我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者 (亜亜亜 無常也 (d16))
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入学編
第一節:いつもの朝


 ふと意識が浮上する。

 そして……すぐにこれは夢だとわかる。

 

「(これ、現実、じゃない。前、経験ある。リッカ、夢)」

 

 そこにいたのは形容し難き物。

 

 彼から聞いた事がある。

 魔神柱と呼ばれる物。

 その内の1つ。

 

 その名は……確か【廃棄孔アンドロマリウス】。

 ソロモン王の72柱の序列第七十二位の悪魔と同様の名。

 

 だが、姿は悪魔とは似ても似つかぬ異形。

 ベージュ色の巨大な柱。

 丸い赤い目を幾つも持つ。

 

「起動せよ。起動せよ」

 

「廃棄孔を司る九柱。即ち、」

 

「ムルムル。グレモリー。オセ。アミー」

 

「ベリアル。デカラビア。セーレ。ダンタリオン」

 

 

 言葉を紡ぐ。

 呼ぶのはソロモン72柱の五十四位と五十六位から五十八位、六十八位から七十一位。

 

 

「我ら九柱、欠落を埋めるもの」

 

「我ら九柱、不和を起こすもの」

 

「無念なりや、無常なりや」

 

「我ら‟七十二柱の魔神”を以てして、」

 

「この構造を閉じる事叶わず……!」

 

 ここのいるのは想定外なのか、通信先の声……男性が慌てる。

 

『八つめの拠点だって!?なんて事だ、ここの存在は想定外だ!』

 

『我々だけで、制圧しなくてはならない……!』

 

 その言葉に彼の傍らにいる巨大な盾を持った少女の顔が歪む。

 

「そんな……、マスターにこれ以上の負担は……」

 

 絶望する男性と少女。

 

「そうだ。滅びるがいい最後のマスターよ」

 

「貴様が玉座に辿り着くことはない」

 

「あらゆるものがここでは無価値となった」

 

「あらゆるものが不要だと廃棄された」

 

「それがこの領域だ」

 

 それを嘲笑うかのように言葉を続けるアンドロマリウス。

 

「誰一人として人間(おまえたち)を助けない死の島だ」

 

「膝を折るがいい、顔を伏せるいい」

 

「絶望すら、する必要はない」

 

 だが1人だけ絶望していない者がいた。

 

 黒髪に、黄色人種系の肌。青い眼に、普通の顔立ちの少年。

 ……今とは外見はまるで違うアイツの姿。

 

 少年は膝を追っていない、顔を伏せてもいない。

 その顔は……笑っていた。

 

「大丈夫だよマシュ、大丈夫だドクター」

『「え……」』

「オレ達が……オレが繋いだ縁は”7つの特異点”だけじゃない」

 

 ”大切な後輩”と”もうどこにもいない彼”に声を掛ける。

 そして後ろを向く。

 

「そうだろう?なあ?」

 

 その声に。

 

「ハ。ハハハ。クハハハハハハハハハハ!」

 

 高笑いが答えた。

 

 何かが高速で迫る。

 あまりに動きが早く、はっきりとは見えないが人型をしている。

 その何者かは蒼黒い炎をビームのようにして放ち、アンドロマリウスに攻撃を加える。

 暫く攻撃を加えると、少年の傍らに降り立つ。

 動きが止まったおかげで初めてその姿がわかる。

 ポークパイハットを被った色白の肌をした青年だった。

 

「笑わせるな、廃棄の末に絶望すら忘れた魔神ども! 貴様らの同類になぞ、その男がなるとでも!」

 

 笑いながらその青年は続ける。

 

「そうだ!」

 

「この世の果てとも言うべき末世、祈るべき神さえいない事象の地平!」

 

「確かに此処は何人も希望を求めぬ流刑の地」

 

「人々より忘れ去られた人理の外だ」

 

 アンドロマリウスの意見を肯定する。

 

「だが―――」

 

「だが! 俺を呼んだな!」

 

「ならば俺は虎の如く時空を駆けるのみ! 」

 

「我が名は復讐者、巌窟王エドモン・ダンテス!」

 

「恩讐の彼方より、我が共犯者を笑いにきたぞ!」

 

「クハハハハハハハハハハ!」

 

 再びの高笑い。

 復讐者(アヴェンジャー)の英霊が……且つて共に七日間の悪夢を生き抜き、脱獄を果たした共犯者を救済する為に現れた!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「うにゅう……」

 

 大きなダブルベットから起き上がる。

 目覚めは悪くないのだが、はっきりとした夢を見ていたので、あまり休んだ気がしない。

 だが、悪い夢ではなかったので、まだいい。

 これが悪い夢だと最悪な気分になる。

 

「(ウルク、セイレム、ハロウィン、ぐだぐだ、比べる、まだマシ)」

 

 且つて見た記憶で酷い物や、カオスとしか言いようのない物と比べればまだマシな方だった。

 

 サーヴァントと霊的に繋がっているマスターは、時として契約したサーヴァントの記憶を夢の中で体験する。

 よくある事と、自分のサーヴァントである彼はそう言って良く笑っていた。

 

「ふあ……」

 

 欠伸を噛み殺しながら、隣を見る。

 そこには自分のサーヴァントである少年が眠っていた。

 

「……ここまで、変わるなんて」

 

 ”生前”の彼は日本人らしい姿だった。

 黒髪に白めの肌。眼は青い。

 それが今は真逆。

 白髪に褐色の肌。眼は変わらない。

 こうなったのは色々な原因がある。

 

「……今、何時?」

 

 時計を見る。

 起きなければいけない時間をとっくに過ぎていた。

 

 これは酷い!

 by天空の神ホルスの化身。

 

「リッカ!起きて!今日、学校!入学式!」

 

 そう言って少女は傍らで眠る少年を揺さぶった。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 だが、起きない。

 

「遅れたら、マズイ!」

 

「リッカ!リッカ!」

 

「■■■■◆!!」

 

 クラス名で呼んでもダメ。

 一向に起きない。

 

「藤丸立華!!!起きて!!!」

 

 声を更に大きくして、本名で呼ぶと。

 

「んんん……」

 

 緩々と瞼が動き、眼が空く。

 青い空のような眼が見えた。

 

「おはよう、……マシュ」

「違う!わたし、マシュ、じゃない!ブリュンヒルデ、でもない!」

「……冗談だよ。おはよう。レイナ。我がマスター」

 

 そう言ってリッカ……藤丸立華が笑う。

 その笑みに少女……鷹山レイナもつられて笑う。

 

「じゃあ学校行くか!」

「うん!」

「でもその前に……」

「?」

「シャワー浴びて、朝食食べてから行こう」

 

 自分達の格好を見てみる。

 昨日は行為の後、そのまま寝たので何も着ていなかった。

 2人共生まれたままの姿であった。

 

「……うん」

 

 少し恥ずかしそうに頷く少女であった。

 羞恥心はこれでもあるのだ。



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第二節:光と雫

 シャワーを浴びて、着替える。

 朝食を食べながら、学校へ向かう2人。

 だが、このままでは間に合わない。

 なので……。

 

「……是非もないネ!使うぞ!」

「うん!」

 

 宝具使用を決意。

 マスターの許可を貰い、出したのは一枚のカード。

 金色に馬が引く戦車に乗った騎兵の姿が描かれている。

 

 立華はレイナをお姫様抱っこする。

 

「借りるぞ!」

『おう!』

 

 且つて契約をしていたサーヴァントの1人と接続。

 許可を取り、宝具を借りる。

 

■■宝具(イミテーション・■■■■■)彗星走法(ドロメウス・コメーテース)!」

 

 ギリシャの大英雄と呼ばれる1人の英霊の力を借りる。

 「あらゆる時代の、あらゆる英雄の中で、最も迅い」という伝説が具現化する。

 凄まじいスピードで駆け抜ける。

 レイナは凄まじすぎるスピードから自身の身を守るために、魔法で気流や衝撃を緩和する。

 そして。

 

 

「間に合った」

「ギリギリ……」

 

 寸前に何とか到着。

 乱れた髪を直しながら一息つく。

 入学式が始まる寸前なので、人通りはもう少ない。

 

「とりあえず講堂に向かおう」

「うん」

 

 2人仲良く向かう。

 

 講堂の席はほとんど埋まっていた。

 前半分に八枚花弁があしらわれているという制服を着た一科生と、無印の制服を着た二科生。

 元々は発注ミスで始まった物なのであるが、差別の温床となっている。

 

 この2人の制服には花弁があった。

 

「空いて、ない?」

「いや、空いてる」

 

 そして、前半分の丁度空いている席に座る。

 だが。

 

「……見られてる?」

「遅刻したしネ。是非もないよネ」

 

 見られてる。

 視線を感じる。

 少し居心地が悪い。

 それでも空席に腰を落ち着ける2人。

 

「ふう間に合ってよかった」

「一時、どうなるか……」

 

 そう会話をしていると。

 

「ちょっといい?」

 

 自分達に声を掛ける者がいた。

 その方向……左横を向くと表情の変化が乏しい大人びた顔立ちの黒髪の少女が少年の横にいた。

 

「俺達?」

「うん。……2人はハーフ?」

「いや、純粋な日本人だよ」

「わたし、同じく」

 

 初対面の人には若干あんまりな質問。

 それに答える立華とレイナ。

 だが、この少女が聞いたのも無理はない。

 

 レイナは瞳は日本人だが、白い髪に白い肌で日本人離れしている。

 一方立華も白い髪に浅黒い肌である。

 そう聞かれても無理はない。

 この2人は遅くなったから、目立っていると思っていたが、そうではない。

 見た目で目立っているのだ。

 

「雫!なんて事聞いてるの!?」

「……ほのかは気にならなかったの?」

「それは……」

 

 更にその左にいた茶色の髪の少し気の弱そうな少女に嗜められるが、あんまり気にしていないようだ。

 そんな2人に立華とレイナは声を掛ける。

 

「気にしなくていい。なあ?」

「うん。気持ち、わかる」

「本当にすいません。……あ、私は光井ほのかっていいます」

「北山雫」

 

 2人が名乗って来た。

 ならばこちらも名乗ろう。

 

「藤丸立華。よろしく」

「鷹山レイナ」

 

 2人で名乗る。

 そして。

 

「あ」

「「「?」」」

「2人。補足」

「「はい?」」

 

 レイナが2人に続ける。

 

「わたし。口調、少し、変。だけど、気に、しないで」

「は……はい!」

「人それぞれだから別に気にしないけど」

 

 そんな2人の答えにレイナは笑った。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「レイナ」

「なに」

「クラスは?」

「A」

「俺もだ♪」

「「イエイ!」」

 

 クラスの確認で同じクラスと言う事が分かる2人。

 拳を打ち合わせる。

 そんな仲良しな2人に。

 

「2人は付き合ってたりする?」

「ちょっ……雫!」

「付き合う?」

「う~ん……」

 

 雫が尋ねる。

 それをほのかが嗜める。

 一方聞かれた当事者は少女は疑問符を浮かべ、少年は考え込む。

 

「付き合う?恋人、婚約者、と言う事?」

「うん。2人は恋人同士なのかなって?」

 

 雫の疑問にレイナは迷う。

 しょうがないので彼に尋ねる。

 

「リッカ。わたし、あなた、恋人同士?」

「う~ん。わからん」

 

 立華の答えにズッコケる2人。

 

「友達以上ではあるな、うん」

 

 最初は主従関係から始まった。

 だが、どちらが上か下かは最初からなかった。

 お互いがお互いを対等と認識していた。

 ……している行為的に友達は超えている気がする。

 

「わたし、あなた、友達?」

「かな?でももっといい言葉がある気がする」

「どんな?」

「う~ん……」

 

 暫く考えると。

 ふと思いつく。

 

「相棒?」

「わたし、あなた、相棒?」

「うん。嫌か?」

「ううん!それ、いい!」

「そうか!」

 

 そんなやり取りを見た雫とほのかは。

 

「やっぱりこれ付き合ってるよね……」

「うん。そうとしか見えない」

 

 そういう感じで同意した。

 

 閑話休題。

 

「ところで、2人、これから、どうする?」

「私はもう少し残ります」

「私はほのかに付き合う」

 

 どうやら2人は残るらしい。

 何でも新入生代表の答辞を行った女生徒が気になるらしい。

 

「俺らは帰る」

「また、明日」

「さようなら」

「また明日」

 

 そう言って立華とレイカは帰路についた。

 

「あの人、美人?」

「誰が?」

「司波深雪」

「ああ……」

 

 新入生代表の答辞を行った女生徒……司波深雪。

 黒く澄んだ瞳に、背の半ばまである艶やかなストレートの黒髪、白く透き通った肌と非の打ち所が無い脚線美。完璧な左右対称で均整の取れた容姿をしていて、声色も鈴を振るように可憐。

 非の打ちどころが無い美人で、近寄りがたい感じがする。

 

「確かに美人だったけど……」

「……見慣れてる?」

「まあね」

 

 レイナの言葉に苦笑する立華。

 彼がかつて契約していたサーヴァント達は結構美男美女揃いなので慣れている。

 それに。

 

「同級生とか集まっていたけど、どうみても……」

「見ても?」

「アレだった」

 

 あれはまるで……。

 

「食虫植物と、それに集まる虫」

「ちょっと、失礼」

「うん。俺もそう思った」

「でも、同意」

「……嬉しいねえ」




『■■宝具(イミテーション・■■■■■)』

ランク:E~EX
レンジ:ー
種別:対全宝具
最大捕捉:ー

藤丸立華が生前に契約していたサーヴァントの宝具を一時的に借り受ける宝具。
武具などのアイテムだけではなく、英雄を象徴する攻撃方法や身にまとった呪い、技、技術、逸話を反映した能力すら借り受ける事が可能。
ただし、条件や限度がある。
――――――これ以上は今は閲覧不可――――――
 


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第三節:閣下

 話をしながら、家に帰る。

 2人暮らしには広すぎる家。

 だが、色々な”物品”があるので、7、8割の部屋は埋まっていた。

 

 物品は色々だった。

 鍛冶師と文豪、神代魔術師が協力して作り上げた立華専用の宝具と言っても過言ではない剣や刀、槍等の武具。

 紳士と獅子、マハトマらが今の時代の技術を学んで、力を合わせて作ったCAD―――術式補助演算機(Casting Assistant Device)―――のような何か。

 〈道具作成〉のスキルを持ったサーヴァントが作り上げた色々なアイテムや薬。

 

 誰でも知っている文豪の新作や、作曲家の新曲といった、使い道があまりないのもあれば。

 あらゆる病気を治す薬や、不老不死になる薬、部位欠損すら治す薬まである。

 物によっては一部の人間が全財産を投げ捨てでも、犯罪行為に走ってでも欲しがる物が多々あった。

 

 そのため、この家には色々細工がしてある。

 

 彼が宝具を使い、一時的に召喚した様々な〈陣地作成〉のスキルを持つ魔術師(キャスター)のサーヴァント達が協力して、現代最高峰の魔法師の侵入すら阻む強固な陣を作り上げた。

 

 見た目は「家」であるが、実質「神殿」兼「要塞」になっている。

 対軍、対城、対国、対都市クラスの宝具の一撃すら耐える外側。

 庭には侵入者撃退用のゴーレムが、庭の石に紛れて設置されている。

 

 空間が拡張され、中はまさに「異界」となっている内側。

 数百の結界と数えきれないほどの大量の呪詛の罠。

 悪霊や魔獣が昼夜問わず屋内にいる。

 更に立華の睡眠時限定だが、今の時代に似つかわしくない親衛隊(オプリチニキ)まで出現する。

 

 もちろん立華が召喚したサーヴァントも見張りに出ている。

 まずは「暗殺者(アサシン)」の英霊。

 主に、忍者や歴代山の翁の誰か。

 日によって誰がいるかは立華にもわからない。

 ……それのおかげである侵入者の命が救われたのだが、それは今は語らない。

 そして、庭には立華にしか従わぬ、全ての人間を憎む「復讐者(アヴェンジャー)」がいる。

 彼は常時召喚されている数少ない英霊の1人(?)だった。

 とは言っても外に出ないように言われているので、専ら庭か広間にいる。

 更に、それ以外のサーヴァントも偶に出る。

 ただし誰が出るかは本当にバラバラである。

 

 閑話休題。

 

「ただいま~」

 

 家に帰り、今日は庭にいる「彼」に挨拶。

 今は透明であるため、姿を確認する事はできないが、唸り声が聞こえた。

 そして屋内に入る。

 

「これから、どうする?」

「夕飯食べて、明日に備える」

 

 そんな訳で夕食を立華が作ろうとした時だった。

 

「電話?」

「誰?」

 

 秘匿回線に連絡がある。

 これを知っている人は自分達以外には3人だけ。合計5人。

 今回現れたのは……。

 

『二度目の学生生活と初めての学生生活はどうかね?』

「烈さん!お久しぶりです!」

「おじいちゃん!」

 

 画面にいたのは1人の老人だった。

 総白髪をきれいに撫でつけ、スリーピース・スーツを隙無く着こなしている。

 

 彼の名は九島烈。

 日本の魔法師の間で敬意を以て「老師」と呼ばれる老人。

 約20年前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた人物。

 当時は「最高にして最巧」と謳われ「トリック・スター」の異名を持っていた人である。

 

 立華とレイナにとっては保護者代わり兼、年の離れた友人のような関係であった。

 また彼らの秘密を知っている数少ない人でもあった。

 そして、烈にとってもこの2人は大切な人だった。

 彼らのおかげで孫は病弱ではなくなり、普通の生活を出来るようになったのだから。

 

「まだ始まったばかりだからね。わからない」

「同じく」

 

 2人の答えに苦笑する烈だった。

 久しぶりなのでお互い近況を報告しあっていたのだが。

 ふと烈が真面目な表情になる。

 

『……そういえば司波兄妹には会ったかね?』

「妹には会いましたけど……、兄がいるのですか?」

『ああ。司波達也と言う。……そうか会ったのか』

「あの食虫植物、厄介?」

『食中植物!?』

 

 レイナのあまりの言いように絶句する烈だったが。

 暫くして大笑いし始めた。

 

『ハハハハハハ!食虫植物とは。言い得て妙だな!』

「え?まさか合ってる?」

『ああ。彼らは四葉だ』

 

 四葉。日本魔法師最強の家系の1つ。

 その中でも最も恐れられており、「アンタッチャブル」とも呼ばれている。

 ……のだが。

 

「へえ」

「そう」

 

 2人の反応は薄い。

 それをわかっているかのように烈は笑うと。

 

『気を付けろと言いたかったのだが……、君達の恐ろしさは四葉以上だからね』

「アハハハ」

 

 烈の言葉に立華は笑う。

 

 何せ烈は知っている。

 この2人……否、藤丸立華の恐ろしさを。

 何せ、彼は。

 

『君はその気になれば、世界を相手取って戦えるだろう?』

「大丈夫です。そんな気はありませんよ」

『本当にそうかね?』

「はい。焼却も漂白もする気ありませんし」

 

 「焼却」と「漂白」。

 例え誰かがこの会話を傍受していたとしても、この世界のほとんどには意味不明の言葉。

 だが、烈と彼の孫の1人には意味が分かる。

 

『そうかね?……まあそれはともかく』

 

『学校生活を楽しむといい』

 

『また日を改めて連絡しよう』

 

 そう言って通信は切れた。

 

 立華とレイナは顔を見合わせる。

 

「何だったんだろう?」

「話、したかった?」

 

 2人して首を捻った。



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第四節:道成寺鐘百八式火竜薙

 入学式の翌日。

 今度は余裕を持って登校できた。

 昨日は一緒に寝ただけ。

 だからこそである。

 

「2日連続で同じ轍は踏まん!」

「フラグ、なるよ」

「なって堪るか!」

 

 余裕があり過ぎたらしく、まだまばらにしか人がいない1ーAに入り席に付く。

 因みに席は2人共幾らか離れている。

 鷹山の「た」と藤丸の「ふ」なので是非もない。

 とりあえずインフォメーションのチェックと受講登録を始める。

 すると。

 

「藤丸さん」

 

 振り返るとそこには昨日会話した北山雫と光井ほのか、それに加えて司波深雪までいた。

 

「……おはよう。初めましてかな?司波さん。藤丸立華だ」

「初めまして藤丸さん。司波深雪です」

 

 昨日は遠くで見るだけだったが、近くで見ると改めて思う。

 

「(人間離れした美貌って奴かな?魅了スキル持っていそう)」

 

 すると雪女のように真っ白な肌が少し赤らむ。

 

「……あの。そんなに見つめられると恥ずかしいのですけど」

「ああ、悪い」

 

 無意識にじっと見ていたらしい。

 恥ずかしかったようだ。

 謝罪して、視線を外す。

 するとそこへ。

 

「何、してるの?」

 

 レイナが近づいて来た。

 

「ああ、自己紹介。司波さん。こっちが俺の相棒の……」

「鷹山レイナ。口調、気にしないで」

「はい。私は司波深雪です。宜しくお願いします。鷹山さん」

「レイナでいい。呼び捨て、さん付け、様呼び。好きにして」

 

 よく分からない事を言い出すレイナ。

 それに呆れる立華。

 

「初対面の人に何言ってるの?」

「ジョーク?」

「そういうジョークはやめなさい」

「わかった」

 

 そんな2人の様子を見た深雪が雫とほのかに尋ねる。

 どうやら事前に彼らの事を聞いていたらしい。

 

「……この2人は本当に付き合ってないのですか?」

「相棒同士らしいよ?」

「どうみても恋人同士ですよね」

 

 苦笑する3人だった。

 

 そんな中。

 

「リッカ」

「何?」

「自己紹介代わり。何か歌って」

「急に何!?」

 

 そんな3人の様子にはお構いなしに会話する2人。

 その会話を聞きつけたのか、雫が尋ねる。

 

「藤丸さん歌上手いの?」

「まあある程度は……」

 

 海賊達すら聞き惚れた男性特攻持ちの弓使いに比べれば劣るが。

 因みにその気になれば下手に歌う事もでき、どこぞの自称アイドルとワガママ皇帝みたいに、ジ○イアンリサイタルも可能である。

 

「何か、歌って?」

「レイナ……。いきなり言われても」

「自己紹介代わりにいいと思います!」

「光井さん……」

「皆話したがっているし」

「北山さん……」

「私も聞いてみたいです」

「司波さん……」

 

 女子4人の言葉にため息を付き。

 

「わかった。何歌う?」

「じゃあ「道成寺」の歌」

「「「「……何その歌?」」」」

 

 レイナが提案した歌に深雪、ほのか、雫が頭上に疑問符を浮かべる。

 結構古い歌なので、どうやら知らないらしい。

 なので。

 

「わかった」

「「「え!?」」」

 

 立華が頷く。

 かつて契約していた「彼女」を知ってもらうのには良い機会。

 乗り気となる。

 

 まず懐から出したのは眼鏡。

 伊達眼鏡だが、実はある「魔術師(キャスター)」のサーヴァントが作った”相手の持つ魔眼”殺しの能力を持つアイテム。

 それを掛ける。

 そして、鞄から笛を出し。

 

「お集まりの紳士諸賢、淑女の皆様」

 

「これより藤丸立華が語りますは一人の男女の童歌」

 

「清聴して頂くと幸いです」

 

 深雪の事が気になるのか、チラチラこちらを伺っていた教室にいる生徒達がこちらを向く。 

 雰囲気が変わって来た。

 

「では歌います。お聞きください」

 

「和歌山県に伝わる手毬歌。童歌【道成寺】」

 

「♪~」

 

 笛を吹く。

 とても綺麗な音色。

 皆が聞きほれる。

 前奏が終わると、笛から口を放す。

 そして歌う。

 

「トントン、お寺の、道成寺」

 

「釣鐘(つりがね)下ろいて、身を隠し」

 

「安珍清姫、蛇(じゃ)に化けて」

 

「七重(ななよ)に巻かれて」

 

「ひとまわり。ひとまわり」

 

「♪~」

 

 再び笛を吹く。

 そして

 

「トントン、お寺の、道成寺」

 

「六十二段の階(きざはし)を」

 

「上り詰めたら仁王(におう)さん」

 

「左は唐銅(からかね)」

 

「手水鉢(ちょうずばち) 手水鉢」

 

「♪~」

 

 そして、笛から口を放す。

 優雅に礼をする。

 

 生徒達の反応を伺うと皆呆然としている。

 

「……下手だった?」

 

 近くにいる4人に確認を取ると。

 

「ううん。上手」

「はい。とてもお上手でした」

「上手かった」

「また聞きたいです」

 

 好評な評価だった。

 ではなぜ?

 首を捻っていると。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「?」

 

 そこに近づいて来たのは1人の少年。

 

「ああ。申し遅れた。僕は森崎駿だ。歌と笛はとっても上手かった」

「おう。ありがとう」

「でも……」

 

 一拍置くと続ける。

 

「どうしてその選曲に?もっと良い曲あっただろう?」

 

 森崎の言葉にレイナ以外全員が頷いた。

 それに立華は答える。

 

「相棒のリクエストだし」

 

「それに」

 

「皆に知って欲しかったから」

「「「「「「?」」」」」」

「嘘を付いたら、鐘に詰められて焼かれるよって」

 

「それと」

 

「ゲームのネタバレをしたら、樽に詰められてインフェルノっていう事もありえる」

 

「何が相手の逆鱗に触れるかわからない」

 

「だから皆も注意してね」

「「「「「「「……」」」」」」

 

 全員が何も言えなくなってしまった。

 そんな中雫がポツリと呟く。

 

「とりあえず……」

「「?」」

「安珍の安否が否よりなのはよくわかった」

「「確かに!」」

 

 ほのかと深雪が同意した。



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第五節:いざこざ

 歌のおかげ(?)でクラスメイトに受け入れられた立華とレイナ。

 そういうわけでクラスメイトで集まって授業の見学をしたりする。

 ある程度話す仲にはなれた。

 そして、昼食の時間となり。

 

「深雪はお兄さんと食べるんだって」

「……へえ」

 

 立華はレイナ、雫、ほのかと一緒に昼食を取っていた。

 2人で食べようと食堂に向かっていた所で、ほのかと雫に誘われたのだ。

 

「まあ兄妹仲良いのいい事だ。なあ?相棒」

「うん。兄弟姉妹、殺し合い、目、当てられない」

「こ、殺し合い!?」

「冗談」

「……冗談に聞こえない」

 

 そんな感じで会話を繰り広げていたのだが。

 ふと騒ぎが耳に入る。

 そこを向くと、二科生の生徒と一科生の生徒がいた。

 その中に、深雪と少年……先程話しかけてきた人がいた。

 

「何?争い?」

「……一科と二科の争いだな。も……モブ何とかだっけ?そいつが侮辱してる」

「「プッ」」

 

 名前を忘れた立華である。

 そのあんまりな呼び方に雫とほのかが噴き出す。

 

「聞こえるの?」

「耳を澄ませばな」

 

 雫の問いに答える。

 

 五感強化は魔術でも基本。

 ”生前”は使えなかったため、とある魔術師に呆れられたが、”今”は使える。

 ……まあインチキをしているからなのだが。

 

 そのうち、席に座っていた男子生徒の1人が席を立ってしまった。

 その人物を「お兄様」と呼ぶのが聞こえる。

 

「(アレが司波達也……か)」

 

 雰囲気でわかる。

 只者ではない。

 

「(凄いね。何であんなの高校にいるんだろう)」

 

 まあ自分も人の事は言えないが。

 そんな事を思っていると。

 

「リッカ」

「どうした?」

 

 レイナが立華の制服の裾を引っ張る。

 

「これ、争い、なる?」

「う~ん……」

 

 レイナの言葉に彼らを観察する。

 森崎をはじめとするあの面々の一科生は二科生を見下している。

 「お兄様」筆頭の二科生は喧嘩早そうなのが2人程いる。

 赤毛の少女と背が高めのゲルマン風の少年だった。

 このままでは不味いかもしれない。

 だが。

 

「今は大丈夫そう、お兄様も引いたし」

 

 今回は達也が席を立つ事で収まった。

 ……深雪は結構不満そうだったが。

 その様子に気づかない一科生。

 

「今は……ですか?」

「うん。この調子で何度か続くと、どちらかがプッツンするんじゃないかなって」

「確かに」

 

 ほのかの疑問に答え、それに同意する雫。

 

「……まあどちらもそこまで愚かでない事を祈ろう」

「「「……」」」

 

 立華が明るく言った言葉に黙り込む3人だった。

 

 そして。

 その願いは。

 

「いい加減にしてください!どうしてそんなにしつこく引き留めるんですか?」

 

 叶わなかった。

 

「予想、当たり」

「当たったけど、ちっとも嬉しくない」

「あはは……」

 

 立華の予想は的中。

 昼食からいざこざがちょくちょくあり、放課後についに争いになってしまった。

 お兄様と帰ろうとした深雪を引き留める一科生と二科生の争いになってしまった。

 

「それでこれどうするの?」

 

 雫の疑問に立華は考える。

 

「(できることなら、スルーしたいけど……)」

 

 何か嫌な予感がする。

 止めても、止めなくても。

 どちらを選んでもろくでもない事になる気がする。

 

「どうするか……」

 

 そんな事を思っていると。

 

「どれだけ優れているのか、知りたいなら教えてやるぞ!」

「ハッ、おもしれえ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」

 

 ゲルマン風の少年とモブ何とかが売り言葉に買い言葉で一触即発になる。

 これは不味い!

 

「リッカ!」

「わかってる!」

 

 自身のレイナ(マスター)の言葉に答える立華(サーヴァント)

 

―――■■・■■■■■

 

 クラススキル発動。

 彼以外の■■■■も持っているスキル。

 それぞれ”自身の在り方”がスキルになっている。

 

 「憐憫」はサーヴァントに寄る攻撃の一切を否定・破却する。

 「回帰」は現在の進化論、地球創世の予測をことごとく覆す。

 「快楽」は自身の世界のみを救世。

 

 そして、立華……「■■」はあらゆるスキルを獲得できる。

 ……簡単に言えば〈皇帝特権〉のウルトラ上位版。

 

 通常7クラスのスキルやエクストラクラスのスキルすら使い。

 一部のサーヴァントしか持たないスキルや、肉体面の負荷スキルすら使用し。

 そのサーヴァントしか持たない固有スキルやid_es(イデス)すら使用可能。

 ……それ以外にも色々できるが、今は割愛。

 

 今回獲得したのは……。

 

「だったら教えてやる!」

 

 モブ何とかが腰の拳銃型CADを抜こうとし。

 ゲルマン風の少年が突進を仕掛け。

 赤毛の少女が警棒型のCADを振るおうとした。

 

 その瞬間。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 全員が絶句。

 そこにはいつの間にか立華がいた。

 片手で拳銃型を捻り上げ。

 もう片方の手で、警棒を掴む手を押さえている。

 そして、足で少年の突進を制していた。

 

「ふう。間一髪」

 

 彼が獲得したのは〈縮地〉。

 多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。

 魔法は一切使っていない。

 

「はい。そこまで」

 

 立華が努めて明るく言う。

 そこへレイナも近づいて来て。

 

「両者、矛、収めて。殺し合い、良くない」

「いやいや、まだ殺し合いにはならないだろう?」

「虐殺、蹂躙、殺人。起こる、切っ掛け、些細な事」

「……それはそうだが。まあ今回は両者多少の怪我で済むんじゃない?」

「それ、わからない」

「……まあ、それはともかく」

 

 そう言って彼は穏やかな表情から、真面目な表情になった。




■■・■■■■■(EX)

■■■■◆としてのスキル。皇帝特権のウルトラ上位版。ありとあらゆるサーヴァントのスキルを獲得・使用・消去できる。無論肉体面の負荷(神性、戦闘続行等)や技術(新陰流、中国武術等)すら獲得し、使用し、使わない物は消去できる。消去した物は再び獲得可能。
――――――現在は閲覧不可――――――


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第六節:森崎駿

「さて、ええと……」

 

 そう言って拳銃と警棒から手を放し、足を元の態勢に戻す。

 まず拳銃型CADを向けている相手に向く。

 

「……確か」

 

 生徒の名前が名前が出てこないらしい。

 そこへレイナが。

 

「モブ何とか」

「そう!それだ!」

「違う!僕の名前は森崎だ!森崎駿だ!」

 

 あまりに酷い名称を出す。

 それを否定するモブ何とか…改め、森崎。

 そのあんまりな名称に二科生達や深雪は笑いを堪えている。

 ……それに気づかなかったのは森崎にとって救いだろうか。

 

「そうか。わかった」

 

「じゃあ気を取り直して。森崎」

 

「言いたい事が二つ程ある」

 

 真剣な表情に戻る。

 

「まずCADを相手に向けるのはやめた方がいい」

 

「武器を向けたと言う事は」

 

「向けられる覚悟をしなければならない」

 

「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけって奴さ」

 

 そう言って赤毛の少女とゲルマン風の少年に目を向け。

 

「この2人には覚悟があった。お前にはあったのか?」

 

 ギロリと睨め付ける。

 

「そ、それは……」

「ないだろう?少なくとも今はない。あるとかほざいたらその時は……まあいい」

 

 一拍置き、話を切り替える。

 表情が少し穏やかになる。

 

「そして。これが本題」

 

「自分と他人を比べない方がいい」

「!?」

 

 立華の言葉に目を見開く森崎。

 

「人は皆得意分野がそれぞれある」

 

「例えば毒殺が得意、射殺が得意、呪殺が得意。こんな風に人には得意分野がある」

「リッカ、リッカ。例え、悪すぎ。偏り、酷すぎ」

「……そう?」

 

 レイナの注意に首を捻る。

 言われてみると暗殺系しか上げてない。

 なので赤毛の少女とゲルマン風の少年の方を向き、尋ねる。

 すると2人共揃って首を縦に振る。

 ……その後、意見が一致したのが気に食わないのか睨み合う2人。

 それに構う事なく、森崎の方を向き直し。

 

「だから、自分より成績が劣っている者を見下すことで」

 

「自分のプライドを支えようとするのはやめた方がいい」

 

「もし何かで抜かれた時にそのプライドは砕け散るよ?」

 

「そして。……それをやめれば色々変わると思う」

 

 そう言って彼は後ろの方に視線を向けた。

 

「と騒ぎはこれで終幕。と言いたいところですけど……、無理ですかね?」

「その通りだ」

 

 立華の言葉に答える者がいた。

 その方向に全員が視線を向けるとそこには2人の女生徒がいた。

 少し背の高めの短髪の少女と背が低めの長髪の少女。

 背が低めの方は入学式で見かけた生徒会長の七草真由美だった。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。校門前で騒ぎがあると報告があり、駆けつけた」

 

 その言葉に数人が固まる。

 何らかのペナルティがあると思ったのだろう。

 だが。

 

「未遂で終わったのは間違えないが、話を聞k」

「摩利。今回は魔法発動もなかったし、これでいいんじゃないかしら?」

「真由美……」

 

 七草が渡辺を嗜める。

 

「説教をしてくれたみたいですね。……ええと名前は?」

「藤丸立華です」

「そう。貴方が……」

「……そうか。覚えておこう」

「結構です」

「!?」

 

 名乗りに対して上級生2人はそれぞれ反応を取る。

 何か知っている風の七草。

 そして渡辺はそれに対するあんまりな返答に絶句する。

 一方七草は。

 

「……アハハハハハハ!」

 

 笑い始める。

 

「ああ可笑しい……。本当に貴方変わってるわね」

「……おい、どういうことだ」

「彼……藤丸君はね、筆記・実技共に総代になった司波さんとほぼ同等だったのよ。正確に言えば、筆記は深雪さんが僅かに上、実技は藤丸君が上だったけど」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 七草の言葉に驚く一同。

 驚いていないのはレイナ位である。

 

「だからどちらが総代にするか、迷ってたのだけど、彼は断ったの。何でも……」

 

『面倒』

 

「ですって。その一言で断ったそうよ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 あんまりな言葉に一同絶句する。

 していないのはレイナ位だった。

 彼女が口を開く。

 

「しょうがない。リッカ、本質、面倒くさがり」

「あら、あなたは確か……鷹山レイナさん?」

「そう。わたし、知っている?」

「ええ。貴方も司波さんや藤丸君に匹敵する成績だったから」

「恐縮」

 

 レイナの言葉に軽く微笑み七草は続ける。

 

「じゃあ、これで解散しましょう」

 

「でも」

 

「次はありませんからね?」

「……はあ。言いたい事はまだあるが、真由美が言うならしょうがない。次はないからな」

 

 そう言って去っていく上級生2人。

 

 暫くして森崎が起動する。

 立華の方を向き。

 

「認めないぞ!藤丸!次は負かしてやる!」

「まあ頑張れ。応援してる」

「……フン!」

 

 そう言って去っていく森崎。

 すると残りの一科生もバラバラと去っていく。

 ……レイナと雫、ほのか、深雪を除き。

 

 そして立華は残った面々に声を掛ける。

 

「アイツも悪い奴じゃないんだよ。ただ、人格がちょっと駄目人間で、おまけに自分より成績が下の人間に対して調子ぶっこいているだけで」

「悪い奴じゃない、そう言ったって、何もかも、フォロー、できない」

「そだね。じゃあ前言撤回。アイツは良い奴じゃないんだよ。足りない魔法力をテクニックで補っているけど、そこまでじゃなくて、プライドだけは持ってる」

「……言いすぎな気がするんだが」

 

 立華とレイナのあんまりな言葉に思わずツッコミを入れる司波達也。

 

「うん?そうか?どう思う?」

 

 その言葉に相棒以外の人達……雫、ほのか、深雪の方を向き聞くと。

 

「指摘は的確ではあると思う」

「はい!私もそう思います!」

「……はい」

 

 三者三様で肯定した。



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第七節:放課後

 その後、名前を知らない面々がいたので、互いに自己紹介。

 そして、皆で一緒に帰る事になった。

 こういうのは……。

 

「学生、らしい?」

「ん?まあそうだな。学生らしいことだな」

 

 レイナの言葉に立華は肯定。

 因みに立華の腕に恋人のように掴んでいるレイナである。

 ……こういうスキンシップはしょっちゅう取る2人。

 

「これで付き合ってないの?」

「相棒だそうよ?」

「相棒ね……」

 

 深雪の答えに赤毛の少女……千葉エリカが納得していない表情で言う。

 

「どう見ても恋人同士にしか見えないんだけど……」

「友達、恋人、家族。それ以外、関係、色々」

「例えばどういうのでしょう?」

 

 眼鏡の少女……柴田美月の疑問にレイナは答える。

 

「相棒、主従、いい例。後、……肉体だけの関係、とか?」

「「「「「「ブッ!」」」」」」

 

 余りの言葉に全員噴き出す。

 ……達也だけは噴き出さなかったが。

 

「冗談」

「そういうのやめい」

「……ごめん」

 

 しょぼんと落ち込むレイナ。

 その様子を見た立華は軽くレイナの頭を撫でながら、フォローする。。

 

「すまないな。コイツあんまり同年代との会話に慣れてないんだ。だから偶に突拍子もない事を偶に言うんだ。……まあ俺も人の事言えないけど」

「……皆さん、ごめん」

 

 頭を下げる2人。

 

「気にすんなよ。失言くらい誰だってあるさ」

 

 そう言ったのはゲルマン風の少年……西城レオンハルト。

 

「そうよ。……コイツに同意するのは癪だけど」

「なんだと!」

「なんですって!」

 

 エリカも同意。

 一言余計な事を言ったため、争いとなる。

 そんな2人を見て、レイナは立華に尋ねる。

 

「これ、獅子、紳士、同じ。喧嘩するほど、仲いい?」

「うん。合ってる」

「「合ってない!」」

「本当に、本当に……仲が悪いのならさ」

 

 すっと目付きが細くなる。

 

「殺し合いになるからな」

「「「「「「……」」」」」」

「どっちかが死ぬまで止まらない殺し合いに」

 

 立華の余りの言葉に全員黙り込んでしまう。

 

 そんな中話題を変えようと、出たのはCADについてだった。

 エリカのCADが変わっているという話題だった。

 刻印式で、サイオンの消費が激しいはずなのだが、「兜割」の要領で使いこなしているそうだ。

 それに立華は食いついた。

 

「へえ。やっぱり剣使えるんだ」

「まあね。……でもそっちもでしょ?」

「あ、わかる?」

 

 ニコリと笑う立華。

 

「うん。だって立ち振る舞いとか、隙がないし」

「アハハハ」

 

 エリカの言葉に声を上げて笑う立華。

 彼は本来は弱いが、スキルや宝具をセットして、常に戦えるようにしている。

 その気になれば、三騎士やハイ・サーヴァント共渡り合える。

 

「そっちだってそうじゃない?」

「……へえ。どこまでわかる?」

 

 エリカの声のトーンが下がる。

 それに立華は答える。

 

「う~ん。まずその警棒は……この得物は使い慣れてはいる」

 

「でも本来の得物は違う。……もっと長い」

 

「身長以上の刀。……物干し竿って奴?」

「……へえそこまでわかるんだ」

 

 笑みを浮かべるエリカ。

 だが、眼はちっとも笑っていない。

 

「それで?そっちは?」

 

 自分の事は語ったのだから、そっちも語れ。

 そう目が言っていた。

 なので、答えようとすると。

 それより先にレイナが口を開く。

 

「立華。節操、なし」

「どういうこと?」

「色々。手を出している」

「……例えば?」

 

 妙な事を言い出したレイナにほのかが尋ね、雫が具体例を尋ねる。

 

「例えば、剣。柳生新陰流、巌流、二天一流、西洋剣術、天然理心流。他にも色々」

「……え」

 

 出てきた流派に唖然とするエリカ。

 どれも有名だからだ。

 

「……」

「お兄様……」

 

 そして全部知っている達也も驚きを隠せないようだ。

 それに驚く深雪。

 

「ん?なあ剣で上げたと言う事は他にもあるのか?」

「その通り」

 

 レオが気になったのか、尋ねた疑問に答えるレイナ。

 

「槍。宝蔵院流、六合大槍、スパルタ、ケルト、ランス」

 

「弓。日本、東洋、西洋」

 

「素手。カラリパヤット、ルチャリブレ、八極拳、パンクラチオン、ヤコブ、ファラオ、バリツ」

 

「エトセトラエトセトラ。上げるとキリない」

「とは言っても全部真似事だからさ」

 

 レイナの言葉に補足する立華。

 だが、全員驚いている。

 ……よくわからないのが混ざっていたが、それは気にならなかったらしい。

 皆が沈黙する中、美月が尋ねる。

 

「あの……、どうしてそんなに手を出したのですか?」

「う~ん……何でだろう?」

 

 首を捻る。

 そして、軽く笑って続ける。

 

「……このままじゃいけないって思ったからかな?」

「「「「「「……」」」」」」

 

 全員沈黙する。

 そんな中、レイナが口を開く。

 

「わたし、パンクラチオン、少し、習った」

「……ああ。先生も言っていたな。スジがいいって」

 

 どうやら彼の師に彼女も習っていたらしい。

 

「先生、教えるの上手い。……あの紫、大違い」

「あの人はなあ……」

「「紫?」」

 

 レイナの言葉に首を捻るレオとエリカ。

 それに説明する立華。

 

「ああ、槍とかルーンを習った人でね、すっごいスパルタなんだよ」

「あれ、ダメ。弟子、死ぬ」

「まあ、死ぬ人はそんなにいなかったね。……そのせいか先生とは違って、あんまり慕われてはなかったなあ」

 

 ケラケラ笑う立華に全員ある事を思う。

 ―――一体どんな人なんだ?

 ……彼らが「紫の人」と会うのは結構先になる。

 

 すると今度は達也が口を開く。

 

「立華。ルーンを使えるのか?」

「いくらかは。あくまで真似事」

 

 そう言って立華は軽く指を空中に躍らせ。

 

「アンサズ」

 

 言葉を唱える。

 すると空中に炎が出る。

 

「こんな感じ」

「……うわあ」

「凄い」

「どうも」

 

 優雅にお辞儀をする立華だった。

 

 その後も他愛ない話をして帰宅する彼らだった。



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第八節:兄と妹

 ここは司波家。

 達也と深雪が暮らしている家。

 母はこの世におらず、父は愛人の元に入り浸りであるため、ほぼ2人暮らし。

 そんな状態であるが、この2人はこの2人暮らしを楽しんでいた。

 

 ところが、この日達也の顔は優れなかった。

 考え事をしているようだった。

 それに対して、心配しながらもお茶を入れたりしていた深雪だったが。

 

「……お兄様」

 

 暫くして耐え切れなくなったのか。

 

「考え事中申し訳ございませんが、お聞きしても宜しいでしょうか?」

「……ああ。何だい?」

「お兄様は一体何を考えていらしたのですか?」

「……」

 

 深雪の問いに、達也は黙り込んでしまった。

 が、暫く沈黙の後。

 

「あの2人の事だ」

「あの2人……?」

 

 深雪が首を捻る。

 どうやら思い至らないらしい。

 それに達也は答える。

 

「ああ。立華とレイナだ」

 

 深雪がクラスメイトであるあの2人を思い浮かべる。

 

 鷹山レイナ。

 

 真っ白な首元辺りまで伸びた髪の毛と、アルビノと見まがうような白い肌を持つ少女。

 ただ、それ以外は日本人的な少女。顔立ちも日本人である。

 今の時代クォーターやハーフの人は魔法師では珍しくないため、髪の毛が日本人的でない人は珍しくない。

 エリカも赤毛なうえ、新入生でもっと明るい赤毛の生徒(後に明智英美と言う名を知った)がいた。

 だからこそそこまで目立ってはいない。

 ……まあ口調は結構独特だが、そこはご愛敬だろう。

 

 藤丸立華。

 

 レイナの白とは違い、色褪せたような白い髪の毛に、浅黒い肌を持つ少年。

 そのせいか、少し目立っており、若干近寄りがたい感じだった。

 だが、一曲歌ったおかげか、いつの間にか皆と打ち解けていた。

 結構親しみやすい感じだった。

 ……ちょっと変わった感じはあるが。

 

「あの2人が何か?確かに少し変わった2人でしたが……」

「気になる事があってな……」

 

 そう言って達也は深雪に説明する。

 

「まずあの2人の成績だ」

「成績上位だったそうですよね」

「ああ。まさか深雪と同等とはな……」

 

 Aクラスにいるのだから、成績が低いわけではないのはわかっていた。

 だが、あそこまでとは思わなかった。

 そして。

 

「立華のあの体術」

「エリカを見ただけで使う武器とかがわかっていましたね」

「ああ。でもそれだけじゃない」

 

 あの一瞬で間合いを詰めた歩法を思い出す。

 

「あれは縮地だ」

「縮地と言いますと確か武術や武道の……」

「ああ。単純な速さだけではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角等が合わさって完成する物なんだが……」

 

 それを彼は使いこなしていた。

 

「俺も似た事はできるが、アレはそう簡単に使いこなせる物じゃない」

「……つまり彼は警戒するべきだと?」

 

 深雪の深刻そうな顔に達也は苦笑する。

 

「いや。そこまでは言ってないよ」

 

「クラスメイトだ。仲良くするといい」

 

「でも、何かあったら……」

「はい。お兄様に報告します!」

 

 元気に言う深雪を微笑ましそうに見つめる達也だったが。

 

 実はもう1つ気になる事があった。

 それは。

 

「(俺はアイツに悪感情を抱けなかった)」

 

 今思い返して見る。

 彼は少し変わった所や若干発言がおかしかったりしたが、そんなに気になったり避けようとする気は起きなかった。

 他の面々もそうだった。

 

「(何かしらの精神干渉を使っていた?そんな兆候はなかったが……)」

 

 考えても思いつかない。

 なので。

 

(「明日にでも師匠頼んで調べて貰うか」)

 そんな事を思っていた。

 

 ◆◆◆

 

 次の日。

 達也はいつものように九重寺で稽古をする。

 深雪も一緒だ。

 そして、いつものようにこの寺の住職の九重八雲にボコボコにされ、その後朝食を取っていた。

 

「いやあ、本当に深雪くんの料理は美味しいね」

「ありがとうございます」

 

 八雲が深雪の作った料理を褒めている中。

 達也が切り出す。

 

「師匠。調べて欲しい事があるのですが?」

「うん?何をだい?」

「藤丸立華と鷹山レイナという深雪の同級生の事なのですが」

 

 その名前を出した瞬間。

 達也が注意深く八雲の様子を伺っていたからこそ分かった。

 深雪は気づかなかっただろう。

 ほんの一瞬だけ八雲の表情が凍り付いたのが。

 

「…ああ。わかった。調べておくよ」

「……いいのですか?」

「ああ。今回はサービスさ」

 

 そう言って笑う八雲だった。

 この時にはいつも通りだった。

 

(「気のせいか……?」)

 

 この時はそう思っていた達也だった。

 

 そして、学校へ行くために一旦家に戻った2人だった。

 

 そして登校していると。

 

「達也、深雪、おはよう」

「おはようさん」

 

 話に出した2人が現れる。

 2人一緒だった。

 ……しかも手をつないでいた。

 

「おはよう」

「おはようございます」

 

 それに気にせず挨拶を返す達也と深雪。

 そのまま4人で登校する。

 道中、エリカ、レオ、美月も合流して、合計7人の大所帯で学校に向かっていた。

 すると。

 

「リッカく~ん、達也く~ん」

 

 聞き覚えのある声がした。

 それはこの学校の生徒会長の七草だった。

 なぜ2人の名前を呼びながら、こっちに向かってくる。

 名前で呼ばれているため、周囲の視線が痛い。

 嫌な予感もする。

 なので。

 

「レイナ!」

「ん!」

 

 立華はレイナをお姫様抱っこする。

 そして、こちらにやってきた七草に。

 

「失礼します!」

「え!?」

 

 そう言って、彼は跳躍。

 そのまま逃走。

 あっという間に向こう側に行ってしまった。

 

 それを呆然と見つめる目撃者一同。

 そして。

 

「「「「「「早!?」」」」」

 

 この場の全員がツッコム。

 誉めたくなるくらいに見事な逃走だった。

 

 それに暫し呆然としていた七草だったが。

 

「もう。失礼しちゃうわね。声掛けただけで逃げるなんて」

 

 そう言って達也の方を向く。

 

「達也くんは逃げないわよね?」

 

 笑顔で言う。

 それに頷くしかない達也。

 

 彼女の要件は達也と深雪に生徒会室で昼食を一緒にしないかと言う事だった。

 何か話があるらしい。

 ひとまず伝え終わった七草は深雪の方を向き。

 

「深雪さん。あの逃げた2人に伝えてくれる?お昼に生徒会室に来るようにって」

「は、はい」

 

 これに頷くしかない深雪だった。

 ……七草の目は若干座っていた。




魅了(偽)(B)

保有スキル。魅了系スキルに近い物。例えどんな人間であろうとも、彼に嫌悪感や悪感情を抱けなくなる。敵対者とは思わせないことや、敵と仲良くなることも可能。抗うには強固な意志が必要。


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第九節:昼食

 深雪が自分の教室に行くと、そこには見事な逃走を果たした2人がいた。

 先に登校していた雫とほのかと話している。

 深雪を確認すると、2人共いたずらが見つかった子供のようになった。

 そんな2人に七草の伝言を伝えると。

 

「早退したい」

「同意」

「……2人共」

 

 すっごく嫌そうな顔で答える。

 気持ちはわかる深雪である。

 

「絶対、面倒事」

「だよなあ」

 

 溜息を吐く2人。

 

「リッカ。帰ろう?」

「それがいいような気がするな。俺の勘が言ってる」

「じゃあ、早退?」

「ダメだと思いますよ?」

「逃げたら。また後日になるよ?」

「あの会長でしたら、放送とかで呼び出す可能性もありますよ?」

「「……」」

 

 ほのかと雫、深雪の言葉。

 それに立華とレイナは沈黙。

 そして。

 

「しょうがない。行くか」

「でも、面倒事、嫌だ」

「そしたら、吹き飛ばせばいい。物理的に」

「そうか。そうだね」

「「「ダメですよ!?」」」

 

 立華が出した意見とそれに同意するレイナにツッコム3人。

 

「冗談……にしたい」

「したい!?」

「大丈夫大丈夫。死人は出ない」

「死傷者を出す気ですか!?」

「殺さない、半殺し」

「え!?」

「「冗談。アッハッハッハ」」

 

 笑う2人に沈黙してしまう。

 

「(だ、大丈夫なんでしょうか?)」

 

 昼休みが来るのが怖くなってきた深雪だった。

 

 とは言っても時間を止めたり、ゆっくりにすることは深雪には出来ない。

 そのため、昼休みは来てしまった。

 予鈴が鳴った瞬間に逃げようとした立華とレイナをほのかと雫、森崎(協力してくれた)で何とか捕まえ、合流してきた達也と一緒に引きずって行く。

 達也が立華を掴み、深雪がレイナを引きずる。

 ……そのせいで目立ってしょうがない。

 視線が痛い。

 

「放してくれ~」

「放せば、わかる」

 

 引きずられながら、平常運転の2人。

 

「それを言うなら「話せば」だ。それにそれ言った人は問答無用で殺されているぞ?」

「確かに」

「これはちゃんと言った言葉らしいよね」

「どういう事ですか?」

「歴史上の偉人とかってさ、言っていないのに言った事にされてる言葉があるらしいし」

「……なるほど」

 

 そのような会話をしている内に生徒会室に辿り着いてしまう。

 

「覚悟、決めなきゃ」

「是非もなし」

 

 何とか態勢を整え、呼吸を整える2人を後目に深雪はドアホンを押す。

 

「どうぞ。入っていいわよ~」

 

 入室の許可が出たので、4人で入室。

 席に付き、昼食となる。

 

 ダイニングサーバーがあり、達也と深雪は精進、立華は魚、レイナは肉を頼む。

 料理を待っている間に軽い自己紹介が行われる。

 

「まず私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

 

 整ってはいるが、顔の各パーツは少しきつめの印象で、背が高く手足も長く、美少女というより美人と表現するほうが相応しい容姿である少女。

 リンちゃんは似合わない気がする。

 

「そう呼ぶのは会長だけです」

「じゃあ、わたし、呼んでいい?」

「いいわよ!」

「……何で会長が返事をするのですか!?」

 

 レイナの言葉になぜか返事する七草。

 その言葉にツッコミを入れる市原だった。

 

「そして、摩利は紹介したから」

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

 中学生に見えるくらいの小柄な童顔の少女。

 こちらはぴったり。

 

「会長……。お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください!私にも立場というものがあるんです!」

「立場?なさそう?」

「酷いです!?」

 

 レイナの言葉に突っ伏すあずさ。

 

 そんなレイナに深雪が指摘する。

 

「あの……レイナ」

「何?」

「貴方は何か言わなきゃ気が済まないの?」

「言った方、いいかな、て」

「言わない方がいい事もあるんだよ」

「そう」

 

 立華の言葉に頷くレイナだった。

 

 そんな感じで話していると、料理が出来上がる。

 なので食べ始める。

 他愛ない話をしていたのだが、そんな中。

 レイナが渡辺の方を向き尋ねる。

 

「渡辺」

「レイナ。先輩を付けろ。失礼だ」

 

 レイナの言葉使いに立華が注意する。

 

「先輩」

「遅れたな……。まあいい。何だ?」

「弁当、自分、作った?」

「ああ。意外か?」

「全然。強い人、料理、美味い場合、多い。おかん三人衆、料理、プロ級」

 

 渡辺のからかうような笑みにレイナが間髪入れずに答える。

 その発言に深雪が尋ねる。

 

「何?おかん三人衆って」

「おかあさん、みたいな、3人。強い、料理上手い、特に、1人、ヤバイ」

「……そうなの?」

「うん。完全、狂人。悪い人じゃない。でも、狂人。とっても強い、そして、狂ってる」

「三度言うほどに!?」

 

 どんな人なんだろうとこの場の全員が思った。

 ……彼らが会う事になるのは結構先である。

 

 その後、達也と深雪も弁当について話始める。

 

「私たちも、明日からお弁当にいたしましょうか」

「それはとても魅力的だが、食べる場所がね……」

「そうですね、まずそれを探さなければ……」

 

 恋人のような雰囲気を醸し出す2人。

 

 そんな会話を見たレイナが立華の袖を引っ張る。

 

「わたし、弁当、食べたい」

「おう。いいぜ。じゃあ明日は弁当にするか?」

「うん。嬉しい」

 

 こちらも恋人のような会話であった。



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第十節:沈没と要件

 そんな中。

 

「まるで恋人同士のようですね」

 

 市原の発言。

 普通人なら赤くなりそうな言葉。

 

 だが聞かれたのは普通ではない4人。

 

「そうですか?兄妹じゃなければ恋人にしたいと思った事はありますが……」

「まあ、そんな……」

 

 達也が冷静に答える。

 それに顔を赤らめ嬉しそうな深雪。

 

 この2人の反応に少し赤くなる市原。

 

 一方。

 

「俺達は相棒なので。なあ」

「ねえ」

 

 立華も冷静に答え、それに同意するレイナ。

 こちらも赤くはならなかった。

 

 それに少し意外そうな顔をする市原。

 そして気になったのか尋ねる。

 

「相棒……ですか?」

「ええ。相棒」

 

 そう言って立華は軽くレイナを抱き寄せる。

 それに抵抗せず、素直に立華に身体を寄りかからせるレイナ。

 それを見た数人の顔が赤くなる。

 

「……どう見ても恋人にしか見えないんだが?」

「そうですか?……もしかして渡辺先輩の恋人はこういう事してくれないとか?」

「……そ、そんな事はない!シュウは……」

 

 途中まで言って自分が何言ったか気づく渡辺。

 小さくなって、赤くなり、黙り込んでしまった。

 代わりに続けたのは七草。

 

「まあそこの恋愛雑魚は置いておいて……」

「誰が恋愛雑魚だ!?」

「恋人がいたことない会長に言う筋合いはないと思いますよ」

 

 市原のボディブローのような一撃で撃沈する七草。

 しょうがないので、深雪が続ける。

 

「お2人が仲良すぎるように見えるのですよ」

「人の事、言えない。一見する、2人、どう見ても、一線、超えてる」

「!?」

 

 レイナの一撃に深雪も沈む。

 

 未だ無事なのは、達也と市原のみ。

 

 中条?

 赤くなってあわあわしているので、カウントできない。

 

 そんな恋愛雑魚な彼女らに立華は苦笑しながら話す。

 

「まあ確かに一見すると、恋人に見えますけどね。恋人のような事をしてますし」

「……具体的には何を?」

 

 勇気を持って市原が尋ねる。

 それに対して立華は彼女に近づき。

 

「耳を借りても」

「?。ええ……構いませんよ」

 

 耳打ちする。

 顔と耳までが真っ赤になった市原もショート。

 残りは達也だけになった。

 

「でも何て言えばいいのかな?」

 

「恋人や友人とは何か違う気がしてね。相棒なんだよ」

 

「そうだな……。具体的に言うなら」

「アン、メアリー」

「そうそう。それそれ」

 

 レイナが出した例に頷く立華。

 確かにあの2人の関係がぴったりだろう。

 

「アン?メアリー?誰だ?」

 

 何とか復活した渡辺が尋ねる。

 それに立華が答えようとすると。

 達也が先んじて聞いて来た。

 

「もしかして、アン・ボニーとメアリー・リードの事か?」

「流石お兄様」

「……誰がお前の兄だ」

 

 立華の冗談にツッコミを入れる達也。

 そんな達也に復活した七草が尋ねる。

 

「……それ誰なの?」

「十八世紀頃の大海賊時代に活躍していた女海賊ですよ」

 

 達也が説明する。

 物知りな彼は知っていた。

 

「カリブ海を荒らしまわった女海賊の2人組です」

「……へえ、そうなの。物知りね達也くん」

 

 七草が感心する。

 そんな中、何とか顔の色が戻った市原が立華に尋ねる。

 

「なるほど。でもなぜその2人を例に?」

「一番、しっくり、来る」

「……」

 

 レイナの答えに黙り込む市原。

 

「(なぜ、その2人を例に?もっと他の例がある気がするのですが……)」

 

 まさか市原も本人達に会ったからとは思えなかった。

 

 そんな中。

 立華が話題を変える。

 

「そういえば、なぜオレ達は呼ばれたのでしょう?」

「ああそれね。……忘れるところだったわ」

 

 そういって七草が深雪の方を向く。

 話し始める。

 

 何でも首席に選ばれた人は生徒会に入ることになるそうだ。

 だからこそ深雪が呼ばれたらしい。

 直ぐに引き受ける深雪。

 そして、成績優秀な兄も入れないかと聞いて来たが、それは却下されてしまった。

 ……だが、その時渡辺が面白そうな笑みを浮かべたのは立華以外は気づかなかった。

 

 そして、七草は立華の方へ向き要請する。

 

「次席である貴方には風紀委員へ」

「面倒」

 

 前と同じ理由で拒否する立華。

 轟沈する七草。

 それを聞いた渡辺が援護射撃する。

 

「風紀委員は名誉ある職だ、それにCADの持ち込みが許される」

「名誉はいりませんし、CADは普段は使ってないので」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 立華の答えに一同驚愕。

 今の時代にCADを使わない?

