IS~筋肉青年の学園奮闘録~ (いんの)
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序章 新世界 第0話 生の終わりと死の始まり

 皆さん初めまして、いんのと申します。正真正銘の初投稿です。未だ右も左も分からないような状態ですが、どうぞよろしくお願いいたします。感想・指摘等じゃんじゃん送ってくれると嬉しいです。
 鉄血のオルフェンズのキャラクターである昭弘・アルトランドくんが、インフィニット・ストラトスの世界に行ってしまうというお話です。各キャラクターの心理描写には特に力を入れていきたいと思っております。まだまだ拙い文章ですが、温かい目で見てやってください。
 ちなみに、この戦場ではあくまで昭弘視点なので、鉄血本編とは若干異なるシーンや描写があると思いますので、ご了承ください。


 その時、二人の少年は戦っていた。

 

 モビルスーツという名の鋼鉄の巨人を駆使し、無数の銃弾と砲弾が豪雨のように降り注ぐ荒野を縦横無尽に駆けていた。その様は、安直な言葉を使うならまるで“悪魔”の様であった。

 その強さの理由を簡単に説明すると、彼等二人の脊髄には特殊な「インプラント機器」が埋め込まれており、操縦席側の端子と神経を直結させている。つまり、文字通り機体と繋がっているのだ。人々は、このシステムのことを『阿頼耶識システム』と呼んでいる。これにより、モビルスーツをより生物的に動かすことができ、さらに、二人の極めて高い操縦技術も合わさって、二機のモビルスーツは最早誰にも手に負えない強さを振るっている。

 すでに荒野には、数えきれない程の敵モビルスーツが鉄屑となって倒れ伏しており、それらのコックピット周りは血とオイルと鉄で綯い交ぜになっていた。

 

 しかしそれでもなお、戦況は二人にとって余りにも絶望的であった。

 元々数的に圧倒的不利な状況下で彼らの仲間の多くは死に絶え、残りの仲間も後退させていた。対して敵の数は未だに多く、今現在荒野に倒れ伏しているモビルスーツなど、敵の総数の5%にも満たない。つまり、勝てる可能性は最早0なのだ。

 それでも、二人の闘志はまるで衰えることを知らず、獣のごとく敵に喰らい付くその姿に、敵のモビルスーツ乗り達は例えようのない恐怖を抱くようになっていった。

 二人は決して諦めない。二人が戦えば戦う程、今後退している二人の大切な仲間・・・もとい「家族」の生存率は上がっていく。二人はそのことをよく理解しているのだ。自分たち二人が助からないことも・・・。

 

 すると、戦場に変化が訪れた。敵が少しずつ引いて行くのだ。二人のうちの一人『三日月・オーガス』は通信越しに疑問を口にしたが、二人のうちのもう一人『昭弘・アルトランド』は「敵さんも勝ち戦で死ぬなんざ御免蒙るんだろうぜ」と通信越しに三日月に返した。その解答は半分正解、半分不正解であった。二人は何だか言い様のない嫌なモノを感じ、咄嗟に空を見上げる。ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー光ったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーそう感じた直後、避けることなど到底できないような速度の“何か”が二人を“貫いた”。その衝撃は凄まじく、二人を貫いた“槍のような何か”はそのままの勢いで荒野に突貫する。砂埃がまるで爆風の様に舞い上がり、遥か遠くにまで激しい揺れが行き渡り、二人の居た荒野は最早完全に地形そのものを変えてしまっていた。

 

 敵兵達は、今度こそ安堵の息を漏らした。

 アレを喰らって生きていられる生物など居ない。専門知識の無い一般人でも、今の荒野の状態を見ればその位のことは解るだろう。たとえモビルスーツに守られていたとしてもだ。ーーーーーがしかし、その安息の時間は長く続くことは無く、再び彼等の表情が恐怖で塗り固められることになる。

 

 

 

 

 

 

 昭弘は、薄れゆく意識の中、これから確実に訪れる“”という事象について考えを巡らせていた。

 彼はここ数年、戦場に赴く度に「死んだらどうなるのか」ということが非常に気がかりになっていた。切っ掛けは、過去の戦場で生き別れとなってしまった、彼の弟の発言にあった。

 

             死んだら新しい命となって生まれ変わる

 

その言葉が、昭弘の頭にしがみ付いて離れないのだ。そして、今正に彼は「死」へと近づいている。

 

ーーー死んだらまた別の自分となって生まれるのだろうか。

ーーー今まで死んでいった家族達に逢えるとでも言うのだろうか。

ーーー唯々消えて無になるだけなのか。

 

いくら考えを巡らせようとも、それらは所詮「死ななければ解らない」のだ。ただ一つ解ることは、死んだらもう二度と「今までこの世界で過ごしてきた家族」を再現することはできないということだ。

 そんな今考えてもしょうがないことを考えていると、一本の通信が昭弘の耳を通じて頭の中に響いた。

 

《昭弘ォ、まだ生きてる?》

 

 普段と何ら変わらない声量で発した三日月のその言葉を聞いて、昭弘の思考は自身でも驚く程早く現実に引き戻された。

 

「・・・・・・ああ・・・・・・どうにかなぁ・・・」

 

 大小様々な破片が突き刺さって血塗れになっている己の身体を辛うじて起こし、どうにか三日月に言葉を返すことができた昭弘。そうだ、俺は、俺達はまだ生きている。確かに俺達はもうじき死ぬ。だが、それでもまだ生きている。そして、まだ生きているのならば・・・

 

「しょうがねぇ・・・死ぬまで()()を・・・!果たしてやろうじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 自身に微かに残っている生命力を振り絞って、昭弘は叫ぶ。

 先程まで考え込んでいた自分を怒鳴り飛ばすかのように。今は亡き彼等の団長が言った「最後の命令」。

 

 

 

止まるな、唯々止まるな。

 

 

 

言われるまでもない。俺だってまだ止まりたくはない。進み続けたい。生きたい。

 そんな想いを乗せながら、昭弘は自身のモビルスーツ『グシオン』を辛うじて大地に立たせる。グシオンもまた、昭弘と同じ様に身体中から血と言う名のオイルを垂れ流し、原形を辛うじて留めている程度にボロボロになり果てていた。だがやはり、両者ともそんな状態では、機体を立たせることがやっとだった。

 その一方で、三日月と『バルバトス』は、ボロボロになりながらも縦横無尽に荒野を駆けていた。それは今まで以上に凄まじく、まるで狂獣の様だった。

 朦朧とした意識の中、昭弘はそんな三日月とバルバトスを目の当たりにして、悔しさと誇らしさを捏ね合わせた様なモノを感じた。

 昭弘自身が背中を預けられる数少ないパイロットの一人、戦場において絶対の信頼を乗せることができる親友(ライバル)、それが彼にとっての三日月・オーガスだった。やはり三日月(あいつ)は凄い。だが、この最後の瞬間くらいは奴と並んで戦いたかった。そして、もし可能であるならば、奴を超えたかった。それができない自分自身が腹立たしくて仕方がなかった。

 そんな昭弘の願望を無情にも踏み躙るかのように、一機のモビルスーツが接近してくる。どうやら、カラーリングからして指揮官機の様だ。

 指揮官が単騎で突っ込んで来るなんて阿呆かと一瞬思ったが、すぐに意識を切り替えた。ーーーーーこいつを殺すーーーーーもし指揮官クラスであるのならば、ここで殺せば現場の指揮系統は多少なりとも混乱する。それにより、今逃げている家族達への追撃を大幅に遅らせることができるかもしれない。それに、先程から自分自身にイライラしていた所だ。丁度いい、こいつには自分の憂さ晴らしに付き合ってもらうとしよう。こんな状態のグシオンでも、一機位なら殺れるはずだ。

 その指揮官機は馬鹿正直に正面から突っ込んで来る。恐らく、既に瀕死のグシオンに対して、多少なりとも慢心を抱いているのだろう。

 昭弘は微かに残っている意識を振り絞って、相手と自分との距離を見極める。そして、自身の間合いに入った瞬間、巨大な鋼鉄の塊が左右からその指揮官機を包んだ。それは、グシオンに装備されていた『シザーシールド』であった。

 昭弘は、指揮官機をそのままシザーシールドで地面に叩きつけると、最後の力を振り絞って圧殺しようとする。

 しかし、正面からさらに二機の敵モビルスーツが急接近してくる。最早今の昭弘に周りのことを気にしているような、はっきりとした意識は残っていなかった。残っていたとしても、どの道今の状態のグシオンでは逃げ切れない。当然の帰結として、敵モビルスーツの剣が、昭弘のコックピット付近に突き刺さった。無論、昭弘も無事では済まない。鋭利で長大な金属片が昭弘の胴体を貫通していく。

 それでも、昭弘は止まらなかった。敵指揮官機のコックピットをシザーシールドでじわりじわりと潰していく。

 

《うぅ・・・あぁ・・・!わ、わだじは、こ、こんなっ所で・・・!!うぐ・・・ぁぁぁああああアアアアア゛ア゛ア゛!!いぎィィエ゛ッァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!》

 

 今正に消えかかっている意識の中、最早身体中に突き刺さっているモノの痛みすら分からなくなっていく意識の中、敵指揮官の無様な叫び声が聞こえた・・・様な気がした。そしてーーーーーーーーーー死は、もう目前だった。

 

 嗚呼・・・ようやく死ぬ。ずっと気になっていた疑問の答えが、もうすぐ解る。けれども・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと家族(あいつら)と生きていたかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、二人の少年の内の一人、昭弘・アルトランドは、戦場にて短い生涯を終えた。




 いかがでしたでしょうか。というか、SS書くのって物凄い時間かかるんですね・・・。これしか書いてないのに丸一日分くらい消費した気がします。
 ちなみにラストの一騎打ちでは、個人的な感想ですが、鉄血本編で昭弘がイオクのことを知っていたという描写(正確に言うと、話数的にだいぶ前に知ってから、最終話に至るまでなにも昭弘のイオクに対する心理描写が無かった)に違和感を感じていたので、この話ではあえて描写を避けるようにしました。
 さて、次回は遂にあの「天災兎さん」が登場します。やっとだ・・・やっと昭弘とISのキャラクターを絡めることができる。


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第1話 死後の世界(前編)

 皆さん、まず先に謝罪しておきます。本来ならもう少し長くなる予定でしたが、執筆中後半部分を保存し忘れるというとんでもないドジを踏んでしまい、かなり短めになってしまいました。
 大変申し訳ございません。
 取り敢えず、前編後編に分ける形で、対応しました。明後日までには後編も投稿しときます。
 それと、お気に入り登録してくれた皆さん、大変ありがとうございます!嬉しすぎて「ウゥオッ!」ってなりました。

追記:一部修正を入れます。


 目を覚ますと、辺り一面、白い世界が広がっていた。

 未だ目覚めたばかりだからか、白い霧がかかっているかの様な薄ぼんやりとした景色しか、昭弘には認識できなかった。

 少しずつ、目の内側にある霧が晴れていく。一番最初に認識できた物は、蛍光灯・・・だろうか。それを視認して初めて、昭弘は今現在自身が横になっているということに気が付いた。更に目が慣れてきたので、今度は辺りを見回してみる。

 ・・・・・・・・・・・・色んな物が目に飛び込んできたが、一番昭弘の脳裏に焼き付いたのは、独りでに動く機械だった。大きさは昭弘より一回り大きい程度。ガッシリとした人型で薄黒いボディに床まで届きそうな長い手。頭部には赤いカメラアイが一つ光っていた。

 ・・・掃除・・・をしているのだろうか。濡らしたモップをビチャビチャと鳴らしながら、床に擦り付けている。

 すると突然、昭弘の()()()()()()()()()()かのように、その機械がこちらに振り向いた。4~5秒程昭弘を見つめながら静止しているその機械は、何と言葉を発した。

 

《メ・・・メ・・・メ、目覚メタ・・・?》

 

 いかにも機械的な音声だったが、確かにそう発していた。するとーーー

 

《タ・・・・・・!束様ァァァァァァァァァァ!!!!!目覚メマシタ!!!目覚メマシタヨォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!》

 

 そう叫びながら、機械は大慌てで飛び出していった。それを切っ掛けに、昭弘の頭にもようやく「混乱」というものが訪れた。

 

ーーーここはいったい何処だ?

