IS学園の男性教員 (勝間 おとう党)
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本編と閑話とIF話 
プロローグ


初めまして勝間と申します。
処女作で豆腐メンタルなので、どうかお手柔らかにお願いします

2019年 1月13日
書き直しました


『なんで……こうなっちゃったんだろう』

 

『喋らないで!すぐに治すから!』

 

『ごめん…ごめんね……』

 

 からだが痛い。血が止まらない

 

『ーー!しっーーろ!すーーかーからー』

 

 声が遠くなって来た。もうだめなのか

 

『ーすーー君!ーーーーーーーーーー』

 

泣かないで。泣かないでよ

あぁ、本当にバカだなぁ

 

『……で…できの…………わる…い………ぉ…とぅ…………と……で……………ご…め…ん………』

 

 本当にバカな弟でごめん……

 ちふーーーーねぇーーん……………………………

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 人生とはままならないものだ

 自分にやりたい事があっても、成し遂げたいのもがあっても、なかなか実現が難しい

 だから大抵の者は妥協を覚える。理想と現実を比較して、そこそこの結果に落ち着く

 

 だが、僕にはそれが出来なかった

 

 まだ高校1年生ということもあったのだろう。理想と現実を比較しきれ無かった

 理想と現実の差に納得がいか無かった

 そしてなによりも

 

 理想が現実に食いつぶされるのに我慢出来無かった

 だから逆に現実を食いつぶそうとした

 

 今ある秩序を破壊し、混沌を招き入れ、理想を構築する。これらのことは難しくはない。むしろ簡単だった

 いつの時代にだってアンチ勢力は存在し、ただそれを先導するだけで勝手に暴走する

 それをどこで間違えてしまったのだろう

 

 大切だった人が。愛してた人が。仲間だった人が

 皆が刃をこちらに向けていた

 

 意味がわから無かった。

 自分は正しいことをしているはずなのに、何よりも守りたいものが対立していた

 

 それでもなお、上にある理想を目指し続けた

 

 辛いのは今だけだと。対立しているのも今だけだと。理想が叶えばもう一度笑い合える

 また一緒に居られる。そう自分に言い聞かせて

 でも結局叶えられなかった

 当たり前だ。中身を、過程を無視した理想を叶えられるはずが無かった

 

 どこで間違えたのだろう

 あの人の弟に生まれた事か

 ISを動かせた事か

 中途半端に力を得てしまった事か

 

 いや、どれも間違いでは無い

 ISが無くとも、力が無くとも結局は同じだっただろう

 

 上にある理想だけを目指して、足元に転がっていた幸せに気付けなかった

 

 つまりはそういうことだろう

 一つの事に意固地になって、守りたかったものの声も聴こうとせず、全てを食いつぶし、独善を押し付けた

 独りよがりの滑稽。道化を演じただけだった

 

 出来ることなら、あの人ともう一度……………

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 ここの生活にも慣れて来た

 インフィニット・ストラトス。略してISの初の男性適合者として世界から注目を浴び、1年間を下準備に費やし、IS学園で整備課の技術者として雇われた

 しかしこれは私の願望を満たすのに必要な事だった

 だから無理やりにでも参加した

 

 

 やり直す。今度こそ

 視界にも映らなかった幸せを拾い集める為に

 そして大切な人を見守る為に

 例えこの身に何が起ころうとも守って見せる

 それが今の私が出来る贖罪だろう




(*作_者*)
 こうして物語は始まる
 1人異分子を加えて


 読んでいただきありがとうございます


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第1話 物語は始まる

1話を執筆し直して、プロローグを加えました。
更新頻度は遅いですが、長い目で宜しくお願いします。

それとお気に入り登録してくれた方、評価してくれた方。本当にありがとうございます。

2019 1/22 書き直し済み


 仕事とはなんだろうか?

 

 金を稼ぐ為の手段

 生きてくうえでやらなければいけ無い義務

 趣味、生き甲斐、社畜、暇つぶし

 答えは人によってまちまちだろう

 

 最初からこのような問いを投げかけてみたが、別に私は仕事を否定したいわけじゃ無い

 あまり自由に身動きが出来ない分、やることといったら仕事ぐらいしか無い

 そして私も生粋の日本人気質だったのだろう。社畜が良く合う

 

 とは言え、これには流石の私も我慢の限界というのがある

 私が今仕事をしているのは職員室

 あくまでも整備課の整備員でしか無い私には場違いだ

 なのに何故か整備室から駆り出されて教員の方の仕事を与えられている

 

 今は3月

 整備課の方の仕事なんて大きなイベント事は無いので

 アリーナの点検と借り出されたISの整備しかぐらいしか無いが

 私だけが手伝わされているのには納得がいか無い

 ずっとキーボードをたたいている手が疲れて痛い 

 

 つまり何が言いたいのかと言うと

 

「ふぁっきゅー織斑 一夏」

 

「口じゃなくて手を動かせ」

 

 バァン!

 

「グベッ?」

 

 隣の席の千冬さんに出席簿で殴られた (´;ω;`)

 

「……殴るなんて酷いじゃありませんか」

 

「人の弟を侮辱した罰だ」

 

「しょうが無いですよ。流石にこの仕事の量は」

 

 織斑 一夏がISを動かした男性の2人目として世界から脚光を浴びて数週間

 IS学園の教務課や理事の方は、その為にてんやわんやしている状態である

 一夏がこの学園に入学するにあたって発生しそうな問題の調整。その為の各国への対応。女性権利団体や非人道的な研究機関など、一夏の身柄を狙う組織の牽制

 今挙げたのはあくまでも一例で、全部説明するにはこっちの気が滅入る

 

 あの頃の自分は、いかにぬるま湯に浸かっていたかがわかる

 日本政府に監禁されてると思っていたが、実際はしがらみや悪意から守られていた

 確かに保護の理由の全てはが自分を守る為。これに尽きるものでは無い

 自国の利権や利益を確保するという目論見も勿論あるだろう

 しかし辛いのは自分だけだと思い込んで、まわりに目を向けずに、勝手に憎悪を募らせた

 

 あぁ、自己嫌悪だ。あの頃の自分が嫌になってくる

 

「おい、石見」

 

「……なんです?」

 

「ここは禁煙だ。タバコが吸いたいなら外で吸ってこい」

 

 千冬さんが何を言っているのか理解出来ない

 自分の姿を確認すると口にはタバコを咥え、右手は懐からライターを取り出してる途中だった

 どうやら無意識に吸おうとしていたらしい

 いつから無意識にタバコを吸おうとする人間に成り下がったのか

 別の自己嫌悪を抱き、それらを仕舞い直す

 

「すみません。無意識のうちに吸おうとしてました」

 

 頭を掻きながら溜息を1つ

 

「気持ちはわからんでもない。わたしも早く終わらせて酒が飲みたいからな」

 

「織斑先生は本当に酒が好きですね」

 

 気持ちがスッと軽くなる

 前は前。今は今だ

 前までの無知な学生では無く、今はIS学園の職員だ

 本当に千冬さんには頭が上がらない

 

「織斑先生はあとどのぐらいで終わりそうですか?」

 

「そうだな……。あと2、3時間といったところか」

 

「じゃあもう少しで私の分は終わるので半分まわしてください」

 

「それじゃあお前の仕事が増えるだろう」

 

「良いですよ。整備室に戻っても多分やる事がありませんし」

 

「………………………………」

 

 ……返事がない。

 千冬さんは真面目だし、任せるのに抵抗があるのだろう 

 

「酒が飲みたいんだったら私に任せて早く終わらせるべきですよ」

 

 念を押す

 

「……戻ってやることがなかったらどうする」

 

「そうですね。整備室にこもって研究でもしますよ」

 

 もしくは新しく出た論文をあさるか、投資でもして資金を増やすか

 どっちみち一人で部屋に引きこもる

 

「つまりは暇なんだな」

 

「暇と言われれば暇ですけど、暇じゃないと言えばh「暇だな」……はい」

 

 千冬さんからの圧力が凄い

 つい屈してしまった

 でもそんなに嫌じゃない私がいる

 

「よし。じゃあ早く終わらせて付き合ってもらうぞ」

 

「別に良いですけど何するんです?」

 

「酒盛りに決まっているだろう」

 

「外にでも出ますか」

 

「いや、店に入るには遅い。買いだめしてあるから部屋で飲むぞ」

 

「わかりました。では早く終わらせましょう」

 

 

 それから黙々と仕事をこなし、1時間程度で終わらせ酒盛りは始まった

 

 

 

 

 

○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 たった今、寝落ちしたこの部屋の主‐石見を見る

 

 石見に初めて出会ったのは第二回モンド・グロッソのとき

 誘拐された一夏を救い出して大会に戻ると、私が決勝で戦うはずだった相手を降していた

 こいつは私のことを確認すると一夏の安否を訊いてきた

 それで誘拐犯の一人だと勘違いして切りかかったな。本当に余裕が無かったと思う

 

 それでドイツ軍の教官を終わらせて教師としてIS学園に呼ばれて行ったらあいつがいて、驚きのあまり、また切りかかって……

 こう考えると切りかかってばっかりだな。それなのにこいつは嫌な顔もせず笑顔でいた

 

 更識の情報だとこいつの戸籍は存在しなかったと

 初のISに乗れる男なだけあって全世界が血眼になって出生を調べたが、なに1つとして手がかりが見つからなかったらしい

 手がかりといえば、本人が自称している石見 銀山という名前だけ。だがそれも間違いなく偽名だろう

 どう考えたってふざけた名前だし、今はあまりないが最初の頃は名前を呼んでも反応しないときがあったからな

 

 女尊男卑とくだらん思想のせいで最初の頃は反発があったが、今ではこの学園にこいつを下に見るやつはいない。あっても新入生のひよっこどもが騒ぐだけだ

 必要以上の技術と知識を備えてたし、なによりイケメンだったから

 こいつのファンクラブが存在すると聞くし、イケメンは得だと常々思う

 

 そんなやつだが私は嫌いじゃない。いや、むしろ好んでい

 今までの云々は抜きとして、こいつと一緒にいると落ち着くというか、なぜか昔から知っているような気持ちになる

 

 布団もなしに寝るのは寒いだろうから、添い寝でもしてやるか

 




ご観覧ありがとうございます


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第2話 原作は始まる

お久しぶりです。勝間です
文才が欲しい今日この頃

2019年 2月8日 書き直し済み


 朝起きたら千冬さんに後ろから抱きしめられてた…………………

 

 千冬さん相手だったからつい気が向けて寝てしまっていた

 以後、注意しなくては色々と不都合が起きてしまう

 

 …………………………………

 しかし嬉しい(本音)

 

 そんな出来事があってから時間が経ち、激動の仕事ラッシュの原因である織斑 一夏が入学してくる

 つまりは新学期だ

 

 私達教員は後ろで始業式に参加するが、今年は新入生のそわそわした雰囲気が例年よりも強い

 と言うか全学年通して感じる

 これも一夏が入学したことによる弊害だろう

 壇上に立つ理事長先生よりも一夏が居る1年生の方が気になっている

 

 バン!

 

 あっ。見せしめに千冬さんに叩かれた

 場所的に2年生だな

 2年生の誰か。ご愁傷様

 

 そんな感じで始業式が終わる

 いつも通り千冬さんや山田先生などのクラス担任は教室に、私のような整備課の職員は整備室に向かう

 変わらない日常。そのはずだった

 

 私は何故かこの学園の真のボス。轡木 十蔵さんに呼び出されていた

 

 学園長室に着き、ネクタイを締め直す。そして決死の覚悟で扉を開いた

 

「失礼します十蔵さん。そして今までありがとうございました」

 

 誠心誠意。今日までの感謝を込めて頭を下げる

 

「……はい?」

 

「使ってた整備室も、寮の部屋もすぐに明け渡せる状態になってます」

 

「あっいえ。わたしには何を言ってるのか」

 

「ここに勤められて本当に楽しかったです。では、荷物をまとめてきま「ちょっと待て」グェッ……」

 

 扉に手をかけ、出ていこうとしたら後ろ襟を思いっきり引っ張られた

 気管が圧迫されたせいで乱れた呼吸を直し、引っ張った本人を確認する

 後ろに立っていたのは千冬さんだった

 

「なんでここに織斑先生が居るんです?」

 

「それも含めて説明しますから。どうぞこちらへおかけください」

 

 轡木さんに勧められ、千冬さんと同じソファーに座る

 流石はIS学園の理事長室。置かれてるソファーも一級品で体が沈む

 ソファーに少し嬉しくなっていると会話が始まる

 

「実は石見先生にお願いがありまして」

 

「こんな時間にわざわざですか?」

 

「そんなにかたっ苦しくならないでください。ちょっとしたお願いですから。まぁお茶でもどうぞ」

 

 出されたお茶を飲む。こちらも良い茶葉を使っている

 85点。私は少々お茶には思い入れがあるから味には厳しい

 

「それでお願いというのは織斑 一夏くんのことでして。石見先生には織斑くんのクラスの副担任になってもらいたいのです」

 

「それは同じ男として面倒をみろと」

 

「ざっくりいうならそういうことですね」

 

 なるほど。だから千冬さんもここに居るのか

 しかし、これは渡船だ。一夏のクラスの副担任になれば、より積極的に物語に参加出来る

 願ったり叶ったりだ

 だけど1つだけ問題がある

 

「整備課の方はどうなるんです?」

 

 世界初の男性IS乗りと肩書を持っているが、私の担当分野はISの整備である

 これはISの操縦は下手とかそういうのではない

 むしろ、この世界で私がどうやっても勝てないと思っているのは2人しかいない

 

 では何故整備課に属しているかというと、情報の漏洩を防ぐためである

 ISを動かすということはISに運用データが残るということである

 別にそれだけなら私もそれほど気にしない

 しかしこの世には1人だけこれだけの情報で私の正体を見破れる可能性をもつ人物がいるのだ

 私の正体は誰にも知られるわけにはいかない

 そういうわけでIS操縦などの実技を教えなければならない教務課の教師では無く、整備課の職員として雇ってもらっていたのである

 

「そちらの方は生徒から要望がありまして。石見先生の教習は予約制にして、決まった時ではなく先生の時間が空いているときに教えていただくようにしました」

 

 

 

 

「それなら大丈夫です。では副担任を務めさせてもらいます」

 

「私からの話しは以上です。以降は織斑先生に任せますので。織斑先生、宜しくお願いします」

 

「わかりました。では失礼します」

 

 礼をして学園長室を出て行く千冬さん

 それに習い、私も出る

 ツカツカとヒールを鳴らして歩いていく千冬さんの後ろをついて行く

 その道中で千冬さんから質問が来た

 

「初めての副担任だが、なにかわからないことはあるか?」

 

「学科と副担任についてはなにもありません。敢えて言うならば年下との接し方ですかね」

 

「整備科のやつらとさして変わらないだろう」

 

「あの子達は2年生ということもあり、自分を律してます。しかし中学校から上がったばっかり、しかもこの学園に入れたことで特別な人間というか、そういう驕りを制御する機会が無かったもので」

 

 例えるならイギリス出身のエリートとか、名門貴族の出自とか、金髪縦ロールの代表候補生とか

 つまりはセシリア・オルコットへの対応。この一言に尽きる

 

「たしかにそういうのもあるか。まあなに、なにかあったらフォローする」

 

 千冬さんから頼もしすぎる一言をもらう

 でもされるまでもないだろう。苦労するのは最初だけだ

 なにせ同じクラスに織斑 一夏がいるのだから

 

 やり取りをしながら歩き3分

 1年1組に到着する

 

「私が先に行く。合図するからそれから入って来い」

 

 そう言い残し独り廊下に待たされる

 

 バァン!

 

 そしてすぐに一夏が出席簿て叩かれた音が教室の方から響いて来た

 

『げっ関羽』

『だれが英雄うんたらかんたらー』

 

 バァン!

