経っています。
なんだかんだでもうすでに三十年ぐらいは過ぎている。
ちなみに作者的には原作から200年以上前を想定しています。
虚化事件から差し引いても長い年数を隊長職についてたと思うので。


あの九番隊の事件から早くも四年ほど過ぎた。

席次が一つ上がるかと思ったのだが、その事件で京楽隊長と九番隊の隊長が卯ノ花隊長に進言したらしい。

『あれだけの戦闘力を医療部隊で発揮させないのは勿体ない』と。

 

「どうされますか?」

 

そのように聞かれても答えは一つだ。

まだ俺はここで恩を返せてはいない。

この人に認められなければ意味がないのだ。

 

「若輩には過ぎたこと、まだ精進の余地がありますので四番隊に籍を置かせていただきたい」

 

そう言うと微笑んでいた。

試していたのだろうか?

俺は立ち上がり隊首室を出ようとする。

 

「目の前にぶら下がる栄誉に簡単に飛びつかない謙虚さ、好感が持てますよ」

 

いずれはさらに素晴らしい栄誉があなたを待つでしょう。

そう言われると、俺は頷いて自分からも伝えに行くと言って出ていった。

 

「そうか、残念だ」

 

九番隊の隊長と話をする。

こちらの固辞を受けて、後日席官の異動が発表された。

今まで空位にしていたのも、きっとなまじばかり元副隊長の能力が高かったのだろう。

あの時に元副隊長が投獄されたので、重症を負わされた第三席が順次昇格。

奥さんだった第七席も第五席に。

元々、昇進の時期と重なったらしい。

 

「そうか、君らしいねぇ」

 

京楽隊長にもその旨を伝える。

笑ってはいたが勿体ないといった顔だ。

確かに九番隊の隊長に後につけるだろう。

最年少の副隊長という名誉もある。

だが、恩を返す前に行くのはいかがなものか?

あの人に後ろ脚で砂をかける事はしたくない。

 

「ほんまにアホやなぁ」

 

仕事終わりに、矢胴丸さんに誘われたので一緒に食事をとる。

他の奴にも聞いてもらって笑ってもらえばいい。

そう言って愛川さんと鳳橋さん、久南さん、猿柿さんも一緒に食べている。

 

「というより、あの京楽隊長と卒業試験でやりあったなんて初めて聞いたぜ」

 

皆が頷く。

卒業試験の内容は猿柿さんだけしか知らない。

それも鬼道の部分だけだ。

 

「あの人、強すぎて木刀圧し折るのが精一杯でしたよ」

 

もしあの試験が総合だったならもうすでに向かい合った時点で決まっていただろう。

しかし、圧し折ったというのが恐ろしい事実なようで……

 

「タケルの力はきっとこの同期の中でも優れているね、実質副隊長を斬っているし」

 

それはそうだが……

あの斬魄刀の凶悪さは異常だ。

だがそれを差し引いても、俺を鍛えてくれるあの人に比べれば弱い。

きっとあの人に勝てるのは総隊長ぐらいだろう。

 

「四番隊を馬鹿にしている人も居るけどね」

 

久南さんが言う事に鳳橋さんと猿柿さんが頷く。

それは仕方のない事。

重要性に気づかないのであれば、血みどろになって戦いの中で死ぬのみ。

 

「卯ノ花隊長には偉そうに言われへんくせになぁ」

 

あの人に偉そうにするとか死にたがりですね。

穏やかなだけの人じゃあないんだから。

怪物じみた強さを持っている。

逆鱗に触れたら何人の死傷者が出るやら。

 

「まあ、隊長格だからそれは流石に……」

 

礼儀知らずか命知らずでしょう。

そう思ってあとは黙っておく。

 

「まあ、話逸れたけど皆はこいつの決断についてどう思うかって話や」

 

すると愛川さんは揚げ物をつまみながら話しだす。

自分にその話が舞い込んだらの仮定で考えたのだろう。

そして出した結論は…

 

「俺も勿体ないとは思うな」

 

折角の大きな誘い。

今の隊に愛着はあるが、やはり成り上がってなんぼじゃないのか?

だからちょっと今回のお前の決断には賛成できない。

そう言ってまたもやつまんでいく。

 

「うんうん、いずれは隊長になって別の隊の人を副隊長にしたら仲のいい隊にできるよ」

 

久南さんも頷きながら、隊長職につく未来もあるから引き受けても損はない。

だから即答でも良かったんじゃないの?

そう言って欠伸をする。

同意者が二名。

これはかなり自分が馬鹿な決断をしていると思い知らされる。

だが俺は間違ってはいない。

 

「僕は断わっても良いと思うな、だってタケルはそれ目当てって感じでもないから気まずくなっちゃうし」

 

義理堅い人が聞いたら嫌うだろう。

それに今回のケースに限らない事だが、いきなりよそ者が入ってくるのは抵抗がある。

そしてその理由が実力であっても見ていないものに納得はできない。

いくら言っても眉唾物に聞こえるし。

 

「ウチもそうやな、自分で努力してその席勝ち取りたいわ」

 

それを言われるとそれもそうだとみんなが言う。

見方ってそれぞれあるもんだなと笑いながら、今回の事は結論付けた。

次はワイワイと皆が自分の夢を語ろうかという雰囲気になる。

すると聞きなれた声が聞こえた。

 

「まあ、先に隊長になるのはワイや」

 

呼ばれていないが平子さんが来た。

その言葉を聞いて鳳橋さんと愛川さんが口角をあげる。

そんな簡単に行くわけないというように不敵な形で。

 

「いや、俺がなるな」

 

始解も覚えているし、虚の撃墜数もかなり多い。

そう言って愛川さんが張り合う。

すると鳳橋さんも負けじと言い張る。

 

「僕ももう『具象化』が見えているからね、卍解で一気に差をつけられるよ」

 

凄い事なんだが張り合っているとみっともない。

研磨しあえる間柄だからいいが、女性陣ほったらかしで言いあうのは感心しない。

 

「任命するのはちゃんと試験うからんと話にならんけどな……」

 

そう言って、猿柿さんは串焼きを頬張っていた。

呆れているとかではなく、話について行く気がない。

この人は支えることが夢。

つまり上に立って顎で使うという気持ちは現状さらさらないのだ。

 

「うちも将来的にはあいつ支えんとあかんし」

 

京楽隊長の性格を知っているからだ。

二人は明確な目的をもって副隊長を見てる。

久南さんは別に深くは考えてはいないらしい。

 

「そう考えると俺の明確さの無い事……」

 

いや、卯ノ花隊長に認められるという目標はある。

それはしかし今の場所でなくてもよかった。

言えるのは、あの場所であの人の力になる事。

そして、いずれは見合う力を持ったうえで隊長職につきたい。

 

宴が終わる。

皆、話に夢中で今回は飲んでいなかった。

その為、飲み直しという事で平子さん達はおでん屋に向かう。

猿柿さんは隊舎に戻るらしい。

久南さんはお土産を拳西さんへ持っていった。

 

「さて……帰ろう」

 

この後も鍛錬が待っている。

俺はあの日、強くなりたいと願った。

其れだけど、どこまで強くなりたいのだろう?

あの人を越えた強さなのだろうか?

自分でも強さの目的地がわからない。

 

「今回、あんたはひよ里を副隊長に任命する夢がかなう所やってんで?」

 

帰り際にいやらしい顔をして矢胴丸さんが言ってくる。

一度不自然だと思われたので沸き上がった思いを素直に伝えた事がある。

だが、それが猿柿さんを副隊長に置く事と何の関係があるのだ?

確かにそんな事もできるかもしれない。

でも俺はあの人の夢を知っている。

 

「あの人の目標や夢を邪魔するかもしれないのなら、そのような真似はできない」

 

あの人の夢を邪魔したら、あの人は怒るだろう。

あの人に言葉を聞いてもらえない。

それは嫌だなと思えた。

あの人と話す時間も俺に構ってくれるのも心地よいものだから。

 

「真っ直ぐにあいつを慮るのはええことや」

 

それは男性として評価は高い。

ひよ里を大事にしたいって願いがにじみ出てると言われた。

でもな……と否定の言葉が続いた。

 

「いつまでもこんな幸せは続かんこと、よく覚えとき」

 

寿命もある身や。

欲しいものは欲しい。

好きなもんは好き。

そんな我侭を押し留めて機会を逃したら、馬の骨に取られていくんやで。

そう言われて、少したじろぐ。

最後の言葉を聞いた時、わずかに苦しい思いがよぎった。

同時にあのモヤモヤ、黒い泥が沸き上がるような感覚も。

 

「自分がどうしたいか、それに正直になり」

 

後悔だけはするな。

それに呑まれた苦しみにあんたはきっと耐えられへん。

耐えれても無理していくだけや。

切欠一つでせきとめたものが一気にあふれ出してしまうくらい脆い。

それだけは肝に銘じとき。

そういって手をひらひらをさせて矢胴丸さんも帰っていった。




大人な女性に諭されるという話。
恋を知らないがもやもやするというような状態。
黒い感情は『嫉妬』です。

指摘などありましたらお願いします。


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『掃除 -Sweep-』

ちょこちょこ原作キャラも出てきます。
次回からまた時間を飛ばしていこうかと思います。



矢胴丸さんのあの言葉を考えて数日が経った。

俺の中で猿柿さんに対する思い。

それは徐々に抑えられなくなる肥大していく。

それが何というのかは、俺にはよく分からない。

 

「一体これは何なのだろう」

 

卯ノ花隊長に聞くのは少し違うと思った。

言えばきっと答えは導き出される。

しかし自覚していない中でのそれは、きっと俺の中に食い違いが生まれそうだ。

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

非番の日に歩いていると後ろから声をかけられる。

その聞いた事もない声に対して俺は振り返る。

声の主を見た瞬間、非常に大柄で驚いた。

どうやら特徴的な服装と髪形から察するに鬼道衆の人だろう。

こうして会うのは初めてだな、もともと表舞台には鬼道衆は立たないから無理もないが。

 

「平子さん達から聞いているとおもいますが、ワタシは有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)と言いマス」

 

ハッチと呼ばれていた人か。

今日、初めて見るぐらい会えなかった。

普段は裏方だから、こちらとの接触が今までなくてもおかしくはないな。

 

「私以上に優れていると聞いて…一つ何番台までならば無詠唱で可能ですか?」

 

あれからかなりの時が流れているからな。

あくまで聞いているのは噂程度のものだと思う。

ここは虚飾もなしに相手へ正直に伝えるとしよう。

 

「破道は八十八、縛道は八十一まで、詠唱ありきならば両方九十番台まで使用できます」

 

今は刀が中心の戦いをしている。

その為、鬼道を使う事も現状では少ない。

しかし鍛錬馬鹿なので衰えない程度には鬼道も練磨している。

その結果が鬼道衆の大半より優れているのならば嬉しい限りだ。

 

「素晴らしい……なのになぜ鬼道衆には入らなかったのデス?」

 

これは有昭田さん個人の純粋な疑問だろう。

俺としては元々死神希望だったのもある。

そしてきっとこれは憶測の話だが……

 

「戦闘能力の高さと回道を修める事で単騎能力の向上、虚の討伐に重きを置くようにしたかったのだろう」

 

そう言った理由からきっと初めから四番隊所属となった。

後で回道をするよりは初めに収める方が効率がいい。

其れに沁みつかせておけば、いずれ離れても十分使える人材へと成長する。

ただ、それ以外にもなんだか大きな野望のようなものが見える。

まるで純粋な善意で鍛えようとしているわけではないような。

 

「なるほど、護廷十三隊の戦闘能力を底上げするための……」

 

有昭田さんとそんな事を話していると一人が近寄る。

隊長格と同じような威圧感。

ずしんと音を立てて近づいてくるのは迫力がある。

 

「お疲れ様デス、握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)第一鬼道長」

 

そう言って握菱さんに、有昭田さんが頭を下げる。

こちらも有昭田さんに倣って、握菱さんへお辞儀をする。

握菱さんは俺の顔をじろりと見て微笑む。

 

「これほどの霊圧、素晴らしいものですな」

 

握菱さんはそれだけ言って去っていった。

それについて行く有昭田さん。

どうやら本当に一目見たかっただけのようだ。

 

「暇なものだな」

 

俺はそう呟いて久々にぐるりと回る。

すると、二番隊の隊舎まで来ていた。

そんな中で何かしら、無いものかと思った。

そしてそんな気持ちでぐるぐると回ると当然見つかってしまうわけで……

 

「おい、貴様何をしている!!」

 

男が大きな怒りの籠った声をかけてくる。

こいつの事は知ってはいるが、礼儀を知らん奴だな。

まあ、礼儀で言えばこちらも勝手に別の隊舎をうろうろしているので大差はない。

 

「そうがなり立てるな、(フォン)家のものよ」

 

別の隊舎に赴いてはいけない決まりはない。

それとも力づくで追い出すか?

 

「俺はこの先に用があるのだ」

 

俺がそう言ってある方向を見る。

興味をそそられるものがあった。

それは……

 

「これが『蛆虫の巣』か」

 

入るには扉を見る限りでは、どうやら鍵が必要な構造だ。

そして、その鍵は高位の席官が管理するようだな。

隙を見て奪うのは容易だが……

 

「あくまで俺の考えを理解できる奴が居ればの話だ」

 

そんな相手が居ない限りでは鍵を奪っても得はない。

絵空事と思える事を実現させられる頭脳の持ち主。

それは得てして危険分子に数えられる。

何故ならば極刑を免れないであろう次元のものだからだ。

だから優れた頭脳が欲しければここを観察するのが近道となる。

 

「さて……」

 

連行されていく奴らを見る。

あれは違う。

あれも違う。

そう思いながら全員が入るのを見届けるが、眼鏡にはかなわない。

 

「定期的に来るか」

 

そう言って俺は去っていく。

そんな中、警報がけたたましく鳴り響く。

これは……

 

虚が大勢出現。

測定上ではこちらも席官を八名投入。

俺と平子さん、愛川さん、鳳橋さん、拳西さん、久南さん、猿柿さん、矢胴丸さん。

まあ、十分な数ではないだろうか。

 

「治療部隊としての腕を買ってるのか、それとも剣の腕を知った人が推薦したのか」

 

俺一人だけというのが解せない。

もう少し危機的な場面を想定して、投入するべきではなかろうか。

推薦した人たちが安易に分かる。

 

「ハッチおらんけどこの面子なんて初めてちゃうか」

 

平子さんがそう言って全員が斬魄刀を抜く。

しかし相手が予想外の行動を仕掛けてきた。

今までの出現場所とは全く違う空からの襲来。

 

「ギャゴオオオオ」

 

吠え猛りながら降ってきて俺達を分断する。

矢胴丸さんと猿柿さんと愛川さん。

久南さんと拳西さん。

鳳橋さんと平子さん。

俺だけ単騎にされるとかいう嫌がらせ。

そこで三人組になってるうちの一人と組ませろ。

 

「虚が知恵をつけたか……」

 

囲んできた。

これでは支援ができない。

しかもその中には初めて見る代物がいた。

教本でも載っていない相手。

しかし一度話に聞いたので覚えている。

 

中級大虚(アジューカス)が二体とは……」

 

最下級大虚(ギリアン)だけでも今回は数体。

他の場所ではこいつらが一体いるのかどうかなのに。

強さに当てられたのか?

 

「まあ……」

 

斬る分には困らないか。

俺は斬魄刀を両手で握って駆けだす。

全ての奴らの動きが緩慢。

囲っているのに意味のないこと、この上なし。

 

「弱いぜ……」

 

まずは頭から一刀両断。

返す刀で横に真っ二つ。

瞬く間に二体の討伐を完了させる。

 

「次いくぞ!!」

 

そう叫び、さらに進んでいく。

向こうが攻撃を放つよりも俺の方が速い。

図体がでかいだけの奴に負けはしない。

 

「ガアアアアアア!!」

 

舌が襲い掛かってくる。

それを切り裂き、懐へ。

相手がいくら波状攻撃を仕掛けても無駄。

鬼道を使う必要もない。

 

「残りはお前らだけだ」

 

都合、七体の最下級大虚を討伐。

その肉片を喰らう豹のような中級大虚。

きっとこいつが首領格。

その前に現れたのが鹿のような見た目の中級大虚。

 

「私が相手をしよう、死神」

 

低く構えてくる。

それに合わせて構える。

呼吸の合間に集中が高まる。

失敗は死と心に刻みつける。

 

「名前を聞かせてほしい」

 

戦う相手の名を聞く。

殺すのであればその名を刀に刻むために。

死ぬのであれば己を命を奪ったものへ敬意を表するために

 

「我が名は『キルシェル・ホルガ』」

 

そう言うと蹄を鳴らして、突っ込んでくる。

高速移動で何体にも見える。

しかし、本体はただ一つ。

 

「そこ!!」

 

相手の顔を狙って突きを出す。

相手は殺気を感じ取ったのだろう。

体をよじってかわす。

それに対して距離を詰めて、下から斬り上げる。

 

「この速さについてくるか」

 

まだまだ遅い方だ。

しかし、比較対象に比べればの話だ。

最下級大虚に比べれば雲泥の差である。

 

「生憎ながら、その大きい霊圧で分かる」

 

霊圧を操作しても捕捉は可能。

相手は呼吸を一つ置いてさらに接近。

こちらの刀の間合いを潰しに来た。

後ろに下がろうにも角の一撃がある。

 

「確かにそれも手ではある」

 

しかし、こちらとしてはそれも楽にしのげる。

後ろに下がらずに攻撃をするのみ。

蹴りを放つ。

それをぐるりと回って回避をする。

無防備な背中へ一撃を見舞おうとしているのが感じ取れる。

 

「それが罠とは知らないで」

 

機微がわかってはいない。

戦いで無防備とは相手の失態。

そう思っているのだろう。

しかし、それがお前の失態をあぶりだすものだったとしたら?

 

「ハアッ!!」

 

相手が飛びかかる。

振り向かずに切り裂く。

感触としては肩口といった所だ。

それなりに斬れたな。

 

「何故だ!?」

 

相手の顔は驚愕に包まれている。

完全にこの一撃で勝負がつく。

そう考えたに違いない。

 

「羽織に僅かに当たったら気づく、それに角という形状のせいで空気が変わる」

 

剣が空気を裂くような感覚。

それを三十年近く味わっている。

しかも自分を切り裂く攻撃として。

挙句の果てにはそれが常時なせいで殺気も何もない。

それに比べればこいつの攻撃なんて気づいて当然のものだ。

 

「あの人が相手なら今頃背中が血みどろで倒れているがな」

 

死にたがりと言われても仕方ないほどだ。

罠とか関係ない。

全てを剣術の流派を収めているのではないかと思う技量。

斬れぬものなしという一撃。

その前では小僧の思惑なんて子供だまし。

 

「まるで私より強い相手と戦った事があるような口ぶりだな」

 

ざりざりと地面を擦る。

そして角の一撃を見舞おうと接近。

それを見切るように動く。

 

「あるようなではないぞ、キルシェル・ホルガ」

 

角を掴んで突撃を止める。

そしてそのまま力を込めて曲げていく。

しなりの限界を超えていくように徐々に罅が入っていく。

 

「戦ってきたのだよ」

 

その言葉と同時に角を圧し折る。

ごろりと大きな角が二つ。

キルシェル・ホルガの眼前に落ちる。

 

「なっ……!?」

 

自慢の角が無残にも砕け散る。

それは相手の戦闘意欲を削ぐには十分すぎる。

顔面に頭突きをする。

硬かったが相手の鼻が潰れた。

 

「お終いだ、キルシェル・ホルガ」

 

俺は刀を振るう。

その一撃を腕を交差して受け止める。

息も荒く、捕まえたというように笑みを浮かべている。

 

「喰らえ……」

 

紅い光線を放つ。

当然、その一撃をかわす余裕はない。

直撃してしまう。

だが、それで倒されるほど甘くはない。

 

「効かないな」

 

煙をあげているだけ。

あの人が鍛えてくれたからだ。

それに常に霊圧をしっかりと制御している。

刀が食い込んだ状態ならば防御に回しても弾かれないと読んで、全て防御の方に運用したのだ。

 

「この…化け物め…!!」

 

その言葉を放ったと同時に俺は深々と切り裂いた。

血を噴き出しながら倒れていく。

これで一体撃破。

最後の一体が食事をやめてこっちを見る。

頭だけが残っているのも面白いな。

丸々喰いきると思っていたのだが。

 

「キルシェルが負けやがったかよ」

 

食事を終えてさらに霊圧を上げた相手。

名を名乗る気はない。

そう態度に出ている。

いいだろう、それならば俺の記憶には残さないだけの話。

 

「あいつと比べるんじゃねえぜ、死神!!」

 

一瞬でこちらの後ろを取ってくる。

それをかわすと次は横に。

高速移動か能力なのかは不明だ、縦横無尽に動き回ってくる。

 

「『響転(ソニード)』についてこれねぇか!!」

 

なるほど、移動手段の方だったか。

探りを入れようとしているのに気づかないとは。

つくづく、自分たちの流れで戦いたがる。

相手を見ていない。

だから罠にはまったり、相手が隙を見せているかどうかの思案もない。

 

「瞬歩によく似ているな」

 

そう言って後ろを取る。

相手が驚き、噛みついてくる。

短慮だな、それならば羽織だけを噛ませてやる。

 

「牙を失え」

 

一気に羽織を引っ張る。

その勢いで相手の牙が抜け落ちてしまう。

そして頭部に強烈な蹴りを見舞う。

固い皮膚ではあるが俺の体格であれば力負けはしない。

 

「くそが……」

 

そう言ってこっちを睨む。

牙は超速再生で治っていく。

こいつ以外の奴が致命傷だから全く感じていなかった。

 

「お前じゃあ俺には勝てない」

 

俺は刀を構えて相手を見る。

次の初動を制してそのまま切り裂く。

二度とこいつに再生の隙は与えない。

 

「ほざいてろ!!」

 

そう言って相手が突撃をしてくる。

それに対してこちらも接近。

受け止めて首相撲の形をとる。

 

「掴まったらお終いだ」

 

俺は強烈な蹴りを腹部へ叩き込む。

大してそれ程の苦痛はないはずだ。

しかし、幾度も繰り返せばどうなるか。

当然、内臓を揺さぶられてしまう。

 

「ぐっ……」

 

これは溜まらないと思ったのだろう。

相手が嫌がるそぶりでこっちと距離を取っていく。

その下がった瞬間、俺は刀を抜く。

俺は踏み込み、両手で構えた刀を振り下ろす

刀が軌道を描いて煌く。

その軌道の終着点にたどり着いた時。

相手を右肩から左の脇腹にかけて切り裂いていた。

 

「ちくしょうが……!!」

 

血飛沫を上げながら相手は膝をつく。

その深い傷から夥しい量の血を流しながら立ち上がろうとする。

だが、その一撃の影響があまりにも大きいのか、足元がよろめいている。

相手は舌打ちをして悪態をついているが、既に戦いは終わっている。

 

「とどめだな」

 

息も絶え絶えだ。

ここでこの虚を仕留めてやる。

俺は足に力を込めて駆けだしていく。

 

「我らの王を死なせはしない……」

 

しかしそうしようとした俺の足をキルシェル・ホルガが掴む。

既に意識が朦朧としているというのに……。

掴んでいるのは極めて弱弱しい力でしかない。

自分たちを統率するものを最後のあがきで逃がすつもりか。

俺はその足を振り払い、再度相手を斬りに走る。

 

「てめぇはこの俺がいずれ……この『グリムジョー・ジャガージャック』が殺してやる!!」

 

グリムジョーが光の帯に包まれたまま、黒い穴の中へと消えていく。

……逃げ足が速い奴だぜ。

あの光の帯でこちらの攻撃を全て遮断していたのもあるんだがな。

 

「ちっ……」

 

俺は舌打ちをして、鞘に刀を収める。

斬った虚全員が息をしていない。

力なく、霊圧を発する事もなく横たわっている。

合計八体の討伐が完了していた。

 

「大丈夫か!?」

 

猿柿さんが駆けつけてくれた。

後ろには鳳橋さんがいる。

心配無用と後ろを親指で指し示す。

 

「なんやねん、この数……」

 

そう言って猿柿さんが驚く。

頭だけが残った最下級大虚の残骸。

そしてほとんど綺麗な状態の中級大虚の死体。

それを見て、驚きを隠せていない。

 

「初めて見るような形態の虚まで居るんだけど」

 

鳳橋さんがキルシェル・ホルガの死体を指さして言ってくる。

まあ、真央霊術院の教科書には載らないですよね。

まず、出会うこと自体が希少な存在ですからね。

一応、この状況における補足説明だけはしておこう。

この存在が何なのかも詳細に。

 

「つまり、強い奴が攻めてきていたという事か」

 

俺の話が終わってから、愛川さんが簡潔にまとめる。

相手が強いというのは間違いではない。

あの霊圧を考えると隊長格でも面倒だろう。

 

「まあ、中級って事は今回より強い相手もいるんでしょうけど」

 

俺はそう言って立ち上がる。

今回の虚の数は正直に言ってしまうと、隊長格が出て解決する内容だ。

それを席官八名で一体を除いて討伐。

この成果を報告したらきっと褒章があるかもしれない。

もう一つ言える事が有るのならば……

 

「少数精鋭とはいえど四番隊が一人だけってどうなのか」

 

こればかりは万が一のことを考えてほしい。

例え今の若手が豊作だとしてもだ。

全員を治しながら呟くのであった。




今回出てきていたのは破面になってない状態の昔のグリムジョーです。
傑の実力で言えば並みの隊長格以上は確実にあります。
それが卯ノ花隊長の鍛錬のたまものです。

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『名誉 - Honor - 』

昇進に関してなので時間を少し飛ばしました。
次回は打診みたいな話でもやっていこうと思います。


あの八名での大虚討伐。

あれから数日たったころ。

京楽隊長や浮竹隊長も謝っていた。

無理もない。

軽率な判断で少数精鋭を向かわせてしまった。

結果として死者は出なかったが、出ても何らおかしくなかったのだ。

しかしその戦果を見合う事があった。

それは昇進。

全員が対象となっていた。

 

「いやー、命の危機から頑張った甲斐があったなぁ」

 

その祝いの席でみんなで酒を飲む。

愛川さんが笑顔で飲み干していた。

その言葉に鳳橋さんも頷く。

 

「まさか一桁台にまで一気に上がるなんてね」

 

そう言って冷ややっこをつまむ。

今回の昇進で愛川さんと拳西さんが第五席。

鳳橋さんと矢胴丸さんと久南さんが第六席。

平子さんが第四席。

やはり主席卒業者、そこは同期でもずば抜けている。

 

「俺の隊長への道が開けたで、今の上位席官でも大虚の討伐はなかなかに骨が折れるって事や」

 

このままいけば、隊長までは卍解を習得すればいける。

そう言っている。

俺も卍解を手に入れてみよう。

始解の五倍か十倍。

それだけの力があればあの人も認めるだろう。

 

「でも……」

 

皆が気の毒な視線を投げかけてくる。

誰よりもあの場所で虚を打倒した。

最下級大虚以上に危ない、中級大虚の一体討伐。

それだけの実績を残していたのに。

 

「卯ノ花隊長は辛口やなぁ、あれだけやって九席か」

 

浮かれてはいけない。

それを教訓として教えてくれたのだろう。

事実、皆より低くても波風は立たなかった。

京楽隊長たちの意見は卯ノ花隊長が理由をつけて引っ込めた。

 

「それ言ったら猿柿さんもあまり上げてもらっていないですよ」

 

そう言うがどこ吹く風という顔だ。

骨子に揺るぎがない。

だから気にも留めていないのだ。

 

「次の異動があったりしたら上げすぎても洒落にならんからなぁ」

 

一つあげるにしてもあの騒動で第三席に任命したら副隊長になるもんな。

そう考えたら、すごく難しい。

 

「まあ、亀のように遅くてもええやん」

 

そう言ってこっちに来いと手招きされる。

すると盃に酌をされる。

慰めてくれているのだろうか?

 

「お互い低いもん同士ゆっくり飲もうや」

 

そう言って自分の盃を差し出してくる。

それに酌をし返す。

飲み干してつまみを食べる。

二人だけの流れで居られる。

些細な幸せを感じている。

 

「あいつらのように上がられへんのは仕方ないわ」

 

隊長の考え次第や。

うちの所も一緒。

副隊長からの言葉でも言う事聞かへん、独断の形もあるし。

そう言われると苦笑いするしかない。

 

「曳舟さんを支えるのが到達点やから、別にええねんけど」

 

そう言って酒を飲んで、盃を差し出してくる。

それに酌をしていく。

自分も飲み干して、盃を差し出す。

 

「はいはい」

 

微笑んで酌をしてくれる。

そして二人で盃を打ち合う。

この人の優しさがとても心地よい。

がさつらしいけど芯はこういった面倒見のいい人。

年下で頑張っている自分を見てくれる太陽のような人。

そんな事を思っていると、いつの間にか酒がみんな進んでいる。

ここでお開きという事でみんなが店を出る。

酔った人たちを運んでいく。

まだ飲み足りない人たちは二件目へ行った。

 

外に出た時に俺は猿柿さんの腕を握る。

何か言いたい事があるのだろう。

それを感じ取ったのか。

皆に言って二人で店の前に残っていた。

 

「あの……」

 

互いに素面。

そんな中、こんなことを言うのは恥ずかしい。

でも、我慢はしない。

 

「なんや?」

 

これはただのお願いだ。

胸の高鳴りを緩やかに。

喉が乾かぬようにする。

 

「これからは下の名前で呼んでもいいですか?」

 

俺の言葉を聞いてきょとんとした顔を浮かべる。

顔が熱い。

血が顔に回るのが感じられる。

 

「深刻そうな声で言う事ちゃうやろ」

 

笑顔で言ってくる。

そして近づいてくると、頭を下げるように手ぶりで示す。

それに従うと頭に手のひらを置かれる。

ワシャワシャを髪の毛の形を乱されるほど撫でられる。

 

「呼びやすいように呼びぃ」

 

そう言って去っていく。

足元はしっかりとしていた。

肩を震わせている。

悲しいとかではないのだろう。

まるで堪えているような形だ。

 

その後ろ姿を見送って自分も四番隊の隊舎に戻るのだった。

 

.

.

 

あの酒盛りから数日後。

異動が発表される。

自分はおおよそ上がっていないだろう。

そんな事を考えていた。

すると卯ノ花隊長から隊首室にくるよう、声をかけられる。

 

「貴方の席次についてなのですが…」

 

そう言って椅子から立ち上がる。

緩やかな歩の進め方。

夜での斬り合いという名の鍛錬。

その時に見せる姿から反転したような穏やかな姿。

 

「良く今まで頑張りました」

 

三十年以上の鍛錬。

回道の腕たるや卯ノ花隊長には劣るが尸魂界全土において現在二番目。

それは殺意に満ちた夜の鍛錬での傷を癒すために伸ばしたもの。

 

「私の右腕として働く名誉、つまり副隊長に任命いたします」

 

俺の前に立ち、あるものを差し出す。

それは肩につける勲章のようなもの。

『四』の字と隊花である『竜胆』が映えていた。

 

「皆さんからの不満は……」

 

いきなりの上昇。

それに対して、先輩が不思議に思う事は無いのか?

そう感じて聞いてみた。

 

「貴方を九席に任命してから、皆に聞いての決断です」

 

高ければ甘いという人もいる。

ですが低くすることで辛い評価を与えたように見せる。

するとそれより戦えない上位の席官は罪悪感を持つ。

その心理を利用したと言っていた。

 

「元より中級大虚を倒せる時点で隊長格に相当した実力を持っているのは明確」

 

それに書類仕事や雑務をきちんとこなしている。

条件が全て揃っていた。

むしろ今までの席次が低すぎた。

それが一部ではなく四番隊以外でも思われ始めた時を狙っていたのだろう。

 

「今以上の精進を期待していますよ」

 

そう言われて隊首室から出ていく。

肩に副官章をつけることを義務付けられている。

それをつけて外に出た。

十二番隊に行っていた。

数日までに低い者同士と言ってくれたのに自分だけ抜け駆けをしてしまった。

申し訳なさで身が刻まれそうだ。

 

「怖いな……」

 

冷めた目で見られるのではないだろうか。

話も聞いてくれなくなるのではないだろうか。

そう考えると苦しくなる。

 

「おやおや、どうしたんだい?」

 

十二番隊の隊舎の玄関に行くと声をかけられる。

曳舟さんだった。

自分と同じように『十二』の文字と『薊』があしらわれた副官章をつけている。

この方も同じように副隊長になったんだな。

そう思うとますます気が重くなる。

『お前が曳舟はんと同じ階級なんて認めへん』とか言われそうだ。

 

「ああ、ひよ里ちゃんだね」

 

自分の目的を即座に見抜かれる。

そして曳舟さんはこっちが止める事もなく呼びに行った。

しばらくして出てきた。

 

「異動の結果知らせに来たんか、お疲れ」

 

そう言いながら胸を張っている。

どうやら第五席へ昇進。

曳舟さんが副隊長となった。

 

しかし俺の顔色が悪いのを分かっているのかしげしげと見る。

そして副官章を見つけると察したように頭をかいて溜息をついていた。

 

「全く……そんな事で顔色悪かったんかい」

 

前に飲んだ時から一変した立場。

それが負い目になっている。

その気持ちすらも見抜かれていた。

 

「お前が頑張っとるんを同期で一番知ってんのはうちや、むしろ当然の結果やと思うとる」

 

歩いてきて腹を小突く。

腹筋で痛みはない。

 

「次は卍解やな、頑張りや」

 

お前が隊長になったら二人きりで酒でも飲んだるわ。

そう言って十二番隊の隊舎へ戻っていこうとする。

 

「約束ですよ、ひよ里さん!!」

 

大きな声で言う。

すると振り返って満面の笑みで『約束や』と言って、手を振って中へ入っていった。

そのやり取りを見ていた曳舟さんは少しいやらしい笑みを浮かべている。

まるで悪戯の相手が見つかったようなそんな感じの笑み。

 

「下の名前で呼ぶようにしたんだね」

 

仲が良くていい事だ。

でもねと一拍置いて真剣な顔になる。

 

「あの子を泣かせたら容赦しないよ」

 

保護者のようなところだけじゃない。

かわいい妹分。

それを泣かせて怒らぬ姉貴分は居ない。

 

「俺だってあの人の泣き顔は見たくはないですよ」

 

きっと辛くなる。

優しい人を傷つけたという事実が自信を苛まさせる。

 

「心の中で徐々にひよ里ちゃんが大きくなると思う」

 

そうなっていった時に、どうするんだい。

そう問われる。

その答えは決まっている。

あの人が欲しいと思うのだろう。

心を自分のものにしたい。

自分を見ていてほしい。

あの人の太陽でありたいし、あの人が太陽であってほしい。

 

「きっと生まれて初めて独り占めしたいって思います」

 

我侭に。

思うがままに。

あの人を慈しむ。

きっとそれは間違いなんかじゃない。

純粋な思いに曇りがなければ。

 

「健全な男の子だったんだねぇ」

 

好意を持った終着点。

きっとそれはいろいろな形。

でもその中でも一番単純なもの。

 

「傍に居てほしいんです」

 

それだけ呟いて空を見上げた。

その言葉に嘘はない。

そう示すように雲一つない澄み渡った空だった。




恋愛っぽくなればいいなと思っています。
地味に昇進ペースが速いです。
ただ市丸の三席に比べたら格が違いすぎますね。

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『出会 - Meet -』

今回は原作キャラ出ています。
考えたのですが時間軸的には200年前固定にして、現在が30年経過です。
次の話あたりで徐々に時間を流していこうと思います。



四番隊副隊長としての日々はめまぐるしい。

あっという間にあれから三年が過ぎた。

卯ノ花隊長が有能なだけあって当然、その副官ともなればついて行かなくてはいけない。

回道の技術と瞬歩がさらに磨かれる。

ただでさえ上位の技術だったというのに。

 

「流石ですね……前任者より遥かにいい動きですよ」

 

そう言いながらこちらが七名治す間に十名を治していく。

こちらの倍ほどの速度で動いているわけではない。

回道の実力で傷が俺の倍ほどの速度で治っているのだ。

 

「もう、重傷者自体が少ないので書類に取り掛かりに行っていただいてもかまいませんよ、卯ノ花隊長」

 

そう言うとお言葉に甘えますと一言残して隊首室へと入っていった。

そして言葉通り、一人でこなしきる。

どうしようもないものなんて最早、死が間近というほどのものだ。

 

「しかし、さすがは唯一の医療部隊」

 

忙しさもひとしお。

ここが無くなれば、敵襲では甚大な被害となり得る。

その重要さをよく知らない奴らが馬鹿にしている。

主に戦闘集団である十一番隊。

彼らは戦いの中で傷つき、死んでもいいやと思っているから。

あとは優秀な人材が揃う一番隊。

その中でも低い席官が増長している場合によくある。

 

「全員、治療を終えましたね」

 

書類仕事が終わったのか。

束を持って隊首室から出てくる。

それを手渡してくる。

どうやら一番隊から十三番隊までの書類。

これを届ければいいのですね。

 

「そのまま、自由に動き回っていただいてもかまいませんよ」

 

十分、やってくださっているので事態が急転しても間に合います。

そう言われたのでぐるりと回る事にして先に十三番隊に届けに行く。

そう言えば最近噂になっている隊士がいると聞いたな。

確か名前は……

 

「あの人、四番隊に居なかったんですけど…」

 

浮竹隊長が病欠と聞いて溜息をつく。

多分入院病棟に居るのだろう。

代理の青年に渡しておく。

 

「頼んだよ」

 

今年、入隊してきた新顔。

おずおず頷いて取ってくる。

まだまだ初々しいものがあるな。

 

「分かりましたよ、斑鳩副隊長」

 

そう言われるとこそばゆい。

いつまで経っても慣れないものだなと思う。

 

次は十二番隊の隊舎。

勝手知ったるという事でするすると入っていく。

隊首室の扉を軽くたたく。

 

「入ってきぃ」

 

聞きなれたひよ里さんの声だ。

丁度隊首室に用事があったのだろう。

開けて書類を渡す。

内容はさっきの十三番隊の時にちらりと見えたが、この間の健康診断の結果だ。

浮竹隊長が軒並み悪かったのが目に入ってぞっとした。

 

「今年も全然、背が変わらんかったなぁ」

 

去っていく時に溜息でそんな言葉が聞こえる。

止まっているわけではないと思う。

ただ恐ろしい。

成長とは実力の上昇を示すとも言われている。

現在の実力でも上位席官。

もし、これ以上強くなったらとんでもないだろう。

 

十一番隊では拳西さんに渡す。

どうやら筋肉量で体重が少し増えたらしい。

逞しさが一段と増している。

 

十番隊では綱彌代副隊長に渡す。

奥さんだったが本家の方から分家の再建を頼まれているらしい。

今はそのために名前を名乗っていた。

 

九番隊では久南さんに渡す。

ご苦労ご苦労と言って豆大福を渡してきた。

何か苦笑いしている副隊長。

きっと抑えられる人材でも探しているのだろう。

丁度、十一番隊に居ますよ。

そう思いながら八番隊へ行く。

 

「肝臓の数値悪いんで、酒控えてください」

 

そう言って京楽隊長に渡す。

矢胴丸さんがくすくすと笑っていた。

これでしばらくは麦茶生活やな。

そう呟いたのが聞こえたのだろう。

とほほと言った顔をして肝臓の数値が記述されている箇所を見返していた。

 

七番隊に行く。

愛川さんはどうやら身長と体重が若干増えたらしい。

というより基本、皆健康体だよな。

見た目だけで言ったら確実に心配なのが後に控えているんだけど。

 

六番隊では朽木隊長に渡す。

見た目ほどではないが、年は召されている。

健康を常に維持していられるのか。

結果は全てが良好だった。

それとは対照的に副隊長はところどころ悪い結果があった。

 

五番隊に行く。

来たのは初顔の人間。

眼鏡をかけたいかにもな優男。

しかし、死線をくぐって来たからわかる。

こいつはどこか危うい奴だ。

初対面の相手だというのに脳が警鐘を鳴らしている。

 

「名前は?」

 

極めて冷静な人間という事を装う。

相手がおかしなそぶりをしたら、こちらは鞘から刀を抜きかねない。

それほどの今まででも数少ないほどしか抱いたことの無い次元の警戒心と危機感。

此方の警戒心を刺激することもなく、書類をこのまま受け取ってくれればいいのだが……

 

藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)です」

 

此方が思うよりもすんなりと受け取ってくれる。

勘を信じてあまりにも警戒しすぎたのだろうか。

初対面の相手に流石に失礼だったな。

しかしここで緩めてしまう訳にはいかない。

ここは念を入れて少し仕掛けていく。

芝居じみた動きに見えないように、極力自然な形で転んでいく。

 

「そうか……っと!?」

 

その拍子に斬魄刀を掴む。

そのまま慌てるように僅かに刀を引き出す。

そして力を込めてその露出した刀の一部分が欠ける。

 

「大変申し訳ない事をしてしまった、すまない!!」

 

とんでもない事をしてしまった。

そのことで頭がいっぱいになってしまった。

俺は逃げるように足早に去っていった。

 

隊舎を出てから誰にも見えないところで袖をまさぐる。

その手のひらには欠片がきちんと残っていた。

欠けた瞬間に『曲光』で見えないようにした。

さらに誠心誠意謝り、罪悪感から逃げたという形を装った。

 

「悪いな、君を最大限警戒していることの表れだ」

 

願わくばこれが杞憂でありますように。

そう思ってそれを握り締めていた。

 

「戻ってまいりました」

 

卯ノ花隊長自身の診断結果が抜かれていなかった。

年齢欄の場所が誤植ではないですか?

そう言ったらあの微笑みで間違えていないと言われた。

威圧感があったのでそれ以上は追及しなかった。

 

「失礼します」

 

三番隊の隊舎に行く。

鳳橋さんが出迎えてくれる。

健康診断の結果を渡すと、例年通りの痩せ型認定らしい。

結構食事に気は使っているし、多少は増やすようにしているのにな。

そう呟いていた。

 

次の二番隊。

出迎えてくれたのは小さな女性だった。

 

(フォン)家の末っ子か」

 

その子に渡して去っていく。

おどおどとしているところを見るとまだまだ若い。

刑軍に入って間もない頃かな。

そう考えていると隊長格の霊圧を感じる。

これは並ではない。

動いているという事は逃げようとしているな。

貴族の話を聞いたことはあるが……

 

「この霊圧が四楓院(しほういん)家の姫君のものか」

 

この者は強いな。

二番隊も盤石の時代が訪れる。

護廷十三隊の安定に笑みを浮かべていた。

 

最後に一番隊へ届けに行く。

扉を叩き、隊舎に入れていただく。

まずは雀部(ささきべ)副隊長に声をかける。

 

「お疲れ様です」

 

自然と姿勢が正される。

一番隊だからではない。

この方が持つ熱量や佇まいがそうさせる。

 

ご苦労と一言述べて書類を受け取る。

そして、紅茶でもどうかと誘われたので、執務室へと入る。

 

紅茶を飲みながらふとした疑問がわいてくる。

霊圧も技量もすさまじい。

その方に目に見える箇所についた傷。

乾き具合と傷の形状から違う人物にそれぞれ一度ずつ、つけられたものと判別できる。

 

「総隊長、質問してもよろしいでしょうか」

 

くるりと振り向く。

霊圧を漏らして揶揄われる。

流石にもうそれで片膝つくほど軟じゃありませんよ。

 

「良かろう、何が聞きたい?」

 

その成長に気をよくしたのだろう。

僅かに眉が下がり微笑みを返していた。

髭で隠れてろくにわからないけれど。

 

「総隊長が護廷十三隊の頂点、それは常識外れの強さを有しているという事です」

 

その言葉は真実。

本気でそう思っている。

卯ノ花隊長より強いかはわからない。

ただ、お互いにとてつもない強さなのは事実。

 

「だからこそ、その総隊長の額に傷をつけた方を知りたいのです」

 

そう言うと雀部副隊長が睨む。

まるでそれは禁句だというように。

それを総隊長が制する。

若きものの興味にとやかく言ってはならないと。

 

「この一つの『ノ』の字については言えぬ」

 

これを言うと現在の護廷十三隊を揺るがすから。

その一言で遮られた。

しかし、と一拍置いて言葉を続ける

 

「もう一つの傷をつけたのは教えてやろう」

 

額の傷を撫でながら思い出にふけるように微笑む。

まるでそれが嬉しかったことのように。

 

「無論、お前さんが内緒にできるならな」

 

その言葉には確かな重みがあった。

信頼して話すのだと。

言葉だけの約束などするな。

ただの好奇心で聞くのなら許さないと。

 

「当然、このような秘密をおいそれとは話しません」

 

なんたってあの人の本性も皆には黙っている。

血に飢えた戦いの人。

『戦いこそ全て』と言っても差し支えない人。

その人と毎日の殺し合い。

そのような事すら黙っている。

 

「ここにおる長次郎こそが儂にもう一つの傷をつけた死神じゃ」

 

こちらの眼差しを信じたのだろう。

傷をつけた死神について話してくれる。

それを聞いた瞬間、雀部副隊長が申し訳なさそうな顔をする。

普段の穏やかな人からは想像もつかない。

 

「儂の門下に入らず独力でその力を高めた、そしてその卍解で傷をつけたのじゃ」

 

素晴らしいものだと。

そう言いた気ではあるが、あくまで冷静に。

ただ、卍解を使えるなんて……

隊長になってもおかしくない人だ。

 

「雀部副隊長は隊長の打診をことごとく断り続けたという事でしょうか」

 

そう言うと頷かれた。

きっと、この人は生涯をかけて忠誠を誓っている。

その苛烈なまでの思い。

それを高々若輩の自分が推し量ろうなど甘すぎる。

 

「素晴らしいお方ですね」

 

そう言って立ち上がる。

他言はしない。

それを伝えて胸に秘める。

 

「さて……」

 

去っていく中で『蛆虫の巣』に目を向ける。

主立った人物が金髪の男に変わっていた。

そいつが引っ張る相手を一人一人見ていく。

 

その中に異彩を放つものがいた。

青い髪と白い肌。

不敵な笑みを浮かべている男。

 

彼を中に入れていく瞬間。

瞬歩で忍びこむ。

帯刀していてはいけないらしい。

 

「これが中身か」

 

その言葉に振り向く。

こちらは微笑んでいた。

この不敵な笑みを浮かべている男が求めていた人物だと。

直感で分かっていた。

 

「四番隊の副隊長さんが侵入してくるんっすか?」

 

驚きと非難の眼差し。

言いたいことは非常にわかる。

だが、俺はずっと人材を求めていた。

絵空事を実現できる者を。

 

「興味のある人物がいれば見たいのが常ではないか」

 

そんな事を言っていると気配を感じる。

拳を振るってくる。

それをひらりと避けて後ろ回し蹴り。

『白打』が弱い副隊長って柄でもない。

きっとおおよそ望むものをすべて持って生まれたのだから。

 

「あらら……刀無しでこの強さとは」

 

伸びてしまった人を見て驚いている。

それを見ていた青髪の男は……

 

「実に良い健康体だネ」

 

ぎょろりと視線が舐めるように上下する。

それは全てを見透かそうとする好奇心。

霊圧まで測れるのだろうか?

こちらとしてもその頭脳に非常に興味がある。

 

(くろつち)さん、行きましょう」

 

しかしそれを遮る。

まあ、仕事熱心なのだろうな。

だが引き下がるような男ではないぞ。

 

「で……なんで中にまだいるんッスか?」

 

涅を連行した後、戻ってきた男に溜息をつかれる。

まあ、お前の名前を聞きそびれたからな。

俺だって別に仕事の邪魔をしたいわけじゃあないさ。

 

「名前を教えてもらっていないからな」

 

それもそうだったッスね。

そう言って息を吸い込む。

 

「僕は浦原(うらはら)喜助(きすけ)と言います」

 

連行は仕事の代理みたいなものですけどね。

まだ若輩者でして。

そう言って頭を掻く。

よく言うよな、こいつ。

こちらが三十年近い先輩ではあるがお前もそこそこ年齢が高いだろ。

 

「お前もなんだか匂いがするよ」

 

研究者の匂いがな。

今度話したい事が出来て感動しているよ。

そう思い、去っていく。

去り際に袖をかいでいたがそういう意味ではないぞ。

 

「ただいま、戻りました」

 

そう言って業務を継続。

急患が入る事もなく、今日の業務も終了。

夜の鍛錬が待っている。

それまでに畳の上に『年輪』を置いて深呼吸をする。

しばらくすると初老の紳士が現れる。

刀を構えて俺の目の前にいた。

『具象化』に成功していた。

 

「お前の『本当』を見せてくれ」

 

それを『屈服』させてさらなる高みへ俺は立つ。

そう言って立ち上がる。

俺の眼差しに微笑みを返す。

 

「その熱量を叩きつけて見せろ」

 

そう思って表へ出る。

刀を打ち付けあう。

元は自分の刀だから互いに軌道なんてわかりきっている。

だが上下関係をはっきりさせてやる。

 

「この機会にはっきりとな!!」

 

結論だけ先に言うと無理だった。

強いとかではなく時間の問題。

非番の日にしっかりとやらないと難しい。

 

「絶対に卍解を教えてもらうからな」

 

そう言って鞘に収めて夜の鍛錬へと向かって行った。




原作チートの藍染の『鏡花水月』を、自分の危険信号という勘を信じ、偶然を装い掴むことで無効化。
その際に僅かに砕いて欠片まで奪うという事前対策もばっちりです。
絵空事を実現可能の人材ことマユリ様降臨です。
浦原に砕蜂、名前だけですが夜一。

指摘事項ありましたらお願いします。

感想について確認したところ、本遍の文章では本能とは書いていなかったのですが、後書きで本能と記述しており誤解を招いていました。
その為、後書きと本遍の内容を少々変更しております。


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『重 -OverLaid- 』

主人公の強化と新しいつながりの回です。
ちなみに主人公は藍染からしたら面倒な奴という認識です。
思い通り動きそうで何をしてくるかわからないという意味で。


『具象化』で出会った自分の斬魄刀。

屈服させるために戦い続けること、実に五年。

卍解の習得に力を注いできた。

鳳橋さん達は卍解を習得できていない。

『具象化』からどうしたらいいのかが掴めていないようだ。

 

「お前に勝てば認めるのだろう?」

 

夜の斬り合いで強くなればなるほどこいつも強くなる。

小太刀同士の斬り合いという地味極まりない戦い。

 

「今宵で何度目になるのだろうな」

 

負けず嫌いな俺の斬魄刀。

俺が勝っているというのに、全然負けを認めない。

もしくは相手と自分の伸び率が拮抗した引き分け。

その結果、未だに教えてくれない頑固な奴。

 

「お前が負けを認めたらいいんじゃねえか」

 

今日はもう負けず嫌いな奴でも、完全敗北となるほどのものを叩きつけてやる。

五年間、明確な勝利をしているのだから、教えてくれるものかと期待したが無駄だった。

 

「だって、まだ白打ができるじゃないか」

 

こいつは……

こうなったら気絶させるか、白打も込みで倒してやる。

絶対今日こそは教えてもらうぞ。

 

「ふっ!!」

 

短く息を吐き出して右に振るう。

『年輪』はそれに反応して、鏡のように左に振るう。

それで火花を散らす。

その直後にこちらが水面蹴りを放つ。

その一撃を『年輪』が跳躍で回避。

 

「貰った」

 

ただその一言で突きを繰り出す。

それを防いでくるりと反転。

地面へ着地をして居合の要領で胴を斬りにくる。

 

「甘い」

 

その腕に乗って振り下ろす。

もう既に懐。

回避不可能の一閃。

 

「ぐっ…」

 

肩口から血を流している。

それを見て距離を取る。

相手の出方を見る。

 

「言っておくが、もう流石になりふり構わんぞ」

 

鬼道も使う。

戦いを楽しむために。

 

「縛道の六十一『六杖光牢』」

 

胴を囲むように光の帯が拘束をする。

そのまま側頭部へ蹴りを見舞う。

体格の違いがある以上、一気に足をふらつかせる。

 

「まだだ」

 

胸倉をつかみ、持ち上げる。

地面に向かって叩きつける。。

頭部から血を流すほどの衝撃。

 

「がっ……」

 

腹部へ前蹴り。

背中を地面に打ち付けて何度も跳ねる。

それを瞬歩で追いかける。

既に『六杖光牢』は消えているが攻撃の衝撃や損傷が動きを鈍らせている。

 

「全てを合わせればこれだけ開く」

 

負けを認めてもらうからな。

喉に刀を突きさす。

それを際の所でかわしている。

だが顔に向かい、手を伸ばせばいい。

 

「破道の六十三『雷吼砲』」

 

その一撃でまた相手が吹き飛ぶ。

裾を踏みつけて逃がさない。

脇腹に刀を振るう。

 

「ぬあっ!!」

 

手応えはあった。

だが緩めるつもりは毛頭ない。

手首を返して追撃で繰り出す。

 

「うおっ!!」

 

回避がもはや間に合っていない。

斬られていく『年輪』。

血を流していて目が霞み始めたのだろう。

 

「認めろよ」

 

もう一度喉を裂きに行く。

それを転がり避けていく。

無駄だ。

それを起き上がらせればいい。

 

「破道の三十一『赤火砲(しゃっかほう)』」

 

地面に打ち込む。

それで浮き上がったのを蹴りあげる。

終わりにしてやる。

 

「目覚めたら教えろよ」

 

肩の方は一つ残っている。

それを切り裂き、足を斬る。

それで完全に動きは止まる。

その後に気絶するまで殴り倒す。

 

「主と認めざるとえないか……」

 

それを最後に『年輪』の意識が途切れる。

そを見届けて刀を鞘に収める。

これで戦いは終わり。

 

.

.

 

卍解の名前を教えてもらう。

しかし極めて珍しいものだと言われた。

その理由は……

 

「解号で本来の力を使う状態になる」

 

卍解するだけならばただただ霊圧の増強。

そのでかい霊圧を凝縮して斬りつける。

つまりは……

 

「能力解放しなかったら、はた目から見たら残念な卍解扱いじゃないか?」

 

そう言うと溜息をつかれる。

能力が強力無比だから封を施しているんだ。

そう言われるが、能力を明かすつもりがない。

 

「迂闊に使うものじゃない」

 

いざという時の切り札。

その事実は変わらない。

さらなる制御をするように。

その言葉を最後に今日は消えていった。

 

「制御をするという事は広範囲に影響を及ぼしかねない」

 

そう推測をする。

能力としては『催眠』や『感覚操作』。

『毒の散布』、『氷結系』及び『炎熱系』とある。

しかし、どれも当てはまりそうにはない。

能力の方向性が著しく変わっているからだ。

 

「いずれにせよ軽々と使わないようにしないとな」

 

能力を確かめて、本当に危険なものだったら禁止する。

敵味方問わずに巻き込むものなら嫌だし。

 

能力の解明はすぐに終わった。

ただ『年輪』が言っていた通りだった。

強力無比。

ただその一言に尽きる卍解。

 

「この能力は現在の護廷十三隊にはいない」

 

唯一無二。

それが一番心地よい。

誰にも理解されない、秘密そのもの。

 

「しかし、使えない」

 

結局、封印の結論。

仲間内でやり合えるものですらない。

仮に使う事があるとすれば、とんでもない巨悪との戦い。

もしくはかつてない強敵。

 

「その時までは解放しない」

 

そう言って鞘に収める。

しかし、これをはたから見たらただ大きくなっただけだな。

一尺五寸ほどから三尺ほどに。

まあ、一気に間合いも伸びて面白い。

 

「隊長格への試験の時は見せないといけないのか」

 

重要な事を失念していた。

だがこれを制御できるようにしないと。

見てもらえる人が口の堅い人だったらいいのに。

確実に四楓院隊長は駄目だ。

 

「選べるわけじゃないからなあ」

 

出来れば浮竹隊長と卯ノ花隊長。

自分が受けるころには曳舟副隊長が隊長になっているかもしれない。

その三名と総隊長なら安心して卍解できる。

 

「副隊長、警報です!!」

 

またこの流れか。

前回も始解ができるようになった途端、呼ばれたからな。

今回の規模は幾らか聞いてみた。

 

最上級大虚(ヴァストローデ)級の反応がありました!!」

 

試し切りには十分だ。

誰が来るのかも聞いておかないと。

 

「七代目剣八以来の討伐になるのか」

 

そう言って首をこきりと鳴らして、現世へ降り立つ。

気合十分というように敵のいる方向へ向かう。

血の臭い、もしくは鉄の臭いがある。

 

「こいつはすごいもんだ……」

 

相手がいる場所は倉庫だった。

子供を誘拐していた大人たちの首がねじ切られていた。

というよりも罪人たちだけが全てその対象になっている。

せめて子供の目に見えないようにしておけ。

心的外傷を負ったらどうするんだ。

 

「死神か、喰らわせてくれ」

 

相手がこちらを向く。

熊のような体躯。

前傾姿勢となる。

倉庫から子供たちが逃げ切った瞬間。

 

俺は抜刀していた。

相手は突撃で体ごとぶつかってくる。

質量を受け流すが霊圧が倉庫に穴をあけていく。

 

「俺の力を受け止めろ」

 

拳を振るってくる。

風が切り裂いてくる。

直撃すれば骨を圧し折る事は確実。

 

「縛道の六十一『六杖光牢』」

 

それは面倒だと思い、動きを止める。

そして相手に向かい、最大出力の破道を『ある技術』を用いて放つ。

息を吸い込んで集中する。

 

千手(せんじゅ)(はて)

届かざる闇の御手(みて) 映らざる天の射手(いて)

光を落とす道 火種を(あお)る風 集いて惑うな我が指を見よ

光弾・八身(はっしん)九条(くじょう)天経(てんけい)疾宝(しっぽう)大輪(たいりん)・灰色の砲塔

弓引く彼方 皎皎(こうこう)として消ゆ」

 

背後から長細めの三角形の光の矢が無数に出現する。

相手に狙いは定まった。

手を下げて最後の一文を紡ぐ。

 

「破道の九十一『千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』」

 

相手に無数に降り注ぐ。

しかしこれで終わりではない。

『ある技術』を用いたことによる効果が出てくる。

 

「六度、その身を晒せ」

 

一度終わったはずの鬼道が再度発動する。

縛道が解けた相手が前に進めないほどの連続攻撃。

これこそが俺が手に入れた新しい技術。

『疑似重唱』と言い、都合六度の詠唱と同じ効果を発動させる。

 

「くあああああっ!!」

 

腕を交差して何とか耐えようとする。

その間に両手で持った刀。

それを頭に突き刺すために跳躍する。

 

「それで終わりじゃないけどな」

 

自らの体に縛道を行う。

『曲光』で体を認識できないように隠れる。

相手が見失っている瞬間に頭部の中心。

急所に一撃を叩き込む。

 

「ぐがあああ!!」

 

気づいたがもう遅い。

このまま振り下ろしていき、攻撃の範囲から逃れる。

 

「狡猾な男め……」

 

相手は深々と顔を切り裂かれていた。

仮面に罅が入っている。

速く勝負を決めるか。

 

「生死がかかった場面で狡猾も何もありはしない」

 

その前に狡猾という言葉に苦言を呈する。

そんな事を言われても戦いなのだ。

死ねばお終いな世界。

全ての策と技と力を用いる。

誹りを受けるようなことはしていないと自負している

 

「正々堂々がお好みならば果し合いでも仲間内でしていろ」

 

そう言って脇腹を切り裂く。

足を切り裂き、機動力を奪う。

すると相手が驚きの行動に出始めた。

 

「うがああああ!!」

 

仮面を無理やりに剥がしていく。

これは止めなくてはいけない。

しかし……

 

「があああっ!!」

 

咆哮で吹き飛ばされる。

倉庫が完全に崩壊していく。

相手が仮面をはぎ取り終わると無造作に放り投げる。

そして……

 

「最高の気分だぜ……」

 

霊圧が跳ね上がる。

恐怖はない。

しかし口角を上げて呟いていた。

 

「じゃあ、心おきなく使わせてもらおうか」

 

鞘に一度収める。

そして再度引き抜く時に言葉を放つ。

 

「『卍解』!!」

 

鞘の色も刀の色も変わる。

そして長さも変わった。

 

「『年輪(ねんりん)(かさね)(うた)』」

 

俺の刀が変わり目つきも変わったのを感じ取った相手が微笑む。

おおよそ戦いへの顔になったと思っているはずだ。

しかし。その笑みもすぐに塗り替わるだろう。

 

「面白いなぁ!!」

 

吹き飛ばしていい気になっていたのだろう。

もしくは俺の霊圧の上がり方が緩やかだったからか?

その鈍い腕に向かって刀を振り下ろす。

『それ』は無造作に地面に転がっていく。

 

「なっ……」

 

腕を斬り落とされて驚いている相手。

これほどまでに差があるとは予想外だったのだろう。

内心溜息を出していた。

 

「せいぜい、覚醒直後のお前の霊圧の上昇具合は二倍ほどだ」

 

それにその姿にはまだまだ先がある。

そう考えればこの差も許容するべきかと思えた。

 

「卍解した場合、その霊圧は五倍から十倍になる」

 

その言葉に青ざめる。

元よりこちらが上だった。

それがさらに広がったのだ。

無理もないだろう。

 

「つまりお前が勝てる道理は微塵も有りはしない」

 

その言葉を最後に頭から真っ二つに切り裂く。

そして死を見届けた後に鞘に刀を収める。

 

「……で、いつまで出歯亀な真似しているんだ?」

 

あの欠片を奪った日から五年間の間、欠片を埋め込んだ手袋をどんな時でもつけている。

警鐘がまだ止まないのだ。

この男の心を知ればこれは終わるのだろうか?

 

「藍染八席」

 

暖簾をめくるように空間に手をかけて露わにする。

頭を掻きながら弁解を始める。

 

「いや、私が出すぎた真似をしてはいけないと思って」

 

じゃあなぜ隠れる必要がある。

遠く離れたところに居てくれる方がまだましだ。

疑惑の目を向けてしまう。

 

「まあ、それはいいんだが……」

 

話を打ち切って藍染に別の話をする。

黒い噂というわけではない。

しかし五番隊は精鋭揃い。

だからこそ、それほど暇がないはず。

それゆえに気になっている。

 

「最近、流魂街でよくお前を見かけるという噂があるが真偽はいかほどかな?」

 

そう言うと少し心がざわついた。

この後の答えが嘘ではないかという予感がした。

本当は目に見えないところでとてつもない行為に身を染めようとしているのではないかと。

 

「他の平隊士の方と仕事柄の徘徊ですよ」

 

はぐらかすように当たり障りのない答え。

嘘だと見抜かせたいというのが見える。

それに乗ってもいいが、ここで推理をする。

人数が必要なことで悪事につながる。

それはあくまで推測だが魂魄に関しての事案がおおよそだ。

しかし流魂街の魂魄を消し去っているのならば、即時に連絡が入る。

そうではないのなら……

 

「まあ、それならとやかくは言わないよ」

 

そう言って尸魂界に帰っていく。

奴からすれば何か仕掛けておきたいのだろう。

しかし、何も起こさないところを見ると、あの話を餌にしている。

調査をしに来たところを悪事だったならば擦り付けて『蛆虫の巣』にでも入れる腹積もりか?

いずれにせよ引き続き警戒しておくに越したことはない。

 

「そう言えば新しい隊士が入ってくるみたいだが聞いているか、藍染?」

 

聞くと頷き返してくる。

こういった形でこいつに意識を向けておかないと。

いつ寝首を書かれるやら。

 

「ええ、面白そうな人材は見つかっては居ませんがね」

 

お前の基準だからな。

俺も最近は食指が動くやつは見てはいないけど。

『蛆虫の巣』に不法に入って涅と話すほうが楽しいし。

 

「まあ、俺も会ってはみようかな」

 

そう言うと降り立って自分の隊舎に戻っていく。

そんな時に一つの影が見える。

彼に対して声をかけるのであった。

これが自分の初めての愛弟子になるとは露一つも思わずに。




主人公の卍解はギンと同じように本当の能力は解号で発動する奴です。

今回の相手は最上級大虚でもそれほど強くない個体だったという事で一つ。
グリムジョーたちが成長した方が明らかに今回の相手より強いです。
卍解を使ってはいますが、あのまま始解を使っていても勝てた可能性は十分にあります。
主人公の卍解の能力は一体何なのか……。
そして、入隊してきたやつとは誰なのか?

指摘などありましたらお願いします。


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『不運 - Unlucky-』

原作キャラがボロボロ出ています。
ただ、ここ最近ヒロインが欠場しているので、次回から出そうと思います。



あの最上級大虚の討伐から早くも一年と八か月。

自分が初めて入った時から数えると三十五年。

あの後の藍染を追いかけてはいた。

徘徊なのは間違ってはいない。

しかしどうも解せない。

そう思って何度か声をかけていた。

何名かは思惑から逃れただろう。

こいつはよく見ておかないといけない。

警戒から遠ざけても問題しかないだろう。

 

「魂魄の塊みたいなものだったが……」

 

中には死神の素養を持っている奴もいた。

そいつらから魂魄を削り取っている。

その目的は理解できていない。

 

「斑鳩さん!!」

 

後ろから声をかけられる。

その声の正体は……

 

「東仙か、どうした?」

 

わざわざ追いかけてこなくてもいいのに。

自分が幼馴染の綱彌代副隊長を救ったと知ってからお礼を言いに来た。

それ以降、このようについてくる。

 

「今日も道場で一戦交えさせてはいただけませんか?」

 

浅打での戦いなのだがな。

切り傷も当然できてしまう。

刀を握るのを怖がっているようにも見える。

だがそれでも押し留めて毎回向かってくるのだ。

 

「分かった、道場に行くか」

 

そう言って現在、東仙が所属している九番隊の道場を借りる。

久南さんの面倒を見せられているらしい。

速く誰か来ないかと思うほどに振り回されているとのこと。

 

「反射的に半歩で避けられるように常に構えろ」

 

構えにも指摘をする。

俺のように戦いを楽しむことをしない。

ならば致命傷の危険からなるべく遠ざけよう。

それこそがこの男にはいい。

 

「俺は初めて刀を握る事が怖いと思えたよ」

 

そう言って構える。

自分を慕ってくれる男を斬り殺しかねない力。

同期の誰よりも突出しているという事実。

あの人以外、指標がないゆえに崩れていた常識。

それをまざまざと見せつけられた。

 

「自分の握る刀に怯えないものに、その刀を握る資格はありません」

 

そう言ってほほ笑む。

それがお前の持論か。

深いものを感じるな。

そしてきっとそれは正しい。

 

「じゃあ行くぞ!!」

 

刀を打ち付けあう。

本気ではやっていない。

きっとあの人もこんな気分だったのだろう。

自分の力を脈々と受け継ぐもの。

それが現れる事の、なんと甘美な事か。

吸収していき、強くなっていく者の、なんと頼もしき事か。

 

「そっちの攻撃は羽織に掠りもしないな」

 

半歩で避けていく。

受けそうなときは叩き落す。

喰らっていい気にさせるつもりはない。

 

「それでも前回よりはこちらも避けています」

 

軽やかに避けていく。

無駄がないほどだ。

 

「だが……」

 

無駄がないからこそ読める。

それが最短、最速。

分かりやすすぎるのだ。

騙し合いに向きそうにもない動き。

洗練されれば見抜いたところで無意味と言えるのだろうが。

 

「少しは緩急を交えてくれ」

 

浅打を弾き、喉元に突きつける。

鮮やかな動きでまずは一本。

言っておくがこれが実際の殺し合いなら終わっている。

 

「はいっ!!」

 

そう言うと瞬歩と軽やかな動きで惑わせにかかる。

なかなかに実行力が高い。

自分の教え方が上手いとうぬぼれる気はない。

こいつが素直だからこそなしえる事だ。

 

「だが、それでも……」

 

軸のブレが見えている。

慣れない動きだからな。

そんな隙を見せすぎたら……

 

「格好の的だぜ」

 

速く動いた瞬間に合わせて密着するように瞬歩で詰める。

そこから離れようとするが体勢が崩れる。

その瞬間、腹から喉笛を切り裂くように刀を動かす。

斬れてはいないが二本目。

 

「全力で真剣にやらせてもらってもいいか?」

 

木刀を借りて了承を得ようとする。

当然いいと東仙は頷く。

じゃあ、心おきなく……

 

「きええええええ!!!」

 

雄たけびと共に瞬歩で懐へ。

その姿に驚いて反応が遅れる。

いちいち驚いたら持たねぇぞ。

 

「しゃあっ!!」

 

刀を弾き飛ばし首筋に一閃。

寸止めをするが三本目を取る。

刀を拾い直して瞬歩をするが……

 

「どこに行く気だ?」

 

横っ面から叩きに行く。

ただの動きが瞬歩以上の速度。

埒外の存在。

そのように感じているだろう。

 

「はあはあっ……」

 

今、奴は霊圧をどう感じているのだろう。

息が詰まるぐらいなのか?