ーーーそもそも自分はあの荒野で死んだはずだ。それはまず間違いない。

ーーーでは此処は死後の世界か?

ーーーそれとも、新しい生命として生まれたのか?

ーーーあとあの機械は何だ?生前(?)ではあの様な機械など見たことがなかった。しかも、自分にはその機械が「独りでに動いていた」様にしか見えなかった。単に中に人が搭乗しているだけかもしれないが、それでもあの異形は目に焼き付いて離れない。それと・・・あの機械が発していた『タバネ』とはいったい誰だ?少なくとも、自分の所属していた組織(かぞく)には、そんな名前の人物は存在しなかったはずだ。

・・・・・・・・・「()()()()」・・・・・・?此処で・・・?さっきあの機械が発していた言葉や、自分の今のこの状況を考えると、自分は少なくとも死んですぐ此処に突然現れたというわけではないのだろうか。もしそうだとしたら、自分はどれだけの時間、このベッドの上で眠りについていたのだろうか。それすらも分からない。

 

 いくら自身の頭で考えても、答えなどまるで出てくるはずもなかったが、彼がこれ程までに混乱している理由はもう一つ存在した。その理由は、彼自身が今現在()()()()()()()()()()を着ているのだ。

 自身はあの時、大小様々な鉄片が突き刺さっていた状態だった。であれば、自身は裸体で医療用カプセルに入っているか、全身を包帯で巻かれているか、何か治療した痕が残っている状態でなければならないはずだ。なのに今は、自身が愛していた組織(かぞく)鉄華団』の花のマークが入った、馴染みの深いジャケットを羽織っていた。

 つまり、普段通りの自分の服装ということだ。自身の身体にも、異常がある様にはとても思えなかった。あるとしたら、目覚めたときの倦怠感くらいだ。

 そもそも、病室(らしき所)のベッドで()()()()()()()()こと自体が可笑しい。

 普段から彼は、彼自身の背中から生えている二本の突起物(阿頼耶識のピアス)のせいで、仰向けで寝ることができなかった。しかし、この病室のベッドにはどうやら多少の細工が施されているらしく、背中の突起物が丁度良くベッドにフィットするように、位置的に枕のすぐ手前辺りに深めの溝が作られていた。

 

 以上のこともあり、昭弘は今の状況を正常に把握できないでいた。まるで夢を見ているかの様な、夢から覚めたかの様な、それこそ本当に此処が「死後の世界」なのではないかと思ってしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれ程の時間が経ったのだろうか。数分かもしれないし、数十分かもしれない。それでも、昭弘は少しずつではあるが漸く普段の落ち着きを取り戻してきた。

 取り敢えず、まずはベッドから降りて少しずつ体を慣らしていこうと思い至ったその時、先程機械が飛び出して行った扉が再び激しく開かれた。すると、兎のような耳の生えた“何か”が、ゴロゴロと高速回転しながら昭弘のベッドに近づいてきた。そしてーーー

 

「ジャジャジャジュワーーーーーーーーーーーーーーン!!!☆やっふぅ!やっふぅぅぅぅうううううう↑↑↑!!!!!!みんなのアイドルゥ!篠ノ之束さんドゥエエエエエエエエッス!!!!!!」

 

 先程以上の混乱+困惑が、昭弘を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いんやぁ~驚かせちゃってメンゴメンゴォ~。君が目覚めたって聞いたから余りの嬉しさで勢い余っちゃって~~☆」

 

 この“兎耳女”の衝撃的な登場のすぐ後、先程の機械が慌ててフォローに入り昭弘に謝罪をしつつ、マグカップにホットティーを淹れて「どうぞ」と促してきた。

 まだ彼女らを信用していない昭弘は、未だマグカップに口をつけてはいないが、機械のフォローもあってどうにかこうにか落ち着くことができた。

 そもそも、女の恰好が異常だった。ファンタジックな水色のドレスに白いエプロン、頭頂部には兎の耳のような蠢く機械を付けており、見る者を混乱させることに長けすぎていた。一先ず機械に軽く礼を言い、ようやく口を開く。

 

「・・・・・・昭弘・アルトランドだ。」

 

「おや?聞きたいことは山のようにあるだろうに。まずはそっちから名乗ってくれるの?」

 

 突然の彼の名乗りに、女も拍子抜けた表情を見せる。

 

「今オレがこうなっている経緯は分からないが、どうやらオレは短くない時間ここに居させてもらっていたみたいだからな。状況的にそれぐらいは何となく分かる。だからせめて、名乗りくらいはこっちからやらないと、()()()()()()と思っただけだ。」

 

 筋を通す。それは、昭弘の行動理念の一つとも言えた。それはやはり、彼が元居た組織(かぞく)「鉄華団」団長の影響を強く受けていたからかもしれない。

 

「・・・・・・・・・筋、ねぇ・・・あっ!ゴメンゴメン何でもないよぉ☆」

 

 一瞬女の表情が曇った様に見えたが、今は特に気にする必要はないと昭弘は判断した。

 

「じゃあ取り敢えず、こっちも自己紹介だね!私は篠ノ之束(しのののたばね)☆イェイ!!天才科学者だよ☆そんでこっちが、お手伝いロボットの『ゴーレム』!束さんが作ったんだよ!できれば愛称を込めて『タロ』って呼んであげてネ!』

 

《デハ改メマシテ、初メマシテ昭弘様。タロト申シマス。私ト同ジ様ナ『ゴーレムタイプ』ノ『IS』・・・失礼シマシタ。モトイ、ロボットハ他ニモ沢山オリマスノデ、見カケタラ気兼ネナク声ヲカケテ下サイネ。》

 

 ロボット・・・は聞いたことがあるような気がする。しかし、『あいえす』なんて単語は聞いたことが無かった。

 だが、今はまず重要なことから聞くべきだろうと、昭弘は一旦『あいえす』という単語のことを保留にした。恐らく、このロボット(?)も自分を混乱させないようにわざとロボットと言い換えたのだろう。昭弘はそう解釈した。

 

「『タバネ』に『タロ』か、よろしく頼む。そんじゃ悪ぃが、早速質問に入らせてもらうぞ。まず此処は何処だ?」

 

「ここは束さんの研究施設(ラボ)の一つなんだよねぇ。えっへん!所在地は内緒♡」

 

「・・・オレは一体どのくらいの間眠り続けていたんだ?」

 

「うーん、ざっと一ヶ月位かな?最初っからその恰好だったよ!」

 

「・・・・・・今何年だ?」

 

「西暦2022年1月16日だよ~。」

 

「・・・・・・・・・オレは何処に倒れていたんだ?」

 

「そこら辺に。」

 

 そう言うと、束は窓の外を指さした。そこには、ラボを覆い隠すように雑木林が広がっていた。

 昭弘は、束から得た情報を一旦整理するために、険しい表情で自身の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦?

 

後編へ続く。




 束さん描くのすっごい楽しいです。
 今現在ラボに居るゴーレムは、クラス代表戦襲来時のゴーレムのモノアイバージョンだと思ってもらえれば、分かりやすいかと思います。声は皆さんの想像にお任せします。
 原作にはいないキャラかと思いますが、皆さん気に入っていただけましたか?


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第1話 死後の世界(後編)

 なんとか今日中に間に合いました。今回も前回と同様、昭弘、束、タロの3人による会話が主です。
 昭弘の入学までは、もう少し時間がかかるかもしれません。できれば、3話辺りから入学させたいと思っております。


 西暦・・・そんな年号を昭弘は聞いたことが無かった。自身が生きていた時代の年号は『P.D.(Post Disaster(被災後の))歴』だったはずだ。それに、自身は一ヶ月間意識がなかったと、束は言った。少なくとも昭弘の感覚では、自身が死んだのは「ついさっき」だった。「死んだ場所」も、こんな緑生い茂る雑木林ではなく、赤茶色の荒野であった。「あの荒野」で戦っていた一ヶ月前に、こんな雑木林に訪れた記憶も勿論存在しない。

 ・・・昭弘は、こういうことに関して深く考えるのが苦手だ。戦場においても、考えるより先に「ブッ潰す」といった戦い方をしていた彼は、今回もそれを実践してみることにした。

 

「・・・・・・・・・・・・こんなこと言ったら笑われると思うが、敢えて言うぞ。オレはついさっき、確かに「死んだ」はずなんだ。そしてこんなこと聞いたらそっちも混乱するかもしれないがそれでも聞くぞ。此処は『死後の世界』ってヤツなのか?」

 

 それはもう昭弘自身もビックリする程の単刀直入な質問だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥》

 

 不気味な沈黙が流れた。やっぱり不味かったかと昭弘が思った瞬間ーーーーーー。

 

「やっぱり?」

 

「・・・は?」

 

「やっぱり君って!『別次元の世界』から来た人なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ヒャッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイ!!!!!!!!!!束さん大☆発☆見!!!!!!!!!」

 

 兎耳女が発狂した。

 

 

 

 

 何故束がこうもあっさり昭弘の言葉を受け入れたのか、昭弘には理解できなかった。しかし、少なくとも束は常識が通用するタイプの人間ではないということは、昭弘も薄々感ずいてはいたので、そこに関しては昭弘も気にするだけ無駄だと判断した。

 その後の話は比較的スムーズに進んだ。昭弘は取り敢えず、自身の一生に関して束とタロにざっくりと話した。海賊の襲撃による肉親の死、それから奴隷のように売り飛ばされる日々、そんな日々の中で背中に埋め込まされた『阿頼耶識(ちから)』、目的すら分からない戦場、そこから独立するように孤児達(オルフェンズ)で立ち上げた民間軍事組織『鉄華団』、そこで芽生えた家族としての確かな「絆」、そして、最後の戦い。

 

《・・・・・・ソノ、何ト言イマスカ・・・》

 

「波乱万丈すぎない?」

 

「?そうなのか?」

 

「そうだよ!!《ソウデスヨ!!》」

 

 束とタロの声が重なった。

 

「それにしても、その『モビルスーツ』とか『阿頼耶識システム』とかいうのはちょっと、否、かなぁ~~~り興味あるかも!!是非是非詳しく聞かせて!!!」

 

「かまわないが、モビルスーツならともかく、阿頼耶識に関しては本当に感覚的な事しか説明できないぞ?」

 

「ダイジョブダイジョブ☆束だん天才科学者だし!!!」

 

《家事全般整理整頓ハスッカラカ「何か言った?タロ?」・・・イエ何モ・・・》

 

 そのやり取りを見て、昭弘は「クスッ」と微笑を零した。本当にごく自然と零れた笑みだった。

 

「なんか、お前らのやり取りを見ていると、此処が死後の世界だなんてとても思えなくなってくるな。本当に、何処にでもありそうな、現実の世界に思えてくる。」

 

「まぁ束さん達にとっては、死後の世界じゃないしね!現実の世界以外の何物でもないしぃ~。昭弘・・・『アキくん』でいいや☆アキくんも素直に『この世界』を受け入れちゃえば?」

 

 急に渾名で呼ばれて、昭弘は一瞬言い淀むものの、意を決したかの様に口を開く。

 

「いや、それでもオレはやっぱり、此処を『死後の世界』だと割り切ろうと思う。」

 

「・・・なんでさ?」

 

 束がキョトンとしながら疑問符を浮かべる。此処が死後の世界だろうと現実の世界だろうと、束の言う『別次元の世界』であろうと、昭弘が今後『この世界』で生きていくということに変わりはない。なぜそんなに此処が死後の世界であることに昭弘が固執するのか、束には理解できなかったのだ。

 

「確かにオレは、この世界で「一人の人間」として生きていくのかもしれん。けどな、オレは『あの世界』で生まれて、そして死んだんだ。あの世界で家族と過ごした日々、鉄華団(かぞく)と過ごした日々、出会い、別れ、すべてあの世界じゃなければ得られなかったモノだ。だから、此処を死後の世界だと割り切らないと、あの世界で得たモノが「掛け替えのないモノ」じゃ無くなってしまうような気がしてな。・・・上手く説明できないが、そんなところだ。」

