剣に生きる (moti-)
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プロローグ

 肉を胃に詰め込んだ。

 

 だいたい活動の時間が来て、人もまばらな時間帯だ──人気は少ない。少なくとも、忙しい人間は今の自分のようにのんびりはしていない。仕事だからだ。仕事に出かけているからだ──今ここに残っているのは、鋭気を養っているものたちか、既に仕事を終え束の間の休憩に浸っている者か、あるいは自分のような人間くらいだ。

 

 食事の味を軽く堪能して、置かれていた水を飲み干す──いくら食べても自分は足りないくらいだ。体を構成する物質が狂っているのではないか、と、そんなふうに思ったりする。

 

「どうするかね……」

 

 そう呟いてみた。自分がどうすればいいかなんて、自分じゃ全然わからない。そうしてずっと机に座ったままだ。それでも店員が何も言わないのは、自分に期待を寄せているからだろう。

 

 史上最速に近いほどの速度でハンターランクを上げた男。そんな称号がある俺が、しばらくの休業を得るのは当然だと思っているのだろうか。

 

「わっかんねぇなあ……」

 

「──よ、ハグモ。お前もそろそろ狩りに出たらどうだ?」

 

 自分の名前が呼ばれたほうへと顔を向けると、そこには教習所を同時期に卒業した仲間がいる。コミュニケーションをとるために席を勧めると、そいつはどっかりとこちらの正面の椅子に座った。

 

「大丈夫か? お前。最近狩り出てないだろ。体鈍ってんじゃねぇ?」

 

「ああ、大丈夫さ。別に、運動してないわけじゃない。毎日の早朝全力ダッシュは続けているし、体力についてはそんなに問題もない」

 

 問題があるとすればだ、とこちらがつなげる。

 

「なんか、ハンターランクをさっさと上げて、給料も溜まって、それを使う機会もそんなにないくらい休みを取ってない社畜生活だったなー、と思うとな? なんかやる気がなくなったわけだ」

 

「お前はそんな体質だもんな……大丈夫? 性欲解消してる? オナホいる?」

 

「なんでそんな話になると言うか貴様使用済みのを人に渡すつもりか」

 

 そういうわけじゃないけど、と言うそいつを無視しつつ、皿に残っている肉を全て口に詰め込み、飲み下した。酒で口を洗い流す。スタッフのほうに皿を渡し、それがさっさと回収されていくのを見て考える、

 

 ──自分がこうなってしまったわけを。

 

 

 

 

 ハンターと呼ばれる職業がある。

 

 それは名の通り狩人だ。この世界に生息する、モンスターと呼称されるものを狩猟するための存在。その狩猟を生業とするものの職業をそう呼ぶ。

 

 主な仕事は竜種の間引きだ。生態系の輪を乱すような事態を解決するためにハンターは竜と正面から戦い、狩猟する。戦闘と言う行為は当然危険であり、ハンターの仕事の報酬が高い理由は主に危険度からくるものだ。危険な仕事を引き受けさせるかわりに相応の報酬を与える。

 

 中には志からハンターになった人間も存在するが、しかし大半がハンターになる理由は金のためだったりする。それでも最低限の礼儀を破ることがあればギルドナイトと呼ばれるハンターズギルドが保有するハンター間の諍いを抑制する機関がなんらかの罰を下すらしい。そのため、最低限のルールを破る人間はほとんど存在しない。

 

 このハンターと言う職業の就き方は簡単だ。申請する。それで就任できる。しかしそれでは死亡者が多いため、最近では十分な指南を受けた人間が申請しなければ許可が降りず、申請が拒否されることもあるらしいので、やはりなり方としてはハンターの養成機関に通い、戦闘について学ぶか現役のハンターから指南を受けることをする必要がある。死亡率が高い仕事のため、やはり相応の安全策は用意されている。

 

 ハンターと言う仕事は主にギルドに登録して、ギルドから仕事をもらい行うことになる。時々ギルドに登録せず、どこかの旅団のハンターとしてハンター業を行うものもいるらしいが、しかしそれは極僅か。だいたいのハンターはハンターズギルドに登録しているし、だいたいのハンターはハンターズギルドから仕事を受ける。

 

 ハンターズギルドのハンターにはハンターランクと言うものが用意されており、これが高いほど難易度の高い依頼が回されるようになってくる──つまりハンターランクはハンターの実力をそのまま表していると言ってもいい。

 

 そのハンターランクをハンター就任から二週間で上昇させたのが自分だ。

 

 聞けば、これは最速記録に近いらしい──ハンターランクを上げる際の試験のような形として緊急クエストというものが存在するのだが、それが降りた許可で言えば最速記録だったらしい。しかし緊急クエストは移動時間が長い遠くの場だった。それの往復時間が掛かったせいで最速記録には一歩及ばなかった。

 

 でもナンバー2である。

 

 そしてここからが問題だった──ほんとに問題らしい問題だった。

 

 ハンターランクを上げて、そこから唐突にやる気が起きなくなってしまったのだ。

 

 自分はハンターランク上昇から一回クエストに行って実感したのだ、

 

 あ、これヤバイやつだ、と。

 

 今はハンター業の全てが手につかない、と言うかなり困った状態になる。幸い金については使う機会がそんなになかったため貯蓄はあるが、しかしそれもいつ消えるのか危ういくらいだ。保って一月だろう。

 

 辛いなー、と考えつつ自分は帰路についている。自分の家は案外ギルドから近い。そのため、幾ら酔ってもすぐに帰れる。その点酒飲めるからいいよなぁ、と思う。

 

 そうしてのんびりと、空気を取り入れながら帰っていると、

 

 

「こんにちわ」

 

 

 ──目の前に少女の顔があった。

 

「うわっ、わっ、っ!? わっ、っっ──っ!?」

 

 鼻がくっつくほどに近くに顔が現れた。それに驚いて、体制を崩し、後ろへと転倒した。そのときに後頭部を打ち付けて痛い。

 

「──っ、な? だれ?」

 

「わたしよ」

 

 誰だよ。

 

 そう思ったが、それを口に出さず、とりあえず起き上がって口を開こうとする──が、言葉を発する前にその少女に妨害された。

 

「あなた──あなたはね、その体に可能性を秘めているの。ひょっとしたらわたしに届くほどのポテンシャルを持っている──なのにあなたはその才能を腐らせている。これは問題よ。大問題よ。こんな世界の、わたしたちの数少ない楽しみが、勝手に終わろうとしている。これほど酷いことはないわ。だからね、わたしは発破をかけてやろうと思ったわ。けどあなたにどう発破をかけてやればいいのかわからない。あなたは何をどうやったらハンター業に復帰するのかしらね?」

 

「そんなこと言われても……」

 

 ほんとにそんなことを言われても、だ。自分がどうやったらハンター業に復帰できるのかなんて、そんなのわからない。どうすればいいのかがわからないので、自分は何も言えない。どうすればいいんだろうか。

 

「わからないかしら? なら一緒に考えましょう? あなたがハンター業への熱を取り戻すほどのことを」

 

 そう言われて、少し考えてみる。現状自分も危ないと思っていたのだ。そのため、自分は、その少女の一切がわかっていないのに、言われた通りに考えてみることにした。

 

「例えば──完全に、がらっと環境が変わって、必死にならざるをえない状況なら、って感じかなぁ……義務化ってやつだな」

 

「そう? じゃあこんな感じかしら?」

 

 そう言って、

 

 直後に視界が明滅する。

 

 明滅──いな、突然地面が迫ってきた。頭を強かに打ち付けて、そして漸く何が起こったのか理解する。

 

 ──転倒したのだろう。しかし背中に感じる重みはなんだろうか?

 

「わたしの足」

 

「何ナチュラルに人踏んでんだお前……!」

 

 足を退けられ、起き上がって、そしてふと違和感があった。

 

「ん?」

 

 なんか、前面に体の重みを感じる。普段とは違う重心感覚を疑問に思いながらも、背中を叩こうとして、そして髪の毛に触れた。

 

「あれ?」

 

 これは、自分の髪だろうか? そう思って引っ張ってみれば頭に痛みを感じた。痛い。指を離して、そして数瞬考え、思い至った結論に汗が急に溢れた。

 

「……嘘だろ?」

 

 声が普段より高い。服の上から胸部に触れてみると、服を押し上げる膨らみがあった。嫌な予感がしたのでズボンに手を突っ込んでみる。そこには普段からあったものはなく、軽く指で弄ってみると指が急に吸い込まれるように、何かを押し広げた。

 

「よしわかった、これは夢だ」

 

「現実なのよねー……」

 

 少女に目を向けるとにこにこと笑っている。そして理解した。

 

 こいつの仕業だ、と。

 

「え、ちょ、ま、──死んでくれない?」

 

「やーだっ」

 

 そう笑って少女が言うので駄目らしい。

 

「元に戻りたいなら……そうね、あなたが必死にハンターをしてたら、どうにかなるかもしれないわね?」

 

 どういうことかを問い詰めようとして口を開くと、瞬きすらしてないのに忽然と少女の姿は消えていた。

 

「……夢だったのか……? じゃあ、この体は……」

 

 そう疑問に思って、やめた。寝て起きたら現実か夢か、わかるだろう。そう思って家へと帰る。

 

 

 

 

 

「あああああああああああ──!! ちくしょおおおおおおお──!! バカやろおおおおおおおおおおおお!!」

 

「うっせぇ!」

 

「ごめんなさい!!」

 

 落ち着いた。

 

 と言うか冷静になった──朝だ。ふといつも朝に張っている感覚がないことに気づき、そして軽く違和感から自分の股間へと手をやり、そうして理解した、理解したのだ、

 

 自分が女になったことを。

 

「にしたってあれはおかしいよな……」

 

 自分が現実逃避と、今なら言える行動を取ったのは単純、信じられなかったからだ。普通人間は性別が変わることはない。変わったとして夢の中くらいだろう。だからその超常に困惑する。

 

 ありえない、と。

 

「しっかしそのありえないがありえてしまってるんだよなぁ……」

 

 だから困惑している。正直ふざけんなボケ! 死ね! と言う気分であるが、しかしそれはそれとして鏡を見てみることにする──そこにあったのは、自分が女になったら、と言う面影を残しつつ、しかし()()()()()()()のように端正に整形されている。

 

 髪は肩甲骨あたりまで伸ばされている。前髪は長く、両目が隠れてしまっているくらいにはあった。元々から視界が隠されていたために気づかなかったが、しかし意外に変化しているものだ。服そうは体のサイズが変わったからかだぼっとしている。胸元が大きく開かれて胸が見えた──そのことにがっかりした。何故自分が初めてみた女の胸は自分のものなのか。そう思ってがっかりしつつ、軽く髪の毛を寄せて瞳を露出させてみた。

 

 その色は紫色だ──これは、もともとの自分の色と変わらないらしい。そのことに安心しつつ、そして服を脱いだ。

 

 そこから直観でわかったことは、そこそこな体付きと言うこと──少なくとも、胸はそこそこある。そして体を見て、そこから筋肉が消えていることを見て、服を着てから移動し、武器を持ってみる。

 

「わっとと……、」

 

 体型が変わったからか、普段どおり持つと軽く体制を崩しそうになる。自分の武器は盾を持たないロングソードだ。片手剣を長くした武器。そんな武器だが、扱いについては基本動作さえしっかりと守れば正直、豪快な武器より扱い易い。片手剣がハンター入門と呼ばれるには相応の所以がある。

 

 扱い易いのだ、単純に。

 

 少なくとも、盾がある分安定性も取れ、そして武器の中で一番使い易いと言っても過言ではない武器──剣。太刀などのように技量で切り裂くものとは違い、そして力で切り伏せる大剣とも違い、堅実に、その鋼の重量で肉を叩き割ると言った扱いかた故に初心者には扱い易いのだ。

 

 実のところ、打撃武器と言うのは対等な力関係であれば初心者が扱う際の凶器として最適なのだ。足を叩き、頭を潰す。床とサンドイッチにするようにすればそれだけで簡単に人は殺すことができる。

 

 そして斬撃武器と言うよりソードは打撃寄りだ。そのため、初心者でも容易に操れる。しかし初心者でもわりと扱えるからと言ってそこで終わりではない、

 

 ──武術に終焉はない。

 

 武に最終はない──故に、剣と言う武器も、初心者におすすめされる武器ではあるが、そこで終わりではない。少なくとも自分がこの武器を使い続けるのには理由がある。

 

 単純な話、強いのだ。

 

 極限まで精錬した動作は振るうのにロスがない。

 

 肉体をどう動かせば最適か──振るう際に完全に流暢に振り切れるか──力を捻出できるだけの最小限の動作はどのような形か──

 

 ──それらの課題をクリアすれば、剣と言うものはどこまで行けるのか。

 

 自分はそう思い続けている。自分以外にもそう思っているものは意外に多い。そんなものたちが剣を振るう。盾も合わせた対竜の確殺技術を追求するものもいる。盾を捨てて攻撃的に、短時間で狩り殺すことを目的とするものもいる。

 

 ──つまるところ、この道は修羅の道だ。自分だってそれは理解している。故にこの業界にきた。だからハンターになったのだ。

 

「……そういや、忘れてたなぁ」

 

 ふとそんな事実を思い出し──今持っている剣を見る。ハンターナイフの、特殊改造バージョン。

 

 幼い頃は棒きれだった。

 

 教習生になってから模擬刀を手に取った。

 

 ハンター初期の俺はこれを手に取っている。

 

 次へ──次へ、続けなければいけない。この命が尽きるまで。俺は、剣を知れていないのだから。

 

「──俺はハンターだ」

 

 剣をより強く握った。そうして、自分がどうやって生きるべきかを一瞬で自分の意思で決定する。

 

「必死になって、最強のハンターを目指してやる」

 

 ついでにこの体から元の体に戻りたい。

 

 そんなことを思って──朝、

 

 漸く体に気力が戻る。




 と言うことでTSプラス修羅系主人公によるモンハンです。いっつもモンハンばっか書いてるなー、とりあえず中編作品と言うことでだいたい50話くらいで終わるはずです。それでも目標は80話行きたいですね。


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プロローグ:2

「え!? お前マジで女になってんじゃん! マジか! マジか! よくギルドも認めたなそれ! いやマジか! ──セックスしようぜ!!」

 

「貴様は剣の錆にすると今決めた」

 

 そう言いつつ鞘から剣を引き抜く動作をちらつかせて相手の言葉を止める。実際に抜いたら問題行為なのでそこは自重しつつ、まぁ、と呟き、

 

「正直そこらへんは体験してみたいんだけどなぁー……」

 

「お? やるか? 跡継ぎ欲しいんだよ」

 

「そこらの女でも孕ませてなさい。俺はやんない」

 

 そこで言葉を止めて写真が更新されたギルドカードに目を落とす。ギルド側からは驚かれるかと思ったが、しかしそんなこともなく性別の変更手続きが終了した。

 

「そりゃあお前あれだからな、メゼポルタのほうでは当たり前のように性転換するらしいからな」

 

「俺は! 魔境に! 住んで! ないだろ!」

 

「だからメゼポルタ出身のやつからテロ喰らったんだと思ってる」

 

「くっそ迷惑過ぎる」

 

 と言うかメゼポルタ(魔境)マジ魔境。

 

 自分が所属している龍歴院ギルドにもその名を轟かせているあたりあの地域は伊達じゃない。

 

 主にキチガイ方面で。

 

「あっちは修羅の聖地だから、一回どっかで教導取りに行きたいんだけどなぁ」

 

「スタイルと狩技で充分だろお前。あんなキチガイどもに染まったら俺はお前と縁を切るぞ」

 

 こうまで言われるのだからやはり魔境は魔境だった。

 

 魔境、と呼ばれるメゼポルタ方面が何故魔境と呼ばれ恐れられるのか、それは単純、

 

 人間強度が強すぎるのだ。

 

 モンスターの生物強度のインフレに伴いそれをぶち殺すためにハンターは人間と言う殻を投げ捨てた。残るのは確殺の意思を持った竜殺しだ。機械のように、一撃一撃を全て必殺として竜を殺す以外の全てを削ぎ落としたのがメゼポルタ地方のハンターだ。

 

 尚モンスターのほうも頭がイカれてる。

 

「あっちのこと考えてるとやっぱこっちの環境はぬるいんだろうかね?」

 

「だから魔境と比べんなってんだよ。……あ、すいません、肉持ってきてください。ええ。デカイの。竜頭とか、高いやつ」

 

「ナチュラルに最高ランク頼んでくのヤメロォ!!」

 

 ここの貧富の差を思い知る。経済力の差はこうしたところで如実になってくるなぁ、と思い、正面に座っている人物を見る。

 

 ──アレス・レジストレス。

 

 こいつは貴族出身のハンターだが、しかし品性というものが欠如しているキチガイである。

 

 長男のくせにさりげなく家爆破して逃走してきた真性のキチガイである。

 

 金目のものを軽く持ち出して大タル爆弾を家を取り囲むように用意し、そうして外壁を連鎖爆破して逃走してきた頭のおかしい人間である。

 

「なんでこんなやつと交流持っちゃったんだろうなぁ……」

 

「知らん!」

 

 運ばれてきた肉を自分の前に置いて、こちらの手元を見て、そしてふっ、とアレスは笑った。

 

「マジでぶち殺してやろうか……?」

 

「いやぁ! 悪いなぁ! クソ雑魚庶民と違ってこんな豪勢な食事で悪いなぁ!」

 

「あーこれ駄目だわ。キレちゃったわ。俺これキレちゃったわ。表出ろよ、決闘だ……!」

 

「ベッドの上なら決闘を受けてもいいぞ!」

 

「こんなクソ使えないナイフでもやろうとすれば首切断できるんだよなぁ……」

 

 死ぬからやめろ、と言われたので静止に乗ってやめることにする。目の前のやつの食ってるものと比べれば値段が下がるが、しかしこちらの食ってるものも一般からするとかなり高いほうに入ってくるのだ。だから別になにか言うことはない。

 

 ただ煽ってきたら殺す。これは確実だ。

 

「……ん? どっか行くのか?」

 

「ああ、ちょっと病院に厄介に」

 

「へー、お前が? なんで?」

 

「視覚効果から分かれよクソ雑魚……!」

 

 まぁ、単純、本来それをする必要もないほどのそれ、

 

「──元に戻る見込みがあるかをちょっと探ってくるんだよ」

 

 

 

 

「これは元に戻る気配がないね」

 

 と、女性──アステオはそう言った。そう言って、軽くこちらの体に触れて、感触とこちらの反応を確かめるように触れて、そうして手を離し、言った。

 

「戻る気配ないね──これがっつり体が整形されてるよ。もう諦めてメス堕ちしたら?」

 

「嫌に決まってんだろ!?」

 

 いや? そっかー、とどこか残念そうにするそいつを見て、こんなやつが強いってのはやっぱり人間の才能は不平等だ、と思える。

 

 何せこいつ、

 

 ──元G()()()()()()だ。

 

 G級ハンター──それは竜を殺すことのみに尽力する化物。殺し切ることを確実とする化物──一撃一撃が全て必殺、と言えばそれはメゼポルタ方面と変わらないと思うだろうが、あちらではない一般のG級ハンターでも化物なのは変わりない──その実力は、

 

 下位のモンスター程度なら素手でもどうにかなると言うレベルだ。

 

 そんな化物がわりと真剣な表情でメス堕ちしろと申したので俺はもう駄目かもしれない。

 

「真剣な話、君クラスなら子孫を作ることが半分以上義務になってくるんだよねぇ……」

 

「は? ……俺みたいなやつが? それはメゼポルタのほうの怪物に当てはまる話じゃねぇのか?」

 

「そうかな──私はそう思わないね。()()()()()()()()()()()()()()。君は私を化物と言うけれど、私からしたら君のほうが化物じみてて恐ろしい。だって君は道理をねじ伏せ結果を引き出す──概念と言っても過言ではないと、概念級と言ってもいいと私は思ってる。そんな化物が次世代に続けるのは当然と言っていいほどの義務だと思うよ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そいつは言葉の最後にそう付け加えて──こちらを見る。

 

 そうして無造作に胸に触れた。

 

「…………あの」

 

「ちっ、なによこれ。男だったくせにそこそこあるじゃん。……貧乳な私を煽ってるのかしら? これもいじゃうよ? 安心して、今まで他人のセックスアピールを破壊してきた女として意外にわたし有名だから」

 

「やだよぉ!? なんで唐突に殺意に目覚めるんだよ……!?」

 

「ほら、おっぱいが悪いよね」

 

「そっかー」

 

 そこで理解することを諦める。こいつには話が通用しない。頭イかれてるぜ……と心の底から思う。とりあえず息を吐いて、

 

 自分の体を見下ろす──そこそこの体つきをしていると述べたが、やはりそう思う。そのとおりだ、と思う。これは重心管理、一から慣れ直す必要があるぞぉ? と軽い課題の発生に軽く怒りを覚えながら、しかしそれでも案外なんとかなる可能性があるだけまだマシだよなぁ、と思った。

 

「ところで、俺が化物と言うだけの根拠ってどこからくるんですか?」

 

 そう問いかけた。

 

「ん? 気づいてないの? じゃあどうしようか……そうだ、あそこなら行けるか」

 

 そう言って彼女は適当にポーチから何かの用紙を取り出した。そこに適当にペンで文字を書き入れて、それをぴらりと手に取ってこちらに突きつける。

 

「──今から闘技場行くわよ、君の神髄が理解できるだろうから」

 

 

 

 

 剣を振るう。

 

 闘技場は基本的に武器の扱いになれる、と言う理由と、もう一つ、モンスターとの戦闘経験を積む、と言う存在理由がある。しかしモンスターと戦う以上、殺される可能性も当然あるわけだ──そのことを考えたら、すこし手が震える。手が震える──それを噛み殺し、片手剣を手に取る──盾も付属していたが、それは持たない。理由は単純だ。

 

 感覚が狂うから。

 

 盾を持つとスタイルが変更されることになる──自分の盾無しスタイルと言う戦い方は盾で片手が塞がることをよしとしない。基本的に攻撃に当たったら死ぬことを前提に置いて戦うことを考えているため、そうなれば、

 

 基本的に、回避アタッカーと言うことになる。

 

「よし、慣れた──この剣少しリーチが短いのが問題だよなぁ。まぁそれはいいか。別に普段より距離を詰めるだけだし。あとは……装備も貸し出されるんだっけ? 嫌だなぁ、前に使った人の汗とかでぐっしょりしてたら」

 

 そんなことを言いつつ装備を身に付けてみた──全然ぐっしょりしてるとか、そんなことはなかった。しっかりと整備はされているらしい。まぁ、当たり前だよなぁ、と納得し、抜剣したまま会場へ、

 

 ──闘技場の、場内へと入る。

 

『さぁ──! 野郎共喜びな!! 今回は女子の挑戦者だぁ!! しかも美少女だぞ美少女! 名前!? 知らねぇよバカ野郎!! と言うことで──! ある意味いつもどおりのノリでやってくぜ闘技──!!』

 

 オオォォォ!! と言う歓声が聞こえる。──闘技場と言うのは市民の娯楽だ。時々事故で死ぬやつがいるが、それでもやはり栄えてるのは、この世界、全然娯楽がないからだろうと推測している。ともあれ、

 

 ──視界に怪鳥を捉える。

 

 怪鳥──怪鳥だ。ピンクの甲殻を身に纏っている。それを見て、まぁ、狩れるな、と直感する。剣を強く握り直して──そうして、飛び込もうとする心を抑え、実況の続きを待つ。普通こんなことをしていたら殺されるが──怪鳥のほうも、ある程度はわきまえてるようで、ここでアクションを起こすことはない。それは自分に取ってもありがたいことだった。

 

 気持ちの昂ぶりが気持ちいいくらいに、心臓が口から出てきそうなほど熱狂が凄まじい。これは以前出たときよりすごい熱狂だな? と感じ、そう考えればやっぱり美少女と言うものがみんな好きなんだなぁ、と思う。

 

『さて! 今回のこの美少女は──詳細不明! おかしい! 俺のデータベースにもない!! さっきハンター登録したばっかりの新人らしい!! 新人……新人……? つまり初めての狩りはここ……? つまりこの娘の狩りの処女は俺がもらったも同然……? 最高やな!!』

 

「マジかよお前」

 

 頭おかしい実況だなぁ、と思うと同時、

 

『まぁ待ちくたびれてるっぽいしそれじゃあ始め! 頑張れ!!』

 

 ──その言葉を知覚する。

 

 同時に足を動かした。前方に重心が乗っている──ならばそれを踏まえて動く、と言うかそれを前進する推力に利用する。

 

「ふ──」

 

 そうして接近し、息を吐き出しつつ剣を叩きつける──どうせろくに切る気もない、軽い牽制だ。とりあえずそれを行って、軽く腹の下に潜り込んで流すように斬撃を繰り出す。

 

 それが軽く腹に傷を付けて──そして治った。

 

「まぁ、この程度は再生するよね……」

 

 だからやるべきことは再生できなくなるまで削るか、それか再生を殺す斬撃を打つ必要がある。んー、と少し考え、怪鳥──イャンクックのその場での旋回で振るわれる尻尾を剣で反らしながら結論を出す。

 

 再生を殺すほうを選択する。

 

 とりあえずイャンクックが放つ火を回避し、そうしてなるべく懐に入ってのインファイトを心がける。一撃、二撃、と軽く切り、そうしてなんとなく感覚を掴んだ。よって宣言する。

 

「──貴様はあと二手で殺す」

 

『お──っとぉ!? 殺害宣言だぁ!!』

 

 その言葉に、会場が沸き立つのを感じる──そういえば観衆も存在するんだったなぁ、とふと思い返し、これはなにがなんでも宣言を実行しなければなぁ、と焦る。

 

 とは言えなにか特別なことをする気はない。いつも通り、当たり前のことを当たり前に成し遂げるだけだ。故に宣言は実行できるだろう、と言う確信がある。

 

「斬撃よぉい──」

 

 吐息を洩らして剣の尖端に意識を集中する──達人は大体、武器を自分の一部のように扱うと言うらしい。特に極めた者は単純な斬撃と言うそれだけでも深く相手を引き裂く──それは、切り口が鋭いために血が流れないと聞く。その領域に至るには……まだ遠い。

 

 けれどそれは不可能と言うわけじゃない。故に今、手繰りだすのだ。

 

 この瞬間、切り裂くと言う剣に必要な要素の全てを。

 

 火の玉を回避し、翼で殴ってきたそれを後ろに倒れることで回避する──すぐに起き上がり次は体で潰しにきたイャンクックを横に逃げ回避し、

 

 イャンクックが如何にも大技と言う形で力の溜めに入った。

 

「ま、ここだよな──」

 

 自分がそれを正面から殺したい、と思ったのは別になんのことはない、

 

 相手を、相手の必殺と呼べるものを正面からぶつかって、そして打ち砕きたいと思ったからだ。

 

「勝負……!」

 

 地面を抉りながら鞭のようにしなやかな尻尾が迫ってくる。それを視認して、正面からねじ伏せるにはどうすればいいか、と言うのを考えて体が勝手に最適解を導きだした。故に今、相手の動作より一歩()()()()()()()()()こちらの斬撃が尻尾を切断する。

 

 これで一太刀、と思考をする暇さえなく、体は確殺の予感に導かれて回転して斬撃の体制に入る──どこを狙えばいいか、と言うのも直感的に理解している。剣が自分の筋力を必要とするのは衝撃の一瞬だけ。叩きつけられて、その時に肉に打ち勝てるだけの力があればその時点で、あとは流れるように切断できる。

 

 故に、今、上空へ跳ね上げた剣が墜ちてきたイャンクックの首へとぶつかる。落下の質量に負けないように、剣の歩みを止めぬように力を接触の瞬間だけに限定して、そのまま剣が肉を通り抜けていく。

 

「──らぁッ!」

 

 そうして引き裂いたところから血が溢れ、自分をべったりと汚した。

 