今にも意識が彼方に飛びそうな憔悴度合いだ。

周りを見渡すと倒れている俺を含めた三人以外の隊士が倒れている。

普通にしているのは久南さんぐらいだ。

とは言っても冷や汗をかいているが。

 

「倒れるにはまだ早いぞ」

 

そう言って五度目の一撃を放ちにかかる。

ゆらりと揺れる様に。

風が吹き、飛んでいく蒲公英(たんぽぽ)の綿毛のように。

東仙の体が舞い上がった。

脱力をしてしまった事により、体が飛ばされたのだ。

その瞬間に体勢を立て直して懐に入り込んできた。

 

「はあっ!!」

 

唯一の機会。

そう信じて疑わない。

だが……

 

「まだ喰らってやるわけにはいかないな」

 

速さがまだ未熟だ。

偶然ともいえる懐への入り込み。

それを逃さないようにするのはいい心がけだ。

刀を弾き飛ばして心臓に対して突きつける。

 

「やはり強いですね」

 

微笑みながら鞘に収める。

だがまだまだこちらをじろりと見ている。

きっと全力だったか調べているのだろう。

始解も使っていないのだからまだまだ底は見せてはいないけれどな。

 

「お前に一太刀でも浴びせられたなら、調子づかせかねないからな」

 

それが成長の妨げになってはいけない。

故に厳しく。

強い一撃で戦っている。

 

「一太刀ならば次は二回浴びせられるように努力するまでです」

 

汗を流しながら通る声で言ってくる。

それは嘘偽りのない真っ直ぐな一言。

その向上心はきっとお前に力を名誉をもたらすだろう。

 

「体の汗を流して任務に戻れよ」

 

そう言って四番隊の隊舎に戻る。

仕事をした上でなので卯ノ花隊長からも咎められない。

それにしても詰まらないな。

今日はひよ里さんも矢胴丸さんと食事に行くと言っていたし。

 

「仕方ないな……」

 

副官室に入ってある研究成果の論文を取り出す。

そして興味深い部分から伝がないか確かめに行く。

当然『蛆虫の巣』だ

 

「久しぶりだな、涅」

 

足に枷をつけた状体でこちらを見てくる。

こちらが前に見せた論文についてはどうだろうか。

そちらの知能の高さから見れば十分に改良の余地があるはずだが。

 

「『被造魂魄』については非常に興味深い、確かに私も夢見る題材だ」

 

しかし、段階まで事細かに書くのは凡人ゆえの不安さからだ。

確かに懸念している部分は間違っていない。

そこを埋める最善の手をその間に見つかれば十分に短くなる。

そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 

「で、何の用事だネ?」

 

滅却師(クインシー)の生体が欲しいのだ。

相反するものとの力の合致は思わぬ恩恵をもたらす。

研究し尽くしてはいるだろう。

しかしさすがの涅と言えどもわざわざくだらない部分までは見ないかもしれない。

 

「奴らの生体が欲しいとハ…」

 

研究済みのものなのにいまさら……

そう言いたげな顔である。

それに対してこちらも意見を言う。

 

「光の矢が奴らの霊圧ならば凝縮したら、面白いものに使えるのではないかと思ってな」

 

霊圧の制御が必要になる。

それに武器を相手に構えさせるという危険性も付いて回る。

収穫を考えても、間違いなく割に合わない研究内容。

それは予想外の内容だと顔を歪ませた。

 

「本命はそれだけじゃあないだろう?」

 

しかしそれを見せたのも一瞬の事。

先の事を見据えているのではないか?

それを言っているのだろう。

当然、興味の対象はまだある。

しかしそれは一つの事柄を終わらせてからだ。

 

「あくまで研究の為だ、まずは解明が先だよ」

 

だから次の滅却師を捕らえる機会はあるのかな。

それを聞かせてほしい。

 

「確かに護廷十三隊の中に息がかかった奴はいるガ……」

 

それだけではうまくいかない。

死んだ状態が欲しいのならばわかるが、生きたまま連れてくるのはね。

そう言われてしまった。

自力で連れてくるか。

 

「じゃあ、また研究論文について話し合おう」

 

そう言って去っていく。

また、浦原には小言を言われた。

あいつを瞬時に気絶させて鍵だけ奪う。

それだけでも面倒な内容だ。

理解を示して入れてくれたらいいのに。

 

「お前も分かっているはずだ」

 

罪を犯したわけでもない。

それにあれだけの頭脳。

適材適所を与えればどこまでも有益な結果を生んでくれる。

 

「分かっていますがそれだけの力がありませんから」

 

好きにできるほどの権限は無いからな。

でも、それならそれでこういった事をするしかない。

会うのに許可がいる奴なぞ居ない。

それはお前が閉じ込めているから必要になっているだけだ。

 

「しかし……」

 

どうやって捕まえようか。

それを考えながら歩く。

すると変な歪みが見つかった。

それが何かは分からない。

 

「これは一体?」

 

藍染を見つけた時のように、その空間を掴む。

しかし次の瞬間、それを弾いてきた。

まるでそこに何かがある様に。

 

「見つけたのはお前の『幸運』、そして入れないのはお前の『不運』」

 

そんな声が聞こえてきた。

その歪みは消えていく。

一体その向こうに何が存在するのか。

 

「山本総隊長に相談するか」

 

遮魂膜の内側に居る。

正体不明の存在。

それが何を意味するのか。

 

.

.

 

逐一の報告が必要。

そう思ってすぐに一番隊舎へと赴く。

雀部副隊長を同席させたうえでの話。

 

「一体どういう事なのでしょうか?」

 

苦い顔をしている総隊長。

顎に手を当ててしばらく考え込む。

そして口を開いてこちらに質問を返してきた。

まだ、答えてもらってはいないのだけれどな。

 

「歪みがないとそれは確認できんか?」

 

鬼道の跡ならばまだ追跡で確認可能。

しかしそれではないので偶然。

今回の場合は本当に緩んだ綻び程度。

普段から出るものではないと推測できる。

そのように伝えると頷いてこちらの言葉を汲み取る。

 

「奴らには最大限の注意を」

 

混乱を招かないように、内心にとどめよ。

それだけ伝えられる。

一体何者だったのか。

そういった情報の提示はなかった。

帰る様に言い渡されたため、仕方なく一番隊舎から出る。

 

「興味や好奇心で調べる範囲ではないという事か」

 

苦い顔をしている以上、何かしらの関係はある。

因縁なのかもしれない。

いずれにせよ、調べたり吹聴すれば総隊長から拳骨を振り下ろされかねない。

 

「随分と浮かない顔しとんなぁ」

 

平子さんに声をかけられる。

今日は非番だったか?

いや、この人の事だ。

部下に押し付けて職務を放棄しているのだろう。

 

「いや、ちょっと考え事で」

 

滅却師など知る由もないだろう。

無意味に混乱を作ってもいけない。

すると内容を勘違いしたのか。

思いっきり関係ない部分を聞いてきた。

 

「藍染の事か?」

 

あいつに対して気を配っているらしい。

しかし刀の欠片までは持ってはいない。

いずれはあいつに謀られる。

微細に砕いておいたものを仕込んだお守りでいいか。

 

「違いますけどね、まあそれも悩みの種ではあります」

 

あいつが時折見せるのは寂しい顔だ。

あいつの実力が並外れたものだと肌で感じ取れる。

そしてそれに並べるものが同世代に居ないという事。

理解されることも全くないという事。

 

「真意を量れない」

 

あいつが凶行に走らないように。

先達としてみてやるべきではないだろうか。

悩みを打ち明けるなり、腹を割って話し合いたい。

 

「あいつは危険な奴や」

 

それについても同意はできる。

だからと言って見捨てるような真似はできない。

あいつを理解したらきっと……

 

「足元すくわれるなや」

 

明らかに呆れた顔をして去っていく。

そうやって警戒して距離を取っておけばいいってわけでもない。

あの男の頭脳ならば一歩先を読んでくるだろう。

 

「そっちこそ、距離取り続けててもだめですよ」

 

こっちはこっちであいつを探る。

そしていずれ、あいつが自分から歩み寄り打算もなく打ち明けてくれたなら。

初めて仲間と、友と言える。

そうなりますようにと祈るような気持ちで心を満たしていた。




まさかのひずみを感知。
あのまま出ていくと実はユーハバッハからしたら絶体絶命。
まだ鼓動すら取り戻していないので普通にやられる危険が大きいです。

東仙が本気の霊圧に耐えていますが、まだ実は手加減しています。

今の斑鳩の実力としては普通に並の隊長格以上はあります。
最終地点はどうしたものかと悩んでいるくらいです、
そして、東仙の檜佐木への教えが斑鳩経由と言う設定です。
ただ、師としても東仙の言葉に動かされています。

何かしらの、ご指摘ありましたらお願いします。


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『称号 - Degree- 』

いい加減拮抗した戦い、書かないといけませんね。
ヒロイン成分も少なくなってしまいました。
次回こそはもっと日常ぽくしていきます。


東仙が戦いを挑むようになって、はや五年。

皆、同期が副隊長から第四席ほどになっていた。

ひよ里さんが第五席のまま、変わらない。

実力はあるが、老練な相手が多く引退待ちという感じなのだ。

あとは、平子さんが副隊長で愛染が第五席。

拳西さんが九番隊に移籍して副隊長になったぐらいか。

 

藍染とは話はするが相変わらずかわされる。

深いところまでは知られたくないとする形だ。

壁を作られている気がする。

 

この五年間でいろいろ研究もはかどった。

郊外のあばら家に今までの研究を持ち込んでいる。

誰かが不法に入ろうとすると爆発するような仕掛けまで施した。

機材も自分で作ったりしていた。

時間はあったし、自分に合ったものを買いあさるのは面倒だから。

『ぎやまん』も結構高い。

 

「しかし魂魄に関しての研究は進まないな」

 

死亡した死神隊士の魂魄と狩った虚の魂魄を合わせていた。

相反しないものを組み合わせるとどういった事になるのか。

好奇心でしかない。

融合をしていくのまでは分かった。

境界線が徐々に崩れていく様も確認できた。

 

「力を求める場合はやむなしだろう」

 

ただ、こんなものは封印するに限る。

この経過観察以外はすべて残りの魂魄を消滅させておいた。

自分の中に成果は全て残っている。

 

「生体に組み込むこともやめておくべきだ」

 

毒性が強い場合、あっという間にこれは進む。

死んだ肉体故に結果は取れてはいない。

しかしきっと感情の昂ぶりなども原因になり得る。

 

「そして……」

 

自らの血液から作り上げた生体情報。

そこから生み出すための試作段階。

本格的な始動は涅の力が不可欠。

 

「やはり魂魄は不安定な状態か」

 

糸のような存在。

遺骸は保存しておかないといけない。

研究資料、論文は涅に連携しないと。

 

「脳髄の元がないし、細胞分裂の部分についてもかなり敷居が高い」

 

先に脳から作らないといけない。

大脳が核となる考え方。

最終的に感情や記憶を司るものだ。

この計画に終わりが来る事は無い。

その理論が正しければの話だが。

そう言ってあばら家から出ていく。

.

.

 

「最近、なんかやってるんか?」

 

とある昼休みにひよ里さんから聞かれる。

研究をしている事を伝える。

魂魄はどういった構造から現状成り立つのか。

そういった形でぼかしておいた。

 

「そんな小難しい事もするんやな」

 

刀での鍛錬馬鹿と思ってた。

そう言われてしまうと返す言葉は無い。

 

「それはそうと聞いてるか?」

 

最近、鬼厳城五助という男が目撃されたらしい。

その強さは現在の十一番隊の隊長以上とのこと。

痣城の『剣八』は投獄だから特例で認められた隊長。

だから実力が劣っていても無理はない。

 

「つまりぽっと出が侵入してきて十一番隊の隊長を殺して隊長になるんや」

 

そうなる前に動かへんのか?

そう言われるが興味がない。

 

「『剣八』を名乗るとしても適切でなければ動きますよ」

 

皆にも言っていないが卯ノ花隊長の本性を知っている。

全ての流派を極めた人、『八千流』であること。

そして、初代『剣八』であること。

あの人以外が名乗る事は『同じ時代に一人』というしきたりに従って動かざるを得ない。

 

「まあ、負ける方が悪いとしか十一番隊については言えません」

 

つまりはあの人に斬り殺される可能性がある。

仕方なく動いていないだけだろうが。

仮にあの人が殺せというならそれも辞さない。

『剣八』に相応しくないと決めればの話だ。

 

「それとも俺がなれって意味ですか?」

 

そういう意味やねんけど。

そう返されても困る。

仮に『剣八』であの人がふさわしいと認めた相手が来たら……

護廷十三隊にとって戦力を失う。

それに鬼厳城を殺せたらその時点で俺もかなりの戦力だ。

 

「実力で決まるのはいいですが、突然現れてしまうものですから」

 

死と隣り合わせの隊長なんて辛すぎる。

きっと実力に覚えがあってもしたがらない。

臆しているわけではない。

己を超える実力者がいずれきっと現れる。

 

「まだ見ぬ強敵って奴か」

 

俺の眼差しが臆病から来ているわけではない。

それを分かったから冗談だと、ひよ里さんは言ってくれる。

まあ、鬼厳城が十一番隊に入る際、酷かったら斬るやろ?

そう言われて頷く。

治安を乱すのであれば無論。

 

「まあ、見てみないと強さは分からないので」

 

そう言って立ち上がって二人して店を出る。

しかし噂になるほどの強さ。

卯ノ花隊長に話を通しておくか。

 

.

.

 

「如何いたしましょうか」

 

人払いをした隊首室。

髪の毛を降ろした『八千流』の状態で話を聞く。

髪をかき上げて一言。

 

「捨ておきなさい」

 

そんな有象無象など、私からすれば意味がない。

それに質が下がっている。

まだ七代目と八代目はいい方だった。

その目は確固たる無関心があった。

 

「私がただ一人『剣八』に相応しいと認めたもの以外が名乗っても所詮はまがい物、最も刀を引き継いだ貴方には及びません」

 

つまり護廷十三隊でも自分がかなり強いものだと認められている。

しかし、この方が認めている『剣八』は俺よりも強い。

面白い事だ。

やはり見えないところで強者は存在する。

 

「しかし、品行などがあまりに悪かったりすればうっかりという事も有ります」

 

護廷十三隊の隊長としてあまりにも不適格であれば切り捨てておくに越した事は無い。

迎合をしても何の利益ももたらされないからだ。

 

「捨ておきなさいの意味が分からないのですか、『どうでもいいのです』よ」

 

それはすなわち、鬼厳城の生死すら大した問題ではない。

俺が見つけ出し、斬り殺してしまおうと。

返り討ちになるはずもない。

そう信頼している。

 

「それでは如何ほどにもさせていただきます」

 

そう言って去っていく。

興味をあそこまでなくした眼差し。

つまり『剣八』として不適格と言った確信。

 

「強さなのだろう」

 

あの人が認めた力。

それこそが不可欠。

『剣八』を受け継ぐにふさわしい者。

 

「居るであろう流魂街にでも行くか……」

 

『剣八』を穢す者になり得るのであれば粛清を。

あの人の名を穢す事に他ならない。

 

「さて、行くか」

 

羽織がよく見えるように、副官章をつけたままだ。

荷物を持っていく。

これは喧嘩を売ってきても、こちらが喧嘩をしても誰かわかるようにしている。

報復ならば俺に直接来いという意思表示だ。

 

「あっ、死神だ」

 

町の人々も俺を見て手を振る。

これは何かくれと言う形だ。

礼儀とかもそれほどない。

お菓子の袋や水瓶を道端の邪魔にならない場所や軒先に置いておく。

 

「わあっ!!」

 

目を輝かせて取りに行く。

皆に平等にわたる分の大きなものを選んで持ってきたからな。

数里ほど、向こうで嫌な雰囲気を感じ取る。

 

「これは危ないな」

 

俺の望みがかなうという予感。

しかし、それと引き換えに危うい事が別の誰かに起こっている。

瞬歩をしてすぐに駆け付ける。

 

「ぐあっ……」

 

到着寸前に酒盛りをしてると思われる場所から投げ飛ばされる人影。

その人物と羽織を見る。

何名か積まれているが絶命している。

 

「治安の為に回っていた九番隊じゃないか……」

 

席官でも一桁の人。

それが襤褸雑巾のようだ。

そんな状態を治療する。

 

「無法地帯なだけあって建物も崩れかけてる」

 

投げ飛ばされていた場所の前に立つ。

霊圧を感じ取っているのか。

近くの人は震えたりしている。

 

「やめてよ!!」

 

入り口で声が聞こえる。

聞き覚えのある声だ。

怒りの為か、張り上げた叫び声が聞こえる。

 

「何事だ!!」

 

俺はすぐさま入る。

目に映ったのは服を引き剥がされそうになっている久南さん。

これはまずいと思って即座に無詠唱の鬼道を使う。

 

「破道の三十三『蒼火墜』!!」

 

顔面に喰らって相手が手を離す。

その腕を掴んでこっち側に引き寄せる。

 

「あっ……ありがとう、たけるん」

 

久南さんがお礼を言ってくる。

俺は振り返らず、相手を睨み付けている。

絞り出すように久南さんに言う。

 

「ここから離れて、そして三名の隊員の隊葬の用意を」

 

俺の怒りを感じ取っているのか。

頷くとすぐに出ていった。

相手も俺に対して殺意を漲らせた目を向けてくる。

 

「てめぇ!!」

 

不意打ち気味に拳を喰らう。

壁を破って、隣の無人の廃墟に埋もれた。

 

「この鬼厳城様に喧嘩を売ってんのか、まあ死んだだろうがよ」

 

そんな声が聞こえたので起き上がる。

あれが鬼厳城か。

斬り捨てて問題の無い奴だな。

それに対峙したときに、恐怖心もない。

負ける気がまるでしないのだ。

 

「この程度か、かゆいんだよ」

 

壁を破った程度でいい気になりやがって。

全然痛くない。

これが『剣八』を名乗るなどおこがましい。

 

「もっとしっかり来い、下劣な豚が」

 

その言葉に顔を怒りで赤くする。

そして蹴りを繰り出す。

それを掴んで持ち上げた。

 

「なっ!?」

 

自分の巨体を持ち上げるとは予想外だったか?

見た目で判断して愚かしい奴だ。

そのまま地面に叩きつける。

 

「速く起きろ」

 

腹部に蹴りを叩き込む。

その一撃で体が浮く。

 

「げべっ!!」

 

呻き声を上げて転がる。

そんな兄貴分を見て激昂した手下が後ろから殴り掛かってくる。

その腕を掴んで一気に握りつぶした。

 

「ぎゃあああ!!」

 

斬り捨てていくか。

『浅打』を引き出して、トントンと頭に当てる。

相手にも意味が分かったのか、青ざめている。

悪いが俺は仲間を三人もやられて黙っているほど仏ではない。

それに久南さんに乱暴を働こうとしていたからな。

 

「死ね」

 

ただその一言。

脳天から綺麗に真っ二つ。

ぱっかりと左右に分かれて、どしゃっと音を立てて鮮血が噴き出ていた。

 

「手前、よくも!!」

 

起き上がった鬼厳城が怒って刀を抜く。

お前が先に俺の同期や仲間に手を上げていたんだぜ。

怒るのはこっちのはずだがな。

 

「『踏み躙れ』、『犀王(さいおう)』!!」

 

肉体が肥大化する。

そして斬魄刀は刀ではなく槌へと変貌した。

……仕方ないな。

 

「来い、見せてやる」

 

格の違いというものを。

片手で振り下ろしてくる。

別の手があまりに無防備だ。

 

「斬り落として体重を軽くしてやる」

 

居合でその一撃をかわしつつ、腕を斬り落とす。

ぼとりと音を立てていた。

血が噴き出ている腕だった箇所を見て叫んでいた。

 

「ぬがああああ!?」

 

その呆けた面を斬ってやる。

大きさとは強さ。

確かにあるが……

 

「お前程度ではたかが知れている」

 

皮膚が固くなっているなど幾らかの体の増強も有ったのだろう。

だが、そんなものも俺にとっては紙くずだ。

霊圧の差が大きすぎる。

始解もしていないのに。

 

「久南さんが始解もしていない状態だ、粋がっていいわけがない」

 

あの人が始解をしていたら、服を剥ぎ取られそうになる事は無い。

今のお前の始解を使わされていただろう。

実力はよくわかった。

並の隊長格よりは確かに上。

しかしそれでも京楽隊長や浮竹隊長にはかなわないほどと見ている。

もしくは雀部副隊長が本気になったら勝てないだろう。

 

「あの人が俺の相手になりはしないという意味が分かったよ」

 

あの人ならば隊長格が複数人でも勝ってしまう。

そんな人と殺し合う毎日。

そこで生まれた力が『まとも』なわけがない。

『化け物』と言って差し支えない世界の住人に足を踏み入れてしまっている。

 

「やってみろよ、『卍解』」

 

その一言に首をかしげる。

出来ないのかよ。

もう底は知れたってわけか。

 

「死んでもらうぞ、『刻め』」

 

刀を構える。

そして引き抜いて小太刀を出す。

霊圧も始解で上がっている。

 

「なんだよ、その玩具は」

 

俺の斬魄刀を見て笑っている。

実力差を感じ取れない程度なのか。

まあ、どうでもいい。

 

「斬り捨てて終わりにしてやる」

 

ますは、斬魄刀を真っ二つにする。

形に差があろうとも無駄だ。

実力が違いすぎているのだから。

 

「やってみろよぉ!!」

 

歯を食いしばり、怒りのままに振り下ろす。

余りにも遅い。

余りにも荒い。

あの方が冷めた眼差しをしたのも納得できた。

落胆のまま、一閃を放っていた。

 

「すまないな」

 

目標を間違えたわけではない。

斬魄刀を斬って長引かせてもつまらない。

これ以上は面倒だからだ。

初めの一撃で絶命させてやるべきだった。

いたぶるような形になったことに嘆息を禁じ得ない。

 

「斬魄刀のつもりが持っているもう一つの腕を斬ってしまった」

 

再びぼとりと落ちる。

前蹴りを放ってくるか?

そう思って構えるが体が前に倒れてきていた。

 

「おい」

 

低い声で威圧する。

まさか倒れるつもりじゃないだろうな。

 

「仮にも『剣八』を名乗ろうとしたんだろう?」

 

『幾度切り殺されようと絶対に倒れない』という意味だ。

倒れるような奴は死して良し。

やはり貴様には過ぎたもののようだな。

 

「……」

 

無言で倒れていく。

その首筋に刀を当てる。

口を開いていく。

一体何を言うつもりだ?

 

「やめてくれ……」

 

その言葉に冷たい視線を送る。

溜息すら出ない。

こんな奴はあの人が言うように捨ておくべきだった。

いずれは次の『剣八』に殺される程度の存在でしかない。

 

「戦いで殺すのも殺されるのも暇つぶしでしかないんだ」

 

その覚悟と狂った感性。

二つを無くしてはいけない。

命乞いなどもってのほか。

 

「永遠にお休み、『剣八』になれなかった誰かさん」

 

刀を振り下ろして斬り落とす。

返り血を被りながら命の灯火が消えるのを待つ。

 

「誰も彼も蜘蛛の子を散らしたように逃げていった」

 

廃墟から出る。

すると向こうから来る人影がある。

互いに通りすぎていく。

だがすれ違う時に感じた霊圧。

それは俺の細胞に訴えかけてくる。

 

「待て!!」

 

肩を掴んでその青年を止める。

くるりと振り向いた青年。

傍らには少女がいた。

 

「ねー、剣ちゃんに何の用?」

 

剣ちゃんと呼ばれて、さっきの事も繋がって邪推をしてしまう。

まさかこいつも知らずに名乗っている無礼な奴か?

しかしそれが違うと分かる。

まるでそれを名乗る事で何かを夢見るような雰囲気だ。

 

「すまない、少し霊圧に当てられただけだ」

 

そう言って足早に去っていく。

細胞の訴えはこうだった。

この男こそ『剣八』に相応しい。

速く卯ノ花隊長に伝えたい。

その思いを抱えて返り血を浴びた羽織という事も忘れて駆けて行った。




鬼厳城と取り巻きが死んだので東仙の幼馴染分の命は差し引きゼロで。
今回一方的ですが、実力だけ考えたら少なくても三十五年以上は毎日『八千流』状態と斬り合っていますので。
今の傑に勝てるのは死神の中では山本総隊長、雀部副隊長、卯ノ花隊長、京楽隊長、浮竹隊長、そして零番隊の兵主部一兵衛、二枚屋王悦。
……はい、化け物で問題ないですね。

指摘などありましたらお願いします。


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『告白 - Confession -』

今回は思わずの告白回です。
隊長就任とかの落ち着いた時とかでも良かったのですが、
抑えられるほど大人でもなさそうなので、このような形です。
基本的に直球なので逃がす気がまるでないです。


今、俺は卯ノ花隊長に睨まれている。

正しくは、卯ノ花『八千流』に睨まれている。

あの青年の話をした直後、機嫌が悪くなったのだ。

それも殺気を漲らせていた。

髪の毛も降ろしている。

 

「その青年が『剣八』に相応しいというのですね?」

 

その言葉に頷く。

あの霊圧自体は今の自分よりも少ない。

しかし、それは臨戦態勢ではないという事。

さらに付け加えるのであれば力を封じているという事。

際の際までを楽しむような形なのかもしれない。

だが、その奥底に潜んだものの大きさは間違いなく……

 

「ですがその青年がここに来ると思いますか?」

 

それは……

強い奴に会えると聞けばあの青年は来るだろう。

しかし、どうしたものか。

 

「まあ、探す必要はありません」

 

そう言って笑みを浮かべていた。

しかしそれは凄惨な笑み。

俺があの青年を見た時より幾倍の思いを凝縮したようなもの。

因縁でもあるのだろうか。

 

「出会ってしまうと疼いてしまいますので……」

 

羽織の上から胸元をさする。

一瞬になぞった所が僅かに沈んだ。

きっとその場所に傷があるのだろう。

 

「まあ、私だけではないでしょうが」

 

確かにあの青年の顔にも大きな傷があった。

実力伯仲なのか。

いや、苦い顔をしているという事は……

 

「いつの日かここに導かれるでしょうね」

 

髪の毛をみつあみに戻してにっこりとほほ笑む。

内心では煮えたぎる思いを抑え込んでいる。

それは無理をしているのがわかってしまう。

しかし、それを知ってむやみに連れてきてしまうと余計なお世話。

それはそれで傷つけるようなもの。

 

「それでは失礼します」

 

胸にこみ上げる想い。

それは単純な闘争心。

自分の中にこれだけの熱があったとは思えなかった。

あの青年と戦いたい。

そんな顔をしていると声をかけられる。

 

「どうしたねん、そんな返り血を浴びた羽織着て」

 

ひよ里さんだった。

まさか一日で昼に話していた相手を殺したなど聞いたら驚くだろう。

しかし隠し事は良くない。

羽織を着替えてだんご屋に居た。

 

「実はあのお昼の後、探しに行ったんですよ」

 

ほうほうと頷きながら頬張る。

しかし、目がだんごから離れてはいない。

そんな姿に噴出しそうになるが話を続ける。

 

「北流魂街の最下層に居ました」

 

ここで言う最下層とは七十番後半の地区。

治安の悪さが天下一品の場所である。

 

「それで?」

 

九番隊の上位席官が殺されてしまった事を言う。

するとどおりで拳西がどたばたしてたわけやと言ってきた。

そう言えば白もえらい着物が乱れてたなぁ。

 

「だってあいつ、久南さんに対して強姦まがいの事しようとしてましたよ」

 

そう言うと般若のような顔になる。

冷や汗をかいていた。

悪い事はしていないのに。

 

「久南さんに流れ弾当たらないようにしてちゃんと助けましたから」

 

だから穢されてはいませんよ。

そう言って、心底ほっとした顔をしていた。

しかし、軽蔑に近い眼差しを向けてくる。

心が痛む。

 

「白の胸とか見たんか?」

 

いや、そんな事は無かったです。

一大事なんで助ける事に精一杯でした。

そう言うと頷いて軽蔑の眼差しは無くなった。

 

「ローズとかもそんな真似せえへんけど同じで良かったわ」

 

これがアホの真子やったらじろじろ見てたやろな。

そう言って笑っている。

ただ、笑い事ではなかったんですけどね。

 

「そのお前の行いを褒める意味で飲みに行くか?」

 

水飲み鳥のように首を縦に振る。

それを見て笑っていた。

そして笑い顔のまま、言ってくる。

 

「そんなウチと飲めるのが嬉しいんか?」

 

何を当然なことを。

そう思った俺は顔を近づけた。

それに驚いた顔をしている。

 

「嬉しいに決まっているじゃないですか」

 

幸せな気分ですよ。

そう言って顔を離す。

いきなりの接近に面を喰らっていたがあっという間に立て直す。

凄い人だと思う。

 

「普通に言わんかい、普通に」

 

そう言われてしまう。

そっぽを向かれる。

しかし、怒っているわけではないようだ。

怒っていないのにそむける必要はあるのかな?

それがよく分からない。

 

「まるで紅葉のような手……」

 

思った事をそのまま出した、聞こえないほどの呟き。

小さな手だ。

柔らかそうな見た目。

何気なしに手を取りに行く。

 

「何をしようとしてるんや?」

 

気づかれて手を引っ込められる。

手を掴もうとしたことを正直に言う。

すると拳骨が飛んできた。

 

「恋人同士でもない癖にそんなことしてくんな!!」

 

全く……

そう言って腕を組む。

機嫌が悪くなっていた。

 

「恋人だったら良いんですか?」

 

さっきの言い分ならば、揚げ足を取ればそう言う話になる。

それを言うと口元をひくひくさせていた。

今日はやけにつっかかってきたり、体に触れようとしているからだろう。

 

「まあ、お互いが好き合ったならええやろ」

 

そうですか。

ずっと心揺さぶる思いを洗いざらい話してしまおう。

距離を詰める。

欲しいものは妥協しない。

永遠なんて存在しないから。

 

「ひよ里さんは俺の事は嫌いですか?」

 

いきなりの質問にひよ里さんは面食らう。

それに畳みかけるように俺は次の言葉を紡ぐ。

この混乱している状態なんて卑怯だけれど逃したくない。

酒に呑まれて言うよりはまだ正々堂々だ。

 

「俺はひよ里さんの事好きです!!」

 

口をパクパクさせている。

顔が真っ赤になっている。

林檎も今の顔の色には負けている。

俺も人の事を言えたものではないが。

 

「いつからや?」

 

顔をそむけたまま、聞いてくる。

いつからだと言われると……

 

「あの膝枕の時は朧気でした、しかしそれから話したり過ごすたびに、徐々に大きくなってきてました」

 

だから二十年前には気づいていた。

ただそれが『恋』なのかは分かっていなかった。

今になって恋人というから。

好き合った男女がそれなのならば。

 

好きという事、その人の全てを求める事。

その人を命を懸けても守りたい。

自分の世界にその人が入り込む。

その人の人生に自分が踏み込む。

それらをまとめて『恋』と呼ぶのだと、今気づいた。

 

「悪いけど、いきなりそんなこと言われて答えられへんわ」

 

それに仮に答えられてもそれは今回の質問からずれる。

きっと『好き』は『好き』でもそれは『恋』と違う。

それは友人に向ける『好き』である。

弟に向けるような『好き』である。

 

「うちが傍に居りたいって思わせるくらいの男になってみぃ」

 

強いだけとか、優しいだけとか。

そう言う男じゃあかん。

そんな簡単にウチを手に入れれると思うな。

魅力を感じさせるだけの男になってみろ。

そう言われてより一層奮起する。

 

「ただ、うちに女の魅力を感じるなんてなぁ……」

 

そう言って立ち上がる。

変な空気になってもうたやんけ。

そう言われてしまう。

面目ない。

 

「ちゃんと恋する相手は考えとけ」

 

一時の感情で見てしもてるだけや。

そんな悲しい事を言う。

こんな気持ちになるのは貴方だけなのに。

これが一時の感情なわけがない。

何故ならさっきも言ったとおり、長い期間この思いを持っていたのだから。

 

「とにかく今日は飲みに行くからな」

 

頭冷やしとけ。

そう言って十二番隊の隊舎に戻っていった。

だから冷やす必要はないんですって。

 

「全く分かっていない……」

 

魅力なんてものは自分の見えないところであるものなのに。

きっと体型とかそう言うのを見てあの人は劣等感を感じているのだろう。

それ以上に優しい人なのに。

真っ直ぐで努力をしている。

時に粗暴な所や我侭を見せてくる時もある。

でも、それは信頼の裏返しだと俺は思っている。

 

「何物にも代えがたい『心』や『性格』と言った内面の素晴らしさを」

 

成長とともに体型は変わっていく。

それにそれがあれば実力自体が全盛期ではなかったことの表れ。

それはまた喜べる証。

 

「絶対に貴方の傍に居てもいい男になる」

 

目標が定まった。

隊長になりたいとかよりも大きな夢。

あの人が自分の世界の全て。

殺し合いの中せめぎ合う人よりも大きく心を埋めてきた貴方。

 

「まあ、その前にやっておくことをしないと」

 

そう言って四番隊の隊舎に戻り、夜の前に殺し合いをして冷や汗を流す。

初めに比べたら大量の血が流れていないだけましだ。

拮抗しているように見えるがまだまだ隠されている。

速く追いつかないといけない。

か弱い男ではいけない、あの人がどういった場所に魅力を感じるのか。

それを知らない。

 

.

.

 

夜、居酒屋に集合する。

先に席に座って待っていた。

 

「頭は冷えたか?」

 

一対一かと思ったら仲間を呼んでいた。

鳳橋さんと矢胴丸さんだ。

基本的にひよ里さんに甘い二人。

さっきのような言葉を言わないように防壁を作ったつもりかな?

 

「いくらなんでも勢いで言ってしまうとは思わんかったわ」

 

くすくすと矢胴丸さんが笑っている。

外堀埋めるようにして周到に行くと思ってたけどな。

そう言われるが、対応してしまって口をついて出てしまった。

隠しようのない本音が。

 

「まあ、特別な感じはしていたけどね」

 

見る眼差しも違っていた。

それに下の名前で呼ぶ唯一の女性。

それは露骨ともいえる。

そう言われるが『特別』な人なのだから。

 

「お世辞なんやったら、今謝ったら許したる、なんか欲しいもんが有るんか?」

 

子ども扱いしてきた。

お世辞で恋心を打ち明けるほど、軽い人間だとでも?

身を乗り出し、再度顔を近づけて頭を押さえる。

 

「欲しいのは貴方の全て」

 

そんな事を言われて、またもや戸惑うひよ里さん。

助け舟を出してもらおうと矢胴丸さんの方を見る。

しかし、無情にも笑いながら肩を叩く。

 

「こいつが嘘じゃなく真剣なんは一番わかってるはずやで」

 

そう言われて唸るひよ里さん。

額に手を立てて溜息をつく。

これでは埒があかない。

諦める気がないのだと悟ったんだろう。

 

「後悔すんなや」

 

そう言って飲み干していく。

まるで今後魅力的な女性が来るというような言い草だ。

貴方以上に心を惑わせる人なんていない。

だから後悔はしない。

まだ、あなたの傍に居れなくても。

 

「後悔するくらいなら、恋心を打ち明けるような真似はしない」

 

そう言って飲み干す。

言うようになったなと呟いていた。

それはあの初めて出会った日から四十年もたったのだから。

当然の結果ですよ。

必ず貴方の心に居させてもらう。

それは誓いのように、心を新たに。

それは楔のように、自分の在り方を決めた。




恋人云々言い出したら、揚げ足取られて告白を受けるの図。
束縛強そうですが、実際は好きを伝えたいだけです。
それがあまりにも直球で苛烈なため戸惑ってしまっています。

いい加減プロフィール的なものも載せれたらとおもいます。

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『笑顔 -Smile-』

今回は戦いが入っています。
次回は隊長昇格を書こうかなと言った感じです。
更木の方向音痴を考えたら、瀞霊廷にいつ到着するのか……


あの日から数日。

お互いが意識してしまう。

こちらも声をかける時に一瞬詰まる。

向こうはこちらに声をかけようとすると、押し留めて通りすぎる。

 

「いけないね」

 

それだけが一つの結論。

今までの関係が壊れてしまう。

それは分かっていた。

しかし、それで躊躇をしたくなかった。

永遠にこの時が続くわけではないから。

 

「あの人に好かれるための条件」

 

強いだけではいけない。

優しいだけではいけない。

両方兼ね備えなくてはいけない。

優しいとは何かの本質が必要だ。

甘えさせることが優しさとは言えない。

その人の過ちを叱る。

道を違えば引き戻す。

それも優しさの一つ。

 

「強さとは何なのか」

 

敵を打倒するだけではない。

心が耐えたり許せるもの。

それが心の強さ。

 

「……分からないよ」

 

この答えは見つかるのだろうか。

いや、見つけなければいけない。

あの人の傍に居たいのだから。

誰にも譲らない。

 

「何が分からないんだい?」

 

曳舟さんに聞かれていた。

少し含みのある笑みだ。

きっと、もう気づいているのだろう。

 

「ひよ里ちゃんに告白したんだろう」

 

その言葉に頷く。

その反応に溜息をついていた。

もう少し戸惑いがあるとでも思ったのか?

 

「あの子もこういうのには疎いから時間かかるし、ずいぶんと疑い深いからねえ」

 

大方、冗談だと思われただろ?

そう言われて頷いてしまう。

世辞を言ってるとまで思われて、子ども扱いされた事も言った。

 

「もう、幼子をなだめる時の常套句じゃないか」

 

ひよ里ちゃんの眼にはよほどその時のあんたが駄々っ子のように見えたんじゃないのかい。

だって、ずっと嘘だとか、頭冷やせとかいうんですもん。

こっちがどれだけの気持ち振り絞っているかも知らないで。

そりゃあ、こっちも意地になりますよ。

 

「互いに子供みたいだね」

 

でも、だからこそいいのかもしれない。

大人びた考えでもない。

欲しいものを純粋に欲する心。

回りくどい言い方なんていらない。

 

「多分照れているのもあるから、自分があの子の求める像になっていくと頼ってくれるようになるよ」

 

そうでなくても、自分の為に頑張っている人を無碍にするような子じゃないけどね。

何年かかるか分からないけど、頑張りなよ。

そう言って去っていく。

 

「斑鳩さん、一緒に流魂街を回りませんか?」

 

どうやら、ちょっと前の鬼厳城の事件から気合が入っている。

まさかの上位席官、三名の死。

それに伴って東仙も第十席に上がった。

 

「北流魂街の方だろ」

 

用意するから待ってろ。

それだけ伝えて、少ししたら出発をした。

しかし、最近の治安の悪さは凄いな。

力の有る荒くれ物が増えたのもあるが。

 

裸足の奴らが五十でも見かける。

基本あるあたりから下駄も草履もない。

最悪、女でも肌晒すのが多い服の奴が居る。

着物でもところどころ破けている。

そう言うのに我慢がならないから、時々安い月給の中から配る物資を買っている。

 

「あんたら、向こうに行く気かい?」

 

まだ声をかけてくる奴もいる。

隅々まで確認をする。

つまりは八十区まで行くという事だ。

 

「悪い事は言わない、おやめ」

 

まるで怯えている。

噂が蔓延しているのだろう。

そこに居座っているのならばまだしも、動いているようだ。

 

「悪鬼が『更木』には住んでいるんだ……」

 

なるほど。

しかし、そこまで見て治安の徘徊だからな。

東仙に後ろを任せて進んでいく。

徐々に霊圧が濃くなる。

その出所を探ると確かに『更木』から流れている。

 

「あの、斑鳩さん、これは……」

 

東仙も感じ取っている。

並外れた霊圧。

ただの一介の荒くれものが持っている次元ではない。

だが……

 

「知っている霊圧だ」

 

まさか、こうもすぐに会えるとはな。

向かっていくうちに血の臭いが濃くなる。

殺し合っているのだろうか。

 

「開けたところに来たが……」

 

そう言った直後、首筋に一閃。

獣の眼差しが俺を射る。

感じ取っていたのだろうか。

 

「手前は強い、分かるぜ」

 

『浅打』を振るいながら笑みを浮かべている。

なるほど、悪鬼と呼ぶのは間違いではない。

骸が積み重なっている。

ここから逃げる事はできない。

斬り伏せた隙に下がる以外は。

 

「俺が相手するしかないようだ」

 

治安云々の前の問題。

この男がここに居る限りは守られてはいるのだが……

迷い込んでしまえばひとたまりもない。

 

「東仙、持っててくれ」

 

羽織を脱いで軽装に変わる。

この男相手に油断は無し。

この羽織の重さが生死を分けかねない。

 

「お前の名前は?」

 

名前を聞きながら『浅打』を抜く。

始解をするにも長さや間合いで不利になりかねない。

残念なことだ。

 

「『更木』の『剣八』だ」

 

そして踏み込んでくる。

俺に名乗る隙は与える気はないのか。

 

「しっ!!」

 

踏み込んだ刃を受け止めて後転して距離を取る。

臨戦態勢で相手をする。

その空気を感じ取ったのか、相手の顔が笑みの形へ歪む。

 

「良いじゃねえか、来いよ!!」

 

その言葉を皮切りに駆けだす。

向こうが片手で相手をしている。

もう一方の腕をぶら下げているだけではいけない。

 

「しゃあ!!」

 

両手で持った刀で押し込みに行く。

膂力もかなりのもので易々とは力負けをしない。

だが、それでもこちらは手を打つ。

 

「かあ!!」

 

前蹴りで突き放す。

だが、それで終わりにしない。

距離を再度詰めて胸倉をつかみ、そのまま頭を地面へ叩きつける。

 

「立てよ、まだ本気じゃないんだろ?」

 

倒立した状態となり態勢を整えて、照り付けた太陽の様な眼差しを向けてくる。

獰猛な笑みを張り付けていた。

闘志が萎えるなんてこともなさそうだ。

 

「おらぁ!!」

 

横薙ぎに振るってくる。

それを受け止める。

しかしさっきと手応えが違う。

僅かに逸らして懐に入り込む。

 

「はっ!!」

 

笑って後ろに飛びのく。

反応速度も上昇。

どうやらほんの小手調べだったようだな。

 

「楽しいぜ……なぁ!!」

 

笑みが戦いを楽しむもの特有のものとなる。

そして接近をしてくる。

懐に入ってくるのも速い。

 

「甘いんだよ」

 

何の考えもなしに突っ込むな。

猪でもあるまい。

突きを放つが顔に刺さってなおも突き進む。

 

「ちっ!!」

 

肩口に来る斬撃をかわすために瞬時に片手へ持ち変える。

そして『黄火閃』を地面に向かって撃つ。

威力を押さえずに放ちその反動で、相手と距離を取る。

 

「恐れないでこっちに攻撃するか……」

 

恐怖がない。

ああ、そうか。

『剣八』なんだもんな。

『幾度切り殺されても絶対に倒れない』

そしてこの眼差しは鬼厳城に俺が言ったのと同じ言葉を持っている。

 

「殺すのも殺されるのも暇つぶしってわけだ」

 

其れなら仕方ない。

深呼吸を一つして、あの人と対峙している時と同じ集中力。

そして霊圧を放出する。

掛け値なしの全力だ。

 

それは木々を揺らし、相手の傍らにいた幼女が息をつく。

圧迫感が一気に変わったのだろう。

東仙もすぐさま距離を取り離れていった。

 

「楽しませてくれよ」

 

『浅打』を再度、両手で持って接近をする。

打ち付ける音。

徐々に上がっていく戦いの熱気に意識が引っ張られる。

いけないと頭によぎる。

悦ぶな。

 

「きええええ!!」

 

雄たけびとも奇声ともつかない声で斬りかかる。

再び受け止めるがその片手で防げるものか。

ぐんと力を込めてその腕を弾き飛ばす。

 

「しゃあああああ!!」

 

独楽のように反転させて追撃する。

薄皮一枚分、切り裂く。

もっと深く踏み込む。

 

「ちっ!!」

 

相手が振るってくる。

頬を切り裂くが関係ない。

徐々に視界が形を変えていく。

 

「かあっ!!」

 

俺の刀が相手の腕に当たったのが分かる。

その代わりに俺の脇腹を相手の刀は掠める。

ああ、悦びが増していく。

 

「ひゃああああ!!」

 

目の前が煌いている。

敵がご馳走に見える。

ああ、嚙り付きたい。

そのはらわたも何もかも咀嚼するように。

口元がひくひくと蠢いている。

 

「なんて楽しそうな面を浮かべてやがる」

 

そう言って俺の刀を受け止める。

それはまるで別の誰かを俺を通してみているかのように。

 

「ははは!!」

 

凄惨な笑み。

それが相手の瞳を通してみる自分の顔。

まるで戦いを愉しむ時のあの人のようだった。

そしてこの戦いは唐突に終わりを告げる。

 

「お止めなさい」

 

そこには卯ノ花隊長がいた。

霊圧の揺らぎを感知して止めに来たのだ。

無臭の眠りの香か……

そしてそのまま麻酔を直接内臓に入れられてしまう。

 

「東仙第十席、帰りますよ」

 

薄れていく意識の中、その言葉だけを聞いて、東仙に担がれるのだった。

その後、四番隊の隊舎で目覚めてから呼び出される。

 

「あの子と戦ってしまうとは何事ですか」

 

執務室で話をしている。

髪を降ろした『八千流』の状態で言ってくる。

まるで顔なじみのようだが。

 

「見回りの途中で北流魂街の八十区の『更木』に行ったら出会ったんです」

 

偶然ですし、逃げられなかった。

それに最近、その近くで九番隊の席官が亡くなっていますし隅々まで見ないといけない。

 

「東仙を一人で行かせたら死んでますよ」

 

それだけ『更木』の『剣八』は強い。

しかも、彼の潜在的なものはまだ隠されている。

前回の通りすぎた時に感じたものは全然本気の状態ではなかった。

こっちが始解をしていたら霊圧は上がっても間合いの問題で余計に苦戦を強いられただろう。

 

「彼は強い、あの状態でも隊長格です」

 

それを聞くと頷き返す。

そんな彼からすると、そんじょそこらの荒くれものなど、羽虫も同然。

きっとつまらない時間を過ごす事になる。

しかし……

 

「あの青年には俺が見えた、羽織があるという事は死神なのも分かったはずです」

 

いずれはここに来る。

それが幾年の後かは知らないが。

それでもあの青年に道は示せた。

 

「そうですね……」

 

導かれるのであれば問題ない。

彼等に出会ったのが運の尽き。

縛道の九十九をやればよかっただろうかと後悔する。

 

「それでは、今回は不問といたします」

 

しかし二度と『流魂街』で出会っても戦わないように。

すぐに引き返すのですよ。

彼が追いかけてくるのを逆に狙いなさい。

きっと霊圧の感知が非常に下手でしょうから。

 

「それはそうと……」

 

近々、隊長職に空きが出来そうな予定です。

立候補されてみては?

それだけを告げて去っていこうとするく。

 

「機会をもらえるのは嬉しい限りだ……」

 

そう呟く。

ただ、一つの懸念がある。

その為に卯ノ花隊長を呼び止めた。

 

「仮に隊長になっても今まで通り鍛錬を継続していただけますか?」

 

四番隊の羽織を脱ぐという事だからできなくなる。

あのせめぎ合いで強くならねばいけない。

守れるほど強く、心も逞しく。

その為には欠かせないもの。

 

「いつでも歓迎ですよ」

 

ぞわりと毛穴が全て開くような笑みを浮かべて去っていく。

だが、自分もあんな顔をしていたのかと思うと驚く。

机の上にある書類を見て、見回りの間に増えた仕事に取り掛かるのだった。




更木にはしっかりと会わせておいた方がいいと思いましたので書きました。
東仙は更木の危険性をきっと認識したでしょう。
鬼厳城の時に見抜いたようですがもう本作ではお亡くなりですので……
隊長職の平均は何年で付くのか謎すぎますね。
時間を次回で飛ばしても五十年前後はエリートの部類に入るのか……

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『指輪 - Ring - 』

今回は十年間の心理描写とかも有ります。
すこしごちゃごちゃしていてすみません。
後書きで年輪の能力を書いておきます。


近々と言われること、十年も経った。

曳舟副隊長もあの時昇進の話を受けていて、隊長職の試験を受けることになった。

その結果、五年前に曳舟さんが隊長となり、ひよ里さんが副隊長になった。

今年、隊首試験を受ける事をひよ里さんに言うと、背中を叩かれた。

頑張ってこいというように。

そっちは約束を忘れてませんよね。

十何年も前の約束ですけど。

 

「なんだか、あたふたしていたのが嘘みたいだ」

 

あれから、飲みに行くことも有った。

酌をしてくれることもある。

心は開いてくれている節はあった。

しかしそれ以上の『傍に居ていい』男なのかを聞けてはいない。

信頼があるのは分かる。

背中を預けて連携してくれるところからそれは明白だ。

 

「隊長になったらきちんと聞こう」

 

あの約束をあの人が覚えていたら、二人で飲める。

それに渡したいものがある。

まだ藍染の『鏡花水月』を喰らってはいない。

平子さんと綱彌代さんには同じような手袋を渡した。

東仙は気の毒だが目をめしいているため、術には掛からない。

 

「制御もできるようになった」

 

刀を振るう。

卍解に目覚めて十年。

なかなか最初は難しかった。

それを切っ先に集中させたりなどの応用。

卍解の能力を霊圧の中に纏わせる。

そんな応用を行う。

 

「向かおう」

 

受けるのは十番隊の試験。

つい、五日ほど前に召還された際にそのように伝えた。

十一番隊の一騎打ちはできない。

あの青年が来るのならば、彼の場合は確実に十一番隊しか隊長になれない。

そうなると戦わないといけない。

彼の全力を仮に引き出せても、こっちが死ぬ。

死ななくても重傷は免れない。

 

「一番隊の隊舎はいつ見ても大きい」

 

圧倒される見た目。

しかしそれを押し留めて扉を叩く。

そして一拍置いて本日の来訪理由を述べる。

 

「四番隊副隊長、斑鳩です、本日の隊首試験の御用で参りました」

 

そう言うと扉が開く。

雀部副隊長が迎えてくださった。

そこに居たのは隊長格三名。

公平性を持たせるために選ばれた人。

六番隊の朽木隊長。

十二番隊の曳舟隊長。

十三番隊の浮竹隊長。

 

試験を行い、その後に話や適性を見ていただいたところ

『血の気は有るが基本は穏やか』

『自隊の隊士やそれ以外からも慕われている』

『業務熱心で努力家』

『稀にみる戦闘能力の高さ』

という分析で隊長の器はありと認定された。

 

「最後に見せてほしいのは卍解じゃが……」

 

そう言われるので刀を引き抜く。

だが驚くことが起こっていた。

それは……

 

「えっ?」

 

なんという事に『年輪』の大きさが変わっていたのだ。

一尺五寸しかなかった小刀は今や三尺。

卍解をすれば一と半分ほどの倍になる。。

つまり一尺五寸が四尺五寸。

十分すぎる間合いへと変貌を遂げる。

いや、『浅打』が二尺三寸ほどだった。

そこから八寸を失ったのが『年輪』。

そして五十年たった今『浅打』以上の長さとなった。

刃の厚みも変わっていた。

 

「始解の大きさが変わるとは……」

 

朽木隊長が驚く。

しかし、総隊長がその場を収める。

そして卍解を促した。

 

「いきます……『卍解』!!」

 

さらに長くなった刀。

しかしその刀の色を見た瞬間、曳舟隊長は笑いそうになっていた。

そう、卍解した時の刀の色は柿色なのだ。

挙句の果てには柄の色は茶色と赤の二色、まるで猿を表したかのような色合いだ。

心の在り方が卍解となる。

それならば納得だ、卍解に目覚める時よりも前から自分の心を占めているのはあの人だから。

 

「それでは能力をお見せしましょう」

 

そして用意していただいたものに向かって『年輪重歌』を振るう。

能力を見せるために言葉を紡ぐ。

 

(しる)せ、『年輪重歌』」

 

それだけを言って引き抜き、刀を綺麗にして鞘へ納める。

能力の詳細を知っていただき、結果としては明日に就任式を行うとのこと。

それを聞いて四番隊隊舎へと帰っていく。

卯ノ花隊長にその旨を伝えると、微笑みが帰ってきた。

 

「私の元から巣立っていくのですね」

 

私の隊からの初めての隊長就任。

そう呟く。

かがむように言われたのでかがむ。

すると……

 

「五十年よく私の隊で頑張りました、二十年の支えに感謝いたします」

 

そう言って頭を撫でてくる。

普段の『八千流』ではなく、卯ノ花隊長として祝福される。

 

「今日はゆっくり休みなさい」

 

そう言われて業務後に眠る。

次の日に起きて一番隊の隊舎へと向かう。

一番乗りで来ていた。

総隊長からは「老いとるもんより速く動くと老けるぞ」と言われた。

 

隊長格、所属しているもの、全員がここに居る。

副隊長だと

雀部副隊長。

大前田、鳳橋さん。

平子さん、朽木さん。

愛川さん、矢胴丸さん。

拳西さん、久南さんは来れなかったみたいだ。

綱彌代副隊長、十一番隊は副隊長は現在空位のため不在。

ひよ里さんと秦山(はたやま)副隊長。

 

隊長では

山本総隊長。

四楓院隊長、蓮ケ谷(はすがや)隊長。

卯ノ花隊長、徳富(とくとみ)隊長。

朽木隊長、東風(こち)隊長。

京楽隊長、芽次(めつぎ)隊長。

削枷(そぎかせ)隊長、曳舟隊長、浮竹隊長。

 

一番乗りなのでじっと待っていた。

就任の主役が遅れてはみんなに迷惑をかけてしまう。

そして式が始まった。

 

「この度、十番隊隊長『(ひいらぎ)(しゅう)』が引退の為、護廷十三隊から去る事となった」

 

その内容に皆が頷く。

正直今の三番隊隊長、五番隊隊長、七番隊隊長、九番隊隊長、十一番隊隊長は速く変わるべきだと俺は思う。

能力的にも今の副隊長の方が高いだろうと俺は思っている。

 

「そのため、同日隊首会を行い新隊長の選任についてその旨を各隊の隊長に連絡

翌日、四番隊隊長卯ノ花烈の推薦から同隊の副隊長を召喚」

 

俺を呼び出して試験を受けるか否かの判断を聞いてきた。

当然頷き、卯ノ花隊長の推薦に応える意向を示した。

そして昨日、試験を受けたのだ。

 

「隊首試験の結果、能力的、また人格的に問題がないという結論から元四番隊副隊長、斑鳩傑を十番隊新隊長に任ずる」

 

そう言って任命の式は終わる。

皆がばらけるように、自分の隊舎へと戻っていった。

そして、これからはここが自分の場所となる。

そう思って十番隊の隊舎に足を踏み入れた。

 

「これから皆さんの隊長として、この度新しく就任しました斑鳩です」

 

その言葉にじろりと見まわす視線がある。

若い為、未熟と思っているのだろう。

だが、それでも皆を引っ張らなくてはいけない。

綱彌代副隊長に仕事の流れを聞く。

皆が真面目だから、仕事の滞りは無いようだ。

俺も頑張らないとな。

 

「斑鳩君、今日は早めに上がっていいわ」

 

綱彌代副隊長に言われる。

先輩だから、君付けで呼ばれる。

だが、ここは訂正しておかないと。

 

「斑鳩隊長でお願いします、綱彌代副隊長」

 

そう言って書類を手に取る。

隊長の調印が必要なものを優先的にやっていく。

それ以外は後で見ながら提出できるようにすればいい。

 

「はあっ……」

 

疲れから息を吐き、目頭を押さえる。

すると新しい書類が来た。

それは度肝を抜くようなものだった。

 

「東仙の奴、速すぎだよ……」

 

今日、就任したばかりなのにもう転籍届出している。

いや、筆跡の乾き具合から見てあいつ何年も前から用意していたな。

朝一に隊長印貰って届けに来たか。

 

「まあ、引き抜くつもりだったからいいけどな」

 

そう言って芽次隊長の隊舎まで赴く。

出迎えてくれたのは拳西さんだ。

隊首室に通してもらうが、その際に東仙も連れていく。

 

「失礼します」

 

こちらに席に座ったまま振り向く隊長。

仙人掌に水を上げていた。

 

「この度は転籍届で十番隊に九番隊の東仙第五席が来るという事なのですが……

隊長就任早々、こちらの有能な隊士を任せていただき感謝しております」

 

頭を下げて感謝の意を示す。

しかし、内心ではこう思っている。

速く拳西さんに席を譲れと。

老獪なだけで戦闘力は現副隊長の方が強い隊が多い。

人徳なんか後で付いてくる。

あんたらがお荷物になっていく時代が来るんだよ。

 

「うちの五席、潰すんじゃねえぜ」

 

笑顔で送り届けてくれた。

東仙はこれで十番隊の所属になる。

そして編隊で席次の整理をしなくてはいけない。

ただ在籍が長いだけの人は良くない。

顔色は窺わない。

護廷十三隊の一部隊として実力のある人々を評価したい。

 

「これからよろしくな、東仙」

 

そう言って十番隊に送り届ける。

そして、後日に席次の見直しを伝えた。

批判も有るだろうが、新体制になるのだ。

俺のやり方を皆に受け入れてもらう。

 

お昼休みに十二番隊者に赴いてひよ里さんを呼んでもらう。

薊の羽織に副官章が光る。

相変わらずせわしない動きをする人だな。

 

「なんの用や、斑鳩『隊長』」

 

笑顔で迎えてくれた。

そして拳を突き出してくる。

それに合わせるようにこちらも突き出す。

 

「ようやったな、おめでとさん」

 

誉め言葉をもらう。

頬が緩んでしまいそうになる。

しかし、それで終わりじゃない。

顔を引き締めて本題に入る。

 

「約束を覚えてくださっていますよね?」

 

二人きりで飲むというあの約束について投げかけてみる。

すると困ったような顔を向けてきた。

やはり……

 

「やっぱり二人きりってのは懸念ですか」

 

図星だったのか。

バツの悪そうな顔を浮かべている。

告白をされたから二人きりになるのを避けたいのは分かっている。

 

「ちゃんと仕事終わらせや、夜に十二番隊の隊舎の玄関で待っとくから」

 

しかし筋は通す人。

約束は守る。

それに急な接近をする事は無い。

警戒をする必要は無い。

ただ贈り物をする気はありますけどね。

 

「行きましょうか」

 

夜、十二番隊の隊舎の玄関で待っていてくれた。

横並びでその場所に向かう。

手をつないだら怒られる。

ひよ里さんがふらついて寄りかかるなんてこともない。

 

「いつもの場所と違うで?」

 

良いんですよ。

折角の隊長就任。

少しばかりの贅沢をしても文句は言われない。

それに、貴方も俺もそれほど金銭を湯水のように使う傾向じゃない。

今まで貯まっているはずですよ。

 

「少しだけ背伸びさせてください」

 

そう言って入っていく。

少しちらりと見えた影は京楽隊長のような気もするが……

隠れていた一つの影はきっと矢胴丸さんだ。

あの二人はやはりそういう関係なのだろうか?

 

料理を頼み、普段とは違い二人で徳利を分け合う。

雰囲気と言うのもあるがやはりどこかそわそわとする。

香を焚いているのか清々しい匂いがする。

向かい合わせに座っているがきっと俺の顔は紅い。

酒が入っていないにもかかわらず。

 

「ひよ里さん」

 

懐に手を突っ込んで目的のものを取り出す。

青い箱だ。

 

「なんや?」

 

こっちに目を戻す。

普段見ないお品書きに夢中だ。

俺も人の事が言えないけれど。

そこはそれ。

俺は箱机に置く。

 

「これ、受け取ってもらえませんか?」

 

そして綺麗な箱を差し出す。

それを手に取り、開ける。

中身を見て驚いていた。

それは銀色の指輪。

宝石は淡い緑。

現世の柑橘類を思わせる色のものを施している。

誕生石という文化を取り入れた結果だ。

 

「愛している事は変わりません」

 

指輪をまじまじと見ている。

わざわざこんなものを用意しなくても……

そう言った感じだ。

 

「まだ、恋人に相応しくないかもしれません」

 

実際、傍に居てもいいとは言ってくれていない。

それを言わないのは照れているからか。

もしくはまだそれほどの男ではないのか。

分かるはずもない心の問いかけだ。

 

「ですから相応しい男になるまでは『中指』に付けていてもらえませんか?」

 

薬指は恋人が付ける個所。

それでない場所で贈り物を付けていてほしい。

それにこれは隠された意味がきちんとある。

 

「なんでや?」

 

疑問に思ったのか。

首をかしげて聞いてくるひよ里さん。

当然、すらすらと理由を思い浮かべて告げる。

 

「指輪はつける位置で意味が変わります、中指だと『邪気を祓う』という意味になります」

 

悪い事から逃れられるように。

おこがましい心だが、自分以外に『悪い虫』が寄り付かないように。

 

「願掛けみたいなもんか、それやったらええわ」

 

そう言うと根元までつけて行く。

基本的に片手で振り回して、とどめの唐竹割りが両手持ち。

指輪が邪魔にはならないだろう。

 

.

.

 

あれから十年もたった。

あいつのいく先に見回りしてた女性隊士がおるのを見たこともある。

声をかけられても、鼻の下を伸ばさんとおった。

あいつは真面目やなと思った。

 

しかし後日、女性隊士に乱暴を働いたと聞いた。

あいつが何でそんな真似をと思い、怒るために赴いた。

すると真相はそう言った強姦とかではなく、拳を顔面に叩き込んでいたという意味の乱暴だった。

 

それについては当然怒った。

鍛えた体が泣いとるぞと。

女を殴るための強さなんていらんやろ。

そう言うと絞り出すような声で原因を言ってきた。

 

その女性隊士が告白してきたけれども、うちが好きやから断った。

すると本性を現したかのように「うちに想われてないくせにうちみたいな女っ気の欠片もない奴を好いてる可哀想な奴」と言われたらしい。

それでうちが「女っ気の欠片もない」と馬鹿にされたから頭に血が上って殴ったと。

内面を見もしないで人を貶めるのも腹が立つ。

うちがどれだけ素晴らしいか欠片も分かってないくせに。

そう言ったのだ。

 

こいつにそんな思いをさせてしまったんかと、うちも心に重さを感じる。

ただ、同時に嬉しくも有った。

自分の為に怒ってくれたという事が。

流石に殴るのはやりすぎだが。

これが真子やローズならうまいこと流したり諫めるで済んだのだろうが。

 

それを諫めてからというもの、女性を殴る事は無くなっていた。

いや、普段から優しく断っていて殴る真似はしない。

ただ、相手がうちを貶めたからだ。

その一件で『斑鳩副隊長は猿柿副隊長に惚れている』と言うのが噂になって、こっちにも飛び火してきたのが難点だったが。

 

そして今日。

忘れていなかった約束を果たそうと一緒に飲む。

居酒屋かと思うと、個室もいつもとは違う雰囲気の場所だった。

どちらかと言うと長い人たちが使うような場所。

京楽さんや浮竹さんが使うような感じや。

 

「えっ……」

 

指輪を見た瞬間、息を呑む。

こいつ、せっかちすぎやろ。

こんなもん、恋人を通り越しとるやんけ。

うちへの思いの大きさなんか知らんけどホンマに……。

 

するとあの言葉を覚えていたことを言う。

時間が経てばこいつもうちみたいな奴から手を引く。

本気で思ってたのに。

 

「……」

 

実力も精神力も優しさも本当は申し分ないほどできてる。

それを認めないのはうちが弱い女やから。

傍に居ていいと言ってしまうときっとみんなとの関係が壊れる。

それが怖い。

でも、それはこいつも一緒。

それを恐れていながら想いを貫いた。

 

「うちはあんたが思ってるほどええ女ちゃうで」

 

逃げてあんたの心を弄ぶようなことをしてた。

きっとこれから汚い事とか覚えていく。

お前が惚れてる今のうちはいつの日かおらんようになるねん。

 

そう言うと微笑んでいた。

そして向こうが口を開く。

 

「それはこっちも一緒です」

 

隠し事が有るんやろうな。

打ち明けたくないようなものもあるやろ。

 

「まだ中指やからな、ごめんやけど待ってて」

 

これは恋人として認めないという意味ではない。

あれこれ理由をつけて逃げて自分は変わってこなかった。

相手が想いを貫くのならこっちもそれに応えられるような女に変わる。

もう相手の気持ちから理由をつけて逃げはしない。

いずれ時が来て自分が相手に相応しいと思える女になったら、その時改めて薬指に付けよう。

そんな中、口を開いてきた。

 

.

.

 

待っててくれと言うならば待ち続けよう。

自分の真っ直ぐな想いが伝わった喜びがそこにはある。

だが、それで縛りたくはない。

この人に好かれたいのは事実。

しかし、自分よりも素敵な人が現れた時。

きっと胸は張り裂けるだろう。

狂おしい心に呑まれるだろう。

それでも正直に言ってほしい。

独占したいのが欲として確かにある。

ただ、俺が望む本当の願いはそれではない。

 

「貴方が幸せになってくれるなら、貴方をその人が幸せにするのなら、俺は押し留めますから」

 

貴方が幸せでいてくれることこそが本懐。

そう言うとそんな奴があんたのほかに居ったらの話やで。

そう返されてしまった。

 

「まだ、飲みましょうか」

 

そう言って二人して食事を楽しむ。

そう言えばみんなと飲んだ時に言われたが酔いつぶれたことがない。

ひよ里さんは昔に一回あったが、あれから強くなった。

紅い顔を見せる事もなく呑み込んでいく。

 

「満足やな」

 

二人して結構な値段にはなったがここは誘った手前、自分が出す。

そして出る時に声をかけられる。

 

「あれれ、傑君にひよ里ちゃんじゃないの」

 

やっぱり京楽隊長だったか。

俺達を見て意味深な笑みを浮かべる。

そして一人納得したように頷いている。

 

「邪推するなや」

 

矢胴丸さんが釘をさす。

それを見て肩をすくめている。

まるで何の話だというように。

 

「隣やったから結構筒抜けやったけどね」

 

そう言われて二人そろって真赤になる。

それを見て京楽隊長が笑っている。

 

「「できれば口外しないでください……」」

 

恥ずかしさのあまり、消え入りそうな声で二人そろって頭を下げていた。

そんな俺達を見て矢胴丸さんは頬をかく。

 

「せえへんよ、あんたらを冷かしたらあかんことぐらいわかるわ」

 

帰るで。

そう言って京楽隊長の腕を引いて八番隊の隊舎へと戻っていった。

 

「背伸びせんかったらもっと多くにばれてたかもな」

 

そう言われる。

それを防ぐためだったんですけどね。

胸をなでおろして二人とも呼吸を落ち着かせる。

 

「ほんなら、うちらも帰ろか」

 

その言葉に頷く。

二人とも足取りをしっかりとさせる。

想いが届いたこと。

変わろうと決意したこと。

それを忘れないように踏みしめていた。




ひよ里は今の関係を大事にしたいから傑の告白から逃げてました。
しかし、十年以上たっても一向にぶれない。
自分以外をまるで見ていない。
そこから自分が踏み出していく決意、恐れない事を知りました。

『年輪』の能力
経年が一定に達した時、刀の霊圧、長さ、刃の厚みが増加する。
一度達したら次はその倍の年数を要する。
つまり始解の段階で長年持てば持つほど、とんでもない強さに変貌します。

指摘などありましたらお願いします。


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『隊長 - A Commander -』

たぶんこの斑鳩隊長の時代での名簿見るとぞっとしますね。

『東仙要』
『綱彌代花匡』
『涅マユリ』

後の隊長格が普通に複数名所属。
豊作具合で言えば五番隊といい勝負かも。


「良いネ……」

 

試験管の中身を見ながらそんな事を呟いているのは涅。

あれから俺が誘ったのだ。

研究用の施設は十番隊が見回る中で使われていない拠点があった。

そこに構える事ではかどるようになった。

そして罪人扱いでは面倒なので席次を与えて自由に動けるようにした。

しかし、涅は魅力的な内容があればそちらに移るという事前の約束の元で動いている。

それ以外には二十席で涅五席の補佐に阿近を任命した。

 

「席次も見事に変えて老人たちを放逐するとかえげつないな、あんた」

 

口は生意気な奴だ。

しかし技術はかなりのもの。

そう言えば、引き抜いた時、浦原の奴が悔しがっていたな。

隊長のやりたい放題って意味なら俺はかなりやらかしてる。

 

「こっちは精鋭部隊を仕上げるんだよ、愛着とか年数とか知ったことじゃない」

 

戦闘力と人間性。

その二つで選んでいる。

故に東仙は第三席へと上がっている。

それ以外にも若くて行動力のあるやつらが、席官入りしている。

第四席は涅の予定だったが、あいつらしくもない「不吉な数字」という理由で辞めていた。

 

「それで誰もついてこなくなったとしてもカネ?」

 

その不安は無い。

少なくても今の改革で信頼を勝ち取っている部分もあるからだ。

それについてこなかったとしたら……

 

「その時は俺が隊長の器ではないという事だ」

 

そう言って試験管を揺らす。

今回不満を言ってきた、大して力もない古株の死神を出撃させる事を考えている。

目的としては虚の魂魄と死神の魂魄を集める。

藍染が作っていたものを再現するのが狙い。

あれが何を意味するのかを知るために。

 

「まあ、それも一つの価値観って奴だな」

 

そう言って一つのものを阿近が取り出す。

ああ、『眠計画』を単独で行っていた時の遺骸だな。

一旦、それらの魂魄研究の資料を涅に渡している。

そこから斬魄刀の構造との密接なつながりを解析しようとしている。

結構速い段階からあの場所に入っていたらしく、始解がまだできていなかった。

『対話』や『屈服』以外の方法で始解や卍解に至ろうとする。

そんな考えを持つのは、後にも先にもお前ぐらいだよ。

 

「ついてきたくないやつはどうなってもいい、特に牙をむくやつはな」

 

俺は決して新体制の確立に一切の容赦をしない。

俺らしい部隊を、俺の色に染め上げられた十番隊を作るのだ。

その背中を見て涅が笑う。

 

「魂魄の研究個体が大勢出そうダネ」

 

そこに着目していくのもお前らしい。

『血』の『入れ替え』を始める。

前隊長が残した組織としての『血』を抜いて俺の血を入れていく。

 

「元上位席官の魂魄が欲しいなら譲るぞ、俺も何人か確保させてもらうけどな」

 

阿近もにやりと口角をあげる。

研究の分野ではなんやかんやで気は合う。

それ以外はあまり二人とも興味なさげ。

食事も簡易的なものにしている。

 

「で、『眠計画』の進捗としてはみたてで、何號までが希望の個体性能に到達するまでの段階として必要だ?」

 

遺骸を見ながら問いかける。

現在が三號。

元々俺の試作段階を見ていたから、人の形に近づきつつはあった。

 

「当時より一つは若くなる」

 

俺はその返答を聞くと、書類を整理しながら頬をかいている。

やはり天才の力はすさまじい。

とはいえど、先に提案した大脳を核とした考え方や、細胞分裂を取り入れたからだ。

柔軟に相手の発想がよければ汲み取って行う。

それが涅のいい所でもある。

 

「それはいいがやはり、難航しつつあるのが現状だ」

 

こういった内容は倫理的にうるさい部分も出てくる。

それがばれないようにはこちらも対策をしている。

警戒しているからこそ、業務する場所に併設できない。

その弱みが遅延につながっている。

あとは、技術が高い奴を根こそぎは引き抜いていない。

浦原が根回しをしていて、四楓院隊長と卯ノ花隊長に俺が二番隊に行く場合の動向を監視させている。

 

「あいつが目の上のたん瘤だ」

 

電気刺激を三號に与える。

脳髄の成長を保存液の中で促進するにはこれが効果的だ。

細胞分裂が行われていく。

しかしこの行為にも限界があるのだ。

特殊器官が必要になる。

その器官は細胞分裂の限界を常に突破させるために普通の運用ではない。

暴走が通常運転となる形で動かす。

 

「これが出来れば飛躍的に効率が上がる」

 

俺も涅も骨子的なものは見えつつある。

だがどこまでの暴走が適切なのか。

そこの微調整を今後の三號以降行う。

五號までには終わる見込みだ。

 

「ああ、待ち遠しいネ、全死神の夢が実現する足音が聞こえてくるヨ」

 

涅は笑みを浮かべている。

俺も似たような笑みだろう。

俺の夢でもあった『被魂魄死神』。

『無』から作り出すという絵空事、夢物語。

それが論文からの結論で実現できると知った時、どれだけの喜びに打ち震えたか。

そしてその研究が飛躍的に伸びる出会い。

 

「難航しているがいずれは必ず叶える」

 

それだけ言うと、涅と阿近を研究所に忍ばせている状態で業務に戻る。

二人の地位や席次としては普通に問題ない。

仕事は特別なものを与えている。

そのように伝えているから、誰も口を出さない。

 

「書類も溜まっていないからすらすら終わるな」

 

自分の業務を終えると、次は東仙と綱彌代を道場まで呼ぶ。

二人が来て道場へ入ったことを知ると結界を張る。

鬼道で隠れるのは藍染もできたこと。

何故、ここまで厳重にしたのかと言うと、二人に卍解を覚えてもらうためだ。

両者ともすでに始解は習得済。

誰でも使えるというわけではないがいずれは自分の元を巣立っていく。

隊長になる時の必須項目。

 

「じゃあ、『屈服』だが……」

 

綱彌代の具象化した刀を見てその存在を呼んでみる。

すると近寄り頭を下げてくる。

自分より強いと分かるものへは『服従』の態度をとる場合もある

 

「自分が強いと教えこむ事だ」

 

東仙が自分の刀を具象化させる。

緑色の髪の少女。

手には東仙の斬魄刀が握られている。

 

「お前らがこいつらと今から戦うんだ、そして屈服させろ」

 

そうすれば卍解に近づく。

それを伝えて巻き添えを食わないように東仙から距離を取った。

綱彌代の方も始める。

 

.