 

 束もタロも、ただ黙って聞いていた。すると、束がタロの懐から「何か」を取り出し、昭弘にポイッと投げ渡した。それは折り畳み式のナイフであった。

 

「アキくんアキくん!☆まだ()()()()()確認して無かったよね?☆」

 

 束がそう言うと、昭弘も「そういえばそうだったな」と納得する。昭弘はナイフの切っ先に何も塗られていないことを確認し、右手にナイフを持ち、それで左手の指先に小さな傷をつけた。・・・当然の帰結として『痛み』と同時に『血』が流れ出てきた。生きている人間なら誰にでも流れている、『生命の雫』だ。『痛み』と『血』。それはあの世界でのソレと寸分違わない様に感じられた。

 

「アキくんがこの世界をどう解釈しようと、それはアキくんの自由だよ。けど、これだけは忘れないで。君は()()()()()()()()()()ということを。」

 

 考えてみれば、ごく当たり前のことだった。自身の『血』と彼女の言葉、それこそが唯一無二の答えだった。それでも、昭弘の考えが変わることは無かった。

 

「そうだな・・・ありがとう束。おかげで、この死後の世界で生きていく「覚悟」が、少しだけできたような気がする。」

 

「死後の世界で生きていくって、何か変な感じするけどね!」

 

《私ハ、珍シクマトモナ事言ッテイル束様ノ方ガ遥カニ「変ナ感ジ」ガシマスガ。》

 

「あっ、言ったなこいつぅ☆」

 

 冗談を口に出すタロに、束が肘打ちを食らわす。

 

「というかアキくんって、意外と深く考え込むタイプなんだね。」

 

 そこを突かれて、昭弘は苦笑する。確かに自分らしくないと思った。しかしながら、鉄華団(かぞく)のことになると、昭弘にだって「譲れないモノ」があるのだ。

 その後昭弘は、モビルスーツや阿頼耶識のことを粗方説明し終えると、気が付いたらホットティーを全部飲み干してしまっていた。自身でも気付かない内に、こいつらのことを大分信用してしまっている様だと、昭弘はまたも苦笑を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろそっちの情報も寄越してくれないか?世界情勢やら『あいえす』のことやら、色々と聞きたいこともあるしな。」

 

「お~っと!その前にぃ!アキくんには、ある条件を提示したいと思いまぁ~す!!」

 

「・・・条件?」

 

「そ!この条件を吞んでくれれば、世界情勢と『IS』のこと、それに束さんのあ~んなことやこ~んなことも教えちゃうよ☆」

 

 所謂、取引というやつだと、昭弘は解釈した。吞むかどうかは内容にもよるが、一先ず聞いてみることにする。・・・束のあんなこんなはどうでもいいとして。

 

「・・・・・・言ってみろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとIS学園ってところに入学してきてくんない?」




 昭弘ってガチムチとか脳筋とか言われてますけど、意外と悩んだり葛藤したりするとこあるんですよね。
 さて、いよいよ次回はIS学園への入学に向けて、色々と準備するみたいな回になると思いますので、自分の文章でどこまで説明できるか不安ですが、頑張って早めに投稿したいと思っております。
 あと今更ですけど、私はIS原作を読んだことがないです。二次創作を読んで、それで大まかな流れを把握している程度です。


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第2話 決心

昭弘「世界観の説明は上手くできましたか・・・?(小声)」
オレ「できませんでした・・・(小声)」
昭弘「でしょ?じゃあオラオラ来いオラァ!!!(豹変)」

 UA1500突破ウレシイ・・・ウレシイ・・・(ニチニチ)
 お気に入り数が36・・・異常だな!(感涙)お気に入り登録してくださった皆さん、本当にありがとうございます。


 その夜、昭弘はベッドに横たわりながら、深い思考の渦に嵌っていた。今日初めてこの世界で目覚めた時と違い、天井の蛍光灯は純白の輝きを放っておらず、薄暗い部屋に溶け込むように輪郭を僅かに残していた。時刻は既にA.M.00:00を回ろうとしていた。日中からそれだけ時間が経過しているにもかかわらず、昭弘は未だに頭の整理ができずにいた。

 

 ---時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

「『あいえすがくえん』?」

 

「そ!その名の通り、ISについてお勉強す場所だね☆「学校」ってヤツだよ。因みにISってのは、『インフィニット・ストラトス』の略称だよ!文字で表すと、こう書くの!!」

 

 学校と言う言葉は、昭弘も聞いたことがある。鉄華団の中にも、妹や弟を学校に通わせたいと言っている団員がチラホラ居た。将来社会に出るために必要なことを勉強する場であり、友達を作るための社交場でもあるとか。

 IS(インフィニット・ストラトス)に関しては、何か「人型のロボット」の様なモノなのではないかと、昭弘は推測する。先程、ロボットであるタロが自身のことをISと言いかけていたのが、その理由だ。

 

「・・・何故オレがソコに行かなければならないのか、理由を聞いてもいいか?」

 

「それは言えないなぁ~。」

 

「・・・ISについては?」

 

「それも言えなぁ~い☆」

 

 束の反応に、少しずつ昭弘の表情が険しくなっていく。

 

「・・・・・・もし、その申し出を断った場合は?」

 

「アキくんには悪いけど、無一文で出て行ってもらうかなぁ~。」

 

 束が普段と何ら変わらない口調で、昭弘にそう言い放つ。それを機に、先程まで和気藹々としていた雰囲気は一変する。昭弘は眉間に皺を寄せ、静かに束を睨みつけていた。タロも、万が一を警戒してか、束を庇うように位置を変える。

 この取引は、昭弘に選択の余地など無いに等しいものであった。

 そもそも昭弘は、この世界のことを何も知らないし、金銭も今現在は持ち合わせが無い。そんな状態でいきなり追い出されてしまえば、路上で野垂れ死ぬのが関の山だ。場合によっては、それこそ前の世界で言う『奴隷(ヒューマンデブリ)』のような立場に逆戻りしてしまう可能性だって有り得る。第一、この森の中から生きて出られる保障すら無い。

 昭弘は、この取引という名の「脅迫」に対して、「YES」と答えるしかないのだ。今現在昭弘の生殺与奪の権限は彼女達にあるということを、今更ながら昭弘は思い知ることになった。

 だからこそ昭弘は、自身を脅してでも『IS学園』に入学させようとする束の思惑に強い警戒心を抱いていた。そこで自分に()()()()()つもりなのだと。

 しばらくの間睨み合いが続いたが、やがて束の方が先に口を開く。

 

「はぁ・・・。一応言っとくけどさぁ、別にそこで「人殺し」をしろとか、「何か盗んで来い」って訳じゃないからねぇ?」

 

 昭弘は束の今の言葉を全面的に信用した訳ではないが、取り敢えず少しだけ警戒心を緩めることにした。

 

「それに、アキくんにもちゃんとメリットがあるんだよ?例えばその背中の『阿頼耶識』。」

 

 そう言われて、昭弘は無意識に背中の阿頼耶識を指でなぞる。

 

「実はさっきアキくんの話を聞いて、束さん閃いちゃったんだよねぇ!その『阿頼耶識』を上手く使って、アキくんに「いい思い」させてあげられるかもよ?

 

 束はそのまま続ける。

 

「それにそれにぃ!そこの「教師」には束さんの()()()もいるから、色々とアキくんの助けになってくれると思うよ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当デスヨ?》

 

「オイゴラクソガキ。何だそのまるで束さんに友達がいること自体疑わしいみたいな目は。あとタロ、お前もアキくんの表情だけで察してんじゃねぇよ解体すんぞ。」

 

 まんまと己の心中を見透かされた昭弘。

 束の交友関係はともかくとして、昭弘は今から束の条件を飲まなければならない。それしか選択肢が無いという以外にも、昭弘は此処で一ヶ月間束たちに世話になっているのだ。その恩は返したい。それに、束の言う「いい思い」というのは詳しくは分からないが、昭弘にもメリットがあるというのは確かな様だ。それでも昭弘は・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・スマン。丸一日考えさせてくれないか?」

 

「いいよぉ別に。どうせ答えは変わらないだろうしね☆」

 

 いくら選択肢がそれしか無いと言っても、昭弘も所詮は人間だ。この選択によって、自身の今後の生き方が決まってしまう可能性だってある。そう考えると、「YES」と答えるにはどうしてもためらいが残るのだ。それに、昭弘自身も今持っている情報と考えを整理した上で引き受けたいと思っていた。

 

「じゃ、明日の朝までには答えを決めといてね!それまでに決まっていなかった場合は「NO」と見なすね☆」

 

 

 

 その後、束は他のゴーレム達や同居している盲目の少女『クロエ・クロニクル』を昭弘に紹介した。

 束としては、どうせ昭弘は引き受けると思っているので、今の内に自身の仲間(メンバー)を紹介しておこうといった腹積もりであった。昭弘自身も、ゴーレム達と共に身体を慣らしたり、『昭弘式』の筋トレをしながら頭の中を整理していった。

 

 

 

 

 

 そうして、現在に至る。実際、昭弘の頭の整理は凡そできていたが、それでも昭弘は悩みが拭えなかった。自身が今何に悩んでいるのか、それすらも解らなかった。しかし、その原因が束にあることは分かっていた。(彼女)の「目的」が何なのか、それがどうにも昭弘は気懸りでしょうがないのだ。まるで、自身の脳内を得体の知れない何かが這いずり回っている様で気分が悪くなってくる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・オルガ」

 

 ふと、そんな名前を昭弘は口にした。

 

オルガ・イツカ』。

 

 前の世界で鉄華団の団長を務めていた男であり、昭弘を『ヒューマンデブリ』という鎖から解放してくれた恩人でもある。

 『決して止まらない男』。それが、昭弘のオルガに対する人物像だった。鉄華団(かぞく)にいい思いをさせてあげたい、安寧を与えてやりたい。しかし、それらを手に入れるには戦争する(たたかう)しかない。そして戦争すれ(たたかえ)ば、当然のごとく鉄華団(かぞく)が死んでいく。そんな矛盾に悩みながらも、オルガは突き進んで行った。

 昭弘は、そんなオルガを心から尊敬していた。常に鉄華団(オレたち)のために悩み、そこから最善の答えを出して突き進む。

 今思うと本当に凄い男だったんだなと、改めて昭弘は思う。何故なら、その昭弘も今「悩んでいる」からだ。自身の悩みなんて一つしか答えの無いちっぽけなモノだ。それでも、独りで悩むことがこんなにも大変だなんて思いもしなかった。それをオルガは、いくつも答えがある中から何度も悩んで選び抜いてきたのだから、昭弘にとっては途方も無いことだった。

 だから昭弘は、無意識にオルガという名前を発したのかもしれない。「オルガの悩みに比べたら、自分の悩みなんてまるで大したことなど無い」と、自分を鼓舞するために。

 そしてそれを機に、昭弘の脳内を這いずり回っていたモノは、きれいさっぱり無くなってしまっていた。

 

(束の目的が何かは知らんが、それでも・・・・・・。)

 

 一つ息を溜めた後、昭弘は普段の仏頂面を崩して静かな笑みを浮かべた。その目からは、この世界で生きていくという揺るがない「覚悟」が滲み出ている様にも見えた。

 

()()()()()()()()解からない。そうだろ?オルガ・・・。」

 

 

 

 

 ーーー翌朝A.M.09:00ーーー

 

 束は気分を高揚させながら、猛ダッシュで昭弘の部屋に向かっていた。今回は一対一で昭弘と話したいという束の命令で、他のゴーレム達は昭弘と話したい気持ちを我慢しながらそれぞれの持ち場に就いていた。

 

早く教えたい早く訓えたい早く教えたい早く訓えたい早く教えたい早く訓えたい早く教えたい早く訓えたい早く教えたい早く訓えたい早く教えたい早く訓えたい早く教えたい。

 

 そんな想いで頭を埋め尽くしながら、束は昭弘の居る部屋のドアを勢いよく開ける。

 