 

『ふべら!』

 

 この一夏も私の記憶と変わらず叩かれている

 そして……

 

『千冬様!モノホンの千冬様よ!』

『お姉様に憧れてこの学園に入学しました!』

『結婚を前提に付き合ってください!』

 

 相変わらずこのクラスは平和だなぁ( ´ Д ` )

 

 私の存在の有無によって何かしらの変化があると身構えていたが、あまり変わらないものだな

 それはそれでやりやすいことだが、自分の存在を否定されてるように感じる

 確かに極めて貴重な男性のIS乗りだろう

 自分でいうのもなんだが、かなり有能な人材だと思っている

 

 だが、それがどうした。

 

 その程度じゃ誰も変わらない

 居無いなら居無いで世界には何も影響を与え無い

 あったとしても取るに足らない差異だ

 

 まだ20程しか生きてない青二才だと、いい年こいてまだ厨二病かよと嘲られるだろうが

 世界というのはそうやって進んでいるのだ

 

 ISが開発されなかった……

 いや、篠ノ之 束がこの世に生まれなかったとしても、それも差異でしかないのだろう

 

 まぁでもそんなことを考えても意味が無い。考えたくも無い事だが

 そんなことになっては私の存在意義というか、過去をすべて否定されるのと同等のことだからだ

 

『急な話しだが、このクラスには特例として副担任がもう1人着くことになった。石見先生、なかに』

 

 思考に耽っていたらもう呼ばれてしまった

 身なりを確認し何か変なところがないか確認する

 私は深く考え込むと無意識にタバコを吸っていることが偶にあるからだ

 

 扉に手をかける。

 この扉と共に幕が上がるのだ……………

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 俺‐織斑 一夏はつい先日まで普通の男子中学生だった

 藍越学園に入試を受けに行ったはずが、会場を間違えてIS学園の方に行ってしまったのだ

 そこでISを起動させて史上2番目の男性適合者になって、このIS学園に強制的に入学させられたんだ

 男子生徒は俺だけだと

 先生や技師になんにんか男の人がいるらしいが、1年生のうちはほとんど関わり合いがないらしい

 最悪だ。鬱になりそうだ。

 この1年間、客寄せパンダのように過ごさなくちゃならないのか。

 

「……くん。織斑 一夏くんっ」

 

「はっはいっ!?」

 

 急に呼ばれたのでつい大声で応えてしまった。

 呼ばれた方を見ると小さな緑色の髪をした女の子が、怯えた様子でこっちを見ている。

 

「ごっこめんなさい!自己紹介、出席番号的に織斑くんなの。だから自己紹介して欲しいなって。だっダメかな?」

 

 どうやら考え込んでいて、声が聞こえてなかったらしい

 

「あっいや、大丈夫ですよ」

 

「本当ですか。じゃっじゃあ、宜しくお願いします」

 

 椅子から立ち上がって周りを見渡す

 すっごい興味津々な視線を全身に浴びる

 

「えーっとー…………。織斑……一夏です………」

 

 えっ?なにそのこれで終わりじゃないよね。みたいな雰囲気は。俺にもっと言えってか。

 しょうがないな

 じゃあ一つここはボケてみるか

 

「……………………………………以上……ですっ!」

 

 俺には無理だったよ……

 

 バァン!

 

「いってぇっ!?」

 

 頭に衝撃がはしる

 

「お前は高校生にもなって、自己紹介もマシに出来ないのか」

 

 聞き慣れた声だ。

 うっ嘘だろ?まさかそんなはずはない

 

 俺は恐る恐る声の方向を向く

 

「げっ関羽!?」

 

「だれが三国志の英雄だ。馬鹿者」

 

 バァン!

 

 再度頭に衝撃がはしる。

 いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 何故かここにいる実姉に問だ出さねば

 

「ちっ千冬姉。なんでこk「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっ!!!」

 

「千冬様!モノホンの千冬様よ!」

「お姉様に憧れてこの学園に入学しました!」

「結婚を前提に付き合ってください!」

 

 女子達の叫び声で、俺の声を遮られてしまった

 というか千冬姉凄いな。こんなに慕われていたなんて

 今までまったく知らなかったぞ

 

「まったく。なんで毎年毎年こんだけのバカ共が集まるものだな」

 

 千冬姉のこめかみにシワがよってる

 弟としてはやめて欲しいんだけど

 

「きゃぁぁぁ!お姉様!もっと叱って!もっと罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾けして!」

 

 うーん。元気だなぁ

 今年1年間やっていけるか、もっと不安になってきたぞ

 このテンションについていかないといけないのか

 

「で、いいのか。その自己紹介で」

 

「あっいや。まってくれよ千冬姉-----」

 

 バァン!

 

「織斑先生だ」

 

 本日3回目となる頭の衝撃。ありがとうございます

 

「えっ?まさか千冬様の弟?」

「それじゃあISを動かせたのも?」

「いいなー。羨ましいなー」

 

 今度は羨望の眼差しを一心に受ける

 千冬姉は今だ少しざわついている教室の雰囲気を手を叩き、落ち着かせる。

 

「急な話しだが、このクラスには特例として副担任がもう1人つくことになった。石見先生どうぞ」

 

 千冬姉の呼び声の5秒ぐらいあとに、1人の男が教室に入ってきた

 

「今年からこのクラスの副担任を請負うことに成った石見だ。クラス担任、しかも1年生を担当したことが無い。なので不甲斐ない点は多々あるだろうが見逃してくれ」

 

 

 

 それが俺と石見先生との出会いだった




読んでくださいましてありがとうございました。


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第3話 石見のパーフェクトIS教室

最近発売されたフルメタのゲームにはまっている勝間です

つたない文章ですが、お楽しみください。

2019年 2/8 書き直し済み


「このことで、ISの基本的な運用は--------」

 

 時間が経ち2時間目

 千冬さんから実際に授業をして慣れろと言われ、山田先生に代わり授業をすることになった

 

 今やっているのは基礎中の基礎のところで、IS学園に入学する前から知ってい無いとどうやって受かったんだと逆に尊敬されるレベルの範囲だ

 

 だがしかし、いつでもどこでもイレギュラーがいるものだ

 一夏は積まれている一番上の教科書をめくったり、隣の女子を見つめたり、周りをキョロキョロしている

 記憶通りだ。たしか参考書を忘れたかして授業についてこれて無いのだろう

 助け舟を出そうと一夏に話しかけた

 

「織斑。何かわからないところがあるのか?」

 

 疑問系だが、確信を持って一夏に訊いた

 

「あ、えっと……」

 

「わからないところがあったらなんでも訊け。教師とはそういうためにいるんだからな」

 

 私の言葉で一夏が私を覚悟を決めた顔で見つめ返す

 

「先生!」

 

「なんだ、織斑」

 

「ほとんど全部わかりません!」

 

「じゃあお手上げだ」

 

 やはりか。流石の私も基礎中の基礎で全てといわれると無理だ

 そしてほとんど全部って日本語としておかしい

 

「織斑以外で、今の段階で分からないっていうのは他に居るか?」

 

 生徒を見渡し挙手を促す

 だが、手を上げる生徒などいない

 この程度IS学園に入学出来た女の子達にとっては何も問題は無いだろう

 そんな様子に困惑している一夏のそばに千冬さんが話しかける

 

「入学前に渡された参考書はどうした?」

 

「あー、あのぶっといの。それなら電話帳と間違えて捨てちまった」

 

 バァン!

 

 今日何度目かの出席簿アタック

 

「馬鹿者。必読と書いていただろう」

 

「だってよ、千冬n-----------」

 

 バァン!

 

「だっても何もあるか。そして織斑先生だ」

 

 一夏よ、君はあと何回叩かれれば気が済むんだ

 ここまで来ると狙ってるとしか思えない

 

「ISとは過去の兵器のスペックを遥かに凌駕する危険な兵器だ。中途半端な知識で操ると必ず怪我をする。その対策のための基礎知識と訓練だ。いい加減な気持ちで臨むな」

 

 千冬さんからありがたいお言葉をもらう

 言ってることは正論だけど、一夏の気持ちもわからなくは無い

 しょうがないな。ここで助け舟を出してあげよう

 

「織斑先生、説教はここまでに。では織斑。今日一日先生の教科書を貸してあげるから、これを使いなさい」

 

 私の行動に一夏はいいんですかと、助かったという表情を浮かる

 一方千冬さんには甘やかすなと不満げな視線を向けられる

 

「誰にだって失敗はある。これを教訓に精進しなさい」

 

 教科書を渡す

 ふむ。そうだな

 ここで少し発破をかけるみようか

 

「自分は望んでここにいるわけじゃない。そんな気持ちを持ってるだろう?」

 

 一夏はギクリと、何故わかるのか?みたいな表情になる

 

「君の気持ちはわからなくもない。だが、今のままだと君のお姉さんに恥をかかせることになるぞ?」

 

「…………はっ?」

 

 流石はシスコン。この言葉だけで雰囲気が変わるとは

 隣の女の子が声のトーンの低さに怯えてるじゃないか

 それと千冬さんからの視線が痛い

 

「君はかの戦乙女の弟だ。確実に比較され続けるだろう。ISが上手ければ弟だからと、下手なら弟なのにと。気の毒に思うが、世間とはそういうものだ」

 

 まだ15歳の少年に酷な事を告げる

 しかしこの程度で折れるなら強くなれない

 

「そして君が下手だった場合だ。弟がこれなら姉も大した事がないだろうと、どんな教育されてきたのだと。織斑先生は影で叩かれる可能性があるわけだ」

 

 そんな事が起きても千冬さんは気に求めないだろうし、実害が出てきたら全力で潰しにかかるけど

 一夏の頭をガシガシと少し強めに撫でる

 

「気張れ少年。譲れないものがあるのだろう?」

 

 

 教壇に戻り、授業を再開した

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

「こんな得体の知れない男に学ぶことなんてありませんわ!」

 

 いきなりディスられた (´・ω・`)

 

 1学期初日の3時間目と、まだ昼休みにもなってないのにクラスの生徒にディスられてしまった

 想定していたというか。わかっていたが、やはりここでオルコットが台頭してきたか

 でも確かに身分もはっきりしない人に学びたいと思う人の方が少ないだろう

 しかも代表候補生と他の人より優れてると、勘違いしてるなら尚更だ

 

 私をディスった生徒。セシリア・オルコットの演説が続いていく

 男をディスり、日本をディスり、そして自分と自分の国を賛美する

 力に酔った人間は怖ろしい。知らずのうちに周囲に敵を作って、自分で自分の首を締める

 かつての私をみせられているようで、タバコを吸いたくなってくる

 

 しかし、いただけない

 ISは女性の特権だと、優れている兵器だと、それが世界の認識だが認めることが出来ない

 あの頃より成長してると思っていたが、あんまり変わらないものだな

 現実と理想の差異を未だ認められずにいる

 だからこそ、今も足掻き続けているんだけど

 

 千冬さんの額に青筋が浮かんできたし、そろそろ納めるとするか

 

「醜い言い争いはそこまでにしておけ」

 

 ぱんぱんと手を大きく叩き、こちらに注目を集める

 

「まずはオルコット。織斑先生は自薦も構わないと言った。後からどうこう言うなら最初から自薦すればよかっただろう」

 

「そ、それは……」

 

「そして織斑。売り言葉に買い言葉だ」

 

 ここで1つ釘を刺しておくとするか

 

「君たちはISを女性の特権。そうやって考えているだろう。ここで言っておく、それは全くの間違いだ」

 

 教壇に立っていた千冬さんと場所を替えてもらう。後ろを向き続けるのも辛いだろうからね。

 

「そもそもISとはどうやって発明されたか。これから話そうか」

 

 

 

 ISとは開発者の篠ノ之 束の夢の結晶である

 

 

 親しい人達と宇宙に行きたいが為に作った、マルチフォームスーツである

 

 

 故に兵器では無いし、選民思想の傀儡でも断じて無い

 

 

 地上のドンパチに使われて、可能性を擦り減らせていいのもでは無い

 

 

 お国の技術力を自慢して優越感に浸りたい偽政共や組織はくたばれ

 

 

 ISの技術を応用して人類に有益をもたらす事が出来る

 

 

 例えば搭乗者保護システムやハイパーセンサーの医療転用

 

 

 シールドエネルギーでの電力の補填

 

 

 ISに限らず使いようによってはペンも銃も、どちらも武器にもなるし恵みにもなる。それを心に留めておけ

 

 

 

「途中話しがそれたが、つまりはこの3年間で君達にはISの可能性を見つけて欲しい。それが僕の願いだ」

 

 千冬さんに頭を下げて教壇から降りる

 教室の後ろから生徒達を見下ろし、今の教えを心の中で反芻させる

 

 

 前はやり方を間違えたが、今回は間違えない

 いつか必ずISを今の兵器という立場から、本来の立場まで引き摺り下ろしてみせる




観覧ありがとうございました


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第4話 気張れ、一夏くん

まだこの物語のしっかりしたプロットも組んでないのに、新しい物語を考えてた勝間です。
先週、今週、来週とやること多くて充実してます。

2019年 2/10 書き直し済み


 クラス代表は一夏とオルコットがISで戦い、勝った方が務める事で話しがまとまった

 それと一夏は箒と同じ部屋で、扉に穴を空けたらしい

 

 私は学寮長でもないので職員寮に部屋を与えられている

 なので今朝の朝会議の時に千冬さんから教えて貰ったのだ

 すぐに直しに行こうとしたが、他の整備員が今日の正午までには直しに行くから私の出番は無いと言われた

 

 正直悲しぃ(・-・)

 

 

 まだ2日目だが、ここまでは順調に進んでいる

 いや、むしろ序盤の序盤で前と違う事が起きても私が困るだけなので助かっている

 とは言うものの前の事なんて殆ど覚えてい無いが

 

 一夏は練習機を借りれない。つまりはぶっつけ本番で専用機である白式に乗るしか無くなった

 代表候補生レベルと言えども1度しか乗ったことのないISで勝てないだろう。むしろ勝てる方がおかしい

 世の中に千冬さんレベルの麒麟児が居てたまるか

 

 閑話休題

 

 仕事を取り敢えず全て終わらせて来た私は様子見として一夏の訓練を見に来た

 廊下ですれ違う女の子達の会話を盗み聴いたので何処に居るかはわかっている。剣道場だ

 それに箒に助けを乞うのならば、剣道場しか選択肢は無くなるだろう。だって剣道バカだし

 これだから暴力ヒロイン筆頭だったり、モッピーだったり、2ちゃんでイジられ……………

 

 ( ゚д゚)ハッ!

 

 何か思考が何処か遠い場所に飛んでいた

 何やら電波を受信してた様だ

 

 閑話休題

 

 なんだかんだで剣道場に着く

 大量の女の子達が剣道場にひっきりなしに詰め寄っていて、事情を知らないと事故でも起きたのかと錯覚する程の量だ

 女の子達が囲んでる中心を覗き込めば一夏は膝を付き、箒は何やら不満げな雰囲気を醸し出している

 

『どういうことだ!弱くなっているじゃないか!』

 

 どうやら一夏が昔より弱体化しているらしい

 どうせ一夏の事だ。篠ノ之の剣道場が潰れてからはやっていなかったのだろう

 

 気持ちはわかる

 私もやらされていたから剣道をやっていたが、やらなくてもよくなってからはやろうともしなかったからね

 そんな一夏が仮にも全国大会を優勝した箒に勝てる道理は無いだろう

 

 うーん。どうしようか

 ここで一夏を助けても良いんだが、過度な干渉は差異を発生させる要因になるんだよな

 

 …………………んっ?