 そんな馬鹿な……。

 

「じゃあお前は魔法の発動に何を使ってるんだ?」

「うん?達也と深雪には昨日見せただろ?アレと……」

 

 達也の疑問に上着の前をはだけさせる立華。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 一同再び絶句。

 なぜなら上着の一面には符が貼られていた。

 因みに上着の裏以外も、あちらこちら符に仕込みがある。

 

「これ」

「だが、……古式は魔法の発動が遅いだろう?」

「それを言うならCADだって操作する隙がある。それに体術の型の中に魔法を発動する結印の動作を混ぜてるし」

「……なるほど」

 

 達也が納得する。

 どうやら”彼の同僚”の1人である「彼」と同じタイプらしい。

 彼も基本的にはCADを敬遠している。

 特化型CADは認めているが。

 なので。

 

「特化型はどうだ?」

「……ああ。特化は使う時もある。いつもは持ってないけど」

「アレ、目立つ」

「うん」

 

「(目立つ?大型武器の形状でもしているのか?)」

 

 そんな事を思う達也だった。

 ……後に達也は語る。

 

「まさかあんな形状だとは。確かに目立つ」



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第十一節:前兆

 そこへレイナが意外な事を言い出す。

 

「リッカ、やってみたら?」

「え?」

「だって、制圧、殲滅、お手の物」

「……ほう。やっぱり荒事に向いているらしいな」

「……やりませんよ?」

 

 渡辺が嬉しそうに言う。

 それに嫌そうな立華。

 それに更に畳みかけるレイナ。

 

「風紀委員、合法的、相手、ぶっ飛ばせる」

「……なるほど!」

「嫌いな奴。合法的、しばける」

「……確かに!」

 

 とんでもない事言い出したレイナ。

 

「いやいや、出来ないからな!?」

「じゃあ、仕事、何する?」

「……中条」

 

 レイナの言葉にツッコミを入れる渡辺。

 だが、仕事内容を説明できないらしく、さっきからあわあわしていた中条へ振る。

 

「は、はい」

 

「ふ、風紀委員は校則違反者を取り締まる組織です」

 

「主な仕事は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりです」

 

「違反者に対する罰則を決めたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席して意見を述べます」

 

「いわば、警察と検察を合わせたような組織が、風紀委員です」

「警察、検察、一緒、危険。権力、暴走」

「そ、それは……」

 

 権力は分立していないと暴走する。

 

「流石にそこまでの事態にならないから大丈夫だ」

「……そう」

 

 渡辺の言葉にレイナが納得する。

 そして。

 

「わたし、やっていい?」

「え?」

「リッカ、風紀委員、やるなら、わたし、やりたい」

「風紀委員には荒事があるのよ?」

 

 七草が心配そうに言う。

 それに立華が答える。

 

「それは平気です。レイナはそんじょそこらの魔法師より遥かに強い」

 

 何せ豪華な教師陣に色々習ったのだから。

 

「リッカ、わたし、やる。だから、一緒に、やろ?」

 

 上目遣いに見つめる。

 この視線に立華は弱い。

 

「……それもそうだな」

 

「わかった……」

 

「先輩。コイツと一緒ならオレも引き受けますよ」

 

 妥協した立華。

 それに考え込む七草と渡辺。

 

「……摩利。風紀委員にまだ空きはあったわよね?」

「ある。……わかった。いいだろう」

「「イエイ!」」

 

 結果はイエス。

 ハイタッチする2人を後目に渡辺が達也の方を向く。

 

「……そういえば真由美。風紀委員の生徒会選任枠のうち、前年度の卒業生の一枠がまだ余っていたな」

「え?ええ」

 

 七草が頷く。

 

「一科生の縛りがある役員は会長と副会長、書記、会計だけだったな?」

 

「そして、風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ」

「なるほどね!その枠に達也くんを入れるのね!」

「「!?」」

 

 察した七草の言葉に達也と深雪が驚く。

 

「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない!摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」

「……ちょ、ちょっと待ってください!」

「凄いじゃないですか、お兄様!」

 

 七草の言葉。

 慌てる達也。

 喜ぶ深雪。

 

「先程の説明だと、風紀委員は喧嘩……荒事が起こった場合、力ずくで止めないといけないと言うことで良いんですよね?」

「ああ、その通りだ」

 

「魔法の使用の有無関係なく、争いがあったら私たちの仕事だ」

 

「それにできれば、魔法の使用前に止めさせるのが望ましいがね」

「あのですね!俺は実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」

「構わんよ。力比べなら、私がいる」

 

 そんな言い合いを眺めていた立華とレイナ。

 レイナが軽く立華に目配せしてきたので、立華は頷く。

 どうやらフォローするらしい。

 

「会長、先輩、深雪」

「「「?」」」

「本人、意志、尊重、すべき」

 

 レイナが達也に助け舟を出す。

 ハイタッチをしたままで、くっついたままだった手を立華を放し、達也に近づく。

 

「達也」

「……なんだ」

「貴方、風紀委員、やりたい?やりたくない?」

「俺は……」

「少なくとも、わたし、リッカ、貴方、意志、尊重」

 

 顔を至近距離まで近づける。

 

「はっきり、言うべき、どうするの?」

「……正直言えばやりたくはない。だが、やるしかないなと思ってる」

「そう」

 

 答えを聞いて達也から離れるレイナ。

 ふわりと微笑んだ。

 ふと時計を見る彼女。

 

「昼休み、終わる。続き、どうする?」

「ん?ああ。続きは放課後だな。いったん解散だ」

 

 そんな訳で放課後にまた話す事となった。

 

 ◆◆◆

 

「2人は風紀委員になったのですか?」

「うん」

「名誉ある仕事、良かったね」

「面倒なんだけどね……」

 

 クラスに戻って、雫とほのかに報告。

 この2人も喜んでくれた。

 そして、達也が選ばれた事を告げると。

 

「達也さんが風紀委員なら偏見なく見てくれそうですし、似合ってますね」

「ほのかの言う通り。私もそう思う」

「そうですよね」

 

 好意的な2人の意見に嬉しそうな深雪。

 だが、立華の顔は冴えなかった。

 

「どうしたの?」

「嫌な予感がする……」

「「「え」」」

 

 その言葉を聞きつけたのか深雪と雫、ほのかの顔が曇る。

 

「ほら、アイツの例があるだろう?」

 

 立華が顎をしゃくる。

 その先にいたのは森崎だった。

 

「アイツみたいに認められない奴っているもんだ」

 

「だからさ」

 

「そう言う奴がいるんじゃないかなって」

 

 その言葉に深雪とほのか、雫の顔が曇る。

 それにレイナが言う。

 

「そう言う奴、力づく、ぶっ飛ばす、それだけ」

「まあな」

「達也、強い。きっと平気」

 

 その言葉に深雪の表情が少し明るくなった。



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第十二節:模擬戦 前編

 そして放課後がやってきた。

 達也、深雪、立華、レイナは生徒会室に向かう。

 今度は2人共逃げなかった。

 

「むう。コレ何か起こるぞ……」

「その根拠は?」

「勘。直感。第六感」

「……あてになるのでしょうか?」

「立華の勘。予言、予知、近い。的中率99%」

「「それはもう勘じゃない!?」」

 

 レイナの言葉にツッコミを入れる達也と深雪。

 

 立華は常に獲得しているスキルがある。

 まずクラススキルである、〈■の■■〉〈単独■■〉〈自己改造〉の3つ。

 そして、固有スキルである、〈魅了(偽)〉〈■■・■■■■■〉〈対毒〉の3つ。

 この6つは元から持っているスキル。

 

 そのほかに、状況に応じて、スキルを色々増減させる。

 彼がいつも好んで入れているスキルの1つが〈直感〉である。

 結構便利なのだ。

 

 その気になれば高ランクの〈千里眼〉を取って、「あの3人」の真似事もできるが、それはしない。

 

 本人曰く。

 

『未来はわからないから、面白いんだよ』

 

 との事。

 

 閑話休題。

 

 そんな感じで彼らは生徒会室にやってきたのだが。

 

「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 

 立華の予感的中。

 昼食にはいなかった副会長である服部刑部少丞範蔵(本人曰く「服部刑部」会長曰く「はんぞーくん」)が反対してきた。

 しかも。

 

「過去に二科生(ウィード)が風紀委員になったと言う事例はありませんよ」

「……ほう。私の前で使うとはいい度胸している」

「今更取り繕っても仕方ないでしょう!」

 

 達也を置いてけぼりにして言い合いが始まる。

 ヒートアップしていく両者。

 そして、遂に深雪が爆発。

 それに、一般論で返す服部。

 それに対して。

 

「お兄様の本当のお力を()ってすれb」

「深雪」

 

 何かを言いかけた深雪を止める達也。

 そして。

 

「服部副会長」

 

 不敵に笑う。

 

「俺と模擬戦しませんか?」

「……は?」

 

 ◆◆◆

 

 そんな訳であれよあれよと内に模擬戦の準備が整う。

 それほぼんやりと眺めていた立華にレイナが声を掛ける。

 

「リッカ」

「ん?」

「賭けよう?」

「いいぜ」

 

 そんな会話をしていると七草が尋ねる。

 

「2人はどっちが勝つと思っているの?」

「「達也」」

 

 2人の意見が重なった。

 それを聞いていた深雪が嬉しそうな表情をする。

 

「重なったな」

「うん」

「じゃあどれくらいで終わるか賭けるか」

「わたし、5秒」

「じゃあ俺は3秒で」

 

 そんな2人の意見に呆然とする七草。

 そこへ市原が口を挟む。

 

「お2人は服部副会長が勝つとは思わないのですか?」

「まったく」

「うん。2人、全然、違う」

「「???」」

 

 レイナの言葉に疑問符を浮かべる2人。

 そんな中。

 

「試合開始!」

 

 立会人である渡辺の言葉。

 そして。

 

 数秒で試合は決着。

 勝者は……。

 

「勝者。司波達也」

 

 達也だった。

 

 魔法を発動させようとした服部だったが、達也の歩法で照準が狂ったところを、サイオンの波を浴びせて勝利したらしい。

 ……その時に達也のCADがシルバーホーンと言う事で中条が熱くなったが、それは些末事。

 

 それに驚く七草、渡辺、市原、中条。そして、一応意識はある服部。

 誇らしげな深雪と、するべきことをしただけという態度の達也。

 そして一方。

 

「賭けは俺の勝ちだな」

「むー」

 

 仲良しコンビは一喜一憂していた。

 そして、服部が深雪に謝罪し、これで解散かと思われたのだが。

 

「会長」

「何かしら?レイナさん」

「演習場、時間、余裕、まだ、ある?」

「え?ええ。一応あるけど……」

「なら、模擬戦、していい?」

 

 レイナの言葉に全員驚く。

 衝撃から立ち直った渡辺が尋ねる。

 

「……誰とだ?」

「リッカ。わたし達、力、確かめる、ぴったり」

「……お前が戦いたいだけだろ?」

「久しぶり、身体、動かしたい。リッカ。ダメ?」

「別にいいけど……」

 

 断る理由はない。

 視線を七草と渡辺の視線を送ると。

 

「いいんじゃないかしら?」

「確かに。風紀委員に入れるに当たって実力確かめるにはいい機会だな!」

 

 そういう訳で2人の模擬戦が決まった。

 念のために演習場の時間を延長して、レイナのCADを返却して貰う。

 彼女のCADは腕輪型を2つする。

 

「レイナ」

「何?」

 

 達也がある事に気づく。

 

「そのCADは特化型か?」

「正解。よくわかる。流石、お兄様」

「……俺はお前達みたいな妹を持った覚えはない」

 

 ニコリと笑うレイナに疲れたようにツッコミを入れる達也。

 その会話を聞いた七草が指摘する。

 

「待って!これが特化型?」

 

 腕輪型のCADを見る。

 普通特化型は銃形態が多いのである。

 が。

 

「拳銃。格闘、邪魔」

「なるほど……」

 

 納得する達也。

 確かにそうだろう。

 

「ではルールはどうする?」

「いつも通り」

「ああ。それでいい」

 

 再びの立会人の渡辺の疑問に2人が答える。

 

「いつも通り?」

「死ななければなんでもあり」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 一同絶句。

 

「ちょ、ちょっと待って!もしかして蹴りとかも?」

「当たり前」

 

 そう言ってレイナは軽く宙に向けて蹴りを撃つ。

 綺麗なフォームだった。

 

「いつも、わたし、リッカ、模擬戦。こう」

「ああ」

 

 最近はご無沙汰だったが、この2人の模擬戦はいつもこうだった。

 死ななきゃ、治してくれるのが何人もいたためだった。

 

「大丈夫。血、出るだけ」

「それは大丈夫ではないと思うのですが……」

 

 深雪が呟いた。 



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第十三節:模擬戦 後編

 話が終わる。

 両者向かい合う。

 

 とは言っても服装は変わらない2人。

 が、実はこの2人の制服にはかなりの改造が施してある。

 

 まず、格闘の阻害にならないように、生地の付けたしなどが施されている。。

 そして、刻んだルーンのおかげで生半可な鎧以上の防御力を持つ。

 更に、ある劇作家のスキル〈エンチャント〉のおかげでDランク相当の宝具になっている。

 

 閑話休題。

 

 そして、立会人である渡辺が合図をする。

 その瞬間。

 

 立華がいたところへ大量の空気弾が降り注ぐ。

 レイナの得意技である。

 だが一発も当たらない。

 次の瞬間にはレイナの前にいる立華。

 が、それは彼女も予測済み。

 

「ニコリ」

 

 笑う。

 

「ニヤリ」

 

 笑い返す。

 

 両者拳を引き。

 相手の顔面に目がけて振るう。

 

 バキイン

 

 思わず模擬戦観戦者の内の何人かが耳を塞ぐほどの音。

 両者の拳は顔面にクリンヒット。

 のけ反る2人。

 だが、ダメージからすぐさま復帰。

 そのまま2人は接近戦(殴り合い)を開始する。

 

 立華は動きを加速させ、拳や蹴りを使い攻撃を仕掛ける。

 時には投げや組技も仕掛ける。

 これが彼のスタイル。

 

 彼が契約していたサーヴァントには素手で戦う者が何人もいた。

 しかも全員そのスタイルが違う。

 

 「翼ある蛇」はルチャリブレに嵌り(嵌り過ぎ)、それを取り入れて戦う。

 「竜の聖女」は天使すら撲殺する古き格闘法を使い、竜を説得(物理)した。

 「怪力の王」は自身の剛力を活かし戦い、怪物や竜すら殴り殺した。

 「世界最高峰の探偵」は東洋武術とボクシングを組み合わせた打撃術を使い、キメラを投げ飛ばした。

 「美しき女王」は偉そうにすればするほど敵にダメージを与える(よくわからない)魔技を使う。

 「魔拳士」は千の技を学ぶより一の技を徹底的に磨き上げることで、文字通りの一撃必殺を体現した。

 他にも色々とあるが今回は割愛。

 

 それらを見た彼は。

 

『やってみたい!』

 

 こう思った。

 

 そういう訳で教えを受けたり、技を模倣したりした。

 これが彼の糧になっている。

 ただそのせいで、彼が()()に、インチキしないで戦う場合は、色々混ざり合ってへんてこりんになってしまった。

 が、どんな状況にでも対応できるのだ。

 

 それに対してレイナは加速と空気甲冑(エア・アーマー)を併用して使い戦う。

 そのおかげか何とか掴まれないで済んでいる。

 そして、立華の拳や蹴りを両手で捌く。

 彼女のスタイルはパンクラチオン+八極拳である。

 

 元々、立華の戦いを見て自分も何かやりたいと感じた彼女。

 そういう訳で白羽の矢が立ったのが。

 

『我が知識が少しは役立てばいいのですが……』

 

 様々な英雄の教師であった「賢者」だった。

 

 因みに同じ教師枠の「紫」はあまりにスパルタなので除外。

 彼女の弟子達(同一人物複数)も全員やめろと言ってきた。

 ……その後、どこからともなく飛んできた大量の赤い槍でもれなく全員串刺しになっていたが。

 

 文字通り文武両道な彼。

 彼女に知識だけでなく、パンクラチオンも仕込んだ。

 その為かレイナは彼の事をとても尊敬している。

 ……因みに「紫」とは仲が悪いうえ、嫌っている。

 

 更に何か護身術をもう少し仕込もうと言う事で名乗りを上げたのが……。

 

『どれ、突きから教えてやろう』

 

 意外や意外「魔拳士」だった。

 そういえば彼は子や孫がいたので、彼女に重ねていたのだろうか?

 そんな訳で彼からは八極拳を習った。

 

 2つとも達人級とは言えないが、実戦で使えるレベル。

 

 だからこそ何とか互角に渡り合えていた。

 ……まあ立華が手加減しているおかげもあるが。

 

 ◆◆◆

 

「……凄い」

 

 試合が始まって数分経って、お互い膠着状態に陥った所で呟きを漏らす七草。

 この場の全員が唖然とする戦い方だった。

 

 魔法は使っている。

 両者共に自己加速。

 それに加え、レイナは空気甲冑、立華はルーンが見えるため、何かをしているのはわかる。

 

 が、この2人は完全に体術主体で戦っていた。

 しかもお互いが、殴り、蹴り、投げる。

 レイナが立華の腕を取りぶん投げれば、彼はそのまま投げ返す。

 立華がレイナを殴れば、彼女はカウンターを入れる。

 そういう感じの戦いが続いていた。

 

「沢木や桐原とも渡り合えるんじゃないか……」

 

 思わず呟く服部。

 両者共に白兵戦を得意とする魔法師である。

 桐原とは模擬戦をしたことがあり、何とか辛勝した服部である。

 恐らくだが、あの2人以上の戦い方だった。

 

「凄い……ですね」

「……ああ」

 

 達也と深雪も驚いていた。

 実力があるのは、わかっていたが、まさかここまでとは。

 

「(だが何だ?この違和感?)」

 

 だが達也は妙な違和感を感じていた。

 昨日使っていた「縮地」の時と、何かが違う気がしていたのだ。

 

 そんな中戦いは終盤を迎えていた。

 接近戦で渡り合っていたが、離れる2人。

 そして。

 

「ふう」

 

 レイナが息を吐き、構えを取る。

 

「……」

 

 立華も構える。

 

 そして。

 

「!」

 

 一瞬で間合いを詰めるレイナ。

 彼女が選んだ技は。

 

―――猛虎硬爬山

 

 中段突きからの肘内。

 立華にヒット。

 

「(手応え、あり!)」

 

 が。

 それが隙となる。

 しっかりと掴まれるレイナ。

 

(「不味い!」)

 

 だが、もう遅い。

 宙に舞いあがるレイナ。

 そして、逆さになってしまった彼女を掴む立華。

 そのまま脳天落としが炸裂。

 

―――マルティネーテ

 

 女神直伝の技が綺麗に決まった。



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第十四節:真実の一端 前編

 全員唖然呆然。

 当たり前だ。

 なにせ実戦でプロレスの決まり手使うとは。

 しかも魔法を併用してまで使ったのだ。

 沈黙が場を支配する。

 

 そんな中。

 立華が立会人を見る。

 

「先輩。結果は?」

「あ、ああ。勝者藤m」

 

 そう言いかけた渡辺だったが。

 ふと我に返り。

 

「ちょっと待て!生きているのか?」

 

 どう見てもアレはヤバイ一撃。

 というかさっきからレイナが動いていない。

 

 そんな中。

 

「生きてる。殺さないで」

 

 声が響く。

 頭から落下して、そのままの態勢であったレイナが起き上がる。

 頭をさすりながら、軽く鼻を押さえる。

 どうやら血が出ているらしい。

 

「痛い。わたし、傷物」

「お前だって遠慮なしに殴って来ただろうが」

「わたし、女の子」

「言っておくが、総合ダメージオレの方が大きいからな?」

 

 そう言って立華は服をまくる。

 生身の肌が現れる。

 どこぞの「スパルタ」のトレーニングで適度に引き締まっている。

 ……それを見ていた数人が顔を赤らめる。

 そこには痣が結構あった。

 

「浸透勁で殴りやがって。……お前は空気でダメージ減らしていたけどさ」

「わたし、か弱い、女の子」

「……まあそう言う事にしておこう」

 

 星座になったあの人や、その弟子とも手加減ありで殴り合えている時点で、か弱いのか微妙である。

 そんな2人に七草が声を掛ける。

 

「色んな意味で凄かったわ。でも……立華くん」

「……はい?」

「女の子の顔面殴るのは良くないと思うんだけど」

「オレは老若男女差別しないので」

「「「「「「そう言う問題!?」」」」」」

 

 一同のツッコミが重なった。

 

 その後、解散となった。

 

 ◆◆◆

 

 その日の夜。

 達也と深雪の姿は九重寺にあった。

 

「こんばんわ。2人共」

 

 出迎える八雲。

 そんな彼に達也は尋ねる。

 

「それで師匠。彼と彼女について何かわかりましたか?」

パーソナルデータ(PD)におかしな点はなかったよ?」

 

 曰く。

 

 あの2人は両親同士が知り合いであったらしく、親が両方共に亡くなった後に、2人で知り合いの所を転々としていたそうだ。

 その後、2年前位から一高傍にある家に2人暮らしているそうだ。

 

「僕は言えるのはこれくらいかな?」

 

 そう言って締めくくる八雲。

 なのだが。

 達也は続ける。

 

「今日、俺は模擬戦をしましてね」

「ああ。知っているよ?数秒で勝ったんだろう?おめでとう」

「……なぜ詳細に知っているかは知りませんけど、その後、あの2人も模擬戦をしたんです」

「……」

「あれはどう見ても素人じゃない」

 

「そして、今”言える”と言いましたね?」

 

「”知っている”ではなく”言える”」

 

 そう言って八雲を見る。

 

「何か知っているんじゃないですか?」

 

 達也の視線に対して目を逸らさない八雲。

 だったが。

 

「はあ」

 

 溜息をつき、視線を外す。

 

「まったく。敵わないね達也くんには」

「では知っているのですか?」

「完全にじゃないよ?ある程度の事は知っている。でも話せない」

「……口止めでもされているのですか?」

 

 その言葉に苦笑いをする八雲。

 

「似たような物だけどね」

 

「そうだね。少し長くなるけど、話せる範囲で話そうか」

 

「奥に上がるといい」

 

 そういう訳で庫裏の中に座る3人。

 

「彼らが住んでいる家」

 

「元々あった豪邸を改装した物」

 

「見た目は普通だったんだけどね」

 

「上手く隠蔽されていたんだ。……多分ほとんどは気づかない」

 

「そして、結界が張られてたりしてね、奇妙に思ったんだ」

 

「だから侵入しようとしたんだけど……」

 

「できなかった」

「「!?」」

 

 驚く2人。

 この2人は八雲の忍術の腕前を良く知っている。

 「今果心」とも呼ばれるその腕前を。

 だが、その彼が侵入できない?

 そんな馬鹿な。

 

「だから日を改め、装備を整えて、侵入したんだ」

 

「何とか侵入は出来たんだけど、侵入者迎撃用の諸々が発動してね」

 

「それは掻い潜れたんだけど……」

 

 八雲は言わなかったが、その時襲い掛かって来た物は色々だった。

 ゴーレムや魔獣、機械人形、エトセトラエトセトラが襲い掛かって来た。

 それはどうにかなったのだが。

 最大の鬼門があった。

 

「姿の見えない”獣”に襲われてね、死にかけた」

「!?」

「……獣ですか?」

「うん。唸り声からイヌ科の動物。……後で調べて分かったんだけど、鳴き声は”ハイイロオオカミ”に似ていた」

 

「でも、まるで”透明人間”のように姿が見えないし、大きさ的にもおかしかった」

 

「僕も戦ったんだけど、防戦一方でね、もう死ぬんだなって思ったんだ」

 

「……人間五十年。って織田信長は言ったらしいけどね」

 

「でも。死ななかった」

 

「助けてくれたんだ」

「……誰がでしょうか?」

「あの家にいる別の存在かな?とは言ってもあの時は死にかけてたし、はっきりとは覚えていないんだけど」

 

 何でも2人の人物が助けてくれたらしい。

 

『この御方は「今果心」と呼ばれるお方。死ぬには惜しいと思われまする』

 

 露出の多い忍び装束を纏った少女。

 

『この者、未だ死すべき時に在らず』

 

 1人は髑髏の仮面と胸部に髑髏をあしらった装飾のある甲冑を身に纏った大男。

 

「この2人が助けてくれたんだ」

 

 この事を八雲は覚えている。

 意識が薄れていたが、しっかりと覚えている。



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第十五節:真実の一端 後編 

 その話を聞いて唖然とする2人。

 

「……先生。それは本当の話なのでしょうか?」

 

 深雪が疑問を呈するのも無理なかった。

 今の時代の話にしては現実感がない。

 

 それに八雲は軽く笑い。

 

「ああ。本当さ。……別に信じてくれなくてもいいよ?」

「すいません。そういう訳では……」

「師匠」

 

 2人の会話に達也が割り込む。

 そして、尋ねる。

 

「それで、貴方を殺しかけた”獣”と助けてくれた”2人の人物”は何者なのですか?」

「化成体の一種って立華くんは言っていたよ?」

「……会った事があるのですか!」

「そうじゃなきゃ、僕は今頃この世にいないよ」

 

 その後、他にも何人か来て(これも化成体の一種との事)、八雲の処遇を話し合ったらしい。

 因みにほとんどが殺すか、記憶を消すべきという意見だったそうだ。

 そんな感じで話し合っていたそうだ。

 そんな中ある人が言ったそうだ。

 

『マスターの意見を聞くべきじゃねえの?』

 

 そう言ったのは上半身裸に牡丹と龍の刺青を身体に彫った男だった。

 そういう訳で、八雲は簡単な応急処置がされ、奥に通されたそうだ。

 そこで彼に会った。

 

『えっと初めまして。九重八雲さんでいいんだよね』

 

 そう言って彼を迎えたのは浅黒い肌に、白い髪の毛の少年だった。

 ……さっきまで眠っていたのか、パジャマ姿にナイトキャップを付けている。

 因みにレイナはこの時まだ夢の中。

 

 彼は。

 

『まず傷を治さないと』

 

 そう言って出したのは杖だった。

 三日月を模したよう長い杖。

 それを振るうと一瞬で八雲の傷が治る。

 

『じゃあ話合おう。でも』

 

『そのまんま放免は無理だよ?』

 

『貴方はパンドラの箱を開けたんだから』

 

「そう言う訳で彼との話し合いの結果、僕はいくつかの約束を結んで放免となった」

 

「記憶消去や殺されることはなかった」

 

 そう言う八雲。

 

「つまりその約束に彼の情報を言わないと言うのも含まれているのですか?」

「……まあ似たような物かな」

 

 そう言う八雲。

 ……正確に言えば()()()()のだが、それは言わなかった。

 

 そう言って改めて2人に告げる

 

「とりあえず僕から言える事は2つ」

 

「1つめ。彼の魔法は僕らが使う魔法とは一線を画している」

 

「”君の目”にはどう見えるかはわからないけど、深くは詮索しない方がいい」

 

「2つめ。彼は自分達からは何もしない。平和に生きたいそうだからね」

 

「でも、手を出されたら容赦はない。だから手を出すべきじゃない」

 

 そう言って八雲は話を締めくくる。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 何も言えなくなってしまった深雪を軽く抱き寄せ、達也が八雲に礼を言う。

 

「別にいいよ。なにせ君達2人が戦ったら一体どうなるか想像が付かないからね」

 

 そう言って笑う八雲。

 だが、眼は笑ってなかった。

 

 ◆◆◆

 

 そんな話があって次の日。

 

「おはようさん」

「おはよ」

 

 兄妹は今日も立華とレイナに遭遇。

 流石に昨日の八雲の話の後に会うと若干気まずい。

 が、この2人は年齢に見合わぬ濃い人生を送って来た。

 だからこそ、表面上は普通に挨拶を返す。

 

「おはよう」

「おはようございます」

 

 だが、それに立華は何か気づいた顔になる。

 軽くレイナに目配せすると頷く。

 流石ツーカーの仲。

 

「なあ、達也、深雪。少し時間貰えるか?」

「「……え」」

 

 そんな訳で彼ら4人が訪れたのは空き教室。

 レイナが遮音を施し、立華は人払いを施す。

 そして、改めて2人を見る。

 

「「……」」

 

 警戒する2人。

 それに立華は笑いかける。

 

「八雲さんから聞いてるだろう?」

「「!?」」

「オレは……オレ()は手を出されない限りは手を出す気はないって」

「ハゲ、昨日、連絡くれた。だから、知ってる」

「「は、ハゲ!?」」

 

 あまりの呼び名に絶句する兄妹。

 

「レイナ、凄く失礼」

「うん」

「……それはともかく」

 

 そう言って立華は達也と深雪を見る。

 

「人はさ、誰だって言えない事がある」

 

「お前ら兄妹にだってあるだろう?」

 

 そう言うと悲しそうに笑う。

 

「そして」

 

「こちらが何もしていないのに殴って来る奴は必ずいる」

 

「殴って来るだけなら、まだ……まあ半殺しか、四分の三殺しで済ませる」

「リッカ、リッカ。死んでる。もうそれほとんど死んでる」

 

 レイナの茶々を無視して続ける。

 

「でも」

 

 その時達也は気づく。

 

「こっちからは何もしない事いい事に」

 

 彼の言葉に怒りと悲しみが混ざっている事を。

 

「全部燃やし尽くす奴がいる。全てを台無しにする奴がいる」

 

 立華は覚えている。

 

 全てを燃やし尽くした「獣」を。

 「彼の行い」の全てを台無しにした「馬鹿野郎」を。

 

「だから、色々準備したり、戦力を整えたりはしてる」

 

「そして、それがお前達に向く事はない。敵対しない限りね」

 

 そう言うと穏やかな表情に戻る。

 

「だからさ、達也、深雪」

 

「これからどうする?」

「……どうするとは?」

「うん?選択肢は3つ」

 

「どちらかが死ぬまで殺し合う」

 

「お互い不干渉」

 

「友達や仲間になる」

 

「さあ、どうする?」

 

 不敵な笑みを浮かべる立華にレイナがしがみついた。

 その言葉に達也は。

 

「……1つ聞かせてくれ?」

「何だ」

「お前は俺達の事情も知っているのか?」

「少しは。もっと知る事はできるけど、しない。礼儀に反するし」

 

 彼女の所持している【O&C】を使えば、弱みも握れるがそれは流石にしない。

 その答えに達也は。

 やっと笑みを見せ。

 

「そうか。じゃあ友人関係継続で頼む。深雪もそれでいいな?」

「はい!お兄様」

「了解した。レイナ。それでいいか?」

「うん」

「じゃあ改めて」

 

 手を差し出す立華。

 レイナは達也と深雪の手を掴みその手に重ねる。

 4人の握手だった。

 

「よろしく」

「ああ」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 この日この4人は友人となった。

 

 これがこの兄妹の運命を色々左右する事はこの時点で2人は気づかなかった。




O&C

アサシン「■■■・■■■■・■■■■■」の宝具。
敵の秘密や弱みを暴いて脅迫する能力。
O所長曰く「陰険な宝具」。
立華は滅多に使わない。ただし使う時は容赦せず使う。


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第十六節:馬鹿騒ぎ

 彼らが友人となって放課後。

 達也と立華、レイナは風紀委員本部にやってきたのだが。

 

「何故お前がここにいる!」

 

 彼らを迎えたのは森崎の声だった。

 

「何故?愚問。わたし達、風紀委員?」

「何で疑問形?」

「不安。わたし、特に」

「大丈夫。ダメだったら」

「ら?」

「渡辺先輩をしばこう!」

「うん!」

「……お前達は何を言っているんだ」

 

 立華とレイナの会話にツッコミを入れる達也。

 

「だってレイナもなっているはずなのになっていないのなら、ねえ?」

「大丈夫、殺しはしない。ボコボコ」

「いや、大丈夫だろう」

 

 そんな感じで会話していると。

 

「おい!無視するな!」

「「「まだいたの?」」」

「いたよ!?何で帰ったと思ったんだ!?」

 

 そんな森崎の叫びに。

 

「やかましい!新入り!」

 

 渡辺が注意する。

 そして。

 

「風紀委員会の業務会議に風紀委員以外が顔を出す方が稀だ」

 

「なら、必然的にこの場にいるのは風紀委員以外にいない」

 

「この程度の事をいちいち説明させるな」

 

 森崎に注意する。

 それに小さくなる森崎。

 だが、渡辺の注意が終わり、視線が外れると森崎は達也を睨みつける。

 

(「これはダメだな。何とかしないと……」)

 

 その様子を伺っていた立華が思う。

 このままでは本人のためにならない。

 そんな事を思っていると、続々と他の風紀委員達も集まっていく。

 そして。

 

「さて諸君、今年もあの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た」

 

 渡辺が諸注意を告げていく。

 そして。新入りである立華達を紹介する。

 すると。

 

「役に立つんですか?」

 

 と言う意見が上がる。

 それに渡辺は不敵に笑うと。

 

「ああ。4人共使える。森崎のデバイス操作は中々だし、司波の腕前はこの目で見てるし……」

 

 仲良しコンビに目を移し。

 

「この2人も中々だ。私が保証する」

 

「では新入り以外は出動!」

 

 上級生が出ていくと、残った4人は説明を受ける。

 そして、達也が備品のCADの使用許可を求め、許可された。

 渡辺が出て行った後に。

 

「おい、司波」

 

 森崎が出ていこうとした司波を呼び止める。

 そして。

 

「調子に乗るのもいい加減n」

 

 言い募ろうとした時だった

 

「森崎」

 

 立華が森崎に声を掛ける。

 ……そのトーンがいつもより低いのには達也とレイナしか気づかなかった。

  

「おm」

 

 「お前には関係ない」と言おうとした森崎。

 だが、言えなかった。

 立華の表情に言葉を失くしたのだ。

 無表情だった。

 

「昨日言った事を忘れたか?」

 

「人を見下すなと」

 

「お前の耳は飾りか?」

 

 殺気が漏れる。

 森崎が震えはじめる。

 

「その早撃ちで何を撃った」

 

「己の愚かさか?」

 

「馬鹿め!ではk」

 

 最後まで言えなかった。

 本来なら「首を出せ」と続けるところだったのだが。

 

 ズキューーーン

 

「「!?」」

 

 絶句する達也と森崎。

 なぜなら。

 レイナが立華の唇に自身の唇を押し当てた。

 無理やり言葉を止めた。

 

「ぷは」

「……何をするだー?」

 

 唇が離れ、叫ぶ立華。

 流石に混乱したらしい。

 それにニコリと笑いレイナは続ける。

 

「人、落ち着かせる時、荒技、性的接触、いい」

「……それは一応知っているが」

 

 達也は知っていたらしい。

 

「性行為、ここ無理。これぐらい、限度」

「ぶっ!」

 

 噴き出す森崎。

 

「冗談」

「冗談に聞こえないんだが……」

 

 げんなりと達也がぼやく。

 そんな感じで雰囲気がグダグダになってしまった。

 

 ◆◆◆

 

 

「お前なあ……」

「アレ位、普通」

「そうか?」

「達也、深雪、いつも、イチャイチャ」

「……そうだな」

 

 達也と森崎とは別れ、見回りをする事になる。

 

「それにしても……アイツ、どうにかしないとな……」

「モブ崎?」

「崎は覚えたか。偉い偉い」

 

 あのままでは色々な意味で駄目だろう。

 どうにかしなければ。

 だがどうするか……。

 

「いっそ、影の国に送るか?」

「……」

 

 立華の呟いた言葉に無言になってしまうレイナ。

 そんな彼女の頭を軽く撫でる立華。

 

「本当にスカサハの事嫌いなんだな」

「嫌い」

 

 ぷいっと横を向く彼女を見て苦笑する。

 どうも彼女とはそりが合わないのだ。

 

「じゃあどうするか……」

 

 考える立華にレイナが意見を出す。

 

「スパルタ」

「アレは駄目。脳筋だし」

 

 いきなり裸でキメラ()と戦わせるのはダメだろう。

 アレは死ぬ。

 ……まあやらされたけど、生き延びた。

 

「ドジ僧侶」

「色んな意味でダメだと思う」

 

 彼女はそもそも分野が違う。

 天竺に行かせる訳でもない。

 というか合わせるとどんな化学変化が起こるのか……。

 

「じゃあミッチー」

「あの人は学問。精神的な事は無理」

 

 彼はいつも穏やかだが、プッツンするとヤバイ。

 どこぞのCEOばりに。

 ■■(■■■■)という言葉でエライ事になる。

 

「先生は?」

「いいかも。でも……どうやって会わせるか……」

 

 それが問題だなと思っていると。

 

「うん?」

「?」

「騒ぎ声がする。行ってみよう」

「うん」

 

 2人で行ってみる。

 そこは体育館。

 そこでは達也が上級生らしい1人を取り押さえていた。

 そこへ、剣道着の生徒多数が襲いかかろうとする。

 が。

 

 一気に数人が吹っ飛ぶ。

 

「達也、平気?」

「ああ。助かった」

 

 レイナの魔法で吹っ飛んだ。

 彼女が使ったのは、空気を圧縮し破裂させ爆風を一方向に当てる魔法 〈偏倚解放(へんいかいほう)〉である。

 それに怯まず襲い掛かる生徒を達也とレイナ、更に立華が捌いていった。

 あっという間に鎮圧は完了した。




「いいですか。ここはこうです」
「許さん!許さん!!許さんぞー!!!■―■―■―■ー」
「雷よ、堕ちよ」

復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァント。本作オリジナルサーヴァント。
平安貴族風の衣装を纏った青年。
いつもは穏やかであるが、「■■(■■■■)」の存在を見聞きすると大爆発する。
そのおかげか知識人系のサーヴァントの他になぜかCEOとも仲がいい。
レイナの教師役の1人であり、ミッチーと呼ばれている。


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第十七節:剣

 その後、3人で七草と渡辺、そして、部活連の会頭である十文字克人に事情を説明。

 そして、渡辺が彼らに言う。

 

「ご苦労だった。もう帰っていいぞ」

 

 そんな訳でこの日は帰宅。

 エリカやレオ達と合流する。

 待たせたお詫びに達也が何かご馳走すると言ったのだが。

 

「それならウチ来る?この近くだし、丁度いい物があるし」

「「「「「「?」」」」」」

 

 レイナ以外の全員の頭上に疑問符が浮かぶ。

 一方レイナだけは微笑んでいた。

 

 そんな訳でやってきのは立華とレイナの2人暮らし……と言う事になっている家。

 豪華な屋敷で、庭も広い。

 

「すげえな」

「広いですね……」

「まあね」

 

 レオと美月がコメントするのも無理はない。

 だがエリカは庭にある道場のような建物に目を止める。

 

「ねえ、あの建物って?」

「鍛錬用、剣や槍、素手、鍛錬」

 

 エリカの疑問にレイナが答える。

 それを見て彼女がニヤリと笑ったのにはレイナは気づいたが、特に何も言わなかった。

 そんな訳で客間に通された彼ら。

 

 立華は何か食べ物を取りに行ったので、その間彼らは話をしていた。

 魔法を無効化した達也の技術、そしてレイナが使った魔法について。

 

「レイナのアレは偏倚解放(へんいかいほう)か?」

「流石、お兄様」

「……」

「お兄様?どういう事でしょうか?」

「誤解だ!?レイナが勝手に呼んでいるだけだからな」

 

 そんな会話をしていると。

 

「レイナは気流の操作が得意分野だからな」

 

 そう言って立華が戻って来た。

 手にはアップルパイの載ったトレーを持っている。

 テーブルに置き、切り分ける。

 

「もしかして……これ手作り?」

「ああ。あくまでも真似事だけどね」

 

 深雪の疑問に答える立華。

 試しに一口食べてみると、とても美味しい。

 

「へえ。料理もするんだ?」

「気が向いた時だけね?」

 

 そう言って自分の分を食べ始める立華。

 その後、アップルパイの感想や学校行事についての話をした。

 

 ◆◆◆

 

 それで今日は解散となるはずだったのだが。

 

「準備はいい?」

「……ああ」

 

 立華とエリカは竹刀を持って向かい合っていた。

 

 きっかけは客間を出た時にエリカが提案してきたのだ。

 

『試合をしてみない?』

 

 と。

 そういう訳で彼ら立ち合いの元、簡単な試合をする事になったのだ。

 

「じゃあ魔法抜きで」

「うん。それでいいよ」

 

 向かい合う両者。

 そして。

 

「オホン」

 

 レイナが立会人となる。

 

「勝負、始め!」

 

 その言葉と同時に飛び出すエリカ。

 それに対し立華は何と剣を投擲。

 一瞬それに動揺するもそれをねじ伏せ、剣を払うエリカ。

 が、それは隙となる。

 

 そして。

 

「勝者、リッカ」

 

 エリカの首には竹刀が付きつけられていた。

 しかもエリカの持っていた竹刀。

 

 観戦者がその結果に唖然とする中。

 達也が口を開く。

 

「立華」

「うん?」

「今のは無刀取りか?」

「流石、お兄様」

「それはやめろ……」

 

 げんなりとする達也。

 そんな彼に疑問を投げかけたのは深雪だった。

 

「お兄様。無刀取りと言うのは……」

「ああ」

 

「上泉信綱が考案し、柳生石舟斎が解明した奥義」

 

「柳生宗矩や十兵衛も使えたと言われてる奥義だ」

 

 そう説明する達也。

 その場の全員が納得する。

 

「でもまさか立華が使えるとはな……」

「いやいや、まだ使えるうちに入らないよ」

「……どういう事?」

 

 黙り込んでいたエリカの問いに立華が答える。

 

「いやあ、剣教えてくれた人が使っていたんだけど」

 

「あの人は相手が余程の達人じゃなきゃ、確実に成功させる」

 

「でも俺は成功率低くてね……」

 

「今回は動揺させて、何とか上手くいかせたけど」

 

「ぶっちゃけ7割位は失敗する」

 

「いやあ、危なかった」

 

 そう言ってケラケラ笑う立華。

 それに唖然とする一同。

 そこへ。

 

「リッカ」

「うん?」

 

 レイナが声を掛ける。

 

「エリカは?」

「……あ」

 

 レイナの言葉にエリカの様子を伺う立華。

 彼女は悔しさのせいか、顔が歪んでいた。

 

「ご、ごめんね」

「……許さない」

「……じゃあ今度何か奢るから」

「……1回じゃ嫌」

「じゃあ3回」

「そ。じゃあ交渉成立!」

 

 そう言うとエリカの表情が戻る。

 

「エ、エリカちゃん……」

 

 それに呆れる美月。

 

「そりゃあまあ、悔しいけどね。次は負けないわよ」

 

 そういうエリカに立華は笑う。

 

「うん。それでいい」

 

「これはまだ本当の敗北ではないからな」

「本当の敗北?」

 

 立華の言葉にレオが聞く。

 それに答える立華。

 

「本当の敗北は……全てを失くす事だ」

「死ぬと言う事か?」

 

 達也の言葉に立華は苦笑する。

 

「自分1人だけ死ぬなら、まだいい」

 

「最悪なのは全て奪われることだ」

 

「仲間も、尊厳も」

 

 そう言って思い出すのは契約サーヴァント達。

 

 夫の死で、壮絶な仕打ちを受けた「勝利の女王」。

 革命で一家、召使い、ペット諸共虐殺された「絶対零度の皇女」。

 生きるために一揆を起こし、敗北し、全員処刑された「強欲なる奇跡の人」。

 

「だから強くなったら、挑んで来い」

 

 そう言って笑う立華だった。

 

 この日は解散となった。



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第十八節:立てこもり

 長かったようで、短かった新入生勧誘週間も何とか終わった。

 その間巡回を行っていた立華やレイナ。

 

 この2人も勧誘されたのだが……。

 

「便利、だね」

「ああ」

 

 逃げ切っていた。

 暗殺者(アサシン)のサーヴァントなら大抵持っている(偶に持っていないのがいる。踊り子や拳法家等。……まあこの2人はそれに代わるスキルを持っているが)〈気配遮断〉を使う事で対処していた。

 しかも自身だけでなく同行するレイナの気配をも断つタイプを使っていた。

 なので見つからずに済んだ。

 それでも。

 

「鬱陶しい」

「……まあねえ」

 

 レイナが不満を漏らすのは無理なかった。

 まるで虫か金魚のフンだった。

 

 だが、それも終わり、ここの所は平和だった。

 

 達也と剣道部の上級生がカフェで話しているのを見かけ、その理由を聞いたり。

 雫とほのかと一緒にお茶をしたり、御飯を食べたり。

 エリカとレオの実技の居残りに付き合ったりしていた。

 

「こういうの、学生らしい?」

「ああ。それは保証する」

 

 レイナの言葉に笑う立華。

 学生生活は通算2度目なのでわかる。

 

 そして、この日は2人で帰り支度をしていた。

 

「平和が続くといいなあ……」

「多分無理」

「……だよなあ」

 

 レイナの言葉にため息を吐く立華。

 なぜならまだ火種はくすぶっている。

 何でも反魔法国際政治団体【ブランシュ】の下部組織が動いているそうなのだ。

 【エガリテ】と言うらしく、生徒にもメンバーがいるそうだ。

 彼らの秘密を知る3人の内の1人である「軍人」からの情報だった。

 ……まあ「彼女」の知っている割合は、残り2人よりも圧倒的に少ないが。

 メールをくれたのだ。

 

「それにアイツに頼んで調べて貰ってるから、そろそろ結果出ると思う」

「誰?」

「パライソちゃん」

「……ああ」

 

 レイナがあの属性てんこもりのくノ一の姿を思い浮かべる。

 

 (「戦国、未亡人、くノ一、少女、巫女。属性、多過ぎ」)

 

 服装が露出過多の黒包帯から、忍びになったり、巫女になったりするあの黒髪を思い出す。

 彼女は数少ない常駐しているサーヴァントの1人だった。

 

 立華はこの世界に現れてから、自身の宝具を使う事でサーヴァントを何度も召喚している。

 だが、それはあくまでも一時的な召喚であり、時間経過や送還で消える。

 因みに一応全員一通り召喚している。

 ……まあ一部のトップサーヴァントや単独顕現持ち、空間操作持ち、愛が重い面々は、勝手に現れる時もあるが。

 

 そして、彼は契約していたサーヴァントの内の何騎かを常駐させている。

 パライソ……アサシン・パライソはその1人だった。

 

 理由?

 戦闘や諜報、暗殺、呪術と上手くこなせるうえ、性格に問題もないからである。

 彼女はそれを仕事としている。

 それにレイナとの仲も悪くはない。

 

 そうしていると。

 

『第一高校の生徒の皆さん!』

 

 男の声が校内に響き渡る。

 大音量で。

 思わずクラスメイトの何人かが耳をふさいだ。 

 

『失礼しました。第一高校の皆さん!』

 

 ボリュームを調整したようだ。

 これなら平気である。 

 

『我々は校内における差別の撤廃を目指す有志同盟です!』

「差別?」

「二科生が一科生や学校から受けている待遇じゃない?」

 

 頭上に疑問符を浮かべるレイナに立華が答える。 

 

『我々は生徒会、また部活連に対し、対等な立場においての交渉を要求します』

 

 話の続きは流れてこない。

 どうやら電源を切ったらしい。

 

 なので。

 

「じゃあ帰るか!」

「うん!」

「「こんな状況で!?」」

 

 ツッコミを入れたのは丁度近くにいた雫とほのか。

 

「わたし達、関係、ない」

「うん」

「連絡来ているかもしれませんよ?」

 

 ほのかの言葉に端末を除くと。

 メールが一件。

 

 至急来るように!   渡辺

 

 とあった。

 

「今日、わたし、非番」

「俺もだよ。……見なかった事にできないかな」

「無理、後で、絶対、何か、言われる」

「だなあ。是非もない。じゃあな2人共」

「いってくる、しずほの、また明日」

「「しずほの!?」」

 

 レイナの呼び方にツッコミを入れる雫とほのかだった。

 

 そして放送室へ行くと。

 

「遅い!」

「帰らなかった、だから、感謝」

「何で威張る!?」

 

 その前には、司波兄妹、生徒会役員、風紀委員会、部活連の実行部隊がいた。

 

「突入しないのですか?」

「マスターキーは向こうが持っている」

「なら……」

 

 立華が扉に近づいていく。

 

「……言っておくが壊すのは無しだぞ?」

 

 渡辺の言葉に立華は下がる。

 壊すのなら出来るが、壊さないで開ける手段は……。

 

「あ」

「?」

「あった」

「「「「「「え」」」」」」

 

 立華が扉に近づく。

 こういう時は電気の力……獅子と紳士の力を借りる。

 軽く扉に手を当てる。

 

「ええと、こういう時は何て言うんだっけ?」

 

「そうだ!」

 

「1、2、3ダー!」

 

 バチバチバチ

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 レイナ以外全員驚く。

 立華の手で電気がスパークした。

 そして。

 

 ガチャ

 

「電気があれば何でもできる。……開きました」

 

 それを見ていた一同唖然とする。

 それに唯一平然としていたレイナが実行部隊を見た。

 

「いいの?」

「!お前ら行け!」

 

 そんな訳で立てこもり犯はあっという間に取り押さえられた。

 が、その後、七草との交渉で有志同盟との討論会が行われることになった。




『英霊召喚(システム・フェイト)』

ランク:EX
レンジ:ー
種別:ー
最大捕捉:ー

彼が契約していたサーヴァントを双方合意の元に召喚できる。
本来は成立していない英霊すら召喚可能なうえ、状況によって一時的、数日等、永続等色々できる。ただし、上限や限度がある。
――――――現在は閲覧不可――――――


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第十九節:公開討論会 その準備

 そして、この日の夜。

 立華は自身の部屋にいた。

 机と椅子とベット、タンスくらいしかない自身の部屋。

 かつての「マイルーム」を参考にリフォームした。

 彼は机の上で作業をしていた。

 

 因みにレイナはいない。

 自身の部屋にいる。

 

 しょっちゅうくっついているこの2人だが、四六時中一緒にいる訳ではない。

 偶に離れるのも大事である。

 

 立華は毎日行っている「内職」をしていたのだが。

 

「御館様。よろしいでしょうか?」

 

 声がどこからともなく響く。

 

「ん?ああいいよ。丁度ひと段落した所だし」

 

 そう言って立華が椅子ごと後ろを向く。

 するとそこに突然人影が出現した。

 

 それは巫女装束を纏った黒い髪の少女。

 頭飾りには「九曜紋」が描かれている。

 

「どうわかった?パライソちゃん」

「はっ」

 

 パライソ……アサシン・パライソが調べてきたことを話す。

 それを相槌を打ちながら聞いている立華。

 

「そっか。ありがとう」

「いえ、拙者にはこれくらいしかできませんので」

 

 恐縮するパライソに立華は微笑む。

 座っていた椅子から立ち上がり。

 

「えい!」

「!?」

 

 立華がパライソを持ち上げる。

 そのままベットに座り、彼女を膝に座らせる。

 

「なあ、千代ちゃん」

「……はい」

 

 立華はかつてはサーヴァント達を真名で呼んでいた。

 だが、この世界に来てからは専らクラス名+色々で呼んでいた。

 「新宿の~」や「オケアノスの~」、「赤の~」という感じである。

 真名がバレたら対策をされてしまうからだ。

 

 まあ一部のサーヴァントはバレたからと言ってもどうってことなかったが。

 皇帝(ツァーリ)とか、皇女とか、ゴールデンとか。

 あの辺は真名知っていても、対策不可能であろう。

 なぜあんな攻撃をしているのか多分わからないだろうし。

 

 更にバレたら不味い弱点があってもそれを突くのが難しいのもいる。

 韋駄天小僧とか、すまないとか、大英雄とか。

 あんなのと接近戦できるのは今の時代数える程もいない。

 弱点が明確にわかっていても恐らく突けるのは一握りしかいないだろうし。

 

 閑話休題。

 

 とは言っても2人きりの時とかには名前や愛称で呼ぶ事がある。

 今回はそれだった。

 

「オレはさ、1人じゃ何にもできない」

「……そ、そんな事は」

「あるよ。確かに今のオレは結構強くなった。皆のおかげでね」

 

 そう言って笑う。

 

「でも万能じゃないからな。皆の力を借りなきゃならない」

 

「……あの時だって」

 

「皆の力でどうにかなった」

 

 彼が思い出したのは2年前に起こった事件。

 彼がレイナに召喚されるきっかけになった事件。

 ……今は語らない。これはいずれ語るべき時が来るだろう。

 

「いつもありがとう。本当にありがとう」

「いえ。拙者は……いえ、拙者達はできることをしているだけでござりまするので」

 

 立華はしばらくパライソを抱きしめていた。

 

 ◆◆◆

 

 そして、討論会当日。

 

 それが始まるまでの間は特に何もなかった。

 エリカやレオ、美月達が色々勧誘を受けた位である。

 ちゃんと断ったが、しつこかったそうだ。

 

 そして、この日の立華は朝早くからゴソゴソと何かをやっていた。

 

(「何か起こる気がするなあ……。準備しておくか」)

 

 そういう訳であちらこちらから自身の装備を引っ張り出していた。

 

「ん……?」

 

 その中で彼が出したのは一本の刀だった。

 定寸の日本刀と呼ばれるタイプである。

 彼と契約していたとあるサーヴァントが作った物の1つだった。

 

「行きたいのか?」

 

 言葉を話すはずのない刀に尋ねる。

 そして、彼は。

 

「じゃあ行こう」

 

 そう言って鞄に仕舞う。

 そういう感じで暫く準備を進めていた。

 

 すると。

 

「リッカ。へいよーかるでらっくす」

 

 起きてきたのはレイナ。

 まだ起きたばかりらしく、寝間着に着ている薄い青のベビードール姿であった。

 

「へいよーかるでらっくす」

 

 そんな彼女に挨拶を返す立華。

 そして、思い出したように言った。

 

「そうだ」

「?」

「今日は別行動する。一応影武者は付ける」

 

 一見意味の分からない言葉。

 レイナには意味がわかる。

 

「誰にする?」

「……」

 

 立華の言葉にレイナは思考する。

 

(「候補……3人」)

 

 1人目。連続猟奇殺人鬼。正体不明の狂戦士(バーサーカー)。

 2人目。上級AIの1人。純潔の別側面(アルターエゴ)。

 3人目。梁山泊百八傑。変幻自在の暗殺者(アサシン)。

 

 この3人は変装が上手い……と言うよりバレない。

 そして、3人共かなり強いため、ボディーガードにもなる。

 なのでよく召喚される。

 そのため、レイナとも面識はある。

 どちらも悪い印象はない。

 

 レイナが選んだのは。

 

「新シン」

「わかった」

 

 新シン……新宿のアサシンと呼ばれた男の愛称だった。

 彼はとある理由から他者の外見を投影できる。

 

 立華が出したのは1枚のカード。

 そこには仮面に短刀を持った暗殺者が描かれていた。

 それを地面に置くと。

 

「告げる」

 

 言葉を唱える。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

 今の魔法師達はほとんど使わぬ詠唱。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 カードを中心に魔法陣が出現。

 

「誓いを此処に」

 

 魔法陣が回る回る。

 

「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 光輝く魔法陣。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 そして、光が溢れた。



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第二十節:公開討論会 開始そして……

「じゃあ、行ってくる。新シン頼んだぞ」

「おうよ」

 

 自身の召喚したサーヴァントである新宿のアサシン……略して新シンにそう言う。

 

「姿見せたり、宝具解放は自身の判断で。……まあお前の宝具はそこまで派手じゃあないし」

「……いいのか?」

「うん。だってオレ信じてるもん」

 

 立華の断言に思わず新シンは笑ってしまう。

 

 そして、立華は自身のマスター……レイナに視線を移す。

 

「大抵の敵は大丈夫だと思うけど、もしもの時h」

「わかってる」

 

 レイナが頷く。

 そして、右手を見せる。

 そこには何もないように見えるが……。

 実は「ある印」が隠れている。

 主従の証がある。

 

「じゃあ、また後で」

「うん」

 

 そう言って立華は出かけようとするが。

 

「待って」

「?」

 

 レイナが立華を呼び止め。

 

「御守り」

 

 そう言って軽く立華の頬に口付けた。

 それに立華は笑う。

 

 そんな2人を見ていた新シンは。

 

「お熱いね~」

 

 笑って見ていた。

 

 ◆◆◆

 

 そして、ついに、公開討論会となる。

 因みに立華(の姿を借りた新シン)とレイナも風紀委員として警備に加わる。

 因みに立華が偽物である事は今の所は誰にもバレていない。

 

 元々彼含め身代わりを担当する3人はかなりの精度で化けれるので是非もない。

 気づかれる可能性があるのは……数名位だろう。

 

「達也、違和感、持ってる」

「そのようだねえ」

 

 一応違和感ないように振舞ったのだが、達也は何か変だと感じたようだ。

 

「どうする?」

「状況に応じて明かしてもいいとは言われてますがねえ」

「そう」

 

 そんな感じで話す2人。

 因みに誰も話を聞いていないので新シンも地の喋りを使っている。

 

「それでは公開討論会を始めます」

 

 始まった。

 

 なのだが……。

 

「討論会になってねえじゃん」

「同感」

 

 最初は討論会の形だった。

 だが、七草の合理的な反論に押され、完全に演説会と化していた。

 

「私は退任時の生徒総会で、生徒会役員を一科生のみに限定する制度を撤廃するつもりです」

 

「そうすることによって、一科生と二科生の間に存在する差別意識が少しでも無くなることを切に願います」

 

 そう言って七草は締めくくる。

 割れんばかりの拍手。

 これで終わりかと思われたのだが。

 

 突然の轟音。

 投げ込まれる榴弾。

 混乱を巻き起こそうとする一部生徒。

 乗り込んで来たマスク着用の不審者大勢。

 

 だが。

 

 榴弾は炸裂する間もなく、外に戻る。

 ……服部の魔法である。

 

 生徒は取り押さえられた。

 風紀委員達が動いた。

 

 そして、不審者は……。

 

「奥義、装填」

 

 飛び出す新シン。

 不審者達の目の前に出現。

 

十面埋伏・無影の如く(じゅうめんまいふく・むえいのごとく)

 

 数秒で全滅。

 

 影さえ映らぬ歩法で間合いを詰める新シン。

 そして、分身打撃。

 立華の姿のままでもある程度なら色々使える。

 

 気づけば倒れている不審者。

 そして、その近くには立華。

 彼が倒したのはわかったが、何をしたのか全く分からない。

 それに呆然とする一同。

 ……達也や深雪なども含め視覚に全く捉えられなかった。

 

「いいんですか?まだ終わってませんよ?」

 

 その言葉に我に返った一同。

 ここでのテロは未遂で終わったが、これ終わるはずがない。

 なので各自散開。

 鎮圧に動き始めた。

 

「流石。梁山泊豪傑。百八魔星」

「……それって褒め言葉なのかね?」

「褒めてる、安心して」

 

 レイナの褒め言葉に首を捻る新シンだった。

 

 ◆◆◆

 

 そういう訳で襲撃者の鎮圧に動く生徒達。

 因みに小国の軍隊程度なら単独で退けるほどの武力を保有しているため、圧倒間に鎮圧……されるはずだったのだが。

 

「敵、装備、いい」

「そのようですねえ」

 

 テロリストは頑張っていた。

 ……言い方が若干おかしいかもしれないが。

 武装が結構いいうえ、人数が多いのでほぼ互角な戦況だった。

 一校側にまだ大きな怪我人はいない。

 だが、このままではどうなるかわからない。

 なので。

 

「新シンお願い」

「……え、でも」

「わたし、大丈夫」

 

 その言葉に新シンは動いた。

 

 生徒と教師がテロリスト達の戦い。

 銃弾や魔法が飛び交う。

 その真っただ中に割り込む。

 

 そして。

 

「はっ!」

 

 蹴る。

 

「ふっ!」

 

 殴る。

 

「せいっ!」

 

 殴って蹴る。

 

「千山万水語るに及ばず」

 

 あっという間にテロリストたちを倒していく。

 

 それはまるで演武の様。

 思わず両者共に手を止めてしまう程。

 彼の乱入で勝利は一校に傾いた。

 

 その状況で。

 

「ん?」

 

 新シンが突如動きを止める。

 

「……よしきた」

 

 そう言うと、その場から消えた。

 そして、レイナの傍に現れる。

 

「失礼」

「うん」

 

 抱え上げて、その場から消えた。

 

 彼らが向かった場所にいたのは。

 

「よ」

 

 立華だった。

 本物である。

 手には大きな鞄を持っている。

 

「いつ、いた?」

「さっき、色々とね」

 

 そう言って笑う立華。

 

「ご苦労様新シン」

「おう。また呼んでくれ」

 

 そういうと新シンの姿がカードに変わる。

 そして、そのカードが消えた。

 それを見て。

 

「じゃあ行くか」

「……?」

「危ない場所へ」

 

 ニヤリと笑う立華だった。



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第二十一節:公開討論会 戦闘継続

 立華とレイナがその場所へ向かっていると……。

 

「壬生!どこだ!」

 

 見覚えのある上級生が誰かを探していた。

 確か……。

 

「達也、殺られた人?」

「その言い方は失礼だ。達也に倒された人だ」

「どっちも意味はほとんど同じだろうが!?」

 

 思わずツッコミを入れる上級生。

 確か名前は……。

 

「確か、ハラキリ?」

「桐原だ!何で切腹しなきゃならねえんだ!?」

 

 咆える上級生……桐原。

 それにレイナは軽く微笑んでいる。

 ツッコミをしてくれるのが嬉しいらしい。

 

 桐原に立華が尋ねる。

 

「どうしたんですか?」

「ちょっと人を探しててな……」

 

 その言葉に立華に直感が囁く。

 

「ふむ……」

 

―――スキル〈千里眼〉取得

 

 千里眼を使用する。

 遠方の標的の捕捉、動体視力の向上等のスキル。

 ……それはCランクまでである。

 Aランクなら未来予測と読心が可能になり、EXクラスなら過去と未来すら見通す。

 

(「なるほどね……」)

 

 桐原と壬生の因縁を理解する。

 他者のプライバシーにかかわるので、本来はあんまり使いたくないが、そうも言ってられない。

 

「先輩」

「……なんだ」

「一緒に来ます?」

「あ?」

「多分先輩の探し人が俺達が向かう所にいますよ」

「!」

「あくまで勘でs」

「行く」

 

 即答する桐原に立華は笑う。

 そして。

 

「じゃあ俺も久しぶりに使うか!」

 

 そう言って立華は鞄から自分のCADを出した。

 

「使うんだ」

「……なんじゃそりゃ」

 

 そのCADを見て、レイナは微笑み、桐原は奇妙な顔をした。

 

 ◆◆◆

 

 図書館の特別閲覧室。

 そこには国立魔法大学が所蔵する機密文献がある。

 それを狙ってテロリストがいた。

 それに混じって壬生もいた。

 彼女が案内したのである。

 閲覧用ディスプレイへとむかい、1人がハッキングツールを取り出してディスプレイの前にある座椅子へ座る。

 

 その時だった。

 

 何かが切れる鋭い音。

 倒れる音。

 

「こういう時なんて言うんだっけ?」

「そこまでだ!とか?後は、ダイナミックお邪魔します!とか?」

「う~ん……何か合わないような……」

「何でこういう時まで漫才してるんだ!?」

 

 鍵を掛けたドアが切られ、落ちていた。

 そこから現れたのは3人。

 

 1人目。制服姿の生徒。短めの髪をして、手に竹刀を持った男。

 壬生は知っている。剣術部の桐原武明だった。

 

 2人目。こちらは女生徒。白い髪の毛に白い肌の少女。手首にCADを巻いている。

 こちらも知っていた。確か風紀委員の鷹山レイナ。

 

 3人目。こちらも男生徒。白い髪の毛をウニ状にした肌が褐色の少年。

 こちらも知っている。風紀委員の藤丸立華。

 

 ただし、彼の姿は異様だった。

 右手には剣状のCAD……武装一体型CADを持っている。

 左手には日本刀。刃引きしていない刀だった。

 それだけならまだいい。

 だが、問題は同じようなCADが12()本空中に浮いていた。

 

(「なんでここが!?私達だってついさっき到着したばかりだと言うのに!?」)

 

 それに図書館内に配置していた人達がいたはずだ。

 なのに何故、彼らは傷1つなくここにいるのか。

 テロリストの1人がこちらへ歩いてくる3人に向かって驚きながら言葉を発した。

 

「なっ、馬鹿な!?下の奴等はどうした!?」

「こいつ1人で片付けたぜ」

「弱い。まだハラキリ、強い」

「桐原って言ってんだろうが!?」

 

 そう言って桐原が指差したのはレイナ。

 彼女があっという間に鎮圧した。

 無論テロリストも抵抗した。

 ……のだが。

 

(「とは言っても見事だったな……」)

 

 その光景を思い出す桐原。

 

 テロリストがアンティナイトで魔法を阻害。

 その隙に銃、ナイフ、棍棒などで挑んだ。

 だが、全員純粋な体術のみで彼らは沈んだ。

 拳や蹴り、肘打ち、投げである。

 レイナは魔法抜きでもかなり強い。

 なにせ、優秀な講師に護身術(と言えるかわからない)を習ったのだから。

 

 さらに彼らにはアンティナイトの魔法妨害するキャスト・ジャミングをどうにかする術もある。

 

「さて。どうする?」

 

 立華が笑みを浮かべる。

 それにテロリストは動く。

 

「壬生!」

 

 その声に彼女はアンティナイトを使って魔法を妨害をする。

 その隙に銃を撃とうとした彼らだったが。

 

「甘い!」

 

 12本の剣が踊る。

 テロリストに襲いかかる。

 

「な、何でキャスト・ジャミングが……」

 

 呆然とするテロリスト達。

 だがそれは隙となり、切り捨てられる。

 

「先輩!」

「おう!」

 

 桐原が壬生に斬り込む。

 

「お願いしますね」

 

 桐原に壬生を任せ、立華とレイナは残りの鎮圧に向かう。

 

 彼らにキャスト・ジャミングが効いていないのには理由がある。

 その理由は彼らが付けている指輪だった。

 

 この指輪は特殊な指輪だった。

 ある魔術師(キャスター)のサーヴァントお手製の指輪だった。

 この世界の魔法を知った1人が……「悪だくみ四天王」の1人である「P」が作った物。

 物作りに掛けては神代魔術師にすら匹敵する彼である。

 

 因みに幾つも作ってあり、その1つを桐原に貸している。

 

 そして、2人は。

 

「さて、フィナーレだ」

「フィニッシュ!」

 

 残りのテロリスト鎮圧に向かった。



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第二十二節:公開討論会 戦闘終局……そして

 空気弾がテロリストを襲う。

 空気が圧縮・解放されテロリストを吹き飛ばす。

 

 空気に関する魔法。

 空気弾の数がおかしいが、これならまだ許容範囲。

 

 一方こちら。

 

 12本の剣が踊る。

 それぞれバラバラに動き、テロリストに襲いかかる。

 

 これは単純な移動系等の魔法なのだが……

 それを12本同時に操っているのは異様だった。

 

 無論テロリストも黙っていない。

 銃を撃ったり、キャスト・ジャミングを使ったり、ナイフや棍棒を手に襲いかかる。

 だが、どれも叩き伏せられていく。

 

 そんな中。

 

「お、来たか」

 

 そう言って立華が笑う。

 その視線の先には達也と深雪、レオ、エリカがいた。

 

「よお!無事そうで何より」

 

 立華が嬉しそうに声を掛け。

 

「タツミユ、レオエリ。元気?」

「「タツミユ!?」」

「「こんなのと一緒にするな!」」

 

 レイナの声掛けにツッコミを入れる一同。

 そんな中。

 

「なあ……立華」

「ん?」

「……それがお前のCADか?」

「ああ。そうだよ」

 

 そう言って12本をバラバラに操る。

 まるで意志を持っているかのようだった。

 

「なるほど……。確かに目立つな」

 

 達也が納得する。

 だが……

 

(「あそこまで自在に操るとは……」)

 

 内心絶句していた。

 

 移動魔法で物を動かすのは大抵の魔法師ならこなす。

 だが、いくつもの数をあそこまで自在に操る事はおそらく深雪にも出来ない。

 

 「群体制御」というのもあるが、それとは違う。

 あれは数百近くの物を操る。

 それに比べれば数は少ない。

 だが、ここまで自在に操るとは。

 

 そんな事を思ってると。

 

「下は?」

「ああ。もうすぐ終わる」

「そう」

 

 レイナの問いに答える達也。

 

「ところで、図書館は?あたし達向かってたんだけど……」

「大丈夫。……決着ついたみたい」

「え?」

 

 エリカの疑問に答える立華。

 奇妙な事を言い出したので疑問符を浮かべる中。

 

「ハラキリ~勝った?」

「だ・か・ら!桐原っつってんだろが!」

 

 そう言って降りてきたのは桐原。そして……壬生だった。

 ……その間違えた呼び名に数人噴き出した。

 

「……はあ。勝ったぞ」

 

 そして勝利の報告をする。

 その報告にレイナは微笑む。

 

 今度は壬生の方を向く。

 

「え~と……み、みかん?」

「壬生。壬生紗耶香よ。柑橘類になった覚えはないわ。鷹山さん」

「そう、それそれ」

 

 名前が出てこないらしいレイナ。

 それに名乗る壬生。

 

「どう?スッキリ、した?」

「……」

 

 レイナの疑問に黙り込んでしまった壬生。

 ややあって。

 

「ええ。ありがとう」

 

 礼を言った。

 

「それで?これからどうする?」

「鎮圧、手伝い」

「それしかないな」

 

 そんな訳でテロリストの鎮圧に動いた。

 

 そして、テロリストが鎮圧されるまでそう長くはかからなかった。

 

 ◆◆◆

 

 テロリストの鎮圧が一通り済み、今は遅れて到着した警察による集団犯の検挙中。

 ただし、テロリストたちに協力した一高の生徒たちに関しては、克人が十師族の影響力を駆使し、今のところは手出し無用と言う事になっている。

 もちろん野放しにしているわけではなく、校内で然るべき措置を取った上でだ。

 そんな生徒の一人である壬生紗耶香は、現在教室の一室を借りて事情聴取の真っ最中であった。

 本人に抵抗の意思が無い事もあり、特に拘束されたりはしていない。

 その場には七草、渡辺、十文字の他、達也をはじめとした一年生たちも同席している。

 

 その場に立華とレイナはいなかった。

 彼らは。

 

「ここまででいいよ。2人共」

「はい!大丈夫なので」

 

 雫とほのかのお見送りだった。

 流石に家までとはいかないが、学校が見える範囲なら可能である。

 

「じゃあ気を付けて」

「またね」

「さよなら」

「さようなら」

 

 そう言って帰っていく雫とほのかを見守る2人。

 2人の姿が見えなくなったところで学校に戻る。

 

「これから、どうする?」

「う~ん。まだ終わってない気がするなあ」

 

 どうにも嫌な予感がするのだ。

 

「向こう、どうする?」

「警察任せ……にはしないよな」

 

 そんな事思っていると。

 

「うん?」

 

 立華が見覚えある上級生……桐原を発見する。

 手には刀を持っていた。

 

「ハラキリ、どうしたの?」

「……もういいや。面倒くせえ。……実はな」

 

 ツッコミを入れるのが面倒くさくなったのか、無視して説明を始める。

 それにレイナは落ち込む。

 

 桐原曰く。

 壬生の事情聴取の結果、彼女はどうやらマインドコントロールを受けてたらしい。

 

(「なるほど。道理で何か変だと思った」)

 

 そう思う立華。

 

 そのせいで渡辺の発言が言っていない物に変わっていたらしい。

 そこへ達也が相手のブランシュのアジトへの襲撃を提案。

 周りも賛同。

 それに桐原も加わりにいくそうだ。

 

「俺はアイツらが気に食わねえ」

 

 そこには怒りがあった。

 

「壬生の剣を……アイツの綺麗な剣を変えやがって」

 

 悲しみもあった。

 

 そんな彼に立華は尋ねる。

 

「だから刀を持っているんですねえ」

「ああ。……まあ刃引きしてあるけどな」

「そうですか……」

 

 桐原の答えに笑みを浮かべる立華。

 

「先輩」

「あん?」

「これどうぞ」

 

 立華が鞄から棒状の物を取り出し、渡した。

 一振りの日本刀だった。

 因みにさっきまで立華が使っていた物ではなく、出かける直前に入れて置いた物だった

 

「使ってください。サービスです!」

「……いいのか?」

「今宵のこの刀、血に飢えてるので」

「物騒だな!?……わかった。感謝する」

 

 そう言って刀を受け取り、駆けていく桐原を見守る立華。

 

「いいの?」

「ああ。アレは試作品だしな。俺には他にも色々あるし」

「そっか」



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第二十三節:移動、報復、邪眼。そして……

 大型の車が道路を走っていた。

 メンバーは十文字、司波兄妹、エリカ、レオ、そして桐原だった。

 彼らが向かっているのはブランシュの本拠地だった。

 

 普通なら敵地に乗り込むと言う事で張りつめているはずなのだが。

 

「いいな~!桐原先輩」

「しつけえな。そんなに羨ましいならアイツから借りれば良かっただろ!?」

 

 エリカが桐原の刀を羨ましがっていた。

 彼女も剣士である。

 だからこそだった。

 

「確かに持ってたけどさ~」

「そういえばCADじゃない刀も使ってたな」

 

 達也が思い出す。

 彼は右手に日本刀を持っていた。

 

「ああ。アイツCADと一緒に武器も幾つか持ってきてたらしくてな。そのうちの一本を貸してくれたんだ」

「あ~!それなら借りれば良かったあ!」

「落ち着いてエリカ」

 

 地団太を踏む勢いのエリカ。

 それを嗜める深雪。

 

 そんな中。

 

「それにしても本当に剣も使えたんだな」

 

 レオが呟いた。

 結構前の皆で帰っている時に言っていたうえ、エリカとの模擬試合では無刀取りを披露していた。

 だからこそ使えるとは思っていたが。

 

「……ああ。閲覧室の扉を一刀両断していたぞ?」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 全員絶句する。

 あそこの扉は侵入者防止のために凄まじい硬度がある。

 それを一刀両断するなど……。

 

「アイツ曰く、ちょっとインチキしているとか言ってたけど……」

「インチキ……」

 

 桐原の言葉に達也は思考する。

 一体何をやったのだろうかと。

 そんな中。

 

「司波。もうすぐ着くぞ。作戦は?」

 

 十文字が尋ねてくる。

 なので達也は役割分担をする。

 

 そして。

 

「レオ。頼む」

「おう!」

 

 車に硬化魔法を駆けて中央突破した。

 

 その後数手に分かれ、ブランシュのアジトに突入した。

 

 ◆◆◆

 

 達也と深雪はアジトを進む。

 道中襲い掛かって来た者はいたのだが。

 

 キャスト・ジャミングは達也には効かない。

 攻撃手段の銃火器はバラバラになり。

 達也の魔法で身体に穴が空き、深雪の魔法で氷漬けになっていった。

 

 奥まで進むとそこには……。

 

「はじめまして、司波達也くん!」

 

 白い服に眼鏡の男がいた。

 

「僕がブランシュ日本支部代表の司一だ」

 

 名乗りからするとどうやら彼がリーダーらしい。

 

「そうか」

 

 どうでもよさそうに言葉を返す達也。

 

「……一応、投降勧告をしておこう」

 

 そう言っているが彼はわかっていた。

 

「全員武器を捨て、両手を頭の後ろで組んでから跪け」

 

 相手が応じるはずないと。

 

「魔法の力が全てだと思っているのかい?」

 

 その言葉に対して、余裕の笑みを浮かべる司。

 

「やはり所詮学生だ」

 

 薄笑いを浮かべた司は伊達眼鏡を空中に投げ捨て、こう言い放った。

 

「司波達也、我々の同士になれ!」

 

 だが達也に変わった様子はない。

 司の顔から笑みが消える。

 

「意識干渉型系統外魔法、邪眼(イビル・アイ)か。タネさえ分かっていれば、どうとでもなる手品だな」

 

 魔法が効かなかったせいなのか、司は冷静さを失っており、部下達に達也達を射殺するよう指示を出す。

 だが男達が引き金を引こうとすると、手元にあった銃は部品に分解され、甲高い音をたてて床に落ちていく。

 それを見た司は。

 

「ひぃっ!?」

 

叫び声を上げて逃げ出していく。

 

「お兄様方はあれを追ってください」

 

 凛とした声でそう告げる。

 達也は司が出て行った方へ歩き出す。

 彼の背後では氷の彫像になったものが幾つも倒れていた。

 

 司は達也を返り討ちにしようと身を潜めていた。

 魔法師でもキャスト・ジャミングさえ使えば大したことはない。

 そう高を括っていたのだが。

 

「な、何故!?」

 

 達也には通じなかった。

 あっという間に配下の武器はバラバラにされ、穴が空く。

 追い詰められた司。

 そこへ追い討ちをかけるように……。

 

「よお、司波」

 

 壁を切り裂き桐原が現れる。

 その後ろには十文字がいた。

 

 桐原の右手には日本刀があった。

 立華が貸した刀である。

 刀の事が分からない人でも何か感じさせる刀だった。

 

(「まるで妖刀だな」)

 

 そんな事を思う達也。

 

「ところでよお、こいつが?」

「ええ、主犯です」

 

 その言葉に凄絶な笑みを浮かべる桐原。

 

「てめえが……」

 

 刀を振りかぶる。

 

「壬生をたぶらかしやがったのか!」

 

 そう言って刀を振りかぶる。

 その刀は司の右手を切断した。

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 叫び声を上げる司。

 それを見た十文字がため息をつき。

 

「やり過ぎだ……」

 

 溜息を吐いた。

 

 暫くすると深雪とエリカ、レオもやって来た。

 

「深雪」

「はい」

 

 達也の呼びかけに深雪が答える。

 そして、魔法を発動させ、司の切断面を凍らせ血を止めた。

 

「これで一件落着かしら?」

「……そうだな」

 

 エリカの言葉に達也が答える。

 だが、彼の心中は穏やかではなかった。

 

(「なんだ?この胸騒ぎは……」)

 

 その様子に深雪は気づいたのか。

 

「お兄様?」

「ああ、すまない。どうにも嫌なy」

 

 最後まで続けられなかった。

 

「聖杯の……寄るべに……従い、この意、この理に……従…うなら……ば応えよ。誓いを……此処に」

 

 片腕だけの司が何かを言っていた。

 最初は独り言だと誰も気に留めなかったのだが。

 

「我は……常世…総て……の善と成る者、我……は常世……総ての悪を…敷く……者」

 

 独り言には聞こえない。

 

「汝三大の……言霊を纏う七天」

 

 これはまさか詠唱!