「アキくん!!オッハヤンベェ~~~~!!!!!!さぁ!答えを聞かせてもら・・・ってウゥオォッ!!!???」

 

 ドアの向こうには、上半身裸で腕立て伏せに勤しんでいる昭弘の姿があった。

 

「フンッ・・・おおフンッ・・・束かフンッ・・・お早うフンッ・・・」

 

 これは余談だが、束は男性の裸体にはまるで慣れていない。

 基本的に一日中自身のラボに籠りながら研究をしており、話し相手といえばゴーレムかクロエ程度しか居ないのだ。しかも、よりによって相手はハリウッドスター顔負けの鍛え抜かれた筋肉を持った昭弘だ。昭弘の裸体をなぞる汗という名の雫のオプション付きまである。

 

「フンッ・・・良し、こんなもんか。ん?どうした、何故隠れる?」

 

 束は兎耳だけを覗かせながら、部屋に入ってこようとしない。

 

「ああ、えっとその・・・まぁ、うん、アレだ。今の君の姿は束さんの目に毒だから、取り敢えず・・・シャワー浴びてきたら?」

 

「?・・・じゃあそうさせてもらうが・・・。」

 

 

 ---15分後ーーー

 

 

「ほい!そんじゃ気を取り直してぇ!!君の答えは「YES」ってことでいいよね☆」

 

「ああ。入学するまでの間、よろしく頼む。」

 

「こちらこそよろしく!!」

 

 昭弘が右手を差し出すと、束も右手を差し出して、二人は「固い握手」を結んだ。

 

 

 

 

 

 

 その後、束は早速、ざっくりとではあるがISのことについて話した。

 

ーーー『IS(インフィニット・ストラトス)』とは、束が開発したマルチフォームパワードスーツであり、女性にしか扱えないということ。

ーーー今現在ISは世界最強の兵器として台頭しているということ。

ーーーISが女性にしか扱えないというのもあって、世界の大部分には『女尊男卑』という風潮が蔓延しているということ。

ーーー原初のISによって引き起こされた『白騎士事件』によって、凡そ2000発もの弾道ミサイルが無力化され、核兵器の存在意義が極めて薄くなってしまったということ。

ーーーISには『ISコア』というモノがあり、それが全世界で467機しか存在しないということ。束ならコアは簡単に作れるが、“ある理由”で現在は生産をストップさせているということ。

ーーー束自身が指名手配の身であるということ。とてもそうは見えないが。

ーーーそして、『少年兵』と呼ばれる兵士たちの変化。

 

「とまあ、ざっくり説明するとこんな感じ。何か質問はある?」

 

 正直何を質問すればいいのかも分からない昭弘だったが、一つだけ思いついたことを質問した。

 

「女性にしか扱えないってことは、オレはIS学園に整備士として入学するのか?」

 

「よくぞ聞いてくれたッ!!結論から言うと、アキくんも『IS乗り』として入学してもらうよ☆」

 

 それを聞いて、昭弘は混乱の眼差しを束に向けるが、一先ず最後まで聞くことにした。

 

「ほら!昨日束さんがアキくんに「阿頼耶識を使ってうんたらかんたら」って説明したじゃん!アキくんの阿頼耶識を通じて、アキくんにしか扱えない『トンデモなIS』を創り上げてあげるよぉ!!」

 

 昭弘はそれを半信半疑で聞くが、次の質問に移ることにした。

 

「・・・何故ISは女性にしか扱えないんだ?」

 

「束さんがそう設定したからだよ?」

 

「?・・・・・・何故そんなことを?」

 

「別に大した理由は無いよ?ただ、この世界では、長きに渡って「男尊女卑」の風潮が続いていたから、そろそろ女性が世界に台頭してもいいんじゃないっていう短絡的な考えだよ。ま!単に面白そうだからっていうのが本音だけどね☆」

 

「逆に言うと、束さんならいくらでも男性でも扱えるように設定し放題って訳!!まぁメンドクサイからやらないけどぉ。因みに、無人のISを作ることも余裕だよ!タロ達がそのいい例だね!!」

 

 昭弘はそれを聞いて、更に一つの疑問が浮かんだ。

 

「・・・じゃあ何故態々オレの阿頼耶識を使う?男性にも使えるように設定できるのなら、最初からそうすればいいんじゃないのか?」

 

 昭弘の質問に対して、束は怪しい笑みを浮かべながら返した。

 

「フッフッフ☆実はアキくんの阿頼耶識、束さんの考えが正しければ、ISと直接「繋ぐ」ことによって爆発的な性能を引き出せるかもしれないんだよねぇ!」

 

 束のその言葉で、昭弘は背中から生えている二本の阿頼耶識をまたもや無意識に触る。

 昭弘にとって、この阿頼耶識は自身の“分身”と言っても過言では無かった。阿頼耶識(こいつ)があったから鉄華団を守れた。阿頼耶識(こいつ)があったから自分自身を守れた。阿頼耶識(こいつ)があったから最後まで戦い抜くことができた。

 昭弘は、最初は無理やり埋め込まれた阿頼耶識(こいつ)をいつしか誇りに思うようになった。だからか、また阿頼耶識(こいつ)を役立てることができると思うと、自然と笑みが零れたのだった。

 

「そいつはまた・・・嬉しいな。」

 

 

 

 その後は、IS学園の話に変わった。

 

「そういや、アキくんは大丈夫?IS学園は女の子しか居ないけど、そこら辺の抵抗とかない?」

 

「そこん所は問題無いとは思う。前の世界では鉄華団(オレたち)は女性ばっかの船団とも交友があってな。オレもよくそこで、色々と世話になることが多くてな。」

 

「「色々と世話になった」!?あっ、えっ、その・・・アキくんてやっぱり・・・。」

 

 束は顔を真っ赤にしながら、とんでもない勘違いを口にする。

 

「・・・・・・いや、違うからな?」

 

 さすがの昭弘も、束の反応に察して訂正した。

 

 その後は、IS学園にいるという束の友人や、自身の最愛の妹について束が長々と話した。特に妹の話は長く、ほとんど妹の自慢話みたいなモノだった。いつまでも妹の話ばかりする束に段々うんざりする昭弘を他所に(よそに)、束が思い出したように口を開く。

 

「あ!そうそう!!実はアキくん以外にももう一人『男性IS操縦者』が見つかっているから、一応伝えとくね!!その子、ISの試験会場に偶然入り込んで偶然発動させちゃってさぁ。何故その子が動かせたかっていう理由はその・・・まぁ・・・お恥ずかしい話なんだけどね・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コアの初期設定を間違えちゃった☆」

 

 それを聞いて、昭弘は大げさにズッこける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昭弘との話が一段落して、束はラボの廊下をタロと一緒に歩いていた。結局束は、自身の『目的』までは昭弘には話さなかった。

 それでも、これから昭弘には頑張ってもらわなければならない。束のある『計画』を実行するためにも。昭弘と阿頼耶識は、束にとってはそれだけ重要な「キー」なのだ。

 暫く歩いていると、タロが束に話しかける。

 

《束様・・・ソノ、ヨロシイノデスカ?“真実”ヲ伝エナクテ・・・》

 

「んー?いいよ“あの真実”は伝えなくても。その方が束さんにとって都合がいいし。」

 

 束はこの『計画』を必ず成功させねばならない。自身の『夢』である『ISを宇宙に羽ばたかせる』ことを実現するためにも。

 今のISはただの『兵器』に過ぎない。束はそんなことの為にISを創ったのではない。そんなことの為に『白騎士事件』を起こした訳ではない。束はそんな今の世界が、憎くて憎くて仕方がなかった。だから・・・・・・・・・・・・。

 

「必ず成功させるよ。この『計画』を。」

 

 束のその目は、昭弘がこの世界で生きていくと決心した時と同様、いやそれ以上の「覚悟」がにじみ出ていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーそれこそ、「どんな犠牲でも払う」と言わんばかりの。




 めっちゃ長くなった・・・。多分毎回これくらいの長さになるかと思われます。
 クロエとの絡みは、別の話で過去回想みたいな感じで出したいと思います。少年兵云々についても同様です。

 束さんの企みについても、凡そ考えが纏まっておりますので、乞うご期待ください。
 
 そしてやっと次回からIS学園入学です。・・・長かった・・・。皆さん是非楽しみにしていてください。


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第一章 の1 IS学園~入学~ 第3話 憂鬱の大和撫子

 皆さんお待たせしました。まさかここまで長くなるとは思いませんでした。
 一応昭弘と箒がメインの回です。
 相変わらず設定とか話の構成とかクッソガバガバですが、気になることがありましたらご指摘ください。


 ーーーーー2022年4月8日 金曜日ーーーーー

 

 IS学園正門前は、喜々として学園校舎に足を運ぶ新入生で賑わっていた。しかも()()全員女子というのもあってか、より一層の賑わいを見せていた。しかし中には、緊張と不安からか強張った表情を見せる生徒も少なくは無かった。昭弘もまた、IS学園の正門前まで来ており、白を基調とした襟の黒い制服を身に纏っていた。そこで彼は立ち止まり、仏頂面のまま半分程口を開けて、正門奥に広がる建物を眺めていた。

 

(確か、「校舎」って言うんだったか。)

 

 昭弘は、束から学問のことや「文字」等は、短期間で粗方叩き込まれており、「校舎」のような学校に関する単語も大体は教わっている。それでも、昭弘は実際に学校というものを見て、つい立ち止まってしまった。正門前から見た限りでも真っ白な直方体の建物がいくつも並んでおり、晴れているためか直方体の建物に規則正しく並んでいる窓は、水色に彩られていた。校内を囲う様に並んでいる柵沿いには、桃色の花びらで彩られた木々がこれまた規則正しく並んでいた。

 

(これが「桜」か。ちと満開にはまだ早いみたいだが、それでも奇麗なモンだな。)

 

 昭弘は、未だ正門の奥に足を踏み入れていないにも関わらず、真新しいことだらけの「学校」に先程から驚かされっぱなしであった。束の研究所(ラボ)ともまるで違う、前世では見たことも無いような景色ばかりが、昭弘の眼前に広がっていた。

 実は昭弘は、学校という場所に密かに憧れていた。彼は前世において、家族や仲間は居ても「友」は居なかった。鉄華団も、彼にとっては家族という認識が非常に強く、友という認識は持ち合わせていなかった。『三日月』という例外も居たが。学問に関しても同様であり、彼は今まで肉親の仕事の手伝いと、戦場での命のやり取りしかしてこなかった。だから、束からスパルタ教育を受けた際も、辛いというよりは「新鮮」といった気持ちの方が強かった。今まで知らなかったことを知るというのが、こんなにも気持ちのいいことだとは思わなかった。だからこそ、この「学校」という場所に眠る“未知”を、昭弘は早く知りたいと思っているのかもしれない。

 昭弘がようやく校内に足を踏み入れてから数歩進むと、周りの女子生徒達が急に静かになった。代わりに、彼女たちの間で小さな言の葉が紡ぎ出されていく。

 

「えっ?男子!?何で・・・?」

 

「あれってIS学園(ここ)の制服だよね?」

 

「じゃああの人男性なのにIS動かせるの?」

 

「ホラ、この前ニュースでやってたじゃん。二人目が出たって。」

 

「デッカ・・・というか顔怖っ!」

 

「180以上あるんじゃない?」

 

「うわぁちょっとタイプかも・・・。」

 

 当然のことながら、昭弘ももう一人の方も有名人である。世界初の男性IS操縦者として、全世界でニュースになっているので、知らない生徒の方が少ないと言えよう。尤も、昭弘の場合は()()()()()()()()()()()のだが。

 それはさておき、全校生徒の中で、男子は昭弘ともう一人の二人のみ。そして少なくともこの周辺には、男子は昭弘しか居ない。しかも昭弘は自他ともに認める巨躯の持ち主であり、周囲の視線を集めるのは最早道理と言えた。流石の昭弘も、ここまで多くの女子生徒からの視線を受けるのは少々むず痒い気持ちになった。

 

 むず痒い気持ちを抱えながら、昭弘は少しずつ「昇降口」に近づいていった。昇降口前にも、正門と同様スーツ姿の女性達が新入生を出迎えていた。アレが束の言っていた「先生」という人達なのだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、ふと後ろから声を掛けられる。

 

「おい、そこの。」

 

 ーーーーーーーその声を聞いた途端、昭弘の頭の中から一瞬で思考の渦が消えた。渦が消えて頭の中が真っ白になった直後、ある女性の姿が浮かんでくる。鉄華団と親交が深かった『タービンズ』という女性ばかりの船団。その船団の中で、一際活気のある金髪でツインテールの女性パイロットが居た。そのパイロットは、昭弘が三日月以外で唯一背中を預けることができ、そして昭弘が生まれて初めて「異性」として意識した女性だった。忘れもしない、「あの日」彼女は敵対派閥に撃ち殺されてしまったはずだ。ーーー否、だからこそ彼女もこの世界に来ているのではないか?自分だって死後、この世界に来たのだ。もしかしたら・・・もしかしたら・・・!