 何やら視線を感じる

 

 意識を戻すと一夏達を見学していたはずの女の子達が、一斉に私の事を見ている

 何故かと首を傾げ、理由を求めると中心に居た一夏がこちらの方を向けていた

 

 なるほど。一夏の視線を辿って私の方に集まったという訳か

 この注目されている状況下で立ち去るのも不自然か

 

 

 流れに身を委ね、モーゼの海渡りの如く女の子達が空けた間を進んだ

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

「頑張っているみたいだな」

 

 箒と剣道の一戦を終えて現れたのは副担任の石見先生だった

 180ちかい身長と、遠くからでも目立つ白い髪のおかげで女子たちの後方にいてもすぐにわかった

 

 最初は見た目のせいで少し怖かったけど困ったことがあったらフォローしてもらえるし、授業もかわりやすくて今はいい先生だと思ってる

 だけど隣にいる箒は顔を合わせようとせずに距離をおいている

 オルコットとの一件があった時に先生がIS。というか束さんに対して好意的な姿勢を見せたからか

 箒って束さんのことが苦手だからな

 正直俺もテンションの高さについていけないかったけど

 

「まぁでもそんなに気張るな。ISでの戦闘と言っても殴り合いの延長線だ。空を飛べる以外で困ることもないだろう」

 

「いや、その空を飛ぶの感覚がわからないんですけど……」

 

 それと殴り合いもわからない

 

「それは実践で慣れるしかない。どんな物事だって最初は皆素人だからな」

 

「じゃあ先生はどうやったんですか?」

 

 周りの女子達が少しざわついた。やっぱりみんなも興味があるのだろう

 

「……私は………場慣れだな……」

 

 苦々しく言う

 

「私には夢があった……。いや、今でも必死に追いかけているんだが。それを実現させる過程で頑張った結果だな」

 

 結局は間違えてたんだけどなと自嘲した言葉を吐く

 

「若気の至りだな。邪魔する輩を全員倒せば叶うと、そんな短絡的な結論を出して手あたり次第周りに喧嘩を吹っ掛けた」

 

 若気のいたりで片付けていいもんじゃないでしょう。まわりから見たらただのはた迷惑だし

 

「それぐらいだな。私はISの練習なんか、片手で数える程しかやってこなかったし」

 

 それって場数を踏んでるってのもあるけど、才能なんじゃないか

 

「取り敢えずは剣を振れ。十全の準備をしろ。所詮は模擬戦だ。負けても死にはしないんだからな」

 

 そう言って俺の頭をぐりぐり撫でて剣道を出て行った

 

 なんだか腑に落ちない。結局ISが上手くなる方法もわからなかったし

 もういいや。箒と続きをしよう

 

「箒。さっきの続きしようぜ」

 

「あっあぁ。そうだな」

 

 我を取り戻したかのように返事をする

 

「どうしたんだ?」

 

「一夏お前気づいてないのか」

 

「なにが?」

 

 別にさっきとなにも変わってないとおもうんだけど

 

「お前すごいニヤけてるぞ」

 

 ………………………はっ?

 

 

 自分の顔を触る。口の端が上がってるのがわかった




閲覧ありがとうございました。


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第5話 戦え、一夏くん

こんにちは。勝間です。
想像を文に起こすのは難しい。常々そう思います。

今回 篝火ヒカルノが出て来ますが、口調は完全に僕の想像です。

2019 1/22 書き直し済み


 

 カタカタとキーボードに入力する音と時たまガタガタと車体が振動する音しか聞こえない

 

 一夏のISである白式を輸送する貨物車に乗り込んで、道中フィッティングをしている

 これも篠ノ之博士から白式を渡されてすぐに学園に送らなかった倉持の研究所が悪い

 ついでに一枚噛んでいる政府も悪い。くたばれ害悪共が

 

 それにしても素晴らしい

 やはり篠ノ之博士は史上最高の頭脳を持っている

 凡人がこれを解析しようとしても出来ないのは当たり前だろう

 

「ほぇー。そんな手もあるのか」

 

 雪片はこんな風になっていたのか。これはこれは……

 

「ねぇー、今のどうやったの?おーい」

 

 この程度なら私でもマネ出来る範囲か……

 

「もしもーし。聞こえてますかー?」

 

 …………………………………‥……………

 

「……………何ですか」

 

「おーおー。やっと返事してくれた」

 

 私の作業を見ながら、ひたすら声をかけ続けていた女性に反応する

 

「そもそも何故貴女がここに居るんですか。篝火所長」

 

「私が私で私だからさ!」

 

 頭が悪そうな回答に少しイラッとくる

 ISスーツに白衣を羽織っただけの状態だし

 これだから研究職は嫌いなんだ(若干のブーメラン)

 

「なんかディスられた気がするけどまぁいいや。で、これどうやったの?」

 

「いつも通りやりましたが」

 

「それが異常だから聞いてんじゃん」

 

 この程度異常の範疇に入らないだろう

 そんなことを言っていたら篠ノ之博士の技術なんて一生かけても追いつけない

 

「いいですか。この白式は機体自体は第三世代の代物です」

 

「うん。それは倉持でもわかったよ。でも今展開してる情報は出てこなかった」

 

「この情報は第三世代を前提としてやると出て来ないものですから」

 

 篝火所長が眉をひそめる

 

「結論だけ述べるとこれは第四世代の情報です」

 

「第4?第4世代だって?はっ?それは…………はっ?」

 

 流石の情報に慌て始めたが、直ぐに落ち着きを取り戻しうんざりした表情を浮かべる

 

「あーやだやだ。これだから天災は。こんなの見せられちゃ私たちがやってることがバカみたいじゃないか」

 

 その気持ちはわかる。自分が必死でやってたことが、他人に軽々とやられるとつらい

 しかしそれでも引き下がれないものがあるから研究をするのだろう

 

「ねー。倉持に来ない?少なくともIS学園より良い待遇だけど」

 

 何を馬鹿な事を言うのだろうか

 

「あー、なんだその目は。私だって本気なんだぞ」

 

「本気なら尚更。私は倉持が嫌いなのは知っていますよね」

 

 と言うか、ISを兵器として研究している場所全てが嫌いだ

 

「知ってる。知ってて言ってんだ。君の知識をあそこで活用したいんだよ」

 

「ISを兵器運用する為の活用ですか。くたばれ」

 

 つい暴言を口にしてしまった。

 だか後悔はしてない。このままだと引き下がり続けるだろう

 なのではっきりと言わせてもらう

 

 

「私は認めない。ISを兵器運用する貴方達を。そしてこの世の中も」

 

 

 

 

 

○ △ □ X

 

 

 

 

 

 篝火所長とのやり取りの後、タバコを吸いに屋上に行き10分程時間を浪費する

 

 一夏とオルコットが対戦するアリーナの管理室に着くと千冬さんと山田先生。そして何故か箒が居た

 私が中に入ったと同時に集まる3人の視線

 何とも言えないこの感じ。気分はそうだな

 授業参観で親が後ろに控えてるにも関わらず、トイレに行ってて授業に遅れ来た中学生

 私にはそんな経験無いが

 

「織斑のISがフィッティングされていなかった。まさかと思うがサボったのか?」

 

 心の中で我ながら上出来なジョークを思案していると、千冬さんから声が掛かって来た

 なんだ、そのことか

 

「フィッティングは行いましたよ。……ただ、少し小細工はしましたが」

 

 千冬さんの眉間に皺が寄ってる

 これは下手い。少し怒ってらっしゃる

 しかし千冬さんに怒られるのか

 それはそれでありと考えてしまった自分が怖い

 

「簡単に説明しますと1次移行に移るのを意図的に遅らせました」

 

「……それはなぜだ」

 

 これは言っていいものか。エコ贔屓になる

 でも千冬さんが睨むしな

 

 思いの外健闘している一夏を見る

 

「ほら、観てください。そろそろ来ますよ」

 

 3人がモニターの方を向く。そこにはオルコットの専用機に搭載されている専用武器。ビットの銃撃を受けた一夏が映る

 しかし、すぐに炸裂音と共に現れた煙幕で観え無くなってしまった

 

「石見先生!」

 

 箒が食い掛かって来る

 仕方が無い。今までの流れからして私が意図的に一夏を負けさせたと思われただろう

 

「落ち着け。まだ終わってないぞ」

 

 箒の肩に手を置き抑え……る?

 

「ちょっ本当に。マジで」

 

 あっ下手い。力が強くて押し負けそう

 この馬鹿力めっ

 

「あぁそういうことか。篠ノ之。まだ終わってないようだぞ」

 

 割かし全力で腕を突っぱねていると横から千冬さんが声を掛けて助けてくれた

 箒が力を緩めてくれると同時にモニターいっぱいに光が奔る

 そしてそこに映されたのは白鎧の騎士の様なISを纏った一夏だった

 

「これを狙っていたのか」

 

「はい。まとも戦っても無様に負けるだけですから」

 

 仕組んだのはシールドエナジーの残量に応じで1次移行を作動されるプログラム

 まともに戦っても勝てる筈が無いので勝手ながら仕込ませてもらった

 

「これで最悪の結果は逃れたと思いますよ」

 

「すべて計算どおりというわけか」

 

 計算通り

 しかし、これ以降は一夏の頑張りによる

 想定を越えるのが一夏の持ち味だ

 

「それはそうとして。織斑先生はこの勝負、どうみます?」

 

 画面に映るのはビットを落とし、初心者とは思えない飛行をする一夏

 一度流れを掴むと強い。敵に回すと厄介なタイプ

 格下だと嘲てると寝首を掻いて来る。私が3番目に嫌いなタイプだ

 

「小細工はしましたが初心者にしては上手いですし、ひょっとしたら格上殺しもあるかもしれませんよ」

 

「ふん。お前もわかっているだろう」

 

 そう言ってマイクの方に向かって行く

 動きは素人から逸脱しても基本的な部分は至っていない

 油断した卒業検定前の仮免許者と一緒で、自分の運転技術を過信して、歩行者やメーターなどを疎かにしている

 つまり何を言いたいかと言うと

 

 

 ≪ビィィィィーーーーーーーー!≫

 

 

「試合止め!勝者オルコット」

 

 こうなるんだな

 

 1次移行はどうにか出来たが、零落白夜の燃費の悪さはどうにもなら無かった

 そもそも私程度がどうにか出来るなら篠ノ之博士が事前に改善しているだろうし

 取り敢えず一夏が戻って来る前に退散しますかね

 

「では。私はメンテに行かなければならないので失礼します」

 

 1言だけ残し管理室を出た

 

 

 

 

 

 〇 △ □ ×

 

 

 

 

 

 誰も居ない廊下を踵を鳴らしながら歩く

 良い感じに反響して気分が上がる。後を付いて来る無粋な人物が居なければだが

 

「居るのはわかっている。潔く出て来い」

 

「あら?やっぱりわかっちゃいます?」

 

 開くたびに書いてある文字が変わる、びっくり扇子を持つ水色の髪の女生徒

 この学園の生徒会長である更識 楯無が曲がり角から現れた

 

「人が気分良く歩いてるところを邪魔するとは。無粋だぞ」

 

「ふーん。あなたにそんな風流があるなんてね」

 

 驚愕と書かれた扇子で口元を隠す

 少しイラっと来た

 私にだって人並みの感性は兼ね備えている

 と、思う

 

「それで何の用だ」

 

「織斑 一夏くんの試合は見ました?」

 

「あぁさっきまでな」

 

「それで初代としてはどう思ってるのかなーって」

 

 成る程。そう言うの事か

 

「別に事を荒立てるつもりは無い」

 

 つまりは私が一夏を害するかどうかを訊きに来たと言う事か

 不真面目そうなキャラをしときながら生徒会長としての責務はしっかりしている

 政府からの要請もあるだろうが会長として生徒を守ろうとする姿勢は素晴らしいと思う

 

「そう……。今はその言葉を信じましょ」

 

 意外な事にすぐに納得をした

 予想ではもう少し粘ると思っていたが

 でも長ったらしく話しを掘り下げられるよりかはマシだから良しとする

 

「アリーナのメンテをしなければいけないからもう行くぞ」

 

「ごめんなさいね。時間を取らせてしまって」

 

 アリーナに向けて足を向ける。そこで1つ悪戯心が芽生えた

 

「ストーカー行為は良いが、妹に嫌われるぞ」

 

 歩く速度を上げる

 数秒後に大きなお世話よと震え声が聞こえた




読んでいただきありがとうございました。


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閑話 誕生日

しばらく更新がなかったのは、ただ単にやる気がなかったからです。
お気に入り登録していた方。すみませんでした


「朝の会議は以上とします。では皆さん、今日も頑張っていきましょう」

 

 学園長の締めとともに、各自が各々の職務へと進む。私も周りもかわらずに整備室に向う。

 いつも通りの日常が始まると思っていたが、とある人物の近くを通ったときに問題が起きた

 

「お誕生日おめでとうございます。織斑先生」

「ありがとうございます」

「今晩いいとこを押さえましたから」

「それは楽しみですね」

「パッといきましょ。パッと」

 

 今日は千冬さんの誕生日だったのか

 記憶が摩耗していたせいで、そんなことも忘れていた。日頃の感謝と過去の謝罪と………

 いや、考えるのはやめよう

 謝罪したところで、千冬さんは知らない事だし、所詮は自己満足にしかならない

 そんな事よりも今は仕事に集中しよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬さんにプレゼントを渡すなら、どんなものが良いのだろうか?

 私自身、あんまりプレゼントを渡すのも、貰うのも経験が乏しいからな。何を渡せば良いのかがわからない。

 取り敢えず紙に書き出してみるか

 こう言うのは一度書き出すとまとめ易くなるからな

 

 

『 千冬さんに渡すプレゼント候補

 

  1 腕時計、パソコン、電化製品系

 

  2 服、靴、ネックレス

 

  3 酒、食べ物

 

  4 本

 

  5 現金            』

 

 

 ざっとこんなものか………。うーん……

 

 やっぱりセンスが無いな

 まぁ良いや。1つづつ考えていこう

 

 まずは1。電化製品系

 今の電化製品は安いと言っても、まだ1年も職場を共にしてない男に渡されても困るだろうな。

 腕時計は確か着けて無かった筈だけど、他の人達と被りそうだから却下。

 

 1にバツをつける

 

 次に2の衣服系

 

 2にバツをつける

 ついでに4と5の本と現金にもバツ

 

 自分のセンスを千冬さんに押し付けるのは気が引けるし、そもそもファッションセンスに自信が無い。

 本なんて論文しか読まないから何を渡せば良いかわからないし、現金とか最悪だよね

 だから全部却下

 

 最後に残った3の飲食物

 味気無いけど、やっぱりこれがベターだと思う。千冬さんはお酒とか好きだし

 というかよくあんな不味いものが飲めるよね

 ちょっとした好奇心で中学生の頃、ビールを拝借したけど一口で吐き出した記憶がある気がする

 

 

 あぁ駄目だ。口調が幼くなってる

 もとに戻さないと………

 

 

 

 

 よし。これで大丈夫だろう

 取り敢えずネットで良さげな酒でも探すか

 

 

 整備室に備え付けてあるパソコンを起動して、ヨド○シカメラのウェブサイトを開く

 商品検索で『酒』と打ち込み、人気順から目を通す

 人気順とか何処の誰の人気だよと思うが、知識が無いので頼るほか無い

 

 ひたすらマウスをカチカチ鳴らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 んっ?これなんてどうだろうか

 酒じゃないが、これなら日常的に使えるし、値段もリーズナブルでプレゼントとしては最適だろう

 

 なかなかやるじゃないか人気順

 お前の事を見くびっていたよ

 そしてありがとう。ヨドバ○カメラ

 

 時間を確認する

 

 最寄りのヨ○バシまで車で往復1時間として、昼休憩終了まで後20分

 商品の受け取りとかがあるから、多く見積もって2時間かかるとして、1時間半以上もオーバーする

 業務が終わってからとしても2時間もかかれば、そのうちに千冬さんは同僚と飲みに行ってしまうだろう

 

 いや、ちょっと待て

 在庫が無いから取り寄せする必要がある、つまりどっちみち今日中に渡せ無い

 

 どうする。別のものを贈るしか無いのか

 だが千冬さん相手に妥協はしたく無い

 

 

 

 しょうがない。多少は妥協する………

 

 

 

 

 

 待てよ。この構造は…………

 そして素材は錫の……いや、ステンレスの方が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。ここの設備なら造れる

 よしいける。私ならいける

 

 なら今日の業務を早く終わらせなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は11時を過ぎてしまった

 

 本当なら千冬さんが飲み行く前に渡したかったのだが、メンテナンスの不備が見付かって駆り出されてしまった

 だが、ヨ○バシのサイトにあったやつよりも、素晴らしいものが完成したと思う

 

 流石に明日も業務があるから千冬さんも、もうそろそろ帰って来る筈だ

 夜遅くに同僚(女性)を独り待つ男。犯罪臭がするな

 

 

 

 

 

 

「おい。そこにいるのは………石見…か…………?」

 

 

 

 やっと千冬さんが帰って来てくれた

 

「夜分遅くにすみません。と、その前に。お帰りなさい織斑先生」

「……あぁただいま」

 

 

 怪訝そうな顔と言うか、これは警戒か

 そうだろう。私だって不審者だと間違える

 

「そう警戒しないでくださいよ。織斑先生に渡したいものがあるだけです」

 

 絵柄の無い茶色の紙袋を突き出す

 

「お誕生日おめでとうございます。ささやかですが、私からの気持ちです」

 

 千冬さんはありがとうと言いながら、恐る恐ると言った雰囲気で受け取ってくれた

 見てもいいかと言われたので、勿論と返す

 