 

「不味い!止めr」

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 司の懐が光った。



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第二十四節:狂い武者

 全員がその光に目を瞑ってしまった。

 だが、達也はそれくらいでは止まらないし、止められない。

 

 CADを起動させ、司の足に穴を開け、機動力を奪っておく。

 そして、懐の光の発信源を狙うが……。

 

(「なんだこれは!?」)

 

 分解できなかった。

 形状からカードと言う事はわかるが、それ以外が全く分からない。

 構造情報が分からなければ分解できない。

 

 そして、光が収まった。

 その先には。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 全員絶句。

 なぜなら目の前に……司の前に武者がいた。

 

 一言で言うなら赤い鎧武者。

 顔は日本風で、性別は男。

 だが、今の時代には似つかわしくない赤い鎧姿。

 腰には日本刀……鍔が小さめの薩摩拵の刀が二本差しにしてあった。

 そして、轡十字の家紋のある猩々緋の陣羽織を纏っていた。

 

 そして。

 

「ア、アア、アアアアアアア!!!」

 

 咆哮。

 全員が耳を塞ぐほどの轟音。

 そしてその武士は辺りを見渡す。

 

「帰ル、帰ル、帰ルーーー!」

 

 再び咆哮。

 近くにいた達也に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

 凄まじい速さにギリギリ避けられた達也。

 CADを向け分解しようとするも……。

 

(「またか!?」)

 

 できなかった。

 

 この武者は化成体に近い。

 莫大な量のサイオンとプシオンで出来ているのは分かる。

 そして、サイオン量が莫大すぎて、魔法式が通らない。

 構造も把握できないので分解も不可能。

 更に。

 

「アアアアアア!!!!!!」

 

 振り下ろした刀が床を斬った。

 

 サイオンが物質に干渉していた。

 これはあり得ない事なのに。

 

「お兄様!」

 

 深雪の魔法が発動。

 相手を凍らせる。

 だが。

 

「アアアアアア!!!!!!」

 

 芯までは凍らなかったのか、直ぐに起動。

 そこへ十文字が〈障壁魔法〉が武者を潰しにかかる。

 が。

 

「アアアアアア!!!!!!」

 

 障壁を斬り裂いた。

 そして、彼らを見て。

 

「首ィ、首ィ……置イテ行ケェェェーーー!」

 

 絶叫。

 襲い掛かってくる。

 

「退くぞ!」

 

 十文字が〈ファランクス〉を展開。

 武者の動きが止まる。

 その隙に深雪が〈ニブルヘイム〉を使用。

 氷漬けになる

 

 一時的に動きは止まった所で全員で逃走。

 

 全員わかっていた。

 長くは持たないと。

 

「なんなんだ!?アレ!?」

「知るもんですか!……薩摩由来の武者ってことはわかるけど」

 

 レオの問いにエリカが答える。

 どうやら刀でわかったらしい。

 

「でもねえ」

 

 エリカにはわかった。

 

「アレがヤバイ事だけはわかるわ」

 

 あの太刀筋。

 鍛錬の後が伺える。

 

「あたし達じゃ刃が立たない。逃げるしかないわ」

 

 全員分かっている事だった。

 

 だが。

 

「首ィィィィィィ!」

 

 咆哮を上げて襲いかかる。

 このままでは追いつかれる。

 

「迎え撃つしかねえぞ!?」

 

 桐原の言葉に達也は思考。

 そして。

 

「深雪。頼む」

「はい!」

「十文字先輩もお願いします」

「わかった!」

 

 再びの障壁魔法と凍結魔法が襲い掛かる。

 そこへエリカとレオ、桐原が同時に攻撃を仕掛ける。

 が。

 

「「「!?」」」

 

 レオの拳とエリカの警棒は素通りした。

 桐原の刀は傷を与えられた。

 

 なのだが。

 

「チイ!」

 

 浅かった。

 武者は結構硬かった。

 

 そこへ。

 

「アアアアアア!!!!!!」

 

 武者が起動。

 刀を振るう。

 

「くっ!」

「ちょっ!」

「うっ」

 

 レオがエリカを突き飛ばす。

 硬化魔法は発動済み。

 桐原は刀を盾にする。

 生半可な盾よりは硬い。

 エリカは吹っ飛ばされたため、射程から逃れる。

 

 そして。

 

 ザシュ!

 

 2人は吹き飛ばされる。

 桐原は大きな怪我はなかった。

 刀のおかげだった。

 だが、レオからは血が大量に出ていた。

 今すぐ処置をしないと不味い怪我だった。

 

(「使うか?だが……」)

 

 「再成」を使うか迷う。

 アレは誤魔化しが効きづらい。

 

 このままでは全員倒される。

 全員に絶望感が漂う。

 その時だった。

 

 何かが天井を貫き落ちてきた。

 轟音。煙。

 煙が晴れる。

 そこにいたのは……。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 全員再び絶句。

 

「ア?」

 

 武者も首を捻る。

 

 真っ黒な影法師だった。

 人型はしており、帽子を被っているのはわかる。

 眼が爛々と輝いている。

 だが、それ以外全く分からなかった。

 全身に黒い靄を纏っており、何もわからない。

 ……達也の目でもわからなかった。

 

 その影はレオを見ると。

 

「よく戦った」

 

 そう言うと手を翳す。

 

―――待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 するとレオの怪我が一瞬で治る。

 回復したのを見届けると武者を睨む。

 

 そして。

 

「おまえは──地獄を見たことがあるか。狂戦士(バーサーカー)」

 

 影法師の言葉に武者は。

 

「アアアアアア!!!!!!」

 

 咆哮で返した。

 

 そして両者激突した。




「アアアアアア!!!!!!」
「首ィ、首ィ。置イテ行ケーーー!!!」
「帰ル、帰ル、帰ルーーー!!!」

狂戦士(バーサーカー)のサーヴァント。本作オリジナルサーヴァント。
通称【関ヶ原のバーサーカー】。
鎧を来た青年。家紋に十字が使われている。
昨今珍しい、言葉を流暢に喋らない、喋れないバーサーカー。
刀を片手に獣のように戦う。
ノッブ、サル、タヌキを見ると襲い掛かる。後、茶々と柳但にも襲い掛かる。


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第二十五節:復讐者と狂戦士

 武者……狂戦士(バーサーカー)は咆えて、影法師に突撃。

 刀を振るう。

 その刀を影法師は避ける。

 

 そして。

 

「おおっ!」

 

 影法師の手に炎……青黒い炎を纏わせバーサーカーを殴る。

 吹っ飛ぶバーサーカー。

 そのまま猛攻撃を加えていく。

 

 三次元的な高速移動。

 実戦経験がある達也やエリカ、十文字ですら、目で追えない凄まじい速さ。

 

「ぬぅっ!」

「アアア!」

 

 だが、バーサーカーも負けてはいない。

 吹き飛びながら、態勢を立て直す。

 右手に持った刀を振るい、影法師に対抗する。

 獣的な直感で対抗していた。

 

 ぶつかり合う両者。

 武器と無手。

 刀と拳が激突。

 

「ぜぇえあっ!」

「帰ルーーー!!!」

 

 バーサーカーは影法師に押されていた。

 

 武器を持っているため、リーチ的にはバーサーカーが上。

 ただし、今の彼は狂っているため、思考能力が低い。

 ……生前から若干脳筋気味だったが。

 そのため、力任せに刀を振り回す事しかできない。

 

 一方、影法師は武器を持たず、徒手空拳。

 だが、青黒い炎を利用し、纏わせて打撃の威力を上げるだけではなく、ビームのように飛ばし遠距離攻撃もこなす。

 それを使う事で着実に追い詰めていた。

 

 更に。

 

「ア、アア……」

 

 青黒い炎は怨念の炎にして毒の炎。

 直接ダメージに加えて持続ダメージやステータス異常を与える。

 そのせいでバーサーカーの動きは確実に鈍って来ていた。

 

「フハハハハ!」

 

 高笑いする影法師。

 そして抜き手がバーサーカーを貫いた。

 

「ア……」

 

 何かを握りつぶす音が響く。

 核を潰したのだ。

 そして、影法師が腕を引き抜こうとするが。

 

「!?」

 

 バーサーカーが腕を押さえつけていた。

 そしてそのまま。

 

「帰ルーーー!!!」

 

 影法師に斬り付けた。

 

「うぅく!」

 

 ダメージに叫びを漏らす影法師。

 だが、その刀を押さえつけてダメージを減らす。

 

(『霊核潰したのに!?戦闘続行!?』)

 

 そんな事を思う影法師……否、立華。

 

 これがこの影法師の正体だった。

 あの後、帰宅したのだが、どうにも不安が拭えず、使い魔を飛ばして見張っていたのだ。

 そして、あの事態が起こり、急いで駆け付けたのだ。

 

 自身の奥の手の1つを切ってまで。 

 

(『恐らくバラバラにしなければダメなのだろうな……』)

 

 それに答える声がある。

 今立華が力を借りているサーヴァントだった。

 

 彼が持つ宝具……の1つである「英霊召喚(システム・フェイト)」。

 サーヴァントを単純に召喚するだけでなく、英霊を自らの器に入れる事も可能。

 そうした場合、一種の疑似サーヴァント状態もしくは、クラスカードを使った夢幻召喚(インストール)状態になるのだ。

 

 今、彼は復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントである”巌窟王エドモン・ダンテス”の力を借りている。

 因みにその理由は、気分と姿を隠蔽できるからだった。

 

 これを使うと衣装が変わる。

 顔は変わらないため、知人には一発で正体がバレる。

 流石に自身の正体がバレる訳にはいかない。

 

 バーサーカーは健在だった。

 瀕死のダメージを負っているのに、未だ戦闘態勢だった。

 

 こういう敵に場合は木っ端微塵にするか、消滅させるか、バラバラにするしかない。

 

(「なら……使うしかないか」)

 

 立華がエドモンに確認を取ると。

 

(「いいだろう。好きにしろ」)

 

 許可が下りる。

 

「ふう」

 

 息を吐く。

 そして。

 

「慈悲などいらぬ!」

 

 立華の姿が掻き消えた。

 

「我が征くは恩讐(おんしゅう)の彼方」

 

 先程とは比べ物にならぬ高速移動。

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 あまりの速さに分身したように見える。

 そのまま攻撃をしかける。

 

 バーサーカーは全く対抗できない。

 手足が吹き飛び、上半身と下半身が別れる。

 バラバラになったバーサーカー。

 

「情けはかけぬ」

 

 そこまでしてやっと倒れるバーサーカー。

 

「存分に、朽ち果てよ」

 

 言葉を掛けた。

 

 青黒い炎に燃やされるバーサーカー。

 すると目に光が宿る。

 

「ああ、負けか……」

 

 はっきりとした声が聞こえた。

 余りの戦いに呆然としていた達也達。

 その言葉に起動する。

 

「……あんた喋れたの?」

「喋れるようになったは今じゃ」

 

 エリカの問いに答えるバーサーカー。

 

「ああ、おいは薩摩に帰れんのか……」

 

 悲しそうな顔を彼はしていた。

 

「親父どんは帰れたかのう」

 

 その言葉に立華は気づく。

 

(『もしかして……土方さんと同じタイプ?自分が死んだことに気づいていない!?』)

(『そのようだな』)

 

 なので彼は。

 

「バーサーカー。いや……島津豊久」

 

 声を掛けた。

 

「お前の伯父……島津義弘は薩摩に帰れたぞ」

「……ほんとか?」

「本当だ。しかも……あのタヌキに領地も削られずに済んだ。よっぽどお前らが怖かったんだな」

 

 そう言って笑う立華。

 それを聞いたバーサーカー……島津豊久は。

 

「そか。ならよか……」

 

 そう言って嬉しそうに笑い、眼を閉じた。

 そして、金の粒子になって消えた。

 

 その場に残ったのは1枚のカード。

 絵柄は獣の毛皮を纏った戦士の図柄だった。

 それを立華は拾い上げた。

 

「エイメン」

 

 祈りを捧げた。




クラス:バーサーカー
真名:島津豊久
性別:男性
身長:176cm
体重:68kg
出典:史実
地域:日本
属性:中立・狂・人
好きな物:首
嫌いな物:タヌキ、石田三成

ステータス   筋力:B
        耐久:A
        敏捷:D
        魔力:E
        幸運:C
        宝具:D++
        
クラススキル  狂化:B  保有スキル  戦闘続行:B+  勇猛:B  戦場の鬼:A

Buster×3  Quick×1  Arts×1

宝具【島津の退口(しまづのひきぐち)】

ランク:D++  種別:対軍宝具  レンジ:1~20  最大捕捉:1000人

捨て奸を申し出て、伯父である島津義弘と島津勢を無事に退却させた逸話が具現化した物。この宝具が解放された場合、迂回や退却は決して許されずバーサーカーに挑まなければならない。更にこの宝具発動中は、肉体の損傷による身体能力の劣化を無効化し、相手を屠るまであらゆる手段を使い戦闘を継続することが可能。例え霊核を砕かれても動き続ける。対処するには対軍・対城宝具相当の破壊力で消し飛ばすしかない。
ゲームにおける性能は味方全員に3ターン永続ガッツと色々バフ

・キャラクター詳細
戦場では鬼神の如き強さを見せる武人。
結構脳筋気味。狂っていてもあまり変わらない。
通称「妖怪首置いてけ」。

・絆レベル1
ー中略ー
結構美男子。黙っていればモテる。黙っていれば。黙っていれば。

・絆レベル2
島津豊久は安土桃山時代の武将で、島津家の家臣。
初陣は14歳でいきなり首級あげた。
父の死後、日向佐土原城の城主となった

・絆レベル3
父の死後は伯父である義弘の援助を受けていた。
そのため、彼の事をとても慕っている。
各地を転戦し、父親似の猛将の片鱗を見せる。

・絆レベル4
彼を有名にしたのは関ヶ原での島津の退き口、捨て奸である。
本隊が撤退する際に、殿の兵の中から小部隊をその場に留まらせ、追ってくる敵軍に対し死ぬまで戦い、足止めする。そうして小部隊が全滅すると、また新しい足止め隊を退路に残し、これを繰り返して時間稼ぎをしている間に本隊を逃げ切らせる壮絶なトカゲの尻尾斬りである。

・絆レベル5
関ケ原での際は志願者の数が多かった。多くの犠牲を出したが、島津義弘は生きて薩摩に戻れた。ただし、部下80余名しか残っていなかった。豊久の行動は無駄ではなかった。
……余談だが、捨て奸に巻き込まれた井伊直政はここで受けた傷が元で亡くなった。

・幕間の物語「終わらない関ケ原」
徳川家の名将達を相手に死力を尽くして奮戦し、井伊直政を撃退した島津豊久だったが、全身に無数の矢を受け、体中を切りつけられて見事な立ち往生を遂げた……が、彼は自分が死んだと思っていない。ここでは死ねない。薩摩に帰る。その執念で戦い続ける。


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第二十六節:二年前の欠片

 そのまま去ろうとする影法師……立華。

 が。

 

「待て!」

 

 それを止める声があった。

 振り向くと十文字が立華に近づいて来た。

 

「何の用だ?」

「まず助けてくれたことには礼を言う」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「ほう。俺がお前達を殺すとは思わなかったのか?」

「それはないな。俺達を皆殺しにする気なら、西城を放っておくはずだ。それにその気ならもう俺達は死んでいる」

「……フン」

 

 立華の疑問に答える十文字。

 

「聞きたい事がある。……だがまずお前は誰だ?」

「そうだな……。宣教師とでも呼んでくれ」

「「あんた(お前)のような宣教師がいるか!?」」

 

 ツッコミを入れたのはエリカとレオ。

 レオは完全回復していた。

 

「……わかった。それでいい」

 

 一方十文字は一応納得。

 

「始めに聞きたい。アレは何だ?」

 

 一見すると使い魔の一種。

 だが、格が全く違う。

 

「そうだな。お前達に分かりやすく言えば……使い魔の一種だ」

「それはわかる。だが、あれは……」

「一線を画している……か?」

 

 立華……宣教師の続けた言葉に頷く一同。

 

 あの鎧武者はおかしかった。

 戦闘力が桁違いであった。

 しかもあり得ない位のサイオン量。

 あれは一体なんなのだろう。

 

「フン。……まあいい説明してやろう。お前達にも無関係ではないしな」

「何?」

「……どういう意味だ?」

 

 今まで黙っていた達也が問いかける。

 それに宣教師は答える。

 

「話の順序がある。まず最初の疑問から答えよう。アレは”サーヴァント”と呼ばれる代物だ」

「サーヴァント?召使い?」

「直訳すればそうだが、ここでの意味は異なる」

 

 そう言うと宣教師が説明を始める。

 

「サーヴァントは使い魔の一種。お前達も実感した通り最上級、最高クラスの使い魔だ。……使役しているのは英霊だから当然だがな」

「英霊?」

「古今東西の英雄が死後、人々に祀り上げられて英霊となる。それを使い魔として召喚するのさ」

「つまり……死者蘇生か!?」

 

 達也の言葉に周りの人間が驚く気配がする。

 だが、それを宣教師は否定する。

 

「違う、違う!正確に言えば”本体”の”コピー”だな」

「コピー?」

「その英霊の本体を完全に呼び出すのはほぼ不可能だ。だがら、”クラス”という器に切り出した側面……コピーを入れる」

 

 その言葉に全員の頭上に疑問符が浮かぶ。

 それに宣教師は嘆息する。

 

「そうだな……。先にクラスの説明からするか」

 

 そう言って彼は続けた。

 

「クラスとはな……役割だ」

「役割?」

「……まあ身も蓋もない言い方をすればRPGのジョブだ」

「「「「「「なるほど」」」」」」

 

 その説明に全員納得した。

 

「そして、そのクラスに入れたのがサーヴァントだ。さっきのはバーサーカーというクラスだ」

「……狂戦士と言う意味か?」

「その通り。基本はクラス7つ存在する」

 

 

 剣士(セイバー)。バランスの取れた最優のクラス。

 弓兵(アーチャー)。高い射撃能力を持つ。

 槍兵(ランサー)。高い敏捷性と白兵戦能力が自慢。

 

 この3つが三騎士と呼ばれる。

 そして。

 

 騎乗兵(ライダー)。高い機動力と宝具を数多く所有する。

 魔術師(キャスター)。術を使うクラス。

 暗殺者(アサシン)。マスター殺しに特化したクラス。

 狂戦士(バーサーカー)。ただ狂う事で破壊に特化している。

 

 他にもエクストラクラスが幾つもあるが、今回は割愛。

 

「基本この7つだ」

「なるほど……」

 

 その説明に納得する達也。

 他のメンバーも納得していた。

 そんな中。

 

「宝具とマスターって何だ?」

 

 桐原が宣教師に尋ねる。

 

「宝具はサーヴァントが持つ必殺技のような物だ。大抵皆1つは持っている」

 

 そう言って自身の腕から青黒い炎を出す。

 

「このように、生前に築き上げた伝説の象徴がなる」

 

(「どんな伝説?」)

 

 内心首を捻る一同。

 例えが悪く、これでは全くわからない。

 それに構わず説明を続ける宣教師。

 

「マスターはサーヴァントの主人。今回の場合……」

 

 そう言った途端宣教師の姿が消える。

 数秒後手に眼鏡の男……司を吊り下げて戻って来た。

 

「こいつだな」

 

 そう言って地面に投げ捨てた。

 

「これは好きにしろ。どうせ何も知らないだろうしな」

 

 そう言って去ろうとするが。

 

「待ちなさい!」

 

 エリカが呼び止める。

 

「あたし達が無関係じゃないっていう理由を聞いてないわよ?」

「……聞きたいか?」

 

 確認をする宣教師。

 少しだけ凄んで見せる。

 全員少し引くが、頷く。

 

「ならいい。これはな」

 

 そう言ってカードを出して見せる。

 

「2年前の事件……大事件というべきか?その断片……その欠片だ」

「「「「「!?」」」」」

「「?」」

 

 その言葉に司波兄妹とエリカ、十文字が絶句、驚愕する。

 一方桐原とレオの頭上には疑問符が浮かぶ。

 ……二十八家と百家の一部家系の人は知っている、話す事すらタブーの”とある事件”だった。

 

「……あの事件は……終わっていないのか!?」

 

 十文字が血相を変えて問うと。

 

「安心しろ。終わっている。とっくにな。これはな、首謀者の残した置き土産だ」

 

 そう言ってふうと息を吐く。

 

「そう数はないし、俺が終わらせる」

 

 そして、後ろを向く。

 

「この件には関わるな。二十八家……いや、今は二十七家か。また減ってもいいのか?」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 その言葉を最後に宣教師の姿は消えた。



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第二十七節:屈辱の二週間

 その後、事件の後始末は十文字家が引き受けた。

 だが、これにて一件落着……とはならなかった。

 

 翌日の放課後。

 ブランシュのアジトへの襲撃に加わったメンバーと七草と渡辺がいた。

 

「……なるほどね」

 

 昨日の事件の顛末を聞いて顔を歪ませる七草。

 別動隊であった、七草と渡辺だったが、昨日の内に報告は上がっていた。

 だが、直接聞いておきたいと言う事で改めて昨日のメンバーから話を聞いていたのである。

 

「サーヴァントに、2年前の事件か」

 

 渡辺の呟きに七草と十文字の顔の顔が更に歪む。

 何せ、その事件で両家は少なくない損害を被っている。

 

 報告の後。

 

「さて、お前達には緘口令を敷かせてもらう」

 

 十文字がそう告げる。

 それに一二もなく頷く一同。

 今回の集まりは情報提供と緘口令のためだった。

 

 そして。

 

「とは言っても。二年前に何が起こったのか知らない面々もいるからな、説明を聞きたい物は残ってくれ」

「……ちょ、ちょっと十文字くん!」

「変な推測されるよりはマシだ。それにこの2人は怪我を負ってもいたしな」

「……一応治りましたけどね」

「こっちは軽症ですみました」

 

 十文字の言葉にレオと桐原が答える。

 この2人、あの後病院行きとなったのだが、レオは異常なし、というか完全健康体、桐原はバーサーカーに吹っ飛ばされた際の軽い打撲で済んでいた。

 

 閑話休題。

 

 出ていくものはおらず、話が始まる。

 

「では話そう。そもそものきっかけは……魔法協会にある通知がなされたことから始まった」

 

 2年前のある日。

 日本魔法協会にある通知が届いた。

 それは。

 

『我々は十氏族を頂点とする態勢から独立する』

 

 差出人はある「数字落ち」の三家。

 

 反逆の罪で剥奪された「士木崎」。

 重大な任務失敗で剥奪された「鹿合」。

 無能と言う事で剥奪された「矢代」。

 

「彼らは”御三家”と名乗り、新たなコミュニティを形成する、それを協会に有力魔法師へ通知しろと言って来た」

 

 最初はいたずらだと思った魔法協会の職員。

 

「だが、彼らはその通知を二十八家にも出していた」

 

 どう見ても喧嘩を売っているとしか思えない文面。

 

 なので。

 

「勿論十師族や師補十八家のほとんどはいたずらの類だと思った」

 

 だが、一部の家は違った。

 調査、場合によっては排除するために人員を割いた。

 そして、このままにはしておけないと思ったのか国防軍の一部部隊も動いた。

 

 その結果。

 

「十山が壊滅した」

 

 国防軍が凄まじい被害を受け、十山は文字通り壊滅した。

 

 その言葉にその場の全員が黙り込んでしまった。

 

「十文字は十山とつながりが深い。だからこちらも救援に向かったのだが……」

 

 その時にはもう十山は全滅していた。

 残されていたのは大量の血痕と肉片のみ。

 血筋の者から、使用人まで殺されていた。

 原形はとどめていなかった。

 

「その事態を重く見た十師族は動いた」

 

 十師族は自由に動かせる魔法師達に指令を出して、殲滅を指示したそうだ。

 無論、本家分家問わずに動いた。

 が。

 

「結果は壊滅」

 

 二十八家と百家は少なくない被害を受けた。

 一条や七草、四葉などは動かせる魔法師にかなりの損害を受けた。

 

 それは達也も知っていた。

 何せ自身の魔法で、黒羽家や軍の同僚を数えきれないほど再成させたのだ。

 

「そして彼らは新たな通知を出した」

 

『我らの力はわかったはずだ。無駄な事はやめて、現実を受け入れろ』

 

 更に警告を込めるためか、有力魔法師の子女が多数拉致された。

 三矢や七草の娘も被害にあった。

 

『手を出すな。出したらわかるだろう?』

 

 これは彼らにとって屈辱だった。

 後に歴史家から「屈辱の二週間」と呼ばれる日々だった。

 

「ところが、ある日転機が起こった」

 

 それは匿名の情報だった。

 彼らの本拠地の情報だった。

 

「これに十師族は同盟を組んでそこへ強襲をかけた」

 

 場所はとある無人島。

 地図から消えた島だったのだが。

 

「そこには島がなかった」

 

 島があった形跡すら残っていなかった。

 

 後で、調べた所によれば、大きな爆発?のような物で島自体吹き飛んだとのこと。

 

「だが、救命ボートがあってな、そこには人質が全員乗せられていた」

 

 大きな怪我もなく、全員無事だった。

 ……だが。

 

「彼らは何も覚えていなかった」

 

 拉致されてからの記憶を消されていた。

 心配していた後遺症がなかったのが唯一の救いだろうか?

 

「その後、十師族は総力を挙げ調べてたが、何もわからなかった」

 

 御三家と名乗る彼らは跡形もなくなっていた。

 この事件は仲間割れで自滅と言う事で片付いた。

 その後、この事件は隠蔽され、十山全滅はテロのせいということになった。

 

 なのだが。

 

「だが、今回の件で分かった事もある。誘拐や壊滅の実行犯は十中八九サーヴァントと呼ばれる物だろう」

 

 実行犯に接触した生き残りは口を揃えて言っていた。

 

 こちらの攻撃が一切通用しない。

 魔法が通用せず、かといって通常兵器も効果がなかった。

 

 昨日出現した「アレ」もそうだった。

 

「それでどうするの?」

「あの宣教師は関わるなと言ったが、そうも言ってられん。……とりあえず各家に報告はしておこう」

「……それしかないわね」

 

 七草の問いに答える十文字。

 

 これにてこの集まりは解散となった。 




・「士木崎」「鹿合」「矢代」

オリジナルの数字落ち。やらかした。今はいない。


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第二十八節:得物と使い手

 話し合いで使われていた部屋を出る、司波兄妹と桐原、エリカ、レオ。

 聞いた話が話なので無言だった。

 その時、桐原がふと思い出す。

 

「なあお前ら」

「「「「?」」」」

「藤丸の奴どこにいるか知らないか?」

「用事でもあるのですか?」

「ああ。借りてた物返さなきゃならないからな……」

「今日はいたとは思いますが……」

 

 そういう訳で探してみると。

 

「Z-Z-Z-」

 

 いた。

 中庭のベンチにいた。

 レイナの膝枕で眠っている。

 

「あ、タツミユ、エリエリ、レオリオ、ハラキリ」

「「「「「何その呼び名!?」」」」」

 

 レイナの声掛けに全員がツッコミを入れる。

 凄く変な呼び方である。

 すると。

 

「ん……ふあ」

 

 立華が起き出す。

 

「おや、御揃いでどうした?」

 

 その問いにまず桐原が刀の入った大袋と何かが入っている小袋を渡した。

 

「ほら、これ借りてただろ?」

「ああ。そうでしたね」

 

 そう言って受け取る立華。

 小袋の中身を確かめて懐に仕舞う。

 そして、大袋の口を開け、刀を取り出す。

 鞘から刀身を抜く。

 その刀を見て言った。

 

「……ちゃんと手入れしてくれたんですね」

「当たり前だろうが」

 

 桐原の答えに笑う立華。

 そんな彼にエリカが言う。

 

「ねえ、何であたしには貸してくれなかったの?」

「うん?だってエリカは立派な得物持ってるでしょう?」

「……それはまあそうだけど」

 

 確かにエリカは普段使っている警棒含め得物を幾つか持っている。

 でも。

 

「それとこれとは話が別よ!今度機会があったr」

「あったら、困る」

 

 レイナの言葉に一同深く頷いた。

 

「う~ん。別に貸すのはやぶさかではないんだけどね……」

 

 そう言って鞘に刀を収める。

 そして、袋に詰めながら、桐原を視線を向ける。

 

「桐原先輩」

「……なんだ」

「上げます」

 

 そう言って刀を袋ごと差しだした。

 それに一同絶句。

 

「な、なんで……」

「どうやらこいつ、先輩の事気に入ったようなので」

 

 そう言って刀を渡す。

 

「き、気に入ったって……」

「使い手が武器を選ぶんじゃないんです。武器が持ち主を選ぶんです。ほらアーサー王だって選定の剣に選ばれて……引き抜いて王になったように」

 

 桐原の手に無理やり刀を持たせた。

 

「もし受け取れないなら、御宅の家に投げ込みます」

「投げ込む!?」

「それが嫌なら受け取ってくださいな。もしお金とかの問題なら出世払いで構いません」

 

 その言葉に桐原は不承不承に受け取る。

 

「わかった。でもただ貰う訳にはいかねえから、代金は払う」

「分割か出世払い。結構高価ですので」

「い、いくらだ?」

「ウフフフ」

 

 答えずに笑う立華だった。

 

「いいなあ。ねえあたしにはないの?」

「手頃なのがあったらあげる」

「ホント?」

「ああ」

「言質とったからね」

 

 不満そうなエリカも何とか納得する。

 

「じゃあ帰るか」

「うん」

 

 そう言って立華は立ち上がり、レイナもそれに続いた。

 

「またね~」

「じゃあ」

 

 そう言って2人は帰っていった。

 が少しして戻って来た。

 

「忘れてた忘れてた」

「「「「「?」」」」」

「天村正(アマノムラマサ)」

「?」

「この刀の銘です」

 

 そう言って桐原を見る。

 

「村正……か」

「はい。忘れないでくださいね」

 

 そう言って笑う立華だった。

 

 そしてそのまま自然解散となった。

 

 ◆◆◆

 

「……」

 

 司波家。達也の部屋。

 そこでは達也が考え事をしていた。

 

(「あの刀は一体……」)

 

 昨日のサーヴァントとの戦いで、ほとんどの攻撃が通じなかった。

 ある程度通じたのが深雪と十文字の魔法。

 そしてあの刀【天村正】。

 

「何だったんだ?」

 

 構造は解析できた。

 だが、なぜか分解できそうになかった。

 

 そして、昨日出てきたサーヴァント、そして。

 

(「あの宣教師、サーヴァントと構造が似ていた」)

 

 だが、決定的に異なる点があった。

 それは……。

 

「お兄様、入ってもよろしいでしょうか?」

「……ああ」

 

 考え事を中断して深雪を迎え入れた。

 入って来た深雪は飲み物を差し入れた。

 そして。

 

「お兄様。一体何を考えられていたのですか?」

「……ああ」

 

 話すか少し迷うが、話す事にする。

 

「昨日の宣教師を覚えているか?」

「はい。彼もやはり……」

「ああ。サーヴァントだろう」

 

 あのバーサーカーにダメージを与えられていた所から同じ存在であると考えられる。

 だが。

 

「だがな決定的な違いがあった」

「とおっしゃいますと?」

「あのバーサーカーはサイオンとプシオンで出来ていた」

 

 正確に言えば、物質に干渉できるサイオンに変質したサイオンだが。

 

「だが、宣教師は違う。サイオンと人の身体。要するに皮膚の上からサーヴァントの身体を纏っているような状態だった」

「!?」

 

 口元に手を当て驚く深雪。

 そのまま達也はお茶を口に運ぶ。

 飲み終わった所で深雪が尋ねる。

 

「それは一体誰だったのですか?」

「わからない……が」

「が?」

「予想は付く」

 

 そう言って達也は端末を取り出す。

 そして、どこかにメールをした。




『天村正』

ランク:C
レンジ:1
種別:対人宝具
最大捕捉:1人

――――――これ以上は閲覧不可――――――


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第二十九節:対話 前編

 ブランシュ事件の後。

 司波兄妹は平和に過ごしていた。

 八雲との稽古をしたり(そろそろ”アレ”もあるので、それに備え深雪も鍛錬中)、壬生のお見舞いにいったり(桐原と付き合い始めたのを知った)、授業を受けたり(居残りになったエリカやレオに付き合った)と言った感じに過ごしていた。

 そんなある日の夜。

 司波兄妹はバイク(この時点ではまだ普通のバイク。後に……)でとある場所へ向かっていた。

 10km程走らせてその場所へ付いた。

 

「ここですか?」

「ああ」

 

 事件の後、あの”宣教師”の正体であろう「彼」に連絡を取った。

 話がしたいと。

 その結果、とある場所で話をする事になったのだ。

 それは。

 

「やあ達也くん、深雪くん」

 

 九重八雲が兄妹を迎えた。

 九重寺だった。

 ここはただの寺ではなく、色々設備が整っている。

 

「もう彼らは来ているよ?」

「そうですか」

「……」

 

 八雲が先に歩き、庫裏へ向かう。

 

「師匠」

「何だい?」

「2人の様子は?」

「特に変わった様子はないよ……一応」

「一応?」

「勘がね、何かおかしいって言っている」

 

 少しだけ会話をする。

 そして、辿り着いた。

 結界が張られているのに達也は気づく。

 

「この部屋にいるよ」

 

 そういう訳で3人は入室する。

 そこにいたのは……。

 

「よっ!」

 

 白い髪と浅黒い肌の少年。

 藤丸立華。

 

「ハゲ、タッツン、ミユキチ。こんばんは」

 

 白い少女。

 鷹山レイナ。

 

 この2人……正確には藤丸立華の方。

 彼と宣教師の気配は非常に良く似ていたのだ。

 だからこそ、話をしたいと要請したのだ。

 

 そして、4人が座り、話が始まるかと思われたが。

 

「まず最初に聞いていいか?」

「なんd」

 

 最後まで言わせず達也が拳銃型CADを立華に付きつけた。

 

「お兄様!?」

「……!」

「「……」」

 

 その行動に驚く深雪、少し眉を上げただけの八雲、あまり変わらぬコンビ。

 

「お前は誰だ?いや、ブランシュの時に立華の振りをしていた奴だな?」

 

 達也の言葉に立華……否その振りをしていた者が笑みを浮かべる。

 そして。

 

「やれやれ。マスターの言った通りになっちまった。どうします?」

 

 誰かに問いかける声。

 すると。

 

「流石お兄様。こうします」

「「「!?」」」

 

 その声と同時にレイナの影から人が出てきた。

 

 それは藤丸立華だった。

 

 〈影灯籠〉で影と同化し、〈気配遮断:EX〉で世界と同化していた。

 とある暗殺者(ハサン)のスキルである。

 これでは誰であろうと気づくのはほぼ不可能。

 

 それに司波兄妹と八雲は絶句する。

 この3人でも気づけなかった。

 

 そんな2人に声を掛ける立華。

 

「悪いね。ちょっとした悪ふざけだ」

 

 苦笑する立華。

 ……とある老人の真似である。

 

「償いはする。だから銃を降ろしてくれ」

 

 そう言う立華に達也は暫くしてからCADを降ろす。

 それを確認すると立華はもう1人の自分を見る。

 

「解いていいよ」

「いいんですか?」

「うん。誠意を見せなきゃ」

 

 確認にOKを出す。

 そして。

 

「あらよっと」

 

 その途端、一瞬で立華の姿が変わる。

 

 そこにいたのは似ても似つかぬ男。

 東洋系の顔立ちの青年。

 服装も変わっており、上半身は裸で、両手には手甲。

 上半身には牡丹と龍の大きな刺青を彫っていた。

 

「いよー!という訳でアサシンだ。専ら新宿のアサシンを縮めて”新シン”って呼ばれているがね」

 

 そう言って挨拶をする青年……新シン。

 それに機能停止していた3人だったが、何とか起動。

 達也は尋ねる。

 

「あの日も変わっていたのか?」

「うん。とは言っても途中で戻ったけど」

「そうか……」

 

 達也が納得する。

 あの日の立華はどこか違和感があったのだ。

 気になる事が解消できたのか少しスッキリした顔になる達也。

 

 そして。

 

「藤丸」

「うん?」

「単刀直入に聞く。お前は2年前の事件に関わっているのか?」

 

 それが達也が聞きたい事だった。

 

 あの事件は自分も駆り出された。

 とは言っても戦闘には参加せず、専ら再成を使っての後方支援が多かった。

 何せサーヴァントとの正面衝突でかなりの数の死傷者が出たのだから。

 何せ風間や柳といった実力者2人ですら大怪我を負ったのだ。

 

 その問いに立華は。

 

「YesかNoかで言えばYesだ。関わってはいる」

「「!」」

「でも、あらかじめ言っておく」

 

 そう言って隣にいたレイナを引き寄せ、肩を抱く。

 それに抵抗せず、肩を寄せるレイナ。

 

「俺も、レイナも巻き込まれた被害者だ」

「……被害者?」

「ああ、そうさ。こいつに至っては」

 

 表情が曇っているレイナの頭を軽く撫でながら告げる。

 

「下手すれば死んでいる」

 

 色んな意味で。

 と心の中で続ける。

 

「……どういう意味なのでしょう?」

 

 疑問に思ったのか、尋ねて来た深雪。

 それに。

 

「リッカ」

「うん」

「言っていいよ」

「いいのか?」

「うん」

 

 レイナが許可を出した。

 なので。

 

「ふう。わかった。じゃあ話そう。とは言っても全部は無理だからそれはわかってくれ」

「はい」

「わかってる」

「ボクも聞いていいのかい?」

「いいですよ」

 

 そんな訳で話が始まった。



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第三十節:対話 中編

「さて」

 

 そう言ってお茶を一口飲む。

 

「じゃあ話をする前の確認いいか?」

 

 立華の問いに頷く一同。

 

「この間のサーヴァントの説明は覚えてる?」

 

 その問いに頷く司波兄妹。

 

「じゃあ2年前の事件はどこまで知ってる?」

 

 その言葉には顔を見合わせた。

 この2人は家系が家系なので結構知っている。

 なので。

 

「それなりに。とは言っても十師族が知っている程度だが」

「そうか……」

 

 その言葉に立華は少し考えて。

 

「じゃあ順序を立てて話そう」

 

 そう言って彼は話を始めた。

 

「そもそものきっかけは……とある数字落ちが結託した事から始まった」

 

 数字落ち……元はナンバーを持ちながら剥奪された者達。

 2075年頃までは数字落ちに対して忌避、蔑視が見受けられ、魔法師のコミュニティで厳しい孤立を味わった。

 

「今でこそそういう差別は落ち着いた。でも……今の数字持ちと比べれば扱いは……な」

「「……」」

 

 立華が告げたその言葉に無言になる司波兄妹。

 

「彼らは思っていた。どうして元は同じはずなのにここまで差が付いた?とね。ずっと不満がくすぶっていた」

 

 お茶を一口飲む立華。

 そして、本題に入った。

 

「そんな時、とある人物……亡霊とでも言うべきか?そいつらが彼らに接触したんだ」

「亡霊?」

「うん。とは言っても本当のじゃなくてあくまでも比喩だけど」

 

 アレは「とある一族」の妄執の残りとでも言うべきだろうか?

 

「そして、彼らに提案したんだ。自分達の栄華を取り戻したくないか?と」

「……どうやって?」

「ある儀式に彼らを誘ったのさ」

 

 そう言って立華は司波兄妹と八雲を見る。

 そして、レイナに軽く視線をやってから続けた。

 

「それが聖杯戦争だ」

「聖杯戦争?」

「聖杯とはレリックの聖杯か?」

 

 その言葉に深雪は首を捻り、達也が疑問を呈した。

 

「達也の疑問にはYesともNoとも言える」

「?」

「ある人に言わせれば本物の聖杯は”あの人”の血を受けた物だけらしいからね」

 

 はっ!なめんなっての!

 byただのドラゴンスレイヤー

 

「まあ今回指すのは……一応人工物の聖杯だ。でも……」

 

 すっと目を細めて立華は続けた。

 

「願いを叶える力は持っている」

「「!?」」

 

 それに驚く司波兄妹。

 

「とは言ってもただ杯だけあっても意味がない。”使う”か”完全にする”ために儀式がいる。それが……」

「聖杯戦争という訳か」

「ああ」

 

 「士木崎」「鹿合」「矢代」の三家の当主。

 ある一族の「亡霊」。

 とある男の残留思念……のような「ナニカ」。

 その他2名程。

 合計7名集まった。

 ……手伝いやサポート、雑用含めば更に多いが。

 

「それでサーヴァントが召喚された」

 

 とある世界線で「亜種聖杯戦争」と言う物がある。

 それの場合7騎揃う事はなかったそうだ。

 多くても5騎だったらしい。

 だが、今回の聖杯は出来が良かった。

 だから7騎揃った。

 揃ってしまった。

 

「それで儀式をする事にしたんだが……。邪魔されちゃ困ると彼らは思った。それに少し舞い上がっていたんだろうな……」

 

 英雄を使い魔に出来たのだ。

 それは舞い上がるだろう。

 だからこそ魔法協会や十師族に通知をした。

 

「最初は警告だけにするつもりだったんだが……」

「だが?」

「アサシンが暴走した」

 

 国防軍と十山全滅はそのせいである。

 そもそも「あんなもの」をサーヴァントとして呼ぶのが悪い。

 

「そのせいで十師族も本腰を上げた。それで戦いになったが、……勝てるわけなかった」

「「……」」

「そのうち鬱陶しくなったアイツらは作戦を切り替えた。子女誘拐に着手したんだ」

 

 命が惜しかったら手を出すなと言うやつである。

 

「それで儀式に着手する事にした。だが誤算があった」

「誤算?」

「……なあ達也。英雄をそう簡単に使い魔に出来ると思うか?」

「思わない」

 

 立華の問いに即答する達也。

 

「その通り。言う事聞かない奴の為に鎖があるが……、それは今は置いておく。使い魔の維持には魔力が必要なんだがな……、魔力不足で本来の力を発揮できない場合が結構ある。特にサーヴァントでも皆知っているクラスの大英雄なんてただ維持するだけでも大変だし、宝具使わせたら……」

「いくらあっても足りないという訳か」

「うん。だからこそ、マスターから魔力供給を肩代わりさせる燃料タンクとして……生きた魔法師が使われた」

「「!?」」

 

 立華のその言葉に凍り付く司波兄妹。

 深雪が思わず達也に身を寄せる。

 それを抱きしめる達也。

 この2人にとってそんな扱いは絶対認められない。

 

「レイナはその1人だったんだ」

「……うん」

 

 立華の言葉に頷くレイナ。

 

「しかも、それだけじゃなくて、アサシンの食事代わりになる奴もいた」

「わたし、そこで、死ぬはず、だった」

 

 レイナは覚えている。

 供給槽でサイオンが吸われていくのを。

 手慰みに何人も殺されるところを。

 アサシンに食われていくところを。

 

「だが、レイナは死ななくて済んだ。その後、同士討ちと粛清が起こったんだ」

「「え!?」」

「そして……ゴタゴタが起こって、まあ助かったわけだ」

「……何か後半の説明雑じゃないか?」

「それしかいいようないから」

 

 そう言って立華はお茶を飲む。

 この話題はこれでおしまいという合図だった。



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第三十一節:対話 後編

 そんな立華に達也は問いかける。

 

「それで?お前はどこで関わったんだ?」

「ん?まあ中盤辺りで、色々と」

 

 そう言うと立華はお茶を置いた。

 空になっていた。

 

「まあこれ以上はな」

 

 そう言う立華。

 これ以上は何聞かれても答えないと言う風だった。

 

 なので達也は質問を変える。

 

「じゃあ別の質問だ。お前は何でそれを使える?」

「生来からの能力」

 

 そう答える立華。

 

「BS魔法や先天性のスキルみたいな物さ。ほら偶にいるでしょ?」

「……」

 

 納得していない風の達也。

 だが。

 

「まあいい。じゃあお前はどれだけの、どんなことができるんだ?」

「……それを聞くのは野暮じゃないのか?」

「……」

 

 個人の魔法の詳細を尋ねるのはマナー違反である。

 だが、達也は気になってしょうがなかった。

 

 達也の性格はかなり度を超えた朴念仁で感情を荒立てることない。

 だが、結構好奇心も旺盛で、負けず嫌いなところもある。

 深雪に言わせれば「何にでも首を突っ込みたがる破滅型の無鉄砲」である。

 

 なので達也は。

 

「じゃあ立華」

「ん?」

「どうすれば教えてくれる?」

「……お兄様……」

 

 好奇心むき出しの達也に呆れる深雪。

 そんな兄妹を見て立華は少し考え。

 

「等価交換」

「……」

「そちらが手札を晒すならこちらもそれに見あった手札を晒そう」

 

 立華の言葉に達也は沈黙。

 彼には手札は色々ある。

 だがどれも機密に近い。

 

「全部じゃなくていいし、曖昧でもいい。オレもそこまでは言えないし」

「……立華」

「うん?」

「前にお前は言ったな。俺達の事を知ろうとすれば知ることができると」

「うん。言ったね」

「そうしないのか?」

 

 達也のその言葉に立華は軽く笑って告げる。

 

「そういう事ができる人にもマナーがある。それに別に詮索する気はないし、吹聴するつもりはない」

「……わかった」

 

 そう言うと達也は。

 

「俺はな、とある2つの魔法が占めているせいで自由に魔法が使えない」

 

 自らの手札を晒す事にした。

 ……深雪は驚いていた。

 

「それが分解と再成だ」

 

 だが全部ではない。

 

「その副産物で俺は物の構造を解析できる」

 

 〈雲散霧消〉や、〈マテリアルバースト〉、〈フラッシュキャスト〉等は秘める。

 

「相手を治す事も、消す事もできる」

 

 アレらは切り札兼機密である。

 だからこそ見せる事は出来ない。

 それでも、できる範囲で手札を晒した達也。

 

 それを聞いた立華は話始める

 

「オレは条件を満たした英霊の力を借りることができる」

 

 そう言って隣にいた新シンを見る。

 

「初めに召喚して使役。……まあ偶に暴走するのがいるけど」

 

 ケラケラ笑う。

 ……笑いごとではない気がするが。

 

「そして次に」

 

 懐からカードを出した。

 図柄は剣を持った騎士であった。

 

「まずは英霊の力の一端」

 

 そう言った途端カードが輝く。

 そしてカードが剣に変わっていた。

 

「「!?」」

 

 驚く司波兄妹。

 

「例えばこれは”神の鞭”と呼ばれたある大王が使った剣だ」

 

 三色の光で出来た長剣だった。

 どことなく近未来風を思わせる。

 

「真名解放すれば……まあここら一体は更地になるから実演は出来ないけど」

「真名解放?」

 

 達也の疑問。

 

「ねえ何でサーヴァントをクラス名で呼ぶかわかる?真名じゃなくて」

「え……」

「……」

「弱点になるからかい?」

 

 それに対する立華の問いに今まで話を黙って聞いていた八雲が言う。

 

「ええ。そうです。例えば……ジークフリートなら背中、アキレウスなら踵、ケルト勢はゲッシュと言う風に弱点になります。弱点じゃなくても手札とかがわかってしまうから」

「なるほど……」

「……まあ真名バレても平気なのも結構いるから注意だけど」

 

 そう言って剣を軽く振るう。

 

「それで宝具はその英雄の切り札。大半の宝具はその名前を唱えなきゃならない。例えば……エクスカリバーって聞いたら誰かすぐわかるだろう?」

「アーサー王だな」

「正解。だからこそだ」

 

 その説明に納得する達也。

 

「因みにセイバーのクラスの真名解放はビームが多い。……何か知らんけど。相対したら注意してね」

「「……」」

 

 その言葉に無言になる兄妹。

 

「じゃあ話を戻そう」

 

 そう言ってセイバーのカードを仕舞い、次に出したのは鎖で繋がれた人が描かれているカードだった。

 

「そして、その英霊そのもの」

 

 そう言うとカードが消え、立華の姿が変わる

 

「「「!?」」」

 

 三者三様に驚く。

 

 その姿は異様だった。

 一言で言うなら仮面の怪人。

 赤と黒の装束に仮面を被っている。

 手には長剣を持っていた。

 

「こんな風に。身体能力も上がる」

「なぜ、それ?」

 

 レイナが首を捻る。

 

「ん?何となく?それにこれは一見でも誰かわからないし」

「……確かに」

「まあこんな風になる。この間は違うサーヴァントの姿を借りたけどね」

「……もしかして今の”それ”と”前”のは7クラス以外の奴か?」

「……よくわかったね」

「7つに当てはまらない気がしてな」

 

 そういう達也に立華は答える。

 

「確かに色々あるよ。これは復讐者……アヴェンジャーだね」

「復讐か……」

「うん。それ以外も色々あるけどキリないから今回は割愛。いずれ機会があれば話す」

 

 そう言って姿が戻る立華。

 

「まあ、こんな感じだね」

 

 そう言って締めくくる。

 

「じゃあこれでお開きでいい?」

「……ああ」

 

 そして、新シンをカードに戻し、立華は帰ろうとしたが。

 

「あ、そうだ!」

「「?」」

「ほれ」

 

 達也に何かを投げ渡す立華。

 それは小袋だった。

 何か石のようなものが入っていた。

 

「これは?」

「さっき言ったお詫び、それと口止め料代わり」

「……中身は?」

「賢者の石」

「「!?」」

 

 驚く司波兄妹。

 が、それに構わず立華はレイナを抱え。

 

「じゃね」

「また」

 

 2人の姿は夜空に消えた。



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第三十二節:それぞれのその後

 ◆◆◆

 

 会談が終わり仲良く帰宅した司波兄妹。

 帰った達也は立華から貰った物を調べていた。

 

 一見するとフォトニック結晶のような石。

 だがこれには。

 

(「なるほど。魔法式の保存が可能。それ以外には疑似的な不死に、元素変換か……」)

 

 袋に入っていた手紙によるとそういう効果があるそうだ。

 専ら立華は身代わりに利用しているらしい。

 

 魔法式保存はやって見た結果、成功した。

 

(「これが複製できれば……」)

 

 達也には夢がある。

 魔法師が兵器でなくなる世界の実現である。

 その為に彼は「常駐型重力制御魔法式熱核融合炉」を作ろうとしている。

 そのためにこれが量産出来ればいいのだが……。

 

「……構造の解析はできるが……」

 

 解析は出来た。

 恐ろしく苦労したが。

 だが、どうやって作るのかが見当もつかない。

 

「立華に聞くか?」

 

 正確にはこれを作ったサーヴァントであろう。

 恐らくキャスター。

 正体……真名は恐らく……。

 

「お兄様」

 

 考え事から深雪の声で戻る。

 手には飲み物を持っていた。

 持ってきてくれたらしい。

 受け取り、飲む。

 

 ふと深雪を見ると彼女は嬉しそうにしていた。

 

「どうした?」

「深雪は嬉しいのです。お兄様」

「?」

「ご自分で気づいておいでにならないのですか?お兄様、今とても嬉しそうですよ?」

「……俺が?」

「はい。とっても」

 

 そう言ってニッコリ微笑む。

 

「お兄様が嬉しいと私も嬉しいのです」

「そうか」

 

 微笑む達也。

 そういう感じで司波家の夜は過ぎていった。

 

 一方。

 立華は。

 とある人物を回線で呼び出した。

 出てきた人物は……。

 

『何かあったかね?』

 

 九島烈だった。

 彼に今回の件の報告をまだしていなかった。

 それに今回で一応ひと段落なので連絡したという訳である。

 

「ブランシュの件と……報告があったであろう”あの件”です」

『聞こう』

 

 何があったのかを詳しく話す。

 

『なるほど……。まだ完全に終わっていないのか』

 

 ブランシュの件を聞き、顔を顰める烈。

 2年前の事件では九島家も結構な被害を負ったのだ。

 

「いえ、もう終わってます。首謀者は消しましたし」

 

 あの大事件……この世界で起こってしまった聖杯戦争。

 起こしたのは御三家だが、黒幕は違う。

 とある一族の「亡霊」とある男の「残留思念」。

 この2つが黒幕である。

 だが二つとも消えた。

 立華+聖人6人がかりで浄化した。

 

「クラスカードは確かにまだ少しだけ残っているようですけど、完全に扱える人はオレ以外いないでしょうし」

『ああ。だが強力なサーヴァントが万が一召喚されたら』

「大丈夫です。俺もいますし、皆もいます」

『そうだな……』

 

 烈の暗さが取れる。

 

『……これは誰にも言った事ないのだがな』

「?」

『私はね、あの事件に感謝もしているのだよ』

「……」

『君達の出会いがあったからね』

 

 烈の年齢は現在90歳に近い。

 このまま朽ちるのかと思った事もある。

 

 だが、立華との出会いで変わった。

 見たことがない、特殊な技術を見る事ができた。

 子供の頃、本でしか見れなかった英雄に会う事ができた。

 そして。

 

『おかげで光宣は元気になった。毎日嬉しそうに学校に行っている。友達も出来たらしい。本当にありがとう』

 

 そう言って頭を下げる烈。

 それに慌てる立華。

 

「頭を上げてください。好きでやった事ですし、お礼は十分過ぎる程貰ってます」

『そうかね』

 

 そう言って頭を上げる烈。

 

 その後は取り留めもない雑談に興じていたが。

 

『そういえば』

「?」

『十文字からの報告が届いたよ』

「……そうですか」

『とは言っても知っている事ばかりだったがね』

 

 烈は彼らの事情を知っているのだから、当然だった。

 恐らく十師族で一番今回の事について詳しいだろう。

 

『だが……どうやら四葉や七草が動いているようだ』

「そうなるか……」

 

 立華がため息をつく。

 忠告したのに聞く気がないのだろうか。

 ……まあ覚悟はしていたが。

 

「いずれバレるのはわかってるけどなあ」

『君達の事は私や光宣、響子から漏れる事はない。だが……』

「わかってます。いずれバレるのは」

 

 溜息をつく立華。

 秘密はどこからか漏れる物である。

 これは最初から言われている事だった。

 

『もしバレた時は私が後ろ盾になる。例え他の二十六家を敵に回しても』

「烈さん……」

 

 これは烈が最初に言い出した事である。

 その言葉に何も言えなくなる立華。

 

 そして、軽く笑う烈が続けた。

 

『流石に昔の教え子の死体は見たくないしな』

「……」

 

 彼にはわかっていた。

 万が一ぶつかり合ったらどうなるかが。

 

「色々考えてみます」

『ああ、そうしてくれ』

「また連絡します。……今度は光宣にも」

『そうしてくれ。直接話したいそうだからな』

 

 そうして回線が切れる。

 

 立華は部屋を出て、廊下を歩く。

 そして、レイナの部屋に入っていった。

 

 

 

 入学編 了




次回予告

「悔い……改めろ!」

「花音?風邪?」

「選手以上に問題なのがエンジニアよ……」

「あーちゃん先輩が憤死するか、悶死するので」

「久しぶりね」

「炉心が問題だ」

「エクレア?栗きんとん?中○譲治?」

「ねえねえ。2人はどこまで行ったの?」

「ちょっとした悪ふざけだ」

「いいか?本当の敵は相手じゃない。自分自身だ」

「皆!耳塞いで!!」

「あーちゃんが死んだ!?」

「この人でなし!」

「立華。勝ってね」

「ボエエエエエエ~」

「このすっとんきょう!」

「おっと電気が滑った」

「今までの事を謝る。すまない」

(まが)れ」

「そんな無茶な!?」

「そう来たか……」

「それは例外的に認められた。いい加減腹をくくれ」

「時間を稼いでくれ」

「動け、ゴーレム」

「そんな馬鹿な!?」

「お前達には消えて貰う」

「俺はな達也。勝利を確信した奴らを叩き潰すのが……大っっっ好きだああああああ!」

九校戦編 2018年 6月2日(土) 連載開始予定
(火)(木)(土)週三連載予定


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九校戦編
第一節:彼らの日常


 立華がある程度の事情を司波兄妹にある程度話して以来。

 特に大きな事件が起こることもなく(そう何回も大きな事件が起こる訳もない。……多分)平和に日常が過ぎていっていた。

 とは言っても何もなかったわけではない。

 

 森崎を矯正するのに立華が頑張った。

 

 きっかけは……。

 

『おい、藤丸』

『何だ!……ええと』

『モブ崎』

『そうそれ!』

『森崎だ!』

『で?何の用?』

『僕と決闘しろ!』

 

 きっかけは森崎が喧嘩を売って来た事から始まった。

 

『……丁度いいかもな』

『受けるのか?受けないのか?』

『いいぜ。受けてやるよ』

 

 そういう訳で演習室を借り。

 

『重くいくぞ!』

『!?』

『鋭くいくぞ!』

『!!??』

『激しくいくぞ!』

『!!!???』

『悔い……改めろ!』

『プベラ!?』

 

 こんな感じでボコボコにした。

 向こうは魔法を使ってきたが。

 

『魔法なんざ使ってんじゃねえ!拳で来い!』

 

 干渉強化で防ぎきる。

 そのまま拳でねじ伏せる。

 

『そんな無茶n』

『無茶じゃねえ!』

 

 どこぞの聖女が悪竜を説法(物理)して調伏した同じ方法で性格の矯正をする事にした。

 

 マルタは竜であるタラスクを説得できたのだ。

 ならば立華は人であるはずの森崎を説得できないはずがない。

 ……多分。

 

『森崎が死んだ!?』

『この人でなし』

『どうしたの!?雫!?』

『言わなきゃならない気がした』

 

 因みに観戦者として、鷹山レイナ(相棒なので)、北山雫、光井ほのか(面白そうなので)、司波達也、深雪(ヤコブの手足に興味があった)も参加していた。

 おかげで何とか森崎の性格矯正に成功した。

 普段ジ○イアンが映画ジ○イアン位にはなった。

 

 エリカのために刀を持って来たり。

 

『約束通り持ってきてやったぞ!』

『ありがとう!』

 

 なぜか巨大な棺桶を入れ物代わりに持ってきた立華。

 

『それで?』

『?』

『どこに並べるんだ』

 

 達也の素朴な疑問。

 それに。

 

『エリエリ』

『あたしの呼び名なの!?それ!?』

『どこに並べるの』

『……』

 

 考えてなかったエリカ。

 そういう訳で。

 

『……で俺達の所に来たと』

『はい!』

『はあ……』

 

 剣道部と剣術部の合同練習の所にお邪魔して広げた。

 出迎えた桐原が呆れながら言う。

 

 一部スペースを借り、そこに広げる。

 面白そうなので、いつもの面々+α勢ぞろい。

 ……α?吉田幹比古である。

 最近知り合い、行動を共にするようになった。

 

『色々あるのねえ』

 

 気になったのか覗きに来た壬生が感心しながら言う。

 ……興味あったのか結構色々な人が見に来た。

 脇差から野太刀サイズまであった。

 

『で?どう?』

『う~ん』

 

 エリカは色々試してみる。

 そして。

 

『これがいい!』

 

 そう言って出したのは定寸サイズの刀。

 

『それか………』

 

 そう言うと刀を見て。

 

『大蛇村正か……。大事にしてね』

『大蛇……』

 

 そんな感じで初夏を通り過ぎ、夏になろうとしていると、同時に魔法科高校の(ほぼ)全学生の待望とする行事が近づいていた。

 

 その名も九校戦。

 九校の魔法科高校の代表が実力を競い合う、言うなれば魔法師の全国競技大会である。

 政府関係者などに限らず、一般企業や海外などからもスカウトが来る魔法科高校生の晴れ舞台であるので、アピールや自分の力量を確かめるためなど理由は様々あるが、出場するために学生たちは必死になるのである。

 

 筆記の成績も九校戦の選手内定としての重要なファクターとなるので、生徒たちは学業に精を出していた。……一部を除く。

 そしてここ一校でも定期考査が終わり、生徒会は九校戦の準備に向かっていた。

 

 魔法科高校の試験は実技と筆記の二つに分けられ、総合成績とその二つの成績優秀者は学内ネットで氏名を公表される。

 無論すでに公表されており、それは学校内に驚きを呼んだ。

 

 まずは総合。

 

一位 1-A 司波深雪

 

二位 1-A 藤丸立華

 

三位 1-A 光井ほのか

 

 これは皆の予想通りと言ったところである。

 

 続いて実技。

 

一位 1-A 藤丸立華

 

二位 1-A 司波深雪

 

三位 1-A 北山雫

 

 となった。

 これも文句は出ない。

 立華は変人だが、成績は良いと評判だ。 

 

 そして理論。

 大問題が発生した。

 

一位 1-E 司波達也

 

二位 1-A 司波深雪

 

三位 1-A 藤丸立華

 

 そして四位吉田幹比古、五位にほのか、七位レイナ、十位雫、十七位美月、二十位エリカ、というようにレオ以外のいつものメンツが上位に集まっていた。……レオも成績が悪い訳ではない

 実技の感覚がわからなければ、理論が解けないというわけではない。

 だが、この順位は異常の一言だった。トップ5に二科生が二人。

 さらには達也は下に平均点で十点以上も差をつけてしまったのだ。

 そんな訳で……。

 

「なるほど。だから呼び出されたのか」

「ああ」

 

 達也は職員室に呼び出され、尋問されていたそうだ。

 その上転入まで進められたそうだ。

 

「それで?どうするの?」

「しません」

「するわけないじゃないですか!」

「何故に、ミユキチ、ホノノン、答える?」

「まあこの2人の言った通りだ」

 

 こんな感じであった。




『大蛇村正』
ランク:B
レンジ:1
種別:対人宝具
最大捕捉:1~10人

――――――これ以上は閲覧不可――――――


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第二節:彼と彼女は何に出る?

