やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 (ローファイト)
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【序章】ことの始まり編 ①秘密のバイト

………ギャグがしたい病に掛かりまして…………その、やっちゃいました。


俺は2年になり、強制的に奉仕部なる訳がわからない部に入部させられ5ヶ月が経った。

文化祭では盛大にやらかし、今では学校中の嫌われ者である。

 

ぼっちである俺にはたいしたダメージはない。

 

 

ただ昔とは違い、そんな中でも、まだ俺に話しかけてくる奴が居るということだ。

奉仕部部長の雪ノ下雪乃と部員の由比ヶ浜結衣

クラスメイトの戸塚

後、材木座?

 

雪ノ下雪乃2年J組、品行方正にして、文武両道、しかも容姿端麗、長い黒髪の学校一の美少女ときている。まあ、胸のボリュームはかなり足りないが……

彼女も俺同様なぜかボッチ体質だ。俺に何時も毒舌を吐いて来る。

俺が盛大にやらかした後でも、それは変わらない。逆にそれは俺にとって心地よく感じていた事は事実だ。………言っておくが俺はマゾじゃないぞ。

 

由比ヶ浜結衣2年F組、俺と同じクラスだ。見た目ビッチな奴だが優しいやつだ。前は人に流される様なやつだったのだが、この頃はちゃんと物を言うようだ。雪ノ下の影響だろう。胸のボリュームは雪ノ下とは真逆……2人が並ぶと明らかだ。………いや、何時も見ているわけではないぞ。たまに並ぶ姿を見るとついな………それ程違うと言うことだ。

盛大にやらかした俺に、気を使っているようで、何かと接触してくるのだが……距離感が近いのだ。

物理的にも精神的にもな。ボッチ体質の俺には勘違いしてしまうまであるからやめてほしい。

 

戸塚彩加。見た目は美少女で、天使だが、男だ。でも天使だ。

これ以上何も言うことが無いだろう。

 

材木座?知らん。

 

 

 

しかし、そんな連中にも俺は秘密にしてることがある。

 

俺はとある事務所の扉を開ける。

「…こ、こんにちは………」

 

ビュン!

俺の頬に何かが横切る。

壁には何やら、いろんな模様が書かれた札がついた投げナイフが刺さっていた。

 

「…………ふぅ」

俺はそれに動じない。もう慣れてしまったからだ。

 

「なんだ君か、驚かさないでよ。ゾンビかと思っちゃったじゃない」

広々とした事務所の真ん中にある大きな仕事机に、ふんぞり返って座るナイフを投げつけた本人である妙齢の美女が謝るでも無くそんな事を言ってくる。

 

「…………あの……毎回、なんですが…………」

 

「その目が悪いのよ!!ゾンビになった人間はみんなそんな目なんだから!」

 

「あのー、この目は生まれつきなんで………」

 

「まあ、いいわ。二人共まだだから、掃除でもしておいて」

 

「はい………」

俺はこれ以上何も言わずに、その美女に言われるがまま、広々とした事務所の掃除を始める。

 

俺はとある事務所でバイトをしているのだ。

この美女はこの事務所のオーナー。要するに俺の雇い主。

20代前半の長髪美女だが、なにせ横暴なのだ。

わがままが服を着た様な人なのだ。

俺は思う……見た目がいい女はどこか性格がねじ曲がっているのではないかと………

 

俺はこのバイトを始めて、もう1年以上経つが未だに慣れない。

いや、掃除とかはもう慣れた。家でもやってるし………しかし、本業の方がだ…………

ナイフが飛び交うからと言って、ヤクザではない。まあ、あまり変わらんが………

 

俺は事務所の玄関のモップがけをする。

ここは東京の一等地にある古い5階建てのビルで、各フロアーはかなり広い。

このビル全部がこの事務所のオーナーの持ち物だ。

建物は古いが中の設備は最新だ。

4階が事務所。5階がオーナーの居住スペース

屋根裏が従業員用の宿泊部屋

3階は居住スペースと書庫だ。

2階は倉庫と危険物取扱場所。俺はなるべく踏み入れたくない場所だ。

1階は駐車場とここにも倉庫がある。

車はコブラとか複数あるがどれも高級車だ。

因みに美女オーナーは超金持ちだ。ケチくさいけど……

地下があるのだが、俺は踏み入れたことが無い。

 

バイト先であるここに学校から1時間かけて週2~3回通っている。主には金曜日と土曜日だ。泊りがけなんてこともある。

 

しばらく、玄関を掃除していると………

「比企谷くんこんにちは、早いですね。私も手伝います」

 

「いえ、もうここは終わるんで」

 

「ごめんなさい。私はキッチンと書庫の掃除しますね」

優しい笑顔でそう言って、女子校のブレザー姿の彼女は足早にエレベーターに乗る。

 

彼女はここのアルバイトの先輩で、都内の有名女子校に通う俺の1つ上の高校3年生だ。

このバイトで唯一の安らぎの存在。誰にでも優しく、何時も笑顔で、可愛らしい人だ。

俺は最初は彼女をかなり警戒していた。誰にでも優しく、笑顔で、可愛らしい人間なんてこの世に居ない、裏があるに決まっていると思っていたからだ。

しかし、彼女に限ってはこれに当てはまらない。1年以上の付き合いでわかったことだが、彼女は純粋なのだ。彼女は清純なのだ。2回言ってしまったが………もはや、聖母レベルなのだ。

なんでこんな横暴なオーナーの元でこんなヤクザな仕事をしているのかは不明だが、彼女はここで住み込みで働いているのだ。

因みに3階の居住スペースは彼女の部屋だ。

 

 

俺は、玄関の掃除を終え、ポストの中を取り出しに行くと………

土煙を上げながら猛烈なスピードでここに向かって突入するよく知る人物が現れた。

 

「こん………」

俺が挨拶をする間もなく、その若い男は猛烈なスピードで玄関から階段へとかけ登っていく。

 

暫くして、4階の方から怒声が上がる。

 

「あんたか!私のブラジャーをくすねたのは!!お気に入りだったのに!!」

 

「ち、ちがうんや!洗濯物を取り込もうとしたら、目の前にぶら下がってただけなんや!!」

 

「……私とおキヌちゃんの洗濯物は5階で干してあるのに、なぜあんたが洗濯物を取り込める!!」

 

「…………か、堪忍や!!仕方なかったんやーーー!!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

「グボボベ!!」

 

ドゴ!!

バリーーーーン!!

 

ボス!

 

 

若い男が4階の窓を突き破って、玄関前の地面に落ちて、半場めり込む。

 

「……………何してるんすか」

4階から人が落ちて地面にめり込むなんて、こんな異常事態だが俺は冷静だ。

俺はその若い男に声を掛ける。

 

「よ、よおー、八幡………これも修行の一環だ」

肩が半分地面に埋まり、血まみれの若い男はその状態で俺に挨拶をしてきた。

 

「……何をやらかしたんですか?まあ、聞くまでも無いですが」

 

男は身体を地面から抜き、スクッと立ち上がる。

GパンGジャンにバンダナをした一昔のオタク風の格好の若い男は、服はボロボロだが傷だらけの血まみれだった顔はいつの間にか何もなかったように治っていた。

 

「八幡よ。男には困難でも必ずなさなければならないことがあるのだ」

その男は俺の肩をポンと手を置きキリッとした顔をしてこんな事を言ってくる。

 

「下着ドロをですか?」

 

「あはははっ、いや!目の前にあったから………つい」

頭をかきながら、乾いた笑いをする若い男。

 

「よく、毎度こりませんね。というか、よく通報されませんね」

 

「ふっ、日頃の行いの結果だ」

またしても、キリッと顔をしこんな事を言ってくる。

 

「はぁ、掃除手伝ってくださいね」

俺はうんざりした表情で若い男に言う。

 

「更衣室とシャワー室の掃除は任せろ!!」

 

「更衣室とプライベートルームのシャワー室はダメですよ……ってもう居ない」

 

 

 

「きゃーーーーーーー!!」

 

「アレ?おキヌちゃん!?なんで!?………ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!てっきり美神さんだと」

 

「わたしだったらいいんかい!!このすっとこどっこい!!」

 

「か、堪忍やーーーー!!」

バキ、ボコ、ベコ!!

 

 

 

「……………今日も何時も通りか………」

俺は1年と数ヶ月でこの異常な職場でも冷静でいられる忍耐力がついたことは確かだ。

学校で起こることなど些細なことでしか無いのだ。

 

しかし、異常なのは職場環境だけではない。職種も異常なのだ。

 

俺のバイト先、ここは美神除霊事務所。

日本屈指の除霊術者……ゴーストスイーパー美神令子の事務所なのだ。

ゴーストスイーパー:この世にならざる者を相手取り、それらを駆逐する職業。

幽霊や妖怪を相手に戦う仕事なのだ。

 

横暴な美女がその美神令子、ありとあらゆる霊障や妖怪をねじ伏せてきた女傑だ。

この事務所の唯一の癒やし、いや聖母のような女性は氷室絹。また彼女もゴーストスイーパーなのだ。ヒーリングや精神コントロールが得意なのだそうだ。やはり能力も癒やしの存在だ。

そして、何時も血まみれでスケベが服を着たようなこの若い男は横島忠夫。俺の2つ上でここの従業員である。

因みに俺のゴーストスイーパーの師匠だ。

……正直、とても妖怪や幽霊相手に戦える様には見えないのだが………

 

 

そう俺は、ゴーストスイパーの見習いとしてここでアルバイトをし、この変態師匠の元で修行をしているのだ。

 

………なぜこうなった?

 



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②出会いはあの時

早速の感想ありがとうございます。
ギャグがやりたかったんやーーー




俺が何でゴーストスイーパー美神除霊事務所でアルバイトをし、この変態師匠の弟子になったかと言うと………

 

1年と5ヶ月前の事だ。

 

総武高校入学式の日、俺は新しい門出に期待をふくらませ、入学式の2時間前に家を出たのだ。

 

しかし、自転車で通学路を走っていた俺は、車に轢かれそうな犬を見かけ、助けに入ってしまった。

犬は助かったのだが、俺は車に轢かれ入院生活を余儀なくされる。

後でわかった事だが、助けた犬は由比ヶ浜の愛犬サブレ、俺を轢いた車の後部座席に座っていたのは雪ノ下だった。今となってはどうでも良いことなのだが………

 

そして、俺は入学デビューを見事失敗し、入院生活を送ることになる。

どっちにしても、俺はぼっちにだったろうが………

重要なのはここではない。

 

俺は交通事故の際、しこたま頭を打ったらしく、事故から2日間目が覚めなかったそうだ。

そして、意識を取り戻したんだが………

そこは病院の個室のベッドの上。

ベッドの裾には泣きじゃくる妹の小町。両親はホッとした表情で……俺を見守っていた。

こんなに俺の事を心配してくれる人間がいる。家族とは良いものだ。

 

と……ここまでは良い。

 

しかし、そんな家族3人をよそに、ベットの周りにはなぜか知らない人が沢山いるのだ。

最初は、俺の知らない親戚とか学校関係者とか何かなんだろうと思っていたのだが……

 

面会時間が終わっても……知らない人が個室の筈の俺の病室をうろついているのだ。

よく見ると………なんか、浮いていたり。下半身が無かったり………頭だけだったりと…………

俺は頭を打っておかしくなったのだろうと思い。そのままシーツを頭に被り眠りについたのだが、翌朝になっても、その風景は変わらない。

 

流石にこの状況はおかしいと思い。ぼっちの俺だが勇気をだして、知らない人たちに思い切って話しかけたのだが………返事が普通に返ってきたのだ。

 

ここは病院だ。

いろんな怪我でいろんな状態になっている人がいても、おかしくないだろうと思うことにした。何で俺の個室に居るかは………取り敢えず気にしないことにした。

 

しかし、看護師さんや担当医、見舞いに来る小町や両親には、その人達はまるで見えていないようなのだ。

よく見ると、その人達はドアなど使わずに壁や天井から自由にすり抜けて、この部屋に出入りしてくるのだ。

 

…………これ…………ヤバイんじゃ……………

 

もしかして、霊的なアレ?

 

いやいやいやいや……霊なんていないんだ。そんなの存在はこの世にない。そう死んだら皆等しく土に帰るのだから………

 

俺は自分の精神をだましだまし毎日を過ごしたのだが…………

日に日に、俺の個室に集まってくる人数が増え、床だけでなく天井や壁にも張り付いている状態まで………人口密度……いや、霊密度?………霊なんていないから、その人達密度が最早過密状態になってしまった。

 

そんで、その人達は日に日にエスカレートして、花瓶を割ったり、ベッドをガタガタさせたり、お見舞いの果物を勝手に食べたり…………

 

………ポルターガイスト現象の様な事をやってくる。

 

いや、決してポルターガイストなんかじゃない。その人達がガタガタやっているだけなんだからね。

 

 

エスカレートしていくその人達のせいで、看護師さん達や病院の関係者が気味悪がって、あまり近づかなくなった。

 

あれ?病院でもぼっちってどういう事よ?

 

あの人達もいるからぼっちではないか…………

 

 

 

そんな絶望的な状況で現れたのが、美神さんと絹さんに横島師匠だった。

 

「このゾンビを倒せばいいのね。簡単な仕事ね!」

病室で1人佇む俺の額に、よくわからない札をいきなり貼ってきた。

 

「!?おかしいわねこのゾンビ。札が効かないわよ」

「美神さん……この人どう見ても人間ですが…………」

「おい、あんたらいきなり現れて、何をするんだ………」

「ゾンビが人語を話した!?」

「なんだ、さっきからゾンビゾンビと。俺は人間だ」

「だから、美神さん。この人は人間です」

「この目はどう見てもゾンビの目よ。こんな腐った目をした人間は居ないわ!」

「おい!初対面の人間に腐った目なんて言われたくないぞ」

「美神さん……依頼はこの病院の霊障ポルターガイストの解消ですよ。この人は間違いなく人間です」

「……そう言えばそうね。病院中、雑霊がやたらめったら多いわね………?このゾンビに似た子が霊を呼んでいるようね…………横島くん札の用意って……彼奴何処に行った!!」

「人の話を聞けって」

「看護師のお姉~さ~ん!!僕とお茶しませんか~!!」

「彼奴は~!!」

ドコ、ボス、バコ!!

「あは、あはははっ、ちょっとしたジョークっすよ。本気で怒らなくても」

「真面目に仕事しろ!!」

 

 

「ちょっ……あんたらいったいなんなんだ。漫才師か何かか?」

俺は霊たち……間違った。この人達のお陰で多少のことでは驚かないが、この人達も負けず劣らず常識はずれな人たちだ。

 

「失礼ね。私は美神令子。ゴーストスイーパーよ。この病院に集まっている霊を除霊しにきたのよ」

人の事を散々ゾンビ扱いしたこのスーパーモデル顔負けのプロポーションを持つ美女が偉そうに言ってきた。

ん?美神令子……ゴーストスイーパー?聞いたことがある……たしか……

というかやっぱ、この部屋を占拠するこの人達は幽霊か何かだったのか………半分気がついていたのだが……それを認めると俺の精神が持たなかった。

幽霊が見えるなんて。怖いし……あと怖い。

 

「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしまして…………」

巫女服の大人しそうな少女が俺に何度も頭を下げる。この子は常識人ぽいな。

 

「ゴーストスイーパー横島参上って、なんだ男か………けっ!」

さっきまで看護師さんに無謀なナンパを繰り広げてた男だ。

うん、多分こいつは三下だな。きっと荷物持ちか何かだ。きっと

 

「……ゴースト・スイーパー………」

 

「まあ、いいわ。君がどうやらこの雑霊を呼び込んでいるようね」

美神令子と名乗った美人は俺にこんな事を言う。

 

「え?俺が………」

 

「君、この頃なにか変わったこと無い?急に霊が見えるようになったりとか」

………めちゃくちゃ心当たりがあるんですけど、なに……急に霊能力に目覚めたの?

 

「……はい、そのとおりです。……これなんとかなるんですか?」

 

「なんとかなるわよ。それが私達の仕事なのよ!」

 

そう言って、この3人は札やら何やらを取り出し、俺の個室や病院中を駆け巡り、何かを準備し、再び俺の前に来る。

 

美神令子は手に札を持ち、天井に突き出し、何やら呪文らしきものを唱えた後、気合の言葉を紡ぐ。

「この世に残りし霊魂よ。元の場所に帰りなさい!鎮魂!!」

 

すると彼女の持つ札が輝き、病院全体が光りに包まれる。

 

その光が収まると、さっきまで、多量に闊歩していた霊がものの見事居なくなっていたのだ。

 

 

「いっちょ上がりね。ちょろいちょろい」

そう言って美神令子達はこの部屋を出ていこうとする。

 

「あのーー。色々言ってしまってすみません。なんか助かりました。これで俺も元の生活に戻れます」

俺はベッドに座りながらお礼を言う。

 

「え?別に君を助けたわけじゃないし、多分また霊は集まってくるわ」

何言ってるのこいつみたいな顔で美神令子は俺を見据える。

 

「へ?でも霊を除霊してくれたんじゃ」

 

「確かに今この病院に集まってきた霊は除霊したわ……でも、君の霊を集める体質は直してないわ」

 

「ええええ!?」

衝撃の事実だ。どうやら俺は霊を集める体質になってしまっていたようなのだ。

しかも、それが治っていないと………

 

「だって、私が依頼されたのは病院に集まった霊を除霊すること。別に君を直しに来たわけじゃないわ」

た…確かにそうだが………

 

「ど……どうしたら」

 

「………君、お金持ってる?」

 

「へ?」

 

「除霊ってお金がかかるのよ。しかも、君みたいな霊障の体質を治すのは時間がかかるし」

 

「い、幾らするんですか…………」

 

「5000万」

 

「へ?」

 

「まあ、持ってなさそうよね。ご愁傷様~」

そう言って美神令子は病室を去ろうとする。

 

「ちょっと…え?待って……」

 

「美神さん……何とかならないですか?なりたくてそんな体質になったわけじゃないのに、可愛そうです」

巫女の子、ナイス……めちゃいい子だ。

 

「相変わらず守銭奴っすね。たまには人助けぐらいしても、いいんじゃないっすか?」

ありがとう。そこのナンパの人、三下って思ってすまなかった。

 

「私は一文にもならないことはしないって決めてるの!………何よ二人共…その目は………あーーわかったわよ。そのかわり横島くんが面倒見るのよ!霊障体質は時間がかかるんだから!!」

 

 

というわけで……俺は退院後。美神除霊事務所にお世話になることになりました。



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③今日も妖怪退治

感想ありがとうございます。

簡単な設定ですが20☓☓年10月頭現在
美神令子23歳
横島忠夫19歳
氷室絹 17歳高校3年生
比企谷八幡17歳高校2年生

GSは原作終了の2年後ぐらいを設定(この人達は何年もループしてるからよくわかりませんがw)
時間軸は俺ガイルを基準
アルバイトは1年前の4月後半から……約1年5ヶ月間
その他設定はあやふや(ギャグがしたくて勢いで作ったから)


そんなこんなで、俺は美神さん所に厄介になることになったのだ。

しかし、それはなかなかハードな展開だった。

俺の霊障体質の改善にかかる費用は5000万と言っていたが、横島師匠が俺の世話をすることで、1000万に減額になった。………それでも1000万円だぞ。

そんな金は俺はもちろんのこと、比企谷家にあろうはずもない。

そこで、守銭奴美神さんの提案で、俺は美神令子除霊事務所でアルバイトすることになったのだ。

アルバイト料から返済していく事になる。

しかし、ゴーストスイーパー事務所にアルバイトとなると色々と制約があるのだ。

本人の意思だけでなく、未成年である俺は親の許可が居るし、各種役所にも届け出もおこなわないといけないのだ。

もちろん親はその案を喜んで受けた。ただ……小町だけは不満そうだった。

 

因みに俺の今の時給は1800円だ。その内の1000円が返済に消えていく。

結構良い金額と思ってる連中がいたら殴りたい。

ゴーストスイーパーのアルバイトは過酷だ。命が幾つ有っても足りないと思えるほどだ。

幽霊、妖怪、悪霊なんでもござれだ………

この金額はGS登録業者の最低賃金らしい。過去に不当な賃金でGSやGS見習いを雇っていた業者や、正当な報酬を受けずにタダ同然でGS依頼を受けていた業者がいたために、法改定がなされた結果なのだそうだ。

因みに、不当な賃金で雇っていた業者とは……美神さんの事だそうだ。しかも雇われていた人は横島師匠。………時給250円だそうだ。GS云々の前に東京の最低賃金余裕で割っているのだが……まさしく守銭奴。まあ、雇われる方も雇われる方だと思うのだが………どうせろくな理由じゃないことは分かりきっている。

さらに、正当な報酬を受けずにという業者は美神さんの師匠なのだそうだ。俺も数度会ったことがあるが、頭と一緒で幸薄そうな顔をしてたな。

 

俺は霊障体質の改善とアルバイトのために美神令子除霊事務所に通うことになるのだが………

その霊障体質の改善は結構難しいらしい。

一番なのは、自らの霊力をコントロールし抑えることなのだそうだ。

俺は事故により後天的に霊能力が開花し、霊障体質になってしまったようなのだ。

これは、後天的に霊能力が開花した時に霊気・霊力量が多いと、稀になる症状だそうなのだ。

霊力のコントロールがろくすっぽ出来ないのに、多量に霊力を生み出すものだからダダ漏れになり、それに惹かれて、雑霊が集まってくるらしい。最悪悪霊や悪魔を呼び寄せてしまうとのこと……

そうなる前に、美神さん達に出会ったのはラッキーだったとも言える。

 

というわけで俺は、霊障体質改善すべく霊力コントロールを物にするのために横島師匠から教えを受けることになったのだ。

これが、俺と横島師匠が師弟関係となったきっかけだ。

 

俺はこの事務所のアルバイターとなって1年経ったある日、キヌさんに聞いてみた。

よくよく考えるとあの守銭奴の美神さんがあの場でよく俺を受け入れたんものだと……アルバイトの提案等をしてくれ親身に対応してくれたのには、疑問があったのだ。

なぜ?受けいれてくれたのか?…………

簡単な話であった。元々俺を受け入れるつもりだったのだ。……意地っ張りな美神さんはあんな言い方しかできない。それで、わざわざキヌさんと横島師匠がああ言ってなだめ、渋々という形に持っていったのだ。………いわゆる儀式みたいなものだ。

でも、なぜ元々俺をという疑問が残る。

仕事前に美神さんは必ずタロットカードによる占いをする。その予知はほぼ確実。

それで、出た予知は……その日に出会った困ってる人を助け、友好関係を結ばないと将来大きな金を失い破滅することになると出たそうだ。その予知が出た時の美神さんはこの世の終わりの様な顔をしていたんだと…………

美神さんらしいと言えば、美神さんらしい…………

まあ、そのおかげで俺はこうして、今は霊障に悩まされずに生活ができているのだから………ありがたいことだ。

 

それよりも、キヌさんは気になることを言っていた。

あの横島さんが男性の比企谷くんの面倒を見ることに、あまり文句を言わなかったと………

確かにそうだ。

あのスケベが服を来ているような男が何で俺をすんなり弟子にしてくれたんだ?

……いくら考えてもわからん。そのうち聞き出すか。

 

 

俺は出会った頃の事を思い出しながら、二階の廊下掃除を終わらせる。

 

 

 

掃除を終えた俺は美神さんに事務所に呼ばれる。

美神さんは何時もの所長席に座り、その横でキヌさんが紅茶を入れていた。

 

因みに俺が下の名前で女性を呼ぶのは小町以外では、キヌさんが始めてだ。

彼女は俺にキヌ(絹)の名前で呼んでほしいと言っていたのだが、俺は氷室さんで通していたのだ。

気恥ずかしい上に、勘違いしそうになるだろ?

そのうち、「比企谷くんと仲良くしたいのに」と涙目で訴えられ……俺は折れるしか無かった。

………聖母の涙、悪い事をしていないのに、こちらが100パー悪い気がしてくるのだ。

 

床の上で、簀巻きになった横島師匠が涙を滝のように流しながら転がっていた。

 

「シクシクシク、仕方がなかったんやーー」

何時もの事だ。

 

「まだ言うか!!」

美神さんは横島師匠をゲシゲシと踏みつける。

 

 

 

「まあ、いいわ。今日の仕事だけど、こっちの案件は私とおキヌちゃんとで行って来るから、比企谷くんは横島くんとそっちに行ってきて」

一通り制裁を行い気が済んだ美神さんは床に簀巻きで転がる横島師匠をよそに、俺に机越しに話を進める。

 

「ちょ、師匠と二人っきりですか?」

 

「そうよ。横島くんが問題起こさないように見張ってね」

 

「まじですか……」

横島師匠と2人で行くとろくな目に合わない。

 

「君のバイト代だってバカにならないのよ!厚生労働省かなんだか知らないけど!かってにGS(ゴーストスイーパー)登録業者の最低賃金なんか決めて!!従わないと業務停止とか、ありえないわ!!保険料だってバカにならないってのに!!」

美神さんは徐々にエキサイトする。

 

 

時給1800円でも割に合わないと思うのは俺だけ?……もう1年以上経ったからもうちょっと上げて貰ってもいいんじゃないでしょうか?

 

 

そんなこんなで、俺は簀巻きにされた横島師匠を開放し……除霊の準備をする。

俺は美神さんから転送された依頼書ファイルをタブレット端末で確認。

「プールに居座っている妖怪の退治か…………ランクDまあ、楽な仕事かな?」

 

「プーーーール!?そ、それは何処だ~!!」

 

師匠は先程までぐったりしていたが、急に元気になって、俺からタブレットをふんだくる。

 

「水着の姉ちゃん達が僕を待ってくれてる!?水着見放題のナンパし放題!?なんて素晴らしい依頼なんだ!!」

 

「ちょ、師匠それ…………」

 

「八幡~先に行ってるぞ~」

そう言って横島師匠は脱兎のごとく走り去ってしまった。

 

「………車で行くんじゃなかったのかよ………まあ、あの人、スケベが絡むと車より速く走れるからな…まったく人間かよ……って俺はどうする?………チャリか………まあ、どうせ現場いったらやる気なくなってそのへんで茶でも飲んでんだろ」

きっとやる気無くなってへこたれてる師匠が目に浮かぶ。

今は既に10月だ。屋外プールは既に閉鎖されているしな……水着の女性など居るはずもない。

 

俺は登山用のザックに準備した除霊道具を一杯に詰め、社用車のチャリで現場に急行する。

 

案の定、プールの入口付近でやる気なさそうに座って、缶コーヒーを飲んでる師匠が居た。

 

「八幡!俺をだましたな!?水着のねーちゃんなんて何処にもいないやないか!」

なぜか、涙をちょちょ切らせながら俺に抗議する横島師匠。

 

「普通分かるでしょう………」

俺は呆れた様に言う。

 

「屋内プールかもしれないだろ?」

 

「だとしても、依頼をこなすのは、閉園してからでしょ普通は………」

 

「はぁ~一気にやる気無くなった。そうだ。八幡が退治しちゃえば、俺は見てるし………」

 

「俺1人すか?」

 

「Dランクだろ?今までだって、何体かは退治してるし、1人でも行けるだろ」

 

「まあ、そうですが……」

 

「今回の依頼は1200万だから、400万以上の札を使うなよ。怒られるのは俺なんだからな」

 

「わかってますって………依頼者には既にコンタクト済みで、勝手にプール園内に入ってよしと………ああなんか居んな」

タブレットで再度依頼内容を確認しながら、俺はプール園内の方を目を凝らして見る。

するとぼんやりと負のエネルギーのようなものが、プールの中に沈んでいるのが見える。

師匠によれば俺は目がいいらしい。霊視ゴーグル無しに同じ精度の霊視が可能だとか。

って言っても、全く実感がない。そもそも師匠自身が霊視ゴーグルなんて使ったのを見たことがない。

 

俺はプール敷地フェンスに結界ロープを張り巡らせ、奴さんを逃げられない様にする。

飽く迄も俺は基本に忠実にだ。美神さんや横島師匠ぐらいになるとDランク程度は、そんな物をすっ飛ばして、一撃で倒してしまうからな。

 

よし……この季節にプールの中に入るのは勘弁してほしいから、彼奴をおびき出すか………

 

俺はプールサイドから、札を取り出す。電撃が封印されている30万札だ。

その札に霊気を送って、プールの水面に叩きつける。

「出てこいよ!」

 

プールに電撃が走り放電する。

 

『ぐわーーー、なんだお前は?…………ん?なんだお仲間じゃねえか』

2m程度のメチャクチャブサイクな妖怪が電撃を受けて水中から現れる。

由比ヶ浜だったらこいつ見たらきっと「きっもー」って言うだろな。

というか何?俺が仲間に見えるってどういう事だ?俺もキモいってこと?

 

「誰がお前の仲間だ!」

 

『その目……ゾンビじゃないのか?』

 

「誰がソンビだ!……覚悟しろ」

なに、俺の目ってそんなにゾンビに似ているの?くそっ、お前だけには言われたくない。このブサイク妖怪!

俺は心の中でブサイク妖怪を罵りながら再度、電撃の30万円札を水面に叩きつける。

 

『ぐわわわわーーー、何するんだよ~、おいらが何したっていうんだ?』

 

「お前がそこにいる時点で不法侵入なんだよ!」

 

『せっかく静かに過ごせると思ったのに!!夏はこの姿を見た女の子に蔑まれるは、罵られるわ!ブサイクに生まれたくて生まれたんじゃないんだーーー!!』

 

「………なんかいたたまれない気分になるのだが」

 

『くっそーーーーーお前ももっとブサイクにしてやるーーーーーー!!』

ブサイク妖怪はそう言って口から水鉄砲のように、なんか汚い液を吐いてきた。

 

「うわっ!」

俺はそれをかろうじて避けたんだが………その汚い液が触れた床が溶け出す。

 

「げっ」

 

『ふっはっはーーーー恐れ入ったか』

 

「くそ、器物損壊したら、依頼料が減額されて、美神さんに怒られるじゃねーーか!」

俺は右手に意識を集中させ、六角型の霊気の盾を生み出し、ブサイク妖怪に投げつける。

横島師匠から最初に教わった霊術サイキックソーサーだ。霊気量が比較的多い俺にピッタリの技だ。

 

サイキックソーサーは高速回転しながらブサイク妖怪の頭に深く突き刺さる。

『ぐわわわわわーーーーー』

ブサイク妖怪は相当ダメージを食らったようだ。

 

「チャンスか」

俺は100万円の封印札を取り出す。

 

「悪霊吸引!」

札に霊気を送ると、対象にしたブサイク妖怪が札に吸い込まれる。

指を齧り、自分の血を札の術式に付着させ封印を施す。

大分俺もこの仕事、板についてきたな………

 

 

「ふう~、師匠終わりましたが………あれ?」

 

 

さっきまでそこに居た師匠が居ない………俺は近くにあるコンビニに行く。

横島師匠の行動パターンなど丸わかりだ。

 

横島師匠はやはりエロ本コーナーでエロ本を目をギンギンにして無心に読んでいた。

 

俺は、コンビニの外から、エロ本コーナーの前のガラスを叩く。

 

「うげっ……」

 

師匠は慌ててコンビニから出てきて……

「よくやった八幡。流石は俺の弟子だ」

 

「…………あんた。見てなかっただろ」

 

「あははっ、あれ?そんな事無いぞ…見事だった」

うん、これ絶対見てないだろ……目が泳いでるしな…………

 

「はぁ…ちゃんと封印しましたんで………損害箇所は10万程度、使用資材は消耗品入れて170万。合計180万ってとこです」

俺はため息を付いた後に。師匠に結果を報告をする。

 

「1200万の依頼で180万の経費か……八幡1人でやったことにすれば、これなら、金一封は出そうだな……まあ、借金の返済に消えるんだけどな………今日は速く終わったし、ラーメンでも食って千葉の自宅に帰るか?」

 

「いや、せっかくだし、師匠、訓練付けてください」

 

「え~~、折角の花金なのに~」

 

 

バカでスケベだが横島師匠は優しい……この依頼をオレ一人でやらせたのも、借金返済の足しになるだろうと思ったからだろう。

それに、なんだかんだと、訓練やらを面倒くさそうにするが、ちゃんと付けてくれる。

 

 

「八幡~~、金一封出るし~お姉ちゃんのいる店行かない?」

 

「……………」

優しい…はずだよな…きっと……




八幡の現在の能力
霊気量:多め
霊視:得意
各種霊具の扱い:○
術サイキック・ソーサー
その他不明

因みに横島の今の所
八幡を教えられるぐらいの霊能力の知識(多分美神ゆずり:総合的にレベルアップしていると思われる)
車より走るのが早い。
車の免許を持っている(多分)
スケベ(変わっていない)
バカ(変わっていない)
回復力:化物(ギャグ補正)



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④タロット占いと始まり

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

早速の四話です。

それとタイトルの「やはり俺は〇〇の弟子になるのは間違っていた。」の〇〇の部分はいい案が思いつかずにこんな感じに。

〇〇候補で
変態 横島忠夫 師匠 変態師匠とか考えていたんですが、なんかしっくり来なくて。
なにかいい案があればご協力ください。
最終的に〇〇のまま行っちゃうかもですが……


週明けの学校。

5限のホームルームの時間。

クラスの連中は喜色の声を上げ騒いでいる。

秋の修学旅行の班分けや係決めを行っているのだ。

俺は班など既に決まっている。

そう、班分けを行った後に、人数が足りない班に強制的に入るからだ。

だから、俺は特に何もしなくていい。

 

しかし……

「八幡!僕と一緒の班になろうよ!」

天使、いや、戸塚が俺の席に来て、こんな事を言ってくる。

しかも、首を傾けながらだ!なんて破壊力だ。

 

「あ、ああ」

俺はこう言うしか無かった。仕方ない、戸塚だし。うん。

 

その後結局俺と戸塚は、葉山のイケメングループに吸収され、葉山、戸部、大岡、大和、戸塚、俺という6人の班となった。

まあ、こいつらのことだから、何時もつるんでる女子の三浦達の班と合流するのだろうがな。

因みに、三浦の班は、三浦、海老名、由比ヶ浜、川崎の4人だ。

 

まあ、こいつらのことだから、全校の嫌われ者の俺が班にいたところで、影響はないだろう。

葉山のイケメンパワーと三浦の女番長パワーで俺の悪評程度。余裕で相殺できる。

それに戸部以外、俺の事をとやかく言う奴はいない。というか興味がないだろう…それでなくとも、俺は集団の中でも1人になれる才能があるから特に問題ない。

 

 

 

 

放課後。何時も通り奉仕部にゆったりとした足取りで向かう。

奉仕部とはボランティア部とは異なり、部長の雪ノ下曰く、エサを与えるのではなくエサのとり方を教える部なのだそうだ。

要するに、悩みの解決そのものをするのではなく、自分で解決できるよう手助けを行う部だ。まあ、簡単に言えば悩み相談所みたいなものだ。

部長の雪ノ下雪乃、部員は俺と由比ヶ浜結衣の同学年の3人だけの小さな部だ。

俺は入りたくて入ったわけじゃない。生活指導の平塚先生に今年の4月に強引に入れさせられたのだ。

最初は居心地が悪かったが、今はそうでもない……と思う。

 

 

「こんにちは、比企谷くん」

 

「うっす」

 

雪ノ下雪乃は奉仕部の教室窓際の椅子に座り、何時ものように姿勢正しく猫模様のブックカバーの本を読んでいる。それが何故か様になっているのだ。

 

俺は雪ノ下と真逆の廊下側の椅子に座り、鞄を置く。俺も本を取り出して読む。

俺も本は好きだ。もちろんラノベもな。ただ今日は美神さんに借りたタロット占いの本を読んでいる。

タロット占いは素人がやればただの遊びだが、ちゃんとした術具としてのタロットカードを用いて霊能力者が実施すれば予知になる。

まあ、予知に関する霊的センスがかなり必要なのだが。美神さんが行うとその予知はほぼ100パーセントなのだ。

因みに横島師匠はこのへんはてんでダメらしい。

美神さん曰く、俺自身、自分の霊的センスがどんなものかを把握するためにも、色々な物に手を出してやってみる事が大事なのだそうだ。

 

「やっはろー」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

「うっす」

 

由比ヶ浜結衣がいつもの変な挨拶をしながら、部室に入ってくる。

 

何時もは雪ノ下の直ぐ隣の椅子に座るのだが、何故か俺の方にやってくる。

「ヒッキー、修学旅行楽しみだね。ヒッキーも隼人くんの班だから、一緒に回れるね」

 

「お、おう。そうだな」

由比ヶ浜は俺の事をヒッキーと呼ぶ唯一の奴だ。あだ名のセンスは独自性過ぎてこいつしか使わない。因みに雪ノ下の事はゆきのんと呼んでいる。

男の俺にも距離感がおかしい。今もそうだ。一々ボディタッチをしないと話が出来んのかこいつは、なんかいい匂いするし、勘違いするだろ。

 

「ヒッキー何読んでるの?」

由比ヶ浜は俺の後ろから肩越しに顔をだして、俺の読んでるタロット占いの本を見る。

由比ヶ浜さん……あの、柔らかいものが2つ背中に当たってるんですけど………無心だ。ここは無心だ。というかやめてくれー

 

「あーー、知ってるこれ!占いのトランプだ!」

 

「タロットカードな」

相変わらず頭は残念な子である。

 

「比企谷くんタロット占いに興味でも?何を占うのかしら、将来についてなら貴方の未来は占うまでもなく無職か刑務所行きよ」

雪ノ下は俺に対しては容赦がない。最近わかってきたが、これがこいつのコミュニケーションのとり方らしい。俺じゃなきゃ泣いちゃうぞ。

 

「おい、無職はいいが、刑務所ってのはなんだ?」

 

「……ヒッキー、無職はいいんだ」

 

「まあな、専業主夫と名前を変えればいいだけだからな」

 

「そんな事を恥ずかしげもなく、誇らしげに言えるわね。あなた」

雪ノ下は頭痛がするがごとく額を抑える。

 

「でも、占いって楽しそう!チョット待ってね」

由比ヶ浜はそう言って、パタパタと部室を出て行く。

 

「あなた、本当に本なら何でも読むのね」

雪ノ下は呆れた様な口ぶりで言う。

 

「ああ、これの事か、まあな、その時その時に気になった本を片っ端からな。興味がなくなってから読むのは辛いだろ?」

今回に関しては言い訳だが、何時もはそんな感じで本をチョイスしてる。

 

「確かに、そうかも知れないわね」

雪ノ下は珍しく俺の意見に同意した。

 

 

「ゆきのん!ヒッキー!タロットカード借りてきた!占いやろ!」

由比ヶ浜は楽しそうに部室に戻ってきた。

 

「そうね。依頼も無いことだし、幸薄い比企谷くんの将来を占って上げましょう」

 

「え?マジで」

なに、マジでやるの?二人共結構乗り気だぞ。まあ、遊び程度だからいいか練習にもなるしな。

 

「じゃあ、ヒッキーよろしく!」

 

「俺がやるのかよ……」

まあ、そうなるわな。

俺は由比ヶ浜からタロットカードを受け取る。

?………これ、霊気が宿っているぞ、カード内に術式があるんじゃ……本物じゃないか?

 

「……由比ヶ浜、これ誰に借りてきた?」

 

「平塚先生!宿直室で、これを見て泣いてた!」

……恋愛運を調べてたな、どっかの怪しい露天とかで高額できっと手に入れたんだろう。

しかも、いつも絶望的な結果が出るのだろう。占い頼る前に、私生活をなんとかしろよ。

雪ノ下もそれを聞いて呆れた様な表情をしていた。

 

「じゃあ、ヒッキーの将来を占ってみよう!」

 

そんじゃ、まあやってみるか…………

 

死神のタロットがでる。

「うわ、なんか不吉そう」

由比ヶ浜が顔を顰める。

めちゃ不吉だ。

 

その後もカードを開く。

「どういう解釈なのかしら?」

雪ノ下もなんだかんだと興味深々だ。

 

 

「正位の死神のタロット…………西に気をつけるべし、近々西遠方に行けば不幸に見舞われる。最悪死」

俺は占い本を読みながら結果を読む。

なにこれ、死ってなんだよ。俺絶対西に行かないぞ。

 

「死…西って、ヒッキー………」

由比ヶ浜が心配そうに俺を見つめる。

 

「西に行かなきゃいいだけだ。まあ、占いなんて当てずっぽだしな」

 

「あなた、まさか知らないの?月末の修学旅行は京都よ。ここから丁度西の方角よ」

 

「はぁ?まじかよ」

 

「呆れた。自分が行く修学旅行先も知らないなんて」

 

「ヒッキーどうしよう?」

 

「まぁ、所詮は占いだ。関係ない」

と、俺は言いつつも、このタロットカード本物なのだ。俺は内心焦る。俺の予知センスが無いことを祈るばかりだ。

 

「そうね」

雪ノ下は平然としていた。

興味はあるが、信じていないのだろう。

 

 

「なんか、嫌だな~、じゃあ、気を取り直してヒッキーの恋愛運!」

 

「まだやるのかよ」

 

「いいじゃん。いいじゃん、次はきっといいこと有るって」

 

そう言って、俺の恋愛運を占う。

 

結果をタロット本を見ながら由比ヶ浜が読み上げる。

「女性に鈍感な貴方は将来、沢山の女性を泣かすでしょう。近々長い黒髪を下ろしている方と急接近するかも…………………」

 

なに!?キヌさんは確かに長い黒髪をストレートで下ろしている!!まじか!!………聖母と急接近!?恐れ多いが………俺にも春が!?……なわけないか、この占いが当たると、西の遠方、修学旅行の京都で死んじゃうかもしれないしな。

 

由比ヶ浜は無言で、雪ノ下を見ていた。

 

「え?」

雪ノ下は顔を赤らめている。

 

ん?なんだ。

 

「しょ、所詮占いよ。当たるわけ無いわ。そもそも比企谷くんが恋愛なんて出来る高尚な生き物ではないわ」

雪ノ下は顔を赤らめ、まくしたてるように言う。

なんで、そこで俺をディスるんだよ。おまえは……

 

 

「ちょっといいかな」

「チースッ!」

そこにイケメン葉山隼人と戸部翔が奉仕部に現れる。

なぜここにって?奴らは依頼に来たのだ。

 

内容は至ってシンプル。

戸部が海老名さんと付き合えるように協力してほしいということだ。

 

俺の意見はNOだ。

雪ノ下もNOだっただが、由比ヶ浜がどうしてもやりたいということで、受けることになった。

 

因みに、その後、戸部の恋愛運をタロットで占ったんだが………

脈なし、諦めたほうがいいと出た。

 

まじ、やめたほうが良いんじゃないか?

 

 

後日になるが、海老名が奉仕部に訪れて、謎の言葉を残して帰っていった。

いったい何だったんだ?

 

 

 

奉仕部で占いを行った二日後、美神さんに呼び出しをくらい。

奉仕部を休み。美神令子除霊事務所に向かった。

平日の急な呼び出しは珍しい。何か人手がいる緊急案件か?

 

 

何故か事務所の応接ソファーに座らされた。

俺の前には美神さん、その横にキヌさん。俺の隣には横島師匠だ。

なにか、何時もと雰囲気が違う。

 

「どうしたんですか?急に呼び出しなんて」

 

「比企谷くん、私達のところに来て、もうそろそろ1年半よね」

 

「はい、お世話になってます。……もしかしてクビ!?借金もまだ返してないですよ!」

俺は焦る。この切り出し方はクビではないかと、いやいやいや、俺は失敗していないはず。

横島師匠の面倒をみているから、貢献してるまである。

 

「落ち着きなさい。そうじゃないわ。君は意外と使える奴だと思っているわ」

 

「はー、じゃあなんでしょうか」

良かった。ここをやめさせられたら、あの高額な借金なんて返せない。

ん?もしかして、今なにげに褒められた?美神さんがこんな事を言うとは、なにこれ、嬉しいぞ。頑張ってやって来たかいがあったということだ。

 

「10月22日のGS資格試験に出なさい!これは業務命令よ。既に登録は済ませ、親御さんの許可は得たわ」

 

「え?」

なにそれ、最早逃げ道が無いんですけど……あの両親どもめ、勝手なことを!なんか小躍りしながら許可出してる姿が容易に想像出来るぞ。

 

「GS試験は二次試験でベスト16に残れば、晴れてGSの資格が手に入るわ。一次試験はペーパーと簡単な能力判定試験。二次試験は受験生同士の試合よ」

 

「ちょ…」

 

「君は横島くんの弟子にってことになってるけど、私の弟子でもあるわ。必ず合格しなさいトップでね!この美神令子の名に泥を塗るようなことだけはゆるさないわ」

 

「比企谷くん。頑張ってくださいね」

 

「八幡なら、大丈夫だろ。あん時の俺よりも出来るしな」

 

「まじですか」

美神さんもキヌさんも横島師匠も俺を励ましてくれた。

いや、なんか認められた気がして嬉しいんですけど、というかなにげに美神さんの脅しが恐ろしいんだが。

 

しかし、俺で大丈夫か?

GS資格は年に2回行われる超難関資格の一つだ。国が実施する国家試験。実際に悪霊や霊や妖怪と戦うのだから、それなりの実力が必要なのだ。しかも、法律も色々ややこしい、ペーパー試験も難しいはずだ。

この試験のための予備校や専門学校が有るぐらいだ。

しかも、専門学科がある高校があったりする。因みにキヌさんは有名女子校の霊能科に通っている。

でも、俺は普通の高校に通い、この事務所しか知らないから、自分の実力がどれほどなのかは、正直わからない。

………横島師匠も普通の高校に通いながら、GS試験に合格したと言っていたな。ペーパー試験を通るぐらいだから、きっと学校の成績も良かったのだろう。そうはとても見えないが。

 

「頑張らせてもらいます」

俺はGS資格試験を受けることになった。因みに修学旅行の三日前だ。

怪我して、修学旅行に行けないと言う落ちはなかろうか?

 

「資格試験の試合は横島くん、最近のはおキヌちゃんが詳しいから、ペーパーはおキヌちゃんから教えてもらいなさい」

美神さんはそう言って、ソファーから立ち上がり、元の社長席に戻っていった。

 

「まあ、いつもどおりの八幡だったら余裕だろう。対人戦闘の訓練ぐらいは付き合うか」

そうなの?……確かに対人戦闘なんて行ったこと無い。横島師匠が訓練で相手してくれるぐらいだ。

 

「比企谷くん、私も1年半前に合格したばかりだし、筆記試験の内容はそれ程変わらないから、一緒に勉強しましょう」

流石聖母キヌさん。もしかして二人っきりで勉強?……やばい、今日の占いを思い出した。『近々長い黒髪を下ろしている方と接近』もしやこれの事か?

 

 

美神さんが所長席から声を大にして、俺に言う。

 

「そうそう、比企谷くん。私の占いで、西遠方に要注意って出ていたわ。死ぬほどきつい目にあいそうだから行かないほうがいいわよ。最悪死んじゃうかもね」

 

 

え?まじで………




今後の予定
GS試験編
京都修学旅行編


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【一章】GS資格試験編 ⑤GS一次試験開始

感想ありがとうございます。

俺ガイルの設定や主要人物についての説明を、各話に入れ込み直しました。
小町⇒妹の小町
奉仕部とは………云々の説明やら……
等々


  



俺はGS資格試験のための訓練や勉強のために、暫く金・土・日と美神令子除霊事務所に泊まりこんだ。

 

キヌさんとの試験勉強は、キヌさんの部屋で行うわけではない。もちろん事務所の応接間だ。

……女の子の部屋に入れるなんてこれっぽっちも期待していなかったぞ、ほ、ほんとだぞ。

すみません。ちょっと期待してました。

 

試験勉強は法律や規定、そして、霊障や妖怪の特性などと、暗記物が多い。

キヌさんは教えるのがものすごくうまい。俺も元々暗記物が得意なのもあって、俺は試験合格レベルまでの学力をつけることが出来た。

これもキヌさんのお陰である。

高給取りの仕事に、優しさに、可愛さを兼ね備え、勉強も料理も出来て、何これ、なんなのこの完璧超人?将来は養って欲しい………。

しかし、それは難しいだろう。キヌさん、横島師匠に気があるのがみえみえなんだよな。

あの変態の何処がいいのだか……謎だ。

確かに、たまに優しいし、強いしな……それでもあの性格だぞ。

 

後は横島師匠と実戦方式の訓練を実施。いままで一本も取れないんだけど……余計に心配になってくる。正攻法は無理だから、騙し打ちとか色々試したんだけど、全く通用しない。

 

たまに、美神さんが暇つぶしに、相手してくれるけど、レベルが違うんだけど………

そりゃそうだよな。美神さんは日本でも数人しか居ない最上級Sランクのゴーストスイーパーだもんな。あのオカルトGメンで有名な西条さんでもAランクだし。Aランクだって日本に三十人も居ないんだ。どんだけ強いんだよ。

そう言えば、横島師匠はどうなんだろうか。知らないな。

まあ、実力的にBかAぐらいありそうだが。

 

 

 

 

 

10月22日遂にGS資格試験実施日だ。

この日は平日のため、俺は学校に休みを届け出て来ている。

専門学校やら、霊能科がある学校と違って俺が通う総武高校は普通の進学校だからな。

 

会場は六道女学院の武道場だ。

因みにキヌさんが通っている学校はここだ。

この学校は霊能者の大家、六道家が経営する霊能科がある超エリート学校なのだ。

 

会場には付添として横島師匠がついてきてくれた。

美神さんは特別審査員で、キヌさんは試験会場スタッフのヒーリング係員なので2人は既に会場入りしているのだ。

 

会場では、美神さんとキヌさんとも顔を合わす機会があり。

「比企谷くん、ちゃんと通りなさいよ!」

「がんばって、比企谷くん。きっと大丈夫だから」

2人の励ましの言葉を貰う。

 

 

会場には500名位の受験生が集まっていた。

日本GS協会の会長であり、六道女学院理事長でもある六道女史の挨拶から始まる。

次は世界機構であるICPO超常犯罪科、通称オカルトGメンの役員兼東アジア統合管理官、美神美智恵さんの挨拶だ。因みに美神さんのかーちゃんだ。この業界でかなりの権力を持っているらしく、今のGS関係の法整備に一役かったのはこのかーちゃんだ。普段は仲がいい親子なんだが、GSに関する思想が全くちがうのか、よく言い争ってる。

この試験で美智恵さんの目に止まった受験者はオカルトGメンにスカウトされるらしい。

受験者は自然と力が入る。GS業界ではオカルトGメンは憧れの職業だからだ。

オカルトGメンと言えば、美神令子除霊事務所の俺の同僚にシロとタマモという俺の一つ下ぐらいの年の女の子達が居るのだが、今はオカルトGメンに出向して、長期出張中だ。まあ、彼女達のことは後々にと……

 

そして特別審査委員の紹介から始まる。

美神さんを始め、GS業界有名どころが名が幾つか上がってくる。

その中には美神さんの師匠唐巣神父の名もあった。

有名どころで言うと土御門なんて名もある。陰陽師の大家だ。

日本でもトップクラスのGSが集まっていた。

少なくともBランク以上の現役の上位ゴーストスイーパー達だ。

 

 

一次試験の筆記試験は、会場から出て、六道女学院の校舎で行われる。

お嬢様学校だけあって、校内は清潔そのものだ。なんかいい香りがするし………

 

キヌさんに教えてもらったかいがあって、筆記試験は余裕で合格した。

合格した者はそのまま会場に戻り、能力判定試験を受ける。

ここでの脱落者は80人ほどだ。意外と少ない。

 

次は能力判定試験だ。

 

20人づつ一列に並ばされ、何かの測定器を持たされる。霊気を放出する試験だ。

あの測定器は霊力を測定する霊具だ。

さらに、試験官が霊視ゴーグルで各々を測定。

測定器で内包する霊力を測り、霊視ゴーグルで霊力の放出量を測るのだろう。

一分間という時間があるから、持続時間も測るのだろう。

 

試験官の開始の合図と共に、受験生は霊力を放出していく。

霊力が規定に満たなかったり、途中で霊力が尽きたりした受験生は番号を呼ばれ、次々と脱落する。

 

俺の前の連中の様子見たのだが………

前の班は大した奴はいなかったが、それでも数人残ったぞ。どのぐらいが合格ラインなんだ?

 

 

次は俺の番か。

まあ、霊気コントロールは横島師匠のお陰でかなり物になってるし、元々の霊気量もそこそこあるらしいから大丈夫だろう。

どの程度が合格ラインかわからないから、強めに霊力を放出するか……

 

試験官から開始の合図がかかる。

 

ん?……なんか試験官がざわめいているぞ………周りの奴は何で俺を見るんだ?

なんか、試験官が驚いているな……すごい奴でも居るのか?

 

「し、終了!」

 

俺は番号を呼ばれなかったから、これで合格だな。一応これで一次試験終わりか……

問題は午後からの二次試験だな。

正直これが一番不安だ。結局訓練試合で横島師匠にも美神さんにも一本も取れなかったし……

 

?なんで試験官も受験生も俺を見るんだ?知らず知らずになにかやらかしたか?

俺は妙な視線を感じながらも、1回関係者観戦席に居るはずの横島師匠の元に駆けつけるが…………やっぱいない。

 

しまった!ここは女子校だ!あのドスケベがじっとしているはずがない!!檻の中の羊の群れに猛獣を放り込むのと同じだ!!

しかし、あの美神さんがそれがわかってて、付添とは言え、何の策も無しに横島師匠をここに野放しにするわけがないような……

 

俺は取り敢えず会場の外へ女子学院の敷地にでて横島師匠を探しに行こうとしたのだが……

 

「ぎゃーー!!ぐぼべーーー!!お助けーーー!!ぼほーーー!!」

聞き覚えがある叫び声が聞こえるのだが………

 

叫び声の方向に、見るからに強力な式神達に揉みくちゃにされている横島師匠が居た。

 

「え?あれ、死ぬんじゃない?え?何あの式神一体一体超強力なんだけど?え?なんであんなことに?」

 

よく見ると、その式神達超見覚えがあるんですが………間違いない。六道冥子さんの式神だ。

美神さんの親友で、次期六道家当主六道冥子さん。十二神将という強力な式神を操る式神使いだ。因みにここの理事長の娘さんだ。

 

なるほど、美神さんは横島師匠の監視を六道冥子さんに頼んだのか。

あっ…死んだ……横島師匠は式神達の間でピクリとも動かなくなっていた。

 

しばらくして、美神さんとキヌさん、ボロボロの横島師匠と女学院内の喫茶店で昼食をする。

横島師匠は白目向いて、テーブルに倒れ込んでいる。

何時もなら直ぐ復活するのだが、ボロボロのままだ。流石は六道家の式神だ。師匠をここまで痛めつけるとは………いや、あれで死なない師匠がすごいのかもしれない。

 

「一次試験通過おめでとうございます。比企谷くん」

 

「キヌさんに試験勉強手伝ってもらったお陰です」

 

「比企谷くん、次からが本番よ。でも今回はラッキーかな、大した奴はいないわね。まあ、気をつけた方が良いのは、土御門家のあの子ね。彼女分家の子らしいけど……たしか、土御門陽乃だったかしら」

 

「土御門陽乃?え?彼女って……女性とも戦わないといけないんですか?」

 

「当たり前よ。霊能者に男女は関係ないわ。それでも今は昔にくらべて大分ルールは緩くなったほうよ」

 

なんか何処かで聞いたような名前だが……土御門っていや、陰陽術の大家だよな………彼女って女かよ。!?そう言えば、二次試験の試合は男女関係ないって事は女とも当たるのかよ

 

「八幡!女の子と試合するのか変わってくれ!」

横島師匠は女と聞いてビヨーンと起き上がり、怪我も回復し復活した。

 

「あんたは黙ってなさい!」

美神さんの肘打ちが横島師匠の脳天に炸裂し、そのままノックダウン。

 

「昔はルール無用の全力で試合してたから、この試験で死人なんてことはザラにあったけど、今は致死性の呪いや、即死攻撃は禁止されているわ」

 

「私達の代で規定がかわったんです」

キヌさんが美神さんの説明をフォローする。

 

「なにそれこわ!」

なにその野蛮な設定、何処かの世紀末?つくづくこの時代に生まれてよかった。

 

「ただ、それでも不慮の事故は起こるものよ。十分気を付けなさい。後、相手が女だからって躊躇しない。君は変なところで融通が効かないから。もし女で相手の方が力量が上だったらどうするの?」

美神さんはなんだかんだと言って、俺に的確なアドバイスをくれる。

 

「はぁ、肝に命じます」

女性に手を上げるのはちょっとな、女性と当たらない事を祈るしかないか。

 

 

午後から二次試験開始だ。

 




というわけで、意味深な名前が出てきました。
次回は二次試験です。


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⑥二次試験開始と再会

感想ありがとうございます。

二次試験ですね。


 

午後からの二次試験が始まる。

ルールは実戦形式で受験生同士の一対一での試合だ。

武道場の特殊な結界の中で行われる。直接の物理攻撃が無効になる結界だ。

霊気が通った霊具や霊力でしか相手にダメージが与えられないのだ。

通常の銃弾やミサイルは効果を表さないらしい。まあ、それでも、過度な火力だと結界は破けるらしい。例えば、対戦車ライフルとか……まあ、そんなもの持ってきた時点で銃刀法違反でしょっ引かれるんだがな。

二次試験合格者は84名4ブロックトーナメント制だ。広々とした武道場の4面を使いA~Dブロックそれぞれで試合が行われる。

最大7試合、シードに選ばれれば6試合勝てば優勝だ。

合格ラインはベスト16まで勝ち上がること。最大4試合。シードに選ばれれば3試合勝てば、晴れてGS資格免許がもらえるのだ。

 

因みに俺はDブロックのシードに選ばれた。なぜシードに選ばれたのかはわからないがラッキーだ。3試合勝てばGS免許取得と面目が立つ。

 

俺はDブロックの試合場に足を運んでいると不意に後ろから声をかけられる。

 

「あれ~、比企谷くんじゃん。やっほー」

 

何処かで聞いた声だが、俺に美神さんや横島師匠の関係者以外GS関係者は知らないはずだ。

ましては同じ受験生などには……

 

そう思いながら振り返ると、そこには純白の式服(陰陽師が着る服)を着た美女が人懐っこい笑顔をこちらに向けていた。

 

「………ゆ…雪ノ下さん?」

何時ものおしゃれな服装とは異なり厳かな雰囲気を醸し出していたため、一瞬誰だかわからなかったが、彼女は雪ノ下陽乃。雪ノ下雪乃の姉だ。理系大学の2年で俺が通う総武高校のOBでもある。そして地元に多大な影響力を持つ雪ノ下建設の社長令嬢だ。なんだかんだと、雪ノ下(雪乃)との絡みで、数度会っていた。

美人で人懐っこく、誰にでも好かれ、文武両道、大凡すべての理想を詰め込んだかのような女性だ。

ただ俺はこの人が苦手だ。この人懐っこい笑顔は裏の顔を隠すための外面の仮面だ。腹の中では何を考えているのかさっぱりわからない。笑顔の奥の目には、人を観察し人の思考を読み。まるで人を飲み込むような仄暗い光が射しているように見える。

俺の霊感もこの人に会う度に危険信号を発していた。

しかしなぜここに………いや、その格好でここに居るということは……まさか……

 

「比企谷くんって霊能者の家系の人だったっけ?あれ?おっかしいな~」

 

「違いますよ。たまたま、縁があってここに居るだけです。雪ノ下さんこそ何でここに?」

……やはりか、俺の家の事は全部調べ済みってことか……まあ、ヤンデレシスコンのこの人の事だ。雪ノ下(雪乃)の関係している人間は全員調べてるだろう。しかし、よく俺のバイト先がバレなかったな………

 

「え?わたし?ひ・み・つ!」

陽乃さんは俺の唇に人差し指を当てる仕草をする。

一々あざといんだよ。

 

『Aグループ二回戦第一試合12番・38番前に』

 

「あっ、私呼ばれちゃった。また後でね~比企谷くん。このことみっちり聞いちゃうんだから」

陽乃さんはウインクしながら、試合場へ掛けていった。

 

『Aグループ二回戦第一試合12番、土御門陰陽道所属、土御門陽乃。対、38番、丸中霊能専門学校所属、山田太郎』

 

会場は土御門の名前が呼ばれざわめく。

 

な!?土御門陽乃だと……どういう事だ。

それだけでも、俺は驚いたのだが試合内容にさらに驚愕だった。

試合開始からたった4秒だ。4秒で試合が終了した。

 

会場は驚きやら感嘆の声が上がる。

 

相手は氷漬けになり、戦闘不能で医療室行きだ。

なんて力だ。しかも容赦がない。

 

しかし、同じグループで無くてよかったな……あれに勝てる気がしない。

美神さんが要注意と言っていただけはある。

 

『Dグループ二回戦第二試合245番・336番前に』

 

336番、俺の番か……今は陽乃さんの事は忘れよう。目の前の試合に集中だ。

 

『Dグループ二回戦第二試合245番金成木GS専門学校所属、酒田金太。対、美神令子除霊事務所所属、比企谷八幡』

 

会場が陽乃さんの時と同様、ざわめきが起こる。

会場のあちこちから、「美神令子の弟子かよ」「あの冴えない奴が美神令子の弟子?」「さっきの霊力試験ですごかった奴か」などと聞こえてきた。

あれ?もしかして俺って注目されてる?そりゃそうだよな。よく考えなくてもそうだ。普段実感わかないが、日本最高峰のGSのあの美神令子の弟子なんだよな。まったくもって実感わかないが。実際は横島師匠の弟子だし……まじ無様な試合でもしたら美神さんにぶっ殺されるかも………なんか緊張してきたぞ。

 

『試合開始!』

 

げっ、考えてる間に始まった。えーっと。ルール的には100万までの札が使えるけど、使ったらバイト代から削られそうだしな。

あんま得意じゃないけど………

 

俺は腰に吊り下げている神通棍を手にとり霊力を注ぎ込み起動させ、一気に相手に迫る。

相手は慌てふためいて、なんか爆破の破魔札を投げようとしていたが遅い。

 

俺は相手の後ろに回り込み、構えたまま、神通棍を相手の首筋に突きつける。

 

「ま、参った」

相手はあっさり降参する。

 

周りで歓声が上がる。

 

なにこの手応えのなさ、この前のブサイクD級妖怪より弱いんだけど。

 

俺は釈然としないまま一礼して、Dブロック試合場を後にする。

 

眼の前には陽乃さんが立っていた。

「やるじゃん比企谷くん。でも、君があの美神令子の弟子ね。どうやってなったの?お姉さんの情報網ではそんな話はなかったのにな~」

 

やっぱり調べてやがったか……、しかし何で俺が美神さんとこでバイトしていたことをがバレなかったんだ?

 

「知りませんよ。ところで、雪ノ下さんが土御門ってどういうことですか?」

 

「え?わたし?そうね。隠すようなことじゃないし。雪ノ下は土御門の関東における遠い分家筋なの。稀に私みたいなのが出るのよね。それで、陰陽師を名乗る時は土御門なのよ。この服ダサイから嫌いなんだけど。土御門の伝統だからってね」

そういう事か……遠い分家筋の雪ノ下家自身陰陽術を脈々と継いでるわけではないと言うことか……分家筋で才能のある人間が現れると本家が育てるわけか。

 

「雪ノ下は……」

 

「もちろん。雪乃ちゃんはこの事は知ってるわよ。あの子にとっては嫉妬の対象にしかならないけどね。安心して、雪乃ちゃんは違うわよ。全然才能がないから」

陽乃さんはあっけらかんと言う。

 

「…………」

 

「ところで、どうやってその力を得たの?生まれつき?それに美神令子の弟子にどうやってなったの?お姉さん知りたいな~」

 

「さあ?」

 

「あ~あ、そんな連れないこと言うんだ。いいんだ。雪乃ちゃんに言いつけてやる。比企谷くんのことだから、雪乃ちゃんにこのこと秘密にしてるんでしょ?」

陽乃さんは外面の笑顔でこんな事を言ってくる。

くそ、この人のペースだなこれは……

 

「はぁ、わかりましたよ。偶然後天的に霊能力が発現したんですよ。美神さん所にお世話になったのも偶然が重なった結果です。正確には俺は横島忠夫の弟子ですけど」

 

「ぷっ!横島忠夫?あのセクハラで有名な?確か彼も美神令子の弟子だったわね。力量としてはあまり業界では有名じゃないけど」

笑いながら言われたぞ。やっぱそうなんだ。スケベで有名なんだな横島師匠。弟子として泣けてくる。

しかし、力量で有名じゃないってどういう事だ?横島師匠はかなり強いと思うぞ。

なんだかんだって、オカルトGメンの西条さんや美神美智恵さんからも頼られているようだし。A級ランクの小笠原エミさんだって、仕事手伝わすために、たまに色気使って横島師匠を連れて行くぞ。

 

『Aグループ三回戦第一試合 12番、45番前へ』

 

「ああ、もう呼ばれちゃった。比企谷くん、準決勝か決勝で会いましょうね」

陽乃さんは笑顔で手を振って行ってしまった。

 

『Dグループ三回戦第一試合 336番 442番前に』

 

今は考えても仕方がない。眼の前の試合に集中だ。

 





遂に出ちゃいました。はるのん。
色々と謎が多い横島くんですがそのうちにということで………お待ち下さい。


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⑦二次試験はトントン拍子

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

このシリーズまだ、始まったばかりなのです。
徐々に色々な設定や、キャラを小出しにする予定なので、しばしお待ちを………
特に横島くん関係は………

というわけで、今回はモブ子さんと勝負です。
要するにつなぎ回です……はい……



 

 

俺は二次試験三回戦、四回戦と、あっさり勝利した。

これで晴れてGS資格が得られたのだが……釈然としない。

今までの、試合の相手があまりにも手応えがなさすぎる。

俺はラッキーだったのか?

 

 

『Dグループ決勝、336番、355番前に』

 

俺はそんな疑問を持ちながらDグループ決勝へと駒を進める。

これに勝てばベスト4だ。

 

『Dグループ決勝、336番、美神令子霊能事務所所属、比企谷八幡 対、モッフル霊機㈱所属、安藤安美』

 

とうとう女性と当たってしまったか……怪我させないようにしないとな。降参してもらえるようにするしかないか……

 

「っておい!審判の人!あれなんなんすか!?」

俺は対面に現れた。安藤安美なる女性ではなく………いや、ネズミか犬かわからん2、3頭身の着ぐるみがショットガンを構えながらポムポム歩いてきたのだ!場違いにも程がある!

 

「ん?なんだね君、構えなさい」

 

「ええ?ちょ、あれおかしくないっすか?」

 

「あの着ているもののことかね。霊装だからOKだ」

霊装って……あんなファンシーな霊装なんてあるのかよ!なんか駆動音みたいなのがするし!

 

「いや、なんか機械が動く音がしますよ?ロボットじゃ………それに手に持ってるの思いっきり銃じゃないですか!」

 

「……正式に霊装の許可証があるからOKだ。あの銃は霊符が練り込まれた弾を発射する銃だからあれもOKだ」

なにそれ、許可があれば何でもいいのか?霊符が練り込まれた弾だといっても、銃は銃じゃねーか!

 

「まじ?」

 

 

『試合開始!』

 

ドゴーン!

 

「うお!?………」

俺はそのわけがわからん着ぐるみロボットから発射されたショットガンの弾をかろうじて避けたんだが…………避けた先の床には複数の弾がめり込んでいる。

 

「モノホンの銃じゃねーか?そんなんありかよ!?」

 

「あは!?避けたらダメ。避けたら試験にならないじゃん!」

着ぐるみロボットから可愛らしい女の子のような声がスピーカー越しのように聞こえてくる。

しかも何言ってんだ?頭のネジがふっ飛んでるんじゃないか?

 

「そんなもん避けるわ!」

思わず横島師匠ばりのツッコミを入れながら、次々にショットガンをぶっ放してくるのを尻目に、俺は横島師匠のように思いっきり走って逃げる。

まあ、横島師匠の走り方までは流石に真似できないが……俺は普通に走って逃げる。

 

「すばしっこーい!これならどう!?やっちゃんファイヤーー!!あは!?」

今度は口からなんか出てきたぞ!?

 

おい!火炎放射器じゃねーーか!

 

「し、審判!あれ反則!!」

俺は審判にアピールするが……

 

「あれは火炎石を核に使った霊的構造を伴った兵器だからOK」

何?この審判、この着ぐるみロボットの回し者?なんでそんなことまで知ってるんだよ!?

 

「あちっ!」

俺はそれでも、走って避ける避ける避ける。

 

「あたらなーーい!これならどうだ!!やっちゃんボム(手投弾)!!あは!?」

着ぐるみロボットは手投弾をポイポイ投げてきた。

 

「おい!審判!!明らかに反則だぞ!実弾兵器だ!!」

 

「元が起爆符だからOK」

何だそりゃ?………くそっ、確かに霊気が通ってやがる。

効果は普通の手投弾と同じだけどな!

霊的素材や術式がありゃ、なんでも良いってことか!!

 

俺は手投弾の軌道を読みながら、横島師匠バリに縦横無尽に避けきる。

但し、横島師匠のような奇っ怪な避け方は出来ない……というか、師匠は何であんな訳わからない避け方が成立するんだ?普通に避けた方が効率がいい様に思うのだが……

 

「ムーー、当たらない!もう、怒ったぞ!!やっちゃんマシンガン!!あは!?」

着ぐるみロボットの頭がパカっと開いてマシンガンが飛び出し乱射してくる。

 

「おい審判!流石にあれは銃刀法違反だよな!」

 

「銀の弾とザンスカール製のマシンガンだからOK」

おい!?なにそれ、銀の弾ってだけでOKってどういうこと?何、この取って付けたような説明は!?この審判絶対回し者だ!!

 

これは流石に避けきれず霊力を片手に集中させ、霊気で編み出した六角型の盾、サイキックソーサーを展開し何とか防ぐが………

弾数が多いぞ!流石にきつい!

 

と……思ったら、急に銃声が止んだ。

 

「ん!?どうした」

 

「ムーー!ムーーーー!!」

着ぐるみはマシンガンを発射させてるポーズのまま、固まって、微動だにしない。

何やら着ぐるみの中の人が何やら唸っている。

 

まさか…………いや、間違いない霊気が切れたな。

そりゃそうだよな。いくら兵器だからって、霊的構造物や術式を介しているんだ。そりゃ霊力を食うだろ。しかも、あんだけ無尽蔵に弾やら何やらを使ったら、霊力が持つわけがない。

 

「ふーー、勝負あったんじゃないか?」

俺はゆっくり近づく………

 

「ムーーー………自爆!!」

着ぐるみロボットはその場で自爆しようとする。

 

しかし、試合場の物理攻撃を無効化する結界に阻まれる。どうやら自爆装置は霊気関係無しの通常仕様だったらしい。着ぐるみロボットは爆発せずにパーツがポロポロと落下していき………崩れ落ちる。

 

「………ムーーー。負けっちった」

着ぐるみロボットが崩れ落ち、そこに現れた中の人は負けを認める。

 

『……しょ、勝者。336番』

俺の勝利がコールされるが……

 

………中の女の子は何故か…素っ裸だった。

 

「………なんで、裸なんだよ」

まあ、なんだ。裸だが、なんにも感じない。どう見ても小学生位の子だ。

これで感じてしまうほど、業は深くない。

 

「当然アレが服だからだよ。あは!?……君強いね。今度ウチのラボに来て、実験台にならない?」

 

「いかんし、ならん。……いいから。なんか着ろよ」

これが、大人の美女だったら、横島師匠が乱入してきただろうな………それってもしかしてやばくないか?身内が試合中に乱入なんてことになると、反則負けになるんじゃ………よかった。横島師匠の食指が動かないほどの、小さな女の子で……

 

 

そんなこんなで、俺はDグループで決勝を勝利し。ベスト4入りする事ができた。

因みに、後で知ったのだが………着ぐるみロボットの中の人……あの人、結構有名な霊的兵器開発者らしい。なんでもドクター・カオスに憧れて開発者になったとか……しかもあれで30前なんだそうだ。

 

 

 

30分の休憩を挟んで準決勝だ。

もちろん。雪ノ下陽乃さん、いや、土御門陽乃さんもAグループをぶっちぎりで勝ち抜いている。

まあ、そうだろうな……霊能力者としての力は他の受験生を圧倒している。

というか、最後のアレは別にして、大した受験生は居ないしな。みんなDランク妖怪より弱いし………

 

俺は関係者観覧席の横島師匠の元に戻ろうとするが……案の定、陽乃さんが声を掛けてくる。

「比ー企谷くん。お姉さんと話しでもしましょ。さっきの話のつ・づ・き」

 

「……何もないですよ。さっき話した通りですが」

 

「つまんない。あるでしょ経緯とか、そこを聞かせてよ」

陽乃さんは人懐っこい笑顔を向けながら俺の頬を突っついてくる。

 

「本当にそれだ…………」

俺はさっとその指を避けながらムッとした態度をするのだが……陽乃さんと俺の間に突如として人影が入る。

 

「そこの!!式服が超似合う。超絶美人のお姉さん!!!!僕、横島!!!!あっちの喫茶店でお茶しませんか!!!!」

 

その人影は陽乃さんの両手を握りしめ、スケベそうなニヤケ顔で、とんでもないナンパをしだした。

というか………横島師匠なんだが……うん。やると思った。

 

「え?…えーっと」

この突然のナンパにさすがの陽乃さんも驚きを隠せないでいた。

おお、陽乃さんのこんな姿を見られるとは、流石は横島師匠!

 

「公衆の面前で恥をさらすな!!この変態!!」

 

「グボべ!?」

 

美神さんが絶賛ナンパ中の横島師匠に強烈な肘打ちを食らわせダウンさせる。

横島師匠の暴走を一撃で止めるとは!流石は美神さん!

 

「オホホホホッ、ごめんなさいね。こいつにはよーく言い聞かせるから」

美神さんはわざとらしい愛想笑いをしながら。ぐったりした横島師匠の首根っこを引っぱりながら、この場を立ち去ろうとする。

 

「貴方はあのゴーストスイーパー美神令子さんですね。始めまして私は土御門一門衆、土御門陽乃です」

陽乃さんは気を取り直し、美神さんに自己紹介をする。

 

「オホホホホッ、セクハラじゃないのよ。こいつの挨拶みたいなものだから……」

 

「SランクGSの美神さんにお会いできるなんて光栄です。その若さでSランクGSなんて憧れます」

陽乃さんは、なんか普通に美神さんに話しかけていた。

俺はホッとする。

ここでも面白がって、挑発めいた事を言うかもしれないと内心焦っていたが、どうやらいらぬ心配だったようだ。

性格が魔王な陽乃さん。骨の髄まで魔王を地で行く美神さん。衝突したらシャレにならん。

巻き込まれるのは必須だ。

まあ、何だかんだとあの人は、人を見て、仕掛けてくるからな。

流石にSランクにケンカ売るような真似はしないか……

 

「そう?あなたも頑張りなさい」

美神さんにそう言って横島師匠を引きずりながら、会場の裏側に消えていった。

 

 

「あれが美神令子……噂では相当くせのある性格で傍若無人な人物と聞いていたのだけど……意外と普通ね」

陽乃さんは美神さんが去っていった方を見据えながら、誰となしにこんなことを言う。

…その噂は本当です。今は、美神さんのかーちゃんの美智恵さんがこの会場にいるし、一応外聞は気にしているようなので、抑えているだけです。

 

「でも、横島忠夫って、噂通りのとんでもないセクハラ野郎のようね。比企谷くん、よくあんなのの弟子をしているわね」

 

「い、意外といいところもあるんですよ」

…そう、噂の通りです。でも、結構優しいし所もあるし、面倒見もいいんですよ。ただ、ドスケベで、バカで、変態なだけで…… いい面がすべて隠れるぐらいの、マイナスになってるだけで……

 

「へー。あの比企谷くんが認めてるんだ。……で、横島忠夫はGSの腕はどうなの?」

 

「強いです」

これだけははっきり言える。

横島師匠は強い。俺じゃ全く歯が立たない。

 

「ふーん。ぜんぜんそうは見えないけど……そうだ。これが終わったらお姉さんとデートしようか」

 

「お断りします」

俺は即答する。

デートという甘い言葉をそのまま取ってはいけない。この人の場合必ず裏がある。

今回は差し詰め、デートと言う名の尋問だろう。それ以外にも愉快犯的に何か面倒ごとを持ってきそうだが……

 

「ほんと、そう言うところはぶれないわね。じゃあこうしましょう。この後の試合で私が勝ったらデートね」

 

「雪ノ下さんと俺が当たるとはまだ決まってないでしょう」

まだ、準決勝と決勝がある。組み合わせ発表は試合直前でコールされるため、準決勝で当たらなければ、負けて、当たらない可能性もあるのだ。

 

「あたるわよ。わたしは負けないし、比企谷くん意外と強いし、私以外の受験生に負けるはずないしねーーー、比企谷くん今までの試合、全然本気じゃないし。まだ、何か隠してそうだしね」

だからこの人苦手なんだ。その笑顔の奥に怪しく光る眼で人を見透かしたように観察し、答えを導き出してくる。それが大体あってるから厄介なんだ。

まあ、大体であって、正確ではないが……

 

「はぁ、その賭け、俺には何のメリットも無いんですか」

 

「うーん。私が負けたら。そうね。比企谷くんの言うことをなんでも聞いてあげる」

…なんでも?……いやいやいや、騙されてはいかんのだ。これは明らかに罠だ。

 

「お断り………」

 

「そういうわけだから、比企谷くんまた後でね」

陽乃さんは俺が断りを入れる前に、そう言って俺の肩をポンと叩き、足早に去っていってしまった。

 

「……いつものパターンか。はぁ」

 

 

次は準決勝……GS資格取ったし、陽乃さんと当たらなかったら、わざと負けてやろうか……



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⑧二次試験決勝戦開始

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで、決勝戦です。
もちろん。あの人との戦いです。



俺は関係者観覧席に向かうと、そこには美神さんと巫女服姿のキヌさん、そして、やはりというかボロボロになった横島師匠が倒れてた。

 

「比企谷くん、さすがですね。次の準決勝も頑張ってください」

キヌさんに褒めてもらい、激励してもらった。

ありがとうございます。キヌさん。こうやって声を掛けられるだけで、癒やされる。

キヌさんがいてくれたおかげで俺は、美神令子除霊事務所でやってこれたと言っても過言ではない。

だって、あれだぞ。キヌさん以外、まともな人が1人もいないんだぞ。事務所に来る人もおかしな人ばかりだし。

 

「比企谷くん、やっぱりあの土御門陽乃って子只者じゃないわ。もはや受験生レベルの霊力じゃない。それとどうやら式神を持っているようよ」

美神さんは俺に的確なアドバイスをくれる。

遠目で見ていた試合と先ほどの接触だけで、それだけのことがわかるとは流石だ。

陽乃さんは試合では一度も式神を出していない。いや、どの試合も10秒以内で決着がついていたため、手の内は全くわからない。

俺の霊視で式神の存在は感じていた。

かなり強力な奴だ。

 

「そうですね。強いと思います」

 

「あんたの知り合いみたいだけど、どういう関係?」

 

「部活仲間の姉です。今日はじめて彼女が土御門の関係者だと知りました」

 

「ふーん。まあ、頑張んなさい」

美神さんはそれだけを言って、特別審査員席へと戻っていった。

何がなんでも勝って、絶対優勝しろって言われるかと思ったが、意外と普通の激励だった。

それだけ、陽乃さんの実力を認めてるってことか……俺が思っている以上にやばいのか?

 

「私も行かないと、比企谷くん。無茶だけはダメですよ。せっかくGS資格とれたんですから」

キヌさんもそう言って、この場を離れ会場裏に姿を消す。

 

「はい、怪我しないように頑張ります」

 

2人が去った後、ボロボロだった横島師匠は、ビヨーンと立ち上がり、復活した。

「八幡!あの超絶美人のお姉さんと知り合いか!!うらやましいーー!!式服着てたから目立ってなかったが!!おっぱいは88のDだ!!水着姿を拝みたい!!」

 

……横島師匠、そんな情報要りません。しかも、どうやって測ったんだよ!

 

「まあ、俺の知り合いの姉ですよ。土御門家の霊能者だとは知りませんでしたが……」

陽乃さんは普段は霊気を抑え、隠しているのだろう。前に会った時は違和感はあったが、霊能者だとは判別はつかなかった。

霊力コントロールもかなり出来るということだ。

 

「八幡、いい機会だ。全力でやってみたらいい」

横島師匠は急に真面目な顔になり、俺の肩にポンと手を置いた。

 

「……わかりました」

師匠のこんな顔は年に数度しか拝めない。

ただ、その時の言葉はどれも的確で意味があるものだった。

 

 

 

そして、会場から準決勝開始のコールがかかる。

 

『準決勝第一試合117番、336番前に』

準決勝で陽乃さんには当たらなかった。

まあ、これに勝てば、決勝で陽乃さんと当たるのだが。

 

全力でやってみたらいい………か

 

俺は横島師匠の言葉を思い出しながら、準決勝の舞台に上がる。

 

うーん、結果は圧勝。

というか弱くないか?いいところDランク妖怪と同じくらいだぞ。

 

受験生って、どれもこのレベルなのか?

俺が強いのか?

いやいやいや、普段、俺が強いなんて感じたことがないぞ……?

 

そうか、……そりゃそうだよな。

横島師匠や、Sランクの美神さん、そして、特殊な環境下では凄まじい効力を発揮するキヌさん。それにシロにタマモ。美神令子除霊事務所の面々は最上ランクの仕事までこなせるスーパーエリート事務所だ。

よく事務所に訪れるオカルトGメンの西条さんに美神美智恵さん。小笠原エミさんに六道冥子さん、皆日本屈指のGSだ。

 

そんなものを見慣れてりゃ、そうなるわな。

しかも、そのスーパーエリート事務所で1年半も生きて過ごせたのだから、そりゃ強くなるのも当然か………依頼で何度もこりゃ死ぬなっていう思いをしたしな。

 

俺は自分の両手を見つめながら、いつのまにやら自分の力量がかなり上がっていることを改めて実感した。

 

 

『二次試験決勝、12番、336番前に』

 

遂に決勝戦がコールされる。

決勝は雪ノ下陽乃さん……ただ単に、雪ノ下の姉で苦手な人だって認識だったが、今は霊能者として俺の前に現れた。しかもあの美神さん達が警戒する程の相手として……

 

 

『第〇〇回GS資格試験二次試験決勝、12番土御門陰陽道所属、土御門陽乃。対、美神令子除霊事務所所属、比企谷八幡』

 

陽乃さんは対峙する俺を見て、笑っていた。

いや、何時もの外面の愛想笑いじゃない。何かこう別のものだ。

 

『試合開始!』

 

 

 

陽乃さんはこちらに右手を掲げると、その手の平から突如として、こぶし大の氷の礫が現れ、俺に向かって放たれる。

 

俺はそれを大きく横に飛び避ける。

 

この氷の礫にふれると全身が凍らされる。

今まで、陽乃さんと試合を行った受験生達は、たいがいこの初手で皆やられていた。

 

しかも、陽乃さんは、札や術具を介さずにこの術を展開してくるのだ。

何らかの特殊能力者なのだろう。厄介極まる。

 

そして、俺が避けた先から、次々と放ってくる。

それも俺は着弾予想をし、飛び避ける。

 

今度は、陽乃さんの右手の平から、一気に3つの氷の礫が同時に展開し、飛んでくる。

しかも俺の避けるパターンを解析したかのように、タイミングをずらし飛んでくるのだ。

 

俺は一発目を避け、二発目をサイキック・ソーサーで受け止め。三発目は前に出て避ける。

 

 

陽乃さんは笑っている。

 

右手で氷の礫を展開しつつ、左手に何らかの呪符を手にして、言霊(呪文)を発す。

 

俺は霊視で確認する。あの呪符と言霊は土遁の術だ。

 

俺は回避しながら、呪符が効力を発揮するのと同時に、床を蹴り、大きく斜め後ろに飛んだ。

俺がさっきまでいた場所には、床から突き刺すような尖った大きな石柱が勢いよく現れる。

やはりか………

 

その間も、氷の礫が俺を襲う。

空中では回避は無理だ。俺はサイキック・ソーサーだけでは間に合わず。神通棍を振るい氷の礫を撃ち落とす。

 

氷の礫を何回か受けた神通棍は凍りつき、このままだと折れてしまう。

霊気が通っているはずなのだが、霊気ごと凍らせやがった!

サイキック・ソーサーは霊力を集中させた霊気の集合体なため、凍らされても、都度発動すれば問題なかったが、神通棍はそうはいかない。本体が持たないのだ。

くそっ、神通棍って幾らするんだっけ!?

100万は余裕でするんじゃない?

 

俺は神通棍が折れる前に手放す。

 

俺は身を切る思いで20万の護符を出し、眼前に火遁結界を張り、しのごうとするが、氷の礫を1発受けただけで、火遁結界は消滅する。

 

ああ、俺の20万円が!?

