遊戯王GX ふたりぼっちの僕たちは (未OCGのアルカナフォース達に未来を!)
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1.セブンスターズ編
1話 ひとりぼっちの君を


初めまして。キャラ設定などはあとがきにて書かせていただきます。
更新頻度は低めですが、のんびりお付き合い頂けたら幸いです。


 可愛らしいぬいぐるみ。とても大切なぬいぐるみ。その腹を裂き綿を抜き、代わりにお米を詰めましょう。

 可愛かったぬいぐるみ。大切だったぬいぐるみ。あなたの血を垂らしましょう。真っ赤な糸で縫いましょう。

 ちょっと不気味なぬいぐるみ。それはあなたのぬいぐるみ。最後に、言い聞かせるように、染み込ませるように。

 

「最初の鬼は――」

 

 

「深月っ!深月ってば!」

 

 段々と上がっていく気温が夏を感じさせる頃。僕は目の前を全力で走る黒髪の少女を必死で追いかけていた。

 

「僕そんなに足早くないって!ちょっと……スピード、落として……」

「大丈夫!遊陽なら行ける!それにこのペースでいかなきゃ、遅刻しちゃうわよ!」

 

 今僕達が目指しているのは海馬ランドにある受験会場……そう、今日はデュエルアカデミアの入学試験の日だ。

 

「試験開始まであと10分……おっけー!このペースでダーッシュ!」

「ま、待ってってばー!」

 

 深月は昔から運動神経が良く、ここまで随分走ってきたというのに全く疲れが見られない。一方運動の苦手な僕は、もう歩くのも無理そうな程にクタクタだ。

 

「とうちゃーく!」

「はぁ……はぁ……ついたぁ……」

 

 ようやく海馬ランドの中にあるデュエルドームへと到着。入り口の前には机が置いてあり、青い服を着た女性が立っている。

 100メートル走で一位をとったかの如くガッポーズを決める深月と、肩で息をしながら建物の壁を支えに何とか立っている僕。入試の受付をしていた女性は、苦笑いしながら僕達に声をかけた。

 

「こんにちは。デュエルアカデミアの受験生の方ですか?」

「はい!」

「は、はい……」

「それでは受験番号と、お名前を教えてください」

 

 僕達は鞄の中にしまった受験票を取り出すと、それを見せながら名前を名乗る。

 

「私は受験番号4番、星見深月です。それで――」

「僕は受験番号2番。黒野遊陽です」

 

 受付の女性は僕達から受験票を受け取ると、そこに印刷されたバーコードなどを機械で読み取る。

 

「確認しました。星見さんと黒野さんですね。受験番号は4番と2番ですので……お二人とも試験開始は5分後になります。それまではドーム内部の観客席でお待ちください」

「「ありがとうございます」」

 

 会場に入ると聞こえてくるのは、ソリッドヴィジョンによる爆発や歓声。そして熱気。

 

「おおー!すごいね、遊陽」

「うん。入学試験だからもっと静かだと思ってたけど、随分盛り上がってるね」

 

 観客席には、僕達と同じ中学校の制服を着ている人や、私服の人もいる。

 

「ねぇ遊陽、あの青い服の人達って……」

「あれは、アカデミア中等部の生徒達かな。優秀な中等部の生徒は青い制服を着るってパンフレットにあったけど……」

「じゃあ外部の私達は黄色か赤なの?」

「ううん。女子は全員青い制服になるんだってさ」

「それじゃ、遊陽と一緒の制服は着れないのね……」

 

 受験生でもないのにこっちに来ているってことは、これから同級生になるかもしれないデュエリスト達の研究でもしに来たんだろう。勉強熱心だなぁ……。

 

「さて、試験もすぐ始まっちゃうし、観戦してるヒマは無いわね。準備はオッケー?」

「デッキは大丈夫だけど……緊張しちゃうね」

「まぁ、そうよね。私も緊張しちゃうけど、頑張りましょ?」

「うん」

 

 観客席で誰かの入試デュエルを眺めていると、会場内にアナウンスが鳴り響く。

 

『受験番号5番から2番までの人は、デュエルフィールドまでお越しください』

 

「……呼ばれたわね」

「……呼ばれたね」

 

 深月と互いに頷き合うと、僕達は席を立ち、さっきまで眺めていたデュエルフィールドへと向かう。

 

「それじゃあ頑張ろうね、深月」

「うん。絶対一緒に入学しよう!遊陽!」

 

 デュエルフィールドの入り口で別れ、それぞれの試験担当者の前に歩いていく。

 

「初めまして。私が君の入学試験デュエルを担当する端立だ。確認のため、君の名前と受験番号をもう一度聞かせてもらおう」

「受験番号2番、黒野遊陽です。よろしくお願いします」

「うむ。今回の試験では、君の戦術や対応力を見させてもらおう。勝ち負けではなく、君のデュエルを見せてくれ。さぁ、それでは準備が出来たら始めようか」

 

 受験番号2番。実技試験での受験番号は、筆記試験での順位がそのまま使われる。つまり僕は、筆記試験で2番目に高い点数を取ったと言うことだ。当然番号が小さければ小さいほどデュエルを見ている他の学生の注目度も上がる。

 僕は大きく深呼吸し精神を落ち着かせると、デュエルディスクを展開し構える。

 

「よろしくお願いします!」

「ああ。それでは、試験開始だ!」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 試験官

 

「僕の先攻、ドローします」

 

 手札を見る。流石に1ターン目から上級モンスターは出せなさそうだ。

 

「僕は、【ファーニマル・ベア】を守備表示で召喚します」

 

守800

 

 僕がカードをデュエルディスクに置くと、目の前でPON!とファンシーな爆発が起こり、ピンク色のクマのぬいぐるみが現れる。

 そんな可愛らしいモンスターの登場に、わずかながら嘲るような笑いが聞こえた。

 

「はははっ!なんだあの雑魚モンスター!受験番号2番であれじゃ、今年の入試組は期待できないな!」

「あんな弱っちぃモンスター、小学生のガキでも使わねーぞ」

 

 笑い声の主は、3人組の青い制服の生徒……正確にはその内の2人だ。真ん中に座る、おそらくリーダー格であろう男子生徒は暴言こそ吐かなかったものの、バカにした様な笑みを浮かべてこっちを見下ろしている。

 

「ふむ、確かにステータスは低めだな。それで、これでターンは終了か?」

 

 よそ見をしていた僕の意識を、試験官がデュエルに戻してくれる。

 

「あ、すみません。僕はカードを1枚セット、ターンエンドです」

 

 

遊陽 LP4000 手札4

モンスター:ファーニマル・ベア

魔法・罠:セット

 

 

「それでは私のターンだ。ドロー!……私は【デスマニア・デビル】を攻撃表示で召喚する!」

 

 試験官のフィールドに現れたのは、タスマニアデビルという動物をモチーフにしたモンスター。

 

攻1700

 

「バトルだ!【デスマニア・デビル】で【ファーニマル・ベア】を攻撃!デビルファング!」

 

 デスマニア・デビルがクマのぬいぐるみを噛みちぎり、フィールドに綿が舞う。

 

「この瞬間、【デスマニア・デビル】の効果を発動!相手モンスターを戦闘で破壊したとき、デッキからレベル4以下の獣族モンスターを手札に加える」

「それなら、その効果にチェーンしてリバースカードを発動します!【ファーニマル・クレーン】!自分のファーニマルと名のつくモンスターが破壊されたとき、そのモンスターを手札に戻し、さらに1枚ドロー出来ます」

 

 2枚のカードを使って2枚のカードを手札に加える。実質手札の消費は無しだ。

 

「なるほどな。それでは私は【ビーストライカー】を手札に加え、ターンエンドだ」

 

 

試験官 LP4000 手札6

モンスター:デスマニア・デビル

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 来た!僕はドローしたカードを迷うことなくデュエルディスクに置く。

 

「魔法カード、【融合】を発動します!」

「ほう、君のデッキは融合デッキなのか」

「さっき手札に戻した【ファーニマル・ベア】と、【エッジインプ・シザー】を手札融合!」

 

 僕の目の前にファーニマル・ベアと、ハサミを何重にも重ねたようなモンスター……エッジインプ・シザーが現れる。

 エッジインプ・シザーは、目にも止まらぬ速さでファーニマル・ベアの体をバラバラに引き裂き始める。

 その凄惨な光景に、僕のデュエルを観戦していた生徒達の空気が凍り付く。

 ファーニマル・ベアが綿の塊になると、ハサミの化け物はドロドロに熔け、黒い液体金属となってクマの残骸を覆い隠す。

 

「全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 黒い液体金属はクマの様な形になり、色彩を取り戻す。

 

「ヒェッ」

「何あれ……」

 

 でもその姿は、可愛らしいファーニマル・ベアとは遠くかけ離れた、グロテスクな物へと変貌していた。

 体のあちらこちらからハサミの飛び出した、ボロボロのぬいぐるみ。

 無意味に傷つけられたぬいぐるみの末路は、怨嗟の産声をあげ僕の目の前に降り立った。

 

攻2200

 

「……これが僕のエースモンスターです。さらに僕は、【ファーニマル・ライオ】を攻撃表示で召喚します」

 

 ファンシーな爆発と共に現れたのは、天使のような羽を持ったライオンのぬいぐるみ。クマのぬいぐるみと同じく可愛らしいモンスターの登場だが、先程とはうってかわって安堵の溜め息が聞こえてくるようだ。

 

攻1600

 

「バトルです!【シザー・ベアー】で【デスマニア・デビル】を攻撃!モンスターイート!」

 

 シザー・ベアーは雄叫びをあげると、ハサミの腕を動かしてデスマニア・デビルを掴み、大きな口に放り込む。

 

LP4000→3500

 

「モンスターを……」

「食べやがった……」

 

攻2200→3200

 

「攻撃力がアップしただと!?」

「【シザー・ベアー】の効果です。このモンスターは戦闘破壊したモンスターを、攻撃力1000ポイントアップの装備魔法として自分に装備することが出来ます」

 

 デスマニア・デビルを飲み込んだシザー・ベアーは、先程よりも一回りほど大きくなっている。

 

「さらに【ファーニマル・ライオ】でダイレクトアタック!【ライオ】は自分の攻撃宣言時、攻撃力をバトルフェイズ終了時まで500ポイントアップさせます!」

 

攻1600→2100

 

「ぐぅっ……やるな!」

 

LP3500→1400

 

「これでバトルを終了。ターンエンドです」

 

攻2100→1600

 

 

遊陽 LP4000 手札3

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー ファーニマル・ライオ

魔法・罠:デスマニア・デビル(シザー・ベアー)

 

 

「ふむ、中々やるな!だがデュエルアカデミアを甘く見てもらっては困るぞ!私のターン、ドロー!来い、【ビーストライカー】!」

 

攻1850

 

 凶暴そうな顔面の、人型の獣が現れる。

 

「【ビーストライカー】の効果を発動!手札を1枚捨て、デッキから【モジャ】を特殊召喚する!」

 

 ビーストライカーが得物で地面を叩くと、その割れ目から小さなモンスターが飛び出してくる。

 

攻100

 

 名前の通りモジャモジャの、黒い、何か。

 

「そして墓地の【キング・オブ・ビースト】の効果を発動!このカードはフィールドの【モジャ】を生け贄に捧げる事で、手札や墓地から特殊召喚出来る!」

「……!【ビーストライカー】の効果で捨てたカードは……!」

「その通りだ!」

 

 モジャが大きく体を震わせると、その体がむくむくと巨大化していく。

 もとの姿の面影を感じさせつつも、その強面は生意気そうなモジャとはかけ離れている。

 

攻2500

 

「そして【キング・オブ・ビースト】を対象に魔法カード【野性解放】を発動!守備力の数値分攻撃力を上昇させる!」

 

攻2500→3300

 

「【シザー・ベアー】の攻撃力を超えた ……!」

「その代償として、エンドフェイズ時に【キング・オブ・ビースト】は破壊されてしまうがな」

「でも、【モジャ】さえフィールドに出せれば自己再生が出来る……」

「流石は受験番号2番だな。さぁ、このモンスターをどう攻略する?」

 

 何度墓地へ送られても自己再生が可能なモンスター……。シザー・ベアーで装備魔法にしてしまえば自己再生は防げるけど……シザー・ベアーの素の攻撃力じゃキング・オブ・ビーストは倒せない……。

「行け!【キング・オブ・ビースト】で【シザー・ベアー】を攻撃!グレートハウリング!」

 

 獣の王が吼える。咆哮は衝撃波となりシザー・ベアーを襲い、吹き飛ばす。

 

「くっ……」

 

LP4000→3900

 

「続けて、【ビーストライカー】で【ファーニマル・ライオ】を攻撃!」

 

LP3900→3650

 

「くっ……」

「カードを2枚セット。ターンエンドだ。そしてこの瞬間、【キング・オブ・ビースト】は破壊される」

 

 

試験官 LP1400 手札2

モンスター:ビーストライカー

魔法・罠:セット セット

 

 

 僕のフィールドは空っぽ。でもデストーイ・シザー・ベアーを蘇生するカードが手札にある。シザー・ベアーでビーストライカーを装備すればキング・オブ・ビーストも倒せるけど、2枚の伏せカードが恐ろしい。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……!このカードなら、シザー・ベアーでキング・オブ・ビーストを破壊できる!

 その為には……!

 

「魔法カード発動!【デストーイ・リニッチ】!自分の墓地に存在する【デストーイ】を特殊召喚します!蘇れ、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

攻2200

 

 撒き散らされた綿が集まり、悪夢のぬいぐるみが再び現れる。

 

「バトル!」

「させない!このタイミングでリバースカードオープン!【威嚇する咆哮】!このターン君は攻撃宣言を行えない!」

 

 やっぱり攻撃妨害系のカードだったのか。

 

「では、カードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 

遊陽 LP3650 手札2

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー

魔法・罠:セット

 

 

「私のターンだ。私は永続罠、【リミット・リバース】を発動!攻撃力1000以下のモンスター、【モジャ】を墓地から特殊する。さらにそれを生け贄とし、再び現れろ、【キング・オブ・ビースト】!」

 

攻2500

 

「くっ……」

 

 攻撃力2500は最上級モンスターとしては控え目だけど、召喚条件の緩さを考えるとかなり強いモンスターだ。

 

「そして私は【吸血コアラ】を召喚する!」

 

攻1800

 

 相手フィールドに並ぶ3体のモンスター。シザー・ベアーは戦闘破壊したモンスターを装備する以外の効果は備えていない。僕の身を守るのは、伏せられた1枚のカードだけだ。

 

「ではバトル!【キング・オブ・ビースト】で、【シザー・ベアー】を攻撃!」

 

 キング・オブ・ビーストが大きく息を吸い込む。でも、その攻撃はさせない!

 

「リバースカードオープン!【びっくり箱】!相手モンスターの攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスター以外のモンスター1体を墓地へ送る!」

 

 突如キング・オブ・ビーストの前に現れたプレゼントボックス。それはBAAAN!というコミカルな文字と共に爆発し、あっかんべーの表情をした丸い顔が現れる。

 

「僕が墓地へ送るのは【ビーストライカー】!さらに攻撃宣言を行ったモンスターの攻撃力は、この効果で墓地へ送ったモンスターの攻撃力分ダウンします!」

 

 爆発に驚きバランスを崩したキング・オブ・ビーストは、ビーストライカーを下敷きに転ぶ。

 

攻2500→650

 

「くっ……カードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

試験官 LP1400 手札1

モンスター:キング・オブ・ビースト 吸血コアラ

魔法・罠:セット リミット・リバース

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 キング・オブ・ビーストの攻撃力は650。シザー・ベアーで攻撃すれば相手のライフは0になる。……あの伏せカードで防がれたりしなければ。

 

「行きます、バトル!【デストーイ・シザー・ベアー】で、【キング・オブ・ビースト】を攻撃!モンスターイート!」

「そうはさせない!罠カード、【ダメージ・ダイエット】を発動!私がこのターンに受ける全てのダメージを半分にする!」

「……!それなら、僕の勝ちです!」

 

 勝利宣言に、試験官が目を見開き、笑みを浮かべる。

 

「ほう、ならそれを見せてみろ!」

「手札から速攻魔法、【アクションマジック-ダブル・バンキング】を発動!手札を1枚捨てることで、このターン自分のモンスターは、相手モンスターを破壊したとき続けて1度だけ攻撃できます!」

 

 転倒したまま弱っているキング・オブ・ビーストを飲み込んだシザー・ベアーは、攻撃力1000分だけその体を巨大化させる。

 

LP1400→625

 

攻2200→3200

 

「続けて、【吸血コアラ】に攻撃!」

 

 シザー・ベアーは無抵抗なコアラを持ち上げると、その胴体を腹部のハサミで真っ二つに切断した。

 

LP625→0

 

 モーターが減速するような音と共に、ソリッドヴィジョンが消えていく。

 

「素晴らしいデュエルだった。入学試験の結果は期待してもらっていいだろう。今はゆっくり休むといい」

「ありがとうございました」

 

 そう言って頭を下げ、デュエルフィールドから出ていく。ちょうど同じタイミングで深月もデュエルを終えたようで、僕たちは通路で再会できた。

 結果は聞くまでもない。深月はとても嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 僕らは駆け寄り、会場に響くほど大きなハイタッチを交わした。




「今回の最強カードよ!」

デストーイ・シザー・ベアー
闇 悪魔族 星6 融合・効果 攻2200 守1800
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル・ベア」
(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。
そのモンスターを攻撃力1000アップの装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

「遊陽のデッキのエースモンスター!相手モンスターを破壊すればするほど強くなっていくけど、魔法・罠ゾーンが埋まりやすくなってしまうのが弱点ね。連続攻撃させることができれば一気に強化が出来るのは強みね!」


というわけで1話でした。デストーイってそういう見た目だし残酷な描写してもいいよね☆という精神でございます。これからふたりの学園生活を見守っていただけたらと思います。
それではまた次回~。


黒野 遊陽 クロノ ユウヒ
気弱で大人しい少年。争い事は好きではないがデュエルは得意。優しくて顔の造りも良いが体育はさっぱりなので女子からの人気はそこそこ。深月に守られてばかりの自分をどうにかしたいと思っている。深月LOVE。もはやミヅコン。
少し長めの栗色の髪が特徴。瞳の色は赤。
使用デッキは【ファーニマル】。


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2話 秀才・三沢大地!

お待たせしました、2話です。今回は  君の出番です。


 本州からヘリに乗って数時間。僕達は雑談しながら過ごしていた。

 

「改めまして、ラーイエローへの合格おめでとう、遊陽!」

「ありがとう。寮のランクを上げられる試験もあるみたいだし、頑張ってオベリスクブルーを目指すよ」

「うん。待ってるよ!」

 

 アカデミアへの交通は、船かヘリコプターの2択。僕と深月は空を飛ぶ乗り物に乗ったことがなかったのでこれ幸いとヘリコプターを選択した。

 ……正直海は苦手なので、ヘリコプターに乗れて助かった。

 機内にアナウンスが流れ、周囲の生徒たちが沸き立つ。どうやらデュエルアカデミアが見えてきたらしい。

 

「見て見て!凄い火山!」

 

 窓際に座る深月は興奮気味に窓に張り付いている。僕も彼女の後ろから外を見ると、そこにはマグマが爛々と輝く火山と、それを中心とした孤島が存在していた。

 

「確かに凄いね……写真とは大違いだ」

 

 やはり実物には敵わないということか、本物の火山の迫力は僕の想像を大きく越えていた。

 やがてヘリコプターは孤島に近づき、ヘリポートに着地する。

 今まで住んできた都会とは違う。潮の匂い、森の匂い。まるで白亜紀から切り取ってきたかのような大自然に、僕も少しドキドキしてくる。

 

「あの大きな校舎と寮以外にはほとんど建物もないみたいだし、自然一杯って広告は嘘じゃなかったんだね」

「むしろここまで来ると、もう少し建物があってもいい気がするわ……」

「確かに」

 

 そんな風に喋りながら、僕達は目の前の大きな建物……デュエルアカデミアの校舎へと歩いていく。

 校舎に入った僕達は一旦別れ、更衣室でアカデミアの制服を着てから教室へと移動する。

 

「あ、いたいた!おーい!遊陽っ!」

「深月、さっきぶりだね」

「うん!さっきぶりー」

 

 深月は女子だから、入学試験の成績とは関係なくオベリスクブルーに入ることになる。……もっとも、深月の実力なら何の問題もないだろう。

 オベリスクブルーの制服を着た深月の姿は……何と言うべきか……とても綺麗だ。

 ただスカートが短いし袖は無いしで無防備過ぎる気もする。

 

「似合ってるよ、深月」

「そ、そうかな?遊陽も似合ってるよ!」

「嬉しいな。でも、僕もいつかはオベリスクブルーに行くから、この制服は着なくなっちゃうけどね」

「ほんとに来てよね?楽しみにしてるんだから」

 

 2人揃って教室に入り、校長先生のありがたい話を聞く。

 鮫島という名字のこの先生は、確かサイバーデッキの使い手だった気がする。

 所謂サイバー流のデュエリストを見たことは無いけど、この学校には帝王(カイザー)と呼ばれるサイバー流のデュエリストがいるらしい。

 

「――以上です。それでは皆さん、充実した学園生活を送ってください」

 

 おっと。考え事をしていたらありがたい話が終わってしまった。隣にいる深月は立ったままうつらうつらと船を漕いでおり、話を聞いてはいないだろう。

 僕は深月の肩を叩き彼女を起こす。

 

「深月、終わっちゃったよ」

「え、あ、あれ!?寝ちゃってた!?」

「うん。まぁ長旅で疲れてただろうし、仕方無いって」

「う~……寝ちゃった……こんなはずじゃあ……」

 

 深月は根は真面目だから、入学早々居眠りしてしまったことを悔いているのだろう。

 

「まぁ、次からは気を付けよう」

「うん……起こしてくれてありがとね」

 

 校長先生のお話の後は、それぞれの寮でもブリーフィングがあるらしい。

 僕らは校舎の出口で別れ、一旦それぞれの寮へと移動した。

 

「やぁ、君が黒野遊陽か?」

 

 イエロー寮に向かう途中、後ろから走ってくるような音が聞こえ、声をかけられた。

 

「えっと……?」

 

 振り向くと、オールバックの髪形をした好青年的な印象の男子生徒が立っていた。

 

「おっと、まだ名乗ってなかったな。俺は三沢大地。君と同じラーイエローの新入生さ」

「三沢君……?そういえばヘリコプターの中で噂されてたような……筆記・実技試験共に1番のスーパー優等生」

「スーパーだなんて凄いものじゃないさ。君のデュエルを試験会場で見てから、ぜひ君とデュエルしてみたいと思ってな」

 

 その瞳には熱い闘志が燃えている。まるで向上心の塊のような人物だ。

 

「あ、僕も自己紹介が遅れちゃったね。僕は黒野遊陽。よろしく、三沢君」

「あぁ、よろしくな、黒野」

「僕も君とデュエルしてみたいけど……今はブリーフィングに参加するのが先だね。遅刻はだめだし」

「そうだな。ブリーフィングが終わり次第、デュエルといこうか」

 

 僕と深月は自分達の試験が終わった後は帰ってしまったから、三沢君のデュエルを見ていない。デュエルアカデミアでの初戦、相手がどんなデッキを使ってくるのか楽しみだ。

 しばらく中学校時代の事などを喋りながら歩いていくと、黄色を基調としたオシャレなペンションの様な建物が現れる。おそらくあれが僕らの寮なのだろう。

 寮に入り、食堂に集まる。今夜は新入生歓迎会も行われるようで、食堂のすぐ隣にある厨房ではその準備をしていた。

 そんな中、樺山という大人しそうな先生が立ちあがり話始める。

 

「えー、私がラーイエロー寮長の樺山です。皆さんの入学試験での素晴らしいデュエルは、全て見させていただきました。これから3年間、寮のメンバーは入れ替わりするかもしれませんが、皆で手を取り合い、切磋琢磨し、立派なデュエリストとして成長していってくださいね」

 

 それからは寮のルールや食事、入浴の時間などが伝えられ、解散になる。ほとんどの生徒はまず自分の部屋を見に行くが、僕と三沢君は一旦寮の外にあるデュエルが出来そうな開けた場所へ移動した。

 

「ここに来て最初の相手が受験番号1番なんて、光栄だよ」

「とあるやつから言わせてみれば俺は『2番』だそうだが……まぁいい。君とのデュエル、まずは楽しませてもらおうか」

 

 そう言うと、三沢君はラーイエローの制服のボタンをはずし、広げる。

 制服の内側には、6つのデュエルケースが取り付けられている。

 

「6つのデッキ……?」

「そうとも!速きこと『風』のごとく、静かなること『水』のごとく、侵略すること『火』のごとく、動かざること『地』のごとし!悪の『闇』に『光』さす!これが俺の知恵と魂を込めた6つデッキさ!」

 

 なるほど、あの6つのデッキはそれぞれの属性のデッキなのか。さすがスーパー優等生はやることが違う。きっとそのどれもが緻密に計算なされたものなのだろう。

 

「そして今回君と戦うデッキは……『光』属性だ!」

「光属性?」

 

 光属性デッキといっても、それだけでデッキの内容を推理できるものではない。天使族寄りのデッキや雷族寄りのデッキ。全部まぜこぜのスタンダードに近いデッキも考えられる。闇属性に対するメタ効果を持つモンスターが多いのも特徴かもしれない。

 

「なるほどね。流石は優等生って所かな」

 

 相手のデッキに対して有利なデッキを選ぶ戦法は、自分だけでなく相手のカードの特性を理解していなければ使いこなせない。

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

 光属性デッキをデュエルディスクにセットし、三沢君が構える。

 

「うん。お手柔らかにお願いするよ」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 三沢

 

「俺の先攻だ!ドロー!」

 

  三沢君が何の考えも無しに光属性デッキを使うとは思えない。闇属性メタを警戒して、デストーイじゃなくてファーニマルによるビートダウンも視野に入れて戦っていこう。

 

「俺は【シャインエンジェル】を召喚!」

「【シャインエンジェル】か……光属性デッキ御用達のリクルーターだね」

 

攻1400

 

 シャインエンジェルは、戦闘で破壊されたとき攻撃力1500以下のモンスターをデッキから特殊召喚する、リクルーターと呼ばれる類のモンスターだ。

 6つの属性それぞれに似た効果を持つモンスターが存在しており、シャインエンジェルは光属性担当。定石とも言える初手だ。

 

「さらに俺は永続魔法【天空の泉】を発動!」

 

 地鳴りと共に、三沢の背後に大きな泉が現れる。

 

「これで俺はターンエンドだ!」

 

 

三沢 LP4000 手札4

モンスター:シャインエンジェル

魔法・罠:天空の泉

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 僕のデッキは、融合の材料をひたすらサーチして集め、融合モンスターで攻撃するデッキ。だからデッキには上級モンスターは入っていない。おそらく三沢君はそれを読んでこのデッキを『闇属性』だと判断したのだろう。

 ……先ずは通常通り融合素材を集めていこうか。

 

「僕は【ファーニマル・ドッグ】を攻撃表示で召喚!」

 

 PON!という可愛らしい爆発の中から現れるのは、天使のような羽を持ったイヌのぬいぐるみ。

 

攻1700

 

「【ファーニマル・ドッグ】が手札からの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから【エッジインプ・シザー】か、【ドッグ】以外の【ファーニマル】を手札に加える事ができる!僕は【エッジインプ・シザー】を手札に」

「ほう、来るか?」

「……ううん。まだ、だね。僕は【ファーニマル・ドッグ】で【シャインエンジェル】を攻撃!」

 

 イヌのぬいぐるみは助走をつけて大ジャンプし、シャインエンジェルの頭に頭突きを食らわせる。

 

「くっ……」

 

LP4000→3700

 

「しかしこの瞬間、【シャインエンジェル】と【天空の泉】の効果を発動!まずは【シャインエンジェル】の効果で、デッキから2体目の【シャインエンジェル】を特殊召喚!」

 

攻1400

 

「そして【天空の泉】の効果は、戦闘破壊された光属性モンスターを除外することで、その攻撃力分俺のライフを回復する!」

 

 破壊されたシャインエンジェルは泉の中に吸い込まれていき、その際に発生する水飛沫が三沢君のライフを回復させていく。

 

LP3700→5100

 

 シャインエンジェルを始めとしたリクルーターの弱点は、召喚するモンスターが攻撃表示でなければいけないこと。相手フィールドにモンスターが並んでいたら大ダメージを受ける恐れもある。でもそれをライフ回復によってカバーしているのだろう。

 

「これで三沢君のフィールドにモンスターが残る……生け贄召喚の要員になるのかな?」

「さぁ、それは俺のターンになってみなければな」

「僕はカードを2枚セット、ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札4

モンスター:ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:セット セット

 

 

「俺のターンだな。ドロー!俺は【シャインエンジェル】を生け贄に捧げ、【太陽の戦士】を召喚する!」

 

 太陽を象った仮面をつけた屈強な戦士が現れる。

 

攻2100

 

 太陽の戦士……確か闇属性モンスターに対する効果を持っていた気がするけど……。

 

「バトル!【太陽の戦士】で【ファーニマル・ドッグ】を攻撃!コロナブレード!」

 

 太陽の戦士の攻撃によりファーニマル・ドッグが破壊される。

 

LP4000→3600

 

「この瞬間、罠カード【ファーニマル・クレーン】を発動。破壊された【ドッグ】を手札に戻し、デッキから1枚ドローするよ。……やるね、三沢君」

「まだまだこれからさ!俺はターンエンドだ!」

 

 

三沢 LP5100 手札4

モンスター:太陽の戦士

魔法・罠:天空の泉

 

 

「僕のターン、ドロー!……よし。僕は魔法カード【融合】を発動!手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ベア】を融合!」

 

 ファーニマル・ベアの体を串刺しにしたハサミが溶け、クマの体を覆い隠す。

 

「全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 全身からハサミの飛び出たグロテスクなクマのモンスター。割れた頭から覗く赤い二つの瞳が、太陽の戦士を睨み付ける。

 

攻2200

 

「さらに僕は【ファーニマル・ライオ】を召喚」

 

攻1600

 

「行くよ、バトル!【デストーイ・シザー・ベアー】で【太陽の戦士】を攻撃!モンスターイート!」

 

 太陽の戦士を丸のみにしようと、シザー・ベアーがおもむろにその手を伸ばす。

 

「甘いぞ黒野!【太陽の戦士】の効果を発動!このカードが闇属性モンスターと戦闘を行う時、攻撃力は500ポイントアップする!」

 

攻2100→2600

 

「っ!?」

 

 やっぱり、闇属性に対するメタ効果だ。

 伸ばされた手を切り払い、太陽の戦士がシザー・ベアーを真っ二つに切り裂く。

 

「ぐっ……」

 

LP3600→3200

 

 少し油断してしまったみたいだ。

 

「僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP3200 手札3

モンスター:ファーニマル・ライオ

魔法・罠:セット

 

 

「行くぞ、俺のターン、ドロー!……よし!俺は墓地の【シャインエンジェル】をゲームから除外し、手札の【霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)】を特殊召喚する!」

 

 墓地からシャインエンジェルが蘇ったかと思えば、その体はすさまじい速度で劣化し朽ちていく。取り残された小さな魂を迎えに、神々しい光をまとった幽霊船が現れる。

 

攻1900

 

「レベル5のモンスターを特殊召喚……?」

「ああ。このモンスターは通常召喚できず、自分の墓地の光属性モンスターをゲームから除外することで特殊召喚できるモンスターだ。さらに俺のフィールドには光属性モンスターが2体!この時、手札の【ガーディアン・オブ・オーダー】は特殊召喚できる!」

 

 2体のモンスターの光に導かれるように、純白の鎧を纏うモンスターが光臨する。

 

攻2500

 

「上級モンスターが3体も……!」

「さぁ、行くぞ!【ガーディアン・オブ・オーダー】で【ファーニマル・ライオ】を攻撃!」

 

 光の戦士から放たれた無数の光は放射線状に広がり、上下左右からファーニマル・ライオを貫いた。

 

「ぐっ……」

 

LP3200→2300

 

「続けて、【太陽の戦士】でダイレクトアタック!」

「それはさせない!リバースカードオープン!【びっくり箱】!相手モンスターのが攻撃してきたとき、そのモンスター以外の相手のモンスターを墓地へ送り、その攻撃力と守備力の高い方の数値分攻撃力をダウンさせる!バイバイ、【ガーディアン・オブ・オーダー】」

 

 突然目の前で爆発するプレゼントボックス。それに驚愕した太陽の戦士は剣を放り投げてしまい、それがガーディアン・オブ・オーダーに突き刺さる。

 

「なに、【ガーディアン・オブ・オーダー】が……!」

 

 光の戦士は突き刺さった剣ごと消滅してしまい、太陽の戦士は戦う力を失った。

 

攻2100→0

 

「っ、ならば【霊魂の護送船】でダイレクトアタック!」

 

 幽霊船はその重量で僕に向かって突進する。ソリッドビジョンだから肉体へのダメージは無いけど、迫力があってかなり恐怖心を煽られる演出だ。

 

LP2300→400

 

「削りきれなかったか……俺はこれでターンエンドだ」

 

 

三沢 LP5100 手札3

モンスター:太陽の戦士 霊魂の護送船

魔法・罠:天空の泉

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……このカードは、今ドローしても……うん?

 

「……いや、むしろ来てくれて良かったかな?」

「何をドローしたのか気になる言い方だな」

「あぁうん、ごめんね。僕は魔法カード【融合回収】を発動」

「墓地の【融合】と融合素材モンスターを手札に戻すカードか」

「その通り。僕が回収する融合素材モンスターは【ファーニマル・ベア】だよ」

 

 ……これで必要なカードは揃った。

 

「融合素材にしなくたって、僕の【ファーニマル】達は立派な戦力だよ。僕は手札の【ファーニマル・ベア】の効果を発動。このカードを墓地へ送り、デッキから【トイポット】1枚を自分フィールドにセットする。そしてすぐに発動。出でよ、永続魔法【トイポット】!」

 

 地響きと共に僕の背後に現れる巨大な『ガシャポン』。

 

「融合素材にするのかと思っていたが、どうやら狙いは別なようだな」

「その通り。僕は墓地の【エッジインプ・シザー】の効果を発動。手札を1枚デッキの上に戻し、墓地のこのカードを守備表示で特殊召喚する」

 

守800

 

「そして【トイポット】の効果を発動。手札を1枚……今回は【融合】をコストとして捨て、デッキから1枚ドローし、お互いに確認する。そしてドローしたモンスターが【ファーニマル】と名のつくモンスターだった場合、僕は手札のモンスターを特殊召喚できる」

「【エッジインプ・シザー】を特殊召喚したのはそのためか!」

「それだけじゃないけどね。僕がドローしたカードは【ファーニマル・ドッグ】!そして特殊召喚!」

 

攻1700

 

 再び現れるぬいぐるみのイヌ。最初よりボロボロなのは一度墓地を経由しているからだろうか。

 

「【ファーニマル・ドッグ】の特殊召喚に成功したことで、デッキから【ファーニマル・オウル】を手札に加え、召喚!」

 

 オウル……つまりはフクロウの様なぬいぐるみが何処からともなく現れ、ファーニマル・ドッグの隣に降り立つ。

 

攻1000

 

「モンスターを展開する能力は凄いが、俺のフィールドには攻撃力1900の【霊魂の護送船】がいる。これをどうするつもりだ?」

「こうさせてもらうよ。魔法カード【ミニマム・ガッツ】を発動!自分フィールドのモンスター1体を生け贄に捧げることで、相手モンスター1体の攻撃力を0にする。僕が生け贄に捧げるのは、【エッジインプ・シザー】!」

 

 ファーニマル・ドッグがハサミをくわえると、1回転して勢いをつけ霊魂の護送船へと投げつける。

 

攻1900→0

 

「【太陽の戦士】だけじゃなく、【霊魂の護送船】まで……!」

「バトル!まずは【ファーニマル・オウル】で【霊魂の護送船】を攻撃!そしてこの瞬間、速攻魔法【アクションマジック-フルターン】を発動、このターンお互いが受ける戦闘ダメージは倍になる!」

「何っ!?」

 

 ファーニマル・オウルは上空へ飛び立ち、錐揉み回転しながら幽霊船へと突進し貫く。

 

「く、ぐぅぅっ!」

 

LP5100→3100

 

「だが、【天空の泉】の効果によって墓地の【霊魂の護送船】を除外し、ライフを回復する!」

「【ミニマム・ガッツ】の効果によって攻撃力が0になったモンスターが戦闘で破壊されたとき、その攻撃力分のダメージを与える!」

「そんな効果まで……!」

 

LP3100→5000→3100

 

「そしてこれでトドメだよ!【ファーニマル・ドッグ】で【太陽の戦士】を攻撃!」

 

 武器を失い抵抗できない太陽の戦士を、ファーニマル・ドッグは綿に隠した牙で噛み千切る。

 

「悔しいが俺の負け、か」

 

LP3100→0

 

 三沢君のライフポイントが0になり、ソリッドビジョンが消えていく。どうにか勝つことは出来たけど、すこし危なかったかな。

 

「お疲れ様、黒野。楽しいデュエルだったよ」

「ありがとう、三沢君」

 

 どちらともなく手を伸ばし、握手する。流石は受験番号1番。勉強になるところも多いデュエルだった。

 

「もしよければまた今度、俺とデュエルしてくれ」

「三沢君が良ければ、僕からお願いしたいところだよ」

 

 

 

 ラーイエローは、生徒1人につき1つの部屋が与えられる。

 

「うわぁ、けっこう広いなぁ」

 

 ひとり暮しをするには十分な広さの部屋。これ、オベリスクブルーだとどのくらいの広さになるんだろう。校則で他の寮に行くのは禁止されてるけど、少し気になる。

 僕はデュエルディスクを机におき、ベッドに腰掛ける。

 

「深月の方もブリーフィングは終わったかな?」

 

 僕はポケットから、携帯に似た機械を取り出す。三沢君と寮に戻ったときに樺山先生から受け取ったもので、PDAと言うらしい。これを使って他の生徒や先生と電話ができるそうだ。

 僕はPDAを起動し、深月に電話を掛けた。

 

『……もしもし?深月?』

『あ、遊陽!』

『今は時間大丈夫?』

『うん!やること無くてぼーっとしてたの』

『そうなんだ。どう?オベリスクブルーの部屋は』

『凄いのよこの部屋!まるでホテルみたい!……でも、ここに住むってなると、逆に広すぎるわね……』

『あぁ、やっぱり?イエロー寮でも十分な広さだったから、もしかしたらそうかなって』

 

 ベッドから立ちあがり、窓を開けて外の景色を見る。

 

『あ、そうそう聞いてよ遊陽!私ね、今日明日香さんとデュエルしたの!』

『明日香さん……?』

『そう、天上院明日香さん!』




「今回の最強カードは、黒野遊陽が紹介しますね」

ミニマム・ガッツ
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体をリリースし、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで0になる。
このターン、選択したモンスターが戦闘によって破壊され相手の墓地へ送られた時、
そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

「相手モンスターの攻撃力を0にした上で、そのモンスターが戦闘で破壊されれば元々の攻撃力分のダメージを与える強力な魔法カードだよ。発動にはモンスター1体を生け贄に捧げなくちゃいけないけど、これ1枚で勝負が決まることも多いね」


2話でした。本作の過労死枠のエッジインプ・シザー君、1回目の射出。今後もミニマム・ガッツの弾や融合素材として活躍していってくれるでしょう。

それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。

……次回はようやく彼女の出番です!


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3話 ガールズデュエル!歌姫と舞姫!

3話です。2話の舞台裏ですね。後書きにて深月の紹介があります。
あとほんのちょっとだけオリキャラが出ます。
(5/18/12:50 一部文章を変えました。)


 遊陽がラーイエローへ向かう道中、三沢大地と出会った頃。

 

 

 遊陽と別れた私は、湖の近くにあるというオベリスクブルーの寮へと移動していた。

 女子が全員ブルー寮に入るのは、男子に比べ極端に数が少ないからだそうだ。確かに、今年外部から入学した女子生徒は私を含め数える程しかいない。

 今いる女子生徒のほとんどは中等部から上がってきた生徒たちのようで、もうすでにコミュニティが完成している様だった。今からその輪の中に入っていくのは難しいだろう。

 

「……遊陽、早くブルーに来てくれないかなぁ」

 

 遊陽がブルーになったとしても、彼が行くのはブルーの男子寮だから同じ寮には居られない。それでも一緒に行動する機会はぐんと増えるだろう。それに遊陽がからかわれるような事があっても、同じ寮なら助けにいきやすいだろう。

 ……そうだ。私には遊陽だけいればいい。こんな私に、最初に手を差しのべてくれたのは彼なのだから。

 

「……はぁ。ダメだなぁ、私。暗いことばっかり考えちゃう」

 

 遊陽の前では元気になれる。何を言っても、どんなテンションでも、遊陽は受け止めてくれたから。

 

「お、あれかしら?」

 

 学園を出て道なりに歩いていると、大きな湖と、そのほとりにあるお城の様な建物が見えてくる。

 

「うわぁ、凄い豪華ね……」

 

 実物を見るのは初めてだ。湖の隣という立地も相まってか、まるでおとぎの世界が目の前に広がっているようだった。

 こんなところで生活していいのだろうか。そんな事を考えながら、私は女子寮に足を踏み入れる。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

 寮の1階はみんなが座れるソファ等が置かれており、何人かの女子生徒はそこで談笑している。

 確か色々説明があるから、先ずは食堂に集まってほしいって話だったはず。

 私は合格通知書と同時に送られてきたブルー女子寮の地図を頼りに、食堂へと移動する。

 食堂は男子と女子で共通なようで、結構な数のブルー生徒が集まっていた。

 他の生徒達とは離れた位地で一人腰かけていると、男子生徒から声をかけられた。

 

「やぁやぁ、君は確か、入学試験受けてた子だネ?」

「え、あ、私……?」

「そうサ!」

 

 ウェーブのかかった金色の髪に整った顔立ち。王子や貴族を思わせる立ち居振る舞いの男子生徒だ。

 オベリスクブルーの制服を着ているということは、中等部から優秀な成績で上がってきた人なのだろう。

 

「その、何か用?」

「いやいや、別に用は無いんだけどネ、1人で座ってたから気になったのサ」

「……はぁ」

「もし君がよければ、ボクらと一緒に座らないかい?」

 

 男子生徒が手を広げて差した先には、数人の男子生徒が座っている。

 

「えっと……大丈夫よ。私はここで」

「おっと、まさか断られるだなんて誰が予想出来ただろうか!……ほんとに来ないのかい……?」

 

 そう言いながら男子生徒はジリジリと近づいてきている。

 

「正直になっていいんだよレディ。この美しいボクの――」

 

「止めなさい、鏡泉君」

 

 まるで演劇のように語り始めた男子との間に入り込む、背が高く金色の髪をした美人な女子生徒。

 

「て、天上院さん!」

「彼女、嫌がってるじゃない。潔くもとの席に戻ったらどう?」

「……ふむ。まさかこの美しいボクの誘いを断るレディがいるとはネ……またいつかの機会に語ろうじゃないか、レディ?」

 

 男は不服そうな表情でもとの場所へと戻っていく。

 

「えっと、ありがとうございました」

「良いのよ。気にしなくて。私は天上院明日香。貴女は確か……星見深月さん、だったかしら?」

「は、はい!深月でいいです!」

「そう?なら私も明日香で良いわ。それに敬語を使わなくても大丈夫よ。同い年なんだし」

「そ、そう?それなら、よろしくね、明日香……さん。あの、明日香さんはあの人を知ってるの?」

「ええ。彼は鏡泉王子。彼は確か……中等部トップの成績を持っていた生徒ね」

「あ、あれがトップなの……?」

 

 それはともかく、天上院明日香さん……か。

 男子相手にも物怖じすることなく言葉を言い放つ。なんて格好良い人なのだろう。

 私も遊陽を守るときはガンガン言うけど、内心ではいつもビクビクしている。

 私はこうはなれないなぁ……なんて思いながら彼女と話を続けていると、2人組の女子生徒がこちらに向かってくる。

 

「明日香様!待ってくださいませ!」

「あら、ももえにジュンコじゃない」

「置いてっちゃうなんて酷いよ明日香様」

「彼女が困っているのが見えたから、仕方なかったのよ」

「あら、こちらの方は……?」

 

 黒髪のお嬢様然とした少女と、茶髪の活発そうな少女の2人組は、私の顔を見て首をかしげる。

 

「私は星見深月です。よろしくお願いします」

「あらら、これはご丁寧に……私は浜口ももえですわ」

「あたしは枕田ジュンコ。敬語にしなくたって良いよ」

「……ありがとう。よろしくね?」

 

 明日香様……なんて呼ばれ方をしていたからには、この2人は明日香さんの取り巻き的な立ち位置なのだろうか。

 彼女の男前っぷりを考えてみれば、単に憧れでそう呼ばれているだけかもしれないけど。

 4人で並んで座っていると、背が高く痩せた男性と優しげな笑みを浮かべた女性が現れる。

 

「えー、マイクテスマイクテス……アー、アー、アー、ノーネ、ノーネ」

 

 謎の呪文を唱え始めた男性に奇異の視線が集まることはない。みんなその人の顔を知っている。

 デュエルアカデミア実技指導最高顧問。クロノス・デ・メディチ先生。そして隣に居るのは保健・体育担当の鮎川恵美先生だ。

 

「えー、皆さんーハ、中等部で優秀な成績を残してきたエリートの中のエリートや、数ある進学先の中からこのデュエルアカデミアを選んでくれた未来あるデュエリスト達デスーノ。最上級の寮という立場に油断することナーク、この3年間も素晴らしい成績を残して行ってほしいと願っていマスーノ」

 

 クロノス先生の言葉に、ブルー寮生からの拍手が送られる。

 

「凄い先生なのかな?」

「そうね。クロノス先生の操る暗黒の中世デッキは、並みの実力では突破できないほど完成度が高く、先生自身のプレイングも素晴らしいわ。……まぁ、あなたも見ていたかもしれないけど、負けることもあるみたいだけどね」

「え、クロノス先生負けちゃったの?」

「あら、見てなかったの?」

 

 私と遊陽は自分の試験が終わったあとすぐ帰ってしまったから、他の人の試験は見ていない。

 

「1人遅刻してきた生徒がいてね、あろうことか彼、クロノス先生に勝っちゃったのよ。それも試験用のデッキじゃない、暗黒の中世デッキにね」

「そ、そんなことが……」

 

 凄い先生でも負けることはあるんだなぁ……。

 

「本人は結構気にしてるみたいね。先生に勝った彼、オシリスレッド寮になったそうよ」

「ちょっと私怨がありそうね……まぁ、遅刻してくる方も悪いかもしれないけど」

 

 ひょっとしたら私や遊陽もそうなっていたのかもしれない。

 これからも遅刻には気を付けないと。

 

 その後2、3の話をされて解散になった。私は明日香さんと別れ、あの男子生徒に捕まらないようにさっさと食堂を出て自分の部屋へと向かった。

 確か私の部屋は……ここだ。

 扉を開け、部屋の中を見る。

 

「…………」

 

 扉を閉じる。

 

「……え?」

 

 扉を開ける。そこにはさっきと同じように、今まで見たこともないくらい広い部屋が広がっていた。

 

「お、お邪魔、します……」

 

 自分の部屋だというのに恐る恐る入ってみる。

 2人までなら隣に並んでも狭くなさそうな大きなベッドに、テレビ。飲み物をいれるのに便利そうな冷蔵庫などなど。まるでホテルの様に至れり尽くせりだ。

 

「私が住んでた部屋の何倍なのよ……」

 

 部屋どころか家より広いかもしれない。……まぁ流石にそれは無いだろうけど、そう思ってしまう程の衝撃だ。

 勉強用と思われる机の前の椅子に座る。小・中学校で使っていた木の椅子とは違う。まるでふわりと私を包み込むような座り心地だ。

 

「……♪」

 

 何だかテンションが上がってきてしまい、鼻唄を歌いながら部屋を散策する。

 まだ何の服も入っていないクローゼットに、空調設備も揃っている。

 窓を開けベランダに出ると、目の前には大きな湖が広がっていた。

 

「うわぁ……すごい綺麗……」

 

 湖の上を通った涼しい風が部屋に入り込む。ここは大平洋上にある島で、四季らしい四季は無いから、この風が寒くて辛くなることは無いだろう。

 

「Mary had a little lamb♪Little lamb♪little lamb♪Mary had a little lamb♪Its fleece was white as snow♪」

 

 隣の部屋には聞こえてしまうかもしれないけど、ちょっとくらいは良いだろう。お城の一室から湖を見下ろして歌を歌う経験なんて中々できるものじゃない。

 

「歌、上手なのね」

 

 隣のベランダから声が聞こえる。やっぱり五月蝿かっただろうか?

 

「って、明日香さん!」

「隣の部屋みたいね。よろしく、深月」

「あー、その、五月蝿かったら言ってね?」

「いいえ。とても上手だったわ」

「あ、ありがとう……」

 

 こうもド直球に褒められると照れてしまう。彼女は過去何人も女性を落としてそうだ。……それも無意識で。

 そんな事を邪推していると、明日香さんが手を叩く。

 

「そうそう、あなた、今時間あるかしら?」

「時間は……うん。大丈夫よ?」

「それなら折角だし、デュエルしてみない?あなたがデュエルしていたとき、他の人を見ていたからあなたのデッキは見てないのよ」

「そっか。そういえば明日香さんは中等部からなのよね?」

「ええ」

「なら私も、デュエルアカデミア中等部の実力、ぜひ見せてもらうわ」

 

 一旦部屋に戻り、デュエルディスクにデッキをセットする。

 普通の中学校に通っていた私とは違う。環境が違うなら当然デッキへの考え方も違うだろう。

 

「よっし!準備オッケー!」

 

 寮を出て湖の前へ。そこには既に明日香さんと、ももえさんとジュンコさんも居た。

 

「それじゃあ、早速始めましょうか」

「うん。よろしく頼むわよ!」

 

 デュエルディスクを構える私たちの間を、一陣の風が吹き抜けた。

 

「明日香様もデュエル好きですわね」

「あたし入学試験見に行って無いから、深月ちゃんのデッキ気になるよ」

 

「「デュエル!」」

 

明日香 VS 深月

 

「私の先攻!ドロー!」

 

 うん。悪くない手札。まずはこの子で様子見だね。

 

「私は、【マシュマカロン】を守備表示で召喚!」

 

 マシュマロの様に柔らかそうな体の、マカロン型のモンスターが現れる。

 

「あら【マシュマロン】じゃなくて【マカロン】ですの……?」

「そうよ!この子は私の大切な相棒、【マシュマカロン】!」

『マシュー!』

 

 ももえさんの質問を聞き、マシュマカロンはショッキングピンクの体をぷるぷると震わせる。

 

守200

 

「さらにカードを1枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

深月 LP4000 手札4

モンスター:マシュマカロン

魔法・罠:セット

 

 

「私のターンね、ドロー!」

 

 明日香さんはどんなモンスターを使ってくるのだろう。

 

「私は【ブレード・スケーター】を攻撃表示で召喚するわ!」

 

 湖の上を舞い踊るように現れ、明日香さんのフィールドに降り立つ美しいモンスター。その見た目から察するに、フィギュアスケートがモチーフなのだろう。

 

攻1400

 

「バトルよ!【ブレード・スケーター】で【マシュマカロン】を攻撃!アクセル・スライサー!」

 

 ブレード・スケーターは優雅に舞い、腕の刃でマシュマカロンを切り裂く。

 

「【マシュマロン】とそっくりな名前だから、戦闘破壊耐性くらいは警戒していたのだけど……」

「うん。【マシュマカロン】には戦闘破壊への耐性は無いんだ。……でもね?」

 

守200×2

 

 私のフィールドで蠢く、ピンク色の物体が2つ。

 

「そんな!明日香様が倒したはずの、【マシュマカロン】が……2体!?」

「【マシュマカロン】が破壊されたとき、手札・デッキ・墓地から、他の【マシュマカロン】を好きなだけ特殊召喚出来るのよ!」

「……なるほど、耐性こそ無いけど数を増やして相手の攻撃を防ぐと言うことね」

『マッシュー!』

 

 明日香さんの言葉に、2体のマシュマカロンは得意気な笑みを浮かべる。

 

「カードを2枚セット。ターンエンドよ」

 

 

明日香 LP4000 手札3

モンスター:ブレード・スケーター

魔法・罠:セット セット

 

 

「私のターンッ!ドロー!」

 

 これはすっごく良いカード!私はドローしたカードをそのまま発動させる。

 

「行くわよ明日香さん!私は永続魔法【コート・オブ・ジャスティス】を発動するわ!」

 

 私の背後に、巨大な円盤状の物体が現れる。

 

「【コート・オブ・ジャスティス】の効果を発動!私のフィールドにレベル1の天使族モンスターが存在する時、手札から天使族モンスターを特殊召喚出来る!」

「【マシュマカロン】のレベルは1……やるわね」

「ありがと、明日香さん!私が特殊召喚するのは、【幻奏の音女アリア】!」

 

 オレンジ色の、ハープにも似た翼を持つ歌姫がコート・オブ・ジャスティスの光に導かれ現れる。

 

攻1600

 

「さらに私は【幻奏の音女オペラ】を通常召喚!」

 

 次に現れるのは、桃色の髪をした幼い少女のような歌姫。

 

攻2300

 

「レベル4で攻撃力2300……!?」

「その通り!でも【オペラ】は召喚されたターンには攻撃できないの」

「えっと……それでしたら【オペラ】を【コート・オブ・ジャスティス】で特殊召喚した方が良かったのでは?」

「まぁそれはおいおい、ね?ももえさん」

 

 2枚も伏せカードがあるのは怖いけど、ここは攻めるのみ!

 

「行くわよ!【幻奏の音女アリア】で、【ブレード・スケーター】に攻撃!シャープネス・ヴォイス!」

 

 アリアが天に向け高らかに歌うと、その歌声は音波となってブレード・スケーターを襲う。

 

「っ!なら私はリバースカードオープン!【ガード・ブロック】!その戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドローするわ」

 

 うーん残念。ダメージを与えられなかったか。流石は中等部組だ。

 

「私はカードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札1

モンスター:アリア マシュマカロン マシュマカロン オペラ

魔法・罠:セット セット コート・オブ・ジャスティス

 

 

「私のターン。ドロー!」

 

 明日香さんはドローしたカードを確認し、頷く。

 

「私はまず罠カード【救護部隊】を発動!墓地の通常モンスター、【ブレード・スケーター】を手札に戻すわ。さらに魔法カード【融合】を発動!」

 

 ……融合!

 遊陽のデッキの核でもあるカードだ。明日香さんも融合モンスターの使い手だったとは……。

 

「手札の【ブレード・スケーター】、【エトワール・サイバー】を融合!華麗に舞え、氷上のプリマ!【サイバー・ブレイダー】を融合召喚!」

 

 先程のブレード・スケーターの体に赤いラインが入ったような、美しいモンスター。その長い髪は風に吹かれ、まるでそれぞれが1つの生命の様に、それでいて統率のとれた軍隊の様にたなびく。

 

攻2100

 

「もしかして【サイバー・ブレイダー】が明日香さんのエースモンスター?」

「その通り。でもそれだけじゃないわ!私は手札の【サイバー・チュチュボン】の効果を発動!手札の天使または戦士族モンスターを生け贄にすることで、手札から特殊召喚出来るわ!戦士族の【サイバー・チュチュ】を生け贄に現れなさい!【サイバー・チュチュボン】!」

 

 お団子ヘアの可愛い少女が明日香さんのフィールドに現れ、ウィンクする。

 

攻1800

 

「さらに【サイバー・チュチュボン】を生け贄に捧げ、生け贄召喚!【サイバー・プリマ】!」

 

 サイバー・チュチュボンが手を振って消えると共に光が弾ける。

 眩い光の中からはバレリーナの様な女性が現れ、アリア達へ向けお辞儀をする。

 

攻2300

 

「まずは厄介な【コート・オブ・ジャスティス】には消えてもらうわよ!【サイバー・プリマ】の生け贄召喚に成功したとき、フィールドの表側表示の魔法カードを全て破壊するわ!」

「そんなっ!?」

 

 サイバー・プリマは高く飛び上がり、コート・オブ・ジャスティスへ向け踵落としを決める。

 

「くっ……」

「さぁ、バトルよ!【サイバー・ブレイダー】で【マシュマカロン】に攻撃!グリッサード・スラッシュ!」

 

 再び切り裂かれるマシュマカロン。しかし今回は分裂して復活はしない。

 

「あら、【マシュマカロン】の効果は発動させないのね」

「うん。今回は発動しないわ」

 

 もしこの後もう1体のマシュマカロンが攻撃されれば、その時に効果を発動すれば良い。

 きっと明日香さんも、その事には気づいているのだろう。

 だから私は――!

 

「なら、【サイバー・プリマ】で【幻奏の音女アリア】へ攻撃!」

「来ると思ったわ!リバースカードオープン!【光子化(フォトナイズ)】!相手モンスターの攻撃を無効にし、さらに私の光属性モンスター1体の攻撃力を攻撃モンスターの攻撃力分アップさせるわ!」

 

 このカードで返り討ちだ!

 サイバー・プリマの攻撃力は2300。アリアの攻撃力は1600。そしてその合計は3900!

 

「させないわ!パ・ド・カトル!」

 

 発動していた光子化のカードが砕け散る。

 

「えっ!?」

「【サイバー・ブレイダー】の効果よ。このモンスターは相手モンスターの数によって様々な効果を得るわ。相手モンスターが3体の時、このモンスターは相手が発動した全てのカード効果を無効にする!」

 

 全てのカードの発動を無効……!?

 

「流石は明日香様のエースモンスターですわ!」

「さあ、攻撃を続行よ!行きなさい【サイバー・プリマ】!終幕のレヴェランス!」

 

 サイバー・プリマの放つ光がアリアを覆う。

 

「きゃぁっ!」

 

LP4000→3300

 

 私のライフポイントが削られていく。

 

「すごいね、明日香さん!でも私も負けないよ!【幻奏の音女アリア】の効果、特殊召喚に成功したこのモンスターが存在する限り、私の【幻奏】と名の付くモンスターは戦闘では破壊されないわ!」

「なるほど、それで【オペラ】じゃなく、【アリア】を特殊召喚したのね」

「……あれ?明日香様の【サイバー・ブレイダー】の効果でその効果は無効になるんじゃ?」

「ううん。【アリア】の効果は発動する効果じゃないから、発動した効果を無効にする【サイバー・ブレイダー】の効果の影響は受けないわ」

「私はこれでターンエンドよ」

 

 

明日香 LP4000 手札0

モンスター:サイバー・ブレイダー サイバー・プリマ

 

 

「私のターンッ!」

 

 サイバー・ブレイダーの効果で、私のモンスターが3体である限りあらゆるカードの発動が無効になる。そして私の手札に下級モンスターは居ない。コート・オブ・ジャスティスで展開する予定だったのに。

 ……うん。3体でダメなら、数を減らしてみよう!

 

「いくよ明日香さん!今度は私のエースモンスターを見せてあげる!」

「ふふ、来なさい!深月!」

「私は【マシュマカロン】と【幻奏の音女アリア】を生け贄に捧げ、召喚!現れよ至高の天才、【幻奏の音姫・プロディジー・モーツァルト】!」

 

 姫君の様なゴージャスな装飾の成された幻奏モンスターが舞い降りる。

 

攻2600

 

「【プロディジー・モーツァルト】の攻撃力は【プリマ】や【ブレイダー】よりも上!」

「それはどうかしら」

 

攻2100→4200

 

「こ、攻撃力4200……!?」

「相手モンスターが2体のみの時、【サイバー・ブレイダー】の攻撃力は2倍になるわ!」

 

 攻撃力4200じゃ倒せない……。かといってこれ以上モンスターを減らすこともできない。……なら、私のやることは!

 

「ならまずはリバースカードオープン、【幻奏のイリュージョン】!このターン、私が選択した【幻奏】モンスター……【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】はこのターン2回攻撃が可能!」

「でもそのカードじゃ、【サイバー・ブレイダー】の攻撃力は越えられないわ!」

「ううん!越える必要なんて無い!【プロディジー・モーツァルト】の効果発動!1ターンに1度、手札の天使族・光属性モンスターを特殊召喚出来るわ!おいで、【幻奏の音女エレジー】!」

 

 私のフィールドに3体の歌姫が並ぶ。

 

攻2300

 

 そしてこれにより、サイバー・ブレイダーの持つ効果は、カードの発動を無効にするものに戻る!

 

攻4200→2100

 

「特殊召喚した【幻奏の音女エレジー】が存在する限り、私の天使族モンスターの攻撃力は300ポイントアップするわ!」

「何ですって!?」

 

モーツァルト攻2600→2900

オペラ攻2300→2600

エレジー攻2000→2300

 

「さぁ、バトルよ!【幻奏の音女オペラ】で【サイバー・プリマ】を攻撃!」

 

 オペラの歌声がプリマを襲い、破壊する。

 

「くっ……!」

 

LP4000→3700

 

「続けて、【エレジー】で【サイバー・ブレイダー】を攻撃!」

 

LP3700→3500

 

「……見事ね。まさか私が負けてしまうなんて」

「これで終わりよ!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】で2回の直接攻撃!グレイスフルウェーブ!」

「っ、きゃぁぁぁっ!!」

 

LP3500→600→0

 

 明日香さんのライフポイントが0になり、幻奏モンスター達が消えていく。

 

「あ、明日香様が……」

「負けちゃった……」

 

 ももえさんとジュンコさんは驚愕の表情を浮かべている。

 

「すごいのね、あなた」

「たまたまよ。サイバー・ブレイダーって強いのね。どうしようか悩んじゃったわ」

「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわ」

 

 中学校では周りにデュエリストが居なかったから、カードショップとかでのフリーデュエル以外では遊陽としかやって来なかった。明日香さんのデッキは同じ融合デッキだけどだいぶタイプの違うものだ。これから3年間、いろんな種類のデッキと戦っていくのだろう。

 ……うん。楽しみになってきた!

 

 

 明日香さん達と別れた私は部屋に戻る。休憩がてらボーッとしていると、机の上で何かが震えていることに気づいた。

 

「あれ、ケータイ……?」

 

 携帯電話ではなくPDAが震えていた。誰かから着信があるみたいだ。

 

「……遊陽だ!」

 

 私はすぐにPDAをとり、電話に出る。

 

『……もしもし?深月?』

『あ、遊陽!』

『今は時間大丈夫?』

『うん!やること無くてぼーっとしてたの』

『そうなんだ。どう?オベリスクブルーの部屋は』

『凄いのよこの部屋!まるでホテルみたい!……でも、ここに住むってなると、逆に広すぎるわね……』

『あぁ、やっぱり?イエロー寮でも十分な広さだったから、もしかしたらそうかなって』

『あ、そうそう聞いてよ遊陽!私ね、今日明日香さんとデュエルしたの!』




「今回の最強カードよ!

サイバー・ブレイダー
地 戦士族 星6融合・効果 攻2100 守 800
「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):相手フィールドのモンスターの数によって、このカードは以下の効果を得る。
●1体:このカードは戦闘では破壊されない。
●2体:このカードの攻撃力は倍になる。
●3体:相手が発動したカードの効果は無効化される。

「明日香さんのエースモンスター!こっちのモンスターの数によって強力な効果を発揮するわ!4体以上モンスターを出せればその効果は無効になってしまうけど、地盤沈下みたいなカードと組み合わせると効果を発揮しやすくなるわね!」


星見深月 ホシミ ミヅキ
快活な性格の遊陽の幼馴染み。容姿端麗、運動神経抜群、勉学も平均以上な上に女子力も高い超人で、よく男子からからかわれる遊陽を守ってきた。
周囲からは活気に溢れる人物と思われているが、実はネガティブで豆腐メンタル。守りを重視してしまう姿勢がデッキに現れている。
昔はヒマな時はずっと歌っていたので、かなり歌が上手。今でもたまに歌っている。
黒髪のショートに紫色の瞳。髪の長さは遊陽より少し短いぐらい。
使用デッキは【幻奏】。


さてさて、第三話でした。カードパワーの違いが顕著でしたね。
今回ちょっとだけ出てきたナルシスト君の出番は来るのか。
次回、ナル死す!

それではまた次回も見ていただけたらうれしいです。


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4話 鏡泉王子の華麗なる決闘

ちょっと長くなりました4話です。

発動条件を満たしていなかったため、一部カードを差し替えました。(ウェーブ・フォース→エア・フォース)


「そうとも!必ずやボクは彼女の心をつかんで見せるとも!この華麗なるデュエルでネ!」

「えっと……やることがなければターンを終わってもらって良いかな?」

「いいやまだだ!」

「えっ、いったい何を……」

「まだボクの華麗さを語り尽くして居ないじゃないか!」

 

 その発言に、すでに実技授業を終え観戦していたほとんどの生徒がズッコケた。

 

 

 ……こんなことになるちょっと前のこと。

 クロノス先生の講義が始まる前。それ以外の講義はいくつかあったけど、デュエル関連の授業は今回が初めてだ。

 

「三沢君は予習はしてきた?」

「当然だ。とりあえず入学前に出された予習課題は何周かしてきた」

「すごい熱心だね。僕は……何をやったら良いやら分からなかったよ」

 

 三沢君と話しながら廊下を歩く。教室に到着しようかというとき、前から4人の女子が歩いてくる。

 

「じゃあじゃあ、深月さんって黒野君と……?」

「ちょっ、そんなんじゃないわよ!」

「あらあら。お顔が真っ赤ですわ」

「もう!」

「ももえもジュンコも、あまりからかっちゃダメよ?」

 

 深月と、名前を知らない女子が3人。さん付けで呼ばれてはいるものの、仲は良さそうだ。さっそく友達が出来たのかもしれない。

 

「おはよう、深月」

「あ!遊陽!」

 

 深月は僕を見るなり駆け寄ってくる。

 

「すごいのよ遊陽!夕食がバイキングなの!」

「食べ放題ってこと?」

「そう!こんな贅沢しちゃって良いのかしら……」

「受験も頑張ったんだし、ご褒美だと思っておこうよ」

「そうね。夕食は男女で一緒みたいだから、早く遊陽と一緒に食べたいわ」

 

 そんな僕達の様子を、女子3人(の内特に2人)はほほえましく見守っている。

 

「あら、あらあらあら」

「朝から熱いわねー」

 

 深月の話を聞いてか、三沢君が話しかけてきた。

 

「へぇ、黒野はオベリスク・ブルーを狙っているのか?」

「あ、うん。やっぱり深月と一緒に居たいなって」

「なるほどな。黒野ならすぐ行けるさ。この俺に勝ったんだから」

「ありがとう、三沢君」

 

 深月は三沢君に少しだけ変な視線を向ける。

 

「ふーん……?私は星見深月。えっと、三沢って言うのかしら。よろしくね?」

「あら~、あらあらあらあら」

「ちょっ、ももこ!?なんかあんた怖いんだけど!?」

 

 ジュンコと呼ばれていた茶髪の少女が、若干引いた様子で黒髪の少女から距離をとった。

 

 

 

 流石に邪魔になるだろうと判断し教室に入る。席の順番は特に決められては居なかったものの、生徒達は自然と寮ごとに固まっていた。僕と深月はラー・イエローとオベリスク・ブルーのちょうど境目に座る。

 

「いよいよ始まるのね」

「うん。デュエルの授業ってどんなものなのか想像もできないよ」

 

 しばらく雑談しながら待っていると、教壇に背の高い男が立つ。パンフレットとかにも顔がのっていた先生だ。名前は確か、

 

「えー、デュエルアカデミア新入生の皆サーン、私が実技最高責任者、クロノス・デ・メディチなノーネ。私の担当する授業では、カードの種類やルールなどの基礎的なものから、実践における戦術ナード幅広く受け持っていくノーネ」

 

 そうそう。クロノス先生だ。オベリスク・ブルーの寮長をしているようだし、きっと実力もすごいのだろう。

 

「それではさっそく始めていくノーネ。まずはカードの種類について説明してもらうノーネ。では……シニョーラ深月!モンスターカードの種類を答えるノーネ」

「え、は、はいっ!」

 

 まさか最初に指名されるのが深月とは。クロノス先生のお眼鏡にかなったのか、それとも……?まぁ深月が問題を起こすとは思えないし、目をつけられている訳じゃないだろう。

 

「モンスターカードには、効果を持たない替わりに比較的高いステータスを持つ通常モンスターがいます。またステータスは通常モンスターと比べて控え目ですが魔法・罠カードの様な効果を持つ効果モンスターが存在します。えっと……そして融合という魔法カードを使い、決められた2体以上のモンスターを素材に融合召喚される融合モンスターがいます。それから……儀式モンスターは儀式魔法によって特殊召喚されるモンスターで、召喚する儀式モンスターのレベル以上のレベルになるようにモンスターを生け贄に捧げなければなりません」

 

 見事な説明だ。流石は深月。ちゃんと予習もしてきたんだろう。

 クロノス先生は満足げに頷くと、深月に着席を促す。

 

「流石はオベリスク・ブルーの生徒ナノーネ。でも少しだけ惜しいノーネ。えーそれデーハ……シニョール遊陽!」

「はい」

「効果モンスターは効果モンスターでも、さらに細分化することが可能ナノーネ。効果モンスターにはどんな種類があるのか答えるノーネ。」

「はい。効果モンスターには普通の効果モンスターの他に、特殊なカテゴリに含まれるものがあります。裏側表示から表側表示になることで効果が発動するリバースモンスター、特定のモンスターの装備カードになることが可能なユニオンモンスターや、基本的に特殊召喚出来ず、召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに手札に戻るスピリットモンスター、またフィールド・墓地では通常モンスターとして扱い、召喚権を利用してもう一度召喚することで効果モンスターになるデュアルモンスターが存在します」

「非常に宜しい!」

 

 クロノス先生が黒板にそれらの名前を書く。

 

「えー、これまではモンスターについてお話しして貰いましたーガ、次は魔法・罠カードについてお話ししてもらいマショウ。シニョーラ明日香?」

「はい。魔法・罠には――」

 

 

 オシリス・レッドの生徒が質問に答えられなかったり、その隣の生徒が先生をからかったりしたけど、それ以外は特に問題なく授業が進んでいく。

 

「さて。それでは次の時間は、さっそく実技授業を行ってもらうノーネ。今回は初回と言うことでデュエル結果を成績には入れませんーガ、お互いが高め合えるような相手を見つけてデュエルして欲しいノーネ」

 

 どうやらさっそく実技授業が始まるみたいだ。デュエルの相手は自分達で決めて良いらしい。三沢君とは昨日デュエルしたし……折角だから、深月とデュエルしようかな。

 授業が終わったので深月に話し掛けようとすると、一気に男子生徒が集まってくる。

 

「星見さん!俺とデュエルしよう!」

「いいや僕と!」

「なに言ってんだイエローとレッドの雑魚ども!星見さんとデュエルするのはブルーの俺様だ!」

「え、えっと、あの……」

 

 数人の男子生徒が深月を囲む。深月はそれに驚いてしまいあたふたしている。

 

「ねぇ、深月が困ってるんだけど」

 

 僕が彼女を庇うように出ると、ブルーの制服を着た男子が鼻で笑う。

 

「なんだお前?ラーイエローの雑魚が俺様に口出ししていいと思ってんのかよ?」

「っ、何よ!遊陽はあんたより強いんだから!」

 

 深月はブルー男子の発言に腹をたて、いよいよ混沌としてくる。そんな言葉の乱闘を沈めたのは、やたらと偉そうな声だった。

 

「待ちたまえ!星見さんとデュエルするのはこのボクなのサ!」

 

 ……いや、沈めたというか、『なに言ってんだこいつ』的な空気が流れただけだ。

 緩くウェーブのかかった金髪の、まるで童話の王子様の様な人だ。その後ろには恐らく取り巻きなのだろう男子が2人いる。

 

「さっさと退くっすよ!」

「……鏡泉さんの前だ。邪魔をするな」

「やぁレディ、また会ったね」

「え、えーと……鏡泉(カガミズミ)君だっけ……?」

「名前を覚えてくれたんだネ!あぁなんと光栄な事だろうか!」

 

 鏡泉君は深月の手をとり、もう片方の手で天を仰ぐ。

 

「ちょ、やめてよ!」

 

 しかしすぐに繋いだ手を弾かれてしまった。

 

「っ、何だよ鏡泉!星見さんとデュエルするのはこの俺様だ!」

「……なんだと?」

 

 口の悪いブルー生徒と一触即発になった取り巻きの1人を、鏡泉君が抑える。

 

「左河、あまり喧嘩はよろしくないよ。さて、『イエローとレッドの雑魚はデュエルする資格がない』と言っていたネ?ならボクよりも成績の悪い君がボクを押し退けてデュエルできるとでも?」

「……チッ!覚えてろよ卑怯者のナルシスト野郎!」

「はっはっは!負け犬は良く鳴くんだネ!おととい来たまえよ!」

 

 オベリスク・ブルーの男子は悪態をついて退散し、イエローとレッドの男子もそれにつられて行ってしまった。

 

「さて、邪魔者は……あと1人居たようだネ」

「ちょっと!遊陽が邪魔者って言いたい訳!?」

「おっと、友人だったのかな?これは失礼した……ラー・イエローの君!」

「えっと、何?」

「ボクの名前は鏡泉王子!これから同じアカデミアの仲間として宜しく頼もうじゃないか!」

「え?あぁ、うん。僕は黒野遊陽です」

 

 そう言って右手を差し出してきたので、僕もとりあえずそれに応え握手する。

 

「さて、それでは星見さん、ボクとデュエルを――」

「嫌よ!私は遊陽とデュエルするの!」

「あ、うん。だからごめんね、鏡泉君」

「ガーン!」

 

 口でショックを表現し、天を仰いで頭を掲げる。なんでいちいちモーションが大きいんだこの人。

 

「っ……それならば黒野君!星見さんとデュエルする権利を賭けて、僕とデュエルしないかい?」

「なに言ってるのあなた……」

「……うん。まぁ、良いよ。受けて立つよ」

「遊陽!?」

 

 深月が驚愕の声をあげる。

 

「それで、鏡泉君はなんで深月とデュエルしたいの?」

「おお、聞いてくれるのかい?……そう、彼女との出会いは君達の入学試験だった。僕はその会場で未来のライバル候補たちを観察していたのだが、そのとき出会ったのサ!女神にネ!」

「それが深月の事?」

「そうとも!艶やかで美しい黒髪に宝石の様な瞳!整ったその顔立ちは世界各国の女神象ですら敵わないだろう!何故なら彼女は!紛い物ではなく本物の女神なのだから!」

 

 ベタ褒めである。きっと彼にはデュエリスト以外の道がいくつもあったに違いない。実況者とか俳優とか評論家とか。

 

「確かに深月は女神だけど……」

「ゆ、遊陽っ!?」

 

 今度は深月が顔を真っ赤にする。

 

「それじゃあ、さっそくデュエルしよう、鏡泉君」

「望むところサ!」

 

 

「……ねぇ、あなたたち鏡泉君の取り巻きでしょ?彼、いつもああなの?」

「……その通りだ」

「わ、悪い人じゃ無いっすよ?その……態度がでかいだけで」

 

 

  実技授業を想定した、いくつもデュエルフィールドが並ぶ体育館の様な場所へ移動する。

 僕達がトラブルに巻き込まれている間に実技を終えてしまった生徒も多いようで、雑談や他の生徒のデュエルを観戦していた。

 

「もうみんな終わっちゃってるね」

「ああ。だが問題など無いサ!このボクの華麗なるデュエルのオーディエンスが増えるのだからネ!」

 

 彼の自分への自信はどこから沸いてくるのか。

 

「遊陽ー!負けるんじゃないわよー!」

「「鏡泉さーん!頑張って下さいー!」」

 

 最初の観客3人を横目に、僕達はデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 

遊陽 VS 王子

 

「ボクの先攻、ドローォッ!」

 

 鏡泉君は手札を見て、肩を震わせる。大事故でも起こしてしまったのだろうか?そんな事を考えながら心配していると、彼はいきなり顔をあげる。

 ……満面の笑みで。

 

「ふ、ふふっ、はははっ、ハッハッハ!完璧な手札じゃあないか!」

 

 心配するだけ無駄なようだ。

 

「自分の力が怖いくらいさ!まずボクは手札の【ヴィジョン・リチュア】の効果を発動!このカードを手札から捨てる事で、デッキから【リチュア】と名のつく儀式モンスターを手札に加える!」

「儀式モンスター……!」

「そうとも!このボクの制服と同じブルーのカード!それこそがボクの愛するデッキなのサ!」

 

 儀式モンスターか。融合モンスターと違って素材にするモンスターに制限はないけど、召喚する儀式モンスターも手札に揃えなければならない。使いこなすにはかなりの知識とデッキ構成力が求められるテーマだ。

 

「ボクは儀式魔法、【リチュアの儀水鏡】を発動する!」

 

 鏡泉君の背後に、巨大な水色の鏡が現れる。

 

「ボクが召喚するのは、サーチした【イビリチュア・ガストクラーケ】!そのレベルは6!手札からレベル6の【イビリチュア・マインドオーガス】を生け贄に捧げ、降臨せよ!【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 鏡の中に6つの星が吸い込まれ、鏡の中からイカの様な足が伸びてくる。

 下半身がイカの化けものと化した少女のモンスターが現れ、妖艶な笑みを浮かべた。

 

攻2400

 

「イビリチュア、ガストクラーケ……」

「そうとも!ボクの操る降魔儀式(イビリチュア)の恐ろしさ、とくと味わうが良い!【イビリチュア・ガストクラーケ】の儀式召喚に成功したとき、相手の手札をランダムに2枚確認する!さらにその内の1枚を相手のデッキに戻す!」

 

 ガストクラーケが、とくに長い2つの触腕をのばし、僕の手札を貫く。

 

「ほう、【ファーニマル・ベア】と【融合】か……切り札を封殺させてもらおうかナ?ボクは【融合】をデッキに戻させてもらおう!」

 

 僕の手札の融合が泡のように消え去りデッキへ移動する。

 

「ピーピングだけじゃなく……ハンデスまで!遊陽!気を付けて!」

「……頑張れ、鏡泉さん!」

「その調子っすよ!」

 

 融合召喚は手札の消費が大きい。つまりは手札がなければ何も出来なくなってしまう。そういう意味ではハンデスデッキとの相性は最悪だ。

 

「さらにボクは、【リチュア・キラー】を守備表示で召喚!」

 

 鮮やかな色合いの半魚人が現れる。

 

守800

 

「【リチュア・キラー】の召喚に成功したとき、他に【リチュア】と名のつくモンスター1体がいる場合、ボクは【リチュア・キラー】以外の自分フィールドのモンスターを手札に戻すことが出来るのサ!」

 

 リチュア・キラーの巻き起こした渦潮がガストクラーケを呑み込み、何処かへと飛ばしてしまう。

 

「わざわざ儀式召喚したモンスターを手札に……?」

 

 深月が怪訝そうな顔で首をかしげた。

 

「いや、鏡泉君の狙いは、2回目の儀式召喚だと思う」

「そうなの?」

「うん。【イビリチュア・ガストクラーケ】は儀式召喚に成功したときしか効果を発動できない。だからわざわざ手札に戻して、もう1度儀式召喚するつもりだと思う……そうだよね?鏡泉君」

「御名答!ボクは儀式魔法【高等儀式術】を発動!このカードは儀式召喚の為の生け贄をデッキの通常モンスターで賄う事が可能サ!デッキの【ネオアクア・マドール】を生け贄に、再び降臨せよ!【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 再び現れた海の魔女が、僕の手札を触腕で刺し貫く。

 

攻2400

 

「君の手札は……ふむ、【ファーニマル・ドッグ】と【パッチワーク・ファーニマル】か。【パッチワーク・ファーニマル】を戻したところですぐにサーチされてしまうネ。【ファーニマル・ドッグ】にはおかえり願おう!」

 

 これで手札が3枚。もっとも鏡泉君の方も手札の消費は大きいけど、それでも彼のフィールドには上級モンスターがいる。

 

「ボクはカードを1枚セット。ターンエンドサ!」

 

 

王子 LP4000 手札0

モンスター:イビリチュア・ガストクラーケ リチュア・キラー

魔法・罠:セット

 

 

 もうデュエルを終えた人も多いようで、観戦者が続々と増えてくる。

 

「っ、僕のターン!ドロー!」

 

 ……うん。何とか助かったかな?

 出来ればこのモンスターはまだ召喚したくなかったんだけどね。

 

「僕は魔法カード【融合賢者】を発動。デッキから【融合】を手札に加えるよ。そして【パッチワーク・ファーニマル】を召喚」

 

 色々な布を継ぎ接いで作られた、栗色のクマのぬいぐるみが現れる。

 

守0

 

「……あれ、あのモンスター、何処かで……」

 

 深月がぽつりと呟く。

 

「……ずっと前のデュエルで使ってから、しばらく出てこなかったからね。深月も忘れているんだよ」

「そう、かな……?うん。そうよね……遊陽がそう言うんだもの」

 

 フィールドのパッチワーク・ファーニマルはデストーイモンスターの融合素材とするとき、素材の代用として扱うことができる。僕の手元にエッジインプ・シザーは居ないけど、このカードとベアを使えば……!

 

「僕は魔法カード【融合】を発動!フィールドの【パッチワーク・ファーニマル】と手札の【ファーニマル・ベア】を融合!」

「ハッハッハ!それはさせないよ!【リチュア・キラー】を生け贄にリバースカードオープン!【水霊術-「葵」】!」

 

 ……!自分フィールドの水属性モンスターを生け贄に、対戦相手の手札をすべて確認し1枚を捨てさせるカード!

 

「さあ!君の全てを見せておくれ!」

 

 巨大なカードが僕の背後に表示される。今の僕の手札だ。

 

「ふむ、【ファーニマル・ベア】、【ファーニマル・クレーン】かならば【ファーニマル・ベア】を墓地へ!これで君の【融合】は不発サ!」

 

 融合素材モンスターを失い、召喚できるモンスターがいなくなったことにより融合は不発となる。

 

「ゆ、遊陽!」

「これは……ちょっと不味いかな?僕はカードを1枚セット。ターンエンド」

 

 まぁセットされたカードもバレバレなんだけど……。

 

 

遊陽 LP4000 手札0

モンスター:パッチワーク・ファーニマル

魔法・罠:セット

 

 

「ボクのターン!ドロー!」

 

 鏡泉君はドローしたカードを確認し頷く。

 

「素晴らしい!それでこそボクの愛するデッキさ!ボクは【リチュア・アビス】を守備表示で召喚!」

 

 水飛沫と共にサメの半魚人が現れる。

 

守500

 

「【リチュア・アビス】の召喚に成功したとき、デッキから守備力1000以下の【リチュア】を手札に加える!さぁおいで!【シャドウ・リチュア】!さらに墓地の【リチュアの儀水鏡】は、自身をデッキに戻すことで、墓地の【リチュア】と名のつく儀式モンスターを手札に戻せるのサ!」

 

 鏡泉君の足元に現れた儀水鏡は、1枚のカードを打ち上げる。

 

「確か墓地にいた儀式モンスターは、【イビリチュア・マインドオーガス】……」

「その通り!まずはバトルといこうじゃないか!【ガストクラーケ】で【パッチワーク・ファーニマル】を攻撃!」

 

 ガストクラーケの触腕は、まるで刃のような鋭さでパッチワーク・ファーニマルをズタズタに引き裂く。

 

「……ぁ……」

 

 その光景に、深月の顔が青ざめていく。

 

「っ!リバースカードオープン!【ファーニマル・クレーン】!戦闘で破壊された【パッチワーク・ファーニマル】を手札に戻し、1枚ドロー出来る!」

 

 空中に現れた巨大なUFOキャッチャーのクレーンは、パッチワーク・ファーニマルの残骸を集め1枚のカードに戻す。

 

「メインフェイズ2だ。ボクは【シャドウ・リチュア】の効果を発動!このカードを捨てる事で、デッキの【リチュアの儀水鏡】を手札に加える!そして発動!」

 

 再び鏡泉君の背後に水色の鏡が現れる。イビリチュア・ガストクラーケは6つの星に変わり、鏡の中に吸い込まれていく。

 

「【イビリチュア・ガストクラーケ】を生け贄に、降臨せよ!【イビリチュア・マインドオーガス】!」

 

 鏡の中から夥しい水流が現れ、その波に乗って巨大な魚が現れる。大きな胸鰭を足のように使うホウボウの様なモンスターだ。その上部にはガストクラーケとはまた違った女性が乗っている。

 

攻2500

 

「【イビリチュア・マインドオーガス】が降臨したとき、お互いの墓地のカードを5枚まで選択しデッキに戻す!」

「なるほど、ただ墓地に送られただけじゃ再利用されるおそれがある。だから捨てさせた上でデッキに戻して、確実に手札を削っていくんだね」

「よく分かってるじゃないかイエロー君!ボクが戻すのは君の【ファーニマル・ベア】と【融合】、そしてボクの【高等儀式術】、【ネオアクア・マドール】、【シャドウ・リチュア】の5枚さ!」

 

 イビリチュア・マインドオーガスは渦潮を作り出し、墓地から5枚のカードを巻き上げ、持ち主のデッキに送る。

 

「どうだ!これこそが華麗なるボクの華麗なる戦術!」

 

 ほぼ1年生全員となった観客へ向け、鏡泉君は得意気に語り始める。しかし――

 

「うるせぇ卑怯者!」

「ハンデスしないと勝てないんだろ?」

「手札の覗き見だなんて、決闘者の風上にも置けないぞー!」

 

 観客からの反響は辛辣だ。

 デュエルモンスターズのルールにおいて、ハンデスは禁止されていない。しかしピーピングやハンデス等の行為は多くの決闘者から嫌われている様だ。

 理由は僕には良くわからないが、相手の戦術を完成する前に潰すと言う性質上、エンターテイメント性を大きく損なってしまうから……なんて話を聞いたことがある。

 

「ふん、君達にはこの華麗さが理解できないのだろうネ!相手に行動を許すことなく、自らの輝かしいモンスターでフィールドを飾る完成されたデュエルを!そうとも!必ずやボクは彼女の心を掴んでみせるとも!この華麗なるデュエルでネ!」

「えっと……やることがなければターンを終わってもらって良いかな?」

「いいやまだだ!」

「えっ、いったい何を……」

「まだボクの華麗さを語り尽くして居ないじゃないか!」

 

 その発言に、すでに実技授業を終え観戦していたほとんどの生徒がズッコケた。

 

「さっさとターン終われよー!」

「お前もう手札ねーだろー!」

 

 ……これに関しては賛成だ。

 

「ふむ。あまり華麗なるボクを見ていると、自分に自信が持てなくなってくるのかも知れないネ。ターンエンドだ!」

 

 

王子 LP4000 手札0

モンスター:イビリチュア・マインドオーガス リチュア・アビス

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 チラリと横目で深月を見る。彼女は青ざめた顔で震えている。

 

「違うの。ごめんなさい。違う、わた、わたしは……」

「ちょ、ちょっと大丈夫っすか!?」

「……体調が悪いのか?」

 

 やっぱりパッチワーク・ファーニマルを召喚するべきじゃなかった。早いところこのデュエルを終わらせないと。

 

「僕は魔法カード【魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)】を発動!デッキから【融合】と【エッジインプ】と名のついたモンスター……【エッジインプ・チェーン】を手札に加える。そして【融合】を発動!」

「何度目の前から消しても融合してくるとは……ここまで来ると執念だネ」

「……手札の【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・シープ】を融合!全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 僕の前に現れたヒツジのぬいぐるみ。それは機械に使われる様なチェーンに絡め捕られ、ねじ切られる。

 チェーンが溶けてヒツジの体を覆い、新たなモンスターとして生まれ変わる。

 

攻2000

 

「さらに【エッジインプ・チェーン】が手札・フィールドから墓地へ送られた場合、デッキから【デストーイ】と名のつくカードを手札に加える。僕が加えるのは【デストーイ・カスタム】だよ」

 

 墓地から伸びた鎖がデッキに突き刺さり、1枚のカードを引きずり出す。

 

「バトルだよ。【デストーイ・チェーン・シープ】で【リチュア・アビス】を攻撃。モノポライズ・チェイン!」

 

 シープはケタケタと笑い声をあげながら、リチュア・アビスに突進する。

 

「くっ……」

「カードを1枚セット。ターンエンド」

 

 

遊陽 LP4000 手札1

モンスター:デストーイ・チェーン・シープ

魔法・罠:セット

 

 

「ボクのターン!……素晴らしいね。バトル!【イビリチュア・マインドオーガス】で【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 マインドオーガスの産み出す水の球がチェーン・シープを飲みこみ、水圧で押し潰す。

 

LP4000→3500

 

 このデュエルが始まって初めてのダメージだ。……でも。

 

「デストーイ・バックアップ」

 

 フィールドに残った鎖の残骸が回転し、墓地からチェーン・シープを引き上げる。

 

攻2000→2800

 

「な、何ィッ!?」

「1ターンに1度、【チェーン・シープ】が破壊された時、攻撃力を800アップさせて自己再生を行うよ」

「まさかそんな効果を持っていたとはネ。カードを1枚セットしてターンエンドサ」

 

 

王子 LP4000 手札0

モンスター:イビリチュア・マインドオーガス

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 良い引きだ。これで決着を付けられる。

 

「待っててね、深月。このターンで終わらせるから。だからちょっとだけ……我慢してて」

「何をするつもりだい?」

「すぐにわかるよ。僕は【パッチワーク・ファーニマル】を召喚」

 

 栗色のクマのぬいぐるみが飛び出す。

 このモンスターが視界に入る度、深月の呼吸は荒くなっていく。

 

「だからさっさと退場してもらおう。僕はリバースカードオープン、【デストーイ・カスタム】!墓地の【エッジインプ】または【ファーニマル】を特殊召喚する。おいで、【ファーニマル・シープ】」

 

 モコモコとした綿の塊……ヒツジのぬいぐるみが現れる。

 

「【ファーニマル・シープ】の効果を発動。自分フィールドの【ファーニマル】を手札に戻す事で、手札か墓地の【エッジインプ】を特殊召喚できる!【パッチワーク・ファーニマル】を手札に戻し、蘇れ、【エッジインプ・チェーン】!」

 

 シープがクマのぬいぐるみを綿で包み隠す。シープが離れる頃にはぬいぐるみの姿はなく、そこには鎖の怪物が存在していた。

 

「そして【デストーイ・ファクトリー】を発動!このカードは墓地から【融合】または【フュージョン】と名のつくカードを除外する事で、【デストーイ】の融合を行える。墓地の【融合賢者】を除外し、フィールドの【チェーン】と【シープ】を融合し、融合召喚!【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 僕のフィールドに2体目のチェーン・シープが現れる。

 

攻2000

 

「そして【エッジインプ・チェーン】が墓地へ送られた事で、デッキから【デストーイ】と名のつくカードを手札に加える」

「さっきのターンと同じだネ」

「ここまでは、ね。僕は手札に加えたカードをそのまま発動するよ!魔法カード、【魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)】!」

 

 僕の足元に、ピンクや水色を中心とした色のファンシーな渦が現れる。

 

「このカードはフィールド・墓地に存在する融合素材モンスターをゲームから除外する事で、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚できる!」

「な、手札1枚から融合召喚だって!?」

「墓地の【チェーン】と【シープ】をゲームから除外し、融合召喚!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 渦の中から現れるのは、3体目のチェーン・シープ。3匹の笑い声が重なり、反響する。

 

攻2000

 

「融合モンスターを3体も召喚してくるとはネ」

「行くよ、バトル!攻撃力の上がった【デストーイ・チェーン・シープ】で、【イビリチュア・マインドオーガス】を攻撃!」

 

 僕の攻撃宣言を聞き、鏡泉君はその口をニヤリと歪ませる。

 

「その言葉を待っていたのサ!リバースカードオープン!【神風のバリア-エア・フォース-】!相手の攻撃表示モンスター全てを手札へ戻す!これで君の攻撃は届かない!」

 

 風の膜で作られたバリアがチェーン・シープの突進を受け止める……直前。

 チェーン・シープは体に絡み付いた鎖を伸ばして、ウェーブ・フォースのカードを縛り付ける。

 

「んなっ!?」

「【デストーイ・チェーン・シープ】が戦闘を行う時、相手はカードの効果を発動出来ない!」

 

 神風の障壁は消え去り、マインドオーガスはチェーン・シープに押し潰される。

 

LP4000→3700

 

「これで終わりだよ。【チェーン・シープ】2体で直接攻撃!」

「嘘だ、そんなぁぁっ!?」

 

LP3700→1700→0

 

 ソリッドビジョンが消え去り、鏡泉君はその場に崩れ落ちる。

 それを見て彼の取り巻き2人が駆けつけてきた。

 

「「かっ、鏡泉さん!」」

 

 僕も早く深月を助けなければ。僕は鏡泉君達には目もくれず、壁に背を任せ座り込んだ深月に近づく。

 

「……ぁ……遊陽、お疲れ……」

 

 やっぱり彼女の前でパッチワーク・ファーニマルを使うのはやめた方がいい。これ以上彼女の罪悪感(・ ・ ・)を刺激するのは良くないだろう。

 

「体調は大丈夫?」

「ううん。良くないかも……」

「すぐに保健室に行こう。肩を貸して」

 

 力のない僕じゃ深月を抱き抱えることは出来ない。だけど支えることなら何とかできる。

 深月の肩を支えデュエルフィールドを出ようとすると、三沢君に声をかけられた。

 

「黒野、大丈夫か?」

「あ、三沢君!……良ければ片方お願いしても良いかな?」

「いや、俺1人でも大丈夫だ。保健室でいいか?」

「うん。ありがとう」

 

 三沢君は深月をおぶさり、保健室へと連れていく。

 彼なら深月を任せても問題ないだろう。僕は落ち込んだ鏡泉君とそれを励ます取り巻き2人に声をかける。

 

「相手の手札を見て、先手を打って行動する。僕は、そのデッキを使いこなせるのはすごいと思うよ」

「イエロー君……」

「黒野遊陽、だよ。それじゃあ、僕は深月を看て来なくちゃ」

 

 それだけ言って立ち去る。行きしなに売店でスポーツドリンクを購入。結構汗をかいていたし、水分補給は大切だ。

 

 

 

 時刻は深夜の2時3時。部屋の明かりは消しましょう。

 お風呂一杯にお湯を張り、そこに『あなた』を沈めましょう。

 テレビをつけてチャンネル替えて、砂嵐だけを映しましょう。

 刃物を持って犠牲者見つけ、刺し貫いて斬りましょう。そしてこう呟きましょう。

 

「次の鬼は――」




「見るがいい!これが今回の最強カードサ!」

イビリチュア・ガストクラーケ
儀式・効果/星6/水属性/水族/攻2400/守1000
「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。
このカードが儀式召喚に成功した時、
相手の手札をランダムに2枚まで確認し、
その中から1枚を選んで持ち主のデッキに戻す。

「召喚すれば確実に相手の手札を1枚減らす事が可能サ!さらにマインドクラッシュ等でもう片方のカードを捨てさせることだって出来る!レベル6で使いやすい点もメリットだネ」


鏡泉王子 カガミズミ オウジ
デュエルアカデミア中等部ではトップの成績だった超エリート。ナルシスト気味でプライドが高く、女の子を口説くのが趣味。だがそれを除けば基本的には真面目で優しく面倒見の良いみんなの王子。勉強の面倒などをよく見ているため取り巻きからは慕われている。取り巻きの名前はチャラい方が右橋(ミギハシ)で寡黙な方が左河(ヒダリカワ)。
整った顔立ちやその仕草から名家のお坊っちゃまの様に思われているが、実家は一般庶民。
深月に惚れ込み度々口説き始めるが、いつも躱されてしまっている。でもめげない素晴らしいメンタルの持ち主。
ウェーブのかかった金髪に水色の瞳。
使用デッキは【リチュア】。


4話でした。これで一期分のオリキャラは(モブを除けば)終わりのはず。

それと最後に、何がとは言いませんが、絶対に実行してはいけません。
もしやるならば良く調べた上で、どんな事が起きたとしても自己責任でお願いしますね?


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5話 狂乱のケダモノ

へぇ、デートかよ


 アカデミアに入学してからだいぶ経ち、色々な事に慣れてきた頃。

 

『――それでジュンコがね?』

 

 僕と深月はPDAで連絡するのが日課になっていた。

 お互いの寮を行き来することは出来ないから、せめて今日何があったかを話している。

 深月の体調はすぐに回復して、後遺症のようなものは全くない。最近は枕田さんや浜口さん、天上院さんとはより仲良くなったようで、呼び捨てにする仲になっているようだ。

 友人の事を嬉しそうな声音で言われると、僕も嬉しくなってくる。

 

『あ、そうそう!遊陽に話そうとしてたことがあって』

『何?』

『ももえから聞いたんだけどね?遊陽はさ、旧特待生寮って知ってる?』

 

 

 

「……け、けっこう雰囲気あるわね」

「深月ってホラーに弱かったよね?」

「う、うん……」

「なんで来ちゃったかなぁ……」

「遊陽は怖くないの?」

「んー、全然?」

 

 僕達が立っているのは、かつてオベリスク・ブルーの特待生が使っていたと言う廃寮。ところどころツタが張っていたり、窓が割れていたりとかなり雰囲気がある。壁自体はしっかりしているようで、崩壊の恐れはなさそうだ。

 

「っていうかここ、立入り禁止だし……」

「で、でも行くよ!き、肝試し、だから……!」

 

 そういう彼女の足はガタガタと震えていてまともに歩けそうにない。そんなに怖いのになぜ拘るのだろうか。

 

「……そうよ、吊り橋よ、吊り橋……」

 

 なんだか良くわからないことを呟いている。おおかた浜口さんに何か吹き込まれたのだろう。

 

「そ、それじゃあ、行くわよ!」

 

 深月に腕をガッチリと掴まれながら廃寮へと足を踏み入れる。

 当然明かりは無いので、持ってきた懐中電灯のスイッチを入れた。

 

「クモの巣とかも多いから気を付けてね」

「う、うん……きゃっ!?」

 

 深月の目の前を何かが飛ぶ。蛾の様な虫の類いだろうか。

 

「……あれ?」

「どうしたの?深月」

「えっと、何て言うか……結構片付いてる、って思ったの」

「片付いてる?」

「うん。クモの巣とかは多いけど、ところどころ埃が積もってない場所があるの。……まるで、誰か住んでるみたい――」

 

 そこまで言って固まる。そしてギギギと擬音のしそうな動きで僕の方を見て、抱きついてくる。

 

「み、深月!?」

「だ、誰もいないよね……!?お、お化けとか住んでないわよね……!?」

「落ち着いて深月。幽霊が住んでても綺麗にはならないよ」

「そ、そうよね。……ねぇ、お化け以外のものが住んでるとか――」

「………」

「何で目を逸らすのよ!」

 

 パニックになりかけている深月に体を揺さぶられる。

 

「ま、まぁ……きっと管理人とかが度々来てるんじゃない?使われてなくても手入れは必要だろうし……」

「そ、そうね!それだわ!」

 

 肝試し、なんて言っておきながら何の目的も無いので、とりあえず僕達は部屋を見て回る。

 

「あれ、なにかしら、この写真」

「10JOIN……?何かの暗号かな?」

 

 謎のイケメンの写真はとりあえずもとあった場所に戻した。

 軋む階段を登り、僕達は2階に到達する。

 

「に、2階で1部屋見たら、それで帰りましょ?」

「えっと、別にすぐ帰っても……」

「う、ううん!ここまできたら意地よ!」

 

 そういう深月の顔は覚悟を決めたようにキリリとしていたが、僕の腕を掴む彼女の腕は震えていて、明らかに無理をしていることがわかる。

 

「ねぇ、深月」

「ほら、あそこの部屋!」

 

 僕達が入った部屋は2階の中心にある部屋だ。他の部屋より少しだけ大きく、窓から眺める景色もいい。

 

「やっぱり、何か綺麗なのよね……ほら見て、遊陽。このクローゼット、取手のところ」

「どうしたの?」

「全然埃が無いの」

「開けてみようか?」

「……う、うん」

 

 ゴクリと唾を飲む深月の前に立ち、クローゼットを開ける。

 

「これは……ドレス?かしら」

「そうだね」

 

 クローゼットの中には何着ものドレスが入っている。パーティーで着るようなゴージャスな物から、ちょっとしたオシャレで着られる様なものまで。

 

「どれも結構新しいわ。まるで新品みたい……」

「深月が着たら似合いそうだね」

「そ、そう?……ううん。私はこんな綺麗な服似合わないわよ」

「着て見ればわかるんじゃない?」

「服があれば、ね」

 

 服なら目の前にあるけど、まぁ誰のものだかわからない服なんて着たく無いだろう。

 

「それじゃあ、帰ろうか」

「うん!」

 

 そう言って部屋を出る。その時のこと。

 

「っ、きゃあっ!?」

 

 暗闇の中から大柄な男が現れ、深月の手を掴む。

 

「深月!」

 

 深月を取り戻そうと手を伸ばすが、大柄な男は首からかけた金色のアイテムを掲げる。

 

「っ!」

 

 そのアイテムから強い光が発せられ、反射的に目をつぶってしまう。

 そして次に目を開けたとき、彼女の姿は何処にもなかった。

 

「深月……!」

 

 やられた。まさかこんなところに人がいるなんて。1体何が目的なんだろうか。

 そして数十秒の後、

 

「きゃぁぁぁっ!?」

 

 再び悲鳴が聞こえる。深月とは違う声。音が聞こえてきたのは……下の階だ!

 僕は急いで階段を降り、音の聞こえた方へと向かう。

 

「誰もいない……1階には居ないってことだよね」

 

 僕はすぐに地下へと降りていく。

 そこには先程の大柄な男と、棺のような物に入れられた深月と天上院さんが居た。

 2人は眠っているようで、周囲の状況に反応する様子はない。

 

「明日香!」

 

 その時、1階から3人のオシリスレッドが降りてくる。

 

「見つけたぞぉ……遊城十代ぃ……」

「お前は誰だ!……って、お前も誰だ?」

 

 遊城十代と呼ばれた男子は、頭をかきながら僕に問いかけてくる。

 

「黒野遊陽君ッスよ!こないだ儀式デッキの人とデュエルしてた!」

「可愛いぬいぐるみを使う人なんだなぁ」

「……僕は黒野遊陽。深月を返してもらうよ」

 

 遊城君には名前だけ答えて、大柄な男を睨み付ける。

 

「我が名はタイタン……遊城十代、貴様を抹殺するために雇われた殺し屋である……」

「俺を?それに殺し屋だって?」

「そうだぁ……この2人を助けたければ、私とデュエルを行うのだぁ……」

「くそっ!やってやる――」

「遊城君、僕がデュエルしていいかな?」

 

 拒否なんてさせない。僕は遊城君が答える前にデュエルディスクを展開し、タイタンの前に立つ。

 

「用があるのは遊城十代だけだぁ……貴様とデュエルする時間など……」

「その闇のアイテム、本物?」

 

 僕は男の持つ金色のアイテムを指差す。その形は千年パズルと言われるアイテムにそっくりだ。

 

「当たり前だぁ!」

「それは興味深いなぁ。ぜひ僕とデュエルして欲しいんだけど」

「私は依頼を果たすだけだぁ……」

「……本物じゃなくてハリボテなのかな?偽物なら1回デュエルしたらバレちゃうからね。だから頑なに僕とはデュエルしないの?」

「……ふん、後悔するがいぃ!まずは貴様から始末してやるぞぉ!」

「お、おい黒野!大丈夫なのかよ?」

「アイツ、嫌な予感がするんだなぁ」

「ぜ、絶対危ないやつッスよ!」

 

 危険だろうと何だろうと、僕は深月を助けなければいけない。深月がこんな良くわからない男の手中にあるだなんて絶対に許せない。

 

「……深月にさえ手を出さなければ良かったのにね」

「何か言ったかぁ?」

「ううん。始めよう」

 

「「デュエル!」」

 

遊陽 VS タイタン

 

「私のターンだぁ、ドロー!私はぁ、【デーモンの騎兵】を攻撃表示で召喚するぅ!」

 

 馬の鳴き声と共に駆け付けるのは騎兵。ただし乗っている兵隊は悪魔だ。

 

攻1900

 

「デーモンデッキ……!」

「ふははは!私の闇のデッキと、そしてこの闇のデュエルを恐れるがいい!」

 

 気づけば、僕らの周りには霧が立ち込めている。

 

「な、なんだこれ……」

「息苦しいんだなぁ……」

「これが、闇のデュエルッスか……!?」

 

 ……確かに呼吸がしづらい。水の中に居るような圧迫感だ。

 

「私はカードを1枚セットぉ。ターンエンドだぁ」

 

 

タイタン LP4000 手札4

モンスター:デーモンの騎兵

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 シザーとベア、そしてライオ。それ以外は罠カードだ。悪くない手札だけど、融合をサーチ出来るカードが欲しかったところ。でもあの騎兵を倒すだけなら、このカードでも大丈夫!