「………これはグラスか」

「はい。なんでも酒をより美味しく飲む為のグラスとか」

 

 酒は飲んだら終わりだが、これなら半永久に使え、万が一壊れても、私がすぐに直せる

 

「それは凄い。いいものをもらった」

「喜んでもらって、こちらも嬉しいです。造ったかいがありますよ」

 

 製作に7時間も費やして良かった

 

「これだけですから。では、おやすみなさい」

 

 そう切り上げて、自分の寮部屋に帰ろうとした時。後ろからおいと千冬さんから声がかかる

 

「造ったってお前が造ったのか?これを?」

「そうですよ」

 

 千冬さんはグラスを手に取り、遊ぶ様に確かめている

 時折なるほど、ふむ、しかしと悩む様な仕草をして、そしてちらちらこちらの方を確認する

 

 何か不具合があったのかと少し不安になったその時、いつものキリッとした目で千冬さんは私を見据えた

 

「さっきまで飲んでたんだが正直飲みたりなくてな、部屋でもう2、3杯飲もうと思ってたんだ。なに、独りで飲んでもつまらんから、お前も付き合え」

「私飲めませんよ」

「ふざけるな。無理やりでも飲んでもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………の…………す……せ…ん……………

 あ…………い………ん…………………………………

 

 

「あのっ!石見先生!聞いてますか!」

 

 私の顔の前で手をぶんぶん振る山田先生

 少し思考に更けてしまっていた。悪い事をしてしまった

 

「すみません。ちょっと前の事を思い出していました」

「そうだったんですか。返事をしないかったので、ちょっと心配しちゃいました」

 

 無視をしていた相手に心配するとは

 同じ人間として心が痛くなる

 

「それで織斑先生の誕生日ですけど、なにを贈ります?」

「逆に山田先生は何を贈るんですか?」

 

 質問に質問で返してしまった

 

「私のですか?そーですねー……お酒………えー、でもー……………」

 

 思考の海に旅立ってしまった

 今年は山田先生のプレゼントから派生させようと思っていたのに

 

「どうしますか?」

「どうしましょうか?」

 

 

 今年のプレゼントはドツボに嵌りそうだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 ついでに食洗機はどうだろうかと言ったらセンス無さ過ぎと言われてしまった……………

 



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第6話 空港(たぶん羽田)

たぶん4ヶ月ぶりの本編投稿

書いた時期が開いた為、間の開け方とか変わってます
そして石見のキャラとか若干忘れた


 私は独り、国際空港のロビー近くのコーヒー屋で人を待っている。

 

 待ってると言ってと明日から正式に入学する、代表候補生の鳳 鈴音だが。

 本来なら迎えはいなかったのだが、私が代表候補生にそれはどうかと意見したら、言い出しっぺの法則で迎えに行けと言われてしまった。

 

 半休を貰えたと思えば安いものだが、視界の片隅チラホラと映る政府の役人が正直鬱陶しい。更識の関係者なだけマシだが。

 私に下心は無いし、仕事なんだから監視する必要性は無いと思う。

 素性が知れないISの男性適合者を野放しにする程、私は信用されて無いという事か。

 

 それにしてもここのココアは美味い

 あまり期待してなかったが、これなら毎日通ってもいいレベルだ。学園から遠いから無理だが。

 

 こんな感じで1時間程待ちぼうけている。

 カップのなかのココアも飲み干して、次の一杯をおかわりしに行くかどうか迷っていると、後ろから声をかけられた。

 

「そこの貴方。暇なら私のコーヒーを持って来なさい」

 

 内心、溜息を吐いた。

 またくだらない女尊男卑思考に染まった女に声をかけられたとうんざりする。

 しかしここで返答しないと、ヒステリックな声で凶弾されると相場が決まっている。

 何と言って断ろうかと考えながら声の方に顔を向けると、金髪の美女が佇んでいた。

 

 あぁ、なるほど。そういうことか。

 

「では、そこに座って待っててください」

「そうさせてもらうわ」

 

 近くに座っていた男性客から同情の視線を浴びながら、注文カウンターまで行く。

 そこで頼まれたコーヒーとおかわりのココアを注文し、会計。番号札と適当に砂糖とミルクを持って席に戻る。

 

「頼んで来ましたよ。コーヒーは店員が持って来てくれますから」

「あら、ありがとう」

「それで、今日はどうしました?」

「知り合いがここに立ち寄るのよ。だから会いに来たの」

「それは羨ましいですね。貴女みたいな美人に待ってもらえるなんて」

「ふふっ。だったらあなただって幸運じゃない」

 

 ちょっとした会話を重ねていると店員がコーヒーとココアを持って来る。

 

「ちょっと聴いてくれる。わたしね、2人の娘のような子がいるのだけど、その2人の仲が悪いのよ」

「どんな娘達なんですか」

「1人は貴方ぐらいの歳の娘でね。言うことは聞いてくれるのだけど、少し口が悪いのよね」

 

 明るい茶髪の男嫌いな娘なんですね

 

「もう1人は15歳ぐらいの娘でね。こっちは無口で必要最低限のことしか喋ってくれないの」

「きっと思春期なんでしょう。何かハマってる事とか無いんですか?」

「機械いじりかしら。基本的に部屋に引きこもってるから、なにをやってるかあんまりわからないのよね」

 

 なんだ。まだそんな生活を送ってるのか

 

「あぁでも、最近カメラを持ち歩いてるわね。べつに撮るわけでもないのに」

「それって片手で持てる大きさで、黒いデジカメですか?」

「そうよ」

 

 口角が少し上がるのを抑える。

 渡した時はなんだかんだと文句を言ってた割に、ちゃんと持っていてくれてた事が嬉しい。

 

「あぁ、そういうことね」

 

 訳知り顔をして頷く

 

「どうしてあの子を贔屓するのかわからないのだけど、やっぱりあの人に似てるからかしら?」

 

 学園で教員をやっているし、距離が近いからそう見えるのか。やはり

 たぶんあの娘を気にかけるのは、そういうことじゃないんだが。

 

「さあ。どうでしょうね」

「やっぱりそうやってはぐらかす。そろそろ気を許してもいいとおもうの」

「何を馬鹿な」

 

 少し冷めたココアを啜って間を取る

 

「私達は利害が一致しているから手を組んでいるだけで、それが無くなったら喜々として襲って来るでしょう。なのに弱点になるかもしれない情報を提示するわけないじゃないですか」

 

 なにせ男性なのにISに乗れる片割れ。

 ブリュンヒルデの弟等と言う後ろ盾も、国籍も学歴も無いのだから。薬品漬けのモルモットにされる自信しか無い。

 

「でもまぁ。私を組織のトップに据えてくれるなら、考え無くも無いですよ」

 

 向かいの女性と視線が交差する。

 何も読み取れ無い。相変わらず深い闇を持った瞳をしている。

 

「冗談ですよ」

 

 先に軽く笑いを含ませながら肩をくすめる。

 この人と腹を探り合った所で旨みが無い。それどころか不易を生む可能性もある。

 

 視界の淵にポニーテールの娘を捉えた

 

「すみませんが私はここで」

 

 椅子から立ち上がり、女性の横を通る

 

「それではスコール。また会いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が鳳 鈴音で間違いは無いか」

 

 失敗した

 自分でも思う程硬い声を出してしまった

 前にコミュ力と人との付き合い方の論文を読んだのに、全く活かされてない

 

「そうだけど…………。あんたは?」

 

 やはり警戒された

 

「IS学園に務めてる石見だ。急な決定で君を迎えに行くよう事になってる」

 

 訳を話しても、まだなお警戒されてる

 何故だ

 

「そんなの聞いてないんだけど」

「なら確認すればいい。そこの柱の側なら通行の邪魔にならないだろう」

 

 近くに居ても邪魔にならないと考え、鳳との向いにある柱に背をもたらせる

 

 少し距離があっても、こちらにも聞こえる声で鳳が電話をかけた主と応答する

 そして鳳が端末を仕舞ったので近付いた。

 

「IS学園の関係者ってのはホントみたいね」

 

 本当も何も。最初から嘘は付いて無い

 

「疑いが晴れた所で行こう。まだ日が暮れるのも早いからな」

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 早速駐車場について向おうとしてたのに止められる

 

「ほら」

 

 ボストンバックを突き出される

 

「…………何のつもりだ」

「あんたは女の子にこんな重いもの持たせ続ける気?」

 

 何だ。男なら荷物を代わりに持てと言う事か

 

「何キロある?」

「だいたい10キロないぐらいよ」

「なら持とう」

 

 右腕に精一杯力を込めて持ち上げる

 

「なによ。重かったら持たないつもり?」

「そうだ。私は片手で10キロ以上は腕力的に持ち上げられ無いからな」

「貧弱すぎじゃない」

 

 しょうがないだろう。基本的に私は技術者だ

 

「あんたホントにそんなのでIS強いの」

「なんだ。私の事を知っているのか」

 

 一夏にしか興味持って無いと思っていた

 

「そりゃね。上のやつらがうっさいのよ」

 

 なるほど。そう言う事か

 

「ISの強さは身体能力だけで決まるものでは無い。アスリートの全員が喧嘩が強い訳では無いだろう」

 

 こうしてるうちに目的の場所に着く

 

「この車だ。好きな所に乗れ」

 

 そろそろ帰り道が混む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定道が混んでいた。そして日も暮れた

 鳳を事務室の近くで降ろし、園内の駐車場に愛車を停めて、学園長にも報告を済ます

 

 今日あったを事を千冬さんか山田先生に聞こうと思い、職員室に顔を出すが2人共不在だ

 

 まだ机に書類が出てると言う事は帰っては無いだろう

 と言うより2人共仕事が少し残ってる

 手持ち無沙汰だし、待つ間に代わりにやろう

 

 

 えー、と…………

 

 一夏の詳細データの提示願い

 はい。ボツ

 

 一夏の好みのタイプを教えて云々

 ……自分で聞け

 

 千冬お姉さま。お付き合いを前提に結婚してください

 日本は同性婚は認めて無い

 

 

 何だこの内容は(驚愕)

 

 

 いや、まだだ

 山田先生の仕事をやろう

 

 今日のISの授業内容の報告書

 

 請け負ってる部活動の手続き書類

 

 一夏の授業態度の報告書

 

 

 うん。普通だ

 山田先生の仕事に対して千冬さんの仕事を比較すると不憫に思えてくる

 

 学年主任って大変なんだな……

 …………………………………………………………

 

 

「なんだ。帰って来てたのか」

 

「あっ石見先生おかえりなさい」

 

 思考に更けていたら2人が戻って来た

 

「はい。先程戻って来て今日の居なかった分の事を聞こうと思いまして。それと残ってた仕事は勝手ながら終わらせときました」

 

「それは助かる。それと今日だが、特に言うほどのことは無いな」

 

「そうですね。……あっ今学食を貸し切って織斑くんのクラス代表のお祝いをやってますよ」

 

 それは重畳。学園に馴染めてるみたいだ

 

「それで私たちも行ってたんですよ。石見先生も行ってみたらどうですか?まだやってるはずですよ」

 

「いえ、私はいいですよ。学生だけで楽しみたいでしょう」

 

 こう言うのは大人がしゃしゃり出ても仕方が無い

 

「いや待て。一夏がお前がいないのを気にかけてたぞ。少しぐらいは顔を出してやれ」

 

「本当ですか」

 

 それなら行こうか。うん

 

「なら少しだけ行ってみます。それでは失礼しました」

 

「あぁまた明日」

 

「おやすみなさい」

 




いわみ「まだやってるか~?」(^_^)/

いちか「あっ石見先生」(*゚▽゚*)

いわみ「クラス代表おめでとう」ヾ(・ω・*)ナデナデ

のほほん「あーおりむーずるいーわたしも~」(っ*´∀`*)っ


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閑話 カメラ

 ウィーン

 自動ドアをくぐり、ありふれた雑居ビルに入る

 

 政府の監視‐更識の目を掻い潜ったと思うが気を抜いてはいけ無い

 バレたら学園をクビになる。そうなれば物語に介入するのが難しくなり、ある人の手を煩わせる事になる

 それだけはどうにか回避しないと

 

 ………………………………………………………

 うん。追って来て無い

 

 エレベーターでは無く階段を使って上に登り、4階と5階の途中にある関係者専用の扉の鍵を開けて入る

 気分はさながらドラマに出て来る秘密結社……

 

 何て悠長な事は言ってられ無い

 誰だこんな地味に高い階に集合にしたのは

 お陰で動悸が激しい。私はスタミナが無いから階段を登るのは辛いんだ

 

 息を切らしながら扉の先に続く廊下を進む

 そして奥から2番目の仮眠室と書かれた飛びの前で歩みを止めた

 

 ココン。コン。コン。ココン。ココン

 

 リズム良く独特なノックをする

 

『誰だ?』

 

「そちらは?」

 

『オータム』

 

「シグルド」

 

 ガチャン

 

『入れよ』

 

「失礼」

 

 内の人に許可をもらい部屋に入る

 最初に視界に映ったのは明るい茶髪をした女性‐オータムだった

 

「久しぶりですねオータム」

 

「よぉモヤシ」

 

 開口1言目が悪口。流石の私でも傷付く

 

「いつも言っているてしょうが、貴女は女性なんですからその口調は嫁の貰い手を失うと」

 

「うっせーな。誰が誰の貰い手になるって?ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞ」

 

 美人なのに残念だ

 しかしオータムにはスコールが居るから、男を必要として無いのか

 

「それはまた置いといて、スコール達は?」

 

「奥の部屋で寝てる。遅くまで仕事してて眠いんだってよ」

 

「それはお疲れ様」

 

 と言う事は、オータムは別の事をやっていた訳か

 昨日共に仕事をした人はさぞ大変だったんだろう。スコールの事しか聞く耳を持た無いからな

 

「そういや飯食ったか?」

 

 何だ。藪から棒に

 

「ちゃんと必要な分のエネルギーは摂取しましたよ」

 

「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。朝飯は食ったのかって聞いてんだよ」

 

「はい? だから活動に必要なカロリーとビタミンは取りましたよ」

 

「…………栄養剤か?」

 

「いえ。サプリメントですが」

 

 急にオータムがため息を吐く

 

「あーなんでテメェはそう………。ちょっとそこで待ってろ」

 

 

 

 適当な椅子に指差し、オータムが別の部屋に行く

 

 手持ち無沙汰だったので学園から持って来た書類を広げた。仕事先で別の職場の仕事をやる

 我ながら社畜の鏡

 

 そんな下らない事を考えながら仕事を捌いていると、良い匂いが漂って来た

 

 大体15分程度だろうか。良い匂いの正体である料理を持ったオータムが戻って来た

 

「ほら食えよ」

 

 まだ湯気がたっている炒飯を差し出される

 

「いや、オータム。ちゃんと栄養を摂取したのでm「黙って食え」ふぼっ!」

 

 口にスプーンを突っ込まれる

 

 もぐもぐ………………ごっくん

 うん。美味しい

 

「オータム。先端が尖って無いとはいえ、金属を口に突っ込むのは危険ですよ」

 

「しょっぱなのセリフがそれかよ。普通美味いとかが先だろ。それに素直に食わないお前が悪い」

 

「それは既に済ませたからで」

 

「サプリをだろ。そんなもんばっかでちゃんとしたもの食わねえからテメェはモヤシなんだよ」

 

「いやs…………すみません」

 

「わかっならさっさと食っちまえ」

 

「では、今更ですがいただきます」

 

 もぐもぐ……もぐもぐ……

 

 

 

 がちゃん

 

「あら。いい匂いの正体はこれだったのね」

 

 奥の部屋で寝ていたスコールが現れた

 

「起きたのか」

 

「おふぁおうおはいはす」

 

「食いながらしゃべんな。汚えだろ」

 

「………………んっ。これはすみません。改めましておはようございます」

 

「ふふっ」

 

 急にスコールが笑う

 

「どうした。急に笑いやがって」

 

 ……もぐもぐ……もぐもぐ…………

 

「いやね。貴方たちまるで姉弟みたいだとって思って」

 

「はっ?どこがだよ」

 

 ……もぐもぐ……もぐもぐ…………

 

「さしずめぶっきらぼうながら出来の悪い弟を心配する姉だったわよ」

 

「誰がこんなモヤシ野郎心配しなきゃいけないんだよ」

 

 ……もぐもぐ……もぐもぐ…………

 

「テメェもいつまで食ってんだよ」

 

 ……もぐもぐ……もぐもぐ………ふぅ

 

「ごちそうさまでした……。で、モヤシ呼びはやめてくださいと言ってるでしょう。そしてスコール。私は普通よりかは秀でていると自負してます」

 

「そこかよ。他にもっと言うことがあんだろ」

 

 ………………

 

「特に無いですが」

 

「ないってお前……。ハァ……テメェに聞くだけムダだったな」

 

 なんだその溜息は

 

「一周まわってずれてるわよね」

 

 なんだその言い分は

 

 

 なんだこの空間は。なんだこの雰囲気は

 こんな所に居られるか!私は学園に戻るぞ!