 

 

そこで、一度、土遁の術や氷の礫が収まった。

陽乃さんは構えを解いている。

 

仕切り直しがしたいのだろう。

俺はその意を汲み、開始の元の位置までゆっくりと戻る。

 

会場ではどよめきや驚きの声が上がっていた。

 

 

くそ、わかっていたことだが、今までの受験生とは桁が違う。

しかも、まだ陽乃さんは本気じゃない。

どんだけチートなんだよ。

 

 

「比企谷くん、本当にやるわね。ここまで私の術を避けられたのは、久しぶりよ」

陽乃さんは何時もの外面笑顔ではなく、ギラついた目をした笑みをこぼしていた。

 

「…………このチートが」

 

「私も本気を出してあげる。比企谷くんも奥の手をだしたほうが良いわよ」

陽乃さんがそう言うのと同時に、陽乃さんの影から、2メートル強はある一本角鼻から上を隠すような仮面をかぶった鬼が現れた。

 

会場はまたしてもどよめきが起こる。

 

「鬼神、雪刃丸」

陽乃さんの式神か……なんて威圧感だ。まるで十二神将なみだ。

流石は名門陰陽師土御門家か。

 

「………くそ」

 

横島師匠が、全力を出せといったな………

 

俺は霊気を開放する。

俺の全身から霊気が外に向かって溢れ出る。

 

霊気とは霊力を生み出すための燃料みたいなものだ。

霊気量が多いとそれだけ霊力を振るえる時間や大きな霊力を生み出すことができる。

但し、霊気が多いのと強い霊力を生み出すことは別物だ。

強い霊力を生み出すにはそれ相応の修行とセンスが必要だ。

いくら霊気が多いからと言って、強力な霊力を振るえるわけではないのだ。

 

俺は溢れ出る霊気のせいで、霊を呼び寄せてしまう体質になってしまった。

それを解消するために、横島師匠の元で最初に行ったことは霊力コントロールだ。

それは、俺のあふれる霊気を抑えるために霊気を体内に留める修行だ。

俺には最初、霊力を扱う才能はなかったため、霊気が体内にとどまること無く、ダダ漏れになっていたのだ。

霊力をコントロールできることで、霊気の流れもコントロールできる。さらに、俺の身体の器も大きくなり、霊気も体内に留めることができるようになったのだ。

 

その溢れ出る霊気を今俺は、体内に留めること無く、外に向かって開放したのだ。

 

会場がまたしてもどよめく。

 

「あははははっ、比企谷くんいいわ。やっぱり雪乃ちゃんには勿体無い」

陽乃さんはあのギラついた目で笑っていた。

 

 

差し詰め第2ラウンド開始と言ったところか。



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⑨決勝戦決着

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで決着です。

GS資格試験編はこれで終わりです。


俺は溢れ出す霊気を体外に放出する。

俺の霊気は勢いよく周囲の空間に染み込むように浸透していく。

 

生き物はすべて霊気を保有している。

霊気をなくした生き物は生命力を失い死に至る。

霊能力者はすべてこの霊気を通常の人間の数倍保有している。

霊気は霊力を生み出す燃料のようなものだ。

霊能力者は霊気を霊力という力に変換し、数々の奇跡を生み出す。

 

俺はあの事故で、この霊気を多量に生み出す体質になり、霊気を放出し続けていた。

その結果、エネルギー体である霊気に惹かれ、浮遊霊などが集まってきた。

霊気を貯める器も小さく、霊力をコントロールもできない俺は、霊気を消費すること無く、放出し続けていたのだ。

 

そして、この1年半。横島師匠の元で修行し、霊気を貯める器の拡張と霊力コントロールをある程度ものにした。

 

霊気には一人一人異なる色を持っている。その人だけのものだ。霊気の色によって他者を識別することも可能だ。

また、霊気の色によって、霊能の得意分野の個人差が出ることもある。

 

俺色の霊気……それは、他者とは違う。自分だけの霊気だ。

自分の身体を組織する一部であると行っていいだろう。

 

その霊気を俺はこの結界内の意図的に空間に満たした。

 

俺の霊気は霊視能力と合わさり、目、耳、鼻、触覚の役割をする。

俺の霊気に相手が触れれば、相手の動向も手に取るようにわかる。

俺の霊気が満たされた結界内では全方位の霊視が可能になる。

 

俺の霊気が満たされたこの結界内では俺は3次元的にすべてを把握することができる。

 

いわば、霊視空間把握能力………。

 

これが俺の戦い方………。

 

 

 

そして、再び戦いの火蓋を切った。

 

陽乃さんの式神、雪刃丸の眼前に、先程の倍ほどの大きさの氷の礫が10数個生成され、俺に向かって放たれる。

 

俺の霊視空間把握能力はその氷の礫のすべてが何処を狙い何処に着弾するのか、角度、速度も手に取るように視える。

俺は着弾場所を縫うようにゆっくりとした足取りで確実にすべて回避する。

 

そして、次弾の氷の礫もすべて回避。

 

 

「全て避けられた……さっきとはまるで動きが違う………こちらの動きが読まれてる?」

 

さらに、氷の礫が放たれるが、俺はそれもすべて回避しながら、陽乃さんに迫る。

 

雪刃丸は陽乃さんの前にでて、俺の進攻を止めるがごとく口から猛吹雪を吐く。

俺はそれを大きく回避し、陽乃さんの左側に出て、サイキックソーサーを雪刃丸の頭に向かって投げつける。

 

雪刃丸はサイキックソーサーを左腕でガードする。

俺は更にサイキックソーサーを生成し、更に雪刃丸の頭に投げつけた。

 

これは目くらましだ。雪刃丸がガードすることによって、左から後方は陽乃さんの死角になって俺が見えない。

雪刃丸自身もガードして俺の動きを捉えられないだろう。

俺は更に後方に周り、陽乃さんの後方を取ろうとするが……

 

 

「甘いわ!氷雪陣!」

陽乃さんは印を結び術を発動させる。

陽乃さん半径5メートルに氷の結界陣が床に浮かびあがり、氷の刃が次々と床から飛び出す。

 

俺は既にその術の発動範囲を把握し、大きく後方に飛び退く。

 

俺が大きく後方に飛び退くと同時に雪刃丸が動き出した。

デカい巨体に似合わずかなりのスピードで、飛び退いた俺に追いすがり空中で捉え、殴りつけてきた。

俺はその動きを読んでいたが、空中では避けられない。身体を捻らせながら、サイキックソーサーを最大限に強化してガードする。

 

「ぐっ」

雪刃丸にサイキックソーサーごと俺は殴りつけられ、大きく吹っ飛ぶ。

この式神パワーも桁違いだ。やはり十二神将に匹敵するか………

何とか直接ダメージだけは避けたが、サイキックソーサー越しに衝撃が俺の体に届いた。

くそ、霊能者じゃなきゃ今ので死んでたぞ。

 

霊能者は霊力を体内に巡らせることで、力、防御力、スピード等の基礎身体能力を高めることができる。

一般的に霊力が高ければ高い程、基礎身体能力アップ幅も大きくなるが、得意不得意もある。

これが出来なきゃ、妖怪や悪霊の攻撃に耐えることが出来ず。一撃でお陀仏だ。

横島師匠は多分、防御に関してはめちゃくちゃ得意なはずだ。

じゃないと説明が付かない。前の依頼の時に、東京スカイツリーで美神さんにセクハラして、頂上から地面に落とされても生きてたし………下手すると、大気圏突破できるかもしれない。いや、流石に無理か…………

それはさておき、俺は今も、霊力で基礎身体能力を上げているが、それでも、サイキックソーサー越しにダメージを受けたのだ。

 

くそ、いくら空間を把握し、相手の攻撃情報をすばやく手に入れたところで、俺自身の身体が動きについていけてない……

 

俺は何とか空中で体勢を立て直し地面に降り立つが、既に雪刃丸が迫り俺に重い拳打のラッシュを放ってくる。

これを後方に下がりながら避ける。

 

さらに、陽乃さんから、氷の礫、土遁の術が俺に迫るが、俺は霊視空間把握能力をフルに活用しながらサイキックソーサーとフットワークで避ける。

 

さっきまでと一緒か、防戦一方だ。

お互いの能力をさらけ出したところで、地力は陽乃さんの方が上か………

 

攻撃のチャンスも無い。

 

 

………しかし、勝負はこれからだ。

 

 

俺の防戦一方の状態が、10分も続いた。

 

観客からもヤジが飛ぶ。

攻撃しろとか、守ってばっかりするなとか、横島と一緒で逃げるのだけはうまいなとか………

 

俺の霊視空間把握能力もそろそろ限界が来る。

そりゃそうだ。いくら霊気量が多いからと言って、無限ではない。しかも、この結界内空間をカバーするだけの霊気を放出し続けているからだ。自然に放出する量の10倍は消費している。

 

霊気量を食い過ぎるのがこの能力の最大の欠点だ。放出する濃度とかも調整の余地があるな。

まあ、他にも欠点はあるんだけど………

この能力。まだまだ、改良の余地があるということだ。

 

しかし、これは陽乃さんも同じだ。

陽乃さんだって、あの強力な式神を全開で仕掛けながら、術を行使している。

霊気を多量に消費しているのだ。

 

俺は避けながらも陽乃さんに霊視をし、様子を伺っていたのだ。

澄ました顔をしているが、陽乃さんも相当きついはずだ。

 

陽乃さんも気がついているはずだ。

俺が持久戦を挑んでいる事を………

 

霊気量だけならば俺の方が上だ。

俺は霊視空間把握能力を使い。陽乃さんや雪刃丸の攻撃情報を得て、避けたり逃げたりだけしていたわけではない。陽乃さんの霊気や霊力を測り相手の状況を把握しながら、自身のダメージ・コントロールを行っていた。

俺は、霊能による情報戦を陽乃さんに仕掛けていたのだ。

 

観客は汚いとか、卑怯だとか言うかもしれん。

俺にはそんなことは関係ない。

 

美神さんは俺によく言う。

「セコかろうが何をしようが、最後に勝てばいいのよ。勝てばすべて正義なのよ!!」

横島師匠は敵によく言う。

「うはははははっ!!卑怯で結構、メリケン粉!!命あってのものだねじゃい!!」

うん。俺の師匠共は良いこと言う!

 

 

陽乃さんは焦れて、ついに自らが前に出てきた。陽乃さんの霊気が底を尽き掛けてきたのだ。

まあ、俺も尽きかけてるんだけどな。

 

「比企谷くん。やるわね。持久戦とはまんまと嵌められたわ」

 

「俺にはこれしか無いんで………」

 

「後で、どうやって私の攻撃をこれだけ避けられたのかも教えなさい!」

 

「俺に勝ったら教えて上げますよ」

 

「言うわね。でも、嫌いじゃないわ」

 

陽乃さんは数枚呪符を取り出し言霊を紡ぐ。

雪刃丸の霊圧が上がってくる。

 

全霊気・霊力をつぎ込んだ最大攻撃が来る!?

 

雪刃丸は雄叫びを上げる。

式神の能力が爆発的に上昇する。

これは、雪刃丸の身体強化術式だ!

六道冥子さんの式神暴走に近い!

こんなものをコントロールできるのか?

こんなものの攻撃を食らったらひとたまりもない。

本当に最後の攻撃ということか!

 

術者である陽乃さんを倒せば、雪刃丸も止まる!

俺は雪刃丸の身体強化術式が完全に完成する前に、陽乃さんに突撃をする。

 

しかし、陽乃さんの眼前に迫るも雪刃丸の身体強化術式が完成してしまった。

 

雪刃丸が俺に右拳を振り上げる。

先ほどとはスピードも桁違いだ。

俺の突撃も途中で止めることが出来ないほどスピードがってる!

これは避けられない!

 

 

くそっ!これを出すつもりはなかったが!

 

 

俺は全霊気を霊力に変換し左手に全集中させる。

 

 

そして、雪刃丸が振り上げる右腕に向かって、霊力を収束させ左手を突き上げる。

横島師匠から教わり、1年半掛け、ようやく物に出来た必殺技。霊力の刀。霊波刀が光輝く。

 

俺は霊波刀で雪刃丸の左腕を切り落とす。

 

雪刃丸は止まらない。右足で蹴りを放ってきた。

俺は返す刀で雪刃丸の右足を……………刀の振り下ろした先には………

 

霊波刀は雪刃丸の右足に届く前に消滅。俺はもろに雪刃丸の蹴りを喰らい吹っ飛ぶ。

 

 

「がはっ!」

 

かろうじて右腕で蹴りをガードしたが……強化された雪刃丸の蹴りの威力は凄まじく。

俺は空中に吹き飛ばされ、右腕が粉砕した音を聞き、意識は飛ぶ。

 

 

 

 

「………ひき……ひきがや…………比企谷くん!!」

眼の前には聖母、いや、キヌさんの顔があった。

 

「よかった。意識がようやく戻った」

 

「ここは……痛…」

 

「医務室です。まだ治療が終わってませんから動かないで」

 

どうやら俺は医務室のベッドの上に寝ているらしい。

ということは、負けたってことか……そりゃそうか。

身体の彼方此方が痛い。

右腕が今、温かい何かに包まれている。

キヌさんの治癒術、ヒーリングだ。

 

「無茶しないでくださいって言いました」

キヌさんは涙目で俺に怒ったように言う。

……怒った顔も素敵です。

 

「…すみません」

 

「まあ、死んでないから大丈夫でしょ」

頭上から美神さんの声がする。

 

「…美神さん…負けてしまいました。すみません」

 

「あんた。あれ程言ったのに。自業自得よ。最後の攻撃、あのまま振り下ろしたら陽乃って子に当たるからって躊躇したでしょ」

美神さんは呆れたように言う。

 

「いや、あれが俺の実力です。霊波刀の形状維持も短時間しかまだ出来ませんからね」

 

「師弟そろって、女に甘いんだから。……後で横島くんに車出して家まで送ってもらいなさい。今日はゆっくり休むのよ……まあ、それとGS免許取得、準優勝おめでとうさん」

最後にそう言った美神さんは気恥ずかしそうにしていた。

 

「ありがとうございます………あの、横島師匠は?」

 

「会場でナンパでもしてんじゃない?……でも、一応お礼を言っておくのよ。重症だったあんたを直ぐに駆けつけて、ここに運んだのは横島くんよ」

 

「師匠が?」

 

「それと、あんたしばらく休み。霊気も霊力も使い果たして、しかもボロボロになって、ヒーリング掛けて怪我を治したからって体力と霊気と霊的構造の回復に3日は必要よ」

 

「そうですか………」

 

しばらくキヌさんのヒーリング治療を受け、短時間で怪我を全て治してくれた。

凄まじい能力だ。

俺もキヌさんからヒーリング能力を教わって、ちょっとはできるが、擦り傷とかを治す程度だ。

 

キヌさんはもう一度可愛く俺に怒って、この後も打ち合わせがあるとかで治療室を後にした。

美神さんも打ち合わせがあるらしく、早々と治療室を出ていた。

 

治療室に残った俺は、車で自宅に送ってくれるはずの横島師匠を待つことにしたが、一行に現れない。

 

スマホはロッカーの中に置きっぱなしだな。取り敢えずスマホ取りに行って、横島師匠を呼ぶか………

「あーーめちゃくちゃ身体がダルいな」

俺はフラフラと治療室を出ると、扉の前には陽乃さんが立って居た。

 

「比企谷くん。結構元気そうね」

 

「あーー、おかげさまで」

俺は皮肉を言ったつもりだが、陽乃さんはそれには反応しなかった。

 

「……最後の攻撃、君は……………」

 

「何のことっすかね。俺はまだまだ未熟ものなんで、最後の最後にドジッたってことです」

 

「そう、そういう事にしておくわ。でも勝ちは勝ちなんだから、今度、お姉さんとデートね」

陽乃さんはいつもの調子でそんな事を言ってきた。

 

「げっ、それ、無効になんないっすかね」

 

「ダーメ!」

 

「というか、あんた俺を殺そうとしたでしょ。そんな人とデートなんて出来ないですよ」

 

「試合は本気でしないとね。ほら、男の子が過去のことでグチグチ言わない」

陽乃さんはそう言っていつもの調子で俺の頬を突っついてくる。

 

「はぁ、なんなんだこの人は」

 

「まあ、比企谷くんは頑張ったから、雪乃ちゃんにはGSだってことは言わないであ・げ・る」

 

「……そりゃ…ありがとうございます」

 

「そのかわり、デートよ!」

 

「………………はぁ」

俺は盛大にため息を付くしかなかった。

 

 

 

 

この後、横島師匠と連絡が尽き、車で千葉の自宅に送ってもらった。

 

「八幡、最後のは良かった」

横島師匠は運転中、ずっとおちゃらけた話をしていたのだが、俺を自宅の前におろした後、一言こういった。

 

………俺はそれが何よりも嬉しかった。

 

 

 

 




八幡霊能追加分

八幡のオリジナル霊能力
『霊視空間把握能力』
霊気を満たした空間内を三次元感覚で感じることができる能力。
空間内にいる相手のある程度の霊視も可能。
相手がどのようにな攻撃をするかを予め分かる能力ではない。
攻撃が発動と共に把握する能力です。
但し、霊視も行っているため、相手がどの様な攻撃をするかを予測することも可能です。

霊能による情報戦を行うような能力仕様になってます。

欠点は霊気を常に撒き散らさないといけないため、範囲が広ければ広いほど、莫大な霊気を消費する。

練習に付き合ってくれた美神さんに試したが、あっさり弱点を見破られた。
空間に浸透している八幡の霊気を散らされたのだ。
経験値の高いGSには現状効果は薄いよう。

横島に見せたところ、発展する能力だと言われている。
この能力を磨くことを推奨していた。


『霊波刀』
八幡の霊力コントロールの一貫として、この訓練を行っていた。
本来、適正と才能が必要なものだが…………八幡は1年数ヶ月かけて、ようやく物にする。
但し、維持時間はかなり短い。
八幡の霊波刀の特製はまだ判明してません。

『基礎身体強化』
八幡はその中でもスピード系が得意。

『ヒーリング』
擦り傷を治す程度。おキヌちゃん直伝。


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⑩GS資格免許

感想ありがとうとございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで、今回は、京都修学旅行編との繋ぎになります。


 

GS資格試験の翌日。

俺は普通に学校に通学した。

体は滅茶苦茶だるいが、動けないほどじゃない。

霊気霊力を限界ギリギリまで使い、大怪我までした代償だ。

 

放課後は、だるい体を引きずって、いつも通り奉仕部に顔を出す。

 

「うっす」

 

「こんにちは、比企谷くん。あなた何時もに増して目が腐ってるわね」

 

「……だいたいいつもこんなもんだろ」

俺は何時もの雪ノ下の毒舌をさらっと返す。

 

「ヒッキー、教室でも何時もに増してダルそうだったね。風邪でもひいた?」

由比ヶ浜は心配そうな顔をする。

っておい、何時もに増してって、俺はいつもダルそうにしているのか?

……ああ、そういえばだいたい俺はいつもダルそうにしてるな教室で。

 

「いいや、なんか疲労がたまってるだけだ」

 

「あなたが疲れがたまる様な事をするとは思えないのだけど」

 

「ヒッキー、何で昨日学校さぼったし」

 

「いや……あれが、これで……」

事情の知らせていないこいつ等に、GS試験を受けていたとは言えない。ましてや、雪ノ下の姉の陽乃さんと戦って、大怪我させられたとは……

 

「……比企谷くん。あなたアルバイトをしてるらしいわね」

不意に雪ノ下がこんなことを言ってきた。

まさか、陽乃さんがばらした?あの人、言わないって言ってたぞ!

 

「ヒッキーが学校休むなんておかしいから、小町ちゃんに聞いたら、アルバイトしてるって、なんかしまったーーとか言ってたし」

 

……小町ちゃん。GSの事は世間様には内緒だと家族で決めたよね。迂闊すぎませんかね?

犯人は家の身内だったか。まあ、GSのアルバイトとは言ってなさそうなのは幸いか。

 

「働くのが嫌いなあなたが、学校を休んでまで、何のアルバイトかしら」

 

「いや、あれだ。親の仕事の。そのなんだ。代わりに緊急にな」

なんか言い訳をと考えたが、うまい答えがでない。

 

「怪しい。ヒッキーよく金曜日は部活、早く帰るし」

由比ヶ浜はジトッとした目で俺を見る。

 

「金曜日の夕飯は俺の担当だからな。買い物もしないといけないしな」

 

「……そう言えば、そんな事も言っていたわね」

 

「ああ、俺の両親は共働きだからな。家に帰ってくるのも遅いし、夕飯は当番制なんだよ」

 

「うーー、でも昨日なんで休んだし」

由比ヶ浜はまだ疑っている様だ。

なに?俺が学校休んだら由比ヶ浜に何か不都合でもあるの?

学校でも教室でも空気な俺は、居ても居なくても一緒な気がするが……

 

「まあいいわ。それよりも依頼の件どうしましょう」

雪ノ下は俺をジッと見た後、話題を変える。

 

「それそれ!修学旅行で戸部っちの姫菜の告白の手伝い!」

由比ヶ浜の興味もこの依頼の件に移ったようだ。

俺は内心ホッとする。

 

「戸部が告白して、振られる。終わり」

俺は端的に事実を述べる。

修学旅行の班決めを行った日に、葉山と戸部が奉仕部に依頼に来たのだ。

依頼者は戸部だ。依頼内容は修学旅行中に戸部翔が海老名姫菜に告白して付き合えるようにしてほしいという内容だった。

由比ヶ浜の猛烈プッシュでこの依頼を受ける事になったのだが、俺は現実的に不可能だと思っている。

 

「ええ?振られる前提!?」

 

「そうね」

 

「ゆきのんも何気に酷くない?」

 

「それが世間一般的な見方だ。由比ヶ浜。戸部の良いところをいくつか上げてみてくれ」

 

「うー、誰にでも話しかけて、結構面倒見がいいところとか……声が大きいとか」

由比ヶ浜は考えながら答える。

声が大きいとか、良いところか?マイナスだろ。

 

「次は雪ノ下だ」

 

「わたしは彼の事あまり知らないわ」

 

「どういう印象を持ったかだけでいい」

 

「会った印象だけでいいなら……なれなれしくてうっとおしい。何を言っているかわからない。ちゃんと日本語を話してほしいわ。あと、やかましい」

雪ノ下は思い出すしぐさをしながら、ゆっくり答えていく。

 

「……由比ヶ浜、もはや絶望的だ。よってこの依頼は終了だ」

ほらみろ、雪ノ下が正しい。

しかし、さすがは毒舌の女王。面とこれ言われちゃうと泣いちゃうまである。

 

「ゆきのんが厳しすぎるだけだし!」

 

「依頼を受けたのだし……そうならないように、出来るだけサポートしましょ」

雪ノ下は由比ヶ浜をなだめるが如くそう言った。

 

「ゆきのん!……ゆきのんありがとう!!」

由比ヶ浜は雪ノ下に抱き着く勢いで、肩を寄せる。

 

「ゆ、由比ヶ浜さんあまりくっつかないで」

 

「てへへへへ」

 

なんだかんだと、この二人は仲がいい。

まあ、絶望的だが、依頼を受けたことだし、やれることはやるか。

 

 

 

 

 

 

京都の修学旅行の前日

俺は三日ぶりに美神令子除霊事務所に訪れる。

 

「はい、これ」

事務所の所長席に座る美神さんから、免許証の様なものを渡される。

GS資格免許だ。

 

「これで比企谷くんも正式にゴーストスイーパーよ。まあ、一年間は見習い扱いだけどね。見習いとはいえやれることは全く一緒よ。心してかかりなさい」

 

「はい……っ」

おお、GS資格免許を遂にこの手に、これで見習いとはいえ、正式にGSを名乗れる。

ゴースト・スイーパー比企谷八幡参上!!悪事を働く妖怪変化め!覚悟しろ!月に替わってお仕置きよ!!

テンションが上がりすぎて、決めポーズと決め台詞をつい妄想してしまった。

 

「比企谷くん。おめでとうございます」

美神さんの隣でキヌさんがニコニコ笑顔で祝福してくれた。

キヌさんに言われると俄然やる気が出てくる。

 

「ありがとうございます」

 

GS資格免許をまじまじと見つめる。

右上にはでかでか黒字でCと書かれている。

 

「君は、二次試験で準優勝してるから、最初っからCランクよ。ちゃんと仕事して依頼をこなさないと、直ぐにDランクに落ちるわよ」

それを察した美神さんが説明をしてくれる。

 

いきなりCランクかよ。まじか

 

GS資格免許にはランク付がある。

これは結構重要な事なのだ。

ランクはそのGSの実力を示すもので、そのランクにあった依頼しか受けられない。法律でもそう制定されている。

実力不相応の依頼を受ければ、凄惨な結末が待っているからだ。

GSの仕事は常に死と危険の隣りあわせ。

それを回避するためにも、このランク付が制定されたのだ。

それもごく近年にだ。

いままでは、分不相応の依頼を受け、GSの死亡事故というものが結構多かったが、このランク付けシステムが制定されてからは、死亡事故は5分の1以下まで軽減されたのだ。

因みにこのシステムを作ったのは。美神さんのかーちゃん。美智恵さんだ。

あの人どんだけ有能なんだよ。しかもめちゃ強いし。

 

 

S~Fランクまで、ランク分けされる。GS資格試験に合格するとEランクから始まる。

優勝者と準優勝者はその実力を自動的に認められ、それぞれBランクとCランクからのスタートだ。

だからって、油断すると直ぐにランクを落とされる。

ここ2回ほどの優勝者と準優勝者はその半期にはランクを落とされたそうだ。

そのことが原因で、この優勝者と準優勝者のランク特典は廃止の意見も出ている。

 

このランク付け、年2回査定がある。

GS資格免許を取得してるものは、個人または会社から、受けた依頼とその報告書、それ以外に霊や妖怪と接触し対応時の報告書を日本GS協会に提出しなければならない。

日本GS協会は母体である環境省の担当官僚とオカルトGメン日本支部所長、国際オカルトGメンの上層部メンバーが査定し、ランクの上下を決めるらしい。

まあ、オカルトGメンの上層部メンバーとはもろ、美神美智恵さんなんだが……あの人、まじでどんだけこの業界に影響力持ってるんだよ。

 

そんなわけで、このランク付は今や全世界で通用するのだ。

だから、海外から、特殊な依頼を受けることもある。

 

全世界を見ても、Sランク、AランクのGSは希少な存在だ。

在籍人数は日本がトップなのだそうだ。

 

 

美神さんは最上ランクのSランクだから、美神令子除霊事務所はすべての依頼を受けることができる。

 

まあ、Sランクの仕事なんてめったに来ない。俺が美神令子除霊事務所でアルバイトで入ってから は1回だけあったそうだけど、俺は危険だという理由で、その依頼には参加していない。

美神さんがそう言うぐらいなんだから、相当やばい案件だったのだろう。

 

 

「ところで、横島師匠は?どこに?」

 

「ああ、あいつはちょっと別件で出張よ」

 

「そうなんですか」

横島師匠にGS資格免許を見てもらいたかったのだが……

横島師匠がこんな感じで、出張するのは、過去に何回かあった。

いずれも理由は教えて貰えなかった。

横島師匠ではないと、まずい案件でもあるのだろうか?

それともセクハラで訴えられて、それの対応だろうか?

 

「それと、俺は明日から3日間、修学旅行で京都なんです」

 

「そういえば、そんなことを言っていたわね。君、行かない方がいいわよ。ぜったいなんかとんでもない目に合うから」

美神さんは再度俺に忠告する。

 

「行きたくはないんですが、流石に学校の行事なんで理由も無しにさぼる訳には……」

 

「比企谷くん、これお守りです。私の実家のお守りなんです。何も起こらないようにとおまじないしておきました」

うう、なんて優しいんだキヌさん。家の家族や奉仕部の連中にも分けてあげたい。

しかも、このお守り、霊気を感じる。……なんだこれ?初めての雰囲気だな。

きっとキヌさんが何らかの術式のおまじないを込めてくれたに違いない。

俺はキヌさんからお守りを3つ貰った。

 

「GS資格免許を持っていきなさい。神通棍といくつかの札は貸してあげるわ。自分の身は自分で守るのよ。……せいぜい、気をつけなさい」

美神さん。何だかんだと言って心配してくれてるようだ。

まあ、札とかを飽く迄も貸すだけであって、くれるわけではないのは、美神さんらしいが……

 

 

京都でなんか巻き込まれるのは確定なのか?

とんでもない目ってなんだ?

俺の占いだと、最悪死とかでてたが……

 

やっぱ、修学旅行休もうかな……

 

 

 

 

俺は家に帰って自室で、貰ったばかりのGS資格免許を片手に…………

 

「ちょっとイタズラが過ぎたようだな!!この外道妖怪!このゴーストスイーパー八幡様が成敗してくれる!!」

 

俺はそう言って、材木座的な恥ずかしいポージングを取って、1人悦に入っていたのだが……………

 

ガチャリ

 

「………お兄ちゃんどったの?頭でも打った?……病院行く?」

小町にバッチリ見られてました。

 

 

俺はその夜、あまりの恥ずかしさに、1人ベッドの上で悶絶してたのは、仕方がないことだろう。




次は京都修学旅行編です。


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【二章】京都修学旅行編 ⑪修学旅行は京都

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

京都修学旅行編開始です。



修学旅行当日

千葉駅から東京駅は在来線で、東京駅からは新幹線で京都まで。

新幹線の座席は同じ班同士で座る。

俺と戸塚は葉山たちのグループの同じ班だ。三浦達のグループと隣合わせになり、彼奴等は3人座席を対面にし座っている。

そんな奴らを余所に俺と戸塚は2人席で大人しく座っていた。

これはラッキーというものではないだろうか、なんか京都に行くと俺に不幸が訪れるとか占いにでていたが、それは間違いだったのではなかろうか?今はその逆だ……いや、まてよ。まだ京都についていない。静岡あたりだ。ということは今は不幸の範疇外……今のうちに幸福を味わえということではないだろうか………

戸塚はいつの間にか寝息をかいていた。

寝顔はとても男に見えん。天使だ。なんで神は戸塚を男に生まれさせたのだろうか?これは俺へのあてつけなのだろうか?いや、戸塚が女だったならば、これだけ親しくなれなかっただろう。

だから、これは神の祝福なのだ。

俺は戸塚の寝顔を見ながらそんな訳がわからない事を考察していたのだが………

 

「ヒッキー!富士山!!富士山が見えるよ!ほら!」

急に戸塚との2人席の通路側に座っている俺に由比ヶ浜がのしかかる勢いで、窓の外を覗き見る。

………ちょ、身体あたってるから、あっちこっちあたってますよ由比ヶ浜さん。なんでそんなに無防備にスキンシップしてくるんだこいつは、勘違いしてしまうからやめてくれ!

 

「……富士山だな」

由比ヶ浜の2つの富士山も俺の肩にあたってるって、挟むのやめて!

 

「ヒッキー、外、外見てよ!何処見てるし!」

一応富士山だが………いかん。自制心だ。自制心を保て………

……横島師匠だったら、こんなときにどうするのだろうか?

きっとこうだろう。

(いかん。顔に出したらいかんのだ。気持ちいい。とてつもなく気持ちいいが今は顔に…………ああっ!!しまったーーー声に出てた!!ガフン!!)

きっとこんな感じだな。

ふぅ、なんか落ち着いた。

 

「由比ヶ浜、重たいぞ。富士山見たかったら席代わってやろうか?」

 

「お…重たくないし!ヒッキーのエッチ!!」

なに言ってんのこいつは、もはや当たり屋の理論だな。

自分からスキンシップしといて、被害者ヅラするとは………

 

「俺はトイレに行ってくるから、そこに座っておけ、この席からだと富士山はしばらく見れるぞ」

 

「うーー、ヒッキーと見たかったのに!」

 

俺はそんな由比ヶ浜を余所に、客車からでてトイレに向かうと、不意にスマホがなる。

新幹線でも繋がるんだな………

?誰だ。知らない電話番号だ。

 

「比企谷ですが………」

取り敢えず出てみる。

 

『やっほー、比企谷くん?わたし』

 

最悪だ………この声は

 

「………なんで、俺の電話番号知ってるんですかね。雪ノ下さん」

 

『ん?妹ちゃんに教えてもらったの』

小町ちゃん?何度も言ってるでしょ。知らない人に電話番号を教えてはいけません。

というか、いつの間に小町と知り合いになってるんだこの人は?

怖いんだけど……

 

「……で、何のようですか?俺は修学旅行中なんですが?」

 

『知ってるよ。雪乃ちゃんのスケジュール表。確認したし』

……なにこのシスコン。もしや、雪ノ下の手帳とかを勝手に見てるんじゃないだろうな?

そんなことがバレたら嫌われるぞ。

 

「……忙しいんで要件を手短に願います」

今直ぐ電話を切りたいが、絶対後で面倒くさいことになるに決まっている。

 

『明日デートしよ!』

 

「………何を言ってるんですか?俺は京都で修学旅行中なんですが?」

 

「知ってるよ。明日自由時間なんでしょ?」

隣車両の自動扉が開くと同時に生の声が響く。

 

「!?」

 

「こういうことだから、大丈夫よね」

眼の前にスマホを耳に、俺に意味ありげな笑顔を向ける陽乃さんがいた。

 

「………さ……最悪だ。なんでここに居るんですか雪ノ下さん」

 

「比企谷くんとデートするためよ」

陽乃さんは当然だと言わんばかりに言う。

 

「………冗談はよしてください」

くそ、相変わらず何考えているのかわからん。

 

「冗談じゃないんだけどな」

 

「で、なんの目的でここに居るんですか?わざわざ俺をからかいにって事では無いでしょうに」

 

「そんな事言う比企谷くんはつまんなーい」

 

「………………」

俺は無言で陽乃さんを見据える。

 

「わかったわよ。土御門本家に戻るところよ。本家は京都嵯峨野だからね」

 

「………わざわざ同じ新幹線に乗ったのは?」

 

「面白そうだから」

 

「………勘弁してください」

はぁ、土御門本家に戻ることはおそらく事実だろう。この時間の新幹線にわざわざ乗ったのは、俺か雪ノ下をからかうためか。マジでタチが悪い。

 

「ボッチだなんだって言ってたあの比企谷くんが実は霊能者ってだけでも驚きなのに、この私を追い詰める程の実力者なんて面白いじゃない。そんな君が学校クラスメイトの前ではどんな顔をしてるのかなって、気にならない方がおかしいじゃない?」

 

「ああっ、ちょ、ここでその話は………」

誰かに聞かれたらどうするんだよ。俺はクラスや部活の連中には秘密にしてるの知ってるだろ?

 

「明日デートしてくれるよね?」

陽乃さんは満面の笑みで言った。

これは明らかに脅しだ。

クラスの連中が居るここで、GSだとバラされたくなくば、明日付き合えということなのだ。

デートというのはオブラートに包んだ言い方だが……実際は俺に対しての尋問だろう。

この人は興味がある人間に対しては執拗にかまってくるのだ。

 

「………短時間だけなら」

くそ、完全にこの人のペースかよ。

尋問にしては手が込んでいる。

最初から俺を何らかの理由で誘い出すつもりで、こんな手を使ってきた可能性が高い。

それが何なのかはまるでわからないが、もっとも効果的に脅しが効く場所とタイミングをはかり、俺が従わざるを得ない状況を作ったのだ。

そのよく回る頭を別の事に使ってくれよ。もっとなんだ、世界平和的なやつに……………

 

「大丈夫、大丈夫。明日の13:00にここに来てね」

陽乃さんは、俺のスマホに住所が書かれたショートメールを送ってくる。

 

「………………」

俺は無言の了承をする。

 

「じゃあね~。雪乃ちゃんによろしく!」

笑顔のまま、元の車両に戻る陽乃さん。

 

………最悪だ。もしかして、占いの、死ぬほど大変な目に遭うって、このことじゃなかろうか?

まだ、京都にも着いてないんだが………先が思いやられる。

 

「ヒッキー……今の人……ゆきのんのお姉さんの陽乃さん?」

由比ヶ浜が陽乃さんと入れ違いで、俺の元に来る。

 

「ああ、なんか京都に用事があるんだと」

 

「ヒッキー、陽乃さんと何話してたの?」

俺は内心ホッとする。さっきの会話聞かれたわけではないようだ。

 

「いつもの、面白半分のからかいだ」

 

「……ならいいけど」

 

「で、由比ヶ浜もトイレか?」

 

「違うから!ヒッキーが遅いから、もう富士山が見えなくなったし!」

由比ヶ浜はぷりぷりした表情で俺にうったえる。

 

「はぁ、そんなので呼びに来たのかよ」

 

「だって!」

 

「帰りも見れるだろ」

 

「ヒッキー!絶対だからね!」

由比ヶ浜は恨めしそうに俺に言う。

なんなんだ?全く。

 

「はいはい、わーったよ」

 

 

 

 

 

総武高校2年生一行の本日のプランは夕方まで学年全体の団体行動だ。

京都駅に到着し、そこから先ずは在来線で宇治の平等院に見学に行った。

俺は戸塚や葉山、三浦グループと行動を共にしているが……ついボッチの習性で自分一人の世界に入ってしまった。

 

俺は平等院鳳凰堂の佇まいに当時の人間の美意識に感銘を受ける。

 

……何処かで、騒ぎが起きる。痴漢がでたとかなんとか……誰だ。美を楽しんでいる最中にそんな無粋な事を行うやからは!

 

その次に、貸し切りバスで清水の舞台で有名な清水寺へと向かう。

 

清水の舞台から見る京都の景色と町並みに、歴史を感じ、そのロマンに浸る。

 

……何故か、ここでも騒ぎが起こる。のぞきがでたとかなんとか……誰だ。人が当時の過去のありし風景に思いを馳せている最中に、そんな低俗な犯罪を行うものは!

 

その後、智積院、三十三間堂、京都国際博物館、豊国神社へと………

俺はそれらを堪能しながら、戸塚に少々講釈をたれてしまったが、戸塚は笑顔で「八幡は物知りだね」と褒められる。……なんだこれ、俺と戸塚付き合ってるの?いやいや、戸塚は天使だが男だ。

いやいや、一層戸塚を女にすれば問題ないはずだ。霊能で男女変換出来ないものだろうか?

 

その間、由比ヶ浜は頑張って、戸部と海老名さんを二人っきりにさせようと四苦八苦するが、全て空回りに終わる。

 

「由比ヶ浜、戸部と海老名さんが気になるのはいいが、お前自身が修学旅行を楽しまないでどうする」

 

「え?ヒッキー?あたしのこと気にかけてくれてるの?」

 

「折角の京都なのにだ。勿体無いだろう」

 

「ヒッキー、……ありがとう」

 

 

そして、京阪三条駅まで貸切バスで向かい。

一時間程の自由時間だ。四条河原町周辺で貸切バスが待っている手はずだ。

そこからホテルに向かい夕食となる。

 

戸塚はテニス部の連中と約束していたらしく、俺は1人、三条寺町にある本能寺へと向かうため、三条大橋を渡るのだが……何故か由比ヶ浜が俺についてくる。

 

「由比ヶ浜、三浦達と一緒でなくていいのか?」

 

「うん。さっきまでずっと一緒だったし、ヒッキーと回って見たいし、さっきヒッキー言ったじゃん。折角の修学旅行だから楽しまないとね」

そう言って由比ヶ浜は屈託のない笑顔を俺に向ける。

なんだ?由比ヶ浜ってこんな感じだったか?いかん。勘違いしてはいかんのだ。由比ヶ浜は誰にでも優しい。俺一人に向けられている笑顔ではないのだ。

 

「……まあ、好きにしろ」

 

「うん、好きにする」

 

 

三条大橋を渡り、三条通り商店街に入ると………

 

「そこの京美人のお姉さ~ん!!ボク、横島!!あっちのおしゃれな喫茶店でお茶でも飲まない!?」

「あ!?そこの着物姿が似合う彼女~!!ボク、横島!!川沿いのそこの喫茶店でボクとデートしない!?」

超聞き覚えがある声が、前方で聞こえるのだが…………

 

「ヒッキー、なんか変な人がいる。ナンパ?なのかな」

由比ヶ浜は俺の袖を引っ張って、恐恐聞いてくる。

うん、変な人だ。超変な人だ。でも………その変な人は俺の師匠であって、俺はその弟子なんだ。

てか、なんで居るんだよ!こんなところに!出張じゃなかったのかよ!横島師匠!!

こ…ここは、他人の振りだ。超他人のふりだ。俺は横島忠夫なんていう変態は知らない。ナンパ成功率0パーセントのゼロの横島なんていう人物は知り合いでも何でも無いのだ。

 

ちなみに俺は横島師匠がナンパを成功させたところを見たことがない。

差し詰め、横島師匠のナンパは針の無い糸で釣りをしているようなものだ。

そんなもの、だれも引っかかるはずもない。

 

「さ、さあな、関わると厄介だ。本能寺はこっちからでも行ける」

俺はそう言い聞かせながら、脇道にそれようとするが………

 

「そこの黒髪ロングの超かわいい女子高生!!ボク、横島!!そこの喫茶店でお茶でもしよう!?」

声をかけたのは黒髪ロングの美少女女子高生ではあるが、氷の女王様だ。

おいーー!!師匠!!誰に声かけてるんだ!!それは駄目だ!!

 

「ヒッキー、あれゆきのんだよ。助けてあげないと」

そう、横島師匠が声をかけたのは、1人で三条商店街を歩く雪ノ下雪乃だ。

って、助けろって言うが、知り合いだとバレてしまう。これ以上無い身内だと!

 

そこに後ろから天の声がかかる。

「どうした比企谷?由比ヶ浜もいっしょか」

 

「先生!ゆきのんが………」

生活指導の平塚静教諭だ。

見た目かっこいい美人だが中身はほぼ親父。熱血アニメ大好きの体育会系で、結婚願望が高すぎて空回りする三十路の残念美人だ。

それならば!

 

「平塚先生……雪ノ下があのなナンパ男に付きまとわれてるようなんで、助けに行ってください」

まあ、正直雪ノ下なら、しつこくされても無視して通り過ぎるだろう。横島師匠もあまりしつこくするタイプではない。だから、ほおっておいても、大丈夫なのだが……

 

平塚先生は、その後がない感を醸し出し、結婚願望丸出しで、しかもあの親父のような中身のため、男が寄り付かない。

というか、男が針に美味しい餌を垂らして待っていたとしても、それを針ごと噛み切ってしまうのだ。

 

「なに?うちの生徒がナンパにさらされているだと、うらやま……全くけしからん」

平塚先生は横島師匠にナンパをされる雪ノ下の方につかつかと早足で近づいていく。

 

すると…………

「あっ、そこの大人の雰囲気を醸し出しているハクい美人のお姉さん!!ボク、横島!!そこの喫茶店で大人のお話をしませんか!?」

そう、横島師匠は雪ノ下をナンパ失敗とし、近づいてきた平塚先生にターゲットを移したのだ!

 

「え?わたし?」

平塚先生は急に自分がナンパされたものだから驚いたようだ。

 

「そう!大人の格好いいお姉さん!!」

 

「そ、そんな……こ、困ります」

なんか針のない釣り糸にこの人、引っかかったんですが………

平塚先生、顔を赤くしてもじもじし出したぞ。もしかして、打つ方は慣れているが、打たれ弱いとか…………

 

俺は由比ヶ浜と一緒に雪ノ下の元に駆け寄る。

「ゆきのん」

「おい、行くぞ」

 

「ふたり…なのかしら?」

俺と由比ヶ浜をまじまじと見る雪ノ下

 

「いいから、行くぞ」

俺は横島師匠と平塚先生の2人が会話する姿を尻目に、雪ノ下を促し足早にこの場を去る。

 

…………もし、このナンパがうまく行って、平塚先生と横島師匠がくっついたら、俺は平塚先生をなんて呼べば………師匠の奥さんだから……あねさん?ねえさん?

 

それよりも、なんでここにいるんだ師匠は?

……後で電話してみるか………

 

 

俺たち3人は逃げるようにし本能寺の前まで来る。

 

「ゆきのん…大丈夫だった?」

 

「え?ええ、あの品性のないナンパの事?」

 

「うん」

 

「ナンパなんていつもの事よ。わたし、かわいいから。でも、あんなにひどいナンパは始めてよ。なんなのかしら、知性も品性のかけらもない原始人以下よ、あんなのに引っかかる人なんているのかしら」

なに自分でかわいいとか言ってるんだこいつは……確かに見た目は美人だが自信過剰すぎませんかね。

それと俺がディスられているわけではないがへこんでくる。品性も知性も無い人。それ俺の尊敬する師匠だから………しかも、平塚先生が引っかかりそうになってたぞ。

 

「そ、そだな」

 

「……2人は………私、お邪魔かしら」

雪ノ下は俺と由比ヶ浜を見て、俯き加減でそんな事を言ってくる。

 

「え?全然そんな事無いよゆきのん!今日ちゃんと観光してなかったから、どっか見に行こうとするヒッキーの後についてきただけだから」

 

「ああ、今から本能寺にな……で、雪ノ下は」

 

「そうだったの……私も本能寺よ。班の人たちはお土産を買いに行くらしいから、別行動で………」

雪ノ下はなぜかホッとしたような表情をしていた。

 

「じゃ、いっしょだね。ゆきのん!」

由比ヶ浜はじゃれ付くように雪ノ下の腕をとる。

 

3人で本能寺の観光をすることになった。

中の博物館では三本足の蛙などが展示されている。

雪ノ下は由比ヶ浜に説明しながら展示物を見て回る。俺はその後ろを歩くスタイルだが……2人は楽しそうだ。

 

「ヒッキー、写真!」

 

「おう、カメラ貸してくれ」

 

「ヒッキーも!3人で撮るの!」

 

「俺はいい。誰が撮るんだよ」

 

由比ヶ浜は近くに居たカップルにカメラを渡し撮してもらえるよう頼む。

由比ヶ浜は無理やり俺と雪ノ下の腕をとり、由比ヶ浜が真ん中で本能寺をバックに並んで写真を撮ってもらう。

その後、俺が真ん中、雪ノ下が真ん中の写真も撮ってもらった。

由比ヶ浜は終始笑顔を絶やさない。

雪ノ下は少し困ったような顔をしていた。

 

 

この後、寺町通り歩き、和紙の店や、香や墨の店などを周り、バスまで戻る。

 

 

 

しかし、流石は京都、古くから魑魅魍魎や神や鬼が数多く現れたとされる都。ところどころ霊圧を感じる場所があった。そんな連中が封印などが施されているのだろうか?

 

それにしても、まじ俺の師匠はなんでここにいるんだ?

まあ、美神さんが出張によこしたぐらいだから……仕事なんだろうが………

途中、おちゃらけた事をするが、なんだかんだと師匠は、最後にはきっちり仕事終わらすからな。

 

京都で仕事か……嫌な予感しかしないんだが………

 

 

 

 

 

 

 

 




京都修学旅行編始まりました。



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⑫修学旅行1日目の夜

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かります。

というわけで、今回はつなぎのお話です。


宿泊先のホテルでの夕食を終わらせ、班ごとの部屋に戻る。

一風呂浴びたい気分だが大浴場への入浴はクラスごとに決まっている。

一般の客も宿泊しているため、学生で大浴場を占拠しないためだ。

 

入浴時間まで、班の連中はトランプを始める。俺はちょっと出ると言って断った。

今のうち横島師匠がなぜ京都にいるのかを電話で確認するために………

 

『よぉ!八幡』

 

「師匠、夜分にすみません。って、周り騒がしくないっすか?」

 

『うはははははっ、ナンパ中!!』

 

「まったく、美神さんに言いつけますよ………今日、夕方前、三条でナンパした黒髪の格好いい美人はどうしたんですか?」

 

『そ…それをどうして知ってる!』

 

「で、どうしたんですか」

 

『この横島!千載一遇のチャンス。もう二度とこのチャンスは巡って来ないかもしれんと思い、ちょっと地雷女ぽかったが、猛攻勢をかけた!しかし……時間が無いとかですぐに別れたが。電話番号を見事ゲットしたぞ!どうだ八幡!見直したか!』

めちゃ自慢げなんだけど横島師匠……電話番号手に入れたことがよっぽど嬉しかったのか……多分初めてなのではなかろうか?

……それにしても地雷女って。なんとなく意味はわかるな。平塚先生にぴったりなニュアンスだ。

 

「………その地雷女、俺の学校の部活の顧問なんで」

 

『なに!?八幡!どうなんだ!脈ありそうだと思うか!!』

 

「……やめておいたほうが良いですよ。多分ずっと付きまとわれる……ストーカーになるんじゃないっすかね」

 

『うーん………流石にそれは…………やはり地雷女だったか美人なのに』

なんだ。横島師匠が珍しく悩んでいるぞ。っていうか女に躊躇してるぞ。地雷女って……なんか過去に何かあったのか?

 

「そんなことより、なんで京都に居るんすか。しかも平等院で痴漢で、清水寺でのぞきまでして」

 

『ち、ちがうんやーーー!痴漢ものぞきもしてないのに!警備員や、お姉ちゃんにおいかけまわされるわでーーー!!』

やっぱり横島師匠だったか……かまかけて見たが、見事本人だったな。

 

「それはもう良いです。いつもの事だから……で、なんで京都に居るんすか?」

 

『そ………それは、仕事の依頼でそのだな。ちょっとした調査だ』

横島師匠は何か言いづらそうにしている。

 

「本当にそれだけですか?……何か怪しげな事をしてるんじゃないんですか?美神さんに怒られるような」

 

「はははははっ!そんなことは無い!ああっ!!仕事が残ってた!またな八幡!!」

横島師匠はわざとらしくそう言って、電話を切る。

ナンパ中じゃないのかよ……めちゃくちゃ怪しいんだが………

 

 

 

結局、横島師匠が京都に居る理由がわからなかった。

取り敢えず、美神さんにも聞いてみるか……この時間帯だと、仕事中かな?

 

「美神さん。夜分にすみません」

 

『比企谷くんか、今仕事終わったところよ。なに?京都で修学旅行じゃないの?』

 

「そうなんですが、その……昼間に京都三条あたりで横島師匠を見かけまして、横島師匠に電話で理由を聞いたんですが、はぐらかされてしまって」

 

『はぁ?あいつなんで京都に?あいつの出張先は新潟の三条よ』

 

「……まさか、三条違いで」

 

『それはないわ。少なくとも三条以外の新潟の幾つかの土地に調査を行っているはずだから…………嫌な予感がするわね』

 

「何の調査なんですか?」

 

『……君ももうGS免許を取得したれっきとしたプロだわ。いいわ。GS協会通じて依頼を受けた案件……鬼の封印の調査よ』

 

「鬼………ですか」

俺は知っている。鬼とはそんじょそこらの妖怪とは格が違う。下っ端でもBランク以上の強力な妖魔だ。

更に鬼と言っても幾つかある。地獄の番人、神の使いや神そのものになった鬼もいる。鬼と言うだけで邪悪な存在ではない。逆に邪悪な鬼はごく一握りだ。殆どがこの世界の秩序を司る何らかの役目を負っている存在だ。

鬼の封印ということは、現世で暴れた鬼が、封印されたのだろう。

その場合、多くが元神、または神の使いが鬼となり、現世に落ちたパターンだ。

西洋の堕天使や魔族と同じ格なのだ。

 

『あのバカ、報告は密にしろと言ったのに、いいわ。私からもあのバカに連絡をしとくわ。新潟から京都にわざわざ横島くんが向かったということは、その鬼の封印の何かに関わっているからだと思うわ。まあ、すぐどうこうするような事案じゃないけど、君も十分気を付けなさい』

そう言って美神さんは電話を切る。

 

美神さんがこう言うということは、横島師匠は本当に仕事で京都に来ていたんだ。

なんだかんだと、美神さんは横島師匠への信頼は厚い。……まあ、仕事の時だけだが。

ナンパしに来たんじゃなかったんだな……横島師匠。

 

「鬼か……」

俺は鬼を知ってる。但し、それは美神さんや横島師匠の知り合いの神の使いである鬼だ。

かなりの霊圧があったことを覚えている。

今の俺でも下っ端の鬼でも倒せるかどうか……

ましてや、封印されてるレベルの鬼は少なくともAランク、下手をするとSランク以上の可能性もある。

 

横島師匠が鬼の封印の調査のために、新潟からわざわざ京都に……さっき俺に話をはぐらかしたのは、修学旅行中の俺に無用な心配をさせないようにとの配慮だろう。師匠はああいう所は結構不器用なのだ。

 

 

俺はホテルのロビーの土産売り場の前の椅子に座る。この時間帯は周りに誰もいないようだ。

 

京都に鬼……京都には鬼の伝承が多数ある。それも伝説級の鬼となると、もはやSランク以上だ。

そんなものの封印が解かれたらどうなる。

横島師匠でもどうにもならないかもしれん。

SランククラスはAランクGSが数人でやっと倒せるレベルだ。

美神さんや美神さんの母親の美智恵さんクラスでないと、一対一じゃ対抗すら出来ない。

それほど危険な相手だ。

俺なんかがどうにかできるレベルではない。

いや……美神さんはそんなことが起きないとは言っていた。

たぶん。大丈夫だろうが………

そもそも横島師匠を鬼の調査に新潟にやったということは、大きな問題が起きる可能性が少ないため、派遣したのだろう。

しかし、なぜ、その横島師匠が京都に?

 

俺はマッカンに匹敵するほど甘いとされる京都限定の缶コーヒーを飲みながら、思考にふける。

流石は京都、マッカンに匹敵する甘さだ。

 

すると、俺の目の前に雪ノ下が現れる。

一瞬俺を見て、何もなかったように通り過ぎ、土産物コーナーで物色し始める。

 

「……ふう」

俺は雪ノ下の様子を見ていたが……京都限定のパンダのパンさんキーホルダーを顔を若干緩め眺めていた。

 

俺の視線に気がついたのか、緩めた顔を見られたのが恥ずかしかったのかはわからないが、俺の元につかつかと歩き毒舌を吐く。

「あら、比企谷くん。気が付かなかったわ。部屋から追い出されたのかしら?」

 

「ちげーよ」

雪ノ下は今気がついたかのような素振りだ。……さっき俺とモロに目があったよな?なんなの?

 

「そう、……その依頼の方はどうかしら、あなた達に任せっきりになって申し訳ないのだけど」

雪ノ下は俺が座ってるベンチに、人1人分空けて横に座る。

 

「戸部の依頼か……、雪ノ下はクラスが違うから仕方がない。由比ヶ浜が頑張ってたが、空回りしているぞ」

 

「その言い方だとあなたは何もやっていないように聞こえるのだけど」

 

「何もやってないな。そもそも、戸部自身が空回りしている上に、海老名さんは故意に避けているように見える」

 

「堂々とよく言えるわね。………でも、海老名さんが避けてる様に見えるとはどういうことかしら」

雪ノ下は呆れたように言ってきた。

 

「観察だけはしていたからな。あまりにも相手の情報が少ないからまずは情報からと思ってな。由比ヶ浜の話からしても、海老名姫菜は、男を避けてるように聞こえた」

 

「………そう、私にはわからなかったわ」

 

「この依頼は、諦めたほうがいい……相手にその気が最初からない上に、戸部の告白を望んでいない奴が身近に居る」

 

「そこまで……あなたは………」

 

「更に言うと……まあ、由比ヶ浜がやるって言い出したんだが……戸部が告白した場合の、その結果がどうなるかを由比ヶ浜は想像出来ていない」

俺は少し躊躇したが、雪ノ下にこの事を告げた。

依頼を受ける前にだ。その依頼を遂行した場合。どの様な結果が待っているかを由比ヶ浜はまったく考えていない。

俺が予想するに、戸部は振られるだろう。その結果、葉山と三浦のグループに微妙な空気が流れる。最悪海老名姫菜はそのグループから距離を置くだろうと………

 

俺はこの一年半、美神令子除霊事務所で散々その事を学んだ。

除霊の依頼も一緒なのだ。その除霊を行った結果どういう事が起こるのか、最悪二次被害、三次被害へと拡大するかもしれないのだ。そのことも検討しながら、除霊を行っていくのだ。状況によっては調査だけでもかなりの時間を取って行うこともある。

 

「結果の想像……由比ヶ浜さんにその事を指摘してあげなかったのかしら?」

 

「あの時、俺が口を出しても納得いかなかっただろう。雪ノ下もこの依頼に否定的だっただろ?」

 

「私は……そこまでは」

 

 

そんな時、ちょうど目の前にめちゃくちゃ上機嫌な、平塚先生が前を通る。

「おお、比企谷と雪ノ下か!!ちょうどいい、今から京都の有名店のラーメンをこっそり食べに行くところだ。君たちも来たまえ!!」

 

そう言って、平塚先生は俺と雪ノ下を強引に外で待たせているタクシーに載せ、白川通りまで走らせる。

 

「比企谷!!聞け!!私も中々のものだぞ!!ちょっとナンパされてしまってな!!しかも電話番号交換までしてな!!相手は私に夢中なのだ!!さっき電話したら本人にも繋がったしな…………今までは電話番号交換した男の番号はホストクラブや警察や消防署につながったからな!!はははははははっ!!」

 

………横島師匠……やばくないっすか?絶対この人のターゲットになってますよ。付きまとわれて、本当にストーカーしかねない勢いっすよこの残念美人教師。

 

俺と雪ノ下は散々その事を聞かされながら、濃厚スープのラーメンを食べたのだった。

食べ終わった後の雪ノ下の表情は疲れ切っていたことは言うまでもない。

 

 

 




というわけで、次回は2日目、陽乃タイム><


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⑬雪ノ下陽乃はかなりおかしい

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

タイトル名を変更しました。
ご意見を頂きありがとうございました。
GSが一番おおかったのですが、それをカタカナにしてみました。

よろしくお願いします。


修学旅行二日目は、ホテル近隣にある二条城の見学から始まる。

そして、バス移動で伏見稲荷神社だ。

 

ここはかなり場の霊気が濃い。

流石霊験あらたかな場所だ。

 

俺も少し油断すると、場に漂う霊気に酔いそうだ。

 

クラスの後ろの方で歩いていたのだが、海老名姫菜が俺を待ち構えていた。

「ヒキタニ(比企谷)くん、私の依頼聞いてくれる?」

 

「……奉仕部の部長は俺じゃない。あのつららのようにツンツンした部長に言ってくれ」

 

「じゃあ、ヒキタニくんにお願い!」

そう言って、海老名は俺にあれこれ訳がわからない説明をしだす。

男同士仲良くだとか、くんずほずれつやら、美味しいところやら言っていたが、要するに戸部の告白を止めてほしいらしい。

戸部……めちゃバレてるな、あいつが内通者だろうが……

 

「……このままというわけにはいかないだろう。今回はそのいいきっかけだとは思わないのか?」

 

「ヒキタニくんってドライだね。私ね。まだもうちょっとこのままがいいのせめて2年までは」

今の葉山・三浦グループ関係を崩したくないがために、戸部の告白を阻止してくれということだ。

だが、それならば戸部の思いはどうする。それはそれで大切なことではないのか、まあ、他人の俺が言うことではないが。

それにしても、人の名前わざと間違えるの止めてくれませんかね。俺はヒキタニではなくヒキガヤなんだが……それ流行ってるの?

 

「……はぁ、あまり変わらないような気がする……気に留めておく」

 

「うん」

そう言って海老名は走り出して行った。

 

 

「あれ、姫菜とヒッキー何話してたの?」

入れ替わる様に由比ヶ浜がこっちに来た。

 

「ああ、まあ、なんだ。なんかよくわからん相談事だ」

俺は由比ヶ浜に言うべきか迷う。

いや、ここは由比ヶ浜が自分で気がつくべき事だ。

もし、それがきっかけで、あのグループが微妙な空気感が流れたとしてもそれはある意味仕方がなかったことだ。

戸部についた由比ヶ浜は三浦達と仲違いするかもしれん。どうすべきか悩む。

できれば戸部が告白を今回見送ってくれればいいが………

 

「由比ヶ浜、もう一度よく、考えてくれ、戸部の告白についてだ。戸部が海老名さんに告白した場合どうなるかを」

 

「うーん。くっついたら幸せ?」

 

「そうならなかったらどうする」

 

「うーん。うーーーーん?どうなるの?でもそうならないようにするのがあたし達の仕事じゃないの?」

 

「違うだろ、飽くまでもサポートだ」

ダメだな。由比ヶ浜の頭の中はお花畑になっているようだ。

 

「うーん」

 

「じゃあ、海老名さんの立場になって考えてみてくれ」

 

「うーん………わかんないよ。姫菜じゃないし」

 

「そうか……結論は急ぎすぎないほうが良い」

俺が答えを出すのは簡単だ。しかし、それでは由比ヶ浜の今後のためにならん。

横島師匠が俺に修行を付けてくれたように……美神さんが仕事のやり方を教えてくれたように……自分で考えさせて答えを出させなければ、力にならない。

 

「そうだ、ヒッキー午後からの自由時間。ゆきのんと一緒に回ろうよ」

 

「すまんな。俺はちょっと行きたいところがあってな……夕方には嵐山に行く予定だ」

 

「ええええ!あたし達も一緒に行くよ!」

 

「女子禁制の場所のお寺なんだ」

今は、そんな寺なんて無い。これで引っかかってくれよ。

 

「えええ!ヒッキーは意地悪だ!」

流石は由比ヶ浜、見事引っかかった。

 

「かならず、4時位には嵐山に行く。それからでも良いだろ?」

 

「絶対だよヒッキーせっかく奉仕部で楽しもうと思ったのに」

ふう、今から陽乃さんに会いに行くなんて言えない。しかも雪ノ下も一緒だとか、やばすぎるだろ。

しかもGSってバレちゃうしな。

 

 

俺はこの後、JR線で嵯峨嵐山に降りて……陽乃さんが指定した場所に向かうために山手の方に歩き始める。

おい………ほんとこの住所で合ってるんだろな、スマホのナビ様は人気や建物がない方を指してるぞ。

 

暫く歩くと、人気が全くなくなり山門らしきものが現れる。

 

「…………………」

これって、あの~、もしや土御門家本家?めちゃ帰りたくなったんだけど………

大きな木製看板に土御門総本家と書いてあった。

 

山門の左右に関係者らしきそれらしい服装の男性が立っている。

「その目ゾンビ……いや、ちがう…人か……ここは霊験あらたかな場所、一般の方が入っていい場所ではありません。お引取りを」

なんでゾンビに間違うかな、ゾンビってまじ俺と同じ目をしてるのかよ。ゾンビにあったことは無いが一度確認しないとな。

 

「あの……ここに来いって、えーと、雪ノ下…………いえ、土御門陽乃さんに」

 

「ひぃーーー、は、陽乃様に?し、失礼しました!」

なに?陽乃さんの名前出したら怯えてるんだけど……あの人、ここでもいびってるの?

慌てて、山門を通される。

高いな、山一つが敷地じゃないか……俺はしばらく山道を歩き屋敷の門まで出る。

門には式服を着た20代の男が数人並んで、恭しく俺に礼をしてくる。

 

「比企谷くん。やっほー!時間どおりだね」

式服姿の陽乃さんが屋敷の玄関で待っていた。

 

「……ここ、土御門の本家ですよね。俺みたいな他人が入って良いんですか?」

 

「良いの良いの。さあ、入って入って」

なんか、陽乃さん何時もと雰囲気が違うな。外面笑顔も出さないし、リラックスしてるようにも見える。

 

俺は靴を脱ぎ、陽乃さんの後に付いていく、やたら長い廊下を歩き奥の別棟に通された。ここは神社のお社のような作りだ。

 

「師匠!入りますね」

 

「お入りなさい」

中年ぐらいの女性の声がする。

師匠って、陽乃さんの?ということは………

 

陽乃さんがそう言って、一度正座をしてから、襖を開ける。

陽乃さんが座したまま、中に入り、俺を室内に通す。

 

「師匠、連れてきました」

板の間の30畳程の部屋奥には大きな神棚があり、その前に式服姿の女性が座っており、その左右、離れた場所に若い男が1人づつ座っていた。

 

その神棚の前に座っている女性を俺は知っている。

この前のGS資格試験の会場で特別審査委員として座っていた。

この人が西日本唯一のSランクGS。現土御門家当主、土御門風夏(フウカ)だ。超大物じゃねーか!!なんで俺なんかをこの人の前に連れてきたんだ陽乃さんは?

 

「始めまして、私は土御門家当主、土御門風夏。この陽乃の師匠を務めております。この前のGS試験の試合は本当に素晴らしかったですね」

温和そうな女性だ。とても戦う人間には見えない。御年60程だが、そう見えない。40代前半にも見える。

しかし、戦後、没落の一途をたどっていた土御門家を一代で立て直した女傑なのだ。

全盛期は攻の美神美智恵、防の土御門風夏と言われていたほどだ。その結界術は超一流らしい。

 

「美神令子除霊事務所所属、比企谷八幡です。お初にお目にかかります」

 

「あらあら、あの令子ちゃんのところの子にしては、行儀が良いのね」

 

「それで師匠、彼が私のお婿さんよ!」

陽乃さんは俺の横で笑顔を向ける。

 

「……………………おいーーーーーーぃ!!!!!!」

 

「なに?八幡。大声だしちゃって」

 

「聞いてない!!いつ、俺があんたの婿になったーーーーー!!」

 

「あらあら、本人はちがうと言ってるけど陽乃」

 

「あっ、本人に言ってなかったわ。師匠、八幡は将来、必ず私の婿になって、一緒に土御門をもり立てていきます」

 

「あらあら、頼もしいこと」

 

「ちょ!!かってに話を進めないでください!!」

 

「八幡、ってば恥ずかしがって」

何この陽乃さん。おかしくない?もしかしてこれが素の陽乃さん?何はっちゃけてるの?

 

「…………帰らせてもらいます」

このままだとこの人、いやこの人達のペースだ。もしや、これか?死ぬほどひどい目に会うというのは、ある意味いきなり人生の牢獄だぞ。

 

「待ってください。冗談はさておき、GS試験で見かけた時から、比企谷くんとこうして話をしてみたいと思っておりました」

 

「師匠、冗談じゃないですけど」

 

「陽乃、ちゃんと比企谷くんを落としてから言いなさい。落とすなら、最後まで納得行くまでとことん落としなさい」

………なにそれ、めちゃ怖いんですけど。この人も十分怖いんですけど。

 

「分かりましたわ師匠」

この師弟なに?親子より気の置けない関係なの?陽乃さんが無条件で慕っているんだけど…………流石、SランクGS?いや関係ないか………何このアットホーム感は……………

 

「陽乃!将来、土御門をもり立てるとはどういう事だ。分家の分際で」

当主の左に控えていた若い陰陽師が陽乃さんに声を低くしていう。

「あら、数馬兄上。霊能者は実力主義の世界ですよ。私はまだ見習いとはいえBランクGS。立場は同じBランクの兄上と一緒ですよ」

 

「この!!言わせておけば!!」

 

「数馬!お客人の前ですよ。陽乃もやめなさい」

 

「しかし、母上」

 

「母上ではありません。師匠と呼びなさい」

 

………なんだこれ?親子喧嘩?あの数馬とか言う人はこの当主の息子で、好き勝手やってる陽乃さんが気に食わないという構図か?

 

「もういい。こんなどこの馬の骨かゾンビかわからんやつを家に入れる事すら、間違っているのだ!」

数馬はそう言って俺を一瞥してから横の襖から出ていった。

 

「済まなかったな少年。弟が粗相を働いた」

右に控えていた20代後半の男性が俺に謝ってきた。

どうやら、この人も、当主の息子、さっきの数馬の兄らしい。

 

「いえ…………」

 

「ごめんなさいね。比企谷くん」

当主も俺に謝る。

まあ、名門大家だこんなこともあるのだろう。

跡目争いとかに巻き込まれたら一大事だ。

 

「比企谷くんごめんね」

陽乃さんも八幡呼びをやめ、俺に普通に謝ってきた。

 

「まあ、良いですよ。俺に用とはなんですか」

 

「さっきも言ったのだけど、せっかく京都にくるんだったら、ちょっとお話したいなと思ったの」

そう言って当主が手を叩くと、後ろの襖が空き、料理が運ばれてきた。

 

「はぁ」

まあ、ちょうど昼食べてないし……

 

「ちょっとした。おもてなし。昼食まだでしょ?」

………出てきた料理はちょっとしたものじゃない。めちゃ豪華な懐石料理なんですが…………

 

「比企谷くんあーん」

 

「しませんよ。そういうのはいいんで」

 

「比企谷くんつめたーい」

なにこの陽乃さん。なんかちょっとバカっぽい女子高校生みたいになってるんだけど、由比ヶ浜みたいになってるんだけど………これが素の陽乃さんか………これを見たら雪ノ下は卒倒するんじゃないだろうか?でも、こっちの方が自然体でまだいいか………

あの外面仮面は異様だからな………

 

「あらあら、おほほほほっ……」

めちゃアットホームなんだけど。あの数馬とか言う人以外。

 

「令子ちゃんはどう?」

当主は俺に話を振ってきた。

 

「厳しいですけど。俺に良くしてくれますよ」

 

「じゃあ、横島くんは?」

 

「俺の師匠は横島忠夫なんで、ここまで霊能者として育ててくれたのは横島師匠のお陰です」

 

「……あの横島くんがあなたを………………」

この人、横島師匠を知ってる。しかも変態レッテルではない横島師匠を。

 

「俺は1年半前の事故で意識不明になって、霊能が発現して、そして暴走しました。それを助けてくれたのが美神さんであり、横島師匠なんです」

 

「まさか……一年半前って、あの時の………それ家のせいじゃない」

陽乃さんは始めて知ったのだろう。驚き、申し訳無さそうにする。

やっぱり、自然な表情だなここでは………

 

「だから、雪ノ下には言わないでください。それと俺はそのおかげで、横島師匠や美神令子除霊事務所に入れたのだから、感謝してるぐらいですから」

 

「でも、暴走まで行ったってことは一つ間違えば………ごめんなさい比企谷くん」

陽乃さんは俺にまた謝る。

 

「…良き師匠に恵まれましたね。比企谷くん」

 

「はい」

これだけは、はっきり言える。




次は、結衣と雪乃と合流展開。


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⑭俺に任せろ

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

そして、俺ガイルの中最も波紋をよぶイベントへと向かう。


俺は土御門本家で、当主土御門風夏、その長男の土御門吉春、そして、土御門性を名乗る陽乃さんとこのだだっ広い社で、豪華な昼食を頂き、今はティータイムだ。

 

そこで、社が微妙に揺れる。

地震か………いや、これは……場の霊気が漏れている。しかもなんだこの仄暗い霊気は………

 

「あらあら、地震かしらね………その様子じゃ分かっちゃったかしら?」

当主はとぼけたような事を言いながら、俺の様子を見ていた。

 

「そうですね。ただの地震じゃないです。霊気が漏れてますね。何かが地下深くに蠢くような………」

 

「やはり、横島くんの弟子ね。そこまで分かっちゃうのね」

この人、やはり横島師匠の事を知っている。もしかして俺以上に……

 

「土御門は古くから京都の守護を任された陰陽師の家系………京都には幾つもの妖魔が封印されているわ。物によっては一定の期間ごとに再封印が必要なの。それこそ100年単位の周期でね」

 

「そうなんですか」

 

「その内の一つが、今、ちょうどその再封印が必要な時期なの。前々から準備を進めていたの、比企谷くんが心配することは何もないわ。私がまだ元気な内にこの周期が来たことは幸いだったわ」

なるほど、ここは綺羅びやかな都であったと同時に魔都とも呼ばれた場所だ。綺羅びやかな裏にはこの様な事が1000年以上前から日常的に行われてきたのだろう。

その役目を陰陽術と共に脈々と受け継がれてきたのが土御門家か……

 

「私が戻ったのも。そのためなのよ。大規模な再封印が体験できる機会なんて滅多にないしね」

陽乃さんはあっけらかんと言う。

 

……それだけか?いや……考えすぎか……

 

ここは土御門本家。そして目の前に居るのは間違いなくSランクGSの土御門風夏。滅多なことは起きないだろう。

 

「そろそろ、御暇します。修学旅行中なんで………」

意外と時間が過ぎるのが早い、由比ヶ浜と約束した時間が差し迫っていた。

 

「ごめんなさいね。わざわざ来てもらって」

当主は笑顔をずっと絶やさない。このアットホームな雰囲気はこの当主あってこそだ。

 

「いえ、俺も貴重な話を聞けたので、ありがとうございます」

 

「じゃあ、比企谷くん。下の山門まで送ってくね」

俺はこの場を辞し、社を後にし陽乃さんと共に山門を降りていく。

 

「比企谷くん……霊能が急に発現したということは……霊障は…」

 

「大丈夫です。霊気・霊力のコントロールを会得できましたんで」

 

「霊能の家系でもない比企谷くんがそこまでになるなんて、相当努力したのね」

 

「いや、師匠の教えが良かったからですよ」

たしかにそうだ。俺は霊能の発現で霊気が溢れ出す体質となった……しかし俺には霊力コントロールを行う才能とキャパがなかった。だから霊気はそのまま体外へ垂れ流しになる。

それを制御するための霊力コントロールなのだ。

横島師匠は俺に叩き込んでくれた、霊力コントロールのすべを…根気良く、日々繰り返し教えてくれた。

 

「家の師匠もどうやら横島忠夫を買ってたけど、そんなになの?噂では変態だとかセクハラ常習犯だとかしか聞かないけど」

セクハラ常習犯に変態は合ってます。しかしそれ以外が聞こえて来ないとは、不可解だ。霊能力は少なくとも俺や陽乃さんよりも圧倒的に上だ。

 

「まあ、普段はアレですが、俺の目から見ても、かなりの使い手ですよ」

 

「ふーん。………比企谷くん。雪ノ下からは必ずちゃんとした償いはさせるわ」

 

「いえ、別に良いです。入院費や病院の個室とかすべて持って貰ってましたんで、半分俺が車に突っ込んでいった様なもんだし、霊能に目覚めたのは、誰のせいでも無いですよ。たまたま運が悪かった………いや、こうして霊能者になれたのは運が良かったと言ったほうがいいのか」

 

「……そう………でも」

陽乃さんは心苦しそうにする。やはり土御門に居る陽乃さんの表情は自然だ。

これが、素の陽乃さんか………雪ノ下では堅苦しい思いをしていたのだな……

 

山門まで陽乃さんに送ってもらい。別れ際には………

「比企谷くん、今日言ったこと本気なんだから」

 

「何のことですか?」

 

「君を落とすわ、雪乃ちゃんには悪いけどね!」

 

「………ちょ!?」

 

「じゃねー、八幡!」

陽乃さんは山門から、駆け上がって行ってしまった。

 

………まじなのか?……なんで俺?冗談じゃないのか?

悪い気はしないが、なんというか俺は………うーん。

 

俺は土御門家での出来事や、陽乃さんの言葉を思い出しながら歩いて……嵐山の駅まで向かった。

途中由比ヶ浜に連絡して、嵐山の駅近くの喫茶店で待ち合わせの約束したのだが、何時もの元気が無かった。

 

 

 

「あら、あなた何処に行ってたのかしら」

 

「ちょっとな」

 

「女人禁制の寺なんてものは、今はないわよ嘘付谷くん」

雪ノ下は俺を疑うような目つきで見据える。

しまったな。そりゃそうか、雪ノ下にはばれるのは当然か……

 

「どうしても、前々から1人で見ておきたい場所があったんでな、すまなかった」

 

「意外と素直に認めるのね。で、何処に行ってたのかしら?」

 

「それは、秘密だ」

 

「………まあ、今はいいわ。今度じっくり聞いてあげるわ」

聞く気まんまんだな。おい。なんで俺のことなんかそんなに気になるんだよ。

雪ノ下はそう言って、隣にうつむき加減で座る由比ヶ浜に視線を移す。

 

「………ヒッキー、どうしよう」

俯き加減だった由比ヶ浜は俺を涙目で見る。

 

「どうした?由比ヶ浜」

 

「ヒッキーがさっき言った事ね。考えたの。姫菜の気持ちになって考えてみたの。もし私が姫菜だったら、あたしに戸部っちが告白してきたらどうするか……………」

 

「そうか……」

 

「あたしが戸部っちに告白されたら………絶対断る」

なにその絶対って、ちょっと戸部が可愛そうじゃない?そんなに戸部が嫌いか?ちょっとはいいところあるぞ。声が大きいとか。

 

「………」

どうやら、俺の言葉で由比ヶ浜は真剣に考えてくれたようだ。

 

「それで、その戸部っちに、姫菜や由美子が応援してたら、あたし、嫌な気分になる。……好きでもない人に告白されたら……あたし、そんな事考えもしなかった」

 

「そうか……じゃあ、由比ヶ浜はどうする?」

 

「姫菜に謝ってきた……姫菜、やっぱり怒ってた。でも許してくれたの……………、戸部っちにもこれ以上協力出来ないって謝ったの……でも、告白はやめないって……どうしよう」

由比ヶ浜らしい。

由比ヶ浜は自分の間違いに気がついたら、それに素直に認める事ができる。こいつの良いところだ。普通は中々そうは行かない。俺だってそうだ。だが由比ヶ浜はそれができる。素直に認め、間違っていたことを相手に伝え謝る。単純なようだが難しい事だ。俺がこいつに好感が持てる理由だ。

 

由比ヶ浜が間違いに気が付き、反省し、そして……それを正そうとした。

ならば後は………………

 

 

「後は俺にまかせろ」

 

 

 

 

そして、戸部が選んだ告白スポットに3人で向かう。

すでに時間が押し迫っていた。

「あなた、どうするつもり?」

 

「………ここでは言えん。すまんが黙って見ててくれ」

 

「ヒッキー、ごめんね。あたしのせいで」

 

「いや、最初っから分かってて止めなかった俺も悪い」

 

「それを言うなら、依頼を受けてしまった私も同罪ね」

 

 

深い竹林に囲まれた幻想的な小道。そこは夕暮れになり、ライトアップされ、ほんのり光が灯っていた。

戸部にしては、なかなか雰囲気のあるところを選んだな……戸部の本気度が伝わる。

しかし、悪いな戸部。阻止させてもらう。

 

戸部が見えた!

 

俺は由比ヶ浜と雪ノ下にその場で待機するように言い、俺も様子を伺う。

海老名姫菜が戸部を挟み対角線上の向こうからゆっくり歩いて戸部に近づいていく。

 

告白の時は近い。

 

俺は……静かに歩み、戸部と海老名に近づいていく。

 

 

俺の戸部告白阻止プランは5つある。今もどれを選ぶべきか悩んでいる。

 

①戸部が海老名に告白する前に、俺が戸部の前で海老名に告白し振られる。

 察しのいい海老名のことだ。今は誰とも付き合うつもりがないことを戸部の前で俺に言う。

 それで、戸部も引き下がるだろう。

 

②戸部が海老名に告白する前に、後ろから戸部にドロップキックをかます。

 戸部を気絶させ、引っ張って帰る。告白チャンス自体をなくす。

 できれば戸部は修学旅行が終わるまで気絶してもらう。

 まさに、美神令子直伝の方法だ。告白自体を無かったことにするのだ。

 

③戸部が海老名に告白した時点で俺が横から口出しし、うまいこと収める。

 八幡スマイルをだし、平和的解決を試みる。

 まさに、聖母の如く。キヌさんバリに皆を幸せに導く。

 

④戸部が海老名に告白する前に、二人の前で強烈な一発ギャグをかます。

 戸部が告白するのを忘れるぐらいの一発ギャグだ。

 横島忠夫直伝の一発ギャグだ。これに毒気を抜かれた戸部は告白するタイミングを失う。

 海老名は笑いながら俺をネタに盛り上がらせる。

 さすれば、告白などというムードはゼロになり、すべてが無に帰するのだ。

 

⑤そして、俺が美神令子除霊事務所で培ったすべてを投げ売って行う、究極の阻止方法。

 戸部が海老名に告白する前に、俺が戸部に告白する。

 俺が戸部の後ろから抱きついて、戸部に愛の告白を耳元で囁くのだ。

 戸部は海老名に告白することなど、忘れてしまうだろう。

 そして、そんな俺達を見た海老名は鼻血を出してぶっ倒れる。

 もはや、告白どころの騒ぎではない。

 しかしこれにはただならぬリスクが伴う。

 

 戸部が俺の告白を受け入れたときだ。

 ……………今は考えないでおこう。

 

 

 俺は戸部と海老名に静かに近づいていく。

 

 どれだどれが正解だ?

 

 ③と④は現実的に無理だ。

 ③俺にはキヌさんのような聖母的な包容力やあの笑顔を出すことが出来ない。

 八幡スマイルはゾンビスマイルになること間違いなしだ!

 ④俺には横島師匠バリの一発ギャグは出来ない。『のぴょぴょーん』だけで、

 敵を倒すなど、アレで敵の動きを封じることができるのは横島師匠だけだ。

 一発ギャグでの『場の空気クラッシャー』など俺には到底無理だ。

 

 ならば、①か②か⑤だ。

 しかし、①は俺の霊感が止めておいたほうが良いと言っている。

 なぜだかわからないが……ビンビンに俺に語りかけてくる。

 

 

 どうする後は2択だ!

 

 

 もう時間がない、海老名が戸部の前まで来た!

 

 

 どうする。どうする俺!

 

 

 

 そして………その時が来た!

 




美神令子除霊事務所の色に染まった八幡。GS的解決方法でどう乗り切るか……


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⑮道化の弟子は道化

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

こ、こんな感じになりました。
皆さんのご期待に答えられなく、すみません。


 

竹林の小道。程よく薄暗い明かりが、光と影の幻想的な世界を築き上げる。

 

戸部はここを告白場所として選び、相手である海老名を呼び寄せる。

 

海老名姫菜は戸部が待つ小道の中頃にゆっくりとした足取りで到達しようとした。

 

 

 

戸部には悪いがその告白阻止させてもらう!

 

阻止方法の残りの選択肢は2つ。

 

一つは戸部が海老名に告白する前に戸部を後ろからドロップキックをカマシ、気絶させ、そのまま連れ去り、告白自体を無かったことにする。強引な美神令子方式。

 

もう一つは。戸部が海老名に告白する前に、俺が先に戸部に後ろから抱きつき告白する。耳元で愛を囁くのだ。戸部は戸惑い、告白どころではない。腐女子の海老名はその俺達を見て、豪快に鼻血を出して倒れるだろう。もはや告白どころではない状況を作り出す。究極の方式。

 

 

時間がない。どっちだ!

いや、考えるまでもない。後者は却下だ!由比ヶ浜を助けてやりたいが、俺の精神が持たない!

 

ならば、戸部には罪はないが、ハチマンクラッシュ(ドロップキック)で気絶させ、告白を無かったものにさせてもらう。

 

俺は戸部の背中に狙いを定め、足を速め、勢いをつけ飛ぶ!

ハチマ~ン!クラッ…………アレ?

 

 

 

俺が狙いを定めた戸部の前……いや、戸部と海老名の間にどこからか急に人影が紛れ込んだ!

 

 

「眼鏡が似合うお嬢ーーさん!!ボク、横島!!!あそこのベンチでボクと永遠の愛を語り合いましょう!!!!」

 

 

人影が、いきなり現れ海老名の両手を取って、超ニヤケ顔でこのタイミングでこんなアホなナンパをしだしたのだ。

 

なんでやねん!!!!つい師匠の関西弁が…………横島師匠!!!!なにやってるんすか!!!!!

 

「え?なに!?」

「ちょっ!?え!?えええ!?」

海老名と戸部が盛大に驚き戸惑っている。

当たり前だ。この緊張感の中、緊張とは程遠い声で、とんでもない事をしでかした。

まさしく『場の空気クラッシャー』

 

 

そんな事を思っている場合ではなく……やはりというか、やっぱりというか………

 

「あ!」

 

ドゴン!!

 

「グボバ!!」

 

既に地を離れたハチマンクラッシュは戸部ではなく横島師匠の後頭部に炸裂してしまった。

 

横島師匠は盛大に吹っ飛びっ転げ回り、竹林に頭から突っ込む。

 

俺は海老名と戸部の間に割るように華麗に着地する。

 

 

「「「………………」」」

 

長い沈黙がこの場を支配する。

 

竹林の柵に頭を突っ込んだままヒク付いているナンパ男。

いざ、好きな女の子に告白すると緊張しながらも息巻いていた戸部

どう断ろうかと悩みながらも、戸部の告白を受けに来た海老名

そして、ナンパ男を派手に撃沈させ、図らずも戸部と海老名の間に挟まって立ってる俺。

 

なにこれ?なんだこれ?なんなんだこれ?これをどうしろというんだ?

 

「………え、海老名さん。なんか災難だったな。……とんでもないナンパ男に絡まれて、……変態男は俺が撃沈した……………つ…続きをどうぞ」

 

「…………あの人、大丈夫なのかな」

海老名は竹林の柵に頭を突っ込んでヒクついてるナンパ男を指さして、そう言った。

 

「だ、大丈夫じゃないか。きっと」

絶対大丈夫だから。こんなことで死なないし、怪我しても一瞬で治るし……この人。

 

「ヒキタニ(比企谷)くんなにげに酷くない?まあ、俺らは助かったけど」

 

「なにが大丈夫じゃーーーー!!人のナンパの邪魔をした上に!!この仕打ち!!許さーーーーんん!!」

ナンパ男(横島師匠)は竹林の柵から頭を引っこ抜いて、ビヨーンと立ち上がり、涙をちょちょ切らせながら俺に抗議する。

なんだ。横島師匠。俺の事を他人の振りで通した?

………なるほど………そういうことか………流石は俺の師匠!!かっこ良すぎる!!

横島師匠は多分、俺の代わりにこの告白をクラッシュしてくれたのだ。

何処かで俺達の話を盗み聞きしたに違いない!!

 

「いい加減にしないと、警察に通報しますよ」

よし、ここは横島師匠の小芝居に乗るのが吉。

 

 

「ああ!!誰かと思ったらお前か八幡ーーーーーー!!この眼鏡美少女とも知り合いだと!?この裏切り者ーーーーー!!」

 

ええええ!?あれ?俺の代わりに告白クラッシュさせてくれたんじゃないんすか?まさかのマジギレ!?

 

「ヒキタニ(比企谷)くん?……知り合い?」

 

「いいえ、こんな変態知りません。誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」

そうだ。ここは徹底的にとぼける。こんなナンパ男は知らんし。こんな空気を読まない師匠なんてものは俺の師匠でも何でも無い。

 

「………裏切り者とかなんとか……ヒキタニくんの……………」

 

「何を言ってるんだ。海老名さんに戸部、ここは京都だぞ。しかもボッチの俺に知り合いなどいようはずがない」

なんとしても誤魔化さないといかん。

 

「許さーーーーーん!!ボッチだなんだ言っておきながら!!何時も何時も美女、美少女を侍らせやがって!!」

 

「いつ誰が、美女と美少女を侍らせた!!この変態!!もっとマシなナンパしろよ!!」」

 

「なんだと!!あのDカップのねーちゃんとか!!地雷女の美人女教師とか!!部活の女の子と何時もイチャついてるんだろ!!なにがボッチだ!!」

 

「何言ってんだあんた!どこをどう見たら、イチャついてるように見えるんだ逆だろ!!あんただって!!キヌさんに好意を寄せられてるのに、なんでなんにもしないんだ!!気がついてるんだろ!!このヘタレ!!」

 

「何をーーーー!!」

「何をってなんすか!!」

俺はいつの間にか横島師匠とおでこ同士が当たるぐらい顔を突き合わせていた。

 

 

「…………ヒキタニくん、やっぱり知り合いだね」

「……………ヒキタニくん。無いわーーー。これは無いわーーーー!」

 

し……しまった!!

つい、師匠に乗せられてしまった!!

 

「…………いいえ、赤の他人です」

 

海老名と戸部は俺をジトッとした目で見てくる。

 

「………八幡、わるかった。まさか、痴情のもつれだったとは…、眼鏡美少女を巡って、男の戦いをしていたのだな。……影ながら応援するぞ!さらばだ!うはははははははっ!!」

横島師匠は何を勘違いしたのか、俺とこの二人の会話を聞いてそう判断したらしい。

そして俺の背中を強めに叩いて、高笑いしながら猛スピードでこの場を去って行った。

 

なにこれ?どうするんだこれ?どうするんだよこれ!!

あの人、この場をかき回すだけかき回して、消えやがった!!

 

「えーーっと、そのだな、うーん」

これ言い訳しようがないぞ。どうする?

 

 

「ふう……もういいよ。比企谷くん……ありがとね」

海老名は何時ものヒキタニ呼びをやめ、比企谷と俺を呼ぶ。

 

「おい」

俺は海老名に声を掛ける。

海老名は何かを決心した様な顔だった。

 

そして海老名と戸部の二人は……

「戸部っち……」

 

「海老名さん……その俺」

 

「私ね。知ってたの。戸部っちが私に告白しようとしてたの。私は今は誰とも付き合わない。今の皆との関係がすごく良いの。だから、ごめんね。

それで戸部っちや皆との関係が壊れるのが怖くて、逃げてたの。それで比企谷くんや皆に迷惑かけちゃった」

 

「……そう、なんだ。でも俺は」

 

「今はそれ以上言わないで、……今は友達でいよう」

 

「…………わかった。いつかまた、必ず」

 

「うん。その時は盛大に振って上げる」

 

「ええ?それって振られたのと同じじゃない?」

 

「ちがうよ。皆も心配してるから、戻ろう戸部っち」

 

二人の間の距離は離れながらも、同じ方向を向き、歩いていく。きっと三浦や葉山の元だろう。

なんだかんだと元の鞘に戻ったようだ。

 

結果オーライ…か

 

 

で………残された俺は何?道化もいいところなんだけど。

これどうすんだ?

 

 

 

「……依頼は完遂したようね」

「……ヒッキー、ありがとう」

雪ノ下と由比ヶ浜が取り残された俺のところに歩いてくる。

 

「ああ」

 

しかし……

 

「それで…なんなのかしら、あれは、あの変人はあなたの知り合いのようだけどどういうことかしら?」

「ヒッキー!!美女と美少女とイチャイチャってどういう事!!」

雪ノ下はツンドラのような凍てつく視線で俺を睨んでくる。

由比ヶ浜はプンスカしだした。

 

「……いや、あのだな」

 

「キヌって人は誰かしら?」

「Dカップ美女って誰?」

 

「あの……だな」

横島師匠……これがイチャイチャしてるように見えますか?マジで……

 

というか、あの人何しに来たんだほんとに!!

これか、占いでとんでもない目に遭うってのは!!





俺ガイルイベント完遂。
次は京都GS編


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⑯ゴーストスイーパー比企谷八幡始動

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ついに八幡始動。





 

戸部翔の海老名姫菜への告白を阻止すべく俺は動いたが、横島師匠の介入があり、あの場はカオスと化し、収拾がつかなくなった。

しかし、海老名自身の言葉で戸部の告白は当分延期されることになり、元の鞘に戻った。

これで由比ヶ浜も後にひくこともないだろう。

 

 

しかし……横島師匠は何故か俺に爆弾を投下をし、どっかに行ってしまった。

何しでかしてくれてるんですか横島師匠!!

 

「キヌさんとは誰のことかしら?」

「Dカップ美女って誰!?」

その爆弾は見事命中。俺はなぜか雪ノ下と由比ヶ浜に責められている。

しかも、なぜ責められているのかがわからないが、なんか俺が悪いみたいなことになっている。

 

「いや、それは…」

 

「あの原始人以下のナンパをする男の知り合いの、隠事谷くん……さあ、吐きなさい」

「そうだよ!あの変な人とどういう知り合いなの!なんか仲良さそうだったし!」

なんだこのプレッシャーは、なんなんだ?