 その日立華とレイナは風紀委員室にいた。

 2人で書類をまとめていた。

 

「ナベ先輩、やらない。逃げる」

「次の委員長は書類仕事できる人がいいなあ」

「同感」

 

 そう言いながら進めていく。

 

「でもさあ」

「?」

「もし出来ない人が来たらどうするかねえ」

「物理、説教」

「それしかないな」

 

 ところ変わって別の場所では……。

 

「くしゅん」

「花音?風邪?」

「かなあ?」

 

 ある女子生徒がくしゃみをしていた。

 彼女が後の風紀委員長である(笑)。

 

 場所は戻る。

 

 そんな感じで作業をしていると……。

 

「ここにいたか……」

「言った通りだろ?この2人と達也君は書類作業をしてくれているって」

「摩利もやらなきゃ駄目よ?」

「……」

 

 噂をすれば影だった。

 三巨頭勢ぞろいだった。

 

「ナベ先輩、ナナ先輩、モンジ先輩、何用?」

「ナベ!?」

「ナナ!?」

「……俺の事か?」

 

 レイナのあんまりな呼び方に全員ツッコミを入れる。

 それに立華がフォローを入れる。

 

「気にしない方がいいですよ。ハラキリとかミカンとか、タロウとか、サワとかありますし」

「「「……」」」

 

 因みに……。

 「ハラキリ」が桐原。

 「ミカン」が壬生。

 「タロウ」が辰巳。

 「サワ」が沢木。

 である。

 

 桐原は訂正が面倒くさくなりそのままになり、壬生や辰巳はあんまり気にしない。

 沢木も名前で呼ばなかったため、気にしていない。

 ……一応先輩は付けているからだろうか?

 

 閑話休題。

 

「それで一体何用です?」

「九校戦についてだ」

「「ああ……」」

 

 渡辺の言葉に納得する2人。

 確かにそろそろ選手を決めなければならないだろう。

 

「わたし達、出場選手?」

「ええ、そうよ。成績的にも文句言う人はいないでしょうし」

「それでお前達の出場競技について聞きに来たんだ」

 

 その言葉に2人は顔を見合わせる。

 この2人はここ最近、雫(九校戦の大ファン)である彼女から競技の事については聞いている。

 

【スピード・シューティング】。通称「早撃ち」。

 規定エリア内に射出されたクレーを魔法で破壊する競技である。

 ……要するにクレー射撃の魔法版。

 

【クラウド・ボール】

 制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技である。

 ……要するにテニスの魔法版。テニヌみたいな感じ?

 

【バトル・ボード】通称「波乗り」。

 人工水路を3周するレース競技である。

 ……要するに水上スキーの魔法版。

 

【アイス・ピラーズ・ブレイク】

 自陣営12本、相手陣営12本の氷柱を巡って魔法で競い合う競技である。先に相手陣営の12本の氷柱を全て倒すまたは破壊した方の勝利である。

 

【ミラージ・バット】。フェアリーダンスとも呼ばれる。

 空中に投射されたホログラムを魔法で飛び上がってスティックで打ち、制限時間内に打ったホログラフの数を競う競技である。

 これは女子だけである。

 ……要するに軽体操の魔法版。……違うか?

 

【モノリス・コード】九校戦の花形である。

 3vs3の団体競技である。試合によってステージが異なる。敵陣営のモノリスを指定の魔法で割り、隠されたコードを送信するか、相手チームを戦闘不能にしたほうの勝利である。相手選手への魔法攻撃以外の攻撃行為は禁止されている。

 これは男子だけ。

 ……要するにサバゲ―の魔法版である。

 

 この6競技に最大2つまで出場可能なのだが。

 

「それでどうだ?」

「俺はピラーズ・ブレイクがいいですね。ただ……モノリス・コードは向いてませんので」

「わたし、何でもいい。でも、できるなら、1つで」

 

 十文字の問いに答える2人。

 その答えに七草と渡辺が驚く。

 

「……ちょっと待て、立華君。モノリス・コードが向いてないって……」

「貴方は魔法戦闘得意じゃないの?」

 

 そう言う2人に。

 

「俺は直接攻撃主体ですし、魔法は大火力での殲滅が多いので。向いてないんです」

「反則、死亡者、シャレ、ならない」

「「「……」」」

 

 立華の答えにレイナが付け加える。

 それに無言の3人。

 ややあって。

 

「なるほど。わかった。では鷹山。なぜ1つ何だ?」

「わたし、サイオン量、少ない。体力、持つか、わからない」

 

 レイナは魔力……サイオン量はかなり多い方ではある。

 が、自身のサーヴァントである立華の維持にかなりのサイオン量を使っている。

 彼はどんなサーヴァントにでも対抗できる代わり、結構燃費が悪いのだ。

 立華が本気を出しても、維持はできるが、彼女自身は魔法がほとんど使えなくなる。

 

「なるほど……」

「でも、出る競技、絶対1位取る」

「ほう。大した自信だな」

「自信?」

 

 渡辺の言葉にレイナがニヤリと笑う。

 

「違う。事実。ミユキチにも負けない」

「「「……」」」

 

 その言葉に無言になる3人。

 

 鷹山レイナの得意としているのは気流操作。

 大気の密度、組成を変えるのはお手の物。

 更に彼女にはとある切り札があるのだ。



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第三節:選手とエンジニア

 立華とレイナが要望を出してから。

 ある日の事。

 

「そういえばそろそろですよね」

「何?」

「九校戦の事です!」

「ああ……」

 

 クラス内でもやはり九校戦の話が持ち上がる。

 この日はシズホノコンビ(レイナ命名)と話していると、やはり話題になる。

 

「何に選ばれるか楽しみですね!」

「私はアイス・ピラーズ・ブレイクがいい」

 

 ほのかの言葉に雫が答える。

 それに立華が反応。

 

「へえ。俺と同じか……」

「「え!?」」

 

 立華の言葉に驚く2人。

 どうやらこの2人も三巨頭と同じらしい。

 

「……どうした?」

「モノリス・コードじゃないの?」

 

 雫の問いに立華が苦笑する。

 

「俺は専ら接近戦か大火力殲滅だから無理なんだよ。……まだレイナの方が向いてる」

 

 レイナの戦闘スタイルならモノリス・コードでも引っかからない。

 だが、立華の場合モロに引っかかる。

 ……まあ手段が無きにしも非ず。

 

「女子、なぜ、ない?男子、なぜ、ない?」

 

 モノリス・コードは男子だけであり、ミラージ・バットは女子だけである。

 

「危ないからじゃないの?ミラージは……」

「「「?」」」

「男子があんな衣装して似合うか?十文字先輩があの衣装しているの想像してみろ」

「「「ブ!」」」

 

 立華の言葉に3人が噴き出す。

 そのままむせてしまう。

 暫くそうしていたが。

 

「ゲホッゲホ」

「心臓に……悪い」

「でも」

 

 レイナが立華を見て言う。

 

「立華、似合う?」

「まあね」

「「え!?」」 

 

 思いがけない言葉に驚く2人。

 

「立華、女装、上手い」

「昔させられて以来なあ……」

 

 アレ以来ハマってしまった訳ではないが、するのに拒否感がなくなってしまった。

 ……まあ一部性別不詳のサーヴァントやどこぞの理性蒸発のせいもあるが。

 

「まあ機会があれば見せるよ」

 

 

 そう言って笑う立華だった。

 

 ◆◆◆

 

「選手以上に問題なのがエンジニアよ……」

「……まだ数が揃わないのか?」

「摩利が自分のCAD位整備出来たらねえ」

「……それは由々しき事態だな」

「ナベ先輩、誤魔化し、下手」

 

 生徒会室で七草の愚痴をBGMに食事をとる女子6人と男子2人。

 

 七草、市原、中条、渡辺、司波兄妹。

 そして主人公とヒロイン?。

 合計8名。

 

 最近は大抵このメンツで昼食を取る。

 因みに弁当の割合が地味に増えてきた。

 実は立華と渡辺はともかく、レイナも七草も作ろうとすれば作れるのだ。

 しかも結構上手である。

 

 九校戦の準備によって疲れが溜まっているのであろう七草の愚痴によって、生徒会室は精神衛生的に好ましくない雰囲気になっていた。

 心なしかどんよりとしている。

 

(「折角楽しい昼食なのにねえ」)

 

 重箱弁当をレイナと一緒に食べながらそんな事を思う。

 横目で達也を伺うと。

 彼は生徒会室から逃げようと機会をうかがっていた。

 

「ねえ、リンちゃん」

「はい?」

「やっぱり、エンジニアやってくれない?」

「無理です。私の技能では、中条さんたちの足を引っ張るだけかと。」

 

 七草の提案は市原にすげなくあしらわれる。

 机に沈む七草。

 ここがチャンスだと見たのか、達也が腰を浮かせて、逃亡を図ろうとする。

 

「あの、だったら司波君がいいんじゃないでしょうか。」

 

 あずさ先輩の一言で生徒会室の空気が変わる。

 達也はなんだかんだ言って逃げようとする。

 だが、それを押しとどめ、説得しにかかる七草と渡辺。

 何とか断ろうとする達也だったが、深雪まで敵に回り引き受けるしかなくなる達也。

 

 そんな様子を見た立華とレイナは。

 

「こういう時」

「?」

「なんて言う?」

「ああ。『ブルータス、お前もか』だな」

「なるほど」

 

 食事も終わり、立華は昼寝、レイナは立華を膝にのせたまま端末でニュースを見る。

 そして、達也はCADを整備していた。

 そこへ。

 

「今日はシルバーホーンを持ってきているんですね」

「ええ、ホルスターを新調したので、馴染ませようと思いまして」

「えっ、見せてもらってもいいですか?」

 

 CAD大好きな中条が食いつく。

 そして、シルバーホーンに対して熱弁を振るう。

 そんな中。

 

「ところであーちゃん」

 

 七草が中条に質問する。

 

「……はい?」

「CADについて話すのは良いけど課題は良いの?」

 

 中条に絶望が突き付けられた。

 声なき悲鳴を上げ、七草に助けを求める。

 加重系魔法の技術的三大難問、飛行魔法についての様々な見解、そして達也の意見が話された。

 そして、レポートが何とか完成した所で昼休み終了の鐘が鳴り響いた。

 

「良かったです~」

「あーちゃん良かったね」

「私は先輩ですよ!?」

「見えない。安心、して?」

「出来ません!」

 

 そんな訳でその日の放課後、選考会議が開かれる。

 

 部活連本部で行われているこの会議では、既に内定しているメンバーを含め、かなりの大人数が参加している。その出場者の席には一人だけ二科生がいた。

 

 勿論、達也である。

 

「なぜ二科生がその席にいるんですか?」

 

 とある生徒からその質問が飛ぶ。

 風紀委員として活躍する達也は、上級生から意外な高評価を受けている。

 だが、やはり二科生ということで否定的な目を向ける者が多いのも事実。

 そこで、真由美は事情を説明することにする。

 しかし中々纏まらない。

 議論は達也一人のために白熱し、次第に収拾がつかなくなる。

 そこへ。

 

「二科生だからというくだらない理由は却下だ。しかし、実力に問題があるというのなら、今ここで試してみればいい」

 

 そんな訳で十文字の鶴の一声により実際にさせてみることになる。

 

 その後、桐原が立候補。

 達也と桐原の事件は周知の事実だからこそ、達也にとって不利になる人物が立候補しているように見えた。

 逆に、だからこそ客観的な意見となる。

 結果として非常に良い出来栄えと称賛された。

 

 そんな訳で達也は九校戦の技術スタッフへと加わることになるのだった。



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第四節:準備と用意

 選手とエンジニアが無事(?)に決まった。

 その後、エンジニアと選手の顔合わせと打ち合わせがあった。

 のだが……。

 

「エンジニアは女の子が良かったな~」

「僕は仕事さえしてくれれば、誰でもいい」

 

 達也に関する声はあんまり好意的ではなかった。

 発言者は明智英美と里美スバル。

 

 後にこれが一変する事になる事を誰も知らない。

 まあ、深雪なら知っていたかもしれないが。

 ブラコンだし。

 

 それが終わり、本格的な準備が始まった。

 因みに立華とレイナの出場競技は……。

 

「わたし、クラウド」

「俺はピラーズ」

「「イエイ!」」

 

 ハイタッチする2人。

 レイナが「クラウド・ボール」、立華が「アイス・ピラーズ・ブレイク」となった。

 彼らの希望通りになった。

 余談だが、2人共、他の競技にも候補には上がったが、他に優秀な人がいたためこうなった。

 レイナは出場競技が1つで済み、立華は望み通りになった。

 

 だがレイナは少しだけ不満そうであった。

 

「でも、欲言えば、わたし、ピラーズ……」

「駄目」

 

 レイナの言葉に立華が駄目だしする。

 

「お前、深雪とぶつかったら”アレ”使うだろう?」

「……」

「アレは消耗激しいんだから」

「うん……」

 

 因みに深雪は「アイス・ピラーズ・ブレイク」と「ミラージ・バット」に決まった。

 激突はしないで済みそうだ。

 でも、だからこそ、激突しあったら両者ただでは済まない。

 

「まあ頑張れ」

「そっちも」

 

 そう言う訳で立華とレイナは準備をし始める。

 

「さて決まったからには」

「には?」

「勝つのは俺だ」

 

 そういう訳で彼は自身のCADを倉庫から引っ張り出す。

 

 形は色々だった。

 マイク、剣、独鈷杵など色々ある。

 一見すると武装デバイスのようである。

 

「これって……」

「うん。アレ」

 

 フフフと笑う立華。

 

 このCADは「NPシリーズ」と呼ばれる。

 NP……要するにNoble Phantasm、つまり宝具を再現したCADなのである。

 製作者は「獅子」と「紳士」。

 偶に補助として「マハトマ」や「ロボット」が手伝った。

 「仲良く喧嘩しな」状態で作ったのである。

 本物には劣るが中々な破壊力がある物が完成した。

 

「でも」

「?」

「あーちゃん、ショック死する、かも……」

「否定できないな……」

 

 だが、このCADには致命的且つ重大な欠陥があるのだ。

 それを知ったら、彼女が物理的にも精神的にも死にかねない。

 

「とりあえずエンジニアは別の人に頼もう」

「使う、の?」

「こういう機会じゃないと……ね」

 

 そう言ってケラケラ笑う立華だった。

 

 ◆◆◆

 

 そんな感じで一校の準備は進んでいた。

 

 全校生徒……特に選手とエンジニアは精力的に動いていた。

 

 達也のCAD調整をして貰った一年女子(一年男子はプライドの問題でほぼ全員拒否。立華は気にしなかった)が彼の事を見直した。

 そのおかげか、彼に対する否定的な意見は「雲散霧消」した。

 

 女子の「アイス・ピラーズ・ブレイク」の練習を立華が手伝った。

 情報強化は雫が参考にしていた。

 そこで出場者の1人である「明智英美」と知り合いになった。

 桐原の「クラウド・ボール」の練習も付き合っていた。

 

 レイナは戦法を達也や七草、出場経験のある先輩方に相談して決めていた。

 本人曰く「優勝?当たり前。完封目指せ!」だそうだ。

 他の選手とも仲良くなり、新たな呼び名が生まれたが、そこは割愛。

 

 そんな感じで頑張っていたのだが……。

 

「なあ立華君」

「はい?」

 

 その日立華は風紀委員の書類仕事をしていたのだが、そこへ渡辺が話しかけてきた。

 

「君は自分の練習はいいのか?」

「一応してますよ?」

「……そうは見えないんだが……」

 

 立華は競技の練習期間にも関わらず、風紀委員の仕事や生徒会の仕事を手伝っていた。

 他にも剣道部や剣術部にまで顔を出している。

 更に他の選手の練習に付き合ってばっかりいた。

 どう見ても自分の競技の練習よりも、他人の手伝いを優先しているふしがあった。

 

 他の選手曰く。

 

『手伝ってくれてありがたいし、練習が捗どって感謝したいけど、アイツ自身は大丈夫なのか?』

 

 とのこと。

 

 因みに今回はレイナとは別行動。

 最近は登校下校、昼食時位しか一緒にいない。

 

「女子の手伝って色々参考にしてますし。……あんまりできないですし」

 

 後半は聞かれないよう小声で言う。

 これにはCADの欠陥が関わっている。

 

「……そうか。ならいいんだが。……勝つk」

「大丈夫です。勝ちますよ。ただ……」

「ただ?」

 

 そう言って意味ありげに笑う。

 

「あーちゃん先輩が憤死するか、悶死するかしれません」

「一体全体何をする気だ!?」

 

 ツッコミを入れる渡辺。

 因みに立華のエンジニアは達也であった。

 中条には外れて貰った。

 

「本番を楽しみにしてください」

「不安しかないんだが……」

 

 そんな訳で本番まで過ぎていった。




NPシリーズ

エジソンとテスラ(とバベッジ、エレナ、モリアーティ)が協力して作ったCAD。
宝具の火力を現代魔法で再現した物。
結構沢山ある。
様々なサーヴァント達の宝具再現に成功した。

ただし欠点がある。

1つ目。あくまで贋作なので本物には敵わない。
2つ目。それ相応の魔法力が必要。
3つ目。――――――現在は閲覧不可――――――


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第五節:足りない物は……

 そして日と場所が変わって。

 ある日の休日。

 場所は藤丸邸(鷹山邸とも言う)。

 

「ふあ……」

 

 珍しく遅くまで寝ていたレイナが起きて、リビングへ向かう。

 そこには立華ともう1人。

 青いマントとボディスーツ、無貌の仮面で身を隠した男がいた。

 立華と一緒にお茶を飲んでいた。

 レイナに気づくと挨拶をする。

 

「やあ久しいね」

「アヴさん!」

「……その言い方では別の人にならないかね?」

 

 彼は魔術師(キャスター)。通称「黒のキャスター」。

 真名アヴィケブロン。正式な名前はソロモン・ベン・ユダ・イブン・ガビーロール。

 ……ソロモンでは「彼」と混ざる。

 立華と契約していた自他ともに認めるゴーレムマスターである。

 この家のゴーレムは彼の作品であった。

 防衛用から、警備用、掃除用、家事用まで存在する。

 レイナとの仲も良好であった。

 

「今日、どうしたの?」

「実は先頃ほぼ完成したのだよ」

「もしかして……」

「ああ。アダムがね」

 

 アダム。

 それはアヴィケブロンの宝具の略称だった。

 正式名称は【王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)】。

 

 宝具には色々な種類がある。

 「アイテム系」、「特殊能力系」、「自分の結末系」。

 「真名解放」、「常時発動」、「仮想宝具」。

 それとは別に、現世で実際に制作する必要のある宝具が存在する。

 そういった宝具は「単体の英霊が所有するには、余りに巨大な物」、「未完成であるが故に、伝説に刻まれた代物」のどちらかに属する。

 アヴィケブロンのは後者である。

 

 立華は召喚されて以来、そういう宝具をいくつもコツコツ作って来た。

 時に国外に渡り、時に貴重な素材を買い、時に宝具を解放し、時に烈の力を借りた。

 それでほとんど完成したのである。

 だが……。

 

「肝心な”炉心”がね……」

「ああ……」

 

 だが足りない物があった。

 それが「炉心」だった。

 

 一度宝具として召喚してしまうと、無尽蔵に魔力を求め続ける生粋の大喰らいであるため、「一級品の魔術回路を持つ人体」が必要となる。

 つまり「この世界」では「優秀な魔法師」の生贄がいるのである。

 

「”前”と”前々”の手段は論外だし」

 

 「前」は異聞帯で使った荒技。アヴィケブロン自身を炉心にする。

 これのおかげで立華達は「雷帝」を倒せたのだが、アレは論外。

 「前々」は聖杯大戦でアヴィケブロンが使った方法。マスターを炉心にする。

 だが、この行いは未だにアヴィケブロンを苛んでいる。

 どちらも使えない。

 

「適当な犯罪者……まあ凄く外道魔法師がいれば使うんだけど」

「手頃なのがいなくてね」

「「はあ……」」

「……納得」

 

 2人揃って溜息を吐く。

 

 ここが「藤丸立華」と「藤丸立香」の相違点。

 その1つ。

 

 彼は人の命を大事に思っているが、鬼畜外道には容赦はしない。

 一般人を犠牲にはしないが、かつて「新宿」で生きたまま人形に改造された「コロラトゥーラ」を使ってバーサーカーをおびき寄せるのにはためらわなかった。

 

「まあとりあえず保留か……」

「それしかないだろうね」

 

 そういう訳で2人は席を立つ。

 

「レイナ何か食べる?確かベーグルが残っていたと思うけど」

「食べる!」

「アヴィケブロンは?」

「僕は遠慮しよう」

 

 一度はそう言うが。

 

「……いや、置いておいてくれ。ゴーレムの整備が終わったら食べる」

 

 人間嫌いな彼だが、立華に召喚されてからは「周囲と会話し続け、理解し合わなければならない」と決意させるほどの成長をしている。

 それに軽く笑う立華だった。

 

 ◆◆◆

 

 その日の夜。

 立華はとある人物と話をしていた。

 秘匿回線の映像電話であり、それを知っているのは3人だけ。

 そのうちの1人である……。

 

「久しぶりね、立華君」

「響子さん!」

 

 藤林響子。

 烈の孫娘であり、国防陸軍第101旅団所属、独立魔装大隊の幹部。

 立華とレイナの秘密を知っている3人の内の1人。

 

 元々彼らが生活するために接触した人でもあり、2人の偽のPD、戸籍を作ったのは彼女である。

 電子・電波魔法による高度なハッキングスキルを得意とし、「電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)」という二つ名で呼ばれている。

 ……とあるサーヴァントにプライドをズタボロにされたこともあるが。

 

 因みに達也(大黒竜也と偽名を名乗る)とは同僚であり、風間玄信の副官(秘書)をしている。

 が、立華とレイナの事は彼らに伝えていない。

 ……だからこそ達也は立華を知らなかった。

 

 その理由はいくつかある。

 1つ目。伝えた際に何がどうなるか予測不能であること。

 2つ目。彼らのおかげでいとこである光宣が元気になった事への恩。

 3つ目。彼が放っておけなかったから。

 

 

 そのことを立華とレイナも感謝している。

 そのためか、彼女は結構立華から「道具」を融通して貰ってもいた。

 

「ええ、久しぶりですね。何かありました?」

「富士の辺りで、香港系の犯罪集団、無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の構成員が発見されたのよ。……残念なことに目的は分かっていないわ」

「何時から日本はテロが日常茶飯事になったんです?」

「まだテロと決まったわけじゃないわ」

 

 溜息を吐く立華にフォローする響子。

 

「まあ軍も動いているから大丈夫よ」

「そうですか……」

「そういえば祖父が来るのは知ってる?」

「はい。懇親会の後、食事をする事になってます」

「それに私も参加するし、光宣君も来るわ」

「なるほど。久しぶりに揃うのですねえ」

 

 フフフと笑い合う両者。

 

 そういう感じで軽い雑談をして。

 

「じゃあそろそろ切るわね」

「はい。また」

「ええ、またね」



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第六節:エクレア、栗きんとん、中○譲治

 光陰矢の如し。

 あっという間に当日となる。

 正確には明後日なのだが、懇親会があり、体調調整もあるので、早めに会場入りするのだ。

 

 だがバスの出発が大幅に遅れていた。

 なぜなら七草が家の事情でまだ来ていないのだ。

 

 そのため、炎天下で待たされる達也。

 人数確認のために外で待っているのだ。

 ……そのせいでバス内ではブリザードとなっているが、些細な事だろう。

 ……多分。

 

 そして一時間三十分の大遅刻の末。

  

「遅れてごめんなさ~い!」

 

 つばの大きな帽子を被り、サマードレスを纏った七草がヒールのサンダルで器用に走り寄ってくる。

 バスに乗り込もうとすると。

 

「真由美。ちゃんと達也君に礼を言っておけ。炎天下でずっと待ってていたんだぞ?」

「え? そうだったの? 本当にごめんなさいね達也君」

「大したことではありません」

 

 これでバスに乗る面々は揃った。

 そしてバスが走り出した。

 

 ところが、このバスにはある2人の姿がなかった。

 立華とレイナの姿である。

 彼らは……。

 

「そういえば立華さんとレイナさんは?」

「遅刻。寝坊したんだって」

「……入学式の日もしていたような?」

 

 ほのかの疑問に雫が答える。

 

 この2人はまたも寝坊だった。

 そういう訳で現地合流という事になった。

 

 ◆◆◆

 

 テロ未遂に巻き込まれたりして、予定より遅れたが会場についた一校御一行。

 彼らを出迎えたのは……。

 

「遅かったな」

「「「「「「どの口が言うか!?」」」」」」

「この、口♪」

「「「「「「威張るな!?」」」」」」

 

 立華とレイナの2人だった。

 何とこの2人の方が早く付いていた。

 ……まあ宝具使ったので当たり前だが。

 使ったのは「征服王」の「戦車」。

 空を時速400kmで駆け抜け現地入りした。

 ……見つからないように配慮したが。

 

「すいません、寝坊しちゃって」

「何で寝坊したの?」

「「……聞きたい?」」

「……やめとく」

 

 そんな感じでホテル内に入ると。

 

「久しぶりー」

「エリエリ!」

 

 エリカがいた。

 因みに他のメンツもいるらしい。

 

「……それ止めて」

「ヒコ、ミキ呼び、止めたら、考える」

「……じゃあ無理かぁ~」

「「諦めた!?」」

 

 どうやら幹比古をミキ呼びはやめられないらしい。

 因みにそれに配慮してレイナは「ヒコ」と呼んでいる。

 ……本人はどっちも嫌そうだが。

 

 そして、その後あてがわれた部屋に行く。

 因みに立華とレイナは何故か同室となった。

 

「「なぜ?」」

 

 首を捻る2人。

 理由はまあ御察しである。

 

 部屋で立華は大きな棺桶の中のCADをチェック、レイナは懇親会の準備をしていた。

 そして、ひと段落した所で、レイナは読書、立華は彼女の膝枕で眠る。

 この2人のいつもの風景である。

 

 ◆◆◆

 

 懇親会が始まった。

 九校戦の参加者は(当たり前だが)九校全員合わせて四百人以上。

 結構大規模である。

 ホテルの給仕スタッフだけでは賄いきれないのか、アルバイトと思わしき若者があたりを行き来している。

 その中にはエリカと幹比古の姿もある。

 美月とレオは裏方である。

 

 その中で会場入りした2人だが。

 

「目立つなあ」

「うん……」

 

 立華とレイナは目立っていた。

 

 立華は白い髪に浅黒い肌なので結構目立つ。

 しかも顔も悪くはないので尚更。

 

 レイナは真っ白なのでこちらも目立つ。

 しかもかわいいタイプなので視線を集める。

 

 まあ気にしてもいられないので、料理を取り、飲み物のグラスを手に持つ。

 立華とレイナはどこぞの「ぽこじゃが増える王」のように大食いではないが、結構健啖家である。

 なので、眼に付いた物を黙々と食べていると。

 

「よく食べるな……」

 

 達也がやって来た。

 

「そりゃあね。元取らなきゃ」

「……何の元だ?」

「……癖。バイキングの時とか一杯食べるだろう?」

「まあな」

 

 そこへ。

 

「ここにいたんですね」

「探したよ」

 

 雫とほのかも合流。

 その時ふと気になった事をレイナが尋ねる。

 

「タッツン、ミユキチは?」

「今は別行動中だ。どうも俺が二科生だから敬遠されているみたいでな」

「そんな! 達也さんだってメンバーなのに!」

「下らない」

 

 ほのかと雫がそう言う。

 更に。

 

「ホント馬鹿馬鹿しいわね」

「それが人の性というものだよ花音」

 

 二年生の「千代田花音」、そして彼女の婚約者兼、技術スタッフとして参加している二年の「五十里啓」の2人が仲良く腕を組みながら会話に参加してきた。

 ……対抗心を燃やしてかレイナが立華にしがみつく。

 

「人って、肌の色、眼の色、髪の色、立場で差別するからな。これでもまだマシな方だ」

「……マシじゃないのって?」

「奴隷として売りさばくとか?」

「「「「「「……」」」」」」

 

 立華は「白いひげのライダー」を思い出しながら告げる。

 彼のあんまりな言葉に全員黙り込んでしまった。

 そんな中話題を変えようとしてか。

 

「そういえば三校って強い選手いるんだよね」

「ああ。確か”クリムゾン・プリンス”、”カーディナル・ジョージ”、”エクレール・アイリ”だな。新人戦でも確実にぶつかるな」

 

 雫の話題に達也が乗っかる。

 

 十師族一条家の長男にして実戦経験まで持つ一条将輝。通称「クリムゾン・プリンス」。

 

 仮説上の存在だった「基本コード」の一つである「加重系統プラスコード」を発見した吉祥寺真紅郎。通称「カーディナル・ジョージ」。

 

 二十八家(実質二十七だが、今もそう呼ばれている)の一色家のご令嬢にして、「リーブル・エペー」において中学時代から数々の大会で優勝している一色愛梨。通称「エクレール・アイリ」。

 

 この3人は正に三校のエースなのである。

 

 が。

 

「栗きんとん?中○譲治?エクレア?」

 

 とその事を知らないレイナが思いっきり間違えた。

 

「「「「「「ぶっ!!!!!!」」」」」」

 

 あまりの間違えように立華を除き、全員噴き出す

 そのまま皆笑ってしまった。




戦車

ライダー「■■■■■■」の宝具。
2頭の神牛が引くチャリオット。
凄まじいスピードで駆け抜け、雷をまき散らすので、対軍の破壊力有。
乗り心地も結構良い。


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第七節:集結

 そんな感じで皆で大笑いしていると。

 

「……何笑っているんだ?」

 

 渡辺がやって来た。

 

「摩利さん……だって、呼び方が……」

「?」

 

 苦しそうに話そうとする千代田に渡辺が首を捻る。

 そこへ早めに回復した達也が事情を話すと。

 

「プフフ」

 

 彼女も噴き出した。

 

「それにしてもレイナはよく人の名前を間違えるし、変な呼び方をするな」

「私なんてキャノンですよ!キャノン!どこが大砲ですか!」

 

 渡辺のコメントに千代田が咆えるが。

 

(「いや、それは間違っていないな」)

 

 ほとんど皆が心の中で思う。

 思ってないのは五十里位だろう(笑)。

 なにせ彼女は陸上兵器相手の対物攻撃力は十師族に勝るとも劣らないし、攻撃が若干荒っぽい。

 

「僕はただ普通にケイ先輩だね」

「私はホノノンです」

「まだマシじゃないか。あたしなんかナベだぞ。ナベ」

 

 変な呼び名で呼ばれている数人がため息を吐く。

 その時、渡辺が自身の用事を思い出す。

 

「おっと忘れてた。五十里、中条が探していたぞ」

「本当ですか?」

 

 そういう訳で五十里と千代田のカップルが消える。

 その後は残りのメンバーで歓談する。

 

 そして暫くして来賓達の挨拶が始まる。

 あまり面白くないので、立華はウトウトしてしまう。

 そして、最後に現れたのは……。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 若い女性だった。

 本来は烈の挨拶なのだが。

 だが、一部の面々にはわかっていた。

 その後ろに彼がいる事を。

 

 スポットライトが当たり、やっと大半が気づく。

 

「悪ふざけに付き合わせた。謝罪しよう」

 

 そう言ってから話し始める烈。

 内容は魔法は手段であり、使い方を工夫してくれとの事。

 

「私は諸君らの工夫を期待している」

 

 話を締めくくると拍手が巻き起こる。

 立華とレイナも拍手した。

 それに気づいたのか一瞬だけ彼らに向けて笑みを浮かべた。

 

 ◆◆◆

 

 懇親会終了後、とある部屋に向かう2人。

 服装は制服だが、〈気配遮断〉と〈ジャガー潜む暗黒の森(ジャガー・イン・ザ・ブラック)〉を併用して見つからないようにする。

 そしてノックをして入るとそこには。

 

「来たか」

 

 烈だけではなく。

 

「直接会うのは本当に久しぶりね」

 

 響子もいて。

 

「お久しぶりです。お2人共」

 

 光宣がいた。

 

 そして、食材が用意されていた

 なので作ったのは……。

 

「お願い」

「任せろ」

 

 皆大好き(?)エミヤである。

 オカン3人衆の1人である。

 彼の契約サーヴァントで料理を作れる物は結構いたが、恐らく一番上手いのが彼なのだ。

 それにこの3人は立華の「宝具」については知っているので、見せるのに問題はない。

 

「ありがとね」

「なに。気にするな」

 

 そう言って帰っていくエミヤ。

 

 そんな訳で5人で軽食を取る。

 雑談を交えて料理に舌鼓を打つ。

 

「宿題、終わった?」

「はい。九校戦までに終わらせました。観戦したかったので」

「それでこそ」

 

 レイナの問いに嬉しそうに答える光宣。

 

「来年は光宣君も出るものね。見て置いて損はないわよ」

「気が早いですよ。響子さん」

 

 光宣は今年15歳。

 なので来年には二高に入学予定だ。

 だからこその響子の言葉に謙遜する光宣。

 

「そんな事はない。確実に選手入りできるさ」

 

 そう言うのは烈。

 彼は孫が「光の当たる場所で持って生まれた才能を存分に発揮する」事を望んでいる。

 だが「そんな機会は来ないと思っている」と思って()()

 2年前までは。彼と出会うまでは。

 

「そういえば立華さんとレイナさんは何の競技に出るのですか?」

「俺はピラーズでレイナがクラウドだ」

「「モノリス・コードじゃないのですか!?」」

 

 立華の答えに響子と光宣の驚きが重なった。

 

「あのなあ……これ何度目だ?……俺は向いていないんだって」

「そうですか?でも……まだ誤魔化し効くの在りますよね?」

「……そりゃそうだけど」

 

 光宣の疑問に答える立華。

 確かに言う通り誤魔化し効くのはあるにはある。

 

「軍勢召喚なんかはルール上セーフですよね?響子さん」

「ええ。そのはずよ」

「なら、それで行けばいいじゃないですか。化成体と言えば誤魔化し効くでしょう?」

「そう?効く?」

 

 立華の疑問に烈が答える。

 

「まあ効きはするだろう。だが……」

「だが?」

「ほぼ確実にあちらこちらから目を付けられるぞ。しかもまだ二年前のアレは印象深い」

「だよねえ」

 

 溜息を吐く立華。

 骸骨兵や兵馬俑、スパルタ、新選組、ローマ兵を召喚したらどうなってしまうか。

 

「響子さんの上司とかにも目を付けられるかも」

「……」

 

 立華の言葉に無言になる響子。

 立華は彼女の上司である「風間玄信」の事をある程度は知っている。

 だが、まだ会った事はない。

 

「確か……「大天狗」と呼ばれていて、山岳戦・森林戦における世界的なエキスパートでしたよね」

「ええ、そうよ」

 

 光宣の言葉に答える響子。

 この程度なら知っている人は結構いる。

 

「今回はウチの部隊も来ているのよ。そんな事したら絶対……」

「死人、出る?」

「工程が吹っ飛んだ!?不吉な事言わないで!?」

 

 レイナの言葉に突っ伏す響子。

 その様子に軽く笑ってしまう光宣。

 

 その後、雑談をしてお開きとなる。

 

「応援してます。2人共」

「ああ、頑張るよ」

 

 そう言って立華とレイナは姿を消した。



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第八節:忠告と温泉と辺七

 部屋に戻った2人。

 さあ寝ようとなったのだが。

 ノックの音が聞こえた。

 許可を出すと入って来たのは……。

 

「さっきぶりです響子さん」

「何用?」

 

 藤林響子だった。

 彼女の顔はさっきまでと違って曇っていた。

 暫し沈黙後、口を開く。

 

「ここ最近、国防軍と四葉、七草が貴方達のPDを調べていたわ」

「……何も出てこないよな?」

 

 「電子の魔女」が上手くやったのだから。

 「後輩」からもお墨付が出ている。

 

「ええ。調べるだけならね。だからこそ軍はすぐに切り上げたけど、四葉と七草は……」

「実力行使、可能性?」

「ええ」

 

 再び静寂。

 口を開いたのは立華。

 

「しばらく烈さんや光宣との接触は控えた方がいいですか?」

「……そうして頂戴。私から祖父と光宣君には言っておくわ」

「そっか」

 

 溜息を吐く立華。

 屋敷は警備はかなり厳重にしてあるので入られる心配はないだろう。

 それに隠蔽も上手くして置いた。

 

「苦労かけるね響子さん」

「気にしないで。私は自分に出来ることをしているだけだから」

 

 そう言って少し笑った響子だった。

 

 ◆◆◆

 

 一方一校女子達は。

 

「気持ちいいねえ」

「ねえ」

 

 温泉に入っていた。

 ……途中ほのかがエイミィにひん剥かれかけたが些細な事だろう。

 

 彼女達の話題は……。

 

「そういえばさ、三校の一条君、ずっと深雪の事見てたね」

 

 女子のほとんどはオシャレや恋愛話といった話題に敏感である。

 特にそれが身内であれば、尚更だ。

 

「一目惚れしたんじゃないの?」

「そりゃあねえ。深雪だもの」

「むしろ昔から深雪の事好きだったりして」

 

 女子達は勝手な妄想をする。

 それに深雪は。

 

「真面目な話、一条君とは一度たりともあった事は無いわ。会場に来ていたのも気づかなかったし」

 

 冷たい反応、もしくは興味が無いといった感じで、妄想に歯止めを掛ける。

 盛り上がっていた彼女達も、沈んでしまう。

 

「じゃあお兄さんみたいな人がタイプなの?」

 

 だがそこで諦めたらJK失格(?)。

 エイミィが疑問を投げかける。

 それに深雪は呆れたような表情を浮かべ。

 

「……私とお兄様は肉親よ? 恋愛対象なんて論外だし、お兄様のような人もいないと思っているわ」

 

 期待はずれの返事のせいか深雪に対する話題はお終いとなる。

 

「そういえば、レイナはどうなんだろう?」

「「「「「「……」」」」」」

 

 スバルの問いに彼女を知っている一同が無言になる。

 

 言葉使いが独特で接続詞をあんまり使わない。

 人の事を変な呼び名で呼ぶ変わり者。

 見た目は真っ白で結構可愛い。

 

 最初に口を開いたのは深雪。

 

「立華さんとは”相棒”って言っているわよね」

「でも、アレ絶対それ以上いってるよね」

「エイミィ。そんなに気になるなら聞いてみたら?」

「……う~ん」

 

 悩むエイミィにスバルが忠告する。

 

「藪蛇かもよ?」

 

 そこに雫とほのかが。

 

「藪からキングコブラ」

「藪からアナコンダかも」

 

 更に続けて深雪が。

 

「まだこの世にいる蛇じゃない。龍とかナーガよりはマシでしょう」

 

 続けた。

 この3人はあの仲良しコンビと付き合いがもう四カ月程になる。

 あの仲良しさ結構凄い。

 ……まあどこぞの兄妹も中々だが。

 

「……聞かない方がいいかも」

 

 エイミィが呟いた。

 そんな感じでその日は終わった。

 

 ◆◆◆

 

 懇親会の翌々日。

 ……一日休業日があるのだ。

 

 遂に九校戦初日となる。

 開会式が終わり、競技が始まった。

 この日の競技は……。

 

「今日は何があったっけ?」

「スピシュ、バトボ。ナナナベ、出る」

「「「「「「何その略!?」」」」」」

 

 「スピード・シューティング」と「バトル・ボード」。

 「早撃ち」と「波乗り」。

 である。

 正確には前者が本戦、後者が予選である。

 ……因みに「ナナナベ」は七草と渡辺の略だった。

 彼らはとりあえず「バトル・ボード」を見に行った。

 

 結果は。

 

「ナベ先輩、勝利」

「順当だな」

 

 渡辺は〈硬化魔法〉で自分とボードの相対位置を固定、〈移動魔法〉のマルチキャスト、〈振動魔法〉で水面とボードとの抵抗を緩和して準決勝に進んだ。

 ……達也の解説である。

 

「…戦術家だな」

「性格が悪いだけよ」

 

 達也の呟きに悪態をついたのはエリカだった。

 彼女は渡辺の事が好きではない。

 

(「ま、好きになれない人って必ずいるもんだよな」)

 

 そう思う立華であった。

 

 そして、彼らが次に観戦に向かったのは「スピード・シューティング」であった。

 

 結果は。

 

「凄い……」

「ああ」

 

 七草はスピードと精密射撃で勝利を飾った。

 ドライブリザードを原形とした〈魔弾の射手〉と実体物を様々な方向で知覚する視覚的な多元レーダー〈マルチスコープ〉を併用して勝利を飾った。

 

「確か”エルフィン・スナイパー”とか、”妖精姫”って呼ばれているんですよね」

「……本人はその呼び名が好きじゃないらしいがな」

 

 美月の言葉に達也が補足。

 

「ナナ先輩、チビ。でも、胸ある、救い?」

「「「「「「ぶっ!?」」」」」」

 

 あんまりな言葉に噴き出すほぼ全員。

 

「こら」

 

 噴き出さなかった立華がデコピンをレイナに決めた。

 

「痛い……」

「反省しなさい。人の外見は言うもんじゃない」

「わたし、背もある、胸もある」

 

 威張るレイナ。

 それに一部が落ち込んだのは余談である。



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第九節:急転直下

 九校戦2日目。

 この日は「クラウド・ボール」と「アイス・ピラーズ・ブレイク」が行われる。

 前者が本戦、後者が予選。

 

 「クラウド・ボール」で七草が出場。

 加速魔法の〈ダブル・バウンド〉を使用して勝利を重ねる。

 

 そして、達也が補助についていた。

 七草自体に問題はない。

 CADも使いやすそうだった。

 ただ、七草のストレッチを達也が手伝ったりしていたせいで、観客席の一部の温度が下がっていた。

 ……これは後で、達也に頑張ってもらうしかないだろう。

 

 結果は優勝を飾った。

 当然の結果であるのかもしれない。

 

 そして。

 「アイス・ピラーズ・ブレイク」の方はと言えば。

 

 レイナに言わせれば「モンジとキャノンが頑張った」である。

 特に千代田は性格が良くも悪くも表れた試合であった。

 正に「攻撃は最大の防御」もしくは「やられる前にやれ」。

 そのせいか一回戦は最短で勝利を決めた。

 

 「地面」に直下地震にも似た爆裂的な振動を加え、その上に乗っている物体を壊す魔法〈地雷原〉。

 千代田家の代名詞にしてお家芸だそうだ。

 

「正に、キャノン」

 

 レイナのセリフにほとんど全員が頷き、五十里が苦笑いしたのも頷ける。

 

 ところが……。

 

「男子クラウド・ボールの結果が予想外だったので、今後の見通しを立て直しているんです」

 

 作戦本部にて、市原が告げた。

 ……声は何時もと変わらなかったが。

 どうやら桐原が負けてしまったらしい。

 しかも三回戦敗退だそうだ。

 しかもストレート負け。

 

「リンちゃん先輩」

「……その呼び方は止めて欲しいのですけど」

「ハラキリ、弱くない。リッカ、練習付き合ってた。なぜ、負けた?」

 

 レイナの疑問に市原は答える。

 

「強いて言うなら対戦相手が悪かったのですよ。優勝候補とぶつかってフルセットで何とか勝利したのですが……。次の試合の体力が残っていなかったのです」

「実質痛み分けですか……」

 

 立華が呟く。

 

「ええ。まだ貯金が効いてますが……。どうなることやら」

 

 溜息を吐く市原だった。

 

 作戦本部を出て立華とレイナが2人で歩いている。

 

「本当に勝負は何が起こるかわからないけどな」

「……うん」

「どーした?」

「リッカ、練習、付き合ってた。なのに……」

 

 少し悲しそうなレイナを頭を軽く撫でる。

 そんな感じで移動していると。

 

 桐原と壬生に遭遇する。

 まだ落ち込んでいる桐原。

 それを慰めている壬生。

 

 そんな2人に近づいていく2人。

 それに気づいたのか。

 

「……ああ、藤丸と鷹山か。悪いな負けちまった。お前には練習付き合わせたのに。悪いな」

「いえいえ。俺が好きでしたことですので」

 

 そう立華が告げる。

 

「桐原武明」

「……!」

 

 レイナが桐原をフルネームで呼ぶ。

 それに目を見開く桐原と壬生。

 

「相手は優勝候補。それを貴方は破った。それだけでも誇るべきです。少なくともわたしはそう思いますよ」

「「!?」」

 

 豹変したレイナの喋りに絶句するカップル。

 

「お前……普通に喋れるのか?」

「ええ。とは言っても結構疲れるのです。だからこそ滅多に使いません」

 

 ……どこぞの黒髭のようである。

 アレはいつもはふざけているが、真面目な時はシリアスな口調になる。

 一人称も「拙者」から「オレ」になる。

 ドレイクの親友を尋問する時には、怖気が走るような態度で真意について問い質していた。

 

「元気を出しなさい。貴方の負けはわたしや立華が取り返します」

 

 そう言うレイナ。

 それに……。

 

「ククク。アハハハハハハ!」 

 

 笑い始める桐原。

 それにオドオドする壬生。

 暫く笑っていたが。

 

「……はあ。笑った笑った。ありがとうな。お前がそう言うんならそうなんだろうさ」

「……ありがとうね。鷹山さん」

 

 2人の言葉に対してレイナは。

 

「気に、しないで。ハラキリ、ミカン」

「「元に戻っちゃった!?」」

 

 ◆◆◆

 

 九校戦3日目。

 この日は「バトル・ボード」と「ピラーズ・ブレイク」。

 これが終わると翌日からは新人戦である。

 まだ本戦の競技は2つ残っているのに……。

 

「何でだろう?」

「ノリ?」

「なるほど」

「「「「「「そんな訳あるか!?」」」」」」

 

 そんな訳で彼らは「バトル・ボード」を見に行った。

 

 ところがそこで問題が起こった。

 七校選手が急カーブへと差し掛かったタイミングで、減速しなかった。

 そのせいでフェンスに激突しそうになる。

 それを渡辺が受け止めたせいで彼女は怪我を負ってしまった。

 

 「危険走行」をしたとして七校選手は「失格」。

 怪我が理由で渡辺委員長は「棄権」となった。

 

 そして。

 渡辺の病室を出た達也を迎えたのは立華とレイナだった。

 

「ナベ先輩は?」

「肋骨が折れているが、それ以外は元気だ」

「よかった」

 

 レイナがほっと息をつく。

 一方立華は達也に問いかける。

 

「……気づいたか?」

「ああ、アレは人為的な物だ。あの水面は不自然すぎる」

「だよなあ。……悪意も感じたし」

「幹比古が言っていた。準備期間さえあれば可能だそうだ」

「きな臭くなって来やがったなあ……」

 

 溜息を吐く立華。

 そして表情を切り替え。

 

「達也」

「何だ」

「お前は深雪さんから目を放すな。狙われる可能性が高い」

「……ああわかった。お前は?」

「警戒する。それしかないな」

 

 そう言ってレイナを引き寄せる。

 レイナは立華に掴まる。

 そうして達也と別れてレイナと外に出る。

 

「レイナ」

「うん?」

「勝つぞ。絶対に」

「言われるまでもありません」



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第十節:新人戦 イメージするのは最強の自分

 九校戦4日目。

 遂に新人戦が幕開ける。

 

 今回の九校戦ではある2校が注目を集めている。

 

 1つが連覇を狙う「第一高校」。

 「三巨頭」を始め、優秀な選手が揃い踏み。

 もう1つが優勝をもぎ取らんとする「第三高校」。

 こちらは戦闘系の魔法実技を重視しているうえ、今年入学してきた生徒が粒ぞろいなのだ。

 

「クリムゾン・プリンス」一条将輝。レイナ曰く「栗きんとん」。

 

「カーディナル・ジョージ」吉祥寺真紅郎。レイナ曰く「中○譲治」。

 

「エクレール・アイリ」一色愛梨。レイナ曰く「エクレア」。

 

 この3人が有名だが、それ以外も優秀な人ばかり揃っている。

 新人戦優勝も届く範囲なのだ。

 

 ……まあ全員レイナに変な呼び名で呼ばれ、それが一校の一部に移ってしまったが、些細な事だろう。

 

 この日は「スピード・シューティング」が行われる。

 因みに出場するのは……。

 

「雫、モブ、出る」

「だなあ。……いい加減名前覚えてやれ」

「優勝したら、考える」

「考えるだけか?」

 

 立華の問いにフフフと笑うレイナ。

 

 それにしても。

 

(「森崎……大丈夫か?」)

 

 彼は「カーディナル・ジョージ」とぶつかるのだ。

 

 吉祥寺は「基本コード」を発見しただけあり、学者としても優秀。

 だが、魔法師としても優秀なのだ。

 「スピード・シューティング」の優勝候補と言われている。

 

 対する森崎。

 実技の成績は良い。

 そして、彼の武器は魔法式の構築速度。

 

 だが、魔法式の規模、事象干渉力は平凡である。

 自分と他人を比べて、実力の低い物は見下す。

 そうして自身のプライドを支えていた。。

 レイナに言わせれば「金ワカメ寸前」だそうだ。

 

 だが、その性格を立華に矯正され、多少精神的に余裕が出てきた。

 立華も人生で得た薫陶を彼に教えているおかげで、性格もマシになってきた。

 

 ならば。

 

「発破かけてやるか……」

「その前に」

「?」

「雫の試合、見よ?」

「ああ」

 

 そんな訳で雫の試合を見に行く彼ら。

 

 いつもと変わらぬ2人。

 なのだが、実は昨日こんな事があった。

 

 ◇◇◇

 

「失礼します」

 

 前日の夜。

 一校の幹部から呼ばれた立華とレイナ。

 その部屋に入室すると、そこには。

 

「タッツン?ミユキチ?」

 

 七草と渡辺、市原といった幹部だけでなく、司波兄妹がいた。

 

「ああ来たか」

「ナベ先輩?大丈夫?」

「ああ。そこまでの怪我じゃないのに皆心配しすぎなんだ」

 

 結構元気そうな渡辺。

 それに一安心するレイナ。

 そして、立華が話題を出す。

 

「ところで、一体何用です」

「摩利が「ミラージ・バット」に出場予定だったのは知っているわね?」

「はい」

「それで、今回の怪我で出れなくなったから、代わりに深雪さんに本戦に出て貰う事になったんだけど……」

「妥当、判断」

 

 そう言って七草がレイナを見る。

 

「レイナさん。貴方には深雪さんの代わりに新人戦の「ミラージ・バット」に出て欲しいの」

「……」

 

 そう言われたレイナは戸惑った顔をする。

 

「なぜ、わたし?」

「貴方がふさわしいと思ったの。それに「クラウド・ボール」の翌々日だから体力的にも問題ないと思うのだけど」

 

 そう言われたレイナは考え込む。

 それなら平気かもしれない。

 そして、立華を見る。

 

「リッカ、わたし、出たい」

「そうか。なら頑張れ」

「うん。アレ、使える」

「!」

 

 レイナの言葉に立華は驚くが。

 すぐに笑みを浮かべ。

 

「わかった。何かあったらフォローしてやる。好きにやれ」

「うん!」

 

 そんな2人に渡辺が尋ねる。

 

「何をする気だ?」

「「内緒」」

 

 立華とレイナのセリフが重なった。

 

 ◆◆◆

 

 雫のスピード・シューティングの結果は優勝。

 達也の開発した新魔法〈能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)〉や汎用型に特化型専用の照準補助装置を搭載したCAD、そして自身の実力が活かし、勝利を掴み取った。

 因みに2位、3位も一校が独占。

 エイミィと滝川和美が取った。

 流石選手、流石お兄様である。

 

 そして男子は。

 

「はあ……」

 

 選手控室。

 森崎は頑張っていた。

 おかげで決勝進出を果たした。

 「クイック・ドロウ」を見せた。

 だが最後の相手は……。

 

「吉祥寺真紅郎……!」

 

 研究者としても魔法師としても優秀な選手。

 これまでの試合の結果は全てフルスコア。

 

「僕は勝てるのか……」

 

 少し弱気な森崎。

 緊張もしている。

 

「入るぞ」

 

 そこへノックもせずに現れたのは……。

 

「藤丸!」

「弱気になってんなあ」

「そ、そんな事」

「いいか、森崎」

 

 立華が森崎を正面から見つめる。

 

「ゆっくり深呼吸しろ」

「え」

「いいから」

 

 言われた通りする森崎。

 落ち着いた彼に立華は続ける。

 

「なあお前の敵は誰だ?」

「え?カーディn」

「違う」

 

 否定する立華。

 

「いいか?本当の敵は相手じゃない。自分自身だ」

「自分自身……」

「そうだ。そして、イメージするのは常に最強の自分だ。そこに外敵などは要らない。お前にとって戦う相手は自身のイメージに他ならない。その先にどんな結果が待っていようとも」

 

 そう続ける。

 そして。

 

「まあ肩の力抜いて、笑って、楽しめ」

「笑って……、楽しむ……」

「ああ。じゃあそう言う事で」

 

 帰っていく立華。

 それを呆然と見送った森崎だったが。

 

「……」

 

 その口元の笑みが浮かび。

 

「楽しむか!」

 

 そう言って彼は控室を出た。

 

 そして、暫く後に決勝戦が終了。

 結果は……。

 

『WINNER 森崎駿 PERFECT』



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第十一節:新人戦 テニヌの王女様

Q.勝つための手段がAとBの2つある。どちらを選ぶ?


 九校戦5日目。

 今日行われるのは「クラウド・ボール」と「アイス・ピラーズ・ブレイク」。

 前者が本戦、後者が予選。

 レイナや立華が出場するのだ。

 そういう訳でいつものメンバーで観戦に行く。

 

「確か三校の「エクレール・アイリ」が出るんですよね?レイナさんは大丈夫なんですか?」

「エクレアなんか食べてやるって言ってたぞ」

 

 ほのかの疑問に立華が答える。

 ガオーと軽く咆える真似をする。

 午後から試合なのにいつもと変わらぬ様子であった。

 

「「「「「「エクレア……」」」」」」

 

 その呼び名に全員がため息を吐く。

 なんで彼女は人を変な呼び名で呼ぶのか……。

 

 閑話休題。

 

「そういえばレイナはどういうスタイルで行くの?」

 

 雫が首を捻る。

 

 「クラウド・ボール」のスタイルは大きく分けで2つ。

 

 1つ目がテニスのようにラケットで打ち返すタイプ。

 2つ目が魔法を利用して打ち返すタイプ。

 

 因みに前者が一色、後者が七草が代表例である。

 

 雫の疑問に立華は。

 

「まあ見てからのお楽しみ」

 

 そう言って笑った。

 

 しばらくして選手が入場する。

 レイナは手にラケットを持ち、手首にはCADを巻いている。

 

「ラケットで打ち返すんだ……」

 

 雫の言葉にメンバーは納得する。

 立華だけは意味深な笑みを浮かべていた。 

 それに達也が疑問に思っていると。

 

 試合が始まる。

 シューターと呼ばれる機械から相手選手のコートに向かいボール(低反発)が射出される。

 それを加速魔法で運動ベクトルに干渉して動きを反転させてレイナのコートへと飛ばす。

 それに対してレイナは魔法も使わず純粋な歩法で追いつきラケットで打ち返す。

 そのまま魔法vsラケットのラリーが続く。

 

 時間が経つ事にボールが追加されていく。

 相手選手は段々ボールを追いきれなくなる。

 だが、レイナは全てのボールを打ち返す。

 時に純粋な歩法で、時に加速魔法を併用して追いつく。

 そして、そのまま勝利を決める。

 

「……なあ立華」

「うん?」

「あの戦法で体力は持つのか?」

 

 達也の疑問にメンバーがうんうん頷く。

 元々この競技は消耗を押さえて戦う物なのに、彼女は魔法はあんまり使わなかったのだが、あれは体力を消耗する。

 それに対して立華はケラケラ笑い。

 

「俺やレイナ、後、アイツはそんなに軟な鍛え方はしてないよ」

「……どういう風に鍛えたの?」

 

 エリカが尋ねると。

 

「俺は最初に裸でキメラ()と戦った」

「「「「「「え!?」」」」」」

「鍛えてくれた人の方針でね……」

「どこのスパルタだよ……」

 

 レオがツッコミを入れる。

 それに頷く一同。

 ……流石にほぼ全員「本当のスパルタ」から習ったとは思わないだろう。

 予想もしない答えに呆然とする一同だったが。

 

「レイナはそこまではしてない。でも、結構鍛え込んであるよ。100kmマラソンとか平然とこなすし」

「「「「「「……」」」」」」

 

 それに全員何も言えなくなる。

 そんな中雫が尋ねる。

 

「立華さんはレイナは「エクレール・アイリ」には勝てると思う?」

「……あれ凄いよな」

 

 素直に称賛する立華。

 試合を見たが、レイナと同じ戦法。

 〈稲妻(エクレール)〉という、知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、動きを精神から直接肉体に命じる魔法の2つを併用してラケットで打ち返す。

 まさに「稲妻」である。

 

「勝算はある。まだレイナは半分だし」

「「「「半分?」」」」

 

 意味の分からない言葉に雫とほのか、深雪、エリカが首捻る。

 一方達也は何かを思いついた顔になる。

 

「立華」

「うん?」

「レイナの得意魔法は確か気流操作だったな」

「うん。気体の密度を変えたりが得意だね」

「そうか」

 

 納得した顔になる。

 

「え!?達也君わかったの?教えて教えて!」

「立華。どうする?」

「ぶつかった時まで内緒で♪」

「そうか」

「えー!」

 

 不満そうなメンバーを無視してそのまま試合を観戦した。

 

 その後、レイナはそのままの戦法でストレート勝ちで決勝まで勝ち上がる。

 一方、一色もストレート勝ちで勝ち上がる。

 因みに里美は一色に敗れ、3位となった。

 

「レイナ勝てるかな?」

「勝って欲しいよね」

「勝つさ」

 

 雫とほのかに立華は告げる。

 

「だってオレの相棒だしな」

 

 そう言って笑う立華だった。

 

 そして、試合場では。

 レイナと一色が向かい合っていた。

 

「宜しくお願いしますね。鷹山さん」

 

 最初は無名なので侮っていた。

 だが、今は違う。

 自分と同じスタイルなうえに、ストレート勝ちでここまで来たのだ。

 侮る気はない。

 

「宜しく、エクレア」

「誰がエクレアですか!?」

 

 あんまりな呼び名にツッコミを入れる一色。

 

「エクレールです!稲妻です!」

「リオレイア?プラズマ?」

「遠ざかった!?」

 

 そんなやり取りをしていると審判に注意される。

 そして、両者離れ、ブザーが鳴った。

 

 1セット目。

 両者同じスタイル。

 ボールが乱舞する。

 それに歓声を上げる観客達。

 結果は接戦の末、一色が取った。

 

 少し悔しそうなレイナ。

 立華の方を見て来る。

 なので頷きを返す。

 するとニッコリ笑った。

 

 なので立華は近くにいるいつものメンバーに声を掛ける。

 

「どうやら使うようだぞ?楽しみにしておけ」

「え?本当!」

 

 2セット目。

 一色は先程と変わらぬスタイル。

 だがレイナは違っていた。

 自身もラケットで打ち返すが、更に魔法も使う。

 空気を凝縮させ、ボールを弾く。

 通常の選手が加速魔法のベクトル操作で跳ね返すのを、彼女は収束魔法でそれを行う。

 

「す、すごい……」

「しかも加速魔法と併用して使うなんて……」

 

 ほのかと雫が驚いている。

 他のメンバーも結構驚いている中。

 立華は達也に尋ねる。

 

「どう?当たってた?」

「ああ。だが両方こなすには驚いた。お前達の処理能力はどうなってるんだ?」

「慣れさ慣れ」

 

 フフフと笑う立華。

 

 試合はラケットと魔法の同時攻撃に流石の一色も押される。

 そしてレイナが勝利。

 

 そして、3セット目は……。

 お互い全てを絞りつくし……。

 接戦の末。

 

『WINNER 鷹山レイナ』

 

 1位鷹山レイナ 2位一色愛梨 3位里美スバル となった。




A.どちらも選ぶ。どちらも使う。


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第十二節 新人戦 中条あずさ、死す

「勝った、リッカ」

 

 「クラウド・ボール」が終わり、抱き着いて来たレイナを軽く受け止める立華。

 そのままクルクル回る2人。

 

「本当によくやってくれたわね!」

 

 七草も嬉しそうである。

 他のメンバーも嬉しそう。

 立華も喜んでいた。

 だが、回り終えると微妙な表情になる。

 

「レイナ」

「何?」

「今日は休め」

「え?でも、わたし、リッカ、試合、見てない」

「お前結構無茶しただろう?「ミラージ・バット」の”アレ”はもっと負担かかるだろう?」

「”リトル・ボンバー”、マシ」

「比べんな馬鹿」

 

 そんな言い合いを始める2人に達也が首を捻る。

 

(「一体何をする気だ?そして”リトル・ボンバー”?一体どういう魔法なんだ?」)

 

 名前からして爆発系だろうか?