 

 

「まぁ良いです。スコールが起きた事ですし、打ち合わせをしましょう」

 

「まだMが起きてないわよ」

 

「問題ありません。今回の議題はそんなものじゃありませんから」

 

 書類の束を3つ出す

 

「では始めましょう。ホテル買収とその改装についてですが……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなものでしょうか」

 

「なんかあっけねぇな」

 

「この程度の手間で手に入るなら良いでしょ」

 

 会議も恙無く終った

 

「重ねて言いますが、この計画は我々の資金源の調達と活動拠点確保を兼ねてますから失敗は出来ません」

 

「そうよ。こんな雑居ビルよりホテルの方がごはんも美味しいし良いことずくめよ」

 

 席を立つ

 

「あら。もう帰るの?」

 

「いえ、一度マドカに会ってきます」

 

「あら怖い。襲うつもりかしら」

 

「はい?味方を襲うわけ無いじゃありませんか」

 

 まだ裏切るつもりは無いし、裏切るにしてももっと上手くやる

 少なくとも各個撃破は基本だ

 

「だからそういう意味じゃねーよ」

 

「ホントにアナタってズレてるわね」

 

 なんだこの2人は。言ってる意味がわからん

 まぁ良い。マドカの所に行かせて貰おう

 

 

 

 

 

 コンコン……

 

「起きてるかマドカ」

 

 ………………………………………………『……………ンー…』

 

 寝ぼけてる様だがそろそろ時間だ

 悪いが部屋に入らせて貰おう

 

 ガチャン

 

 部屋を見渡す。置かれているソファーで毛布に包まって寝ているマドカを見つけた。

 成長に悪いからベッドで寝ろとあれ程言っているのに

 

「おい。起きろマドカ」

 

 ゆっさゆっさと体を揺らす

 

「…………ンーン……………………ンダ……」

 

 東北の人か

 

「そろそろ戻ら無いと更識が面倒だから起きろ」

 

 今度はぺちぺち頬を叩く

 

「………………………なんだよスコール……もうすこ……し……」

 

「おはようマドカ」

 

 私の顔を見るなり惚けるマドカに挨拶をする

 

「なっなぜここにいる!スコール!スコールはどうした」

 

「スコールならオータムと別の部屋に居る」

 

 なんだ?スコールに用でもあるのか

 

「………ウ−……………」

 

 何故か知らないが唸ってるがまぁ良いだろう

 

「ちゃんとベッドで寝ろt…うぉっ」

 

 何かが飛んで来た

 何だこれは………毛布か

 

「いきなりなんだ?」

 

「…………なんでもない。ちょっとイラついてるだけだ」

 

 なるほど

 寝不足か低血圧。はたまた月経かもしれない

 

「そうか。じゃあ手短に」

 

 片手で収まらない程度の箱を差し出す

 

「なんだこれは?」

 

「カメラだ」

 

 更識を撒くついでにヨド○シで買った

 

「戦闘なり潜入なり多くの場所に行くだろう。その時気が向いたら使え」

 

 前に「ラ・ビ・キャロット」と言うアニメを勧めたが、食い付きが悪かった

 そこでネットで勧められる趣味を検索した結果、出て来たのがカメラだった

 

 時間を確認する

 もう行かないとマズい

 

「本当に気が向いた時で良いから。私はもう行く」

 

 扉に歩を進める

 

「何かあれば私に連絡しろ。余程の事が無い限りすぐに向かう」

 

 

 そうマドカにそう言い残し、学園に戻った




すこーる「結局どうなの」('・ω・')

おーたむ「どうってなにがだよ」(・・?

すこーる「シグルドのことよ。随分目にかけてるじゃない」( ̄ー ̄)ニヤリ

おーたむ「あんなモヤシ野郎どうも思ってねぇよ」
(# ゚Д゚)

すこーる(どうにかしてシグルドとオータムをくっつけられないかしら?)(一_一)


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第7話 下準備

今回は2000字と少ない
しかしクリスマスに閑話を出す為には必要だったんだ

そして思う
プロローグと比べて石見のキャラブレが酷いなと
見切り発車の処女作だからしゃーなし


 転校生の鳳が千冬さんに頭を叩かれたり

 

 一夏達が放課後の練習でアリーナの壁に損傷を与え、それの復旧作業に負われたり

 

 一夏の部屋の扉が壊れたから修理したり

 

 クラス対抗戦の為にアリーナの整備したり

 

 更識の次女が整備室のIS整備用の端末を毎日のように独占してたり

 

 その姉が毎日のように妹にストーカー紛いの事を繰り広げていたり

 

 

 IS学園は今日も平和で仕事が多い

 ほいほい仕事を受け入れる社畜の鏡

 

 そんな冗談は置いといて

 いや、社畜さながらの仕事をしていたのは事実だが

 

 遂に明日はクラス対抗戦

 クラス代表が優勝すれば半年間スイーツ無料券だか半額券だかが配られる為、クラス総出で盛り上がる最初の催し

 裏ではどのクラスが優勝するかの賭け事が行われたりする(ついでに1番人気は2組。次点で1組)

 

 しかし、ここで問題が発生するのだ

 

 

 所属不明なISの介入

 

 

 前は頭に血が昇って冷静な判断が出来無かったが、唐突にISが出現するのはおかしい

 仮にもISに関して1番技術がある学園に単騎で現れ、更に学園の防衛システムをハッキング出来る人間だって限られている

 

 疑いたくは無かった

 

 誰よりもISを愛し、宇宙に夢を馳せている人がISを武力行使に使うわけ無いと信じていた

 

 だから前は亡国企業とか男性適合者目当ての組織の仕業だと思っていた

 だが学園に勤めてから数年

 学園のセキュリティシステムは私の想像以上に高く、学園祭の様な不特定多数の人間が出入りする状況では無い限り難しい

 

 

 確かめ無いと

 

 

 ぷるぷる……ぷるぷる…………がちゃ

 

『この電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめください』

 

 つー。つー。つー…………

 

 

 問題は無い

 スマホを片手にそのまま待機する

 

 ……………………………………………………………………………

 ……………………………………………………………………………

 ……………………………………………………………………………

 

 スマホ《ホーリーベイベッ!ノ-リノリベイビッ!》

 

 ぴっ

 

『もすもす~?ひねもす?』

 

「お久しぶりです。篠ノ之博士」

 

 私が電話を掛けた相手。ISの製作者である篠ノ之 束博士(学士号不所持)が出た

 

『なんだキミか。発信元がそこ(IS学園)だったから箒ちゃんかちーちゃんかと思ったよ』

 

 落胆される

 でもしょうが無い。今の私なんて千冬さんと箒以下なのはわかっている

 それでも傷付くものはあるけど

 

『まぁキミでもいいや。最近どーなの?ちーちゃんは元気?箒ちゃんといっくんは上手くいってる?』

 

「3人とも相違ありませんよ。特に病気に罹る事も無く、健康そのものです」

 

『そっかそっか。それはよかったよ。んー?でもなー?箒ちゃんといっくんにあんまり進展はないかぁ』

 

 声のトーンが変わる

 

『まだ少ししか経ってないし、むしろ数週間であの頃の関係に戻れたことを喜ぶべきかな?でも……』

 

 思考の海に航海しに行ってしまった

 あまり邪魔をしたくないが、先に明日の事を訊かなければ

 

「博士。篠ノ之博士。話しを戻しますよ」

 

『なに?こっちは今次にどうするか考えてんの。邪魔しないで』

 

冷淡な声が返ってくる

 …………胸が痛い

 

「すみません。けど、明日の事で訊きたい事があるんです」

 

『……………………………………………』

 

 黙った。これは合ってる?

 

「明日学園に横槍を入れるつもりはありますか?」

 

『……さぁ知らない。たとえ知ってたとしてもキミに教える義理もないし』

 

 ……………………………………

 

『じゃあそういうことだk「待って!」……なんだよ』

 

 思わず叫んでしまった

 

 駄目だ。冷静になれ

 こういう人なのはわかってるだろう

 こういう対応をされる事はわかっていただろ

 

「……明日学園に所属不明のISの強襲があります。これは確定です」

 

 煙草を取り出し、火を点ける

 

「もし仮にそのISが博士のだったら何かしらの理由があるんでしょう。余程の事が無い限り傍観に徹します」

 

「しかし送り込んだのが博士以外の組織だった場合、私の全力を持って排除します。学園の敷地に侵入する前に撃ち落とします」

 

「だから教えてください。博士の邪魔をしたくありませんし、博士も無駄な事は避けたいでしょ?」

 

 ……………………………………………………

 

『……………………………………………………』

 

 返事を。応えて欲しい

 手を煩わせたく無いし、対立したく無い

 

 ……………………………………………………

 

『………………うん。そうだよ。明日いっくんが戦ってるときに送り込むつもり』

 

 あぁ。やっぱりか

 

「わかりました。では明日は手出しはしません」

 

『そう。じゃあもういい?』

 

「最後に1つだけ。送り込むのはあの娘ですか」

 

 あの娘‐博士が唯一行動を共にする娘‐か訊く

 

『あの娘ってくーちゃんのこと?へー、なんだ。ISのことまでは知らないんだ』

 

 何?どういう事だ

 

「あの娘以外にも増えたんですか」

 

『さぁどうだろうね。そこまでキミに教える必要なんてないし』

 

 少し引っかかるものがあるが、明日の事を訊き出せただけマシか

 

「わかりました。では、お手数をお掛けして申し訳無いありませんでした」

 

『はいはい。精々邪魔しないでね』

 

 ぷつん

 つー。つー。つー……

 

 

 さて。これはどうしよう

 介入が起きたら確実に私の方にも連絡が来るだろうし

 

 

 煙草を吸い、明日どう立ち回るかを考えた



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閑話 別にキリストじゃ無いし(金豚風)

タイトルのネタがわかる人は多分いないだろう

もうそろそろクリスマスも終わるけどギリセーフ
タイトル通り題材はクリスマス

本当は25日の0時にあげようと思ってたけど無理だった
これも全部ゴッドイーター3が悪い



 −−今からデートに行きませんか?

 

 

 些細な出来心だった

 

 年末の異様に増える仕事

 ISの研究が進ま無い事に関する苛立ち

 無能共の地味な茶々入れ

 

 その他諸々が積み重なったせいだろう

 クリスマスなのにとぶつぶつ言っていた千冬さんに突拍子も無く言ってしまった

 

 柄にも無い事を言った自覚はある

 普段は同僚との関わり合いを避けているし、仕事をほっぽり出した事も無いからな

 私の台詞に呆けた千冬さんを見れば一目瞭然だった

 

 だから私も冗談だと言おうとした

 したのだが、私が言葉を発する前に

 

 −−よし、行くぞ。2人同時だと怪しまれるから先に行って車を出せ

 

 そう言われてしまった

 

 

 任さている仕事を放置して外に出るのは忍び無いが、終わらせなかったところで明日からの業務に支障が出る程では無いので割り切る

 

 

 自室に荷物を取りに行くふりをして学園内の駐車場に向かう

 

 1年前に学園の近くにある車屋で

『1番良いのを頼む』と言って買ったこの車

 外装はそのままだがシステムなどは色々と弄った

 具体的に言うとガソリンを使わず、ISコアを繋げる事によりSE−−シールド・エネルギー−−で走行可能とした

 ISコアの無駄使いだと言われそうだが、元々テロリストから巻き上げたものだし、製作者には許可を貰っている

 

 車に乗り込み暖房を点け、座席に体を沈ませる

 1番良い車を買っただけあって座席は柔らかく、居心地が良い

 学園をクビになって寮から放り出されても車に住めば良いと思わせる程快適なものだから困ったものだ

 

 こんこん。がちゃ

 

「すまん遅れた」

 

 そんな下らない事を考えていた間に千冬さんが

 

「別に待ってませんよ。で、何処に行きます?」

 

「お前が誘ったんだからお前が決めろ」

 

 これは困る返答が来た

 女性と2人っきりで出掛けた事なんて、指で数えられる程しか無い

 ネットで検索したいところだが、隣に千冬さんが居るのでそんな格好悪い事は出来無い

 

 さて、どうするか

 早く出発しないと周りにサボる事がバレる

 頑張れ私。最適な解を導き出せ!

 

 ……………………………………………………………

 

[壁]д者)Ξスッ

 

(´作ノ∀者`)「みなとみらい」ボソ

 

[壁])≡サッ!!

 

 

 みなと……みらい……………?

 

 みなとみらい……みなとみらいか

 確かにデートスポットとして有名だし、今ならイルミネーションが施されていて綺麗だろう

 そしてそこまで遠くは無い

 

 アドバイスありがとうございま……す……?

 んっ?誰だ今の人は?

 …………………………………………………

 

 まぁ良い。いや、良く無いが

 しかしあの人の沙汰より学園から離れる事の方が優先だ

 

「シートベルトはしましたか?では出発します」

 

 

 千冬さんに確認を取り、唯一通っている物流用の道路を使う

 

 おそらくは更識の包囲網に引っ掛かったが千冬さんも居るし、面倒な事にはなら無いだろう

 

 市街地を通り抜け高速に入った

 

 

「それはそうと、どうしたんだ急に?お前が仕事をサボるなんて初めてじゃないか」

 

「まぁあれです。流石にこうも仕事が多いと私も辛いんですよ。でも明日に響かない程度には終わらせましたよ」

 

「ハハッ。そういうところは抜け目がないな」

 

「雇われてるからには最低限はやりますよ」

 

 私を雇う事で不利益が生じてるだろう

 本当に轡木夫妻には感謝しても仕切れない

 

「千冬さんはどうですか。最近」

 

「最近か……ふむ…………」

 

 しまった。会話の墓場だ

 もっと気の利いた事も言えないのか私は

 

「いえ、すみません今の無しで。そうですね。例えば…………うーん………」

 

 気の利いた事が思いつかない

 駄目だ。会話のボキャ貧

 こんな事ならコミュ力系統の論文でも読んでおけば良かった

 

 助手席の千冬さんが視野に入る

 何故か笑っていた

 

「何か私変な事言いました?」

 

「いや。変なことは言ってない。ただまぁ……」

 

 くつくつと笑う

 

「なんでも卒がなくこなすお前にも苦手なものがあると思うとな」

 

 むしろ逆なんだけど

 

「私なんて苦手なものばかりです」

 

「お前が言うと嫌味か皮肉に訊こえるな」

 

 そんな事は無いだろう

 現に今の体力や腕力なんて成人女性の平均以下だ

 

「私としては織斑先生の方が秀でてると思うんですけどね」

 

 私より後に学園に就いたのに出世している

 

「ブリュンヒルデと呼ばれて慕われていますし」

 

「………………………………………………」

 

 どうしたんだ。眉間に皺を寄せて

 何か拙い事を言ったか?