 

「お、落ち着け……そろそろ戻らないとな。ホテルの夕食に間に合わないだろ?」

 

「今日の夕食は各自自由よ。ホテルには8時までに戻ればいいわ。まだ時間はあるわ。じっくり聞かせて貰いましょうか?」

「そうだ!ヒッキーさっき、あたしを騙して女人禁制だとか言って、1人でどっか行ってたし!」

なんだかわからんが、ピンチだ!

 

「さ、さすがに、寒くないか?ホテルにもど……」

そう、10月末の京都の夜は流石に羽織るものが居る。こんな何にもないところでは風邪をひいてしまうだろう。……いい訳じゃないぞ。

 

「そうね。そこの甘味処で聞きましょうか?」

「うん。そだね。甘い物食べながらね!」

 

「夕飯はどうするんだよ?」

 

「抜きよ!」

「ヒッキーは水で十分!」

なにこの二人、めちゃ息が合ってるんだけど……しかもなんか怖いし……

 

 

俺は竹林近くの甘味処に連れて行かれ、4人座席の片側に座らされ、対面には凍てつく視線を俺に向ける雪ノ下とプンプンしてる由比ヶ浜が座る。俺の席にはコップ一杯の水。雪ノ下は善哉、由比ヶ浜はパフェ風のあんみつ………そして尋問が始まった。

 

「で……あの変人とはどういう知り合いなのかしら?」

「そうだよ!めちゃ仲よさげだったし!」

 

「あれだ。前に言っただろ。バイトしてると。そこの先輩だ」

うん、嘘は言ってない。

 

「普段からボッチだと自慢げに言ってる割に、随分打ち解けているようね」

「そうだ!そうだ!なんか女の人もいそうだし!」

 

「……し、仕事を直接教えてもらってるんだよ」

これも、嘘は言ってない。

 

「それで、キヌさんとは誰かしら?」

「美女に囲まれてるってどういうこと!?」

なんなんだ?確かに俺のバイト先には美少女や美女は沢山いるが……キヌさん以外は見た目だけだ!中身は世紀末覇者伝説並にひどい連中なんだぞ!脳内はみんなヒャッハーしてる連中なんだ!

 

「キヌさんは、あれだ俺の一つ上のアルバイト先の先輩だ」

八幡、嘘つかない。

 

「随分そのキヌさんと仲が良いようね。あなたが女性を下の名前で呼ぶなんて」

「ヒッキーが女の人を名前で呼ぶの小町ちゃん以外で初めて聞いた!」

ぐっ…それは、仕方がなかったんやーーー!!聖母に泣かれたら誰だってそうなる。

 

「……確かに、仕事先で良くしてもらってる。しかし、勘違いするなよ。キヌさんはあの横島さんを好きなんだ」

 

「……あの変人を?」

「あの変態を?」

そうなんだが、確かに変態なんだが!その変態が俺の尊敬する師匠なんだが!!こいつらが言うと異様に腹が立つ。良いところもあるんだぞ!……たぶん

 

「一応、仕事ではいろいろ助けてもらっている人だ。良いところもあるぞ。見た目だけで判断しないほうがいい」

 

「……あなたが他人を褒めるなんて…少し言い過ぎたわ」

「……ヒッキー、よく知らずにごめん」

あれ?意外と素直にひいてくれたぞ。

 

「まあ、普段があれだからな。見たまんまだとその通りだからな」

 

「で……美人、美女を侍らかせたというのは、どう言うことかしら?」

「そうだ!そうだ!Dカップ美女って誰だし!!」

まだ、続くのかよ!

 

「……お前らの事と、平塚先生。由比ヶ浜が言っているDカップ美女とは、多分雪ノ下姉の事だ」

 

「……そこでなぜ姉さんがでるのかしら?」

雪ノ下は不機嫌そうだ。

 

「たまたまバイト中に雪ノ下姉に会ったんだよ」

 

「ヒッキー、バイト先で私達の事を話してるんだ。しかも美少女だって!」

なんだこいつ、さっきまで怒ってた感じなのに、急にもじもじしだしたぞ。

 

「……まあ、あれだ。部活やってる位は話してるからな」

 

「………あなたが真面目にアルバイトをして、職場の人たちとまともにコミュニケーションを取るなんて……想像しにくいわね」

 

「…まあな」

 

「それで、何のアルバイトかしら?」

「そうだよ!前は親の手伝いだって、はぐらかしたし!」

くっ、流石にゴーストスイーパーやってますとは言えん。

なんとか誤魔化さなければ……

 

「あーあれだ…」

 

その時、この甘味処……いや、地面が揺れた。

 

「地震!?ゆきのん!」

「落ち着いて由比ヶ浜さん。大丈夫よ。そんな大した揺れじゃないわ」

 

!!!???

なんだ………この霊圧は!!

とんでもない霊力が漏れてるのを感じる!!!

土御門本家で感じた仄暗い霊気だ!!

何もしていないのにここまでビンビンに伝わってきやがる!!

 

まさか封印が解けたのか!?

 

俺は霊視を最大限に発揮させ、周囲を警戒する。

 

!!!???

あっ、今度は陽の霊力だ!………この霊気霊力は……土御門当主の風夏さんのだ!!

土御門の再封印術式か?

 

いやちがう、これは風夏さんの霊気だけだ!!

何が起こってる!?

 

しかも、あの仄暗い霊気は収まってない!

拮抗してる!!

 

 

!?……仄暗い霊気が少しずつ漏れ出してる。しかもその霊気がここら一体に瘴気を生み出している!

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、すぐにホテルに戻るぞ!」

俺は席を立って、語気を強め二人に告げる。

 

「どうしたのヒッキー?」

「まだ、話は終わっていないのだけど」

由比ヶ浜は心配そうに、雪ノ下は訝しげに俺を見る。

 

「ああ!後でなんでも話してやる。だからここを急いで出るぞ」

 

「ヒッキー、なんか変だよ」

「急に…説明してもらえないかしら」

 

店の外で悲鳴が聞こえてくる。

くそ、遅かったか!漏れ出た瘴気から物の怪の類がもう湧いて出やがったか!

 

「いいから、行くぞ」

「ちょ、ヒッキー」

「え?…急に」

俺は二人の手を強引に取り、店の外にでる。

 

………くそ、周囲は雑霊だらけだ。

しかも、物の怪がここにも迫って来てやがる。

 

小さな子ども位の背丈の骨と筋ばかりのやせ細った人型の妖怪が何体かがこちらに向かってゆらゆらと歩いてきた。

 

「………ヒッキー……なんか居る」

「……何、何あれは……………」

 

「餓鬼だ……」

 

くそっ!既に人が遠目で襲われてる。

こいつらを置いて助けに行くわけにもいかん。

 

あのお守りがあれば、こいつらに渡して、助けに行けるのだが。

キヌさんに貰った強力なお守りをホテルに置いていったのは間違いだったか……あれだけの強力なお守りだ。陽乃さんに変に勘ぐられないようにと置いてきたのは失敗だった。

 

 

後ろを振り返ると………異変に気がついた甘味処の観光客や従業員が扉から外の様子を見て、悲鳴を上げだした。

 

くそっ、餓鬼自体は大したことはないが、オレ一人ではこれだけの人数を守ってこの場を脱出するのは困難だ!

 

 

そこに式服を着た一団が、餓鬼を倒しながら……こちらに向かってきた。

 

「土御門の者です。この松尾山一帯で大規模な霊災が発生しました。ここは我々がくいとめるので、急いでここを出て下山し、桂川を渡ってください」

土御門の霊能者達だ。流石は名門土御門、対応が早い。

今俺達が居る竹林の小道は松尾山のちょうど中腹から下辺りだ。俺が仄暗い霊気を感じているのはちょうど頂上辺りに位置する。

 

この分だと、なんとかなりそうだな。

 

「行くぞ、由比ヶ浜、雪ノ下」

俺は由比ヶ浜と雪ノ下に声をかけ、急ぐように促す。

 

「うん……ゆきのん?」

雪ノ下は呆然としていた。いや、震えていた。何時も毅然としている姿はそこには無かった。

 

「行くぞ」

俺は雪ノ下の手を少々強引に引っぱり歩きだす。

 

「ゆきのん…大丈夫?」

 

「ごめんなさい。少し驚いただけだから」

少しじゃないぞ。……もしかすると過去に妖怪か霊にでも襲われたのかもしれん。その時の恐怖が今も………だが、しばらく歩いて、ようやく立ち直ったようだ。

 

「少し走るぞ」

他の観光客の大半はすでに小走りで先に進んでいたが、俺達は雪ノ下の状態を見ながら歩いていたため、少々遅れていた。

 

しばらくし、観光客の最後尾が見えてきた。もう少しで開けた場所に出る。

「後少しだな……」

「うん。わたし妖怪初めて見た」

「………ごめんなさい。足でまといになって」

由比ヶ浜も雪ノ下もようやくホッとした表情になる。

 

 

しかし、

 

「ふははははははっ、見つけたぞ!小娘!」

 

その声に俺は振り返る。

 

「ん?忌々しいゾンビ男も一緒か、ちょうどいいお前も一緒に始末してやる」

式服姿のその男は俺にも声をかけてきた。

 

「お前みたいな奴は知らんぞ。他を当たってくれ」

俺はそのまま、雪ノ下と由比ヶ浜に前を見て走れと指示して、そのまま走り出そうとする。

 

「貴様も俺をバカにするのか!よく聞けゾンビ男!俺は土御門次期当主の土御門数馬だ!」

そう言って、数馬は指を鳴らすと、俺たち3人の周りに9体の餓鬼が地面から湧き出す。

完全に囲まれた。

 

「ヒッキーーー!」

「…………」

由比ヶ浜は叫びながら俺の袖を引っ張り、雪ノ下は震えながら無言で俺の手を握りしめる。

 

俺は再び、振り返りその男を見る。

「………知らんな。お前みたいなやつ、似ているやつなら知っているが……俺の知り合いにお前みたいなオデコに短小の角オブジェを付けたやつなんぞ居ないはずだが」

………まずいな。あれは角だな。こいつ半分妖魔化いや鬼化してやがる。ランクAに近い霊力をまとってやがる。半鬼化してパワーアップしたか?…しかし、なぜこいつ(土御門当主の次男)がこんな事に………いや、再封印がうまく行っていないのと関係しているのか………

くそ、こんな時に横島師匠は何処に行った!?

 

「くそ、どいつもこいつも俺をバカにしやがって!……まあいい、そこの分家の小娘。貴様をあの陽乃の前で喰らってやるわ。霊力がなくとも我が一族の血がながれているのだろ?その血で俺の糧になれ!そして、あの陽乃の絶望した顔を俺に見させてくれ!ふはっふはひひひ!!」

こいつの狙いは雪ノ下か………しかし、すでに言っていることが妖怪妖魔と一緒だな。半鬼化した影響か………すでに自分が妖魔なのか人間なのか区別が付いていないようだな。人間としての心は権力への執着心と陽乃さんへの嫉妬心のみか……

 

 

「大丈夫だ。だが二人共少し離してくれないか……そこでじっとしておいてくれ。大丈夫だ」

…潮時だな。

俺は不器用な笑顔を二人に見せる。

そう、俺もゴーストスイーパーの端くれだ。

こいつらは俺が守る。

 

「ヒッキー?」

「……比企谷くん?」

 

 

「ふひひひひひっ、貴様は殺してから陽乃の前にその素首を放り投げてくれる!!」

 

 

「ごちゃごちゃうるさいんだよ。あんた。………あんたは既に外道に落ちたんだよ。……ゴーストスイーパー比企谷八幡。除霊に入る」

 




始動というか、前準備になっちゃいました。
次がちゃんと八幡回です。


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⑰数馬VS八幡

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では前回の予告どおり……


「ひひひひひひっ、貴様を殺してからその素っ首、陽乃の前に晒してやる」

 

潮時だな。

由比ヶ浜、雪ノ下………こいつらは俺が守る。ここでこいつらを守れなくてなんのゴーストスイーパーだ。

 

「ごちゃごちゃとうるさいんだよ。あんた。…………あんたは既に外道に落ちたんだ。…ゴーストスイーパー比企谷八幡。除霊に入る」

 

 

俺はそう静かに口上しながら霊気を開放し、霊力を体内に巡らせ、基礎身体能力を一気に向上させる。

 

まずは眼の前の餓鬼一体のか細い首に回し蹴りを食らわし吹き飛ばす。その反動でもう一体を後ろ蹴りで一発。

身体を回転させながら制服のブレザーに仕込んであった神通棍を取り出し、横から振り上げ霊力を通わせた一撃を横の餓鬼に、さらに由比ヶ浜の前の餓鬼に神通棍の突きの一撃、さらにその横の餓鬼に一撃いれる。神通棍の一撃を喰らった三体は黒い霧となり消滅。

それに驚いた残りの餓鬼4体は一斉に、俺にジャンプして空中から襲いかかってくるが、ブレザーの袖に仕込んであった10万破魔札を3枚取り出し投げつけ、三体の餓鬼の額に直撃。残りの一体は神通棍で突き刺す。

これで、襲いかかって来た餓鬼四体が黒い霧となり消滅。

空いている右手に霊力を注ぎ、六角形の霊気の盾サイキックソーサーを生成し、最初に蹴りで吹き飛ばし倒れている1体に投げつけ、突き刺して消滅。残りの後ろ蹴りで倒れた息も絶え絶えの餓鬼に神通棍でトドメを刺し、消滅させた。

 

餓鬼程度ならば、この数はなんともない。

美神さんには囮役と称して、無数の妖怪が巣食う谷や穴や罠に何度も突き落とされたのだ。

それに比べれば…………俺、よく今まで生きてたな………

 

「…………ヒッキー?」

「………あ、あなた……」

由比ヶ浜と雪ノ下は突然の俺の豹変に驚き、うまく口に出来ないようだ。

仕方がないだろう。いままで黙っていたのだから……これで嫌われるのは仕方がない。

ただ、俺はこいつらを守るだけだ。

 

「俺はゴーストスイーパーだ。………隠してて悪かった。しばらく我慢してくれ」

 

「ヒッキーがごーすとすいーぱー?なの?」

「………そんな、あの……比企谷くんが」

由比ヶ浜は幾分気持ちを持ち直したのか、俺に疑問顔を向けていた。

雪ノ下はまだ、俺の豹変と化物に襲われたショックから立ち直っていないようだ。

 

「ああ、そうだ」

 

 

「ゾンビ男めなかなかやるではないか………ひひひひひひっ!しかし!!餓鬼は何体でも湧くぞ!!ほれ!!」

半鬼化した土御門数馬が指を鳴らすと、俺たちの周囲に餓鬼が20体ほど地面から這い出てくる。

 

そして、俺達に一斉に襲いかかってくる。

「ヒッキー!!」

「!!」

由比ヶ浜は俺の名を叫び、雪ノ下は無言で俺の腕にしがみつく。

 

 

俺は先程の餓鬼への攻撃をしながら、30万円の結界札を3枚周囲5メートルの地面に貼り付けていた。

 

俺たちを中心に青白い光を伴った円錐状の結界が発動する。

美神令子直伝の結界術だ!

餓鬼程度であれば、何体来ようが破られはしない。

 

餓鬼は次々に結界に触れ、逆に吹き飛ばされる。

 

 

「小癪なゾンビ男め!!」

 

「………くされ外道!お前!!陽乃さんに恨みが有るなら陽乃さんを直接狙え!何かお前、おなじB級ランクでも土御門陽乃に勝てる自信がないのか?」

俺はわざと陽乃さんの下の名前を出し数馬を挑発する。

俺だけを狙わすためと、少々の時間稼ぎだ。

霊気を開放し、空間に放出させ俺の半径10メートル空間内を霊気で満たし霊視空間把握能力を使うための準備をする。

 

「由比ヶ浜、この結界内にいれば餓鬼は襲ってこれない。雪ノ下を見てやってくれ」

由比ヶ浜はこの状況でもなんとか正気でいられているが……雪ノ下は………

 

「……うん…ヒッキー………ゆきのん大丈夫だから」

由比ヶ浜は何時もの元気はないが、大丈夫そうだ。震える雪ノ下の両肩をそっと後ろから抱きしめる。

 

「雪ノ下、大丈夫だ」

俺は、俺の腕を掴む雪ノ下の震えた手をそっと外し、頭をそっと撫でる。昔、妹の小町にやっていたように……

雪ノ下は地面へと腰を落としそうになる。俺の腕を掴むことでかろうじて立っていたようだ。それを今は由比ヶ浜が後ろから支えている。

 

 

俺は自ら張った結界から出て行く。

餓鬼とは比べ物にならない霊力を持つ数馬の攻撃を直接喰らえば、この結界が持つかはわからないからだ。

 

 

「生意気な小僧がーーーー!!!」

 

数馬は激昂しながらその手から火の玉を生成し俺に投げつけてくる。

半鬼化の影響なのか、元々の能力なのかはわからないが………

 

案の定、怒り狂った数馬は俺だけに狙いを定めてくる。

俺はそれを体捌きでゆっくりとした足取りでゆらゆらと避ける。

すでに俺の霊視空間把握能力を発動させている。

数馬の攻撃は手に取るようにわかる。

 

数馬は餓鬼にも俺を襲うように指示をだす。

俺は神通棍を振るい、10万破魔札を使い、餓鬼を相手しながら、数馬の攻撃を避け続ける。

 

霊力を見ればAランク近くまで上がった数馬の方が明らかに上だ。

だが………戦い方が単純過ぎる。

 

これでは同じBランクでも明らかに陽乃さんの方が上だろう。

 

ゴーストスイーパー・霊能者・陰陽師の戦いは虚実が在ってこそ生きてくる。

虚とは相手を偽り、騙すこと……術はそれで何倍もの能力を発揮する。

どんなに霊力が優れていようが、どんなに凄まじい術を持っていようが、それを活用できなければ意味がない。

 

さっきの俺が最初の餓鬼を倒し、同時に結界を張る準備を進めていたことも数馬は見抜けていなかった。

虚実を見抜く力もない。

 

一流のゴーストスイーパーになればなるほど、虚実を使う。

術や仕草、話術色んな要素のどれかに、虚を入れ込む。

大凡だが、一流ゴーストスイーパーと言われる人たちは20パーセント近く虚を入れ込む。

あの真面目一直線の西条さんの戦い方でも、何かしらの虚を入れてくる。

そして、SランクGSの美神さんは虚が40~50パーセントも入れ込んでくる。どんな相手にも油断なく最大限のパフォーマンスを出すために。一見卑怯にも見えるかもしれないが、存在自体がこの世のものでは無いものや、存在自体が規格外の者を相手取っているのだ。

人間の価値観で戦うこと自体、間違っていると俺は思う。

虚実を自由自在に操ることこそ、真の一流のゴーストスイーパーといえるだろう。

 

まあ、横島師匠の場合。90パーセントは虚で(真)実は10パーセントもないんだが…………

あんなとんでもない戦い方ができるのは横島師匠ぐらいだ。

ただ、その(真)実が恐ろしいくらい正確で強力なのだ。

 

だから俺は、いくら霊力が高かろうと虚実を使いこなせないこいつは怖くない。

 

 

「くそっ!なぜ当たらない!なぜだ!!なぜ!!なぜなぜなぜ!!」

数馬の奴、怒りで理性が薄れつつ有るな…………

 

俺は隙をついて、サイキックソーサーを数馬に投げつける。

 

「ひーーーひっひーーーー、ゾンビめ、そんな攻撃当たるはずないだろ…………ぎゃああああ!!」

数馬はサイキックソーサーを右に飛び跳ねて避けるが、急に電撃が走ったように身体がスパークする。

 

数馬が避けた先には、既に先程からの攻防中に破魔札に紛れさせ密かに俺が30万破魔札を五芒星に並べて威力を数十倍に高めた攻撃型の結界陣を張っていたのだ。

術式方陣の細かい調整式を省き、破魔札に予め最低限の術式を書き足し、五芒星に並べることだけで発動させる簡易術式だ。

 

これも美神さんの戦いを見て覚え得た方法だ。

あの人に札を使わせれば多分、右に出るものはいないだろう。何時ものがさつな言動や振る舞いからはとてもそうは見えないが、西洋から東洋、またはシャーマンの術式までありとあらゆる幅広い知識を持ち、そしてそれを自分のものにしている。表には見せないが、影では勉強し、実験訓練し試行錯誤をしているはずだ。

あの人の事を皆は、美智恵さんの血を受け付いだ天才だと言うが、実際のあの人はたゆまない努力を重ねてきたからこそ、あの若さであの地位にいる。

 

 

「あんたは、全くGSに向いてない。だからこんな事になる」

俺は倒れている数馬に近づき、五芒星攻撃型結界陣に封印札を足し、簡易拘束術式を完成させようとする。

 

「お……おのれ……………おれは土御門だぞ」

 

「今は、ただの落ちた外道だ。人間のGSの敵なんだよ」

 

「くそーーーーー!!」

 

「!!」

俺は封印札を足そうと数馬の影を踏んだ瞬間異様な気配に気がつき、飛び退いた。

さっきまでは気配すら無かった!!俺の霊視や、霊視空間把握能力にも引っかからなかった!

 

数馬の影から、影状の黒い手が伸び、数馬の魂を掴んだように見えた。

数馬は泡を吹き激しく痙攣しだす。

 

その影の気配は、地中深くにうごめいていた仄暗い霊気とおなじものだ!

 

俺の霊感が最大限の警鐘をならす。

やばい……これは……やばい!




次回に続く……


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⑱茨木童子

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では続きです。


仰向けになり泡を吹き痙攣する数馬の身体が一気に膨張しだす。

着ていた式服はズタボロになり、露出した肌は青みがかった灰色に、まるで金属のような光沢を纏った色へと変色する。

 

 

俺は距離をとり、その様子を見ながら、由比ヶ浜と雪ノ下の元に駆け寄る。

 

「逃げるぞ!」

やばい、これはかなりやばいぞ!凄まじい霊圧だ。

 

「ヒッキー!?」

「…………」

 

俺は二人の手を強引に取り、駆け出す。

 

 

しかし、駆け出した先に、数馬……いや、数馬だった何かが上から降ってきた。

俺は二人を小脇に抱え、後方に飛び退く。

 

そこには、3メートルはあろうかという青銅色の肌を持つ二本の角を持つ鬼が立っていた。

「ぶはははははっ、この身体は具合がいい!しかし腹が減ったな………眼の前にはいい具合にうまそうな若い女が二匹!女は喰らう!男は殺す!」

 

凄まじい霊圧だ。Aランクどころの騒ぎじゃない。間違いなくSランククラスだ!

 

「くっ、お前は誰だ!!」

 

「ぶははははっ、俺が誰かって?酒呑童子の旦那一の子分!茨木童子様だ!!」

茨木童子だと……まずい、平安時代の本物の鬼だ。

酒呑童子の配下で、当時の武士が大々的な鬼退治を行った際、唯一逃げおおせた鬼だ。

それがなぜここに!?

 

「知ってるぞ!その名……酒呑童子の封印を解きに来たのか!?」

俺は時間稼ぎをするために茨木童子に話しかける。

そして、由比ヶ浜に茨木童子に気付かれないように護符をもたせ、雪ノ下と共にここを離れるように目配せをする。

 

「おお?お前、なんで知ってんだ?」

こいつ……アホだ。あっさり口にしやがった。

特に答えを聞くつもりもなく、時間稼ぎだけの話題だったのだが………

となると、松尾山の今再封印を土御門家が行っている相手とは酒呑童子のものか……

そんな物の封印が解ければ、また、京都は化物共が跳梁跋扈する都にへと変貌するだろう。

 

しかし、こいつは俺では到底倒せない……まるでレベルが違う。

隙をついて、由比ヶ浜と雪ノ下を逃がすのが手一杯か。

 

BランクとAランクの間にはとてつもなく大きな差がある。そしてAランクとSランクもだ。

そもそもAランクからは霊気量や霊力だけでは図らない。

 

Aランクの敵とは下級魔族、もしくはそれに相当する力を有する存在を指す。

AランクGSとは、下級魔族と1人で対峙することができるGSのことだ。

 

AランクGSになるには実績が必要となる。魔族クラスの敵を打ち倒すという。

 

そして、Sランクの敵とは、中級魔族、もしくはそれに相当する力を有する存在を指す。

中級魔族となると、既に天界の神に匹敵する力を有すると言われ。地上にはめったにお目にかかれない存在だ。

SランクGSとは、その中級魔族と1人で対峙することができるGSのことだ。

 

そして、目の前の鬼のそのすさまじい程の霊圧に俺はこうやって対峙するだけで、吹き飛ばされそうだ。正直足も震えている。……今まで感じたこともない程の圧倒的な霊力に霊圧、こいつはSランクだ。

 

 

「ん……しかし、お前人間のくせに、やけに懐かしさを感じると思ったら、その目、泥田坊の目にそっくりだ」

 

「おい、その泥田坊の目について、詳しく聞こうか」

まじか、ゾンビの次は泥田坊かよ。俺の目ってどんだけ妖怪よりなのよ。

 

「お前、泥田坊知らないのか?……泥田坊って言えばな………………」

なんか、こいつ語りだしたぞ。やっぱアホだ。脳みそはちょっと足りてなさそうだな………

だから、数馬の身体が馴染むのか?

今のうちに由比ヶ浜、雪ノ下、できるだけ遠くに逃げてくれよ。

 

しかし、こいつがこの一連の騒動を起こしたのか?……土御門が再封印の隙を付き騙くらかすぐらいのこの騒動を。こいつの裏にも誰か居るんんじゃないか?

 

「うーん。決めたぞ。お前なんか気に入った。俺のアジトで飼ってやる。炊事洗濯をしろ。せいぜい頑張れば、お前も立派な鬼にしてやる」

……何これ?俺、鬼にスカウトされたんだけど。しかも、念願の専業主夫ライフを提供してくれるらしいぞ?しかもお仲間にしてくれるって?

 

「……こ、雇用条件は?」

 

「こ、こよう?……ああ、楽しみも必要だな。そうだな。女を掻っ攫ってきたら、おこぼれを分けてやるぞ。精々楽しませてやるぞ。気にいった女がいれば喰わないでお前にやる」

なに?福利厚生も充実?……………いやいや、そんなゲスい福利厚生なんてエロゲーの中だけだから!!一瞬それ良いなってなんて考えてないぞ!!本当だぞ!!

 

落ち着け………これは甘い罠だ!

先ずは深呼吸だ。すーーー、はーーー、すーーー、はーーー。

落ち着いた。

 

「おい、ゴーストスイーパーは鬼の戯言など耳にしない………っておい聞けよ!」

 

「腹減った。さっきの若い女でも喰うか」

俺の口上を全く耳にしない茨木童子は、鼻をひくつかせ、匂いをかぎながら、大きくジャンプしてこの場から去った。

 

しまった!あいつ、由比ヶ浜と雪ノ下を喰うつもりだ。

 

 

俺は全力で茨木童子が飛び去った方向へ走る。

 

 

見つけた!

 

「うーん。どっちから先に喰おうか、こっちの黒髪はうまそうな血の匂いがするな。こっちの桃色っぽい髪は肉がやわかそうだ」

既に茨木童子は地面にへたり込み怯えている由比ヶ浜と雪ノ下の前に立ち。どっちを先に喰らうか悩んでいた。

二人共恐怖に声も出ない。当たり前だ。あんな霊圧にさらされているんだ。霊能者では無い二人ならなおさらだ。

 

「待ってくれ」

俺は茨木童子に立ちはだかるように、二人の前に入り込む。

 

「なんだお前、後にしろよ。俺は腹が減ってるんだ」

 

「あんたさっき言ったよな。あんたの元に行って奉公すれば、気に入った女を、俺にくれるって」

 

「言ったぞ」

 

「この二人は俺の気に入った女だ。だから俺にくれ。あんたの元で掃除でも洗濯でも何でもやる」

 

「おい、二人ってのはずるいんじゃないか?俺も腹が減ってるし。一人にしろや」

 

「いや、そこを曲げてこの通りだ」

俺は深々とお辞儀する。

今はこの方法しかない。茨木童子とまともにやって勝てるわけがない。チャンスを待て、隙を作れ。それまでは、どんな事をしても足掻いてみせる。

 

「ダメだ。一人だ」

そう言って茨木童子は俺にデコピンを放ってきた。

 

「がっ!!」

俺はそれにかろうじて反応して、両手ブロックをし、サイキックソーサーを展開したが、思いっきり吹き飛ばされ、後方の木に激突する。

霊視空間把握能力がなければあのスピードに反応出来なかった!

しかもたかがデコピンでなんて、威力だ!

なんとか防御が間に合ったが、今ので肋骨にヒビが入った………まともに喰らったら一発で瀕死だ。

 

俺は立ち上がり、フラフラと茨木童子の前に立ちはだかった。

「頼む。この通りだ。こいつらは俺と恋人どうしなんだ!!」

 

「ん?なんだ。おまえ、二人と恋人とか、公家か何かか?どっちにしても駄目だ」

再び、茨木童子は俺にデコピンを放ってくる。

 

俺は防御体勢を取りサイキックソーサーを展開、さっき同様吹き飛ばされたが、来ると分かっていた分、威力を殺すことが出来た。俺は空中で姿勢を立て直し着地する。

 

そして、再び茨木童子の前に立ちはだかる。

「頼む。この通りだ!!この二人だけでいいんだ他はなんにもいらん!!」

 

「うーん…ダメだ。俺は今腹減ってるんだ」

茨木童子は今度も俺をデコピンで退けようとする。

 

もう、そのスピードとモーションは慣れたっての!!

俺は奴のデコピンを避け、顔面にサイキックソーサーを投げつける。それと同時に奴の額目掛けて、ジャンプする。サイキックソーサーは奴のもう片方の腕に阻まれるが、俺は神通棍を奴の額に叩きつける。俺の奇襲攻撃が決まった。

 

「なんだ!逆らうつもりか!せっかく仲間にしてやろうとしたのによ」

神通棍の一撃が奴の額にクリーンヒットしたはずだが、全くダメージがない!

サイキックソーサーも奴の腕にかすり傷一つ付けていない!

なんて強靭な肉体!なんて丈夫な皮膚なんだ!!

 

奴はそのままサイキックソーサーを受けた手で、俺を振り払う。

空中で身体を捻り、なんとかまともにその攻撃を受けずに済んだが、それでも俺は吹き飛び、奴の後方の木に激突。

 

「ぐはっ!!」

全身に痛みが走る………右腕は動かない……完全に折れた………

クソッ!奇襲しても、レベルが違いすぎる。俺の攻撃が全く効かない!!

どうする!!どうする!!

 

まだ、身体は動く!!

 

…………考えろ!考えろ!まだチャンスは有るはずだ!!

 

 

茨木童子は、すでに俺に興味が無いのか、由比ヶ浜と雪ノ下を物色しだした。

「両方共喰っちまうか!!」

 

……恐怖と絶望の色が二人に浮かぶ。

情けない!これが横島師匠だったら、二人にこんな恐ろしい思いをさせずにすんだ。

……だが、あいつらだけは助ける!!

 

俺は完全に気配を絶ち、這って奴の後ろに近づいていく。

 

 

茨木童子の奴は完全に俺に興味が無くなった。俺が反撃に出るとは思ってもいないだろう。

 

茨木童子は由比ヶ浜と雪ノ下に手をのばす。

 

 

外からの攻撃が効かなければ中から攻撃すればいい!!

今だ!!俺は一気迫りに奴の下に潜り込み、ケツに向けて神通棍を刺し上げる!!

 

 

美神令子除霊事務所!直伝奥義!!千年殺し!!!!

 

 

「ぐお!?ぐおおお!?」

茨木童子の動きがピタリと止まる!

 

這入った!!!

 

「霊力全開!!!!!!」

奴のケツの穴に這入り突き刺さった神通棍にありったけの霊力を注ぎ込む!!

 

「はぁああはぁああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんんんん!!!!」

悶絶しながら、激しく体中に霊力の放電をさせる!!

 

「まだだまだまだ!!!!」

俺は神通棍をグリグリしながら、霊力を注ぎ込み続ける!!

 

「あっはっははあーーーーーーーんんんんんん!!!!」

茨木童子は絶叫し、煙を上げる。

 

 

そして、煙を上げながら、その巨体がケツを突き上げた状態で前のめりで顔から倒れ地面に沈んだ。

 

 

や…やったか?………この裏技だけは使いたくなかった……見た目も後味も悪いしな……しかし決まったな。

外がダメなら内側から、内側が見つからなければ、こじ開けろ………か………どんな教訓だよ。あの師匠たちは………しかし助かった。

 

 

俺は神通棍を離し、フラフラと由比ヶ浜と雪ノ下ところに歩む。

全身、ボロボロだ。骨は何箇所もイッてるな………右腕の感覚は既にない。

 

「………行く…ぞ」

 

放心状態で地面にしゃがみこんでいる二人に声をかける。

二人の顔は恐怖の涙で濡れていた。

 

………無理もないか……

 

「………すまなかった。もう、大丈夫だ……か」

俺の意識が飛びかける。

 

俺は前のめりでその場に倒れる。

くそっ、身体が言う事きかん。

俺はそこで意識が飛んだ。

 

まだ、終わったわけじゃない。餓鬼やらも居るだろう。もう少しもてよ俺……こいつらを。

 

 

 

「ヒッキーーー!!」

「比企谷くん!!」

 

俺の眼の前には由比ヶ浜と雪ノ下の顔があった。

なんか、泣いてんな………そんな顔すんなよ。

いや………どうなった。意識飛んだのか?

 

おれは無理やり身体を起こす。

「雪ノ下……俺はどれくらい意識飛んだか?」

 

「一分も経ってないわ………」

雪ノ下のしっかりとして受け答えだ。少しは立ち直ったようだな。

 

俺は重たい身体を立ち上がらせる。

「ヒッキー無茶だよ」

「………あなた、身体がボロボロよ。腕も………」

 

「いいや…速くこの場を離れる。まだ………霊災は終わってない」

うまく立ち上がれないが由比ヶ浜が支えてくれた。

 

「い、いくぞ」

雪ノ下も俺の背中を支えてくれる。

 

霊気もほぼ使い切ったか………まあ、あいつを倒せただけでもラッキーか…………!?

 

 

俺は茨木童子が倒れている場所を見たのだが、………奴は立ち上がってきたのだ。

最悪だ!!あれを喰らっても………生きてるのかよ!!なんて生命力だ!!

 

「け、ケツ痛えええ!!痔になったぞ!!泥田坊に似たお前!!!!ぜってええ許さねえ!!」

 

茨木童子はケツを抑えながらゆっくりと俺に近づいてくる。

 

 

…………俺の占いと美神さんの占いが完全に当たっちまったな………こりゃ死んだな…………

 

「逃げろ!!!!全力でだ!!!!」

俺はありったけの力で雪ノ下と由比ヶ浜を押し出し、俺はその場で仁王立ちをし、半分ふさがった目で茨木童子を見据える。

「ヒッキーーー!!」

「比企谷くん!!」

 

 

「逃さねえよ。その前にお前は死んでしまえ!!!」

茨木童子は俺に拳を振るってくる。

 

もはや避ける力も無い…………終わったな………横島師匠何やってるんですか……もう、お別れですよ。

せめて……あの二人だけでも………助けてやってください。

 

 

しかし、茨木童子の拳は俺を粉砕する事無く……地面にゴトリと落ちる。

 

「ぐわあああっ!!」

 

 

 

「お前…俺の弟子に何やってくれてんだ?」

 

 

目の前に、俺がいつも追いかけてたその背中があった。




ついにあの人登場!!
次回はあの人無双?


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⑲ゴーストスイーパー横島忠夫

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ここの横島くんはかんな感じになりましたw



茨木童子は殺意を持って俺に拳を振り上げる。

 

俺は既に霊気を使い果たし、立っているのがやっとだった。

この拳は避けられない。

俺は死を覚悟した。それと同時にせめて由比ヶ浜と雪ノ下は逃げ切れるようにと祈った。

 

 

しかし、茨木童子の拳は俺に届くことは無かった。

その拳は腕ごと地面へと落ちたのだ。

 

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

 

 

「おい、俺の弟子に何やってくれてんだ?」

 

 

俺の目の前に、尊敬する師匠の背中があった。

 

 

………横島師匠

 

俺はその背中を見て一瞬ホッとするが………いや、相手はSランクの茨木童子だ。いくらなんでも師匠でも……

 

こ、これは?

立っているだけで横島師匠の凄まじい霊力と霊圧がビンビンに伝わってくる。

なんだこれは………これが本当に横島師匠の霊力か?

横島師匠の必殺の術技、霊波刀ハンズ・オブ・グローリーがその左手に燦々と輝いていた。

茨木童子の腕を切り落としたのは間違いなく横島師匠だ。しかしその動作が全く見えなかった。

俺は今まで感じたことがない霊力と霊圧に圧倒されていた。

 

「八幡遅くなった。よく耐えた……格好良かったぞ。流石は俺の弟子だ」

横島師匠は振り返り、何時ものニカッとした笑顔でそう言ってくれた。

 

「結界!……八幡そこでゆっくり休んでろ。………そこの女の子二人、八幡を見てやってくれ」

横島師匠は右手からビー玉サイズの霊力の集合体の玉ようなものを手の平に生成させ、俺の方に放り投げた。

その霊力の集合体の玉は結界の2文字が浮かび上がり、そして、俺と由比ヶ浜と雪ノ下を覆うように凄まじい霊力を内包した円形の結界が形成される。

 

「おい、そこの鬼!!悪さが過ぎたな!!よりによって俺の弟子を狙うとはな!!ゴーストスイーパー横島忠夫が冥府に送り返してやる!!」

 

 

………なにこれ?横島師匠変なものでも食べた?めちゃ格好いいんだけど!その口上とかなにそれ?あれ?こんな格好良かったっけ?

 

俺はその場にへたり込むように腰が落ちた。

倒れずにかろうじて、座ってられたのは、由比ヶ浜と雪ノ下が支えてくれたからだ。

 

それとこの凄まじい結界を形成したあの珠……横島師匠が以前、話してくれた文珠という術技だ!

始めて見た。いままで文珠を使ったところを見たことがなかった。

それにしても、霊力を一定方向に制御する技だと言っていたが………こういうことか、言霊をこの霊力の集合体である文珠に乗せることで、術式を一切介さずに術をそのまま発動させている。しかも凄まじい霊力を感じる。

実際見てわかったが……聞くのと見るのとでは大違いだ。凄まじい性能だ。

 

 

「がああああ!!俺の!!俺の腕が!!お前ーーーーーー!!」

 

茨木童子は怒り狂い残った腕で横島師匠を殴りつけようとする。俺の時とは違い本気の拳だ!

 

横島師匠は平然とした顔でそれを難なく片手で受け止める。

よく見ると横島師匠の手の平には小さなサイキックソーサーのような盾が形成させていた。

 

…………なんだ。まだ横島師匠の霊力が上がっている!

美神さんや美智恵さんどころの騒ぎじゃない。

 

「この騒ぎを起こしたのは誰だ?お前じゃないのは分かっている」

横島師匠は茨木童子に聞きながら、ハンズ・オブ・グローリーを目にも止まらない速さで、茨木童子の残った腕の肩と両足の付け根に突き刺す。

 

「ぐわあっ!!」

茨木童子はたまらず、もんどり打って倒れる。

 

なんなんだ!圧倒的じゃないか………相手はSランククラスだぞ。それを赤子の手を撚るように………

GSのSランク、人間としても隔絶した存在だ。それでも中級魔族となんとか一人で対峙できるってだけの判定。やりあっても生き残れるぐらいの感じだ。それぐらいの物だ。それぐらい中級魔族以上とは人智を超える力をもっているのだ。……それをこんなあっさりと倒せるなどとはまったく想定していない。……なんだこの圧倒的な力は………

 

 

「もう一度聞く、この一連の騒ぎを計画し、お前をそそのかしたのは誰だ?その依代となった人間に乗り移るように言った奴だ!!」

横島師匠はもんどり打って倒れている茨木童子にハンズ・オブ・グローリーを突きつける。

 

「ぐがあ!くそっ!人間の分際で何だその力は!!」

 

「俺の問に答えろ!!」

横島師匠は霊圧を上げ、茨木童子を脅す。

 

「………し、知らねえ奴だ!なんか変な仮面を付けた頭もすっぽり入る着物を着た奴だ!」

 

「………そうか…………かなり頭が切れるやつが居るようだな。まんまと俺も踊らされ、色んな場所へ行かされた」

 

「言ったぞ!殺さないでくれ!!」

 

 

横島師匠は右手からまた文珠を生成する。

「お前は封印だ」

 

「や、やめぇぇぇ…………」

文珠には封印の2文字が浮き上がり、倒れている茨木童子に掲げると…………茨木童子から黒い霧がその文珠に吸い込まれる。

それと同時に、茨木童子だったものが土御門数馬に戻っていった。

 

なんて能力だ……これが文珠、こんなこともできるのか……

 

 

「………もう、いないか、俺をかなり警戒しているようだな。俺が知っている奴のしわざか?あっさり引き上げたようだ。酒呑童子の再封印も安定してきたな。この分だと土御門だけで大丈夫だろ」

横島師匠はあたりを見渡しながら独りごちる。

 

横島師匠、あなたは一体。

 

 

「ふひひひひひっ!は~ちまん。何だそれ、ボッチとか言ってるくせに、可愛い子二人も侍らかせやがって!」

横島師匠はオレたちの元まで来て、いつもの少し意地悪っぽい笑顔で俺を茶化す。

 

「……勘弁してくださ…い。身体の骨のあちこちが折れてるん…ですから」

何時もの師匠だな………俺は内心ホッとする。

 

「あの!助けてもらってありがとうとございます」

「その……ありがとうございます」

由比ヶ浜と雪ノ下は俺を支えながら、師匠に礼を言う。

 

「お礼を言うなら八幡に言ってやってくれ、どうやら命がけで君たちを助けたようだしな」

 

「ヒッキー………ありがとう。嬉しかった」

「比企谷くん……本当にありがとう」

俺は二人に支えられながら素直にお礼を言われる。

なんかくすぐったい感じだ。

 

「……ああ」

 

師匠は俺を背負い。意識のない数馬を小脇に抱える。

雪ノ下と由比ヶ浜を連れ、麓の町並みまで出る。

俺はかろうじて意識を保っているが、もう持ちそうもない。

 

「ええっと、八幡の彼女達さ、八幡がゴーストスイーパーだって、学校で黙ってくれない?それと今からこいつの治療しないといけないから、怪我して陰陽師に運ばれたってことにしてもらっていい?今日見たことも学校や友達には黙ってもらえると助かる」

 

「彼女!?………わかりました。ヒッキー、元気になるんですか?」

「え?その病院にすぐに運ばなくていいんですか?かなり重症ですよ」

 

「大丈夫大丈夫!?これくらいなんともないし。そんじゃ」

師匠はそう言って、大きくジャンプした後、猛スピードでこの場を後にする。

 

「八幡……よく頑張った。もう寝ていい」

その師匠の言葉で俺は師匠の背中で意識が深く沈んでいった。

 

 

 

 

 

「…………雪ノ下か?」

 

「比企谷くん目が覚めたようね」

 

「………雪ノ下さん?ここは?」

いや顔立ちは似ているが、式服を着た陽乃さんだ。

俺はどうやら布団で寝かされているようだ。

 

「ここは土御門本家よ」

陽乃さんの言葉で俺は周りを窺う。

12畳ほどの和室の真ん中で一人寝かされているようだ。

 

「どのくらい寝てましたか?」

起き上がろうとするが、力が入らない。

ただ痛みはない。右腕の感覚も戻っている。どうやらヒーリングを誰か施してくれたようだ。

 

「丸一日よ。まだ寝てないと。怪我は比企谷くんの師匠が治したみたいだけど、霊気はまだ回復してないし霊的構造のダメージが相当残ったままよ」

丸一日か……修学旅行は終わってもう学校の連中は千葉に帰った頃だな。

 

「師匠は何処です?」

師匠がヒーリングを?確かに自分自身の回復スピードは凄まじい物があるけど、他人に使っているのを見たことがない。

 

「私ん所の師匠と今話してるわ」

 

「そうですか………」

あの時の師匠は……あれは何だったんだろう。

人間の域を超えているような凄まじい霊力に霊圧。……そして文珠

 

「比企谷くん……ありがとうございます」

陽乃さんが改まって正座のままきれいな姿勢で俺に頭を下げた。

 

「どうしたんですか?急にらしくないですよ」

 

「雪乃ちゃん……いえ、妹を命がけで助けてくれて………しかも私のせいで」

 

「あれですよ。俺もゴーストスイーパーの端くれですし、まだ見習い期間だけど」

 

「……雪乃ちゃんから電話かかってきたの、大凡の事は聞いたわ……兄う…数馬の件も……あの茨木童子相手に……雪乃ちゃんを守ってくれて………本当にありがとう」

陽乃さんは涙ぐんでいた。ここ(土御門)では本当に素の陽乃さんなんだな………

 

「いや、助けたのは横島師匠ですよ」

 

「……雪乃ちゃんが言ってたわ。どんなにボロボロになっても、情けない姿を晒しても、一生懸命に命がけで助けてくれたって」

確かに情けなかったな、敵に媚び売ったり、千年殺し決めたり………

 

「俺は………力及びませんでした。雪ノ下と由比ヶ浜を逃がすことすらも出来ませんでした」

 

「それでもよ!……一人だったら逃げれたはず!でも、雪乃ちゃんを見捨てず身を呈して守ってくれた………ありがとう」

 

「………まあ、なんですか。その3人しかいない部活仲間ですし、成り行きです」

 

「……もう、素直に受け取ってよ。比企谷くんらしいといえばらしいわ」

陽乃さんは涙目から、笑顔を見せる。

やっぱり、ここに居る時の陽乃さんの笑顔はいい。

 

「………茨木童子……平安の鬼。一人では手も足も出ませんでした。昔の陰陽師や武士は強かったんですね」

 

「………それを言うなら、あなたの師匠よ。横島忠夫!雪乃ちゃんからの情報だと、一瞬で倒したっていうじゃない!なんなの?あれを倒すには少なくともSランクGSじゃないと……しかも一瞬って…でも、GSリストには乗ってないわ」

 

「…………何だったんですかね。あの時の師匠は」

俺は横島師匠の戦う背中を思いだす。

あの圧倒的な霊力に霊圧を………

俺はあんな師匠の姿を知らない。

でも……やはり………後ろ姿だけは、何時も俺が追っている師匠の背中だった。

 




というわけで、次は横島くんの真実?


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⑳京都での終演

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

いろいろとご意見があろうかと思いますが、徐々に開示していくので、待っててくださいね。皆さんの疑問が多かったものの一部をちょっと繰り上げて今回開示してます。

どうしても八幡目線での話なので、前後出来ないものが多いため、まだここまでなのは心苦しいですが…………、まだ、シロタマも出てないので、許してやってください。




「比企谷くん起きたみたいね。ちょっといいかしら」

襖の外から、土御門家当主、土御門風夏さんから声がかかる。

 

「どうぞ」

 

「入るわね」

風夏さんはそう言って襖を空けこの部屋に入る。

 

「よお、八幡元気か?」

そして、横島師匠が入って来る。

 

「そう見えますか?」

 

「いいな!八幡は!美人なお姉さんに看病されて!!俺も看病されたい!!」

 

「あんたは怪我したって一瞬で治るでしょう………冗談はさておき……師匠、助けて貰ってありがとうございます」

俺は上半身を起こし、師匠にお礼を言う。

 

「こっちこそ、すまん。あれは俺のミスでもあった」

 

 

風夏さんは俺の布団の右側に座り、風夏さんの横に陽乃さんが座り直す。

「比企谷くん。身体は大丈夫?」

 

「大丈夫です。力は入りませんが………」

 

「ちょっと話を聞いてもらっていい?」

風夏さんは俺に優しく聞いてきた。

 

「いいですよ」

俺の返事とともに横島師匠は俺の左側に腰を降ろす。

 

 

「すみませんでした。愚息が大変申し訳無いことを……あなたになんてお詫びすればいいか………」

風夏さんが頭を下げると同時に長男と陽乃さんも頭を下げる。

 

「いいですよ。こうやって無事でしたんで……その数馬さんも……操られていたようですし」

 

「いいえ、そういうわけには行きません。このお詫びはちゃんとした形に、させていただきますので」

 

「はぁ」

 

「八幡、こういう時は素直に受け取っておくべきだぞ」

師匠は俺にニヤケ顔でそう言う。

 

「わかりました。受けさせていただきます」

 

 

「それと、今から話すことは決して口外無用に願います。特に陽乃、妹にもよ」

風夏さんは俺と陽乃さんを見据えて言った。

 

「今回の件の。酒呑童子の再封印を邪魔した奴がいるって話だ」

横島師匠がそう切り出した。

 

「………今回、再封印に向けて、不安要素がありました。酒呑童子の生まれ故郷である越後……新潟ですね。そこで不穏な動きがあると……酒呑童子はあの八岐の大蛇の子供であるという説が有力です。それはすなわち、元神である八岐の大蛇の血を色濃く引いているということです。それだけ強力な鬼なのです。そこで、GS協会を通じ、緊急重要案件として横島くんを指名して新潟に調査に行ってもらいました」

……酒呑童子の生まれについては俺も知っている。有名な話だ。しかしなぜ、横島師匠を指名したのか………あの力を持っていると知っていたからか?

 

横島師匠が語りだす。

「俺は新潟に行って不穏な動きを探っていた。確かに新潟ではあちこちで鬼にまつわる霊障の類が起こっていたが…酒呑童子の封印とは無関係だった。俺はとっととその霊障をおさめ、京都に向かった。酒天童子の首が封印された場所と曰く付きの平等院。そして、胴体の一部が収められたといい伝わっている清水寺。何れも異常がなかった。もちろん松尾山は、土御門家が再封印のための術式を組んでいた事も確認した。確かに酒天童子の霊気が漏れつつあったが、想定範囲内だった。そして、一昨日から酒天童子にゆかりのある場所で次々と霊障が起こっていた。滋賀の伊吹山近隣、それも霊障を抑え、昨日の夕刻前土御門家に戻り報告。ちょうど八幡が出ていった後だ。その後、松尾山周辺を探りを入れていた」

 

なるほど、それで昨日、戸部の海老名さんへの告白タイムにかち合ったのか………

 

横島師匠は話を続ける。

「その後、またしても、酒天童子のゆかりのある奈良の葛城山で大きな霊障が起こったと報告を受け急行した。ちょうど葛城山に到着した辺りで、昨日の酒天童子の封印が解けかけ、霊気が一気に漏れ出す現象が起きた」

 

「私はこの緊急事態に、酒天童子の封印だけは解かないように、強力な結界術式を張り巡らせ、なんとか抑えました。……後でわかったことですが、何者かが、結界陣の祠の一部に細工をしていたようです。………多分数馬が行ったのでしょう。既に何者かに操られていたのかもしれません。そして、比企谷くんがご存知の通り、数馬は茨木童子に操られる始末に……茨木童子は本当は私を狙う予定だったのかもしれません」

風夏さんは悔しそうな顔をしていた。

 

「俺は体よく、京都から遠ざけられたって事だ。……俺を知っている奴の仕業だとしか思えない。その罠に嵌まったんだ。だから……俺は京都に戻るのが遅くなった」

横島師匠は俺に申し訳無さそうな視線を送っていた。

 

「しかし、その何者かには誤算がありました。茨木童子がうまく機能しなかったことです。比企谷くんが身を呈して時間稼ぎをしてくれたと言っていいでしょう。そして、横島くんの帰還スピードです。誰もあの距離を一瞬で戻れるなんて思っていなかったに違いありません。それはこれを計画した何者かもです」

風夏さんは俺と横島師匠に目配せをしながら頭を下げた。

 

この戦いの裏では…………こんな話になっていたのか………いや、何だこれは………横島師匠ありきの話じゃないか………どういう事だ?

 

「………師匠。その横島さん。聞いてもいいですか?」

陽乃さんは風夏さんと横島師匠の顔を交互に見る。

 

「どうぞ」

 

「その妹に聞いたのですが…あの茨木童子を一瞬で倒したって……横島さんが……………」

 

「横島くん……比企谷くんは………」

風夏さんは横島師匠に何かを確認するかのような口ぶりをする。

それに横島師匠は首を振って否定した。

 

「横島くん………いいの?」

 

「ちょうどいい機会です。八幡も命がけで人を守ることができる立派なGSです」

横島師匠は何なのかはわからないが、風夏さんに一任する。

………真面目顔の師匠にそう言われると嬉しいやら、照れくさいやら………一人前のGSに認められた気分だ。

 

 

「陽乃、それと、比企谷くん。今から言うことも他言無用です。世界でも極一部の人間しか伝わっていない情報です。あなた達はその一部に触れたためです」

風夏さんは緊張感のある面持ちで俺たちに再度確認をとる。

 

「はい……」

「わかりました」

 

「横島くんは…………SSSランクGS。ブラックカードの免許をもったGS。世界でたった一人の………唯一魔神に対抗できる人間です」

 

!?ば…………ばかな……………魔神………………だと………………………

俺はあまりの衝撃の言葉に頭が真っ白になる。

陽乃さんも俺と同じようだ。口が空いたまま塞がらないようだ。

 

「大げさっすよ。魔神何かと出くわしたら、逃げるのが精一杯っすよ」

横島師匠は苦笑気味に言う。

 

俺はそんな横島師匠を呆然と見ることしか出来なかった。

 

 

それが事実であれば………横島師匠は上級神に匹敵する力を得ているということだ。

………生身の人間が可能なものなのか?………そもそも……魔神なんていうものが本当に存在するのかも怪しい………

 

この100年、世界で上級魔族の存在も確認されていないはずだ。

なぜそんな事が………

 

 

「あらあら……陽乃も黙っちゃって、いつもの元気はどうしたの?流石にこの話は厳しかったかしら」

 

「………いえ…その」

陽乃さんも俺と同じだ理解をしようとしても、身についた常識がそれについていけないのだ。

 

「まあ、あれだ。ランク付けなんてただの記号だ。それで真の実力が図れるわけじゃないし、指針みたいなもんだ。一応そんな大層なランクがついてるが。一応そういうふうな基準になっているってだけってなもんで、大した意味はない」

横島師匠はあっけらかんと言う。

 

「師匠……意味が無いって………でも、茨木童子を倒した師匠の霊力は明らかに美神さんや美智恵さんよりも上でした。霊圧も半端なかったです」

 

「……八幡の霊視に優れた目には………わかっちゃうか…………」

 

「美神さんは……それを知って師匠をこの件に派遣を………キヌさんは?」

 

「もちろんおキヌちゃんは知ってるよ……シロとタマモもだ」

 

 

「はい、もう堅苦しい話は終わり、横島くんのことは、そういう人だってことだけ頭に入れてくれたらいいから……皆夕飯まだでしょ、準備させるから食べましょ」

風夏さんは手を打って、この話を終わらせる。

 

 

その後の夕飯は何を食べたのかその衝撃の事実で覚えていない。

多分豪華な物がでたんだろうが………

 

 

俺は土御門本家でもう一泊して、明日の朝、横島師匠と共に千葉へ帰ることになった。

 

 

俺は布団の中で、茨木童子と戦った事、今日知った横島師匠の事が頭に離れず、中々寝付けなかった………

 

茨木童子………確かに、Aランクを遥かに越える霊力を持っていた。まず間違いなくSランククラスの霊力だ。

 

それをいとも簡単に倒してしまった横島師匠。

 

そして………世間では秘匿されている世界唯一のSSSランクGS。魔神と対抗できる人間。

 

そもそも魔神が現存するかも怪しい存在だ……なのに存在するSSSランクGS

その意義はなんだ?

 

SランクGSの美神さんや美智恵さん、風夏さん。

 

AランクGSの西条さん、小笠原エミさん、六道冥子さん、唐巣神父。

 

俺らが教本で習ってきたのはSランクGSまでだ。

SランクGS、中級魔族、中級魔族と同等の力を持った存在と対峙できる力をもつGS。

AランクGS、下級魔族、下級魔族と同等の力を持った存在と対峙できる力をもつGS。

 

Bランク以下は除霊実績などで主にランク付けされる。

 

そもそも、AランクGSに上がった人はこのランク付けシステム出来てから居るのか?

 

そして……横島師匠だ。SSSランクってなんだ?その間のSSがあっても良さそうだが………

 

 

ランク付けシステムが出来て2年、

大凡3年前の世界一斉大厄災があり、それに伴い。法令の改正などの大改革の際出来たものだ。

 

この……GSのランク付けに…………違和感を感じる。

GSランク付けにはなにか裏があるのでは………GS協会いやオカルトGメン、上層部はなにか隠していることが?…………いくら考えてもわからん。

 

 

しかし、今日の横島師匠、格好良かったな………師匠があんなに強かったなんてな………まあ、それはそれであの人の弟子でやりがいが有るってもんだ。横島師匠にこのまま鍛えてもらったら、下手すると美神さんより強くなったりして………………ありえないか…………………相手がSランクとはいえ…デコピン一発で命の危機に陥るようじゃな。ちょっとは近づけたかもって思ったのにな。はぁ……横島師匠の背中はめちゃくちゃ遠い。

 

ああ、今日はまじで命の綱渡りだったな……………もう二度とごめんだ………………!?

 

 

ああ!?

 

あああああ!?

 

明後日から、学校じゃねーか!?

 

雪ノ下と由比ヶ浜にGSってバレて!!

 

しかもーーーーーーー!!

 

あんなことや!!………こんなことや!!………そんな恥ずかしいことを口走ってしまってるうううううーーーーー!!!?

 

どんな顔して会えばいいんだ!!おいーーーーーいい!!

 

あれ?あれ?あれ?……これ終わってない?

 

なにこれ!?もしかして西遠方で死ぬほどひどい目に会うってこれのことじゃねーか?

 

ああああ!!恥ずかし!!恥ずかし!!あの時の俺、死んどけよ!!もう、学校行くのいやだ!!!!もう引き籠もるしか無い!!!!ああああああーーーー!!

 

 

 

俺はこの日、あまりにもの羞恥心で眠れなかったのは、仕方ないだろう。

 

 

 

 




横島くんのこの強さの秘密はもちょっと後になります。
シロ、タマモ登場後になります。

その他もいろいろと疑問があるかもしれませんが…………待ってください。

感想ではお答えできる範囲でお答えさせていただきますんで…………
ズバリは厳しいですけどww

次回はちょっとあれです。
学校に行きづらい八幡のお話です。


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㉑久々の学校

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

長くなったので、途中で切っちゃいました。



京都からの帰り。

「横島師匠……俺は今回力不足で有ることを身にしみました。GS資格免許を取ったからといって浮かれていたのかもしれません。茨木童子には全く歯がたちませんでした。師匠がいなければ、俺は死んでいました。そしてあの二人を助けることすら出来ませんでした」

 

「八幡。茨木童子を倒すことが目的だったのか?違うだろ?あの子達を助けることが目的だったのだろ?だったら八幡の勝ちだ。八幡が生き残れた。あの子達は怪我もなく助かった。どんな形だろうが、これはお前が泥をすすりながらも勝ち取った勝利だ」

 

「……師匠………………なんか変なものでも食べましたか?……それとも昨日酒にでも手を出しましたか?」

横島師匠なに?ちょっと涙がでそうなんですが、めっちゃ嬉しいんですけど………やはり横島師匠は格好いい。これがずっと続けば良いんだが…………

 

「おいーーーー!!俺だってたまには良いこと言うぞ!!………あっ、八幡!あそこのお姉さんめっちゃ美人じゃね?バスト84のCだ!!」

……やっぱ続かなかったか…………で、いつも思うんだが、なんで見ただけで胸のサイズがわかるんだよ!人間メジャーかよ!!

 

 

 

 

俺は翌日、午前中一応病院で検査を受け、午後から学校に登校した。

職員室に行き、担任の先生と平塚先生に挨拶をする。

 

なんか、平塚先生涙目だったな……心配かけたみたいだ。

 

 

5時限目から出られるな……ああ、ダルい。霊的構造もまだダメージ残ってるし、霊気もまだ回復していない。本調子には程遠い。

……由比ヶ浜とは顔を合わせづらいな。まあ、なるようにしかならんな。嫌われたら嫌われたで仕方がない。

 

教室に入ったのは良いのだが…

 

「ヒッキーーーー!!」

勢いよく由比ヶ浜に抱きつかれた。

俺はなんとか踏ん張って、倒れるのだけは避ける。

 

「……おい!ちょ、離れろって」

俺は無理やり由比ヶ浜を引っ剥がす。

めちゃ恥ずかしいし、お前はいろいろと危ない感じになるから!八幡の八幡が反応しちゃうから!

 

「ヒッキー!もう大丈夫なの?……」

由比ヶ浜は俺の体のあちこちを触ってくる。

 

「大丈夫だ。この通りだ」

俺は由比ヶ浜にバンザイしてみせる。

 

「本当に?」

何故か涙目の由比ヶ浜。

どうやら、嫌われてはないようだが……なんか心配性のかーちゃんみたいになってるぞ。

 

「ああ、心配かけたな……授業始まるぞ」

 

「よかった……」

 

後で戸塚に聞いたのだが、どうやら俺は、妖怪に襲われて病院に運ばれた事になっていたそうだ。

それも、由比ヶ浜と雪ノ下を庇ってという尾ひれ付きだ。

間違っちゃいないがな。

そのおかげで文化祭後最底辺だった俺の株はちょっと上がったらしい。

クラスの様子や戸塚の話しぶりから、どうやら由比ヶ浜以外のクラスメイトにはGSバレは無い様だ。

 

 

放課後、俺は覚悟を決めて、奉仕部へ向かおうとしたのだが………

何故か由比ヶ浜が俺の横を「えへへへ」と嬉しそうにしながらピッタリとくっついて歩くのだ。

歩きにくいし、なんかいい匂いするし、恥ずかしいんで止めてくれませんかね。

 

「はぁ」

なんなんだこいつは?よくわからん。

まあ、嫌われなかっただけよしとするか……問題は雪ノ下だな。

陽乃さんと電話で随分話してたみたいだからな………こりゃ、毒舌、罵りのオンパレードか、口を聞かないパターンか。何れにしろ嫌われただろうな。

 

俺は覚悟を決めて奉仕部の部室扉をガラリと開く。

 

「うっす」

 

「やっはろー、ゆきのん」

 

「比企谷くん!……と由比ヶ浜さん。こんにちは」

俺の顔を見て勢いよく立ち上がるが、また、すぐ席に座り直す。

 

俺はいつもの廊下側の席に座ろうとしたのだが………

 

「んっんー、比企谷くん。ちょっといいかしら」

 

「あ、ああ」

来たな……まあ、しゃあないか。GSのバイトは嘘ついて隠してたしな。

 

「……こっちに来てもらっても良いかしら」

そう言って雪ノ下が何時も座っている窓際の椅子の前に何時もはない椅子が対面に置かれていた。

ここに座れということなのだろう。

俺はそこに座ると、由比ヶ浜が椅子を持ってきて、俺の横にピッタリ椅子をくっつけ座る。

 

「………おい」

俺は自らの椅子を横一個分ずらして座る。

 

しかし、由比ヶ浜は「てへへへ」とニコニコ笑顔を俺に向けて、その一個分を詰めてくる。

 

なんだか、こいつが飼ってる犬のような仕草だ。名前はクッキーだっけ?いやソフレだっけか?

 

「んっんー、由比ヶ浜さん?それでは話しづらいわ」

 

「う~」

由比ヶ浜は渋々といった表情で、椅子を一個分離す。

 

「その……怪我の具合はどうなのかしら?」

 

「ああ、俺の師匠が……治してくれた。一流の霊能者だからな」

 

「そう………ところで比企谷くん…………」

来たな…俺は知っている。下手な言い訳や、遅い釈明は相手を余計に相手を怒らせ、とんでもない目に会う。……横島師匠がそれを証明してくれている。下手な言い訳をする度に、普通の人間だったら死んでしまうような制裁を受けている。………しかも毎度だ。学習能力が全く無いんじゃないかと疑うレベルだ。

 

だから俺はこうする。

「すまん。黙っていて悪かった……」

 

俺は席を立ち、二人に向かって詫びのお辞儀をする。

先手必勝だ。先に謝れば、印象はガラリと変わるはずだ。

 

「え?……」

「ヒッキー?」

 

なんか驚いた表情をしているぞ?俺が詫びを入れるのがそんなに珍しいのか?……まあ、珍しいわな。

 

「俺がGSで、GSでアルバイトをしていたのを黙ってた事だ」

 

「いえ……そうじゃないの」

「ヒッキーがなんで謝るの?」

 

これじゃない?違ったか?

 

「その……せ、先日は助けてくれてありがとう」

「ヒッキー、本当にありがとう!」

雪ノ下は照れくさそうに視線をそらしながら、由比ヶ浜は上目遣いの笑顔で、そう言った。

 

「……助けたのは、俺の師匠。横島忠夫だ。俺は何も出来なかったからな……」

 

「あたし達の事を助けてくれたのはヒッキーだよ!!あたし達のこと一生懸命に!!あんなにボロボロになって!!怪我までして………」

 

「私は恐怖で何も出来なかった。逃げることも出来なかったわ。何度もダメだと思った………それでもあなたは、諦めないで………私達を助けようとしてくれた。だから、ありがとう…よ」

 

「……まあ、弱くてもGSの端くれだからな………」

 

「ヒッキーは弱くないよ!あたし達を助けてくれたもん!」

 

「姉さんが言っていたわ。比企谷くんだけだったら逃げることが出来た状況だったと……それなのに…………わざわざ、私達のところに戻って……」

 

「後味悪いだろ?……知り合いが目の前で殺されるかもしれないのに、その……放っておくのは…さすがにな」

俺は視線をそらしながら、そういう。流石に面と向かってお礼を言われるとは思って無かっただけに、気恥ずかしさが倍増だ。………まあ、悪い気はしないが。

 

「……本当に素直じゃないわ。相変わらず捻くれた思考をしてるのね。あなたらしいと言えばらしいのだけど」

 

「ヒッキーのそういう所は変わらないね。でも、本当に嬉しかった!ヒッキーが何度も何度も庇ってくれて!あんなに必死になって…あんな怖い鬼から!!」

 

「……そういえば捻くれ者の比企谷くん。あなた、あの恐ろしい鬼となにか交渉していたみたいだけどなんなのかしら?」

雪ノ下は何時もの調子に戻りこんな事を言ってきた。

………それはその……あれだ。鬼の配下になったら、女をおすそ分けしてくれると言ってたのだが、……俺は受けてないからな。断じて心は動かされてない!

 

「いや……あれはだな」

 

「ヒッキー、あたし達の事、気に入ってるから鬼にくれって言ってた。それってその………その……えっと……ヒッキーはあたし達の事を……その?」

 

「それはだな。ああ、あれだ時間稼ぎの…なんだ」

 

「そういえば………こんな事も言ってたわね。『この二人は俺の恋人なんだ!』と……これはどういう事かしら?私が何時、あなたの恋人になったのかしら?」

雪ノ下は不敵な笑みで、俺のトラウマになりかけたあの言葉を俺の口調を真似て言ってきた。

や、やめてーー!!それは忘れたいトラウマベスト5に入るから!!

 

「あたし達は、ヒッキーの恋人なんだーーー!そうなんだ!」

由比ヶ浜はなぜか嬉しそうに俺の顔を覗いてくる。

 

「私達を普段からそういう目で見てたということかしら。しかも……二人を同時に恋人などと……あなた、あの鬼が言っていた公家か貴族なの?ハーレム谷くん」

雪ノ下はわざとらしく自分の体を腕で抱いて俺から身を引く仕草をする。

 

「その……すまん。緊急事態でだな。時間稼ぎをするためにだ。だからわ、忘れてくれ」

雪ノ下と由比ヶ浜を助けたいからのブラフだからといって……二人同時に恋人宣言ってどんなゲスなんだよ。あん時の俺は!

 

「忘れないし。………怖かったけど。あの時のヒッキーあたし達を何度も何度も、立ち上がって庇ってくれて嬉しかったの!すごく嬉しかった!だから忘れないし!」

 

「あら?残念ね。時間稼ぎのためだけに、あんな事を言ったのかしら?……ゴーストスイーパーの比企谷くん?」

何時もの雪ノ下なんだが、なんとなく楽しそうだぞ。俺をいじめて楽しいのか?

姉妹そろって、S気質なのか?

 

「言ってろ」

はぁ。恥ずかしいからその話題そのそろそろ止めてくれませんかね。俺もうここで悶絶死しちゃうぞ?

なんだ、由比ヶ浜の奴、席を少しづつ詰めてきたぞ。

 

「そうだ!ヒッキー。ゴーストスイーパーだったんだね。最初の小さな妖怪をあっと言う間に倒しちゃった時は何がなんだかわからなくて、びっくりしたけど。ヒッキーは何時もより格好良かった!あの、ゆきのんのストーカーみたいな奴もなんかバーンってやっつけて!凄かった!!」

 

「姉さんから聞いたのだけど、修学旅行の数日前あなたが学校休んでいたのは。GS免許試験を受けにいっていたためだったのね」

 

「………免許取り立ての見習いだよ!悪かったな!」

 

「そうなんだ!ヒッキーがゴーストスイーパーって凄いね!陽乃さんもゴーストスイーパーなんだよね。ヒッキーは前から知ってたの?」

 

「いいや、知ったのはそのGS免許取った時が始めてだ」

 

「ふーん。でもなんか仲よさげ」

由比ヶ浜は疑う様な目で俺を見る。

 

「そんな理由無いだろ?」

何処をどう見たらそうなるんだ?……いや、なんかそう言えば、俺を婿にするとか言ってたなあの人、あれ冗談だよな。

 

「ヒッキー!それでゴーストスイーパーってどんな事をするの?」

 

「……由比ヶ浜さん。知らないで散々ゴーストスイーパーの比企谷くんを褒めてたのかしら?」

 

「し、知ってるよ!幽霊とか妖怪とか倒すお仕事でしょ!でも、何やってるか見たことないから」

 

「まあ、そうだな。戦って倒す事もあるが、けっこう地味な仕事も多い。幽霊が近づかないように細工したりとか。霊障の原因を探って、解決したりな」

 

「ふーん。ゴーストスイーパーってどうやったらなれるの?あたしでもなれる?」

 

「ゴーストスイーパーは超難関国家試験よ。試験は年2回。年間32名しか取得出来ない免許よ。学力テストだけでなく。実技が必要なの。誰でもなれるようなものではないわ」

雪ノ下、なんかめちゃ詳しいんだけど。まあ、なんだかんだいって、陽乃さんの事が気になって調べたのだろう。

 

「ヒッキー!!めちゃくちゃすごいじゃん!!」

 

「おい、さっき褒めてたのはなんだったんだ?」

さっきのはなんにも知らなずになんとなく褒めてくれたようだな。まあ、由比ヶ浜が知ってるわけもないか。

 

「そう、誰にでもなれるものではないわ。特殊な才能が必要なの。血筋や生まれ持った才能が………雪ノ下は陰陽師の大家、土御門家の分家筋……霊能者の家系。大分血は薄まってはいるのだけど、たまに霊能力に優れた人が生まれるわ。……それが姉さん。生まれた時から才能に恵まれて、それでGSに………私には……まったく才能が無かったわ。………」

雪ノ下は最後の方はうつむき加減で話す。

まあ、優れた姉がいると苦労するのだろう。あの人の場合。霊能力うんぬん以前に全てにおいて高スペックだからな……同腹の妹として思うところが有るのだろう。

 

「そ、そうなんだ。ということは、ヒッキーって霊能者の家系なの?そしたら小町ちゃんも?」

 

「いいや。俺の家系は誰一人霊能者はいないはずだぞ。聞いたこともない」

 

「……ということは突然変異かしら?」

突然変異って。もっと言い方ってものがあると思うんですが。雪ノ下さんや。

 

「……そんなようなもんだ。しかも俺の場合、後天的にだがな」

あんま言いたくなかったのだがな……どうやら陽乃さんは俺があの事故で霊能に目覚めたことを雪ノ下に黙ってくれてるみたいだしな。

 

「ヒッキーって天才だったんだ!」

 

「いや、才能は無いから……大分苦労した。俺の様に後天的に霊能に目覚めちゃうと、生まれ持って霊能がある奴と違って、扱うすべがないから暴走しちまう。だから、アルバイトをしながら霊能者のお世話になって、扱うすべを学んでいたということだ」

 

「……………」

雪ノ下は何かを考えているようだ。

バレるなよ。バレると余計な面倒が増える。

 

「でも、ヒッキーいっぱい妖怪たおしてくれたよ?」

 

「師匠の教えが良いからな」

 

「師匠って、あの横島さんっていう人?ナンパばっかりしてた変な人?」

間違っちゃいない。確かに変な人だ。普段からちゃんとしてくれたら良いのだが………

しかし、この前の戦ってる師匠はなんか別人に見えるぐらいの迫力だった。

……なんか、真ん中ぐらいでちょうどいい感じなのはないのか?あの人は………

 

「そうだ。あの人は普段あんなだけど、こと霊能については超一流だ」

 

「なんか。兄弟みたいに仲良さげだった」

 

「ああ、良くしてもらってる」

 

「へ?ヒッキーが他人を褒めた?」

 

「ま、まあな。俺がこうして普通の生活をしているのはあの人のお陰だ」

 

 

「……………比企谷くん………もしかして、あの事故で…………」

しばらく会話に入らず何かを考えている風だった雪ノ下は恐る恐る聞いてきた。

 




次回はバレちゃうのと
ついに、シロタマ登場!


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㉒ようやく登場!

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

京都修学旅行編がここで終わりです。
今までお付き合い頂きありがとうございました。



「………比企谷くん……もしかして……あの事故がきっかけで…」

雪ノ下は恐る恐る俺に聞いてきた。

やはり、バレたか………

まあ、何れは話さないといけないことだしな。

これ以上、嘘に嘘を重ねるわけにも………いい機会だったのかもな。

 

 

「ゆきのん、何のこと?」

 

 

「先に言っておくぞ。雪ノ下や由比ヶ浜が悪いわけじゃないからな………そうだ。あの入学式の事故の後に俺は2日間の昏睡状態で、目が覚めたら霊能力に目覚めてた。浮遊霊が見えていたんだが、最初は何のことかわからず、事故で頭を打って、ただ単に頭がおかしくなったのだと思った。………だがそうじゃなかった。俺から漏れ出す霊気が幽霊を呼び寄せて、怪奇現象のオンパレード。霊能力が暴走し俺自身がいわゆる霊障そのものになっていた。その時に病院の依頼で除霊を行いにきた美神令子除霊事務所の面々に助けてもらって、拾われたってわけだ。あのままだと俺は悪霊や妖怪に喰われるか、取り憑かれるかされてたそうだ」

 

 

「ヒッキー……それって………」

「………そんな状態で」

 

「そんな顔するなよ。事故そのものも別にお前らのせいじゃないだろ。俺の意思で、車道に飛び出し、由比ヶ浜のとこの犬を助けようとして、雪ノ下が乗っていた車に轢かれただけだ。その後、霊能力に目覚めたのは、単なる偶然で、全く関係ない」

 

「でも……」

「…………」

 

「俺はその縁で、美神さんや横島師匠に出会えた。美神令子除霊事務所でアルバイトしながら、霊障の克服のために、霊力コントロールを学んだ。まあ、なんだかんだあって、霊力コントロールもうまく行き、俺自身がGSになれるぐらいの実力がついたってわけだ。今となってはあの事故に感謝してるぐらいだ。美神さんや横島師匠に出会え、GSにまでなれたんだからな。将来を約束されたようなものだ。サラリーマンとかガラじゃない………それと俺のGS能力が少しでも、役に立ったようだしな………」

正直、美神令子除霊事務所のアルバイトはきついが、充実感はある。

もし、何もなく高校の1年半をダラダラ過ごしていたとすると……今の俺は無かった。

 

「ヒッキー………」

「比企谷くん………」

 

「だから、この話はもう無しだ」

 

「でもヒッキー………うんわかった。それでも、ヒッキーにはありがとうだよ」

「比企谷くん……わかったわ。姉さんもこの事を?」

 

「雪ノ下さんは知ってる」

 

「うー、なんか陽乃さんとヒッキーっておそろいみたいでずるい」

「姉さんといつの間にか、そんなに仲良くなったのかしら?」

由比ヶ浜がなんかふくれっ面だし、雪ノ下はなんでそんな冷たい視線で俺を見るんだ?

 

「別に仲良くなんてなってない……その逆だ。GS試験で陽乃さんにボコボコにされたんだぞ」

その後、陽乃さんは婿がどうのこうの言っていたがそれは……きっと冗談だ。

 

「…そ、そうなんだ!」

由比ヶ浜さん。なんでそこで嬉しそうなんですかね。そんなに俺がボコボコなのが嬉しいのかよ。

 

「……姉さんらしいわね。でも、何か引っかかるわ。あの姉さんの言い回し」

雪ノ下は何か思い浮かべているようだ。

 

「ああ、それと、GSの事は学校の連中とかには秘密にしてほしい。学校に通ってる俺は飽く迄も一般の高校生だ。学校にはGSのアルバイトとGS免許のことは申請、許可を得ている。一部の学校の先生は知っているはずだ。多分平塚先生もな……確認とってないが」

平塚先生は学校生活を二の次にしていた俺を、学校につなぎとめるために、……いや、あの人の言い分だと、青春を謳歌させるために、この部に強制的に入れさせたのだろう。

そのおかげで、学校生活も退屈せずに済んではいる。

 

「うん。わかった!あたし達だけの秘密だね!てヘヘへ」

由比ヶ浜はそう言って、また、席を詰めてくる。

 

「そうね。あの時のあなたの話をしても誰も信じられないとは思うけど…………あの時のあなたは………ちょっと……その……かっこ……かったから」

雪ノ下はプイッと視線を外しながら最後はほとんど聞き取れない程の小さな声で何かを言っていた。

 

 

この後、GSについていろいろ聞かれたが……すぐに下校時間になる。

 

俺は途中まで、下校を共にした。

なぜか由比ヶ浜はピタッとくっついてくるが………

 

まあ、こいつらが助かってよかったな……あの時、諦めなくてよかった。

確かに横島師匠の言うとおりだな。由比ヶ浜と雪ノ下がこうやって助かった事自体が俺の勝利か………

 

 

 

ちょうど二人と別れた後、すぐに小町から電話が掛かってきて買い物を言いつかる。

俺はスーパーによって買い物をし、帰宅する。

頼まれた食材を見て………ある予想をしていた。

厚揚げに油揚げ……肉のブロックか……

 

 

俺は家の鍵を開け、玄関を開ける。

「小町帰ったぞ」

 

やはりか………何時もより靴が多い。来客だが………

 

 

「八幡殿!おかえりでござる!」

出迎えの声がかかる。女性の声だが、もちろんこの声は小町じゃない。

時代劇のサムライの様な口調だ。

長い髪をポニーテールで結んでる背が高めの元気いっぱいの少女が、笑顔で顔をだす。

 

「……なんでいるの?」

 

「折角の姉弟子が出迎えたというのに、何でござるかその態度は!そもそも八幡殿は拙者の弟弟子!もっと敬うべきでござるよ!」

年は俺とそれほど変わらない様に見えるこの少女は犬塚シロ。

 

「まあ、すんませんでした姉弟子……というかシロ、オカルトGメンの仕事で沖縄に出張してたんじゃないのか?」

俺はわざとらしくそう言った後。質問をする。

 

「今日帰ってきたんでござるよ!でもって、5日間休みをもらったでござるが、横島先生は何処かに出張だとかで……つまらないし、八幡殿のお家に遊びに来たでござる!」

そう言って、ジーンズのおしりから出ている犬の様なシッポをパタパタを振っていた。

そうこの少女は人間ではない。希少種である人狼族の娘だ。いわば妖怪の一種だが、神の使いであった一族のため、どちらかと言うと人や精霊に近しい存在なのだ。

詳しいことは知らないが、この容姿で、実年齢は小町より低いらしい。

 

「しっぽ……擬態できてないぞ」

 

「良いではござらんか!ここには今八幡殿と小町殿しかいないし!」

面倒だな……こいつの目的は………散歩だ。横島師匠はこいつの散歩に毎度付き合っていたらしいが……俺が弟子になった後、トレーニングの一環だとかで俺はこいつの散歩に毎回つきあわされた。1回の散歩で100km程度毎回走らされるのだ。嫌でも体力がついてくる。

一人で行けばいいのに、誰かと一緒がいいと毎回ダダをこねる。

そのへんが実年齢に即しているようだが………

 

「外では気を付けろよ」

 

 

「お兄ーちゃん。帰ったなら食材速く持ってきて!今小町料理で手が離せないから!」

キッチンの方から、我が妹、小町の声が響く。

 

「わーった」

俺はシロに買い物袋を手渡すと、シロはシッポを振りながらキッチンに持っていってくれた。

 

「ただいま」

靴を脱ぎリビングに入るとやはりもうひとりの少女がソファーに座っていた。

 

「おかえり、八幡……油揚げちゃんと買ってきた?」

この黄金色の髪の少女は俺と同じぐらいの年格好だが美少女というよりは美女と表現したほうがいい。雪ノ下の様にツンとした雰囲気をしているが、何故か妙に色気があるのだ。

 

「ほれ、もう小町に渡ってる」

 

「そう、ならいいのよ」

こいつの名前はタマモ、こう見えても1000年以上生きている別名九尾の狐と呼ばれる大妖怪だ。

霊気の内包量は流石である。

タマモがここにいる理由はシロとほぼ同じだろう。休みの間、俺ん家に泊まる算段だろう。

まあ、親父とかーちゃんは娘が増えたと喜ぶがな………

 

シロとタマモは美神令子除霊事務所の同じ職場仲間だが、彼女らの方が先輩で、シロに限っては横島師匠の一番弟子のため、俺の姉弟子にあたるのだ。

妖怪だが、彼女らは国やGS協会、オカルトGメンに認められた人間の協力者としての立場を得ている。彼女らの後見人は美神さんだがオカルトGメンの観察下でもあるため、オカルトGメンの仕事をよくやらされている。美神さんはなんだかんだと、美智恵さんには頭が上がらない。

まあ、報酬はきっちり貰っているようだが………

 

「タマモちゃんはテーブル片付けて!お兄ちゃんは料理手伝って!シロちゃんは食器出して!」

 

「わかったわ小町」

「はいよ」

「わかったでござる小町殿」

俺と二人は小町に素直に応じる。

何故かこの二人は小町に懐いている。特にタマモは小町を気に入っているようだ。

小町もこの二人には心を許している。

 

しかし、小町は美神さんや横島師匠に対してはどうも心を許していない。

態度を見ればわかる。

もっとも、美神さんや横島師匠は気にしてないが……

 

 

小町お手製の夕食がテーブルに並ぶ。親どもは今日も遅くなるらしい。

社畜はきついな。残業とか………

 

肉野菜炒めに揚げ出し豆腐。わかめの酢の物に味噌汁。

タマモにはそれと別にきつねうどん。

シロには、サイコロステーキを付けている。

二人の大好物だ。

 

「「「「いただきます」」」」

 

賑やかな夕飯だ。

小町は二人に出張先の沖縄のことをいろいろ聞いていた。

二人はお土産を小町と家の家族に用意してくれていたらしい。

 

 

俺は腹八分目にしておかなければならない。

霊気も霊的構造も回復していないが………食事の後、シロは必ず散歩を強請って来る。

今日は自転車で半分の距離で勘弁してもらいたいところだ。

 

 

小町は二人と会話を楽しみ、笑顔だ。

まあ、小町には今回も修学旅行で怪我して遅れて帰ってきたことで、心配かけてしまってた。今日ばかりは二人が来てくれてありがたく思う。

 

 

 

ん?これってはたから見ると、あれ?美少女3人に囲まれて生活している俺に見える?

 

あらぬ誤解を生みそうだな………学校の連中には見せられない風景だ………特にあの二人には………




というわけで、次章となるわけです。

ちょいと休憩してから、再開します。



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【三章】生徒会候補者編 ㉓生徒会立候補者問題

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


再開です。

ガイルイベント、一色いろは登場




 

 

シロとタマモの訪問を受けた翌日。

俺は普通に学校に向かうために家をでる。

「一度、八幡殿の学校に行ってみたいでござる」

などと言って、シロの奴は付いてこようとしたが、丁重にお断りした。

明日、土曜日で休みだから、好きなところに連れてってやると約束して納得させただけの話だが………

因みに俺も霊的構造が回復がまだなため、美神令子除霊事務所のアルバイトは来週末まで休みをもらっている。GS免許試験、京都の茨木童子との戦いで、立て続けに大きなダメージを喰らっているためだ。ゆっくり休養をとることが大事らしい。

美神さんは普段はめちゃくちゃ無茶を言うが、こういう時は無理は言わない。その辺は流石に一流のプロだと言ったところか……はたまた、大事な丁稚(戦力)を使い物にならないようにしないための予防処置なのかもしれないが。

 

 

放課後、部活に顔を出すが、やはり今日も由比ヶ浜の距離感がおかしい。

昨日から、やたらと近いのだ。

……まあ、目の前で俺があんな怪我したからな。優しいあいつの事だ。その辺を心配しているのだろう。

 

 

そこに、この学校の生徒会長城廻めぐり先輩がこの奉仕部に久々の依頼者を連れてきた。

 

「一色いろはです」

その依頼者は一年生の女子、美少女といっていい顔立ちだ。

口調は城廻めぐり先輩のように、ほんわかとした口調だが……たぶんこいつは狙ってわざとその口調にしている。時々俺の方をチラチラ見るところから、多分男受けするためにそんな事をしているのだろう。

因みに由比ヶ浜とは面識があるらしい、現在葉山や戸部が所属してるサッカー部のマネージャーだとか。

 

依頼はこうだ。

一色いろはを次の生徒会長選に当選させないようにしてほしいと………

 

なぜ、そんな事をと思うが、一色いろはは自ら立候補したわけではない。誰かが推薦人を勝手に20人募って、本人の意志とは関係なく一色を生徒会長立候補者として祭り上げたのだ。

 

どうやら、一色の話しぶりから、嫌がらせのようだ。一色は男受けをするが、同性には嫌われるタイプのようだ。そんな一色を苦々しく思っているクラスメイトやら同学年の女子がこんな事をしでかしたそうだ。

 

本人はその意志がないと、そんな物を無効にすればいいようなものだが……。

無碍に断ることが出来ないとのこと。立候補推薦を取り下げると、推薦者からの糾弾や一色にあらぬ悪評が立ちかねないのだそうだ。

それを見込んでのこの立候補者推薦なのだろう。なにそれ?女子の世界って怖くない?

しかし、これを考えたやつはなかなか頭が切れる奴のようだな。こんな事に頭使うんならもっと別な事に使えよな。世界平和的なアレとか……

 

一色は困って、生徒会長の城廻めぐり先輩に相談し、その城廻先輩も一色がダメージをくらわないという条件の解決方法を思いつくことが出来ず、奉仕部に相談に来たのだ。

 

 

そして………

一色のイメージにダメージを受けずに風評被害などを受けない解決方法として考えられるは…強力な立候補者に敗れる事だ。これならば、一年生の一色がダメージを喰らうことはない。

………その前にそんな奇特な立候補者は見つかるのだろうか?

 

俺的にはこんなドロドロした女の世界に関わりたくないんだが………生徒会の依頼となると断りにくい………

奉仕部は渋々といった形でこの依頼を受けることにしたのだ。

 

 

城廻先輩と一色が奉仕部の部室を出た後、雪ノ下はしばらく考え込んでいた。

 

「……私が生徒会長選挙に立候補する。…というのはどうかしら?」

 

「ゆきのんがなんで………」

 

確かに雪ノ下が立候補し、一色と選挙戦をすれば十中八九、雪ノ下が勝つだろう。……しかし。

 

「雪ノ下、生徒会長になりたいのか?」

 

「……私なら、一色さんに勝てるわ」

 

「いや、そこじゃない。雪ノ下が本当に生徒会長になりたいのかだ。……確かに雪ノ下が出れば、一色に勝つだろう。生徒会長もそつなくこなせると思う。しかし、そこに雪ノ下の意思があるのか?」

 

「……その方法が確実よ。…………私にはそれしか、……私にはその手しか考えられなかった」

雪ノ下はうつむき加減で、どこか自分を責めるかのような言い方をする。

 

「その案は却下だ」

俺は雪ノ下にハッキリと言う。

雪ノ下はこの案を提案はしたが、何か引っかかっている。それがなぜだかわかる。

もし、雪ノ下が立候補すれば、当選する。その後は生徒会長として、学校の生徒をまとめていくだろう。しかし……そこには既に奉仕部は存在しない。生徒会長と部活の両立は困難だからだ。

それは雪ノ下自身理解しているからこそのこの物言いなのだろう。

それだけではないようだが……自分を責めている?いや……苛立っているのか?焦っている?