 そう思っていると。

 

「いいじゃない立華君。試合位見ても」

「ええ。私もそう思います」

「そうですよ。ずっと楽しみにしてたんですから」

「そうそう。どうせ座っているだけだから負担はない」

 

 エリカと美月、ほのか、雫に言われ。

 

「私も別にいいと思うわよ」

「私も。お兄様も同意見だと思います」

「……まあそうだが」

 

 七草と深雪、達也が続け。

 

「俺もだな」

「僕も」

 

 レオと幹比古も続ける。

 味方がいない。

 なので。

 

「はあ」

 

 溜息を吐く立華だった。

 

 ◆◆◆

 

 そして「アイス・ピラーズ・ブレイク」が始まる。

 女子は深雪と雫、エイミィが出場し、本戦出場を決めた。

 

 深雪は〈氷炎地獄〉で相手陣地を熱波に晒して氷柱を砕き。

 雫は〈情報強化〉で自陣を守り、〈共振破壊〉で氷柱を砕き。

 エイミィは豪快に氷柱をぶつけて砕いた。

 

 そしてついに男子の番となる。

 

「一体立華君はどんな手段を取るのかしら」

 

 ワクワクしている七草。

 だが渡辺は微妙な顔をしていた。

 

「どうしたの?」

「アイツ奇妙な事言ってたんだよ。何でも中条が憤死するか、悶死するって」

「!?どういうことですか!?」

 

 中条が悲鳴を上げる。

 

「……そういえば他の人も知らないらしいのよね。リンちゃんは知ってる?」

「いえ。ただ一気に破壊するという事だけ聞いてます」

 

 不安になる幹部一同。

 

 一方いつものメンツも……。

 

「達也君サポートについているのよね」

「それ以外、無理。あーちゃん、憤死、悶死、ショック死」

「な、何をする気なの?」

 

 知っているレイナの言葉にこちらも不安そうだった。

 

 そして、選手が出てきた。

 男子は気合の入る服装を着る事が多いのだが。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 会場騒然。

 

 なぜなら立華は全身を鎧兜で覆っており、肌が見えない。

 かつて立華と何度も激突しているエネミー「粛正騎士」に似ている鎧に身を包んでいた。

 手には西洋剣状のCAD。

 

 騒めきの中、それを無視して試合が始まる。

 

 フィールドに立つ下から赤、黄、青のランプ。

 下から順に光る、これの青が光った瞬間が試合開始。

 赤……そして黄が光り……。

 青が音と共に光り、試合が開始された。

 

 相手が魔法を放とうとした瞬間。

 

 剣が熱で揺らめく。

 そして、熱線が放たれる。

 真横に放たれる灼熱の炎。

 それが一気に氷柱を砕いた。

 ……自陣の含め。

 そのせいで3本位しか残っていない。

 半ば自爆したが、立華の勝利。

 

「やっぱり……」

 

 鎧越しにくぐもった声を出す立華。

 なぜならCADが煙を上げていた。

 それだけでなく、あちこち部品が焦げていた。

 誰がどう見ても壊れていた。

 

「次はどれにするか」

 

 ◆◆◆

 

 一校幹部のいる所では。

 

「アレ……何?」

 

 七草が呆然とする。

 

 唖然とする幹部一同。

 するとあんまり表情を変えなかった市原が懐から封筒を出した。

 

「何それ?」

「第一試合終わったら、開けてくれと言われていましてね。恐らく回答が載っているはずです」

 

 その紙を一同覗き込むとそこには……。

 

 一方観客席の彼らはレイナに説明を受けていた。

 

「アレ、獅子、紳士、お手製CAD。NPシリーズ。通称……使い捨てCAD」

 

 その言葉に全員固まった。

 ややあって。

 

「「「「「「つ、つ、つ、使い捨て!!!!!!??????」」」」」」

 

 全員が絶叫した。

 周りの観客もビビる程の声だった。

 

「な、何それ?」

「そのまま。大火力、再現した。でも強度、脆い」

「そうか!一回の使用しか保たないわけか!」

「うん」

 

 一番初めに正気に戻った幹比古の疑問に頷くレイナ。

 

「それで?NPというのは?」

「ノウブル・ファンタズムの略。貴い幻想」

「なるほど」

 

 2人の会話にエリカが口を挟む。

 

「ま、待って!そんな物どうやって作ったの?」

「こんな感じ」

 

 ほわんほわんれいれい~

 

『ここはこうした方がいいな』

『いや、こうに決まっているだろうが!』

『なんだと!このすっとんきょう!』

『黙れ凡骨』

『あん?』

『……何だ。貴様。やるのか』

『やる訳なかろう。凡骨如きの戯言に、私が耳を貸すはず』

『おっと、手が滑った』(バシッ

『おっと、電気が滑った』(ビリビリビリ

『『………………』』

 

 ∧_∧         ∧_∧

( ・ω・)=つ≡つ ⊂≡⊂=(・ω・ )

(っ ≡つ=つ     ⊂=⊂≡ ⊂)

./   )ババババババババ(   \

( / ̄∪           ∪ ̄\)

 

 ほわんほわん

 

「こんな感じで作られた」

「ごめん。作った2人の仲が悪いことしかわからない」

 

 エリカの言葉に頷く一同。

 

 一方幹部達も同じ内容を見て。

 

「……CADって安くないわよね」

「ああ、特殊な物だと6、7桁行くぞ」

「確かにそうですね」

 

 そんな感じで話していると。

 ふと気づく彼ら。

 中条がさっきから喋ってない。

 恐々伺うと。

 

 しろめをむいて、血涙を流し、立ったまま気絶していた。

 

「あーちゃんが死んだ!?」

「この人でなし!?」

「市原どうした!?」

「……言わなければならない気がしまして」




リトル・ボンバー

鷹山レイナの奥の手とも言える魔法。
得意の大気操作の極致とも言える。
達也の「マテバ」、リーナの「ヘビメタバ」にあたる魔法。
負担があるため、滅多に使わない。
由来はとある2つの兵器の名前を合わせた物。


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第十三節:新人戦 ピラーズ・アンド・メンタル・ブレイク

「すごいですねえ」

「ああ、そうだな」

 

 貴賓室。

 そこには九島烈、光宣、響子の面々がいた。

 感心している2人を後目に響子はため息をつく。

 

(「まだアレなら誤魔化しは効くけど」)

 

 そう思っていた。

 

 彼女は立華の手札をあの2人程は知らない。

 ただ、今使ったのがCADで宝具を再現した物というのは知っていた。

 

「この調子なら1位にもになれそうね」

 

 そんな呟きに列が意味深な笑みを浮かべる。

 

「いやいや、そう簡単には行かないだろう」

「……一条家の長男ですね」

 

 列の言葉に光宣が告げる。

 

「ああ。彼には秘術〈爆裂〉がある。”アイス・ピラーズ・ブレイク”でアレは使えるからな」

「レギュレーションがこの競技にはないですからね」

 

 魔法競技は殺傷ランクの高い物は使用禁止なのが当たり前。

 競技で人死にはシャレにならない。

 

 だが、その枷が外れるのが「アイス・ピラーズ・ブレイク」である。

 殺傷ランクAでも使ってよし。

 だからこそ、対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法〈爆烈〉が使える。

 かつて佐渡侵攻事件において数多の敵兵を屠った魔法。

 血液の液体成分である血漿は気化し、その圧力で筋肉と皮膚が弾け飛ぶ。

 そして血液の固形成分である赤血球をまき散らして殺した。

 

 一条将輝はこの魔法が有効過ぎるおかげで、今までの試合は数秒で相手陣地全ての氷柱を破壊していた。

 

「流石の彼もあの速さには手札を切らないとなるまいよ」

「ですけど立華さんの宝具は……」

「ああ。派手なのが多い。それに破壊力もすさまじい」

 

 この3人は知っていた。

 立華の手札は戦略級だけでなく、比喩抜きに世界が壊れる物もあると。

 

「だからこそ下手をすると……」

 

 言葉を切る烈。

 

「……下手をすると?」

「会場が消し飛ぶ」

「会場だけならまだマシでしょう」

 

 光宣が笑いながら言う。

 

「それもそうだな」

「でも、そうなったら今年の九校戦は無くなってしまいますね」

「来年も下手をすると出来ないな」

「「アッハッハッハ」」

 

 笑い合う2人に響子はため息を吐く。

 

「笑いごとではありませんよ……」

 

 そう言う。

 

「第一そうなったら2人共死ぬのですよ?」

「私は十分生きたからな。後悔はない」

「僕は生き延びれる気がするので」

 

 その言葉を聞いて溜息を吐く響子。

 元気になってから光宣は若干可笑しくなった気がする。

 

(「それとも、元から根はこうだったのかしら?」)

 

 そんな事を思う響子だった。

 

 ◆◆◆

 

 新人戦6日目。遂に折り返しに突入。

 今日行われるのは「バトルボード」と「アイス・ピラーズ・ブレイク」。

 どちらも共に優勝者が決まる。

 

 「バトル・ボード」はほのかが頑張った。

 強敵である三校の「四十九院沓子」を破って勝利。

 本当に嬉しそうで、達也に抱き着いていた。

 ……そのせいで一部ブリザードが吹き荒れた。

 

 一方「アイス・ピラーズ・ブレイク」。

 女子は3人共決勝入りした。

 

 一方男子……立華は使い捨てCADの大盤振る舞いをした。

 

 昨日の西洋鎧を着て、熱線を放つ剣に始まり。

 なぜか女番長の恰好をして独鈷杵をぶん投げ雷を放出。

 鎧武者の恰好をして弓から凄まじい威力の矢を放ち、氷柱を砕く。

 

 相手の氷柱を自身の氷柱ごと砕き、CADを使い捨てると言う斬新過ぎる戦法により、決勝まで残った。

 観客の印象にも残った。

 

 だが。

 

『ねえ立華くん』

『何でしょう。会長』

『その戦法しなきゃ駄目?』

『と言いますと?』

『もうあーちゃんのライフは0よ……。できれば他の戦法で行って欲しいのだけど』

 

 何でも吐血までしたらしい。

 目と口から血を流し、やめてくれと叫んだらしい。

 CAD大好きな彼女には堪える光景だったようだ。

 

『はあ。わかりました。違う戦法で行きます』

 

 そういう訳で決勝リーグ。

 これに勝てば1位か2位に決定。

 それに出てきた立華は制服姿。

 

『マイク?』

 

 マイク型のCADを持っていた。

 音で壊すつもりなのだろうか。

 観客には疑問符と期待が浮かんでいた。

 

 だが、この光景を見た3人の顔は青ざめた。

 

 レイナと烈と光宣だった。

 この3人は知っていた。

 あの「悪夢のリサイタル」を。

 ……因みに響子はまだ知らない。

 

 あの「自称アイドル」と「ワガママ皇帝」のジャイアンリサイタルを。

 「黄金劇場」と「鮮血魔嬢」のコラボを。

 あの3人は知っていた。

 響子は近い内体験する事になる(笑)。

 

 烈と光宣は試合開始の合図直前に耳を塞ぎ、地面に伏せた。

 レイナは。

 

『皆!耳塞いで!!』

 

 呼びかけてから伏せて、耳を塞いだ。

 

 まるで災害か何かに備えるように。

 それに疑問に思う周りだった。

 反応できなかったのだ。

 

 そしてブザーが鳴る。

 

『ボエエエエエエ~』

 

 意味がよくわかった。

 阿鼻叫喚となった。

 相手の氷柱は砕けた。……自陣の氷柱も幾つか砕けたが。

 だが、あまりの歌声に失神者が多数出たらしい。

 貴賓室の窓ガラス(強化ガラス)にも罅がいったそうだ。

 そのため失格にしろと言う意見も出たそうだが。

 

『疲れた……。何とか決勝進出よ』

『苦労しますね』

『誰のせい!?』

 

 だが、歌声による破壊は禁止になってしまった。




NPシリーズ

ある程度の再現は可能になったが、致命的な欠陥がある。
それが1回使うと壊れてしまう点である。
コレを使うという事は札束をばらまいているような物である。
そのため、倉庫で眠っていた。


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第十四節:新人戦 早撃ち勝負

 ◆◆◆

 

 午後の競技が始まって幾らか経った。

 

 新人戦・女子『アイス・ピラーズ・ブレイク』の、深雪と雫、エイミィによる決勝リーグは深雪が1位、雫が2位、エイミィが3位となった。

 

 エイミィは三校の強敵、「十七夜栞」との戦いでかなり消耗していたため、深雪と雫には勝てなかった。

 雫は深雪に勝つために〈情報強化〉と〈共振破壊〉だけでなく、CAD二刀流や〈フォノン・メーザー〉を駆使し、深雪の氷柱数本を砕くも、〈ニブルヘイム〉と〈氷炎地獄〉で敗北。

 

 そういう訳で女子の方は終わったので、深雪達の応援に会場に来ていた第一高校の生徒達のほとんどはそのまま男子「アイス・ピラーズ・ブレイク」の会場へと移動した。

 

「それにしても観客多いわね」

「それはそうですよ。エリカちゃん。皆立華さんが何やってくるか楽しみにしているんだもの」

 

 エリカの感想に美月がコメントする。

 それに全員が頷く。

 

 無名な選手である藤丸立華だったが。

 一回戦では西洋甲冑を纏い、剣から熱線。

 二回戦では女番長の恰好して、独鈷杵から雷。

 三回戦では鎧武者となり、弓から矢を早撃ち。

 そして、決勝リーグでは歌声で氷柱を破壊した。

 

 

「でも……全部禁止されたんだろ?」

 

 レオの言葉に全員の顔が曇る。

 CAD使い捨て戦法は中条が死にそうなので、禁止になり。

 歌声は観客の迷惑という事で、禁止。

 

「やっぱりあーちゃんには二階級特進してもらう方が良かったかしら?」

「会長!?」

「言いすぎだぞ真由美……」

「冗談よ摩利」

 

 そんな感じで幹部も会話している。

 

「ですが、あの使い捨て戦法では一条選手に勝てるか疑問かと」

「……確かにねえ」

 

 市原の言葉に七草は頷く。

 一条の〈爆裂〉はそれほど脅威の速さだった。

 使い捨て戦法も結構早いが少し時間がかかる。

 

「一体どうするのかしら?誰か知ってる?」

 

 七草の問いかけに答えたのは。

 

「切り札を切るって言ってました」

 

 森崎だった。

 さっきまでは居なかったのだが、いつの間にか一校メンバーと合流していた。

 

 因みに。

 

『今までの事を謝る。すまない』

 

 愉快な仲間達に今までの事を謝って来た。

 ……本当に性格が変わった物である。

 

「モリ。どこ、行ってた?」

「……その呼び名は……まあいい。アイツに発破かけに行ってたんだ」

「それで?」

「その時に言っていたんだ……。まず鷹山」

「うん?」

「切り札を切るとさ」

「……そう」

「それと……柴田美月……さん?」

「わ、私ですか?」

「ああ。あいつが眼鏡を絶対に外すなだと。外した結果何が見えるかわからないからとかなんとか……」

「「「「「「?」」」」」」

 

 全員の頭上に疑問符が浮かぶ。

 

「あいつは何をする気だ?」

「知るか!」

 

 達也の言葉に強め語気で答える森崎。

 

「だが、こう言っていた。爆裂に対抗するには”これ”しかないって」

 

 そう言って目を指差す。

 その動作に疑問符が増える一同。

 だったが。

 

「……どっち、だろう?」

 

 レイナだけは疑問符の種類が違った。

 どうやら心当たりがあるようだ。

 

 そんな中遂に試合が始まる。

 両者がせりあがる床に乗ってそれぞれ自陣に現れる。

 

 一条は赤い軍服。

 刺繍が派手であった。

 結構似合っている。

 

 そして、立華はと言えば……。

 

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 一同絶句した。

 会場が静まり返る。

 

 立華は艶やかな着物を着ていた。

 それだけならまだいいのだが、着物は女性物だった。

 更に長髪の鬘を被り、肌を白く塗り、一見すると別人にしか見えない。

 日本人形のような、儚げな美人である。

 

 恰好に絶句し、その美しさに絶句。

 その中で一番初め(レイナ除く)に起動したのは雫とほのか。

 

「本当に似合うんだね」

「うん」

 

 その言葉に一校の面々は何とか再起動し始める。

 

「え!?アレ立華くんなの?」

「言われなきゃ別人にしか見えないぞ!?」

 

 七草と渡辺がコメントし。

 

「深雪ばりの美人ねえ」

「エリカちゃん……。でも確かに」

 

 エリカと美月もコメント。

 

「ほのかと雫は知っていたの?」

「うん」

「前に言ってました」

 

 深雪の疑問に答える2人。

 

 ほとんど皆立華の女装に関する話題な中、達也がある呟きを漏らす。

 

「一体どういう手段で行くんだ?」

「弓」

「?」

 

 達也の呟きに答えたのはレイナ。

 

「どういう意味なの?」

「弓兵、わかる?アレ、こと」

「「……。ああ」」

 

 レイナの言葉に頷く司波兄妹。

 彼女が言っているのはサーヴァントの事である。

 ……今は女装の話題で誰も聞いていないので安心である。

 

「弓使う、少ない。杖殴る、財宝投擲、剣斬り込む、俵投げる、人投げる」

「アーチャーなのにか?」

「うん」

「……」

「その中、異質、視線」

「「?」」

「見ればわかる」

 

 それだけレイナは言うと視線を戻した。

 

 ランプがともっていく。

 赤。

 黄。

 青。

 試合開始。

 

 一条は赤い銃型CADを氷柱に向ける。

 

 立華は腕輪型CADがはまった右腕を向け呟いた。

 

(まが)れ」

 

 同時のタイミングで氷柱が破壊された。

 

 立華側は木っ端微塵、一条側はねじ曲がっていた。

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 その光景に一同絶句。

 

「な、今の何?」

「一条は爆裂を使ったんだろう」

「そ、それは見ればわかるわ!私が言っているのは立華くんのことよ!彼は一体何をしたの?」

 

 そう言うと視線をレイナに向けた。

 他の面々にも向けたが。

 

「内緒」

 

 レイナはそれだけ言った。

 

 因みに試合は協議の結果、両者引き分けという事で落ち着いた。




試合後のある会話。

(「ありがとう。助かった」)
(「いえ。構いません。それに」)
(「?」)
(「私の通っていた学校ではこういう競技はありませんでした。なので新鮮で良かったです」)
(「そっか」)
(「はい」)


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第十五節:新人戦 戦うだけではない

 立華の使った「アレ」が何なのか議論になっている一校。

 それに対して一条の三校はと言えば……。

 

「何なんだよアレは!?」

「知らないわよ!」

「誰だよ!アイツは一条には勝てないって言ってた奴!?」

 

 喧々諤々だった。

 

 それはそうだろう。

 ふざけてるようにしか見えない戦い方をして、勝ち残って来た一校の選手。

 半ば自爆して、自陣の氷柱まで砕いていた。

 一条なら勝てると思ったのだが、結果は引き分け。

 映像解析してそうなったのだ。

 

 そんな中、吉祥寺が一条に謝った。

 

「ごめん将輝」

「……ジョージ?」

「勝てると踏んだのは僕だ。まさかあんな手札隠してたなんて……」

「いや、俺も悪い。全力でいったんだが……」

 

 そんな雰囲気に争いは収まる。

 

「でもどうするんだ?このままだと新人戦は一校に取られるぞ?」

「まだミラージやモノリスがあるだろう?」

「でも……」

 

 それでも雰囲気は暗かった。

 が。

 

「結果は最後まで何が起こるかわからない。だから皆頑張ろう」

 

 ブレーンの吉祥寺が告げてその場は収まった。

 

 ◆◆◆

 

「負けませんでしたよ皆さん」

「「「「「「……誰!?」」」」」」

「随分な言い方ですね。私ですよ。藤丸立華です」

 

 そう言って一校メンバーの前で微笑む和服美人。

 クルリと回る。

 そのままの恰好で戻って来たのだ。

 

「……藤丸か?本当に?」

「疑いますね。渡辺先輩。この状態では口調も変えるのです」

 

 そう言って七草を見て続ける。

 

「ほら、其方の方だって人によって態度を変えるでしょう?それと一緒です」

「「「なるほど」」」

「摩利!?リンちゃん!?あーちゃん!?」

 

 子悪魔会長が叫ぶ。 

 そんな中、エイミィが尋ねる。

 

「ねえ立華君。女の子だったりしないよね?」

「立華、男。ちゃんと、ついてる」

「「「「「「ブッ!?」」」」」」

 

 その疑問に答えるレイナ。

 その発言に全員噴き出す。

 そのままむせる者も出る中。

 勇気を持ってエイミィが尋ねた。

 

「……ねえねえ。2人はどこまで行ったの?」

 

 その言葉にその場のほとんどが戦慄する。

 

(「聞いちゃったよ!?この子!?」)

 

 それに対してレイナはにっこり笑い。

 

「エイィ」

「ミが抜けてる!?」

「耳、貸して」

 

 レイナがエイミィに何かを耳打ちする。

 すると。

 顔がリンゴのように赤くなり。

 

「きゅう……」

 

 倒れた。

 

「「「エイミィ!?」」」

「エイミィが死んだ!」

「この人でなし」

 

 ほのかと里美、深雪が叫び。

 雫の発言に、市原がコメント。

 

「リンちゃん!?」

「これ癖になります」

「わかる」

「わかるの!?」

 

 そんな市原に同意するレイナと、ツッコミを入れる七草だった。

 

 しばらくして。

 

「ねえ、リッカ」

「うん?」

 

 自室に着替えに2人で戻る途中、レイナが立華に尋ねる。

 

「アレにした理由は?」

「これならまだ誤魔化しが効くし、早いし」

「……なるほど」

 

 納得するレイナ。

 そうして歩いて居ると。

 

「あ」

「うん?」

「あら」

「!」

「む?」

 

 とある三校の女子達に遭遇。

 立華には見覚えがあった。

 

 1人目は一色愛梨。「エクレール・アイリ」とも呼ばれ、「クラウド・ボール」で里美スバルや春日菜々美を破り、レイナに接戦の末敗れた強敵。

 2人目は十七夜栞。持ち前の空間把握能力、演算能力で「スピード・シューティング」で雫を、「アイス・ピラーズ・ブレイク」でエイミィを苦しめた選手。

 3人目は四十九院沓子。水に関する魔法を得意としており、「バトル・ボード」でほのかとも渡り合った選手。

 

「あら鷹山レイナさん」

「エクレア!」

「誰がエクレアですか!?」

 

 レイナの呼び名に咆える愛梨。

 それに噴き出す3人。

 

「じゃあリオレイア」

「いつ私がモンスターになったのですか!?火を噴いた事はありません!?」

「プラズマ、撃つでしょ?」

「撃ちません!?」

 

 言い合いを始める2人を放って置き、2人に自己紹介する。

 

「初めまして。藤丸立華と申します」

 

 今は女性なので言葉使いはこれで行く。

 すると2人も自己紹介をしてきた。

 

「ご、ご丁寧にどうも。私は十七夜 栞です」

「わしは四十九院沓子じゃ。先程の試合、凄かったのう」

「それはどうもありがとうございます」

 

 にっこり微笑むと2人の顔が少しだけ赤くなる。

 

「……それにしてもよく似合っておるのう」

「昔から変装は得意なので」

 

 

 フフフと笑う立華。

 そんな感じで会話をしていると。

 

「ハアハア……。貴方が藤丸立華さんですね……」

「ええ。そちらは一色愛梨さんですね?クラウド・ボールとてもすごかったですよ。稲妻……でしたか?」

「そちらもアイス・ピラーズ・ブレイク凄かったです。しかし……アレは一体?」

「強いて言うなら……”歪曲”です」

「歪曲……」

 

 そうして世間話をしていると。

 

「ふと思ったんじゃが、おぬしはいつもこのように話すのか?」

 

 四十九院が立華に聞いてくる。

 なので立華は答える。

 

「いいえ。今はこの格好なのでこの喋りをしているだけです」

「成り切るのですか?」

「ええ」

 

 そう言うと立華は。

 

「ちょっと待っててくださいますか?」

「「「「?」」」」

 

 立華がその場から消えた。

 そして数分後。

 いつもの恰好になって戻って来た。

 肌と髪は元通りになり、服装は制服になっていた。

 

「いつもはこういう風だ。あの格好の時だけ」

「ガラッと雰囲気も変わったのう……」

 

 四十九院が呟き、それに頷く一色と十七夜。

 

 その後。

 

「じゃあ。エクレア、カノ、ツクシ」

「「「何その呼び名!?」」」

「……気にしない方がいいよ。ハラキリって呼ばれている人もいるから」

 

 それに微妙な顔をする三校の3人だった。



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第十六節:新人戦 レイナの奥の手、立華の言葉

 新人戦7日目。もう新人戦は残り僅か。

 今日行われるのは「ミラージ・バット」と「モノリス・コード」。

 前者が本戦、後者が予選。

 そしてレイナと、ほのか、里美、森崎も出場する。

 ……一応言っておくと、森崎はモノリス・コードである。

 

「誰も男があんなフリフリ着て踊るの見たくないよな」

「「「「「「ぶ!?」」」」」」

 

 立華の呟きにいつもの面々が噴き出した。

 ただし、選手とエンジニアはいない。

 

「確かにそうだよね。ところで立華さん」

 

 雫が立華に尋ねる。

 

「レイナさんはどういう風に行くの?」

「え、普通に跳躍じゃないの?」

 

 エリカの疑問に立華は笑う。

 

「見てのお楽しみ。アイツしか出来ない戦法で行く」

「「「「「「?」」」」」」

「まあ予選で使うかわからんけど」

 

 皆の頭上に疑問符が浮かぶ中。

 

「深雪さん」

「はい?」

「あいつの戦法、真似はしないでね。貴方には奥の手があるのだから」

「???」

 

 奇妙な事を言う立華に、深雪の頭上の疑問符が増えた。

 

 暫くして「ミラージ・バット」の試合が始まる。

 里美、ほのか、レイナは余裕で予選通過。

 跳躍を駆使して勝利した。

 達也が調整しているCADを使っている上、選手としての技量も一流。

 負けるわけがない。

 

 ただ立華は。

 

「使わなかったか……。温存したか……」

 

 そんな事を言っていた。

 レイナは他の選手と同じような戦法を取っていた。

 

 そして「モノリス・コード」の時間になる。

 立華は雫と深雪と共に一校のテントで観戦しようとやってきた。

 今から始まるのは第二戦目。

 そこまで強くないので、楽勝だろうという空気間だった。

 

「森崎君は大丈夫でしょうか?」

「油断しなきゃ大丈夫さ」

「あれだけボコボコにしてたしね」

 

 雫の言葉に苦笑いする深雪。

 

(「アレは見てて悲しくなりましたね」)

 

 自身の兄を不当に見下しているため、そこまで好いている訳ではないが、アレは酷かった。

 

「それに色々言葉を送ったからな。大丈夫」

 

 そう言った立華だったが、どうも嫌な予感がしてならなかった。

 

(「嫌な感じ……」)

 

 一方試合場ではビル内で森崎たちが試合開始の合図を待っていた。

 森崎は油断なく構えていた。

 

(「アイツ……言ってたな……。始まる直前と終わる直前は絶対に油断するなって」)

 

 彼が思い出したのは彼に性格矯正の名の元にボコボコにされた日々。

 

 その時彼から薫陶を貰っていた。

 

『いいか。森崎』

 

 倒れ伏した森崎を見下ろしながら言う。

 

『ルールが決まっていても、相手がそのルールを守るとは思うな』

『な、守らなかったら、反則になるんだぞ!?』

『例えば、相手選手が審判を買収していたら?観客全てさくらにしていたら?そうした場合此方の反論は潰されるだろう?そして、こちらが失格だ』

『そ、そんな事……』

『あるさ。あり得ない事なんてあり得ない。考えられる可能性は全て考慮しろ』

 

 そう言ってしゃがみ込んで笑う。

 

『それに……そういう不利な状況でひっくり返すのは最高に気持ちいいぞ?俺も”凍結野郎Aチーム”の全員を叩きのめした時はスカってした』

『凍結野郎?』

『あ……。今のは聞かなかった事にしてくれ。頼む』

 

 そんな事を言っていた。

 

(「アイツも色々あったのかもな」)

 

 そして、競技開始が迫る中。

 森崎の耳は嫌な音を捉えた。

 まるで何かが崩れる音。

 

「チイ!」

 

 すぐさま森崎はCADの引き金を引いた。

 

 ◆◆◆

 

 楽勝であるはずの試合は予想外の結末を迎えた。

 相手チームがフライングで屋内では人がいる場合使ってはならない加重魔法〈破城槌〉を使用し、ビルが倒壊。

 一校選手は重軽傷を負った。

 3人中2人はそこまで大怪我ではなかったが……。

 

「……森崎君は重傷よ。しばらくは絶対安静。今も治癒魔法がかけられているわ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 七草の言葉に一同黙り込んでしまった。

 

 立華の言葉のおかげで相手が反則してくる可能性も考慮していた森崎。

 味方二人の瓦礫を吹き飛ばして、軽傷にしたのは良かったが、自分は重傷となってしまった。

 だが、助けられた2人によると……。

 

『アイツ溶鉱炉に沈んでいくT○800みたいでした』

『『『『『『タ○ミネーター!?』』』』』』

 

 何でも瓦礫に埋もれる寸前親指を立ててたらしい。

 しかもニヤリと笑っていたそうだ。

 

『俺の教えが効いたな』

『『『『『『お前が教えたんかい!?』』』』』』

 

 立華の言葉に全員咆えた。

 

 因みに「モノリス・コード」は十文字が代役を認めてくれるように説得しに行ったらしい。

 

「説得物理にならなきゃいいな。ファランクスで押しつぶす説得とか嫌だな」

「「「「「「誰だって嫌だわ!そんなもん!?」」」」」」

 

 そして、彼らが見に来たのは「ミラージ・バット」決勝。

 選手は緊張していたが(レイナ除く)、いつもと変わらぬ達也のおかげで平常心を取り戻した。

 

 そして、試合開始。

 里美とほのかは跳躍を使った戦法。

 それに対し、レイナはついに剣を抜いた。

 

 レイナは跳ぶ。更に空中を蹴って跳ぶ。

 それを繰り返す。

 地面に落ちなかった。

 それに騒然となる会場。

 

「ひ、飛行魔法!?」

「アレはまだ発表されたばかりだろう!?」

「いや、あれは違う!?空気を蹴って跳んでいるんだ」

 

 一方、一校面々も絶句していた。

 

「……リンちゃんは知っていたの?」

「直前に聞かされまして」

 

 市原と達也、立華だけは知っていた。

 

「気流操作の一環で、空気を凝縮させて、それを蹴って移動しているんです。収束魔法での密度操作の1つでもあります。クラウド・ボールでも同じような戦法取っていたでしょう?」

 

 あの時は空気を壁にしていたが、今回は足場にしたのだ。

 

「でも、でも、待って!?バランス崩れたら真っ逆さまよ!?」

「だから彼女しか取れない手段と藤丸君は言ってました」

 

『アイツの切り札の1つ、”天国への階段(ステイウェイ・トゥ・ヘブン)”です』

 

 立華はそう言って笑っていた。

 

 「ミラージ・バット」は1位レイナ、2位ほのか、3位里美となった。

 




天国への階段(ステイウェイ・トゥ・ヘブン)

鷹山レイナの魔法。
空気を凝集させて足場を作り、それを蹴って移動する疑似空中飛行。
勿論ある程度の人ならできるが、少しでもミスすると地面に真っ逆さまなため、実質彼女の固有魔法。
レイナは凄まじいバランス感覚と気流密度操作で使用する。

名前の元ネタはある人物のスタンド名。


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第十七節:新人戦 代理出場

 「ミラージ・バット」の試合の後、ミーティングルームに呼び出された立華。

 そこには一校幹部が勢ぞろいしていた。

 

「来たか」

「はい。呼ばれたので」

 

 十文字の言葉にそう答える立華。

 

「それで?一体何用なのでしょう?」

「……”モノリス・コード”についてよ」

「……棄権はしないのですか?」

 

 七草の答えに立華が尋ねると渡辺が答える。

 

「確かに棄権しても総合優勝はできるだろう。それに新人戦でも上位は狙えるが、やっぱり新人戦優勝も目指したいじゃないか」

「まあ、それはわかりますけど、代y」

 

 聞こうとしてこの状況に思い至る立華。

 とある可能性に思い至る。

 

「まさかここに呼んだ理由って……」

「察しの付いたようね。そうよ。貴方には”モノリス・コード”に出て欲しいの」

「……」

 

 七草の言葉に無言になる立華。

 ふと疑問が沸き出たので尋ねる。

 

「……なぜオレなんですか?」

「貴方が向いているって思ったからよ」

「あれだけの戦闘を見せるんだから当然だろう」

「それに貴方まだ1つしか出てないじゃない」

「成績だっていいしな」

 

 七草と渡辺が続けざまに誉める。

 

「……ですが」

「そこをなんとか……お願い!」

 

 七草が手を合わせてお願いしてくる。

 

(「受けるしかないけど、手札がなあ」)

 

 立華は確かに魔法実技の成績はいい。

 だが、それはあるインチキを使っている。

 それは【右腕・悪逆捕食(ライトハンド・イヴィルイーター)、左腕・天恵基盤(レフトハンド・キサナドゥマトリクス)】。

 彼が契約していたサーヴァントである「天草四郎」の宝具を借りているのである。

 

 常時解放型のこれには、古今東西のあらゆる魔術基盤に接続することで、如何なる魔術をも操作可能にする万能鍵(スケルトンキー)のような効果がある。

 それを使う事で「この世界の魔法」を使えるようにしているのだ。

 だからこそ成績はいい。

 

 攻撃用の魔法もそこそこは使える。

 だが、どれも特化している人や得意な人には及ばない。

 得意分野では雫や深雪、ほのか、レオ、十文字、服部、桐原などには劣る。

 だからこそ専ら接近戦主体なのだが、「モノリス・コード」にはそれが使えない。

 

「ですが手札が……」

「……本当にないのか?」

「……あるっちゃありますけど、状況や場所に関わりますし」

 

 十文字の問いに答える立華。

 ステージによってそれは変わる。

 安定して使えるのは……。

 

(「アレ位か……」)

 

 アレならギリギリ誤魔化しは効くだろう。

 仕方ない……。

 

「わかりました。引き受けます」

「本当!嬉しいわ!ありがとう!」

 

 七草が立華に駆け寄って、手を握ってブンブン振るう。

 

「でも……」

「「「「「「でも?」」」」」」

「……どうなっても知らないよ?」

「「「「「「何をする気!?」」」」」」

 

 凄みを出す立華にツッコミを入れる一同。

 

 閑話休題。

 

「それで他の選手はどうするんですか?」

「……1人は候補がいる。だが引き受けるかどうかわからん」

 

 立華の疑問に答える十文字。

 その言葉に立華の脳裏にある男子生徒が思い浮かぶ。

 

「それってまさか……」

「……恐らくお前の予想通りだ。呼んだからそろそろ来るh」

「失礼します」

 

 そこへやって来たのは。

 読者もご存じの司波達也だった。

 

 その後、沈黙が続く。

 誰も何も喋れない中。

 始めに口を開いたのは七草だった。

 

「達也くん、今日はお疲れさまでした」

「はい」

「選手達が存分に実力を発揮できたのは、達也くんのサポートがあってこそです」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げる達也。

 それに中々本題を投げかけられない七草。

 そこへ十文字が助け舟を出す。

 

「疲れている時に悪いが、お前に頼みがある」

「……何でしょうか?」

 

 達也は鈍くない。

 この時点で感づいているだろう。 

 

「司波、お前には森崎達の代わりに新人戦に出てもらいたい」

「……選手が負傷しても交代は禁止されているはずですが?」

「大会委員会との協議の結果、特例として認められた」

 

(「説得(ファランクス)したのかな?」)

 

 そんな事を思う立華。

 だが、空気が先程よりも重くなったように感じる。

 十文字も達也も顔色を変えず。ただ無機質に言葉を交わす。

 

「何故、自分が抜擢されたのでしょうか? この場にいる藤丸を考慮しなくとも、一年には未だ選手がいるはずですが」

「試合に勝てる人選をしただけだ。他の選手は疲労が溜まっていて試合に出れる状況ではない。……不満か?」

 

 達也の刺々しい言葉に五十里や中条、服部の顔が固まった。

 七草もこうなる事を予期していたようで、十文字に視線をぶつける。

 

「不満も何も自分は選手ではなくエンジニアです。他に選手がいるのに二科生の自分が選ばれるのは、一科生にとって不愉快な話だと思いますが」

 

 達也の言う通り、彼が試合に出れば一科生から反発が起きる事は確実だ。

 それは七草も言われたくなかった事。

 しかしこのままでは一科生よりも先に、達也と十文字の間に確執が生まれそうだ。

 

 そんな雰囲気の中。

 

「なあ達也」

 

 立華が彼に声を掛けた。

 

「お前はエンジニアだけど、一校の生徒だろ?」

「……ああ」

「ならば、勝つために力を尽くすべきだろう?それで勝てる人選で俺や達也が選ばれたわけだ」

「……」

「だから、俺達は力を尽くすべきだ。違うか?」

 

 そして立華は笑みを浮かべ、ある事を話し始める。

 

「オレはさ、色々好きな物があるんだが……」

「「「「「「?」」」」」」

「その中で上位に入るのが」

 

 凄みのある笑みを浮かべ続けた。

 

「オレはな達也。勝利を確信した奴らを叩き潰すのが……大っっっ好きだああああああ!」

 

 咆える。

 その声に数人耳を塞いだ。

 

「だからこそやろうぜ?ぶっ殺sじゃなかった、ぶっ壊sじゃなかった、ぶっ潰そう」

「「「「「「酷くなってる!?対して変わってない!?」」」」」」

 

 全員ツッコミを入れた。

 因みに達也は引き受け、3人目の選手には達也の意見で幹比古が選ばれた。



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第十八節:新人戦 モノリス・コード 前編

 ◆◆◆

 

 夜。

 ホテルの自室に戻った響子。

 すると。

 

「……誰?」

 

 人の気配を感じる。

 

「もしかして立華君?」

 

 その呼びかけに立華が出現する。

 それに少し驚く響子。

 

 その後、立華がお茶(夜なのでノンカフェイン)を入れ、それを飲みながら会話する2人。

 

「……驚かせないで。でも一体どうしたの?」

「ちょっと聞きたい事がありまして。通信だと傍受される可能性あるので」

「……あの後輩さんがさせるとは思わないし、思えないのだけど」

「……まあそうなんですけどね」

 

 2人が思い浮かべたのは彼の契約サーヴァントの1人である「後輩」の事。

 彼女はハッキングスキルは凄まじい。

 なにせとある通信傍受システムの追加拡張システムを立華に使用可能にしたうえ、管理者から完全に乗っ取り、サーバー自体を立華の家にしてしまった。

 ……因みに元の7人の管理者には使えるままにしてある。

 だが、立華の検索履歴を見れない。

 逆に立華はその7人の検索履歴を見れて、管理者のアカウント削除もできる。

 

「まあそれはともかく聞きたい事がありまして」

「何?」

「無頭龍についてです」

「!」

「どうやらちょっかい掛けてきているようなので、敵について知ろうかなと思いまして聞きに来たんです」

「……私一応軍人で守秘義務があるのだけれど」

「知ってます」

 

 その言葉に響子はため息をつく。

 そして。

 

「わかったわ」

 

 響子が説明を始める。

 その説明を聞いて立華の口元が三日月になっていく。

 それは「ジェネレーター」……魔法師を材料に作った生体兵器の説明のところでだった。

 

「立華君?」

「ミツケタ」

 

 妙な事を言い出した立華の様子に疑問に思う響子。

 

「それで?無頭龍は捕まえるなり、排除するなりした後、そのジェネレーターはどうするんです?」

「元に戻すのは不可能だから……」

「それ俺が貰います」

「!?」

「正確には俺のサーヴァントがですけど。何体か回収させて貰います。いいでしょ?どうせ処分するのでしょうし」

 

 その言葉に響子は尋ねる。

 

「……一体何をする気なの?」

「大丈夫です。響子さんの邪魔にはなりませんし、迷惑にもなりません」

「……言っても無駄でしょうね。わかったわ。でも」

「バレないようにしますので」

 

 そう言って笑う立華にため息を吐く響子だった。

 

 ◆◆◆

 

 そして、次の日。

 新人戦8日目。新人戦は今日で終了。

 今日行われるのは「モノリス・コード」。

 この競技で優勝も来まる。

 

 その中で目立っているのは一校だった。

 なに代理出場する選手が選手だからだ。

 3人の内2人は知られていた。

 

 1人目は司波達也。

 他校を散々苦しめた天才エンジニア。

 

 2人目は藤丸立華。

 「ピラーズ・ブレイク」で華麗な女装と優勝候補と引き分ける凄まじい魔法を見せつけた選手である。

 

「出てきたな彼らが」

「ああ」

 

 三校では一条と吉祥寺がその事について会話をしていた。

 実は彼ら司波達也に宣戦布告を前にしたのだ。

 ぶつかるとは思っていた。

 ……選手としてぶつかるとは思ってなかったが。

 

 更に彼らが入場すると、更に注目は増した。

 その理由は……。

 

「剣?」

「直接攻撃は反則だろう?」

 

 立華が腰につけた剣型CADについてだった。

 

 実はこれ渡辺の「バトル・ボード」の試合を見た達也が思いついて作ったCADだった。

 本来はレオ用なのだが、立華が借りた。

 名称は「オレイカルコス」。

 ……本来は「小通連」になるはずだったのだが、()()を知っている立華が強硬に反対して、改名させた。

 一応立華はレオには及ばないものの、硬化魔法を使える上に、このデバイスを使いようによってはレオ以上に彼は使えるからであった。

 それ以外にも腕輪型の汎用型CADを手首に巻いていた。

 しかも2つ。

 なので合計3つのCADを持っている事になる。

 

 因みに達也も二丁拳銃に腕輪型CADを巻いているので3つである。

 

「複数のデバイス同時使用か……」

「お手並み拝見と行こうか……」

 

 一条と吉祥寺がコメントする。

 

 一方、一校陣営は。

 

「森林ステージか……」

「不利よね……。普通なら」

 

 相手は森林ステージが得意な高校なので、普通に考えればこちらが不利。

 だが、こちらには「忍術使い」九重八雲の弟子である達也と、何してくるか予測不能且つ理解不能な立華がいる。

 なので幹部達はあんまり心配していなかった。

 

「立華君どんな戦法取るんだろうね」

「楽しみ」

 

 ほのかと雫が嬉しそうに話す。

 特に雫は「モノリス・コード」の大ファンであるため、喜びもひとしおだろう。

 

「ねえレイナ」

「何、エミ」

「イが抜けてる!?……立華君はどう戦うの?」

 

 エイミィの疑問にレイナは少し考え。

 

「わからない。リッカ、手札、数えきれない。心当たり、多すぎ」

「そ、そうなんだ。じゃあ深雪は?達也君どういう風に戦うかわかる?」

「なんとなくは。でも見てのお楽しみよ」

 

 そう言って深雪は微笑んだ。



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第十九節:新人戦 モノリス・コード 中編

「立華さんは一体どう戦うのですかね!」

「嬉しそうだな光宣」

 

 立華が出ると聞いてその試合を見に来た烈と光宣。

 特に光宣は嬉しそうだった。

 彼は立華が出ると聞いてとても喜んでいたのだ。

 

 因みに来賓席には2人しかいない。

 人払いをかけたうえ、響子は居ない。

 彼女は仕事中である。

 内容は同僚と達也の監視といったところである。

 彼は軍事機密の塊なのだ。

 

「はい。一校で怪我をした選手には悪いと思いますけど。立華さんがどういう風にするのか楽しみなので」

 

 そう言って笑う。

 そのまま試合の開始の合図を待った。

 

 そして、試合開始。

 その合図で走り出したのは達也。

 凄まじい速さ。まるで韋駄天。

 そして、あっという間に接敵する。

 流石お兄様である。

 

 その速さについて行けない選手は達也の攻撃を喰らう。

 しかし、決定打にならず、片膝をつく程度に終わってしまう。

 それでも駆け抜ける隙は稼げた。

 横を抜け、モノリスに近づく。

 

 だが、相手のディフェンダーも黙ってはいない。

 すぐさま魔法を放とうとするが、発動しなかった。

 展開していた起動式が吹き飛ばされた。

 達也が銃を向けている。

 

「今のは……あれは……!?」

 

 彼女には見覚えがあった。

 バスの中で多重に重なり合った魔法式を吹き飛ばした物だ。

 

「〈術式解体(グラム・デモリッション)〉か……もしかしたら、と思ったけど、達也君、使えたんだね……」

「真由美、今のが何か、知っているのか?」

 

 掴みかからんばかりの渡辺に七草が説明する。

 そして七草がポツリと呟いた。

 

「達也くんって繊細な技巧派かと思ったらパワーファイターだったのね……」

 

 一方相手選手のオフェンスもモノリスに近づいていた。

 そこにいるのは立華である。

 片膝を地面につき、眼を閉じていた。

 

(「舐めてんのか?それとも作戦か?」)

 

 警戒するが、何もしなければ始まらない。

 なので、魔法を発動させようとする。

 そして、踏み込もうとしたが。

 

「あああ!?」

 

 踏み込もうとした足が沈む。

 地面の一部が陥没していた。

 その為、バランスを崩して魔法発動がキャンセルさせられてしまう。

 そこへ。

 

「痛い!?な、なんだ!?」

 

 何かが彼にぶつかって来た。

 しかも幾つも。

 手で払いのけて、地面に落ちた物を見るとそれは。

 

「折紙?」

 

 折り紙で折られた鶴だった。

 そこへさらに。

 

「そーれ!」

 

 気の抜けた声がする。

 そこを見るといつのまにか立華が剣を持ち、振り下ろしていた。

 

(「ここからなら届くわk」)

 

 何か重い衝撃を頭部に感じ、相手のオフェンスは意識を失った。

 

「ふう……」

 

 モノリスを守り切り、一息つく。

 

(「なんとか行けそうだな……」)

 

 これが彼がこの「モノリス・コード」で選んだ戦法だった。

 あるアサシンのスキルである〈千代紙操法〉を使い、折紙で遠距離攻撃。

 とどめは剣での中距離攻撃。

 結構力は必要だが、これでも筋力には結構自信がある。

 

「ブート・キャンプやっておいてよかった」

 

 そう呟く立華。

 

 この世界に来てから彼が契約している「ある王」が行った「ブート・キャンプ」。

 レイナや光宣も巻き込まれた……というか、元気になった光宣を鍛えようとしたのに、巻き込まれた立華やレイナである。

 おかげでレイナや光宣の体力が人一倍どころか、数倍ついたが今は割愛。

 

 

「達也達は……上手くやっているな」

 

 気配を読み、笑みを浮かべる。

 

 そして、試合終了のブザーが鳴った。

 一校が勝利した。

 

 その後も試合を行う一校面々。

 

 次のステージは廃ビルエリア。

 ……あんなことがあったばかりなのに……。

 

「歴史は繰り返す……だな」

「うん」

「「「「「「真面目過ぎるのもやめて!?」」」」」」

「我儘ですねえ」

「ねえ」

 

 立華の言葉にレイナが頷き、それにツッコミを入れる一同。

 どうやら真面目なのもダメらしい。

 

「あんなことあったばかりだから、加重系は控えてね?」

 

 七草の声を後ろに聞きながら、テントを出ていく選手3人。

 それを見送った七草が渡辺を見て聞く。

 

「立華君の事、どう思う?」

「どうって……。実力もあるし、頭の回転も速い。この試合も平気だろう」

「違う違う。そうじゃないの」

 

 七草から帰ってきた否定の言葉に渡辺は首を捻る。

 渡辺に続きを促され、七草は躊躇いがちに話す。

 

「彼、百家なんじゃないかしら?もしくは……」

 

 最後まで言わなかった七草だが、察する渡辺。

 彼女は数字落ちか二十八家じゃないかと言いたいのだ。

 

「考えられなくもないが、本気で思ってるのか?」

「でも……」

「司波兄妹だってそうだろう?」

「……」

 

 この時点で2人はまだ知らなかった。

 司波兄妹が十師族、しかも四葉の血を引いている事を。

 

 因みに試合は彼らの勝利。

 幹比古の精霊魔法が大活躍した。

 視覚同調でモノリスを探して、コードを打ち込んで勝利。

 立華は今回は剣が大きく振り回せないので。

 

「こんにゃろー!」

 

 折紙主体で頑張った。

 鶴やら手裏剣やら、馬やらが襲い掛かり、相手のオフェンスをかく乱する。

 そうして守り切った。

 

 その試合を見ていた一条と吉祥寺はと言えば。

 

「ジョージはどうみる?」

 

 一条は隣の吉祥寺に目をやる。

 その問いに対して、吉祥寺は自分の予測を語り始めた。

 

「司波達也は戦闘技術の高さが目立つ。一方で、肝心の魔法は初戦の術式解体以外目立った所がない。魔法力自体はそこまで高くないと思う」

「遊撃の吉田幹比古は直接的な戦闘を避けるような立ち回りにも見えたな」

 

 作戦本部のモニターに一高の試合の画像や動画をピックアップしていく。

 

「藤丸立華についてはどうだ?」

「魔法力は高い。まだ何か隠している可能性もある」

 

 表情を切り替え、吉祥寺は続ける。

 

「だけどディフェンスという所を見ると、主に使えるのは折紙戦法だけなんじゃないかな?」

 

 立華が前衛に出て魔法を使ってくる可能性は低い。

 そう予測した吉祥寺。

 

「援護に気を付けながら司波達也と吉田幹比古を先に倒して、最後に三人がかりで藤丸立華を倒す。そうすれば僕等の勝ちだ」

「ああ、そうだな」

「そして、草原ステージなら……勝ちは決まったような物だ」

 

 この時点で吉祥寺は予測できなかっただろう。

 立華があんな手札を切ってくることを。




ブート・キャンプ

ランサー真名■■■■■■■が光宣を鍛える為に行った物。
立華が行った物より難易度は下がってはいるが、軍人やスポーツ選手でもへばる。
ちゃんと3人ともクリアした。
そのおかげか光宣とレイナの体力はすさまじい事になっている。100kmマラソンもこなせるようになった。


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第二十節:新人戦 モノリス・コード 後編

 昼食を挟み、決勝トーナメントが行われる。

 立華と達也、幹比古は三校の試合を見に来ていた。

 

 その結果は……。

 

「……」

 

 幹比古が何も言えなくなっていた。

 なぜなら……一条1人で相手を片付けたからだ。

 

 〈干渉装甲〉で相手の攻撃を寄せ付けず、レイナが得意とする〈偏倚解放〉で相手選手をあっという間に片付けた。

 

「流石……何だっけ?……マロングラッセ?」

「誰の事!?」

「……クリムゾン・プリンスだ。遠ざかり過ぎて面影が無くなっているぞ」

 

 立華の言い間違えに幹比古がツッコミを入れ、達也が訂正する。

 

「でも、残り2人の戦術を見れなかったのが痛いな」

「一応1人なら予想は付くぞ?」

「確か……カ、カ、カーレーサージョジョだっけ?」

「だから誰!?」

「カーディナル・ジョージだ」

「え!?」

 

 どうやら幹比古は知っていたらしい。

 そんな彼に達也は吉祥寺が使ってくる魔法を説明する。

 それに不安そうになる彼だったが。

 

「心配するな。インビジブル・ブリットはその性質上、情報強化は効果が薄いが、作用点を視認しないといけない欠点がある。遮蔽物で視線を外すか、視界に入らなければ問題ない」

「……なるほど。それなら」

 

 どうやら対抗策を幹比古は持っているらしい。

 そんな2人に立華は告げる。

 

「ま、その前に進めるかどうかだけどね」

「ああ」

「そうだね」

 

 その時立華の脳裏にある考えが浮かぶ。

 

「……そうだ。達也、幹比古。もし、三校との決勝でさ……」

「「?」」

 

 立華がある事を提案する。

 それに別に反対することもなく了承する2人だった。

 

 そして、一校はといえば勝利した。

 しかも結構楽勝で圧勝だった。

 ステージが渓谷だったので、幹比古が水場を利用して霧を作り出し、そこを立華が1人ずつ剣や電撃、折紙で仕留めていった。

 

 その後、決勝ステージのエリアが決まる。

 それは……。

 

「障害物が無い草原ステージですか……。厳しい戦いになりましたね、お兄様」

 

 深雪の言葉は、本部に居る面々の顔が曇る。

 だが、それに達也が明るく言う。

 

「いや、水を利用されるかもしれない渓谷ステージや市街地ステージに比べればマシだ。一条家お得意の発散系魔法で水蒸気爆発をされる危険性が低いだけでも御の字だ」

「市街地で?水?」

「ええ。一応水道通っていますし。……まあ草原ステージも地下水汲み上げられたら不味いですけど」

 

 そんな達也に服部が尋ねる。

 

「司波、勝算はあるのか?」

「はい。立華の作戦で行こうと思います」

「……どういう事だ?」

「言っていたんです。草原か岩場のステージだったら”アレ”が使える。準備に時間がかかるけど、モノリス・コードでも十分に使えるからと」

「アレ?何をする気なの?」

「さあ?ただ時間を稼げとだけ言われていて。何が起こるかは本人と……多分彼の相棒位しか知りません。聞いても教えてくれないと思いますよ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 その後、達也が頼んでいたローブやマントが渡され、試合前のインターバル。

 達也はストレッチ、幹比古は富士の息吹を浴びにいった。

 立華は自室で軽く眠っていた。

 いつものようにレイナが膝枕をしている。

 軽く頭を撫でていた。

 

「立華。勝ってね」

 

 彼女が呟くと。

 

「ああ」

 

 返す声が聞こえた。

 

「起きてたの?」

「今起きた」

 

 そう言って立華は伸びをする。

 

「じゃあ行ってくる」

「うん」

 

 そして、2人は抱擁して、軽く唇を重ね合わせた。

 

「ここから」

「先は」

「「また今度」」

 

 ◆◆◆

 

 遂に始まった「モノリス・コード」決勝。

 新人戦の一校の勝利は決まったが、三校はやる気があった。

 

 選手が入場すると騒めきが広がる。

 その理由は立華と幹比古が付けている物だった。

 立華がマント、幹比古がローブである。

 恥ずかしそうな幹比古だが、立華は気にしていない。

 

「立華。君は恥ずかしくないのかい?」

「平気。知り合いに全裸でも恥ずかしくないって人いるし」

「「それはおかしい!?」」

 

 達也までツッコミを入れる。

 

「脱ぎたがる奴がいてね。しょっちゅう全裸になる」

「「……」」

「まあ、会う機会は……あるかも?」

「会いたくないよ!?」

「深雪には絶対に会わせたくないな……」

「アハハハ」

 

 2人のコメントに笑う立華。

 

 そんな一校に対して、三校はと言えば。

 

「アレはジョージ対策か?」

「わからない……まだ隠し玉があったなんて……」

「気にしても仕方ない。ステージ的には俺達の有利だ。作戦通りいくぞ!」

 

 そして、来賓席では。

 

「御爺様は立華さんがどういう風に行くと思いますか?」

「フム……。やはり使い魔系統で行くのではないかね?」

「それしかないですものね」

 

 祖父と孫……烈と光宣が立華がどういう風に戦うか談義していた。

 

「候補としては……やはり骸骨兵や竜牙兵、兵馬俑では?」

「少し目立ちすぎるだろう。やはり殺人鬼のアレかもしれんぞ?」

「その可能性も捨てきれませんね」

 

 ああでもないこうでもないと話し合っていた。

 とても楽しそうに会話していた。

 

 観覧席では。

 

「楽しみ♪」

「そうじゃのう」

 

 レイナの言葉に四十九院が同意する。

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

 奇妙な面々が一か所に集まっていた。

 一校の女子6人……深雪、雫、ほのか、エイミィ、里美、レイナと三校の女子3人……一色、十七夜、四十九院。

 若干気まずくなっているが、気にした様子のないのもいる。

 

「それにしても勝つのはどちr」

「こっち」

 

 即答するレイナ。

 

「一条くんは実戦経験者ですk」

「実戦?」

 

 十七夜の言葉にレイナの雰囲気が少し変わった。

 

「アレ位、立華、経験、比べ物、ならない」

「「「「「「……」」」」」」

 

 レイナの凄みのある笑みに全員何も言えなくなった。

 

「栗きんとん、知らない。真、絶望。窮地」

 

 そう言ってレイナは立華に目を移した。




・全裸

多分分かる人は分かる。EXTELLA LINKで宝具だけ来た人。バーサーカーは絶対コイツだと思ったのに……。



・殺人鬼のアレ

Fakeの偽バーサーカーの宝具。
状況的にかなり強力になるので、候補には上がっていたが、若干派手なのでやめた。


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第二十一節:新人戦 モノリス・コード 終編

 そして、サイレンが試合開始を告げた。

 その途端。

 

「任せるぞ!2人共!」

 

 その言葉と同時に立華の姿が揺らめいて消えた。

 気配すら感じ取れなくなる。

 

「「「!?」」」

 

 それに驚く三校陣営。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 観客一同。

 

 だが、達也と幹比古、そして、レイナには驚きはなかった。

 事前に聞かされているのと、彼が何をするかなど予測不能なので、何が起きても驚かない。

 

「ジョージ!」

「……!ああ、わかった」

 

 だが、直ぐ冷静さを取り戻し、作戦通りに行くことにする三校チーム。

 

 観客席では唯一平然としていたレイナに対して。

 

「何をするのかわかるのですか?」

「準備」

「「「「「「?」」」」」」

 

 一色の疑問にレイナは一言告げる。

 それに一校三校女子一同の疑問符が浮かぶ。

 

 一方、試合フィールドでは激戦が始まった。

 

 立華が消えた後、始まったのは射撃戦。

 一条将輝vs司波達也である。

 一条は空気弾を発射し、達也は〈術式解体(グラム・デモリッション)〉で防御、振動魔法で攻撃を行う。

 有利なのは一条、不利なのは達也だった。

 

 一条の空気弾は達也に届くが、達也の攻撃は全て防がれていた。

 だが、会場からは称賛の声も聞こえていた。

 中には本当に達也が二科生なのか疑う声も聞こえる。

 

「大丈夫かしら……」

「このままだと潰されるぞ」

 

 それでも一校幹部の顔も冴えない。

 距離が近づくたび、不利になるのは達也だった。

 段々撃ち落とせ無くなってきている。

 

 一方、吉祥寺は一条が達也と戦っている間に遊撃の幹比古を倒す為に動く。

 〈不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)〉の射程範囲に捉えるも。

 

「な!?」

 

 幹比古の姿が増える。

 そのため、対象を視認しなければ効果を発揮できない不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)〉が使えない。

 そんな吉祥寺へ〈乱れ髪〉が発動し、草が吉祥寺に巻き付こうとする。

 

「!?」

 

 未知の魔法に吉祥寺に隙が生まれる。

 そこへCADを操作して魔法を撃ち込もうとした幹比古だったが。

 

「く!?」

 

 一条からの援護……空気弾が飛んできて、吹き飛ぶ幹比古。

 

「助かった!」

 

 そのまま幹比古へ加重魔法を掛け、動きを封じる吉祥寺。

 

 近づけない達也、動けない幹比古。

 これで三校の勝利かとほとんど誰もが思ったその時だった。

 

「!?」

「!」

 

 一条と吉祥寺に目がけ、大量の折紙が降り注ぐ。

 鶴や馬、手裏剣、飛行機に折られている。

 それらを避け、撃ち落とす彼ら。

 

 その隙に幹比古はなんとか脱出。

 そして、達也は今まで向かって来ていたのだが、後退し始める。

 

「任せるぞ」

「ここまでさせたんだ。勝てよ」

 

 達也と幹比古がもう1人のメンバーに呼びかける。

 すると。

 

「ああ。了解した」

 

 立華が突如ステージ中央に出現。

 そして。

 

「さあさあ。では始めよう」

 

 そう言って指を弾く。

 

我が目は無限なる視野を持つ(コクマー・ベル・インフィニト)

 

 言葉が紡がれる。

 

 そして。

 地面が揺れる。

 幾つも盛り上がっていき、そこから現れたのは土で出来た人形……ゴーレムだった。

 数は10体。

 

「「「「「「!?」」」」」」

「「「な!?」」」

 

 驚く会場。

 驚く三校選手。

 

 それに構わず立華は手を向ける。

 

「動け、ゴーレム」

 

 その言葉と同時に一斉に動き出すゴーレム達。

 10体が3手に分かれる。

 それぞれが選手の元へ向かう。

 

「く!」

「な!?」

「来るな!来るな!」

 

 三校選手は迎撃する。

 だが。

 

「一方的な展開になりましたね」

「ああ」

 

 来賓席でその様子を見ていた光宣の言葉に烈が答える。

 

 彼らの目の前でゴーレムに攻撃する選手が眼に入る。

 だが、その攻撃をものともせずにゴーレムは進む。

 攻撃のせいで、体表に傷がついたり、腕や脚がもげるも、選手目がけて進む。

 そして、三校選手に近づくと、選手を押さえつける。

 そして、立華の合図で砕け、選手の全身に絡みつき、行動不能にしていく。

 押さえつけるのに1体が砕けるので、残りは他の選手に向かう。

 

「それにしてもゴーレムか……。だからこそ準備がかかったと見える」

「まあ、本来は素材や時間をかけて作るものですからね。おそらくアレらは長時間使用には持たないでしょうね」

 

 2人の分析は正解だった。

 

 立華はゴーレム準備のために身を隠していた。

 そして、このゴーレムはあくまで急造品。

 長時間の戦闘には持たない。

 だが、「モノリス・コード」の間位なら十分に耐える。

 

「これはもう三校は……」

「ああ。ゴーレムには爆裂が効かんしな」

 

 その通りだった。

 一条は魔法をゴーレムに放つが、それらはほとんど効かず、動きを止めるには至らなかった。

 因みに吉祥寺の加重魔法や〈不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)〉も効いていなかった。

 

「彼らが勝つには速攻で立華君を仕留めなければならなかったわけだが」

「それは不可能ですね。……まあモノリスならワンチャンあるでしょうけど」

「実戦だったらまずないな。そもそも彼を殺すのはかなりの骨だからな」

 

 立華は常時解放型の宝具を常に幾つか展開している。

 ある裁定者の奇跡を起こす両腕もそうだが、それ以外に命のストック宝具もセットしている。

 だからこそ、彼を殺すには問答無用で殺す物(例:箱)か、ストックを封じる物(例:大英雄の槍)を使うしかない。

 

「試合は……決まりましたね」

「ああ」

 

 三校選手は次々ゴーレムによって行動不能にされていった。

 一条は最後まで粘ったが、最後は8体のゴーレムに囲まれ、小高い山となった。

 因みにちゃんと生きている。

 

 そして、「モノリス・コード」は一校の勝利となった。




命のストック

大英雄の試練そのものではない。どこぞの後輩の真似をして改造をしており、ダメージカットと耐性を失くした代わりに、命のストックを増やした。
つまり藤丸立華はそう簡単には死なない。


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第二十二節:新人戦 モノリス・コード その後

 試合終了のブザーが鳴る。

 拍手が鳴り響く中、一校選手達が合流する。

 

「ふう……」

 

 一息入れる立華に近づいて来た達也が尋ねる。

 

「隠れて何しているかと思えば、ゴーレムの準備だったか……。美味しい所持って行ったな」

「うん。少し時間がかかるんだ。悪かったね2人共」

「……まあ勝ったからいいけどさ」

 

 同じく近づいて来た幹比古。

 彼は少し不満そうだった。

 

「そんな顔するな。言っておくけど、時間稼ぎなかったらできなかったぞ?」

「それはわかるけど……」

「なあ、立華」

「うん?」

「ふと思ったんだが、岩場ステージでも出来たのか?」

 

 達也の疑問に立華は答える。

 

「まあね。岩場だったらもうちょっと頑丈なのが作れた。因みに雪だと集積と維持が難しい。だから雪原ステージでは使えなかったね」

「そんなステージないよ!?」

「あらあらまあまあ」

 

 幹比古のツッコミにケラケラ笑う立華だった。

 

 一方観客席では。

 

「いやあ。凄い試合じゃったのう。準備とはこのことだったんじゃな」

「うん」

 

 四十九院の感嘆に答えるレイナ。

 

「……雫は少し不満そうだね」

「うん。何か戦いって感じがしない」

「確かにそうね。前半は魔法戦だったけど、……後半は蹂躙だったわね」

 

 ほのかが長い付き合いなおかげか雫の不満そうな顔に気づく。

 深雪も同様にコメント。

 

 一方、一色と十七夜だけは顔が曇っていた。

 

「これ不味いんじゃないのかしら」

「ええ。一条君が負けるなんて」

「?」

 

 2人のコメントにレイナの頭上に疑問符が浮かぶ。

 それに対して十七夜が説明する。

 

「一条君は十師族。”十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在。十師族の名前を背負う魔法師は、この国の魔法師の中で、最強の存在でなければならない”という理念があります。だからこそ師族会議で何か言ってくる可能性がありますよ」

「エリート、見栄、くだらない」

「そうですね」

 

 レイナの断言に一色も同意する。

 

「エクレア、いい事、言う」

「エ・ク・レ・ー・ル!いい加減に覚えなさい!」

 

 咆える一色に全員くすりと笑ってしまった。

 

 そんな中で。

 

「エイミィ?どうしたの?」

「……うん?何でもないよ!」

「……そう?」

 

 里美がエイミィの様子がおかしい事に気づく。

 先程から何も喋っていなかった。

 だが、それに何でもないと笑うエイミィ。

 

 だが、彼女の内面は少し混乱していた。

 

(「立華君の使ってた、あの折紙……タスラムに似てた」)

 

 〈魔弾タスラム〉。

 イギリス・イングランドにおける現代魔法の名門ゴールディ家の秘術。

 物体に条件発動型の遅延術式を掛けて持ち歩き、使用する際にサイオンを流し込むだけ移動魔法を発動し、物体を対象へ飛ばす射撃魔法。

 これが使えなければ本家の一員として認められない。

 エイミィはこれを祖母から習っているため使える。

 彼女はカードを弾丸替わりにするのだ。

 立華の使った折紙を飛ばす技がそれに似ていたのだ。

 

(「後で聞いてみよう……。教えてくれるかな?」)

 

 そんな事を思うエイミィだった。

 

 一方別の観客席では。

 

「本当に凄いな!!」

 

 テンションが上がりっぱなしの同僚……山中に響子は辟易していた。

 立華がゴーレムを展開した時には、もっと酷かった。

 

「試合も終わったんですから、落ち着いてはどうですか?」 

 

 呆れ返っている響子を見て居心地が悪くなった山中は咳払いをする。

 そして、話題の転換を図った。

 

「それにしても彼は何者なんだ?」

「……さぁ」

 

 山中の質問に答える響子。

 だが、響子が知らないはずがない。

 立華のPDは彼女自身が作ったモノである。

 それも目立たないように、矛盾がないように家族構成も細部まで作り込んだ。

 