.

 

「いくぞ!!」

 

私は先に分銅を回す。

始解をした後の斬魄刀の形がみんなと違う。

それにひどく落胆をしたことがあった。

だが、それを見た時に彼女と斑鳩さんは喜んでくれた。

お前の戦い方に合っているし他と違うからこその強みもあると。

よく似合うし、他と違うのは貴方が刀以外の形状の使い方について先陣を切ってあげる役目が生まれたのよ。

その言葉が自信につながった。

 

「お前を屈服させる、『薄刃蟷螂(うすばかまきり)』!!」

 

腕に鎖を巻きつかせる。

そして引っ張って間合いを詰めていく。

そのまま腕を切り裂く。

『八重鎖鎌』が『薄刃蟷螂』の正体。

攻防一体の動き。

他とは違う間合い。

長所を上げればいくつもある。

 

「次はこっちの番!!」

 

薄刃蟷螂が分銅を放ってくる。

恐ろしいのは回避すること。

回避した後の変幻自在の動き。

惑わされてしまうと相手に優位に立たれてしまう。

 

「くっ!!」

 

音が回避をすると耳に残る形で聞こえてくる。

風を切って通りすぎた後。

その時が無防備になる一瞬。

首が絞められることも想定内だ。

 

「かっ!!」

 

鎖と分銅が来ないように間合いを詰めて斬りに行く。

それを回避しようとする『薄刃蟷螂』。

分かってはいないようだ。

刀だけで屈服させる必要はない。

 

「これで止める、『五柱鉄貫』」

 

縛道で五体を封じてそのまま切り裂く。

深々と切り裂いたのちに前蹴りを叩き込む。

全てを使う事を教わった。

 

「死神が使える全ての手段を含めて強さだ、『薄刃蟷螂』」

 

薄刃蟷螂が後ずさりをしていく。

蹴りの感触から防いではいないことが分かる。

 

「君より私は強いよ」

 

耳が刀の振るう音を捉える。

その一撃を防いで言い放つ。

これは確信。

半身で常にかわすように。

 

「これを知ってから言いなさい!!」

 

そう言うと霊圧が上がっていく。

まさかそれが……

 

「これがあなたの卍解よ」

 

卍解がどれほどの大きさか僅かにたてられた物音から推測をする。

大きい鎌が霊圧の形状から察する事が出来る。

 

「鎖鎌がまた随分と様変わりしたな」

 

風が割かれていく。

範囲が始解の時に比べて段違いだ。

 

「ふんっ!!」

 

『薄刃蟷螂』が振り回しているのだろう。

皮膚が風だけで斬られる。

質量と速度の二つが合わさって生まれている一撃。

 

風が目を打つ。

光がこの目には映されない。

しかし、反射行動は別。

 

「ぬっ!?」

 

目を打たれた刺激で涙が出そうになる。

それに前かがみになって顔を押さえてしまう。

 

「終りだ!!」

 

『薄刃蟷螂』が叫ぶ。

その一撃が迫ってくる中、刀を咄嗟に出そうとする。

しかし思い直さないといけない。

この目的が何だったか?

それは、相手を屈服させることだ。

自分の理屈から考えてみる。

ここの答えは決して刀で受け止める事ではない。

 

「おおおおっ!!」

 

刀を鞘に戻して立ち向かう。

無詠唱で『円閘扇』を使って防御を固める。

腕を交差して踏ん張りを利かせる。

盾がみしみしと音を立てて砕ける。

骨を断ち切る様に腕に食い込む一撃。

血も流れ、痛みに悶絶しそうになる。

 

「何故私を鞘に戻した?」

 

大鎌の一撃が迫る時、あのまま受け止めても無意味だと悟った。

そしてこれは君を屈服させるための戦い。

だからこそ……

 

「始めの打ち合いは君への理解を示した、しかし今の場面で君を頼る事は、私の心が君に対して屈服する事の証明だ」

 

大鎌が前後に引かれ、私の腕を断ち切ろうとする。

大鎌が私の体に食い込んでいるのあれば逆に好機だ。

 

「腕が頑丈で助かった」

 

私は跳躍をする。

地面から離れた状態で前後に揺する。

勢いは徐々について行く。

 

「ここから勝つのが私だ」

 

前後運動をして勢いのついた体を上空に舞い上がらせる。

こうなってしまうと大きな鎌では私に一撃を加えることはできない。

狙うのは腹部。

 

「とりゃ!!」

 

槍のように一直線に相手へ向かっていく。

相手は回避が難しい。

ここでの行動がこのまま勝敗につながる。

 

「むっ!!」

 

大きな鎌が離れるのを感じる。

よし、これならば勝ちが見える。

相手が後ろに下がったかどうかで追い詰められる。

 

「くらうわけないでしょ!!」

 

『薄刃蟷螂』が後ろに飛びのいた。

それは無駄な真似だ。

私が縛道を使えば捉えられる。

軌道の変化なんて造作もない。

 

「『吊星』」

 

足場が下に現れる。

本来は受け止めたりするのに使うものだ。

しかし、これで着地して反動を使えば幾らでも技の変化をさせられる。

 

「えっ…!?」

 

蹴りが肘での一撃に変化したのだ。

驚愕の声も納得だろう。

回転しながら放つ一撃。

それは毒針のように鋭く、それは鋼のように固く。

防御が間に合っていない『薄刃蟷螂』の頭部に直撃する。

 

「きゃっ!?」

 

『薄刃蟷螂』が地面に落ちていく。

跳躍をしていたから背中から着地する形となっただろう。

勢いがついていたからか、何度か地面を跳ねる。

しかしここで攻撃の手を緩めはしない。

 

「私の勝ちだ、『薄刃蟷螂』」

 

止めが刺されていなければ安心してはいけない。

無論、殺す気がないなら見逃してもいいのだろうけど。

馬乗りとなり、首に手を当てて呟く。

その姿が目に入ったことで『薄刃蟷螂』がため息をつく。

 

「ええ、貴方の勝利」

 

その言葉を聞いて上から退く。

そう言って起き上がってくる。

霊圧も変化していく。

始解の状態へ戻しているようだ。

 

「貴方に卍解を教えるわ」

 

その言葉を言うと一旦具象化が解ける。

流石に斬魄刀と言えども疲れたようだ。

斑鳩さんが近づいて私の腕を治す。

 

私の頭に手を乗せている、

微笑んでいるのが見えてなくても分かる。

『おめでとう』と言われた。

祝福に満足感を得たまま座り込んでいった。

 

.

.

 

「二人ともお疲れ様だったな」

 

二人とも『屈服』に成功した。

見届けてはいたがやはり綱彌代の方が一日の長があった。

その分、さほどの苦戦もなく理解されていたから早くに済んだ。

 

「卍解が使いこなせるようになるまで制御に勤しまないといけない」

 

修行が十年かそれより速いのか。

その間に卍解を効率的に使う戦い方を見出していかないといけない。

 

「俺が実験体になって能力の詳細を確かめてやる」

 

自分が二人より強いという確信から出る言葉。

胸を貸してやる事で早く強くなっていく。

それが結果としては護廷十三隊の洗練につながる。

 

「祝うぞ、飲みに行こうか」

 

二人がそう言われて頷く。

業務に戻るけど微笑みが消えない。

あの二人が卍解を覚えたことが嬉しいのだ。

 

「珍しいほどの笑顔ダナ」

 

涅が戻ってきていた。

研究成果の書類を渡してきた。

どうやら三號が明日から活動限界の経過観察のようだ。

分裂速度は悪くはないがこちらの水準を下回っていく傾向にある。

大脳を回収していく前に多少は海馬に記憶単位や感じるものの学習を試みる。

 

「大脳に『経験』を作る事で体に引っ張らせる」

 

そして今後に役立つ方法を涅に伝える。

それが遺伝子情報の上書きだ。

大脳がお前の遺伝子情報からの作成。

しかし素体はどうするのか?

 

それは丈夫な肉体である俺から採取する。

その際に俺の体でありながら、遺伝子情報を涅に書き換える。

それによる一致で体と脳の相性をよくできるし、肉体強度が上がる。

 

「細胞分裂の方も順調に進むだろう」

 

体の強度が上がれば負担に耐えられる。

それで魂魄の流れを確認していけば、卍解への指標にはなるだろう。

 

「血液の提供か、それとももう少し皮膚や筋肉が必要か」

 

涅がその提案に乗ったというように執刀を始める。

麻酔も無しに皮膚と筋肉の一部分を斬り落とす。

回道で止血ができるから成せる方法だ。

躊躇がないお陰で無駄な痛みもない。

ここが並の研究者とは違う。

 

「役立ててくれよ」

 

そう言うと首をぐるんとこちらに向けてくる。

まるで梟かと思うほどの柔らかさだ。

 

「無論だヨ」

 

俺の皮膚と筋肉、血液を保存しながら口角を上げて言ってくる。

今後実施する四號の研究に必要な内容をまとめに行く。

 

「隊長の役得って本当にいいなぁ」

 

部下の成長。

研究の充実。

公私において非常に張りのある生活を送れている。

誰もいない隊首室で頬を緩ませるのだった。




オリジナル斬魄刀

『薄刃蟷螂』

所持者:東仙要
八重鎖鎌と言う鎖鎌の一種。
大きめなので斬りつけなどでも相手に相応の損傷は与えられる。
分銅などついているところを考えると檜佐木の『風死』に近い。

戦い方にいろいろ織り交ぜたりする教えの忠実さから原作から変わっている。

綱彌代は原作で東仙が持っていた『鈴虫』と『閻魔蟋蟀』なので割愛。

指摘などありましたらお願いします。


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『本音 -True Call-』

藍染との会話回です。
原作で同じ目線で語り合う相手がいない孤独から
あれになっていったと言う事なので少し救済の手を。
まあ、やったからと言って未来が劇的に変わったりというのは予定していませんが。


二人が卍解を習得してから五年ほど経った。

あの後の『眠計画』は現在四號で進行中。

涅が卍解への足掛かりを今年になって見つけた。

研究との二足のわらじは厳しいから無理もない。

あとは、阿近の奴に自衛手段で一応は始解を教えた。

 

そして俺が今何をしているのかと言うと……

 

「こんな場所でわざわざ二人で話すことなどないと思うのですが?」

 

藍染と向かい合う形で話している。

同席者は無し。

それを平子さんが聞いたら目を丸くしていた。

 

「まあ、こういう所でないとおまえと話せないからさ」

 

懐をまさぐり目的のものを取り出す。

藍染に見せるもの。

それは極秘の研究資料。

涅もまだ知らない。

 

「お前の集めてた魂魄の塊についての話だ」

 

その資料を机に置く。

それをしげしげと見ていく。

だがこれらは一度は自分も通った道なのだろう。

顎を触って真新しいものはないといった反応を見せる。

 

「あれだけの魂魄を集めてしまうとどうなるかわかるよな?」

 

頷きはしない。

きっと魂魄が現世と均等にならないとかいう小言だと思っているみたいだな。

それじゃあ言ってみるか。

 

「あの塊には『意思』が宿ってしまう」

 

その言葉に反応を示す。

もしやと思っていたことが本当だった。

そう言った感じの反応である。

 

「あれは過ぎた代物になりかねない」

 

目的がなくて、あれを作ったのあれば即刻破壊するべきだ。

俺が放逐した奴らで作った小さな塊ですらかなりのものだった。

 

「目的も無しにあれを作るわけがないでしょう」

 

悪い笑みを浮かべている。

きっと理解者がいない事で生まれた野望なのだろう。

だが、そんな事はもうないのだと理解させる。

悩むんじゃないと手を取る。

 

「その目的に行きついた経緯はなぜだ?」

 

手を振り払う事が出来ない藍染。

無理もないだろう。

俺の膂力と比べれば引き剥がせるほどはない。

 

「調べた結果、この世界について知ってしまったのです」

 

なるほど、尸魂界の在り方について知らなくていい事まで見つけてしまったのか。

だからこそ、あれを作り上げた。

おおよそ、未来の事を見据えた結果だろう。

しかしその未来は……

 

「お前が考えている未来の事は、今の時代の人全てがこの世界からいなくなった後じゃないのか?」

 

いつに来るか分からないもの。

それに対する準備にしては速すぎる。

未来でも見えていたら別だが、あいにくそれを知る術はない。

 

「万が一の事態に備えなければいけない」

 

そう言って塊を取り出す。

想像以上に大きなものだ。

とんでもない数の死神や霊圧のある相手を糧にしている。

ここまでの『意思』を用いて行いたい事を考えてみる。

 

「ありとあらゆる壁を崩してくれると信じています」

 

それはつまり魂魄の壁や境界を打ち崩すという事。

ここから考えられる最悪の形。

それは一つしかない。

 

「相反するものに呑み込まれかねないぞ」

 

望んだ結果になったらいいが、分の悪い賭けじゃないだろうか。

こいつがそういう事に身を投げ込むのは想像できない。

すると大丈夫だと笑顔でいる。

 

「壊すのであって融合させるわけではないですよ」

 

万能の魂魄へ変化させるのか。

虚であり、死神であり、人間であり、滅却師。

そこからの未来の形。

ここまでして求めるものは十分推測できる。

 

「お前はまさか霊王にとって代わる気か……」

 

この想像が見当違いであってくれと願った。

何故ならそれについては俺だって知っている。

何によって生まれているのか。

 

「まさかこれだけの会話でそこまで考えてくるとは、さすがに厄介ですね」

 

隠すつもりはまるでない。

それは確固たる決意。

決して譲りはしないという、今まで見せてなかった熱。

それをまざまざと見せつけてきた。

 

「今どうしても必要な事ではないだろう」

 

それは零番隊を敵に回す事だ。

流石にお前が凄い奴でも勝てるとは思えない。

それに……

 

「お前はあんなものになってもいいのか?」

 

お前が知っている事は俺も知っている。

あれに従う事が嫌なのかもしれない。

それを打破するために意思を持った霊王へなり替わる道を考えているんだろう。

しかし、なれたとしてもその為に犠牲になるものがあまりにも多すぎる。

 

「貴方や私が見据える先はどういうものかではないのですよ」

 

その次元に至らずに諦観した者の意見が『どういうものか』を語る。

もしくは元より興味のないものは霊王について調べず日々を過ごす。

興味があって調べても我関せずの者も居る。

 

「どう在るべきかについて語り合うという事だろう」

 

俺だって人身御供の上に成り立つ安寧など嫌だ。

それがいずれ他の誰かに押し付ける形になる。

 

「お前が考えている事が分からないわけではない」

 

だからこそ、その根底を覆す。

霊王を殺した後、自分が意思を持ったものとして繋ぎ止めていく。

不老不死ならば二度とその輪廻に巻き込まれない。

 

「しかし慌てているようにしか見えないんだよ」

 

結論としては何処か早くにしておかなければならない。

不測の事態を考えた構え。

それは良いけれど、それ以上にすぐに何か行動を起こそうとする。

 

「言っておくけど俺はその考えには反対だ」

 

お前がその道に邁進した所で、行動が大きければ零番隊に目をつけられる。

そうなれば全てが水泡に帰す。

『王鍵』を作る時点で楔である霊王を含めても魂の均衡が保てない。

異常な事態を引き起こすばかりだ。

そして何より……

 

「お前が護廷十三隊から消える損失を考えろ、自分の価値をもっと大事にするべきだ」

 

お前の実力や人望をよく理解している。

理解していない輩のものではあるが信頼はされている。

逆にどれだけその眼差しがお前を苦しめるかわからずに。

 

「えっ……!?」

 

まさかそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。

ぎくりと身をこわばらせて驚きの顔を浮かべる。

そんな顔もできたんだな。

 

「お前を理解していきたい、同じ目線で話したい」

 

その隠している心をもっと見せろ。

表情も何もかも詳らかに。

お前に合わせられるようにするから、お前も俺の眼を見るんだ。

 

「お前の孤独を癒してやる」

 

先達として導いてやれる道あれば導こう。

お前の悲しみを受け取り、俺の喜びを分け与えよう。

道を間違えた時に叱り、お前の過ちを許し、お前の寄る辺に俺がなろう。

 

「見返りってそちらに有るんでしょうか?」

 

冷静な顔をしてこっちに問いかける藍染。

そんな問いにこちらは腹を立てる。

俺は返答代わりに拳骨を見舞った。

 

「そんな損得勘定でそういう事するんじゃないんだよ」

 

あの人が警戒心丸出しだから、余計偉い人の言葉を疑うようになっている。

こんなので大丈夫なのか?

絶対良い上下関係は生まれそうにない。

 

「俺がしたいし、お前に対する興味が尽きないのも有るんだ」

 

手を差し出してそう言う。

藍染も手を取っていた。

これはそういう意味でいいんだな?

 

「手を取った以上、お前が見捨ててくれと言っても見捨てないからな、覚悟しておけよ」

 

困ったなと言う顔をする。

しかし後悔しても、もう遅いぞ。

俺はしつこい奴だ、研究者の面がある以上はとことん見る。

 

「よしっ、お前も多少腹割って話してくれたし、食いたいもの頼めよ」

 

個室の居酒屋でも背伸びをしたわけではない。

秘密話程度なら十分できる場所を選んだ。

ひよ里さんを連れて行ったあの場所は二人だけの場所でいい。

 

「あれを腹割って話したと思っているんですか……?」

 

まるでまだ隠しごとがあるような口ぶりだな。

まあ、お前も半信半疑だから全てを打ち明けてはくれないだろう。

 

「一息ついたら話してくれればいい、強引に聞く手立ては持っていないからな」

 

そう言うと溜息をつく。

そしてお品書きを見て注文をする。

その間にぽつりとつぶやいてきた。

 

「聡明だと思ってましたが人情派ですね」

 

決して縛らずこちらの裁量に任せる。

受け入れてくれる分、気持ちが軽くなる。

だから口も軽くなるし、心も許してしまいそうになる。

 

そう言ってきた時、微笑みを浮かべていた。

作っていない企んでいない純粋な笑顔。

それが見えた時、確信してしまい悲しみを覚えた。

こいつも普通の死神と同じ感性を持っているのにと。

 

「汲み取れてこそ隊長だ、顔色は窺う気はないけどな」

 

だから人情があって当たり前。

人でなしな部分もあるがそれはいずれの瀞霊廷を考えている結果だ。

 

「心を完全に開いてまた今日のような笑みを見せてくれよ」

 

そう言いながら今日が終わるのを感じる。

心の距離が確実に縮まった。

そう感じた一日だった。




藍染の本音を聞き出そうと頑張っている図です。
結構言ってますがまだまだ感情を押し殺している感じです。
年上として傑がどこまで歩み寄ってやれるかですね。
ちなみに原作の狛村と東仙の戦いでの一部分を引用して書いています。

オリジナル斬魄刀

名前:『銀蛇(かねへび)
使用者:阿近
解号:(むしば)
能力:毒の生成。
その切りつけた相手の霊圧を感じ取り、毒を流し込んでいく。
麻痺だったり血を固めるなど効果は様々。
またこれらは普段作るものではなく、霊圧に応じたものの為、血清や耐性を持たない毒である。

指摘などありましたらお願いします。


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『嫉妬 - Jealousy-』

今回も日常回。
平子や拳西の隊長歴が不明なのですが本作では四十年から三十年ぐらいの予定です。
ひよ里のキャラ崩壊してるかもしれませんがご了承ください。


藍染と親交を深めた数日後。

俺は一番隊の隊舎へ呼ばれていた。

当然この大事な呼び出しで遅刻しないように五分前には隊舎前についていた。

そういえば最近になって五番隊の隊長がようやく引退するんだったな。

という事は今回の用事は予測できた。

扉を叩き、一拍置いて声を出す。

 

「十番隊隊長、斑鳩傑です、開けてくださいませんか」

 

その言葉を受けてから少しして扉が開く。

毎回お疲れ様です、雀部副隊長。

総隊長に頭を下げる。

 

「この度の招集は何でございましょうか?」

 

堅苦しい言い方をすると、後ろから肩を叩かれる。

くすくすと笑っていたのは卯ノ花隊長だった。

そんなに今の自分はおかしかったのだろうか?

 

「うむ、新しい隊長の任命における試験、その試験官として呼び寄せたんじゃ」

 

やはり予想通りだったか。

しかしあの試験は選定するのに三名必要だったはず。

 

「あと一人はどちらに?」

 

総隊長が髭を撫でながら難しい顔をする。

なるほど、遅刻という事か。

そんな人は一人だけだ。

 

「山じい、開けてほしいんだけど~」

 

扉も叩かず相変わらずの間延びした声。

京楽隊長が三人目のようだ。

 

「待ってください、今開けます」

 

雀部副隊長よりも扉に近いため、開けていく。

申し訳ない顔を浮かべていない。

隊首会でも基本的に矢胴丸さんが起こしているらしいからな。

あの人もしんどいだろうな。

 

「おやおや、一番新参なのに感心だねぇ」

 

俺の顔を見るなり、頬をかいて言ってくる。

本来は先達が手本を見せるのが良いんですけどね。

卯ノ花さんをお手本とか言うのは無意味。

五十年も共に仕事をしていた以上、生活の流れも似通っている。

その為、今回のような結果になるのだ。

俺の場合は遅刻や相手を待たせるのが嫌いなのもあるけれど。

 

「春水、お主が遅いんじゃ、たるんどるぞ」

 

総隊長がそう言うとバツの悪そうな顔ですごすごと引き下がった。

そして用事を聞くと微笑んでいる。

最近の流れで段々と後進の副隊長が昇格するめどが立っているのだ。

ついに年を召していた三人の現隊長達の体が限界に達した。

まあ、総隊長や卯ノ花隊長、京楽隊長の三名はそんな事は無さそうだけど。

浮竹隊長に関してはあの人の命は薄氷の上に成り立っている状態だから迷った結果、除いた。

 

「今回は何番隊の隊首試験なんでしょうか?」

 

そう言うと扉を叩く音がまたもや聞こえる。

するとまた間延びしたような緩やかな声だ。

なるほどね。

 

「五番隊の平子真子ですけど~、開けてくれませんかぁ~」

 

その言葉に今度は卯ノ花隊長が開ける。

ありがとうございますと言って入ってきた。

大先輩なんですから、頭を下げるぐらいはしてもいいと思うんですけどね。

 

「おはようさん、傑」

 

そう言ってにやついた顔でこっちを見てくる。

釘でも刺しておくか。

 

「そんな緩んだ状態のまま受けるなら帰った方がいい」

 

甘い試験じゃない。

三人全員の賛同が必要。

誰か一人がだめと言えばその時点で落選。

しかも厳しい卯ノ花隊長がいる。

 

「おお、怖い怖い」

 

飄々とした状態で羽織をはためかせる。

本当に大丈夫なのか?

 

「では、始め!!」

 

『斬・拳・走・鬼』の完成度を見る。

『斬』は『隊長格』としては確かなものを感じる。

ただ、俺の水準で見れば未熟。

つまり、卯ノ花隊長から見ても未熟に映るだろう。

しかし瀞霊廷の平和に役立つか否かを見定めて合格を与える。

その目を養う機会を与えてくださったのだと考えよう。

 

「(退屈なものだ……)」

 

誰にも聞こえないように心で呟く。

理由は単純明快。

隊長格としては十分なのだが、自分の水準に何一つ達してはいない。

まだ、自分が鍛えている奴らならいずれはと期待を抱くんだが。

 

「次は最後、卍解を見せてもらおう」

 

そう言われて困ったような顔を見せる。

かなり広範囲に効果を及ぼす系統だろう。

それとも致死効果があるものか。

 

「『卍解』!!」

 

始解の時とは違い青白い刀身が下半分、茶色の刀身が上半分となる。

穴や柄尻の輪は無くなっていた。

どうやら傍目から見ても変わらない。

つまり導き出せるのは……

 

「概念操作の能力か……」

 

その呟きに肩をぴくりと動かす。

そして口元をひくひくさせた顔をこちらに向けていた。

総隊長が厳しい目を向けてくる。

 

「斑鳩隊長、看破したいのは分かるが腰を折らず、本人から聞くように」

 

その言葉に申し訳なくなる。

頭を下げて説明を続けてもらうように努めた。

 

「この『天地(てんち)逆撫(さかなで)』はそこの隊長が言うように概念を操作します」

 

例えばと一拍置いて、平子さんが軽く踏み込むと一気に端まで移動していた。

それだけで理解できた。

 

『浅い』は『深い』になる。

『軽い』は『重い』になる。

『弱い』は『強い』になる。

『遅い』は『速い』になる。

逆さまの世界に連れ去る卍解。

 

「分かってもらえました?」

 

全員が頷く。

確かに強い卍解ではある。

『逆撫』も強力ではあったが、それ以上に強烈な力。

 

「うむ、それでは話し合いの元、結果を決めるので下がって良し」

 

そう言って、平子さんが去っていった後に総隊長がこちらに来いと手招きをする。

正直、自分の目で見るとまだまだだったが隊長になる分には問題はない。

卯ノ花隊長が甘い気がするのは気のせいだ。

もしくは自分が鍛え上げたわけではないから求める水準が低いのかもしれない。

 

「卯ノ花隊長はどう思う?」

 

卯ノ花隊長が総隊長の問いかけに顎に手を当てて考える。

そして数拍おいて口を開く。

 

「実力としては問題はありません、しかし人物的には生真面目とは言い難いかと」

 

副官補佐になっている藍染第三席に書類が行き渡っているようですし。

ただこれはすでに四楓院隊長が前例としてあるので、それだけで不合格とは言えないですが。

概ね、前隊長よりはいい隊長になるかと。

その一言で締めくくった。

 

「斑鳩隊長としてはどうじゃ?」

 

こちらへの問いかけ。

どうも何も卯ノ花隊長とあまり変わらない。

 

「実力は現在の副隊長たちよりも頭一つ抜き出ています、ですが勤務に関する真面目さは今一つなのでそこは副官との均衡が必要です」

 

実力はあくまで副隊長と比べた結果だ。

隊長格ならば新参な分を含めても下に位置するのではないか。

さらに仕事面での不安。

これは流石に共通認識としてほしい。

 

「卯ノ花隊長と同じもの言いじゃな」

 

まあ、こっちが言おうとしていた事を先に言われてるからですね。

それでもまあ、気づかいとして問題はないと後押ししておこう。

 

「まあ、締める時は締める性分の方ですので重要な所での信用は置ける人物でもあります」

 

ですから、問題は言うほど起こらないでしょう。

人望も有りますしね。

そう言って締めくくった。

 

「まあ、春水は基本的に認めるからいいかの……」

 

そう言うと京楽隊長は頷いていた。

人間的に問題があれば別だが、そこはこの人の目で分かる。

何より信頼の重さが違うのだろう。

 

「それでは明日に式典とする、伝えるのは頼むわい」

 

杖をついて立ち上がる。

すると京楽隊長も立ち上がって出ていった。

卯ノ花隊長がこちらに目配せをする。

はい、私が伝えておくんですね。

 

「確かに護廷十三隊の隊長や副隊長の霊圧は把握していますけど……」

 

『天挺空羅』を使って全員に通達を行う。

これで問題はない。

もしあるとしたら、それは浮竹隊長の体の具合ぐらいだろう。

 

「ご苦労様です」

 

そう言って卯ノ花隊長も出ていく。

それに倣い、俺も頭を下げて一番隊隊舎から出ていく。

 

「次あたりは拳西さんかな……」

 

十番隊の隊舎に戻る間に呟く。

すると前から東仙が息を切らして走ってきていた。

探していたのか、ずいぶんと手間をかけさせたな。

 

「来客なのですが……話を聞いていただけないのです」

 

激怒している人が来たのか。

何が原因なんだ?

 

「十二番隊の方なんですけど、最初は穏やかに話していたんですが、歌匡の手袋が斑鳩隊長の贈り物と聞いた途端、呼んで来いと」

 

血の気が引く。

みるみる青ざめていく。

瞬歩で追いつけない速度を出しながら、壁や塀を飛び越えて最短距離で十番隊隊舎に到着。

隊士をかわしながらすぐに土下座をする形で入室をする。

 

「お待たせして大変申し訳ございません!!」

 

顔を恐る恐る上げると仁王立ちでこちらを見下げている。

怒りで髪の毛は逆立っている。

息が詰まるような感覚だ。

霊圧ならば明らかにこっちが上だというのに。

 

「この女たらしが!!」

 

顔面を思い切り踏まれる。

これは烈火の如く怒りですね。

全くの誤解なんですけど。

 

「はなひだけでもきいてくらはい……」

 

鼻血が出てまともに喋れない。

流石にやりすぎたと思ったのか、椅子に座る。

 

「確かに手袋を綱彌代副隊長にはあげましたし、服飾に疎いので色違いの奴です」

 

弁解と言うよりは認識のすり合わせを行う。

こちらの言い分とずれてしまうとさらに怒らせてしまう。

やっぱりかという怒りに満ちた顔でこっちを見ている。

 

「しかし、他意は無くて世話になっている副隊長に手袋をあげただけです」

 

特別な包装も無し。

押し付けるような渡し方。

藍染の斬魄刀を防ぐものとして渡した。

全然、特別扱いなんてしていない。

 

「補足ですが男物で、平子さんにも同じやつ渡してます」

 

そう言うと特別な贈り物ではないというのが分かってもらえたのか。

少し怒りが収まる。

でも、じっと見て手袋を指さしている。

 

「でも見た目とかお揃いやんけ」

 

むくれたような顔で睨み付けてくるひよ里さん。

だって贈り物の服とか、女物とか分かってないですし。

店の売り子に『これに似た女物』と言って見繕ってもらったものだ。

 

「いや、お揃いにはなっていないです」

 

そういって手を見せる。

俺は手袋を隊長に就任してから止めていた。

ひよ里さんとお揃いの指輪にしていたのだ。

位置は右手親指で注目はされにくい。

とは言っても、よく会っている人に気づいてもらっていなかったのは少し悲しい。

 

「こっちの副隊長が言ってたんが正しいんか……」

 

どうやら綱彌代副隊長が手袋はしていないと説明はしていたようだ。

しかしひよ里さんは俺を庇っていると疑ったのだろう。

東仙も言ったが怒りのままに声を投げかけられて呼ばざるを得なかったと推測できる。

 

「悪かったな、叫び通して」

 

恥ずかしそうに言ってくるひよ里さん。

綱彌代副隊長もいつの間にか戻ってきていた東仙も問題ないですと手振りで示す。

そしてこっちに向きなおして顔をむくれさせる。

 

「お前が紛らわしい事するからやで!!」

 

こっちにあれだけ言ってて、別の女とお揃いのものしてたら誰でも怒るわ。

ずんずんと大股で怒りを示すように十二番隊隊舎に戻っていこうとする。

その背中を見ていると東仙に肩を叩かれる。

 

「追いかけてはどうですか?」

 

まだ仕事が残っているが大丈夫なのか。

確かに任せられる場所はそれでいいかもしれないが。

 

「隊長印も必要だろう」

 

今日が期限の分は昨日で終わっているので大丈夫です。

そう言われてはもう心に正直に進むべきだ。

 

「行ってくる、異常があればすぐに知らせてくれ」

 

俺はそう言うと隊長羽織をはためかせてひよ里さんを追いかけていく。

ひよ里さんは案外すぐに見つかった。

瞬歩を使わず苛立ちを地面にぶつけるように踏みしめていた。

何故、あんなにも苛立っているんだろうか?

 

「傑のアホ……」

 

そんな呟きが聞こえたのだ。

何がそんなに気に入らないのだろう。

俺が特別扱いしているのはひよ里さんだけなのに。

 

「何がそんなに気に入らないんですか?」

 

上から覗き込むように声をかける。

基本的に膝を曲げて同じ目線で話している。

しかし今日はこんな形で声をかけてみようと思った。

 

「わあっ!?」

 

ひよ里さんが驚いて尻餅をつきそうになる。

脇下に腕を差し込んで支える。

俺に対して恨めしげな視線を向けて見上げている。

 

「おどかすなや、全く」

 

こっちを振りほどくようにしてまた歩き始める。

俺は後ろからついて行く。

少し歩くと振り向いてきた。

 

「仕事どないしたねん?」

 

まあ、怠けてこっちに来ていると思いますよね。

しかし、そこは違うと咳払いをして伝える。

 

「今日が期限のものは昨日時点で終わっていますから、あとは消化していくだけなので」

 

それを言うと苦笑いされる。

こいつは仕事熱心だと思われているのかな。

それとも馬鹿だと思われているのかな。

 

「なんで機嫌悪いんですか、あれは労いのお礼の品だって分かってもらえたでしょう?」

 

そう言うと睨み付けるような視線を向ける。

そして胸に手を押さえながら苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「分かったけどなんかもやもやするんや!!」

 

そう言って十二番隊隊舎へと向かっていく。

しばらくすると辿り着く。

そして扉を叩かずにひよ里さんは入っていった。

 

「あらあら、どうしたんだい」

 

曳舟さんにひよ里さんが呼び止められる。

全てを察したのだろう。

肩を揉んで落ち着かせる。

二人きりでしばらく話をしていた。

そしてひよ里さんは顔を赤くしてこっちを見てきた。

 

「こんな感情に気づかせおって……」

 

そう言って副官室に戻っていった。

追いかけて行こうとすると足がもつれた。

その原因は曳舟さんが足を引っかけたからだ。

こういう時はこっちの話を聞けという信号。

 

「あのひよ里ちゃんが嫉妬するなんてねぇ」

 

『嫉妬』だって?

綱彌代副隊長に送ったのがお揃いの形だったのが、そんなに気に入らなかったのか。

 

「他意の無いお礼のつもりが思いがけずあの人を傷付けていたんですね……」

 

きっと指輪を送った時にひよ里さんは『特別』だと思っていた。

なのにそれを覆すような贈り物を知った。

だからこれ以上ないほど怒っていたのだ。

しかし、それは自分の勘違いだと知った恥ずかしさ。

解決こそしても割り切れない気持ちがもやもやとなっていた。

それを曳舟さんが諭してくれたからよかった。

 

「ひよ里ちゃんも本当はご免って言いたいんだろうけど性格上素直に言えないからさ」

 

本当は言って欲しくはない。

あの人が怒るのも無理は無い。

女性の心をよく分かっていないとは言えど傷つけてしまった。

それが今になって重くのしかかる。

 

「そっちが歩み寄って御免なさいって言ってあげなよ、ただ今日はやめておいた方がいいけどね」

 

こっちの顔があまりにひどかったのか心配そうな目で見てくる。

だって自己嫌悪もしたくなりますよ。

あの人が好きなのに嫌われるような真似したんですもん。

溜息が出そうになる。

 

「本当に恋に落ちちゃっているね」

 

とぼとぼと歩き始めた俺を見て曳舟さんが言ってくる。

そりゃあ俺の初めての恋。

あの人に見てほしくて隊長になったのも有る。

今、俺がここまで頑張れる原動力はあの人なんですから。

 

「あの人を傷つけた反省は滅茶苦茶しておきます」

 

そう言ってふらふらと彷徨うように十番隊隊舎へ帰っていった。




オリジナル斬魄刀
名前:天地逆撫
使用者:平子真子
能力:『逆撫』の能力に加えて『概念』を逆さまにする。
例で言うと浅く切りつければ深く切りつけたり、大きく飛びのいても小さい距離の為、間合いが測れないなど。
凶悪度でいうと藍染並み。
本作では著しい強化対象になった。

ひよ里にも嫉妬ややきもちという概念はあると思って今回の後半を書きました。
冷静になればわかりますが血が上りやすい性格もあると思うので、あのような感じです。

指摘などありましたらお願いします。


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『式典 - Selemony-』

今回は五番隊の隊長に平子が就任する話です。
しかし、書いていくうちに仲直りのおまけになった気がしないでもない。



あの日の翌日。

朝早く、三時に起きて心を落ち着かせるために瀞霊廷を一周。

そして戻ってからは一日を自由に使えるように仕事に勤しむ。

 

「俺が二度寝しても、この時間であれば誰も責めはしないだろう」

 

ちなみに始めたのは午前五時。

こんな朝早い仕事なんて総隊長ぐらいしかやらないだろう。

あの人から訪れるのを待たずに、いち早く謝りたい。

その思いがにじみ出ていたのか、仕事が鬼気迫る勢いで減っていく。

それこそ今日の予定どころか明日の予定の書類まで無くすほど。

 

「今日の八時には一番隊の隊舎に集合だったな」

 

正直、平子さんの式典なんかどうでもいい。

それを言うと後で怒られそうだけどね。

綱彌代副隊長が起きるころには今日の分は終わっていた。

首を動かして伸びをする。

後は明日以降が期限で明日が期限のものも隊長印が必要な奴ばかりだな。

もう一頑張りしよう。

 

「この分は東仙とほかの隊士に言って配達してもらおう」

 

俺は書類を各隊の分に小分けする。

今日の仕事はそれでもう終わりかねない。

皆には余った時間で見回りしてもらったり、道場で組手をしてもらったり、鬼道の勉強をしてもらう。

時間を効率よく使いながら磨き上げていく。

 

「次の段階に行かせるのは業務の教育だな」

 

東仙にも経験を積ませるために書類の振り分けとかも教えてみるか。

盲目だから言葉を伝えて可否を判断させる。

事務的な事もこなせないと隊長職は遠い。

隊長としては後進を育てるのも重要な役目。

層は薄くても粒は大きく揃っている。

それがこの十番隊の掲げる目標だ。

 

「顔を洗って清潔にしておこう」

 

洗面台に向かい、顔を洗う。

鏡を見てどんな顔か確認しようとしたが思い留まる。

あの人の方が嫌な思いをしていただろう。

それなのに顔を確かめようなんてあさましい。

 

「気を取り直して支度を始めるか」

 

自分を戒めて身支度を整える。

糊のきいた隊長羽織を着て姿勢を正しておく。

綱彌代副隊長にも相応の格好で出席するように伝えておいた。

隊首室に書置きを残しておく。

七時には鐘が鳴るように細工を施した時計があるから問題ないだろう。

 

「一番乗りじゃの」

 

一番隊隊舎に到着したら今しがた開けたというように前では山本総隊長がいた。

副隊長がいない事が気になるようだが……

 

「時間には間に合いますし、隊長だけが集まっておけば最悪なんとでもなるので」

 

そう言うと溜息をつく。

正直に言うと俺の就任の時ですら五番隊は遅めだった。

そう考えたら殊勝な行いだと思います。

 

「次に来るのはきっと卯ノ花隊長か浮竹隊長じゃないですか」

 

浮竹隊長が元気な場合の話ですけどね。

あの人と卯ノ花隊長は時間にはきっちりしているからな。

五分前行動が当たり前。

 

話は脱線するが、俺もその生活の律動のおかげで規則正しい生活を五十年間送れた。

阿近や涅にも厳しくそういった事は教えている。

二人とも研究者ではあるが相手との意思の疎通も重要なので礼儀正しく有ってほしい。

 

「十四郎も今日は来れるみたいじゃし、十二名揃っての式典じゃな」

 

そんな事を言っていると既に七時を回っていたのか、扉が叩かれる。

そして一拍置いているのが分かる。

これは浮竹隊長だ。

叩く前に小さくコホンと咳の音を立てた場合は卯ノ花隊長だ。

 

「十三番隊隊長、浮竹十四郎です、開けていただけませんか」

 

総隊長が開けるように手ぶりで示す。

それに応じて扉を開くと頭を下げて入ってきた。

副官は不在のようだ。

扉を閉めようとした時に卯ノ花隊長が来ているのが見えたので開けたまま、待っておく。

副隊長は現在は山田清之介という青年。

卯ノ花隊長曰く、まだまだ青いが長く空位にするのも勿体ないらしい。

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げて入っていく。

これで平子さんを試験した試験官のうち、二人が揃う。

京楽隊長に関しては、矢胴丸さん次第だ。

 

「隊長、待ってください!!」

 

綱彌代副隊長が来た。

時間に間に合っているのは流石だ。

閉めずに入っていくまで待ってやる。

 

「これからは時間で十分前行動の面子しか来ないでしょう」

 

扉を閉めて待つ。

次に来たのは六番隊の朽木隊長。

副隊長も朽木なので区別しないといけない。

その次は三番隊。

鳳橋さんに挨拶をする。

次が九番隊。

拳西さんに頭を下げる。

 

……時間的にそろそろ来るな。

機嫌が直っていたらいいんだけど。

扉が叩かれる。

 

「十二番隊の曳舟だけど開けてもらえないかい?」

 

扉を開ける。

ひよ里さんがいないか、視線を下に向けて探る。

こちらを見上げる視線があったのでほっとする。

機嫌を悪くして欠席なんて事態は無かったみたいだ。

 

「どけ」

 

足払いをされて尻餅をついてしまう。

そして怒ってはいないが不機嫌さを出して歩いていた。

きっと曳舟さんも言うように謝ろうとは思うが素直になっていないのだろう。

それに衆人環視の前でやきもちなんて恥ずかしくて言えない。

 

「お前、やけにあっさりとやられたな……」

 

拳西さんが驚いて手を差し出してくる。

それを掴んで起き上がる。

まあ、今のは来るとは思ってなかったんで。

分かっていたらひょいっと避けていましたよ。

 

「何か怒らせる様な真似をしたのかい?」

 

鳳橋さんが聞いてくるが苦笑いで返す。

この事言ったら余計怒らせてしまいますし。

 

「内緒にしときたい事も有んだろ」

 

いつの間に来ていたのか、愛川さんが後ろに立っていた。

これで残っているのは二番隊と八番隊と十一番隊。

五番隊は副隊長の昇進だからあの向こうだ。

 

「時間通りには間に合ったか……」

 

呟くように削枷隊長が来ていた。

副隊長も新しく決まって『奴騨(やっこだ)』という名前だ。

 

「俺達が最後から二番目かよ……」

 

大前田副隊長が何とか四楓院隊長を連れてきた。

浦原も付き添っているのは二人がかりだったのだろう。

これで八番隊だけか。

 

「いや~、一番最後になっちゃったねえ」

 

相も変わらず飄々とした感じで来る京楽隊長。

矢胴丸さんの事も考えてあげてください。

かなり苛ついていますよ。

 

「副官に迷惑かけるのは感心しないぞ、春水」

 

浮竹隊長が諫める。

こりゃ失敬というように頭を下げる。

いい加減にしないと総隊長から拳骨とびますよ。

 

「全員、揃ったようじゃの」

 

扉の向こうから声が聞こえる。

全員が扉の向こうに行って整列をする。

そこには平子さんが立っていた。

また随分とゆるい顔だな。

自分が固すぎるだけか?

 

「この度は聞いていると思うが五番隊での人事があり、隊首試験を同隊の副隊長である平子真子が受けた」

 

頭をぼりぼりとかいている。

全く、締まりがないな。

隊長としてやっていけるのか?

 

「三名の隊長の試験結果と推薦に基づき、本日から五番隊の新隊長とする」

 

それで任命式が終わった。

するとこっちに平子さんが向かってくる。

 

「これでワイもお前と同じやな」

 

階級は一緒でも年数が少し違う。

それに怠慢癖は抜けているのか?

 

「副隊長を誰にするか決めているんですか?」

 

副隊長の任命は隊長として重要な初仕事である。

良い副隊長がついてくれるのが一番。

それだけで仕事の効率や隊全体の空気などがよくなる。

曳舟隊長に対するひよ里さんで仲のいい二人も隊長と副隊長として素晴らしい。

京楽隊長に対する矢胴丸さんのようにしっかり者と緩めの人という形も素晴らしい。

 

「そんなん藍染しかないやろ」

 

即答だった。

それに対して態度を変えたのだろうか。

少しばかり期待を込めて質問を投げる。

 

「有能な部下だからですか?」

 

あいつの仕事のうまさには目を見張るものがある。

それ以外の鬼道や剣術も並外れているから傍に置いておきたい人材だ。

一度、あいつを四席に迎え入れようと誘いをかけたが、首を横に振られた。

五番隊の方が居心地がいいと言っていた。

 

最近は実験もせずに書類の仕事に没頭しているらしい。

ちょこちょこと訪れては茶を一杯飲んで茶菓子をつまんでいる。

そのたびに、やっぱりこいつも一人の死神なんだとつくづく思い知らされる。

……脱線してしまったな。

 

「いや、あいつを野放しにするのはあかん、そう言った危機感からや」

 

小さく溜息をつく。

つまり、見方を全く変えていないのか。

あいつからすれば体のいい隠れ蓑。

利用されてしまうだろう。

とは言ってもあいつに口が酸っぱくなるほど言ってきたから、黒い行為に現在は手を染めていない。

 

「『着任拒否権』が有るんで確実とは言えませんけどね」

 

藍染が嫌がったら別の相手を探す羽目になる。

普段から『平子隊長ならいいか』と思わせる信頼関係を気づけていれば問題なかったのに。

 

「なんや、それ?」

 

知らなかったのかよ。

まあ、基本的に使うものでもないからな。

 

「藍染は貴方が指名しても副隊長になるのを断れるんですよ」

 

そう言うと目を丸くしていた。

断わるなんて頭の中に無かったのだろう。

 

「態度を変えてこなかった付けですね」

 

それだけ言って去っていく。

頭を抱えていたけど自業自得だ。

 

「ひよ里さん、お話良いですか?」

 

去ってから瞬歩ですぐに追いついて背中から話しかける。

矢胴丸さんと久南さんもいるが関係ない。

『頼むから察してくれ』と視線を送る。

 

「今からうちはリサと白の三人で食事するねん」

 

せやから、後でにしろと手で払う仕草をする。

しかし矢胴丸さんが一言放つ。

 

「悪いけどひよ里、急に京楽に呼ばれたから行くわ」

 

するとそれに乗じるように拳西さんが後ろから久南さんを引っ張る。

察してくれたのだろう。

二人きりにしてくれた。

ひよ里さんからすればなってしまったが正しいけれど。

 

「あいつら……」

 

ひよ里さんが額で手を押さえて唸る。

そしてこっちに向き直って手振りで付いて来いとする。

 

「まあ、大方昨日の事やろ」

 

路地で小声で話してくる。

ひよ里さん自身も恥ずかしさがあるのかもしれない。

思い出すと俺も罪悪感で押しつぶされそうになる。

 

「はい、誤解を招き、嫌な思いをさせて誠に申し訳ございません」

 

ほんまやでと呟いて頷くひよ里さん。

申し訳ないと思い頭を下げようとする。

しかし頭を下げようとする俺を手で制してきた。

 

「頭は下げんでええ」

 

グイグイと俺の頭を押し返して下げさせまいとする。

細い腕とはいえ無理にやられると首が徐々に痛くなってくる。

 

「しかし……」

 

首が痛くなってきたので一度態勢を整える。

そして、再び頭を下げようとした。

 

「そこまでせんでええ言うてるやろ」

 

次は下段蹴りで脛を蹴ってくる。

言葉でダメなら肉体的に。

痛みで頭を下げる事は無くなった。

 

「どうしても言うんやったら、お昼おごったらそれでチャラにしたる」

 

其れなら……

俺はその場所へ連れて行ってもらう。

お互いのすれ違い、勘違い。

それがこんがらがってしまうとややこしい。

 

「ほんなら、お昼食べよか」

 

向かい合わせで天麩羅定食を食べる。

二人とも食べるのが好きだから、ゆっくりと味わう。

そしてしばらくして食事は終わって器は空っぽになった。

 

「茶菓子買って帰ろか」

 

だんごを買って十二番隊の隊舎へ戻る。

入る前に振り向いて口をへの字にして言葉を発してきた。

 

「勘違いして悪かったな」

 

それだけ言って入っていった。

こっちが悪いと思っているのを察知して言ってくれたのだろう。

その心遣いがありがたかった。

 

「仲直りできたみたいやな」

 

後ろから矢胴丸さんの声が聞こえる。

見られていたのか?

 

「おかげさまで……ありがとうございます」

 

先ほど気を回してくれたお礼を言う。

すると見上げるように、少しばかり流し目で所作をしてくる。

表現としては『色っぽい』というものだろうか?

 

「お礼なら体でせえ」

 

俺ももはやその意味が分からないほど若い男でもない。

顔に血が集まる。

しどろもどろになって何とか言葉を発して断る。

するとくすくすと笑われた。

 

「冗談や、まったく初心な奴やな」

 

また、揶揄われてしまった。

少しむすっとした顔をしていたら、次は手を前に出してきた。

一体何のつもりだろう?

 

「お駄賃、渡し」

 

そういう事ですか……

巾着からお金を出して渡す。

一拍置いて、笑い顔から真剣な顔に変わってこっちを見てきた。

 

「どこぞの意気地なしとえらい違いやな」

 

こっちが好きな気持ちを言っていたり、謝ったり。

そう言うのをこの人が一番知っている。

俺はあの日の言葉に感銘を受けて我慢をしていない。

 

それはそうと、意気地なしって誰の事だ?

そんな事を考えていると目の前からいなくなっていた。

 

気持ちは昨日よりも楽になった。

少し頬が緩んでしまいそうになる。

引き締めて十番隊の隊舎へと戻っていくのだった。




仲直りすると言っても自分から謝れないあまのじゃくな性格なだけで、悪い事は理解できているはず。
藍染に対しては徐々に藍染が心を開き始めているといった感じです。
綺麗な藍染ですが平子が最初の『逆撫』の反応から未だに警戒するというすれ違い。
もし、悪い事するなら格好の隠れ蓑を自分から生成していくスタイル。

指摘などありましたらお願いします。


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『仕事 - Working-』

区切りが見つけられず、文字数が多くなりました。
評価や感想、毎度有難うございます。


矢胴丸さんの意気地なし発言から数日が経った。

その相手が誰なのか皆目見当はつかない。

 

「まあ、どうでもいいけど」

 

ひよ里さんが好きなのに一歩も踏み出さない人がいるだけだ。

そんな手をこまねいても意味なんてない。

あの人には率直に気持ちを伝えないとわかってもらえない。

回りくどい言いかたなんて逆効果だ。

間違いなく『さっさと言え』と一蹴されるだろう。

 

「藍染副隊長は居るか?」

 

今日のお昼を一緒に食べる誘いをするつもりで五番隊隊舎に赴く。

隊舎に入って藍染が居るか確認。

すると席官が息を切らせて走ってくる。

 

「あの……平子隊長を知りませんか?」

 

どうやら話を聞くと職務怠慢で脱走したらしい。

その為、草の根を分けてでも探しだそうとする。

挙句の果てにしわ寄せは藍染に向かっているのだ。

 

「分かった、ここまで来たし手伝うよ」

 

そう言って執務室へと入っていく。

特技の一つとして、筆跡を真似る事が出来る。

これは四番隊時代に押し付けられて身につけたものだ。

今なら署名一覧を確認できるため、護廷十三隊の隊士全員の筆跡を真似られる。

 

「あの、こちらが平子隊長の担当です」

 

ふむ、なかなかの量だがこれならお昼前には終わらせられる。

しかし、これは厳重注意だな。

 

「有難う、じゃあ始めるよ」

 

カリカリと筆を走らせる。

瞬く間に減っていく。

数時間後には全てを終えていた。

予想通り、お昼前に終わってよかった。

そんな事を考えていると緩い声で入ってきている男がいた。

 

「平子隊長、どこに行ってたんですか?」

 

藍染が聞くとどうやら怠慢してうろついていたらしい。

油を売ればいいというものではない。

四楓院隊長にも言っておかねば。

 

「代役の方がいらっしゃったので終わりましたよ」

 

冷めた声で平子さんに言う。

結局お前と俺の二人で終えてしまったからな。

ため込んでいるのも関心しない。

 

「明日のお昼一緒にどうだ、藍染?」

 

執務室から出ると平子さんは驚いていた。

藍染は是非と言っていた、良い顔している。

あいつも無茶してないのが今の雰囲気で分かる。

もしかすると目に見えない部分もあるかもしれない、探りを入れてみるか?

まずは隊舎に戻って、残った自分の業務をしなくては。

そんな事を考えていると後ろから蹴られる。

 

「なーに、仕事ほっぽとるんや!!」

 

曳舟隊長とひよ里さんだ。

頭を掻きながら理由を一通り話す。

それを聞いてもらううちになんか可哀想な目で見られてた。

 

「貧乏くじ引きすぎやろ……」

 

肩を叩く事が出来ないので背中を叩かれる。

慰めてくれているのだろう。

少し役得だと思っている。

 

「まず、筆跡真似られるのに驚きだよ」

 

押し付けられているときに身につけました。

怠慢してるのが悪いんですが乗り掛かった舟ですからね。

 

「お昼はどうするんだい?」

 

聞かれて少し罪悪感が湧く。

まだと言えば誘ってくれるのがこの二人。

だが…

 

「自分の仕事も有りますので、申し訳ございませんが……」

 

そう言うとひよ里さんがずんずんと大股で五番隊の隊舎へ向かっていく。

それを曳舟さんが追いかける。

俺も追いかけていく。

 

「こら、シンジ、出てこんかい!!」

 

なんやなんやと言いながら出てくる平子さん。

ひよ里さんが飛び蹴りで平子さんを吹っ飛ばす。

その見事な一撃に手を叩いて賞賛していた。

 

「人に迷惑かけて仕事せんとは良い身分やのぉ!!」

 

鼻血を出して顔を押さえている。

後ろから藍染が見ている。

 

「用はそれだけや、このハゲ」

 

そう言って本当に背を向ける。

俺がそれを追いかけようとすると後ろから声が聞こえる。

 

「お前がひよ里に言うたんか……」

 

心外だな。

そんな狭量ではない。

ただ、仕事ほっぽらかしたから弁解して仕事するために昼ご飯断ったんだ。

その原因がそっちに有っただけの話。

それにほとんど進んでいない書類の貯まり具合。

あれじゃあ、藍染も苦労する。

 

「あの人が俺を可哀想だと思ってやってくださったことで告げ口したつもりはありません、

そもそもそっちが職務怠慢して副官に押し付けなければいい話ですよ」

 

こちらとしても今日に関しては言えたものではない。

綱彌代と東仙、涅の三名がてんやわんやだろう。

全くもって申し訳ない。

 

「では失礼します」

 

そう言って十番隊の隊舎に戻る。

気が重いが謝ればいいだろう。

仕事は基本速いのだがたまらないわけではないからな。

 

「今、戻った」

 

お疲れ様ですと言ってくれるのでお辞儀を返しながら執務室に向かう。

そこに東仙がいたので頭を下げる。

 

「東仙、仕事を押し付けてしまったな、申し訳ない」

 

そう言って引き受ける。

去っていく前に綱彌代にも、持ってきてもらえるように頼む。

涅が担当しているのならば、それも追加でと伝える。

 

ほどなくしてそれなりの量を持ってきた。

溜めてはいないが、お昼ご飯を食うのが中途半端な時間になるな。

小腹ぐらいに収めておかないと晩ご飯が入らない。

 

「誰か誘いに行って引き受けさせられるとか災難ですね」

 

東仙が言ってくるので頷く。

お前が隊長になったら仕事をやむを得ない事態以外で放り投げるなよ。

隊員たちにも迷惑だからな。

 

「終わったか……」

 

目頭を押さえながら揉む。

あれから夕方になる前に終わった。

自分である程度の数、渡してくることを伝える。

後は席官で五番隊から七番隊、九番隊、十一番隊、十三番隊。

この六箇所へ届けに行ってもらう。

せめて手伝ってくれた分を返さないとな。

 

「お前もいろいろと交友を深めておけよ」

 

一緒に食事をすることもある。

卍解を修練したり、俺と鍛錬で斬り合ったりとしている。

俺以外の奴と言えば、拳西さんや九番隊の隊士が多い。

最近は別の六番隊や七番隊とも交流があるようだ。

綱彌代副隊長は問題はない、元々俺よりも歴が長い。

涅と阿近はこっちが連れだしているから困っている。

あいつらとんと交友関係とかに無頓着だからなあ。

 

「大丈夫ですよ」

 

そう言って笑ってくる。

さて、終わった書類を届けてくるか。

最近は東仙達に任せきりだったからな。

 

「目を通しておいてください」

 

山本総隊長に渡す。

相変わらずの威圧感。

手招きされて、旨いお茶を振舞われる。

雀部副隊長は西洋の食事が好きらしいから、よく紅茶というものを勧めてくる。

一度は呑んで見たがどちらかと言えば日本のお茶の方が好きだ。

 

「最近は随分と堂々してきたのぉ」

 

髭を触りながら言ってくる。

まあ、結構時間が経ちましたからね。

元々長く副隊長も経験してきましたし。

 

「お主のようなものが多ければ安泰じゃな」

 

そう言われると照れ臭い。

頬をかいて去っていく。

次は二番隊だが…

 

「また逃げられましたか、夜一様!!」

 

二番隊の席官である(ソイ)(フォン)が叫ぶ。

霊圧を感知したらいいのに。

まあ、感知しても追いつけないから意味がないのだろう。

 

「この書類を副隊長に」

 

目の前に現れた男に警戒心を抱いている。

しかし、隊長と知ってその顔を引き締める。

書類を受け取っていくとようやく口を開く。

 

「四楓院隊長が隊首室から消えているのを追いかけねばなりません」

 

凄い必死だな。

気真面目過ぎたらいつか身を滅ぼすぞ。

それに四楓院隊長なら……

 

「そこの木の上でお前を見ているじゃないか」

 

視線を上に向けるとつられて上を見る。

そして見つけたが……

 

「捕まえられません、あの方は速すぎます」

 

仕方ない子だ。

手助けをしてやろう。

指を組んで息を吸い込む。

 

「縛道の八十一『断空』」

 

木に登っていく砕蜂を余裕綽々で見る四楓院隊長。

しかし逃げようとした瞬間、鬼道に囲まれる。

さっきのは断空を六度展開しておた。

それで結界を張っておいた。

 

「稀乃進はおらんはずじゃが……」

 

下を見て俺の姿を確認すると苦笑いをする。

刀だけの男と錯覚しましたか?

おれは別の木の上に立って向かい合わせになる。

 

「仕事をしなかったり脱走とかは感心しませんよ」

 

年はこちらが上だが、向こうの方が隊長歴が長い分、敬語だ。

砕蜂が捕まえたのを見て『断空』を解く。

協力ありがとうございますと感謝をお辞儀で示してくる。

 

「こうやって慕っている人も望まない捕縛をすることになるんですから」

 

そう言って去っていく。

まだまだ渡しに行かないといけない隊がある。

次は三番隊。

真面目な鳳橋さんだからこの時間は居るだろう。

 

「失礼します」

 

三番隊の隊舎に赴くと鳳橋さんが出迎えてくれた。

相変わらずの優男ぶりだ。

女性隊士が黄色い声を上げている。

 

「タケル、書類の配達かい?」

 

その言葉に頷く。

笑顔で受け取るとそのまま副官室に来るように言われる。

おしゃれな内装に驚きを感じる。

花瓶に挿した花も存在感がある。

座布団を出して座るように促してくる。

なんだかんだで鳳橋さんと矢胴丸さんにはすんなりという事を聞いている気がする。

 

「ひよ里とのことなんだけどね……」

 

前に足払いをされてたけど、何をしたんだいと聞かれる。

内緒にしてほしいと前置きをする。

こちらにとってやましい事ではなく、あの人にしたら恥ずかしい事だから。

綱彌代副隊長に手袋を渡した。

それが色違いのお揃いの装飾だった。

それを知ったら烈火の如く、怒られたのだ。

ねぎらいのつもりが意図せずあの人を傷つけた。

 

「疑うような真似をしてしまったのか」

 

頬をかいて怒るでもなく察しているような仕草。

きっとひよ里さんがどんな気持ちで居たのかは大人である鳳橋さんは気づいているのだろう。

そしてこちらに視線を向ける。

俺の付けている指輪を見つけていた。

顎に手を当てて考え込む。

 

「でも、確かひよ里もお揃いの指輪を付けている気が……」

 

流石に俺の指を見たらわかられるか。

親指だから見えにくい場所である俺は普段は気づかれない。

気づかれても人差し指だからあくまで他意はないと言えるひよ里さん。

でもお揃いのものとなればその意味は格段に違ってくる。

 

「あれは俺の思いの丈を捧げて送ったものです」

 

隊長格になってから贈った大事なもの。

愛を示すような形。

それをいずれはしかるべき場所に付けると言っていた。

それが何時になるかは分からない。

それでも待ち続ける。

言葉では愛していると言いながら。

 

「その指にはひよ里は気づかなかったんだね」

 

相当お怒りだったので…

東仙が慌てて呼びに来るくらいですからね。

あれで東仙が連れてきませんなんて言ったら斬られていたかもしれない。

 

「やっぱりひよ里の事は好きなのかい?」

 

ひよ里さんの気持ちがやきもちだったという事を言いながら聞いてくる。

それはどうでもいい相手なら抱くことの無い感情。

俺を少しでも意識してくれていると思える淡い期待。

 

「変わりません、愛の感情は」

 

殆ど即答だった。

たとえこれから先どんな人が現れても、あの人以上に心乱す事は無い。

こんなにも狂おしい熱に焼かれそうになることも。

独り占めしたいという黒い感情を抱く事さえも。

 

「女性としては嬉しいんだろうね、ひよ里はまだ恋を知らないから理解できないだろうけど」

 

でも、それでもひよ里を恨んじゃいけないよ。

そう言われて頷く。

恨むなんてことはない。

 

「話が長くなってしまったね」

 

そう言われると確かに長かったかもしれない。

次の四番隊に渡したら、次は八番隊だ。

忙しいから手伝うかもしれないな。

恩は返さないといけない、あの人の頼みには首を縦に振る。

それが己に課した絶対的な掟。

 

「失礼します」

 

そう言って立ち上がって去っていく。

敬語を使っていたから、三番隊の隊士から鳳橋さんが質問攻めされていた。

全くもって申し訳ございません。

そう思い、頭を下げながら隊舎を出ていった。

 

相変わらずの忙しさ。

隊舎の前に来ると声が聞こえる。

勝手知ったるなんとやら。

扉を開けてもらわずとも壁をよじ登れる。

何なら修繕してなければ抜け道だってあるはずだ。

 

「よっと……!?」

 

よじ登り終わって飛び降りようとした時に殺気を感じる。

その視線の先には卯ノ花隊長がいた。

怒っているのだが笑みを見せながら手招きをする。

俺はすぐに近づいて正座する。

 

「子供のような真似をするとは何事ですか?」

 

淡々と説教が始まる。

隊長になったのだからそう言った真似をしては示しがつかない。

忙しそうだから手を煩わせたくなかったと弁解をする。

『侵入者がいるだけで問題が発生してしまい結果、扉を開ける以上に煩わされる』と返される。

 

「全く、巣だったかと思えばまだまだですね」

 

そう言ってため息をつかれる。

正座を崩そうと思うが申し訳なさで崩せない。

すると警報が鳴った。

これは完全に手が回らなくなった時のもの。

何度も聞いた事があるから覚えている。

 

「どうやら新人に任せたところが徐々に詰まってきていたようですね」

 

俺は立ち上がって卯ノ花隊長に身振りでそちらに行ってもいいか確認を取る。

その俺の姿を見て微笑むと頷く。

そしてかつての様に俺に指示を出す。

 

「斑鳩隊長、新人隊士たちを助けに行きなさい」

 

承知と短く答えて駆けていく。

そして警報の発生源に行くと溜息が出た。

回しきれないというよりは慌てているのが原因である。

重傷だったりその症状で順位を付けてしないと。

まだ新人が背伸びをして、全てを平行に行っていくと機材とかが散らばるから時間の損失の方が大きい。

 

「どけ」

 

そう言って一人をぐいと押しのける。

そして指示を出す。

 

「一度散らばった機材を集めて洗浄してこい」

 

出来るだけ速くな。

その間に怪我は治していく。

もしくは出血を押さえておく。

重傷で今すぐ必要なのは十名ほど。

この程度ならすぐに終わる。

この倍ほどを常に副隊長の時はやっていた。

 

「軽い奴よりこっちにいる奴を重点的にやっていけ!!」

 

そう言って指示をてきぱきと出していく。

数分後、完全に処置を終えている患者たちがいた。

慌てても、順序がずれて能率が下がる。

それだけ忠告して去っていく。

すると別の場所で警報が鳴る。

 

「またか!!」

 

そう言って瞬歩で入っていき、治していく。

時間にすると二時間にも満たない速度で終わった。

過去ならば三時間かかる量が半分ほどの時間で終わった。

 

「山田副隊長より速いじゃないか……」

 

上位席官の呟きが聞こえる。

少し気分がいい。

卯ノ花隊長から巣立っても衰えは無し。

それどころか鍛錬の結果、あの日より速くなっているなんて。

 

「見事ですね」

 

汗一つかいていない。

息一つ切らしていない。

その姿を見て卯ノ花隊長が笑っていた。

 

「とにかく書類は受け取りました、ありがとうございます」

 

そう言って扉を開かれる。

次は八番隊か。

思ったより仕事を押し付けられているな。

副隊長の時の方が自由だった気がする。

 

「十番隊の斑鳩です、書類を届けに来ました」

 

 

 

 

「隊長自ら書類の配達なんてしなくてもいいんじゃないの?」

 

 

「だってもうあの頃の青い坊主じゃなくて今や長ですから、好きにやって仕事をろくにしないだったら皆不満を持ちますよ」

 

 

 

 

 

 

「このおっさんに爪の垢を煎じて飲ましてやりたいわ」

 

矢胴丸さんが笑いながら言ってくる。

しかし京楽隊長に向ける目は笑っていない。

きっと僅かに見える冷や汗は気のせいではないだろう。

 

「ひよ里ちゃんとはどうなの?」

 

少しいやらしい笑みを浮かべて聞いてくる。

一体その笑みが何を意図しているのかは分からない。

とりあえずそのまま答えてみるか。

 

「お揃いの指輪を渡してからは一緒に食事に行ったりして、徐々に距離を詰めてはいるんですけどね」

 

それ以上はないですよ。

こちらの気持ちには気づいているんでしょうけど。

そう言ったら首根っこを掴まれる。

 

「京楽、こいつ借りるで」

 

そう言って俺を引きずって副官室に入れられる。

矢胴丸さんが俺を引きずっていく姿を見て、隊士たちが驚いていた。

この大きさを難なくやっているわけですからね。

 

「一気に距離詰めてへんのか?」

 

だって手を繋いだり、抱きしめようとしたら蹴ってくるんですよ。

強引にしようとしたら力加減を間違えそうですし。

そうこっちが伝えると少し顎に手を当てて考える。

 

「前回のあれはあの子がやきもちやいたんやろ」

 

思い出したように言ってくる。

しかもこっちが伝えなくても全部わかるとは、凄い人だな。

ほんま、ひよ里はかわええなぁ。

そう言うと一転真剣な顔をこちらにしてきた。

 

「ここまで来てるんやったら少しの勇気振り絞り」

 

あの子の中で特別になってるのを薄々感づいているんやろ?