「……」

 

 まぁ、そりゃあこうなるよなぁ、と自業自得の結果についても納得しながら、ともあれ、

 

 ──女になっての第一回戦を、無事に無傷と言う状態で勝利した。




 文字数減らせば投稿速度上がるよ!!(実質二時間で書き上げた人のセリフ)

 あ、わりと真面目に執筆する時間がとれません。そのせいで投稿はこんな風に遅くなります。時々くっそ早いときは時間が取れたんだと思ってください。ともあれ今からラストが楽しみですな。


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プロローグ:3

 まず条件をクリアして、と言うことで闘技場で一戦終えて、そうして元の病院まで戻ってきたところでそいつに合流し、そのまま何が言いたかったのか、と言うことをこちらから聞くことにする。

 

「実際今回何がしたかったかって? まぁ……それは、簡単に説明すると……君は()()()()()()()()()()()()ってことだよね。みてわかると思うけど、それは怪物的な才能だよ──殺しの才能。戦いの才能。君は戦うことについて、天性の才能を所有している──そもそもだ。扱い慣れてない体の動かし方なんかに一瞬で慣れたあたりから化物じみてるんだよ。私なんかより恐ろしいね。私はG級ハンターだ。しかし君は、そんな私からしても異質で恐ろしいと言える。言えてしまうんだよ」

 

「──つまり、俺には天性の才能が備わってる、ってことを単純に知覚させたかっただけってことか?」

 

「そうなるね。その通りだ。君の実力は抜きん出ている。今、ハンターランクが2であるとは誰も思わないんじゃないかな──私からすればそう思うほどの、流暢な殺し方だったよ」

 

 ふぅん、と口に出す。まぁ、自分の才能ってのは正直気づいていた──気づいていたのだ、その化物じみた戦闘能力と言うのは、とっくの昔に気づいていた。

 

 剣を振るう、と言うことを続けてきた。ただそれだけで──それだけで、敵を殺すに足りる力を身に着けた。それは正直に、怪物的と言って差し支えないだろう。

 

 別に、今まで特別なことを続けてきたわけじゃない。単純に剣を振って、剣を振って、剣を振って──それだけしかしてこなかった。いや、基礎体力づくりは当然やっていたが、それでも目立ったことは剣を振ること以外にしてこなかった。

 

 だから。

 

 つまり、たぶん才能があった──そういうことになる。

 

「才能がある、ねぇ……別にそんなにいいことでもないと思うんだが」

 

「ハンター業をしている人からすればすごく羨ましい才能になるわよ。私は別に羨ましくはないけど」

 

 だって、と続け、

 

「強すぎる才能は厄介を呼ぶもの──君が女性の姿になってるのも、ひょっとしたらその才能のせいかもしれないしね」

 

 それを聞いてしまうとやっぱこの才能要らねぇんじゃねぇの? やっぱ邪魔なだけじゃねぇの? と思ってしまう。たしかし、自分が剣を極めるためにはこの才能か必須になってくることも理解している。

 

「まぁ、殺しの技術ってやつだよなぁ」

 

 そもそもこの道を歩むものに、才能がないわけがないのだ──才能がないけど好き、と言うのはありえない。この世界、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そにため才能がなになどあり得ない。

 

 好きであれば、焦がれるならば日常の部品に組み込まれるのだ──日常的に小説を書くものが他人より書き慣れてるように、日常的に剣を振るうものが他人より剣を綺麗に振れるように、当然好きと思う、から日常になる。それのことを考えてしまうようになる。それがない、と言うのは、

 

 好きを勘違いした愚か者だ。

 

「殺しの技術に惹かれた自分ってのも中々やばいと思うんだが、まぁそれはいいか。──知ってたことだ」

 

 そもそもこんな世の中でまともな人間がおかしいのだ。常識の統制さえされていない世界だ。そんな世の中である以上、まともの基準が設定されていないため、自分がまともでないことは確実だ──世界規模でみなまともじゃないのだから。

 

「で、俺の才能が何かを呼ぶって言ってたよな? 例えばどんなことになると思う?」

 

 そうねぇ、と言ってそいつは考える。

 

「──例えば世界の破滅の危機とか?」

 

 

 

 

 戦闘後と言うのは腹が減る。

 

 戦闘前に飯は食っているのだが、それのぶんの蓄えたエネルギーを狩りで全て使い果たしてしまうのだから腹が減るのも当然だ。しかし今回、そこまで大量に蓄える必要はないので、それぞれ出されている露店で何か軽くものを摘まむようにする。

 

「やっぱ肉が人には必須だよな……」

 

 と言いつつ、炭で焼いたサイコロ状の肉を口に含む。味から推測してこれはアプトノスの肉だな、と直感しながら更に口に続けて放り込む。

 

 噛むことで味を引き出しながら家に帰るために歩く──龍歴院には隣接されているベルナ村と言うものがあるが、しかしギルドの近くには居住区も用意されている。そこの一つに自分の家は存在した。家と家との感覚が狭いので叫んだりすると簡単にとなりに聞こえてしまうのが欠点だが、しかし全然そんなことをやらかす機会はないので問題ない。

 

 今朝のは不可抗力だ。

 

 別に特に何かがあるとき以外は叫ぶことはないので、それだけの重要な出来事だったのだと思ってほしい。

 

「はいはいはい──! そこのお嬢さん! ちょっとこっち来なよー! そう、そこの幼女……少女! こっちにきなされ!」

 

 なんかやべーやつがいる、と思いながらだれに向かって言っているのだろうと思って辺りを見回せば、

 

「──あら、わたしのことかしら? ふふ、人間に誘われたのはいつぶりかしら。誘われたからにはノッてあげないといけないわね……!」

 

「ちょっと待てやお前ぇ──!!」

 

 その叫び声にその少女に声をかけた男が即座に逃走し、少女はこちらのほうを見る。

 

「あら、あなたは……体の調子はどうかしら?」

 

「煽ってんのか! 気分は最悪だわ!!」

 

 その少女──白髪の少女は、間違いなく自分を女に変えたやつだった。

 

 

 

 

「──で、何がしたいの?」

 

 その言葉に自分を指しながら言った。

 

「これ、もと、戻せ」

 

「あらあら、その格好似合ってるじゃない。でも飾り気ないのが残念ね。あいつの服が体格的に合うかしら? ちょっと呼ぶわね」

 

「聞けよ話をォ!!」

 

 その言葉に真面目にやるわ、とそいつは言った。

 

「それはそれとして服のデリバリー頼んだからそれがきたらちゃんと着替えなさいよ」

 

「ふざけんなよお前……戻せよ元に……!」

 

 半ギレで言えば、そいつは漸くまともに取り合ってくれた。軽く頬に手をあて、こちらに視線を合わせながら、そいちはこともなげに言う。

 

「そうね──その姿は枷よ。あなた、また意気消沈しないとは限らないもの。今戦って剣を極める気になってもまたもとに戻らないとは限らない。その際に干渉する期限をわざわざ守るのは面倒だもの。あなたを今のままで留めておくのは枷、楔──あなたが戦いを続けるためのね」

 

「……枷? どういう──」

 

「そうね、どこから説明しようかしら。ええ、百聞は一見にしかずというし、見せたほうがわかりやすいわね」

 

 影、と言って少女は自分の足元を指さした。それを見ていると、段々とそれが変質していく。

 

 人間のものから、

 

 ──見たこともない、異形の姿へと。

 

「──龍か」

 

「ご明察。よくわかったわね、そう。わたしは龍──だから君の性別を変更することにんて簡単にできるわ。君の性別を元に戻すのも簡単だし、君を殺すのも簡単だし、──世界を壊すのも簡単にできる」

 

 その言葉に剣を構える。敵うことがないと言うのは理解しているが、一瞬で消されるかもしれないが、こいつを見て、言葉を聞いて、そうして理解した

 

 ──こいつは殺すべき存在だと。

 

「話は最後まで聞きなさい。わたしがあなたたちを生かしている理由だって当然あるわけじゃない? そして──()()()()()()驕るな人類。世界は貴様等の物ではない

 

 言葉と同時に、心臓が停止しそうなほどの殺気がこちらに向けられた。それを受けて足が停止しつつも、普段通り、完全に体の恐怖を切り離して心は──剣を動かす心は勝手に動き、殺意に反応して刃を振るおうとする。

 

「そう、あなたはだから面白い──自動反撃(オートカウンター)。世界が与えた恐ろしい反応。でもそれは制御できない──反射の領域にあるから。あなたはその天性の才能をつまり、扱え切れていないの。それは非常に勿体無いわね。それだけがあなたの取り柄じゃないけど……それでも、長所の一つが不自由なのは痛いわ。わたしを殺したいのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 刃を掴まれ、それは防がれる。手から逃れようと体が反応するが、しかしそれは許されず、微動だにすることなく指に抑えられたままだった。

 

 指が伸びてくる。それに身を引こうとするが、剣を捨てようと言う発想が浮かばなかったために動けず静止したままだった。伸びてきた指が、目を隠していた前髪をかきわけ、こちらの目を露出させる。

 

「あなたはその程度じゃ視界を失わないって知ってるけど……その瞳、とっても綺麗だし髪の毛避けたほうがいいわよ? 紫の瞳──まるで狂っているようで綺麗じゃない?」

 

「──ッ、離せ──!」

 

 後ろに引くタイミングで手を離されたため体が後ろに倒れた。そこからすぐに立ち上がり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人が近くにやってきたことによりそれを中断して刃を鞘に収める。これをギルドのものに見られれば死ぬ──ギルドナイトに殺される。いや、ギルドのものでなくとも報告は届くだろう──そうなると自分は死ぬ。対人戦のプロであるギルドナイトだ。そんなものと戦って、自分が勝てるわけがないのだ。故に警戒して、

 

「ああ、大丈夫よ? わたしが呼んだの」

 

 その言葉に緊張を解く。

 

 

 そうしてやってきたのは如何にも女性物と言った服を大量に抱えた女性だった。

 

 

「…………あの?」

 

「オシャレ、しないとね?」

 

「畜生がぁ──!」

 

 そういえばそんなこと言ってたなぁ! と思い返してその服を見る。自分が着るなど到底ありえないくらいに女の子してる服だ。いや待てあれどう考えてもコスプレだろお前、と思ったところで、

 

「──逃走!」

 

「逃げない!」

 

「ヤメロォ! 死にたくない!!」

 

「大丈夫! 似合う!!」

 

「フォローになってないんだよぉ……!」

 

 足を掴まれて転倒する。服の山を担いだそいつはすぐそこまでやってきていた。早く逃げなければ──そう思うが体が動かない。こいつ一体どこからその力出してんだ……! そうキレそうになるが、こいつが龍であることを考えればそれは当然なのだ。そのため口に出さない。

 

「いや──! 女装させられる──!」

 

「あなたは今女の子でしょ──!」

 

「えーと……これどうしましょう?」

 

 ああ、駄目なようだ。体の力を抜き、そのまま地面に這いつくばる。そうして言った。言ってやったのだ。

 

「死にたいなぁ……」

 

「残念! だが殺させない!」

 

「おう! わかったよ! 着替えるよ!!」

 

 全くなんでこうなるんだろうか、さっきまでシリアスしてたのにどうしてこう、ギャグに転身するのだろうか。それがわからなかった。

 

「えーと、じゃあ適当に一つ寄越せよ」

 

「えー? ここで着替えるのー?」

 

「お前らに俺の家を教えるか! 俺はここで着替えるぞ!」

 

「それを男に見られて脅迫からの」

 

「やめろ……やめろ。マジでやめろ。やめろ」

 

「あ、うん。ごめん。人払いするわ。ミラー? この人に服渡してあげて?」

 

 そう言ってそいつが、やってきた女性に声を掛けた。女性はそれを聞いて、適当に服を持っている中から引き抜いてこちらに渡す。

 

「えーと、こちらがこの服の中では一番マシなものだと思うのですが……」

 

「ありがとう。俺の中での好感度が天元突破したよ」

 

「いえ、振り回されるのは大変でしょう? そのうち慣れますから、少しの間の辛抱ですよ」

 

「あ、うん」

 

 ──苦労人なんだなぁ……。

 

 それを伝えてくるそのセリフに、こちらは少し申し訳なくなりながら渡された服を手に取った。そして感じたことは、

 

 ──重い。

 

 布で編まれているはずなのにかなりの重さがある──鎧と殆ど変わらないのではないか? と思うほどの重さだった。こんなものをずっと持っていたとは到底信じられない。しかし、推測すればおそらくこの女性も龍だ。ならこのくらいはやって退けれるんだろうなぁ、と思える。

 

 とりあえず、重さからまず服を地面に置いて、次に服を脱ぐ。上、下と服を抜きインナーへと着替える。インナーのままで出歩く習慣と言うのは当然なく、着飾ることが当然である以上、自分もしっかり服を着ていた。性別で差異が少ないシャツを着ていたが、しかしそれを咎められたのだろう。やはりまともな服を着るべきなんだろうなぁ、と思った。

 

 とりあえずそこまで服を脱いで、次に地面に置いた服を身に着けていく。服にしては相当重いが──自分も鎧を着てマラソンをしたくらい、重い装備と言うのは慣れている。故にさくさく、と服を着替えていき、そうして、

 

 完全に換装が完了する──上半身はオレンジのコートのような形をした服で、ボタンで前面を止める形になっている。軽く爪を立ててみたが、相当生地は丈夫に出来ている。それを考えると戦闘にも耐えうる仕様──否、おそらく自分が戦闘者と言うことを踏まえた上で服の組み合わせを考えている。ポケットは相当大きく、簡易ポーチとして扱えるだろう。ハンターとしてかなり戦闘使用にも耐える服だ。

 

 下は暗い緑に黒のチェックが入ったものだ。体の動きを阻害しないように体にくっつくようなもので、ズボンにはポケットは用意されてなかった。それの空間を作ることで隠密性を下げたくなかったのだろう。ともあれ、その装備を着れば、

 

 自分は無難なファッションの大人の女性、と言った印象に変化する──先程とはかなりの違いになる。

 

「おー、似合ってるわね。スタイルいいし。でもこいつ男だったのよね……男で童貞捨てた気分はどうだ? って言ってほしい感あるわ」

 

「しねぇからなお前」

 

 そうして、先程から疑問に思っていたことを尋ねることにした。

 

「そこの女の人──ミラさんって言ったよな? ミラって、先輩ハンターが話してた、黒龍伝説のものであってるか?」

 

「あってるわ」

 

 その言葉にまず顔を覆った。

 

 黒龍伝説──たった数日の間でかつて栄えた国、シュレイド()()()()()()と言うかつての伝説だ。そんな化物が出てきた以上、自分は相当な化物と相対していたことになる。相対していて、それを殺せるか?

 

 無理だ。

 

 そんなことできるわけがない──殺気だけで人の形を残すことなく消せるような化物だ。そをなものと、戦えるわけがない。ないのだ。

 

 それを抑え込んで、次に問うのは、

 

「──ミラさんとお前の強さの格差は?」

 

「んー、それ教えちゃうと戦意喪失しちゃいそうで怖いのだけど……まぁいっか。ミラちやんは農民。わたしは天皇。これくらいの差があるわね」

 

 その言葉に、

 

「まぁつまりわたしはミラちゃんの頂点って感じなんだけど──」

 

 心の底から、

 

「──へぇ。それを聞いて、むしろ戦う気になるんだ」

 

 ──笑みを浮かべる。

 

「ああ、ああ、ああ、そうだ──お前が頂点か──なら、頂点なら、お前を超えることができたら、俺の剣は究極へと至るってことか──」

 

「そうなるわね。ただ、ミラちゃんを剣で屈服させても究極と呼べる強さは誇れるのだけど」

 

 いや、それじゃ、

 

 

 それじゃ不足だ。

 

 

 自分が剣一本で最強へと至る──それを成し遂げる。それで漸く、剣の頂点と呼べるだろう。

 

 故に、

 

「俺は、どんな方法を使ってもお前に勝つよ」

 

 そう宣言した。

 

「へぇ──わたしを超えると言ったか?ふ、ふふふふふふふふふ──そんなことを言った馬鹿は古代にもいなかったわ

 

 故に面白い、と、彼女は言った。

 

「──君、名前は?」

 

「──ハグモ。お前の名前は?」

 

()()()()()、と人類からは呼ばれているわ──わたしの本当の名前は、知るにはまだ早い」

 

 

 ──目標:ミラルーツの狩猟。

 

 クエストを開始します。




 最終目標は早めに提示していくスタイルです。


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プロローグ:4

 朝、のんびりとした気候の心地よさに目を覚ます。いつもやっている朝の鍛錬をどうしようか、と考えて、今日はやめておこうと言う結論をする。何故その結論を出したかと言えば単純──今日は、狩りに出るのだ。

 

 防具については昨日もらった服で問題ない。悪路を走るため、靴はしっかりとしたものを履いていく。パジャマと言うのを現状持っていない以上今着ているのはインナーで、そのためインナーの上から昨日もらった服を着る。それで準備は完了なのだが……流石に、顔を洗ってないのは不味いだろうなぁ、と思う。清潔感を保つために必要なことがそれだ。そのため、着たはいいが水が散らないようにまた脱いで、そうして洗面所へと向かう。

 

 顔を水につけ、そうして洗ってそれで問題なく終了だ。ズボンの重みが軽く厄介だが、自分の体にぴったりである以上脱げるなどと言う問題はない。ゆくゆくはこの装備のままでも日常生活が当たり前に送れるようになりたいなぁ、と思う。

 

 ともあれ、

 

 ──それで外出の準備は完了だ。

 

 

 

 

 ハンターが狩りに行く際に必須となるものはいくつかある。

 

 一つは食事だ。それ抜きで戦闘に赴くと、スタミナ切れと言う出来事が起こりやすくなる。理由は単純で食事とはエネルギーを補給するためだからだ。そのエネルギーを補給し損ねているのだからスタミナが切れやすい、と言うのは当たり前だ。そして同時に食事を取っていれば思考は動きやすい──それも同様の理由で、故に食事は必須だとされている。食事をとらないことはそのまま死に直結する、とまで言われているのだ。

 

 まぁ食事に関しては一部のハンターはクスリ(いにしえの秘薬)キメて連続狩りにでたりするらしいのだが。そんなのは一部しかいないのでそれを見習ってはいけない。

 

 食事は多く取るが、しかしそれで太るなどと言うのはない。一度の狩りでエネルギーを膨大に消費するからだ。そのため取りすぎと言うことがなく、むしろ枯渇することのほうが多い。

 

 次に必要になるものは、道具だ。道具点検と言うのは欠かせない。命を預けるアイテムであるのだ──軽んじることはできない。それを軽んじるやつは早死にする。そもそも自分は剣に命を掛けているのだ──それなら、装備を軽んじるなどはありえない。ありえてはいけないのだ。

 

 それをやってしまう人間はハンターじゃない。

 

 そんな人間は死んだほうがいい。

 

 そして最後に必要になるのは、

 

 ──情報だった。

 

 

 

 

 酒場の端、隅でちびちびと飲み物を飲んでいる青年を見かける。何を飲んでいるのかと見てみれば、水だ。そういえばこいつは水を好むのだったな……と軽く思い出して、贅沢なものだと思いつつもそいつの隣にある椅子に座る。

 

「……要件はなんだい?」

 

「ナルガ狩ってくる。軽く渓流の情報をくれ」

 

「まったく……君たち二人は教習所からずっと変わらないね。そんな過去を懐かしむ僕も変わってないのかもしれないけども……変わらないものはない。それでも変わらないものはある。矛盾のように見えて矛盾していない……それは不思議だと僕は思う。そのことについてはほんとに不思議だとずっと思う。きっかけは君だったんだと思うよ──ごめんね、前置きが過ぎた。ちょっと待ってね」

 

 そう言って、彼は──名を語らぬ青年は、水を口に含んだ。

 

 俺はこいつの名前を知らない。こいつの成り立ちもしらない。一体どこで生まれたのか、それも知らない──それを知る必要はないのだから。自分は彼と友人だ。それで十分だ。

 

「──うん、今は安定しているはずだよ。環境不安定ではないから乱入はない。でも安心しちゃいけないのはわかってるよね?」

 

「当然」

 

 ならいい、と言って彼はそのあとに、んー……、と悩ましげな唸り声を放つ。どうしたのか、と思えば、彼はすぐにそれを言った。

 

「いや、気にしすぎだと思ってるんだけど……最近焼けた甲殻がまた発見されだした」

 

「……うぇ、古龍案件かよ……」

 

 焼けた甲殻、それはバルファルクと言う古龍が高速で飛行している際に抜け落ちた甲殻だ。それが存在している、と言うことは、

 

 この近辺でバルファルクが存在していることをそのまま指す。

 

 これもミラルーツの仕業かなぁ、と思っていたら頭の中に否定の声が響いた。それなら違うのかも知れない。偶然の一致だろうか。

 

「君が関わる確率が高いと僕は思っている。教習所であった()()()()のことを考えれば、君はこういう事件に関わりやすいだろ? だからね、君には今回十分気をつけてほしいんだ。死ぬことほど無為なことはないからね」

 

「そうだなぁ……」

 

 実は既に関わっている、と言う声を飲み込んで、そうして食事を注文するために徘徊しているウェイトレスに声を掛けた。まずは肉だ。肉と、魚。ここの2つを食えば、速攻戦を狙っている、と言うことになる。肉とはエネルギーだ。わかりやすいエネルギーだ。他者を喰らっていることだから、当然それはエネルギーになる。

 

「おっ? 今回は速剣スタイルかい?」

 

「と言うよりはこれから全部速剣で踏み込んで殺すことになるかなぁー……踏み込んで殺さないといけなくなることが多くなるだろうし、あとついでに強くなるべき理由ができたからね」

 

 故に死線に身を置く。

 

 速剣スタイルのやることは単純。

 

 早く踏み込んで、早く振って、早く殺す。

 

 この三拍子だ──故に速剣スタイルと言うのは難しい。単純なことであるが、しかしそれぞれをモンスター相手に通用させれるかと言うのは話が別だ。モンスターを切断するには急所を見極め、一撃で斬撃を通してやる必要があるからだ。技量がなければ途中で静止してしまう。強引に剣を振り抜くと言うことは不可能だ──刃が傷つくし、そもそもそれを通すほどの膂力を出すことがまず人間には不可能だ。

 

 しかし、速剣と言うのはナルガクルガを相手にするならかなりやりやすい部類に入る。切断しやすいサイズだし、攻撃と言うのも素早い動きで撹乱して殺しにくるものなので結構楽に対処ができる。そのため、ここで速剣のスタイルに慣れておこうか、と思う。

 

 と、ここで注文していた料理が到着する。

 

「おまたせしましたニャ! お客様はいろいろとやることがあると思われるので、全て手軽に取れるように串に刺しておきましたニャ! こちらの皿が、食用に育成されたアプトノスのサイコロ肉にじっくり低温で熱を通したものですニャ! で、こちらの皿は大食いマグロの身を切り出した豪快に焼いたものになってるニャ! 最後に、こっちの皿はどっちにも使えるソースニャ! チーズが嫌いならこれを使うニャ!」

 

「はーい、ありがとう。これお代ね」

 

「確かにいただきましたニャ!」

 

 料理を運んできた猫──アイルーは、そう言って、こちらに頭を下げて厨房のほうへと戻っていく。それを見て少し憂鬱な気分になった。

 

 ──猫も働いてるのになんで俺仕事してなかったんだろう……。

 

「そう言えば大食いマグロってそこそこ食える部分はあるけど安いよね?」

 

「それは子供でもわりと釣れるからじゃないか?」

 

 大食いマグロは基本的にどこでも釣れる。魚を取ってきて、それを食事にする家の子供がよく取ってくることもあるらしい。それを考えれば、安いのもわかるのではないだろうか? と考えつつ、まず肉をソースにつける──チーズよりは、個人的にはこっちのほうが好きだった。しかし魚にはチーズかなぁ、と思う。

 

 何故だろうか。

 

「速剣スタイルってことはこれからは積極的に?」

 

「うん。速攻で殺して依頼の回転率を回すよ。真面目にハンターランクを上げないといけなくなってきたからね」

 

「そっか。頑張りなよ」

 

「ん」

 

 肉をさっさと胃に詰めつつ、やりとりする。食事を無駄にしてるなぁ、と思うが、自分はさっさと食うことの肯定派だ。だから問題ないな、とすぐに納得して、また肉を口に含んだ。

 

 

 

 

 渓流。

 

 突き抜ける風が心地いい──龍歴院ギルドからここにこようとすると、朝早くても夜につくことになる。そのため、馬車で固まった体を始めにほぐしつつ、夜空を見た。

 

 綺麗なものだ、と思った。紅い彗星が見えているが、それは目に入らないものとする。ともあれ、体もほぐし終わったので行動を開始する。

 

 渓流は全体的に、木々が多い。ユクモ村に木造建築の建物が多いのはこれが理由だろう。自分はそう感じるが、しかしそうでもないかもしれなかった。

 

 まず、崖の方面に行くことにした。崖の方面では大体小型のモンスターがいる──が、今回は何故か一匹も見つけることができなかった。なんでだろうか? と思って見ると、すぐ近くのところに、地面にクレーターが出来ているのが見えた。

 

「あー……これは逃げるよなぁ……」

 

 噂をすればなんとやら、と言うことで焼けた甲殻がそこにはあった。それを拾い上げる──熱はなく、むしろ冷たいと感じるほどだ。じんわりと手に痛みが走ってくる。

 

「龍属性……結構強いな? 残滓でこれかよ。流石に古龍はヤバいなぁ……」

 

 すぐに捨てることにした。そして手を見れば、触れていた部分が黒く染まっていることに気づく。それは溶けたとか、侵食された、と言うより、

 

「食われた、か。これはこれは……古龍ってのは怖いなぁ」

 

 しかし自分が超えるべきものでもあるのだ。なら、この程度で慄いてはいられない。この程度なら普通のモンスターでもできるやつはいるだろう。そう考えれば、それほど恐ろしくはない。しかしこうして初めて龍属性に触れてみて、それは恐ろしいものだと理解した。

 

 これを利用するハンターがいるのだから恐ろしい。

 

 軽く辺りを見回してみて、滝の方面に行くことにする。崖の場所を道なりに進んで、そうして少しすれば続いていた場所に出る。

 

 足元に水が溜まっている。近くに滝があるからそれが原因だろう。それをなるべく()()()()()()()()()()()、ナルガクルガを探そうとして、

 

 殺意が向けられていることを察した。

 

「そこか」

 

 ポーチから手早くナイフを抜きつつ、それを殺意から辿った場所に投げた。しかしヒットしたと言う感覚はない。避けられた、と理解する。そうして次に何をするか、と言うのを相手の立場から考える──相手は姿を隠している。ならばまずは優先して一撃を取れるようにリーチの長い、そして重い一撃か、それか遠距離攻撃だ。しかしこの場合、遠距離攻撃とは考え難い。何故ならそれは普通に対応できるレベルだからだ──これが火の玉などなら話は別だが、ナルガクルガはその肉体が頼りだ。

 

 流体状の攻撃でない限りは切れるため、対処できる。故にナルガクルガの遠距離攻撃は防げるのだ。

 

 故に、無効から接近してくることを待つ──下手に動けば意識が避ける。それを防ぐ為、佇んで後の後で切る。

 

「──来いよ──!」

 

 深く呼吸し、感覚が鋭敏化する。それでうっすらと、相手がどこにいるのかを直感する。即座に抜剣し、

 

 右からかかってきた尻尾を上へと打ち上げ逸らすことで不意打ちを防いだ。

 

 そのまま反転する。反転しつつ、相手の顔を視認した瞬間に剣を振るう──それは二回目の回転で途中で中断させられた。

 

「チッ……!」

 