 

「では、あなたは他の案があるというの!?」

雪ノ下は珍しく感情的だ。

 

「………今は、ない。……まだ、ちょっと時間がある。なにか皆で考えれば」

 

「私は考えたわ!考えてこれしかないと!」

 

「雪ノ下……何を焦ってる?」

 

「あ………ごめんなさい。声を荒げて……私にもわからない」

また、雪ノ下は俯いてしまった。

どうしたんだ?今日の雪ノ下は…らしくない。

 

「ゆきのん………」

由比ヶ浜はそんな雪ノ下を心配そうに声をかける。

 

「週明けにもう一度、意見を出し合うか」

 

「うん、ヒッキーあたしも考えてくる」

 

「……わかったわ」

 

 

今日は奉仕部を早めに切り上げる。

皆で、校門まで歩く。

由比ヶ浜は今日は、雪ノ下にピッタリとくっつく。

 

 

しかし………校門から人影が現れる。

 

「八幡殿!!待っていたでござる!!」

いきなり、そいつが飛びついてきた!

俺を押し倒す勢いだ!

 

「ちょ!ま、まて!!」

おいーーーーー!なんでここにいるんだこいつは!!

 

「ヒッキー?……その子だれ?」

何故かふくれっ面の由比ヶ浜。

 

「……誰かしら、その子は……随分親しそうね。スケベ谷くん」

冷たい視線を送り、何時もの様にディスる雪ノ下。………先ほどとは違い何時もの調子が戻ったようだ。これでこそ雪ノ下。

 

「散歩!散歩!散歩!!」

俺の顔を舐める勢いだ!

俺はそれを阻止するために、飛びついてきたシロの肩を掴み押しのける。

 

「なんで、来たんだよ!」

 

「じっと家で留守番するの性に合わないでござる!だから迎えに来たでござるよ!」

おい、タマモがいるだろ……まあ、シロと違ってタマモは結構インドア派だからな。小町の若者向け雑誌やら少女漫画やらを読んでくつろいでいるのだろう。

というか、言い方なんとかしろよ!それはあらぬ誤解を招くだろ!!

 

「家で留守番?迎えに来た?どういうことかしら?まさか!?」

「どういう事!ヒッキー!!」

 

「ちょ!シロ!離れろ……って、なんで、お前ら怒ってるんだよ」

 

「散歩!散歩!!」

 

「これはじっくり、話を聞く必要がありそうね」

「ヒッキー!!」

 

何これ?何だこれ?

俺は何もしてないのになんか修羅場みたいになっているのだがどうなってる?

修羅場とは、複数の女性と付き合って、それがバレて、責められる状況だよな。

俺は女性とも仲良くなった試しもないし、付き合った事もない。なんだこれは?

 

 

 

結局、この後すぐシロと雪ノ下と由比ヶ浜とサイゼに行くことになった。

 





この章は
ガイルイベント生徒会立候補者問題+クリスマスイベント+GS風イベントがMIX

次の章は
GS風イベント冬休み修行編予定




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㉔シロとタマモ

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます

続きをどぞ


 

「この子は誰?ヒッキー」

「どういう関係かしら?」

 

サイゼに到着し、席に座った瞬間二人は同時に喋る。

 

「ここに来る途中で言っただろ。バイト先の先輩だって」

 

「そうじゃなくて!」

「それは聞いたわ」

 

「八幡殿、このお二方はなぜ怒ってられるのでござるか?」

シロは俺の隣に座りながら、不思議そうに俺に尋ねる。

 

「よくわからんが、お前が原因だって事だけはわかる」

 

「なるほどでござる!!拙者、犬塚シロでござる!美神令子除霊事務所の仕事仲間で、八幡殿の姉弟子でござる!」

シロは二人の顔をまじまじと見て何か納得したような表情で自己紹介を始める。

 

「ご丁寧に、雪ノ下雪乃です。この男とは部活仲間なことはたしか……姉弟子?」

「由比ヶ浜結衣。ヒッキーのクラスメイトで部活も一緒です」

 

「シロは仕事仲間だ。姉弟子ってのは…お前ら横島さん知ってるだろ?こいつが一番弟子で俺が二番弟子なんだよ。……そういう事だ。納得してくれたか?」

 

「でも、迎えに来たとかなんとか……一緒に散歩とか…………」

由比ヶ浜はまだ納得いかないようだが……ったく、なんなんだ?

 

「俺の家に今、泊まってるんだよ。誤解がないように言っとくが、小町も居るし親も家に居るからな」

 

「それにしても随分親しそうね。あなたが女性を下の名前でしかも呼び捨てにするなんて」

 

「………ああ、こう見えてもシロは小町より年下だ」

 

「へ?……だって、ゆきのんより背高いし、その……モデルさんみたいに細いのに、その胸もあるし、年も同じぐらいなのかなって」

由比ヶ浜は不思議そうにシロをまじまじと見る。

あの、その言い回し地雷踏んでないか?…雪ノ下、自分の胸元見てから何故か俺を睨んでくるんだけど。なぜ俺?

 

「年は下でも拙者は八幡殿の姉弟子でござるよ!もっと敬うべきでござる!」

 

「……ひとりで散歩行けたらな」

 

「一人で行けるでござる!誰かと行ったほうが楽しいからでござるよ!」

 

「じゃあ、明日から一人な」

 

「ぐぬぬぬぬっ、そんな殺生な!八幡殿は酷いでござるよ!」

 

「……な、なんかヒッキーに小町ちゃん以外にもうひとり妹がいるみたいなかんじだね」

「そ、そうね」

由比ヶ浜と雪ノ下はさっきまでの攻撃的な態度から、毒気が抜かれた様な感じに軟化していた。

 

「それにしても八幡殿も隅に置けないでござるよ。ボッチだなんだ言ってたのに、こんな美人の恋人が二人もいるなんて!」

 

「おいぃ!変な誤解するなよ!この二人は俺の部活仲間だと言っただろ!」

 

「そんな~、美人で恋人なんて!」

由比ヶ浜さん?何言っちゃってるんだ?

 

「し、心外だわ。ふたり同時に恋人宣言するような男と……このゲス谷くん」

雪ノ下なにうまいこと言ってるんだ?茨木童子の時の事は忘れろよ!

俺のトラウマ呼び起こさないで!

 

……この後は、なぜか和やかな雰囲気になった。

よくわからんが誤解は解けたようだ。まったくなんだったんだ?

 

 

俺らはドリンクバーだけだったんだが、シロの奴はその間ステーキ2枚平らげやがった。

 

 

しばらくして、和やかな雰囲気のまま、帰宅する事になるのだが、シロの奴がまた余計なことを言う。

 

「八幡殿!明日は何処に連れてってくれるでござるか?拙者はデジャブーランドがいいでござるよ!」

 

「ヒッキー?それってまさか……デート?」

「比企谷くん……あなた、小町さんより年下の子と……ロリ谷くん」

おい!またあらぬ疑いを!ロリ谷くんってなんだよ!今までの中で最悪だからなそれ!

そんな理由無いだろ?さっきまでの話はなんだったんだ?振り出しかよ!

 

 

 

……何故か明日、由比ヶ浜と雪ノ下が付いてくる事になった。

由比ヶ浜は、明日暇だからシロに一緒について行っていいか聞き、あっさりOKをだす。

雪ノ下は、部員から犯罪者を出すわけには行かないという理由で強引について来る気だ。

 

 

 

なんか面倒なことになったんだが。

 

 

翌日、千葉駅集合。

「雪乃さん。結衣さーん。やっはろー!」

「小町ちゃんやっはろー!」

「小町さん、や…おはよう」

 

「結衣殿、雪乃殿はおはようでござる!」

「シロちゃんもやっはろー!」

「シロさん、おはよう」

 

タマモは俺の袖を引っ張り、耳元に手をやり内緒話をする。

「ねー八幡。あの人達、わたし達と一緒でいいの?」

「シロが良いって言ってたし良いんじゃないか?」

「……私達が妖怪だって知らないんでしょ?」

「すまないな。窮屈な思いをさせる。まあ、悪い奴らではないから」

「そう、八幡と小町が良いって言うなら……私は構わないわ」

タマモはちょっと社交性にかけるところがある。小町や俺は気が許せる人間ではあるが、由比ヶ浜と雪ノ下は今日始めて会う人間だ。不安に思っても仕方がないだろう。

 

「ほえー、凄い美人……外人さん?」

「比企谷くん……こちらの方は」

俺の横に居る二人はタマモを見て目を丸くする。

まあな、タマモは美少女だ。雪ノ下も美少女ではあるが、タマモの顔立ちはどちらかと言うとヨーロッパ系の顔をしている。しかも何もしていないのに妙に色気があるのだ。

1年半前はこんなんじゃなかったんだが………

 

「ああ、職場の同僚のタマモだ」

「タマモよ。私のことは気にしないでいいわ」

俺はタマモを二人に紹介するが……タマモも一応自己紹介をするがツンとした雰囲気をだし、とても社交的とは言えない。

 

「あははっ、あたしは由比ヶ浜結衣、結衣って呼んでください」

「雪ノ下雪乃です。突然押しかけるような真似をしてすみません」

 

「別にいいわ」

そう言って、タマモは小町の方へ歩いていく。

 

「……ヒッキー、あたしなんか怒らせるようなことしたかな?」

「いや、あれが通常だ。別に怒ってもいない。タマモは何時もあんな感じなんだ。気を悪くしないでくれ」

由比ヶ浜は苦笑しながら俺に聞いてきたが、タマモはあれが通常だ。あまり他人に興味が無いと行ったほうが良い。

 

「……同僚がもうひとり居ると聞いてはいたけど、彼女は年上よね?ヨーロッパの人かしら?」

雪ノ下の質問は答えづらいな。彼女は数千年以上生きている。正確には紀元前に遡るらしいが……800年程前に封印され、近年に転生し復活した。転生の際、記憶を失い、子供に戻ったらしいのだ。

しかし…過去の記憶は徐々に戻りつつあるらしい。ただその記憶は記録という形らしく、自分が体験したというよりも、第三者目線から見る記録映画を見ている気分だと言っていた。

タマモと一年半前は出会った時にはシロとそう変わらない、ちょっと年下の女の子な感じだったんだが、今は見ためは俺と同世代位なのだが明らかに年上の雰囲気を醸しだしていた。

記憶が戻りつつあるのが影響してるらしい。

 

彼女の本当の姿は大妖怪白面金毛の九尾の妖狐、玉藻前なのだ。

……当時の人間からは妖怪だからと言うだけで封印されたようだが、特に悪さをしたようなことはない。幅広い知識と霊力を持つ大人しい妖怪だ。

その美貌を活かし、時の権力者の伴侶となり、庇護され外敵から身を守っていたに過ぎないからだ。

俺の予想だが……現世で庇護を乞う対象となってる人物は、多分横島師匠だ。

 

俺はそんなタマモが大妖怪玉藻前に戻りつつあることを感じ……敬意を払った接し方の方が良いのではと思い。

半年前、

「すまなかった。タマモさんって呼んだ方がいいよな。実際俺よりも人生経験長いし」

と言ってみたのだが………

「バカ……今まで通りでいいわよ八幡」

と頭を軽く小突かれた。

それが今日まで至っているのだが……果たして現在の彼女は精神年齢はどの様になっているのかはわからない。

タマモが良いと言うならば俺は、このままの関係でいようと思う。

タマモもそれを望んでいるからだ。

 

 

 

「雰囲気はああで、取っつき難いところはあるが、俺らとそう変わらないから、普通に接してやってくれ」

俺は小町と話すタマモに目をやりながら、雪ノ下と由比ヶ浜にそう言った。

 

 

そして、関東でニ番めに規模が大きいテーマパークデジャブーランドに到着した。

もちろん一番は東京ディスティニーランドだ。

このデジャブーランドは埼玉と千葉の県境の山手にある。

 

「八幡殿!八幡殿!!あれに乗りたいでござる!!」

「わかったから、引っ張るな」

「八幡殿!八幡殿!!あれに入りたいでござる!!

「おい、ちょっと休憩させろよ」

デジャブーランドに到着した途端これだ。

俺はシロに振り回される。

シロはずっと子供のようにはしゃぎっぱなしだ。

まあ、実際年齢は子供だけどな………

 

最初は同じ様にはしゃいでいた小町もこのパワーにずっとついていけないようだ。

 

今は、残りの4人で休憩しながら女子トークに花を咲かせている。

こんな中で、コミュ障二人(タマモ・雪ノ下)いるから、由比ヶ浜も大変そうだがなんとかやってるようだ。まあ、小町も居るし大丈夫だろう。

タマモはシロとは違い積極的に人と接しようとはしない。今回のはいい機会になるかもしれないな……

 

しかし、今、雪ノ下と由比ヶ浜にタマモとシロが妖怪だと話したら、二人は受け入れてくれるだろうか?

あの二人はつい最近、妖怪に襲われ、恐ろしい目に遭い死にかけた。

その恐怖は今も脳裏に残っているだろう。

だから俺は、タマモとシロが妖怪であると事前に言わなかった。

妖怪だという事実だけで、タマモとシロを恐怖の目で見、拒絶してしまうかもしれないからだ。

そうでなくとも、一般的な認識では妖怪は悪と見られているのだ。

もうちょっと時間が必要なのかもしれないな。

 

小町は逆に、そんな偏見も持っていなかったため、あっさり受け入れた。

しかも、狐と狼の姿の二人をモフモフだの、癒やされるだの言って、散々抱き倒してたな……

今では、非常に仲がいい。

特にタマモはGSの世界以外の年近い人間との接点は俺の知る限り小町ぐらいだ。

シロは意外と近所に受けがいいし、人懐っこいからな。

 

もしかして、狐と犬じゃなかった、狼の性質なのかもしれないが………

 

 

 

俺は遅い昼食を促す。

「小町、タマモ、シロ、昼飯買ってくるがリクエストは?」

 

「オムライス!お兄ちゃんの愛情がたっぷり入ったやつ!」

「きつねうどんがいいわ」

「ステーキ!!分厚いステーキが良いでござる!!」

 

「まあ、無かったら適当な、その辺で席とってくれ」

 

 

俺は由比ヶ浜と雪ノ下とちょっと離れた屋外フードコートへと昼食を買いに行く。

「ヒッキー、シロちゃんって本当にヒッキーの妹みたいだね」

 

「まあ、そうだな。本人に言うと怒るがな」

まあ、感覚は小学生くらいの小町みたいなもんだ。元気度は400%ぐらいあるが……

 

「タマモさんも、それほど話しにくいことは無かったわ」

 

「まあ、人見知りなだけだ」

雪ノ下さん?それを言う?同じ穴のムジナだぞ。自覚がないのか?

 

「そういえば、さっき聞いたけど!ヒッキーのGSのアルバイト先って女の人ばっかり!!」

「キヌさんって人の事も聞いたわ。とても可愛らしい方のようね。なんでもあなた。キヌさんの言うことは素直に聞くようね」

「そうだし!お嬢様学校の一つ上のお姉さんに、ヒッキーがデレデレだって!!」

雪ノ下は何時もの冷たい視線を俺に向け、由比ヶ浜はぷりぷりしだしたぞ。

 

おい!何その偏った情報?誰が喋った!?しかも誰がデレデレだって!誰が素直に聞くって!………確かに素直には聞いちゃうよな。聖母だし………しかし、デレてないぞ!決してデレてないぞ!そりゃ、話しかけられるだけで嬉しいし……あの笑顔を見るだけで癒やされるが………デレではない!

そう、ある意味信仰に近い!お前らは神様にデレるか?俺は飽く迄も信奉者なのだ。

 

 

「な、何を言っているんだ?そんなわけがあるわけないではないか……」

しどろもどろになるのは許してほしい。

 

 

 

 

!?………霊気?こんなところで?

 

 

 

そして………遠方から悲鳴が上がる。






タマモの設定は改変しております。


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㉕シロとタマモといつものように除霊

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで続き。


『キモイって言うな~、1000年前だったらイケメンだったんだよ~』

『デブで何が悪いだに~、太いのは金持ちの象徴だに~』

『ショボイってなんだ~、見た目で判断するな~、それに別にお前らに迷惑かけてないだろ~』

 

キモ・デブ・ショボそうな妖怪3体が次々とカップルに襲いかかり、ネチネチと説教じみた愚痴を言い、詰め寄っていた。フードコートは阿鼻叫喚と化する。

 

……何これ?めちゃくちゃデジャブーなんだが?

 

そして、カップルの男女に一通り愚痴を終わるとキモイ妖怪とデブ妖怪、ショボイ妖怪は粘液を吐きかける。

 

吐きかけられたカップルはそれぞれ、ブサイクになったり、太ったり、ショボくなったりする。

一種の呪いのようだ。

 

『お前らも我らの気持ちを味わうがいいのだ!』

『そうだに。今度は我が身になって、蔑まれつづければいいだに!』

『我々は報われない男達の嫉妬と絶望の代弁者なのだ!』

 

その様子を見ていた他の客も我先に逃げ出し、収拾が付かない状況になっていた。

コイツラの呪い、地味に嫌な攻撃だ。

男女共に、絶対避けたい事態だろう。お互い意識しあってるカップルにとってこれ程嫌な呪いは無いのではなかろうか?

 

 

……はぁ、何これ、このテーマパーク?確か年に1~2回ぐらいこんな妖怪を生産してないか?

半年前も依頼でこれに近い妖怪を美神さんたちと退治しに来たんだが………前は嫉妬女の妖怪だったような……

 

 

「ヒッキー………」

「比企谷くん………」

由比ヶ浜と雪ノ下は不安そうに俺を見上げていた。

 

「大丈夫だ。彼奴等弱そうだし……俺の後ろで離れないようについて来てくれれば大丈夫だ」

 

俺は二人にそういいつつ、スマホで電話をする。

 

先ずは美神令子除霊事務所に電話をする。

「比企谷です。デジャブー・ランドでDランク妖怪3体が出現し、目の前にいます。客にも被害が出てますが、死亡には至っていません。呪いらしきものを振りまいてます。GS協会に緊急除霊許可願いを出してもらっていいですか?」

 

『比企谷くん、今、許可申請を出しました。今日はシロちゃん、タマモちゃんも一緒なのでしょ?比企谷くんはまだダメージが残ってるから、二人に任せてね。それとシロちゃんとタマモちゃんにも特別除霊許可を比企谷くん監督の元で申請だしておきます………直ぐに返答きました。許可おりましたよ比企谷くん。頑張ってくださいね』

電話をとったキヌさんが応答してくれた。

 

もどかしいかも知れないが、除霊前のこの応対はGSにとって重要なことなのだ。

緊急時の除霊について、いくつかルールがある。

先ずは妖怪や霊障被害が起こっている現場に遭遇した場合。即、報告する義務がある。俺の場合は美神令子除霊事務所に所属しているため、事務所からGS協会に連絡してもらう。誰もいなかったら、直接GS協会に連絡することにはなるのだが………

そして、ここはデジャブーランドの敷地内、国の所有地や自治体が管理する公共施設とちがい、いわば他人の敷地だ。かってに除霊行為は通常出来ない。

緊急時の除霊行為は事前準備が出来ない分、危険が伴う事が多い。器物破損や、それこそこの様な人が多い場所では、人を巻き込んでしまうことが大いにある。巻き込んで怪我や死亡させてしまった場合。いくら妖怪や霊障を抑えたとしても、責任問題等に発展しかねないのだ。

そのための許可申請であり、GS免許を取得した除霊者の保護、そして、もし除霊に失敗した場合の次なる手を打つためでもある。

今回直ぐに許可が降りたのは、俺がGSランクがCで、報告した対象妖怪のランクがDの3体……そして、特別協力者であるシロとタマモが存在することも考慮され、即許可がおりたのだ。

特別協力者…妖怪であるシロ、タマモは通常GS免許者の監督の元でしか除霊許可はおりない。今回の監督者は俺ということになる。

まあ、妖怪や幽霊を相手する性質上、こられのルールをすっ飛ばして除霊が必要な場合がどうしても起こるが、そんときは、そんときだ。それが正当な行為であれば後でいいわけのような、報告書をたんまり書く程度のものだ。

 

 

 

俺は電話の応対をしつつ、コンプレックス妖怪3体を見ながら、由比ヶ浜と雪ノ下を引き連れ、シロとタマモと小町の元へ移動する。

 

小町たちも俺たちに合流するために移動していたため、キヌさんとの電話を切る前に会うことが出来た。

「八幡殿!許可申請は!」

 

「今おりた。二人に任せていいか?」

 

「任せるでござる!」

「いいわ。折角、楽しんでいたのに邪魔してくれたお礼はしないとね」

シロとタマモはそう言い、コンプレックス妖怪共を見据えていた。

 

 

 

「小町、由比ヶ浜、雪ノ下はここで少し待っててくれ……」

 

「うん」

「……」

「お兄ちゃん、シロちゃんとタマモちゃんの足を引っ張らないでね!」

由比ヶ浜と雪ノ下は心配そうに俺を見るが、小町はあっけらかんとこんな事を言ってくる。

 

 

「美神令子除霊事務所所属ゴーストスイーパー、比企谷八幡です。今から除霊行為を行います。落ち着いて直ちにこの場から離れて下さい」

俺はコンプレックス妖怪3体の方へ走りながら、GS免許を掲げ、大声を出す。

この宣言のような行為も重要なことなのだ。こんな状況で落ち着いてられる人などいないし、恐怖で動けなくなる人も多い。体裁上これをやらなければ、いろいろと後で問題になるからだ。

 

その宣言が終わったと同時に、シロとタマモが動き出す。

シロがキモイ妖怪を霊波刀で一閃。

タマモが放つ狐火でデブ妖怪は消し炭に。

 

ショボイ妖怪はそれを見て、女性を人質に取る。

『なんだよ。お前らは!………って、泥田坊の旦那じゃないですか!なんでこんな酷い事をするんですか!』

 

ショボイ妖怪は俺を見て……いや、俺の目を見てそう言ってきたようだ。

 

「………泥田坊って誰だよ。しかも俺はお前みたいな妖怪は知らん!」

 

『ええ?酷いな、もう忘れちゃったんですか?この前、俺の愚痴聞いてくれたじゃないですか?』

 

………泥田坊ってなんなんだよ。妖怪に人望?があるのか?あの茨木童子も一目置いてたようだし……………て、こいつまだ俺を泥田坊と間違ってるのか?似てるのは目だけだよな?姿も似てるのか?

 

そんなやり取りをしている間に、シロが人質を救出し、タマモが狐火でショボイ妖怪を燃やし尽くす。

『え?そんな!泥田坊の旦那!なぜーーーーー…………』

……間違えたまま消滅したんだけど、せめて認識を改めてから逝ってほしかった。

 

 

「なぁ、タマモ……俺って泥田坊って妖怪にそんなに似てるか?」

 

「猫背と、そのやる気が無い目が似てるわ……でも、全身泥が吹き出てるし……それほど似てないわね」

 

「……そ、そうか」

………泥田坊って猫背なのか………やっぱ目も似てるんだ。でも泥が吹き出してるって………あの妖怪なんで間違うんだよ。

 

 

コンクプレックス妖怪3体の呪いで、デブやブサイクやショボくなった人達は、奴らが消滅したことで、呪いが解け元の姿に戻る。

 

 

大きなけが人はいないようだ。

 

 

俺は取り敢えず、小町や由比ヶ浜と雪ノ下が待っているところまで戻る。

「タマモちゃん、シロちゃん!!格好よかったよ!!」

小町は二人を手放しで褒める。

 

「ヒッキー、大丈夫?」

「比企谷くんお疲れ様」

由比ヶ浜と雪ノ下もホッとした表情をしていた。

 

「まあ、相手が弱かったしな。シロとタマモが居るから俺の出番は無しだな」

 

「お兄ちゃんよりも、シロちゃんとタマモちゃんの方が強いしね」

小町は由比ヶ浜と雪ノ下によけいな補足説明をする。

 

「そうなの?ヒッキー」

 

「まあ、そうだな。あの二人の方が上だ。俺は事務所では一番弱いからな」

これは純然たる事実だ。一対一で戦った場合俺はシロに何時も負けてるし、タマモと戦っても多分勝てない。

シロの本気のスピードは凄まじい。霊視空間把握能力で来ることが分かっても対処しきれない。

そして、あの霊波刀だ。物理的なものだけでなく、術式も切れる凄まじい威力のものだ。

タマモは、俺と似たタイプの戦い方をするが、狐火、いわゆる炎を自在に操ることが出来る。

更に、精神感応系の術も凄まじい。幻術や精神攻撃も行ってくる。気がついたら既に勝負が付いていたなんてこともあるだろう。

 

「比企谷くんでも……」

雪ノ下は驚いているような表情をしていた。

 

「八幡殿は最初の頃に比べれば大分強くなっているでござるよ。そこら辺のGSに比べれば強いでござる。拙者もうかうかしてられないでござる」

「八幡はこれから強くなるわ」

 

……なに?嬉しいことを言ってくれる。ステーキと揚げを買って帰るか。

 

 

デジャブーランドの職員やら警備員がようやく駆けつけてきた。

 

「皆は先に帰ってくれ、多分、デジャブーランドは営業休止になるし、俺も現場検証やらが残ってる」

皆にそう伝える。

 

 

「……ヒッキー、あたし待ってるよ」

「………」

二人は俺を不安そうに見る。

 

「時間がかかるかも知れんし、見てても面白いもんじゃないぞ」

 

「雪乃さんに結衣さん、お昼食べてないし、どっかで食べに行きましょうよ!」

そう言って小町が二人を引っ張ってくれる。

 

「え?でも」

由比ヶ浜は俺の方を向き、なにか言いたそうだ。

「……そうね。私達が居たら邪魔になるわ。………そう、これは彼の仕事…だから」

そう言った雪ノ下の表情はくもっていた。

 

「ゆきのん……」

 

「じゃあ、お兄ちゃん。シロちゃん、タマモちゃんまた後でね!」

小町は元気よく手を降って、二人を連れこの場を後にする。

小町助かる。まあ、なんだ。正直あの二人が居るとやりにくいしな。

 

 

案の定、デジャブーランドはこの後営業休止する。

一応呪いにかかった客は、残ってもらっている。

特に影響はなさそうだが……念の為だ。

 

俺はシロとタマモと現場検証を行う。

なぜ、あんな妖怪が一気に3体も現れたのかだ。

 

この後、美神さんとキヌさんも現場に来てくれた。

キヌさんに呪いにかかった客を見て貰う。

 

美神さんはデジャブーランドのお偉いさんと話に………もしかして今回の除霊の金額ふっかけるつもりじゃないだろうか?

一応、緊急時の対応は、GS協会の標準価格に則る感じになるのだが………やりかねない。

 

現場検証は難航した。

手がかりが一切ない。

シロやタマモの嗅覚を持ってしても、わからなかった。

いきなりその場に現れたかのような反応だと言う。

 

現場に現れた美神さんにその事を報告すると、

「悪質なイタズラ………いえ、テロね。こんなくだらない事をする理由はわからないけど、シロやタマモが調べて反応が途切れているということは、第三者がこの妖怪を解き放ったということよ。私達(GS)の手口をよく知っている奴の仕業ね。霊気や霊視、匂い等の証拠隠滅が出来るような奴よ。根が深そうだわ………まあ、その分ボッタくれるんだけどね!!定期巡回の契約でも結んでやろうかしら!!」

 

流石は美神さんと思っていたのだが………やっぱり、最後はそっちに走るか……どんだけ金の亡者なんだよこの人………

 

 

 

シロとタマモと家に帰ると、小町がいつもより、豪勢な食事を用意してくれていた。

 

「小町、今日は助かった」

 

「ん?結衣さんと、雪乃さんの事?うーんあの後お兄ちゃんの事いろいろ聞かれた……一度ちゃんと話し合った方がいいんじゃない?」

 

「いや、一応GSの事は話したぞ」

 

「はぁ、わからないかな……そういうんじゃないんだよお兄ちゃん!うーん、どう言ったらいいのかな………ああ、もう!取り敢えず、ちゃんと話す!いい?お兄ちゃん!」

 

「わけがわからん…………まあ、そうだな」

俺は除霊が終わった後、由比ヶ浜と雪ノ下の俺に向ける不安そうな表情を思い出す………

GSなんて半分ヤクザな仕事をやってる奴が、近くにいりゃ、そうなるか……

あの部活、なんだかんだと結構居心地よかったんだが……潮時か………

 

 

 




次回はガイルパートです。


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㉖休みの日に職場なんて行くもんじゃない

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ガイルパートではなく。GSパートになりまりした。



デジャブーランドでシロとタマモとコンプレックス妖怪3体の除霊を行った翌日の日曜日。

午前中に美神令子除霊事務所を訪れた。一応今週末まで休みをもらっているが、昨日のことが気になったからだ。

 

因みに、シロとタマモは小町と千葉のショッピングモールに遊びにでかけた。

シロはあまり乗り気ではなかったが小町が無理やり引っ張っていった。

なんでも、シロをコーデするとかなんとか………

 

 

「君は真面目ね。そんな事のために、休みなのにわざわざここに来たの?」

美神さんは所長席に座りながら、俺に呆れたような表情を向ける。

 

「まあ、気になってたんで、どうやってあの3体の妖怪が現れたのかってずっと考えてたんです。

人が直接、あの妖怪を封印したものをあの場に持ってきて解き放つと、事件直後には、何らかの残滓が残るはず 。シロやタマモの嗅覚をごまかせない。

それを回避する手としては、あの場を巡回するお掃除ロボットにあの妖怪を封印した物を取り付け、時限的に解き放てば、人の手が付いた残滓は残りにくい。時間が経てば経つほど形跡は残らないものですから」

 

「なかなかいいところに目をつけてるわね比企谷くん」

美神美智恵さんが応接セットで紅茶を飲みながら答える。

どうやら、今日はオカルトGメンの方は休みをとって、ここ(娘の職場兼自宅)に遊びに来てるらしい。

3歳になる娘さんのひのめちゃんも連れて来ていて、今はキヌさんが相手をしてる。

美神さんも今日は仕事が無い様で、こんな感じで暇を持て余してるようだ。

まあ、毎日依頼があるわけじゃないしな。

それでも美神令子除霊事務所は、依頼内容は別にしても、週に現場仕事は3~5件位はある。

これは、他の個人事務所に比べかなり多いほうだ。

 

「ただ、それをやられると犯人の特定はほぼ不可能ね。その方法ならば、一般の客になりすまして出来るわけだし、犯人は用意周到に計画してたようね。ただ、あの妖怪の性質からすると、営業妨害にしかならないけど………本当にそれだけが目的かしら?私の霊視や霊感でも見えなかったということは相手もオカルトのプロよ」

美神さんの霊感でも察知できなかったのか……相手も結構やる奴のようだな。

 

「……この頃、こういう突発的なテロ行為のような事件が増えてるわね。もう偶然だけでは説明出来ないレベルになってるの。オカGや警察でも問題視しているわ」

結構なレベルでこんな事件が増えてるようだ。オカルトGメン日本・東アジアのトップである美智恵さんが言うからには確定しているのだろう。

 

「………厄介ですね」

 

「まあ、今回の件は、君のお陰で解決出来たし、そんでもってあのケチ臭いデジャブーの社長から、定期巡回の契約取れたし、こっちとしてはありがたいんだけどね!」

やっぱりそんな交渉してたんだなこの人………金なんて有り余ってるだろうに。

 

「令子。また、あなたはそんな事を………」

 

「いいじゃない。あるところから、貰ったって!うちは民間ですし!」

美神さんは美智恵さんに子どもじみたことを言う。

 

「はぁ………そうだ。比企谷くん。高校卒業したら、オカGに来ない?大学も行きながらでもいいし」

 

「ちょっとママ!人のところの従業員に手を出さないでよ!」

 

「まだ、比企谷くんは正社員じゃないでしょ?だったらいいのではなくて?」

……この人もやっぱ、美神さんの血族だな。親子揃って、子供じみた言い訳だ。

 

「比企谷くんはうちの事務所に借金があるのよ!」

 

「ふーん、その借金がなくなれば、いいって事よね。令子」

美智恵さんは余裕の表情だ。

 

「ぐぬぬっ、私が見つけたのよ!この子は!書類仕事も出来るし!現場もある程度こなせるし!結構優良物件なのよ!」

 

「そうね。真面目だし、報告書もきちんとしてるし、オカG向きね」

 

「ママ!!」

 

褒められて、嬉しいんだけど………俺のことでケンカしないでほしいです。はい。あなた方が本気だしたら洒落にならないです。どうせ巻き添え喰らうのは俺ですし、ここで横島師匠がいれば、確実に横島師匠が巻き添え喰らうのだが………今は居ない。

そういえば、横島師匠は西条さんと海外出張に出かけてる。オカG案件でアメリカのフロリダとか言ってたな。相当やばい案件なんだろうな………

取り敢えず、速く帰ってきて下さい。出来たら俺が職場復帰するまでに……

 

 

「美神さんも、美智恵さんも、比企谷くんが困ってますよ」

キヌさんがこちらに来て助けてくれた。

どうやら、ひのめちゃんを寝かせつけたらしい。

 

「フン」

美神さんは子供ぽく、そっぽを向く。

 

美智恵さんは澄ました顔で紅茶をすすっている。

 

助かった……さすがキヌさん。この二人を抑えられるとは…まさに聖母。

 

 

 

「実は、キヌさんにも相談があってここに来たんですよ」

そう、俺がここにわざわざ来た目的は二つあった。もう一つはキヌさんに相談することだ。

 

「なぁに?私に相談って比企谷くん」

キヌさんは応接椅子に俺に座るように促し、紅茶も入れてくれた。

そして、美智恵さんの隣に座る。

 

「いや、実は学校でこんな事があって」

俺は一昨日奉仕部で受けた一色いろはの生徒会候補問題の依頼について話す。(参照㉓話)

キヌさんは名門女子校に通う3年生だ。一色が受けた女子生徒間のいじめに近い所業への対処の仕方を知っているかも知れないからだ。

 

「うーん。私だったら素直に出来ませんってお断りして、推薦状を取り下げて貰うかな」

 

「問題の一色が体裁が悪いとかなんとかで、それはしたくないと言ってるんで……確かに一色はクラスの女子からは嫌われてるようですから………」

まあ、キヌさんだったらそうするよな。女子だろうが男子だろうが、キヌさんに害する人間なんてこの世に存在しないだろうし。もし、居たら俺が生き地獄を与えてやるがな!

 

「はあ、面倒ね。そん奴らは片っ端から二度と逆らえないように弱みを握って脅せばいいのよ!そうじゃなきゃ力でねじ伏せて、どっちが上なのかはっきりさせることね」

美神さんがこの話に入ってくる。……あの、何処の世紀末覇者伝説なんすか?それ?まじ怖いこの人!よく俺、今日までこの人の下で働いてこれたわ!

 

「その子、男子受けをするために女子に嫌われるような行動をとっていたのでしょう?ならそれをやめれば解決ではなくて」

美智恵さんも意見を言ってくれる。

そうだよな。まじそれだよな。根本を直さなければ何も解決しないよな。

問題は男にちやほやされる一色に対しての単なる女の嫉妬なんだが………

 

「ママ、それじゃダメよ!そういう輩は、隙を見せるとつけあがるだけよ!ねじ伏せ屈服させないと!もう二度と逆らえないように!!」

美神さんは力強く言う。

確かにそれはあるかも知れない。女子ってホント怖いよな。そう考えると雪ノ下はああツンケンしているが、考え方自体は実にシンプルだ。全然マシな気がしてきたぞ。……どちらかと言うと雪ノ下は、美神さんの考え方に共感しそうだな。

 

「令子、それでは余計な反感を招くだけよ」

 

………なんか、また二人がヒートアップしてきたぞ。これヤバイんじゃないか?

 

「あの……そもそも、解決の仕方は、如何に、一色の風聞や体裁を落とさない様に、生徒会候補から脱落するかなんで…………」

 

「それじゃ、解決したことにならないわ」

「それはだめよ。それでは根本の解決にならないわ」

二人は同時に俺に強く言ってきた。

やはり親子だ。根本的な考え方は一緒のようだ。

 

ん?まてよ……何も生徒会候補から脱落させることだけが解決方法じゃない。ということか?

となると………選択肢は増える。

美神さんと美智恵さんが言うことは二人共いちいちもっともだ。

 

両方の意見を取り入れると………どうなる?

 

 

見えた!

…………しかし、一色をどう説得させるかがキモだな。

いや、もう答えがでている。美神さんと美智恵さんが答えを出してくれてるようなもんだ。

そう言えばあいつ、サッカー部のマネージャーだったな。不特定多数の男にちやほやされたい一色が、なんで特定の部活に所属するんだ?…………もしや……そういうことなのか?

 

俺はあれこれと考えをまとめる。

これならば行ける。一色の自尊心や風評被害を受けることなく解決ができる………よし。

 

俺が考え込んでるうちに、この場は次の話題に、いや、元の話題に戻ってた。

「ところで令子。比企谷くんの事だけど」

 

「何!ダメったら!ダメよ!」

 

「GS免許とったわよね。彼」

 

「それがどうしたのよ!」

 

「給与形態が変わるわね。正式にGSなんだから……もちろん辞令を出してるはずよね令子」

 

「ギクッ……ああ、あれね……11月から辞令出すつもりよ」

……この人、美智恵さんが何も言わなかったら、今のままの給与形態でずっと行こうと思ってたな。

 

「……比企谷くん。こんなブラックな事務所、高校卒業したらやめてうちに来なさい。オカルトGメンは公務員だけど給与体系は標準よりずっと高いし。きっと令子のところよりも高級取りになるわ。週休2日半よ、うちは。ちゃんと代休も有休消化もとれるし、各種福利厚生も充実してるわ。どうかしら?」

美知恵さんは俺に向かって、にこやかに話を振ってきた。というか堂々と引き抜きをかけてきた。

何、この条件、めちゃいいんだけど!しかも安定の国家公務員!!福利厚生も充実!!夢の週休2日半!!有休も消化しても文句言われない職場!!

 

「ど…どうって」

俺に振られても困るんですが…俺はちらっと美神さんの顔色を伺う。

 

「比企谷ーーー!!裏切ったらどうなるかわかってるでしょうね!!」

美神さんが鬼の形相で俺を睨んでくる!

 

「はぃいい!!」

な、なんだこれ!俺はどうすればいいんだ!?完全にとばっちりなんだが!!

 

「美神さん、そんな言い方したら比企谷くん逃げちゃいますよ。美智恵さんも、比企谷くんはまだ高校2年生なんですから」

紅茶を入れ直しに行ってたキヌさんが戻ってきて、二人をなだめてくれる。

まじ、キヌさん聖母。

俺はキヌさんがいなかったら、この職場から逃げ出したに違いない。

師匠に惚れてなければ、俺を婿にしてほしい!

 

キヌさんが二人をなだめている間に俺は、いそいそと事務所を後にする。

これ以上二人の喧嘩に巻き込まれるのはたまったもんじゃない。

 

 

 

 

自宅に帰るとまだ誰も帰ってなかった。

おやじとかーちゃんも今日は会社が休みだ。

俺が朝出かける前はまだ寝てたが、どこか出かけたようだ。

 

 

その間、俺は一色いろはの問題解決プランを練り直す。

これで誰も痛みを伴わずに解決ができる。

 

 

夕方、小町から電話が掛かってきた。

おやじとかーちゃんと合流して、外で夕飯食ってくるそうだ。おやじが奮発して、高級焼き肉店だと……俺には適当に食っておけと……なにこれ?

くそ、おやじめ!シロとタマモにいい顔しようって魂胆だな!息子にもちょっとはその気心をつかえ!

 

 

そんで、みんな焼肉食って帰ってきたのはいいんだが……

 

シロが……スカートはいてた。今風のおしゃれな服装だ。

俺はシロがスカートはいてる姿は見たことがない。いつも動きやすいジーパンかハーフパンツだ。

めちゃ恥ずかしそうにもじもじと……。

小町プロデュースらしい。本人が自慢してた。

女って怖い。服装一つで変わるもんだ。

シロは見た目は俺と同じぐらいだが、俺は普段小学生程度の扱いをしていた……さすがにこれは……なんか、あれだな……背も高いしスレンダーなモデルのスタイルだし………なんていうか

 

いかん!俺はロリコンじゃないはずだ!見とれてたなんてないぞ!

しかし、見た目は女子高校生ぐらいだし!しかも、モデル体型だし……しかし実年齢は小町より下だぞ!!しっかりしろ俺!!

 

……さすがのシロも……今日ばかりは散歩を要求してこなかった。

 




次回こそガイルパートです。


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㉗一色いろはと生徒会長

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと長くなりましたが、ガイルパートです。


 

週明けの放課後、俺は部室に向かっていたのだが……

 

「由比ヶ浜、なぜ俺の後ろにピタっとついてくる?」

 

「いいじゃん、別に。……ヒッキーの後姿をちょっと確認しただけ!」

何故か由比ヶ浜が俺の後ろを背後霊のようについてくるのだ。

 

「なんだ?いたずらの張り紙でも俺の背中についてるのか?」

まあ、そんなことされたら速攻で分かるがな……しかも霊視でやった犯人の特定まで出来る。

 

「ううん。いつものヒッキーだなーって」

 

「なんだ、そりゃ?」

 

「なーんでもない!」

そう言って、嬉しそうに俺の前に出て、先に部室の扉を開ける由比ヶ浜。

横に並ばれてくっ付かれるよりはましだが……一体何なんだ。

 

「やっはろー、ゆきのん!」

 

「由比ヶ浜さん、…と比企谷くん。こんにちは」

 

「うっす」

雪ノ下は俺の顔を見ると視線をずらし下に向ける。

……やはりか……京都の件といい、先日のデジャブーランドの件といい。俺みたいな異物がここにいても気持ちいいものではないな。ましては、挫折や嫉妬の対象である姉の陽乃さんと同じGSだ。

この依頼を最後に……俺は出ていった方がいいだろう。

 

俺はいつもの廊下側の椅子に、由比ヶ浜は雪ノ下の隣に席に座る。

 

「ヒッキー、一昨日のデジャブーランド、あの後結構時間かかった?」

由比ヶ浜は鞄を椅子の脇に置きながら俺に声をかける。

それに反応すかのように、雪ノ下の本をめくる手が止まる。

 

「ああ、まあな。先に帰って正解だぞ。結構手間がかかった」

結局、コンプレックス妖怪を使ったテロを行った犯人は特定できなかったしな。

 

「あのね。ヒッキー……あの時のヒッキーね。なんかいつもと違う感じだった」

 

「そうか?」

 

「うん。なんか大人に見えた。でも、今日のヒッキーはいつものヒッキーだった」

由比ヶ浜は照れ笑いのような感じで微笑む。

 

「よくわからんが……誰だってそうだろ?由比ヶ浜だってバイトしてる時はそれなりに身なりを正すだろ、それと一緒だ」

真剣に仕事してる姿は大人に見えるもんだ。

 

「うーん。そうなのかなー、でも優美子とかがバイトしてる時とはなんか違うっていうか……よくわからないや。でも、今日のヒッキー見てなんかホッとした!」

 

「よくわからん奴だな」

そうは言ったが……確かにそういうのはあるかもしれないな。

俺も茨木童子を圧倒的な強さで倒した横島師匠を見て、別人のように感じた。その後、いつもの二カっとした笑顔で冗談を言う師匠にホッとしていた自分がいたのは確かだ。

圧倒的な力を見たってのもあるだろうが、それ以外にも、横島師匠の俺の知らない一面を見て、たぶん驚いたのだろう。

由比ヶ浜もそれを俺に感じたのだろう。

確かに、俺のGSの仕事をしてる姿を見たことがない連中が、普段とのギャップを感じるのは致し方がない事なのだろう。

 

「別に訳わからないことないし!」

なんかプンスカしだす由比ヶ浜。

訳が分からんとは言っていないぞ!わからん奴だと言ったんだ。……同じ意味か。

 

「……先日の一色の生徒会候補者問題の件だが……俺なりに解決方法を考えてきた」

俺は先週末に受けた依頼の件を切り出す。

 

「聞きましょうか」

雪ノ下は挑戦的な態度でそう言って、こちらに振り向くがいつもの余裕が感じられない。

 

 

俺は先日、美神親子の口論のような意見を参考に解決方法を考えたのだ。

二人に俺は結論から語りだす。

 

「一色いろはを生徒会長にする」

 

「あなた、何を言ってるのかしら。一色さんは生徒会長候補から降りたいと言っているのよ」

「ヒッキー、いろはちゃんは、無理やり生徒会候補にさせられたんだよ」

雪ノ下は呆れたように、由比ヶ浜は不安そうに言葉を返す。

 

「そうだ。依頼は、悪意ある推薦で生徒会長候補者となった一色を、プライドや風聞被害を受けない形で生徒会長にならないようにする。だ」

 

「その通りよ。それがなぜ、一色さんが生徒会長をすることが解決になるのかしら」

 

「ここでポイントはなぜ、一色がこんなことに陥ったかということと、何を守りたいかだ」

 

「ヒッキー、どういうこと?さっぱりわからないよ」

 

「一色の話や由比ヶ浜の情報を統合すると、一色は男子受けするために、あの独特の雰囲気づくりをしている。いわば超劣化版雪ノ下姉だ。それが女子からはあからさまに見えるあたりが詰めが甘い」

 

「……確かにそう見えるわね」

最初は俺の話に否定的な態度だった雪ノ下も話に食いついてきた。

 

「男子受けがいいため、表面上ではクラスに溶け込んでいるようだが、裏では相当女子に嫌われているのだろう」

 

「う……そういうのあるかも」

由比ヶ浜は苦笑いをする。そういう経験があるのだろうか?

 

「それでもその態度を改めないあたりは、一色のプライドなのだろう。一色を嫌う勢力……ほぼ女子全員を敵に回してもだ。そこまでの覚悟があるということなのだろう。また、男子受けもよく、表面上はクラスの人気者ということで、女子どもは自分には直接手出しできないだろうとまで、考えているかもしれない。雪ノ下姉劣化版とはいえ、その辺はしたたかのようだ」

 

「……それはあなたの勝手な解釈でなくて?」

 

「そうかもしれん。しかし、今は続きを聞いてくれ」

 

「……いいわ、続きをどうぞ」

 

俺はうなずいて見せ、話を続ける。

 

「反一色勢力は、直接手を下さずに一色を貶める方法を考えた。それが生徒会候補者推薦だ。

この時期になっても一色以外候補者はいない。となるとこのままいけば一色は信任投票で生徒会長になるだろう。一色が生徒会長を辞すれば、それに対し、勝手に推薦した者たちは、推薦したのに辞退した一色を責め、さらに一色のプライドも壊すのだろう。当選したところで、一色は生徒会の重責でクラスにかまっている暇がなくなり、反一色勢力からすれば、いい厄介払いとなる。さらに一色がまともに生徒会など運営できないだろうと、その都度ミスを棚に上げし、一色を責めるだろう」

 

「ヒッキー、さすがにそこまでは……」

 

「……あるわね。陰湿で陰険で人の尊厳を平気で壊すのよそういう輩は……私はことごとく返り討ちにし逆にさらしてあげたわ。清水さんと川口さん。泣いて謝ってたわね」

……雪ノ下……実体験かよ。………やはり集団とは恐ろしい。異物がいれば排除しようとするのが世の常だ。こいつの場合、見た目も美少女で学力もトップ、しかも金持ちときた。排除の対象となったのだろう。

……まあ、俺も学生から見たら十分異物(GS)だからな……

 

「……ゆきのん」

 

「続きいいか、今度は一色以外の候補者を立てるとする。それが雪ノ下だとしよう。

間違いなく雪ノ下が勝つだろう。

敗北した一色は、一般の投票者や男子や一色に悪感情を持っていない生徒は、仕方がない、相手が悪かったと、納得するだろうが……悪感情を持った連中はどうだ。あることないことでっち上げて、結局は一色のプライドやら人気やらを貶めるだろう」

 

「……確かにそうね。でっち上げてあることないことを言いふらすのが得意なのよ。ああいう輩は!」

雪ノ下の怒りボルテージがまた上がる。

こいつもどんだけ敵がいたんだよ。雪ノ下の場合、社交性がないのが問題だと思うが……

 

「一色が守りたい物は、プライドと人気だ。そして、曲がりなりにも、悪感情を持った敵に負けたくないとも思っているから、あんな依頼だったのだろう。

じゃあ、一色を生徒会候補に推薦し、貶めようとした悪感情を持った敵をねじ伏せるにはどうしたらいい」

 

「……比企谷くんが言いたいことはわかったわ。確かにそうね。一色さんが生徒会長になり、立派に生徒会を運営し、生徒や教師の信頼と信用を集めることができれば、一色さんの完全勝利ね。悪感情を持った敵は肩身の狭い思いをし残りの学校生活を送ることになるわ」

 

「そういうことだ」

 

「うーん。要するにどういうこと?」

 

「由比ヶ浜さん……今の説明で分からなかったのかしら?」

 

「由比ヶ浜、要するにだ。一色が生徒会長になって、一色に悪感情を持った連中を権力で黙らせればいいってことだ」

 

「そうなん?」

 

「ああ、一色が生徒会長になり、ちゃんと生徒会を運営できれば、一色は一切に被害を受けずに、さらに仕返しができるってことだ」

 

「比企谷くん。それには大きな問題があるわ」

 

「ああ、一色が生徒会長を引き受けるか、だろ?」

 

「うん。いろはちゃんサッカー部のマネージャーもやってるし、難しいかも」

 

「そこは任せろ、俺が説得する。俺一人で行ったほうがいいだろう。一色は女子に警戒心が高いしな、俺は一色がちやほやされたい男の対象外だろうから、ちょうどいい」

 

「あなたが……でも……そうね。あなたなら」

雪ノ下はそういいながら、うつむき加減になる。

雪ノ下のこうした姿を最近ちょくちょく見る。何か俺に言いたいことがあるのだろうか……やはり、俺は雪ノ下にとって異物なのだろう。まあ、それももうしばらくだ。

 

「ええ!ヒッキーといろはちゃんの二人っきりで!!」

 

「そのほうが、説得しやすい」

 

「でも!!」

 

「まあ、一色のほうが嫌がるかもしれんがそこは我慢してもらうしかない」

 

「……そうじゃなくて……うーー」

由比ヶ浜は頭を抱えだした。

 

「失敗の可能性も十分にある。半分俺の妄想が入ってるからな。その時は、また、他の方法を考えるしかない。取り合えずまかせてみろ」

 

「うーーー、わかった。ヒッキーいろはちゃんに変なことしたらダメだからね」

由比ヶ浜は、そんなことを言ってくる。

 

「するわけないだろ。はぁ」

なんか急にやる気なくなってきたぞ。

 

 

 

俺は雪ノ下と由比ヶ浜を部室に残して、サッカー部にいるだろう一色いろはを訪ねる。

 

サッカー部主将の葉山隼人が声を大にして、練習を仕切っていた。

一色が見当たらないため、葉山に声をかけ一言二言話してると……一色は水汲みから戻ってきた。

 

葉山に断って、一色に話しかける。

 

「生徒会の事なんだが、ちょっといいか、葉山には断っておいた」

 

「先輩!葉山先輩とお友達だったんですか!意外……いえ、その」

 

「ちげーよ。クラスが一緒だっていうだけだ」

 

「そうですよね。びっくりした」

……おい、なんだその反応は…

 

 

グラウンドの端にあるベンチで一色と話す。

ちょうど今日は野球部が休みでここは使用されていない。

 

「なんかいい方法あったんですか?」

一色は劣化版陽乃さんスマイルで俺に聞いてきた。

 

「そんなようなもんだ。一色も大変そうだな。クラスの女子に陰険な仕打ちを受けて、ほぼいじめだな」

 

「そ……わたし、どうしても目立っちゃうんで仕方がないんですよ」

今こいつ、そうなんですよって言おうとしたな。やっぱり劣化版陽乃さんだな。

しかもテヘってとか言うし、いちいちしぐさがあざとい。

 

「一色はなぜサッカー部のマネージャーなんかしてるんだ?」

 

「先輩には関係ないです。はっ!もしかしてどさくさに紛れて私を口説いてます?二人っきりでついてきたからって、勘違いしないでください。運動神経がよくて、さわやかで、頭がいい人が好きなんです。先輩は頭よさげだけど趣味じゃないんでごめんなさい」

 

「………あのな、俺は質問してるだけだ」

告白もしてないのに振られたぞ。こいつの頭の構造はどうなってるんだ。どう見ても告白じゃないよな。俺が言ったの……

 

「そうなんですか?てっきり、マネージャーなんてやめて、俺の女になれって告白すると思ってました」

……こいつどんだけ自意識過剰なんだよ。

 

「……まあ、俺なんか眼中にはないわな。ところで一色、葉山隼人と二人っきりになる方法があるんだが」

 

「え!そんな方法が………な、何のことですか?なんで葉山先輩がそこに出るんですか?意味が分かりません」

 

「……おまえ、擬態できてないぞ………見ればわかる。サッカー部のマネージャーなんて面倒なことをやってるのは葉山が目当てだろ?」

え!そんな方法がって言ってたしな。

 

「……そんなに直ぐにわかっちゃいましたか………なんか、かっこいいなって、付き合えたらいいなって思って、自慢………その優しそうだし」

自慢って言ったっぞこいつ。擬態も中途半端だ。大丈夫か?劣化版陽乃さんといえども100分の1陽乃ぐらいの感じだぞ。

 

「そ…そうか」

 

「で、その方法ってなんですか!葉山先輩ってああ見えてガードが堅いんですよ!他も狙ってる子たくさんいるし!特に三浦先輩が邪魔!!」

めちゃくちゃ食いついてきたんだが……

 

「一色、生徒会長になれ、さすれば自然と葉山と二人きりになる機会が増える」

俺はここでようやく本題に移る。

 

「え?生徒会長?でも、サッカー部のマネージャーやってますし、私の依頼は生徒会長をやらないようにすることですよ?」

 

俺はこの後、一色にサッカー部のマネージャーをやりながら生徒会長をやる一色にどれだけ葉山と二人っきりになるチャンスがあるのかとうとうと語った。

 

「……先輩!天才ですか!そうですよね。マネージャーで二人っきりになれると思ってましたが、ほかのマネージャーも居るし、部員もたくさんいるし無理なんですよね。でもそれなら、間違いなく葉山先輩と二人っきりになれる!………でも、クラスの女の子たちの思い通りになるようで……」

 

「それも生徒会長になれば解決するぞ」

俺は生徒会長になれば、クラスの女子どころか学校中の人間をひれ伏せることができることを美神さんや美智恵さんの言葉を借りて、熱く語った。

 

「………せ、先輩!すごいです!………でも、私そういうの向いてないっていうか」

 

「生徒会長は飽くまでも象徴だ。どっしり構えて、後のことは役員に任せればいい。少々の失敗は一年生である一色だと笑って許してくれる。それよりも一年生で生徒会長というポジションが得られるのはでかい。今まで誰もいなかったハズだ」

 

「……うーん。確かに……メリットの方が圧倒的に高いですね」

どうやら一色もしたたかだ。ちゃんとメリット計算ができるようだ。

 

「そういうことだ」

 

「………わかりました。なんか乗せられた感がありますが、先輩に乗せられちゃいます。その代わり、手伝ってくださいね」

一色は生徒会長になることを同意し、最後にニコっとした笑顔で俺にこんなことを言ってきた。

……まあ、言った手前、ちょっとは手伝わないとな。

 

 

この後、一色の生徒会長への道筋を奉仕部として正式に依頼を受け、生徒会長演説や生徒会としての指針や他の補充メンバー選定などの道筋を策定して行く。

一週間後、一色は正式に生徒会長として信任を得ることになる。

 

 

その間、雪ノ下は俺に毒舌を吐くことはなくなり、その代わりと言っていいのか、俺に対して何やら言いよどむ事が多くなった。

 

 

それも、もうすぐ終わりだ。

一色の生徒会長就任を見届けた後……俺は奉仕部を辞めることを決めていた。

 





**補足**
雪乃は八幡を嫌ってません。
いろんな感情があわさり……自分でもよくわからない感情を八幡に抱いてる状態です。

八幡は、雪乃に嫌われたか、いい感情を持たれてないと勘違いしてます。


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㉘職場復帰は物悲しい

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回もガイルパートですが……少々寂しい気分に


 

週末のこの日の放課後、奉仕部部室では一色を生徒会長に就任させるべく最後の調整を行っていた。

俺は一色と演説内容を詰め、雪ノ下と由比ヶ浜は書類関係の再点検と調整を行っていた。

黙々と仕事をこなす雪ノ下を由比ヶ浜は時折心配そうに見ている。

雪ノ下は俺に毒舌を吐かなくなり、俺に対し何かを言いたそうにしているが口ごもる事が多い。

やはり、様子がおかしい。

原因は、俺だろう。しかしそれももうすぐ終わる。

 

今日が奉仕部での俺の最後の仕事となるだろう。

来週明けには、一色は信任投票で信任を受け生徒会長になる事はほぼ確定だ。

それを見届け、俺は奉仕部に退部届を出すつもりだ。

 

 

「ふぅーー、先輩、こんなもんでどうですか?」

 

「いいんじゃないか?」

 

「あー、やっと終わった。疲れたですー」

 

「まだ、生徒会執行部も立ち上がってないぞ。これからだ」

 

「えーーー」

 

「まあ、執行部メンバーは結構優秀そうな奴がそろっているから、そいつらに頼ればいい」

 

「……先輩に頼っちゃだめですか?」

 

「俺は生徒会執行部でも何でもないぞ。まあ、相談くらいは乗ってやるがな」

 

「ふふっ、やっぱり先輩ですね……先輩は私を生徒会長にした責任を取ってくださいね」

一色は笑顔でこんなことを言ってくる。女の子に責任を取れといわれると何故か恐ろし気な気分になるのは気のせいだろうか?

 

 

「そっちも終わってそうだな」

俺は書類を整えている由比ヶ浜と雪ノ下に声をかける。

 

「うん、終わったよ」

「……そうね」

二人の持ち分も終わっていたようだ。まあ、雪ノ下がいれば余裕だろう。

 

「結衣先輩と雪ノ下先輩、ありがとうございます」

 

「ううん。なんか依頼と違う感じになっちゃったけど」

 

「そうですけど、こっちの方が楽しいかもしれないじゃないですかー」

 

「そ…そう。ならいいのだけど」

 

 

「一色、出来上がった書類を先生に提出してこい」

 

「先輩はついてきてくれないんですか?」

 

「こういうのは一人でやったぞ感を出した方がいいんじゃないか?」

 

「はっ!なるほどです。行ってきますねー」

一色はそう言って、書類を携えて部室を出ていった。

 

「ヒッキー、なんかいろはちゃんもやる気満々だね」

 

「ああ、そうだな。俺らが手伝うのはここまでだ。後の事は一色次第だ」

意外にも一色はこの5日間、たいして文句も言わずに、あれやこれやと作業を進めていた。

しかも、最初に出会った時と比べ生の感情を表にだし、生き生きしているように見える。

 

「……比企谷君…その……ちょっといい……」

雪ノ下が言いよどみながらも、俺に話しかけてきたのだが……

 

バン!

雪ノ下の声を遮るかのように部室の扉が豪快に開く!

 

「比企谷!比企谷八幡は居るか!!」

 

「大声出さなくても、ここにいますよ。平塚先生」

この部活の顧問で、生徒指導担当の三十路残念美人平塚教諭が勢いよく部室に入ってきた。

 

「おお、比企谷!君の職場確認に行くぞ!!」

 

「はぁ?いきなり何を言ってるんですか?」

 

「君のバイト先は特殊でね。学生の場合、年に1回、学校職員による職場確認が義務付けられているのだよ」

 

「いや、それは知ってますが、突然過ぎませんか?前回の一年時は俺のクラスの担任先生でしたが?平塚先生は俺のクラスの担任じゃないですよね」

 

「そんなことはどうでもいい!大事なのは行くことに意義がある!誰が行こうが問題ないのだよ!」

 

「ちょっ、先生。バイト先の所長に確認しないと……」

確かに俺は今日からGSのバイトに復帰するんだが……なぜ急に?俺が京都の修学旅行中にケガしたからか?まあ、由比ヶ浜と雪ノ下をかばってケガしたということになってたしな……

 

「はっはー、すでに先方に確認済みだ。君も今日はバイトに行くのだろう!さあ行くぞ!」

そういって平塚先生は俺の腕を強引に取って引っ張り出す。

「あっ……………」

強引に引っ張られていく俺を見て雪ノ下はやはり何か言いたそうであった。

 

「平塚先生、強引過ぎませんか?……雪ノ下、由比ヶ浜、後のことは頼んだ」

俺はそのまま平塚先生に引っ張られ、部室を出ざるを得なくなった。

 

「ヒッキー!………ゆきのん」

俺が部室を出る際に見た由比ヶ浜の顔が不安そうなにしていたのが印象的だった。

 

 

俺はそのまま平塚先生の高級スポーツカーに乗せられ学校を後にし、東京にある美神令子除霊事務所に向かった。

「で……平塚先生。なんで強引にこんなことをしたんですか?」

 

「さっき説明したとおりだ」

サングラスをしながら運転する平塚先生は当然の如くと言わんばかりだが、なにか焦りのようなものを感じる。

 

「………横島忠夫」

俺はある可能性を想定し、とある人物の名を呟くように声に出す。

 

「はっはっはーーー、何のことかなーーーー!!」

 

「やっぱり………振られたんですか?」

 

「そ、そんなことはないぞ!……ちょっとメールが一週間程返ってこなかっただけだぞ!はっはっはー」

なんて乾いた笑いなんだ。

しかも、サングラスの間に涙がきらりと見えるんですが………

 

というか、あの後、メールのやり取りをしてたのか横島師匠。

まあ、あの超長文とストーカーじみた文面を見れば誰だって、メールを返したくなくなるよな。いくら女好きの横島師匠だって……

 

「俺をダシにして、横島忠夫の様子を見に行こうという魂胆でしたか……それって職権乱用じゃないんですか?」

 

「………比企谷……私には、まだ大丈夫とかもう少し大丈夫とかそんな言葉は無いのだよ」

おいーーー!!怖いよこの人!!本気と書いてマジだ!!完全にターゲットになってるよ横島師匠!

 

「……横島忠夫のどこがいいんですか?先生より10歳は年下ですよ」

 

「失礼な!!9歳だ!!……彼は…こんな私を…私を女扱いしてくれるのだ」

なんか、もじもじしだして、急に女の顔になったぞ!

まあ、うちの師匠は性別が女だったら、妖怪だろうが幽霊だろうが女扱いするけどな。

 

「はぁ、横島師匠は海外出張中ですよ。いまフロリダあたりです。海外だとアプリによってはショートメールは届かないですよ」

 

「そ、そうなのか!!そうだったのかーーーー!!いやーーーーそうかそうか!!焦って損した!!」

普段はいい人なんだけどな。事に異性の問題となると……もう、どうしようもなくダメな人になる。

 

「だから、たぶん行っても、横島師匠は居ませんよ」

 

「まあ、君の職場を見たいというのは嘘ではないからな……先方には伝えた事だし……ところで横島さんを師匠と呼ぶのはどういうわけだ?」

その辺のことは横島師匠は何も話してないようだな。

いや、京都の修学旅行からそれ程時間が経ってないぞ。なのに師匠に対してのこの入れ込みようどうだ。完全にターゲットになってるなうちの師匠。

 

 

「俺のGSの師匠は横島忠夫なんで、俺がこうやってGSやれてるのも師匠のおかげです」

 

「ほう、君が素直にそんなことを言うとは、私の目に狂いはなかったということか!ふははははっ!逃がさん!!」

……横島師匠、この人と早めに縁切った方がいいっすよ。ストーカー予備軍ですよ。しかも地雷女間違いないです。

 

 

「平塚先生……一つ聞いていいですか。奉仕部に俺を強引に入部させたのは俺がGSのバイトをしてることを知った上での事だったんですか?」

 

「……そうだ。君を見ていると……高校生活を軽んじているように見えたんでな……せっかく高校に通っているんだ。なにか高校生らしい事をと思ってな……」

やはりか……予想通りだな。

 

「まあ、そのおかげで、俺は退屈せずに済んでますよ。それは感謝します。ただ……それも潮時です。俺は来週明けに退部します」

 

「なぜだ?君の言い回しだとあの部活は嫌いではないようだが」

 

「俺は学校の…学生の日常生活おいて所詮異物でしかない。高収入が見込める職業とはいえ、GSは所詮、やくざな仕事です。幽霊や妖怪など超常的なものを相手にし、命のリスクも通常の仕事に比べ高い。……そんな普通じゃ理解出来ないような事をやってるのがGSです。そんな人間が近くにいて、平常心でいられるわけがない」

 

「君は……あの二人の事を思って、退部を決断したのだな……しかし、雪ノ下や由比ヶ浜が君にそう言ったのか?それか態度に出ていたとでも?」

 

「由比ヶ浜はよくわかりませんが、……雪ノ下はたぶん俺を怖がっているのだと思います」

 

「ふむ、君は周りはよく見えているが、自分のことに関してはどうも鈍感のようだ。……そう結論を急がなくてもよいのではないか?」

 

「いや、しかし」

 

「一度、由比ヶ浜と雪ノ下とよく話し合ってみたまえ、その上で君がそう判断するのであれば、君の退部を受理しよう。そうでなければ私は受け取らんよ。はっはっはー、こう見えても、あの部の顧問なのでな。私が納得する理由でなければ退部届は却下だ」

……話し合いか…小町にも言われたな…しかし、答えは出てるように思うのだが………

というか、俺この部に入部届出してないし、強制的に勝手に入部したことになってたんだが!それなのに退部には顧問(あんた)の許可がいるとか!労働基準監督署に訴えるぞ!!……まあ、仕事じゃないんだけどな……はぁ………

まあ、最後ぐらいはあいつら(二人)に謝っておくか。

 

そんでもって、美神令子除霊事務所に到着。

「こんにちは、私は氷室絹です。比企谷君の先輩になります。生憎所長の美神は不在でして、私が代役を一任されてます」

そう言ってキヌさんが出迎えてくれた。

……美神さん面倒ごとをキヌさんに押し付けて逃げたな。

どうせ美智恵さんのところにでも行ってるのだろう。

 

「申し訳ない。こちらこそ急な申し出を受けていただいただけでも感謝します」

平塚先生も、無難な返答をするが、キヌさんを上から下へと舐めるように見てから、余裕の笑みを浮かべ大きくうなずいた。

………きっとスタイルで勝ったと思っているのだろう。

総合的には圧倒的に負けてるからなあんた!月とすっぽん。いや、月とミジンコぐらいにな!

しかも、今は普段着を着てわからんが、キヌさんはまだ学生だからな、他校の生徒とは言え、教師が対抗してどうする。

横島師匠を意識してるんだろうが………スタイルということだったら、美神さんにたぶん負けてるぞ、胸は同じぐらいだが、クビレとか……肌とか……後、年とか……

 

「はぁ」

俺は先生の隣で大きなため息をついて呆れるしかなかった。

 

 

「では、書類等は用意してますので確認をお願いします」

 

応接セットのテーブルの上に必要書類が用意されていた。

さすがはキヌさん。美神さんじゃこうスムーズにいかない。

そして、紅茶を入れるキヌさん。

 

「書類上の不備は見当たりませんね」

平塚先生は一通り書類に目を通す。

まあ、そうだろう。一応時給とか時間外手当とかは真っ当に支給されてるからな……

ただ、内容は苛烈極まるが………

そんなものは、ここには記載されていない。

もし、内容がしれたら、一般人だと軽く失神するレベルだ!

 

「当校の比企谷はどうですか?何か問題等はありますか?」

 

「比企谷君は真面目で、いつも一生懸命頑張ってます。常識的ですし問題行動なども一切ないですよ」

キヌさんはそう答えてくれる。

GSは一般の人間にはない力を持っている。人を簡単に殺めることができる力を……そんな人間が学内にいるのだ。こういった活動も必要となる。一般社会の認識も同じものだ。ゴーストスイーパーに所属する人間はこういった精神鑑定書などを半年に1回GS協会に都度提出しなければならない決まりがある。

 

……そういえば、美神さんも横島師匠も精神鑑定一応クリアーしてるんだよな。まあ、あの人達はわかっててあんな態度を取ってるからな……余計に質が悪い気がする。

 

「そうですか。それと比企谷を直接監督してる横島さんという方には一度お会いしておきたいですね。横島さんとはどのような方ですか」

平塚先生はわざと横島師匠とは面識がないような言い方でこんなことをキヌさんに聞く。

 

「え?……横島さんですか。とても優しい人ですよ」

キヌさんは笑顔でそう答える。

 

平塚先生はその笑顔を見て、顔が引きつっていた。

「ほ、ほうー……優しい人ですか……さぞかし、おモテになるのでしょうね」

 

「そうですね。……本人は自覚はないんですけど。横島さんは皆に好かれてますね」

 

「ほ、ほうー……そうですか……ひ、氷室さんも横島さんを?」

さらに顔を引きつらす平塚先生。

 

「いえ……そんな……その……」

キヌさんはもじもじと恥ずかしそうにする。

 

そんなキヌさんを見て、平塚先生は目をクワッと見開き……

「ふふふふっ!そうですか!私は負けませんよ!誰であろうと!!」

どうやら、キヌさんを横島師匠をめぐる敵としてみなしたようだ。

……ピエロだ。この人完全にピエロだ!キヌさんに勝てるわけがない!誰か早めにこの残念美人にとどめを刺してあげて!

俺は息まいている平塚先生を見て、何故か涙がほろりと出てしまった。

 

「あのー、何のことでしょうか?」

 

「ふふふっ、いえ、こちらの事です。それでは私はこの辺で失礼します」

なに余裕かましてるんだこの人。

俺はそんな平塚先生を建物の入口まで見送る。

 

「比企谷……君がバイトに行く時は、私が送って上げよう」

 

「……いえ、いいです」

 

「遠慮はいらないぞ。……将来の弟のようなものだからな!はっはっはー!」

だめだ、涙で目の前が霞む。

痛い痛すぎる。なにこれ……もう、誰にも見向きもされないピエロが……踊り続けている……そんな物悲しい感覚が俺の心を支配した。

 

 

 




平塚先生いい人なのに……


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㉙雪ノ下雪乃という少女

感想ありがとうございます。


俺は職場復帰後のこの土日に、シロとタマモと組み、Dランクの除霊依頼を2件こなす。

霊的構造も完全復活し、体の切れもいいし、調子もいい。

以前よりも、霊気量が増加し、霊力が高まった感じがする。

 

その間、美神さんとキヌさんは大規模な地鎮を兼ね備えた霊障依頼を受け、泊りがけで地方に仕事に出かけていた。

 

GS免許取得とはいえ見習い期間のため、本来見習い期間を終了したGSに付き従わないといけないのだが、CランクGSである俺は、それが免除される。なんだかんだと、美神さんは俺を信頼して仕事を任せてくれる。

すでにGS免許取得前に、単独で妖怪退治や除霊やらされてたからな……違法だけど……

 

 

 

週明けの月曜の全校集会で一色は信任を得て、生徒会長へと就任した。

俺の奉仕部での仕事はこれで完了だ。

放課後、俺はタイミングを遅めにずらし奉仕部に向かう。

退部届を携えて……

「うっす」

 

「比企谷君、こんにちは」

 

「ヒッキー!遅い!……ヒッキー?」

 

 

俺はいつもの廊下側にある自分の席に座らずに、雪ノ下と由比ヶ浜が座っている窓際へ行く。

そして、二人の座る席の前にある長テーブルの対面に椅子を持っていきそこに座る。

 

「ヒッキー……どうしたの?」

由比ヶ浜は不安そうな顔を向ける。

 

「……比企谷君…」

 

 

「二人に話がある」

 

「………」

「ヒッキー……」

雪ノ下は俯き、由比ヶ浜の顔はますます曇る。

 

「いままで、いろいろすまなかった。俺は退部しようと思う」

 

「ヒッキー急になんで!?どうして!?そんなの嫌だよ!!」

由比ヶ浜は席を勢いよく立ち対面の俺に訴えかける。

 

「………由比ヶ浜さん……仕方がないことよ。比企谷くんはGSの仕事があるもの」

雪ノ下は最初は目を大きく見開いていたが、視線をそらし、小さな声で由比ヶ浜にそう言った。

 

「だって、ゆきのん!」

 

「確かに仕事があるが……俺がこの部にいることで迷惑をかける。ゴーストスイーパーは世間では花形の仕事のように囃し立てられる一方、それを快く思っていない人たちもたくさんいる。もし学校中に俺がGSであることを知られれば、何らかの影響を受けるかもしれない……」

俺は言い訳じみたこんなことを言ってしまう。

これは建前でしかない。

 

「ヒッキーがGSだからって、誰にも迷惑かけてないじゃん!!」

 

「それは、学校では知られていないからだ。もし、何らかの状況でバレてみろ俺は慣れているからいいが……お前らまでも」

 

「そんなこと関係ない!!言わせたい人には言わせとけばいいよ!!」

 

「……由比ヶ浜さん」

雪ノ下は声を大にしてそう言う由比ヶ浜を驚いたように見上げていた。

 

俺は意を決して、言わなければならないことを言う。たとえこれで由比ヶ浜に嫌われようとも。

「………由比ヶ浜はわかっていない。いや、今は気が付いてはいないだけだ。いずれ気が付く。……俺の霊能は妖怪を倒すことができる。人間を上回る力を持つ妖怪や幽霊をな……それがどういうことか………俺は人をも簡単に殺める力を持っているということだ」

 

「ヒッキー!!それがここを辞める理由!?ヒッキーがそんなことをするわけないじゃん!!」

由比ヶ浜は怯むどころか、二人と俺を挟んでいた長テーブルを勢いよくずらし、椅子に座っている俺に迫る。

 

「……いや、ふつう怖いだろ?」

俺の方が逆に怯んでしまった。

 

「そんなことであたしがヒッキーを怖がると本気で思ったの?嫌いになると思ったの!?だから辞めようと思ったの!?」

 

「そう、……なるな」

なんだ……由比ヶ浜いつもにもなくすごい剣幕だ。由比ヶ浜が本気で怒ってる?

普段怒らない奴が本気で怒ると怖い……

俺の言動で由比ヶ浜の変なスイッチを入れてしまったようだ。

 

「……ヒッキーあたしの事馬鹿にしすぎだし!京都で命がけであたし達を守ろうとしたヒッキーがそんなことするわけないし!!……ヒッキー…だから辞めるなんて言わないでよ」

由比ヶ浜は怒ったような表情をしながら、涙を見せる。

 

「な、その、すまん」

……由比ヶ浜…おまえ、強いな。

 

 

「ゆきのんもゆきのんだよ!!ヒッキーが辞めるって言って簡単にあきらめるなんて!!」

由比ヶ浜は今度は雪ノ下を責めだした。

 

「………」

雪ノ下は俯いて何も言えない。

 

「おい……それが普通の反応だぞ。由比ヶ浜……お前がそう言ってくれるのはうれしいが」

俺は由比ヶ浜をなだめようとしたのだが……

 

「ヒッキーは黙ってて!」

 

「な!?」

なにこのガハマさん。覚醒した?いや三浦が乗り移った?

 

「……ゆきのん、ずっとヒッキーに何か言いたかったんじゃないの?……このままだと、ヒッキー本当にやめちゃうよ」

由比ヶ浜は雪ノ下の正面に向き直り、視線に合わせるために腰を落とし、諭すように雪ノ下に声をかける。

 

「……私は、わからないの。何をどうしたいのかが……わからないの」

雪ノ下は弱弱しく苦しそうに答える。

 

「でも、ゆきのん。ヒッキーにずっと何か言いたそうだったよ。ちゃんと伝えないとわからないよ」

この時ばかりは由比ヶ浜が妹を諭す姉のように見えた。

 

「…………」

 

「ゆきのんはヒッキーにこの部を辞めてほしいの、ほしくないの?」

 

「その……」

雪ノ下は弱弱しく、それでいて困惑した表情をし、俺に助けをもとめるように視線を送ってきた。

こんな雪ノ下は見たことがない。

 

「ゆきのん。ゆきのんがどう思ってるかだよ。ほかの人は関係ないの。ゆきのん自身がヒッキーの事どう思っているかなんだよ」

……そういえば、この半年間で一番成長したのは由比ヶ浜だよな。4月頃は他人の顔色ばかり見て、ろくすっぽ自分の意見も言えない奴だったのに………夏前ぐらいからずけずけ自分の意見を言うようになったよな。あの三浦に対してもだぞ。勉学には、もっと励んでほしいところだが……

 

「……私は…私も……辞めてほしくない」

 

「うん。そだね」

 

「………」

 

「そういうことだから!!ヒッキー!!辞めるなんて絶対ダメなんだからね!!」

 

「だが…しかし」

 

「ヒッキーが私たちが嫌いで辞めるっていうなら……仕方がないけど」

怒りのガハマさんから急にしおらしくなったぞ。

 

「……そんなことはない。意外と居心地はよかったぞ。依頼は少ないし、のんびり読書ができるしな」

 

「じゃあ、辞めるのなし!でもヒッキー!あたしたちの事が入ってない!読書とのんびりすることだけって」

また、怒りのガハマさんに戻ったぞ。

 

「ああ……保留にする」

完全に勢い負けしたな……

俺は口元が緩んでいた。苦笑いだろうか……

 

「保留って何!」

 

「とりあえず、辞めるのは止めるという意味だ」

 

「そ、それぐらいわかるし!」

うん、たぶんわかってなかったな。

 

 

 

「……比企谷君…あなたに聞いてほしいことと聞きたいことがあるの……由比ヶ浜さんも一緒に」

そんな中、雪ノ下はポツリポツリと話しだした。

 

「ゆきのん……」

由比ヶ浜は元の席に座り直し、優しげな視線で雪ノ下を見つめる。

 

「ああ」

 

「雪ノ下の実家は千葉で手広く建設業を営む会社を経営しているわ。父は県会議員。家では厳しくしつけられたわ。雪ノ下の人間としてどこに出しても恥ずかしくないようにと……母が提示する課題(レール)を解き続けたわ。

姉は父母に期待された通り優秀な人に、人当たりも良く、誰もが姉を褒めたたえるわ……比較して私は昔から人とどう接していいのかがわからなかった。ただ、幸いにも次女ということで、社交的に表に出ることはほとんどなかったのだけど。それでも私は父母に期待されるように、姉の様にと……姉の道筋を真似してきたの……、でもその姉が2年前高校卒業と共に家を出て、京都を活動拠点にしてからは……私は家でどうふるまっていいのかがわからなくなった……それで父に願い、一人暮らしをさせてもらった。そうすれば私も一人で姉さんのようになんでもできると……

高校に入り一人で生活し、学業成績も維持し、何もできた気になってた。

でも、何か違ってた。比企谷君あなたを見て……それが私の中で徐々に大きくなって、でも何が違っていたのかがわからない。

比企谷君と出会った当初は、あなたと私は似ていると思ってた。いつも一人なのも、一人で何でもしようとする姿勢も………

でも、違ってた。あなたはどんな依頼も解決していったわ。私が思いもよらない方法で……私とあなたは少しも似てなかった。

そして、あなたの京都での姿。先日のデジャブーランドでのあなたを見て……それが確信にかわった。あなたは、姉さんと同じ背中をしてた。

大人の社会で受け入れられ、認められ、一個人として独立した存在として……

確かにGSだったことは驚いたわ。その経緯も……でも、あなたは自分自身で勝ち取り今に至ってる。

まがい物の私とは似ても似つかない……。

比企谷君……あなたはどうして、そこまで出来たのか……それが聞きたかったの」

 

「ゆきのん……」

 

なんてこった……

俺は内心驚愕に似た何かを感じ、背中に冷たいものが流れる。

 

………俺は間違っていた。いや見誤っていた。

俺は勝手に雪ノ下は強い女の子だと決めつけていた。

学業優秀、文武両道、周囲の言動に惑わされることのない強い精神力を持つ、孤独にも動じない強い心を持った少女だと……

違ってた……彼女の知識や勉学などの優秀さとその美貌にその佇まいに俺はすっかり、決めつけていた。

雪ノ下雪乃には芯が無い。いや無いとは言わないまでも薄い。……その空虚な中身を知識や勉学、所作などの目に見える外骨格で覆っていたのだ。

それは雪ノ下家にとって都合のいい娘なのだろう。もしくはそういう風に育てたのかもしれない。

そんな中、唯一の救いはきっと、陽乃さんだったのだろう。

その陽乃さんが家から出て……雪ノ下は自分が何なのかがわからなくなり、今も彷徨い続けている。雪ノ下家に従い続ける彼女はそれに違和感を感じていた。わからないなりに感じていたからこそ……一人暮らしを選択したのだろう。彼女が取れる唯一の自己防衛本能だったのかもしれない。

雪ノ下と初めて会った際、姿勢正しく本を読む姿を何処か儚く感じた。まさに雪ノ下のありようは今にも崩れそうな儚い幻影のようだ。

俺に対してのあの毒舌は自分の弱さを…中身を見透かされないようにとのものだったのかもしれない……

 

そして……由比ヶ浜も俺は見誤った。

彼女は優しい女の子、ただそれだけだと決めつけていた。

しかし、芯を持っていた。由比ヶ浜は強い。

間違ったことを自ら認め、訂正し、修正していく力があった。

今までの彼女は、周りにあまり恵まれなかったせいで、それが発揮できなかっただけなのかもしれない。

 

 

京都で妖怪に襲われた時の彼女らの反応は、まさしくそれだった。

芯のある由比ヶ浜は直ぐに立ち直り、自らの足で立ち上がった。

外殻しかない雪ノ下は、自らの知識外の事に対応しきれずに、歩みを止めてしまった。

 

 

くそっ、俺も社会に出て、ちょっとは世間を知ったかのように思っていたが、所詮この程度だ。

まだまだということだ。

 

 

俺は雪ノ下にどう答えればいい。

雪ノ下は救いを求め彷徨ってる。

陽乃さんという唯一の心の拠り所を失い。ふらふらと……

下手な事を言うと、その拠り所……いや依存先が俺や由比ヶ浜に変わるだけの話になってしまう。

それでいいのか?いや、良いわけがない。

 

どうすればいい。

わからん!

美智恵さんだったら、何らかの対処方法をもっているだろうが……今の俺ではさすがに人生経験不足もいいところだ。

 

このままだと、雪ノ下はすべてをあきらめ、雪ノ下家の都合のいい人形になってしまう。

とりあえず、こちら側に引き留める必要がある。

 

 

「雪ノ下、お前が俺の何を持って出来ていると言っているのかはわからん……俺は今も間違って悩んでばかりだ。ただ……俺には周りでそれを見てくれる人達が近くにいた。

俺は周りの人に恵まれただけだ。

俺がもし、あの時事故で霊障が発現せず。美神さんや横島師匠に出会わなかったら……今の俺はここにはない。多分、一人でグダグダと腐っていただろう。

一人で解決などしていない。一人の力なんて微々たるものだ。一人で思いつく解決方法なんてものはたかが知れてる」

俺はGSのアルバイトを通じてそれを学んだ。

 

「……あなたでも、間違い……悩むのね」

 

「雪ノ下、わからなければ聞けばいい。助けを求めればいい。陽乃さんがいる。由比ヶ浜がいる。平塚先生だっている。

勘違いばかりして、部活を辞めようとした俺では不満に思うかもしれんが、ちょっとは役に立つかもしれん」

陽乃さんの雪ノ下へのあの態度は自立心を促すものだった。それも妹への愛情表現だった。めちゃくちゃわかりずらいがな……あんなん普通はわからないぞ。そういう意味でも陽乃さんも結構不器用だ。

 

「ヒッキー!……そうだよ。ゆきのん。一緒に考えようよ……ね?」

由比ヶ浜は俺の言葉を聞き、表情がパッと明るくなる。

そして俯いて座ってる雪ノ下を後ろから抱きしめる。

 

雪ノ下は目じりに涙をためていた。

そして、弱弱しく頷き、抱きしめる由比ヶ浜の腕に手を添えていた。

 

雪ノ下の問題は根が深い。

正直、俺たちがなんとかできる範疇を軽く超えてる。

一度陽乃さんに相談した方がよさそうだな……今の俺ではちゃんとした答えを出してあげることすらできん。

 

 

……これでよかったのだろうか?

わからない。正解なんてものはないのかもしれない。

 

 

横島師匠なら……こんな時どうしていたのだろうか?