 因みに響子と山中が「モノリス・コード」の会場に来た理由は遊びに来たからではない。

 自身らの同僚である達也の機密がバレないようにである。

 もしもバレてしまったら、それ相応の対応をしなければならないのだが、今回はその心配はなかった。

 

「〈精霊の目(エレメンタル・サイト)〉は使ったが、アレならまだ誤魔化しは効くし、傍目ではわからんだろうしな。だが、それにしても藤丸立華……何者なんだ?」

 

 山中が首を捻る。

 そんな中。

 

(「立華君大丈夫かしら?確かにアレなら誤魔化しは効く。でも確実に貴方は注目されるわよ……」)

 

 彼の心配をしていた。

 

 確かにあのゴーレム戦法なら古式魔法と言えば誤魔化せる。

 だが、十師族の次期当主をほぼ完封してしまった事から彼は注目されるだろう。

 だからこそ。

 

(「私はやれることをやって、助けになろう」)

 

 そう思う響子だった。



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第二十三節:勘と覚悟と怒り

 九校戦9日目。

 新人戦は終わったので、本戦に戻る。

 長いようで短かった九校戦も明日で終了。

 一校は今まで選手が頑張って来たので、今日で総合優勝が決まる可能性もある。

 今日は「ミラージ・バット」と「モノリス・コード」。

 前者は本戦、後者は予選が行われる。

 

 もう立華とレイナの競技はないので後は応援するだけである。

 

「達也遅くまで頑張っていたな」

「ナナ、ナベ、追い出さなかったら、絶対徹夜」

「まあ、妹の晴れ舞台だしな」

 

 昨日競技終了後、幹比古と立華は休むためにすぐ自室に引っ込んだ。

 ……新人戦優勝パーティーをやろうと言う意見もあったが、選手に疲労があったので却下となった。

 だが、達也はエンジニアとしての仕事があったので、夜遅くまで頑張っていたのだ。

 最終的には一校の幹部面々に追い出されたそうだ。

 

「まあ、警戒しておくに越したことはないな。何か暗躍してる奴らがいるし」

「うん」

 

 という訳でこのコンビがやって来たのは。

 

「やあ。遅かったじゃないか2人共」

 

 「ミラージ・バット」の選手であり、先輩の小早川景子のところだった。

 実はレイナの知り合いで、立華とも交流がある。

 

「どうも」

「ケーコ先輩、緊張?」

「大丈夫」

 

 因みに彼女はなぜかレイナが珍しく変な呼び名で呼ばないのだ。

 

「これで優勝が決まるかもしれないからね。頑張らないと」

 

 そう言って気合十分の小早川を微笑ましく見ている2人だったが。

 

(「うん?」)

 

 嫌な予感がする。

 この感じは何かが起こる。

 なのでその発生源を探る。

 

「リッカ?」

 

 立華の様子がおかしい事に相棒のレイナが気づく。

 それに構わず立華は辺りをキョロキョロして見つけた。

 その発信源を。

 

「先輩」

「?どうしたの?」

「そのCADは?」

「え?ちゃんと調整したけど……」

「何か嫌な感じがします。なので使わない方がいいかも……」

「え!?」

 

 立華の言葉に小早川が固まる。

 それに反応したのはエンジニアの生徒……平河小春だった。

 

「そ、そんな訳ないわよ!私と景子で調整したんだから……」

「リッカ、勘、良く当たる」

「所詮勘でしょ!?」

「じゃあ、賭ける?わたし、何かある、命、賭ける」

「「!」」

 

 その言葉に小早川と平河が固まる。

 

「あなた、命賭けれる?何か、あったら、手遅れ」

「そ、それは……」

 

 雰囲気が加速度的に悪くなっていく。

 こういう時は……。

 

「……藤丸君!どうにかならない?」

「呼びましょう!」

「誰を!?」

 

 そんな訳でやって来たのは……。

 

「何か用か?立華」

 

 達也である。

 

「実はかくかくしかじか」

「まるまるうまうま。なるほど……。失礼します」

 

 立華の説明を聞いて小早川のCADを見る達也。

 そして。

 

「確かに何かいる」

「「え!?」」

「だが、何かがわからない。先輩、予備は?」

「あるにはあるけど……時間がない」

「リッカ。どうにかならない?」

 

 レイナの問いに立華は笑う。

 

「まあ異物取り除くぐらいならなんとか……。先輩CADを」

「う、うん」

 

 小早川から渡されたCADを受け取る立華。

 そのCADを左手で持ち、右手で何かを引っ張る動作をする。

 立華以外の4人は見た。「何か」が引きずり出されるのを。

 そして、その「何か」を握りつぶす立華。

 

「これでよし。これなんだろう?わかる?先輩方?達也?」

「ごめんなさい。まったく」

「私も」

「SB(Spiritual Being)魔法の一種である事はわかるが……」

「そっか。まあこれで一安心」

 

 そして、達也の方を見る。

 

「達也」

「何だ?」

「どうやら相手はなりふり構わなくなってきたみたいだ。だから……」

「深雪が狙われるという事か?」

「確実に。多分現行犯でやってくる可能性大。だから警戒して」

「わかった」

 

 そう言って出ていこうとする達也。

 

「待って」

 

 それを呼び止めるレイナ。

 

「?どうした?」

「犯人、生け捕り。タッツン、殺さないように」

「……酷いな。俺が相手を殺すように見えるのか?」

「ミユキチ、敵、容赦なし」

「……」

「わたし、拷問得意」

「「はい!?」」

「ふーやちゃん、ミラさん、副長直伝」

「「誰!?」」

 

 ツッコミを入れる先輩方だった。

 

 その後、第一試合は小早川は頑張ったが予選落ちしてしまった。

 というか他の選手の気合の入りようが凄まじかった。

 これ以上花を持たせて堪るかといったところである。

 ……まあ本来の結果に比べればマシだが。

 

 因みに本戦に1位で進んだのは。

 

「エクレア、本戦、出てた」

「まあ二十八家だしな」

「今二十七」

 

 一色愛梨だった。

 さすがエクレールである。

 

 そして第二試合。

 とは言っても順調に始まらなかった。

 なぜなら……。

 

「エンジニアが大会スタッフに暴行!?」

 

 CADチェックの会場で事件は起こった。

 何でもデバイスチェックの現場で達也がスタッフに暴行したという知らせが届いたのだ。

 大会スタッフが深雪のCADに何かを仕込もうとしていたそうだ。

 それに達也が激怒。

 そして、尋問(兼殺害)しようとしたらしい。

 そこへ偶然(?)烈が通りかかり、その場を収めたそうだ。

 

 そんな訳で戻って来た達也を迎えた天幕内の空気は警戒と畏怖だらけだった。

 が、そこへ。

 

「タッツン」

「レイナ」

 

 レイナがいつも通りの態度で達也を迎える。

 

「生け捕り、した?」

「ああ。でも連れて行かれたぞ?」

「残念。試したかった」

「「「「「「何を!?」」」」」」

 

 不吉な言葉に一同ツッコミを入れる。

 それにニコリと微笑み答える。

 

「新しい、拷問」

「「「「「「笑顔で言うな!?」」」」」」

 

 レイナの答えに一同更にツッコミを入れた。

 いつの間にか達也への警戒と畏怖は吹っ飛んでしまった。




ふーやちゃん、ミラさん、副長

レイナに拷問を教えた3人。ふーやちゃんとは仲良しなレイナである。


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第二十四節:試合、その裏で 前編

 達也とレイナの件はあったものの、第二試合は普通に始まる。

 深雪の圧勝かと一校誰もが思った。

 だが。

 

「まさか深雪さんに勝つなんて……」

「ああ。流石優勝候補だな」

 

 七草と渡辺の言葉通りだった。

 優勝候補の選手が深雪と渡り合い、第一ピリオドは深雪が僅差で勝ったものの、第二ピリオドは僅差で負けてしまった。

 そして、第三ピリオドが始まる。

 

「む?」

「どうしたの沓子?」

 

 立華とレイナと一緒に(なぜか)観戦していた十七夜と四十九院。

 ここのところ一色含めた三校の3人とよくつるむ立華とレイナである。

 妙に馬が合うのだ。

 

「CADが変わっておる……」

「確かに……」

「へえ。使うのか」

「まあ、妥当」

 

 因みに立華とレイナは知っていた。

 深雪の切り札を。

 正確に言えば達也が用意した深雪の切り札を。

 

「何をするのか知っておるのか!?」

「見れば、わかる」

 

 四十九院の問いにそう答えるレイナ。

 試合に目を向ける。

 深雪以外の選手はホログラムを幾つかスティックで打ち、地面に降りていく。

 だが、深雪は下りなかった。

 空中を移動してホログラムを打つ。

 

「飛行魔法?」

「トーラス・シルバーの……?」

「そんなバカな!?」

「先月発表されたばかりだぞ!?」

「だがあれは……」

「まぎれもなく、飛行魔法」

 

 会場の騒めきが広がっていく。

 知っていた面々は驚いていないが、知らない面々……十七夜と四十九院は驚いている。

 

 そして、試合終了。

 深雪の圧勝となる。

 深雪が優雅にお辞儀をすると、拍手が会場を包み込んだ。

 

 ◆◆◆

 

「ターゲットは予選を通過した」

「……妥当だな」

「しかも飛行魔法を使用したそうだ」

「何だと!?」

 

 横浜にあるとあるホテル。

 その一室で『無頭竜』の幹部数人が一つのテーブルを囲んで座っていた。

 

「一体どうする!?最終日である明日のモノリス・コードの結果が出る前から第一高校の総合優勝が確定しそうではないか!?」

 

 幹部の一人が声を張り上げて、テーブルをたたいた。

 

 彼らが今回の九校戦の異常事態の黒幕だった。

 九校戦の勝敗で賭けを行っていて、大本命の一高に高いオッズを示して掛け金を集中させ、三高に優勝させることによって利益を得ると共に、イカサマを疑われないよう勝ち過ぎを回避する。

 これを狙っていたのだが……。

 

 結果は御覧の有様。

 大ピンチである。

 因みにこの計画元々反対意見も多く、このままでは彼らはただではすまない。

 死すら生ぬるい事になる。

 

「だから言っただろう!!もっと早く……初日からも一高への妨害工作をすべきだと!」

「妨害工作は有力選手を潰すために活用した!”バトル・ボード”でも選手を棄権へ追いやったではないか!」

「しかし他の一高への妨害はどうだった?確かに有力選手は潰せたが、結局代理選手が出場して駄目だったではないか!」

「今日の本戦”ミラージ・バット”は第一高校の選手のCADに細工を指示したが、無効化されるどころか工作員が取り押さえられる結果になった!アレのせいで足がついたらどうする!貴様らの責任だぞ!!」

 

 責任のなすりつけ合いと言い争い。

 それに1人が止めに入る。

 

「落ち着け」

 

 その言葉に言い争いが一旦止む。

 

「今この場ですべきことは、責任を押し付け合うことでは無い。いかにしてこの現状を打開するか話し合うことではないか?」

 

 そう言われた立ち上がっていた幹部は、息を吐いた後、改めてイスに座った。

 

「……さて、話を進める。”三高に勝ってもらう”などという考えが出来なくなったわけだが、こうなっては我々がとれる手段は限られてくる」

「もはや手段は選んでられんな……。九校戦を中止させ賭けそのものを無かったことにする……それしかあるまい」

 

 もちろん、そんなことをすれば警察等も大きく動く。

 賭博に参加していた客からは胴元である「無頭竜」へ苦情が多く寄せられるだろう。

 しかし、証拠がないならしらを切れる。

 少なくともこのまま「九校戦」が終わってしまうよりは全然マシである。

 

「だが、そのための人員はどうする…?」

 

 その一言で、幹部たちの眉間にシワが寄った。

 

「……今、動かせるジェネレーターはどれだけいる?」

「……この部屋を護っている3体と会場を監視している1体だけだ。連れて来れる奴は他所にももう1体もいない」

 

 静まり返る室内。

 そしてその静寂を破ったのは、本日何度目かになるテーブルが叩かれた音だった。

 

「どうなっているんだ!?「九校戦」の会場に送った奴らは……」

「知るか!?」

 

 表情を歪めながら言う幹部と同様に、他の幹部達も各々頭を抱える。

 

 初日から、監視もかねて会場へ行かせていた「ジェネレーター」。

 それが次々と消えてしまっていた。

 何者かが自分たちの動きに気づき、消しにかかってきたのだろうか?

 だとしても、戦闘態勢に入れば即座にこちらへ情報が来るようにしているが、それは無い。

 そのうえ、会場にいるジェネレーターを襲おうものなら、それこそ騒ぎになる。

 結構強いのである。

 そういった様子も全く無い。

 その後も、監視のためにと新たなジェネレーターを会場へと派遣していたのだが、そのジェネレーターも不意に何の痕跡も残さずに消えてしまう事態が続いていた。

 

 再び訪れた静寂。

 その中で、一人の幹部が口を開いた。

 

「会場にいるジェネレーターに観客を襲わせる。なに、100人位死ねば中止になるだろう」

 

 そう言って彼らは落ち着こうとしたのだった。



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第二十五節:試合、その裏で 後編

 そして、試合会場。

 その中でサングラスを掛けた男が突如ピクンと動く。

 そして、通りがかった男性を襲おうとした。

 だが。

 

「!」

 

 次の瞬間、ぶん投げられ、宙を舞っていた。

 そして、重力に従い、地面に落ちる。

 そのまま落ちれば墜落死。

 だが、感情のないジェネレーターは冷静に地面に着地。

 そこへ先程ジェネレーターをぶん投げた男性も降りてきた。

 

 彼は柳連。

 独立魔装大隊の幹部である。

 因みに達也と響子の同僚でもあり、昔達也の天狗の鼻をへし折った人物でもある(達也談)。

 

「さて、動くなよ。とは言ってもわからないか」

「そうだろうねえ」

 

 柳の声に答えたのはジェネレーターの退路を塞ぐように現れた男性。

 

 彼は真田繁留。

 柳と同じ所属である。

 腹黒である(達也談)。

 

 前門の虎後門の狼になってしまったジェネレーター。

 それに構わず正面の柳に襲いかかる。

 だが、柳の〈転〉によって元の場所へ戻される。

 そこへ。

 

「本当にお2人は仲が良いですね」

 

 現れた響子が、髪の毛のように細い高導電性の針を移動系魔法で飛ばして相手に突き刺し、放出系魔法で周囲の物体から自由電子を取り出して針に電流を流し込む魔法である〈被雷針(ひらいしん)〉でジェネレーターを捉えた。

 

「中々の手際だねえ」

「それはどうも」

 

 真田の称賛にそっけなく答える響子。

 彼女はもっとすさまじい電気の使い手やハッキングする人を知っている。

 だからこそこんな反応である。

 

 柳と真田がジェネレーター捕縛している中、彼女は思考していた。

 

(「他のジェネレーターは幹部の守りと……立華君が捕まえたようね」)

 

 彼女に連絡がいっていた。

 ジェネレーター数体貰いますとあったのだ。

 

(「でも、一体何に使う気なのかしら?」)

 

 内心首を捻る響子。

 そしてふと「モノリス・コード」の試合を思い出す。

 

(「ゴーレムの素材にするとか?」)

 

 そう考えたが。

 

(「まあ、そんなわけないか」)

 

 すぐにその考えを打ち消す。

 

 実は響子のその考えは正解だった。

 ……100点や花丸ではないが。

 それを彼女はまだ知らない。

 

 ◆◆◆

 

「会場の”じぇねれえたあ”は捕まったようでござりまするね」

「そのようでござるな」

「今の時代にしては中々の腕前ですね」

 

 ジェネレーター捕縛を見ていた者達が会話をしていた。

 

 1人目は露出度高い忍び装束を纏い、手足の関節部が人形のようになっている長い黒髪の少女。

 2人目は全身に黒い包帯のような物を巻き付けた黒髪の少女……アサシン・パライソと呼ばれている者。

 3人目は忍び装束の赤毛の少年。

 

 この3人は立華の契約サーヴァントであった。

 クラスは全員アサシン。そして忍者である。

 

 立華の命を受け、ここ数日ジェネレーターの捕獲に動いていたのは彼らだった。

 この3人は全員忍者。

 聞かれれば色々な人が知っている結構有名な忍者である3人。

 人の捕縛など朝飯前だった。

 

「それにしてもマスターは一体何に使うのでござりましょうか?」

 

 絡繰少女の疑問にパライソが答える。

 

「あのゴーレム使い殿の宝具に使うようでござる」

「なるほど……」

 

 赤毛の少年も納得する。

 

「だからこそ“ぱらけるすす殿”に預けられたのですね」

「使う前に微調整するようでござる」

 

 実はそのジェネレーターはここにはもういない。

 全員パラケルスス……専ら「P」と呼ばれるキャスターに預けられた。

 彼は錬金術師としての腕前は凄まじいのである。

 

「ではマスターの仕事は終わりましたので、私達は戻ります」

「御免!」

 

 そう言って絡繰少女と赤毛の少年は消えた。

 後に残されたのはパライソのみ。

 

「では拙者も仕事を果たしましょう」

 

 そう言ってパライソも消えた。

 その場に人のいた痕跡はなくなった。

 

 そして、時間は立って、達也の部屋。

 彼の1人部屋である。

 色々配慮してそうなった。

 そこに来た達也は。

 

「いるのか?」

 

 声を掛ける。

 すると。

 

「ここに」

 

 そう言って現れたのはパライソだった。

 それに驚く事も無くその少女に尋ねる達也。

 

「お前が立華が言っていた“アサシン・パライソ”か?」

「そうでござる。真名は伏せさせてもらうでござりまする」

「ああ。わかってる」

 

 実は達也は立華から「無頭龍」の情報を貰う事になっていたのだ。

 なので情報の受け渡し役としてパライソが選ばれたのであった。

 

 パライソが情報の紙媒体を達也に渡す。

 

「では拙者はこれで」

 

 そう言ってパライソは消えた。

 それを見送った達也は情報に目を通す。

 そして。

 

「そうか」

 

 それだけ言った。

 そしてその紙媒体の情報を一瞬で分解する。

 その表情は怒りに染まっていた。

 

 ◆◆◆

 

 同日夜。

 「ミラージ・バット」の本戦決勝が行われた。

 他校の選手も飛行魔法を使って来たのだが、全員サイオン切れで次々落ちていく。

 最後まで残ったのは深雪と一色だけ。

 一色も結局落ちていき、深雪の独壇場となった。

 そして、総合優勝は一校に決まった。

 

 その後、お茶会が催されていた。

 新人戦優勝と総合優勝が決まったからである。

 立華やレイナは勿論、深雪、ほのか、雫と言った一年だけでなく、レオやエリカ、幹比古、美月までいた。

 ……森崎も行こうとしたが、医者から止められた(笑)。

 

 その中で達也だけはいなかった。

 

「寝てるという訳ですか?」

「ええ流石に疲れたそうです」

「大活躍だったしねえ」

 

 そういう彼女達。

 

 だが立華は知っていた。

 達也がどこに行ったのかを。

 

(「今頃黒幕が消えた頃かな?」)

 

 そう思っていた。

 

 そして、達也はと言えば。

 

「お前達には消えて貰う」

 

 無頭龍の幹部を文字通り消し去っていた。



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第二十六節:九校戦終幕 前編

 お茶会から帰って来た立華とレイナ。

 

「楽しかった」

「ああ」

 

 そう言ってどちらからともなく寄り添う。

 

「そういえば」

「?」

「ちょっかい掛けてきた奴ら消えたかねえ?」

「……タッツン?」

「ああ」

 

 レイナも立華から事情を聞いている。

 

「タッツンMVP」

「だなあ」

 

 エンジニアとして活躍。

 選手としても活躍。

 大会妨害行為を見つけ出し、黒幕への制裁。

 達也働き過ぎである。

 

 ケラケラ笑い合う2人。

 すると。

 

「御館様」

 

 声が響く。

 

「千代ちゃん?」

「はい。拙者でござる」

 

 立華の声に彼らの目の前にアサシン・パライソが出現した。

 服装は巫女装束だった。

 ここには真名を知っている物しかいないため、愛称で呼ぶ立華である。

 

「もしかして終わった?」

「はい。無頭竜は司波達也の手により文字通り消滅したでございます」

「……消滅?」

「はい。灰を少し残して消えたでござる。……情報は色々引き出した後に全員」

「ミユキチ、手、出された」

「怒ってたからなあ……」

 

 立華とレイナは達也の事を思い出していた。

 完全に怒り狂っていたのだ。

 

「それと無頭竜はソーサリー・ブースター供給を行っていたようでござる」

「何、それ?」

「簡単に言うなら人の脳を使って作るCAD」

「!?」

 

 立華の答えにレイナの顔が固まる。

 そして、立華に抱き着いてきた。

 そんなレイナを抱きしめ、頭を軽く撫でる。

 

「でも、達也が消したんだよな?」

「はい。東日本支部は消滅でござりまする」

 

(「ならいいか」)

 

 そう思う立華。

 

「報告は以上でござる。では拙者h」

「チイちゃん」

 

 去ろうとしたパライソを止める。

 抱き着いていた立華から少し離れ、パライソの方を向く。

 

「何でござる?レイナ殿」

「わたし達、今から、続きする」

「……!?」

 

 レイナの言葉に顔が少し赤くなるパライソ。

 ちゃんと意味がわかるからこそ赤くなっているのだ。

 一応忍者であるため、そう言う事への耐性はあるが、それでもいきなり言われたらこうなる。

 ……まあどこぞの恋愛雑魚侍よりマシだが。

 

「だから、一緒に」

「ござる!?」

「殿方、誑かす、得手、でしょう?」

「そ、それはそうでござるが……」

「複数人、経験、何度か、あるでしょ?」

「……」

 

 何も言えなくなるパライソ。

 

「嫌?」

「そ、それは……」

「おーい。俺の意見は?」

 

 立華がレイナに声を掛けると。

 レイナが微笑み聞いて来た。

 

「リッカ。嫌?」

「嫌じゃないけどさ。続きはまた今度って言ったし」

「じゃあ……。チイちゃん」

「……承知」

 

 レイナの呼びかけにパライソも傍に寄って来る。

 着ている巫女服を脱ぎ、露出度が黒包帯より高めな赤包帯姿になる。

 なので立華は。

 

「はあ」

 

 溜息を吐いて。

 

「じゃあ……いただきます」

「ござる!?」

「何か、変!?何か、違う!?」

 

 2人を抱きしめ、ベットに押し倒した。

 その後どうなったかは語るまでもないだろう。

 ……まあ2人は美味しく頂かれたとだけ。

 

 ◆◆◆

 

 九校戦10日目。

 遂に最終日。

 行われるのは「モノリス・コード」である。

 十文字と辰巳、服部が出場する。

 

 とは言っても結果はもう覆らない。

 一校勝利である。

 例えボロボロに負けたしたとしても。

 ……まあメンバー的に負ける事はなさそうだが。

 

 ところが……。

 

「ちょっといい?」

「どうした?」

 

 裏ではちょっとした問題が起こっていた。

 

 七草が十文字の所にやって来て少し躊躇った後に話し始める。

 

「モノリス・コードで一条君が負けたでしょう?」

「そうだな」

「十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在、最強の存在でなければならないっていう教義があるでしょう?」

「それで?」

「だからこそ学生のスポーツとは言え、十師族の一員がただの魔法師に負けるとなると、威信にかかわるんですって。その対応を求めるそうよ」

「なるほど……」

 

 立華達が「モノリス・コード」で勝った事が問題になっていた。

 しかも……。

 

「しかも……あの結果でしょう?」

「……」

 

 彼らは試合内容を思い出す。

 前半は三校が押していたものの、後半は立華の操るゴーレムにより全員戦闘不能にさせられた。

 正に蹂躙であった。

 

「本当にくだらないわよね」

 

 溜息を吐く七草に十文字が言う。

 

「つまり十師族の力を見せつける試合をすればいいのだな?」

「ええ」

「まあ司波や藤丸に押し付けたのは俺達だからな。任せろ」

 

 そう言う十文字であった。

 

 その後の「モノリス・コード」の試合は十文字1人による独壇場だった。

 ファランクスを展開して、一切攻撃を通さず相手選手を全員戦闘不能にした。

 

「凄いな」

「圧倒的ね」

「アレが十文字……」

 

 ほとんど全員が感嘆する中。

 

 達也が立華に話しかける。

 

「立華」

「うん?」

「俺はどうやら十文字会頭とは相性が悪いらしい」

「ファランクス?」

「ああ」

 

 達也の分解では十文字のファランクスは貫けない。

 ……今の所。

 

「立華は突破手段あるのか?」

 

 一見弱点を晒すようであるが、立華は相手が手札を晒そうとしない限り、出そうとしない。

 だから話したのだった。

 

「ある。いくつかは」

「ほう」

「防御無視の剣や槍とか、魔を絶つ赤槍とかだね」

「……セコイな」

「それを言ったらお終いだよ」

 

 ケラケラ笑う立華だった。

 

 「モノリス・コード」は一校の優勝となった。




アサシン・パライソの服装

状況に応じて使い分けている。

諜報活動中は正体がわからないように(頭に九曜紋があるので)第一再臨の服装である、黒包帯。

立華の前に現れる時や、普段は第三再臨の服装である、巫女装束。理由は立華のお気に入りなので。

ある程度の人数の前に現れる時は第二再臨の服装である、袴姿。

そして、Yes/No枕のYesである最終再臨の服装である、露出度高めの赤包帯。この姿になった時は……まあそう言う事である。


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第二十七節:九校戦終幕 後編

防御無視の剣や槍、魔を絶つ赤槍

防御無視の槍は戦国一のDQNにしてぐだぐだ帝都聖杯奇譚で結局出番なかった彼の宝具。

赤槍は皆さん御馴染みZeroランサーの宝具の1つ。……一体いつになったらセイバーで実装されるのか……。

そして、防御無視の剣はオリジナルサーヴァントの剣。2年前の聖杯戦争のセイバー 真名■■■■■■■・■■■・■■■の宝具。因みにすまないさんの天敵。相性最悪である。多分エンジェル後輩も相性が悪い。


 長かったようで短い。

 短かったようで長い。

 そんな10日間の競技が終わった。

 

 その後、表彰式があり、その後に「後夜祭」が始まった。

 合同パーティーみたいなものである。

 競技が終わった解放感からか、雰囲気も緩い。

 他校の生徒同士も結構話している。

 

 

「ナンパ、多い」

「確かに」

「アハハハ……」

 

 レイナの言葉に雫が同意し、ほのかが苦笑する。

 ダンスがあるので、そのためなのか。

 それとも彼女を作るためなのか。

 女子に声を掛ける男子が多かった。

 

 3人で他愛ない話をしていると。

 

「どうも鷹山さん」

「こんにちは。北山さん」

「久しぶりじゃのう光井」

 

 三校の女子3人がやってきた。

 

「エクレア!カノ!ツクシ!」

「エ・ク・レ・-・ル!いい加減にしなさい!」

 

 相変わらずのレイナに咆える一色。

 そのまま再び言い争いが始まる。

 そして。

 

「と言うか栞!沓子!貴方達も変な呼び名なのに、なぜ何も言わないのですか!?」

 

 飛び火した。

 それに2人は。

 

「私は辛うじて許容範囲なので」

「右に同じじゃ」

「……」

 

 2人からの返しに無言になる一色。

 

「気にしない方がいいよ。栗きんとんって呼ばれている人もいるから」

「ちゃんとした名前で呼んでいるのなんて雫と立華君ぐらいだものね」

 

 雫の言葉にほのかが補足する。

 それに何も言えなくなる一色。

 四十九院は気になったのか尋ねる。

 

「ところで栗きんとんとは誰じゃ?」

「「一条君」」

「「「ぶっ!?」」」

 

 あまりの呼び名に噴き出す3人。

 その後、吉祥寺の呼び名も聞き、笑ってしまう3人だった。

 

 そんな中、話題を変えようとしたのか四十九院がレイナに尋ねる。

 

「そういえば藤丸君はどうしたのじゃ?姿が見えんが」

「「そういえば」」

「「確かに」」

 

 キョロキョロして見るが、見当たらない。

 そんな中でレイナがある方向を指さす。

 

「「「「「!?」」」」」

 

 驚く5人。

 なぜならそこには立華がいた。

 なぜか演奏家のような服装を着て、会場に流れる音楽に合わせて伴奏を弾いていた。

 あまりにナチュラルで誰も気づいていない。

 暫し呆然としていた彼女達だったが、何とか再起動。

 

「な、何しているのですか!?」

「ノリ、だって」

「ノリ!?」

「立華さんピアノも引けたんですね」

「料理も上手いし色々できるんだね」

「でも、本人、謙遜。曰く、モーツァルト、サリエリ、比べれば、児戯」

「「「「「比べる対象がおかしい!?」」」」」

 

 思わずツッコミを入れる一同だった。

 それはそうだろう。

 なにせ世界でも有名な音楽家と比べているのだから。

 

 その後、ある程度ピアノを弾いて満足したのか、制服に着替え戻って来た立華は何人かと踊った。

 3校の3人やエイミィと踊り、最後はレイナと踊った。

 ……レイナとアクロバティックな踊りを披露し、拍手とツッコミを貰ったのは余談だろう。

 

 そして、九校戦は終幕した。

 

 ◆◆◆

 

 そして、自宅に戻った2人。

 

「ねえリッカ」

「うん?」

「エミ、何、聞いて来た?」

「イが抜けてるぞ?……モノリスで使った〈千代紙操法〉が何でも彼女の家に伝わる秘術に似てたから聞いて来た」

 

 ちゃんと否定しておいた。

 確かに似ているが、結構違う。

 

「そっか」

「ああ」

 

 そうして立華はカードを一枚出す。

 

「?」

「材料揃ったからな。これで始められる」

 

 そう言うとカードからある英霊を召喚する。

 それは……。

 

「アヴさん!」

 

 アヴィケブロンだった。

 

「私を呼んだという事は……」

「うん。炉心が出来た」

「見せて貰っても?」

 

 その言葉に立華は歩き始める。

 それについていく。

 そして、彼らがやって来たのはある一室。

 ノックをして、開けると。

 

「お待ちしておりました」

 

 長い黒髪で白装束を纏った男性が彼らを迎えた。

 彼がキャスター。通称P……ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススである。

 

「出来た?」

「はい」

 

 そう言ってパラケルススが台の上を差す。

 そこには形容しづらい何かがあった。

 一言で言うのなら大きな肉の塊。

 ただし……人間の手足があちらこちらから出ている。

 

 これがジェネレーターを基にパラケルススが作った炉心だった。

 

「どうでしょうか?アヴィケブロン殿」

「……ふむ」

 

 そう言うとその塊に近づいた。

 そして、触ったり、見たりして調べていたが。

 

「合格だ。これなら使い物になる」

「それは良かった」

 

 その言葉に立華は笑う。

 

「じゃあ早速やっちゃおう」

 

 そういう訳で4人(とゴーレム2体が運ぶ肉塊)がやって来たのは地下だった。

 プールのような水源があった。

 

「結界が張ってあるね……」

「まあね。色々なキャスターに張って貰った。悪いけど、まだ出す訳には行かないからね」

「わかっている。……少し残念だが」

 

 幾ら完成したとしても最終的に1000m近くになる巨人を出しておくわけにはいかないのだ。

 だからこそしばらくはここにしまって置く。

 

「では始めよう」

 

 そう言ってアヴィケブロンがプールに近づく。

 そして。

 

(はは)に産まれ、(ちせい)を呑み、(いのち)を充たす。(ぶき)を振るえば、(あくま)は去れり。義は己が血を清浄へと導かん。聖霊(ルーアハ)を抱きし汝の名は――――『原初の人間(アダム)』なり」

 

 言葉が唱え終わると同時。

 プールから15m位の自然の雄大さをそのまま取り込んだ巨人が現れた。

 そして、アヴィケブロンが指を弾く。

 すると、ゴーレムが肉塊を巨人に投げる。

 その肉塊は吸収された。

 

「これが……アダム……」

「凄い……」

 

 見た事ないレイナと、見た事ある立華も感嘆する。

 

「素晴らしい。流石アヴィケブロン殿」

「そう言って貰えると嬉しい。ありがとう」

 

 パラケルススの言葉に礼を言うアヴィケブロンであった。

 

 九校戦編 了




次章予告

「沈めても責任は課長が取ってくれる」

「キャーシャベッター!?」

「キャノン。三択、選べ」

「いやいや!?ダメでしょ!?」

「やめろー!?」

「力こそ正義です!お兄様」

「次はお互い全力で戦ろうや」

「そういえば、寅さん、そこの軍人」

「世界滅ぼす気ないよね?」

「ヒコ!足止め!」

「僕の名前は幹比古だ」

「私の目の前で患者を殺そうなどとは言語道断です。貴方の命を奪ってでも患者を救いましょう」

「それでも勝てなかった。本当に強かった……」

「是」

「七孔噴血……巻き死ねぃ!」

「見過ごすわけにはまいりません」

「世界を滅ぼすなら、とっくにやってる」

「エ・ク・レ・ー・ル!いい加減に覚えなさい!」

「てへぺろ」

「当たり前です中条さん。フグが自分の毒で死にますか?」

「大丈夫、責任は私が取るから」

「他の者も一緒か。見慣れない者もいるが……」

「花音、他の魔法師が秘密にしている術式の事は聞いちゃいけないって」

「幾星霜経とうとも、濯げぬ(しゅ)です」

「お待たせ」

「鷹山レイナ……いや。我がマスター。その名で呼んだって事は……いいんだな?」

「もし誰かが口を滑らせたら、その時は……極めて遺憾ではありますが、その口を塞がせて貰います。完全に、永久にです」

横浜騒乱編 2018年秋頃 連載開始予定
(月)15:15 (金)16:16 週二回更新予定


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横浜騒乱編
第一節:幾つかの始まり 前編


(・▽・)<ハロウィンは過ぎました。皆さんどうですか?
(・▽・)<こちらは骨集めに勤しんでいます。
(・▽・)<ONIRANDは残り僅か。高難易度はクリア。
(・▽・)<ギル祭りより遥かに簡単でしたね。
(・▽・)<後は自然回復で景品集めきれそうなので連載を再開します。
(・▽・)<「横浜騒乱編」をお楽しみください。
(・▽・)<週二ペースで頑張ります。


 横浜。

 多くの船が行き来する港である。

 ……多分。恐らく。

 そこで不審船が発見された。

 そういう訳で通報を受けた魔法師の警察が現場に派遣される。

 

 やって来た警官は2人。

 男2人、野郎2人である。 

 

「おーおー。こりゃ物騒だね~」

「無駄口は止めてください千葉警部」

「いやしかし稲垣君。これは大事件だよ」

 

 木刀を持った男が千葉警部ことエリカの兄である千葉寿和。

 そして、その部下であるが年上の稲垣。

 この2人がこう話すのも無理はない。

 

 船の上にいるのは海外からやってきた特殊部隊の類だ。

 武装を見れば分かる。

 

「行きますよ。魔法犯に対処できるのは、我々魔法師の刑事だけですから」

「……全く。俺は君の上司なんだが?」

「自分は貴方より年上です」

 

 いつもの会話である。

 

 そして、寿和は自己加速術式を使って現場に迫る。

 千葉家の得意とする魔法を利用した戦闘は体に染みついている。

 

「仕方ない。お仕事をしよう、か!」

 

 寿和はそう言って飛び上がり、移動魔法で空中機動をする。

 気付いた犯人たちは手に持ったサブマシンガンで対応するも、一発も当たらない。

 

 そして、次の瞬間。

 

「が!?」

「ぐあ……」

「ぎゃっ……!?」

 

 あっという間に片付ける。

 

「いっちょ上がり!」

 

 木刀を再び肩に乗せる寿和。

 そこへ稲垣が拳銃機能のある武装一体型CADを持ってやってきた。

 

「遅いよ……」

「警部1人で十分だと思ったので」

 

 そんな会話をして。 

 

「警部。あそこに船が! 押さえますよ!」

「え? 俺?」

「さっさとやる」

 

 ため息をつきながら、寿和は抜刀。

 木刀の内部に刀を仕込んであるのだ。

 そして刀を構えつつ、稲垣に向かって命じた。

 

「君がまず、船を止めてくれ」

「自分では沈めることになるかもしれませんが?」

「上手くスクリューを狙えば大丈夫さ。それに沈めても責任は……課長が取ってくれるさ」

「……自分が取るとは言わないのですね。分かりました……」

 

 こちらもため息をついて稲垣は武装一体CADに弾丸を込める。

 そして照準を付け、加速魔法を加えた銃弾を放った。

 弾丸はスクリューを破壊する。

 

「お見事」

 

 魔法で跳躍した寿和は一気に船へと飛び移る。

 そして船の甲板を斬った。

 

 だが。

 

「もぬけの殻……か」

 

 船底には海中に逃げるための穴が開いていた。

 もはや追跡は不可能だろう。

 

「さて……どこに逃げたかな?」

 

 そう言った寿和の目は、逃げたであろうとある方向を向いた。

 それは中華街だった。

 

 ◆◆◆

 

 新学期が始まる。

 新生徒会と新風紀委員も発足した。

 ……色々ゴタゴタがあったが、それはいずれ語ろう。

 

 新生徒会長になった中条あずさを筆頭に、副会長に司波深雪、書記に司波達也、会計は五十里啓となった

 ……まあこれも決まるのにゴタゴタがあった。

 特に会長と書記。

 

 新風紀委員長には千代田花音。

 他のメンバーに変わりはない。

 ……こちらは決まるのにゴタゴタはなかった。

 なのだが、この風紀委員長には致命的な問題があった。

 それは……。

 

「キャノン、書類仕事、やらない」

「だなあ」

 

 ため息を吐く立華とレイナ。

 

 渡辺が千代田を推薦してこうなった。

 千代田も渡辺を慕っているので、本人もすぐに引き受けた。

 腕っぷしも問題はない。

 だが、ある問題が発生した。

 

 それは事務仕事……要するに書類関係である。

 前までは風紀委員だった達也と3人でこなしていたので結構余裕があった。

 だが、達也が中条に勧誘され(深雪を押さえるためと書類仕事のため)、いなくなってしまった。

 更に書類仕事は千代田には向いていなかった。

 というかやらないし、捨ててはいけない書類捨てると言った事もやらかした。

 

 実は就任前に。

 

『ナベ先輩』

『どうした鷹山』

『キャノン先輩、風紀委員長?』

『……そのあだ名はやめてやれ。ああそうだ。私が推薦した。不満か?』

『不満ない。でも……』

『?』

『書類仕事、出来る人?』

『……』

『……(じー)』

『……(;^_^A』

『……(じーー)』

『……(;^_^A(;^_^A』

『……(じーーー)』

『……(;^_^A(;^_^A(;^_^A』

『……何か言ってくださいませんか?渡辺摩利さん?』

『キャー!?シャベッター!?』

 

 こんな会話があったのだ。

 

「あの時、止めていれば……」

「まあしょうがないよ」

 

 傍らでぶー垂れるレイナの頭を撫でる立華。

 

「しかも、タッツン、抜けた」

「……達也は抜けないで欲しかったな」

 

 達也の事務処理能力はすさまじい。

 なにせ生徒会に入って、その能力から1人だけ早引きが許可されたのだ。

 達也1人で事務仕事すべてが賄えてしまうのだから。

 

「「是非もないネ」」

 

 2人のセリフがハモった。




(ノッブ)<それわしのセリフ!?
(おきた)<いいじゃないですか。セリフだけでも出番があって。
(おきた)<私なんて私なんて……。うわーん(´;ω;`)
(・▽・)<こういう三文芝居を偶に入れますが気にしないでください。
(ノッブ)(おきた)<三文芝居!?


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第二節:幾つかの始まり 後編

(・▽・)<今回の話は「Prototypeto」と「蒼銀」
(・▽・)<そして「カルデアエース」と「ひむてん」のネタバレがあります。
(・▽・)<しかも結構根幹部分ですのでご注意を。

(・▽・)勿論「FGO」のネタバレもあります。
(・▽・)後書きには「とある事実」に対するネタバレがあります。
(・▽・)1部7章、2部No.1、No.2を未プレイの方はご注意を。

(・▽・)前置き長くなりましたが、どうぞ。


 さて。

 では問題の人物はどうしているのかと言えば。

 

 図書館地下二階で調べ物をしていた。

 生徒会の仕事を終わらせ、それから図書館に行くのは日課のような物だった。

 

「……」

 

 達也は何も喋らず集中している。

 だからこそ、彼は近づいてくる人物に気づかなかった。

 ……彼の名誉のために言っておくと、相手が悪意か殺意を持っているのなら気づいた。

 

「お兄様。よろしいでしょうか?」

「……!」

 

 急に声を掛けられ、驚く達也。

 声の方向を向くと。

 

「深雪か」

 

 最愛の妹がいた。

 

「はい。調べ物を中断させてしまい、申し訳ありません」

「気にするな」

 

 そう言って深雪の頭を撫でる達也。

 ……第一校では司波ブラコンシスコン兄妹と、千代田と五十里のカップル、立華とレイナの相棒コンビのスキンシップは黙認するのが暗黙の了解になっていた。

 

「ところで、何をお調べになられているのですか?」

「“エメラルド・タブレット”についてだ」

 

 その答えに深雪がふと思い至る。

 

「……そういえば最近ずっと錬金術の文献を調べておいででしたね」

「ああ。でも調べているのは錬金術ではなくて、“賢者の石”の精製方法だがな」

「……ですが、お兄様。確か……」

 

 この場で言うのは躊躇われたので、暗に匂わせる言い方をする深雪。

 なぜなら達也は「賢者の石」を持っている。

 立華から貰ったものである。

 

「色々アプローチしてみたけど、流石に実物だけじゃ精製できなくてね」

 

 苦笑する達也。

 合間を縫って解析しているのだが、どうもうまくいかない。

 

「一応アイツの“鯖”から聞こうと思ったんだが……」

 

 鯖。

 サーヴァントの隠語である。

 立華とレイナが偶に使うので、達也や深雪達も使う事にしている。

 

「曰く……俺と合わせづらいらしい」

「?」

「何でも作った人は悪巧み四天王の1人らしくてな」

「悪巧み……四天王……ですか?」

「立華曰く、いつも問題を引き起こす4人らしい」

 

 彼らには専用の対策マニュアルまで作られたほど。

 何か問題が起こるたびに疑われる4人である。

 メンバーは。

 

 SA156こと、悪のカリスマたる、名高き数学教授「プロフェッサーM」

 SA007こと、知略・弁舌・扇動の天才たる皇帝「赤セイバー(偽)」

 SA034こと、『物語』至上主義者の劇作家兼俳優「赤のキャスター」

 SA079こと、よかれと思ってしたことが火種となる医師にして錬金術師「P」

 

 である。

 ……真名は今は伏せさせてもらう。

 因みにこの4人が集まっていた場合は、即刻通報される。

 そして、この面々は自由に現界不可能。要するに出禁。

 立華が呼ばない限り現界しないし、させない。

 ……この4人以外にも出禁は何人かいるが、それはいずれ語ろう。

 

「あの……お兄様」

「どうした?」

「あの石を作った、医師であり、錬金術師ってまさか?」

「……ああ。“P”ってアイツは呼んでいたから十中八九“パラケルスス”だろうな」

 

 ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 十六世紀におけるルネサンス期の人物。

 医師にして錬金術師。

 「四元素(五元素)の再発見」 「三原質の再発見」を始めとして数多の功績と書物を残した人。

 達也や深雪も勿論知っている。

 

「アイツ曰く、自分の前のマスターを謀殺したうえに、その娘に呪詛を仕込んで、生きる屍にしたそうだ。更にとある鯖への贈り物にゾンビ作ったりとか色々」

「!?」

 

 思わず息を飲む深雪。

 

「……まあそこまでしたのは、“ある人物”の影響のせいらしいがな。ちゃんと反省はしているうえ……」

「うえに?」

「報いは受けたそうだ。聖剣に斬られ、再召喚時はその娘が召喚した“槍使い”にやられたそうだ」

「……」

「一応反省しているらしい……。こんな人物だから俺と合わせて何が起こるか予想不能らしくてな」

 

 一応、本人は教え導くことの喜びを感じる人物。

 「根源への到達」の動機も「遍く人々の安寧」の為であり、ただ愛し子を救いたいというだけである。

 そのため、秘匿するはずの神秘を人々に広める傾向があった。

 最終的には魔術を公表して、賢者の石の量産体制を作ろうとしたそうだ。

 そのせいで魔術協会によって放たれた刺客に殺された。

 全く抵抗せずに喜んで殺された。

 ……余談だが、マハトマのあの人も魔術協会に殺された。

 

 おい魔術協会。暗躍し過ぎだろう。

 

「……その“ある人物”とは?」

「あんまり教えてくれなかった。……先輩の1人だとかなんとか……」

 

(「なんでしょう?おぞましい感じがします」)

 

 達也の言葉にそんな事を思う深雪。

 因みに深雪の勘は大正解。

 

 初恋で愛に狂った全知全能。

 もし「妹」と「三騎士」が止めなかったら、被害規模は「人理焼却」とシャレにならなかった。

 因みに出会わないと干物女になる。

 それでもトゥリファスで大爆発が起こったらしいが。

 ……人理焼却と一地方大爆発のどちらがマシだろうか。

 

 閑話休題。

 

「そういえば深雪。俺に何か用があったんじゃないのか?」

「忘れてました!市原先輩がお探しでした。廿楽先生のデスクでお待ちになっていらっしゃると」

「そうか。わかった。深雪、悪いがこの鍵を返してきてくれないか?」

「かしこまりました」

 

 そういう訳で達也は廿楽の元へ、深雪は鍵を返しに向かった。

 

 達也が部屋に着くと、廿楽や市原だけでなく、五十里もいた。

 そして市原の要件はと言えば……。

 

「司波君に論文コンペティションの代表になって欲しいのです」

「!」

 

 驚く達也。

 

 何でも元々は市原、五十里、そして平河の3人でやるはずだった。

 ところが……。

 

「九校戦の一件で彼女は辞退を申し出てきまして」

「もしかしてCADへの細工の件ですか?」

「ええ。自分は全く気付かなかったのに、それに司波君が気づいたのにショックを受けたようでして。……一時期は体調も崩していたそうですし」

 

 ……これも本来の結果に比べればはるかにマシである。

 

 その時達也がふと気になった事を尋ねる。

 

「次点の人h」

「ダメです」

 

 言葉を遮ってまですぐさま否定する市原。

 どうやら手法と主張が真逆だそうだ。

 

「コホン。私のテーマは『重力制御式熱核融合炉の技術的可能性』です」

「!?」

「貴方のテーマと同じです。なので協力して貰えませんか?」

 

 その言葉に達也は。

 

「わかりました」

 

 引き受ける事にした。

 純粋に興味があったからである。 




【先輩】
立華のクラスの先輩達。何人かいる。
共通点として「角」と何かしらの「理」を持つ。

ただし角はⅣは幼体、立華は幼形成熟(ネオテニー)なためない。……一応Ⅳにはそれっぽいのは付いているが。

理は「憐憫」「回帰」「愛欲」「快楽」「比較」「愛玩」「慙愧」「共感」等々が現在確認されている(該当者が不明な物も書留)。

立華は現在自分の理を模索中(笑)。

そのためか彼は完全体ではない。と言っても不完全という訳ではない。強いて言うなら中間?自分でもよくわかってない。

因みに立華は先輩達それぞれに色々な感情を持っている。


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第三節:藤丸家のお茶会

「え!?論文コンペの代表!?」

「あくまで代理メンバーだけどな」

 

 放課後。

 いつものメンバーが立華の家(学校から近い上、通学路上にある)に集まり、皆でお茶とお菓子(クッキー沢山。エミヤのお手製)で会話を楽しんでいると、論文コンペの事が話題にのぼる。

 達也が選ばれたことに驚く幹比古である。

 

「でもかなりメンバーには変わりないじゃないですか。それってやっぱり達也さんの実力が認められたってことですよね」

「そうだよ。やっぱりすごいことだよ。大会の優勝論文は“スーパーネイチャー”で毎年取り上げられているし、二位以下でも注目論文が掲載されることも珍しくないくらいだから」

 

 美月と幹比古は達也が選ばれたことを純粋に驚いており、称賛していた。 

 

「でも確か……もうあまり日がないんじゃないですか?」

「確か後9日だな」

「間に合う、の?」

「ああ。元々進められていた物だしな」

 

 レイナの疑問に答える達也。

 夏休み前から進められてきたものなのだから。

 

「だから、俺達も警備するわけか……」

「あ、そっか。立華君とレイナは風紀委員だものね」

 

 エリカが思い出したように言う。

 それに立華とレイナは白い目をエリカに向ける。

 

「エリエリ、忘れてた?」

「そ、そんな訳ないじゃない……あはは」

「誤魔化せてないよエリカ」

 

 笑いながら誤魔化そうとするエリカにツッコミを入れる幹比古。

 

「お前達が警備に付くなら安心だな」

 

 達也の言葉にニヤリと笑う2人。

 

「任せろ」

「不審者、死刑」

「「「「「「殺すな!?」」」」」」

 

 レイナの言葉に全員ツッコミを入れる。

 

「冗談」

「「「「「「「……」」」」」」」

「代わりに拷問」

「「「「「「あんまり変わらない!?」」」」」」

 

 再びのツッコミ。

 それに話題を変えるためか、前に風紀委員に所属していた達也がある事を尋ねる。

 

「ところで立華」

「うん?」

「大丈夫なのか?書類仕事は?」

 

 その言葉にレイナが笑いながら答える。

 

「大丈夫。キャノン、言ってある」

 

(「アレ?先輩が消えているような……」)

 

 レイナは変な呼び名でほとんどの人を呼ぶが、一応学校の先輩には「~先輩」と言う風に呼ぶ。

 ……え?中条?アレはアレ。

 

「何を言ったのですか?」

「あのね……」

 

 ほわんほわんれいれい~

 

『キャノン。選べ』

『先輩が付かなくなった!?』

『付ける価値、ない』

『酷すぎる!?』

『1、書類仕事、2、拷問、3、半殺し、4、死刑』

『ちょっと待って!?選択肢がおかしいわよ!?』

『わかった。4だけなくす。これで平気』

『どこが!?』

『死なないよう、苦しめる、得意。ふーやちゃん直伝』

『前々大丈夫じゃない!?後、それ誰!?』

 

 回想終了。

 

「こんな感じ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 一同何も言えなくなった。

 

「元はと言えば、渡辺先輩が書類仕事のできる後継者を選ばなかったのが悪いと思う」

「そうよそうよ!全部あの女が悪いのよ!」

 

 そんな中立華が言った意見にエリカが同意した。

 しかもかなり力強く。

 

 因みにこのメンバーはエリカが渡辺の事を嫌っている事を知っている。

 だからあえて触れないようにしている。

 

「類友?」

「それが合ってるな」

 

 レイナの意見を肯定する立華だった。

 その時、立華がとある事を思い出した。

 

「あ、そうだ。渡辺先輩で思い出した」

「「「「「「?」」」」」」

「あの人から頼まれてるんだった」

「……何を?」

 

 立華の言葉にトーンを落としながら尋ねるエリカ。

 

「論文コンペの出場者には毎年護衛を付けるんだ。本人や機材、資料が狙われる可能性があるから」

「確かにそれはあり得るな」

「部活連か風紀委員が人を出すんだけど……」

「……もしや?」

「うん。俺とレイナが達也の警護を担当する事になった」

 

 因みに他の2人は……。

 市原が服部と桐原。

 五十里には千代田。

 妥当な判断である。

 

「まあ達也に護衛はいらないかもしれないけど……」

「「「「「「確かに!」」」」」」

「でも万が一、億が一ってあるからね。ほら夏休みにさ」

「「「「「「……」」」」」」

 

 立華の言葉に全員が思い出したのは春の”ブランシュの事件”と夏休みの”ある事件”だった。

 そこで彼らはサーヴァントに遭遇し、戦った。

 だが、全員ろくにダメージを負わせる事が出来なかったのだ。

 ろくに対魔力を持たなかったバーサーカー 島津豊久には多少のダメージは与えられたが、対魔力を持っていたセイバー ■■■■にはダメージが全く与えられなかった。

 達也の「分解」も、幹比古の「精霊魔法」、雫の「フォノンメーザー」すら効かなかった。

 恐らく立華がいなければ、今彼らは生きていなかったかもしれない。

 

「……何か起こるのか?」

「未来はわかる」

「「「「「「わかるのかよ!?」」」」」」

 

 全員咆える。

 

「でも知ったらつまんないだろ?だから見ないようにしているし、見たとしても匂わせる位でしか言えない。それが決まり」

「「「「「「……」」」」」」

 

 全員が立華の言葉に黙り込んでしまった。

 

(「……まあ言っても信じて貰えないかもしれないかもね。どこぞの“オジサンの妹”みたく」)

 

 口に出さず、心の声で付け加える立華。

 “彼女”は最後の予言しか信じて貰えなかったのだ。

 だが。

 

「ま、手の届く範囲は守ってやるさ」

 

 これだけはちゃんと言う。

 そして笑う。

 そのおかげで雰囲気が多少マシになった。

 そして、この日は解散となった。




【セイバー ■■■■】

原作で言うと短編集の北山家のプライベートビーチに愉快な仲間+αで行った時に出てきた鯖。

三騎士の一角。
勿論対魔力持ちなため、この世界の住人はかなり苦戦する。……まあこの人のは低めだが。それでも赤王並みにはあった。

「美味しいお米」や「ポンポコ」のように名前が2つある。片方はある程度知られている。。
ただし彼の宝具の剣の名前の方が有名。
恐らく本人より知られてる。



【オジサンの妹】

オジサンと言えばある特異点で登場したとある鯖。
戦士であり、政治家であり、軍団長でもある。

彼には弟と妹が多数いる。その1人。

鯖としてきたら恐らく「術」や「狂」。そして「讐」。逸話的に復讐者が似合う。

詳しくはググるなりして欲しい。

余談だが、とあるラノベでヒロインをしており、来月発売。どうなるかとても楽しみ。
そして、彼女が鯖として出て来る作品もハーメルンで掲載されているのでオススメ。

https://syosetu.org/novel/127408/


(・▽・)<次の話の更新は来週になります。
(・▽・)<まとめるのに手間取っています。
(・▽・)<申し訳ありません。(m´・ω・`)m


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第四節:八尺瓊勾玉 前編

(・▽・)<今回は「プリヤ」のネタバレがあります。
(・▽・)<そして。
(・▽・)<たたこ様が連載・完結した。
(・▽・)<「Fate/beyond【日本史fate】」の内容も少し含みます。

(おきた)<オリジナル聖杯戦争モノの中では
(おきた)<作者が特に好きな作品だそうです。
(ノッブ)<読んでいない者は読むと良い。
(ノッブ)<URLは下の通り。

https://syosetu.org/novel/25268/

(茶っ茶)<読んでね!
(・▽・)(おきた)(ノッブ)<どこから湧いた!?



「なあ立華」

「うん?」

 

 お茶会の後、司波兄妹を送る立華とレイナ。

 他愛ない話をしていると、達也が気になったのか「ある事」を尋ねる。

 

「ブランシュの時のバーサーカー、夏休みの時のセイバー。どちらも日本の鯖だったな」

「うん。そうだね」

「何か理由はあるのか?」

 

 その疑問に立華は少し考えると。

 

「ま、言ってもいいか」

 

 そう言う。

 

 そして、遮音障壁をレイナに張らせて、話し始める。

 

「元々、今回出てきている鯖ってあのカードが元になってるんだ」

 

 この話は2年前の「聖杯戦争」が終わった後。

 開催地の無人島は最上級のサーヴァントの「対界宝具」が幾つも炸裂したせいで文字通り消滅。

 なので、なんとか持ち出せた資料から分かった事。

 

「あのカードは”置換”しか出来ないとある一族の技術を応用して作ったんだ。でもそれだけじゃあの一族がやった事と変わらない。だからこそ、ある物を混ぜた」

「……ある物?」

「聖杯」

「「ブッ!?」」

 

 噴き出す司波兄妹。

 

「とは言っても願望機にならない欠片を培養……って言ったらどうなるかわからないけど、そうした物を利用したんだ。そんでその際使われた聖杯はある都市の聖杯でね」

「……」

「この聖杯はある地方都市の聖杯を参考に作った物で、出来が良かった。ちゃんと7騎呼べたし」

「……何かあったのでしょうか?」

「うん。日本の英霊しか呼べなかったんだ」

 

 とある聖杯戦争で来たのはある7騎。

 

 セイバーは大和最強の剣士。

 アーチャーは欠けぬ望月。

 ランサーは傷なしの具足武者。

 ライダーは開闢にして終焉。

 アサシンは伝説の大盗賊。

 キャスターは自由気ままな者。

 そして、バーサーカーは名前を言ってはいけないあの人。

 

「そして、その破片が元になった」

 

 そう言って改めて3人に目を移す。

 

「だからこそ日本の英霊しか呼べない。……微妙なのはワンチャンあるかもだけど」

「「「?」」」

 

 最後の言葉に首を捻る3人。

 この時立華は

 

 そんな訳で話していると。

 

「そろそろ家だな。もういいぞ」

「そう?じゃあ帰るか」

「うん」

 

 なので帰る事にする2人。

 

「じゃあ」

「またね」

 

 立華がレイナを抱え、跳びあがる。

 そして、夜闇に消えた。

 それを見送る2人。

 深雪がポツリと呟く。

 

「あの2人は普通に帰れないのでしょうか?」

「……」

 

 何も言えなくなった達也だった。

 

 そして2人で自宅のある通りに入ると……。

 

「「……」」

 

 門の前にコミューターが止めてあった。

 見覚えのある2人。

 

「あの人ですか……」

「あの人だな。外で待っている様子はないしな」

 

 自宅に帰りたくなくなる2人。

 だが、そういう訳にはいかない。

 なので。

 

「行くか……」

「お供します」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 気合を入れて家に入る2人。

 それを出迎えたのは……。

 

「お帰りなさい。相変わらず仲が良いわね二人共」

「此方に帰ってこられるのは久しぶりですね、小百合さん」

 

 司波小百合。

 2人の義母にあたる。

 

 元は兄妹の父の司波龍郎の同い年の恋人だったのだ。

 ところが、サイオン量の優れた人であったため、四葉深夜との縁談が持ち上がり、そちらを優先。

 その結果生まれたのが、達也と深雪である。

 

 その後、深夜が病死したのち、わずか半年で再婚。

 そのため、達也も深雪も小百合の事は父親の後妻としか思ってなく、深雪にいたっては小百合の事を快く思って無いのだ。

 

 そんな彼女の用事は。

 

 1つ目が、達也にフォア・リーブス・テクノロジー(英名:Four Leaves Technology、通称:FLT)に戻って貰う事。勿論高校を中退して。

 無論達也は即却下。

 小百合に言わせれば、遊ばせておく余裕はないそうだが、達也は遊んでいる訳でない。

 それに飛行デバイスなどで収益はあげているうえ、彼は深雪のガーディアンなので離れられない。

 

 2つ目が「ある物」の解析と複製。

 国防軍の依頼らしい。

 それは……。

 

「八尺瓊勾玉の聖遺物(レリック)ですか……」

 

 聖遺物(レリック)とは、魔法研究に従事する者の間で「魔法的な性質を持つオーパーツを意味する物質」のことを指す。

 現代科学技術でも再現が困難であるが故に「聖遺物」などと大げさな名前で呼ばれている。

 

 この勾玉には魔法式を保存する効果があるそうだ。

 

 その時達也が思い出したのは、自身の学友。

 アレは聖遺物(と呼べる物もある)のような物を沢山持っている。

 

(「もしかしたら、三種の神器を宝具として持っているかもな……」)

 

 内心苦笑する。

 

 立華は手札を隠している。

 だが、それ相応の手札を見せれば、ある程度なら見せてくれる。

 

(「アイツ、もしくはアイツの鯖なら複製できるかもな……」)

 

 そう思う達也。

 なので。

 

「なら第三課にでも渡しておいてください。あそこならしょっちゅう顔を出しますので。それとも聖遺物をお預かりしましょうか?」

 

 だが。

 

「結構よ!」

 

 肩を怒らせ席を立つ小百合。

 送ろうかと言ってもそれを断り、1人で帰ってしまう。

 

 なので達也は出かける準備をする。

 

「それからちょっと出かけてくるから」

「どちらに?」

「危機管理のなってない人のフォローに」

 

 そう言って苦笑する達也だった。




【微妙なの】

例えば……。

・複数の鯖が混ざったハイ・サーヴァントやアルターエゴ。

・海外出身者だが、日本に定着している者。もしくはその逆。

・二部No.2のアレ

この3例はワンチャン。



【最上級サーヴァント】

文字通り一騎当千のサーヴァント。トップサーヴァント。
大英雄。英雄の中の英雄。1人で戦況を変える事が可能。
『英雄王』や『神王』、『泥人形』などが該当。

2年前の聖杯戦争では敵としても味方としても登場。
味方は立華が召喚した。
呼び出された者は本気を出した。
……というか本気を出すに値すると英雄王が認めるほどの相手だった。
なにせ敵は『自分より古き者』と『遥か遠き物』なのだから。

因みに両方オリ鯖。
前者はある人が書いた聖杯戦争モノに登場。
後者は作者が考えた最強のサーヴァントの一角。


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第五節:八尺瓊勾玉 後編

(・▽・)<今話では
(・▽・)<マッスリー35世さんが連載中の
(・▽・)<「Fate/EXTRA -Moon sleeper-」から
(・▽・)<宝具をお借りしました。
(・▽・)<鯖も借りていると言えるかもしれません。

(・▽・)<この作品もオススメです。
(・▽・)<稀に挿絵もあり主人公の鯖が可愛いのです。


https://syosetu.org/novel/63953/


 そして、ゴタゴタがあり、自宅に帰って来た。

 

 え?ゴタゴタでは分からない?