 一瞬の内にそんな淡い期待を織り交ぜながら、昭弘は遂に後ろを振り返りながら、叫んだ。

 

「ラフタッッッッ!!!!」

 

 そう叫んだ後、昭弘が()()()のと、その少女が反応を示すのはほぼ同時だった。

 

「!?・・・・・・ラ、ラフタ・・・とは、私のことを言っているのか?」

 

 無論、昭弘のそんな淡い期待が当たるはずもなく、相手は別人だった。長い黒髪を頭頂部と後頭部の間位で纏めており、身長は女子にしては若干高めだろうか。鋭く、それでいて真っ直ぐな目をしていた。

 唯でさえ目立つ昭弘が突然叫んだので、生徒も教職員らしき人達も皆一斉に昭弘に視線を移す。しかし、昭弘はそんな視線を気にすること無く、まずは人違いをしてしまった相手に謝罪をする。

 

「・・・すまない、人違いだった様だ。いきなり叫んで悪かった・・・。」

 

「い、いや、こちらこそ、いきなり呼び止めてしまって悪かったな。」

 

 その後、一応周りの人々にも「驚かせてしまってすまなかった」と謝罪の言葉を贈った。

 

「ところで、オレに何か用か?」

 

「いや、特に大した理由ではないのだ。もう一人の男性IS操縦者が、どんな奴なのかずっと気になっていてな(一夏(アイツ)のライバルになるやもしれんしな)。」

 

「成程な・・・ん?その口ぶりだと、もう一人の方には興味が無いのか?それとも知り合いか?」

 

 昭弘はつい気になってしまったことを女子生徒に尋ねる。

 

「なっ・・・!・・・・・ああ!そうとも!!一夏(あんなやつ)のことなんて知らん!!」

 

 何故か顔を赤らめながら否定する女子生徒。反応からして、やはり知り合いなのだろうか。

 

「そういや、自己紹介がまだだったな。もうニュースとかで聞いているかもしれんが、『昭弘・アルトランド』だ。もし同じクラスだった時は、よろしくな。」

 

「よろしく頼む、アルトランド。・・・・・・私は・・・『箒』だ。すまない、苗字は、その・・・余り人に言いたくないんだ。」

 

 その名前を聞いて、昭弘は「もしや」と感じた。髪型や目つき、身体的な特徴も『束の妹』と合致する。もし彼女が()()なのだとしたら、苗字を言いたくない理由も納得できる。当の束は、良くも悪くも「指名手配犯」なのだから。

 

「そうか、気にするな箒。オレもさっき、大声で叫んじまったからな。これで「お相子」というヤツだ。」

 

「そう言って貰えると、助かる。」

 

 そんな会話を繰り返しながら、二人は入学式を行う「体育館」に向かっていた。昭弘は、基本的に口数は少ない方だが、だからと言って折角の学校で誰とも関われないというのも寂しい話だ。無口な昭弘なりに、交友関係はできれば深めていきたいのである。束のことは抜きにして、此処で箒と出会ったのも何かの縁だと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式も終わり、1年1組の教室には既に大勢の生徒が集まっていた。『SHR(ショートホームルーム)』という、短めの学級活動が間も無く始まろうとしているのだ。別名『朝の会』とも言うらしい。その教室は、喧騒とは少し違う異様な雰囲気に包まれていた。その原因は、本来なら女子生徒しか居ないはずの教室に“居る”二人の男子生徒だろう。

 二人の男子生徒の内の一人、『織斑一夏』は、落ち着かない雰囲気を醸し出しながら、最前列中央の席で両手を組んで座っており、顔色も少々青ざめていた。男子が自身ともう一人しか居ない現状では、それも致し方ないことだろう。身長は、この国『日本』における平均的な男子高校生のそれと同じくらい。黒髪で、顔立ちも非常に整っていた。その外見もあってか、周りの女子生徒からは興味と羨望と欲望が入り混じる熱い視線を受けていた。

 対するもう一人、『昭弘・アルトランド』は険しい顔で『ISに関する参考書』を読んでいた。「電話帳」と同じくらいの分厚さがあるその参考書には、赤・青・黄三色の付箋がいくつも貼られていた。こちらは比較的落ち着いた様子で、座席は一番後ろの扉側。身長は180cm後半くらいの巨躯で、全体的にガッシリとした体つきをしていた。黒の短髪で太い眉毛、睨まれたら身が竦んでしまいそうな鋭い眼光。そして、制服越しでも判る程の背中上部の“突起の様な膨らみ”。それだけ特徴を持っているにも拘わらず、一夏とは対照的に誰からの視線も受けていなかった。もっと正確に言えば、チラリと視線を一瞬向けられる程度だった。その巨体に険しい顔つき、何より纏っている「雰囲気」がまるで普通の高校生とは異なっていた。少なくとも、「普通の世界」を生きていたらこんな雰囲気は出せないという程に。そんな相手に、熱い視線を送ることなど当然憚れるものだろう。一夏に対する視線が「興味・関心」だとするなら、昭弘に対する視線は「警戒・恐怖・若干の興味」といったところだろう。

 そんな女子生徒達の抱く様々な感情が入り乱れることによって、言いようのない空気が教室中に流れていた。

 

 そんな中、1年1組の副担任教師である『山田真耶』女史が入室すると、先程まで教室中に流れていた会話がピタリと止んだ。

 

「皆さん!初めまして!これから一年間此処『1年1組』の副担任を務めさせて頂きます、『山田真耶』と申します!よろしくお願いしますね!」

 

 ーーーーー沈黙・・・の中で一人だけ「よろしくお願いします。」と返す者が居た。昭弘である。彼は、当然だがこの「教室」という空間に慣れていない。だからか、良くも悪くも空気が読めないのだ。しかし、束から「先生には基本敬意を払うように☆」と教わっているので、昭弘としてはそれに従っただけだった。それ故に、何故周囲の視線が自分に集まっているのか、昭弘には理解できなかった。

 真耶は少々気まずい空気が漂う中、一先ず自己紹介を始めるように促す。

 

「えっと・・・それじゃあ先ずは自己紹介から行きましょうか。」

 

 そこから、順々に自己紹介が行われていき、2名が終わったところで直ぐに昭弘の番となった。

 

「それでは続いて、出席番号3番『昭弘・アルトランド』くん、どうぞ!」

 

 呼ばれたので、ゆっくりと席を立つ昭弘。軽く見回してみると、先程出会った箒を見かけた。同じクラスであることを幸運に思いながら、昭弘は自身の自己紹介に入る。

 

「昭弘・アルトランドだ、よろしく頼む。出身国は()()『日本』だ。先ずは皆に説明しておくことがある。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーさてと!取り敢えずアキくんには、IS操縦者と してではなく、正確には『MPS(モビルパワードスーツ)操縦者』としてIS学園に入学してもらうよ!

ーーー『MPS』ってのは、さっきお前が説明した、「少年兵達に秘密裏に出回っている」っていうアレだな?

ーーーそ!まぁ実際は連中のクッソ出来の悪い『擬似ISコア』じゃなくて、束さんお手製のちゃんとしたISコアを使ったヤツだから、実質ISなんだけどね☆

ーーー・・・なんで態々そんなことを?

ーーー世間は今、ISのおかげで『女尊男卑』の風潮が強いってのは説明したよね?男性よりも女性の立場が強い社会。そんな状況で『男性のIS適合者』が見つかったら、どうなると思う?

ーーー・・・・・・・・・何となくだが、その男性IS適合者に「良からぬこと」が起きるような感じか?

ーーーま、そう思って貰っていいよ。例えば「強い権力を持った女尊男卑至上主義者の手先に暗殺される」とか、「過激な男尊女卑復古主義のグループに誘拐されて洗脳される」とか、結構あり得る話だと思わない?因みにもう一人の『男性IS適合者』である『織斑一夏』くんは、姉が物凄い力を持った人だから、変な小細工は必要ないって感じかな!!

ーーー・・・『MPS』はその「隠れ蓑」って事か?

ーーーソ☆MPSは現在開発段階の擬似ISコアで、しかもその操縦者の肉体に『人体改造』を施すっていう「劣化品」ってことにすれば、少なくとも女尊男卑主義者たちは見向きもしないんじゃない?

ーーーだがそれで本当にIS学園に入学できるのか?それに入学したら直ぐバレるんじゃないか?

ーーーそこん所は束さんが()()()()()()をしとくからダイジョブ!!んで、入学の名目は「崇高なISから色々と学ばせてもらう」みたいな感じでーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(本当にそれだけが理由なのか?)

 

 そんなことを考えながら、昭弘は自身の説明に入る。

 

「みんなもうニュースを見てるかもしれないが、オレはMPSの研究の為に、この学園に入学している。だから基本的に、実技などもオレ専用のMPSを使わせてもらうことになる。まぁ性能面で皆に迷惑をかけないように努力はする。これから一年間、よろしく頼む。」

 

 

 昭弘の所属する企業は、『T.P.F.B.(To People Free Body)』という名の企業で、主に中東やアフリカで活動している。「自由な身体を人々に」という名の通り、()()()は戦争で身体の一部が欠損してしまった孤児や少年兵を保護している団体に、安価で高性能の義足等を提供している。

 しかしその「本業」は、少年兵を抱える複数の傭兵団と秘密裏に交渉し、その少年兵達にMPSと接続させるための人体改造手術を行っている。手術に成功した少年兵は、MPSごとその傭兵団に引き渡し、手術台も含めて多額の「使用料」を頂戴する。手術に失敗した少年兵は、機密保持のためにその場で殺処分されるが、年々手術の成功率は少しずつ上昇している。MPSという名の兵器を傭兵団に提供していることを考えれば、最早「武器商人」と言った方が正しい。傭兵団にとっても、高額とは言えMPSという強大な戦力が手に入るので、T.P.F.B.のような組織を極めて重宝しているのだ。MPSは、現時点ではISよりも性能面では遥かに劣るものの、戦闘ヘリ以上の機動性・防御力・攻撃力を持っており、コストパフォーマンスも悪くない。

 そして何よりも皮肉なのは、少年兵にとってもメリットがあるのだ。手術に成功さえしてしまえば、MPSという強力な装甲が手に入り、戦場での死亡率が格段に低くなるのだ。しかも、傭兵団という組織内でも、貴重な戦力として上等に扱ってもらえるようになる。それこそ扱い方を誤れば、MPSによる謀反を起こされかねない。

 尚、阿頼耶識システムに使われている生体ナノマシンは、「成長期の子供」にしか定着しないそうだ。

 

 昭弘の場合は、家族と海外旅行中に武装テログループに遭遇。両親と弟は殺され、昭弘は武装テログループに誘拐され、少年兵に仕立て上げられる。戦場で左脚を負傷し、使い物にならなくなったのでその場で見捨てられる。

 そんな時、T.P.F.B.に保護されたが、彼らが最善を尽くしても左脚は動かず。その為、脊髄に特殊なナノマシンを注入し、そこから生えてきた突起物に特殊な電気信号を定期的に流すことで、左脚を見事蘇生。