 

「……その呼び名はやめろ」

 

「何故ですか。格好良いのに」

 

「それはだな。呪われてた名前なんだ……ッ!」

 

 車内に千冬さんの切実なる声が轟く

 

「私がブリュンヒルデと知るだけで普通の男は逃げていく。近寄って来たとしても、それはブリュンヒルデという肩書き目当てのやつらだけだ」

 

 これには流石の私も苦笑

 肩書き程度で魅力がわから無い

 なんて盲目な奴が多いのだろうか ( ´Д`)=3

 

「お前はどうなんだ」

 

「何かです?」

 

「浮いた話しを訊かないが、付き合ってたりするのか」

 

 付き合う……付き合うかぁ

 

「生まれてこの方、特定の女性と親身に成った覚えは無いですね」

 

 私の台詞にほぅと声が漏れる

 

「そもそも付き合うまでに至る程の関係を築いた事も、それ以前に友人すら居なかったと思います」

 

 多分そんな人が居れば微かにでも記憶の断片に残るはず

 

「反抗期と言いますか。誰とも関わり合いを持た無い程に荒れてましたからね」

 

「想像できんな」

 

「織斑先生の弟さんはどうなんです」

 

「一夏か……。特にないな」

 

 へぇ。それは良い事だ

 反抗期なんて拗れの素だからな

 

「どんな風だったんだ」

 

「どんな風とは?」

 

「反抗期だ。お前の荒れてる姿に興味がある」

 

 勘弁して欲しい

 

「……そうですね。まず口調が違いますね」

 

「例えば?」

 

「……例えば……。一人称が俺だったり」

 

「そうだな。試しにその頃の口調で喋ってみろ」

 

 いや、本当に勘弁していただきたい

 でも言われたからにはやらないと

 

「……んっ……んんっ……あー……………」

 

 ………………………………………

 

「これでどうですかね。織斑先生」

 

「なにも変わってない」

 

 ですよね

 

「荒れてても目上の人には敬語でしたから」

 

「じゃあ敬語をやめろ」

 

「……流石にそれは」

 

「目上と言ってもお前の方が先に学園に入っただろう」

 

「いや、でも、年上にタメ口と言うのは」

 

「学生じゃあるまいし年の差なんて関係ない」

 

 どんだけ私の反抗期の頃の口調に興味があるんだ

 

「……こっ…これで良いです…良いのか」

 

 ……………………………………………

 

「なんか思ったのと違う」

 

 言わせといて感想がそれですか

 

「あまり生徒と喋ってるときと変わらんな」

 

「確かにそうですね」

 

 車内に沈黙が訪れる

 

「織斑先生はどn「それだ」…どうしました?」

 

「呼び方だ」

 

 呼び方?何かおかしいところがあるのだろうか

 

「私のことは千冬でいい」

 

 ……………………………………………………

 

「いや、それは何と言うか」

 

「遠慮はいらんぞ」

 

「別に遠慮をしているわけでは…………」

 

「……私を名前で呼びたくないのか」

 

 千冬さんは少し不満げな顔をす

 

 呼びたいか、呼びたく無いかと問われれば勿論呼びたい

 と言うより、心の中では千冬さんと呼んでいるし

 しかし、口に出すとなると話しは別だ

 

「私の立ち位置が複雑なんですよ」

 

「……………………………………………」

 

「簡単に言えば私は現状において唯一の男性のIS適合者です。万が一に備え、身軽な方が良いんですよ」

 

 下手に親身に成れば相手を危険に晒す事に成る

 それを防ぐ為に表はIS学園は整備科、裏では亡国企業に籍を置いているんだが

 しかし、それでも一部の無能共が強攻策を仕掛けてくる可能性がある

 それなら極力人間関係を持た無い良い

 

 外は暗かった高速道路とは打って変わり、イルミネーションが施された淡い青色に包まれている

 この辺で良いだろう

 

「ここで降りて周りましょう」

 

 手頃なパーキングエリアに車を停める

 

 

 イルミネーションが施された華やかな道では無く、その風景が見える人気が無い少し外れた道を2人きりで歩く

 最後の会話からここまでやり取りは無い

 

 

「おい」

 

「どうしました?」

 

 車から降りて10分経っただろう

 唐突に千冬さんが話し掛けて来た

 

「私のことは名前で呼べ」

 

「それは出来無いと先程言いましたよね」

 

「あぁ。理由は聞いた」

 

 それなら何故

 

「だがな。それはお前の事情で私の知ったことではない」

 

 何を言っているんだ

 これは千冬さんの不易に繋がる事なのに

 

「どうせお前のことだ、相手を巻き込まないよう気遣ってるのだろう。だからこそ言うぞ。下手な気遣いをするな」

 

 下手な気遣いって

 不易な事は誰だって嫌だろう

 

「私が言ってることがわからないか」

 

「……そうですね」

 

「つまりだ。遠慮をするなってことだ」

 

 千冬さんが私との距離を詰める

 

「私を誰だと思っている。ブリュンヒルデだぞ?お前の言う不利益も私にしてみれば些細なことだ。だから石見……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠慮なんてするな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心が鷲掴みにされる

 

 全身が満たされる

 

 指先にまで暖かさが広がる

 

 何でこんな事が言えるんだ

 

 私は……僕は正体不明の男だ

 

 職場が同じと言うだけで、何故こんなに優しく出来るんだ

 

 

 優しさに甘えてしまう

 

 

 今日だけは……

 

 せめて今日だけは千冬さんの甘美な暖かさに溺れてしまいたくなる

 

 僕にそんな資格など無いのに……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言った

 

 言ってしまった

 

 名前を呼んでしまった

 

 

 ジレンマを……。 二律背反を感じる

 

 

 溺れたい本能と、甘さを許さない理性がせめぎ合う

 

 

 甘さを捨てた筈だろう

 

 何も欲しがら無いと決めただろう

 

 事を成すまでは道を歩み続けると銘打っただろう

 

 

 煙草を取り出し深く吸う

 

 

 だから■■■を捨て石見と名乗っている

 

 僕じゃないだろ

 

 私だ

 

 石見だ

 

 

 携帯灰皿に煙草を捨て千冬さんを見据える

 

「ありがとうございます。何か困ったら遠慮無く頼らせていただきます」

 

 そう言い千冬さんとは逆。車の方に踵を返す

 

「冷え込んで来ましたから車に戻りましょう」

 

 

 私は千冬さんから逃げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなつもりはなかった

 

 ただ石見が背負ってるものを軽くしようと思っただけだった

 

 なのに追い詰めてしまった

 

 まるで親を見失った幼子の泣き顔だった

 

「私じゃだめなのか」

 

 私の声は先を行く石見に聞こえるはずもなく

 風に溶けて流れていった




こんな物語に感想をくれてありがとうございます

それでは短いながら良いクリスマスを


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IF話 趣旨をかえてみました

 

(*作_者*)ノ やぁ

 皆さん明けましておめでとうございます

 作者です

 

 今回はタイトル通り趣旨を変えてみようと思いました

 

 これは僕が好きなハーメルンの作者である妙義さんのリスペクトというか、オマージュというか、パクリというか

 つまりは参考にしてもらってます

 

 そしていつも感想をくれるALPHA-117さんありがとうございます

 幸せになって欲しいとご所望だったので書いてみました

 

 閑話ならぬIF話

 起こるかもしれない。これからの

 起こったかもしれない。幸せな終末

 

 つまりは可能性の物語

 

 私にとっては過去の話だが

 君たちにとっては多分、未来の出来事だ

 

 

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ✕

 

 

 

 

 

 

 

 とある部屋で1人の男が仕事を黙々とこなしていた

 

 彼の名は■■■。ぶっちゃけ石見のことだが、いろいろと含みを持たせたい為に伏せ字にしてみました

 以後は面倒なので僕は普通に石見と呼びます

 

 で、石見が忙しなく手を動かしてると、後ろなら石見と対象的な骨格ががっしりとした推定40代後半の男が現れた

 

 彼の名は足尾 隆政

 石見の職場の上司で、部署では1番偉い地位を任されている

 イメージは天空の城○ピュタに出てくる親方

 またはAngel ○eats!のチャー

 とにかくガテン系のおっさんを想像してくれれば良か

 名前の由来は石見だから足尾。鉱山つながり

 

 足尾には2人の子供がいて

 そのうち下の息子が15歳になるのだが、上手くコミュニケーションが取れないことを気に悩んでいる

 ついでにその息子と石見が似ている為、ついつい石見にお節介を焼いてしまう

 

「おー■■■。食堂にいねぇと思ってたらまだやってたのか」

 

 一瞬だけ石見がモニターから視界から外す

 

「お疲れ様です足尾さん。はい。キリが良いところまでやろうと思ってたんですけど、想像以上に掛かってしまって」

 

「あ〜?ちょっと見せてみろよ」

 

 足尾は石見のモニターを後ろから覗き込む

 そしてうぅーだの、はぁだの一頻り相槌をうつと大きくため息をついた

 そして石見の首根っこを掴み、無理矢理モニターから引っ剥がす

 

「ちょっ!何するんですか」

 

 足尾の行動に抗議の声をあげる石見

 

「なにがキリがいいところまでだ。あと1時間はかかんじゃねぇかよ」

 

「俺なら30分で終わらせてみせます」

 

「30分はかかんじゃねえかバカ野郎。もういいから飯に行くぞ」

 

 上司命令だと一言付け足し、石見が逃げないよう肩を組みながら食堂に向かう

 そして食堂に着くと適当な席に座らせ、待ってろと一言残して券売機の方に向かった

 

 1人席に残される石見

 手持ち無沙汰だったので無理矢理打ち切られた仕事の道筋を考える

 石見の社畜精神に揺るぎはない

 その社畜精神のせいで頼まれた事はほぼ断らない

 

 設定で便利屋の異名を持たせようと思ってたけど

 周りの女子率が高いおかげで相対的に高く見える身長、白い髪、便利屋の異名

 どこぞのエミヤかと思って没にしました

 アンリミテッド・ブレードワークスならぬインフィニット・ストラトスとか詠唱して固有結界展開しそう

 

 そんな裏話は置いといて話を進めよう

 

 まだ湯気が出てる料理が乗ったピンク色のお盆を持って足尾が戻ってくる

 石見も思考を現実へと戻した

 

「すみません任せてしまって。いくらですか?」

 

 胸ポケットから財布を取り出そうする

 しかし、それを足尾が遮る

 

「金はいらねぇ。奢りだ」

 

 足尾の太っ腹な発言にいや、しかしと石見が否定的な声を出す

 

「あれだ。奢る代わりに相談にのってくれや」

 

「相談?また息子さんの事ですか」

 

「そうなんだよ。とりあえず食いながら聞いてくれ」

 

 石見は料理−ハンバーグ定食を受け取り、もぐもぐし始める

 もぐもぐしている石見の正面の席で足尾は息子への不安、期待、迷い。さまざまなことを愚痴のように話す

 しかしそこには愛情もしっかり含められている

 

 石見のもぐもぐも終盤に差し掛かる

 

「あーなんだっけな。勇吾(息子の名前)が観てるアニメ。うさぎがなんとか言ってたな」

 

「『ご馳走はうさぎですか?』ですか?」

 

「たぶんそれだそれ。知ってんのか」

 

「はい。一応観てますが」

 

 お前もそういうの観るのかと感想をもらす

 それに対してBGM代わりですよと返答する

 

「なんかよ、それを居間で観てたもんだからいろいろと質問したわけよ。そしたら話の途中で部屋に引きこもっちまって」

 

 なにが悪かったんだかと首をかしげる

 

「具体的にはどの様に質問したんですか」

 

「あー?そうだな……。なんでそんなん観てるのかとか、観てて楽しいのかとか……」

 

 足尾の台詞に対して石見が苦笑する

 

「足尾さんの言い方だと責めてる様に訊こえるんですよ」

 

「は?べつに普通だろ」

 

「それですよ。台詞の1つ1つが力強いですから、妙に威圧感を与えるんです」

 

 うーんと顎のヒゲを撫でる

 その偉丈夫も威圧する要因となっているが、本人に自覚はない

 

「勇吾ももう15だぞ。彼女をつくれとは言わんが、浮いた話の1つや2つは出てきて欲しいもんだ」

 

「15ってまだ中学生でしょう。中高一貫校で受験勉強が必要ないから時間があるでしょうけど、彼女はまだ早いですよ」

 

「智佳(足尾の上の娘)はもういたぞ」

 

「それは現代的ですね」

 

 

 雑誌で初キスが平均10歳とか書かれるなか、僕はそれに恐怖を覚える

 

 いや、マジで

 

 なにが初体験が15歳だよ。イカれてるぜ

 こちとら男子校に通ってて女の子との出会いすらなかったのに(血涙)

 だから恋愛要素を入れると途端にタイピングの速度が遅くなる

 是非もないよネ!

 だって想像出来ないんだもの

 

 

「しかし、彼女をつくれなんて強要するのは駄目ですよ」

 

「なんでだよ」

 

「少し飛躍しますが、今の時代結婚は絶対的なものじゃありません。平均結婚年齢だって上がってますし、独身貴族なんて言葉もあるぐらいですから」

 

 石見の台詞に足尾はため息をつく

 

「たしかに今はそんな時代なんだろう」

 

 しかしと力強く否定する

 

「結婚……。つうか恋ってのはいいもんだぜ?そりゃつらい時もある。だが、それが気になんないぐらい楽しい」

 

 石見に指をさす

 

「彼女はいんのか」

 

「いえ、居た事すらありません」

 

 ならつくるべきだと腕を組む

 

「お前のようなヤツには絶対に必要だ」

 

「何故です」

 

「単純に帰る場所だな。どこかに居場所をつくっとかないとな。お前はくたばっちまうタイプだからよ」

 

 腕を組んだまま人さし指をさし、最後になと付け足す

 

「詩的な言い方だが、人生を彩るんだよ」

 

 2人の間に無言の間がうまれる

 しかし足尾は恥ずかしくなったのか早く食えと急かし、場を誤魔化す

 

 

 その後も通常どおり業務は進んだ

 

 

 ※ 結婚の件はあくまでも足尾の感想であり

  作者の思想とは一切関係ありません

 

 

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ✕

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだ?急に呼び出して」

 

 場面は変わり、居酒屋の個室

 言葉を発するのはみんな大好き千冬さんだ

 

 ハーメルンの千冬、束人気ヤバくない?

 千冬ヒロインのタグを付けると、異常にお気に入り数が上がる気がする

 僕は付けませんけど

 

 オリ主がまだ中学生程度の織斑姉弟を拾い、育てていくほのぼの系とか

 男性でも使えるISのような兵器を生み出したことで女性権利団体に殺されるが、束によって助けられてそのまま逃亡ライフを謳歌するギャグ系とか

 

 と、いうことでね

 是非みんなも千冬ヒロインや束ヒロインの作品を書こう!

 上の設定使っても良いから

 むしろ書いて欲しい(切実な願望)

 同人誌でも可

 できればエr■■■■■(不自然に塗りつぶされ、読めなくなっている)

 

 

「話に入る前に注文を済ませませんか」

 

 石見の意見で先にいくつか料理を注文する

 そして料理が部屋に運ばれてから話を切り出す

 

「最近会って無い気がしたので食事でもと連絡を取った次第です」

 

「それでこの店か」

 

「はい。個室もありますし、酒の種類も多いので千冬さんも気に入るかと」

 

 言葉を交わす

 最近の出来ごとなど、ありふれた些細な話題を。明日になれば忘れてしまうような平凡な内容だが、それでも笑い合える幸せな時間だ

 

 料理も片付けられ、机上は酒だけとなる

 唇を濡らす程度に酒を呑む石見を見て、千冬はしみじみと感想をこぼす

 

「■■■も酒を飲むようになったのか」

 

「付き合い程度ですよ。それにビールは苦くて呑めませんし、カシスとか甘いのだけですよ」

 

「相変わらず子供舌だな」

 

「変わりませんよ、俺は。ずっと」

 

 沈黙が降りる

 石見がなにか深く思考に沈んだ、その雰囲気を察して千冬は黙って酒を進める

 

 5分も経っていないだろう

 威を決したように石見が居住まいを正す

 

「実は今日ですね。上司の足尾さんと話したんですよ」

 

 石見は語る

 昼休憩の一時のやり取りを

 本質を悟られないように

 

「それで言われたんですよ。俺みたいな人間は居場所が必要だって」

 

「なんとなくだがわかる。なんでも卒がなくこなすくせに、いざと言うところで不器用だからな」

 

 千冬さんも同じ意見ですかと頬を掻く

 

「それでついさっきまで考えてたんですよ。千冬さんと話してたら答えが導き出せました」

 

「力になれたならよかった」

 

「千冬さんには昔から助けて貰ってばかりで、本当にすみません」

 

「いや構わん。こっちも好きで付き合ってるからな」

 

「それは良かった。それで俺と結婚してくれませんか?」

 

 さり気なく人生を左右する選択をぶっ込む石見

 それに対して千冬は

 

「あぁ、構わん」

 

 いつも通りに淡白に応える

 

 

 結婚を申し込まれて慌てふためく可愛いちっふーを期待していた方、申し訳ないね

 そんなちっふーを描写する力など僕には無い

 それに親しい仲ならこんな感じて間髪入れずに受け入れるタイプの人間だと思ってるんだ

 

 

 そうですか。それは良かったと石見は片手で顔を覆いながら下を向く

 間もなくしてから鼻をすする音が部屋に流れる

 

「どうした■■■」

 

 大きく喉を鳴らし、千冬の方を向き直す

 

「いえ、なんか気が抜けたら……色々と…………」 

 

 再度顔を覆い隠す

 千冬は向かいの席から立ち上がり、ゆっくりと石見の横に座る

 そしてなにも言わず、空いている手を握りしめた

 

「千冬さんの手。暖かいですね」

 

 1言

 それだけを洩らし、また沈黙に包まれる

 しかしそれは気まずさを含めない。むしろ暖かさを感じさせる良い雰囲気だ

 

 

 すん……すん……すん……

 ……………すぅー…………すぅー…………

 

 

 ?