 

 

……きっと一発ギャグをかまして、雪ノ下を元気づけたのだろうが……

俺にはそれすらできない。

 

……横島師匠……そういえば、年齢で言うと俺よりも2歳とちょっとしか違わない。

しかし、真面目な時の師匠はそれよりもはるかに年上に見える。

あんな仕事だ。多分今迄いろいろあったのだろう………

遠いな……あの人の背中は……

 

 

俺は啜り泣く二人を見て……

今ばかりは、俺がこの部活に居たことは間違いではなかったと思えた。




こんな感じになりました。
アニメ最終回を意識してます。はい。

あの有名なセリフはでませんでしたが
「本物がほしい」というのは八幡ではなく。雪乃のほうでした。
ここの八幡は美神令子除霊事務所でのコミュニティ、特に横島くんとの関係を本物と感じているため……このセリフは出てきません。


生徒会編の前編は終了です。
生徒会編の後編に入ります。

まずは一発GSネタとガイルのミックス。

そして、生徒会主催のクリスマス……は普通じゃないですねきっと。

その間、はるのん再登場予定


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【四章】生徒会クリスマス編 ㉚生徒会からの依頼は女難の相?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

章を分割しました。今回から新しい章となります。 


 

雪ノ下と由比ヶ浜と話し合ったあの日から2週間が経つ。

俺は今日も奉仕部で暇を持て余し本を読んでいる。

俺はとりあえずは退部届を取り下げ保留とした。

 

雪ノ下はあれから、表情が若干だが柔らかくなった気がする。

心の闇をずっと一人で抱え込んでいたのを口に出したことで、少しは気持ちが楽になったのだと思いたい。

 

それと、雪ノ下の方からポツリポツリとだが、俺に話しかけるようになった。

そういえば、今までは雪ノ下から俺に話しかけることは少なかったように思う。

何かトラブルがあった場合や問題があった場合と依頼があった場合など、必要に迫られた時のみだったと……

内容は本人も何を話したらいいのかわからないのか、最初は要領の得ないものであったが……今は日常的なたわいもない話をしてる。

 

雪ノ下の問題は複雑かつ困難だ。雪ノ下の生い立ちや家の問題にかかわるデリケートな部分を多分に含んでいる。一朝一夕で解決できる問題でもない。これからも模索し続けるしかないのだろう。

 

由比ヶ浜といえば、教室でも俺によく話しかけてくるようになり、部室に行く際はピタリと横にくっ付いてくるのだが……うーん。これはこれで困るのだが………こいつ俺の事が好きなのではと勘違いしてしまいそうになるのでやめてほしい……

何の心情の変化なのかわからんが、部室では雪ノ下に勉強を教えてもらうようになった。自分から雪ノ下にお願いしてだ。

まあ、良いことなのだろう。

 

俺のバイト先の美神令子除霊事務所では横島師匠が先週末にフロリダから帰ってきた。

俺への土産は本場洋物のエロ本とエロDVDって……よく税関を通ったな………ありがたく頂戴はしたが……

美神令子除霊事務所は俺がGS免許取得したことで、最大3組で依頼をこなすことができるようになり、今まではあまり受けてこなかった500万前後の小さな仕事も俺用に回してくれるようになった。

大きく変わったのは、雇用形態がバイト扱いから契約社員扱いとなった。どうやら美智恵さんに対しての当てつけらしい。あの人事務所で俺を見かけるたびに、オカGに勧誘するからな……

給料はバイト時代に比べ相当上がった。基本時間給に依頼分の粗利の数パーセントが歩合として入ってくるからだ。このままいけば、もしかすると高校卒業までに借金が返済できるかもしれない。

まあ、辞令を言い渡す美神さんの引きつった顔は何とも言えなかったが……

 

 

 

昨日の夜、俺は久々にタロットカード占いをした。

小町が雑誌でそんな記事を見て、俺はやらされる羽目に。

小町の恋愛運は、今は雌伏の時、気長に待ちましょうと出た。うん上々だ。これは当たってほしい。

そんで俺はというと、女難の相あり、あなたの精神が試される時です。とでた……まあ、前よりましか、女難の相とかしょっちゅうだしな。

そういえば、部室でGS試験前にやった占いは半分あたらなかったな。

西方で死にかけるぐらいつらい目ってのは当たってたが、黒髪ロングの女の子と接近ってのはなかったな。

まあ、俺のタロット占いの才能はそれほど高いわけでもないってことか。

まあ、小町の恋愛運だけは当たってほしいものだ。

 

 

俺は本を読みながらそんな回想をしていると……

 

部室の扉がノックと共に開かれた。

「失礼しまーす。先輩いますか」

 

「あ、いろはちゃん。やっはろー」

「こんにちは、一色さん」

 

「結衣先輩、雪ノ下先輩こんにちはです」

入ってきたのは新生徒会長となった一色いろはだった。

……何か手伝わす気だな…俺を……先週は何故か俺だけ生徒会室のレイアウト変更に駆り出され……生徒会執行部の連中と顔合わせをさせられ、挙句の果てには、過去の書類整理までさせられたのだ。

 

「先輩~。手伝ってくださいよ~。大変なんです~」

 

「一色……俺は生徒会執行部でもましてやお前の雑用係でもないぞ」

 

「えー、先輩は責任取ってくれるって言いました」

 

「限度があるぞ」

 

「ムー」

何かわらしく頬を膨らませてるの?いちいちしぐさが、あざといんだが……

 

 

「まあ、今回は正式に依頼しちゃうんで」

一色はそう言って俺の座る席の前から、雪ノ下と由比ヶ浜の方へ向かった。

 

「一色さん。依頼は何かしら?」

雪ノ下が一色に声をかける。

 

「実はですね……」

一色は依頼内容を語りだす。

生徒会としての対外的な初仕事らしいのだが……

毎年、千葉市のコミュニティセンターでご近所の老人ホームのお年寄りたちを対象にしたクリスマス会を行うのだが……今回は近隣の他校と合同で行うことになったらしい。これは昨年度の案件だったものをそのまま引き継いだものらしい。

一色はスルーする気満々だったのだが、向こうの高校から打診されて、受けざるを得なくなったそうだ。

さらに他の老人ホームもその噂を聞きつけ、ぜひ参加させてくれということで、規模が大分大きくなったそうだ。2校でも持て余す程に……これ以上の老人ホームの参加は困難だとしたのだが………老人ホーム側が余計な気を回し、知り合いの学校にも協力を要請してしまったのだとか……

近隣の他校、海浜総合高校とはすでに2回ほど生徒会同士で打ち合わせをしたのだが……うまくコミュニケーションが取れないとかなんとか……しかも、明日その老人ホームの知り合いの高校の人が来て合同打ち合わせを行うらしいのだ……それに一緒に参加してほしいとのことだった。一色も生徒会執行部もまだ出来て新しい。内部コミュニケーションもまだうまく取れていない頃だ。こんなカオスな状況下では一色が奉仕部に助けを求めても仕方がないだろう。

 

 

一色の生徒会候補者問題、いや、雪ノ下と由比ヶ浜との話し合い以来、初の依頼とあり、由比ヶ浜はやる気満々だ。

その依頼を受けることにし、明日の3校合同打ち合わせに参加する事になった。

まあ、俺らが出たところでどこまで出来るかはわからないが………

 

 

翌日、奉仕部のメンバーは一色と共に、3校合同打ち合わせを行うコミュニティーセンターへと電車で最寄りの駅まで向かう。

すでに、他の生徒会執行部メンバーは現地入りしてるらしい。

まあ、幸いにも、執行部メンバーとは書類整理などを通じて面識があるため、まだやりやすい。

 

「先輩、ちょっと待ってくださいね」

そういうと一色は俺たちを待たせて、コンビニにで飲み物やらお菓子やらを買ってきた。

 

「こういうのは他のメンバーがやるもんじゃないのか?」

俺は自然に一色からそれらの荷物を受け取る。

 

「私が一番年下ですし、気遣いができるアピールもなりますしね」

一色は一色なりに物を考えて行動してるようだ。俺は少し感心する。

 

「ヒッキー……」

「……」

 

何故か由比ヶ浜と雪ノ下は何故か俺が受け取った荷物をじっと見てる。

 

「なんだ?」

 

「何でもないけど……いろはちゃんと仲がいいんだなと思っただけ」

「そうね」

 

「……」

仲がいい?いいように使われてるの間違いじゃないのか?

 

 

すでに会議室では合同打ち合わせは始まっていたが、総武高校と海浜総合高校の2校だけだ。あとの1校は東京から来るのだそうで、1時間ほど遅れるそうだ。

 

俺と雪ノ下、由比ヶ浜はその合同打ち合わせに参加し、じっと会議内容を聞いていた。

こりゃ、一色が手伝ってくれというのもわかる。海浜総合高校の奴らはわけがわからん。意見を一向にまとめようとする気配がない。あれがいい、これもいい、みんなの意見を取り入れようというだけで、何も決まらないのだ。

 

一度、休憩をとることになり、俺たち奉仕部は廊下で話し合う。

「……状況は悪いわね」

「うん、そだね」

雪ノ下は頭痛がするかのような表情を、由比ヶ浜は疲れたような顔をしていた。

 

「一色さんは頑張ってる方だわ」

「ああ、あいつがなんとかまとめようとすると、海浜の連中がもっと良いものがあるとか言って、邪魔をする。あれじゃ何も決められない」

「どうする。ヒッキー?」

「わからん。まずは相手が何を考えてるかも理解ができん。もうちょっと様子見だな」

「あなたでも……わからないのね」

「そりゃそうだ。相手の連中とは今日会ったばかりだ。まずは情報がほしい」

 

 

「比企谷じゃん!久しぶり!超レアキャラじゃん」

俺たちが打ち合わせをしてる最中に不意に俺に声をかけてきた奴がいた。

 

「折本……か。ああ、久しぶりだな」

 

「中学卒業以来?比企谷も参加って! 比企谷が生徒会なんてうけるー 」

彼女は折本かおり、中学校の時のクラスメイトだ。

海浜総合高校の制服だ。さっきの会議で顔を見かけたが……俺の事を覚えてたか。忘れてほしかったのだけど。

 

「いや生徒会の手伝いだ」

 

「ん?比企谷が女子と話してるの初めて見たー!うけるー」

こいつとは会いたくない度ナンバー1だったんだが……

 

雪ノ下が折本睨んでるし。由比ヶ浜も頬を膨らませてるし。

 

「!?そういえば、比企谷、私に告白してなかったっけ!!速攻で断ったけど!!比企谷と付き合うなんて、ありえないし!!」

こいつ余計な事を……

確かに俺は折本に中学2年の時に告白をした。

こいつは誰にでも気軽に声をかける。ボッチだった俺にさえも。

そんなこいつがいいなと思ってしまった。そして告白してしまった。それがもとで俺はクラスのさらし者に……

 

「そんなこともあったな……」

 

 

「カチーン」

由比ヶ浜から声が漏れる。

雪ノ下の視線がさらに冷え凍てつく。

 

なんかまずいな。

 

「そんじゃ、比企谷またねー!」

そういって折本はこの場を去った。

まったく台風のような奴だ。

 

で……

 

「ヒッキー!!あの人だれ!!すごくムカツク!!」

「比企谷君、あんなのが趣味だったのかしら?」

なんか二人とも怒ってらっしゃるんですが……

 

「いろいろとな……昔の事だ」

 

「今も、未練でも?」

なんか、ちょっと前の雪ノ下に戻ったみたいだ。

 

「あるわけないだろ。あの時の俺は俺であっても、今の俺とは別人だ」

 

「なんか嫌な感じ!」

由比ヶ浜は明らかに折本にいい印象を持たなかったようだ。

 

これはもしかして昨日の占いの女難の相ってやつか?

 

 

 

会議室に戻り、元の席に着くと……

なんかバラの花を散りばめたような一団が会議室に入ってくる。

女子だけの6名程の集団は皆、気品にあふれ、キラキラしていた。空気まできらびやかな気がする。

「遅くなりまして申し訳ございません。六道女学院6名参りました。今日は生徒会長が火急の要件で参加できず、私が代行して参加させていただくことになりました六道女学院高等部3年、元生徒会の役員を拝命しておりました氷室絹と申します」

 

海浜総合高校と総武高校の野郎どもは、その佇まいと気品と笑顔に見とれてしまい。ぼーっと見とれる。

 

ああ!?ああああ!?キヌさん!?

 

「あっ、比企谷君!やっぱり比企谷君。高校名を見てもしかしたらと思ったけど。比企谷君がここにいてくれるのは心強いわ」

俺にキヌさんは気が付いたようで、俺の席の前に駆け寄ってくれた。しかも聖母の満面の笑みでだ!

 

「ええ?キヌさんなんで?」

 

「急に今の生徒会長が家の用事でしばらく学校にもこれなくなって、代役を頼まれたの。今の世代の事も今回の事も急で何もわからないうちに受けてしまったのだけど、比企谷君がいっしょで良かった」

笑顔のキヌさんは俺の両手を下から抄うように取り、喜びを表現する。

 

俺は思わず心が和み、顔がほころぶ、ついニヤついてしまった。

 

はっ!?

 

周りの男子共の視線が非常に痛い。ガンガンにこっちを睨んでくるんだが!

何だ?六道女学院の他のメンバーがハンカチを掴みながら、めちゃくちゃ睨んでくるんだけど!

 

はっ!?

 

一色!顔がめちゃ怖い!怖いぞ!擬態が解けてるぞ!

由比ヶ浜さん!?何を怒ってらっしゃるの!?あと、ズボン引っ張るのやめてくれません?

ゆ、雪ノ下さん、なにその絶対零度の視線は!?俺を視線で射殺す気か!?そんで俺の制服の肘の部分を引っ張るのやめてくれませんかね?

 

 

「またあとでね。比企谷君」

そう言って、六道女学院のメンバーの元に戻るキヌさん。

 

……東京の学校って、六道女学院だったのか。一色の奴そういえば、高校名、俺に言ってなかったよな。まあ、聞かない俺も悪いのだけど……しかもキヌさんが代表代行で参加か!これはうれしい偶然?

だが、視線がめちゃくちゃ痛いんですけど、他校からも身内からも……





GS試験前の占いの長い黒髪の女の子は、雪乃です。
まあ、恋愛というよりも、お互いの距離感が縮まった感じですかね。


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㉛やはりキヌさんは素晴らしい

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

色々とご意見ありがとうございます。
アンチ・ヘイトの件ですが、前回の話だけだと、アンチに見えてしまいますね。
こちらの配慮が足りなく申し訳分けございませんでした。
これ以上はネタバレになるため言いにくいのですが……アンチの意図はありません。

ただ、話の内容的に単発話事でアンチになりやすいのは確かなので、アンチ・ヘイトのタグを追加した方がいいのかもしれないと検討しております。

今回は思いっきり、つなぎ回、話は進みません。


六道女学院が到着し、改めて皆の自己紹介を行ってから、会議を再開させたのだが……何故か視線が痛い。

なんでみんな俺に注目してる?俺はまだこの会議が始まってから、自己紹介を軽くしたのみで、特に発言なんてしてないんだが……

特に六道女学院の全員がキヌさんの後輩からはなんか怨念のようなものを感じるぞ。

 

しかも、何故か身内からのプレッシャーも凄いんだが……一色さん?笑顔が怖いぞ、擬態が半分解けてるし……由比ヶ浜さん?なんで頬を膨らませて俺を見てるの?会議の内容を聞けって……雪ノ下の奴はさっきまで凍てつく視線を俺に向けてたが……今は、何故かキヌさんをじっと見てるし……。まあ、わからんでもない。この恐ろしくギスギスした会議場の中で、キヌさんのとこだけ別空間だ。会議場全体が冬のように厳しいが、キヌさんの周りだけ春満開の暖かなオーラが出てる……あの笑顔を見てるだけで心が和むしな………まじ、めちゃ落ち着く。まさに聖母だな。

 

 

さっきまで進まなかった合同演目についての打ち合わせだが……さっきと同じく、海浜総合高校が色々訳が分からん理屈をこねて、なかなか先に進みそうもない。

そんななか、笑顔のキヌさんがナイスな意見をだした。

 

「六道女学院はここまでの距離も遠く、演目を皆さんとご一緒させていただくには、スケジュールや練習時間を考慮するとご迷惑おかけする事は必然です。そこで私たち六道女学院は独自演目を行わせていただきたいと思います。それであればスケジュール、練習とも自校で行えます」

さすがキヌさん!いい意見だ。俺たちの高校もそれに乗っかろう!

 

「3校が折角集まってるのだから、皆で考えたらどうですか?まだ時間はあります」

海浜総合高校生徒会長の玉縄がキヌさんにそう反論する。

貴様!キヌさんに意見するなどもってのほか!!万死に値する!

 

「だめ?…ですか?」

キヌさんは困った顔をする。

おい!キヌさんを困らせるなんてなんて罰当たりなんだ!!信奉者(俺)に磔にされても文句は言われんぞ!

 

「ああ、ちょっといいか。この時点で何をやるかも決まっていない。そして六道女学院はわざわざ東京から来てもらっている。物理的に合同で何かを成す時間がほぼない。後、何回こうやって話し合いができるかもわからない。ならば、独自演目をっていう意見かなり建設的だと思うが、それに考えてみてくれ、俺たちの方が東京に出向いた場合はどうだ?」

俺は今日初めてこの会議で口を挟む。

困ってるキヌさんを見過ごすわけには断じていかんのだ。

 

「それは、…せっかくの…」

玉縄は何かまた反対意見を出そうとした。

キヌさんをそれ以上困らすつもりならば、覚悟はいいようだな!……貴様に罪を言い渡す!美神令子直伝千年殺しの刑だ!

 

「どうか、お願いいたします」

キヌさんは玉縄に向けて聖母の微笑みを浮かべる。

 

「………んん!?……まあ、いいでしょう。その……六道女学院は遠い……仕方がない。これは仕方がないのだ」

……なんだ。玉縄の奴、顔を赤らめて咳払いしたぞ……しどろもどろだな、おい。………どうやらキヌさんの微笑みで落ちたようだ。まあ、あの微笑みで懇願されたら断れるはずもないか。

千年殺しは許してやろう。

 

これを皮切りに、会議は進んでいく。

結局、3校全て独自演目となった。

その代わりとして、キヌさんの提案で、クリスマスソングの合唱は3校合同で行うこととなる。歌うだけならば、各校でパートさえ決めておけば練習できるしな。少ない時間で合わすことができる。

さすがキヌさんだ。

 

その他の事も順調に決まっていく。

 

……結果的にキヌさんの独壇場だったな。

実際、キヌさんが提示した提案はすべて建設的なものばかりだ。

反対意見を言うのも難しいものだった。

しかも、あの微笑みで懇願されるとな………反対意見を持ってても、思わずうんって言っちゃうよな。

 

 

そして、今日の合同会議は滞りなく終わり……

会議室を出たところでキヌさんが俺に声をかけてくれた。

 

「比企谷君、さっきは助けてくれてありがとう」

 

「いえ、当然の事をしたまでですよ」

 

「比企谷君、また事務所でね」

キヌさんは俺の耳元に小声でそう言って笑顔を向け、六女のメンバーの元へ足早にかけて行く。合流したキヌさんは笑顔のまま会場を後にするが……

六女の方々が俺の方を振り返って、めっちゃ睨んでくるんですけど!なぜだ?

 

 

 

 

「……なんで先輩に東京の超お嬢様学校の3年生にお知り合いがいるんですか?あの人とどういう関係ですか?」

キヌさんの後姿を見送った俺に、一色は笑顔で聞いてくるのだが……何その笑顔怖いんですけど。

 

「ああ、キヌさんはバイト先の先輩だ」

 

「バイト先の先輩!?バイトなんかしてたんですか?意外!……で~、先輩が下の名前呼びなんて、ずいぶん仲がよさげなんですけどー?」

 

「まあ、それなりに付き合いも長いからな」

 

「ムー、先輩が誰と知り合いだろうと私には関係ありませんけど!」

なんなんだ?一色のこの態度は?

 

「あの人がキヌさん……ヒッキーの……うー」

なんか由比ヶ浜はぶつぶつと独り言を言ってるし……

 

「……比企谷君、氷室絹さんを今度紹介してくれないかしら?」

雪ノ下は、普段通りの口調だな………あまり、人と接触したがらない雪ノ下がなぜ自分から絹さんを?……

 

「いいが……失礼な言動とかするなよ。お前の一言は免疫がない人にはきついんだよ。自覚してくれ……」

こいつの毒は猛毒だからな……キヌさんを困らせてしまうこと必須だ。

 

「あら、私が毒を吐くのは比企谷君にだけよ」

雪ノ下は心なしか楽し気な口調だ。

まあ、それならいいか……?なんで俺だけなんだよ!

そういえば、雪ノ下はあれから俺に毒を吐いてない。どういう心境の変化なのだろうか?

雪ノ下は毒を吐くことで俺から距離を取り、自分の殻を守っていたが……あの独白でそれをする必要性がなくなったのかもしれない。

 

「ヒッキー!あたしも!あたしも!紹介して!!」

 

「せーんぱい。当然私もですよね?」

 

由比ヶ浜はどうやら俺とキヌさんの関係を誤解してるようだし、ちょうどいい機会だ。キヌさんに誤解を解いてもらうとするか……俺が言っても由比ヶ浜は納得しないだろうしな。

一色は代表同士話し合う機会があるから必要ないだろう?

 

「まあ今度な……」

曖昧に返事をする。

 

面倒な事にならなければいいが……

 

 

 

今日はいろいろとあったな。

一色に生徒会主催の3校合同クリスマス会を手伝ってくれとのことだったのだが……。

最初は困難な気配がしていたが、終わってみれば、意外にも事が順調に進んだ。

その要因は、キヌさんだった。

そう、3校のうちの1校がキヌさんの東京の超お嬢様学校として有名な六道女学院で、その代表代理としてキヌさんが参加したのだ。これはうれしい誤算だ。

そして、そのキヌさんの笑顔と理にかなった提案で、難航しそうだったメインの合同演目の打ち合わせは、ぐずっていた海浜総合高校を説得し、各校がそれぞれ演目を出し合うことに決定される。その代わりと言っていいが、比較的やりやすい合唱を合同演目として追加され、3校が合意し今日の打ち合わせは終了したのだ。

さすがはキヌさんだ。

美神さんや美智恵さん、横島師匠や他のAランクGSたち等、あくの濃い人達を毎度、仲立ちして諫めてきたのだ。これくらいの事はキヌさんにとって日常茶飯事なのだろう。

 

……あれだな。キヌさんと話す俺に対し視線が集中していたな。まあ、それは甘んじて受けよう。今から考えれば当然の事だからだ。俺も知らん男がキヌさんと楽しそうに話してたら、そんな視線をその男に送っていただろう。いや、視線だけで呪い殺すまである。

しかし、男共はわかるが……何故か身内からや、その関係がなさそうな六女の女生徒からは特に怨念のこもった視線を受けたような………。解せない。

 

それとだ。折本かおりとの再会か。

折本は中学の時のクラスメイトだ。容姿も良く。誰にでも気さくに話しかけるクラスの人気者でもあった。

その折本は海浜総合高校の有志によるサポートスタッフらしいのだが……俺の事なんて忘れていたと思っていたが、覚えていて話しかけてきた。

それはいいのだが、再会でいきなり過去(告白)を暴露されることになった……まあ、今更気にしちゃいないが………昔から、誰に対しても明け透けというか、空気を読まないというか……良く言えば表裏がない奴だったのだが……なんか変な方にパワーアップしてなかったか?

雰囲気が少し……??…いや…ちょっとまてよ……いや、考えすぎか……。

次会ったときに確認するか、どうせ海浜総合高校とは何度も打ち合わせするんだ。

 

 

そういえば……。一色の依頼は海浜総合高校とコミュニケーションがうまく取れず、打ち合わせが難航してるから、俺達奉仕部に手伝ってほしいという依頼だったな……それって今日、解消されてないか?……俺たちは何もやってないがな……全部キヌさんが解決しちゃったんだけど……、依頼完了では………まあ、そういうわけにもいかんか、関わってしまったからには最後まで手伝わないとな……うちの高校だけで、演目することになり、明らかに人手が足りなくなったしな……。

決して、制服姿のキヌさんが見たいとか。一緒にイベントをしたいとかないぞ!………自分に言い聞かせるが全く説得力がないな………制服姿のキヌさんの学生らしい姿が、その眩しいです。

 

 

 

コミュニティーセンターから直接帰宅した俺は、今、小町とテレビを見ながら夕食を取っている。

テレビのニュース番組では、切れる学生というテーマで特集を行っていた。

カルシウム不足。ストレス社会。ネット社会によるコミュニケーション障害などなどと………

ちょい昔から言われてきた話題だ。

 

「お兄ちゃんは大丈夫だよね。お兄ちゃんってヘタレのくせにストレス耐性は無限にあるし、コミュ障はこじらしてるけど、今は雪乃さんや結衣さんがいるし。何より、小町の栄養バランスを考えた夕食は愛情たっぷりだよ。小町的にポイント高い!」

 

「……そうだな」

なんだその謎ポイントは……

まあ、学校ごときでストレス溜めるようでは、美神令子除霊事務所では働けない。小町、お兄ちゃんはコミュ障じゃないぞ!……これも、GSのバイトのおかげでだいぶ解消してるしな。コミュ障じゃこの仕事が出来ん。相手は特殊だが、いわば客商売のサービス業のようなものだからな。

 

 

「でもお兄ちゃん。うちの学校でも最近になって、なんか急に暴れ出したり、叫んだりした子が何人も居て、入院したり、学校休んでる子がいるんだ」

さっきとは打って変わって小町は不安そうな顔をする。

ニュースでも千葉市では最近急増してると言ってるな……

 

「小町、気になることや、ストレスを感じたら、お兄ちゃんに相談しなさい。なんでも答えてやるぞ」

 

「え~、お兄ちゃんが?頼りなさそう。逆に小町がお兄ちゃんを癒してあげるよ。ん?これも小町的にポイント高い~」

小町はニカっとした笑顔を向ける。

どんどん小町の謎ポイントが溜まっていくな。溜まったら何と交換してくれるのだろうか?

 

まあ、なんにしろ、この様子だと小町は大丈夫そうだな。




次はひさびさのGS回予定ですw


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㉜巷にうわさの事件を任される。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで、GS回です。


「はちまーん!すぐに出るぞ!」

 

「ちょっ、師匠、美神さんにもまだ挨拶もしてないんですよ」

事務所に来た途端これだ。建物の入り口前で横島師匠に捕まったのだ。

 

「横島ーーーー!!どこに行ったーーーーー!!」

建物の上階から美神さんの怒声が聞こえる。

 

「げっ!」

 

「………師匠何やらかしたんですか?」

 

「そんなのは後、後!に、逃げるぞ!!」

 

「ちょっ、俺を巻き込まないでくださいよ!」

 

「横島ーーーーー!!」

 

 

俺は横島師匠に強引に引っ張られ、車に乗せられ、美神令子除霊事務所を後にする……

バックミラーにはタオルを羽織っただけの美神さんが鬼の形相で神通棍振り回しながら追いかけてきていた。

 

 

「……覗きですか?」

 

「いやーーーーちょっとした出来心で、覗きじゃないぞ。ちょっと脱ぎたてパンティを……」

 

俺は無言でサイドブレーキを思いっきり引っ張る。

 

キキキキキキキッ

車は半回転しながら止まる。

 

「何すんだ八幡!!」

 

「怒られるなら早い方がいいですよ。後になると、とんでもない事になるんで、もしかしたら明日の朝日を拝めないかもしれませんよ」

 

「………た、確かに、あの女容赦しないからな……布切れ一枚で死ぬのもなんだしな」

 

ドゴン!!

 

「誰があの女ですって!!……あんたのその性根は一旦死なないとわからないようね!!」

美神さんがタオルまいただけの半裸で、車のフロントガラスの上に降ってきた。

 

 

「ひえーーーっ!!」

横島師匠がアクセルを慌てて踏もうとした。

 

「車壊れちゃうんで……観念してください」

車の後部座席に積んでいた呪縛ロープで師匠をぐるぐる巻きにする。

 

「裏切者ーーーーーーー!!」

 

「師匠の身を案じてですよ。今やられるのと、帰ってからやられるのとはどのくらい死に近づくんですかね」

 

「よくやった!!比企谷!!」

これで俺の共謀罪の疑いは晴れた。

すんません師匠、俺の雇い主は美神さんなんで、逆らえません。

でも、師匠、今やられた方が絶対ダメージ少ないはずですよ。

 

美神さんは勢いよく運転席の扉を開き、呪縛ロープにまかれた師匠を引きずりだす。

 

「か、堪忍や!!ちょうど掃除で拭くものがあったから拾ったらパンティだっただけなんや!!」

 

「ほーう。遺言はそれだけ?プライベートのシャワールームに入るなと、一体どれだけ言えばわかる……この、変態が!!!!」

 

「ギャーーーース!!」

そして、横島師匠は凄まじい攻撃をその身に受けていく。

 

 

……この人、毎度こんな状態なのに、懲りないな。学習能力ゼロなのでは……いや、これは一種のプレイなのではないのではないか?覗きから、下着泥……そして、この極上の折檻までがワンセットの……きっとそうに違いない……美神さんも横島師匠も結構ノリノリで楽しんでいるのではないだろうか……

 

血みどろのボロ雑巾と化した横島師匠を見て、それはないなと……命がいくつあっても足りない。

 

気が済んだのか、美神さんは横島師匠がポケットに隠し持った自分のパンツを取り出し、事務所に戻っていく。

美神さんはタオル巻いただけの姿なのだが……ぐっと来ない。美人でスタイルがいいのだが……鬼にしか見えん。鬼の腰巻や腹巻を見て興奮する奴はいないだろう。それと一緒の心理だ。

 

「師匠、一応聞いておきますが、生きてますか?」

血まみれになり、地面にはいつくばってる横島師匠に一応聞いてみる。

 

「………まあ……なんとか」

返事は帰ってきた。俺だったら全治1か月以上だろう。

 

「……後でだったら、たぶんこの倍はひどい目にあってますよ。というか、もう下着泥やめてください。どうせ、すぐ取り返されるんですから」

 

「………め、目の前にあったらつい…」

 

「はぁ、あんた、良く警察に捕まらないな。外ではそんなことやらないでしょ?美神さんにだけでしょ?」

プレイじゃないにしろ、一種のスキンシップなのかもしれないな……美神さんとの

……この頃思う。雪ノ下のあの毒舌も不器用なスキンシップの一つなのではないかと……

由比ヶ浜のスキンシップは……無意識な可能性が高いな。女の子なのだから自覚してほしい。

 

「…………」

 

「なにその沈黙?外でもやってるんすか?」

 

「あははははははっ!何を言ってる八幡!!外では紳士的な態度をとってるわ!!」

 

「……あやしい」

俺は思う。誰かこの人を一度警察に突き出してほしいと……ちょっとは反省してほしい。

しかも、もう復活してるし、まあ、ところどころ傷だらけだが……服は元に戻らんよな。

 

 

 

俺は改めて、事務所に行き美神さんに挨拶をする。

今日はバイトに行く日ではなかったが、急な呼び出しで、部活を早退して来てるのだ。

 

「比企谷君、ちょっと待ってなさい。おキヌちゃんも、もう来るから」

 

「ごめんなさい。遅くなっちゃって」

制服姿のキヌさんが慌てて事務所に入ってきた。

 

「いえ」

 

「そろったわね。じゃあ、始めるわね。あなた達二人で協力して事に当たってほしい依頼があるの、単発ものではないわ。時間がかかる仕事よ」

美神さんはそう言って俺とキヌさんの前に依頼内容が示されているタブレットPCを置き、キヌさんが受け取り俺はそれを横目で見る。

 

「ニュースになってるから知ってると思うのだけど、千葉で頻繁に起こってる学生の突然の発狂や暴力行動事件よ。起こした複数の生徒から何らかの術式を受けた形跡があったわ。それは呪いによく似た構造をしていたけど……私もママもこれに該当する術式はしらなかったわ。それとエミ(小笠原エミ。AランクGSの呪いのスペシャリスト)にも聞いたけど、呪いではない可能性が高いと言っていたわ……呪いであればそれを辿れば術者が判明する。エミぐらいになれば、そんなことはたやすくできるのだけどね。それが術者とその術式がつながっていないのよ。まったく、あの呪い屋たまには役に立ちなさいよね!」

なるほど、昨日小町と見たあのニュースの事件はオカルトが関係していたのか……確かに千葉だけ異様に件数が多かったしな。

それにしても、エミさんとは仲が悪そうだが一応GSとしての能力は一目置いてるんだよな。この人。

 

「美神さん。私は呪いに関してはそれほど得意な方では……」

「俺も、あまり呪い関係については知識が乏しいです」

キヌさんも俺も呪いに関しては得意じゃない。

 

「わかってるわ。今回はあなた達がまだ学生であるということが最大の理由よ。オカルトGメンもGS協会もこの件について警察から正式に依頼が来てるの。でも学生のGSなんて今の時代珍しいしね。しかも、CランクGSであることもね。だからあなた達に白羽の矢が立ったの。まあ、どっちからの依頼だし、結構報酬も高いし!!」

やっぱ、そこかよ。

確かに学生のGS免許所持者はかなり少ない。ほんの一握りだ。それこそひと昔はそこそこの人数がいたようだが、法整備が進んだ昨今では、社会人・大学生未満でGS免許を取得し霊能者としての活動を行うには条件が厳しいのだ。

ちなみに、キヌさんもCランクGSだが……経験は圧倒的に彼女の方が上だ。同じCランクなんて思うなどおこがましい。ただ、キヌさんの能力はあまり戦闘に向いていない能力なため、GS免許2次試験ではギリギリの通過だったらしい。それでも、この一年半で実績を認められEランクからCランクまで上がってきたのだ。

 

「美神さん、しかし、それだけじゃ何とも手がかりも無いですよね」

 

「そうね。3ページ目を見なさい」

 

「……霊的構造のほんの一部を書き換え?」

 

「そう、人の霊的構造の上尸(頭から上の部分を司る霊的存在)の部分になんてこともない霊組織を注入しているだけの術式よ。だから、異物が入った上尸が過剰反応をしめし、感情のコントロールを失って暴走するってわけよ。至ってシンプルな術式。呪いとも言えないようなものね」

 

「そこまでわかっていて……」

 

「この術式がいつ誰が、学生達に仕掛けたかがわからないのよ。暴走した子はあまりにもランダムで接点も無いわ。誰かを狙って付与した術式じゃないわね。まるで愉快犯よ」

……俺はその美神さんの言葉を聞いて、思い出した。この前のデジャブーランドでのコンプレックス3妖怪が現れた件だ。あれも結局犯人はわからずじまい。何がしたかったのかもわからない。

それと同じ臭いがする……

 

「美神さん。私たちの役割は学生から噂を聞き、手掛かりを見つけることですね」

キヌさんは美神さんにそう聞いた。

 

「その通りよ。……だから結局千葉在住で、千葉の学生である比企谷君に頼ることになるのだけどね。おキヌちゃんはどっちかというと、比企谷君の相談役。横島の奴は役に立たないわ。あいつが学生時代にまともな生活を送ってきてなかったことは十分知ってるから」

今、ペナルティで一人でこの建物の窓ふきをしているだろう横島師匠は、たぶん美神さんのせいで、普通の学生生活を送れてなかったんだと……それは口が裂けてもこの場では言えなかった。

 

「それでキヌさんと俺ですか、俺の役目はその術式が何時、暴走した生徒につけられたのかというルート探しですね……わかりました。やってみます」

 

「一人前の事を言うようになったじゃない、あんた。頼りにしてるわよ比企谷君」

美神さんに頼りにしてると言われると俄然やる気が出る。

 

「がんばりましょう。比企谷君」

しかもキヌさんと一緒か、やる気はさらにアップする。

キヌさんの笑顔が眩しい。

 

この後、美神さんからいろいろとレクチャーを受ける。

さすが超一流のGS、しかも相当頭が切れる。いろんな角度からの事件の可能性について検証していた。俺は感心するばかりだった。

やはり、俺はまだまだのようだ。

 

それと、事件の捜査の際、オカルトGメンの西条さんに協力を仰いでいいとのこと、場合によってはシロとタマモを連れて行っていいと言ってくれた。普段の仕事は、美神さんと横島師匠、シロ、タマモで回すから、キヌさんと俺はしばらくそれに集中してくれとのことだった。

 

 

キヌさんと打ち合わせをする。

とりあえず、学生が行きそうな場所、犯人と接触する可能性がある場所を上げていく。

警察の資料を見ると、今まで真面目だった人間が急にというパターンもある。

そんな人間でも行きそうな場所だ。

 

キヌさんの六道女学院の話を聞くと……俺の総武高校の学生生活とはかけ離れていた。

まじで、お嬢様学校だ。……ティータイムって何?所作の授業って何?……うーん。

 

しかし、よく考えると俺は高校ではボッチだ。普通の学生とは接点がない。戸塚……雪ノ下、由比ヶ浜………あと材木座?ぐらいだ。

肝心なところで役立たずの俺……まあ、明日あいつらに聞いてみるか……

 

そういえば、小町の学校の生徒もそんなことになってたな。今日帰って小町に詳しく聞く事にした。

 

 




でもって、次はガイル回にGSミックス


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㉝奉仕部への依頼

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

遅くなりました。
今回はあまり、進展しません。次についての布石です。


 

 

最近ニュースで取りざたされていた千葉市近郊で多発する学生の発狂、暴力などの精神暴走事件は、実はオカルト絡みの事件だった。

警察からGS協会、オカルトGメン経由の依頼が美神令子除霊事務所に来たのだ。

中高生の精神的な事件というかなりデリケートな扱いが必要である上に、同じ目線で調査が出来る人材が必要不可欠ということで、現役高校生のしかもGS免許を取得してるというアドバンテージを持つ俺とキヌさんに白羽の矢が立ったのだ。

俺の役割は、学生の精神暴走事件に関する噂や情報を、精査し、精神暴走させる術式を学生に仕掛けた犯人又はその術式が学生にどのようにわたったかというルート解明の手がかりを見つける事だ。犯人を特定し捕まえれば最良だが、そこまでは求められていない。

GSの花形である派手な妖怪退治などもあるが、こういう地味な調査等の仕事をこなしてこそのプロだ。

 

俺は二つ返事でOKしたものの、よくよく考えると、中高生の目線に立ち、この件の噂や情報を集めることになる。当然中高生の間でまことしやかにささやかれてる噂や話題にアンテナを張らないといけない。その際、学生に直接聞き込み等をしないといけない場面も出てくるだろう。しかし、俺は学校内ではボッチだ。普段、クラスメイトに気軽に話す事も無い上に、名前さえロクに覚えていない。はっきり言って学内での俺のコミュニティはほぼ無いと言っても過言ではない。まさしく陸の孤島状態なのだ。

いきなり暗礁に乗り上げた気分だ。……流石に今更断れないだろうな………だって、美神さん、この依頼、結構な金額が入ってくるって喜んでたしな。……ダメでした。なんて言った日には半殺し確定かも………しかも、キヌさんとのコンビで受けた仕事だ!キヌさんに恥をかかすわけにはいかないのだ!猶更そんなことは断じてできん!

 

とりあえず、クラスメイトで唯一の友人と言っていいだろう戸塚に聞いてみたが……戸塚はそういうことには疎いらしく、知らなかったようだ。まあ、戸塚は見た目は天使だが体育会系のノリで部活一筋だしな。

となると、やはりあの二人に頼るしかないか………

 

 

 

放課後の奉仕部部室。

 

俺は雪ノ下と由比ヶ浜に精神暴走事件に関係してそうな噂を聞くことにする。

俺の唯一の学内でのコミュニティは奉仕部しかないからな。

「ちょっといいか?」

 

「なにかしら」

「なになに、ヒッキー」

 

「変なことを聞くんだが……学内で生徒が急に叫んだり、暴行をふるったりとかそんな感じの噂とか事件を知らないか?」

 

「昨今ニュース番組等で報道されてる件ね。それがどうかしたのかしら?」

「うーん。……って、ゆきのん。それニュースになるぐらい有名なんだ!」

予想通りの反応だ。雪ノ下は流石に知っているな。由比ヶ浜はあまりニュースとか見てなさそうだ。

だが、重要なのはそこじゃない。

 

「その事だな。学生による精神暴走とか言われてる奴だ。それに関わってそうな噂や話をしらないか?どんなもんでもいいんだが」

 

「なぜ、あなたがそんなことを知りたがるのかしら?」

「……うーん。なんかそんなのを聞いたような……うーん」

 

「まあ、そのなんだ。仕事の方で、ちょっとな」

正直に話すべきか迷うところだな。深くかかわると……今のところ危険の目はないが、結構突っ走って、しまいそうだしな。特に雪ノ下は……

 

「……そういうことなのね。あなたが学生のこんな事件に興味がわくなんておかしいもの……十中八九この事件、オカルト絡みの疑いがあるのね」

察しがいい雪ノ下にはやはり分かってしまうか……

仕方がないが協力を仰ぐか……こいつらにこんなことに関わらせたくはなかったが、今の俺だけでは学生間で飛びかう噂一つ精査することもできん。

これも、まともに学生生活を送るつもりがなかった弊害ってところだろう…皮肉もいいところだ。

但し、線引きはしないといけないがな、危険な領域に踏み入れない程度に協力を頼むか。

 

「そうなの?ヒッキー」

 

「ああ、雪ノ下の言う通りだ。オカルトが関わっている可能性が高い。だが手がかりが少なすぎてそれすらも確定ができない状況だ」

 

「それで、手がかりが欲しくて、私たちにあんな質問をしたのね」

雪ノ下は呆れたような表情をする。

 

「そ、そういうことだな」

 

「もしかして、ヒッキー!私たちを頼りにしてくれてるの!?」

由比ヶ浜は嬉しそうだ。

 

「まあ……そんなようなもんだ」

 

「私たちに?……あなたでも一人で解決できないこともあるのね」

 

「そりゃな、GSと言っても、実力も経験もまだまだだ。俺じゃこなせない仕事は五万とある」

 

「……そう、あなたでも……」

雪ノ下は静かに言うが、少々驚いたような顔をしていた。

 

「ヒッキー、もしかしてこれ、ヒッキーからの依頼なのかな!?」

 

「そう……だな。依頼してもいいか?」

 

「そうね。でも比企谷君、まずは依頼内容を聞いてからよ」

そう言う雪ノ下は悪戯っぽい微笑を浮かべていた。

 

「ゆきのん、いいじゃん。せっかくのヒッキーの依頼なのに」

 

「由比ヶ浜さん、こういう事は形式が大事なの、それとイレギュラーの前例を作るのも良くないものよ」

雪ノ下は由比ヶ浜にそうやって窘める。

まあ、確かにそうだな。形式は大事だ。仕事には順序があるそれを一つ飛ばすだけで、何らかの不具合が起きるものだ。GSのようなイレギュラー性が大きい仕事でも形式はちゃんとある。

 

「……わかった。依頼内容を話した後で決めてもらっていい……」

俺は会議用テーブルを挟んで雪ノ下と由比ヶ浜の前に椅子を持ってきて座る。

 

「では、依頼内容をどうぞ、依頼者の比企谷君」

どことなしに雪ノ下は楽し気なようだ。

 

「先ずは……すまんな。これも形式の一つなんだ。GSが正式に聞き取りや情報提供を受ける場合や、こちらもある程度の情報を提供する必要がある場合。これを提示しないといけないんだ。情報提供者等に対する身分提示と守秘義務が発生する」

俺はそう言いながらポケットから革製のカードケースを出しGS免許を提示する。

GSは正式に聞き取りを行う相手や情報提供者にGS免許を提示する義務がある。まあ警察と同じようなものだ。身分を証明するのと同時に、守秘義務が情報提供者や聞き取り相手に掛かってくる。さらに情報提供者の保護の目的もあるのだ。報告書には必ず、情報提供者や聞き取りを行った相手の氏名等を上げることになる。聞き取り者が身分提示を拒否した場合、性別年恰好のみの報告をする決まりだ。

因みに革製のカードケースは横島師匠が俺がGS免許を取得した時にプレゼントしてくれてたものだ。

 

「ヒッキー!なんかかっこいいね!ドラマの刑事さんみたい!」

由比ヶ浜はGS免許証をまじまじと見ていた。

 

「……CランクGS。……こう見るとかなり実感がわくわ……普段のあなたはとてもそうは見えないもの」

 

「……まあ、ランクはたまたまだ」

 

「CランクGSって何?」

 

「由比ヶ浜さん、GSにはランクがあるのよ。上はSで下はFまであるわ」

 

「ということはヒッキーは真ん中なんだ。あの時のヒッキー結構かっこよくて強かったのに」

 

「そうね。但し、真ん中より上というのが正解よ。GSは実力主義の世界。ランクで一番人数が多いのはDランクのGS、次にEとCよ。日本にSは数人だけ。Aでも30人前後よ。Cランクというのは自分で個人事務所を持つことができるレベルなのよ。Cランクからが本当の実力者ということになるわ」

やっぱり良く調べてるな雪ノ下。陽乃さんの事で相当調べたのだろう。

 

「え!?ヒッキー!やっぱ凄いんだ!!」

なんかこそばゆいんだが……まあ、褒められて悪い気はしない。

 

「ほ、本題はいいか?」

 

「脱線したわね……どうぞ」

 

美神さんからは情報提供者に対してはある程度事情を話していいとは言われている。

まあ、俺の場合、この学校で事情を話せるのはこの二人と担任の先生と平塚先生ぐらいだが……

俺は話せる範囲で、美神さんから頼まれたこの案件の概要を伝えた上で、奉仕部で受けてもらいたい依頼内容を提示した。

事件に関する噂や情報、それ以外に千葉近郊の学生が行きそうなところや、巷で流行してる遊びやグッズやアイテム、グルメなどの情報提供だ。

 

「ヒッキーの依頼、あたしでも出来そう!あたしは全然OKだよ!ゆきのんももちろんOKだよね」

由比ヶ浜は楽し気だ。

 

「由比ヶ浜。わざわざ、情報集めに行かなくていいぞ、知ってる事とか、クラスで噂になってる事を教えてくれたらいい」

変に色々聞き込みに行って、精神暴走した人間に暴力でも振るわれたら本末転倒だからな。

もし、聞き込みが必要な場合は俺が行く事にしよう。

 

「確かに学校で独りボッチの比企谷君では難しい案件ね。いいわ。その依頼を受けましょう」

 

「助かる。……しかし、それはお互い様じゃないのか?」

美人で学業優秀、スポーツもできるとハイスペックな雪ノ下なのだが……間違いなくボッチだ。

まあ、この前の独白で分かったことだが、自ら他人とに巨大な壁を作ってるからな……

雪ノ下には噂とか情報集めとかに期待はしてない。考える方に回ってもらえると助かる。

 

「あら、失礼ね。私は別に人と話せないわけではないわ。一人が好きなだけよ。あなたと一緒にしないでくれるかしら」

そんなことを言いながらも、雪ノ下は楽し気だ。

でもな雪ノ下、それはボッチの奴が言う言い訳のベスト3に入る言葉だぞ。

聞いてるこっちが辛くなる……

 

「ゆきのんとヒッキーにはあたしが居るし!大丈夫!」

なに恥ずかしい事さらっと言っちゃてるんですか由比ヶ浜さん。……まじでこっちが赤面しそうだ。

 

「……まあ、それは置いといてだ。由比ヶ浜、なんか知らないか?」

やはり、コミュ力が非常に高い由比ヶ浜が今回の依頼のカギだ。

 

「うーん。事件かぁ、なんかあったような……今度、優美子とかに聞いてみる。流行ってる事とかは、結構あるよ!」

ここからは由比ヶ浜の独壇場だった。

学生の流行りとか、遊びとか……複雑怪奇だな。

多種多様に富んで、もはや絞り切れるものじゃない。

俺は検証するためにメモをする。雪ノ下も同じくメモを取っていた。由比ヶ浜が語る、流行りの遊びや、流行りのグッズや服や雑誌………

雪ノ下は目に見えて、疲れが見える。体力の無い雪ノ下にはこれはきついものがある。

俺も、由比ヶ浜が楽し気に次々と語る話についていくのがやっとだ。

 

ちょっと休憩を取った方がよさそうだな……

 

しかし……

 

 

奉仕部の部室の扉が勢いよく開け放たれた

「比企谷!比企谷八幡は居るか!」

 

「……先生、ノックをして下さいと」

雪ノ下は部室に無遠慮に入ってくる平塚先生にいつも通りの注意をする。

 

「大声出さなくても、ここにいますよ」

 

「ふはははははっ、今日、君はバイトの日じゃないのかね!さあ行くぞ!」

雪ノ下と俺の声など耳に入っていないのか、平塚先生は勝ち誇ったような笑いをしながら勝手に話を進めていく。

しまったーー!!もうそんな時間か!当初の予定では部活を早めに切り上げて平塚先生が来る前に、仕事先に(美神令子除霊事務所)向かうつもりだったんだが、由比ヶ浜の話で、時間が過ぎているのに気が付かなかった!

そう、平塚先生は俺を仕事先まで送るつもりなのだ。目当ては横島師匠だ。このハイテンション、どうやら、横島師匠がアメリカから帰ってきてるのを知っているようだ。

 

そして、俺は平塚先生に腕をがっちりと絡ませられ、強引に引っ張られていく。

 

「ちょっ!引っ張らないでくださいよ!……由比ヶ浜!続きは次で頼む!」

 

「ヒッキー!」

「……今日はここまでにしましょうか」

由比ヶ浜の心配そうな声と、雪ノ下の呆れたような声が教室から強引に引っ張り出される際に耳に入ってきた。

 

またしても、俺は平塚先生に強引に引っ張られ、車に乗せられ、美神令子除霊事務所に向かうのであった。





次は……GS回確定か?


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㉞仕事先の事務所までドライブで

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はつなぎ回です。



 

 

俺は今、上機嫌な平塚先生のマイカーである高級スポーツカーの助手席に座っている。

奉仕部から、拉致られるがごとく、半ば強制的にこの車に乗せられたのだ。

俺の仕事先である美神令子除霊事務所に送ってくれてるとの事だ。電車で行くよりは楽だし、少し早く着く。

なぜ、先生が俺の仕事先までわざわざ学校から送ってくれるのかって?

それは平塚先生の目的がアメリカから帰ってきた横島師匠に会うためだ。その口実として俺は利用されてるに過ぎない。

直接会いたいと言えばいいのに、この人は………。普段はイケイケのくせに肝心なところでヘタレなようだ。まあ、後がないと思ってるこの人が慎重になるのは仕方がないか………

見た目は美人なのに……性格もそんなに悪くはないし、教師としても俺から見れば、熱心で生徒の事をちゃんと考えてるしな。俺の中でも高評価だ。………いかんせん。男の事になるとこのダメっぷりなのだ。俺の中で残念美人確定だ。

 

助手席に座る俺に上機嫌に世間話を振ってくる平塚先生に相槌を打ちながらどうすべきか考えていた。

多分、事務所にはキヌさんがいるだろう。キヌさんは明らかに横島師匠に好意を寄せてる。しかも、この前の件から、平塚先生は一方的にキヌさんを恋のライバルと認定し、何故か自分の方が勝ってると思っているのだ。……先生…勝ってるところはスタイルぐらいだ。顔は好みによるし、平塚先生のようなシャープな美人が良いという人も言えば、ほんわかな、かわいらしい顔立ちのキヌさんがいいという人もいるだろう。ただ、年齢は10歳差でキヌさんに軍配。性格は完全にキヌさんの方が良いだろう。……それよりも圧倒的な女子力に差がある。というかキヌさんより女子力が高い女性は見たことがない。もはや聖母クラスなのだ。

普通に考えれば平塚先生は勝てる見込みは万に一つもないだろう。

ただ、うちの師匠の横島忠夫はキヌさんの好意に気が付いてるはずなのに、それを気が付いていないふりをしてる。わざとだ。なぜなのかはわからない。

あんな女好きのスケベが服を着て歩いているような男が、自分に明らかに好意を寄せてる女性に手を出さないとは………もしかしたら、年下はダメとか……いや、女子高生にもナンパしてたしな。

まさか、キヌさんとの付き合いが長すぎて恋愛の対象に見えないとか……あり得るな。横島師匠のキヌさんへの対応はどうも、年下の親せきの子や妹みたいな感じで扱ってるからな……それにしたって、キヌさんの好意に何らかのアクションがあってもいいんじゃないか?

キヌさんがかわいそうだ。でも、キヌさんもキヌさんでなぜだか、積極的にアピールしないんだよな。

明らかに横島師匠に惚れてるのに………昔、この二人に俺の知らない何かがあったのだろうか?

 

 

「比企谷、君が奉仕部に残ったということは、雪ノ下と由比ヶ浜と話し合いをしたのだな」

俺がそんなことを考えていたのだが、そんな中、平塚先生は世間話から、この前の俺の奉仕部去就問題についての話題に話を変える。

 

「そうですね。俺の一人よがりだったようです。平塚先生のアドバイスのおかげです」

 

「私は大したことを言っていないよ。そうか………君は凄いな。その年で自分の間違いや勘違いに気が付き、それを認めることができる。やはり、学校の皆より一足先に世間に出ていることが大きいようだな。それとも周りの環境がいいのかな」

そう言う平塚先生は少し微笑んでいるように見える。

周りの環境か……美神令子除霊事務所の環境が世間的には良いとはとても言えないだろう。ただ、俺にとってはいろいろと学べる事が多かった。最初はただ必死だった。そんな俺の事を認めてくれる人がいて、頑張れば頑張る程、俺の糧となる。そんな感じがしたのは確かだ。

 

「先生、一つ聞いていいですか?」

 

「なんだね」

 

「俺を奉仕部に強引に入れたのは、俺に一般的な高校生活を味合わせるため……だけじゃないですよね。……雪ノ下……雪ノ下の事が絡んでいるのじゃないですか?」

 

「……そうだ。雪ノ下は君に何か話したかね」

 

「はい……ちょっと立ち入った話を」

 

「成績優秀、品行方正、教師すら扱いに困るほどだ。……ただ雪ノ下はいつも一人だった。それを見かねて、ついおせっかいをしてしまった。そして気が付いた。雪ノ下自身に心に大きな問題を抱えている事に……。姉の雪ノ下陽乃は私が担任だったためよく知っていた。最初は陽乃と雪ノ下は表面的には対照的という印象を受けたが、実際は違っていたんだ。表面的に見える雪ノ下雪乃は作られたもの……そこには自分が無い様に見えてな……何とかしてあげたかったが、彼女の家庭事情にも関わる問題だ。彼女も特殊な家庭環境であることは分かっていたが、それ以上はな。

そこで目を付けたのは君だよ。君は一見、どこの学校にもいる。学校の環境に適合しない生徒の一人に見える。接すれば、引っ込み思案のひねくれた小生意気な小僧ととらえてもおかしくない。しかし、言葉の端々に確たる自分を強く持ってると感じたよ。よくよく知れべれば、GSという特殊な環境でも、それに適合していた。私もGSについて調べたよ。かなりの精神力が必要な職業らしいな。GS免許取得したところで、実際に第一線で活躍できるのは一握りだ。精神的にかなりきついと……それでも君は曲がりなりにも学校とGSのアルバイトを両立していた。学校をサボるわけでもなく、学業もそこそこ優秀な成績を残してだ」

一種の賭けだったのだが、雪ノ下に君を会わせたらどうなるかとな……どうやら私の目に狂いはなかった。さらに由比ヶ浜もこの頃しっかりしてきてる。これも君のおかげだな」

 

「……俺は何もしてませんよ」

やっぱりそうだったか……この先生は食えないな。雪ノ下の問題に最初っから気が付いていたんだな。それで俺を入れたのか……それがよかったのかは別だと思う。まだ雪ノ下の問題は何も解決していない。俺は雪ノ下にあんなことを言ってしまったため、もう、後には引けないがな……

 

「そうかね」

平塚先生の横顔は楽し気に微笑んでいた。

やはりこの人、なんだかんだと、結構やりてなんだよな……その笑顔や熱意をそのまま男性に伝えれば、結構コロっと行くと思うんだが……俺だって、今の先生をかっこいい女性だと思うしな……年が近かったら惚れてたかもしれん。

 

 

「で……だ。横島さんは私の事を……どう思ってると思う?弟子の君から見てどうだ?……あの氷室さんと比較してどうだ?」

……さっきまでのあれは何だったんだ?急に自信なさそうにソワソワしだしたぞ?

なんかダメな感じがするんだが、なぜ男の事になるとこうも豹変するんだ?マジで。

 

「はぁ、先生。落ち着いてください。………さっきまでの先生はどこに行ったんですか?俺に話をしてる先生は俺が惚れそうなぐらい、かっこよかったのに、男の事になるとどうしてそんなダメな雰囲気になるんですか?」

 

「ほ……惚れそうって!君、なな何を言ってる!仮にも私は教師だぞ!ほ…ほ、惚れるなんて!……い、いかんぞ、私には横島さんが、い、いるんだ!」

平塚先生は顔を真っ赤にして、めちゃくちゃ慌てだした。いや、取り乱してるなこれ……男に耐性が無さすぎるぞ。

 

「仮にですよ。惚れるとは言ってません。それだけ、さっきの平塚先生はかっこいいと言ってるんですよ。さっきの感じで男の人と話したらいいじゃないですか?大概の男はコロっと行くんじゃないですか?」

 

「そ……そうか?……私でも、男性を落とせると……比企谷から見て、私はかっこいい女性に見えるのか?」

 

「まあ、さっきまではね」

 

「そ、そうか」

なに生徒に言われて顔を赤くしてるんですかね。教師としてはいいんだが、ほんと恋愛に関しては全くダメだなこの人。

まあ、俺も真面な恋愛などしたことがないからわからんが……

 

「男の俺が言うんです。自信を持ってください」

はぁ、横島師匠を落とすのは無理だろうが……次、頑張ってください。きっといい人見つかりますよ。

 

「わ、わかった!私の本当の力を見せよう!男など私の抹殺のラストブリットで一撃だ!わーはっはー!」

 

「………」

やっぱめちゃくちゃダメそうだ。抹殺してどうする。

 

 

 

そうこうしてるうちに、美神令子除霊事務所のビルが見えてくる。

 

事務所の敷地から車が出ようとするのが見えた。

あれは横島師匠だな。もう仕事に出るのか、緊急案件でもあったのか?

 

「くーくっくーーー!見つけたぞ!逃がさん!!」

平塚先生はまるで悪役のようなセリフを吐き捨てる。

どうやら対面から、走り過ぎようとする車を運転してるのが横島師匠だと認識したようだ。

 

急ブレーキを思いっきりかけて、甲高いブレーキ音と共に車を強引にUターンさせる平塚先生。

 

「ちょ!先生!俺は降ろしてください!!」

 

「すまなかった比企谷!!」

平塚先生はUターンした後、いったん車を止める。

 

「まあ、頑張ってください」

俺はそう言って慌てて車を降りる。

 

「行ってくるーーーー!!逃がさんぞ!!はーはっはっはーーー!!」

平塚先生は俺を降ろした後、車を急発進させ、横島師匠の車を追いかけ走り去った。

……普段はいい人なのに……残念過ぎる。

 

平塚先生の車が走り去る後ろ姿を見送った。

……スピード違反とかで捕まんなきゃいいんだが。

 

 

 

俺は気を取り直し、事務所に向かうのだが……敷地内の駐車場にどこかで見たような高級車が止まっていた。

来客かな?依頼者だろうな。その依頼内容の確認のために横島師匠は緊急でどこかに調べに行ったのかな?

 

とりあえずエレベータに乗り、事務所に所長の美神さんに挨拶に向かう。

接客中だろうから、顔を出し一言挨拶する程度でいいか。やる仕事も決まってるしな。今日も学生の精神暴走事件について、キヌさんと打ち合わせと検証だ。由比ヶ浜から、この頃の学生の流行りとかの情報もある程度手に入ったしな。……キヌさんと二人か……その響きだけで何故か背徳感がある。心の中でスキップを踏む俺。

 

 

事務所内の霊気を感じる。美神さん以外にキヌさんと、美智恵さんも来てるみたいだな……

来客は二人……この霊気どこかで感じた事が……





次は……再登場のあの人たち


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㉟この人たちのお礼とかお詫びとか何かが間違ってる。

感想ありがとうとございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前回の続きですが……



平塚先生に学校から美神令子除霊事務所まで先生のマイカーで送ってもらったのはいいんだが、平塚先生は事務所前で車で出かける横島師匠を見つけ猛スピードで、追いかけて行ってしまった。

まあ、先生の目的は横島師匠だしな。……スピード違反で捕まらなきゃいいが。

 

俺は仕事にかかる前に4Fの事務所に居るだろう美神さんに挨拶に向かうのだが……敷地内にどこかで見たような高級車が止まっていた。どうやら来客のようだ。依頼者なのだろうか?

俺は上に向かうエレベーターに乗りながら、何気なく事務所内の霊気を探る。美神さんにキヌさん、美神さんの母親の美智恵さんも来てるな、なにか込み入った話なのだろうか?

後は、来客は二人か……?……霊能者のようだな、しかし、どこかで感じたことがある霊気だが……

 

俺はエレベーターを降りると、シロとタマモが扉の隙間から事務所の中を覗いていた。

 

「こんなとこで何やってんだ。シロとタマモ」

 

「八幡殿……。骨は拾ってあげるでござる」

「……八幡。小町を悲しませるような事態だけは避けなさいよ」

シロとタマモは俺の声で振り向き、人の顔を見るなり哀れんだ顔をし、不吉な言葉を残しながら自室へ戻っていった。

 

なんなんだ?

まさか、またあの親子、喧嘩してるのか?

美神さんと美智恵さんの喧嘩に巻き込まれるのは勘弁してほしい。

だから、横島師匠は逃げ出して、出て行ったのか?

しかし、来客がいるのに………美神さんに限って、来客が居ようがいまいが関係ないか。

 

はぁ、さっと挨拶して、巻き込まれる前に、すぐに出るか……

俺は事務所の扉前で息を大きく吐いてから、扉をノックして、恐る恐る事務所に入る。

 

「こんにちは」

 

 

美神さんが所長席に座っていたが、明らかに機嫌が悪い。

…返事もない。

 

俺は目線を所長席から反対側の窓際へ移す。

だだっ広い事務所の真ん中より窓際にある応接セットに美智恵さんが座っているのと、観葉植物の影でどういう人物かは見えないが、美智恵さんの対面に客人が座っているシルエットが見える。

キヌさんの姿が見えないが、たぶん奥のキッチンでお茶の用意でもしてるのだろう。

 

「比企谷君ちょうどいいところに来たわね」

美智恵さんが俺を見つけ、手招きをする。

 

俺は美神さんの顔色を伺いつつ、美智恵さんの元へ向かう。

美神さんは俺の視線に気が付いたようだが、フンとばかりに顔を思いっきりそらす。

なんだ?俺なんか失敗したのか?……心当たりがないんだが。どちらにしろ、かなり機嫌が悪いぞ。

 

 

俺は回り込むように、美智恵さんの横まで歩むと……

 

「待ってたよ、比企谷君!」

「久しぶりね比企谷君。といってもまだあの時から一か月位かしら」

美智恵さんの対面で笑顔で手を振る雪ノ下陽乃さんと、西日本唯一のSランクGSで陽乃さんの師匠であり、陰陽師の名門、土御門家現当主の土御門風夏さんも微笑みながら俺に挨拶をしてくれた。

 

「……雪ノ下さんに、土御門さん…………こんにちは、ご無沙汰してます」

どうしてという思いと驚きはあったが挨拶を返す。今は美神令子除霊事務所のお客様なのだから……

何気に、外面仮面無しバージョンの陽乃さんだな。

 

「今は土御門は・る・のよ八幡。さあ、陽乃って呼んで」

なにこのテンション?しかもまた名前呼びかよ。

 

「そういうのはいいんで」

 

「つめたーいぃ。もしかして八幡はツンデレさんかな?」

何言ってんだこの人。こんな陽乃さんの姿を雪ノ下に見せてやりたい。幻滅するぞきっと。自分の尊敬する姉が実はこんな感じだったとか……

 

ところで、なんで西日本重鎮である土御門風夏さんまでここに?

 

 

「比企谷君。とりあえずここに座りなさいな」

美智恵さんは自分の横に座るように俺を促す。

 

「ちっ」

……所長席から、大きな舌打ちが聞こえてくるんだけど………なにこれ?

 

俺は舌打ちをした張本人である美神さんの顔色をもう一度伺うのだが、俺の視線に気が付くと、さっきと一緒でフンと顔を思いっきりそらすんだけど………どうしろというんだ?

 

まあ、怒声が来ないってことは、座っても良いってことだよな。

 

俺は美智恵さんに従いお辞儀をしながら横のソファーに座る。

 

 

「比企谷君にこの前の事で改めてお詫びとお礼をしたくて、あなたを訪ねてここに来たのよ。あの時は本当にありがとうございました」

風夏さんはそう言って、頭を下げる。

 

「前も言ってもらったんで、もういいですよ。それに俺は、自分のためにやったんで、別にお詫びとかお礼とか……」

そういえば、そんなことを言ってたな。

京都の酒吞童子復活未遂事件の時の事だ。

お詫びとは、風夏さんの次男数馬が俺たちを殺そうと狙ってきた件だ。あれは半鬼化の影響と、その後は茨木童子に意識を完全に乗っ取られてたからな……あそこに数馬の意識があったかは疑問だ。

お礼とは、一つは茨木童子を足止めした件だろう。俺は雪ノ下と由比ヶ浜を助けるために彼奴と対峙しただけで、足止めしたなんて意識は全くない。足止めどころか、彼奴から雪ノ下と由比ヶ浜を引き離して、逃げようとしたくらいだ。

後は、雪ノ下を助けた事だろう。これは主に陽乃さんのお礼ということなのだろうが。

 

「……比企谷君、日本人として慎みは大事よ。どこかの誰かにも見習ってほしいくらいよ。でも、あなたはあれだけの事をやったのよ。しかもあの土御門家当主直々にこうして来てるのだから、逆に失礼にあたるわ。素直に受けるべきよ」

美智恵さんはそう言って、美神さんをちらりと見る。……明らかに美神さんへの嫌味だ。まあ、美神さん慎みとか遠慮とか、そういうのに無縁な人だしな。

……あの、ますます美神さんの機嫌が悪くなるからこれ以上はやめていただけませんかね。

 

「いや、前も言いましたが、結局すべて解決したのは横島師匠ですし」

 

「横島君にもお礼をしたわ。だからね。受け取ってほしいのよ」

横島師匠もこういう時は素直に受け取れと言ってたな。そういうものなのか?

 

「おキヌちゃんもそうだけど、令子の元でよくまあ、こうも……反面教師かしら?……それでも、無欲すぎるのはどうかと思うわよ比企谷君………とは言うものの、オカルトGメンとしてはうってつけの人材なのよね」

美智恵さん!もうそれ以上美神さんを挑発するのはやめてくれないっすか!?自分の娘さんが鬼の形相でこっちを睨んでますよ!

 

「比企谷君、雪乃ちゃんを助けたのは間違いなく君よ。何度お礼言ってもたりないぐらい。だからせめて形あるものでけじめをつけさせて」

陽乃さんは真剣な面持ちに戻し俺にそう言った。

 

「……わかりました」

まあ、あまりにも断るのも悪いしな。美神さんはなぜだか機嫌が悪いが、美智恵さんもそう言ってる事だし。あの時に横島師匠の前で受け取ると言っちゃったしな。

 

「よかったわ。比企谷君ってそういうのを嫌がるって聞いてたから……だから美智恵ちゃんに相談したの」

風夏さんはホッとした表情をしていた。

どうやら、俺に随分と気を使ってもらっていたようだ。

こういうのは素直に受け取れと横島師匠が言ってたのは正解だな。

渋ってしまうと逆に迷惑をかけてしまうようだ。

 

それにしても、美智恵さんをちゃん付けとは流石土御門当主ってところか……まあ、美智恵さんは風格はあるがこう見えても40歳そこそこ、風夏さんは確か60歳前後だから、一世代以上違うんだよな。あの美智恵さんから見ても風夏さんは大先輩にあたる。

 

「ちっ!」

あの…なぜまた舌打ちを?何を怒ってるんすか美神さん?訳が分からない。

 

「……令子の事は気にしなくていいわ」

美智恵さんがそう言ってくれるんだけど……気にするなってのは無理なんですが。しかもなんか呪い殺すような勢いでこっちを睨んでますよ。

 

「それでね比企谷君。美智恵ちゃんに相談したら、比企谷君が借金背負ってるって聞いて、しかも、雪ノ下家が関わってる事故がきっかけで霊障を起こして……だから、その借金をと……」

 

「いや、それは流石に受け取れませんよ。結構な額ですよ」

確か、1000万の借金の内、300万ぐらい返してるから、後700万位あるはずだ。

 

「比企谷君には悪いけど、その話は先に進めさせてもらったわ。令子にも先に話し合って解決済みよ。……相当ごねたけどね。あの子……君が背負った借金は大負けに負けて1000万にしたものだから、他人が払うならば元本の5000万だって言い張ってね。……でも、風夏さんがそれを聞いて、小切手5000万をその場で書いて渡したわ。だから、あの子機嫌が悪いのよ。それと君が払った返済額はそのまま君の手元に戻ってくるわ」

なるほど……美神さんが機嫌が悪い理由はわかった。5000万って啖呵きったのに、あっさり支払われ、自分の思い通りにならないからだな。

流石に……5000万って、俺の方がかなり気が引けるんだけど。

 

「さすがに悪いですよ。土御門さん」

 

「いいのよ。比企谷君。これはほんのお詫び」

軽い感じでそんなことを言う風夏さん

 

「どうせあなたの事だから、5000万だろうが1000万だろうが、直接は受け取らなかったでしょう?だから、令子と直接話し合いをさせてもらったの」

た…確かにそれは受け取らなかったな。まじで……やはり、相当金持ちなんだな。土御門家って……。

 

「これで比企谷君は高校卒業後にオカルトGメンへ何の障害もなく入れるわね」

続けて美智恵さんはこんなことを言って満足そうに頷く。……この人策謀家だからな……なるほど漁夫の利を得るために、風夏さんの相談を快く受けて、こんな形にしたんだろう。

 

ものすごい威圧感のある視線を背中に感じるんだが……

あの、美神さんそれ以上睨むと、美人が台無しですよ。

 

「それと、次はお礼ね」

 

「へ?」

 

「さっきのは飽くまでもお詫びよ。お礼もちゃんとしないとね。これもご両親に先にお渡ししたのだけど、土御門が経営してる全国にある老舗旅館の宿泊と旅行の旅をプレゼントさせていただいたわ」

 

「………」

小躍りしながら、プレゼントを受け取る両親が目に浮かぶんだが……

くそ、もらったなら、直ぐに俺に連絡位しろよな。あの両親共め!

 

「それと、比企谷君本人には……」

 

「まだあるんですか!?」

 

「比企谷君には高校卒業後に都内に新築一戸建ての二人の新居と新婚旅行の世界一周旅行」

 

「……………ちょ、ちょっと待った!何かおかしくないっすか?」

誰と誰の新居と新婚旅行なんだよ!!

 

「何もおかしいことはないわよ八幡。私と八幡の新居と、新婚旅行。もちろん結婚式は土御門本家で盛大に行うわ!」

陽乃さんが当然の如くって感じでこんなことを言ってくるんだが!

 

「おいーーー!!そこがおかしいって言ってるんだ!!」

 

「もう、八幡照れちゃって!」

 

「なんで俺が雪ノ下さんと結婚することになってるんだ!」

 

「あらあら、陽乃?まだ、比企谷君に了承を得てないみたいね」

 

「師匠、さすがに無理ですよ。昨日まで京都に居ましたから。でも安心してくださいね。彼が卒業までに後1年と4か月あるので、必ず八幡を落とします。もう、私無しで生きられないぐらいにして」

陽乃さんのその自信はどこから来るんだ?しかも、なんか最後不穏な言葉が入ってたんだが……

 

「………」

 

「比企谷君。安心しなさい。君の新居は東京よ。今後、君と陽乃さんの家は土御門本筋の分家として新たに東京の拠点となるわ。しかも君は、土御門家に婿になりながらも、オカルトGメンで働くことになる。これは風夏さんにも了解得てる事なのよ。

大丈夫。西条君も西条家の跡取りとしての責務を果たしながら、オカルトGメンとして働いてるから、器用な君なら全然いけるわ。」

美智恵さん……なに言ってるんすか?人の人生を勝手に決めないでください!

土御門本筋分家を新たに立てて、陽乃さんの婿として土御門に入るって、しかも、オカルトGメンに入るところまで決まってるし!

これって、もしかして、土御門家と美智恵さんが結託してるのでは?

 

「ちょ、勝手に決めないでくださいよ!」

 

「そうよ!!ママ!!こいつは、私の事務所で一生働くのよ!!勝手に人ん所の従業員を引き抜かないでよ!!」

 

「………」

あの……美神さん、それもおかしいですよ。「奴隷のように一生コキ使ってやるわ」って言ってる風に聞こえるんですが……

 

「まあまあ、美神さんも美智恵さんも……土御門さんも、比企谷君が困ってるじゃないですか」

キヌさんがキッチンの方から現れて、応接セットのテーブルに紅茶やケーキを出してくれた。

キヌさん!助かります。もう俺じゃあ、この人たちを止めることができません。

 

「比企谷君が土御門の婿になれば、そうなる可能性は高いわ」

キヌさんが入れた紅茶をすすりながら、しれっとそんなことを言う美智恵さん。

 

「ぐぬぬぬぬっ!……!……そう、なら比企谷君はおキヌちゃんと結婚するから!無理ね!」

……何言ってんだこの人は!うれしいけど!めちゃくちゃそうなりたいけど!それは言っちゃダメだろ!美神さんもわかってるはずだ。キヌさんが横島師匠を慕っていることを!

 

「ちょ!美神さん!それは!」

流石の俺もここは反論しないと……

 

「……美神さん?……そういうことは比企谷君が決めることですよ。美智恵さんも、土御門の方々も……」

静かにそう言うキヌさんは笑顔なんだが……なんか怖い。………なんかゴゴゴゴゴって背景に出てるような……

 

「……ご、ごめん」

美神さんが謝った!?しかも結構慌ててるぞ。

 

「そうね。急ぎすぎたみたいね」

美智恵さんも引いた!?

 

流石はキヌさんこの二人を一瞬で引かせた。

ちょっと怖いけど、これはこれで、なんというか……聖母のお怒り、いや神の天罰的な美しさが……俺もなんか叱ってほしい。

 

「ごめんね。比企谷君。勝手に進めちゃって……でも、土御門にあなたが必要なのは本当なの、あなたのような格式や形にこだわらない上に、勇気ある人が……」

この場を風夏さんも引いてくれたようだ。

でもさすがにそれは買いかぶりすぎですよ。

 

「比企谷君。絶対私が落とすんだから」

……本気なのかこの人、まじで俺を落とす気なのか?どうして?……土御門のためか?俺なんて全然大したことないのに……

 

 

キヌさんのおかげでお礼の話は保留となる。

お詫びの借金の肩代わりはかなりありがたい。

お礼の方は……勘弁してほしい。

俺はまだ、横島師匠から学ぶべきことがたくさんある。しかも、ここまで霊能者として育ててくれた恩を返してない。それまではこの事務所を辞めるつもりはない。

 

この後、ちょっとだけ話した後、風夏さんと陽乃さん、そして美智恵さんは帰った。

ふう、一時はどうなるかと思ったが、キヌさんのおかげで助かった。

よく考えれば、SランクGSが3人も集まっていたんだな。そんな人たちがここで暴れたらどうなる?

美神さんVS美智恵さんだったら、いつもの事だし、たいがい美智恵さんの口で収まるんだけどな……

 

 

「塩よ!塩をまきなさい!」

美神さんはそう言いなら、キヌさんから塩を受け取って自ら事務所の窓から外に向かってばら撒く。

 

 

陽乃さん……婿にって本気なのか?

しかし、そこに恋愛感情はあるのだろうか?

俺のGSとしての能力とかが目当てなら即お断りだがな……

 

……しかも、風夏さんだけでなく。美智恵さんまで噛んでるとなると、ちょっとやばいな。

このまま行くと、いつの間にか高校卒業と共に土御門に婿入りなんてこともあるぞ。

 

すでに俺の親は懐柔されてそうだしな。

頼りは、小町だけか……

 

美神さんも完全に否定してくれたが、理由がとんでもない………ブラック企業丸出しなんだが……

これってもしかして、行くも地獄、引くも地獄ってやつじゃないのか?

美神さんと美智恵さんの親子結構似てる。両人とも俺の意思とは関係なく俺の将来の話を進めるんだが……

よくよく考えると俺、詰んだか?

 

キヌさんが居るから、今はなんとかなってるが……あの人たちを抑える事ができるなんて、意外と英傑かもしれない。いや、聖母だな。間違いなく。

 

まあ、いざとなれば、逃げるまでか……三十六計逃げるに如かずって言うしな。

因みに、横島師匠の得意技だ。逃げることに関しては最強だと自負してる。

しかし、俺はあの人たちから逃げ切れるだろうか?

 

 

 

…………そういえば、横島師匠、平塚先生に追い付かれたかな?




土御門子弟の来訪でした。


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㊱学内捜索は進まない。

感想ありがとうございます。
返信が遅れてしまって申し訳ないです。徐々に返答させていただきます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


というわけで、今回はつなぎ回です。
内容はタイトル通り進まないので、飛ばしてもいいレベルの話です。


 

俺は昨日、奉仕部に千葉で起こってる学生の精神暴走事件について、情報提供協力を正式に依頼した。

 

今回のこの精神暴走事件、オカルトが関わっていることが判明し、警視庁やGS協会、オカルトGメンからのこれらの事件の犯人の捜索と真相の調査依頼を正式に美神令子除霊事務所に持ち込まれたのだ。

理由は現役学生のGS資格免許を持っている人間が二人も居るからだ。学生である俺とキヌさんが正式にこの依頼の担当となり、俺は学生から噂や情報を集め、犯人の手がかりや事件の真相を捜索することになった。

しかし、学校ではボッチで空気の俺は学生達とコミュニケーションが円滑に取れるわけもない。

そこで、俺は雪ノ下と由比ヶ浜に事情を説明し、精神暴走事件の噂や情報の提供の二人に依頼したのだ。特に由比ヶ浜の学内におけるコミュニケーション能力に俺は期待していた。

 

昨日は途中で平塚先生の邪魔が入り、最後まで話し合いが出来なかったが、今日は大丈夫だ。

俺は今日、仕事に行く予定がないからだ。

朝、平塚先生を見かけたら、めちゃ機嫌がよかったな。アニソンっぽい鼻歌を歌いながらスキップしてたぞ。もしや横島師匠あの後捕まって、お持ち帰りされたか?後で横島師匠に慰めのメールでも送っておこう。

 

 

放課後の奉仕部部室で昨日の続きを話し合った。

 

「ヒッキー!。いろんな子に聞いてみたの。そしたら何人かそれっぽい人見つけたよ!」

 

「由比ヶ浜、わざわざ聞き回ったのか?積極的じゃなくていいんだぞ。昨日も言ったが、危険な目に遭う可能性も無いわけじゃない。実際に被害を受けてそうな人間を知らせてくれるだけでいいんだ。後は俺がやる」

どうやら、由比ヶ浜はいろんな生徒に聞きまわったらしい。

 

「大丈夫。ヒッキーに言われたから、直接会ったりしてないし、優美子や姫菜は知らなそうだったから、ちょっと知ってそうな子に何人かに聞いただけだから」

 

「ならいいんだが……あと、助かる」

そういうことなら、あまり問題なさそうだ。精神暴走した学生は暴力をふるうケースもあるからな。直接会うのは厳禁だ。

 

「うん」

由比ヶ浜は嬉しそうに頷く。

 

「私もクラスメイトにそれとなしに聞いてみたのだけど、有益な情報は得られなかったわ」

雪ノ下も一応、クラスで聞いてみてくれたようだ。俯き加減で話す雪ノ下は、申し訳なさそうだ。

雪ノ下のクラスは特進クラス。要するにエリートクラスだ。お堅いイメージがあるからなあそこは……

 

「なんだ雪ノ下。クラスで話せる奴がいたのか」

 

「バカにしないで、私はあなたと違って、皆から嫌われてるわけでもないわ。普通に話しかけることぐらいできるわ」

まあ、俺の場合。クラスというよりは同学年、下手すると学校中の嫌われ者だからな。学園祭で盛大にやらかしたあの噂が広まるの早かったしな。

雪ノ下の場合、話しかけづらい雰囲気を常に醸し出してるしな。周りからは話しにくいだけで、嫌われているわけではないか……。しかし、ボッチの雪ノ下の方から噂を聞くためにわざわざクラスメイトに話しかけてくれたということか……

 

「すまん。助かる」

 

「そう」

雪ノ下は静かにうなずく。俺の返事に満足したようだ。

 

 

「由比ヶ浜、あたりを付けた奴ってどんな奴だ?」

 

「うんとね。えーっとC組のかすみの彼氏の高岡くんと、D組のまさこの彼氏の三島先輩、1年の高橋琴音ちゃんの彼氏の2年の飯島くん」

由比ヶ浜はごちゃごちゃとプリクラを貼りまくった手帳を取り出す。

なぜ3人ともリア充?しかも暴走の相手は全部男だし……

 

「……一応聞くが、なぜ精神暴走の可能性があると」

 

「なんか、かすみの彼氏の高岡くんが最近かすみにつらく当たるんだって、付き合う前までそんなことなかったらしいのに」

 

「…………」

なにそれ、その高岡くんってもしかして、付き合う前まではいい顔して、いざ付き合っちゃうと女の子を自分の持ち物って感じで扱っちゃう典型的なDV型のダメな奴なんじゃ?

 

「まさこの彼氏の三島先輩は、この頃引き込もり気味で会ってくれないって」

 

「…………」

それは3年の12月の初旬だ。受験勉強で忙しいだけじゃ?

 

「高橋琴音ちゃんの彼氏の飯島くんは急に前触れもなく、学校休んじゃって、もう10日も学校来てないんだって、その間その飯島君とも連絡が付かないみたいって言ってた」

 

「……やけに具体的なんだが、それって本当に噂程度の話か?」

 

「チッチッチー、ヒッキーくん。わかってないなーー。女子同士の会話では彼氏がいる女子の噂話はみーんな興味深々なんだよ。だからちょっとした事でもすぐに噂になるし、正確な情報を求めるものなんだよ」

由比ヶ浜はわざとらしい誰かの言い回しを真似したような感じで、どや顔で言ってきた。

なんか怖!なにそれ、恋人同士になった連中は、ずっと女子に監視されてるのか?リア充にプライベートはないってことか?……彼女とかいなくてよかった。四六時中女子の目に気をつけないといけないとか、どこの芸能人かよ。……俺の場合彼女が居なくても悪い方向で噂になってる可能性は大きいが。

 

「そういうもの、…なのかしら」

雪ノ下は由比ヶ浜の話に、少し首をかしげながら中途半端な返事をする。

疑問を持っているが、ボッチの雪ノ下にそれを否定する材料もないと言ったところか。

 

由比ヶ浜の話から、最初の二人の話は外れっぽいな。三人目の一年の高橋って子の彼氏の飯島君が怪しいな。急に学校を休むか………詳しく話を聞いてみた方がいいな。

 

「由比ヶ浜、その高橋って子の彼氏の飯島って奴が怪しいな。高橋って子に直接話を聞きに行った方が良さそうだ」

 

「え?……ヒッキーが直接聞きに行くの?」

 

「ああ、そうするつもりだ」

 

「でも、ヒッキー……」

 

「俺は別にコミュニケーションができないわけじゃない。学校でしないだけだ。この仕事は被害者や依頼者とコミュニケーションがうまく取れないと致命的だからな」

そう、ゴーストスイーパーの仕事は除霊相手の情報や現場の状況を正確に知る必要がある。そうでないと致命的なミスや失敗を起こす可能性があるからだ。だから依頼者と現場周辺の聞き込みを正確に行うために、コミュニケーション能力は必須といえるだろう。

まあ、最初は失敗ばっかりだった。美神さんによく怒鳴られた。あの人容赦ないからな。

おかげで俺の中学までの最底辺コミュ能力はこの一年半で一気に向上した。

 

「比企谷君、自分が学内の生徒にどう思われてるか知ってるかしら?急にあなたに話しかけられればあなたの事を良く知らない女子生徒は、まず逃げ出すわね」

雪ノ下は呆れたような表情をしていた。

確かにその可能性は無きにしも非ずだ。俺は文化祭で相模に酷い暴言を吐いたからな。その噂は学校中に確実に広まってる。

あの時のつけがこんなところで返ってくるとはな。

 

「……それは」

 

「だから、ヒッキー、あたしが聞いてきてあげるよ」

「そうね。私も付き合うわ」

 

「いや、さすがにそこまでは……」

 

「別に、彼女の方に事情を聴くだけよ。問題となってる彼と会うわけじゃないから特に危険はないわ」

 

「分かった……頼む」

 

「うん。頼まれた!」

返事をする由比ヶ浜は笑顔だった。

雪ノ下は笑みを浮かべていた。

 

 

早速二人は、高橋って子が所属してる文芸部に話を聞きに行った。

あらかじめ、聞いてほしいことを雪ノ下に伝えたし、大丈夫だろう。

俺も頼んだ手前、何もしないのもあれだ。危険は無いと思うが、念のために遠くから様子を見ることにした。

 

俺は文芸部が使用してる教室前で高橋と話してる由比ヶ浜と雪ノ下を廊下の角から様子を伺う。

普通の奴がこんな尾行をすれば、傍から見れば、二人をストーカーしてる人間にみえるのだろうが、俺の場合は、職業柄尾行は慣れたものだ。廊下の壁と一体化するまである。というのは冗談だが、自然にふるまえば、今の俺は暇を持て余した生徒が廊下で本を読んでるだけにしか見えないはずだ。

 

しかし、

 

遠方から俺が良く見知った顔が早足にこちらに向かっくる。……このタイミングで最悪なんだが。

 

「せーんぱい。こんなところで何やってるんですか?もしかしてストーカーですか?」

生徒会長の一色いろはが俺の目の前にまで来てこんなことを言ってきた。なに俺の完璧な偽装がバレた?

 

「ちげーよ。本を読んでるだけだ」

……よく考えれば文芸部の部室って生徒会室の近くなんだよな。こいつと出くわす確率は最初から高かったわけだ。

 

「えーそうなんですか?実は私の事が心配になって見に来てくれたんじゃないんですか?はっ、もしかして私の事を……いくら私の事が好きだからってストーカー行為をするような犯罪予備軍は願い下げです。ごめんなさい」

何もしてないのに、こいつに何度振られるんだ?俺は

 

「はぁ、だから違うと言ってるだろう」

 

「えー、本当ですか?…ん?」

一色は遠方から聞こえてくる話声に気が付き、俺の肩越しに、角から文芸部の方へのぞき込む。

そして、文芸部の教室前で話している由比ヶ浜と雪ノ下、高橋の姿を見る。

 

「……先輩。なにやってるんですか。本当にストーカーする人だと思ってませんでした」

一色は自分の胸を隠すように腕を抱き、俺を睨みつける。

 

「だから、ちげーって言ってるだろ」

 

「ん?アレって隣のクラスの高橋さん……最近2年の彼氏ができたって、自慢してた子ですよ」

 

「お前、そういう噂はなんでも知ってるな」

 

「そりゃそうですよ。敵……いえ女子の情報は常にアンテナを張ってないと、でも何で高橋さんに結衣先輩と雪ノ下先輩が?」

今、こいつ敵って言ってたぞ。相変わらずこいつは一年の女子に嫌われてるのか?

 

「奉仕部の仕事だ」

まあ、そういえば誤魔化せるだろう。流石に精神暴走事件の事を調べてるとは言えるわけがない。

 

「なるほどですね」

一色は納得したようにうなずく。

なんだ。一色の奴もしかして、精神暴走事件を俺たちが調べてる事を知ってるのか?

 

「なんか知ってるのか」

 

「いえ、たぶん彼女の依頼は、彼氏と連絡をつけたいとかじゃないですかね……だったらその依頼は無駄ですよ。彼氏さんは来週には登校してきますよ。彼氏さんは10日前に学生では行ってはいけない、いかがわしいお店に入った所を補導されて、2週間の停学処分です。携帯電話も取り上げられたはずですよ。登校してきた時が楽しみです。きっと修羅場になりますよ。ざまーみ……高橋さんも可哀そうですね」

いきなり解決したんだが、しかも外れの方向で……精神暴走事件とは関係ないな。それにしても、飯島って奴、彼女が出来たのに、なんでそんな店にいったのだろうか?……もしかして……やめておこう。俺は由比ヶ浜を見て、雪ノ下と高橋って子のある共通する部分を見比べて、男という生き物が如何にバカなのかを改めた考えさせられた。

それと、一色さん?心の声が漏れてますよ。まるで横島師匠みたいに。今ざまーみろって言おうとしただろ?

 

「……一色、貴重な情報、助かった」

一色はどうやら依頼内容を勘違いしてくれたようだ。今回の件は外れだが、一色のおかげで余計な手間もかけずに解決だ

 

「どういたしまして?……それはそうと先輩。明日は三校合同会議ですから、忘れないで出てくださいね」

 

「ああ、雪ノ下と由比ヶ浜にも伝えておく」

 

「……別に先輩だけでももういいんですけど」

一色は小声で何かぶつぶつ言っていた。

 

「なんか言ったか?」

 

「何でもないですーっ」

何故か膨れる一色。

 

 

……明日か、そういえば久々に会った折本の様子がおかしかったな。昔からあっけらかんとした奴だったが、さすがにあれはな。

……やはり、精神暴走か?流石に考えすぎか……いや、念のために明日声をかけてみるか。




次回は合同会議と折本さん再びかな?


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㊲事件への糸口

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きどうぞ。



 

 

放課後、千葉市のコミュニティーセンターの会議室で、クリスマス会三校合同打ち合わせ会議に生徒会のサポートスタッフとして俺たち奉仕部も参加した。

三校合同打ち合わせはこれで2回目だ。

初回打ち合わせで、ほぼクリスマス会の流れが決定していたため、今回は各校の出し物の進捗状況確認や、会場の設営、合同合唱や、プログラム、宣伝など、細部の打ち合わせを行った。

初回の時もそうだが、今回もキヌさんの要所要所の発言が光っていた。

まあ、正直キヌさんの事務能力やコミュニケーション能力は高い。

美神令子除霊事務所の事務方の仕事はほぼキヌさんが行ってると言っても過言ではない。

昔は美神さんがやっていたのだが、不正計上や脱税などをへっちゃらでやっていたそうだ。

何度も、政府やGS協会から是正勧告を受けたり、取り調べを受けていたらしい。

美智恵さんの口添えもあって、今ではキヌさんがしっかりと事務所を内部から守っている。

税務署やGS協会からも受けがよく。キヌさんはかなり信頼されてるようだ。

 

……美神さんも普通にやればできるんだが……腹黒いからな。

 

合同打ち合わせを終え、それぞれのセクションに別れ、クリスマス会の準備に移った。

俺達奉仕部はコミュニティーセンターの飾り付け等を担当。元々こういう会場にはある程度、飾り付けのための小道具が用意されている。それを借り受ける手続きと、そして、当日の案内表示や看板の借り受け手続き等なども行う。当日のレイアウト図を作成しなければならないため。案内表示板の寸法や会場の詳細寸法なども確認し、全体の飾り付けレイアウトを作成する。

後は会場にあるもの以外で必要な飾り付けの予算を策定する。まあ、折り紙や画用紙、模造紙、クレヨンなどの文房具など使い捨てのものがほとんどである。

 

俺たちはレイアウトをイメージするために、廊下をうろついていると、キヌさんに出会った。

 

「比企谷君。順調そうですか?」

 

「そうですね。キヌさんが会議で的確なアドバイスをしてくれたおかげで随分余裕がありますよ」

 

直ぐ近くで、通路や扉の写真を撮ってる由比ヶ浜と雪ノ下にもキヌさんは声をかける。

「こんにちは」

 

由比ヶ浜と雪ノ下は作業を中断し、こちらに歩む。

ちょうどいい機会だし、紹介しておくか、前、雪ノ下にキヌさんを紹介しろと言われていたしな。

 

「改めまして、六道女学院3年生の氷室絹です。よろしくね」

キヌさんは微笑みながら雪ノ下と由比ヶ浜に自己紹介をする。

 

「キヌさん、俺が変わった部活に入ってる事言ったことがあると思いますが、その部活仲間です」

俺はキヌさんに2人を紹介する。

 

「比企谷君、変わった部活とは失礼ね。……確かに否定はできないけど。……比企谷君の部活仲間で総武高校奉仕部の部長の2年の雪ノ下雪乃です。よろしくお願いします」

そう言う雪ノ下はキヌさんにきれいなお辞儀をし自己紹介をした。

 

「ヒッキー……えっと、比企谷君と同じクラスで同じ部活の由比ヶ浜結衣です」

由比ヶ浜は緊張したような面持ちで自己紹介をする。

 

「比企谷君、あまり学校の事はなさないし、いつも一人だって言ってたけど。こんな美人の部活仲間がいるなんて、……横島さんが言った通りだわ」

 

「美人だなんて~」

由比ヶ浜は嬉しそうだ。

 

「ちょっと待ってください。キヌさん。横島師匠、なんて言ってたんですか?」

 

「そうですね。『八幡の奴、ボッチだとか言ってるくせに、密室で美少女同級生を二人をいつも侍らせて、しかもいい雰囲気なんだ』って涙流しながら叫んでましたよ」

キヌさんは横島師匠の口真似をするが、あまり似てない。

おいーーー!あの師匠、なに余計なこと言っちゃてんの、侍らせてるって何だ?誰が誰と良い雰囲気なんだ!密室ってなんだよ。確かに奉仕部の部室だと俺たち3人になるが、わざわざそんな言い方することはないだろ!