 二回目のそれを、駆けて相手の懐に潜り込んで回避する。ぱしゃぱしゃと言う音で水が跳ねるが、しかし服がそれを吸収していないことを感覚から知覚する。中々に高性能な服だ。鎧ほどの重さを持った、高耐久の耐水仕様の服──どれだけの値段がするかなど、考えたくもない。

 

 そうして腹の下に潜り込んで、首が知覚にあるので切り上げようかと考え──それが無茶だと知る。体制が悪い。この体制では剣が通らないだろう。

 

 故に、リーチはキープしつつ位置を調節するために動く。体を動かして、なるべく腹に押しつぶされないように腕と体の間へと移動する。そこならば剣は触れるが、しかしすでにナルガクルガが移動を始めていたためにそれは断念する。

 

 次の行動は僅かな()()だ……これはさては大技だな? と考え、そこからどうするべきかを考える。そして考えて結論を出す──避けて、そこから切断する。それが最良だろう。そうして、それを回避したら、

 

 頭か心臓を潰す──それで、今、この環境ならば殺すことができる。

 

「それじゃ──」

 

 ナルガクルガが体を上へと持ち上げた。それが来る、と直感する。故に思考を巡らせ、回避のパターンを考え──そうして、振り下ろされる尻尾を横へと跳躍し回避する。

 

「──ばいばい」

 

 地面に深々と突き刺さったそれにたぶん当たれば危なかったなぁ、と思いつつ、しかし回避した──故にこちらのターンとして、万全過ぎる隙が生まれた。

 

 だから脇から斬撃を叩きつけ、そのまま心臓を撫でて引き裂く。

 

 そうしてそのまま反対まで剣を流して、確実に殺すために首の肉へと剣が入る。そのまま前方へと進めていけば、首を切断できた。

 

 これで心臓と頭を潰して、完全に殺したと言える状況までを作り上げることができた。その事実に納得しつつ、今回の狩りを軽く振り返って自己採点する。

 

「──落第だな」

 

 今回、斬撃を通せない体制に一度なってしまっている──それは命取りだ。ロングソードが場所の幅が必要だと言え、その状況を作り上げてしまったことは未熟の一言に尽きる。故にそれを落第であると、自分は評価する。

 

 まぁ、ともあれ、

 

 狩猟は成功したのだ──剥ぎ取りナイフを取り出して、そのままナルガクルガへと近づいていく。




 伏線も立てていくスタイル。


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平和フレンズ - 1

 アレス・レジストレスは傑作だ。

 

 アレス・レジストレスと言う男はレジストレスが生んだ傑作だ。倫理観を無視し造り上がられた怪物だ。スペックで言えばまだ勝る相手もいるだろう。しかし、全てを合わせてアレス・レジストレスと言う男の評価と比べるならば、アレスが一歩勝ることになる。それほどまでに最高傑作なのだ。

 

 そんなアレスは解放されるまではマトモにすぎるほどに真人間だったらしい。それはある種の洗脳だと言える。家を爆破すると言うのもとある人物から言われたことを実践しただけで、実際はアレスの意思ではなかった。そのアレスは、とりあえずで教習所に入ってきて、とりあえずのそこそこの成績を取っていき、とりあえずでハンターになるはすの定めだった。それがどうも妙に許せなくて、

 

 ハグモと言う男はそれを斬った。

 

 アレス・レジストレスを斬った。それがきっと、友情のきっかけだった。そこに、名の無い空っぽの少年が参加して、そうしてハグモと、アレスと、その少年とで、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()──それが、この三人の友情だった。

 

 

 

 

 テーブルに座っている。円状のテーブルには一つだけ空席がある。そこは普通に空席だ。だれも座るものがいない。しかしそれがいい。そんなの関係なくここのテーブルは一人を祝うムードにあふれていた。

 

「それでは! アレス君の! 幸先のいい一歩目を祝ってー!」

 

 その声を発したのは自分だ。それに付け加え、

 

「飲め、貴様ら」

 

「はーい! 飲む! 飲むよー!」

 

「おう、お前そこは乾杯しろや」

 

「乾杯とかする必要ある……?」

 

「お? 喧嘩か? 買うぞ?」

 

 アレスとのそんなやりとりをしつつ、それを心地いい、と感じた。

 

 この空間はアレスがハンターランクを上昇させた祝いと言うことになる。俺についで早くもハンターランク上昇かぁ、と思いつつ、しかしあれの弟子である以上アレスが強いのは当然だ。なんせ、元G級ハンターからの指導を受けているのだから。それがアレス・レジストレス──傑作と名高い怪物的な天才なら、当然それくらいは成し遂げられる。

 

 ともあれ、

 

「──これであとはナナシだけだな」

 

「おう、そうだぞナナシ。おらさっさと追いついてこいよ。お前教官の息子だろ、俺たちより全然強かったりするだろ」

 

「アレスに敵うわけないだろぉ!? 僕をなんだと思ってるんだよお前ら!」

 

「うっせぇ、狩技使えるだけお前は俺よりマシだ」

 

 ただ、自分が狩技を使えないのはそちらにリソースを回せるほどの才能の容量がないと言う理由があるのだが。

 

 ──ハグモと言う男は狩技の使用ができない。それは殺傷力に能力のリソースを注ぎ込みすぎたためであり、狩技を利用できるほどの才能の容量が足りないと言うだけだ。しかしスタイルについては全て修めているため、ただ派手な戦いができないと言うだけである。

 

 正直あまりデメリットになっていないが、教習所時代からアレスたちが狩技をド派手に使うのを見てかっこよく感じたりもしたので自分も使ってみたいと思うことはある。

 

 特にラウンドフォースとか。

 

 あとラセンザンとかも。

 

「そういうお前だって殺しの技術ずば抜けてるから人に言えないんだよなぁ……?」

 

「うっせぇ! 狩技は浪漫だろ!」

 

「いや、俺は浪漫より効率を取りたい」

 

 そんな言葉にナナシとそろってドン引きする。

 

「聞きました……? あいつまだ自我喪失の影響あるんじゃ……」

 

「僕の脳はそれはないって言ってるけど……あの真顔を見たらあるかも、あっ、ちょっ、フォークは、フォークはやめろォ!!」

 

 フォークが眼球に突き出されていくのをナナシが必死に回避するのを見て爆笑しつつ、そうして自分を見下ろして軽く悲しくなる。なんで俺は女になっているのか。この馬鹿なノリに、それだけが小骨のように引っかかって少し気分が悪い。

 

 一人だけ、遠ざかったよう感覚。それが幻覚であると理解しているが、しかしそれを拭うことはできない──自分がそう思ってしまっているのだから、自分がそれを吹っ切れない限りはぬぐえない汚れだ。心にくっついた取れない汚れ。

 

「ところで実際ナナシはどうなの? お前ハンターランク1でよくやっていけるな?」

 

「僕は情報を売って収益得てるから……あとちょっと新しい採掘ポイント発見して独占してるから今は採掘で忙しいんだよなぁ」

 

「は? 売れ」

 

「1000万ゼニー」

 

「払う! 即金で! お前だけにぃ……! いい思いさせるかぁ……!」

 

「おいあの元貴族貯金全部切り崩す気だぞ」

 

「と言うより即金で払えるほうに僕びっくりだわ。貴族って実際どれだけ金持ってんだろうね」

 

 お前それはな、とアレスが言って、軽く思い返すように顎に手を当てて酒を一口飲んでから、

 

「──貴族ってのは()()()()()()()()

 

「マジかよお前」

 

 大マジだ、と言ったのでそれは冗談ではないらしい。だが一流のハンターって確かにそんくらい稼いでるよなぁ、と言うことを考えれば、意外に想像を超過はしていない。

 

「そもそも貴族の仕事ってのは大体が()()()()()()()()()()()()()()。それくらいもらってなかったらやってることがやってることだけに釣り合わないんだよ。だからそれくらいはもらえる。それだけもらっても経済を回す必要があるから()()()()使()()()()()()()()()()。だから貴族って金をどばーって使うイメージがあるんだよな」

 

 そうして話の最中で一度、酒を口に含んだ。それで舌を湿らし、

 

「それが嫌味らしくて嫌いってやつもいるっぽいけど貴族が金を使うのは義務になるし、様々なことで視覚的効果ってのは重要になってくる。例えば貴族が金に任せて高い装備を買うことがあるだろ? 良さがわかるやつに売れ、と言うやつはいるが貴族ってのは国の上層部と言うわけでもある。これらが強そうにしていると言うだけで反逆者の抑制にもなるんだ。だから貴族が高い装備を買うと言うことは一つ、重要ではある。まぁ貴族自体はそんなに戦闘力があると言うわけではない。対人戦のプロフェッショナルを多く雇う必要があるのでこう言うところでも出費がすごいことになる──レジストレス家はその点怪物的な貴族だ。何故だと思う?」

 

 その理由は簡単で、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。レジストレス家ってのは非人道的な一族で、代々能力が強化されるように調整されている。その極点にたどり着いたのが俺と言う存在──つまり、だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺の一歩手前の世代だって、経験と言う分野で俺を超える程度の能力を発揮したりする。完成形の俺の能力については、()()()見ただろう? たぶん古龍級の本気の攻撃を喰らうとかじゃない限り一撃で死ねないんじゃないか?」

 

 そう、つまりそういうことだった──アレス・レジストレスと言う男の理不尽さは天性の才能と言った。しかしそれは過去から長く──噂に聞くシュレイド時代から文明が再建されるときからずっと血族として研鑽を続けた一族。

 

 それの極地と言うのだから、アレス・レジストレスと言う男は怪物的なのだ──そんな化物が同期と言うのはかなり恐ろしくもある。正直殺傷力でしか勝ることができてないのだからさらに強くなられると完全に追い越されるなぁ、と言う感じのことがあり、しかしその怪物に勝る点があるとか自分の才能が恐ろしい。

 

 恐ろしい。

 

「真に恐ろしいのは俺の才能……俺が最強だ……!」

 

「なにこのキチガイ」

 

「お前戦った時ナナシに絶対勝てないだろうが」

 

「相性の問題だろそれはぁ!?」

 

 叫んだ。しかしそれにはしっかり理由がある、

 

 このナナシと言う男とこちらの相性が最悪の一言に尽きるのだ。

 

 基本的に自分は相手が対応できない速度で殺すことを得意とする。速剣スタイル、と言うやつだ。それの強みは述べた通り、速く相手を切り、殺す。それだけ。

 

 

 それを相手(ナナシ)は完全に読み切る。

 

 読み切る──そう、読み切る。ナナシと言う男の真骨頂は異常な思考力と、それの無意識な瞬間的発露──即ち勘。その勘だけでこちらの攻撃を完全に封じてしまう怪物的な才能。

 

 正直な話、体力を均一にした状態なら対人戦と言う分野で言えばナナシが最強ではないかと思っている。それだけナナシの異常さは恐ろしい。

 

「で、ナナシに勝てる俺がじゃあ最強だな?」

 

「いや、それはない。ありえない。世界が百回滅んでもない。古龍がドンドルマに全部押し寄せてもそれはない。ない。古龍が千匹ここに押し寄せたとしてもそれはない。ありえないから」

 

「だよね。ないわー。僕の体力が少ない時期に挑んできて勝ったとかそれはないわー。ありえないよね。ありえない」

 

「貴様らを今すぐ縊り殺してやろうか……?」

 

「おっ、こいよ」

 

「あっ、それは反則」

 

 剣を出すと相手は完全に停止した。剣を抜いて出さなければギルドナイトに目はつけられないため問題ない。この程度の悪巫山戯は許してもらえる。

 

 さて、実のところ()()()()()()()()()()()()()。勝ち逃げと言う状態だがレジストレスの最高傑作と言うのは体力も規格外だ。ナナシの伸びも恐ろしいが、レジストレスの現在の当主と言うのは二日間竜と殴り合ったと言う逸話があったくらいなので体力の分野では勝てるわけがない、と言うのが結論だ。なのでもう一回やってもおそらくナナシは負けることになるのだろう。

 

 しかし俺はアレスに勝っている。だから最強。流石のアレスと言えど知覚能力を超えた斬撃には敵わないのであった。

 

「……あれ? 教習所時代を思い返すと涙が……」

 

「やめろ。俺たちの輝いていた灰色の歴史の話はやめろ。やめろ。やってないからな……! 俺らはテロリストの連中と殺し合いとかしてないからな……!」

 

「僕、そういう現実逃避はよくないと思うんだよ。現実を認めようよ。僕たちの教習所時代は伝説だったと思うよ。あー……楽しかったね……あんな創作みたいな展開は……当分いいかな」

 

「だよな。お腹いっぱいだわ。流石に同期の人間と殺し合った経験とか要らねぇわ」

 

 そうまで言ってふと思い返す。同期と言えば、だ。教習所時代の自分らと共闘した彼女は元気でやっているのだろうか。終わったあと全員が医務室に運ばれてから会っていないはずだ。相変わらずの性格なのだろうか? その場合自分が女になったと知ったら爆笑しながら煽ってくるのではないだろうか。

 

「てーか、懐かしいよな。あのラストバトル」

 

「あれはほんとに死ぬかと思ったね。火山の噴火からの逃走劇……普通に死を覚悟したんだけど」

 

「いや、溶岩に突き落としたんだから死ねよ。なんで生きてるんだよあいつ。ナチュラルに人間やめてるんじゃねぇよ」

 

「その前に溶岩に突き落とされたレジストレスと言う男がいるんだけど」

 

 そう言えばあったなそんなの。

 

 そう言えば、確かにこの男も溶岩に突き落とされても生きて帰ってきた。重体ではあったが普通に生きていたのでこいつもこいつで怪物だよなと思う。

 

「いや、俺のあれは単純に殺したグラビモスの甲殻持っててそれで覆ってなんとか凌いだだけだから……」

 

「普通死ぬんだけど……?」

 

「てかお前それでもマグマのなかで様子見る余裕あったの頭おかしいんだが」

 

 そうか? と言うそいつの頭のおかしさを再確認し、懐かしき過去を思い返しつつ思う。ああ、自分は鮮烈に生きていたな、と。そしてこれからもそのように生きていくのだろう。きっとこの三人で、或いは一人増えて。

 

 

 

 

 夜。

 

 場所は移り我が家。

 

 現在は専ら武器と服の保管庫として活躍している我が家だ。寝泊まりするスペースを雑に隙間を作りつつ用意し、ベッドが足りないのでソファーを用意して、そして一人床で寝ることになるだろうのでタオルを用意するために軽く箪笥を開く。

 

「ん? ああ、いいよ。二人ベッド使えばいいじゃん」

 

「ああ、貴様ら二人がベッドに行くのか」

 

「ん? ああ、そう言えばお前今女だったな。完全にいろいろいつも通りで忘れてたわ。すまん。じゃあ俺が床で寝るからナナシがソファー使えよ」

 

「んー……ホームレス経験あるし僕が下でもいいんだけど?」

 

「いや、床だと充分な睡眠取れなかったりするだろ。お前頭使うんだから俺より取っといたほうがいいと思うぜ」

 

「床で寝て体壊しても問題なんだけど……まぁいいか。じゃあお言葉に甘えて」

 

 そうして睡眠の予定だけ用意して、床に全員で座りつつ出してきたテーブルを三人で囲う。教習所の時はこうやって三人で悪巧みしてたなぁ、と懐かしく思いつつ──今日一日でどれだけ懐かしんだのかが疑問になる。

 

「さて、それじゃあ──二次会ってやつを始めますか!」

 

「うい、では飲め皆の衆」

 

 止まらない、終わらない──馬鹿の夜は長いのだ。




 全体的に気に入ってるキャラはナナシくん。主人公以外の過去はしっかり作り込んだので段々と明かしていきたい感じかなぁ

 ともあれしばらくは友人とのコミュになる感じです


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平和フレンズ - 2

「いやー、着いてきてるのはいいけど……別に僕一人でも何とかなったんだし、狩りに行ってもいいんだよ?」

 

「いや、俺もちょっと依頼とかなかったし……こう言うので鍛冶屋とか探したくてな。どっか一点に定めたいんだよ」

 

「あー、君そういえば特注だからね。そういうところでも鍛冶師がいるって感じかな?」

 

「そう、固定客としての登録しときたいんだ」

 

 そんな話をしながらとりあえずでベルナ村の方面へと向かって歩いている。今日の服装は単純なズボンと、上はシャツだ。今日は狩りではなく、ナナシの仕事の付き添いに来ている。最近は情報屋としてナナシの名も売れてきたのだ。少し早いが、しかし仲のいい自分たちは売れるだろうなぁ、と推測していた。情報の正確率が高いからだ。その知力を持って全力で情報を仕入れ、そこから予想で多少の先のことを推測していることも伝えるのでハンターからの満足度は高いらしい。

 

 まぁ、狩りと言うのはかなり情報が重要になる。場合によっては為す術なく殺されるのだからそれを重視するのはおかしいことではない。下位の時点では信憑性のある話くらいしか必要にはならないが、上位になると推測ででも情報と言うのが必要になる──G級になれば一層人間として格が増すので情報を多少仕入れつつノリでもなんとかなってしまうと言う怪物的な戦闘力になってしまうと言うことで実はそんなに情報は必要なくなる。

 

 アステオもそういえばそのタイプだ。あれは竜を殺すための機関に半分成っていたと言うこともあり、竜との戦闘についてはそんなに情報が要らなかったらしい。

 

 異常な戦闘勘と言うのはやはり、最前線で竜と殺し合ってきた人間の経験なのだろう。その勘だけで一般の人間の長考より推測できるのだから生物としての格が一個違うとしか言いようがない。

 

「でも下位ハンターに固定登録ってしてもらえるかな?」

 

「俺には地上最速で緊急クエストの許可が降りたって言う実績があるから、それを受け入れられたらなぁ……とりあえず流石にいつまでもこの武器じゃあ心許ないだろ。上位に上がったら武器を変えるし、そこからは定期的にそれを強化してもらうつもりだから早いところ見つけておいたほうがいいだろ。たぶんハンターランクの昇格は一ヶ月程度でできると思ってるし……長くて二ヶ月だろ」

 

「すっごい自信だ……でもまぁそうか。君なら普通にあり得るよなぁ。アレスより竜との戦闘って点については秀でてるんだし」

 

「あー、あとあれだ。怪力の種を仕入れたい。あれがあれば少しだけゴリ押しが通るからな。あと秘薬の素材も少し用意したいな。時々ミスって被弾するし」

 

「珍しいね──いや待て。理由を察したぞ。お前ひょっとしたら踏み込むタイミングミスっただろ」

 

「よくお解りで」

 

 自分の場合読みが粗い、という弱点がある。それさえなんとかできたらカウンターというのは強いんだが、ミスっちゃえば被弾する。だから上位に上がる前にそこらへんを鍛え直したい──龍歴院企画の闘技大会がそう言えばそろそろ開かれるらしい。だから最近は捕獲依頼が多いのだろう。折角なんでそこに参加でもしてみようか、と言うことを思いつつ、

 

 歩く。

 

 どうにもここらへんについては詳しく覚えていない。そもそも別に自分の出身がここではないのだから仕方ないと言えばそれでおしまいだけれども……そう考えながら、ナナシと一緒に歩く。

 

「秘薬ってそう言えば流通自体は結構してるんだよねぇ。ただなんでこれが少ないのか、と言うと、」

 

「調合師がいないからだろ? それくらいは教習所で習ったし覚えてるよ」

 

「君のような馬鹿でもしっかり覚えてたかぁ……」

 

「おう、お前覚悟しろよ」

 

「してるよ。さぁ、ばっちこい!」

 

 殴った。

 

 それを望んでいるようだったので殴った。ただ、当然威力は控えめだ。人の目がある。そんなに強く殴ったらこちらが変なの扱いされてしまうから、当然威力は抑えた。

 

「んー……じゃあなに話そうかなぁ……」

 

「お前友人との会話に悩むって……」

 

「いや、馬鹿に知識ひけらかして煽りたいじゃん?」

 

「殺すぞ」

 

「まぁ冗談はここまでにして」

 

 そうナナシが言った。

 

「折角だし君の体質について少し考えてみないかい?」

 

 

 

 

「まず最初に君の体質についてを簡単にまとめよう」

 

 その言葉のあとに、ナナシの指が一つ立てられる。

 

「君は行く先々で厄介に巻き込まれる確率が非常に高い。それが一つ」

 

 次に。

 

「君には一つ、異常と言えるほどの才能が備わってるね。それは殺すための力だ。僕ですらわかる。その力──」

 

 その2つが大きな問題であり、

 

「──便宜上、これを僕は主人公属性と呼ぶことにした」

 

「俗だなぁ、おい」

 

「茶化すな。至って真面目だ」

 

 それはそれでヤバくないか? と思いつつも続きを促す。その間もナナシは辺りを観察しつつこちらに言う。

 

「この主人公属性と言うものが君の体質だ。これの正確な正体は所謂ご都合主義と言うものを発生させることだと僕は考えている」

 

「そう言えばいろいろと明け透けに言う小説あったなぁ……ひょっとしてお前それ読んだか? あの作者そう言う人間のことを中二病と呼称してた気がするし」

 

「うん、読んだ。僕は立派な中二病さ。だから素面で至って真面目に言うね。このご都合主義が発生する理由は? 僕はそれに即座に答えを出したよ。──()()()()()()()()。君を中心に回っているとは言わないけれど、君には重要な役割が与えられてる。だけど勘違いはするなよ? 君一人で世界が救えるなんて妄想だ。そう言う英雄病は長生きしないぞ。これは戦場の常識だ……あれ? 僕はなんでこんなことを知ってるんだ? まぁいいか。とりあえず」

 

 そこで言葉を切って、数秒彼は思考しつつ、

 

「そうだ。君がこうして困難に巻き込まれる理由だ。それは君に力を身に着けてほしいからではないか? そう言う役割ではないか? つまりあれこれのどんぱちと言うのは、君を鍛えるための試練。それでも単純な推測だが、」

 

「お? なんだ? 厄ネタの予感──」

 

 

「──()()()()()()()()()()

 

 

 Oh……と顔を覆った。そうしなければやっていけない。

 

 こちらが前日譚と言うのならば、

 

 ──ミラルーツを超える脅威が将来現れるのではないか?

 

 そう言うことになる。ただ、根拠となるものは存在しない。あくまでナナシの勘だ。その勘、と言うのの的中率が高すぎるのでやめてほしいのだが。

 

 お前、その的中率何とかできない?

 

「まぁ、ほんとに僕の勘だ。それでも思う。君は前日譚だ。どこに続くかと言うのはわからない。わからないけど、君の物語は……続いて、バトンのように誰かに交代する。それが本当かはわからない。それでもそう思った」

 

「やめてほしいなぁ……」

 

 ほんとに迷惑だからやめろ。

 

 そう会話していると、段々と人通りが少なくなってくる。どういうことだ? と思いつつ、空を見上げたが、まだ太陽は高い。引きこもるには早い時間だ。なんだろうか、と思っていると、

 

「──ごめん、ちょっと肩借りる」

 

「え、ちょっ、お前」

 

「なんで君は普通にいられるんだよ……僕にはここは重たすぎる。()()()()()()。まともに立っていることもできない。()()()()()()()()()()

 

 その言葉の直後、

 

 ──世界が闇に塗り替えられる。

 

 まず、世界が切り替わる。空に月が上がった。そして段々と、侵食されるように崩れていく世界があった──闇しか見えなくなった。その闇の中で、中心の点で何かが渦めく気配があった。

 

「なんだ……これ」

 

 とりあえず、だ。前髪を除けてパッチで留める。そうして視界を確保する──本気の時にしか自分はこれをしない。単純に、情報量が多すぎるのだ。普段は前髪ででも隠していないと数分活動するだけで頭痛が現れてしまう。それくらい見えてしまうのだ。

 

 かなり先の風景や、

 

 空気中の塵ですら、

 

 この眼では見えてしまう──そんなのが、見えすぎてしまうことが大変でないわけがなかった。

 

 そして確保した視界で見た世界は狂っていた。闇の中、真っ暗闇の中なのに浮かぶ狂気をぶち撒けたような残酷な世界。

 

 童話だ、と思った。

 

『昔むかーしの話──……あるところに、とある王国がありました。その王国は初めに禁忌に手を出しました。人間を利用した龍属性エネルギーの精製──竜の機関を利用するより集めやすいもののため、それを利用してエネルギーを精製しました。禁忌。その禁忌に利用されたのは一つの、どこにでもある村。単純に王国に近かったと言うだけで住民が捕らえられ、動力とされました。その中で、一人の少年がいました。その少年だけは逃げ出すことに成功しました。そうして少年は決意します。()()()()()()()

 

「あ……」

 

 ナナシがぼそり、と呟いた。まるでその話を知っているようだった。

 

『結論から言えば、少年は王になりました──多くの怨嗟に呪われながら。そうして王となった少年は死にました。死を間際に、世界一高いとされた場所から転落して死にました。それは、まるで、少年の人生を指しているようでした。その少年の名は──』

 

「──ノア。ノア・イコール・ドラゴン……だっけ」

 

『──ええ。そう。()()()()()()()()()。さて、それでは話を始めましょう──』

 

 その言葉と同時に、現れたのは()()()()()()()だった。ここまで大掛かりなことをやらかすのだから、そいつはミラルーツだと思ったのだが……そう言うわけではなかったらしい。と言うよりこいつ、さてはこちらよりナナシのほうに用があったのか? と思える導入である。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……さて」

 

 これ、自分はどうするべきかなぁと軽くつぶやいてみる。この場から立ち去ると言う選択肢はない。こんな狂った空間に友人を置いてはいけない、故に自分はここで静かに待つことにする。

 

 しかし刃を用意しておくことは忘れない。

 

 こんな場所に亜空間を展開していると言うのは敵だ──古龍と言う存在の規格外さを考えれば可能かもしれないが、……古龍は、このように現れることはないと思う。あくまで直感だ。根拠なんてものがあるわけない。

 

 

『──ノアの創った()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉のタイミングで剣を抜いた。

 

 即座に踏み込んで、抜剣した。斬撃は首筋を切り絶ち、死を確定させる。させる──が、一度死に、そこから再度蘇ることにより言葉を続けようとするそいつの姿を見て()()()()、とそいつのタイプを確定する。古龍には大概命のストックがある。猫のようになんだかんだ死なない、と言うわけじゃない──一度死んで、そこから生き返る能力だ。グラン・ミラオスと言う龍の噂を龍歴院のハンターが仕入れていないわけがないのだ。故に古龍が生き返ることは既に知っている。

 

 例えばティガレックス希少種なども死んだあとに心臓が脈動する。それを考えれば……竜が生き返ると言うことはそんなにおかしいことではない。再生力が異常過ぎるため、確実に死ぬ状況でも時間をかければ生き返ることができるのだろう。

 

 その上位、災害の具現とされる古龍はならば? 当然──蘇るだろう。それもあまりに早く。それが竜と龍の明確な違いだ。

 

 ただ、この竜と龍の違いと言うのは残機性のモンスターと仮定したら、の話で、当然蘇らないモンスターもいる……むしろそっちが当然多い。

 

 しかしレアケースと言うことは記憶に残りやすかった。故に、そいつが残機性の敵だと断定できる。

 

『──その【兵器】は──』

 

「こいつ──再生特化か」

 

 とりあえず首を切り捨てることを続ける。しかしすぐに首が生えて再生するため厄介としか言い様がない。

 

 首を一度切る間も言葉が進んでいくのが唯一ありがたい、と言える。首を飛ばし続ければ言葉を阻害できるのだから。

 

 ──イコール・ドラゴン、大戦と言うワードからこいつがなんの話をしたいのかは理解できる。それについて、知る人間は必要ない。必要ないのだ──過去の地獄など、知る人間がいないほうがいいのだ。

 

 例えば自分は、たまたまミラルーツとの交流があった。その縁からそれを知った。それが最悪だと言えた──知らなければ良かったことを知ってしまったのだから。

 

 そもそも世界が滅んだ原因がそれだ。

 

 シュレイド時代より昔の話──竜大戦と呼ばれる歴史の汚点。過去の人類が生み出した竜機兵。イコール・ドラゴン・ウェポンと言う名前のそれは一機の製造に三十もの竜の死骸を必要とする。故に竜と竜機兵で起こった戦争があった。泥沼の戦争、プログラムされた機械の暴走、竜を殺すためだけの存在。

 

 それが竜大戦だ。

 

 そして竜機兵の技術を復刻させようとしたシュレイド文明はたった数日で滅んだ。

 

 故に、その存在を知るものは必要ない──無心で殺していて、そこまで思考してふと思い至った。

 

 あいつ(ナナシ)は一体何者なのか?