 

「僕は【ファーニマル・ライオ】を攻撃表示で召喚」

 

 PON!という爆発の中から、小さな天使の羽を持つライオンのぬいぐるみが飛び出す。

 

攻1600

 

「可愛いモンスターなんだなぁ。でも、攻撃力が足りないんだな」

「そうっスね。でも確かあのモンスターの効果は……」

「バトル!【ファーニマル・ライオ】で【デーモンの騎兵】を攻撃!ファニー・ファング!」

「何ぃ?【デーモンの騎兵】の攻撃力は1900だぞ?」

「【ファーニマル・ライオ】は攻撃するとき、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

攻1600→2100

 

 これで攻撃力は逆転だ。ファーニマル・ライオの牙は、馬に乗る悪魔を直接狙い、その首を噛み千切る。

 

「ぐぅぅぅ……」

 

LP4000→3800

 

「さらに僕はカードを3枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札2

モンスター:ファーニマル・ライオ

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「私のターンだぁ!私はリバースカードオープン!【悪魔の憑代】!この効果により、私はレベル5以上の悪魔族モンスターを召喚するとき、生け贄が不要となるのだぁ!」

「リリース軽減でも肩代わりでもなく、無しに……!?」

「その通りだぁ!私は【デーモンの巨神】を攻撃表示で召喚するぅ!」

 

 地面が揺れる。地鳴りと共に現れるのは、見上げるほどに巨大な悪魔。

 

攻2400

 

「さらに私のフィールドに【デーモン】が存在するとき、【デーモンの将星】を特殊召喚できるぅ!」

 

 白く輝く骨の鎧をまとった悪魔が、巨神の足元に現れる。

 

攻2500

 

「【デーモンの将星】がこの方法で特殊召喚されたとき、私は自分フィールドの【デーモン】を1体破壊しなければならない。しかし【デーモンの巨神】がカード効果で破壊される場合、代わりにライフを500払うことができるのだぁ!」

 

LP3800→3300

 

「れ、レベル6の上級モンスターが2体……!」

「大ピンチなんだなぁ」

「うぉー!負けんなよ!黒野!」

 

 僕のフィールドには下級モンスター。相手フィールドには上級モンスターが2体。かなりの戦力差だ。

 

「行くぞぉ!【デーモンの将星】で【ファーニマル・ライオ】を攻撃!将雷断!」

 

 デーモンの将星が雷を纏い、ファーニマル・ライオをその爪で引き裂こうと飛び掛かってくる。

 

「罠カード発動、【びっくり箱】!相手モンスターの攻撃宣言時に2体以上のモンスターがいる場合、攻撃していないモンスター1体を墓地へ送り、そのステータスの高い方だけ攻撃モンスターの攻撃力を下げる!」

 

 将星の目の前に現れたプレゼントボックスは爆発し、将星を驚かせる。将星はひっくり返り、雷を纏った爪は逆に巨神の体を引き裂いた。

 絶命した巨神はその場に倒れ、将星を下敷きにする。

 

攻2500→100

 

「将星の攻撃力が下がったッス!」

「すげぇ、あの2体のモンスターを同時に無力化したぜ!」

「ぬ、ぬぅ……私はカードを1枚セット、ターンエンドだぁ」

 

 

タイタン LP3300 手札2

モンスター:デーモンの将星

魔法・罠:悪魔の憑代 セット

 

 

「僕のターン、ドロー。よし、僕は【融合】を発動!手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ベア】を融合し、融合召喚!全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 切り裂かれたクマのぬいぐるみが、黒い液状の金属に呑まれ姿を変える。

 そして現れる、傷と刃物にまみれた悪夢の化身。

 

攻2200

 

「バトル。【デストーイ・シザー・ベアー】で【デーモンの将星】を攻撃、モンスターイート!」

「リバースカードオープン!【攻撃の無敵化】だぁ!このターン受ける全ての戦闘ダメージを0にするぅ!」

「それでも、【デーモンの将星】は破壊させて貰うよ!」

 

 シザー・ベアーは両手でデーモンの将星を掴むと、ひと口で飲み込んでしまう。

 

「【デストーイ・シザー・ベアー】は戦闘破壊したモンスターを攻撃力1000アップの装備魔法として自身に装備できる!」

 

 デーモンの将星を飲み込んだシザー・ベアーは一回り大きく成長する。

 

攻2200→3200

 

「【攻撃の無敵化】でダメージを受けないから、これ以上攻撃しても意味ないね。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札0

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー ファーニマル・ライオ

魔法・罠:セット セット デーモンの将星

 

 

「私のターン、ドローだぁ!見せてやろう、このデッキの切り札を!【悪魔の憑代】によって生け贄を無視し、現れるがいい!【戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン】!」

 

 いっそう暗い霧が立ち込め、その中からデーモンの皇が現れる。ジェネシス・デーモンは赤い血塗れの剣を地面に突き刺すと、玉座に腰掛ける。

 

攻3000

 

「攻撃力、3000だって!?」

「大丈夫ッスよアニキ!デストーイ・シザー・ベアーの攻撃力は3200。あのデーモンなんか敵じゃないッス!」

「それはどうかな?」

 

 ジェネシス・デーモンが床に刺した剣を抜き、掲げる。

 すると天井に暗雲が現れ、放たれた電撃がデストーイ・シザー・ベアーを破壊した。

 

「な、何が起こっているんだ?」

「【ジェネシス・デーモン】は1ターンに1度、墓地のデーモンを除外することでフィールドのカードを破壊することができるぅ……私は【デーモンの騎兵】を除外して効果を発動したのだぁ。さらに魔法カード【二重召喚】を発動ぉ!このターン私は2回目の通常召喚を行える。いでよ、【デーモン・ソルジャー】!」

 

 凶皇の前に現れ、跪くのはデーモン界のエリート兵士。

 

攻1900

 

「さぁ、バトルだぁ!【デーモン・ソルジャー】で【ファーニマル・ライオ】を攻撃ぃ!」

 

 デーモン・ソルジャーの剣がライオを貫き、破壊する。

 

LP4000→3800

 

「くっ……でも、僕は罠カード、【ファーニマル・クレーン】を発動。ライオを手札に戻し、ドロー!」

「ふははは!さぁ、闇のデュエルを恐れるがいい!」

 

 タイタンが黄金のアイテムを掲げる。

 

「自分の体を良く見るがいい、ダメージを受けた分だけ体が消えていく……これが闇のデュエルだぁ!」

 

 そう言われて自分の体を見てみる。だけど、特におかしな点はない。

 だが、

 

「お、おい黒野!お前体が透けて……」

「こ、このままライフが減っていけば……」

「体が消えてなくなってしまうんだなぁ!?」

 

 3人は恐ろしいものを見るかの様に僕を見る。……なるほどね。

 

「……君の方がライフが減っているのに、なんで君は無事なの?」

「ふはは!私は闇のデュエルの支配者だぁ!この私が闇の生け贄となるわけが無いだろう!」

「……ふーん」

「随分と余裕だなぁ?【ジェネシス・デーモン】で直接攻撃だぁ!」

 

 ジェネシス・デーモンは気だるげに立ちあがり、僕の体を切り裂く。

 

「この瞬間、リバースカードオープン!【炸裂装甲】!攻撃してきた相手モンスターを破壊する!」

「させぬわぁ!【悪魔の憑代】は自身を墓地へ送ることで、通常召喚した悪魔族モンスターの破壊を防ぐことができるのだぁ!」

 

LP3800→800

 

「くっ……!」

「黒野ぉ!」

「もう、ほとんど体が残ってないッス……」

「も、もうダメなんだなぁ……」

 

 3人の絶望的な声を聞き、タイタンは満足げに笑う。

 

「次はお前だ遊城十代ぃ!私はこれでターンエンド」

 

 

タイタン LP3300 手札0

モンスター:戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン デーモン・ソルジャー

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 ……来た。このターンで終わらせてしまおう。この偽りの闇のデュエルを。

 

「ねぇ、これって本当に闇のデュエルなのかな?」

「そうだと言っているだろう!」

「……僕には、自分の体は消えてるようには見えないんだけど」

「な、何ぃ!?」

「それに闇のデュエルは平等だよ。片方だけがその影響を受けないなんてあり得ない」

「私は闇のデュエルを完全に制御したのだぁ!」

「……ねぇ、遊城君。僕の体はどう消えていってるの?」

 

 遊城君は僕の右腕を指差して答える。

 

「み、右腕からだんだん上半身が消えていったぜ」

 

 その答えに驚いたのは、僕やタイタンではなく、他の男子2人だ。

 

「何言ってるんすかアニキ!消えてるのは下半身っすよ!」

「み、右半身なんだなぁ……」

 

 それぞれ僕の体の消え方が違うようだ。

 

「催眠術か何かかな?薬を混ぜた霧で呼吸をしにくくさせた上で、その闇のアイテムもどきで催眠術をかけ、言葉で誘導して幻覚を見せる」

「ぬ、ぬぅ……」

「っ!じゃあこれは」

「ただのデュエルだよ。雰囲気が違うだけのね」

「チィッ!ばれてしまっては仕方がないなぁ!」

 

 そう言うや否や、タイタンは僕たちの前から逃げ出そうとする。しかし、

 

「な、何だぁ!?これはぁ!?」

 

 いつのまにか僕達の周囲を、真っ黒な何かが覆っている。

 タイタンの使った演出用の霧ではない、闇そのものだ。

 

「……皆は知ってる?ここはかつて、闇のデュエルの研究が行われていた場所」

「あ、あぁ。そんな話を聞いたことあるぜ」

「つまりここは闇のデュエルにとって聖地とも言える存在なんだ。……そんな場所で闇のデュエルを騙るだなんて、罰当たりな人もいたものだね」

「ま、まさかぁ、これはぁ!?」

「闇のデュエルそのものだよ」

 

 僕らを押し潰すようなプレッシャー。戦え、戦えと何処かから声が聞こえる。

 

「この闇のデュエルからは逃げられない」

「だ、だが私の方がライフは上!消えるのはお前だぁ!」

「……僕は永続魔法【デストーイ・ファクトリー】を発動。墓地の【融合】を除外して、【デストーイ】と名の付くモンスターを融合召喚できる」

 

 僕の足元に黒い渦が広がる。

 

「手札の【ファーニマル・ライオ】と【エッジインプ・ソウ】を融合。全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!来い!【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 エッジインプ・ソウの中にファーニマル・ライオが引きずり込まれる。その体は原型をとどめないほどに崩壊し、僕の周囲に綿が舞う。

 エッジインプ・ソウは溶解し綿を全て飲み込むと、その姿を変えた。

 血走った目でタイタンを睨み付けるライオンのぬいぐるみ。体は真っ二つに割れている。そして腹に、顔に、タテガミに取り付けられた丸鋸が、その存在を主張するように回転する。

 

攻2400

 

「ひ、ひぇぇっ!?」

「こ、怖いんだなぁ……」

「バトル。【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】で【デーモン・ソルジャー】を攻撃。ジェノサイド・ソウ!」

 

 ホイールソウ・ライオは爪でデーモン・ソルジャーを貫き捕まえ、自分の腹部で回転する丸鋸に押し付ける。

 声にならない叫びを上げながら、デーモン・ソルジャーは肉塊へと変貌し破壊された。

 

「ぐぬぅ……!」

 

LP3300→2800

 

「だが【ジェネシス・デーモン】の攻撃力は3000!【ホイールソウ・ライオ】など相手ではないのだぁ!」

「……そう。攻撃力は3000だよ」

「……な、何をするつもりだぁ?」

「【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】は1ターンに1度、相手フィールドに存在するモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える事ができる」

 

 タイタンの顔が青ざめていく。この後何が起こるのかを理解したのだろう。ダラダラと汗が流れ、足元にシミをつくる。

 

「う、嘘だぁ!た、助けてくれぇ!」

「……深月に手を出しさえしなければ、こんなことにはならなかっただろうにね」

「い、嫌だぁ!し、死にたくないぃ!」

「【ホイールソウ・ライオ】の効果を発動。【ジェネシス・デーモン】を破壊し、その攻撃力分、3000ポイントのダメージを与える!深月に気安く触れた事を後悔して消え去れ!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

 

 ホイールソウ・ライオのタテガミに付けられた丸鋸が飛ばされ、ジェネシス・デーモンの体を細切れにして行く。その破片はタイタンへと落ちていき、その体を潰す。

 

「やめろ、やだ、ぬぅわぁぁぁっ!?」

 

LP2800→0

 

 ソリッドビジョンが消えるが、黒い霧が消えることはない。霧はタイタンの元へ集まり、その体を飲み込んでいく。

 

「はなせぇ!嫌だぁ!わた、わたしはぁ……」

 

 やがて声が聞こえなくなり、黒い霧が消える頃には、タイタンが立っていた場所に黒いぬいぐるみが落ちていた。

 タイタンをそのまま小さくしたようなぬいぐるみだ。

 

「な、何が起こってるんだよ……」

「彼がここで闇のデュエルを偽ったせいで、本物の闇のデュエルが始まってしまった。それに負けた彼は罰ゲームを受けたんだ」

「ば、罰ゲーム?」

「……闇のゲームの敗者には、罰が与えられる。魂を奪われたり、封印されたり……どうやら今回はぬいぐるみになってしまったようだね」

 

 僕はタイタンのぬいぐるみを拾い上げる。

 

「そ、それはどうするつもりッスか?」

「……さぁね。深月に軽々しく触れる奴なんか知らないよ」

 

 僕はそのぬいぐるみをその場に投げ捨てる。

 こんなものよりも大切なのは深月だ。

 

「君達は天上院さんを助けに来たんだよね?多分催眠術で眠らされているだけだから大丈夫。助けに行ってあげてよ」

「そ、そうだな。とりあえず、助かったぜ、黒野」

 

 早く深月を助けなければ。そう思って彼女の棺へ向かおうとしたとき、何かが落ちる。

 

「あれ、何か落としたんだなぁ」

 

 僕の耳から外れたそれを、コアラみたいな男子が拾ってくれた。

 

「これは、黒野君のものかぁ?」

「あ、うん。ありがとう」

 

 彼が拾ったのは、金色のイヤーカフ。普段は長い髪に隠れて見えないけど、今回の闇のデュエルの衝撃で外れかかっていたのかも知れない。

 

「随分と派手なアクセサリーッスね」

「自分に似合わないのは分かってるんだけど……恩人から貰ったものだからね」

「恩人って?」

「あぁ、育ての親、とでも言えばいいのかな?」

 

 僕はそのイヤーカフをつけ直すと、棺の中で眠る深月を揺り起こした。

 

「ん、ぅ……」

「深月、大丈夫?」

「ぁれ、遊陽……?ここは……?」

「廃寮の地下室だよ。怪我はしてない?」

「ん……大丈夫」

 

 まだ寝惚けているのだろう。深月はトロンとした瞳で周囲を見渡している。

 

「遊陽に助けられちゃったみたいね。……ありがとう」

「どういたしまして。こんなところにいたら風邪引いちゃうし、寮に戻ろうか。立てる?」

「うん」

 

 深月の手を取り立ち上がらせる。向こうでは目を覚ました天上院さんを、遊城君達が嬉しそうに囲んでいた。

 僕達は一足先に廃寮を出ていく。PDAで時間を見れば、かなりの深夜だ。丑三つ時とはこの事か。

 それを言っても深月を怖がらせてしまうだけなので、僕は明るい話題で深月を元気付けながらオベリスクブルーまで送っていった。

 

 

 

「さーて、ドロップアウトボーイーは?……誰もいないノーネ。……ん?何なノーネあのぬいぐるみーハ。……これはきっとサービスか何かなのーネ?しかしドロップアウトボーイをギャフンと言わせることは出来なかったノーネ……このぬいぐるみは、とりあえず持ち帰っておくノーネ」




「今回の最強カードだよ」

デストーイ・ホイールソウ・ライオ
融合・効果/星7/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000
「エッジインプ・ソウ」+「ファーニマル」モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
「デストーイ・ホイールソウ・ライオ」の効果は1ターンに1度しか使用できず、
この効果を発動するターン、このカードは直接攻撃できない。
(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

「相手モンスターを破壊した上で、さらにその攻撃力分のダメージを与える強力なモンスターだよ。効果を発動するターン、ホイールソウ・ライオは直接攻撃できなくなってしまうけど、融合解除で召喚した融合素材モンスターで追撃をかけるのもありだね」


もっと耳にゴールド付けるとかSA!
と言うわけで5話でした。
哀れタイタンさん。ここでリタイア。それにしてもようやく出てきた主人公の扱いがこれでいいのか。
色々突っ込みどころは満載ですが、次回もまた読んで頂けたら嬉しいです。
それではー。


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6話 VSエリート!万丈目準!

6話です。ごめんよ  君。


「えー、ですカーラ、カード効果の対象に取れないモンスターを効果で除去するナーラ、テキストに『選んで』と書かれたカードを使用すれば良いデスーノ」

 

 クロノス先生の話が終わったところで、丁度授業終了のチャイムがなる。

 

「ふむ、では今日の授業はここまでデスーノ。各自しっかり復習をするように。あー、それとシニョール遊陽?少し話があるので放課後私の元に来なサーイ」

「え、あ、はい」

 

 あー……。

 やっぱりこの間廃寮に入ったのがバレてしまったのだろうか。

 厳重注意?オシリスレッドへの格下げ?下手をすれば退学もあり得る。

 

「ね、ねぇ、これってもしかして……」

「深月は悪くないよ」

「で、でも……私のせいで」

「まだ怒られるって決まった訳じゃないし、とりあえず先生の所に行ってみるよ」

「……私もついてく」

「えっと、まぁそれくらいは大丈夫かな……?」

 

 この授業の後は何の授業も無いので、僕達はそのままクロノス先生の教員室まで移動した。

 部屋の前にはクロノス先生が、なにやらソワソワした様子で立っている。

 

「クロノス先生、お待たせしました」

「おぉシニョール遊陽!それとシニョーラ深月も一緒ナノーネ?」

「あ、あの!悪いのはわた――」

 

 変なことを口走りそうになった深月を押さえて前に出る。

 

「それでクロノス先生、お話とは何でしょうか」

「今回は内密な話ナノーネ。ですからシニョーラ深月には、少し部屋の前で待っていて欲しいノーネ」

「せ、先生!お願いです!遊陽は――」

「廃寮に侵入した件なら何の問題もありませんーノ」

「っ!」

 

 その言葉に深月が驚く。

 

「優秀な生徒には寛容なのがデュエルアカデミアナノーネ。勿論、危険な場所に足を踏み入れたことに関しては注意しなければなりまセーン。あなた達は未来あるアカデミアの生徒。校則はあなた達を守るためにあるんデスーノ。ですカーラ、これからは危ないことはしては行けないノーネ」

「……分かりました。この度は、すみませんでした」

「シニョール遊陽は?」

「はい。すみません。クロノス先生」

「よろしい。それではシニョーラ深月、少し待っていて欲しいノーネ」

 

 そのまま深月を残して、僕とクロノス先生は部屋の中へと入っていった。

 

「さて、先ほどは何の問題も無いと言いましたーガ、少しだけ条件がありまスーノ」

 

 外の深月に聞こえないようにするためか、ヒソヒソ声で話始めるクロノス先生。

 

「条件、ですか?」

「悪い話では無いノーネ。シニョール遊陽、あなたニーハ明日、オベリスクブルーの生徒と寮の入れ替えを賭けたデュエルを行ってもらうノーネ」

「……!」

「さて、答えを聞きたいノーネ」

「是非、お願いします!」

「うむ。良い答えナノーネ」

 

 校則違反のペナルティーとして昇格試験だなんておかしな話だけど、深月に近づけるのならなんだって良い。確実に勝てるように、色々準備をしていかなくちゃ。

 

 

「……シニョール遊陽。あの成績トップのシニョール三沢にも負けないデュエルの腕を持っているノーネ。彼ならシニョール万丈目の代わりとして申し分無いノーネ」

 

 

「……と言うわけで、昇格試験を受けることになったよ」

「す、凄いよ遊陽!今年初めてなんじゃない!?」

「何か変な気分だけど、頑張るよ」

 

 部屋の外に待っていた深月に報告すると、彼女は跳び跳ねて喜んでくれた。

 

「遊陽なら絶対大丈夫!それで、相手は誰なの?」

「えっと確か……万丈目準って言ってたかな?」

「万丈目……万丈目……あぁ、あの偉そうな人!」

「そうなの?」

「うん。結構威張ってたんだけど、最近は苛められてるみたい」

 

 深月は沈んだ顔で万丈目君の事を話す。

 

「彼、オシリスレッドの生徒に負けちゃったみたいで……それ以降かなりキツく当たられてるのよ」

「そうなんだ……」

「あ、でも手を抜いちゃダメだからね!」

「分かってるよ」

 

 苛められてる人間をさらに叩くのは苦手だ。深月もそんな光景は見たくないだろう。でも彼女が僕を応援してくれているなら、僕はそれに答えなくちゃいけない。

 

「それじゃ、一緒に対策を考えましょ?」

「うん」

 

 僕達は自分の寮に戻ると、PDAで通話しながら会議を始める。

 

『万丈目君は中等部では2番目の成績だったんだって』

『あー……それはもしかして万丈目君が弱いんじゃなくて、オシリスレッドが規格外だったって話じゃ……』

『そうね。オシリスレッドの生徒の名前は……遊城十代君。あのクロノス先生にも勝ったことのある生徒よ』

 

 遊城十代。あの廃寮で出会った男子だ。彼はそんなに強かったのか。

 あぁ、どこかで見たことのある顔だと思ったら、初日の授業で先生に軽口を言っていた生徒だ。

 

『それで今までの万丈目君のデッキなんだけど……正直よくわからないわ』

『分からない?』

『うん。学校のデータベースに記録されてるデュエルだと、闇属性を中心としたデッキの他にも、XYZっていうユニオンのデッキも使っているわね』

 

 デュエルアカデミアでは勉強のために、授業などで行われた公式のデュエルは全て記録され、公開されている。

 深月はその中から万丈目君のデュエルを探して教えてくれているのだ。

 

『色んなデッキを使うのか……三沢君みたいだね』

『でも、XYZは遊城君に負けて以降は使ってないみたいね』

『ということは、高確率でその闇属性デッキを使ってくるのかな』

『まぁ闇属性デッキといっても、闇属性が多いってだけね。……あ、名前に地獄とかヘルとか書いてあるのが多いかも』

 

 名付けるとしたら地獄デッキだろうか。シナジーは果たしてあるのだろうか。

 

『そんな感じね……遊陽はどうするの?』

『んー、いつも通り、かな。今地獄とかヘルとかついてるカードを調べてるんだけど……気を付けなくちゃ行けないのはヘル・ポリマーかなぁ』

『ヘル・ポリマー?』

『うん。融合モンスターの召喚時にコントロールを奪うカード。奪われないように融合しないか、すぐ処理できるようにしてから融合するか……なかなか悩ましいね』

 

 そんなことを話ながらデッキを調整していると、あっという間に深夜になってしまった。

 深月との通話を切り、部屋の明かりを消す。

 ……緊張してしまってなかなか寝付けない。

 仕方がないので机の明かりだけをつけてデッキの調整をしていると、何やら部屋の扉からガチャガチャと音が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 部屋の鍵は僕が持っているものと、寮長の持っているマスターキーでしか開かない。こんな時間に先生が来るとは思えないから、恐らくピッキングを仕掛けているのだろう。

 僕は机の明かりを消し、部屋の入り口からは死角になるロッカーの影に隠れる。

 やがてドアが開く。入ってきたのは青い制服の男子……万丈目君だ。

彼は暗がりに隠れた僕に気づく事無く、デッキの上に手を伸ばし――

 

「何をしているの?」

 

 たところを、僕は捕まえる。

 

「なっ、お、お前っ!?」

「深夜に人の部屋に忍び込んで、何をするつもりだったのかな?」

「そ、それは……!」

「……デッキに小細工しに来たのか、それとも僕のデッキを捨てようとしたのか。どちらにしても、あのオベリスクブルーのすることでは無いよね?」

「だ、黙れ!俺は負けるわけにはいかないんだ!」

「そのためならどんなに酷いことをしても勝つ、と?」

「あぁ、そうだ!」

「……でもそうして勝っても無意味だと思うよ。僕は君が不正をした証拠をつかんでいる。それを報告すれば君の負けだ」

 

 万丈目君は僕を睨み付け、掴まれた手を振り払う。

 

「……このまま帰ってくれるなら、今起きた事は見なかったことにしてあげる」

「何?お前、みすみす勝つチャンスを……」

「深月は僕がこんな理由で昇格しても喜んでくれないだろうからね。僕はちゃんと君に勝って、オベリスクブルーに編入する」

「……後悔するなよ?勝つのはこの俺様だ!」

「それじゃあ、そういうことで」

 

 万丈目君は意外にも素直に部屋を出ていく。

 何だかどっと疲れてしまった。万一に備え扉の前に物を積み重ねバリケードを作り、僕はベッドで眠りについた。

 

 

 翌日。

 デュエルフィールドにはかなりの観客が集まっている。今年昇格試験を受けるのは僕が初めてのようだ。

 僕は控え室とでも言うべき場所で、三沢君と話をしていた。

 

「良かったじゃないか。頑張れよ、黒野」

「ありがとう。三沢君……でも、三沢君の方が先にオベリスクブルーに行くと思っていたよ」

「……実は俺にもその話が来ていたんだが、断ったんだ」

「どうして?」

「俺がオベリスクブルーに入るのは、この学校で一番になったときだと決めている。俺には勝たねばならない相手が2人いるんだ」

「遊城十代君かな?もう一人は……」

「お前だよ、黒野。オベリスクブルーに行ったとしても、また俺とデュエルして欲しい」

「勿論だよ」

 

『えー、それデーハ、これより第一回昇格試験を行ないマスーノ。生徒達はデュエルフィールドに来るように』

 

 クロノス先生の声だ。まだ緊張してドキドキしているけど、頑張ろう。

 

「それじゃ行ってこい!」

「うん!」

 

 三沢君の応援を背に、僕はデュエルフィールドに立つ。

 万丈目君は既にフィールドに立っていて、僕を待ち構えていた。

 

「学年で2番目の成績だか知らんが、この俺に勝てると思うなよ!」

「それでも、精一杯やらせてもらうよ」

 

 クロノス先生は僕達2人を交互に見ると、頷く。

 

「それでは、寮の入れ替えを賭けた試験を行ないマスーノ!」

 

「「デュエル!」」

 

遊陽 VS 万丈目

 

「遊陽ーっ!頑張ってー!」

 

 観客席からかけられる声。深月が天上院さん達のとなりから声援を送ってくれていた。

 

「ふん、良いご身分だな。俺の先攻、ドロー!俺は【ヘルウェイ・パトロール】を攻撃表示で召喚する!」

 

 エンジン音が鳴り響き、地獄のバイク警官が現れる。

 

攻1600

 

「カードを2枚セット。この俺の地獄デッキが、お前を地獄に叩き込んでやるぜ!ターンエンドだ!」

 

 

万丈目 LP4000 手札3

モンスター:ヘルウェイ・パトロール

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 この手札だと……うん。まずはあのモンスターを処理していこうかな。

 

「僕は、【エッジインプ・トマホーク】を召喚!」

 

 投擲型の小さな斧が幾重にも折り重なった形のモンスターが現れる。

 

攻1800

 

「【エッジインプ・トマホーク】の効果発動!デッキから【エッジインプ】を墓地へ送ることで、【トマホーク】のカード名は墓地へ送った【エッジインプ】と同じになる!」

「名前を変えて融合召喚を行う気か?」

「ううん。残念ながら、ね。僕は【エッジインプ・シザー】を墓地へ!」

 

エッジインプ・トマホーク→エッジインプ・シザー

 

「バトル!【エッジインプ・シザー】となった【トマホーク】で、【ヘルウェイ・パトロール】を攻撃!」

 

 トマホークはバラバラに分裂し、数多の刃となってヘルウェイ・パトロールを切り裂いた。

 

「くっ……」

 

LP4000→3800

 

「僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:エッジインプ・トマホーク

魔法・罠:無し

 

 

「俺のターン!ククク、お前は罠にはまったのさ!」

「罠だって?」

「お前の行為は地獄の公務執行妨害だ!【ヘルウェイ・パトロール】は自身を墓地から除外することで、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスターを特殊召喚出来る!来い、【レジェンド・デビル】!」

 

 ヘルウェイ・パトロールが墓地からはなった照明弾を目印に、新たな悪魔が現れる。

 

攻1500

 

「応援を呼んだ……!」

「それだけじゃないぞ!手札から速攻魔法【地獄の暴走召喚】を発動!攻撃力1500以下のモンスターが召喚された時、デッキ・手札・墓地から同名モンスターを特殊召喚出来るのさ!その代わりお前もフィールドのモンスター一体を選択し、その同名モンスターを特殊召喚出来る!」

 

 地面を割り、もう1体のレジェンド・デビルが現れる。そして僕のフィールドではトマホークが分裂し、3体になる。

 

レジェンド・デビル攻1500

エッジインプ・トマホーク攻1800×2

 

「……もう1体は?」

「こいつはデッキに2枚しかいれていない。上級モンスターだからな」

 

 そういえばあのレジェンド・デビルのレベルは6。レベルにしてはかなり攻撃力が低いけど、どんな効果を持っているのだろうか。

 

「そして永続罠発動!【闇次元の解放】!ゲームから除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する。来い、【ヘルウェイ・パトロール】!」

 

 空間が歪み、次元の狭間から闇の警官が再び現れる。

 

攻1600

 

「さらにリバースカードオープン!【イタクァの暴風】!お前のモンスターの表示形式を全て変更だ!」

「なっ!?」

 

 突如吹き荒れる風にあおられ、トマホーク達が体制を崩す。

 

守800×3

 

「さぁバトルだ!【レジェンド・デビル】2体と【ヘルウェイ・パトロール】で【トマホーク】共を攻撃!地獄の暴走取り締まりだ!さらに【ヘルウェイ・パトロール】が戦闘でモンスターを破壊したとき、そのレベルかける100ポイントのダメージを与える!」

 

 3体の連携攻撃により、僕のフィールドはがら空きだ。

 

LP4000→3600

 

「ふははは!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

 

万丈目 LP3800 手札1

モンスター:ヘルウェイ・パトロール レジェンド・デビル レジェンド・デビル

魔法・罠 :闇次元の解放 セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……相手フィールドには多数のモンスター。ヘル・ポリマーを使ってくるなら恐らくここ。それなら……!

 

「僕は魔法カード、【魔玩具補綴】を発動!デッキから【融合】と【エッジインプ・チェーン】を手札に加える。そして融合を発動!手札の【チェーン】と【ファーニマル・シープ】を融合する!」

 

 万丈目君がニヤリと笑う。やっぱりここで来るか……!

 

「全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 鎖に縛られ操られる羊のぬいぐるみが現れる。

 

攻2000

 

「かかったな!?俺はリバースカードオープン!【ヘル・ポリマー】!相手がモンスターを融合召喚したとき、モンスター一体を生け贄にそのコントロールを奪う!【レジェンド・デビル】を生け贄だ!」

 

 レジェンド・デビルの体が発火し、その火は僕のフィールドにまで広がる。炎に焼かれたチェーン・シープは、ぬいぐるみではない本物の獣の様な姿へと変貌し、万丈目君のフィールドに移った。

 

「来ると思ったよ、万丈目君!」

「何!?」

「僕はまず、融合素材とされた【エッジインプ・チェーン】の効果を発動。デッキから【デストーイ・ファクトリー】を手札に加えるよ。さらに手札を1枚デッキの上に戻して、墓地の【エッジインプ・シザー】を特殊召喚!」

 

 シャキシャキという音と共に、ハサミの怪物が現れる。

 

守800

 

「そして魔法カード【融合徴兵】を発動。自分の融合デッキのモンスターを見せ、そのカードに記された融合素材モンスターをデッキから手札に加える。僕が見せるのは【デストーイ・シザー・ベアー】。そして手札に加えるのは、【ファーニマル・ベア】だよ」

「ふん、いくら弱小モンスターを手札やフィールドに揃えても……」

「このモンスター達じゃ何もできない。けど僕のデッキは融合デッキだよ。【デストーイ・ファクトリー】の効果を発動。墓地から【融合】または【フュージョン】と名のつく魔法カードを除外することで、【デストーイ】モンスターを融合召喚する。【融合徴兵】を除外し、フィールドの【シザー】と手札の【ベア】を融合!」

 

 2体のモンスターが渦の中で混ざり合い、新しい姿へと変わる。

 

「融合召喚!全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 僕のデッキのエースモンスターが現れる。シザー・ベアーは相手フィールドのチェーン・シープを見て、首をかしげた。

 

攻2200

 

「チィッ!最初の融合召喚は囮か!」

「罠にかかったのは君だったね。僕は【デストーイ・シザー・ベアー】で【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 シザー・ベアーは戸惑いながらもヒツジを捉え、腹部のハサミで切り裂いた。

 

LP3800→3600

 

「そいつは破壊したモンスターを装備する効果を持っていたな」

「そうだね。でも、この効果は発動しないよ」

「何?【レジェンド・デビル】は俺のスタンバイフェイズ毎に攻撃力を700上昇させるモンスターだ。そのままの攻撃力なら、次のスタンバイフェイズには攻撃力が並ぶぞ」

「それは困るけど……僕はもう片方の効果を発動するよ」

「もう片方だと……?っ!そうか!【チェーン・シープ】の効果は……!」

「戦闘で破壊されたとき、攻撃力を800ポイントアップさせて特殊召喚する!デストーイ・バックアップ!」

 

 天から伸びた鎖が地面に突き刺さり、チェーン・シープを引き揚げる。

 

攻2000→2800

 

「行け、【チェーン・シープ】!【レジェンド・デビル】に攻撃!」

 

 チェーン・シープは体から鎖を伸ばし、レジェンド・デビルの体を縛り破壊した。

 

LP3600→2300

 

「【レジェンド・デビル】がっ!」

「これでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP3600 手札1

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー デストーイ・チェーン・シープ

魔法・罠:無し

 

 

「俺のターン、ドロー!……ククク、お前なら【レジェンド・デビル】を破壊してくれると思っていたぜ!」

「……!わざわざ効果を説明したのは、作戦!?」

「その通りだ!魔法カード【マジック・プランター】を発動!俺のフィールドの永続罠……【闇次元の解放】を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

 次元の歪みが消え去り、それに飲まれる様に警官も消えていく。

 

「【闇次元の解放】がフィールドを離れたとき、その効果で特殊召喚されたモンスターは破壊されるけど……」

「むしろその方が良いのさ!相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札の【地獄大百足(ヘル・センチピード)】は生け贄なしで召喚できる!」

 

 万丈目君の背後から現れるのは、地獄に住まう巨大なムカデ。

 

攻2600

 

「この効果を適用して召喚した【地獄大百足】の攻撃力は半分になる」

 

攻2600→1300

 

 妥協召喚モンスターによく見られるステータスダウンの効果だ。それを考えると、自ずと万丈目君の次の一手が見えてくる。

 ……見えたところで、それを止めるカードは無いんだけど。

 

「さらに俺は装備魔法【愚鈍の斧】を【地獄大百足】に装備!その効果を無効にし、攻撃力を1000アップだ!」

 

 地獄大百足の前に、巨大な斧が落下する。大百足はそれを器用に加えると、素振りをする。

 

攻1300→2600→3600

 

「こ、攻撃力3600……!?」

 

 観客席の深月が驚きの声をあげる。確かに普通のデッキでは、なかなかお目にかかる事の無い数値だ。

 

「はははははっ!この攻撃力は倒せまい!行け、【地獄大百足】!【デストーイ・シザー・ベアー】に力の差を思い知らせてやれ!」

 

 大百足が頭を大きく振り、口に加えた斧でシザー・ベアーを真っ二つにした。

 

「くっ……!」

 

LP3600→2200

 

「どうだ!これが俺の実力だ!カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 

万丈目 LP2300 手札0

モンスター:地獄大百足

魔法・罠:愚鈍の斧 セット

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 万丈目君は自分のモンスターを誇らしげに見上げ、高笑いする。

 

「ハハハ、お前に勝ち目はない!【チェーン・シープ】で自己再生を行っても攻撃力はそれ以上には上がらない。それにもし【地獄大百足】より攻撃力の高いモンスターを召喚したとしても、俺のセットした【魔法の筒】でお前のライフを焼き付くしてやる!」

「……それを聞いて安心したよ」

「何っ!」

「2枚目の【ヘル・ポリマー】だったりしたら、笑い事じゃないからね。僕は再び【デストーイ・ファクトリー】の効果を発動!【融合】を除外し、手札の【エッジインプ・ソウ】と【ファーニマル・ライオ】を融合する!」

 

 僕のフィールドに再び渦が現れ、2体のモンスターが飲み込まれる。

 

「全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 体が真っ二つに割れたライオンのぬいぐるみが姿を表す。その体の至るところから刃物が覗いている。

 

攻2400

 

「今更攻撃力2400で何を……!」

「【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】の効果を発動!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

 

 ホイールソウ・ライオのタテガミから、幾つもの丸鋸が飛ばされ、大百足の体を切り裂いていく。

 

「な、なんで【地獄大百足】が……!」

「【ホイールソウ・ライオ】は1ターンに1度、相手モンスターを破壊する。そしてその攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「こ、この俺が負けるだと……!?また、負けるのか……!?」

 

 地獄大百足は崩れ去り、万丈目君はその残骸の下敷きとなる。

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

LP2300→0

 

 万丈目君がその場に崩れ落ちる。

 そして一瞬の後に、歓声が上がる。

 

「勝者はシニョール遊陽デスーノ!シニョール、貴方にはこれからオベリスクブルーの生徒として、さらなる発展を期待していマスーノ」

「ありがとうございます」

 

 クロノス先生に頭を下げる。

 

「遊陽っ!」

 

 深月の声と足音。振り向くと、観客席から降りてきた深月がこちらに走ってきていた。

 

「やったね遊陽!これで一緒の寮だよ!」

「ありがとう、深月。でも……」

 

 あまり喜んでしまうと万丈目君に失礼なのではないか。そう思い彼がいた場所を見ると、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 ラーイエローの部屋に戻り、荷物をまとめる。重いものなどは事務員さんが手伝ってくれたから、僕が持っていくのは鞄に入る程度のものだ。

 荷物を鞄に詰めていると、ドアがノックされる。

 

「はい」

「やぁ、黒野君。こんにちは」

「樺山先生」

 

 部屋の外に居たのはラーイエロー寮長の樺山先生だ。

 

「この度はオベリスクブルーへの昇格おめでとう。君のような生徒を持てて、先生も鼻が高いよ」

「ありがとうございます。短い間でしたが、お世話になりました」

「うんうん。これからもっと強くなって、成長していってね」

「はい」

「それじゃあ、私はこれで」

 

 そう言って樺山先生は背を向け……振り返る。

 

「あぁそうだ。もしまたここのカレーが食べたくなったら、何時でも来ていいんだよ?」

「樺山先生……」

「それじゃあ、オベリスクブルーに行っても頑張るんだよ」

「はい!」

 

 明日からは万丈目君がラーイエローになるのだろうか。

 実際にデュエルすれば分かる。彼は強かった。中等部で2位の成績だった彼が勉強を怠るとも思えない。

 ……正直な話、クロノス先生が何かしているようにしか思えないけど、それでもオベリスクブルーに入れたのなら喜ぶべきか。

 そうだ。僕は深月が幸せならそれでいいのだから。

 

 

 

 万丈目君が武者修行の為に自主退学したと聞いたのは、それから数日経った後だった。




「「今回の最強カードは?」」

地獄大百足
効果/星7/闇属性/昆虫族/攻2600/守1300
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードはリリースなしで召喚できる。
この方法で召喚したこのカードの元々の攻撃力は1300になる。

「万丈目君が使っていたカードね。生け贄を無くして召喚出来るけど、攻撃力は半分になってしまうわ」
「でも今回万丈目君がやっていたみたいに効果を無効にすれば、そのデメリットを帳消しに出来るよ」
「昆虫族モンスターはリクルーターとか多いし、墓地で発動する効果が中心だから、スキルドレインとの相性も良いわね」


6話でした。ついに主人公のブルー寮行きです。これでもっとイチャイチャさせられますね。
それではまた次回、お会いできたらと思います。
それでは。


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7話 ひとりとひとり

1人と独り


「……ここはお城かな?」

「凄いでしょー」

「実物を見るのは初めてだよ。ここに来る機会は無かったしね」

 

 僕と深月が立っているのは、オベリスクブルー寮の前。

 目の前に建っているのは城と見紛うほど立派な建物だ。

 

「ラーイエローでも十分だったのに、ここまで来ると流石にオーバーかな……」

「まぁ、そうよね。私もまだ馴れないわ」

「……それじゃあ、自分の部屋にいってくるね」

「うん。外で待ってるから」

 

 深月と別れ、男子寮の自分の部屋へ。

 空き部屋があった様で、僕の使う部屋は万丈目君が使っていた部屋とは別のものだ。

 

「広いなぁ……」

 

 備えつきのテレビや空調、椅子や机その他もろもろ。全てが一級品であることが分かる。少なくとも学生への待遇では無い。

 

「これに慣れちゃうと、卒業するのが怖そうだなぁ……」

 

 そう思ってしまうほどに設備が整いすぎていた。

 僕はとりあえず鞄を置き、デュエルディスクとデッキだけを持って深月の待つ外へと向かう。

 その途中、前から3人組の男子生徒が現れた。

 

「鏡泉君」

「やぁ、黒野君!まずはブルー寮への昇格おめでとうと言っておこう!」

「ありがとう」

 

 相も変わらず芝居がかった口調だけど、それでも嘘をついているようには見えない。

 

「流石鏡泉さんに勝っただけはあるっすね!」

「……祝福する」

「2人もありがとう」

 

 万丈目君の取り巻きは万丈目君が負けた後、彼を見放していったらしいが、2人はそういうことはしていない様だ。まぁオシリスレッドかラーイエローかって違いはあるのかもしれないけど。

 

「次の実技授業でこそ、ボクは君に勝利して見せる!首を洗って待っていたまえ!」

 

 ハッハッハ!と大声で笑いながら去っていく。

 あの実技授業でのデュエルが悔しかったのか、度々ボクにデュエルを挑んできていた。

 勝つのは僕だけど、段々とハンデスで狙い撃って来るカードがキツくなってきているから、僕が負けるのは時間の問題かもしれない。

 彼のデッキは性質上、相手のデッキを知れば知るほど強くなっていくからなぁ……。

 そんな事を考えながら寮を出ると、深月が壁にもたれ掛かりながら待っていた。

 

「お待たせ深月」

「ぜんぜん!それじゃ、さっそくデュエルしようか!」

「そうくると思ってたよ」

 

 そのためにデッキとディスクを用意したのだ。

 

「じゃあ、ちょっと着いてきて」

 

 深月に手を引かれ、アカデミアの校舎へと入っていく。到着したのは、万丈目君とも戦ったデュエルフィールドだ。

 

「ここは……」

「デュエルフィールド。使われてないときは、申請さえすれば誰でも使っていいんですって」

「申請はしたの?」

「勿論よ!」

 

 僕らは互いのデッキを交換し、シャッフルした後返す。

 

「そういえば、ここに来てから遊陽とデュエルするのは初めてね」

「確かにそうかも。……主に鏡泉君が何度も勝負を挑んできたからだけど……」

「あはは、面白いわよね、彼」

 

 デュエルフィールドの両端に立ち、構える。

 

「それじゃあ、始めようか」

「負けないわよ?」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 深月

 

「僕の先攻、ドロー」

 

 悪くない手札だ。でも相手は深月。油断はできない。

 

「僕は【ファーニマル・ドッグ】を召喚」

 

攻1700

 

「【ドッグ】の効果で、僕はデッキから【エッジインプ・シザー】を手札に加えるよ」

 

 イヌのぬいぐるみは僕のデッキに噛みつき、1枚のカードを引っ張り出してくる。

 

「さらにカードを1枚セット。ターンエンド」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:セット

 

 

「私のターン!ドロー!」

 

 深月のデッキは、天使族モンスターを大量展開し物量で押しきるデッキ。強固な耐性を持つモンスターが多く、僕のデッキとの相性は良くない。

 

「私は【ジェルエンデュオ】を召喚するわ!」

 

 深月の真上に空いた雲の輪っかから、2人1組の天使が舞い降りる。

 

攻1700

 

「バトル!【ジェルエンデュオ】で【ファーニマル・ドッグ】に攻撃!」

「攻撃力は同じ。だけど……」

「【ジェルエンデュオ】は戦闘では破壊されない。破壊されるのは遊陽の【ファーニマル・ドッグ】だけよ!」

 

 ファーニマル・ドッグはジェルエンデュオに噛みつこうとするが、その直前に現れたバリアに寄って攻撃を防がれ、そのまま放たれた光線を受け破壊される。

 

「っ、リバースカードオープン!【ファーニマル・クレーン】!破壊された【ドッグ】を手札に戻し、1枚ドローするよ」

「て、手札が増えてく……私はカードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札4

モンスター:ジェルエンデュオ

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ジェルエンデュオは戦闘では破壊されず、天使族かつ光属性モンスターを生け贄召喚する際2体分の生け贄とすることが出来るモンスター。だけどコントローラーがダメージを受けると自壊するデメリットを持っている。つまり攻撃表示であれば、戦闘耐性は無いも同然。

 

「僕は魔法カード【融合徴兵】を発動。【デストーイ・シザー・ベアー】を見せ、【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ。そして魔法カード【融合】を発動!」

「来るわね、遊陽のエースモンスター!」

 

 僕のフィールドに現れる桃色のクマとハサミが、1つに融け合い新たな姿へと変わる。

 

「全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 体中からハサミが飛び出したクマのぬいぐるみが現れる。口のなかにある赤く光る2つの眼が、ジェルエンデュオを睨み付けた。

 ジェルエンデュオが自壊したとしても戦闘破壊した扱いではないから、シザー・ベアーの装備にすることはできないのが残念だ。

 

攻2200

 

「さらにまた、【ファーニマル・ドッグ】を召喚するよ。今回手札に加えるのは、【ファーニマル・ラビット】だよ」

「早いところ決着をつけないと手札がどんどん潤って行くわね」

「サーチカードは沢山入れているからね。さて、バトルだよ。【デストーイ・シザー・ベアー】で【ジェルエンデュオ】を攻撃!」

 

 シザー・ベアーの腹部のハサミが巨大化し、ジェルエンデュオを挟み込む。

 

「させないわ!リバースカードオープン、【光子化(フォトナイズ)】!相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分光属性モンスター1体の攻撃力をアップさせる!」

 

 シザー・ベアーの体から光が溢れだし、ジェルエンデュオがそれを吸収し巨大化する。

 

攻1700→3900

 

「攻撃力3900……」

「攻撃力がアップするのは次の私のエンドフェイズまでよ」

 

 それでも次のターン、シザー・ベアーの破壊は免れないだろう。

 

「僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:無し

 

 

「私のターン、ドロー!……うん、良いカードね!まずはバトルよ。【ジェルエンデュオ】で【デストーイ・シザー・ベアー】を攻撃!デュオ・ゴスペル!」

 

 2体の歌声がデストーイ・シザー・ベアーを襲い、破壊する。

 

「くっ……」

 

LP4000→2300

 

「そしてバトルを終了。私は【ジェルエンデュオ】の効果を発動し、2体分の生け贄とすることで、手札からモンスターを生け贄召喚するわ!」

 

 ジェルエンデュオは僕に手を振りながら雲の輪っかの中へと吸い込まれていき、代わりに新しい天使が降りてくる。

 

「いでよ、至高の天才!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 深月のデッキのエースモンスター。攻撃力は低く、効果も相手フィールドに影響を与えるものではない。

 

攻2600

 

 でもその効果は強力だ。なぜなら彼女のデッキは、大量展開を行う幻奏デッキ。特殊召喚されたことにより様々な効果を発揮するモンスターが目白押しだ。中でも一番厄介なのは……。

 

「私は【プロディジー・モーツァルト】の効果を発動。手札から光属性の天使族モンスターを1体特殊召喚するわ!来て、【幻奏の音女アリア】!」

 

 モーツァルトの音色によって、新たなる幻奏の少女が呼び出される。

 

守1200

 

 ……そう。これが一番厄介な幻奏のモンスター。

 

「特殊召喚した【アリア】がフィールドにいる限り、私の【幻奏】と名のつくモンスターは戦闘では破壊されず、効果の対象にもならないわ!」

 

 この効果が強力なのだ。シザー・ベアーの攻撃力は戦闘破壊を介して強化されるが、アリアの影響下ではそれができない。かといってホイールソウ・ライオによる効果破壊を狙っても、その効果の発動には相手モンスターを対象に取る必要があるためこれも出来ない。

 つまり僕のデッキに、今の深月のフィールドを処理できるカードはほとんど無いのだ。

 

「ついに来ちゃったか……」

「遊陽のデッキがこの子に弱いのは知ってるわよ!ターンエンド!」

 

 

深月 LP4000 手札3

モンスター:プロディジー・モーツァルト アリア

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン」

 

 さて、時間を稼ぐために守りを固めるべきか。

 

「ドロー!」

 

 ……うん。このカードはアリアを処理できる数少ないカードだ。だけどこのままでは発動出来ないだろう。このカードを発動するには、深月が幻奏以外のモンスターで攻撃してくる必要がある。

 

「僕は【融合回収】を発動。墓地の【融合】と【ファーニマル・ベア】を手札に戻すよ」

「また来るのね、融合!」

「うん。【融合】を発動!手札の【エッジインプ・チェーン】とフィールドの【ファーニマル・ドッグ】で融合!全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 キリキリと鎖が音をたてる。ハムの様に縛られたヒツジのぬいぐるみが、ケタケタと不気味な笑い声をあげる。

 

守2000

 

「融合素材となった【エッジインプ・チェーン】の効果で、【デストーイ・ファクトリー】を手札に加え、発動するよ」

 

 物々しいベルトコンベアやクレーンの揃った、魔玩具生産工場(デストーイ・ファクトリー)が僕の背後に現れる。

 

「このカードは1ターンに1度、墓地の【融合】または【フュージョン】と名のつく魔法カードをゲームから除外し、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚出来る」

「永続魔法……毎ターン融合してくるつもりね」

「まぁ、そういうデッキだからね。僕は【融合徴兵】を除外し、手札の2枚目の【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ラビット】を融合!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 僕のフィールドにもう1体のチェーン・シープが現れた。

 

守2000

 

「【ファーニマル・ラビット】が融合素材として墓地へ送られたとき、墓地の【ファーニマル】と名のつくモンスターを手札に戻せるよ。僕は【ファーニマル・ドッグ】を回収。カードを1枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP2300 手札3

モンスター:チェーン・シープ チェーン・シープ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー セット

 

 

「私のターンね、ドロー!」

 

 深月のフィールドにはモーツァルトがいる。おそらくこのターンで大量展開してくる筈だ。

 

「まずは【アリア】を攻撃表示に変更するわ」

 

守1200→攻1600

 

「よし!私は【プロディジー・モーツァルト】の効果を発動!手札からモンスターを特殊召喚するわ!来て、【幻奏の音姫ローリイット・フランソワ】!」

 

 モーツァルトの音色に惹かれ、さらなる最上級モンスターが現れる。

 

攻2300

 

「【ローリイット・フランソワ】の効果を発動!1ターンに1度、墓地の天使族・光属性モンスター1体を手札に戻すわ。戻ってきて、【ジェルエンデュオ】」

 

 ……よし。きっと深月はジェルエンデュオを召喚してくるはず。そうすれば万が一モーツァルトが撃破されても、フランソワで回収し、ジェルエンデュオを生け贄に再び召喚出来るからだ。

 

「そして私は、手札に加えた【ジェルエンデュオ】を召喚するわ!」

 

攻1700

 

「さらに手札の【幻奏の音女ソナタ】は、自分フィールド上に【幻奏】と名のつくモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚出来るわ!」

 

 綺麗な歌を口ずさみながら、4人目の音女が降臨する。

 

攻1200

 

 これで深月のフィールドには5体のモンスター。相も変わらず凄まじい展開能力だ。

 

「そして特殊召喚された【ソナタ】は、自分フィールド上の天使族モンスター全ての攻撃力・守備力を500ポイントアップさせるわ!」

 

モーツァルト攻2600→3100

アリア攻1600→2100

フランソワ攻2300→2800

ジェルエンデュオ攻1700→2200

ソナタ攻1200→1700

 

 1体1体の上昇幅が少なくても、数が揃えばその効果は単純に5倍だ。

 深月のフィールドの総攻撃力は2500ポイント……最上級モンスター1体分並みの強化がなされた。

 

「さぁ、一斉攻撃よ!【アリア】で【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 アリアの歌声が、ヒツジの体を内部から破壊していく。

 

「っ、【デストーイ・チェーン・シープ】は1ターンに1度、破壊されても攻撃力を800アップさせて蘇る!デストーイ・バックアップ!」

 

攻2000→2800

 

「でもそれで、このターン【チェーン・シープ】の蘇生効果は発動できないわ!」

 

 そう。デストーイ・チェーン・シープの自己再生能力は、カード名で回数を共有する。つまり1度自己再生を行った今、もう1体のチェーン・シープは自己再生能力を発動できないのだ。

 

「続けて、【ジェルエンデュオ】で守備表示の【チェーン・シープ】を攻撃するわ!」

「それを待っていたよ!リバースカードオープン、【びっくり箱】!攻撃してきたモンスター1体を対象として発動!その攻撃を無効にした上で相手モンスター1体を選んで(・ ・ ・)墓地へ送り、そのステータスの高い方の数値分攻撃力をダウンさせる!」

「っ!【アリア】の効果で守られているのは【幻奏】と名のつくモンスターのみ。【ジェルエンデュオ】なら対象にすることが出来る。そして……」

「【びっくり箱】の墓地へ送る効果は、対象をとらない効果。【幻奏の音女アリア】にも有効だよ!」

 

 意気揚々と攻撃を仕掛けようとしたジェルエンデュオの目の前で、プレゼントボックスが爆発する。ジェルエンデュオが放とうとした光線はあらぬ方向へ――アリアへ向けて飛んでいき、その体を貫く。

 フレンドリーファイヤを行ってしまったジェルエンデュオは意気消沈してしまい、攻撃力を下げる。

 

攻2200→600

 

「【アリア】が!……やってくれたわね!【フランソワ】で守備表示の【チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 チェーン・シープは無抵抗に破壊される。そしてその鎖が巻き戻されることは無かった。

 

「続けて、【モーツァルト】で【チェーン・シープ】を攻撃!グレイスフルウェーブ!」

 

 モーツァルトの奏でる音圧がチェーン・シープを押し潰す。

 

「くっ……」

 

LP2300→2000

 

「最後に、【幻奏の音女ソナタ】で直接攻撃よ!」

 

「うわぁっ!」

 

LP2000→300

 

 僕のライフは風前の灯だ。なんとあのワイトの攻撃でライフが尽きる。

 ……火の粉には耐える。

 

「~~っ!あとちょっとだったのに!ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札2

モンスター:モーツァルト フランソワ ジェルエンデュオ ソナタ

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 ……もう僕の戦法を妨害するアリアはいない。後は必要なカードを引き当てるだけだ。

 

「僕は魔法カード【魔玩具補綴】を発動!デッキから【エッジインプ・ソウ】と【融合】を手札に加える。そして【エッジインプ・ソウ】を召喚!」

 

 僕の前に現れるのはカミソリにも似た姿を持つエッジインプ。

 

守1000

 

「【エッジインプ・ソウ】の召喚に成功したとき、手札の【ファーニマル】を1体捨て、2枚ドロー出来る!僕が捨てるのは【ファーニマル・ベア】だよ」

 

 来た!この勝負貰ったよ、深月!

 

「そして手札から1枚、デッキの一番上か下に戻す」

 

 僕のフィールドにはデストーイを融合できるデストーイ・ファクトリーがあるから、融合には今用は無い。僕は融合をデッキの一番下に戻した。

 

「手札を入れ替えたわね」

「サーチとサルベージが多いから、どうしても手札が固まっちゃうんだよね。でもお陰で良いカードがドローできたよ」

「やるわね……」

「僕は【デストーイ・ファクトリー】の効果を発動。墓地から【融合回収】を除外し、フィールドの【エッジインプ・ソウ】と手札の【ファーニマル・ドッグ】を融合!全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 ノコギリに引き裂かれたイヌのぬいぐるみは縫い直され、ライオンのぬいぐるみへと生まれ変わる。

 

攻2400

 

「【アリア】が居なくなった今、深月のフィールドのモンスターはカード効果の対象とすることが可能。【ホイールソウ・ライオ】は1ターンに1度、相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 狙うのは当然元々の攻撃力がもっとも高いモーツァルトだ。

 

「僕は【モーツァルト】を対象として効果を発動!その元々の攻撃力……2600ポイントのダメージだ!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

 

 ホイールソウ・ライオのタテガミから無数の刃が放たれる。

 

「きゃあっ!?」

 

LP4000→1400

 

「さらに深月がダメージを受けたことで、【ジェルエンデュオ】は自壊する!」

 

 ジェルエンデュオ達はダメージを受けた深月を心配しながらもパニックを起こしてフィールドを走り回り、お互いの頭をぶつけて破壊された。

 

「そして魔法カード【デストーイ・リニッチ】を発動。墓地の【デストーイ】と名のつくモンスターを特殊召喚する!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 周囲に大量の綿が現れる。それは僕の目の前で集合し、もう一度クマのぬいぐるみの姿を取る。

 

攻2200

 

「さぁ、バトルだ!【デストーイ・シザー・ベアー】で【幻奏の音女ソナタ】を攻撃!モンスターイート!」

 

 シザー・ベアーがソナタを丸のみにしようと、その体を持ち上げる。

 

「さらに手札を1枚捨て、速攻魔法【アクションマジック-ダブル・バンキング】を発動!このターン自分のモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、続けて攻撃を行うことが出来る!」

「……あっ」

 

 頭の中でライフを計算したのだろう。深月が悟ったような表情になり天井を見上げる。

 シザー・ベアーはソナタを飲み込み、成長する。

 

LP1400→900

攻2200→3200

 

「そして【ソナタ】を失った事で、【ローリイット・フランソワ】の攻撃力は元に戻る!」

 

攻2800→2300

 

「2回目の攻撃!【デストーイ・シザー・ベアー】で【幻奏の音姫ローリイット・フランソワ】を攻撃!」

 

 巨大化したクマは両腕でローリイット・フランソワを締めつけ、腹部のハサミで切り裂いた。

 

「っ、つ、次は負けないんだから~っ!」

 

LP900→0

 

 深月のライフが0になり、デュエルが終わる。

 

「くぅーっ!後300ポイントだったのに!」

「いやぁ、あの時はどうしようかと思ったよ」

 

 深月との戦績は五分五分と言うところだ。だからこそアカデミアでの初戦で勝利できたのはすごく嬉しい。

 

「やっぱり遊陽は強いわね。私も融合とか使ってみようかしら」

「……!それなら、是非これを使ってよ」

 

 確か深月は融合のカードを持っていなかったはず。僕はデッキから融合を1枚取り出し、深月に渡す。

 

「え、いやいや!これじゃ遊陽がデュエルできなくなっちゃうわ!」

「あぁ、それは大丈夫だよ。融合モンスターが多く入ってるパックを買ってるから、融合そのものも沢山持ってるんだ」

「そ、そうなの?それじゃ、貰っておくわね」

 

 えへへ、なんて少し照れた表情で深月は融合のカードを見つめた。

 

「あ、それなら私もお返し!」

 

 深月はデッキケースの中から、1枚のカードを取り出した。

 

「この間偶然パックで当たったの。遊陽って光属性のパックは買わないでしょ?」

「これは……光属性のファーニマルモンスターだ。へぇ、ファーニマルって地属性以外にもいたんだね」

「カードの数が多すぎて、調べても出てこないことあるわよね」

「そうだね。ありがとう。使わせてもらうよ」

「うん!遊陽も今度、融合召喚のコツとか教えてね!」




「「今回の最強カード!」」

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト
効果/星8/光属性/天使族/攻2600/守2000
このカードの効果を発動するターン、自分は光属性以外のモンスターを特殊召喚できない。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
手札から天使族・光属性モンスター1体を特殊召喚する。

「私のデッキのエースモンスターね。条件さえ満たしていれば上級モンスターでもノーコストで特殊召喚出来るわ」
「モーツァルト自身は展開を行う効果しか持っていないけど、呼び出すモンスターによっては強固な布陣が完成するね」
「まぁ、それも今回破られてしまったわね……」


何だこいつらイチャイチャしやがって。
と言うわけで7話でした。ブルーになって最初の相手は深月と決めていたので、ここまで書けて良かったです(最終回じゃないですよ?)
それではまた次回以降もお読みいただけると嬉しいです。
ではではー。


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8話 VS人造人間軍団(前編) 恐怖のサイコ・ショッカー!

ちょっと短めです。ちょっとしたら後編も上がるはずです。


「「「サイコ・ショッカー様、どうかお越し下さい……」」」

 

 蝋燭だけが明かりを灯す薄暗い部屋。3人の男子生徒は、ウィジャ・ボードと呼ばれるアイテムに手を載せていた。

 

「……ダメだ。何も起きない」

「何が必要なんだ?」

「文献によるとこの方法に間違いはないはず……」

 

 一旦儀式を終わらせ、男子達は会議を始める。

 

「――間違ってるんだよなぁ」

 

 そして突如響く4人目の声。

 

「うわっ!?」

「なっ!?」

「誰だ!?」

 

 オベリスクブルー達の前に現れたのは、眼球1つが描かれた不気味な仮面をつけた男だ。

 

「それじゃサイコ・ショッカーは呼べねーよ。お前ら、サイコ・ショッカーのレベルは知ってるだろ?」

 

 仮面の男は嘲るように笑いながら、ウィジャ・ボードに手を載せる。

 

「サイコ・ショッカーのレベルは……6だ」

「その通り……なら、何が足りないのかは分かるよなぁ?」

「……!そうか、サイコ・ショッカーを召喚するためには、生け贄が必要!」

「ご名答!サイコ・ショッカーを呼ぶ前に、生け贄を捧げる旨を唱えなきゃなんの意味もないぜ?」

 

 それだけ言い残すと、仮面の男は部屋の扉を開け出ていこうとする。

 

「ま、待て!君はいったい何者なんだ!?」

「俺か?あー……正しい都市伝説を流布する者、さ」

 

 そう言って部屋から出ていったその男の背後には、白いオーラが纏わり付いていた。

 眩く、突き刺すような、苛烈な光そのものだった。

 

「……全ての種は蒔き終えた」

 

 

 

「もう!ももえったらすぐからかうんだから……」

「ま、まぁまぁ。浜口さんは自分の心に正直なだけだと思うよ……」

「私と遊陽が一緒にいるだけでデートデートって……デートはもっとしっかりした所でしたい――」

「み、深月?」

「何でもないわよ!」

 

 冬休み中のとある1日。時刻は夜の10時頃。僕は深月の融合召喚の特訓に付き合い、気づけばこんな時間になっていた。

 冬休み中は日本に帰っている生徒がほとんどで、遅い時間と言うこともあってか食堂には僕と深月と、料理人くらいしかしない。

 浜口さんや枕田さんとは電話で話している様で、それで今日の特訓のことをからかわれたのかもしれない。

 

「……そうだね。来年の修学旅行は、色々回れたら良いね」

 

 どこに行くかはまだ未定らしいが。

 

「遊陽……!や、約束よ!?」

「うん。やくそく」

 

 そんな僕達の間になんとも言えない空気が流れた所で、食堂のドアが開き、誰かが倒れ込んでくる。

 

「きゃっ!?」

「……高寺君?」

 

 入ってきたのは、同じオベリスクブルー寮の男子生徒……高寺君だ。

 

「ぁ、ぁぁ、黒野君、助けてくれ……」

 

 高寺君は今にも死んでしまいそうなほどに弱っている。頬は痩せこけ、何日も寝ていないのだろう、目の下には凄い隈が出来ている。

 

「ど、どうしたのよ?」

「うん。何が起きてるのか聞かせて?」

 

 僕らはとりあえず高寺君を並べた椅子の上に寝かせ、話を聞くことにした。

 高寺君は数回深呼吸をして心を落ち着かせると、ポツポツとことの発端を語り出す。

 

「あれは冬休みに入る前のこと。僕達……高寺オカルトブラザーズは、デュエルモンスターズの精霊について研究していたんだ……」

「デュエルモンスターズの、精霊?」

 

 深月が何をいっているのか分からない、と言いたげな表情を浮かべる。

 あまりデュエルとは関係のない授業だから忘れてしまっているのかもしれない。僕は一応深月に補足を入れる。

 

「……デュエルモンスターズのカードには精霊が宿っている。デュエル中に欲しいカードがドロー出来たり、不思議なことが起きやすいのは、その精霊達が協力してくれているからである……錬金術の授業で、大徳寺先生が言っていたね」

「あぁ、その話ね」

 

 高寺君は過去を思い出しながら、顔を真っ青にして語り続ける。

 

「僕達はウィジャ・ボードと呼ばれるアイテムを手に入れた。そしてサイコショッカーの降臨の儀式を行ったんだ。『我らは貴方の召喚を望むもの。ここに生け贄を捧げます。サイコ・ショッカー様、どうかお越し下さい』……と」

「い、生け贄……?」

 

 深月が震える。

 

「も、モンスターの生け贄だと思ってたんだ!サイコ・ショッカーはレベル6だから、生け贄が必要なんだって言われたから!」

「誰に言われたのよ?」

「知らない。……顔も、思い出せない。でも男だ。男だったことは……覚えている……」

「怪しいね、その男の人」

「……最初にいなくなったのは向田だった。その次の日には井坂が居なくなった……あぁ、次は僕だ……」

 

 恐らく彼らは、サイコ・ショッカーの生け贄にされたと言うことなのだろう。

 

「高寺君は、日本に帰ろうとはしなかったの?」

「したさ!だが本州へ向かう船に……乗っていたんだ。あれはサイコ・ショッカーだった……」

「逃がさないって訳ね……」

 

 眉唾物な怪談話だ。だけど彼の憔悴っぷりは尋常ではない。高寺君は厄介なものに目をつけられてしまったのだ。

 

「あぁ、来る、あいつが来る……!」

 

 一陣の風が吹く。食堂の明かりが消え、窓が開く。

 ふわり、と開いた窓から何者かが侵入する。

 

「……サイコショッカー……!」

「な、なによ、あれ……!」

 

 性能の悪いホログラムの様なノイズを走らせながら、サイコ・ショッカーは確かにその場に存在していた。

 

『生け贄をもらい受けるぞ』

 

 高寺君の体が宙に浮き、引き寄せられていく。

 

「高寺君!」

 

 サイコ・ショッカーは高寺君を抱えると、そのまま窓から飛び出していった。

 

「お、追いかけなきゃ!」

「……深月はここに残っていて」

 

 あれは危険なものだ。あんなものに深月を近づかせるわけには行かない。でも深月は高寺君を助けたいのだろう。それなら、僕ひとりが助けにいけばいい。

 

「遊陽だけなら行かせないわよ」

「……!」

「分かってるわよ、昔からそうだったから。いつも私に助けられてばかりのくせに、本当に危ないときは自分だけ解決しちゃうんだから」

「……でも深月、あれは……」

「危ないからこそ、私もついていくの」

 

 深月は僕の瞳をまっすぐ見つめる。こうなってはテコでも動かないだろう。

 

「……はぁ。分かったよ。高寺君を探しに行こう!」

「うん!」

 

 僕達は食堂を飛び出し、サイコ・ショッカーが逃げていった森へ向かう。

 

「……このカードは」

 

 絵画に潜む者、その少し先には夢魔の亡霊……。これはきっと、高寺君のカードだ。

 

「これを追いかけていきましょ、遊陽」

「そうだね」

 

 カードをたどって走り続ける。まるでヘンゼルとグレーテルだ。

 やがて拾ったカードが束になり1つのデッキになる頃、僕達は電線や電柱に囲まれた機械置き場の様な場所にたどり着いた。

 

「こんなところあったのね……」

「きっとこの島全体の送電施設だね」

 

 送電施設の、とびきり大きな送電塔の下に、高寺君が倒れている。

 

「あっ、高寺君!」

 

 走り出そうとした深月の手を掴み引き留める。そして一瞬の後に、深月が居たであろう場所を電撃が襲った。

 あと少し手を引くのが遅れていたら、深月は感電していただろう。その事実に深月がへたり込む。

 

「……卑怯な真似をするんだね、サイコ・ショッカー」

『なに、ちょっとした挨拶さ。こんなところまで良く来たものだ』

「君は何がしたいの?」

『簡単な話だ。私は3人の魂を生け贄とし、この世界に復活する……お前なら、私の気持ちは良く分かるだろう?』

「……さぁ、ね。なんのことやら」

 

 これ以上余計なことを言われる前に始末してしまうべきか。

 そう考えていたとき、立ち上がった深月が叫ぶ。

 

「高寺君達を返しなさいよ、サイコ・ショッカー!」

『それは出来ない相談だ。彼らは私の生け贄となることを宣言し、私はそれを承諾した。これはある種の呪いなのだ。返そうと思って返せるものでもないさ』

 

 ただし……。

 サイコ・ショッカーはそう呟き、高寺君からデュエルディスクを外し、こちらへと投げてくる。

 

『私と闇のデュエルを行えば、私の復活を妨害することは可能だ』

「闇のデュエル……ですって?」

『そうとも。魂を賭け命を削る闇のゲーム。私が負ければ復活は阻止され、使われなかった3人の魂は持ち主の元へ戻る。ただし私が勝った場合には……』

「勝った場合には……?」

『君達2人の魂も、私への生け贄とさせてもらおう』

 

 3人を助け出すには2人が生け贄となるリスクを追わなければいけない。やっぱり無理を言っても深月を止めるべきだったか……。

 

「何よ、そんなに生け贄が必要なの?」

『生け贄は多ければ多いほどいい。それに――』

 

 サイコ・ショッカーは僕たち2人を指差して言う。

 

『2人合わせて1人分の魂しか無いのだ。これでも私は譲歩しているのだぞ?』

「――っ!」

「……遊陽?どうしたのよ?」

「……何でもないよ。始めよう、サイコ・ショッカー。僕が相手に――」

 

 深月にデュエルディスクを奪われる。

 

「深月!?」

「……明日香から聞いたわ。遊陽は私を助けるために、闇のデュエルをしてくれたのよね」

 

 深月が言っているのはタイタンとのデュエルのことか。恐らく遊城君から天上院さんに伝わったのだろう。

 

「今度は私の番。デュエルの相手は私よ、サイコ・ショッカー!」

 

 デュエルディスクが展開される。闇のデュエルが、始まってしまったのだ。

 

『「デュエル!!」』

 

深月 VS サイコ・ショッカー

 

 サイコ・ショッカーの背後に、半透明の巨大なカードが5枚現れる。デュエルディスクの代わり……なのだろうか。

 

「深月……」

「大丈夫よ。私に任せて?」

『私の先攻だ。ドロー』

 

 サイコ・ショッカーの背後に浮くカードが1枚増える。

 

『私は【メカ・ハンター】を攻撃表示で召喚する』

 

 様々な武器が取り付けられた、殺傷のみを目的として作られた機械が現れる。

 

攻1850

 

『さらに永続魔法【機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)】を発動。カードを1枚セットしてターンエンドだ』

 

 

サイコ・ショッカー LP4000 手札3

モンスター:メカ・ハンター

魔法・罠:機甲部隊の最前線 セット

 

 

「私のターン!……私は、【マシュマカロン】を守備表示で召喚するわ!」

『マシュマー!』

 

 深月のフィールドにショッキングピンクのモンスターが現れる。

 

守200

 

「さらに私は永続魔法【コート・オブ・ジャスティス】を発動!このカードは私のフィールドにレベル1の天使族モンスターが存在するとき、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚できるわ!来て、至高の天才!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 深月の頭上に現れた円盤から光が放たれ、その中から幻奏の音姫が姿を現す。

 

攻2600

 

『1ターン目から最上級モンスターの召喚を行ってくるとは……』

「まだまだいくわよ!私は【プロディジー・モーツァルト】の効果を発動!1ターンに1度、手札から天使族モンスターを特殊召喚できる!来て、【幻奏の音女アリア】!」

 

 モーツァルトが指揮棒を一振りするとフィールドに音楽が溢れる。音は集まり形を変え、1人の音女へと変化した。

 

攻1600

 

「さらに【幻奏の音女カノン】は、自分フィールドに【幻奏】と名のつくモンスターが存在するとき、特殊召喚できるわ!」

 

 アリアの歌声とモーツァルトの指揮が重なり、新しい音が生まれていく。

 

守2000

 

『4体のモンスターを召喚しただと……!?』

「さぁいくわよ、バトル!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】で、【メカ・ハンター】を攻撃!グレイスフル・ウェーブ!」

 

 モーツァルトの指揮と同調するように流れる音楽の波が、機械の兵士を押し潰す。

 

『ぬぉぉぉ!』

 

LP4000→3250

 

『だがこの瞬間、【機甲部隊の最前線】の効果を発動。私の機械族モンスターが戦闘破壊されたとき、同じ属性でより攻撃力の低い機械族モンスターを、デッキより特殊召喚する!来い、【人造人間7号】!』

 

 サイコ・ショッカーに少しだけ似た人型のモンスターが現れる。

 7号は何の意思も無い無機質な瞳で深月を見つめている。

 

攻500

 

「攻撃力500なら、私のモンスターの敵じゃないわ!【アリア】で【人造人間7号】を攻撃よ!」

『それは止めさせてもらおうか。私は永続罠【強制終了】を発動。フィールドのカード1枚を墓地へ送り、バトルフェイズを終了させる。【機甲部隊の最前線】を墓地へ』

 

 デュエルディスクが勝手に作動し、メインフェイズ2へと移行する。

 

「【メカ・ハンター】には使わず攻撃力の低い【人造人間7号】に……?【幻奏の音女カノン】は1ターンに1度、自分の【幻奏】と名のつくモンスターの表示形式を変更できる。【アリア】を守備表示にするわ」

 

攻1600→守1200

 

「カードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札0

モンスター:モーツァルト アリア カノン マシュマカロン

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス セット

 

 

『私のターンだ。ドロー……ふむ。私は【機械複製術】を発動。自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスターを選択、その同名モンスターを2体までデッキから特殊召喚する』

 

 7号の姿がゆらりとブレ、次の瞬間には3体のモンスターに分裂している。

 

攻500×2

 

「その為に【強制終了】で守ったのね」

『さらに私は【人造人間-サイコ・ジャッカー】を召喚する』

 

 7号よりもスマートなデザインの人造人間が現れる。その立ち居振る舞いは、まるで歴戦のスパイの様だ。

 

守2000

 

『【サイコ・ジャッカー】の効果を発動。このカードを生け贄とすることでデッキから【人造人間】と名のつくモンスターを手札に加える。さらに相手のセットされたカードを確認し、その中に罠カードがある場合、その枚数まで手札の【人造人間】を特殊召喚できる!行け、サイコ・ジャック!』

 

 サイコ・ジャッカーがホログラムのような半透明の姿へと変わり、深月のフィールドにセットされたカードを持ち上げる。

 セットされていたカードは光子化。モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分光属性モンスターを強化する罠カードだ。

 

『ふはははっ!素晴らしいぞ!お前のフィールドに罠カードが1枚存在するため、私は手札から【人造人間】を特殊召喚できる。【サイコ・ジャッカー】の効果で手札に加えたこのモンスターを特殊召喚だ!』

 

 突如送電塔に電流が流れる。僕たちの目にみえるほど放電しており、明らかに異常な様子だ。

 送電塔から放たれた電撃は半透明のサイコ・ショッカーを襲う。

 

「……き、消えた!?」

「……いや、復活するんだ」

 

『フフ、フハハハハ!』

 

 どこからともなく笑い声が響く。滞空した電気が集合し、ひとつの形を完成させる。

 

『見るがいい、これこそ私の完全なる姿!【人造人間-サイコ・ショッカー】!』

 

 さっきまでデュエルを行っていたものと全く同じ姿のモンスターだ。

 あらゆる罠カードを無効にする強力な妨害効果を持ち、攻撃力2400という1つのラインを作り出した伝説のカード……!

 

攻2400

 

「さぁ、バトルと行こうか!【私自身】で【幻奏の音女アリア】を攻撃!サイキック・ウェーブ!」

 

 サイコ・ショッカーの頭部から放たれた電磁波がアリアを襲う。でも、

 

「特殊召喚した【幻奏の音女アリア】の効果で、私の【幻奏】達は戦闘では破壊されず、効果の対象にもならないわ!」

「何……!?仕方あるまい。それなら私は3体の【人造人間7号】達で攻撃だ!」

「何ですって!?その攻撃力で勝てるモンスターは、」

「【人造人間7号】は、相手プレイヤーへ直接攻撃が可能だ!」

 

 3体の人造人間が深月を殴り付ける。

 1つ1つのダメージは微弱だが、それは確実に彼女の命を削っていく。

 

「ぁぐっ……」

 

LP4000→3500→3000→2500

 

「どうだ、苦しいか?これが闇のデュエルだ!」

「……っ!?何よ、これ……」

 

 深月の体が、足元から消えていっている。いや、正確には最初のサイコ・ショッカーと同じ様に、ホログラムへと変わっていっているのだ。

 そして僕の足も似た状況に陥っている。

 

「これが闇のデュエルなの……?こんなものを、遊陽は……!」

「深月……」

「……大丈夫よ。絶対に遊陽は消えさせない!」




「「今回の最強カードは?」」

人造人間-サイコ・ショッカー
効果/星6/闇属性/機械族/攻2400/守1500
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにフィールドの罠カードの効果を発動できず、フィールドの罠カードの効果は無効化される。

「あの伝説のデュエリスト城之内さんも使ったと言われる有名なモンスターだね」
「罠カードの効果を無効にするだけじゃなく発動すらさせないわ!……そんなに罠カードに恨みがあるのかしら?」
「それは精霊のみぞ知る……のかな?機械族モンスターの顔だし、ファンも多いと思うよ」


8話でした。初の前後編。分けると短いけど繋げると長いやつ。
サイコ・ショッカーはかなり好きなモンスターなのでもっと強化されてもいいのよ。
それではまた後編でお会いできたらうれしいです。

それではー!


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9話 VS人造人間軍団(後編) 融合召喚、新たなる音姫!

こちらは後編です。先に8話をお読みいただけると嬉しいです。


「私は魔法カード【一時休戦】を発動。互いにカードを1枚ドロー。そして次のお前のエンドフェイズまで、お互いが受けるダメージは0となる」

「……ドローできるのはありがたいけど」

「【7号】の低攻撃力をカバーされちゃったわね」

「カードを2枚セット。ターンエンドだ」

 

 

サイコ・ショッカー LP3250 手札0

モンスター:サイコ・ショッカー 7号 7号 7号

魔法・罠:強制終了 セット セット

 

 

「私のターン、ドロー!……良し、私は【プロディジー・モーツァルト】の効果で、手札の【幻奏の音女エレジー】を特殊召喚!」

 

 モーツァルトが再び指揮棒を振るう。

 

攻2000

 

 これで深月のフィールドにアリアとエレジーの2体が並ぶ。2体の効果で深月のモンスターは戦闘・効果で破壊されず、カード効果の対象にならなくなった。これはデッキの構成によっては詰みともなり得る布陣だ。もっともサイコ・ショッカーの操る人造人間7号の直接攻撃を防ぐことはできないが。

 だがサイコ・ショッカーの効果によってサイコ・ショッカー自身も罠カードを発動することはできない。ダメージを受けなくとも、7号を守る手段は無いだろう。

 

「【エレジー】の効果で私の天使族モンスターの攻撃力は300アップ。そして【カノン】と【アリア】を攻撃表示に変更するわ」

 

モーツァルト攻2600→2900

アリア守1200→攻1600→1900

カノン守2000→攻1400→1700

エレジー攻2000→2300

 

「行くわよ!私は【アリア】【カノン】【エレジー】で【人造人間7号】3体を攻撃!」

 

 3体の奏でる音は共鳴し、巨大な衝撃波を産み出す。

 

「くっ……だが【一時休戦】の効果でダメージは受けない!」

「それでも十分よ!【プロディジー・モーツァルト】で【サイコ・ショッカー】を攻撃!グレイスフル・ウェーブ!」

 

 モーツァルトは音を纏わせた指揮棒で、サイコ・ショッカーの胸部を貫く。

 

「な、ぐわぁぁっ!!」

 

 そしてサイコ・ショッカーの姿が消え去る。

 

「……終わった、の?」

「ううん。ソリットビジョンは消えてない。まだ気をつけて、深月」

『ぐふぅ……よくもこの私を……』

 

 姿は見えず、サイコ・ショッカーの声だけが響く。

 

「【カノン】の効果で【カノン】自身を守備表示に変更。ターンエンドよ」

 

攻1700→守2000

 

『この瞬間、リバースカードオープン!【裁きの天秤】!私の手札・フィールドの合計枚数とお前のフィールドのカードの枚数を比較し、私は同じ枚数になるようにドローできる!』

 

 サイコ・ショッカーの手札は0。フィールドのカードは裁きの天秤を含めて3枚。

 一方深月のフィールドは5体のモンスターに永続魔法、そしてセットされたカードの7枚。

 

『私は4枚のカードをドローする!』

「よ、4ドローですって!?」

 

 

深月 LP2500 手札1

モンスター:モーツァルト アリア カノン エレジー マシュマカロン

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス セット

 

 

『私のターン、ドローだ』

 

 相変わらず声だけが響き、空中に浮くカードが1枚増える。

 

『私は【リビングデッドの呼び声】を発動。蘇れ、【私】!』

 

 サイコ・ショッカーが墓地から現れ、声の主も肉体を取り戻す。

 

攻2400

 

「感謝するぞお前達……。お前達の削られたライフポイントが私に流れ込み、私は新たなる力を手に入れたのだ!」

「な、何をするつもりよ!」

「見せてやる、完全なるこの私の姿を!私は【人造人間-サイコ・ショッカー】を生け贄に、【人造人間-サイコ・ロード】を特殊召喚ッ!」

 

 デュエルを行っているサイコ・ショッカーの体に変化が現れる。背中からは触手のようなコードが伸び、その鎧は黒く染まる。

 

攻2600

 

「これが【私】!今ここに私は完全に復活したのだッ!ハハハハハハッ!」

「【サイコ・ロード】……」

 

 そう呟く深月の声は震えている。

 

「そして私は【人造人間-サイコ・リターナー】を召喚する」

 

 サイコ・ショッカーをそのまま小型化したようなモンスターが現れる。脳みそが発達しているのか、頭でっかちにもみえる。

 

攻600

 

「さらに私は2枚の装備魔法を発動し、【私】に装備する。1枚目は【重力砲(グラヴィティ・ブラスター)】、そして2枚目は【レアゴールド・アーマー】だ」

 

 サイコ・ロードの腕に重力発生装置が取り付けられ、さらにその体は目映い黄金に染まる。

 

「【重力砲】は1ターンに1度、装備モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる!グラヴィティ・チャージ!」

 

攻2600→3000

 

「さらに【レアゴールド・アーマー】を装備したモンスターが存在する限り、相手は装備モンスターしか攻撃することはできない!さぁ、バトルだ!【私】で【幻奏の音女アリア】を攻撃する!」

「っ!無駄よ、【アリア】の効果で戦闘では――」

「それはどうかな?グラヴィティ・ショックウェーブ!」

 

 超重力を纏った電磁波の砲弾がアリアを包み込み、押し潰す。

 

「そんなっ!?」

 

LP2500→1400

 

「なんで、【アリア】が……!?」

「【重力砲】の効果だ。装備モンスターが戦闘を行う場合、戦闘を行う相手モンスターの効果をバトルフェイズの間だけ無効にする。さぁ、まだバトルは終わらんぞ!【人造人間-サイコ・リターナー】は相手に直接攻撃できる!」

 

 瞬間、深月の背後に回ったサイコ・リターナーは深月の頭をつかみ、電流を流し込む。

 

「ぁ……ぁあぁあぁあっ!?」

 

LP1400→800

 

「メインフェイズ2だ。【私】の効果を発動。フィールドに表側表示で存在する罠カードを破壊し、破壊した枚数1枚につき300のダメージをお前に与える!」

「破壊されるのは【強制終了】と【リビングデッドの呼び声】の2枚……深月っ!」

「さぁ、600ポイントのダメージを受けるがいい!ハイパー・トラップ・ディストラクション!」

 

 2枚のカードがエネルギー弾へと変わり、深月の体を貫く。

 闇のゲームとはいえあくまでもソリットビジョンだから怪我をすることはない。しかしそれは確かな痛みとして、深月の脳に刻まれる。

 

「ぐ……ぁ……っ……」

 

LP800→200

 

「っ、深月!」

 

 深月が倒れそうになるところを支える。火事場の馬鹿力と言うべきなのか、何とか彼女の体を支えきることができた。

 

「しっかりして、深月!」

「……ぁあ、ぃ、いた、痛い……」

 

 僕と深月の体はほとんどがホログラムへと変わってしまっている。それでも触れあえるのは、これが闇のデュエルの最中だからだろう。

 

「これ以上苦しみたくはないだろう。サレンダーするといい。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 

サイコ・ロード LP3250 手札0

モンスター:サイコ・ロード サイコ・リターナー

魔法・罠:重力砲 レアゴールド・アーマー セット

 

 

「深月、深月!」

「ゅ、ぅ……ひ、カードを、引いて……」

 

 深月は今にも消えてしまいそうなかすれた声で囁く。体はボロボロで、1人では立つ事も出来ず、それでもその瞳から闘志は消えていない。

 

「……分かったよ」

 

 僕は深月のデュエルディスクをつけた腕を肩に担ぐ。

 

「……深月のターン、ドロー」

 

 そしてドローしたカードを、深月の右手の手札に加えた。

 

「あり、がと……」

 

 深月は力なく腕を持ち上げ手札をみる。

 

「遊陽……私の指示通り、カードを出して……」

「……うん。任せて」

「……サレンダーをするつもりは無いということか。私のフィールドにはお前のライフを削りきれるダイレクトアタッカーが居て、さらに攻撃力3000のモンスターを処理しなければダイレクトアタッカーを破壊することもできないのだぞ?」

「それでも……わたしは……まけない……!私は、【モーツァルト】の効果を発動。手札から【幻奏の歌姫ソプラノ】を特殊召喚するわ」

 

 深月の手札からカードを1枚引抜き、それをデュエルディスクに置く。

 

攻1400→1700

 

「【幻奏の歌姫ソプラノ】の、効果を発動っ……フィールドの【ソプラノ】と【カノン】を融合素材とし、【幻奏】のモンスターを融合召喚する、わ」

 

 融合デッキに1枚だけ入っていたカードをフィールドに置く。

 ソプラノの歌声は空中に渦を作り出し、にたいのモンスターが飲まれ新たな姿へと進化する。

 

「……今こそ舞台へ、融合召喚……!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】……!」

 

 歌声の渦から現れる、3体目の音姫だ。彼女はナイフの様な指揮棒の切っ先をサイコ・ロードへと向ける。

 

攻2400→2700

 

「バトル……!【プロディジー・モーツァルト】で【サイコ・ロード】を、攻撃」

「何!?攻撃力は【私】の方が上だぞ!」

「【幻奏】モンスターが、相手モンスターと戦闘を行うとき、手札の【幻奏の音女スコア】の、効果を、発動……!」

 

 深月の手札から飛び出した小柄な音女が歌い、五線譜がフィールドを埋め尽くす。現れた五線譜はサイコ・ロードの体を縛り、一切の抵抗を許さない。

 

「戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を、0に……!」

 

攻3000→0

 

「なっ、貴様ぁぁっ!」

 

LP3250→350

 

 黄金のサイコ・ロードは消え去り、ホログラムのサイコ・ショッカーに戻る。

 

『良くも、良くもこの私の完全体を……!』

「行って、【エレジー】で、【サイコ・リターナー】を攻撃……!」

 

 エレジーの歌声が小柄な人造人間を襲う。

 

『まだだ!永続罠【女神の加護】を発動!私のライフは3000ポイント回復する!』

 

LP350→3350→1650

 

 女神の加護……ライフを一気に3000も回復出来るが、破壊されたときに3000ダメージを受けることになる差引き0のカード。でもサイコ・ショッカーがフィールドにいる状態ならダメージを回避することができる。その為にデッキに入っていたのだろう。

 

『【人造人間-サイコ・リターナー】の効果を発動!このカードが墓地へ送られた時、墓地の【サイコ・ショッカー】を蘇らせることができるのだ!』

 

 サイコ・リターナーが死に際に放った電磁波がサイコ・ショッカーの形を作り始める。

 

「させない……っ!【マイスタリン・シューベルト】の効果、発動……っ!お互いの墓地のカードを3枚まで除外し、攻撃力を1枚につき、200アップさせるわ……!消えなさい、【サイコ・ショッカー】、【ジャッカー】、【ロード】っ!」

 

 シューベルトが指揮棒を振ると、サイコ・ショッカーの墓地から3体のモンスターが現れ、指揮棒へと吸い込まれていく。

 

攻2700→3300

『な……蘇生対象が……っ!』

「終わり、よ!【マイスタリン・シューベルト】で、ダイレクトアタック……!」

 

 シューベルトは深月の指示にうなずくと、サイコ・ショッカーへと飛びかかり、その胸を刺し貫いた。

 

『ぐわぁぁぁっ!!』

 

LP1650→0

 

『おのれ、おのれ、おのれえぇぇえっ!!』

 

 怨嗟のこもった断末魔をあげ、サイコ・ショッカーは霧散した。それと同時に、僕たちの半透明になっていた体も元に戻る。

 

「かてた、の……?」

「勝てたよ、深月。ありがとう」

「…よかっ…た」

 

 そのまま深月は目を閉じてしまう。呼吸はしっかりしているから、眠っているだけなのだろう。

 

「……ごめんね、深月」

 

 こんなにも君を苦しませてしまうなんて。

 自分がひどく情けなくなってくる。

 

「……今は、ゆっくりお休み」

 

 送電塔の下には、高寺君を含めた3人の男子が倒れている。ちゃんと救出には成功したみたいだ。

 このまま深月を連れ帰りたかったけど、僕のひ弱な腕力ではそれは叶いそうに無かった。

 

 

 

「……さて、今年のデュエルアカデミア対抗戦の事なのだが……向こうからお達しがあってね。ノース校はどうやら1年生を代表者として選出したらしい。そこで我が校も同じ1年生を代表に選ぼうと思っているのだが……どうかね?」

「お、お待ちくだサーイ。その場合シニョール丸藤は?」

「俺は校長の意見に賛成です。何より、デュエルを見てみたい奴がいますから」

「そ、そレーハ?」

「校長先生、俺はデュエルアカデミアの代表者として、オシリスレッドの遊城十代を推薦します」

「ほう、オシリスレッドの?」

「彼ならきっといいデュエルをしてくれますニャ」

「ちょ、ちょちょちょ待って下さイーノ!それならば私は、オベリスクブルー寮のシニョール遊陽を推薦するノーネ」

「それなら、私からも……ラーイエローの生徒で、成績はトップ。うちの三沢大地君も、代表者候補としては充分ではないでしょうか」

「ふむ……わかりました、良いでしょう。これからレッド寮、イエロー寮、ブルー寮、女子寮から1人ずつ代表者を選出して貰い、その4人でトーナメント式の大会を行いたいと思います。良いですね?」




「「今回の最強カードは?」」

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト
融合/効果/星6/光属性/天使族/攻2400/守2000
「幻奏」モンスター×2
(1):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、お互いの墓地のカードを合計3枚まで対象として発動できる。そのカードを除外する。このカードの攻撃力は、この効果で除外したカードの数×200アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

「私の新しいエースモンスター!遊陽とお揃いの融合モンスターよ!」
「相手の墓地のカードを除外する効果を持っているよ。誘発即時効果だから、相手が蘇生しようとしたカードを除外して妨害することも可能だね」
「そして除外した枚数に応じてパワーアップ!最大で攻撃力3000にまで到達するわ!」


9話でした。いつになったら十代とデュエルするんだ主人公。
……きっともうそろそろやってくれる筈です。
それではまた次回、お会いできたらうれしいです。
ではでは~。


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10話 秀才再び(前編) 7番目の融合封殺デッキ!

遅くなりましたすみません。
デュエル構成難しい……。


「遊城十代、そして黒野遊陽……この2人は融合モンスターを軸にしたデッキを構成している」

 

 ラーイエロー寮の一室。明かりを消した部屋の中、三沢大地はパソコンを使ってカードを調べ、戦術を組み立てている。

 

「例えばフレイム・ウィングマン。攻撃力は低いが、スカイスクレイパーと合わせて大ダメージを与えるコンボを行ってくる。黒野の方で警戒すべきは……ホイールソウ・ライオか?カード効果によってモンスターを除去した上でダメージを与えてくる……」

 

 戦闘による破壊と効果による破壊。どちらも対策が取れないことはないが、どちらもとなると一気に難しくなる。

 三沢は頭を抱える。

 

「クソッ、1つ1つに対処していってはキリが無い。……そうだ、十代と黒野のデッキの核は融合!禁止令で融合を封じれば……いや。黒野にはデストーイ・ファクトリーという永続魔法があったな……それに星見さんのデッキも警戒しなくては。彼女のデッキは魔法やモンスター効果による大量展開を行うデッキ……」

 

 三沢大地は自分の持っているカードを床に広げ、1枚1枚確認していく。

 

「……!そうか、このカードなら!」

 

 三沢は1枚のカードを拾い上げ、掲げる。

 

「これだ!待っていろよ!」

 

 草木も眠る丑三つ時。ラーイエロー寮に、1人の男の笑い声が響き渡った。

 

 

 

「……僕が、オベリスクブルーの代表……ですか?」

「その通りナノーネ」

 

 校舎の裏。人気の無い場所に呼ばれたから何を言われるかと思っていたら、どうやらかなり大きな話な様だ。

 デュエルアカデミアには幾つかの分校がある。今僕達がいるのは本校だが、ここは毎年北にあるノース校との対抗戦を行っているらしい。

 いつもなら互いに最強の生徒……大体は3年生を選出し、一対一でデュエルする。しかし今年はノース校が1年生を代表にすると宣言してきたため、こちらも同じく1年で……となったらしい。

 

「えっと……他の寮の候補者は?」

「女子寮からはシニョーラ深月、ラーイエローからはシニョール三沢、そしてオシリスレッドからはドロ……ノンノン、シニョール遊城十代が選ばれた様ナノーネ」

「……分かりました。ご期待に添えるかは分かりませんが、精一杯頑張ります」

「期待しているノーネ」

 

 各寮の代表4人でトーナメント式の大会が行われる。開催日は1週間後の冬休み明け。初戦の相手は……。

 

「……三沢君か。これはなかなか骨が折れそうだ」

 

 

『じゃあ私の初戦は遊城十代君なのね』

『うん。オシリスレッドらしいけど、確か彼は……』

『あのクロノス先生にも勝ったデュエリストよね。かなりキツい相手だけど……負けないわ。決勝の舞台で、一緒にデュエルしよう?』

『うん。勿論だよ。三沢君は僕のデッキに対策をして来るはずだから、僕もその対策をしなくちゃだね』

 

 自分の部屋で、深月と通話しながらデッキを調整する。

 この間戦った三沢君のデッキは光属性。でも彼は複数のデッキを持っていたから相性の良いものを選んだだけで、僕のデッキだけに対するメタと言うわけでは無いだろう。

 三沢君の事だから、僕だけじゃなく遊城君や深月に対するメタも考えてくるだろう。

 ……僕のデッキで一番止められると困るのは……融合。これが無ければデッキパワーはかなり落ちてしまう。とはいえデストーイ・ファクトリーの効果で融合は行えるから、完全に機能停止とまでは行かないだろう。もし僕達3人のデッキをほぼ機能停止に追い込めるカードがあるとするなら……。

 

「……このカードは、警戒しておかなくちゃね」

 

 

 

 代表選出トーナメント大会の日。デュエルフィールドは、沢山の生徒で溢れ盛り上がっていた。

 

「大変長らくお待たせ致しましたーノ!これより、デュエルアカデミア対抗戦の代表選出大会を開催するノーネ!」

 

 歓声。こんなに大勢の前でデュエルを見られると緊張してしまう。

 

「それでは第1試合、選手入場ナノーネ!ラーイエロー代表、シニョール三沢!」

「久しぶりだな、黒野。俺は君達に勝つための7番目のデッキを完成させた。今回こそ、勝たせてもらうぞ!」

 

 相変わらず熱く、向上心のある人だ。

 

「そしてオベリスクブルー代表、シニョール遊陽!」

「久し振り。僕だってブルー寮に入って満足していた訳じゃない。深月と一緒に決勝の舞台に立つため、ここで三沢君には負けてもらうよ」

 

 デュエルディスクにデッキを挿入し、構える。

 

「それでは、デュエル開始ィ!ナノーネ!」

 

「「デュエル!」」

 

遊陽 VS 三沢

 

「俺の先攻、ドロー!……フッ。カードを4枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

三沢 LP4000 手札2

モンスター:無し

魔法・罠:セット セット セット セット

 

 

「カードをセットしただけ……?」

 

 まさか三沢君が手札事故等を起こすわけはないだろう。……いや、確率は0では無いだろうが、なるべくそれを回避するようなデッキ構成にはしておくはず。……何を企んでいるんだろう?

 

「遊陽っ!頑張れーっ!」

 

 観客席の深月から応援される。天上院さんや枕田さん、浜口さんと一緒に座っている様だ。その近くには遊城君やレッド寮の2人もいる。

 

「僕のターン、ドロー……それじゃあ早速行くよ?僕は【魔玩具補綴】を発動して、デッキから【エッジインプ・チェーン】と【融合】を手札に加えるよ」

「来ると思っていたさ!速攻魔法【相乗り】!このターン黒野がドロー以外の方法でカードを手札に加える度にドローする!」

「げっ……僕は【融合】を発動。手札の【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ウィング】を融合!全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 妖精の羽の様な姿のモンスターが僕の周囲を飛び回り、鎖に囚われる。鎖は熔けて羽を飲み込み姿を変え、不気味な笑い声をあげるヒツジのぬいぐるみが現れた。

 

攻2000

 

「素材となって墓地へ送られた【エッジインプ・チェーン】の効果で【デストーイ・ファクトリー】をデッキから手札に加える」

「【相乗り】の効果でドローする」

「2枚もドローされちゃったか……バトル!」

「いや、メインフェイズ1の終わりにリバースカードオープン!【スケープ・ゴート】!俺のフィールドに【羊トークン】を4体特殊召喚する!」

 

 めぇー、という腑抜けた鳴き声と共に、小さな羊が4体現れる。

 

守0×4

 

「あれ、何でバトルフェイズに発動しなかったんスか?」

「えっと……何でだ明日香?」

「あのヒツジのモンスターは、攻撃宣言時にカード効果の発動を封じるわ。だからダメージを受けないよう、発動が可能なメインフェイズに特殊召喚したのよ」

 

 互いのフィールドには合計5体のヒツジ。しかし見た目の問題か、観客達はスケープ・ゴート達を応援しているようだ。

 

「それじゃあもう1度、バトルだよ。【チェーン・シープ】で、【羊トークン】1体を攻撃!」

 

 チェーン・シープから鎖が伸ばされ、羊トークンを締め付ける。

 

「僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:デストーイ・チェーン・シープ

魔法・罠:無し

 

 

「俺のターン、ドロー!さぁ行くぞ黒野!俺は罠カード【生存境界】を発動!フィールドの通常モンスターを全て破壊し、破壊した数までデッキからレベル4以下の恐竜族モンスターを特殊召喚できる!」

 

 地面が揺れ、フィールドにいくつもの隕石が落下する。

 隕石は羊トークンを破壊していき、空いた3つのモンスターゾーンに新しい時代の支配者が現れる。

 

「俺が特殊召喚するのは【ハイドロゲドン】2体と【オキシゲドン】だ!」

 

 水、あるいは気体の塊の様な姿のモンスターだ。

 

ハイドロゲドン攻1600×2

オキシゲドン攻1800

 

「そして俺のフィールドには水素分子が2つに酸素分子が1つ!」

「水の化学式……?」

「その通りだ!俺は【ボンディング-H2O】を発動!自分フィールドの【ハイドロゲドン】2体と【オキシゲドン】を生け贄に捧げ、デッキから【ウォーター・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

 3体のモンスターが結合し、綺麗な青色の体をした龍へと姿を変える。まるで融合召喚だ。

 

攻2800

 

「黒野、俺はお前たちに勝つため様々な戦術を考えてきた。これがその答えだ!俺は【メカファルコン】を召喚!」

 

 ジェットの取り付けられた機械の鳥がフィールドを高速で飛び回る。

 

攻1400

 

「魔法カード【トランスターン】を発動!自分フィールドのモンスター1体を墓地へ送り、送ったモンスターと同じ種族・属性でレベルの1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する!メカファルコンは機械族、風属性、レベル4のモンスター。来い、レベル5!【マジック・キャンセラー】!」

 

 アンテナや花の様にも思える頭部を持つ機械の塊が現れる。

 

攻1800

 

「【マジック・キャンセラー】……!」

「効果は知っているな?こいつがいる限り、お互いは魔法カードを発動出来ず、フィールドで発動する全ての魔法効果は無効になる!」

 

 融合デッキが苦手とするのは融合を封じるカード。その中でもマジック・キャンセラーは他の魔法までも制限してくるため、僕のデッキの場合は大半のカードが使えなくなってしまう。

 

「まさかこんなに早く出てくるなんて……」

「どうだ!俺はこのカードで勝利を掴み、この学園の1番になって見せるさ!カードを1枚セットし、俺はこれでターンエンドだ」

 

 

三沢 LP4000 手札1

モンスター:ウォーター・ドラゴン マジック・キャンセラー

魔法・罠:セット セット

 

 

「僕のターン、ドロー!うん。僕は【ファーニマル・ライオ】を召喚するよ」

 

攻1600

 

 流石に攻撃しては来なかったか。まぁ攻撃すればウォーター・ドラゴンと同じ攻撃力で破壊に耐性を持ったモンスターになってしまうから当然だ。

 とりあえず今は、あのマジック・キャンセラーをどうにかしないと。

 

「バトルだよ!」

「いいや!このタイミングで罠カード発動!【陰謀の盾】!このカードは発動後装備カードとなり【マジック・キャンセラー】に装備する!」

「【マジック・キャンセラー】は装備魔法カードの効果も無効にするけど……」

「装備カード状態の罠カードは、そのまま罠カードとして扱う!」

 

 マジック・キャンセラーが赤紫色のオーラを纏う。どんな効果だか知らないけど、名前からして悪い予感がする。

 

「それでもバトルだよ!まずは【デストーイ・チェーン・シープ】で【ウォーター・ドラゴン】を攻撃!」

 

 得意の自爆特攻だ。チェーン・シープはウォーター・ドラゴンの懐に飛び込むが、すぐに龍の吐き出した大量の水に押し潰される。

 

「くっ……」

 

LP4000→3200

 

「でも【デストーイ・チェーン・シープ】は1ターンに1度のみ、攻撃力を800アップさせて再生する!デストーイ・バックアップ!」

 

 鎖は巻き戻り、破壊されたはずのヒツジが憎悪の宿った視線を向け復活する。

 

攻2000→2800

 

「そして【チェーン・シープ】で【マジック・キャンセラー】を攻撃。モノポライズ・チェイン!」

 

 陰謀の盾の効果がどんなものかは分からないけど、チェーン・シープは戦闘時の相手のカード効果を封じる。だから攻撃力上昇による反撃とかはされないはずだ。

 

「黒野、お前の考えていることは分かっているぞ!【チェーン・シープ】で効果の発動を封じたつもりだろうが、発動しない効果を無効にすることは出来まい!【陰謀の盾】の装備モンスターは1ターンに1度戦闘では破壊されず、ダメージも0になる!」

 

 マジック・キャンセラーの纏うオーラが集まり盾となって、チェーン・シープの攻撃を遮る。

 

「でもこれで効果は使った。【ファーニマル・ライオ】で【マジック・キャンセラー】を攻撃!その効果により攻撃力を500ポイントアップさせるよ」

 

攻1600→2100

 

「それも止めさせてもらう!俺はリバースカード【セキュリティ・ボール】を発動!相手の攻撃宣言時、攻撃モンスターの表示形式を変更する!」

 

 意気揚揚とマジック・キャンセラーに襲い掛かったライオだが、突如現れたボール状の機械に網を放たれ、拘束されてしまう。

 

攻2100→守1200

 

「くっ……カードを2枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP3200 手札3

モンスター:チェーン・シープ ファーニマル・ライオ

魔法・罠:セット セット

 

 

「俺のターンだな、ドロー!」

 

 マジック・キャンセラーの処理は失敗だ……。せっかく手札に加えたデストーイ・ファクトリーもこのままでは発動すらできない。さて、どうしようか。

 

「俺は【カーボネドン】を召喚する!」

 

 カーボン……つまりは炭素。黒鉛の塊のような恐竜が現れる。

 

攻800

 

「そして墓地の【生存境界】の効果を発動する!墓地のこのカードを除外し、フィールドカード1枚と恐竜族モンスターの合計2枚を破壊する!【チェーン・シープ】と【カーボネドン】破壊する!」

 

 カーボネドンとチェーン・シープの足元からマグマが吹き出し、2体のモンスターを飲み込んでしまう。

 

「でも、【チェーン・シープ】は1ターンに1度、破壊されても攻撃力をアップさせて蘇るよ!」

 

攻2000→2800

 

「バトルだ!【ウォーター・ドラゴン】で【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!アクア・パニッシャー!」

 

 2体のモンスターの攻撃力は2800。生存境界で破壊されていなければ、チェーン・シープを蘇生することができたのに……!

 ウォーター・ドラゴンの吐き出した水のブレスと鎖が交錯し、お互いの体を破壊する。

 

「【ウォーター・ドラゴン】が破壊された時、墓地から【ハイドロゲドン】2体と【オキシゲドン】を特殊召喚する!」

 

 ウォーター・ドラゴンの材料が分裂し、3体のモンスターに変わる。

 

「っ、リバースカードオープン!【落とし大穴】!相手が2体以上のモンスターの特殊召喚に成功したとき、そのモンスターを全て墓地へ送り、さらに同名モンスターを纏めて手札・デッキから墓地へ送るよ!」

 

 現れたモンスター達が纏めて落とし穴に飲まれていく。

 

「そ、そんなピンポイントなカード、何でデッキに入ってるんスか……!?」

「昨日遊陽が入れてたわ。今までの三沢君の戦いから、三沢君がチェーン・シープをウォーター・ドラゴンで相討ちにしてくる事を想定してたの」

 

 このタイミングで用意できたのは僥倖だ。あのまま総攻撃を仕掛けられていたら、僕のライフは尽きていただろう。

 

「メタにはメタを、だよ!三沢君!」

「やるじゃないか。俺は続けて【マジック・キャンセラー】で【ファーニマル・ライオ】を攻撃だ!」

 

 マジック・キャンセラーの頭部からレーザー光線が放たれ、ファーニマル・ライオの体を燃やす。

 

「っ、【ファーニマル・クレーン】を発動!【ファーニマル・ライオ】を手札に戻し、1枚ドローするよ」

「メインフェイズ2だ。墓地に存在する【カーボネドン】は、墓地から自身を除外することで、レベル7以上のドラゴン族・通常モンスターをデッキから守備表示で特殊召喚する!炭素は墓地で圧縮され、その姿を変える!来い、【ダイヤモンド・ドラゴン】!」

 

 ダイヤモンドで作られた美しい鱗を持つ竜が現れ、咆哮する。

 

守2800

 

「さらに手札の【デューテリオン】の効果を発動。手札からこのカードを捨て、デッキから【ボンディング】と名のつく魔法・罠カードを1枚手札に加える。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

三沢 LP4000 手札0

モンスター:マジック・キャンセラー ダイヤモンド・ドラゴン

魔法・罠:セット 陰謀の盾

 

 

「僕のターン」

 

 マジック・キャンセラーがいる限り、魔法カードは使えない。どうしたものか……。

 

「ドロー!」

 

 ドローしたカードを確認する。

 ……うん。このカードなら戦える。

 

「行くよ三沢君、僕は【ファーニマル・オウル】を召喚するよ!」

 

 ホー、ホーという鳴き声と共に、僕の目の前に可愛らしいフクロウが現れた。




「「今回の最強カードは?」」

マジック・キャンセラー
効果/星5/風属性/機械族/攻1800/守1600
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り魔法カードは発動できず、全てのフィールド上魔法カードの効果は無効になる。

「魔法カードを軸にするデッキにとっては最大の天敵ね」
「うん。このカードのせいで随分動きが止められてしまうよ。下級モンスターでも倒せなくもないステータスなのが救いかな」
「使用している側もそれを理解しているから、いかに罠やモンスターの効果で守るかが大切ね」


デュエル構成に悩み投稿が遅くなりました10話です。魔法カードが使えないのがこんなに辛いとは。
さてさて、それではまた次回お会い出来ればうれしいです。ではでは~。


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11話 秀才再び(後編) 死剣士降臨!刃物の悪魔に宿るモノ!