 

 鼻をすする音ではなく、寝息が訊こえる

 千冬は疑問を抱き、石見の顔を掴み手をどける

 そしたらなんと言うことだろうか

 安心仕切った顔で石見が寝ていた

 

「こいつは…………。はぁ……」

 

 ため息1つ

 緊張のせいで疲れたんだろうと判断する

 

「しょうがないヤツだな。まったく」

 

 台詞とは裏腹に慈しむような顔になる

 そしてひっそりとキスをする

 

「ふふっ。寝たことを後悔するんだな」

 

 ファーストキスの味は甘いオレンジだった

 

 

 

 

 

 

 

○ △ □ ✕

 

 

 

 

 

 

 

 あの後石見を担いで千冬の家まで来た

 かのブリュンヒルデならモヤシ系男性なんてトレーニング感覚で運べるだろって話し

 だってIS用のブレード持てるんだもの

 あっ。話しはもう少しだけ続きます

 

 

「じゃあ婚姻届けを出しに行くぞ」

 

 石見が起きて早々そんな爆弾を落とす

 

「はっ?」

 

 見知らぬ部屋で起きて混乱している時にこの台詞を言われて更に混乱する石見

 えっ?あれっ?といつのも知的な部分が削ぎ落ちている

 しかし千冬の顔を見るなり落ち着きを取り戻し、とりあえずおはようございますと挨拶をする

 

「いえ、結婚を申し込んだ身で言うのも何ですが。結婚の前にお互いを知る期間と言うか、お付き合いが必要では」

 

「今さらそんなもの必要ないだろう」

 

 一刀両断

 

「……今日は普通に平日なんでお互いに仕事が」

 

「休む。お前も休め」

 

 一刀両断

 そこに痺れる、憧れるぅー!

 

「………………………………………………」

 

 これには流石の石見もにっこり(;^ω^)

 

 起きたてだから場を覆すほど頭がまわっていないのが敗因となる

 いや、頭がまわっていないと言うか

 目が覚めて最初に視界に入ったのが千冬だったから、気が緩みすぎているだけだ

 

 観念したのか足尾さん起きてるかなと小さく口にして、それ以降の否定はやめた

 

 改めて昨日と同じ格好の自分を見て記憶をたどる

 そして言わなければならない台詞を思いだす

 

「俺……。いや」

 

 背筋を伸ばし、千冬の手を握りしめる

 

「こんな僕ですが。どうかよろしくお願いします」

 

「あぁ。よろしく」

 

 

 お互い笑い合った

 




(*作_者*)
楽しんでいただけただろうか?

上の物語はあくまでもIFです
可能性なので本篇でこのエンドはあり得ません

石見と千冬がくっ付くとしても
他の方法でくっ付きます

最後に

改めまして明けましておめでとうございます
明日から仕事はじめの方は頑張ってください

( 作Д者)ノ~バイバイ


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閑話 徒然会話

絶賛本編制作中!
しかし難航中

今書いてる本編は今後の展開に強く影響するから妥協が出来ない
なのでしばらく待ってください

代わりに急ごしらえながら閑話どうぞ


「暇だな」

 

「暇ですね」

 

「こんなに暇なのはいつぶりだ?」

 

「私の記憶の限りだと、先月の中旬ぐらいじゃ無いですか」

 

「よく覚えてるなそんなこと」

 

「メモ程度ですが、日頃から日記を書いてますからね」

 

「ほう。お前にそんな趣味があったのか」

 

「本当にメモ程度ですよ。書いてるのもこの手帳ですし」

 

「どれ。ちょっと見せてみろ」

 

「……それは」

 

「なにかやましいことでも書いてあるのか」

 

「いえ、別に」

 

「だったらいいだろ」

 

「うーん。まぁ良いですけど読づらいと思いますよ。くずし字で書いてますし」

 

「いいから」

 

「どうぞ」

 

「…………………………………」

 

「どうです。普通でしょ」

 

「……読みづらいというより読めん」

 

「そうですか」

 

「他人が読みやすい字で書けと習わなかったのか」

 

「よく言いますよね。私は無いですけど」

 

「友だちとかにもか」

 

「そもそも友人がいませんでした」

 

「そうか」

 

「そうです」

 

「……………………………」

 

「……………………………」

 

「この前人間ドックがあっただろう」

 

「ありましたね」

 

「それで酒の飲みすぎだと言われてしまってな。しばらく控えることにしたんだ」

 

「それは良いですね」

 

「お前はどうだったんだ」

 

「私は特には」

 

「タバコになにも言われなかったのか」

 

「と言うより受けてませんからね」

 

「はっ?なぜだ」

 

「あれって採血とかするじゃないですか」

 

「するな」

 

「絶対結果が政府に送られますし、それにあまり好きじゃ無いんですよ注射が」

 

「前半はしょうがないにしても後半はまるでガキだな」

 

「逆に注射が好きな人は居るんですか」

 

「少数だろうがいるだろう」

 

「私には理解出来無いですね」

 

「好みは人それぞれってことだ」

 

「そうですね……。あぁそうだ」

 

「なにかあったのか?」

 

「いえ、ちょっとした事なんですがね。この前バレンタインだったじゃないですか」

 

「そうだな」

 

「それで近くのショッピングモールのカフェで当日限定のフェアがやっていたんで行ったんですよ」

 

「14日って仕事はどうした」

 

「ちゃんとカフェ行きたいって言って半休を貰いました」

 

「そんな理由でよくもらえたな」

 

「20連勤してましたからね。結構すんなり貰えました」

 

「そんなに忙しかったか?」

 

「いえ、暇つぶしで働いてただけです」

 

「暇つぶし……」

 

「話しを戻しますが。フェアの内容がチョコフォンデュでして」

 

「相変わらずチョコが好きだな」

 

「えぇ。しかしそれってカップル限定だったんですよ」

 

「ということは誰かと行ったのか」

 

「いえ。1人でした。なので諦めて代わりにまた別に限定でやってたパフェを食べたんですよ。些細な事でも事前に情報を集める。良い教訓になりましたよ」




気分転換にチラ裏の方で
新しく書き始めました

そっちは本当に気分転換のやつで
いつ打ち切るかわからない


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第8話 恋の蟲

やっと本編8話が完成した

正直苦しかった
文才が無いくせに理想が高いから満足するものをつくるのに時間がかかる
満足してないけど

とりあえず本編ドゾー
^^) つ旦



『では整備の方に向かいますね』

 

 クラス対抗戦が始まって早々そう言って抜け出した

 こう言う時に整備員と教職の2足のわらじが役に立つ

 日頃の勤勉さ故に更識も学園内での私の行動にはあまり監視してこない

 この一件で信頼さが地に落ちるだろう

 しかし、篠ノ之博士に関わら無いと約束してしまってからには、そちらの方が圧倒的に大切だ

 

 いや、本当に。マジで

 タバネ様ー。万っ歳ぁぁぁぁぁーーーーい!する程大事

 

 だから今私の端末にかかって来てる千冬さんからの電話なんて些細な事だ

 

 うん。些細な事。小事小事

 

 あっ下手い。胃が痛く成って来た……

 

 

 いや、気にするな。これも代償だ

 私の勝手な約束のせいで生徒達は恐怖を、職員達には焦りを与えているんだから

 

 電話の内容は私が何処に居るのかと、今学園中に掛かっているロックを解除しろと言うものだろう

 たとえ私が千冬さんの所に居て、レベル4のセキュリティロックを外せるかと問われれば難しい

 まだ試してい無いが、機材が不完全な状況下だが判る

 たとえ整備室で万全な状態で挑んだところで、見積もって10分程度は掛かるだろう

 

 もし事態を早急に打破するとしたら

 可能性として、千冬さんにIS用のブレードを渡して扉を壊して回ってもらうと言うのもありだな

 しかし流石の千冬さんでも対IS用に設置されている扉を壊せはし無いだろう

 多分。きっと。おそらく。Maybe……

 

 壊せ無いよね?

 

 そこまで千冬さんも人間離れして無い事を信じよう

 

 

 

 私が陣取っている場所は中継室

 ISが乱入して来たタイミングで、既に中に居た人達には早急に避難していただいた

 ここに陣取ったのはアリーナの戦闘が良く見えるし、万が一観覧席の生徒達に被害が及ぼしそうならば、少々強引な手段を取って守れる

 

 ある意味VIP待遇で事の成り行きを傍観する

 

 ピー

 

 傍らに置いているパソコンから音が鳴る

 視線を観覧席と通路を繋ぐ扉が全て開いていて、生徒達が一斉に我先に逃げ出していた

 

 想定していたよりも早い

 更識か職員かは知らないが、思っていた以上にロックを解除するのが早かった

 

 しかし一夏達の戦闘を邪魔させる訳にはいけ無い

 急いで介入され無い様にアリーナへと続く扉をロックし直す

 

 カタカタ……カタカタカタカタ…………

 よし。これで暫くは邪魔が入r

 

 

『一夏ァ!男ならその程度の敵に勝てなくてどうする!』

 

 

 ……………………………………………はっ?

 

 何故?何故だ

 何故そこに居る

 何故アリーナに居るんだ

 アリーナに続く扉は全てロックしたのに

 

 急いでパソコンを見る

 箒が出て来た扉など、経路のロックを確認した

 

 …………見つけた

 

 アリーナに至る1つのルートのロックが不自然に外された記録が残っている

 しかも外部からハッキングされて

 

 主人公のピンチに駆け付けるヒロイン

 そう言う演出とでも言うのか

 

 アリーナへと視線を向ける

 博士から差し向けられたISが箒に銃口を向けていた

 

 

 思考が停止する

 

 

 箒が何故狙われてるんだ

 大事な妹だろう。そうじゃ無いのか

 

 無自覚にマイクに手が伸びる

 

 

 『「箒に手を出すなぁっ!」』

 

 

 ……やった…………やってしまった………………

 

 僕は何をやっているのだろうか

 つい感情的になって柄にも無く行動にうつしてしまった

 マイクに向かって叫ぶ事によって注意を逸らそうと、そんな愚行に走るとは

 

 まったく。焼きが回ったものだ

 そんな事でISの銃口が箒から外される可能性なんて絶対では無いのに

 

 ……………………………………………………

 

 僕にもまだこんな感情があったんだな

 

 しかし結果オーライとしておくか

 一夏達の視線を含め、ISの銃口は箒から私が居る放送室へと目標を変える事が成功出来た

 

 しかしこのままだと死ぬ

 生身で撃たれれば流石の私も終わる

 

 使いたくは無かったが、ここで私が持つ最高の切り札を使わせてもらおうか

 

「GTシステム投与」

 

 《Now Loading》

 

 機械音が腰にあるキーケースから流れる

 それと同時に中継室に向けられていた銃口から光が溢れ出す

 

 《生体認証ヲ確認》

 

 持ってたマイクを全力で窓ガラスに叩き投げて亀裂を入れ、部屋にある椅子を掴み、砲弾投げのように遠心力を使い割る

 そして頭を抱えながら不完全に割れた窓ガラスからくぐり飛び降りた

 

 《警告。身体ニ負荷ヲ及ボシマス》

 

 くぐったさいに尖った部分が皮膚に突き刺さり凄く痛いがそんな事は言ってられ無い

 すぐに後ろから爆風が巻き上がり、熱が全身を襲った

 

 痛い……熱い……苦しい……ッ

 

 

 《Get ready....GTsistem install!》

 

 

 しかしそんな痛みなど一瞬で消え失せる

 私を形成する全細胞が活性化する

 まるで侵食するかの様に熱が身体中を駆け巡る

 今。この瞬間だけは何でも出来る

 そんな快感に似た感情に脳が支配される

 

 だがそんなものに身を委ねてはいけ無い

 その先には破綻しか待ってい無いし、今は助ける事を優先しなければ

 

 一度空中で体勢を正し、クラウチングスタートの姿勢を取る

 そしてその格好で着地

 間髪入れずに右足に全力を込め跳び、スタートをきる

 そしてそのまま進行上に居た箒を抱き上げた

 

「えっ?えっ?」

 

 急に抱き上げたせいか、驚いている

 しかしそんな事は気にしてる暇は無い

 

「織斑!篠ノ之を安全な場所に連れて行く。どうにか持ち堪えてくれ!」

 

 

 そう言い残し扉の奥に箒を抱いたまま逃げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適当な場所で箒を降ろし、そのまま誰にも会わぬように自分に与えられた整備室にこもる

 扉は1つしか無いし、防音もしっかりとしてある

 厳重に扉にロックを掛け、誰の目も入ら無いように独りの空間をつくった

 

 部屋の端に膝を抱え込み座る

 そろそろか。そろそろかと頭を抱えている

 

 …………………………………………………………………

 …………………………………………………………………

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

ア゛ッ、ア゛ッ、ア゛ッ、ア゛ッ、ア゛ッ、ア゛ッ

 

アアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアァアアアァアッアアッアァアァァァァァァアアアアアァァァァァァァアァァァアアアアアアアアアアァァァアアァァァアッアァアアアァアッアアッアァアァアァァァァァァァアッアァァァァァァァァアアアアァアッアアアアアアァァァアアアアアアアアアァァァァァァァ

  

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 痛い

 

タバk。タバコd。火がつk。尽k。月d。月がきれいですn。あなたt。私g。死んでもいいw。わw。わw。わw。wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 なんでだ

 

うさg。うさちゃn。ぴょんぴょn。跳b。空n。宇宙にいk。約束しt。笑がo。おねぇちゃn。教えてy。反重力と推力g、が、が、が、がgaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!

 

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 何故だ

 

上を目指s。邪魔g。俺はやり遂げr。利用しt。反逆すr。すべてを壊s。構ちk。再構ちk。だからbyバi

 

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 何でこんな目に

 

切っt。斬り落としt。血g。手g。マドk。いくn。いかないd。待っt。マドk。マドk。マドカァァァァァッ!

 

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 なんで痛い思いしなきゃいけ無いんだ

 

 

 

 

 

  おねぇちゃんのためでしょ?