 

 それは知っている。名前のない、空っぽの友人だ。しかしそれの正体は? 一体その過去は? 教官の息子とするならば顔が似てなさ過ぎる。養子と考えたほうが自然だろう。ならば、

 

 ナナシは一体何を抱えている?

 

「──っと、これは完全に殺し切ったか?」

 

 蘇生が終了する。服には血が激しく撒き散らされている。しかし周囲の空間は、元の景色に戻っていた。血の痕跡も、死体もない。

 

 故に、殺し切ったと思おう。剣を納める。

 

「うん、お疲れ」

 

「おう、疲れた」

 

 そう言い合って、とりあえず血で気持ち悪いので服を脱ぐことにする。予備の服を持っていなかったので胸を押さえているインナーだけになった。

 

「服持ってる?」

 

「情報屋嘗めないでね? 持ってるに決まってるじゃん」

 

「すげーな情報屋」

 

 そうアホなことを言いつつ、渡された服を着る。インナーのまま出歩く女ハンターはいるが、流石に自分はそれはしたくなかった。

 

 一般的な白シャツなのでこいつ何を想定してこれ持ってたんだ? と思った。が、たぶんこんな風な返り血を浴びた服を変える用だろうなぁ、と思って納得しておくことにする。

 

 教習所時代に変えの服は必須だったし。

 

「どうする? 鍛冶屋見にいくかい?」

 

「おう、そうしようぜ。ただ少し飯も欲しいな。軽いものでも探そうぜ」

 

「OK、カフェでも行こうか?」

 

「おう、先導よろしく。おらさっさと歩けよ」

 

「人に物を頼む態度じゃないんだよなぁ……」




 古代文明ネタも入れつつ。大体暫くは伏線を用意していくスタンスで


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平和フレンズ - 3

視点変更あります


 下位と上位では明確な差が存在する。

 

 そこには隔絶した差がある──下位が鍛えたことのない一般人程度であるならば、上位は軍人──それほどまでに大きく差が開いてくる。今、自分が近接で切り裂けるのは筋肉が全然鍛えられていない、と言うのが理由だ。

 

 自分はおそらく、上位までの竜は切り裂くことができないだろう。それは筋肉の密度の差だ。それが硬すぎて弾かれる。故に自分が技量を上げること──それは必ず、ハンター業を続ける上では必要になってくるのだ。

 

 と言うことでうってつけなのが闘技場だ。

 

 ハンターとしての技量を育てるには十分な場所──一度、この間もここに来たが、しかしその時とは状況が違う。今回自分がここにいるのは、

 

 龍歴院主催の大会、つまりお祭り沙汰に便乗してのことだ。

 

 下位ハンターと、それぞれを分けるためにルーキー部とベテラン部が用意されている。今回自分が参戦するのはルーキー部だ。それ以上は受けられないので当然と言えば当然なのだが──しかし、このイベントは最高だ、と思う。

 

 なんせ間近で上位ハンターの戦闘を見ることができるのだから。今回自分は参加することにしているが、ルーキーのあとにベテランが始まる流れのために見れない、と言うことはない。

 

 それはそれとして、だ。

 

「今回、お二方意気込みは?」

 

「俺、お前、殺す」

 

「アレスが言語を喪失してる……と言うかハンター殺したら規律に触れるからね? 君そこわかってる?」

 

「何を言っているのかわかりませんなぁ」

 

 そう、アレスが言って、そこから自分の出番と言うことで呼ばれた。完璧過ぎる美少女な自分は正直、ムード的にあまり歓迎されていない。あちこちから遊びじゃねぇぞとでも言いたげな視線が突き刺さる。

 

 それを無視しつつ、軽く受付のほうへと歩いていく。受付には闘技場の運営をしているだろう青年がいた。それに自分のギルドカードを提出する。

 

「はい、本人確認完了です。装備については」

 

「直剣だけでいいです」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 顔を見合わせた。そうして、もう一度、

 

「装備については」

 

「だから直剣だけ」

 

「ええ……」

 

 これ、自分の価値観がおかしいのかな? と軽く思いつつ、注文に答えた受付が釈然としない顔で武器を渡してきた。それを受け取り、現在着ている服のまま、闘技場のほうへと歩いていく。武器を振って感覚を合わせた。そのまま闘技場のベースキャンプに到着すれば、

 

『──それでは、ハグモさんの入場です』

 

 そのアナウンスを聞いて、自分は軽く入場した。そうして抜剣する。いつも通り──いつも通りにやれば問題はない。軽く離れた場所にいるナルガクルガを見て、これはこないだと同じパターンになりそうだなぁ、と思いながら、それは面白くないので、

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 具体的にどうする? と言えば、いつもの速剣スタイルだ──ただし、普段より早く動く。

 

「じゃあ」

 

 その呟きと同時に加速した。剣が指の延長のようだ。普段使うものじゃない、競技用の剣──しかしそれは既に感覚を合わせることに成功している。故に普段と同じような斬撃を通すことができるのだ。

 

 その感覚を残したまま、軽くナルガクルガの眼球に剣を突き入れた。

 

 そのまま捻り、感覚で()()()()()()()と判断した──横に剣を振り抜けば、それが当然だったかのように顔面へと剣が飛び出てくる。あ、これは殺したな、と言う感覚があった。しかし確殺しないと安心できない。

 

 だから首に斬撃を通して切断した。

 

 

 

 

 なんと言うか、この間の話だ。上位者を連続して殺す機会があったからか何故か理解してしまうのだ。どこを斬れば殺せるか、と言うのが。そして剣をどうすれば斬れるか、と言うのが。

 

 殺しのための技術が一層精錬されてしまったのだ。故に防具は要らない。剣を振るうのを阻害するから。そもそも食うか食われるか──自分が殺すか殺されるか。強者同士の戦いは案外あっさりと片がついてしまう。それと同じ理論で、

 

 自分が殺さなければ死ぬだけだ。

 

 故に防具と言うのが必要ないな、と思ってしまった。ただミラルーツからもらった服については防水性が完璧な上に動きを阻害しないのでこれは着ることをやめないだろう。

 

 ともあれ、自分は観客席に座っている。これから始まるのはアレスの死合。あいつ無様に死なねぇかな、と思って、事故で死んでくれと思いつつ見ることにする。

 

 

 

 

 防具の上から頭を掻いた。

 

 これから始まるのは自分の死合だ──それはわかっている。しかし、さっきあれほどあっさり殺されると、うーん、としか思えない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 故に、そんなに気乗りしない。折角だから初手でビーム撃ってくるくらい殺意高かったら嬉しいんだがなぁ、と思いつつ許可が出たので入場する。

 

 そうして、入場してからその場所を見ると、たくさんの視線が突き刺さる。それに求められているものはなにか? と考えたときに真っ先にブレイクダンスが出てきたがその思考を投げ捨て、殺しへと意識を向けかえる。

 

 実のところ、ハグモと言う人間と自分──アレス・レジストレスの戦いかたは絶対的に違うが、似ている。ハグモも自分も初手必殺を狙うと言う点では変わりがない。

 

 しかし自分のスタンスは──

 

「さーって、やっちゃうか!? アレスさんのかっこいいところ見せてやるよぉ──! 俺は脇役じゃねぇからな! そこんところよろしく!!」

 

 そう叫びつつ、軽くヘビィボウガンをしゃがみつつ構え、

 

 ──数秒後、中規模の爆発が起こる。

 

 それに飲み込まれた敵──ナルガクルガは即座に爆炎から飛び出してきた。飛びかかりのモーションだな? と軽く推察し、

 

「だから貴様は畜生なのだ」

 

 そう言いつつ、大きく開けられた口に先程まで使っていたヘヴィボウガンを叩き込みつつ跳躍し、そいつの頭を踏みつけて無理矢理口を閉めさせる。

 

 そうして腰から本命の武器を抜いた。

 

 それは双剣だ。正直得意な武器ではない──しかし、使えないわけじゃない。故に持ってきた。ノーモーションで鬼人化──その上、真・鬼人化状態へと持っていく。そこから空中で体へ力をためつつ、そのまま着地の際に悶えているナルガクルガへと叩きつけた。

 

 そうして獣宿しを発動させる。

 

 そのまま血風独楽を全段叩き込み、左腕を引きちぎる。

 

 そして転倒したそいつの顔面に、

 

 ラセンザンをぶち込んだ。

 

 

 

 

 わかり易く怪物だったな。それがその勝負を見た──否、虐殺を見た自分の感想だった。あまりにも圧倒的過ぎる勝利、鮮やかな完結、鮮烈な必殺──それが今、目の前で行われていた。それについて別にすごい、と思うことはない。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 レジストレス──その称号は本当に、怪物的なまでの武芸者を意味する言葉。家系の名ではあるが、述べた通りに一人一人が化物のような戦闘能力を誇る。そのレジストレスならば、特にそれがすごいと言った印象はない。最高傑作は未だ実力を隠している。それがはっきりと、自分にはわかった。

 

「中々面白い戦いかたじゃない? 彼」

 

「……ん? あぁ、お前か。久しぶり……でもねぇな」

 

 話しかけてきたのはミラルーツだった。こちらが椅子にスペースを作れば、そこへと座ってそいつは会話を続ける。

 

「あの気に食わないナナシとか言うのと違って──あの子は面白いわね。貴方がいなければあちらがわたしの敵だったかもしれないわ」

 

「ふーん……だが俺がお前の敵だ。だからたらればに意味はないな。俺げ死んだらあいつに役割がいくだけだろうよ」

 

「ええ、その通りね。でもわたしの敵は貴方がいいわ。あんなにこっそり暑苦しい子は好みじゃないもの」

 

「ふーん……」

 

 こいつの趣味は知らないが、その言葉に自分は冷徹だと言われているのだろうか、と思った。それだけ思って次のナナシの試合を待つ。ここにアレスが合流する頃にはナナシの番かなぁ、と思いつつ片付けられていくナルガクルガの死骸を見ていると、

 

『現在順位は一位、ハグモ様──二位、アレス様──三位──』

 

「お? 俺の勝ちか?」

 

「そうっぽいわね」

 

「よう!」

 

 その言葉と共に、

 

 胸が鷲掴みにされた。

 

「──ぉ、おう。やっほーアレスぶち殺すぞ」

 

「やめろ……やめるからやめろよ」

 

 そう言いつつ、胸から手が外されたことにほっとしつつとりあえずミラルーツとは逆方向の、自分の隣に座ったアレスを殴っておく。

 

「いやー、ないわー。マジでないわー。ほんとアレスないわー」

 

「連呼すんなよぉ!? 別にいいだろスキンシップじゃねぇかよ」

 

「よくねぇんだよマジで」

 

 長く触れられてると変な気分になるから。

 

 まぁ戦闘終了後と言うことで昂ぶっているのだろう。敵が弱すぎて消化不良だっただろうので、テンションが高いのも別に不思議ではないのである。

 

「あー……ナナシはそろそろか?」

 

「掃除終わったしそろそろだろ」

 

「わたし、こういうの見てると人間ってほんとに滅んで然るべしよねって思うわ。それはそれとしてわたしあいつ気に食わないし嫌いだわ」

 

「いったい何がお前のその敵愾心を刺激してるんだ……?」

 

「それは──」

 

 続きを言おうとして、

 

 ──ナナシが入場する。

 

 

 

 

 実のところ、実際の戦闘ではナナシと言う男は自分が一番強いんだろう、と思っている。

 

 ハグモは完全にメタを張れる。アレスは一撃で殺せば問題なく勝てる。故に殺し合い、と言う実戦になれば自分が一番強いだろう、とナナシは思っている。そしてそれは正しく、実際ナナシと言う男は『からっぽ同盟』の中では一番強い。

 

 そんな彼であるから。

 

 今回はタイムでハグモに勝利するくらいにはあっさりと終わるだろうと言うことを既に()()()()()()

 

 そもそも自分に観測の時間を与えたのが間違いなのだ。ナナシと言う男には、三十秒もあれば相手を観測し終えることができる。さらに時間が増せば、

 

 相手についての全てを理解できる。

 

 死骸だって確認したのだ。故に、

 

 ──彼はこの戦闘が一撃で終わるだろうと言うことを予感していた。

 

 ハグモは二撃だった。アレスはド派手に遊んで三十二撃。主人公が二──それでもナナシは一撃で終わらせる自信がある。

 

 故に入場した。

 

 次に大嫌いな相手を視界から消したいかのように早くも飛びかかってきたナルガクルガに、

 

 大剣を正面から突き刺した。

 

 それだけで顔面が正面から割れて死んだ。それで自分の勝利が確定した──僅か二秒。それがナナシと言う男が竜を殺したタイムだった。

 

 

 

 

 あいつマジで怪物だなぁ、と記録更新の声を聞きつつ、これであとは上位ハンターの試合までのんびりしてるかぁ、と言った感じになってくる。そうして席を立とうとして、

 

「ただいま」

 

「んぅ……っ」

 

 ナナシが帰ってきた──その手が自分の胸部にあった。これ、こいつら一回頭切り飛ばしたほうがいいな……? と思いつつ後ろを向くと、

 

 既にナナシはミラルーツの手によって大打撃を食らってた。

 

「おぉぉい!? なんだお前のこいつへの敵意!」

 

「関係ないって知ってるの。関係ないって知ってるのよ……! けど体が抑えられないの……! お願い! 死んで!!」

 

「止めてとか殺してとか言う場面じゃねぇのかよ!?」

 

「いいぞもっとやれ。頭潰せ頭」

 

「やめて……死ぬ……」

 

「死ねよ! クソ雑魚! 今すぐ死になさいよ!」

 

「僕下位でトップ取ったはずなんだけどなぁ!?」

 

 そもそも君誰なのさ、とのナナシの言葉に言葉にミラルーツが返す。こちらを指さして、

 

「知らない? わたし、この子の保護者なの。この子にセクハラを働いたあなたを殺す権利、わたしにはあるのよ」

 

「ならアレスにもやってくれよ……」

 

 その言葉を無視しつつ、何故か戦慄しているナナシが気になったのでなんだろう、と思っていると、

 

「──そんな──」

 

「ぇ、なにこれシリアスフラグ?」

 

「知らね。たぶんギャグだろ」

 

 ナナシが言う。

 

「──こんなロリからこんなに僕の性癖ぴったりなやつが生まれるだと……!?」

 

「おい、あいつ中身俺ってこと忘れてねぇか?」

 

「いや、外見良ければ別にどうでもいいから。と言うことでハグモ、セックスしよう」

 

「嫌だからね……? お前ら嫌だからね……?」

 

 ナナシがミラルーツにまた殴られてるところを見つつ思う。こういう馬鹿な話が懐かしいなぁ、と。




 正直ぶっちゃけますと本番は上位編から


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死線の空 - 1

 走ることにした。

 

 最近、体力が以前よりもなくなっていることを漸く理解した。最低限剣を振り続けるくらいの体力は必須だ──故に体力の消耗はかなりの問題である。そのため、また走り込みを再開することにする。

 

 そもそも少し前まではどれだけ忙しくてもやってはいたのだ──女になる前までは。それが駄目になっていだている、と言うのは、

 

 おそらく堕落の味を知ったからなんだろうなぁ、と思う。

 

 故に走ることを再開する。

 

 別に、……辛いからやめたわけじゃない。継続することが面倒になっただけだと思う。自分ではそう思っている。辛くて逃げているのならば生まれた時点で自分は逃げているはずだった。そこから逃げていないのは、やはり辛さには耐性があるからだろう。

 

 生まれたころからずっとつきまとう呪いがある。

 

「はぁっ、はぁっ、はあっ、はっ──」

 

 息が上がるのが昔より早いか、と言う感覚だ。強走薬を使えば疲れを無視することができるが、あれは体に悪影響がある。疲れを無視する、と言う状態なので走れるが酸素不足で死にかけたり、痛みも無視できるので骨折を起こして機動力を失ったことに対して何故かの原因を咄嗟に認識できないため、中々危険な薬なのだ。

 

 しかし──今日狩りに行くことを考えればこのくらいでいいか? と言う気持ちがあった。ずっと走っていても無駄なだけだし、と言うかそもそも倒れるまで全力疾走したほうが体力を付けるなら本来はいいのだ。何故こうして余力を残しているのか、と言うとほんとうに、狩りに行くからと言う理由がある。竜車で移動している際にモンスターに対応できなかったりしたら困るのだ。故に余力は残す。

 

 このくらいでいいだろう、と判断して今日のダッシュを停止した。

 

 

 

 

 人間と言うもので例えずとも生物であれば不意を突かれることには弱い。人間と言う豊富に感情を持ち合わせたものであれば、攻撃に限らず言葉などで不意を討たれるものが多くなっている、と言うのは確実なことで、そういうとき人間と言うのは一瞬とはいえ思考が止まる。そんなことを思考したのかどうかはわからないが、しかしこんなことを考えていると言うことはそれに至る理由があると言うことだ。そのことについてを軽く説明すると、

 

 君の能力評価したからちょっと難しいクエスト行ってね。拒否権はないからね。と言うことだった。

 

 種族特大サイズのホロロホルル。今回の狩りの対象はそいつだった。睡眠と混乱を操る存在である。そいつについての対処は正直簡単だ。体格が小さく、攻撃の範囲も狭いためへばりつくことが難しくないのだ。しかしこれが特大サイズとなると話は変わる。サイズとは強さに直結する。

 

 サイズが大きいほどこういう手合は戦いづらくなるのだ。

 

 尻尾の回転の範囲が広がった。睡眠の範囲も、混乱の範囲も──鱗粉を遠くまで飛ばせるがために広がることになり、何よりサイズが大きいと言うことは太い、と言うことだ。

 

 この剣だと切り飛ばせるのかどうかがわからない。

 

 何度も言うが大きいと言うのは一つの驚異だ。殺意の高さとも言える。戦い易い手合では少なくとも、ない。太いぶん筋肉が身についているのだ。それはわかりやすく驚異になった。

 

「なんとも……それは辛いね。弱点特効型だもんね、君。弱点へと速度の高い、そして重い剣を打ち込むスタイル。僕も同じだからその辛さはよーくわかるよ。それはそれとして僕は付き合わないからね。情報は友達料で割り引いてあげるけど」

 

「ホロロの情報は持ってるよ!!」

 

 なんとも悲しい話だった。正直同行者を求めてもいい仕事だったと言うかナナシのほうが闘技の記録がよかったんだからそっちに回すべきだよな? と今更ながらに思う。

 

「ん? ああ、僕は辞退したからね。僕の戦闘力は初見の相手には向かないって」

 

「卑怯だよお前……」

 

 こいつ酷え。

 

 とりあえず、うだうだ言っていても仕方がないのだ──仕方がない。

 

「アイテム……流石に必要かぁ……」

 

「ああ、そうだ。忘れるところだった。正式に鍛冶屋の専属登録が完了したよ。それとアイテムのほうだけど、栽培完了したやつだけは持ってきたって言ってた」

 

「お? マジか。なら……あー、工房は明日にしとくか。アイテムも近々取りにいく……今は必要ないしな。」

 

「はーい、了解。その方向で報告しとくね?」

 

「いやしなくていいんだよ別に。……とりあえず……ホロロかぁ……」

 

 そう言いつつ、受付に歩いて行って許可をもらう。そのまま売店のほうに向かって回復薬を購入する──ギルドの品揃えは豊富だが、しかしある一定のランク以上は交易のほうでやってもらったほうが特だ。その事実で差別化されているの、流石だなぁ、と思う。ハンターズギルドは伊達じゃない。ほんとに。

 

 そうして、準備が完了して、から食事を取りに向かい、手早くそれを胃に詰めて、

 

 出撃する。

 

 

 

 

 そして古代林についた。

 

 ギルドからは──と言うよりはベルナ村からはそんなに離れてはいない。かなり近い。故にすぐにたどり着いた。

 

 当然気分は憂鬱だ。空の赤い星が余計にそれを加速させている。あれはいつになったら消えるのだろうか? そんなことを思いつつ、ベースキャンプの支給品ボックスを開く。それの中から、既に用意されている応急薬を取り出してコートのポケットに入れる。蓋で固く閉じられているので、割れない限りは問題ないだろうと思う──投げるなどしない限りは壊れないのだ。

 

「うし……行くか」

 

 息と共に言葉を吐き出して、そのままなんとなく、と言う感覚──生き物のいそうな場所、と言うなんとなくの感覚を頼りに歩く。エリア1 はまずありえないだろう。木々で視界が制限されるのは嫌だが、おそらく木の近くにいるだろう。

 

 鳥だから。

 

 たぶん鳥だから……。

 

 そう思いつつ、歩く。女の体の動かし方には慣れてきた──しかし、やはり完璧ではない。今度アステオにでも学ぼうかなぁ、と思いつつ、

 

 木々の生え茂る中心辺りへとたどり着く。

 

「……、え、でっかいなぁ──!」

 

 そこに確かにホロロホルルはいた。いたはいいのだが、──様子がおかしい。通常より遥かに大きいと言うのは知っていた。しかし、これほどとは思わなかった──そいつは確実に、人間の三倍ほどの大きさはあった。

 

 そしてそいつは()()()を迸らせていた。不味い、と直感した。確実にここで殺しておくべきだと思った──こいつは最悪だ。

 

 ()()()

 

 それは──()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだ。

 

「ぁ、ぁぁ──!!」

 

 故に切り込んだ。確実に死ぬだろう、とわかっていたが、若い個体であることはわかっている──こいつが怪物的な個体に進化する前に、

 

 ここで殺す。

 

 こちらが先に踏み込んだと言うのに、後から動いた相手は視認できない速度でこちらの先手を取った。それを空気の揺れから推測し、抜剣し、下から叩きつけるようにしてやり過ごす。

 

 ()()──いなすのに失敗したか、いなしの上からぶち抜いてきたか……どちらかと言えば後者だろう、と思った。自分の技量の未熟さはたしかにあるだろうが、しかし下位クラスとは思えないほどの威力。ぶち抜かれたと考えたほうがいい。前者であれば希望が残るからだ。

 

 一撃をやり過ごしたかと思えば、弾かれた勢いを利用してそのままよこに回転してこちらの顔面を尻尾で狙いにくる。それを前方に進みそうになる体を無理矢理停止させて、尻尾の上を行く程度に跳躍して回避する……風圧に煽られ空中で体制を崩した、

 

 そこに容赦のない羽根叩きつけるが飛んでくる。

 

「お前ひょっとしてくっそ強いだろ」

 

 その言葉を言い切る寸前で横に胸を叩かれ、吹き飛んだ。まるで石を蹴り飛ばすように吹き飛んだ──明らかに戦闘に慣れた動きだった。この時点でこの強さ……これは放っておけば、将来的に死の化身と呼べる存在になるだろう。ホロロホルルと言う種の頂点へと成るかもしれない。

 

 故にここで殺したいのだが……なのだが、しかしこの時点でこちらは鎧袖一触とも言える状態だ。これは戦いの中で成長しないといけないのだろうか、と思う……取り敢えず、服のおかげでかなりの威力が殺された一撃だが感覚的には骨が折れただろう。痛みを和らげる意味でも、応急薬を瓶ごと飲んだ。回復薬は取り出してる暇がない……ポーチにあるからだ。今の一撃で応急薬が死ななくてよかった、と思う。

 

 少なくとも、それが残っていれば死なないのだから。

 

「よし……よし、行くぞ」

 

 一撃も攻撃を通す間もなく完璧なコンボを決められた。魔境ではもっとえげつないコンボがぽんぽんと飛んでくる辺りやっぱあそこ魔境。しかしそう思えば、こんなのはなんてことないのかもしれない……そう考えれば、やる気は出てくる。

 

 攻略不可能ではないのだから。

 

 剣を、手に取れ。それが生き残る道だ、ハグモ。

 

ここじゃ死ねない

 

 先程と同じ様に正面から踏み込んだ。そうすれば、また視認できない速度で飛んでくる大質量の攻撃──だが対処は不可能とは言わない。それは先程見たからだ。故に突破できる。

 

 剣を振り上げれば刃が羽根へと食い込んだ。そのまま腕をたわませつつ、弧を描くように手首を上へと曲げる。そうすれば、なんとか一撃を対処しつつ、ダメージを与えられる。

 

「──くいっとなぁ(戦闘高揚)!」

 

 そして、

 

死ね(我流剣術)

 

 顔面へと突きを叩き込む──それは避けられ、尻尾回転が来るが、しかしそれも一度見たものだ。故に対処は理解している。

 

 飛ぶ。

 

 そして、最後の叩きつけが来る──ことはない。何故なら前方へと飛んだからだ。前方へと飛んで、ホロロホルルの毛を握りしめ風圧を耐える。

 

 そのまま眼球へと斬撃を打ち込んだ。

 

「よーし、漸く攻撃が通った……全く、こんな化物相手にさせるんじゃねぇよ」

 

 そう呟き、

 

「さて、漸く怒りか」

 

 ──咆哮を、土を地面から剥がし上げることで回避する。前方に踏み込めば土がばらばらと髪に落ちてくるが、それは仕方ないと今は割り切ろう。かなり成功確率の低い方法だが、人間やろうと思えばなんとかできるものだ。

 

 実際なんとかなった。

 

 そして踏み込んだ状態から、剣をまず叩き込む。削ぐように、殺ぐように。まず一撃を叩き込んで、

 

 視界が反転した。

 

あれ?

 

これはどうなっているのだろうか?