 簡単に言うと……。

 

 小百合、勾玉狙いの襲撃犯に狙われる。

 達也、間に合って、全員撃退。

 ところが、そこへ狙撃を受ける。

 狙撃手を分解するも、実行犯には逃げられる。

 小百合、このままではヤバイと思ったのか、達也に勾玉を押し付ける。

 達也、後始末を風間に頼む。

 

「ただいま……」

「おかえりなさいませ。お兄様」

 

 出迎えたのは深雪。

 なのだが。

 

「起きていたのか?」

「まだ日付が変わる前ですよ?……あの2人なら寝ていそうですけど」

「それもそうだな」

 

 笑い合う2人。

 

 その頃の立華とレイナはと言えば。

 

「「ZーZーZー」」

 

 2人仲良く眠っていた。

 予想、大当たりである。

 

「ところでお兄様。それは一体?」

「これか?」

 

 深雪には隠す事ではないので、話す事にする。

 

「今回の依頼の品だ」

「全く……お兄様を何だと思っているのでしょう!」

 

 プリプリ怒る深雪の頭を撫でて宥めながら、達也は続ける。

 

「今回は面白そうだしな。これは魔法式の保存ができると言っていた」

「そうなのですか。ところでこれは?」

「八尺瓊勾玉のレリックだ」

「……なぜそれが?」

「国防軍に頼まれたそうだ。解析と複製をな」

「何て無謀な……」

 

 呆れる深雪である。

 確かに軍の要請は断れないかもしれない。

 それでもできる事できない事の区別位は付かないのか。

 そう思っていると。

 

「まあ、論文と並行して進めてみる。それと……」

「?」

「もしかしたら勾玉持っていそうな奴にも協力して貰おうと思っている」

「???」

 

 深雪は誰の事を言っているのかわからなかったが。

 

「立華の事だ」

「ああ!」

 

 達也に言われて思い出す。

 

「確かに宝具として持っていそうな気がします」

「……まあ期待は薄い気もするけどな」

 

 三種の神器と言う物がある。

 ……電化製品の事ではない。

 日本神話において、天孫降臨の時に、瓊瓊杵尊が天照大神から授けられたという鏡・玉・剣のことである。

 

 鏡は八咫鏡。

 玉は八尺瓊勾玉。

 剣は草薙剣。

 

 この3つである。

 とは言っても持ってきそうなサーヴァントは限られている。

 だからこその達也の意見だった。

 

「アイツは正直に言えば、答えてくれる。聞くだけ聞いてみよう」

「はい」

 

 そういう訳でこの日はもう寝る事にする2人。

 ……勿論別室である。

 あの2人とは違うのだ。

 

 そんな訳で翌日。

 

 あの2人はいつ登校するのかバラバラ。

 遅刻寸前も偶にある。

 なのだが、今回は達也が護衛対象。

 

「よお」

「タッツン、ミユキチ、ヘイヨーカルデラックス」

「「何その挨拶!?」」

 

 なので家の前にいた。

 待たずに済んだ。

 

「立華」

「どうした?」

「ちょっと話が合ってな。いいか?」

「学校でいい?」

「……盗聴対策をしてくれるなら」

「了解」

 

 そういう訳で4人仲良く向かう。

 そして、前に色々話した部屋に行き、人払いと遮音を行う。

 

「で?どうしたの?」

「実はな、……というかまず聞くぞ」

「?」

「俺がFLTに勤めているのは知っているか?」

「知らない」

 

 立華は人のプライバシーには立ち入らない。

 なので、必要以上の事は調べない。

 因みに立華とレイナは「FLT」や「ローゼン・マギクラフト」、「マクシミリアン・デバイス」といった有名企業位なら知っている。

 

「そ、そうか。まあ今は置いておこう。それで、その会社に依頼があってな」

「国防軍絡み?」

「……よくわかるな」

「勘」

「……。まあいい。それでとある物の解析と複製を依頼されてな」

 

 達也が小箱を出す。

 そして、蓋を開けた。

 

「……綺麗」

「勾玉?」

「……これ、もしかして八尺瓊勾玉?」

「ああそうだ。それでお前に聞きたい事があってな」

「解析と複製はやろうと思えば、出来そうなの紹介できるけど」

「……それもあるが、聞きたい事があってな」

 

 本題を切り出す達也。

 

「お前は宝具として勾玉持っていないか?」

「いるよ」

「!」

「なら見せて欲しい」

 

 即答する立華に驚く深雪と、直ぐに要請する達也。

 一方でレイナはしかめっ面をする。

 

「アイツ、呼ぶ?」

「今回は呼ばない。宝具だけ」

「「アイツ?」」

「持ち主だよ」

 

 そう言いながら立華は一枚のカードを出す。

 剣を持った騎士が描かれたカード。

 そのカードが光り輝き、具現化する。

 

「「「……!」」」

 

 立華の掌にあったのは勾玉だった。

 鮮やかな真紅の勾玉。

 思わず見とれる3人。

 

「お前らも知ってる三種の神器。それぞれ役割があるんだ」

 

 そう言って立華はもう2枚のカードを具現化させる。

 現れたのは宙を飛ぶ鏡と、少し無骨な剣。

 

「鏡は国を照らすための“日輪”の象徴」

 

 鏡は無限の魔力供給を行う。

 

「剣は国を守るための“護国”の象徴」

 

 剣はどんな嵐からも守る。

 

「そして、勾玉は、そんな二つの神器が喪失した場合の“代替(かわり)”を務める」

「「「代わり?」」」

「うん」

 

 そう言って立華は勾玉を作り替えた。

 その途端、勾玉は消え、彼の足に黄金の履物(くつ)が現れる。

 

「このように、アイツが見て、触れた物を再現可能なんだ」

「……アイツ?」

「持ち主」

「アイツ、嫌い」

 

 不機嫌そうなレイナを撫でながら、宝具をカードに戻す。

 

「どう?参考になった?」

「ああ、ありがとう」

「まあ、参考になったなら何より。……複製したいなら協力するよ」

「ああ」

 

 そうして朝の話は終わった。




【アイツ】

詳しい事は前書きより。

その作品の主人公が引き当てた鯖。

レイナと仲が悪い。

立華とは仲が良いがあくまで友達みたいな感じ。

鈴鹿や玉藻のような感じである。


【達也の解析能力】

立華と一緒に色々試した結果、神造兵装は無理だった。
 
そして……『乖離剣』に至っては失明しかけた。

後で、達也は深雪にすっごい怒られたらしい。



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第六節:買い物

「それにしてもさ」

「花音?どうしたの?」

「いやね、司波君が深雪さんと、藤丸君がレイナさんと一緒に行動していないのは珍しいなって思って」

「四六時中一緒にいる訳じゃないですよ。なあ達也」

「ああ」

「それに千代田先輩の事をレイナはあんまり好いていませんし」

「……」

 

 必要な物の在庫が切れてしまい、買い物に行く事にした達也。

 一応警護なので付いていくことにした立華。

 そこへ五十里が達也1人に任せる訳にはいかないという訳で、一緒に行くと言い出した。

 彼が行くとなれば、当然のその警護兼恋人の千代田も同行する。

 なので。

 

『わたし、残る』

 

 そういう訳で、達也、立華、五十里、千代田の4人で出かける事になった。

 その際の会話である。

 

「花音は嫌われているのかい?」

「千代田先輩は書類仕事やらないんで」

「花音……」

「だ、だって摩利さんは藤丸君やレイナさんに任せていたし、本人も納得していたんでしょ?」

「違うでしょ?それにその時は達也君もいたからいいけど、今は居ないんだよ?」

「……そ、それは……」

 

 流石に恋人に小言を言われると縮こまってしまう千代田。

 

 

「で、でも、書類仕事か、拷問か、半殺しを選べって酷いでしょ?」

「ご、拷問!?」

 

 驚く五十里。

 だが。

 

「酷くない」

「酷い!?」

 

 立華の容赦ない言葉に落ち込む千代田。

 それに構わず達也が尋ねる。

 

「拷問はともかく、最近の先輩はどうなんだ?」

「レイナがやらせてる。さっき言った選択肢上げて、椅子に縛り付けて、鞭持って」

「どこの女王様だ!?」

 

 達也のツッコミに立華はニッコリ笑って答える。

 

「コノートの女王様」

「えらく具体的!?」

 

 かしずきなさいな、ほら早くぅ!

 by恋多き少女。永久の貴婦人。

 

 レイナは何故か彼女とは結構仲が良かった

 

(「偶によくわからない交友関係ってあるよね」)

 

 例えば。

 メイヴは同性とも異性とも仲が悪いが、マリーやインフェルノとはよく話している。

 特にインフェルノとはよく飲んでいるらしい。

 未亡人同士気が合うのだろうか?

 

 そんな事を思う立華だったが。

 

「……」

 

 気づく。

 自分達に向けられた視線に。

 なので……。

 

(「どれにしようか……」)

 

 出す手札を考えていると。

 

「立華」

「わかってる」

 

 達也も感づく。

 流石ガーディアンである。

 2人の様子がおかしい事に五十里も気づく。

 

「どうしたの?」

「どうやら監視されてるようです」

 

 達也の言葉に驚く2人。

 

「!」

「監視ですって!?」

「そんな大声で言うt」

 

 立華が懸念が途中で止まる。

 案の定、千代田の大声に監視者に気づかれる。

 

 飛んできたのは煙幕と攻撃魔法。

 だが、どちらも……。

 

「ホイホイっと」

「先輩!」

「任せて!」

 

 煙幕は立華が吹き飛ばし、攻撃魔法は千代田が弾く。

 相手は更に攻撃を仕掛けようとするが。

 

「!?」

 

 達也が文字通り起動式ごと吹き飛ばす。

 

 相手は攻撃を諦め逃げようとする。

 スクーターに跨ろうとする。

 

「この!」

「花音!?地雷原は不味いって!?」

 

 千代田の魔法を止める五十里。

 使ったら、スクーターが大破する。

 

「でも……」

「だからこうする」

 

 そう言って五十里が発動させたのは〈伸地迷路〉。

 放出系の魔法で、摩擦力を近似的にゼロとすることにより、車輪で走行する輸送機械を行動不能、あるいは制御不能に追い込む魔法。

 複合的に放たれるジャイロ力増幅の魔法によりスクーターは倒れることも出来ない。

 

 立ち往生するスクーター。

 これで安心かと思われたが。

 

 ボン!

 

「「「!?」」」

 

 スクーターに積まれていたロケットブースターが作動。

 噴煙に紛れ、そのまま走り去ろうとする。

 

 スクーターにロケットブースターを付けて、確かにスピードは出る。

 だが、爆発する危険もあるし、真っ直ぐ進むとは限らない。

 それでも監視者は賭けに勝った。

 そのまま走って逃げようとする。

 

 もしこの場に五十里、千代田、達也だけだったら、逃げきれていただろう。

 だが、ここにはもう1人いた。

 藤丸立華である。

 

「フフ、ささやかに」

『愛そうか、殺そうか』

 

 とある英霊の力を借りる。

 今回借りたのは……。

 

 恐るべき女王。

 氷雪の女神。

 彼女の〈原初のルーン〉を借りる。

 

 指揮棒のような物が立華の手に握られている。

 それがポインターのようになり、バイクに文字を書く。

 そして。

 

「!?」

 

 スクーターが氷漬けになる。

 爆発物は凍らせる手段も一般的。

 ついでに監視者も凍る。

 

 その結果を見て。

 

「よし!」

 

 立華が満足そうに言うが。

 

「「いやいや!?ダメでしょ!?」」

 

 ツッコミを入れるカップル。

 だが、達也は。

 

「でも捕まえられたので……。結果オーライですよ」

 

 そう言ってフォローした。

 

「で?融かせるんだよな?」

「……」

「「「おい!?」」」

「冗談です♪」



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第七節:拷問技術

 とりあえず学校に連絡し、氷を融かして(結構苦労した。4人がかりでどうにか融かせた)、監視者を救出。

 

 その監視者を改めて観察。

 制服は一校の物であり、エンブレムがない。

 二科生の女生徒だった。

 

「で?誰?」

「俺は知らん」

「あたしも」

 

 立華の疑問。

 その疑問に達也も千代田も答えられない。

 だが、それに答えられる人がいた。

 

「彼女は平河千秋さんだよ」

 

 五十里だった。

 

「知り合いですか?」

「……直接の面識はないんだけどね」

 

 立華の疑問に少し苦い顔をしながら答える五十里。

 

「もしや平河小春先輩の?」

「うん妹さん」

 

 達也の出した名前に千代田の頭上には疑問符が浮かぶが、立華は聞き覚えのある名前にう~んとなる。

 

「誰だっけ?」

「小早川先輩のエンジニアだった人だ」

「ああ!」

 

 思い出す立華。

 細工された時現場にいた人である。

 

「あの時、平河先輩は小早川先輩のCADの不正工作を見抜けなかった。まああの時は藤丸君や司波君のおかげで大事には至らなかった。でも彼女は一時期体調を崩していたんだ」

「「「……」」」

 

 もし立華や達也が気づかなければ、小早川は魔法師としては終わっていたかもしれない。

 

「だからこそ……」

「俺か達也を狙った……というわけか?」

「なにそれ!完全な逆恨みじゃないの!」

 

 立華の言葉にプリプリ怒る千代田。

 

「まあ人ってそう言う物ですよ。何かを恨まなきゃ、誰かのせいにしなきゃ、やっていられない時がありますし」

「「「……」」」

 

 立華の言葉に全員が黙り込む。

 そして。

 

「とりあえず専門家に見て貰いましょう。もしかしたら精神干渉されているかもですし」

 

 そういう立華に千代田が尋ねる。

 

「ねえ藤丸君」

「はいー?」

「君さ、年齢誤魔化して学校通ってない?20歳位」

「アッハッハッハ」

 

 そんな事ないと言う風に笑う立華。

 

 因みに千代田の指摘は半分正解である。

 立華の実年齢はもう少し上である。

 

(「でも10は行き過ぎ。もうちょっと下ですよ」)

 

 そんな事を内心思っている立華だったが。

 

「……まあ司波君もそうだけど……」

「「確かに」」

「……」

 

 千代田のコメントには五十里と共に頷いた。

 何も言えなくなった達也だった。

 

 ◆◆◆

 

 その後、連絡を受けた学校側から迎えが来た。

 その人達に平河千秋の事と、氷漬けのスクーターを任せ、学校に戻る。

 するとそこには……。

 

「おや、皆さん御揃いで」

 

 論文コンペの主要人物や七草達幹部が勢ぞろいしていた。

 平河小春もいた。

 

 暫く誰も何も言わなかったが。

 

「ごめんなさい。ウチの妹が迷惑かけて」

 

 小春が頭を下げる。

 

「あの時、私はCADの不正工作を見抜けなかった」

「アレは仕方ないですよ。昔日本の魔法師を散々苦しめたSB魔法らしいですし」

 

 あの時仕込まれていたのは「電子金蚕」。

 有線回線を通して、電子機器に侵入し、ソフトウエア自体を改ざんするのではなく、電気信号に干渉し、これを改ざんする性質を持つ。

 そのため、OSの種類を問わず、またアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子機器の動作を狂わせるのだ。

 烈から色々聞いている彼である。

 

「でもそれに貴方達は気づいたじゃない?」

「あくまで勘ですよ?俺は」

「……ええ。でも司波君」

「はい?」

「貴方はしっかりと気づいた。そして、何かもわかってたじゃない?」

「あくまでSB魔法という事がわかっただけです。アレの詳しい事までは知りませんでしたから」

「それでも私にはわからなかった」

 

 落ち込む小春に対して、五十里が発言する。

 

「それは僕達も同罪だ。全く気付かなかったんだから」

「啓。気にしちゃダメだよ。司波君がおかしいだけなんだから」

「千代田先輩?」

 

 千代田の失礼な発言に深雪の声が据わる。

 室内の気温が下がる。

 

「ミユキチ、冷静に」

「……」

「キャノン、恋人、フォローした、だけ」

「そうですね……。すいません。取り乱しました」

 

 レイナの言葉に深雪の怒りも収まる。

 

「それで?下手人は?」

「げ、下手人……」

「ま、間違っていないけど、もう少しオブラートに包みましょう」

 

 レイナの余りの言いように、呆れる渡辺と七草。

 

「今は保健室にいます。眠っていますね」

 

 市原の答えにレイナは部屋を出ようとする。

 

「そ。じゃあ、いってくる」

「「「「「「どこへ!?」」」」」」

 

 どこかへ行こうとするレイナを止める一同。

 

「尋m……、拷問」

「「「「「「余計に酷くなってる!?」」」」」」

「大丈夫。ちゃんと、持ってる」

 

 そう言ってレイナが懐から出したのは奇妙な道具だった。

 洋梨型の金属製の道具。

 それの正体を知っている立華が呆れる。

 

「……何で持ってんだ」

「ふーやちゃん、くれた」

 

『丁度余っておる。お前にやろう』

 

 そんな感じでとあるアサシンのサーヴァント……ふーやちゃんと呼ばれている凄惨な拷問大好き少女から貰ったそうだ。

 

「やめてやれ」

「……なにそれ?」

「……苦悩の梨です」

 

 立華の答えにほとんどの人の頭上には疑問符が浮かぶ。

 だが数人の顔が歪む。

 どうやら正体を知っていたらしい。

 その後、立華の説明に全員顔が引きつったのは余談だろう。

 

「大丈夫、死にはしない」

「「「「「「やめろー!?」」」」」」

 

 そのまま部屋から出ていこうとしたレイナを全員で止めた。




(・▽・)分からない人はググってください。


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第八節:姉と妹

(・▽・)<皆さんはNo3クリアしましたか?
(・▽・)<こちらは自然回復で
(・▽・)<三日ほどでクリアです。
(・▽・)<タゲ取り鯖と下姉様、殿ヘラに助けられました。
(・▽・)<今週中はフリクエをやります。

(・▽・)<さて本題です。
(・▽・)<実は今回のFGOのストーリーを見て
(・▽・)<今章の内容を幾らか改訂しようかと思ってます。
(・▽・)<だってほら、横浜編の敵がアレですので、
(・▽・)<ちょっと中華鯖を出したくなったので。

(・▽・)<なので……まだ先ですけど。
(・▽・)<時間を貰いたいと思います。
(・▽・)<なので更新ペースが遅くなるか、
(・▽・)<空白期間が空きます。
(・▽・)<する際は事前連絡はしますので。

(・▽・)<ご了承ください。


 その後、千秋の意識が戻ったと言う報告がなされる。

 なので、何人かで向かう事になる。

 

 勿論。

 

『『『『『『お前はダメだ!!!!!!!』』』』』』

 

 レイナは満場一致で同行を却下された。

 

 そういう訳で千代田と五十里、立華、小春が保健室に行くことになった。

 

「残念……」

 

 少し悲しそうなレイナ。

 

「せっかく、試そう、思ったのに」

「「「「「「ヤ・メ・ロ!」」」」」」

 

 全員咆える。

 そんな中渡辺が尋ねる。

 

「……なあレイナ君」

「なに」

「拷問は一体誰に習ったんだ?」

「ふーやーちゃん、ミラさん、副長」

「「「「「「誰?」」」」」」

「リッカ、知り合い」

 

 嘘ではない。

 

「「「「「「ああ……」」」」」」

 

 全員納得してしまった。

 

「立華君なら奇妙な知り合いがいてもおかしくないものね」

「確かにな」

「ええ」

 

 七草の言葉に渡辺と市原が同意する。

 そんな中で。

 

「……それにしてもあの4人で大丈夫なのか?」

 

 十文字の呟きが漏れた。

 

 ◆◆◆

 

「う……ん……」

 

 意識が浮上する。

 確か自分は……。

 

「目が覚めた?」

「姉さん……?」

 

 自身の姉が目の前にいる事から色々思い出す千秋。

 確か自分は、妨害工作を行おうとして、見つかり逃げた。

 だが、そこから記憶がない。

 

「よかった。異常や後遺症なさそうで」

 

 そう言ってのは立華。

 腕を組んで壁際に立っていた。

 それに気付く千秋。

 

「悪いね。捕まえる為に氷漬けにしちゃって」

「こ、氷!?」

 

 驚く。

 何かされたとは思っていたが、まさか凍らされていたとは。

 

「アレ凄かったよね!いきなりピキンって」

「花音……」

「でもアレ一体何したの?」

 

 呆れ気味の五十里に構わず、千代田が質問を立華にぶつける。

 それに立華はふんわり微笑み指を口に当てる。

 

「ないしょです」

 

 それだけ言う。

 少し不満そうな千代田。

 それに構わず、立華は小春に視線を向ける。

 すると小春はわかったというように頷き、自身の妹に視線を向ける。

 

「ねえ千秋。何でこんな事したの?」

「……」

「千秋!」

 

 何も言わない妹に、声を荒げる姉。

 そこへ。

 

「論文コンペを妨害したかったの?」

 

 千代田が尋ねる。

 どうやら少し怒っている。

 それは当然だった。

 何せ恋人の晴れ舞台を邪魔されかかったのだから。

 

「だとしたら、y」

 

 許さないと続けようとしたが。

 

「違います!」

 

 千秋が強く否定する。

 それに毒気を抜かれる千代田。

 

「私はアイツにさえ一泡吹かせられればそれで……」

「「アイツ?」」

 

 小春と千代田の頭上に疑問符が浮かぶ。

 一方、男子2人にはわかっていた。

 

「司波君の事だね」

 

 五十里の言葉に千秋の顔が歪む。

 あっとした顔になる女子2人。

 そして、千秋が口を開く。

 

「全部アイツが悪いのよ。本当は実力があるくせに。それを隠して、影で皆を嘲笑っているんだわ」

 

 そう言って自身の姉の事を見る。

 

「姉さんだって体調崩した。そして論文コンペを辞退した。どれもこれもアイツのせいよ。……”あの人”もそう言っていたわ!」

 

(「あの人?誰だ?」)

 

 立華が内心首を捻る。

 だが、他の3人はその事に気づかなかった。

 

「だからこそ一泡吹かせられればそれで……」

「千秋!」

 

 怒る小春。

 だが、それを制するのは立華。

 

 懐から眼鏡を出すとかける。

 

 

「平河先輩。あんまり強く言わないで上げてください」

「え?でも……」

「どうやら誘導された節がありますし」

「!?」

「……マインドコントロールかい?」

「はい。恐らく」

 

 そして、そのまま千秋を見つめる。

 

(「な、何この目……」)

 

 立華の目に気味悪さを覚える千秋。

 全てを見透かされている気がした。

 

―――スキル〈人間観察〉

 

「お前はただ嫉妬しているだけだ」

「え……」

「自分と同じ二科生なのに評価されている達也を」

「そ、それは……」

 

 畳みかける立華。

 

「確か理論の成績は上位に入っていたな」

「な、何で知っているの?」

「上位者は張り出されるだろう?今思い出した」

「「「今!?」」」

「茶々いれんでください、先輩方」

 

 オホンと咳払い。

 

「だからこそ自分と同じ二科生なのに全てを凌駕している達也に嫉妬しているんだろう?」

「……いや」

「先輩の件は言い訳に過ぎない、あくまで達也に対する敵愾心から今回の件を起こしたんだろう?」 

「言わないで!」

 

 叫ぶ千秋。

 そこへ。

 

「はい。これ以上はドクターストップ」

 

 そこへ保険医の安宿が止める。

 なので。

 

「わかりました。では失礼します。……平河先輩」

「何?」

「お互いゆっくり話してみてください。姉妹仲良くが一番ですから」

 

 彼の鯖で兄弟姉妹で殺し合いをした者が幾らかいる。

 「ローマ!」などがいい例。

 今でも彼は悔やんでいる。

 

 

「……ありがとう」

 

 立華の言葉に平河が少しだけ微笑んだ。

 そういう訳で、立華と五十里、千代田は保健室から戻って報告をした。

 その後、千秋は国立魔法大学付属立川病院へ入院することが決まった。




(・▽・)<拷問三銃士を紹介します!
(おき太)(ノッブ)(茶っ茶)<拷問三銃士!?

(・▽・)<新選組副長、土方歳三。
(ヒッジ)<ここが、新選組だ!
(おき太)<土方さん!?何しているんですかあ!?

(・▽・)<合理主義者の女帝、ふーやちゃん。
(ふーや)<妾が真名を明かせば、貴様らなぞ脚ガクガクじゃぞ?
(茶っ茶)<……そうかのう?

(・▽・)<あらゆる拷問の専門家。カーミラさん。
(みらー)<……何、私のこの扱い!?
(ノッブ)<…………。是非もないネ。


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第九節:二つ名とRPGと髭

 平河千秋の件があった翌日。

 最近は集まる事が無かった「お兄様の愉快な仲間達」が久しぶりに揃い、下校していた。

 

 因みにメンバーは……。

 司波兄妹、エリカ、美月、レオ、幹比古、雫、ほのか、立華、レイナである。

 

 ここ最近起こった事で、昨日の事も話題にのぼる。

 

「マインドコントロールか……」

「まあ、そこまでじゃなくて意識操作位だと思うけどね。でも問題は……」

「誰がやったかという事だね」

 

 それが問題である。

 そんな事が普通の人に出来るとは思えないうえに、やれるとしても普通はやらない。

 

「立華君も出来たりする?」

 

 そう聞いて来たエリカに立華は。

 

「アッハッハッハ」

 

 ただ笑っただけだった。

 

(「あ、コレ絶対にもっと悪い事が出来るな」)

 

 内心そう思う数名である。

 因みにその通りである。

 

「まあ、問題は平河千秋が言っていた”あの人”がどう動くかだな」

「どうって?」

 

 首を捻る雫にレイナが答える。

 

「裏、暗躍、する人、正体、バレたくない。だから、再び接触。記憶改竄、もしくは……」

 

 そう言ってレイナは親指を自身の首に向け、首を切る動作をする。

 それを見た数人の顔が引きつる。

 

「ひっ」

「……口封じ?」

「うん」

 

 全員黙り込んでしまう。

 

「ま、そんな事させないけどねえ」

 

 そんな雰囲気を払しょくするかのように立華が笑う。

 

「病院に忍び込ませとく。そうすれば大丈夫さ」

 

 そう言ってカードを出す。

 背中合わせのピエロのカード、髑髏の仮面を付けた人のカード、獣の毛皮を被った戦士のカードだった。

 この3人は全員が変身能力を持っているうえ、結構強い。

 

 それを見た何人かの表情が和らぐ。

 するとエリカがぼやく。

 

「本当に立華君って何してくるか分からないものね」

「まあね」

「ビックリ箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)とか言われているわよ」

 

 魔法師には異名や二つ名が付く事がある。

 

 例えば……。

 一条将輝だったら、「佐渡侵攻」の際、敵味方の血にまみれて戦い抜いた逸話から「クリムゾン・プリンス」。

 十三束鋼だったら、遠隔魔法が苦手と揶揄されるが、ゼロ距離では無類の強さを発揮するという敬意も込められて「Range Zero(レンジ・ゼロ)」。

 

 そして、九校戦の活躍で立華に付いたのは「ビックリ箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)」だった。

 何をしてくるか一切予測できないからだった。

 

 その二つ名を聞いた立華は何とも言えない表情をして。

 

「……まあパンドラの箱よりはいいかな。うん」

 

 ある存在を思い出し小声で呟いた。

 

 そしてエリカは続けて言った。

 

「RPGで言うなら……、何だろう?達也君ならすぐに思いつくんだけど……」

「達也ならラスボスじゃないか?」

 

 立華の答えに数人噴き出す。

 そこから色々な意見が出る。

 錬金術師や賢者、裏ボス等々。

 それに怒りだしたのはほのか。

 

「何で勇者って選択肢がないんですか!」

「いいんだよ。ほのか。自覚はあるから」

「あるんだ(笑)」

「……」

「力こそ正義です!お兄様」

 

 そんな感じで楽しく下校していたのだが。

 ある事に気づき、数人の表情が少し変化する。

 達也、レオ、エリカ、幹比古、立華、レイナ。

 武闘派(?)である5人。

 最初に切り出したのは達也。

 

「ちょっと寄っていかないか?」

 

 行きつけの喫茶店が見えたので、そこに寄る提案をする。

 

 この喫茶店は「アイネブリーゼ(Cafe Einebrise)」。

 東京都八王子にある喫茶店である。

 「Einebrise」はドイツ語で「微風」と言う意味があり、レオの祖父がドイツ人なので、親近感を覚え、通い始めた。

 そのため、他の面々も立華の家に行かない時にお茶をする場合はここになる。

 なのだが。

 

「ここかあ……」

 

 立華の顔が少しだけ歪む。

 彼はここのマスターがあんまり好きではないのだ。

 その理由は……。

 

「おや、いらっしゃい」

 

 店に入ると出迎えてくれるマスター。

 年齢は30になるかならないか程度。

 ドイツ系のクォーターらしく、容姿は髪の毛は灰色、瞳は黒。

 顔立ちは東洋系で、優男風のハンサムフェイス。

 

 ここまでなら問題ないのだが、ある一点。

 髭が生えている。

 それが問題だった。

 顎鬚を生やしていた。

 因みに達也や美月からも不評である。

 

 そして立華は髭にあんまり思い出がない。

 

 「新宿」では「アラフィフ」に裏切られ、街ごと殺されかかった。

 「アガルタ」では「ドリカム」に裏切られ、彼の従える大英雄に殺されかかった。

 「下総」では「御留流」に裏切られ、斬られかかった。

 

 無論その後3人共召喚して仲間となった。

 そのおかげで今も呼ぶ事はある。

 ……問題児である上記2名は滅多に呼ばないうえ、出禁である。

 だがやはり……。

 

「髭……いやだなあ。切ってくれません?」

 

 立華の言葉にマスターは苦笑してしまった。




(・▽・)<病院に忍び込ませる3人が誰かはわかりますか?
(・▽・)<1番目はEXTRA CCC Fox Tail
(・▽・)<2番目は言わずもがな。
(・▽・)<3番目はstrange Fakeの鯖です。

(・▽・)<そして、あの髭の3人が誰の事かはすぐにわかりますよね?
(・▽・)<特に漫画化が決まった3つの亜種特異点をやっている方は。


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第十節:人は食っても食われるな

(・▽・)<この作品の主人公は
(・▽・)<本来のぐだお(172cm)より小柄で
(・▽・)<ぐだこ(158cm)より少し大きい位です。


 そんな訳で喫茶店でコーヒーやお茶を注文する。

 暫く他愛ない話をしながら、ティータイムを楽しんでいたが。

 

「ちょっとお花摘んでくるわね」

 

 エリカが席を立ち。

 

「ちょっと出て来るわ……」

 

 レオが端末を持って外に出る。

 

「こう、こうっと」

 

 幹比古が何かを書き始める。

 

 それに達也が。

 

「あまり目立たないようにな」

 

 忠告する。

 そして、端末を使い、どこかにメッセージを送る。

 

 それに疑問符を浮かべたのは美月、ほのか、雫。

 わかっているのはレイナ、立華、深雪。

 

 暫くして。

 まだエリカとレオも帰ってこない。

 そんな中、立華も席を立つ。

 

「どこ、行く?」

「熔岩水泳部の真似」

「「「「「「「熔岩水泳部って何!?」」」」」」」

 

 立華の答えに一同がツッコミを入れる。

 だが、それに答えず立華は店を出た。

 

 ◆◆◆

 

 エリカとレオの用事は、後を付けている中年の男の尋問だった。

 その男はジロー・マーシャル。

 魔法科高校の生徒を経由して、最先端魔法技術が東側に盗み出されないよう監視し、軍事的な脅威となり得る高度技術が漏えいした場合は対処するのが仕事であり、エリカとレオに注意するように忠告。

 そして、隙を見てエリレオコンビ(レイナ命名)から逃げ出す。

 

「何とか巻いたか……」

 

 そう思った時だった。

 人の気配を感じる。

 前方を向くとそこには男が立っていた。

 

 180cm後半の慎重に、引き締まった体付き。

 容姿はハンサムでもなければ醜くも無い東洋人風の顔。

 年齢は20歳中頃だろうか?

 

 ジローはその男を知っていた。

 

「呂剛虎……!」

 

 呂剛虎(ルゥ ガンフゥ/リュウ カンフゥ)。

 大亜細亜連合に所属する軍人。

 対人接近戦等で世界の十指に入ると称され、「人喰い虎(The man-eating tiger)」とも呼ばれている。

 

「な、なぜここに……」

 

 ジローは化学的な処置により身体能力と耐久性を高めた強化人間である。

 だが、こんな怪物には勝てない。

 それでも戦おうとしたその時。

 

「ふう。間に合った」

 

 妙に間延びした声が聞こえた。

 それもかなり近くから。

 目線を向けると、いつの間にか真後ろに人がいた。

 その人物はジローの前に出る。

 

 先程話した男女二人組と同じ第一校の制服。

 浅黒い肌と白い髪の毛。

 背は160cmを超えた位。

 藤丸立華だった。

 

「な、なぜここに!」

「オレ、ストーカーするのも、されるのも得意なんです」

 

 全く自慢にならない事を言ってケラケラ笑う立華。

 そして、呂剛虎の見据える。

 

「さて、お兄さん。どうする?」

 

 立華の不敵な笑みに、呂剛虎は凶悪な笑みで返す。

 

「下がっていた方がいいですよ。おじさん」

 

 立華がジローに視線を向け忠告する。

 

 その隙に一瞬で間合いを詰める呂剛虎。

 そのまま突きを放つ。

 その突きを横から撃ち落とす立華。

 

 そのまま接近戦に突入する2人。

 呂剛虎が攻勢、立華が守勢だった。

 

 呂剛虎は腕や脚を使い猛攻を加える。

 勿論魔法も使用。

 〈鋼気功〉……気功術を元にして皮膚の上に、鋼よりも硬い鎧を展開する魔法を発展させたものを展開しているので、恐ろしく硬い。

 鎧を纏って殴って来るような物である。

 

 立華はその猛攻を捌く。

 時に拳、時に蹴りを仕掛ける。

 魔法は使わない。

 だが、いつも展開している宝具に〈心眼〉の効果はあるので、何とか捌ける。

 

(「やるなあ、この人」)

 

 内心感心する。

 誰かは知らないのだが、恐らく近接戦闘なら世界屈指の実力者かもしれない。

 

 そのまま暫くバチバチやりあう。

 だが、お互い決め手がない。

 そして。

 

「バリツ!」

「!」

 

 立華の蹴り。

 腰の入って無さそうな蹴りだが、意外に入っている蹴り。

 全身の力を込めた一撃。

 それを呂剛虎は両手を交差し防ぐ。

 ダメージはないが、吹っ飛ぶ。

 

「なあお兄さん」

 

 そんな彼に立華は声を掛ける。

 

「退いてくれないか?このままだとお互いただじゃすまない。わかるだろう?」

「……」

 

 呂剛虎の戦意が霧散する。

 どうやら退いてくれるらしい。

 後ろを向いて去ろうとする。

 

「待った」

 

 そんな彼を引き留める。

 顔に疑問符を浮かべながら振り向く呂剛虎に笑って告げる。

 

「次はお互い全力で戦ろうや」

「……!」

 

 立華の言葉に虎のように笑う呂剛虎。

 そして、その場から消えた。

 

 気配が完全に消えた所で、ジローの方を向き。

 

「……暫く身を隠した方が良いと思いますよ?」

「……ああそうだな」

 

 忠告を素直に受け取るジロー。

 そんな彼に立華は尋ねる。

 

「ところで、アレ誰だか知ってる?」

「……知らなかったのか……?」

「はい」

 

 ジローは答える。

 隠す事でもなかったからだ。

 その後、ジローがその場から消えるのを確認すると。

 

「何かヤバそうだな……」

 

 一言呟いた。




(きよひ)<逃しません。
( 母 )<手(すさ)びのようなものですが。
(ジール)<あなたは生きますか?

(・▽・)<以上、溶岩水泳部♪



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第十一節:報告、その後

「ただいま~」

 

 喫茶店に戻る。

 すると全員戻っていた。

 

「遅かったな」

「何か、あった?」

 

 達也の言葉とレイナの疑問。

 全員視線を向けており、気になっているようだ。

 それに立華はどう言うか迷い。

 

「虎と戦った」

 

 そう言う事にする。

 ガオーを入れるのも忘れない。

 

「「「「「「虎?」」」」」」

 

 その言葉に雫、ほのか、美月、深雪、レオ、幹比古には疑問符が浮かぶ。

 一方、エリカの顔は驚愕が浮かぶ。

 そして、立華に尋ねる。

 

「ねえ立華君」

「うん?」

「もしかしてその虎って人を食う?」

「よくわかるな!そうだよ」

 

 その答えにエリカの口元に笑みが浮かぶ。

 

「へえ……」

 

 そう言って黙り込んでしまう。

 その言葉で達也も正体を察したのか。

 

「……よく生きてたな」

「状況が状況だったからね」

 

 感心したように言う達也に答える立華。

 

「誰?」

 

 レイナの言葉に。

 

「呂剛虎。人食い虎とも呼ばれている魔法師よ」

 

 エリカが説明する。

 やっぱり知っていたらしい。

 

「もしかして修次さんばりに強い?」

「ええ。次兄上……じゃなかった二番目の兄貴とは3m以内の間合いでの戦闘ならどっちが強いか話題になるほどよ」

「道理で……」

 

 実は立華は夏休みにエリカの自宅にお邪魔したのである。

 その際に偶然彼女の2人の兄が揃っていたのだ。

 因みにその時、立華にはあるサーヴァントが同行しており、剣術勝負が勃発したが、それはいずれ語ろう。

 

「というか立華君戦ったの?」

「まあ、多少殴り合って位」

「!だ、大丈夫なんですか?」

「平気。お互いそんなにダメージなし」

 

 ほのかの心配そうな声にひらひら手を振って答える。

 

「でもさ」

 

 そんな中で雫が発言する。

 

「これ、本格的に不味くなってない?」

「「「「「「……」」」」」」

 

 全員黙り込んでしまう。

 そんな大物が動いているとは、かなり大きな事態になっているようだ。

 

「何か、起こる?」

 

 レイナの言葉に立華は。

 

「まあ起こるだろうさ。規模はわからんけど」

 

 肩を竦めて見せる。

 それに何人か不安そうな顔をする。

 なので立華が軽く笑い。

 

「でも、この場の面々守る位なら余裕さ」

 

 そう言ってカードを数枚出す。

 それを見て不安そうな空気は霧散する。

 

「とは言っても色々注意しないとね。……達也」

「うん?」

「油断しないように」

「……ああ」

 

 ついこの間狙撃を喰らった達也に忠告する立華だった。

 

 ◆◆◆

 

 その後、解散となる。

 そんな中。

 

「レオ」

「うん?」

 

 エリカがレオを呼び止める。

 

「ちょっと付き合いなさい」

「……おう」

 

 ふざけた雰囲気がないので、素直に頷く。

 そして、2人の帰り道、キャビネットの中。

 

「これで終わりじゃない」

「?」

「コンペの妨害工作に、正体不明の外国人にスパイが潜入してるという忠告、最強格の魔法師の暗躍」

「……始まりに過ぎないと?」

「ええ。もっと大きな事が起こるかもしれない」

「……それで?俺への用事は何だ?探偵の真似か?」

「頭脳労働は達也君や立華君に任せておけばいいのよ。アタシ達には出来ることがあるでしょう?」

 

 不敵に笑うエリカに察するレオ。

 

「用心棒か……」

「守るよりも反撃がメインだけどね……」

「怖い女だな……達也や立華を囮にしようってのか?」

「達也君なら殺しても死にゃしないわよ。立華君なら殺しても蘇るでしょうし」

「確かにな」

 

 失礼な2人である。

 でもその通り。

 最低34回違うやり方で殺さないと駄目である。

 一通り明るく話した後、エリカの表情が引き締まる。 

 

「でもそのためには足りないものがある」

「……足りないもの?」

「アンタの歩兵としての潜在能力は一級品よ。普通の戦闘なら服部先輩や桐原先輩よりも素質は上だと思う」

「素質ってことは、今の能力に問題ありって事か?」

 

 自分の戦い方を考えてみるレオ。

 主に硬化魔法を使った白兵戦を自分は使う。

 

(「う~ん……」)

 

 だが、思いつかない。

 

「アンタには決め手が無い。相手を確実に仕留める技が。必殺技が」

 

 そう言われてレオは思い至る。

 確かに自分にはそういう技はないと。

 その時ふと思う。 

 

「オメェにはあるのか?」

「専用のホウキが必要だけどね。立華君や達也君も多分持っているでしょうね。……立華君は腐る程ありそうだけど」

「ああ。でも俺にはあの剣があるぜ?アレは?」

「確かにね。でも達也君の作った”オレイカルコス”は殺傷力が足りないでしょう?」

「……」

 

 無言になるレオ。

 その通りだった。

 そんな彼を真正面から見つめるエリカ。

 

「だからこれからアンタに相手を斬り殺せる技を教えるけど、身に付ける覚悟はある?」

「愚問だぜ」

 

 即答するレオ。

 

「だったらアタシが教えてあげる。〈秘剣・薄羽蜻蛉〉。アンタにピッタリの技をね」

 

 エリカが笑った。

 

「だから暫く予定空けときなさい」

「ああ」




『十二の試練・改(ゴッド・ハンド・オルターレーション)』
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:-
最大捕捉:1人
由来:ヘラクレスの十二の偉業。
生前の偉業で得た祝福であり呪い。Bランク以下の攻撃を無効化し、蘇生魔術を重ね掛けすることで代替生命を十一個保有している。
更に既知のダメージに対して耐性を持たせる効果があり、一度受けた攻撃に対してよりダメージを減少させる……物であったのだが……。
藤丸立華が自分用に改造。Bランク以下の攻撃の無効化をD~E-ランクに落とし、その分のリソースを代替生命に当て、ストックを増やし33個の命のストックにした。
これ以外は特に変わりなし。

(・▽・)<「夏休み編+」の中で
(・▽・)<ある鯖とエリカと兄達と会って戦った話は語られます。
(・▽・)<とは言ってもかなり先になるでしょうし
(・▽・)<いつかはわかりません。
(・▽・)<なのでサブタイトルだけ
(・▽・)<「新・剣豪七番勝負」です♪


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第十二節:嵐の前の静けさ 前編

(・▽・)<いつもの予定時間より早いですが更新です。
(・▽・)<それと今週と来週の㈪~㈮
(・▽・)<計10話連続更新します。
(・▽・)<キリもいいですので。


 立華と呂剛虎の戦い……と言えるかどうか曖昧な小競り合いの翌日。

 朝早くの藤丸邸。

 司波兄妹を迎えに行く前に立華はとある作業をするために早く起きていた。

 

「さて、始めるか……」

 

 そう言ってカードを出す。

 そして、召喚したのは暗殺者(アサシン)()だった。

 

 九校戦で召喚した忍者とくノ一がいる。

 それ以外には髑髏の仮面を被っており、右腕が黒い包帯でぐるぐる巻きになっておりまったく確認できない大柄な男。

 全身黒ずくめで、眼元以外が出ていない少女。

 合計4人を召喚した。

 

「さて、暫く情報収集を頼みたい」

「承知」

「はっ!」

「お任せを」

「わかった」

 

 返事と共に消える4人。

 因みにパライソは常時召喚されており、現在も仕事中である。

 

「さて、後は……」

 

 そう言って一枚のカードを出した。

 

「どう彼女(アイツ)を病院に潜り込ませるか……だなあ」

 

 そのカードには獣の毛皮を纏った戦士が描かれていた。

 狂戦士(バーサーカー)のカードだった。

 

 病院に彼女は似合うのだが、とある問題がある。

 大問題があるのだ。

 というか問題しかない。

 

「……仕方ない。烈さんの力を借りよう。うん」

 

 その後、起き出したレイナと司波兄妹を迎えに行き、登校する。

 その道中……。

 

 ムシャムシャ

 もにゅもにゅ

 

 朝食用に作って置いたサンドイッチ(山盛り)を食べる2人。

 食べる時間がなかったのだ。

 それを何とも言えない表情で見ている兄妹。

 

「「食べる?」」

「「いらない」」

 

 そして、学校に到着。

 その後は学生の本分。

 そして、コンペの準備。

 そんな感じで数日が過ぎる。

 

 この数日は特に大事件はなかった。

 ……なのだが。

 多少色々あった。

 

 まず達也。

 

「尾行とハッキング!?」

「ああ」

 

 人目を避けたい時、盗聴されたくない時によく使う教室で達也から話を聞く。

 何でも会社に深雪と一緒に向かった際に尾行を受け、更に会社には不正アクセスまで喰らったらしい。

 達也が来た時にタイミングよくアクセスは途絶えたそうだ。

 

「被害は?」

「ない」

「そうか。ならいい」

 

 その時ふと思い至る。

 

「何でくらったか心あたりは?」

「……勾玉だ」

「!」

「師匠に忠告されてな。場所を移す事にしたんだ。その日に狙われた」

「ハゲ?」

「その言い方はやめた方がいいわよ。レイナ」

 

(「きな臭いな……」)

 

 そんな事を思う立華。

 

「何か気づいた事はある?」

「尾行が烏だった」

「使い魔か!」

「ああ。化成体だ」

 

 化成体を使用する魔法は古式魔法に限定される。

 そして日本においては化成体の使い魔を使用する術式は過去のものとなっている。

 ……立華は除く。

 

「じゃあどこだろう……」

「……予想は付く」

「「?」」

「大亜細亜連合だ」

「そういえば、寅さん、そこの軍人」

「……レイナ。別のトラになっているわよ?」

「ミユキチ、ツッコミ、ありがとう」

「礼を言われた!?」

 

 そんな報告を受けたので。

 

「なあ達也、深雪さん」

「「?」」

「鯖、貸そうか?」

 

 2人の脳裏に浮かんだのは……。

 

『最適な人材の運用とは呼べんな、これは』

『ぐ、ぐだぐだじゃ……』

『これがぁ……スパルタどぅぁあ!!』

『考えるだけでワクワクが止まんねェ!』

『最高のCooooooolをお見せしましょう!』

『ああ、クリスティーヌ、クリスティーヌ……』

『おお、圧制者よ!汝を抱擁せん!』

 

 よりによってこの面々。

 キャラが濃い愉快な面々。

 こんなの来たら気が休まらない。

 なので。

 

「……気持ちだけ受け取って置く」

「私もお兄様と同意見よ」

「そう?」

 

 そして、エリレオコンビ。

 

「へえ……レオにねえ」

「そ。アイツ決め手がないから」

 

 ここの所、すぐさま下校したり、登校しない日があるコンビ。

 なので、直接道場に赴く立華。

 百聞は一見にしかず。

 

 因みに珍しく1人。

 レイナと司波兄妹の警護は「彼女」に影武者を任せてあるので大丈夫。

 「彼女」の姉妹である4()人や創造主、トップサーヴァントでも来ない限り大丈夫。

 

 そこではエリカがレオをしごいていた。

 

「ま、必殺技って持っているといないとじゃ違うからねえ」

 

 事情を聞き、そんなコメントを漏らす立華。

 

「うん。立華君だって持っているでしょう?……多分戦略魔法級なの」

「……まあね」

 

 エリカの問いに答える立華。

 その際、エリカにレオに教える秘剣と自分の秘剣を話して貰った。

 なのでこちらも話す事にする。

 

「……宝具については前話したよね?」

「英雄の決め手、必殺技よね?」

「うん。ブランシュの時のバーサーカーだったら、その生き様」

 

 島津豊久は止まらない。

 死んでも止まらない。

 

「夏の島で出たセイバーは刀」

「……本人より有名だものね」

「まあね」

 

 ■■■■は斬り払う。

 そして、斬り裂く。

 

「それでね、種別があるんだ。大きく分けると……対人、対軍、対城だね」

「……何か凄そうね」

「まあね。それでその他にも色々あるんだけど、キリがない。まあそれは置いておいて……一番ヤバイのがあってね……」

「……ヤバイ?」

 

 嫌な予感。

 

「それが対界。世界に対する宝具」

「せ、……世界!?」

「うん」

 

 英雄王の“乖離剣”や■■王の“転輪剣”がいい例だろう。

 あれらはヤバイ。

 

「本気で世界滅ぼしかねないのもあるからねえ」

 

 ケラケラ笑う立華。

 そんな立華にエリカは聞く事にした。

 少し怖かったが意を決する。

 

「ねえ、立華君」

「うん?」

「世界滅ぼす気ないよね?」

 

 その言葉に立華は笑顔を消して真顔になる。

 

「……」

 

 少し考える。

 そして、過去の事を幾つか思い出す。

 それは自分が只人をやめるきっかけ。

 

 人理焼却と人理漂白後の自分への世界の対応。

 仲間達との別れ。

 そして、この世界にやって来ることになったきっかけ。

 

 考えて悲しくなった。

 ……特に大切な後輩との最後の瞬間。

 アレは今でも胸が張り裂けそうになる。

 夢で追体験したレイナもアレは辛かったそうだ。

 

(「あんな事されても不思議と滅ぼそうとは思わなかったな」)

 

 そう思い、こう答える。

 

「ないよ」

「そう!良k」

「あるならもうやってる。とっくの昔に」

 

(「あんな事態になった時点でね」)

 

 心の中で付け足した。

 

 安心するのは早計だった。

 壮絶な笑いを浮かべる立華。

 

「……」

 

 それに何も言えなくなったエリカだった。




・4人のアサシン

忍者とくノ一。
呪腕と狂信者(Fakeの鯖)
静謐は出禁、百貌は多すぎるので今回はおやすみ。

・■■王(真名■■■)

二年前の聖杯戦争で召喚された王。遥か遠き者。
最上級のトップサーヴァント。
作者が考えた最強の鯖の双璧の一角(もう1人は■■■■・■■■。もしやるなら氏族会議編に登場し、大暴れ)。
凄まじく強く、英雄王の乖離剣の全力すら相殺した。
“転輪剣”はその愛剣。

(・▽・)<因みにこれ書いた時点では
(・▽・)<マシュとの別れは構想してませんでしたが。
(・▽・)<第二部No3やって思いつきました。
(おき太)<嫌な予感しかしないんですけど……。


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第十三節:嵐の前の静けさ 後編

 論文コンペの準備は順調だった。

 その模型を組み立てるために、多くの生徒が行き来していた。

 

 論文コンペというのは「表向き」の代表の人数では九校戦と比べるべくもない。

 だが、魔法装置の設計、術式補助システムの製作、それを制御するためのソフト等々と、上げればキリがないほどにやることがある。

 たくさんあるのだ。

 そのため、技術系クラブや美術系クラブなど多くの人材が関わるのだ。

 その準備期間には午後には授業がなくなり、その時間は準備に充てられていた。

 

 今日はプレゼン用の常温プラズマ発生装置の組み立てが行われていた。

 市原や五十里が動いており、その傍らでは達也がプログラムの制御のためかコンピュータの前に鎮座していた。

 立華とレイナはそのそばで付近を警戒しながら、模型を見ていた。

 市原がCADにサイオンを流し込み、複雑な工程の魔法式を発動させる。

 模型の中のプラズマが光を放つ。

 その光景を見て。

 

「やった!」

「第一段階クリアだ!」

「良かった~」

「やり直しは目が当てられないからな」

「苦労したものね」

「おいおい気を抜くなよ?まだ始まったばかりだぞ?」

 

 他の面々は声を上げ、成功を喜ぶ。

 

 光が模型内から消え去り、興奮の波も一区切りというように引いていく。

 立華とレイナもその光景を見ていた。

 

「何事もなくて、何より」

「うん」

 

 ホッとした立華の言葉に頷くレイナだった。

 

 本来なら色々起こったのだが今回は何も起こらなかった。

 

 そんなレイナはある事に参加した。

 それは……。

 

 ある日の野外演習場。

 警護を行う生徒がここでトラブルに備えた訓練をしていた。

 全員男子でやるはずだったが。

 

『わたし、やりたい』

『『『『『『!?』』』』』』

 

 レイナが立候補したのだ。

 何人かは止めた方がいいと言ったが。

 

『俺は構わんぞ』

 

 十文字は乗り気であり。

 

『死にはしないし頑張れ』

 

 立華も止めなかった。

 そういう訳で幹比古と共に参加した。

 

 彼女は隠れながら、吹き飛ばされていく上級生を見ていた。

 吹き飛ばしている十文字は開けた空き地にその姿をさらしている。

 その雰囲気はとても高校生を思えず、おっさんにしか見えない。

 彼は得意魔法である〈ファランクス〉を駆使し、レイナと幹比古以外の全員をリタイアさせていた。

 奇襲に対応できるように警戒しながら、悠然と歩いている。

 

(「ファランクス、厄介」)

 

 レイナは最初のうちは攻撃をした。

 得意の空気弾や〈偏倚解放〉を使ったが届かない。

 「切り札」を使っても、あの防御力では届くかもわからない。

 そして今は実践ではなく訓練であり、破壊力の高い魔法を使うわけにはいかない。

 もってのほかである。

 

(「どうしよう」)

 

 単独で攻略する方法が思いつかない。

 

 すると、状況が動く。

 十文字の足元が突然陥没するとともに砂煙が克人を覆った。

 〈土遁陥穽(どとんかんせい)〉。

 敵に土砂を浴びせ、穴に落とし、目くらましと足止めで逃走の時間を確保する術式が発動。

 これがリタイアしていない幹比古の起こしたものだと理解するレイナ。

 

(「これなら!」)

 

 レイナは行動を開始。

 CADを操作し、空気弾を発動。

 回りを囲むように設置する。

 

「ヒコ!足止め!」

 

 叫ぶ。

 そして、もう1つのCAD……汎用型を出して、ある魔法を発動。

 集中に入る。

 

 十文字は空気弾の雨霰を防いでしまう。

 そのまま攻撃に転じようとした時。

 

「!?」

 

 殺気を感じ、ファランクスを展開。

 そこへ雷童子が襲い掛かる。

 防ぎきり、魔法の発動されたであろう方向に十文字が振り向くと、そこには幹比古がいた。

 十文字は即座に反撃の判断をし、〈ファランクス〉を展開。

 そのまま押し切ろうとすると再び〈土遁陥穽〉と〈雷童子〉。

 それを苦も無く防ぐ十文字。

 

「同じ攻撃では芸がないぞ?」

 

 そう言って突き進もうとした時だった。

 

「何だ……?」

 

 息苦しさと吐き気、頭痛を感じる。

 集中力が持続しない。

 

「……まさか」

 

 脳裏にまだ倒されていない女生徒の事が思い浮かぶ。

 

 その隙に幹比古は魔法を発動。

 〈陸津波(くがつなみ)〉。

 土を掘り起こし、土砂の塊が迫る。

 何とか防ぐ十文字だったが。

 

「!?」

 

 足元が陥没。

 〈蟻地獄〉が発動。

 更に。

 

 バチイ!

 

 電撃が走る。

 今度は防げずに、まともに喰らった十文字。

 

「ぐ……」

 

 電撃のダメージと体調悪化でついに倒れた十文字。

 それを確認するとレイナが幹比古の近くに寄って来た。

 

「ヒコ!ナイス!」

「……ああ」

 

 ハイタッチする2人。

 

「僕の名前は幹比古だ……。鷹山さん、君は一体何を?」

「酸素濃度、下げた」

「そうか!」

 

 十文字の症状で納得する。

 レイナは空気中の酸素濃度を操り、十文字を酸素欠乏症にしたのだ。

 

(「それにしても……凄い操作性だな」)

 

 幹比古は内心感心する。

 

 そして、幹比古以外にも関心している者達が居た。

 

「まさか十文字を倒すとは……」

「驚きね……」

 

 渡辺と七草の2人も感心していた。

 

「しかし……あの気流操作は私も見習わなければなあ」

 

 そんな事を言う渡辺。

 

 そんな中、七草が口を開く。

 

「鷹山さんって……数字付きじゃないかしら?」

「別に数字付じゃなくても優秀なのはいるぞ?司波兄妹や立華君もそうだろ?」

「そうだけど……ね」

 

 七草が一応納得した。




(・▽・)<レイナさんは数字付きではありません。
(・▽・)<■■■■■■と■■■■■■の
(・▽・)<ハイブリッドやハーフとでも言うべき存在です。
(ノッブ)<……最近明かされる情報多くないかのう?


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第十四節:人食い虎VS■■の■■ 前編

(・▽・)<■は伏字です。さて誰でしょう?
(・▽・)<……まあわかりますね。


 品川のとある料亭の個室。

 2人の男性と1人の青年が向き合い、話し合っていた。

 

 1人目は40歳程度で、中肉中背の中年体型。

 もみあげから口元を覆う髭が特徴的だった。

 

 2人目のその隣の男は、立華と戦った呂剛虎である。

 

 そして、3人目の青年。

 髪の毛は長髪で、見目麗しい貴公子然として涼やかな容貌の青年だった。

 

「例の少女が何もせぬまま捕らえられたようですな?」

「陳閣下のご懸念は理解しているつもりです。しかし、彼女にはこちらの素性を一切伝えていませんので、情報漏洩の危険性はないと思われます」

「……周先生がそういうのであれば大丈夫なのでしょう。しかし……」

 

 陳閣下と呼ばれた男……陳祥山の言葉に相槌を返す周先生と呼ばれた青年……周公瑾。

 

「ええ、心得ています。近日中に様子を見て参りましょう」

 

 周公瑾は丁寧に一礼するのを、陳祥山は満足そうに眺めている。

 その隣の呂剛虎は鋭い視線を送っていた。

 

 呂剛虎はこの前、工作員を1人消し損ねた。

 だが、その責任は問われていなかった。

 それよりも厄介な相手が向こうにいる事がわかったからである。

 そして、今は優先するべき事があるからだ。 

 

 周公瑾がいなくなり、料亭の個室には2人が残っていた。

 

「呂上尉」

 

 陳祥山は隣にいる呂剛虎に対して命令を下した。

 

「小娘を消せ」

(シー)

 

 ◆◆◆

 

 そして、ある日曜日。

 

 千秋の入院している国立魔法大学付属立川病院の面会時間は12:00~19:00である。

 現時刻は午後の四時過ぎ。

 なので、花束を抱えたスーツ姿の青年……周公瑾が歩いていても不思議は無い。

 だがその貴公子然とした青年が歩いているのにも関わらず、黄色い声や歓声が聞かれそうなのに、見舞い客や看護師が反応を示さないというのは、奇妙だった。

 まるでその周公瑾の存在を気にしていないかのようだった。

 

 その青年は案内板に目を遣ることも無く迷いの無い足取りで歩いて行く。

 エレベーターを使わずに徒歩で階段で四階まで上がり、廊下に出た時点で彼の足は止まっていた。

 

 自分が訪れようとしている病室の前に、見覚えのある大柄の青年……呂剛虎が立ち止まっていたのだ。

 

「おや……?」

 

 自分がここを訪ねるのは彼の上司にも伝えてある。

 ここに入院している少女を見舞う事は、その上司には異論が無いはずである。

 ならば、自分のお見舞いの邪魔をする人間の邪魔をしても、彼との関係には何の問題も生じない事になる。

 

 周公瑾は何食わぬ顔で、非常ベルのボタンを押す。

 そして、気配を消して成り行きを見守る事にする。

 もしもの時は逃走の手助け位はするつもりだった。

 

(「どうなりますかね?」)

 

 呂剛虎がドアを開けようとして、ロックが開かないので、ぶっ壊して入室した時だった。

 

「殺菌!」

 

 部屋から声が響く。

 その声と同時に入室したばかりの呂剛虎が吹っ飛びながら出てきた。

 倒れる事なく、何とか態勢を整える呂剛虎。

 

「!?」

 

 その光景に驚く周公瑾。

 彼は魔法師としての呂剛虎を知っている。

 その戦闘力を知っている。

 まさか、それを吹き飛ばす者が護衛にいるとは。

 

「様子を見てみますか……」

 

 そう言って様子を伺う。

 心なしかウキウキしている。

 

 そして、病室から出てきたのは……。

 白衣を着た看護師だった。

 

 西洋風の顔立ちをしている外国人。

 赤みがかった長い髪の毛を後ろで三つ編みにしている。

 ここまでならただの看護師である。

 だが……。

 

「随分古風な物を……」

 

 手にはペッパーボックスピストルを持っている。

 今の時代に完全に合っていない。

 

「私の目の前で患者を殺そうなどとは言語道断です。貴方の命を奪ってでも患者を救いましょう」

 

 物騒な言葉を平然と吐く。

 そして、自らの治療の邪魔者に襲い掛かる看護婦。

 それを呂剛虎は迎撃する。

 

 この看護婦は勿論ただの看護師ではない。

 

 その正体は世界で最も有名である看護師。

 看護師、統計学者、建築学者、社会学者、教育学者、看護学者、社会福祉士など、様々な顔を持つマルチタレント。

 

 そして藤丸立華の契約英霊の1人。

 真名フローレンス・ナイチンゲール。

 クラスは見て分かる通りバーサーカーだった。

 

 性格はとある復讐者から獣の様とも評される。

 たったひとりの軍隊ともいうべき不屈性を持った信念の女。

 その精神性と狂化が合わさり、(恐らく)生前と異なり「人の話を全然聞かない」状態になっている。

 

 その凄まじい苛烈さはM氏から。

 

『ブレーキの壊れたダンプカー』

 

 呼ばわりされるほどである。

 

 彼女にとって優先するべきは患者を救う事。

 その患者を殺そうとするのならナイチンゲールは絶対に容赦はしない。




(・▽・)<答えは「白衣の天使」
(・▽・)<「鋼鉄の白衣」でも正解です。
(茶っ茶)<同じバーサーカーだけどあんまり嬉しくない。


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第十五節:人食い虎VS白衣の天使 後編

 そして、青年と女性の戦いが始まる。

 体格や性別では青年が有利。

 そして、呂剛虎は近接戦闘なら世界でも10本指に入る。

 ……今日丁度病院に来ている「とある魔法師」と共に双璧と称される。

 彼も最初は思っていた。

 すぐに片付くと。

 

 だが……。

 

「清潔!」

 

 戦況は互角だった。

 

 サーヴァントは生前よりも強化する者と弱体化する者に分けられる。

 前者は戦う力を持たない者に多く、後者は神話や叙事詩の英雄に多い。

 

 例えばクー・フーリン。

 彼は結構弱体化を喰らっている。

 

 色々な武装や逸話のおかげで、基本7クラス全てに適性を持っている。

 その為か強さがかなり分散されており、師匠からも怒られたほどである。

 そして、持っている武装や能力も結構制限を喰らっている。

 知名度が低めなので、〈不眠の加護〉のスキルはなく、城塞はほとんどの場合持って来れない。

 

 一方、ナイチンゲール。

 

 彼女は強化されている。

 更にバーサーカーで召喚された際に規格外の狂化を付与されている。

 そのため、ステータスは優秀な三騎士と殴り合いが出来る程。

 更に知名度は屈指であり、スキルも色々存在。

 

 戦況は互角だった。

 

 呂剛虎は拳や蹴りを繰り出す。

 拳法を……自らの鍛え上げた技術を注ぎ込む。

 

 ナイチンゲールは手刀、サマーソルト、銃撃とアグレッシブに戦う。

 知識を……自らの医療知識を総動員する。

 

 だからこそのこの状況。

 本来ならサーヴァントに物理攻撃は効かない。

 だが、呂剛虎が〈鋼気功〉で全身を覆っている。

 そのため、ナイチンゲールに触れる事ができる。

 だからこそのこの状況。

 

 だが……。

 

「診断!」

 

 彼女の手が男の身体に触れる。

 

「(古傷多数確認)」

 

 彼女は触れただけで相手の状態がわかる。

 スキル〈人体理解〉。

 精密機械として人体を性格に把握していることを示し、治療系のスキルや魔術の行使にプラス補正がかかる。

 更に、相手の急所をきわめて正確に狙うことが可能となり、攻撃時のダメージにプラス補正が加えられ、被攻撃時には被ダメージを減少させる。

 そして。

 

「切除!」

 

 もう一度触れる。

 すると呂剛虎の身体中から血が噴き出す。

 かつてとある監獄島で復讐者相手に使った手段。

 

「!?」

 

 驚く。

 斬られていないのになぜ?

 そう思う呂剛虎。

 

 理由は簡単。

 彼女は〈人体理解〉を使う事で、相手の古傷を一気にこじ開けたのだ。

 そのまま畳みかけるナイチンゲール。

 何とか迎撃する呂剛虎。

 

 このままでは彼は押し負ける。

 だが、まだ任務を果たしていない。

 だから引けなかった。

 

 時間は巻き戻る。

 

 周公瑾が病院にやってきた時、時を同じく病院を一組の男女が訪れていた。

 

 男は「千葉の麒麟児(ちばのきりんじ)」や「幻影刀(イリュージョン・ブレード)」の異名で知られるエリカの二番目の兄である「千葉修次」。

 そして、女は一高の三巨頭の1人である渡辺摩利。

 この2人、見て分かる通り恋人同士である。

 

「シュウ、その……すまない。忙しいのにこんな事に付き合せてしまって」

 

 普段は千代田花音らと言った女子生徒の憧れ的な存在の彼女。

 だが今はとってもしおらしい。

 恋人の前という事で雰囲気が違った。

 普段は「姐さん」と呼ばれ、若干男らしい所もあるが、今はただ恋人と一緒にいる女性と言った感じであった。

 嬉しそうでもあったが、申し訳なさそうな顔もしていた。

 

 その理由は、この病院に入院している千秋の事情聴取に修次を付き合せてしまっているからである。

 

 しかし彼は。

 

「水臭いなぁ。そんな事を気にする必要は無いんだよ」

 

 心外だという顔で摩利の顔を見下ろした。

 

「だが、明日は早朝の出航なんだろ? 準備とかあるのに……」

「今回はこの前のタイと違って総日程十日の短期研修だ。荷物も大したことないし、摩利が気を遣う事は無いよ」

 

 彼は防衛大特殊戦技研究科所属の学生の身であるが、既に予備役少尉でもある、

 この間はタイ王室魔法師団の剣術指南協力で、出張していたのだ。

 

 そういって渡辺に笑いかける。

 そして、修次は再び尋ねる。 

 

「まだ何か気になる事が?」

「……エリカに」

「エリカ?」

「……シュウが長期間家を空ける前の日はいつもエリカに稽古をつけてやってたじゃないか。今日は良いのか?」

 

 渡辺の問いかけに修次が答える。

 

「エリカだったらクラスメイトと稽古してるよ。なかなか見所のありそうなヤツだったから、エリカも楽しんでるんじゃないかな」

「クラスメイト? 男子か?」

「単なるお友達だ。間違いない。だからエリカのことは気にしなくて良い。それに僕が摩利と一緒に居たかったんだ」

「そんな恥ずかしいことは口にしなくて良い!」

 

 七草曰く「恋愛雑魚」である渡辺が恋人の言葉に撃沈。

 そんな穏やかな雰囲気の中。

 

 突如非常ベルが鳴り響いた。

 

「シュウ!?」

「火事じゃない。これは暴対警報だ」

「まさか!?」

 

 彼女の脳裏によぎったのはそこに入院していて、今日用事があった後輩だった。

 

「急ごう!」

 

 渡辺の見せた険しい表情に、修次は他人事では済まされない事態だと理解する。

 彼女を引っ張っていくように修次は階段を駆け上がっていった。

 

 そして、場面は戻る。

 

 千葉家のお家芸である自己加速術式で階段を一気に駆け上がった修次が見たのは、男と女の激闘。

 拳法と手刀、銃撃、サマーソルトがぶつかりあっていた。

 若干理解できない状況に戸惑うも、戦っている男に見覚えがあった。

 

「人喰い虎……呂剛虎! 何故ここに!?」

「幻刀鬼(ファダオクアイ)……千葉修次」

 

 修次の方を向いた呂剛虎の口からも、微かな声が漏れる。

 

(「このままでは不味い!?」)

 

 自分は怪我をしている。

 万全ではない。

 その状況で2vs1などできるものではない。

 このままでは捕まる可能性も高い。

 だからこそ彼が選んだのは退却だった。

 階段を飛び降りる。

 

「逃がしません!」

 

 容赦なく発砲するナイチンゲール。

 だが。

 

「逃げられましたか……」




(・▽・)<この2人ほぼ互角でしたね
(・▽・)<虎さんも結構強いうえ、鋼気功がありましたか。
(・▽・)<そして、婦長は戦闘より看護向けなので。


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第十六節:戦いの後

 ナイチンゲールは手のペッパーボックスピストルを仕舞う。

 そして、千秋の病室に戻ろうとする。

 そこへ。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 修次が彼女に声を掛ける。

 それに鬱陶しそうにそちらに向く。

 

「何か?」

「だ、大丈夫なのか?」

 

 何せ近接戦闘なら世界でも屈指の相手と戦ったのだ。

 修次が心配するのも無理なかった。

 だが。

 

「私が怪我をしているように、見えるでしょうか?」

 

 逆におかしそうに聞いて来た。

 

 確かに見えない。

 言葉に詰まる修次。

 

「では私はこれで。患者がいますので」

 

 それを確認するとナイチンゲールは千秋の病室に戻ろうとする。

 

「私達はそこに用があるんだ」

 

 そこへ渡辺が発言。

 すると彼女は。

 

「……」

 

 何かを考え込み。

 そして思い出す。

 

「ああ。そういえばミスター・リッカが言っていましたね。学校の先輩が来ると」

「!」

「貴方は立華君の知り合いか!?」

「はい」

 

 聞き覚えのある名前に驚く2人。

 知り合いどころか仲間であり、主従である。

 絆Lv10である(笑)。それ以上である。

 

「確か……ミス・マリ=ワタナベ……いえ、ミセス・マリですか?」

「!?」

 

 ナイチンゲールの言葉に真っ赤になる渡辺。

 修次も少しだけ赤くなってしまう。

 その反応を無視して、ナイチンゲールは告げる。

 

「ではどうぞ。ですが、患者に悪影響を及ぼすのなら」

 

 言葉を切って凄む。

 

「貴方方を殺しますので」

「「……はい」」

 

 赤くなった顔が元に戻って、怯えながら返事する2人だった。

 

 ◆◆◆

 

 一方、傷を負い、逃げ出した呂剛虎は周公瑾の運転する黒塗り車にいた。

 彼のサポートで何とか逃げ出し、応急処置を受けたのだ。

 まだ血があちらこちらからにじんでいた。

 

「それにしても驚きました。呂大人が傷を負うとは」

「……」

 

 その言葉に何も言わない。

 

 アレはまるで獣だった。

 自分も「虎」と呼ばれるが、アレはそれ以上だった。

 

(「あのまま戦っていたら……」)

 

 その考えを振り払い、上司に報告する旨をまとめ始める。

 そんな中ふと気になった事を聞く。

 

「アレは遁甲術か?」

「ええ。とは言ってもそこまでの代物ではありません」

「……」

 

 信用できないという視線で睨みつける呂剛虎。

 それを涼しい顔で受け流しながら、周公瑾は考えていた。

 

(「アレは人ではありませんね。確か……“サーヴァント”と呼ばれる物」)

 

 彼はそれを知っていた。

 師から聞いていた。

 2年前この国で起こった事件で、魔法師や兵器が全く歯が立たなかった物だと。

 

(「つまり……“マスター”が存在する。誰かはわかりませんが……会ってみたいですね」)

 

 そんな事を思っていた。

 

 ◆◆◆

 

 一通り千秋から話を聞き終えた渡辺。

 とは言っても結果は芳しくなかった。

 ナイチンゲールから文字通り病室から追い出され(発砲されかかった)、病院を後にする2人、

 

「ところで、シュウ」

「何だい摩利」

「立華君の事を知っているのか?」

「ああ。夏休みにエリカが連れてきたんだ」

「!もしかして……」

「いや、彼とは戦っていないよ」

「そ、そうか」

 

 半年の付き合いで自分の後輩の得体が知れない事を渡辺は知っていた。

 何をしてくるか予測不能なのだ。

 それに……。

 

(「()()とかな……」)

 

 自分の戦い方……気流操作による色々な粉末を利用した戦い方や、香水を使っての自白剤作りなどを知った彼が「皆には内緒ですよ♪」とくれた「ある物」を思い出した。

 一応貰っておいたのだが、「アレ」は使い方をしくじれば、自分や味方も危ないではすまない。

 そんな事を思ったのだが。

 

(「うん?とは……?」)

 

 言い方が気になった。

 

「シュウ。他に誰かいたのか?」

「……ああ。彼が連れてきた人がね、恐ろしく強かった」

 

 派手な和装を纏った女剣士。

 「最強の剣士」と同姓同名の剣豪。

 その実力は凄まじかった。

 

「僕も……、兄さんも……、エリカも……勝てなかった。一太刀で負けた」

「まさか!?そんな馬鹿な!?」

「でも流石に悔しくてね……、3人共本気の得物持ち出して、3vs1で挑んだんだ」

 

 寿和は千葉家の作り出した武装デバイスで、最高傑作と自負している、【雷丸(いかずちまる)】と【大蛇丸(おろちまる)】を引っ張りだし、前者は彼が使い、後者はエリカが使った。

 修次はいつも使う棍刀ではなく、エリカが立華から貰った【大蛇村正】を借り、挑んだ。

 3人共ガチで挑んだ。

 なのだが。

 

「それでも勝てなかった。本当に強かった……」

「……」

「正にあの剣は」

 

 憧れるように彼は続けた。

 

「鮮やかな天元の花。……あの剣は無空の高みに届いていた」




新・七番勝負 内訳

勝負一番:VS■■・■■■■(常在鯖の1人)
勝負二番:VS千葉エリカ
勝負三番:VS千葉寿和
勝負四番:VS千葉修次
勝負五番:VS千葉三兄妹
勝負六番:VS■■■■■■
勝負七番:VS???