その問いに頷いて答える。

だって何とも思わないやつから勘違いだけで烈火のごとく怒るなんてないですし。

 

「あの子も嫌いな奴なら後日曳舟隊長とか、うちの所に相談して報復したがるわ」

 

いうて、押し倒せってわけちゃうけどな。

さっきみたいに加減間違える言うんやったら頭撫でるとかそんなでもええ。

言い方悪いけど唾付けるなりしとけ。

そう言われて背中を叩かれる。

なんでこんなにも恋路を応援してくれるのか?

疑問なので聞いてみる。

 

「だって幸せにしてくれるやろ?」

 

うちらも永遠の命ってわけじゃない。

出来れば幸せな時間が多いままこの命を終えたい。

それには連れ合いがおってもええ。

でも、そんなんうちがひよ里の為に見つけるもんちゃう。

だから心から幸せにしたがる奴が来るのが一番や。

そこまで言って一拍置くと俺を指さす。

 

「それがお前や」

 

どこぞの意気地なしとは違って燃えるほど熱く恋をしている。

だから応援するのだ。

ひよ里が満面の笑みを常に浮かべられるように。

そこまで言われて圧倒された。

 

「話は終いや」

 

そう言うと扉を開けて俺を蹴りだす。

相変わらずだな。

良い人なのは分かるが、いささか過激な物言いや行動が激しい。

 

「次行くのはきっと十二番隊やろ」

 

少し口角を上げて言ってくる。

まるで『お前の考えなんてお見通し』というように。

この人にはこういった駆け引きでは勝てない。

そう思って八番隊隊舎から出ていった。

 

「とにかく最後の隊舎だな」

 

そう言って扉を叩く。

ゆっくりと出てきたのはひよ里さんだ。

少し眠そうにしている。

しかし、副隊長の面子で引き締めた顔でこっちを見てきた。

 

「書類か、お疲れさん」

 

受け取って、曳舟隊長の元へかけていく。

十二番隊の元気印だな。

十番隊にもこれくらい快活な人がいたらなぁ。

 

「入ってきぃ」

 

くるりと振り向いて手招きしてくる。

おずおずと入っていく。

悪い事をしているわけではないが恥ずかしい。

もしかしたら一番隊隊舎に入る時以上の緊張だ。

 

「昼、一緒に食われへんかったさかい、晩はどないや?」

 

その誘いに相も変わらずの首振り。

流石に慣れてきたのか笑っている。

 

「おでんの屋台にでも行こか、曳舟さんも一緒に連れて」

 

二人きりだと思ってたのを少し自己嫌悪。

そりゃ、尊敬する人も一緒だ。

これは体に触れるのは次の機会かな。

頬をかきながら準備をするひよ里さんを見つめていた。




率先して仕事したり交友を深めようとしたら巻き込まれやすい。
鳳橋や矢胴丸の二名はひよ里を応援しています。
体に触れようとしたら怒られるから手を繋ぐのもままならない状況です。

指摘などありましたら何卒よろしくお願い申し上げます。


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『襲撃 - EnCount-』

今回は日常生活と戦いを入れ込んでいます。


あれから幾らかの時間が過ぎた。

自分が隊長になってから五年後に平子さんが新隊長に就任。

その五年後には拳西さんが隊長に就任、久南さんも副隊長に昇進した。

さらにその三年後には愛川さんが七番隊の隊長に就任。

数えると自分が護廷十三隊に入ってから六十三年の月日が流れていた。

 

それは知り合いが一気に台頭してくるわけだ。

そう思うと自分が年をそれなりに取っているのが実感できる。

 

こちらは後進を育てながら強さに磨きをかけている。

東仙の卍解の能力や綱彌代の能力も事細かに分析を行っていた。

恐ろしい能力は綱彌代であった。

『閻魔蟋蟀』は触覚以外の全ての感覚を遮断。

刀の持ち主には干渉されない系統のもの。

 

『獲姫大蟷螂』は大鎌以外にも隠されたものは有るはずだ。

二つ目の鎌をどこからともなく出現させていたので、条件付きで大鎌の二刀流になるのだろう。

その二つ目の鎌に隠されているものがいまだに判明しない。

 

『眠計画』を涅と共にやり続けていたが成長度合いから未だに五號のままである。

殆どの問題も論理も取り払えている。

しかし抜けが有るはずだと凝って考えたり、よりよいものの生産に重点的に考えを持っていく。

あえての方法など試しての経過観察を続けているのだ。

 

そして『義骸』といった考え。

代わりの入れ物と言って差し支えない。

この研究結果は別に晒すつもりもない。

ただ、どうしても『魂』が存在していない。

そのせいもあるのか、いまだに話す事が出来ない。

検査をしたが脳の成長、神経伝達に不備は見当たらない。

しかし、現実としては凍結と言ってもいいほどの行き詰まりだ。。

 

もう一つは藍染との関係。

なんとか長年の説得のおかげで現状は問題がない状態まで持って行けた。

もし、急いだ場合の犠牲などもすり合わせて話し合った。

急がなければ待っていれば条件は整っていくだろう。

それにあの塊もこれ以上は大きくすることもない。

心を開いてくれているのか食事にも頻繁に行くようになった。

 

相も変わらず、平子さんからは距離を取られているらしい。

食事に誘ったりしたら一緒には行くが、瞳の奥が笑っていない。

もしくは取り繕っているというのが透けそうだと言っている。

あの人、救いようがないな。

 

「なんであいつを警戒しているんですか?」

 

そうは思いながらも、平子さんに聞きに行く。

食事をしながらなら少しはするっと出るだろう。

正直、俺としてはもう藍染に寝首掻かれる理由は自分で作っていると思う。

不信感しか今の藍染は持っていない。

実際、一回だけあいつと木刀で勝負したけどかなり強かった。

確実に東仙や綱彌代以上はある。

もし、本気を出したら平子さんよりも強いんじゃないか?

 

「あいつはわいの斬魄刀が見た結果、恐ろしいほど何かを隠してる、危険な奴や」

 

それを聞いた瞬間、溜息をつきそうになる。

斬魄刀の判断よりも、自分の判断を信じてみろ。

あいつが裏切る可能性があるとしたら……

 

「危険な奴が裏切るとしたらそう言う態度やふとした言葉が引き金になるんですよ」

 

それだけ言って食事処から出ていく。

霊術院時代の先輩だからこそ、それなりに敬意はあったがもはやその気持ちもわかない。

拳西さんはまだ理解するし面倒見は良い兄貴分で通っている。

次期隊長候補の愛川さんも優しい事に加え仁義を通す人だから、人気がある。

そういう人たちには敬意を払っている。

人を信じて、事を成そうとするし腹に一物あろうとも見捨てようとはしないから。

 

「しかし藍染が不幸だな……」

 

歩いていくと臭いがする。

風が運んできたのは嗅ぎ覚えのある臭いだ。

侵入者の報が入る。

既に重傷者数名。

 

賊は僅か二名。

幼子が一名。

この時点である存在を予感していた。

そして次の男性の特徴と共に『天挺空羅』を卯ノ花隊長に向けて放つ。

鎮圧のための戦闘許可。

それを快く受諾されたことでさらに速度を上げる。

 

「削枷隊長は!?」

 

そう言って見るがなんとかまだ立っていた。

とは言っても流血が酷い。

残念だが死なないだけで敗北というのは変わらないだろう。

その人の海を飛び越えて男に向かって刀を振るう。

相手もその一撃に振り向いて刀同士を打ちつける。

火花が散って高い音を響かせる。

 

「会えて嬉しいぜ……」

 

その男が微笑む。

獣のような笑み。

それに対し、刀を向けて射殺すように視線を向ける。

 

「瀞霊廷を揺るがす輩であれば斬らねばならん」

 

そう言ってこちらは刀を振り抜く。

それに対して相手も刀で再度受け止める。

邪魔になってしまっている十一番隊の奴らに指示を出す。

 

「お前らは隊舎に入るなりしておけ、それと速く削枷隊長を四番隊に連れて行ってこい」

 

巻き込まない自信は無いからな。

三度目の刀の一閃。

それを見てから相手は動く。

回避ではなく前へと進んでくる。

肩口にめり込むのが見える。

その痛みや損傷を意に介さず逆の手に持ち替えて振るってきた。

腹部に刀を迫らせるが舐めるんじゃない。

 

「ふんっ!!」

 

跳躍をして腕に乗る形で回避。

そのままの落下を活かして懐に入り込む。

しかし相手も強いものであることは変わらない。

 

「易々と入らせるかよ!!」

 

膂力を活かして胸倉をつかんで放り投げてくる。

着地を決めたところへ突きの一撃が迫る。

前へ踏み込んで頬に喰らいながらも距離を詰める。

 

「この程度か?」

 

袈裟切りを見舞う。

それを半身になって踏み込んで浅くする。

その勢いのまま回転切りを放ってくる。

こっちの腕を盾にして止める。

斬り落とせずに止まった相手に対し、頭突きを放って互いに頭を打ち付けあう。

 

一度の攻撃から繋がる流れはめまぐるしい変化がある。

両者の損傷もさほど違いはない。

そう……

 

「俺が『これ』を使わなければの話だがな」

 

腕の傷が癒えていく。

あの人が認めた男がお前なら、俺はあの人との錬磨を長きにわたり続けた男。

あの人の刀の流れを汲んだもの。

 

「楽しむために使わせてもらう」

 

よもや卑怯とは言うまいな。

刀のように鋭い眼で相手を見る。

相手は顔を歪ませていた。

だがそれは怒りなどではない。

純粋すぎるほどの喜び。

霊圧が地面に染み出すように体の外から漏れていた。

 

「まだ斬らせてくれんのか!!」

 

振りかぶる相手。

踏み込む自分。

殺すつもりで振り下ろす相手。

倒すつもりで斬りあげる俺。

 

「ちっ!!」

 

舌打ちをする俺と相手。

無理もなかった、交錯した結果は芳しくはない。

紙一重の差。

皮一枚しか裂けてはいないようなもの。

 

心があの日の様に沸き立つ。

溶岩のような熱を伴って。

血が徐々にせり上がり俺の思考を獣の様に血生臭いものへ変えていく。

 

「しゃあああああ!!」

 

雄たけびの一閃。

その刀の一撃をただ事ではないと思ったか。

振り下ろした一撃を刀で受けてすぐさま前に転がり、頭突きを顎に放ってくる。

顎を跳ね上げられてたたらを踏む。

だがすぐさま言葉を返す。

 

「痒いんだよ、もっとしっかりやれ」

 

その言葉にさらに喜びを見せる。

本気で戦える相手が目の前にいる。

それがこの男にとっては至福なのだろう。

 

「そうだ、もっと喜べ」

 

俺が相手してやるからよ。

そんな思いを乗せて刀を振るう。

その攻撃を受け止めて前蹴りを放ってくる。

こちらはその前蹴りを半身に体を翻して避ける。

そして幾年ぶりにあの風景が眼に映り始めた。

 

「相も変わらず煌いていやがる……」

 

腹を裂いてしまおうか。

腕を斬ってしまおうか。

ああ、ご馳走が目の前にある。

 

「その眼、その顔、それを求めて彷徨い続けてきたぜ……」

 

相手が何を言っているのかはすでに聞こえない。

ただひたすらに求めるように進む。

相手の刀が腹にめり込む。

裂かれるが気にも留めない。

その振り切った腕を切り裂いていく。

 

「きええええええ!!」

 

足を斬られるがそれも無意味。

痛みなどとうに無い。

毛の先ほども感じてはいない。

 

「がっ……」

 

首筋を切り裂く。

血が袖を濡らし、流れる。

床に雫が落ちると同時に踏み出してきた。

それを迎え打つために構える。

 

「もう良いだろ……」

 

侵入者の捕縛の為に駆け付けたのはひよ里さんと曳舟隊長。

隣の隊だからな。

そんな曳舟さんの呟きにくるりと首を向ける。

俺の顔を見てひよ里さんが強張った。

 

「片や足と腹を裂かれ、片や首と腕を深く斬られ」

 

曳舟さんが見比べている。

お互いの深手は同程度。

このまま続けているとどちらかが死ぬ。

 

「こんな戦いは辛いだけやろ、そこまでする必要があるというんか!!」

 

それを察したひよ里さんが悲痛な顔でこちらに止まる様に言葉を繋ぐ。

だがもはや止まれない俺はその優しさに対して冷たく言葉を返していた。

 

「辛くない殺し合いのどこが楽しいんです?」

 

その言葉に珍しくきょとんをした顔になる。

ひよ里さんに対しては今まで優しく言う事を聞いていた姿しか見せなかった。

そんな俺からの反論。

 

「えっ?」

 

自分に対して何時でも優しかった男。

その存在が恋愛以外で聞き分けがないのだ。

反応としては当然だろう。

 

「辛くない殺し合いのどこが楽しいのか聞いているんですよ!!」

 

両手で刀を握り、駆けていく。

相手は片手で刀を握り、眼を光らせてこちらを見ている。

 

「そうだ、痛みも死もすべて戦いの代償に過ぎねぇ!!」

 

そこからはさらに斬り合いは熾烈さを増していく。

皮膚より深く肉を斬ろうとする。

その肉を斬ろうとすれば骨まで断とうとする。

 

隊長羽織はどちらの血で染まっているのか分からない。

鬼道を使えば勝てるはずだ。

それをしないのは一つの意地。

あの人の刀の流れは最強である。

それを汲んできた己も強いはずだ。

その証明の為に斬り合うのだ。

 

「ひゅっ!!」

 

呼気を吐き出す。

相手の片手による僅かな隙。

それは楽しみではない、驕りである。

それを知らしめてやる。

 

「しゃああああああ!!」

 

一撃を振り下ろす。

俺よりも高い背丈から放たれるもの。

並の隊士や隊長なら切り殺されるだろう。

だが集中しておけばなんという事もない。

ここで一つ技を拝ませてやる。

 

「はっ!!」

 

柄の部分で刀を受け止めて、すぐさま相手の刀を弾くように滑らせる。

技巧としては恐ろしく難しいし、間違えれば深手を負う事は確実。

それを成功させて、刀を跳ね上げる事で無防備な状態を作らせる。

そして深く踏み込み、力を込める。

 

「かあああああっ!!」

 

気合の声とともに刀が振り下ろされる。

腕が深々と斬られた相手。

肩口から斜めに切り裂き、相手から血が噴き出す。

手応えはあった、斬りあげて止めを刺す。

そう思って相手に向かおうとする。

 

「っ……」

 

しかしそれよりも速く懐に入り込まれていた。

その深い傷の激痛も意に介さない。

踏み込んで笑みのまま、こちらの振り下ろした後の硬直を虎視眈々と狙っていたのか。

 

「貰ったぜ」

 

刀が一閃。

煌きだけを残して振りぬかれる。

髪の毛がはらりと落ち、額から血が噴き出る。

それでも此方の表情は笑みを崩さず。

深く斬ったから終わりとで思ったのか、警戒がない。

そんな詰めの甘さには反吐が出る。

あの人相手にそんな真似をしたら、次の瞬間には首が地面に転がるぞ。

 

「これにてお終い」

 

餞別に卍解を行う。

左側頭部を縦に一閃。

手応えは十二分にある。

 

「やっぱり、被って見えるだけある……」

 

相手は血を噴き出させて崩れ落ちる。

俺は頭に横一文字に切り裂かれている。

 

「ちっ……」

 

深手と疲労で体がまともに動かせずに仰向けに倒れ込む。

倒れる際に頭部から流れる血が雨の様に降ってきた。

そんな俺を見下ろすひよ里さん。

曳舟さんは隊長として更木を運ぶために四番隊に話をしに行った。

 

「生きとるか?」

 

腕を組んだ怒りの姿勢のまま、問いかけてくる。

体が動かないし口もひくひくとしか動かない。

流石にこれは駄目だ。

 

「全く阿保な事しくさりおって……」

 

足を持って引きずられる。

抱えられる大きさではないから仕方ない。

 

あの時、ひよ里さんの瞳に映った自分が見えた。

あの日以上に凄惨な笑みを浮かべていた。

そんな姿を見せて怖がらせたことを深く恥じる。

 

「笑顔で恐怖感じさせるってあるんやな」

 

ふとした時にひよ里さんが呟く。

相手が強かったさかい、あの顔になるんやろ。

そう言われて苦笑いで返す。

 

卯ノ花隊長の時はあの笑顔にはならない。

更木剣八だからなのだろう。

それとも卯ノ花隊長の時は死を意識しているからなのかもしれない。

確実にそうなりかねないと平隊士の時からの刷り込みが、楽しみを感じる以上に恐怖を感じている。

 

「まあ、滅多にあの顔はないやろ」

 

頭が徐々に地面を擦り始めた。

痛いのでここでほったらかしにして十番隊の隊舎まで行ってください。

そして東仙を連れてきてください。

そうは思うが口が動かない。

 

「お前、やっぱり重いわ」

 

そこで待っとけ。

そう言われて、地面に置いてどこかへ向かう。

数分後に拳西さんと愛川さんが来て、二人がかりで運んでくれた。

 

卯ノ花隊長とも戦いの結果について話をしたり、その数日後に護廷十三隊の隊首会で削枷隊長の進退を確認。

この度は削枷隊長の引退となり、後任は決闘で勝利した更木剣八が就任する形で騒動は終止符を打ったのであった。




強さ的には59巻の戦いをしているのとさほど変わりません。
しかし、まだ全力出させる前に引き分けたので残念な結果です。

指摘事項などありましたらよろしくお願いします。


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『夢 - Dream-』

しばらくの間、更新できませんでした。
申し訳ありません。
今回で70年なのであと30年ぐらいで第一章の主人公パート終ります。
現世編の主人公も考えております。


更木剣八の襲撃から、七年の時が経っていった。

もう所属して七十年。

古株ではあるがまだまだである。

初めは皆が更木を敬遠していたが、俺が戦ったというつながりで教育係に任命されて隊長としての心構えを教えていた。

常に斬り合いを望んでいたが煙に巻いていた。

理由は単純。

斬り合うとその余波で建物の倒壊があるからだ。

そんな事で総隊長の呼び出しは喰らいたくない。

挙句の果てに卯ノ花隊長に叱られる。

約束を破ったら確実に『八千流』状態の斬撃が待っている。

死にたがりでも拒否したくなる代物である。

 

「あいつを教えたことに比べたら新人のお前に四席の任務を教えるのは簡単だよ…」

 

新しく入ってきた隊士に溜息をつきながら呟く。

見た目は死神らしからぬ男だった。

しかしその愚直なまでの純粋さ。

それに惹かれて十番隊に指名をした。

新人隊士としては異例の四席への就任。

 

「教えていただけて感謝しております」

 

堅い奴だとは思う。

でもこいつは隊長になる未来がある。

東仙も涅も後に隊長格にはなるだろう。

綱彌代はきっと東仙の補佐に入るだろう。

 

「指名したら断わる事も出来たのになぜ来てくれたんだ?」

 

ここが護廷十三隊で一番厳しい隊なのは数年で有名になった。

主席卒業生ですら席官に入るのに時間がかかる。

もしくは移籍させられる。

だがその後に席官になった者が居る。

それゆえに『適性のある隊を見抜いている』と言われている。

 

「あの東仙が全幅の信頼を寄せておるのです、ならばそれだけで信頼に足るもの」

 

真面目な回答だ。

しかし望んでいた答えではない。

霊術院の学問で言えば『可』か『不可』にするような内容だ。

 

「お前さんは馬鹿か?」

 

俺の言葉にびくりと身を竦ませる。

少数精鋭を作ってきた男。

つまりはついてこれない厳しさが有ったという事実。

そんな俺に怒られることは恐怖である。

追従するため悪にもついて行きかねない。

そう言った理由で不穏分子に煽り立てられて『蛆虫の巣』に行かされて除籍も十分にあり得る。

 

「東仙が信頼しているからって理由で簡単に信頼するな、お前がきちんと俺を見て信頼に足る人物と認めろ」

 

その言葉に頷く。

俺は信頼を他の相手がしているから自分もというのは好きではない。

それにこいつは俺の見立てが確かならばいずれは隊長となり得る。

そんな時に己の目を信じ、副官や席次の任命を行う。

その予行練習でもある。

 

「今から自分で相手に対する評価を考える癖をつけておかないと苦労するぞ、狛村」

 

この男の名前は狛村左陣。

初めて見た時にどうしても欲しい人材だと感じた。

今まで指名はしてこなかった。

望む奴が来てそれを鍛え上げる。

そのやり方だったのだ。

つまり指名は異例ともいえる。

 

「これのような事を皆しているのですか?」

 

涅はともかく、東仙と綱彌代にはやらせている。

元々涅の場合は自分を信じ切っているから別の誰かの評価なんて当てにしていない。

 

「当然だ、有望な奴は例外を除いて行わせている」

 

と言ってもまだ三人目だ。

藍染の奴がこっちに来ていたら教えていたのに。

これから先、色々な奴がここに来るが、きっと俺の目線での有能は少ないだろう。

 

「例外というのは?」

 

興味深そうに聞いてくる。

気にはなるだろうが納得する奴だぞ。

 

「涅五席だ、あいつは自分の価値感が確固したものとして存在している」

 

確かに。

そう言いたげな顔をする。

まあ、話はこれくらいにしてやることをやらないとな。

 

「こっちの書類仕事が終わったら東仙と一緒に渡しに行ってくれ」

 

そう言って書類を取り出す。

仕事を放りだして、副隊長達には極力押し付けないのが俺なりのやり方。

ただ配布ぐらいは手伝ってもらって、各隊の隊士の顔を覚えてもらう。

そして俺が教育係になったにも関わらず、ろくにしないやつの穴埋めをさせられている。

卯ノ花隊長に怒って貰わないとあいつは駄目ではないかと思っている。

 

「十一番隊の後始末をやってくるから」

 

数時間後、終わった書類を各隊ごとに分けて穴をあけて糸で綴じておく。

そう言って十一番隊に行く。

血気盛んな奴らが多い。

俺を一目見ると喧嘩を売ってくる命知らずもいる。

 

「相変わらずの死にたがりだな」

 

そう言って霊圧で威圧する。

大昔に総隊長がやった時の様に。

そうすると呼吸が苦しいのか、地面に手をついたり転がっている奴が居る。

 

「おい、居るか?」

 

隊首室の扉を叩く。

結果は無反応。

溜息をついてしまう。

鍛錬場で汗を流しているのだろう。

 

「筆跡を真似るも何も書いているのを見たことないんだよ……」

 

代理人の印を押しながら俺がやっていく。

どいつもこいつもやらないから溜まる一方。

一回だけ草鹿副隊長に言ったらわかんないと一蹴された。

今はきっと十二番隊で曳舟隊長かひよ里さんのおやつを頬張っているのだろう。

 

「何故、隊長が他の隊の雑用をしないといけないんだ……」

 

夕餉になりそうな時間で終わらせる。

これをとりあえず色々な隊に渡しに行かないと。

いや……これくらいは流石に任せるか。

放っておくと後で色々な隊にしわ寄せがやってくる。

 

「そこの席官の君、頼みごとがあるんだけど……」

 

頬に大きな傷を負った奴が振り向く。

そしてこっちに来た。

いかり肩でいかにも喧嘩を売ろうとしているのが分かる。

 

「あぁん、何の用だ……!?」

 

腹部に蹴りを入れていた。

あまり軋轢を生みたくはないがいい加減にしろ。

悶絶している奴を見下ろして教えてやる、

 

「お前らは隊長を馬鹿にするがいつからそんなに偉くなったんだ?」

 

礼儀も知らん奴らだ。

髪の毛を掴んで持ち上げる。

あうあう言ってるので高く掲げる。

 

「何か言ってみろぉ!!」

 

床に叩きつける。

その騒ぎを聞きつけて十一番隊の奴らが集まる。

怒りが爆発している俺相手に勝てるとでも思っているのか。

 

「書類届けてこい!!」

 

そう言って突き出す。

それを見て鼻で笑って俺の手から叩き落す。

挙句の果てには踏みつけられた。

うん……うん…

 

「舐めているという事か」

 

完全に頭に来た俺は刀を抜きそうになる。

今まで更木の教育や書類の後始末で訪れてきた俺。

そんな時に必ずと言っていいほど、喧嘩を幾度となく売ってきたこいつらにも非がある。

 

「もう一度機会を与えてやる」

 

そう言って書類を再度かき集めて綺麗にする。

そしてもう一度最後の慈悲で書類を届けるように言い伝える。

すると急に腰を低くして持っていった。

強さを誇示して良いんだったらいくらでもしてやる。

生憎あの死合を覚えている奴は十一番隊の中にはもう居ない。

 

「さて……帰ろう」

 

後始末も終わったしこれであとは今日の仕事のまとめをして一献。

ひよ里さんでも誘うかな。

そんな事を考えていたら殺気を感じる。

 

「がら空きだぁ!!」

 

さっき言い渡した奴らが待ち伏せしていたようだ。

と言っても、人数は減ってる。

つまりは聞き分けた奴もあの中にはいた。

 

「聞き分けないやつは度胸のある馬鹿、聞き分けた奴は理性的な馬鹿」

 

相手の刀が折れて転がる。

それに握りしめていた掌の皮が破れて血が滴っている。

原因は霊圧の差。

 

「で……気は済んだか?」

 

呆れ顔で呟く。

これがただの賊なら首の一つでも斬り落としておくところだ。

隊士だからしないだけ。

更木隊長も別にそれほど部下の為には動かないだろ。

 

「渡しに行っていないのは十二と九と七か」

 

全部が同期の所属する隊。

頭を掻いて向かっていく。

七番隊から巡る形だ。

 

「愛川隊長はいませんか?」

 

扉を叩くと平隊士が出てくる。

敬語を使ってくる隊長にぎくしゃくとしている。

居ると小声で言ってくるので、頭を下げて礼を言って隊首室まで歩く。

扉を叩くと声が返ってくる。

 

「誰だ?」

 

それに対して名乗ると入っていいという。

扉の取っ手を捻り開けると相変わらずの武骨な部屋が出迎えてくれる。

欠伸をしながらこっちを見ている。

 

「天下の十番隊隊長が他隊の書類仕事とは泣けてくるぜ……」

 

苦笑いで返す。

誰か十一番隊で書類仕事できる奴が来たらいいんですけどね。

七年たっても未だにそういう類を一個もやっていないあいつに腹が立つ。

しかし、それを指摘したら戦えという。

こっちは卯ノ花隊長との約束があるから戦えない。

一度相談したが我慢の一言で済まされている。

つまり、渋々やっているのだ。

 

「速くまともな補佐官がつく事を祈りますよ」

 

それだけ言って七番隊の隊舎から出ていく。

あとはどこに行くのか聞かれたので九番隊と十二番隊と答えた。

十二番隊と聞いた時にくすくすと笑っていた。

なんか狙ってその部分を抜き取ったとか思ってません?

心外だな。

 

「六車隊長はいませんか?」

 

そう言ってると久南さんが来る。

そして手元を見て溜息をつく。

きっとお土産があると思ったのだろう。

仕事が終わってないのに差し入れはしませんよ。

 

「今度休みの時にでも持ってきますよ」

 

黄粉を振ったあんこのおはぎをね。

それを聞いていたのか拳西さんが久南さんを後ろから小突く。

 

「全く、隊長相手にねだってんじゃねえよ」

 

書類届けに来たんだろ?

そう言ってきたので渡すと同じように苦笑い。

平隊士から今に至るまで書類仕事で届けたりがある。

貧乏くじを引いてしまったのかもしれない。

 

「お前の事だから次に届けんのはひよ里の所だろ」

 

そう聞かれて頷く。

久南さんが笑う。

役得を平然ととっている。

あからさますぎるのだろう。

でも、そんなものでしょう?

 

「じゃあ、行ってきます」

 

手を振って去っていく。

そして十二番隊の隊舎につくと鼓動の高鳴りを抑えながら扉を叩く。

出てきたのは曳舟さんだ。

顔を見るとくすくすと笑っている。

皆、同じ反応するよな。

しかし、通りすぎる時に臭いを感じる。

それは研究をした薬品のような臭い。

 

「曳舟さん、何か研究していますか?」

 

単刀直入に聞く。

だがこれは自分もその類と告白するようなもの。

普段の生活上では決して嗅ぐことの無い臭いなのだから。

 

「ああ……『仮の魂』の定義さ」

 

一人でその命題に行きつくとは……

この人も裏の顔としては優れた科学者だったのか。

止めておいた方がいいのは確実。

何故ならば、現在その存在はないもの。

それを開発してしまうと『零番隊』から声がかかってしまう。

そうなるとひよ里さんが悲しむことになる。

あの人の悲しむ顔を見たくないのが理由だ。

 

だが止められはしない。

個人が努力した結果を踏みにじる。

それが曳舟さんのものだと知ればひよ里さんは烈火の如く怒るだろう。

嫌われるのも苦しいものだ。

 

「心配してくれるのは良いけどねえ……」

 

顔に出ていたのだろう。

そしてこっちに向き直して厳しい顔になる。

 

「そっちの方がよっぽど危ない研究してるような気がするんだけど?」

 

お互い、同類の臭いには敏感だ。

上手くいってしまうと、人造死神を山ほど作れる方法が確立される。

それはある意味、八代目剣八と同じようなもの。

 

「こんなの一回成功したらもうそこで終わりですよ」

 

まあ、大量に作る必要はない。

『眠計画』は終わらない計画として動かされる。

それだけのための危険な研究。

理想の土台が一つ生まれればそれでおしまい、お蔵入り。

 

「そっちの方もあまり根詰めないでください」

 

それだけ言って、副官室へと向かう。

曳舟隊長に書類を渡すのも忘れずに。

扉を叩くと声が聞こえる。

 

「入れや」

 

そう言われたので、静かに扉を開けて入る。

書類の整理をしていたのだろう。

 

「後始末に追われて書類仕事せなあかん隊長なんて聞いた事あらへんで」

 

これで終いやと呟いて整理を終える。

その言葉に苦笑いになってしまう。

そして仕事を互いに終えているからか、盃を二人分出す。

酒まで出てきた。

ここまであって意味がわからないぼんくらではない。

 

「一杯付き合えや」

 

注がれた盃を渡される。

それを傾けて味わうように飲んでいく。

その合間に目を細めてこっちをひよ里さんは見てきた。

 

「ウチに隠し事してへんか?」

 

その声色に僅かに身を震わせる。

寂しげな感じではあった。

しかしそれ以上に怒りを込めた低い声。

 

「身を竦ませるような動きしたなぁ……隠すなや」

 

急かすように膝を叩いている。

どういった事を勘づいているのか。

それが一番重要だ。

それ以外の事で襤褸を出すわけにはいかない。

 

「まず、どの部分が隠している内容があると思ったんですか?」

 

できるだけ冷静に受け答えをする。

身を竦ませるとそれだけで看破されそうだからだ。

 

「まずは研究してるって前に言ってたけど……」

 

じろじろと見ながら一拍置く。

『崩玉』の事が来るのだろうか?

それとも『眠計画』か?

 

「限りなく真っ黒なことしてるんやないかと思ってるんや、例えばそうやな…」

 

顎に手を当てている。

いずれかではなく両方の事を知っているのか?

もしくは別の内容を含めているのだろうか?

 

「なんか子供を実験で作ってるやろ」

 

『眠計画』の事か。

何故、それがばれているのだろうか?

 

「リサが覗いてみたらガキを筒状のものに入れてたらしいな」

 

出所は矢胴丸さんか。

それはまだ完成形でもない。

 

「それは『あるもの』を生成する技術を応用した、『無』から『死神』を作り出す計画ですよ、その上で俺の肉体強度と協力者の血液情報から作られた存在」

 

あるものとは『仮の器』の事。

自分たちが現世でも、人に見える形で動けるようにするもの。

今までは存在を分かられず、怪現象として片づけられたことが多かった。

稀に見える人間がいた時には意思疎通も可能だった。

今後はそれが常時行えるようになるのだ。

 

「人造の存在ってわけか、滅茶苦茶やな」

 

呆れたようにひよ里さんが言う。

まさかこんなとんでもないものだとは思っていなかったのだろう。

 

「軽蔑しますか?」

 

少し怖がりながらも問う。

貴方に蔑みの目を向けられる恐怖。

それはきっと更木に後ろから斬りかかられる以上に恐ろしい。

 

「いや、軽蔑以前にその途中やとしてもとんでもない事やろ、軽く怖いわ」

 

研究者でもない人でも無茶苦茶と分かる計画。

さらにそれを形にしていこうとしている。

夢を叶えるために尽力しているとはいえ、はた目から見ると恐ろしいものだ。。

 

「きっとこの計画は全死神の夢でしょうね、叶えば激震が走る、できれば他言無用でお願いします」

 

それだけ言う。

頭を掻いて了承してくれるひよ里さん。

だが、これだけで追及は終わらない。

 

「あとはお前がくれたこの指輪やけど、何かしとるか?」

 

霊圧を感じたらしい。

仕方あるまい。

それに気づいたのであれば、全てを伝えなくてはいけない。

 

「当時警戒していた隊士の刀の破片を埋め込んでいます」

 

その能力を無効化するために手に付けられるものにしています。

それを言うと普通の指輪じゃないことに溜息をついていた。

 

「直接攻撃系じゃないってわけか」

 

直接攻撃系であった場合、ひよ里さんにはあまり意味はない。

副隊長に並の隊士が太刀打ちはできないはずだ。

しかしそうではなく特殊な能力。

それを危惧したわけだ。

 

「何せ始解の時点での警戒ですから解放されるとひとたまりもないです」

 

おおよそあいつの性格と心から考えると思い浮かべるのは……

『精神操作』や『誤認』に近いもの。

理解されないからこそ、相手が理解するように心を操る。

もしくは行動を正しいと思わせてしまうもの。

最悪な形は『催眠』だ。

万能性が高すぎる。

敵に回したくもないし、味方なら心強い。

 

「その刀に触れる事が予防策ってわけやな」

 

それに触れるわけにはいかないから指輪や手袋にした。

その説明の時にピンと来たのか。

あの時の綱彌代への贈り物は単純な予防だと。

 

「で、これは特別で予防はついでってわけやってんな」

 

そう言ってから自分から言ってしまった失策。

特別なものと認めてしまった。

それゆえに意識してしまう。

その感情をごまかすように頭を掻いていた。

 

「まあ、危険から遠ざけたいからそれを組み込んだんです」

 

企みなんて微塵も有りはしない。

あるのならば鬼道なり悪いものを組み込む。

それこそ『掴趾追雀』で居場所を常に特定したりなんてな。

 

「思いやりってわけか」

 

そう言って指輪を撫でる。

その通りですとも。

 

「お前が企んでうちを不幸にすることはない、信じていいんやな」

 

信じてほしい。

貴方を不幸にしてしまう企みならば破却する。

貴方を苦しめる考えなど持ちたくもない。

 

「まあ、それで終わりや」

 

飲むのを続けるで。

徳利を差し出してきた時に見た顔は微笑みがあった。

それに応えるように盃を差し出す。

注がれた酒を嬉しさとともに飲み干していった。

願わくば不幸などこの人に降りかかりませんように。

その思いが頭の中で渦巻いていた。




ひよ里にばれたのは別に害なしでお咎めはありませんでした。

多分キャラ・ヘイトの成分が今後の話で入ってきます。
不快な気持ちにさせてしまう事もあるかもしれませんが、その点はご容赦いただければと思います。お手数をおかけして申し訳ございません。
この話の投稿後にはタグ付けを行っておきます。

指摘などありましたらよろしくお願いします。


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『着想 - Idea -』

ちょっとリアルが忙しかったので滞りました。
短い話で一旦区切って次の予定からは一気に原作時間軸に近づけていきます。



更木の書類処理に苦言を呈してはや三年。

どうやら新しく入った綾瀬川とか平隊士でもましな奴が分担して行っているようだ。

もう、まったくと言っていいほど十一番隊の隊舎には行っていない。

あいつに挑まれるのもしんどい。

書類押し付けられるのもしんどい。

 

「しかしどうしたものか……」

 

『眠計画』の根幹の魂。

それをどうにかしようとするにはまだ時間がかかる。

今の時点では獣の魂魄を削り取って注入する形だった。

自分たちも魂魄を手探りで作ってみたが歪。

獣はともかく人の魂魄が非常に難しい。

ちなみに死体からは意味がない。

義骸の中に注入してもその魂魄が合わずに消失。

上手く行くかと思えば、形作ることが難しくどろどろの流動体。

 

「これでは凍結もやむなしダヨ……」

 

あの涅ですら溜息をつく次元。

球状にするところまでは思いついた。

しかしそれもできていない。

無から生成だけでも骨が折れる。

 

「俺達の魂魄を削るか、もしくは……」

 

曳舟隊長の開発を待つ。

それが一番安全。

 

「まず魂魄の仕組みを再度論文を見直して確認しよう」

 

それが嫌なら人の魂魄を自分たちで作る。

停滞は致命的だけど、仕方ない。

 

「まあ、こればかりは天才のワタシでも未知の領域の重なりダ」

 

珍しく弱音を吐く。

歯軋りや頭を掻くのもあいつらしくないと思いながら見ていた。

 

「息抜いてくるわ、お前も少し休んでおけよ」

 

首を鳴らし、研究所から出る。

阿近も今日は十番隊の隊舎で休んでいる。

子供の時点で不眠不休に勤しませるわけにはいかない。

 

「しかし、どうしたものかね」

 

髪の毛を掻いて嘆く。

論文に穴はないのは本当は分かっている。

なのにすがるように言ってしまった。

技術力がまだ追いつかないのだ。

 

「いや、それとも柔軟性が足りないのか?」

 

何気ないものから得る事が有るはず。

自分では無理でも誰かの声や振る舞いを見てみよう。

 

「大丈夫かいな、そんな唸るような声出して」

 

目の前にひよ里さんがいたのにも気づかぬ体たらく。

そんなにうんうんと言っていたのだろうか。

恥ずかしいなと思い頬をかく。

 

「ちょっと悩み事で……迷惑かけてすみません、大丈夫です」

 

こっちを心配してくれたのだろう。

嬉しい限りだ。

 

「そんな事()うても難しい顔してたらあかんわ、ちょっと隊舎まで()ぃ」

 

手を叩いてしょうがないというような顔をする。

そして、十二番隊の隊舎までついてくるように言われる。

 

「ええから座り」

 

座ることを促される。

そんなに力なさそうだったか?

 

「昼くっとらんやろ?」

 

その言葉に頷く。

するとすぐに厨房へと入っていく。

あっという間にいい匂いが広がる。

 

一体何をやっているか気になった。

揚げ物をしているのは分かる。

にんにくやしょうゆの香り。

ぶつ切りの鶏肉。

つまり、唐揚げを作っていたのか。

しかしすでに油きりの器にいくつか盛られている。

それをなぜ出さないのだろうか?

 

じっと見てしまう。

その視線に気づいたひよ里さんが苦笑いしている。

 

「そんなに見られたらやりにくいわ」

 

お気になさらずと言っている、再び凝視。

ここに閃きのきっかけがあるかもしれない。

流石に苛ついたのか溜息をつく。

 

「これは『二度揚げ』っていう技術や、一回上げて衣にうまさ閉じ込めて二回目はじっくり通すってやつやな」

 

その言葉に閃きを得る。

しかし食事の方が大事だ。

これは曳舟さんから教わったんやで。

そう言って盛り付けていく。

 

「いただきます」

 

手を合わせて、唐揚げを頬張る。

肉汁が口に溢れる。

油が体に沁みる。

 

気が付けばご飯を三膳食べてしまっていた。

よく食べる姿に微笑んでくれていたからいいが、少しは遠慮すればよかったと後悔。

おいしすぎるのも困りものだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせ礼を言う。

皿をすぐに持っていく。

それについて行くように茶碗を持っていく。

 

「ようけ食うてくれる方が気分ええわ」

 

そう言って食器を洗ってくれる。

頭を下げてそのまま研究所へと戻っていった。

 

「さて…試してみるか」

 

流動したものを固めるのに容器が必要だ。

それを一つで賄おうとしていた。

その結果、魂魄の強度次第で容器が崩れる。

一度球状の空のものを作り、それを覆う形でもう一つ。

それで一気に強度の向上を図ることができる。

対費用効果から考えなかった方法だ。

さらにやり方も霊圧で固めたものを包むのではなく注射器で注ぎ込む形へ変更。

くまなく入り込むこと、そして自身の霊圧を安定した状態で加えることで固められる。

 

「ただ、これは量産できないよな……」

 

間違いなく、自分たちの研究成果が一点物だからできる方法。

普及させる場合にはこれを改良する必要がある。

曳舟隊長はきっとそちら側になるだろう。

貢献度もそうなるとこっちよりは上になる。

 

「まぁ、良いか」

 

名誉以上に自分たちの願いがある。

其れが叶うのであればそれ以外は特にどうでもいい。

 

「良くはないダロウ」

 

強度を上げるという事は現在の個体では不可能。

つまり一つ上げることになる。

六號にはなるが、仮にいい技術が生まれればそれもだめ。

結果は当初予定のまま計画は進行する。

 

「だが、誰かの知恵を借りて完成を遅れさせるのと、

自らの技術の粋を集めて一度は完成させるならどちらが本望だ?」

 

そう言うと返答は間髪入れずに来た。

そうなるように仕向ける意地悪な質問だ。

 

「自分たちの努力の結晶が優先だ、誰かの知恵には興味ない」

 

そう言って義骸の作成を取り組む。

零番隊に目をつけられても断ればいい。

一世一代の夢の完成。

それを確実に近づけた時の俺達の顔は太陽のような煌きが宿っていた。




次回からは曳舟さんの義魂からの零番隊への昇進を書いていこうと思います。
つまりこの第一部は長引かなければ十話もないです。

何かしら、指摘などありましたがお願いします。


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『乗- Ride-』

遅ればせながらあけましておめでとうございます。
今回は理不尽でもやり場のない怒りをぶつけるというのをやってみました。



全死神の夢であった『眠計画』。

苦節数える事、八拾年。

理論を組み立ててから長い時が流れた。

今、その結晶ともいえる存在が目の前に映る。

 

「目を覚ますんだ『眠六號』」

 

その言葉に反応する赤子。

目は瞑ったまま泣き声を上げる。

 

産声があばら家に響く。

反応は上々。

涙という分泌物もある。

女の子としてできてしまったのは予想外だったが。

男性の遺伝子情報と肉体だからてっきり性別は男になるとばかり思っていた。

 

「ついに成功だな、涅」

 

感慨深く言うと笑みを浮かべているのがわかる。

自分たちの夢にいつの間にか変わっていたかもしれない。

しかしすさまじい、ある種の偉業を成し遂げたのだ。

 

「これが『眠計画』の成功例ダネ」

 

そう言ってありとあらゆる角度から見るように観察する。

今後の経過も残していくようだ。

当然の行いだと頷いてこちらも筆と紙を用意する。

 

「今後の観察が重要になるからな」

 

そう言って一旦隊舎へ戻る。

俺も仕事があるからな。

十番隊の隊舎で仕事をしていた時に、阿近が訪れてきた。

 

「十二番隊の隊長があんたを呼んでいるぞ」

 

口の悪いまんまだな。

東仙と狛村も少し苦笑いと怒りの混じった表情をしている。

 

「分かった、行くよ」

 

立ち上がって曳舟さんへ会いに行く。

多分『義魂』についての話だろう。

 

「うちの若い者からの伝言受け取りましたよ」

 

お互いが隊首室で向かい合う。

人払いをした状態での話し合い。

 

「そっちは開発しきったみたいだねぇ」

 

義魂と義骸の一致。

人造死神の完成の話だろう。

あの段階では手の入る余地があるのを分かっているくせに、いけしゃあしゃあと……

この人は肝が太い、男顔負けだ。

 

「でも、あれは完成形とはまだ言えそうにない」

 

まずは小型化の方法。

あの体の丈夫さの限界まで張り詰めた義魂。

暴走している器官への影響等が考えられる。

 

「言いたいのは……」

 

一拍おいて羽織の中に手を突っ込む。

そして数瞬後、取り出した内容は……

 

「これの事だろう?」

 

自分たちよりも小ぶりな義魂だった。

しかしこれは流通は良くても、一つの欠点があるのではないかと思った。

この寸法では改造魂魄しか入りきらない。

結果としては今の方が『眠計画』に適している。

そして自分たちの研究で小型化せずに大量に生産できればその方が具合がいい。

 

「その眼は気づいているようだね」

 

そう言って服に忍び込ませる。

おそらく指摘しているの欠点だけの話ではない。

 

この開発の成果によりもたらされる栄誉とそれに伴う別れ。

俺達が始まりではあるが、確実に零番隊に選ばれるのは曳舟隊長の方。

そう考えると胸が苦しくなる。

今まで世話になった人に二度と会えないのでないか?

引退ならば、瀞霊廷に居て教鞭をとるなどの道もある。

その可能性すらない。

 

そしてひよ里さんの悲しむ顔が頭によぎる。

止めておけばよかったのではないかという後悔。

しかし止めてしまうと憧れの人の夢を打ち砕く極悪人として罵倒される。

板挟みに苦しんでいたのは事実。

何故ならば必ず成し遂げられるだろうと思っていたから。

 

「あの人には俺から伝えます」

 

それこそがしてやれること。

いつになるかはわからない。

しかし、その日まで十分な時間を過ごさせてやりたい。

 

「余計な手間取らせてしまうね」

 

曳舟さんが言えばそれで解決する。

だが、行き場のないモヤモヤとした気持ちを抱えてしまうだろう。

それならば止めなかった悪者に自分がなればいい。

ひよ里さんも俺になら存分にぶつけられる。

ひ弱な人だったら流石にあの人も途中で躊躇うだろう。

 

「そうと決まれば話は速い」

 

それだけ言って副官室に向かう。

扉を叩くと声が返ってくる。

 

「タケルか、何の用事や?」

 

呼び方が変わって数年。

『イカ』から『タケル』となった。

単純に食べ物のほうでも同名の生き物がいる。

それを調理の工程で切り刻むとかになったら、さすがに心苦しいのが理由らしい。

 

「猿柿副隊長にとって非常に重要な話なんです」

 

下の名前で呼んでいないと分かると扉の向こうの気配が変わる。

緊迫した空気の中、入ってくるようにと声が聞こえる。

扉を開けると手を叩いて茶を出すように平隊士に頼む。

 

「うちに重要な話ってなんや?」

 

座るように促されるので座ってお互いが向かい合う。

机ではない畳の上。

真剣な話である以上、遮るものがないのが好ましい。

 

「前に俺の開発については話しましたよね?」

 

その言葉に頷く。

次に絞り出す言葉とその後の展開も考えて繋いでいく。

少し間違えた情報を伝えないように。

 

「曳舟隊長も魂魄について研究している死神の一人です」

 

その言葉に驚く。

まさか、自分の知らない一面があるとは想像してなかったのだろう。

俺が知っているのは同種だからだと納得してくれていた。

 

「そしてあの方は俺の開発以上の代物を作成してしまいました」

 

真剣な眼差しを受け止めているのだろう。

固唾を飲んで聞いている。

そして次に出る言葉を一言一句聞き逃すまいとしているのが分かった。

 

「王族特務、零番隊からの声すら有り得ます」

 

零番隊へ行くこと。

それはただの異動ではない。

分かっているわけではないが、こっちの目を見ることでただ事ではないのは理解しているはずだ。

 

「それは二度と曳舟さんとウチは会われへんようになるんか……」

 

顔を俯かせてしまう。

その言葉に頷くと次の瞬間、拳が飛んできた。

避ける事もせず顔に吸い込まれていくのを待つ。

視線を顔に向けると悲痛な顔をしていた。

 

「なんで分かってて止めへんかったんや!!」

 

自分でも理不尽だとわかっているはずだ。

それでも納得はできない。

ならばその気持ちを全て吐き出させてやろう。

 

「黙らずに何とか言えや!!」

 

次は頭へ蹴り。

振りぬかれたことで頭が僅かに揺れる。

体全体でぶつかってきたことで、ぐらりと体勢を崩してしまいあお向けに倒れてしまう。

馬乗りになりながら拳を幾度も振り下ろす。

やりきれない気持ちをぶつけるように。

 

「はぁはぁ……」

 

息が荒くなってから俺の上から体を退ける。

無抵抗で受け続けていたがゆえに顔は腫れている。

しかしそれ以上に痛々しいのは皮が捲れるまで叩き続けていたひよ里さんの拳だった。

 

「手、借りますね」

 

包み込むように手を握って回道を使う。

捲れていた皮膚も治っていく。

痛みでしかめていた顔も徐々に柔らかいものへ変わっていた。

 

「無理やり止めたり壊しても、それでひよ里さんは納得できましたか?」

 

その問いに再び悲しい顔をする。

俺が頓挫させてしまうという事は、曳舟さんがつらい思いをするという事。

それを自分が喜んでしまう現実がある。

もしそうなったら、自己嫌悪に陥っていただろう。

そんな事を考えていると容易に想像がつく。

 

「それならこのような結果になってでも夢を叶えた笑顔の方がいいでしょう?」

 

それで俺が貴方に殴られても。

夢を叶えても壊してもどちらにせよぶつけてしまっていた。

それを察したのか俯く。

申し訳なさそうな顔を浮かべている。

 

「そんな顔より笑顔の方が貴方には似合ってる」

 

それだけ言って手を広げて迎えようとする。

しかし恥ずかしいのか躊躇された。

 

「お前も今後零番隊に行く可能性あるんか?」

 

それは十分に有り得る。

良い質問だ。

 

「俺は絶対に断ります」

 

七代目の剣八が断ったと聞いている。

俺は別にそれは栄誉とは思っていない。

それに俺個人での功績ではなくマユリとの合作だ。

だがそれだけが理由ではない。

 

「……貴方に会えなくなるのはあまりにも辛い」

 

消え入りそうな声で呟いてしまう。

栄誉以上の存在であるという事。

もう優先順位が一番である。

それを勘違いされて枷になっていると思われたくない。

だからこそ囁くほどの声だった。

 

「それに今が一番自分の性に合っているから」

 

ごまかすように笑顔を浮かべる。

そして困った顔を浮かべているひよ里さんの顔を覗き込む。

 

「曳舟さんとあと何年一緒に居れると思う?」

 

正直に考察すると分からない。

明日かもしれないし、何年後かもしれない。

だが別れの覚悟は決めておくべきだ。

 

「確かな年数は言えませんが、思い出を作った方がいいですね」

 

そう言って首をこきりと鳴らす。

それは時間を作るという事。

どうやって作るのか?

それは俺が今の隊と掛け持って十二番隊の業務を行う。

巻き込む形であいつを登用する。

 

「お前はそれでええんか?」

 

俺のやろうとしている事を察するひよ里さん。

顔が曇っている。

それは構わない。

貴方が納得できるまで語り合えばいい。

自分がその分、一緒に居られる時間が少なくなっても。

 

「少しでもあなたが楽になるならそれを喜んでしたいんです」

 

それだけ言う。

顔は身の詰まった果物の様に腫れている。

擦過傷や斬られた傷なら治せるがこればかりは冷やすなりしないと。

 

「何があったんですか?」

 

巻き込むために五番隊に行って藍染に会う。

顔を見るなり、噴き出しそうな顔をしながら聞いてきた。

 

「馬乗りになられた状態からどうやって振りほどくか実験した結果だ」

 

結構全力で殴られたんですね。

そう呟きながら肩を震わせて顔を逸らす。

お前の事だから気づいているんだろう。

 

「顔、冷やさないんですか?」

 

大丈夫だと手を振ってこたえる。

そして本題に入る。

 

「お前は他の隊の書類仕事に興味あるか?」

 

単刀直入に伝える。

最初に戸惑いを見せるがすぐに意味を理解。

そして頭を掻きながら困ったような顔で言葉を発する。

 

「私に手伝ってほしいってことですよね」

 

まあ、そうなんだけどな。

また、面倒ごと舞いこませたと思っているんだろう。

自分から飛び込んでいるから問題はない。

 

「あの人が真面目じゃないんで承服できません、申し訳ないです」

 

凄い苦い顔で断ってきた。

さっきよりも心底申し訳ないと思っている顔だ。

 

「だから十番隊に来いって言ったんだよ」

 

あの人の性格も嫌だろう。

それにしわ寄せが凄い来るし。

 

「でも、今更転籍したら他の隊士に迷惑が掛かりますから」

 

其れだけ言って笑う。

逃すとしんどいものだからな。

とにかく本題の十二番隊の仕事請負は俺が頑張ればいい。

義骸を使ってもよくは無いだろう。

改造魂魄に仕事仕込む方が時間がかかるし。

 

「また、昼一緒に食おう」

 

そう言って五番隊の隊舎から出る。

歩いていると矢胴丸さんに見られた。

顔を背けて笑いそうになっている。

 

「流石に失礼じゃありません?」

 

確かに腫れてますけど。

普通に考えて隊長格が誰かにやられているのに、堂々としてるのがおかしいんですけど。

 

「いや、ひよ里を怒らせたにしては随分かわいい被害やなと思て」

 

流石に刀なり来たはずやのにな。

そう言ってくるので組手で馬乗りになった時に、振りほどこうとして無理だったと伝える。

 

「邪推はしないでくださいね」

 

首を鳴らして去っていく。

顔を冷やして、明日からまた別の作業に力を入れていかないと。

そう考えて十番隊の隊舎に戻っていくのだった。




ぶつけられるだけまだ、そういう事をやっても問題の無い相手。
甘えてもいい存在と認識しているのは進展かと思います。

何かしらの指摘などありましたらお願いいたします。


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『溜息 - sigh - 』

もう少しで浦原の隊長就任。
そしてマユリと阿近と眠六號離脱。
の予定です。
余計12番隊に行く口実ができそう……


曳舟隊長とひよ里さんの思い出づくりに一役買って、はや五年。

俺の睡眠時間は削られながらも二人の楽しそうな姿を見ると気分も落ち着く。

微笑みが漏れるがそれは良い。

結局は誰も手伝ってはくれない。

一人で時折かりかりと倍の書類仕事をこなす。

これをやっている理由を察しているのは矢胴丸さんぐらいか。

 

「これ、渡しに行って」

 

東仙と綱彌代に頼む。

眠六號は今は二十席に座っている。

阿近が十七席に座った。

精鋭部隊と謳われるだけの少数。

その為、雑用でも主要な戦力を割いている。

雑用専用の隊士などいない。

ここを夢見て入る奴らが後を絶たないが、えてして九割は他隊への異動を言い渡している。

その後に結果を残している奴らの多い事。

適性を曇らせているというのが大きすぎる。

 

「俺は俺で別の隊に渡しに行くから」

 

十二番隊と八番隊。

五番隊も入っている。

十二番隊に渡す際に完了済みの代理分を持っていく。

 

「猿柿副隊長は居るかな?」

 

曳舟隊長と一緒にいるからと言って毎日それ以外何もしていないわけではない。

鍛錬や後進の育成。

自分の職務も時間を作る時以外はきちんとこなしている。

 

「今は道場ですよ」

 

卍解を練習しているらしい。

ただ、あれはすぐには生まれない。

俺が教えてもいいんだが…

 

「一目見させてもらうが、これを副官室に置いてきてくれないかな?」

 

受け取って副官室に入ってから出てくるのを見ていた。

きちんとしたのを確認するまでは安心できない。

此方に気づくと頭を下げる。

此方こそ失礼な真似をしたので頭を下げて道場へと向かう。

 

「しかしあの人も相変わらず努力家だな」

 

道場に入ると汗にまみれたひよ里さんがいた。

根を詰めているのがわかる。

具象化もしているのであと一歩だろう。

 

「屈服させようにも相手の間合いの方が長いのか」

 

蛇のようなぬらりとした眼。

薄緑色の肩口までの髪の毛。

指や手足の長さ。

すらりとした見た目。

人の形でもおおよそ五尺三寸はあろうかという背丈。

ほぼ一尺の差は大きい。

 

「はあっ!!」

 

横薙ぎ。

浅い踏み込みになっているのは疲労からと推測。

相手は最小限の動きで後ろに下がる。

そこへ跳躍して振り下ろし。

相手は逆に前へ進み一番の急所を防ぐ。

ここで一つ発展させられる。

それで一撃を喰らわせてしまえ。

 

「かあっ!!」

 

刃と刃の間の溝を活かして、相手の刀に引っ掛けて体を前後に揺する。

その勢いのままに相手の顔面を蹴る。

内心で拳を握る。

それで良い。

後ろから斬りつけるのに抵抗がなければ、そのまま跳躍で後ろに回って切り裂く。

 

「くっ……」

 

膝をついて『馘大蛇』を制する。

体力の限界か。

水溜りができるほどの汗。

さっきは良く見えていなかったが、これから察するに二時間ほどは籠っていたな。

 

「ふぅ……」

 

息を吐き出して衣服に手をかけるひよ里さん。

このままでは非常にまずい。

わざとらしく咳をする。

するとくるりとこちらに顔を向ける。

 

「いつから見てた?」

 

少し顔が赤らんでいる。

動きで血が巡っているのだろうか?

もしくは俺に見られた羞恥からなのか?

それは分からないがきちんと答えよう

 

「最後の部分だけですよ」

 

見事な身のこなしですと言いたかった。

しかし、まだ研鑽の余地がある。

その思いが顔に出たのか。

頭を掻いて唸っている。

 

「まだまだあれじゃああかんってわけか……」

 

こっちの顔で察してしまった。

ならば俺も遠慮はしない。

指摘をしていこう。

だがその前に……

 

「道場の外に出るんで着替えてください」

 

その言葉に頷く。

着替え終わったら声をかけてくる。

そして道場の床拭きの手伝い。

ちゃっかりとしている人だ。

 

「指摘する点はどんな所や?」

 

まずは横薙ぎの部分。

時間差とかの駆け引きがないのが良い所ではある。

しかしそれではやはり呼吸が読みやすい。

避けるのも最小限で済まされて疲労の蓄積が断然変わってしまう。

 

「搦め手じゃなくてもいいから相手との間をずらすだけでかなり変わります」

 

鬼道で動きを止めればいい。

『斥』で逸らしても。

 

「こちらの土俵に誘い込むと相手に読まれてしまうってわけか」

 

それが一番問題点なんですよ。

長期戦になるほど不利になってしまう。

今のままでは。

 

「戦い方を二つ用意するとかでもいいんですけどね」

 

一つを読んでいるときに二つ目をやって頭の中を混乱させる。

それで一気に持っていく。

流れに引きずり込んで相手の得意分野で仕事をさせないのも有りだ。

 

「そんなにうまくもない鬼道やで……」

 

そうは言うが副隊長の地位まで登った人。

無詠唱で九十番台を放つ事は無いが、六十番台なら難なく放てるはずだ。

それに威力を重視するのではなくあくまでつなぎ。

 

「あくまで戦略の一つでそれに重きを置いて行かなくてもいいんですよ」

 

そう言うとうんうんと唸り始める。

なかなか難しい注文だ。

元々体格に見合った速度で翻弄するのがいいが、斬魄刀が大きい分それも難しい。

鬼道の反動などを組み合わせた空中戦。

 

「ちょっと考えて次に取り入れるわ」

 

そう言いながらも礼で頭を下げられる。

俺としては貴方が強くなるのは嬉しい。

それに『卍解』を使えれば曳舟隊長の後を継げる。

 

「あとは八番隊と五番隊だな」

 

次の八番隊では……

 

「あんたが今日は運びに来たんか」

 

矢胴丸さんが顔を見るなり笑う。

春画を見ながら隊舎内を歩くのはやめてください。

隊士の皆さんも苦笑いじゃないですか。

 

「とにかくその本を副官室に戻してから真剣な顔してください」

 

そう言うと仕方なく、本当にしぶしぶといった感じで置きに行った。

京楽隊長は一体何をしているんだ。

情操教育に非常に悪いのではなかろうか。

そう思いながら待っていると、今度は別の春画を持っていた。

流石に見過ごせないので詰め寄る。

 

「その本とは言ったけど、別の本なら良いとは一言も言ってないですよね」

 

そういう意味で言ってるんじゃない。

持って出てくるなという意味だ。

しかし流石にそうは問屋が卸さない。

こっちの言葉に平然と返してきた。

 

「あの本とは言ったけど、別の本なら悪いとは一言も言ってへんやんか」

 

溜息をついて鬼道を使おうか迷う。

流石に火傷を負わせたくはない。

そんな俺の目を見て危険と思ったのか。

再度戻って春画を置いて出てきた。

 

「『廃炎』を無詠唱でやるつもりやったやろ?」

 

その言葉に頷く。

聞き分けがないのであれば強硬手段に出ざるを得ない。

言葉でやり合うにせよ一枚も二枚も上手なのだ。

勝てるわけもない。

 

「そういう堅物な所も治した方がええんちゃうか?」

 

別にまるでそれらに興味がないと言えば嘘になる。

だが、時と場合を選ばなければいけない。

昼のお日様も出ている中。

ましてや手本となるべき地位。

そんな人が春画見て仕事は流石に見逃せない。

 

「免疫がないのでまともに見るのが恥ずかしいからすごい形相になっていただけです」

 

そう言って書類だけ渡してそそくさと帰る。

これ以上話していると長引きそうだからな。

 

最後に五番隊。

藍染が迎えてくれる。

しかし平子さんの姿は見えない。

どうやらまたもや職務怠慢のようだ。

頭を抱えてしまいたくもなる。

 

「この書類を隊首室の机の上に置いててくれ」

 

きちんと『至急必要』の札で抑えた状態でだ。

とにかく探すことにして霊圧を探知する。

どうやらこの方向は……

 

「どいつもこいつも何考えていやがる」

 

できれば行きたくもない場所なのだ。

あの場所では肌を見せがちではあるが上等な着物を着た女性ばかりだ。

そしておしろいや香水で化粧をしている女性が多い。

鼻が痒くなるし眼中にない。

其れなのに腕を強引に引かれる。

流魂街の上位の地区にある色街。

そこに平子さんの霊圧があるのが分かった。

 

「すまないが見つけたから少しだけ待っていてくれ」

 

そう言って瞬歩で探知をしながら探し始める。

移動していたらそちらに行く。

留まっていたらいいがすれ違うからな。

 

「全くこんな時間に行く場所ではないだろう」

 

そう呟きながらあっさりと見つかった平子さんに近づく。

話に夢中になって気づいていない。

よく見ると腰に手を回しているではないか。

女の方が先に俺に気づく。

声を出すなと目で威嚇する。

 

「すまないがこいつ連れて行くぞ」

 

そう言って髪を掴んで引きずるように瀞霊廷へ連れていく。

石畳に羽織がこすれるがお構いなし。

顔をしかめている。

ちなみに女性は驚いて硬直したままだった。

 

「痛い、痛い!!」

 

痛くなるように引っ張っているに決まっているだろう。

何を寝ぼけたことを言っているんだ。

 

「寝言を言うには目が開きすぎだ、痛くされて当然だろ?」

 

仕事もしないで女と話している。

護廷十三隊の隊長として情けない。

溜息しか出ない。

 

「山本総隊長に言ってあんたを隊長職から外してもらう」

 

それを言うと青ざめる。

おおよそ何かに怯える様に。

 

「それはあかん!!」

 

叫んだせいで驚いてしまい、手を離す。

本当に嫌そうな顔でこっちを向く。

 

「まさかあんた、今の立場を悪用してないだろうな?」

 

『蛆虫の巣』から抜け出させたり、放逐したり、倫理に問題ある研究したり。

そういう意味では悪用ともとらえられることをしている。

しかし金銭の問題や女性に対してのだらしなさは皆無。

だが、この反応を見るにこの人はそう言った事をしているんじゃないのか?

 

「それならまじめに仕事でもしておけ」

 

しかしここは見逃さざるを得ない。

いきなり藍染に責任を増やさせるわけにもいかない。

 

「卯ノ花隊長と京楽隊長の信頼を裏切るなよ」

 

殺意を漲らせた目で睨む。

その言葉に含まれる真剣さを理解したのか頷く。

 

「分かったならさっさと隊舎に戻れ!!」

 

これはまずいと判断したのかそそくさと消えていく。

俺はそれを見ながら苛立ちから頭を掻く。

 

「藍染の方がよっぽど器として正しいんじゃないか?」

 

その答えは返ってこない。

しかし俺の心には呆れが充満していた。

もう少し真面目な振る舞いを身につけてほしい。

そんな心で帰りへの道を歩き始めた。




仕事熱心なので普段はコロコロされてる相手に物おじなし。
何回もだらしないというか、不真面目すぎる平子は若干キャラ崩壊してて申し訳ありません。

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『サヨウナラ - Good Bye - 』

今回で区切りがつきました。
かなり駆け足ではあります。


ついにこんな日が来てしまった。

あれから数年もの間。

卍解を習得間近という場面。

それだけ嬉しい事があれば、悲しい事もある。

それをひよ里さんにまざまざと感じさせるように。

 

今、全ての隊長が一番隊隊舎に集まっている。

そしてその中には見慣れない顔ぶれが四名。

これが『霊王』を守ると言われる零番隊の猛者。

 

「十二番隊隊長、曳舟桐生の功績をたたえ『零番隊』への昇進を決めた」

 

その言葉を粛々と聞く。

当の本人も頭を下げている。

 

「これから一週間の間に全ての身辺の整理を済ませて合流するか、断るのであればこの場で聞かせてもらおう」

 

和尚のような男が言う。

霊圧も確かに大きい。

だがそれ以上に底知れぬものを感じる。

 

「私、曳舟桐生は零番隊への昇進を謹んでお受けいたします」

 

そう言ってためらいもなく頭を下げる。

やはりこうなってしまったか。

内心では憂鬱だ。

しかし出さないように努める。

 

「あい、わかった、それでは一週間後にまた会おう」

 

そう言って去っていく。

これにて緊急の集会は終了。

此方を個性的な髪の人が見ていたけれどどういう事だろうか?

まあ、知ることもないだろうから放置しておこう。

 

「どうするんですか?」

 

隊舎から出て俺は曳舟隊長に聞く。

秘匿せよとは言われている。

しかし、あの人には伝えるべきだと思っている。

何故ならば副官だからだ。

その人に何もいわないまま去っていい訳が無い。

 

「言わないとねぇ……」

 

苦笑いだ。

こういう時は決まっている。

俺が伝える役目を担った方がいいのだ。

また怒られる。

でも仕方ないよな。

 

「伝えますよ」

 

そう言って付き添う形で十二番隊の隊舎へと向かう。

すぐさま、副官室の扉を叩く。

 

「お疲れさん」

 

そう言って迎え入れてくれる。

しかし、真剣な顔を見て悟ったのか。

すぐに顔を引き締める。

あの時と同じ雰囲気が流れている事を、ひよ里さんも分かっているのだ。

 

.

.