こちらは10話の後編です。先に10話を読んでから来ていただけると嬉しいです。

6/21 0:49
ウォーター・ドラゴン-クラスターの効果でウォーター・ドラゴンを攻撃表示で召喚していたため、一部内容を変更しました。


「【ファーニマル・オウル】は、ライフポイント500と引き換えに、【融合】のカード無しで融合召喚を行える!」

「っ!魔法カードに頼らない融合召喚か!」

 

LP3200→2700

 

 オウルの眼が光り、僕のフィールドに赤と青色の渦を作り出す。

 

「僕は【ファーニマル・オウル】と、手札の【エッジインプ・ソウ】を融合!全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 オウルの体がエッジインプ・ソウに引きずり込まれる。そのままソウは黒い液状金属へと変貌し、姿を変える。

 現れた傷だらけの獅子は、目の前の獲物達を見つけ嬉しそうに微笑んだ。

 

攻2400

 

「【陰謀の盾】では、効果による破壊は無効には出来ない!【ホイールソウ・ライオ】の効果で【マジック・キャンセラー】を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 ホイールソウ・ライオはマジック・キャンセラーを捉えると、それを勢いよく地面に叩きつける。破壊されたマジック・キャンセラーの破片が三沢君に降り注ぎ、ライフを削る。

 

「くっ……」

 

LP4000→2200

 

「これでようやく魔法が使えるよ」

 

 今の手札は魔法カードとファーニマル・ライオしか居ない。そしてこのターン中にダイヤモンド・ドラゴンを処理できるカードは僕の融合デッキには入っていない。

 

「……僕は速攻魔法【リロード】を発動。手札を全てデッキに戻し、その枚数分ドローするよ」

 

 ……うん。ダイヤモンド・ドラゴンは倒せないけど、すごく良い引きだ。

 

「僕はカードを3枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP2700 手札0

モンスター:デストーイ・ホイールソウ・ライオ

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「俺のターンだ、ドロー!……黒野、お前は【ウォーター・ドラゴン】を破壊したことで、俺のデッキにもう切り札が居ないと思っているだろう!」

「……まさか、まだ……!?」

「そうさ!俺のデッキのエースはあれだけじゃないぞ!俺はリバースカードオープン!【ボンディング-DHO】を発動!墓地の【ハイドロゲドン】【オキシゲドン】【デューテリオン】を1体ずつデッキに戻し、【ウォーター・ドラゴン-クラスター】をデッキから特殊召喚する!」

 

 三沢君の墓地から3体のモンスターが現れ、混ざり合う。

 逆巻く水流と共に現れたのは、2つの頭を持つウォーター・ドラゴンだ。

 

攻2800

 

「【ウォーター・ドラゴン】の、強化版って事かな……?」

「その通りさ!【ウォーター・ドラゴン-クラスター】の効果を発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの効果モンスターの攻撃力をエンドフェイズまで0にする!」

 

 2つ頭のウォーター・ドラゴンが大きな波を引き起こし、ホイールソウ・ライオを飲み込む。

 びしょ濡れになったライオは、体を重そうに持ち上げようとするが、うまく動けなくなってしまった。

 

攻2400→0

 

「さらに魔法カード【貪欲な壺】を発動。墓地の【ウォーター・ドラゴン】と【オキシゲドン】2体、【ハイドロゲドン】、【マジック・キャンセラー】をデッキに戻し、2枚ドローだ!」

「ここに来て手札増強……!」

「良し。俺は【ダイヤモンド・ドラゴン】を攻撃表示に変更!」

 

守2800→攻2100

 

「バトルだ!【ウォーター・ドラゴン-クラスター】で、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】を攻撃!ツイン・パニッシャー!」

 

 このダメージが通れば僕の負け、だけど……!

 

「リバースカードオープン!【ダメージ・ダイエット】!このターン受けるダメージを半分にする!」

 

 2重の渦潮がホイールソウ・ライオを取り込み破壊する。

 

「くっ……」

 

LP2700→1300

 

「さらに【ダイヤモンド・ドラゴン】で直接攻撃だ!」

 

 ダイヤモンド・ドラゴンが口からダイヤモンドの刃を吐き出し、それが雨のように僕を襲う。

 

「っ……」

 

LP1300→250

 

「でもまだ、僕のライフは残っているよ!」

「あぁ。だが俺は【ウォーター・ドラゴン-クラスター】の効果を発動!このモンスターを生け贄に捧げ、【ウォーター・ドラゴン】2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

 2つの首がそれぞれの竜に別れる。

 

守2600×2

 

「俺はメインフェイズ2に魔法カード【儀式の下準備】を発動。デッキから儀式魔法と、その儀式魔法に名前の記された儀式モンスター1体を手札に加える」

 

 三沢君が2枚のカードを手札に加える。

 

「まさかこのカードまで召喚することになるとはな。流石は黒野だ。俺は【リトマスの死儀式】を発動!レベルが8以上になるように手札・フィールドのモンスターを生け贄に捧げる!俺は【ウォーター・ドラゴン】を生け贄に捧げ、降臨せよ!【リトマスの死の剣士】!」

 

 ウォーター・ドラゴンが8つの星へと変わり空へと昇り、爆音と共に雷がフィールドに落ちる。

 煙の中から、紫色のマントを羽織った高貴な剣士が現れる。

 

「レベル8モンスターを生け贄に捧げて、攻撃力0のモンスターを召喚……?」

 

 良く攻撃力が低いというだけでバカにする人がいるが、それは間違いだ。むしろ本当に警戒すべきは低攻撃力モンスター。それもレベルが高くて攻撃力が低いなんて、嫌な予感しかしない。

 

「俺はカードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

三沢 LP2200 手札0

モンスター:リトマスの死の剣士 ダイヤモンド・ドラゴン ウォーター・ドラゴン

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 今の手札は1枚。でも、このカードなら!

 

「僕は手札の【ファーニマル・ベア】の効果を発動!このカードを捨て、デッキから【トイポット】を自分フィールドにセットする。そして発動、永続魔法【トイポット】!」

 

 地鳴りと共に、僕の背後に巨大なガシャポンが現れる。

 

「俺はリバースカードオープン!【王宮の勅命】!」

「そっちのカードも用意してきてたのか……!」

「このカードが存在する限り、フィールドで発動する魔法カードの効果は無効だ!」

 

 マジック・キャンセラーに並ぶ魔法カードメタ。王宮のお触れと並ぶ『王宮』シリーズの永続罠だ。

 

「それだけじゃないぞ!【リトマスの死の剣士】は、自分フィールドに表側表示の罠カードが存在するとき、攻撃力を3000ポイントアップさせる!」

 

攻0→3000

 

「攻撃力、3000……!」

「さぁどうする黒野?」

 

 手札は0枚。でも、僕の墓地にはこの状況をひっくり返せるかもしれないカードが眠っている。

 深月から貰ったあのカードの効果を今、発動する。

 

「僕は墓地の【ファーニマル・ウィング】の効果を発動。自分フィールドに【トイポット】が存在するとき、墓地から他の【ファーニマル】とこのカードを除外することで1枚ドローする!【ファーニマル・ベア】を除外だよ!」

 

 エッジインプ・トマホーク。攻撃力も高くて使いやすいモンスターだ。

 

「さらに【トイポット】を墓地へ送る事で、追加で1枚ドローできる!さらに墓地へ送られた【トイポット】の効果で、【エッジインプ・シザー】を手札に加える」

「1枚の手札が3枚に……!?」

「深月のお陰だよ。これで必要なカードは揃った!僕は【エッジインプ・トマホーク】を攻撃表示で召喚!」

 

 投擲斧がいくつも重なった刃物の悪魔が現れる。

 

攻1800

 

「リバースカードオープン!【サディスティック・ポーション】!このカードは発動後、装備カードとなって【トマホーク】に装備されるよ。さらに【エッジインプ・トマホーク】は1ターンに1度、デッキから【エッジインプ】を墓地へ送りそのカード名をコピーする!僕は【エッジインプ・DTモドキ】を墓地へ送るよ。さらにもう1つの効果を発動。手札から【エッジインプ・シザー】を捨て、三沢君に800ポイントのダメージだ!」

 

LP2200→1400

 

「くっ……!」

「効果ダメージを与えたことで【サディスティック・ポーション】の効果を発動!装備モンスターの攻撃力はターン終了時まで、1000ポイントアップする!」

 

攻1800→2800

 

 王宮の勅命はその強力な効果の代償に、お互いのスタンバイフェイズ毎に700ポイントのライフを払わなければならない。だから三沢君のライフを削っておくのは重要だ。

 

「さらに僕は罠カード【デストーイ・カスタム】を発動!墓地から【ファーニマル】または【エッジインプ】と名のつくモンスター1体を特殊召喚する!僕が特殊召喚するのは、【エッジインプ・DTモドキ】!」

 

 僕のフィールドに、様々な玩具を縫い合わせたような不気味なモンスターが現れる。DT(デストーイ)モドキはまるで赤ちゃんの様にヨチヨチと歩き、笑い声をあげる。

 

攻1300

 

「今までの【エッジインプ】とは随分気色が違うな……」

「【エッジインプ・DTモドキ】は、ルール上【デストーイ】と名のついたモンスターとしても扱うからね。そしてその効果で、フィールドまたは墓地の【デストーイ】と名のつくモンスターと同じ攻守を得る!」

「黒野のフィールドに【デストーイ】は居ないが、墓地には……」

「僕は墓地の【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】の攻撃力をコピーする!」

 

 DTモドキが笑う。その影が揺らめいて形を変え、ホイールソウ・ライオの物になる。

 

攻1300→2400

 

「バトル!【DTモドキ】で、【ダイヤモンド・ドラゴン】に攻撃!」

 

 DTモドキがまるで引っ掻く様なしぐさを見せる。その小さいサイズでは届かないはずだが、ダイヤモンド・ドラゴンの体には確かに爪痕が刻まれる。

 

「くっ……」

 

LP1400→1100

 

「そして【トマホーク】で【ウォーター・ドラゴン】を攻撃!」

 

 守備表示のウォーター・ドラゴンの体に、いくつもの斧が突き刺さる。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだよ。そしてこのタイミングで、【DTモドキ】の攻撃力は下がるよ」

 

 DTモドキの影が元の物へと戻る。

 

攻2400→1300

 

 

遊陽 LP250 手札0

モンスター:エッジインプ・トマホーク エッジインプ・DTモドキ

魔法・罠:サディスティック・ポーション セット

 

 

「俺のターン、ドロー!……俺は【王宮の勅命】のコストとしてライフポイントを支払う」

 

LP1100→400

 

「これで終わりだ!【リトマスの死の剣士】で、【エッジインプ・トマホーク】を攻撃!」

 

 リトマスの死の剣士が、2本の剣を構えトマホークへと飛び掛かる。

 

「っ、リバースカードオープン!【援護射撃】!攻撃を受けた自分のモンスターの攻撃力を、他の自分のモンスターの攻撃力分アップする!」

 

 トマホークが攻撃される直前、死の剣士にDTモドキが飛び掛かる。

 

攻1800→3100

 

「【死の剣士】の攻撃力を上回っただと!?だが、【死の剣士】は戦闘では破壊されない!」

 

 DTモドキに掴まれ身動きの取れない死の剣士をトマホークが切り裂く……が、リトマスの死の剣士は霧のように消えてしまい、三沢君のフィールドに戻っている。

 

LP400→300

攻3100→1800

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

三沢 LP300 手札0

モンスター:リトマスの死の剣士

魔法・罠:王宮の勅命 セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズ、維持コストが支払えない為【王宮の勅命】は自壊する」

 

 そして永続罠を失ったことで、リトマスの死の剣士の攻撃力は元に戻る。

 

攻3000→0

 

 このまま攻撃すれば僕の勝ち。でもそんな簡単に勝てるとは思えない。きっと三沢君はリトマスの死の剣士をサポートできるカードを引き込めたはず。

 

「【DTモドキ】の効果で、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】のステータスをコピーする!」

 

 DTモドキの影が、再びホイールソウ・ライオへと変わる。

 

攻1300→2400

 

「バトル!【エッジインプ・DTモドキ】で、【リトマスの死の剣士】を攻撃!」

「永続罠発動!【宮廷のしきたり】!このカードがある限り他の永続罠は破壊されない」

「このタイミングではその効果に意味はないけど……!」

 

 表側表示の罠カードが存在するため、リトマスの死の剣士の攻撃力は上昇する。

 

攻0→3000

 

「僕は【DTモドキ】の攻撃宣言時に速攻魔法発動!【虚栄巨影】!モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

 DTモドキの背後の影が巨大化する。

 

攻2400→3400

 

「これで終わりだよ!ジェノサイド・ソウ!」

 

 DTモドキの影から幾つもの丸鋸が放たれ、リトマスの死の剣士を切り裂いた。

 

「くっ、うわぁぁっ!!」

 

LP300→0

 

「勝者は、シニョール遊陽ナノーネ!」

 

 歓声が上がる。ラーイエローの生徒たちは少し悔しげだったが、深月は嬉しそうな顔で拍手をしてくれた。

 

「また負けてしまうとは、今回のデッキには自信があったんだけどな」

「魔法封じは辛かったよ。オウルが来てくれなければどうなっていたか……」

「ふむ……次はモンスター効果も封じてみようか……?」

「それは……勘弁して欲しいなぁ」

 

 

 

 明後日は決勝戦。でもその前に、深月と遊城君の試合がある。

 深月は強いけど、それと同じくらい遊城君も強いだろう。

 

『おめでとう、遊陽!』

『ありがとう。深月。明日は深月の番だよね』

『うん。頑張るから、応援してよね?遊陽』

『勿論だよ。頑張ってね、深月』




「「今回の、最強カードは?」」

リトマスの死の剣士
儀式・効果/星8/闇属性/戦士族/攻 0/守 0
「リトマスの死儀式」により降臨。
(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、罠カードの効果を受けず、戦闘では破壊されない。
(2):罠カードがフィールドに表側表示で存在する場合、このカードの攻撃力・守備力は3000アップする。
(3):儀式召喚したこのカードが相手によって破壊された場合、自分または相手の墓地の罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを自分の魔法&罠ゾーンにセットする。

「三沢君の切り札。儀式モンスターだね」
「一見して低い攻撃力を甘く見てはいけないわ。表側表示の罠カードがあると、攻撃力は驚異の3000に!」
「その上罠カードの効果を受けないから、三沢君のやっていたように王宮の勅命と組み合わせると驚異の制圧力を発揮するね」


いかがだったでしょうか?第2回三沢戦、決着です。
トドメは地味になってしまいましたが、ウォーター・ドラゴン2種にリトマスまで出せたので個人的には満足です。もっと綺麗に出来たら良かったんですけどね。

さて、いよいよ次回は彼の出番。
主人公を差し置いて原作主人公の初試合を奪っていくヒロインの鑑。
それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー。


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12話 歌姫VS英雄!

いよいよ原作主人公さん登場です。


 ……たまに、ひどく苦しい夢を見る。

  私を囲む誰かの笑い声。

 

「あんな親の娘」

「顔だけいいから調子に乗って」

「だから虐められるのよ」

 

 女子トイレの個室の中で水をかけられる。

 冷たい水がポタポタと髪を伝って落ちる。

 

「お前が良い年になったら、お前も俺の女にしてやるよ!ハハハ!」

「あんたのせいよ……あんたが私からパパを奪ったの……!あんたなんか、生まなければ……」

 

 家にも私の居場所はない。

 父親が酒に酔って眠った隙をついて、おつまみをいくつかくすねて口に押し込む。私のご飯はこれだけだった。

 閉め出されたベランダで、小さな声で歌を歌う。何も持っていない私の、唯一の娯楽だ。

 何も悪いことはしていない筈なのに。どうして世界は、こんなにも私を嫌うのだろう。

 たった1人で良い。友達が、私の居場所が欲しかった。

 

 ……そんな時だった。■■■■に出会ったのは。

 

 

 

「……また、あの夢……」

 

 ……日の光が差し込んだ明るい部屋。ようやく慣れてきた、オベリスクブルーの私の部屋だ。

 枕もシーツも、そしてパジャマも汗でぐっしょりだ。気分が悪い。

 後でシャワーを浴びよう。

 今ではほとんど思い出さなくなってきた、遠い昔の記憶。私の両親は児童虐待がどうとかで連れていかれ、私は施設に入れられた。

 それ以来、私は声を我慢することなく歌うことも出来たし、デュエルにも出会えた。

 

「……遊陽」

 

 悪い夢を見た日は、いつも以上に彼の声が聞きたくなる。

 遊陽の声を聞いていると、心が落ち着く。安心する。

 私はPDAを起動し、遊陽に電話をかける。

 

『もしもし、遊陽?』

『もしもし。朝早くから珍しいね。何かあったの?』

『……ちょっと、嫌な夢を見たの』

 

 

 

 

「それデーハ、アカデミア代表決定戦第2試合を開始するノーネ。まずはオベリスクブルー女子寮代表、シニョーラ深月!」

 

 歓声が上がると共に、私はデュエルフィールドへと入場する。

 

「深月、頑張って!」

 

 観客席の中から遊陽が声をかけてくれる。それだけで私の力は何倍だ。

 遊陽に向けて拳を突き出し応える。

 

「えー、それーと、オシリスレッド代表、ドロッ……シニョール遊城十代ナノーネ……」

 

 なんだか苦々しげに名前を呼ぶ。とうの遊城君本人はそんなことは気にせず、観客へ手を振りながら私の前に立つ。

 

「おう!お前が星見だな。明日香から話は聞いてるぜ。お前、すげー強いんだろ?」

「え、えっと……よろしくね!遊城君。決勝戦に進むのは、私だよ!」

「へへっ、それはどうかな?三沢を倒したあいつともデュエルしてみたいからな。俺だって負けないぜ?」

 

 私と遊城君の視線が重なる。間にはきっと火花が散っている事だろう。

 

「それでは、始めるノーネ!」

 

「「デュエル!!」」

 

深月 VS 十代

 

「私の先攻、ドロー!私は【幻奏の音女オペラ】を召喚するわ!」

 

 高く、響く声で歌いながら、私のフィールドに音女が現れる。

 

攻2300

 

「レベル4で攻撃力2300だって!?」

「その代わり、召喚したターンは攻撃できないのよ」

「そっか、それなら安心……って、最初のターンは元々攻撃できないじゃねーか!」

 

 バレたか。

 オペラは高い攻撃力の代わりに速攻性を捨てているので、それを生かすには特殊召喚か、先攻1ターン目での召喚が必要になる。

 

「アニキー!頑張るっすよー!」

「きばれよー!」

「まかせとけ!」

 

 遊城君と同じオシリスレッド生からの声援だ。遊城君はきっと、彼らの希望の星なのだろう。

 成績が悪く、他の寮から見下される底辺の生徒が、学校の代表になるチャンスなのだ。

 だからといって負けてあげるつもりはない。私は遊陽にリベンジするのだ。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札4

モンスター:幻奏の音女オペラ

魔法・罠:セット

 

 

「俺のターン、ドローだ!」

 

 遊城君はドローしたカードをそのままフィールドに出す。

 

「行くぜ、来い!【E・HERO(エレメンタルヒーロー)スパークマン】!」

 

 遊城君の目の前に雷光が走り、光の戦士が参上する。

 

攻1600

 

「さらに装備魔法【スパークガン】を【スパークマン】に装備するぜ」

 

 スパークマンが、黒い銃を手に取り、オペラへと照準を向ける。

 

「【スパークガン】の効果を発動!フィールド上のモンスターの表示形式を変更するぜ!」

 

 スパークガンから放たれた電撃がオペラを襲い、その体を強制的に防御姿勢へと変える。

 

攻2300→守1000

 

「バトル!【スパークマン】で【オペラ】を攻撃だ!スパークフラッシュ!」

 

 スパークマンが電撃を纏い、右の拳をオペラへと向ける。

 

「っ、リバースカードオープン!【光子化】!相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分私の光属性モンスターの攻撃力をアップさせるわ!」

 

攻2300→3900

 

「攻撃力、3900……カードを1枚セット。ターンエンドだぜ」

 

 

十代 LP4000 手札3

モンスター:E・HEROスパークマン

魔法・罠:スパークガン(残り2回) セット

 

 

「私のターン、ドロー!私は、オペラを攻撃表示に変更するわ!」

 

守1000→攻3900

 

「さらに【幻奏の歌姫ソロ】を攻撃表示で召喚!」

 

 高らかに歌い躍りながら、1人の歌姫が現れる。

 

攻1600

 

「バトル!【幻奏の歌姫ソロ】で【E・HEROスパークマン】を攻撃するわ!」

「リバースカードオープン!【攻撃の無力化】!その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了するぜ」

 

 ソロの放つ飛び膝蹴りは、目の前に現れた渦に飲み込まれ無力となる。

 

「くっ……ターンエンドよ。この瞬間、オペラの攻撃力は元に戻るわ」

 

攻3900→2300

 

「すごいっス!攻撃力3000超えのモンスターの攻撃を止めたっスよ!」

「流石は十代なんだなぁ」

「だが気を付けろよ十代。彼女のデッキは防御重視の物量作戦。このままでは押しきられてしまうぞ」

 

 

深月 LP4000 手札4

モンスター:オペラ ソロ

魔法・罠:無し

 

 

「俺のターンだな、ドロー!……来たぜ、まずは【スパークマン】の効果で【ソロ】を守備表示へ変更だ!」

 

攻1600→守1000

 

「そして魔法カード【融合】を発動!」

 

 来る、遊城君が得意とする融合召喚!

 

「フィールドの【スパークマン】と手札の【E・HEROエッジマン】を融合!来い、【E・HEROプラズマヴァイスマン】!」

 

 2人のヒーローが渦に飲み込まれ新しい姿を見せる。

 黄金の鎧を纏ったスパークマンは、いくぶんか大きくなった体から電撃を発散する。

 

攻2600

 

「【プラズマヴァイスマン】は手札を1枚捨てる事で、相手の攻撃表示モンスター1体を破壊できるぜ!俺は手札を1枚捨て、【オペラ】を破壊する!」

 

 プラズマヴァイスマンが地面に手を突き刺すと、オペラの足元から雷が放たれ彼女を破壊する。

 

「【オペラ】っ!」

「さぁ、バトルだ!【プラズマヴァイスマン】で【幻奏の歌姫ソロ】を攻撃だ!」

「でも【ソロ】はあなたの【スパークガン】のお陰で守備表示!私はダメージを受けないわ!」

「いいや!【プラズマヴァイスマン】は、守備表示モンスターを攻撃したとき貫通ダメージを与える、貫通能力を持ったモンスターだぜ!」

 

 ソロを守備表示にしたのは、そのため……!?

 プラズマヴァイスマンはソロの体を掴み、電撃で破壊した。

 

「きゃぁっ!!」

 

LP4000→2400

 

「で、でも【幻奏の歌姫ソロ】の効果を発動!このカードが戦闘破壊されたとき、デッキから【幻奏】と名のつくモンスターを特殊召喚出来るわ!来て、至高の天才!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 ソロが最後にあげた歌声が音符や五線譜へと代わり、集まり、姿を変える。

 次の瞬間には、私のフィールドに指揮棒を手にした優雅な女性が立っていた。

 

守2000

 

「来たな、星見のエースモンスター!」

「ここから私の反撃よ!」

 

 私のフィールドに現れたモンスターにデュエルを見ていた生徒達も盛り上がる。

 

「星見さんも上手いじゃないか」

「勿論。深月は強いんだよ」

「守備表示で特殊召喚したことで、プラズマヴァイスマンの効果の対象外にしているのね」

 

 プラズマヴァイスマンとモーツァルトの攻撃力は同じ。それならきっとプラズマヴァイスマンの効果でモーツァルトの破壊を狙ってくるはず。……まぁ、連続攻撃される可能性も無くはなかったんだけどね。

 

「面白くなってきたぜ!俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 

十代 LP4000 手札0

モンスター:E・HEROプラズマヴァイスマン

魔法・罠:セット

 

 

「私のターン、ドロー!まずは【モーツァルト】を攻撃表示に変更するわ!」

 

守2000→攻2600

 

「そして【モーツァルト】の効果を発動するわ!1ターンに1度、手札から天使族モンスターを特殊召喚出来るわ!来て、【幻奏の音女エレジー】!」

 

 モーツァルトが指揮棒を振るい、私の手札から新しい天使が降り立つ。

 

攻2000

 

「特殊召喚した【幻奏の音女エレジー】の効果で、【幻奏】と名のつくモンスターの攻撃力は300ポイントアップするわ!」

 

モーツァルト攻2600→2900

エレジー攻2000→2300

 

「さらに魔法カード【フォトン・リード】発動!手札からレベル4以下の天使族モンスター1体を特殊召喚するわ!出てきて、【幻奏の音女アリア】!」

 

 フィールドに現れた光の糸に掴まり、3人目の音女が現れる。

 

攻1600→1900

 

「アリアとエレジーが揃ったな」

「あの布陣を突破するのは困難よ。さぁ、十代?あなたはどうするのかしら」

 

 アリアの効果で幻奏モンスターは戦闘破壊されず、効果の対象にならない。さらにエレジーの効果で効果破壊もされない。

 

「これが私の最強の布陣よ!バトル!【モーツァルト】で、【プラズマヴァイスマン】を攻撃!グレイスフル・ウェーブ!」

 

 モーツァルトの奏でる音の波がプラズマヴァイスマンを攻め立て、破壊する。

 

「くっ……」

 

LP4000→3700

 

「だが俺は罠カード発動するぜ!【ヒーロー・シグナル】!」

 

 デュエルフィールドの天井に、Hの文字が浮かび上がる。

 

「モンスターが戦闘で破壊されたとき、デッキからレベル4以下の【E・HERO】を特殊召喚できるぜ!来い、【E・HEROバブルマン】!」

 

 救援信号を受け、ヒーローが悪を倒しにやって来る。

 

守1200

 

「【バブルマン】の特殊召喚に成功したとき、俺の手札とフィールドに他のカードがない場合、俺は2枚ドロー出来るぜ」

「手札増強……私は【アリア】で【バブルマン】を攻撃!」

 

 颯爽と現れたヒーローが、アリアの歌声で昇天していく。

 

「続けて、【エレジー】でダイレクトアタックよ!」

 

 エレジーの歌声は指向性を持ち、遊城君を狙い打ちにする。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

LP3700→1400

 

「私はこれでターンエンド!」

 

 

深月 LP2400 手札2

モンスター:アリア エレジー モーツァルト

魔法・罠:無し

 

 

「ついにライフが逆転されちゃったっス……」

「十代ー、諦めるなよぉ……」

 

 相手のフィールドカードは無く、手札は2枚。だけどまだ油断はしない。

 

「俺のターン、ドロー!……俺はカードを2枚セットして、【カードカー・D】を召喚!」

 

 Dと書かれた、薄っぺらいカードの様な車が現れる。

 

攻800

 

「【カードカー・D】が召喚に成功したターンのメインフェイズ1に、こいつ自身を生け贄に捧げることで、俺はデッキからカードを2枚ドローするぜ!」

「召喚権を使う強欲な壺ってところね」

「そのかわりこの効果を使うターンは特殊召喚出来ず、発動した後はすぐにターンが終わっちまうけどな」

 

 

十代 LP1400 手札2

モンスター:無し

魔法・罠:セット セット

 

 

「私のターン、ドロー!……よし!私は【幻奏の音女カノン】を自らの効果で特殊召喚するわ。この子は私のフィールドに【幻奏】がいるとき、手札から特殊召喚出来るの」

 

守2000

 

「そして【モーツァルト】の効果を発動するわ!来て、【幻奏の音女タムタム】!」

 

 銅鑼の音を響かせながら、可愛らしい少女が私のフィールドに現れる。

 

守2000

 

「【タムタム】の特殊召喚に成功したとき、デッキから【融合】を手札に加えるわ。そして発動!手札の【幻奏の音女セレナ】とフィールドの【タムタム】を融合。今こそ舞台へ!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 2人の音女が渦の中で混じり合い、新たな力と姿を見せる。

 

攻2400→2700

 

「融合モンスターまで使ってくるのか!」

「遊陽とお揃いなの!このターンで終わらせちゃうから!バトル!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】で、ダイレクトアタック!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

 シューベルトがナイフの様な指揮棒で円を書く。空間に描かれた輪っかからは絶えず音が溢れ出し、波状攻撃を浴びせる。

 

「まだ負けないぜ!リバースカードオープン!【クリボーを呼ぶ笛】!その効果でデッキから【ハネクリボー】を特殊召喚する!頼むぜ、相棒!」

『クリクリー!』

 

 羽の生えた、小さなモンスターが現れ、シューベルトの攻撃を受け止める。

 

「で、でも私のフィールドには、まだモンスターがいるわ!」

「【ハネクリボー】が戦闘で破壊されたターン、俺が受ける全てのダメージは0になるぜ!ありがとな、相棒」

『クリィ!』

 

 ……?今、遊城君の隣に何かが見えた様な気がした。

 

「じゃあ、このターン中での決着はムリってことね。私は【アリア】を守備表示に変更。ターンエンドよ」

 

攻1900→守1200

 

 

深月 LP2400 手札0

モンスター:アリア エレジー モーツァルト シューベルト カノン

魔法・罠:無し

 

 

「すげぇ、お前すげぇよ!モンスターを5体もフィールドに揃えるだなんてさ!」

「え、えへへー。そうかな?」

「あぁ!俺は今、すっげーワクワクしてるんだぜ?この盤面をどうやってひっくり返そうか!」

 

 遊城君はキラキラとした瞳で語る。その姿は、良い意味で同い年のようには思えない。夢と希望に溢れた、子供の目だ。

 

「また始まったっス……」

「ふん!深月のフィールドは完璧なのよ!」

「えぇ。あのフィールドを簡単に突破できるとは思えませんわ」

 

 そう。私のフィールドは、いくつか穴があるとはいえかなり強固な盤面だ。だけど彼なら本当にこの場面をひっくり返してくる。返してくれる。そんな気がしてくる。

 

「さぁ行くぜ、俺のターン、ドロー!」

 

 全校生徒が彼のドローした1枚に注目する。彼はその期待に応えるように、そのカードを発動する。

 

「来たぜ!魔法カード【融合回収】!墓地の【融合】と【E・HEROエッジマン】を手札に戻す!」

「させないわ!【マイスタリン・シューベルト】の効果発動!墓地のカードを3枚まで除外し、除外した枚数1枚につき200ポイント攻撃力をアップ!私は【融合】、【エッジマン】、【スパークマン】の3枚を除外するわ!」

「それはどうかな?カウンター罠、発動!【ヒーローズルール2】!相手が墓地のカードを対象とする効果を発動した場合、その発動を無効にして、破壊するぜ!」

 

 墓地へと伸ばされたシューベルトの手は、遊城君の前に張られたバリアに遮られる。

 エレジーのお陰で破壊こそされないが、融合回収は問題なくその効果を発揮する。

 

「そして【融合】を発動!手札の【エッジマン】と【ワイルドマン】を融合!来い!【E・HEROワイルドジャギーマン】!」

 

 筋肉にまみれた体の男が、エッジマンの鎧を纏っている。

 

攻2600

 

「そして魔法カード【H-ヒートハート】を発動!【ワイルドジャギーマン】の攻撃力は500ポイントアップし、貫通能力を得る!」

 

 ワイルドジャギーマンが燃えるような闘志を得る。

 

攻2600→3100

 

「……攻撃力が、【モーツァルト】を超えた……!」

「そして【ワイルドジャギーマン】は、相手フィールドの全てのモンスターに1回ずつ攻撃できるぜ!バトル!【ワイルドジャギーマン】で【カノン】と【アリア】を攻撃だ!インフィニティ・エッジ・スライサー!」

「私のモンスターは戦闘では破壊されない。けど……」

「ダメージは受けてもらうぜ!」

 

 ワイルドジャギーマンの左腕の刃が展開する。そして同時に彼は担いだ大剣を右手で引き抜いた。

 1度目の攻撃は、左腕の刃でカノンを切り裂き、2度目は大剣でアリアを叩き潰す。

 

「きゃぁぁぁっ!!」

 

LP2400→1300→0

 

「な、ナンート……」

 

 クロノス先生が口をあんぐりと開けて固まっている。シン、とした空気が会場を覆うが、それはすぐに喝采へと変わる。

 

「しょ、勝者、シニョール遊城十代……ナノーネ……」

 

 クロノス先生が悲しげな声で呟く。

 

「負けちゃった……か」

 

 私は少し寝転んだまま、デュエルフィールドの天井を見ていた。

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

 

 遊城君が渡しに手を差し伸べてくる。私は少しだけ悩んで、彼の手を取り立ち上がる。

 

「私も楽しかったわ。……でも、遊陽は私よりもずっと強いんだから!」

「そりゃあ、今から楽しみだぜ!」




「「今回の、最強カード!」」

E・HEROワイルドジャギーマン
融合・効果/星8/地属性/戦士族/攻2600/守2300
「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

「遊城君が使ってきた融合ヒーローね」
「ヒートハートとか他のカードで貫通効果を与えると、全体攻撃能力が格段に強力になるね」
「ぐぬぬぅ……くやしいなぁ……」
「お疲れ様、深月。次は僕が遊城君と戦う番だね」
「応援してるわよ!」


祝・お気に入り数20突破!!
お気に入り登録・感想・評価、そして今お読みの皆さま方!誠にありがとうございます!
ここまで頑張って行けたのも読んでくださる皆様のお陰です!
時間も日も不定期な投稿ですが、今後ともお付き合い頂けたら嬉しいです!
ではではー!


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13話 ひとりぼっちと英雄と

ようやく十代と主人公のデュエルです。


 デュエルアカデミア本校の代表を選出する大会もいよいよ大詰め。明日は僕と遊城君がデュエルして、その勝者がノース校の代表とデュエルすることになる。

 遊城君は万丈目君や深月を倒すほどのデュエリストだ。

 

『くーやーしーいー!』

『あはは。お疲れ様、深月』

 

 電話越しの深月が叫ぶ。

 皆の前ではしっかり握手していたけどやっぱり悔しかった様で、さっきからそれしか言っていない。

 

『だってせっかくアリアとエレジー揃えたのよ?貫通ダメージは防げないけどさぁ……』

『アリアとエレジーが出せればほぼ勝ちとは言え、貫通能力持ちの入っているデッキは少なくないからね。そろそろ対策が必要かな?』

『そうねー。一応何枚か候補は考えてるけど……って!今は遊陽優先!どうするの?明日のデュエル』

『うーん、いつも通り、かな』

『いつも通り?』

『うん。三沢君用に入れてたカードを何枚か抜いて、既存のカードの枚数を調整するかな』

『それで大丈夫なの?』

『まぁ、これで頑張ってみるよ』

 

 正直な話、デュエルアカデミアの代表になることに興味はない。けど彼は深月を倒した相手だ。

 

『それじゃあ明日頑張ってね、遊陽』

『うん。絶対に仇は取るからね』

 

 

 

「えー、いよいーヨ、我がデュエルアカデミアの代表者が決定するノーネ。まずはオベリスクブルー寮代表、シニョール遊陽!」

 

 クロノス先生に名前を呼ばれたので、僕はデュエルフィールドに向かう。昨日や一昨日よりも多くの生徒が試合を見に来ていた。

 

「そしーて、オシリスレッド代表……シニョール十代……ナノーネ」

 

 相変わらずの贔屓っぷりだ。遊城君は僕の前に立ち、話始める。

 

「あの廃寮以来だな。あのときから、お前とデュエルするのを楽しみにしてたぜ」

「僕もだよ。深月の仇はしっかり取らせてもらうから」

 

 クロノス先生は僕達2人を交互に見て、頷く。

 

「それでは、デュエルを始めるノーネ!」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 十代

 

「僕の先攻、ドロー!僕は【エッジインプ・トマホーク】を攻撃表示で召喚!」

 

 僕のデッキの中では高いステータスを誇るモンスター。様子見から布石の用意までこなしてくれる頼れるモンスターだ。

 

攻1800

 

「【トマホーク】の効果を発動。デッキから【エッジインプ・シザー】を墓地へ送り、このターンこのカードは【エッジインプ・シザー】として扱うよ」

 

エッジインプ・トマホーク→エッジインプ・シザー

 

「さらに【融合徴兵】を発動。融合デッキの【デストーイ・シザー・ベアー】を遊城君に見せて、デッキから【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

 

 うん。これで取り合えず次のターンには動けそうだ。

 

「僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:エッジインプ・トマホーク

魔法・罠:無し

 

 

「俺のターンだな、ドロー!よっし!俺は【カードガンナー】を召喚だ!」

 

 ヒーローじゃないモンスター?……いや、そう言えば深月の時にもカードカー・Dとかいうモンスターを使っていた。ヒーロー一色と言うわけではないのだろう。

 両腕が銃口のおもちゃのような機械が現れる。

 

攻400

 

「【カードガンナー】の効果を発動!デッキの上からカードを3枚まで墓地へ送り、送った枚数につき500ポイント攻撃力をアップするぜ!俺は3枚を墓地へ送る!」

 

 遊城君のデッキから3枚のカードが飛び出し、カードガンナーに装填される。

 

攻400→1900

 

「バトル!【カードガンナー】で【エッジインプ・トマホーク】に攻撃だ!」

 

 カードガンナーから3枚のカードが放たれ、それは鋭い刃のようにトマホークを切り裂いた。

 

「くっ……」

 

LP4000→3900

 

「カードを1枚セットして、永続魔法【強欲なカケラ】を発動。これでターンエンドだぜ」

 

 遊城君の隣に、強欲な壺の下から3分の1が現れる。

 強欲なカケラはコントローラーの通常のドロー毎にカウンターを乗せ、カウンターが2つ以上乗った状態で自身を墓地へ送り2枚ドローするカードだ。早いところ処理してしまいたいけど、僕のデッキに魔法・罠カードを破壊できる手段は少ない。

 

 

十代 LP4000 手札3

モンスター:カードガンナー

魔法・罠:セット 強欲なカケラ

 

 

「……それじゃあ、始めようか」

「おっ!来るか!」

「僕は手札の【ファーニマル・ベア】の効果を発動。このカードを墓地へ捨て、デッキから永続魔法【トイポット】を1枚自分フィールド上にセットし、発動!」

 

 僕の背後に巨大なガシャポンが現れる。

 

「墓地の【エッジインプ・シザー】は手札を1枚デッキの上に戻し、墓地から守備表示で特殊召喚出来るよ」

 

守800

 

「さらに【融合賢者】を発動。デッキから【融合】を手札に加えるよ」

「な、なんかすげー手札のカードが入れ替わるな」

「そういうデッキだからね……僕は【融合】を発動。手札の【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ラビット】を融合!全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 小さな羽を持つウサギのぬいぐるみは遊城君に向け一礼し、鎖に絡め取られバラバラになる。鎖の魔物はその一片も逃がすことなく捕まえ、溶け合い、新しい姿へと変わる。

 

攻2000

 

「来たな!黒野の融合モンスター!」

「まだだよ!僕は融合素材となった【チェーン】と【ラビット】の効果で、デッキから【デストーイ・ファクトリー】を手札に加え、墓地の【ファーニマル・ベア】を手札に戻すよ」

 

 これで次の融合素材が揃った。遊城君もそれに気づいているようで、どんなモンスターが出てくるのか心を踊らせている。

 

「僕は【デストーイ・ファクトリー】を発動!墓地の【融合徴兵】を除外して、手札の【ファーニマル・ベア】とフィールドの【エッジインプ・シザー】を融合!」

 

 2度目の融合召喚に観客達が盛り上がる。

 

「全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

 ピンク色のクマのぬいぐるみをハサミが切り裂き、残骸と刃物は1つになる。

 

攻2200

 

「ひ、ひとりでやってるッス……」

「連続融合召喚……流石だな」

「その調子よー!遊陽ー!」

「じ、十代ー!きばれよー!」

 

 シザー・ベアーの攻撃力はお世辞にも高いとは言えない。けどその弱点をシザー・ベアー自信の効果で補うことができる!

 

「バトル!僕は【シザー・ベアー】で【カードガンナー】を攻撃!モンスターイート!」

 

 シザー・ベアーが玩具の兵隊を持ち上げようとする。

 

「させないぜ!リバースカードオープン!【攻撃の無力化】!攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 突如現れた渦がバリアの様に割って入り、シザー・ベアーの腕を遮る。

 

「躱されちゃったか。僕はカードを1枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP3900 手札0

モンスター:シザー・ベアー チェーン・シープ

魔法・罠:トイポット デストーイ・ファクトリー セット

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊城君がドローしたことで、強欲なカケラのカウントが1つ進む。

 

強欲なカケラ0→1

 

「俺は【カードガンナー】を守備表示に変更し、効果発動するぜ」

 

 3枚のカードがカードガンナーに装填される。しかし守備表示のカードガンナーがその攻撃力を活かすことは無い。

 

攻400→1900→守400

 

「そして頼むぜ相棒!俺は【ハネクリボー】を守備表示で召喚だ!」

『クリクリー!』

 

 クリボーという有名なモンスターに天使の羽が生えたモンスターだ。

 

守200

 

「ターンエンドだ」

 

 

十代 LP4000 手札3

モンスター:カードガンナー ハネクリボー

魔法・罠:強欲なカケラ(1)

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ハネクリボーは破壊されたターン戦闘ダメージを0に出来るモンスター。でもチェーン・シープならその効果の発動を封じることはできる。……でもここは、シザー・ベアーの強化を優先しよう。

 

「バトル、【デストーイ・シザー・ベアー】で、【ハネクリボー】を攻撃するよ。そしてこの瞬間、リバースカードオープン!【奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)】を発動!」

 

 カードの効果を受けたシザー・ベアーが輝く。

 

攻2200→3200

 

「ターン終了時まで【シザー・ベアー】の攻撃力は1000ポイントアップし、このターン2回まで攻撃ができるよ。その代わり【シザー・ベアー】の戦闘で遊城君はダメージを受けず、1枚ドローできる」

「おっ、ドローできるのか!」

「さぁ、攻撃を再開だよ!モンスターイート!」

 

 シザー・ベアーはハネクリボーを掴み、口に放り入れた。

 

「【シザー・ベアー】は戦闘破壊されたモンスターを攻撃力1000アップの装備カードにするよ!」

「だけど1回墓地へ送られるから、【ハネクリボー】の効果は発動するぜ!このターン俺は戦闘ダメージを受けない!」

 

 ハネクリボーを飲み込んだシザー・ベアーがひと回り大きくなる。

 

攻3200→4200

 

「続けて、【カードガンナー】にも攻撃!モンスターイート!」

 

 食べ足りないのか、シザー・ベアーはカードガンナーにもその手を伸ばし、口に入れる。

 

攻4200→5200

 

「【カードガンナー】が戦闘で破壊されたことで、俺は1枚ドローするぜ」

 

 遊城君に2枚のドローを許してしまったか。次のターンにはカケラの効果でさらに2枚ドローされる。それでも、攻撃力4000超えはそう簡単には撃破できないだろう。

 

「これでターンエンドだよ」

 

攻5200→4200

 

 

遊陽 LP3900 手札1

モンスター:シザー・ベアー チェーン・シープ

魔法・罠:トイポット デストーイ・ファクトリー カードガンナー ハネクリボー

 

 

「俺のターンだ!ドロー!」

 

強欲なカケラ1→2

 

「【強欲なカケラ】のカウンターが2つになったことで、そのカードを墓地へ送り2枚ドローするぜ!」

 

 遊城君の手札が8枚にまで膨れ上がる。

 

「さぁ、ここからがヒーローの反撃だぜ!魔法カード、【融合】発動!手札の【スパークマン】と【クレイマン】を融合し、現れろ!【E・HEROサンダー・ジャイアント】!」

 

 轟く雷鳴と共に、大柄な男のヒーローが現れる。

 

攻2400

 

「さらに魔法カード【融合回収】を発動して、墓地の【スパークマン】と【融合】を手札に戻すぜ。そしてもう一度【融合】を発動だ!」

 

 2回目の融合が発動される。遊城君はあまり連続融合してくるイメージは無かったけど、手札が多ければそんな芸当も可能か。

 

「今度は【スパークマン】【フェザーマン】【バブルマン】の3体を融合だ!来い!【E・HEROテンペスター】!」

 

 フィールドに嵐が吹き荒れる。その風のカーテンの中から、翼を持つヒーローが登場した。

 

攻2800

 

「カードを1枚セットし、【テンペスター】の効果を発動!自分フィールドのカード1枚……今セットしたカードを墓地へ送ることで、俺のモンスター1体は戦闘破壊されなくなるぜ。俺が選択するのは【テンペスター】自身だ!」

 

 セットされたカードが消え、テンペスターの周りを風のバリアが包む。

 

「そして【サンダー・ジャイアント】の効果を発動!1ターンに1度手札を1枚捨てることで、【サンダー・ジャイアント】の攻撃力より低い元々の攻撃力を持つモンスターを破壊する!」

「現在の数値ではなく、元々の攻撃力を参照する効果……!」

「【デストーイ・シザー・ベアー】の元々の攻撃力は2200!消え去れぇっ!」

 

 サンダー・ジャイアントは雷を弾の様にして打ち出し、シザー・ベアーを感電させる。

 

「せっかく攻撃力を上げたのに……!遊城君も凄いわね」

「いいぞー!アニキー!」

 

 一気にひっくり返った盤面に、再び会場が盛り上がる。

 

「バトルだ!【サンダー・ジャイアント】で【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!ボルティック・サンダー!」

 

 サンダー・ジャイアントは雷を纏い、ヒツジのぬいぐるみを殴り付ける。

 

「くっ……」

 

LP3900→3500

 

「でも【チェーン・シープ】は1ターンに1度、攻撃力をアップさせて蘇る!」

 

 上空から伸びた鎖が地面に突き刺さり、チェーン・シープの体を引き揚げる。

 

攻2000→2800

 

「問題ないぜ!【テンペスター】で【チェーン・シープ】を攻撃!【テンペスター】は自らの効果で、戦闘では破壊されない!」

 

 テンペスターの起こした嵐がチェーン・シープを吹き飛ばす。チェーン・シープも負けじと鎖を伸ばして巻き付けようとするが、それは風のバリアに阻まれてしまう。

 

「チェーン・シープを一方的に破壊したか!」

「……三沢君はどっちの応援をしてるのよ」

「どっちもだ!とても良いデータになるぞ!」

「さ、流石は秀才なんだなぁ」

 

 ……さて、困った。手札は1枚。相手フィールドには上級モンスターが2体。どうしたものか……。

 

「これでターンエンドだぜ!」

 

 

十代 LP4000 手札0

モンスター:サンダー・ジャイアント テンペスター

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー!……よし。僕は【デストーイ・ファクトリー】の効果を発動。墓地から【融合賢者】を除外し、手札の【エッジインプ・ソウ】と【ファーニマル・ウィング】を融合!」

 

 僕の目の前に天使の翼が現れる。エッジインプ・ソウはそれを引きずり込もうとして、すぐにやめる。ソウの体はドロドロに溶けていき、それがファーニマル・ウィングを飲み込んだ。

 

「全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 翼の面影などはカケラも無い。全身から丸鋸の飛び出たライオンのぬいぐるみが吼える。

 

攻2400

 

「そして墓地の【ファーニマル・ウィング】の効果を発動!【トイポット】が存在するとき、このカードと他の【ファーニマル】を墓地から除外することで、1枚ドロー出来る。僕は【ファーニマル・ベア】を除外して1枚ドロー」

 

 ドローしたカードは、虚栄巨影。これでホイールソウ・ライオの攻撃力を補える。

 

「さらに【トイポット】を墓地へ送ることで、追加で1枚ドローできるよ。そして【トイポット】が墓地へ送られたとき、デッキから【エッジインプ・シザー】か【ファーニマル】と名のつくモンスターを手札に加える。僕は【ファーニマル・ライオ】を手札に」

 

 これだけ揃えば十分か。僕はドローしたカードをデュエルディスクに置く。

 

「僕は【エッジインプ・DTモドキ】を召喚!その効果でフィールドの【ホイールソウ・ライオ】のステータスをコピーするよ」

 

 僕のフィールドに出てきた赤ん坊のような玩具の塊は、その影を伸ばしホイールソウ・ライオの形を真似る。

 

攻1300→2400

 

「【ホイールソウ・ライオ】の効果発動!相手フィールド上のモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!【テンペスター】を破壊させてもらうよ!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

 

 無数の丸鋸が雨のように降り注ぎ、テンペスターを破壊する。風のバリアは効果破壊にまでは対応していない。

 

LP4000→1200

 

「くっ、【テンペスター】!」

「バトルだよ!【ホイールソウ・ライオ】で【サンダー・ジャイアント】を攻撃!」

「同じ攻撃力での相討ち狙いか!?」

「違うよ!速攻魔法、発動!【虚栄巨影】!モンスターの攻撃宣言時、選択したモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

 ホイールソウ・ライオが巨大化する。

 

攻2400→3400

 

 そしてその膨れ上がった質量でサンダー・ジャイアントを叩き潰した。

 

「うわぁぁっ!!」

 

LP1200→200

 

「これで終わりだよ!【エッジインプ・DTモドキ】で、ダイレクトアタック!ジェノサイド・ソウ!」

 

 DTモドキの影が丸鋸を遊城君に飛ばし、大きな爆発を引き起こした。

 

「や、やったか!?」

「遊陽……!」

 

 決着は着いた。そんな空気が会場に流れる。しかし、

 

LP200

 

「いいや、まだ俺は負けてないぜ!」

「……遊城君のフィールドにセットされたカードは無く、手札も0枚。一体どうやって……」

「俺は【DTモドキ】の攻撃宣言時、墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果を発動したのさ。このカードをゲームから除外し、相手からの攻撃を1度だけ無効にするぜ」

「【カードガンナー】の効果……かな」

 

 惜しかった。残る1枚の手札はファーニマル・ライオだから、これ以上は動けない。

 

「……ターンエンドだよ」

 

ホイールソウ・ライオ攻3400→2400

DTモドキ攻2400→1300

 

 

遊陽 LP3500 手札1

モンスター:ホイールソウ・ライオ DTモドキ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー

 

 

「お前、やっぱりスゲェよ!ずっとワクワクしっぱなしだぜ」

「ワクワク?」

「あぁそうさ!次はどう動こう、相手は何をしてくるだろう、そして俺のデッキが、俺に応えてくれるのか。このデュエルの何もかもが楽しいぜ」

「……ライフポイントは残り200。フィールドには何のカードもなく、手札はこのターンのドローで1枚。それでも、楽しい?」

「あぁ!俺は絶対に諦めない。俺の仲間達がいるからな!行くぜ、俺のターン、ドロー!」

 

 遊城君はドローしたカードを確認し、ガッツポーズする。

 

「よっしゃぁ!俺は魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】発動!墓地の【E・HERO】を5体デッキに戻して2枚ドロー。そしてこのカード以外にフィールド・手札にカードがない場合は、代わりに3枚ドローするぜ!」

「ここに来てドローソース……!」

「墓地の【バーストレディ】【フェザーマン】【バブルマン】【スパークマン】【クレイマン】をデッキに戻し、3枚ドロー!」

 

 バーストレディはカードガンナーの効果で墓地へ送られていたのだろう。ホープ・オブ・フィフスのイラストに書かれた5人の戦士達が遊城君の元に戻っていく。

 

「さらに俺は魔法カード【貪欲な壺】を発動!墓地の【サンダー・ジャイアント】【テンペスター】【カードガンナー】【ハネクリボー】【フレンドッグ】の5体をデッキに戻し、2枚ドローだ!」

 

 カードガンナーの墓地肥やし効果がここに来て効いてきている。それにしても連続でドローカードを引き当ててくるなんて。彼はやっぱりただ者ではないのだろう。

 

「さぁ、行くぜ!フィールド魔法【フュージョン・ゲート】を発動!このカードは融合素材モンスターをゲームから除外し、【融合】無しでモンスターを融合召喚するフィールド魔法だ!手札の【エッジマン】と【ワイルドマン】を融合!来い!【E・HEROワイルドジャギーマン】!」

 

 手札から現れた二人の戦士が、雷雲の様な黒い渦に吸い込まれていく。

 そして深月を倒したあのヒーローが、戦いの舞台に現れる。

 

攻2600

 

「【ワイルドジャギーマン】は、相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できるぜ!行け!【ホイールソウ・ライオ】と【DTモドキ】に攻撃だ!」

 

 ワイルドジャギーマンは左腕の刃でDTモドキを切り裂き、右手の大剣でホイールソウ・ライオを真っ二つにする。

 

「くっ……!」

 

LP3500→3300→2000

 

「カードを1枚セット。これでターンエンドだ!」

 

 

十代 LP200 手札0

モンスター:ワイルドジャギーマン

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン」

「さぁ、次はお前の番だぜ」

「僕の?」

「あぁ!」

 

 今の手札のモンスターではあのヒーローを倒せない。だからこのデュエルの結果は、このドローに賭かっているとも言える。

 

「……なるほどね。確かに僕もワクワクしてきたよ」

「だろ?どれだけ相手を追い詰めても、その次のドローで逆転されるかもしれない。だからデュエルは面白いのさ!」

 

 僕は肩の力を抜くと、デッキに手を置き、カードを1枚引き抜く。

 

「……僕のターン。ドロー!」

 

 ドローしたカードは、魔玩具融合。このカードを使って、墓地のデストーイ3体を……いや。まだあのカード(・ ・ ・ ・ ・)を呼ぶ場面じゃないだろう。それを出さなくても、僕には勝つ手段がある。

 

「行くよ!【魔玩具融合】、発動!墓地の融合素材モンスターをゲームから除外し、【デストーイ】と名のつくモンスターを融合召喚する!墓地から【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ラビット】をゲームから除外!融合召喚!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 僕の足元にピンクと水色の渦が広がり、その中からヒツジのぬいぐるみが現れる。

 

攻2000

 

「ここで魔玩具融合を引いたのか!」

「1度チェーン・シープでワイルドジャギーマンを攻撃して、攻撃力2800になったところでもう一度攻撃すれば、遊陽の勝ちよ!」

「そんなっ!アニキ!」

 

 深月の言う通りだ。チェーン・シープの効果によって相手は攻撃宣言時にカード効果を発動できない。これで詰みだ!

 

「バトル!」

「この瞬間、永続罠を発動するぜ!」

「――っ!?」

「発動!【王宮の牢獄】!このカードがある限り、お互いに墓地のモンスターを特殊召喚できない!」

 

 ……あぁ。これは負けたかな。

 

「……流石だよ。遊城君。僕は【ファーニマル・ライオ】を守備表示で召喚。ターンエンド」

 

守1200

 

 

遊陽 LP2000 手札0

モンスター:チェーン・シープ ファーニマル・ライオ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー

 

 

「俺のターン、ドロー!……よし!俺は【E・HEROスパークマン】を召喚!そしてバトル!【ワイルドジャギーマン】で【チェーン・シープ】と【ファーニマル・ライオ】に攻撃!」

 

 僕のフィールドのモンスターは一瞬で全滅する。王宮の牢獄の効果で、チェーン・シープを蘇生させることもできない。

 

スパークマン攻1600

 

LP2000→1400

 

「これでトドメだっ!【スパークマン】でダイレクトアターック!」

 

 スパークマンの放った電撃が僕を襲い、そのライフを消し去った。

 

LP1400→0

 

「マ、マンマミーア……」

 

 クロノス先生が言葉を失い崩れ落ちる。

 会場は大騒ぎだ。天下のオベリスクブルー男子寮がオシリスレッドに負けてしまったのだから。

 

「あはは、参ったよ」

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

「……うん。確かに、楽しかったよ。十代君」

「また今度デュエルしようぜ!遊陽!」

 

 僕達はそんな騒ぎを気にすること無く、どちらともなく伸ばした手で握手を交わした。




「「今回の最強カードは?」」

魔玩具融合
通常魔法
「魔玩具融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分のフィールド・墓地から、「デストーイ」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

「遊陽のデッキの最強の魔法カードね!」
「デストーイ・ファクトリーを除いて最低3枚の消費が必要な融合召喚を、このカードは1枚で行えるよ」
「ただし素材は除外されちゃうから、再利用がしにくくなってしまうことには注意ね!」


13話、VS十代でした。最後に融合召喚しようとしていたのは一体なんだったのか。それは彼のみぞ知る、感じですね。
いよいよ次回からはセブンスターズ編です!
……の前に番外編があるかも知れないですが完全に気分なので未定です。

それではまた次回も、読んでいただけたら嬉しいです!
ではではー。


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幕間 決闘学園千代古譲渡戦線

デュエルアカデミア・バレンタイン・フロントライン

今回はデュエル無しです。ラブコメモドキ。


 デュエルアカデミアは、太平洋の中心にある孤島に建てられた学園だ。

 従って、四季を感じにくい。

 冬休みが終わり、学園の代表を決める大会が終わり、何だかんだあって万丈目君……いや、自称万丈目サンダー君が帰ってきたこの頃。

 日にちで言うならば、2月13日。

 ……本州では雪が見られるような季節だけど、今日もアカデミアは暖かい陽気に包まれていた。

 

「……こ、今年こそ……!ちゃんと、こっ、告白まで……!」

 

 私は震える手で、目の前の洋菓子を……チョコレートを持ち上げ箱に仕舞う。

 学生達への配慮か、購買部には季節に応じたものが一応置いてある。……まぁクリスマスでも夏日なので季節感など皆無だけど。

 購買部のバイトなどで元手を用意した私は、誰にも見られないようトメさんに話を通しこっそりとチョコレートの材料を調達してきた。そしてオベリスクブルー食堂の厨房を借り、チョコレートを完成させたのだ。

 試作品の数々は厨房のスタッフやトメさん達に(半分口止め料として)渡してきたし、遊陽以外の皆に配る義理・友チョコも用意した。

 ……準備は完璧。後はこれを遊陽に渡すだけ。

 

「お、落ち着くのよ……私……!」

 

 そう。大丈夫。遊陽は毎年喜んでくれている。だからいつも通りに渡すだけ。……それと、ちょっとだけ言葉を付け足すだけ……。

 

「……それができないから苦労するのよね……」

 

 ……そう。いつも、なのだ。

 去年は受験の為とか言って延期。

 一昨年は地元のカードショップで開かれる大会が近かったから延期。

 そしてその前の年も……何だかんだ理由をつけて、毎年チョコを渡すだけに留まってしまっているのだ。

 

「決戦の日は、明日……!」

 

 くよくよ悩んでいては仕方ない。私は覚悟を決めると、チョコレートを備え付けの冷蔵庫に仕舞い、布団に潜り込んだ。

 

 

 ……次の日。バレンタインデー当日。

 

「ぁあ~やっぱり無理だぁ……」

 

 渡すだけならできる。あと一歩が届かない。渡すだけなら場所を考える必要もないのだ。あくまでも習慣の一部として体に染み付いている。

 しかしその、告白をするとするなら、ムードだったり周囲の目だったりと色々なことに気を配らなければならない。

 

「……学校、行かなきゃ」

 

 特に休日と言う訳じゃないから普通に授業がある。仮病でも使って心を落ち着かせたいのは山々だけど、そんなことするわけには行かない。

 とりあえずチョコレートは部屋に置いておき、女子寮を出る。

 ブルー寮の外では、既に遊陽が私の事を待っていた。

 

「お待たせ、遊陽!」

「おはよう深月。……顔が赤いけど、熱でもあるの?」

「えっ!?あっ、ううん!全然元気よ!」

「そう?それなら良いんだけと」

 

 今日の授業は、1時限目が錬金術だ。オシリスレッド寮長の大徳寺先生の授業だけど、何かとトラブルが多い上に、居眠りしていたり出席すらしていない生徒も多い。

 

「よって3人のヘルメスが――」

 

 錬金術、なんて大層な名前だからどんなオカルト授業なのかと最初は思っていたが、内容的には化学の歴史や哲学的な思想……そしてデュエルモンスターズにおける融合召喚との関係など、オカルトとは一蹴出来ないものだ。

 

「マクロコスモス、そしてミクロコスモス……この場合、ミクロコスモスが何を指しているのか……分かるかニャ?三沢君」

「はい。ミクロコスモスは人間の事を指しています」

「その通りニャ。ミクロコスモスは人間の事とされ、大宇宙であるマクロコスモスと互いに影響して――」

 

 ……でも、これって将来使いますか?

 

 

 といった具合で錬金術の授業が終わる。2限は佐藤先生が受け持つ『禁止・制限カード学』の授業。今までのデュエルモンスターズの環境の変化を振り返り、ルール改訂等から今後の環境の変化等を考察していく、という授業だ。

 

「……で、あるからして。今回のルール改訂によって禁止になったカードの特徴としては――」

 

 大徳寺先生の授業に続けて佐藤先生の授業を持ってくる時間割りはかなりの生徒から不評を買っているらしい。

 佐藤先生の授業も大徳寺先生の物に負けないほど退屈らしく、遊城君なんかは2限連続で居眠りしてしまっている。

 

「……遊城君、また寝てるわね」

「そうだね。……あんなんじゃ注意されちゃうよ」

 

 そんな遊陽の予想は正しく、佐藤先生は遊城君の肩を叩き起こそうとする。

 

「あ、あにきー……おきてー……」

「んふぁ?」

「……遊城君、今回のルール改訂で新たに禁止・制限になったカードの特徴を答えてください」

 

 佐藤先生は冷ややかな瞳で遊城君を見つめている。毎回居眠りされれば、怒りたくなるのは当然だろう。

 

「あー、えっとー……スゲェ強いです!」

 

 間違ってはいないのがさらに火に油を注ぐのだろう。周りはわなわなと震える佐藤先生には気づかず爆笑している。

 

「……それもそうですが、それは特徴とは言えません。今回禁止にされたカード、魔導書の神判は1枚で多数のアドバンテージを稼げるだけでなく、魔導というデッキの性質上容易に回収・再利用が可能です。この様に制限やデメリット無しで多数のアドバンテージを得られるカードは規制される傾向が強く、過去に規制されたカードには第六感が挙げられ――」

 

 遊城君の態度が悪いこと以外は、特にトラブル無く授業は進んでいく。

 

「それでは、今日の授業はここまでです」

 

 ……確かに退屈かもしれない。けど隣に遊陽がいる限りは大丈夫だ。彼がいるだけで、私の世界は明るいのだから。

 

「そういえば深月ってさ、最近購買部でバイト始めたんだよね?」

「えっ!あ、うん!そうよ!」

「何か欲しい物でもあったの?それとも、学費?」

「あー、えとー……学費は奨学金と、足りない分は院長先生が貸してくれてるから大丈夫!」

 

 院長先生……私がお世話になっていた施設の院長さん。デュエルアカデミアの理事長さんと仲が良い様で、私がアカデミアに入りたいと思っていたところ、それを手伝ってくれたのだ。

 そういえば、この学校の理事長ってどんな人なのだろうか。お世話になったからお礼を言いたいけど、どうすれば会えるのか全く分からない。今度校長先生にでも聞いてみようかな?

 

「そう?あまり無理しないでね」

「大丈夫よ!体力には自信があるの!」

 

 遊陽の前でガッツポーズをして見せる。遊陽は半分あきれた様子で微笑む。

 そんな具合で雑談していると、3限・4限通して行われるデュエル実技の授業が始まる。担当は勿論、クロノス先生だ。

 

「――さて、それデーハ、今回も2人組を作ってデュエルを行ってもらうノーネ」

 

 その言葉を待っていたかのように、遊陽の前にサラサラの金髪ヘアが現れる。

 

「さぁ我がライバル!今回もデュエルしようじゃないか!」

「……また?」

「お、俺からもお願いするっすよ……」

「……頼む」

 

 いつもの取巻き君2人もセットだ。鏡泉君はラーイエローだった遊陽に負けてしまったけど、今でも3人で仲良くつるんでいるようだ。

 

「良いんじゃない?私は明日香とデュエルしてくるわ」

「……そう?まぁ、それなら良いよ」

 

 最近鏡泉が強くなってきたとよく電話で話してくる。遊陽が負けるなんて考えにくいけど、この間の遊城君みたいなのもあるから、油断はできないのだろう。

 

 

 午前の授業が終わり、お昼休みが始まる。私は急いで購買部へと移動し、売店の内側に立つ。

 

「いつもこんな時間から出てもらって、悪いわねぇ」

 

 優しげな声が聞こえる。ベテランの購買部員、トメさんだ。

 

「お昼ご飯食べる時間も少なくなっちゃうでしょ?」

 

 私は昼休みの前半と、放課後に購買部のバイトを入れている。放課後はパックを求める生徒達がまばらにやって来る程度だけど、昼休みの、特に前半はすごい人数が集まってくる。

 そのお目当てはドローパン。何の具が入っているかは完全ランダム。まさにドロー力が試されるパンだ。生徒達は半分遊び感覚で、または超激レアの黄金のタマゴパンを求めてドローパンを買っていく。

 

「全然大丈夫です!ちゃんと勉強もデュエルも出来てますし、ここで働くのも楽しいです!」

「そう?嬉しいこと言ってくれるじゃない!私達も助かってるのよ?深月ちゃんが来てから、今まで以上にお客さん増えたのよ」

「そうなんですか?」

「そうよぉ、深月ちゃん可愛いから、深月ちゃんに会いたくて来てる人もいるに違いないわ!」

 

 ……私に会うために、わざわざここまで来る人が居るのだろうか。

 

「す、すみません!ドローパン1つ!」

 

 レジの外から声をかけられる。

 

「あっ、すみません!ドローパン1つですね!」

 

 ここで働くようになってから1ヶ月も経っていないが、昼休みのラッシュを何度も経験したからか、作業には慣れてきた。

 

「またお越しくださいませー!」

 

 名前も知らない、顔も見たことがないから恐らくは先輩であろう男子は、顔をほんのり赤くして去っていく。室温が高いのだろうか。空調の調整が必要かな?

 

「それじゃ、お願いね」

「任せてください!」

 

 トメさんは裏に引っ込み、在庫の確認や発注等の作業を進める。

 レジに向き直すと、そこには遊陽が立っていた。

 

「さっきぶりだね、深月」

「あ、遊陽!」

「ドローパン2つお願い」

「2つも食べるの?」

「1個は深月の分だよ。図書室で待ってるね?」

「うん。ありがと!」

 

 遊陽はドローパン2つを手に購買部を出ていく。続いてやってきたのは青い制服の女子達だ。

 

「いらっしゃいませ!」

「やっほー、深月!」

「ジュンコ、ももえ、それに明日香も!皆ドローパンでも買いに来たの?」

「ええ。たまには運試しと言うのも良いかと思いましたの」

「そう。だからドローパン3つ、お願いするわ」

「はーい。……あ、そうそう」

 

 私はレジの下にしまっておいた小さなチョコレートを3つ取り出し、会計を終えたドローパンと一緒に渡す。

 

「はい、友チョコだけどね。頑張って作ったのよ?」

「……チョコ?」

 

 明日香が首をかしげる。さすがデュエルに恋している女子は違う。

 

「明日香様!今日はバレンタインですよ!」

「えぇ。愛する人や普段お世話になっている人に、チョコレートを渡す日ですわ」

「い、言われなくても分かってるわよ!……そうね、忘れてたわ」

 

 明日香が頭を押さえる。

 

「え、なになに明日香。渡したい人でも居たの?」

「あっ、いや!そういう訳じゃないわ!」

「えー?遊城君とか?」

「っ!か、彼とはそういう関係じゃないわ!」

 

 結構男勝りな性格だと思っていたけど、案外可愛い思想の持ち主なのかもしれない。

 ……のわりには、バレンタインデーが記憶から抜け落ちていた様だけど。

 

「それじゃ!バイト頑張ってね!深月」

「またねー」

 

 そういえばドローパンを食べたことがない気がする。具はランダムだから、黄金のタマゴじゃなくても高級素材の入ったものもある。黄金のタマゴ、食べてみたいなぁ。

 そんなことを考えながらレジを打っていると、また見知った顔が現れる。

 

「やぁ、星見さん」

「こんにちは。三沢君も購買部使うのね」

「気分が向いた時にな。パンは片手で食べられるから、研究の供にちょうど良いんだ」

「勉強熱心ね……そうだ!はい、これ」

 

 三沢君にも小さなチョコレートの入っている包みを渡す。

 

「これは?」

「チョコレートよ。勉強には甘いもの、でしょ?」

「……あぁ、そういえば今日は……黒野にはもう渡したのか?」

「ま、まだ……なんだ」

「そうか。学生の本分は勉強だが、たまにはこう言うのも良いかもしれないな。チョコレートありがとう、陰ながら応援させてもらうよ」

「ありがとね、三沢君」

 

 遊陽がブルー寮になってから一緒に行動する頻度こそ下がったものの、良く一緒に勉強しているらしい。学年1位と2位が一緒に勉強会……それはもうレベルの高い議論がなされているのだろう。たまに学年3位の鏡泉君も加えているようだ。

 

「そろそろ空いてきたし、上がっても良いわよ」

「そうですか?それではトメさん、また放課後に来ますね」

 

 さぁ、お昼ご飯だ。そんなタイミングで、3人の男子が購買部にやって来る。

 

「良し!まだドローパン残ってるぜ!」

「もー!アニキがクロノス先生の前で居眠りしてたからッスよ!」

「巻き添えなんだなぁ」

 

 そういえば彼ら3人は遊城君の居眠りのせいでまとめて説教を食らっていたんだか。遊陽が遊城君に負けてから、かなり機嫌が悪いようだ。

 

「いらっしゃい、遊城君、丸藤君、前田君」

「おう!ドローパン頼むぜ!」

「僕もッス!」

「お願いするんだなぁ」

「毎度ありがとね」

 

 3人にもパンと一緒にチョコを渡す。

 

「こっ、これは……!」

「うん?チョコレートか、なんかキャンペーンでもやってたのか?」

「バレンタインッスよ!アニキ!」

「ど、同級生から貰ったのは初めてなんだなぁ」

「僕もッス……!」

「あはは。喜んでくれて良かったわ」

「サンキューな、星見!」

 

 購買部を出ていく3人を見送り、今度こそ私も購買部を出る。

 遊陽はバイトのせいでお昼ご飯が遅れる私を待っていてくれている。

 私は遊陽がいつも待っている図書室に向かう。

 

「いたいた。お待たせ、遊陽」

「お疲れ様、深月。それじゃあ、場所を変えようか」

「うん」

 

 当然図書室内は飲食厳禁。私達は校舎内にある休憩スペースへと移動する。

 遊陽はビニール袋の中からドローパンを2つ取り出す。

 

「どっちがいい?」

「じゃあ……左で!」

 

 私はドローパンを開封し、取り出す。見た目は丸い普通のパンで、市販のものだとアンパンに似ている。

 

「せーの、で食べましょ?」

「いいよ」

「「せーの」」

 

 パクリ。

 中からは肉汁と良い匂いが溢れ出てくる。

 

「これは……ハンバーグよ、遊陽!」

「すごいね!僕は……なんだろ、これ。黒いぶつぶつ……?」

 

 遊陽はなんだか微妙そうな顔でパンを見ている。中には黒い玉がいくつも詰められていた。

 

「……それ、もしかしてキャビアじゃない?」

「キャビア?」

「そうよ!世界三大珍味の1つ。チョウザメの卵を塩漬けにしたもの!すごいじゃない、そんな高級素材を引き当てるなんて!」

「そうなんだ。深月も食べる?」

「え、良いの?」

「うん。ちょっと……僕の口には合わないかなぁ」

 

 遊陽からパンを受け取り、ひとくちかじる。

 

「しょっぱいのね……それに結構濃いわね」

「いくらとか数の子の食感とは違うよね」

「そうね」

 

 ……あっ。

 

「かっ、かかかか……」

 

 間接キスだ……コレ。

 衝撃の真実に気づき固まる私。その様子を知ってか知らずか遊陽が言う。

 

「もし深月が良ければ、食べちゃってよ」

「えっ、あっ、そのっ、いいの?」

「うん。あまりお腹も空いてないしね」

 

 ……遊陽が口をつけたところは最後まで残しておこうかな。

 って何考えてるのよ私!そんなの私が変な人みたいじゃない!

 

「……深月?突然首を振りだしてどうしたの?」

「え、あ、む、虫が居たのよ!」

「虫かぁ。日本なら無いだろうけど、ここは2月だけど暖かいからね」

 

 若干の勿体なさを感じつつも、遊陽のパンを頬張る。遊陽はそれを嬉しそうに見ていた。

 

「あ、じゃあ!これ、お返し!」

 

 ハンバーグパンを一旦袋に戻し、別の袋に入れていたチョコレートを取り出す。

 

「これは?」

「毎年だけど、チョコレートよ。今日はバレンタインデーだから!」

「あ、そっか!……うん。この気候じゃ季節感がないからね。2月だって分かってても中々繋がらなかったよ」

「みんなそんな感じね……えっとその、遊陽のは、特別頑張ったから……!」

「……深月?」

 

 こんな突然でいいのだろうか。幸いにも周りに人はいない。けどムードもへったくれもない。でもここを逃すとまたいつチャンスが来るかは分からない。

 受験も終わったのだ。今なら色々と余裕がある。だから、言え、言え!私!

 

「あのね、私ずっと、遊陽のこと――」

「ありがとう、早速食べても良いかな?」

 

 私の言葉に被せるように遊陽が言う。

 私の中で勢いづいていた言葉は失速し、喉をを過ぎることなく消えていく。

 

「……あ、うん。食べて!」

「深月の作る料理はどれも美味しいから、うれしいよ」

 

 遊陽がパッケージングされた箱を開け、ハートの形をしたチョコレートを取り出した。

 

「可愛いチョコだね。それじゃあ、頂きます」

 

 遊陽が手の平サイズのチョコレートをかじる。遊陽の好きなドライフルーツを混ぜた特製チョコだ。

 

「中身も美味しいね。ありがとう、深月」

「ど、どういたしまして!お返しは3倍よ?」

「あはは、こんなに良いものの3倍かぁ、用意できるかな?」

 

 『こんなに良いもの』。冗談のつもりで言った筈が、とんでもないカウンターを食らってしまった。

 ……あぁ、ダメだ。幸せだ。

 結局告白は出来なかったけど、それはもう少し先でも……良いよね?

 

 

 

「……はい、分かってますよ。約束は守ります。あなたには感謝してますから」

 

 電話を切る。いよいよ、始まるのだ。

 

「ごめんね、深月。ホワイトデーまで生きていられるか、分からないや」

 

 もうすぐ、この学園に闇のデュエリスト達が集結する。下手をすれば僕も消えてしまうのだろう。

 ……深月の好意には気づいている。

 自惚れかもしれないけど、僕は深月に好かれているとは思っている。それが恋愛感情か、友情なのかは別の問題として。

 僕は深月を幸せにするんだ。でも、僕が一緒にいても彼女を幸せには出来ない。

 

「……深月、ごめんね」

 

 僕はただ――




イチャイチャしやがって。
初のデュエル無し回。次回からいよいよセブンスターズ編ですね!
神判さんは槍玉に挙げられただけで魔導登場フラグとかでは無いです。
それではまた次回、お会いできたら嬉しいです。
ではではー!


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14話 襲来、セブンスターズ!

いよいよセブンスターズ編です。ですがセブンスターズ編はそこまで長くならない筈。全ての戦いに関わる訳では無いので……。
今回はデュエル描写は少な目です。



「よっしゃあ!昼飯だぁ!」

「寝てたんすか?」

「気づけよ、翔」

 

 4限目の錬金術の授業が終わる。十代君はすぐに目を覚ますと、机の下から弁当箱を取り出し食べ始める。

 

「あぁ、遊城十代君。お昼ご飯はちょっと待って欲しいのニャ」

「えっ?」

「十代君には私と一緒に校長室に行くのだニャ」

 

 ……とうとう居眠りの注意でもされるのだろうか?

 

「あー、呼ばれちゃったわね、遊城君」

「大丈夫かな?心配だね」

 

 深月が心配そうな瞳を彼に向ける。

 1発で退学とまでは行かないかもしれないけど、こっぴどく怒られてしまいそうだ。

 

「あぁ、それと万丈目君、三沢君、黒野君、明日香さん、深月さんもだニャ」

「わ、私も!?」

「あ、トメさんには話を通してあるから、安心して来て良いのニャ」

 

 深月が自分を指差しながら聞く。まさか自分が呼ばれるとは思っても見なかったのだろう。

 

 

 授業が終わり、大徳寺先生と共に校長室へ。部屋の前で丸藤先輩を連れたクロノス先生とバッタリ出会った。

 

「そうそうたる顔ぶれデスノーネ。あなた達も校長に呼ばれたのデスーカ?」

 

 そして挨拶のごとく十代君に皮肉を言うが、やはりと言うかなんと言うか、彼には通じていないようだった。

 校長室に入ると、校長の鮫島先生が深刻そうな表情で椅子に座っていた。

 

「おお、皆さん。良く来てくれました」

「一部を除いて優秀なデュエリスト達を集めて、何かおありデスーノ?」

「ええ。このデュエルアカデミアを、いえ、世界を揺るがしかねない大事件です」

「な、ななななナンート?」

「……まずは、三幻魔のカードについてお話しせねばなりませんね」

「三幻魔?」

 

 十代君が鮫島先生に聞き返す。

 

「そうです。この島に封印されている、古より伝わる3枚のカードです」

「えっ、デュエルアカデミアって、そんな古い建物なのか?」

「黙って聞け十代!」

「そもそもデュエルアカデミアは、そのカードが封印された場所の上に建っているのです」

 

 校長先生の話によると、この学園の地下深くには3枚のカードが封印されており、そのカードが放たれたとき、世界は魔に包まれ、破滅する……そう伝わっているらしい。

 

「そしてそのカードの封印を解こうと、挑戦してきた者達が現れたのです」

「だ、誰なんですか?」

 

 深月が少し震えた声で聞く。

 

「七星皇。セブンスターズと呼ばれるデュエリスト達です。謎に包まれた人物ですが、既にその一人がこの島にいます」

 

 そんな危険人物がすぐそばにいる。その事実に、集められた皆がざわつく。

 

「でも、どうやって封印を解くのですか?」

 

 天上院さんが不安そうな声音で言った。

 

「三幻魔のカードは、七精門と呼ばれる7つの巨大な石柱により封印されています。石柱には1つ1つ対応する鍵があるのです」

 

 そう言った校長先生が、小さくも頑丈そうなケースを取り出し、開ける。そこには鍵とは思えないような形の、古代のアクセサリの様な物が入っている。

 

「では、セブンスターズはそれを盗みに……?」

 

 三沢君は少し驚いたとは言え冷静なようで、現状の把握を進めている。

 

「ええ。そこであなたたちに、この7つの鍵を守って頂きたいのです」

「守ると言っても、どうするつもりなんです?向こうが力付くでくれば……」

 

 万丈目君は若干の怒気をこめ言う。彼の言う通りだ。盗む手段を問わないのなら、僕のように体力の無い人間に渡すのは危険だろう。

 

「この鍵を手に入れる方法は1つ。デュエルです」

 

 その予想外の……いや、この場所の事を考えれば至極当然かもしれない事実に、皆が驚く。

 

「七精門の鍵を奪うには、デュエルで勝たなければならない。これは古より伝わるルールなのです。ですから、学園内でも屈指のデュエリストであるあなたたちに集まってもらったのです」

「ひーふーみー、ここには9人いるノーネ」

「ええ。クロノス先生と大徳寺先生には、生徒達のサポートを行ってもらいたいのです。クロノス先生は実技指導者として、大徳寺先生には、錬金術や精霊の知識を生かして、三幻魔に関する伝説の調査をお願いしたい」

「そ、そんなに詳しく無いのニャ~……」

 

 鮫島先生が続ける。

 

「もしあなたたちに、彼らと戦う覚悟があるのなら……この鍵を受け取って頂きたい」

 

 開けたケースを、僕たちの方へ少しだけ押す。皆が少し躊躇っていたが、十代君はすぐにその手を伸ばす。

 

「へへっ、やってやるぜ」

 

 そして彼につられてか、先生を除いた7人がその鍵を手に取った。

 

「皆さん、ありがとうございます。この瞬間から戦いは始まっています。いつでもデュエルの準備をしておいてください」

 

 

 

 

『……なんて言われたけど、結局誰も来てないわね。最初に島に居たって言う人も、遊城君がやっつけたみたいだし』

『来ないに越したことはないよ。危ない人だろうし。……深月は、良かったの?』

『え、何が?』

『……十代君、倒れたんでしょ?闇のデュエル……だってさ』

 

 オベリスクブルーの自室で、深月と通話をして居た。

 深月が闇のデュエルを行う。あのサイコ・ショッカーとの戦いが脳裏に浮かんできてしまう。あの時は勝てたから良いけど、セブンスターズ達はあれとは比べ物にならないくらい強いのだ。

 

『……ほんとはね、ちょっとだけ、後悔してるの』

『……なら、』

『でも、頑張るわ。三幻魔が世界を滅ぼしたりしたら、遊陽と一緒に居られないもの』

『……深月』

『だから一緒に頑張りましょ?遊陽!』

 

 その声は震えていた。空元気なのだろう。努めて明るい声音を作っているが、限界が見えている。

 

『いつ来ても良い様に、一緒にデッキの調整をしない?』

『そうだね』

 

 そんな話をしてカードを机に広げた所で、何者かの気配を感じる。

 振り向くと、窓の外の宵闇に、赤い光が2つ灯っていた。

 

『……深月、カーテンを閉めて』

『え?……わ、分かったわ』

 

 シャッ、と言う音が電話越しに聞こえる。僕もその光から目を反らさず、カーテンを閉めた。

 

『それで、どうかしたの?』

『今、外から誰かが覗いていたんだ』

『……こ、恐い話……?』

『ううん。新しいセブンスターズ……だと思う』

『セブンスターズが部屋を覗いて何を……まさか、デッキの内容でも見ようって事なの?』

『そうかもしれないね。念のため他の皆にも伝えておこう。天上院さんにお願いできる?』

『任せて!』

 

 僕はまず三沢君に電話を掛ける。

 

『もしもし、三沢君』

『黒野か!大変だ、クロノス先生が闇のデュエルを始めた!』

 

 

 深月も天上院さんから同じ話を聞いたのだろう。僕達2人は三沢君の言っていた湖のほとりまで向かう。そこには遊城君と天上院さんを除いた鍵の持ち主が揃っており、クロノス先生とデュエルしているのは、背の高い外国人の女性だ。

 

「まさか、あの綺麗な人がセブンスターズ?」

 

 深月が女性の姿を見て呟く。女性はその声に気づくと、深月の方を見た。

 

「あら、綺麗だなんて嬉しいわ。そうね、次の獲物は貴女にしてあげても良くってよ?」

 

 

クロノス LP4000 手札0

モンスター:古代の機械巨人 古代の機械兵士

魔法・罠:無し

 

背の高い女性 LP4000 手札0

モンスター:ヴァンパイア・ソーサラー

魔法・罠:無し

 

 

「……さて、最上級モンスターを出せただけで、調子に乗らないことね先生?」

「ゲラゲーラ!強がってもムダナノーネ!」

 

 フィールドを見る限りはクロノス先生押している様だけど……。

 

「来たか、黒野」

「三沢君、クロノス先生は鍵を持っていない筈。なのにどうして?」

「……自分から挑んだんだ。生徒には指一本触れさせないと」

「先生……」

 

 デュエルしていた先生がこちらに気づく。

 

「シニョール遊陽、そしてシニョーラ深月も来たノーネ?……では、良く見ておくノーネ。闇のデュエルなど、存在しなイート!」

 

 クロノス先生がカミューラを指差す。

 

「私は誇り高きデュエルアカデミア実技担当最高責任者!この私がいる限り、生徒達に闇のデュエルなどさせないノーネ!バトル!【古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)】で【ヴァンパイア・ソーサラー】を攻撃するーノ!」

「【ヴァンパイア・ソーサラー】は守備表示……でも」

「【古代の機械巨人】は相手が守備表示でもダメージを与える、貫通能力を持っていマスーノ!」

 

 ヴァンパイア・ソーサラーの守備力は1500。そして古代の機械巨人の攻撃力は、3000!

 

「アルティメット・パウンド!」

 

 巨大な機械がヴァンパイアの魔術師を殴り潰す。

 

「ふふ、アハハ!」

 

LP4000→2500

 

「【ヴァンパイア・ソーサラー】が相手によって墓地へ送られた事で、私は【ヴァンパイア】と名のつくモンスターをデッキから手札に加えるわ」

「ぐぬぬ……しかーし、【古代の機械兵士(アンティーク・ギアソルジャー)】による直接攻撃が残っていまスーノ!プレシャスバレット!」

 

 古代の機械兵士がマシンガンの様な片腕を乱射する。

 

「くっ……」

 

LP2500→1200

 

「私はこれで、ターンを終了するノーネ!」

 

 

クロノス LP4000 手札0

モンスター:古代の機械巨人 古代の機械兵士

魔法・罠:無し

 

 

「やはり貴方は雑魚で愚かだわ先生?」

 

 圧倒的に優位なのはクロノス先生だと言うのに、背の高い女性は彼を嘲るように笑う。

 

「クロノス先生は弱くなんか無いぜ!」

 

 そしてそこに、丸藤君と前田君に肩を担がれた十代君がやってくる。

 

「ドロップアウトボーイ……」

「あぁそうだ!クロノス教諭は、お前みたいな奴に負けるほどやわじゃない!」

 

 ここにいる皆が、クロノス先生を信頼している。しかし女性は非難の視線を浴びせられても気に留めることなく笑っていた。

 

「アハハ!雑魚は雑魚同士、傷の舐め合いでもしていれば良いわ!私は高貴なるヴァンパイア族の末裔カミューラ!この私にデュエルを挑んだこと、後悔なさい!私のターン、ドロー!」

 

 カミューラと名乗った女性は、その口を大きく開く。その口から、2本の鋭いキバがちらりと見えた。

 

「墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動!このカードを墓地から除外することで、このターン私が【ヴァンパイア】を召喚するために必要な生け贄を無くす事ができるわ!」

「……!ネクロダークマンと似た効果!じゃあ、あいつが召喚するのは……!」

「当然、上級モンスターよ!来なさい!美貌と誘惑の化身、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

 墓地から現れたソーサラーが自らを生け贄に、カミューラの持つモンスターを召喚させる。

 現れたのは、美しい外見を持つ女性のモンスター。彼女は妖艶な視線を僕達に向ける。

 

攻2000

 

「……キレイだ」

「ああ……」

 

 その美貌に、ここにいる男子達が魅了されてしまう。

 ……確かに綺麗ではあるけど、深月程では無いかなぁ。

 

「な、なんなノーネその麗しいモンスターハ?」

「このカードこそ、貴方に止めを指すモンスターよ」

 

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの攻撃力は2000。機械兵士を倒して効果が発動するのか、それとも何か効果を使って機械巨人を突破するのだろうか。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果発動!このモンスターの召喚に成功した時、または私のフィールドに【ヴァンパイア】が召喚されたとき、このカードより攻撃力の高い相手モンスター1体を、自らの眷属(装備カード)とし、その攻撃力を吸収するわ!」

 

 ヴァンパイアの女性が機械巨人に向けウィンクする。すると機械巨人はフラフラと歩いていき、ヴァンパイアに跪く。

 

攻2000→5000

 

「ペペロンチーノッ!?」

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の魅力は、機械でさえ支配するのよ!」

 

 古代の機械巨人を従えたヴァンプ・オブ・ヴァンパイアは、カミューラと同様相手をバカにした様な視線を投げた。

 

「そしてフィールド魔法、【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を発動するわ!その効果により、私のアンデット族モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ500ポイントアップするわ!」

 

 ヴァンパイア帝国の効果が適用されれば、あのモンスターの攻撃力は5500。そしてクロノス先生のフィールドには、攻撃力1300のモンスターしか居ない。

 

「……諸君、良く見ておくノーネ。そして約束するノーネ。例え闇に飲まれたとしても、決して心を折らぬこと。デュエルとは本来、青少年に夢と希望を与えるものナノーネ」

 

 ……対抗できる手段は、無いのだろう。

 

「最後の授業は終わりかしら、先生?ゆけ、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!あの雑魚モンスターを捻り潰しなさい!クランプ・オブ・ヴァンパイア!」

 

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが古代の機械巨人に投げキッスを飛ばすと、巨人は跪いた姿勢から立ちあがり、古代の機械兵士を見つめる。

 

「そんな、クロノス先生ーっ!」

 

 機械巨人は拳を大きく振り上げ、機械兵士へと叩きつけた。

 

「……ボーイ!光のデュエルを……!」

 

LP4000→0

 

 爆風が巻き起こり、舞い上がった塵や埃が僕達の視界を遮る。風が収まり目を開けるようになったころには、既にクロノス先生の姿は無かった。

 

「クロノス先生、どこ行っちまったんだよ……!?」

「彼はここよ?」

 

 カミューラの手には、ストラップに使われそうなサイズの小さな人形が握られている。その見た目は、クロノス先生を小さく、可愛らしくしたものだ。

 

「私との闇のデュエルに負けたものは、この人形に魂を封印されるの……残念だけど彼は鍵を持っていない。だから今日のはちょっとした挨拶ね。また明日ここにいらっしゃい?相手になってあげるわ!」

 

 それだけ言い残し、カミューラはクロノスの人形を捨てゆらりと消えていった。

 残された僕達はただ、湖の向こうを見つめていた。

 

 

「あれが……闇のデュエル、なのね」

 

 オベリスクブルーの食堂で2人。深月が沈んだ顔で呟く。

 1度は勝利をおさめているとは言え、敗者の末路を直視してしまったのだ。

 

「……やっぱり、深月は関わっちゃダメだよ。鍵を、僕に預けてくれないかな」

「……それじゃあ、遊陽が危ないじゃない!」

 

 絶対に渡さない、という意思表示か、深月が胸元の鍵を握りしめる。

 

「……でも、」

「でもも何も無いわ!……私は、大丈夫だから」

 

 そんな時、三沢君から電話がかかってくる。

 

『三沢君?どうしたの?』

『……あれから1日たったが、気分は大丈夫か?』

『……ううん。僕も深月も、あんまり』

『そうか。あまり無理はするなよ』

『三沢君は、今日も行くの?』

『あぁ。次にあいつと戦うのは、この俺だ』

 

 電話が切られる。

 声が聞こえていたのだろう。深月がデュエルの準備をしている。

 

「……さ、行きましょ?」

「……やっぱり、こうなるんだね」

 

 深月を行かせたくは無い。あんな危険なデュエルを、もう2度と行わせたくない。

 

「絶対に、深月はデュエルしちゃだめだよ」

「……約束は出来ないわ」

 

 夜の森を進み、昨日も行った湖にたどり着く。湖には赤いカーペットが敷かれており、それは湖に浮かぶ中世風の城に繋がっていた。

 

「……来たのか、黒野」

「深月が行くなら、僕も行かなくちゃ」

「人数が増えたみたいだが、あいつと戦うのはこの俺様だ!」

「いいや、俺に決まってんだろ!」

 

 カーペットに足を置く。水の上に浮かんでいるはずなのにそれは驚くほど安定しており、転倒の危険は無さそうだ。

 城の内部はかなり古い。あちらこちらの壁からは塗装が剥げ落ちており、割れたガラスや鏡が散乱している。

 城の探索を続けると、ホールなのだろうか、開けた場所へと出てきた。

 

「よく来たわね!歓迎致しますわ!」

 

 ホールの上の階の吹き抜けから見下ろす影。

 

「カミューラ……」

「あら、昨日の可愛い子じゃない。でも残念、坊やと女の子には興味がないの。私の相手は貴方よ?」

 

 カミューラが、丸藤先輩を指差した。

 

「……良いだろう。俺が相手だ!」

 

 丸藤先輩は怒気を込めた声で答え、階段を登りカミューラと向かい合う。

 

「フフフ。やっぱり好みだわ。さぁ、始めましょう?闇のデュエルを!」

 

「「デュエル!!」」




「「今回の、最強カードは?」」

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア
効果/星7/闇属性/アンデット族/攻2000/守2000
(1):このカードが召喚に成功した時、または自分フィールドに「ヴァンパイア」モンスターが召喚された時に、このカードより攻撃力が高い相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(3):このカードの効果で装備カードを装備したこのカードが墓地へ送られた場合に発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。

「2人目のセブンスターズが使った最上級モンスターね」
「相手モンスターを装備化という形で除去した上で、さらに自身の攻撃力を上昇させてくるよ」
「さらにモンスターを装備している状態なら、墓地へ送られても再生してしまうわ!」
「助かるのは対象をとる効果だから対処しやすいのと、装備効果はターンに1度の制限があることだね」


ダークネスさんとのデュエルにはまったく関わってないので、カミューラ戦からの参戦です。
カミューラさんといえば例のチートカード。そろそろ飛行エレファントもOCG化されましたし来ても良いのよ。
それではまた次回も読んでいただけるとうれしいですー。


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15話 幻魔の扉、発動

初のアニメオリカ登場回です。


丸藤亮 VS カミューラ

 

「俺の先攻だ!ドロー!俺は、【サイバー・ドラゴン・コア】を守備表示で召喚」

 

 丸藤先輩のフィールドに、細長い機械の龍が現れる。普段使われているサイバー・ドラゴンとは違い貧弱そうだが、あのモンスターはサイバー・ドラゴンの素体なのだろう。

 

守1500

 

「【サイバー・ドラゴン・コア】の召喚に成功した時、デッキから【サイバー】または【サイバネティック】と名のつく魔法・罠カードを手札に加える。俺は【サイバー・ネットワーク】を手札に加え、カードをセットしてターンエンドだ」

 

 

亮 LP4000 手札5

モンスター:サイバー・ドラゴン・コア

魔法・罠:セット

 

 

「随分と控えめなのね?私のターン、ドロー!来なさい、【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 コウモリがカミューラのフィールドに集まり、その中からヴァンパイアの女性が現れる。

 

攻1550

 

「バトルよ!【ヴァンパイア・レディ】で【サイバー・ドラゴン・コア】を攻撃!」

 

 レディがサイバー・ドラゴン・コアに飛びかかる。

 

「永続罠発動!【サイバー・ネットワーク】!自分フィールドに【サイバー・ドラゴン】が存在するとき、1ターンに1度デッキから機械族・光属性のモンスター1体をデッキから除外する!」

「【サイバー・ドラゴン・コア】はフィールド・墓地で【サイバー・ドラゴン】として扱うモンスター……!」

「よく知っているな。その通りだ。俺はデッキから【サイバー・ドラゴン】をゲームから除外する!」

 

 しかし攻撃が防がれる事は無く、サイバー・ドラゴン・コアは破壊された。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

カミューラ LP4000 手札4

モンスター:ヴァンパイア・レディ

魔法・罠:セット

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地の【サイバー・ドラゴン・コア】の効果発動!相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、墓地のこのカードを除外することで、デッキから【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

 墓地のコアが現れる。そしてコアに様々な機械のパーツが装着され、完全なサイバー・ドラゴンとなって丸藤先輩のフィールドに現れる。

 

攻2100

 

「さらに【サイバー・ネットワーク】の効果で2体目の【サイバー・ドラゴン】をデッキから除外する!」

 

 これで3体のサイバー・ドラゴンが手の届く範囲に揃った。

 

「そして魔法カード【マジック・プランター】を発動。永続罠カードである【サイバー・ネットワーク】を墓地へ送り2枚ドローする。さらに【サイバー・ネットワーク】が墓地へ送られた時、ゲームから除外されている機械族・光属性のモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 

 ゲームから除外されていたのは2体のサイバー・ドラゴン。

 

「2枚のドローをしつつ、サイバー・ドラゴン3体をフィールドに揃えた……!流石お兄さんッス!」

「あぁ。やっぱりカイザーは強いぜ!」

 

攻2100×2

 

「そして魔法カード【パワー・ボンド】発動!機械族の融合モンスターによって決められた融合素材を手札・フィールドから墓地へ送り、その融合モンスターを攻撃力を2倍にして融合召喚する!俺はフィールドの【サイバー・ドラゴン】3体を融合!出でよ、【サイバー・エンド・ドラゴン】!」

 

 3つの首を持つ巨大な機械龍が降臨する。あのカードこそ、丸藤先輩……カイザー亮の切り札。

 

攻4000→8000

 

 その圧倒的な攻撃力と、貫通能力でデュエルを終わらせる(エンド)最強のサイバーモンスターだ。

 

「攻撃力8000……!でも少し早まったわね。【サイバー・ネットワーク】の効果でモンスターを特殊召喚したターン貴方はバトルフェイズを行えず、さらに【パワー・ボンド】の効果によりこのターンのエンドフェイズ、貴方は4000のダメージを受け敗北するのよ!」

 

 やけにカード効果に詳しい。やっぱり、僕らを覗いていたのは――

 

「私達のデッキを覗き見してたのは、あなただったのね!」

 

 深月が叫ぶ。カミューラは一瞬驚いたような視線を彼女に向け、すぐに笑い出す。

 

「オホホホホ!バレてしまったのね。えぇそうよ。私の瞳は私のしもべたちが見てきたものを映し出すの。貴方達の戦術、しかと調べさせてもらったわ!」

「っ、お前、卑怯だぞ!」

 

 十代君が言う。

 

「アハハ!これは命を賭けた戦い。卑怯もラッキョウもありませんわ!」

 

 手段を選ばない。あくまでも光のデュエルを目指す僕達に対して、闇のデュエリストは優しくはしてくれない。

 しかし彼女の発言を聞いても、丸藤先輩は落ち着いていた。

 

「ご忠告痛み入る。しかしお節介は結構だ。俺は【サイバー・ジラフ】を召喚」

 

 機械で作られたキリンのモンスターが現れる。その首はそこまで長くはない。恐らくは麒麟がモチーフのモンスターだ。

 

守800

 

「【サイバー・ジラフ】の効果発動。このカードを墓地へ送り、このターン俺が受ける効果ダメージは0になる」

「あら、余計なお世話だったわねぇ」

「カードを3枚セット。ターンエンドだ」

 

 

亮 LP4000 手札2

モンスター:サイバー・エンド・ドラゴン

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「私のターンね、ドロー!私はリバースカードオープン!【ヴァンパイア・アウェイク】!デッキから【ヴァンパイア】と名のつくモンスターを特殊召喚するわ!来なさい、魅惑と美貌の化身!【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

 カミューラの前に棺が現れ、その中から美しいヴァンパイアが目を覚ます。

 

攻2000

 

「そして私は、【ヴァンパイア・ベビー】を守備表示で召喚」

 

 小さな犬歯をチラリと覗かせた赤ん坊のヴァンパイアが現れる。

 

守1000

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果!【ヴァンパイア】が召喚されたとき、相手フィールドに存在するこのカードより攻撃力の高いモンスターを装備するわ!」

 

 ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアがサイバー・エンド・ドラゴンへ向け投げキッスを飛ばす。

 

「させるか!俺は速攻魔法【融合解除】を発動!【サイバー・エンド・ドラゴン】を融合デッキへ戻し、墓地から【サイバー・ドラゴン】3体を特殊召喚する!」

 

 魅惑のキッスは寸前で回避され、3体の機械龍に分裂する。

 

攻2100×3

 

「あら、残念。フラれちゃったわ。……ならば私は永続魔法【ヴァンパイアの領域】を発動!このカードが存在する時、500ライフを支払う事で、通常の召喚に加えてもう1度【ヴァンパイア】を召喚出来るわ。【ヴァンパイア・ベビー】を生け贄に、来なさい、【ヴァンパイア・ロード】!」

 

 青年風のヴァンパイアが現れ、丸藤先輩へ向け一礼する。

 

LP4000→3500

攻2000

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】を ゲームから除外することで、手札の【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚するわ!」

 

 ヴァンパイア・ロードの体が隆起していき、筋肉に溢れた巨大なヴァンパイアへと変貌を遂げる。

 

攻3000

 

「攻撃力、3000……!」

「あれがあいつの切り札ってわけか!」

 

 十代君と万丈目君は好戦的な瞳でジェネシスを見ている。

 

「【ヴァンパイアジェネシス】の効果発動!手札の【ヴァンパイア・グレイス】を墓地へ送り、そのモンスターよりレベルの低いアンデット族モンスターを墓地から特殊召喚するわ。【グレイス】のレベルは6。蘇りなさい、レベル3!【ヴァンパイア・ベビー】!」

 

守1000

 

「バトル!【ヴァンパイアジェネシス】よ、【サイバー・ドラゴン】を打ち砕け!ヘルビシャス・ブラッド!」

 

 ジェネシスの体から無数のコウモリが放たれ、サイバー・ドラゴンに襲いかかる。

 

「リバースカードオープン!【アタック・リフレクター・ユニット】!自分フィールドの【サイバー・ドラゴン】1体を生け贄に捧げ、デッキから【サイバー・バリア・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

 サイバー・ドラゴンに様々なパーツが取り付けられ、バリアを発生させる新しい姿へと代わる。

 

攻800

 

「そして【サイバー・バリア・ドラゴン】が攻撃表示で存在する時、相手モンスターの攻撃を1ターンに1度だけ無効にする!」

「くっ……!」

 

 無数のコウモリは、バリアに弾かれ風化して行く。

 

「【ヴァンパイア・アウェイク】の効果で特殊召喚したモンスターは、ターン終了時に破壊されるわ。ターンエンド」

 

 

カミューラ LP3500 手札0

モンスター:ジェネシス ベビー レディ

魔法・罠:ヴァンパイアの領域

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はセットした速攻魔法【フォトン・ジェネレーター・ユニット】を発動!フィールドの【サイバー・ドラゴン】2体を墓地へ送り、デッキから【サイバー・レーザー・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

 2体のサイバー・ドラゴンの姿が重なり、一回り大きい機械龍が現れる。その尾っぽにはレーザー砲塔が取り付けられている。

 

攻2400

 

「デッキを覗き見ていたのなら知っているだろう。【サイバー・レーザー・ドラゴン】は1ターンに1度、自身の攻撃力より高い攻撃力、または守備力を持つモンスターを破壊する!破壊光線フォトン・エクスターミネーション!」

 

 放たれた極太のレーザーは、ヴァンパイアジェネシスの腹部に風穴を開ける。

 

「さらに俺は【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】を召喚。バトルだ!」

 

 サイバー・ドラゴンとはすこし異なったデザインの機械龍が現れる。

 

攻1500

 

「【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】で【ヴァンパイア・レディ】を攻撃!【ツヴァイ】はモンスターに攻撃したとき、その攻撃力を300アップさせる!」

 

攻1500→1800

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイはレディに巻き付き、破壊する。

 

「【サイバー・レーザー・ドラゴン】で【ヴァンパイア・ベビー】を攻撃!」

 

 先程よりは細めのレーザーがヴァンパイア・ベビーを真っ二つに焼き切った。

 

「最後に【サイバー・バリア・ドラゴン】でダイレクトアタック!」

「きゃぁぁっ!!」

 

LP3500→2700

 

「俺はカードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

亮 LP4000 手札1

モンスター:バリア・ドラゴン レーザー・ドラゴン ツヴァイ

魔法・罠:セット

 

 

「流石はお兄さんだ!あの人を相手にまだダメージも受けてない!」

「この俺に勝っただけはあるな!」

「なんで偉そうなんだお前は!」

 

 状況は丸藤先輩の圧倒的有利。カミューラが使えるカードは、次にドローする1枚のみだ。

 

「デッキの内容を覗き見ただけじゃ、この学園のカイザーには勝てないって事ね!」

「うん。僕達の出番は無さそうだね」

 

 カミューラはわなわなと震え始める。

 

「憎い、憎いわぁ!かわいさ余って憎さ100倍よ!」

 

 整っていた顔は般若のように代わり、長い2本の牙を隠そうともしていない。

 

「ドロー!」

 

 カミューラは勢いよくカードを引き、そして笑い始めた。

 

「アハハハハ!」

「……一体、何を引いたんだ……?」

 

 その尋常ならざる様子に、流石の丸藤先輩がたじろぐ。

 

「このカードで、私の勝ちよ!」

「……俺のセットしたカードは【サイバネティック・オーバーフロー】。自分の手札、墓地、フィールドから【サイバー・ドラゴン】を任意の枚数除外し、除外した数だけ相手のカードを破壊するカードだ」

「アハハっ!そんなのは関係ないわ!私は魔法カード【幻魔の扉】を発動!」

 

 カミューラの背後に、禍々しく巨大な扉が現れる。

 

「聞いたこともないカードだぜ」

「……遊陽は、知ってる?」

「……ううん。知らないよ」

 

 幻魔の扉が開き、重く苦しい瘴気が僕達を包む。

 

「先ずはその効果により、相手フィールド上のモンスターを全て破壊するわ!」

 

 丸藤先輩のフィールドのモンスター達が扉へと吸い込まれ消えていく。

 

「何っ!?」

「そして、このデュエル中に相手がプレイしたモンスターを1体、召喚条件を無視し、あらゆる場所から私のフィールドに特殊召喚するわ!例え融合解除で戻された融合デッキの中からでもね!」

 

 相手フィールドを一層に、自分フィールドにモンスターを召喚する効果。

 

「なんて強力なカードなんだ……」

 

 三沢君が圧倒され、絞り出した声で呟く。

 

「っ、インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

 それでも万丈目君は、カミューラに向け言い放った。

 

「その代わり、このカードには重い代償が課されているわ。このカードを発動したデュエルで敗北した場合、発動者の魂は幻魔の物になる」

 

 白い霧のような腕が現れ、カミューラの首を掴む。

 

「……自分の命を賭けた、最後の切り札って事ね」

「ありえないわ、そんなカード……」

 

 しかしその代償は、デュエルそのものに影響を与える訳じゃない。結果として負けなければ、コストなど有って無いようなものだ。

 

「でも、折角だから闇のデュエリストらしくしたいわよね」

 

 カミューラが首につけられた金色のチョーカーに触れると、目玉を模した装飾が紅く輝き、カミューラの姿が分裂する。

 

「貴方達の誰かに、コストを肩代わりしてもらう、ってのはどうかしら?」

 

 そう言うや否や、分身のカミューラが空を飛ぶ。

 

「っ!翔、逃げろ!」

「えっ!?」

 

 だが既に遅い。丸藤君はカミューラに噛まれ、さらわれてしまう。

 

「私は彼の魂を幻魔に預け、【サイバー・エンド・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 幻魔の扉から、あのモンスターが現れる。

 皇帝の象徴としてこの学園に君臨し、かつて数多のデュエリスト達を葬り去った強力無比なあのモンスターが。

 

攻4000

 

「さぁ、伏せカードを発動してみなさいな!私が負ければ、貴方の弟の魂は幻魔の物となり、二度と戻っては来ない」

「卑怯よ!そんなことして楽しいの!?」

 

 深月の言葉にも、カミューラはまったく悪びれない。あまりにも理不尽で、悪意に溢れた状況。

 

「楽しいですって?そう言うことじゃないのよ。私は、負けるわけにはいかないの!さぁ行きなさい【サイバー・エンド・ドラゴン】!プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの放つ三条のレーザーが、丸藤先輩に向かい飛んでいく。

 

「お兄さん!発動して!カミューラに、勝って……!」

「アハハ!無理よ!だって貴方達人間は弱いんだもの!その細く柔な精神を恨むことね!」

 

 丸藤先輩はセットしたカードを発動させる事なく、その攻撃を受け止めた。

 

LP4000→0




~カード紹介のコーナー~

幻魔の扉
通常魔法
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。その後、このデュエル中にプレイされた元々の持ち主が相手となるモンスター1体を選び、フィールド以外の場所から召喚条件・蘇生条件を無視して特殊召喚する。

この小説初のアニメオリカ。効果の全文は知らないので、この作品ではこんな感じのテキストになっています。幻魔に魂云々のコストは記載してないですが。
しかしどうみてもぶっ壊れですね。


さて、第15話となりました今回。いかがでしたか?
楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
全くオリキャラがデュエルしない回が二回連続になってしまいましたね……。
その上原作と結果が同じってどうなんだ。
それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです!