 

 自分は何を見ているのだろう? 何をしているのだ。右手を動かそうとしたら左足が動いて体制を崩して転んだ。それが何故そうなったのかわからないから、さらに()()する。

 

「? ? ? ……ど、いう」

 

 舌の動きも怪しい。何とかもとに戻ろうと正常でない頭で考えようとして、

 

 だんだんと眠くなってきた。

 

 瞼が勝手に落ちてきて、これは不味いなぁ、と思いつつ……意識が落ちる。

 

 それを避けるため、腕の肉を噛み千切った。

 

「んんんんんぅうううぅううう……!」

 

 痛い、しかしなんとか瞼は開けられるくらいになった。痛みで混乱も解けたようだ。そのことに安堵し、空中から飛びかかってくるホロロホルルを焦って回避した。

 

「……即死させたいけど、厳しいなぁ……」

 

 しかしうだうだは言っていられない。死地へ踏み込んで、戦いを続ける。走って、そこから怒りにその鱗粉を舞わせるそいつの元へとたどり着く。通り過ぎざまに足を斬りつける。そうして、真っ直ぐそのまま走って通り抜けた。

 

 直後に後ろで鱗粉のドームが現れたことにそれが正解だった、と判断できた。

 

「ぅん……」

 

 眠気が強い。これはさっさと片付けないと不味いなぁ、と思う。しかし……なら、これはもう、やるしかないのだろう。

 

 走って、鱗粉のドームが消えた瞬間にホロロホルルの首を斬撃する。異常な固さに半ばまでも剣は届かない。剣を引きつつ、傷を残して飛ぶ──鱗粉が厄介過ぎる。しかし焦ってはいられない──叩きつけさえ来れば、と思うがこないだろう。手は割れた。それを利用はできない。

 

 ホロロホルルが空を飛ぶ。滑空し、体を叩きつけるようにこちらへと突撃してくる。やるしかない、と思った。

 

「ここで殺すか」

 

 不思議な話だが、ここを逃すとチャンスは二度とないと思った。だからこうする。突撃してきたそいつに、動きを停止させるほど深く斬撃を加える。

 

 それを必ず、ここで行う必要がある。

 

 まず、ホロロホルルが黒く靄を溢れさせながらも、その躍動する通常以上の筋力を以てこちらへと墜落のように突進してくる。それを、眠さが残る冴えた視界で捉えた。

 

 一歩踏み込んだ。

 

 斬撃するべき箇所を目が捉えた。そこに、斬撃をいつも通り、何も考えずに、いつもの修練通りにやっていること通りの斬撃を流し込む。当然鋭く駆け抜けないだろう。必ずどこかで停止する。

 

 そこで生きるのがさっきつけた斬撃の傷だ。横合いから切りつけた先程のそれは、上部から振り下ろした斬撃と合流し、切り傷を広げて血を撒き散らす──位置取りを失敗したためホロロホルルの羽根に巻き込まれ、そいつと一緒に吹き飛びつつも、傷はこちらのほうが浅い。そのためこちらが早く起き上がる。そして、首から血を撒き散らしながら、体の全面を地面とくっつけて動かないそいつへと近寄る。

 

 ここで殺しただろう、とは安心しない。

 

 最後まで殺し切らなければ安心できない。

 

 確殺を、必殺を、滅殺を、絶滅を、

 

 つまり──わかりやすい死亡を。

 

「──じゃあな」

 

 首を切り飛ばす。動かない今なら簡単だった。

 

「はぁ……これ、追加報酬出るよな? 元の報酬じゃ割に合わねぇぜ……」

 

 というか、だ。獰猛化と言う状態になったと言う情報は一切なかった。ならば、だ。

 

 ──獰猛化とは、一体何が原因なのか。

 

 それが、この戦いを終えて胸に残る疑問だった。




 戦闘シーンの描写……もっと勉強しなきゃ……


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死線の空 - 2

「──えーと、今回討伐したホロロホルルについて報告が」

 

「報告……ですか?」

 

「ああ……まぁ、死体を見たらわかると思うんですけど獰猛化してる個体でした。ただ、戦闘力については戦い慣れていると言っても上位クラスほど修羅場を潜った雰囲気がなかったです。そのため、なんらかの可能性で獰猛化の状態に耐え忍び、生き残ったと言う可能性が高いと思います。少なくとも、思考力自体は賢いとは言え下位クラス程度しか確認できなかったので()()()()()()()()()()()である、と言う可能性が高いと思います」

 

 頭の中で言葉を組み立てながらそう、なんとか最後まで言い終えれば、受付嬢がギルドマスターを呼んできます、と言い、奥へと向かって行った。それについてはまぁ当然だよなぁ、と思う。

 

 今の今まで観測されなかった事態だ……そもそも獰猛化個体自体、最近は観測されていなかったはずなのだ。

 

 しかし今こうして存在を現してきているとなると……古龍、と言う言葉が頭に浮かんでくる。獰猛化も恐らく、あの病気と同じように古龍の産物なのだと思っている。それが正しいのかは──それは今度、ミラルーツにでも聞いてみようかと思う。

 

「はいはい、待たせたね。さて──概要は聞いたよ。獰猛化状態な下位モンスターがいたって? それについては、そんなに不思議でもないね」

 

 やってきたギルドマスターのその言葉に不意をつかれ、一瞬思考が止まる。

 

「……そうなんですか?」

 

「君が相手にしたホロロホルル、そいつはかなり大きかっただろう? 私はね、あいつを【二つ名個体】に至る可能性のあるモンスターだと思っていたんだ。放っておけば間違いなくG級クラスまで成長してただろうね。だから今回、下位ハンターの中で安定して強く、速く相手を倒せる君に依頼を任せたんだが……これは私の判断が間違っていたよ。アレス君なら安定して狩れただろうからね」

 

「あぁ、あいつならたぶんできますね……方向性が違うので……ちょ、ギルドマスター?」

 

 軽く服の上から腹に触れてきたギルドマスターに疑問を込めてその名を呼ぶ。彼はその言葉にすぐに反応して手を離した。

 

「……ああ、お腹に傷があるね。攻撃、当たっちゃっただろ? ランスを持ったアレス君なら問題なく凌げただろうからね」

 

「あ、ああ。大丈夫ですよ。これくらいならすぐ治ります。最初より傷は塞がってますしね」

 

 元気をアピールしつつ、そのままギルドマスターに問う。

 

「今回わりと本気で死を覚悟したんですけど……報酬って」

 

「当然追加で出すよ。良い情報だった。獰猛化については最近観測されなくなってたからね」

 

 その言葉で思い出す。獰猛化、その原因とは一体何なのか。自分の頭ではわからないそれを、この龍歴院ギルドの最高権力者へと聞く──前に、彼は自分からそれについてを答えた。

 

「……獰猛化について気になってるんだろう? 一つ推測はできるよ。詳しい原因について断言はできないが、憶測で良ければ答えられる。──古龍……古代林の奥に潜む龍だ。そいつは今、かつて大量に放出したエネルギーを取り戻そうとしているだろう。()()とは……まるでかの龍ではないか。いや、或いは龍はみなその機能を備えているのだろうか。少なくとも、ね。そいつが目を覚ましているのは間違いない」

 

 その言葉で、獰猛化の原因をなんとなく察した。そのまま口に出す。

 

「オストガロア」

 

「そう、オストガロア。かつてとある英雄(ハンター)に討たれた怪物だよ」

 

 そうかぁ、と言葉を吐いて、その事実を頭に叩き込む。なんとなく、なんとなく──この期間に蘇った、と言うことはそういうことだろう、と思いつつ。

 

 

 

 

「なるほど。じゃあ俺が受けとけば良かったな。大丈夫か? 腹痛くない? 服脱いで……ほら……」

 

「ナチュラルに女性の服を脱がそうとするんじゃありません」

 

 そんなやりとりをしながらアレスと歩いている。向かっているのは契約を結んだ工房だ。今回の一件で思い知ったことがあったのだ。

 

「あのな、ふと思ったんだ──武器の性能がそろそろ厳しい」

 

「ああ、そうだな。確かに。獰猛化個体を相手にするなら初心者用武器じゃあ足りねぇだろ。ああ、だからか?」

 

「ああ、だからだ。ただ、一つ素材で目をつけてるやつがあるんだよ。それにはハンターランクが足りてなくて依頼受けれないんだけどな」

 

「へぇ、そいつは?」

 

「セルレギオス」

 

「そいつはいいや」

 

 そう話していたら、

 

 案外すぐに工房へとたどり着いた。熱気が強い──まだ中に入ってすらいないのにここまでか、と思いつつ中へと入っていく。

 

 中心に炎を設置している。その周りで鍛冶師だろうか、それらが集まっている。その群れに声をかけようとして、

 

「まぁ待て」

 

「……アレス?」

 

 呼び止めたのはアレスだった。何をするのか、と思っていると、工房の受付だろう場所に人がいないのでそこを飛び越えてアレスは人の群れへと近づいていく。そして気配を消して彼らの後ろに立つと、

 

「やぁ」

 

「うぉおおおおお──!?」

 

 肩に手を置かれた人がそんな声を上げてすっ転び、手から離れたハンマーが空を舞いその男の顔面を殴る。

 

「ぐぅぉ……」

 

「兄貴ぃ──!」

 

「しかしやつは四天王の中でも最弱」

 

「おう、そうかあとで言いつけるな」

 

「お、おう。思ってたより動じてねぇ……」

 

 そんなことをアレスが言って、そしてまた受付を飛び越えてこちらの背中を押しながら、男たちへと近づいていく。

 

「こいつ専属契約結んだやつ」

 

「おう、来てくれたか」

 

「復活早ぇ」

 

 兄貴と言われていた男が起き上がってこちらに顔を近づけて、そして持っている剣を見てから声を発する。

 

「おう。ぶっちゃけるとな、使い手に剣の格が合ってねぇ。と言うよりお前の持ってるそれは到底剣とは言えないな。そんなんを今まで使ってナルガを切断だったか? 技量に関してお前、下位ハンターとしては突出してるぜ」

 

 故に、と言う。

 

「俺はお前と専属契約を結ぶ。詳細は当然知ってるよな」

 

「固定登録ですよね。それについては当然わかってますよ。まず始めに、優先的にそちらが武器を作ってくれるかわりにこちらはこの鍛冶屋の武器を使う、と言うものです」

 

「そう、その通りだ。そしてそっちの要望もわりと何とか工面する。だが見返りに素材を貰う、依頼を受けてもらう。まぁつまりはだいたい普通の鍛冶屋よりオプションについては受け付けてくれるってことだな。かわりに素材を多く渡す必要がある。……これで固定枠にお前は設定されたわけだが、しかしこの固定枠をお前が申請した理由は? それが一番気になってんだ。なんでこの無名な馬鹿溜まり鍛冶屋に固定申請を出したのか」

 

「あぁ、それなんですけどね」

 

 と言って、まぁ解ってるだろうけど、と思いつつ抜剣する。

 

「俺の武器は直剣です。この時点で受け付けてもらえる鍛冶屋は大きく限定されます。だから、ここは直剣専門も同然なので申請しました。──()()()()()()()()のここなら俺の要望通りになるからですね」

 

「オーケー、理解した。お前がイカれたやつ(同類)だとも理解した。──歓迎しよう、殺しを求めるキチガイ共の巣へとようこそ。そこの兄さんも参加してくれていいんだぜ?」

 

「いや、俺は武器固定してるわけじゃないからなぁー……てか俺はキチガイじゃねぇしな」

 

 アレスがそんなことを言って、それを即座に否定する。お前がキチガイじゃないわけがないだろう。そう言う思いを込めてアレスを見る。

 

「おい、待て……待てよ。お前なんだよその目」

 

「あー、仲がいいのはわかったからやめてくれ。俺たちが痛い。やめてくれ。──さぁ、気を取り直してお嬢さん。早速だが一つ頼めるかい?」

 

 

 

 

 と言うことで密林に来た。

 

 イャンガルルガの素材を使って音の対処用の耳栓を作成するらしい。買えばいいじゃん、と思うが実際下位クラスには手を出すことのできないほどの値段らしく、しかも使い捨てなのでそれならしばらく使えて安く仕上げたほうがいい、とのことらしい。そのへんに関して知識があるわけではないので、完全にそこは向こうの言うことを信用することにする。

 

 たぶん巣穴にいるな、と想像して、ベースキャンプの近くに生えてある蔦に手をかけ、体重を支えられるかどうか確認する。問題なかったので、そのまま飛ぶようにして蔦を登っていく。

 

 だいたい数分で登り終え、そのままエリアを移動していく──こう言う、単純に体力を使うことが中々厳しくなってるなぁ、と思いつつ、歩きながら巣穴へと向かう。

 

 密林と言う環境で一番怖いのは吹き飛ばされることだ。崖が多く、吹き飛ばされることがあれば落ちて死ぬだろう、と言うのが明確なのだ。それにまず気をつけつつ、しかし現状落ちるようなことはないので、足元に気をつかいながら、

 

 巣穴へと到達する。

 

 ここは落下の心配がない。平坦で、そのため戦い易い場所だ。そんなところにイャンガルルガは存在した。これ、戦い易くていいなぁ、と思いつつ、まず耳を塞ぎ咆哮を耐え凌ぐ。

 

 イャンガルルガと言うモンスターについて、持ち得ている情報は素早く、強い、と言うことだ。

 

 アクションの間の隙間の時間がほぼないに等しい。故にその隙に攻撃をしようとすればすぐに反撃を喰らうのだとか。かなり賢いモンスターだと思う。

 

 隙を殺すことを学んだモンスターと言うのは意外に多いが、しかしハンター業を始めた初心者が戦う場合、こいつには為す術なくやられるだろうなぁ、と思う。疲労が早いと言う弱点があるが相手が疲労するまで逃げ続けることは体力的に厳しい。故に、隙が少ないとしか言えない。

 

 実際、相手が初手で行ってきたのはワンステップからの啄みだった。

 

 下手に避けようとすると足に蹴られて体制を崩すので、横──左に回避した。イャンガルルガは右側の対処がしっかりとしているらしいので、そこに気をつけつつ左に避けて、抜剣する。

 

 抜剣からアクションを起こす間もなくイャンガルルガは尻尾を回転させて範囲を薙ぎ払ってくる。それを後ろに飛ぶことで回避する。こいつの尻尾には毒があるので、先端に当たれば毒で辛いと言うことがわかっている。故に大きく回避を取ったのだが……そのため、かなり隙間が空いてしまった。これは間合い測れなかった自分のミスだなぁ、と自分のミスを認めつつ、そろそろ反撃に出てもいいのかもしれない──

 

 ──故に尻尾回転終わりに、まず軽く一撃だけを足を入れる。

 

 切断については何も考えてない、軽く出血をさせる程度の傷だ。しかしこれを取っ掛かりにして、しっかりと隙を狙えるようにしていくのだ。だからこれだけでも特に問題はない。

 

 そもそもハンターはモンスターの即死を狙わないのだ。だいたいが大人数で一撃を叩き込んで失血死を狙う戦い方だ。自分らのようなやつらは中々少ない。

 

「飛んだ──サマソか?」

 

 後方に羽ばたきで風を起こしながら羽ばたいたイャンガルルガの次の行動を予測しながら、一番可能性の高いものを選択する。サマーソルトは威力も高いため、ならばここは回避を優先しよう、と判断する。

 

 そしてサマーソルトには着地までに隙が生まれる。ならば、その際に確実に殺し切ることができるだろうと思う。そうまで考えて、

 

 相手が動く。

 

 地面を抉り、風を斬りながらしなやかな尻尾が迫る。それを横に飛ぶことで回避しつつ、二回目を軽く警戒する。しかしそんなことはなく、イャンガルルガは普通に着地しようとする。

 

 そのタイミングに合わせた。

 

 嘴の隙間に斬撃を線として滑り込ませ、そのまま口の裂け目を大きく広げるように、腕を半円を描くかのように振り、そうして回し、斬撃として相手の頭を切り飛ばす。血が舞った。斬撃の勢いで前方へと進む自分の体を、その流れを地面との摩擦に停止を任せつつ、後ろを見た。

 

 ──確実に殺した、と思う。あくまで思うだけだ。実際に殺せているのかどうかはわかっていない……ただ、頭を切り飛ばせたので間違いなく死んだだろう、と思う。

 

「──ふぅ。殺せてるな」

 

 実際に近寄ってみて、それを見てから確実に殺したことを理解する。頭を指で掻いて、血がコートについてのを見て、その洗濯どうしよっかなぁ、と困った。それについて、ミラルーツにでも聞いてみようか、と思いつつ、でもそんなことで聞くのもなぁ、と言う気持ちもある。まぁいいか。他人を頼るのは悪くないことだろうし。

 

 ともあれ、

 

 ──クエストを終了する。

 

 

 




 色付いたのでクオリティ犠牲に連日投稿です。明日は無理そうですね……


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死線の空 - 3

 はぁ、と息を吐いて空を見上げる。紅く光るそれはどうやら、この間から消えていない。……これ、監視されてんのかな? と思いつつ、ともあれ龍歴院のギルドに帰ってくる。

 

「おはよう」

 

「いや、今は夜だぞ」

 

 そうやって言葉を、立っていたナナシに返す。するとナナシは空を見上げてから、眩しそうに呟いた。

 

「こんなに明るいと、ね。あの光のせいで時間感覚が正確じゃない。こんな明るいのは……そうだね。火の茂る戦争中とかはこんな感じじゃないかな? まぁそんなときにはろくに寝れるわけがないんだけどね」

 

「ん? わからんぞ? 意外に頭休めるだけならできるしな。ただあくまでも休止ってだけだから真に疲れを癒やすことはできないんだがな」

 

「……そういう考え方、やっぱり君っておかしいんだよねぇ」

 

 そうか? と思って自分の体を見下ろしてちみた。当然そんなので自分の本質や心なんてものは見えないので、特に意味はないことだった。ただそこに見えるのは自分的に丁度よいくらいのサイズの胸だった。

 

「服変えたい」

 

「イャンガルルガだろ? 受付に聞いた。どうだったんだい、所謂面倒な部類のモンスターの相手は」

 

 んー、と軽く考えて、

 

「──ぶっちゃけ余裕」

 

「ふーん。まぁ……下位だし……これが上位なら君死んでるんじゃないかなぁ」

 

「わりと本気でこの間死を意識したんだからやめてくれ」

 

 当然のことだ。自分はまだまだ弱い。雑魚、と言っても良いくらいだろう。だから思うのだ。剣の道を征くには死地くらいが丁度いいと。自分が死ぬ間際の淵まで足を踏み入れたい。そうして自分の剣を高みへと押し上げたい。力を、力が、万物を切断できるほどの力が、何にも負けない戦闘力が、世界で一番と言える殺傷力が、

 

 ──統合して無双無敗の剣の理(達人)へと。

 

 そこへと至りたいのだ。

 

 のだが……それには遥かに遠い。たぶん軽く推測して、自分の実力ならばライゼクスにも勝てるか危ういだろう、と結論を出す。

 

 自分、速攻戦を得意としてるかわりに持久戦に弱いのだ。ライゼクスとなるとぶった切れる気がしないし、殺しきれるかもわからない。こんなので上位に上がるなんて烏滸がましいにもほどがあると思う。思うが、それでも、

 

 見定められたのだ──ならば期待以上を見せてやりたい。

 

「……ぶっちゃけるとね。君は一番僕たちの中では弱い」

 

「おう、そうだな」

 

 それは自覚している。そもそも二人のように特別な能力はない。そして自力ではそれに目覚めることも、ない。視力がいいと言うのはただの長所だ。ならばこそ、自分は弱い。殺傷以外に取り柄もない。

 

 例えばアレスは怪物的だ。ゲームで言うステータス、それの全てを高い水準で取得しているし、早熟だ。完璧主義でもなくただ向上心は強い。さらに異常なセンスから発現されるあの狩技の連続発動──そして同時にスタイルの同時使用。

 

 この龍歴院ギルドで武芸百般と言えばおそらくあいつが筆頭に上がるほどの──天才(ジーニアス)。下位なんかで収まる器でなく、上位にしたって格が足りない。収まるのはG級、しかもその最上位。

 

 それはG級ハンター、アステオに見定められたことから確実と言ってもいい。

 

 例えばナナシは感覚的だ。無意識の領域で相手についてを分析できる感覚的天才。しかしその天才はどれほどの積み重なりがあったと言うのを理解させるほどの膨大なデータを全て、用紙に書き記している。言語と言うツールを介さない無意識の領域の出来事を意識的に分析しているのだ。それ自体は特に変わったことではない。歩くなどと同じ理屈だからだ。

 

 ただ、こいつの場合は理屈も道理も何もかも無視して察知したものを文章にする、と言う酷く難しいことを成しているのだ。呼吸の仕方を説明するのと同じこと──もっと進んで心臓を鼓動させる方法を説明するようなもの。それをどう動かしているかを説明しているようなもの。

 

 それほどまでの天才が周りにいて、ならば自分はどうだ?

 

 その剣は空間を裂くことをできない。雷を切れない。間合いを無視して斬撃を飛ばすことができない。流体を切るには無理がある。

 

 平凡。ただ、ちょっと肉の切り方を知ってるだけの、平凡な人間だ。

 

「でもね。僕は君が恐ろしいんだ。実際相対した際、負けられない戦いであれば君はどうやったとしても()()()()だろうから。君の可能性については僕が知っている。僕らが知っている。明らかに勝てない驚異を前に、勝ちをもぎ取った君を知っていた。ならば──僕たちの中で、君が一番、きっと強い」

 

 それはよくわからなかった。ただ、何について言っているのかはわかった──教習所時代だ。生命の輝き、剣の瞬き、誰かの嘶き、自分の囁き。自分が自分でないようだった、一つの物語の終焉を彩る──元凶の贖い。

 

 それを思い出して、ああ。こいつが言うのなら、そうなんだろうなぁ、と思った。

 

 

 

 

「──やっぱ殺すなら鈍器じゃね?」

 

「それな」

 

「大抵の相手はどんなに下手くそでも殴ってるだけで殺せる事実」

 

「いや、でもそう考えると対人戦に於いて最強なのって機能性抜群すぎるスコップなのでは……?」

 

「それな」

 

「ハルバード……もいいけどな。シキの国の技術なら玉鋼で密度上げて鈍器みてぇにできるしな」

 

「薙刀も正直鈍器なんだよなぁ……つーかだいたい全部の刃物は鈍器だしな」

 

「初心者はろくに切ることもできんだろーが。そんことを考えろよボケ」

 

 工房へと着いたらなんか話し合ってる。とりあえずよ、と挨拶だけすると、兄貴と呼ばれている男がこちらに気づき挨拶を返してきた。

 

「どうだったよ、あいつの相手」

 

「正直雑魚。わりと相性がいいからな」

 

 ふーん、と言って兄貴は手をこちらに差し出してくる。それにとりあえず剥ぎ取ったぶんと報酬でもらったぶんのガルルガ素材をポーチから出して、手渡した。

 

 それを見て、兄貴はへぇ、と声を洩らした。そうしてその素材を軽く、両手を上げるようにして持ち上げ、

 

「やっぱお前正解だわ、()()()()()()()()()。これは一撃で殺そうとしてるやつの特権みたいなもんだろうなぁ。これなら強度高めで作れるぜ。金は……要らねぇ。先行投資ってやつだ」

 

「ん? いいのか? 結構高いんだろ?」

 

「俺が要らねぇっつってんだ。お前みたいなやつ(マーダー)はな、この店からすりゃあ上客だよ。お前は将来絶対強くなるだろうからなぁ。そのぶん咆哮喰らって死ぬってのを無くすためでもある。強くなるまえに死なれちゃぁつまらん」

 

 ならその言葉に甘えることにする。

 

「完成には?」

 

「一時間もありゃあいいよ。耳栓ってのは実質アクセサリーだしな。そんなのに時間をかけるようなやつは職人辞めたほうがいいぜ」

 

「んー……じゃぁ、耳栓受け取ったら狩りにでもいこうか。準備してくるわ」

 

「おう、行ってこい行ってこい」

 

 そう言って、そう言えばアレスを見てないことに気づく。そのことについて軽く周りを見渡してみると、兄貴と呼ばれる男は言いづらそうに、

 

「あー、あのアレスってやつは……たぶん今、狩り」

 

「あー、出かけちゃったかぁ。しょうがないね」

 

「おう。しょうがないな」

 

 あははは、と互いに笑いあって、

 

「吐け。あいつ一体どこ行った」

 

「おい嬢ちゃんちょっとガチ過ぎねぇ? ガチ過ぎねぇ? さり気なく殺せるアピールするのやめねぇ?」

 

 首を掴んでついでに剣に手をかける。当然冗談なのだが、実際あいつがどこに行ったかによってこの後の行動は変わってくる──たぶん推測できるのは、

 

「嬢ちゃんの家に行ったよ」

 

「クソがぁ──!!」

 

 

 

 

 息を吐き出した。狩りに出た以上、余計なことを考えてはいけない──狩り、そう、狩りに出た。クーラードリンクを飲み干す必要のある場所へと来た。

 

 旧砂漠、と呼ばれる場所だ。今回狩りに来たのはハプルボッカ。これは中々面倒くさいモンスターだ、と思う。クーラードリンクを飲んで、歩きながらそんなことを考えていた。

 

 ところでアレスくんなら久しぶりにガチの喧嘩をした末に勝利した。過去と振る舞いが一切変わらないのは嬉しいが現在は女の体、そのことを知っていたと思うのだが……やはり常識が欠如してやがる、と思う。

 

 ベースキャンプから出た瞬間に回避できない熱波が襲う。クーラードリンクで冷やしているぶんなんとかなるが、それがなければ動くと熱中症になって倒れるだろう。いや、この場合は熱射病なのだろうか? それについてはどうでもいい──とりあえず、なだらかな斜面を描いている砂地を踏んでいく。ここで倒れると地面くっそ暑いんだろうなぁ、と思いつつ歩く。

 

 

 そして飛び退いた。

 

 

「──!?」

 

 先程までいた場所からハプルボッカが大口を開けて飛び出てくる──回避に失敗したら死んでたな、と暑さのせいではないだろう汗と背中の凍えるような感覚を感じながら着地する。

 

 完全に気配を察知できなかった──その事実にまず驚く。驚くし、そもそもハプルボッカと言う生き物はここまで迅速に対応するようなものじゃない。それがこうまで早く移動しているなど──

 

「ってこいつもかよ……!」

 

 ──黒い靄が、ハプルボッカの顔面を覆っているのを見る。こいつも獰猛化か、と思いつつ、ならばそのせいで凶暴になっているのだとひとまず片付ける。そうして剣を抜き、左半身を軽く引きつつ、右手に持った剣を目線の高さに合わせる。両腕は突破力がほしいときだけだ。それ以外には必要ない。

 

「どっちだ、上位か、下位か──」

 

 咆哮が放たれる。それを作り上げられたばかりの耳栓がシャットアウトして、そのまま動じることもなく動くことができる。しかしその耳栓自体からひび割れるような音がしたので即座に相手のランクを判断する、

 

 ──上位。

 

「くっそ──ギルドぉ──! お前管理ガバかよぉ──!」

 

 叫びつつ、動く。この分だと完全に壊れるまであと二回──それだけしか咆哮は防げないだろう。新調したばかりの装備があっと言う間に壊れるのに悲しみを覚えるが──しかしそんな場合ではない。もっと使い捨てるつもりで、今は、

 

 生き残る。

 

 咆哮の間に二度切った──しかし普段のモンスターと比べ物にならないほど硬い。それが自分が察知した、上位と言う推測をいよいよ確実にさせていた。咆哮から即座に旋回し、こちらに向いて噛み付こうとしてくる。それを納刀して走って、距離を普段より大きく取りつつ回避する。下手に近寄ればなにをしてくるかがわからない。とりあえず、相手の噛みつきは泳ぎながらだったので前方に進んでいる。そのぶんを即座に詰める──遠くに離れるとブレスが飛んでくる、と言う情報を買った。ハプルボッカ討伐経験者に酒をおごってもらったのだ。

 

 ハンターの生の経験を教えてもらえた。その事実があるからなんとかできる──これ、その情報が特に生きるなぁ、と思う。

 

 上位と下位の仕切り、それは簡単に言えば()()()()()()()()だ。隔絶した差がある……まぁ上位のジャギィが下位のティガレックスに勝てるなどと馬鹿なことはないが、しかし上位のイャンクックと下位のイャンガルルガを比べれば、そこには上位のイャンクックのほうが固く、重く、そして細かい。

 

 つまり上位とは強い個体だ。成熟した、闘い慣れた個体と言ってもいい。全てが下位とは大違い。だからハンターはランクで分けられるのだ。

 

 下位のティガレックスなどのあとに上位イャンクックなどが来るのには相応の理由があるのだ。

 

 ハプルボッカの上位体──その中でも憶測してこいつは下位よりだろう。だがしかし下位のモンスターが上位にすぐに至ることはない。あり得ない。ならばこの状況は中々特異だと言える。

 

 まぁ、人間が運営している以上ハンターズギルドにも間違いはある。このクエストが終わったら文句は言わせてもらうが、仕方ないことなのだ。

 

 接近すると上半身を地面に叩きつけるようにして攻撃してくる。飛んでくる砂で視界を失わないように大きく距離を取った。

 

 クエストリタイアなんてしようとしたら死ぬ。逃げようとしてもどこにも逃げられない。

 

 ベースキャンプのすぐそばに出没したのだ。モンスター避けはされているとは言え、そこに乗り込んでこないと言う可能性は普通にある。

 

 そもそもベースキャンプは大型モンスターが寄りつきにくいからそこに設置されてるのだ──そんな場所のすぐそばにモンスターが来ること自体が滅多にないことだが、実際キャンプが破壊された前例はある。なんなら村のバリケードを超えてモンスターが侵入してきた例だってある。故に逃げたとしてもおそらく、

 

 フライングハプルボッカで食われて死ぬ。

 

 それが辛い。

 

 現状相手が逃げるまで耐え続ける必要があった。

 

「はぁ、はぁ──辛いね?」

 

 地面に潜ったハプルボッカを、なんとなく、微かな地面の振動で察知して逃げるように走る。そうして横に飛び退けば、さっきまでいた空間をハプルボッカが食らうようにして飛んでくる。

 

 そのまま反転して再度飛びかかってくる──基本的にこちら本人を精度高く狙ってくるのが問題だ。なんとか回避して、そして次のことまで考えなくてはいけない。

 

「ってまたかよ……!」

 

 三度目、砂の頭だけを出して足を掬うように突進してくるそいつを跳躍して回避した。そのまま地面に潜られたため攻撃ができない。

 

「こいつ嫌いだわ」

 

 言葉の直後に地面から飛び出てくる。大口を開けている──それに飲み込まれれば死ぬんだもんなぁ、と思いつつ、退避していた自分はそれを眺めていた。

 

 地面に振動を残して着地したそいつは、ついに砂から出てきた──だがここで接近すると回転してこちらを攻撃してくるらしい。警戒してその場に留まっておく。

 

 ハプルボッカの口に水が滴ったように見えた。

 

「クソがあぁ──!!」

 

 ハプルボッカの正面から即座に離れつつ、そのまま接近する。近場が安置の遠距離ブレス……そんなの食らったら、たぶん首が吹き飛ぶ。今の装備はいつも同様のコートとズボンなのだ。頭は守られてないのだ。意識することが多くなりすぎるし頭防具つけよう、と思いつつ、接近して──今この瞬間は隙だ。そうしてエラの根本のそれに斬撃を滑らせ、そのままそこへと剣が入っていく。あとちょっとで切断と言うところでエラを仕舞われて完璧に切除はできなかった。

 

 だが斬撃の最中に仕舞ったことで上部分は切り取れた──柔らかい部位だったら切断はできるらしい。ただ、今は取り敢えず離れる。

 

 ヘタレな戦法だが命が優先だ。こう言うの、G級と呼ばれるハンターなら踏み込んで相手の行動の全てに反応し、攻撃の全てを受け流しそのまま攻撃に変えるんだろうなぁ、と思うと目指す場所は遥かに遠いと思い知らされる。

 

「取り敢えず……エラは取れた……な?」

 

 走ってばっかりで少しだけ乱れた息を正しいリズムで呼吸することでなんとか鼓動を落ち着ける。汗が頬を這っている。目に落ちてきたら大変なので額の汗を拭った。それをしている間もハプルボッカから視線は外さない。

 

 しかしハプルボッカは逃げるように地面へと潜っていた。その行動の真意が読めず警戒する。振動で居場所を割り出す──こちらがわに来ている。それに対応しようと飛び退いたところで、

 

「──ぁ」

 

 空が見えた。

 

 真っ赤に染まる──()()()()()()()()()

 

「ぅ──ぉ──、ぉぁああああああ!?」

 

 それを認識する。そして回避は不可能だと判断、防御以外に取れる手段がないことを理解する。故に現在一番危険な頭を庇いつつ、しかしその防御すらも突破されると直感が囁いている。

 

 しかし動く時間がない、すぐ紅が世界を埋め尽くす──近くに来たことでその正体を理解した。

 

 ……その中心を視認できないほど膨大な龍属性エネルギー──!