 

「……この日が来たんか」

 

その言葉にタケルが頷く。

言わずともわかっている。

その覚悟の為に多くの思い出を作った。

駄々をこねはしない。

 

「すまんな」

 

幾年もの間背負わせた仕事。

其れからの解放を告げる。

そして、結果に対して辛さを見せたらあかん。

あかんはずやのに……

 

「ひよ里さん」

 

近づいてきて手を広げる。

それを見ると目頭にこみあげるものを止める事ができへんかった。

体を低くしてくれているその胸に顔をうずめて泣きじゃくった。

声を漏らさないように。

そして気づかうように背中を叩いてくれる。

 

「すまんな、隊長羽織を濡らして……」

 

それから何分泣いていただろう。

落ち着いたころには自分がいかに恥ずかしい真似をしたかを思い知らされる。

しかし相手は頬をかいていた。

何も思わなかったのかと言えば違う。

うずめた時、確かに腕の中に収められた。

つまり抱きしめられていたという事になる。

それ故に耳まで赤くしているのだ。

 

「強くは抱きしめへんねんな」

 

顔を自分でもわかるほど赤くしてそっぽを向いて言ってやる。

それに対してわたわたとして口ごもる。

怒っとるわけやあらへんのにな……

ここでくすくすと笑ったらあかん。

別にからかったつもりもないし。

さりげなく濡れた隊長羽織を『廃炎』の熱を調節して乾かしていた。

芸達者か。

 

「ああしないと貴方が何処かに行ってしまいそうだったから……」

 

消え入るような声で呟く。

曳舟さんを追いかけるか、もしくは引退して隠遁。

そんな事をよぎるのも無理はない。

 

曳舟さんのために頑張ってきた。

その拠り所が無くなる。

そんな一大事で正常に判断は下せない、突拍子もない動きをする。

それは少なからず可能性として見えるのだから。

 

「うちは黙って消えたりせえへんで」

 

そう言うとほっとした顔になる。

今日は表情が頻繁に変わるな。

人のこと言える立場やないけど。

 

「今日の事はうちらだけの秘密や」

 

.

.

 

赤裸々な事を秘めるように言われる

口外したらどうなるかわかってるな?

そんな言葉が眼差しを通して伝わってくる。

 

「無論、誰にも言いませんよ」

 

そう言うと太陽のような微笑みがそこにはあった。

止められなかった事を咎めようともしないその笑みに。

その眩しさに自分は救われる。

 

「次に十二番隊の隊長になるのは誰や?」

 

予想ではあるが確実に挙げられるのは……

きっとあの男だろう。

だらしないから面倒見がいい分、隊長と副隊長としては相性はいい。

京楽隊長と矢胴丸さんに近いかもな。

 

「二番隊の三席である浦原喜助だな」

 

二番隊と聞くとあまり良い顔はしない。

こそこそして殺しをやる奴らとしての認識が大きい。

そう言った根暗な真似が大嫌いなのはわかる。

 

「どんな感じの奴や?」

 

基本穏やかでへらへら笑っているような奴。

ただし、危害を加えるだったり邪魔な相手に向ける殺気。

真剣な時の締め具合は恐ろしい。

肝心な場面や危機的状況では頼りにはなる。

後は非常に頭が回るという事。

 

「ふーん、どっかのハゲとおんなじ系統やんか」

 

どう考えても浦原の方が頼れますけどね。

そう心で思ったが口には出さない。

 

「曳舟隊長の時は引っ張られてましたけど、どっちかって言うと今度はひよ里さんが引っ張る側になりますね」

 

そう言うと苦笑いされる。

負担が大きくなるからだ。

あと、懸念材料としては……

 

「浦原の出方次第ではさらに面倒な事になります」

 

涅を連れていかれる。

するとそれに連れられて阿近。

さらに眠六號の二名が動く。

 

言い方は悪いが涅は唯我独尊に近い。

その為、ひよ里さんとの相性は悪い。

阿近の憎まれ口次第ではさらに火を油を注ぐことになる。

眠六號はきちんと教育をしているから問題ない。

 

「問題児二名が来るんかいな」

 

しかもきっと今の瀞霊廷の中でも最高峰が一人。

問題起こしたりしたら呼んでください。

そう言うとにやりと笑って当然と返される。

あぁ、これはこき使われるな。

そう感じ取ると微笑みが漏れる。

 

「曳舟さんとはあと六日間、思い出作るわ」

 

そう言って話がひと段落する。

今日の所は終わり。

そういう形で副官室から出る。

出る際に曳舟隊長がにやにやとしていたのは気にしない。

悪い事をしたわけではお互いないのだから。

 

.

.

 

それから六日後。

曳舟隊長が零番隊の方とともに行こうとしているのが見えた。

悪戯心で一つ仕組んでやった。

 

「縛道の九十九『禁』」

 

零番隊全員に詠唱破棄で放つ。

それを避けはするが何が目的か。

それを問おうとこちらを見ていた。

 

「何のつもりだ、てめぇ?」

 

そう言いながら近づいてくる個性的な髪の人。

威圧に対して威圧で返す。

すると目の前から消えた。

 

「ふんっ!!」

 

裏拳を繰り出す。

次の瞬間、受け止められていた。

しかし相手は驚いている。

そんなに目で追われたのが珍しいか?

 

「『雷迅』と謳われた俺の攻撃を見切るとはな……流石は裂の一番弟子だ」

 

卯ノ花隊長を昔から知っているのか。

ならばきっとこの人の正体は……

 

「初代四番隊隊長……」

 

その答えに満足げな笑みを浮かべる。

そして距離を取ってくる。

 

「ご名答だ、俺の名は麒麟寺天示郎」

 

一体どういった理由で五人に縛道を使ったのか。

それを察していたのは他でもない曳舟隊長であった。

 

「ひよ里ちゃんに最後に言葉をかけないのかって事だろう?」

 

その通りだ。

長く副官をしたあの人が寝ている間に去るなど許さない。

せめて一言でもかけてやってほしい。

 

「昨日にきちんと伝えたさ、『また会える』って」

 

今生の別れではない。

いずれ紆余曲折が有ろうとも。

いつかは巡り合える。

 

「あの子を軽んじているわけじゃないのさ」

 

その眼差しは今までの信頼が入っていた。

これ以上は食い下がるべきではない。

分かっているが……

 

「曳舟隊長!!」

 

ひよ里さんがいた。

朝早くに起きて、居ない事が分かったのだろう。

探していた時に俺の霊圧がいきなり膨れ上がったからそれをたどったらしい。

 

「見送らせてくれてもええやろか?」

 

ただそれだけだった。

言葉ではなく行動で。

最後に旅立つ人を見送りたい。

 

「うん、おいで」

 

そんな純粋さを前に断れない。

他の四名も微笑ましい眼差しで同行を許した。

俺は良い。

そう思って去ろうとしたら……

 

「服が縫い付けられて……」

 

服が地面に食い込んでいる。

面妖な真似を。

そんな事を考えていると、和尚が目の前に来る。

 

「おんしも見送れ」

 

満面の笑みで言い放ってくる。

豪放磊落。

第一印象の強さ以上に人柄に笑いがこみ上げる。

あの縛道に殺意はない。

それを見抜かれていた。

 

「曳舟隊長が許すならば」

 

手招きされる。

許されているというわけだ。

それならばと動く。

霊圧で服に裁縫を施していたのだろう。

しかし、それでも体は動く。

筋肉と霊圧で針が体中に食い込んでいかない。

 

「こっちの針をだめにする気かえ?」

 

 

呆れた顔をこっちに向ける。

あっという間に針は抜けた。

 

「血もほとんどついていない……」

 

どういう構造なのかと苦笑いされた。

志波家に着く。

十三番隊の志波海燕の実家とはな。

 

「霊術で戻らないんですか?」

 

そう言うと色眼鏡をかけている男性が声をかけてくる。

話し方の抑揚といい、あまりこちらとは合わない気がする。

それに高揚しやすいのか動きが力強く派手になる。

西洋文化に染まったような男だ。

 

「それはできないんだよ、チャンタケ」

 

変な呼び方だ。

どういった理屈か想像できない。

どういった感性かも。

 

「今から打ち上げてもらってそれでお終いってわけサ」

 

そう言って向かう背中に俺は言葉を放つ。

これだけは聞いておきたい。

 

「今一度、零番隊の皆様の名前を教えてもらいたい」

 

そう言うときょとんとした顔をしていた。

そして一拍置いた後、麒麟寺さん以外自分たちが告げていなかったことに気づく。

息を吸い込み、和尚さんが言ってくる。

 

「儂の名前は兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)

 

それに続き色眼鏡の人が言ってくる。

手を差し出してくるので握る。

すると手の皮が分厚く岩のような堅さがあった。

軽薄さとは裏腹の姿である。

 

「ちゃん僕の名前は二枚屋(にまいや)王悦(おうえつ)

 

それが終わると妖艶な笑みを浮かべながら向かってくる。

マユリから聞いていたが確かに女狐という言葉が似合う。

なんだかこっちを逆撫でする感じの存在だ。

 

「妾の名前は修多羅(しゅたら)千手丸(せんじゅまる)

 

ああ、災害や危険度の規模を表す単位の語源になった存在か。

どうやら更地になっている場所。

『蛆虫の巣』にマユリが入る前に研究しあっていた犬猿の仲の存在だ。

 

「用意は出来ましたよ、零番隊の皆様方!!」

 

張りのある声が響く。

それを聞き、向かっていく。

それに対して俺は地面に頭を付けて大きな声で叫んでいた。

 

「曳舟隊長の事……よろしくお願いします!!!」

 

それに倣ってひよ里さんは送り出す言葉をかける。

空に向かって消えていく。

どうかまた会う時は互いに健康でありますように。

そう願っているように思えた。

 

「行くか……」

 

最後まで見届けて俺は立ち上がる。

今日は新隊長就任。

その式典だ。

当然のごとくいつも通りの早起きなので遅刻になる事は無い。

 

「そうやな」

 

ひよ里さんが後ろについてくる。

この歩いている間は無言。

二人とも多くを語らない。

 

「十番隊の斑鳩です」

 

あっという間に一番隊の隊舎の前に立つ。

その一言で一番隊の隊舎の扉が開く。

その後にひよ里さんが入る。

 

「なんだ、猿柿副隊長と一緒に来たのかい?」

 

浮竹隊長が言うので偶然ですよとごまかす。

卯ノ花隊長も入ってきて相変わらずの速い面子だけが集まる。

その次には愛川さん。

拳西さんと久南さん。

鳳橋さん。

綱彌代が来る。

ある程度が揃ってきた。

 

間延びした声が聞こえてくる。

これは平子さんだ。

そこに重なる足音。

藍染も来ているな。

 

「猿柿副隊長、仕掛ける必要はない」

 

俺は釘をさす。

蹴りやすい顔だろうが良くはない。

渋々と下がる。

自分の隊の後任が気になるのだろう。

そわそわしていた。

 

「あれ、曳舟隊長は?」

 

目ざとく見つけた藍染が言ってくる。

手招きをして伝えてやる。

 

「昇進だよ」

 

その言葉を聞いた途端、ひよ里さんに向ける眼差しが優しくなった。

それがどういう事を指すのか知っているからだ。

そしてその眼差しを察したのか。

 

「気にする事は無いで」

 

手を振って応える。

意外と二人の仲は悪くない。

というより俺が橋渡しになっているからだろう。

 

「おい、総隊長が来たぜ」

 

愛川さんが言うので全員並ぶ。

今回は代理でひよ里さんが隣にいる状態。

少し心地よいそんな気持ちに水を差すように、斜めから殺気漲る視線を浴びせている。

 

「あの~……僕もしかして最後っすか?」

 

おずおずと出てくる新隊長。

それは予想に違わぬ男。

二番隊第三席、浦原喜助。

一瞬、藍染の目が値踏みをするものに変わったのを察して諫めるように視線を送る。

 

「堂々としろよ、新隊長なんだろ?」

 

そわそわしている浦原に向かって言う。

普段そう言った事を言わないからみんなが驚く。

鳳橋さんとかはしっかりしているんですが緩んだ雰囲気なんですよね。

だから檄を入れたくなる。

 

「そのとおりじゃ」

 

杖に押し出されて壇上に来る浦原。

曳舟隊長の昇進に伴って新隊長の選任。

朽木隊長と卯ノ花隊長、山本総隊長の三名での隊首試験。

その結果と人格の判断。

問題なしという事で就任を認めるという事になった。

 

「いやぁ、お久し振りッスね」

 

全員が一番隊の隊舎から出て、ひよ里さんと浦原が帰る時に声をかけてくる。

まあ、お前の担当場所から阿近と涅を引き抜いてからは疎遠だったからな。

 

「新隊長おめでとう」

 

そう言って握手を求める。

それに応じると同時にこちらを見てくる。

 

「涅さん、譲ってくれません?」

 

やはりそう来るか。

渡したくないとは言えない。

約束の元に集まったのだから。

 

「俺は別にあいつを縛り付けているわけじゃないよ、あいつが靡くような条件用意するんだな」

 

俺の所で研究するよりも遥かに有益であること。

あいつの心を上手くくすぐるしかない。

どう出るんだろうな。

 

「えっ、そういう関係だったんですか」

 

お互いの信頼関係でもあるが、実際は利害の一致も絡む。

最先端の研究施設を用意をしたり、さりげなく名誉をちらつかせるのも有りだ。

好き放題できるものだという認識も少なからずあるからな。

 

「速く行かへんのか?」

 

こっちの話を遮るようにひよ里さんが言ってくる。

隊長としての紹介が必要。

それに時間にも厳しい。

しっかり者のこの人が世話を焼くだろうな。

少しだけ……いや、かなり浦原が羨ましい。

そんな事は言わないし、顔には出さない。

二人が去るのを目で追いかけていた。

 

「強力な相手のご登場やなぁ」

 

後ろから矢胴丸さんに声をかけられる。

あいつが緩いからひよ里さんが世話を焼く。

『割れ鍋に綴じ蓋』というように相性はいいだろう。

ただ……

 

「譲るわけないでしょ」

 

幸せにするのは自分だ。

あいつがそういう対象で見るのならば負けるわけにはいかない。

絶対に。

 

「闘志燃やしとんなぁ」

 

ニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた。

楽しいおもちゃが見つかったみたいな顔、止めてください。

 

「頑張りや」

 

そう言って背中を強く叩かれる。

ジンジンと痛む背中。

それを土産に十番隊者に帰っていくのだった。




ひよ里を抱擁とか言う甘い部分を書きました。
正直、ここまで心許してる能力なんて原作でも女性陣しかいなかったのではと思います。
ここからどうなっていくのか。
そして藍染のやらかしがなぜ発生するのか。
それについても一応今まででちょこちょこ可能性になりそうなものは記述させてもらいました。

指摘などありましたらお願いします。


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『花の名前 - Flower Name -』

今回はまったり日常回です。
次回にはあるキャラを出していくようにします。


 

「長らく世話になったネ」

 

そう言って去っていくマユリ。

と言っても二つ隣の隊である。

あの後『技術開発局』を浦原が設立。

その際の交渉で『自分が死ねば思いのまま』と言って、マユリを引き抜いた。

予想通り、阿近も引き抜かれた。

眠六號はひよ里さんに頭を下げてお願いした。

自分も顔を出すことはありますが、世話をお願いします。

そう言ったらまかせろと胸を叩いていた。

 

「後任も考えておかないとな」

 

そう言いながら手を振って見送る。

眠六號がこちらをちらちらとみてきて心苦しかった。

会いに行くから気にするな。

 

.

.

 

其れから数日後。

人事について考えていた。

五席には加勢浜を据えよう。

それ以外には阿近の後釜、眠六號の後釜も必要だ。

 

「未次と蛾羅か……」

 

少数精鋭である以上はすぐ後釜の候補は決まる。

実力以外の部分。

それらを加味して選び抜く。

人事を張り出してすぐに任命。

 

「次は……」

 

そうは言うが暇を持て余してしまうのを克明に感じる。

実際、今までマユリたちといた時間が無くなるから早く書類が片付く。

鍛錬でもするか。

そう考えて隊舎を出る。

すると丁度ひよ里さんが来ようとしていた。

 

「涅の事で聞きたいことあるんやがええか?」

 

どうやら想像通りで反りが合わない。

俺も『敬え』とは言ったが聞く耳持たず。

最悪研究情報をすべて破壊してやろうかと言ったときは、さすがに反応を示した。

まぁ、あいつの事だから呼びの情報を確保しているだろう。

 

「あいつがまるで食事をせえへん、なんか好物とかないんか?」

 

あいつ……相変わらずだな。

俺の誘いに頷くのも三回に一回はあるかないかだ。

食事の時間すら研究に当てているところはある。

浦原もそれに近い。

あいつらの考えが時折理解できない。

両方充実させてこそ楽しみがあるのに。

 

「しいて言うなら秋刀魚ですかね」

 

そう言うと溜息をついた。

時期が過ぎているのだ。

 

「それ以外には?」

 

あまり頓着がないからなぁ……。

気が向いた時だけしか食ってないし。

忍耐を要する。

阿近についてはどうなのか?

 

「あいつは面倒見とるわ」

 

憎まれ口は叩くけどそんなもんはガキの言葉。

無理やりにでも言う事を聞かせられる。

そうは言うがあいつの礼儀も教育したはずなのにな。

少し厳しく言っておくべきか。

 

「歯も磨かんかったり好き嫌いあって残すんや」

 

それに比べたら眠六號はまだ良い子や。

好き嫌いはないし良く手伝う。

お前もそれなりに顔出すから助かるのはあるけどな。

 

「あいつにはそれなりに叩き込みましたからね」

 

可愛がった自覚はある。

しかし甘くなりすぎない程度に。

失礼にならないように礼儀を教え込んでいる。

それでも子供らしさは抜けていないが。

 

「そう言えば気になったけど、よたよた歩きながらついてくるんやが、刀なんてあの子持ってたか?」

 

それを聞いて背筋に冷たいものが落ちる。

あいつには自身を守れるようにある物を作った。

しかしそれは……

 

「零番隊が聞けば卒倒しそうなものだがな」

 

小さな声で呟いた。

自分と涅の斬魄刀の欠片を使った。

それを金属や鬼道で打ち直した完全に違法の斬魄刀。

それは何が起こるかわからない。

 

「一応自衛手段は持たせてあげないと」

 

いつまで自分が見てやれるか。

それを考えた時、禁忌に近い方法を思い浮かべた。

結局、自分はそういう存在である。

大事な人物の為ならば鬼にでも悪魔にでもなる。

 

「それもそうか」

 

そのやり方に頷いて納得をする。

それはそうと浦原はどうだろうか?

気になって聞いてみる。

すると歯軋りをしていた。

どうもだらしない男だというのが印象だと言う。

寝起きのまま来るし、隊士に尊敬されようとするそぶりもない。

流石に隊長としての示しは見せてほしいものだ。

ただ『蛆虫の巣』での素手で止めたのには驚いたらしい。

あれは素手での制圧が可能な奴しかできない役職だからな。

あの細腕の中にもしっかり白打の基礎が詰め込まれているというわけだ。

 

「ほんまに曳舟隊長の後やから、尚更やで」

 

溜息をつく。

疲れているのがわかる。

こうなったら一日入れ替わってみるか。

無論、ひよ里さんの方は綱彌代や東仙の助けが有ったらいいだろう。

そう言った思いやりから提案をする。

 

「断らせてもらうわ」

 

手を振って笑う。

まだ浦原たちの相手をしている方が楽なのだろう。

確かに精神的にも全力出して擦り減りそうだもんな。

 

「そっちが手伝いに来た方がよっぽどましや」

 

それだけ言って去っていこうとする。

俺は俺で研究に予定を変えて後について行く。

一応『技術開発局』に出入り可能な者として涅と眠六號と阿近が認めている。

 

「なんでついてくるねん」

 

気配が常に後ろにあるから気づいてしまう。

仕方ないですね。

ちょっとあっちの方に研究材料を置かせてもらったからね。

『眠計画』以降は義骸の研究と義魂の技術に傾倒している。

全てを先駆けて行動ができるのは過去の経験や研究成果に基づくもの。

 

過去の研究結果では毒性の強い虚の魂魄が混ざると崩壊する。

ならば崩壊前に人型の義骸に収めた場合、崩壊は止められるのではないか?

 

それ以降は義骸に霊子体を持たせて精巧に作っていく。

『眠計画』で眠に使ったものは粋を集めた。

しかし、それ並のものを連続して作成する事に今後なり得る。

 

また、一つの欲望が鎌首をもたげているのは言うまでもない。

霊子体を全く持たない義骸を作れたならば?

それはありとあらゆる器になり得るのではないだろうか。

 

「さて……と」

 

ひよ里さんと別れて、十二番隊舎に併設された技術開発局。

そこに認証を行って入っていく。

白衣は特大のものを羽織って、自身の研究成果を置いた一角へ向かう。

 

「おいおい、なんやかんやでよく来るな」

 

阿近が笑いながら言ってくる。

足を引っかける。

それだけで迷惑をかけるなというこっちの意図を汲み取ったのだろう。

ばつの悪そうな顔を浮かべていた。

 

「副局長、俺の残骸はどこに置いておいたんです」

 

ぐるりと見てきてマユリが睨んでくる。

指差す方向にはあるにはあった。

 

「余所余所しく呼ぶな、キミとワタシの仲だろう」

 

悪い、悪い。

どうしてもこういった場所だと礼儀を重んじて呼んでしまう事が多い。

浦原の事も隊長と呼ばずに局長って呼んで笑われたからな。

 

「それに残骸とは言うが、今のワタシでは至れないほどの完成度を作ってよく言えるネ」

 

お前の頭の中はどうなっているのか気になるよ。

そう言われると悪い気はしない。

しかしお前や浦原は万能だ。

それだけの柔軟性は持ち合わせてはいない。

 

「正直、お前と協力できたからこそあれ以上の完成度を持って眠六號はできたんだぞ」

 

俺一人ではとてもではないが難しかった。

結局その過ぎたる技術と同じ水準までどれだけの年月を要するかは想像できない。

 

「悪い気はしないがネ」

 

何故、浦原を嫌うのに俺は嫌わないのか。

それが気になって聞いてみた。

そうするとくすくすと笑いながら答えてくれた。

 

「例えだが犬が猫に負けていようと、気には止めないダロウ?」

 

俺は別の存在という認識か。

確かに負けてもそれほど悔しくは無いだろう。

 

「しかし、犬が犬に負けるのは耐えきれないものダ」

 

ある意味認めてはいる。

だからこそ悔しがる顔を見てみたい。

一泡吹かせてやりたい。

研究成果で上回ってみたい。

それが根底にあるのだろう。

それ故に不摂生ともとれる無茶をしているのだとしたら恐ろしい執念だ。

 

「気持ちはわかるが体に不調をきたした場合の損失を天秤にかけろ」

 

それだけ言って義骸を持っていく。

そして先日に狩った虚と、亡くなった別の隊の隊士の魂魄とを混ぜ込む。

結果としては確かに形状の記憶はできる。

成功と言っても差し支えはないかもしれない。

しかし生体による実験ではないので確証としては不十分。

証拠を残さないように『廃炎』で燃やし尽くしておく。

不十分とは言ったがこれはかつての封印した研究で確証を得るための反芻でしかない。

誰か同じ考えを持った者が居て、現実に不慮の事故で起こった際の対処を知っておくため。

 

「あとはこれだな」

 

滅却師の死体を持ち上げる。

虚たちとの交戦で命を落とした存在。

どうやらおかしなもので虚の魂魄をその体に注いだ結果、崩壊していった。

まるで猛毒に侵されたとでもいうように。

これをもとに仮説を立てて論文を作ろう。

 

「そしてもう一つ」

 

霊圧を凝固させる装置で保管していたものがある。

この機械は自分が作ったもの。

当然、機材費は自分持ちである。

 

「人間の魂魄と滅却師の光の矢で『死神』と『虚』に対して『相反』するものが生成可能だろう」

 

魂葬する前の人間から手に入れた魂魄。

それと混ぜ合わせていく。

『義魂』に近い概念の為、それほど新技術でもない。

抗体を持った薬の開発の完成を考える。

そうすぐにはできないだろう。

この研究成果によって生まれたものは持っておく必要がある。

先ほどの崩壊に死神側が直面した場合に止めるカギになり得るからだ。

 

「さて……」

 

研究が一段落すると日付表をちらりと横目で見る。

無論、ここは十二番隊なので自分の名前は一つもない。

目当はひよ里さんがいる日の確認である。

『室長』に任命されているため、それなりに研究に詳しくなっていっている。

 

「ふむ、八月の一日は休みか」

 

そう言って微笑んでしまう。

それならば十二番隊の隊舎にいるだろう。

その動きに合わせてこっちも動いてみるか。

 

.

.

 

そして一週間後の八月一日。

俺は似合わない花束を持っていた。

誕生日への贈り物である。

当然、ほかの贈り物も用意はしている。

鶴の装飾を施した簪である。

亀でも良かったがこちらの方が似合うだろうと思って買ってきた。

 

「すみません、十番隊の斑鳩です」

 

なぜかかしこまった喋り方で十二番隊舎の前に立っている。

それで開けてくれたのは眠六號だった。

 

「綺麗なお花ですね」

 

そう言って花束を見てくる。

現世に行って今日の花として買ったんだ。

初めて横文字を知った。

『ガーベラ』という花らしい。

 

「猿柿副隊長は居るだろうか?」

 

それだけ伝えると副官室の前まで連れてこられる。

廊下を渡っている間にくすくすと笑い声が聞こえたが気にしない。

だが、隠れたつもりで笑っていた浦原を見逃すつもりはない。

 

「入ってきぃ」

 

そう言われて扉の取っ手を捻って入っていく。

目の前に花束を持った男が居たら驚くだろう。

その顔がとても印象的だった。

 

「これ、あの…その…」

 

顔が赤い状態になって渡そうしている。

言葉もしどろもどろ。

それを見て、肩を震わせている。

これは怒りで震えているのではない。

笑いをこらえるのに必死なのだ。

 

「有難うな」

 

しかし笑うのは失礼。

そう感じたのだろう、すぐに顔を引き締める。

そう言って花束から一輪抜いて、花瓶に生ける。

それ以外の花は立てかけるようにしていた。

 

それだけではないと贈り物を渡す。

その中身を見て額に手を当てる。

困った時の仕草だ。

好意とはいえ、高価な贈り物や飾り過ぎているものをあまり好まない。

今回の簪も高いと分かってしまったのだろう。

 

「似合うと思ったんです」

 

その言葉に苦笑い。

仕方ないというように結んでいた髪ひもを外し、髪の毛を下ろして後ろで三つ編みを作る。

そして最後に買ってきた簪で留める。

 

「どや、似合うか?」

 

手を叩いて賞賛する。

するといつの間に入ってきていたのか。

眠六號も一緒になって手を叩いていた。

微笑ましい一つの時間が過ぎていく。

もっとこの時間が続くようにと心から願うのであった。




原作ではなかったおしゃれな部分を追加。
眠六號が普通に懐きやすいという感じです。
そして、原作では一心や真咲を救った技術に関して、浦原がやっている内容を先取り。
見返したりしてると、『先駆け』としては確実に零番隊に呼ばれるだけの内容をしているんですよね。
ただ、露見しない方が良い内容ばかりだったり場合によっては投獄ものなんですが。

指摘などありましたらお願いいたします。


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『秘密の場所 -Secret Space- 』

日常回です。
次回はギンを登場させていこうと思います。



誕生日に送ってから一週間後。

俺は色々な場所を回っていた。

無論、自分の担当する仕事を早い時間で終えたからだ。

最近は皆が育ち始めているのでこちらがほぼ全てを担わなくても、いい分担ができている。

綱彌代はもとより、東仙と狛村も隊長を任せられる程だ。

ずっとついてきてくれた奴らに巣立つ機会が有るならば与えてやりたい。

 

「ん……?」

 

ふと、花の香りが漂ってきた。

十一番隊の隊舎裏から流魂街方向へと続く獣道。

しばらくすると行き止まりにたどり着いた。

それは瓦礫が壁の様に積み重なっている。

この先に一体どういったものがあるのだろう。

気になって飛び越えていく。

当然、更木に見つからないように慎重に。

 

「これは……美しいな」

 

眩く光る太陽の光を燦燦と浴びてすくすく育った花。

それは太陽と同じ色の花。

何輪、いや何百もの花が日に向かい続けて凛と伸びるその姿に感動すら覚える。

 

「『向日葵』の花がこんなにも咲き誇る場所なんて、尸魂界全土でも無かったはずだ」

 

ここだけが特別な区域というわけではない。

太陽の光が燦燦と差し込む場所は他にもある。

種が何年もの時をかけて芽を出し、手入れが無くても美しい花を咲かせる。

そんな環境が出来上がっていたのだ。

 

「見せてあげたいな」

 

いつの間にか頬は緩んでいた。

その喜色満面な顔を浮かべていたことで注意力が散漫になってしまったのだろう。

帰る際に飛び越えた時に音を出してしまった。

これだけでもう駄目なのだ。

どれだけの体重かを勘で探り当てる。

仮に霊圧感知でこちらに向かってくる場合は、道に迷う可能性が有るのでなら話は別。

だが霊圧に頼らず音が聞こえた方向に歩いて行けば……

 

「よお……」

 

出会えてしまうのだ。

逃げないとな。

刀を抜いている以上斬られてしまうだろう。

 

「どいてくれないか?」

 

笑顔で提案する。

『天挺空羅』で聞く必要もない。

戦うなと命じられているのだから。

 

「つれねえなあ!!」

 

そう言いながら刀を振ってくる。

それを避けるとすぐに二撃目が来る。

それは流石に刀を抜いて受け止める。

 

「やらないように言われてんだ、あの人を怒らせたくはない」

 

こっちの気も考えろ。

どうしてもやらないといけない時は相手してやる。

でもそれ以外は駄目なんだよ。

 

「ちっ、まるで飼い犬だな」

 

興が削がれたというように刀を収める。

そして苛立ちの表情のまま、去っていく。

なんとでも言うがいい。

あの人に逆らうなんて真似はしたくもない。

考えただけで背筋が寒くなる。

 

「さ……ひよ里さんの非番の日でも聞いとくか」

 

そう言いながら休憩時間終わりに茶菓子の一つでも買っていく。

最近は現世における『西洋』とやらの菓子も尸魂界に来た。

先日、渡した『ガーベラ』の花もそういう繋がりだ。

 

「これが『かすていら』か……」

 

箱に詰められていくのを見て呟く。

まるで黄金の四角の棒だ。

上部には茶色い層がある。

一体どんな味がするのか?

 

「正直、気は進まないが……」

 

誰かに一緒に毒見をしてもらうか?

俺が食ってもいいが、ほかの意見も欲しいし。

そして食べ物で頼りになるのは……

 

「すいません、六車隊長はいますか?」

 

それだけ伝えると隊首室に通される。

久南さんも一緒にいた。

丁度いい。

 

「なんだ、その袋」

 

西洋の菓子と伝えると渋い顔をした。

どう考えても護廷十三隊で食すのは初めてのもの。

雀部副隊長はご存知かもしれないが。

それを渡すというのがどういう意味か分かっているようだ。

 

「ひよ里に渡す前の毒見とは良い度胸だな、てめぇ……」

 

そうは言うが受け取ってくれる。

最初に見て何が入っているのを看破していくか。

黄色の理由はどうやら卵。

とりあえずは口に運ぶか。

 

「随分と柔らかいな」

 

触った感想は非常に柔らかい。

指が沈んでいきそうなほどだ。

口に運んでいくが歯ごたえはない。

まるで霞か雲か。

幾らか咀嚼をしていくがすぐにすり潰されていき、溶けていく感じだ。

そして嚥下する。

 

「美味しいのは美味しいな」

 

今までとはまるで別物。

弾力が有ったり、漉し餡などがあった。

そういったものもない。

混ぜ込んでいるのだろう。

甘さから砂糖だけでは無く蜂蜜なども考えられる。

小麦粉でつないでいるのか。

『現世』の医学書には『卵』と『蜂蜜』は赤ん坊によくないらしい。

つまりそれなりの年齢の菓子だ。

 

「これは良いな、気に入った」

 

久南さんに付き合っているとおはぎしか食べられませんからね。

すっと食べられる飴とかもいいけどこれも悪くはないですね。

 

「問題ないみたいなので渡してきます」

 

残った奴は置いていく。

頭を下げて去っていく。

地味に九番隊なので距離があるのだ。

 

「どうもー」

 

ついに名前を言わなくても入れるようになってしまった。

半分は浦原のだらしなさの伝播である。

もう半分は常連で来ているからだ。

 

「猿柿副隊長、居ますか?」

 

扉を叩く。

開けてくれないし、返答がないのでゆっくりと扉を開ける。

疲れからかうんざりした顔で見てくる。

これはまずいなと思いながら、袋を手渡す。

 

「これ、噂の菓子やろ?」

 

指を突きつけて聞いてくるので頷く。

拳西さん達に毒見させましたと聞いたらくすくす笑われた。

 

「いつもやったら一番に渡すのに、慎重になったんか?」

 

いじわるの一つでも言ってやろうと思たけどええわ。

そう言って開けると菓子の見た目に驚く。

 

「えらいまっ黄色やんけ」

 

そう言って毟って口に入れる。

もぐもぐと噛んで呑み込む。

すると驚きの顔へと変わった。

 

「今までにはない感じがするな」

 

そして一人で全てを食べきる。

夢中になるのは初めての感覚だったからだろう。

気持ちはとてもよくわかる。

 

「……すまん」

 

分けたらよかったと後悔しているのだろう。

でもそれは良い。

其れよりも大事なことを伝えよう。

 

「明日、非番ですよね?」

 

そう聞くと頷く。

ならばあの場所の花を見せたい。

貴方にしか教えない。

 

「見せたいものが有るんです」

 

それだけ言って去っていく。

疲れているだろうからゆっくり休むようにだけ伝えて。

 

.

.

 

次の日。

あの簪を付けてきてくれた。

それだけで満足してしまう。

目指すのは十一番隊のあの道。

因みに十二番隊の後ろの方にも大きな木が有った。

今度あれについても見ようと思う。

 

「獣道か…」

 

あの場所に行くまでの道のりに驚いている。

まさか護廷十三隊の隊舎からの抜け道にこんなものがあるとは思わない。

さらにはこの先には……

 

「瓦礫の壁かいな」

 

それを乗り越える。

一拍置いて感嘆の声が聞こえる。

良かった、散ってもいないようだ。

 

「これは凄いわ」

 

左右を見渡すばかりの向日葵畑。

さらに燦燦と注ぎ込まれる太陽の光。

そして予想通りよく似合う。

 

「見てると気持ちがええわ」

 

そう言って振り返ってくる。

その時に見えた笑顔。

それだけで心が満たされる。

 

「貴方との秘密の場所ですから」

 

そう言うと頬をかいている。

悪くはないなと思っているのだろう。

秘密の場所の一つや二つを持っていてもやましい事は無い。

 

「帰ろか」

 

そう言って隣に来る。

喜んでもらえましたか?

聞いてみると頷いてくれた。

其れならこちらも見つけた甲斐があった。

 

.

.

 

あれから数日後。

海燕に打診したが受けてもらえないと浮竹隊長が嘆いていた。

自分より一年早く卒業した天才。

かなりの能力であることは間違いないのだが。

 

「やあ」

 

何故嫌がるのかを聞いてほしいとのことで俺が抜擢された。

十三番隊の隊舎に行って呼んでもらった。

お茶を出してくれたので飲んで見る。

 

「うん、いい味だ」

 

番茶を出してもらった。

俺はあまり玉露を好んで飲まない。

甘い味もいいがこちらの方が心が落ち着くからだ。

 

「どうして十番隊の隊長が俺なんかに?」

 

『俺なんか』とは随分と謙虚だな。

其れともそのもの言いで煙に巻くつもりかな?

 

「何故副隊長になりたくないんだろうと思ってね」

 

君は十分な実力者だ。

卍解の習得だってその気になれば着手していくと短期間で可能。

部下からも慕われているようだが。

 

「若輩者である自分より相応しい人物がいると思うんですよ」

 

義理立てか。

それも良い事ではある。

実際、俺も四番隊の時はそれをした。

あの時は卯ノ花隊長への恩に報いたかったから。

だが彼の場合は他の隊からの誘いではない。

もし、あの時の話が四番隊の副隊長という話なら引き受けていたかもしれないと胸を張って言える。

 

「浮竹隊長が打診する時点で相応しい人物がいないともとれるがね」

 

先ほどの断る理由の穴をつく。

海燕の顔が困ったような感jになる。

これで諦めてくれると思ったのだろう。

浮竹隊長には通用するけれど俺は無意味。

 

「義理立てというのであれば抜擢してくださる浮竹隊長の心に応えるのも十分な義理立てだ」

 

そう言うと唸っている。

一日や二日で結果が出るとは思わない。

十分考えてくれ。

 

「それはそうと噂で聞いたか、一年で真央霊術院を卒業したやつの事」

 

すると海燕は首をかしげる。

まだ聞いていなかったか。

 

「詳しい事は浮竹隊長に聞いてくれ」

 

どこが取るのか、そういう話が有ってあと数週間で配属だ。

どうやら五番隊が取るようだがな。

 

「今、一瞬自分の副隊長も遠のくとか思ったか?」

 

意地悪な顔をして聞いてやる。

すると顔を引き締めて否定してきた。

なら良かった。

 

「まあ、用事はそれだけだ」

 

手間取らせたな。

それだけ言って十三番隊の隊舎から去っていくのだった。




今回は海燕を登場させました。
浦原から幾らか時間が過ぎていく間に原作の動きに入っていくといった感じです。
横文字がようやくここから少しずつ入っていく事が有るかと。
(101年前の事件の時、原作で平子が『ナイスフォロー』と言ってたので)

指摘などありましたらお願いします。


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『ギン - Silver - 』

今回は市丸登場です。
そして他の原作キャラも出してみました。


真夏が過ぎて、銀杏の木が色づくころ。

本日は新人隊士の配属日だ。

噂の天才児は予想通り、五番隊へと配属になる。

名前は『市丸ギン』か、覚えておこう。

此方は言っても普通の隊士ばかり。

適性を見抜いて適材適所に振り分ける。

もし、十番隊ではない隊の方が向くのであればそれが一番だ。

 

「ふむ……やはり例年通りか」

 

一人一人の顔や特性を聞き、考える。

思ったような人材はそういない。

二桁に上るぐらいが十番隊所属の継続。

隊とは言えない少なさ。

総勢七十二名。

しかしその粒たるや恐ろしいと皆が口々に語る。

十一番隊に勝るとも劣らぬ戦闘力を有し、それ以外においても一番隊にも負けぬ精鋭。

 

「大所帯もいいが、全員が水準を満たせていないと意味はない」

 

適性で伸び方も違う。

優しい場所や厳しい場所。

放任主義だったり、面倒を一から見る奴ら。

それで初めて開花する。

その前段階の種を朽ちらせるわけにはいかない。

 

「いい加減三桁になってほしいですね」

 

東仙が書類を見て言ってくる。

確かにそれは思う。

そうなった場合、真央霊術院の卒業生の次元が一つ上に至ったという事になる。

 

「自分の適性を知り、正しく自己評価できているという結論になるからな」

 

それに加えて能力の向上も有るだろう。

憧れてくるのは構わない。

しかしそれは己を理解していないという事につながることもある。

だからこそ、このように選抜していくのだ。

 

「玉石混交が悪いんじゃない」

 

だが純度は大事なもの。

石ではなく玉に変えていく。

そうすれば総合的に護廷十三隊の質の向上につながる。

 

「育っていくのを見るのは楽しいからな」

 

それだけ言って移籍の届を今回漏れた人数分引っ張り出す。

そして、書いて書いて書きまくる。

数百人から残れなかったものに対して最後に斬拳走鬼や性格における適正について記述しておく。

その箇所を伸ばしていけば成長していける。

其れで席官になってくれれば万々歳だ。

 

「『襲撃警報』!!、『襲撃警報』!!」

 

全員分、封筒に詰めていたころにけたたましい音が鳴り響く。

俺が出る事になった。

原因は『中級大虚』が出ているかららしい。

助っ人藍染が今回は来ている。

そして横にいるのは詩仁(うたにん)三席か。

藍染の後ろにいるのは……

 

「君が市丸君か?」

 

蛇のようなぬらりとした雰囲気。

掴ませまいとする空気。

張り付いたような笑みをこちらに向けてくる。

 

「そやけど、おじさんは?」

 

……おじさんって。

まぁ、もうそんな年か。

九十年も瀞霊廷にいるわけだからな。

 

「十番隊隊長、斑鳩傑だ、よろしくな」

 

そう言って頭をくしゃくしゃとなでる。

それをくすぐったそうに頭を振って逃れる。

すぐに藍染の方に向かって行った。

 

「すまんすまん」

 

笑いながらも藍染に向けている感情を探る。

懐いているというわけではない。

どちらかというとまるでご機嫌を伺っている。

寝首をかいてやろうかというような感じで。

 

「……居やがるな」

 

『中級大虚』が三体。

まずは俺が先に行く。

隙を見て斬りに行っていい。

 

「ハッ!!」

 

一閃。

相手がそれに気づくよりも先に。

足を切り裂いて機動力を奪う。

爪を振るってくる相手に指を向ける。

 

「縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

詠唱破棄で動きを止める。

そのまま顔に向けて掌を向ける。

 

「破道の七十三『双蓮蒼火墜』」

 

相手の顔が吹き飛ぶ。

そのまま崩れ落ちていく。

止めは後でさしておこう。

煙がある中で後ろから来てる相手に親指を向ける。

 

「破道の四『白雷』」

 

肩口を射抜き、一瞬相手の動きが止まる。

そしてそのまま後ろを振り抜く最中で首筋に斬撃を放つ。

 

「……」

 

斬られたことに気づく事もなく首が落ちる。

その頭蓋を踏み砕いて最後の一体へと向かい、歩く。

 

「あああ……」

 

恐怖を表情に張り付けた虚。

こういう相手でも容赦はない。

むしろ……

 

「斬りやすくなって実に良い」

 

頭から切り裂いて真っ二つ。

左右に花が開くように地面へと倒れる。

ただ、美しさなどそこには皆無。

醜悪な存在における一つの終わりの形。

 

「最後はお前だな」

 

顔が吹き飛びながらも拳を振るってくる虚。

そいつに対してその腕を切り裂く。

ぼとりと音を立てて落ちていく腕。

蹴りを放ってくる足をまたもや斬り落とす。

血が出ているがお構いなし。

次はあるのかと少し待つ。

 

「ギ……イィ」

 

何もないのか。

ならお終いだ。

すっぱりと首を斬り落として『廃炎』で焼き切る。

 

「む……」

 

しかし僅かに霊圧を感じる。

そしてそれは徐々に大きくなる。

出所は……

 

「詩仁三席、その足元から離れろ!!」

 

俺が危険と感じて指示を飛ばす。

その言葉に対して相手が転がって避ける事もない。

緩慢な動きになってしまった。

 

「アガアアア!!」

 

それが致命的となったのだろう。

虚の叫び声が聞こえる。

地面を突き破るように勢いよく出てきたのだ。

そしてそのまま詩仁三席の首筋に噛みつく。

 

「えっ……!?」

 

油断していた詩仁三席の喉笛が噛みちぎられた。

鮮血が噴き出していく。

瞬く間に目から光が失われた。

 

「これは警報とは違いますね」

 

藍染も流石に間に合わなかった。

相手が奇襲してきたことに加え、『中級大虚』の想定としては速かったのだ。

これに言える事は……

 

「『最上級大虚』になりかけの奴が来たか、そして……」

 

すぐに切り裂きたいが俺は囲まれた。

とは言っても三体の虚。

刀を抜いて市丸に指示を飛ばす。

 

「市丸、藍染から離れるなよ」

 

死なれても困る。

種が芽吹くよりも速く朽ちてはならない。

 

「頼むぞ、藍染」

 

そう言うといつもの笑みをこちらに向ける。

そして優しい声色で返答してきた。

 

「当然応えて見せますよ」

 

そう言って相手に向かって斬りかかる。

相手も避けてはいるが遅い。

鬼道を使う必要も無しという判断だ。

 

「はっ!!」

 

相手の腕が斬り落とされる。

汗一つかかず、息を一つも乱さない。

始解も抜きで着実に追い詰める。

だが相手が背中を向けて一目散に走りだした。

勝てないと本能で察したのだろう。

 

「逃がしはしな……」

 

藍染も負けじと追いかける。

しかし、虚の目の前に黒い穴が出てきてしまった。

あれで逃げられてしまう。

射程から外れているから鬼道しかない。

そんな次の瞬間、市丸が刀を構える。

 

「『射殺せ』、『神槍』」

 

解号と共に藍染の頬の横を通り過ぎる。

そして虚の急所を貫いていた。

相手は崩れ落ちていく。

穴の中へ入る事もなく。

 

「ボクの手柄やんね?」

 

口角を上げる市丸。

こいつは驚かされたな。

伸縮速度から考えるとおそらく……

 

「尸魂界全土『最速』の斬魄刀か」

 

そう言って襲い掛かってくる攻撃を防ぐ。

そして前蹴りで突き放す。

仮面を付けてはいるがこいつらの強さはなかなかだ。

 

「『中級大虚』が二体と『最上級大虚』が一体」

 

今回死んだ者が居るから、隊葬の準備があるな。

其れなら速くしないといけない、藍染と市丸に顔を向ける。

相手の攻撃を軽やかにかわしながら。

 

「先にその亡骸を持って瀞霊廷に帰ってろ」

 

その言葉に頷いて帰っていく。

助けはいらない。

あいつらを巻き込まない自信も俺にはない。

熱くなると周りは見えないからだ。

 

「何のつもりかしら?」

 

相手が驚いた顔でこっちを見る。

三人に三人で相手にすると思ったんだろう。

悪いな、それは無い。

 

「初陣のガキ、抱えて戦うほど酔狂でもないんでな」

 

そう言って構える。

本気でやらせてもらうぜ。

あんたも『最上級大虚』の中でもかなり強い方だろう?

 

「それもそうね」

 

そう言って同胞の仇か、素早い動きで迫ってくる。

山羊の見た目か。

上位は元からそういった何かしら生物に近い形になるのだろう。

 

「ふんっ!!」

 

刀で防いで前蹴りを放つ。

相手がその足に乗る形で回避しようとしてくる。

そうはさせまいと残る片足で跳躍をする。

 

「甘いでヤンス!!」

 

もう一人が体全体を浴びせかけるようにのしかかって来ようとする。

その体を腕を伸ばし両腕を掴むことでつっかえ棒のようにして難を逃れる。

そしてそれを三人目の虚に向かって放り投げる。

すると口から液体を吐き出し、滑らせることで地面に怪我無く着地をした。

 

「このペッシェとドンドチャッカが貴様がネリエル様を斬ろうとする野望を阻止してくれる!!」

 

クワガタのような虚とカエルのような虚。

なかなかに厄介だな。

普通にばらばらの三体なら余裕で倒せる。

しかし連携が取れる三体となれば一気にその討伐の難度は増す。

本気で行くのは良い判断だっただろう。

 

「それでも負ける気は微塵もしないがな」

 

そう言って相手に照準を定める。

そして刀を向けて一言放つ。

 

「逃げるなら止めないぜ」

 

襲撃警報の数を討伐したのは事実。

急な襲撃による報告数の上下は有れど、殲滅の要素はない。

詩仁三席の仇はすでにとったのだし。

 

「お前ら、そこまで好戦的な部類じゃないだろ?」

 

そう言うと普段は抜いては来ない虚の斬魄刀が抜かれる。

ネリエルは槍のようなものを腰から。

ドンドチャッカは口からこん棒。

そしてペッシェは……

 

「はっ!!」

 

股間から霊子状になった珍しい剣を抜く。

出すところは様々だが、今まででは一番驚かされた。

 

「少なくとも無念の分はやらねばならない」

 

そう言って槍を突き出す。

仕方あるまい。

 

「ただでやられるつもりはない」

 

俺が正義などというおごりはない。

戦いなんて始めた時点でどちらも悪なのだ。

勝った方が己の我儘を貫き通せるだけ。

 

「喰らうでヤンス!!」

 

こん棒を振り回してくるドンドチャッカ。

回避そのものは簡単だ。

しかし風圧が凄い。

掠ればそれだけで痛手を負いかねない。

 

「だから……」

 

掌で受け止める。

相手は驚くがそれに対して睨み付ける。

 

「この程度で驚いていたら体がもたないぞ」

 

そう言ってこん棒ごとドンドチャッカをペッシェに向かって投げる。

そしてペッシェを牽制。

これでネリエルに専念できる。

 

「こいつらに無駄な血を流させたいか?」

 

意地悪な質問だと知りつつ聞いてやる。

相手も馬鹿ではない。

実力の差を確認はできたはず。

退かせても問題はない。

 

「分かったわ、これ以上は無益」

 

黒い穴……黒腔と呼ぼう。

それに導かれるように踏み入っていく。

 

「後ろから斬りかかるような真似はしないのね」

 

振り向いてこちらに言ってくる。

そんな事してその中に入ったら大惨事だろうが。

それに……

 

「敵意を持ったり狂った虚でもない限り、報告以上の数の排除はしたくない」

 

調和や均衡が崩れると困るからな。

俺が戦う姿から戦闘狂なり思ったのだろうがそれは特定の場面でしかありえない。

それ以外でもし戦う事が有るのであればそれはきっと怒髪天の時ぐらいだ。

 

「貴方への見解を改める事にするわ」

 

そう言って黒腔の中へ消えていく。

これで一応すべては終わり。

この後には隊葬もある。

きっと平子さんに言われるだろう。

 

「まあ……それは仕方ないか」

 

毒性が強いはずの虚の一撃でも、死に至らしめられた場合は虚化は進まない。

今日は思わぬ収穫があったと思おう。

つまり死なない程度で毒性のある虚の一撃を与えた場合、生体の死神でも可能性はある。

 

「虚の魂魄によって鋳造された小刀でも作れば、確実にこの問題点は払拭されてしまう」

 

徐々に危うい部分の欠片だけが積み重なる。

知らなくても良い事なのに。

予防をするにも常に致命傷を負わない様にしろなんて突拍子もない呼びかけが有るだろうか?

 

「あいつも今回で分かっちまったはずだ」

 

今、説得と長年の付き合いで昔のような悪だくみは完全に止まっている。

しかしあいつに悪い事してやるという虫が出る内容はできることならば全て包み隠しておきたい。

知らなければ計画の立て方でも時間は掛かる。

その間に説得にかかればいいからだ。

奴の頭脳の規格外の度合いはよく知っている。

あいつにものを教える時に不満があるのならば、それは僅かな説明で全部を掴むほどの理解力だ。

 

「帰ってからまた話をしよう」

 

少し憂鬱な気持ちで地獄蝶を持って瀞霊廷へと帰る。

既に隊葬の準備は終えていた。

報告はその後という事で速やかに静粛に行われた。

 

「お前がおってなんで死ななあかんねん」

 

隊葬を終えてから平子隊長に聞かれる。

俺がいるから死者が全くないなんて思わないでほしい。

三席自身の反応が遅れたのも含めてだ。

 

「奇襲にまで対応できるほど俺も万能ではないです」

 

大方、藍染の言い分も聞き流していたかもしれない。

もしくは藍染が隊葬の手筈を整えて報告がなかったのかもな。

市丸に関しては初任務で隊士の死を間近で見たのだ。

責めるのは酷であり、お門違いも甚だしいだろう。

後であいつを慰めてやらないとな。

 

「付け加えるならば、相手は討伐対象外で『最上級大虚』になりかけていた『中級大虚』です」

 

それを聞くと驚きの顔でこっちを見る。

市丸がそれの止めを刺したのもすでに知っているだろう。

個人的には次の三席があいつでもいいんじゃないかと正直思うほどだ。

あいつは確実に隊長になれる器。

平隊士の扱いをするのはあまりに惜しい。

 

「つまり、すでに三席で対応する内容ではなくなっていた」

 

そう言ってこっちから物申したいことがある。

この人に関しては言っておくべきことだ。

 

「監視は役に立っているんですか?」

 

それを言うとバツの悪そうな顔になる。

つまり藍染が悪事を働いていないという事だ。

安心したよ。

 

「あと、市丸の処遇は今回の功績も加味してあげてくださいね」

 

それだけ言って、手を振りながら俺は十番隊隊舎に戻っていった。




破面ではないネリエルたち三人組の登場です。
実力だけならば勝てますがその差を連携で補ってくるので、それなりに厄介という事です。
ギンの三席への道のりが前の三席の戦死によるものが原因という形に変更しました。
原作とは違い、真っ当な理由での抜擢です。

次回はひよ里の時の様に藍染との秘密の場所ができる予定です。

何か指摘などありましたらお願いいたします。


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『約束の場所 - Promise Space -』

日常回。
隙あらば更木ぶち込みます。
次回もきっとまた日常回ですね。


あの虚の襲撃で三席が死んでから数か月、冬の雪がちらつくころ。

市丸が後続の三席となったとの知らせを聞いて満足した。

干し柿が好きとのことで祝いに差し入れた。

すると予想外だったのか、もごもごとした感じでありがとうと言ってきた。

 

「まあ、あの年頃はかわいいものだ」

 

眠六號しかり、阿近しかりな。

しかし、藍染に向けた眼差し。

あれは『憎悪』ともとれる。

あいつがまだ悪事を働いていたころにでも因縁が生まれたか。

 

「聞き出してみようか」

 

欠伸をして首を動かす。

コキコキと鳴るが気にしない。

最近、机に向かう事も多かったし。

 

「あれ、斑鳩さんやん」

 

散歩中のだんご屋に一人で市丸がいた。

お給金ももらっているみたいだな。

街行く様々な隊士が無礼な奴だと市丸を見る。

 

「おっ、うまそうだな」

 

そう言って隣に座りこむ。

同じものを頼む。

来る前にこいつと話をしないとな。

 

「なんでそんな若さで護廷十三隊に来た?」

 

こいつは頭が悪いわけではない。

何かしらの目的があるのだろう。

それが何かを探りたい。

 

「それは死神やったら辛い思いせんでええやん」

 

確かにそれは言えてる。

流魂街の治安の悪い所からここなら天と地の差がある。

だがそれだけではない。

 

「そうか、じゃあ……」

 

本題はここからだ。

はぐらかすのが上手いだろうから単刀直入に聞くか。

 

「藍染と何か確執があるか?」

 

そう聞くと僅かに目を開いた。

それに伴って殺気が漏れ出る。

そこに触れるんじゃないというように。

 

「有ったとしても言う義理があると思わんといて」

 

そうか。

でもまだまだ子供だな。

顔を変えてもバレている。

確執があるというのは確実に分かった。

 

「分かったら解決してやれるかもしれないんだけどな」

 

目を見開いて驚く。

嘘はついていない。

だが毅然とした態度でこちらを見返す。

 

「そうやったとしても言えへん」

 

藍染副隊長と仲がええから告げ口されたら僕が危ないやんか。

そう言って立ち上がる。

だが立ち上がった時に女物の髪紐がちらりと見える。

 

「もうその仕草で何となく察するよ」

 

それをそそくさと隠す市丸。

足早に去っていって詮索を逃れようとする。

去っていく姿を見てそう呟く。

 

「まあ、藍染と話が有るから行くわけで」

 

ギンを瞬く間に追い越していく。

そして、藍染を五番隊の四席に呼んでもらう。

すると、ゆったりとした足運びでこちらに来た。

 

「何か御用ですか?」

 

用が有るから来るんだろうが。

また眼の下に隈作ってるぞ。

ギンと平子隊長の板挟みでしんどいのか?

 

「息抜きがてら付き合えよ」

 

そう言って俺と藍染は十二番隊の裏手に回った。

大きな木の正体を探った結果、どうも春ではなく冬の季節に咲くもの。

それは雄大な姿のままそこに鎮座していた。

 

「これは壮観ですね」

 

桜の木が満開の状態で咲き誇っていた。

『寒桜』という種類の為、本来の季節よりも咲いている。

ひらひらと舞い落ちる花弁すら美しい。

 

「お前が困った時、辛いときはここに来たらいい」

 

お前の悩みも苦しみも分かち合ってやる。

お前もため込んでいることが多いだろうからな。

 

「ここは俺とお前の秘密の場所であり、約束の場所だ」

 

夜でも昼でも、休憩時ならばここで待っているぞ。

吐き出したい時に来るといい。

 

「はい」

 

そのわずかな言葉の中にも力が有った。

互いの信頼はあるのだろう。

背中を任せてくれるし、任せられる。

こいつが十番隊に居ないことが残念だ。

そう思いながら二人でしばらく桜を眺めていた。

 

.

.

 

「さ……義骸でも作るか」

 

あれから次の日。

新しい動きを俺はしていた。

自分に親しい、もしくは近しい人物の義骸の作成。

それを試みる。

男性であれど女性であれど限りなく精巧な内容。

今までの己の全てを注ぐような義骸。

背丈や体重などの採寸が肝となる為、誰かに頼んでみるか。

 

「夜一様の採寸をしてほしい?」

 

浦原と近い人物だからな。

二番隊隊舎に赴き、席官である砕蜂に頭を下げる。

なぜそのような真似をするのかと睨まれる。

敬愛するものを辱めるような真似をするのではないか?

そういう警戒感がにじみ出ている。

 

「精巧な義骸の作成の為だ、健康診断を最近受けたのであれば四番隊の方に向かうよ」

 

そう言うと四番隊へ行くように勧められる。

押すように隊舎から出された。

悪かったと言ってそのまま去っていく。

 

「すみません、卯ノ花隊長」

 

頭を下げて四番隊の隊首室へと招かれる。

健康診断の書類が欲しいと言ったら通してくれた。

複製で隊長格と鬼道衆の大鬼道長と副鬼道長の分をいただいた。

その後にお茶でもどうぞと言われたので向かい合って飲んでいた。

 

「あの子とは争わないようにしていますか?」

 

そう聞かれるがこちらからは極力近づかないようにはしていると回答した。

相手が見つけたら来るので近づかない方が明らかに得策です。

頬をかきながらそうですねと言われる。

 

「しかし、変な注文を技術開発局に頼もうとしてましたね」

 

大方、俺や卯ノ花隊長と戦えないから自分から枷をはめていくつもりなんでしょう。

そう言うと少し悲しい目をする。

仕方ないな。

 

「一年に一回ぐらいなら真面目に喧嘩して良いですかね?」

 

その提案に仕方ないという顔でしぶしぶ頷く。

其れでは……

 

「今から十番隊戻って支度します」

 

そう言って去っていく。

もう既に年の瀬。

今ぐらいしかないだろう。

健康診断結果の複製を全て隊首室の引き出しに直す。

 

「今から十一番隊に行ってくるが隊葬の準備をしておいてくれ」

 

東仙に伝える。

俺のただ事では無い霊圧に確信を得ているはずだ。

 

「ご武運を……」

 

それだけを聞いて十番隊から出る。

瀞霊廷を歩いていると全ての隊士が振り向く。

目当ての存在は十一番隊舎の玄関から出てきた。

 

「偶然だな」

 

何が偶然なものか。

遅かれ早かれ見つけていた。

 

「お前と戦っていいってあの人から許可が出た」

 

そう言うと顔が笑みの形へと歪む。

待ちわびたというように。

俺が指をさしてついて来いと示す。

 

「あぁ、どこへなりとも行かせてもらうぜ」

 

そう言って移動するのは森の中。

瀞霊廷でもろくに立ち入る奴もいないような場所。

そこで静かに刀を抜いた。

 

「かあっ!!」

 

振り向きざまに刀を振るう。

解号なしで始解状態にする。

それは予測の範囲だったか一歩踏み込んでくる。

こうなると肉に食い込むから面倒だ。

己の間合いを維持するために前蹴りで突き放しにいく。

 

「甘いぜ」

 

足を掴まれて投げられる。

着地をすると顎下から斬撃が迫る。

首を振って避けるが風圧が頬を切り裂く。

 

「お前もな!!」

 

そのお返しに突きを放つ。

一点に集中された一撃。

掌で刀を掴もうとするが面積がまるで違う。

 

「ちっ!!」

 

流石にそれは無理だったようでそれは掌を貫いていた。

喉笛までは至らないように首を捻っていた。

引き抜いて見合うように構える。

 

「今回は掴めると思ったが動きに磨きがかかってやがる」

 

手を開いたり閉じたりして笑みを浮かべながら言ってくる。

随分と嬉しそうだが……

 

「余裕を出していていいのか?」

 

それすらも隙だと見て斬りかかる。

悪いがこっちはそれのツボが押されるまで時間がかかるんだよ。

その前に決着をつけておきたいんだ。

 

「面白味がねえなあ!!」

 

刀を受け止めて再び踏み込んでくる。

そうかよ。

別に俺は面白いとは思えない。

 

「勝ちたいんだからな」

 

砂を蹴り上げて目潰しをする。

其れで一瞬、動きが止まる。

それに乗じて距離を取って手を前に翳す。

 

「本気の俺はこいつを使う」

 

詠唱破棄で六連射。

当然やるのは……

 

「破道の九十一『千手皎天汰炮』」

 

最大の破道をお見舞いする。

しかしそんな中突っ込んでくる。

意に介さないというように。

 

「仕方のない野郎だぜ」

 

そう言って突き進んでくる更木に向かって振り下ろす。

それを受け止めてくるが知ったことではない。

 

「片手で防げるわけないだろ」

 

力ずくでこちらが押し込む。

片膝をつきそうになる更木。

やはり片手とはいえ膂力が有るな。

 

「かあっ!!」

 

しかし、こちらも手を緩めはしない。

すかさず脇腹を蹴り上げる。

一瞬、その重さからか更木の体が浮く。

 

「ちっ……」

 

胸倉をつかんで頭突きを見舞う。

手を離せば、その分距離が遠くなる。

その瞬間に、体を捻って……

 

「切り裂いてやる!!」

 

回転切りを見舞う。

すると更木隊長は両手で刀を握り受け止める。

ついに一皮むけたか。

 

「普段とは違うがいいな、てめえに力負けしねえ」

 

そう言って踏み込んでくる。

今まで片手だったのにすぐに対応できると思うか?

十合ほど打ち合う必要はあるだろう。

その間に痛手を負わせればいい。

 

「まだ、楽な気分さ」

 

刀を打ち付けあって火花が散る。

返しの刀で脳天を狙うがそれも反射的に防がれる。

殺気まみれだったか?