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16話 亡き一族への鎮魂歌

ようやっとオリキャラのデュエルです。お待たせしました。


「フフフ、これで先ずは1人ね」

 

 カミューラは丸藤先輩の人形を愛しげに見つめる。

 

「さて、昨日は鍵を持っていなかったから、もう1人相手をしてあげるわ?さぁ、死にに来るのは誰?」

 

 カミューラが私達を嘲るように笑う。

 

「デュエルをするのは俺さ!でも、死んだりはしないぜ!」

「いいや、俺様だ!」

 

 遊城君達が、我こそはと名乗りをあげる。でも、

 

「あら、私モテモテねぇ、嬉しいわぁ」

「……まって!遊城君も万丈目君も三沢君も!……皆、デッキの構築を読まれてるかもしれないわ」

「……深月の言う通りだ。僕達は夜からデッキの調整を初めて、僕達のデッキを覗くコウモリに気づいた。でもそれを連絡する前にクロノス先生がデュエルを始めてしまったから、他の皆にはそれを伝えられて居ないんだ」

「……じゃあ、お前と星見以外は……」

「十中八九、デッキの内容を見られているわ」

 

 チッ。

 カミューラの舌打ちだ。彼女は私を、仇を見るかの様に睨んでいる。

 

「貴女やっぱり厄介ね、お嬢さん。良いわ、次の相手は貴女にしてあげる!」

「……っ!違う、覗き見に気づいたのは僕だ!消すなら僕の方から――」

「……良いわ、あなたのイカサマを見破った私が相手になるわ!」

「深月!」

 

 カミューラの矛先が遊陽に向かないように、彼の声を遮って叫ぶ。

 私の腕をつかみ引き留めようとする遊陽を払い、さっきまで丸藤先輩の立っていた場所に登る。

 

「あら、勇気あるのねお嬢さん。大人しく鍵を渡せば、見逃してあげても良いのよ?」

「……ううん。降参なんてしないわ!」

「あらそう。残念だわぁ。でも貴女も綺麗な顔をしているし、私のコレクションにしてあげても良くってよ!」

 

「「デュエル!!」」

 

深月 VS カミューラ

 

「私の先攻、ドロー!来なさい、【ヴァンパイア・ソーサラー】!」

 

攻1500

 

「さらに魔法カード【ヴァンパイア・デザイア】を発動!デッキから【ヴァンパイア】を墓地へ送り、ターンの終わりまで自分のモンスター1体を墓地へ送ったモンスターと同じレベルにするわ」

 

 カミューラのデッキからヴァンパイア・ロードが墓地へ送られる。そのレベルは6だ。

 

LV4→6

 

「レベルを変更した……?」

「……そっちはオマケだね。カミューラの目的は、ヴァンパイア・ロードを墓地へ送ること……かな」

「フフフ、さぁ、どうかしらねぇ?」

 

 遊陽が呟く。

 確かに、ヴァンパイアはアンデット族のデッキ。従って墓地から蘇生する手段に長けている。と言うことは、切り札であるヴァンパイアジェネシスへの布石かな……?

 

「さらに永続魔法【ヴァンパイアの領域】を発動。カードを1枚セットし、ターンエンドよ!」

 

 

カミューラ LP4000 手札2

モンスター:ヴァンパイア・ソーサラー

魔法・罠:ヴァンパイアの領域 セット

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ……良し。すごくいい手札だ。

 

「私は魔法カード【独奏の第1楽章】を発動するわ!デッキからレベル4以下の【幻奏】を1人呼び出すわ!来て、【幻奏の音女アリア】!」

 

 私の目の前に五線譜が溢れだし、それがリボンの様に空中に巻き付き、人の形を作り出す。

 

攻1600

 

「さらに、【マシュマカロン】を守備表示で召喚!」

『マシューッ!』

 

 私のフィールドに、ピンク色の柔らかいマカロンが現れる。

 

守200

 

「さらに永続魔法【コート・オブ・ジャスティス】発動!私のフィールドにレベル1の天使族モンスター……【マシュマカロン】が存在するとき、手札の天使族モンスターを特殊召喚できるわ!来て、【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 私の頭上に現れた光輪から、1人の音姫が降り立った。

 

攻2600

 

「さらに【モーツァルト】の効果で、手札から【幻奏の音女エレジー】を特殊召喚するわ!」

 

 モーツァルトが指揮棒を振るい、更なる音女が現れる。

 

攻2000

 

「【エレジー】の効果で、私の天使族モンスターの攻撃力は300ポイントアップするわ」

 

アリア攻1600→1900

モーツァルト攻2600→2900

エレジー攻2000→2300

 

「出た!星見さんの大量展開コンボッス!」

「これで深月のフィールドの幻奏と名のつくモンスターは、戦闘・効果で破壊されず、その対象にもできないわ!」

「幻魔の扉をほぼ無力化したと言うことか!」

 

 そう。幻魔の扉の効果は、聞いていた限りは効果によって相手モンスターを全て破壊した後、デュエル中に1度でも使われたカードを召喚条件を無視して特殊召喚する。

 だからカミューラが幻魔の扉を発動しても、破壊されるのはマシュマカロンだけ。そして特殊召喚できるのもマシュマカロンだけ!

 

「チッ……!」

「行くわよ、バトル!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】で、【ヴァンパイア・ソーサラー】を攻撃!」

「リバースカードオープン!【ヴァンパイア・シフト】!私がフィールド魔法を発動しておらず、私のコントロールするモンスターがアンデット族のみの場合、デッキからフィールド魔法【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を発動し、墓地の【ヴァンパイア・ロード】を守備表示で特殊召喚するわ!」

 

 古城が揺れる。ボロボロだった壁や装飾は修復されていき、かつての栄華を取り戻していく。

 

「それなら【ヴァンパイア・ロード】に攻撃するわ!」

「モンスターの攻撃宣言時、手札の【ヴァンパイア・フロイライン】は特殊召喚できるわ!」

 

 豪華なドレスに日傘を差した、深窓の令嬢と言う言葉のふさわしいヴァンパイアが現れ、私に向けて礼をした。

 

守2000

 

「新しい【ヴァンパイア】……!」

「【フロイライン】の効果発動!アンデット族モンスターが戦闘を行うとき、ライフポイントを100の倍数、最大3000まで支払うことができるわ!」

 

LP4000→1000

 

「っ、一気に3000ポイントも……!?」

「そして支払った数値分、戦闘を行う私のモンスターの攻撃力はアップするわ!」

 

守1500→4500

 

「反撃よ、【ヴァンパイア・ロード】!」

 

 フロイラインがロードに抱きつき、耳元で何かをささやく。するとロードは急激に巨大化し、筋骨粒々とした姿へ替わる。

 ロードは普段の上品な立ち振舞いからは想像もできないような荒々しい仕草で、襲いかかってきたモーツァルトを殴り返した。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

LP4000→2100

 

「そして私のヴァンパイアが戦闘ダメージを与えた事で、【ヴァンパイアの領域】の効果を発動!私は与えた数値分ライフを回復!」

 

LP1000→2900

 

「……全部とはいかなかくても、支払ったライフの大半を回収された……!」

「さらに【ヴァンパイア・ロード】が戦闘ダメージを与えた時、カードの種類を1つ宣言し、そのカードを貴女のデッキから墓地へ送るわ!私が宣言するのは、罠カード!」

「……私は、【幻奏のイリュージョン】を墓地へ送るわ」

 

 体が痛い。サイコショッカーの時よりも、ずっと痛い。

 それでも遊陽を危険な目に会わせるわけには行かない。カミューラはまた、私達の誰かに幻魔の扉のコストを肩代わりさせるだろう。なら、幻魔の扉を発動させることなく勝たなくちゃいけない。

 

「さらに【ヴァンパイア帝国】の効果発動!デッキからカードが墓地へ送られたとき、デッキの【ヴァンパイア】1体を墓地へ送り相手のカードを破壊できるわ!消えなさい、【コート・オブ・ジャスティス】!」

 

 カミューラのフィールドに墓地へ送られたヴァンパイア……ヴァンパイア・グレイスが現れる。グレイスは無数にコウモリに分裂し、私の頭上の光輪を破壊する。

 

「っ!【エレジー】で守備表示の【ヴァンパイア・ロード】に攻撃するわ!」

「ダメだよ深月!またフロイラインの効果が!」

「アハハ!ターン中の回数制限など無いわ!再び【フロイライン】の効果を発動!」

 

LP2900→100

 

 フロイラインは、再びロードに抱きつき囁く。

 

守1500→4300

 

「っ……!」

 

LP2100→100

 

「そして【領域】の効果でライフが回復するわ!」

 

LP100→2100

 

「そんなに攻撃して大丈夫なのかしら?もうライフポイントが100しか残ってないわよ!」

「でも、あなたのライフは削れたわ!私はカードを1枚セット。ターンエンド」

 

 

深月 LP100

モンスター:アリア モーツァルト エレジー マシュマカロン

魔法・罠:セット

 

 

「おほほ!私のターン!守りを固めてもムダよ!私は永続魔法【威圧する魔眼】を発動!その効果により私の攻撃力2000以下のアンデット族モンスターは、相手プレイヤーに直接攻撃できるわ!」

「……っ!」

「【ヴァンパイア・ロード】を攻撃表示に変更し、【ソーサラー】と共に【威圧する魔眼】の効果を付与するわ!」

 

 2体のモンスターの視線が強まり、私のモンスター達は怯んでしまう。私も足が震え始める。

 ……怖い。

 

「さぁ、苦しんで死になさい!【ヴァンパイア・ソーサラー】でダイレクトアタックよ!【ヴァンパイア帝国】の効果で、その攻撃力はダメージ計算時のみ500アップする!」

 

攻1500→2000

 

 ソーサラーが私の体を掴み、首に噛みつこうとする。

 幻奏達は私を守ろうとしてくれているが、あまりの恐怖で動くことができていない。

 

「深月……!」

 

 遊陽の声が聞こえる。

 ……大丈夫。私はまだ、負けないよ!

 突如私とソーサラーの間にバリアが現れ、ソーサラーの牙を遮る。

 

「何ですって!?」

「永続罠、【スピリットバリア】!私のフィールドにモンスターが存在する限り、私が受ける戦闘ダメージは0になる!」

 

 これが私の考えた答え。このカードがある限り、貫通効果も直接攻撃も怖くない!

 

「……なるほど、あの夜に新しく入れたカードなのね」

「やっぱり、これは把握していなかったみたいね」

「道理でライフを削っていくと思ったわ。カバーできるカードを握っていたのね。私はターンエンドよ」

 

 

カミューラ LP2100 手札1

モンスター:ロード ソーサラー フロイライン

魔法・罠:ヴァンパイアの領域 威圧する魔眼 ヴァンパイア帝国

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 スピリットバリアがあるかぎり、ヴァンパイア・フロイラインの効果を使われても私のライフは減らない。もう領域とのコンボは使わせない!

 

「手札の【幻奏の音女ソナタ】は、フィールドに【幻奏】が存在する時、手札から特殊召喚できるわ!」

 

攻1200→1500

 

「さらにその効果で、私の天使族モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップ!」

 

アリア攻1900→2400

モーツァルト攻2900→3400

エレジー攻2300→2800

マシュマカロン守200→700

ソナタ攻1500→2000

 

「くっ……!」

「行くわ!【プロディジー・モーツァルト】で【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃!グレイスフル・ウェーブ!」

 

 モーツァルトの奏でる音が衝撃波に変わりフロイラインを襲う。

 

「っ、【フロイライン】の効果!ライフを1400支払うわ!」

 

LP2100→700

守2000→3400

 

 フロイラインの守備力がモーツァルトの攻撃力と並ぶ。戦闘破壊は失敗だ。

 

「でも、【エレジー】で【フロイライン】を攻撃よ!もうライフを払っても守れないわ!」

 

 エレジーとフロイラインの差は800ポイント。カミューラのライフではその差を埋められない!

 エレジーの歌声が令嬢を包み込み、光へと変え消し去った。

 

「くっ……!」

「確か【ヴァンパイア帝国】の効果で、ダメージ計算時は攻撃力が500アップするのよね。それなら私は【アリア】で【ヴァンパイア・ソーサラー】を攻撃!」

 

 アリア発する声の波がソーサラーを襲う。

 

攻1500→2000

 

「ぐ、ぐうぅぅうっ!」

 

LP700→300

 

「でも【ヴァンパイア・ソーサラー】は、相手によって破壊されたときデッキから新たな【ヴァンパイア】を手札に加えるわ。私が手札に加えるのは、【ヴァンパイアジェネシス】!」

「遂に来たわね……ターンエンドよ」

 

 

深月 LP100 手札0

モンスター:アリア モーツァルト エレジー ソナタ マシュマカロン

魔法・罠:スピリットバリア

 

 

「私のターン!……フフ、たかだか効果破壊への耐性だけで私の切り札を封じたと思っているのでしょうけど、甘いわ!」

「なっ!?」

「さぁ見るがいい!永続魔法【闇の護封剣】を発動!相手モンスターは全て裏側守備表示となり、表示形式を変更できない!」

 

 私の周囲に黒い剣が突き刺さる。囲まれた幻奏の音女達の体が黒く染まり、識別が不可能になる。

 

「……裏側表示のカードは、その効果を発揮できない……今、深月のモンスターは、あらゆる破壊に対して無力だ」

「その通りよ!さらにたとえ表側表示になったとしても、貴女のモンスターからは『特殊召喚した』という情報が失われている……もうあの布陣は完成しないわ!」

 

 私のフィールドの5体のモンスターは動けない。そんな私を前に、カミューラが高らかに笑う。

 

「さぁ、覚悟するがいいわ!私は魔法カード【幻魔の扉】を発動!」

 

 カミューラの背後に扉が現れ、私のフィールドの裏側表示モンスター達が吸い込まれていく。

 

「そしてそのコストは……貴女と仲の良い彼にお願いするわね!」

「っ!遊陽!」

 

 最も恐れていた事が起きてしまう。カミューラの分身が遊陽に向かって飛ぶ。

 

「さぁ、貴方の魂を幻魔に預けるが良い!」

 

 カミューラの伸ばした手は遊陽を掴む――

 

「なぁっ!?」

 

 直前に、何かに弾かれる。

 遊陽の長い髪が風に吹かれたように持ち上がり、普段は見えない彼の耳が見える。

 その耳には、金色のイヤーカフがついていた。

 カフから黒い霧が溢れだし、カミューラの分身を押し返す。

 ここにいた皆が、その光景に驚愕していた。

 

「カミューラと同じ、闇のアイテム……なのか?」

 

 三沢君が、信じられない物を見たように呟く。

 

「な、何故貴方がそれを……っ、まさか!」

「僕は大丈夫だよ!だから勝って、深月!」

「……うん!さぁ、どうするのカミューラ?発動した以上コストは支払って貰うわ!あなた自身の魂をね!」

 

 幻魔の扉から現れた白い霧がカミューラの体を包み込む。

 

「おのれ、おのれぇぇっ!……良いわ、勝ってやる!勝てばこんなコストは関係無いのよ!私は誇り高きヴァンパイアの魂を幻魔に預け、貴女の墓地から【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】を特殊召喚するわ!」

 

 幻魔の扉が1度閉じ、再び開くと共にモーツァルトが現れる。その色は普段よりも少し暗い。

 

攻2600

 

「でも、こっちも負けないわ!【マシュマカロン】が戦闘・効果で破壊されたとき、手札・デッキ・墓地から同名モンスターを2体まで特殊召喚できる!」

 

 幻魔の扉の隙間から、ピンク色のスライムがにゅるりと出てくる。私の前まで戻ったマシュマカロンは、その体を震わせ2体に増える。

 

守200×2

 

「【スピリットバリア】のせいで直接攻撃してもムダね。ならば私は【ヴァンパイアロード】をゲームから除外!現れよ、我らが高貴なる一族の始祖!【ヴァンパイアジェネシス】!」

 

 ヴァンパイア・ロードの筋肉が盛り上がり、原初の姿を取り戻す。

 

攻3000

 

「バトルよ!2体のモンスターで、その雑魚共を攻撃!」

 

 攻撃力の高い2体の前に、マシュマカロン達はなす術なく破壊されていく。

 

「勝つのはこの私よ!ターンエンド!」

 

 

カミューラ LP300 手札0

モンスター:ヴァンパイアジェネシス 幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

魔法・罠:ヴァンパイアの領域 威圧する魔眼 闇の護封剣 ヴァンパイア帝国

 

 

「……ねぇ、あなたはどうしてこんな事をするの?」

「……そうね、冥土の土産に教えてあげるわ。……あれは、中世ヨーロッパでの事――」

 

 カミューラは、何があったのかを話してくれた。

 中世ヨーロッパ。ヴァンパイア一族は、その高い能力や知性を生かし栄華を極めていた。しかしその力を怖れた人間は兵士を送り込み、ヴァンパイアの虐殺を始めたのだ。

 いくら能力で勝っているとはいえ、数は人の方が多く、また途中からヴァンパイアの弱点も判明し、徐々に追い込まれていった。

 彼女は、ヴァンパイア一族の最後の生き残りなのだ。

 

「だから、これは貴女達人類への復讐よ!セブンスターズを纏めるあのお方は、三幻魔復活の手伝いの代償に、ヴァンパイア一族の復興を手助けして下さるの!」

「……なら、あなたは仲間の為に……」

「深月、情に流されちゃダメだよ」

「……うん。分かってるわよ。勝負は勝負。ちゃんと、戦うわ」

 

 かつてカミューラ達に人間がやったことは、許されることでは無いのだろう。

 それでも、私にも守りたい人がいる。新しくできた友達もいる。

 負けるわけには行かないのは、私も同じだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを確認する。相手フィールドに伏せカードは無く、手札も0。私のカードを止める存在はない!

 

「……行くよ!私のフィールドにモンスターが居ない時、【独奏の第1楽章】を発動できるわ!」

「っ、最初のターンにも使ったカード!」

「そうよ!私も負けるわけには行かないの。だからせめて奏でてあげる!あなた達が安らかに眠れるよう、亡き一族へレクイエムを!来て、【幻奏の歌姫ソプラノ】!」

 

 再びフィールドに五線譜が溢れだし、アリアとはまた違った形へと変わる。

 

攻1400

 

「【ソプラノ】の特殊召喚に成功した時、墓地の【幻奏】を手札に戻すわ。そして召喚、【幻奏の音女アリア】!」

 

攻1600

 

 通常召喚したアリアは、その効果を発揮することは無い。それでも十分だ。

 

「【幻奏の歌姫ソプラノ】の効果発動!私のフィールドから融合素材モンスターを墓地へ送り、【幻奏】と名のつく融合モンスターを融合召喚するわ!」

 

 ソプラノが歌うと、その声は渦になって私の前に広がる。

 

「【幻奏の歌姫ソプラノ】と、【幻奏の音女アリア】を融合!タクトの導きにより力を重ね、今こそ舞台へ!融合召喚、【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 2人の音女が五線譜に変わり、渦に飲み込まれ融け合う。

 ナイフの様な指揮棒を振るい、音姫が私の前に降り立った。

 

攻2400

 

「何度でも蘇る、眠ることの無い【ヴァンパイア】。でも、もうこれで終わりにしましょう?【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】の効果、互いの墓地のカードを3枚まで除外する!【ヴァンパイア・フロイライン】、【ヴァンパイア・グレイス】、【ヴァンパイア・ソーサラー】の3体をゲームから除外するわ!」

 

 シューベルトが指揮棒を振るうと、音がフィールドに溢れ出す。音は1列に並び五線譜を作り出し、墓地に眠る3体のヴァンパイアを包み、消し去る。

 

「……ありえない、ありえないわ!【ヴァンパイア】は不死の存在よ!」

「……再生力が高くても、寿命が長くても、いつか終わりは訪れるわ。不老不死だなんて、そんな物はありえないの」

 

 3体のカードを除外したことで、マイスタリン・シューベルトの攻撃力は1枚に付き200ポイントアップする。

 

攻2400→3000

 

「【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】で、【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】を攻撃。ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

 シューベルトが指揮棒を振るうのに合わせ、五線譜がフィールドを舞い踊る。

 

「嘘、嘘、嘘よ!」

「……おやすみなさい、誇り高き一族の(ヴァンパイア)カミューラ」

「嘘よぉぉぉっ!!」

 

LP300→0

 

 ヴァンパイアジェネシスが倒れたカミューラを支え、ゆっくりと地面に寝かせた後消え去っていく。

 

「そんな、私が……私がいなくなれば、ヴァンパイアの復興は……!」

 

 ガタン!

 大きな音が聞こえ、幻魔の扉が開く。

 

「嫌、嫌よ!いやぁぁっ!!」

 

 幻魔の扉から伸びた無数の腕がカミューラを掴み、扉の中へと連れ去っていき……消えた。

 

「……ごめんなさい。でも、私達も、私達の世界を守らなければいけないの」

 

 カミューラの着けていた金色のチョーカーが地面に落ち、人形になっていた丸藤先輩とクロノス先生が人間に戻る。

 

「ハッ、な、何が起こっているノーネ!?」

「……体が、動く……」

 

 私は遊陽達の元に降りる。

 

「……良かった。深月が無事で」

「ありがと、遊陽」

 

 遊陽は優しげな笑みを私に浮かべていたが、三沢君が重苦しそうに口を開く。

 

「……黒野、あのアイテムは、何だ?」

「……」

 

 遊陽の表情がスッと消え、三沢君を見つめる。

 

「あれは、恩人から貰ったものって言ってたんだなぁ」

「そんな話をしてたッスけど……今見てみると、あの吸血鬼の持ってたチョーカーに似てるッス」

「……まさかお前も、闇のアイテムを持っているのか……?」

「っ!万丈目君!そんなはず無いわ!遊陽はそんなもの持って無い!」

 

 まるで遊陽がセブンスターズの一員とでも言いたげな皆の視線を遮るように立つ。

 

「そうだぜ。遊陽が悪いやつな訳無いだろ!あいつとデュエルした俺が言うんだぜ?」

「……そうだな。確かに黒野は良い奴だ。……疑って悪かった」

「……いいや!それでも説明がつかない。セブンスターズじゃなかったとして、どうしてお前はカミューラの能力を免れた?」

「止めてよ万丈目君!」

「すまない天上院くん。だけどこれはハッキリさせておきたいんだ」

 

 万丈目君が私を押し退け、遊陽に詰め寄った。

 

「……予定よりだいぶ早いなぁ。あの女も余計なことをしてくれる。やっぱりここに深月を連れてくるべきじゃなかったよ」

 

 今まで聞いたことの無いような声。底冷えする、冷酷な声。だけどそれはすぐに、優しさのこもったもとの声へと戻る。

 

「大丈夫だよ深月?怖いことはしないさ」

「……な、何をいってるの?遊陽……」

 

 遊陽が私の手を掴み、引き寄せ抱き締める。

 

「ゆ、遊陽!?」

「……改めて自己紹介をしようか。僕は黒野遊陽。深月の幼馴染でオベリスクブルー所属」

 

 遊陽の口が歪む。まるで三日月の様に両端がつり上がる。

 

「そして、君達にとっては3番目のセブンスターズだよ」




~カード紹介のコーナー~

ヴァンパイア・フロイライン
効果/星5/闇属性/アンデット族/攻 600/守2000
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):モンスターの攻撃宣言時に発動できる。 このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。
(2):自分のアンデット族モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、100の倍数のLPを払って発動できる(最大3000まで)。その自分のモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時のみ払った数値分アップする。
(3):このカードが戦闘でモンスターを破壊したバトルフェイズ終了時に発動できる。そのモンスターを墓地から可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。

可愛い。
めっちゃ可愛い。
入れようと思えばほとんどのデッキに入るので、アイドルカード枠にぜひ如何でしょうか?
ライフを最大で3000も払えるので活路への希望と組み合わせても良いかもですね。


今明かされる衝撃の真実。
イチャラブタイムはここまでです。
それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー。


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17話 ひとりぼっちの僕は 

続き物なので今日中には次のお話が更新されるはずです。


「そして、君達にとっては3番目のセブンスターズだよ」

 

 僕は集まった皆に向け言い放つ。

 抱き締めた深月の体が熱を持ち、汗で湿ってくるのを感じる。彼女の顔は青い。僕の言ってることを理解してしまったのだろう。

 

「……ゆ、遊陽。面白くない冗談よ」

「冗談なんかじゃないさ。深月も見たでしょ?僕の持つ闇のアイテムが、カミューラの分身を退けるのを」

「それは!」

「大丈夫。深月に危害は加えないよ。深月にだけは、ね」

 

 耳のイヤーカフから黒い霧が溢れだし、僕と深月を包む。

 

「……君達は深月と仲良くしてくれていたから教えてあげる。カミューラが居なくなったこの城は崩壊するから、早く逃げた方が良いよ。君達が入ってきた道を戻るのが1番早い」

「……本当なのか?遊陽」

「深月の友達に嘘は吐かないよ。あぁ、深月だけはちゃんと逃がすから、逃げ遅れても心配しなくて良いからね」

 

 やがて黒い霧が完全に僕達を覆い、古城から姿を消す。

 そして一瞬で霧は晴れ、僕と深月は湖のほとりに立っていた。

 カミューラが消えたことで湖を覆っていた雲は消え去り、明るい太陽の光が僕達を照らしている。

 

「それじゃあ、次は僕の番だね。十代達に伝えて。僕はあの廃寮の地下で待ってるよ、ってね」

「……なんで、なんでよ遊陽、嘘を、ついてたの?いつから、なんで……」

 

 深月の目の焦点は定まっていない。カミングアウトが突然すぎて、彼女を混乱させてしまったのかもしれない。

 

「……深月。僕は確かに裏切り者だよ」

「遊陽……」

「でも、そうだね。僕は僕の目的のためにセブンスターズに参加している」

「もく、てき……?」

「そう」

 

 深月を抱き寄せ、耳元でささやく。

 

「深月を幸せにすること、だよ」

 

 そして深月から離れ、再び霧を出して自分の体を包む。

 

「ま、待って!遊陽!行かないで!」

 

 深月がふらふらとした足取りで手を伸ばす。

 

「お願い!私を、ひとりにしないで……!」

 

 その手が届く直前、僕の体は消え去った。

 

 

 

「……そうですか、黒野君がセブンスターズだった……と」

 

 苦々しい顔で、校長先生が呟いた。

 明日香達は無事にあの城を脱出できた様で、私達は保健室で体を休めていた。

 あの後湖のほとりで倒れているのを発見された私は、ここに連れてこられたのだ。

 隣のベッドには、自分達より年上そうな男性が眠っている。名前は天上院吹雪。明日香のお兄さんだ。

 そしてその隣には、私と同じく倒れてしまった丸藤先輩がいる。僅かとはいえライフの残っていた私と違い丸藤先輩が受けたダメージは大きく、未だに起き上がることができていない。

 

「星見!お前は知らなかったのか?」

「止めろよ万丈目。今はそっとしておこうぜ」

 

 ……私は、未だにその事実を受け止められずにいた。あんなに優しかった遊陽が、あんな冷たい声をして、怖い笑みを浮かべるだなんて。

 

「しかーし、今でも信じられないノーネ。彼は入学以降シニョール三沢と肩を並べる優秀な生徒ナノーネ。そんな彼が闇のデュエルを……」

「授業で居眠りもしたことの無い良い子だったのニャ……どうして……」

 

 確かに遊陽は、少し不思議な少年だった。彼の家に遊びに行った事はない。学校から一緒に帰ったときは、私を施設まで送った後、何処かへ行ってしまったから。

 彼の親を名乗る人にも会ったことはない。遊陽の事なら何でも知ってるつもりだったけど、私は、何も知らなかったんだ。

 

「……遊陽は、あの廃寮の地下で待ってるって言ってたわ」

「フン!なら次に何をするかは決まったな!俺はあの裏切り者を倒す!奴にはオベリスクブルーを追い出された恨みもあるから丁度良い!」

「ま、待つノーネ!例え彼がセブンスターズだったとしても、彼は私の教え子ナノーネ。まずは彼がどうしてセブンスターズに入ったのか、それを知った方が良いノーネ」

「説得でもするつもりですか!クロノス教諭!」

「その通りナノーネシニョール万丈目。そして彼にはしっかり、この学園の生徒として償ってもらうノーネ」

 

 こんな状況になって、クロノス先生はちゃんと先生なんだなぁと思う。普段は変なことで遊城君達に絡んでいるから、そんなこと思わなかったけど。

 

「……私も、行きます。私も、遊陽の話を聞きたい」

「俺も行くぜ!」

「あぁ。俺もだ」

「私も行くわ!」

「僕もッス!」

「俺も行くんだなぁ!」

 

 万丈目君だけは不満げな表情をしていたが、やがて大きくため息をつく。

 

「はぁ……仕方の無いやつらめ!どうしてもと言うなら俺もついていくとしよう」

「嫌なら来なくて良いんだぜ万丈目?」

「なんだと!?」

「ま、まぁまぁ落ち着くのニャ。万丈目君も素直じゃないニャ」

 

 私達の意見は纏まった。各自準備を整えて、旧特待生寮へと向かう。

 ……私は遊陽を信じてる。きっと、そうしなければいけない理由があったんだ。そうに、違いないんだ。

 

 

 

 昼だと言うのに暗い廃寮の一室。電気は通っていないから、明かりになるのは電池を使ったランプ程度のものだ。

 2階の真ん中にある1番大きな部屋の窓から、外を見下ろす。まだ皆は来ていないみたいだ。

 

「……」

 

 しかしカミューラは余計なことをしてくれた。と言うかあの人があんなカードを渡していたことにも驚いた。

 幻魔の扉というカードを知らなかったのは本当だ。基本的に部下を簡単に切り捨てる人だけど、せめて情報共有だけはきちんとしていてほしかった。

 ……最も、僕の存在も他のセブンスターズには伝えられていないけど。

 

「……来た」

 

 廃寮に近づいてくる複数の足音。僕は黒い霧を纏い、廃寮の地下へと移動する。

 

「……遊陽」

「深月!それに他の皆も。ようこそ、僕のデュエルフィールドに」

「……お前、本当にセブンスターズなのかよ!」

「そうだよ十代。僕は君達の内部に忍び込み、頃合いを見て裏切る予定だったんだけど……すぐにバレちゃったね」

 

 皆が僕に向ける視線からは迷いを感じる。敵だと頭で理解していても、それを信じたくないのだろう。いつの間にか僕にも、沢山の友達が出来ていたのかもしれない。

 ……でも、僕に友達は必要ない。

 

「さぁ、早速鍵を賭けたデュエルをはじめようよ!誰が相手になってくれるの?」

「待つノーネ!シニョール遊陽!」

「……クロノス先生」

「なぜあなたーハこんなことーヲ?」

「……深月の為ですよ。僕の全ては、彼女の為にあるんです」

「……私、の……?」

 

 深月が震えた声で聞いてくる。何をそんなに怖がっているのだろう。

 

「そうだよ。僕には何も必要ない。深月が幸せになれば、他のものがどうなったって関係ない」

「……狂ってやがる……」

「黒野、お前は……」

 

 深月が僕の前に立つ。

 

「遊陽!なら、セブンスターズになんかならないでよ!私は、私はね、遊陽と一緒に居られれば、それで幸せなの!だって、私――」

「それじゃあダメなんだよ、深月」

 

 イヤーカフから霧を出し、地下への入り口を塞ぐ。

 

「僕と一緒にいれば、深月は必ず不幸になる。なぜなら僕はそういう存在(・ ・ ・ ・ ・ ・)だから」

 

 デュエルディスクにデッキをセットし、展開させる。

 

「さぁ、ルールの説明だよ。僕も今までの2人と同じく、闇のデュエルを行う。そして敗者はぬいぐるみに変わる……でもさっきから言っている通り僕の目的は深月の幸福。だから深月だけはぬいぐるみにしないでおくよ」

「なら、私が相手になるわ!」

「……でもその代わり、深月には特別なルールがあるんだ。僕が勝てば、深月の心は僕の物になる。そして僕が負ければ、僕はぬいぐるみに戻る(・ ・)

「……良いわ。それでも、私が相手になる」

 

 深月はそう言うと、自分のデュエルディスクを展開した。

 

「ま、待つノーネシニョーラ深月!」

「……ごめんなさい、先生。でも、私は遊陽を止めなくちゃ行けないの」

「その役目ナラーバ、教師である私に任せるノーネ!道を踏み外した生徒に手をさしのべるのも、教師の役目の1つナノーネ!」

「あはは!……違いますよ、先生」

 

 深月が笑う。この重苦しい空気に相応しくないその行動に、皆が目を見開く。

 

「遊陽がこんなことするわけない!きっと誰かに操られてるの!そうよ、そうに決まってるわ!」

「……深月」

「大丈夫よ!すぐに助けるわ、遊陽!」

 

 彼女の目は据わっている。深月は恐ろしいくらい真っ直ぐに僕の瞳を見つめてくる。

 

「さぁ、デュエルしましょ?遊陽!私が助けてあげる。ずっと、ずっと守ってあげるから!」

「……僕の事をそこまで想ってくれて、嬉しいよ。でも、だからこそ、僕は居てはいけないんだ」

 

「「デュエル!!」」

 

「私の先攻、ドロー!魔法カード【フォトン・サンクチュアリ】を発動!私のフィールドに【フォトン・トークン】を2体特殊召喚するわ!」

 

 深月の目の前に、青白く光る光の玉が2つ浮かび上がる。

 

守0

 

「そして【フォトン・トークン】2体を生け贄に捧げ、来て!至高の天才、【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

攻2600

 

「そして【モーツァルト】の効果で、手札の【幻奏の音女ソロ】を特殊召喚!」

 

 モーツァルトの指揮に合わせ、一人の音女が歌い出る。

 

攻1600

 

「これでターンエンドよ!」

 

 

深月 LP4000 手札3

モンスター:プロディジー・モーツァルト ソロ

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 どうやら彼女は攻め急いでる様に見える。それならそれでやり易い。守りに入られると対処がしにくくなってしまうから。

 

「僕は【魔玩具補綴】と【融合徴兵】を発動。【デストーイ・シザー・ベアー】を見せ、【エッジインプ・シザー】と【融合】、さらに【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

 

 ファクトリーのコストを用意しつつ、必要なカードが揃う。

 

「僕は【融合】を発動!手札の【ファーニマル・ベア】と、【エッジインプ・シザー】を融合!」

 

 僕は目の前に現れたファーニマル・ベアを掴み、もう片方の手のハサミで突き刺す。

 

「な、何をやってるのニャ!?」

「大徳寺先生なら、分かりますよね?」

「……まさか」

「さぁ深月。次の鬼は僕だよ」

 

 そしてボロボロになったベアを投げ捨てる。

 捨てられたベアの体がピクピクと動き出したかと思えば、その至るところからハサミが飛び出し、ゆっくりと起き上がる。

 

「全てを切り裂け、戦慄のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

攻2200

 

「バトル!【デストーイ・シザー・ベアー】で、【幻奏の歌姫ソロ】を攻撃!モンスターイート!」

 

 シザー・ベアーは恨みの矛先をソロへ向け、乱暴に両手で掴み丸のみにする。

 

「きゃっ!」

 

LP4000→3400

 

「そして【シザー・ベアー】の攻撃力は、【ソロ】を装備し1000ポイントアップするよ」

 

攻2200→3200

 

「っ、破壊された【ソロ】の効果で、デッキから【幻奏の音女アリア】を特殊召喚するわ!」

 

攻1600

 

 これでシザー・ベアーは簡単には破壊されないだろうけど、油断はできない。エレジーとソナタが深月のフィールドに揃えば、今のシザー・ベアーの攻撃力を軽く上回る事ができる。

 

「僕は魔法カード【一時休戦】を発動。お互いに1枚ドローして、次の深月のターンの終わりまでお互いが受けるダメージは0になる。カードを1枚セットして、ターンエンド」

 

 

遊陽 LP4000 手札3

モンスター:シザー・ベアー

魔法・罠:セット

 

 

「私のターン、ドロー!……私は【プロディジー・モーツァルト】の効果を発動!手札から、【幻奏の音女エレジー】を特殊召喚!」

 

 モーツァルトが再び指揮を振るい、新しい仲間を呼び出す。

 

攻2000

 

「特殊召喚した【エレジー】は、私の天使族モンスターの攻撃力を300アップさせるわ!」

 

 エレジーが歌い、輝くオーラが深月のモンスターを包む。

 

モーツァルト攻2600→2900

エレジー攻2000→2300

アリア攻1600→1900

 

「さらに手札の【幻奏の音女ソナタ】は、私のフィールドに【幻奏】がいるとき特殊召喚できるわ!」

 

 3人の幻奏の音に誘われてソナタがフィールドに顔を出す。

 

攻1200→1500

 

「そして【ソナタ】の効果で、私の天使族モンスターの攻撃力は、さらに500アップよ!」

 

モーツァルト攻2900→3400

エレジー攻2300→2800

アリア攻1900→2400

ソナタ攻1500→2000

 

「さらに手札の【幻奏の音女カノン】も、同じ条件で特殊召喚できるわ!」

 

攻1400→1700→2200

 

 攻撃力2000超えが5体。1番恐ろしいのは、そのすべてが戦闘・効果で破壊されず効果の対象にならないことだ。

 やっぱりその制圧力は恐ろしい。効果破壊を行うカードがほとんど入って居ないのが救いだろうか。

 

「【一時休戦】の効果でダメージは与えられないけど、戦闘破壊はさせてもらうわ!【プロディジー・モーツァルト】で、【シザー・ベアー】を攻撃!グレイスフル・ウェーブ!」

 

 モーツァルトが指揮棒で地面を叩くと、五線譜が溢れだし波のようにシザー・ベアーを襲う。

 

「くっ……」

「これでターンエンドよ!」

 

 

深月 LP3400 手札2

モンスター:モーツァルト アリア エレジー ソナタ カノン

魔法・罠:無し

 

 

「僕のターン、ドロー!僕はリバースカード【融合準備】を発動。【デストーイ・チェーン・シープ】を見せて【エッジインプ・チェーン】を手札に加え、さらに墓地の融合を手札に戻す」

 

 デストーイ達は個々の強さはそれほどでもない。ステータスは低めで、戦闘補助が必要になることも多い。でもそれを数で圧倒するのがこのデッキだ。何度でも融合召喚を行い、相手を攻め立てる。

 大量展開で制圧し守る深月のデッキと、連続展開で攻める僕のデッキは、似てはいるが方針は全くの逆。

 最強の矛と最強の盾は、どちらの方が強いのだろうか。

 

「【融合】を発動!手札の【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ラビット】を融合!全てを縛れ、沈黙のケダモノ!」

 

 僕の前に現れたファーニマル・ラビットを掴まえる。

 僕が握りしめたラビットに、エッジインプ・チェーンの鎖が絡み付き、締め付ける。

 僕は鎖が絡まったウサギのぬいぐるみを投げ捨てると、鎖が溶けてぬいぐるみを覆い、新しい姿へ変わる。

 

「おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

攻2000

 

「融合素材となった【エッジインプ・チェーン】と【ファーニマル・ラビット】の効果を発動。デッキから【デストーイ・ファクトリー】を手札に加え、墓地から【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

「……やっぱり強いわね。遊陽は」

「深月に褒められるのが、何より嬉しいよ。僕は手札の【ファーニマル・ベア】を捨て、デッキから永続魔法【トイポット】をセットして、発動!」

 

 地鳴りと共に、僕の背後に巨大ガシャポンが現れる。

 

「【トイポット】の効果を発動。手札を1枚捨て、1枚ドロー!……ツイてるね。ドローしたカードが【ファーニマル】だった場合、手札からモンスターを特殊召喚できる!ドローしたのは【ファーニマル・ライオ】!手札から【ファーニマル・ドッグ】を特殊召喚するよ!」

 

 背後のガシャポンが回転し、カプセルが1つ転がってくる。

 カプセルは僕のフィールドで弾けると、中からイヌのぬいぐるみが飛び出した。

 

守1000

 

「【ファーニマル・ドッグ】が手札から特殊召喚された時、デッキから【ファーニマル】を手札に加えるよ」

 

 デッキからファーニマル・オウルを手札に加える。このモンスターは召喚成功時に融合を手札に加えられるモンスターだけど、今は使わない。

 

「【トイポット】のコストとして捨てられた【ファーニマル・ウィング】の効果発動。墓地から【ファーニマル・ベア】と自身を除外して、1枚ドロー。さらに【トイポット】を墓地へ送り1枚ドロー。加えて墓地に送られた【トイポット】の効果でデッキから【ファーニマル・キャット】を手札に加えるよ」

「い、一気に3枚も手札が増えたッス!」

 

 深月のくれたこのカードは良いものだ。減った手札を一気に増やすことができる。

 

「そして僕は【エッジインプ・ソウ】を召喚。このモンスターの召喚に成功したとき、手札から【ファーニマル】と名のついたモンスターを捨てて2枚ドローし、その後手札を1枚選んでデッキの上か下に置くよ」

 

 ファーニマル・オウルを墓地へ送り、ファーニマル・キャットをデッキの一番下に戻す。

 

「そして永続魔法【デストーイ・ファクトリー】発動!墓地の【融合徴兵】をゲームから除外して、フィールドの【エッジインプ・ソウ】と【ファーニマル・ライオ】を融合!全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!」

 

 僕の手にはライオンのぬいぐるみ。彼はなんとか僕の手を抜け出そうともがくけど、僕はそれを許さない。

 目の前にエッジインプ・ソウが現れ、僕はその体の中心にライオンを投げ入れた。

 声にならない叫びをあげながらライオンのぬいぐるみは綿へと変わり、溶解したエッジインプ・ソウが綿を取り込み姿を変える。

 

「おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

攻2400

 

「ひ、一人でやってるんだなぁ……」

「凄まじいデッキの回転力……今まで俺達と戦ってきた黒野は、本気じゃなかったのか……!?」

 

 ホイールソウ・ライオの効果で破壊できるモンスターはいない。それでも攻撃だけならできる。

 

「バトル!【デストーイ・チェーン・シープ】で、【幻奏の音女ソナタ】に攻撃!」

 

 攻撃力は同じ2000。しかしソナタはアリアの効果で破壊されず、シープだけが墓地へと送られる。

 

「でも、【チェーン・シープ】は1ターンに1度、破壊されても攻撃力を800上げて蘇る!デストーイ・バックアップ!」

 

 鎖が巻き戻り、墓地へ送られたチェーン・シープを引き上げる。

 

攻2000→2800

 

「【チェーン・シープ】で再びソナタを攻撃!モノポライズ・チェーン!」

 

 チェーン・シープから伸ばされた鎖がソナタを鞭打つ。

 

「きゃっ!」

 

LP3400→2600

 

「続けて、【ホイールソウ・ライオ】で【ソナタ】に攻撃!ジェノサイド・ソウ!」

 

 放たれた無数の丸鋸がソナタの体を切り裂いていく。

 

LP2600→2200

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札3

モンスター:チェーン・シープ ホイールソウ・ライオ ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー セット




ちょっとしたら後編も更新するため、今回のカード紹介はおやすみです。

タイガーもウルフも使ってないのに自称矛なのは気にしないであげてください。


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18話 ふたりかくれんぼ

こちらは17話の続きになっています。ぜひそちらを見てからお読みいただけると喜びます。


「くっ……私のターン、ドロー!」

 

 カードを引いた深月の表情が明るくなる。……良いカードを引いたようだ。深月はドローしかカードとは別のカードをデュエルディスクに置く。

 

「私は魔法カード【融合】を発動!フィールドの【モーツァルト】と【カノン】を融合!今こそ舞台へ、融合召喚!」

 

 深月の前に赤と青色の渦が現れ、2体のモンスターが飲み込まれる。

 

「来て、【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 指揮棒が空間を切り裂き、楽譜に溢れた世界の中から音姫が現れる。

 

攻2400→2700→3200

 

「バトル!【幻奏の音女エレジー】で、【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 2体のモンスターの攻撃力は同じ2800。しかしアリアの効果で、破壊されるのはチェーン・シープだけだ。

 

「デストーイ・バックアップ!」

 

 再び鎖が巻き上がる。

 

守2000

 

「【幻奏の音女アリア】で、復活した【チェーン・シープ】を攻撃よ!」

 

 アリアの歌声から音符が現れ、それが石の様にチェーン・シープを打ち付け、破壊する。

 

「【マイスタリン・シューベルト】で、【ホイールソウ・ライオ】を攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

 シューベルトの足元から植物のように五線譜が現れ、ホイールソウ・ライオを締め付ける。

 身動きのとれないライオンを、シューベルトはナイフのような指揮棒で一閃。切り裂いた。

 

「くっ……」

 

LP4000→3200

 

「よっしゃあ!ダメージを与えたぜ!」

「ここから逆転ッスよ!星見さん!」

「……シニョーラ深月。どうか、シニョール遊陽を取り戻してほしいノーネ……」

 

 このデュエルで初めて僕のライフが削られ、デュエルを見ていた皆が盛り上がる。

 ……でも、深月は彼らを見ていない。相変わらず据わった目で僕を見つめている。

 

「最後に、【ソナタ】で【ファーニマル・ドッグ】を攻撃!」

 

 これで僕のフィールドは全滅。

 

「もう遊陽を守るモンスターは居ない。そうよ、あなたを守るのは私だもの!……ねぇ、目を覚ましてよ、遊陽!」

「……目なら覚めてるよ。これが本当の僕だから」

「……そんな筈ないわ!やっぱり、私が助けてあげないと……!私はカードを――」

「おっと、バトルフェイズ終了時に罠カードを発動。【拮抗勝負】!このカードはバトルフェイズの終わりに発動できる。僕のフィールドのカードが深月より少ない時、深月はお互いのフィールドが同じ枚数になるように自分のカードを裏側表示で除外しなければならない」

 

 対象を取らず、破壊でもない除去カード。これも深月のために用意していたものだ。残すカードは深月が選べるとはいえ、一気に多くのモンスターを撃退できる。

 

「僕のフィールドは【デストーイ・ファクトリー】と【拮抗勝負】の2枚。さぁ、深月はどれを選ぶの?」

「……私は、【アリア】と【シューベルト】を残すわ」

 

アリア攻2400→1900→1600

シューベルト攻3200→2700→2400

 

「カードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP2200 手札1

モンスター:アリア シューベルト

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……このターンで終わらせられるだろう。

 

「……だいぶ数は減ったとはいえ、優勢なのは深月だね」

「そうかしら、でも油断はしないわよ」

「……降参、してくれないかな」

 

 僕のその発言に、皆がどよめく。

 

「何を言ってるのよ遊陽!それじゃあなたを助けられないじゃない!」

「でも深月が勝っても、僕は助けられないよ」

 

 深月が目を見開く。据わっていた目は急に僕を視線から外して動きだす。

 

「僕は最初にこう言った。僕が負ければ、僕はぬいぐるみに戻るって。つまり深月が勝てば、僕はただのぬいぐるみになってしまう。このルールは、どっちが勝っても君をぬいぐるみにしないためだけの物だからね」

「……そんな、じゃあ、私はどうすれば……」

 

 深月が頭を抱える。

 

「ちょ、ちょっと待て黒野!ぬいぐるみに戻る(・ ・)とはどういう事だ!?」

 

 万丈目君はかなり鋭い様だ。

 

「……た、確かにそうッス!」

「言い間違いじゃねーのか?」

「いいえ、十代。彼は最初のルール説明でこう言っていたわ。敗者はぬいぐるみに変わる(・ ・ ・)って」

 

 僕の正体を察してきたのだろう。皆が僕を見る目が、化け物を見る目へと変わっていく。

 

「……ひとりかくれんぼ」

 

 大徳寺先生が呟いた。

 

「……ぬいぐるみを使ってデュエルモンスターズの精霊を呼び寄せる、降霊術の一種だニャ」

「な、何を言っているんですか大徳寺先生!」

 

 三沢君が動揺した様子で大徳寺先生に問い掛けた。

 

「遊陽君、君はもしかして……デュエルモンスターズの精霊なのかニャ?」

 

 突拍子も無い、馬鹿馬鹿しく、オカルティックな話。

 きっと闇のデュエルに関わる前は、皆そんなものフィクションだと笑い飛ばしていただろう。

 でも、闇のデュエルというオカルティックな事が現在進行形で起きている今、その言葉にはかつてない信憑性が宿る。

 

「……流石は大徳寺先生ですね。その通り。僕はパッチワーク・ファーニマルの精霊で……深月がずっと昔に持っていたぬいぐるみだよ」

 

 

 

「はい、深月ちゃん。お誕生日プレゼントだよ」

「わー、くまさんだ!ありがとうおじいちゃん、おばあちゃん!」

 

 頭が痛い。覚えていない筈なのに、懐かしくて暖かい光景。

 そうだ。私には、大好きなおじいちゃんとおばあちゃんがいた。

 両親は2人の事を嫌っていた様だけど、私にとっては数少ない味方だった。

 そんな2人が私の5才の誕生日にくれたのが、天使のような羽を持った栗色のクマのぬいぐるみ。

 両親は私がそのぬいぐるみさえあれば大人しくなることを理解していたのか、ぬいぐるみを壊したりはしてこなかった。

 私にとっての友達は、そのぬいぐるみだけだった。いつでもそのぬいぐるみと一緒に居た。外で遊ぶときも、寝るときも。ぬいぐるみと一緒にお歌を歌って、おままごとをして。

 ぬいぐるみは泥や砂で汚れてしまってボロボロだったけど、笑っていた。

 ……ぬいぐるみだから表情が変わらないのは、当然なのだけど。

 小学生に上がってからは、流石に学校に持っていくことは無くなった。

 それでも、苛められていた私にとって唯一の友達だったことには変わり無い。

 毎日今日どんな事があったのかお話しした。楽しいこと、凄いこと……辛いこと。

 だけどある日、耐えられなくなった。

 祖父母が亡くなった。

 たったひとつだった居場所が消えてしまった。

 寂しくなって、悲しくなって。

 アパートのベランダから下を見下ろし、いっそ飛び降りてみようかとも考えた。

 そんな時だった。■■■■に出会ったのは。

 ……頭に靄が掛かって誰だったのかは思い出せない。けど、何があったのかは思い出せる。私は教えてもらったのだ。

 

 友達を作るおまじないを。

 

 可愛らしいぬいぐるみ。とても大切なぬいぐるみ。その腹を裂き綿を抜き、代わりにお米を詰めましょう。

 可愛かったぬいぐるみ。大切だったぬいぐるみ。あなたの血を垂らしましょう。真っ赤な糸で縫いましょう。

 ちょっと不気味なぬいぐるみ。それはあなたのぬいぐるみ。最後に、言い聞かせるように、染み込ませるように。

 

「最初の鬼は、わたしだよ」

 

 時刻は深夜の2時3時。部屋の明かりは消しましょう。

 お風呂一杯にお湯を張り、そこに『あなた』を沈めましょう。

 テレビをつけてチャンネル替えて、砂嵐だけを映しましょう。

 刃物を持って犠牲者見つけ、刺し貫いて斬りましょう。そしてこう呟きましょう。

 

「次の鬼は、あなただよ」

 

 

 

「……僕はデュエルモンスターズの精霊だった。かといって所有者もなく、ただ空中を浮遊しているお化けみたいなものだったかな。でも僕はある日、強い力で引き寄せられたんだ」

 

 深月を指差す。

 

「深月が始めた降霊術、ひとりかくれんぼによってね」

「……私、が……?」

「深月は覚えていないよ。その記憶は闇のアイテムによって消されたから。僕はぬいぐるみの中に閉じ込められ……そしてハサミで貫かれた。痛かった。苦しかったよ。深月」

「……ぁ……」

「僕は君を恨んだ。せっかく体を、命を手に入れたのに、それをすぐに奪われてしまうなんて。でもそれと同時に、僕にぬいぐるみ自身の記憶が流れてきた。君に大切にされてきた、友達としての記憶が」

 

 そう。今の僕にはぬいぐるみの記憶がある。深月と一緒に歌を歌って、遊んで、毎日楽しく過ごしていた。

 

「……最初は、君を殺すつもりだった。でも、出来なかった。記憶の中の優しい君が、こんなおぞましいことをしてしまうほど追い詰められていたんだって思うとね」

「な、何なんだ?その、ひとりかくれんぼってのは……」

 

 十代君はいまいち理解できていない様子で頭をかく。

 

「さっきも言った通り、ぬいぐるみを使った降霊術だニャ。ぬいぐるみから綿を取り出して臓器の替わりになるお米と、魂の替わりになる自分の体の一部を詰め込む。そしてそのぬいぐるみを刃物で刺して殺し、自分は隠れる。するとぬいぐるみが動きだしたり、様々な怪奇現象が起きるとされているのニャ」

「……こ、怖いッス……」

「そうだニャ。これは自分の魂を他の体に分け、しかもそれを自らの手で殺すという、自分を呪う呪術でもあるのニャ。引き寄せられた精霊は魂を手に入れ、動き出す前に殺されてしまう。その恨みの力が、実行者に不幸を呼び寄せるのニャ」

 

 深月がどうやってこの呪いを知ったのかは知らないけど、僕は感謝しておいた方が良いのかもしれない。

 

「僕は君を殺せなかった。むしろ君を守りたいとさえ感じていた。でも僕はボロボロのぬいぐるみ。出来ることなど限られている。そんな時、僕はセブンスターズを纏めるあの人に出会ったんだ」

 

 その人はとても頭が良くオカルトにも造詣が深かった。僕の事をすぐに理解し、錬金術師らしい人の助けを借りて、僕の肉体を錬成した。そしてそれを維持するために、闇のアイテムである金色のイヤーカフまで貰った。

 僕は深月に危害を加えない限りは彼らに協力すると約束し、彼らも僕や深月にたくさんの支援をしてくれた。

 

「でも、三幻魔が復活すれば世界は滅びちまうんだろ!?それが星見の幸せになるのかよ!」

「十代。君達は三幻魔が世界を滅ぼすものだと思っているみたいだけど……それは違うよ。もちろん、それを手に入れて滅ぼそうと思えばできるだろうけどね」

「何!?」

「僕が彼に協力するのは、彼への恩返しだけじゃない。彼の求める先が深月に危害を及ぼさないからだよ」

 

 以前聞いた事がある。三幻魔を手に入れて、何がしたいのか。世界を滅ぼすだなんて言い出したのなら協力を止めるつもりだったけど、彼の目的を聞いて納得はできた。人間の目指すところは、結局は『そこ』なのだろう。

 

「だから安心して負けてよ。深月以外の皆も。深月の幸せには君達も必要だ。だからぬいぐるみになったとしても、三幻魔が解放された後で君達もちゃんと解放してあげる」

「……私の幸せって、何よ。そこに遊陽はいるの?」

 

 深月が僕を見つめる。今までとは違う、深い悲しみに染まった瞳で。

 

「……いないよ。三幻魔は復活する際に、デュエルモンスターズの精霊を生け贄として喰らう。僕もそのうちの1つになるんだ……それに、僕は元々君に危害を加える存在なんだ。今の僕は、深月を愛しているけどね」

 

 そしてそれと同時に、彼女に対する恨みの感情も心の奥底で燃えているのが事実。

 殺されたパッチワーク・ファーニマルとしての人格と、大切にされてきたぬいぐるみとしての人格。その2つが混ざった僕は不安定なのだ。

 そんな危険なものの側に、深月をおいておくわけにはいかない。

 

「さぁ、答えを聞かせて、深月。降参、してくれないかな?」

「……嫌よ」

「……深月」

「ぬいぐるみに戻ったとしても、また同じことをするわ!」

「っ!?それはダメだよ。また僕が呼び出されるとは限らない。もっと危険なものを呼んでしまう恐れだって――」

「だったら何度でもやってやるわ!遊陽がまた来てくれるまで、私は私を呪い続ける!諦めたりしない!」

 

 深月が本気の目をしている。このまま僕が負ければ、彼女は本当に僕を呼び出せるまでひとりかくれんぼを繰り返すのだろう。

 

「……それなら、僕も負けるわけにはいかないね……これが、僕の本気だよ」

 

 僕は手札のカード1枚を、デュエルディスクに置いた。

 

「……魔法カード発動【魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)】。墓地の融合素材モンスターをゲームから除外して、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚する!」

「させない!私は負けたくないの!私は【マイスタリン・シューベルト】の効果を発動!……遊陽の融合モンスターは、【エッジインプ】と【ファーニマル】の組み合わせで召喚される。なら、その内どちらかが居なければ融合召喚は出来ない!遊陽の墓地から【エッジインプ・シザー】、【チェーン】、【ソウ】の3体を除外するわ!」

「来ると思ったよ。チェーンして速攻魔法カード【皆既日蝕の書】を発動!フィールドのモンスターを全て裏側表示にする!」

 

 僕の頭上に現れた太陽を月が覆い隠し、フィールドが暗い闇に包まれる。

 

「カミューラの時と同じよ!」

「じゃあ星見さんのモンスターは……」

「チッ、戦闘で破壊され、効果の対象にされてしまう!」

 

 カミューラは厄介な事をしてくれたけど、この手段を思い付いたのは彼女のお陰でもある。

 

「でも、発動した効果は無効にならないわ!」

 

 3体のエッジインプが除外されていく。

 

「融合できるモンスターが居なければ、その効果は不発になる!」

「……うん。居なければ、ね」

 

 僕の足元に水色とピンクの渦が現れ、広がっていく。

 

「僕は墓地の【デストーイ・シザー・ベアー】と【デストーイ・チェーン・シープ】と【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】の3体を除外し、融合させる!」

 

 深月の表情が驚愕と絶望に染まる。

 

「3体の融合モンスターを、融合素材にしただと!?」

「……知らない。何よ、今までそんなカード、使ったこと無いじゃない」

「……うん。深月の前でこのカードを使うのは初めてだね。これが僕の本気。このデッキに眠る、最強の魔玩具!」

 

 3体のデストーイが渦に飲まれ、その体を融かし合う。

 

「愛する人の幸福のため、刃向かうものを根刮ぎ滅ぼせ!融合召喚!全ての玩具の結合魔獣、【デストーイ・マッド・キマイラ】!」

 

 地面が揺れる。バランスを崩し転びそうになる皆を、巨大な3つの頭が笑う。1つはクマ。所々から綿の飛び出たぬいぐるみ。1つはライオン。工具が突き刺さりタテガミも無いが、その瞳は獲物を逃がすことなく捕らえている。1つはヒツジ。綿毛を全て刈り取られた禿げ頭。

 びっくり箱から飛び出した様な、子供の見る悪夢そのものの姿。遊ばれ、捨てられた玩具達のなれの果て。

 

攻2800

 

 今までのデストーイ達の2倍はあるだろうその巨躯で、深月のフィールドを見下ろした。

 

「な、何ナノーネこの恐ろしいモンスターハ……?」

 

 ぬいぐるみ達は笑っている。彼らは表情を変えないから。どれだけ恨みを抱いていても、どれだけ怒りを感じていても、その顔は笑顔から変わらない。

 

「……これが、遊陽の、切り札……」

「その通りだよ」

 

 このマッド・キマイラは、融合素材とした3体の能力を、ちょっと変わった形で引き継いでいる。

 

「大丈夫。あの人とは約束してあるよ。深月は三幻魔が支配した世界でその一角を手に入れられるんだ。そこでは皆が深月を崇め、敬い、従うんだ。素晴らしい世界でしょ深月?もう君は苛められたりしない!君が幸せに過ごせる世界が完成するんだ!」

「遊陽がいない世界で、私が幸せな筈無いわ!」

「……それなら、今度は僕の記憶ごと消してしまおうか。君は安心していて良いんだよ。深月」

 

 深月の顔が青ざめていく。

 

「……嫌。遊陽の事を忘れるなんて嫌……!」

「そう思ってた事も思い出せなくなるんだから平気だよ。現に深月は、自分がひとりかくれんぼをしたことも覚えていないでしょ?」

「……負けない。負けたくない……!」

「……僕は【エッジインプ・DTモドキ】を召喚。その効果で【マッド・キマイラ】のステータスをコピーするよ」

 

 僕のフィールドに現れた赤ん坊の様な玩具の影が、キマイラへと変わる。

 

攻1300→2800

 

「さらに装備魔法【ジャンク・アタック】を【マッド・キマイラ】に装備させ、バトル!【DTモドキ】で裏側表示の【幻想の音女アリア】を攻撃!マッド・トイパーティー!」

 

 ゆっくりと動き出したマッド・キマイラの影の中からおもちゃのミサイルが放たれる。

 

「っ、セットした【光子化(フォトナイズ)】は、私のフィールドに光属性モンスターが存在しなければ発動できない……」

 

 攻撃宣言時には深月のフィールドに光属性モンスターはいない。そして表側表示になる頃にはその発動タイミングを逃している。

 

守1200

 

 闇の中から目を覚ましたアリアが、ミサイルにぶつかり爆発する。

 

「続けて【マッド・キマイラ】で【シューベルト】を攻撃!マッド・トイパーティー!」

 

 再びクマが口を開け、ミサイルを打ち出す。

 闇の中からマイスタリン・シューベルトが現れ、マッド・キマイラの前に現れる。

 

守2000

 

「私の【幻奏】が戦闘を行うとき、手札の【幻想の音女スコア】の効果を発動するわ!相手モンスターの攻撃力を、0にする!」

 

 深月の手札から音女が現れる。音女が歌うと五線譜がフィールドを覆い、それがマッド・キマイラを包もうとする。

 

「【マッド・キマイラ】の効果!このカードが戦闘を行う場合、相手はカードの効果を発動できないよ!」

 

 しかし、それは突如現れた鎖によって遮られる。剥げたヒツジの首からは無数の鎖が伸び、それがスコアのカードを縛り付けている。

 

「そんな……!?」

 

 再び放たれたミサイルは防がれることなく、シューベルトは消え去った。

 

「この瞬間、【マッド・キマイラ】の効果を発動!このカードが戦闘で破壊したモンスターを、僕のフィールドに攻撃力を半分にして特殊召喚する!」

 

 ライオンの首から無数の糸が伸びる。地面に突き刺さったそれは、墓地のマイスタリン・シューベルトに巻き付き、操り人形のようにして僕のフィールドに連れてくる。

 

攻2400→1200

 

「【マッド・キマイラ】の攻撃力は、元々の持ち主が相手となるモンスターをコントロールしているとき、1体につき300ポイントアップするよ!」

 

 シューベルトを操る糸からそのエネルギーを吸収し、マッド・キマイラは雄叫びをあげる。

 

攻2800→3100

 

「さらに【マッド・キマイラ】に装備された【ジャンク・アタック】の効果を発動。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを深月に与えるよ」

 

 マッド・キマイラの周囲にガラクタの群れが現れ、それが深月を襲う。

 

「きゃぁぁっ!!」

 

LP2200→1000

 

 これで深月のフィールドはがら空きだ。

 

「……僕はずっと君を見てきた。ぬいぐるみとして、それ以降は1人の人間として」

「……遊陽」

「だから僕は知ってるよ。君は1人じゃ何も出来ない。沢山のモンスターを呼び出すのは、君が友達を沢山作りたいから。でも君のセットした【光子化】も、君の手札の【スコア】も、君がひとりぼっちの時には助けてくれない」

「っ……!」

 

 深月の足が震え、座り込んでしまう。

 

「……でも大丈夫。君の友達はここにいるよ」

 

 僕は僕のフィールドのシューベルトを指差す。

 

「僕の言う通りにすれば、もう君はひとりぼっちにはならない。君は幸せになれるんだ。だからおいでよ、深月」

 

 糸に操られたシューベルトが、深月の前まで歩いていく。

 

「僕の勝ちだよ。【シューベルト】、深月を連れてきてあげて」

 

 シューベルトが深月に手をさしのべる。

 

「……ぁ、遊陽……」

 

 深月は震える手で、すがるように、その手をつかんだ。

 

LP1000→0

 

 そのまま気を失った深月を抱き抱え、シューベルトが僕の前に現れる。

 僕が深月を床に寝かせると、マッド・キマイラ達は消え去った。

 

「……君は、本当に彼女が幸せになれると思っているのニャ?」

「思っていますよ先生。僕の恩人は残酷で簡単に部下を切り捨てる様な人ですけど、約束は守りますから」

「……そうじゃない。そうじゃないのニャ……」

 

 深月を御姫様抱っこしてあげたいのは山々だけど、残念ながらそんな力はない。

 僕は眠っている深月の体を揺り起こす。

 

「起きて、深月。幸せな世界が待ってるよ」

「……はい」

 

 普段元気な彼女からは想像も出来ない抑揚の無い声。

 目を覚ました深月は起き上がり、僕に向けて笑みを浮かべる。その瞳に光は宿っていない。

 

「……じゃあね、皆。今日は疲れちゃったから、また明日以降来てよ」

「待てよ遊陽!俺とデュエルを――!」

 

 入り口で停滞していた黒い霧が十代達を包み込み、この廃寮の外まで追い出した。

 

「それじゃあ、いこうか深月。2階に広い部屋があったでしょ?あそこは僕の拠点なんだ」

 

 肝試しに行こうだなんて言われたときにはドキリとした。掃除はしてないけど、僕がいるだけでドアノブや床に積もる埃は減っていく。廃寮なのに綺麗に見えるのはその為だ……まぁ、他にも誰かがよく通っていた様だけど。

 

「……はい」

「……深月。何時もみたいに話してよ。いつも通りの口調でさ」

「分かったわ、遊陽」

 

 深月は笑顔を浮かべる。

 作り物めいた、美しい笑顔を。




~カード紹介のコーナー~

デストーイ・マッド・キマイラ
融合・効果/星8/闇属性/悪魔族/攻2800/守2000
「デストーイ」モンスター×3
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
「デストーイ・マッド・キマイラ」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。
(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にして自分フィールドに特殊召喚する。
(3):このカードの攻撃力は、元々の持ち主が相手となる
自分フィールドのモンスターの数×300アップする。

現在のファーニマルデッキの切り札。なんで攻撃力半分にしたのコンマイさん。
とても重くて出しにくいですが見た目は本当に好きです。当初はアリアも操って2体で殴る予定だったのですが、コントロール奪取効果はターンに1回だったので泣く泣くジャンク・アタックを採用する流れになりました。


第18話でした。主人公はどこへ向かおうと言うのか。
それではまた次回、お会いできればうれしいですー


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19話 ひとりぼっちの世界!

タイトルには無いですけど前編です。ですが今回はちょっと後編の更新は遅いかもしれません。


「もう着替え終わったかな?」

「うん。終わったわよ」

 

 僕は部屋のドアを開け、2階中央の部屋に入る。

 部屋の中にいる深月は、パーティーで着る様な綺麗なドレスを身に付けている。

 胸や背中を出した、袖の無いイブニングドレスという種類の物だ。

 宵闇の様な黒いドレスが、深月の白い肌をより一層美しく引き立てている。

 しかしスカートが長く、動きにくそうではある。

 

「うん。やっぱり似合ってるよ。深月に似合うドレスをしまっておいて良かった」

「ありがとう。嬉しいわ」

 

 他にも何着も新品のドレスは用意してあるけど、これが1番深月に似合うだろう。

 この間の肝試しで見られてしまったときはヒヤリとしたが、結果として着て貰えて良かった。

 深月は変わらず、虚ろな瞳で微笑んでいる。

 彼女を、いずれ解除するとはいえこうしてしまった罪悪感と彼女への愛しさが臨界を突破し、彼女の手を引いて抱き締める。

 

「……ごめんね、深月。すぐに深月が幸せになれる世界が出来るから。だから、それまでのちょっとの間だけ……僕のものでいて」

 

 これは、僕のワガママだ。

 こんなことをしても、深月は幸せにはならないだろう。それでも、ほんの一時でも良いから、この美しい少女を自分だけのものにしたかったのだ。

 

「……もの扱い、か」

 

 結局、僕はヒトにはなれないのだ。僕は自己中心的で倫理観に欠けた存在。今でさえ、この状態の深月を連れて何処かへ逃げてしまいたいとも思っている。

 それでも深月を幸せにしたいし、返せる恩は返したい。だから僕は逃げたりはしない。

 ……まぁ、仮に僕が逃げたとしても、三幻魔の復活を避けることは不可能だけど。

 

「……?何を言ってるのよ遊陽。私はあなたの物じゃない」

 

 心の無い、虚ろな瞳のまま彼女が言う。彼女の言葉の抑揚こそ普段のそれだが、今の言葉に感情はこもっていない。

 

「……そうだったね、深月」

 

 彼女の美しい体を穢してしまいそうな気がして、僕は彼女から離れる。

 

「……お腹が空いてきちゃうよね。ちょっと寮まで食べ物を取りに行ってくるから、ここで楽にしててよ」

「ありがとう、遊陽」

 

 僕は他の人に目をつけられ無いよう、オベリスクブルーの寮へと戻る。今は授業をしている時間だから、誰とも会うことは無かった。

 自室に入り、備え付けの冷蔵庫から食品をいくつか持ち出す。

 周囲を見渡してみると、机の上に1枚のカードが置いてあることに気がついた。

 

「あ、うっかり忘れてたよ」

 

 深月に似合うカードだ。後でプレゼントしようと思って机の上に置いておいたのを忘れてしまっていた様だ。

 僕はそのカードを取り、ブルー寮を出る。

 

「……待て」

 

 背後からかけられる声。振り向くと、そこには背の高い男子生徒……丸藤先輩が居た。

 

「……こんな時間にサボりですか?先輩」

「お前も言えたことでは無いだろう」

「……そうですね。何か用でもあるんですか?」

「……お前は、本当にセブンスターズなのか?」

 

 何をしてくるのかと思えばそんなことか。あんまり日光の当たる場所に食べ物を置いておきたくは無いんだけどなぁ。

 

「はい……あ、デュエルはしないですよ。丸藤先輩はもう鍵を持って居ませんし……深月が僕の帰りを待っているので」

「闇のデュエルとやらで洗脳した彼女か」

「洗脳……まぁ、そう言うことになるでしょうね。でもああでもしないと、深月は僕の考えに納得してくれませんから」

 

 丸藤先輩はかなりのポーカーフェイスだ。常に厳しそうな表情をしている。でも、今の彼は普段よりも強張っているように思えた。

 

「……明日香達から話は聞いた。彼女から君の記憶を消し、彼女が支配者となった世界で……幸せになれると思っているのか?」

「……なれますよ。深月はひとりぼっちが苦手なんです。でも彼女は友達がいれば強くなれる。だから世界を支配することで彼女の友達を増やせば、深月は幸せに過ごせるんです。誰の目を気にする事なく歌って、苛められる事もない。これ以上なく幸せな世界じゃないですか」

 

 全ての……は不可能だろうけど、無数の人間達が深月を崇める世界。今まで彼女を虐げてきた人間は復讐に怯えるのだろうけど。

 ……まぁ、優しい深月の事だ。きっと許してしまうんだろうなぁ。

 

「星見がお前に幸せにしてくれと頼んだのか?」

「……いいえ」

「それなら、お前の行為は自己満足だ。彼女を幸せにしたと思い込み、自分を幸せにしたいだけだ」

 

 丸藤先輩はそれだけ言うと、僕に背を向け去っていく。

 

「……丸藤先輩、あなたには分からないでしょうね。僕の様な、誰かを不幸にすることしか出来ない存在の気持ちなんて」

 

 その声は誰に届くこともなく、風に流され消えていった。

 

 

 

 夜の帳が降り、都会では見られなかった綺麗な星空が浮かぶ頃。僕と深月は地下のデュエル場で皆の到着を待っている。

 他の階からなるべく豪華で損傷の少ない椅子を運びだし、深月をそこに座らせた。

 

「ねぇ、遊陽。立っているのは辛くない?私が代わりましょうか?」

「良いんだよ。深月。君はそこに座っていて」

「……分かったわ」

 

 やがて複数の足音が聞こえてくる。十代達だ。

 

「……来たぜ、遊陽」

 

 彼の首からは、2つのネックレスがかけられている。……ダークネスの持っていたものだ。恐らくあれの依り代になっていた男から受け取ったのだろう。

 

「こんばんは、皆」

 

 深月は虚ろな瞳のままで、鍵を持った彼らに笑顔を振り撒く。

 まるで造花のような美しい笑顔なのに、彼らの纏う空気は一向に軟化しない。

 

「深月……」

 

 天上院さんが深月から目をそらす。

 

「昨日ぶりだね……今日は誰が相手になってくれるの?」

「……俺だぜ」

 

 十代が一歩前に踏み出し、デュエルディスクを構える。

 

「分かったよ。ルールは分かってるよね?このデュエルに負けたものは、ぬいぐるみへと変わる」

「上等だぜ。星見を助け出して、そしてぬいぐるみになったお前ももとに戻してやる!」

「……十代、君は闇のデュエルについて履き違えていないかな?罰ゲームを解除するには、闇のアイテムを持つものの敗北か、それ相応の奇跡が必要だよ。それこそ錬金術の叡智……賢者の石でも無い限りはね」

 

 今回は丸藤君や前田君は居ないようだ。カミューラみたいな例もあるし、無関係な彼らを巻き込むのは良くないと思ったのだろう。

 

「行くぜ!」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 十代

 

 デュエルが始まると同時に、イヤーカフから黒い霧が溢れ出し僕と十代を覆う。やがて霧は完全に僕たちを包み隠し、闇のドームを形成する。

 

「な、何だこれは……!?」

「僕はカミューラとは違って人質をとったりはしない。あくまでもデュエルは公平に行うよ」

 

 僕と十代の息遣いだけが聞こえる。外の空間とは完全に隔絶されたようだ。

 

「外からこの内部を見ることは出来ず、逆に中から外を見ることも出来ない。ここはひとりぼっちの世界。さぁ、闇のデュエルを始めようか」

 

 十代君には沢山の味方がいる。羨ましくは無い。僕には深月がついているのだから。だけど彼にも知ってもらおう。知ればきっと僕の意見に賛同してくれる。

 ひとりぼっちの恐ろしさというものを。

 

「僕の先攻、ドロー!」

 

 この間は負けてしまったけど、もう手加減はしない。

 

「魔法カードを2枚発動するよ。【魔玩具補綴】、そして【融合徴兵】!【デストーイ・シザー・ベアー】を十代に見せ、デッキから【融合】と【エッジインプ・シザー】、そして【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

「っ!融合素材を一気に揃えた!」

「その通り。僕は【融合】を発動し、手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ベア】を融合!おいで、全てを切り裂く戦慄のケダモノ!」

 

 ファーニマル・ベアにハサミが突き刺さり、クマのぬいぐるみに悪魔が取り憑く。

 

「【デストーイ・シザー・ベアー】!」

 

攻2200

 

「さらに僕は装備魔法【孤毒の剣】を発動し、【シザー・ベアー】に装備させるよ」

 

 紫色の毒々しい剣が地面に突き刺さり、シザー・ベアーがそれを引き抜く。

 

「……攻撃力が変化しない?」

「ひとりぼっちの恐ろしさを、せいぜい思い知れば良いよ。僕はこれでターンエンド」

 

 

遊陽 LP4000 手札3

モンスター:デストーイ・シザー・ベアー

魔法・罠:孤毒の剣

 

 

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 

 十代がカードをドローする。彼はセブンスターズの1人、ダークネスを倒している。油断はしない。

 

「来い!【E・HEROスパークマン】!」

 

 雷光が黒い霧を照らし、光のヒーローが現れる。

 

攻1600

 

「永続魔法【補給部隊】を発動。さらにフィールド魔法【摩天楼-スカイスクレイパー-】を発動!」

 

 黒い霧のドームが、夜空の広がるビル街へと変化する。

 映像だとしても美しい満月が僕達を照らし、この闇の世界に僕達の影が現れる。

 

「ここはヒーローの戦う舞台、スカイスクレイパー!行くぜ、バトル!【スパークマン】で、【シザー・ベアー】を攻撃だっ!」

 

 スパークマンが夜空を舞う。纏った稲妻が夜闇を照らし、美しく彩っていく。

 

「【スカイスクレイパー】の効果発動!自分の【E・HERO】が自分よりも攻撃力が高いモンスターへ攻撃するとき、その攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

攻1600→2600

 

「スカイスクレイパー・スパーク!」

「この瞬間、装備された【孤毒の剣】の効果が発動するよ。このカードは装備モンスター以外のモンスターが自分フィールドに存在すると消えてしまう代わりに、モンスターと戦闘を行うとき、元々のステータスを2倍にする!」

 

 そう。僕はひとりでも戦っていける。

 孤毒の剣から紫色のオーラが現れ、それがシザー・ベアーを包み込む。

 

攻2200→4400

 

「何っ!?」

「反撃だよ!モンスターイート!」

 

 摩天楼から雷を纏って落下するスパークマンを剣でいなし、もう片方の手で捕らえ口に放り込む。

 

「ぐっ……!」

 

LP4000→2200

 

「そして【シザー・ベアー】が戦闘でモンスターを破壊したことで、その相手モンスターを攻撃力1000アップの装備魔法へと変えるよ」

 

 シザー・ベアーの体が一回り大きくなる。

 

攻2200→3200

 

「だけど、【補給部隊】の効果が発動するぜ!1ターンに1度俺のモンスターが破壊されたとき、1枚ドローできる!」

「……中々厄介なカードだね」

「カードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

十代 LP2200 手札3

モンスター:無し

魔法・罠:補給部隊 セット スカイスクレイパー

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 孤毒の剣を維持するためには、モンスターを召喚してはいけない。最も今手札にいるモンスターは戦闘要員としてはとてもじゃないけど考えられない。

 

「バトルだよ!まさかこれで終わらないよね?【デストーイ・シザー・ベアー】でダイレクトアタック!」

 

 シザー・ベアーが夜の街を駆け抜け、十代に剣を振り下ろす。

 

「あぁ!まだまだだ!リバースカードオープン!【トゥルース・リインフォース】!デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚するぜ!来い、【ヒーロー・キッズ】!」

 

 十代を守るように、年若い少年のヒーローが現れる。

 

守600

 

「【ヒーロー・キッズ】は、実力はまだまだ未熟だけど、仲間との絆で戦いを乗りきるのさ!【ヒーロー・キッズ】の特殊召喚に成功したとき、デッキから同名モンスターを任意の数特殊召喚するぜ!俺は2体の【ヒーロー・キッズ】を召喚だ!」

 

守600×2

 

 孤独なシザー・ベアーの前に、3人のヒーローが現れる。

 

「……なら、その内の1人には犠牲になってもらうよ。【シザー・ベアー】の胃の中で、ひとりぼっちで苦しめばいい!最初に召喚された【ヒーロー・キッズ】を攻撃だ!」

 

攻3200→5400

 

 か弱い抵抗も虚しく、ヒーロー・キッズがシザー・ベアーに飲み込まれる。

 

攻3200→4200

 

「【補給部隊】の効果でドロー。すぐに助けてやるからな!」

「【孤毒の剣】の効果で、戦闘を行うときには攻撃力6400になるこのカードを倒せるのかな?カードを1枚セット。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札3

モンスター:シザー・ベアー

魔法・罠:孤毒の剣 スパークマン ヒーロー・キッズ セット

 

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法【冥界の宝札】を発動!」

 

 モンスター2体以上を生け贄に捧げて生け贄召喚したとき、2枚のドローが可能なカードだ。そして彼のフィールドには2体のモンスター。

 

「俺は2体の【ヒーロー・キッズ】を生け贄に、【E・HEROエッジマン】を召喚だ!」

 

 2人のキッズが力を合わせ、十代のデッキの中では最もステータスの高いヒーローが現れる。

 

攻2600

 

「【冥界の宝札】で2枚ドローし、さらに【融合】を発動!手札の【フェザーマン】と【ワイルドマン】を融合素材に、融合召喚!【E・HEROワイルド・ウィングマン】!」

 

 風が吹き荒れ、月を背後にフェザーマンの翼を持ったワイルドマンが現れる。

 

攻1900

 

「【ワイルド・ウィングマン】は、手札を1枚捨てることで魔法・罠カードを1枚破壊できるぜ!俺は2枚の手札を捨て、【孤毒の剣】と装備された【ヒーロー・キッズ】を破壊する!」

 

 ワイルド・ウィングマンがその翼で突風を起こし、孤毒の剣を吹き飛ばす。さらにシザー・ベアーに掴みかかり、その頭の中からヒーロー・キッズを引きずり出した。

 救出されたヒーロー・キッズは安心したような笑みで消えていく。

 

攻4200→3200

 

「これでもう攻撃力は上がらない!バトル!【エッジマン】で【シザー・ベアー】を攻撃だ!【エッジマン】の攻撃力は【スカイスクレイパー】により、1000ポイントアップする!」

 

攻2600→3600

 

 エッジマンの攻撃力がシザー・ベアーを超え、僕のモンスターはズタズタに切り裂かれる。

 

「くっ……」

 

LP4000→3600

 

「さらに続けて、【ワイルド・ウィングマン】でダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!【ガード・ブロック】!その戦闘ダメージを0にし、1枚ドローするよ」

 

 ……うん、悪くない。

 

「俺はこれでターンエンドだぜ!」

 

 

十代 LP2200 手札0

モンスター:エッジマン ワイルド・ウィングマン

魔法・罠:補給部隊 冥界の宝札 スカイスクレイパー

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 フィールドこそ十代の方が優位だけど、手札は0枚。つまりフィールドが空になってしまえば、十代は次にドローする1枚のカードで戦わなければいけない。

 

「行くよ、手札を1枚デッキの上に戻すことで、墓地の【エッジインプ・シザー】は守備表示で特殊召喚できる!」

 

守800

 

「さらに僕は【ファーニマル・マウス】を召喚!」

 

 ポン!という可愛らしい音がして、僕の前には青い色の小さなハムスターが現れる。

 

守100

 

「守備力100のモンスター……何をたくらんでいるんだ?」

「……さぁ、ね。君の言う絆っていうのは、こう言うことなのかな?【ファーニマル・マウス】の効果発動!同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚する!」

 

 同じ見た目のハムスターがさらに2体、デッキから召喚される。

 

守100×2

 

「そして永続魔法【デストーイ・ファクトリー】発動!墓地から【融合徴兵】を除外して、その効果を発動させる!」

「融合召喚を行う効果か!」

 

 僕の足元に黒い渦が広がっていく。

 

「僕はフィールドの【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・マウス】3体、そして手札の【ファーニマル・シープ】を融合!」

「なっ、5体のモンスターを融合素材にしただと!?」

「刃向かう者を処刑せよ、冷徹のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・タイガー】!」

 

 4体のファーニマルが、ハサミによって一気に切り裂かれる。

 エッジインプ・シザーはドロドロに溶けて残骸を吸収し、新しい形を手に入れる。

 

攻1900

 

 美しい水色の毛皮を月光に輝かせ、ハサミの生えたトラのぬいぐるみは、血走った目を十代に向けた。




今回のカード紹介コーナーもお休みです。

イチャイチャタイム(洗脳)。

自分で言うのもあれですけど駆け足過ぎて超展開ですね。とはいえ2回目となる原作主人公戦。それではまた次回もお会いできればうれしいですー!
ではでは。


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20話 ふたりぼっちの僕たちは

こちらは後編です。前回をお読みでない方は、ぜひ前回もお読みいただけたらと思います。


「【デストーイ・シザー・タイガー】……!?」

「そう。【デストーイ・シザー・タイガー】の効果発動!このモンスターの融合召喚に成功したとき、融合素材としたモンスターの数までフィールドのカードを選択し破壊する!」

 

 融合素材としたモンスターは5体。シザー・タイガーの腹部のハサミが巨大化し、十代のフィールドの全てのカードをまとめて断ち切る。

 ビル街は消え去り、元の黒い霧のドームが見えてくる。

 

「フィールドががら空きに……!」

「さらに【デストーイ・シザー・タイガー】の効果で、僕の【デストーイ】と名のつくモンスターの攻撃力は、自分フィールドの【ファーニマル】と【デストーイ】1体につき300ポイントアップする!」

 

攻1900→2200

 

「終わりだよ!【デストーイ・シザー・タイガー】でダイレクトアタック!デストロイ・エクスキューション!」

 

 シザー・タイガーが走り、十代の首を腹部のハサミで切ろうとする。

 

「まだまだぁっ!墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動!このカードを墓地から除外し、相手の攻撃を無効にする!」

「【ワイルド・ウィングマン】の効果で墓地へ送っていたんだね。ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP3600 手札1

モンスター:デストーイ・シザー・タイガー

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー

 

 

「俺のターン、ドロー!……良し!俺は【ホープ・オブ・フィフス】を発動!墓地の【スパークマン】、【ワイルドマン】、【エッジマン】、【ワイルド・ウィングマン】、【クレイマン】をデッキに戻すぜ!」

 

 クレイマンもワイルド・ウィングマンの効果だろう。ここで手札増強カードを引いてくるとは流石の引きだ。

 

「そして俺の手札とフィールドにカードが無いとき、3枚ドローするぜ!」

 

 十代の手札には3枚の手札。彼の事だ。融合に融合素材2枚を一気に引き当てることも考えられる。

 僕のフィールドにいるのは、召喚時こそ強力な効果を持っているが、それ以降はデストーイの攻撃力をアップさせる効果しか持っていない。

 ここでシザー・タイガーが倒されるのは不味いけど、それを防ぐカードも存在しない。

 

「行くぜ、魔法カード【増援】を発動して【スパークマン】を手札に加え、召喚だ!」

 

攻1600

 

「魔法カード【一騎加勢】を発動!【スパークマン】の攻撃力を、このターンの終わりまで1500ポイントアップ!」

 

攻1600→3100

 

 シザー・タイガーの攻撃力を超えられた……!

 

「バトル!【スパークマン】で【デストーイ・シザー・タイガー】を攻撃!」

 

 強化されたスパークマンの電撃が、シザー・タイガーを破壊する。

 

「くっ……!」

 

LP3600→2700

 

「よっしゃあ!カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

攻3100→1600

 

 

十代 LP2200 手札0

モンスター:スパークマン

魔法・罠:セット

 

 

「くっ……僕のターン、ドロー!」

 

 来た。僕の引きも悪くない。

 

「僕は【パッチワーク・ファーニマル】を召喚するよ」

 

 僕の体から光が放たれ、集り、栗色のクマのぬいぐるみが現れる。

 

「そのモンスターは……!」

「そう。これが僕の本当の姿。まぁこれじゃデュエル出来ないから、あくまでもこれはコピーの映像だけどね……でも、その効果はしっかりと発揮されるよ」

「何!?」

 

 僕はこのターンドローしたカードを発動させる。

 

「魔法カード発動!【魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)】!フィールド・墓地から融合素材を除外し、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚させる!」

 

 墓地からシザー・タイガーとシザー・ベアーの2体が現れる。

 

「まさかあのモンスターか!?いや、でもあいつの召喚には【デストーイ】が3体必要なハズ……!」

「【パッチワーク・ファーニマル】はフィールドにいる限り、【デストーイ】と名のつくモンスターとして扱うよ。【パッチワーク・ファーニマル】と【シザー・ベアー】、【シザー・タイガー】の3体を除外し、融合召喚!」

 

 3体のモンスターが渦に飲み込まれ、巨大な魔玩具が現れる。

 

「愛する人の幸福の為、刃向かう者を根刮ぎ滅ぼせ!融合召喚、全ての玩具の結合魔獣、【デストーイ・マッド・キマイラ】!」

 

 3つの巨大な頭が十代を見下ろし、嘲笑う。

 

攻2800

 

「ついに来やがった……!」

「君もここで終わりだよ。僕は七つの鍵を集め、彼に恩を返し、深月を幸せにして見せる!【デストーイ・マッド・キマイラ】で【スパークマン】を攻撃!マッド・トイパーティー!」

 

 巨大なクマのぬいぐるみが、おもちゃのミサイルを吐き出す。

 スパークマンは電撃で反撃を試みるも、ミサイルの質量に押し潰されて爆散する。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

LP2200→1000

 

「【マッド・キマイラ】の効果発動!戦闘で破壊した相手モンスターを僕のフィールドに蘇らせる!」

 

 ライオンの頭から糸が伸び、墓地に眠るスパークマンを操り人形のように引きずり出す。

 

スパークマン攻1600→800

マッド・キマイラ攻2800→3100

 

「ほら、君の友達も裏切り者さ。君はひとりぼっち。怖いだろう?辛いだろう?少しは深月の気持ちが分かったかな?【スパークマン】、ダイレクトアタックだ!」

 

 スパークマンは糸に操られるがまま、電撃を十代に向けて放つ。

 

「俺とヒーローの絆は、そう簡単には裁ち切れないぜ!リバースカードオープン!【好敵手(とも)の記憶】!」

 

 十代君がカードを発動させるが、スパークマンの攻撃は止まる事なく十代君を襲う。

 

「うわぁぁっ!!」

 

LP1000→200

 

「攻撃を止めるカードでは無い……?」

「いいや。このカードは攻撃してきたモンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを受けるカードだ」

 

 つまり、直接攻撃と同等のダメージを受けることでモンスターを守るカード……?

 そう考えていると、僕のフィールドにいるスパークマンが震え始める。

 

「……【スパークマン】?」

「俺の事、思い出してくれたんだな!」

 

 スパークマンは全身に力を込め、自らを操る糸を引きちぎる。

 

「何っ!?」

「【好敵手の記憶】の効果によって、攻撃してきたモンスターはゲームから除外される!」

 

 スパークマンはそのまま何処かへと消えてしまう。

 

攻3100→2800

 

「……自分の持ち主を攻撃したショックで行方不明、ね。僕はこれでターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP2700 手札0

モンスター:デストーイ・マッド・キマイラ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー

 

 

「それでも君はひとりのまま。また手札もフィールドも0だよ」

「……なぁ、遊陽」

「何かな?」

「お前は、ひとりぼっちが嫌なのか?」

 

 十代の発言に何か意味があるのだろうか。手札もフィールドも0。墓地には効果を発動できそうなモンスターは居ない。

 ……彼の事だから、何も考えては居ないのだろう。

 

「……僕はひとりぼっちでも大丈夫だよ。元々そうだったからね。でも深月はずっとひとりだった。数少ない味方を失って、敵だらけの世界で、苦しみながら生きてきた」

「……」

「十代もこのデュエルでわかったでしょ?誰からの声援も届かない、仲間達の姿も見えない。ひとりぼっちの恐ろしさを」

「……あぁ。そうだな。確かにひとりは怖い。俺だって、俺のデッキのヒーロー達が居なかったら、とっくに挫けてるさ」

「……分かってくれて嬉しいよ。君には、深月を守ってもらいたいんだ。例え世界を支配したとしても、深月がひとりなら何の意味もない。君も、三沢君も、天上院さんも。皆新しい世界で、支え合って生きてほしいんだ。誰もひとりぼっちにならないように」

 

 僕は彼らを傷つけたいとは思っていない。彼らは深月を苛める事なく、友人として関わってくれた。きっと彼らがいれば、深月は幸せになれる。

 

「……なら、お前は俺にひとりの怖さを教えるために、星見をひとりにしたのか?」

 

 心臓が高鳴る。汗が一気に流れだし、僕の頬を伝う。

 

「……っ」

「この霧の中を外から見ることは出来ないんだろ?なら、この外で星見は、ひとりぼっちでお前の事を待ってるんだぜ!」

「……そんな、それは……」

「星見の事が大好きなお前が、あいつをひとりにしてどうするんだよ!」

 

 ……あぁ。

 丸藤先輩が言っていた。お前の行為は自己満足だと。

 その通りだ。結局僕は、自分の事しか考えていなかったのだ。

 深月をひとりにしてしまった。彼女を寂しくさせないよう、世界を変えるまでは彼女の側にいると心に決めたのに。

 

「ぁ、あぁ……深月、みづき、深月っ!」

 

 僕は、ただ、僕は。

 

「……闇のデュエルを中断することは出来ない。はやく、速く終わらせないと……!」

 

 何をしたっていい。目の前の男を消して、深月を迎えに行かないと。

 

「俺のターン、ドロー!来たぜ!【E・HEROバブルマン】は、手札がこのカード1枚の時手札から特殊召喚できるぜ!」

 

守1200

 

「さらに【バブルマン】の召喚・特殊召喚に成功したとき、手札とフィールドに他のカードが無ければ、俺は2枚ドローできる!」

 

 男の手札が増えていく。

 

「俺は【フレンドッグ】を守備表示で召喚!カードを1枚セットしてターンエンドだぜ!」

 

守1200

 

 

十代 LP200 手札0

モンスター:バブルマン フレンドッグ

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ……このデュエルを終わらせるんだ。

 

「ぁあ!待っててね深月!すぐに終わらせるから!今度こそ、君をひとりにしないから!僕は【エッジインプ・DTモドキ】を召喚!」

 

 色々な玩具を継ぎはぎ合わせた様な赤ん坊が現れ、笑う。

 

攻1300

 

「そしてその効果で、【マッド・キマイラ】のステータスをコピーするよ!」

 

 DTモドキの影がゆらりと形を変え、マッド・キマイラへと変わる。

 

攻1300→2800

 

「バトル!【デストーイ・マッド・キマイラ】で【バブルマン】を攻撃!」

 

 クマのぬいぐるみの口が裂け、無数のミサイルが雨のように降り注ぐ。

 バブルマンが破壊されたあとも、モンスターが居た場所を気が狂ったように爆発させ続ける。

 

「そして蘇れ、【バブルマン】!」

 

 再び男の墓地へ伸びた糸が、バブルマンを引きずり出す。

 

バブルマン攻800→400

マッド・キマイラ攻2800→3100

 

「そして【DTモドキ】で、【フレンドッグ】を攻撃だ!」

 

 マッド・キマイラの影からミサイルが打ち出され、機械の犬はガラクタへと変わる。

 

「【フレンドッグ】が破壊されたとき、墓地から【融合】と【E・HEROフェザーマン】を手札に戻すぜ!」

 

 何か言っているが、もうそんなもの意味はない!次の攻撃で終わりだ!

 

「行け【バブルマン】!直接攻撃だ!」

 

 糸に操られたヒーローが、目の前の男に向けて泡の弾丸を打ち出す。

 しかしその攻撃は届く事なく、現れた炎の壁に遮られた。

 

「な、何が……!」

「危ない危ない。俺は【フレンドッグ】が破壊された時に、罠カードを発動させていたのさ!【ヒーロー・シグナル】は自分のモンスターが戦闘によって破壊されたとき、デッキから【E・HERO】を呼び出すことができる」

 

 炎の壁を産み出しトドメを遮ったのは、長い黒髪を持つ女性のヒーローだ。

 

「俺は【E・HEROバーストレディ】を召喚していたんだ!」

 

攻1200

 

 バブルマンの攻撃力ではあのモンスターを倒すことはできない。

 

「あぁ、はやく、速く終わらせないといけないのに……!」

「焦るなよ。すぐに終わらせてやるさ!」

「……っ!ターンエンドだよ」

 

 あぁ、深月が僕を待っている。あと少し、たったの200ポイントで終わる筈なのに、届かない。

 

「ヒーローは俺は助けに来てくれる。そして俺は色んなカードを使ってヒーローを助ける。俺は、俺達はひとりじゃない!」

「何を――」

 

 男のフィールドに稲妻が走り、一度は消えた光のヒーローが現れる。

 

攻1600

 

「【スパークマン】……!?」

「【好敵手の記憶】によって除外されたモンスターは、次の相手のエンドフェイズに、俺のフィールドに特殊召喚される!」

 

 帰ってきたのか。自らの主を救う為。

 モンスターとデュエリストの信頼。それがこの男の……いや、遊城十代の強さの源……!

 

 

遊陽 LP2700 手札0

モンスター:マッド・キマイラ DTモドキ バブルマン

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代が笑い、その首にかけられた2つのネックレスがカチリとはまり、光を放つ。

 

「っ、何が起こって……!?」

「さぁ行くぜ!俺は【融合】を発動!」

 

 手札のフェザーマンが現れ、それがフィールドのバーストレディと1つになる。

 

「来い!マイフェイバリットヒーロー!【E・HEROフレイム・ウィングマン】!」

 

 炎と風を纏い、竜の頭の様な片腕を持つヒーローが現れる。

 

攻2100

 

「さらに魔法カード【置換融合】を発動だ!」

 

 まだ融合を続けるつもりか!

 

「さぁ行くぜ!俺の新しい仲間だ!フィールドから【フレイム・ウィングマン】と【スパークマン】を融合させる!」

 

 2体のモンスターが再び現れた渦に飲まれていく。

 光輝く鎧を纏った、フレイム・ウィングマンの新しい姿。

 

「来い!【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン】!」

 

 その輝きはネックレスから放たれる光と同調し、黒い霧のドームを掻き消していく。

 

攻2500

 

「闇のアイテムの力が……!」

「最近は暗いデュエルばっかりだったからな。とびきり明るいカードを入れてみたのさ!」

 

 僕らを閉じ込めていた霧は晴れ、外から声をかけていた皆の姿が見える。

 

「十代っ!無事か!?」

「無事なようだな。良かった」

「ええ。本当に良かったわ!」

 

 椅子に座っていた筈の深月は立っていた。

 

「……遊陽」

 

 そしてその虚ろな瞳から、涙が零れ落ちる。

 

「深月……ごめんね。僕は、君をひとりにしてしまった……」

 

 深月がふらりと歩き出し、僕に抱きついた。

 

「何やってたのよ!心配したのよ!?いきなり黒い霧に飲まれて、何も見えなくて聞こえなくて!……遊陽、良かったぁ……」

 

 彼女の瞳には光が戻っている。十代君のネックレスの光が、彼女の心を支配していた闇を消し去ったのだ。

 

「……ごめんね。ごめん」

 

 深月の体を抱き締める。深月の涙で服が濡れていくのも気にしない。こんな僕を心配してくれる彼女が、ただただ愛おしい。

 

「へへっ、良かったな、遊陽!」

「……ありがとう、十代。僕は、大切なことを忘れていたみたいだ」

「お化けだか呪いだか知らないけどさ、そんなに星見の事が好きなら大丈夫さ!自分の心を信じようぜ!」

「……うん。そうしてみるよ」

 

 でも、霧が消えたとはいえ闇のデュエルが終わった訳じゃない。

 

「さぁ、デュエルを続けよう十代!」

「望むところだぜ!【シャイニング・フレア・ウィングマン】の攻撃力は、墓地の【E・HERO】1体につき300ポイントアップするぜ!」

 

 十代の墓地には、4体のヒーロー。

 

「【シャイニング・フレア・ウィングマン】の攻撃力は、1200ポイントアップ!」

 

 仲間達の遺志を受け継ぎ、シャイニング・フレア・ウィングマンの光がさらに強まる。

 

攻2500→3700

 

「【マッド・キマイラ】を超えた……!?」

「これで終わりだ!【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン】で、【デストーイ・マッド・キマイラ】を攻撃!究極の輝きを放て、シャイニング・シュート!」

 

 シャイニング。まるで太陽の様な輝きが、巨大な悪夢を焼き付くす。

 

「くっ……!」

 

LP2700→2100

 

「そして【シャイニング・フレア・ウィングマン】が相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが、ひときわ強い光を放つ。

 

「あぁ、深月」

 

 ひとりぼっちの僕はただ――

 

LP2100→0

 

 ひとりぼっちの君を、助けたかっただけなんだ。

 

「遊陽ぃぃっ!!」

 

 イヤーカフが外れ、地面に落ちる。

 僕はその場に膝をつき、倒れる。

 

「遊陽、遊陽っ!」

 

 深月が倒れた僕を支え、抱き締める。

 

「ごめんね、深月。酷いことしたよね」

「許すわ!許してあげる!だから、私をひとりにしないで!」

「大丈夫だよ。もう君はひとりじゃない。ここには、深月を心配して沢山の友達が来てくれたんだ」

 

 手と足の感覚が消えていく。目が霞み、聞こえてくる音が遠く感じる。

 

「深月、このカード、深月に似合うと思って、プレゼントしようと思ってたんだ」

 

 震える手で、ポケットから1枚のカードを取り出し、深月に渡す。

 

「遊陽!嫌、行かないでよ……遊陽!」

 

 もう、体を動かすことも出来ない。体が消えていく。罰ゲームだ。僕はぬいぐるみに変わるのだ。

 

「皆、ごめんね……どうか、深月を、ひとりにしないで……」

 

 

 

 この日、ふたりぼっちの僕たちは、ひとりになって崩れ落ちた。




~カード紹介のコーナー~

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン
融合・効果/星8/光属性/戦士族/攻2500/守2100
「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」カードの数×300アップする。
(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。


言わずと知れた十代のエースモンスター。高い攻撃力で直接攻撃と同じダメージを与える、4000ライフのデュエルでは一撃必殺級のカードですね。
最近はリンクスに登場しましたね。イベントで沢山来てくれたのでシャイニング沼地マンとして頑張ってもらっています。
沼地は沼地でも魔獣の方ですけどね。



遊陽がぬいぐるみへと変わってしまったショックから立ち直れず、深月は部屋に引きこもってしまった。
闇夜に伸びる盗掘団の影。
そして最後のセブンスターズが、彼を助けたいかと問いかける。

次回「彼の居ない世界で」

それではまた次回もお読みいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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21話 彼の居ない世界で

お待たせしましたー。今回はデュエルないです。


「星見さん、今日も来てないんスね」

「やっぱり、ショックだったんだなぁ」

「遊陽……お前はこれで良かったのかよ……」

 

 大徳寺が講義をしているが、3人は全く聞いていない。彼らはオベリスクブルーが集まる席を見て、ため息をついていた。

 黒野遊陽がぬいぐるみに変わってから1週間。彼の持っていた鍵は深月に託されたが、肝心の彼女はずっと引きこもってしまっていた。

 大徳寺は全く授業を聞いていない3人に注意しようとしたが、つい自分も深月や遊陽が座る筈の席を見てしまう。その度に首を振り、授業を再開する。

 

 

「吹雪君の事もあるのに……すまないね、明日香君。幻魔のことを知っているもののうち、女性は君だけなんだ」

 

 校長の鮫島は、申し訳なさそうに明日香に謝る。保健の先生でブルー女子寮長でもある鮎川や女医であるミーネには、今何が起きているのか伝えられていない。本当は事実を伝えて協力をあおぐべきなのだろうが、今回のことを秘匿しておきたい鮫島の考えで、今は明日香が深月の世話をしていた。

 

「いえ、私は大丈夫です。……でも深月は、まだ立ち直れてないみたいで……話しかければ返事はくれるのですが」

「まさか私達の中に裏切り者がいるとは想定外だった。今まで撃退したセブンスターズは4人。幸いにも鍵は4つ残っているが……」

「でも、もし今の深月が襲われれば」

「すぐに鍵を奪われてしまうだろうね。彼女には立ち直ってもらいたいが、長年連れ添ってきた幼馴染が居なくなってしまったのだ。ショックも大きいのだろう」

 

 鮫島はため息をつく。残る3人が彼女を狙わなければ良いのだが……。そう呟いて。

 

 

 ……何の音も聞こえない。

 私は、遊陽だったぬいぐるみを抱き締め、ベッドの上で寝転んでいた。

 今日は学校に行こう、そう思って制服には着替えたのだが、どうしても外に出ることができなかった。

 

「……遊陽」

 

 何度この名前を呼んだだろう。返事は返ってこない。

 遊陽は栗色のクマのぬいぐるみ……ちょうどパッチワーク・ファーニマルと似た姿のぬいぐるみへと変わっていた。私は覚えていないけど、きっと祖父母から貰ったぬいぐるみはこういう見た目だったのだろう。

 体勢を変える度に、首からかけた鍵がカチャリと音を立てる。この鍵はデュエルでのみ譲渡される。だからデュエルを介さずに遊陽が手にいれたこの鍵は、セブンスターズには使えなかったのだ。

 

「遊陽……」

 

 ぬいぐるみを強く抱き締める。ずっと抱いていたせいか、ぬいぐるみはほのかに温かい。

 ……もう一度、ひとりかくれんぼを行おうか。

 何度もそう考えた。でも、その度に彼の発言が頭をよぎる。

 

『痛かった。苦しかったよ、深月』

 

 ぬいぐるみに戻ってしまった遊陽の頭を撫でる。

 彼を苦しめてまで手に入れようとするのはいけないことなのだろう。それに、彼だったものに刃物を突き立てるのは、どうしてもできなかった。

 ただのぬいぐるみの筈なのに。私がハサミを刺した途端、その傷口から血が溢れ出て来そうで。

 

「……ぁあ、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 誰に聞かれるでもない謝罪を続けていると、ドアがノックされた。

 

「……?」

 

 私はゆっくりと起き上がり、ぬいぐるみを抱き締めたままドアを開けた。

 

「深月、体調はどう?」

「明日香……うん。体調は平気よ」

 

 明日香は最近、私をよく心配してくれていた。

 部屋から出なくなった私の為に食べ物を届けてくれたり、授業で何をやったのかを教えてくれたり。

 授業内容を纏めたノートを作ってくれたのは鏡泉君らしく、すごく分かりやすく纏められていた。やっぱり普段から勉強を教えているだけあるのだろう。今度会ったときにはお礼を言わなくちゃ。

 

「それで今日はね、ちょっと話があるの」

 

 明日香の背後から、金色の眼帯をつけた男の人が現れ、一礼した。その後ろには遊城君達もいる。

 

「用?」

「ええ、詳しくはこの警部さんから」

「えっと……どうぞ」

 

 男の人を部屋に入れるのは抵抗があるけど、明日香の連れてきた人だから大丈夫だろう。私はドアを大きく開け、皆を部屋に招き入れた。

 

「いやはや、突然の来訪、申し訳無い。私は本土で警部をやっているマグレと言う者です」

「いえ、大丈夫です。それで、警部さんが何を?」

 

 マグレと名乗った警部は私の抱き締めたぬいぐるみを、珍しそうな目でみている。

 

「……どうかしましたか?」

「あぁいや、すみません。私はこの学園の校長先生から鍵を守るために協力をお願いされましてな、皆様に鍵の管理の仕方を伝授して回っているのです」

「……はぁ」

「星見さんは、鍵をどこに?」

 

 私は制服の胸元から鍵を取りだし、見せる。

 

「うわわっ!」

「み、見るなバカども!」

 

 ……男子達が顔を赤くしてそっぽを向いた。何か変なことでもしたのだろうか。

 

「私は、いつも首からかけてます」

「成る程。やはり他の皆様と同じな様ですな。確かに自分のそばにおいておくのは良いですが、それは逆に鍵のありかを相手に伝えているのも同じです。どこか別の場所に隠した方が」

「っ!嫌です!」

 

 大きな声を出してしまう。今まで元気がなかったであろう私の大声に、マグレ警部がビクッと飛び上がる。

 

「……ぁ、ごめんなさい……でも、嫌です。これを放したくなくて……」

「ふむ。しかしそのままでは簡単に奪われてしまいますぞ。一時的に自分から放すか、それとも奪われて戻ってこないか……」

 

 私は鍵を強く握りしめる。ぬいぐるみを抱き締める力は強くなり、知らず知らずの内にマグレ警部を睨み付けていた。

 

「渡さない。絶対に、渡さない……!」

「何やら、ただ事ではない事情かありそうですな」

 

 マグレ警部は、優しげな声音で話を聞いてくれた。怖そうな外見だけど、悪い人ではないのかもしれない。

 

「……これは、私の大切な人が残していった物なんです。だから、だから……!」

「あ、あぁ!泣かないで下さい!……大変、失礼致しましたな。分かりました。そう言うことなら仕方がありません」

 

 私が涙目になったせいだろう。マグレ警部があたふたと慌てふためく。

 

「しかし、寝るときには外した方が良いかも知れません。首に引っ掛かって、首が締まってしまうかもしれない。枕元の様な手の届く場所でも大丈夫ですから、外しておいた方が良いでしょう。それと、扉と窓の鍵を閉めるのを忘れずに」

「……分かりました」

「そういえば、先程の女医さん……確かミーネと言いましたかな?彼女にもこの部屋に気を配る様、伝えておきましょう」

 

 それだけ言って、マグレ警部達は居なくなり、明日香だけが部屋に残った。

 

「ごめんなさいね。案内しろとしつこく言われたから……」

「ううん。良いのよ。あの人の言ってることは真っ当だわ……私が、ワガママなだけ」

 

 ベッドに座りぬいぐるみを抱き締めていると、明日香が隣に座って私の頭を撫でる。

 

「大丈夫よ。私も皆も、あなたには手を出させないわ」

「明日香……」

「だから今は、ゆっくり心を落ち着かせなさい」

「……ふふ、何だか格好いいわね。明日香は」

 

 少しだけ彼女にもたれ掛かると、明日香は嫌な顔せず私を受け止めてくれた。

 

 

 ……誰かの話し声が聞こえる。

 真っ暗で何も見えない。あの後私は眠って……今は何時だろうか。

 とりあえず、普段は寝ている時間に違いないだろう。

 だんだんと囁くような誰かの話し声が、近付いてきている様な気がした。

 

「ね、ねぇ……この子、この鍵にただならぬ感情を持ってるんでしょ?ほんとに盗っちゃうの親分?」

「だ、だが仕方あるまい。これが依頼である以上は……」

「そういえばこの鍵って使った後は消えちゃうのかい?消えないならちょっとだけ借りてさ、後で戻しに来れば……」

「そうだな、そうしよう」

 

 ……夢?まぁいいかな。何言ってるのか全然わからないし、寝てしまおう。

 そのまままた眠っていると、再び囁くような声が聞こえてきて目が覚める。

 さっきよりも少し明るい。夜明けが近いんだろうなー、なんてぼんやりした頭で考えている。

 

「開かなかったわねぇ」

「あぁ。何か条件でもあるのか?」

「とりあえず、この子の鍵だけは戻しておきましょ」

 

 枕元に何かを置かれる感覚。目を開けて周囲を見渡しても誰もいない。遊陽の鍵もちゃんとそこにあった。

 

「……?」

 

 首をかしげていると、ドアがノックされる。

 

「……こんな時間に。誰?」

 

 寝ぼけ眼を擦りながらドアを開けると、そこには明日香や遊城君達が立っていた。

 

「どうしたの?皆」

「深月、鍵はある?」

「かぎ……鍵?うん。あるよ」

 

 一旦ベッドまで戻って鍵を取り、それを皆に見せる。

 

「星見のは盗まれなかったのか……?」

「……何かあったの?」

「いや、何でもないんだ。今日、皆の部屋を回ったときに忘れ物をしてしまってな。少し部屋に上がらせてくれ」

「……良いけど」

 

 私は万丈目君達を部屋に入れる。

 万丈目君は私のベッドの前に立つと、ベッドの下に手を入れ何かを取り出す。

 

「それは?」

「オジャマ・イエローだ。こんなところに居たのか……」

「そっか。見つかって良かったわね」

「あぁ。協力感謝する」

 

 そしてそのまま部屋を出ていく。

 

「次は天上院君の部屋も調査しなければ……」

 

 なんて言ってたけど、皆の部屋に忘れ物でもしてきたのかな?