 

 うるさい

 

 

  身の丈に合わない幻想(ユメ)を追うからだ

 

 喚くな

 

 

  最初から関わらなければ良かっただろ

 

 やめろ

 

 

 

 

 

 

「おーおー。なんか大変そうだねー?」

 

 

 

 

 「黙れって言ってんだろぉっ!」

 

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 ハァ  ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いっ痛いよ…………」

 

 

 

 

 

 お……おねぇ…………………ちゃん…………

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ✕

 

 

 

 

 

「黙れって言ってんだろぉっ!」

 

 

 ぐっ……ゔぅ…………

 

 首を締められる

 

 ちょっとした好奇心だった

 

 いっくんがどれぐらい成長したか確認するためと

 箒ちゃんを焚きつけていっくんとの距離を近づけるつもりだった

 それがどういうわけか箒ちゃんを攻撃しようとしてた

 それを間一髪で助けてくれた

 

 だけど1つだけ解せないことがある

 この男はあの高さから飛び降りて、さらに爆発の影響を受けたのにも関わらず箒ちゃんを抱き上げて逃げたのだ

 常軌を逸した動きを見せた

 

 だから興味を持った

 

 昨日の電話の件を含めて聞き出そうと思って

 ”吾輩は猫である(名前はまだ無い)”から駆け付けた

 ちょちょいのちょいで扉を開けると

 慟哭をあげながら床を転げまわってた

 

 それがちょっとだけ面白かったから

 完全に油断した状態で声をかけた

 

 

   怖い

 

 

 ちーちゃん………

 いや、男の人に力ずくで抑えられるなんて経験ない

 

「いっ痛いよ…………」

 

 自分らしくない弱音が漏れる

 

「■……■■■…………………■■■…………」

 

 拘束する力が解かれる

 

「はっ………けほっけほっ………」

 

 せき込む私に正面から抱き着くようにしな垂れかかってきた

 驚くほど軽い

 

 でも抱き着かれていい気分はしないから突き飛ばす

 さっきまでの力関係がウソのように吹き飛んで、壁に背中をあずけるかたちで座り込んだ

 

「なに?どうゆーつもり」

 

 そして追撃で逆に首を絞め返す

 こんどはあっちが苦しそうに声を漏らす

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

「聞こえない」

 

 耳を澄ます

 

「………い…………うに………」

 

「だから聞こえないって」

 

 いらいらする

 今度は顔を近づけた

 

 

「…絶対……宇宙(そら)に……連れっててあげる……から……」

 

 

 …………………………………………………………

 …………………………………………………………

 …………………………………………………………

 

 なんかしらけちゃった

 

 無理やり立たせて近くにあったソファーに投げ捨てる

 そのまま立ち去ろうとしたけど1つだけ言おうとしてたことを思い出した

 扉の前で立ち止まる

 

「箒ちゃんを助けてくれてありがと」

 

 男の方も見ないまま感謝を伝えて今度こそ立ち去る

 

 

 

 通路を歩きながら部屋にかけてあったネームプレートを思い浮かべる

 

 石見……か………

 

 男って呼ぶのもあれだし名前も覚えてあげようかな



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閑話 虚口

エイプリルフールネタとして書いた
しかし嘘要素は一切ない

タイトルは「すぐち」と読みます


  お腹が空いた

 

 4月1日の午後14時半過ぎ

 石見は作業中の手を止めて、そんなことをつぶやいた

 

 それもそのはず

 石見は最後に食事を取ったのは2日前の夕食

 それ以降はサプリメントと栄養剤でしのいでいた

 いつもなら引き出しに入ってるチョコやら携帯栄養食を食べ、飢えを誤魔化すところだが

 何故か今回は無性にモノを食べたい衝動に駆られる

 

 学園の食堂は時間的にやっていない

 なので学園の外の店に行くしか

 いや、自炊するという選択肢もある

 しかし残念ながら石見の自炊能力は一般的な男子中学生程度

 学校の家庭科で習った程度しかない

 つまり米と味噌汁と玉子焼きぐらいしか作れない

 それでもどこぞの英国代表候補生(セシリア・オルコット)よりは食べれるものを作るだけマシだが(笑)

 

 そんなわけで石見はやっていた作業を一旦片付け

 貴重品を身に着け愛車に乗り出掛けた

 

 愛車を走らせながら思考する

 自分はなにを食べたいか、なにを欲しているのか

 せっかく車まで出したんだ。普段は食べないような、学園の食堂のメニューに載らないようなモノを食べよう

 あぁしかし、レストランは嫌だな

 よくわからない得体のしれないものが出てくるし

 パッと見でなんの食材が使われてるかわかる料理が良い

 スコール達に付き合わされてトリュフやらなにやら食べたが美味しくなかった

 よく考えてみれば珍味と呼ぼれるものはあくまでも珍しい味なだけで、けして美味ではない

 あんな美味しくもない高いものを食べるなら100円で売ってるチョコを選ぶ

 

 学園から出て30分程経つ

 石見は気になる看板を見つける

 『大都会オア寿司』

 ここ10年で寿司を食べた記憶なんてない

 今日はここで食べようと決め、店の近くのパーキングに車を停める

 店に向かう足取りは知ってる人じゃなければわからないが、いつもより意気揚々としていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寿司を食べ終えてパーキングへと戻る

 すぐに金を払わず、車に寄りかかりながらタバコを吸いながら考える

 

 寿司はお気に召さなかった

 けして不味かったわけではない

 カサゴは絶品だったし、みそ汁も魚介の出汁がしっかり出ていておかわりした程だ

 しかしなにかが違う

 食べたかったもの、欲してたものではなかった

 では自分はなにを食べたかったのか

 咥えていたタバコを消し、腕を組み夢想する

 

 ……………………………………

 

 石見の頭に1人の女性の後ろ姿が浮かぶ

 エプロンも付けず、狭いキッチンでフライパンを操り料理を作る

 石見の視線に気付くと口悪く皿ぐらい出せと罵る

 

 そこで石見は気付いた

 自分が食べたかったものを

 では早速とスマホをポケットから取り出し、とある人物に連絡を取る

 

プルプルプルプル……ガチャ

 

「もしもし、私です。今大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココン。コン。コン。ココン。ココン

 

 場所は変わりとあるビルの従業員用エリア

 両手にビニール袋をさげた石見は独特なリズムでノックする

 

『誰だ?』

 

「そちらは?」

 

『エム』

 

「シグルド」

 

 ガチャン

 

「失礼しますよ」

 

 部屋に入ると中学、高校生の頃の織斑 千冬の容姿にそっくりの女の子が迎え入れてくれる

 

「久しぶり。悪いけどこれを持ってくれ」

 

 そう言ってぷるぷると揺れる手でビニール袋を渡す

 

「なんだこれは」

 

「簡単な手土産。酒とかな。普通のスーパーで買ったからそこそこのものだけだが」

 

 施錠し奥の部屋に進む

 

「どうも2人とも。忙しい中集めて失礼しました」

 

「久しぶり。急に集めてなにかあったのかしら?」

 

「わざわざ来てやったんだ。くだらねぇことだったら許さねぇぞ」

 

 石見は持ってきたビニール袋を机に置き

 そこから1番高かったワインと焼酎、日本酒、ウイスキーをそれぞれ並べる

 そしてもう一つの袋からは肉や魚、野菜など食材を出す

 

「食事会でもしようと思いまして。ほら、ここ半年任務でしか会ってないじゃないですか。所謂(いわゆる)親睦会のようなものです」

 

 石見の発言に3人ともぽかんとした表情を浮かべる

 

「どうしました。なにか不都合でも?」

 

「いえ、貴方がそんなこと言うなんてね。少し驚いただけよ」

 

「そうですか。ではオータムよろしくお願いします」

 

 置いてた食材をオータムの方に寄せる

 しかしはぁっ?と怒りの声をにじませた

 

「なんで私が」

 

「逆にオータム以外に作れる人が居るんですか」

 

 私は無理よとスコール。ゆで卵ならとマドカが答える

 2人の台詞にオータムはため息を吐き、少し待ってろと食材を持ってキッチンへと向かう

 その背中に対して石見は青椒肉絲をお願いしますと言うとうるせぇと返ってきた

 

「本当にどうしたの?唐突に食事会なんてキャラじゃないでしょ」

 

 石見はスコールの質問にそうですねと、今日1日の出来事を話す

 話しも弾み、スコールはワインを開ける

 石見はIS学園での日常のことをスコールは石見が関わっていない亡国企業の任務などで寄った飲食店や景色、観光地の話しをする

 マドカはそんな2人を少し離れたところで眺める

 石見はこっちにおいでと言ったが嫌だと返ってきたのでやれやれとあきらめた

 

 1時間ほど経ち

 キッチンのオータムから出来たから手伝えと声が来たので

 石見とマドカは皿を出したりと手伝う

 机には石見が頼んだ青椒肉絲をメインにチャーハンなど中華だった

 

 石見はいただきますと言って早速食べる

 出来立てで温かい青椒肉絲をチャーハンと一緒にかきこむ

 チャーハンじゃなくて白米で食べたかったとそこだけ残念に思ったが

 これが求めてた味だと確信する

 

 

 残りをタッパーに詰めてもらって

 石見は満足げにIS学園へと帰って行った



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第9話 懐古

なぜだろう
最近この話しを書くのが億劫になってきた

しかしエタりも、打ち切りもするつもりはないです


   夢をみている

 

 蒼天に照らされた草木

 摩耗した記憶に朧気ながら存在する故郷

 誰1人として人は存在し無い

 

 そこを独り歩く

 

 石で積み上げられた階段を登り

 青々と茂った山道を巡り

 古ぼけた道場のわきを通り過ぎ

 社をくぐり天を仰ぐ

 

 財布に入っていた5円玉を2枚賽銭箱に投げ

 内裏を立て掛けてあった箒で掃き

 お御籤を引いてみる

 

 結果は小吉

 待ち人    すでに居る

 失せ物    あり。目を離すな

 賭け事    負ける。控えよ

 探し物    なし

 争い事    多い。自重せよ

 恋愛     成就せず

 

 燃やそうと思ってジッポを探したが無い

 仕方が無いので近くの木の枝に結ぶ

 

 視界の右端で子供が走り抜けるのを捉えた

 釣られて走り去った方を向くと、そこにはくたびれた蔵が鎮座していた

 

 一刻も早く向かいたい

 そんな感情に塗り潰される

 そこに何か大切なものがあるような気がする

 

 はやる気持ちを押さえつけ進む。歩む

 しかし一向に辿り着けない

 とうとう我慢出来ずに駆け出した

 

 しかし。なのに。されど。何故か

 近づけば近づく程に蔵が遠ざかる

 距離が全く縮まら無い

 手を伸ばすが虚空しかつかめ無い

 声を荒げた 

 しかし慟哭をあげたはずが何も聞こえない

 もう1度吐こうとも上手くいかない

 奥歯が軋む程に強く食いしばってしまう

 

 

 ただただ無性に泣きたくなった

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 場面が移り変わる

 

 森の中、タバコを咥えて岩に腰かけていた

 IS学園の裏手にある森だろう

 

 反対の手に持っていた板チョコを包んであった銀紙で作ったであろう即席の灰皿にタバコを入れ握り潰す

 夢だとわかっているがポイ捨てせずにポケットに突っ込んで建物がある方に向かった

 

 下駄箱から入り職員室の前を抜け

 1年生から3年生までの階を順にまわる

 最後に生徒会室に邪魔をして何故か置いてある冷蔵庫を漁り甘いものを拝借した

 

 ケーキを片手に次は学生寮へと歩みを進める

 

 まず学寮長室に向かい扉を開く

 あまり片付けがいきわたっていない部屋だった

 足を踏み入れようとしたが何か見えない壁のようなものに邪魔をされる

 夢の限界を認識した

 

 踵を返しとある部屋に行く

 いつの間にか握っていた鍵を挿し入れ回す

 がちゃんと音を立ててロックが外される

 鍵を抜きそのまま開けようと思ったが脳裏に嫌な予感が走りドアノブを回そうとした手が止まった

 しかし止まっていても仕方が無いのでゆっくりと慎重に扉を開ける

 だが予感は外れて開けても何も起こら無かった

 

 部屋に入り最初に目についたのは机に並べてあった料理

 出来立てなのか湯気があがる青椒肉絲

 備え付けてあるキッチンに顔を向けたが誰も居ない

 

 箸を持ち青椒肉絲を口に運ぶ

 味はしない

 

 もとより夢だとわかっていた

 しかし先程食べたケーキはちゃんと味はした

 だからこれにも味があるものだと思った

 

 しかし箸が止まらない

 味がしない料理を食べても文字通り味気無いものだし、何より時間の無駄だ

 なのに箸が進み続ける

 ついには完食して箸を置き、つぶやいた

 

 美味しかった

 

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 視界が歪んだと思ったらまた違う場所に立っていた

 

 豪華絢爛に飾り付けられた部屋

 ホテルの部屋。それもVIPルーム

 有名なクラシックが流れている

 

 何故ここに立っているか

 道を踏み外した場所だからか

 それとも彼女に初めて会った場所だからか

 

 あぁ。でも…………

 いや、止めよう

 

 浮かんでは消える想像を振り払い

 唯一ある扉をくぐり抜ける

 

 そこは雅やかだった部屋とは打って変わり

 配線がいたる所に延びる薄暗い空間だった

 

 そうか。ここはやっぱり

 

 電気を点けようと壁を手で探る

 指先がスイッチに触れ、カチッと押すが反応が無い

 カチッカチッと連続で押してみても一向に明るくなら無いので諦め、スマホを取り出そうとポケットに手をまわす

 しかしポケットにスマホが無い

 よくよく考えるとこの時期の私はスマホなんて必要無いものを持っていなかった事を思い出した

 

 代わりになるものと体を調べると、上着の裏ポケットにライターが入ってたのでそれを点ける

 しかし所詮は100円ライター

 明るさなんて微々たるものだったが、無いよりましと納得して先を進む

 

 床に落ちているのは菓子パンの袋、潰れたペットボトル、足跡が付いた紙、硝子の破片、折れた鉄片、溢れた薬品、誰かの血痕、肉片

 陰気な実験の後のような印象を植え付ける

 

 ダンボールやら紙やら薬品やら

 とにかく燃えそうなものを部屋いっぱいに敷き詰める

 最後にライターを部屋の真ん中に投げ捨てる

 燃え上がるのを確認し、入って来た扉とは別の扉から逃げた

 

 逃げた扉の先は曇天の空

 本来は青く輝いているであろう海が天気のせいで沈んでいる

 そんな風景が見渡せる森と隣接した開いた崖の上

 出て来たはずの扉はもう無い

 

 森の中へ進む

 しかし1歩踏み入れたところで入るのを躊躇する

 今はまだ早い

 また此処に来れるとは限らないが今回はやめる

 完全に逃げの姿勢

 現実逃避

 

 体をまさぐる

 銃かなにか持っているだろうと思っていたけどなにも無い

 仕方が無いので崖の方に向かって走る

 勢いよく跳ぶと失敗するかもしれ無いので直前でスピードを落とす

 そして投身自殺

 全身に風を受ける

 胃がきゅっと縮み本能が恐怖を警告する

 アドレナリンの分泌量が増えたからかスローモーションになる落下

 その最中に重要なことを思い出す

 

 別に死ぬ必要は無かった

 

 迫りくる海面からのぞく岩肌を視界におさめ

 ため息を吐きながら目をつぶった

 

 

 

 

 

 ○ △ □ ×

 

 

 

 

 

 目を覚ます

 白い天井。おそらく保健室だろう

 

 今は何時だ

 窓から日が差し込んでいるという事は少なくとも日中だろうか

 

「うっ」

 

 起き上がろうと体をよじると全身を襲う痛みのあまりに声が漏れてしまう

 久々に受けるGTシステムの反動

 痛みを無視して無理やり立ち上がるが上手く歩けない

 何か使えるものがないか部屋を見渡すと車椅子を見つけた

 壁に手を突き、ゆっくりと体を引きずるように進む

 5mも無いほんの少しの距離だったが額に汗が出来ている

 車椅子が電動で助かった

 車輪を腕で回す人力タイプだったら平時でもつらいのに今の状態なら完璧に動かせ無かった

 

 保健室から廊下に出る

 空気が冷え込んでいて人気(ひとけ)がまったくない

 朝の6時かそのぐらいだろう

 今の時間人が居るとなると食堂か用務員室か

 しかし食堂に行っても居るのは調理師の人だから困らせるだけだし、用務員室は轡木さんが学園内の清掃に出ていたら意味がない

 

 うーん……………………………

 いや、いいや

 取り敢えずは用務員室に行こう

 

ウィーン………

 

コン、コン、コン、コン

 

「轡木さん。石見です」

 

 4回のノックと声をかける

 しかし反応はない

 無断で入るのは失礼だと思ったので保健室に戻ることにした

 

「あっ!石見先生!」

 

 保健室に戻ると会長と従者の娘が居た

 

「急にいなくなったから心配しましたよ」

 

「あぁ。それはすみません会長」

 

 2人はぽかんとした顔をする

 

「どうしたんですか」

 

「……いえ、なんでもないわ。そんなことより車椅子なんか乗ってどうかしたの」

 

「思う通りに体が動かないだけですよ。それより現状を教えてもらって良いですか。少し記憶が飛んでしまって」

 

 

 会長から話しを聞かされた

 乱入してきたISを一夏達が倒したこと

 僕が救った生徒は無事だったこと

 話しを聞こうと僕の整備室に行ったら僕が倒れていたこと

 簡単な身体検査をしたが異常はないらしい

 

「それよりビックリしたわよ。中継室から飛び降りたりするんだもの」

 

 会長は驚愕!と書かれた扇子を顔の前で開く

 僕はだからこのザマだと自嘲する

 

 あぁ。しかし下手い

 眠くなってきた。瞼が重い

 

「もしかして眠いの」

 

 朦朧とする意識の中、少しと返事する

 

「運ぶから寝てもいいわよ」

 

 会長の言葉にありがとうございますと言い残し、意識を手放した



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