 

「やっぱり最高だぜ、お前は!!」

 

笑みを向けてくる姿に戦慄を覚える。

徐々にあの初めて襲撃してきた時に戻り始めている。

無意識のうちに制御していたのか。

頭に血が上る。

 

「コケにしやがったな!!」

 

怒りに任せた一振りで刀を弾き飛ばした。

苦い顔をするが甘い。

そのまま前蹴りで蹴り飛ばしてやった。

 

「脳天を切り裂けばそれで終わりだ、しかし俺の気が済まない」

 

痛みを極限まで与え続けてやる。

唸りを上げた拳が顔面に当たる感触だ。

返り血が頬に当たる。

 

「くっ!!」

 

痛みで拳の勢いが鈍る。

脇腹に刀が刺さっていたのだ。

この野郎が……

 

「やられるわけねえだろうが!!」

 

引き抜いてそのまま目の前に立つ。

回道で治すのも惜しい。

さて……

 

「目の前が煌き始めたか……」

 

屈辱はあった。

僅かに優勢を取れていたのは己の認識の甘さでしかない。

ここからが本当の戦い。

それが久々に細胞一つ一つに刻まれたものを呼び覚ます。

それは戦いへの歓喜。

あの人との鍛錬で身に着いたもの。

 

「いくぜ!!」

 

相手の切り裂く速度に対する反応が変わったのが自分でもわかる。

所詮、俺もあの人やお前と同じ世界の住人。

ただ罪人ではないだけ。

 

「かっ!!」

 

受け止める事はしない。

肩口を斬られていく感覚。

それを意に介さずただ突き進む。

 

「死ね!!」

 

突きを繰り出す。

それは頬を切り裂く程度に留まる。

でもこれで終わらせはしない。

 

「耳を貰う!!」

 

上に斬りあげていく。

その速度よりも速く動いてきた。

その為、髪の毛の一部分しか斬れてはいない。

 

「喰らいな!!」

 

脳天を切り裂こうと振り下ろす更木。

悪いがそいつはまともに受けはしない。

一気に体を反らして回転する。

その結果は腕を片方斬り落とされるほどの攻撃を見舞われる事となる。

 

「しかし無意味」

 

片腕を掴んで回道で回復させて片手の手術で引っ付ける。

流石に二回も同じ場所に傷をつけられたくはないからな。

しかも同じ相手には特に。

 

「器用なもんだな」

 

言ってろ。

煌きは増していくばかり。

表情筋も何年振りか緩み始めてきた。

あのような笑みになるために準備を始めたのだ。

 

「お前も同じようにしてやる」

 

そう言って駆けていく。

顔に向かって繰り出される刃を歯で受け止める。

そのまま腕を蹴り上げてそのまま振り抜いた腕を無防備に晒す。

 

「しゃあ!!」

 

腕に向かって振り下ろすと、手応えは有れど前に進んでいたこと。

骨が太いこと。

そう言った要素が混ざり合い、斬り落とせはしなかった。

 

「まだだ!!」

 

はらわたを切り裂く。

手応えは有れど意気軒高。

ますますやる気になっている。

 

「こっちの番だ!!」

 

もう一方の肩に向かって袈裟切りを放ってくる。

それを喰らったまま、足を切り裂く。

負けじと相手も足に突き刺してきた。

またもや血生臭い戦いへとなっていく。

 

「もう次で終わりにしてやる」

 

あの笑みを向けながら更木に言う。

すると了承したように笑みを返してきた。

 

「こちらの言葉だぜ」

 

そこからの動きは鏡合わせのようだった。

体を捻っていく。

熱の籠った呼気を吐き出す。

殺気を刃に乗せていく。

 

「こいつで終わりだ!!」

 

両者同時に斬撃を放つ体勢になる。

首筋を更木が。

 

「キィエエエエエエッ!!」

 

脳天を俺が。

互いに殺す一太刀を今まさに繰り出そうとした瞬間。

 

「いい加減にせんか、わっぱども」

 

怒りを孕んだ声が響く。

その言葉を最後に意識が無くなった。

二人とも目が覚めたのは数時間後。

『流刃若火』の一撃で疲労困憊だった俺達は気絶。

おまけに火傷も有ったらしい。

溜息をついて三度目の戦いも決着がつかなかったことを思うのであった。




ギンとの関係は悪くはない。
しかし、藍染と親しい分警戒されてしまう。
というより、できるだけ仲良くしたくても藍染を警戒する奴らが多すぎて駄目という。

更木との戦績が三戦やって決着がろくについてないのが多いです。
鬼道を使えば優位なのでしょうが、普通に突っ込んでくるから面倒極まりない。
結局あの笑顔出してしまうので、更木は最高の相手である。

何か指摘などが有りましたらお願いします。


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『手解き - Coach -』

日常回です。
次回ぐらいからこの第一部を終わらせるような話に持っていく予定です。
その次は第二部の現世(原作時間軸)編を始めます。


更木との交戦から数日後。

結局『化け物』づくりを着手する事になった。

楽しい戦いがもっとしたいという我侭ゆえだ。

俺と卯ノ花隊長は心に決めざるを得なかった。

いつかその日が来たのならば、この命を懸けてでも本来の奴を取り戻させると。

 

「あの野郎が規格外すぎて何回も作り直しなんだが…」

 

一回目はすぐに壊れた。

とは言っても、どれだけ封じたいのかを明確にしていなかったからだ。

基本的に考えると着脱が楽なものにした方が良い。

そして封じるのではなく……

 

「無限に喰らい続けるなんてことできるか、涅?」

 

困ったという顔で言うとくるりと振り向いてくる。

そして頭を傾けてすぐに答えを出してきた。

 

「ネムに使ったような暴走機関を組み込めばいいだけだろ、君らしくもないネ」

 

あれでも怖いくらいなんだよな。

無理なら無理で諦めろって言えばいいだけかもしれないが。

そうは問屋が卸さない。

 

「研究者としては一度受け持ったものはこなしたい」

 

そう言って作業に取り掛かる。

『完璧』に興味はない。

『次』が無くなるのは嫌なのだ。

『克服』した『改良』であり続ければいい。

『完璧』にいつまでも届くことの無い苦しみすらも呑み込める。

そういった反発した姿こそが『研究者』である所以だ。

 

「君が考える事を放棄しそうになるくらいとはつくづく馬鹿げているガナ」

 

あいつ一人で並の隊長の数人分の戦力だ。

霊圧も桁外れに多い。

これが自分と同じならいいがそれ以上だろう。

 

「本当のあいつの力なら護廷十三隊の半分は壊滅させられるよ」

 

自分の時でもまだ隠れてる。

本人が命の危機を常に感じるほどのせめぎ合いであれば隠れた部分も解放されるだろう。

 

「まだ、こちらも卍解はしていないがそれでも肌で感じる」

 

自分が五倍から十倍の霊圧の斬撃を放つ。

それならば仕留められるとは思う。

だが思うだけだ。

確証はそこには決してない。

 

「お前も気を付けろよ」

 

むやみに戦う意欲を刺激したら痛い目を見る。

きっとそれは総隊長も例外ではない

特に頭脳面の搦め手なんてあいつにとっても経験がない。

興味を見せたら追い掛け回すだろう。

 

「最悪、俺の名前を出して逃げろ」

 

まだ、そっちの方が確実だ。

逃げ足が速いわけではないからな。

 

「そうさせてもらうヨ」

 

そう言って去っていく。

眠六號の教育だろう。

歪む前に止めているから知識面の伸びだけとなっている。

あいつのは偏っているからな。

 

「まあ、もって数分だろう」

 

その予想通り、蹴り出された。

その主はひよ里さんだ。

相変わらず、解剖などを教えようとしたのだろう。

血生臭い検体でも用意したか。

 

「今日は何をしようとしたんだ?」

 

呆れながら聞く。

すると腹をさすりながら答えてきた。

頬には手形がついている。

 

「生殖についての仕組みを教えようト……」

 

それはかなり繊細な部分だな。

年齢的にはまだ六か七。

速すぎる教育だろう。

 

「時期尚早すぎるぞ」

 

それだけ伝える。

これでも抑えておいたんだがと呟いていた。

あいつは際限を知らないところがあって困る。

自分の世界が確固としてある以上、無理な部分だ。

 

「詰め込み教育は歪みを生む、はやる気持ちも分かるが抑えろ」

 

夢を叶えてしまった以上、その先を熱望する。

だからこそ、一日でも早く力を付けさせたいのだろう。

しかし、その気持ちが無意味な知識や今を妨げる内容となっている。

 

「自衛手段はあるが始解も教えてやらないといけないんだからな」

 

そう言って眠六號の斬魄刀の能力を解析し始めていた。

自分の斬魄刀によく似た霊圧。

それが少なくとも確証を得るきっかけとなるだろう。

 

「君の卍解を知らないんだが……」

 

そう言ってくるマユリに人差し指を唇に当てて返す。

秘密だと言い聞かせるように。

その仕草にクスリと笑う。

 

「言ってくれると思ったがそれは機密という訳か」

 

そりゃあそうだろう。

お前に教えたら全て丸わかりになって駄目だ。

怖すぎて夜も寝られないよ。

 

「まあ、眠六號の奴が解明したらお前ならすぐに想像できるだろう」

 

それだけ言って研究を進めるのであった。

阿近の奴はひよ里さんに怒られていた。

好き嫌いをしているようだ。

 

「賑やかだな」

 

それだけ言って研究を打ち切って去っていく。

そして十番隊に戻って書類の片づけをしていく。

狛村も卍解がしたいという相談が有ったな。

まあ、手ほどきしてやろう。

 

「人材だけはどの隊にも負けない自信があるな」

 

そう言って開けた場所へと一緒に行く。

始解の時点で大きな一撃だった。

もし卍解を開放するとそれ以上なのは確実。

建物の倒壊は逃れられないだろうと判断した。

因みにその時の一撃については、面食らったが霊圧の差が有ったおかげで無傷で済んだ。

 

「良いですか?」

 

伺いを立ててくる狛村。

律儀な男だ。

何も言わず来たらいいのに。

 

「良いよ、来い」

 

刀を抜いて息を吸う。

そしてこちらを見据えて踏み込んで叫ぶ。

 

「轟け『天譴』!!」

 

刀を振り下ろすと同時に巨大な一撃が放たれる。

動きと連携している。

隙が多いのが弱点だな。

 

「受け止めるのはしんどいから……」

 

左右に回避すればいい。

その後は横薙ぎの場合ならば飛び込んでいく。

後ろに下がった方が確実だが、そうではない相手を生み出すのも仕事だ。

 

「はあっ!!」

 

予想通りの横薙ぎ。

動きが基礎に忠実だった東仙とは違って攻撃が基礎に忠実すぎる。

搦め手ぐらいは用意してほしい。

 

「ふんっ!!」

 

直進、刀が触れる刹那。

体を仰向けのまま屈めていく。

背中が地面につくかどうか言うような形。

そしてそのまま体勢を起こす。

 

「なっ!?」

 

予想外の動きに驚く狛村。

こんな程度で驚くなよ。

 

「これくらいの事できるのはまだいるからな」

 

そう言って蹴りを見舞う。

具象化まであと少し。

もう半分出かかっているようなものだ。

 

「もっと心を静かに刀に向けてやってみろ」

 

そう言うと深呼吸をする。

徐々に霊圧が斬魄刀と同調している。

そして肌に打ち付ける威圧感。

 

「しっ!!」

 

斜めに振り下ろす。

それを転がるように回避をする。

しかし腕から上が見えていた。

この調子でいい。

 

「もっと深く意識を潜らせろ」

 

再度、深呼吸をする。

穏やかな清流を思わせる霊圧に変わる。

しかし、それは別の存在へ変質していく。

まるで火山の底。

その場所に溜まる溶岩のようだ。

それが沸々と湧き上がる。

 

「おおおおっ!!」

 

爆発させるような咆哮とともに繰り出された一撃。

それは頑強な鎧を纏った存在。

速度は緩やかだがどれほどの威力なのか。

それを確かめてみる事にする。

 

「ぐあっ!?」

 

想像はしていたが質量が段違いな一撃。

それは予想を超えて俺を大きく吹き飛ばしていく。

五尺ほど飛んでいき、木に叩きつけられて静止した。

 

「威力あるなぁ……」

 

羽織を叩いて戻っていく。

流石に気まずいのか汗を垂らしている。

どうやら感覚は掴めたようだな。

 

「ここから斬魄刀を屈服させれば卍解はお前のものになる」

 

そう言って親指を立ててやる。

このお墨付きに安堵の表情をする。

しかし、さっきの一撃がやはり気になるらしい。

 

「あの、お怪我は……」

 

背中の方も特に問題はない。

喰らってはいるが霊圧の差で耐えられるものになっている。

これが卍解していたら痛がっていただろうが。

 

「あれでやられるほど軟ならお前らの隊長なんて務まらんよ」

 

笑って言ってやる。

不安に感じる必要なんてない。

そう知らしめるためにも。

 

「この恩に報いるためにも、必ずしや卍解を習得いたします」

 

真面目か。

まあ、それは嬉しい限りだ。

精進してくれればそのまま隊長にも推薦しやすい。

 

「いずれ巣立っても問題ないように頑張れ」

 

俺が卯ノ花隊長から巣立っていったように。

ただ、重荷に感じる時があるかもしれない

しかし、そう気負わないように次の世代のお前らが躍動できる下地を作る。

それが今の俺にできる役目だ。

 

「義理堅いお前からすれば巣立つ気はないのだろうが、永遠の強さなんて俺には考えられないからな」

 

狛村はその言葉に衝撃を受けている。

あの方や元柳斎殿がおかしいだけ。

千年近くも強さに大きな下降なしとは恐ろしい。

 

「お前らが師と仰ぐ俺を超えてくれたとき、きっと俺は滂沱の涙を流すだろう」

 

たとえそれが決闘による死の間際でも。

次の世代に渡せる。

役目を果たして逝ける事。

それはなんと幸せな事か。

 

「その時まで生き続けてやる」

 

だから先に死ぬなよ。

それだけ言ってくるりと見回す。

霊圧が二つあるのは分かっている。

 

「分かったか、綱彌代に東仙」

 

そう言ったら二人が現れる。

少し恥ずかしい事を聞いたとでも言うように。

 

「盗み聞きはあまりいい趣味とは言えないな」

 

笑いながら言うと苦笑いで返す。

こういった空気こそが良いものだ。

人材に恵まれていると再認識できる瞬間であった。




狛村さんがきっと『人化の術』が悪い事だと認識しそうな回。
あとはマユリの教育があまりにも早熟すぎるという。
抑え役が居なかったら歪みの塊が生まれてしまうので戦々恐々です。

指摘などありましたらお願いいたします。


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『悪夢の足音 - Nightmare Tap Dance-』

短い話となっております。
後二話で早足ですが現世編に行かせます。


狛村の鍛錬に付き合い、卍解に目覚めて数年。

浦原が隊長に就任して早九年。

最初の時に比べるとひよ里さんとの仲も良くはなっていた。

しかし、相変わらずのだらしなさのようで世話を焼くらしい。

 

「はあ、羨ましい…」

 

黒いモヤモヤした感覚がある。

どうやらこういったものは『嫉妬』、もしくは『ジェラシー』というらしい。

この数年で西洋の言葉を覚えた。

『ぎやまん』は『ガラス』。

『会議』は『ミーティング』。

『情報』の事は『データ』。

色についても、化合物においても置き換えられた。

初めは戸惑ったが今となっては慣れでこなしやすくなった実感はある。

 

「身長の方は数センチ成長しているな、眠六號」

 

体重も平均的な成長。

10歳になったことで早熟な教育も受け入れる。

そのお陰で身体の構造や薬品についても博識になった。

 

「段々大人になっている気がします」

 

急ぐ必要はないんだぞ。

そう思いながら薬品の整理をする。

すると気配を感じた。

本来ならばあり得るわけの無い霊圧。

 

急いで隊舎へと向かう。

阿近と浦原に謝りながら、ひよ里さんがいる副官室へと真っ先に向かう。

すると何事かとこちらを見てくる。

 

「今から着替える時に一体なんや、せわしない」

 

霊圧を感知するように促す。

訝しんでいたが数瞬したらその意味を理解した。

そして俺と同じように急いで出る。

白衣に着替える事を忘れているのだろう。

服が乱れる。

 

「流石に着替えを整えましょう」

 

顔が赤い状態で言うと、察したのか。

分かったと一言言って副官室に入る。

数分後、身だしなみをきちんと整えてきた。

 

「どっちに行ってる?」

 

十番隊の隊舎の方に向かっていた。

しかし方向を変えてこちらに向かっている。

別に一番隊の方へ向かっているのは四名。

用事は何なのか。

 

「おやおや、二人とも気づいたのかい」

 

鉢合わせてしまった。

やはり気配と霊圧は間違えようがない。

曳舟さんだった。

しかし九年で少しふくよかになった気がする。

霊王の格で行動しているから食いだめみたいにして体力を蓄えているのだろう。

 

「お久し振りです」

 

そう言って頭を下げる。

横にいるひよ里さんもそれに倣う。

 

「まぁ、元気そうな顔見れただけでも良かったよ」

 

そう言ってひよ里さんの頭を撫でる。

これから合流して話すこともあるからさ。

そう言うと一番隊に向かって行く。

 

「一体何やろな?」

 

それは分かりませんよ。

そう言って肩をすくめる。

そして十番隊舎に戻る事を一度技術開発へと戻って片付けてから言う。

 

「来た理由は何だった?」

 

戻った後、東仙に聞く。

すると何かしら五名同時に来たらしい。

その後に元柳斎殿に会いに行くと言って去っていった。

 

「そうか……」

 

まさかとは思うが来たんじゃないだろうな。

来なくていい事柄だというのに。

 

「『全隊長に告ぐ』」

 

一番隊の隊舎に集合とのこと。

全員が何事かと思い、出ていく。

卯ノ花隊長が十一番隊の方に来たのは更木隊長を引っ張る為だろう。

あいつもあの人のいう事は素直に聞くからな。

 

「入れ」

 

入るとそこには九年ぶりに見る零番隊の面々。

相変わらずと言った状態だ。

見た目が変わっているのは曳舟さんぐらいのものだ。

それでも最初は平子隊長も分かっていなかったようだが。

 

「この度は重要な話が有ってここへ来たのだ」

 

兵主部さんが膝を叩いて言ってくる。

そして皆に座るように促す。

座ると一拍置いて口を開く。

 

「十番隊隊長である斑鳩傑を零番隊として迎え入れたい」

 

やはり来てしまったか。

予想が当たってしまい、内心はため息が出る。

名誉な事である。

しかしその先の年齢などを加味した結果、どうあがいても次に待っている結果も想定ができる。

そしてそれこそが藍染を面倒な方向にもっていきかねない可能性。

 

「名誉なことではありますがお断りします」

 

その可能性は全て摘み取る。

決意を持って毅然と断わる言葉を口にする。

その言葉に驚きを隠さない面子。

一番隊隊長と四番隊隊長は流石とも言うべきか。

まあ、一度断わっている相手を知っている世代もいるみたいだが。

 

「刳屋敷剣八も断ったと聞いておりますので、前例がある以上は無理強いはできないでしょう」

 

そう言ったら相手も頷く。

戦闘力での任命。

其れすなわち最後の砦という意味合いだ。

それ以外にもじろりと二枚屋さんが見ている。

俺の行いが筒抜けなのかもしれない。

 

「桐生からの推薦も有ったんだけどなぁ……」

 

頭を掻いて麒麟寺さんが言う。

発明の類も進言されていたのか。

それならば確かに納得できる。

あらゆる意味での『元祖』を担っていると言われても差し支えはない。

 

しかし、あの人からの推薦が有ろうとそれは無理な事。

むしろ断ると分かったうえで持ってきたとしか思えない。

案の定、にやりとした表情だ。

ひよ里さんを取ると分かっていたのだろう。

 

「では今回は諦めよう」

 

そう和尚さんが言って去っていく。

これにて集合したのは解散。

同期のみんなが勿体ないといった顔をしていた。

浦原は生暖かい眼差しで微笑んでいた。

そして卯ノ花隊長も頷いていた。

更木は獰猛な笑みで喜びを表していた。

 

仕事が終わった時、藍染が居るであろう五番隊の隊舎へと向かった。

あいつにだけは伝えなくては。

勘違いで先走らぬように。

 

「なんで来たんや?」

 

平子さんが出てくる。

あいつを呼んでもらうか。

 

「藍染と話したいんだが居ますか?」

 

それを言うと額に掌を置いている。

残念だというような感じだ。

 

「あの話の後、しばらくしてから藍染は出掛けたわ」

 

顔が青ざめてしまったのがわかる。

それは非常に困ったな。

あの話が隊長から聞いた隊士たちの間で噂として出回る前に伝えなければいけないというのに。

一体どこに消えたのだろう。

 

「市丸三席は?」

 

市丸ならば藍染の居場所を聞いているかもしれない。

そう思って呼び掛ける。

しかし返答は無情なものだった。

 

「市丸も一緒に行っておらんで」

 

嫌な予感が背中を伝う。

何故なのだろうか。

その疑問だけが頭の中に渦巻いていく。

すぐにあいつを見つけ出さなければいけない。

そうしないと幸せが終わってしまう。

そんな気がして仕方ないのだった。




零番隊の勧誘は断れるのが小説版で分かっているので使いました。
よく考えたら
『最速で虚化の構造を解明、滅却師との関連性を見抜く』
『崩玉を藍染に次ぐ速さで作成(のちに破棄)』 『眠計画を共同で行う』 
『義魂を開発(大衆に行き渡らないから曳舟式が採用)』 『偽造斬魄刀の鋳造』
この功績だけ見たら戦闘力以外も化け物じみてた件。

指摘などありましたらお願いします。


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『すれ違う心 - Pass By Mind -』

次回で第1部の「100年前」編終わりです。
現世編は横文字をバンバン使えるので多少はやりやすいかもしれないです。


「どこ行きやがった……」

 

探してはいるが一向に見つかる気配がない。

霊圧感知から外れているのも有るのだろう。

実際本人を見たものはいない。

 

「ひよ里さんにも聞くか」

 

どうやら指輪の効果のおかげで『鏡花水月』からは逃れている。

因みに狛村も手甲に加工したものを忍ばせる形で予防済みだ。

 

「あいつはたぶん流魂街のはずれかもな」

 

団子を食いながら言う。

遠目で見ていたが魂魄の消失事件では明らかに藍染ではないやつだった。

其れなのに浦原は気づいていないらしい。

つまりは喰らった側だ。

マユリはそうあるように振舞った。

体の改造ですでに対策済みなのだ。

当然眠六號も例外ではない。

 

「シンジのアホも気づいとらんで」

 

それを聞いて溜息しか出ない。

あれだけ言ってきたのに、最後に無警戒。

最初から最後まで呆れた。

 

「緊急警報、緊急警報!!」

 

虚の出現が響き渡る。

九番隊が今は出ていっている状態。

こっちも藍染の捜索を行わないとな。

霊圧を感じ取れないように隠すとは味な真似をしてくれる。

 

「居ない……」

 

それから駆けずり回って瀞霊廷を調べた。

夜に差し掛かろうという所で一度捜索は取りやめる。

どたばたとした感じになっている。

九番隊の奴が助っ人を求めているようだ。

 

ひよ里さんがいる十二番隊へ向かっている。

浦原が出てもいい問題だ。

 

「準備はしておくか……」

 

胸騒ぎがしている。

すぐに今からでも行かないといけない。

何故に九番隊が助けを求めたのかを真剣に考える。

もしかしたら十名の先遣隊も被害にあったのかもしれない。

 

「えっ……!?」

 

遠い距離とはいえど拳西さんの霊圧が一瞬とはいえ消えた。

久南さんも同様。

途轍もない状況なのは百も承知、

すぐさま十二番隊の隊舎に赴く。

 

「ひよ里さんは!?」

 

眠六號が出てきたので食い気味に聞く。

浦原が居るので行ったのは自動的にひよ里さんと分かる。

何事かと顔を向ける隊士もいるが問題ではない。

 

「行ってしまいました」

 

それを聞いた瞬間飛んでいく。

今の俺はきっと誰も止められはしない。

もし居るのならば、それは『瞬神』四楓院夜一ただ一人。

 

霊圧が乱れる。

消えていた霊圧と思えば爆発的に上がったのだ。

そこには今まで実験で感じたことがない霊圧が有った。

これこそが虚と死神の混在する形。

それを確信してさらに速度を上げる。

 

「なんてことを……」

 

数瞬したら辿り着く。

この状況を見て呟く。

ひよ里さんが戦っていた。

虚化した拳西さんとだ。

傷はまだついていない。

その事実に一瞬安堵する。

 

「なぜ貴方がここに……!?」

 

驚いた顔で言ってくる藍染。

やっぱりこいつ、俺が零番隊に行くものとばかり思っていやがったな。

相当焦っていたのか、俺に聞く事もしないでこんな騒動を引き起こしやがった。

 

「藍染……俺は断ったんだぞ」

 

刀を抜いて止めるために動く。

ひよ里さんはまだ怪我を負っていない。

虚化する事は無いだろう。

 

「えっ……」

 

やはり、何かしら早とちりをしたな。

こいつの性格上、盗み聞きならば最後まで聞いているからその線はない。

だから誰かから伝えられて不安になったのだ。

 

「零番隊になるという事に興味がないのは分かっていたはずだ」

 

その後で待っている己の運命。

それを考えたら全然得にもなりはしない。

そしてお前にこんな行動をさせないために決断はしなかった。

 

「分からんわけやない……」

 

ひよ里さんが藍染に言う。

唯一、上司が零番隊に行った人。

そんな人だから藍染の気持ちが理解ができる。

 

「オオオオ!!」

 

そう言ったひよ里さんに拳を振るう拳西さん。

それに対して蹴りを入れて飛ばしていく。

俺の後ろに迫る久南さんの攻撃を刀で受け止める。

 

「虚化して膂力とかは上がっているが知能の立ち回りが無くて駄目だな」

 

獣相手にしているのと変わらない。

それも言い方は悪いが最上ではない。

更木ぐらいならば本能のままでも問題ないが。

 

「ウチもお前の気持ちに近い状態になりそうやった」

 

あいつが止めてくれて感謝はある。

信じているお前ならもっと楽に止まることもできる。

こいつの事を今でも信頼してるやろ?

 

「無論信頼は揺らいでいません…」

 

過ちは濯ぐことができる。

それをできるほどの頭脳の持ち主はいる。

俺や浦原、マユリの三名。

そして……

 

「お前の頭なら戻せるはずや」

 

藍染自身も分かっているはずだ。

やからアホな真似はやめろ。

そういって手を差し出す。

その手を藍染はおずおずとしながら取ろうとしていた。

俺はそれに頷いている。

この問題は解決する。

 

「下らないこと吹き込むな」

 

そう思っていた矢先の出来事だった。

後ろからひよ里さんを切り裂く男がいた。

油断はあったかもしれない。

悔やんでも悔やみきれない感情が押し寄せる。

 

「まだ……居たんか」

 

倒れ伏していくひよ里さん。

受け止めて抱え込む。

そいつを睨むとそこにはよく見知った顔だった。

何故ならば俺が後釜に任命した隊士だったのだから。

 

「私の指示から外れてしまうとは……」

 

俯きながら言ってくる藍染。

俺かひよ里さんあたりから断ったという話を聞けばすぐにでも止まれた。

そしてすぐに行動をやめさえすれば拳西さんと久南さん。

ひよ里さんの三名に危害を加えずに済んだのだから。

それ以上に独断専行する奴らが多かったのだろう。

 

「なっ!?」

 

愛川さんが到着していた。

俺がひよ里さんを抱えているところから危ないのは悟っている。

 

「くっ!!」

 

虚化した拳西さんが攻撃をしてくる。

それを体に当たらないように回避する。

『虚閃』は鬼道で相殺。

もし一撃でもくらえば、もれなく仲間入りだ。

 

「くっ!!」

 

光線で愛川さんがやられた。

鳳橋さんが虚化した久南さんに蹴られて飛んでいく。

刀を振ってくる席官は平子さんが蹴散らす。

 

「埒があかない」

 

抱えたままの状態で刀を振ってもそれほど馴染めない。

峰打ちとはいかないが雑多な奴らの足止めをする。

 

「うぅ……」

 

ひよ里さんがびくりと体を震わせる。

来てしまったか……。

分かってはいたが悲しい。

抱えていた腕から降ろす。

 

「……アアアア!!!」

 

虚化したひよ里さんが斬りかかってくる。

それを受け止める。

手を蹴り飛ばして距離を取る。

刀を遠ざけるのが一番重要だ。

 

「む……」

 

避ける最中に何かに躓いた。

その正体は虚化しそうになっている平子隊長を除いた隊長格だった。

切り付けた相手の中には三席や五席もいる。

流石にこのまま相手してはいられない。

その為、少し縛道を使わせてもらう。

 

「縛道の九十九『禁』」

 

最大の縛道を使い、六人纏めて留める。

霊圧の差で動けない。

これで問題はない。

 

「どういう状況っすか……これ」

 

浦原も驚いている。

そんな顔はどうでもいいから好転させる策を今すぐ思いつけ。

こっちは怒りで頭がぐつぐつと煮えているんだ。

 

「あんたも同じようにしてやる」

 

ニヤニヤとしながら近づいてくる隊士。

その顔を見ると怒りが臨界点を超える。

ただただ同意しただけで重大さに気づかない最低な奴ら。

大方、藍染が責任を取るとでも思っていたのだろう。

 

「待……」

 

藍染が止めるが聞いてはいない。

不意打ちで隊長格を虚化させて舞い上がっているのがわかる。

俺の心を読まないで愚か極まりない。

そんな奴らに言うのはたった一言。

 

「死ね」

 

無情な死刑宣告。

修羅の如く、切り刻む。

首筋に一閃で一人。

唐竹割りでさらに一人。

胴から上下に分かれる様に切り裂いて三人目。

 

「ひっ……」

 

突きを放ってくるが無意味。

刀が体に触れる前に俺の突きが放たれる。

衝突した結果、相手の斬魄刀が砕けてしまう。

五席から八席の席官数名が成すすべなくやられる。

 

「この程度であの人を切り裂いたのかぁ!!」

 

逆鱗に触れた奴らに容赦なき制裁を。

気づいた時には虚化したみんな、ギンと藍染、浦原と握菱以外は倒れ伏していた。

返り血を浴びた俺を見て冷や汗をかいている。

 

「私は……もう止まれない……」

 

青ざめた顔で藍染は去っていく。

あの予想外が重なった反応から、やはり誰かがお前をそそのかしたのだろう。

俺が現れた時、明らかに動揺していたからな。

追いかけるのもあるがひよ里さん達の方が今は重要だ。

 

「運ぶぞ」

 

そういうが浦原は首を振る。

もうそんなに時間がないのか。

しかしこれを打開する策なんて禁術ぐらいではないのか?

そう思っていると禁術を使って空間転移と時間停止を行っていた。

何かしら思惑が有ったのか、俺を蚊帳の外にして。

その後、瀞霊廷へ戻った。

霊圧の変動から察するに、治療を必死に施してはいたが無理だったのだろう。

十二番隊の隊舎に向かう途中で、捕縛されて連行されていくのを見てしまう。

俺は必死に浦原を庇おうと四十六室へと向かうのであった。




藍染は斑鳩が居なくなるのではと唆されたことによる焦燥から、歯車を狂わせてしまったという感じです。
ひよ里は曳舟さんが去るという経験をしているので説得を試みようとしましたが、空気読めないやつがやらかした模様。
この場合は実行した藍染が悪なのか、唆した相手が悪なのかという感じですね。
理不尽なこと言いだしたら零番隊から招集受けるほど功績と強さを持った斑鳩かもしれませんが。

何かしらの指摘などありましたらお願いします。


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『恨み骨髄 - Itchy bone marrow -』

今回で第1部終了です。
次回からは原作時間軸の死神代行編から第2部を始めます。


「判決は待っていただきたい」

 

あれから大急ぎで四十六室へ向かう。

丁度裁判の途中だったようだ。

当然のように騒然とする。

 

「君のような男がここに来るな」

 

そう言って追い出そうとする。

しかし霊圧の差で弾かれる。

同席を図々しくもさせてもらった。

 

「今回の被害者及び虚化した隊長格は『処分』とする」

 

その言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。

被害者というならば寄り添うのが一つの手段だ。

それを普通に見捨てていこうとする判断。

 

「彼ら、もしくは彼女らの処分はいささか早計ではないですか」

 

浦原が顔を変えてこっちを見る。

四十六室への反論など前代未聞。

しかしだからと言って唯々諾々としてはいけない。

 

「被害が出るかもしれない、それに感染系統であればどう責任を取るのだね?」

 

被害については『蛆虫の巣』や牢屋がそれこそある。

そして感染かどうかなど判明もしていない。

むしろ全くそれらに対して調査もせずに殺そうとしている。

それが気に食わない。

 

「調査結果が出ても遅くはない、浦原の追放を行ってしまうと被害者の治療が可能である希望が失せる」

 

それに対して面倒そうな顔をこちらへ向ける。

嫌な確信を得た。

こいつらにとっては『どうでもいい』のだ。

治療とかそういったものではなく、単純に放棄をしておけばいい。

自分たちの生活圏が侵されなければいいのだから。

 

「治療がどうというよりも危険であり、ほかの隊士にどう説明する?」

 

相手がそう言っていると元柳斎殿と京楽隊長と更木隊長が来ていた。

俺を止められるようにという保険だろう。

用意周到な事だ。

 

「全員が攻撃を受けての発症であるというのは聞いていませんか、そして長い目で見たら治療は不可能ではない」

 

処分をするには惜しい。

貢献をどれほどしてきたのか。

合計八名の隊長格を失わせようなんて馬鹿げている。

 

「くどいぞ、隊長如きが」

 

しかし反論もなく冷たい言葉で打ち切られる。

そう言って全員処分の意向を言う。

その瞬間、こちらの怒りは臨界点を超えた。

ろくな調査もせず、危険の及ばないところで騒ぐ無能ども。

隊長如きよりこいつらが本当に偉いのか?

ただの老害にほかならないのではないか?

こいつらが我々護廷十三隊にとっては蝕む病原菌ではないのか?

 

「……そうか」

 

そして心の中で結論を出す。

実力行使しかもはやない。

平行線をたどる話し合いなど意味のないものだ。

こいつらは居ても居なくても何の意味もない。

鯉口を切り呼吸をする。

 

「やめんか!!」

 

今にも飛びかかろうとする俺を元柳斎殿が押さえつける。

さらにそこに更木が加わる徹底ぶり。

ふざけるな。

こんなもの受け入れられるか。

 

「逆らっちゃ駄目だってわからないの?」

 

京楽隊長が言ってくる。

自分の副官が斬られるような判断をくだされたというのに……。

歯軋りをしながら睨み付ける。

 

「悔しくはないのですか!!」

 

押さえつけられた状態で叫ぶ。

元柳斎殿と更木。

その二人を背負うかのごとく立ち上がろうとする。

 

「この野郎……!!」

 

更木が驚く。

力を振り絞って振りほどく。

刀を抜いた元柳斎殿が目の前に立ちはだかる。

 

「何のつもりですか?」

 

刀をこちらも抜いて睨み付ける。

四十六室に仇をなすなとでも?

こいつらに如何ほどの価値があるというのか。

 

「正義の二文字の為、止めねばならぬ」

 

神妙な面持ち。

しかしどこか悲しげに。

痛いほどお前の気持ちはわかると語り掛けるように。

 

「このような不当な内容で……正義とは何なのですか!!」

 

状況を全く分かっていない。

どんな事情がみんなに有ったかもわかっていない。

知ろうともしない。

こいつらはただ権力で成り立っているだけのでくの坊だ。

 

「お主一人が今思う世界を揺るがすような正義は悪にも等しいのじゃ」

 

許せ。

そう思いながら刀を振ってくる。

しかし殺せる一太刀。

俺はそれすらも今は冷静に見れてはいない。

 

「その刀の動きは『知ってる』」

 

だが知識が刀を受け止めさせる。

そのまま前蹴りで突き放す。

喉元を突き、そのまま裂いてやる。

その後にはこいつらを全て殺してくれる。

 

「お止めなさい」

 

体を動かして浦原が俺の前に立つ。

刀が手錠に刺さる。

そのまま地面に突き立てるように軌道を変える。

 

「気持ちは分かるッスよ」

 

でもそれをした貴方がどうなる。

今、大きな事態を混乱にさらに陥れてはならない。

壊れた手錠が地面に落ちていく。

 

「逃がさせてもらうッス」

 

いつの間にか来ていた『瞬神』四楓院夜一と共に去っていく。

握菱を担ぐ形でその速度では追う事もままならない。

俺が追いかける形となる。

こうなれば目的は四十六室への恨みを晴らす事ではない。

 

「『掴趾追雀』」

 

居場所を補足するが技術開発局に立ち寄る。

必要なものを全て抱えていく。

全員分の義骸。

今まで研究を進めたことによる『魂魄自殺』に対した特効薬。

『霊子体』を持たない義骸の試作品。

それらを袋に詰めて最速で浦原の元へと向かう。

 

「追いかけてきおったか」

 

四楓院隊長がこちらを向く。

しかし敵意の無さに警戒を解いた。

そしてこちらの抱えるものを見て頷く。

 

「頼むぞ」

 

俺が居なくなるのでは藍染の行動は本末転倒。

挙句の果てに能力の餌食だ。

あいつのいいようにされる危険性も有るだろう。

罪悪感であいつの動きも縛られる。

そういう所を予測して浦原も止めたのだろう。

 

「貴方はこれからどうするんですか?」

 

できる事ならばついてやりたい。

傍に居てあげたい。

でもそれをしては駄目になる。

設備も今の技術開発局にある。

そこで義骸の改良に努めてお前の研究に進歩を与えられる立場であり続ける。

 

「あの人を陰から支え続ける」

 

傍に居たい心さえ押し殺して。

これから先の生き方で、糧となり続ける道。

 

「……分かりました、お元気で」

 

そう言って去っていった。

捕縛ができなかったと言ってそのまま今日の事は終わる。

処分を与えようとしたみたいだが不問となった。

俺もまた浦原の犠牲者であるという事。

今までの貢献と零番隊の口添え。

それが原因である。

まあ、やろうとしたら本当に元柳斎殿と更木と卯ノ花隊長の三人が出てこないといけない。

 

「すまないな」

 

俺は頭を下げていた。

なぜならば十番隊隊長をやめるからだ。

あの人の居場所を守り抜く。

その為には今の地位では意味がない。

後任は綱彌代である。

 

「さて……と」

 

十二番隊の隊舎に来た。

マユリの隊長就任に対して副隊長になる旨を伝える。

二つ返事で良しと言ってくれた。

ありがとうと礼を言うと悪い笑顔を浮かべていた。

弱みを握ったとでも思っているのだろうか?

 

「世話になる」

 

それだけ告げると自分の思い出のあばら家に機材全てを持ち込む。

義骸を毎年あの『地下』に置く。

そこから門を開けば浦原の奴が回収できるだろう。

重要なのは全員分のものを用意して決して不具合が出ない状態を維持し続ける事だ。

 

それから百年……

現世に『ガーベラ』の花束を持ち、誕生日にありとあらゆる場所をさまよい続けた。

しかし旅禍の少年と出会うその年まで……

自分とあの人が出会う事は二度となかった。




決断としては『十二番隊副隊長となって、ひよ里の復帰までその場所を守り抜く』でした。
自分が現世に同行すると藍染からすると本末転倒。
そして残った方が更生させられる可能性があると踏んでいます。
設備や機材はこちらの方が充実しており、今後支援していく為の苦渋の決断です。

指摘などありましたらお願いします。


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『第2部:現世編』
『虚狩り - Hunter - 』


主人公の名前が少し考えつかなかったです。
文字数少なめでさらっと読めるように第2部は書いていこうと思います。


「……朝か」

 

俺の名前は(はなぶさ)雄喜(ゆうき)

薙刀部に所属する高校生。

 

「うんとこしょ」

 

そう言って布団から出る。

そして畳んでから仏壇の前で手を合わせる。

その後はバナナとコーヒーで朝食を済ませて家を出た。

 

「おはよう」

 

それだけ言って小島に声をかける。

その後には黒崎と茶渡。

有沢と井上。

 

そして教室の後ろに薙刀を置く。。

あほみたいに長いから横向きで安定させているのだ。

因みに薙刀部は団体戦に出れる分の人数しかいない。

剣道部には流れるのにな……

 

「あんた、大丈夫なわけ?」

 

有沢から声をかけられる。

部活でも薙刀部と空手部はそれなりに仲がいい。

皆の興味がないのが問題だ。

面倒見がいいから気にはなっているんだろう。

 

「今年の夏のインターハイで暴れたらいいから大丈夫」

 

頭を掻きながら言ってやる。

薙刀の段位持ちだからな。

ここいらで興味持ってもらえれば万々歳さ。

 

「織姫が呼んでるから行くわ、また」

 

こっちも手を上げて応える。

すると頭上から影が覆ってきた。

 

「茶渡か」

 

ある冊子を指さしてくる。

ぬいぐるみについて詳しく書かれたものだ。

可愛いものに目がないもんな。

 

「このタイプのテディベアは大きいからまだ一回り小さいぐらいで良いだろ」

 

そういうものか。

そう呟いて去っていく。

 

「お前、なんやかんやで話すよな」

 

黒崎が声をかけてくる。

こいつから感じるものは『死神』のそれ。

確かクラスにいた朽木も同じような霊圧だったな。

俺が知っている事には気づいていないようだが。

 

「まあ、皆と話すのは嫌いじゃないんでな」

 

そう言って先生が来たので席に着く。

授業を受けて放課後。

帰る途中である霊圧を感じる。

 

「じゃあね、英くん」

 

井上が声をかけてくれたから親指を上げて応える。

見えていない顔は真剣そのもの。

相手のいる方向へ向かって行く。

 

「ちっ!!」

 

公園に虚がいた。

小さな子が狙われていた。

押しのけるのもだめだ。

 

薙刀を包んでいるのを解いて歯を食いしばる。

霊圧を注ぎ込んで本来の姿を取り戻す。

 

相手は刀のような腕を振るう。

それを受け止める。

それほど速くもない動きだ。

 

「えっ?」

 

女の子が驚いていた。

きっとぼんやりと感じ取っているんだろう。

 

「速く下がって!!」

 

そう言うと距離を取っていく。

これで一安心だ。

 

「カァアアアア!!」

 

相手が逆の手を振ってくる。

それを避けるが岩を切り裂く。

なかなかの攻撃力だ。

しかし隙だらけ。

 

「弾けばすぐ懐」

 

弾いて攻撃を逸らす。

そのまま反転させて石突を天に向ける。

顎に向かって振り上げる事で砕きに行く。

この所作を行うのにかかる時間は速い。

 

「ウギ!!」

 

相手が防ぐが次は上下の攻撃。

そのまま脛を切り裂く。

痛みでくの字になった相手に鉄拳を叩き込む。

 

「ガ……」

 

息を吐き出した相手への追撃はやまない。

一瞬の動きが止まった隙に上段に振り上げる。

 

「はぁ!!」

 

気合一閃。

頭から股間にかけて深い切り傷がついた。

再生していくにもそれより速く斬ればいい。

決着はついた。

 

「もし、人語を解せるなら一つ聞く」

 

もう命が尽きそうな虚に問いかける。

相手が冷や汗をかきながら口を開閉する。

 

「……蟷螂のような虚は居るか?」

 

首筋に刃を押し当てて問う。

そこに込められた殺意は嘘ではない。

 

「なんでそいつを追ウ……」

 

それが分かっているからか反撃がない。

追う理由はたった一つだ。

 

「父も母も姉もそいつに殺された」

 

母は俺が腹に居る時に襲われた。

その後遺症で俺を住んですぐに無くなった。

父と姉は俺が八歳の時。

祖父母や大叔父、大叔母は俺が二歳から五歳の時にかけて亡くなった。

叔母も叔父も父母が一人っ子だったため居ない。

かれこれ数年間は天涯孤独である。

 

「ソウカ、知らナイ……」

 

血反吐を吐いて崩れ落ちる。

その姿に虚偽はない。

 

「じゃあ、用無しだな」

 

そう言って首を切り裂いて終わらせた。

そして気配を感じて後ろを向く。

 

「覗き見か…石田」

 

そこには眼鏡をかけた青年。

同じ高校に居るクラスメイト。

よもや気づかれないとでも思っていたのか?

 

俺は薙刀を振って突きつける。

相手も弓を引くような構えを取る。

じりじりと緊迫感が張り詰めていくのを感じていた。




第2部主人公は『完現術』の持ち主です。
仇を追い続けている単独の存在です。
殆ど問題の無いのですが日常的な意味合いではそこそこ欠点のあるな男をイメージして書くようにしていきます。

指摘などありましたらお願いします。


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『騒乱 - Panic - 』

メノスグランデ編から始めている設定です。
元の始まりからそこが一番ありかと思いましたので。


「君のそれは死神ではないようだが……」

 

石田が俺の薙刀を見て呟く。

死神の刀とは違う。

 

「これは特異な環境で生まれた虚と戦う術さ」

 

そう言って振り回す。

霊圧の感じは分かっているのだろう。

じろりと見ている。

 

「お前も人の事は言えないだろ、石田…えっと…アマタツだったか?」

 

そう言うとずっこけそうになる。

お前、そういうキャラじゃないだろ?

 

雨竜(うりゅう)だよ、なんでその読みによりによってなるんだ……」

 

なるほど『また』間違えたか。

基本的に初対面の相手の名前は間違えてしまう。

朽木は下の名前がカタカナだったし、先生が出欠で呼ぶからすぐわかったが。

入学式の時に見た井上さんは『いうえ』って呼んだ。

茶渡は『チャド』。

黒崎は噛んでしまったのも有って『えちご』。

有沢さんは『りゅうき』って呼んでしまった。

小島は『こしま』、浅野は『あさや』。

 

「悪いな、癖みたいなもんだ」

 

少し規制を削がれたのかやんわりした空気になっている。

すると別の所で虚の気配がある。

そして『死神』の霊圧。

 

「黒崎か」

 

石田が呟く。

やはりそっちも気づいてたようだな。

 

「相も変わらず垂れ流しだ」

 

そう言うとクスリと笑う。

霊圧に誰も気づかないとでも思っているのか。

 

「君は死神が嫌いか?」

 

石田が俺に聞いてくる。

嫌いでもないし、好きでもない。

中立な存在だな。

 

「そうか、僕は嫌いだ」

 

随分とはっきりと言うな。

どうやら確執があるのだろう。

 

「何が原因かは聞かない」

 

言いたい時に言ってくれ。

無理やり聞くのもどうかと思うし。

 

「おおよそ、君と変わらないよ」

 

俺と同じ。

それはすなわち家族を虚に殺されたことが有るんだろう。

その救援に死神が間に合わなかったことからか。

 

「そりゃあ、恨まれるな」

 

あくまで憶測だけど。

しかしこっちが察したの思ったのか石田が頷いて賛同する。

 

「そうだ、そして僕の方が死神より優れている……」

 

その目は冷たいものが有った。

何かこの目をしてる時って、ろくなことしないんだよな。

 

「誰かを巻き込むなよ」

 

それはお前の種族云々関係なく、最低な事だからな。

虚に襲われて死ぬ奴らもいるんだぞ。

 

「善処はするよ」

 

いや、こいつそう言うのはできないだろ。

直感ではあるが頭固そうだし。

頑固な感じがちょっとにじみ出てる気がする。

 

「聞き忘れたがお前は何者だ」

 

そう言えばどう言ったものかを聞いていない。

同じやつならば驚かないだろうし、『死神』なら同族嫌悪で済む。

しかし、言葉に込められた感情はそれ以上の感じからして別だろう。

 

「僕は『滅却師(クインシー)』だ」

 

初めて聞く存在だ。

大昔なのか新進気鋭なのか。

 

「由緒正しい存在で虚を完全に消滅させる者だ」

 

魂葬とは違うのか。

俺も人の事は言えない。

斬り落としてからやってはいるが時折そうなる事もある。

 

「完全に消す理由を知りたいような顔だね」

 

奴らはすさまじい。

其れであるが故だ。

そう言って眼鏡をあげる。

 

「それについては秘密というよりあまり分かっていないんだ」

 

じゃあこれで。

そう言って去っていく。

 

「あいつもいろいろな理由が有るんだな」

 

呟いて家に帰る。

その日は寝て翌日。

朝に起きて学校へ行く。

 

「ん?」

 

学校に行くと黒崎と石田が接触していた。

あいつ、帰りに黒崎の方に向かったのか。

放課後に帰る途中で変な気配を感じる。

 

「あれ……何?」

 

独り言をつぶやく。

天に黒い穴が開いている。

そこから虚が出てきている。

 

「くそっ!!」

 

一番危うい奴らの方向へ足を向ける。

女性陣だ。

有沢さん達はこの時間はまだ学校。

 

「着いた……」

 

嫌な空気が既にある。

上を見ると虚がいる。

……とにかく後で石田の奴を殴ろう。

 

「井上さん」

 

声をかけると肩をびくりとさせる。

きっと見えているのだろう。

だから過敏になったのだ。

 

「見えているんだね」

 

再確認で聞くと頷く。

そこからなぜ見えるようになったかを言ってくる。

少し前に虚に襲われていたのを黒崎が助けてから見えるようになったらしい。

 

「多分たつきちゃんも……」

 

そうなのか。

じゃあ余計にこの状況は危ない。

 

「暴れようか」

 

相手に向けて薙刀を向ける。

誰かを護る戦いを始めるのだった。




織姫を護る戦いに参戦。
誰に向かってもいいのですが、こっちかチャドぐらいしかないんですよね。
主人公の悪癖『名前を間違える』
わざとではなく純粋に漢字の読み間違いです。
ただ、学力高いので天然です。

指摘などありましたらお願いします。


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『目覚め - Get Up - 』

今回で織姫覚醒です。
次回ぐらいに結末を端折って朽木隊長来訪になるかと。


「速くいこうよ、たつきちゃん、千鶴ちゃん!!」

 

井上さんは二人を急かす。

危ない場所から逃すつもりのようだ。

しかしそれを言っている間に相手が降りてくる。

 

「ちっ」

 

舌打ちをして相手を見る。

見た目はタコのような感じ。

お目当ての相手ではない。

 

「お前も私が見えているのかい?」

 

その問いかけには答えない。

即座に薙刀を振るう。

そんな動きをする相手に驚いたのか、後退した。

 

「なんて神経だい、普通は問いに答えるもんじゃないか!!」

 

そうは言っているが目はギラリとしていた。

そして何かを吐き出す。

それを薙刀を振るって薙ぎ払った。

 

「避けたら本城さんに当たっている、計算したな?」

 

井上さんが腕を引いて逃れようとする。

しかし男子生徒がゆらりと動いていた。

まるで操り人形のように。

 

「ん?」

 

目を凝らすと何かが撃ち込まれている。

それが原因で操られているのか。

……問題だな。

 

「二人とも円を描くように回って時間を稼いでくれ」

 

そうしておけば何とかなる。

相手が連射してくる。

薙刀を扇風機のように回して打ち落とす。

 

「背中についてくれ」

 

そう言って井上さん達が背中に着く。

大きく振りかぶって独楽のように回る。

その勢いで男子生徒が払われていく。

 

「数が多いな……」

 

一クラス以上の人数だ。

群がられると厄介極まりない。

本城さん達は戦力としてはか弱いしな。

 

「お前ら、織姫に何やってんだよ!!」

 

有沢さんが駆けつけてきた。

そして状況を把握すると瞬く間に殴り倒す。

『次!!』と勇ましく言う姿はかっこいい。

 

「お荷物抱えて戦えやしないだろ!!」

 

砂煙を巻き上げる。

目つぶしのつもりのようだが……

 

「それに乗じたあの操りにするための攻撃だろ?」

 

砂煙を払うように振る。

すると触手を伸ばしていた。

 

「無駄だ!!」

 

切り裂いて空に舞わせる。

それを見て相手がほくそ笑む。

 

「こっちも読んでいたのさ!!」

 

無防備になった俺に向かって発射してくる。

回避はできない。

回避したら有沢さんに当たる。

 

「くっ!!」

 

肩で受ける

相手の笑顔を見て歯軋りする。

操ろうってか?

 

「そんな安くはない」

 

恐怖など微塵も無し。

肩が勝手に動くがお構いなしで相手に攻撃を仕掛ける。

薙刀から手を離して首を掴み始める。

 

「……なるほどな」

 

首を絞めて殺すつもりだ。

元々両手で薙刀を握ってきたからまだ時間はある。

それだけあれば十分だろう。

 

差し違えても構わない。

元より虚を殺すために存在しているようなものだからな。

相手も恐れを抱かず向かって行くその姿を見て慄いている。

 

「狂っているのかい、お前は!?」

 

狂っていないといつから思っていた。

もうあの天涯孤独の日から人生の歯車はぐしゃぐしゃだ。

 

「お前らを倒せば他はいらない」

 

徐々に腕の力が強くなっていく。

酸素が上手く行き渡らない。

数分はいけるがそれ以上の時間は保証されていない。

 

「シャッ!!」

 

上段から振り下ろす。

横薙ぎに振るう。

この二つを相手は死角に潜り込んで回避する。

 

「ぬるいねぇ!!」

 

そう言って攻撃をするが転がって避ける。

ぬるいとは言うが庇ったこっちの隙を見て打ち込んだ一撃だけだぞ

まぁ、情に付け込んだと言えばそれまでだが。

 

「けけけ!!」

 

砂煙を巻き上げていく。

それを払うと既に目の前に居なかった。

どこに行きやがった!?

 

「隙ありだね!!」

 

しまった。

そう思ったときにはすでに遅い。

此方の無防備な方向から有沢さんを狙ってきた。

 

「なっ!?」

 

有沢さんが驚く。

頭に打ちこまれたから完全に操られているのだろう。

なんとか抵抗しようとしているが無理だ。

 

「畜生が……」

 

その眼には涙が有った。

傷つけたくないものを操られているとはいえ攻撃する。

その悔しさや悲しさが入り混じっている。

 

「間に合え!!」

 

井上さんの前に出て有沢さんの蹴りを防ごうとしていた。

こっちが腹部に喰らわないように屈む。

首を絞めあげる手を視認した。

 

「がっ……」

 

手首を蹴り上げられる。

ボキリと嫌な音を立てて骨が折れるのを実感する。

しかしそのお陰で首を絞めあげていたものが無くなった。

 

「あれっ?」

 

上部に影が有る。

上に視線を向けてよく見ると振り上げられた足が有った。

 

「無理だね」

 

その言葉の後に踵落としを喰らう。

頭が揺れる。

……仕方ない。

 

「峰打ちで留めておく」

 

片手で薙刀を振るって勝負をする。

井上さんの髪飾りが光っていたがそれは気にしてられない。

 

「ぐえっ……」

 

腹に重い蹴りを喰らう。

昼ごはんが逆流しそうだ。

 

「かあっ!!」

 

気合で斬りつける。

それを有沢さんが腕を交差して受けとめる。

だがまだまだ。

しかし次の瞬間、有沢さんの体がよろめく。

 

「えっ?」

 

素っ頓狂な声を上げると倒れていく。

後頭部を打ちそうだったので支えるように抱え込む。

 

「たつきちゃん!」

 

井上さんが駆け寄る。

渡すが非常に無防備。

片手で薙刀を回して攻撃を防ぐ。

 

「くっ、あの小娘たちもお前も……」

 

焦燥に駆られたような表情だ。

こうなるともう脆い。

勝負は決まった。

 

「『弧天斬盾』、『私は拒絶する』!!」

 

 

その言葉で井上さんからの攻撃が放たれる。

それは相手を真っ二つに切り裂いた。

相手の絶命に際してこちらの肩に有った物も消える。

 

「一件落着か」

 

息を吐き出して安堵する。

誰かを護って戦うのはやはり難しい。

相手が上手く姑息だったからかもしれないが。

 

「英くんも治さないとだめだよ」

 

井上さんに手の骨の部分を治してもらう。

その間に上を見ると黒い穴はさらに大きくなっている事に気づくのであった。




原作では一撃腹部に蹴りを入れてしまうところから、主人公と抗戦する形に変更しました。
精神力で操作から逃れてましたが、学校でなく一対一なら勝負がついていました。
主人公の弱点は誰かを庇いがちになってしまうという点です。

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『能力 - Ability- 』

英の『完現術』の能力名発表回です。
能力の詳細と実力に着いては次回以降説明を入れようと思います。
初期チャドが三席を普通に倒せるので、隊長格並みになりそうですね……


あの虚騒動から数日後。

石田には少し怒った。

流石に雑魚じゃないやつを呼び寄せるのはやめろ。

後で胡散臭い『浦原商店』の店主に聞いたら結構な奴だったらしいじゃないか。

 

「まさか撒き餌をやったらああなるとは思わなくてね」

 

其れなりに大怪我をしていたからこっちも過度に怒りはしなかったが。

あいつも多少表情が柔らかくなっていた。

 

「しかし……」

 

井上さんだけではなく茶渡も俺と同じような力に目覚めたらしい。

髪飾りや物だけではないのか。

おおよそ『肌の色』かもな。

誇りに思っているもの、大事に使っているもの。

それが対象になる。

 

「有沢さん、大丈夫そうだね」

 

有沢さんの机の前に行って話しかける。

こっちに気づいて笑う。

あんなことが有ったのによく普通にしていられるな。

 

「そっちも良かったよ、腕の骨折が治ってな」

 

あれは治ったのかな?

なんだかそれとは別の違和感を感じたんだが。

まあ、分かりにくい事だから説明もしにくいんだけど。

 

「あれから見えてる?」

 

そう聞くと露骨に嫌そうな顔をしている。

はっきりと見えるようになっているのか。

もしかしたら虚に襲われた影響下で何か目覚めているかもしれない。

 

「何かおかしなことあったら言ってくれ」

 

そう言って席に戻った。

握って開いてを繰り返していた。

 

「バンテージか拳そのものかだな」

 

そんな事を言いながら授業を受ける。

放課後になって家に帰る。

食事をして夜になってから鍛錬をしていた。

 

「なんだ、この霊圧?」

 

そんな最中に家から近い所で霊圧を感じる。

其れなりに大きい。

『虚』ではなく『死神』のものだし少し調べよう。

 

「ん?」

 

奇遇にも石田と出会う。

あいつも感じ取っていたのか。

よく見ると朽木さんの方に二人の男性がいる。

 

「死神のようだね」

 

石田が言ってくる。

随分と修羅場だな。

無理やりにでも連れて行くような感じだ。

 

「止めた方が良いな」

 

薙刀を入れた袋のチャックを開ける。

それに倣うように石田も眼鏡を上げて霊圧を固め始める。

 

「石田、お前はやめとけ」

 

重傷なのに割り込まない方が良い。

ああいった手合いは強くて厄介だ。

 

「隙を見て逃がせられるなら頼む」

 

ケガがない奴が戦いになっても隙を作れる。

そうなった時にお前が抱えればいい。

 

「分かった」

 

その言葉と同時に朽木さんに近づいていく。

相手が腕を掴んだ瞬間を見計らって薙刀を取り出す。

 

「待ってもらおうか」

 

薙刀を男と朽木さんの間に割り込ませる。

それに苛立ったのかこっちに視線を向ける。

 

「誰だ、てめぇは?」

 

赤い髪でヤンキーまがいの喋り方とは威圧感が凄い。

まぁ、冷静になって分析しよう。

この服装と『六』と書かれた腕章。

そして抑えているとはいえなかなかの霊圧。

……並の死神ではないな。

 

「これは失礼、俺の名前は英雄喜だ」

 

そう言って薙刀を自分の方に引き寄せる。

相手も鯉口を切り、刀を抜き始める。

 

「こっちが名乗ったんだからそっちも頼むぜ、殺されるにしても殺すにしても名前を知っておきたいからな」

 

その言葉に気を良くしたのか。

口角を上げてこっちを見てくる。

 

「いいぜ、俺の名前は阿散井(あばらい)恋次(れんじ)、お前を殺す男だ!!」

 

抜刀と同時に斬りあげてくる。

それを受け止めるが感想は単純なものだった。

 

「遅い……」

 

目晦ましとかがなく単独ならば優に対応できる。

其れと引き換えても遅いのだ。

 

「かあ!!」

 

追撃で斬撃を放ってくる。

しかしそれを回避してこっちが反撃をする。

 

「ちっ!!」

 

紙一重で避ける相手。

それに伴って接近。

そのまま石突で一撃を放つ。

 

「くそが!!」

 

柄で受け止める。

その瞬間に腹に蹴りを叩き込む。

会心の一撃だったのか、内臓を押し上げる感触が有った。

 

「がっ……」

 

膝をついた相手を見下ろす。

そして冷たい声で言い放った。

 

「舐めてんじゃなくて本気で来いよ」

 

相手もその言葉に思う所が有ったのか

歯軋りをしてこちらを見上げる。

 

「くっ……」

 

立ち上がろうとした阿散井さんを止める腕。

そこから感じる霊圧は阿散井さん以上だった。

 

「『限定刻印』があるとはいえ恋次では手が焼ける」

 

なるほど、自分で手加減していたのではなかったんだ。

その刻印で力を元から抑えていたのか。

 

「解除にもそれ相応の理由がないと許可は下りぬ」

 

なるほど、虚でもない人間相手。

それは無理があるというものだ。

 

「兄の相手は私がしよう」

 

そう言った瞬間、目の前から消えた。

しかしこれは……

 

「見えている」

 

薙刀で受け止める。

横の動きで一気に視界から外れた。

そのまま後ろを取ってしまえば必中に等しい。

 

「ほう……実力はあるようだな」

 

まさか受け止めるとは思っていなかったのか。

死角の一撃は数日前にやられたからな。

其れの対策を打たないわけがない。

 

「それならば少しだけ速度を上げても問題はあるまい」

 

歩方が僅かに変わった。

一体どこまで速度を上げてくる?

そう思って集中していた時、阿散井さんの声が響いた。

 

「ちっ……怪我人やっても意味がねえ」

 

石田がやられていた。

……弓使いだから近接には不向きだったか。

こうなったら一人で二人を相手して逃がすしかない。

 

「どこを見ている?」

 

相手の声が聞こえる。

あっという間に眼前に迫る。

 

「ちっ!!」

 

転がって避ける。

朽木さんは驚いている。

 

「ようやく黒崎の奴が来やがったか……」

 

阿散井さんとやり合っている。

ここで少しでも優勢になれば朽木さんを逃がせられる。

こっちも本気にならざるを得ないな。

 

「そっちが本気を出せなくても関係ない」

 

握る力を強める。

思いの丈をこの薙刀に込める。

 

「『剣道三倍段の枷(トリプルスコア)』」

 

その言葉を皮切りに仕切り直す。

相手の視線を見据えて切り結びに行くのだった。




石田のボコられは省略しました。
主人公の能力が死神・アランカル・一部の滅却師相手に完全メタです。
説明は次回に持ち越します。
原作の展開上、べらべらと喋った場合負けフラグなのですが……
指摘などありましたらお願いします。



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『桜 - Cherry Brossam- 』

主人公の能力と実力判明回です。
チート臭いかもしれませんが明確な弱点はあるという事で一つ。


「むっ?」

 

速度が上がった。

そう相手は思っているはずだ。

しかし……

 

「もう後ろにいるぞ」

 

頭を掴む。

それに気づき振り向くが遅い。

蹴りを入れて相手との距離を取る。

 

「私より速いのか?」

 

冷静に分析にしている。

そっちより速いとは思いませんよ。

 

「言ったはずですよ、本気だってね」

 

こっちが薙刀を振るう。

此方の本気の実力を詳らかにすること。

そしてこの違和感を掴むこと。

それが最優先だと思いますよ。

 

「むっ……」

 

刀で受け止めて距離を維持。

此方に主導権を渡すまいと動いている。

 

「これは仕方あるまい」

 

口に手を当てる。

そして大きな声でしゃべり始める。

 

「『こちら六番隊隊長、朽木(くちき)白哉(びゃくや)、技術開発局に連絡願う』」

 

ここで名前が分かる。

なるほど朽木さんのお兄さんか。

じゃあ、この状況は連れ戻そうとしているのか。

……でも修羅場だったからいい感じではないよな。

 

「『私の限定解除の許可を』」

 

黒崎の方は後でなんとかする。

そう言いたげだな。

 

「『そうか、三分かかるのか、分かった頼む』」

 

それだけ言うと顔をこちらへ向けて再度刀を振る。

受け止めた最中に黒崎の霊圧の上昇を感じ取る。

なんだ、この上昇の幅は!?

風のように押し寄せているじゃないか。

 

「俺はお前に負ける気がしねぇ!!」

 

そう言って阿散井さんを追い詰める黒崎。

だがそこに白哉さんが動く。

刀を腕力でへし折るという離れ業。

 

「なっ!?」

 

速度が有ったし確認は出来ていた。

しかしそれ以上に驚いたのは細腕の中にあった腕力。

黒崎も唖然として動けていない。

 

(けい)を屠るのには『限定解除』は必要なし」

 

あっという間の連撃で貫かれる。

どうやら死神の危うい部分を狙われたようだ。

まだこの人たちの抑えた速度にも劣るとは『死神』でも駆け出しか。

潜在能力はいい線には行くが、まだまだなのだろう。

 

立ち上がろうとする黒崎をあえて朽木さんが冷たい言葉で突き放す。

命にかかわるからこそだろう。

しかしまだ全ては終えていない。

 

「さ……行くぞ」

 

本気の白哉さん。

段違いの速度で襲い掛かってくる。

それを回避するが風圧が押し寄せてくるほどだ。

 

「反応はできるが危ういぜ」

 

相手の刀を受け流して脛を狙う。

それに気づき後ろへ下がる。

その瞬間に深く踏み込んで突きを繰り出した。

 

「残念だったな」

 

その一撃を受け止めて距離を詰めてくる。

しかしこれならば……

 

「避けてられる」

 

此方が一撃をかわして奇策を用いる。

これで一泡吹かせてやれる。

 

「ふんっ!!」

 

地面に突き刺してそれを軸に蹴りを放つ。

読めなかったのか腹に喰らって後退をする。

 

「ぐっ…」

 

膝をついた相手に石突での一撃を喰らわせる。

顎を跳ね上げられた白哉さんはこちらに指を向ける。

 

「『白雷』」

 

それを避けるが後ろのブロック塀が崩れた。

なんて威力なんだよ。

 

「なるほど、兄の実力とその薙刀の力について把握した」

 

そう言って刀を振り心を整える。

視線が常にこちらに向いている以上、こちらも相手をよく見ていないといけない。

 

「実力は恋次と同等ほどと見た、その若さで大したものだと感心しよう」

 

まず、阿散井さんの実力が高いのは把握できた。

其れと同格というのもかなり嬉しい。

練磨の甲斐が有ったというもの。

 

「次にその薙刀だが特筆すべきは……こちらの実力を三分の一にするという事だ」

 

体の違和感からそこまで見抜いたか。

まだこちらの実力だと勘違いしてくれていたら焦燥感を煽れただろうに。

 

「ご名答です」

 

俺の能力は自分の実力を三倍にするのではなく相手に本来の実力の三倍を要求する能力。

しかし条件がある。

それは単純に『刃がついた武器を手に持っているかどうか』。

投げたりしたら解除されるのである。

 

「つまり鬼道でやれば勝ち筋は十分にあるという事だ」

 

そうは言うがどうする?

刀を鞘に収めないと意味がない。

そこまでは把握できてないはずだ。

 

「だが使わぬ、兄には敬意を表してやる」

 

そう言って霊圧を引き上げる。

息を吸い、呟く声が聞こえる。

 

「『散れ』」

 

その言葉を聞いた瞬間、朽木さんが青ざめる。

此方に視線を向けていた。

必死ともとれるものだ、逃げてほしいのだろう。

 

「『千本(せんぼん)(ざくら)』」

 

その瞬間、目に煌いたのは花弁のような刀。

確かに刀身の無いものであれば効果的に攻撃が可能だ。

 

「でも、それで怯むとでも思ったか!!」

 

一気に駆け抜ける。

完全に無作為であればまだしも、こういうものは操作をしているはず。

ならば傷つかない安全地帯が存在している。

 

「見抜いてきたか……」

 

前に進む間に皮膚が斬られているのは分かる。

血も流れているし、痛みが駆け抜ける事を拒絶していこうとする。

しかしあの場で棒立ちになる事を考えれば浅いだろう。

 

「喰らえ!!」

 

花弁を操作するが間に合っていない。

貫いた感覚。

その防御が解けた時に肩を貫かれた姿で立っていた。

 

「血にまみれようと攻撃してくるか」

 

今の一撃の引換に喰らったのは軽くはない。

肉を斬らせてもそれよりわずかに多いかどうか。

 

「しかし見抜かれた以上、若さによる成長を加味すればのうのうとしておれぬ」

 

目を細めて刀を持つ。

その眼を見た朽木さんは青ざめたまま目を見開いて恐怖に満ちた顔になっている。

阿散井さんも冷や汗をかいていた。

 

「誇るが良い、この私の『卍解』を見る事を」

 

そう言うと地面に溶けるように刀が消えた。

そして景色さえも変わる。

この間に黒崎は石田が運んでいった。

まぁ、流れ弾が来る可能性があるからな。

 

「『卍解』、『千本(せんぼん)(ざくら)景厳(かげよし)』」

 

巨大な刀身に囲まれている。

だがそれ以上に舞う刃の量が段違いだ。

その威容に体が竦む。

 

「はあっ!!」

 

それを弾き返して刀を振る。

その一撃に対して動かない。

花弁の盾が何倍もの量で押し返す。

 

「覚悟せよ」

 

視界が覆われる。

真っ白な景色になってしまった。

天ももはや見えない。

 

「終りだ、『吭景(ごうけい)・千本桜景厳』」

 

その言葉を皮切りに一斉に刀が降り注ぐ。

薙刀を回して前に進み続ける。

背中をいくら切り刻まれようとも。

 

「うおおおお!!」

 

刀の雨霰が止んだ時。

相手は背を向けていた。

その姿に腹立たしさを感じた。

 

「待……て」

 

朽木さんもついて行っていた。

俺の声に振り向く。

それに対して踏み出そうとする。

しかし……

 

「えっ?」

 

倒れ込んで体が動く事は無かった。

目の前で朽木さんが連れていかれるのを見届ける事しかできなかった。




能力のおかげで副隊長は基本、卍解ができないと負け。
もしくは『刀』じゃない始解でなんとかしないといけない。
例で言うと大前田の奴とか、乱菊の『灰猫』です。

指摘などありましたらお願いします。


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『夏休み - Summer Vacation- 』

次回から『朽木ルキア奪還編』始めます。
ちなみに原作で死んでいる奴はこの作品では死んでいないこともあります。


目を覚ましたのは自分の家じゃなかった。

目に映るのは木の天井。

布団をはぎ取る。

誰かが助けてくれたのだろう、礼を言いたい。

 

「起きたようですな」

 

そう言って目の前に現れたのは大きな人。

眼鏡をかけてエプロンをしている。

頭を下げた。

 

「おはようございます」

 

挨拶をすると座るように促される。

確かに包帯で巻かれているし、痛みはまだある。

楽にしておこう。

 

「私の名前は握菱(つかびし)鉄斎(てっさい)と言います」

 

なるほど、名前は覚えた。

それを聞いていると子供がひょっこりと顔を出す。

 

「これはこれはジン太殿にウルル殿、起きましたぞ」

 

この子たちも見てくれていたんだろうか頭を下げる。

すると生意気そうに胸を張る少年。

おずおずと頭を下げる少女。

 

「店主を呼んでまいりますゆえ、少々お待ちを」

 

すると現れたのはあの胡散臭い店長だった。

ここはじゃあ『浦原商店』か。

 

「いやー良かった良かった、二日間は寝込んでいたんっすよ」

 

扇子で仰ぎながら近づいてくる。

底知れなさが覗いている。

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げて礼を言う。

次の瞬間、真剣な顔に店主はなっていた。

 

「いったい誰とやり合ったんっすか?」

 

確かにあれだけの重傷を負わせる相手。

それが気にならないやつはいないだろう。

 

「朽木白哉という人物です、『限定刻印』の解除と『卍解』をしてましたけどね」

 

そう言うと目を見開いている。

一体どういう事なのだろうか?

 

「あれをするってことは確実に仕留めに来てるんっすよ……」

 

よく生きてましたね。

そうは言うが、あれはもう逃げようがなかった。

必死になるしかなかったんだ。

 

「しかし、向こうの事情が何かは分かりませんがあれだけの実力者をわざわざ兄弟の捕縛とはいえ出しますかね?」

 

流石にあれだけのものは余剰戦力。

俺が割り込んだのと黒崎の爆発力。

それだけの予想外が有っただけの話。

 

「何か悪だくみの前兆な気がしてならないんですよ」

 

その言葉に首をかしげる。

俺が間違った指摘をしたのだろうか?

いや、これは……

 

「思い当たる節が有るんっすよねえ」

 

頭を掻いて呟く。

そしてこっちを見据える。

 

「で、どうします?」

 

そんな事を聞いてくると同時に黒崎の霊圧が下の方から感じ取れる。

前回の重傷でかなり危ないはずだろうに。

あいつの潜在能力にはやはり目を見張るものがある。

 

「助けに行くかどうかって問いなら行きますよ」

 

こんなきな臭い事が有って関わってしまった。

放っておいたら目覚めの悪い夢にうなされるだろう。

それに自分が納得できない。

 

「次は死ぬとしても後悔の無いように生きている」

 

起き上がっていく。

そうだ、聞きたいことができてしまったな。

 

「蟷螂のような虚って見覚え有ります?」

 

その問いには首を振っていた。

知らないのか。

 

「まぁ、黒崎の修行が終わってからですかね?」

 

自分の修行も考える。

霊圧を固めて放つとかできないか。

 

「そうなりますね」

 

時間的に余っているのだろうか。

一応聞いてみようか。

 

「俺にも何か教えてもらえないだろうか」

 

その申し出に苦笑いが返ってくる。

これは無理という流れだな。

 

「残念ですがもう時間がないので……」

 

黒崎さんの強さを上げないと本末転倒ですし。

だからすみませんが諦めてください。

そう言われた。

 

「悪だくみが有るなら時間の猶予も少なくなりそうですからね」

 

あっちの時間とこっちの時間に乖離があると余計ですし。

この間は学生としてやるべきことをやろう。

 

「んっ?」

 

井上さんと茶渡の霊圧を感じる。

あの二人も参戦か。

……隠してはいるようだがこの様子だと石田もだな。

阿散井さんへのリベンジを忘れるような奴じゃないだろうし。

 

.

.

 

八月一日。

最後の日とも言える。

明日には出発するからだ。

俺の体の調子も全快。

黒崎も『死神』の力を取り戻した。

 

「おめでとう」

 

茶渡が声をかけてくる。

その理由は金メダルを首に下げているからだ。

 

「ありがとう」

 

俺は手を上げて礼を言う。

それに金メダルを取ったのは俺だけじゃない。

準々決勝の後の休憩に有沢さんが事故をしそうになっていた。

それをこっちに引き寄せた結果……

 

「凄いね、たつきちゃん!!」

 

有沢さんも金メダルを取った。

『日本で一番強い高校生』という称号を手に入れたのだ。

 

「まぁ、腕折れてても準優勝はいけただろうけどね」

 

そんな事を言いながら俺達は花火大会の会場に向かって歩く。

その途中で別れはするものの後で合流とのことだった。

 

「……誰だ?」

 

会場にぽつんとある『死神』の気配。

しばらくすると消えていった。

偵察ではないのだろうか?