 私はあくびをしてもう一眠りしようとしたところで、床に何かが落ちていることに気づく。

 

「……つけ爪?」

 

 

 

 ……それから数日。どうやら鍵の盗難事件はセブンスターズの仕業だったようで、万丈目君が解決したと言っていた。

 その後やって来た2人のセブンスターズも遊城君が打ち倒したことで、残るセブンスターズは1人となった。

 しかしその途中で三沢君は負けてしまい、大徳寺先生が行方不明になってしまったようだ。

 今日も私は部屋を出ず、ぬいぐるみを抱き締めたまま外の景色を眺めている。

 遊陽が居なくなってから、私の時間感覚は狂ってしまったみたいだ。今が何日か分からない。彼と一緒に笑いあっていたのがつい昨日のようで、同時に遠い過去の事にも思えてしまう。

 

「……今日は、何日だったかしら」

 

 カレンダーを確認する気力も持てない。部屋に備え付けられたシャワーを浴びて汗を流し、体を拭いてまたベッドに倒れ込む。

 ここ最近は、毎日これの繰り返しだ。全く体を動かしてないけど、食欲が無くてほとんど何も食べていないからか体は痩せてきている。自分の手が、まるで骨と皮だけに思えてきてしまう。

 無意味に時間を浪費していると、頭の中に声が響いた。

 

『彼を取り戻したいか?』

「……誰っ!?」

 

 ベッドから飛び起き、周囲を確認する。私の目の前がグニャリと歪み、フードを被り仮面をつけた男が現れる。

 

「っ、あなたは……!?」

 

 男の手には黄金の装飾がつけられた本が握られている。……あれは闇のアイテム?だとしたらこの人は……。

 

「セブンスターズ……!」

「その通りだ。罰ゲームを受けぬいぐるみとなったその男を助けたいか?」

「何よ!当たり前じゃない!その為なら、何だってするわ!」

「そうか」

 

 男の仮面の瞳が輝く。その光を見ていると、頭がクラクラとして……きて……。

 

「彼を取り戻したければ、ついてくるがいい」

「……はい」

 

 

 

「星見も、吹雪さんも行方不明だって!?」

「そうなの。彼女に今日の授業の資料を届けに行ったんだけど……何処にも居なくて。それに兄さんの部屋は荒らされていて……」

「くそっ!大徳寺先生も行方が分からないってのに、2人まで……」

「も、もしかして、セブンスターズの仕業じゃないんスか!?」

「だ、だとしたらすごく危ないんだなぁ」

「と、とりあえず万丈目にも手伝ってもらおう!」

 

 オシリスレッドの一室。明日香から深月の事を聞いた十代達は、彼女や大徳寺を探すために捜索隊を結成する。

 

「大徳寺せんせーい!」

「星見さーん!」

「兄さーん!」

「全然見つからん……」

「ちょっと万丈目君!名探偵サンダーの力は何だったんスか!?」

「うるさいうるさい!」

「皆ー、どこにいるんだなー!」

 

 しかし誰の声も返ってこない。捜索は難航し、既に太陽が傾きかけていた。

 

「チッ!このままじゃらちが明かん!手分けして探すぞ!」

 

 捜索隊は一旦別れ、それぞれの思う場所を探しに行く。

 

「……何処にも居ないわ。どこに行ってしまったの……?」

 

 湖のほとりまでやって来た明日香の周囲に風が吹く。巻き上がった塵を避けるため目を瞑る。再び開いた彼女の視界には、フードを被り仮面をつけた謎の男が立っていた。

 

「っ!誰!?……まさか、セブンスターズね!?」

 

 男は無言でデュエルディスクを構える。

 

「良いわ!相手になってあげる!デュエル!」

 

 

『キャーッ!?』

「っ!今のは天上院君の悲鳴!?」

『アニキィ、なんだか嫌な予感がするわぁ!』

「黙れ雑魚!行くぞ!」

 

 森を探していた万丈目が、明日香の悲鳴を聞く。声のした方へ駆けていくと、彼女が持っていた何枚ものカードが落ちていた。

 

「これは……天上院君のデッキ!」

 

 カードを集め終わり視界を上げると、フードを被った何者かが自分を見下ろしていることに気づく。

 

「んなっ、何者だお前!?……そうか!お前が天上院君を……!」

 

 男は何も言うことなくデュエルディスクを構え、手で『来い』というサインをだし挑発する。

 

「ふん!この俺が何者だと思っている?俺は、一!」

『十!』

『百!』

『千!』

「万丈目サンダーだ!」

 

 

「ダメっス……建物の中は何処にも居ないッス……」

「女子寮の中はトメさんが探してくれたみたいだけど……何処にもいなかったってさ」

「ほんと、何処にいるのか分からないんだなぁ」

「とりあえず、万丈目達と合流しようぜ!あいつらは森の方に行ったんだろ?」

「ニャーオ」

「ほら、ファラオもそうすべきだってさ」

 

 十代達は一旦合流しようと森の近くまでやってくる。太陽は沈み、もう完全に夜になってしまっていた。

 

「万丈目ー!明日香ー!」

 

 しかし返事は返ってこない。

 

「ま、まさか万丈目君に明日香さんまで……!?」

「じゃ、じゃあ鍵を持っているのはもう、十代しか居ないんだなぁ……!?」

「いや!あいつらがそんなに簡単に負けるはずは――!」

 

 突如として空が曇り、雷が落ちる。

 

「うわぁぁっ!?」

 

 雷が直撃した木が倒れる。3人と1匹はそれを寸でのところで回避する。

 焼け焦げた木に、とあるマークが浮かび上がる。

 

「な、なんだぁ?これ」

「これ、確か今日の授業で出てたやつッスよ!」

「確か……アムナエルのマークだったんだなぁ」

「アムナエル……」

 

 そのマークはゆらりと消えると、場所を変えて浮かび上がる。

 

「消えた?」

「あっちッス!」

 

 再び消え、また少し離れたところに現れる。

 猫のファラオは十代の腕から飛び出し、そのマークを追いかけ始めた。

 

「まるで呼んでるみたいだな。待てよファラオ!俺も行くぜ!」

「だ、大丈夫かなぁ?」

「ま、待ってくれー!十代ー!」

 

 

「……あれ、ここは……?」

 

 暗い部屋。床は整えられていないのだろう、乾いた土の匂いがする。

 私は、ここで眠っていたのだろうか。

 

「自分の部屋で寝てて、変な人が来て、それで……」

 

 どうやってここまでやって来たのか、ここが何処なのか全然思い出すことができない。

 

「っ!遊陽!遊陽!?」

 

 ぬいぐるみが居ない。ちゃんと手に持っていたはずなのに、居ない!

 

「……嫌」

 

 何も見えない、暗い部屋でたったひとり。心臓は恐怖で鼓動を早める。フラフラと立ちあがり出口を探っていると、複数の人の足音が聞こえてきた。

 

「な、なんかラスボスの部屋って感じだな」

 

 扉の開く音が聞こえ、座っていた私を一筋の光りが照らす。

 

「きゃっ!」

「うわぁぁっ!?お化けぇぇ!?」

 

 そして懐中電灯を持っていた人と目が合う。

 

「「……あ」」

 

 部屋に入ってきたのは遊城君と、前田君と丸藤君だ。

 

「良かった!お前、無事だったんだな!」

「……無事?」

「放課後からずっと探してたんだぜ?途中で万丈目と明日香まで居なくなっちまったけど……」

 

 遊城君が今までの事を話してくれる。

 私や天上院先輩が居なくなった事で捜索していたけど、その途中で今いる3人以外も居なくなってしまったと言うことを。

 

「それにしても何だ?ここ」

 

 遊城君が懐中電灯でそこら中を照らして回ったお陰で、何があるのかを大体把握できた。

 

「フラスコとかビンが一杯……実験室……みたいね」

「おっ、あれは何だ?」

 

 遊城君が照らした先には棺が置いてある。

 

「良し!ちょっと開けてみようぜ」

「ええーっ!?怖いッスよ!?」

「いいからいいから!」

 

 遊城君が棺の蓋をずらすと、乾いてしわくちゃになった男のミイラが眠っていた。

 

「な、何よ、これ……」

「これは……」

 

 遊城君が顔を照らし、ミイラが着ている服に書いてある文字を読む。

 

「だい、とく、じ……?」

 

 その瞬間、パチンと音がして真っ暗な部屋に明かりが点る。

 

「なっ!?」

「……よくぞここまで来た、遊城十代」

 

 明るくなった部屋に現れたのは、私の部屋にも侵入してきたあの男だ。

 

「そして星見深月。君達にはこの私が最後の試練を与えよう」

「っ!お前、セブンスターズか!?万丈目や明日香を何処にやった!?」

「いかにも。彼らは類稀なる才能を持つデュエリストだった。だがそれまでだ。私に勝つことは出来ず、罰ゲームを受けたのだ」

 

 男が自らの持つ本を見せつけてくる。

 まさか明日香や遊陽はあの中に吸い込まれて……!?

 

「さぁ、彼らを取り戻したければ、この私に挑むがいい!」

「ま、待て!あのミイラは何なんだよ!お前が大徳寺先生をああしたのか?」

「……それは否定しておこう。あれはもともとここにあったものだ」

「何……!?」

 

 最後のセブンスターズがデュエルディスクを構える。

 

「私の名はアムナエル!さぁ、2人まとめて相手をしよう!彼らを助けたければ、また真実を知りたいのなら、この私を打ち負かすがいい!」

「……よし、やってやろうぜ!星見!」

「うん。私も、遊陽を助ける方法、教えてもらうから!」

 

「「「デュエル!!」」」




お気にいり数30突破!
皆さまありがとうございます!これからも頑張りますので、応援していただけると嬉しいです!

デュエル構成に悩む今日この頃。GXに出てくるようなカードだとアリアエレジーの突破も一苦労ですね。
何だかんだ言って盗掘団は良いやつのはず。
さて、一気に物語が進展し次回は最後のセブンスターズとの決戦です。
前後編になっているので、ある程度まとめて投稿する予定でいます。


ついに現れた最後のセブンスターズ。彼は深月と十代の2人を相手にしながらも、圧倒的な実力でデュエルの流れを支配する。

次回「最後のセブンスターズ(前編) 黄金の人工生命体!」

それでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです。
ではではー!


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22話 最後のセブンスターズ(前編) 黄金の人工生命体!

この作品におけるタッグデュエル、あるいは2対1のデュエルは、基本的にはタッグフォースのルールで進行します(フィールド、墓地、除外共通)。またタッグの順番はデュエル毎に変わる他、2対1のデュエルで相手が要求してくるハンデもデュエルによって変わります。ご了承下さい。


アムナエル VS 深月 十代

 

「君達は2人、私は1人。私は手札10枚から始めさせて貰うとするよ」

 

 アムナエルが通常の2倍の手札を持つ。普段のデュエルでもそうそうお目にかからない枚数の手札はかなり持ちにくそうだ。

 

「私の先攻、ドローだ!……ふむ。私は【錬金生物ホムンクルス】を召喚しよう」

 

 ホムンクルス……人造の生命体の事だ。アムナエルの目の前に液体金属が現れ、それが人の形になる。

 完全に人にはなりきれていないが、金属質の肌に混じって人の肌も見えている。

 

攻1800

 

「さらにフィールド魔法【混沌空間(カオス・ゾーン)】を発動。そして2枚の永続魔法【次元の裂け目】と【魂吸収】を発動させる」

「【次元の裂け目】……除外デッキね」

 

 だとしたら彼のデッキは次元帝?いや、次元帝に錬金生物ホムンクルスは入らないと思う。何にせよ次元の裂け目の効果で、墓地に送られる全てのモンスターはゲームから除外されてしまう。墓地利用だけでなく、墓地に送る事で発動させる効果も全て封じられてしまうのだ。

 アムナエルの背後に現れた空間の裂け目は、あらゆるものを吸い込もうとしている。

 

「さらにカードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

アムナエル LP4000 手札6

モンスター:錬金生物ホムンクルス

魔法・罠:次元の裂け目 魂吸収 セット 混沌空間

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 アムナエルは1人だけど、こっちは遊城君とのタッグデュエル。私のデッキは攻める力は少ないから、守りに専念して彼をサポートしよう。

 

「私は魔法カード【独奏の第1楽章】を発動!私のフィールドにモンスターが居ない時、デッキから【幻奏の音女アリア】を特殊召喚するわ!」

 

 五線譜が集まり、最初の音女があらわれる。

 

守1200

 

「さらに【マシュマカロン】を守備表示で召喚!」

『マシュ!』

 

 体をプルプルと震わせ、ピンク色のモンスターが私の前に現れる。

 

守200

 

「そしてカードを1枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月達 LP4000 深月手札3 十代手札5

モンスター:幻奏の音女アリア マシュマカロン

魔法・罠:セット

 

 

「それでは再び、私にターンが回ってくる。私は【錬金生物ホムンクルス】を生け贄に捧げ、【黄金のホムンクルス】を召喚する!」

 

 錬金生物ホムンクルスの体が燃える。

 錬金術、それは様々なものから金を作り出す技術。アムナエルのフィールドに、全身が黄金に包まれた巨大なゴーレムが現れる。

 

攻1500

 

「【次元の裂け目】の効果で【錬金生物ホムンクルス】は除外される。そして【混沌空間】はモンスターが除外される度にカウンターを1つ置き、【魂吸収】の効果で500ポイント回復する」

 

混沌空間(1)

LP4000→4500

 

「さらに【黄金のホムンクルス】は、除外されている自分のカード1枚につき、その攻撃力を300ポイントアップさせる!」

 

攻1500→1800

 

 つまりあのゴーレムは、除外されているカードを自らの材料に見立てているのだ。

 

「さぁ、バトルだ!【マシュマカロン】を攻撃!ゴールデン・ハーヴェスト!」

 

 数多の黄金が刃となり、マシュマカロンを貫く。

 

「そして【マシュマカロン】は除外される!」

 

 破壊されたマシュマカロンの残骸が、次元の裂け目に吸い込まれていく。

 

混沌空間(2)

LP4500→5000

 

「だけど、【マシュマカロン】が破壊された事で効果発動!デッキから同名モンスターを2体特殊召喚するわ!」

 

 残骸が2つ震えると、それは増殖を始め元々のサイズまで成長する。

 

守200×2

 

「なるほど、破壊され墓地へ行くことではなく、破壊されることそのものをトリガーにしているのか」

「そう。だから効果は発動するわ!」

「ふむ……私はこれでターンを終了する」

 

 

アムナエル LP5000 手札6

モンスター:黄金のホムンクルス

魔法・罠:次元の裂け目 魂吸収 セット 混沌空間(2)

 

 

「任せたわよ、遊城君!」

「おう!俺のターン、ドロー!」

 

 1体が除外されてしまった以上、マシュマカロンの分裂効果はもう使えない。

 

「早速使わせてもらうぜ!俺は【マシュマカロン】2体を生け贄に、【E・HERO エッジマン】を召喚だ!」

 

 遊城君のフィールドに、背の高い金色のヒーローが参上する。

 

攻2600

 

「しかし【マシュマカロン】2体が生け贄となり除外されたことで、私のカードの効果も発揮される!」

 

混沌空間(4)

LP5000→6000

 

 ライフポイントがもう初期の半分回復されてしまう。次元の裂け目と魂吸収を何とかしない限り、こちらが何かをする度にライフが増えていく。

 

「錬金術の、不死の力……」

「それなら、何度でも殴るだけだ!【アリア】を攻撃表示に変更し、行け!【エッジマン】!【黄金のホムンクルス】を攻撃だ!」

 

守1200→攻1600

 

 黄金のホムンクルスの攻撃力で参照されるのはコントローラーのカードだけ。まだアムナエル自身のカードはほとんど除外されていないから、まだ攻撃力の低いこの段階で仕留めれば!

 

「ふふ、そのくらいは読んでいたさ。私は永続罠【エレメンタル・アブソーバー】を発動!」

 

 アムナエルの前に、コマの様な機械が現れる。

 

「手札の【岩の精霊 タイタン】を除外して効果を発動!このカードが存在する限り、【タイタン】と同じ地属性モンスターは攻撃を行えない!」

「なんだって!?」

 

 回転するコマの色が、地属性をイメージさせる黄土色に変化して、エッジマンの攻撃をバリアが遮る。

 

「さらにモンスターが除外された事で、私のカードの効果が発揮!」

 

混沌空間(5)

LP6000→6500

攻1800→2100

 

「くっ……カードをセットしてターンエンドだ」

 

 遊城君のセットしたカードは……うん。ライフコストはあるけど、今後の展開を考えると保険としては十分!

 

 

深月達 LP4000 十代手札4 深月手札3

モンスター:エッジマン アリア

魔法・罠:セット セット

 

 

「私のターンだ。ドロー!」

 

 エッジマンの攻撃は止められたけど、黄金のホムンクルスの攻撃力はまだ低い方だ。このまま行けば……勝てるかな?

 

「ふふ、私は魔法カード【手札抹殺】を発動!お互いは手札を全て捨て、捨てた枚数ドローする!私は手札から【インフェルノ】【ギガンテス】【フェンリル】【シルフィード】【暗黒竜 コラプサーペント】【輝白竜 ワイバースター】の6体を捨て、6枚ドロー!」

「っ、俺の手札のモンスターは【ダーク・カタパルター】と【フレンドッグ】だぜ」

 

 遊城君が4枚の手札を捨て、4枚ドローする。

 

「ふふふ、これで8体のモンスターがゲームから除外された!」

 

混沌空間(13)

LP6500→10500

攻2100→3900

 

「攻撃力、3900……!?」

「まだ終わらんぞ!速攻魔法【手札断殺】を発動!互いは手札を2枚墓地へ送り2枚ドロー!ただしモンスターは【次元の裂け目】により除外されるがね。私が除外するのは【火の精霊 イフリート】と【水の精霊 ウンディーネ】だ」

「モンスターを捨てると回復されちまう。俺は【融合回収】と【ヒーロー・シグナル】を捨てるぜ」

 

混沌空間(15)

LP10500→11500

攻3900→4500

 

「さらに【暗黒界の取引】を発動。互いに1枚ドローし、その後手札を1枚捨てる。私は【風の精霊 ガルーダ】を捨てさせてもらおう」

「俺は【スパークガン】を捨てるぜ」

 

混沌空間(16)

LP11500→12000

攻4500→4800

 

「攻撃力4800ッス!?」

「ら、ライフ12000だなんて、見たことないんだなぁ!」

 

 確かにこれは辛い。私のフィールドを埋めて攻撃力を上げたとしても、4800には届かない。あれを倒せるとしたらスコアの効果だけど、今の手札には無い上、次元の裂け目の効果で墓地へ送ることができないから効果を発動できない!

 

「君達もその程度だったのかな?残念だよ。バトル!【黄金のホムンクルス】で、【幻奏の音女アリア】を攻撃!ゴールデン・ハーヴェスト!」

 

 戦闘では破壊されないとはいえ、このまま攻撃が通れば3200ポイントのダメージ。でも、

 

「遊城君!」

「あぁ!分かってるぜ!リバースカードオープン!【光子化(フォトナイズ)】!相手の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分、光属性モンスターの攻撃力をアップさせる!」

 

 黄金の刃が光の粒へと変わり、アリアへと吸収される。

 

攻1600→6400

 

「攻撃力が一気に上がったッス!」

「これであのホムンクルスを倒せるんだなぁ!」

「ほう。私はこれでターンを終了する」

「遊城君、発動しても大丈夫よ!」

「おう!それなら遠慮なく行くぜ!リバースカードオープン!【活路への希望】!自分のライフが相手より1000ポイント以上少ないとき、ライフを1000払って発動できる!相手とのライフの差2000ポイントにつき1枚、カードをドローするぜ!」

 

LP4000→3000

 

 私達とアムナエルのライフの差は9000。よって、

 

「カードを4枚ドローさせてもらうぜ!」

「くっ……回復したライフを逆手にとられたか……」

 

 

アムナエル LP12000 手札4

モンスター:黄金のホムンクルス

魔法・罠:次元の裂け目 魂吸収 エレメンタル・アブソーバー 混沌空間(16)

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 あまり沢山召喚し過ぎると、遊城君の邪魔になってしまいそう。アリアやエレジーみたいに耐性を与えるカードじゃないし、無理に展開しなくても良いかな。

 

「バトルよ!【幻奏の音女アリア】で、【黄金のホムンクルス】を攻撃!」

 

 アリアの攻撃力は黄金のホムンクルスの攻撃力と同じ値だけアップしている。つまり、直接攻撃と同じダメージが与えられる!

 

「くっ……!」

 

LP12000→10400

 

 普段のライフなら半分近く削るはずのダメージも、今のライフの前では大したことがない。

 

「だが【黄金のホムンクルス】は【次元の裂け目】に飲まれ除外される!」

 

混沌空間(17)

LP10400→10900

 

「【エッジマン】は攻撃できないから、バトルを終了。カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

 

深月達 LP3000 深月手札3 十代手札8

モンスター:エッジマン アリア

魔法・罠:セット

 

 

「私のターンだ。ドロー!……やはり君達には素晴らしい才能を感じる。この学園が始まって以来の融合使い遊城十代、そしてそれに並ぶ黒野遊陽から融合を教わった星見深月。さぁ、もっとだ!君達の錬金術を見せてくれ!」

「俺たちは錬金なんかしてないぜ!」

「ふふ、まだまだ考えが足りない、か」

 

 周囲の空間がぐにゃりと歪む。立ち眩みがして視界がぶれ、元に戻る頃にはアムナエルのフィールドにあのホムンクルスが存在している。

 

「な、何でよ!?さっき倒したはずじゃ……!」

「フィールド魔法【混沌空間】は、カウンターを4つ以上取り除く事で、取り除いた数と同じレベルの、ゲームから除外されているモンスターを特殊召喚出来るのだ」

 

混沌空間(11)

攻1500→4800

 

 混沌空間はモンスターが消える度にカウンターを乗せる。なら、あのホムンクルスは最低でも2回は復活する……!?

 

「さぁ、絶望するがいい!【黄金のホムンクルス】で【幻奏の音女アリア】を攻撃!ゴールデン・ハーヴェスト!」

 

 この攻撃が通れば負け。だけど!

 

「永続罠発動!【スピリットバリア】!私のフィールドにモンスターがいる限り、私は戦闘ダメージを受けないわ!さらに【アリア】の効果で私の【幻奏】は戦闘では破壊されない!」

 

 アリアの歌声が膜となり、私と遊城君を包み込む。

 

「ふむ。ターンエンドだ」

 

 

アムナエル LP10900 手札5

モンスター:黄金のホムンクルス

魔法・罠:次元の裂け目 魂吸収 エレメンタル・アブソーバー 混沌空間(11)

 

 

「行くぜ!俺のターン!ドロー!」

 

 これで遊城君の手札は9枚。フィールドには空きがあるから、一気に展開できる筈だ。

 

「サンキュー星見!俺は魔法カード【HERO’S ボンド】発動!俺のフィールドに【E・HERO】がいるとき、手札の【E・HERO】を2体まで特殊召喚出来るぜ!来い、【クレイマン】、【スパークマン】!」

 

 ヒーロー達の結束により、私達のフィールドに戦士が立ち並ぶ。

 

クレイマン攻800

スパークマン攻1600

 

「さらに魔法カード【R-ライトジャスティス】発動!俺のフィールドの【E・HERO】の数だけ、フィールドの魔法・罠カードを破壊する!」

 

 私達のフィールドに居るヒーローは3体!

 

「【次元の裂け目】【魂吸収】【エレメンタル・アブソーバー】を破壊だ!」

 

 3人のヒーローが手を重ね、強い光を放つ。放たれた光は相手フィールドのカードを貫き、破壊した。

 

「くっ……!」

「やったッス!」

「これで回復コンボは出来なくなるんだなぁ!」

 

 これで相手のフィールドに残っているのは黄金のホムンクルスとフィールド魔法。でも遊城君の事だ。フィールド魔法を処理できるカードは握っているはず!

 

「さぁ、見せてやるぜ!ヒーローの本当の力を!フィールド魔法【フュージョン・ゲート】を発動!」

 

 新しいフィールド魔法が発動されたことで、元々あった混沌空間は上書きされていく。

 

「これで【黄金のホムンクルス】は復活できないぜ!」

「確かにこれで帰還させる事は出来ないが……そもそもこのモンスターを突破できるのか?」

「勿論さ!【フュージョン・ゲート】の効果により、フィールドから【エッジマン】と【スパークマン】を除外して融合召喚!」

 

 2体のヒーローが黒い雲の渦に吸い込まれ、その中から新しいヒーローが現れる。

 

「来い!【E・HERO プラズマヴァイスマン】!」

 

 黄金の鎧をまとったスパークマンが、電撃を放ちながら降り立つ。

 

攻2600

 

「【プラズマヴァイスマン】の効果発動!手札を1枚捨てる事で、攻撃表示で存在するモンスターを破壊する!消えろ、【黄金のホムンクルス】!」

 

 プラズマヴァイスマンの放つ電撃は、攻撃力に関係なく相手モンスターを破壊する。どれだけ高い攻撃力を持っていても、耐性がなければ意味がない!

 

「それだけじゃないぜ!【フュージョン・ゲート】の効果発動!フィールドと手札から【クレイマン】と【バブルマン】を除外!来い、【E・HERO マッドボールマン】!」

 

 強固な守備力を持つ泥の戦士が現れる。しかし今は攻撃表示。一気に決めるつもりなようだ。

 

攻1900

 

「まだまだぁ!【フェザーマン】と【バーストレディ】を除外!来い、マイフェイバリットヒーロー!【E・HERO フレイム・ウィングマン】!」

 

 片腕が竜の頭になった、遊城君のお気に入りのヒーロー。マッドボールマンとあわせて初期ライフを削りきるほどの攻撃力を持っている。

 

攻2100

 

「……ふ、ははは!素晴らしいぞ遊城十代!そうだ!もっと君の錬金術を見せてくれ!」

「融合召喚が錬金術だって言うの……?」

「そうだ。ステータスの低いモンスターを素材に強力なモンスターを産み出す。錬金術そのものと言っても過言ではない!」

「いいや!融合はそんなオカルトとは違う!バトルだ!全員で直接攻撃だ!」

 

 フィールドの4体のモンスターが総攻撃を仕掛ける。

 

「ふふふ、ぐぁぁぁっ!!」

 

LP10900→9300→6700→4800→2700

 

 なのに、まだ届かない。ライフを削りきることはできない。

 

「流石だよ2人共。初めてのタッグにしては良いコンビネーションだ」

「初めて?」

「どうしてその事を……」

「知っているとも。見てきたのだからね」

 

 アムナエルの仮面がひび割れる。それと同時に太った猫が……ファラオが部屋の中に入って来て、アムナエルの足元にすり寄った。

 

「だ、ダメッスよファラオ!」

「ファラオが、しらない人に懐いてるんだなぁ」

「……知らない人?」

 

 遊城君がポツリと呟く。

 

「ふふふ、気づいたようだね」

 

 アムナエルはひび割れた仮面を外すと、それを投げ捨てた。

 

「「……っ!」」

 

 その仮面の下に、誰もが息を飲んだ。

 

「そん、な……嘘でしょ……?」

「何でだよ……どうしてだよ……!」

 

 顔にはヒビが入り、皮膚がボロボロと崩れていく。しかしその顔は、あの眼鏡は、見間違いようもない。

 

「大徳寺先生……!!」




前編なのでカード紹介コーナーはお休みです休んでばっかりだなこいつ。
さて、次回は後編です。

ついにその正体を現したアムナエル。彼は自らの目的を2人に語り、強大なモンスターを召喚する。
攻撃力8000を超えるモンスターを相手に、2人が手にした逆転のカードとは。

次回「最後のセブンスターズ(後編) 次元を越えた融合!」


次の投稿は後編なので、ちょっとしたら更新されるはずです。
それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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23話 最後のセブンスターズ(後編) 次元を越えた融合!

こちらは後編です。先に前回をお読みいただけると嬉しいです。


「何で、大徳寺先生が……!?」

「い、いいえ!大徳寺先生はあそこのミイラで……どういうことよ……?」

 

 戸惑う私達を、いつものあの優しげな表情で見つめてアムナエルは語り始める。

 

「あそこにいるのも間違いなく私さ。私は錬金術の力によって、死の世界から戻ってきたのだ」

「錬金術の、力だと?」

「そう。私はある人の元で錬金術の研究を行っていた」

 

 ファラオの頭を一撫でして、彼は語り始める。これまでの経緯を。

 

 アムナエルはとある男の支援を受け、錬金術の研究を進めていた。目的は、あらゆる反応を媒介し、永遠の命をもたらすという賢者の石を入手すること。

 かつてデュエルモンスターズを産み出したペガサスたどり着いた様に、彼の研究も古代エジプトに存在するデュエルモンスターズの精霊にたどり着いた。

 しかし研究には、あまりにも時間がかかり過ぎた。無理を続けた肉体は限界を迎え、彼は自らの魂を、錬金術で産み出した人工生命体……ホムンクルスに写し、死の世界から帰ってきた。

 

「……っ!それじゃあ、遊陽の体を作った錬金術師って……!」

「私の事だ。新しい体を作り出し、ひとりかくれんぼによって切り離された君の魂の一部をその体に宿らせた。それが黒野遊陽という存在だ」

 

 じゃあ、遊陽はホムンクルスだったってこと……?

 

「私は一度蘇った。だがもう時間は残されていないのだ。私の体は朽ち始めている」

「何だって!?」

「だから私は、私が滅びる前に大いなる闇に対抗できる人間を育てなければならなかった」

「それで、遊城君を……?」

「君や黒野遊陽も対象だ。最も黒野遊陽はあの人の意見に賛同し、三幻魔を復活させようとしていたがね」

「じゃあ、あなたは三幻魔の復活に反対なの?」

 

 大徳寺先生はゆっくりと首肯く。

 

「三幻魔は、不老不死の願いを成就させるために必要な物だ。私も最初は私に研究する機会をくれた彼に恩を返そうとしていた。だが彼は変わってしまった。彼は三幻魔の力を使い、すべてを支配することを望み始めたのだ」

「そんな……」

「勿論遊陽君の言っていた通り、あれがあるだけで世界が滅びたりはしない。しかしあれは所有者の心の闇を増幅させるカード。いずれ世界の滅びをもたらす事は想像できるだろう。今の彼にその意思がなかったとしてもね。だから私は彼を止めるために動いていた。このデュエルは、君達が私の持つエメラルド・タブレットを受け継ぐのに相応しいかを確かめるもの……これは最終試験であると同時に、君達に贈る最後の授業だ!」

 

 大徳寺先生はファラオを地面に降ろし、離す。

 

「さぁ、授業の続きを始めよう!」

「くっ……!俺はこれでターンエンドだ」

 

 

深月達 LP3000 十代手札0 深月手札3

モンスター:プラズマヴァイスマン マッドボールマン フレイム・ウィングマン アリア

魔法・罠:スピリットバリア フュージョン・ゲート

 

 

「私のターン、ドロー!……ふふ。私はカードを2枚セットしてターンエンド」

 

 

大徳寺 LP2700 手札4

モンスター:無し

魔法・罠:セット セット

 

 

 カードを伏せただけ?一体何を企んでいるの?

 

「私のターン、ドロー!」

「このタイミングで、私は永続罠を発動しよう。【マクロコスモス】!」

「なんですって!?」

 

 空間が歪む。私達がいた場所は地下の研究室ではなく、いつの間にか宇宙空間の様な場所に立たされている。

 

「下にあるものは上にあるものの如く、上にあるものは下にあるものの如し。これは錬金術の基礎的な考えだ。マクロコスモスとミクロコスモスは密接に関係し合っている。君達人間と宇宙も同様にね」

「俺達と、宇宙が……?」

「その通りさ」

 

 授業で言っていた気がする。しかしこのカードは、どんな効果を持っているのだろうか。

 

「【マクロコスモス】を発動したとき、デッキから【原始太陽ヘリオス】を特殊召喚できる」

 

 空間のゆがみの中から現れるのは、太陽の様な頭を持つ女性型のモンスターだ。

 

攻?

 

「【原始太陽ヘリオス】の攻撃力は、ゲームから除外されたお互いのモンスターの数につき100ポイントアップする」

 

攻?→2400

 

「……私は【フュージョン・ゲート】の効果を発動!手札の【幻奏の音女カノン】と【幻奏の音女セレナ】を除外し、融合するわ!」

 

 手札から現れた2体の音女が、頭上の黒い雲へと飲み込まれる。

 

「融合召喚!今こそ舞台へ!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 渦の中から、ナイフの様な指揮棒で空間を切り裂き音姫が現れる。

 

攻2400

 

「【マイスタリン・シューベルト】の効果、コーラスブレイク、発動!先生の墓地の【手札抹殺】【手札断殺】【暗黒界の取引】の3枚を除外し、1枚につき攻撃力を200ポイントアップさせるわ!」

 

 3枚のカードが五線譜に変わり、シューベルトの指揮棒に吸い込まれていく。

 

攻2400→3000

 

「お願い!【マイスタリン・シューベルト】で【原始太陽ヘリオス】を攻撃!」

 

 シューベルトの奏でる音楽が嵐のように巻き起こり、ヘリオスを包み込む。

 

「速攻魔法発動!【グランドクロス】!このカードは【マクロコスモス】が存在するときのみ発動が可能。フィールド上のすべてのモンスターを破壊し、君に300のダメージを与える!」

「っ、きゃぁぁっ!?」

 

 惑星が十字形に並び、その重力波によってフィールドのモンスターは全滅する。

 

LP3000→2700

 

「そして【マクロコスモス】は墓地に送られるカードを全て除外する。今度は魔法・罠カードも含めてね」

 

 破壊されたモンスター達が、この広い宇宙空間に消えていく。

 

「っ、私はカードを2枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月達 LP2700 深月手札0 十代手札0

モンスター:無し

魔法・罠:スピリットバリア セット セット フュージョン・ゲート

 

 

「私のターン。魔法カード【魂の解放】を発動!私の墓地から【黄金のホムンクルス】と【次元の裂け目】【魂吸収】を、そして君達の墓地から【独奏の第1楽章】と【融合回収】を除外するよ」

 

 お互いの墓地のカードが消えていく。大徳寺先生の墓地からカードが無くなった。

 

「魔法カード【救援光】を発動。800ポイントのライフを支払い、ゲームから除外された光属性モンスター……【原始太陽ヘリオス】を手札に戻す。さらに魔法カード【次元の歪み】を発動。自分の墓地にカードが存在しないとき、ゲームから除外された私のモンスターを特殊召喚できる!」

 

LP2700→1900

 

 大徳寺先生の背後がぐにゃりと歪み、破壊したはずの黄金のホムンクルスが現れる。

 

攻1500

 

「そんな!せっかく破壊したってのに!」

「ふふふ、私はそう甘くはないよ。今ゲームから除外されている私のカードは20枚!よってその攻撃力は……!」

 

攻1500→7500

 

「な、ななせんごひゃく……!?」

「そして私は【原始太陽ヘリオス】を召喚」

 

攻?→2800

 

 レベル4のモンスターが最上級モンスターレベルの攻撃力を手に入れるほどカードがゲームから除外されている。

 

「【原始太陽ヘリオス】を生け贄に捧げることで、手札の【ヘリオス・テュオ・メギストス】は特殊召喚できる!【デュオ・メギストス】の攻撃力は、除外されている全てのモンスターの200倍だ!」

 

 ヘリオスが成長し、その体は太る。頭部の太陽も巨大化し、まるで衛星の様に小さな太陽がその隣に現れる。

 

デュオ・メギストス攻?→5800

黄金のホムンクルス攻7500→7800

 

「まだだ!さらに【ヘリオス・デュオ・メギストス】を生け贄にささげ、私の錬金術は完成する!現れよ!これが我が研究の成果!【ヘリオス・トリス・メギストス】!」

 

 ヘリオス・デュオ・メギストスが炎に包まれ、姿を変える。まるで大人の女性のようだった体は幼子の様な小さなものに変わり、3人の太陽がくるくると回る。

 三つ子の太陽(ヘリオス・トリス・メギストス)。これが大徳寺先生の最強のカード……!

 

トリス・メギストス攻?→9000

黄金のホムンクルス攻7800→8100

 

「こ、こ、こ、攻撃力、9000ッス!?」

「そんな、そんな、事って……」

「【ヘリオス・トリス・メギストス】の攻撃力はゲームから除外された全てのモンスターの300倍。さらにこのモンスターは戦闘でモンスターを破壊したとき、続けて攻撃することもできる……もっとも、君達のフィールドにモンスターが居ない今、その効果は意味がないがな」

 

 三つ子の太陽は無邪気な子供のように、私達を興味ありげにジロジロ見ている。

 

「これで終わりか!?バトルだ!【ヘリオス・トリス・メギストス】でダイレクトアタック!フェニックス・プロミネンス!」

 

 三人の太陽が強く燃え上がり、炎が包む。炎は鳥の様な形となって、私に襲いかかる。

 

「っ!リバースカードオープン!【奇跡の光臨】!ゲームから除外されている天使族モンスター1体を特殊召喚する!戻ってきて、【アリア】!」

 

 私の目の前に光が集束し、女性となって現れる。

 アリアの歌声がバリアを作り出し、炎の鳥を押し返した。

 

守1200

 

攻9000→8700

 

「特殊召喚された【アリア】は戦闘では破壊されず、カード効果の対象にはされない!」

「この攻撃を凌いだか。私はターンエンドだ!」

 

 

大徳寺 LP1900 手札0

モンスター:ヘリオス・トリス・メギストス 黄金のホムンクルス

魔法・罠:マクロコスモス

 

 

「攻撃力8000超えが2体も……」

 

 いくらアリアが戦闘破壊されないとはいえ、このままでは押しきられてしまう。そのうえ私と遊城君の手札は0枚……。

 

「【異次元の女戦士】」

「!?」

「【異次元の戦士】、【サイクロン】で【スピリットバリア】を破壊してから【メテオ・ストライク】を発動させるのもいいだろう」

「な、何を言ってるのよ」

「私のデッキに入っている、アリアを処理する手段だ。私の初期手札は10枚。その後も度重なる手札交換で私のデッキの枚数はもう少ない」

 

 ……そうか、大徳寺先生のデッキはかなり圧縮されてきている。最悪、次の先生のターンに今言っていたカードを引かれる恐れもある。悠長に時間稼ぎなんてしてられない。

 

「こんなの、どうすりゃいいんだよ……」

 

 遊城君が苦々しい顔で呟いた。私も彼も、心が折れかかっている。

 

「あ、アニキ……」

「十代……」

 

 遊城君は震える手でドローを試みるが、やめてしまう。

 

「クソッ、次のドローで、何か引かなきゃ……」

「……君は、1年前の君と同じなのかい?」

 

 大徳寺先生が遊城君に語りかける。その声音はアムナエルの物ではない。毎週授業で聞いていた、あの優しい大徳寺先生の声だ。

 

「1年前の、俺……」

 

 遊城君は丸藤君や前田君、私を見て顔を伏せる。

 

「いいや違う!俺には沢山の仲間がいる!ここにいる奴だけじゃない!万丈目に三沢、明日香、カイザーにクロノス先生!それに……遊陽だって!」

「……ふふ。気づいたようだね十代。錬金術の真理に!」

「行くぜ大徳寺先生!俺のターン、ドロー!」

 

 遊城君がカードを引く。白い小さな羽が、彼の周りを舞った様な気がした。

 

「……応援してくれるのか?相棒!」

『クリクリー!』

「よっしゃあ!それなら星見、使わせてもらうぜ、お前のリバースカード!」

「うん!」

「速攻魔法、発動!【リロード】!手札を全てデッキへ戻し、戻した枚数分ドローする!」

 

 遊城君の手札のハネクリボーがデッキへと戻っていく。

 

「アニキ!」

「十代!」

「遊城君!」

「頼むぜ、俺のデッキ!ドロー!」

 

 空気が一瞬だけ静まり返る。冷めた静寂ではない。嵐の前の静けさ。噴火する直前の、一瞬の間。

 

「来たぜ!俺は魔法カード【平行世界融合(パラレル・ワールド・フュージョン)】を発動だ!」

 

 宇宙の端がキラリと光り、4人の戦士が遊城君を守るように現れる。

 バーストレディ、フェザーマン、バブルマン、クレイマン。それぞれが違う属性を持つ、頼れる仲間達。

 

「【平行世界融合】だと……!?」

「そうさ!これは【E・HERO】専用の融合カード!ゲームから除外された融合素材モンスターをデッキに戻し、融合召喚を行うぜ!」

 

 4人の戦士がその手を重ね、渦の中へと飲み込まれていく。

 

「来い!究極の【E・HERO】!全ての力を融け合わせ、今ここに誕生せよ!地水炎風融合、【エリクシーラー】!」

 

 エリクシール。賢者の石によって作られる秘薬、あるいは賢者の石そのものとも言われる錬金術の極致。

 黄金に輝くその体は、一抹の明かりも見えなかった宇宙の先までも明るく照らしている。

 

攻2900

 

「【エリクシーラー】の攻撃力は、相手フィールドに存在する【エリクシーラー】と同じ属性のモンスター1体に付き、300ポイントアップする!」

 

攻2900→3500

 

「さらに【エリクシーラー】が融合召喚されたとき、ゲームから除外されたお互いのカードを全て、持ち主のデッキに戻す!」

「何だと!?」

 

 エリクシーラーの光が宇宙を照らし、虚空の果てでさ迷っていた魂達が道しるべを見つけ、帰ってくる。

 

トリス・メギストス攻8700→0

黄金のホムンクルス攻8100→1500

 

「素晴らしい……これが融合、これこそが、錬金術……!」

「バトル!【E・HERO エリクシーラー】で【ヘリオス・トリス・メギストス】を攻撃!フュージョニスト・マジスタリー!」

 

 虹色の光がエリクシーラーから放たれ、それが三つ子の太陽を焼き尽くす。

 

「見事だ2人とも。試験の結果は、合格だ」

 

LP1900→0

 

 ライフポイントを失い、大徳寺先生がその場に崩れ落ちる。

 

「見事だよ2人とも。君達なら、大いなる災いにも打ち勝つことが出来るだろう」

「大徳寺先生、大丈夫かよ!?今保健室まで運ぶからな!」

「いや、もう良いんだ。十代君。この体はもう限界だ。あと数分と経たず崩壊し、塵になるだろう」

「そんな……!?」

「深月君、遊陽君は今闇のゲームの力でぬいぐるみへと変わっている……つまり、ぬいぐるみに戻った訳ではない」

「ほ、本当ですか……?」

「ああ。彼にかけられた闇の力を取り払うには、賢者の石が必要になるだろう」

 

 大徳寺先生が震える手で、金色の装飾の施された本を私達に渡す。

 

「これは錬金術についての全てが記された書、エメラルド・タブレット。これを君達2人に渡そう。君達ならきっと、賢者の石を手に入れられる、はずだ……」

 

 大徳寺先生の体が崩れる。ホムンクルスとしての肉体が限界を迎えたのだろう。その体は砂になり、小さな山を床に作った。

 

「大徳寺先生……この本は、確かに預かったぜ」

「その本に、賢者の石を作る方法でも書いてあるのかな」

「さぁ、な。でもこれで、セブンスターズとの戦いは終わりだ!」

 

 そうだ。これでもう鍵を狙ってくる人は居ない。三幻魔の復活は妨げられた。私達の、勝利だ!




~カード紹介のコーナー~

E・HERO エリクシーラー
融合・効果/星10/光属性/戦士族/攻2900/守2600
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
+「E・HERO クレイマン」+「E・HERO バブルマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの属性は「風」「水」「炎」「地」としても扱う。
このカードが融合召喚に成功した時、ゲームから除外された全てのカードを持ち主のデッキに戻し、デッキをシャッフルする。
相手フィールド上に存在するこのカードと同じ属性のモンスター1体につき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

チェーン・マテリアルさんの相棒ことエリクシーラーさんです。第1の効果は除外へのメタ効果。そしてもう1つは、相手の闇属性以外のモンスター1体につき攻撃力を上昇させる効果ですね。
ザ・アメコミのヒーローって感じの見た目はかなり好きです。融合素材が難易度高いので普通のデッキでは出すために大分苦労してしまいますね。


すべてのセブンスターズを撃破し、七つの鍵を守りきった深月達。しかしある時七精門がなんの予兆も無く解放され、幻魔の封印が解けてしまう。
孤島の学園に降り立ち三幻魔のカードを手にいれた男の正体とは。
次回「三幻魔復活!(1) 神炎、叡知を焼き付くし」


凄まじい攻撃力が出せるので除外デッキは楽しいですね。一撃死が多発するのでスピリットバリアが無いとすぐ終わってしまいますが。
さて、次回はとうとう三幻魔戦です。
それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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24話 三幻魔復活!(1) 神炎、叡知を焼き尽くし

三幻魔戦です。ちょっと展開に長考してるので、三幻魔戦の更新はちょっと遅めかもです。


「……えっと、ここの文字がこうで、こっちがこれで……うーん。文章が繋がらないわね」

 

 放課後の図書室。私はトメさんにお願いしてバイトを早く切り上げ、図書室で調べものをしていた。

 隣の椅子には、遊陽のぬいぐるみを座らせている。

 

「やっぱり、言い回しが古いのかなぁ」

 

 私がやっているのは、大徳寺先生の残したエメラルド・タブレットの和訳。これはオリジナルの物ではなく、エジプトで発見されたものをラテン語に翻訳したものらしい。

 大徳寺先生が言っていた事によると、この本には賢者の石を産み出す方法が書かれているらしいけど……読めない。

 学校の図書室でラテン語の辞典をたくさん借りているが、その作業は全然進まなかった。

 

「下にあるものは上にあるものの如く、上にあるものは下にあるものの如し……」

 

 翻訳できたのはこれだけだ。……授業でも聞いた。

 

「おや、こんな時間に何をしているんだい?」

「久しぶりッスね、星見さん!」

「……あぁ。彼が居なくなってから、君の姿も見なかったからな」

 

 図書室に入ってきたのは、鏡泉君とその取り巻き2人だ。

 

「こんにちは、鏡泉君達。私はちょっと調べものをね。3人は?」

「テスト勉強サ!まぁボクにはそんなもの必要ないけどネ!」

「あはは、それでも付き合ってあげるなんて、優しいんだね」

「そうでもないサ!それで、何を調べているんだい?」

 

 鏡泉君は机の向かいの席に座り、私が読んでいない辞典を1つパラパラとめくる。

 

「ほう、ラテン語とはネ」

「読めるの?」

「いや全然。一時期勉強はしたものだけどネ、ほら、ラテン語って貴族みたいだろう?だけど止めたんだ。やはりボクはボクのできる部分を完璧にしよう、とネ。出来ないところを出来るようにするのはそれからサ!」

 

 ウェーブのかかった金髪をふぁさりとかきあげる。

 

「鏡泉さん、先に勉強始めてるッス!」

「……まずは佐藤先生の授業から始めるか」

「ああ分かったよ。分からないところがあれば何でも聞いてくれたまえ!」

 

 やっぱり、普段の態度は偉そうだけどいい人なのだろう。遊陽がいれば、きっと皆で大勉強会が始まっていたかもしれない。

 

「レディ、涙をお拭き」

 

 いつの間に泣いていたのだろうか。頬が濡れている感覚。鏡泉君はすぐにハンカチを取り出し、私に差し出す。

 

「い、良いのよ!こんなの!」

 

 私は涙をぬぐい、本を読む作業に戻る。

 

「ラテン語の翻訳かい?よし!それならボクも手伝おう!」

「良いの?3人で勉強しに来たんじゃ……」

「ボクは大丈夫サ。自分の部屋でも勉強は出来るからネ。それに2人も、ボクに頼らなくたって平均点以上は取れるからネ」

「それじゃあ……お願いしようかな」

「あぁ!勿論だとも!それで、何を知りたいんだい?」

 

 私は鏡泉君の前に一冊の本を出す。金色の装飾がなされた、エメラルド・タブレットだ。

 

「随分古い本だネ。稀覯本……いやそれどころじゃない、歴史的にも重要な本になりそうだ。丁寧に扱わないとネ」

 

 鏡泉君は、まるでマジックの様に何処からか手袋を取り出すと、それを自らの手にはめ本を読み始める。

 

「ふむふむ。これは錬金術についての本……かな?」

「うん。賢者の石についての記述を探してるの」

「ほう!賢者の石……!大徳寺先生が居なくなってしまって残念だよ。あの授業にはロマンがあって、とても気に入っていたからネ」

 

 鏡泉君はラテン語の辞書をしばらく読んだあと、エメラルド・タブレットのページをペラペラとめくり流し読みしていく。

 

「……ふむ、このあたり、かな?」

「そうなの?」

「確証は無いけどネ。このページあたりから、『賢者の石』という単語がちらほら出てくるのサ」

 

 その周辺のページには、色は着いていないものの綺麗な宝石の絵が書かれている。

 

「ありがとう、鏡泉君!この辺りのページを訳していけば良いのね!」

「そうなるネ。さぁ、ボクも手伝うよ!」

「ありがとう、鏡泉君」

「お、おう、……やっぱり君は美しいな」

「口説いてるの?」

「勿論サ!」

「ごめんなさい!」

「ガーン!!……なんてネ。さて、それじゃあ翻訳を続けようか」

 

 鏡泉君のお陰で翻訳はどんどん進んでいく。賢者の石を産み出すための様々な実験記録や、失敗作ではあったけど後の世に影響を与えたものなど、賢者の石についての記述は出てくるけど、その作成方法は出てこない。

 

「このページで出てくるのは最後ね」

「ふむ。サバティエル……3、奇跡……?」

 

 辞典と比べながら単語を1つ1つ訳していき、分として組み立てる。

 

「サバティエル……3つの奇跡を叶えた後、真の力を取り戻し、大いなる魔を退ける……それこそ賢者の石なり……?」

「3つの奇跡を起こした後、賢者の石になるということなのナ?」

「そう、なのかしら?………っていうか、そもそもサバティエルって何よ!」

「サバティエルは天使ミカエルの別名とも言われているけど……うーん」

 

 エメラルド・タブレットの最後のページには、3枚のカードが挟まれていた。

 

「これは……デュエルモンスターズのカードだ」

「うん。魔法カードね。えっと……賢者の石-サバティエル?」

 

 3つの奇跡、3枚のサバティエル……。そっか。3枚のサバティエルが全て発動されたとき、奇跡が起きるっていうこと……なのかな?

 

「ありがとう、鏡泉君!賢者の石のこと、良く分かったわ!」

「役に立てて良かったよ。それじゃあボクは――」

 

 外から響く爆音。図書室に居た生徒達は部屋を出て、窓から校舎の外を見る。

 私も遊陽のぬいぐるみを抱き抱え、図書室を出た。

 

「な、何スかあれ!?」

「……柱?」

 

 学園の森の中に、7本の柱が立っている。

 

「7つ……まさか!」

 私はPDAを確認する。図書室にいるから音を出さないようにしていたけど、明日香から何度も電話がかかってきていた。

 

『もしもし、明日香!?』

『深月!やっと出た!大変よ、七精門が、開いてしまったの!』

 

 

 森の中を進んでいくと、開けた場所に出る。

 

「この学校にこんなところがあるとは……知らなかったよ」

「森の中には入らないッスからね」

「……危険な臭いがする」

 

 私以外の鍵の持ち主や先生達がすでに集まっている。7つの柱で囲まれた空間のちょうど中央には謎の機械が置いてあり、その上には3枚のカードが浮いている。

 

「来たわね、深月。それに鏡泉君達も」

「明日香!何が起きてるの?」

「鍵が突然ここまで引っ張られてきて、あの柱に吸い込まれたの。そして、あのカードが現れた」

「ということはあれが……三幻魔のカード……」

 

 私達はその機械に近づこうとする。

 しかしそのとき、空から声が聞こえた。

 

「待て!それをお前達に渡すわけには行かない」

 

 突如現れたヘリコプターから、何かが落とされる。

 

「きゃっ!」

 

 巨大な機械のカプセルが割れ、中から虫の足の様なパーツが見える。

 

「……何だあれ!金魚鉢か?」

「いやそれは無いッスよアニキ」

 

 金魚鉢……分かってしまうのが何とも言えない。生命維持装置なのだろうか、人一人が入れそうな水槽に、虫のような足がついている。

 その謎の機械はマジックアームの様なパーツを伸ばし、3枚のカードを手に取る。

 

「ようやく手に入れたぞ、三幻魔のカードを」

「そ、その声は……!」

 

 校長先生が機械を見て呟く。

 

「まさか、影丸理事長……?」

 

 あの機械が?いや、きっとあの機械の中に入っているのだろう。彼が、この学園の理事長先生……。

 

「いかにも。儂が影丸だ」

「ちょ、ちょっと待てよ!俺たちはセブンスターズを倒したんだぜ?なんで三幻魔のカードが……」

「最初からそういう仕組みだったからだ。儂は数年前、持ち主に永遠の命を与えるという三幻魔のカードを手に入れた。しかしその力を発揮させるには、デュエリスト達の闘志が集まる場所が必要だったのだ」

 

 デュエリスト達の闘志が集まる場所。他の世界とは断絶された決闘者の楽園、ここは……。

 

「そう!鮫島に鍵とカードを預けたのは儂自身だ。鍵はこの学園の闘志が最高潮にまで達したとき、自動で七精門の鍵を開けるようになっていた」

「じゃあ、セブンスターズは、遊陽は何だったの!?」

「黒野遊陽か……ふふ、あいつらは所詮は駒の1つ。この学園の闘志を高めるためのなぁ」

「……じゃあ、遊陽は、何のために……」

「だがあいつは知っていたぞ?三幻魔の復活が避けられない事を。自分を駒の1つと知っていて、それでもお前の為に戦っていたのだ。バカなぬいぐるみよ」

「そん、な……」

「黒野遊陽亡き今、もはやあれとの約束を守る必要など無いなぁ……だが遊城十代!お前がその魂を私に差し出せば、ここにいる人間は助けてやっても良いぞ?」

「何だと!?」

 

 7つの柱からエネルギーが放たれ、私達を囲うようにして結界を作り出す。

 

「闇のデュエルだ遊城十代!貴様には永遠の時を生きる私の糧になってもらうとしよう!」

「待ちなさい!」

「どうした星見深月」

「……遊陽はあなたの事を信じてた。私も、あなたに色々支援してもらったみたいだから、それについては感謝してる」

 

 でも、この人は。この男は、

 

「遊陽をバカにすることは許さない!遊陽は、私を助けるだけじゃない!あなたに恩を返そうとしてたのよ!」

 

 きっと遊陽が七精門の仕組みを最後まで話さなかったのは、義理があったからなのだろう。私達を助けるわけにもいかず、邪魔するわけにもいかず、だから隠した。言わなかった。

 

「明日香、遊陽を……預かってて」

「え、あなた、まさか!」

「……お願い、明日香」

「……わかったわ」

 

 私は遊陽のぬいぐるみを明日香に渡すと、生命維持装置の前に立つ。

 

「私が相手になるわ!理事長!」

「なるほどな、良いだろう!最後まで鍵を守り抜いたお前にも三幻魔と戦う権利はあるだろう!2人がかりでかかってこい!」

 

 機械の一部が変形し、マシンの腕にデュエルディスクが取り付けられる。そのデッキの中に三幻魔のカードが入れられ、シャッフルされる。

 

「良いのかよ、星見」

「うん。やってやるわ!……あ、そうだ、これ、渡しとくわね」

 

 私は2枚のサバティエルを遊城君に渡す。

 

「これは?」

「3枚で1つのカード、賢者の石-サバティエル。……効果は良くわからないけど、このカードは三幻魔を倒すのに必要になってくるはずよ」

「おっしゃ、サンキューな!」

 

 私達2人もデュエルディスクを構える。

 

「準備は良いな?」

 

「「「デュエル!!」」」

 

 

影丸 VS 深月 十代

 

「儂の先攻、ドロー!」

 

 機械の腕がデュエルディスクからカードを引く。デュエル機能付きの生命維持装置とは……。

 

「儂はカードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

 セットしただけ?手札に上級モンスターしか居なかったのだろうか。

 

 

影丸 LP4000 手札3

モンスター:無し

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「次は俺のターンだな!ドロー!よし、早速行くぜ!俺はフィールド魔法【融合再生機構】を発動!」

 

 私達の周囲に、様々なボトルやゴミの山が現れる。

 そのカード名通り、何処かのリサイクル工場のようだ。

 

「【融合再生機構】の効果発動!1ターンに1度手札を1枚捨てることで、墓地かデッキの【融合】を1枚手札に加えるぜ!頼んだぞ、相棒!」

『クリクリ~!』

 

 遊城君の手札からハネクリボーが捨てられる。

 彼の前に現れたハネクリボーは、デッキから1枚のカードを取り出し、それを遊城君に手渡した。

 

「そして【融合】を発動し、手札の【バーストレディ】と【クレイマン】を融合させる!」

 

 早速の融合召喚だ。

 炎を纏った紅一点のヒーローと、高い守備力を持つヒーローが渦の中で融合する。

 

「来い!【E・HERO ランパートガンナー】!」

 

 クレイマンの様な鎧を纏った女性のヒーローが現れる。普段はその盾によって高い守備力を誇るが、今は攻撃表示だ。

 

攻2000

 

「いっけー!【ランパートガンナー】!ダイレクトアタックだ!」

「甘いわぁ!【ランパートガンナー】を対象に永続罠、発動!【デモンズ・チェーン】!このカードは対象になったモンスターの攻撃を封じ、その効果を無効にする!」

 

 理事長の発動したカードから伸びた鎖がランパートガンナーを拘束し、その動きを封じる。

 

「【ランパートガンナー】!」

「残念だったなぁ?」

「くっ……カードを1枚セットし、永続魔法【強欲なカケラ】を発動。ターンエンドだ。【融合再生機構】はターンの終わりに、このターン融合に使われたモンスターを1体、手札に戻せるぜ。俺は【クレイマン】を手札に加える」

 

 

十代達 LP4000 十代手札1 深月手札5

モンスター:E・HERO ランパートガンナー

魔法・罠:強欲なカケラ セット 融合再生機構

 

 

「ふはは、永続罠発動!【神の恵み】!このカードがあるかぎり、儂がドローする度にライフを500回復させる。そして儂のターン、ドロー!」

 

LP4000→4500

 

「儂は永続魔法【魔法吸収】を発動。このカードが存在する限り、儂は魔法カードが発動する度に500ポイント回復する」

「回復カードが大量に入っているんだネ……命に対してかなりの執着をいだいているのかナ?」

「さらに永続魔法【補充部隊】を発動」

 

LP4500→5000

 

 補充部隊はダメージを受ける度に、そのダメージ1000につき1枚ドローするカード。ライフを回復するのはその為ね。

 

「そして儂は永続罠発動。【炎虎梁山爆】!このカードを発動した時、儂は自分フィールドの永続魔法・永続罠1枚につき500ポイント回復する!」

 

 理事長のフィールドには、該当するカードが5枚……!

 

LP5000→7500

 

「ライフポイント7500だって……!?」

「最初の値のほぼ2倍……十代と深月は2人がかりとはいえライフは共通……最初からかなりのライフアドバンテージを得られてしまったわね」

 

 天上院兄妹が理事長のフィールドに並ぶカードを見つめる。

 

「ククク、それでは貴様らに幻魔の力を見せてやろう……!」

 

 理事長のフィールドの3枚の永続罠カードが炎に包まれる。

 

「な、何が起きてるんスか!?」

「や、ヤバイッスよ鏡泉さん!」

 

 3枚のカードが燃え付き、孤島にある火山が噴火を始める。

 

「なっ、こんな時に噴火だと!?」

『ヒィィィッ!?アニキ~、やばいよぉ!』

「ええい!黙れ!」

 

 火山の中から、巨大な影が姿を表す。

 

「このカードは自分フィールドに表側表示で存在する罠カードを3枚生け贄に捧げる事で召喚される!」

 

 その影は飛び立ち、膨大な熱量を伴って理事長あの後ろに降り立った。

 

「いでよ、神の炎!三幻魔が一柱、【神炎皇ウリア】!」

 

 その赤い体の竜は、記録映像に残された神のカードに酷似していた。

 神のカード……オシリスの天空竜を思わせるその竜は咆哮をあげ、それに呼応するように空を暗い雲が覆い始める。

 

攻0

 

「【神炎皇ウリア】の攻撃力は、墓地の永続罠カード1枚につき1000ポイントアップする!」

 

 燃やされた3枚のカードを吸収し、再び雄叫びをあげる。

 

攻0→3000

 

「さぁ、恐れおののけ!この圧倒的な力の前に平伏するがいい!」

 

 今までの闇の決闘とは訳が違う。

 息が出来ない。気を抜けばいつの間にか頭を下げ、膝をついてしまいそうなプレッシャーを感じる。

 そんな強大なモンスターを前にして、

 

「へへっ、こんなすげぇモンスターと戦えるなんて、光栄だぜ!」

 

 遊城君は笑っていた。




~カード紹介のコーナー~

神炎皇ウリア
効果/星10/炎属性/炎族/攻 0/守 0
このカードは通常召喚できない。
自分フィールドの表側表示の罠カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カードの数×1000アップする。
(2):1ターンに1度、相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。セットされたそのカードを破壊する。この効果の発動に対して魔法・罠カードは発動できない。

三幻魔の1体、オシリスの天空竜がモチーフのウリアさんです。召喚条件が表側表示の罠なので召喚がワンテンポ遅れる事を除けば、クリッターでサーチできステータスも高くでき伏せまで割れるので使いやすい方だと思います。召喚神がある今他の2体もサーチには困らないと思いますが。
口の中に口があるデザイン、本当にかっこ良くて好きです。ゲーム作品ではモンスターになる永続罠系のカードと一緒に使ってましたね。リンクスにも来て欲しいところ。


神炎皇ウリアはその効果で十代のセットカードを破壊し、彼のモンスターをも焼き付くす。
幻魔の強大さを、闇のデュエルの恐ろしさを改めて理解する2人の前に、第2の幻魔が降臨する。
次回、「三幻魔復活!(2) 降雷、命を打ち砕き」


三幻魔やっぱり格好良いです。カード紹介でも言いましたが早くリンクスに来て欲しいなぁ……三幻神は使いにくいなぁ……。
それでは、また次回も読んでいただけたらうれしいです!
ではではー!


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25話 三幻魔復活!(2) 降雷、命を打ち砕き

こちらは前回の続きです。是非前回をお読みいただいてからこちらも読んでいただけると嬉しいです。


「ふはははっ!これが【神炎皇ウリア】だ!【ウリア】の効果を発動!1ターンに1度、相手のセットされた魔法・罠カードを破壊する!トラップディストラクション!」

 

 ウリアがその口から炎を吐き出し、遊城君のセットカードを燃やしていく。

 

「何だって!?……だけど、俺のセットした【ヒーローバリア】は発動タイミングを問わないカードだ!」

 

 遊城君が発動させようとしたのだろう。セットされたカードが起き上がるが、その効果を発揮することなく消えていく。

 

「なっ……!?」

「愚か者めが!【ウリア】の効果に対して魔法・罠カードを発動することは出来ない!」

 

 反撃を許さない、三幻魔の圧倒的な力。

 

「さぁ行け【ウリア】よ!【ランパートガンナー】を攻撃だ!ハイパーブレイズ!」

 

 ランパートガンナーは炎を操るヒーロー。しかし普段使っている炎とは火力が違う。その耐熱性に長けた鎧すら、ウリアの前には無力。

 

「うわぁぁぁっ!!」

「きゃぁぁぁっ!?」

 

LP4000→3000

 

 体が熱い。ランパートガンナーと同じように、炎に焼かれているような感覚。

 

「何よ、これ……」

「ククク、儂は永続魔法【補給部隊】を発動し、ターンエンドだ」

 

LP7500→8000

 

 

影丸 LP8000 手札0

モンスター:神炎皇ウリア

魔法・罠:魔法吸収 補充部隊 補給部隊

 

 

「わ、私の、ターン」

 

 カードを引こうとした手が震える。

 ……怖い。

 あのモンスターが、怖い。あの瞳で見つめられる度に、自分がもう既に焼き付くされた灰なのではないか、そんな錯覚を覚える。

 

「……ドロー!」

 

強欲なカケラ(1)

 

 あのモンスターが恐ろしくて、考えが纏まらない。何を、どうすれば良いのか。次のターンを凌げるのか、いや、そもそも、何を発動すれば……?

 

「落ち着けよ、星見」

「……遊城君」

 

 震えが止まらない私に声がかけられる。遊城君はウリアを向いたまま、笑って言う。

 

「俺達、あの大徳寺先生だって倒したんだぜ?俺達なら大丈夫さ」

「……ふふ、そうかもね。ありがとう、遊城君」

 

 ……うん。まだ怖くて怖くてたまらない。それでも頭はまだ回る。何をすれば良いかは、分かる。

 

「このターンで倒してあげるわ!【神炎皇ウリア】!」

「ふははは!冗談を言うな!」

「冗談かどうか、その目で確かめてよね!私は速攻魔法【光神化】を発動!このカードは手札の天使族モンスターを、攻撃力を半分にして特殊召喚するわ!来て、至高の天才!【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 私の目の前に光が溢れ、類稀なる才能を持つ音姫が現れる。

 その体は淡い光を湛えてはいるが、半透明でありすぐに消え去ってしまいそうだ。

 

攻2600→1300

 

「【プロディジー・モーツァルト】の効果発動!手札から天使族・光属性モンスターを特殊召喚できるわ!来て、【幻奏の音女タムタム】!」

 

 大きな銅鑼を携えた少女が私のフィールドに現れる。

 

「【タムタム】が特殊召喚に成功し、私のフィールドに【幻奏】と名のつくモンスターが存在するとき、デッキから【融合】を手札に加えるわ。私は、ルール上【融合】として扱うカード、【置換融合】を手札に加えるわ」

 

 タムタムがその銅鑼を鳴らすと、フィールドに赤と青の渦が現れる。

 

「【置換融合】を発動!このカードはフィールドの融合素材モンスターを融合させるわ!【プロディジー・モーツァルト】と【タムタム】を融合!」

 

 2人が渦に飲まれ、新たな姿へと生まれ変わる。

 光神化で呼び出したモンスターはターンの終わりに破壊されてしまうけど、融合素材にしてしまえば問題はない!

 

「今こそ舞台へ、融合召喚!来て、【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 鋭い指揮棒で空間を切り裂き、渦の中からマイスタリン・シューベルトが現れる。

 

攻2400

 

「融合召喚か……しかしここまでの魔法カード発動で、儂のライフは回復している!」

 

LP8000→8500→9000

 

「くっ……でも、すぐに取り返すわ!【マイスタリン・シューベルト】で【神炎皇ウリア】を攻撃!」

 

 自分に斬りかかる小さなモンスターに、ウリアは反撃の体勢を取る。

 

「何!?しかし攻撃力はウリアの方が上……!」

「そうかな?【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】の効果を発動!お互いの墓地のカードを3枚まで除外し、その枚数1枚につき攻撃力を200ポイントアップさせる!コーラスブレイク!」

 

 理事長先生の墓地から3枚の永続罠カードを除外させる。

 炎を灯す燃料を失い、ウリアの攻撃力はもとに戻る!

 

「くっ、墓地に手をつけられたか……!」

 

ウリア攻3000→0

シューベルト攻2400→3000

 

「攻撃力が逆転したんだなぁ!」

「流石シニョーラ星見ナノーネ!」

 

 シューベルトが指揮棒を構え、ウリアの胴体を貫いた。

 

「ぐ、ぐわぁぁっ!!」

 

LP9000→6000

 

「ぐぅ……しかしウリアが破壊されダメージを受けた事で、【補給部隊】と【補充部隊】の効果が発動。儂は4枚のカードをドローする!」

 

 理事長先生の手札が一気に増えてしまったけど、これで回復された分をある程度削ることができた。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド。【融合再生機構】の効果で【モーツァルト】を手札に戻すわ」

 

 

十代達 LP3000 深月手札3 十代手札1

モンスター:幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト

魔法・罠:強欲なカケラ セット 融合再生機構

 

 

「儂のターン、ドロー!……ククク、まさか【ウリア】がこうも容易く打ち破られるとは……儂の想像以上だ。だがしかし、幻魔は3体存在している!」

 

 理事長の機械が掲げたカードから、凄まじいプレッシャーを感じる。

 

「……まさか!」

「そのまさかだとも!儂は3枚の永続魔法を生け贄とし、2体目の幻魔を召喚させる!」

 

 発動していた3枚の永続魔法が、水晶へと変わり砕け散る。

 そして理事長の後ろから水晶の柱が現れ、その中からラーの翼神竜を思わせる黄金のモンスターが現れる。

 

「愚か者共に裁きの雷を!【降雷皇ハモン】!」

 

 雷を操る第2の幻魔。その巨躯を見上げる度に立ちくらみがしてくる。

 

攻4000

 

「攻撃力、4000だって……?」

「ウリアとは違って、元々のステータスで戦うモンスターなのね……」

「さぁ行け【ハモン】よ!【マイスタリン・シューベルト】を攻撃!失楽の霹靂!」

 

 ハモンの放つ電撃がシューベルトを襲う。

 

「っ!リバースカードオープン!【スピリットバリア】!私のフィールドにモンスターがいる限り、私は戦闘ダメージを受けないわ!」

 

 電撃によって発生した衝撃波が私達にも降りかかるが、それは私の前に現れたバリアに防がれる。

 しかし、

 

「きゃぁあぁっ!?」

 

LP3000→2000

 

 突如私に向け雷が落ちてくる。体が痺れて、立っているのもやっとだ。

 

「なん、で……ダメージが……?」

「それこそが【ハモン】の効果だ!【ハモン】は戦闘で相手を破壊したとき、1000ポイントのダメージを与える!」

「じゃ、じゃあ【スピリットバリア】じゃ、ダメージを完全にカット出来ないって事かよ!」

「そうとも!神にも等しい力を持つ幻魔に、姑息な手段など無意味なのだ!」

 

 ……いや、無意味なんかじゃない。私はこのターン受けるはずだったダメージを半分まで抑えられた。それにハモンが戦闘破壊を介してでしかダメージを与えられないなら、アリアの効果で時間を稼ぐことだってできる。

 

「カードを3枚セットしターンエンドだ」

 

 

影丸 LP6000 手札1

モンスター:降雷皇ハモン

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「行くぜ、俺のターンだ!ドロー!」

 

強欲なカケラ(2)

 

 遊城君がドローした事によって、強欲なカケラのカウンターが溜まる。

 

「行くぜ、【強欲なカケラ】の効果を発動!このカードを墓地へ送り、2枚ドローする!」

「手札増強ッスね!アニキ!」

 

 遊城君がドローしたカードを見て呟く。

 

「……これは、星見がくれたカード。【賢者の石-サバティエル】……このカードは、どうやって使えばいいんだ?」

 

 遊城君がドローしたカードを見て頭をかしげていると、猫の鳴き声が聞こえてきた。

 

「ニャーン!」

「ファラオ!?」

「何でここにいるのよ?」

 

 ファラオは何やらふわふわと浮いている光の玉を追いかけてきている。

 人魂?幽霊?そんなことを思いながらその玉を見ていると、それが私たちに語りかけてきた。

 

『十代君、深月君、聞こえるかな?』

「「大徳寺先生!?」」

『その通りだ』

「だ、大徳寺先生、あんた、死んだはずじゃ……」

『と、とにかく今は時間がない!よく聞いてくれ。その賢者の石は、ライフポイント半分をコストとして、君達のイマジネーションの力から、今もっとも欲しいカードへと姿を変えるんだ』

 

 3枚、3つの奇跡。そんな言葉がエメラルド・タブレットに書かれていたはず。

 

「じゃあ、このカードの効果こそが奇跡?」

『そうだ。このカードは1枚につき1つ持ち主の願いを叶え、3つの願いが叶ったとき、その真の力を発揮する』

 

 ……じゃあ、このカードを3枚発動させれば、遊陽を……。

 

『このカードの真の力を使えば、三幻魔を退けることも可能だ。だけど真の奇跡は1回きり。最後の願いを叶えたとき、このカードは消えてしまう』

「……そんな。じゃ、じゃあ、このカードを使えば幻魔を倒せるけど、遊陽を助けられないってこと……?」

『……そうだ』

「そんな……」

 

 世界の危機と、遊陽が天秤に掛かっている。

 遊陽の事を助けられる。また彼と一緒に生きていける。そう、思えていたのに。

 

『すまない。……だけど、もし君たちがその真の力に頼らずとも三幻魔を撃破できれば……うわぁっ、ニャァ!?』

 

 光の玉がファラオに捕まり、飲み込まれる。

 

「お、おいファラオ!?」

「ニャッ!」

 

 そのままファラオは満足げに去っていく。大徳寺先生……ファラオが飲み込んだせいで成仏出来なかったのかな。

 

「ククク……世界を救うか、大切な人を救うか……か。どうだ星見深月。貴様らが負けるように行動すれば、三幻魔の力で遊陽を戻してやってもいいぞ?」

「――っ!」

 

 人工呼吸器に隠されて見えない理事長の口が、ニヤリと笑った気がした。

 

「み、深月……?」

 

 明日香が私の様子を見て、心配そうに名前を呼ぶ。

 

「もちろんお前の命も助けてやろう。犠牲になるのは遊城十代、お前だけだ」

「何だって!?」

「……わたし、私……は……」

 

 サレンダーは出来ない。でも、自爆攻撃だったり、なにも行動しないことでわざと負けることならできる。そうすれば、遊陽を助けてくれる……。

 1体は倒した。もう1体はまだだけど、時間稼ぎならできるし、ステータスが高いだけなら倒すこともできる。

 でも、最後の1体は?

 1体でも強大な三幻魔の、最後の1体。賢者の石の真の力がどんなものかは分からないけど、それを使わずに倒すことができる相手なの……?

 今まで忘れていた不安と焦りが頭の中で渦を巻き、思考を掻き乱す。

 

「星見君……」

「シニョーラ星見……」

 

 もう一度、遊陽に会いたい。

 そうだ。元々遊陽はそうするつもりだったじゃないか。三幻魔の力によって世界を支配して、私を生き残らせて……。

 

「……お断りよ、理事長先生」

 

 全員の安堵する吐息が聞こえてくる。

 

「ここにいる皆は、私の大切な友達よ!遊城君も含めてね!」

 

 私には、遊陽1人が居ればいい。そう思ってた。でも、この学園で1年間すごして、明日香にジュンコ、ももえみたいな友達も沢山できて、皆を守りたいって思えるようになった。

 そう。私は、私達はもうふたりぼっちじゃない。

 

「それに、遊陽を助けるつもりなんて、無いんでしょ?」

「何……?」

「遊陽が教えてくれたわ。その三幻魔の力の源はデュエルモンスターズの精霊!遊陽も例外なくその餌にされる。あなたに従って遊陽の居ない世界で生きるくらいなら、ここで死んだ方がマシよ!」

「ほう……後悔するなよ?」

「残念だったな理事長!それじゃあ行くぜ?俺は【E・HERO クレイマン】を召喚!」

 

 遊城君のフィールドに、1ターン目に回収されたヒーローが現れる。

 

守2000

 

「さらに魔法カード【馬の骨の対価】を発動!自分フィールド上の効果を持たないモンスターを墓地へ送って、2枚ドローできるぜ!」

 

 遊城君がこのターンにドローしたカードは5枚。遊城君は満足げに笑う。

 

「よっしゃあ!行くぜ、俺のヒーロー達!」

 

LP2000→1000

 

 ライフポイント半分が支払われる。遊城君が賢者の石の効果を発動させたのだ。

 

「行くぜ!これが最初の奇跡!魔法カード【融合回収】を発動!墓地から【融合】と【バーストレディ】を手札に戻すぜ。そしてそのまま【融合】を発動!」

 

 手札に戻ったバーストレディとフェザーマンが現れ、融合する。

 

「来い!マイフェイバリットヒーロー、【E・HERO フレイム・ウィングマン】!」

 

 炎と風を纏いながら、遊城君の一番のお気にいりモンスターが現れる。

 

攻2100

 

「さらに【融合再生機構】の効果を発動!手札の【バブルマン】を捨てて、墓地から【融合】を回収するぜ!」

「いっけーアニキ!頑張れー!」

 

 また融合を手札に加えた遊城君。やっぱり彼のデュエルの実力はすごい。私が居ない方が簡単に勝っていたかもしれない、なんて思うほどには。

 

「行くぜ!【融合】発動!【フレイム・ウィングマン】と、手札の【スパークマン】を融合する!」

 

 渦の中から光が溢れ出す。

 

「来い!【E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン】!」

 

 光輝く鎧をまとったフレイム・ウィングマン。遊陽を倒したカードと考えると複雑だけど、今はその背中が頼もしく見える。

 

攻2500

 

「【シャイニング・フレア・ウィングマン】の攻撃力は、墓地の【E・HERO】1体につき300ポイントアップするぜ!」

 

 墓地にいるヒーローはバーストレディ、フェザーマン、フレイム・ウィングマン、バブルマン、クレイマン、ランパートガンナーの6体!

 

攻2500→4300

 

「【ハモン】の攻撃力を上回っただと……!?」

「さぁ行くぜ!【シャイニング・フレア・ウィングマン】で【降雷皇ハモン】を攻撃!究極の光を放て、シャイニング・シュート!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは空へと飛び立ち、その体から溢れる光は太陽の様に暗雲に包まれたデュエルフィールドを照らす。

 そのまま拳を構えて急降下し、ハモンの体を頭から一直線に貫く。

 

「くっ……」

 

LP6000→5700

 

「そして【シャイニング・フレア・ウィングマン】がモンスターを戦闘破壊したとき、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは生命装置の前に立ち、強烈な光を放つ。

 

「ぐぁぁぁっ……!」

 

LP5700→1700

 

「よっしゃあ!2体目の幻魔、撃破ぁ!」

 

 2体の幻魔を撃破し、私達は勢いづく。

 しかし私達を見る理事長の瞳は、未だ闘志の炎に燃えていた。




~カード紹介のコーナー~

降雷皇ハモン
効果/星10/光属性/雷族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。自分フィールドの表側表示の永続魔法カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードがモンスターゾーンに守備表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。
(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。相手に1000ダメージを与える。


2体目の三幻魔、ハモンさんですね。ワールドチャンピオンシップっていうDSのゲームがあったんですけどね、その中でラモンっていうゲストキャラが宝玉獣と一緒にハモンさんを使ってきてビビりましたね。伝説って?
ウリアとは違いコストが永続魔法なので手札が揃えばすぐに出せるのは良いですね。
戦闘破壊した際のダメージも大きめで、いざというときは仲間も守れます。
除去効果は防げませんがね。


2体の幻魔を撃破し、勢いに乗る2人。しかし影丸はついに最強の幻魔を召喚し、十代のエースモンスターを軽々と打ち倒す。そして3つの奇跡が叶うとき、賢者の石がその光を増す。
次回、「三幻魔復活!(3) 幻魔、世界を蹂躙す」


ついにいよいよラビエルさんの出番ですよ皆さん。効果自体はちょっと弱めだと思いますが手札にさえいれば一番出しやすいのかも?
それではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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26話 三幻魔復活!(3) 幻魔、世界を蹂躙す

初の3分割。こちらは前回、前々回からの続きです。ぜひ前の話をお読みになってから読んでいただけると嬉しいです。


 降雷皇ハモンを撃破し、合計で4300のダメージを与えた。普通のデュエルならもう終わっているはずなのに、まだライフを削りきれてはいない。

 

「これでターンエンドだ。【融合再生機構】の効果で【スパークマン】を手札に戻すぜ」

 

攻4300→4000

 

 

十代達 LP1000 十代手札1 深月手札3

モンスター:E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン

魔法・罠:スピリットバリア 融合再生機構

 

 

「ククク……儂のターン、ドロー!儂は3枚の永続罠を特殊召喚させる!」

「永続罠を……」

「特殊召喚だと!?」

 

 理事長のフィールドに伏せられた3枚のカードが発動する。全部同じ絵柄の、同名カードだ。

 

「そのとおり。永続罠【鏡像のスワンプマン】を発動!このカードは発動時に種族と属性を宣言することで、その種族と属性を持つモンスターとして儂のフィールドに特殊召喚される!」

「モンスターカードとして扱われる永続罠カードか!」

 

 三沢くんが驚く。確かにすごく珍しいカードだ。

 

「儂が宣言するのは悪魔族・闇属性!」

 

 現れた泥男がその形を変化させ、紫色の悪魔に化ける。

 

攻1800×3

 

「また、同じ情報を持つカードが3枚……」

 

 まさか、3体目の幻魔!?さっき撃破したばかりなのに!

 

「さぁ、見せてやろう!最強にして最後の幻魔を!」

 

 3体のスワンプマンが青い炎に包まれ、燃えカスとなって空へと昇っていく。

 

「悪魔族モンスター3体を生け贄に捧げ、今ここに降臨せよ!幻魔を統べし皇!【幻魔皇ラビエル】!」

 

 青い雷が理事長の背後に落ちる。

 砂ぼこりが舞い、それが消え去る頃にはオベリスクの巨神兵に似た巨大な悪魔が私達を見下ろしている。

 

攻4000

 

「これが……最後の幻魔……!」

「今までの2体も凄かったけど、このモンスター、全然違うわ……」

「当然だ!【ラビエル】は【ハモン】や【ウリア】をも従える幻魔の皇!これまでの2体とは格が違う!」

 

 血の様な赤い瞳に見つめられる度に背筋が凍る。

 

「な、なんだこれは!?」

『あ、アニキ……オイラ、もうだめ……』

「おい、おジャマ・イエロー!?」

「エトワール・サイバー!?」

「ぼ、僕のパトロイドが弱ってるッス!」

 

 周囲を見渡してみると、デュエルをして居ない皆のデッキから光が溢れ、それがすべてラビエルに吸い込まれている。

 

「モンスターの精霊の力を吸収しているのね!?」

「いかにも。そして【ラビエル】の得たエネルギーは、その所有者である儂にも注がれる……!ふ、ふふふ、ふはははっ!漲る、漲るぞぉぉっ!!」

 

 理事長の入っている生命維持装置がガタガタと揺れ、ガラスが割られる。中を満たしていた液体が溢れだし、筋骨粒々とした腕が機械に取り付けられたデュエルディスクを奪い取る。

 そしてその装置の中から、背の高い男性が現れた。

 

「はははっ!儂の……俺の若さが戻ったぞ!ははははははっ!」

 

 若さが戻る?じゃあ、まさかあれは……。

 

「あなたが、理事長なの?」

「バカな!理事長先生は百をゆうに超えるご高齢のはず……」

「俺は影丸だ!俺は若き頃の力を取り戻し、永遠の命を得た!長かった……長かったぞぉぉっ!」

 

 永遠の命の源はデュエルモンスターズの精霊……。

 私は振り向き、明日香の抱き抱える遊陽のぬいぐるみを見る。

 遊陽のぬいぐるみからも、あの光が出てきてラビエルへと吸い込まれていく。

 

「遊陽っ!?」

「貴様らもろとも俺の糧にしてくれるわ!フィールド魔法【失楽園】を発動!」

 

 周囲の情景がガラリと変わる。全てが荒れ果て枯れた世界。

 

「【失楽園】がある限り俺の幻魔は効果では破壊されず、その対象にならない!さらに幻魔を操るプレイヤーは、1ターンに1度カードを2枚ドローできる!」

 

 ノーコストで2枚のドロー!?それに幻魔に耐性を付与する効果も厄介だ。ほとんどの防御カードを発動できなくなってしまう。

 

「俺は【ヘルウェイ・パトロール】を召喚し、【ラビエル】の効果を発動!」

 

 黒いバイクに跨がった、悪魔の警察官が現れる。

 

攻1600

 

「あれは、万丈目も使っていたカード!」

「悪魔族だから【ラビエル】のコストにもなるし、墓地から除外してモンスターを出すこともできるのね……」

 

 ラビエルは黒い警察官を持ち上げると、その手から青い炎を放ちヘルウェイ・パトロールを燃やし尽くす。

 

「何!?お前、自分のモンスターを……!」

「これこそが【ラビエル】の効果だ!俺のモンスター1体を生け贄に捧げることで、ターンの終わりまでその攻撃力を吸収する!」

 

攻4000→5600

 

「あの攻撃力で攻撃されれば、負けちゃうッスよ!?」

「……星見さん、遊城……!」

「落着きたまえ君達、スピリットバリアの効果でダメージは受けないサ。シャイニング・フレア・ウィングマンは破壊されてしまうだろうけどネ」

 

 ラビエルが歩き出し、シャイニング・フレア・ウィングマンに向け拳を振り上げる。

 

「【幻魔皇ラビエル】で【シャイニング・フレア・ウィングマン】を攻撃!天界蹂躙拳!」

 

 その拳がシャイニング・フレア・ウィングマンに降ろされ、叩き潰す。

 

「【シャイニング・フレア・ウィングマン】……」

「これこそが幻魔の力だ!カードを1枚セット、ターンエンド」

 

 

影丸 LP1700 手札0

モンスター:幻魔皇ラビエル

魔法・罠:セット 失楽園

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 これは、賢者の石-サバティエル……。

 望んだカードを手札に加えられるけど、何を加えてもこの状況を打破できるとは……。

 ラビエルの効果は攻撃力上昇。それならまだ、勝機はある!

 

「私は【独奏の第1楽章】を発動!私のフィールドにモンスターが居ないとき、デッキから【幻奏の音女アリア】を特殊召喚するわ!」

 

 私の前に五線譜が現れ、それが人の形に変わっていく。

 

守1200

 

「アリアは戦闘で破壊されず、効果の対象にもされないわ!」

「これで時間稼ぎはできる……か」

「しかし不安だねぇ。理事長のデッキにはカードをドローする効果が多い。いつかは対処できるカードを引かれてしまうかもしれないよ」

 

 丸藤先輩や天上院先輩が私のフィールドに現れたモンスターを見て呟く。

 

「私は……これでターンエンドだよ」

 

 

十代達 LP1000 深月手札3 十代手札1

モンスター:幻奏の音女アリア

魔法・罠:スピリットバリア

 

 

「俺のターン!ドロー!……ククク、俺はリバースカードオープン!【転生の預言】!墓地に存在するカード2枚をデッキへ戻す!俺が戻すのは【ハモン】と【ウリア】だ!」

 

 2体の幻魔がデッキへと戻っていく。墓地に居れば、いろいろなカードで回収しやすいはずなのに、わざわざデッキに戻した?

 

「さらに【失楽園】の効果で2枚ドロー!……さぁ、見るが良い!幻魔は不死身だ!俺は墓地の【ヘルウェイ・パトロール】の効果発動!このカードを除外し、手札の【暗黒の召喚神】を特殊召喚する!」

 

 理事長の前に、竜の様な頭と翼を持つ悪魔が現れる。

 

「【暗黒の召喚神】の効果を発動!このカードを生け贄に捧げることで、デッキから幻魔の内1体を、召喚条件を無視して特殊召喚する!いでよ、神の炎!【神炎皇ウリア】!」

 

 地面が割れ、マグマが吹き出し、再びあの赤い竜が現れる。

 

攻0

 

「【鏡像のスワンプマン】は墓地では当然、永続罠として扱う!」

 

攻0→3000

 

 倒した筈の幻魔が再び現れる。ついに、2体以上の幻魔がフィールドに並んでしまった。精霊からエネルギーを吸い上げる光はさらに強くなっていく。

 

「【アリア】が戦闘で破壊されない以上、攻撃する必要もないか。俺はこれでターンエンドだ」

 

 

影丸 LP1700 手札2

モンスター:幻魔皇ラビエル 神炎皇ウリア

魔法・罠:失楽園

 

 

「よし!1ターンしのいだな!」

「あぁ!十代なら、この状況を……」

「認めたくはないがな!」

 

 全員の期待が遊城君に集まる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊城君はドローしたカードを見て、目を見開く。

 

「星見、お前のカード使ってもいいか?」

「うん!使っちゃってよ!」

「オッケー!俺は墓地の【置換融合】の効果を発動!墓地の融合モンスター、【ランパートガンナー】をデッキに戻して1枚ドローするぜ」

 

 遊城君の手札が1枚増える。

 

「まだまだ!さらに【貪欲な壺】を発動!【バーストレディ】【フェザーマン】【フレイム・ウィングマン】【シャイニング・フレア・ウィングマン】【バブルマン】をデッキに戻し、2枚ドローだ!」

「流石は精霊を操るもの、とでも言うべきだな」

「精霊を操るもの?」

「そうだ。デュエルモンスターズの精霊と心を通わせ、従わせる力だ。私にはその力が必要なのだ!」

 

 精霊を、従わせる力……?

 

「三幻魔はまだ完全に復活したわけじゃない。俺の力では、この結界の中でしか幻魔の力を操る事は出来ない」

「じゃあ、この闇のデュエルで遊城君と戦っているのは……」

「そうとも!俺は遊城十代から精霊を操る力を奪い取り、三幻魔を完全に復活させる!そうすれば三幻魔は世界中に飛び立ち、全ての精霊のエネルギーを吸い上げるのだ!」

 

 デュエルモンスターズの精霊。眉唾物なオカルト話だと思っていた。でも現に皆の持っているモンスターは弱っているし、遊陽の様な存在もいる。

 だから、今起きているのは全部現実なのだ。

 そしてデュエルモンスターズの精霊が皆餌となれば……デュエルモンスターズは終わる。

 

「お前、そこまでして長生きして、何がしたいんだよ?」

「何が?ふふ、まだ若いお前達には分からないだろうな。生きるだけでそこに意味があるのだ!命があること、それが最も重要なことなのだ!」

「でも、そうやって皆餌にしていったら、2度とデュエル出来ないんだぜ?友達だって出来ない!そんなひとりぼっちで、楽しいのかよ!」

「1人?大いに結構!俺はこの世界を支配し、神になるのだ!」

 

 あまりにも傲慢、あまりにも残酷。自分以外のすべてを物にしか……いや、物とすら思っていないのかもしれない。

 

「なら、俺達が教えてやるぜ!皆と一緒にやるデュエルの楽しさを!皆で力を合わせることで、どんな壁でも乗り越えていけるってことを!俺は、【スパークマン】を召喚!」

 

守1600

 

「【幻魔皇ラビエル】の効果発動!相手がモンスターを召喚したとき、【幻魔トークン】を召喚できる!」

 

 理事長のフィールドに、小さなラビエルが現れる。

 

守1000

 

「なら、【スパークマン】で【幻魔トークン】を攻撃だ!」

 

 本物には遠く及ばないステータスでは、レベル4モンスターにすら及ばない。現れたトークンはなにも言わず消え去っていく。

 

「さらにカードを2枚セットして、魔法カード【おくびょうかぜ】を発動!この効果で次の俺のターンの終わりまで、お前はセットされた魔法・罠カードを破壊する事は出来ないぜ」

「【ウリア】は発動している効果まで防ぐことはできない……くく、しかしその雑魚モンスターと2枚のセットカードで何ができるのかな?」

「まぁ見てろよ。頼んだぜ、深月。ターンエンドだ!」

「……うん。任せてよ、十代君!」

 

 

十代達 LP1000 十代手札0 深月手札3

モンスター:スパークマン アリア

魔法・罠:スピリットバリア セット セット

 

 

「俺のターン、ドロー!【失楽園】によりさらに2枚ドロー!」

 

 毎ターンノーコストのドローソースは凶悪だ。三幻魔の召喚条件はかなり重い筈なのに、それを完全にカバーされてしまっている。

 

「墓地の【暗黒の召喚神】の効果を発動!このカードを墓地から除外し、デッキから1体の幻魔を手札に加える!来い、【降雷皇ハモン】!」

 

 暗黒の召喚神の効果でサーチ出来るからわざわざデッキまで戻したのね。

 そしてあの大量の手札。間違いなく、来る……!

 

「そして俺は3枚の永続魔法を発動させる!【軽量化】【カードトレーダー】【強欲なカケラ】!そしてこの3枚を生け贄として、再び現れよ!【降雷皇ハモン】!」

 

 発動された永続魔法が再び水晶に包まれ、黄金のモンスターが現れる。

 

攻4000

 

 三幻魔全てがフィールドに揃う。モンスターどころか、私の魂でさえ鷲掴みにされている様な感覚に陥る。

 

「【ハモン】の効果は覚えているな?モンスターを戦闘で破壊したとき、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

「まずい!十代の召喚したスパークにマンを破壊されたら……!」

「これで終わりだ!【ハモン】で【スパークマン】を攻撃!失楽の霹靂!」

 

 ハモンの放つ電撃がスパークマンを襲い、爆発を引き起こした。

 

「はははは、はっはっは!これで私は、永遠の命を得たのだ!」

 

LP1000→2600

 

「……な、何!?」

「俺は攻撃される直前に、速攻魔法を発動させていたぜ。【神秘の中華鍋】は自分のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、その攻撃力か守備力の好きな方の値だけライフポイントを回復させる。俺は攻撃力1600を回復したのさ」

 

 そしてもう破壊できるモンスターは、私達のフィールドにはいない。

 

「チッ!しぶとい奴め……ならば更なる絶望を与えてやる!俺は装備魔法【スピリット・バーナー】を【ハモン】に装備させ、その効果により【ハモン】を守備表示に変更する」

「守備表示に変更するの?」

 

攻4000→守4000

 

「そうとも!【降雷皇ハモン】が守備表示で存在する限り、お前達が【ハモン】以外に攻撃することは許されない!」

「な、何だって!?」

 

 つまり、守備力4000、効果では破壊されず対象にもならないモンスターを何とかしないと、戦闘ダメージを与えることは出来ない……!

 

「さらに魔法カード【至高の木の実(スプレマシー・ベリー)】を発動。このカードの発動時に俺のライフが相手より低いとき、俺は2000ポイント回復する!」

 

LP1700→3700

 

「ターンエンドだ」

 

 

影丸 LP3700 手札0

モンスター:幻魔皇ラビエル 神炎皇ウリア 降雷皇ハモン

魔法・罠:スピリット・バーナー 失楽園

 

 

「私の……ターン」

 

 巨大。あまりにも強大。1体ですら苦戦したあのモンスター達が、今は3体並んでいる。

 私は、勝てるの?

 このまま理事長にターンが回れば、また3枚のカードがドローされる。

 もう相手のデッキも多くはない。いつまでもアリアで耐えてはいられない。

 

『大丈夫だよ、深月』

「遊陽!?」

 

 遊陽の声が聞こえる。私の後ろから手が伸びて、私を抱きしめる。

 彼の体はふわふわと浮いていて、半透明だ。

 

「遊陽……生きて、生きてたの?」

『死んではないよ。ぬいぐるみに封印されていただけ……あの幻魔達に引っ張られたせいで、ここまで出てこれたんだけどね』

「遊陽!お前、生きてたんだな!」

『十代……僕は死んでないってば』

「で、でも……引っ張られているってことは……」

『うん。僕も餌として認識されてる。あんまり長くはもたない……かな』

「……なら、早く終わらせなくちゃね!」

 

 勝っても、負けても、これが私の最後のドロー。

 

「私のターン!」

 

 カードを引く手が遊陽と重なる。

 

「『ドロー!」』

 

 引いたカードは……遊陽があの時くれた装備魔法カード!

 

「ほう、黒野遊陽、お前は俺を裏切るのか?」

『先に裏切ったのはあなたですよ。僕は約束した筈です。深月に危害を加えなければ協力する……ってね』

 

 影丸は浮遊する遊陽をいらだたしげに睨み付ける。

 

「……行くわよ理事長!これが、私達の力よ!」

「深月!俺のカードを使ってくれ!」

「うん!」

 

LP2600→1300

 

 セットされていた十代君のサバティエルが消え去り、私の手札に再融合が加えられる。

 

「これが2つ目の奇跡!魔法カード【再融合】を発動!ライフを800ポイント支払う事で、墓地の融合モンスターを特殊召喚するわ!」

 

LP1300→500

 

 私の足元に渦が現れ、一度は眠りについた音姫が再び舞台へ上がる。

 

「さぁ、アンコールよ!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】!」

 

 墓地から現れたシューベルトは、指揮棒を構えウリアへと向ける。

 

攻2400

 

「【シューベルト】の効果で、墓地の【スワンプマン】3枚を除外するわ!」

 

 再び永続罠を失い、ウリアの攻撃力が消えていく。

 

ウリア攻3000→0

シューベルト攻2400→3000

 

 そして私は、手札にある3枚目のサバティエルの力を発揮させる。

 

LP500→250

 

「そしてこれが、3つ目の奇跡!【融合】、発動!手札の【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】と、フィールドの【幻奏の音女アリア】を融合させるわ!」

 

 私はひとりじゃない。隣には十代君がいるし、それに私には遊陽がついている!

 

「『タクトの導きにより力を重ね、今こそ舞台に勝利の歌を!」』

 

 渦の中に2体のモンスターが飲まれて行き、薄紅色の花びらが舞う。

 

「『融合召喚!【幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ】!」』

 

 華が開く様に、舞台に歌姫が現れる。

 これが私の、私達の新しい仲間!

 

攻1000

 

 そして3つの奇跡を起こしたことで、私の墓地に眠る3枚の賢者の石が光輝く。

 

「これが、サバティエルの真の力なの……?」

 

 墓地に存在するサバティエルを3枚消し去ることで、私のモンスター1体の攻撃力は、フィールドで最も高い攻撃力を持つモンスターの攻撃力分アップする。これを使えば、簡単に幻魔を打ち倒せるだろう。でも、これを使えば……

 

「私は、【サバティエル】の最後の効果は使わないわ!」

『でも深月、その効果を使わずに……勝てるの?』

「大丈夫。だよね、十代君!」

「おう!信じてるぜ!深月!」

「私は、【マシュマカロン】を攻撃表示で召喚するわ!」

『マーシュー!』

 

 プルプルとした魅惑のボディを見せつけるように、ピンク色のマシュマカロンが私の前に飛び出る。

 

攻200

 

「いでよ【幻魔トークン】!」

 

守1000

 

「そして、遊陽がくれたカード……装備魔法【月鏡の盾】を発動し、【マシュマカロン】に装備させるわ!」

 

 黄金に輝く、まるで満月のように美しい盾。

 マシュマカロンがそれを飲み込み、自身の体を黄金色に輝かせる。

 

「へへっ、エリクシーラーみたいだな!」

「確かにね!」

 

 これで必要なものは揃った。

 

「行くわよ、遊陽!」

『うん!……影丸さん、あなたには感謝しています。だからせめて最後の恩返しに、あなたの妄執を打ち砕く!』

「『バトル!」』

 

 理事長のフィールドに並ぶ3体のモンスターに対して、私達のフィールドに並ぶ3体のモンスターはあまりにも小さく、非力。でも、個人の力が弱くとも、それをいろいろな手段でカバーすることはできる!