 

「キヌさん。そんな事実はありません。横島師匠の事は話半分に聞いてください」

 

「でも、比企谷君、あだ名で呼ばれてるんですね」

 

「いや……こいつだけが勝手にそう呼んでるだけで……」

 

「氷室さん、その氷室さんも………」

雪ノ下はキヌさんに何か聞きにくそうに、話しかける。

 

「はい、私もゴーストスイーパーです」

キヌさんは雪ノ下が何を聞きたいかを理解し答える。

 

「そうなんですね。でもとてもそうには……」

「こんなに可愛らしい人なのに、ヒッキーみたいに、妖怪とか幽霊とかと戦えるんですか?」

雪ノ下は言いにくそうにする。確かにキヌさんは見た目華奢で、とてもゴーストスイーパーに見えない。雪ノ下は武闘派の陽乃さんを見てるから余計そう思うのかもしれない。

由比ヶ浜は雪ノ下と同じ思いのようだが、口に出して言ってしまった。

 

「わたし、運動神経も良くないし、トロイからゴーストスイーパーに見えないってよく言われます」

キヌさんは苦笑気味に答える。

 

「由比ヶ浜!キヌさんはな!こう見ても凄腕のゴーストスイーパーなんだぞ!俺も何度、命救われたか!!美神さんの人を人とも思わないシゴキや、扱いで、何度、死にそうな目にあったか!そのたびにキヌさんがヒーリングで助けてくれたんだ!今俺が生きているのはキヌさんが居てくれたからなんだ!」

そう、俺は美神さんに何度ひどい目にあったか、訓練という名の八つ当たり的なシゴキや、経験という名の、囮役で妖怪の巣に何度落とされたか!あの人の神経焼き切れてるとしか思えない!まあ、それ以上にひどい目に遭ってるのは横島師匠だが……キヌさんがそのたびに傷や怪我を治してくれたのだ!

 

「ええー!?ヒッキーいつも死にそうな目に遭ってるの!?どういう事?」

由比ヶ浜はそっちの方が気になったようだ。

そうなんだ。霊や妖怪に殺されかけるわけじゃないんだ。俺の仕事先に事務所の所長に殺されかけるんだ!

 

「そんな大したものじゃないんですよ。戦ったら、比企谷君には全然勝てないと思うし」

キヌさんは確かに通常の戦闘力は高くはない。しかし、凄まじいまでのヒーリング能力がある。

それとキヌさんには世界に3人しかいないと言われるネクロマンサー能力がある。

精神感応系の霊能が突出してるのだ。

俺は一度見たことがある。無数の霊の集団をキヌさんが一瞬で鎮めたのを……

 

「その、霊とか妖怪とか怖くないんですか?」

雪ノ下はさらにキヌさんに質問をする。

 

「私は……その……、霊も妖怪も人間と一緒で、悪い人もいればいい人もいるから、全部を怖がらなくてもいいの。霊や妖怪は人間と価値観が違うから、人間にとって都合の悪い現象を起こすかもしれないけど、話し合いや、ちゃんとした扱いをしてあげれば、皆いい方達よ」

キヌさんは最初、何かを躊躇するような感じだったが、こういって微笑みながら答える。ただ、何故かその表情に影があるように見えた。

確かにそうだ。由比ヶ浜や雪ノ下には言ってはいないが、タマモもシロも妖怪だ。由比ヶ浜も雪ノ下も既に妖怪であるあの二人ともコミュニケーションを取れている。人間と一緒で悪い奴もいればいい奴もいる。ちゃんと話し合える相手なのだ。横島師匠の友達で、一度顔を合わせた程度だが、オカルトGメンヨーロッパ地中海方面支部のピートさんなんて、バンパイアと人間のハーフだ。この意味は非常に大きいと俺は思う。

そして、表沙汰にはしてないけど横島師匠を頼って来る妖怪もいるようだしな。

 

この後も、雪ノ下はキヌさんに質問をしたそうにしてたが、俺が先にキヌさんに要点だけ話をする。

 

「キヌさん、俺の報告書を読まれてるかもしれませんが、この二人には校内で例の事件の噂などについて協力してもらってるんです」

 

「この2,3日の分は美神さんが処理されてたので……知りませんでした。そうでしたか……じゃあ、比企谷君。この打ち合わせが終わった後、皆さんとどこかで話し合いをしませんか?私も直に雪ノ下さんや由比ヶ浜さんの話が聞きたいし……もちろん雪ノ下さん。由比ヶ浜さんがお時間があればですが」

キヌさんと俺は元々、この後、例の精神暴走事件の打ち合わせをどこかの喫茶店で行う予定だった。キヌさんが折角千葉まできてるためだ。

 

「是非、お願いします」

「あ、あたしも行きます」

雪ノ下と由比ヶ浜は即OKをだす。

キヌさんに言われてしまえば、俺は否定できない。

俺が言えた義理じゃないが、2人にはあまり深くGSに関わってほしくない。わざわざ自分から危険に入り込む必要が無いからだ。一応後で釘を刺しておきたいが……

 

 

キヌさんはまた後でねと言いこの場は別れ、仕事に戻っていった。

 

「ヒッキー、絹さんって本当に良い人だね。あんなに可愛らしいのにGSなんだ」

「見た目じゃ判断できないってことだ。キヌさんはどちらかといえばサポート系の能力に特化してるからな」

「そういう比企谷君も見た目GSに見えないわね」

「悪かったな」

「でも、ヒッキー結構筋肉凄いよ」

「べたべた触らないでくれない?由比ヶ浜」

俺たちもこんな会話をしながら、元の作業に戻っていく。

それにしても由比ヶ浜のスキンシップにも困ったものだ。

俺に耐性がなかったら、勘違いしてしまいそうだ。

 

俺たちの今日やるべき作業もほぼ終え、自販機前でマッ缶を飲み休憩をしていたが、ふと折本の事が気になった。

そういえば、折本の奴、今日見かけないな。休みか?

 

気になるな。例の精神暴走事件の事もある。

もしやということも……一応、海浜の奴に聞いてみるか……

 

 

俺は海浜総合高校の生徒に折本の事をそれとなしに聞いた。

「え?折本さん。なんか3日前から学校休んでるみたい」

 

!……他の生徒にも聞いてみる。

 

「折本かおりね。あいつ、なんかこの頃、人の事をさバカにする言動が目立ってさ、誰かとケンカしたんじゃない?」

 

!!……

 

「……かおりね。最近悩んでいるみたいだった。1週間ぐらい前から口数が減ってそれで……」

 

!!!

 

 

なんだ……これは………、精神暴走事件のあれか……いや、報告書では、精神暴走を起こした生徒は急に暴力をふるったり発狂したりとあったが………しかし、何かが引っかかる。

折本に何かが起こっている?

 

急に………いや、急にではなくても、精神暴走を起こす可能性については、検証していなかった。

ニュースでもネットでも、美神さんからもらった資料にもすべて、『急』にとか『突然』に精神暴走したと書かれていた。

俺はずっと、突発的に精神暴走を起こすものだと思い込んでいた!そうじゃないケースもあるかもしれないことを全く考慮しなかった。

 

 

しかし……いや、念のためだ折本に直接確認した方が良いだろう。

折本が引越しをしてなければ、中学が一緒だったから学区は一緒だ。

俺の家からそう遠くないはずだ。

 

しかし、住所がわからない。

海浜総合の連中に聞いても教えてくれないだろう。

 

「……小町」

そうだ。小町は俺と同じ中学で生徒会に入ってるはずだ。放課後は生徒会の活動をしてるだろう。

 

俺はスマホを取り出して小町に電話する。

「小町!」

 

『なにお兄ちゃん。今小町、生徒会の仕事してるんだけど。あっ、お兄ちゃん豆腐買って帰ってね』

 

「小町、緊急事態だ。3年時俺と同じクラスだった折本かおりの住所を教えてくれ、生徒会であれば、住所知ってるだろ?寄付金の案内とか毎年出してるから名簿があるはずだ」

 

『え?どしたの?その人がどうしたの?』

 

「小町!例の精神暴走だ。教えてくれ」

 

『わかった!調べて、メールで送るね』

 

「助かる」

 

 

そして、1分もかからないうちに小町から折本の住所が記載されたメールが届いた。




皆さんの先読みが早いんで……返答がネタバレになりそうでw
ちょいしばらく返答は控えますね。でも感想下さいw


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㊳精神暴走事件の一端を見る。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きをどうぞ。



 

俺は大きな見落としをしていた。

千葉県で起きてる中高生を中心に起こっている精神暴走事件だが、ニュースやネット、美神さんの報告書にはすべて、急にとか突発的に精神暴走が起きたように書かれていたため、そうじゃないケースやその他のパターンについて全く考慮していなかったのだ。

 

奇しくも先日久々に会った折本の様子が気になって、本人を今日見かけなかったため、海浜総合高校の生徒に様子を聞き、折本の状態が普通でない事が判明し、精神暴走が突発性ではないケースがあるのではないかと気づかせてくれた。

 

今の段階では、折本が精神暴走事件の何らかの影響を受けている確証はないが、可能性はある。

俺は自宅まで折本に会いに行こうと行動を起こす。

 

キヌさんに経緯と状況を説明すると、一緒に来てくれるとの事だ。

雪ノ下と由比ヶ浜にも簡単に状況説明をする。この後の話し合いはキャンセルし、後日にということにした。最初は雪ノ下も由比ヶ浜もついて来ようとしたが断る。デリケートな問題なため、折本に会うのは最少人数の方が良い。それにここからは俺たちGSの領分だ。

それでも、二人はサイゼで待つと言っていたが、どういう流れになるかわからないため、かなり時間がかかるかもしれない。後日必ずキヌさんを交えて話すことを約束し、引き下がってくれた。

 

 

キヌさんがタクシーを呼んでくれて、俺とキヌさんはそのまま折本かおりの家へ向かった。

 

俺の名前を出しても、折本は会ってくれないだろう。まあ、当然と言えば当然だ。

知り合いといっても、中学で同じクラスでしかも、告白されて振った相手だしな。

そこで、キヌさんが表に立ってくれるとの事だ。キヌさんも一度顔を合わせた程度だが、同じ女性だし、キヌさんは誰がどう見ても不審者に見えない。俺が対応して、精神暴走の恐れがある等と説明しても、あやしい不審者に間違われ追い返される自信がある。

 

住宅街の一角にある折本の家に到着し、キヌさんがチャイムを鳴らすと、カメラ付きインターホン越しだが折本の母親と思われる女性が対応してくれた。

キヌさんは六道女学院の名前を出し、GS免許を提示する。

娘さんは何らかの霊障に掛かっている可能性があると……六道女学院の名前は世間一般でもビッグネームだ。霊能科があるお嬢様学校として世間一般に認知されている。

インターホン越しだがキヌさんの誠実で柔和な雰囲気と、六道女学院の制服、そしてGS免許が功を奏したのか、家の中に通される。

 

折本の母親にキヌさんは改めて自己紹介をし、GS免許と六道女学院の生徒手帳を提示する。

俺もGS免許を提示し、総武高校の生徒であることを告げる。俺は普段から生徒手帳は携帯していない。流石は真面目なキヌさん。いつも生徒手帳を内ポケットに携帯してるらしい。

話を聞くと、どうやら折本の母親も娘の様子がおかしい事には、気が付いていたらしく。キヌさんインターホン越しに霊障かもしれないと告げた際、母親もニュースに流れている事件がもしかしたらと、その可能性について頭によぎっていたらしい。だから、俺たちを家にすんなり上げてくれたようだ。

家に上げたのはいいが、俺とキヌさんと学生だけの二人だったため、訝し気な目で見られていたが、GS免許を提示した際。GS協会のホームページからダウンロードできるアプリを使ってもらい確認してもらった。このアプリ、GS免許をアプリをダウンロードしたスマホのカメラに掲げると本物であるかどうかと本人確認ができる代物だ。その他に協会員であるメンバーの簡単なプロフィールとかも確認できるが、学生であるキヌさんと俺のプロフィールは閲覧できない。一応未成年の個人情報保護という名目らしい。

折本の母親は、俺たちが本物のゴーストスイーパーであることに、さらにCランクであることに驚いていたが、これで、信用してくれたのか……いろいろと折本の現状を話してくれた。

俺はそれを聞いて、これがオカルトによる精神暴走である可能性が非常に高いと判断した。

 

折本はやはり、家でも10日か2週間前から、言動がおかしかったようだ。これぐらいの年頃の女の子が学校や友人関係などで情緒不安定になることはあるだろうと、家族は最初、見守っていたのだそうなのだが、本人がそれに気が付きだし、色々と話し合ったそうだが、ついにはふさぎ込んでしまったらしい。

折本は自分がおかしいと気が付いた時、自分が自分じゃない感じがして怖いと盛んに言っていたそうだ。

俺はそのことを折本の母親に聞いて多少ショックを受ける。俺はもっと簡単に考えていた。

学生がキレたり、暴行する事件は昔からある。俺はそれに毛が生えた程度にしか思っていなかった。

しかし、オカルトにより、霊的構造の一部を損傷させられ精神の一部を歪められた人間は明らかに自分の意思とは関係なく精神をいじられたことになる。影響の大小はあるだろうが、本人にとっては、自分の意志で歯止めが効かない何かの感情と捉えてもおかしくない。あのあっけらかんとして、精神が強そうな折本でも、こんな状況に陥る。

この事件は死人こそ出ていないが、暴走を起こされた人間は、今後の人生に大きな心の傷跡を残すだろう。

犯人がこれを面白がって起こしているのなら……卑劣極まる。俺は怒りをも感じる。

キヌさんも同じ思いなのだろう。あのキヌさんの表情が厳しく硬かった。

 

俺は折本に直接合わせてほしいと願いでる。

母親は本人が了承するかわからないと……

キヌさんが、私であれば霊障を治すことができると説得したのだ。

 

母親は折本の状況を治してくれる先生が来たと告げに2階の折本の部屋に説得をしに行った。

本来なら、俺たちはここで美神さんに事前連絡を入れるのが妥当だが、この件はキヌさんと俺に一任されているため、現時点では報告義務は発生しない。多分キヌさんのこの後の対応は、単に個人的な霊障改善ではなく、一連の霊障調査で派生した霊障調査協力として今回の件を報告に上げるだろう。その結果折本が霊障改善されていようともだ。そうすれば、折本家に金銭的な負担はないはずだ。美神さんが警察からGS協会、オカルトGメンから受け取った依頼料の範囲内となるからだ。

 

そして、折本の部屋をノックするキヌさん。

「入りますね」

 

「……どうぞ」

本来ならキヌさんだけで折本の部屋に入った方が良いのだが、霊視ゴーグルが無い現状では、かなり精度の高い霊視が行える俺が一緒に入った方が早く解決できる。

 

「……なっ!比企谷!!それに六道女学院の!!どういう事!!」

ベッドに腰を掛けていた折本は俺とキヌさん……特に俺を見て、勢いよく立ち上がり、顔を歪ませ、取り乱す。

 

【落ち着いて】

キヌさんは言葉に精神を安定させる言霊を乗せる。

キヌさんの言霊はかなり強力なものだ。精神感応系の霊能に、キヌさんの右に出る人は見たことが無い。

 

「……大丈夫だから、もう安心して。私は六道女学院の霊能科に通ってる霊能者でもあるの」

キヌさんはそう言って折本の肩を優しく抱いて、座らす。

その際もキヌさんは精神を安定させるために霊気霊力を折本に送り続けている。

 

「………比企谷はなんで」

折本は落ち着きを取り戻したようだ。

 

「……急にすまんな折本。俺も霊能者だ。ちゃんと資格も持ってる」

 

「え?比企谷が霊能者?」

 

「ああ、この前、お前の現状を気づけなくて悪かった」

 

「………」

 

「折本さん。よく聞いて、あなたが今不安に思っている事、自分が自分じゃない感覚は、霊障の一種の可能性が高いの。あなたが悪いわけじゃないわ。今こうやって、私と比企谷君であなたの霊障を調べて治すわ。だから協力してほしいの折本さん。あなたは目を瞑ってベッドに横になっているだけでいいの。痛い事もつらいこともないわ」

おキヌさんは微笑みながらやさしくそう言って寝かせつける。

おキヌさんはこの状態でも言霊を乗せ、さらに霊力を注ぎ込み精神を安定させている。

 

「……うん」

折本は素直にうなずいて、ベッドに横になる。

 

「比企谷君」

 

「はい」

俺は折本を霊視する。ごくわずかな揺らぎも見逃さないように霊的構造を上尸部分だけでなく全身くまなく視る。

 

「キヌさん。やはり資料にあった上尸部分に一部破損が見られます」

 

「比企谷君、正確にお願い」

 

「上尸、中葉下部感情を司る8番目の経穴です」

 

「……わたしも見えたわ。これならすぐ回復できる」

そう言ってキヌさんは霊気を集中的にその部分に注ぎ込む。

 

やはり何度見ても、キヌさんのヒーリングはきれいだ。霊気、霊力が澄み切ってる。

問題部分に絡みつくキヌさんの霊気、それをコントロールする霊力はもはや芸術といっていいだろう。

 

30秒ほどで、キヌさんは霊気・霊力を送るのを終える。

折本の霊的構造体は完璧に修繕されたのが俺の霊視で確認できる。

 

凄まじい能力だ……こんな短時間で霊的構造体をものの見事に修繕できるとは……

 

 

「折本さん、終わりましたよ。もう目を開けていいですよ」

 

「え?もう?」

折本は体を起こし、ベッドの脇に腰を下ろす。

 

「これで折本さんはいつも通りです」

 

「ありがとう……でも。よくわからない」

折本がそう答えるのは仕方がない。

折本の場合、感情のたがが外れるような感じだからな。直ぐには実感できないだろう。

 

「まあ、学校にでも行けば実感できるだろうが……」

 

「……ちょっと怖いな……私、クラスの子にひどい事言っちゃった。……比企谷にも……ごめんね」

俯き加減で力なく笑みを浮かべるが……俺に謝った折本は必死に涙を我慢していた。

 

「いや……」

俺は慰めの言葉が出ない。

見るからに辛そうだ。当然だ。折本が学校で築いた人間関係が壊れたかもしれないのだ。正常な状態では無いにしろ、自分の言動でだ。

今後、学校の生徒達は折本の状況をどれだけ理解できるかはわからない。精神病の一種だと思われるかもしれない。いずれにしろ、理解が薄い生徒達には色眼鏡で見られるだろう。

ただ、この事件が警視庁や政府がメディアを通じて、オカルト関連の事件であることを正式に発表すれば、一般的に認知され、折本の状態を理解してもらえるだろうが……今の所その動きはなさそうだ。

 

「……折本さん。こんなことがあった後で申し訳ないのですが、いくつか聞いていいですか?」

 

「……はい」

 

「折本さんのお母さんに聞いたところ、2週間程前から様子がおかしいとおっしゃってました。その頃、折本さんは何か新しい事や、いつもとは異なる事を行った。又は買い物やどこかに出かけたとかありますか?」

キヌさんも折本が今は答えられる状態では無いとわかってはいるのだが、これも仕事の一環だ。

 

「すみません……急には思い出せません」

 

「ごめんなさい。こんなことを聞いてしまって、何か思い出したら教えていただけませんか?」

 

「はい……」

 

「あと、すまんが俺とキヌさんがGS資格者であるのと霊能者であることは口外しないでほしい。一応今回の件は守秘義務が発生するんだ。親御さんには話してる。連絡先も親御さんに知らせてある。なにか思い出したらいつでも連絡してくれ」

 

「……比企谷……なんか、かっこいいね」

力のない笑顔でそういう。

 

「いや……まあ、しばらく休んでくれ」

「お大事に……」

俺とキヌさんはそう言っていそいそと折本の部屋を出る。

 

「……ありがとね」

背中越しに折本の声が聞こえる。

 

 

これからの方が大変なのかもしれない。

俺たちは折本の精神暴走を止めることができたが、それによって出来た深く傷ついた心を癒すことはできない。

 

 

この後、折本の母親に折本が霊障に掛かっていたことと、治療したことを説明する。

そして、折本の母親に2週間前の折本の言動に違和感を覚えた前後の行動について聞いたが、いつもと変わらないと言っていた。

何か気が付いたことがあれば連絡してほしいと告げる。

キヌさんから、霊障やオカルト関連の被害者が受けることができるGS協会が主催しているカウンセリング制度について説明する。バカ高い除霊料に比べれば世間一般的な常識範囲内の金額で受けることができるのだ。

施設的には、今の所、東京と京都にしかないのだが。

 

折本の母親は帰り際の俺たちに何度も頭を下げる。

 

 

折本の家から俺の家は意外と近かった。徒歩30分。自転車で10分ぐらいの距離だったためこのまま帰る事にする。

キヌさんは一度俺の家に来てもらって、横島師匠に車で迎えに来てもらうことにした。

 

「比企谷君……これ以上被害者が出ないように、頑張って解決しましょうね」

 

「……そうですね。……キヌさん。この事件、表面的には被害者は少ない様に見えますが、潜在的にはかなりの人数が居るんじゃないですかね。その精神暴走に程度の差があるんじゃないでしょうか。それと、もしかすると徐々に悪化するとか……。もう一度洗いなおした方がいいですね。美神さんや横島師匠にも報告して意見を聞かないとだめですね。大々的になれば、俺たちだけでは手が回らない」

 

キヌさんと自宅に帰ると、小町が夕食を用意してくれていた。

3人で夕食を取ることに……

小町はキヌさんにはかなりなついている。

小町がキヌさんに会う機会は少ないが……会うたびに俺は嫌味を言われる。

目が腐った兄じゃなくてキヌさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったと……

俺もキヌさんみたいなお姉ちゃんが欲しい。……他の家族が冷たくても、きっと優しくしてくれる。

 

 

 





キヌさん大活躍回でした。


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㊴事態は大きく。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では続きです。


先日、折本が精神暴走事件の被害者であることが判明し、キヌさんのヒーリングで傷ついた本人の霊的構造体を回復させることができた。

しかし、折本の心は深く傷ついていた。

急にキレたり、不信行動をとるような大きく精神を暴走させていなかった折本だが、やはり、学校での日常生活で問題が出ていた。彼女は自分の意思では止められない悪感情を言葉にして周囲にまき散らしていたのだ。幸い自らの変調に気が付き、トラブルに発展するほどにはならなかったが、それでも、今まで築いてきた人間関係を壊すには十分なものだ。

 

折本の事で判明したが、このオカルトによる精神暴走、人によって強弱があるようだ。

もしかしたら、ちょっと調子が悪いとか気分が悪い程度の日常生活では全く気が付かない軽微なものもあるかもしれない。

それに、遅行性、徐々に悪化するタイプなどもあるかもしれない。

今、事件や精神暴走に認定されている人間以外にも、潜在的に精神暴走を促すオカルト的な手段で、被った人間はかなりの人数がいるのかもしれない。

 

そう考えると、昨日の由比ヶ浜が教えてくれた3人も精神暴走被害を被っている可能性がある。

もはや、俺とキヌさんだけで如何にかできるレベルの話ではない。

 

この事件の根は深い。確かに死亡事件や殺傷事件などの重大事件に至っていないが、間違いなく精神暴走被害を受けた人間の心に大きな爪痕をしていく。

 

だが、誰が、何の目的で、どうやってこんなことを行ったのかがまるで分らない。

せめて、犯行方法が分かれば予防することができるのだが……

 

 

今日、俺は学校に行かず、俺は今、GS協会本部ビルの会議室に座ってる。

その会議室には、GS協会の会長の六道女史と幹部数人、オカルトGメンの東アジア統括管理官の美神美智恵さんと西条さんに後数名、警視庁から管理職クラスの人が数名、あと文部省の人まで座っていた。

俺は重苦しい雰囲気の中、とんでもない場に、座らされていたのだ。

横には美神さんとキヌさんが居てくれるのはせめての救いだった。

 

昨日の晩。

キヌさんが折本の一件を美神さんに報告した後……美神さんから俺に生の意見を聞きかせろと、電話が掛かってきた。

俺の考えをそのまま話すと、美神さんは終始、相づちだけをうち、俺の話を口を挟まずに聞いてくれた。そして、話し終わると、明日早朝に事務所に来なさいと言う。

学校あるんですがと答えると。GS免許者の緊急時の権限を使って学校を休めと……

 

それで俺は、早朝事務所に行くと、オカルトGメンの美智恵さんと西条さんが既にスタンバっていて、俺はキヌさんと共に昨日の事を話す。

 

美智恵さんも西条さんも真剣な面持ちで終始聞いてくれた。

それで、聞き終わった後だ。………今日、この事件についての意見交換会があるからそれに参加してちょうだいと、美智恵さんはニッコリ笑顔でそんなことを言った。

俺はしぶしぶ返答したのだが……

 

まさか、ここまでの重役会議だとは知らなかった。ニッコリ笑顔の美智恵さんを警戒はしていたんだが……あの笑顔が出るといつもとんでもない目に合うからだ。

たかだかオカルトGメンとGS協会との話し合い程度だと思っていたのだが……まさか国のお偉いさんまでいるとは……

 

流石の俺も緊張しっぱなしだ。

俺とキヌさんは昨日の件をそのまま話す。

こんな会議のなか抜けてる事も多々出てくるが、そのたびに美智恵さんがフォローしてくれる。

俺とキヌさんが話し終わったところで、俺とキヌさんと美神さんは会議室から出ることになる。

後は、お偉いさん同士の話し合いらしい。

 

美神さんに俺とキヌさんが何故こんな会議にでる事になったのかを帰りの車の中で聞いた。

「おキヌちゃんと比企谷君の話はね。ママもその線を考慮して、文部省から教職員にアンケートを出させていたのよ。今日は丁度、そのアンケート集計の結果の打ち合わせだったってところよ」

どうやら、美智恵さんも潜在的な精神暴走被害者が多数いる可能性を考えていたようだ。それで文部省を使って千葉県の中高の教職員向けにアンケートを出していたようだ。

やはり、俺たちだけに任せてはいなかったな。オカルトGメンもGS協会もずっとこの件で動いていたってことか……

にしても美智恵さん。文部省を顎で使えるってどうなのよ実際。

 

「はあ、だったら、俺たちが捜査する意味があるんですか?」

 

「生の声が欲しいのよ。だから、期限を設けずに、依頼が来たってところよ。あんた達の声が有れば、現実味が帯びるからよ。丁度ベストタイミングでその生の声が来たもんだから、ママは鼻高々ってとこかしら……これで私もママに恩が売れるわ」

 

「ということは……引き続き、捜査を続けるでいいんですか?」

 

「そうね。でも、比企谷君がGSって知られない方が、何かと動きやすそうだから、君が可能性があると言っていた君の高校の生徒については、横島君が何とかするわ。これでこの3人の中で被害者が居たのなら、君の意見はますます現実味をおびるわね」

由比ヶ浜があたりを付けたカップル彼氏連中の事だ……横島師匠が?……相手が男だからきっとやる気はないんだろうな………横島師匠なら、直接会わずとも遠目で分かっちゃうし、さらっと終わらせそうだな………いや、彼女がいる連中だから、なんか嫉妬が混んだ何かをしてしまうかも……

 

「まだ、犯人の手がかりも、犯人の目的も、どういう手段で霊的構造の損傷をしたのかもまるで分らないしね。このまま続行よ。……君の部活の協力者の子、結構使えそうだし、君からなんかおごって上げなさいよね」

……続行はいいんですが、おごるって、そこは事務所からとか、美神さんとかから、お金でないんですね。飽くまでも俺の懐からか………まあ、懐は潤ってますよ。土御門さんが借金返済してくれて、すでに払ったものが戻ってきたしな。今後の給料は返済に充てなくていいから、そのままが懐に入るしな。まあ、そのまま貯金してるが……

この事は両親には内緒にしてる。これを言ったら、この金で家をリフォームするとか言いかねん。

小町には折本の件で助けてもらったしな、何か買ってやるか……

 

「比企谷君、がんばりましょうね」

キヌさんが俺に微笑み掛けてくれた。

俄然やる気が出るってもんだな。

 

「比企谷君。おキヌちゃんを学校に送って行くけど、君はどうする?まあ、今から電車で千葉にもどっても学校は間に合わないわね」

 

「いえ、そのまま一緒に事務所までお願いします。横島師匠にも、あの例の疑いのある3人について話しておきたいので……」

横島師匠に釘を刺しておかないとな……その件を盾に、高校に普通に来て、女子生徒をナンパしかねないからなあの人。

 

 

 

 

翌日放課後……

 

「昨日はどうしたのかしら、サボり谷君」

 

「そうだよ。あの事があったから心配したんだから、それにメールしたのに返信来ないし」

 

「いや、メールは返したぞ」

一昨日の折本の件が解決した夜に2人から別々にショートメールが届いていた

由比ヶ浜のメールは相変わらず、絵文字やなんやらで分かりにくい。

雪ノ下のメールは手紙の様だ。

 

「『問題無い』って一言だけじゃん!」

 

「そうね。それでは何が問題無いのかわからないわ。自称コミュニケーションの達人が聞いてあきれるわ」

 

「……いや、達人とは言ってないだろ。……普通にコミュニケーションが取れるとは言ったが」

なんかアレだな、この毒舌、ちょっと昔の雪ノ下のような感じだ。由比ヶ浜もなんかぷりぷりしてるし。

 

「まあ、いいわ。それでどうなのかしら?」

「そう、それそれ、折本さんはどうなったの?」

 

「ああ、まあ、結論から言うと折本は被害者だった。キヌさんのヒーリングで霊障は治せた」

 

「……そう」

 

「よかった。でも。何で昨日休んだし」

 

「……折本の件で、事務所に呼ばれてな」

警視庁や文部省云々の話は流石に言えるわけがない。

 

「あなたあの時、なぜ折本さんの精神暴走の可能性に気が付いたのかしら?」

 

「ああ、最初に会ったときに気になっていた。あっけらかんとした奴だったが、あそこまで言うような奴ではなかったからな。その時は違和感程度だったんだが………その時の印象が気になって、合同打ち合わせの時にでも折本に直接聞こうとしたら、あの日、参加してなかっただろ?それとなしに海浜総合高校の連中に話を聞いてみたら、精神暴走の可能性が高い話でな……、それと由比ヶ浜が聞いてきてくれた3人の話があっただろう。あの事もあって、それに気が付かせてくれた」

 

「……あたし、ヒッキーの役に立ったのかな?」

 

「ああ、助かった。由比ヶ浜のおかげだな。あの由比ヶ浜が聞いてきた候補3人も、再度疑いの可能性がでた……但し、俺は校内でGSを名乗らないほうが行動がしやすいとの事で、横島師匠が調べてくれるらしい」

 

「てへへへ、あたしのおかげなんだ」

「………」

そう呟くように言う由比ヶ浜の顔はゆるゆるだ。

対して雪ノ下は、無表情ではあるが、視線を落としていた。

 

「……横島さんが調べるということは、あなたの師匠が学校に来るということかしら?」

「……ヒッキーの師匠さん。いい人なんだけど、あれだよね」

雪ノ下と由比ヶ浜は微妙な顔をする。

2人が言いたいことは重々わかる。あの人が学校に来るということはトラブルでしかない。

ちゃんと先手は打ってある。

 

「いや、自宅に行くんじゃないか。学校に来ないように釘はさしておいた」

 

 

 

「では、あれは何かしら」

……雪ノ下は窓越しに校門入口の方を指す

 

……俺は立ち上がり、窓の外の雪ノ下の指さす方向を見下ろす。

土埃が校舎に向かって伸びているのが見える。嫌な予感しかしない。

 

ドドドドドドドという音が近づいてくる。

 

そして……

ガターーーン!

 

部室の扉が大きな音共に思いっきり開き放たれた。

 

 

「はちまーーーーん!来たぞ!!ここの女子すんごーーーーいレベル高いぞ!!」

超にやけ顔の若い男が大声を上げながら部室に入ってきた。

といか、横島師匠だ……

 

「……なんで来たんすか」

やっぱり……あんな土埃を上げて走る人や……ドドドドという足音を上げる人はこの人しかいない。

 

「何を言ってる。例の奴に決まってるだろ!!」

 

「俺は学校に来るなと言ったじゃないですか!!」

……この人、人の話聞いてなかったのか?

 

「ふふふふふ……八幡甘いな、女の来るなは、逆説的に来てほしいと言ってるのだよ!」

何言ってるんだ。俺は女でもないし、その訳が分からん思考回路はどこから来たんだ。

 

「……俺は女じゃないんですが?で、なんでわざわざ学ラン着てるんすか?」

 

「高校に制服姿だと隠密性が高くなるだろ?まずは森に入るにはまず木にならなくてはならない!これで俺はどこから見ても高校生だ」

 

「……うちの高校はブレザーです。しかもバンダナをしてるあんたは目立つんですが、とっとと帰ってください」

横島師匠の場合、大声で叫ぶし、行動が奇天烈だから、直ぐバレる。

 

「いいじゃん!いいじゃん!横島!高校生に戻って女の子とイチャコラしたい!!」

……この師匠、こういう奴だった。

 

「ダメです。帰れ」

 

「俺もたまには潤いがほしいんだ!!」

横島師匠は俺の腰に縋りつき、涙をちょちょ切らせる。

 

「いいから帰れ」

 

「八幡が冷たい!……八幡の彼女たちにOK貰うからいいし!……雪ノ下ちゃんに由比ヶ浜ちゃん!!久しぶり!!」

横島師匠は涙を止め、バッと立ち上がり、いつものにやけた顔で二人に近づき挨拶をする。

 

「おい!!」

 

「……お久しぶりです」

「……こ、こんにちは」

俺と横島師匠のやり取りに呆気に取られていた二人は、横島師匠の急な挨拶に戸惑いながらもなんとか返事をする。

 

「いいないいな!!八幡は!!こんな可愛い子二人も侍らせて、毎日イチャコラして!!俺にも

潤いを分けてくれ!!」

 

「帰れ!」

俺は語気を強める。

 

「雪ノ下ちゃんと由比ヶ浜ちゃんさ!!少し年上好きの可愛い子紹介して!!それか一緒に今から遊びに行かない?八幡ほっといて!!」

 

「…………」

「………え?ヒッキーどうしよう?」

雪ノ下は呆れた表情をし無言だ。

由比ヶ浜は戸惑っている。

 

……こいつは!!

最終手段に出るしかないか……

 

俺はスマホを取り出し、とある方に電話をする。

「もしもし、比企谷です。今部室に横島師匠がきてるんです」

 

 

「は……八幡、まさか美神さんに電話を!!……しかし、甘いぞ八幡!!今日、美神さんはオーダーメイドのブランドもんのショップに行ってるはずだ!!ここまでは来れないはずだ!!はーはっはーーー!!」

横島師匠は最初は恐れ慄いていたが、気を取り直して高笑いをしていた。

 

俺はそれにニヤリと返しただけだ。

 

 

ズダダダダダ!!と遠くから足音が近づいてくる。

 

 

「あわわわ!?ま、まさか?ここには来れないはず!?」

その足音に慌てふためく横島師匠。

 

「美神さん?甘いですね師匠。平塚先生に電話したんで」

俺は鼻で笑う。

 

「………八幡、帰るな。……雪ノ下ちゃんと由比ヶ浜ちゃんもまた今度ね」

急に大人しくなって、窓から出て行く横島師匠。

やっぱりだな。その反応、先日平塚先生に捕まったんだな。大人の階段を上ったのかは別にして、連れまわされて面倒くさいことになったと見た。

 

 

ガターーーン!

またしても部室の扉が大きな音共に思いっきり開き放たれた。

そのうち壊れるじゃないかこの扉。

 

「比企谷ーーーー!!横島さんが来てるって本当か!!」

平塚先生は喜色溢れる顔で現れる。

 

「はい、たった今窓から出て行きました」

 

「何ーー!?すれ違いだと!?」

 

俺はここで、横島師匠の霊気を探る。

「窓を伝って屋上に上ってますね。屋上の出入り口に行けば会えますよ」

 

「比企谷!ありがとう!!はーーーはっはーーーーー!逃がさん!!」

平塚先生は部室を出て、廊下を猛ダッシュする。

 

俺はやり切った感で平塚先生を見送った。

 

 

「あは、あははは、ヒッキーのお師匠さん。相変わらずだね」

乾いた笑いをする由比ヶ浜。

 

「……比企谷君がどんな状況でも動じない理由が分かった気がするわ」

雪ノ下はうんざりした表情をし呆れていた。

 

「……ま、まあな」

 

 

 

 

 

余談だが……実は横島師匠、学校に来て平塚先生に追いかけまわされながらも、問題の3人の霊視を済ませていた……

 

結果、3人中、2人に、霊的構造の損傷が見られたとの事だ。

 

バカなんだか、凄いんだか……




久々の横島師匠登場でした。


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㊵初めてのキヌさんの部屋

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回、長くなったんですが、2回に分けることができませんでした。
ということで続きをどうぞ。



 

 

週末の土曜日。

 

 

約束通り、雪ノ下と由比ヶ浜とキヌさんとの、精神暴走事件の意見交換の場を設けた。

場所はキヌさんの部屋。……要するに美神令子除霊事務所の3階だ。

 

元々、俺とキヌさんが事務所で精神暴走事件の打ち合わせをする予定の日だった。

キヌさんの提案で、その日に2人とも話しができればということで……

そのことを2人に伝えると雪ノ下と由比ヶ浜は二つ返事で了承してくれた。

 

 

「東京の一等地にこんな土地があるのね。流石。全国長者番付で名が出てくる資産家美神令子の事務所ね」

雪ノ下は事務所を見上げてそんな感想を漏らす。

そんなに金もってるんだ美神さん知らなかった。そういえば、全国に沢山別荘持ってるとか言ってたな。泊りがけの仕事の時、一度別荘の一つにとまったな。かなりゴージャスだったんだが。なんか管理人さんとかいてたし。そんなに金持ってるなら俺の給料をもっと上げてほしい。

まあ雪ノ下も人の事は言えないが、雪ノ下の父ちゃんも資産家だろ、千葉の資産家ランキングで毎年3位以内に名を連ねているのは俺でも知ってる。

 

「ほえー、この建物が全部事務所なんだ。なんかレトロな雰囲気が良い感じだね。ゆきのん」

由比ヶ浜も目を丸くしていた。

 

「入るぞ」

建物の玄関に2人を促す。

 

すると建物から無機質な男の声が響く。

『女性2名を確認、霊的脅威無し。結界内に通過させてよろしいですか?』

 

「そうだ。人工幽霊、俺の知り合いだ。雪ノ下と由比ヶ浜だ」

 

『了解しました。霊気パターンを登録します』

 

「え?ヒッキー誰かいるの」

「………」

由比ヶ浜は急な声の主に驚き、周りを見渡すが誰もいないため、俺に恐々聞いてきた。

雪ノ下は何故か俺の真後ろにピタっと付く。

 

「この建物に憑いてる人工的な幽霊らしいが俺も詳しくは知らない。この建物のセキュリティを管理してる」

正式な名前は渋鯖人工幽霊壱号、俺もこの事務所に来たての時には驚いたものだ。

 

「ゆゆゆ、幽霊?」

「………」

由比ヶ浜は驚き、俺の腕をつかんでくる。

雪ノ下も何故か無言で俺のコートの後ろ裾を掴む。

 

「まあ、気にしないでくれ。超優秀な管理人がいるとでも思ってくれればいい」

 

『初めまして、渋鯖人工幽霊壱号と申します。あなた方を歓迎いたします』

 

「なんか良い人っぽい?驚いてごめんね!し…さば!サバッチ!」

由比ヶ浜……順応力高すぎないか?しかも、もう変なあだ名付けてるし……

 

「……雪ノ下です」

雪ノ下は俺の後ろで恐々自己紹介をしていた。

 

 

 

エレベーターに乗り三階で降りる。

廊下を少し歩くとキヌさんの部屋に到着。

そういえば、キヌさんの部屋の前まで来ることはあるが、中に入るのは初めてだ。

 

「ごめんね。遠いところまで来ていただいて、上がってね」

キヌさんは笑顔で俺たちを迎えてくれた。

 

「こんにちは、今日はお世話になります。大したものでは無いのですが」

そう言って雪ノ下は持参したお土産を渡す。

流石だな。こういうところはキッチリしてる。

 

「わあ、綺麗、お邪魔します」

「お、邪魔します」

由比ヶ浜と俺は雪ノ下に続いてキヌさんの部屋に上がる。

実は俺がこの中で一番緊張してるのかもしれない。あのキヌさんの部屋だぞ!男だったら緊張しない方がおかしい。

 

スリッパを履いてリビングに通される。

中は今風に綺麗に内装されてる。そういえば、俺が事務所に入る頃に改装したって聞いたような。

間取りはどうやら2LDKの様だ。一人で住むにしては広そうだ。家族で住んでも問題なさそうな広さはある。まあ、雪ノ下の部屋よりは狭いが、あそこは一軒家の俺の家よりも広いしな。

 

「そこに座って待ってね」

そう言ってカウンターキッチンに入るキヌさん。

 

俺たちはリビングの真ん中に位置する床直置きのソファーに座った。

「ゆきのん家と同じで物をあまり置いてないし、すっきりして綺麗だね」

「そうね。氷室さんとは共感できそうね」

2人はそんな感想を漏らしていたが、俺は落ち着かない。年頃の女子の部屋に今いるのだ。しかもキヌさんの部屋だ。雪ノ下の家に上がった時も落ち着かなかったが、あの時よりも更に落ち着かない。なんか良い匂いがするし……

 

「ヒッキーは、その……絹さんの部屋によく来るの?」

「いや、初めてだ」

 

「そ、そなんだ」

なんでそこで嬉しそうなんだ?由比ヶ浜は。

1年半以上事務所に通っているが今回が初めてだ。まあ、キヌさんの部屋に呼ばれる理由がないしな。

 

「美神令子さんも、ここに住まわれているのかしら?」

 

「そうですね。美神さんはここの5階に住んでますよ。ご飯はほとんど美神さんの部屋のキッチンで作って、一緒に食べてますね」

雪ノ下の質問に、ちょうど紅茶セットを持ってきてくれたキヌさんが答える。

 

「へー、仲がよさげ」

 

「そうですね。美神さんには良くしてもらってます。シロちゃんとタマモちゃんもこの事務所に住んでるんですよ」

紅茶のカップを用意して、それぞれに注ぎながら答えるキヌさん

シロとタマモは昔は、俺とか横島師匠が宿泊室として使ってる屋根裏部屋に、一時的に2人同じ部屋に住まわせてもらっていたそうだが、今はキヌさんと同じ3階でそれぞれの部屋で暮らしてる。

二人の部屋には1、2度程行ったことはある。キヌさんの部屋と凡そ同じくらいの広さはあるだろう。ただ、シロもタマモの部屋も和室が主体だったと記憶してる。シロの部屋は女の子の部屋という感じが全くしない。なんて言うか武士?物も殆どないしな。タマモの部屋には本棚を組み立てるのを手伝ってやるために入ったことがあるが、本をかなりかき集めていたな。一部屋が丸々書庫になっていた。うらやましい限りだ。後3階には従業員の居住区以外に事務所の書庫がある。美神さんが集めたオカルト関係の本が山ほどある。美神さんはああ見えて勉強家だ。なんか呪いの本とかもあって金庫に厳重に封印されてるものもあった。

そういえば美神さんのプライベートルームは入ったことはないな。5階丸ごとだから、相当の広さがあるはずだ。たぶんゴージャスなのだろう。

まあ、横島師匠は頻繁に覗きや、下着泥で侵入してるようだが……よく警察に突き出されないな。

そういえば、人口幽霊は横島師匠を止めないのだろうか?

 

「絹さんは、一人暮らしなんですか?」

由比ヶ浜は部屋をキョロキョロと見まわしながらキヌさんに質問をする。

 

「そうですよ。東北の実家に両親とお姉ちゃんが居るんです。美神さんと横島さんと一緒に仕事がしたくて、今はここで一人暮らしですが、美神さんやシロちゃん、タマモちゃんが一緒なので、一人っていう感じは全然しないですね」

キヌさんは学校が夏休みとか春休みとか長期休みの際、キヌさんは実家に帰ってる。その間、美神さんのプライベートルームがかなり汚くなるらしいが………こっちに帰ってきたキヌさんにいつも美神さんは注意されてたな。

 

……そういえば、キヌさんがここの事務所に働くことになった経緯をしらないな。

横島師匠と美神さんの出会いは知ってる。

横島師匠は俺と同じで、最初は霊能者じゃなかったらしい。

美神さんの色香に迷って、強引に師匠の方からアルバイトを買って出たらしい。

それで霊能も何にもない、若さとスケベだけが取り柄の横島師匠は時給250円の荷物持ちしていたと……まあ、この情報は横島師匠本人と師匠の友達のタイガーさんからの情報だ。

ん?そういえば、横島師匠どうやって、霊能を得たんだ?……何か言っていたような。バンダナがどうのこうのとか、試験がどうのこうのとか、姫様がどうのこうのとか……まあ、どうせ、とんでもない理由なんだろうが、そのうち聞いてみるか。

今から思えば、美神さんは俺と同じ後天的に霊能を得た横島師匠に同じ境遇だからと面倒を見させたのかもしれないな。

 

 

「……姉と両親」

雪ノ下はつぶやく。

 

「ゆきのん家といっしょだね」

 

「氷室さんのお姉さんやご両親も……その、霊能力者なのですか?」

雪ノ下は躊躇したような顔をしてから、一呼吸おいてキヌさんに聞く。

 

「そうですね。実家の氷室神社は起源が陰陽師の古い神社なので、代々霊能力者の家系なんです。両親は霊能は霊を感じる程度の微弱なものでが、お姉ちゃんは霊能が高いんです。地元の大学に通いながらイタコ巫女として、神社の巫女をしてます」

 

「そうなんですね」

雪ノ下の表情は少し影を落とす。

まあ、そうだな。

雪ノ下の家系も一応、血は薄まっているとはいえ、土御門が源流の陰陽師の家系だ。家族は両親と姉一人。

一方のキヌさんも同じく陰陽師の家系の神社出身で、両親と姉がいる。家庭構成はそっくりだ。

しかし、キヌさんのお姉さんも霊能が高いらしい。キヌさんは言うまでもない。姉妹揃って霊能力が高いのだ。しかし、雪ノ下の家は、姉の陽乃さんは優秀な霊能力者だが、妹の雪ノ下自身が霊能力者として恵まれなかった。そこに大きな違いがある。

この話を聞いて雪ノ下も思うところがあるのだろう。

霊能の家系ではない、俺や由比ヶ浜にはピンとこないが……ただ、霊能があったとしても、あの土御門の次男、数馬のように劣等感にまみれる結果になったかもしれない……。一概に霊能を得たとしても、霊能力者の家系では色々あるだろう。

 

 

そんな会話をこの後も少々した後、本題に入る。精神暴走事件の件だ。

 

「今、千葉限定で中高生で大々的に流行ってる事や、皆がやってる事を挙げてくれ」

前に雪ノ下と由比ヶ浜に聞いた質問と多少ニュアンスが変わってきている。

潜在的に精神暴走事件の被害者が多いだろうということを見越しての質問だ。

 

女子3人はいろいろとネタを上げるが、ほとんどが由比ヶ浜がしゃべっている。

雪ノ下はあまりこの辺の話は得意じゃないのはわかっていた。

キヌさんは千葉在住ではないため仕方がない。

 

 

千葉限定プリクラや千葉市にある中高生に人気なショップなどが挙がってきてる。

やはり、スマホアプリ系の物も多い。

全国的な有名なコミュニティーサイトやショッピングサイトも、千葉在住限定とか中高生限定キャンペーンとかも結構あるらしい。

項目的には千葉限定で中高生で皆流行ってと、一致することが多いが、ただ、スマホアプリやサイトから、霊的構造を破損させるような話は聞いたことが無い。

 

由比ヶ浜は楽しそうに話してるのに対し、この手の話にあまり発言ができない雪ノ下は、なんだか申し訳なさそうな表情をしていた。

そんな雪ノ下にキヌさんが由比ヶ浜の話を系列別に書き並べてほしいと、ノートとペンを渡す。

雪ノ下の表情は和らぎ、聞き手に徹し、言葉足らずの由比ヶ浜の話に質問や言葉の意味を聞きながら、ノートに項目別に綺麗にまとめだした。

流石はキヌさん。よく見てるな……俺ではこういう対応はできない。

しかも、俺もこの手の話は苦手だから、俺も殆ど発言してないが……

 

休憩を挟みながら、2時間半ぐらい経った頃。

 

美神さんがキヌさんの部屋にやってきた。

どうやら、様子を見に来たらしい。

 

雪ノ下は無難な挨拶をする。

由比ヶ浜は緊張した面持ちで、自己紹介をするが舌を噛んでいた。

美神さんは超有名だしな。

 

美神さんは雪ノ下がまとめたノートを手に取り。

「ふーん。わかりやすく綺麗にまとめてあるわね。なかなかやるじゃないあなた」

雪ノ下は褒められて素直にうれしかったのだろう。それが表情に若干出ていた。

 

美神さんはそう言いつつ。別角度からのアプローチについての話しをし、この輪に入っていく。

 

よく考えると、美人美少女がこの空間に4人……そこに俺一人。いよいよもって俺は落ち着かなくなった。

 

そこに、タマモとシロまで来る始末……

 

まるで女子会……いや、女子会とか行ったことも見たことも無いからわからんが、たぶんこれが女子会なのだろう。

 

もはや俺は空気と化する。

俺の居場所はこの場に完全になくなった。

 

この場に居づらくなり、外の空気を吸ってくると告げ、キヌさんの部屋を出る。

そういえば、屋根裏部屋の宿泊室の冷蔵庫にマッ缶のストックがあったな。ちょっとリラックスと……

 

俺はエレベーターへと向かうと……

 

エレベーターの前に横島師匠が紐でぐるぐる巻きにす巻きにされ、転がってた。

しかも、ところどころ廊下は血で汚れてる。

 

「……何してるんすか?」

そんな横島師匠に俺は冷静に対処する。

 

「ゴモゴモゴ!!ーーーぶはーーー!!あの女!!俺が何をしたって言うんだ!!」

さるぐつわを自ら歯で引きちぎり、す巻き状態のまま叫ぶ横島師匠。

美神さんにやられた事は確定してる。

だいたいなぜこんなことになったかもわかるけどな。

 

「……キヌさんの部屋にちょっかい出しに来たんじゃないですか?それがバレて美神さんにやられたんじゃ?」

 

「ギクッ……な、何を言ってるんだ。は、はーちまん。はっはっはー」

……ギクッとか言ってるし、目は泳いでるし、バレバレなんだが。

 

「美神さんに邪魔しないように言われたんじゃなかったんですか?」

 

「3階の廊下の掃除に来ただけなんやーーー!!」

 

「………掃除道具はどこに?」

 

「ピューピュー」

わざとらしく口笛を吹く横島師匠。

なにそれ、誤魔化しになってないぞ。

 

「八幡!俺は八幡の事を心配してきたのだ。美少女達の色香に迷って、少年誌で言えないような、あんなことやこんなことをしていないかと、師匠として責任もって見に来たのだ」

今度は真剣な顔になり俺にこんなことを言ってくる。

 

「……するわけないでしょ」

 

「あああ!!八幡だけずるいぞ!!密室で美少女とイチャコラするなんて!!横島も混ざりたい!!」

本音が漏れたか……しかし、この師匠。キヌさんには絶対手を出さないくせに、由比ヶ浜と雪ノ下に手を出すつもりなのか?……俺はいつもだったら、くだらない雄たけびをスルーするのだが、キヌさんの顔を見た後だからなのだろうか、ムッとしていた。

 

「……ふう、何がしたいんですか?キヌさんと二人っきりになっても、手を出さないくせに!このヘタレ!」

 

「八幡が言うか!!お前だって!!あの二人に手を出さないじゃないか!!」

 

「はぁ?あの二人は部活仲間であって、そういう関係じゃない。キヌさんはあんたに明らかに好意を持ってるじゃないか!」

 

「ああ!?そのまま、そっくりその言葉を返してやるぞ八幡!!」

 

横島師匠はす巻きの状態で器用に立ち上がり、俺と顔を突き合わせお互い威嚇する。

 

 

「ぐおっ!」

「かぺぺぺ!」

しかし……突如として俺の後頭部に強烈な衝撃が襲い。俺はその場で床に倒れる。

目の前の横島師匠も靴が顔面に突き刺さり、床に倒れた。

 

「あんたらうるさい!!ケンカなら他所でやれ!!」

 

美神さんの怒声が廊下に鳴り響き、バタンと扉が閉まる音がした。

どうやら、美神さんに靴を投げられ、後頭部にクリーンヒットしたようだ。

もちろん、ただの靴じゃない。靴はただの靴だが、美神さんの攻撃的な霊気が通った靴だ。

そんじょ、そこらの悪霊や妖怪ならば一撃で蒸発する威力だ。それを俺たちが死なない絶妙な力加減で放ってくる。そこが美神令子の恐ろしいところだ。従業員は生かさず殺さず……

 

横島師匠は靴が顔面に突き刺さったまま、血がどくどく出てる。

俺は後頭部に靴がヒットして、美神さんの霊気が体に回り、スタン状態に陥っているが、まだ普通の状態だ。……人の顔面に靴が突き刺さるってどういう状況なんだよ。しかもそれで生きてるし……

 

しばらくすると、横島師匠の顔面に突き刺さった靴がスポンと抜け。

「……八幡。おキヌちゃんに手を出したらどうなると思う?」

床に倒れたまま俺に話しかける。

 

「……確実に殺されますね……美神さんに」

俺も倒れたまま答えた。

 

「だろ?」

 

「でも、キヌさんから……」

 

「おキヌちゃんは妹みたいなもんなんだ……」

 

「それが本当の本音っすね」

 

「…………」

 

「キヌさんの方から明確に告白されたわけじゃないんですよね」

 

「……そうだな」

 

「なら、仕方がないっすね」

 

「…………」

横島師匠は苦笑していた。

 

横島師匠とキヌさん。この二人に何があったんだろうか?

キヌさんが横島師匠に告白できない理由が……実はキヌさんも氷室家で親が決めた許嫁がいるとか……。

それとも横島師匠に恋人がすでにいる?……いやそれはないか。

 

 

 

この後、美神さんは俺たちの事をすっかり忘れていたようで、床に転がってる俺たちと顔を合わせた「あんたらそんなところで寝てないで、事務所で食事ができるようにとっとと用意しなさい」なんて言ってきた。

 

事務所の面々と雪ノ下、由比ヶ浜を交えて、4階の事務所で夕食をとることになったようだ。





おキヌちゃんが幽霊だったことを
知らせてません。
八幡を信用していないとかではなくて、
ただ、話すタイミングが無かった。
まあ、あんなちょっと、アレな話ですからね。なかなか話しずらいとは思います。

タイガーの存在確認w


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㊶精神暴走事件は終息へ

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく、この章のエンドが見えてきました。



奉仕部の連中と精神暴走事件の件でキヌさんの部屋を訪れてから10日。

 

各テレビ局のニュースで、千葉の中高生で起きていた精神暴走事件がオカルトが関わった事件であることが、警視庁の正式に発表を受け、大々的に流れたのだ。

どこのテレビ局もこのニュースで沸き上がり、こぞって特番まで組まれる有様だ。

 

オカルト事件の報道はなかなか難しい面がある。通常の事件に比べ、目に見えない恐怖や不安を一般市民に与えてしまうからだ。

ここまで大々的にオカルト事件として流れたのは、3年前の世界一斉大規模霊災以来だ。

なのになぜ、警視庁は大々的に発表したかというと、この事件、解決に至ったからだ。

世の中は早期発見に早期解決に警視庁とオカルトGメン、GS協会の功績を讃えていた。

 

原因は……とある大手情報サイトのコミュニティーツールだった。

サイトに用意されてた詳細な千葉のマップに自らが撮った街中風景の面白写真やお店の感想等を掲載していくという企画物だった。このツールが扱えるのが一応18歳以下の学生限定ということもあり、千葉の学生の約半数がダウンロードしたとか……因みに俺はダウンロードというかサイトの存在自体知らなかった。……雪ノ下の反応を見るからに多分知らなかったのだろう。

 

そのツールがどのように人に影響を与えたかというと……

 

マップ上に写真を貼るにはツールを用いる。その写真を貼る場所の枠内の模様と枠は一見どこにでもあるようなデザインだが……巧妙に隠された術式の一部だったのだ。

ただ、この枠と枠内の模様だけでは術式としては不完全なもので発動しない。写真を貼ることで術式が起動する仕組みなのだが……それだけでも不完全な状態となり発動しない。貼られた写真の模様や色が術式の一部となり発動するのだ。

そして、術式が発動した写真を見た人間に影響を及ぼす。

しかし、写真を貼ったからといって必ずしも発動しない。貼った写真が術式起動条件の色や模様に合致しないといけないからだ。逆に言えば、合致して発動する方が稀なのだ。

スマホで撮る写真というのは一定の傾向があるらしく、それを見越した術式を組み込み発動率を高めていたようだが。

 

しかも、写真を貼り、それを掲載してから10分という短時間で術式は消滅するようになっていたいうわけだ。

さらにだ。この掲載された写真を見た人間がすべて、術式の影響を受けるわけではない事もわかっている。人によっては全く影響が無かったりと、影響が弱かったりと、術式自体の強度が低いのだ。

また、スマホの機種によっては術式を阻害していたり、画面のフィルターでも阻害されたりするらしい。

 

そういえば、この術式について、小笠原エミさんが、かなりお冠だったな。

「呪いや術式が発動がランダムとか、オカルトをなめてるわけ。そんなもの術式や呪いじゃない。完全に発動し、術者の意思を反映させてこその術式や呪いなわけ。先人が試行錯誤し完成させた一種のアートなわけよ!!これを作ってばら撒いた奴はそんなこともすっとばしてこんなものを世にだしたのよ!!これはあたし達に挑戦してると一緒なわけよ!!探し出してありとあらゆる呪いをかけてやるわ!!」

わざわざ美神さんに愚痴を言いに来てたしな。

呪いのプロとして許せなかったようだ。

 

完璧じゃない術式。ランダムで発動する術式……効果もあやふやな術式

確かに、これだけ強度の低い術式は、正直実践では使えないレベルものだ。

命をやり取りする現場ではとても信用して使えるものではない。

 

それでも……社会混乱を招くというテロ目的であれば、十分使える代物だ。

死者こそ出なかったが、人々の心に十分傷跡は残してくれた。

しかも、そのランダムな性能のせいで術式の正体を突き止めるのが遅くなったと言っても過言ではない。

 

この事件の発端となったサイトは停止し、サービスを行っていた大手情報サイトの会社は捜査の手が入ったが、どうやらサイトのサービス開始後に、外部からハッキングされ改ざんされたことが分かった。

ハッキング自身はオカルトではないため十分なセキュリティ対策を取るようにという注意警告を受けるにとどまった。

 

そして、この事件を起こした、ハッキングしこんな術式を組み込んだ奴は、未だ捕まっていない。

いや、犯人像すらわかっていないのだ。

 

 

 

 

「比企谷君、この事件はこれで解決なのかしら?」

雪ノ下は奉仕部の部室で窓際のいつもの席から俺の方へ聞く。

 

「……いいや、事件自身は終息したが、犯人は捕まってない」

俺は正直に答える。雪ノ下自身もこれでは解決してはいない事がわかってて、そういう風に聞いたのだろう。

 

「じゃあ、ヒッキーも、犯人を探すの」

由比ヶ浜は雪ノ下の隣でスマホを操作しながら俺に聞く。

 

「いや、キヌさんと俺の役目は終わった。後は警察とオカルトGメンの仕事だ」

キヌさんと俺の仕事としては十分な成果だ。

この事件の解決には至ったからな。

 

「ということは、あなたからの奉仕部への依頼は完了したということでいいかしら」

 

「ああ、正直助かった。俺ではここまで出来なかった」

 

「てへへへへ。そうなんだ。ヒッキーは私たちのおかげで助かったんだ」

「そう」

由比ヶ浜は笑顔で、雪ノ下も口元が微笑んでいるように見えた。

 

 

キヌさんの部屋に行った日、雪ノ下と由比ヶ浜とキヌさんとの話し合いに美神さんが介入し、この事件の解決に至る道筋ができたらしい。

 

 

6日前、学校では精神暴走事件についてのアンケートを全校生徒に向けて行なわれた。

これは千葉県内にある中学高校すべてで行われていた。

チェック方式のアンケートはかなりの項目が記載されている。

内容は大きく分けて3つの大項目に別れている。

一つは体調についてだ。

二つは不安や不満など、精神に関する事だ。

三つ目は学生の行動や趣味、流行り、使用してるアプリについての項目だ。

特に三つ目はキヌさんとの話し合いの際で出てきた由比ヶ浜の意見が多数盛り込まれてる。

 

このアンケート結果を踏まえ、問題の術式が組み込まれていた大手情報サイトの千葉限定のコミュニティーツールに行き当たったそうだ。

 

そして、潜在的被害者も多いことも判明し、GS協会から治療を行うため、GS免許を持った心霊医術やヒーリングに長けた術者のチームを各学校に派遣し、該当者の治療を行っている。

元々心霊医療を行える術者やヒーリングを行える術者は数が少ないため、一日1,2校回るのがやっとだ。来週から地方からも術者も募り、もう1チーム作って2チーム体制になるのだが年末までにすべて終わらせるのは厳しいようだ。

もちろんキヌさんも参加要請があり参加してる。

 

被害者救済処置として、カウンセラーを置くことになったが、カウンセラー、特に霊障関係のカウンセラーは非常に貴重だ。一人で5,6校掛け持ちで行うことになるとの事だ。

しかも、現GS協会会長の六道家当主まで、現場にでる予定なのだ。

相当人手不足なのようだ。

 

この辺の心霊医療や霊障カウンセラーなどは、時代に即して需要が増加し、これから再整備されていくことだろう。

そして……もう一つ、サイバーオカルト対策だ。

今回の件が、情報化社会と言われる現代で、ネットや情報端末を通して大々的に起こった最初のオカルト事件となった。

政府も本格的にサイバーオカルト対策に着手する方針のようだ。

それに伴って、GS協会やオカルトGメンもこの辺の人員を確保することに動きだすだろう。

GSは今迄は妖怪や霊を相手どっていたのだが……今回の事件はオカルトを使った人間が起こした事件だ。過去には呪い屋やオカルトを駆使した殺し屋などの人間は多く存在したらしいが、新たなジャンルの敵として対処しなければならないだろう。

 

そして俺も……美神さんにサイバーオカルト対策の研修に行けと言われる。

美神令子除霊事務所のメンツで俺が一番その方面に詳しいからだという理由なのだが、別に詳しいわけじゃない。一般知識程度だ。キヌさんはその辺苦手そうだし、横島師匠はエロサイト専門だし……美神さんはたぶん独自で勉強するだろうな。

まだ先の話だ。来年、1月中旬に行われるらしい。

なんかアレだな、なんか新たな免許とか資格とかできそうな勢いだ。

 

 

 

そういえば、折本はようやく踏ん切りがついたらしく、今日から学校に行くらしい。

なんか、1日置きぐらいに電話かかってくるんだが……まあ、あんなことがあったしな、一応俺もGSの端くれだし、話し相手としては丁度いいのだろう。……愚痴を聞くか世間話しかしてないがな。

最初の頃を思えば折本も大分元気が出てきたようだ。

今日のニュースで、折本の学校の連中も折本が置かれた状況を理解してくれるだろう。

 

 

しかし……今回の事件を起こした奴はどんな奴なのだろうか?

 

 

 

本を開きながらも考えにふけていると……

奉仕部の部屋にノックの音が響き、雪ノ下が「どうぞ」と答える

 

「失礼しまーす」

亜麻色の髪の女生徒が元気よく入ってくる。

 

「やっはろー、いろはちゃん!」

「こんにちは、一色さん」

 

「結衣先輩、雪ノ下先輩、こんにちはです」

 

一色はそう挨拶を返しながら、俺の前まで来て、泣き真似をしながらこんなことを言ってくる。

「先輩ー、ピンチです。ヤバいです!手伝ってください」

 

「何がだ?クリスマス会の合同イベントは問題ないはずじゃないのか?」

 

「……それが」

一色は言いにくそうする。

 

「一色さん。私達奉仕部で準備することはほとんど終わったはずよ」

 

「そうなんですけどー……その総武高校の出し物の演劇が予算がオーバーしちゃいそうで……」

 

「どんだけだ?」

 

「これだけ」

一色は片手を胸元あたりで開いて見せる。

 

「5万か……生徒会費で賄えるんじゃないか?」

 

「……50万」

 

「はぁ?」

俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「……一色さん。どうして、演劇でそんなに予算が必要なのかしら?」

雪ノ下は頭痛がするかのように、手を額に当て、一色に呆れたように聞く。

 

「しょぼいのっていやじゃないですか、何より他校に負けたくないじゃないですか!特に六道女学院の鼻もちならな……いえ、お嬢様達になんて特に、セットをレンタルで外部発注しようとしたら……その」

何対抗意識もってるんだ?一色の奴、鼻持ちならないって言おうとしただろう。それがキヌさんをさしているのなら許せんぞ。

 

「……お前……なにそれ、たかが学生の演劇でセットのレンタルって」

 

「セットは演劇部に借りるか、自作にしなさい。それよりも肝心の演劇の方は進んでるのかしら?」

雪ノ下は一色に冷たくそう言い放つ。

 

「えーー、演劇部のって、しょぼいじゃないですか。演劇の方は、そ……それが、その地元の幼稚園や小学生と一緒にってとこまで来てんですが……そのセリフを覚えなくて」

 

「一色、幼稚園児にセリフとか要求するか?」

 

「いろはちゃん。全くできてないってことだよね」

由比ヶ浜は純然たる事実を一色に突き付ける。

 

「あと、2週間もないわよね」

 

「今更路線変更できないですよ。先輩ーー、助けてくださいよーー」

泣き付く一色。

 

「……とりあえず。平塚先生に相談だな」

こういう時に頼りになる平塚先生に相談しに行く。

 

 

 

……平塚先生に相談に行ったら、何故か週末にディスティニーランドに行くことになった。

友人の結婚式の2次会でディスティニーランドの一日フリーチケットが当たったそうだ。しかもペアチケットを3セットも……今年は友人の結婚式に4回行ったそうだ。

 

さらに……横島師匠に12月24日に誘ったら……大事な用事があるからと断られたそうだ。

だから今、平塚先生は絶賛落ち込み中。

 

横島師匠は仕事じゃないですかねと言ったら復活し、他の日を誘ってくると職員室を出て行った。その前にチケットを2セット4枚を俺たちに渡して……エンターテイメントを学んで来いと……いや、そこまで本格的なものはいらないんですけど……それよりも予算をもうちょっと融通してほしいんだが………

しかし、何を思ったのか由比ヶ浜と一色はノリノリだ。

雪ノ下は最初は、この混雑時期のディスティニーランドは行きたくないと拒否していたのだが、由比ヶ浜に説得される。……なんか、由比ヶ浜に甘くないっすかね雪ノ下さん。

 

俺は仕事が有ると雪ノ下と由比ヶ浜に断ったのだが、機嫌がいい美神さんは何故かその日、俺に休みをくれた。しかもその情報はキヌさん経由で、雪ノ下と由比ヶ浜に伝わる始末……

 

……俺のプライベートはどこに?

 

 

 




次はディスティニーランドへ


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㊷知らなかった事にしよう

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

先に謝っておきます。
平塚先生ファンの方すみません。
そういうお話です。


「先輩、雪ノ下先輩と結衣先輩と何かありましたか?この頃の雪ノ下先輩は特になんですが、何か楽しそうなんですよね。生徒会長選の時は全然違う印象なんですよ」

一色の奴が俺が一人でマッ缶を片手にベストプレイスで一息ついていた所にいきなり現れてこんなこと聞いてきた。

一色はなんだかんだと、人の事を良く見てるからな。まあ、自分を可愛く見せるための情報収集のためだが……

 

「……さあな」

 

「先輩は私に隠し事をしてませんか?」

 

「はぁ?あのな。誰だって知られたくない事の一つや二つ持ってるもんだ」

 

「何言ってるんですか。先輩のくせに、私に隠し事ですか?」

一色はふくれっ面でこんなことを聞いてくる。

妙に絡んでくるな今日の一色は……

 

「……ふう、雪ノ下と俺との間には何もない。お前に雪ノ下がそう見えるのなら…雪ノ下が何かを変えようとしてるんじゃないか?」

一色の生徒会長立候補問題の後、雪ノ下は俺と由比ヶ浜の前で独白した。

それは俺にとってかなり衝撃的な内容だった。

それからの雪ノ下は確かにあの張り詰めたような空気感を出すことが少なくなった。周囲への当たりも柔らかな気がする。それと同時に、何かにもがいているようにも見える。それは雪ノ下自身が変わりたいと思っている証拠なのではないかと思う。

俺は雪ノ下に何もしてやれない。いや、できないでいる。どうすればいいのかがわからないからだ。

ただ、俺ができることは、応援することだけだ。邪魔する奴がいれば排除するがな……

 

「ふーん……先輩って周りの人を変えちゃうんですね」

 

「……なにそれ?俺が病原菌か何かって言いたいの?はっ、もしかしてお前、俺の小学校の時のあだ名を知ってるのか!?」

そう、俺は小学校の時、比企谷菌というあだ名をつけられ、比企谷菌がうつるから逃げろとか言われ、いじめられてたのだ。子供って本当に残酷だ。

 

「なんですかそれ。まあいいです。今度のディスティニーランドは期待してますよ」

 

「おい、お前のために行くんだろうが、なぜ上から目線?」

 

「そうでしたっけ?…………私も変わらなくっちゃ」

一色はとぼけた事を言った後、小声で何か言っていた。

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「何でもないです。先輩、ちゃんと来てくださいよ」

 

「……さぼりたい」

 

 

 

 

東京ディスティニーランド、言わずと知れた日本で一番集客力を持つテーマパークだ。

まあ、ここ近年関西にあるUSGに押され気味だが……

 

「ヒッキー!やっはろー!!」

「比企谷君、おはよう」

相変わらずの挨拶をする由比ヶ浜に雪ノ下。

ここは待ち合わせ場所の東京ディティニーランドの最寄駅前広場だ。

 

「おはようさん」

 

「ヒッキー!遅い、もう皆来てるよ」

 

「いや、まだ5分前だろう?……しかも一色を見かけないが」

 

すると駅前コンビニから一色が現れる……

いや、その後に葉山隼人が……しかも、その隣に三浦優美子、さらに後ろに戸部翔に海老名姫菜。なぜ?

葉山はわかる。何かと理由を付けて一色が呼んだのだろう。

後のメンバーはなんだ?

 

「おい」

俺は由比ヶ浜に視線を移し声をかける。

 

「うーー、しかたなかったの!いろはちゃんだけに味方するわけにいかないの。こっちも板挟みなんだよ」

由比ヶ浜は俺が言わんとしたことを理解したのだろう。両手で耳を抑えて、目をバッテンにして、俺に訴えかける。

 

「……これ、大丈夫か?」

俺は雪ノ下に聞く。

 

「……彼らの事は別に考えましょう。私たちは私たちの仕事をすればいいのだから」

雪ノ下は冷静に答える。

 

「そうするしかないか」

まあ、そうなんだが………ほらみろ、さっそく一色と三浦が葉山を巡って、静かに攻防を繰り広げてるぞ。見てる方が胃が痛い。

由比ヶ浜はまだ、目をバッテンにしたまんまだ。

 

 

葉山や三浦たちとも軽く挨拶をし、入場ゲートに並ぶ。

「まじで人が多いな。……帰りたい」

 

「ヒッキー!まだ入っても居ないのに帰りたいって!」

 

「遺憾ながら、私も比企谷君と同じ意見だわ。なぜわざわざ人が多いこんな日に来ないといけないのからしら」

雪ノ下はすでに疲れたような表情をしていた。

雪ノ下……遺憾ながらってわざわざそこに使う?

 

「ゆきのんも!?いいじゃん、いいじゃん!!みんなで来れたし!!」

由比ヶ浜はそう言って、雪ノ下の手と俺の手を引っ張り入場の列に並ぶ。

 

「おい………ん?」

俺は由比ヶ浜に手を放すように声をかけようとしたのだが………前方に見慣れた人達がこそこそと何やら怪しげな動きをしていた。

 

……黒いサングラスに黒ずくめのスーツを着たその美女は、そんな服装なのに目立っていた。

……その横で、可愛らしい普段着を着た聖母が、申し訳なさそうに黒ずくめスーツの美女について行く。

 

……美神さんとキヌさん……こんなところで何やってるんだ?

美神さんは誰かを追跡してるようだが………仕事の最中だろうか?

よく見ると、さらに遠方にシロとタマモまでいるんだが……シロもなんか楽し気に美神さんと同じような黒ずくめのスーツを着て誰かを追っているようだ。その横のタマモはまるでやる気がないような雰囲気なのはなぜだ?

 

4人がそろうということは、敵は相当大物なのだろうか……となると、引き返した方がいいな。

巻き込まれる可能性もある。

とりあえず、雪ノ下と由比ヶ浜に事情を話し、ここから皆を離した方が良いだろう。

 

俺は雪ノ下と由比ヶ浜に声を掛けようとしたのだが………

 

まるでウエディングドレスのような純白のドレスを着た女性が黒髪をたなびかせ俺たちの目の前を駆け足で通り過ぎていった。

なんだ?これも何かのイベントか?それともコスプレ?

 

「まったぁ?」

純白のドレスを着た女性はかなり前方で並んでる男の前まで行くと甘えた声を出していた。

……なんか聞いたことがある声なんだが。

 

「………なんでせう、そのかつこうは?」

男の方は、言葉がおかしい。というか、ドン引きしていた。

 

「え?これは私の普段着。ちょっと気合い入れすぎちゃったかな?変?」

普段着でそれはないだろう。どこの欧米貴族だ!……気合いというか、明らかにおかしいだろう!!今から結婚式上げる勢いだぞ!!しかも、男の方はめちゃドン引きしてるぞ!!

 

「………」

ほら見ろ男のほうが黙ってしまったじゃないか!

男を捕まえたいのはわかるが、押しすぎだろ!崖から突き落とす勢いだぞ!!

 

「あれ?どーしたのダーリン?黙っちゃって、のど渇いちゃった?直ぐに飲み物買ってくるわ!待っててダーリン!」

そう言って、その男から離れ、純白のドレスの残念臭が漂う女性がこちらに向かって走ってくる。

後姿は美人そうだったが………あれ?どこかで……!!!!!??????

 

俺たちの目の前をその女性は通り過ぎる。

………俺は見てはいけないものを見てしまった。

 

「ひ……ひ、比企谷君……い、今の?」

ああー遅かったか、雪ノ下も見てしまったか。

雪ノ下もあまりの事にいつもの余裕のある表情はどこかに行き、驚愕とも困惑とも言えないような美人にあるまじき表情をしていた。

 

「……ゆ、雪ノ下。俺たちは何も見てないし、何も知らない。そういう事にすべきだ」

 

「……そ、そうね」

雪ノ下はようやく気を取り直したが、そう返事するのが精いっぱいのようだった。

 

「どうしたの?ヒッキー?あれ、ゆきのんも?」

どうやら由比ヶ浜は気づかなかったようだ。

由比ヶ浜、知らない方が幸せということもある。

 

 

そして、純白のドレスを着た痛すぎる三十路の美人教師のお相手の男が何やら雄たけびを上げていた。

 

「ああああ!!このままだとヤバい!!人生が終わってしまう!!やはり地雷女だったか!!いや、しかし美人は美人だ!!スタイルもいい!!もったいないが痛すぎる!!しかし美人教師だぞ!!今後の人生、美人教師とどうにかなるチャンスはあるだろうか!!いや、すでに半ストーカーだぞ!!しかし一夜だけの過ちなら!!いや、既成事実を押し付けられ、なし崩し的に結婚もあり得る!!しかしこの横島!!目の前に美人が居るのに手を出さないとは!!いやしかし!!」

 

「ヒッキー、あそこで騒いでる人、ヒッキーのお師匠さんじゃない?」

 

「……赤の他人だ」

あんな奇声を上げて、大声で下衆な事を言う人間の知り合いは俺には居ないはずだ。

俺の知り合いに横島忠夫なんて言う人物は存在しないはずなんだ!

 

「えーー絶対そうだよ」

由比ヶ浜…その通りなんだが、事実を突きつけないでほしい。

俺だってたまには心の整理をする時間が欲しい……ふぅー深呼吸、落ち着いた。

横島師匠何やってるんすか?平塚先生もなんですか?そのドレス。今から結婚式でもあげるんですか?しかも何その似合わない言葉遣いは?ダーリンっていつの時代の恋人像だよ!!……そういえば、前生徒指導室で古い漫画を見ながら、これで完璧だとかなんか言ってたな!……うる〇やつらとか……タ〇チとか……めぞん〇刻とか……そんなんを参考にした結果がこれか!……そのままやるとは……普通に頭のおかしい人にしか見えない。

なのに何だか、横島師匠が押され気味になってる?……これはこれでうまく行っているのか?

 

はっ!?

俺は膨れ上がる殺気を感じる。

 

殺気の先には……黒ずくめのスーツを着こんだ美神さんが……手に持ってる双眼鏡を素手でバキッとへし折っていた。

隣のキヌさんはオロオロしながらも様子を伺ってる。

ま、まさか、この2人、いや4人は、横島師匠と平塚先生のデートを監視していたのか?

 

美神さんが上機嫌で休日をくれたあの日、すでに横島師匠と平塚先生とのデートを察知していた?いや、確かに電話の美神さんの声は上機嫌に聞こえたのだが……そういえば、なんで上機嫌と思ったんだ。俺に対して丁寧な言葉遣いをしていたからか!あれは何かもっと別の恐ろしい仄暗いものだったのではないか……怒りを抑えるため、いや、隠すためにあんな言葉遣いを……

 

 

なにこれ?もしかしてとんでもない現場に出くわした?

俺は背中に冷たいものを感じていた。




平塚先生は随分GS側の人間に><
元々その才能は十分あったのですが……


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㊸ディスティニーランドでは

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


かなり、あっさりした展開となってます。


なにこれ?

 

横島師匠と平塚先生がディスティニーランドでデート?

平塚先生のあの恰好、純白のドレスって……そのまま結婚式を挙げて、ゴールインしちゃう勢いだぞ!

 

しかも、美神さんとキヌさんにバレてるし!

シロとタマモまで引き連れて、超監視されてますよ!!横島師匠!!

なんか美神さんめちゃ怒ってるし……きっと、適当な言い訳を言って仕事をサボってここに来てるんだろう!!だからあんなに!!……いつもだったらストッパーのキヌさんが止めに入るのに、横島師匠が女性とデートとしてるのを目の当たりにして、動揺してオロオロするばかりだし!シロは何が楽しいのかノリノリだし!!タマモも止めに入ってくれよ!!何?どうでもよさげなそのやる気ない態度は!…せめてシロだけでも止めさせるように言って!!

 

このままだと確実にヤバい!!……

横島師匠の血だけで済めばいいんだが、あの血走った美神さんの目を見て見ろ!もはや周りなんて見えてない!!ああなったら、横島師匠を半殺しにするまで、暴れまくるぞ!!……なまじ横島師匠は逃げるのがうまいから、周りに被害が確実に出る!!下手をすると人死にが!ディスティニーランドが血の海に!!

妖怪や悪霊程度の霊災なんて生易しい物じゃない!!下手をすると魔族並みの厄災を振りまくぞ!!

 

くそ!!平塚先生が戻ってきて、横島師匠に接触したら!!美神令子という核ミサイルに匹敵する超絶危険物が暴発する!!

 

 

どうする八幡!考えるんだ!!

雪ノ下と由比ヶ浜だけだったら何とか逃げおおせることができるが、一色や他の学校の連中までいる!霊能を発揮する事もできん!

 

…………

 

こ、これしかないか。

ば、バレたら俺が美神さんに殺されるな……

 

…………

 

俺は深呼吸一つして、覚悟を決める。

 

俺はスマホを取り出し小声でとある人物に連絡する。

 

「俺です。横島師匠…俺の話を落ち着いて聞いてください。デート……美神さんにバレてます。

直ぐ近くで監視されてます。タマモとシロまで引き連れて……」

 

横島師匠はその電話で、キョロキョロとあたりを見渡す。ようやく殺気立った美神さんの存在に気が付いたようだ。

『どどどどどど、どうしよう!!八幡!!こ、殺される!!死ぬんはいややーーーー!!』

 

「落ち着いてください。美神さんの事だから、ディスティニーランド内には罠がわんさか張ってると思います。……横島師匠のすぐ下にマンホールがあるんでそこから脱出してください」

 

『はちまーーんんん!!心の友よ!!恩に着るぅ!!』

横島師匠は涙をチョチョ切らせながら、そう言って、マンホールを開け急いで離脱。

そう、争いの種がディスティニーランドからい無くなればこの場は解決する。

地下に離脱させれば、美神さんに追い付かれたとしても、横島師匠の血だけで事はすむ。

この世の平和は守られる。

 

美神さんは横島師匠がその場から消えた事を察知……急いで横島師匠が居た場所に走る。

そして、肩をわななかせていた。

 

そして、何故か俺の方を向いて……凄まじい殺気を含んだ視線で睨みつけられた。

ば……ばれた!?

一瞬で血の気が引く。

霊能者の勘か、それとも、野生の勘か!?何れにしろ俺は確実に横島師匠とグル(同罪)とみなされた!

 

 

(後で覚えてなさいよ。ひ・き・が・や!)

美神さんは口パクでそう言って、首を切る仕草をする。

 

そして……マンホールへと飛び降りて行った。

 

 

お、俺も後で死ぬんだな………

 

……俺という犠牲で、ディスティニーランドの客は助かる。雪ノ下も由比ヶ浜も一色も他の連中もな……皆は知らない…歴史の裏にはいつも知られざる英雄が居ることを……

 

 

「どうしたのヒッキー?顔色悪いよ」

「……この人込みでは仕方がないわ」

由比ヶ浜と雪ノ下の気遣いが今は心にしみる。

 

「……いや、大丈夫だ。ちょっと外すな」

俺は気を取り直す。

もう一人に電話をしなくてはならない。

こっちの方もフォローしとかないと後で大変な事に……

俺は列から一時的に離れ電話を掛ける。

 

「もしもし、比企谷です」

 

『おう、比企谷か!今は忙しい後にしてくれ』

応対する平塚先生の声は非常に明るい。

 

「いえ、横島師匠のことなんですが、緊急の仕事が入って、近くで妖怪退治に行かないといけない事になって、俺に先生にそう伝えてくれって」

 

『なにーーーー!!おのれ妖怪め!!私の人生をかけた勝負を邪魔をするとは!!許さん!!私の抹殺のラストブリッドで消滅させてやるーーーー!!』

 

そこで、通話は切れる。

 

ふぅ、これで平和が守られた。

俺は遠い目をし、ため息をつく。

 

「か、帰りたい」

何、この虚無感。

もう、家に帰っていい?

 

俺は由比ヶ浜と雪ノ下の元へ戻る。

「ヒッキー、本当に大丈夫?」

「あなた、目が何時もに増して濁ってるわよ」

 

「ああ、も、問題ない」

ただ、俺はこの後、美神さんから、各種攻撃に晒され半死するだけだ。

処刑台に上がる前の、囚人の気分だ。

この場を収めるには、ああするしかなかったとはいえ、俺も慣れてきたもんだ。

 

 

 

俺はしばらく、動く屍と化し……皆の後ろについて行くのがやっとだったのは、仕方がない事だと思う。

 

 

 

「あなた、本当に調子が悪そうね」

 

「すまん。俺のせいで皆から離れてしまったな」

 

俺が後方でトロトロしていたがために、俺と雪ノ下は皆と大きく離れてしまう。

そのせいでディスティニーランド定番のファンタジー世界をテーマとした乗り物の順番待ちの列に並んでいる途中で、人数制限の加減で、俺と雪ノ下は皆と完全に分断され、40分ぐらいのタイムラグを生むことになったのだ。

 

「別にいいわ。由比ヶ浜さんには合流先を連絡しといたわ」

 

「……クリスマス会の参考の件も任せっきりですまない」

 

「一色さんと由比ヶ浜さんが何とかしてくれるわ、カメラも由比ヶ浜さんが持っているのだし、それにディスティニーランドを参考にというのは、テーマパークの内容の問題ではないと思うの。この雰囲気とここに来ている人たちが何を楽しんでいるのか、何故楽しいのかを平塚先生は私たちに見せたかったのではないかしら?」

 

「たしかにな。その線が濃厚か……」

 

「……他人が何を楽しいと感じてるなんて私にはわからない」

 

「雪ノ下は難しく考えすぎじゃないか?楽しみ方なんてものは人それぞれだ。雪ノ下は年間パスを持ってるぐらいだから、ディスティニーランドの何かを楽しむために来てたのだろう?」

まあ、雪ノ下の場合は十中八九パンダのパンさん目当てだろうが……

 

「私がここで楽しみにしてる事。……そうね。難しく考えすぎてたのかもしれないわ」

 

「因みに俺の場合は楽しんでる小町を見るのが楽しみだ」

楽しみ方なんてものは人それぞれだ。

俺の場合、ディスティニーランド自体に楽しみを求めていない。楽しんでる小町を見るのが楽しみであったりするため、ディスティニーランドに求めることは小町を楽しませることだ。

世の中のリア充のカップル彼氏共もそうだろう。彼女がディスティニーランドで楽しんでもらう事が目的なのだ。その見返りとして、彼氏は彼女との関係を深める機会を得るのだ。

 

「……あなたはブレないわね。シスコン谷君」

雪ノ下は呆れたように言う。

 

 

俺たちの順番が回り、ファンタジー系の乗り物アトラクションの横座り2、3人乗りのカートに2人で乗り込む。

 

「比企谷君……聞いてもいいかしら?」

雪ノ下はチラリとこちらを一瞥してからすぐに前を向く。

 

「突然なんだ?……答えられるものだったらな」

 

「その……卒業後はそのままゴーストスイーパーに?」

雪ノ下は一度口を開くがすぐに閉じ、聞きにくそうにしながら俺にこんなことを聞いてきた。

このタイミングで俺自身の事を聞いてくるとは思いもしなかった。

 

「……まあ、将来ゴーストスイーパーで生計を立てようとは考えてるが……卒業後は大学にとは考えてるな」

 

「……そう、……あなたは強いのね。自分の意思とは関係なしに突然人生を変えられたのに……」

雪ノ下がこう言うのもわかる。

確かに俺は突然霊能が発現し、霊能者への道を余儀なくされた。

しかし、それを不運だとは思わなかった。それはなんだかんだと言って、美神さんや横島師匠、キヌさんや事務所のみんなの存在が大きい。俺をまっとうな霊能者へと導いてくれ、今に至っている。

そして俺は師匠のゴーストスイーパー横島忠夫に憧れる。

確かに、横島師匠は普段、どうしようもないダメ人間だが……

ゴーストスイーパーとしての横島忠夫は俺が心に描いたヒーロー像に非常に近い。

強さは言うまでもないが、人に非常に優しいのだ。なぜそれだけ優しいのかはわからない。

たとえ依頼人に嫌われようが、その人が今後の人生を生きていけるような配慮をさりげなくするのだ。

誰に褒められるわけでも、讃えられるわけでもないのにだ。

そんな横島忠夫の背中を追えるこの世界だから俺はやって行こうと思えるんだ。

 

「たまたま運よくこの道が俺に合ってたということなんだろう」

 

「そう……やはりあなたは……なんでもないわ」

雪ノ下は俯き何かを言い淀むが、首を横に振る。

 

「まあ、高校に入る前は専業主夫を目指してたがな」

 

「その方があなたらしいわね」

雪ノ下は悪戯っぽく微笑む。

 

「俺もそう思う」

 

 

しばらくの沈黙の後、アトラクションが終わりを告げ、カートは出入口に止まる

 

「私も自分の将来を探さないと………手伝ってね比企谷君」

雪ノ下は俺の方を振り向いて、そう言って、俺の返事を待たずに、先にカートを降りる。

 

「……ああ」

俺はカートの降り際に曖昧な返事しか返さすことができなかった。

……雪ノ下家の言いなりな自分から脱却をしようとしてるのだ。

雪ノ下の独白から1か月以上たった今も彼女は悩み続けているのだろう。

雪ノ下の問題は根が深い。

俺に何が出来るのだろうか?