 

 それだけ看破して、しかし行動は取れない──地面へと落ちようとするその瞬間、

 

 

 に世界は染め上げられる。




 ほんとは午前には投稿できる予定だったんですけど間に合いませんでした、ごめんなさい


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死線の空 - 4

 斬撃を振り抜いて辺りの土煙を拡散させる。そうして視界を確保することで、完全に感覚任せだった自分のコンディションをチェックする。

 

 どうやら咄嗟の回避は効果があったようで、左腕が動かないこと、剣が半ばから折れたことと耳栓が完全に死んだこと以外に特に問題はない。ならば快調だ。剣が死んでないならまだ戦える。だから快調だ。

 

 剣が軽くなっているので、簡単に振って感覚を慣らす。このサイズなら短剣として扱ったほうがいいなと思う……だが自分、短剣は専門じゃない。ろくに使うこともできないのでやはり普段通りに戦うしかない。大丈夫、軽くなって突きが使えなくなってリーチが短くなっただけだ。戦える。

 

 短剣使いとか正直どんなマジックを使っているのだろうか。

 

 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ扱える気がしない。だがしかしそれを扱えないと死、だ──たぶん死ぬと思う。

 

 古龍に勝てなくとも、少なくとも持ちこたえる必要がある。ならば答えは一つ。

 

「みみっちい耐久だ……!」

 

 体力が持つ限り耐久する。

 

 龍属性の砲撃が飛んできたのでそれを横に飛んで回避する……離れていたのに右手がひりひりして痛い。これ、ゲームとかならスリップダメージ入ってるだろ、と思う。

 

 とりあえず接近する。そっちのほうが実際戦いやすい。龍属性ダメージは接近したほうが薄れる。

 

 龍属性を砲撃……つまりそのものを武器として扱う以上、下手に遠距離で逃げれば死ぬだろう。そう思う。なのでとりあえず接近した。

 

 龍属性は当たるとその側から()()()()()()。肉体が使い物にならなくなることも場合によっては普通にある。そのため龍属性はできるだけ回避する必要がある。

 

 龍気活性と言う技術、あれは自分の寿命を削る技だ。利用するのはG級以外には……戦い以外に何も興味のないG級ハンターくらいだろう。生命力を龍気に転換する裏ワザ。

 

 属性すら食らう龍属性の効果で属性攻撃を無力化できるが、自分の体もそれに食わせることになる。なのであまり推奨されない技術だ。外法の類でもある。故にそんなに使う人間はいないし、使える人間もいない。

 

 接近すると翼で攻撃してくる。それを回避しようとして、龍属性がその翼から放出される。それをまともに浴びたせいで、もともと消えそうだった意識が消えかける。

 

 それを堪えて、尻尾側に抜けていく──直後に龍属性のエネルギーが龍──バルファルクから放出される。

 

 龍属性を放出することで異常な速度で飛ぶことのできる龍──そんなの、序盤に出ていい存在じゃないだろ? と思いつつ、剣を振るう。軽すぎるその攻撃はろくに通ることもなく、簡単にその甲殻に弾かれた。

 

 ──これ無理ゲーじゃないかなぁ。

 

 そう思いつつ、次の行動を何通りも考えつつ、直後に反射任せで攻撃を回避する。目視が不可能だったそれを回避した──それはいいが、体制を崩しそうになる。それをむりやり食い止めながら、静止する。

 

 左腕が使えないので現在さらに力を込めることは不可能だ。ならば肉質を考えながら攻撃するか、それとも攻撃を諦めるか。すぐに攻撃を捨てる方向を考える。相手のなにが恐ろしいって早いのに固いところだろう。正直生命力が異常とも言える。そんな敵となりゆきで戦うことになるのだからこの世界ってほんとにクソだと思った。

 

 薙ぐのは属性に塗れた右翼だ。それは属性を開放することで見た目よりはるかに広い範囲を攻撃してくる。──見た目があてにならないとかこいつほんとに厄介すぎないか? なんて思いつつ、

 

 前足の下に潜り込んでそれを回避する。翼で打つ攻撃である以上、そこには安置が存在する。その安置は──バルファルクの体の下になる。構造上、飛ばないと攻撃はこちらまでこないからだ。

 

 ただなぎ払いに当たって死ぬ可能性あるから正直心の底から古龍ってクソだと思う。

 

 お前もそうだぞミラルーツ。

 

 当たり前のように乱入してくんなバルファルク。

 

 一生死んどけオストガロア。

 

 歩く害悪シャガルマガラ。

 

 なんでこんなにクソみたいに殺意高いやつしかいないのか。古龍と言う存在は畜生でなければいけないのか。いや古龍は畜生だった。いいから巣にお帰りバルファルク。

 

「帰れよォ!」

 

 咆哮で脳を潰されないように前兆を見てから耳を塞いだ。それでも脳に響いてくるそれは頭を揺らして意識がブレる。それを舌を軽く噛んで痛覚で意識を保ちつつ、そろそろ体力が持たなくなってきたことを理解する。

 

 これそろそろどっか行ってくれないかなぁ、と思ってるとバルファルクは自身の甲殻の周りに龍属性を覆い始めた。兜のように頭を覆ったそれにとうとうキレそうになりつつ、相手の跳躍、それから地上へ龍属性弾を撒き散らす攻撃を走って距離を開けて回避する──狙い撃ちにされるな? となんとなく思っているとやはりこちらに砲門が向いた。

 

 ほんとに、一撃一撃が即死のレベルだ。そんな相手と戦うのはまだまだ先がよかった──視界にすら映らない砲弾は空間に僅かな線だけ残して消える。それを回避できたのはたぶん勘だ。

 

 勘を研ぎ澄ませば──全てが回避できるだろうか? そう思いつつ、とりあえず未来の推測をする。相手のその攻撃の予兆なんてわからないし、みえない。ならば全てを直感で避けるしかない。

 

 大丈夫、目隠しで歩くのとあんまり変わらないのだから大丈夫。そう言い聞かせて、

 

 直後、バルファルクが飛び立った。

 

「──は?」

 

 そこで思考が停滞する。全ての予測をぶっち切ってあいつ飛びやがった──そう愚痴を言いたいくらいの最悪だ。そして周りを見渡す。逃げたのだろうか? 陰が見えない。

 

 しかしそうではないだろう、と本能が警鐘を鳴らす。こういう直感は意外に当たるものだ。本能が告げる言葉に耳を傾ける。

 

 ──上だ。

 

 流星が降るように、龍属性をまとってバルファルクが突進してくる。それは最初に見た攻撃、二度目はない──おそらく対応できる。自分を狙ってくるのだから簡単だ、と思う。

 

 走る、そして身を投げ出す。

 

 緊急回避と呼ばれているものだ。空中にいる間に吹き飛ばされることでダメージを抑えようとする行動になる。爆発が起こった──吹き飛ばされつつ、地面を転がった。

 

「……──」

 

 耳が潰れた。それを理解した。耳栓ないと厳しいタイプの攻撃だった……血が流れている感覚でそれを悟る。そして視界も回っている。酩酊しているみたいに、感覚がうまくつかめない。自分が自分でないような感覚──それを思いつつ、立ち上がることすら厳しくて、

 

 その状態で視界は龍属性の弾丸を捉えた。

 

「ぁ」

 

 死ぬか? 死ぬなぁ。そう思いつつ、確か後ろは──崖だった気がする。これ、当たったら死ぬ……けど回避できない。龍属性の弾丸が迫って、体に当たって、自分の体がきしむ感覚。それを味わいつつ、遅れて痛みがやってきて……それに耐えきれずに視界が霞む。

 

「……あーあ、つまんねー。もうちょっと楽しい娘だと思ったんどけどなぁ……まぁしょうがねぇか。さて、力試しは終了。お疲れ様──」

 

 ──そんな声を、聞こえないはずの耳で捉えて、体に肌の暖かさが触れる。どこか懐かしい感覚のそれは、久しぶりに触れた気がした。霞む視界は一人の男を捉えている。その姿はぼやけて、顔もわからない。けど……何故か安心感があった。

 

「お? あぁ、──大丈夫だよ、だから寝とけ」

 

 強く抱きしめられて意識は堕ちていく。その感触は、安心感があって、暖かさがあって、──どこか、すごく懐かしかった。

 

「────」

 

 最後に一つ呟いて、

 

 

 

 

「──っ?」

 

 どこだここ、と目が覚めてすぐに思った。そしてすぐに発想する──アステオの病院だ。そんな場所にいると言うことは自分は大怪我をしていると言うことで、実際体は微塵も動かない。

 

 どうしてこんな怪我を負ったんだか……そう思って軽く記憶を辿っていると、すぐに思い至る。ああ、バルファルクと戦ったんだなぁ、と。ならば何故自分は生きているのだろうか?

 

 そこが疑問になる──間違いなく死んだと思ったが、……そういえば意識を失う直前に聞いたもの……試練、だったか。ならば自分が今ここにいるのは試練の終了だから、だろうか。ただそう言えばあいつくっそつまんねぇとか言ってなかったか?

 

 あいつ絶対いつかぶった切る。

 

 そう思っていると病室の扉が開き、そこからアレスとナナシが顔を出した。二人はこちらを見ると小さくよう、と手を上げて声を発する。自分もならってそうしよいとするも、体の痛みに腕を上げることができなかったので断念して声を発するだけに留める。

 

「何があった? てか喉は大丈夫なのか?」

 

「あーうん、喉はそんなに問題ない。何があったって……ギルドは何か言ってなかったか?」

 

「おう、なんも言ってなかったな。いや、旧砂漠の一帯が消滅したとか言ってたからたぶんそれか? おう、何があったか言えーや」

 

「バルファルク来た」

 

「oh……」

 

 怪物アレスでさえもそう言うのだから古龍と言う存在はとことん規格外なのだな、と思う。ただバルファルクについて伝達がなかったのは不思議だと思う──箝口令でも敷かれてたか? と思ったらやらかしたとしか思えない。

 

 まぁ、たぶん観測班潰されてたから記録がなかっただけだと思うが……いや、ネコタクが観測してるか。なら箝口令かなぁ、と思ってやべぇと思う。

 

 忘れよう。

 

「……俺の状態は?」

 

「全身で合計十五箇所ほどの骨折、耳の損傷、龍属性による肉体の侵食損傷──くらいあったんだけどねぇ……属性ダメージ以外は全部消えてるよ。でも腹とか、属性のダメージがダイレクトに通った場所の痕は消えてない。時間をかければ傷は小さくなるけど、消えない可能性な高いね。おめでとう、絶好調だ。あぁ、耳の中で砕けた耳栓の破片が耳の中を傷つけてたからそれは除去したよ。崇めろ」

 

「死ね」

 

 そう言って中指を立てようとするが、痛いのでやめておく。それをみたナナシが数秒無言で、

 

「──これ、今のうちに煽るだけ煽れば……」

 

「俺傷殆ど治ってるんだけど」

 

 痛みがあるだけなので動くことはできるのだ。ただ龍属性の侵食のせいで異常に痛いだけで全然普通に動くことはできるのだから剣だって振り回せる。

 

「あー、そうそう。お前剣折れただろ? その変えは兄貴がもう用意してるってさ。ただあくまでも繋ぎだからさっさと新しい剣の素材集めろだとよ」

 

「あー、あとついでに僕から一つ。バルファルクの情報については前々から仕入れてたのがあるんだけど、──あいつ遠くでいたら狙撃してくるし近くによったら怒り状態の龍属性で焼かれるってさ」

 

 その言葉にこちらが黙る。つまり近距離も遠距離も殺しにくる厄介な性能ではないか? そう考えるとガチ過ぎない? と言う気持ちがある。それでもまぁ、たぶんなんとかなるだろうと軽く頭の中で計算してると、

 

「ああ、あとついでに武器のほうが龍属性と反発しあって表面削れるから切れ味殺しにくるよ。気をつけてね」

 

「クソ性能じゃねぇか」

 

「ガンナーだと安心だと思うじゃん?龍属性に生命力食いつぶされるほうが速いから剣士より早く死ぬよ」

 

「害悪過ぎるだろ」

 

「うん、だからたぶん君と戦ってたやつも相当手を抜いてただろうね。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だろうなぁ、と思って、そういえば、確認するべきことがあった。

 

「鏡持ってない?」

 

「剣ならあるぞ」

 

「ありがと」

 

 そう言って、目を隠していた髪を上に上げて剣を鏡代わりに利用して自分の調子を確認する。紫は()()()()()()()。なるほど、まだ大丈夫だろう──取り返しのつかない位置には到達していない。

 

 ならば問題はない。剣をアレスに返しつつ、次にやるべきことを考える。ハプルボッカとバルファルクのことを報告したら──そう言えば。

 

「ハプルボッカってどうなったんだ?」

 

「死んでるのが確認されたよ。ヒレが切断されてたのと、龍属性の侵食で体が変色した状態で死んでた。素材からは上位個体だと確認されたから……たぶん、緊急クエスト来るだろうね」

 

「免除されないかなぁ……」

 

 ただ、緊急クエストがくるのは速い部類だろうから良かったと思う。上位まであと一息、と言う領域にたどり着けるのだ。

 

「長かったようで短いなぁ……」

 

 まぁ、しかしその前に得物を作り直す必要がある。──折角だし、武器を作るまではこいつらにクエストを手伝ってもらおうか? と軽く考え、それが意外にありだと思ったのであとでそれについて言っておくとする。

 

 まぁ、取り敢えず、

 

 ──面倒な戦いだったのだ。しばらくはのんびり休んでおこう。




 とりあえず下位編のシナリオを少し削減したのでこれからテンポよく進んでいくと思いますー


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残響遺影戦地・■■■■

 まず口に大量に肉を詰め込んだ。舌全体に触れるようにいっぱい詰め込んで、そうして咀嚼の間で味を楽しみながら嚥下できるほどになったら飲み込む。だいたいこんな感じの食べ方を自分はよくする──味わいつつ速さを求めるならこれが丁度なのだ。

 

 まぁ味にはそんなに正確ではないので不味いとか呼ばれるものも美味しく楽しめるのだが。こういうあたり、舌が肥えている人はかわいそうだと思える。なんせ安いもので楽しむことができないのだから。こちらには高いものと安いものの区別がつかないという決定的な弱点があるのだが。

 

 いやそれ損じゃないかなぁ。

 

 とりあえず、ギルドのほうにはハプルボッカのこととバルファルクがきたことを報告しておいた。当然大事なのでギルドはそこから生き残ったことを評価して緊急クエストをこちらに回してきてくれた──もともと、ハプルボッカのクエストを完了できたら実績十分と言うことになっていたらしい。なので今回の件はプラス点になるのだとか。

 

 社畜的にはここで喜んでおくべきだと思う。

 

 武器は新調されて前よりは切れ味が上がっているが、そのぶん切断に特化しているために直ぐに折れるほど強度がもろい。なので新しく武器を作っておく必要はあった。

 

 緊急クエストをクリアしたらここでセルレギオスのクエストに行けるようになる。武器を作るまでは手伝うと言う約束をとりつけているため、緊急クエストは異常なまで安定して勝利できるだろう。ならそこは特に考えることはない──こちらが武器を折らなければ問題はない。

 

「……いや、お前飯食うの早えよ」

 

「あ、アレスだ。久しぶり。ナナシは?」

 

「闘技場のときの幼女に絡まれてる」

 

 その返事に適当にふーん、と返してからポーチを見直す。コートも前回のでかなり傷ついたのでミラルーツに服を集ったのだが、そのせいかなぁ、と思いつつ、

 

「あ、ナナシ」

 

「あいつ幼女に負けるくらいクソ雑魚かよ」

 

「わたしこいつ要らない。……と言うことでハグモ、服持ってこさせたわよ」

 

 ナナシを雑に地面に投げ捨てつつミラルーツの後ろに遣えるように服を持っていたミラさん……ミラボレアスのほうを見て、

 

「あの、なんかいろいろ飾りが過多だと思うんですけど」

 

「下に埋もれてるだけです」

 

 そう言って彼女は上のきらびやかなドレスの類の服を全て地面に投げ捨ててから底にあった服をこちらに渡してくる。それを着ていたインナーの上から羽織る──ユクモの方面の、着物とか羽衣とかと言われる服だったと思う。それに着替えていくと、見た目よりは身体を動かしやすかった。動きを阻害しないような構成になっているみたいだった。伸縮もするようで、それで衝撃を吸収するような形になっている。

 

 足のほうはスリットが入っているので動きにくさも全然ない。スカートのような構成だが、このくらいなら男時代の私服でも着ていたので問題ない。

 

 上は羽織るようにしてから腰のあたりで下と共に固定する。袖が広いのが少し心配だが、手首辺りまでしか長さがないのでそんなに心配することはないのだと思う。

 

「……うん、これはいいや」

 

 総評、防御力を最低限備えつつ動きやすさも十分。やっぱ性能はいいなこれ、と思いつつ、

 

「これっていくらなんです?」

 

「……それはミツネシリーズと呼ばれる装備を趣味のままにあの方が改造したものです。値段はそれを一式揃えるのと同じくらいなのではないでしょうか?」

 

「へぇ、ミツネ装備ってこんな感じになってるんだ。そういえば一時期流行ってた時期があったっぽいんだけども……ナナシは知らねぇかな」

 

 そう思ってナナシのほうを見れば、ミラルーツに睨まれながら食事を取っている姿を確認することができた。ナナシはこちらの発言も聞いてたみたいで、考えるそぶりすら見せずに答える。

 

「まだ僕らがこのギルドに来る前だね。ディノバルド、ガムート、ライゼクス、タマミツネの情報が集まってなかった時代だ。その時期はとりあえず情報収集を第一とした時代だから、観測しつつ襲ってきたものを狩る、と言うことを続けていたらミツネハンターが増えてね」

 

「相変わらず無駄に詳しいなぁ」

 

「だからこそわたしはこいつが嫌いなんだけどね」

 

「君いちいち敵愾心強すぎないかな? 僕がいつまでも優しいままだと思うなよおい、なぁ」

 

 ふーんとミラルーツが言いその姿が()()()。霞むように姿を消し、その手で()()()()()()()()()()()()

 

 一瞬で死んだナナシを見下ろしてミラルーツは言った。

 

「……ま、軽く本気出したらこんなものよ」

 

「いや軽くでもお前本気出したらヤバイから。こいつ生きてる?」

 

「……死んだわね……このどうしようもないゴミはほっときましょう」

 

 相変わらずナナシに対して辛辣だなぁ、と思う。そこで死んでるやつが何を抱えているのかは知らないが、やっぱ相当な厄ネタだろうなぁ、と思う──まぁいつものことだ。厄ネタ抱えるのは慣れている。だからそんなに思うことはない。

 

 アレスが言った。

 

「その装備ってエロさあるよな」

 

「どこにその要素があるのか俺にはよくわからんがそういうんならあるんだろうな、お前がそう思うなら」

 

「性癖に正直がモットーにだからな」

 

 教習所時代を振り返れ貴様。

 

 とりあえず、そんな感じの会話を終え、受付へと向かっていく。三人で契約をしておき、そしてまたテーブルへと戻ってくる。

 

「とりあえず契約しといたわ」

 

「おう、待て待て貴様。高貴なる俺がまだ飯を食っておろう」

 

「えっと、主様。食事を奪うのは流石に大人気ないかと」

 

「この世は弱肉強食だからね。生態系の頂点に座すわたしは食事を奪っても許されるのよ」

 

「いや許されないからね。とりあえず人を椅子にして食べるのはやめようか。僕は椅子じゃないから」

 

「いえ……違うわ……椅子。あなたは椅子なの……椅子なのよ……」

 

「お前ら総じてバカだよ」

 

 そう言って、とりあえず立っているのも疲れるので座ることにした。……体力なくなったなぁ、としみじみ思う。こんなに体力がなかったのは子供の頃くらいだったはずだ。

 

 それだけ自分も衰えたか。

 

「肉が美味い」

 

「アレス様、私は飯テロはよくないと思うのです」

 

「うるせぇ! 俺が! ルールだ!!」

 

 こいつさては調子に乗ってるか? と思ったので殺さなきゃ、と決意する。だがここで刃は抜けない。ギルドに睨まれている……ならば狩場でこっそりと殺すか? セルレギオスが殺したとでも言えばなんとかなるだろうか……?

 

 やめとこう。セルレギオスに断割力はない。あいつの攻撃は基本抉るようなものだ。なのでそれでは騙せない。

 

 そんな日常を──どうにも美しく思える。

 

 

 

 

 狩場についてまずはじめにやることは皆体をほぐすことだ。体をほぐすことは、ほとんど必須になる──上位に上がれば飛行船が利用できるようになるので、こんなことをしなくていいのだが。

 

 今回の狩場は森丘で対象はライゼクス。そんなに強い相手ではない……戦ったことはないこ推定でしかないが、このパーティだとそんなに気負うことはない。

 

「で、その武器で戦えるの?」

 

「戦える気がしてないよ」

 

 なんせ貧弱だ。その武器はありあわせでしかない。すぐ折れるだろうが……まぁ、すぐに新しい武器を作るので大丈夫だろう。

 

 たぶん大丈夫だと思う。

 

 とりあえずやることリストに武器を作ることを最優先で加えておいて、固まった体をなんとかほぐして軽く武器の抜刀を試す。

 

 2、3度ふってみてから完全に感覚を揃えきったことを確認して納刀する。そして周りを見ると、どうやら他も準備は完了しているみたいだった。これで戦いの準備はオッケーだ。……そう思ってるとアレスがこちらに言ってきた。

 

「あのさぁ、思うんだけどお前のその剣に対するセンスは異常だと思うし正直うらやましいわ」

 

「あ? んだよ唐突に。お前も剣にリソース全振りすればこんくらいできるだろうが」

 

「いや、俺もできるんだろうけどなぁ……そのぶんこっちはスタイル転向を余儀なくされるから真似したくはねぇな」

 

「そんなら羨むなよお前……」

 

「隣の芝は青いってことだよォ!」

 

「キレんなよ! お前面倒くせぇなお前!!」

 

 そんなやりとりを黙って見ていたナナシを見た。

 

 全身に刻まれている傷はおそらくさっきの傷だろう。ミラルーツのやつほんとにあいつに容赦しねぇな……と思っているとナナシと視線が合った。

 

 ナナシは口に回復薬をぶち込んでこちらにサムズアップを決めた。

 

 そして仰向けに倒れた。

 

「ナナシぃ──!!」

 

「ははは、あいつ雑魚だな?」

 

 煽り決め始めたアレスを蹴ったら冗談はさておいて、と言ってナナシは起き上がった。

 

「とりあえずちゃきちゃきといこうか」

 

「お前のせいで遅れてるんだよぉ!?」

 

「うるせぇぞハグモ。お前いつの間に絶叫キャラになったんだよお前」

 

「うるせぇよお前誰のせいだと思ってんだクソが」

 

 中指だけ立てて先に進んでいた二人を追ってベースキャンプから出ていく。

 

 ベースキャンプを出たらすぐに傾斜が存在している。そこがいつもどおりの森丘の姿だ──ここは下位のときに通い慣れたのでホームグラウンドと言っていいくらいにはここの環境に慣れているのでそんなに問題ない。

 

「空は赤くないから俺の勝ちフラグ……!」

 

「お、これは乱入フラグかな?」

 

「やめろぉ!」

 

 始めの試練は終わったのだから乱入はないだろうと思うが……しかし確約はできないのが怖いよなぁ、と思う。

 

「……おっと」

 

 エリアを一つ超えると、そこにライゼクスはいた。それを視認した瞬間にアレスが先行して走り出す──現在のアレスの武装は、

 

「安心安全のランスぅ……!」

 

 その背中に貼り付いて咆哮の衝撃を流させながら、走る。盾から離れすぎないようにして剣を振ってまず()()()()()()。斬撃を通すのに時間は要らない。一瞬でいい。

 

 吐息と共に音を放ちながら斬撃を放った。左脇から斬撃を振り抜くようにして、そのまま喉に触れた瞬間に斬撃を通していきながら、切断できないことを悟って剣から手を離した。そして後ろに飛ぶ──出血量は、目に見えて高い。これ、もう少し押し通せば殺せるよなぁ、と思いつつ自分は武器を失ったので逃走する。

 

「ナナシ任せた!」

 

「はいはい任された。……アレスガードよろしく」

 

「あいよ、余裕余裕!!」

 

 ナナシは自分の武器である──大剣を背中から引き抜いた。それを持ったまま、()()。それは通常のハンターならありえないことだ──だが、ナナシならあり得ることを知っている。

 