 

「はははっ!その雑魚共で?俺の操る幻魔を倒すだと?馬鹿馬鹿しい!」

「笑っていられるかな!?【マシュマカロン】で、【降雷皇ハモン】を攻撃!」

 

 攻撃力200と守備力4000。普段なら絶対に攻撃を仕掛けないであろう戦力差。でも、遊陽のくれたカードが光を放つ。

 

「血迷ったか!?」

『【月鏡の盾】の効果を発動!装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、その攻守は相手の高い方のステータスに100を加えた値になる!』

『マシュシュー!』

 

 マシュマカロンの体は鏡の様にハモンの姿を映し出す。

 

攻200→4100

 

「頑張って、【マシュマカロン】!青天の霹靂!」

 

 まさに大事件、大判狂わせ。マシュマカロンの体に映ったハモンの幻が、本物のハモンの体を貫き破壊する。

 

「攻撃力200の雑魚モンスターに、幻魔が……!?」

「まだまだ行くわよ!【幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト】で、【神炎皇ウリア】を攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

 シューベルトが指揮棒を振るい、暗く苦しい失楽の世界に音楽が溢れ出す。

 

「ぐぁぁぁっ!?」

 

LP3700→700

 

「そしてこれでトドメよ!」

 

 ブルーム・ディーヴァがラビエルの前に立ち、一礼する。

 

『【ブルーム・ディーヴァ】は戦闘や効果では破壊されず、戦闘で受けるダメージは0になる』

「そして戦闘が終わったあと、その相手モンスターと自身の元々の攻撃力の差を、ダメージとして与えるわ!」

「な……【ラビエル】の攻撃力は4000、そして【ブルーム・ディーヴァ】の攻撃力は……1000」

 

 ブルーム・ディーヴァが歌い始め、ラビエルはそれを煩わしそうに潰そうとする。

 

「やめろラビエル!攻撃するな!」

「『これで終わりだよ!【幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ】の攻撃!リフレクト・シャウト!」』

 

 攻撃力の差は3000。

 ディーヴァの歌声は振り下ろされるラビエルの拳を遮り、その衝撃をそのまま理事長へと受け流した。

 

「俺の、俺の命が!不死身の……体が……ぁぁぁぁ」

 

LP700→0




~カード紹介のコーナー~

幻魔皇ラビエル
効果/星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。自分フィールドの悪魔族モンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
(1):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2):相手がモンスターの召喚に成功した場合に発動する。自分フィールドに「幻魔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)1体を特殊召喚する。このトークンは攻撃宣言できない。


最後にして最強と名高い幻魔ラビエルさんです。悪魔族モンスターを大量展開するだけで出せるので幻魔の中では一番出しやすいと思います。
効果は使いにくい気はしますがあって困るものでは無いとは思います。トークンも生き残ってくれれば色々な素材にできますし。
ラビエルのパックはかっこ良かったですね。パッケージを飾るに相応しいモンスターだと思います。


次回、「僕たちふたりと」


次回は1期の最終回ですね。投稿はけっこう遅くなるかもしれません。
それでは、ぜひ次回もお読みいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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27話 僕たちふたりと

1期の最終回、デュエル描写はありません。


 あれから、理事長は元の年齢まで体が戻った。私達のような若い人を見て、もう一度あの若さを取り戻したいと思ってしまったようだ。

 ……私達もいつか年老いた後、彼のように感じてしまうのだろうか。

 三幻魔が再び封印されたことで遊陽を引きずり出していた力も消え、彼はまたぬいぐるみの中に戻ってしまった。

 それから数日。一時期は異常気象や噴火によってパニックだった生徒達も落ち着きを取り戻し、すぐそこまでに迫った期末試験に備えて勉強を再開していた。

 そして期末試験や3年生の卒業デュエルも終え、今は夏休み。前田君はI2社にスカウトされた事でこの学校を中退し、半数以上の生徒達は船に乗って本土へと帰っている。

 ……でも、私はここを離れるわけにはいかない。

 

「ファラオさーん……大徳寺先生を出してよー……」

 

 私はレッド寮の食堂でファラオにお願いしに来ている。

 三幻魔とのデュエルで、賢者の石を手に入れたのは良い。十代君も、遊陽を復活させるために是非!と私に譲ってくれた。

 だがしかし。

 ……賢者の石の使い方が分からない。

 三幻魔戦で分かった最後の効果は、あくまでもデュエルモンスターズのカードとしての効果だ。試しにデュエルディスクに置いてみようかとも思ったけど、良く分からないものを良く分からないまま使って浪費してしまうのが怖い。このカードに代わりは無いのだから。

 だから私はこのカードの元々の所有者である大徳寺先生に会いたいのだが……。

 

「ニャーン」

 

 ……ファラオが言うことを聞いてくれないのだ。

 いや、そもそもファラオの意思で出せるのかも謎だ。

 私達とのデュエルで死亡した大徳寺先生は成仏する筈だったのだが、その直前に魂がファラオに食べられてしまい、今はファラオの中にいるようだ。

 だからこの間のデュエル中にも助けに来てくれたのだろう。

 

「ダメかぁ……」

 

 私はファラオの頭を撫でる。

 ファラオは嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らすものの、大徳寺先生を召喚してくれそうにはない。

 

「今日もダメかぁ……なぁファラオ、そろそろ良いだろー?」

「僕には見えないっスけどね」

 

 同じ食堂にいた十代君や丸藤君も、困ったような顔でファラオを見ている。

 

「うーん。ダメね。今日はもう帰るわ」

「そっかぁ……もし大徳寺先生が出てきたら、すぐ連絡するぜ」

「うん。ありがと!」

 

 私は自室に帰り、デッキケースに入っている1枚のカードを取り出す。

 賢者の石-サバティエル。元々3枚のカードだったのに、あのデュエル以降は1枚のカードになって、虹色の光を放っている。

 

「……遊陽。後ちょっとなのになぁ……」

 

 そのカードを机に置いて、ベッドの上に置いてある遊陽のぬいぐるみを抱き締め、寝転ぶ。

 最近はもはや抱き枕の様な扱いになってきている。ベタベタと触っている割には全然汚れていないけど、やっぱり元々人間だったものだから、普通のぬいぐるみとは違うのだろうか。

 ……いや、汚れちゃったとして、洗濯したらどうなるのか……きっと恐ろしい結果が待っているに違いない。

 

「……今度もう1度、エメラルド・タブレットを翻訳してみようかしら」

 

 あんな頭の痛くなる作業をもう一度やるのは嫌だけど、遊陽の為だ。

 鏡泉君は童実野町にあるという実家に帰ったみたいだし、取り巻きの2人組も居ないから今度はひとりでやらなくちゃ。

 そんなことを考えていると、電話がかかってきた。

 

『深月か?』

『十代君、何かあったの?』

『さっきファラオから大徳寺先生が出てきたんだよ!すぐ食べられちゃったけどな』

『えっ!……そっか、残念』

『それでさ、気づいたんだよ。大徳寺先生は、あくびかゲップと一緒に出てくるんじゃないか?』

『あくびと……ゲップ?』

『そうそう!だからさ、ファラオをお腹一杯にさせて、大徳寺先生を召喚しようぜ!』

『……えっ?』

 

 

「こんな所に呼び出して何の用だ十代!」

「また海を前にしてドローの訓練をするのか?よし、俺も付き合うぞ!」

「十代、そもそもあなた何を持ってるのよ?」

「釣竿ッスよ!」

「いやいや、見ればわかるわよ丸藤君」

 

 ファラオの餌を集めるから来てくれと呼ばれた先は、オシリスレッド近くの崖。崖と言っても落ちても死にはしないだろうという高さだ。

 そこには明日香や万丈目君、三沢君も集まっている。十代君と丸藤君はバケツと何本もの釣竿を担いで立っていた。

 

「大徳寺先生がいたときは、こうして釣りをして晩飯の材料を集めてたんだぜ」

「十代君、まさかここで魚を沢山釣ってファラオに食べさせて……」

「そう!お腹一杯になったところで大徳寺先生を召喚してもらうのさ!」

 

 大徳寺先生の話をする私たちを、他の皆は変な目で見ている。

 

「深月?大徳寺先生がどうしたのよ?」

「そっか、皆には見えてないのよね」

「……?」

 

 明日香達は心当たりが無いようで首をかしげている。

 

「俺にも見えたぞ。まぁ、精霊を見る力があるかどうか、ってところだろうな」

『流石だねぇアニキィ~』

「うるさいぞ!」

 

 何かの声が聞こえた気がする。万丈目君は、きっとその精霊とやらと話しているのだろうか。

 ……よくよく眼を凝らしてみると、万丈目君の頭上を黄色い何かが回っているように見える。

 十代君や万丈目君には精霊と心を通わす力があるらしいけど、私のはそれほど強くないのかもしれない。

 

『マシュ?』

 

 たまに、幻聴の様に何かの声が聞こえるだけだ。

 

「ま、とりあえずそういうことさ!皆で釣りを楽しもうぜ!」

 

 そんな十代君の声を合図に、釣り大会が始まった。万丈目君はかなり嫌そうだったけど、十代君とつった魚の大きさを競いあっている。

 

「……うーん、ちょっとこのエサは苦手ね……」

 

 明日香が釣り餌であるゴカイの入ったケースを気味悪そうに見ている。

 

「明日香は虫とかダメ?つけましょうか?」

「大丈夫よ。餌は団子の方を使うわ」

 

 私は団子状の餌を針に取り付ける明日香を横目に、ゴカイの頭を押さえ噛まれない様にして針を突き刺す。

 

「深月はそういうの平気なのね」

「あー、ゴカイを見るのは初めてだけど……ムカデとそんなに変わらないわね」

「ムカデ?」

「うん。私の育った施設はね、建物とか設備は良いんだけど、裏に森があるからか虫が入ってくることが多かったのよ。だから、ほとんどの虫には慣れちゃったわ……」

 

 昔はムカデなんてそれはもう恐ろしかったけど、今目の前に来られても冷静に対処できるだろう。

 私はゴカイをつけた釣り針を海に投げ入れる。あとはかかるのをおとなしく待つだけだ。

 

「へへっ!大物ドローだぜ!」

「フン!この俺様の方が大きいだろう!」

「えー?そうかぁ?見栄を張るなよ万丈目」

「ぜ、全然つれないッス……」

「大丈夫か?釣りも全部計算さ。風向きと波の大きさから、針を右斜め48度の方角に……」

「そんな細かいの無理ッスよ!」

 

 男子達はもう既に何匹かの魚を釣り上げていた。大きさは様々だけど、太平洋の中心ということもあってか、色とりどりな魚達だ。

 ……うん。いかにも熱帯魚って感じで、食欲の湧く魚じゃない。

 そんな風に皆の様子を眺めていると、竿が引かれている感覚を手に感じる。

 

「来たっ!」

 

 リールを回転させて糸を引き、魚を釣り上げる。

 釣れたのは手のひらサイズの小さな魚だ。魚には詳しくないから名前はわからないけど、これまたトロピカルな色合いをしている。

 

「こ、これ、食べられるのかな?」

「少なくともお店には並んでないわね」

 

 明日香と2人で釣り開けた魚を見て笑う。

 

「ニャーン」

 

 いつの間にか足元にいたファラオが魚を見上げている。

 

「食べるの?ファラオ」

 

 私は釣った魚をファラオの前に置くと、ファラオはその魚をペロリと舐め、かじりつく。

 

「こういう魚も食べるのね」

「たっくさん食べて、大徳寺先生に会わせてよね」

「ニャーオ」

 

 私の言葉を理解しているのかは分からないけど、ファラオは鳴いて返事をすると魚を食べる。

 

「さて、釣りを続けましょうか!」

「ええ」

 

 とはいえ、そう簡単に釣れるものでもない。

 雑談のネタを大体話尽くした私達は、ぼーっと海を眺めながら釣竿が揺れるのを待っていた。

 

「そういえば、最近また歌ってるわね」

「あぁ、やっぱり隣の部屋だと聞こえちゃうわよね」

 

 遊陽が居なくなって、私は精神的に不安定になり、歌を歌う余裕すらなかった。でも今は遊陽が居ないとはいえ彼を助け出す方法は手に入ったから、落ち着いてきた。だから部屋の中で歌っていたりしたんだけど……聞かれていたみたいだ。

 

「うるさくない?」

「全然!むしろ今ここでも聞きたいわ」

「そ、それは照れちゃうなぁ……」

「魚もあんまり来ないし、歌ってたら引き寄せられたりするかもしれないわね」

「えー、そうかなぁ」

 

 まあ、それでも聞きたいのなら歌ってみようかな。

 

「ちょっとだけよ?……あー、あー」

 

 声を整えて、海に向かって歌い出す。

 

「Mary had a little lamb♪Little lamb♪little lamb♪Mary had a little lamb♪Its fleece was white as snow♪」

 

 メリーさんのひつじ。童謡として日本でも有名な曲だ。

 

「It followed her to school one day♪School one day♪school one day♪It followed her to school one day♪Which was against the rule♪」

 

 この曲は、祖母が教えてくれたものだ。メリーという女の子と、彼女の大切な友達の歌。

 

「Why does the lamb love Mary so♪Mary so♪Mary so♪Why does the lamb love Mary so♪The eager children cried♪」

 

 施設にいた頃、年下の子供たちからはいつも歌ってとリクエストされていた。私の十八番だ。

 

「Why, Mary loves the lamb, you know♪Lamb, you know♪ lamb, you know♪Why, Mary loves the lamb, you know♪The teacher then replied♪」

 

 メロディーはほとんど変わらない歌だけど、だからこそ小さい子供たちと一緒に歌えた。

 

「素敵ね。海外版は聞いたこと無いけど、どんな意味なの?」

「日本でのメリーさんとそんなに変わらないわよ」

 

 確か、日本語に訳していくと、

 

「メリーさんの友達の羊が、学校までやって来て大騒ぎ。学校を追い出されちゃうけど、羊は外でメリーさんを待ってるの」

「そんな歌詞だったのね」

「うん。そして生徒の一人が先生に聞くの。どうして羊は、メリーさんの事が好きなの?って」

「どうして?」

「先生が答えるわ。それはね、メリーさんも、羊の事が大好きだからだよ、って」

「ふふ、なんだか、あなたと黒野君みたいね」

「えっ?……あっ」

 

 顔が熱いのは、この夏の日差しのせいでは無いだろう。今鏡をみたら耳まで真っ赤になっているかもしれない。

 

「ち、ちがっ!そんなつもりじゃないのよ!?」

 

 慌てて取り繕うとするが、明日香は暖かい目を私に向けている。

 

「あっ!今竿が引かれた気がするわ!」

「本当?」

「本当よ!」

 

 今日2匹目の魚を釣り上げる頃には、太陽が沈みかけていた。

 

 

「……と、いうわけで!」

『ファラオがまた太っちゃうのニャー……』

「わりぃな大徳寺先生!」

「ごめんね、ファラオ。ちょっとだけ待っててね」

「ニャーン……」

「まさか本当に猫の中に先生がいるなんてな……」

 

 大徳寺先生の姿を見えない他の人をよそに、私達は召喚に成功した大徳寺先生を囲んでいた。

 他の皆には、大徳寺先生がまた食べられないよう、ファラオを見て貰っている。

 

『それで、用件は分かるニャ。遊陽君を復活させたいのニャ?』

「はい。賢者の石は手に入ったんですけど、使い方が分からなくて……」

『それなら、あの廃寮の地下に行くのニャ。あそこには機材が揃っているから、遊陽君の体をまた作り出すこともできるのニャ』

「作るんですか?」

『その通りニャ』

 

 私達は廃寮に向かう。もう時間は夜で真っ暗だけど、先生のお陰で迷うことはない。

 

「ほんとにそこに居るんスか?」

「俺達には何も見えないからな」

 

 三沢君と丸藤君が怪訝な瞳で私達を見ている。

 でも確かに、大徳寺先生の魂は私達を先導するように浮遊しているのだ。

 

「……もう少しだよ、遊陽」

 

 私は抱き抱えたぬいぐるみに囁いた。

 私が以前地下の研究所にやって来たときは連れ去られたようなものだから、自分の足でここまで来たのは初めてだ。

 大徳寺先生が部屋の明かりの場所を十代君に教え、明かりをつける。

 

『まさか本当に、サバティエルの最後の力を使わずに倒すとは思わなかったのニャ』

 

 私の手には、光輝く賢者の石のカードが握られている。

 

「……私も、正直勝てるかは不安でした。十代君と、遊陽がくれたあのカードと、ブルーム・ディーヴァのお陰です」

「いや、あれは確かにお前のお陰だぜ、深月」

「そう、かな?」

『そういえば、ブルーム・ディーヴァのあの召喚条件なら最初から出せていた筈だニャ』

「確かにそうなんですけど……あのカード、デュエルを始めた時点では持ってなかったんです」

『ニャんと……?』

 

 幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ。私はデッキケースからそのカードを取りだし、眺める。

 

『……なるほど、ニャ』

「何か、分かったんですか?」

『サバティエルは、融合に関係するカードを作り出すものなんだニャ。だから君達はその奇跡によって、融合回収や再融合のカードを手にいれた』

「そして、最後に融合のカードですね」

『それニャ。きっと最後に奇跡を起こしたのは……遊陽君だったのではないかニャ?』

「遊陽が?」

『そうニャ。賢者の石は奇跡を起こすもの。深月君に新しい力を与え、それを呼び出すのに必要な融合へと姿を変えたんだニャ』

「……そう、かもしれませんね」

 

 大徳寺先生が、大きな機械の前にとまりふわふわと浮いている。幾つものレバーやスイッチのついた、水槽のような機械だ。

 ガラスの様なもので出来た扉がついており、中身は空っぽだ。

 

『それじゃあ、私の言う通りに機械を動かすのニャ』

「お願いします、先生」

 

 ファラオが大徳寺先生を食べようとしても皆が抑えてくれると思うけど、限界もあるだろう。だからテキパキとやらないと!

 扉を開けて遊陽のぬいぐるみを水槽に入れ、いくつかのスイッチを入れる。

 そしてその水槽の中に、賢者の石を入れた。

 さらに私の指をナイフで切り、絞り出した血を何滴か注ぐ。

 

『ひぇぇ……』

「あんな闇のデュエルしておいて、血はダメなんですか?」

『闇のデュエルじゃ流血はしないのニャー……よくそんなに躊躇いもなく指を切れるのニャ』

「指が離れるほど切ってるわけじゃ無いですし、遊陽の為ですから」

『愛の力だニャあ……あとはしばらく待つだけだニャ』

「これってホムンクルスの作成ですよね?こんなに簡単でいいんですか?」

『私や、前の遊陽君の体を作ったときにはもっと大変だったニャ。色々な材料も必要になってくるんだニャ。今やっているのが簡単なのは、賢者の石のお陰だニャ』

 

 機械を作動させると液体が水槽を満たす。

 ぬいぐるみが光を放ち始め、水槽の中は見えなくなってしまう。

 

『本来ならホムンクルスの寿命は短いのニャ……でも、賢者の石なら完全な生命体を作り出す事ができる。永遠の命とまでは行かなくとも、遊陽君はちゃんと、人並みの寿命を持った人間として生まれ変わるのニャ』

 

 時間はまだまだ掛かりそうだ。ファラオはお腹一杯なのか、大人しく大徳寺先生を見ているだけだ。

 

「……これで、やることは終わりですか?」

『そうだニャ。……深月君、深月君は、遊陽君を責めないであげて欲しいのニャ』

「先生?」

『彼はずっと、君を裏切り続けていた。でも、方法は間違ってしまったけど、彼が君のために行動していたのは本当なのニャ』

「……分かってますよ。先生。私だって、先生と同じくらい……ううん。ぬいぐるみの頃も含めれば、先生以上に遊陽と一緒にいるんです」

 

 私はファラオを抱き抱え、頭をなでる。ファラオは大人しく喉をならしていた。

 

「私と一緒にいた遊陽は、いつだって優しかった。私が嫌なことをされたら怒ってくれたし、私が困ってるときは助けてくれた。隠し事があったとしても、私と遊陽との思い出は……嘘じゃないと思うんです」

『そうだニャ』

 

 水槽の光がさらに強くなり、排気口から蒸気が出てくる。

 

『そろそろ、だニャ』

「遊陽……!」

 

 蒸気の排出が止まり、扉が開く。

 その中から遊陽が現れ、倒れそうになる。

 

「ちょっと、遊陽!?」

 

 私は彼を支えようと前に出て、押し倒されてしまう。

 

「……あれ、ここは……?」

「遊陽……!」

「深月……?」

 

 遊陽はぼんやりした瞳で私を見る。その顔が少しずつ赤く染まっていき、飛び跳ねるように私から離れようとする。

 私は遊陽の体を掴み、そのまま逃がすまいと抱き締める。

 

「ご、ごめんっ、深月!」

「良かった……良かったぁぁ!遊陽ぃぃ……!」

「黒野!」

「フン!ようやく戻ってきたか!」

「久しぶりだな、遊陽!」

「良かったわね、深月」

「ほんとに、良かったッス……!」

「おいおい、泣くなよ翔」

「な、泣いてないッスよ!」

 

 皆が倒れたまま抱き合う私達を微笑ましそうに見ているのに気づく。

 私の顔はきっと真っ赤で、涙でグシャグシャだ。

 私達はさっと立ちあがり服を整える。

 遊陽は消えてしまった時と同じく、オベリスクブルーの制服を着ていた。あの水槽の中に居たからか、制服はびしょ濡れだけど。

 

『制服ごと巻き込んでぬいぐるみになったから、制服もちゃんと戻ったのニャ。良かったニャー』

「大徳寺先生?その姿は……」

『あぁ。これはまぁいろいろあったのニャ』

 

 大徳寺先生は遊陽に今まで何があったのかを説明する。

 

「そう、でしたか。僕に体をくれた錬金術師は、大徳寺先生だったんですね」

「知らなかったの?」

「うん。彼はアムナエルと名乗っていたし、仮面をつけていたから」

『影丸理事長も秘密主義が過ぎるのニャ……』

 

 遊陽は自分の体を確かめる様に見回し、動かしている。

 

「……すごいや。今までと全然違う。体が軽いし、思ったように動ける」

「えへへ、良かったわ!遊陽!」

「……ありがとう、深月」

 

 そうだ。遊陽に言わなくちゃ。ずっと言おうとしていた事。ここなら、今なら、言える筈。

 

「あのね、遊陽」

「ニャー!」

『にゃぁぁ!?』

 

 大人しくしていたファラオが急に飛び上がり、大徳寺先生の魂を丸のみにしてどこかへ逃げていく。

 

「み、深月!?大徳寺先生が食べられたんだけど!?」

「あはは。また出てくるわよ。いつかね」

「え、そうなの?」

 

 遊陽が不安そうにファラオが出ていった扉を見ているけど……ファラオは、もしかしたら気を利かせてくれたのかもしれない。

 

「……チッ、お前ら、ファラオを追いかけるぞ!」

「……あぁ、そうだな。行こうか十代」

「ふふ、そうね。行くわよ」

「えっ、黒野君とお話ししなくて良いんスか?」

「そうそう、俺も話したいこと色々あるし――」

「「「いいから行く!」」」

 

 十代君と丸藤君を引っ張って、他の皆も研究室を出ていく。皆、良い人達だ。

 

「ねぇ、遊陽」

 

 心臓が高鳴る。幻魔達を前にしたときとは違う、どこか心地のいい緊張。

 

「ずっと、ずっと言おうと思ってたの。私ね、遊陽の事……大好き!」

「深月……」

 

 遊陽は一瞬嬉しそうに目を輝かせるが、すぐにその表情は曇ってしまう。

 

「……僕は、君を裏切ったんだよ?それに僕は人間じゃない。恨みと呪いによって産み出された化け物なんだ」

「遊陽は人間よ!例えどんな経緯でここにいるとしても、私が遊陽を好きなことは……変わらない、から……」

 

 段々と恥ずかしくなってきて、言葉が尻すぼみになってしまう。遊陽はそんな私を微笑みながら見つめて、言った。

 

「僕も、だよ。僕も深月の事が、世界で一番大好きだ」

 

 そう言って遊陽は私の体を抱き寄せて――

 

「~!?」

 

 キスをした。

 

 

 

 僕たちの学園生活、その最初の1年はこれで終わり。

 あの後僕はクロノス先生にこっぴどく叱られた。闇のデュエルを行っていたことを、深月や皆を危険にさらしたことを。あとついでに試験を受けられなかったことも。

 それでも反省文と追加課題・追加試験だけで許してくれたのは、クロノス先生なりの優しさなのかもしれない。

 無事追加試験を突破した僕は、深月達と一緒に2年生になれることが決まった。金銭面はどうしようかと思っていたけど、深月の分も含めここを卒業するまでは影丸さんが面倒を見てくれるらしい。

 影丸さんは十代の直接攻撃によって腰を痛めていたようだけど、今でも元気なようだ。……ありがたいけど、ちょっと複雑な気分だ。

 

「ねぇ、遊陽!久々にデュエルしましょ?」

「うん、勿論!」

 

 夏休みも後半に差し掛かり、新しい1年がやって来る。

 

「おっ?面白そうじゃん!俺も混ぜてくれよ!」

「私もやるわ!最近デッキを新しくしたのよ」

 

 もう決められた役割なんか無い。だから次の1年は、僕が何をするかを決めなくちゃいけない。

 

「待て!まずは俺とデュエルするのが先だろう!お前のせいでブルー寮を追い出されたこと、まだ許してないからな!」

「ハハハ。どうせならトーナメント形式にするのはどうだ?」

「あ、居たんスか三沢君?」

 

 これは、僕たちふたりと、愉快な仲間達の物語。




ここまでお読みいただきありがとうございました。皆様の応援のお陰で、1期の最後まで書ききることが出来ました。
今までで全く出てこなかった謎の人物(仮面の男とか)は今後出てくる予定です。
次回以降の投稿ですが、大まかな方向は決まっているのですが細かい部分がまだなので、かなり遅めになりそうです。
失踪はしないように頑張りますので、のんびりと待っていただけたら嬉しいです。

ようやくアルカナフォースの出番ですよ皆さん。
GX出身で一番好きなカテゴリです!
今から楽しみですよ斎王様!

それでは、また次回もお会いできたら嬉しいです。
ではではー!


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2.光の結社編
28話 終わりの始まり!?(前編) 新任教師、終理創!


お久しぶりです皆々様。いよいよ二期が始まりますが投稿頻度は遅めです。今回は前後編ですが、後編の投稿もちょっと遅めになると思われます。
あとがきにて更新されたキャラクター情報を載せておくので、もし興味があればそちらも見ていただけたらうれしいです。
それでは!


「おい、斎王。お前に任せて大丈夫なのかぁ?」

「ええ。我がタロットも、光の勝利を予知している。君が手を下さずとも、すぐに光がこの世界を包み込むだろう」

「そうかい。まぁいいや。もう種は撒き終えたからなぁ。俺はバックアップに務めるぜ」

 

 白い部屋の中。斎王と呼ばれた男は、瞳が描かれた仮面の男と話していた。

 仮面の男が部屋を去るのを確認すると、斎王は机に広がったカードの中から1枚を選びめくる。

 

「逆位置の『運命の輪』。意味は情勢の悪化、そしてアクシデントの到来……余計なことをしなければ良いのだが……」

 

 

 

「えー、落ち着くノーネ。さて皆さん、10月になり、皆さんはこの学園の2年生になったノーネ!」

 

 10月。ちょっと長めの夏休みが明け、新学期が始まる。

 最初の授業が始まる前に、いつもの教室でクロノス校長先生からのありがたいお話だ。

 ……そう、クロノス校長である。

 

「でも凄いわね。鮫島校長のいない間だけとは言え、校長になっちゃうなんて」

「うん。先生としては凄く良い先生だし、実技担当の最高責任者だしね」

 

 なにやら校長先生が出張に出掛けた為、クロノス先生が代理で臨時校長をやっているらしい。

 やがてクロノス先生が、見慣れない男性を教壇まで呼び寄せる。

 

「えー、それカーラ、皆さんには紹介する人がいるノーネ。終理先生!」

 

 終理、と呼ばれた若い男の人は、親しみやすそうな笑みを浮かべて教壇に立つ。

 

「ご紹介ありがとうございます、クロノス校長。俺は今年からこのデュエルアカデミアに赴任した、終理創だ!皆、よろしくな!」

 

 雪のように白い髪と、赤い瞳。整ったその容貌を見て、女子達からの黄色い歓声があがる。

 

「キャー、イケメンですわ!」

「ハジメ様ー!」

「もう、ももえもジュンコも騒ぎすぎよ」

 

 浜口さんや枕田さん歓声を上げていて、それを天上院さんが呆れ顔で見ている。

 

「えー、終理先生は今年から先生になった新任の先生ナノーネ。大徳寺先生に代わり、錬金術の授業を担当してくれるノーネ」

 

 てっきり大徳寺先生が居なくなったから錬金術はもう無いものだと思っていたけど、今年もちゃんとあるみたいだ。

 

「それじゃあ、記念すべき最初の授業は、終理先生に任せるノーネ」

「はい!頑張りますよクロノス校長!」

 

 そのままクロノス先生は教壇を降りて教室を出ていった。

 

「さて、さっきも自己紹介したけど、俺の名前は終理創!皆は1年生だから会ってないと思うが、実は夏休みが始まる前まで、教育実習でここに来てたんだ」

 

 全然気がつかなかった。他の学年の担当だったのかな?

 

「まぁ、知らなくても仕方ないかもな。去年は、当時の2年生達の授業を中心に実習していたからな」

 

 他の先生よりも年齢が近いからか、皆は概ね彼に好意的な印象を抱いているようだった。

 

「さて、俺が担当するのは錬金術!なんだけど、実はそっちは専門じゃないから、去年までいらっしゃった先生ほどの授業は出来ないかもしれないな」

「そんじゃ、何が専門なんだ?」

 

 珍しく起きていた十代が手をあげて質問する。

 

「おっ、元気だな。良い質問だ。俺の専門はズバリ、オカルトだ!所謂怖い話レベルのものから、都市伝説として伝えられるもの、地方に伝わる伝承、大学ではそういったことを勉強してきた。錬金術はその一端さ」

 

 見た目は体育会系で、正直オカルトとは関わりが無さそうだけど、人は見た目によらないなぁ。

 

「都市伝説、か。あの先生は知ってるのかしら?」

「どうだろう?けっこう有名な話だし、知ってるかもね」

 

 僕は都市伝説の1つ、ひとりかくれんぼから産まれた存在。万が一バレればモルモットにでもされそうだ。

 

「まぁ、そう言うわけで俺の授業では錬金術だけじゃなく、怖い話についても話すことにしようか。でもその前に」

 

 終理先生がデュエルコートに取り付けられた機械のスイッチを押すと、それが展開しデュエルディスクになる。クロノス先生が使うものと同じだ。

 

「君達の力を見せて欲しいんだ。誰か、俺とデュエルしてくれるかい?もし勝てたら……そうだな、飛びっきりの怖い話をしてあげるぜ」

 

 その発言に、当然十代が手をあげる。

 

「はいはーい!怖い話は知らねーけど、俺とデュエルしてくれよ!」

「君は……ああ、君がクロノス校長の言っていた十代君か。よし、それじゃあ君とデュエルしようか。じゃあ皆、デュエル場まで移動だ!」

 

 先生に連れられて、デュエル場へと向かう。

 

「頑張ってハジメ様ー!」

「キャー!」

 

 案の定というか何と言うか。

 十代の方にいる女子は深月と天上院さんと、数えるほどしかいない。

 

「ももえもジュンコも、イケメンが好きね」

「深月も格好いいって思う?」

「まぁ、顔は良いんじゃない?遊陽ほどじゃな……何でもない」

「……」

「ほら、イチャイチャしないの」

 

 僕たちは顔を真っ赤にして俯いてしまい、それを明日香がやれやれと言った顔で窘める。

 

「そういえば君は、この学園を救った英雄だったね。良し、それじゃあ始めようか!」

「よっしゃぁ!行くぜ」

 

「「デュエル!!」」

 

十代 VS 創

 

「せっかくだし、先生が先攻にしてくれよ!」

「いいのか?良し、なら俺の先攻、ドローだ!」

 

 先生はどんなデッキを使ってくるのだろうか。新任教師とはいえデュエルアカデミアの先生。油断はできないだろう。

 

「俺はモンスターを裏側守備表示でセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 

創 LP4000 手札4

モンスター:セット

魔法・罠:セット

 

 

 控えめな初動だ。でもわざわざ裏側守備表示で出したと言うことは、リバース効果を持つモンスターか、リクルーターかな?

 

「先生、どんなモンスターを使うのかしら」

「オカルト好きとか言ってたし、その関係かも知れないね」

 

 十代のターンが回ってきて、十代はカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー!良し、来い、【E・HERO ワイルドマン】!」

 

 民族的な衣装をまとった、筋肉質な男性が十代の前に現れる。

 

攻1500

 

「バトル!【ワイルドマン】でセットされたモンスターを攻撃だ!」

 

 あまり無警戒に行くのは怖いけど、だからといってあるかもわからないリバース効果を恐れて攻撃しないのも考えものだ。

 

セット→Dボーイズ

守1000

 

 セットされたモンスターが表になり、その姿を現す。

 不良の様な服を着た悪魔の男が、躍りながらワイルドマンに切り裂かれる。

 

「攻撃された【Dボーイズ】のリバース効果を発動!」

「り、リバース効果?」

「そう、裏側守備表示のモンスターが表側表示になったときに発動する効果さ!」

 

 リバース効果は基本的には繰り返し発動できず、手間もかかるからか強力な効果を持つものが多い。

 

「【Dボーイズ】のリバース効果は、デッキから同名モンスターを任意の数まで攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 破壊される直前にDボーイズのあげた叫びが、新たに2人の悪魔を呼び出す。

 

攻100×2

 

「その代わり俺は召喚したモンスター1体につき、1000ポイントのダメージを受ける!」

 

LP4000→2000

 

「おいおい、大丈夫かよ、先生」

 

 リバース効果モンスターを表側表示で出した上に、ステータスも低い。そのくせ2000ポイントの大ダメージを受ける?

 

「つ、釣り合ってないわね」

「うん。同じことがしたいなら他にもいろいろあると思うけど……わざわざダメージを受けてまでやりたいことがあるのかな」

「ダメージを受けることで発動する効果があるんじゃないか?」

 

 三沢君が呟く。噂をすればなんとやら。終理先生がセットされたカードを発動させる。

 

「リバースカードオープン!【ダーク・ホライズン】だ!自分が戦闘・効果でダメージを受けたとき、デッキからその数値以下の攻撃力を持つ魔法使い族で闇属性のモンスターを特殊召喚するぞ!」

 

 終理先生を黒い光が覆って、爆発する。その爆風の中から、フードを被った何者かと、それが操る人形が現れる。

 

攻2000

 

「俺が召喚したのは【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】。魔法カードが発動される度に自身に魔力カウンターを乗せ、攻撃力を200アップさせるモンスターさ」

 

 2000ダメージを安定して受けることであのモンスターを確実に呼び出す。その上ステータスは自身の効果で補うこともできる。

 

「これで先生のフィールドには生け贄に出来るモンスターが2体に上級モンスターが1体……」

「あの先生、強いのね」

「そうね。十代はどうするのかしら?」

 

 上級モンスターとはいえデュエルを一瞬で終わらせるほどの驚異じゃないから、まだ手は打てる。

 

「俺は【強欲なカケラ】を発動して、ターンエンドだぜ」

 

魔法の操り人形(1)

攻2000→2200

 

 

十代 LP4000 手札4

モンスター:E・HERO ワイルドマン

魔法・罠:強欲なカケラ

 

 

「俺のターンだな、ドロー!俺は【Dボーイズ】を2体生け贄に捧げて、【コスモクイーン】を召喚!」

 

 2体の悪魔が消え去り、宇宙から女王が降り立つ。

 

攻2900

 

 コスモクイーン。単体ならあのブラック・マジシャン以上のステータスを持つ、魔法使い族デッキの人気カードだ。さっきの伏せカードも考えると、先生のデッキは魔法使い族デッキなのだろうか?

 

「さぁ、行くぞ!【コスモクイーン】で【ワイルドマン】を攻撃だっ!」

 

 コスモクイーンが両手を天に掲げると、小さな宇宙のような球が現れ、それがワイルドマンを包み消え去る。

 

「ぐっ……!」

 

LP4000→2600

 

「さらに【魔法の操り人形】でダイレクトアタックだ!」

 

 操り人形はカタカタと動き出すと、両手の刃物で十代を切り裂いた。

 

「うわぁぁっ!!」

 

LP2600→400

 

「さぁ、どうする十代君!?俺はこれでターンエンド!」

 

 

創 LP2000 手札4

モンスター:コスモクイーン 魔法の操り人形

魔法・罠:なし

 

 

「くっ、俺のターン、ドロー!」

 

強欲なカケラ(1)

 

 ライフポイントは500を下回り、フィールドは空。そして終理先生のフィールドには上級モンスターが2体。絶体絶命の状況だ。

 

「俺は【戦士の生還】を発動して、墓地の【ワイルドマン】を手札に戻すぜ」

 

魔法の操り人形(2)

攻2200→2400

 

「さらに魔法カード発動、【融合】!手札の【ワイルドマン】と【エッジマン】を融合だ!来い、【E・HERO ワイルドジャギーマン】!」

 

 エッジマンの黄金の鎧を身に纏い、ワイルドマンが再びフィールドに現れる。

 

攻2600

 

「しかし【融合】が発動したことで、【魔法の操り人形】に魔力カウンターか

乗せられる!」

 

魔法の操り人形(3)

攻2400→2600

 

 魔法カードが発動される度に際限なく攻撃力を上昇させていくモンスター。折角上級モンスターを呼び出したのに、攻撃力が並んでしまう。

 

「へへっ、大丈夫さ!俺はさらにフィールド魔法【摩天楼-スカイスクレイパー】を発動!」

 

 デュエルフィールドに無数のビル群が現れ、フィールドは一瞬で夜の摩天楼へと変わる。

 

「さらに魔力カウンターが乗るけど、良いのか?」

 

魔法の操り人形(4)

攻2600→2800

 

「あぁ、むしろその方が良いのさ!この【スカイスクレイパー】はヒーローの為の舞台!【E・HERO】が自分より攻撃力の高いモンスターに攻撃するとき、その攻撃力を1000ポイントアップさせるのさ!」

 

 攻撃力が同じなら、この効果は適用されない。攻撃力上昇効果が仇になったようだ。

 

「な、何だって!?」

「さらに【ワイルドジャギーマン】は、全ての相手モンスターに1回ずつ攻撃できるぜ!行け、【ワイルドジャギーマン】!創先生の全てのモンスターに攻撃だ!」

 

 ワイルドジャギーマンが空を舞い、一番高いビルの上から急降下し、終理先生のモンスター達をすれ違い様に切り刻む。

 

「スカイスクレイパー・スラッシュ!」

 

攻2600→3600

 

LP2000→1200→500

 

「くっ……なるほど、クロノス先生が誉めていただけあるな」

「そうなのか?」

「あっ、いや何でもない!これは内密な話だったからな。忘れてくれ」

 

 クロノス先生も、なんだかんだ言って十代の事を認めているのかもしれない。それにしても内密な話をポロっとこぼしてしまったこの先生は、結構うっかり屋さんなのかな。

 

「凄いわね、十代君」

「うん。一気に形勢を逆転したよ」

 

 もっともライフは風前の灯。ちょっとしたバーンカードで終わってしまうから、これからの展開はより慎重にしなければ行けないだろう。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだぜ」

 

 

十代 LP400 手札1

モンスター:ワイルドジャギーマン

魔法・罠:強欲なカケラ セット 摩天楼-スカイスクレイパー

 

 

「俺のターンだな。ドロー!……さて、それじゃあ俺のエースモンスターを見せてあげよう!」

「先生の、エースモンスター……!?」

 

 コスモクイーンや魔法の操り人形もかなり強いモンスターだ。先生はそれ以上のモンスターを召喚するつもりなのかな?

 

「行くぞ十代君!俺は魔法カード【イリュージョンの儀式】を発動!レベルの合計が1以上になるように、手札かフィールドのモンスターを生け贄に捧げる!」

 

 儀式魔法!それにあのカード、まさか終理先生のエースモンスターって……!

 終理先生は手札のモンスターを墓地へと送る。

 

「俺は手札からレベル1のモンスター、【イービル・ソーン】を生け贄に捧げ、【サクリファイス】を儀式召喚する!」




黒野遊陽(2年目)
オベリスクブルーに所属する2年生。元々はデュエルモンスターズの精霊かつ深月のぬいぐるみであったが、紆余曲折の末賢者の石の力で人間になった。
深月と告白しあったことで自重を失い、彼女への想いを隠すことは無くなった。ミヅコンならぬミヅキチである。
人間になったことでホムンクルス時代と比べ身体能力が人並み程度にはなったが、運動が得意と言うわけではない模様。
栗色の長めの髪に赤い瞳が特徴。
使用デッキは【デストーイ】。

星見深月(2年目)
オベリスクブルーに所属する2年生で、遊陽の幼馴染。遊陽の過去であるぬいぐるみを持っていた少女で、誰からか教えられたひとりかくれんぼを実施してしまった過去を持つ。
遊陽に想いを伝えてからは、少し照れはするものの遊陽への想いを隠さなくなっており、周囲の人間はもれなく砂糖を吐く事になる。
快活な性格で教師からの信頼も厚く、1年目で様々な問題が解決したことで精神面も安定してきており、天上院明日香と共にアカデミアの二大女王と呼ばれているらしい。
黒髪のショートに紫色の瞳。
使用デッキは【幻奏】。

鏡泉王子(2年目)
オベリスクブルーに所属する2年生。実技・筆記ともに優秀な成績を修め、とくに筆記試験では黒野遊陽を越えて学年2位であり、首席の三沢大地のすぐ後ろに並ぶ。
いつも偉そうな態度をとっていたが、1年間過ごす内に彼の面倒見のよさが伝わったようで、ブルーだけでなく他の寮の生徒からも良く勉強の相談をされている。
深月に惚れておりことあるごとに彼女を口説いていたが、遊陽と深月が付き合いを始めてからは大人しく引き下がった出来る王子。
取り巻きが2人いる。
ウェーブのかかった金髪に水色の瞳。
使用デッキは【リチュア】。

終理 創 オワリ ハジメ
デュエルアカデミアの新任教師であり、居なくなった大徳寺の代わりに錬金術の授業を勤める。
明るく親しみやすい性格で、ちょっと抜けているところも含めてレッドやイエロー寮の生徒から人気の先生。
オカルトに詳しい様で、個人的に都市伝説についての研究も行っているようだ。
まっ白な髪に暗い赤色の瞳。
使用デッキは【サクリファイス】。


さて、2期第1話ですがさっそくの前後編ですね。文字数的にも短めでしたが、纏めると長くなってしまうアレです。
カード紹介は後編にて。
それではまた次回もお読みいただけたらうれしいです。
ではではー!


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29話 終わりの始まり!?(後編) 恐怖のサクリファイス!

こちらは後編です。是非前回をお読みいただいてからこちらも読んでいただけると嬉しいです。


「サクリファイス……珍しいモンスターを使うのね」

「うん。そっか。確かにサクリファイスは魔法使い族で闇属性のモンスター。他のモンスター達とサポートカードを共有できるよ」

 

 闇のアイテムの物と似た1つ目を持つモンスター。その不気味な風貌と低いステータスから人気はそんなに無いモンスターだ。

 だけど実際は、デュエルモンスターズの創始者たるペガサスが愛用していたカードと言うこともあり、その実力は高い。

 低いステータスは効果で補うことが出来、さらに元々のステータスが低いことで受けられるサポートも幅広い。

 

攻0

 

「【サクリファイス】?攻撃力0のモンスター……!」

「ははは!攻撃力0と嘗めない方が良いぞ?俺は【サクリファイス】の効果を発動!相手モンスター1体を、自身の装備カードとして吸収し、その攻撃力を奪う!」

 

 サクリファイスの腹部が開き、ブラックホールの様に周囲のものを吸い込み始める。

 

「俺は【ワイルドジャギーマン】を装備させてもらうぜ!」

 

 ワイルドジャギーマンが十代のフィールドを離れ吸い込まれると、サクリファイスの腹部が閉じた。

 サクリファイスの羽の様な部位が折り畳まれ、盾の様になる。そしてその盾から、ワイルドジャギーマンが浮かび上がった。

 

攻0→2600

 

「レベルは1。攻守は0。そのうえ通常召喚も出来ないときた。だから皆このモンスターの事を雑魚モンスターと言うかもしれないが、実はこんなに強いんだぜ?さぁ、バトルだ!【サクリファイス】でダイレクトアタック!」

 

 サクリファイスが十代に近づき、盾に取り込まれたワイルドジャギーマンを操って、その刃を向ける。

 

「リバースカードオープン!【攻撃の無力化】!その攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させるぜ!」

 

 十代の前に現れた渦がその刃を受け止め、攻撃を終わらせる。

 

「ほう、凌いだか!俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

 

創 LP500 手札0

モンスター:サクリファイス

魔法・罠:ワイルドジャギーマン セット

 

 

「すげぇ、すげぇよ先生!」

「おっ!分かってくれるか!?【サクリファイス】の凄さを!」

「あぁ!今まで見たこともないモンスターだ!すっげぇワクワクするぜ!」

「そうかそうか!うんうん!そうだよな!格好良いよな【サクリファイス】!皆気持ち悪いとか、効果が性格悪いとか散々言ってくるけどよ、やっぱり格好良いよな!」

「あぁ!」

 

 まったく十代は……サクリファイスには受けた戦闘ダメージと同じダメージを与える効果も持っている。下手に攻撃すれば負けてしまうことを知っているのだろうか?

 

「全く、十代君らしいわね」

「うん。下手に高攻撃力のモンスターを出さなければ良いんだけど……」

「ま、そこが十代君の良いところよね」

「……」

 

 ……?

 何だろう、深月の口から十代の名前が呼ばれる度に、胸が痛くなる。いつの間に仲良く……きっと幻魔との戦いかな?

 深月はいつもと変わらない、綺麗な笑顔を僕に向けてくれている。そう。なにも心配は要らない。

 ……なのにどうして、こうも胸がざわつくのだろう。

 

「……遊陽?」

「あ、ううん、何でもないよ」

 

 今は十代のデュエルを応援しなくちゃ。

 

「だけど俺のヒーロー達も、そう簡単には負けないぜ!」

「良し!かかってこい!」

「おう!俺のターン、ドロー!」

 

強欲なカケラ(2)

 

「【強欲なカケラ】にカウンターが2つ乗った事で、2枚ドローだ!」

 

 十代のドロー力は、この学園でトップと言っても過言ではない。事実僕も、彼の起死回生のドローで逆転されてきた。

 

「よし!俺は【融合回収】を発動!墓地から【ワイルドマン】と【融合】を手札に戻すぜ!」

 

 十代の手札が整ってきた。やっぱり凄いや。引きの強さは勝てる気がしない。

 

「さらに俺は【融合】を発動!手札の【バーストレディ】と【バブルマン】の2体を融合し、来い!【E・HERO スチーム・ヒーラー】!」

 

 蒸気が十代のフィールドを覆い、新たなヒーローが現れる。

 

攻1800

 

 融合モンスターとしては控えめなステータス。でもこの値なら!

 

「そして【ワイルドマン】を召喚!」

 

攻1500

 

 怖いのは終理先生の伏せカードだ。ワイルドマンは罠カードの効果を受けないけど、スチーム・ヒーラーは違う。さぁ、どうなるのかな?

 

「バトル!【スチーム・ヒーラー】で【サクリファイス】を攻撃だ!」

 

 スチーム・ヒーラーが飛び上がり、摩天楼を照らす月を背後に蒸気の束を発射する。

 

攻1800→2800

 

「くっ、【スカイスクレイパー】の効果か……!だが【サクリファイス】が戦闘破壊される場合、装備したモンスターを身代わりとして、その破壊を無効にできる!」

 

 サクリファイスは盾から生えたワイルドジャギーマンを盾にして攻撃を凌ぐ。

 

LP600→400

攻2600→0

 

「さらに【サクリファイス】のもう1つの効果発動!モンスターを装備した【サクリファイス】の戦闘で自分がダメージを受けたとき、相手にも同じ値の痛みを与える!」

「何っ!?うわあぁぁっ!!」

 

LP400→200

 

 200ダメージ。初期ライフから見れば20分の1程度のダメージだけど、今の十代にとってはライフを半分削る大ダメージだ。

 

「だけど、まだ行くぜ!【ワイルドマン】で【サクリファイス】を攻撃、これで終わりだ!ワイルド・スラッシュ!」

 

 ワイルドマンが背中に担いだ剣を構え、サクリファイスに斬りかかる。

 

「それならリバースカードオープンだ!【エネミーコントローラー】!」

 

 終理先生の前に巨大なコントローラーが現れ、そのコードの先がワイルドマンに突き刺さる。

 

「【ワイルドマン】は罠カードの効果を受けない。だがこのカードは速攻魔法さ!その効果で【ワイルドマン】を守備表示に変更する!」

 

攻1500→守1600

 

「くぅーっ!あとちょっとだったのにな。カードを1枚セットして、ターン終了だ」

 

 

十代 LP200 手札0

モンスター:スチーム・ヒーラー ワイルドマン

魔法・罠:スカイスクレイパー セット

 

 

「危ない危ない、危機一髪だったな。俺のターン、ドロー!まずは【サクリファイス】の効果で【スチーム・ヒーラー】を装備だ!」

 

 再びサクリファイスの腹部が開き、スチーム・ヒーラーを吸収する。

 

攻0→1800

 

「くっ、装備モンスターを身代わりにすれば、毎ターン別のモンスターを吸収出来るのか」

「そうとも!さらに装備魔法【光学迷彩アーマー】を【サクリファイス】に装備するぜ!」

 

 サクリファイスの体が虹色に輝き、半透明になる。

 

「不味いぞ十代!あのカードは、レベル1モンスターの直接攻撃を可能にするカードだ!」

「じゃあ、このままサクリファイスで攻撃されたら、アニキは……」

 

 あの先生、ここでデュエルを終わらせるつもりだろう。でも十代は光学迷彩アーマーの効果を知ってか知らずか、余裕そうな表情を浮かべている。

 

「さあ、これで終わりだ!【光学迷彩アーマー】の効果で、【サクリファイス】でダイレクトアタック!」

 

 サクリファイスの姿が完全に消えたかと思うと、十代の背後に現れ、盾から生えたスチーム・ヒーラーが蒸気を放つ。

 

「まだまだぁ!リバースカード、発動!【ガード・ブロック】!戦闘ダメージを0にして、1枚ドローする!」

 

 しかし蒸気の攻撃は寸でのところで防がれる。

 

「この攻撃も凌ぐか!凄いな、君は!」

「へへっ、ヒーローは最後まで諦めない!そして最後に勝利をつかむのさ!」

「なるほどね。それが君の信頼するヒーローか。ターンエンドだ!」

 

 

創 LP400 手札0

モンスター:サクリファイス

魔法・罠:スチーム・ヒーラー 光学迷彩アーマー

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代の手札は2枚。サクリファイスの攻撃力は高くこそ無いが、2回戦闘破壊しなければ次のターンにまた吸収効果を発動されてしまう。

 

「行くぜ先生!これが俺の全力さ!フィールド魔法【フュージョン・ゲート】発動!」

 

 摩天楼が崩れ去り、黒い雲の渦がデュエルフィールドの上を覆う。

 

「このカードは融合素材モンスターをゲームから除外することで、【融合】を使わずに融合召喚を行うカードさ!」

「融合専用のフィールド魔法……!」

「俺はフィールドの【ワイルドマン】と、手札の【E・HERO ネクロダークマン】を融合!」

 

 十代の手札から現れた赤黒い鎧のヒーローが、ワイルドマンと共に雲の渦へと飲み込まれる。

 

「来い、【E・HERO ネクロイド・シャーマン】!」

 

 シャーマン。その名前の通り、儀式的な衣装に着替えたワイルドマンが、十代のフィールドに現れた。

 

攻1900

 

「あれは、アニキの新しいヒーローッス!」

「攻撃力は低めだけど、どんな効果なのかしら?」

「でも、きっとこの盤面を返せる効果よ!」

 

 ワイルドマンが何かを念じると、サクリファイスを闇のオーラが包み込み、破壊する。

 

「なっ、【サクリファイス】!?」

「【ネクロイド・シャーマン】の効果さ!このモンスターの融合召喚に成功した時、相手モンスター1体を破壊する!そしてその後、相手の墓地からモンスター1体を相手のフィールドに呼び出すぜ!」

 

 破壊されたサクリファイスが、再び終理先生のフィールドに呼び出された。

 

攻0

 

「いいぞ十代!モンスターが装備されていなければ、身代わり効果は使われない!」

「これで終わりだぁっ!【ネクロイド・シャーマン】で、【サクリファイス】を攻撃!ダーク・シャドウ・ストライク!」

 

 ネクロイド・シャーマンが再び何かを念じ、闇が球体になってサクリファイスを飲みこみ、破壊した。

 

「ぐ、うわぁぁぁっ!!」

 

LP400→0

 

 モンスター達の映像が消えていく。デュエルが終わった。十代はあの先生に勝ったんだ。

 

「「「うぉぉぉっ!!」」」

 

 不特定多数の生徒達の歓声。ほとんどが男子で、レッドとイエロー寮の生徒達だ。

 

「いやぁー、参った参った。凄いね、十代君」

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

「ガッチャ……?よくわからないが、楽しかったな!よぉし!それじゃあ教室に帰るぞ皆!とびっきりの怖い話を聞かせてやる!」

 

 ……あ。

 

「そ、そんな話だったわね……」

 

 深月の顔色が青くなる。

 

「まぁ、うん。僕が隣にいるよ、深月」

「そ、そう……ね。ありがと、遊陽」

 

 さっきのデュエルの感想を言い合いながら、教室へと戻る。

 先生は皆が着席したのを確認すると、部屋の明かりを消して、机の上に蝋燭を置いた。

 

「さて、それじゃあ俺が知ってる怖い話だ」

 

 明るく優しかった声とは違う、冷ややかな声。その変貌に、クラスの雰囲気が凍りつく。

 

「あぁ、そうだ。その前に1つだけ、そこそこ怖い話をしておこうかな」

 

 深月が息を飲み、僕の腕に掴まっている。

 

「……百物語、って知っているかな?皆で集まって行うパーティーみたいな物さ。暗い部屋に集まって、100本の蝋燭を用意する。そして皆で怖い話を話し合って、1つ話し終える毎に蝋燭を1つ消していく」

 

 蝋燭の明かりに照らされた先生の顔は無邪気で、僕らが怖がっているのを楽しんでいる様子だ。

 

「1つ、2つ、3つ。そうして最後の蝋燭が消されたとき――」

 

 先生が息を吹き、蝋燭の火が消える。教室は真っ暗闇に包まれ、小さな悲鳴があがった。

 

「――それはもう恐ろしい何か現れるんだってさ」

 

 先生は手に持ったライターを使って、蝋燭に火をつけ直した。

 

「だからまぁ、これは度胸試しだな。もしやるなら99回目で止めておくことをオススメするぜ」

 

 明かりが再びついた事で、皆が少し安堵する。けど深月はかなり怖がっているようで、掴まれた腕が痺れてきた。

 

「さぁて、こっからが本命だ」

 

 終理先生は小さく咳払いをすると、変な歌を歌い出す。

 

「トン、トン、トンカラ、トン」

 

 聞いたことがないはずなのに聞き覚えがあるような、童謡のようなメロディーの歌。

 

「これは、トンカラトンという都市伝説さ。全身に包帯を巻いた何者かで、手には日本刀を持ち、自転車で夜の町を駆ける」

 

 自転車……?日本刀を持っていれば馬にでも乗ってそうだけど……いやまぁそこが都市伝説なのかもしれないけどね。

 

「そいつらは夜の道を歩く人を捕まえ、こう言ってくるんだ。『トンカラトンと言え』とね。もしそれを断れば、日本刀で切り裂かれて死んでしまう」

 

 腕を掴む深月の力が強くなる。僕が掴まれていない方の腕で彼女の頭を撫でると、力は少しだけ弱まった。

 

「そして切り裂かれた人間も、同じくトンカラトンになってしまうと言う。だからまぁ、逆らわないことだな」

 

 とびっきりと言っていた割りには、そこまで怖くはないかな?僕の存在が怪談そのものだからかな。

 ……深月はノックアウトされてるけど。

 

「はっはっは。どうだ?そんなに怖くないだろ?怖くなるのはこれからさ」

 

 先生が再び、蝋燭の明かりを消した。

 これはもしかして……。

 

「1つめ、だぜ?」

 

 残り99個って事なのかな?




「「今回の、最強カード!」」

サクリファイス
儀式・効果/星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0
「イリュージョンの儀式」により降臨。
(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する(1体のみ装備可能)。
(2):このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値になり、このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに装備したそのモンスターを破壊する。
(3):このカードの効果でモンスターを装備したこのカードの戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた時、相手も同じ数値分の効果ダメージを受ける。

「終理先生のエースモンスターね。すごい特徴的な見た目だけど、あんまり使ってる人を見たこと無いわね」
「うん。攻撃力が低いから、効果も見ずに使わない人が多いんじゃないかな」
「ステータスが低いってだけで見向きもしないのは、なんだか勿体無いわね」
「うん。どんなカードであれしっかり調べてこそ、強いデュエリストへの第一歩だね」


祝!お気に入り数50突破!
40を突破したので次のあとがきで書こうかなと思っていた矢先、いつの間にか50を越えていました。
皆さん、応援ありがとうございます!これからもふたりを中心とした学園生活を楽しんでいただけたら嬉しいです!
後編でした。アニメで捨てられていたのでサクリファイスはきっと一般流通している筈。
最近色々な派生モンスターも出てきたので、それらを出すのが楽しみです。


深月と共に購買部でアルバイトを始めた遊陽。いつも通り客の少ない放課後に、普段見ない顔の少年が現れて……?
次回、「プロデュエリスト、エド・フェニックス!(前編)」

それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではではー!


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30話 プロデュエリスト、エド・フェニックス!(前編)

新任の先生だけじゃなく、後輩達もやってきます。
続きは遅くなりそうです。


『先日発見された遺体が突如行方不明になった件について、警察は――』

 

 放課後。自室に備え付けられたテレビが、本土のニュースを伝える。いつになっても犯罪は無くならないものだな……なんて呑気なことを考えつつ、デュエルディスクの整備をしていた。

 今日は購買部のバイトの日だ。影丸さんから支援を受けているとは言え、ある程度のお金は自分で都合したい。そう考えていたら深月がトメさんに掛け合ってくれたみたいで、僕も深月と一緒に購買部でアルバイトをしている。

 寮を出て購買部に入ると、深月が既に居て僕を待っていた。

 

「お待たせ、深月」

「今来たところよ」

 

 更衣室に入って購買部の制服に着替え、トメさんから今日の業務を言い渡される。

 昨日は最新のカードがかなり売れたから、新しいパックはもう数えるほどしか無いみたいだ。

 僕はその日バイトに入っていなかったから知らないけど、なんでも最新パックを大量に購入していった人がいるらしい。

 

「それじゃ、お願いするわね遊陽ちゃん!」

「はい。ありがとうございます、トメさん」

「良いんだよ!二人ともちゃんと働いてくれるから、こちらとしても大助かりさ!」

 

 トメさんは在庫の整理をしに倉庫へ向かい、僕と深月がレジに残された。

 

「それじゃあ、今日も頑張りましょ?」

「うん。と言っても、今日はそんなにお客さんも来ないかもね」

「まぁ、最新パック発売日の翌日なんてそんなものよ」

 

 ダンボールの中に僅かに残された最新パック。どうやらこのパックは僕らが普段手にする属性別の物ではなく、色々なカードがごちゃ混ぜになっているらしい。再録されたカードもいくつか入っているようだ。

 もっともこのパックの最大の目玉は、かつてのプロモカードが再録されていることだ。多少効果に調整が入ったためオリジナルとは少し違うが、今まで僕達が見ることすら出来なかったカードが手にはいるようになったみたいだ。

 確か名前は……何とかの金の城、だったっけ。

 

「収録リストを見ると結構天使族のモンスターも入ってるみたいだけど、深月は買った?」

「うん、買ったわ!見てよこれ!」

 

 深月が嬉しそうな顔で1枚のカードを取り出して見せる。雲の上に浮かぶお城が描かれたフィールド魔法だ。

 イラストには虹色の光の線が入っていて、カード名はダイヤモンドの様に輝いている。

 

「これは……天空の聖域!」

「そうよ!それもシークレットレア加工!キラキラしてて綺麗よね」

「深月のデッキとの相性もバッチリだね。おめでとう」

「えへへ」

 

 そう雑談していると、誰かの足音が聞こえてきた。

 

「「いらっしゃいませ」」

 

 入ってきたのは、真っ白な服を着た銀髪の男性。どこかで見たことがある気がする。

 

「ごめんなさい、カードパックは売っていますか?」

 

 その人は店の中を見回した後、僕に話しかけてきた。

 端正な顔立ちに紳士的な態度。思い出した。この人、プロデュエリストのエド・フェニックスだ。

 

「えっと、最新のパックはもう少ししか無いですね。他のパックなら、在庫はありますよ」

「そうですか……最新パックはいくつ残ってます?」

「えっと、」

 

 深月が先回りして数を数えてくれていた様で、両手の指を4本上げて伝えてくれる。

 

「8パックです」

「なら、それを全部ください。8パックあれば十分ですから」

「そうなんですか?」

 

 深月が箱に残ったパックを全て持ってきて、レジに置く。

 

「代金はクレジットカードで」

「はい。それではこちらに」

 

 エド・フェニックスが取り出したクレジットカードを機械にかざし、会計が済まされる。

 

「いやぁ、8パックあって助かりましたよ。デュエルするには40枚のカードが必要ですから」

「えっと……確かプロデュエリストのエド・フェニックスさんですよね?」

 

 深月がエド・フェニックスに話しかける。エドは紳士的な笑みを崩さずに答える。

 

「はい。エド・フェニックスです。今年からこの学校の1年生として通うことになってるんです」

 

 つまり彼は僕達の後輩になるのかな。というかプロデュエリストを目指す人が集まるこの学園に、どうして現役のプロデュエリストが入学したのだろうか。

 エドはパックを剥き終わると、40枚のカードを確認する。

 

「融合モンスターがいなくて良かったです。カード枚数が足りなくなってしまいますからね」

「まさか、今買ったカードをデッキに?」

 

 そんな僕の問いに答えように、エドはカードの束をデュエルディスクにセットした。

 

「ええ。腕試し用、ですけどね」

 

 そう言って彼は購買部を出ていった。一見優しそうだったけど、どこか僕達を見下しているような印象だ。

 

「まさか本物のプロデュエリストに会えるとは思わなかったわ」

「雑誌とかテレビでしか見たことないからね」

「うんうん。でも、適当に買ったパックだけで組んだデッキで誰と戦うのかしら」

「さぁ?」

 

 再びお客さんがいなくなったので、雑談が始まる。

 

「おや、さっきのはあのエド・フェニックスじゃないかい?」

「トメさん、お疲れ様です」

 

 店の奥から見ていたのだろう、トメさんが荷物を持ってやってくる。

 

「プロデュエリストがこんなところに来るんだねぇ」

「最新パック、売り切れちゃいました」

「あら、ありがとね深月ちゃん。ということは、さっきの人が?」

「はい。40枚ないとデッキが作れない、って」

「まさかパックで当たったカードをそのまま?変なことをする人だねぇ」

 

 デュエリストじゃないトメさんも同じ感想な様だ。確かにこのパックだけでそれなりのデッキが組める、なんてパックもあるけど、さっきのはそうじゃない。何を手に入れたのかは知らないけど、下手すれば手札事故待ったなしだろう。

 

「トメさん、その荷物は?」

 

 僕はトメさんが担いだ沢山の食材を指差す。

 

「あぁ、これはレッド寮の晩御飯だよ。大徳寺先生が居なくなったから、私がレッド寮の台所を預かっているのさ」

「へぇ!トメさんの料理、美味しそうね」

「良かったら今度レッド寮まで来てちょうだいよ!二人にもご馳走するわ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ私はちょっとレッド寮まで行ってくるから、店番、お願いね」

「「はい!」」

 

 トメさんは購買部を出て、オシリスレッド寮がある方向へと歩いていった。

 

「それにしても、中々来ないわね」

「うん。お昼は忙しいけど、放課後は二人も要らないかもね」

 

 トメさんが居ない間、購買部に置いてある商品の数を数えたり、床を掃除したりしながら次のお客さんを待つ。

 そうしてしばらく待っていると、誰かの足音が聞こえてくる。

 

「「いらっしゃいませ」」

 

 入ってきたのは、くすんだ金髪の、目付きの悪いオベリスクブルーの女子。彼女は僕達を一瞥した後、不機嫌そうな表情で商品を物色し始める。

 

「遊陽、あの子だよ。昨日沢山パック買ってくれた子」

「あの子が?そうなんだ」

 

 小さめの声で話す。彼女は僕たちの会話に気づいていない様で、いくつかのスナック菓子を持ってきてレジに置く。

 

「これ」

「あっ、はい!」

 

 深月がお菓子を受け取ってバーコードを読み取る。

 

「合計で、450円です」

「……ほらよ」

 

 少女は不機嫌そうな表情のままお金を支払い、お菓子を受け取って出ていく。

 不良、なのかな?見たことない顔だし、もしかしたら後輩なのかもしれない。

 そんなことを深月と話していると、トメさんが戻ってきた。

 

「おかえりなさい、トメさん」

「あぁ深月ちゃん!それに遊陽ちゃも!凄かったのよ、エド・フェニックスって言う人!」

「エド・フェニックスさんがですか?」

「そうよぉ!あの人、適当なパックでデッキを作ってたんでしょ?それなのに十代ちゃんとすっごくいい勝負するんだもの!」

 

 8パックの寄せ集めで、あの十代に?

 にわかには信じがたいけど、トメさんはそんなことで嘘をつくような人じゃない。

 

「流石はプロ、って感じなのね」

「そうだね。いくらパックで良いカードを引いたとしても、それを使いこなせるかは別だし」

 

 トメさん曰く結果は十代の勝ちだったそうだけど、エド・フェニックスが本気のデッキでデュエルしていたらどうだったか……。

 

「それじゃあ、もう2人ともあがって良いわよ。2年生になったばかりなんだし、体調管理には気を付けるのよ」

 

 トメさんから解散の合図が出たので、僕たちはアカデミアの制服に着替えて購買を出る。

 

「今日もお疲れ様、遊陽」

「うん。お疲れ様。まさかプロデュエリストに出会えるなんてね」

「ビックリしたわ。なんでこんなところに?って」

 

 オベリスクブルーを目指して2人で歩いていると、エド・フェニックスが僕達を見つけて駆け寄ってくる。

 

「あれ、もしかしてお二人は、先輩だったんですか?」

「エド・フェニックスさん!」

「うん。一応、僕たちは2年生ですよ」

「あぁ、それは失礼しました!」

 

 エドは恥じる様な仕草で頭をかく。

 

「それで、何か用ですか?」

「はい、実は僕、黒野遊陽という先輩を探していまして……」

「遊陽を?」

 

 深月が不思議そうな顔で僕の方を向く。

 

「えっと、黒野遊陽は、僕です」

「そうなんですか?いやぁ、ビックリです。十代先輩からあなたの話を聞いて、是非デュエルしてみたいな、って思っていたんですよ」

 

 十代が僕の話を?

 エド・フェニックスはデュエルディスクを取り出す。

 

「僕と、デュエルしてくれませんか?先輩」

「……良いですよ。もしかして、デッキは8パックで組んだものですか?」

「はい!今はそれしか持ってないんです。普段使っているデッキは置いてきてしまって……あぁ、それと、僕は後輩ですから、お二人とも敬語なんてよしてくださいよ」

「……分かったよ。じゃあ、ちょっとだけ移動しようか」

 

 この島には、いつ何処でもデュエルを始められるようにするためか開けた場所が多い。僕たちはオベリスクブルー寮に近い湖の前で、デュエルディスクを構える。

 

「頑張ってね、遊陽!」

「うん!」

「それじゃあ行きますよ、先輩?」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS エド

 

「僕の先攻だね、ドロー!」

 

 ……うん。悪くない手札だ。相手は適当なパック8つの寄せ集めとはいえ、十代を追い詰めるくらいには完成度が高いみたいだ。まずは様子見、かな?

 

「魔法カード【魔玩具補綴】を発動して、デッキから【エッジインプ・チェーン】と【融合】を手札に加える。そしてすぐに発動するよ」

「【融合】……!先輩も十代先輩と同じ、融合使いなんですね」

 

 融合カードが発動されたということは、大なり小なり強力なモンスターが召喚されるということ。それなのにエドは余裕そうに驚いて見せる。

 

「僕は手札の【エッジインプ・チェーン】と、【パッチワーク・ファーニマル】を融合!」

 

 僕の前に鎖の化けものと栗色のクマのぬいぐるみが現れ、それらが渦に飲まれて融け合う。

 

「全てを縛れ、沈黙のケダモノ!融合召喚!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 鎖が布を擦る様な音が聞こえてくる。

 ガチガチに縛られたヒツジのぬいぐるみは、ケタケタと不気味に笑いながらエド・フェニックスを見つめる。

 

攻2000

 

「融合素材になった【エッジインプ・チェーン】の効果で、デッキから【デストーイ・ファクトリー】を手札に加えて、ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:デストーイ・チェーン・シープ

魔法・罠:無し

 

 

「では、僕のターンですね。ドロー」

 

 エド・フェニックスは自分の手札を確認した後、1枚のカードをデュエルディスクに置く。

 

「永続魔法【神の居城-ヴァルハラ】を発動します。効果はご存知ですか?」

「うん。知ってるよ」

 

 コントローラーがモンスターを出していないとき、ノーコストで手札の天使族モンスターを特殊召喚できるカードだ。

 

「ではその効果で、【スーパースター】を特殊召喚しますね」

 

 エドの前に、漫画に出てくるような星の形をしたモンスターが現れる。

 

攻500

 

「さらに速攻魔法、【地獄の暴走召喚】です。僕のフィールドに特殊召喚されたモンスターと同名モンスターを、手札やデッキから特殊召喚します」

 

 地面が割れ、地下から新たに2つの星が現れる。

 

攻500×2

 

「その代わり先輩も先輩のモンスターを特殊召喚出来ますが、今先輩のフィールドにいるのは融合モンスターの【デストーイ・チェーン・シープ】のみ。デッキや手札から特殊召喚することはできません」

 

 上手くしてやられたみたいだ。地獄の暴走召喚のデメリットを無くされてしまった。

 

「【スーパースター】の効果は、フィールドの光属性モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、さらに闇属性モンスターの攻撃力を400ポイントダウンさせます」

「っ!遊陽のモンスターは闇属性。しかもスーパースターは3体……!」

「はい、光属性モンスターの攻撃力は1500ポイントアップし、闇属性モンスターの攻撃力は1200ポイントダウンします」

 

 3体のスーパースターが、強い輝きを放つ。その輝きに圧されたのか、チェーン・シープが縮こまっている。

 

スーパースター攻500→2000×3

チェーン・シープ攻2000→800

 

「さらに永続魔法【弱者の意地】を発動して、おまけにフィールド魔法、【天空の聖域】も発動しますね」

 

 周囲の光景がガラリと変わる。僕達は雲の上に立っていて、エドの背後には巨大な城が浮かび上がる。

 

「このフィールド魔法は……!」

 

 深月も手に入れていたカード。天使族モンスターの戦闘で発生するコントローラーへのダメージは0になる。それに、このカードがあることで真価を発揮するカードもある。

 

「さて、バトルです!1体目の【スーパースター】で、【デストーイ・チェーン・シープ】を攻撃!」

 

 元々はレベル2で攻撃力500の弱小モンスター。でも今はチェーン・シープを上回る能力の持ち主だ。

 スーパースターが、回転しながらチェーン・シープに突進し、破壊する。

 

「くっ……!」

 

LP4000→2800

 

「でも、【チェーン・シープ】の効果発動!攻撃力を800ポイントアップさせて、墓地から自身を特殊召喚できる!」

 

 でも攻撃表示で出してもステータスを下げられてしまうだろう。でも、スーパースターの効果は守備力には影響しない!

 

守2000

 

「おっと、守備表示で出されてしまいましたか。ならこうしましょう、速攻魔法【突進】を発動し、【スーパースター】1体の攻撃力を700アップさせます」

 

攻2000→2700

 

 やっぱり、流石はプロデュエリスト。そう簡単に時間稼ぎもさせてくれないか。

 

「では強化された【スーパースター】で、復活した【チェーン・シープ】を再び攻撃しましょう!」

 

 先程よりも勢いのついた突進攻撃が繰り出される。綿の体はその威力を受け止めることができず、風穴が開き綿が舞う。

 

「そして永続魔法【弱者の意地】の効果です。手札が0枚の時、僕のレベル2以下のモンスターが戦闘破壊を行うと2枚ドローが可能です」

 

 しっかり突進のカードの分まで手札を回収していく。

 

「では、最後の【スーパースター】でダイレクトアタックです!」

 

 3体目のスーパースターが僕の腹部に突進し、体を突き上げる。

 

「ぐっ……」

 

LP2800→800

 

「……所詮はこの程度、か。僕は最後に永続魔法【補給部隊】を発動して、ターンエンドです」

 

 

エド LP4000 手札1

モンスター:スーパースター スーパースター スーパースター

魔法・罠:神の居城-ヴァルハラ 弱者の意地 補給部隊 天空の聖域




猫かぶりエド。
良いですよね真月みたいな露骨に胡散臭いキャラ。Dヒーローの登場を楽しみにされていた方には申し訳無いですけど、まだ出番は先だと思います……。
それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです!
ではではー!


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31話 プロデュエリスト、エド・フェニックス!(後編)

こちらは前回の続きです。ぜひ前回もお読みいただけたら嬉しいです。


「僕のターン、ドロー!」

 

 ライフを大幅に削られてしまった。深月が心配そうに僕のことを見ている。

 

「でも、そう簡単には負けないよ。僕は【融合徴兵】を発動。【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】を見せて、【エッジインプ・ソウ】を手札に加えるよ」

 

 これでデストーイ・ファクトリーのコストも補える。

 

「永続魔法【デストーイ・ファクトリー】を発動!コストとして墓地の【融合徴兵】を除外し、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚するよ!」

 

 僕の手札からエッジインプ・ソウとファーニマル・ライオが現れ、一緒に工場の生産ラインを流れていく。

 ライオの体が解体されてエッジインプ・ソウが取り付けられ、ぬいぐるみの改造が完了する。

 

「全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 顔面は割れ、体やタテガミから丸鋸が生えた凶悪なぬいぐるみだ。

 

攻2400→1200

 

「さらに、【ファーニマル・ドッグ】を召喚!その効果で【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

 

 ファーニマル・ドッグは地属性。スーパースターの効果の影響は受けない!

 

攻1700

 

「そして【ホイールソウ・ライオ】の効果発動!1ターンに1度相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!【スーパースター】1体を破壊!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

 

 ホイールソウ・ライオのタテガミから放たれた無数の丸鋸は、スーパースターをズタズタに引き裂き破壊する。

 

「くっ……【スーパースター】の数が減ってしまったか」

 

LP4000→3500

スーパースター攻2000→1500×2

デストーイ・ホイールソウ・ライオ攻1200→1600

 

「攻撃力が逆転したわ!」

「バトル!【ファーニマル・ドッグ】で、【スーパースター】に攻撃!」

 

 まばゆい光をものともせず、犬のぬいぐるみはスーパースターに噛みつく。

 

「くっ……しかし【天空の聖域】の効果で、僕はダメージを受けず、さらに【補給部隊】の効果で1枚ドロー!」

 

スーパースター攻1500→1000

ホイールソウ・ライオ攻1600→2000

 

「やっぱり厄介なフィールド魔法だなぁ……【ホイールソウ・ライオ】で、最後の【スーパースター】を攻撃!ジェノサイド・ソウ!」

 

 ライオはスーパースターを爪で突き刺し、腹部の丸鋸に押し当てて破壊した 。

 

攻2000→2400

 

 ライフポイントこそ削れなかったけど、これで一先ず形成は逆転だ。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンド」

 

 

遊陽 LP800 手札2

モンスター:デストーイ・ホイールソウ・ライオ ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー セット

 

 

「やりますね、先輩。次は僕のターン、ドロー!」

 

 エドはドローしたカードを確認し、笑う。

 

「では、行きますよ!僕は【ゼラの戦士】を召喚します!」

 

 エドのフィールドに現れたのは、地属性の戦士族モンスター。一見、天空の聖域とはなんの関係もなさそうだけど、あのモンスターには秘められた力がある。

 

攻1600

 

「さらに【天空の聖域】がある場合、【ゼラの戦士】を進化させ、【大天使ゼラート】を特殊召喚できます!」

 

 ゼラの戦士が光に包まれ、新たな力を得る。長く苦しい修行の末、天空の聖域へと辿り着いた戦士は、大天使へと成長を遂げた。

 

攻2800

 

「大天使ゼラート……!確か、あのモンスターの効果って」

「手札から光属性モンスターを捨てることで、先輩のフィールドのモンスターを全て破壊します!聖なる光芒!」

 

 ゼラートが手に持った剣を掲げると、天空の聖域から光線が放たれ僕のフィールドを焼き尽くす。

 

「終わりです!【大天使ゼラート】のダイレクトアタック!聖なる波動!」

 

 ゼラートが僕に向けて剣を向けると、その剣から光が放たれ、僕を掻き消そうとする。

 

「……まだ負けないよ。深月の前で格好悪い所は、見せたくないから。リバースカードオープン、【ガード・ブロック】!その戦闘でのダメージを0にして、1枚ドロー!」

「ああっ、惜しいですね。流石はデュエルアカデミアの先輩です」

 

 エドは相変わらず余裕そうな表情だ。今のデッキが手抜きだからなんとか戦えているけど、彼の本当のデッキとデュエルしていたらすぐに負けていたかもしれない。

 

「僕はこれでターンエンドです」

 

 

エド LP3500 手札0

モンスター:大天使ゼラート

魔法・罠:神の居城-ヴァルハラ 弱者の意地 補給部隊 天空の聖域

 

 

「僕のターン、ドロー!……うん。手札の【ファーニマル・ベア】の効果を発動!このカードを手札から捨てることで、デッキから永続魔法【トイポット】をセット。そしてすぐに発動!」

 

 地鳴りと共に、僕の背後に巨大なガシャポンが現れる。

 

「【トイポット】の効果発動!手札を1枚捨てて1枚ドローし、ドローしたカードが【ファーニマル】だったとき、手札のモンスター1体を特殊召喚できる!ドロー!」

 

 ドローしたカードは、ファーニマル・ラビット。召喚する必要はないかな。

 

「僕が引いたのは【ファーニマル・ラビット】。でも特殊召喚はしないよ」

「なるほど、融合素材にするんですね」

「まぁ、そうなるかな。さらに僕は【トイポット】で捨てられた【ファーニマル・ウィング】の効果を発動。墓地から自身と【パッチワーク・ファーニマル】を除外して、1枚ドロー!」

 

 僕の墓地から栗色のクマと、天使の羽が現れる。2体は僕のデッキからカードを1枚引いて、僕に手渡してくれる。

 

「さらに【トイポット】を墓地へ送り、もう1枚ドローできる」

 

 2体は頷くと、トイポットを回転させる。カプセルが転がってきて、1枚のカードが飛び出した。

 

「さらに【トイポット】が墓地へ送られたことで、デッキから【エッジインプ・シザー】を手札に加えるよ」

「手札が増えた……!」

「行くよ、【デストーイ・ファクトリー】の効果発動!墓地の【融合】を除外して、手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ラビット】を融合!」

 

 今度はウサギのぬいぐるみとハサミが生産ラインに乗せられ、改造されていく。

 

「刃向かうものを処刑せよ、冷徹のケダモノ!【デストーイ・シザー・タイガー】!」

 

 腹部から大きなハサミの飛び出た、水色の毛皮のトラが現れる。

 

攻1900

 

「【シザー・タイガー】が融合召喚されたとき、素材にしたモンスターの数まで、フィールド上のカードを破壊できる!」

 

 ゼラートは確定として、もう1枚はどうしようか。天空の聖域、ヴァルハラ、補給部隊。弱者の意地は無視してもいいかな?

 エドの手札は0枚。次のドローで1枚。そこで強力な天使族モンスターを引かれたら終わりだ。なら、僕が破壊するのは神の居城-ヴァルハラ!

 

「僕は【大天使ゼラート】と【神の居城-ヴァルハラ】を破壊!」

 

 腹部のハサミがグインと伸び、エドのフィールドのカード2枚を断ち切る。

 

「くっ……【補給部隊】の効果でドローします」

「さらに【シザー・タイガー】の効果で、僕の【デストーイ】の攻撃力は、自分の【デストーイ】と【ファーニマル】1体につき300ポイントアップする!」

 

攻1900→2200

 

「これは……参りましたね、攻撃力は低めだと思っていたのですが……」

「【シザー・タイガー】自身が【デストーイ】だから、実質攻撃力2200のモンスターだね。さらに僕は融合素材になった【ラビット】の効果で墓地から【ファーニマル・ドッグ】を手札に加えて、そのまま召喚するよ」

 

攻2200→2500

 

 ポン、という小さな音ともに爆発が起きて、中からイヌのぬいぐるみが現れる。

 

攻1700

 

「【ファーニマル・ドッグ】が召喚されたことで、デッキから【ファーニマル・オウル】を手札に」

 

 相手フィールドに伏せカードは無い。この2体での攻撃が決まれば勝てるだろう。

 やっぱり彼はヘラヘラと笑っている。手加減しているという事からか、それとも何かこの状況を乗り切る策が?

 

「バトル!【ファーニマル・ドッグ】でダイレクトアタック!」

 

 僕の指示を受けたドッグがエドに飛び掛かり、綿に隠されたその牙をむく。

 

「墓地の【超電磁タートル】の効果発動!墓地からこのカードを除外して、バトルフェイズを終了させます」

 

 超電磁タートル、光属性のモンスター。そうか、大天使ゼラートの効果で……。

 エドの前に現れた亀の様なモンスターぁ攻撃を受け止め、消え去る。

 僕の手札は5枚。モンスター回収とファーニマル・オウル、孤毒の剣、エッジインプ・DTモドキにデストーイ・サンクチュアリ。

 これ以上できることは無さそうかな?

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドだよ」

 

 

遊陽 LP800 手札4

モンスター:デストーイ・シザー・タイガー ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:デストーイ・ファクトリー セット

 

 

「僕のターンですね。ドロー!」

 

 エドの手札はこれで2枚。ヴァルハラが破壊されたから、上級天使族が飛んでくることは無いと思うけど……。

 

「魔法カード【貪欲な壺】を発動しますね。【ゼラの戦士】と【大天使ゼラート】、【スーパースター】を3体デッキに戻して2枚ドローします。僕も先輩の真似をしてみました。何が引けるかな?」

 

 人懐っこそうな笑顔を僕に向けるエド。でも、彼の実力は本物だ。それにカードを引き当てる運も桁違いだろう。

 

「おっ、いいカードが来てくれました!まずは魔法カード【予想GUY】を発動します」

 

 予想、ガイ?

 しゃれた名前のカードだ。

 

「僕のフィールドにモンスターが居ないとき、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚します。僕は再び、【ゼラの戦士】を召喚!」

 

攻1600

 

 再び聖域に現れる戦士。残る手札は2枚。まさかまたゼラートが……!?

 

「【大天使ゼラート】を警戒していますか?」

「……っ!」

「大丈夫ですよ。残念ながら【大天使ゼラート】はドローできませんでした」

 

 僕の考えも筒抜けってことなのかな。でも、ゼラートが居ないならなんでゼラの戦士を攻撃表示に?

 強化して僕のモンスターを倒す?何らかのモンスターのコストにする?

 ……聞いたことがある。ゼラの戦士のもう1つの未来。もう1つの結末!

 

「イメチェン、しましょうか。僕は新たにフィールド魔法を発動し、張り替えます!発動しろ、【万魔殿-悪魔の巣窟-】!」

 

 天空の聖域が崩落していき、世界が真の姿を現す。今まであった聖域はまやかし。ゼラの戦士が夢見た理想でしかない。

 欲望に飲まれたゼラの戦士が行きつく先、それは……。

 

「では行きます!【ゼラの戦士】を生け贄に、現れろ!【デビルマゼラ】!」

 

 ゼラの戦士の姿がおぞましいものへと変わっていく。体は巨大化し、羽と尻尾が現れ、剣を捨てた腕には鋭い爪。

 大天使とは真逆の、悪魔。

 

攻2800

 

「で、デビルマゼラ!?そっちのカードまで持ってたのね」

「はい。運が良かったです。さて、【デビルマゼラ】の効果発動!特殊召喚に成功したとき、先輩はランダムに手札を3枚捨てます!邪悪なる夜芒!」

 

 デビルマゼラが爪を地面に突き刺すと、僕の足元から幾つもの影の手が現れ、手札を奪って消え去る。

 残ったのは、デストーイ・サンクチュアリだけだ。

 

「バトル!【デビルマゼラ】で【ファーニマル・ドッグ】を攻撃!邪悪なる波動!」

 

 デビルマゼラが両手をシザー・タイガーに向けると、黒い影が溢れ出す。

 

「遊陽!」

 

 この攻撃を食らえば僕のライフは0。でも!

 

「速攻魔法【モンスター回収】を発動!自分フィールド上のモンスターと手札を全てデッキに戻し、元々の手札の数までドローする!」

 

 攻撃対象を失い、邪悪な波動は消え去る。

 

「なら【シザー・タイガー】に攻撃です!」

 

 再び放たれた影が、シザー・タイガーを包み込み消し去った。

 

「ぐっ……!」

 

LP800→500

 

「これでターンエンドです」

 

 

エド LP3500 手札0

モンスター:デビルマゼラ

魔法・罠:補給部隊 弱者の意地 万魔殿-悪魔の巣窟-

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 モンスター回収でドローしたカードは虚栄巨影。攻撃力を1000アップさせるカードだ。そして今ドローしたカードは、魔玩具融合!

 

「……そうか、あのモンスターなら」

 

 エドのライフを、このターン中に削りきれる。

 

「僕は【魔玩具融合】を発動!このカードはフィールドと墓地のモンスターを除外して、【デストーイ】と名のつく融合モンスターを融合召喚する!」

 

 僕の足元にピンク色と水色の渦が広がっていく。

 

「墓地の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ラビット】と【ファーニマル・オウル】、【ファーニマル・ライオ】を素材として、融合召喚!」

 

 4体の融合素材が渦の中へと入っていく。デュエルアカデミアでこのモンスターを出すのは初めてかもしれない。

 

「刃向かうものを喰らい尽くせ、残虐のケダモノ!【デストーイ・シザー・ウルフ】!」

 

 月夜に溶ける様な灰色の体の、オオカミのぬいぐるみだ。

 フラフラとした不安定な足取りだが、口の中から覗く瞳はエド・フェニックスを狙い続けている。

 

攻2000

 

「バトル!【シザー・ウルフ】で【デビルマゼラ】を攻撃!」

 

 男性とも女性ともとれない悲鳴をあげ、オオカミのぬいぐるみがデビルマゼラに向け走り出す。

 

「【デビルマゼラ】の攻撃力は2800ですよ?」

「うん。だから攻撃宣言時に、速攻魔法発動!【虚栄巨影】!モンスター1体の攻撃力を、ターン終了時まで1000ポイントアップする!」

 

 シザー・ウルフの姿が巨大化し、デビルマゼラを見下ろす程になる。

 

攻2000→3000

 

 ウルフは頭にかじりついて持ち上げ、デビルマゼラの胴体が地面にドサリと落ちた。

 

「くっ……!」

 

LP3500→3300

 

「【補給部隊】の効果で1枚ドローです!」

「……【シザー・ウルフ】で、2回目の攻撃!」

「何だって!?」

 

 まだまだ食べたりない。シザー・ウルフの餓えに満ちた視線がエドに突き刺さる。

 

「くっ!手札の【ジェントルーパー】の効果発動!このモンスターは相手の攻撃宣言時に特殊召喚出来ます!」

 

 エドの手札から大量の泡が現れ、オオカミの目をくらます。そしてその次の瞬間には、お洒落なスーツを着たウーパールーパーが立っている。

 

守1000

 

「なら、攻撃対象を変更して続けて攻撃!」

 

 デビルマゼラよりも小さいからだを、シザー・ウルフは丸飲みにする。

 

「連続攻撃できるモンスターなんですね。まさか2回目の攻撃が来るとは思いませんでしたよ」

「まだ、だよ」

「……何?」

「【シザー・ウルフ】は、融合素材にした数まで1度のバトルフェイズに攻撃できる」

 

 深月が、融合素材にされたモンスターを指折り数え始める。

 

「えっと、エッジインプ・シザーと、ファーニマル・ラビット、オウル、ライオの4体。つまりシザー・ウルフは、4回攻撃できるってこと!?」

「うん。これで終わりだよ。【デストーイ・シザー・ウルフ】でダイレクトアタック!ハングリー・アングリー、2連打っ!」

 

 シザー・ウルフが大口を開けてエド・フェニックスに噛みつき、そして離すと同時に両腕で引っ掻く。

 

「くっ、ぐぁぁぁっ!」

 

LP3300→300→0

 

 デュエルが終わり、シザー・ウルフの姿が消える。

 

「いやぁ、凄いですね先輩!」

「負けちゃうかと思ったよ。でもいつも使ってるデッキだったら、負けてたのは僕だっただろうね」

「あはは。いつか本当のデッキでデュエルしてみたいものですね」

「僕がもしプロデュエリストになったら、そんな機会もあるかもしれないね」

「その時を楽しみにしていますね」

 

 エド・フェニックスと軽く雑談したあと、彼は少し用があると言い、港の方へと歩いていった。

 

「すごいじゃない遊陽!まさかあのエド・フェニックスに勝っちゃうなんて!」

「あれが8パックの寄せ集めデッキじゃなかったら、素直に喜べるんだけどね」

「そうね。あんなに完成度の高いデッキが出来上がっちゃうなんて、やっぱりプロの人はパックの引きも強いのかな?」

「そうかもしれないね」

 

 

『ええ。言われた通り2人とデュエルしてきましたよ、斎王』

『そうか。どうだ?彼らから何かを感じたか?』

『全然だ。その辺のデュエリストよりは強いだろうけど、精々その程度さ』

『そうか……私も近々、デュエルアカデミアに向かうとしよう』

『斎王が?』

『あぁ。私も、私自身の目で見たくなったのだよ』

 

 ――愚者、そして太陽の象徴を。




「「今回の、最強カード!」」

デストーイ・シザー・ウルフ
融合・効果/星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
(1):このカードは、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

「遊陽の新しいデストーイモンスターね!」
「融合素材にした数まで攻撃できるから、最低でも2回の攻撃が出来るよ」
「そのうえ攻撃対象に制限はないから、一気に相手のライフを削れるわ!」
「シザー・タイガーで相手のフィールドを開けてから、魔玩具融合でシザー・タイガーの素材を除外して一気に連続攻撃。破壊に耐性のあるモンスターはちょっと苦手だけどね」


連続アンティデュエル事件。オシリスレッドやラーイエロー、そして女子をターゲットに、アンティデュエルが仕掛けられる。クロノス臨時校長から依頼を受けて調査し始めたふたり。そして深月は金髪の少女が男子生徒からカードを取り上げる瞬間を目撃する。
次回、「おとぎの国のヤンキーガール」


31話、エド戦後編でした。
デビルマゼラさん、手札3枚捨てさせるのは強いけど大天使と比べると少し見劣りする気がしますね。正規のルートには敵わないということなのでしょうか。大天使が正規なのかは分かりませんが……。
次回更新は例によって遅めです。最近ちょっとリアルが忙しいので……。
それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです。ではではー!


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32話 おとぎの国のヤンキーガール(前編) 立ち並ぶ鉄の軍団!

思ったより長くなったので前後編に。
新キャラ登場回。これで2期ではモブ以外に新オリキャラは出ない筈です。


『もしもし、私ネクロさん』

 

 草木も眠る丑三つ時に、携帯電話の着信音。それは消された魂の声。ネクロさんからの非通知電話。

 電話に出てしまったなら、ネクロさんはあなたをいつまでも、どこまでも追いかけ続けるんだってさ。

 

『私今、あなたの後ろにいるの』

 

 

 

「連続アンティデュエル事件、ですか?」

「その通りナノーネ。ここ数日、アンティデュエルを挑まれレアカードを奪われる生徒が沢山出てきているノーネ」

 

 休日。クロノス校長に呼ばれた僕は、校長室でアンティデュエル事件について話を聞かされていた。

 クロノス校長は深刻そうな顔で頭を抱えている。

 当然デュエル・アカデミアにも校則はある。その中でもアンティデュエルは重罪で、バレれば最悪退学にもなりかねない行為だ。

 

「クロノス校長、犯人は分かっているんですか?」

「残念ながら掴めては居ないノーネ。生徒の話からオベリスクブルーの男子生徒だとは分かっているのデスーガ……」

「被害者は1年生だけなんですか?」

「ノンノン。2年生や3年生も被害にあっているノデアール。狙われているのは主にオシリスレッドと、オベリスクブルーの女子生徒なのデアール」

 

 クロノス校長に代わって答えたのは、背の低い男性。終理先生と同じく今年からこの学校に赴任した、ナポレオン教頭だ。

 2年や3年も襲われているのに誰かまでは分かっていない。ということはここに新しくやって来た人……1年生が犯人かな?

 それにオシリスレッドや女子生徒を狙うってことは、自分より弱いと思った人間にしか勝負を仕掛けていないみたいだ。なんとも情けない……。

 

「分かりました。僕もその犯人の事、探してみますね」

「この学園の顔たるオベリスクブルーがこんな不祥事を起こすなんて、あってはいけない事デスーノ。私も別のルートから調査するカーラ、よろしく頼みマスーノ」

 

 校長室を出ると、部屋の外で待っていた深月が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だった?」

「うん。ちょっとした事件の調査をお願いされて……ね」

「事件?」

「うん。アンティデュエル。最近多いんだって。何でもオベリスクブルーの人が犯人みたいで、クロノス校長も困ってるみたい」

「なら、私達が捕まえちゃいましょ!」

「うん。そうしよう」

 

 クロノス校長の話によると、そのデュエリストが現れるのは夕方。場所は人目に付きにくいところらしい。

 僕達は手分けして人気の無い場所を探す。森の中や校舎の裏、屋上。

 やがて日が暮れ月が出てきたころ、深月から電話が掛かってきた。

 

『もしもし、遊陽。アンティデュエルの犯人って、オベリスクブルーの子なのよね』

『うん。見つかった?』

『えぇ!オベリスクブルーの男子を襲っていたところを見つけたわ!場所は――』

 

 場所はブルー女子寮近くの森。それを伝えたあと、深月は電話を切ってしまった。

 ……あれ、オベリスクブルーの男子が襲われてる? それにオベリスクブルーの子って、まさか……。

 

「……あっ、犯人が男子だってこと言ってない!」

 

 急いでブルー女子寮へと向かう。普段は来ない場所だけど、男子寮と同じく綺麗な寮だ。

 そこにはデュエルディスクを構える深月と、彼女に応えるようにデュエルディスクを構えた金髪の少女がいた。

 噂のオベリスクブルーの男子はへたれこんでおり、その近くには見たことがない……恐らくは1年生の女子生徒もいる。

 

「深月!」

「あっ、遊陽!この子があの男子からカードを取ってたのよ」

「それなんだけどね、多分、その男子の方が犯人だと思う……」

「えっ?」

 

 金髪の少女は気だるそうに僕達を見ていたが、次第に何かに気づいたように目を開く。

 

「誰かと思ったら……お前ら購買の2人かよ」

 

 金髪の少女が呟く。

 風が吹いて月にかかっていた雲が飛ばされ、辺りが明るくなる。

 

「あ、あなた、沢山パックを買っていった子!」

 

 あの最新パック発売日に、大量購入していった女子生徒だ。彼女は僕からすぐに興味をなくすと、深月に好戦的な笑みを浮かべる。

 

「それで?デュエルするんだろ?購買さんよ」

「ちょ、ちょっと待って!僕達はアンティデュエルをしていた犯人を捕まえに来たんだけど……そっちの男子が犯人なんでしよ?」

 

 さっきから立つ気配の無い男子は、金髪の少女に恐怖を感じているようだ。

 

「へぇ、あんたはあたしを信じてくれんのか?」

「うん。犯人は男子生徒って聞いてるからね」

 

 僕がそう答えると、もう一人の女子生徒が片手をあげて話し始めた。

 僕は男子生徒を逃がすことが無いよう、彼の近くに立って話を聞く。

 

「あの、私がこの男子に負けちゃって、レアカードをとられそうになって、それを有朱さんが助けてくれたんです」

「有朱?」

「あたしだよ。あたしは1年の有朱真希。あんたらもしかして先輩か?」

「僕は黒野遊陽。2年生だよ」

「私は星見深月。遊陽と同じ2年生よ。勘違いしてごめんなさい」

「……へぇ、あんたが、あの」

 

 深月が頭を下げてデュエルディスクを仕舞おうとすると、有朱さんがその腕を掴んだ。

 

「待てよ。せっかくだからデュエルしてくれよ。あんた1年じゃ有名だぜ?あの明日香先輩に並ぶほどのデュエリストだってな」

「で、でも」

「別に良いだろ?あたしはあんたとデュエルしてみたいんだよ」

 

 そう言う有朱さんの目は、深月に対する憎悪に溢れていた。

 犯人扱いされたことがそれほど嫌だったのか、何か別の理由があるのかな。

 

「それじゃあこうしよう。この男の名前は鷹野目風丸。1年生だ。これなら逃げられても捕まえられるだろ?」

 

 有朱さんがへたれこんだままの男子生徒を指さして言った。

 

「わ、分かったわ。そこまで言うなら……」

「良し。あんたごときが明日香先輩と肩を並べられるのか、このあたしが見極めてやる!」

 

「「デュエル!!」」

 

深月 VS 真希

 

「あたしの先攻、ドロー!……行くぜ、魔法カード【テラ・フォーミング】を発動し、フィールド魔法を手札に加えるぜ」

 

 早速サーチカードだ。テラ・フォーミングが入っているということは、フィールド魔法が主体になるデッキだろう。天空の聖域か万魔殿か、あるいはまた別のカードだろうか。

 有朱さんはかなり分厚いデッキから加えたカードを直ぐに発動させた。

 

「見せてやるぜ!あたしの最高のレアカード!フィールド魔法、【シュトロームベルクの金の城】を発動!」

 

 周囲の光景がガラリと変わり、月明かりに照らされた森が昼になる。

 ……いいや、有朱さんの背後に現れた黄金の城があまりにも眩しくて、昼だと勘違いしてしまうのだ。

 

「【シュトロームベルクの金の城】……!?」

 

 最新パックで初めて再録され一般に出回った、元・世界に一枚だけのプロモカード。どんなデッキでも扱える強力な効果を持つ一方で、かなりの負担となるデメリット効果を備えている。最新カードな上にかなりのレアカードで入手が難しく、未だに研究が進んでいないカードだ。

 

「そうさ!この間このカードを手に入れた事で、ようやくあたしのデッキは完成した!あたしは【金の城】の効果を発動!このターンの通常召喚を放棄する事で、デッキからモンスターを特殊召喚する!来い、【鉄のハンス】!」

 

 有朱さんの前に黄金色の光の柱が現れ、その中から斧を持った大柄な男が現れる。

 

攻1200

 

「【鉄のハンス】がフィールドに現れたとき、デッキから【鉄の騎士】を特殊召喚するぜ!」

 

 鉄のハンスが金の城に向けて叫ぶと、再び光の柱が現れ、馬に乗った鉄鎧の騎兵が現れる。

 

攻1700

 

「さらに魔法カード【鉄の檻】を発動!このカードの発動時、あたしのモンスター1体を墓地へ送り、閉じ込める。監獄へと送られるのは【鉄のハンス】だ!」

 

 鉄のハンスの足元から幾つもの金属の棒が現れ、それらが檻を作り出しハンスを地下へと引きずり込む。

 

「召喚したモンスターを、わざわざ墓地に……?」

「あたしはこれでターンエンド。さぁ、掛かってこいよ購買部!」

 

 

真希 LP4000 手札4

モンスター:鉄の騎士

魔法・罠:鉄の檻 シュトロームベルクの金の城

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 深月は手札を確認し、頷く。

 

「行くわ!【マシュマカロン】を守備表示で召喚!」

『マッシュー!』

 

 深月の目の前に、プルプルとしたピンク色のモンスターが現れる。

 

守200

 

「さらに永続魔法、【コート・オブ・ジャスティス】を発動!私のフィールドにレベル1の天使族モンスターがいるとき、手札から天使族モンスターを特殊召喚するわ!」

「やっぱり噂通り、天使族デッキか」

 

 深月の得意戦術だ。フィールドに維持しやすいマシュマカロンを軸に、天使族モンスターを展開していける。

 

「来て!至高の天才、【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 上空に現れた円盤が地上を照らし、その光の中から音姫が降り立つ。

 

攻2600

 

「さらに【モーツァルト】の効果で、1ターンに1度、手札の天使族を特殊召喚できるわ!来て、【ジェルエンデュオ】!」

 

 モーツァルトが指揮棒を振るうと音楽が溢れだし、2人組の天使が五線譜に掴まり現れる。

 

攻1700

 

「チッ、次から次へと……」

「行くわよ、バトル!【ジェルエンデュオ】で【鉄の騎士】を攻撃するわ!」

「深月のジェルエンデュオは戦闘では破壊されない。相討ちにはならないね」

 

 2人組の天使は鉄の騎士を挟み込む様に移動し、両方向から光線を放つ。

 

「戦闘破壊されない、ねぇ。関係ねぇな!これが【シュトロームベルクの金の城】だ!」

 

 有朱さんの背後に浮かぶ金の城が、その輝きを増す。光は熱へと変換され、近づいたジェルエンデュオ達を焼き付くす。

 

「なっ、きゃぁっ!?」

 

LP4000→3150

 

「わ、私にダメージまで与えてくるなんて……」

「【シュトロームベルクの金の城】は、攻撃してきたモンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える」

「っ、なら、これ以上は攻撃できないわね……。永続魔法【補充部隊】を発動して、ターンエンドよ」

 

 

深月 LP3150 手札2

モンスター:マシュマカロン プロディジー・モーツァルト

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス 補充部隊

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 有朱さんがカードをドローすると、金の城が急速に朽ち始めていく。

 

「っ、【金の城】が……!」

「こいつはその強力な効果の代償に、あたしのスタンバイフェイズ毎に、デッキの上から10枚を裏側にして除外する」

 

 有朱さんがデュエルディスクを掲げると、10枚のカードが飛び出して金の城へと吸い込まれていく。そしてカードを吸収した金の城は元の輝きを取り戻した。

 

「デッキの上から10枚も……」

「しかも裏側表示で除外したってことは、簡単には再利用できないよ。効果は強力だけど、デメリットが大きいね」

「その為にあたしのデッキは60枚なのさ」

 

 そう言って彼女は、自分のデュエルディスクにセットされたデッキを誇らしげに見つめた。

 デュエルモンスターズでは、デッキは40枚以上60枚以下にすることになっている。でもデッキの枚数が多すぎると目的のカードを引きにくくなるから、基本的にはデッキの枚数は40枚が好ましいとされている。それをわざわざ60枚にしたのは、少しでも長くこのフィールド魔法を維持するため……!

 

「さらに、【鉄の檻】の第2の効果を発動!自分のスタンバイフェイズにこのカードを墓地へ送ることで、発動時に墓地へ送ったモンスターを特殊召喚する!さぁもう1度来い、【鉄のハンス】!」

 

 有朱さんの目の前に現れた檻がひしゃげ、斧を持った大柄な男が再び現れ、雄叫びをあげる。

 

攻1200

 

「さらにその効果で【鉄の騎士】をデッキから特殊召喚!」

 

攻1700

 

「まだまだ!【金の城】の効果でこのターンの通常召喚を放棄し、【鉄の騎士】をデッキから特殊召喚!」

 

攻1700

 

 深月にも劣らない大量展開だ。鉄のハンスと、それに従うように並ぶ3体の鉄の騎士。

 

「【鉄のハンス】は、【鉄の騎士】から1000ずつ攻撃力を奪う!」

 

 部下を持って気分が大きくなってきたのか、鉄のハンスが黄金色のオーラを纏う。

 

鉄のハンス攻1200→4200

鉄の騎士攻1700→700×3

 

「【鉄の騎士】の攻撃力は低いけど……【金の城】の効果で攻撃できないわね……」

「さぁ行くぜ、バトル!【鉄のハンス】で、【プロディジー・モーツァルト】を攻撃だっ!」

 

 鉄のハンスの攻撃力は4000を越えている。彼のもつ斧は簡単にプロディジー・モーツァルトを切り裂き、破壊した。

 

「きゃぁっ!?」

 

LP3150→1550

 

「っ、でも【補充部隊】の効果で、私が1000ダメージを受ける度に1枚ドローするわ!」

「まだあたし達のバトルは終わってねぇよ!【鉄の騎士】で【マシュマカロン】を攻撃だっ!」

 

 攻撃力が下がっていても、マシュマカロンでは遠く及ばない。鉄の騎士の攻撃で簡単に破壊されてしまう。

 

「【マシュマカロン】が破壊されたとき、2体に分裂するわ!」

『『マシュマシュー!』』

 

 破壊された欠片が集まり、新たに2体のマシュマカロンへと成長した。

 

守200×2

 

「チッ……なら【鉄の騎士】2体で、一斉攻撃だ!」

『『マシュー!?』』

 

 有朱さんの号令と共に、2体の騎士がフィールドを駆けマシュマカロン達を貫く。

 

「まぁこんなもんかな。あたしはカードを3枚セット。さらに魔法カード【タイムカプセル】を発動!」

「【タイムカプセル】?」

 

 有朱さんの前に巨大な棺が現れ、彼女のデッキから飛び出した1枚のカードが入り、棺が閉じられる。

 

「このカードはデッキのカード1枚を裏側表示で除外し、発動後2回目のあたしのスタンバイフェイズに除外したカードを手札に加える!」

 

 なるほど、遅延型の万能サーチ魔法か。裏側表示で除外されるから、彼女が何を手札に加えようとしているのかは分からない。

 

「ターンエンドだ」

 

 

有朱 LP4000 手札1

モンスター:鉄のハンス 鉄の騎士 鉄の騎士 鉄の騎士

魔法・罠:タイムカプセル セット セット セット シュトロームベルクの金の城

 

 

「私のターン、ドロー!……行くわよ!魔法カード発動、【オスティナート】!私のフィールドにモンスターが存在しないとき、デッキのモンスター2体を融合素材にして、【幻奏】と名のつく融合モンスターを融合召喚できるわ!」

「デッキから融合だと!?」

「ええ!【幻奏の音姫ローリイット・フランソワ】と【幻奏の音女エレジー】を素材にして、融合召喚!」

 

 深月の足元に花びらが広がり回転し、桜色の渦を作り出す。

 

「タクトの導きにより力を重ね、今こそ舞台に勝利の歌を!融合召喚、【幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ】!」

 

 フィールドに現れたのは蕾。それは誰かの歌声と共に開いていき、やがて立派な歌姫へと成長する。

 

攻1000

 

「攻撃力1000だぁ?」

「私のエースモンスターを舐めないでね!バトル!【ブルーム・ディーヴァ】で、【鉄の騎士】を攻撃!」

 

 ブルーム・ディーヴァが歌うと、鉄の騎士1体がふらふらと彼女の前に歩いていき、頭を垂れる。

 

「何を企んでるのかは知らねーけど、ムダだぜ!【シュトロームベルクの金の城】!」

 

 彼女の声に反応して、金の城がより強い輝きを放つ。しかし歌姫は怯むことなく歌い続ける。

 

「リフレクト・シャウト!」

 

 鉄の騎士が突如槍を構えてブルーム・ディーヴァに向け放つが、その槍は歌声の障壁に阻まれて跳ね返され、破壊される。

 

「何っ!?」

 

LP4000→3700→3000

 

「【ブルーム・ディーヴァ】は戦闘や効果では破壊されず、その戦闘によって発生するダメージは0になるわ。さらに特殊召喚されたモンスターと戦闘した後、2体の元々の攻撃力の差分のダメージを相手に与えた上で、相手モンスターを破壊する!」

 

 鉄の騎士の元々の攻撃力は1700。最初に戦闘ダメージ300が入り、続けて効果ダメージが入ったことでその合計は1000ダメージだ。

 

「いい調子だね、深月!」

「ええ!そう簡単には負けないわよ!」




「「今回の、最強カードは?」」

シュトロームベルクの金の城
フィールド魔法
このカードのコントローラーは自分スタンバイフェイズ毎にデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外する。除外できない場合このカードを破壊する。
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに発動できる。「シュトロームベルクの金の城」のカード名が記されたモンスター1体をデッキから特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分は通常召喚できない。
(2):相手モンスターの攻撃宣言時に発動する。その攻撃モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

「有朱ちゃんの使っているフィールド魔法ね」
「毎ターンデッキからモンスターを特殊召喚する効果と、攻撃モンスターを破壊してダメージを与える強力なカウンター効果が特徴的だね」
「でもスタンバイフェイズ毎にデッキのカードをたくさん除外して行ってしまうわ」
「それを利用して魂吸収を発動しておけば毎ターン5000ライフ回復できるけど……ライフの前にデッキが尽きちゃうかもしれないね」


破壊を免れる幻奏達の力で金の城を攻略する深月。しかし真希は余裕を崩さず、タイムカプセルに封印されたカードを手札に加える。
次回「おとぎの国のヤンキーガール(後編) 全てを喰らう悪魔の口!」

有朱 真希 アリス マキ
遊陽達の後輩。中等部からの繰り上がり組で、中等部ではかなりの問題児だった。
過去の経験から自分のデッキを信用しておらず、必要なカードをサーチカードで無理矢理揃え、自らのデッキを削って戦う。デッキの都合上すぐにデッキ切れを起こしてしまうため短期決戦型。
くすんだ金髪のロングヘアが特徴。染めるのに失敗したがやり方を変えるのが面倒でそのままらしい。
使用デッキは【シュトロームベルクの金の城】。

60枚デッキで芝刈したら楽しそう。32話でした。
原作だと世界で1枚しかないプロモカードの金の城。今作品ではそのレプリカ(公式でも使用可能)が最新パックにより出回った、という設定です。
とんでもないレアなので彼女のデッキにも1枚しか入っていませんが……。
それでは、また次回後編もお読みいただけたら嬉しいです!
ではではー!