いや、話を聞くことぐらいは出来る。答えを出せなくても、考えることは出来る……

 

 

 

この後、由比ヶ浜と無事合流することができたが、凄まじい人込みで合流できたのはナイトパレードが終わった後だった。

 

ディスティニーランドのファンタジー風な城のバックで花火が打ち上げられる。

「ヒッキー、ゆきのん。また来たいね。今度は3人でゆっくりと」

「まあ、混んでない時期だったらな」

「確かにそうね」

「ヒッキーもゆきのんも雰囲気台無しだ!」

雪ノ下と由比ヶ浜が並び俺はその後ろで花火を見上げる。

 

そういえば一色と葉山が見当たらない。

三浦と海老名、戸部は俺たちの少し離れた斜め前に居るのだが……

 

 

 

前方に見える人影……一色と葉山だな。

一色の奴、うまい事三浦を撒いて、葉山と二人っきりで花火を見れたようだな。

 

ん?

 

なんだ雰囲気が。

まさか!?一色の奴……

 

葉山から逃げるように俯き加減で人混みの間をこちらに向かって走ってきた。

そして、俺たちに気が付かないのか、素通りして……出入口ゲートに……

 

「ヒッキー、今のいろはちゃんじゃ?様子が変だった」

由比ヶ浜も気が付いたようだ。

そして、三浦もそれに気が付いた。

何より戸部がその様子に気が付き、一色を追いかけようと動く。

 

「一色を見てくる……あのバカ」

「ヒッキー!」

「……え?」

俺は2人にそう告げた後、小さく悪態をつきながら一色を追いかける。

一色の奴は葉山に告白したのだろう。

そして振られた。

今の葉山が誰の告白も受けないと知っていただろうに……なぜそんなことを、もっとうまくやれる奴だと思っていたが……

 

 

くそ、人込みでうまく進まない……

出入口付近でようやく人混みがなくなり、ゲートを出て行く一色を捕捉する。

 

 

!?

 

何この殺気!?

 

霊力が増大する!?

 

しかも地下から!?

 

 

不味い!!

俺は地下から急激に増大する霊力を感じ、霊感が危険だと警鐘しまくる。

このままだと一色が危険にさらされる。

 

「一色!!」

俺は霊気を一気に霊力に変換させ、身体能力を高め加速し、一色を後ろから飛びつくように抱き上げその場をジャンプし離脱する。

 

「きゃ!」

 

バズズーーーーーン!!

 

先ほどまで一色が駆けていた辺りのマンホールの蓋が勢いよく空高く吹き飛ぶと同時にマンホールから凄まじい霊圧が吹き荒れる。

 

間一髪だった……凄まじい霊圧だ……だが、妖怪や妖魔の類ではない。

俺の良く知ってる霊気だ。

 

 

続いてマンホールから霊力のエネルギー波と共に真っ黒なゴミくずが飛び出し上空に空高く舞い上がる。

 

 

そして、巨大な霊圧をまき散らす鬼……いや、美神令子が怒りのオーラを纏いマンホールからゆらりと這い上がってきた。

「手こずらせたわね!!横島ーーーーっ!!」

 

俺は全身の汗が噴き出し、その様子を息をするのを忘れ見つめる。

いや、正確に言えば、その霊圧と死の恐怖に体が動かなかったのだ。

 

空高く舞い上がった真っ黒なゴミくずがマンホールの蓋と共に、美神さんの目の前に大きな音をたてて落ちる。

 

美神さんは落下した真っ黒なゴミくず……いや、横島忠夫だった物を片手でつかみ、引きずって、この場を去って行った。

どうやら俺の存在に気が付いていないようだ。

 

「……ふぅ、助かった」

俺は美神さんが去った後を眺め、ほっと息を吐く。

何?今迄ずっと、横島師匠を追いかけまわしてたのか?逃げてる横島師匠も師匠だが、追いかける方の美神さんも美神さんだ。その情熱をもっと別の事に活かしてほしい。

 

 

「あの…先輩?降ろしてもらえませんか……」

一色が俺の胸元当たりで顔を赤らめ見上げていた。

俺はあまりの恐怖に一色を抱きかかえていた事を忘れていた。

 

「わりい」

慌てて一色を下す。

 

「ほんとにもう!セクハラで訴えますよ!どうして私を急に抱き上げたんですか!!」

どうやら、一色はあの状況を見えてなかったようだ。まあ、顔は俺の胸元に向いてたからな……

 

「……なんか、マンホールがガス漏れで爆発したみたいになったからな、とっさに抱きかかえてしまった。すまん」

俺はそこに転がってるマンホールの蓋を指して説明をする。

流石に、美神さんと横島師匠の事は言えない。

 

「た、助けてもらってありがとうございます。……で、なんで先輩が私の近くにいたんですか!はっ!もしや、私の事をずっとつけてたんですか?途中から見かけなくなったと思ったら、私をストーカーですか、いくら私服姿の私が可愛いからって犯罪です。ちょっと腕とか、たくましかったけど。まだ無理です。ごめんなさい」

 

「あのな、何度振られるんだ俺は……お前が急に走り出したから追いかけたんだよ。お前……その葉山に告白してだな、そのなんだ……」

 

「……心配して追いかけてくれたんですか……先輩………私、振られたんだ」

 

「お前、今、告白してもダメなのはわかってただろ?なんでしたんだ」

 

「……ここの雰囲気がいけないんです。その、パレード見て、花火見て盛り上がっちゃったんです」

 

「お前、もっとクレバーな奴だと思ってたんだがな」

 

「先輩が悪いんです!周りのみんなを変えて……それで私も変わらなくっちゃって!!」

 

「はぁ?なんだそりゃ?」

まったく身の覚えがないんだが……周りのみんなを変えるってどういう事?

 

「グスッ………これは布石になるんです。葉山先輩は振った私に罪悪感持つはずです。これで私の事が気になって仕方がなくなるんです。だから……これからなんです。グスッ」

一色は涙をこらえながら俺に訴える。

精いっぱいの強がりなのは分かっている。

しかし、俺はこんな時どうしたらいいのかがわからない。

 

「……そうか」

俺は小町にするように一色の頭を一撫でする。

この後、由比ヶ浜と雪ノ下、心配そうな顔をしていた戸部と三浦と合流する。

それで俺が一色を自宅付近まで送る事になった。

 

まあ、余談だが数日後、俺は美神さんに事務所ビル全部の窓拭きを言いつかった。

勿論、俺が横島師匠を逃がした事のペナルティーだ。

まあ、半殺しにされるよりはましだな。

当日、横島師匠を徹底的に叩きのめすことで溜飲が下がったようだ。

それにしても、美神さんって横島師匠の事になると過激すぎるよな。まあ、どうせ横島師匠が全部悪いんだろうが……しかし、今回の件、横島師匠は何か別の口実や言い訳を言って仕事を休んだのだろうが、たかがデートでそこまで怒るか?いい大人なのに。

 

平塚先生は一晩中、あの純白のドレスで街を駆け回っていたそうだ。

平塚先生自身、巻き込まれないようにとの配慮だったんだが……流石に罪悪感がぬぐえない。

横島師匠には何かのフォローだけはしてほしい。

慰めの言葉でもかけておくか……

 

 

 




クリスマスイベント、ちょっとずつ原作とは違う感じになってます。
次でこの章は終わりです。
長かった……


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㊹クリスマス会当日

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやくこの章が終わります。
今回はかなり長いです。


12月24日クリスマス会当日を迎える。

当日の俺の役割はコミュニティーセンター周辺に立って案内をする要するに案内係だ。

老人ホームの方々は、専用バスで来客。近隣のお年寄りはデイサービスなどを利用して車で来るのがほとんどだ。出演する小学生や園児達の親御さんも結構来るらしいが、殆ど見かけない。車で来てるのだろう。

 

まあ、形だけの役柄だ。

案外、窓際部署とはこういうものなのかもしれない。

 

生徒会長の一色は司会進行役でマイク片手に大活躍中。

表面上はいつも通りだ。葉山への失恋から立ち直ったように見えるが心中どうなのかはわからない。

あの後、ディスティニーランドに行ったことで、何が重要かを再確認し、劇については、小学生や園児らしさに重点に置いた構成に変更し、さらに園児にはセリフなしで、ナレーション形式に、問題のセットは演劇部からの借り物をらしく見せるように光で調整し、低予算且つきらびやかに見せることができた。

 

雪ノ下とキヌさんは大忙しだ。

早朝からクリスマスケーキを参加者人数分を焼いてる。

勿論、雪ノ下とキヌさんだけではないが、料理が出来る二人が中心となって、コミュニティーセンターの料理教室でケーキやらクッキーやらをひたすら焼いていた。

 

由比ヶ浜もそのフォローに回っているが、料理はさせられないため、主に荷物や原料運びなど肉体労働だ。

 

 

開演から1時間が経ち、俺は案内係の役目も終わり、コミュニティーセンターに戻ることにした。

 

「比企谷、寒いし暇だったね」

他校の制服姿の女子生徒が俺の後ろから近づき横に並び歩く。

 

「俺はぼーっとするのが得意だからな、全然OKだ。なんなら最後までやってても良いぐらいだ」

 

「なにそれ、うけるー」

折本かおりもクリスマス会に1週間前に復帰し、当日は別の場所ではあったが俺と同じで案内係だ。

あの精神暴走事件後、学校への復学は順調だったらしい。学校の友人達とも和解し、今ではほとんど今まで通りらしい。

ただ、やはりというか、周りからは腫物扱いを受けることがあるとか……本人は気にしないようにはしてるようだが……

メディアであれだけ大々的に行ったからな、被害者への理解も深まったが、逆にそういう事もあるだろう。

それも、時が経てば薄まるだろう。

 

 

「比企谷、……これクリスマスプレゼント」

折本はショルダーバックからゴソゴソと可愛くラッピングされた包み紙を取り出し、俯き加減で俺の胸元に押し当てる。

 

「ん?俺にか?」

 

「べ、別に深い意味とかないんだから!その……お礼よ。お礼……助けてもらったし、その電話で相談にもずっと乗ってくれたし……本当に、本当にありがとう」

折本は頬をうっすら赤く染め、涙目で俺に礼を言う。

あのつらかった時の事を思い出したのだろう。

折本からは復学後も、ちょくちょく電話で現状報告やたわいもない会話をしたが、まあ、本人がここまで立ち直る事が出来てよかったと思う。

あの事件は、多感な時期の学生の心に大きな爪痕を残した事件だった。

折本はこうして復帰できたが、まだまだ、復学に至っていない学生が多数いるらしい。

あの犯人はまだ見つかっていない。犯人が何をしたかったのかも不明のままだ。

 

「まあ、たまたま俺がGSで居合わせただけだ。そんなに気にすることじゃない」

素直にお礼を言われるとこそばゆい。

俺は折本から視線を外しながらそれを受け取って、照れ隠しでこんなことを言うのが精いっぱいだ。

 

「比企谷って中学の時、そんなにひねくれてたっけ?」

折本は涙をぬぐい笑顔を見せる。

 

「だいたいこんな感じじゃないか?」

 

「今の比企谷、結構かっこいいよ。中学のみんなが知ったら絶対驚くし、今度の中学のクラス会一緒にいかない?」

 

「いかねーよ。あと、俺がGSだって絶対言うなよ」

なに恥ずかしげもなくそんな事言ってくるんだ?こいつは。

 

「えー、まいっか。キャラじゃなさそうだし……比企谷がGSだってのは私と比企谷の秘密だし、言わないって、…その今も仕事が忙しいんでしょ?」

 

「まあ、そこそこな」

 

「そういうわけで、比企谷、これからもよろしくね!」

笑顔の折本は先にコミュニティセンターに駆けて行く。

 

「どういうわけなんだよ」

俺は折本の後姿を見ながら小声で一人ぼやく。

 

 

 

俺もコミュニティセンターに向かって歩むが、緊急連絡が入る。

 

『比企谷君、緊急時案よ!また例の同時多発霊災。今度のは数が多い。東京で7か所、横浜、埼玉にも派生してる。千葉では丁度あなたがいるコミュニティセンターの近く。千葉駅のショッピングモール地下通路よ!周囲のGSも向かってるけど、あなたとおキヌちゃんが一番近いわ。あなた達も行きなさい』

美神さんからだ。

同時多発霊災、先月もあったばっかりだぞ!

よりによってこんな時に……

しかも、クリスマスイブにかよ……街中は人でごった返してるはずだ。早くしないと人的被害が大きくなるな。

 

「わかりました。相手は?」

 

『不明よ。警察が先に駆け付けたらしいけどね……こっちの対処しだいそっちに向かうわ』

 

「了解です」

 

『横島の奴がいない時に………気をつけなさいよ』

 

「はい」

通信を切った。

 

キヌさんが制服にエプロン姿のまま、駆けてきた。

「比企谷君!」

どうやら、俺より先に美神さんから連絡があったようだ。

 

「キヌさん。ここから400mぐらいですね。走った方が早い」

俺はスマホのGPS機能で場所を特定する。

 

「行きましょう」

 

 

ショッピングモール地下入口に到着すると警察がバリケートを張っていた。

俺とキヌさんはGS免許を警察官に見せ、地下へと入る。

 

「ホビットが数体見えますね」

50cm程の小さな人型が地下通路の店舗内を漁っていた。

 

「全部で3体それ以外は居ません」

俺は霊視空間把握能力を発動させ、地下一体の周囲の状況を確認する。

 

「おかしいですね。ホビットが3体だけなんて……発生するときは5体以上は発生するはずなんですが……しかも、こんな子供が喜びそうな物がないところで」

ホビットとは妖怪というよりも、妖精に属している存在だが、遊園地などの遊戯場で発生する。子供の楽し気な霊気に惹かれ発生するともいわれているのだ。キヌさんの言う通り、こんなところで自然発生するものではない。

まあ、ランク的にはDもしくはEランクに属する存在でそれ程脅威にはならない。

 

「……無理やり召喚陣で召喚したんでしょう」

 

「比企谷君ここは私に任せて」

キヌさんはそう言うと、ミサンガのような飾りを手首から外す。

するとそれは、横笛に変化する。

ネクロマンサーの笛だ。

 

キヌさんがネクロマンサーの笛でメロディーを奏でると、暴れてたホビット達は大人しくなり、キヌさんの前に並ぶ。

調伏が完了したようだ。キヌさんはネクロマンサーの笛に霊力を送る事によって霊やアンデッドなどの死者全般を、さらに低位ながら妖怪、妖魔、妖精や精霊まで操る事が出来るのだ。

 

「あなた達は、どこから来たの?」

キヌさんはホビット達に優しく問いかける。

 

ホビット達は一斉にある一点を指さす。

地下通路に半開きの扉があった。

 

ホビット達に札で封印を施してから、俺はその扉を開ける。

さらに地下へと階段があった。扉表には、電気排水設備室と書かれていた。

俺はこの下の設備室に召喚陣が何らかの形で置かれているのだろうと予想する。

発生原因を調査すべく、地下階段へと降りる。

今の所、霊気などは感じられない。

 

その間、キヌさんは美神さんとGS協会に霊災対処終了の連絡をしていた。

 

地下設備室へと降り立った俺の霊感が急に騒ぎ出す。

やばい……なんだこれは?

 

俺は直ぐに引き返す選択をするが……遅かった。

俺の足元から何らかの術式が展開し、設備室の奥側へと術式が連なり光り出した。

設備室の奥の壁は、西洋の召喚魔法陣と思わしきものが柴色に発光し、発動したのだ。

 

罠だ!

俺の一歩が術式を起動させるスイッチになった!

そして、召喚魔法陣が起動する仕組みだ!

 

俺はとっさに札を取り出し結界を張り、霊視空間把握能力を発動させ、さらに霊力による身体能力向上させる。

 

魔法陣から召喚されたのは、全身黒色の体長2メートル位ある犬だ。しかし頭が二つある。

……ガルムだ!

魔獣ガルム、地獄に住むと言われるBランクの地獄の炎を操る魔獣だ!

 

現れた瞬間にガルムは青白い炎を吐く。

結界を張ったおかげで俺への被害はないが、設備室の地下通路のための電源などがショートし焼き切れ、明かりはすべて消える。

上ではモールの地下通路は停電となっているだろう。

 

「比企谷君!!その霊圧は!!」

階段の上の方からキヌさんの声がこだまする。

 

「キヌさん来ないでください!!ガルムです!!ここから出したらどれだけの被害が出るか!!俺が抑えてます!!」

俺は札を取り出しさらに結界を張り、炎を抑える術式を壁や床、天井など至る所に展開させる。

ガルムの炎を抑えるためだ。この狭い空間で地獄の炎を吐かれると、結界もそれほど耐えられるものではない。さらに、結界がなくなった後は俺は一撃でお陀仏だ。

奴の炎を抑えなければならない。

 

「比企谷君!!応援が来るまで何とか頑張ってください!!でも危なくなったら逃げて!!」

 

「はい!!」

 

ガルムは炎が効果が無いことに気が付き、炎を吐くのをやめ、結界をその毒を含む爪で何度も引っ掻く。

結界の耐久力が徐々に落ちて行く。

 

俺は地下通路への出入口となる階段を上る。その際にも札を使い、炎を抑える術式を展開させていく。

階段の中頃当たりで足を止め、踵を返し待ち構える。

 

ガルムがついに結界を破り、こっちに向かってくるのを感じる。

階段に奴の影が映る。

 

俺は右手に霊力を集中させ……

奴が狭い階段に差し掛かったところを見計らい、右手に集中させた霊力を変性させ、……霊波刀を発動させる。

 

ガルムが一気に階段を駆け上り俺に襲い掛かろうとする所を、俺は狙い撃ち、ガルムの首筋に霊波刀を突き刺す。

 

「手応えありだ!!」

 

俺はガルムに突き刺した霊波刀をそのまま切り払う。

ガルムの突進力と相まって、ガルムの首から下を真っ二つに切り裂いた。

 

ガルムは勿論絶命するが、俺はガルムの血を浴び、紫色に染まる。

 

「ふぅ……何とかなった」

ガルム……キヌさんと以前GS試験のペーパーテストの勉強をした時に、出てきた魔獣だ。

地獄の番犬。動きが素早く。地獄の炎を吐くと。その毛皮は防御力がかなり高いとあった。

警戒すべきは炎だ。設備室の狭い空間では、炎を避けることができない。さらに動きも素早いと……ならば、強力な結界を張りつつ、炎を抑え、狭い空間に誘い込み仕留める作戦を思いつき、階段に誘い込んだ。

そして、俺が今持てる技の中で、最大の攻撃力を誇る霊波刀で仕留めたのだ。

 

以前Sランクの茨木童子と対峙した事のある俺は、Bランクの魔獣に対して冷静に対処できた。

ガルムを目の前にしても、あれほどの脅威を感じなかったからだ。

まあ、茨木童子みたいなのに比べれば当然なんだが……

 

じっとしてるわけにもいかない。また召喚魔法陣が発動して、ガルムが出てきても困る。

俺は召喚魔法陣の凍結を試みる。変に魔法陣をいじって解除しようとして、とんでもない事になっても困るしな……そんな技量もない。

残りの札を使い。魔法陣が発動を阻害する結界を張る。発動する前であれば、俺でもこの程度の事は可能なのだ。

 

「比企谷君!!大丈夫ですか!!」

キヌさんの声が上の方から機械室へと響く。

「何とかガルムを倒しました」

俺は設備室から階段へと昇る。

 

キヌさんは通路側の扉を開けライトで階段を照らす。

「きゃー、比企谷君大丈夫なんですか!?」

血まみれの俺を見て驚いたようだ。

 

「ああ、これですか、そこの死骸の血を浴びただけです」

魔獣ガルム程の存在がある魔獣だと、死しても肉体は滅ばず、死骸として残る。

 

「比企谷君はやっぱりすごいですね。一人で魔獣ガルムを倒せるなんて、私が地下に先に入っていたら、どうなっていたか……」

 

「そうですか?一匹だけだったんで、複数いたらヤバかったですね。でも沢山いても美神さんや横島師匠とかなら、瞬殺じゃないですか?」

 

「あの人たちは別ですよ」

 

「……キヌさん。これ罠ですよ。明らかにGSを狙った罠です」

ホビットはGSをおびき寄せる餌。ホビットを倒したGSが周辺調査に入ったさい、より強力な魔獣や妖魔を召喚させる罠を張っていたのだ。

そして、ここではガルムの召喚魔法陣は設備室に入ってくる人間の霊気に反応して、発動する仕組みになっていた。俺が不意に踏み入れた設備室の床には発動するための術式が張り巡らされていたのだ。俺がその術式に足を置いた瞬間、一瞬霊気を吸い取られるような感覚を覚えたため、そう推測した。

 

「………そうですか、とりあえず比企谷君はここでシャワー借りて、着替えないと。その間、現場検証は私の方でやっておきます。応援の他のGSも来ますし」

 

「わかりました」

キヌさんのこの場を任し、俺はこのモールの係の人の案内で従業員用のシャワーを借りる。

幸いにも、この設備室はモールの地下通路だけの電源や排水系のポンプなどを扱っていたとの事で、他の地下売り場や、上階のショッピングモールには影響はなかったようだ。

 

着替えの服や下着はショッピングモールの方が用意してくれたため、ガルムの血で汚れた制服で外をうろつく羽目にならないで済んだ。

 

俺はさっさとシャワーと着替えを終わらせ、現場へと戻る。

すると何人かの応援に来たGSと警察が打ち合わせを行っていた。

俺も現場検証に加わり、やるべきところまでは終わらせる。俺の見立てでは、犯人の手がかりとなるものは一切残っていない。ただ、これだけの知識と仕掛けが出来るやつだ。そこそこ有名な奴だろうとは思う。

細かい検証は警察と後で来るだろうオカルトGメンに引き継ぐとの事だった。オカルトGメンは人材不足だ。この同時多発霊災でてんてこ舞いだろう。この現場に来るのは明日や明後日になるかもしれない。

 

「比企谷君のおかげでここの被害は最少で済みました。でも他の現場では……今も被害が拡大してる場所があって、美神さん達が急行したそうです」

キヌさんの話によると、美神さんとシロ、タマモは速攻で一つの現場を終わらせたのだが、他の現場で応援要請があり、そこに向かったということだ。

美神さんが最初に行った現場でも罠があったそうだが、発動する前に処理したそうだ。

流石美神さんだな……

 

「東京は優秀なGSが多いと言っても、同時に7か所か……しかも、近郊都市も含めると10数か所ですね。俺たちも応援に行かなくても?」

東京にはSランクGSとAランクGSが多く在住してるが、さすがに、同時にこれだけの数を緊急で対処できるものではない。

 

「美神さんは後は大丈夫だと言ってました……私たちが今から向かっても、間に合わないから……」

キヌさんの表情は暗い。

多分、被害が拡大した場所は、人的被害もでたのだろう。

 

「……そうですか。なら、クリスマス会に戻りますか?まだ間に合います」

 

「そうですね。途中で抜けちゃいましたから、あやまっておかないと」

 

「キヌさんが抜けた穴は痛いですからね。キヌさんみたいに料理が出来る生徒が雪ノ下以外にいるとは思えませんしね。俺は元々役目が無かったからいいですが」

 

「それを言わないでください」

キヌさんは困った顔をする。

 

 

俺とキヌさんが戻るとクリスマス会は既にエンディングセレモニーの最中だった。

 

料理教室では、雪ノ下と由比ヶ浜や六道女学院の生徒達が食器や器具の後片付けを行っていた。

 

「ごめんなさい。途中で抜けてしまって」

キヌさんが料理教室の皆に頭を下げると、六道女学院の女子生徒達がキヌさんの周りに集まってくる。

「お姉さまは大変なご用事なのですから仕方がありませんわ」

「お姉さまのご活躍を是非拝見してみたいですわ」

「お姉さまの穴はわたくしが埋めましたの」

「お姉さま、わたくしは頑張って、食器を洗いましたの、褒めてくださいまし」

 

……なに、この百合百合した空間は、しかもなぜ全員キヌさんをお姉さま呼び?

どうやら、ここに来てる六道女学院の生徒はキヌさんがGSだと知ってるようだな。

まあ、六道女学院の霊能科でも有名らしいからな、キヌさん。

 

「比企谷君、氷室さんから緊急事態で抜けないといけない事は聞いていたわ」

「ヒッキー、制服どうしたの?ケガとかしてない?」

雪ノ下と由比ヶ浜はどうやらキヌさんから、GS関連の緊急事態で抜けることを聞いていたようだ。

 

「ああ、途中抜けてすまなかった。まあ、大丈夫だ。制服は汚れたがな」

 

「そう、ならいいのだけど」

「よかったあ」

 

「こっちの方どうだ?」

 

「順調よ。一色さんが上手くやってるわ」

「うん、劇も可愛くてよかったよ!ケーキもクッキーも美味しかったし!はい、ヒッキー、ケーキのあまり」

どうやら、司会の一色はよくやってるらしい。

 

終演のアナウンスが聞こえてくる。

「無事、終わったようだな」

 

 

そうしてクリスマス会は成功の元、イベントは無事終了する。

 

この後の飾り付けの片づけやら、学校から持ち込んだものやらを運ぶ作業で随分時間を食った。

一番多かったのは、一色がコミュニティセンターに持ち込んだ私物か生徒会の備品なのかよくわからないものだ。俺はそれを手伝い。ついでに生徒会室の片づけまでさせられた。

俺が途中でいなくなった事に対してのペナルティ的なあれで半強制的にな。

一色は俺がGSって知らないし、仕方がない事だが。

 

ようやく、一色に解放され部室に戻ると……

雪ノ下と由比ヶ浜が待っていたようだ。

「お疲れ様」

「ヒッキー!お疲れー」

 

「そっちもな、お疲れ」

俺はいつもの席に座ると、雪ノ下はパンダのパンさんがプリントされた湯飲みに紅茶を入れてくれる。今迄は紙コップだったのだが……

 

「……それ、クリスマスプレゼントよ」

「ゆきのんと二人で選んだの」

 

「俺は何も用意してないぞ……」

 

「別に、紙コップ替わりよ」

気恥しそうに言う雪ノ下。

 

「ありがとな。なんか用意するわ」

 

「別にいいよ。ヒッキー、あっ!だったら、3人でクリスマス会やらない?明日ゆきのん予定ある?ゆきのんにケーキ焼いてもらってさ!」

 

「予定はないのだけれども。嫌よ。今日ケーキをどれだけ焼いたと思ってるの?」

 

「えーー、いいじゃん!じゃあ、あたしが作るし」

 

「……え、なにこれ、俺も参加することになってるの?」

 

「ヒッキー、昼間は暇でしょ?夜はお仕事かもしれないけど!」

 

「……休日は普通に昼間も仕事あるんだけど」

 

「由比ヶ浜さん……ケーキは私が焼くからいいわ」

 

「……俺の話聞いてる?」

俺はどうやら強制参加らしい。実際明日の昼間は特に用事がない。夜から事務所に行く予定だ。

 

 

今年はいろいろとあったな。まさか俺が部活に入ってこんなことになるとは、一年前では考えられなかった。

なんだかんだと言って平塚先生には感謝だな。

そして、GSと名乗っても受け入れてくれたこいつらにも心の中で礼を言う。

 

 

 

翌日、ニュースで同時多発霊災の件が報道される。

実際、東京都で起こった同時多発霊災の一つは、人的被害が100人弱出てる。

連日このニュースが流れているが、テロである可能性も指摘されてる。

さらにライトなニュースではクリスマスイブで起きた事を、大きな厄災の前兆ではないかとまことしやかに報道されたりした。

 

実際、政府筋や警察やオカルトGメンやGS協会の間では、テロと断定してる。

首都圏で起こった同時多発霊災は、俺とキヌさんが急行した現場同様、全て罠が仕掛けてあった。

しかも、俺が嵌ったような罠だ。C~Bランクの魔獣や妖魔をご丁寧に用意していたのだ。

同時多発霊災個々はそれほど大きな霊災ではなかった。E~Dランク程度の妖怪などが暴れていた程度だ。その後の罠に強力な魔獣や妖魔が召喚されるようになっていた。

これに何の意味があるのか……ただ俺はGSを狙った罠に見えて仕方がない。

 

オカルトGメンはこの犯人を躍起になって探すことになる。

そのせいで、シロとタマモがまた、オカルトGメン出向扱いに。

それはまた、年明けの話だ。

 

俺はこの冬休みを利用して霊能者としてGSとして大幅にパワーアップを図る。

横島師匠が俺を行きつけの修行場に連れて行って、みっちり修行を付けてくれるというのだ。

なんでも、俺が霊能者として一皮むけたかららしい。

相当厳しい修行場らしいが、どんな修行でも耐える自信はある。

どう考えても、美神さんのシゴキより、恐ろしいものは無いだろうから……




次の章はメインがもろGSです。
……ついにあの方登場します。




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【五章】妙神山修行編 ㊺ドラゴンへの道、その1

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

……先に言っておきます。
八幡が八幡が……少し壊れちゃいます。


俺は今、東北山中の険しい山々をひたすら登っていた。

 

前日の夜半、横島師匠に地図を渡され、修行場がある妙神山と呼ばれる山へ行くように言われたのだ。

途中までGPSが使えたのだが、急に霧が立ち込めGPSが使えなくなる。

どうやら、人が無闇に近づかないようにする人払いの結界のようだ。

俺は自分の霊感のみを信じ突き進む。

 

 

前日の12月25日昼間

奉仕部でのプチクリスマス会に強制参加

場所は雪ノ下の家だ。

一応俺はクリスマスプレゼントを用意し二人に渡したのだが……不評だった。

俺が二人にプレゼントしたのはタロットカードだ。もちろんプロ用の本物だ。

女子は占いとか好きだしな。小町も言ってた。

しかも、2人の前でタロット占いを行ったときはかなり興味津々に食いついて来たのに、何が不満なんだ?

 

理由はこうだ。

 

本当に当たる占いは怖いから嫌なんだそうだ。

 

なにそれ?

占いが当たったらお前ら喜ぶだろ?

なんで、高確率で当たるタロットカードはダメなんだ。

霊能者の素質がない雪ノ下と由比ヶ浜がやったところで、普通のタロットカードよりほんの少し確率が上がる程度なんだが……

 

釈然としない。

一応受け取ってはくれたがな。

 

 

12月25日夕方

比企谷家ではクリスマスを祝う。別に比企谷家はキリスト教でも何でもないが、まあ、何となく世間に合わせてだな。そういう事になってる。

 

12月25日夜

美神令子除霊事務所に行く。すでにクリスマス会が行われており。

どんちゃん騒ぎだ。

美神美智恵さんにひのめちゃん。オカGの西条さん。夜半には唐巣神父も登場。その他いろんな人や人じゃない方も現れる始末。

 

 

そういえば、クリスマス会当日の夕方、俺の家に雪ノ下さんが急に来て、デートに行こうと騒ぎだす。………マジで疲れてる俺は、同時多発霊災に関わった経緯を言って断るが、どうも雪ノ下さんもそれに出動していたらしくて、お互い様だと言い出す始末。

次にクリスマスイブは家で過ごすのが比企谷家の習わしだと言ったら……何故か雪ノ下さんもうちの夕飯に混ざる事に、しかもこの人、小町とすでに仲が良いようで、一緒に晩飯まで作る始末。

……やばい、このままだと、強制的に高校卒業と共に土御門家の婿に……

 

 

 

そんな回想をしてる間に、俺は山を随分と上へと登っていた。

少し開けた場所に出ると、大きな木造建築物が見えてくる。

山門をくぐり、建物と大きな門構えが見えてくる。門構えの木看板に妙神山とかかれていた。

ここだな……修行場というのは。

 

さっきから気になってたんだが……遠目で見えてた門構えの左右の門扉、両方ともに大きな鬼の顔が付いてるんだが……しかも結構な霊気を感じるんですけど。しかも質感が生々しい。もしかして、この門生きてる?

 

周りには誰も居なさそうだな……

とりあえず、門扉についてる鬼の顔に聞いてみるか……多分生きてる門だ。

 

俺は門扉についてる大きな鬼の顔に話しかけようと近づく。

 

「「貴様、何者だ!!ここをどこだと……」」

急に左右の門扉についてる鬼の顔の目がぎょろりと俺に向き、一斉に怒鳴ってきた。

やはりな生きた門だったな。だが、俺はこんなことぐらいではもはや驚かない。1年と9か月の間にいろいろな目に合って来たからな。

 

「……左の…もしや」

「……右の…間違いない」

左右の門扉の鬼顔は俺をまじまじと見てから、お互いの目を合わせ何やら小声で確認しあってる。

どうやら、俺がここに来ることが事前に知らされていたようだな……

 

「し……失礼しました。まさかあなた様がこのような所に来て下さるとは」

右の門扉の鬼顔が俺に向かって謝り、丁寧にな対応をしてくる。……何かおかしい?

 

「どのような、ご用向きでしょうか、一言主様」

左の門扉の鬼顔は、俺の知らない名前を出す。

……やっぱり思いっきり誰かと勘違いしてるぞ。

 

「あのー、俺、そんな名前じゃないんですが、誰かと間違ってるんじゃないんですか?俺はひきが……」

 

「ご冗談を、まごうことなく、あなた様は、一言主様です。嫌ですな、はっはっはーーー!」

「そうです。その濁った瞳に、どこ見ているのかわからない視線。やる気のなさそうな双眸。八百万いらっしゃる日ノ本の神々の中で、一言主様だけです。間違えるわけがありません。はっはっはーーー!」

 

「………」

思いっきり間違ってるんだよ!!この目か!また目の事か!!何それ!!一言主って神様?神様が目が腐ってるのかよ!?しかも何気に神様を笑いながらディスってないかこの鬼たち!!

 

「しかし、左の……一言主様、ちょっと小さくなられたのではないか?」

「うーむ。この頃、日ノ本も空気が悪くなったと言うしな」

 

「……一言主様じゃないんですが、比企谷八幡って言います。ここに修行に来たんですけど。横島忠夫が先に来てると思うんですが?」

俺はこの鬼共のペースに乗らず、一度深呼吸をしてから、再度名乗る。

もう、このパターンは飽きたんだよ!

霊能者にはゾンビに間違えられ、鬼や妖怪には、泥田坊に間違えられ……今度は一言主って。

 

「横島!?」

「右の!!こやつ、よく見ると人間だぞ!!」

「なにーーーー!!本当だ人間だぞ!!左の!!」

「貴様!!一言主様を騙るとは、不届き千万!!そこに直れ!!」

 

「……あんた達が勝手に間違えたんでしょ?俺は比企谷八幡。ただの人間だ。横島忠夫の弟子で、ここに修行に来たんですよ!」

くそ、この鬼ども、勝手に間違えたくせに、なにそれ……

 

「横島の弟子だと!!……確かに聞いていたが、ここまで一言主様に似てるとは…まあいい。いくら横島の弟子だからとて、ここをただで通すわけにはいかんわ」

「ここを通りたくば、我ら鬼門を倒して見せい!!」

 

「倒せって、壊れちゃいますよ?」

倒せって門に顔が付いてるだけなのに?それ門ごと壊せって意味か?

 

「「生意気な!!壊して見せいと言っているのだ!!」」

鬼共が一斉そう言うと3mはあろうかという灰色の筋骨隆々な頭がない体が門の左右から2体現れた。

多分、これがこの門の鬼達の本体なのだろう。

結構強そうだ。

 

でもな、わざわざ、そんな強そうな肉体と戦うバカは居ない。

目の前の門に封印されているような顔の方を叩いた方がかなり楽だからだ。

 

俺は登山グッズの一つ、お湯を沸かすコンロにも使える多用途ガスバーナーで鬼の顔がある門を焼く。

 

「「あつッ!!こらーーーー!!何をするんだ小僧!!門が燃えたら小竜姫様に怒られるではないか!!」」

 

「え?……壊して良いって言ってなかった?」

 

「ぐぬ!!貴様屁理屈を!?」

「まるであの悪鬼美神令子のようだ!!」

「「とにかく燃やすのは禁止だ!!」」

門の鬼は左右別々に話し出す。そして口裏合わせたように、燃やすのを禁じてきた。

美神さんの事も知ってるようだが、鬼に悪鬼って呼ばれる美神さんって……いったい何をやらかしたんだ。

 

「じゃあ、これで」

俺はガスバーナー放り投げ、神通棍を取り出し、左の門扉の鬼顔の鼻の穴にぶっ刺し、霊力を送り放電させる。

 

「あががががががが!!」

「ひ、左の!!貴様!!何をする!!正々堂々と戦わんか!!」

 

「え?正々堂々戦ってますが?」

俺は左の門扉の鬼顔の鼻にぶっ刺した神通棍を抜く。

 

どうやら門扉の左の鬼顔の体にも俺の霊力が届いたのか、放電しながら巨体が地響きと共に地面に倒れる。

先ずは一体。

 

「ひ、左のーーーーー!!貴様!!我らの体と戦えと言っているのだ!!」

 

「なら、最初からそう言ってください」

なんか、勝手な鬼だな、ルールなんて最初に説明してなかったよな。ただ倒せとしか言ってないぞ。

 

「後悔するがいい!!数千年の時を経て、この妙神山を守護した鬼の力を!!」

右の門扉の鬼の本体の体の霊力が一気に上がる。

………流石は鬼だな。かなりの霊力だ。茨木童子に比べれば、大分落ちるが……

だからといって、真面に正面から戦ったら厳しい相手だ。

 

俺は神通棍を構えながら、霊気を解放し、霊力を高め、身体能力を上げるとともに、霊視空間把握能力を発動させ、攻撃態勢に入る。

 

が………

 

バタン!

 

門構えの、右の門扉が内側から勢いよく開け放たれた。

右の門扉の鬼の顔は、思いっきり柱に打ち付けられ……その痛みで本体の体は地面にのたうち回る。

 

 

しかし……俺はそれどころじゃなかった。

 

 

「あなたが横島さんのお弟子さんですね。ようこそ、妙神山へ」

開け放たれた扉から現れた少女がニコっと可憐な笑顔を俺に向けたのだ。

 

俺はカミナリを全身に受けたような衝撃を受ける。

……めちゃくちゃかわいい子だ!!

なにこれ!!その燃えるような赤い髪に竜の角のようなアクセサリ!大きな瞳に健康そうな笑顔!鈴の音のような可愛らしい声!

そして、凛とした佇まいに、華奢そうな体を包む古風な東洋ファンタジー風の服装!腰には刀ではなく剣を差す!……完璧だ!!

 

確かに、美人美少女は今まで見てきた。美神さんやキヌさん。雪ノ下に雪ノ下さん、由比ヶ浜も美少女といっていいだろう!!しかーーし!!

 

これは他を圧倒する!!

 

なにこれ!!俺が中二病を患っていたあの頃に夢想したファンタジー世界の理想のヒロインそのものじゃねーーーかーーーーー!! (ねーーーかーーーー!!ねーーーかーーーー!!)

 

 

「あの…」

俺はあまりの感動にプルプルと震えていた。

 

 

「どうしましたか?」

 

 

「……ひ、比企谷はちみゃん……比企谷八幡と申します」

やばい……舌がもつれる………はずい

 

 

「はい、存じ上げてます」

笑顔が眩しい!

 

生きててよかった!!

横島師匠に今迄頑張ってついてきてよかった!!

 

俺は今、横島忠夫の弟子であった事を心から感謝したのだった。




小竜姫様登場!!


今の八幡のスペック
CランクGS
実力はBランクの魔獣ガルムを単独で倒せるぐらいのレベルに成長。

戦闘タイプ
美神さんよりのオールラウンダー
呪符や術式を得意としてる。
霊視ゴーグル並みの霊視能力がある。
神通棍

横島譲りの術儀
サイキックソーサー
霊波刀 但し40秒が限界……GS試験前は20秒
体術??

オリジナル術儀
霊視空間把握能力

……タロット占いは美神さん並みに得意なようだ。本人に自覚はない。
(霊感が鋭い)





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㊻ドラゴンへの道、その2

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

タイトル考えなくていいので楽ですw
では続きを……


今、俺の目の前に理想のヒロイン像を体現したような美少女が微笑み掛けてきていた。

「私は小竜姫と申します。この修行場の管理者を賜ってます」

 

「……管理者?」

管理者ということはこの修行場のお偉いさん?

もしくは、修行場の事務方のトップか?

俺とそんなに年が変わらないように見えるが……

 

「そうですよ。もしかして疑ってますか?こう見て私もそこそこ強いんですよ」

 

「いえ、そんなことは……」

 

すると小竜姫と名乗った美少女から、突如、凄まじい量の霊気が勢いよく放たれる。霊気の圧力はまるで迫りくる大津波のような錯覚に陥った。

圧倒的な霊圧に俺は思わず後ずさる。

 

……なんだこれ?……え?……この霊力は……あの時の茨木童子よりも上じゃないか……ど、どういうことだ。

しかし、なんて澄み切った霊気なんだ。……キヌさんのそれにも似てるが何かが違う。なんと表現すればいいのか……神々しいとはこういう事なのかもしれない。

 

俺はさっきまで目の前の美少女に舞い上がっていた気持ちが、一気に覚める。

 

「なっ!?」

 

「少しは驚いてくれましたか?でも、さすがは横島さんのお弟子さんですね。これだけの霊圧を当てても、怯まないなんて、普通の人間だとこの霊圧に当たるだけで、気を失うんですけどね」

小竜姫さんはニコっとした笑顔を見せるが……先ほどのように、舞い上がるどころの騒ぎじゃない。それどころか背中に冷たいものが流れる。

 

「……小竜姫さん、あんたはいったい」

 

「驚いたか小僧!!小竜姫様の剣技は天界でも有数の実力者なのだぞ!」

「小僧無礼であるぞ!口を慎め!小竜姫様は神族の中でも高位に属する竜神族の姫君であられるぞ!」

復活した門扉の鬼たちが口々に偉そうに言ってくる。

 

「え?……天界……神族って、小竜姫さんって神様なんですか?」

確かにあの神々しいまでに澄み切った霊気に、あの霊力に霊圧だ。神様と言われれば納得せざるを得ない。

まじか……俺、本物の神様に会ったのは初めてだ。確かに神の存在は確定したものだとされてるし、事務所の皆は神様にあったことがあるっぽいしな。それに悪魔が居るんだから神様がいてもおかしくない。

その初めて出会った神様がヒロイン属性満載の女神様だとは、なんて幸運なんだ!!

いや、神は皆美男美女なのかもしれないが……それはないか一言主って俺と同じ目をしてるらしいしな……流石に美男ではないのだろう。

 

「私はこの妙神山にて人間と神との懸け橋を行ってる神です。その、私は竜神族といっても末席ですよ」

マジか……竜神ということは!あの角は本物!!しかも竜神の姫様って!!さらに属性付いたじゃねーーーか!!しかもあの霊力!なにこのヒロイン力!!もう振り切れてるんですが!!

俺はまたもや、中二心が蠢きだし、舞い上がって行く。

 

「無礼を働きすみません。小竜姫様」

 

「いいんですよ。そんなに堅苦しくしなくとも」

 

「そういうわけにはいきません」

しかも、優しそうだ!

……まてよ。もしかするとこの小竜姫様が修行を付けてくれるのかもしれないと言う事か?

何それ、この修行場、パラダイスなんですが!

 

いつも事務所で鍛えてくれる人は、美人だけど鬼所長と師匠だけど変態な人だもんな!

 

もしかして、これは今まで頑張ってきた俺へのご褒美なのでは!

 

「横島さんの弟子で美神さんの部下だというのに、随分と礼儀正しい方なんですね比企谷さん」

いや、横島師匠や美神さんみたいに変な人がそうゴロゴロいるもんじゃないですよ。あんなのが量産された日には、世界は滅びますよ。

 

「そうですか?」

あの二人に比べれば、誰でも礼儀正しく見えますよ。小竜姫様。

 

「そうですよ。…とりあえず中に、お入りください」

小竜姫様は笑顔で門内へと案内してくれる。

 

「「小竜姫様!!まだ、我らの試練が!!」」

鬼門達は俺が門内に入ろうとすると、扉を閉め小竜姫様に異を唱える。

 

「よいではありませんか、……それにあのまま続けたとて、結果は変わりませんでしたよ」

 

「「ぐぬ」」

鬼門達はその言葉に意気消沈し、静かに扉を開ける。

 

 

門構えの中の敷地は広く、大きな古びれた温泉旅館のような建物と神社の社のような建物など複数見られる。

 

「あの、小竜姫様。横島師匠が先に来てると思うんですが……」

俺は小竜姫様の後をついて行きながら、話しかける。

 

「はい、いますよ。横島さんは今の時間は……畑仕事をしてますよ」

小竜姫様は少し考える仕草をして答えてくれたのだが……

 

「畑仕事?」

俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

横島師匠が畑仕事?なんだその似合わない組み合わせは……もしかして、それも修行の一環か?

 

小竜姫様に時代劇でしか見たことがないような、平屋のお屋敷に通され、8畳ほどの和室に案内される。

 

「ちょっとここで待っててくださいね。お茶を入れてきますから」

小さなちゃぶ台の前の座布団を勧められる。

 

……この部屋、めちゃ生活感がある部屋だな。

このお屋敷はあれだな、修行場の母屋だな。ここで俺も寝泊まりするのかな?もしかして、小竜姫様と一つ屋根の下!……まあ、横島師匠は居るし、他の門人もいるだろう……ちょっとまてよ。先ほどから鬼門とかいう門の鬼たち以外を、ここに来るまで見かけなかったぞ………修行場から訓練やトレーニングをしているような音や、霊気も感じないんだが……どういうことだ?

 

それにしても、横島師匠、先に来て畑仕事って何やってるんだ?

ここは修行場じゃないのか?もしくは畑仕事も修行の一環なのか?

はっ!もしや、広大な畑を素手で耕し、足腰をきたえるっていう。あの亀仙流的な修行なのか!?

 

 

「お待たせしました。横島さんもしばらくしたら戻ってきますよ」

小竜姫様は俺の前に湯飲みを置いてくれて、お茶を注いでくれた。

ちゃぶ台が小さいから小竜姫様が近い。……やばい、顔が赤くなってそうだぞ。

 

「あ、ありがとうございます」

……こ、これはヤバいな。間近でみる小竜姫様はヤバい。何がヤバいって?色々とやばい!!

その横顔がかわいいとか肌が綺麗とかも、もちろんだが、一つ一つの仕草が洗礼された動きだ。雪ノ下もそうだったが、小竜姫様はなんというか一振りの刀みたいなイメージだ。そんな美しさがある。腰に差してるのは剣だけど……

 

ん?まてよ、小竜姫様自らお茶を用意されたのか?

あれ、こういうのって、お手伝いさん的な方や、門人がやる事じゃないのか?

仮にも竜神の姫様だぞ。

なんかいろいろとおかしいなこの修行場。

 

「あの、小竜姫様……お尋ねしていいですか?」

俺はちゃぶ台を挟んで前に座りお茶をすする小竜姫様に尋ねる。

 

「どうぞ」

 

「ここの修行場はどういうところなんですか?」

 

「ここ妙神山は天界と下界をつなぐ場所であり、神と人が直に交わる事ができる数少ない場所なのです。修行場の体を成してるのは、人を鍛え導くためという名目があるからです。昔は徳のある高僧や修験者や陰陽師、巫女や神主などが、良く修行に訪れたものですが、最近では極わずかな霊能者のみとなりました。今の現世の人々にとって神の存在が稀薄になりつつあるのでしょう」

小竜姫様の説明では、ここは天界という、多分神様が住んでる場所と俺たちが住んでる場所をつなぐ場所で、そんで修行場なわけだ。

昔は結構修行をする人がいたけど、今はほとんどいないってことか。

 

「……そうなんですか。今は、その横島師匠と俺以外に修行される方はいるのですか?」

 

「いいえ、いません。最近でいうと数年前に霊能者の方々が一時的に修行にこられましたね。美神令子さんと横島さんもその時期に……美神令子さんの母上の美智恵さんが20年位前、その前

に美神親子の師匠の唐巣さんが訪れてます」

美智恵さんも唐巣神父もここで修行して強くなったんだな、まあ、神様から教えて貰うんだから強くなるよな。

それと、今は修行に来てる人間は俺たち以外いないのか、静かなはずだ。

 

「横島師匠はちょくちょく来てるんですか?」

なんか行きつけの修行場とか言ってたしな。

……たぶんというか、絶対小竜姫様目当てだろう。

……俺も行きつけになりたい。

 

「横島さんは……」

小竜姫様が横島師匠の話をし始めるタイミングで当の本人がやってくる。

 

「小竜姫様すみません。対応してもらって……よお八幡、意外と早かったな」

中華風の道着を着てた横島師匠は小竜姫様に軽くお辞儀をしてから、俺に話しかけ、ちゃぶ台の前に座る。

小竜姫様は「いいんですよ」と微笑みながら自然な仕草で横島師匠の前に湯飲みを出し、お茶を入れる。

ん?なんだ……この雰囲気。

 

 

「横島師匠、ここの地図しか渡してくれないから、霧の人払い結界にぶち当たった時は流石に焦りましたよ」

 

「それも修行、修行!鬼門達はあっさり倒したようだな」

 

「……まあ、アレは何の試験なんですか?」

 

「さあな、鬼門達はなんか恒例だからと言ってたが……」

 

「……」

なに、あの鬼達が勝手にやってる事なのか?

 

「小竜姫様、どうですか八幡は?」

横島師匠は俺との会話を一度打ち切り、小竜姫様に話しかける。

 

「そうですね比企谷さんは発する霊気からタイプ的には美神さんに近いです。霊気量も高く、霊力コントロールもなかなかですね。動きはまだ見てませんが、歩く仕草や構えから、しなやかに体を使っているように見えます。体術もそこそこ使えるのでは」

小竜姫様は鬼門との闘い?をどこかから見てたようだな。

俺のそれだけの動きでそこまでわかるのか……

 

「なんだかんだと、一年半以上みっちり鍛えましたから」

 

「これなら、スペシャルコースを受けても大丈夫だと思いますよ」

 

「そうですか。でも、じっくり行きたいと思いますのでやめておきます。確かにスペシャルコースは短時間で、霊能の基礎能力が上がりますが、経験や技術は学べませんから」

後から聞いたのだが、スペシャルコースとは霊能力を一日で一気に成長させるコースで、自らの霊能を具現化させた精神体と魔獣と3本戦わせ、無理やり霊能力のポテンシャルを引き上げる方法らしいんだが、精神体自身がダメージを受けると、本人が死ぬこともあるハイリスク・ハイリターンなコースなのだ。ちなみに美神さんは数年前このコースで一気に霊的ポテンシャルを上げたそうだ。

 

「そうですね。横島さんの言う通りですね」

 

「今回は一週間で出来る所まで仕上げますよ」

 

「老師の手ほどきは?」

 

「今のままでは、まだ早いと思います。この修行次第でとは考えてますが」

 

「その方がいいでしょう」

 

小竜姫様と横島師匠は俺の修行プランについて真面目に話し合ってるのだが……

おかしい……

何がおかしいって?

横島師匠が真面目過ぎるからだ!

小竜姫様ほどの美少女を目の前に何もしないんだぞ!相手が神様だからって躊躇するような人間じゃないはずだぞ!おかしい……

 

確かに俺に修練付けてくれる時も、結構真面目でやってくれるが、こんな可愛い方がいるのに、ちょっかい出さないなんてな!

 

横島師匠がちょっかい出さないのは中学生以下と人妻ぐらいだぞ!あと例外的に妹扱いのキヌさんだ。そういう意味では小町は安全だったのだが……来年から高校生になってしまうのだ。あのドスケベの守備範囲内に入ってしまう……予防対策を打っておかなくては……

 

それはさておき、何かがおかしい。

 

俺が思考してる間も横島師匠と小竜姫様の会話は続く。

 

「師匠はいつお帰りで?」

 

「老師は元旦の翌日には戻ってくると思いますよ」

 

「そうですか」

 

そういえば、横島師匠が師匠は美神さん以外にいるとは聞いてたな……小竜姫様が老師と呼んでる方と同一人物のようだ……ということは神様か……横島師匠がSSSランクの実力を……人の身でありながら、魔神と渡り合える実力を持つまでに至ったのはその師匠に鍛えられたからなのか?……その師匠とは武神とかなのだろうか、毘沙門天とか不動明王とか……

 

「八幡、飯はまだ食ってないか?」

 

「そういえば朝から食べてないですね」

 

「小竜姫様、ちょっと早めですが、夕飯にしてもよろしいですか?」

 

「そうですね。では用意しますね」

小竜姫様はそう言って立ち上がる。

もしや、竜神の姫様、自ら料理をするのか?

 

「俺も手伝います」

横島師匠も立ち上がろうとする。

え、師匠も手伝うって……ここにはお手伝いさんや付き人みたいな方は居ないのか?

 

「横島師匠、竜神の姫様の小竜姫様が料理をするとか、ここって他に誰かいないんですか?」

俺は立ち上がろうとする横島師匠に小声で聞く。

 

だが、俺の質問に答えたのは小竜姫様だった。

「はい、ここに住んでるのは、老師と私と横島さんだけですよ」

 

 

……………

(ここに住んでるのは、老師と私と横島さんだけですよ)

 

え?どういうこと?横島師匠と横島師匠の師匠と小竜姫様のお3方だけしかこの広い修行場にいない?

え?どういうこと?横島師匠と小竜姫様が一つ屋根の下に住んでるって?

え?どういうこと?横島師匠は確かボロアパートに住んでいたはず。

え?どういうこと?横島師匠の小竜姫様に対しての態度がおかしすぎるのは?

え?どういうこと?横島師匠、畑仕事してるとか言ってたよな。ここでまじで生活してるのか?妙にこの母屋生活感にあふれてるし……

 

 

……………

 

俺は思考を巡らせるが、もしやの答えしか出ずに、思考も俺のアイデンティティも崩壊寸前だ!

 

「はあああっ!?」

俺は思わず変な声を上げてしまった。




さて、大いに勘違いしてそうな八幡。
横島君と小竜姫様の関係は?


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㊼ドラゴンへの道、その3

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きですね。
ちょっと壊れ気味の八幡。
どうも横島くんと絡むとこうなっちゃいます。


「……横島師匠、一つ聞いていいですか?」

俺はある一つの仮説を立てた。

横島師匠の様子が明らかにおかしい。小竜姫様に対していつもの横島節が全くと言って出ていない。迷惑行為というか変態行為が出ていないのだ。

それと真逆で、小竜姫様に対する言動や行動が至って紳士的であるといってもいい。おかしい、おかしすぎる。

まあ、美少女と言っても相手は神様だ。流石に失礼な言動や行動をさけているのだろう。

……いや、横島忠夫に限ってそれはあるだろうか?あのスケベがそのまま服を着たような人間だぞ。相手が神だろうが悪魔だろうが、女性であれば手を出すはずだ。それなのにそんな素振りは全くないのだ。

 

まさか……すでに手を出した後、もしかして深い仲に!?だからあんな紳士横島に!?

小竜姫様と横島師匠との会話にしろ、行動にしろ阿吽の呼吸とでもいうのだろうか?自然体でフィットしてると言うか………お互いが分かりあっているというか……

 

 

「なんだ八幡、改まって」

 

「もしかして、もしかしてなんですが、流石の横島忠夫でも、女神さまに手を出さないですよね」

俺はわざとこんな言い方をする。

横島忠夫という人間は相手が女性で美人であれば、妖怪だろうが幽霊だろうが手を出す。もちろん神にも出すだろうと……だが、一応、一応な。万が一間違ってたら流石に悪いしな。

 

「ななななな何を言ってるんだ八幡!」

……なんだ?横島師匠が動揺した?

やはり、手を出したんだな!まあ、わかっちゃいたが、この人ほんとに見境がない!

ということは本当に小竜姫様と横島師匠は深い仲なのか?

手を出して、そのまま小竜姫様を自分のものに………大人の情事に?

女神様といえ、こんな理想の美少女に……あんなことやこんなことを?

くっ!キヌさんだけでなく、小竜姫様にまで!!

俺は徐々に怒りがこみあがってくる。

 

「………修行とか言って、小竜姫様に邪な思いを抱き、ここに通い……そしてついには、純情で何も知らない初心な小竜姫様にその毒牙に!!何も知らない小竜姫様はそのまま横島師匠の言いなりに!!見損ないましたよ横島師匠!!」

 

「何いってんだ!!そんな事があるわけがないだろ!!」

「まあ」

 

「キヌさんというものがありながら!修行先で出来ていたなんて!!しかも相手は世事に疎い竜神のお姫様だ!!いいように言いくるめたんだろ!!」

 

「ちがーーーう!!」

 

「どう見ても仲のいい新婚夫婦だろうが!!」

 

「ちがーーーーう!!」

「まあ、新婚夫婦だなんて!」

横島師匠は慌てて否定するが小竜姫様はまんざらでもない表情を浮かべる。

 

「小竜姫様!!騙されてはいけません。この男は!!小竜姫様に手をだしておきながら!!現世では素晴らしい女性を待たせ、さらに街で節操なくナンパしまくってるんですよ!!」

 

「ちがーーーーう!!最後は違わないけど、ちがーーーーう!!」

「そうなんですか?横島さん?」

 

「なんすか?小竜姫様を正妻に、キヌさんはキープですか!?2号さんですか!?ハーレム王をめざしてるんすか!?」

 

「ちがーーーーう!!八幡落ち着けーーーーー!!」

「私が正妻なんですね」

横島師匠は俺の両肩を掴み、懸命に否定する。

その後ろで嬉しそうにする小竜姫様が見えた。

 

「何が違うんだ!!見損なったぞ!!師匠!!」

俺の肩を掴む横島師匠の腕を振り払い、思いっきり言ってやった。

 

「ちがーーーーう!!小竜姫様は俺の姉弟子なんだ!!だから敬意をもってだな!!」

 

「姉弟子!?そんな言い訳聞きたくない!!」

 

「それは本当ですよ。比企谷さん」

小竜姫様はニコっとした笑顔で俺に言う。

 

「!?……」

 

「横島さんは私の弟弟子です。横島さんは老師の末弟子なんですよ」

 

「……本当ですか?」

 

「はい」

優しく微笑む小竜姫様。

女神様がそう言うならばそうなんだろうが……

 

「だから違うと何度も言ったじゃねーか!」

 

「夫婦じゃないんですね。手をだしてないんですね。だったら……なんで、小竜姫様と一緒に生活してるんですか?」

 

「俺は内弟子なんだ。だから、ここで生活してるんだ!しかも師匠も居るし別に二人だけで暮らしてるわけじゃない。今は居ないがもう一人ちびっ子も居るんだよ」

まあ、確かにそうなんだろうが……ちびっ子って誰だ?

 

「あのアパートは?」

そう、横島師匠が事務所からちょっと離れた場所にあるボロアパートの一室だ。横島師匠はあそこに住んでたはずだ。

 

「あそこと、こことでゲートで直でつながってるんだ!」

 

「……このことは、美神さんとキヌさんは知ってるんですか?」

 

「もちろん知ってる」

 

「……本当に小竜姫様と夫婦でも恋人同士でもないんですね?」

 

「違うって言ってるだろ!なんだ。今日はやけに絡んでくるな」

 

「いや……すみません。あまりにも仲良く見えたんでつい」

……どうやら、俺の勘違いだったようだ。

でも、女神様と言えども、女性にあんな優し気な対応をする横島師匠を見たことがないんですが……確かにキヌさんにも優しいけど、キヌさんはどちらかと言えば妹のような扱いだよな。

 

「そう見えるんですね。私は横島さんと恋人同士でも夫婦でも構いませんよ」

嬉しそうに微笑む小竜姫様。

 

「小竜姫様!冗談でもよしてください。八幡はクソ真面目なんですから!真に受けたらどうするんですか!」

 

「私は全然構いませんよ」

 

「小竜姫様!」

 

「横島さんの意地悪」

小竜姫様は拗ねたように言う。

 

何これ、なんか甘酸っぱい空間が二人を支配してるんだが……

 

「………師匠…本当に違うんですよね」

俺は恐る恐るもう一度訪ねる。

 

「違うって言ってるだろ!」

 

「………」

俺は横島師匠にジトっと疑いの目を向ける。

 

「なんだその目は!まだ疑ってるのか!?」

 

「俺は元々こんな目なんで」

もしかして小竜姫様が横島師匠を好きなんじゃ?

なにこれ、横島師匠ってもしかして、モテるのか?

リアル女神様に現世聖母様から好かれるってどういう事よ!!

超属性持ちのヒロインな小竜姫様と現世の聖母、優しさ100パーセントで出来てるキヌさんにだぞ!!

うらやましすぎるんだが!!

……くそ、嫉妬で人を陥れる事が出来たなら!!

!?まてよ。横島師匠と小竜姫様がここでイチャイチャ暮らしてる事を美神さんもキヌさんも知ってるって言ってたよな。

もしかして、この現状を知ってるからキヌさんは横島師匠に告白できないのでは……

 

 

「はぁ、なんなんだ?八幡!お前も夕飯の支度手伝え!」

俺は横島師匠に言われ、小竜姫様と師匠の後について行く。

 

「………」

古風な台所では、野菜を切る小竜姫様の横に並んで芋の皮を向く横島師匠という風景を見せつけられる。

……なにこれ?仲がいい夫婦や恋人同士にしか見えないんだが!

もしかして、この風景をキヌさんに見せたのでは?

 

うううう、キヌさんが不憫すぎる。

 

 

俺はやきもきしながら、夕飯の支度を手伝い。

食卓につき夕飯を共にするのだが……やっぱりこれ、新婚夫婦にしか見えないんだが!

 

……冷静になれ八幡!きっとこれが天界の女神様。神様なんだ。

誰に対しても優しく接し、夫婦や恋人気分の甘い感じを味合わせてくれる。

だから、横島師匠ともこんな感じになるんだ!

きっとそうに違いない。

 

俺は仲良さげな二人を前にそう思う事にした。

でなければやってられないからだ。

 

夕飯の後、片づけを終わらせた後。

 

もやもやが消えないまま俺は、横島師匠に中華風の道着に着替えさせられ、修行場の建物に連れらていかれる。

道場の中心に近いと思われる場所のとある扉の中に入ると、そこには建物の中ではなく、外にでた。いや、外というよりもこれは異空間だ。周囲180度地平線だけが見える。何もないだだっ広い空間。空一面真っ黒だが、周囲が見えないわけではない。どこからか明かりが照らされているのかはわからないが、視界は良好だ。

自分が踏みしめている地面は硬い土に覆われている。息も普通にできる。

 

「横島師匠……ここは?」

 

「修行場だな。但し、どこかの神さんが作った異空間の修行場だ。道場にも普通に板の間とか畳敷きの修行場もあるが、そこだと思いっきりできないだろ?」

 

「……なるほど」

確かにそうだ。何かを壊す懸念がなくなる。

普通の剣道場とかでは俺たち霊能力者の能力をフルに発揮すると道場そのものを破壊しかねない。GS試験会場のような強力な結界を何重にもかけたような場所でなければ本格的な霊能力者どうしの試合など土台無理な話だ。

 

「八幡、久々に手合わせするか」

横島師匠はそう言って、俺と10mぐらい距離を置く。

 

「よろしくお願いします」

この頃、なんだかんだと言って、横島師匠と手合わせが出来てない。自主訓練は行ってはいるが……

 

「いつでもいいぞ~全力でな!」

 

「………」

言われなくても全力で行きますよ。

今日のもやもやを思いっきりぶつけさせてもらいますよ!

 

俺は霊力による身体能力をアップさせつつ、左手にサイキックソーサー展開し、横島師匠の顔面目掛けて放つ。

それと同時に、横島師匠の右側に大きく回り込みながら、霊視空間把握能力を発動させる。

 

横島師匠は俺のサイキックソーサーを首を横に振るだけで避ける。

 

俺は横島師匠の右側面から突っ込み、飛び蹴りを放つ。

横島師匠が避け、後方に飛んで行ったサイキックソーサーをコントロールし、再び師匠の後頭部に向けさせる。

 

右側面からの飛び蹴りと、サイキックソーサーの後方からの奇襲、同時攻撃だ。

 

横島師匠は僅かに左後方に下がり、俺の飛び蹴りをかわし、頭を低くし、俺が放ったサイキックソーサーを避ける。

それだけだったらいい、横島師匠は俺が放ったサイキックソーサーに避けながら触れ、軌道を変えたのだ。

 

軌道が変わったサイキックソーサーは地面に着地した俺に直撃、辛うじて防御態勢を取ったため、大きなダメージは受けなかったが……

 

「くっ!」

やはり……全然歯が立たない。

 

俺はそのまま横島師匠に接近し体術で突きと蹴りを放つ。

当然の如く横島師匠は悉く避ける。

 

 

「八幡なに怒ってるんだ?今日のお前、荒々しいぞ?」

 

「怒ってませんよ!」

俺は姿勢を落とし下段に蹴りを放つ。

 

「うーん。小竜姫様の事か?」

 

「だから、違うって言ってるでしょ!」

師匠の顔面目掛けて、アッパー気味に掌底を放つ。

 

「小竜姫様は姉弟子でだな。まあ、最初の頃は、いろいろとやらかしたが、もう3年も一緒に住んでるしな、まあ、家族みたいなもんで、姉同然なかんじで、お前が思ってるような関係じゃないぞ」

俺の体術による攻撃を悉く避けていた横島師匠は後方に大きくジャンプし距離を取った。

 

「くっ!だから、違うって……」

俺は横島師匠が3年小竜姫様と過ごしていたという話にもイラっとする。

……いや、俺は確かに小竜姫様と横島師匠を目の前にして、いらいら、もやもやとしていた。

だが……その根本は……違う。

俺は、俺の知らない横島忠夫の顔があったことにもやもやしていたんだ。

横島師匠が茨木童子を圧倒し、SSSGSと知った時はそうは思わなかった。

あの時の驚きは激しかったが、俺の師匠はやはり凄い人なんだと、嬉しさが先行した。

 

しかし、今回は……

 

 

 

この後も、俺の攻撃は横島師匠に届くことはなかった。

最後は横島師匠に後ろから軽く、チョップを食らい。それで、手合わせは終わった。

 

 

寝る前の霊気量アップと霊力変換効率の訓練だと言われ、底なし沼に放り込まれる。

霊力を放出し続けないと、どんどん沈んでいく沼だ。2時間はここに放り込まれたままになる。

もう限界だと思っていた時に横島師匠が沼から放りだしてくれる。

 

体内の霊気はスッカラカンだ。もう、体がピクリとも動かない……

 

横島師匠に無理やり露天風呂に入れられ……その後は、布団に放り込まれた。

 

 

俺は布団の中で……

 

小竜姫様と横島師匠の話や様子にもやもやしていた。

確かに、小竜姫様やキヌさんとの関係で嫉妬心があったのだが……そこじゃあない。

俺の知らない横島忠夫がそこにあったからだ。

 

もやもやの正体は俺はわかっていた。

 

悲しみ、悔しさ、情けなさ……それのどれにも該当しない感情だ。

師匠は未だ俺に重要な事や真実を語ってくれない。

俺はまだ横島師匠に認められていなかったのではないかと………言いようもない感情が今もあふれてる。

 

そう、俺は横島忠夫に認められたいのだ。




しばらく、ドラゴンへの道は続きます。
横島君についての過去(原作終了後?)の情報を少し開示する予定です。



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㊽ドラゴンへの道、その4

ご無沙汰してます。
再開です。ゆっくりとですが……

感想ありがとうございます。
徐々に返信させていただきます。


「八幡起きろー!」

 

「………う、……後5分寝かせてくれ、小町」

 

「何寝ぼけてるんだ!」

 

「ん?……横島師匠?……おお?」

俺の部屋じゃない?……和室に布団?

そうだった。俺は昨日から泊まり込みで修行に来てたんだった。

俺は布団から飛び起きる。

意外にも体がすんなり動いてくれる。

いつもだったら霊気を限界まで使った翌日は、体がだるくて思うように動かないのだが……

俺は軽く腕や首を回してみる。

霊気切れによる体の負荷もかかってないようだ。

何より、たった一晩で霊気がほとんど回復してる。

どうなってんだ?

 

「やっと、起きたか」

 

「お、おはようございます。横島師匠……これは?」

 

「ん?ああ、ここな、天界と近いとあって、場の霊気が濃いから、霊気の回復も早くなる。それと、昨日の夕飯は天界の野菜をふんだんに使った料理だ。体力も霊気の回復も早まる上、怪我の治りも早くなるぞ」

横島師匠は俺の疑問を察して、答えてくれる。

なるほど、流石天界と現世を結ぶ場だ。確かに霊気が濃い。

それと、後で知ったが、ここの畑で取れる野菜は、現世では貴重なポーションや回復薬に使われる現世ではなかなか手に入らない原料だとか、なんかエリクサー級のものもあるらしい。

それらで作ってもらった料理だ。そりゃ回復するよな。

 

 

ここは、神と人とが交差する修行場、妙神山。

東洋ファンタジーヒロイン系美少女女神様にして、竜神の姫様である小竜姫様が管理する修行場。

この修行場で横島師匠の指導の元、俺は霊能者としてレベルアップを図るために、ここで一週間泊りがけでみっちり修行を……。

 

だったんだが……

 

「横島さん。比企谷さん。朝ごはん出来ましたよ」

 

「すみません小竜姫様、飯は俺がつぎますんで」

 

「いえ、横島さんは座っててください。今日のお味噌汁は横島さんが大好きな関西風に味付けしてみました。それと、だし巻き卵焼きですよ」

 

「美味しそうですね」

 

「………」

何?この雰囲気、どう見ても新婚ほやほやの朝食風景なんだが……なんで俺はここにいるんだ?超空気なんだが……

 

「八幡、小竜姫様の卵焼きは美味しいぞ!」

横島師匠、新妻の料理上手自慢に聞こえるんですけど……本当にただの姉弟弟子なのか?

 

「それでは頂きましょうか」

「頂きます」

「………い、頂きます」

 

小さなちゃぶ台を囲んでの朝食なんだが……き、気まずい。いや俺が気まずいだけで、横島師匠は至って普通だし、小竜姫様はニコニコ笑顔のままだし………

 

「横島さん、ごはんのお替りは?」

 

「大丈夫です」

 

「………」

なんか、涙が流れるんですが………

何この仲良し夫婦!横島師匠!!そんなキャラじゃないでしょう!!

何、普通に「大丈夫です」とか言っちゃってるの?

普段のあんたなら、「僕は!僕はもう!!小竜姫様をお替りにーーー!!」って小竜姫様に飛びつく場面でしょう!!そんでボコボコにされるまでがワンセット!!

 

しかも、だし巻き卵焼きめちゃうまいんですけど……なにこのヒロイン力!?

小竜姫様!料理もうまいって!どんだけヒロイン属性を足すんですか!?

 

「………」

まったくなんなんだ。

まじで小竜姫様が横島師匠に惚れてるよなこれ……

なぜだ!?

現代の一般社会での横島師匠の評価はゴキブリ以下の変態男のレッテルを張られてるってのに……

その裏では、こんな完璧無欠ヒロイン系女神小竜姫様と誰もが癒される現世聖母キヌさんに明らかな好意を寄せられるんだ!?

 

た、確かに横島師匠は普段あれだが、かっこいいところあるし、俺も尊敬してるんだが!これはやりすぎじゃないか?俺の中の理想の女性トップの二人ともが、横島師匠に惚れてるなんて……あんまりな現実だ!

いや、それだけ見る目があると言う事か……くっ、理解は出来るが納得がいかない。

 

「………」

しかし……横島師匠はなぜ、ここで生活をしてるのだろうか?修行をするためだけなのか?

小竜姫様に好意を寄せられているのは確かだ。ただ、天界の竜神の姫様がなぜ横島師匠に好意を、横島師匠が実は情に厚く、やさしい人だから?それだけじゃない。きっと過去に何かがあったのでは?その事は美神さんもキヌさんもたぶん、知ってる。でも、あえて口にしない。……知らないのは俺だけか。

昨日の寝る前に味わった、あのもやもやした気持ちがまた、俺の心を蝕んでいく。

 

こうして……朝の時間が過ぎていった。

 

 

 

この後、まさに厳しい修行が始まった。

美神さんのあの理不尽な修行なのか、いじめなのか、よくわからないものではない。

理にかなった効率のいい修行法なのだが……何せ精神的にも肉体的にも厳しい。

その甲斐もあってか、修行中はもやもやした気持ちを忘れさせてくれる。

 

朝は軽く、準備運動を兼ねた武術の型を行う。

前々から気になっていたのだが、横島師匠は武術的な動きをするが美神さんが武術を使うところは見たことがない。そして横島師匠からは本格派の中華系の古武術を教わっている。流派はわからないが……。

今思えば。横島師匠のここの師匠が古武術の使い手なのだろうと。

 

その後は、また修行場の異世界へと繋がる扉へと向かう。

今度入れられた異世界は、光と音が無い世界だ。そこに6時間放り込まれる。

霊視空間把握能力を横島師匠の文珠で封印された状態でだ。

視界と聴覚を奪われる事がどれだけつらい事か思い知る。

目の前が見えない、聞こえない事は恐怖でしかない。

自分の状況すらわからなくなる。自分が立っているのか、座っているのかさえ……

 

霊感や直接的な霊視能力、その他の感覚を研ぎ澄ませるための修行なのだろうが、正直つらい。

発狂しそうになる。

 

俺は一度心を落ち着かせ、集中力を高める。

徐々に俺の感覚が鋭敏になっていくがわかる。

流石に霊視空間把握能力とまでとはいかないが、俺の周囲の状況がある程度、理解出来てくる。

俺は今、土の上に立ち……周りには木らしきものが数本立ってるようだ………

そして、俺は一歩一歩確かめるように前へ足を踏み出し、徐々にだが、この修行にも慣れて来る。

 

次の修行は、重しを足や腕、頭に乗せられ、妙神山の周囲をランニングだ。

天界と現世の間である妙神山の敷地はそれほど広くはないが、俺が走るコースには横島師匠お手製とみられるトラップや障害物が多数点在する。

重しを体の一点ではなく、バラバラに異なる重さの重しを取りつけられてるため、バランスが非常に取りにくい、トラップが来るとわかってても、体勢を崩し避けられない。

しかも、発動し終わったトラップがあった場所には次の周回までに、鬼門達が新たなトラップを設置していくため、そこにはトラップが無いと油断して、引っかかる。多分横島師匠の指示だろう。俺の思考を読んでの再設置が、絶妙な場所過ぎる。

トラップに引っかかって吹っ飛んでる俺を見て、鬼門達は嬉しそうなんだが………くそ、あれか、ここに来た時の仕返しか?

筋力アップと体幹バランスの修行なのだろうが……相当きつい。

あと、トラップを見抜く力も備わりそうだ。

 

夕飯の後は、横島師匠と組み手をやり、昨日と同じ霊気が吸われる底なし沼に落とされ一日の修行は終了だ。

 

 

 

そんなこんなで3日が経過する。

厳しい修行を3日間過ごし、ようやく体も慣れてきて、今日は寝る前にぶっ倒れることは無かった。

俺は今風呂上りに、修行場の裏にある木で出来た手製ぽいベンチに座っていた。

 

「ここも月と星が見えるな……ここって一応地球なのか?それとも天界にも月や星があるということなのだろうか?」

何気なしに空を見上げ、独り言を言う。

 

 

「こんなところで何をしてるんですか?比企谷さん」

 

「あっ……小竜姫様」

 

「お邪魔して良いですか?」

 

「ど、どうぞ」

 

小竜姫様が何時の間にか目の前に現れ、微笑みながら俺の隣に座る。

ち、近い……小竜姫様の方にまともに顔を向けられない。暗がりと言えども、ほんのり月明かりが俺の方を向く小竜姫様の優しそうな表情を照らしてる。

 

「私と少しお話ししませんか?」

 

「は、はい」

 

「比企谷さん。ここに来てからずっと悩んでますね」

 

「……そんなことはありませんよ」

小竜姫様にそう言われ、俺は内心では肯定したが、心を見透かされているようで、つい否定の言葉が出てしまった。

確かに俺は今も悩み、もやもやとしていたのだ。

 

「横島さんの事ですね。……これでも神様なんですよ。だから分かっちゃいます」

そう言って微笑む小竜姫様。

 

「……いや、その、自分でもよくわからないんです」

小竜姫様の優しい笑顔は俺の心を軽くし、素直な言葉を出させてくれる。

 

「横島さんはあなたを認めてますよ」

ズバリと小竜姫様は俺のもやもやの確信を突く。

そう、俺は師匠に認められたい。そして師匠の事を知りたいと思っている。

 

「そうでしょうか、俺は師匠の事を知っていたようで、何も知らなかった」

 

「それは違いますよ。あなたをここへ連れて来たのが何よりの証拠です」

 

「……俺は師匠がここで住み込みで修行していた事すら知らされてなかったんです。それ以外にも、……改めて俺は師匠の事を何も知らないんだと……」

 

「比企谷さん。横島さんは、あなたにここを、今、知ってもらいたかったんです」

 

「たぶん事務所の皆は知っていて、俺だけ……」

俺は自分でそう言いながらも、心は沈んでいく。

 

「人には知られたくない過去の一つや二つあるものです。横島さんだってそうです」

 

「………」

俺はその小竜姫様の言葉を聞きハッとする。

俺はその言葉を、つい先日、俺の口から一色いろはに言ったばかりだ。

自分で言っておきながら、いざ自分がその立場になるとこれか……

確かにそうだ。人には知られたくない過去は必ずある。

だが……俺はそれでもあの人の事をもっと知りたいと思っているのだ。

そうか……これが人との関わりというものか………

 

「ああ見えて、横島さんはいつも悩み苦しんでいるんですよ。それを隠すのが凄くうまいだけなんです」

 

「え?……」

俺は小竜姫様のその言葉に衝撃を受ける。

俺は横島師匠は悩みに縁遠い人だと思っていた。そんなものをギャグとあの性格で吹き飛ばしてきたのだと……悩み苦しむ横島忠夫像は俺には想像できなかったのだ。

しかし、よくよく考えると、横島師匠は俺の二つ年上のだけ……なのに霊能力者としての能力は人界一ときてる。その霊能も後天的に得たものだと言う。何もなかったわけがないじゃないか!

それこそ、かけがえのない努力や、人に言えないような経験や苦労や困難や苦しみを味わってきたと言う事じゃないか。

俺の方が何も見えてなかった。横島忠夫を見てなかったのではないか!

 

俺は振り向き横に座る小竜姫様の顔を見る。

小竜姫様は空を見上げ、その視線は満月の月に……。

 

「横島さんが信用してるあなたならいいでしょう。……横島さんは将来を誓った恋人を亡くしてます」

 

「な……」

横島師匠に恋人が居た?しかも亡くなってって……何があったんだ!

 

「3年前になりますか、丁度比企谷さんと同じくらいの年の横島さんは、今のような神魔に匹敵する力を得てませんでした。しかし霊能者としては、美神さんに引けを取らないレベルのものを持ってました」

小竜姫様は月を見上げながら淡々と語る。

 

「とある大きな戦いで彼は勝利をおさめましたが、その代償として、恋人が命を落とし、二度と帰らぬ人に………詳しくは私からは語れませんが、彼のおかげで、世界は救われたと言っても過言ではありません。……恋人を亡くし、彼が負った心の傷は深い物でした。今も自分を責め続けてます。あの時の選択は本当に合っていたのか、もっと力があれば彼女を救えたのではないかと………」

3年前と言えば、世界同時多発霊災!もしや、その時の事ではないのか?横島師匠は世界同時多発霊災で何かと戦っていた。そして勝利した。霊災を鎮めることはできたが……その代償が、恋人の死………なんてことだ。あの師匠の馬鹿な事ばかり言ってる裏側には……こんなことが……

 

「さらに彼はその戦いで、ある種の呪いを受けたような呪縛にとらわれ、通常では回復不可能な状態に陥りました。しかし、亡くなった恋人が残した言葉が、横島さんの唯一の支えになり、彼はここで修行に励み、人智を超える力を得て、その呪縛を克服したのです。……彼女が残した言葉とは横島さんに生きてほしいという内容のものだったようです」

……さらにそんな事が……横島師匠は俺に修練をつけてくれながらも、自らもここで修行に励んでいたのか……なんて人なんだ!

 

「小竜姫様……横島師匠は」

 

「横島さんは今も彼女の事を思っているでしょう。……とても私が入る間など今はありません」

だからキヌさんは告白ができなかったのか。そして小竜姫様も……俺は何て馬鹿な事を今迄師匠に言って来たんだ。知らなかったとは言え………

 

「小竜姫様は……」

 

「はい、私も彼が好きです。支えになって上げたいと思っております。今はそれだけです」

そう言って俺に笑顔を向ける小竜姫様

 

「そうですか……」

 

「そういえば、先日横島さんが比企谷さんの事を、自分の事のように嬉しそうに褒めてました。『俺の弟子が……八幡が、大切な子達を命がけで守り切ったんです。俺が出来なかったことを、あいつは……』って、あまりにも褒めるものですから、さすがの私もヤキモチを焼いちゃう位でしたよ」

 

「師匠がそんな事を」

あの時の事か、京都の茨木童子の時の……師匠がそんな風に言ってくれてたのか、かなり嬉しいんだが!さっきまでの陰鬱ともやもやしていたことが、一気に晴れたような気分だ。

 

「だから、比企谷さん自信を持って下さい。横島さんは十分あなたを認めてますよ。そのうち横島さんの心の傷が癒えたのなら話してくれます。きっと」

この話、流石に言えなくて当然だ。美神さんもキヌさんも……話せるわけがない。

 

「ありがとうございます。大分すっきりしました。小竜姫様」

俺は椅子から立ち上がり、深く頭を下げ礼を言う。

 

「それと、ここでの話は内緒ですよ。横島さんに知られたら、きっと怒られちゃいますから」

小竜姫様はニコっとした笑顔と同時に人差し指を唇に持ってきて、内緒のポーズをとる。

 

俺は再度、小竜姫様に頭を下げ、この場を後にする。

 

 

体が動かしたくてたまらなくなり、しばらく自主訓練に励んだ。

 

その後、泊ってる部屋に戻ると、横島師匠が寝ずに待っていた。

 

「なんだ八幡……こんな遅くまで、まさか!小竜姫様の湯あみを覗きに!!」

何時もの、悪戯っぽい笑顔でそんな事を言ってくる横島師匠。

 

「違いますよ。ちょっと技の訓練をしてたんです。ようやく、あのとんでもない修行にも慣れてきたんで」

 

「ん?なんだ?なんかいい事でもあったのか?」

横島師匠は俺の顔を見て、そんな事を聞いてきた。

 

「なんでもありませんよ。もう寝ますよ」

そう言って俺は床に就く。

どうやら、俺はニヤケた顔になっていたようだ。




皆さまお分かりですね。
世界同時多発霊災とは、アシュタロスとの戦いの事です。
亡くなった恋人とはもちろんルシオラ

ただ、アシュタロスの戦いは関係者以外の人々の記憶には残っておりません。
それはおいおいと……


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㊾ドラゴンへの道、その5

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前回の続きです。


小竜姫様が語ってくれた横島師匠の過去。

内容が内容だけに詳細までは教えてもらえなかったが、それでも今の俺には十分だった。ここに来てからずっともやもやしていたが、心の枷が外れたようなすっきりした気分となる。

横島師匠の過去か……

恋人が居てた事にも驚きだが、その大切な人を3年前の世界同時多発霊災で亡くしていたなどとは、普段の師匠からは想像もつかない。しかもその影響で師匠は、命に係わる霊障か呪縛をうけていたらしい。それを克服するために、ここで修行を……

 

世界同時多発霊災。世間一般では地球の霊的バランスが偶然が重なり、狂いが生じて起こったと言うのが一般的な見解ではあるが、秘密結社による陰謀説や、宇宙人による同時多発テロとか、魔族の侵攻だとか、諸説がある。

小竜姫様の話しぶりから、実際には横島師匠、いや、当時のGSは世界同時多発霊災を起こした『何か』と戦っていたという事だ。

それが何なのかは今の俺には知る由もないが、そのうちにきっと話してくれるだろう。

 

 

修行もついに6日目、残るは後1日を残したところで、修行の総仕上げと言う事で、

午後の修行は、対戦方式らしい。

 

横島師匠には毎日組手をしてもらってるから、小竜姫様が直々にと、期待を膨らましていたのだが、対戦相手は小竜姫様が使役してる魔獣らしい。

 

例によって、修行場の異世界の扉を開くと、そこには大きな石柱が円形に並び囲んでいるだけの、シンプルな対戦場があった。但し、その石柱の外に、人ひとりが乗れるぐらいの石舞台が対面に設置され、何やら術式陣が刻まれていた。

 

「比企谷さん、その石舞台に乗ってください」

 

「対戦場ではなく、ここにですか?」

 

「はい」

 

俺は小竜姫様に促されて、見たことがない術式陣が刻まれた石舞台に乗ると、術式陣が青白く発光し起動する。

 

すると、目の前に巨大な影が表れる。

 

「な…これは?」

俺はその巨大な影を見据えてから、後ろを振り返り、対戦場の外延で控えていた横島師匠と小竜姫様に尋ねる。

 

「シャドウです。あなたの内なる霊気、霊力、霊格、心をその術式で強制的に具現化したものです」

 

「固有の式神みたいなものですか?」

 

「まあ、近いところもあるが、根本は別物だな。もう一人の霊的側面のお前と言ったところか、ニュアンスはGSで言うところのペルソナだな。もっとわかりやすく言えば、漫画のジョジョのスタンドみたいなものだ」

ペルソナか、使い手に会ったことは無いが、式神よりも強力と聞いてる。確か日本には居ないしな。

まあ、俺的にはスタンド使いの方がカッコよくていいけどな。そうかこれで俺も今だけ限定のスタンド使い(仮)か!中二心をくすぐる展開だな!!

 

しかし、俺のスタンド(シャドウ)。人のような形をしてるけど、いまいち形が定まっていないと言うか、真っ黒な霧が人の形をなしてるだけのようなそんな地味な感じの奴だ。そういえばドラクエにこんな敵いたなシャドーだったか、……シャドウがシャドーって、そのまんまだな。しかも全然カッコよくないんだが……

クレ〇ジーダイ〇モンドとか、ス〇ー・プラ〇ナとか、ああいうカッコいいのがよかったんだが!