 その後、その突起物先端のピアスから『新たな物質』が発見され、その物質を研究する過程で『MPS』が創られた。T.P.F.B.は「このMPSを、ISの様に人の役に立たせたい」という理由で、昭弘をIS学園に入学させた。

 ・・・というのが、束とT.P.F.B.で考えたシナリオである。

 

 

 さて、昭弘の自己紹介も終わり、その後もスムーズに各人の自己紹介が続いていき、織斑一夏の番がやってきた。ボーッとしていたのか中々反応しない一夏に対し、真耶が涙目になり、一夏は慌てて真耶に謝罪する。

 

「えーっと・・・織斑一夏です。・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上です!」

 

 ズコーッ。

 

 昭弘も含め、クラス中の生徒が拍子抜けたように態勢を崩す。直後ーーー

 

「イテッッ!!」

 

「自己紹介もまともにできんのか馬鹿者。」

 

 一夏の頭上に出席簿が振り下ろされる。1年1組の担任である、『織斑千冬』女史が、遅れて教室に入ってきたのだ。どうやら、職員会議とやらが長引いてしまったようだ。

 

「ゲッ!千冬姉!!イッ!!!」

 

「『織斑先生』だ馬鹿者。山田先生、いきなりクラスのことを任せてしまい、申し訳ない。」

 

「いえいえ!お気になさらないで下さい!」

 

 真耶に一礼すると、千冬は教壇に立ち、再びクラス全員に向き直る。

 

「私がこれから一年間、諸君の担任を務める『織斑千冬』だ。私の役目は、未だ15歳のお前達を16歳にまで鍛え上げることだ。私の言うことには逆らってもよいが、逆らうならばそれ相応の覚悟をしておくように。」

 

 千冬の自己紹介が終わった瞬間、今迄惚けた顔で千冬を眺めていたクラスメイト達が、一斉に黄色い歓声を上げた。流石の昭弘でも、思わず両耳を人差し指で塞いでしまう程の声の波だった。耳を塞いでいるにも拘らず、「キャーーーーー❤️」とか「もっと罵ってーー❤️」といった少女達の声が昭弘の指を貫通して耳の奥に響く。実際に千冬は、頭に「超」が付く程の有名人なのだから、仕方の無い反応かもしれないが。そう、彼女こそ、この惑星において最強のIS使い「織斑千冬」。通称『ブリュンヒルデ』とも呼ばれている。

 当の千冬は、そんな生徒達に呆れ果てた反応を示すと、神妙な面持ちとなって昭弘の方に顔を向ける。

 

「すまないな、アルトランド。本来なら私が君のことを皆に説明せねばならなかったのにな。」

 

「あ、いや・・・気にしねぇで下さい。」

 

 まだ若干ぎこちない敬語で、そう返す昭弘。一応、千冬だけは束と昭弘の交友関係を知っている。と言っても、束から「アキくんは束さんとは旧知の間柄だから色々とサポートよろ~☆」程度のことしか知らされていない。無論、束とT.P.F.B.の関係も一切知らない。

 

 その後も自己紹介は続いていき、今度は箒の番まで回ってくる。その表情は、昭弘から見ても決して明るいと言えるものではなかった。まるで、クラスメイトに知られたくないことでもあるかの様な、そんな表情だった。

 

「皆さん、初めまして。・・・・・・「篠ノ之箒」です。」

 

 その名前を聞いた瞬間、教室中で少なくないざわつきが起きた。

 

「もう皆さんも察しが付いてるかと思いますが、私は「篠ノ之束」の妹です。その・・・・・・以上です。」

 

 それ以上言葉が見つからなかったのか、もう何も言いたくなかったのか、箒はそれだけ伝えると自身の席にゆっくりと腰を下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 SHRも終わり、短い休み時間がやってきた。各々がグループを作り、そのグループ内で会話のキャッチボールを繰り返している。

 箒も、一夏に話しかけようとするが、当然彼の周囲には人だかりができていた。自身の想い人を囲ってキャイキャイと質問を投げかける女子達を忌々しく思いながら、箒は教室を後にする。しかし、箒は内心一夏と話さないで少しホッとしているのだ。先程の自己紹介の件で、今自分がどんな顔をしているのかは容易に想像できる。今の自分の醜く歪んだ表情(かお)を、一夏に見せたくない。折角数年ぶりに逢ったのだ。一夏の前では凛々しく、美しい表情(かお)でいたい。そんな儚い乙女心が、今の箒にはあった。

 人通りの少ない廊下でそんな物思いに耽っていると、教室の方から巨大な影が近づいて来た。ここ数時間で随分と見慣れた影だった。

 

「・・・まともに自己紹介もできない私を笑いに来たのか、アルトランド。」

 

「・・・そこんところは織斑も一緒だろ。」

 

 昭弘に仏頂面のままそう返されて、大きく視線を逸らしながら、箒は続けた。

 

「だったら、理由もなく私に近づかない方がいい。お前まで好奇の目に晒されるぞ?」

 

「生憎、もう晒されてるんでな。今更多少好奇の目が増えようが変わんねぇだろ。」

 

 その後、少しの間を置いて、昭弘は言葉を連ねた。

 

「・・・なぁ、箒。」

 

「・・・何だ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・篠ノ之博士が憎いか?」

 

「ッ!・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・!憎い、憎いに決まっている!!あの人が『IS』なんて創らなければ、私たち家族は“離れ離れ”になることは無かった!一夏とも離れることなんて無かった!!私があの人の妹というだけで、こんな「特別視」されることも無かった!!私は「私」なのに!!!そして・・・・・・こんな風にすぐ姉のせいにする「自分」も嫌いだ・・・。」

 

 自身の想いを爆発させる箒。昭弘は、押し潰されそうになる自身の心を必死に保ちながら、箒の話を黙って聞いていた。昭弘は知っている。束がどれだけ(いもうと)のことを愛しているかを・・・どれだけ(いもうと)のことを心配しているかを・・・。ほぼ毎日の様に箒の話をし、その際少しでも昭弘が眠たそうな素振りを見せれば、胸倉を掴み「ちゃんと聞いてんのか?」と凄んで来るくらいだ。そのぐらい束は妹のことが大好きなのだ。

 ・・・昭弘は、箒にそのことを話したい。しかし、指名手配犯である束と自分の関係がバレれば、無用な混乱が起きるだけだ。昭弘にだってその位は分かる。

 やがて意を決したかのように、昭弘が重い口を開く。

 

「箒、お前が篠ノ之博士のことをどう思うかは、お前の自由だ。だがな、これだけは言わせてくれ。」

 

 そう言うと、昭弘は箒の顔を真っ直ぐに見据える。

 

妹のことを大切に思わない姉なんて、この世に存在しない。・・・オレはそう思う。」

 

「!・・・・・・知ったような口をッ!!」

 

「ああ、知ったような口かもな。けど逆に、篠ノ之博士は箒のことが嫌いだと、どうでもいいと、実際にそう言ったのか?」

 

 昭弘にそう言われて、箒は口を噤んでしまう。

 

「・・・人の想いなんて、解からないものさ。言葉にしてないなら、尚のことだ。オレも()()()()()()、そうだった。」

 

 昭弘も、この世界(ここ)に来るまで解らなかった。オルガがどんな想いで自分を鉄華団に引き入れてくれたのか。オルガが自分たちの為に、どれだけ思い悩んでいたか。

 

「それにな、オレはこうも考えているんだ。人が人を大切に思うのは「違う」からじゃないかって。自分とは決定的に違うモノを持っているからこそ、放っておけなくなる様な・・・・・・スマン、オレの頭じゃここまでしか説明できん。・・・さっきお前も言ったよな、「私は私だ」って。その通りだとオレも思う。そして、篠ノ之博士も、きっとそう在ることを望んでいるんじゃないのか?」

 

 人と人との「違い」によって、争いは起こる。それがどんどん広がっていき、紛争、戦争になる。しかし、その「違い」が無ければ、人が人に関心を示さなくなるのもまた事実だ。

 

(・・・・・・・・・・・・「違う」から・・・か。)

 

 押し黙る箒。しかし、先程のような陰鬱な表情は無くなっていた。

 

「・・・まぁ、言いたいことはそんだけだ。・・・・・・そろそろ5分前だ、1年1組(きょうしつ)に戻るぞ。」

 

「“昭弘”!!!!」

 

 箒の声でその名を呼ばれて、驚きながら振り向いてしまう昭弘。ラフタじゃないと頭では解かっていても、名前で呼ばれると心は機敏に反応してしまう。

 

「・・・その・・・・・・ありがとうな!」

 

 箒から感謝の言葉を送られ、昭弘もその仏頂面に微笑を浮かべる。二人は並びながら、1年1組(きょうしつ)に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 教室の目の前まで来て、箒はようやく一夏以外の男子を下の名前で呼んでしまったことに気づき、密かに顔を赤らめた。




 という感じの話でした。実際女子高に昭弘みたいな巨体の強面が来たら、最初はこんな感じの反応に・・・なるんじゃないかなぁと思いました。
 次回はあのイギリスのお嬢様がちょっかいをかけてきます。昭弘とはどういう関係になるのかは、皆さんのご想像にお任せします。
 あと、ちゃんと一夏と昭弘も次回から絡ませていきますのでご安心ください。


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第4話 英国貴族の逆襲(前編)

 不味い・・・投稿ペースがどんどん落ちている・・・。というか今回めちゃくちゃ難産でした。
 文字はやたら多いのに話が全然進んでないように見えるのは、私だけでしょうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーそういやさぁ、アキくんは平気なの?

ーーー何がだ?

ーーー背中の『阿頼耶識(ソレ)』隠さないで入学することになるけど、結構「変な目」で見てくる生徒もいると思うよ?私から頼んどいて何だけど。

ーーー・・・やっぱこの世界でも、()()()()()はあんのか?

ーーーまぁ、「差別」とまでは行かないとは思うけど、この世界における「普通の人間」は背中にそんなモノ付けないしね。

ーーー・・・・・・・・・平気かどうかは分からん、ただ・・・。

ーーーただ?

ーーーどの道オレは『阿頼耶識(コイツ)』を隠すつもりは端から無い。

ーーー・・・理由を聞いても?

ーーー阿頼耶識(コイツ)を付けていたのは、オレだけじゃない。鉄華団の大部分は、団長も含めて阿頼耶識(コイツ)を付けていた。そして、皆阿頼耶識(コイツ)に助けられていた。オレ達にとって阿頼耶識(コイツ)は、「誇り」とまでは行かなくても、大切な身体の一部なんだ。それを周囲の視線を恐れて隠すってのは、鉄華団(あいつら)に失礼だ。自分のことも皆のことも、蔑まれる対象だと認めてる様なもんだろ。

ーーー・・・やっぱアキくんて変わってるよねぇ~。

ーーーお前にだけは絶対に言われたくないんだが・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 1時限目開始の予鈴が鳴り響く中、昭弘が教室の引き戸に腕を伸ばすと、中から一人の女子生徒の声が異様にはっきりと聞こえてきた。それ程大声という訳でもないが、声質には多少の憤りの感情が乗っている様に感じられた。疑問に思った昭弘と箒は、戸を引いて教室内を伺う。そこには、一夏に詰め寄っている一人の女子生徒の姿があった。

 昭弘から見るその少女の外見は、髪色は金色で先端がドリルの様になっている髪を下に向けており、身長は高くも低くもないといった感じだ。服装は他の生徒のそれとは少々異なり、少し長めのスカートを穿いていた。青い瞳がよく目立ち、前頭部には青い飾り物のようなのを付けていた。顔は・・・恐らく美人?に入るのだろう。

 

「いや、そもそもオレ君が誰だか知らないし。」

 

「まぁ!このイギリスの代表候補生である『セシリア・オルコット』を知らないとおっしゃるのですか!?」

 

 先程から明らかに困惑の表情を見せている一夏。昭弘は、その巨躯をゆっくりと一夏とその少女『セシリア』の方へと向かわせる。その昭弘の動向を、周囲の女子達は不安気な表情で凝視している。

 昭弘としては、一夏とは仲良くやっていきたいと思っていた。折角の高校生活だ、男友達が一人も居ないなんて昭弘にとっても寂しすぎる。

 