 ナナシは類稀なる頭脳を持っているがハンターにはそれだけではなれはしない。ハンターは相応の身体能力を持っている。そのうちでもナナシは格別だった。

 

 異常に筋力に秀でている。それだけだが、彼のもつ頭脳を組み合わせればそれは異常なまでの能力を叩き出す。

 

 実際、ナルガクルガの顔面を一撃で突き潰したのはこいつだ。そんな人間が弱いわけがない、と言う話だった。

 

「さて──」

 

 ナナシは言う。その目は冷徹と言えるほど──それが竜への敵愾心のように見えるのは、おそらく気の所為だろうと思う。

 

「──雷弾から跳躍して電気をまとって滑空叩きつけ、そこから威嚇……跳躍してから叩き落とすか」

 

 直後に言葉通りに放たれた雷弾をアレスが弾いてその背を踏みナナシは跳躍した。大剣分の重さを抱えたアレスはそれに倒れそうになるが、しかしそれに耐え切りナナシの空へと体を飛ばした。

 

 ライゼクスの高さを飛び越えて、そのまま回転するようにしてナナシは大剣を勢いに任せて叩きつける。背面から鱗を叩き割る音が響いた──落下してくるライゼクスに走っていく。この状態なら安定して剣を回収することができる。なんならそのまま殺せるまでもあるのだ。ならば走らない意味がない。

 

「死──」

 

 剣の柄を手で掴んだ。そのまま上へと切り上げ、

 

「──ね」

 

 直後にアレスのランスの突進がライゼクスの顔面を弾き飛ばした。




なんか文字が浮かばなかったので時間をかけたにもかかわらず今回は文字数少ないですごめんなさい


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残響遺影戦地・■■■■ - 2

 剣を振るうのに理由はあるのだと思うが、自分にはその理由がわからない。ただ何かの衝動に突き動かされるように、体は剣を振るうことを求めている。別に……戦闘狂などの類ではない。ただ、剣の重さが体にぴったり合っているように、どこか心地よいのだ。

 

「──いちにー、さんし……ごーろく……」

 

「よ、おはよう」

 

 基本的に剣を振るうときは場所を用意する。その場所は病院の側に用意されたトレーニング用の施設だ。周りをフェンスで囲み、その内側には狭い、人が三人ほど入れるスペースが存在するだけ。距離感を気にしていないと周りの人を傷つける、トレーニング施設としては稚拙なものだと思う。だがここを使う人は俺かアレスの二人くらいなのでそんなに問題はなかったりもする。

 

 流れを見ている。剣を振って、描かれる軌跡を自分の視界がなぞっていく。剣が静止し、思考が再開した。

 

 剣を振るのは好きだ。何も考えないで済むから。何も考えないで済むからこそ、考え事に熱中できる。

 

「お前がここにくるのは久しぶりだよな」

 

 アレスの言葉を聞き流しつつ、剣だけに視界を集中させる。それを見ていたアレスが、ラフな服装のまま背負っていた袋の紐を解いて中から骨で作られた槍を取り出した。それを調子を確かめるように振ったアレスはよし、とだけ呟いてから、

 

「武術ってのは体を使うもんだよな。人間は生きているだけで脳みそを使うもんで、ただ体を動かしているときは充足感で満たされるために悩みを洗い流せるもんだ。……さて、聞くぜ。お前、どうしたんだ?」

 

「…………」

 

 ……別にどうしたと言うことはない。ただ、思うのだ。自分の手で振るう剣は、自分の意思に収斂される。今まで殺すだのを言ってきたが自分が人を殺す気になれば自分は人を殺すのだろうか? と思って、その感覚を拭うために剣が無性に振りたくなった。

 

 剣を振るう間は自分を忘れることができていたのだ。現実逃避のルーティーン、欲求不満を押し込め忘却するための適応行動。その堕落を知っている。堕落は毒だ──知ってしまったのだ、その味を。悪魔的なその毒を啜って、自分の翼が溶かされて灰に帰した気分で最悪だ。

 

 死にかけてから思い出した。入院してから自覚した。復帰してからは墜落し続けていた。その起点は、きっと自分に醒めてきたからだろう。

 

「……例えばさ、女になった男がいるとする」

 

「おう」

 

 槍の調子を確かめながらアレスは視線を向けずに応答した。

 

「そんなやつが実は案外重荷を背負っていてさ。で、そっから荷物の重さに耐えきれずに潰れそうになってる。そんな場合って、どうしたらいいと思う?」

 

 ()()()()()()()()()

 

 戦うことが嫌いじゃなかった。ただ、痛いことが嫌だった。譲れないものがあるけれど、最近ふと思い直して、「自分がそれを背負い続ける理由はあるのか?」と思った。

 

 別に英雄じゃない。別に英傑じゃない。強くもないし取り柄もなくて全くの普通の人間だと知った。段々と周りに厄介なネタが増えすぎて、ふと現実を見たのだ。

 

 ──根本的に世界と言うのは一人の人間で変わるようなものではない。

 

 自分がやらなきゃだれがやる、と言うことはない。自分の代替は案外ありふれていて、例えば自分の身近に代替品が存在しているのだ。それをまじまじと見せつけられて、だんだんと戦う意味がわからなくなっていった。剣を極める道を続けることは変わらない。ただ、だれかから予約された因縁と言うものを放って、ただ自分は当たり前のように剣を振ることを続けて、今も昔もこのままずっと進んでいく。

 

 逃げ出したいと思っていた。

 

「──バカ野郎が」

 

 アレスがそう言ったのに、自分はその言葉の意味がわからなかった。意味は理解しているが、何故いまそれを持ち出したのか、それを理解することができなかった。……剣が止まる。アレスは槍を突きだすことを続けながら言う。

 

「だれかと分け合えば済む話だろうが」

 

 直後の言葉に思考は停止した。ショートを起こすようにして回路全てが掻き壊れて、そうしてそれを時間をかけて修復していき──ようやく、言葉を用意できた。

 

「……死ぬかもしれなかったら?」

 

「死ぬことは恐怖じゃねぇだろ。俺たち(ハンター)って人種はそんなもんじゃねぇか」

 

「分け合う相手がいなかったら?」

 

「孤独な人間なんて存在しねぇよ。人間ってのはだれかと関わり合って生きるものだろうが。お前が俺にそうしたみたいに、だれかは絶対助けてくれんだよ。……相手を探すことが難しい? とりあえずその場合は聞け。少なくとも助けられた経験がある俺は助けることに全力になってやる」

 

「……例えば、世界の存続を賭けたものだったり、例えばシュレイドの再来だったり、そんなことが起こったら?」

 

「知るか。黙って背負わせろ。俺はそういう人間だ。勝手に出しゃばって勝手に退場して勝手にそのうち生き返る、無責任なヒーローでいてやるよ」

 

 なんでこんなに聡いのかなぁ、と思った。それを飲み飲んで、ただ黙る。黙っていたのに何故か閉じた口の合間から声が漏れた。それを揺れる吐息で隠して、

 

「セルレギオス狩りにいこ」

 

「お、そうだな」

 

 そんな感じで狩りに行くことが決定した。

 

 

 

 

 セルレギオスと言うモンスターは相当戦いやすい部類に入ってくる。

 

 足の肉質が弱く、斬撃がよく通るので転倒させやすい点がセルレギオスを戦いやすいモンスターと言う評価にさせている。野生の世界だとセルレギオスの弱点の腹部を狙えるモンスターは少ないのでこれはハンターを警戒しない種族になっていると言える。

 

「そんなの関係ないんだけどな」

 

「必殺あるのみ」

 

 そうアレスと二人で言葉を交わし合って、いえーいとハイタッチをする。ナナシは今日はいない。ナナシは別の依頼に出ているのだった。

 

「武器壊さないか? 大丈夫か?」

 

「ん? あー、大丈夫だよ。鱗に当たるとかがないと折れることはないだろ。とりあえずこの一回で作れるくらいの素材が集まれば嬉しいんだけどな……そんなことないだろうなぁ。あー、強い武器がほしい」

 

「狩れ」

 

 そんな話をしつつ、制限が排除された旧砂漠に踏み出した。ベースキャンプから出れば、砂の量が目に見えて減っている砂丘に出る。

 

 小型のモンスターが存在しないことからバルファルクよくやった、と心の中で呟きながら、暑さに耐えるためにクーラードリンクを飲んだ。

 

「最近は体力が落ちててなぁ」

 

「走れば元に戻んじゃね?」

 

「何というか、たぶんこれ男のときの体の動かし方のクセが出てるんだと思うわ。最高効率で体を動かせてないわ。明らかに弱体化してるもん」

 

「そこらへんは俺にはなんとも言えねぇからな。師匠にでも習ってみたら?」

 

「そうするわ。流石に、ね……?」

 

 砂に足を取られないように歩きつつ、足裏から暑さを感じた。靴を履いているのにそれを超えてくるのは面倒だ。だから暑い区域は嫌いなのだ。

 

「あのさー」

 

「うん?」

 

「お前のその性別って元に戻るの?」

 

 その言葉にどうなのだろう、と軽く考える。おそらく戻るとは思うが……しかし、それならこっちの体に慣れすぎるとめんどくさそうだ、と思う。体に慣れる前ならいいのだが、ミラルーツに現在訴えてみても効果はないだろうからなぁ、と考え、戻らない可能性は普通に高いのか、と思い。

 

「お前は戻ってほしいのか? どっちなんだ?」

 

「別に? どっちの姿だってお前はお前だしな。俺はどっちでもいいよ。もっと言えば俺はお前の姿には特に頓着しねぇよ。お前がお前であるうちは、例えば竜になっても肯定してやるから」

 

 こいつの好感度中々高いな? と思うが、よく考えればこいつからすれば自分は一番に近い友人なのか、とふと思い至る。ならこの好感度も納得だった。

 

 エリアを移動すると、砂は減って乾いた大地が現れる。ただ実際は砂の上部が固まっているだけで、そこを破壊すれば砂が現れるだろう。蟻地獄のように中心に向かって吸い込まれていくだろうから気をつける必要がある。だが幸いセルレギオスはこのエリアにはいなかったのでそのまま真っすぐ、次のエリアへと向かっていく。

 

「教習所時代からお前のことを知ってるからだが、お前って意外とさ、子供っぽいところあるよな」

 

「……はぁ?」

 

 アレスが唐突にそんなことを言ってきたので一瞬足が止まった。軽く横を向いてアレスの顔をみるとこちらに視線を合わせずにアレスは言う。

 

「感情に出やすいしさ、意外にかっこいいことが好きだしさ、そんで意外に熱血主義でさ、実は友情を重んじてるんだよ。だからお前は子供っぽいんだと思う。()()()()()()()()

 

 その言葉がやけに引っかかるので軽く頭を回して、何が引っかかっているのかを考える。自分ではそんなことを思ったこともなかったのでそう言われてもよくわからない。……心当たりを探していると最近で当てはまるものがあった。

 

「……バルファルク」

 

「……は?」

 

「いやさ、なんか……」

 

 バルファルクと戦って負けたとき、だれかに抱きしめられたことを覚えている。子供をあやすように頭を撫でられた気がした。あれは砂漠が見せた夢だったのかもしれないし、あるいは実際にあったことかもしれない。

 

「……子供だったなぁ、って」

 

 あのときの自分を思い返すとそのようにしか思えなくなってくる。しかしそれは自分だけが知ることだ。アレスにはわからないこと……なので話題はこれで終えることにした。両方が話すことも無くなって、

 

 そして、

 

 エリアを超える。

 

 そこにはセルレギオスが存在した。屍肉を食らっている姿があった。蝿が集っているそれを、顔を突っ込んで食らっている。それを見て、まず剣を抜く。多少遠目から見てセルレギオスが食っているものがやけに小さく見えた。それに疑問を抱きながらも、今はそれは関係がない──戦いを始めるために剣を抜いた。

 

 アレスも背からランスを引き抜いて未だにこちらに気づかないセルレギオスを睨んでいる。アレスと視線を一瞬合わせて、直後にアレスは盾で顔を覆いつつ突進する──セルレギオスが物音に気付いた。

 

 咆哮が空間に響くのをアレスは盾で受けつつ、勢いのままランスを突き出して、セルレギオスを転倒させる。足を抉ったのが遠目でもわかる。たぶん再生するけど、と思いつつ剣を抜いたまま接近して、

 

 足が止まった。

 

 足が止まった──見てはいけないものを見てしまった。見たくないものを見てしまった。知らなければ幸せだったそれを見てしまった。

 

 

 腐臭が風に乗って届く──腐ったその死体は、間違いなく人間の形をしていた。

 

 

「──……いや、マジかよ」

 

 アレスがこちらの視線をたどって、目を見開く。

 

 それだけ、死を知らなかった自分たちにとってそれは衝撃的だった。

 

 人は死ねば死ぬ。それは当然だった。しかしそれを知っている人間なんてものは非常に少ないもので、死ぬと言うことを目の当たりにして、思考が停止した。

 

「──やっべ」

 

 気を取られてばかりではいられない、と思いつつ視界から死骸を外してセルレギオスに走っていく。転倒から起き上がったセルレギオスは跳躍ひて、地面を爪で削りつつ回転して攻撃アレスを攻撃しようとする。それをバックステップしてアレスは回避し、地面に降りたセルレギオスへと突きを放つ。

 

 自分がやることは単純で、間合いまで踏み込んでから切るだけだ。距離を詰めて剣の斬撃が通る間合いまで詰め、翼脚と片脚を上げたセルレギオスの、その体重を支える足──その爪を、上から振り下ろす剣で切り飛ばした。そしてバランスを崩し、支えていた足側へと倒れ込んでくるセルレギオスの巨体に下敷きにされないようにバックステップする。

 

 そしてその首の鱗と鱗の隙間へと斬撃と通して簡潔に首を切断した。

 

「……殺すこと自体は、簡単なんだけどなぁ……」

 

 自分の精神が未熟だと言うことを理解した。

 

 人の死体を見るのは初めてだった。今まで殺してきたのは竜だけだった。

 

 人を殺したことはなかったし、人の死体も見たことはなかった。その死体を見て自分を投影してしまったし、自分が死んだらどうなるか……と言うのを考えさせられた。

 

 自分が死んだら、こうなるのだろうか? そう思って死体を見る。その死体は、ひょっとしたらどこかで見たことのある死体だったかもしれない。

 

「……だから死って怖いよな。死の前例を見ちまったんだから」

 

「……だね。こうして刻々と腐っていくんだ。それはとても恐ろしいよ」

 

 アレスの言葉に答えて、

 

 剥ぎ取りナイフを取り出した。



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残響遺影戦地・■■■■ - 3

 体を前方に飛ばすようにして飛び上がる。頭が体に遅れているのを、意識して戻さないようにする──着地の際に体制を崩すからだ。かくん、と首が前にむくのを抑えつつ、即座に反転する。抜剣した。その剣の輝きが生きていることを示している。

 

 金色の剣──それはセルレギオスの素材で作られた剣だ。銘はナーブアルファルド……の改造もの。装備と合わせて改造されたものを利用してるなぁ! と思いつつ、まず前屈の姿勢から弾け飛ぶように走行に移行する。正面に熱さを感じるが、それを無視して前方の敵……ディノバルドを見る。口に刃を咥えている。口で刃を熱しつつ、同時にそれを引いていた。居合でもするつもりだろう。

 

 回避に失敗したら体がぶった切られて死ぬな、と思った。だがそれで足を止めていたら自分は強くなれない。削ぎ落とせ、その剣で殺されることを自覚しろ。その死線の中で──体が何かに導かれるように、ルートが蒼い戦で構築されていく。本能が導くように、体をその線の通りに動かしていく。

 

 神速の居合が放たれた。それを詳しく観測することもなく、スライディングして股を通り抜ける。ミツネ装備の特徴として、粘液で外皮が装飾されているのでその助けもあり、地面を滑りつつ、足に踏まれることもなく完全に回避を成功させる。

 

 死線を知ることで生に近づく。

 

 死を見たことで、突き動かされる衝動があった。それは体の中で蠢いて、今は脳を支配している──すなわち、

 

 生への執着心。

 

 自分はそう言うものが欠如しているのだと思った。しかし最近、そう言うことはなく、自分は脆い人間だと思い知らされ、そして死を観測した。竜の死でなく人の死だ──それがトラウマとして喉に突き刺さっている。

 

 だから、それが生み出した自分の能力(スキル)

 

 その導きに従って、自分は今生きながらえている。と言ってもこのスキルとよべるものは自分の戦闘経験の発露なので、そんなに正確ではない、と言う欠点がある。自分が戦いを続けるたびに成長を続けるスキル、

 

 それは恐ろしいほど自分から躊躇と言うものを消し去った。

 

 死地に飛び込む。ディノバルドへと向き直り、炎弾が見えた──これは成長すれば切れるだろうか? そう思いつつ、横に軽くステップすることで回避する。炎弾のあとに隙ができるのは知っている。そのため距離を詰めて、相手の口が非常に柔らかくできていることを見抜く。そこに叩きつけるように斬撃をつければ、簡単に肉の中へと入っていく。一切その剣は阻害されることなく、

 

 ディノバルドの頭を切り飛ばした。

 

 

 

 

 やっぱり剣が強いと自分が強くなったような気分になる。

 

 剣へと感覚を合わせることが得意で、だいたい振れば調整できる自分としてはディノバルドと言う試運転をこなしてみて、かなり武器の性能で変わってくるものだと言うことを知る。切れ味がいいと言うのはそれは当然、切れるものも変わってくる。安物のナイフで骨を切断できないように、武器によって攻撃力と言うのは変化してくるのだ。

 

「だからそこらへん、やっぱ積極的に作ってくべきだよな……」

 

 散策しながらそんなことを考えていた。()()()()はやっぱりベルナのほうと相当変わってくるなぁ、と思いつつ温泉たまごを口に含んで、その味にすこし驚かされる。なんかに絡めてみるとまた一つの側面を楽しめるだろう。

 

「うむ、俺には美味いってことしかわからん」

 

 味を表現するのは狩人の役割ではないからなぁ、と思いつつ、しかし美味いことがわかるのでその味にすこし浸る。

 

 そして飲み込んだ。持ち歩いている水の入った瓶をポーチから取り出してその中身を口へと注いで飲み込む。水分を取り戻してからそして息をついた。

 

「なんだって渓流にディノバルドが出てくるんだよ……」

 

 いや、ディノバルドだけではない。かなりの数のモンスターが渓流に集まっており、それが近い距離にあるユクモ村を脅かしている。なので今回自分がこちらに派遣されてきた。

 

 こういうのって上位ハンターの役割じゃないかなぁ、と思うが今回の案件の難易度は非常に低く、先程討伐したディノバルドが一番強いモンスターだ。そいつを討伐した以上、さらに強いモンスターは現れないのではないかなぁ、と思う。

 

「社畜はつらいよ、っと」

 

 そう言いつつ立ち上がって、内股を意識しつつ歩く。……こういうところから、普段の動きから変更していくことを決めたのだ。今までは普通に歩いていたから、まぁそれでも歩けたが、骨格的には内股になりやすいのだ。この体、実はそんなに筋肉がついているわけでもないのでちょっと気を抜くと内股になってたりとかしたのだが、それを修正することをやめた。

 

 筋肉がつけば全然そんなことはないのだが。

 

 この体でも筋力はあったりする。

 

 どこからそれを捻出しているのか、それが謎だった。

 

 ユクモ村は階段が多いような気がする。あと観光客も多かったりする。時々ブレイブ装備とか、ロックラックの装備とかがいたりする。ユクモ装備も多く見えた。

 

「本場なだけあるなぁ……」

 

 あの笠、個人的にはすごくかっこいいと思う。子供のころは将来ユクモ村で太刀を使ってるかっこいい男になりたかったが現実そううまくはいかないもので、自分は中途半端な直剣を使っていてなんなら性別すら違っている。

 

 戻してミラルーツ。

 

 観光客を誘うように屋台なんかもかなり出てたりする。そこを通りつつ、温泉たまごだけで腹が満たされるわけがないので何か、別のものを頼もうかと考える。そうなると何がいいだろうか? 辺りを見渡して、好きな串焼きを販売していたのでとりあえずそこを選択する。

 

「すいませーん、串焼き2つ」

 

「……おっと? これは奇縁だな……了解。2つだな?」

 

 どこかで聞いたことのある声だった。どこで聞いたのだったか、と思いながら、2つでいいと了承する。

 

 木の串に刺された肉が、音をたてて焼けていく。それを見ながら、軽くどこで聞いたのだったかを思い返そうとして、そして思い出せそうになかったから忘れることにする。人間一番記憶に残るものは匂いらしいが、しかしそれを嗅ぐのも変質者と思われるだろう。なのでそれはやめておく。

 

「はいどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って串焼きとゼニーを交換する。歩き出してすぐにその肉を口に入れて、一口噛んだ。肉が断割されるようにして潰れる感触。そこから染み出した肉汁が口の中に広がる。舌の上で弄ぶようにして味を楽しみ、飲み込んだ。

 

「美味い」

 

 これ2つじゃ足りそうにないなぁ、と思いながら、

 

 歩く。

 

「……なーんか、変な感じだ」

 

 いつもはもっと大変だ。だがいつもはもっと充実している。じゃあ何で自分はこんなに、満喫しているはずなのに退屈が残っているのだろう? と考えてみて、

 

「……ああ、仲間(ともだち)がいないんだ」

 

 馴れ合い、カテゴリ内共生、からっぽの同盟。そんな名前でつるみ始めた友人がいないからこんなに暇なのだろう。ユクモが悪いわけではなくて、単純に自分の問題だった。

 

 ……過去よりも、やっぱり弱くなっているように思える。それがいいことなのか悪いことなのかわからないけど、なんか、──なんとなく、これは()()()と心が訴えている。

 

 何かが崩れ去るように、何かが砕けるように、何かが嗤っているように、自分の中で何かが欠けているような気がする。

 

 ……体が弱っている。それに影響されて心も弱っているようだった。なんでこの体はこんなにも重いのだろう? 少し考えて、脳がとろけるようにそのことを考えさせなかった。

 

「あのー! ハグモさーん!」

 

「はーい!?」

 

 大声で名前を呼ばれ、軽く声の方向を見ると受付嬢の姿があった。そちらに駆け足で近づいていくと、依頼書を持っている姿が見える。

 

 どうしたのだろう、と依頼書に目を通すと、

 

「──クエスト」

 

「はい、そうです。先程渓流の方で竜車の残骸が見つかりまして……周囲に粘液が散布されていたことからタマミツネの仕業だと見られています。被害で出てしまった以上、ギルドとしては討伐依頼を出さざるをえないのです……すいませんが、この依頼受けてもらえませんか?」

 

「はいはい、俺は社畜だからね。全然出撃できますよー、と」

 

 剣へと視線を落とす。鞘に包まれていても尚、そいつは獲物を求めているような光沢を放っていた。

 

 

 

 

 空は暗い。暗いということは夜か、閉鎖空間にいるかなのだが、今回は夜のほうにはいる。空の暗さは市に直結する可能性がある故にハンターは率先して夜目を鍛えることを習う。教習所で基礎の基礎として定着させるのだ。全体的に、ハンターは視力がいい。運動する物体を視認しなければいけないからだ。

 

 また、自分が特殊なだけで他のハンターははじめにモンスターについてを深く観察する。その個体特有の癖というものを観察して探しつつ、罠を仕掛けていくのだ。これはハンターの基本戦術だったりする。罠を張る専門の罠師だって存在するほど、罠というのは重要になってくる。

 

 それをしないのは自分が剣を極めたいからだ。いや、その言葉は語弊がある。剣の道に終わりはない。極めたなんて存在しないのだ。

 

 ただ、剣の果てを見たい──頂を知りたい。青天井なその世界の、存在しえない最上限。そこへと到達したいのだ。

 

 そんなことができないことはわかっている。わかっている、けど。

 

 やっぱり自分はそこを目指したい──案外、その欲求は自身の死よりも重いのかもしれない。死に怯える自分がそんなことを覚えつつ、体を解し終わったのでそろそろ行動を開始することにする。

 

 ベースキャンプを出て、早速粘液を発見した。こんなところまでモンスターはくるものなのか、と軽く感心しつつ渓流のベースキャンプって位置的に結構危ういのではないかと思う。ただ、今回のこれはタマミツネだからこそ通れたと考えたほうがいい──次のエリアにつながる道を見てそう思った。

 

 人が並んで四人通れるか、と言うほどの狭さのエリアの境を歩いていく。ここの道はタマミツネと言う、サイズ的に小さいモンスターだからなし得たことだろう、と思いつつエリアを抜けると、

 

 タマミツネはそこにいた。

 

 タマミツネはすぐそこにいた──視界にすぐ入るほど、わかりやすくそいつはそこにいた。体を丸めるようにして縮こまりながら、そいつは停止している。……髪をかきあげて見て、そいつの瞼が閉じられていることを見た。寝ているらしい。

 

 現在の渓流の環境は激化している、と言える。そんな環境なので警戒せずにはいられない。上から強襲される危険もあるのだ。なので周囲を警戒しつつ、タマミツネへと近付いた。

 

 タマミツネは寝る際に粘液を周囲に散布してから寝る。それに足を取られるとタマミツネは起きるので、そこには注意を払いつつ、タマミツネを見ながら剣を抜いた。抜剣した状態ならたいていの攻撃は受け流すことが可能なので、その状態で警戒しつつ、タマミツネの粘液に触れないように歩いていく。

 

「ふぅ……」

 

 声を絞りつつ、喉からかろうじて音として絞り出した吐息で、体の力を抜く。

 

 眠っているとき、生き物は基本的に襲われると対抗できない。なので自然に生きるものはそこを対策しているのだが……知恵を身に着けた、人間のみの特権は、それを掻い潜る方法を啓示する。

 

 このタマミツネが完全に熟睡していることを悟った。それでもすぐに起きれるのだろうが、しかし基本的に一撃で仕留める相手に対してリカバーが早いなど、無意味も同然だ。

 

 剣を振り上げる。

 

 剣を振り上げて──そのタマミツネが、酷く傷ついていることに気づいた。

 

 目を凝らせば見える、その竜の傷。痛そうだなぁ、と思った。その傷はどこで負ったのだろうか? 縄張り争いか? 一体何故、この竜はここまで傷ついているのだろうか?

 

 表皮には傷は存在しないように見える。しかし、よく見れば鱗がわずかに欠けていたり、置が滲んでいたりする。口の周りは特に顕著だ。吐血の跡……だろうか。それを見ると、内臓が傷ついているのだろう、とわかる。

 

 だが竜の生命力と言うものは異常に高いし、再生力も高い。内臓が傷ついても飯食って寝たらすぐ治るはずなのだが。

 

 ──毒か? 真っ先にその線を考える。傷が再生しなくなる毒。……魔境のほうで、たしか壊毒と言う毒があったはずだ。だがそれは天廊と言う場所の番人が持つ毒のはずだ。こんなところでその症状が観測できるはずがないし、そもそも壊毒を喰らえば下位程度の竜なら再生が間に合わないはずだ……極少量の壊毒だろうか?