 

「横島師匠。スタンドじゃない、シャドウってみんなこんな感じなんですか、なんかあまり、パッとしないと言うか、なんていうか、こう……」

 

「いや、美神さんのは、女騎士って感じで、かっこよかったぞ」

……もしや俺だけ?こんな感じなのは。

 

「先ほども申しましたように、シャドウはその人の霊気、霊力、霊格、心を具現化したものです。そのシャドウの姿は、あなたの心やあり様を映したものでしょう」

小竜姫様、それは、俺の心のあり様がこの黒い霧みたいな奴ってことは、地味で暗くて、パッとしなくて、形も不安定なこいつと一緒であふやな奴で、ドラクエのシャドーと一緒でザコキャラってことでしょうか?

なにそれ、一気にテンション下がるんですが……

 

「ち、因みに横島師匠のはどんなでしたか?」

 

「お、俺か?……まっいっか。ほれ」

横島師匠は最初は渋った顔をしてたが、気が抜ける掛け声と共に、シャドウを顕現させた。

流石師匠、術式を介さずにシャドウを出すことが出来るとは……

いやしかし、なんだこりゃ?

 

横島師匠がポワンという音と共に顕現したシャドウは、

80cmくらいの大きさで、二頭身江戸時代の漫談師か道化のような恰好した、いかにも弱そうで役に立ちそうもないシャドウだった。

なにこれ?……横島師匠のだから、とんでもなく強そうなシャドウだと思ったんだが………

 

「だんさん、久しぶりでんがな。ワイの事、もう、忘れてもうたかと!……ん!?こっちのボンは、どなたはん?」

しかし、そのシャドウ、俺のと違って、明確な意思を持ち、しゃべる事が出来るのだ。

なぜかこてこての関西弁をあやつり、いかにも調子の良さそうな奴だ。

 

「はぁ、俺の弟子だ」

呆れ気味に答える師匠。

 

「ぷくくくくっ、だんさんの弟子?その目~、ゾンビの間違いでっしゃろ?まあええか、パッとせえへんけど、挨拶だけはしてやろか」

横島師匠の妙ちくりんなシャドウはそんな事を言いながら、こっちに近づいてくる。

なんで、上から目線なんだこいつ。

 

「儲かりまっか?」

横島師匠のシャドウは、手に持った扇子を自分の頭にポンと当てながら、ニヤケ顔で妙な挨拶をしてくる。

その挨拶は知ってる。近江商人や船場商人の挨拶の仕方だ。知識として知ってるが、普通に挨拶しろよな!

 

「……こんにちは」

 

「けっ、ノリ悪いな。『ぼちぼちでんな』やろそこは!はぁ~これだから東京もんは」

異様にムカつくんだがこいつ。

 

俺のその感情に反応したのか、俺の黒い霧のシャドウが横島師匠のシャドウの頭を鷲掴みにして、

締め付ける。

 

「な、なにするんやーーーー!!」

 

 

横島シャドウが俺のシャドウに頭を絞められて、泣き叫ぶのを余所に、師匠に質問する。

「……横島師匠、これは何の冗談ですか?」

 

「わるかったなーーーー!!これが俺のシャドウなんだよ!!俺ももっと別のがよかったんやーーー、なんで俺だけ大昔のコテコテ漫才師みたいなシャドウなんやーーー!!」

横島師匠も涙をちょちょ切らしながら、頭を左右にブンブン振って、嘆く。

……まあ、わからんでもない。この人、根っからのギャグ体質だしな。いくら強くても、人の根本は変わらないと言う事か。

 

泣き叫ぶ横島シャドウと涙を流し嘆く師匠を余所に小竜姫様に尋ねる。

「シャドウって話すことが出来るんですか?」

 

「ない事も無いのですが……、そのあの様に、本人の意思と無関係に独立して、会話をするシャドウは横島さんのシャドウだけです」

小竜姫様は困ったような表情で答える。

やっぱ特別なのか、というか、あれもギャグ体質がなせるなわざなのだろうか?

 

「………小竜姫様、このシャドウを使ってどのような修行をするのですか?」

俺は気を取り直し、肝心な事を小竜姫様に聞いた。

 

「シャドウは比企谷さんの霊的構造がむき出しになったものです。シャドウが強力な相手と戦うことで、比企谷さんの霊的構造を直接鍛えることができるのです」

 

「なるほど、そういう修行なんですね」

俺のむき出しになった霊的構造であるシャドウを鍛えることによって、効率よくパワーアップできると言う事か。

 

「だったのですが、意味がなさそうですね。……比企谷さんは、この6日間でこの修行を行わなくても良いぐらいにパワーアップしてます。あとそのシャドウ、今から戦う者達(魔獣)では手に負えないでしょう」

確かに、俺の霊的ポテンシャルはこの6日で自分で驚くほど伸びたように感じる。

この修行の必要性がなくなったのは、パワーアップしたからという理由じゃなさそうな言い回しだな。

 

「どういうことですか?」

 

「そのエレメント系のシャドウ。直接攻撃がメインの今から戦う子達(魔獣)ではダメージを負わすことができないでしょう。比企谷さんの心の持ちようはなかなか面白いようですね。それと霊的ポテンシャルは美神さんと似てると思っていたのですが。ここでの修行で、大分異なる事がわかりました。それがこのシャドウにも表れてます。それにまだ伸びしろは十分にありますよ。さすが、横島さんが見込んだだけはあると言っていいでしょう」

小竜姫様に褒められて、めちゃ嬉しいぞ。

しかし、俺の心の持ちようが面白いってなんだろうか?

それと、霊的ポテンシャルが美神さんと異なるってのも気になる。

 

「それって……」

 

「とりあえず、石舞台から降りてください」

 

「はい」

俺はシャドウを顕現させる術式が彫り込まれた石舞台から降りると、それに伴い、俺のシャドウもスッと消える。

 

「何してけつかんねん!!」

横島シャドウは俺のシャドウから解放され、俺に文句を言おうと飛んでくるが、小竜姫様に首根っこ捕まえられる。

 

「横島さんシャドウを戻してください」

 

「ううう……なんでや、なんであんなんなんやーーー!」

横島師匠は嘆きながら、シャドウを消す。

いや、横島師匠があれだけ強いんだ。変なシャドウだろうと、とんでもない力を秘めているに違いない。

「因みに、横島師匠、あのシャドウ、何ができるんですか?」

俺は慰める意味も含め、横島師匠に聞く。

 

「ふはははははっ!!八幡ビビるなよ!!派手な応援が出来る!そして、覗きとかお触りだ!!それ以外は全く無い!!ふはははははっ!!」

おいーーー!!何そのシャドウ、全くの役立たずじゃねーか!しかも質が悪い。普段の横島師匠がやってる行動と同じじゃねーーか!!霊気や霊力、霊格と心を具現化したものじゃないのか?心の、しかも邪な部分だけじゃねーか!!霊気とか霊力とか霊格とかどこに行ったんだ!?

涙を洪水のように流しながら高笑いしてるよ、横島師匠。アレに比べれば、きっと俺のシャドウの方がましだな。姿はあんな感じだけど、小竜姫様も褒めてたしな。

横島師匠、よっぽどあの漫才師シャドウが気にくわなかったんだな。

 

ん?……ちょっとまてよ。横島師匠の中に、さっきのシャドウの気配以外に何かあるよな……

 

 

「比企谷さん、対戦場に入ってください。今から召喚する子達(魔獣)と直接戦ってください」

何時までも、涙が止まらない横島師匠を余所に、小竜姫様を俺に対戦場へと促す。

 

「わかりました」

俺は頷き、対戦場へ

 

「この6日間の修行の成果を見せてくださいね。では、召しませ剛練武(ゴーレム)!!」

小竜姫様はニコっとした笑顔でそう言い、背丈は5mはあろうかという一つ目の巨人が現れる。そのからだ鉱石か何かでできてるのだろうか、鈍い光沢を纏っている。

その姿から、防御力が高い魔獣だと想像できる。

 

「では、始め」

 

 

剛練武と呼ばれた魔獣はゆっくりとした動きでこちらに向かって来る。

 

俺は霊力を高め身体能力強化をし、相手の後ろ側に回り込む。

が……かなりのスピードが出て、離れすぎる。

体が以前よりも大分と軽い。

修行の効果か、霊気から練れる霊力の力が以前に比べ、かなり高まっている。身体能力強化もそれに伴いかなりアップしているぞ。

思った以上のスピードに、自分でコントロールがきかない。

 

「くっ」

 

俺は相手の動きが遅いのをいいことに、パワーアップした身体能力強化になれるために、相手間合いの外で動き回る。

 

そろそろいいか。

俺は霊気を放出させ、対戦場に満たす。

横島師匠に修行中封印されていた霊視空間把握能力を発動させ、攻撃準備に入る。

 

これは、……相手の動きが前よりも正確に……

あそこに隙がある。体は防御力が高いが明らかにあの大きな一つ目の防御は薄い。

俺は自然とそんな事が理解できていた。

相手の動きだけでなく、相手の身体能力の把握まで出来るようになったようだ。

 

剛練武は俺の動きに全くついて行けていない。

剛練武の振り向きざまに、俺は奴の顔面に目掛け大きくジャンプし、右手に霊波刀を顕現させ、その大きな一つ目に突き刺す。

剛練武はうめき声と共に、仰向けに地面に倒れた。

 

「………」

俺は自分の体を確かめるように、腕や腰のストレッチをする。

自分で言うのもなんだが、修行の成果は確実に出てる。

しかも、自分でも確実な違いが実感できるぐらいに。

 

「いい仕上がりですね。次行きますよ」

「八幡。そんなもんじゃないだろ?次はすべての感覚をフルに使ってみろ」

小竜姫様は満足そうに頷き、横島師匠はアドバイスをくれる。

 

俺は大きく頷いて見せる。

 

「召しませ、蝸刀羅守(カトラス)」

小竜姫様は次の魔獣を呼び出す。

 

すると、四肢や背中など全身が鎌等の刃物で出来た虫のような型の魔獣が現れた。

見てるだけで、こっちが痛くなってくるようなフォルムだ。

 

「では、初め」

 

でかい図体のわりにはかなりスピードだ。

こっちに一気に迫って、腕の鎌を振り下ろし、さらに次々と全身の鎌を使って薙ぎ払ってくる。

俺は霊視空間把握能力をフルに使って、それらの斬撃をすべて避ける。

やはり、ただ単に相手の動きが見えるだけじゃない。相手の霊的構造が透けて見え、霊気や霊力の動きが見える。それによって相手の霊的に強度が高い部分や弱い部分が見えてくる。

単純な弱点が手に取るようにわかる。

 

こいつ、四肢と体の付け根の関節の可動域が狭いな。ならば。

俺は相手が次々と放ってくる斬撃を読み切り、避けながらも四肢のバランスを徐々に狂わしていくように誘導する。

 

踏ん張る鎌足と攻撃鎌足とのバランスが徐々にくるって行き、蝸刀羅守は遂に無理な体制で腕を振り上げ斬撃のモーションをとった。

 

ここだ!

俺は蝸刀羅守の踏ん張っている一本の鎌足の足元にサイキックソーサーを数発投げ込む。

完全にバランスを崩し横倒れになるのを、もう一本の鎌足で踏ん張ろうとしたところ、霊波刀で薙ぎ払う。

 

蝸刀羅守は完全にバランスを失い。仰向けにひっくり返る。

四肢の鎌足をバタつかせていたが、起き上がれない。

 

やはりな……

こいつの四肢の付け根の可動域ではこうなるとなかなか起き上がれないだろう。

攻撃力は中々のものだったけど、仰向けになったら戻れないって、生物としてどうなんだこの魔獣。

 

「そこまでです」

小竜姫様は試合終了の合図をする。

 

「ふぅ」

今のはさっきよりも、見えたな。

しかし今の試合の最後の方、相手の動きが若干スローモーションのようにも見えたような。

あれは気のせいか……

とりあえず異界修行場での修練の効果がでたってことだろう。

体が軽い。動きも霊視空間把握能力に十分ついていけてる。

霊視空間把握能力の性能も向上してるな。相手の霊的構造までも見えるような感覚だ。

霊波刀もサイキックソーサーも前よりも威力が上がってるのも感じる。

 

俺は対戦場から外に出ようとすると……

 

「すでにこのレベルですか。あの子達では、比企谷さん相手では物足りない感じですね。彼をもうひと伸びさせるには………比企谷さん。私と対戦しませんか?」

小竜姫様に何やら呟きながら、対戦を申し込まれた。

 

「小竜姫様とですか……流石にレベルが違うと言うか」

始めに小竜姫様の解放した霊圧を浴びたが、明らかにあの茨木童子を上回っていた。

修行の成果がでたとしても、流石にあのレベルでは手も足も出ないだろう。

 

「これも修行の一環だと思ってください。私は手加減しますので、比企谷さんは全力で来てくださいね」

 

俺はこの申し出をうけるかを横島師匠に確認するために、アイコンタクトをとると……

 

「八幡、はじめっから全力でな。手加減とか考えてたら一瞬でやられるぞ」

横島師匠は了承と共に、大雑把なアドバイスをくれる。

 

当然そうなるよな。

 

「小竜姫様、よろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそ」

 

こうして、小竜姫様との対戦が始まるのだった。

 

 




次回でドラゴンへの道は終了します。

今の所は八幡は全体的にパワーアップした感じです。
今の所は……


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㊿ドラゴンへの道、その6

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

それでは続きを



小竜姫様と対峙する俺。

 

異界空間修行場の対戦場で、今から手合わせを行うのだ。

小竜姫様は、見てる分には東洋風ファンタジー系コスプレ美少女なんだが……

 

「では、参りましょうか」

小竜姫様から、凄まじい霊圧が放たれる。

 

「くっ」

流石は女神様ってところか、なんて霊圧だ。しかし、出会った時には一歩も動けそうもないという感じだったが、今は体が動く。

あの厳しい修行のおかげか。

 

俺は霊気を一気に霊力に変換し、身体能力強化を行い、さらに、霊気を体から放出し続け、霊視空間把握能力の準備を進める。

 

小竜姫様が、一気に俺の眼前に迫る。

「速い!」

 

そして、小竜姫様は掌底を俺の胸下辺りに放つ。

俺は両腕で受けつつ、威力を殺すために、上半身を逸らし、掌底の威力を体の外に逃がす。

俺は逸らした上半身の勢いを使い、その場で一回転し、サマーソルト気味に、小竜姫様の右肩口から首にかけて、蹴りを放つ。

小竜姫様は左に避け、難なくかわす。

 

しかし、小竜姫様は左に避けるのと同時に、下段回し蹴りを放ってきた。俺の着地際を狙われたのだ。

俺は体を無理やり傾け、腕から地面に着地し、側転のような受け身で、横に大きく飛びのく。

 

「武術もかなりの出来栄えですね。私の動きをよく見えてます」

 

「………」

全く気を抜けない。今のがギリギリだ。

俺は近距離は危険だと判断し、じりじりと後ろに下がり、間合いをあける。

凡そ、小竜姫様との間合いは15mといったところか。

 

「では、こういうのはどうでしょうか?」

小竜姫様はそう言って、腰の剣を抜き構え、その場で振り下ろす。

 

すると目に見えない霊力の斬撃が俺に向かって放たれた。

霊視空間把握能力が無ければ全く感知できない代物だ。

俺は、それを体捌きで避け切る。

 

そして、その攻撃が次々と角度や速度を変えて飛んでくる。

それらをギリギリ何とか避けきった。

 

「これも避けますか、霊視空間把握能力とはなかなかのものですね」

小竜姫様は感心したように言う。

 

俺はその間も油断なく小竜姫様を見据え、さらに、修行で成長した霊視空間把握能力を使い、小竜姫様の弱点を探ろうとする。

しかし、レベルの違いなのだろうか、小竜姫様の体全身に光を放つように見えるだけで、弱点や霊的構造が把握できない。いや、背中の一点のみに力の源のように強い力を感じる。

 

そこが弱点だろうか……いや、いやな予感しかしない。

 

「でも、これには大きな欠点があります」

小竜姫様はそう言うと、さらに霊圧を上げ、全身から霊気が嵐のように吹き荒れる。

すると、対戦場に満たされていた俺の霊気が吹き飛ばされた。

 

「これで、あなたの霊視空間把握能力は使えませんね。……?なかなか、あなたの周囲3メートルは死守したと言う事ですか」

小竜姫様はそう言って、感心したように頷いていた。

 

そう、この弱点は俺も知ってる。美神さんや横島師匠には何度となく指摘され、手合わせで同じように破られていたからだ。

だから、それを克服した。いや正確にはまだ改良中だ。ようやく実戦で使えるレベルになり、なんとか周囲3メートルは死守できるようになった。

異なる濃度の霊気を薄い膜状にして重ね合わせ、霊気の層を俺の周囲3メートルに作り上げたのだ。

これは最初に消費する霊気は多少大きくなるが、霊気の層のおかげで、霊気の拡散が防ぐことができ、結果的にはこの3メートルの間合いに関してだけは、霊気消費量は抑えることができるようになったのだ。

 

「では、その間合いでどこまで、出来るのか見せてもらいましょう」

小竜姫様は、先ほどの目に見えない斬撃を飛ばしてきた。

 

約15メートル離れた場所からの目に見えない霊力の斬撃は、俺の霊気が満たされていた先ほどまでは小竜姫様が放った瞬間から把握できたが、今は正確に判断するには俺の霊気の層の間合い3メートルのみだ。後は小竜姫様の剣を振り下ろすモーションで飛んでくる斬撃の角度やスピードを予測するしかない。

俺は、集中力を高め、凡その斬撃角度とスピードを予想し避けつつ、3メートルの間合いに入ってきた斬撃の正確な情報を得て、サイキックソーサーを盾に捌いて行く。

 

「勘、ではないですね。これをその状態で避けますか。頭脳もセンスもかなりのものを持ってますね。流石は横島さんの弟子と言ったところでしょうか」

 

「………」

集中だ集中。集中を切らしたらおしまいだ。これが神魔と人間の明確な差なんだ。

これが修練でなく、本当の死闘ならば一つ間違えば死ぬ。

 

「では、ちょっと本気を出してみましょう。覚悟はいいですか?」

 

「………」

俺は頷くこともできず、唾を飲み込む。

分かっていた事だが、先ほどまで小竜姫様は俺に合わせて手加減していたんだ。

本気とは……

 

とりあえず集中、集中だ……

 

 

「がっ!!」

 

俺は一瞬のうちに吹き飛ばされ、対戦場を囲む柱に激突していた。

 

「ぎりぎりで体を捻り、直撃を避けましたか」

 

何が起きた!一瞬小竜姫様が光ったと思ったら、既に俺の霊気の層の間合いの中だった。

反射的にサイキックソーサーを強化し、体を捻るのがやっとだった。

多分、超スピードによる攻撃だろうが、目では全く見えなかった!

 

俺は柱に手をつき、辛うじて、立ち上がる事が出来たが………今のは対処がしようがない。

俺の意識が辛うじて感じる程度の一瞬の出来事だ。考えて対処できる間も無い。

 

 

「それでは、もう一度」

小竜姫様は構える。

 

 

もっと集中、集中だ!来る!!

 

 

え?……

 

 

「!?今のは!」

小竜姫様は驚いたように俺の方に振り向く。

 

俺は地面にしりもちをついていたが、小竜姫様の超スピード攻撃を避けていたのだ。

 

先ほどとは違っていた。

小竜姫様が一瞬光ったのまでは一緒だ。

俺の間合いに入った瞬間、小竜姫様の動きが先ほどと違って、コマ送りのように感じることができたのだ。俺は避けようと意識するが、それでも体はついて行けないと思ったが、何故か避けることができた。

 

そして、俺の目の前には黒い霧のような塊が漂い、一塊の雲となり集合していった。

シャドウだ!

形は異なるし、サイズは随分小さいしが、さっき石舞台の召喚陣で顕現させたものと同じだ。

なぜ?石舞台の結界陣の外なのに、なぜ俺のシャドウが顕現されてるんだ?

しかし、今の……たぶんこのシャドウが何かしたんだ。

 

「……ふう、それがあなたの新しい力と言う事ですか。比企谷さん」

小竜姫様は、剣を鞘に納め、俺の方へ歩む。

 

「おお?面白そうな能力だな。それ」

横島師匠も俺の方に歩いてくる。

 

「あの、シャドウが勝手に……。どういう事なんですかね。俺、召喚陣や術式なんて知らないし」

 

「まあ、シャドウは本来、自分の内面を具現化したもんだからな、それを理解すれば、出し入れできる。しかし、どうやらそう言う理由じゃないようだな……八幡、霊視空間把握能力を解除しろ」

 

「あ、はい」

俺は横島師匠に従い、霊視空間把握能力を解除する。

すると、シャドウも消えてしまった。

 

「やはりな……」

「そういう事ですか」

横島師匠と小竜姫様はアイコンタクトを取り頷く。

 

「どういうことですか?」

 

「八幡の霊視空間把握能力は自分の霊気を空間に満たして出来てる。さらに、改良し、相手の霊気や霊圧に屈しないよう霊気の層を作り、その内部は八幡の霊気が満たされているわけだ。いわば霊気の結界のようなものだ。シャドウとは霊気、霊圧、霊格、心が具現化したものだ。お前が作ったこの霊気の結界はいわば、お前の霊気構造の一部と言っていいだろう。

先ほど、シャドウを無理やり、召喚陣で呼び起こした影響だろう。

限定的ではあるが、お前のその霊気の層で作りだした霊視空間把握能力の中で顕現できるようになったようだな」

横島師匠の話から、どうやら、霊視空間把握能力の霊気層3メートル範囲の中限定でシャドウを顕現できるようになったようだ。

 

「え?そんな事が……それもそうなんですが、何故か小竜姫様の動きが少しゆっくりに見えたんです」

シャドウの件もそうだが、小竜姫様の動きが若干遅くなったように見えた。

 

「私はそのシャドウが現れるのを確認し、シャドウごと比企谷さんを薙ぎ払うつもりでした。しかし、シャドウに触れたと同時に、若干の抵抗を感じました」

 

「俺は外から見たので、よくわかりましたが、八幡の影から現れたシャドウが小竜姫様に立ちふさがりました。防御したというよりは、シャドウが触れた小竜姫様がスピードが一瞬緩くなったように見えました」

 

「なるほど、エレメント系のシャドウにそういう特殊能力がある事は聞いたことがあります」

 

「でも師匠、俺はそれでも小竜姫様のスピードを避けれる気がしませんでした」

俺は一瞬コマ送りのように見えた小竜姫様の突進にわずかに体が反応したのみだった。

完全に避け切るタイミングではなかった。

 

「俺の予想では八幡のシャドウが小竜姫様に触れることにより、小竜姫様スピードを緩める事はできた。しかし、小竜姫様の霊力と突進力に負け、霧散したんだ。その反発力で八幡は吹き飛きとんで避ける事ができた。偶然避けれたようなもんだ」

 

「そういうことでしたか」

小竜姫様は横島師匠の意見に納得する。

 

「根本の能力はわからないですが、小竜姫様がスピードが落ちたのは事実です」

 

「とりあえずは、検証が必要そうですね」

 

小竜姫様と横島師匠はこのシャドウについて色々と話し合っていたが、実際に俺のシャドウを出して検証してみることにした。

結果わかったことは、やはり霊視空間把握能力の3メートル範囲の霊気の層内でのみ、シャドウを顕現させることができるということ。シャドウ自体は闇属性のエレメントタイプであること。出来ることは触れた相手の相対速度を遅くすること。シャドウ自身防御力が高いわけではないが、この霧状の体のおかげで相手の攻撃が効きにくいようだ。

シャドウが石舞台の召喚陣で顕現させた時に比べ、形とサイズが異なるのは、まだまだ、不完全な状態であるからだそうだ。今はこんな申し訳程度の能力しかないが、俺次第で、成長するとの事だ。

 

それよりも、横島師匠と小竜姫様は俺の霊視空間把握能力の改良版である。霊気の霧散と拡散を防ぐ、3メートル周囲の霊気層を褒めてくれた。

小竜姫様が、この3メートル周囲の霊気層を霊視空間結界と名付けてくれた。

限定的だがシャドウが顕現するのも、この霊視空間結界あってのことだと。

 

この後、しばらくシャドウの検証を1人で行う。

小竜姫様にはシャドウに名前を付けるように言われたな。

そうすることで、より一層シャドウとの結びつきが強くなるとの事だ。

シャドウか、俺も限定的だがスタンド使い、元い、シャドウ使いの仲間入りだ。

何か、かっこいい名前を付けてあげたい。

 

闇のエレメントで黒い霧が集まった雲みたいな形だしな……

 

「我が定めし運命に従い顕現せよ!!ダーク・アンド・ダーククラウド!!」

俺はポーズをとり、空に向かって手を掲げ叫ぶ。

うむ…決まった…な……

 

「八幡夕食だぞと……お前なにやってんの?中二病がまた発病した?」

急に俺の後ろから横島師匠が声がかかる。み、見られた!?

 

「………横島師匠いつからそこに?」

俺は多量の冷や汗を流しながらギギギと首を後ろに回し、横島師匠に尋ねる。

 

「ぷくッ、『我が定めし運命に従い顕現せよ!!ダーク・アンド・ダーククラウド!!』て、ところだな。ぷくッ!」

横島師匠は笑いを堪えながら、俺の物まねをする。

 

「これはその、あのー、そのですね」

全部じゃねーーーか!!全部見られた!!ど、どうする!!

 

「あーーはっははっはーーーー!!八幡、お前時々あるよなそれ!!ぷくくくくくッ!それ雪ノ下ちゃんや由比ヶ浜ちゃんが見たらどう思うよ!!」

 

俺は横島師匠の真正面に立ち、両肩を思いっきり掴み、横島師匠の顔から視線を外しながら、低い声で早口に言う。

「今の忘れてください。……その二人には絶対言わないでください。人生終わってしまうんで」

 

「お、おう」

横島師匠はわかってくれたようだ。

絶対だぞ、絶対だからな。言ったら泣いちゃうからな。

 

 

この後、夕食には小竜姫様お手製のお節料理をふるまってくれた。

折角ふるまってもらったのに、先ほどの事で、何を食べたのかも記憶に残らなかった。

そういえば、今日元日だったな。

 

横島師匠や小竜姫様に褒められたのはうれしいし。

新しい技も認められ、限定的だがシャドウも使えるようになった。

すばらしい日になるはずだったのに。

 

最後、すべてが台無しに。

俺はその日の夜。布団を頭まで被り、恥ずかしさに悶えていた。




八幡の修行の結果

霊気、武術、五感、全体的にパワーアップ。
サイキックソーサーや霊波刀もバージョンアップしてる。

八幡の固有特殊能力パワーアップ

霊視空間把握能力
自分霊気を場に満たすことによって、霊気が満たされた場に入った相手の動きが正確に把握できる。ある程度の霊視も可能。
今回の修行で霊視部分がパワーアップ
相手の霊的構造体を把握できるようになり、単純な相手の弱点を見ることができる。

霊視空間結界(霊視空間把握能力の上位バージョン)
3メートル範囲に霊気層を作り、霊気の拡散の霧散を防ぐ。
霊気量消費を抑える。
副産物として、その範囲内であればシャドウが使える。
シャドウは今の所、相手の動きを遅くできるの力を持つ。
攻撃が効きずらい特性がある。
また、若干だが防御や攻撃も出来る。



八幡の現在の強さは文殊獲得直前の原作横島くん位かな?


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【六章】三学期編 (51)新年早々

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


㊿のあとの51ってないんですね。
だから()になっちゃいました><
ここまで長くなるとは最初は思ってもみなかったので……

いきなり新章ですね。前回で修行編は終わりで、今回から三学期編です。


1月2日の夕方。

俺は1週間ぶりに家に帰った。

妙神山の修行を無事終えた俺は、妙神山から横島師匠のアパート直通の転移ゲートを使い、一瞬で東京に帰ってきたのだ。行きの険しい山登りは何だったんだろうか?

先に、美神さん達に年始の挨拶をと事務所に戻ったのだが、美神さんは留守だった。

人工幽霊によると、美智恵さんに無理やり連れていかれたとか、なんでも美神さんの実家で親子4人水入らずで正月を過ごすらしい。そう言えば美神さん、親父さんと折り合いが悪いと聞いていたが、年の離れた20歳年下の妹のひのめちゃんがいるし、美智恵さんは再婚して、今の親父さんは義理の親父さんなのかもしれないな。

キヌさんは東北の実家に帰省、シロも人狼の村に帰省していた。

 

タマモはやはり俺の実家だった。タマモは親族は居ないといっていた。数千年も生きてる金色白面の九尾の狐っていう伝説級の妖怪だしな。親とか元々いないのかもしれない。しかし、昔の妖怪仲間とかはいないのだろうか?まあ、親父とかあちゃんはタマモが泊りに来て、めちゃ喜んでたらしいがな。

俺が帰ったと同時に、あの親共は旅行に行きやがった。あれだ。土御門さんに貰った土御門家が経営してる温泉旅館のタダ券だ。3泊4日らしい。

小町は受験生なんだぞ。あの親共は!どういう神経してるんだ!

「後は任せた」とか言って、俺に一切の家事を押し付けて出かけやがった。

 

タマモは普段泊りに来る時は、小町の部屋で一緒に寝泊まりすることが多かったのだが、流石に受験の追い込み時期と言う事で、俺の部屋で寝泊まりしていたようだ。

帰ってきた俺が見たものは、乱雑だった部屋はきれいに片づけられ、ベッドの布団やシーツ、窓のカーテンは女の子らしく白のレース調に新調され、僅か一週間で俺の部屋から八幡要素がほぼ消されていた………因みに、すべて親父の仕業らしい。

あのクソ親父、息子を何だと思ってやがる。

……お子様にには言えない秘蔵書の存在はバレてないだろうな。親父の奴、そこまでやるなら、気を利かせて、処分なり、天井裏なりに隠しておいてたりしてくれれば助かるのだが。

タマモの様子を見る限り今のところは大丈夫そうだ。

 

俺はタマモが泊ってる間、リビングで寝ることにした。

タマモは「一緒の部屋で寝ればいいじゃない」というが、流石にそうはいかないだろう。

見た目は、俺よりも少し年上の金髪美少女だからな、妙に色気もあるし、一緒の部屋で寝るとか俺の方が精神的に持たない。まあ、シロだったら大丈夫な気がする。

幸いリビングには、こたつもテレビもあるし、携帯ゲーム機とラノベがあれば退屈はしない。

 

食料も今の所、デパートで注文したのであろうお節料理が残ってるし、多量に食料は買い置きしてあったから、夕飯はお節の残りと適当な付け合わせで間に合う。

 

小町にはお土産で小竜姫様からもらったご利益のあるお守りを渡す。

まあ、勉学とかではないとは思うが、交通事故とかからは守ってくれそうな、神聖な霊気を纏ったお守りだ。

 

小竜姫様と言えば、今日の修行7日目の朝食の食卓に、いつの間にか、眼鏡をかけ、みすぼらしい服を着たサルが座ってたんだが……実はそのサルが、横島師匠と小竜姫様の師匠だった。

そして、俺はその名を聞いて大いに驚いた。

斉天大聖と名乗ったのだ。

知ってるか?

斉天大聖だぞ!!

ちゃんと西遊記を読んでる奴ならわかるだろうが、あの孫悟空のことだ。

孫悟空ってサルの描写で描かれてたけど、まんまサルだったんだな。

 

武神斉天大聖老師、孫悟空。武術や数々の仙術を極めた。神界きっての武闘派神様だ。

そりゃ、横島師匠も武神に鍛えて貰ってりゃ、武術も強くなるわけで。

 

握手してもらったし。「修行にまた来い」って言ってくれたしな。

流石の横島師匠も斉天大聖老師には頭が上がらないようで、「修行をサボってないか、わしが直に見てやる」って言われて、ギャグ飛ばして必死に逃げようとしてたしな。横島師匠が逃げるレベルってどんな修行だよ。

まあ、うちの師匠は嫌なことがあれば些細な事でも普通に逃げるか。

 

 

1月3日

早朝から小町とタマモと家をでる。

修行前に、由比ヶ浜とこの日に買い物に行く約束をしていたのだ。

別にデートとかではない。小町もタマモも一緒だしな。

雪ノ下の誕生日プレゼントを買いに行くためにだ。雪ノ下の誕生日は1月3日の今日だ。

はじめは別に一緒に買いに行く必要はないんじゃないかと断ったのだが、「だったら別に一緒に行ってもいいじゃん」と返してきた。由比ヶ浜にしては中々の返しに、思わず納得してしまった。

確かにそうだ。必要性は無いからと言って、一緒に行かない理由にはならないな。まあ、一緒に行く理由にもならないが。

どちらにしろ、この事を小町に知られた時点で、俺の負け決定だった。

俺が一緒に買い物に行かない理由が、小町によってどんどん消されていき、最後には強制的に一緒に行くことになった。

結局、俺は小町と由比ヶ浜と一緒に雪ノ下のプレゼントを買いに行く事になったのだ。

因みにタマモは小町の付き合いということで付いてきてる。

タマモも雪ノ下の事を知らない仲ではないから特に問題ない。

 

今日のスケジュールはこうだ。

午前中に誕生日プレゼントを買い、その足で雪ノ下の家に突撃し、1月3日誕生日の雪ノ下を祝うサプライズプランらしい。

雪ノ下が実家に帰ってたらどうするんだ?

 

千葉駅で由比ヶ浜と合流し、ショッピングモールに向かったのだが、ショッピングモールに入るなり、小町は用事を思い出したとかで、タマモとどこかに行ってしまった。

なんだ?このパターン。前にもあったような。

結局、由比ヶ浜と二人で雪ノ下のプレゼントを買うためにモールの店を回る羽目になる。

 

「ヒッキー、修行どうだった?」

 

「ああ、まあまあだな」

由比ヶ浜と雪ノ下には事前にGSの修行に行くことを伝えていた。

元旦の初詣を一緒に行こうと言う話があったが、俺はこれを理由に断ったからだ。

行先は流石に言えないが、こいつらに話したところで問題ないしな。

 

「うーん。なんかヒッキーたくましくなってるし」

由比ヶ浜は俺の腕を服越しに触って来る。

 

「暑苦しいからやめてほしいんだが」

由比ヶ浜さん。女子に免疫がない男子の体にべたべた触るもんじゃありません。

 

「さっき寒いって言ってたじゃん。別にいいじゃん。減るもんじゃないし」

 

「離してくれませんかね。人の目とか気になるし」

俺がそう言うと、由比ヶ浜は俺の腕を離してくれたのだが……

減るんだよ!主に俺の精神が!

 

「むー、ヒッキーの意地悪」

頬を膨らませる由比ヶ浜。

由比ヶ浜さん?この頃、さらに距離感が近くなってませんか?勘違いするからそういうのはやめてほしい。

 

由比ヶ浜は楽しそうに店を回り、俺はそれに引っ張られるようについて行く。

2時間程経ったところで由比ヶ浜はプレゼントを決めたようだ。

猫の手の形状のミトンだな。

いいチョイスだ。雪ノ下は料理もするし、大の猫好きだ。

俺も、その間にめぼしいものに目をつけ、買っておいた。

因みに俺のは、PC用のブルーライトカット眼鏡だ。

雪ノ下は何だかんだとよくノートパソコンを活用してるからな。

 

プレゼントを買ったときには既に昼時は過ぎていた。

小町にどこかで昼食をしようと連絡したのだが、急な用事で家に帰ったとか……

うちの妹はまじで何しに来たんだ。

付き合わされるタマモには、後で詫びでも言っておこう。

ちょっと高級そうな揚げでも買って帰ってやるか。

 

由比ヶ浜と昼食をとるためにモール内の喫茶店に入ると、意外な組み合わせの人物がテーブル席に座っていた。

 

「ゆきのん!…と隼人君だ!やっはろー!」

「うす」

 

「由比ヶ浜さん!比企谷君も!?」

雪ノ下は何故か驚き、狼狽してるような感じだ。

そんなに驚くことか?

……まあ、由比ヶ浜と俺が一緒に居ることに驚いてるのだろうが。

なんか前に、この逆パターンがあったな。あの時は、俺と雪ノ下が由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行ったときにだ。偶然由比ヶ浜に遭遇して、こいつ俺達を見て、何故か慌てて逃げてったて事があったな。

 

「結衣とヒキタニくんも、久しぶり」

葉山はいつものイケメンスマイルで挨拶をする。

 

「ゆきのんと隼人君の二人が一緒なの珍しいね」

確かに珍しい組み合わせだが、陽乃さんに、葉山の家と雪ノ下の家は親同士の付き合いがあるとは聞いた事がある。その辺の理由で一緒に居るのだろう。

雪ノ下は葉山を嫌ってる節がある。学校では、わざと葉山を敬遠していたような態度をとってたな。

今もそうなのだろう。4人掛けテーブルなのに、わざわざ対角線上に座ってる。

 

「こ、これは違うの、その」

雪ノ下は珍しく慌てている。

俺を一瞥し何やら言動がしどろもどろに。

 

「ああ、親と共に年始の挨拶回りをしていてね。ほら、家と雪ノ下家はビジネスパートナーだから、それでさ」

葉山が苦笑しながら、簡潔に答える。

 

「へー、そうなんだ。と言う事はどういう事?」

 

「親同士が仕事とプライベートで昔から付き合っていてね。それで家族同士の交流もあるって、雪乃ちゃ……雪ノ下さんとは昔からの知り合いなんだ」

葉山が由比ヶ浜の疑問に答えるが、葉山が雪ノ下の事を下の名前で呼びそうになると、雪ノ下の氷の視線を浴び、苗字で呼びなおす。

 

「それって、幼馴染ってことじゃん。いいな~」

由比ヶ浜は理解が及んだようだ。

 

「わ、私は、別にそんなんじゃないわ。姉さんの代わりでここにいるだけだから」

雪ノ下は俯き加減で、チラチラと俺と由比ヶ浜を見ながら答える。

陽乃さんの代わりか、陽乃さんはもしかすると京都で、土御門家一門として挨拶回りをしているのかもしれないな。

 

俺は、この二人の親はどこに居るのだろうと周りを見回していたのだが、それらしき人物は見当たらない。それを察した葉山はその疑問に答える。

「今は、親達だけで挨拶に行っていてね。それでここで待ってるんだ」

 

「そうか、それは邪魔したな」

なるほどな。それならば二人の両親に出くわしたら気まずそうだな。

 

「じゃ、邪魔じゃないわ。私は丁度、時間を持て余していた所よ」

雪ノ下は語気を強くし、早口で言う。

 

「じゃあ、ゆきのん。隣座って良い?」

由比ヶ浜は雪ノ下の隣、葉山の前に座る。

俺も仕方がなく、葉山の隣、雪ノ下の前に座る。

雪ノ下は何故かホッとしたような表情をする。

 

「結衣とヒキタニ君はどうしてここに二人で?…聞くのも野暮だったかな?」

葉山は笑顔でそう言いながら、雪ノ下に視線を移していた。

葉山、なにか勘違いしてないか?

 

「二人で……」

雪ノ下は小さな声で呟き、俺と由比ヶ浜が持ってる買い物袋に視線を移していた。

 

「ちょっとね。その買い物に付き合ってもらってたの……」

由比ヶ浜は言い難そうにそう言う。

まあ、雪ノ下の誕生日サプライズプレゼントの事は言い難いわな。

ただ、このまま雪ノ下が親と挨拶回りに行くのなら、雪ノ下は実家に帰るだろうから、このプレゼントは今渡した方がいいのでは?

 

「そ、そう」

雪ノ下は俯き、2人の間に何故か微妙な空気感が流れる。

 

「ああ、小町とタマモもいたんだが、先に帰ってしまってな」

ん?なんだ。よくわからんが、誕生日プレゼントの事を隠そうとすると余計に面倒な事になりそうだな。

 

「そうなのね。小町さんとタマモさんも」

雪ノ下はホッとした表情をする。

 

 

「結衣はヒキタニ君と仲いいよね。いっしょにいると楽しそうだし」

何時もの感じでそう言った葉山だが、何か違和感を感じる。

 

「そ、そかな?」

由比ヶ浜は雪ノ下を見ながら遠慮がちな言い方をする。

 

「まあ、そこそこな」

俺は曖昧な表現で答える。

別に嫌ではない。今更だが、こいつらの前ではあんまり遠慮はいらんし、気が置けない感じはする。

今日みたいな人混みとかは超嫌だがな。

 

「え?…ヒッキー?」

「……」

 

「あれだ由比ヶ浜、今渡した方がいいんじゃないか?」

「え?……その、なんだっけ?」

ガハマさん、なんだっけじゃないでしょう?なに呆けてるんだ?雪ノ下の誕生日プレゼントの事だ!

雪ノ下もなんだ?さっきから、ホッとしたり、俯いたりと、浮き沈みが激しいんだが。

 

「そのだな雪ノ下、今日誕生日だろ?そのプレゼントを選んでだな。その後、お前ん家によろうとしたんだが……どうやら家の用事がありそうだしな、おめでとさん」

俺はそう言って、ラッピングしたプレゼントを雪ノ下に渡す。

 

雪ノ下は意外そうな顔をした後に、俯き加減になりプレゼントを受け取る。

「あの、その…ありがとう」

 

「実はそうだったんだ。ゆきのんにサプライズプレゼントしたかったんだけど、ゆきのん、この後も用事ありそうだし……誕生日おめでとう。ゆきのん!」

由比ヶ浜も俺に習い、プレゼントを渡す。

 

「ありがとう。由比ヶ浜さん」

雪ノ下は今度は由比ヶ浜の顔をしっかりと見据え、笑みを溢し礼を言う。

 

「どういたしまして!」

 

 

「本当に仲いいね。比企谷がこんなことをするなんて、ちょっと意外だったな」

葉山は横に座る俺の方を向き、じっと見据え、顔を近づけ俺にだけ聞こえるぐらいの小声でいう。

その葉山の顔には何時ものスマイルはなかった。

そして、俺の苗字を間違わずに……

なんだ?こいつもわざと俺の苗字を間違えて言ってたのか。

海老名もそうだが、わざと間違う遊びでも流行ってるのか?

 

「まあな、俺もそう思う」

俺は軽い感じで返事を返す。

 

 

 

そんな時、俺達の後ろから……

「お待た…あれ?比企谷君にガハマちゃんも?」




遂にこのあの人が、奉仕部3人の前に……後葉山君+で


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(52)新年早々トラブルに巻き込まれる。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

サブタイトルは
修羅場回?いや……ちょっとした手違いです。


「お待た…あれ?比企谷君にガハマちゃんも?」

 

げっ、陽乃さん。今会いたくない人物ぶっちぎりでナンバー1なんだが。

このメンバーにこの人をって、嫌な予感しかしない。

オシャレな普段着の陽乃さんに俺は会釈するだけに留める。

 

「ゆきのんのお姉さん、こんにちは」

「こんにちはガハマちゃん、陽乃でいいわ」

 

「陽乃さんの挨拶回りは明日では?」

「姉さん。夜半に実家に戻ると言ってなかったかしら?」

葉山は呆れ半分のような表情で、雪ノ下は冷たい視線を向けていた。

 

「京都の用事が早く終わったから、さっき戻ったの。駅から実家に電話したら、雪乃ちゃんがここだっていうから、近いし来ちゃった」

 

「だったら、私に直接電話をしてくれればいいじゃない」

雪ノ下の口調は厳しい。

 

「雪乃ちゃんを驚かせようと思って、驚いてくれた?」

陽乃さんはウインクしながらわざとらしい笑顔を雪ノ下に向ける。

これは外面仮面の陽乃さんだな。

 

「姉さん!そんな事のためにこんなところに、帰って……」

 

「で、比企谷君とガハマちゃんはどうしてここに居るのかな?もしかして、2人でデート!と言う事は、隼人と雪乃ちゃん、比企谷君とガハマちゃんのカップルでダブルデートか。邪魔しちゃったかな?ごめんね雪乃ちゃん。お姉ちゃんそんな事になってるって知らなかったから」

雪ノ下の話を聞かず、俺と由比ヶ浜に尋ね、さらに葉山と雪ノ下を交互にみてから、陽乃さんはこんなことを言って雪ノ下に手を合わせ謝る。

わざとだな。陽乃さん、雪ノ下の前に置いてる誕生日プレゼントに一瞬視線を合わせたし、すべて察したうえで、雪ノ下にこんなことを言ってる。何がしたいんだかこの人は……まあ、妹を構いたいのはわかるが、逆効果じゃないのか?

それに葉山も気が付いてるな。愛想笑いをしてるが、目は呆れたような感じだ。

 

「姉さん!!」

雪ノ下は立ち上がり、陽乃さんに怒りをあらわにする。

 

「で、デート!?その、ち、違います」

由比ヶ浜は顔を赤らめ、もじもじと否定した。

 

「え?違うの?……てっきりそうだと思っちゃったお姉ちゃん」

この人は、ほんと澄ました顔でよくもしゃあしゃあと………外面じゃなくて、霊能者を名乗って土御門に居る時の顔を出せばまだ、マシじゃないのか?

まあ、あれはあれで、内面をさらけ出しすぎというか欲望に忠実と言うか…姉の威厳とか、大人の美人の余裕とかそんなものぶっとんでるから、ここに居る雪ノ下を含め、卒倒するぐらいびっくりするだろうが……。

いや、それはそれで俺が困る。本心かどうかわからんが、あの件で迫られるのは勘弁してほしい。

 

「陽乃さん、その位にしては?」

葉山は苦笑しながら陽乃さんを窘める。

 

「隼人、その位ってなーに?そうだ。私もお昼、まだだから、ご一緒させてもらうね」

陽乃さんは葉山を顔はにこやかだが一瞬冷めた目で一瞥してから、笑顔を振りまきながら、隣の二人席をくっ付け俺の隣に座る。

 

雪ノ下は憮然と、由比ヶ浜と葉山は苦笑していた。

 

「比企谷君、ほんと久しぶりね。元気だった?」

陽乃さんはお決まりのスマイルでそういいつつ、俺の頬を突っついて、体を寄せてくる。

あの、いろいろ勘弁してください。冗談や悪戯でやってるのだろうが、俺も一応男なんで……

 

雪ノ下は氷柱のような視線を俺に浴びせ、由比ヶ浜は戸惑った表情をする。

雪ノ下?なぜ俺?俺は何もしてないぞ。陽乃さんを如何にかしてくれ、自分の姉だろ?

 

「あの雪ノ下さん?……、そっちに座ればいいのでは?」

 

「比企谷君と話すの久々だしね。お姉さんとお話しするのは嫌なのかな?」

俺に体をよせ上目使いをする陽乃さん。そうしつつも、雪ノ下と由比ヶ浜の顔をチラチラと見ていた。

くそ、俺を使って面白がってるなこれ。

 

「……ちょっとトイレに。葉山。すまんがタラコスパ頼んでおいてくれ」

俺はそう言って強引に席を立ち、店を出て、モールのトイレへと行く。

 

 

(なんなんだ。陽乃さんは、雪ノ下を構いに来たのはわかるが、俺をダシに使うのはやめてほしい。まあここで、土御門や、結婚がどうのこうのと出さないだけましか。千葉に居る限りは外面仮面を通そうとするだろう。今は雪ノ下も葉山も由比ヶ浜も居ることだろうしな。葉山の前でそれを言われると俺がGS関係者だとバレるだろうし。その辺は流石に陽乃さんも考慮してくれるだろう。あの場はのらりくらりと無難な対応をし、さっさと飯食ってお別れした方がいいようだな)

 

 

俺がモールの男子トイレを出ると……

陽乃さんが大通りの柱の前で立って待っていた。

 

「八幡遅ーい。折角会いに来たのに。ガハマちゃんとデートなんて浮気だぞ」

ワザとらしい、ふくれっ面の陽乃さん

 

「……外面仮面はどうしたんですか?雪ノ下さん。それとも土御門さんとお呼びすれば」

俺は皮肉たっぷりに言ってやった。

 

「陽乃よ。は・る・の!」

 

「俺は比企谷でお願いします」

 

「八幡の意地悪ー」

そう言って俺の腕を強引にとり抱き寄せる陽乃さん。

勘弁してください。俺はこう見ても健全な男子高校生なんですよ。

性格はさておき、見た目とスタイルはモデル顔負けなんですから、いろいろと柔らかいものが当たってますよ。その俺もいろいろと緊張したりしちゃうわけで……

 

「あの、勘弁してください。雪ノ下に会いに来たんじゃないんですか?」

 

「雪乃ちゃんに会いに来たってのは嘘。実はさっき妹ちゃんに電話して、八幡がここに居るって教えて貰ったの」

おーーい。小町さん?何やっちゃってくれてるんだ?俺と由比ヶ浜を置いてけぼりにしておいて、なんで、この人をここに呼んじゃうかな?わけがわからん。八幡的に超ポイント低いんですけど。

 

「はぁ、で、俺に何の用事ですか?電話すればいいじゃないですか?」

 

「事前連絡したら、八幡はツンデレさんだから、何だかんだとお姉さんとのデート断るでしょ?だから、現場に乗り込んで、無理やり連れ出すの」

ツンデレ……って誰がデレた!いや、今の状況では顔に出てそうだな…其れよりもなにそれ?どこの工作員よ。それって誘拐って言うんじゃないでしょうか?

 

「今日は、由比ヶ浜と小町ともう一人とで、買い物に来てたんですよ。雪ノ下さんもわかってると思いますが、雪ノ下の誕生日プレゼントを買いにですよ」

 

「やっぱりね。さっき雪乃ちゃん。あのラッピングされた袋と箱、大事そうにしてたものね。それで、比企谷君達は偶然雪乃ちゃんと隼人にここで会ったって感じかな?」

陽乃さんは八幡呼びをやめ、こんなことを言ってきた。

 

「わかってたんなら、なんであんな事を言ったんですか?」

 

「面白そうだったから?」

あっけらかんと言う陽乃さん。

この人はこういう人だった。

 

「はぁ」

俺は盛大にため息を吐く。

 

「比企谷君はあれかな?女たらしなのかな?こんな魅力的なフィアンセがいるのに、雪乃ちゃんとガハマちゃんをデレデレにさせちゃって」

 

「はぁ?誰が誰をデレデレにしたんですか?というか、誰がフィアンセですか?」

 

「……まあ、いいわ。……比企谷君。11月に会ったときと雰囲気が違うわね。……また成長した?」

陽乃さんは真面目な顔になる。

 

「まあ、誰かさんに盛大に負けて、京都でも全然役立たずだったんでね。それなりに修行しましたよ。ちょっとはあの時よりは強くなったつもりですよ」

 

「うーん。私もうかうかしてられないわ。それはそうと、今からお姉さんとデートしましょ八幡」

陽乃さんは真面目な表情から、一気に崩し、また八幡呼びを始める。

 

「なんでそんな話になるんですか?」

 

「だって、もう八幡暇でしょ?ガハマちゃん達と雪乃ちゃんのプレゼントを買い終わったし、しかも、もうプレゼントは雪乃ちゃんに渡したでしょ?だったら、もう後はお姉さんとデートしか残ってないでしょ?」

なぜそうなる?

 

「……この後仕事が」

 

「無いって妹ちゃんが言ってたわよ」

笑顔の陽乃さん。

なにこれ……逃げ道がないんですけど。

 

 

そんな時不意に携帯が鳴る。

左腕は陽乃さんに取られたままだ。ちょっと腕を外してほしいと視線を送ったのだが、返ってきた視線は『嫌よ』という意思がありありと伝わってきた。

俺はため息を吐き、仕方なくその状態で電話を取る。

相手は美神さんだ。緊急要件かな?それなら助かる。デートせずに済むからだ。

 

「明けまして、おめで……」

 

『比企谷君!今、実家!?』

 

「出かけてますが、千葉に居ますよ」

 

『よかった。比企谷君ちょっと個人的に助けてほしい事があるの!そのアンチラとアジラがそっち逃げたのよ、予想進路は東京湾を渡って千葉に!』

 

「ちょ、待ってください。それって六道冥子さんの十二神将じゃ……」

 

『そうなの、冥子と六道おば様が、家の実家に遊びに来て、間違って冥子とおば様が日本酒飲んでぶっ倒れちゃって、式神たちも酔っぱらってコントロールが効かなくなって逃げちゃったの!あんなのが暴れたら、とんでもない事になるわ!!事前に7体は確保したのだけど、後の5体は、今、ママが1体、唐巣先生に頼んでもう1体追ってるわ。私も今インダラを追ってるのよ。早いったらありゃしない。タマモも居るんでしょ?二人で何とかしてーーー!!」

何それ、なんでそんな事になってるの?十二神将が暴れるとか……街が壊滅するんじゃ?

美神さん相当焦ってるな、半分泣きが入ってたよな。冥子さんが関わるといっつもこれだ。

 

「ちょっ……」

 

『頼んだわよ!!』

そう言って美神さんは通話を切る。

さっきまで緊急要件で陽乃さんのデートを断れるとホッとしてたのだが、流石にこれはやばいな。あの十二神将を相手にしないといけないのか……どっちもどっちか。

 

「ふふーーん。お困りのようね。はーちまん」

不敵な笑みを俺の腕をとりながら、湛える陽乃さん。どうやら、電話の内容が聞こえていたようだ。

 

これは除霊とかじゃなくて、多分GS協会に言えない個人的な依頼のハズ。

だってそうだろ。GS協会理事長の娘の式神が暴走して、四方八方に逃げたんだから!

世間に広まったら、間違いなく不祥事として叩かれる。

まあ、六道家からは報酬は出るだろうけど……

被害が出ない内に秘密裏に何とかしろと言う事だろう。きっと。

相手はあの十二神将だぞ!しかも二体。どうやら本能的に十二支の方角に逃げてるようだが……

だから、アンチラとアジラは東京から東、東南方面へ逃げてるのか。

 

「あのー、その手伝っていただけますか、その協会とか関係なしに個人的になんですが」

1人じゃ流石に厳しい。同じ式神使いである陽乃さんが居れば心強いのだが。

 

「どうしようかな~~」

 

「あのー」

 

「せっかく、今日デートしようと思ったのになーー」

陽乃さんはチラッと俺の方を上目使いで見る。

 

「その、きっとその埋め合わせはしますんで」

 

「じゃあ、お姉さんと一泊お泊りデート!」

おいーーー!!それって既成事実を作られるのでは!?俺の貞操の危機なのでは!?

 

「その流石に未成年ですんで」

 

「八幡は真面目さんなんだから、じゃあ、お姉さんと温泉旅行の旅!」

おいーーー!!それっていっしょじゃねーーか!!

 

「さっきと一緒なんですが?…全く無関係ってわけでもないでしょ?千葉にも被害が出るかもしれないし、何とかなりませんか?」

 

「えーーー、それって、GS協会通してないんでしょ?いくら、逃げた式神の回収といえども、一般市民に脅威となる存在なら、事前公表する決まりよね。それを個人的にって?これってGS協会上層部の癒着とかそんなんじゃないかしら?」

まじで、完全に足元を見られてる。俺も完全にとばっちりなんですが!誰だよ!!六道親子に酒飲ましたのは!!多分、家(事務所)の身内の不始末だよな。くそっ!背に腹は代えられないか。

 

「もう、それでいいです」

 

「やたー!」

嬉しそうにする陽乃さん。

いやその、まじで、俺を婿に狙ってる?




修羅場は一応回避できたけど、別の修羅場が><
雪ノ下母は一応次回ちょろっと出ます。



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(53)初めての共同作業

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前回の続きの決着です。
いえ、式神のね。
ちょっと長めです。


美神さんから、六道冥子さんの式神、十二神将の内の二体が、千葉方面にコントロール不能で逃げ出したと連絡があった。

美神さんは半泣き状態で、何でもいいから捕まえろと。

かなり無茶振りなんですが、俺は式神についてはGS試験程度の基本知識しかない。

うちの事務所には式神使いはいなし、対式神戦は心得てるが、それは扱うのとは全く別物だ。

捕えろと言われてもな。

一応基本は理解してるのだが、式神を捕えるには、式神を攻撃や術式で弱体化させて、捕え屈服させ拘束するのがセオリー。

ただ、今回の相手はそれだけでも一苦労なのだが、その後の処理もさらに問題だ。相手は攻撃特殊能力を持った式神だ。しかもあの十二神将だ。生半可な霊的拘束でどうにかなるものなのか……やはりちゃんとした封印を行う必要がありそうだ。

しかし、今の俺ではあのレベルの式神の封印は出来ないだろう。

式神に対する知識や経験が不足しすぎてる。

 

幸か不幸か丁度居合わせた土御門家の術式と式神を操る陰陽師の陽乃さんに、致し方なくお願いし協力を取り付けたのだが、見返りは温泉旅行という事になった。

何それ?まあ、超金持ちだからお金とかは要らないのだろうが、俺と温泉旅行に行って楽しいのか?それともマジで俺を婿にしようと?

はぁ、この頃、トラブルが望んでもないのに向こうからやって来る。

しかも、今回はどうやら身内の不始末が原因らしいしな!

 

 

式神は東京から東京湾沿岸を伝って千葉に到着するだろう。

何方にしろ、理性を失った式神は本能の赴くままに、ただ単に美神さんの実家から東や東南に向かってるだけだからな。最終到達点はわからないが、通過する場所はある程度限定されているため予想付きやすい。

 

このまま黙って行くわけにもいかないだろう。陽乃さんも居ることだしな。由比ヶ浜と雪ノ下には、軽く挨拶して、行くか。まだ時間はある。

 

俺は陽乃さんと先ほどの喫茶店に戻ると、着物姿の女性が雪ノ下に話しかけていた。

その女性は、雪ノ下と陽乃さんと顔立ちがそっくりだが、40前後の大人の女性だ。多分雪ノ下達の母親だろう。

 

俺はその女性に軽く会釈してから、由比ヶ浜達に話しかける。

「由比ヶ浜すまん。バイト先の仕事が急に入ってな。先に行くわ。雪ノ下も葉山も悪いがここでな。俺のタラコスパ代分は後日払う」

 

「ヒッキー、気を付けてね」

「比企谷君、その、プレゼントありがとう。また、学校で」

由比ヶ浜と雪ノ下はその話だけで、GS関係のトラブルだろうと察してくれたのだろう。俺を何も言わずに、送り出してくれる。

 

「ヒキタニくん、バイトしてるんだ。それも意外だな」

葉山にはバイトはバレたが、GSとは流石にわからないだろう。

 

「あら陽乃。こんなに早く帰って来るなんて、土御門のご当主様には失礼は無かったのかしら?それと、彼は?雪乃も陽乃も知り合いの様ね」

雪ノ下の母親らしき女性は陽乃さんを見つけると声を掛ける。

 

「母さん。問題ないわ。それと彼は雪乃ちゃんとは同級生の比企谷君。私と比企谷君は……うーん。今は友達かな?それで将来は旦那さんかしら?」

おいーーーー!!何言ってんだこの人!!問題大ありだーーー!!

俺は額に手をやり、やってしまったとばかりに大きくため息を吐く。

 

「えーーーー!!ヒッキー!?」

「ね、ね、姉さん!?」

由比ヶ浜は目を見開いて驚き、雪ノ下はかなり混乱したような顔をしていた。

 

「陽乃、説明してくれるかしら?勝手なことは許されませんよ。雪乃はこうして雪ノ下の跡を、あなたは本家の人間として、土御門と雪ノ下を強固にし、関西にも雪ノ下の基盤をと」

雪ノ下の母親は陽乃さんに説教を始める。

 

「母さん、帰ったら説明するわ。私も用事が出来たから、先に失礼するわ」

陽乃さんは母親の小言を遮るようにそう言って、先に店を出て行った。

 

「陽乃!!」

 

「あの!この人の冗談なんで!真に受けないでください!!俺は用事があるので失礼します」

ここは誤解の無い様に言っておかないと後で大変なことになる。

そう、語気を強め、踵を変え店を出て行った。

 

「まあまあ、陽乃さんのいつもの冗談ですよ。きっと」

葉山がそうフォローするのが後ろから聞こえてくる。ナイスだ葉山。タラコスパの代金は必ず払うし、マッ缶もつけてやろう。

 

 

 

「なんなんですかあれは!!」

俺は早足で陽乃さんに追いつき、噛みつく。

 

「何怒ってるの?八幡」

 

「将来の旦那さんって!なぜこのタイミングで言います!?」

絶対何か企んでるな。母親に対する何かの当てつけだろ!

 

「えーー?だったら正式に家に来て言う?」

 

「そういう問題じゃないでしょ!!俺は将来、陽乃さんと結婚なんて全然決めてませんよ!!」

俺は語気を強くし、はっきりと言う。こうでもしないと、この人はじわじわと周りから俺を攻めてくる。

今回の事もそうだ。ついに、自分の実家にも何らかの工作を企み始めた。

俺をダシに使ってだ。いや、俺との結婚すらも計画の一つなのかもしれない。

 

「えー、いいじゃない。どうせ将来そうなるんだし」

 

「ちゃんと説明してくださいよ。雪ノ下にも親御さんにも、さっきのは冗談だったって!」

 

「冗談じゃないのに」

 

「いいですね!!」

俺は早足でこのモールの外に向かいながら、陽乃さんに強く念押しする。

 

「もう、わかったわよ。でも、温泉旅行の約束は忘れないでよ」

拗ねた表情をする陽乃さん。

この本心さらけ出した陽乃さんは感情を子供のようにコロコロ変えるからトリッキー過ぎて、つかみどころが無さすぎだ!

 

「……それは約束しましたし、わかりました。でもちゃんと式神を捕えてからです」

 

「俄然やる気がでるわね!」

そう言う陽乃さんの目はギラついていた。

ほんと戦い好きだなこの人。

 

 

タクシーを捕まえ乗り込む。

タマモに連絡すると、実は小町とタマモは家に帰っておらず。

雪ノ下のプレゼントを速攻買って、有名店のスイーツ食べ放題を堪能し、プリクラ撮って、タマモが行きたがっていた古本屋に寄ってたのだそうだ。

なぜ、家に帰ったなんて言ったんだ小町の奴。

まあ、そのおかげで合流するのが早くなるのだがな。

 

俺の予想では、式神達は幕張沿岸を通過すると……

アンチラは本来本能的に真東、アジラは東南から東南東に突っ走るはずだ。

アンチラは十二支の卯の式神だ。姿はウサギそのもので、動きがかなり俊敏で速い。耳が鋭い刃物になっており、対象物を切り裂く。

アジラは十二支の辰の式神だ。姿はイグアナかカメレオンのような姿で結構小さい。口から炎を吐き、それに触れると石化するのだ。ただ、動きはそれほど速くない。

何れにしろ、二匹とも空中に長期間飛翔できる式神ではない。

だから東京湾沿岸を多少大回りし進むはずだ。

予想では、アジラはアンチラの背中に乗って移動してる。

美神さんはその二匹は同じ方向に向かったと言ってる事からもそうだろう。

もし、アジラが単独で移動したのなら、下手をすると東京湾を横断するアクアラインを通る可能性がある。

 

 

幕張海浜公園に到着し、タマモとも合流を果たす。

 

「で……八幡、この金髪美女は誰?また浮気かしら?人じゃなさそうだけど」

陽乃さんはジトっとした目で俺と俺の隣に居るタマモを見る。

流石に優秀な霊能者にはわかっちゃうよな。

浮気って、その話は身内の前で勘弁してください。

 

「はぁ、うちの事務所の同僚のタマモです」

俺の胃は持つのだろうか?

 

「タマモさんっていうの。ふーん。ん?美神令子除霊事務所に妖狐が所属してるって聞いてたけど、その霊格……まさか、九尾の妖狐、大妖怪玉藻前!?」

陽乃さんは大いに驚いて、タマモをまじまじと見る。

見る人が見るとわかっちゃうもんだな。仮にも陽乃さんは土御門家門下の霊能者だ。その辺の知識も豊富なのだろう。

 

「そうらしいです。転生体とはつきますが」

 

「……八幡、私と八幡だけで十分じゃない?なんでこの人いるの?」

タマモは陽乃さんを一瞥してから、俺に小声で言う。

 

「聞こえてるわよ。あなたこそ邪魔じゃない?せっかくの八幡との初めての共同作業なのよ!」

それ。言い方がおかしくないですか?

陽乃さんは俺越しにタマモに文句たらしく言う。

九尾の妖狐と知ってもお構いなしだな。度胸がいいと言うかなんて言うか。普通は気後れ位するものだろうに。

 

「いや、俺は式神の封印術式は素人同然だ。あの強力な式神を封印するには、この人の協力が必要なんだ」

俺は陽乃さんの戯言を無視しタマモに説明する。

いちいち反応していたら話が進まんからな。

 

「ほら、私の方が八幡のパートナーにふさわしいんだから!」

陽乃さんはそう言って俺の腕にしがみつく。

何、張り合ってるんですか陽乃さん?何時もの余裕は?外面仮面のあんたはそんなキャラじゃないでしょう?

まあ、素を丸出しの陽乃さんは、感情が赴くままだな。まじで、ちょっとアレだな、中学生レベルな感じがする。

陽乃さんもかなりの美女だけど、タマモは何ていうか、多少ツンツンしてるが気品も色気もある金髪美少女だ。自分に匹敵する存在に、その辺で張り合ってるのだろうか?

 

「精々、私と八幡の邪魔はしないようにお願いするわ」

タマモは相変わらずツンとした態度だ。

 

「ふんだ」

陽乃さんは子供っぽくそっぽを向く。

美女は美女同士仲良くしてほしい。

胃がキリキリしてくるんですが。

 

 

 

俺は霊視能力を最大限に発揮させ、近辺を警戒する。

3キロ先を飛び跳ねるように海岸埠頭をこっちに進む式神を発見する。

予想通り、アンチラ上にアジラが乗っていた。

俺は2匹まとめて居た事にホッとする。

「来たな……」

 

「流石ね八幡。私にはまだ見えないわ」

「当然よ。八幡とあなたを一緒にしないで」

「「フン」」

いちいちいがみ合うのはやめていただけないでしょうか?

い、胃が痛い。

 

「タマモ。式神が範囲内に入ってきたら幻術と幻影で付近の一般人の人払いと俺達を見えないようにしてくれ」

 

「わかったわ」

 

「陽乃さんは式神封印術式の準備をって、あの陽乃さん?そろそろ腕、離してもらえませんか?」

 

「仕方ないわね。ちゃっちゃと終わらせて、温泉旅館の予約をしないとね」

そんな事を言いつつ、やはり土御門の陰陽師。

封印用の札をセカンドバックから2枚取り出し、そこに言霊を乗せ術式を足して行く。

やはり、通常の封印札では対応できないようだ。俺も始めて見る術式だ。

多分、土御門の術式なのだろう。

 

 

「作戦はさっき説明したとおりです。……来ました!」

 

アンチラがかなりのスピードで飛び跳ねるように、この海岸公園に入ってきた。

 

俺はあらかじめ海岸公園に仕掛けていた、数枚の札と砂で描いた簡易拘束術式を起動させる。

 

同時にタマモは手を空に掲げ、幻術を幕張海浜公園一帯広範囲に展開。そして俺達の周囲に幻影を張った。これで目撃者も人的被害も出ないだろう。

流石タマモだこれだけの規模の幻影・幻術をなんなくこなす。

 

俺が起動させた簡易拘束術はアンチラとアジラを空中で捕えるが、直ぐにアンチラの耳のブレードで拘束術式ごと断ち切られる。

それは想定済みだ。

 

俺はその間に、身体基礎能力強化と霊視空間把握能力を発動させ、アンチラのブレードから放たれる風刀をけん制しつつ、アンチラとアジラの核を探る。アンチラとアジラをなるべく海側に足止めと気を引くために、陽乃さんに間合いを取りながら氷結術を断続的に行ってもらい、けん制してもらう。

タマモには、周りに被害が出ないように、アジラが放った石化炎ブレスの対処をしてもらう。

式神たちの攻撃を見過ごすと、公園の並木や林、構造物が、真っ二つになったり、石になったりしてしまい。明日にはニュースになってしまう。それは避けなければならない。秘密裏に処理をしなくてはならないのだ。

普通に相対するよりも、気を使わなければならない。

さらに、倒すよりも、捕まえる方が難易度が数倍に跳ね上がる。

 

「流石は六道家の十二神将ってところね。氷結術があの炎でかき消されるわ」

氷結術を操りながら、俺に声を掛ける陽乃さん。

 

「陽乃さん成功です。アンチラとアジラは俺達の事を敵とみなしました。これでどこかに行くことはないでしょう。核の場所もわかりました」

俺もサイキックソーサーで間合いを取りながらアンチラのブレードから放たれる風刀を捌く。

アンチラのブレードに直接触れるのは自殺行為だが、そこから放たれる風の刃は防ぐことが出来る。

 

「これで、ようやく全力を出せるわね」

そう言って陽乃さんは一本角の鬼の自らの式神、雪刃丸を顕現させる。

 

「全力はやめてください。消滅してしまったら元も子も無いので、十二神将は術者から相当離れてるから、十分に力が発揮出来ず、弱体化してる状態なんですから」

 

「これで、本調子じゃないの?末恐ろしいわね。こんなのが十二体同時に操れるっていうの、六道冥子は。相当な化け物ね」

そう、今の十二神将は本来の力を失いつつある。依り代となってる六道冥子さんと物理的にも霊的にも距離が離れすぎてるからだ。

六道冥子さんが化け物って、……同じ式神使いだからその凄まじい力を肌に感じたんだろう。十二神将を侍らかしてる姿はまさに百鬼夜行だけどな。

本人は、世事に疎い、ぽわぽわ系の超絶お嬢様なんだよな。こんな恐ろし気な式神達を操れるとはとても思えない。

 

「八幡、あの子たち、びっくりしてるだけ。驚いて逃げだしただけみたい」

タマモは炎を操り、アジラの石化炎を相殺しながら俺に言う。

 

「後は任せろ。……陽乃さんは封印術式の準備を」

 

「比企谷君?私の方がよくない?雪刃丸だったら、あの式神の攻撃ごと叩きのめすことが出来るわ」

確かに、陽乃さんの式神雪刃丸一体だけなら、十二神将に引けを取らない。力が十分発揮できないアンチラとアジラを叩きのめすことが出来るだろう。しかし……

 

「流石に叩きのめすのは気が引けますんで、核に直接霊気を送り込んで、活動を鈍らせます。

その間に、封印術式をお願いします」

 

「直接って、弱体化してるとは言え、あのウサギの式神(アンチラ)のブレードの切れ味と間合いは脅威よ。流石に直接切られたら、怪我じゃすまないわ。そんなリスクを負う必要はないわ」

 

「大丈夫です。当たらなければいいんで」

 

「八幡、小町を悲しませるような事だけはしないでね」

タマモはそっけなく言うが、どうやら心配してくれてるらしい。

 

「大丈夫だ。流石に二体同時は厄介だから、離してほしい」

 

「はぁ、比企谷君はとことんお人よしね。これじゃ、先が思いやられるわ。でも嫌いじゃないわ」

 

「わかったわ」

 

 

俺は集中を高め、霊気を放出する。

身体基礎能力を更に高め、霊視空間把握能力の発展形、霊視空間結界を発動する。

 

陽乃さんの氷結術と雪刃丸の連携、さらにタマモの火遁の術で、アジラは、アンチラから離れた。

 

先ずは、アンチラからだ。

俺は地面の上で体勢を低くして威嚇するアンチラの真正面に一気に迫る。

アンチラは両耳のブレードを振り回し、けん制してくるが、既に俺の霊視空間結界の間合いの中、どこから攻撃してくるかは把握済みだ。更に黒い雲、俺のシャドウ、『ダーク・アンド・ダーククラウド』省略、『ダーククラウド』を顕現させ、アンチラの速度を鈍らせる。

俺は若干スピードが落ちたアンチラのブレードを掻い潜り、頭の核に振れ、霊気を送り込む。

弱体化したとしても、アンチラの動きやブレード捌きはかなりのスピードだ。しかし、横島師匠の組手や小竜姫様のあの超スピードに比べれば、どうってことはない。

ダーククラウドを出すまでもなかったかもしれないが、これも慣れておかないとな。

 

そして、俺はそのままジャンプし、空へ逃れたアジラを追う。アジラの石化炎ブレスはタマモの炎によって悉く無効化されていた。俺はアジラの腹の核に振れ、霊気を送り込む。

 

核に霊気を注がれたアンチラとアジラは一時的にフリーズ状態になり、活動を停止する。

 

「陽乃さん、今です!」

 

「え?ええ、わかったわ」

陽乃さんは俺が声を掛けた際、呆けた表情をしていたが、直ぐに態勢を整え、アンチラとアジラに封印札を飛ばす。アンチラとアジラは封印札に振れると同時に、陽乃さんは印を結び。封印札から術を展開させ、アンチラとアジラは札の中へと姿を消していく。

 

俺はその札を回収し、陽乃さんとタマモの元に駆けつけ、礼を言う。

「陽乃さん助かりました。流石は土御門の陰陽師ですね。封印も完璧です。俺ではこうはいかなかった。タマモも助かった」

 

「……比企谷君、前に試合をした時とはまるで動きが別人。スピードが段違いよ。相手の式神の動きが鈍くなったような……あれも何かの術なの?」

俺が思っていた反応とは違い、静かに何故か悔しそうに俺にポツリポツリと聞いてくる。

てっきり、今からデートとか、温泉旅行プランたてに行こうとか言うかと思ったのだが……

 

「言ったでしょ、悔しかったから修行したって、あの術はまだ改良中なんで、企業秘密です」

 

「そう……私も修行しなくっちゃ……こうしては居られないわ。あなたに負けてられない!!いーい!!八幡!!私は強くなって!!また、あなたを追い越すわ!!覚悟しておいて!!今から京都に戻る!!」

陽乃さんは最初は小声だったが、急に俺を戦闘中のようなギラ付いた眼で見据え、大声で一方的に宣言し、踵を返し公園出口の方へ歩み出した。

ええー、何それ、なんかライバル宣言みたいな感じなんですが、あのー、それ以上陽乃さんに強くなってもらっては困るんですが。それと今から京都って、今日帰ってきたばっかりなのでは?しかも明日からこっちで挨拶回りがあるんじゃ。

 

 

「温泉旅行の約束は忘れないでね。はーちまん」

陽乃さんは急に立ち止まり、こちらに振り返って笑顔でそんなこと言って投げキスを送って来る。

その約束は無しにしてほしかった。

 

しばらく、俺は公園を後にする陽乃さんの背中を眺めていた。

きっと陽乃さん、今度会ったときには強くなってるんだろうなーと漠然と思っていた。

 

「八幡。あの人何なの?八幡の何?小町も気に入ってたみたいだけど」

隣でタマモが俺の肩をつつき、いぶかし気に聞いてきた。

 

「なんなんだろ。よくわからんがライバル?なのかな?」

 

「それだけ?」

 

「さあな」

それだけであってほしい。結婚とか旦那さんとかは無しの方向で。

確かに俺の同期で、実力が拮抗していたのは陽乃さんだけだ。

ライバルと言ってもいいのかもしれない。

何だかんだとよく関わるしな。

 

「あああーーー!!あの人、このまま京都に帰るつもりか!!せめて母親と妹に誤解を解いてから帰ってくれよな!!」

俺は思い出した。あの人がここに来る前に悪戯なのかよくわからん爆弾発言をとんでもない場所で残していったのを!!どーするんだよこれ!!




次回は、久々の学校と奉仕部です。

陽乃さんの八幡呼びと比企谷呼びが混ざってるのはわざとです。
真面目な話をしてる時は比企谷呼びになってます。


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(54)噂

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

新学期編。ようやく始業式です。


1月5日

新学期、学校では体育館で恒例の始業式に参加させられ、長ったらしい校長の挨拶が始まる。

必殺、その場でぼーっとするを使い、時間を有意義に費やすとする。

 

一昨日の六道冥子さんの式神逃亡事件は、何とか秘密裏に対処ができた。

どうやら、メディアやなんやらに嗅ぎ付けられることなく、何とかなったようだ。

昨日事務所に呼ばれて、美神さんと美智恵さんに褒められたが、陽乃さんに手伝ってもらったと報告したら、昨年の一件以降、土御門家を毛嫌いしてる美神さんの機嫌が一気に悪くなる。美智恵さんはその横で澄まし顔だ。

だって、仕方がないだろ?最強クラスの式神、十二神将の封印なんて俺に出来るわけがないんだ。

いくら、霊的能力が修行で上がったって、知識や経験とさらに適性がないと出来るわけない。

美神さんや美智恵さん、唐巣神父みたいに経験豊富じゃないんだから、無茶は言わないで欲しい。

まあ、機嫌が悪くなっただけで、怒ったりはしなかったけどな。その辺は重々理解してるのだろう。

 

その後、六道冥子さんと母親の六道会長が、わざわざお礼に来た。

冥子さんに涙ながらいきなり両手を握られ、お礼を言われた時には焦った。

可愛らしい女性に手を握られて緊張してとかじゃないぞ。泣いて式神暴走するんじゃないかと焦ったのだ。手を握られた状態だと逃げることもできない。十二神将揃い踏みで暴走されたら、俺の命なんて、一瞬で吹っ飛んでしまうだろう。

後で美神さんに聞いたのだが、母親の六道会長が居る場では、六道会長が式神をコントロールするから暴走はしないそうだ。

ただ、先日みたいに、2人とも酒飲んでダウンすると、もうダメみたいだな。

一昨日、美神さんの実家に遊びに来た六道親子は、そこに置いてあったお酒を水かジュースかに間違えて飲んでしまったらしいのだ。

しかし、美智恵さんならそんな事になるのがわかってるはずだ。なのに六道親子の前にそんなものを置くかな?まあ、正月だし、美智恵さんも少々酔っていたに違いない。

 

それで六道会長に騒動のお礼にと、小切手で金一封貰ったんだが、その額を見て俺は驚き、目が点になる。桁が一つ多い様に思うんですが。

多分これは口止め料だろう。日本屈指の霊能者の家系、六道家のご令嬢の不始末など、マスコミの恰好の餌食だ。にこやかな六道会長の顔が何故か恐ろし気に見える。……気にしないでおこう。

タマモも金一封貰ってたな。多分全部本に消えるのだろうが。

六道会長にも一応、陽乃さんに手伝ってもらったことを話すと、土御門家にもお礼をしないとと、にこやかに、話していた。

西の陰陽師の大家、土御門家。東の陰陽師の流れを組む式神使いの大家、六道家。

東西の霊能者の大家だけあって、仲が悪いかもしれないなと漠然と思っていたが、そうでもないのかもしれない。

 

昨日の昼はまだ、横島師匠もキヌさんもシロもまだ帰ってきてなかったな。

代わりに俺が、お茶菓子の用意と掃除をさせられたが。

 

 

俺は体育館から教室に戻り授業の準備をする。妙に視線を感じる。

なんだ?

 

そこに天使登場。

「八幡、明けましておめでとう」

 

「お、おう、おめでとさん」

 

「今年もよろしくね」

戸塚の笑顔が眩しいんだが、今年はいい事が起きそうな予感がする。

 

「おう」

 

 

そこに不意に葉山の声が耳に入って来る。

「誰がそんな事を言ったんだ?」

葉山にしては語気が強く、攻撃的な言葉だ。

 

「い、いやー、噂になってるべ。隼人くんが雪ノ下さんとオシャレして年始に一緒に歩いていたって」

戸部はそんな葉山に弁解するように答える。

あれだな、雪ノ下家と葉山家に年始挨拶回りをしてる姿を見られたんだな。二人で喫茶店とかで待機してたしな。

 

「それ、俺も聞いた。隼人君と雪ノ下さんが付き合ってるって、学校中に噂にな、な、大和」

同じ葉山グループの大岡が戸部のフォローをする感じで、大和にも同意を求めていた。

 

「根も葉もない噂だ。俺と雪ノ下さんはそんな関係じゃないし、そんな事を信じるもんじゃない」

葉山は、顔をしかめ強く言う。葉山がこんなに感情を出すのは珍しいな。

雪ノ下に関係してるからか?雪ノ下と葉山の二人は幼馴染らしいが、雪ノ下は葉山に対して一方的に厳しい態度をとっている。過去に二人の間に何かあったのかもしれないな。

 

「そうだよな、噂は噂だよな、な」

大岡は葉山の形相に焦りながらも、そう言うと、つられて大和も頷いていた。

 

「そうだと思ってたんだよな。どうせテキトーな噂だべ。だってさー、ヒキタニ君が超絶金髪美女とデートしてたとか、オシャレ系美人お姉さんとデートしてたとか男連中の間で噂になってるとか、それは流石に無いべ」

戸部がとんでもない事を言い出した。

おいー!!その噂!!詳しく聞こうか!!

なんだそれ!そんなの噂になってるのか!?だから今朝から視線が俺に?

 

「八幡。彼女が出来たの?」

戸塚も戸部の発言が聞こえたのか、俺に首を傾げながら聞いてきた。

何そのしぐさ、かわいい。言ってる場合じゃない。

 

「いや、根も葉も無い噂だ。そんな事を信じるなんて、よっぽど暇なんだな」

俺は葉山の口調を真似をして、言ってみた。

 

「八幡、似てないね」

戸塚は苦笑する。

自分では似てると思ったのだが……

しかし、見られていたのか、確かにタマモとはあの後自宅まで、一緒に帰ったし、モールでは陽乃さんとも行動を共にしてたからな。

 

そういえば、陽乃さん。あの後、将来の旦那さん発言を母親と雪ノ下に冗談だったと弁明してくれたのだろうか?

奉仕部に行くのが怖い。

 

 

放課後、足取りを重くし、奉仕部へと向かう。

 

「うす」

 

「あら、比企谷君。いいえ、お義兄さんとでも呼べばいいのかしら?」

雪ノ下の、のっけからの凍てつく視線攻撃だ。

ほら、全然誤解が解けてない。あの人、絶対ワザと弁明してないな!

 

「だから、あれは雪ノ下さんの冗談だと言っただろ?雪ノ下さんは何か言ってなかったか?」

 

「あの後、姉さんは京都に帰ったままよ。電話しても出ないわ。それにしても随分姉さんと仲がよろしいようで、将来のお義兄さんの女たらし谷くん」

ひと昔の、雪ノ下に戻ったかのような、冷たい視線に毒舌だ。

 

「違うって言ってるだろ。あの人は俺を使って遊んでるだけだ。何時もの奴だ」

 

「母さんの前でも、よく冗談を口にしてたのだけど、重要な件であんな冗談を言う事は無かったわ。母さんもかなり冠で、あなたの事を色々聞かれたわ」

 

「はぁ、何考えてるんだか……」

俺はため息しか出ない。

雪ノ下の母ちゃんってなんか怖そうだったし、直接俺に尋問しに来たりしないよな。

 

「あなたの態度を見てると、どうやら姉さんの冗談だったようね」

どうやら雪ノ下はわかってくれたようだ。

 

「俺は隠し事はするが、嘘はなるべく言わん」

 

「あなたね、それは全く弁明になってないわよ」

雪ノ下は呆れたように言う。

 

 

勢いよく、奉仕部の扉が開く。

「ヒッキー―――!!陽乃さんの旦那さんになるってどういう事!!」

またか。しかし何でお前、そんなに怒ってるんだ?由比ヶ浜。

 

「あれは、雪ノ下さんの冗談だって言っただろ?」

 

「だって!!ゆきのんのお母さんも、めちゃくちゃ怒ってたし!!」

 

「俺にはその気は無い」

 

「ヒッキー、ほんと?」

 

「ああ、本当だ」

 

「うーー、陽乃さんって美人でお金持ちだし、GSでちゃんと仕事してるし、優しそうで、ヒッキーの事を好きそうだし!それに、ヒッキーこの前、昔はヒモになりたかったって言ってたじゃん!」

恨めしそうに俺を見つめる由比ヶ浜。

 

「おい由比ヶ浜、間違えるなよ。ヒモじゃない、専業主夫だ」

ヒモと専業主夫は大違いだ。ヒモはただ単に、奥さんの利益を吸い上げるだけの存在だ。

専業主夫は家庭を守り、家の一切合切を取り仕切る。要するに働く奥さんとはギブ・アンド・テイクな関係なんだ。そこは間違えるなよ。

 

「あなた、そこは否定しないのね」

やはりというか、やっぱり呆れる雪ノ下。

 

「はぁ、俺は雪ノ下さんとは、いわば、商売敵みたいなもんなんだぞ」

 

「うー、わかった。ヒッキーを信じる」

何でそんなにこだわるんだ?俺が陽乃さんともし、いや、万が一、将来を誓い合った許嫁だとして、由比ヶ浜に何の不利益があるんだ?

 

 

「一旦落ち着きましょう」

雪ノ下はそう言って、ティーセットの用意をし、紅茶を俺達に入れてくれる。

その際、由比ヶ浜に誕生日プレゼントで貰った猫のミトンをつけていた。

どうやら、気に入ってるようだ。

 

「それにヒッキー、変な噂になってるよ。ヒッキーが年始に綺麗な女の人とデートしてたって、多分、あの日のタマモちゃんと陽乃さんの事だと思うけど」

紅茶を息を吹きかけ、冷ましながら、由比ヶ浜は顔をしかめていた。

 

「まあ、俺の噂など直ぐに消えるだろ。嫌われ者の俺のそんな噂なんて、面白くもなんともないからな」

俺は紅茶を飲みながら答える。

 

「あとね、その」

由比ヶ浜は何かを言いたげだが、言い難そうにする。

多分あれだ。雪ノ下の噂の事だろう。

 

 

部室に扉にノックする音が響く。

雪ノ下がどうぞと入室を許可すると。

「こんにちはー!あっ、明けましておめでとうございますですね」

間違えちゃったテヘ、みたいな感じで、あざとく可愛らしさをアピールしてくる女子生徒が、と言うか生徒会長の一年の一色だな。

 

「いろはちゃん。やっはろーあけおめー」

「一色さん、明けまして、おめでとうございます」

由比ヶ浜は独特な挨拶を、雪ノ下は丁寧に挨拶を返す。

 

「おめでとさん」

俺も挨拶を返すのだが、一色は俺の方に駆け足で寄って来る。

 

「先輩!金髪美少女ってどういうことですか!!なんかモデルみたいなお姉さんともデートしてたとか!!」

 

「あー、お前もか」

こいつは噂とかに敏感だからな。

 

「まあ、私は、先輩が誰と付き合おうと関係ないですが」

何故かツンツンした感じで言ってくる。

関係ないんだったら別に聞くなよ。

 

「そうか」

俺はそんな一色に適当に相づちを打ち、鞄から本を取り出す。

 

「むーー、何ですかその態度、先輩の癖に生意気です。生徒会としてもこの噂の真偽を確認しないといけないんです」

 

「生徒会にそんな仕事はないぞ一色」

生徒会が一生徒の噂の真偽など、調べる必要性があるわけがない。

 

「いろはちゃん。多分それ、デートとかじゃないよ。ヒッキーのバイト先の人と、たまたま会ったゆきのんのお姉さんの事だから」

由比ヶ浜が苦笑しながらフォローしてくれる。

 

「えーー、そうなんですか?なんで結衣先輩がそんな事を知ってるんですか?」

 

「あたしもその場にいたから、なんであたしだけ噂にならなかったんだろ?」

そりゃそうだろ。俺と由比ヶ浜が付き合ってるなんて誰も思わないはずだ。

俺と由比ヶ浜が同じ部活だと知ってる奴もそこそこ居るだろう。

結構な時間共に活動してるが、そんな風に見られたことも無い。

と言う事は、学校の連中は、人気があって美少女の部類にはいる由比ヶ浜が俺なんかと付き合うはずがないと、理解しているからだ。

それは雪ノ下と俺にも言えることだろう。

 

「まー、そんなことだろうと思ってましたが、ヘタレな先輩が二股なんてありえないですからね」

何、一色、なぜそこで俺をディスるんだ?思ってても口に出して言うなよな。雪ノ下の毒舌がのりうつったのか?

 

一色はその後、雪ノ下の目の前まで来て、会議用テーブルを挟んで椅子に座る。

「雪ノ下先輩、ちょっといいですか?」

 

「何かしら、一色さん」

 

「雪ノ下先輩はー、その……葉山先輩と付き合ってるんですか?」

 

「何を言ってるの一色さん。冗談もほどほどにしなさい」

雪ノ下は絶対零度の視線に一色を見据える。

あの、めちゃ怖いんですが雪ノ下さん。見てるこっちまで寒気がする。

 

「あははははっ、ですよね。でもでも、学校中で噂になってるんですよね。その雪ノ下先輩と葉山先輩が付き合っていて、年始にデートしてたって」

一色は雪ノ下の凍てつく視線に身じろぎしながらも、渇いた笑いで誤魔化しながら、核心に触れる。