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33話 おとぎの国のヤンキーガール(後編) 全てを喰らう悪魔の口!

こちらは後編です。ぜひ前回をお読みになってからこちらも読んで頂けたら嬉しいです。


「【鉄の騎士】が破壊されたことで【鉄のハンス】の攻撃力はダウンするが……それでもまだ十分だ」

 

攻4200→3200

 

 鉄のハンスの纏うオーラが僅かに弱まったように見える。

 

「まだまだ行くわ!速攻魔法【融合解除】を発動!【ブルーム・ディーヴァ】を融合デッキに戻して、墓地から【ローリイット・フランソワ】と【エレジー】を特殊召喚するわ!」

 

 ブルーム・ディーヴァの姿が消え去り、それと同時に2体のモンスターが現れる。

 

「特殊召喚された【エレジー】の効果で、私のモンスターの攻撃力は300アップするわ!」

 

フランソワ攻2300→2600

エレジー攻2000→2300

 

「無敵のモンスターをわざわざ手放すのか?」

「ええ、ちょっとだけね。【フランソワ】と【エレジー】で、【鉄の騎士】2体を攻撃するわ!」

 

 深月の攻撃宣言に反応し、金の城が光を放つ。しかし2体のモンスターが消え去ることはない。

 

「チッ!そいつらもか!?」

「そうよ!【エレジー】の効果で、私の特殊召喚された【幻奏】達は効果では破壊されないわ!」

 

 このまま2体の攻撃が通れば深月の勝ちだ。

 

「チッ!リバースカードオープン、【非常食】!セットされた他の2枚を墓地へ送って、ライフを2000回復する!」

 

 有朱さんのフィールドにセットされた2枚のテラ・フォーミングが墓地へと送られていく。

 

LP3000→5000

 

 2人の幻奏の歌声は邪魔される事なく、鉄の騎士達に届き破壊する。

 

「ぐっ……」

 

LP5000→3400→1500

 

 3体の鉄の騎士が全滅した事で、鉄のハンスの攻撃力は元々の数値へと戻っていく。

 

攻3200→1200

 

「あたしの鉄の軍団が……!」

「さらに速攻魔法、【瞬間融合】を発動するわ!」

 

 速攻魔法による融合。融合解除で特殊召喚された2体を素材として、再び華歌聖が舞台に呼び出される。

 

「さぁ、アンコールよ!再び舞台に勝利の歌を!来て、【幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ】!」

 

 深月を囲むように花びらが表れて蕾を作る。その華が開くと、深月の傍らにブルーム・ディーヴァが立っている。

 

攻1000

 

「そして今はまだバトルフェイズ!【ブルーム・ディーヴァ】で、【鉄のハンス】を攻撃!リフレクト・シャウト!」

 

 ブルーム・ディーヴァが歌い、鉄のハンスの攻撃を誘う。鉄のハンスは斧を投擲するが、歌声のバリアに弾かれ、自らの体を切り裂いて破壊される。

 

「チッ……!」

 

LP1500→1300

 

「【瞬間融合】の効果で召喚されたモンスターはエンドフェイズに破壊されてしまうけど、【ブルーム・ディーヴァ】はカードの効果では破壊されない。これでターンエンドよ」

 

 

深月 LP1550 手札0

モンスター:ブルーム・ディーヴァ

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス 補充部隊

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 有朱さんがドローすると、再び金の城が崩れていく。

 

「【シュトロームベルクの金の城】を維持するために、デッキから10枚を裏側にして除外するぜ」

 

 これでタイムカプセルの分を除いても20枚のカードが除外されていることになる。その上彼女のデッキは、デッキからモンスターをサーチ、特殊召喚するカードが多い。デッキの枚数は60枚だけど、かなり消費が荒いようだ。

 

「【シュトロームベルクの金の城】の効果発動!このターンの通常召喚を放棄して、デッキから【シンデレラ】を特殊召喚だ!」

 

 黄金の光の柱が現れ、みすぼらしい服装の少女が現れる。彼女はオドオドと辺りを見回している。

 

攻300

 

「【シンデレラ】の特殊召喚に成功したとき、デッキから【カボチャの馬車】を特殊召喚できるぜ!」

 

 デュエルに怯えるシンデレラの前に、巨大なカボチャで作られた馬車が到着した。

 

守300

 

「さらに【シュトロームベルクの金の城】が存在するとき、デッキから【ガラスの靴】を発動し【シンデレラ】に装備できるのさ!」

 

 ボロボロの服を着たシンデレラの足が光輝き、ガラスの靴が現れる。

 

「【ガラスの靴】を装備した天使族モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする!」

 

 ガラスの靴から光が溢れだしてシンデレラを包み込み、彼女を舞踏会に相応しいドレスへと着替えさせる。僕らのよく知るシンデレラの姿だ。

 

攻300→1300

 

「【ブルーム・ディーヴァ】の攻撃力は超えたみたいだけど、私の【ブルーム・ディーヴァ】は負けないわ!」

「あぁ。だから攻撃するのは【ブルーム・ディーヴァ】じゃないぜ!行け、【シンデレラ】!相手プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

 

 シンデレラを乗せたカボチャの馬車がフィールドを駆け抜け、深月の目の前までやって来る。馬車から飛び出したシンデレラが、深月に回し蹴りを食らわせた。

 

「きゃぁっ!」

 

LP1550→250

 

「深月っ!」

 

 深月のライフが一気に削られる。ソリッドビジョンだから痛みは無いけど、見ていて痛々しい。

 

「【カボチャの馬車】の効果で、あたしの【シンデレラ】は直接攻撃できるぜ」

「そうだったのね。でも、【補充部隊】の効果で1枚ドローできるわ」

「これであたしはターンエンド!」

 

 

真希 LP1300 手札2

モンスター:シンデレラ カボチャの馬車

魔法・罠:ガラスの靴 タイムカプセル シュトロームベルクの金の城

 

 

「私のターン、ドロー!よし、魔法カード【貪欲な壺】を発動!墓地の【マシュマカロン】3体と【プロディジー・モーツァルト】、【ローリイット・フランソワ】をデッキに戻して2枚ドローするわ!」

 

 深月の手札が1枚増え、彼女は1枚のカードをフィールドゾーンに置いた。

 

「【金の城】にはここで消えてもらうわよ!フィールド魔法【天空の聖域】、発動!」

「何っ!?」

 

 フィールド魔法はお互いのフィールドに1枚しか存在できないカード。金の城が崩れ落ちて行き、足元が雲に変わる。そして深月の背後には、古びた建物が現れる。

 

「このカードがあるかぎり、天使族モンスターの戦闘によって発生する、天使族モンスターのコントローラーへのダメージは0になる!さらに私は、【幻奏の音女タムタム】を召喚!」

 

 大きな銅鑼を鳴らしながら、深月のフィールドに音女が現れる。

 

攻1000

 

 残り少ない今のライフでこの攻撃力は不安になるけど、それをカバーするのが天空の聖域だ。

 

「さぁ、バトルよ!【ブルーム・ディーヴァ】で【シンデレラ】を攻撃!リフレクト・シャウト!」

 

 ブルーム・ディーヴァが歌いだし、その声は障壁となってシンデレラを押し潰す。

 

「くっ……!」

 

 シンデレラの元々の攻撃力は300。よって効果で与えるダメージは700ポイントだ。

 

LP1300→600

 

「さらに【タムタム】で【カボチャの馬車】を攻撃するわ!」

 

 タムタムが手に持った銅鑼を鳴らし、音波がカボチャの馬車を破壊していく。

 

「これでターンエンドよ!」

 

 

深月 LP250 手札1

モンスター:ブルーム・ディーヴァ タムタム

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス 補充部隊 天空の聖域

 

 

「【金の城】は破壊されて、モンスターは全滅したわ!」

「でも、このターンにタイムカプセルの効果が発動するよ。気を付けてね」

「うん!」

 

 ライフポイントこそ僅かに上だが、フィールドでは圧倒的に不利。そんな状況でも、有朱さんは余裕そうな笑みを浮かべていた。

 

「あたしのターン、ドロー!そしてこのスタンバイフェイズ、【タイムカプセル】に封印されたカードが解き放たれる!」

 

 有朱さんのフィールドにある棺が開き、閉じ込められていたカードが彼女の手札に加わる。

 

「さぁ行くぜ?こいつがこのデッキの切り札だ!あたしは2枚の手札と、15枚の融合デッキ全てを裏側にして除外する!」

「な、何ですって!?」

 

 有朱さんは17枚のカードを一気にばらまく。彼女の手に残るのはさっき手札に加えた1枚のカードともう1枚だけだ。

 

「このカードはあたしの手札・フィールド・融合デッキに存在するカードを合計5枚以上除外する事で特殊召喚できる!さぁ来い!【百万(よろず)喰らいのグラットン】!」

 

 捨てられた17枚のカードを飲み込む様に、四足歩行の頭でっかちなモンスターが現れた。

 

攻?

 

「攻撃力不明、レベル1のモンスター……!」

「こいつの攻撃力は、裏側表示で除外されているカード1枚につき100ポイントになる!」

 

 金の城のコストで20枚、今のモンスターを召喚するために17枚。その攻撃力は……

 

攻?→3700

 

「攻撃力、3700……!」

「全てを喰らい尽くせ、【グラットン】!【ブルーム・ディーヴァ】に攻撃だぁっ!」

 

 グラットンが大きく口を開け、ブルーム・ディーヴァを飲み込もうとする。

 

「っ!いくら攻撃力が高くても、【ブルーム・ディーヴァ】の効果で……!」

「攻撃力なんか関係ねぇ!1ターンに1度【百万喰らいのグラットン】が戦闘を行う時、その相手モンスターを裏側表示で除外することができる!消え去れ【ブルーム・ディーヴァ】!グラトニーホール!」

 

 風?いや違う。周囲のものがグラットンの口内に吸い寄せられている。

 ブルーム・ディーヴァでもその吸引力には耐えられず、丸飲みにされてしまう。

 

「そしてカードが裏側で除外されたことで、【グラットン】の攻撃力はアップする!」

 

攻3700→3800

 

 相手モンスターを除去した上で自らのステータスを上げてくるのか。上昇量は僅かだけど、対象をとらず破壊でもない除去と言うのは厄介だ。

 

「そんな……【ブルーム・ディーヴァ】が……」

 

 深月が信じられない物を見るような目で立ち尽くす。

 

「はははっ!流石あたしの【グラットン】!これでターンエンドだぜ!」

 

 

真希 LP600 手札1

モンスター:百万喰らいのグラットン

魔法・罠:シュトロームベルクの金の城

 

 

「私の、ターン……ドロー」

 

 カードを引く彼女の手からは、何時ものような力強さを感じない。

 

「深月……」

「私の、最強のカード、だったのに……」

「……大丈夫だよ。深月なら勝てる」

 

 百万喰らいのグラットンが持つ効果は1ターンに1度のみ。だからあの攻撃力を2回越えることが出来れば撃破は出来る。

 それを可能にするカードも、深月のデッキには沢山ある。

 

「……っ。私は、【タムタム】を守備表示に変更。カードを1枚セットして、ターンエンドよ」

 

攻1000→守2000

 

 

深月 LP250 手札1

モンスター:タムタム

魔法・罠:コート・オブ・ジャスティス 補充部隊 セット 天空の聖域

 

 

「あたしのターン、ドロー!やっぱりあんたなんかじゃ明日香先輩には遠く及ばねぇな!ここで決着をつけてやる!速攻魔法【ツイスター】発動!ライフを500払って、表側表示の魔法・罠カードを破壊する!破壊するのは【天空の聖域】だ!」

 

LP600→100

 

 強い風が吹き荒れ、雲を吹き飛ばし聖域を崩壊させていく。

 

「さらに装備魔法【メテオ・ストライク】を【グラットン】に装備!装備モンスターは貫通効果を得るぜ!」

「ってことは、【タムタム】を攻撃されたら……」

「もうお前を守る【天空の聖域】は無いぜ?これで終わりだ!【百万喰らいのグラットン】で【幻奏の音女タムタム】を攻撃!」

 

 グラットンがゆっくりと歩みを進め、タムタムに向け大口を開ける。

 

「……まだよ。まだ終わらせない!リバースカード、【光子化】発動!その攻撃を無効にして、相手モンスターの攻撃力分光属性モンスターの攻撃力をアップさせるわ!」

 

 グラットンの体から光の粒子が溢れ出してタムタムへと吸収されていく。

 

攻1000→4800

 

「っ!【グラットン】の攻撃力を越えやがったか!でも【グラットン】の効果の前には、どんなに高い攻撃力も無意味だぜ?」

「遊陽が応援してくれてるの。だから私は諦めない。私のデッキを信じて、そのモンスターを突破するカードを引いて見せるわ!」

「……デッキを信じる、か。どいつもこいつもそればっかり。あたしは今まで1枚もモンスターを引けてねぇのによ。ターンエンドだ」

 

 

真希 LP100 手札0

モンスター:百万喰らいのグラットン

魔法・罠:メテオ・ストライク

 

 

「私のターン……ドロー!」

 

 深月はドローしたカードを見てニッコリと笑うと、もう1枚のカードをフィールドに出す。

 

「まず私は、【幻奏の歌姫ソロ】を召喚するわ!」

 

 歌い、踊りながらひとりの音女が舞台に上がる。

 

攻1600

 

「そして装備魔法【月鏡の盾】を発動して【幻奏の音女ソロ】に装備!」

 

 ソロの目の前に月の光が集まり、満月のような輝く盾が現れる。

 

「そして【タムタム】を攻撃表示に変更して、バトルよ!【幻奏の音女タムタム】で【百万喰らいのグラットン】を攻撃!」

「ムダだって言ってんだろ!?グラトニーホール!」

 

 タムタムの攻撃力は4800。しかしその攻撃力を発揮する前に、グラットンの口内に吸い込まれて飲み込まれてしまう。

 

攻3800→3900

 

「ええ。そうするしか無いわよね。これで終わりよ!【幻奏の音女ソロ】で、【百万喰らいのグラットン】を攻撃!」

 

 ソロが月鏡の盾を構え、空を舞う。

 

「攻撃力1600で攻撃だと!?」

「【月鏡の盾】の効果発動!装備モンスターが戦闘を行うとき、その攻撃力は相手モンスターの攻撃力に100を加えた値になるわ!」

 

 月鏡の盾が百万喰らいのグラットンの姿を映し出す。

 

攻1600→4000

 

「【百万喰らいのグラットン】の効果はもう発動出来ない……ここで終わり、か」

 

 月鏡の盾から現れたグラットンの虚像が本物を噛み砕き、その衝撃が有朱さんに襲いかかった。

 

LP100→0

 

 デュエルが終わり、周囲が静寂を取り戻す。有朱さんは深くため息をついたあと、自分の頬を叩く。

 

「あんた、本当に凄いんだな。明日香先輩に並ぶ実力ってのも嘘じゃなさそうだ」

「そんなに明日香の事が好きなの?」

「好きっていうか……尊敬してるんだよ。明日香先輩だけじゃなくて、ももえ先輩やジュンコ先輩も。あの3人だけなんだ。あたしを見た目で判断しなかったのは」

「そっか……」

「だから明日香先輩より強い人がいるって聞いて、そんなことないって証明したかったんだ」

 

 有朱さんはそう言ってはにかむ。彼女からは、もう深月への敵意を感じない。

 

「楽しかったよ。その、あたしのことは名前で呼んでいいからさ、またデュエルしようぜ深月先輩?」

「えぇ。よろしくね、真希ちゃん」

 

 有朱さんは右手を差し出し、深月と握手を交わした。

 

 

 

「ベニッスィモ!素晴らしい!あなた達にお願いしたのは正解だったノーネ」

 

 あのあと有朱さんが捕まえた犯人を連れていった僕たちは、その翌日校長室へと呼ばれていた。

 

「でも、あれは僕達じゃなくて1年生の有朱さんが倒したんです」

「有朱……有朱……あのシニョーラ真希ナノーネ?」

「はい。私達、あの子がやっつけた犯人を連れてきたんです」

「そうだったノーネ……しかしあのシニョーラ真希が校則違反者を懲らしめるとは思わなかったノーネ」

 

 クロノス校長は感心したように頷いている。

 

「真希ちゃんって、何かあったんですか?」

「彼女は中等部では問題児として有名だったノーネ。当時の彼女はかなり荒れていた様で……それを更正させたのがシニョーラ明日香達ナノーネ」

 

 だからあんなに彼女達を慕っていたのだろうか。

 見た目はかなり怖いけど、彼女も深月の友達になってくれれば良いな。




「「今回の、最強カードは?」」

百万喰らいのグラットン
特殊召喚・効果/星1/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードは通常召喚できない。自分の手札・フィールド・エクストラデッキからカード5枚以上を裏側表示で除外した場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードの攻撃力・守備力は、裏側表示で除外されているカードの数×100アップする。
(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、リリースできず、融合・S・X召喚の素材にもできない。
(3):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。その相手モンスターを裏側表示で除外する。

「有朱さんが使っていたエースモンスターだね」
「レベル1とは思えないほど高いステータス、戦闘を行う相手を問答無用で除外する能力、どれをとっても強力ね」
「融合デッキを使わないデッキでも、このモンスターのために融合モンスターを入れるだけで特殊召喚できるし、コストは有って無いようなものだね」


カイザー亮を下し、公の場で十代へと勝負を挑んだエド・フェニックス。宿直で校舎に残っていた終理創は、深夜にアカデミアまでやって来たエドと対峙する。
次回、「法王と逆さの愚者」


33話、真希戦後編でした。
カードパワーに溢れるデッキを使う彼女ですが、とある理由からいくらドローしてもモンスターがドローできないのです。その理由は先の方で出てくると思います。
さて、お気にいりの数が60を突破しました!皆さん、応援ありがとうございます!
8月頭までかなり忙しいので更新頻度は低めですが、これからもこの作品を読んで頂けたら嬉しいです!
ではではー!




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34話 法王と逆さの愚者

逆位置の『愚者』:軽率、わがまま、無謀、無策。


 アカデミアで帝王と呼ばれていた男、カイザー。エド・フェニックスはからを易々と下し、遊城十代へと宣戦を布告する。

 その日の夜の事。

 

「へへっ、ちょろいもんだぜ」

 

 夜の校舎を走る足音。カードパックを大量に詰め込んだカバンを持ち、男は予め決めていた逃走経路をたどる。

 ヘルメットにつけられたサングラスが彼の顔を隠している。カード泥棒だ。

 彼は守衛の目を誤魔化しながら1階へと降り、アカデミアを立ち去ろうとしていた。

 

「おっと、どこへ行くんだ?こんな時間にお客さんなんて珍しいな」

 

 泥棒が出ようとしていた扉が閉じる。

 彼が恐る恐る振り替えると、真っ暗闇の校舎の中から1人の男性が現れた。

 

「な、何だお前は!?」

「俺の名前は終理創。この学校の先生だ。授業参観の日はまだだぜ?」

「チッ!ふざけやがって!さっき手に入れたばっかのレアカードでぶっ倒してやるぜ!」

「へぇ?……いいぜ。相手になってやる」

 

「「デュエル!!」」

 

 数分の後、人気のないデュエルアカデミアの中で、男の叫び声が響き渡った。

 

 

 

「いやぁ、夜の学校で警備ってのも疲れるな」

 

 終理創は宿直室で大きく欠伸をして背を伸ばす。デュエルアカデミアでは守衛の他にも、教師1名が校内に残り宿直をしているのだ。

 宿直室にはさっきのカード泥棒がロープでぐるぐる巻きにされ、タオルを噛まされている。

 

「ちょっと苦しいかも知れないけど、我慢してくれよな。そもそも泥棒に入るのが悪いんだぜ?」

「ーっ!ーっ!」

「うーん、まぁそりゃ抵抗するよな。よし、なら先生が怖い話を聞かせてやろう!俺も1人で暇だったしさ、付き合ってくれよ」

 

 そうして創はニヤリと笑うと、男の前に座る。

 

「これはネットの掲示板に書かれていた話なんだが――」

 

 その瞬間に警報が鳴る。侵入者だ。創は監視カメラの映像を確認すると、どうやら空から降りてきたらしいスーツの男を見つけた。

 

「お客さんの多い日だなぁ」

 

 やれやれ、と頭を掻くと、創はデュエルディスクを手にその男のいる場所へと移動し始めた。

 懐中電灯を手に校舎を歩き、外へと出る。監視カメラの映像の通り、そこには純白のスーツを着た男がデュエルアカデミアの校舎を見上げていた。

 

「こんな時間に何をしてるんだ?」

「お前は誰だ?」

「俺は終理創。この学校の新任教師さ……君、もしかしてあのエド・フェニックスか?」

「……あぁ、そうだよ」

「これはびっくりしたぜ。どうだ?俺とデュエルしてくれないか?」

 

 創はエドの腕につけられたデュエルディスクを見て、自分のコートに取り付けられたデュエルディスクを展開する。

 

「たかだか1教師と戦っている時間は無いんだ。プロは忙しくてね」

「へぇ……ぜひあのエド・フェニックスにも見せたかったんだけどな、俺のエースモンスター」

「フン。それがどんなモンスターだろうと、僕のデッキに勝てるモンスターではないさ」

「名前は言わないが……相手モンスターを吸収する効果のモンスターなんだ。面白そうだろ?」

 

 創が挑発するようにそう言うと、エドがピクリと反応する。

 

「……モンスターを吸収する効果、ねぇ。良いだろう。相手になってやる」

「そう来なくちゃな!プロデュエリストとデュエル出来るなんて、ここに来て良かったぜ!」

 

「「デュエル!!」」

 

創 VS エド

 

「俺の先攻だな。ドロー!俺は手札の【闇・道化師のサギー】を捨て、手札の【コスモブレイン】を特殊召喚するぜ!」

 

 創の目の前に小さな宇宙が現れ、コスモクイーンに似た姿のモンスターが現れる。

 

守2450

 

「効果モンスター以外をコストにして特殊召喚されるモンスターか」

「その通りだ!さらに【コスモブレイン】の効果を発動!自分の効果モンスターを生け贄に捧げ、デッキから【コスモクイーン】を特殊召喚するぜ!」

 

 現れたコスモブレインが消滅すると再び小さな宇宙が広がり、宇宙を統べる女王が現れる。

 

攻2900

 

「さらにカードを1枚セット。ターンエンドだぜ」

 

 

創 LP4000 手札3

モンスター:コスモクイーン

魔法・罠:セット

 

 

「僕のターン、ドロー!僕にデュエルを挑んだことを後悔すると良い。僕は【D-HERO デビルガイ】を召喚する!」

 

 マントがたなびく音がする。月明かりを背に、長い手足を持った悪魔の様なモンスターが姿を表した。

 

攻600

 

「君も十代君と同じ【HERO】使いか……!しかし、見たことのないモンスターだな」

「お前、あの十代とデュエルしたのか?」

「あぁ!先生としては情けないことに負けてしまったけどな」

「……フン、十代ごときに負ける奴が、僕の【D-HERO(ディーヒーロー)】に勝てると思うなよ?」

 

 エド・フェニックスは目の前の女王を睨み付けると、デビルガイへ指示を下す。

 

「僕は【デビルガイ】のエフェクト発動!相手モンスター1体を、僕のターンで数えて2ターン先の未来まで飛ばす!」

「何っ!?」

 

 デビルガイが空を舞い、その長い腕でコスモクイーンに触れる。コスモクイーンの居た空間が何かに吸い込まれるように消えていき、創のフィールドはガラ空きだ。

 

「【コスモクイーン】が……!」

「【デビルガイ】のエフェクトを使用したターンは攻撃できない。僕はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

 

エド LP4000 手札4

モンスター:デビルガイ

魔法・罠:セット

 

 

「くっ、俺のターン、ドロー!よぅし、俺は【ものマネ幻想師】を召喚だ!」

 

 創のフィールドに、鏡で顔を隠した魔法使いが現れ、恭しく礼をする。

 

攻0

 

「【ものマネ幻想師】の召喚に成功したとき、相手モンスター1体のステータスをコピーするぜ!」

 

 手に持った鏡にデビルガイが映り、ものマネ幻想師の姿がデビルガイそのものへと変わる。

 

攻0→600

 

「さらに装備魔法【ワンダー・ワンド】を【ものマネ幻想師】に装備!攻撃力を500アップさせるぜ!」

 

 デビルガイの姿を真似た幻想師の手に、緑色の宝石の付いた杖が握られる。

 

攻600→1100

 

「コピーした上で強化して、確実に戦闘破壊を狙う、と言うわけか」

「そうさ!さらに俺は魔法カード【ワンチャン!?】を発動!デッキからレベル1モンスター1体を手札に加える。だが加えたモンスターをこのターン中に召喚しなかった場合、俺は2000ポイントのダメージを受けるぜ」

「召喚権は既に使用済み……2000ポイントも支払ってレベル1モンスターを手札に加えて何になる?」

「それは見てのお楽しみだぜ?バトル!【ものマネ幻想師】で【デビルガイ】を攻撃だ!」

 

 ものマネ幻想師は杖をバトンのように回転させると、それを大きく振りかぶりデビルガイの頭に叩きつける。

 

「くっ……」

 

LP4000→3500

 

「だがこの瞬間、リバースカードオープン!【デステニー・シグナル】!僕のモンスターが戦闘で破壊されセメタリーへと送られたとき、デッキからレベル4以下の【D-HERO】を特殊召喚できる!カモン、【D-HERO ドリルガイ】!」

 

 エドの足元が割れ、地下深くからドリルを身に付けたヒーローが浮かび上がる。

 

攻1600

 

「【ドリルガイ】の特殊召喚に成功したとき、その攻撃力以下の【D-HERO】を手札から特殊召喚できる!カモン、【D-HERO ダイヤモンドガイ】!」

 

 青く輝くダイヤモンドを身に付けたヒーローが月明かりを反射し煌めく。

 

攻1400

 

「一気に2体のモンスターか……!面白くなってきた!俺は【ワンダー・ワンド】の効果を発動!このカードと装備モンスターを墓地へ送ることで、2枚ドロー出来るぜ」

 

 ものマネ幻想師が杖を一振りすると、杖とモンスターが2枚のカードへと変わり創の手札に加えられる。

 

「おっ?これは良いカードだな。俺は手札の【ダーク・アイズ・イリュージョニスト】を捨て、【THE トリッキー】を特殊召喚!」

 

 創の投げた手札が爆発し、顔に?マークが描かれた奇術師が現れた。

 

攻2000

 

「これでエンドフェイズ。俺は【ワンチャン!?】の効果で2000ポイントのダメージを受ける」

 

LP4000→2000

 

 ライフが半分になったのにも関わらず、創は余裕そうに笑って見せる。

 

「俺がダメージを受けた事で、【ダーク・ホライズン】を発動!受けたダメージ以下の攻撃力を持つ魔法使い族モンスターをデッキから呼び出す!」

 

 暗い闇の球体が創を包み込み、広がっていく。

 

「来い、【魔法の操り人形】!」

 

 暗い闇が晴れると、創の前に操り人形師が現れ不気味な声でエドを嗤う。

 

攻2000

 

「そっちが本命か」

「これが俺のデッキのコンボさ!驚いたか?ターンエンドだぜ」

 

 

創 LP2000 手札2

モンスター:THE トリッキー 魔法の操り人形

魔法・罠:無し

 

 

「フン、驚くほどでもないさ。僕のターン、ドロー!僕は【ダイヤモンドガイ】のエフェクトを発動!」

 

 ダイヤモンドガイの宝石が輝き、エドのデッキの一番上のカードが照らされ公開される。

 

「デッキの一番上のカードは【ミスフォーチュン】!【ダイヤモンドガイ】は1ターンに1度デッキの一番上のカードを確認し、それが通常魔法だった場合にはそのカードをセメタリーへ送り、次のメインフェイズにその効果を適用させる」

「次のターンだと?」

「そうとも。デステニー……つまりは運命を操るヒーロー、それがディーシリーズ!さらに僕はフィールド魔法【ダーク・シティ】を発動!」

 

 周囲の景色がガラリと変わる、ハリボテで作られた町の夜景だ。

 

「【D-HERO】専用のフィールド魔法か?」

「勘が良いな。その通りさ。このフィールド魔法があるとき、僕の【D-HERO】が自身より攻撃力の高い相手に戦闘を仕掛けた時、その攻撃力を1000アップさせる!」

 

 自分のフィールドのモンスター全てが破壊されてしまうことに気づいた創は苦々しそうに周囲を見渡した。

 

「魔法カードが発動された事で【魔法の操り人形】に魔力カウンターが乗るぜ」

 

魔法の操り人形(1)

攻2000→2200

 

「さらに【D-HERO ダイハードガイ】を召喚!」

 

 腕に大きな装甲が取り付けられた筋骨粒々の男が現れる。

 

攻800

 

「さぁ、バトルだ!【ドリルガイ】で【魔法の操り人形】を攻撃!」

 

攻1600→2600

 

 フィールド魔法を利用して魔法の操り人形を撹乱し、死角からその体を貫く。

 

「ぐっ……!」

 

LP2000→1600

 

「さらに【ダイヤモンドガイ】で【トリッキー】を攻撃だ!」

 

攻1400→2400

 

 ダイヤモンドに包まれた腕でトリッキーの腹部を殴り付け、粉砕する。

 

「くっ……!」

 

LP1600→1200

 

「さらに【ダイハードガイ】でダイレクトアタック!」

「させないぜ!ダイレクトアタックされたとき、手札の【バトルフェーダー】の効果を発動!このモンスターを特殊召喚して、バトルフェイズを終わらせる!」

 

 創の前に現れた悪魔がベルを鳴らすと、バトルが強制的に中断されメインフェイズ2がやって来る。

 

「【ワンチャン!?】で手札に加えたモンスターさ。レベル1だけど中々厄介なんだぜ」

「姑息な時間稼ぎを……僕はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 

エド LP3500 手札1

モンスター:ドリルガイ ダイヤモンドガイ ダイハードガイ

魔法・罠:セット ダーク・シティ

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 創は引いたカードを確認してニヤリと笑った。

 

「見せてやるぜ!俺のデッキのエースモンスター!俺は【イリュージョンの儀式】を発動!【バトルフェーダー】を生け贄に捧げ、現れよ!【サクリファイス】!」

 

 バトルフェーダーの姿が小さな灯火へと変わる。その小さな火種はグニャリと歪んで形を変え、ひとつ目の不気味なモンスターへと変貌する。

 

攻0

 

「相手モンスターを吸収する、ねぇ。まぁお前ごときがあのカードを持っているわけが無かったな」

「何だと!?最高に格好いいだろ俺のモンスター!」

「あらゆる面において、この地球上に【D-HERO】を越えるモンスターはいない!」

「それなら教師として教えてやるぜ!【サクリファイス】の素晴しさを!【サクリファイス】の効果を発動し、【ドリルガイ】を吸収して装備する!」

 

 サクリファイスが羽を展開し、腹部に現れたブラックホールがドリルガイを吸い込む。

 

攻0→1600

 

 そして閉じられた羽からは、ドリルガイの姿が浮かび上がってきた。

 

「よくも【ドリルガイ】を……!」

「【サクリファイス】!【ダイヤモンドガイ】を攻撃だ!」

 

 サクリファイスがふわりと宙に浮いてダイヤモンドガイに近づき、羽から生えたドリルガイを操って攻撃する。

 

「っ、リバースカードオープン!【D-シールド】!このカードは装備カードとなり【ダイヤモンドガイ】に装備され、その表示形式を守備表示にする!」

 

 地面が割れてガレキが宙を舞い、ダイヤモンドガイを守るように空中に停滞する。

 

攻1400→守1600

 

「【D-シールド】を装備したモンスターは戦闘では破壊されないが……今は関係ないな」

「防がれたか。俺はカードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 

創 LP1200 手札0

モンスター:サクリファイス

魔法・罠:ドリルガイ セット

 

 

「僕のターン、ドロー!そしてこのスタンバイフェイズ、【デビルガイ】のエフェクトで除外されていた【コスモクイーン】がフィールドに戻る」

 

 創の目の前の空間が歪み、宇宙の女王がその姿を表す。

 

攻2900

 

「やっと戻ってきたか!良かったぜ」

「のんきな男だ。今この瞬間、お前の敗北は確定したと言うのにな」

「何だと?」

「【ダイヤモンドガイ】により墓地へ送られた【ミスフォーチュン】が発動される!このターンの戦闘を放棄し、相手モンスター1体の攻撃力の半分のダメージを与える!さぁ攻撃しろ、【コスモクイーン】!」

 

 コスモクイーンが勝手に動きだし、エドへ向けてレーザーを放つ。その攻撃はバリアに阻まれ、威力を半減させて創へと飛んでいく。

 

「……フン、アカデミアの教師もやはりこんなものか」

「それはどうかな?」

 

LP1200

 

 デュエルは終わっていない。創の足元に広がる魔法陣が光線を弾き、彼を守っていた。

 

「罠カード【ピケルの魔法陣】。このターン俺が受ける効果によるダメージを全て0にする」

「……仕留め損ねたか」

「いやぁ危ない危ない。危機一髪とはこの事だな!」

 

 創はわざとらしく額の汗を腕でぬぐう。エドはそんな彼の姿を憎々しげに睨み付けた。

 

「お前の命が1ターン伸びただけだ。僕は【デステニー・ドロー】を発動。手札の【D-HERO】1体をセメタリーへと送り、2枚ドローする!」

 

 エドはドローしたカードを確認すると、ダイヤモンドガイへと指示を下す。

 

「【ダイヤモンドガイ】のエフェクト発動!」

 

 ダイヤモンドが輝きを増し、デッキの一番上のカードが公開される。

 

「デッキの一番上のカードは【同胞の絆】!このカードをセメタリーへ送り、次のターンに発動する。【ダイハードガイ】を守備表示に変更し、カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

攻800→守800

 

 

エド LP3500 手札1

モンスター:ダイヤモンドガイ ダイハードガイ

魔法・罠:D-シールド セット ダーク・シティ

 

 

「俺のターン、ドロー!……おっと」

 

 創がドローしたカードを確認して目を見開く。エドはそれを怪訝そうな表情で見つめた。

 

「何だ?良いカードでも引けたか?」

「あぁいや、何でもないさ。バトルだ!【コスモクイーン】で【ダイハードガイ】を攻撃!」

「させるか!【シフトチェンジ】を発動!攻撃対象を【ダイヤモンドガイ】へと変更する!」

 

 コスモクイーンが両手を構えレーザーを打ち出す。しかしダイヤモンドガイがダイハードガイを庇い、ガレキでレーザーを防いだ。

 

「くっ……なら、【サクリファイス】で攻撃だ!」

 

 コスモクイーンと入れ替わるように前に出たサクリファイスが、羽から生えたドリルガイでダイハードガイを貫いた。

 

「【ダイハードガイ】、この仇は必ず……!」

「えーと……うん。カードを1枚セット。ターンエンドだぜ」

 

創 LP1200 手札0

モンスター:サクリファイス コスモクイーン

魔法・罠:ドリルガイ セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 エドはドローしたカードを確認すると、それをすぐに発動させる。

 

「魔法カード【オーバー・デステニー】を発動!セメタリーに眠る【D-HERO】1体を選択し、そのモンスターの半分のレベルを持つ【D-HERO】をデッキから特殊召喚する!」

 

 エドの目の前に、大きな翼を持った悪魔のようなヒーローの幻影が浮かび上がる。

 

「なんだそのモンスター?」

「【デステニー・ドロー】によって捨てられた【ディアボリックガイ】のレベルは6!カモン、レベル3!【D-HERO ダガーガイ】!」

 

 ディアボリックガイの幻影が形を変えると同時に濃くなって行き、鋭い刃を構えたヒーローが現れる。

 

攻300

 

「さらにセメタリーの【ディアボリックガイ】は自身を除外することで、デッキの同名モンスターを特殊召喚できる!」

 

 大きな翼のヒーローが現れる。今度は幻影ではなく本物だ。

 

攻800

 

「さらに【ダイヤモンドガイ】によってセメタリーへ送られた【同胞の絆】を発動!デッキから【ダイヤモンドガイ】と同じ種族、属性でレベルの同じモンスターを特殊召喚する!」

 

 闇属性、戦士族、レベル4モンスターのダイヤモンドガイが助けを呼ぶと、エドのデッキから2体のヒーローが駆けつける。

 

「カモン、【ダンクガイ】、【ドゥームガイ】!」

 

ダンクガイ攻1200

ドゥームガイ攻1000

 

「モンスターを一気に4体も特殊召喚してくるとは……!」

「それだけじゃない!僕は【ディアボリックガイ】と【ダガーガイ】を生け贄に!」

 

 2体のモンスターが影の柱に飲み込まれる。柱はゆっくりと近づいてひとつになり、巨大化していく。

 

「【D-HERO ドレッドガイ】を召喚する!」

 

 影の柱を打ち破るように、今までのD-HEROとは気色の違う巨人が現れる。鉄仮面が取り付けられ、全身を鎖で拘束された囚人の様なヒーローだ。

 

攻?

 

「攻撃力が定まっていない最上級モンスターか!」

「【ドレッドガイ】の攻撃力は、他の【D-HERO】の攻撃力を合計した値になる!よってその攻撃力は」

 

攻?→3600

 

「攻撃力、3600だって……!?」

 

 3体のD-HEROの力を集め、ドレッドガイが刺々しい白い光のオーラを纏う。

 

「【サクリファイス】にはダメージを反射するエフェクトがあるが……それ以前にライフが0になれば終わりだ!【ドレッドガイ】で【サクリファイス】を攻撃、プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 

 ドレッドガイがその巨体に似合わぬ軽快な動作で空を舞い、空中からその拳を叩きつける。

 

「ぐっ、ぐぁぁぁっ!!」

 

LP1200→0

 

 創のライフが0になったことでデュエルが終わる。彼のフィールドに伏せられていた、ウィジャ盤のカードがハラリと地面に落ちた。

 

「な、何が起こっているノーネ!?」

「大事件でアール!?」

「なんだなんだ?なんの騒ぎだ?」

「アニキ~置いてかないでッス~!」

 

 デュエルの音に気づいたのか、十代達が集まってくる。クロノスは倒れたまま動かない創を見つけ大慌てで駆け寄る。

 

「マンマミーア!?本当に何がどうなっているノーネ!?」

 

 十代は創を見ると、エドへと詰めより胸ぐらをつかむ。

 

「てめぇ!先生に何しやがった!」

 

 エドはそれを煩わしそうに軽く弾く。

 

「彼がデュエルを挑んできただけさ。それよりも十代。明日の早朝、この学園のデュエル場でデュエルしよう」

「何?」

「どちらが本物のヒーロー使いなのか、格の違いを見せてやる」

 

 そう言い残し、彼は月明かりを背に去っていった。




~カード紹介のコーナー~

D-HERO ドレッドガイ
効果/星8/闇属性/戦士族/攻 ?/守 ?
「幽獄の時計塔」の効果で特殊召喚した場合、自分フィールド上の「D-HERO」と名のついたモンスター以外の自分のモンスターを全て破壊する。
その後、自分の墓地から「D-HERO」と名のついたモンスターを2体まで特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚されたターン、自分フィールド上の「D-HERO」と名のついたモンスターは破壊されず、コントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
このカードの攻撃力・守備力は、自分フィールド上のこのカードを除く 「D-HERO」と名のついたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。

言わずと知れたエドの初期の切り札。当時は凄く強そうに思えましたが、出す手間を考えると……。
しかし基本的には攻撃力の低いD-HEROの中では高いステータスを出せます。
モンスターを特殊する効果を通常召喚でも使えれば良かったんですけどね。そちらの効果は幽獄の時計塔の効果で特殊召喚されたとき限定なのです。
幽獄の時計塔は当時ビックリでしたね。魔法・罠を除去したり効果ダメージを与える脳が無かった昔の僕にとって、一度カウンターがそろえば無敵になれるカードでした。


クロノス校長、そしてナポレオン教頭のオシリスレッド取り潰しに対抗し、レッド寮に集まる明日香達。
そんな中、深月と明日香をアイドルにする計画が浮上。明日香の兄である天上院吹雪は2人をプロデュースしようとするが、嫌がる深月を守るため遊陽が立ちあがり……?
次回、「深月がアイドル!?(前編) 敏腕プロデューサー、ブッキー!」


久々の単発回。三人称視点を書いてると疲れる作者です。エドや十代とデュエルするせいで負け続きの終理先生。強い人の筈なのに相手が悪すぎる。
サクリファイスは相手モンスターを吸収して攻撃力をアップさせるので実質Bloo-Dと言っても過言ではないと思います。
通常召喚出来ないのも一緒ですね。
それでは、また次回もお読みいただけたら嬉しいです!
ではでは!


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35話 深月がアイドル!?(前編) 敏腕プロデューサー、ブッキー!

明らかにパワーの足りないデッキはどうしたら良いか悩んでしまいます……ので、ごめんなさい今回吹雪さんのデッキは獣戦士族じゃないです(微ネタバレ)


「十代君、大丈夫かしら」

「……うん。あの後から様子がおかしいし、心配だよ」

 

 授業中の私語はいけないとは分かっているけど、深月とついつい話してしまう。

 十代がエド・フェニックスに敗北した。その後十代はスランプに陥ってしまった様で、まったくデュエルをしていない。

 佐藤先生の授業も、あまり耳に入ってこなかった。

 授業が終わると、僕の机の周りに女子生徒が集まってくる。

 

「ね、ねぇ黒野君!勉強で教えてほしいところがあるんだけど……」

「黒野君、アンティデュエルの犯人を捕まえたって本当?」

 

 クロノス先生の依頼を受けて犯人を捕まえた辺りから、女子生徒が集まってくるようになった。

 

「犯人を捕まえたのは僕じゃなくて1年生の子だし、勉強なら鏡泉君に聞いた方が分かりやすいと思うよ?」

 

 そう言ってあしらおうとはしているが、

 

「でも、鏡泉君って他の寮の人に教えたりしてて忙しそうだし……ダメかな?黒野君」

 

 このように大抵の場合は引き下がってくれないのだ。

 

「ふん。じゃあ私、バイトに行くから」

 

 僕がうまくあしらえないでいると、深月が機嫌を悪くして教室を出ていってしまう。

 深月以外には興味がないから正直邪魔なのだけど、深月の交友関係の事を考えると酷いことを言うわけにもいかない。

 

「深月!……ごめんね。僕もアルバイトがあるから。教えられる時間はないかな」

「「えー!」」

 

 僕はすぐに席を立ち、購買部へ向かう深月を追いかけた。

 深月は廊下を普段よりも5割程速く歩いていた。僕は軽く走って彼女に追い付き、声をかける。

 

「深月……機嫌、悪いの?」

 

 深月はだんだんと歩く速度を遅めて行き、立ち止まる。

 

「……別に。気にしてないわよ」

「……僕はあんまり人の気持ちが分からないから、何て言えば分からないけど……」

 

 僕は周囲に人がいないことを確認すると、彼女の頭に手を置いて撫でる。

 

「深月が望む限り、僕はずっと深月の側にいるよ」

 

 深月は振り返ると、僕を不安そうな瞳で見つめた。

 

「……じゃあ、もし、もしも私が遊陽の事を嫌いになったら……」

「……うん。深月が僕の事を嫌いになったら、僕は君には近づかないよ。考えたくはないけどね」

「……遊陽は、遊陽自身は、私と……」

 

 その後の言葉は、僕が聞き取れないほど小さな声で呟かれてしまう。

 

「何?」

「ううん、何でもないわ!ほら、トメさんも待ってるわよ!」

 

 深月は急に明るい声を出すと、僕の手を取り歩き出す。でも明るいのは声だけだ。どこか無理をしているような、そんな気がする。

 僕は深月と一緒に居たい。だけど元々人間じゃなかった僕は、人が何を言われたいのか分からない。

 僕たちは黙りこんだまま、購買部に辿り着いた。

 

 

 その日のアルバイトは、何だかぎくしゃくしてしまっていた。終始雑談もできず、ただレジを打ったり掃除をしたりするだけ。

 

「はい。これで今日はお仕舞いだね。また明日も頼むよ?」

「はい。お先に失礼しますね、トメさん」

「ありがとうございました」

 

 深月が更衣室へ行ったのを確認すると、トメさんが僕に話し掛けてくる。

 

「どうしたんだい二人とも、喧嘩でもしたのかい?」

「喧嘩……なのでしょうか。最近、深月の機嫌が悪いみたいで……」

「何かあったのかい?」

「うーん……最近、けっこう女子に話し掛けられるようになった事以外は……」

「それよ遊陽ちゃん!遊陽ちゃんは深月ちゃんの事、好きなんでしょ?」

「はい。大好きです」

 

 トメさんはそう言った僕を微笑ましく見ると、僕の肩をポンポンと叩き話し出す。

 

「なら、それをちゃんと伝えなきゃ!深月ちゃんを安心させてあげなよ!」

「安心?」

「そこから先は自分で考えるのよ。女心ってのは難しいけどねぇ」

 

 ずっと深月の事しか見てこなかったから、深月の事は分かっているつもりだ。でも、女子と言うものがどう言うものなのか、いまいち掴めていない。

 

「頑張るのよ」

「はい。ありがとうございます!」

 

 それでも、深月を幸せにするためには、このままじゃいけない事は分かってる。

 

 

 購買部の制服からアカデミアの制服に着替えると、外で深月が待っていてくれた。

 

「深月、待っててくれたんだね」

「う、うん……私、この後レッド寮に行くんだけど……」

 

 その先の言葉を言いづらそうにしている。深月は素直な性格だからこんなことは少なかったけど、これが女心……なのかな?

 

「良かったら、僕も一緒に行って良いかな?」

「……!うん!行きましょ、遊陽!」

 

 深月は顔をパァっと明るくすると、ニッコリと笑う。

 うん。やっぱり深月は笑っているのが一番だ。僕たちは校舎を出て、かなり離れた位置にあるレッド寮へと歩いていく。

 

「そういえば、レッド寮に何か用があるの?」

「明日香に会いに行くのよ」

「天上院さんは女子寮に居るんじゃ?」

「今はレッド寮に居るみたい。なんだか最近、クロノス校長とナポレオン教頭がレッド寮を潰そうとしてるみたいなの」

「2人が?」

 

 クロノス校長は1年生の時はレッド寮を蛇蝎のごとく嫌っていたけど、最近ではとても良い先生だ。そんな先生がレッド寮を潰すだなんて考えにくいけど……。

 

「それで最近、レッド寮を守ろうって話になってね、丸藤君とか三沢君とかもレッド寮に集まっているの」

「それでレッド寮に……クロノス校長には悪いけど、僕もレッド寮の取り潰しには反対かなぁ」

 

 今レッド寮にいる人を皆イエローにあげた上で……という話なら良いかもしれないけど、きっと退学にでもするのだろう。丸藤君は2年になってイエローになったけど、十代はレッド寮のままだ。

 崖の近くにあるオンボロの建物が見えてくる。あれがレッド寮だ。でもその隣に、何かしっかりとした造りの建物が建っている。

 

「なんかグレードアップされてるわね」

「うん。レッド寮自体はそのままだけど……あれはなんだろう」

 

 新しく建てられたらしいその建物に近づき、扉をノックする。するとガチャリと扉が開き、天上院さんが出てきた。

 

「明日香!ここは何?」

「深月、それに黒野君も来てくれたのね。ここは万丈目君が建てたんだけど、今は私が使わせてもらってるの」

 

 建物に入る。そこはレッド寮とは思えないほど快適な空間だった。広い1階にはソファや椅子、テレビもあり、2階まである。

 僕らの他にも既に何人か来ているようだ。三沢君に丸藤君、万丈目君と……誰だろう、筋肉が凄いラーイエローの生徒だ。

 

「えっと……どちら様だドン?」

「……ドン?」

 

 あまりに聞いたことのない不思議な語尾につい聞き返してしまう。

 

「えっと……僕は黒野遊陽。オベリスクブルーの2年生だよ」

「私は星見深月。遊陽と同じオベリスクブルーの2年よ」

 

 僕達の自己紹介を聞くと、そのイエローの生徒も立ち上がって自己紹介を始める。

 

「俺はラーイエローの1年にして十代のアニキの弟分、ティラノ剣山だドン!」

「十代の?」

「そうザウルス!」

「ふ、不思議な言葉遣いね……?」

 

 深月も失礼な言動にならないよう気を付けているのか、疑問形になってしまっている。個性の塊のような人物だ。

 

「ちょっと!アニキの弟分は僕だけで十分ッスよ!」

「まぁ落ち着くんだ翔。黒野達もよく来てくれた」

「騒がしいやつらめ……」

 

 十代は相変わらず部屋に籠ってしまっている様だ。ご飯を食べに食堂までやっては来るけど、その後は帰ってしまうらしい。

 どうしたら彼を元気付けられるのか話し合っていると、外からウクレレの音が聞こえてくる。

 僕達は建物を出て音源を探すと、ボートの上に立つ、アロハシャツを着た顔の良い男性がこちらに手を振っていた。

 

「おーい、あーすかー!」

「ど、どちら様ザウルス?」

「……年長さんだ」

 

 天上院明日香の兄、天上院吹雪先輩だ。

 天上院先輩は崖を軽く登り、僕達の前に立つ。

 

「やぁ皆!それに明日香!」

「こんなところまで何しに来たのよ兄さん」

「決まっているだろう?君をブルー寮に連れ戻すためさ!」

 

 その言葉に続けて、さらに崖から誰かが登ってくる。ダイビングスーツを着てボートを背負ったクロノス校長だ。

 

「クロノス校長!?」

「シニョーラ深月、それにシニョーラ明日香。今日は貴女達に大切な話をしに来ましたーノ」

 

 クロノス校長は背負ったボートを置くと、そのまま喋り始める。

 

「えー、貴女達ニーハ、オベリスクブルーに新設されるアイドル学部に移ってもらうノーネ」

「先生、その話はお断りした筈です!」

「えっと、アイドル学部?」

 

 前々から話されていた様子の天上院さんとは対照的に、深月は何も聞いていなかった様で首をかしげている。

 

「そこから先は僕が説明しよう。星見さん!君のルックス、そして歌声、運動神経!どれをとっても一流のアイドルに相応しい金の卵さ!」

「は……はぁ……?」

「星見さんにはアスリンとユニットを組み、このデュエルアカデミア初のアイドルユニットとして、一世を風靡して貰いたいんだ!」

 

 ……。

 脳が理解を拒んでいる。

 

「む、無理です無理です!私、アイドルなんて絶対無理です!」

「そんなことは無いさ!僕が完璧にプロデュースしてみせる!君達ならきっと世界を勝ち取れる!華麗な衣装を着て、世界を舞台に歌うんだ!」

 

 天上院先輩はアイドルと言うものを熱弁し始める。

 

「良い!」

「良くない!」

 

 何を想像したのか顔を真っ赤にした万丈目君が叫ぶと、天上院さんに怒られてしまう。

 

「ちょっと待って下さい。深月の気持ちはどうなんですか?」

 

 深月と天上院先輩の間に立つ。深月がそれを望むなら止めたりはしないけど、嫌がっているのならアイドルなんてやらせる訳にはいかない。

 

「黒野君……。君は見たくないのかい?彼女が大舞台で華やかに歌う姿を!」

 

 華麗な衣装を着て歌う深月……うん。見たい。見たいけど、大切なのは彼女の意志だ。

 

「……見たいですけど、深月の意見が一番大切です。深月は、アイドルになりたい?」

「……ごめんなさい。私にアイドルなんて出来ないわ」

「何故だい?歌は好きじゃないのかい?」

「歌は好きよ。でも、アイドルって歌うだけじゃない。踊ったり、お話ししたり、皆を笑顔にしたり……」

「それなら大丈夫さ!トークスキルやダンスの仕方も、手取り足取り教えてあげよう!……な、何だ?急に悪寒が」

 

 変なことを言い出した先輩を睨み付けると、彼は急に体を震わせる。今はそんな気温じゃないんだけどなぁ。

 

「……歌手にはなりたいと思っているわ」

「本当かい?」

「……うん。私、歌が大好きだから。でも、もし私が歌の世界に進むなら、歌をオマケにしたくないの」

 

 正直な話、それほど歌が上手くなくても歌手をしている人は何人もいる。トーク、ビジュアル、面白さ、発想力。歌だけで勝負をしている人なんてほとんどいないし、評価するものが人である以上、歌だけで評価するのはとてもじゃないが無理だ。深月の様なルックスがあればなおさら。

 

「シニョーラ深月……」

 

 深月の言葉に感動しているのか、クロノス校長がしんみりとしている。

 天上院先輩は真剣な表情になると、深月に語る。

 

「うん。それは素敵な夢だ……でも、歌だけで勝負していけるほど、芸能界は甘くないよ。評価点が歌しかないのなら、他の人の何倍も上手くなければ注目はされない」

「……分かってます。でも、それでも私は、まずは歌で評価してほしいんです」

 

 深月のその真剣な表情を見て、天上院先輩はため息をついた。

 

「なるほどね。うん。良い顔をしているよ……あぁ、表情という意味でね」

 

 天上院先輩はうなずくと、両手を広げる。

 

「こうなれば仕方がない!ユニットを組むのは断念して、アスリンはアイドル、星見さんは歌手としてプロデュースを――」

「ええっ!?」

 

 この人、何がなんでも深月を芸能界に連れていくつもりらしい。

 

「え、えっと……その……まだ歌手になると決めた訳じゃ」

「……深月をプロデュースしたいなら、僕が相手になりますよ」

「遊陽!?」

「黒野君!?」

 

 啖呵を切った僕の言葉に深月と天上院さんの2人が驚く。

 

「君は……」

「先輩は芸能界を良く知ってるのでしょう。けど、深月のことは僕が誰よりも知っています」

「ゆ、遊陽……」

「だから!深月のプロデューサーをするのはこの僕です!」

「遊陽!?」

 

 決して悪い人ではないのだろうけど、このちゃらんぽらんな人に深月を任せたくはない。それにプロデュースするなら誰か一人に集中するべきだろう。

 

「……ふっ、良いだろう。僕が勝ったなら、星見さんとアスリンは僕がプロデュースするとしよう」

「僕が勝てば、僕が深月をプロデュースします」

「ちょっと待って遊陽私今すぐ歌手になるなんて一言も」

 

 僕と天上院先輩の間に火花が散る。

 

「な、なんか大事になってきたドン……」

「く、黒野君が壊れたッス……」

「……私、どちらにしてもアイドルにされてないかしら」

「こ、これはもう仕方ないなぁ天上院君!」

「黒野、お前はこれで良かったのか……?」

 

 

 

 僕と天上院先輩のデュエルは、その次の日に行われることになった。

 天上院先輩は、丸藤先輩の唯一のライバルと呼ばれていたほどのデュエリストだ。

 普段の態度からは全く想像できないけど。

 

『えー、シニョーラアンドシニョール、これより、シニョール吹雪とシニョール遊陽のデュエルを行うノーネ!』

 

 歓声が聞こえてくる。かなりの人数がこのデュエルを見に集まっているみたいだ。

 

『僕の指差す先に何が見える?』

『『『天!!』』』

『ん~JOIN!』

 

 会場には先に天上院先輩が入場した様で、女子達の黄色い悲鳴が聞こえてくる。

 今の掛け声が格好良い……のかな?女心とはなんとも難しい……。

 

『続いて、シニョール遊陽の入場ナノーネ!』

 

 急遽用意したのかは不明だけど、僕の方の出口から霧が発生し、その中を歩いていく。

 霧吹きのようなものなのだろう。ひんやりとしていて心地が良い。霧がだんだんと晴れて僕の姿が現れると、先程よりも少ないとはいえ女子達の声が聞こえてくる。

 

『黒野くーん!』

『がんばれー!』

 

 深月や天上院さんのものじゃない。声のした方を見ると、同じ学年の普段あまり関わりのない女子達が応援していた。

 僕は軽く手を振って応えると、深月達が座っているところを見る。……十代は来ていない様だ。深月がちょっと不機嫌そうにこちらを見ている。……もしかして、あんまり他の女子とは関わってほしくないのかな?それなら、応援してくれていた彼女達には悪いけどあまり反応しない方が良いのかもしれない。

 

「君も中々やるねぇ黒野君。どうだい?僕と一緒にアイドルになってくれても良いんだよ?」

「僕は運動神経が悪いので踊れませんよ。それに、深月が僕を好きでいてくれる限り、彼女から離れるつもりもありません」

「愛、だね」

「はい。さぁ、始めましょうか先輩」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 吹雪

 

「僕の先攻だね、ドロー!さぁ、アスリン、そして星見さん!よく見ておくんだよ、芸能界とはどういうものかを!僕は【野獣戦士ピューマン】を召喚!」

 

 空間を切り裂き、黒豹の戦士が現れる。

 

攻1600

 

「【野獣戦士ピューマン】……?」

「そうとも!【ピューマン】は智略と巧みな剣技で敵を翻弄する孤高の戦士!そして彼はとある人物の師匠たる存在なのさ。アスリン達に対する僕のようにね」

 

 ……なんだろう。若干鏡泉君に近い空気を感じる。女子人気は圧倒的に先輩の方が良いのだろうけど。

 

「【野獣戦士ピューマン】の効果を発動!自身を生け贄とし、最高の弟子である【異次元エスパー・スター・ロビン】を手札に加える。【強欲なカケラ】を発動し、カードを1枚セット。ターンエンドさ!」

 

 

吹雪 LP4000 手札4

モンスター:無し

魔法・罠:強欲なカケラ セット

 

 

 モンスターをサーチしたのは良いけどフィールドはがら空きだ。でも相手はあの天上院先輩。油断はできない。

 

「僕は【ファーニマル・ドッグ】を召喚!」

 

 僕の前に、可愛らしい羽の生えたイヌのぬいぐるみが飛び出してくる。

 

攻1700

 

「【ファーニマル・ドッグ】の召喚に成功したとき、デッキから【ファーニマル・ベア】を手札に加えるよ」

 

 ファーニマル・ドッグが1枚のカードを咥えてやってくる。僕はそのカードを受けとると、頭を撫でてあげた。

 

「バトル!【ファーニマル・ドッグ】でダイレクトアタック!」

 

 ワン!と吠えたファーニマル・ドッグが飛び上がり、天上院先輩にその牙を向く。

 

「待った!といわせて貰おうか!永続罠【リビングデッドの呼び声】を発動し、蘇れ、【野獣戦士ピューマン】!」

 

 天上院先輩の足元が割れ、現れた黒豹の戦士がファーニマル・ドッグの攻撃をいなす。

 

攻1600

 

「それでもステータスでは勝っています!攻撃を続行!」

 

 体勢を建て直したファーニマル・ドッグが、黒豹へと狙いを変え噛みつく。

 

「それもさせないよ!手札の【ビビット騎士】の効果!自分の獣戦士族・光属性モンスターが攻撃の対象になったとき、そのモンスターを除外することで、このカードを手札から特殊召喚できるのさ!」

 

 窮地に立たされた黒豹の手を引いて後ろへと下げ、ウサギの騎士が華麗に入れ替わる。

 

攻1700

 

「攻撃力が同じ……相討ちはあまりしたくないですね。カードを1枚セット。ターンエンドです」

 

 

遊陽 LP4000 手札5

モンスター:ファーニマル・ドッグ

魔法・罠:セット

 

 

「ふふふ、安心してくれよ黒野君。彼女達は必ず、立派な芸能人へと成長させて見せるさ!」

 

 まだデュエルは始まったばかり。それでも天上院先輩からは、今までとは違う圧倒的なプレッシャーを感じていた。




高ステータスのモンスターを展開する吹雪。苦戦する遊陽の前に、異次元を駆けるあのスターが現れる!
次回、「深月がアイドル!?(後編) スター・ロビンよ永遠(とわ)に!」


申し訳程度の獣戦士族要素。
スター繋がりと言うことで、吹雪さんにはスター・ロビンデッキを使ってもらう運びとなりました。
本気を出すときは真紅眼なのでしょうけど、芸能界とはこうだ!と言うものを教えてくれるデッキの筈……?
それでは、また次回も読んでいただけたら嬉しいです!
ではでは!

追記
誤字報告ありがとうございます!


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36話 深月がアイドル!?(後編) スター・ロビンよ永遠に!

前回からの続きです。ぜひ前回を先に読んでいただけると嬉しいです。


「僕のターン、ドロー!」

 

 天上院先輩が大振りな動作でカードを引く。その一挙手一投足に女子達から歓声があがる。

 

強欲なカケラ(1)

 

「【ビビット騎士】に助けられたモンスターは、次のスタンバイフェイズに戦線に復帰するのさ!」

 

 ビビット騎士の背後から、野獣戦士ピューマンが再び現れる。

 

攻1600

 

「モンスターが増えた……!」

「ふふふ、それだけじゃないよ?僕は【ビビット騎士】を生け贄に捧げ、【鳳王獣ガイルーダ】を召喚する!」

 

 ビビット騎士が一礼して消え去ると、炎を纏った巨大な鳥が現れ、野獣戦士ピューマンの隣に降り立つ。

 

攻2500

 

「攻撃の高い【ビビット騎士】の方を生け贄にした……?」

 

 天上院先輩ほどのデュエリストが、こんな単純なミスを犯すとは思えない。何か野獣戦士ピューマンを残しておく理由があるのかな……?

 

「さぁバトルだ!【鳳王獣ガイルーダ】で、【ファーニマル・ドッグ】を攻撃!【ガイルーダ】はモンスターに攻撃するとき、攻撃力が300アップするのさ!」

 

 ガイルーダの纏う炎が勢いを増していく。

 

攻2500→2800

 

「レベル6で攻撃力2800のモンスター……!?」

 

 ガイルーダの炎を纏った突進で、ファーニマル・ドッグが撥ね飛ばされ破壊される。

 

「くっ……」

 

LP4000→2900

 

「でも、【ファーニマル・クレーン】を発動!【ファーニマル・ドッグ】を手札に戻して、1枚ドロー!」

「回収したか。だが、【野獣戦士ピューマン】でダイレクトアタック!」

 

 野獣戦士ピューマンは目にも止まらぬ早さで僕に近づき、居合い切りの様に僕を切り裂く。

 

「ぐぁっ……」

「遊陽……!」

 

LP2900→1300

 

 深月が悲鳴の様な声をあげる。負けるわけにはいかないけど……やっぱりこの人、強い。

 

「カードを2枚セット。まだまだスター・ロビンの仲間達はこんなものじゃないぞ?ターンエンド!」

 

 

吹雪 LP4000 手札1

モンスター:鳳王獣ガイルーダ 野獣戦士ピューマン

魔法・罠:強欲なカケラ リビングデッドの呼び声 セット セット

 

 

「僕のターン、ドロー!見せてあげます!【融合】を発動!手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ドッグ】そして【ファーニマル・ラビット】を融合!」

 

 僕の前に3体のモンスターが現れ、それらが渦の中へと飲まれていく。

 

「刃向かう者を処刑せよ、冷徹のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・タイガー】!」

 

 美しい水色の毛皮を見せつけるように、腹部からハサミの飛び出たモンスターが現れる。

 

攻1900→2200

 

「【シザー・タイガー】の融合召喚に成功したとき、その素材の数までフィールドのモンスターを破壊できます!」

「素材となったモンスターは3体……一気に3枚ものカードを破壊するだって!?」

「対象は【ガイルーダ】とセットされたカード2枚!」

 

 シザー・タイガーが腹部のハサミをグインと伸ばし、先輩のフィールドを切り裂こうとする。

 

「させないよ!僕のモンスター達は、いわば僕がプロデュースする芸能人なのさ!そんな皆を守るのもプロデューサーの仕事さ!速攻魔法【我が身を盾に】発動!」

 

 天上院先輩から先輩自身のソリッドビジョンが現れ、モンスター達を庇うように立ちはだかる。

 

「ライフを1500払うことで、モンスターを破壊する効果を無効にして、破壊する!」

 

LP4000→2500

 

 先輩のソリッドビジョンは閉じられるハサミを押さえ付けると、逆にそれを掴んでシザー・タイガーを投げ飛ばす。

 

「「「キャー!素敵ー!」」」

 

 そして黄色い歓声。

 

「くっ……でも、素材となった【ラビット】の効果で【ドッグ】を墓地から手札に加え、さらに【融合回収】を発動。墓地から【融合】と【ラビット】を手札に戻します」

「なるほど、ちゃんとバックアップも考えてあるんだね」

「【我が身を盾に】は予想外でしたけどね」

 

 我が身を盾にはかなり有用な効果を持っているカードだ。でも初期ライフは4000しかないから、1500ポイントのコストは重い。だからあんまり使う人は少ないと思っていたんだけど、やっぱり普通の人とは感性が違うのだろう。

 

「僕は【パッチワーク・ファーニマル】を召喚!」

 

 ツギハギだらけの、栗色のクマのぬいぐるみが現れる。深月の方をちらりと見やるけど、もう彼女が怯えることはない。

 

攻0

 

「【パッチワーク・ファーニマル】はフィールドにいるとき、融合素材の代用として使うことができます!僕は【パッチワーク・ファーニマル】を【エッジインプ・チェーン】として扱い、【融合】を発動!手札の【ファーニマル・ドッグ】と融合させます!」

 

 2体のファーニマル。本来ならデストーイの生まれないその組み合わせ。しかしパッチワーク・ファーニマルの体が破けると、そこからひっくり返るようにその姿が変わり、エッジインプ・チェーンが現れる。

 

「全てを縛れ、沈黙のケダモノ!おいで、【デストーイ・チェーン・シープ】!」

 

 鎖に縛られたヒツジのぬいぐるみが、天上院先輩を見てケタケタ笑う。

 

攻2000

 

「バトル!【デストーイ・チェーン・シープ】で【鳳王獣ガイルーダ】を攻撃!」

「攻撃は負けているのに……かい?」

 

 チェーン・シープが鎖を伸ばす。しかしガイルーダは逆にそれを掴み、導火線にしてチェーン・シープに火を放つ。

 

LP1300→800

 

「破壊された【チェーン・シープ】は、攻撃力を800ポイントアップさせて、特殊召喚されます!デストーイ・バックアップ!」

 

 フィールドに残ったチェーンが地面に突き刺さり、一度眠りについたチェーン・シープを引き揚げる。

 

攻2000→2800

 

「攻撃力が逆転した……!」

「【チェーン・シープ】で【鳳王獣ガイルーダ】を攻撃!モノポライズ・チェイン!」

 

 先程よりも勢いの増した鎖がガイルーダを貫き、破壊する。

 

「ぐっ……」

 

LP2500→2200

 

「「「ふ、吹雪様ー!?」」」

 

 女子から悲鳴があがり、逆に男子からは歓声があがる。……なんだか、男子達から絶対に勝てよと言わんばかりのプレッシャーを感じるのは気のせいだろうか。

 

「ふ、ふふふ。まだまだ大丈夫さ!」

「カードを2枚セットして、ターンエンドです」

「なら僕はエンドフェイズに罠カード【戦線復帰】を発動。墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚するよ。戻っておいで、【ガイルーダ】!」

 

 再び炎の鳥が現れる。せっかく倒したのに。ピューマンを攻撃してダメージを増やした方が良かったのかもしれないが、それは結果論だ。

 

守1200

 

 

遊陽 LP800 手札1

モンスター:デストーイ・チェーン・シープ

魔法・罠:セット セット

 

 

「僕のターンだね、ドロー!」

 

強欲なカケラ(2)

 

「僕は【強欲なカケラ】を墓地へ送り2枚ドロー!さらに【マジック・プランター】を発動して【リビングデッドの呼び声】を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

 手札が一気に増えてきた……!

 

「うんうん。我ながら良いドローだね!まずは【冥界の宝札】を発動。さらに【ガイルーダ】を攻撃表示に変更。手札の【ビッグ・ワン・ウォリアー】は、レベル1のモンスターを手札から捨てて特殊召喚できる!」

 

守1200→攻2500

 

 爆発と共に、顔面に1と書かれた戦士が現れる。

 

守600

 

「さらに捨てられた【レベル・スティーラー】は、自分のレベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げて、墓地から特殊召喚できる!」

 

 鳳王獣ガイルーダのレベルを喰らい、1つ星の天道虫が現れる。

 

ガイルーダLV6→5

レベル・スティーラー守0

 

「僕は【ビッグ・ワン・ウォリアー】と【レベル・スティーラー】を生け贄に捧げ、【異次元エスパー・スター・ロビン】を召喚する!」

 

 2体のモンスターが消え去り、仮面をつけた異次元のヒーローが現れる。

 

攻3000

 

「攻撃力3000……!?」

「【冥界の宝札】の効果で2枚ドロー!さらにフィールドに【ロビン】【ピューマン】【ガイルーダ】の3体が存在しているとき、手札の【鉄巨人アイアンハンマー】を特殊召喚する!」

 

3体のモンスターの背後に現れる巨大ロボット。その姿は正に動く要塞だ。

 

守3500

 

「高レベルモンスターを、こんなに簡単に……!」

「【ガイルーダ】のレベルを1つ下げて、【レベル・スティーラー】を特殊召喚するよ」

 

ガイルーダLV5→4

レベル・スティーラー守0

 

 5体のモンスターの内3体は、それぞれのレベル帯でもトップクラスのステータスを持っている。しかし先輩は、そんなカードをいとも簡単に操ってみせる。

 

「【アイアンハンマー】の効果発動!このターン僕のモンスター1体は、相手に直接攻撃が可能になる!」

 

 鳳王獣ガイルーダがアイアンハンマーの肩に飛び乗る。

 

「バトルだ!【スター・ロビン】で【チェーン・シープ】を攻撃!ビック・リパンチ!」

 

 スター・ロビンのパンチがチェーン・シープを叩き潰す。

 

「っ!」

 

LP800→600

 

 でもチェーン・シープは蘇る!

 

「デストーイ・バックアップ!」

 

守2000

 

「さぁ行くんだ!【鳳王獣ガイルーダ】でダイレクトアタック!」

 

 アイアンハンマーが僕のモンスター達を強行突破して目の前までやってくる。

 アイアンハンマーから飛び降りたガイルーダが、位置エネルギーを味方につけ突進を繰り出す。

 

「まだだよ!リバースカードオープン!【ガード・ブロック】!ダメージを0にして、1枚ドローします!」

 

 間一髪、ガイルーダの攻撃をかわした僕は、カードを1枚引く。

 

「くっ……届かなかったか」

「遊陽……良かったぁ」

 

 深月の安堵する声が聞こえてくる。なんとかこの攻撃をかわしたとはいえ、ステータスでは負けている。どうすればこの状況を返せるのかな。

 

「ならば仕方がない!奥の手と言うものを見せてあげようじゃないか!」

「まだ奥の手が……!?」

「そうとも!チェンジ!ジェット・アイアン号!」

 

 レベル・スティーラーを除く4体のモンスターが飛び上がる。アイアンハンマーが変形して巨大な舟へと変わる。

 

「これが最強の姿!【異次元ジェット・アイアン号】だぁっ!」

 

攻4000

 

「攻撃力4000……!」

 

 巨大な舟の上から、スター・ロビン達が僕らを見下ろす。

 攻撃力4000。常識では考えられない高ステータスだ。

 

「バトルフェイズが終了しているからもう攻撃できないのは残念だね。カードを1枚セットしてターンエンドさ」

 

 

吹雪 LP2200 手札0

モンスター:異次元ジェット・アイアン号 レベル・スティーラー

魔法・罠:冥界の宝札 セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 このカードは……デストーイ・ファクトリー。うん。これなら勝てるはず!

 

「僕は【チェーン・シープ】を攻撃表示に変更するよ」

 

守2000→攻2800

 

「そして永続魔法【デストーイ・ファクトリー】を発動!さらにリバースカード【デストーイ・カスタム】を発動して、墓地から【パッチワーク・ファーニマル】を特殊召喚する!」

 

 僕の背後に魔玩具の生産工場が組み立てられると同時に、ツギハギだらけのクマのぬいぐるみがまた登場する。

 

攻0

 

「今度は【パッチワーク・ファーニマル】を【エッジインプ・ソウ】として扱い、【融合回収】を除外して【デストーイ・ファクトリー】の効果を発動!」

 

 パッチワーク・ファーニマルと手札のファーニマル・ラビットがベルトコンベアを流れていき、改造されていく。

 

「全てを引き裂け、狂乱のケダモノ!おいで、【デストーイ・ホイールソウ・ライオ】!」

 

 全身から丸鋸が飛び出た、痛々しい姿のライオンのぬいぐるみが現れる。

 

攻2400

 

「なるほど、そんなモンスターもいるんだね」

「【ホイールソウ・ライオ】の効果を発動!相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!ジェノサイド・ソウ・アドバンス!」

「何だって!?」

 

 ホイールソウ・ライオのタテガミから無数の丸鋸が飛ばされ、アイアン号を切り刻む。

 

「くっ……!だがリバースカードオープン!【幻蝶の護り】!このターン僕が受ける全てのダメージは半分になり、さらに相手モンスター1体を守備表示にする!」

 

 さっき攻撃表示になったばかりのチェーン・シープが、幻の喋々に惑わされ、守備表示になってしまう。

 

攻2800→守2000

 

 それでもアイアン号は破壊され、その残骸が降り注ぐ。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

LP2200→200

 

 ライオはその効果を使用したターンは直接攻撃できないし、チェーン・シープはこのターン表示形式を変更してしまっている。なら、この最後の手札を発動させる!

 

「魔法カード【魔玩具融合】発動!墓地の【エッジインプ・シザー】と【パッチワーク・ファーニマル】、【ファーニマル・ドッグ】、【ファーニマル・ラビット】を除外して融合を行う!」

 

 ピンクと水色の明るい色の渦が現れ、4体のモンスターが飲み込まれていく。

 

「刃向かうものを喰らい尽くせ、残虐のケダモノ!おいで、【デストーイ・シザー・ウルフ】!」

 

 飢餓に満ちた瞳が天上院先輩を睨み付ける。暗い夜のような色の毛皮の、オオカミのぬいぐるみだ。

 

攻2000

 

「くっ……手札1枚から……!」

「バトル!【ホイールソウ・ライオ】で【レベル・スティーラー】を攻撃!」

 

 何度でも特殊召喚出来るとはいえ、レベル・スティーラー自体のステータスは貧弱そのもの。ライオの攻撃であっけなく墓地へと送られていく。

 

「これで終わりです、天上院先輩!【デストーイ・シザー・ウルフ】で、ダイレクトアタック!」

 

 シザー・ウルフの凶牙が天上院先輩に届く直前、彼の目の前に次元の裂け目が現れる。

 

「……芸能人とは楽な道じゃあない。場合によっては自らを犠牲にして、事務所を守らなくちゃならない場合もある」

 

 次元の裂け目から現れたスター・ロビンが天上院先輩の代わりにウルフに噛みつかれる。

 

「だが!その輝かしい記録は、映像として、記憶として、世界に刻まれるのさ!そう、スター・ロビンよ永遠(とわ)に!」

 

守1500

 

 現れたスター・ロビンは守備表示。攻撃力こそ高いものの、守備力は突出して高いと言う訳ではない。スター・ロビンは主を護り、消え去ってしまう。

 

「【異次元エスパー・スター・ロビン】は、相手の直接攻撃宣言時に最後の力を振り絞り、墓地から守備表示で特殊召喚される。感動的だろう?」

「……確かに、感動的ですね」

 

 完全に攻撃を凌いだ。そう確信しキメ顔で語っていた天上院先輩を、ウルフが頭で軽く小突く。

 

「えっ」

 

LP200→0

 

「ですが無意味です。【シザー・ウルフ】は融合素材にしたモンスターの数だけ、攻撃できますから」

 

 あまりに呆気ないその終わり方に、デュエルフィールドは静寂に包まれる。しかしそれも一瞬で、すぐに歓声や悲鳴があがり、僕たちの健闘を褒め称える声が投げられる。

 

「しょ、勝者は、シニョール遊陽デスーノ!」

 

 天上院先輩は膝から崩れ落ちる。

 

「ふふっ、負けたよ……君の星見さんへの想いが、この勝利をつかんだんだね」

「これで、深月の事は諦めてくれますね?」

「あぁ。頑張って輝かしい芸能界に、新たな旋風を起こしてくれ……!」

「……その話なんですけど、多分、深月はまだ歌手にはなりませんよ」

「……えっ?」

 

 深月の意見が一番大切だ。僕はあくまでもこのデュエルで自分を優位にしただけ。深月が天上院先輩のプロデュースを受けたいというのなら反対する理由はないし、まだ歌手になるのは……と言うのなら僕も彼女をプロデュースする気はない。

 まぁ、万が一深月が歌手になる覚悟を決めたのなら、僕も付き合うけど。

 

「くっ……ならば温めていた秘蔵の計画、ブッキーとアスリンの兄妹アイドルユニットを……!」

「次は私が相手になるわね?兄さん?」

 

 デュエルフィールドまで降りてきていた天上院さんが、底冷えのするような声で先輩に勝負を挑む。天上院先輩は冷や汗をかき、疲れた声で笑った。

 第二回戦の幕開けであった。

 

 

 かくして、深月と天上院さんをアイドルにする計画は中止になった。どうやら天上院先輩は、アイドル活動を通じて天上院さんに普通の女の子になって欲しかったようだけど、当の天上院さんはデュエルに恋をしているようで、その気持ちは届いていないようだ。




「「今回の最強カードは?」」

異次元エスパー・スター・ロビン
効果/星10/光属性/戦士族/攻3000/守1500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、他の自分のモンスターを相手はカードの効果の対象にできず、攻撃対象にもできない。
また、このカードが墓地に存在する場合、相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。
このカードを墓地から表側守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
「異次元エスパー・スター・ロビン」はフィールド上に
1体しか表側表示で存在できない。

「最上級モンスターとしても上位に位置するステータスを持つカードだね」
「他のモンスターを攻撃・効果の対象から守る効果も持っているわ」
「さらにピンチの時には墓地から自己再生してくれるから、守備力1500を守るカードがあるなら、その後も戦力として戦ってくれるね」


次回はデュエル(ほぼ)無しの幕間回になる予定です。
吹雪戦後編でした。なんだか微妙な出来になってしまった気がします。合体させない方が強いですもんね。
それと今回禁止カードであるレベル・スティーラーさんを使っていますが、リンクとか使うわけでは無いのでお許しください……。
それでは、また次回もお読みいただけたら嬉しいです!
ではではー!


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幕間 むかしのふたり

デュエル描写はほとんどない幕間です。2人の昔のお話。


『驚かせちゃってごめんね』

『ほんとよ!……まぁでも、私のためにデュエルしてくれたのは、嬉しかったわ』

 

 遊陽が天上院先輩とデュエルした日の夜。カーテンを閉めきった部屋で、電話越しに彼の声を聞く。

 遊陽が私をプロデュースする、だなんて言い出したときにはビックリしたけど、実は少しだけ嬉しかった。プロデューサーって言うことは、常に一緒にいることになるわけで……うん。卒業後も、遊陽と一緒に居たい。

 

『……でも、進路、かぁ。来年にはもうある程度決めておかなくちゃいけないのね』

『そうだね。就職したり、大学へ行ったり、プロデュエリストになったり……』

『本当に歌手になったり、アイドル……は無いけど、そんな進路も無くはないわね』

 

 私は……何をしたいのだろう。デュエルアカデミアに来たけど、実のところプロデュエリストになろうとは思っていない。……じゃあ何で入学したのかと問われれば……遊陽が居るから。それだけだ。

 遊陽はデュエルアカデミアにどうしても入学しなければいけないと言っていたから。……まぁ、まさか理事長の下で働く闇のデュエリストだとは思わなかったけど。

 

『……ねぇ、遊陽は、何か進路の事を考えてるの?』

『僕?……うーん。あんまり考えてないや。……2年生になれるとは思ってなかったし』

『そう、よね』

『でも、みんなには感謝してるよ。こうして今も深月と電話できて……嬉しいよ』

 

 遊陽と会話しながら、私は昔の事を思い出す。

 遊陽とは随分長く一緒にいる。彼と初めて会ったのは……正確には、人の体を手に入れた彼と初めて会ったのは、小学3年生の頃だ。

 今でも思い出そうとするとモヤが掛かって思い出せないけど、■■の■に出会った私は、ぬいぐるみにデュエルモンスターズの精霊を宿らせる降霊術を教わった。

 でも『彼』は、それを私に『友達をつくるおまじない』と嘘をついていたのだ。

 ……結果的には、嘘ではなかったけど。

 

「やーいやーい!」

「ケバいばばあの子だ!ケバ子だ!」

「お前の父ちゃんが母ちゃんとは違う女と一緒にいるのを見たって、うちの母ちゃんが言ってたぜ!」

 

 ……私は、苛められていた。

 私の両親は、あまり褒められはしない職業だった。どちらも夜の町の住人。私はホストとホステスの娘。

 なんでそんな2人が結婚したのかなんて私には興味は無いけど、2人の仲自体はとても良かった。

 どちらも異性を相手にする職業だからか顔は良く、それを引き継いだ私も、他の人からは美人だと言われていた。

 

「あんたが俊介君をユーワクしたのね!」

「ひどいわ!俊介君は晴海ちゃんのものなのに!」

「なんの話よ!そもそも俊介って誰よ?」

「呼び捨て……!?あんたなんかが俊介君を呼び捨てにするなんて、許せないわ!」

 

 その顔のせいで、男子だけじゃなく女子からも苛められた。

 私の事を好きになった男子が居て。その人を好きな女子が、私の事を恨んだそうだ。

 家にも居場所はなかった。父からはいやらしい視線で見られ、母からはそれを嫉妬された。

 そんな地獄のようなある日、彼は突然私の前に現れた。

 

「それじゃあ今日は、新しいお友だちを紹介するぞ」

 

 先生に指示され、教室に入ってくる男の子。長めの栗色の髪に赤い瞳。一瞬だけ女の子かと思ってしまうような容姿だ。

 

「……黒野遊陽です。よろしくお願いします」

 

 遊陽はニコリとも笑うことなく、クラスメイト達を憎々しげに睨み付けていた。

 初めて出会う筈なのに、何でそんな表情をするのだろう。それが少し不思議だった。

 

「それじゃあ黒野は……星見の隣に座ってくれ」

「……はい」

 

 彼は先生にも敵対的な視線を向けると、私の隣の席に座り、微笑みかけてきた。

 

「よろしくね、星見さん」

 

 それは、私にとってほとんど無い体験だった。私に微笑みを向けてくれたのは、祖父母だけだったから。

 

「ぁ……うん。よろしく」

 

 しどろもどろな答え方になってしまったけど、遊陽は特に気にしている様子はなかった。

 隣の席と言うこともあってか、彼とは自然に一緒に行動する時間が増えた。遊陽とは話が弾み、私はその頃初めて学校に行くのが楽しみになっていた。

 

「おい転校生!おまえケバ子に近づいちゃダメだぞ!」

「……どうして?」

「ケバ子の親は悪い人なんだ。だからケバ子も悪い奴なんだぞ!」

 

 遊陽に私の悪口を吹き込もうとした人は何人もいた。でも、

 

「星見さんは悪い子じゃないよ。転校してきた僕とよく話してくれるから」

 

 遊陽がそれに乗ることは無かった。

 それどころか今まで以上に私と一緒に居てくれる様になった。

 

「なんだと!?生意気なやつだ!」

 

 でも、遊陽まで苛められるようになってしまった。私は女子だから暴力を振るわれる事は無かったけど、遊陽は違った。同じ学年にしてはガタイの良い男子が集まっては、遊陽を私の目の前でボコボコにしていった。

 

「ごめんね……ごめんね……私のせいで……」

「ううん。星見さんは悪くないよ」

 

 遊陽は反撃することなく、男子達はますます調子に乗っていった。

 ……とある日までは。

 

「ねぇ、出して……」

 

 暗い、暗い部屋。扉は閉ざされたまま開かない。体育館の倉庫に、私はひとりで閉じ込められていた。

 

「出して……暑いよ……出して…よ……」

 

 喉はカラカラだ。真夏日の夜。空調なんてものは無く、空気の通り道は小さな窓しかない。

 体育の授業が終わった後、遊陽は男子達に連れていかれ、私は女子達に倉庫に閉じ込められてしまった。

 太陽は既に沈み、月と星の光だけが、辛うじて私の視界を照らしてくれている。

 それでももう体力の限界だった。

 

「深月ちゃん!」

 

 開けられる扉。いくつもの懐中電灯の光が目に刺さる。

 遊陽は私の手を取り、倉庫から助け出してくれる。遊陽の近くには数人の大人がいた。後々聞いた話によると大人達は学校の警備員さんや先生だったらしい。

 私は取り敢えずスポーツドリンクを飲まされ、病院へと送られる。

 幸いにも入院することは無かったけど、学校を何日か休むことになってしまった。

 その頃から、私を取り巻く環境は良くなっていった。

 まず最初に、私の両親が警察に捕まった。児童虐待がどうたら……と言う話だったけど、良くわからない。祖父母は既に他界していて私を引き取ってくれる人は居なかったから、私は施設に送られる事になった。

 幸か不幸か元いた学校とは近くにある施設で、通学先が変わることはなかった。

 休み明けに学校に行くと、何故か皆がやたらビクビクとした様子で私を見て、謝ってきたのだ。

 だけど一人だけ謝って来ない人がいた。

 

「けっ、暑いだけでズル休みしてんじゃねーよ!」

 

 私の事をケバ子と呼んでいた男子だ。彼は周囲の皆が止めるのも厭わず、私に向けづかづかと歩いてくる。

 

「ねぇ、俊介君。確か君ってデュエルモンスターズをやってたよね?」

「あぁ?なんだよ?」

 

 間に割り込んだ遊陽を睨み付ける。遊陽はデュエルモンスターズのカードの束を男子に見せ、ニッコリと笑った。

 

「僕もやってるんだよ。良かったらデュエルしてみない?」

「お前、俺が強いの知らないだろ?カードショップの大会でも優勝したんだぜ!」

 

 その頃は皆デュエルディスクなんて持っていなかったから、机の上にカードを置いてデュエルする。

 

「ごめんね深月ちゃん。取りこぼしがあったみたいで」

「取りこぼし……?」

「うん。すぐに深月ちゃんを苛めた事、後悔させてあげるから」

 

 デュエルは終始、遊陽が有利に進めていく。でも至って普通のデュエルだった。おかしくなってきたのは、男子のライフが1000を下回った頃から。

 

「な、なんだ?周りが……暗い……?」

 

 暗い、暑い。そんなことを言い始めた。お昼だから暗いことはないし、教室の中は涼しかったのに。

 

「な、なんだよコレ……!お前がなにかやったのかよ!?」

「……深月ちゃんがどれだけ苦しかったと思う?」

「は、はぁ?」

「僕を殴るのは構わないけど、深月ちゃんに手を出したのは許せないよ」

「い、意味わかんねーし!俺は【呪われし魔剣】を召喚して直接攻撃!」

 

攻1400

 

LP4000→2600

 

 遊陽のライフが減ると、彼の額から汗が流れ始める。冷や汗や緊張の類いではないだろう、暑さによる汗だ。

 

「僕のターン、僕は【くいぐるみ】を召喚」

 

攻1200

 

「さらに装備魔法【孤毒の剣】を発動して【くいぐるみ】に装備するよ。そして【呪われし魔剣】を攻撃!」

「はっ!【呪われし魔剣】の方が強いモンスターなんだぜ?」

「【孤毒の剣】は、装備モンスターの攻撃力を倍にするよ」

 

攻1200→2400

 

「な、なんだと!?」

 

LP1000→0

 

 男子のライフが0になる。ソリッドビジョンなどは無いから、遊陽は淡々とデッキを片付けていく。

 

「……ぁ……暑い……暑いよぉ!」

 

 だけど男子は違う。急にジタバタと暴れ始めた。体中からは汗が滝の様に溢れだしている。

 

「暗いよ!なんも見えねぇ!ここはどこだよ!」

 

 その異様な光景に、クラスメイト達が彼を助けようとはしなかった。

 皆……正確には私を倉庫に閉じ込めたメンバーは、遊陽の顔色を伺うようにして、震えていた。

 

「……深月ちゃんの事、好きだったんでしょ?でも、それじゃあ思いは伝わらない。愛する人を傷つけてどうするの?」

 

 遊陽はデッキを仕舞うと、床に倒れ動きが鈍くなってきた男子を見下す。

 

「ぁぁ……助けて、助けてよぉ……」

「っ!なんで皆助けないのよ!」

 

 私は男子に駆け寄り、下敷きで風を送る。それでも男子の体調は悪化するばかりだ。

 

「……深月ちゃんは、嬉しくないの?」

「何がよ?大変なのよ?」

「……君を苛めていた人が苦しんでいるのに、嬉しくないの?」

 

 遊陽は心底不思議そうに私を見て、首をかしげた。

 

「この人の事は嫌い。でも、苦しんでほしい訳じゃないの」

「……難しいんだね、人間って」

 

 当時は分からなかったその言葉の意味も、今では理解できる。なんで突然あの男子が苦しんだのかも。

 あれはきっと、闇のデュエルだったんだ。ライフポイントが0になったものは、私が味わった苦しみを受けることになる。きっと私を苛めていた他の皆もやられていたのだろう。だから皆、遊陽の事を恐れていたのだ。

 

「余計なお世話だったのかな。ごめんね」

 

 遊陽が自分の耳についた何かを触ると、男子が落ち着き始める。私達は皆で協力して男子を保健室へ送り、その後は私達に対する苛めはなくなった。

 とは言え、苛めの対象が恐怖の対象に変わっただけなので、友達が増えたりはしなかったけど。

 誰も教師や親に密告することは無かった。報復が恐ろしかったのだろう。

 デュエルモンスターズを始めたのはこの頃。私を守ってくれた遊陽が遊んでいたゲーム。興味を抱かないわけが無かった。

 

「――だから、レベル5以上のモンスターはそのまま出せないんだよ」

「なら、今の私の手札で召喚できるのは……【音女】ね」

 

攻1200

 

 今のデッキには入ってないけど、この音女と言うモンスターは私の宝物だ。私がデュエルモンスターズを始めたいと言ったとき、遊陽がくれた最初のカード。私が幻奏デッキを使うのは、このモンスターと出会っていたからかもしれない。

 

「私は【ダブルアタック】を発動。手札のレベル6モンスター、【逆転の女神】を捨てて、そのモンスターよりレベルの低い【音女】はこのターン2回攻撃できるわ!」

 

LP2000→800→0

 

「うん!凄いよ深月ちゃん!これなら来週の大会でもバッチリだね」

 

 遊陽と一緒に色んな大会に出た。カードショップが開催しているような小さな大会だったけど、それでも私達はデュエルモンスターズの腕をメキメキと上達させていった。

 中学校は、クラスメイトがほとんど進学しなかった少し離れた所へ行った。前の学校での出来事を知らない人がほとんどで、私が施設から来ていると知っても苛められることは無くなっていった。

 

「おい黒野!相変わらずお前はヒョロっちぃなぁ!」

「運動は苦手だから……」

「苦手苦手って逃げてんじゃねーよ!今日こそ勝負だ!」

「遊陽にしか勝負挑まないくせに。自分が勝てる相手だけに喧嘩売るのやめたら?格好悪いわよ」

「は、はぁ!?」

 

 しかし今度は遊陽がその対象になっていった。あまり男の子らしい見た目でもなく、勉強はできるけど運動がほとんどできなかった遊陽は格好の対象だった。

 男子達から呼び出され、殴られる。この頃の遊陽はいつも傷だらけだった。

 ……だから私は頑張った。勉強も、運動も、デュエルも。遊陽を守ることができるように。彼に恩を返せる様に。

 

『私も、遊陽と一緒に居られて嬉しいわ』

 

 色々あったけど、今となっては良い思い出……なのかな。遊陽は私の想いを受け入れてくれた。大好きだと言ってくれた。

 ……でも遊陽は、私の事を必要としてくれているのかな?

 必要だと思ってくれている筈だ。そう信じたい。

 遊陽は私のお願いに何でも応えてくれる。でも、遊陽が私に何かお願いしてきた事はない。

 私は、遊陽にとって必要ない存在なのではないか。たまにそんな考えが頭をよぎり、どうしようもない不安に苛まれる。

 

『深月?』

『ううん。何でもないわよ』

 

 最近、遊陽が他の女子と話す機会が増えた。子供っぽいとは分かっているけど、どうしても嫉妬してしまう。私の方がずっと昔から、遊陽の事を想っているのに。

 

『最近、色んな人とお喋りしてるわね』

 

 ……あぁ。言ってしまった。文句を言いたい訳じゃない。確かめたいだけなのに。

 

『……うん。深月達のお陰で体も丈夫になったし、それが原因かな?』

『そう……』

 

 言葉を選ぶように、遊陽は慎重に喋っているように感じる。

 

『……』

『でも、やっぱり深月とお話ししているのが一番楽しいよ』

『……!』

 

 顔のニヤケが止まらない。我ながらチョロい。たった一言そう言われてしまうだけで、嬉しさが溢れてくる。

 

『み、深月?』

『ぇへへ……あっ、何?』

『ううん。起きてるなら大丈夫だよ。もう夜も遅いし、今日はこのくらいにしようか?』

『そうね』

 

 そう言って電話を切ろうとしたとき、私の部屋に誰かが入ってくる。

 

「深月!」

「明日香!こんな時間にどうしたのよ?」

「大変よ、十代が行方不明なの!」





十代が行方不明になったことで、少しずつ学園はおかしくなっていく。夜道をひとり歩く深月の前に現れたのは、斎王と名乗る男だった。
次回、「揺蕩う月に光差す」


幕間その2、遊陽と深月の過去編でした。
くいぐるみと音女は名前以外のステータスが同じモンスターなんですよね。だからどうと言うわけでは無いのですが。
ようやく次回は斎王様の出番です。アニメオリカが結構多い人なので、この作品でもアニメオリカを使用します。
それでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです!
ではではー!


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37話 揺蕩う月に光差す

正位置の『月』:不安定、幻惑、不信。


「おーい、十代!」

『どこにいるのぉーん?』

 

 暗い森の中、万丈目準は行方不明になった十代を探していた。

 あのアイドル騒動の後、突如姿を消した十代。彼の友人達はパニックだった。しかし島中を探しているのに、彼が見つかることはない。

 

「あのバカ、一体どこをほっつき歩いているんだ……!」

『全然見つからないねぇん』

 

 そんな準の前に白い服を着た男が現れた。

 

「やぁ、探し物でもしてるのか?万丈目君」

「終理先生!?どうしてここに、いや、その服は……?」

「あぁ、これかい?これはちょっとしたイメチェン、かな。そういえば万丈目君、十代君を探しているのかい?」

「知ってるのか!?いや、知っているんですか?」

「あぁ」

 

 創はそう言うと、コートに付いたデュエルディスクを構える。突き刺すような刺々しい白いオーラが、彼の背後から立ち上がる。

 

「教えてあげよう。俺に勝てたら、な」

「ふざけないでください!僕たちは必死に……!」

「君には悪いけど、簡単には教えられないんだよ。これも運命の導きだから、ね」

 

 しびれを切らした準はデュエルディスクを展開し、創の前に立つ。

 

『ま、待ってよアニキィ、あいつ、怪しいよぉ』

「うるさい!お前達はすっこんでろ!」

「「デュエル!!」」

 

 

「くっ……なんだ?このカードは……!」

 

 空に浮かぶ大きな1つ目。創のフィールドには、白い霧の様なモンスターが4体。

 

「これで終わりだね、万丈目君。全てを光に包むために、君にもその素晴らしさを知ってもらおうか!」

『あ、アニキー!』

 

 4体のモンスターが強い光を放つ。暗い森の中に現れた『白』に全てが飲み込まれ――消えた。

 

 

 

「……あれは、万丈目君なの?」

「多分……?」

 

 場所はレッド寮の食堂。

 トメさんお手製の夕御飯を食べにレッド寮に来た私達を迎えたのは、真っ白な制服を着た万丈目君だ。万丈目君といえばあの真っ黒なコートの筈なのに、これはどういう心境の変化なのか。

 

「やぁ黒野、それに星見!」

「万丈目君、その服装はどうしたの?」

 

 私が直接聞いてみると、万丈目君は上機嫌な様子で答える。

 

「気づいたか?素晴らしい白だろう?」

「う、うん。綺麗な制服ね。でも、そんな制服あったかしら?」

「この俺が特別に頂いたのだ。斎王様が遣わした光の使者からな」

 

 光の使者?言っていることがちんぷんかんぷんでよく分からない。なんだか目もギラギラしているし、誰が見て様子がおかしい。

 

「君達も早く光に目覚めるがいいさ。それでは、俺にはやることがあるのでな」

 

 高笑いをしながら、万丈目君はレッド寮を去っていく。

 

「……三沢君、何があったのか知ってる?」

 

 遊陽が食堂で鯖の塩焼き定食を食べていた三沢君に話し掛けるが、首を横に振られてしまう。

 

「いや……今朝から急にあの白い服を着るようになってな。俺も何があったのかは……」

「万丈目君が変なのはいつもの事ッスけど、今日のは流石に変だと思うッス」

「十代が居なくなって、万丈目君までおかしくなっちゃうなんて……レッド寮はどうなるのかしら」

 

 丸藤君と明日香も食堂にいる。3人ともレッド寮の生徒ではない筈なのに、随分と馴染んでいる。

 相変わらず十代君は見つかっていない。あれからかなり経っているし、もし飲まず食わずなら餓死しているかもしれない。

 

「やっぱりあんなやつじゃレッド寮は守れないドン!今こそここに残った俺達が、アニキの留守を守りきるザウルス!」

「「「おー!」」」

 

 皆が息を合わせて右手をあげる。皆の結束は強い。けど、万丈目君の言っていた斎王様っていうのは誰の事なのかな?

 

「それじゃあ、レッド寮を守るため、何が出来るか考えるッス!」

 

 夕御飯を食べながら皆で話し合う。

 今はクロノス校長も大人しいけど、また何かをたくらんでくるかもしれない。そんな内容の話をして、解散の流れになった。

 

「それじゃあ、僕たちは帰ろうか、深月」

「そうね。それじゃあまた、明日ね」

「待ってるザウルスー!」

 

 レッド寮に残る皆に別れを告げ、ブルー寮へと戻る。この島には街灯がないから、月の光が唯一の明かりと言っても過言ではない。やがて湖に反射した月の光に照らされたブルー寮が見えてくる。

 

「それじゃ、また明日」

「うん!電話するわね、遊陽!」

 

 遊陽は小さく手を振ると、男子寮へと入っていく。私もそれに答えて手を振ると、少しだけ離れた女子寮に向けて歩き始めた。

 月の明かりを頼りに森の中の道を進んでいく。

 

「こんばんは、良い夜ですね」

「だ、誰!?」

 

 男性の声。振り向くと、道の真ん中にはオベリスクブルーの制服を着た背の高い男性がいる。彼の前には真っ白な丸いテーブル。

 あんなもの、さっきまで無かった筈なのに。

 

「ふふふ、警戒しないでください。私はただ、貴女の進むべき道を示しに来ただけなのですから」

「ここは女子寮の近くよ。男子生徒はあまり近づかない方が良いんじゃない?」

 

 誰だか分からない。3年生かな?いや、でもこんな目立つ人がいたら、すれ違ったことくらいは覚えている筈だ。

 

「それは承知しています。しかし貴女の運命を見てしまったからには、放って置くわけには行かないのですよ」

 

 口調こそ丁寧だけど、有無を言わさない威圧感を感じる。彼の、まるで心の中までも覗き見られてしまいそうなその視線と目が合うたび、背筋に冷たいものが走る。

 

「私の……運命?」

「えぇ。最近、彼との間に何か問題はありませんか?」

「……っ!」

 

 遊陽の事が頭に浮かぶ。この人、私達の事を知っている?

 

「私の占いによると……良くない予兆が見えているのですよ」

 

 そう言って彼は、デュエルモンスターズとは別のカードを取り出した。

 

「占い?」

「ええ。申し遅れました。私の名前は斎王琢磨。エド・フェニックスのマネージャーをやっておりますが……本職は占い師でしてね」

 

 この人が、万丈目君の言っていた斎王?それにあのエド・フェニックスのマネージャー?万丈目君はこの得たいの知れない人を、様付けて崇拝しているって言うこと?

 

「ふふ、あまり一気に情報を出されても、整理しきれませんよね」

「っ……」

 

 斎王は私の心を見透かしたようにそう言うと、今度はデュエルモンスターズのデッキを取り出した。

 

「さて、星見さん。私とデュエルして頂けませんか?その代わり貴女に眠る運命を、私が導いて差し上げましょう」

「あなたが?お断りよ。占いは嫌いじゃないけど、それに支配されるなんてまっぴらよ」

「そうですか?しかし……知りたくはないのですか?彼が何を考えているのかを」

「っ!」

 

 斎王はデッキをシャッフルして机の端に置く。

 

「さぁ、少しこちら側へ来てください」

 

 私は警戒を解かず、机の前に立つ。

 

「このカード……タロットカードと言いますが、名前はご存じでしょう。さぁ、シャッフルした後、カードを1枚引いてください。それが黒野遊陽君の運命です」

 

 私は言われるがままにタロットカードをシャッフルし、一枚のカードを引いて表にする。

 

「これは『太陽』。しかし逆位置です。逆位置の太陽の意味は不調や落胆、そして『衰退』。貴女方の関係はやがて衰えて行き、自然消滅、という形になるかもしれませんね」

「っ!ふざけないで!遊陽と私が別れるだなんて、そんなこと無いわ!」

「果たしてそう言い切れるでしょうか?何で彼が貴女と一緒にいるのか……分かっていますか?」

「それは……遊陽が、私の事を」

「いいえ。彼は貴女によって産み出された存在。貴女の側にいたのは、貴女に利用価値があったからではありませんか?」

 

 何でもない事の様に言われたその言葉に言葉がつまる。

 この人、私達の事を知っている。付き合っているとかそう言った話じゃない。遊陽の正体を知っている……!

 

「しかし今、彼は完全に人となりました。お分かりですか?貴女との繋がりが消え去った彼にとって、貴女を必要とする理由など無いのです」

「そんなこと、無い……!」

「最近、他の女性と話す機会が多くなったのではありませんか?」

「っ!」

「貴女は魅力的な女性ですが、もし貴女以上に素晴らしい女性が彼の前に現れたら?」

 

 そんなこと無い。遊陽は、私を好きでいてくれる。私が遊陽に居て欲しいと思う限り、彼は一緒に居てくれる。

 

「……彼自身は、本当に貴女の事が好きなのでしょうか?貴女と一緒に居たいのでしょうかね?」

「っ!やめてよ!」

「失礼、怒らせる積もりは無かったのですよ。自慢ではありませんが、私の占いは良く当たる。如何です?デュエルをしながら、貴女の運命を導いてあげますよ?」

 

 それはまるで悪魔との契約だ。乗ってはいけない。そう分かっている筈なのに、正常な判断ができない。

 ……不安だった。遊陽は私の儀式で生まれたから、そんな義務感だけで私の側にいるんじゃないか。そう思ってしまうことが何度もあった。

 

「……良いわ!相手になってあげる!私が勝ったら、今すぐ目の前から消えなさい!」

「ええ。それでは、始めましょうか」

 

 斎王はタロットカードを仕舞うと、デッキをシャッフルして机の上に置き、5枚のカードを裏側で置く。

 

「デュエルディスクは使わないの?」

「ええ。あまり馴染みがないもので……今回はこのまま進めましょう。あぁ、貴女はデュエルディスクを使用していただいて構いませんよ」

 

 私はデュエルできる距離まで離れると、デュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!!」」

 

深月 VS 斎王

 

「運命の導きは絶対なのです。それを貴女に教えてあげましょう」

「運命なんて信じないわ!私は、私と遊陽を信じる!」

「そうですか……私の先攻、ドロー。ふふふ、このデュエルは、次の私のターンで終わりを告げるでしょう」

 

 突然の勝利宣言。まだ何のカードも出してない。それどころか、手札として出した5枚のカードを確認すらしていないのに。

 

「バカにするのもいい加減にしてよ!手札の確認もしてないでしょ?」

「そんなもの、必要はないのです……言うよりもお見せしたほうが早いでしょう。私は魔法カード【運命の選択】を発動」

 

 斎王は確認することなく1枚のカードを前に出し、表にする。宣言した通りの魔法カードだ。

 

「なん、で……?」

「これが運命の導きです。さて、その効果により貴女は私の手札をランダムに1枚選択し、それがモンスターカードだった場合には特殊召喚されます。さぁ、こちらに」

 

 私は再び机の前まで移動し、裏側のままのカードを1枚選ぶ。

 

「そしてここで選ばれたカードが、私の予知した貴女の運命なのです」

「……これよ」

「ふふ、選択されたカードは【アルカナフォースXVIII-THE MOON】です!」

 

 ギャンブル効果の筈なのに、よりにもよって最上級モンスターだ。

 月光を背に現れた月の化身は、おおよそ天使族とは思えない見た目をしている。

 長く伸びた首に両腕、腹部は膨らんでいて、宇宙人らしき何かが中で眠っている。

 

攻2800

 

「【THE MOON】……それはタロットにおける『月』のカードです」

 

 モンスターの頭上にMOONのカードそのものが現れ、回転を始める。

 

「これは……?」

「【アルカナフォース】共通の効果として、フィールドに現れたとき正位置か逆位置かが決定し、それに応じた効果を得ます。さぁ、貴女自身の声で運命を決めるのです。ストップ、と言ってください」

 

 つまりは、形を変えたコイントスと言ったところかな。やっぱり運任せのデッキだ。わざわざコイントスを行うということは、片方の効果はデメリットの筈。そっちを引き当てたい……!