 

 あるいは──狂竜症。

 

 この線を考えたほうが間違いがないと思う。ゴア・マガラと言うモンスターが撒き散らす狂竜ウイルス。それに感染・悪化すると回復力が低下するのではなかったか、と思って、

 

「──薄い壊毒なら、あるいは……? いや、それよりも──」

 

 いつの間にか降ろしてしまっていた手を再度、振り上げる。

 

「──殺さなくちゃ、ね」

 

 そのまま、鱗の隙間に斬撃を滑り込ませた。




一週間の隔日を経てしまい申し訳ございません。


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残響遺影戦地・■■■■ - 4

 自分──ナナシは案外忙しい。意外に知られていないが、自分の仕事は忙しい。忙しいのは常に市場についてを計算しているからだ。常に脳みそを利用しているのであれば当然疲弊するし忙しいと言えるだろう。なので忙しいらしい。

 

 簡単に頭の中のものを紙に書き出していく。頭の中で一瞬で導き出された計算を、自分の指が出せる最高速で書き溜めていく。実はこの作業が案外難しい……頭のなかにあるものを理論建てて表現するには厄介な論理化が必要になる。小説の執筆だってそれがなければ時間をかけずに一冊が完成するだろう。だがそれができないのが人間、なので頭を悩ませるのは仕方ないことなのだ。

 

 仕方ないことなのだ……。

 

 正直なはなし、書くより楽に文章を打ち出せるツールを作成しようかな、と思っている。頭の中に既に構想はあるのでそれ通りに実際に作ってみる必要はあるが……いや、そもそもそんなものを作るためには金がいる。それが足りない。なのでこんな構想も意味がないのだ。

 

 折角とっておいた構想をリセットして自分の頭の中の容量にスペースをあける。これで暗算のための容量ができた。完全に先程まで考えていたことは忘れてしまったが、たぶんたいしたことのない理論だ。数十秒もあれば再構築できるだろう。

 

 女になった友人ことハグモがユクモに出荷されてから少し。アレスも積極的に活動を始め、自分も仕事に熱を入れ始めている。趣味の時間はとらない、──そもそもない。なので自分はこうして計算していることが趣味になるのだろうな、と思う。

 

 いや、べつに趣味が一切ないとは言わないのだ。あるにはある。だがそれは、

 

 ──難しいよなぁ……

 

 ということで現在は封印している。根本的な話をすれば金が足りない。それさえあればそっちに打ち込むだろうが……金欠というのは想像以上につらいものだ。

 

 まぁもともと金欠生活だったので豪勢の欠片も知ってはいないが。

 

 そろそろハグモはユクモから帰ってくるだろうか? ならそのときに休暇を取ろうか。別にこの仕事は軽く休む程度なら全然問題ない。そもそもここまでマイナーなことを考えている情報屋など自分以外にはいないのだ。ならばそのことでそこまで焦ることはない。どうせ()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 ただ予測は予測。単純に打ち砕かれるもの。ならばこの計算は外れる可能性が高い。

 

「──どうなるかな、主人公くん」

 

 そう呟いてみて、

 

 ふと殺気が飛んできた方向に目を向ける。

 

 それは以前から自分を目の敵にしている少女だ。その白い髪が、明らかに世界から浮いている。そんな少女をみて湧き上がってくるのは()()()だ。相手も同じくだろう。

 

『あなた如きが(彼女)を語るなんて』

 

 ──うるさいな。君だってどうなんだよ。

 

 自分には彼を語ることはできないが、それは彼女のほうもそうだろう。ならば自分にだけ言われるのは間違いなくおかしい。あいつだって彼について何もわかっちゃいない。

 

 意図的に触れないでいたことだ。自分が敢えて忠告しなかった、彼女の話。ありえるだろう可能性のうち、最悪の場合の一つ。そのときに、

 

 ──耐えられるかな?

 

 

 

 

 ベルナ村に帰還した。

 

 龍歴院について一番はじめに、普段座っているテーブルへと向かっていく。クエスト完了の報告はユクモのほうからすでに届いているはずだ。報酬も向こうのほうから渡されたので、自分は報告しないでいいだろうと思った。

 

 いつも座っているテーブルではナナシが持っている紙と睨み合っている。その姿を見て久しぶりだと思った……思った。思っただけで実際はそうたいして久しぶりでもないのだからなんというか、変な感じがある。

 

「ただいま」

 

「やぁ、おかえり」

 

 その言葉を聞いてから自分はナナシの正面に座る。机に置かれた紙の中から適当に一枚を引き上げて、そうしてその内容を読んだ。

 

 そこに書かれていたのは古代林の変調だ。最近増えてきた獰猛化モンスターの調査なのだろう、特に獰猛化個体が多かった古代林をピックアップしてその環境を以前と比較しているらしい。

 

「そもそも獰猛化の原因ってなんだっけ」

 

「獰猛化って部位の過剰発達だろ? まだ解明されてないけどいくつも仮説があるよ。例えば有力な一つ、オストガロアの粘液には骨素材を強固にする性質がある。骨って筋肉とか、そこらすべての根源だからね。その骨が発達したせいで他も引き摺られるように発達を遂げたって意見が多いよ」

 

「ふーん……まぁ、たしかにプロセスとしては正しいよな」

 

 竜という非常に強い生き物とはいえ、そこには必ず理由がある。例えばリオレウスが炎を吐けるのはある器官が存在するからだ。テオ・テスカトルという古龍が爆発を起こせるのも体の鱗粉に火をつけているからで、つまりなにかが起こることには必ず説明可能な理由がある。

 

 獰猛化というのもそうやって説明できなければおかしいのだ。

 

 そもそも、黒龍というもの以外についてはわりと理屈が通る。魔境のほうになってない限りさ理屈は通るのだ。魔境のほうはわりと意味のわからない行動を平然とやってのけるモンスターが多いのであれは別世界としてカウントする。

 

 これがどういう理由で起こったものだとしても、黒龍ほどの域に突っ込んでなければ獰猛化には必ずプロセスがある。なら証明できて、証明できるならば対策を考えることだってできる。或いは危機を察することだってできるだろう。

 

 なので解明することは非常に重要になる。

 

 この獰猛化というものに人間がならないという保証はないのだから。

 

 知は力というが、たしかにその通りだと思う。自分ですらもそう思うのならばギルドの上部はもっといろいろなことを考えているだろう。それだけ獰猛化というのは重大な案件なのだと思う。

 

「……そういえばだけどアレスは?」

 

「あいつは狩りのはず。ひょっとしたら帰ってきてるかもだね。姿を見てないからなんとも」

 

 この集会所はなんというか、ユクモのほうより落ち着く。自分の慣れた場所だからだろう。やっぱパーソナルスペースって大切だな、と思いつつ、そろそろクエストにいきたい欲があることに気づく。ユクモのほうでは実はそんなに狩りができなかった。最後の方は頭脳労働ばかりしていたので体を動かしたい欲が強いのだ。

 

 ナナシは仕事中、アレスがいたらちょっと実験的に、サポートしてほしかったのだが……仕方ないか、と思う。

 

「──なんだ? 俺がどうかしたのか?」

 

 そんな声がかかった。聞き覚えのある声だ。それがだれのものだというのは見なくても理解できる。

 

 振り向いて、予想通りにアレスがいることを確認した。防具を着ているので狩りにでも向かうつもりだったのだろうか、それとも形式的に着てきたのだろうか? わからないので聞いてみることにする。

 

「よ、アレス。何やってたんだ?」

 

「おう、久しぶり。ちょっと久々に稽古つけてもらってた」

 

 稽古、というとアステオだろうか。だがそれならアレスの体力は残っている……かもしれない。無理強いはしないが、とりあえず提案としてアレスに向かって言葉を放った。

 

「なんか狩りに行こうぜ」

 

「あ? ……あー、ナナシも来るか?」

 

「ん、了解。行けるよ。けどちょっと待ってね、装備着てくるから」

 

 ナナシがそうだけ言ってマイルームのほうへと走っていった。その姿を少しの間だけ眺めてから食事を取ることを決める。

 

 

 

 

 古代林がある。

 

 最近異常環境が目立つ場所だ。そんな場所が今回向かう狩場になる。簡単に剣に視線を下ろして、思考を一旦リセットする。戦闘用の思考に変換していく──これは最近やっているルーティーンみたいなものだ。そのまま二人に視線をやる。

 

「準備大丈夫かお前らー」

 

「僕は君より早く準備を終えてるよ」

 

「すまん待って。……よし、いけるぞお前ら」

 

 そんな言葉にそもそもお前待ちだったんだよ、と返しつつ古代林──夜の其処を歩いていく。ベースキャンプを出て、月が眩しいと感じられる。水面に光が反射しているからだろう。

 

 今回のクエストはリオレウス、リオレイアの狩猟。同時狩猟はこれが初になるはずだ。乱入されることはあったが、そうでない同時狩猟は始めてだろう。

 

 今回やることはわりと命の危険があることなのでアレスがこちらにつくことになっている。分配すると自分とアレスがリオレウス、ナナシが一人でリオレイアと戦う、ということに決定した。普通なら別に心配することもないのだが……何故か、何故かここら一帯が危険区域とでもいうように、体がここから立ち去ろうとしている。

 

 アレスとナナシにはその兆候が見られないので自分の気の所為だろう、と思いたいが──

 

「いた」

 

 その声に考えごとで曖昧になっていた意識を現実に引き戻す。ゆっくりと降りてくるのはリオレイアだ。つまりナナシの相手、そう処理して、自分らはリオレウスを探すためにそこでナナシとは一度分かれる。ナナシが武器を抜く音を聞き取り、戦闘が始まろうとしていることを悟った。

 

 走って開けた場所から木々の中へと入っていく。古代林や森丘では木々の背が高いため、飛竜が森の中に現れることも意外にあったりする。飛行能力の制限がされないからだ。

 

「右と左と正面、どこにいると思う?」

 

「正面だ。巣があるからいてもおかしくない。そうじゃないにしても巣に踏み込んだらやってくるからな」

 

 ハンターとして、卵を壊すことはしない。しないが……戦術的にそれを利用することはある。

 

 そのやり方は、正直そんなに好きじゃなかった。

 

 エリアを移動すると、こちらを睨んでいるリオレウスが発見できる。新しいスタイルがこいつに通用するか、というのを考えながら、

 

「サポートとしくじったときのリカバーよろしく……!」

 

「おうおう、存分にやってこいよ」

 

 ──踏み込んだ。

 

 まだ剣は抜かない。踏み込んで、距離を詰めるだけだ。剣の間合いは理解している。それの外で剣を抜くのは駄目だ、動きが遅くなるから。現状の自分の実力なんてそんなものでしかない。剣を持つと動きが阻害されるほど稚拙なものだ。

 

 リオレウスがブレスを放ってくる。それを目に見えているルートに従いつつ、距離をとって走る──リオレウスのブレスは一瞬通り過ぎるだけでも火傷するほど高温だ。それは自分の喉を焼き焦がすほどの威力を持っている。なので、腕の動きを鈍らせないために少し距離を開けて回避する。

 

 下位段階のリオレウスは連続でブレスはしない。が、完全に接近しきる前に咆哮の体制を取られた──それを、

 

 降りてくる顔を踏んで、跳躍することで回避した。

 

 いや、回避はできていない。鼓膜を破るほどの咆哮を、そもそも跳躍なんかで回避できるはずがない。

 

「みーみーせーんっ」

 

 だが、それは対策することができるものだ。戦闘を有利に進めるための策を用意していないほうがおかしい。当然、自分も持ってきている。

 

 以前砕け散った耳栓だが、ユクモに向かう前に用意してもらっていた。それを今も利用しているだけ。

 

 体重を前方にかけることで頭から落下していく。近くに翼があるのを確認した。そのまま降りて、

 

 すれ違う瞬間に腰から剣を引き抜いた。

 

 翼膜に刃が通っていき、リーチ的に切断できないことを悟る。そのまま振り抜いて体を回転させつつ、踵で着地を成功させる。滑りそうになるのを軽く地面を蹴って立て直しつつ、間近にあった足の根本、骨にひっかからない部分へと刃を通していく。

 

 竜を殺して作られた武器が、竜を殺すための役目を果たそうとしている。そんなに押し通すような力は要らない。そのまま、流すために腕に剣を追わしていき、

 

 そのまま片脚を失ったリオレウスが転倒する。

 

「──ふ、っ」

 

 勢い殺す逆向きへの力に任せ刃を逆向きに振るう──背中へとゆっくりと入っていく剣が、腹までをぶち抜いてそのまま尻尾の根本まで切断した。

 

 

 

 

 帰りの竜車にのんびりと揺られている。

 

 ナナシは意外にあっさりリオレイアを狩猟できたようだ。まぁ、そりゃあそうだよなぁ、と思う。自分もリオレウスの狩猟をあっという間に終えることができたのでよかったかなぁ、という感じだ。

 

「たぶんこれでハンターランク上がるんじゃないかなぁ……」

 

「……そういえばお前、今回どういうスタイルチェンジしてたんだ? 全くわからなかったんだけども」

 

「んー? 別に大したことはしてないよ。ただ単純に」

 

 そのまま言葉を続けようとした瞬間、

 

 

 地面が割れた。

 

 

 地面が割れた──そのまま、竜車の前方と後方を切り離し()()()()()()()ものが後方部に座っていた人を、──アレスを飲み込んでいく。

 

「ぅ、──おぉぉぉぉ!?」

 

 咄嗟にそれを掴んだ。割れた竜車に絡みついてそのまま地面の中へと沈んでいくそれに引き込まれてように自分も地面へと潜っていく。

 

 唐突な出来事。それに驚き、状況を整理する間もなく、

 

 

 とある空間へと出る。




導入にずっと迷ってました。次回で下位編はラストです。
暑さで死んでまたしばらく間隔あく可能性もありますがなるべく早く投稿したいと思います。


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残響遺影戦地・■■■■ - 5

 地の底まで落ちていく──

 

 ──そこは空洞だった。

 

 いや、空洞ではあるが、印象として与えるのは巣だ。自分は今何かの巣へと連れ込まれた。アレスも問題なく、自分の横であたりを見回している。

 

 地面が生き物の骨でびっしりと埋め尽くされており、わずかに水が染み出している。湖だろうか? 足場を取り囲むように、水が存在する。

 

 ──そんな場所で、地面が爆ぜる。

 

 下から飛び出してくるのは2つの頭と、骨の外装をまとった巨大な異形。

 

「──オストガロアかっ!?」

 

「ならここは竜ノ墓場と呼ばれる場所か? なるほど、古代林に存在すると聞いてたが……まさか引きずり込まれるとはな」

 

「お前俺がいなけりゃたぶん今頃食われてるだろうな」

 

「は? ふざけんな、俺より弱い女に言われたくねぇよ」

 

 互いに言葉を交わし合って状況を確認する。間違いなく勝てるとは思わない。逃げの一手を狙うべきだろう。だが、その巨体の触手の動きの速さは先程のことで理解している──逃げるのも難しいだろう。どちらかが囮になる必要がある。

 

「どっちがやる?」

 

「……いや、これ無理だろ。どうせなら切り込んだほうがいいぜ」

 

「ああ、俺もそう思ってた」

 

 現在言葉は要らないほどに、お互いの思考は一致しているだろう。今まで何度も共闘してきた。教習所時代にも、強敵と戦う機会はあった。

 

 だから互いに言葉にしないでもいいほど互いのことを理解している。しているが、

 

 ──こういうのってかっこいいだろ?

 

「よし、それじゃあ」

 

「やりますか」

 

 剣を抜いた。軽く疲労状態を考えてみる。どちらも正直疲労していない。オーケー、快調だ。足を地面に打ち付ける。その音で、互いに行動を開始した。

 

 自分は相手の左の触手を、アレスが右の触手を担当する。骨に覆われており、竜頭とでも言うべき……だが全容が公開されている以上触手としかいえないそれに軽く斬撃を通してみたらすんなりと刃が入った。肉質は柔らかいほうだと判断する。──が、斬り飛ばすには難しいだろう。斬撃の最中で触手が硬直したのだ。斬撃に耐えるためだろう。それだけでなく、剣を固めて抜かせなくなるという意図もある。

 

 なので、それに剣が呑まれるまえに引き抜く。結構戦い慣れてるな? と思ったがオストガロアは古龍に分布される、戦闘力に関しては生まれたときから持っているものだろう。

 

 なんせこのオストガロア、ナバルデウスと呼ばれる古龍の幼体すらも喰らうモンスターだ。それだけ凶暴で凶悪。そんなモンスターが、弱いはずもない。

 

 軽くどう攻めるかを脳みそでシミュレートしながらすこし距離を開けた。そこに龍属性のブレスが飛んでくるので、背後へと回転しつつ飛ぶことで直線のそれを回避する。竜頭をくねらせてこちらへと追いかけてくるブレスを竜頭にななめ向きに向かっていくことで避けて、本体を鎧のように覆っている殻へと一度剣を放ってみる。軽くだ。振り抜くと剣が折れる可能性がある。

 

 小気味よい音を立てて剣が弾かれあ、これは駄目だと判断する。この殻は切れる気がしない。割れる気もしない。なるほど、わかりやすく鉄壁の鎧を誇っていた。

 

 こんなやつどうやって昔の人は倒したんだろう、と思いながら、アレスが担当するほうの触手がこちらを潰そうと倒れてくるのを見た。バックステップでその叩きつけを回避し、

 

「──こう」

 

 直後にその竜頭に飛び込んできたアレスの槍が突き刺さる。

 

 竜頭を叩き割り、内部の触手の先端を穿ちながらアレスがそのまま右足で滑りながら勢いを殺しつつ、左足を大きく踏み込んでランスを突き出す。

 

 体のねじりから放たれる刺突が、触手を深く刳り抜いた。

 

 そのままランスから手を放す。触手が体を固めて離すまいとしているのだろう。だが、

 

 完全にオストガロアに固定されているのならそれを利用すればいい。

 

 跳躍した。前方へと体を飛ばすように、地面を蹴って跳躍する。到底オストガロアの竜頭の高さまでは届かないそれだが、

 

 道中に足場があれば?

 

 ランスを踏み跳躍し、なんとか竜頭の高さまで到達した──それで十分だった。いつも通り、何回も続けてきたもの。スマートに、一番効果的な薙ぎ払いの動作での横斬りを放つ。下部分より柔らかい竜頭に食い込み、そのまま締め上げられる速さよりも早く肉が断たれていき、

 

 触手の先端を切り離した。

 

 

 

 

 順調に見えて実はこの勝負、詰みへのルートは多い。

 

 相手が巨体を活かして叩き潰しにきたら死ぬのは確定するし、全力を出されると死ぬ。下手をやらかすと死ぬのは変わっていないし、最悪遠くからブレスを打ち続けられるだけで死亡する。

 

 つまり詰みへのルートは多いのだ。現在順調に行っているのも高速戦闘故である。速攻に努めているから限りなく相手の行動による事故が起きる確率を減らしている──だがそのぶん、自分らの些細なミスで死につながってくる。

 

 つまり現在の方式では自分が如何に詰められるかを確かめられている。

 

 技量を問われている──とはいえ、流石に現在の速攻だけで理解できることがあった。

 

 相手は本調子でなく、もっと言えばそんな中でも本気ではない。言わば()()()()()状態。慢心している状態──そこに活路はある。

 

 オストガロアが触手を引っ込め、反転した。地面を割りながらその頭を引き出して、

 

 ()()()()()()()()()()

 

 アレスと視線を交わす。それだけで十分だった。可能な限り遠くへと向かい跳躍し、

 

「────────!!」

 

世界が蒼に染まる。

 

 咆哮と共に湖が蒼に色を変える。先程まで見ていた空間はすでにない──ただ、蒼い蒼い、幻想的で幻惑的な世界へと乖離した。

 

 耳を抑えた手の中で耳栓が砕け散りながらも多少その咆哮を緩和して脳が弾けるのを防ぎ、着ていた防具も音の衝撃を防いで体を守った。アレスのほうを見ると、盾を構えて音をガードしながらも、大きく()()()()()()()()()のが見える。盾は無事で、本人も無事だが……ガードに姿勢に入ったランスの巨大な盾を弾き飛ばすその威力。

 

 これが()()()()()なのだから、つくづく古龍というのは反則的だ。だが解る。理解してしまう。この古龍が現在、それだけの驚異を見せつけながら、

 

 ──未だ本気ではないことを。

 

 いや、現在出せる力は引き出しているのだろうと思う。思うが……しかし、現在自分が生きているのが理由とできる。この耳栓はあくまでも下位用に作成されたもので、上位の竜の咆哮を受けられるようにはできていない。だがそれと、自分で塞いだぶんを合わせて凌ぐことができた。

 

 それが本気でないことの証明になる。

 

「っふー……」

 

 軽く息を吐く。なんだあの反則生命体は。人類に敵うものじゃないだろう? そんなことを考えつつ、隣に戻ってきたアレスに視線を合わせずに声を投げる。

 

「……なあ、俺の目にはあいつがブレスの用意してるように見えるんだけど」

 

「奇遇だな、俺もだ。──これ回避できそうにないかな? どう思うよ」

 

「黙って走るんだよォおおおおおおお!!」

 

 危険を感じて走る。首もとがひりひりする間隔と、伸びた髪の毛が後ろで重い。そろそろ切る必要があるな、とふと思って、

 

世界がに染まる。

 

 放たれたブレスが自分の髪の毛を焼き切りながら空洞の壁をぶち抜いていく。ブレスの反動でオストガロアが浮き上がっており、それを止めるためにオストガロアが顔を上に向け、

 

 直後、天井が爆裂した。

 

 光が差し込み、壊れた岩が落下してくるのを見て、なんて破壊の規模なのだろうか、と思いつつ軽くアレスを探す。()()を振りながらそいつはこちらへと歩いてきていた。

 

「随分すっきりしたじゃねぇか」

 

「あ? そう言うお前こそ盾殆ど溶けてんじゃねぇか。それに背中も結構火傷してんじゃねぇのか? 俺はした」

 

「右手が蒸発してないのが不思議なくらいだ。装備のおかげって感じか? 手甲の内側は酷いことになってる気がするが……まぁ幸い槍は無事だ。問題ねぇな」

 

「おう、至極快調ってやつだぜ」

 

「嘘つけ絶対ボロボロだろ」

 

 その言葉にそうだよ、と返し、オストガロアを見る。

 

 

「は?」

 

 

 ──こちらを向いて口を開けている。

 

 その中には龍属性のエネルギー。嘘だろ、と否定しながら、瞬きをしても変わりなくそれが現実ということを伝えてくる。

 

「──ブレス二連続……!?」

 

「おう、ちょっと洒落になってねぇぞ馬鹿野郎!」

 

 アレスがそう叫びながら、

 

 直後にブレスが放たれ──

 

 

 

 

 それは嘘のような光景だった。ブレスの前に()()()()()()()()人が立ち塞がり、

 

 そうしてオストガロアを蹴り上げた。

 

 それだけでブレスは行き場を無くし、オストガロアの口内で爆発する。そんなうそのような光景を、アレスと、自分は見ていた。

 

 

「──全く、なんでこんなめんどくさいことに馬鹿弟子どもはなってるのやら」

 

 

 そう言って、その人──アステオはこちらを一瞥する。オストガロアとは多少距離があるが、その声はこちらに何故かよく聞こえてきた。

 

「上級生物との戦闘は控えろって馬鹿弟子には言ったばかりなんだけどなぁ……? 私はたしかにそう言ったんだけどなぁ……? 手負いだったからいいか。この程度ならいい経験になるし。あ、そうだ。いい機会だしちょぉっとG()()の領域ってのを見せてあげよっか」

 

 そう言ってアステオはオストガロアに向き直る。自分のブレスを食らって死んでいないあたりは流石だと言えるが、相当今ので消耗したことは間違いない。だがその巨体は健在だし、未だ体格による強さは揺るがないだろう。そんな相手に、

 

 アステオという医者(元G級ハンター)は素手で相対している。

 

「別にさー、武器を持ってきわすれたとかそう言うわけじゃないんだよ。私は結構頑丈なほうで、子供のころアオアシラと殴り合ってたから自分の拳を鍛えたほうが武器より強いと思ってたのさ」

 

 彼女は未だ自然体を保っている。拳を握ってすらいない。警戒しているオストガロアを見ながら、

 

「そんで、それは正しかった」

 

 オストガロアが地面から傷ついたままの触手を引き出した。竜頭は剥がれたままだが、それよりも手足を確保することを優先したのだろう。

 

「私は実際にそれでG級の中でも一握りの領域に立ち入ったんだから」

 

 そこまでして──しかし弱体化しているオストガロアは、彼女の敵ではない。

 

 

「だからよく見とけ拘り修羅ボーイズ。これが君たちの行き着く場所さ」

 

 

 直後にアステオの姿が掻き消える。その場から消えて、地面を踏み込みで砕きながらそうして力を練り上げ、触手の根本へと拳を放つ──その工程を、一瞬にも近しい速度で行って、結果として触手が潰れると言う状態が残った。

 

 そのまま地面を蹴り潰したほうの触手の先端を蹴って次の瞬間にはもう片方の触手へと拳を放っていた。潰れる触手、舞い散る血液、その中で踊るようになめらかな動きで旋回したアステオが勢いを保ったまま、

 

 オストガロアの外殻を拳でぶち抜いた。

 

 一点特化の跡として、酷く小さな深い傷が残る。拳を引き抜かれて血が噴き出し、アステオが手を軽く払いつつ呟いた。

 

「──ま、これがG級の領域ってことさ」

 

 オストガロアが崩れ落ちる音よりも、その言葉のほうが大きく聞こえた。

 

 

 

 

 ──決戦が終わって。

 

 ギルドから生きて帰ったことを褒められたり、アステオを呼んだのがナナシの判断だったとわかったり、ギルドからパーティメンバー全員の上位昇格が認められたり、古龍の撃破があったと言うことで龍歴院ギルドはお祭り状態になっている。古代林からベルナ村までは少しだけ距離があるが、アステオの速さを先程見せられた者としてはその距離もあっという間だったんだろうなぁ、と思った。

 

 そんな、いろいろあった日の夜の最後。

 

 俺とアレスと、二人で公園に来ていた。

 

「──なんか、疲れたなぁ」

 

 オストガロアとの戦闘はそんなに大したものではなかったのに、酷く疲れた。人間いろいろな情報が一気にくると疲れるものである。本日はほんとに、いろいろ激しかった。

 

 この公園は居住区にあるもので、ミラルーツの正体を知った場所だ。思えば全てがあいつから始まっているようであり、実はそんなこともなく、一旦停滞してた物語が続きを歩み始めただけなのだろう。

 

「お前はいつの間にかからっぽじゃなくなってたな」

 

「……そうだな」

 

 アレスの答えは平凡なもので、だからなんだかおかしかった。平凡と言う言葉が似合わない要素だらけの男なのに、こんなところでは平凡って言うに相応しいな、と思う。

 

「俺もさ。……約束が出来て、やることも増えたんだ。お前ほど劇的には変わってないけど、なんか……生まれた意味を知ったような気がしたんだ」

 

「……そうか」

 

 アレスの相槌にそうだよ、と返す。

 

「たぶんさ、俺たちの人生には意味があるはずなんだよ。その意味をみんなが探して生きている。だから俺は、ちょっと一足先にそれから抜けるだけ。まぁもっとどんでん返しがあるかもしれないのが人生だし、今こうして自分の人生についてを語って決めるのは早すぎる気もするけど」

 

「…………」

 

「たぶん、俺たちがそんな答えを見つけるのは戦いの中で、戦って俺らは生きていくんだ。いや、ひょっとしたら生きることすら戦いかもしれない。負けることだってある。なら俺たちはせいいっぱい勝ちに近付きたいだろ?」

 

 そうだな、とアレスは言った。

 

 そうだよ、と俺は言った。

 

「──俺たちは、そうして答えを探してく」

 

 月を見上げた。赤かった。その赤が、人生を祝福してくれている気がした。

 

「──あっ、友情イベントにハブられた……」

 

 声がしたほうを見ればナナシがいる。軽く笑いながらも歩いてきた。その姿を見て、少し笑う。

 

 アレス・レジストレスと名前の無い青年と、ハグモと言う元男。

 

 いつかのからっぽの同盟の中に、何かが満ちている気がした。




 下位編について軽い後書き書くので嫌いなかたは無視してください。





 下位編終了!終了!終了!
 ラストのモチベーション切れが激しく、また暑さで脳みそが死んでたこともあり全体的に後半では息切れしてますね。プロットを詰めなかった罰です。

 さて、上位編ですがこの件を反省して細かいプロットを書き詰めるので少し間隔が空く可能性が高いです。なるべく早く終わらせますけども。ただ上位編は一番書きたい場所なのでモチベ切れはないと思います。ええ、たぶん。


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