「オイ、何があったか知らんが、予鈴も鳴ったろ?その辺にしとけ。」

 

 一夏を庇う様に、二人の間に割って入る昭弘に対して、セシリアは、一夏に対してのソレとは比べ物にならない程の険しい表情で、昭弘を睨みつける。昭弘からすると、最早「敵意」に近い表情だった。それでも昭弘は、普段の仏頂面を崩さない。

 数秒程経つと、セシリアがゆっくりと口を開く。

 

「・・・あらあら、誰かと思えば()()()()()でしたか。」

 

 昭弘に対する第一声がソレだった。それは、箒の耳にも確かに届いた。当然だが箒は、先程からセシリアに対して多少なりとも憤りを感じていた。自身の想い人である一夏に馴れ馴れしく近づいているかと思えば、やたら高圧的な態度で一夏を上から見下ろしている。

 それだけなら、まだ辛うじて我慢できた。しかし、昭弘に対しては最早「モルモット」呼ばわり。上から目線とかそういう次元ではない。先程から自身を何かと気にかけてくれている昭弘を、そんな言葉で貶したことが、箒は許せなかった。

 憤怒の表情を浮かべながらセシリアに迫ろうとする箒を、昭弘は左腕を翳して制した。

 

「・・・そいつはどういう意味か、聞いてもいいか?」

 

 当然の疑問を口にする昭弘。その疑問に、嘲笑しながら返答するセシリア。

 

「そのまんまの意味ですことよ。貴方、ニュース等ではT.P.F.B.に保護されたなんて発表されてますけれど、すべて偽りの情報ではありませんこと?」

 

 そう返されて、昭弘は表情を曇らせる。そう、確かにその情報は束とT.P.F.B.で考えたシナリオにすぎない。

 

「・・・証拠はあんのか?」

 

「そうだ!貴様の下らん妄想で、昭弘を貶めるな!!」

 

「ええ、確かに証拠はございませんわ。しかし、T.P.F.B.の黒い噂は私も聞いたことがあります。噂の中には、年端もいかない少年兵を使って、非道な人体実験をしてるなんていうのもございますわ。大方、貴方もその中の一人ではありませんの?」

 

 セシリアの言っていることは、証拠も何も無い、ただの噂にすぎない。しかし、事実であることに変わりはない(昭弘が施術を受けたこと以外だが)。昭弘も、これ以上口を出すつもりは無かった。昭弘は別に、自分がモルモットと言われたことは特に気にしていない。彼が気になったことは、セシリアがT.P.F.B.の「悪事」に関する証拠を持っていることだった。が、特に証拠を持っている様でもないので、後は自身への罵声罵倒を授業の本鈴まで聞いているつもりだった。

 ・・・・・・そう、それだけなら良かったのだ。それだけなら昭弘も特に思うことは無かった。この後、セシリアが去り際に発する「ある一言」さえ無ければ。

 

「まったく・・・もしそれが事実だとするならば、T.P.F.B.には憤りを通り越して、最早哀れみさえ感じますわ。背中にそんな薄汚いモノを施術してまで、ISに勝ちたいのかしら?」

 

 

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コイツ今なんつった?)

 

 

 

 その一言で、箒は遂に我慢できずにセシリアに掴みかかろうとする。一夏も、憤慨しながら立ち上がり、セシリアに迫ろうとする。

 が、二人の行為は()()で終わることとなる。その原因は昭弘にあった。もっと正確に言えば、昭弘が纏っているその雰囲気にあった。普段から鋭いその目つきは更に鋭さを増しており、眉間の皺はこれ以上ない位深く刻まれていた。口は閉じたままだったが、歯を食いしばっているからか、その両脇にある頬筋は歪な形に浮き上がっていた。両掌には堅い拳が握られており、指と指の間からは、爪が掌に食い込んでいるからか血が滲み出ていた。そう、だれの目から見ても明らかな程、昭弘はキレていた。

 そんな昭弘の禍々しい威圧感に、箒や一夏を含めたクラス中が、凍てついた様に動きを止めていた。中には、小刻みに震えだす者や、涙を浮かべる者まで居る程に。こんな巨漢が暴れだしたら、どうなってしまうのか?想像するだけでも身の毛がよだつ様な光景が、クラスメイト達の脳裏を過る。

 

 

 

              キーン、コーン、カーン、コーーーーン

 

 

 

 授業の本鈴が鳴ると同時に、クラスメイトはハッとして意識を現実に引き戻す。その直後、千冬と真耶が入室してくる。

 箒が昭弘の席をチラリと見ると、そこには普段の仏頂面の昭弘が座していた。

 セシリアはと言うと、昭弘の威圧に気づいていない為か、高慢ちきな表情を崩さずに自席に座していた。窓際の最前列という、昭弘とは丁度対角に位置する席であった。

 

「さて、では早速だが1時限目の授業を始める・・・・・・・・・と言いたい所だが、実は未だ決めていないことがあったのだ。」

 

 今思い出したかのように、一旦授業を中断する千冬。

 

「『クラス代表』についてだ。」

 

 千冬が発したその単語に、一夏が反応を示す。

 

「ちふ・・・織斑先生、クラス代表って何ですか?」

 

「簡単に説明すれば、一般的な学校で言う、「学級委員」みたいなものだ。違う部分と言えば、その学級の代表として、ISによる『クラス対抗戦』に出場するくらいか。」

 

「ちなみにこのクラス代表だが、一年間そのクラス全体の「指標」となる。つまり、クラス代表の実力次第によって、そのクラスへの評価が変わるという訳だ。まぁ、これに関してはそんなに構える心配はない。そのクラスに合った指導方針が為されると思って貰えれば良い。」

 

「無論、自推・他推は問わん。まぁ私としては自推してほしいが、他推された者も基本的に拒否権は無い。」

 

 千冬の説明を聞き、しばらくクラス中に沈黙が流れるが、一人の第一声を皮切りに次々と挙手の波が起きた。

 

「はい!織斑くんが適任だと思います!!」

 

「私も!」

 

「私も一夏くんがいいと思う!」

 

「・・・・・・ってオレかよ!?」

 

 まぁ当然こうなるのも無理はない。一夏は、全世界から注目されているただ一人の男性IS操縦者(イレギュラー)。しかも俗に言う「イケメン」でもある。

 今のところセシリア以外のクラスメイト一人一人の実力が分からないのだから、他推となれば、自身の興味がある人物に指を向けるものだろう。

 因みに昭弘は、誰からも推薦されることは無かった。先程の一件で、クラスメイトからはすっかり怯えられている様だ。

 セシリアもまた、クラスメイトからの印象が余り宜しくないのか、同様に推薦されることは無かった。昭弘に対してあれだけストレートに差別発言をしたのだから、こちらも当然と言えば当然だが。

 

「お待ちくださいまし!納得が行きませんわ!!」

 

 抗議の声を上げたのは勿論、セシリアであった。千冬はセシリアの声に耳を傾ける。

 

「実力から言って、イギリスの代表候補生であるこのセシリア・オルコットが、クラス代表を務めるのは明白。それを偶然ISを起動させたに過ぎない男風情に、任せるわけには参りませんわ。まぁ『MPS』などという粗悪な紛い物を使うような実験動物(モルモット)よりは、幾ばくかマシかもしれませんが。」

 

 何故この娘は最後に余計な一言を発するのだろうと、クラス全員が思った。皆、恐る恐る昭弘の方を見るが、特に先程のような剣幕は無い。

 箒は、掴みかかりそうになるのを必死に抑えていた。

 

「・・・オイ、馬鹿にすんのはオレだけでいいだろ。アルトランドまで巻き込むなよ!」

 

 自身だけならまだしも、関係のない昭弘まで侮辱するセシリアに純粋な怒りの想いをぶつける一夏。これ以上は不毛だと判断した千冬が、ため息交じりに声を割り込ませる。

 

「そこまでにしておけお前ら。・・・ふむ、織斑が他推でオルコットが自推か。・・・ならシンプル且つ公正な手段として、ISによる模擬試合(バトル)でクラス代表を決めるとしようじゃないか。二人とも、それで異存は無いだろう?」

 

 本当にシンプルな方法であった。

 

「おう上等だぜ。クラス代表とかはよくわかんねぇけど、オレやクラスメイトのことまで馬鹿にされて、引き下がれるかっての!」

 

「私もそれで構いませんわ。クラスの皆様に、私の実力を示す良い機会ですわ。」

 

(はぁ・・・そもそも、クラスの「指標」を選ぶのが本来の趣旨なのだがな。)

 

 二人が了承したところで、千冬が締め切りに入ろうとする。

 

「良し。他に自推他推したい者はいないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、教室の右後方から大きな打撃音の様なものが聞こえた。クラスメイトが振り向くと、昭弘が両手を机に当てながら立ち上がっていた。掌からの出血は、もう止まっているようだった。その顔には、真剣な眼差しがあった。

 

「織斑センセイ、今更ながら、オレも自推してもいいですか?」

 

 その余りにも唐突な申し出に、クラス中が困惑の表情をみせる。

 

「・・・一応、理由を聞いてもいいか?」

 

 そう聞かれて、昭弘は自身の阿頼耶識を右手でなぞり、どうしたものかと頭を捻る。

 昭弘が自推した目的は、クラス代表になることではない。そのクラス代表を決める模擬試合においてセシリアを叩きのめし、先程のことを謝罪させることこそが真の目的である。

 昭弘は、あのプライドの塊のような女がそう簡単に頭を下げるとは思っていなかったので、どうすべきか先程からずっと考えていたのだ。そのことを考えていた矢先に、このクラス代表決定戦という提案が舞い降りてきたのだ。

 しかし、昭弘はクラス代表になるためにこのクラス代表決定戦に参加する訳ではない。言うなれば、セシリアを叩きのめして謝罪させるために、この模擬試合を利用しようとしているのだ。だからこそ、昭弘は理由を聞かれてたじろいでしまう。

 がしかし、直ぐに頭の中の靄を振り払い、馬鹿正直に理由を述べた。

 

「・・・そこの高慢ちきなお嬢様をブッ飛ばしたいって理由じゃ、ダメですかね?」

 

 セシリアを指差した状態で、不敵な笑みを浮かべながら千冬を真っ直ぐに見据える昭弘。千冬も、昭弘を睨みつける様な鋭い視線で返した。・・・が、やがて千冬も不敵な笑みを零し、昭弘に返答する。

 

「フッ・・・いいだろう。その自推を認めてやろう。」

 

 無論、当のセシリアは猛反発する。昭弘と同様、机を両手で叩きながら千冬に物申す。

 

「織斑先生!彼の自推を取り消して下さいまし!!この男はただ、己の憂さ晴らしの為にクラス代表決定戦を利用しようとしているに過ぎませんわ!!クラス代表となる意志すら無い者に、自推する資格などありはしませんわ。」

 

 が、セシリアの物申しを嘲るかのように、箒が勢いよく手を挙げる。

 

「先生!私は昭弘を推薦します。」

 

「なっ!?貴女・・・どういうつもりですの!?」

 

「どういうつもりも何も、私は昭弘がクラス代表に相応しいと考えたまでだが?他推なら文句もあるまい?」

 

「ッ!・・・・・・・・・・・・」

 

 セシリアは、そう言われて反論することができなかった。何故なら、一夏もまたクラスメイトからの他推により、クラス代表になろうとしている。そして先程千冬は、他推された者も拒否権は無いと言っていた。

 箒はそのことを逆手に取り、敢えて昭弘を他推したのだ。昭弘には()()()()()()()の借りもある。それにこのまま昭弘がセシリアに言われっぱなしと言うのも癇に障る。

 昭弘は、微笑を浮かべながら箒に軽く会釈をした。

 

「・・・フンッ!まぁいいでしょう。どの道この私が勝利を手にすることは、最早自明の理。その無謀な挑戦、受けて差し上げますわ!!」

 

 こうして、1年1組のクラス代表決定戦が、1週間後に行われることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー一時限目終了後ーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーーーー廊下にてーーーーーー

 

「・・・その、織斑先生、よろしかったのですか?」

 