相手の出方にも警戒して『尸魂界』への侵入。

『朽木ルキア奪還作戦』に対する決意を再確認するのだった。




最後に現れた死神の気配とは……。
あと、強さ的には一護よりも主人公の方が今は強いです。
理由は卍解の有無。

何か指摘などありましたらお願いします。


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『出発 - Tour Start-』

今回で瀞霊廷侵入が始まります。
そして原作死亡キャラが生存して今回の話に出ています。


「さて……」

 

薙刀を入れた袋を担いだ。

遺書も残しておいた。

最悪お隣さんか警察が開けるだろう。

そういう事情も説明はしておいた。

 

「一番乗りみたいですね」

 

『浦原商店』の前に着く。

既に店前にいた浦原さんに頭を下げる。

顔は真剣そのものだ。

 

「えぇ、地下の勉強部屋で待っていてほしいっす」

 

そう言われて地下に行く。

数分後、皆が揃う。

想像通り、石田も来た。

よく見ると黒猫がいるが、あれは誰かが化けた姿だ。

ただの化け猫の霊圧とそうでない霊圧ぐらいは見抜ける。

 

「行く前に僕からの忠告はあります」

 

一体何なのだろう。

接触しない方が良い相手とかかな。

もしくは協力を取り付けた方が良い『死神』かな。

 

「斑鳩という名前の死神とは敵対しないでください」

 

思い出すだけで恐ろしい相手なのか。

冷や汗をかいている。

 

「彼が相手になったならば、皆さん手も足も出ません」

 

『朽木ルキア奪還作戦』は頓挫必至。

生きては帰ってこれないだろうと呟いていた。

 

「そんなに強いんですか?」

 

その言葉に頷く。

そして次にいった言葉に衝撃を皆が受けた。

 

「君に勝った朽木白哉の倍は優にあるっすよ」

 

つまりとんでもない相手。

それに目を付けられれば確かに作戦も意味をなさない。

 

「味方にしてしまえばいいんっすよ」

 

交渉次第なりすれば力は貸してもらえる。

優しい人ではあるので。

そう言うと門の準備を始める。

 

「絶対に振り向かずに走り抜けてください」

 

どうやら追いかけてくるものがあるらしい。

それにやられるとお終いという事だ。

こういう時の言葉に嘘はない。

信じ切っていくまでだ。

 

「皆さん……頼みましたよ」

 

その言葉を合図に黒崎と黒猫が先陣を切る。

それに続くのが茶渡、井上さん。

俺が入って石田が行く。

 

「確かに嫌な雰囲気が漂うな……」

 

風が後ろから来る。

纏わりつくような感覚だけではない。

速く駆け抜けないと霊子の自分たちの肉体が持たない。

 

「思ったよりも速いな」

 

此方の速度との差から考えてもかなり速い。

追い越されないようにはできるが、それでもかなり危ないだろう。

全員が必死になって後ろの気配に追い抜かれないようにする。

すると目の前から光が漂ってきた。

 

「…んっ?」

 

目の前から来る蝶が腕に着いたらいきなり音は無くなり、景色も変わった。

列車が何処かへ行ったのだろう。

気配そのものが無くなっている。

 

「これは『地獄蝶』じゃな」

 

安全にいける手段が有ったんですね。

きっと向こうにしかなくて取り寄せられなかったんだと思うけど。

其れか悪戯心で渡さなかったかもな。

 

「相手側が現世に来る時に着けるものじゃ、それをこっちに送ってきたという事は……」

 

黒猫。

名前を夜一さんというらしい。

夜一さんが渋い顔をして言葉を続けてくれた。

 

「来ることはその相手には既にバレバレってことですね」

 

その言葉に夜一さんが頷く。

しかしそれに乗らない手はない。

間違いなく利益はある。

列車の速度に気を付けることなくいけるのだから。

 

 

.

.

 

「さ……これで良いだろ」

 

そう言ってある男の場所へと向かう。

事情を聴いた時、すぐに動くつもりであった。

そして協力してくれる奴といえば脳裏に浮かぶのは一人。

 

「浮竹隊長、お元気ですか?」

 

十三番隊の隊舎に俺はいく。

珍しく四番隊に居ないのか。

 

「今日はまだいい方だ」

 

柔和な笑みを向けてくる。

しかしすぐに真剣な目を向ける。

 

「朽木の事か?」

 

その言葉に頷く。

それを見て微笑んでいた。

 

「そうだな、君ならば動くと思っていた」

 

目当ての人物はいるよ。

そう告げられたので『副官室』に向かう。

扉を叩いて反応を確認する。

 

「……入ってください」

 

相当苛ついているな。

気持ちが分からないでもない。

 

「私だ」

 

声で分かったのか。

扉を開けて迎え入れてくれる。

どうやらうまく出し抜くための策を考えているようだな。

 

「わざわざ別の隊から来て何の用ですか?」

 

視線に気づいたのか苦い顔をする。

密告されたらすぐに終わるからだ。

抵抗しようともこちらも副隊長。

一筋縄ではいかないと分かっているだろうけどな。

 

「なんの用って……一つしかないだろう?」

 

だがその警戒心は何も意味をなさない。

悪戯を思いついたような顔をする。

その顔を見てこっちの意図を察した瞬間、目を見開く。

確かに反発を堂々としようという奴は少ないからな。

 

「朽木ルキアの救出に力を貸してくれ、『志波海燕』副隊長」

 

目の前の命を取りこぼすわけにはいかない。

並々ならぬ決意をその胸に秘めたまま。

俺は頭を下げて頼み込んでいた。




今回、地獄蝶を送ったのは斑鳩です。
因みに前回の八月一日で気配が有った死神も斑鳩です。
理由は『猿柿ひよ里』の誕生日だからです。

原作では死んでいた海燕が存命。
単純に原作では志波都を殺した虚がそれより前に斑鳩に討伐されたからです。
討伐理由は『珍しそうな虚だったから』です。

何か指摘などが有りましたらお願いします。


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『殿 - Bottom -』

今回は門番とかのさわりです。
次回からはちょっと原作部分を省いて侵入をスムーズにできるようにしていきます。


『地獄蝶』のおかげで目的地には最短で到着した。

しかし、雰囲気の違いに辟易する。

もっと殺伐としたところだと思っていたがワイワイとした街並みだ。

 

「まぁ、こっちの知り合いは一人も居ないか……」

 

少しだけ、寂寥感が押し寄せる。

気にしなくてもいいのだろうが。

雑念を消さないと白哉さんと同じように、上に立つであろう死神との戦いで不覚を取るだろう。

 

「とりあえずはどこに?」

 

夜一さんに聞く前に黒崎が突っ込む。

そこに夜一さんが止めながら話してくれる。

単純に『瀞霊廷』の門番を打倒して入るというもの。

しかしリスクは伴う。

相手もそれ相応の実力も有るし、長引けば誰かが駆けつける。

其れで隊長が来たら本末転倒というものだ。

 

「俺が出て短期決戦という手も有りますが……」

 

そう言うと黒崎でやるという。

今回は黒崎の願いによって侵入しようとしている。

ならば先陣を切ったりする役目を引き受けるべきというわけだ。

 

「あいつが勝ったらなだれ込むか、相手の出方を少し伺うかですね」

 

いや、戦わずとも隊長格にコネクションが有れば問題なく入れる。

そいつに心当たりがあるからそれを使う予定だったようだ。

 

「もう遅いですけどね」

 

門が落ちてくる。

もしくはそういう術式か。

そこには巨漢がいた。

 

「あれが門番ですか?」

 

そう言うと夜一さんが頷く。

なんと三百年は通していないという男。

かなりの膂力が有るようだ。

 

黒崎との勝負のようだが一人ずつという話。

斧を振り下ろして岩の壁を作り上げてきた。

地獄耳のせいで策を立てられない。

 

「黒崎、斧をこっちに弾き飛ばせ!!」

 

策というよりは向こうの『武器使い』としてのプライドを刺激させる。

『武器使い』が自分の得意な武器を無くしたら戦う意欲は削がれるだろう。

 

「そんな繊細な事できねぇよ!!」

 

返答に溜息をつく。

相当威力の制御とかできないんだな。

相手には悪いが斧は壊れてしまうだろう。

 

「まぁ、予想通りだな」

 

数分のやり取りの後、刀の一撃で二個の斧を粉砕する。

相手は泣き始めた。

愛着のある物が壊れてしまったのだろう。

気持ちは非常にわかる。

 

「……順調にはいかないぞ」

 

門の向こうから戦いの間、動いていない気配が一つ。

門番が開けようとしている間に動く。

持ち上げきって固まる。

 

「やっぱりな!!」

 

門番の肩を斬り落とそうとする刀を受け止める。

斬り落とされてはいないがかなり危なかった。

速度が異様だ。

確実に白哉さんよりも速い。

 

「あらぁ、止められてしもたわ」

 

飄々とした顔だ。

門番の顔を見ると青ざめてすらいる。

この瞬間に悟ってしまった。

 

「あんたも隊長ってわけか」

 

薙刀を構えて相手を見据える。

その瞬間、刀を見失った。

 

「えっ!?」

 

素っ頓狂な声をあげると同時に黒崎と門番が吹き飛ばされる。

門番は肩を深々と斬られている。

黒崎は受け止めたが力づくで押し込んだようにも見受けられた。

突きの速度以外もとんでもないな。

 

「君、逃げ遅れたねぇ」

 

口元が歪んでいる。

笑みを見て威嚇の意味がある事を思い出した。

壁に視線を向けるとどうやら跳躍して越えられる高さ。

しかし隙を見つけるのもしんどい相手だろう。

 

「名前は?」

 

名前を聞いておかないとな。

自分を殺すような相手の名前を知ってから旅立ちたいからよ。

 

「護廷十三隊所属で三番隊隊長の市丸ギンや、よろしゅうな」

 

今まで見てきた中でも最速の突きが襲い掛かってくる。

肩口に触れた瞬間、体を捻って致命傷を避ける。

 

「剣道三倍段の枷」

 

此方も解放をして相対する。

三分の一の速度の突きになるのであれば回避も可能だ。

 

「へぇ……」

 

自分の体への違和感を解析でもしているのか。

うっすらとした笑顔を浮かべてこっちを見る。

 

「面白い事するやないの」

 

そう言った瞬間、突きの連打が襲い掛かる。

伸縮しているのだがその速度が段違い。

三分の一といっても油断や瞬きなど厳禁。

 

「はあっ!!」

 

全てを打ち払ってそのまま接近。

石突で攻撃を放つ。

 

「これは喰らったら危ない奴や」

 

ひょいと避けられる。

しかし間合いはこちらのものではある。

蹴りを腹部にめり込ませる。

 

「残念やねぇ」

 

後ろに下がったことで軽減された。

本来は間合いの優位が有るんだけど、この人相手にはない。

やりづらいなと思ってしまう。

 

「撤退した方が良いな」

 

そう言って懐に手を突っ込む。

何も無策で来ていない。

薙刀が通用しなかった場合の撤退方法も準備した。

 

「はっ!!」

 

片手で薙ぐように振るう。

それを余裕綽々でかわした次の瞬間。

 

「喰らえ!!」

 

目の前で煙玉とねずみ花火を見舞う。

そのわずかな硬直を逃すわけにはいかない。

相手のあの刃の速度を加味したら、全然余裕はない。

 

「間に合え!!」

 

地面に突き刺して、そのまま薙刀を棒高跳びの要領で使用する。

頑丈で壊れない、しなってその勢いのまま壁を飛び越える。

だが相手もそんな事はお見通し。

 

「そこや!!」

 

霊圧を察知して放ってくる突き。

その狙いは心臓。

それを体を捻って回避する。

速度に反応できた自分をほめてやりたい。

 

「がっ!!」

 

一本の線が横切る形で体に当たり、深い傷を負う。

血が雨のように落ちていく。

しかし、体は流魂街に傾いている。

 

「ぐはっ!!」

 

地面で受け身を取ったが衝撃が突き抜ける。

大きな怪我は負ったものの命は手に入れた。

ただ、門から遠ざかったところの為、そこそこ距離がある。

血を流しながら黒崎たちの霊圧が有る場所へ向かっていった。

 

.

.

 

「外出てまではやられへんなぁ……」

 

煙玉を用意してたとは思わなかった。

まぁ、侵入する以上は用意周到にしておくのが常套手段。

それに対して警戒してなかった此方の落ち度。

 

「総隊長に聞かれたら答えなあかんわ、困った困った」

 

額に手を置いて残念だと言って門から去っていく。

あの子らやったらもしかしたら、波乱を巻き起こせるかもしれない。

そんな淡い期待を内心に隠しながら平静を保っていた。

 

「おい、市丸」

 

斑鳩さんが声をかけてきはった。

百年前のあの日から黒い外套を被るようになった。

どうやらあれから体が冷え切ってしまったらしく常に寒いとか。

昔とは違う、少しかすれたような声。

ただし、じろりと見た瞬間睨んできた。

 

「お前…交戦したな」

 

旅禍を捕縛せんかったのがばれてしもうたいう事や。

それに頷くと微笑んでいる。

 

「目的は朽木ルキアの奪還だろう」

 

正面突破もだめなんだから経路はもう地下か上空しかないだろうな。

それだけいって手を振り、去っていった。

どこかに立ち寄る予定みたいだが……

 

「こっちも見てるところ考えたらこの門くぐりたいみたいな感じやなぁ」

 

相変わらず、あの人は何を考えてはるんや。

頭を掻きながら三番隊の隊舎に戻っていった。

 

.

.

 

「行け、海燕」

 

そう言って市丸が陣取っていた門を開ける。

自宅謹慎という名目で送り込む。

志波都三席には話を通している。

 

俺はそれに付き添う形で一緒に出た。

此方も『見回り』という理由を付けた。

出た先には門番の肩が半分斬り落とされそうなところで治療を施している女の子がいた。

 

「おい、お嬢ちゃん」

 

どいてくれ。

そう言うと驚いて離れる。

治療をしていたみたいだが、よく観察するとこの力は別物だろう。

 

「なんで、あんたが……」

 

重傷なんだから黙っていろ。

舌を噛んでしまう事になるぞ。

 

「すぐに終わる」

 

そう言って『回道』で腕を治す。

つなげられるように手術の糸と薬品を取り出す。

そこからは速度の勝負だった。

 

「凄い……」

 

見ていたお嬢ちゃんが驚いている。

こんなもの、朝飯前だ。

瞬く間に腕の出血を止めてつなげる。

その後に傷を塞ぐ事で見た目には何の問題もない元通りになった。

 

「血は失ったから、しばらくは安静にしておけ」

 

あと……

俺はお嬢ちゃんを指さす。

霊圧を探るとまだいるようだな。

 

「こいつらを助けてやってほしい」

 

その言葉に頷く。

いい面構えだな、信頼できる。

 

「じゃあ、後は上手くな」

 

そう言って海燕を送り出した。

俺は俺で朽木ルキアの牢獄へと向かって行くことにした。




第二部主人公の戦闘が雑魚虚を除いたら
恋次(限定有り)、白哉(限定なし)、ギン(限定なし)というえげつなさ。
まあ、ギンに関しては門番庇わなきゃよかったんですけどね…
海燕と英は次回に合流させます。

何かご指摘の点がありましたらよろしくお願いいたします。


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『砲台 - Catapalt - 』

英の合流です。
少し空鶴さんのキャラぶれてるかもしれませんが、理解のほどよろしくお願いします。


俺は六番隊の隊舎に赴いていた。

副隊長である阿散井くんが牢の前にいた。

 

「あっ、斑鳩副隊長」

 

頭を下げてくるが手で制す。

俺は視線を向けるが相手は背中を向けている。

 

「彼女が朽木隊士かな?」

 

一応人物の確認を行う。

その問いに阿散井副隊長が頷く。

 

「そうです」

 

なら問題ないな。

六番隊の中の危険人物だったら聞かれちゃまずい可能性も有ったし。

 

「じゃあ、伝えておくことが有るんだ」

 

牢の前に立ってみる。

すると相手もこちらを向く。

 

「先ほど旅禍の侵入に関して警報が鳴った」

 

これについては分かっているのだろう。

頷いて思い返しているようだ。

 

「門番の兕丹坊と交戦して勝利したが、その後市丸隊長と交戦」

 

阿散井副隊長も驚く。

確かに隊長に狙われると死を覚悟するだろうからな。

 

「しかし彼らは一人が残る形で逃げ切った」

 

そしてその一人もどうやら霊圧の感じから流魂街側。

全員が生き残るのは驚きだな。

そう言ったら阿散井副隊長は頷いていた。

 

「彼らの中に橙色の髪の少年がいたことをうちの四席が確認したが心当たりは?」

 

朽木隊士に声をかける。

俯いたのが見えたため、確信を得る。

その時、俺は自分の研究に勤しんでいたからな。

見ていなかったのである。

 

「あいつら、来やがったのか」

 

阿散井副隊長は心当たりがあるようだ。

そして背中を向ける。

 

「忙しくなりそうだな」

 

隊長招集もかかった。

徐々に本格化するのだろう。

お前さんはそれでいいのかい、阿散井副隊長?

 

「君、脱獄したくないか?」

 

唐突な提案に目を見開く。

阿散井副隊長も驚く。

 

「極刑も逃れて身を隠すんだ」

 

そんなとんでもない事を聞いた阿散井副隊長は黙っていられない。

いつの間にか抜刀して止める気満々の目で見ていた。

 

「覆せない四十六室の決まりに反論するつもりかよ、あんた」

 

反吐が出る場所の名前を出してきたな。

俺は護廷十三隊には恩はあるがあいつらには何もない。

今でも壊滅させたくてうずうずしているんだ。

ただ、行こうとしたら卯ノ花隊長と京楽隊長がいたからやめているけどな。

 

「四十六室の取り決めなんざ知ったことじゃない」

 

冷や汗をかいている阿散井副隊長。

多分今の俺の覗く顔はぞっとするような笑みだろう。

 

「根性無しは黙ってここからこの子を出すのを見届けていろ」

 

そう言って牢の格子を掴んだ。

すると刀が迫ってきた。

 

「『吼えろ』『蛇尾丸』!!」

 

それを掴んで睨み付ける。

俺のやる事に反論するというのか?

 

「朽木隊長相手にできなくても俺にはできるというのかい?」

 

刀を離して問いかける。

その問いに対する答えは随分と勇ましいものだった。

 

「隊長相手ならいざ知らず、あんたは同じ副隊長なんだ、止められるに決まっている」

 

しかし癇に障るものでもあった。

過去を知らないという事はこんなにも愚かしいのかと。

 

「随分と舐められたものだ」

 

痛い目を見てもらう。

『浅打』を抜く事もしない。

指先でクイクイと挑発の姿勢を取る。

 

「お前程度に刀は必要ない、小僧」

 

かかってこい。

霊圧を剥き出しにして迫っていく。

圧に当てられて冷や汗をかいている。

 

「くそっ!!」

 

力任せに振るってくる。

それを前に歩いていく。

当たってしまったが全然痛くもない。

 

「なっ!?」

 

弾かれているのを見て驚いている。

この程度で驚かれても困るな。

阿散井副隊長の懐に入っていく。

 

「ん?」

 

霊圧が近づいてくるのを察知する。

どうやら話し合いでも終わったのか?

正直興味は一つもわかない話し合いだ。

盗み聞きする価値も有りはしない。

 

「兄は私の隊舎で何をしているのだ?」

 

その言葉に阿散井副隊長越しに朽木隊長を見る。

手で押しのけて眼前に立つ。

 

「脱走させるだけだが問題でもあるのかい」

 

悪びれることなく言い放つ。

その言葉に驚愕するが、さすがは四大貴族。

あっという間に平静を取り戻した。

 

「それがどれほどの行為かわかったうえで言っているのか?」

 

その問いに対して頷く。

無論、分かりきっている。

奴らはやむを得ない事情も何も顧みない屑ども。

そんな奴らの言った言葉なんぞどうでもいい。

まだ、鸚鵡とかの方がよっぽどいいこと言うだろうよ。

 

「全てが異例尽くしの時点で怪しいと思わないのか?」

 

隊士の捕縛に隊長格の派遣。

極刑と『双極』の使用。

裁判を待たずに即日決定。

 

「俺が覚えているものでもまだましなものが有ったぞ」

 

あれでもまだくそみたいな内容ではあったが、判決や連行もしているからな。

いずれにしてもあいつらのういう事を呑み込むなんて俺はしない。

だから反逆する。

 

「それともくだらない貴族の心が邪魔をしているのか?」

 

そう言うと激昂したかのように刀を振るってくる。

それを何気なしに掴んでいた。

 

「私の心の何が分かる」

 

苦労しているような顔だな。

分かりたくもないね。

そんな迷った一閃を振るう相手の心など。

 

「分からない、しかし迷うくらいなら正直な己の心に従え」

 

後悔しないように動くんだな。

俺は追放処分を受けても構わないから救い出す。

もう二度と目の前で誰かを失わないために。

 

「掟なんぞに縛られても力なんて出せないぞ」

 

大笑いしながら去っていく。

殺気を漲らせているが知るか。

後ろからやられないように少しばかり早歩きをして離れた。

 

「今日はその滑稽さに免じて解放はしないが、警戒しておくんだな」

 

その気になれば全ての時間が侵入可能時間なんだ。

さて……

 

「これで移送したらそれこそ思惑通りなんだがな」

 

六番隊の隊舎に行くまでにそれなりの隊舎を旅禍たちは廻る必要がある。

通路の地下を経由すれば、場合によれば無傷で全員辿り着ける。

 

「しかし、慣れない挑発はするもんじゃない」

 

正直、彼らの心を逆立てたからいいものの、意固地になられたらと思う。

それに悪口なんて後輩相手に言いたくもない。

彼等には彼らなりの理由があるのだから。

 

「本心が含まれていたのも有るけどな」

 

兄貴であれば妹を救ってやってほしい。

そう言った倫理観などで揺らいだり、傷付くような伝統なんてないも同じ。

掃いて捨ててしまえ。

 

「……雨か」

 

頬を打つ水滴。

少しばかり心によぎる疑問。

こんな時、あなたなら何て言ってくれるかな?

『よく言った』と褒めてくれますか?

『好き勝手に言って』と叱ってくれますか?

 

「いけないよ、心を持て余してはいけない」

 

思い出の中にある顔を思い出してこみ上げてしまう。

伝いそうになるものをこらえて十二番隊の隊舎へ戻る。

 

.

.

 

「夜一さん、待たないのか?」

 

志波海燕という男、そしてその弟である岩鷲。

その二人とともに家に向かうという話だった。

だが、英の奴がまだ来ていない。

其れなのに夜一さんは皆に立ち上がるように言った。

 

「失礼な物言いじゃが、もう生きてはおらんじゃろう……」

 

ぽつりと呟くように言った。

そんな事は無いだろう。

俺はそう思って反論をしようとした。

 

「海燕が出てきた所はわしらと同じ門じゃった、その時点で察しろ」

 

だが次の夜一さんの言葉で完全に納得してしまった。

生きているのならばあの場所から出てきていたはず。

それに出てこなかったという事は……

 

「えっ?、俺達が出た時は居なかったぜ」

 

つまり、もう連れていかれたのか。

生き残っていると期待したいけど。

 

「雨が降ってきたぜ、兄貴」

 

ぽつりぽつりと降ってくる。

まるであいつに対する涙雨の様に。

数時間後に到着した所は大きな腕のオブジェが立った家。

 

そこで聞かされた夜一さんの作戦。

それは花火を打つ大砲から俺達を射出するという事。

その為には『鬼道』というか『霊圧』の制御の習得が必要。

 

「あやつが居たらわしら全員分賄うなど容易なんじゃがな……」

 

あやつと言われた人はきっと浦原さんが言っていた『斑鳩』という死神なんだろう。

どうやら年下のようだが……

 

「まあ、居ないやつを求めても仕方あるまい」

 

各々励めよ。

そう言って去っていく。

雨に濡れたからな、仕方ない。

猫は水嫌いなんだよな。

 

.

.

 

「痛いな……」

 

あの斬撃の痕から血が流れる。

抑えて止血をしてるがそれでどうこうなりはしない。

雨が当たり体が冷えてくる。

 

「ん?」

 

視線を上げてみると特徴的なオブジェが見える。

そこに向かって歩いてゆく。

まるで誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように。

ゆらりゆらりとおぼつかない足取りで。

 

「着いたか……」

 

扉に向かって行くと二人の気配。

睨みつけるようにして相手を探す。

 

「侵入者よ、何用かな?」

 

雨宿りをさせてもらいたいんだけどな。

くるくると薙刀を回して息を吸い込む。

 

「ここで一休みをしたいんだ」

 

その言葉が終わると同時に雷が轟く。

相手が偉丈夫であることは理解できた。

そして普通に通るには苦労する相手であるという事も。

 

「そして瀞霊廷へ侵入を試みる」

 

だから家に入れてくれ。

そう言って進む。

相手は何か思う所があるのか。

 

「もしかして夜一様と関係が?」

 

その言葉に頷く。

すると相手は表情を崩した。

 

「それならばすぐに言ってくれればよかったのに、もう始まっておりますぞ」

 

招き入れられる。

しかし、ここで緊張の糸が切れたこと。

そして出血量が多かったこと。

それが原因で倒れ込む。

 

「……おかしいな、眠るつもりはないのに。」

 

腕に力を込めるも上手く入らない。

歯を食いしばり、立ち上がるもよろけている。

 

「手を貸しましょうか?」

 

親切心から言ってくれているが首を振る。

せめてこれはやらせてほしい。

 

「くっ……」

 

緊張が一度切れたせいで痛みが一気に来た。

脂汗を流しながら一段一段下がっていく。

最後の段のころには歯を食いしばって声を発さないようにしていた。

 

「とんでもない精神力の持ち主だ……」

 

後ろで付いてきている人たちがそう言っていると気配を感じる。

此方が立ち止まるとふすま越しに声をかけてきた。

 

「お前、何者だ?」

 

女の人の声だった。

それに対して俺は答える。

 

「英雄喜です、人間で瀞霊廷侵入をしようとしています」

 

そう言うと襖を開ける。

そしてこちらの傷を見た瞬間に拳骨を喰らった。

頭が揺れる。

 

「治療してやるからこっちに来やがれ!!」

 

耳を引っ張られて引きずられる。

両掌を傷跡に当てると徐々に塞がっていく。

暖かい感じが広がっていくのが感じ取れる。

 

「まずは傷は塞いだが開かないわけじゃねえ」

 

針を取り出すと麻酔も無しに縫い合わせ始める。

ジンジンと痛むが問題ない。

そして包帯を取り出す。

 

「がっちりと固めて、しかし動きに支障が出ないように……」

 

包帯でかなりきつく巻かれてる。

しかし動く分には問題はない。

 

「よし、これで終いだ!!」

 

そう言って背中を叩く。

息が一瞬詰まる。

そして顔を近づけられる。

 

「痛そうにしかめてた面構えがいいもんになったじゃねえか」

 

笑った顔に少しどきりとした。

綺麗な人だというのに今更気づいたのもあるが。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げて階段を下りた別の部屋に行く。

その場所には見知った五人がいた。

まあ、見知らぬ二人も居たのだが。

 

「皆、遅れてごめん」

 

頭を下げて声を発すると全員が驚いたような顔でこっちを見てくる。

夜一さんがすたすたとやってきて頭を下げるような姿勢を取ってきた。

 

「こちらこそ死んだものとして扱ってすまんかった」

 

まあ、仕方ないでしょ。

相手は隊長なんだ。

俺を待っていたらそれこそ目的の達成ができないかもしれない。

 

「女の人が治療してくれました」

 

大丈夫だとジェスチャーをすると驚いた顔をする。

そして首をかしげた。

 

「空鶴の奴が?、どんな風の吹き回しじゃ」

 

そんな事を言ってると男の人。

死神の服装をしていない方の人が鼻を擦る。

 

「流石に重傷の来訪者を追い返す人じゃないですから」

 

そう言うと夜一さんが頷く。

流石にそこまでひどい人ではないと知っているのだろう。

 

「とりあえず侵入するための説明を行うとするかの」

 

『霊圧』の制御を行いそれを球状に固めて砲弾にする。

その中に今回の侵入組が居る状態。

それで内部に入った後は固まって行動という所か。

 

「隊長相手には逃げ込み決めた方が良いですか?」

 

これが一番の懸念材料。

全員を相手にしてたら時間と体力が足りない。

まず、根本的に実力も厳しいだろう。

 

「正直、それが一番得策じゃろ」

 

無駄、もしくは無謀な戦いならば避けよ。

今回の目的は合戦ではなく奪還。

それをはき違える事の無いように釘を刺される。

 

「とりあえず、修練を始めますか」

 

そう言って俺は首を鳴らす。

そして、水晶を手に取るのであった。




とにかく、全員合流で鍛錬開始です。
次回はすぐに侵入に入っていこうと思います。
理由としては殆ど原作に近い流れになりそうなので。

指摘などありましたらお願いします。


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『花火 - Fire Works- 』

今回が侵入回です。
少し割り振りに困った結果、こんな感じになりました。


「で……何やってるんだよ、黒崎」

 

砲弾作りのための鍛錬中。

元々『霊力』については虚相手に薙刀を振るう時からやってきたこと。

綺麗な丸を象っているのは確認できた。

俺に次いでは井上さんや石田。

茶渡が不安定ながらもできている。

しかし、黒崎は形を成していない。

 

「いや、力入れて出しているんだけどよ……」

 

門番の人たちからも結構な言われようだ。

それだけ酷いのだろう。

 

「これは力じゃなくて集中するんだよ」

 

手を添えて深呼吸して目を瞑る。

すると綺麗な球体のに飛びこんだように俺が中にいる。

 

「黒い丸の中心に向かって飛び込むイメージだ」

 

それがお前にも通じればの話だけどな。

なんせ力任せにやろうとしすぎて変になっている事は指摘した。

 

「分かったよ…」

 

そう言って受け取って深呼吸をする。

其れから数時間も経たない間に制御を行えるようになった。

その時に緊張を緩めたから空鶴さんにどやされていたけど。

因みに同罪で俺も拳骨を喰らった。

 

「ともあれこれで準備は整ったってわけか」

 

そうは言うが相手の動きそのものが読めていない。

そんな中、海燕さんの持っている携帯電話のようなものが震えた。

 

「はい……やっぱりそうですか」

 

いくつか話し込んだのち、渋い顔になっていた。

時間的な事だろうか?

 

「今日で残り十四日、懺罪宮に送られたってわけだ」

 

結構猶予があるとは思えないとのこと。

もう、焦っているようにも捉えられるが明日を侵入決行にしようと海燕さんが提案。

それに夜一さんが頷く形で取り決められた。

 

翌日の早朝、皆が台座に集まる。

岩鷲さんも来るようで、味方が合計八人。

内部にもいるようだが割愛しよう。

 

「それじゃあ行きますか」

 

そう言って皆が砲弾に霊力を込める。

それを見て空鶴さんが詠唱を始める。

その後に打ち出されたがトラブルが発生。

黒崎の霊力が抑えられず、また岩鷲さんが緊張と集中力の途切れで詠唱を失敗。

 

「固くします!!」

 

もうこうなったら衝撃に備えておく。

その為に最大限の霊力を込めていく。

ぶつかっていき突き抜けてはいくが、解けていく。

一時的に留まっているが渦が巻き始めている。

 

「手を繋いで離れてはならんぞ!!」

 

夜一さんが言うが遅い。

まずは黒崎と岩鷲さんが。

石田と井上さんが。

茶渡、海燕さん、俺、夜一さんが単独で落ちていく。

掴める距離に全員いなくなるってなんだよと思いながら。

 

「くっ!!」

 

着地を試みようとした途端、ふわりとしたものが目の前に現れた。

受け止められて何の問題もなく着地。

どこかは分からないが見回してみる。

 

「あれが目印だな」

 

見上げると一際高い塔がそこにはあった。

そこに行くための道のりを考える。

迂回して相手に見つからないようにしていたいが……

 

「そうも言ってられないか」

 

いつの間にか巨漢の男が視認できる距離にいた。

感じとしては並じゃない。

しかし、隊長ほどの威圧感がない。

 

「副隊長と見た」

 

逃げられそうにもない。

気配を感じさせないほどの速度で動いていたと仮定した。

見た目以上の俊敏さを持っているだろう。

 

「『剣道三倍段の枷』」

 

初めから全開で相手をする。

これが終わればすぐに移動をしていこう。

 

「まさかこの俺様の前に旅禍が出るとはな」

 

そうは言うが隙をあえて出している。

こういうのは油断しているところをきっちり仕留めるのだ。

警戒して損はない。

 

「俺様の名前は大前田希千代、本名はもっと長いんだがあえて略式で名乗るぜ」

 

そしてこっちの目を見て生半可ではよくないと思ったのか。

息を吸って力強く目を光らせる。

 

「打っ潰せ『五形頭(げげつぶり)』」

 

その言葉と同時に刀は変化する。

棘突き鉄球と刀からはかけ離れたものになってしまった。

これではこちらも真価を発揮できない。

 

「真っ向勝負ってわけかい!!」

 

そう言って相手に接近して斬撃を繰り出す。

それを向こうは横に回避して鉄球を投擲。

 

「はっ!!」

 

相手が回避した後にこちらが薙刀を地面に指して軸に回る。

其れで攻撃を回避すると懐が丸見えだ。

鉄球を引き寄せるのが間に合っていない。

 

「ふん!!」

 

デコピンで霊力をはじき出す。

それを喰らったのか、顔を押さえそうになる。

その隙に回転蹴りを腹に叩き込んだ。

 

「ぐえ!!」

 

モロに当たったからか相手が悶絶をする。

……もしかして、この人戦闘経験があまりないのか?

それとも、やる気がないのか?

一番嫌なのは実力がないという可能性だが。

 

「そんな体勢、ふざけているんじゃないですか」

 

低くなった体勢にサッカーボールキックをお見舞いしようとする。

すると一瞬のうちに目の前から消える。

そして一撃を振り下ろされる。

 

「うおっ!?」

 

薙刀で受け止めるが力任せの一撃に後退させられる。

相手の気配が後ろから感じ取れるので前に飛び込んだ。

地面が陥没する一撃を繰り出される。

 

「やっぱり速いな」

 

想定内の速度ではある。

見た目での判断なんて当てにはならない。

 

「負ける気はないけどな」

 

薙刀の振りおろしを相手が回避する。

それを見越して石突を相手に向けて突く。

横に回避していくが其れは悪手。

 

「範囲の読み違いは禁物です」

 

横に薙いで脇腹に直撃。

そのまま連続で切り上げを喰らわせる。

 

「うぐっ……」

 

相手がよろめいた隙に顎に石突で一撃。

その一撃が聞いたのか膝をつく。

それを見計らって相手の背中に回る。

 

「終りにしてやる!!」

 

相手を馬に見立てて上に乗る。

そして首に腕を巻き付けていく。

最大の力を薙刀が発揮できないのならば徒手空拳で。

 

「落ちやがれ!!」

 

相手の体重を利用してきつくきつく締めあげていく。

相手はもがくが無意味。

徐々に抵抗しなくなっていき……

 

「終りだ」

 

絞めあげていた腕を緩めて降りる。

そして死神の服装を奪って……ぶかぶかだな。

 

「仕方ない」

 

怪我が治った方が良いだろうしな。

見える場所に放り出しておく。

そして駆け寄った相手を気絶させて奪おう。

 

「なっ、大前田副隊長!?」

 

驚いた男性隊士を狙う。

背中に回り、相手の首を絞めあげて落とす。

背丈が自分と同じぐらいの為、きっちりと着れた。

 

「さて、どっちに行こうかな」

 

奪還のための潜入に一歩近づいたという実感を持って歩み始めるのであった。




ふわりとしたものの正体は『吊星』です。
夜一さんと海燕は自前で出来るので六人分を斑鳩が同時に展開しています。
捕捉に関しては『技術開発局』のおかげで出来ています。
次回は英をどのルートに行かせるかですね、一番隊に行っても三番隊に行っても厳しいのは変わりませんが。

指摘などありましたらお願いします。


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『それぞれの動き -Parson Move- 』

ルキアが幽閉された場所が少しわかっていないのでごたごたしています。
とにかく、今回でいろいろな動きがあります。
原作に近い部分も有りますがよろしくお願いします。


俺と茶渡君は九番隊の方に着地していた。

ここはある意味きついな。

 

「迂回する道を取ろうと思うがどうする?」

 

俺は冷静に次の手を考える。

馬鹿正直に進めば、時間の短縮にはつながる。

しかし、いやな方向に転がると洒落にはならない。

 

「何故、あえて迂回の提案を?」

 

茶渡君も疑問に感じる。

塔が見えているのだから最短で行った方が明らかに良い。

 

「八番隊の隊長か十番隊の隊長とぶつかってしまうんだ」

 

そうなった場合が厳しい。

日番谷隊長も真面目で厳しいが、問題は京楽隊長だ。

あの人が本気になると俺は足元にも及ばないだろう。

 

「隊長までの席官ははっきり言って強弱はあるが隊長単体になると危険度が高いのが多い」

 

罪を許さないやつも多い。

うちの十三番隊と十二番隊があまり頓着がない。

今からだとかなり難しい。

全く見つからないようにというのが難しいからだ。

挙句の果てに、迂回の結果で十一番隊の方に出たら最悪だ。

 

「近いのはどっちなんだ?、海燕さん」

 

腕を回しながら茶渡君が言ってくる。

確かにそこが一番重要な所だな。

迂回するにも近道を望むのが性だ。

 

「そりゃあ八番隊だ」

 

六番隊から移送されているとはいえ、中心部や双極の丘に近い場所。

流石に外れに近くなったり、少し外向きになっている十番隊の方には建設されていない。

 

「じゃあ、そっちに行こう、一刻を争うのならば尚更」

 

安全に行くよりも危険を冒して早く到着する。

まあ、安全についても確実性を問われると首をかしげるだろうが。

 

「もしもの時は俺を置いて向かってくれよ」

 

其れだけ言って八番隊へ向かった。

相手の状態に一縷の希望を残して。

 

.

.

 

「さて……」

 

足を屈伸させて十二番隊の隊舎から出て行こうとする。

すると気配を感じる。

 

「どこへ行かれるのですか?」

 

眠六號がそこには居た。

心配しているのは分かる。

だが俺にはやらねばならぬことがある。

 

「貴方はあの日を今も悔いているのですね」

 

罪を犯すことになろうとも救おうとする姿。

それはあの日から起因するものではないかと言いたいのだろう。

無論その通りだ。

きっと誰が重罪人になろうとも救おうとする。

 

「お前はどうする?」

 

俺の言葉にびくりと身を震わせる。

行こうという気持ちはある。

だが、マユリの目をかいくぐって危険に晒しては後が怖い。

そう言った所か。

 

「マユリに聞いてくる」

 

お前の背中を後押ししてやる。

成長を促すのも親の役目。

 

「そうか……」

 

筆を置いて考えこむ。

正直に言えば反対なのだろう。

言葉や態度には出さないが大事なのはこいつも同じ。

まぁ、戦略に組み込んでえげつない事をしそうだから、こちらとしては肝を冷やしているが。

 

「君には『懐刀』が居るじゃないカ」

 

まあ、忍び込ませたのは二人だけどな。

十番隊と七番隊に一人ずつ。

今までの隊長時代の恩で声かけたら飛んでくる引退した面々も瀞霊廷の中に居るが。

 

「まあ、最後の砦としてここにあの子は残していくヨ」

 

戦闘能力はあの当時の俺の体を基礎として構築された肉体。

その戦闘力だけは何が有っても、覆しようのない強さ。

 

「間違いなく今の十二番隊最強の女性だからな」

 

膂力がまず段違い。

剣技も教えたがかなりの上達を見せた。

始解がマユリ寄りではなく自分寄りだったのは困ったが。

 

「残念だが眠六號には伝えてくる」

 

今回は待機の旨を伝えるとしゅんとしていた。

やる気はあったのだろう。

だが今はその時ではない。

 

「お前は最悪地下道で塔にいける筋を旅禍に伝えてくれ」

 

眠六號の真意を汲み取って伝える。

俺に罪を犯すことなどを伝えてきたが、こいつも内心はあの日を悔いているはずだ。

だからこそ旅禍を足掛かりにあの人の情報を手に入れようとしている。

 

「一番近いのは十一番隊か」

 

さて……死ぬ覚悟を久々に持たないとな。

首を鳴らして歩んでいく。

『天挺空羅』で呼びかけて気配のある方へ向かわせる。

 

「旅禍の奴がマユリの興味を引くような相手じゃないといいけどな」

 

あいつの事だから俺の管轄外の新人隊士とか改造しているだろう。

爆弾にするのとかやってたら、総隊長に怒られるだろう。

あんなことせずに俺の義骸を使えばいいのに。

 

「旅禍と班目三席が交戦か」

 

因みに話が脱線するが、霊圧感知ができるのにあの人を見つけられなかった理由は分かっていない。

予想としては霊圧を遮断する、俺が今着ているような外套を皆が着用しているということぐらいだ。

実力的にはムラが有るが旅禍の方が強い。

あくまで霊圧の査定だから戦いの内容を見たら更にわかる。

 

「もう一つは随分と逃げているがこれは綾瀬川五席が悪いな」

 

嬲ったりしているのならばその時点でダメ。

罪人なのだからそのまま心の憂いもなくやるべきだ。

殺すのであればな。

 

「さてさて……」

 

まず、防犯が無くて扉ががら空きなのはどうなの?

今回はありがたいけどさ。

更木の気配がないのでするすると進んでいく。

しかしそううまくはいかない。

 

「下らねえ十二番隊の副隊長様がここに何の用だ?」

 

ニタニタとした下卑た笑い。

隊舎の中に行ったら十一番隊の奴らに目をつけられた。

此方も手を上げて応えるが、無言というのが気に食わなかったらしい。

肩を怒らせてこっちに向かってきた。

 

「こんなもんつける資格がお前にあるのかよぉ!!」

 

副官章に手を伸ばす席官。

その腕を掴んで力を込めていく。

それはさながら万力の様に。

 

「お前らにこの副官章の重みは分からんよ」

 

外そうとしてきた相手の腕を圧し折る。

そして腹部に蹴りを入れてやる。

 

「通らせてもらうが……どうする?」

 

睨み付けて威圧をする。

外套の中にある眼光に気づくやつがどれほどいるか。

昔のように霊圧飛ばしで気絶はさせない。

旅禍までそうすると面倒だからな。

 

「ふざけんなよ!!」

 

刀を抜いて一世に斬りかかろうとする隊士や席官。

百年近くぶりにこの言葉を言う羽目になるとは想像してなかったがな。

 

「聞き分けないやつは度胸のある馬鹿、聞き分けた奴は理性的な馬鹿」

 

抜刀して一陣の風を吹かせる。

全員、一瞬反応が遅れて崩れ落ちる。

鞘に直して一言だけ言ってやる。

 

「峰打ちだ」

 

鮮血が飛ぶこともない。

昏倒させるだけの刀。

あれから百年、卯ノ花隊長は変わらず稽古をつけてくださっていた。

 

「おかげであの日から格段に色褪せる事もない」

 

『剛』だけではなく『柔』も身につけた。

自分の実力については下がっているだろうとは思う。

しかし、それすらも彼方に追いやったのはあの人を思えばこそ。

 

「もう近いな」

 

決着も付いた頃合だろう。

何故なら動いてはいない。

しかし霊圧の緩やかな減衰が見られる。

しかもそれが二つ。

重傷をお互いに負っているというのが分かる。

 

「よし、きちんと着いたな」

 

その言葉に振り向くのが旅禍だろう。

どこか海燕にも似た感じだな。

 

「気にするな、悪いようにはしないよ」

 

そう言って班目三席の方に座る。

気絶をしているようだからやりやすい。

こいつら死にたがりだから治療を嫌がる。

 

「そっちも傷口を治すからそこに居ろ」

 

あっという間に傷が塞がっていく。

まあ、この程度なら問題はない。

大量に血が流れているようなら四番隊の棟へ連れていく必要があるけれど。

 

「待たせたな」

 

旅禍は静かに待っていた。

それとも実力差で逃げられないと思ったのかな。

 

「まあ、その方がこっちも話が楽だ」

 

手をかざして治療をしていく。

霊圧の中に虚を感じる。

何かしら複雑な事情を持っているようだな。

 

「朽木ルキアが幽閉されている場所にお前らを案内しなくてはいけない」

 

その言葉に驚く。

やっぱり俺がこんな事を言ったら不思議か?

 

「なんで協力してくれんだよ」

 

まあ、おかしいだろうな。

海燕のように自分の部下でもないのに力を貸すだなんて。

一つだけ、理由をあげるのであれば…

 

「俺は納得していないからな、壊れてしまうならそれがいい」

 

四十六室の動きがおかしすぎるからだ。

異例尽くしの判決。

勾留期間の短縮。

この二つだけでもあそこがいくら駄目な組織でも、それ以上に胡散臭いと思えたのだ。

 

「身柄をこちらが先に確保をすれば処刑の取りやめは不可能ではない」

 

そして、無駄な戦いを避ける方法も俺は知っている。

地下の下水道を渡る事。

迷宮に近いあの場所で捕捉するのはある隊の席官や隊士を除き、不可能。

 

「連れの相手が終わったらすぐに向かおうか」

 

そう言っていたら花火が打ち上がる。

あっちに向かって行けばいいんだな。

 

「あんたもせいぜい気を付けるんだな……」

 

班目三席が俺に忠告をする。

更木に対して気を付けろって事か?

まあ、あいつに遭遇しなくても総隊長あたりに怒られるだろうな。

しかし、今の俺には関係ない。

 

「一護が多分俺が一番強いって言ってたからな、うちの隊長が狙うだろうよ」

 

彼の名前はそうなのか。

しかしまだ霊圧感知が下手だな、班目三席よ。

 

「一護君より強い霊圧が一つあったぞ」

 

今頃あいつはそっちに向かっているだろう。

相手には気の毒だとは思うけどな。

四番隊が押しかけながら向かっているのを感じる。

連れと合流した一護君が目を見合わせて悪だくみを考えたようだ。

 

「人質か」

 

予想通り、一人を捕まえて人質にとる。

しかし、十一番隊の男どもはやれるもんならやってみろと囃し立てていた。

 

「……お前ら、とことん屑だな」

 

十一番隊の奴等にそう言って三人とも抱えて飛んでいく。

屋根に着地後、相手に見つかる事もなく屋根伝いに走る。

どうやら外には出れたな。

 

「次の計画の前に体力だけは回復させておいた方が良い」

 

そう言って降ろす。

次の瞬間、霊圧の衝突を感じる。

この霊圧はよく知っている。

相手は誰かを探るのだった。

 

.

.

 

「くっ!!」

 

刀を受け止める。

おおよそ人の膂力とは思えない重さ。

市丸さんとは違う隊長。

獣が人になったような雰囲気を纏っている。

 

「はあっ!!」

 

鈴の音を聞いてさらに受け止める。

髪の先に着いた鈴が居場所を教えてくれている。

 

「それがお前の本気か!」

 

そう言って振るってくる。

開放の隙は与えられない。

いきなり出会った直後に刀を抜いて斬りかかられた。

 

「ちっ!!」

 

顔に向かって花火を投げる。

それを切り裂いたと同時に薙刀を握る手に力を込める。

 

「『剣道三倍段の枷』」

 

そう言って斬りかかる。

その受け止める力と膂力に確かな手応えが有った。

しかしこれでも勝てるのかは疑問形。

 

「中々面白い真似するじゃねえか」

 

ぞわぞわする笑顔。

戦いが好きなのだろう。

深呼吸をして睨み付ける。

 

「首だけになってもあんたを殺す」

 

相手の剣先に集中する。

鋭く殺意のみなぎる一撃。

背筋に冷たいものが通り過ぎる。

 

「があっ!!」

 

その一撃を掴む。

ぎりぎりと力を込めて動かぬようにする。

 

「かあっ!!」

 

そのまま引き、肩口に一撃を見舞う。

無防備なまま喰らった相手に、追撃で石突で顎を跳ね上げる。

 

「やるじゃねえか」

 

何食わぬ顔で前蹴りを放ってくる。

前蹴りを前進して受ける。

刀を離している。

それが襲い掛かってくるのを跳躍で回避。

 

「はぁはぁ……」

 

短時間なのに汗を流している。

この人が発している殺気。

そしてこちらの集中度合。

 

「今まで交戦した隊長の中で最も強い……」

 

じりじりと近づくその人の笑み。

こっちも負けてはいられない。

 

「しゃあ!!」

 

相手の刀に合わせて突きを放つ。

突きが相手の頬に掠る。

しかしそれを前進しながら振り切ってくる。

 

「なっ!?」

 

驚きながらも前蹴りで蹴り飛ばし、自分の腹に石突を打ちつける。

其れを支点にして地面に薙刀を突き立てて風車のように回る。

背中に回る形で回避に成功した。

 

「避けやがったか」

 

トントンと肩に刀を当てながら言ってくる。

そして眼帯に手を添えた。

 

「奇妙な術を使ってやがるとはいえ、たぶんそいつが無くても今のこっちより手前の方が上だって事は確実だ」

 

笑顔のまま眼帯を外していく。

あれは目が見えてなくてつけていたものではなかったのか?

 

「本気でやらせてもらうぜ」

 

眼帯が完全に外れて片眼が現れる。

霊圧が上昇していく。

まるで青天井かと思えるほどだ。

 

「楽しませろよ!!」

 

先ほどよりも速度が増していた。

勢いよく刀を振り下ろす。

その一撃を足に力を込めて踏ん張り、薙刀で力一杯受け止める。

 

「強い相手によく出会うな」

 

自分の不運か幸運かよく分からない縁に苦笑いをする。

まだ終わらない死闘に身を投じるのだった。




迷いまくる男とエンカウントする英。
三分の一+眼帯で優勢とれてますが、身構えすぎて体力の消費が凄い事になるという状況。
眼帯外しても三分の一なら、まだ優勢とれそうなんですが体力で対応が遅れていく感じです。

斑鳩が花太郎ポジではなく、花太郎を含めた四名で動く状態です。
次回は海燕と京楽をどう絡ませるかといった感じです。

何かしら指摘などありましたらお願いします。


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『牢屋 - Jail - 』

今回は味方サイドで脱落者が出る予定です。
海燕とチャドは次回に回します。


「ぜぇ……はぁ……」

 

息遣いが荒くなっていく。

あれから緊張感で喉が渇いている。

其れだけでなく実力で徐々に差がつき始めている。

 

「どうした、もうお終いか!!」

 

かれこれ三十合は打ち合っている。

死に物狂いで延々やる事から来る疲弊。

集中力の糸が徐々にか細くなる。

 

「……こうなったら郷に入るか」

 

刀の一撃をあえてくらう。

勢いよく振り下ろされる斬撃。

死を恐れるな。

 

「ああああ!!」

 

理性を捨てる叫び。

肩口からめり込む。

その瞬間に捻って薙刀の一撃を加える。

前に進んだから刃ではなく棒の部分になってしまう。

 

「ぐっ!!」

 

打ち据えられた一撃。

横に相手が飛ぶ。

片手に持ち替えて刃の一撃を繰り出す。

 

「喰らえ!!」

 

切り裂くが、同時に突きを繰り出していたので、こちらも肩に喰らってしまう。

徐々に分かってくるのはこの人はまだ全然本気じゃない。

霊圧が上がっていくのが肌で分かる。

 

「まだまだぁ!!」

 

そう言って進んでいく。

決着を早く着けなくては。

しかし次の瞬間……

 

「がっ!?」

 

突如、背中に刺される痛みが走る。

そのせいで刀を受け止める事が出来なかった。

切り裂かれていく、鮮血が舞って地面に落ちる。

 

「『雀蜂』」

 

小さな女性がそこには居た。

後ろから気づかれないように刺してきたのか。

気配の消し方が絶妙だな。

二撃目を俺に放とうとした瞬間、今まで戦っていた相手が斬りかかっていた。

 

「てめえ、何邪魔してくれてやがる」

 

その一撃を避けてはいるが冷や汗をかいている。

やはりあの人の実力はえげつない差が有るんだ。

しかし、この女性も胆力が凄い。

こんな場面で堂々としているのだから。

 

「旅禍は即捕縛だ、効率を追求させてもらっただけだが?」

 

悪びれもせずに言ってのける。

きっと女性は任務だけ遂行すればいいと思っている系統だ。

頭が固いような気がするな。

体が動くなら、少しばかり反撃させてもらおうか。

 

「しかしおかしなものだ、紋が出ないとは……!?」

 

薙刀を振り下ろしていた。

どうせ相手どらないといけなかった。

それが速くなっただけだ。

 

「一人だろうが二人だろうが状況が最悪なのは変わらねえ!!」

 

振り回しながら叫んでいく。

女性の方が軽やかに避けていく。

 

「甘い!!」

 

石突で地面を砕く。

その礫に気を取らせる。

回避をしている間に花火を投げる。

 

「こんなもの、何の意味もない!!」

 

空中で花火を回避して何事も無いように着地を決めようとする。

しかし、それも織り込み済み。

最上段に構えた薙刀を振り下ろした。

 

「こんなもの!!」

 

回転して避けていく。

その直後、俺の方には突きが襲い掛かる。

体を逸らして回避するが風圧が撫でる。

 

「あっ……」

 

体を逸らした拍子に倒れ込む。

頭を打つ事は無かったが、出血が原因だ。

フラフラとする体を立ち上がらせようとする。

 

「流石にもう戦えそうにもねえか」

 

そう言って男の人は去っていった。

興味を無くしたかのように。

しかし、女性の方はこちらに向かってくる。

 

「こうなったら……」

 

ごそごそと懐から閃光弾を取り出す。

わざわざ用意してもらった代物だ。

 

「喰らえ!!」

 

相手に向かって炸裂させる。

その隙に逃げていこうとする。

 

「ぐっ!!」

 

しかし体が動かない。

無理もないだろう、市丸隊長の攻撃の怪我も癒える前に交戦。

逃げたくてもそれを許さない状況での隊長相手。

 

「四の五の言ってられない」

 

そう言って鞭を打って走る。

痛みが体に広がっていく。

脳が何時、意識を断ち切るか、そんな戦いになってしまった。

 

「そこか!!」

 

蹴りを放ってくる。

それを受けて転がっていく。

地面をじっと見て変わったところがないか観察する。

 

「一回目はなんにもないか」

 

相手が迫ってくる間に立ち上がる。

どうやらさっきの走ったせいで痛みを我慢できる状態になったのだろう。

 

「無様に死ね!!」

 

拳を放ってくるが受け止める。

蹴りの方が威力が高い。

それを引き出さないと。

 

「刀をなおして蹴った方が速く決着がつきますよ」

 

これを嘘と思うか。

其れとも純粋に受け止めるか。

受け止めないのならば挑発すればいい、乗ってくる保証はまるでないけど。

 

「ほざけ!!」

 

刀で突いてくるが意味はない。

薙刀で防いでいく。

不敵な笑みを浮かべておく。

 

「がら空きだな!!」

 

それが癇に障ったのか、あえて開けておいた脇腹に蹴りを入れてくる。

再び地面を跳ねて転がる。

そこでわずかに感じたほかの地面とは違う凹凸。

それを必死に掴んで寄っていく。

 

「これは……」

 

下水道につながる石畳だ。

これに入っていけば逃げられる。

こいつを開けて相手に向かって走っていく。

上手くはまりさえすればいいのだが……

 

「死にに来たか」

 

そう言った相手の拳を薙刀で受け止めて蹴り返す。

命の危機に瀕しているというのに、徐々に力が上がっている。

今だって相手の攻撃を見抜いたうえで動けている。

 

「何っ!?」

 

死に体の相手の反撃に面食らう。

しかしあっという間に立て直す。

 

「舐めるなよ!!」

 

さっきよりも強く鋭い蹴り。

これを喰らっておさらばといこう。

 

「ぐはっ!!」

 

転がっていく。

その瞬間、瞬間で体を徐々に丸めていく。

相手の目の前から消えるようにして落ちていった。

因みに薙刀を引っかけて石畳は戻しておいた。

 

.

.

 

「久々に入ったが分かりにくいのう……」

 

儂はそう言って下水道を歩く。

迷宮となっているから一番近い所に出れるかどうかはここを熟知しているものだけじゃ。

 

「あやつは誰かと合流したかの?」

 

今回のような騒動で動かぬ男ではない。

確信がそこにはある。

 

しかし上が騒がしい。

白打の音が聞こえる。

なるほど、懐かしの二番隊あたりか。

 

「むっ……」

 

唐突に音が止んだ。

石畳の動いた音。

そして質量が落ちてくる気配。

儂に気づいて降りてきよったか!?

 

……しかしそれは杞憂に終わる。

 

「はっ!!」

 

薙刀を突き立ててくるりと回って着地。

しかしその男は傷だらけであった。

儂に目もくれず一目散に駆けていく。

その後を追いかけていく。

 

「血が点々としておるな……」

 

曲がり角から覗き込んでいる。

歯を食いしばって痛みをこらえているのか。

空鶴が塞いだ傷口も開いている有様。

 

「夜一さんか……」

 

少しほっとした顔になる。

しかし次の瞬間、足元から崩れ落ちる。

 

「精神的にダメージが大きかったか」

 

なんとか足を動かそうとするが出血と疲労が大きく動けない。

消耗させられる相手は誰じゃ?

 

「お主、誰にやられた?」

 

すると口を開き始める。

そこから出た名前に懐かしさと驚きを得る。

こ奴、生き汚さというかしぶとさだけならば今回の面子で最強ではないか?

 

「まずはそこではない所から出て十番隊を目指す」

 

あの男ならば治せるはずだ。

卯ノ花隊長の一番弟子にして当時最高の隊長と呼ばれたあやつならば。

 

.

.

 

「むっ?」

 

懐かしい霊圧が有った。

そこに向かわねばならない。

減衰を始めている霊圧が傍に居る。

 

「山田君、分かっているか?」

 

そう言うと頷く。

こうなるとどうしようか。

 

「僕が行きます」

 

自分にも四番隊としての矜持が有る。

例え俺が黒崎さんの怪我を無くしたとあっても、頼ってばかりではいけない。

そんな意思を感じる目だ。

 

「頼んだ」

 

さ……行こうか。

その方向へと進み、一番近い場所へと出る。

塔の前に居る気配は……おいおい。

 

「貴方が出てきたら…こいつらを連れていく事は出来ないな」

 

阿散井君だけならまだわかる。

朽木隊長がついてても問題ない。

だが、よりによってこの人が相手とはな。

 

「卯ノ花隊長……」

 

その言葉に黒崎君と一緒にいる男性、岩鷲君が驚いている。

まさかこうも簡単に隊長と出会うとは思っていなかったのだろう。

 

「どうするんだよ……」

 

岩鷲君の言葉に肩を叩く。

俺が前に出て刀を振る。

その時点で全てを察した卯ノ花隊長が刀を抜いた。

 

「貴方が出てきたのは……俺に対する抑止力ですよね?」

 

反応ならばこちらが上だった。

それでも悠々と受け止めている。

笑顔が張り付いているが激怒しているのが分かる。

 

「まさかこんな理由で刀を交えなければいけないとは嘆かわしいばかりです、元四番隊副隊長」

 

ぞっとする笑みがそこにはあった。

俺は無言で『赤煙遁』を放つ。

そして場所を離れるがそれについてくる形で卯ノ花隊長はついてくる。

 

「ここなら誰にも知られはしない」

 

その言葉を合図に本気となる。

さっきの一合はあくまで『卯ノ花烈』としての剣。

今からは『卯ノ花八千流』の剣だ。

 

「何故、旅禍に協力を?」

 

悲し気な声色。

裏腹に剣は苛烈。

押し込まれないように流して距離を取る。

両者ともに未だに浅打のまま。

 

「異例尽くしであり四十六室には私はあの日以来疑いしか向けていない」

 

たかが隊士にやる内容ではない。

其れだけで不信感を抱く。

まるで意思で統一されたような動きといってもいいほど朽木隊士に悪い方向へトントン拍子だ。

 

「何かしらの罠、陰謀を張り巡らされているというのが理由です」

 

ぼんやりとしたものではある。

しかし、誰がそれをしようとしているのかはわかる。

きっと、藍染だろう。

 

「なるほど……」

 

その言葉に頷く卯ノ花隊長。

徐々に戦意が失われている。

悪巧みの破壊の可能性を示唆しているからだ。

 

「それ以外には少しあの阿呆の目を覚まさないといけないと思ってね」

 

阿呆とは朽木隊長の事だ。

それほど器用でもないくせに、心の葛藤で苦しんでいる。

一度でも自分に正直なままに動いてみろと。

 

「中々の物言いですね」

 

貴方の目も覚めるべきでは?

そう問いかけてくるが首を振る。

俺は常に正気ですよ、おかしくはない。

 

「悪巧みしてるやつも少しばかり問いたださないとな、と思っています」

 

悪巧みといえば藍染は俺に会おうとはしなくなっていた。

結果、あいつもあの日の夜から縛られてしまったのだ。

あれから悪事を重ねたのも歪んだ真面目さから来てしまうものだろう。

 

「ですがあいつらの悔しがる顔が見たいのが一番の理由ですよ」

 

四十六室の決定を強引に覆した。

其れだけであいつらは四苦八苦する。

その顔を見てみたいと思った。

 

「根深く有る確執ですね……」

 

百年間、一切色褪せずに残る憎悪。

奴らが上げた利益など無いに等しいのに。

 

「これだけになっても自分たちは前線に出ないんですからね」

 

ただでさえ大事。

既に十一番隊は壊滅に近い。

それどころか二番隊は副隊長がやられた。

七番隊の四席も連絡がつかない。

 

「私と総隊長さえ居れば問題なしとでも思っているのでしょう」

 

そこがもう終わっている思想だ。

自分たちが血を流さずに、義理を通さずに権力だけを振りかざす。

そんなものの為にくれてやる命は一つたりとてない。

あいつらは全て解体されるべきなのだ。

 

「そんな奴らの為に面子なんて護らないといけないんですかね?」

 

浅打を互いに構えながらじりじりと距離を詰める。

始解をしない理由は単純だ。

所詮これは引き離すための茶番。

本気ならばあの場所で待ってはいない。

水道で遭遇した方が秘匿できる。

 

「すでに丸つぶれですからね、意味はないかと」

 

そう言って再び刀を交差させる。

皮一枚を削ぐように。

そして次の瞬間、全開で斬りかかってくる。

 

「ちっ!!」

 

始解までしている。

一応面目は保つか。

此方も始解で応対する。

 

「もはや六尺の刀はただの暴力ですね」

 

間合いも薙ぎ払いも思いのまま。

五十年前は三尺の長さ。

それから倍の百年で六尺。

 

「それで勝てる保証は皆無ですがね」

 

刀を打ち付けあう。

高い音が奏でられる、火花が飛び交う。

それを幾度と繰り返していく。

つばぜり合いに殺気も籠り始める。

 

「くっ!!」

 

距離を取って呼吸を整える。

相手も集中している。

 

「その外套を剥いであげましょう」

 

残酷な笑みで斬りかかってくる。

受け止めて蹴りを放つ。

それを見切って後ろへ下がる。

 

「楽しめそうですね」

 

刀の鋭さが増す。

此方としては外套が命というわけじゃない。

くれてやるさ。

 

「かあっ!!」

 

力任せに弾き飛ばす。

そして鋭く早く斬りかかる。

それを捌いていく中に緩急を織り交ぜる。

 

「あの時よりも速く……」

 

貴方が変わらず鍛錬をしてくれたから。

そして常に自分の戦いの進化を望んだ。

その結果、成長して今が全盛期になっている。

 

「まあ、百年間のせいで問題まみれでしょうが」

 

そう言って探る事もなく斬撃を飛ばす。

それをかわさず前に進んで切り裂く。

 

「これにて遊びはお終い、『皆尽(みなづき)』」

 

卍解を初めて見た。

卯ノ花隊長の周りに血が滴る様に出てくる。

それが徐々に太くなっていくと幾本もの帯のように変貌する。

刀に集まっていくと莫大な霊圧の圧縮した姿なのが読み取れた。

 

「晒しなさい」

 

その一撃はこちらの予想を超えていた。

今までで最も鋭く。

今までで最も速く。

今までで最も重かった。

 

「がはっ!!」

 

始解を叩き折るほどの一撃。

外套の顔部分が吹き飛ぶ一撃。

それ以外にも深く斬られたことで血がべったりと付いている。

 

「これで十分でしょう」

 

鞘に刀をなおす。

情けをかけてくれたのだろう。

元々茶番だったからな。

殺す必要はないわけだ。

 

「牢屋に連れ帰りますよ」

 

そう言って俺の顔を見た卯ノ花隊長の表情が強張る。

流石の貴方もこの姿には驚きますか。

 

「あのころの面影なんて微々たるものですからね」

 

まさにその姿は骸骨。

筋肉は削ぎ落されている。

目が今にも飛び出しそうなほど。

頬はこけて骨にぴったりと皮膚が張り付いている。

 

「俺は朽木隊士の処刑を止めるのはやめませんよ」

 

このおかしな状態の解明と誰かを失わないためにも。

その言葉に微笑みを返していた。

回道で自分の傷を治すと、縛道でそのまま四番隊の隊舎牢へと幽閉されてしまうのだった。




一部の主人公が初の脱落者。
卍解の八千流という決して勝てない抑止力が動きました。
そして百年前より成長しているので実力は増えていますが、食事がとれてない不摂生や不眠による体調不良から当時と同じ次元のままです。

何か指摘などありましたらお願いします。


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『幻惑 - Dazzling - 』

京楽との戦いです。
幽閉するのは狛村に役目を受けてもらいます。


幽閉されて半日も経っていない。

俺の牢の前には虎徹副隊長。

じっとこちらを見ている。

 

「何故、反抗したのか聞きたそうな顔してるね」

 

そわそわして興味を持った眼差しを向けていた。

意外と野次馬根性があるのか。

 

「単純に四十六室が嫌いだし見捨てられないからだよ」

 

その言葉に僅かな落胆。

しかし驚きを見せる。

四十六室が嫌いと堂々と言って問題がないかと言われればそれは有り得ない。

 

「なぜ嫌うんですか……」

 

そんな事まで聞きたいのか。

過去の話は好きでもない。

あの人の事を思い出してしまい、目頭が熱くなる。

胸が締め付けられる。

次の瞬間、信じがたい事が起こった。

 

「えっ?」

 

「藍染の霊圧が消えた……!?」

 

牢屋から出る。

鬼道で切り裂いてすぐに瞬歩で隊首室へ向かう。

虎徹副隊長もそれに続いていく。

 

「卯ノ花隊長、今のは感じ取りましたか!?」

 

出てきた事を咎めもせず頷く。

今の顔が旅禍と協力するものではないと分かっているからなのだろう。

先に向かうとだけ言って俺は五番隊へ走った。

 

「なっ……」

 

五番隊の隊舎に入るとそこにあったのは変わり果てた藍染の姿。

……ではなく斬魄刀のみが刺さった状態。

つまり工作していたというわけだ。

これでおおよそ朽木隊士の情報操作についても黒であることが分かる。

 

「雛森副隊長を叩き起こしてくれ、虎徹副隊長」

 

俺はその間に起きている奴らに『天挺空羅』を放つ。

とは言っても夜中。

起きている奴なんてマユリや山本総隊長、砕蜂あたりだ。

二番隊からの通達も利用させてもらおう。

 

「しかし俺に芝居させるとはな……」

 

頭を掻いて真剣に藍染の死因をでっちあげなくてはいけない。

とにかく動きたいし、人員が欲しい。

あいつが姿をくらませているとしたらどこにいるかは想像できる。

 

.

.

 

侵入から一日過ぎた頃。

俺達は八番隊で暴れていた。

いや、止められるのを阻止しているだけだから厳密には違うが。

 

「悪いな、海燕さん」

 

そういう茶渡君。

三席の円城寺を倒す時点でかなりだな。

しかし次の相手は格が違う。

 

「桜吹雪の演出とは流石は護廷十三隊でも一番の伊達男」

 

伊勢副隊長がやってくれているようだ。

しかし次の瞬間、ざるの中身を全てぶちまけられて埋もれる。

 

「相変わらずですね、京楽隊長」

 

起き上がってこっちを見てくる。

旅禍と一緒にいる時点で黒なんだけどな。

疑わしげな視線を向けている。

 

「ルキアちゃんを救うために旅禍と手を組んだって事か」

 

うんうんと頷いて微笑んでいる。

ただ、目は笑ってはいない。

 

「海燕君、それは過ちだよ、彼女は罪を犯したんだ」

 

その判決に公平さは有るんでしょうか?

異例尽くしなり、時間の短縮。

あいつらの独裁で全てを決められる。

あいつらの胸三寸でこちらの処遇を決められることがまず間違いではないか?