 

「……ストップよ」

 

 回転していたカードは、普通のカードと同じ向きのまま止まった。

 

「正位置の効果は、私のスタンバイフェイズ毎にトークンを産み出します」

 

 トークン生成効果?デメリットには思えない。この人、凄く運が良い?これが運命だとでも言うの?

 ……違う。そんなものあり得ない。絶対に、勝って見せる。

 

「正位置の『月』。その意味は不安定、裏切り、そして『不信』。貴女は、彼の事を信じきれていないのでは無いでしょうか?」

「何を、言って……!」

「運命の前に、あらゆる嘘は無意味なのですよ」

 

 背筋が凍る。斎王が、私を見つめている。

 視線が合う度に頭を殴られた様な衝撃が走る。怖い。彼はただ私を見て、不気味な笑みを浮かべている。

 

「ふふふ、あまり怖がらせるのは可愛そうです。私はカードを3枚セット」

 

 3枚のカードをクイッと前に出す。斎王の手札は残り1枚だ。

 

「残る私の手札は通常魔法カード。次のターン貴女がどんな選択をしたとしても、次の私のターンで発動することを宣言しましょう」

「……何のつもりよ?」

「このカードは貴女にとっての救いの綱。貴女が選ぶのですよ。自らが勝つか、負けるかを。ターンエンドです」

 

 

斎王 LP4000 手札1

モンスター:MOON

魔法・罠:セット セット セット

 

 

「っ、私のターン、ドロー!」

 

 周囲に白い霧が立ち込めてくる。これは幻覚?それともあの斎王が何かしたの?

 何もかもが不気味だ。あまり長引かせたくはない。

 

「一気に終わらせるわ!私は永続魔法【神の居城-ヴァルハラ】を発動!」

 

 私の背後に、神聖なる玉座が現れる。

 

「私のフィールドにモンスターが居ないとき、手札から天使族モンスターを特殊召喚できるわ!来て、至高の天才!」

 

 ヴァルハラに光が溢れ、音姫が私のフィールドに降り立つ。

 

「【幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト】!」

 

 私のメインデッキの中では最強のモンスター。大量展開を行うときのキーカード!

 

攻2600

 

「私は【幻奏の音女カノン】を召喚」

 

 自らの効果は使わずに、カノンを守備表示で召喚する。

 

守2000

 

「そして魔法カード【トランスターン】を発動!自分のモンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターよりレベルが1高いモンスターへ進化させるわ!来て、【幻奏の音女エレジー】!」

 

 カノンが光に包まれると、デッキから同じ属性・種族でレベル5のエレジーが現れる。

 

攻2000

 

「【エレジー】の効果で、私の【幻奏】と名のつくモンスターの攻撃力は300ポイントアップするわ!」

 

 エレジーが歌うと私のフィードが五線譜に囲まれ、それが幻奏達の力を高めていく。

 

モーツァルト攻2600→2900

エレジー攻2000→2300

 

「ほう、【MOON】の攻撃力を越えてきましたか」

「それだけじゃないわ!【プロディジー・モーツァルト】の効果で、手札から【幻奏の音姫ローリイット・フランソワ】を特殊召喚!」

 

 モーツァルトが曲を奏でると、音符や休符がフィールドを埋め尽くし、その中から新たな幻奏を呼び出す。

 

攻2300→2600

 

「そして【フランソワ】の効果!1ターンに1度、墓地の天使族モンスターを手札に戻すわ。私は【カノン】を手札に戻し、自身の効果で特殊召喚!」

 

 カノンはフィールドに幻奏がいるだけで特殊召喚できるモンスター。でもその召喚方法は1ターンに1度しか使えない。だから最初のカノンは、わざわざ通常召喚したのだ。

 

守2000

 

「素晴らしいものですね。こんなにモンスターを並べるとは」

「余裕ぶっていられるのも今のうちよ!バトル!【プロディジー・モーツァルト】で【THE MOON】を攻撃!」

 

 攻撃力2800は高いけど、私のモンスター達の結束の前には敵じゃない!

 

「ではリバースカードオープン!【チェンジ・デステニー】!これから貴女には選択をしてもらいます。しかしその前に、【プロディジー・モーツァルト】は守備表示となり、表示形式の変更が不可能になります」

 

 エレジーの効果で破壊はされないけど、それ以外はどうしようもない。

 

攻2900→守2000

 

「さて、それでは選択していただきましょうか」

 

 斎王の後ろに、赤と青の扉が現れる。

 

「赤の扉が選ばれた時、私は表示形式を変更したモンスターの、攻撃力の半分のダメージを受けます。一方青の扉が選ばれた時、貴女は表示形式を変更したモンスターの、攻撃力の半分のライフを回復します」

 

 つまり斎王にダメージを与えるか、私のライフを回復するか。

 そんなの、考えるまでもない。このデュエルを早く終わらせるんだ!

 

「私は赤の扉を選ぶわ!」

 

 赤い扉が開き、中から放たれた電撃が斎王を襲う。

 

LP4000→2550

 

「クックック……」

「な、何がおかしいのよ?」

「いえ。やはり人は運命には抗えない様だ、とね」

 

 斎王は不気味に笑っている。この人と話をしていると、自分の心までおかしくなってしまいそうだ。

 

「っ、カードを1枚セット。さらに【カノン】の効果で【モーツァルト】を攻撃表示に戻してターンエンドよ」

 

 通常の表示形式変更が出来なくても、効果でなら可能だ。

 カノンがモーツァルトを元気づける様に歌い、奮い立たせる。

 

守2000→攻2900

 

「ではターンが終わる前に、私はリバースカードを発動しましょう。罠カード【運命のドラ】。相手モンスター1体を選択し、次の私のターンにそのモンスターよりもレベルの1つ低いモンスターを召喚したとき、貴女に選択したモンスターのレベル1につき500ポイントのダメージを与えます」

 

 ローリイット・フランソワの頭上に銅鑼が浮かび上がる。フランソワのレベルは7。次のターン、レベル6のモンスター召喚されたら、3500のダメージを受けることになってしまう。

 

 

深月 LP4000 手札0

モンスター:モーツァルト エレジー フランソワ カノン

魔法・罠:セット

 

 

「では私のターン、ドロー。まずは【THE MOON】の効果により、【ムーントークン】を特殊召喚します」

 

 THE MOONの腹部が膨らみ、中で眠っていたエイリアンが産み出される。

 

守0

 

「では約束通り、宣言した魔法カードから発動させていきましょうか。私は【来世のヴィジョン】を発動します」

 

 斎王は1ターン目に1枚離していたカードを発動させる。

 

「さぁ、このカードで貴女の来世を覗いてみましょうか。貴女のデッキを、上からモンスターが出るまでめくります」

 

 私は彼に言われるがまま、デッキのカードをめくり始める。コート・オブ・ジャスティス、月鏡の盾、融合、そしてジェルエンデュオ。

 

「出てきたモンスターは【ジェルエンデュオ】よ」

「素晴らしい。めくられたモンスターの種族がフィールドにいるモンスターと同じとき、貴女のライフを1000回復します。めくったカードはその順番のまま、デッキに戻ります」

「私のライフを回復?何のつもりよ」

 

LP4000→5000

 

「言ったでしょう。このカードは救いの綱。もっとも貴女が私にダメージを与える選択をした今、これは無意味な祝福なのですがね」

 

 MOONでエレジーを破壊されれば、ステータスでは完全に勝っている。だからこんなに余裕ぶっているのだろう。だけど私の伏せたカードは光子化。攻撃してくれば、次のターンには返り討ちだ。

 

「さらに魔法カード【カップ・オブ・エース】を発動します」

 

 斎王の頭上に魔法カードが現れ、アルカナフォースと同じように回転を始める。

 

「正位置なら私は2枚ドロー、逆位置なら貴女は2枚ドロー。さぁ、ストップの掛け声を」

「……ストップよ」

 

 カードは正位置に止まり、斎王が2枚のカードを引く。これではまるで、禁止カードの強欲な壺だ。

 

「では、【ムーントークン】を生け贄に捧げ、【アルカナフォースXIV-TEMPERANCE】を召喚します」

 

 ムーントークンが消え去り、代わりに長いスカートを履いたような、新しいアルカナフォースが現れる。

 

攻2400

 

「【TEMPERANCE】のレベルは6!選択した【フランソワ】よりもレベルが1つ低いモンスターです」

「っ!私に3500のダメージ!?」

 

 運命のドラが鳴り響く。頭を割るようなその不協和音に目眩がしてくる。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

LP5000→1500

 

 かなりのダメージ。でも大丈夫。フィールドは圧倒的に私が有利!

 

「それでは、【TEMPERANCE】の効果を決めましょうか」

 

 TEMPERANCEの頭上に現れたカードが回転する。

 

「何度も何度も……!ストップよ!」

 

 カードは正しい向きで止まる。そんな気はしていたけど、あまりにも酷い。

 

「正位置ですね。その効果により、私が受ける全ての戦闘ダメージは半分になります」

 

 やっぱり、正位置ならメリットと言うことなのだろう。強力な効果ではあるけど、そこまで厄介ではないかな?

 

「【TEMPERANCE】……タロットにおける『節制』のカード。正位置ならばその意味は調和や『献身』……貴女は彼を求めている。しかしそれ以上に、彼に求められたいのでは?」

「――っ!」

「その様ですね。彼に必要とされたい。彼のためなら何だってやりたい。しかし彼は貴女の要望に答えるだけで、自ら貴女を求めたりはしない」

 

 そうだ。遊陽は私の事を好きだといってくれた。だけど彼から、私に何かをして欲しいと言われたことはない。

 遊陽は、本当に私の事を好きでいてくれるの?

 

「……やめて」

「ふふ、いかがですか?運命の素晴しさが、分かってきたのでは?」

「……素晴らしくなんか、無い」

「ではこのままで良い、と?彼に不信感を抱いたまま、衰退の道を辿るのですか?」

「それ、は……!」

「運命には逆らえない。ですが従い、好転させることは出来る。お見せしましょう。リバースカード【逆転する運命】!」

 

 MOONの頭上に浮かぶカードが一回転し、逆位置で止まる。

 

「なっ!?」

「逆位置の『月』。その意味は未来への希望。貴女は都市伝説を行ったと言う過去から脱却し、貴女達は徐々に好転して行く事でしょう」

「……ほん、とう……?」

 

 聞いちゃダメだ。だめ、なのに。

 斎王の声から、意識を離せない。

 

「ええ。運命の偉大さを知れば、ね。私は装備魔法【反目の従者】を【THE MOON】に装備して、ターンエンドです」

「攻撃してこないの?」

「ええ。その必要はありませんから。【THE MOON】の逆位置の効果を発動。自分のエンドフェイズ、私のモンスター1体のコントロールを相手に移します」

 

 想像以上に大きなデメリットだ。今斎王のフィールドにいるのは、どちらも攻撃力2000超えのモンスター。どちらのコントロールを移しても斎王からすれば大打撃だろう。

 

「受けとるが良い!これが光の洗礼だ!私は【THE MOON】のコントロールを貴女に移す!」

「攻撃力が高い方のモンスターを?」

「ええ」

 

 MOONの姿が掻き消えたと思うと、私の後ろに現れる。

 

「なんだか知らないけど、ありがたく貰っておくわ!」

「ええ。存分に受け取るがいい。【反目の従者】の効果が発動。装備モンスターのコントロールが移った時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、コントロールを得たプレイヤーに与える」

「……っ!」

「もしあのとき青い扉を選んでいたのなら、貴女のライフは150残っていた筈なのですがね」

 

 MOONが発光し、私の視界が白く染められていく。

 

「そん……なっ……」

 

LP1500→0

 

 デュエルが終わる。フィールドに居たモンスター達は消え去る。

 

「わ、わたし、は……」

 

 頭が痛い。何も考えられない。意識が、心が、白く塗り潰されていく。

 私はその『心地良い』感覚に耐えられず、意識を手放しその場に倒れ込んだ。

 

「私は運命を覗き見たとき、いつも悲しい気分になるのです。何故ならば運命は残酷で、不条理で……あまりに絶対的だ」

「……」

「しかし心配することは無い。貴女は今、光を導く我が使いの1人となったのだから。さぁ目を覚ますのだ、深月」

 

 声が、聞こえる。

  私は目を覚まし、立ち上がると、目の前の男性に向け跪く。

 

「斎王様。私に光の素晴らしさを教えていただき、ありがとうございます」

 

 あぁ、なんて清清しい気分なのだろう。世界が一層輝いて見える。これが光!これこそが運命!

 

「光の使徒、深月よ。お前に指令を与えよう。黒野遊陽を、光の結社の一員とするのだ!」

 

 斎王様からのご命令。あぁ、私は斎王様に必要とされている!なんと素晴らしいことだろう!

 

 ……でも。

 

「お断りします、斎王様」

「……何?」

「……私には、出来ません。遊陽が自らの意思で光に身を委ねる決意をしたなら、私は喜んで彼を導きます。ですが、彼がそれを望まないのなら、私は彼の意思を優先します」

 

 これは斎王様に対する裏切り行為だ。罰を受ける事になるかもしれない。それでも私は、遊陽を裏切ることは出来ない。

 

「これもまた運命……か。良かろう。君達光の結社への指令は、また別の手段で伝えるとしよう」

「ありがとうございます、斎王様」

 

 斎王様はそのまま霧のように消えていく。素晴らしいお力だ。遊陽と一緒に彼に仕える事が出来たのなら、それはとても幸せなことなのだろう。

 

 夜の空に浮かぶ月は、太陽が無ければ輝けない。

 でも太陽が輝くのに、月なんて必要ない。

 それでも私は必要とされたかった。太陽の側に居ても良いんだと、そう思いたかった。




~カード紹介のコーナー~

アルカナフォースXVIII-THE MOON
効果/星7/光属性/天使族/攻2800/守2800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:自分のスタンバイフェイズ時に自分フィールド上に「ムーントークン」(天使族・光・星1・攻/守0)を1体特殊召喚する事ができる。
●裏:自分のエンドフェイズ時に1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスターのコントロールを相手に移す。

アルカナフォースの1体、月を象徴するカードですね。2800打点は優秀ですが、効果が若干使いにくいカードです。表でもメリットが発揮されるのが次のターンで、裏では毎ターン相手にモンスターを献上してしまいます。
ので、反目の従者とのコンボが出来ますが、純アルカナフォースデッキじゃ使いにくいですかね……。
デメリット効果持ちが多いからか斎王様のデッキにはコントロールを送りつけるカードが多い(ストレングス然り)気がします。
作者の一番好きなアルカナフォースはこの子だったり。


光の結社が3人となったアカデミア。レッド寮を潰そうとナポレオン教頭はエドを呼び出すが、その対戦相手をめぐって剣山と真希が対立し……?
次回、「暴走少女の突撃デュエル!(前編)」


この作品で一番早く決着がついた気がします。流石は斎王様ですね。
タロットカードの意味については諸説ありますが、この作品での月は不信の意味も含みます。
ついにやって来た深月の光堕ち。これが書きたくてこの小説を始めたまであります。
創が光の結社になっているのは、前の方の回を読んでいただけると分かるかもですね。遊陽君にはこれから頑張ってもらわなければ。
さて、それではまた次回も読んでいただけると嬉しいです!
ではではー!


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38話 暴走少女の突撃デュエル!(前編)

逆位置の『戦車』:暴走、挫折、好戦的。


 鳥のさえずる声が聞こえる。朝だ。僕はぼんやりとした目を擦り背伸びをする。

 そういえば昨日、深月から電話がかかってくることは無かった。僕から電話をかけても出なかったし、何かあったのだろうか。

 心配だけど男子の僕が女子寮に行くわけにはいかない。深月は毎朝男子寮の前で僕を待っていてくれている。僕は寝巻きから制服に着替えると、デッキとデュエルディスクを手に男子寮を出る。

 

「遊陽、おはよう!」

 

 深月の声だ。元気そうだし何かあった訳じゃなさそうだ。

 ……そんな考えは、直ぐに消えることになる。

 僕は振り向いて深月を見つけて――絶句した。

 

「どうしたの?遊陽」

 

 深月の制服は白かった。

 万丈目君が着ていたものと同じ色合いの、女子の制服だ。

 

「深月……その、服は……?」

 

 僕がそう聞くと、深月は嬉しそうに語り始める。

 

「この服?素敵でしょ?斎王様から頂いたの!」

 

 全身から血の気が引いていく。深月の表情はあまりにもいつも通りだ。だけど『斎王様』だなんて、彼女の口からは絶対に出そうにない言葉が飛び出してくる。

 

「……深月?悪い冗談か何か……だよね?」

「そんなはず無いじゃない!昨日ね、斎王様に教えていただいたの!運命を享受することの素晴らしさを。光の尊さを」

 

 斎王様について語る彼女は恍惚としている。まるで、恋い焦がれた人間の好きなところを語る乙女のように。

 

「深月……どうしちゃったの?君はそんなことを言う人じゃ」

「目を覚まさせていただいたのよ。今までの無知で愚かだった私とは違う。世界が輝いて見えるもの!」

 

 深月はそう言うと、僕の右腕をつかみ、身体全体を使って抱き付いてくる。

 

「それじゃ、行きましょ?遊陽」

「……ダメだよ。目を覚まして深月!」

 

 たった1日でこうも変わるわけがない。斎王と言う人が、深月や万丈目君をおかしくしたのだろう。

 僕は彼女の肩を掴み、語りかける。

 

「目なら覚めてるわ。これがあるべき私なの。今までの私が眠っていただけよ」

 

 でも、僕の声が届くことはない。深月は元気一杯の輝く笑顔で僕の手を引き歩き始める。

 

「……斎王って言う人は、どこにいるの?」

「……!もしかして、光の結社に入りたいの?」

「光の結社が何かは分からないけど、それが今の深月の事なら、入りたいとは思わないよ」

「そう……残念。斎王様の場所は私にもわからないの。でもいつかはここに来るはずよ?」

「……そっか」

 

 斎王。もし会う機会があれば、深月を元に戻させてやる。深月の望むことなら僕は何だってやる。けれど、今の彼女の状態は、彼女が望んでなったものとは思えない。

 深月はいつも以上に僕と接触してくる。いつもの彼女だったら嬉しかっただろうけど、今は喜んでいる場合じゃない。

 深月は僕の手を掴んだまま教室へと入る。いつもなら絶対にしないような行動だ。いつも僕の回りに集まってきていた女子達が、僕たちを見てヒソヒソと話していた。

 深月は彼女達を冷ややかな目で笑うと、僕の隣の席に座る。

 

「やぁ遊陽君!」

 

 僕の後ろから声が聞こえる。鏡泉君だ。両隣には右橋君と左河君もいる。

 鏡泉君は深月を見ると、彼女に聞こえないよう僕に耳打ちする。

 

「……何か、あったのかい?」

「……うん。変な人に影響されちゃったみたいで……」

「変な人?」

「嘘っぽいかな……?」

「……君が彼女の事で嘘をつくとは思わないサ。何か困ったことがあったら、何時でも相談して来るんだヨ」

「ありがとう、鏡泉君」

 

 深月は僕の手を掴んだまま離さない。そんな複雑な時間を過ごしていると、1限目の担当である終理先生が教壇へと登る。

 

「いやぁお待たせお待たせ!それじゃあ授業を始めようか!」

 

 終理先生も、いつもと変わった様子はない……服装以外は。

 

「……深月」

「何?」

「終理先生も、深月の仲間なの?」

「ええ。彼も斎王様にお仕えし光を導く、光の結社の一員よ」

 

 終理先生が着ているのは、教員用のコートを白く染めた物だ。もしかしてと思ったけど、やっぱり。

 生徒からの指摘は『イメチェン』と言うことにしている様だ。もしかして、自分が光の結社だと言うことを隠したいのかな?

 あまり事を荒立てると深月がどうなるか分からない。慎重に行動しなくちゃ。

 

「……まぁ大体、次のテストの範囲はこんな感じだな。それじゃあ最後に毎度のお待ちかね、怖い話の時間だ!」

 

 終理先生は蝋燭を立てると、教室の明かりを消す。僕の腕を掴む深月の力が強くなり、さらに距離を詰めてくる。

 

「これはとある田舎……いや、最早秘境とでも言うべきかな?遺跡や洞窟を探検することが趣味だった青年はある日、山の奥深くにあると言う、かつて村人同士の争いで滅びた小さな村の跡地にやってきた」

 

 怪談を話す様子もいつも通りだ。……いつも通りだからこそ、その人の心の奥深くまで洗脳が浸透していそうで恐ろしい。

 

「青年はその村から1人だけ逃げ出した老人を連れてきて、何が起こったのかを聞いていた。その村ではある日を境に人が段々と凶暴に成っていき、自滅したのだと言う。村の跡地は凄惨なものだ。焼け落ちた民家の跡に、打ち捨てられた人骨。青年は、何が人を狂わせたのかを知りたくなり、村を隅々まで調べた」

 

 深月は目をぎゅっと締めている。洗脳されていても、怖いものは怖いのかもしれない。

 僕は少しだけためらってから、明かりが付いていないことを良いことに彼女の体を抱き寄せた。

 

「……っ」

「……」

「……」

 

 深月はピクリと反応したけど、直ぐに僕に体重を預けてくる。

 

「突然、老人の顔が青くなっていった。青年は彼を心配し介抱を始めるが、老人はとある一点から目を離さず、うわ言の様に『ミテハイケナイ』と呟き……息絶えた」

 

 見てはいけない、か。怪談のオチは想像できる。

 

「だが、青年は見てしまった。理解してしまった。村に近い山の頂上で踊る何かを。それは白いモヤの様な人型の何かだった。くねくね、くねくね。踊るように形を変えるその姿を見て……青年の精神は崩壊してしまったとさ」

 

 終理先生が蝋燭の火を消し、明かりをつける。

 

「これが世にも怖い都市伝説、『くねくね』だな。くねくね自体も怖いけど……今も青年は崩壊した精神のまま、どこかに居るかもしれない……なんてな」

 

 これで先生の怖い話は15個目だ。1授業に語られるお話の数はランダム。今回はちょっと長めだったから、この1つだけで授業は終わった。

 終理先生以外には光の結社は広まっていない様で、他の先生はいつも通りだ。

 

「黒野君!一緒にお昼食べない?」

「放課後は空いてる?」

 

 午前の授業が終わり昼休みに入り、女子達が集まってきた。いつもなら深月は機嫌を悪くして何処かへ行ってしまうけど、今日は違う。

 深月は立ち上がると、女子達に見せ付けるように僕に抱きつき、言う。

 

「遊陽、お昼のバイトこれからでしょ?トメさんも待ってるわ」

「……うん、そうだね。ごめんね、今からバイトだから」

「遊陽には先約があるの。ごめんなさいね?」

 

 深月の顔は笑っていたけど、瞳の奥底は凍り付いているかのように冷たかった。その冷ややかな視線に怖じ気づいたのか、女子達が1歩下がる。

 

「さ、行きましょ?」

 

 深月は上機嫌にスキップをしながら購買へ向かう。お昼休みの最初の方は、僕達の準備時間なども考えてトメさんがレジを打っている。僕たちは職員専用の入り口から購買に入り、購買部の制服に着替えた。

 購買部の制服には手を加えていない様だ。だから今この瞬間だけなら、深月はいつも通りの彼女だ。

 

「いらっしゃいませ、ドローパンを2つですね」

「いらっしゃいませ、お弁当、暖めますか?」

 

 レジを打っていたトメさんと交代し、お昼の行列をなんとか乗り切る。お昼休みも中盤になれば、売っている商品は少なくなり、お客さんもいなくなる。

 

「それじゃあ、また放課後来てちょうだいね」

「はい」

「お先に失礼します」

 

 これでお昼のバイトは終わり。僕達は売れ残りのお弁当を持って、お昼ご飯が食べられる場所を探す。

 校舎を出ると、2人の生徒が言い争っているのを見かける。

 

「だからよ?そんなアニキとやらより、明日香先輩の方が頼りになるって言ってるんだよ」

「そんなこと無いザウルス!アニキはたまたま調子が悪いだけだドン!」

「もう、やめてよ真希ちゃん」

「そうですわ。一旦落ち着きますのよ」

「真希ちゃんも頑固ねぇ」

「剣山君も言い方が悪かったッスよ!」

 

 有朱さんと剣山君が睨み合っているのを、天上院さんと丸藤君が必死に止めていた。

 天上院さんの側には浜口さんと枕田さんも居て、彼女達も半ば呆れた目で有朱さんを見ている。

 

「……何をしてるの?」

 

 4人に声をかける。天上院さんがこちらを見る。

 

「あら、黒野君。ちょっと困ったことになって――」

 

 そして天上院さんは、僕の隣に立つ白い制服を着た深月に気付いたようだ。

 

「深月?あなたまでその制服を?」

「……ええ。斎王様から頂いた、美しき白の制服よ」

「ど、どうしたんですの深月さん?」

「な、なんかあんた変よ?」

「そうかしら?……そうね。光の素晴らしさを知らない人間からはそう見えるのかもしれないわ」

 

 深月は天上院さん達を冷ややかに笑いながら言う。彼女達とは友達だったはずなのに、今の深月が3人を見る瞳は、教室で女子に向けたあの冷たい瞳と同じだ。

 

「な、何だか怖いッスよ?星見さん」

「そうかしら?仕方ないかもしれないわね。人は往々にして理解出来ない物を怖がる生き物。でも、あなた達にもいつか分かると思うわ。斎王様の素晴らしさが」

「深月」

 

 深月の手を引き、話を止めさせる。

 

「遊陽、どうかしたの?」

 

 彼女は一瞬で元の表情に戻り、僕に笑いかける。

 

「ううん。今はこの喧嘩を止めなくちゃ」

 

 片やヤンキー、片やムキムキの男子。デュエルじゃなくて決闘が始まりそうな空気だ。

 

「そうね、遊陽がそう言うなら。そもそも何でこんなことになってるのよ?」

「それは……」

「まず有朱さんが、明日香さんの事をバカにされたと勘違いしちゃったっス」

 

 何でも剣山君曰く、明日香先輩は強いけど、アニキじゃなくちゃやっぱり不安ザウルス、何て事を言い出したそうだ。それをたまたま聞いていた有朱さんが怒り、十代よりも天上院さんの方が強いと主張。話し合いは平行線で、こんなことになっているらしい。

 

「アニキじゃなくちゃ不安……っていうのは?」

「実は今夜、私エド・フェニックスとデュエルをすることになったの」

「天上院さんが?」

「そうッス。ナポレオン教頭の差し金で、もし明日香さんが負けたら、レッド寮が取り潰されちゃうッス……」

「それで剣山君は、天上院さんよりも十代にデュエルしてほしいって事を話していたんだね」

 

 睨み合っていた2人が動く。互いに距離を取り、デュエルディスクを構えた。

 ……殴り合いにならないのは、やっぱりここがデュエルアカデミアなのだからだろう。

 

「あたしは明日香先輩方の1番の妹分!顔も見たことねぇ行方不明の先輩とやらが、明日香先輩より強いわけねぇだろ!」

「妹分にした覚えはないわ……」

「俺はアニキの1番の弟分!アニキはそう簡単には負けないザウルス!」

「1番は僕の方っス!」

 

 火花が散る。相対する虎と竜の絵が見えたような気がした。

 

「何て言うか、どっちもどっちね」

「……うん。どっちも尊敬が重いって言うか……」

 

「「デュエル!!」」

 

真希 VS 剣山

 

「あたしの先攻っ!ドロー!……良し!あたしはフィールド魔法【シュトロームベルクの金の城】を発動!」

 

 深月を苦しめたあのフィールド魔法だ。有朱さんの背後に巨大な金の城が現れる。

 

「な、なんだドン!?このゴージャスなフィールド魔法は!」

「これはあたしのデッキの中核を成すカード!早速この力を見せてやるぜ!【金の城】の効果を発動!このターンの通常召喚権を放棄する事で、デッキからモンスターを特殊召喚する!来い、【鉄のハンス】!」

 

 金の城の門が開き、有朱さんの前に黄金の光の柱が立ち、その中から大柄な男が現れる。

 

攻1200

 

「ゴージャスなお城からおっさんが出てきたザウルス!」

「おっさんだとぉ……?あたしがずっと一緒に戦ってきたハンスおじさんを、おっさんだと?許さねぇ!【鉄のハンス】の効果を発動!デッキから【鉄の騎士】を特殊召喚!」

 

 鉄のハンスが雄叫びをあげると、それに応えるように鉄の鎧の騎兵が現れる。

 

攻1700

 

「さらに魔法カード【鉄の檻】を発動!【鉄のハンス】をあたしの墓地へ送る」

 

 鉄の檻が地面から生えてきて鉄のハンスを閉じ込め、地下に潜っていく。

 

「自分のモンスターを墓地へ送ったザウルス……!」

「でも、これが真希ちゃんの得意戦術……」

 

 シンデレラとは違って、鉄のハンスを中心としたこの戦術は金の城が無くても成立する。彼女の言動から察するに、金の城を手に入れる前から鉄のハンスをよく使っていたのだろう。

 

「さらに魔法カード【予見通帳】を発動!あたしのデッキのカードを上から3枚、裏側表示で除外する!」

「通帳ザウルス?」

「あぁそうさ!今除外した3枚のカードは、あたしの3回目のスタンバイフェイズ時に手札に加えられる!」

 

 3ターン後に3枚のカードをドローするカード、とも言い換えられる。けど除外されるカードは当然なからサーチ出来なくなるし、金の城の効果で特殊召喚することも出来ない。

 アドバンテージはすごくいいけど、その分リスクも大きいカードだ。

 

「あたしはこれでターンエンド!」

 

 

真希 LP4000 手札3

モンスター:鉄の騎士

魔法・罠:鉄の檻 シュトロームベルクの金の城

 

 

「俺のターン、ドローだドン!」

 

 剣山君がカードをドローする。大体名前と語尾で想像はつくけど、剣山君のデッキは……?

 

「魔法カード【トレード・イン】を発動するドン!手札のレベル8モンスターを捨てて、2枚ドロー!そして、【ジャイアント・レックス】を、攻撃表示で召喚だドン!」

 

 やっぱり恐竜族デッキだ。巨大なレックス……肉食竜が剣山君の前に現れる。

 ワニの様な顔面に、背中には特徴的なヒレの様なもの。スピノサウルスをモチーフとしたモンスターだ。

 

攻2000

 

 レベル4で攻撃力2000。凄く優秀なモンスターだけど、有朱さんのデッキの前じゃ……。

 

「攻撃力1700の【鉄の騎士】じゃ、【ジャイアント・レックス】の敵じゃないドン!攻撃してやるザウルス!」

 

 ジャイアント・レックスが口を大きく開き、鉄の騎士に噛みつこうとする。

 

「かかったな!?【金の城】があるかぎり、あたしのモンスターに攻撃は届かないのさ!」

 

 金の城の輝きが強まり、ジャイアント・レックスの姿が掻き消される。

 

「な、なんだドン!?」

 

LP4000→3000

 

「【シュトロームベルクの金の城】の効果だよ。相手モンスターが攻撃してきたとき、そいつを破壊し、そのコントローラーには攻撃力の半分のダメージをお見舞いしてやるのさ!」

 

 このフィールド魔法は、実質的に攻撃を封じるものだ。深月の幻奏の様に効果破壊に耐性のあるモンスターなら関係はないけど、剣山君はどう対処するのかな?

 

「な、なかなかやるドン……俺はカードを2枚セット!【強欲なカケラ】を発動して、ターンエンドだドン!」

 

 

剣山 LP3000 手札2

モンスター:無し

魔法・罠:強欲なカケラ セット セット




金の城の強力な効果を掻い潜り、剣山は真希に一撃を食らわせる。しかしデッキからモンスターを呼び出す真希のモンスターを一掃することは出来ず……。
次回、「暴走少女の突撃デュエル!(後編)」


祝!お気にいり数70突破!
ここまで皆さんに読んでいただけるとは思っていませんでした。これからも暇潰し程度にはなるよう頑張っていきますので、お付きあいいただけたら嬉しいです!

様子見の主人公。この遅い初動が吉と出るか凶と出るか。大概にして凶と出る決まりなんですけどね。
しかしこの段階ではどうすれば洗脳を解けるかなんて分かるはずもないのです。それこそ運命を見通す力がなければ。
8月も結構忙しいので更新頻度は遅めになります。
それでは、また次回も読んでいただけると嬉しいです!
ではではー!


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39話 暴走少女の突撃デュエル!(後編)

更新が遅くなってすみません。剣山対真希の後編です。


 剣山君の最初の攻撃は届かなかった。でもこれで迂闊に攻撃することはないだろう。金の城のデメリットを見て持久戦に持ち込むか、それでも力づくで突破するか……。

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 有朱さんの背後に建つ金の城が急速に朽ちていく。

 

「あたしは【シュトロームベルクの金の城】の維持の為に、デッキの上から10枚を裏側にして除外だ!」

 

 有朱さんの60枚デッキから、10枚のカードが消え金の城に取り込まれる。

 

「ご、豪快な効果だドン……!」

「まぁな。さらにあたしは【鉄の檻】の効果を発動!このカードを墓地へ送ることで、このカードの効果で墓地へ送ったモンスターを特殊召喚できる!さぁ来い、【鉄のハンス】!」

 

 有朱さんの目の前の地面が割れ、地下深くへと沈んでいった檻が現れる。

 その檻を破り、大柄な男が再びフィールドに現れる。

 

攻1200

 

「【鉄のハンス】の特殊召喚に成功したことで、来い、【鉄の騎士】!」

 

 ハンスの呼び声に応え、2騎目の鉄の騎士が現れる。

 

攻1700

 

「また来たザウルス!」

「さらに【金の城】の効果でこのターンの通常召喚権を放棄!デッキより3体目の【鉄の騎士】を特殊召喚だ!」

 

 金の柱が現れ、馬にまたがる鉄鎧の騎士がハンスを守るように現れ、立ち並ぶ。

 

攻1700

 

「【鉄の騎士】は【鉄のハンス】に攻撃力を1000ずつ献上する!」

「1000ずつ……さ、3000ポイントアップするドン!?」

 

 鉄の騎士達の力を集め、ハンスが黄金色のオーラを身に纏う。

 

ハンス攻1200→4200

騎士攻1700→700×3

 

「攻撃力4200。やっぱり強いのね、真希ちゃん……うん。彼女も光の結社に引き入れるべきかも」

「深月……」

 

 自分がそんな怪しい視線を向けられていることに気づかず、有朱さんは得意気に語っている。

 

「どうだ?おじさんでも恐竜より強くなれる、それがデュエルモンスターズさ!バトル!【鉄のハンス】でダイレクトアタック!」

 

 鉄のハンスが手に持った斧を振り上げ、剣山君に飛びかかる。

 この攻撃が通れば剣山君の負けだ。

 

「させないドン!手札の【機動要犀 トリケライナー】の効果を発動するザウルス!」

 

 剣山君の前に、トリケラサウルスの様な巨大な機械が現れ、その攻撃を遮る。

 

守2800

 

「な、何だ!?」

「【トリケライナー】は、相手が3体以上のモンスターを特殊召喚したターンに特殊召喚出来るザウルス!」

 

 守備力2800はかなり高い数値だ。今有朱さんのフィールドにいるモンスターでこの数値を越えられるのは鉄のハンスだけ。

 

「チィッ!【鉄のハンス】の攻撃対象を変更!【トリケライナー】をぶっ潰せ!」

 

 鉄のハンスが再び斧を振り上げ、トリケライナーの機械の体を真っ二つに切り裂く。

 

「くっ……!」

「まだまだぁ!【鉄の騎士】3体で直接攻撃だっ!」

「そうは行かないドン!永続罠、【化石発掘】を発動だドン!手札を1枚捨てて、墓地から【超古代恐獣(エンシェント・ダイノ)】を特殊召喚するザウルス!」

 

 剣山君の目の前に肉食竜の化石が現れ、それが光の粒を集め、恐竜として復活する。

 

攻2700

 

「レベル8、【トレード・イン】のコストか……【鉄の騎士】じゃ倒せねぇな。ターンエンドだ」

 

 

真希 LP4000 手札4

モンスター:鉄のハンス 鉄の騎士 鉄の騎士 鉄の騎士

魔法・罠:シュトロームベルクの金の城

 

 

「俺のターンだドン!ドロー!」

 

強欲なカケラ(1)

 

 超古代恐獣は強力なモンスターだけど、鉄のハンスには敵わない。あのフィールド魔法があるかぎり鉄の騎士を倒すこともできない。でも剣山君の顔からは闘志は消えていない。

 

「さぁ、行くザウルス!魔法カード【テールスイング】を発動!自分の恐竜さんより低いレベルを持つモンスター2体を手札に戻すドン!」

 

 超古代恐獣が尻尾で薙ぎ払い、鉄の騎士2体が有朱さんの手札へと戻っていく。

 

「【鉄の騎士】が居なくなったことで、【鉄のハンス】の攻撃力もダウンするドン!」

 

攻4200→2200

 

「チッ……!」

「さらに、【超古代恐獣】で【鉄の騎士】を攻撃するザウルス!」

 

 超古代恐獣が大きく息を吸い込み、鉄の騎士に向けて光線を吐く。

 しかしそれを防ぐように、金の城の輝きが増していく。

 

「ハッ!【金の城】があるかぎり、あんたの攻撃は届かないんだよ!」

「そう思うのには早いドン!罠カード、【攻撃の無敵化】を発動するドン!その効果で【超古代恐獣】はこのターン、戦闘・効果では破壊されないザウルス!」

 

 超古代恐獣を光の幕が包み、黄金の光を遮る。光線は鉄の騎士を貫き、その衝撃が有朱さんを襲った。

 

「ぁぁぁっ!」

 

LP4000→2000

攻2200→1200

 

「これが恐竜さんの力だドン!」

「やるじゃねぇか……だけど攻撃の無敵化の効果はこのターンの間だけ。次のターン以降も攻撃するなら、また同じカードが必要になるぜ?」

「ぐっ……!俺は【化石発掘】により捨てられた【幻創のミセラサウルス】の効果を発動するドン!自身を含む恐竜さんを墓地から除外して、除外した数と同じレベルの恐竜さんをデッキから特殊召喚するドン!」

 

 剣山君の墓地からミセラサウルスとジャイアント・レックスが除外される。レベル2のモンスターを特殊召喚するつもりらしい。

 

「俺は、【プチラノドン】を特殊召喚するザウルス!」

 

 鳥の様な鳴き声と共に、小さなプテラノドンの雛が現れる。

 

守500

 

「さらに!ゲームから除外された【ジャイアント・レックス】は、自身を特殊召喚出来るザウルス!」

 

 次元の狭間を抜け、肉食竜が再び剣山君の元で咆哮をあげる。

 

攻2000→2200

 

「攻撃力が上がっただと……?」

「そうザウルス!自身の効果で特殊召喚された【ジャイアント・レックス】は、除外されている恐竜さん1体に付き200ポイントの攻撃力を得るザウルス!」

 

 除外される事を条件として特殊召喚されるモンスター……。コストとしてカードを除外することも多い今では、かなり強力な効果だ。

 

「そしてこのターンの終わりに、【ミセラサウルス】の効果で特殊召喚されたモンスターは破壊されるザウルス!」

 

 プチラノドンの姿が霞み、霧の様に消え去った。

 

「【ジャイアント・レックス】の為だけに特殊召喚したのかよ?」

「いいや違うドン!【プチラノドン】は効果によって破壊されたとき、デッキからレベル4以上の恐竜さんを呼び出すんだドン!さぁ来るザウルス!【盾航戦車ステゴサイバー】!」

 

 地鳴りがして、トリケライナーの様な恐竜兵器が現れる。

 ステゴサウルスをモチーフとした巨大なモンスターだ。

 

守2400

 

「って、お前機械族じゃないのかよ!?」

「【ステゴサイバー】は恐竜さんだドン!俺はこれでターンエンドザウルス!」

 

 

剣山 LP3000 手札0

モンスター:超古代恐獣 ジャイアント・レックス 盾航戦車ステゴサイバー

魔法・罠:化石発掘 強欲なカケラ

 

 

「あたしのターン、ドロー!まずは【金の城】のコストの支払いだ!」

 

 再び有朱さんのデッキが減っていく。

 

「おおかた高ステータスのモンスターを出せばあたしが攻撃できないんだと思ってるんだろ?」

「何?」

「そう甘くはないぜ、あたしのデッキはよ!【金の城】の効果を発動!このターンの召喚権を放棄して、デッキから【シンデレラ】を特殊召喚するぜ!」

 

 金の柱が現れ、その光の中から見窄らしい服装の少女が現れる。

 

攻300

 

「か、可愛い女の子だドン……」

「そりゃそうさ!【シンデレラ】が【金の城】の前に特殊召喚されたとき、デッキから【カボチャの馬車】を呼び出し、さらに自身に【ガラスの靴】を装備する!」

 

 シンデレラの体が光に包まれると、ガラスの靴を履いた、僕らのよく知るシンデレラの姿に変わる。

 

守300

攻300→1300

 

「さぁ行くぜ、バトル!【カボチャの馬車】の効果で、【シンデレラ】は相手に直接攻撃を行える!」

 

 シンデレラが乗り込むと、馬車は暴走するように恐竜達の間を縫い、剣山君の前で止まる。

 そして馬車の中から飛び出したシンデレラが、回し蹴りを食らわせる。

 

「ぐぁぁっ!」

 

LP3000→1700

 

「こ、攻撃力1300の直接攻撃は効くザウルス……!」

「それだけじゃないぜ!【シンデレラ】が直接攻撃した後、【ガラスの靴】はあんたのフィールドに残される!」

 

 シンデレラに掛けられた魔法が解けて見窄らしい服装に戻ると同時に、剣山君のフィールドに残されたガラスの靴をジャイアント・レックスが拾う。

 

攻1300→300

 

「な、何が起きてるザウルス……?」

 

 ジャイアント・レックスは頬(?)を赤く染めると、シンデレラの事をぼんやりとした目で見つめている。

 

攻2200→1200

 

「ジャ、【ジャイアント・レックス】がおかしくなったドン!?」

「【ガラスの靴】は天使族モンスターに装備されたとき、攻撃力1000アップの装備魔法になる。しかし天使族以外のモンスターに装備されたときはその攻撃力を1000ダウンさせ、さらに攻撃を封じるのさ!」

 

 シンデレラと恐竜による恋愛ショーが繰り広げられるフィールド。

 

「あらまぁ、敵と味方の禁断の恋、ですわね……!」

「ももえ、ごめんわたしには理解できない」

「な、何の茶番っスかこれ……」

 

 前の深月とのデュエルでその効果を使わなかったのは、深月のモンスターが天使族ばかりだったからだろう。

 

「さらに【鉄のハンス】で【ジャイアント・レックス】を攻撃だっ!」

 

 両者の攻撃力は同じ。自分に斬りかかってきた男にワンテンポ遅れて気づいたジャイアント・レックスは、すぐさま口を広げハンスに噛みつく。しかしそれと同時に首を切られてしまい、2体のモンスターは同時に爆散した。

 

「よ、良くも恐竜さんを……!」

 

 ジャイアント・レックスを離れたガラスの靴は光の粒子となってシンデレラに集まり、再び彼女をドレスアップする。

 

攻300→1300

 

「装備モンスターが破壊されることによって【ガラスの靴】が墓地へ送られたとき、再び【シンデレラ】に装備されるぜ」

 

 これでシンデレラの攻撃力はまた1300。次のターンも直接攻撃されれば、別のモンスターを弱体化されてしまう。

 

「さらにあたしは魔法カード【左腕の代償】を発動!手札を全て除外して、デッキから魔法カードを手札に加えるぜ」

「そんなに一杯ある手札をだドン!?」

「仕方ねーだろ?引けねーんだからよ。あたしは永続魔法【フィールドバリア】を手札に加えて発動!」

 

 フィールドバリア。その名の通りフィールド魔法を守るカードだ。このカードがある限りフィールド魔法を効果で破壊できなくなるだけでなく、新しくフィールド魔法を発動して張り替える事も出来ない。

 

「これで【金の城】は破壊されず、さらに【カボチャの馬車】の効果で効果の対象にもならない。ターンエンドだぜ」

 

 

真希 LP2000 手札0

モンスター:シンデレラ カボチャの馬車

魔法・罠:ガラスの靴 フィールドバリア シュトロームベルクの金の城

 

 

「俺のターン、ドローだドン!」

 

強欲なカケラ(2)

 

 カケラのカウンターが溜まった。これで剣山君は2枚のカードをドローできる。

 

「シュトロームベルクの金の城を守りに入っているけど、剣山君は突破できるのかな?」

「どうかしらね。次のターン、真希ちゃんは予見通帳の効果で3枚の手札を手に入れられる。剣山君はかなりきついんじゃないかしら」

 

 2人を見る深月の瞳は驚くほど冷たい。だけど真剣にこのデュエルを見ているようだ。

 

「まずは【強欲なカケラ】を墓地へ送り2枚ドローするドン!」

 

 剣山君はドローしたカードを確認すると、カードを1枚だけデュエルディスクに置く。

 

「……カードを1枚セット。ターンエンドだドン」

 

 

剣山 LP1700 手札2

モンスター:超古代恐獣 盾航戦車ステゴサイバー

魔法・罠:化石発掘 セット

 

 

 やっぱりこのフィールドは対処に困るのだろう。幸いにもまだライフはある。次のシンデレラの攻撃なら耐えられそうだけど……。

 

「あたしのターンか。どうした?随分と消極的だな」

「恐竜さんだって夜は眠るザウルス。今はまだ、動くべき時じゃないドン」

「へぇ?まぁいいや。あたしは【金の城】の為に10枚のカードを除外!さらに【予見通帳】の効果で除外されていた3枚のカードを手札に加えるぜ」

 

 これで有朱さんの手札は3枚。彼女は手札に加えたカードを見てニヤリと笑うと、金の城の効果を発動させる。

 

「さぁ、【シュトロームベルクの金の城】の効果を発動!このターンの召喚権を放棄し、デッキからモンスターを特殊召喚するぜ!」

 

 有朱さんの前に、今までよりも強い光の柱が立ち上ぼり輝く。

 

「謎深き古の魔女よ!万物を薪とし、その命の灯火を燃やせ!出番だぜ、【ヘクサ・トルーデ】!」

 

 暗い赤色のドレスを着た魔女が現れる。彼女は妖艶に笑い、剣山君を挑発する。

 

攻2600

 

 有朱さんが使ったモンスターの中では初めての上級モンスターだ。

 

「【金の城】がフィールドにあるとき、【ヘクサ・トルーデ】は1ターンに1度、フィールドのカード1枚をノーコストで破壊できる!さぁ消え去れ、【超古代恐獣】!」

 

 ヘクサ・トルーデがなにかを呟くと超古代恐獣の足元に魔方陣が現れ、その動きを封じる。

 

「そうはさせないドン!罠カード【ジュラック・インパクト】を発動するザウルス!」

 

 剣山君が罠カードを発動させると、超古代恐獣の体が赤熱していき、大爆発を引き起こす。

 

「なっ!?」

「このカードは自分フィールド上に攻撃力2500以上の恐竜さんがいるとき、フィールド上のカードを全て破壊するザウルス!」

 

 大爆発に巻き込まれ、フィールドに残っているのはフィールドバリアとカボチャの馬車に守られた金の城だけだ。

 

「【金の城】の効果で特殊召喚したあんたはモンスターを召喚できないドン!さぁ、どうするザウルス?」

「あたしの【金の城】は無事だぜ?それにまだ、あたしはモンスターを呼び出せる!」

 

 有朱さんの手札は4枚。モンスターがいてもおかしくはない。でも彼女、この間のデュエルでモンスターをドローできないと言っていた気がする。

 

「さぁ行くぜ?魔法カード【一点買い】を発動!自分の手札が3枚以上存在し、その中にモンスターが居ない場合、手札を全て除外することでデッキから好きなモンスター1体を手札に加えられるのさ!」

 

 有朱さんが3枚の手札を投げ捨てると、デッキからカードが1枚飛び出てくる。

 

「さぁ、恐竜野郎なんて喰っちまえ!融合デッキのカード15枚を裏側にしてゲームから除外!来い、【百万喰らいのグラットン】!」

 

 大きな、大きな口が開く。4足歩行の獣のような悪魔が有朱さんの前に現れ、吼える。

 

攻?

 

「こ、攻撃力不明のモンスターだドン……!」

「【グラットン】の攻撃力は、裏側で除外されているカード1枚につき100ポイントアップするぜ!」

 

 今除外されているカードは合計45枚。その攻撃力は……!

 

攻?→4500

 

「攻撃力、4500ですの……!?」

「すごいじゃない!真希ちゃん!」

 

 今、剣山君のフィールドはガラ空きだ。

 

「これで終わりだぁっ!【百万喰らいのグラットン】でダイレクトアタック!グラトニーファング!」

 

 グラットンは主の声に答える様に飛び上がり、大きな口を開けて剣山君を上から飲み込もうとする。

 

「け、剣山君っ!」

「大丈夫だドン、丸藤先輩!俺は墓地の【盾航戦車ステゴサイバー】の効果を発動させるドン!」

 

 その牙が剣山君に触れる直前、彼の足元がひび割れ、ステゴサウルス型のあの戦車が再び現れる。

 

守2400

 

「何だと!?」

「【ステゴサイバー】は相手が攻撃してきたとき、ライフを1000払う事で墓地から特殊召喚し、その戦闘で発生するダメージを0にできるザウルス!」

 

LP1700→700

 

 現れた戦車がその巨体を活かしてグラットンを突き飛ばす。盾の名前に相応しい効果だ。

 

「仕留め損ねたか……ターンエンドだ!」

 

 

真希 LP2000 手札0

モンスター:百万喰らいのグラットン

魔法・罠:シュトロームベルクの金の城

 

 

 攻撃を一度凌いだとはいえ、相手フィールドには攻撃力4000超えのモンスターに、あの強力なフィールド魔法。カードの効果でグラットンを処理できたとしても、金の城の効果でまた次のターンモンスターを呼び出されてしまうだろう。

 

「……なかなかやるザウルス」

「お前もな。まさかここまで食らい付いて来るとは思わなかったぜ」

 

 剣山君はデッキの一番上のカードに触れる。

 

「ライフは残り700。あんたのフィールドには凄いカードが2枚もある……ピンチだドン」

 

 剣山君はニッと笑うと、触れたカードを勢いよく引き抜く。

 

「でもアニキなら、どんなピンチでも絶対に諦めたりしないザウルス!ドロー!」

 

 そのドローで風が巻き起こる。剣山君の期待に応えるかのような、重く存在感のあるドロー。

 それはまるで、恐竜が地面を踏みしめる足音のようだ。

 

「……来てくれるって、信じてたザウルス!」

「へぇ?何を引いたんだ?」

「俺は、【暗黒(ブラック)ブラキ】を召喚するザウルス!」

 

 ズシン、ズシンとその足音を響かせながら、黒い体の竜脚下目が現れる。

 

攻1800

 

「で、でっけぇ……!」

「【暗黒ブラキ】の召喚に成功した時、モンスター1体を守備表示へと変更させるザウルス!」

 

 ブラキオサウルスの圧倒的な巨体に気圧されたのか、グラットンが守備体形をとる。

 

攻4500→守4500

 

「なんのつもりか知らねーけど、【グラットン】は自分の守備力も強化するモンスターだぜ?」

「いいや!もうそんなことは関係ないドン!俺は魔法カード【究極進化薬】を発動するドン!墓地から恐竜さんと、恐竜族以外のモンスターを除外して、デッキからレベル7以上の恐竜さんを呼び出すザウルス!」

 

 剣山君の墓地から2体のモンスターが除外されていく。

 

「はぁ?お前の墓地のモンスターは恐竜族だけじゃねーのか?」

「違うドン!【機動要犀 トリケライナー】は、機械族のモンスターだドン!」

「ちょっ、【ステゴサイバー】は恐竜だったろ!?紛らわしいなおい!」

 

 トリケライナーと超古代恐獣をコストとして小さなカプセルの薬が現れ、それが弾けると同時に新たな恐竜が現れる。

 

「さぁ行くザウルス!【暗黒恐獣(ブラック・ティラノ)】!」

 

 恐竜の王とも名高い、もっとも高い知名度を誇る肉食竜が現れる。幾つもの鋭い牙をギラつかせ、漆黒の巨体を震わせる。

 

攻2600

 

「【暗黒恐獣】は相手フィールドのカードが守備表示モンスターのみの場合、相手に直接攻撃が可能になるザウルス!」

「なるほど、【グラットン】を無視するつもりか!でもあたしのフィールドにはまだ【金の城】があるぜ?」

「だけどそのカードを守るカードはもう無い筈だドン?俺はフィールド魔法【ジュラシックワールド】を発動!」

 

 金の城が消え去り、周囲の風景がガラリと変わる。今にも噴火しそうな巨大火山に、生い茂るシダ植物。映画や本の中で見たような、恐竜の王国だ。

 

「これで全ての恐竜さんの攻撃力は300アップ!そしてもう、恐竜さんの攻撃を遮るカードはなくなったザウルス!」

「くっ……!」

「これで終わりザウルス!【暗黒恐獣】でダイレクトアタック!」

 

 暗黒恐獣は吼えると、1回転して尻尾を有朱さんへと叩きつけた。

 

「ちくしょぉっ!」

 

LP2000→0

 

 暗黒恐獣達の姿が消えていく。

 有朱さんは天上院さんに向き直ると、目に求まらぬ早さで地面に頭をつける。

 ……それは見事な土下座であった。

 

「申し訳ありません明日香先輩!あたし、負けちまいましたっ……!」

「えっ、えぇっ!?」

 

 往来で土下座を始めた少女に、通りすがりの生徒達の視線が集まっていく。

 

「ちょ、ちょっとやめてよ真希ちゃん!私気にしてないから!」

「明日香先輩の名前を借りておいて負けるだなんて、あたし、自分が情けないです……!」

 

 泣き崩れる有朱さんを元気付けるように、剣山君がかがんで視線を会わせる。

 

「そんなことないドン!お前、凄い強かったザウルス!」

「剣山……」

「俺のアニキへの思いにも負けないほどの気持ちを感じたザウルス!だからそう落ち込むなドン」

 

 有朱さんはもう一度だけ大泣きすると、すぐに目元をぬぐい立ち上がる。

 

「……十代先輩とやらをバカにしたことは謝るぜ。だけど剣山!次は負けないからな!」

「おう!いつでも掛かってくるドン!」

 

 似た者同士気が合うのかもしれない。二人は固く握手をすると、笑いあう。

 それと同時に、昼休み終了のチャイムが鳴り渡った。

 

 

 

 その日の夜。夜の闇の中でも目立つ純白の制服を着た2人が、人知れず話し合う。

 

「ようやく十代が帰ってきたか……分かっているな?星見」

「万丈目君こそ、遊陽に手を出したら許さないわよ?」

「あ、あぁ。それについては斎王様からお達しがあったからな」

「えぇ。決行は明日の朝。世界を白く染めるための最初の戦いが始まるのね」




「「今回の、最強カードは?」」

暗黒恐獣
効果/星7/地属性/恐竜族/攻2600/守1800
相手フィールド上に守備表示モンスターしか存在しない場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

「剣山君が使っていたカードね。この攻撃力での直接攻撃は強力だけど、条件がけっこう厳しいわね」
「そうだね。特に相手の伏せカードとかは障害になりやすいかも」
「それに伏せカードが無いならわざわざ守備モンスターを無視しても……」
「だから今回みたいに、倒せない相手を無視する使い方が一番かな。止めをさせないなら、モンスターを除去した方が後々の展開で有利になるかもね」


ついに動き出す光の結社達。明日香は万丈目にデュエルを挑む。その裏側で、深月がももえとジュンコに新たな力を見せつける。
次回、「光の進軍」


更新が遅くなって申し訳ありません。かなり忙しいので、次の投稿以降もかなりペースが落ちてしまいます。
失踪はしないように頑張るので、どうかのんびり待っていただけたら幸いです。
それではまた次回もお会いできたらうれしいです!
ではではー!


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40話 光の進軍

お久しぶりです。投稿が遅れに遅れ気がつけば9月。本当に申し訳ないです。
相変わらずデュエルしない主人公。

9/9 次回予告を一部変更


「突然デュエルを挑んできたと思ったら……」

「3人相手にどう勝つつもりよ?」

「そのへんてこな制服といい、星見さん最近変よ?」

 

女子A LP4000 手札0

モンスター:エンシェント・クリムゾン・エイプ

魔法・罠:セット セット

 

女子B LP4000 手札0

モンスター:ヘルフレイムエンペラー

魔法・罠:セット バーニングブラッド

 

女子C LP4000 手札0

モンスター:氷の女王

魔法・罠:セット 一族の結束

 

 私の前には3人の女子。そして彼女達の操るフィールド魔法と永続魔法により強化された最上級モンスター達。

 

「このデュエルは自分以外のデュエリストが全員敵になるサバイバルデュエル。一番最初に攻撃できるのは、2番目にターンが回ってきた私よ」

 

深月 LP4000 手札7

モンスター:無し

魔法・罠:無し

 

「1ターン目に何もせずにターンエンドしてたみたいだけど、そんなデッキで勝てるのかしら?」

「わざと何もしなかったのよ。その必要がないから。でもこのターンでデュエルは終わり。斎王様から頂いたこの力を見せてあげるわ!【融合】を発動!」

 

 手札のモンスターを融合させ、新たなモンスターを呼び出す。幻奏ではない。あの愚かな私が使っていたカードとは違う、神聖なるモンスター。

 

「さらに墓地のモンスターを除外して効果発動!手札のこのモンスターを特殊召喚して、効果発動!」

 

 妖艶な女性型のモンスターが3人を見て微笑む。

 

攻4800

 

「攻撃力、4800!?」

「何よ、その融合モンスター!」

「あははっ!これこそ私の光の象徴!闇にとらわれた貴女達の心を救う、一筋の光なのよ!」

 

 私が発動した装備魔法カードを纏い、その融合モンスターが来ているドレスが純白に染まる。

 

「さぁ、バトルよ!」

「っ!リバースカードオープン!【魔法の筒】!」

「私も同じカードを発動!」

「無駄よ!斎王様の光は全てを照らすわ!」

 

女子A LP4000→0

女子B LP4000→0

女子C LP4000→0

 

 倒れる3人の女子。彼女達の心にも光の波動が届いたことだろう。

 

「さぁ、貴女達も光の結社に入りなさい。そして斎王様に全てを捧げるのよ!」

 

 

 

「な、なんなんスか皆!?」

「……明らかに様子がおかしい。それにあの白い制服は……」

「レディが着ていたのと同じだネ。様子を見るに、デュエルに負けると仲間入りしてしまう様だ。1度このブルー寮から逃げるべきだネ」

 

 オベリスクブルー男子寮。白い制服を着た数人の男子が、他のブルー寮の生徒にデュエルを挑んでいた。

 鏡泉達は部屋に隠れ白い制服の生徒をやり過ごしていたが、その数は増すばかり。

 

「「「サンダー!サンダー!万丈目ホワイトサンダー!」」」

「さぁ行けお前達!斎王様の威光で、この世界を白く染めるために!」

「「「うぉぉぉっ!!」」」

 

 白い制服の男子達は、皆おかしな目をしていた。やたらとギラついて活気がある。

 鏡泉はその集団が廊下をかけていくのを、壁に耳を当てて聞き届ける。

 

「万丈目君……?彼が関係していると言うのかい?」

 

 3人が居るのは2階。窓から飛び降りる事は可能ではあるが、それなりには危険だ。

 

「や、やっぱりダッシュで逃げるしかないッスね!」

「……しかし、それではあいつらと鉢合わせる恐れも……」

「……仕方ない。あいつらに見つからないよう窓から逃げるしかないネ」

「で、でもこの高さからは危なくないッスか!?」

「大丈夫サ右橋。……左河、カーテンを持ってきてくれるかい?」

「……はい、ここに」

 

 左河は鏡泉に言われると、窓についていたカーテンを外し持ってくる。

 

「2人はこのカーテンに掴まって降りるんだ。その後カーテンを2人で持ってクッションにしてくれ。その上に僕が飛び降りよう」

「そ、それじゃあ鏡泉さんが……!」

「僕は大丈夫サ。体の丈夫さには自信があってネ」

「……やるぞ、右橋。鏡泉さんの言う通りにしよう」

「わ、分かったッス……!」

 

 右橋と左河はカーテンに掴まって順番に脱出し、それをトランポリンの様に広げる。

 

「オッケーッスよ、鏡泉さん!」

「フフ、僕の華麗なるジャンプを今、ご覧にいれよう!」

 

 鏡泉は窓から飛び降りると、カーテンの上に着地した。

 

「……大丈夫ですか?」

「あぁ。勿論サ」

 

 しかし安心したのも束の間。ガサガサと草の根を掻き分ける音が森の中から聞こえ、白い制服の生徒達が次々と現れてくる。

 

「っ、女子達まで来てるッスよ!?」

「フハハハ!この万丈目様の目をごまかせると思うなよ?」

「……万丈目」

 

 白い制服の生徒を引き連れているのは万丈目準と、深月だ。

 

「随分時間かかっているのね、万丈目君?」

「こちらの方が人数が多いんだ。仕方ないだろう」

「ふーん。あ、遊陽には手を出して無いでしょうね」

「勿論だ。……というかあいつ、寮にいなかったぞ?」

「あー、そういえば今日は朝からトメさんの手伝いに行くとか言ってたわね」

 

 完全に取り囲んでいるからだろう、余裕そうに会話を続ける2人を前に、鏡泉は汗を流す。

 

「これは一体何のつもりだい?レディまで……」

「あなたにもすぐに分かるわよ」

「あぁ。斎王様の為に、我々の考えに賛同してくれる人間が必要なのだ」

 

 2人以外の生徒達は、ジリジリとその距離を詰めてきている。

 

「う、うぉぉぉっ!」

「……退け!鏡泉さんのお通りだ!」

 

 右橋と左河が互いの顔を見て頷くと、その包囲網の1ヶ所に突撃する。

 

「な、何をやっているんだい!?」

「鏡泉さんは逃げてくださいッス!」

「……鏡泉さん、早く!」

 

 2人が数人の男子を抑えようとするが、逆に捕まってしまう。しかしそのお陰で、包囲網の一部に穴が開く。

 

「っ!すまないお前達!必ず助けると約束する!」

 

 鏡泉は意を決するとその穴から包囲網を脱出し、振り替えることなく校舎へと走っていった。

 

「チッ!余計なことを……」

「逃げられたわね。鏡泉君の頭脳は欲しかったのに」

 

 

 

「はい。お疲れ様。ごめんねぇ、こんなに朝早くから」

「いえ。最近は体の調子も良いので、力仕事も任せてください」

「頼りになるわぁ」

 

 船からやって来る大量の段ボールを購買部奥の倉庫まで運ぶ。とはいえ、台車があるからそれに乗せて押していくだけだ。

 いつもはトメさんがやっていたらしいけど、トメさんも結構な歳だろうし、あまり力仕事をさせるのは心配な部分もある。

 

「あれから深月ちゃんとはどうなんだい?」

「あ、えっと……ちょっとまた問題が……」

「そうなのかい?」

「……大丈夫です。絶対に、深月は取り戻します」

「……あんまり思い詰めちゃダメよ?深月ちゃんと何があったのかは分からないけど、2人なら大丈夫よ」

 

 校内にある購買部。段ボールの中に詰められた商品をならび終え、ブルー寮に向けて歩いていると誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。

 

「黒野君!」

「鏡泉君。どうしたの?」

「それが……だネ」

 

 

 光の結社によるブルー寮の侵略。それはあまりにも突然すぎる事件だった。

 男子・女子寮のほとんどがあの白い制服を着て、斎王とやらを崇拝している。

 

「右橋と左河はボクを逃がすために……」

 

  デュエルに敗北すると光の結社になってしまう。まるで形を変えた闇のデュエルだ。

 

「……デュエルに負けて仲間に入るなら、デュエルで勝てばもとに戻せるのかな?」

「分からない……ボク達は逃げるのに必死だったからね」

 

 もしデュエルでもとに戻せるのなら、深月を正気に戻すことができるかもしれない。

 

「……それは多分無理だぜ」

 

 僕たちの会話に割り込む声。くすんだ金髪をかきながら、有朱さんが歩いてくる。その体は引っ掻き傷だらけだ。

 

「有朱さん!?どうしたの、そのケガは……」

「森の中を突っ切って逃げてきたんだよ。女子寮もその光の結社とやらに襲われてな」

 

 男子寮を襲ったのが万丈目君なら、女子寮を襲ったのは……。

 

「途中何人か白いやつらを倒したけどよ、全然ダメだ。正気になんて戻りやしねぇ」

 

 無事なブルー生徒は、もしかして僕たちだけなのだろうか。……いや、レッド寮にいる天上院さんなら大丈夫だろう。

 

「一旦、皆でレッド寮に行こうよ。皆にもこの事を伝えた方がいい」

 

 レッド寮は、校舎から一番離れた崖の上に建っている。僕は何度か行ったことのある場所だけど、鏡泉君と有朱さんは初めてだろう。

 

「へぇ……ここがレッド寮なのか」

「なんだか親しみ深い場所だネ」

 

 ボロボロの寮のすぐ隣。天上院さんがいる新しい建物の前には、女子が3人立っている。光の結社じゃない、青い制服のままだ。

 

「明日香様!いい加減ブルー寮に戻りましょうよ!」

「そうですわ!」

「でも、私はレッド寮を守らないと……」

 

 浜口さんと枕田さん、それに天上院さんだ。天上院さんを連れ戻しに来たのだろうけど……そのお陰で襲撃を免れたのは皮肉な話かもしれない。でも良かった。

 

「3人とも、無事だったんだね」

「あら、黒野君。こんなところで何してるのよ」

「お久しぶりですわ」

「無事……って、何かあったの?」

「うん。万丈目君と深月がおかしくなったのは知ってるでしょ?」

「え、えぇ……」

「その2人が光の結社だとかいう組織を名乗りはじめてネ。オベリスクブルー寮を襲撃してきたのサ」

「お陰でこのザマだよ」

「鏡泉君に、真希ちゃんまで……」

 

 有朱さんのケガを手当てしながら、天上院さんの部屋で話し合う。十代君や丸藤君も集まってきた。

 

「俺もいるぞ!」

「どうしたの、三沢君?」

「……いや、何でもない」

 

 突然叫びだした三沢君を皆が見る。

 

「とりあえず、由々しき事態だドン」

「万丈目のやつ、俺がいない間にそんなことになってたのかよ」

「深月がそんなことするなんて……」

「その斎王?とやらのせいなのですわね」

「本当に、困ってしまうノーネ」

 

 ……?

 

「「「く、クロノス先生!?」」」

「校長ナノーネ」

 

 突然会話に和って入ってきたクロノス校長に、皆が跳び跳ねて驚く。

 

「クロノス先生、どうしてここに?」

 

 三沢君が丁寧に片手をあげて質問する。クロノス校長はうなずくと、沈痛な面持ちで語り始める。

 

「本日は1年生の授業があったのデスーガ、ブルー寮の生徒が誰一人として出席しなかったノーネ」

「ブルー寮の……やっぱり、深月達のせいで……」

「シニョーラ深月がどうかしたのデスーカ?」

「その……ブルー寮の皆が、おかしくなってしまったんです」

「な、何でスート?」

 

 僕達はことの発端を説明した。斎王と言う男に皆が操られてしまったことを。ブルー寮が占拠され、光の結社になってしまったことを。

 

「ナポリターナ……」

 

 クロノス校長は顔を真っ青に染める。

 

「そんな恐ろしいことが起きていたトーハ……仕方がないノーネ!その光の結社とかいうチンケなグループ、見過ごせないノーネ!」

 

 クロノス校長は立ち上がると、ブルー寮の方角へと歩き始める。

 

「ま、待ってくださいクロノス校長!」

「そうです!何があるか分からないんですよ?」

「それデーモ、大切な生徒たちがおかしくなってしまったのを、見過ごすことは出来ないノーネ」

 

 僕達は皆でうなずくと、クロノス校長の跡を追い、ブルー寮に向かった。

 

 

「それで?光の結社を解散してほしい、と言うわけか」

 

 ブルー寮の前には、お神輿の様な椅子に座った万丈目君と、それを呆れ顔で見ている深月が待っていた。

 

「その通りナノーネ!ワタシは校長の座に着きましターガ、ブルー寮の寮長であることに変わりはありませんーノ!」

「残念ねクロノス校長?もうここはブルー寮ではないのよ」

 

 深月が普段からは想像できない嘲る声でそう言うと、寮の扉が開き中から誰かが出てくる。

 

「「は、ハジメ様!?」」

 

 枕田さんと浜口さんの声が重なる。

 白い服を着た終理先生がクロノス先生を睨む。

 

「あぁ!ここはもうオベリスクブルーではない。ここはサイオウホワイト寮として生まれ変わったのさ!そして今の寮長は俺、終理創さ!」

「ペペロンチーノ!?」

「教師まで組織に取り込んでいるとはネ」

「てめぇら、どういうつもりだよ?」

 

 ショックを受け崩れ落ちるクロノス先生を足蹴にして、有朱さんが前に出る。

 

「そうだぜ!万丈目、お前その服似合ってねーぞ!」

「そうッスよ!」

「黙れ十代!貴様には白の素晴らしさがわからぬか!」

 

 そのまま言い合いになるかともおったが、万丈目君はすぐに視線を天上院さんに移す。

 今までの彼ならもっと十代に食って掛かった筈だったろう。

 

「ちょうど良かったよ天上院君。君も光の結社に入らないかい?」

「はぁ?なに言ってるの?」

「そうだぞ万丈目君!明日香を誘うのなら、もっとムードを大切にしてだね!」

 

 どこから出てきたのか吹雪先輩が天上院さんと万丈目君の間に割ってはいる。

 

「ごめんなさい、兄さん。少し退いてて貰えるかしら?」

「そんなっ!?」

 

 ショックを受けた吹雪先輩が、クロノス校長の隣に座り込む。

 

「あぁそうだ。デュエルしようか天上院君。それが一番手っ取り早い」

「てめぇ、明日香先輩を洗脳するつもりだな?」

「洗脳だなんて人聞きの悪い。光の素晴らしさを知ってもらうだけさ」

「……いいわ、相手になってあげる」

「明日香!?いや、ここは俺が……!」

「いいえ十代。これは私たちブルー寮の問題よ。万丈目君、もし私が勝てば、この光の結社とやらは解散して貰うわね」

「良いだろう」

 

 光の結社とデュエルするのは危険だ。みんなそれを知っているから、天上院さんを止めようとする。

 

「お待ちになって明日香様!」

「そうですよ!あんな挑発に乗ることなんて……!」

「ごめんなさい。でも、これは私がやるべきことよ」

「っ!なら、私もデュエルしますわ! 私も、ブルー寮の一員ですのよ!」

「そ、それならあたしだって!」

「っ、ももえ先輩もジュンコ先輩も!あいつらを倒しても洗脳はとけねーっすよ!?」

 

 二人がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに深月が笑う。

 

「あはは!なら、二人は私が相手してあげるわ」

「深月さん……」

「深月……」

「あなたたち二人、まとめてデュエルしてあげる。手札もライフも2倍で良いわよ?万丈目君か私、どっちかでも負ければ、光の結社は解散する。良いわよね、万丈目君?」

「フン、負けるなよ星見」

「それは私のセリフよ」

「ももえ、ジュンコ……」

「さぁ、すぐにでも勝負を始めようじゃないか!終理先生、デュエル場の使用許可を」

「勿論だ。存分に使えばいいさ」

 

 

 ざわつくデュエルフィールド。ここでデュエルが行われていることは僕達と光の結社しか知らない。

 深月の後ろ側の観客席には、白い制服の生徒達がずらりと並んでいる。

 

「目を覚まさせてあげるわよ、深月!」

「えぇ!黒野君の隣にいないなんて、貴女らしくありませんわ!」

 

 深月か万丈目君、どっちかに勝てば光の結社は解散。先に深月のデュエルが始まる。

 

「私が先にやるのね。まぁいいわ。応援しててね、遊陽!」

 

 深月が僕の方を見て大きく手を振る。

 

「大丈夫よ黒野君。深月はあたし達が取り戻すから!」

「……うん。お願い、枕田さん、浜口さん」

「……へぇ、遊陽から応援してもらえるなんて、羨ましいわ……叩き潰してあげる」

 

「「デュエル!!」」

 

深月 VS ももえ&ジュンコ

 

「私の先攻ですわ!ドロー!」

 

 ライフは8000。手札は実質10枚。圧倒的に深月が不利なデュエル。だけど深月は不敵な笑みを浮かべている。

 

「私は2枚の永続魔法を発動しますわ!【黒蛇病】、そして【暗黒の扉】!」

 

 黒蛇病は自分のスタンバイフェイズ毎にお互いに200のダメージを受けるカードだ。受けるダメージは毎ターン倍になっていくから、早く処理しないと大ダメージを受けることになってしまう。

 そしてもう1枚のカードは暗黒の扉。お互いに1体のモンスターでしか攻撃できなくなるカードだ。

 

「さらに【デス・ウォンバット】を召喚しますわ!」

 

 浜口さんの目の前に小動物が現れる。

 

「このモンスターの効果によって、私は効果によるダメージを受けませんわ!」

「良いわよももえ!」

 

 デス・ウォンバットと黒蛇病が並んだことで、深月だけが毎ターンダメージを受けることになる。暗黒の扉で相手の攻撃を封じるロックバーンという部類のデッキなのだろう。

 

「早速いい調子ね。頑張って、ももえ」

 

 隣の席に座る天上院さんが呟く。浜口さんとしては理想的な初動が出来ているのだろう。でもそれは深月も理解しているはず。

 

「カードを1枚セット。ターンエンドですわ!」

 

 

ももえ&ジュンコ LP8000 ももえ手札2

モンスター:デス・ウォンバット

魔法・罠:黒蛇病 暗黒の扉 セット

 

 

「私のターンね。ドロー!」

 

 深月はドローしたカードを確認し、ニヤリと笑う。

 

「見せてあげるわ!斎王様から頂いた、私の新しい力を!来なさい、【月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)】!」

 

フィールドが一瞬闇に包まれ、紅の光と共に狐の衣装を纏う女性が現れる。

 

攻1800

 

「深月?何よ、そのモンスター」

「……幻奏じゃ、無い……」

 

 深月の使っていた華やかなモンスターとは違う。暗く、美しく、妖艶なモンスター。

 

「な、何ですの?」

「あんた、自分のデッキはどうしたのよ!?」

「あんなデッキなんてもう必要ないわ。私は月光。闇に囚われる貴女達を救う一筋の光!行くわよ、バトル!」

 

 月光紅狐が飛びあがり、デス・ウォンバットへ向け蹴りを放つ。

 

「させませんわ!【くず鉄のかかし】発動!このカードは相手の攻撃を無効にしますわ!」

 

 紅狐の攻撃は割って入る様に現れたかかしに防がれる。

 

「さらに【くず鉄のかかし】は発動後、セットされますわ」

「毎ターン攻撃を無効に出来るカードに、攻撃回数を制限するカード……私の攻撃は封じたってことね」

「さっすがももえ!」

「私はカードを2枚セット。ターンエンドよ」

 

 

深月 LP4000 手札3

モンスター:月光紅狐

魔法・罠:セット セット

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 黒蛇病の効果が発動し、深月の肌に黒い蛇の模様が浮かび上がる。

 

「くっ……」

 

LP4000→3800

 

 次は枕田さんのターンだ。枕田さんのデッキは、どんなものなのだろう。

 

「良い手札だわ!あたしはフィールド魔法【霞の谷(ミスト・バレー)の神風】を発動!」

 

 枕田さんの背後から、美しく輝く風が吹く。彼女のデッキは風属性デッキか。

 

「そしてあたしは、【ハーピィ・ダンサー】を召喚するわ!」

 

 女性モンスターとしてはトップクラスの知名度を誇るハーピィシリーズのモンスターだ。

 露出度の高いその衣装は踊り子と言うに相応しい。

 

「【ハーピィ・ダンサー】の効果を発動するわ!自分の風属性モンスター1体を手札に戻して、手札から風属性モンスターを召喚するわ。【ダンサー】を手札に戻して、来て!【ハーピィ・レディ1】!」

 

 ハーピィ・レディ三姉妹の1人。翼となった両腕をはためかせ、枕田さんの前に現れる。

 

攻1300

 

「【ハーピィ・レディ1】の効果で、私の風属性モンスターの攻撃力は300アップするわ!」

 

攻1300→1600

 

 ダンサーのモンスターを入れ替える効果。一見無意味にも見えるけど、今発動しているフィールド魔法は……。

 

「さらに【霞の谷の神風】の効果を発動!あたしのフィールドの風属性モンスターが手札に戻った時、デッキからレベル4以下の風属性モンスターを特殊召喚出来るわ!来て、【霞の谷(ミスト・バレー)のファルコン】!」

 

 神風に乗り、剣を構えた鳥人の戦士が現れる。

 

攻2000→2300

 

 レベル4にしては高いステータス。所謂デメリットアタッカーに該当するカードだ。

 

「それだけじゃないわ!魔法カード、【万華鏡-華麗なる分身-】を発動!あたしのフィールドに【ハーピィ・レディ】が存在することで、デッキから【ハーピィ・レディ三姉妹】を特殊召喚!」

 

 ハーピィ・レディ1の姿がブレ、3人に増える。元となったハーピィ・レディ1もそのままフィールドに残っている。

 

攻1950→2250

 

「モンスターを一気に3体も……!」

「へへっ!どんなもんよ!」

 

 こんなに大量展開しても、浜口さんの暗黒の扉が邪魔になって一斉攻撃は出来ないだろう。

 ……普通なら。

 

「バトル!【霞の谷のファルコン】で、【月光紅狐】を攻撃するわ!」

 

 霞の谷のファルコンが剣を掲げると、暗黒の扉のカードが竜巻に吸い込まれていき、枕田さんの手札に入る。

 

「何ですって!?」

「【ファルコン】はその攻撃力の代償に、攻撃するときに自分フィールドのカード1枚を手札に戻す必要があるわ!」

「けれど発動コストも無い永続魔法ならデメリットなんてほぼ無いでしょうし……この状況じゃむしろメリットね」

 

 暗黒の扉が消え去ったことで、枕田さんのモンスターの攻撃を遮るカードはない。

 深月は小さく舌打ちすると、セットされていたカードを発動させる。

 

「リバースカードオープン!【逆さ眼鏡】!フィールドの全てのモンスターの攻撃力はこのターンの終わりまで半分になるわ!」

 

月光紅狐攻1800→900

デス・ウォンバット攻1600→800

ハーピィ・レディ1攻1600→800

ハーピィ・レディ三姉妹攻2250→1125

霞の谷のファルコン攻2300→1150

 

「けど、深月のモンスターの攻撃力も下がるなら関係無いわ!」

 

 攻撃力が下がることでダメージこそ減らせたものの、戦闘破壊は免れない。

 月光紅狐は妖しい笑みを浮かべると、無抵抗に剣を受け止める。

 

LP3800→3550

 

「掛かったわね!リバースカードオープン!【月光輪廻舞踊(ムーンライト・リンカネーション・ダンス)】を発動するわ!私のモンスターが破壊されたとき、デッキから【ムーンライト】と名のつくモンスター2体を手札に加える!」

 

 深月の手札に、新たに2枚のカードが加えられる。

 

「くっ!でも総攻撃よ!」

 

 2人のフィールドに残る3体のモンスターが続けざまに攻撃していく。

 

「きゃぁぁっ!」

 

LP3550→2750→1950→825

 

「どんなもんよ!あたしたちのこと、甘く見てたでしょ?もう一度【暗黒の扉】を発動してカードを2枚セット。ターンエンドよ!」

 

 

ももえ&ジュンコ LP8000 ジュンコ手札1

モンスター:デス・ウォンバット ハーピィ・レディ1 ハーピィ・レディ三姉妹 霞の谷のファルコン

魔法・罠:黒蛇病 暗黒の扉 セット セット セット 霞の谷の神風

 

 

「ふふ、ふふふ……」

 

 深月が顔を伏せたまま笑う。

 

「深月……?」

 

 深月はユラリと顔をあげる。2人のライフポイントはほぼ10倍。それなのに彼女からは、なんの不安も感じられない。

 

「あははっ!ええ!正直馬鹿にしてたわ!まさかここまで追い込まれるなんてね」

「余裕そうですわね……」

「えぇ。だってこのデュエルに勝つのは私。そういう運命だもの」

 

 深月がデッキの一番上に手を置き、カードを引く。

 

「私のターン、ドロー!……さぁ、行くわ!私は魔法カード【融合】を発動!」

 

 深月の背後に、青と赤の巨大な渦が現れる。

 

「【融合】……!?」

「来ますのね、深月さんのエースモンスター……!」

「私は手札の【月光紫蝶(ムーンライト・パープル・バタフライ)】と、【月光白兎(ムーンライト・ホワイト・ラビット)】を融合!」

 

 紫色の装飾を纏う蝶の踊り子と、バニーガールのような服装の白兎が渦へと飲み込まれていく。

 

「宵闇に差す光のように!輝き、魅了し、舞い踊れ!来なさい、【月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)】!」

 

 月明かりの下に舞う、猫の姫。彼女はそのしなやかな肢体を鮮やかに操り、主である深月の側に降り立つ。

 

攻2400

 

「綺麗なモンスター……ですわ」

「えぇ……」

 

 攻撃力2400。2人のフィールドにいるどのモンスターよりも攻撃力が高い。

 とはいえ暗黒の扉とくず鉄のかかしのコンボで攻撃は通らないけど……。

 

「私は墓地の【月光紫蝶】の効果を発動!このカードを墓地から除外し、手札から【月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)】を特殊召喚!」

 

 紫色に輝く鱗粉が深月の目の前に集まり、蒼い猫の衣装を纏う可愛らしい少女が現れる。

 

攻1600

 

「【月光蒼猫】の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、【月光蒼猫】以外のモンスター1体の攻撃力を2倍にするわ!」

「深月のフィールドに対象になるモンスターは……1体!」

 

 舞猫姫が蒼い光を纏う。

 

攻2400→4800

 

「攻撃力、4800……!?」

「これが斎王様のお力!貴女達もすぐにわかるわ!この素晴らしさが!」

「っ、でも、いくら攻撃力をあげたところで」

「攻撃できない。そう言いたいんでしょ?」

「っ!」

「【月光舞猫姫】の効果を発動!私のモンスター1体……【月光蒼猫】を生け贄に捧げることで、このターンももえとジュンコのモンスターは1度だけ戦闘では破壊されず、【月光舞猫姫】は全てのモンスターに2回ずつ攻撃できるわ!」

 

 攻撃力4000超えの全体攻撃……!?それもわざわざ戦闘破壊耐性を付与してまでの2回攻撃。

 守りを主軸に置いていた幻奏とは違う、相手を攻めることだけを考えているかのような、超攻撃的なデッキだ……。

 

「【暗黒の扉】はモンスター1体でしか攻撃できなくなるカード。それなら、1体のモンスターで複数回攻撃すれば良いのよね?」

「そんなっ!」

「大丈夫よ、ももえ!リバースカードオープン!【迷い風】!特殊召喚された相手モンスター1体は、このターン効果が無効になり、元々の攻撃力も半分になるわ!」

 

 霞の谷から吹く暗い風が舞猫姫を取り囲む。

 

「ふふ、光は全てを照らすのよ!まやかしなんて通用しないわ!私は墓地の【月光紅狐】の効果を発動!【ムーンライト】と名のつくモンスターを対象として発動したカードを無効にし、お互いに1000ポイント回復するわ!」

 

 紅い月の光が闇を払うようにフィールドを照らす。

 

深月LP825→1825

ももえ&ジュンコLP8000→9000

 

「運命の輪は回り始めた!」

 

 深月が1枚のカードを掲げる。全てを突き刺すような、強い光を放つカードだ。

 

「装備魔法、【白のヴェール】を発動!」

 

 強い光がフィールドを覆い、月が純白に染まっていく。

 ウェディングドレスのような真っ白なドレスを身に纏った舞猫姫が、妖艶な笑みを浮かべた。

 

「バトル!【月光舞猫姫】で【ハーピィ・レディ1】を攻撃!」

「くっ……!」

「まだまだ!リバースカードオープン!【神風のバリア-エア・フォース-】!」

 

 霞の谷から強い風が吹き荒れ、月光舞猫姫を吹き飛ばそうとする。

 

「無駄よ!【白のヴェール】を纏ったモンスターが戦闘を行うとき、相手は魔法・罠カードを発動することは出来ず、その効果は無効になるわ!」

 

 純白のヴェールが光を放つ。その光を浴びた伏せカードと表側表示のカードは真っ白に染まってしまい、その効果を失う。

 

「さぁ、切り裂け、【月光舞猫姫】!」

 

 片手に持ったナイフを煌めかせ、ハーピィ・レディに突き立てる。

 

「「きゃぁぁっ!!」」

 

LP9000→5800

 

「さらに【月光舞猫姫】は、同じモンスターに2回攻撃できるわ!」

 

 休むまもなく、もう片方の手のナイフで切り上げ、ハーピィ・レディは破壊される。

 

LP5800→2600

 

「【白のヴェール】を装備したモンスターがモンスターを戦闘破壊したとき、貴女達の魔法・罠カードは全て破壊されるわ」

 

 真っ白に染まったカードたちが風化して行く。

 

「続けて攻撃!【デス・ウォンバット】を引き裂きなさい!」

 

 舞猫姫は踊るようにくるりと向きを変え、デス・ウォンバットの背後まで跳び跳ねると、背中にナイフを突き刺した。

 

「そん……な……こんなことって……」

「深月……あんた……」

 

LP2600→0

 

「ももえ……ジュンコ……」

「先輩っ……!」

 

 モンスター達が消えていき、浜口さんと枕田さんが倒れる。

 

「どうかしら?負けたことを悔しく思う必要は無いわ。貴女たちは光に導かれる。そういう運命だったのだから」

 

 深月が倒れた二人を見下ろすように歩く。

 

「ええ……そうですわね」

「なんて素敵なのかしら。光って……」

 

 浜口さんと枕田さんがユラリと立ち上がる。

 

「私も光の結社の一員として、斎王様のお手伝いをさせていただきますわ」

「うん。あたしも、斎王様に従うわ。これからはよろしくね?深月」




「今回の最強カードよ!」

月光舞猫姫
融合・効果/星7/闇属性/獣戦士族/攻2400/守2000
「ムーンライト」モンスター×2
(1):このカードは戦闘では破壊されない。
(2):1ターンに1度、自分メインフェイズ1にこのカード以外の自分フィールドの「ムーンライト」モンスター1体をリリースして発動できる。このターン、相手モンスターはそれぞれ1度だけ戦闘では破壊されず、このカードは全ての相手モンスターに2回ずつ攻撃できる。
(3):このカードの攻撃宣言時に発動する。相手に100ダメージを与える。

「斎王様から頂いた、私の新しいエースモンスターよ。相手全体に2回攻撃を行ない、ライフを削ることを追求した効果を持っているわ。今回はデス・ウォンバットに遮られてしまったけど、攻撃の度に100のダメージを与える効果を持っているわ。これと悪夢の拷問部屋を組み合わせれば……フフッ」


ブルー寮の奪還に失敗し、明日香、ももえ、ジュンコまでもが光の結社に入団してしまう。
元いた寮を追い出され、今後の学園生活を考える遊陽と真希の前に、光の結社の盟主たる斎王が姿を表す。
次回、「光の盟主・斎王!」


星見深月(光の結社)
斎王によって洗脳され、光の結社に堕ちた深月。その心には斎王への忠誠を深く刻まれているが、遊陽への想いには敵わなかった。光の結社に入ってからも遊陽と行動をとることが多い。
洗脳前と比べるとスキンシップが多くなっており、遊陽に近づく女子を敵視している。また遊陽や斎王以外には冷淡な反応をする。
その実力は斎王からも高く評価されており、遊陽と関係の無い命令なら素直に従うため、一般生徒をデュエルで負かし洗脳した数は万丈目に次いで多い。
使用デッキは【月光】。


さて、更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。今後もかなりノロノロ更新になるかとは思いますが失踪しないよう頑張ります。
それでは次回、漸く主人公のデュエルです。
ではではー!


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41話 光の盟主・斎王!

お久しぶりです。もう10月になってしまいました。これからも忙しいので投稿ペースは遅いですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
さて、ようやく主人公のデュエルです。お相手はタイトルからも察せられる通りあのお方。


「起きろよ先輩!朝だぜ?」

 

 ドアを叩く音。僕はレッド寮の一室で目を覚ます。

 

「ありがとう、有朱さん」

 

 ドア越しの有朱さんにお礼を言い、ゆっくりと体を起こす。

 あのあと、天上院さんは万丈目君に敗北し、光の結社に入団した。かくしてブルー寮の奪還は失敗。住む場所を追われた僕と有朱さんはレッド寮に、鏡泉君は三沢君のところに泊まらせて貰っている。

 クロノス先生がブルー寮を取り戻すために校長権限で色々やっているらしいけど……上手く行っていない様だ。この学園の理事会や株主の一部には既に終理先生が手を回していたようで、サイオウホワイト寮が正式なものとして認められてしまっていた。

 何人かがラーイエローに昇格した事で余っていたこの部屋に住んでいるのは僕だけ。有朱さんは天上院さんが使っていた部屋に泊まっている様だ。

 制服に着替えて食堂に向かうと、既に有朱さんが朝食をとっていた。

 トメさんの手作りなのだろう、卵焼きの匂いだ。

 

「おはよう、有朱さん」

「おはよ、黒野先輩」

 

 十代と彼の弟分の姿がない。今日は休みの日だし、学校はない筈だけど……?

 

「あれ、十代と2人は?」

「あぁ、ホワイト寮に呼ばれていったよ。何でも遊城先輩を光の結社に入れるための刺客が居るんだってよ」

「向こうは十代を仲間にしたいんだね」

「そりゃそうだろうな。こんなことになるまで交流は無かったけど、あの先輩すごく強いな?」

 

 トメさんは購買に向かったのだろう。ラップに包まれている僕の分の朝食を温め、食べる。

 

「いただきます」

「トメさん?って人が作ったんだっけか。旨いなこのご飯」

「うん。絶品だよね。使っている材料はそんなに高級じゃないのに……やっぱり料理人の腕だね」

 

 僕ら2人ではあまり会話が発展することなく、食器と箸が当たる音だけが響く。

 しばらくそのままの状態が続き、有朱さんが口を開いた。

 

「……明日香先輩が負けるとは思わなかった」

「……うん」

 

 天上院さんと万丈目君のデュエルは、終始万丈目君にペースを握られていた。深月も使っていた『白のヴェール』というカード……あのカードからは、何だか嫌な感じがする。

 

「あたし達、どうなるんだろうな」

「僕達?」

「……ブルー寮がこのままなら、あたし達、ずっと戻れ無いだろ?鏡泉先輩だって……」

「……うん。深月や皆がそのままって言うのも、許せないしね」

「結社のやつらを倒しても正気には戻らない。となれば大元を叩くしかねーけどよ、その斎王とやらはどこにいるんだよ……」

 

 有朱さんが大きなため息をついたそのとき、背後から声が聞こえた。

 

「おや、私を探しているのですか?」

「なっ、なっなぁぁぁ!?」

 

 有朱さんは声にならない悲鳴をあげて飛び退き、僕は咄嗟に振り向く。

 そこに立っていたのはオベリスクブルーの制服を着た背の高い男と、深月だった。

 

「おはよう、遊陽」

「失礼。自己紹介が遅れましたね。私は斎王琢磨。今週からデュエルアカデミアの3年生に転校してきたため、ご挨拶に伺いました」

「……この人が斎王なの?深月」

「うん。そうよ。このお方が斎王様」

 

 物腰は柔らかく、丁寧な口調。でもその瞳はギラギラと輝いていて、攻撃的だ。

 

「……そう。なら丁度良いよ。斎王、深月を返してもらおうか」

「遊陽?」

「彼女を……ですか?」

「深月にかけた洗脳、解いてもらえないかな?」

「洗脳だなんてそんな物騒なことではありませんよ。彼女は単純に、私の思想に賛同していただけただけです」

「チッ、白々しい……!」

 

 有朱さんが舌打ちをする。僕もそうしてやりたい気分だ。

 

「彼女が光の結社を脱退するか否かは彼女の意思に委ねられることです。私や、貴方が口を出すことではありませんよ」

「……お前……」

 

 沸々と腸が煮え繰り返る。ここまで怒ったのは初めてかもしれない。

 

「そうだ、私とデュエルして頂けませんか?」

「デュエルを?」

「えぇ。貴方の力に、私は興味を持っていましてね?」

「……やってやる。僕が勝ったなら、深月を元に戻すんだ」

「それは約束できませんね……彼女は自身の意思で私の下にいるのですから」

 

 僕に対してデュエルを挑んだ斎王に、慌てて深月が声をあげる。

 

「待ってください斎王様!遊陽を光の結社に誘うのは、遊陽が自分から――」

「えぇ、分かっているとも。しかし私とデュエルを行えば、きっと彼も我々の考えに賛同しくれるでしょう」

 

 ……やっぱり、僕を洗脳するつもりなのだろう。

 

「……良いよ。相手になってあげる」

「遊陽っ!?」

「それは良かった」

「待てよ黒野先輩!コイツ、かなり胡散臭いぜ?」

「わかってるよ。でも、深月を奪われた恨み、晴らさずにはいられない」

 

 元々僕はそういうものだ。恨みと呪いに満ちた怨霊の類。それに、この男を倒せば深月の洗脳も解けるかもしれない。

 

「さぁ、それでは外に出ましょうか」

 

 斎王の提案に従い、レッド寮を出る。互いにデュエルディスクを構え、向かい合う。

 

「デュエ――」

「失礼、デュエルディスクを使うのは初めてでして……どうすればよいのやら」

「斎王様、まずはここのボタンを……」

「あぁ……これですか……」

 

 デュエルディスクを使ったことがない?深月とのデュエルに勝っているのに?本当に、得体の知れない奴だ。

 

「では、改めまして――」

 

「「デュエル!!」」

 

遊陽 VS 斎王

 

「私の先攻、ドロー……私は、【アルカナフォースVII-THE CHARIOT】を召喚します」

 

 斎王のフィールドに現れたのは、壺の様な形をした奇っ怪なモンスター。光属性、天使族のモンスター……らしいけど、とてもそうとは思えない。

 

攻1700

 

「何だ?あの気味の悪ぃモンスターは……」

「斎王様の使うアルカナフォースは、運命を司るモンスター。フィールドに現れたときに正位置か逆位置かの運命を定め、それによって持つ効果が異なるわ」

「つまり……ギャンブルデッキってことか?」

 

 正位置か逆位置か。タロットをモチーフとしているカードなのだろう。それならきっと、逆位置なら悪い効果が発揮されると思うけど……。

 

「それでは、貴方の運命を占って見ましょうか」

 

 モンスターの頭上にカードが現れ、回転を始める。

 

「さぁ、ストップと。貴方の口からおっしゃって下さい」

「……ストップ」

 

 回転していたカードが、逆さまの状態で止まった。

 

「なるほど、逆位置の『戦車』ですか……随分と焦っている様ですね?」

「当たり前だよ。お前みたいな良くわからないやつに、深月を好き勝手されているんだからね」

「そんなつもりは無いのですがねぇ。それではここは1つお詫びの品をお贈りしましょう。逆位置の【THE CHARIOT】は、自身のコントロールを相手に移します」

 

 斎王の前からモンスターが消え去り、僕のフィールドに現れる。

 

「コントロールを……?」

「えぇ。そういう運命だったようですね。私は3枚のカードをセットし、永続魔法【千里眼】を発動。ターンエンドです」

 

 

斎王 LP4000 手札1

モンスター:無し

魔法・罠:千里眼 セット セット セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 相手のフィールドはがら空きだけど、伏せカードが多い。警戒して行かないと。

 

「貴方のスタンバイフェイズ、永続罠発動!【群雄割拠】!この効果により、お互いフィールド上に出せるモンスターの種族は1種類のみとなります」

 

 その為にこのモンスターを送りつけてきた……!?

 いや、まさか。だってこのモンスターが逆位置になる保証はない。そうなってしまった場合の保険だろう。

 それにしても……このモンスターがいる限り、僕はデストーイとエッジインプを召喚することはできない。セットすることなら可能だけど、表側表示になった瞬間に破壊されてしまう。

 

「さて、どうしますか?」

 

 今の僕の手札に攻撃力の高いモンスターは居ない。

 

「僕はモンスターをセット。そしてバトル!【THE CHARIOT】でダイレクトアタック!」

「なるほど、それならばリバースカードオープン!【チェンジ・デステニー】!」

 

 THE CHARIOTの動きが止まり、守備表示になる。それと同時に、斎王の背後に赤と青の扉が現れる。

 

攻1700→守1700

 

「【チェンジ・デステニー】は攻撃してきたモンスターを守備表示にした上で、表示形式の変更を不可能にします。その後貴方は1つの選択を迫られる。赤の扉を選べば、私は【THE CHARIOT】の攻撃力の半分である850のダメージを受ける。青の扉を選べば、貴方は850のライフを得る……さて、このカードはデュエルの勝敗を左右するカード……貴方はどちらを選びますか?」

 

 厄介なカードだ。これで僕はモンスターを自由に召喚できず、攻撃すらもまともに行えない。

 とはいえ、僕の手札には今の状況を打開するカードがある。次のターン、斎王がモンスターを召喚してくれば。

 ここは、少しでもライフを削って、短期決戦を狙う。

 

「赤の扉だよ」

「ほう、貴方も彼女と同じ選択を」

 

LP4000→3150

 

 これ以上はなにもできない……かな。

 手札に罠カードはあるけど、このカードが発動できる相手なのだろうか。ブラフにはなるかな?

 

「カードを1枚セット。ターンエンド、だよ」

 

 

遊陽 LP4000 手札4

モンスター:THE CHARIOT セット

魔法・罠:セット

 

 

「遊陽……」

 

 深月が僕を不安そうに見つめている。

 

「私のターン、ドロー。このスタンバイフェイズ、私は【千里眼】の効果を発動すると共に、永続罠【不吉な占い】を発動します」

 

 不吉な占い……?

 

「私のスタンバイフェイズ毎に相手の手札をランダムに1枚選択。私がそのカードの種類を言い当てれば、貴方に700のダメージを与えます……さて、それではどのカードを視ましょうか。好きな手札を1枚、貴方が選んでください」

 

 これもギャンブルカードだろう。発動するタイミングから、ほとんどモンスターか魔法かの2分の1。罠カードが手札にあればセットしているだろうから。

 

「このカードだよ」

 

 僕は一枚の手札を選び、表側が見えないように掲げる。

 

「確率は2分の1。そう思っているのでしょう?」

「……うん。大抵の場合は、ね」

「それなら今回は特別に、カードの名前まで宣言してしまいましょうか。魔法カード【融合】です」

「っ!?」

 

 カードの名前まで……!?

 インチキやイカサマ?いいや、僕の手札を覗きみるなんて、どうやって……。

 

「……正解、だよ」

 

LP4000→3300

 

「な、何なんだよお前!黒野先輩の手札を見たのか!?」

「手札ではありません。私は未来を見通したのですよ」

「未来……だと?」

「えぇ。私はこのデュエルの結果を見ました。黒野遊陽は敗北する、とね」

 

 僕が、負ける……?

 

「運命とは絶対的なのです。未来には無限の可能性がありますが、しかし未来が観測されたとき、それは確定した運命へと成るのです。私は貴方の手札を読んだ訳ではありません。精々貴方のデッキに入っているであろうカードを宣言したのみ」

「まるで意味が分からねーぞ?」

「このデュエルで僕が勝つ可能性はあったけど、斎王が僕の敗北を未来視した事で未来が確定され、その可能性がなくなった……ってことだよ」

「はぁ?どんな理論だよ、それ」

「現に私が宣言したカードは正解でした。今、運命が、私の勝利へとこのデュエルを運んでいるのです」

 

 未来なんて見ることができるはずはない。……って言いたいところだけど、オカルティックな存在である僕がそれを否定することは出来ない。

 もしこの男がただのペテンではなく、本当に未来を見られるのなら。この先のギャンブル効果も全て、斎王に都合のいいものになると言うことだろう。

 

「さらに永続魔法【千里眼】の効果により、私はスタンバイフェイズ毎に100のライフを支払い、貴方のデッキの1番上のカードを確認できます」

 

 僕の前に巨大なカードが現れる。僕の方からは裏側のカードが見えるだけで、次のターン何をドローするかは分からない。

 

LP3150→3050

 

「なるほど……【エッジインプ・シザー】ですか」

「っ!何のつもり……?」

「ただの独り言に過ぎませんよ。それではメインフェイズです。魔法カード【カップ・オブ・エース】を発動」

 

 斎王の頭上に魔法カードが現れ、さっきのモンスターと同様に回転を始める。

 

「それでは、ストップの掛け声をどうぞ」

「……ストップ」

 

 カードは正しい向きで止まる。

 

「正位置の効果により、私はカードを2枚ドローします」

「こいつ……やっぱりイカサマでもしてんじゃねーのか?」

「斎王様がそんなことなされる筈はないわ。全て定められた運命に従っているだけよ」

 

 まだ、まだ運が良い、で済むレベルだろう。だけどきっと、斎王の言う通りこれは必然。

 ギャンブルカードは全てを運に任せる代わりに、成功時のリターンは大きい。その結果を好き勝手に出来るのだ。絶対に勝てない訳じゃないけど、厳しい戦いになるだろう。

 

「では行きます。私は【アルカナフォースVI-THE LOVERS】を召喚」

 

 再びエイリアンの様な見た目のモンスターが現れる。大アルカナの6番目、『恋人』のカードだ。

 モンスターの頭上でカードが回転する。

 

「……ストップ」

「おや、正位置ですか。正位置の『恋人』は絆や深い繋がりを示すカード。お2人の仲はとても良いようだ」

 

攻1600

 

 正位置を得たアルカナフォースの効果は分からないけど、このモンスターもかなり強力なはず。

 

「さぁバトルだ!【THE LOVERS】でセットされたモンスターを攻撃!」

 

 THE LOVERSが2対の光を放ち、セットされたファーニマル・ライオを貫く。

 

「ふふ、カードを2枚セット。ターンエンドです」

 

 

斎王 LP3050 手札0

モンスター:THE LOVERS

魔法・罠:千里眼 不吉な占い 群雄割拠 セット セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードはエッジインプ・シザー。でもこのカートが手札にあることは、斎王は既に知っている。

 手札にいるファーニマルモンスターと融合しようにも、群雄割拠とTHE CHARIOTのせいでデストーイは特殊召喚出来ない。

 

「……なら、魔法カード発動、【ミニマム・ガッツ】!【THE CHARIOT】を生け贄に捧げることで、【THE LOVERS】の攻撃力を0に!」

 

 THE CHARIOTが光の塊となってモンスターに襲いかかり、その攻撃力を削る。

 

攻1600→0

 

「っしゃ!これで黒野先輩のフィールドにモンスターは居ない!」

「デストーイを融合召喚できるわね!」

 

 心なしか、深月が僕を応援してくれているような気がする。

 

「そして【融合】を発動。手札の【エッジインプ・シザー】と【ファーニマル・ウィング】を融合!」

 

 僕の背後に赤と青の渦が巻き、2体のモンスターが飲み込まれていく。

 

「刃向かうものを処刑せよ、冷徹のケダモノ!来い、【デストーイ・シザー・タイガー!】」

 

 青く美しい毛皮を陽光に煌めかせ、トラのぬいぐるみが腹部のハサミで空を切る。

 

攻1900→2200

 

「【シザー・タイガー】の効果によって、【デストーイ】の攻撃力はフィールドの【デストーイ】と【ファーニマル】1体につき300アップ。さらに融合召喚に成功したとき、融合素材の数までフィールドのカードを破壊できる!」

 

 僕が破壊するのは、群雄割拠と不吉な占いだ。

 2枚のカードはハサミによって一刀両断。不吉な占いが消えたことで、安定したダメージソースは消えたはずだろう。

 

「ほう……」

「【ミニマム・ガッツ】の効果を受けたモンスターが戦闘で破壊されたとき、コントローラーはその元々の攻撃力分のダメージを受ける」

 

 シザー・タイガーの攻撃力と、THE LOVERSの攻撃力の合計は、今の斎王のライフよりも多い!

 

「これで終わりだ!【デストーイ・シザー・タイガー】で【THE LOVERS】を攻撃!」

 

 シザー・タイガーが吼え、腹部のハサミでTHE LOVERSの首を断ち切った。




運命を自在に操作する斎王を相手に苦戦する遊陽。
運命の輪はただひたすらに太陽を沈ませる。
永続魔法『千里眼』による完全な未来視に対して、遊陽がとった行動とは。
次回、「陽はまた昇る」


次回はなるはやで頑張ります……。


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