(・▽・)<今週はここまで。
(・▽・)<次回は24日に更新です。


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第十七節:もう1つの事件

(・▽・)<今週も頑張ります。
(・▽・)<それと活動報告欄にお知らせがあります。
(・▽・)<おまけもついているので良かったらどうぞ。


 隠れ家に帰還した呂剛虎はすぐに自身の上司に今回の顛末を報告した。

 傷だらけの部下に陳祥山は愕然としたが。

 

「傷を治癒魔法で治して、次の任務にかかれ」

 

 優先するべき事柄があったので、責任を問う事はしなかった。

 それよりも彼とも渡り合う実力の持ち主がわかっただけまだよかった。

 

「第一高校における我々の協力者である関本勲が任務に失敗し当局の手に落ちた。収容先は八王子特殊鑑別所だ。関本勲を処分せよ」

「是」

 

 別の任務を与える。

 そして、立ち去る呂剛虎。

 その表情には錬から受けた傷などもはやないようだった。

 

 部下が立ち去り、デスクの前に座る陳祥山は報告を思い出していた。

 

「どうなっているんだ……?」

 

 ウロチョロする鼠や、失敗した協力者を処分しようとするたび、実力者が立ち塞がる。

 一体どうなっているのだろう?

 

「まさか……今回も?」

 

 嫌な予感を感じる。

 まるで何か開けてはいけない物を開けたような。

 触れてはいけない物を触れた物ような。

 

(「気のせいだといいが……。もしこの任務もダメだったなら……」)

 

 作戦目標を切り替える事を視野に入れ、考え事を始めた陳祥山だった。

 

 ◆◆◆

 

 その日の夜。

 藤丸邸。

 立華はナイチンゲールからの報告を聞いていた。

 彼女は病院に寝泊まりしており、メールで報告を受けたのだ。

 

「そっか。平河千秋を襲撃しに現れたか……」

「寅さん?」

「間違ってはないけど、間違ってる。葛飾柴又にはいないよ……」

 

 レイナのボケのツッコミを入れる立華。

 

 ナイチンゲールを国立魔法大学付属立川病院に潜り込ませた理由は簡単。

 彼女が看護師だったからである。

 烈や響子に協力してもらい、何とか入り込ませたのである。

 その苛烈さから、同僚から最初は引かれていた。

 仕事は率先して行うので、最近はある程度馴染んで来たらしい。

 一応アレでも生前は結構慕われていたのだ。

 

「それにしても……」

 

 問答無用で消そうとしてくるとは。

 

「まだ何かありそうだよなあ……」

 

 そんな事を思っていると。

 秘匿回線に連絡が入る。

 これを知っているのは4人。

 もう1人増えたのだ。

 それは……。

 

「タッツン?どうしたの?」

『レイナもいるのか……。まあいいか』

 

 達也だった。

 

「どうした?何かあったのか?」

『今日、強盗に遭ってな……』

「「!?」」

 

 驚く2人。

 達也の説明によると……。

 

 デバッグ作業を行うためにロボ研のガレージに向かった達也。

 そこで魔法式の動作シュミレーションをしていたそうだ。

 本来なら、色々大変なのだが、達也には「眼」があるので、それでインチキして作業を進めていたそうだ。

 それでも結構煮詰まる作業だった。

 1時間位した時に、異様な眠気を感じたらしい。

 

(『これは不自然だ……』)

 

 どうやら催眠ガスか何かが空調から入り込んでいるようだ。

 しかも誰か狙いを持ってやっている。

 ところが、そんな物達也に通じるはずない。

 そんな訳で異常を探知し、避難をさせにやって来たガイノイド……「3HタイプP94」、ロボ研では型番を縮めて「ピクシー」と呼ばれている彼女に、監視モードで待機させ、自身は眠ったふりをして、犯人の出方を伺う事にしたそうだ。

 そして、やって来たのは……。

 

『関本勲先輩だった』

「「誰?」」

 

 2人仲良く首を捻る。

 知らない名前だった。

 それに若干呆れながら達也が説明する。

 

『風紀委員にもいただろ……。渡辺先輩や辰巳先輩が引退した後も在籍してただろう?』

「「……知らない」」

『……』

 

 無言になる達也。

 オホンと咳払いしてから説明を続ける。

 

『論文コンペの校内選考でも市原先輩に次ぐ2位だったんだ。だけど方向性の違いからメンバー入りを強硬に拒否されていたそうだ』

「ふうん」

「へえ」

 

 相槌を聞いた達也の回想に戻る。

 

 関本は達也が眠っているのを確認すると、サブモニター用のコネクターからハッキングツールを使って起動式のデータを吸い上げようとしたのだが……。

 そこへ、保安システムから空調装置の異常警報を受け取った千代田がやって来たそうだ。

 そして、狸寝入りを決め込んでいた達也も起き上がり、言い逃れの出来なくなった関本。

 千代田を撃退して、逃走しようとしたそうだが、あっという間に捕まったそうだ。

 

『関本先輩は八王子特殊鑑別所に身柄を移された』

「そっか。証拠映像は?」

『大本は削除したが、コピーデータは専門家に預けた』

「狐を捕まえる訳か……」

 

 納得する立華。

 そんな中レイナが口を開く。

 

「リッカ」

「どうした?」

「先輩、狙われる?」

「ああ確かに」

『?何かあったのか?』

 

 達也に今日会った事を報告する。

 すると彼は考え込む。

 

『これは関本先輩も危ないな……』

「大丈夫。平河千秋みたいに誰か付けて置く」

『……誰か付けていたのか?』

「うん。フローレンス・ナイチンゲール」

『ブッ!?』

 

 あまりに有名な人物に噴き出す。

 

「豪華でしょ?」

『……何と言えばいいかわからん』

「同意」

 

 達也の意見にレイナが同意した。




軍神のキャスター


「初めまして。君が我輩のマスター君かな?」
「好きな物ですか?そうですね……、武器でしょうか?剣や弓矢、矛、鎧、戦斧、楯が好きですね」
「嫌いな物ですか?そんなの決まっています。■■です。それと銃火器でしょうか?」

魔術師(キャスター)のサーヴァント。本作オリジナルサーヴァント。
異形の肉体を持つ狂戦士(バーサーカー)との二重召喚(ダブルクラス)。実は三騎士にも適性あり。
誰に対しても紳士的に接する。
作る事と壊す事、戦う事と守る事の両方できる万能型。宝具すら作る事が可能。
常在鯖の1人でもある。専ら引きこもって武器作りをしている。外出はしない……というか無理。他の面々と違い誤魔化しが効かない。アステリオスやダレイオスより目立つ。





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第十八節:面会に行こう!

 そして、翌日。

 学校でいつも通りに過ごす2人。

 そんな中。

 

「おや藤丸さん、鷹山さん」

 

 偶然通りがかった市原に出会う。

 世間話をする事になる。

 

「お2人は昨日の件は聞きましたか?」

「「はい」」

「そうですか……」

 

 市原が昨日の達也の件を話題にする。

 

「リンちゃん先輩」

「……その呼び方はやめてくれませんか?」

「あのゴリラ、動機は?」

「ゴリラって……」

「まあいいでしょう。それは……」

 

 鈴音が答える。

 

「彼は純粋に魔法の発展を望んでいます。魔法理論は世界で一丸となって発展させるべきだというオープンソース主義者というわけなのです。だからこそ、魔法後進国にも我が国の魔法技術を公開し、世界的に発展を促すのが目的だそうです」

 

 その答えに立華とレイナは何も言えなくなる。

 暫くして立華が口を開く。

 

「悪くはないですけど……」

「ええ。軍事的対立がなければ素晴らしい考えですが、国家機密漏洩の罪に問われる可能性すらありますね」

 

 市原が関本の考えを切り捨てる。

 

 だが、関本だけが悪いとは言い切れない。

 その考えに付け込まれ、マインドコントロールを仕掛けられたのだ。

 時間をかけず、証拠も残さずにマインドコントロールを行っている様子を鑑みると、精神干渉系の魔法師が関与している可能性が高い。

 

(「やっぱり”アイツ”かなあ」)

 

 アサシン達の報告にあった、横浜中華街の人気中華料理店のオーナーである「周公瑾」。

 色々暗躍しているらしく、千秋にも会っていたそうだ。

 だが、敵もさるもの引っ搔くもの。

 どうにも尻尾を掴ませない。

 

 どうしようかと考えながら、市原と別れ風紀委員室に行く。

 すると。

 

「千代田風紀委員長」

「ダメ」

「……何も言っていませんが」

「先んじて言っておくの。どうせ面倒事なんだから」

「……」

「で?要件は?」

「今日は関本勲への面会申請w」

「ダメったらダメ」

「……何故なのでしょう?」

「気づいてないの?」

 

 扉の向こうで言い争いが聞こえる。

 達也と千代田だった。

 

「この短い期間に貴方を狙う人が学内から2人も出たのよ!?貴方は誰がどう見てもトラブルメーカーなんだから!これ以上仕事を増やされたらたまったものじゃないのよ!」

 

 千代田の絶叫が聞こえた所で入室する2人。

 

 そこには達也と千代田だけでなく、渡辺がいる。

 視線が向いた所で立華が千代田に告げる。

 

「先輩」

「……何?」

「許可出した方がいいと思いますよ?」

「……どうして?」

「だってこのままだったら、達也が無断侵入して余計面倒な事になりますよ」

「……」

 

 立華のフォローとも貶しているともつかぬ言葉に何も言えなくなる千代田。

 因みにそれを聞いて、レイナと渡辺は笑いを懸命に堪えていた。

 達也は不服そうな表情をする。

 

 そして、何とか笑いを収め、渡辺が口を開く。 

 

「花音。気持ちは分からなくもないが、まあ落ち着け」

 

 そして助け舟を出す。

 

「明日、あたしと真由美で関本の様子を見に行く予定なんだ。それに同行させるなら構わないだろう?」

 

 それに彼女は。 

 

「まぁ、摩利さんが面倒見てくれるって言うのなら……」

 

 仕方なくといった風に納得する。

 達也も渡辺の言葉に頷いた。

 ……非常に何か言いたそうだったが。

 

「俺も行っていいですか?」

「……立華君がか?」

「はい。どうも嫌な予感を感じまして……」

「「「うわあ……」」」

「何か起こるの確定じゃない……」

 

 立華の勘の良さは皆知っている。

 レイナと達也、渡辺の顔が曇り、千代田が机に突っ伏した。

 

 ◆◆◆

 

 次の日の放課後、達也と立華、渡辺、七草は共に関本が拘留されている八王子特殊鑑別所へ向かった。

 

 論文コンペまでもう日にちは一週間を切った。

 まさしく最後の追い込み。

 なのだが、達也の仕事は速いので、手を離す余裕はあった。

 

 実のところ「お兄様の愉快な仲間達」も来たがったが……。

 

 渡辺を敵視しているエリカや、上級生な上、あまり親しいとは言えない女子との行動は男子高校生にはハードルが高かった。

 深雪は行きたがったものの、仕事で抜けられず、現在一校はブリザードが吹き荒れていた。

 そして、レイナ。

 

『これと、これと♪』

 

 五寸釘と蝋燭、異端者のフォークを用意し始めたので、置いて来た。

 どう見ても拷問官にしか見えなかったのだ。

 ……まぁ委任状は4人分しか出てなかったのではじめから無理だったが。



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第十九節:勝負 前編

 関本が拘束されている部屋の隣の部屋に立華と達也、七草が、関本が拘束されている部屋に渡辺がそれぞれ足を踏み入れる。

 

「……渡辺、何をしに来た?」

 

 ベッドに座ったまま関本が尋ねる。

 

「もちろん事情を聞かせてもらいに来た」

「い……いくらお前でもここでは魔法は使えないぞ!」

 

 関本の指摘は正しい。

 法を犯した未成年の魔法師を拘留する施設なのだから、魔法を検出する装置が至る所に設置され、魔法が発動されれば無力化ガスが噴射されたり、ゴム弾の銃座が起動したり、アンティナイトを身に着けた警備員が駆けつけたりする。

 

 だが、その言葉に構うことなく渡辺は聴取を開始する。 

 

「あまり時間が無いからな。要点だけ聞かせてもらおう」

 

 その時、彼は渡辺の得意分野を思い出す。

 だからこそ息を止めた。

 が、時すでに遅し。

 自白剤を使われたような状態になった関本は淡々と質問に答えていった。 

 それを別室で見ている3人。

 

「匂いを使った意識操作ですか?」

「ええそうよ。摩利の得意技。達也君、立華君見るのは初めて?」

「初めてです」

「俺は聞いてた」

「「マジで!?」」

 

 魔法の使用は法令で厳重に制限されている。

 特に危ない物や、ヤバイ物は特にそうである。

 

 会話をしながら、彼らは関本の自白を聞き逃してはいない。

 達也の意識を刺激したのは、「デモ機のデータを吸い上げた後、自分の私物を調べる予定だった」という告白で、摩利が目的を問うと、関本は「聖遺物」だと答えた。

 

「……達也君、そんなもの持ってるの?」

「いえ、持っていません」

「でも……」

「少し前から”賢者の石”絡みでレリックの事を調べてましたから、それを勘違いしてたんじゃないでしょうか?」

「……」

 

 納得していない七草。

 何も言わない立華。

 

 そんな中。

 

 ジリリリリリリ!!!!!!

 

 非常警報が鳴り響く。

 

 警報を聞いた三人の反応は素早かった。

 渡辺はすぐさま廊下に出て鍵を掛けた。

 達也と立華、七草は別室を出る。

 

「侵入者ですね」

「何処の命知らずだ……」

 

 冷静な達也の声に、呆れ交じりの呆れ声で渡辺がつぶやく。

 この間の魔法大学付属病院襲撃事件で、東京一帯は警視庁により特別警戒態勢が敷かれている。

 

 今日は五割増で警察官が巡回警備を行っており、この八王子特殊鑑別所は警戒態勢である。

 ……実は立華のサーヴァントも紛れている。

 

「そんな中でやって来るという事は、余程の馬鹿か……」

「腕に覚えがあるか……ですね」

「ああ」

 

 渡辺と立華の会話。

 

「達也君、何処から来てるか分かる?」

「屋上からですね。飛行機か、ヘリか、カタパルトか、そんなところでしょう。現在位置は東階段三階付近だと思います」

 

 七草の問いに達也が答える。

 達也の回答を聞いて七草が目を向けた。

 彼女の先天性のスキル、知覚系魔法〈マルチスコープ〉をフル稼働させて達也の指し示した場所を見ているのだ。

 

「……大当たり。さすがね達也君。侵入者は4人、ハイパワーライフルで武装しているわ」

「……その時点でただのチンピラではないな」

「チンピラだとしても、バックに大物がいるでしょうね……」

 

 ハイパワーライフルは、対魔法師用に生み出された武器である。

 障壁魔法などの対物防御魔法を撃ち抜くため、アサルトライフルの3倍~4倍の爆発力を発揮する発射薬を使用するのだ。

 威力が大きい分、高度な製造技術を必要とする武器で、そこらのチンピラが手に出来る代物ではない。

 

「警備員が階段の踊り場で楯のバリケードを作って応戦してる」

「廊下の出入口は隔壁で閉鎖されているようですね」

 

 七草と達也が続ける。

 4人の現在位置は中央階段寄りの2階。

 それほど慌てなくても良い状況であるのだが。

 

「出るぞ!」

「こちらが本命ですか」 

 

 中央階段を立華が睨む。

 達也が鋭く見据える。

 一拍送れて摩利が階段の出入口を睨み付けた。

 

「えっ、なに?なに?」

 

 七草は何に警戒してるのか良く分かってない様子だったが、それもほんの短い間だった。

 

 彼らの前に大柄な若い男が姿を見せる。

 見覚えがあるのがいた。 

 

「呂剛虎」

 

 渡辺が言った名前を聞いても七草には心当たりが無いという顔だった。

 達也は知っているため、厳しい表情を変えていない

 だが、立華は誰も気づいてないが……笑っていた。

 

「この場は逃げるべきなのですが、少し遅かったようですね」

 

 達也が淡々とした口調でそういって3人の前に出た。

 

(「俺では少し相性が悪いな……」)

 

 そんな事を思いながら、彼に向かい歩き出す達也を渡辺が掴んで止めた。

 

「あたしが前に出る。達也君は真由美のガードを頼む」

 

 そう言って渡辺が得物を出そうとしたのだが。

 

「オレがやります」

 

 いつの間にか立華が結構前に出ていた。

 

「「「!?」」」

 

 それに驚く3人。

 

「お三方はオレが1回死んだら、お願いします」

 

 その言葉に絶句している3人を無視する。

 そして、呂剛虎の前に出る。

 

「なあ、あの時の言葉覚えているか?」

 

 立華の問いに凄みのある笑みで返す呂剛虎。

 

「じゃあ……戦ろうか!」

 

 同時に飛び出した。



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第二十節:勝負 後編

(・▽・)<執筆中は二部No3は未実装です。


 呂剛虎は今は絶好調ではなかった。

 この前の看護婦との戦いで、こじ開けられた古傷がまだ完全に完治していない。

 治癒魔法は受け、傷は邪魔にならないように包帯を巻いてある。

 それでも好調とは言えない。

 だが、戦いで支障を来たす事はない。

 欲を言えば彼との戦いでは【呪法具・白虎甲(バイフウジア)】を付けたかったが、贅沢は言えない。

 最初から〈鋼気功〉を使い、油断なく全力で行く。

 

 立華はと言えば……。

 

(「頼む」)

『応さ』

 

 自身の契約サーヴァントを自身に呼び込む。

 〈限定展開(インクルード)〉。

 通常は武装を呼ぶ場合が多いが、今回はその技量を呼び込む。

 選んだのは、八極拳の使い手にして、「神槍」とうたわれた槍の腕前を誇るランサー。

 

 李書文。字は同臣。

 19世紀の人物で、中国武術家。

 八極拳の門派・李氏八極拳の創始者である。

 適性はランサー、アサシン、バーサーカー。

 神秘もへったくれもない時代の人物ではあるが、彼は恐ろしく強い。

 

 「第五特異点」では、とある叙事詩の主人公と殴り合いを制した。

 「帝都での聖杯戦争」では、ランサーであったが、素手でアサシンをぶち殺した。

 「月の聖杯戦争」では、アサシンで、数多の英霊を脱落させた。

 「人智統合真国」では、凄まじい絶技を見せつけた。

 

 近代の英霊でありながら、古い時代の英霊に勝利したのだ。

 並みの三騎士なら素手状態でも相手にならない実力者。

 それこそが李書文である。

 

 間合いが近づいていく。

 そして。

 

「むん!」

「フン!」

 

 拳と拳がぶつかる。

 互角。

 そして、拳と蹴りがぶつかる。

 立華が拳を繰り出せば、それを呂剛虎は腕を使い弾く。

 呂剛虎が蹴りを繰り出せば、それを避ける立華。

 そのまま何度か打ち合いをする。

 呂剛虎が攻勢で、立華が守勢。

 両者互角だった。

 

「……す、凄い……」

「ああ」

 

 目の前で行われる凄まじい戦闘に言葉が少なくなる女子2人。

 もしもの時は加勢しようと思っていたのだが、それすら忘れていた。

 一方達也はその戦いを見て、ある事に気づく。

 

「まだ本気ではないですね」

「「え?」」

「恐らく小手調べですね。両者共に」

 

 その達也の言葉が聞こえたのか。

 

 殴り合っていた立華と呂剛虎が離れる。

 両者共に笑う。

 そして、再び両者近づく。

 軽い小手調べが終わり、本格的に戦闘が始まる。

 

 今度は立華から攻める。

 立華が繰り出す手技と足技は素早いなどと言う次元を越え、凄まじい速度と正確さ、そして、喰らえば一撃必殺という威力で呂剛虎を襲う。

 呂剛虎はそれを、ある時は躱し、ある時は受け止め、またある時は相殺させる。

 持てる技量を惜しみ無く使い防ぐ。

 

 今度は先程とは真逆。

 立華が攻勢、呂剛虎が守勢。

 だが、先程とは違う点が一点。

 

 小手調べの際は互角だった。

 だが、今は違う。

 呂剛虎が圧されていた。

 

 この間の怪我のせいではない。

 立華が……藤丸立華が強いのだ。

 ……今はインチキしているが。

 

『くはははははははは!!!! 滾る滾る!! 血が!! 肉が!! やはり武とは生き死にあってのもの!』

 

 ノリノリの李書文。

 それに立華は声を掛ける。

 

(「多少は手加減してね。そっちの主義は知っているけど……」)

『わかっておる』

 

 李書文の主義。

「一戦一殺」を心がけており、一回の戦闘では一人しか殺さないが一人は必ず殺すことを決めている。

 ……まあ今回は我慢して貰っているが。

 

 地面を強く踏み付けるようなような踏み込み。

 〈震脚〉。

 あまりに凄まじい踏み込みで、床が揺れる。

 ……後ろの三人も態勢が崩れる。

 バランスを少し崩した呂剛虎へ……。

 

()()!」

 

 〈鉄山靠〉炸裂!

 体当たりを仕掛ける。

 それを何とか防ぐも、防御諸共吹っ飛ぶ呂剛虎。

 

「さて、楽しいひと時だったが、終わらせるか……」

 

 立華の顔から笑みが消える。

 構えを取る。

 その姿が消えた……ように、見ていた3人と呂剛虎は感じる。

 気づいたときには立華は彼の目の前にいた。

 

「!?」

「七孔噴血……巻き死ねぃ!」

 

 剛打、毒手、二の打ち要らず。

 そのように呼ばれる一撃が炸裂。

 

「ガア……」

 

 獣のような声を上げて、血を吐きながら倒れる呂剛虎。

 

「ふう……」

 

 そのまま残心。

 〈限定召喚〉を解除。

 そして、倒れた呂剛虎の脈を測ると。

 

「!?」

 

 止まっていた。

 勢い余って殺してしまった!?

 いや、まだギリギリ瀕死だ。

 

(「ヤバイヤバイ!?」)

 

 まだ呆然としている3人にばれないように、カードを1枚〈限定召喚〉。

 現れたのは短剣。

 【修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)】。

 とある魔女の宝具。

 治療宝具。

 あらゆる呪い、魔術による損傷を零に戻す。

 時間操作ではなく、本来あるべき姿を算定することにより自動修復している。

 このため“死”以外のあらゆる理不尽を打破できるが、死者を蘇らせる事は不可能。

 それを突き刺す。

 今回はギリギリ死んでいないのでどうにかなった。

 

「ふう。危ない危ない」

 

 息をついていると、人が近づいてくる気配がする。

 七草と渡辺、達也だった。

 

「凄かったわ。人間って手足が増えるのね……」

「ああ。本当に凄かった」

「やっぱりお前なら師匠にも勝てるな」

 

 三者三様の誉め言葉。

 そして、立華は彼らに聞く。

 

「それで、どうしましょう?コレ?」

「警備員に任せるしかないんじゃないのか?」

「いえ、それはわかるのですけど、拘束しておきたいなって」

 

 回復させてしまったので、尚更だった。

 しかも全快させてさせてしまった(笑)。

 

「レイナだったら、縛る為の縄とか仕込んでいるんですけど……、皆さん何か持っていませんか?」

「「「あの子何なの!?」」」

 

 全員のツッコミを浴びる。

 その後直ぐに警備員が駆け付け、呂剛虎を拘束して、連行していった。




(・▽・)<欲を言えば老人のアサシンを出したかったのですが
(・▽・)<詳しいスペックがわからないので。ランサーです。


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第二十一節:それぞれの動向

(・▽・)<連続投稿も終了。疲れました。
(・▽・)<……トラブルも起こりましたけど。

(・▽・)<そういう訳で今年度の更新は終了。
(・▽・)<皆さん良いお年を。
(・▽・)<次章以降の更新についての事は活動報告欄に載せてます。


「論文コンペも近いなあ」

「色々あった」

「だな」

「拷問したかった……」

「……」

 

 藤丸邸。

 論文コンペ本番を二日後に控えた金曜。

 夜も更け夕食も入浴も済ませて寛いでいる時間だった。

 そこへ回線に連絡が入る。

 

『夜分遅くにごめんなさいね』

 

 響子からだった。

 電話の内容はスパイの実働部隊の拘束完了の旨を知らせるもので、響子の表情は明るかった。

 

『陳祥山には逃げられたけども、呂剛虎は確保できた。概ね満足出来る結果ね』

「欲を言えば茶髭も捕まえたかったですね」

『茶髭!?何その言い方!?まあそうだけどね……』

「ああいうのって上をどうにかしないと止まらない場合が多いですし」

『それは経験上?』

「ええ」

 

 これでも色々経験しているのだ。

 

「でもある程度片付きましたし」

『達也君の要請もあったからね』

 

 意外な名前が出てきた。

 ちなみに立華は達也と響子が同僚である事を知っている。

 達也はまだ立華と響子の関係は知らない。

 ……言う機会がないだけである。

 

『被害に遭ったのは魔法科高校とFLTだけじゃないのよ。他の専業や非専業メーカーまで今回の産業スパイ組織には悩まされてたところだったから。諜報も防諜も私達の管轄ではないけど、うちの部隊の性質上魔法技術を標的にしたスパイに知らん顔も出来ないし、達也君から連絡が無くても近々出勤する予定だったのよ。それが少し早まったの』

「なるほど。ところで聖遺物の件は?」

 

 どこから漏れたのか気になった立華である。

 

『恥ずかしい話だけども、軍の経理データが漏洩していたの。それで軍から魔法研究の委託費支払いがあった先が狙われたという経緯みたい』

 

 立華は納得したように頷く。

 手口が中途半端だったのにも頷ける。

 

『拘束したメンバーは東洋系多国籍だったけども、もしかしたらあの街の尻尾を掴むことが出来るかもしれないわ』

「……良かったですね」

『私は小心者だからね。敵が自分の庭先に潜んでるかもしれないというのが我慢出来ないのよ』

「もしもの時は手を貸しますよ」

『……その時はよろしくね』

 

 本音を言えば、彼が手を貸した場合どうなるかわかったもんじゃないが。

 小競り合いで「神の杖」ブッパするような物である。

 

「わざわざご連絡ありがとうございました」

『どういたしまして』

「そういえば、達也には?」

『伝えたわよ。日曜日、頑張ってね』

 

 藤林からの通信が切れ、立華はソファーにもたれる。

 一人きりの彼。

 上を見て呟く

 

「さて。どうなる?」

 

 その言葉を聞くものはいなかった。

 

 ◇◇◇

 

 呂剛虎が捕まり、自身も危ないので、陳祥山は撤退を決意した。

 隠れ家を捨て、一時的に横浜中華街へと逃げ延びていたのである。

 潜伏しているのは周が手配した場所だった。

 ちなみに、東京某所に作っていた隠れ家は国防軍によって抑えられている。

 少しでも遅ければ、彼も捕まっていただろう。

 

 そんな茶髭(立華命名)は現在は、周公瑾と対面していた。

 

「この度は色々手を貸していただき感謝しております、周先生。色々と世話になりました」

「恐縮です陳閣下」

 

 お互いに心にもないことを述べる。

 両方共それはわかっている。

 あくまでも形式的である。

 お互いに余計なことは言わない。

 元よりそういう関係性なのだから。

 

「本国との連絡で無事に艦艇が集結し、空母も公海上で待機していますので、無事に作戦を実行できそうです」

「それは何よりです」

「しかし……一つ問題がございまして」

 

 陳祥山は一旦言葉を切る。

 そして手に持った酒を猪口で少し飲んでから、言葉を続けた。

 

「ご存知かと思いますが、武運拙く、我が副官が敵の手に落ちてしまいまして……」

「ええ、存じております。まさか呂先生が……」

 

 恐らく手練れがいたのだろう。

 自身の勘が正しければサーヴァントのマスター。

 そう考える周公瑾。

 

「お恥ずかしい限りで……。とは言え、敵の手に落ちる失態を晒したとはいえ、彼は我が国に必要な人材。どうか手を貸してくださりませんか?」

 

 これは苦渋の決断。

 渋い陳祥山の表情からそれが読み取れる。

 だが、周公瑾はも表情を崩さず、笑顔で承諾する。

 

「勿論ですとも閣下。これ同属の危機。見過ごすわけにはまいりません」

 

 そして周公瑾はある情報を伝える。

 彼には要請が来ることがわかっていたのだ。

 

「実は明後日の十月三十日、その日に呂先生が横須賀の外国人刑務所へと移送されることになっているのです。勿論、そのルートも把握しております」

「ほう」

「便宜を図りましょう。その代わりと言っては何ですが、この中華街には出来るだけ被害を出さないように計らってくださいませんか?」

「ええ、勿論。あくまで我が国の最も重要な狙いは横浜ベイヒルズタワーにある魔法協会です。荒事は……まあ少し起こるかもしれませんが、中華街に戦火が広がらないよう、手配しましょう。作戦指揮官にも伝えておきます」

「充分です閣下。感謝します」

 

 恭しく一礼する周公瑾。

 それが安請け合いと知りながらも、彼はその事を顔に出す事は無かった。




次回予告(短め)

「世の人は我を何とも言わば言え……」
「ノブノブー!」
「よろしくね。■■■先輩♪」
「分かった!分かったわよ!……面倒ね」
「儚く散るまで、唄い続けるために!」
「力を以て山を抜き、気迫を以て世を覆う!」
「「「「「「絶対に呼ぶな!?」」」」」」

長幕再戦都市 ヨコハマ 「幕末の志士達」 2019年頃 連載開始予定
連載ペース未定

(・▽・)<1番と2番目の台詞以外は改訂で増えた言葉です。
(・▽・)<そして3番目は主人公の言葉です。

(ノッブ)<何で新旧共にチビノブがいるのじゃ!?
(ノッブ)<ワシまだ出番まだないのに!?
(・▽・)<出番あるじゃないですか。前後書きに。
(ノッブ)<酷い!?

(おき太)<……それはともかく、サブタイトルなんですか!?
(おき太)<まさk
(・▽・)<誤解が発生しないよう言いますが
(・▽・)<別に特異点が発生するわけではありません。
(おき太)<いや、そっちじゃなくて長幕ってまs
(・▽・)<♪~


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長幕再戦都市 ヨコハマ 「幕末の志士達」
第壱節:全員集合


(・▽・)<リアルが少し落ち着きました。
(・▽・)<なので更新します。
(・▽・)<ただし次回はいつ更新が未定です。


 そして。

 論文コンペが遂に明日となる。

 

 勿論立華とレイナも参加する。

 警備として参加をする。

 なので2人は色々な準備していた。

 

 立華は複数のサーヴァントの合作で作り上げた愛用の日本刀を出す。

 

「持って行くか」

 

 その気になれば、色々武器は出せる。

 聖剣、魔剣、棺桶、双剣、槍、弓、矢、大砲エトセトラエトセトラ。

 だが、その場合、色々突っ込まれるうえ、誤魔化し効かないのもあるので持って行くことにする。

 ついでに投擲用のナイフや暗器も準備する。

 そして、刀を袋に入れた所で……。

 

「そうだ!アレも持って行こう」

 

 そう言って彼が倉庫から出したのは……。

 

 武器は形としては「方天戟」に近い。

 方天戟は矛の穂の根本に「月牙」と呼ばれる三日月状の刃を取りつけた物をそう呼ぶ。

 立華の契約サーヴァントである「呂布」の「方天画戟」がいい例だろう。

 だが、この戟には本来ならば1つや2つのはずの「月牙」が幾つも付いている。

 これもあるサーヴァントが作った立華の宝具だった。

 これを布でグルグル巻きにしていく立華。

 

 そして、一方のレイナは……。

 いつものCAD……腕輪状に加えて、拳銃タイプも用意する。

 更に……。

 

「あった……」

「持ってくの?」

「うん」

 

 レイナが持っていたのはロケットペンダント。

 これもCAD。

 彼女の奥の手〈リトル・ボンバー〉を発動させる専用のCAD。

 ……因みに中条の〈梓弓〉も似たようなCADで発動させる。

 

「でも……できるだけ使うなよ。もしもの時はオレがビーム撃つ」

「わかってる。でも、宝具使ったら、誤魔化し、効かない」

「……」

 

 そう言ってレイナはロケットペンダントを服の中に仕舞う。

 これで目立たない。

 

 レイナの言葉に何も言えなくなる立華。

 

 立華が召喚されてから、早2年半。

 理解者や協力者に恵まれ、色々バレずにやって来れた。

 だが、それがいつまでも続かない事を知っている。

 響子からの情報で四葉と七草が多少なりを潜めたものの、未だ動いている事を知っている。

 

「一応準備はしてあるけどな……」

 

 呟く立華。

 もしもの時……、戦いになった時の為に色々準備はしてある。

 

 九校戦のすぐ完成させた「ゴーレム」。

 ……今は封印中。流石に「楽園」にする気はない。

 烈の支援が受けられるようになってすぐに作った「空中庭園」。

 ……血と汗、涙、金、時間が結構かかった。

 色々あって偶然見つけた「剣」と「槍」。

 ……複数のサーヴァント達に協力してもらい、使えるようにした。

 あるキャスター……超ピーキーな「ある悪魔」が作り上げた「■■■」。

 ……これも封印中。シャレ抜きでヤバイので。

 

 他にも、色々雑兵が色々いるうえ、サーヴァントも追加で呼べる。

 その気になれば、世界を敵に回しても戦争できる。

 

「ま、他の先輩方の真似する気はないけどね」

「……そう?」

「うん。前にエリカにも言ったけど」

 

 そう言ってレイナを前にして笑った。

 

「世界を滅ぼすなら、とっくにやってる。サーヴァントになった時点でね。この“クラス”だしね」

「……」

「ゲーティアやティアマトはさ、現在の人類を見限った。だからあんなことを引き起こした」

「尼と外道は?」

「……置いておく」

「そう」

「オホン。でもね」

 

 一拍置いて続ける。

 

「オレとプライミッツ・マーダーは美しい物を知ってる。だから……」

 

 言葉を切って続けた。

 

「人類を信じてる」

 

 ◇◇◇

 

 そして、論文コンペ当日となる。

 仲良く眠っている2人。

 寝坊することなく起き出す2人。

 レムレムしている事もなく、スッキリしている。

 

「おはよう」

「おはよ」

 

 そのまま朝の準備。

 そして、朝食を終えると。

 

「さて」

 

 そう言って彼は最後の準備に取り掛かった。

 それは……。

 

「全員、集合!!!!!!」

 

 立華が大声を出す。

 すると……。

 

「呼ばれましたか。御館様」

 

 声が響く。

 巫女装束の少女がどこからともなく現れる。

 「アサシン・パライソ」。真名は望月千代女。

 甲斐武田家に仕えたという女忍者(くのいち)である。

 

「グルルル……」

 

 疾走する音と唸り声が響く。

 透明化が解け、現れたのは巨大な狼と、それに跨る首無し騎士。

 「新宿のアヴェンジャー」。真名は■■■■・■■。

 人類を憎悪する獣。

 立華には気軽にもふらせたり、背中に乗せるのも許可している。

 だが未だにレイナや達也達には心を開いていない……というか開く気がない。

 余談だが、九重八雲を殺しかけたのは彼である。

 

「来たぞ。マスター」

 

 足音が響く。

 身の丈を超える大太刀を持った褐色肌の少女が現れる。

 「アルターエゴ」。真名は魔神・■■■■。もしくは■■■■・オルタ。

 ただ一度の輝きのために調整された決戦英雄。

 通称魔神さんやオルタと呼ばれている。

 

「呼んだ?立華君」

 

 花魁が着るような派手な着物に、刀を二本差しにしている女性。

 右目には刀の鍔で作った眼帯を付けている。

 「セイバー」。真名は宮本武蔵。

 天元の花、二刀流の剣士。

 武蔵ちゃんと呼ばれ、結構慕われている。

 

「どうかしましたか?マスター君」

 

 3m近くあり、牛のような角の生えた大柄な男。

 六本の腕を持つ異形。

 常在サーヴァント唯一の二重召喚。

「キャスター・バーサーカー」。真名は■■。

 武器の開発者にして、忌むべき大魔神。

 因みに見た目が見た目で誤魔化しが効かないので、いつも引きこもっている。

 本人は結構紳士的なのだが。

 

「どうしたの?マスター」

 

 リボンを付けた金髪碧眼の少女が現れる。

 黒いドレスを着て、手にはぬいぐるみを持っている。

 「フォーリナー」。

 真名はアビゲイル・ウィリアムズ。

 セイレム魔女裁判の発端となった『鍵』の少女。

 専らアビーと呼ばれている。

 彼女の場合真名がわかったところで、ほとんどの人は対策不可能なのである。

 ……まあわからなくても対策不可能な気がしないでもないが。

 

 この6騎と立華を含めた7騎。

 この7人が常時召喚されている。

 ……他の面々は状況に応じてである。

 

「今日は俺が何するか知っているよね」

 

 全員頷く。

 この6人は特につながりが深い。

 藤丸邸にいるため、知っている。

 

「それで、今日は確実に何か起こる。だからこそ……」

 

 全員を見渡す。

 

「皆、ついて来て欲しい」。




【常在鯖】
 この6人が常在サーヴァント。

 いつもは自室にいるか、自分の仕事をしている。

 出かけると目立つのであまり出かけない。

 アルターエゴとフォーリナー、セイバーはレイナばりに立華とよく一緒にいる。特にアルターエゴはかなり引っ付いている。


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第弐節:論文コンペ 前編

(・▽・)<読者の皆さん。お久しぶりです。

(・▽・)<もうすぐ新しい元号になりますね。

(・▽・)<そういう訳で四話連続更新を行います♪


 そういう訳で全員連れて行こうとした立華。

 だが。

 

『流石に全員は不味いと思うわよ?マスター』

 

 フォーリナーの意見。

 

『外に出たら、我輩は目立ちます』

 

 バーサーカーの意見。

 

『ウチ、警備いる。響子、注意、あったばかり』

 

 レイナの意見。

 

 そんな訳で、メンバーを選ぶ事にする。

 そして。

 

「行くぞマスター」

 

 「アルターエゴ」ことオルタちゃん、もしくは魔神さん。

 いつもの服装では目立つので、彼女の「オリジナル」が着ていそうな着物を身に付けていた。

 ……それでも十分目立つのだが(笑)。

 

「では拙者はいつものように」

 

 「アサシン・パライソ」こと千代ちゃん。

 服装はいつもと変わらない、黒包帯。

 ……因みに普段は巫女装束で、外で誰かと会う時は黒包帯である。

 

「じゃあ行こっか」

 

 「セイバー」こと武蔵ちゃん。

 現代風の衣装を纏っていた。

 ……因みにこの服装で千葉家にお邪魔した。

 

 残りの3人は留守番となった。

 

『我輩は色々作業をしておきます』

『その気になれば、私はそこへすぐに行けるわ』

『……』

 

 そんな訳で、この5人で会場に向かう。

 途中でサーヴァント3人とは別れる。

 ……オルタちゃんは付いてきたがったが。

 あの子刷り込みヒヨコに近いので。

 

 そして、会場に着く。

 荷物はロッカーに預ける。

 そうして、立華とレイナは会場警備隊の取りまとめである十文字の元へ向かう。

 そこには各校から選抜された警備隊の面々が集まっていた。

 一校の風紀委員や武闘派の面々だけでなく、三校の一条もいた。

 立華とレイナはいつものようにコンビとなる。

 

 解散後、2人で警護していると。

 

「やっほー2人共!」

「エリエリ!レオレオ!」

 

 エリカとレオのコンビに出会う。

 

「よお。警護か?」

「そうよ。せっかく色々準備して来たんだもの」

「そういえばそうか」

「そっか」

 

 軽く雑談してから、エリレオコンビ(レイナ命名)と別れる。

 

 エリカたちと別れ、次に彼らが出会ったのは……。

 

「あら奇遇ね。お久しぶり」

「久しぶりじゃのう」

「お久しぶりです」

 

 三校の一色と四十九院、十七夜と出会う。

 夏休みに5人でお出かけして以来だった。

 

「エクレア!カノ!ツクシ!」

「エ・ク・レ・ー・ル!いい加減に覚えなさい!」

「無・理♪」

「……串刺しにしますよ!」

「もう諦めたらどうじゃ?」

「そうですよ愛梨」

「「お2人共!?」」

 

 いつものやり取りの後、軽い世間話となる。

 

「会場の警護かしら?」

「うん」

「そっちは?」

「発表を聞きに来たのよ」

「まあそれしか来る用事はないですけどね……」

「妨害とかヤジとか?」

「いやいや、それはないじゃろう……」

 

 立華の言葉に珍しく四十九院がツッコミを入れる。

 ……普段はボケなのに(笑)。

 

「じゃあ、俺達は警備に戻る」

「じゃね!」

 

 去っていく2人に軽く手を振る3人だった。

 完全に見えなくなったところで四十九院が口を開く。

 

「あの2人何か雰囲気が違ったの」

「え?」

「そうですか?」

「少なくとも夏休みに遊びに行った時や九校戦の時とは違う。言うなれば……」

 

 真面目な表情になって続ける。

 

「戦いの前の戦士のようじゃった」

 

 ◆◆◆

 

 論文コンペは特に何もなく進む。

 そして、昼食の時間となる。

 

「美味いな……」

「お前本当に何でもできるんだな……」

「すまないな藤丸」

 

 2人は十文字と服部、桐原の3人と昼食を取っていた。

 メニューは立華が山ほど作ったサンドイッチ。

 3人にもおすそ分けして食べていた。

 和やかな雰囲気だったのだが。

 

「桐原、服部。午前中何か気づいた事はないか?」

 

 十文字の言葉でその雰囲気は一変する。

 

「雰囲気が少しピリピリしている気がします」

「外国人が多い気がします」

「うむ」

 

 2人の答えに頷く十文字。

 次に立華とレイナを見て発言。

 

「藤丸、鷹山。午後何か起こると思うか?」

「起こりますね。確実に」

 

 立華が即答。

 彼の勘の良さは知っている人は知っている。

 

「ハラキリ。刀、持ってきた?」

「ん?ああ一応……」

「佩刀して?」

「……」

 

 その言葉に表情を引き締める桐原。

 

「……待ってくれ。何が起こるんだ?」

「そこまではわかりませんけど……、荒事になるでしょうね。確実に」

「そうか」

 

 服部の言葉に立華が断言。

 その言葉を聞いていた十文字は目を閉じ思考する。

 そして。

 

「午後からの警備は防弾チョッキを着用しろ。桐原と藤丸は持ってきた武器を携帯しろ。何か言われたら俺の名を出せ」

「「はい」」

「むき出しだと目立ちますよ」

「……何を持ってきたんだ?」

「戟」

「「いつの時代!?」」

「そうだな……。布に包んでおけ」

「はい」

「……流石モンジ。ツッコミをしない」

 

 そういう訳で警備隊一同、防弾チョッキを着用するように通達された。

 立華と桐原は武器を鞄に入れて携帯する事になった。




(・▽・)<約1時間置きに残り3話投稿です。


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第参節:論文コンペ 後編

(・▽・)<四話連続更新の二話目です。

(・▽・)<読んでない方は前回の話をご覧ください。


「目立つなあ……」

「しょうがない」

 

 午後の警備。

 心なしか、警備員はピリピリしている。

 そんな中で異彩そ放つのが2人いた。

 一校の生徒の2人だった。

 

 1人目は桐原。

 腰には日本刀を佩刀していた。

 因みに刀を付ける専用のベルトを腰に巻いていた。

 

 2人目は勿論立華。

 腰に刀を差しているだけでなく、手には布にくるまれた何かを持っていた。

 ……何処からどう見ても槍や戟と言った長物が包まれているようにしか見えない。

 昼食後、いったん合流したサーヴァント達から預かって来たのだ。

 

 そんな訳で立華は目立っていた。

 すると……。

 

「それは槍か?」

「惜しい。正確に言えば戟。正式名称はあるけど内緒」

「違い、あんまりない」

「あるよ」

 

 達也がやって来て話しかけてきた。

 因みに「戟(げき)」は「戈(か)」や「矛(ぼう)」の機能を備えたものを指す。

 

「コンペは?」

「装置は市原先輩と七草先輩もいる。俺が特に心配する必要はないからな」

「ナナ先輩、探知、掻い潜れるの少ない」

「ああ。……師匠やアサシンなら出来るかもしれないがな」

 

 因みに立華が契約しているサーヴァント達も出来る者はいる、というか多い。

 アサシンだし。

 

 閑話休題。

 

「そういえば」

「?」

「藤林少尉に会ったぞ」

「……もしかして聞いた?」

「お前達と付き合いがあるという事は聞いた」

「……すまん」

 

 ペコリと頭を下げる立華。

 

「……いや、別に攻めている訳じゃない」

「言う機会が無くてね。それに……」

「それに?」

「天狗同士が戦う展開は達也は嫌だろう?」

「……」

 

 その言葉に無言になってしまう達也。

 彼の上司とサーヴァントが戦う展開は彼も嫌だった。

 そしてある話題を出す。

 

「そういえば伝言がある」

「?」

「虎が逃走した」

「!?」

「タッツン、寅さん、拘留中じゃなかった?」

「……別の虎な気がするが、まあいい。輸送中に何者かの襲撃で逃げ出された。しかも輸送人員は全滅した」

「……ヤバイ」

 

 立華が顰め面をする。

 

「……どうした?」

「病院での戦い、覚えてる?」

「ああ」

「あの時、間違って殺しかけて」

「「!?」」

「治したのはいいんだけど、全快にしちゃった」

「「……」」

「てへぺろ」

 

 舌を出し誤魔化す立華。

 それを白い眼で見る達也。

 

「……つまり病院の時よりも元気という事か」

「うん。マジですまん」

「……」

 

 何も言えなくなった達也だった。

 

「だからぶつかる時は警戒して」

「……ああ」

 

 そうして達也と別れる2人だった。

 

 ◆◆◆

 

 そして。

 遂に一高のプレゼンテーションが始まった。

 一校の研究は加重系魔法の技術的三大難問の一つという内容であるため、注目を集めていた。

 

 そして、市原が説明を始める。

 

「核融合発電を拒む主たる問題は、プラズマ化された原子核の電気的斥力に逆らって融合反応が起こる時間、原子核同士を接触させることにあります」

 

 この電気的斥力に対して先人たちは強い圧力をかけることによって対抗しようとした。

 しかし、様々な問題によって安定した核融合ができなかった。

 

 市原は説明をする。

 それを組み立てた機材を出したり、動かしたりしてサポートする五十里と達也。

 

「しかし、電気的斥力は魔法によって低減させることが可能です。今回私たちは、限定された空間内における見かけ上のクーロン力を十万分の一に低下させる魔法式を開発しました」

 

 市原の言葉を聞き、会場が驚きに包まれる。

 

 装置内では放出系魔法によって水素をプラズマ化、重力制御魔法とクーロン制御魔法を使い、プラズマによって核融合を起こす。

 そして、振動系魔法で急速に冷却、冷却された水素ガスを熱交換用の水槽に送り込む、これの繰り返しによって断続的に核融合を起こすというのが市原の考えだった。

 

「現時点では、この実験機を動かし続けるために高ランクの魔法師が必要ですが、エネルギー回収効率の向上と設置型魔法による代替で、いずれは点火に魔法師を必要とするだけの重力制御魔法式核融合炉が実現できると確信します」

 

 市原が締めくくる。

 暫しの沈黙後、会場から割れんばかりの拍手が起こる。

 これが実現すれば、魔法師が戦闘だけでなく、産業でも役に立てるのだ。

 だからこそ聴衆からは怒濤のような拍手が送られた。

 

 一校代表がステージから降り、機材が撤去される。

 そして、三校生徒が準備を始める。

 吉祥寺がその中にいた。

 だが、その発表は行われることがなかった。

 

 会場の外ですさまじい轟音と衝撃が響き渡った。




(・▽・)<う~む。
(おき太)<……どうかしました?
(・▽・)<色々やり過ぎたかなと思いましてね。
(・▽・)<他の作品見てると自分の作品の駄作ぶりが際立つので。
(ノッブ)<確かにのう。
(・▽・)<もう少し設定を推敲すれば良かったです。
(ヒッジ)<後の祭りだな。

(・▽・)<とりあえず失踪はしません。

(・▽・)<偶に何かしら書き込みます。

(・▽・)<暖かく見守ってください。


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第肆節:コンペ、のち、■■■■■

(・▽・)<四話連続更新の3話目です。読んでない方は前回の話を。

(・▽・)<それと小話をどうぞ。

(・▽・)<今回の話に関わりが少しだけあります。



【小話】

「いいかレイナ。もし武装集団に囲まれたり、会敵したらどうすればいいと思う?」
「倒す?大人しくする?」
「まあそれも間違いじゃない。でも俺が思うにこういう時にはな……」

「相手がやると思わない行動をするのが一番いい」



(・▽・)そして、今回の話は。

(・▽・)作者がずっとやりたかった話でもあります。

(・▽・)それではどうぞ!


 一高の発表が終わり、ロビーで響子と世間話をしていた寿和。

 今回の騒動で知り合った2人である。

 衝撃と轟音後、通信端末が震えたので、響子に断りを入れてから通信に出た。

 

「千葉だ。稲垣か? なにっ!? ……分かった、すぐにそちらへ向かう」

 

 寿和が身体の向きを戻すと、響子も丁度電話を終わらせたところだった。

 

「本官は現場に向かわなければなりません」

「私はここに残ります」

「すみません! 何か分かったら連絡してください!」

 

 頷く響子にそれ以上言葉を掛ける暇も無く、寿和は自分の車へ向かい、飛ぶように走った。

 その途中で。

 

「あ、親父か。アレらを大至急届けてくれ!……ああそうだ【大蛇丸】【雷丸】だ!」

 

 父親にある要請をした。

 

 一方響子は車にある通信機の元へ急ぐことにする。

 これほど過激な事態になるとは予想していなかった。

 

「立華君、達也君、レイナさんは大丈夫かしら……」

 

 因みにこの2人……すぐ現場から離れたおかげで“ある事”から命拾いできていたのだがこの時は知らなかった。

 

 ◆◆◆

 

 論文コンぺ内会場は先程の轟音と振動で騒めいていた。

 まあ、無理もない。

 そんな中で全く普段通りなのが1名いた。

 

「深雪!」

 

 達也である。

 彼は最も優先すべき者の名前を呼んだ。

 

「お兄様!」

 

 それに答える深雪。

 彼女の表情は少しばかり強張っていた。

 

「お兄様、これはいったい……?」

「正面出入り口付近で擲弾が爆発したのだろうな」

「グレネード!?先輩方は大丈夫でしょうか」

「正面は協会が手配した正規の警備員が担当していたはずだ。実戦経験のある魔法師も警備に加わっている。それにアイツがいるんだぞ?」

「……そうですね」

 

 達也の言葉に深雪の表情が少し柔らかくなる。

 2人して得たいのしれない友人の事を思い出したのだ。

 彼ならその気になれば助っ人を呼び出せる。

 

 ところが、複数の銃声が響く。

 

「(フルオートじゃない……対魔法師用のハイパワーライフルか!)」

 

 音から分析する達也。 

 

 魔法師の魔法には、銃器を無効化するものがある。

 十文字家や達也と深雪が世話になった「とある女性」が使う障壁魔法がいい例である。。

 だが攻撃と防御は常にいたちごっこを演じて発展していくものであり、強力な防御手段に対してより強力な攻撃手段が開発されるものだ。

 魔法師の防御魔法を無効化する高い慣性力を生み出す高速銃弾、それが対魔法師用ハイパワーライフルの設計思想である。

 だが実戦レベルにある魔法師の干渉力を無効化する弾速を得る為には、通常の銃器製造技術より二段階も三段階も上の高度技術が必要となる。

 小国の正規軍程度では製造はおろか配備も出来ない武器なのだ。

 

 更に、ライフルを持った集団が会場内になだれ込んで来た。

 

「だらしない……」

 

 思わず呟く達也。

 その集団に対し、大半が恐怖に竦む中、三校の生徒達が魔法を発動させようとするが。

 

 ズドン!

 

 魔法よりも早くライフルから弾丸が発射される。

 銃弾がステージの後壁に食い込んだ。

 その弾の威力から見て、彼らが手にしてる達也の予想通りハイパワーライフルだった。

 

「大人しくしろっ!」

 

 その怒声は、何処かたどたどしい。

 外国人であるとしても、入国(密入国)したのはつい最近の事だろうと達也は感じる。

 

 現代魔法はCADによる高速化で銃器との対等のスピードを手に入れた。

 だが、それはあくまで「対等」且つ「魔法師の力量次第」なのであって、相手が既に銃を構えている状態では無闇に抵抗しないのがセオリーだ。

 

『CADはボタンや引き金を引く動作がある。だからこそそれは隙になる』

 

 立華談である。

 そんな事を思い出していた達也。

 

 そして侵入者は。

 

「デバイスを外して床に置け」

 

 ライフルを向けながら、武装解除を指示していた。

 どうやら侵入者は魔法師相手の戦闘に慣れている様子だった。

 もしかしたらこの者たちも魔法師なのかもしれない。

 

 ステージの上では、三高の生徒たちが口惜しそうな顔でCADを床に置いている。

 こういう時の対処もきちんと教えられているらしい。

 

 彼らの対応を感心しながら見ていた達也だったが。 

 

「おい、オマエもだ」

 

 通路にいた達也に侵入者が気づいた。

 1人が銃口を向けたまま慎重な足取りで近寄ってくる。

 今の言葉が達也に掛けられたものであるのは間違いない。 

 

「お兄様……」

「(ここまでか……)」

 

 総勢9名。

 達也は会場に侵入者にCADを使わずに照準を合わせて、心の中でつぶやく。 

 

「(出来れば誤魔化しの効く魔法で済ませたいが)」

 

 これだけ人の目がある中で〈雲散霧消〉を使えない。

 いざという場合は仕方が無いが……。

 達也が考えていると、侵入者の怒声が浴びせられた。

 

「早くしろっ」

 

 その侵入者のライフルから弾丸が放たれようとした瞬間。

 

 

 バン!!!

 

 

 照明が落ちた。

 そして、すぐさまライトがステージに付く。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 会場内騒然。

 侵入者含めて。

 なぜならそこには少女の2人組がいつの間にかいた。

 

「ふっふっふ、あれは誰だ? 美女だ!? ローマだ!? もちろん、余だよっ♪」

 

 金髪の少女がいた。

 赤い衣装に身を包んでいる。

 

「ハーイ、魔法科高校のリス共、ブタ共~!今日はアタシのライブに来てくれてありがと~!」

 

 赤い髪の毛の少女がいた。

 頭にリスとブタのアクセサリーが付いた帽子を被り、少し色合いの派手なドレスに身を包んでいる。

 

「それじゃあ最初っから飛ばしていくわよ~!」

「うむ。最初は譲ろう。好きに歌うがよい」

 

 そう言ってハモる。

 

「ありがとう!じゃあ1曲目は”恋はドラクル”。聞いてね~!」

 

 そして。

 

「♪恋はドラクル(朝は弱いの)優しくしてね 目覚めは深夜の一時過ぎ

 ♪お腹は空くの 生きてるライフ(トースト一つじゃ足りないの)

 ♪Killer☆Killer印のジャムを頂戴

 ♪狩りはマジカル

 ♪あたしクビカル

 ♪チェイテの城から

 ♪ガシガシ届け

 ♪今夜もアナタを監禁させて♪

 

 ボエエエエエエ~」

 

 会場内は阿鼻叫喚となった。

 

 余談だが立華とレイナは召喚してからすぐに逃走した(笑)。




(ノッブ)<人間五十年……下天のうちを……くらぶれ、ば……
(おき太)<まだ……まだ、倒れるわけには……
(茶っ茶)<熱い……もう、何も見えない……
(ヒッジ)<俺は死なん……! 俺がいる限り、新選組は不滅だ……!!
(カッツ)<あとはお任せします、姉上
(人斬り)<お、覚えちょれよ……
(リョマ)<はは……コイツは参ったね、どうも
(蛙好き)<すまんな……もう、動けん……

(・▽・)全員死んだ!?この人でなし!


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第伍節:リサイタル後

(・▽・)<(ツヤツヤ)

(・▽・)<四話連続更新の最後です。

(・▽・)<それと後書きが少し長めです。


 2人の少女によるリサイタル(ジ○イアンリサイタル)は本来ならオールナイトで続くはずだった。

 だが1人一曲で立華が強制送還させた。

 そのため、死者は出ず、一夜にして謎の文明崩壊もせずに済んだ。

 ただ、近くでモロに喰らった侵入者一同は泡を吹いて気絶した。

 ……そのため、捕縛は楽だった。

 因みに九校戦参加者、もしくは、見に来ていた者は比較的軽傷で済んだ。

 嫌な予感がしたので、すぐさま耳を塞いだのだ。

 だって、歌声で氷柱破壊していた奴いたし。

 

「……音痴の怪獣が化けて出たような歌でしたねお兄様」

「……ああ」

 

 立華からサーヴァントの中に歌(と料理)がジ○イアンの奴がいると聞いていた達也と深雪は、覚悟はしていたのだが、あそこまでとは思っていなかったらしく、若干ダメージが抜けきっていない。

 

「……熱を出して寝込みそうよ」

「脳味噌がむずむずします……」

「これも公害の一種じゃな」

 

 三校の女子三人組は今にも死にそうだった。

 

「わーよかったよかった、終わってよかった」

「……なんで歌っている本人達自身はあのすさまじい歌にけろっとしていられるのでしょう?」

「当たり前です中条さん。フグが自分の毒で死にますか?」

 

 五十里が終わった事にほっとして、中条が歌っている本人が元気そうだったことに首を捻り、それに市原が答える。

 

「あの歌は痺れる。痺れて気が遠くなって熱が出る。あの歌でいい所は終わったところだ」

「この世を脅かすのは核兵器とあの歌だ。世界平和のために核兵器とあの歌を追放しよう」

「野球の応援かと思った」

「あの歌は怪獣の叫び声だよ」

「テロリストの方が100倍マシよ」

「戦略魔法よりも酷いわ……」

 

 観客達も散々な評価だった。

 ……というか彼らは論文を聞きに来たのであって、ジ○イアンリサイタルを聞きに来た訳ではないのだ。

 

 閑話休題。

 

 歌が聞こえなくなったせいか、外からは轟音が聞こえる。

 

(「あの歌のせいで聞こえなかったのか……」)

 

 そんな事を思っていると。

 

「達也君!」

「達也!」

 

 同時に彼を呼ぶ声。

 エリカとレオ、その後ろには幹比古、美月、ほのか、雫といった愉快な仲間達。

 達也と深雪を囲むようにして集まった。

 

「それにしても随分と大事な事になってるけど……これから如何するの?」

 

 エリカが尋ねてきた。

 心なしか楽しそうである。

 

「逃げ出すにしても追い返すにしても、まずは正面入り口の敵を片付けないとな。今の状況はどうなっているか……」

 

 後半の言葉は答えを求めたわけではない。

 ただの独り言に近い。

 が、それに答える声があった。

 

「今戦闘が行われているのは正面入り口だけ。そこさえどうにかすればいい。今やってる」

 

 声の方向を向くと、そこには。

 

 異形の戟を肩に担いだ一校制服の少年。

 その横には同じように一校制服の少女。

 そして、身の丈を越える大太刀を持つ大正風な桜色の和服(袴姿)を着た肌が褐色の少女。

 

 この3人組がいた。

 少年を真ん中にその左右を少女2人が固めていた。

 

「立華とレイナ。後、魔神さん。もしかして中は……」

 

 ちなみに愉快な仲間は常時召喚されている面々とは面識がある。

 達也の疑問にアルターエゴことオルタが答える。

 

「私とマスターで片付けた。正面玄関はセイバーが殲滅中だ。じきに終わる」

「出番、なかった」

 

 落ち込むレイナ。

 ちなみにレイナが体術や魔法を繰り出す間もなく、大太刀と戟が敵を殲滅したのだ。

 

「うわあ敵が哀れね」

 

 エリカが侵入者に同情する。

 

(「しかもセイバーって、あの人よね」)

 

 セイバーの正体に心当たりのあるエリカだった。

 

 エリカの言葉に頷く一同。

 

「ねえ立華君」

「うん?」

 

 エリカが猫なで声を出す。

 

「待ってろ、なんて言わないわよね?」

「……責任は持てないぞ?」

 

 消極的な同意をする立華。

 それに愉快な仲間達は嬉しそうにする。

 エリカやほのかばかりか、美月や雫まで喜色を表す。

 

(「勘弁してくれ……」)

 

 達也が思ったのも無理はない。

 

 とはいえ今は緊急事態。

 落ち込んでる暇は無い。

 達也は先頭に立って出入口へと向かった。

 それに続く一同。 

 

「七草先輩。中条先輩も、この場を早く離れた方が良いですよ。そいつらの最終的な目的が何であれ、第一の目標は優れた魔法技術を持つ生徒の殺傷、または拉致でしょうから」

「死ぬ、苗床、悲しい」

「「「「「「言い方を考えろ!?」」」」」」

 

 舞台袖から顔を出した七草と、審査員として最前列に座っていた中条に忠告する達也。

 それに余計な言葉を付け足すレイナ。

 そのあんまりな言い方に全員がツッコミを入れた。

 そして、愉快な仲間はその場を後にした。 




(・▽・)<さて、次回の更新ですがいつになるやら……

(・▽・)<改稿もまだまだですし、新作読むと鯖出したくなります。

(・▽・)<とりあえずどうにか横浜編はやり切りたいです。

(・▽・)<アニメも横浜まででしたので。

(・▽・)<それ以降は……どうしましょう?

(・▽・)<ある程度の構成はあるのですけど。

(・▽・)<穴だらけだったり、纏まらないですね。

(・▽・)<晩鐘の鐘が聞こえるとか、ビーストⅢ揃い踏みとか、

(・▽・)<原作以上に大変な事になった■■とか。

(・▽・)<最悪は活動報告欄に『卒業編』までのプロットだけでも載せます。

(・▽・)<後は夏休み編含めた幕間でもやりましょうかね?

(・▽・)<鯖と魔法科キャラの交流とか。


(・▽・)<読んでくれて本当にありがとうございます。

(・▽・)<次回更新を気長にお待ちください。


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