理由もろくに聞かずに連行されている可能性も有るだろうからな。

 

「急な事情や不慮の可能性もあります、あいつが浅薄な行動をとるはずがない」

 

其れには心当たりがあるのだろう。

しかし、毅然とした態度で押し返してきた。

 

「それでも立場や面子を考えたらするべきではないよ」

 

溜息をついてこっちを見てくる。

そんな理屈じゃない。

 

「君からも言ってあげなよ」

 

そうは言うが茶渡君は首を振る。

こっちも命をかけてここにきていると言い放った。

其れに頭を掻いている。

実力行使しか残っていないだろう。

 

「俺がルキアと救いたいのが間違いだというのですか?」

 

もう既に刀を抜いている。

二体一なら少しは時間を稼げる。

その隙に抜ける。

 

「間違いうんぬんというよりはあれに逆らってまでやる事かどうかだよ」

 

貴族として最高の権力者。

でもそんなものが何だというんだ。

もしそれを恐れて助けられなかったら……

 

「きっと明日の俺は今日の俺を許さないだろうよ」

 

くるくると刀を回して見据える。

此方から問いかけてやろうか。

 

「あんたは自分の所の隊士が、極端に言えばの話だが……」

 

こっちの話を聞いている。

こっちの声に力が籠っていく。

 

「伊勢副隊長が処刑されるとしても、反抗しないんですか?」

 

少し困った顔をしている。

問いかけはこれだけで終わりはしない。

 

「それで悔しくはないんですか!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、悲しい目になった。

この言葉に思う所が有ったのか。

 

「困ったな……」

 

こっちから目を逸らして呟く。

戦意を削がれたかのようだ。

 

「まさか百年前の言葉をまた聞く羽目になるなんてね」

 

苦々しい顔をして抜刀する。

俺も刀を抜く。

 

「『花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う』」

 

解号と共に二刀の刀となる。

此方も呟くしかねえな。

 

「『水天逆巻け』」

 

三又の矛となり、水が宙を舞っている。

茶渡君は七番隊の方へと向かって行く。

 

「始めるか」

 

こっちの能力で水を顔に放つ。

とは言えど悟られないほどの少量。

目に入るかどうかといった感じだ。

 

「むっ!」

 

回避しようとするが目に水が入ってしまう。

そうなると目を瞑ってしまうのが反射行動。

そのわずかな隙をついて矛を突き出す。

 

「少量の水なら悟られることなく隙を作れる…やるねぇ」

 

手応えは少しだけ。

ほんのわずかに頬に掠った程度。

目元を拭っているが余裕の姿勢だ。

溺れさせた隙に逃げるのが一番いい。

 

「『雷吼砲』」

 

破道を放って回避をする瞬間を観察する。

その道筋に水を撒く。

その道に沿って雷撃がうねって迫る。

 

「おおっ!!」

 

さらに後ろに飛ぶがもう遅い。

指で指示を飛ばす。

 

「茶渡君」

 

それを汲み取って一撃を放つ。

その一撃を受け止める。

水を蛇のようにして打ちつける。

 

「ぐっ!!」

 

膝をつく京楽隊長。

顎めがけて斬り伏せに行く。

 

「むっ!!」

 

横に回るがそれでも遅い。

顔に水が入っていく。

気道を塞いでいく。

 

「げほっ、ごほっ!!」

 

まだ『花天狂骨』が目覚めていないこの間に去っていく。

瞬歩で速いのは知っている。

油断か元々やる気がなかったのか追いかけては来ない。

 

「まあ、これでおわりゃしないんだろうけどな」

 

七番隊や六番隊もかなり面倒。

綱渡りなのは間違いない。

 

「副隊長なんざいくらでも替えが聞くからな、気持ちは楽なもんだ」

 

そう言って茶渡君が言った方向へと向かう。

そこでとんでもない事を聞いた。

 

「斑鳩副隊長が捕まった……だと!?」

 

俺が知る限り、あの人に勝てる時限は多くない。

片手で数えるほどだ。

 

「しかも藍染隊長が死ぬなんて……」

 

一体何が起きていやがる。

ルキアの処刑がこれに関係しているんだとしたら……

 

「とんでもない悪巧みの予感がするぜ」

 

背筋に冷たい汗が通り過ぎる。

今までにない大きな異変に胸を騒めかせながら向かって行った。




京楽も処刑にそこまで乗り気ではなかったのでこういう感じにしました。
更木の牢屋破壊が無かったらどこで原作キャラと絡ませるかといった感じです。
まあ、二部主人公は流石に次の対決で倒れるでしょう。

指摘などありましたらお願いします。


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『任務 -Mission- 』

今回で副隊長には馬鹿にされているというか舐められてる説浮上。
元々隊長だって知っているのって副隊長では、もう雀部と伊勢とやちると海燕ぐらいしかいないんですよね。
隊長ならほぼ六番隊と十番隊以外が知っていますけど。


大きな事件を全員に周知する。

朝焼けで来ていないのは後で他の奴らが伝えているだろう。

五番隊で解析してもらったが卯ノ花隊長をもってしても無理な状態であったこと。

そして義骸の可能性はない事が克明になったこと。

……元は刀だからあいつの霊圧がそのままあるから誤認するよな。

 

既に隊葬の為に口に綿を詰めて大事に扱っている。

雛森隊長は俯いていた。

誰がやったかは分からない。

 

「しかし災難だったな、雛森副隊長」

 

狛村が頭に手を置く。

そしてこちらに顔を向ける。

一瞬、こちらの顔を見て驚いている。

百年ぶりに見せる顔だもんな。

頭を下げているがお前も気づいているはずだ。

 

「一体誰がこのような凶行を……」

 

続いて東仙。

彼岸花を添える。

頭を下げて去っていく。

綱彌代も頭を下げてきていた。

一瞬、こちらの顔を見て驚いていたのは見逃せない。

そんなに驚く事か?

この二人もすでに分かっている。

 

「これはえげつない事しはるわぁ」

 

市丸が花を添えに来る。

こっちの顔を見ると一瞬、眉が悲しげになる。

しかし次の瞬間、雛森隊長が動く。

刀を引き抜いて居合の要領で抜刀したのだ。

 

「うおっ!?」

 

花を切り裂かれてしまう。

市丸もおどけてはいるが不意打ちで肝が冷えたか?

 

「お前が……藍染隊長を!!」

 

こういった手合いは忠告か何かを鵜呑みにしているな。

頭にはそれでいっぱいという感じだ。

 

「『弾け』飛梅!!」

 

始解までしてしまった。

これはいよいよ危ない。

因みに能力についてはよく知っている。

市丸に対して火の玉を放とうとした瞬間に市丸の前に立つ。

 

「速く三番隊に戻ってくれ、収拾がつかなくなる」

 

ただでさえ、今の動きを見ていた吉良副隊長が驚いて前に出ている。

さらにその後ろには日番谷隊長。

大騒ぎにしかならない。

 

「どいてください、斑鳩副隊長」

 

こっちの背中を睨みながら言ってくる。

どいたら大騒ぎ。

挙句の果てには護廷十三隊同士の潰し合いだ。

 

「君こそ刀を引きなさい、雛森副隊長」

 

そんなことさせるわけにはいかない。

だから諭すように雛森副隊長に言う。

 

「……貴方ごとやりますよ!!」

 

しかしもはや聞く耳を持たない。

ただこのもの言いには少し苛ついてしまった。

 

「やってみろ」

 

そう言った瞬間、火の玉が当たる。

殆どが驚きの表情だが大した威力でもない。

 

「満足したか?」

 

平然とそこに立って問いかける。

流石に副隊長同士だから手傷を負わせられるとは思ったんだろう。

浅はかだな。

 

「私怨で暴れて藍染隊長が喜ぶのか?」

 

霊圧を飛ばして威圧する。

しかし怒りで煮えたぎっているのか、怯みはしない。

こいつは面倒だな……。

 

「貴方に何が分かるというの!?」

 

聞く耳持たず振り回してくる。

ひょいひょいと避けている。

この程度で副隊長か?

 

「誰かを思いやったり愛する心が有るから怒る!!」

 

突きを混ぜているが意味はない。

霊圧の差でわずかに弾かれている。

雛森副隊長の攻撃は俺には致命傷にならない。

 

「研究漬けの貴方なんてどうせ……誰かを愛したこともないくせに!!」

 

その瞬間、空気が凍った。

日番谷隊長が動いたからではない。

俺の雰囲気が変わったからだ。

 

「誰が……」

 

底冷えするような声だった。

周りの空気がこちらの霊圧のせいで寒気を催すほどに冷えていく。

そして次の瞬間……

 

「誰かを愛したこともないって?」

 

顔を向けていた。

ここ最近で思ったが随分と今の副隊長たちに舐められてるな。

無知は度し難い罪といっても良いかもしれない。

 

「あかんで、斑鳩さん」

 

市丸が諫める形で俺を押さえる。

それどころか俺の表情を見て危なさを感じ取ったのか。

狛村たちも刀を抜いている。

 

「すまないな、そこまで気を使わせるつもりではなかったんだが」

 

霊圧を収めて笑顔を浮かべる。

どこか無理をしたような笑みだが。

きっと今の俺の目は笑っていないのだろう。

 

「悪いが動くなよ、二人とも」

 

日番谷隊長に止められる。

いや、俺は避けてただけだよね?

 

「雛森もお前も牢屋で頭を冷やしてもらう」

 

なんで何も危害を加えていない俺までそうなるのか?

どう考えても雛森副隊長の方が酷かったけどな。

 

「悪いが今の俺は四番隊預かりだからな」

 

そういって手を後ろにして下がる。

卯ノ花隊長に言って相談してくれ。

もう、かしこまったり頭を下げたりする気は失せたから。

 

「お前みたいな若造の言葉を聞いてやる気はないよ」

 

その言葉に怒りを浮かべる日番谷隊長。

それ以上にこっちは怒りたい気持ちで一杯だよ。

 

「がらりと変えやがって……」

 

捕縛の為に近寄るが甘い。

相手の歩幅を見て動かないと意味ないぞ。

 

「むしろ昔の口調に戻しただけだ、お前らが知らない時の口調に」

 

其れこそ百年前のあの日の時のように。

さて……

 

「卯ノ花隊長、虎徹副隊長、ここに用事はないから戻りましょう」

 

それだけ言って四番隊へ戻る。

先頭に立つのは卯ノ花隊長。

その後ろに俺が居て手を縛られている。

そして見張っているのは虎徹副隊長。

 

「誰が犯人だと思いますか?」

 

戻っていく間に問いかけられる。

犯人は居ない。

どう考えても不自然極まりないからだ。

 

「藍染隊長の実力が頭一つ抜けているので勝てるのは山本総隊長、京楽隊長、更木隊長当たりに限られます」

 

卯ノ花隊長は隊首室にいた時点で白。

そして次の言葉で一気に迷宮入りしてしまう。

 

「ただ、不意打ちの一撃で藍染隊長を絶命させているのがおかしいです」

 

まず、無傷で勝つのが至難の業。

さらに付け加えるのであればあの用心深さの塊を相手に不意打ち。

そして絶命させる。

こんな無茶な条件を成し遂げられるやつは流石に居ない。

 

「義骸ではないなら相手が手傷も無しにやられますか?」

 

あそこにいた奴らが黒だとしたら傷一つもない。

あの市丸でもそれは無理だ。

最速の刃で心臓を貫く。

それに、こんな大事な場面で用心なく外へ出るような男でもない。

 

「何かおかしな事が既に起こっているという事ですね」

 

俺が予防を施した奴らを除いた全員が『鏡花水月』の術中。

其れでもなく違和感を感じる卯ノ花隊長は流石だ。

 

「旅禍は捕えて事情を聴くしかないでしょう」

 

あいつらに藍染隊長を殺せる技量が有るとは思えませんが。

そう言って牢屋へと向かう。

すると肩を掴まれる。

 

「開放いたしますので調査を始めなさい」

 

藍染隊長の不審な死に対して極限まで。

そこで護廷十三隊側で止める手が有れば掻い潜ったり交戦しても良い。

 

「人手が必要とあらば交渉しても構いませんよ」

 

其れならばもう決まっている。

必要ともいえる奴はあれから変わりはしない。

 

「それではその任務を快く承ります」

 

どの場所に行けばいいのか目星もついている。

そう言って釈放された俺はある男の霊圧を探りその方向へと向かうのだった。




幽閉される理由がまるでない件。
原作でのイヅルのポジションを取る形でしたが、大して効果がないという。
卯ノ花隊長にやられても副隊長に負けるほど実力は落ちていません。

何か指摘などありましたらお願いいたします。


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『危機 - Crisis- 』

今回で大詰めに近づけていきます。
次回が終わると原作の修行部分なので省略しつつと言った感じです。
結局白哉とは一護はけじめのために戦うといった感じなので卍解は習得させます。


七番隊に向かっていると海燕と旅禍が居た。

狛村の一撃を喰らったようで怪我をしている。

海燕はまだ大丈夫だが……

 

「ちょっと待ってもらえないか」

 

天譴を振り下ろそうとしたところを止めに入る。

しかし狛村の勢いは止まらない。

直撃をしてしまったのだ。

 

「全く……威力が上がったな」

 

腕を交差して歯を食いしばった状態で受け止める。

しかし足裏が地面にめり込んでいた。

途轍もない質量と威力だ。

 

「藍染隊長の事件調査で手を借りたいんだ」

 

狛村に問う。

流石に鞘に収めた状態だ。

そしてその隙をついて逃げようとするが……

 

「お前ら、旅禍の方は一時的に事情を聴かなくてはいけない」

 

『禁』を放って縛り付ける。

久々の九十番台、詠唱無しはやっぱり気分がいい。

 

「生憎、朽木ルキアを助ける事にも関係しているから」

 

これで分散した状態で行動ができる。

一箇所に固まると一網打尽が有り得るからな。

 

「儂に調査をしろと……?」

 

狛村が聞きなおしてくる。

まあ、そうだよな。

あの日の小僧とは違う。

其れなりの敬意を払わないといけなかった。

俺は頭を下げるのではなく地面に手をつく。

 

「この通りだ、力を貸してほしい」

 

それをすると慌てたように狛村が駆け寄る。

申し訳なさそうな顔になっていた。

 

「そのような真似をしないでください!!」

 

ぐいと起こされる。

そして理由を言ってくれた。

 

「儂が嘘をつくのが苦手な性分の為、いいのかという意味で……」

 

騙すような形になると思っているのか。

まあ、武力で行くからそこら辺の心配は皆無だけど。

 

「お前じゃないと駄目だ、信用できる人選しか意味がない」

 

お前以外には東仙や綱彌代。

場合によっては阿近と涅。

眠六號は最終手段としての保険。

そして『懐刀』の二名。

 

「海燕は調査ではなくこのまま浄罪の塔へ行かせておけ」

 

そうしておいた方が時間は稼げる。

内乱とは言えど一大事の為、精査が必要だったとでも言えばいい。

 

「彼は七番隊の隊舎牢へ」

 

何名で来たかぐらいで良い。

確実に藍染殺しの容疑は彼にはないだろうから。

 

「東仙の方へ声をかけてくる」

 

そう言っていると十二番隊の方で戦いが始まった。

あいつがわざわざ出ていくようなことが有ったか。

もしくは希少な能力でも見つけたのか?

 

「相手は……滅却師か」

 

もう一つは人間で動いている。

仕方ない。

ここで『懐刀』の札を切るか。

 

「さてさて……」

 

向かって行く間に急転直下が起こっていくかもな。

東仙の移動も有る。

十二番隊にたどり着こうとした瞬間、異変が起こる。

 

「滅却師の霊圧が変わろうとしている……!?」

 

調査をしてきた中にあったものだ。

調査してきたやつらの中では其れの兆しは見受けられはしなかったが、どうやら今回の奴はできるらしい。

 

「だが……」

 

止めてもらわないとな。

確か全ての霊圧を失うとも有ったし。

 

「頼んだぞ、『元』滅却師」

 

『懐刀』の一人に対して祈る。

その願いが通じたのか、霊圧の上昇が止まった。

そして着いたころには丁度マユリが睨んでいた。

 

「君の差し金かネ?」

 

それについては間違っても居ない。

まあ、こいつの研究をできる機会が増えるだけましだろう。

 

「カビの生えたものから進化している可能性があるから何とも言えないナ」

 

そう言うと現在の状況から見て実験はできない。

それを察して興味を失って去っていく。

 

「そいつは九番隊に預けて隊舎牢に入れてもらおう」

 

そう言うと俺に預けてくる。

随分と華奢な体だな。

そうすると困った顔でもう一人が向こうへ行ってしまったらしい。

 

「元々散開させるつもりだったから問題はない」

 

大丈夫だろう。

人間を追いかけている……のか?

まるでついて回っているような感じだが。

 

「なっ……!?」

 

そんな中で霊圧の柱が十一番隊から見えた。

旅禍の奴があいつの眼帯を外させたというのか!?

成長率が半端じゃないという事か。

……もしくはあいつの悪癖で紙一重の強さにしているのだろう。

 

「俺と戦ってた時のあいつの方がよっぽど凄かったもんな」

 

九番隊へと向かおうとする。

その瞬間、霊圧を感じた。

 

「いつの間にここまで来ていたんだ?」

 

薙刀使い。

更木とぶつかって無事に済んだ男。

 

「牢屋に一時的に入れて時間が来たら解放させるつもりなんだけどな」

 

まあ、やってみるかい?

刀を抜いていく。

体が重くなる感覚。

 

「だからどうしたのか」

 

霊圧を押さえられる。

だったらそれを喰らっている間だけ増幅装置を使用すればいい。

科学と剣術の融合。

それも一つの方法だ。

 

「解除したら自爆するからやらないけど」

 

こういった特殊な場面でもない限りは、自分の体が耐え切れなくなる。

本末転倒だ。

 

「はあっ!!」

 

相手が突きを放つ。

それを指で受け止める。

 

「何……だと……」

 

相手は驚愕の表情だ。

刀を持った相手には無類の強さのようだが……

 

「科学者が何の対策も無しにこの場に居ると思うのか?」

 

ましてやそこの三番手。

其れこそ藪をつついているようなものだ。

 

「失態をすれば泥を塗ることになる」

 

それは『技術開発局』ではない。

『十二番隊』でもない。

俺は二代目の室長。

言って見れば『あの人』の後継者だ。

下らない失態で『あの人』が貶められるようなことはあってはならない。

 

「お前は俺に喧嘩を売った時点で運が尽きたんだよ」

 

そう言って腹に蹴りを叩き込む。

そして装置の電源を落として刀を収めた。

内臓を押し上げた感触が有った。

 

「来いよ、格の違いを教えてやる」

 

悶絶している相手に対して、指でクイクイと挑発をする。

しかし乗っては来ない。

流石に猪みたいな真似はしないか。

 

「こっちからいくぞ」

 

そう言って近づいていく。

しかし次の瞬間、足に痛みが走った。

 

「むっ!?」

 

足に矢が刺さっていたのだ。

どうやら背負った奴が起きたみたいだな。

 

「逃げろ!!」

 

その隙に逃走を始める。

雨のように連射してくる。

それらを腕を交差してやり過ごす。

 

「逃げれないさ」

 

その言葉と同時に後ろから東仙が現れた。

そして一閃で射手を気絶させる。

ありがたい限りだ。

 

「藍染隊長の調査について話が有るから、そのまま九番隊に連れて行ってもらえないですか?」

 

一応、狛村の時でもあったからな。

部下扱いはやめておかないと。

頼むと頷いているが苦い顔になっていた。

 

「他人行儀はやめてください」

 

そう言って連れて行った。

俺は残った方を追いかけようとする。

面倒な事に地下道に入っていった。

 

「やってくれるじゃないか」

 

しかし俺でなければよかったのに。

俺は全て網羅している。

『浄罪の塔』まで最短の道を通ればいい。

そしてそのまま同時に侵入だ。

 

「運がいい奴だ」

 

行き止まりにはいかない。

しかも複雑で後追いの相手が苦労する道を選ぶ。

 

「こっちが指示せずとも『浄罪の塔』に一番近い所へたどり着くぞ」

 

結果、追いついた時にはすでに階段を上っていた。

さて……

 

「『吊星』」

 

足を上げた瞬間に放つ。

それを回避していく。

その間に少しづつ距離が詰まる。

 

「既に誰かが来ているから気を付けろよ」

 

背中に追い付いて話しかける。

霊圧を感じる。

誰かは探らない。

一刻を争うのであれば出たとこ勝負だ。

 

「あんた、敵じゃないのかよ?」

 

どこをどう見てそう思ったんだ。

さっきの滅却師の時だって、お前が攻撃してきたからだよ。

本来ならばそのまま九番隊に預けて済んでいたんだ。

 

「味方だよ、散らばった方が動かしやすいから自分の息がかかった奴の所に入れておきたかったんだ」

 

其れに納得をしたのだろう。

先ほどよりも態度が軟化した。

名前も教えてもらう事が出来た。

そして、二人で塔に入るとそこには見知った姿が四つも有った。

 

「あれは……」

 

英が呟く。

逃がすことも考えたがあいつも吹っ切れているのだろう。

朽木隊長が進んでいく。

 

「ルキアの処刑のつもりか?」

 

海燕が止めようとする。

それに対してわずかに首を振った。

 

「私も兄のように奔放に一度だけ振舞ってみようと思った」

 

そう言うと鍵を取り出す。

なるほどな。

 

「……何をやっておる?」

 

しかし一瞬でこの状況をひっくり返す鬼札が来た。

山本元柳斎総隊長。

ここはもはや仕方あるまい。

 

「俺達で止めるが行けるか、英?」

 

汗をかいているが毅然とした態度で薙刀を構えている。

相手の霊圧がとんでもないというのかわかっていたはずだ。

 

「岩鷲、捕まれ!!」

 

海燕が弟を抱えて逃げる。

朽木隊長も抱えようと試みる。

しかし相手はもう一人いた。

 

「雀部副隊長……」

 

ここにきて一番隊の隊長格が揃った。

こうなると朽木ルキアの解放は不可能。

 

「朽木隊長、そこの隊士を抱えて逃げろ!!」

 

そう言うと瞬く間に逃走を図る。

それを追おうとする雀部副隊長に『九曜縛』を放って動きを止める。

 

「悪いが追うよりも調査すべきことが有るでしょう」

 

そう言うが視線は山本元柳斎に向かっている。

英が雀部副隊長に向かって行く。

山本元柳斎が息を吸い、指示を出した。

 

「長次郎や、本気を出して構わぬ」

 

それに頷いて刀を高々と上げる。

そして力の限りの叫びをもって立ち向かう事を宣言した。

 

「『卍解』!!」

 

暗雲が立ち込める。

それは徐々に湿った空気を帯びていく。

雨が降るものとは違い、どこか恐怖心を撫でるような感覚だ。

 

「『黄煌厳霊離宮』」

 

天候を操る能力。

百年以上前には聞いていたがこれほどとは。

 

「容赦のない決定な事で」

 

刀を抜いて元柳斎殿とにらみ合う。

陰謀渦巻く可能性を想定していないのか。

 

「藍染の死因を調べていくから処刑は後日回せるように朽木隊士を開放しようと思ったんですがね」

 

旅禍ではできず、護廷十三隊でもない。

自殺の為にあんな場所に上るほど酔狂ではない。

時間が欲しいから余計な部分で気を揉まないための手段でもあった。

 

「……隊長格が三人揃って脱獄させようとしているようにしか見えんかったぞ」

 

見え方の差異ですねとしれっという。

真正面からやりあうと調査が頓挫しかねない。

殺気もまだましな状態だからどうして過ごそうか。

そう思っていた次の瞬間、轟音が真後ろで鳴り響く。

振り向いたら、そこには体から煙をあげている英が居たのだった。




常に最悪の出目を引いてしまう二部主人公。
長次郎相手では逃げれません。
雷撃を掌の動きで任意で落とすとか無茶苦茶です。

山じいもさすがに『残火の太刀』をこんな内輪もめでは使いたくはないでしょうね。
何か指摘などありましたらお願いします。


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『短縮 -Short Killing- 』

今回で原作の処刑パートに進ませます。
そして次回以降は『懐刀』についても遠くで見守る形で出していきます。


「がっ……」

 

掌を下げた瞬間に空から光が見えた。

回避する事も出来ずに直撃する。

そして、その後に音が鳴り響いた。

それだけでこの光の正体は分かっていた。

 

「まさか、雷を落とせるなんて……」

 

今までの隊長も危なかったが、市丸さんを超える速さの一撃。

文字通りに桁が違う。

 

「これの力がないと終わっていた」

 

三割減といえど、この威力。

これだけでこの人がどれだけこの力を練り上げてきたのか。

想像に難くない。

 

「回復してもらってはいたがあの一撃でまた開いてきた……」

 

本当は安静にして治さないといけない。

しかしこの事態でそんな余裕はありはしない。

その為、常に強行軍で進んできた。

 

「でも……やってやろうじゃねえか!!」

 

死にかけの体でどこまでやれるのか。

其れだけだ。

猪の様に突進をする。

 

それに対して掌で操作をする。

その動きに対応するように薙刀を避雷針のようにする。

 

「甘い」

 

そう言うと二度振り下ろす。

なるほど、連射もできるのか。

風の雰囲気が変わる。

そして地面で煌くものが見えた。

前へ一気に飛び込む。

 

「がっ!!」

 

足に落ちてしまう。

そのせいでつんのめった。

何とか立ち上がるが相手の視線を見る。

 

「奇妙な術で致命傷を逃れているようだな」

 

そう言うと突きを放ってくる。

雷を纏っている突き。

まださっきのように見切れない速度ではない。

 

「ふっ!!」

 

受け止めるとどこか、心が湧きたつ。

死にかけた体に活力が漲る。

相手の突きを受け流して肩口を狙う。

 

「無意味」

 

掌で雷を落とす。

しかし、ほんのわずかに見えた弱点を俺は突いて行く。

煌いた場所から飛びのくように離れる。

するとズバリその場所へと落ちていった。

 

「やはり『先行放電』を起こしている」

 

雷の性質。

それで空気の質が一瞬変わっている。

そのお陰で違和感に気づいたのだ。

 

「避けるとは……」

 

相手も面食らっているがその隙を逃しはしない。

がっちりと組みついて雷を落とせないようにする。

 

「よもや、私が刀の力に頼った未熟者とでも?」

 

だが頭突きをしてきて顎が跳ね上げられる。

僅かに生まれた隙間に拳を捻じ込まれて、回転力で弾き飛ばされた。

 

「ぐっ……」

 

距離を開かせたと思ったら一撃が飛んでくる。

鋭い刺突が頬を掠める。

それを弾くが相手もそれを承知で回転突きなども繰り出してくる。

 

「少しでも足掻こうとするのは認めよう、耐えたのも認めよう」

 

斬撃を繰り返しながら、徐々に押し込んでくる。

それを読もうとするが、踏み込まれてしまい距離を無くされる。

間合いの有利性はすでに無くなっている。

 

「しかし私の卍解はその程度で推し量れるものでは……」

 

いつの間にか傷が増えている。

レイピアの速度が近接では見抜けていない。

そして上に上げると同時に体が動けない。

体から流れた血と体を絞めあげる鎖状の霊圧が原因だった。

 

「断じてない!!」

 

その言葉と同時に極太の雷が降り注ぐ。

俺は雷に打たれたまま、塔から落ちていった。

流石にもはや限界だったのだろう。

傷はもはや完全に開き、血がまるで雨の様に降り注いでいくのだった。

 

.

.

 

「流石は元柳斎殿の右腕……伊達じゃありませんね」

 

そう言って雀部副隊長を称賛する。

まさかあんな能力とは思っていなかった。

それ以外も高い水準。

苛烈なまでの忠誠心に隠れているが、実際の戦闘能力は隊長並み。

間違いなく今の副隊長とは一線を画す次元だ。

 

「当たり前じゃ、そしてわしもここでお主を倒して頭を冷やしてもらう」

 

杖が刀へと変わっていく。

百年以上前を思い出す。

あの時から微塵でも力が落ちているかどうか。

 

「冷やすも何もこっちは元々冷静ですよ!!」

 

刀を打ち付けあう。

火花は散って高い音を奏でる。

蹴りを繰り出しても腕で受け止めてくる。

 

「『万象一切灰燼と為せ』」

 

『流刃若火』の解号で遂にその全てをさらけ出す。

そして刀を雀部副隊長に向ける。

 

「長次郎、離れておれ」

 

その言葉に頷いて去っていく。

俺が待ってくれる保証は無いだろうに大胆だな。

 

「お主は敵対する眼前の存在に全てを注ぐことが有る」

 

じゃから長次郎をあそこで狙う訳が無い。

そういう確信が有ったからじゃ。

そう言われるとむず痒いな。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

こっちが瞬歩で詰める。

速度で上回れないようにする。

飲まれないようにするという意気込みだ。

 

「ぬっ!!」

 

それを受けるもこっちの太刀の間合いでうまくやれない。

こっちが届いても向こうは届かないのだから。

 

「『松明』」

 

炎で包み込んでいく。

しかしそれでどうこうなりはしない。

 

「かあ!!」

 

刀を振るって払い飛ばす。

そして踏み込んで斬撃を放つ。

髭に僅かに掠っていく。

 

「やるものじゃな」

 

そんな事いうか。

今の一瞬で髭程度で済ませたくせに。

 

「こんなことやってる場合じゃないですけどね」

 

調査が本来の目的。

其れだというのにここで足止めを喰らう。

 

「こっちは戦闘狂ではないのでここらでお暇させていただきますよ」

 

刀を向けて宣言する。

それは許さんというように攻撃してくる。

火を纏った斬撃。

 

「『撫切』」

 

それをあえて前に進んで受ける。

そのままこちらの刀で刺し貫きにいく。

 

「ぐっ……」

 

隙だらけの腹部に突き刺さる。

今の一撃で決めたという残心が良くない。

俺もまた普通ではない男だ。

 

かつて隊長だった男。

護廷十三隊の隊を一つ預かり、命を背負った。

そんな男が……

 

「そう簡単にやられるとでも?」

 

見た目で判断したのか?

あの山本元柳斎が。

 

「見くびった分は頭冷やしてもらいましょうか」

 

六連続の『禁』で動けなくする。

数分持つかどうか。

その間に逃げ切ってしまおう。

 

「ぬぐぐ……」

 

霊圧の差が滅茶苦茶にあるわけでもない。

飛び降りて英を回収しようとするも四番隊に連れていかれていた。

 

「これで散開したか」

 

後はもう一度朽木隊士の救出への突入。

それでいいとは思えない。

四十六室が何かを仕掛けてくるだろう。

 

「あの場所でも行くか……」

 

首を鳴らして向かって行く。

地下に有る浦原謹製の場所。

かなり広々とした場所。

身を隠すには十分だろう。

 

「先客がいたか……」

 

そこに居たのは四楓院隊長。

懐かしいものだな。

 

「お主……斑鳩か?」

 

その言葉に頷く。

すると近寄ってきた。

 

「なぜこのような姿に……」

 

嘆いている。

この姿になったのは自然な流れ。

食事をとれず、眠れなくなった己の心の弱さ。

 

「あの人や貴方達が安寧を手に入れているのか、満足な食事ができているか分からないのに貪れない」

 

そう思って禁じているといつの間にか精神が崩れていった。

そして体はあの人の誕生日以外の食事を拒んでしまった。

きっと探すための活力的に心が許したのだろう。

眠る事はかれこれ百年、あの夜からできてはいない。

 

「真面目じゃの」

 

そうは言うが俯いている。

俺はあの人が元気でいるかどうかだけが気になっている。

 

「ひよ里さんは元気にしていますか?」

 

それに対して無言。

自分で確かめろという事か。

それとも……

 

「聞かない方が良かったj

 

それだけ言って座り込む。

黒崎君が『卍解』を手に入れようとしている。

けじめか何か朽木白哉自身からの果し合いだ。

 

「懐かしいものだが三日を超えての運用は未知数ですよね?」

 

確かあれで浦原は『卍解』を習得して隊長になった。

緊急なものとしては選択肢としては問題ない。

これで具象化まで至っていれば俺が何とかしてやれたが。

 

「かなりばらけていますから、一点を押さえられたら駄目という事は無いですよ」

 

四番隊に薙刀使い。

七番隊に大男。

九番隊に滅却師。

そして動き回っているのは海燕と岩鷲君。

後は『懐刀』と人間の霊圧。

十番隊に既にもう一人の『懐刀』は戻っていた。

 

「流石にこっちの調査の邪魔になりそうなら味方側でも交戦しないといけないんで辛いんですけどね」

 

隊長が承認してくれていても副隊長が嫌がっていたら意味がない。

其れで亀裂を入れてしまったら問題だからな。

 

「ちょっと体休めます」

 

大の字になって深呼吸をする。

眠気は来ない。

おかしなもんだ。

あの日から会えずじまいだった面子の一人が元気だったというのに。

 

「温泉があるぞ」

 

浦原が作った温泉か。

貴方が絶対に揶揄ってくるからお断りだ。

その後でなら入らせて貰う。

そう言って黒崎君を見る。

 

「しかし粗削りだな」

 

霊圧を見る限りは隊長格並み。

更木の悪癖故に勝った形のようだが。

上昇幅はかなりのもの。

潜在能力の高さが魅力という訳か。

 

「何とかなったらいいが……」

 

それだけ言って刀を抜く。

有る予感を感じている。

その予感を裏切れない。

素振りを始めた。

 

「修行の邪魔になるからやめてくれよ」

 

黒崎君に言われた。

どうやら風切り音が耳障りだったようだ。

後は霊圧を常に感じているのが嫌だったんだろう。

 

「分かったよ」

 

精神統一を始める。

頭の中で刀を打ち付けあう。

相手は当然のごとく更木を選択。

 

気が付いたら一日が終わっていた。

手汗はびっしょり。

相も変わらず想像の中でも化け物じみて強い。

風呂に入ってさっぱりさせる。

山本総隊長に斬られた傷が癒えていく。

 

「んっ……?」

 

気配を感じる。

これは阿散井か。

 

「あんた誰だ?」

 

あっ、この姿を見せるのは初めてだったか。

こほんと咳払いをした。

 

「斑鳩だ、阿散井副隊長」

 

そう言うと驚いた顔になる。

全然想像した姿とは違っていたのだろう。

もしくはこの体に驚愕したか。

 

「お前がここに来たって事はよくない知らせを持ってきたってわけだ」

 

それは図星だったらしい。

どうやらさらに刑までの時間が短縮。

なんと……

 

「急がないといけないな」

 

そう言って出ていく。

その間に話を聞く。

雛森副隊長の脱走。

市丸と日番谷隊長の小競り合い。

 

「『天挺空羅』」

 

其れで全員と通信を取る。

集合先は決まってはいない。

しかし、調査上東仙と狛村は二人集まってほしい。

 

「気を引き締めていこうか」

 

頬を叩き、闘志を燃やしていく。

きっと、その先にある悲しい動機。

止まれなかった馬鹿真面目な男の慟哭を聞くだろう。

約束を違えはしない。

これからどんな悪事に手を染めようと……

 

「俺はお前を見捨てない」




二部主人公のゾンビタイム終了。
もとい、長次郎の輝く時間終了。
四楓院夜一と再会。
変貌してしまった理由を細かくしました。

指摘などありましたらお願いします。


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『懺悔 - Repentance - 』

原作とは違う動きのようなよく似た動き。
本当はどっちにするか迷いました。


ついにこの日が来てしまった。

阿散井恋次と朽木白哉がぶつかっていた。

救う意思はあっただろうがお互いそれを知らないゆえの衝突か。

軍配は朽木白哉に上がった。

どうやら『卍解』を習得していたが、相手の『卍解』にやられたという所か。

 

「あっちに構ってはいられない」

 

いつの間にか抜け出していた黒崎君の一団が徒党を組んでいる。

そこに更木の霊圧と『懐刀』。

さらには海燕の分まで。

 

「厄介だな」

 

黒崎君や隊長と『双極の丘』でぶつからせるわけにはいかない。

少し遅らせないと意味がなくなる。

調査も一応含まれているんでな。

 

「卯ノ花隊長には既に伝えていたから怪我人の治療などして向かっているだろう」

 

確実に逆賊はいる。

しかも四十六室の決定が右往左往している事から全滅しているかもしれない。

それができるのはただ一人。

そいつの相手は気を付ける様にだけ伝えた。

 

「あいつら、こっちの意思に関係なく動いているんですけど……」

 

五人が集まって動いている方向へ向かう。

そしてその方向に更木たちも向っている。

これは非常にまずい。

俺があいつを食い止めないと。

 

「おい、隊長格が雁首揃えて隠れてんじゃねえ!!」

 

その言葉から挑発をする更木。

それに触発されるように五人が屋根に立った。

俺は直進して屋根に上っていく。

その過程で更木が五対一とかを言い出した。

 

「何を勘違いしてやがるんだ、更木」

 

屋根を飛び越える。

全員の視線が俺に向いている。

 

「俺とお前の一対一に決まっているだろう」

 

そう言ってくるりと一回転して着地を決めた。

その言葉に気をよくしたのか笑みを浮かべる。

だがそこに水を差す奴が一人。

 

「ふざけんな、あんたに恩はあるがうちの隊長とやれる権利なんざあるかよ!!」

 

班目三席がそう言ってずんずんと歩いてくる。

その面めがけて前蹴りを放つ。

 

「やかましい、やるかやらねえかはその隊長が決める事だろ、ハゲ」

 

そのまま顔面を蹴りぬいて飛ばしていく。

立ったところを見ると問題は無いようだが膝が笑っている。

異存はないよな?

 

「東仙は四十六室の方へ、狛村は双極の丘へ行ってくれ」

 

その命令に副隊長はいらだちの顔を見せる。

確かに上下関係で言えば有り得ない光景だ。

しかし今呼ばれた二人は理解して動こうとする。

ただ、もたもたとして時間を稼いでいるというよりはこちらが気になるといった感じだ。

 

「……お前らにとって俺はそんなに頼りないか?」

 

その言葉に頷きはない。

しかし分かっている。

自分の肉体があの頃とかけ離れている事。

それが不安を感じさせている事。

 

「信じてくれ、必ずここで食い止める、合流するまでの話だけどな」

 

霊圧で示す。

今この時だけでもあの日のように。

こいつらを安心させられる力が有れば良い。

 

「分かりました……」

 

狛村がそう言って去っていく。

射場もそれに従う形で向かって行く。

 

「ご武運を……」

 

東仙も去っていく。

どこか声が震えていた。

綱彌代と檜佐木も同様に去っていった。

 

「で……どうする?」

 

更木に問いかける。

あいつらを追いかけるか。

はたまた俺と戦うか。

 

「決まってんだろ」

 

眼帯を外す更木。

まさか、副隊長相手に外すはずがないと思っていたのだろう。

ましてや相手は研究者揃いの十二番隊。

綾瀬川と班目が驚く。

 

「てめぇを倒して、あいつらを追いかける!!」

 

刀を抜いて更木が答えを返す。

良いだろう。

それができるほどの早期決着。

また消耗の無い戦いができるのならな。

 

「勇ましい言葉な事で」

 

此方は両手で構える。

そして次の瞬間、互いに踏み込む。

一撃で息絶える鋭さ。

一撃で決まる重さ。

その要素を持ちえた斬撃を俺も更木も繰り出す。

 

「ちっ!!」

 

刀越しに互いの視線がぶつかる。

火花を散らしながら押し込む。

それを嫌って弾かれるように一歩下がる。

 

「逃がすかよ!!」

 

突きを繰り出す。

それを見てから更木は突っ込む。

やはりそれこそがお前の在り方だよな。

 

「喰らいな!!」

 

喉元を突いてくる更木。

その一撃に身を屈め、側頭部に喰らいながら顎に対して切り上げる。

それを横にずれて頬を掠める。

更木の頬に十字の傷が出来上がった。

 

「楽しいなぁ!!」

 

大きな声で叫ぶ更木。

それに対して笑顔で返す。

 

「いつものように静かなおまえの方が良いな」

 

そして俺は髪の毛を掻き上げる。

そこには横一文字の傷がある。

 

「この傷が疼いて仕方ねえよ」

 

そう言うと更木は睨むような笑みで、同じようにうっすらと残る傷跡をなぞる。

そして、大きな声で言い放ってきた。

 

「疼くのがてめぇだけだと思うんじゃねえよ!!」

 

再度、火花が散る刀の交差。

切り傷は些細なものではあるが徐々について行く。

それは俺だけではなく更木も同様。

 

見届けようとしているのか、視線が有る。

だがそれは驚きも含まれているような感じだ。

 

「ふっ!!!」

 

力を振り絞り、更木の刀を大きく弾き飛ばす。

そして体勢を崩れさせると同時にこっちの足を引っかける。

その一連の動きで更木に大きな隙を作らせた。

 

「かあっ!!」

 

突き刺す一撃。

それをどうにかするために更木はなんと地面にあえて頭突きをする。

その反動で倒立をしてから体勢を整えた。

 

「隙だらけだなぁ!!」

 

更木が切り裂いてくる。

脇腹に当たりそうになるが跳躍する。

腕に乗る形で回避。

 

「見た目が少し変わりやがった……」

 

更木はそう言っているが徐々に感じている。

枯れていた体がみずみずしくなっていく。

細胞が打ち震えている。

 

「つくづく根っこでは同類なんだと思えるよ」

 

切欠はあの人が死を予感させる卍解を使用したこと。

俺との今までの鍛錬でもやらなかったことをしてきたのはきっと予感が有ったのだろう。

あの日の強さを取り戻していく予感が。

そして現在全盛期を迎えたがゆえに、それに上乗せされる強さについても。

その足掛かりを作ったのだ。

 

「お前との戦いで自分をわずかでも取り戻そうか」

 

こっちから踏み込んでいく。

一瞬、刀の煌きが通り過ぎる。

正体は更木が振ってきた横薙ぎの一閃。

 

「それは無意味」

 

かわしたわけではない。

完全な空振り。

その隙を逃すわけがない。

 

「かあっ!!」

 

こっちが脇腹を切り裂く。

その返しで刃が襲い掛かる。

 

「しゃあ!!」

 

相手の雄たけびと共に肩が切り裂かれる。

さっきまでは掠り傷だらけだった。

しかし、わずかな時間でも目を離せば状況は一変。

互いが血しぶきを舞わせながら切り結んでいく。

 

「けぇえええええ!!」

 

俺は目の前の存在が煌くご馳走に見え始めていた。

百年前の自分が徐々に戻っている。

後はぶれの無い霊圧が有ればほぼ完璧だ。

 

「かああああ!!!」

 

その顔を見てさらに力を増す更木。

その目に映る俺の顔は凄惨そのもの。

『戦いこそ全て』というような笑み。

 

「しゃああっ!!」

 

羽織に血が滴る。

そんな中、ようやく朽木ルキアの霊圧が動き始めた。

そろそろ潮時だな。

 

.

.

 

「あの男は隊長をなんや思うとるんじゃ!!」

 

後ろを走りながら、鉄佐衛門が吼える。

無理もない。

しかしあのお方と儂との間柄を知ったらそうは言わんだろう。

 

「鉄左衛門よ、腹を立てるでない」

 

鉄左衛門を諫める。

大きな声を出して走っては体力の消費が有る。

そういうものは極力減らさねばならん。

 

「斑鳩副隊長に儂は大いなる恩義があるのだ」

 

死神のイロハを教えてくれた。

姿で怪訝な顔をするものを諫め、堂々とした振る舞いをさせてくれた。

若輩の自分には過ぎた席次。

更には『卍解』の習得。

 

「ならば返すが道理」

 

百年前の自分を恥じた。

あれだけしてもらっておきながら何一つできぬ自分。

そんな恥知らずがどの面下げられようか。

それから戒めの笠をかぶった。

 

「そう言っても相手は『あの』十二番隊の副隊長です」

 

とんでもない片棒を担がされそうになってるんじゃないか。

そう、鉄左衛門が忠告する、

確かに藍染の調査という事は何かしらそこに付随するものは有る。

 

「だが馬鹿騒ぎになろうともそれはそれで良いではないか」

 

既に波乱だらけなのだからな。

そう言って歩を進めていく。

あの日のような高揚感がそこにはあった。

 

.

.

 

「東仙隊長?」

 

あれから俺は東仙隊長と一緒に走っていた。

綱彌代三席が前を走っている。

東仙隊長の速度が遅いのだ。

まるで何か悩みを抱いているような顔をしている。

 

「……すまない」

 

いきなり飛び出したのは謝罪の言葉だった。

そして東仙隊長は完全に止まってしまった。

 

「私は尸魂界を裏切るつもりだったんだ」

 

 

「君ならわかるだろう……」

 

綱彌代三席がその言葉に頷く。

一体どういう事なのだろう。

 

「理解もできていた、あの人がいなくなれば私が憧れた人が壊れるという事は」

 

東仙隊長が憧れていた?

斑鳩副隊長に?

有り得ないと思いながら話を聞く。

気になったが『あの人』とは何者なのか。

 

「憧れた人はもういないのならばここにいる意味もないと思った」

 

今いる斑鳩副隊長ではなく、過去では憧れた。

今や、その面影もないという事なのだろう。

燃え尽きた心で悪を成してしまおうと投げやりだったのかもしれない。

 

「しかし過ちだったよ」

 

自嘲するような笑みに哀しみを覚える。

それほどまでに自分のしようとしていたことに後悔しているのだろう。

だが未然に止まれただけよかったのかもしれない。

そう呟いて表情を引き締めていた。

 

「私があの日に何もできなかったことを棚に上げて逃げていただけだ」

 

強く拳を握る。

そこには自分への憤りやそれ以外の感情が混ざり合っているようだった。

 

「背中で感じた、私のやるべきことを」

 

今から成すことが償いだ。

そう呟いて速度を上げる。

徐々に俺や綱彌代三席を追い抜いて先頭に立った。

 

「最悪の事態に備えておいてくれ」

 

霊圧の感知をするように東仙隊長は言ってくる。

言われたように行うとおかしさに気づく。

雛森と市丸隊長が動いている。

そして吉良と乱菊さんが交戦。

一刻を争う事態になりつつあった。




どっちにするか迷ったという前書きの意味は東仙の動きです。
ここで裏切りを止めるか、裏切ってから市丸みたいな動きで最後に切り裂くか。
ここで止めておいた方が良いと思ったのは、普通に虚化されると本作の東仙では蟷螂被りが発生するからです。

何かしら指摘が有りましたらお願いします。


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『収束 - convergence - 』

今回で尸魂界編、終了です。
一部主人公がかかわる場所以外は原作に沿う形が多い分、かなりの駆け足で終わらせました。
二部主人公は流石にまともに体動かせないかと。


「逃げるのか!!」

 

更木が叫ぶが関係ない。

こっちは食い止めるのが仕事だ。

俺は四十六室の所へ向かう。

 

「待ちやがれ!!」

 

刀を振って建築物を切り裂く。

それはまずいと思ってあいつに対して『卍禁』を六連続で放つ。

その全てが直撃して何とか足止めできる。

 

「この騒動の後だったら続きしてやるよ!!」

 

そう叫んで速度を上げる。

卯ノ花隊長たちの霊圧感知を行って、向かっている方向を突き止める。

其れより先にたどり着くだろう。

 

「東仙たちはもう少しだが……」

 

ギンと雛森副隊長が一緒に居るというのが解せない。

ギンの奴、ずいぶんとえげつない事を考えているじゃないだろうな。

そう思うと、最短の道を使わないわけにはいかない。

 

「とは言っても空中に浮けばいいだけの話だけどな」

 

『破道』の五十八である『闐嵐』で自分を巻き上げる。

それから『吊星』を使って作った床を踏んで進んでいく。

本来は霊圧を伸ばすが今回は特に必要がない。

 

「東仙たちよりも先に入れたな」

 

遮蔽物がなければ当然こちらが速い。

それはもはや仕方のない事だ。

そして雛森副隊長が入っていく場所にギン以外の霊圧を感じる。

 

「まずいな……」

 

藍染の霊圧も有る。

あいつの事だから自ら手にかけるつもりだ。

できる事なら吉良や誰かと同士討ちになってくれるのが望ましかったのだろう。

理解しておけばあいつのやり方を計算できただろうに。

 

「憧れだけではその人物の全てを見通すなんてとてもとても」

 

するすると入っていく。

途中で血の臭いが有った。

 

「四十六室が全滅したか」

 

口元を歪める。

喜びを内心に秘めて霊圧のある場所に向かう。

わざわざ別の方向から奥に入っていくとはな。

 

「んっ?」

 

ギンが気配に気づくが遅い。

こっちはすでに鞘から抜いている。

 

「更木隊長との勝負を途中で投げ出したんか」

 

お互いが刀を打ちつけながら言う。

そして指を雛森副隊長に向ける。

 

「『鎖条鎖縛』」

 

近づこうとするのでそれを止める。

また、こちらに恨めしげな視線を送ってくるが無視をする。

 

「それは許容できないなぁ、藍染」

 

首をぐるりと向けて言う。

その視線の先には死んだと見せかけていた藍染がしっかりといた。

 

「ギン、刀を収めたまえ」

 

そう藍染が言うとギンが鞘に刀をなおす。

俺もそれに倣って鞘に収めておいた。

 

「雛森副隊長に後悔の念が無いように亡き者にしようとしてただろ」

 

それに対して同意の眼差しを送ってくる。

まぁ、それに対してはどうこういえない。

 

「お前は止まれなかった、それだけが真実だ」

 

俺も止めようとあの場所で待ち続けた。

あのわずかな時間のすれ違いが続きすぎた。

ありとあらゆる因縁を抱えていく形で。

 

「俺はお前を見捨てない、しかし……」

 

少しは痛い目を見てもらわないとな。

こっちも百年の間、会わずにこんな真似をされて少しは苛ついているんだ。

 

「分かっていますよ」

 

刀を抜いた状態で互いが近づく。

ただ、考えれば考えるほどここは面倒だな。

 

「まあ、外に引きずり出せばいいんだけどな」

 

指をクイと上げる。

それを合図に破道が発動。

俺の独自の破道だ。

 

「『鯨呑』」

 

鯨が藍染の足元から現れて呑み込む。

呑み込む事で動きを止める縛道のようにも見えるが、この膨大な霊圧で中から焼き尽くすというものだ。

 

「これで終わるわけないよな」

 

内部から藍染が平然と打ち破って出てきた。

流石に焼き尽くされてはいない。

少し服が焦げた程度か。

 

「いや、今の一撃で並の隊長なら終わっていますよ」

 

そう言って藍染は首を振る。

お前、そんな事言っているが今のは自分が『並の隊長』より優れていると言っているようなものだぞ。

 

「『豪脚乱蹄』」

 

俺が腕を下げると次は馬の蹄が雨霰の如く降り注ぐ。

藍染は刀で弾き続けるも徐々に腕が下がっていく。

その一瞬を縫う様に俺は踏み込んだ。

 

「くっ!!」

 

斬撃が来ると思っていたのだろう。

刀で防御をしたその隙が狙い目。

胸倉を掴んで力一杯に投げ飛ばした。

 

「その体格からは想像がつきませんね…!?」

 

着地をした藍染へ間髪入れずに体当たりをする。

そのまま押し出されるように建物の外へと出ていった。

流石にギンも驚いたのか、こっちを見ている。

そして雛森副隊長がギンの隣にいた。

いや、すぐに去って行けよ。

 

「『円閘扇』で防がないとは、ずいぶんと甘く見られているな」

 

手招きをして向かってくるように挑発する。

この言葉に苦笑いをして藍染も答える。

 

「そんな時はまた別の動きをしていたでしょう?」

 

その言葉ににやりと笑って返答する。

当然そうするさ。

お前相手ならいくらでも張り巡らせる。

勝てる可能性をわずかにでも増やすためにな。

 

「雛森!!」

 

日番谷隊長が辿り着いた。

そして市丸と交戦はせずに雛森副隊長を回収。

止める必要もないと思ったのだろう。

 

「檜佐木副隊長が先頭で来たか」

 

霊圧で分かる。

日番谷隊長が渡して自分も戦列に加わろうとする。

 

「やめときや、日番谷隊長」

 

勝たれへんから。

それだけギンは呟いた。

 

「茶々が入ったが、始めるぞ」

 

踏み込んでいく。

突きを繰り出すがいなしてくるりと藍染は回転。

それを返すように斬撃が迫る。

 

「まだまだぬるい」

 

指でつまんで止める。

足払いで体勢を崩しにかかる。

 

「それは無理ですよ」

 

後ろに踏み込んで留まる。

そして掌をこちらに向けた。

 

「『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』」

 

その一撃に対して行動する。

胸の内側の袋をまさぐり、あるものを掴む。

それを握り締めた後に、腕を前に出して耐えきる。

 

「破道の九十六『一刀火葬』」

 

焼け焦げた義骸の一部。

ばらばらになっている指を投げつけて唱える。

それを見た藍染はごろりと後ろに転がる。

次の瞬間に火柱が上がる。

それも六本もだ。

 

「流石は義骸の作成技術はあの涅隊長を超えていると言われるほどの腕前……」

 

義骸を部位別に作るなんて赤子の手をひねる様なものですか。

そう呟いてきたのでこくりと頷く。

 

「まだまだいくぜ」

 

腕を二本投げる。

藍染がそれを避けるがそれにこちらが細工をする。

 

「『鎖条鎖縛』」

 

投げていた義骸の腕に巻き付けて引き寄せる。

そして後ろから藍染へ襲い掛からせる。

 

「『一刀火葬』」

 

投げていた義骸の腕が罅割れていく。

藍染が火柱を断空で防ごうとする。

壊されてでもなんとかする腹積もりか。

 

「甘いんだよ!!」

 

地面に叩きつける形で手前で火柱を噴き上げさせる。

更にここで追撃だ。

 

「『闐嵐』」

 

風が藍染を取り囲む。

炎を巻き込みながら徐々に大きく風の檻が出来上がる。

 

「『黒棺』!!」

 

藍染が重力でこちらが放っていた風も炎もまとめて押しつぶす。

そしてこちらを一歩後に引かせてきた。

 

「流石だと思いますよ、少なくともあの日から弱くなったというのに」

 

安定感を失っているという事が問題なのだ。

今の自分の上限は昔と同等。

下限はおおよそ副隊長ぐらいである。

本来、肉体の全盛期が今なので昔に比べて少し強くなっているはずだ。

心身の不調から来る枷が自分をその状態にはさせないのである。

 

「しかし私には逃れる術が有る」

 

そう言って藍染が取り出した紙の束。

俺はこれを知っている。

使えるのは一握りというとんでもない代物だ。

 

「禁術である『空間転移』を合法の上で可能とするものです」

 

ニヤリと悪い笑みを浮かべている。

俺か更木、山本総隊長に遭遇した時の奥の手というわけだ。

 

「しかし使えるのは隊長が備える霊圧の一定を超えているものに限る」

 

目の前で勢いよく広げていき、ギンと自分を囲んでいく。

そしてそのまま束が閉じていく。

東仙の気配は紙の束を取り出した時点で、場所を把握したのか向かっていた。

 

「『双極の丘』にあいつは行った」

 

それだけ言って俺も向かう。

雛森副隊長は虎徹副隊長が辿り着いたので檜佐木副隊長が預けた。

卯ノ花隊長も一度怪我をした隊士たちを運ぶため、再度見回るらしい。

 

「……間に合わなかったか」

 

向かっている最中に朽木ルキアの霊圧と狛村の霊圧の減衰を感じ取った。

一瞬だったから二人とも存命であることは変わりない。

辿り着いたころには阿散井副隊長と黒崎君が重傷だった。

 

「全く……逃げるんじゃないよ」

 

このまま黒崎君を気絶させたままの方が良い。

『鏡花水月』の対策を彼は打ててはいないから。

刀で首筋を切り裂きに行くがギンが阻む。

鞘に一瞬で刀を収めてギンの髪の毛を掴む。

 

「ガキの割には……おいたが過ぎるなぁ!!」

 

膝蹴りを顔面に叩き込む。

放して次は腹部に鉄拳を叩き込む。

手応えが良かったのだろうか、一瞬だけギンの体が浮いた。

 

「やりはるなぁ」

 

腹を押さえているギン。

そんな状態に指を向けて縛道を放つ。

 

「『六杖光牢』」

 

体を囲んでいくがすぐに罅割れていく。

これはまさか……

 

「無理やでぇ」

 

ギンはあっという間に解放されてしまう。

そして逆襲で藍染がこちらに掌を向けている。

 

「『五龍転滅』」

 

大地が割れて俺の周りに龍が出てくる。

それに対してこちらも九十番台の破道で対抗する。

 

「『黒棺』」

 

『疑似重唱』で連続の発動。

それで竜が押しつぶされる。

 

「はっ!!」

 

居合の要領で藍染が斬撃を繰り出そうとする。

だがその一撃は刀を抜くことはできなかった。

 

「これはこれは……懐かしい顔ぶれだな」

 

四楓院元隊長と砕蜂隊長が抑え込む。

余裕を崩していない藍染。

だがこの二人の速度ではどうも動かせはしない。

気づけば全員に囲まれている状態で藍染の真後ろには東仙が居た。

 

「要、……そういう事か」

 

この土壇場で手のひらを返された。

しかしそれは予想していたのだろう。

 

「君はあの背中を見つけたのだな」

 

納得したような笑顔で全く動くような抵抗をしない。

だが次の瞬間、口元が歪んでいた。

 

「だが一手遅かった」

 

そう言うと四楓院元隊長と、砕蜂隊長が離れる。

東仙も飛びのくように去っていった。

 

「いや、それよりはこっちが一手速かったぞ」

 

その言葉に不思議そうになる藍染。

俺がギンの腹部を殴った拳に何かを握りこまなかったとでも?

すぐに俺の視線がギンにある事に気づく。

そして藍染とギンを囲むように反膜に閉ざされる。

 

「これは……!!」

 

絶対防御は外側に対してのもの。

だが内部ではどうなる?

ただ、籠に自分から入ったも同然。

 

「置き土産に喰らえよ、『一刀火葬』!!」

 

逃げ場のない一撃。

火柱は圧縮された形で四角柱に立ち昇る。

しかし、次の瞬間俺が目にしたのは……

 

「やはり、ギンが指摘した通りでしたね」

 

服を焼き焦がされただけの藍染であった。

皮膚からも煙は上がっているが大した威力ではなかった。

 

「貴方の霊圧がぶれてしまったんですよ」

 

そう言って、浮竹隊長の問いに答えて宙に浮かんでいく。

また、いずれ会う事になるだろう。

決着はつかなかった。

 

「お前はあの日に囚われている」

 

俺も人の事を言えた柄ではない。

あの日から掛け違えたものをどうにかするために動いた。

誰かが止めてやらないといけない。

 

「それをできるのはもはや片手で数えるだけだ」

 

そしてその中でかつて、藍染から信頼を勝ち取れたのは?

……きっと、俺だけだろう。

ならば俺が止めるべき役目だ。

 

「なんで東仙にはあの日の俺の背中が見つけられたのか、そしてなんでお前には見つけられなかったのか」

 

今度はその理由を教えてやる。

だから、その時までは互いに健やかでいよう。

そう、心で呟いて今回の騒動の収束に向かうのであった。




更木と戦い、藍染と戦うとかハードスケジュール。
一部主人公は浦原やマユリと比べて研究では義骸と義魂にかなり偏っています。
二人が万能型の分、特化型という感じです。
小説版の痣城みたいな方法で『一刀火葬』の連射をしました。

次回以降からようやく本作のヒロインの再登場が秒読みです。
指摘などありましたらお願いします。


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『来訪 - Visit - 』

今回で第二部『死神代行編』が終わりです。
次回以降は『虚圏』編です。
第一部から第二部のような時間の開きはありません。


「いい汗かいてんなぁ」

 

そう言って汗をぬぐう。

騒動から数日が過ぎた。

重傷者も少なかったお陰ですぐに開放された。

藍染とギンが抜けた分は全員で支えていく形でなんとかする。

 

「まあ、それは割かしどうでもいい」

 

俺は海燕に頼んで黒崎君や朽木ルキアとその縁深い人物、そして旅禍であった面子全員に集合をかけてもらった。

海燕の実家で話をすることになったので向かって行く。

 

「日の光を外套無しで浴びるのも百年ぶりだな」

 

ざわざわとする空気を感じる。

自分の姿をかつて知っているものからすれば奇異の対象。

しかしそれはどうでもいい。

 

「邪魔するぞ」

 

そう言って入っていく。

広間に出ると全員が既に揃っていた。

 

「わざわざ集まって貰ってありがとうな」

 

そう言って中心に座る。

昔に見たことが有る志波空鶴も驚いていた。

どいつもこいつも同じ反応するんだね。

 

「今回の事については謝ることが出てきた」

 

そう言うと全員がこちらに視線を向ける。

一体何を話そうというのか。

朽木ルキア奪還のために動いたりしていたのは分かられている。

どこに謝る要素が有ったのか全員が思案している。

 

「朽木ルキアが使用していた特殊な義骸はかつて俺の制作したものだ」

 

浦原の奴が改良をしなかったのだろう。

粗悪ではないしかなり神経を尖らせて作ったもの。

手を加える必要がないくらいの完成度が有ったのだろう。

 

「あれを使って『崩玉』を保護するのは藍染の目から反らすために必要なものだった」

 

結果としては実を結ぶ事は無かったけどな。

藍染があの日からこの道に進むのであれば最大限、秘匿を行う必要性が有った。

その結果、人型の義骸に埋め込むという手段を取っていた。

 

「その結果が朽木ルキアに埋め込まれて、藍染に目をつけられたというわけだ」

 

すまなかった。

そう言って俺は頭を下げる。

 

 

「でも使ったのは浦原さんだ、あんたが謝る事じゃ……」

 

黒崎君がそういうがそういうものではない。

使うにも作らなければそうはならないのだから。

まあ、浦原の事だから遅かれ早かれ制作できていたとは思うが。

 

「使用したのは浦原だが作成者は俺だ」

 

だから責任の一端は俺にもある。

それだけではなく藍染の目的も分かっていたわけだからな。

 

「箱のような形で保存しておけば朽木ルキアから抜き出す事もなかっただろう」

 

そこは完全に過ちだった。

人型にしておけばあまり気には止めないだろうと安直だった。

その結果、怖い思いをさせてしまったのだから。

 

「だがその人型で分からなくてもいずれ私が浦原を頼れば……」

 

まあ、そうなっても藍染には分かられていただろう。

藍染の知恵や洞察力は化け物じみている。

 

「藍染相手には上手くやり通す術は存在しない」

 

隙もなくやろうとして失敗した人を知っている。

正しく理解をして一人にしないように振舞うのが一番適している。

 

「これは今後俺が総隊長に進言する内容であり、藍染の目的だが…」

 

肝心な部分はぼやかして話す。

様々な種族の霊圧を統合したような万能の存在への進化。

それによって全ての死神に安寧をもたらそうとしている。

しかしその犠牲はとてつもなく大きなもので、受け入れられはしない。

 

「なんで藍染の心をあんたは分かるんだ?」

 

元々は同じ穴の狢だ。

理解者を得て変わった藍染。

それと同じように俺もあの人や周りの人のおかげで変わった。

もしそれがなければ、俺で既に裏切られていただろう。

 

「藍染は元々昔の事件を起こす前はこんなことをするつもりはなかった」

 

百年以上も前の藍染は元々真面目過ぎる男。

仕事も熱心で全ての要素が優秀。

当時でも一つとっても隊長格を超えていた。

 

「正しくお互いが分かり合えていたからこそ、目的を知ったうえで止まっていたのさ」

 

だがそれを早とちりで全て台無しにしてしまった。

藍染は罪悪感とそして何が有っても犠牲から目を背けないために。

悪人へと変わってしまった。

 

「不真面目で踏みにじれるならばのうのうと顔を出して俺から説教受けて止まれただろうよ」

 

馬鹿なくらいに真面目だった。

だからこそ最も過ちを知られたくないものに知られた時、奴はもはや諦めたのだ。

真っ当な道で光を浴びながら生きる道を。

 

「藍染もある意味被害者なんだ」

 

誰かにそそのかされたのだ。

まるで原初の人が蛇にささやかれたように。

自らの決断ができぬほどの疑心を煽られたが故に。

 

「まあ、それでも今回の事件とこれからの目的は見過ごしていいものではない」

 

止められる者が止める。

藍染の行為が成就した時に失うものはきっと大きなもの。

大量の『魂魄』と『重霊地』。

現世において地図からまるきり消えるだろう。

 

「君達の場所に虚や例が非常に多く出ると自覚しているならば他人事じゃないからな」

 

これらが出るというのは『重霊地』の可能性があるからだ。

そして藍染はこの間に化け物のような強さになる。

その強くなった力で排除にかかれば地獄絵図の完成だ。

 

「その被害を無くすために居る事は否定しないが絶対を保証してやれない」

 

万全の態勢を整えてもそれで防げるか否かと聞かれた時、俺は否と答える。

規格外の存在が居るだけでその思惑は崩れるからだ。

 

「帰る前に驚かせて悪いが、今後はそう言った巻き込まれ方もあり得るというのを覚えておいてくれ」

 

まあ、一度戻って手続するだろうがゆっくりしてから来るといい。

それだけ言って十二番隊の隊舎に戻っていく。

 

「あんな大きなのを活けないでくれませんか?」

 

阿近に言われて副官室の前に置いていた花瓶から花を少々抜いていく。

大きな花瓶に『365本』の薔薇を活けていたのだ。

雛森副隊長があんなことを言うからこそ心に正直に花瓶に活けてしまったのだ。

 

「おい、マユリ」

 

マユリに後ろから話しかける。

百年前と同じ呼び名。

この時点で察したのか、何かを投げ渡してくる。

 

「現世での研究成果を盗んできてくれたまえヨ、あの男に会うつもりなのだろう?」

 

こいつはまた無理難題を……

浦原を相手に仕掛けてへそを曲げられたらどうするんだ。

 

「あの旅禍たちは浦原の手引きで来ているだろうからな、奴らは重要な情報を提供してくれたよ」

 

しかし、それでも少し興味はある。

浦原の研究が一目見た程度で出来るようなものならば報告の意味も有りはしないが。

まあ、浦原の事だから本命はうまく隠すだろう。

 

「しばらくの間は阿近を補佐に頑張ってくれ」

 

そう言って駆けだしていく。

地獄蝶を人数分用意しておいた。

『死神』しか無理なものを品種改良した十二番隊独自の代物だ。

初めて彼らの居場所を補足した時にもこいつを使用している。

 

「待ってくれ!!」

 

全員が門に入ろうとするのを止める。

地獄蝶を渡すと同時に入っていく。

 

「あんたも来るのか?」

 

黒崎君が驚いた顔をしている。

当たり前だろう。

浦原にも話を聞かないといけないからな。

 

「十二番隊は任せておいたからな」

 

俺一人が抜けたところで駄目になる部隊ではない。

それに息抜きぐらいしてもいいんだよ。

百年間、不眠で年一の食事の奴なんだぜ。

 

「じゃあ、行くか」

 

そう言って踏み込んでいく。

前を走るのは四楓院元隊長。

すいすいと進んでいくが座標がおかしい。

 

「四楓院さん、このままだと空に放り出されますよ」

 

しかし聞く耳を持たない。

そのまま進んでいくと……

 

「やっぱりな」

 

上空へ放り出されていた。

そして落下をしていくが、その間にあるものが迫るのを感じるので回避する。

布が黒崎君たちを巻き取って球になる。

それを棍棒で打ち返そうとする馬鹿が居るので……

 

「失せてろ」

 

横っ面を殴って飛ばしておく。

まあ、この程度でやられるような馬鹿じゃねえだろう。

 

「さて……」

 

前に立って受け止めようとする。

しかし後ろから現れた気配に球ごと抱き留められそうになった。

 

「おおっと!!」

 

流石にそれは危ないので回避。

無事、その気配の主はなんとか球を受け止めた。

 

「握菱『元』大鬼道長か、驚いたよ」

 

名前を呼ぶと握菱さんは目を見開いた。

流石に分かられたか?

そんな事を考えていると、ある男が球の上に乗る。

すると全員が整列したような状態で解けていく。

 

「相変わらず面白いものを作ってるんだな、喜助」

 

後ろから忍び寄ると振り向く。

一瞬、顔は強張ったがへらっとした顔に戻る。

 

「一体、貴方の身に何が有ったんすか?」

 

そうは言うが分かっているんじゃないのか?

とにかく沢山聞きたい事もあるし、沢山言いたい事はある。

しかし、絞り出せた一言は……

 

「有難う」

 

感謝の思いだった。

僅か五文字の言葉にどれだけの心が詰まっているのか。

それを汲み取れないほどの男ではない。

 

「こちらこそ」

 

そう返して頭を下げてきた。

再会はあまりにもあっけなく。

しかし大きな意味を持つ邂逅になり得る。

そんな予感が胸をよぎっていた。




ジン太を初対面で殴りとばすという野蛮な振る舞い。
といってもあれを受け止めずに打ってしまおうとするあいつがおかしいかもしれませんが。
浦原と再会しましたが、ヒロインはまだ少し先になりそうです。

指摘などありましたらお願いします。


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『探索 -Treasure- 』

100年前の同期が出てきます。
ヒロインは次回の予定です。


あの再会から次の日。

浦原が営む『浦原商店』に身を寄せていた。

流石に死神の服装はまずいという事で、浦原から俺の背丈に見合った作務衣を借りた。

掃除をして棚の整理。

店の雑用をしていると瞬く間に夕方。

この時間帯になれば子供たちが菓子を買いに来るらしい。

その言葉通り、すぐに一人の子供が店へと入ってきた。

 

「うわ、骸骨おじさんだ!!」

 

一目見るなりそう言って近づいてくる。

俺の顔をぺたぺた触ってくる。

骨の感触がほぼ直だから驚いている。

 

「お菓子買わないのかい?」

 

置いている場所を指さしてやる。

すると本来の目的を思い出したのだろう。

目につくものを籠の中に入れていく。

 

「えっと、会計は……」

 

小銭を貰って計算をしてお釣りを渡す。

手を振って子供が帰ろうとするからそれに対して手を振った。

無論、笑顔を忘れずに。

 

そしたら雪崩のように押し寄せてくる子供のお客さん。

それらを全員捌いているころには少しあたりも暗くなっていた。

 

「さて……探しに行くか」

 

そう言って立ち上がる。

店も終わりのようだし良いだろう。

 

「喜助、俺は今から外に出ていくからな」

 

二階に上がって喜助に言う。

研究をしているわけではないし、ごろりと寝転がっている。

人に任せてお前は何くつろいでんだ。

 

「……探すんですね」

 

そう聞いてきたから頷く。

頬をかいているが何か問題でも。

 

「今の貴方を見て気づきますかね?」

 

そんな事決まっているだろう。

お前は何を馬鹿な事を言っているんだ。

 

「気づくよ、あの人を甘く見すぎだぞ」

 

そう言って作務衣をはためかせて出ていく。

当然、あてはないのですたすたと歩く事しかない。

一応、浦原からは今日の給料という触れ込みで貰った。

年一に出る時に強運でそれなりの金は懐に舞い込んでいるんだけどな。

 

「しかし明るいな」

 

街中に灯りが有る。

それでなくても夜の目が利いている。

これでは昼間と同じくらいだ。

 

「これがコンビニエンスストアって奴か……」

 

じろりと見まわしてみる。

喜助の駄菓子屋と