「ん?何がだ?山田先生。」

 

 恐る恐る尋ねる真耶に、千冬は続きを促す。

 

「クラス代表決定戦のことですよ!確かにオルコットさんの言動には問題があったかもしれませんが、もしアルトランドくんが勝ち抜いたりしたら、クラス代表は彼ですよ?」

 

 真耶も、セシリアの昭弘に対する言動に憤りを覚えなかった訳では無い。しかし、私怨の為だけになりたくもないクラス代表に就任するというのは、誰の為にもならない。

 実際、今現在の1年1組の雰囲気は、決して良好とは言えない。セシリアと昭弘。良くも悪くも存在感があって我の強い二人が険悪な状況では、他のクラスメイトにとっても居心地は決して良くないだろう。

 

「・・・フフフフフ。」

 

 途端に、千冬は先程教室で見せた笑みを再度浮かべる。

 

「山田先生、私は何も「勝った」者をクラス代表にするとは一言も言ってないぞ?」

 

「では・・・何の為に・・・?」

 

 真耶が当然の疑問を口にする。千冬は少し考える素振りを見せると、再び笑みを浮かべて言葉を放つ。

 

「なに・・・お互いの認識を改めさせるのは、真っ向からぶつかり合うのが、一番なんだよ。」

 

 千冬だけは知っていた、あの『天災』に目を付けられることの重大性を。そして、1時限目が始まる直前、教室の外に居ても伝わってくる()()威圧感。MPSとやらがどれ程の性能なのかは千冬にとっても未知数だが、間違いなくあの元少年兵の実力は本物だ。

 そして、昭弘というまるで異なる価値観を持つ存在が、セシリアや一夏、その他のクラスメイトの視野を大きく広げてくれる可能性にも期待しているのだ。

 

「ま、模擬戦が終われば、君も解ってくれると思うぞ?」

 

 未だ納得しきれていない表情の真耶を、千冬はそう宥めた。

 

 

 

ーーーーーー1年1組 教室にてーーーーーー

 

「よっ!アルトランド!」

 

 昭弘が自席にて参考書を読んでいると、一夏が声をかけてきた。何やら清々しい表情をしているように思えた。

 

「おお、どうした?織斑。」

 

 改めて感じる昭弘の存在感に多少たじろぎながらも、一夏は未だ昭弘に伝えていない言葉を伝える。

 

「いや、アレだ・・・今更って思われるかもだけど、さっきは庇ってくれてありがとな。マジ助かった。」

 

「ま、実のことを言うと、オレもお前に話しかける切っ掛けが欲しかったんだ。だからそんな気にすんな。」

 

 昭弘の一夏に対する第一印象は、「掴みどころが無い」といった感じだった。昭弘が今迄出会ってきた、どの少年兵とも違う。織斑千冬(せかいさいきょう)の弟と聞いていたので、もっと途轍もない存在感を放っているのだろうかと思っていたが、そういう訳でもない。

 

「あっ!そう言えばオレも未だ箒に話しかけて無かった!!」

 

 一夏のその一言で、チラリと箒の席に目を向ける二人。すると、箒もこちらを見ていたのだが、慌ててそっぽを向いてしまった。

 

「そういや、箒と織斑は結構付き合いが長いのか?」

 

「おうよ!幼馴染だと自負するくらいには、付き合いが長いぜ。」

 

(その割には、織斑を話題に出すとつんけんどんな態度になるような・・・だが、さっきのSHR後は箒から話しかけようとしてたしな・・・・・・二人の関係性がイマイチ解らん。)

 

「取り敢えず、箒の席まで行って来たらどうだ。積もる話もあるんだろう?」

 

「ああ!また後でな昭弘!」

 

 そう言って、一夏は箒の席に向かっていった。

 二人の会話の内容が少々気になる昭弘は、そのまま自分の席から眺めることにした。

 

(そういやオレも、さっきの()()()()のお礼を言わないとな。まぁ、お取込み中だしな、後でいいか。)

 

(にしても・・・箒の様子がやはり変だな。顔も赤いし、どことなくあたふたしている様に見える。・・・・・・まさかとは思うが。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー昼休みーーーーーーーーーー

 

 

 

 IS学園の授業も4時限目までが終了した。

 昭弘は、束の指導のお陰で問題なく授業内容についていくことができていた。箒も特に問題は無さそうだが、一夏は現時点でもかなり厳しいようだ。何せ、ISに関する参考書を「電話帳と間違えて捨ててしまった」とか何とか。それが2時限目の授業で千冬にバレ、大目玉を喰らっていた。一応その後、新しい参考書を貰うことはできたが。

 

「まったく、何度も言うが、お前は本当に馬鹿だな。いくら参考書が分厚いとは言え、普通電話帳と間違えて捨てるか?」

 

「うるさいなぁ・・・もういいじゃねぇかその話は。」

 

「解らないことがあったら、オレや箒だけじゃなく、周りのクラスメイトやセンセイにもしっかり教えを乞えよ?オレ達だって、エリートって訳じゃねぇんだ。」

 

「うーん、やっぱその方がいいかなぁ。まぁ山田先生なら兎も角、千冬ねぇには頼りたくねぇんだよなぁ。」

 

(別に頼ってもいいと思うが。仲が悪い・・・・・・訳じゃないよな?さっきのやり取りからして。)

 

 昭弘は、箒と一夏と共に昼食を摂っていた。彼らが昼食を摂っている「学食」には、他にも大勢の生徒が詰め掛けていた。

 因みに、一夏と箒は「生姜焼き定食」なるものを券売機で選んでいたので、どんな料理なのか気になった昭弘も同じものを選んだ。

 今回は、一夏の周囲には不思議と箒以外の女子生徒が見当たらなかった。彼の真正面に、「元少年兵の強面の大男」が居るのだから、それも致し方ない。一夏としては、ゆっくりと食事ができてラッキーだと、心の中で昭弘に感謝した。

 

「にしても意外だよなぁ。箒とアルトランドが知り合い同士だったなんてさぁ。」

 

「昭弘とは、今日が初対面だぞ?まぁその・・・色々あって、仲良くなったのだ。」

 

「そうだったのか!?下の名前で呼び合ってるし、なんかすごい仲良く見えたから、てっきり・・・」

 

 一夏のその一言で、その先の言葉を予測してしまった箒は、慌てて否定の意志を示す。

 

「お、おい!言っておくが、私は別に昭弘と付き合っている訳ではないからな!?」

 

「いや、誰もそこまで言ってないんだが・・・。」

 

「まったく・・・お前と言う奴は、人の気も知らないで・・・。」

 

 箒は、先程と同じ様に顔を赤らめながら、聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟いた。

 

「うん?何か言ったか箒?」

 

「な、何でもない!この馬鹿!!」

 

 そう言うと、箒は平手で一夏の頭を引っ叩いた。

 

「イッテ!なにすんだよ!いきなり!」

 

(やっぱ・・・そうだよな・・・惚れているよな?完全に。)

 

 昭弘は、先程からの箒と一夏のやり取りを見て、思わずそう感じずにはいられなかった。

 前世、三日月に対して想いを寄せている二人の女性が居たのだが、箒の一夏に対する表情はあの二人が三日月に向けるそれとよく似ていた。

 

 

「んで、話は変わるけどさぁ、・・・勝てるかな、オレ。オルコットに。」

 

「・・・まぁ、普通に考えて無理だろうな。」

 

「・・・なぁ箒、そこはせめて「現時点では難しい」程度に丸めてほしかったんだけど。」

 

 冷酷に事実を言い放つ箒に、一夏は軽く毒づいた。

 

「心配すんな織斑。そこら辺は、オレと箒で一週間しっかりとサポートしてやるよ。オレは「MPS乗り」だが、それでも教えられることはあるだろうさ。それに、たとえ勝てなくても、それで“死ぬ”訳じゃないんだ。一週間もありゃ、一泡吹かせられるくらいにはなるだろ。」

 

「お、おう。サンキューなアルトランド。けど、いいのか?お前だって模擬試合が控えてんのに。」

 

「ああ、そこんとこは別に気にすんな。」

 

 昭弘は、一週間やそこらで自身が劇的に進化するとは思っていなかった。一夏の場合は、未だ初心者同然なのだから、一週間で何かしらのコツのようなものを掴めるかもしれない。

 しかし、昭弘は束の下で2ヶ月間みっちりとMPSの機動訓練を受けてきたので、今更1週間猶予を貰ったところで、そこまで自身の実力が上がりはしないのだ。

 

(そういや、センセイから許可が下りれば、過去の試合のログを観れるんだっけか。後で山田センセイに頼んでみるか。)

 

 それでも昭弘は、対策はしっかり立てようと考えていた。昭弘にとって、今回の模擬試合は絶対にセシリアには負けられないのだ。鉄華団(かぞく)の名誉のために。

 

「・・・おっと、そうだ。なぁ箒。」

 

 思い出したかのように、箒に話を振る昭弘。

 

「ん?なんだ?」

 

「さっきはありがとうな。あの他推がなきゃ、多分却下されて終わってただろうぜ。」

 

「・・・それこそ、気にするな。これで、()()()だしな!」

 

「フッ・・・違いねぇ。」

 

 SHR後のことを思い出し、仏頂面から微笑を零す昭弘。

 

「・・・なぁ、いい加減箒とアルトランドの間に何があったのか、教えてくれないか?」

 

「・・・フンッ!お前にだけは()()()は死んでも教えん!!」

 

「なんでだよ!?増々気になるって!!」

 

(やっぱ、アレか?久しぶりに逢った想い人には、暗い顔見せて余計な心配させたくはないもんなのか?・・・乙女心っつうのは、イマイチ良くわからん。)

 

 そんなことを考えていた昭弘は、ふと頭の中を別の思考に切り替える。セシリアのことだ。

 

(それにしても、気がかりなのはやはりオルコットだな。何故あそこまでオレを目の敵にする?)

 

 当然だが昭弘は、今日という日を迎えるまでセシリアとは一切面識が無かった。何も、セシリアから恨まれる様なことをした覚えも無い。だから、昭弘はあそこまでセシリアに目の敵にされる覚えは無いのだ。

 それとも、単に差別意識が強いだけなのか。

 

 

 

 一方、セシリアも食堂にて一人で昼食を摂っていた。昭弘たちとは、中々に距離がある席だった。

 

(・・・・・・まったく、この方達はもう少し静かに食事ができないのかしら。マナーも何もあったものではありませんわ。)

 

 セシリアは、内心でそう苦言を呈していた。

 

(はぁ・・・こんなことなら、購買で調理パンでも購入して、屋上で食事を摂るべきでしたわ。)

 

 小さな後悔の念を抱きながら、セシリアは今回の2人の対戦者のことを思い浮かべる。

 

(織斑一夏・・・唯一の男性IS操縦者だと聞き及び、それなりに期待していたのですが・・・期待外れもいいとこですわね。品性の欠片も無いといいますか・・・まぁ確かに、ほんの少しハンサムかもしれませんが。)

 

 セシリアは、一夏に対してそんなことを考えていたが、次の思考に移った途端、セシリアの表情は泥の様に歪んだ。

 

(昭弘・アルトランド・・・私はあなたのような人間の屑に此処に居られるだけで、腸が煮えくり返りそうになるのですわ。あなたがた『少年兵』は、“あの時”私から両親を奪っただけでは飽き足らず、今度はMPSなどと言う紛い物で崇高なISを汚そうなどと・・・!)

 

 セシリアは、心の底から「少年兵」という存在を憎んでいた。

 セシリアの両親は、彼女が未だ幼い頃列車事故によってこの世を去っているのだ。その列車事故を引き起こしたのは、少年兵を中心とした武装テログループだった。

 しかし、セシリア自身も、頭では解かっているのだ。彼等少年兵は、何も自分たちの意思でセシリアの両親を殺した訳では無いということを。彼等少年兵に、選択の自由など無い。大人の命令に背けば、その場で銃殺されるのだから。

 無論、昭弘自身に何の罪も無いことだって、重々承知している。元少年兵だからと言って彼を侮蔑するのは、最早唯の逆恨みに過ぎない。

 それでも、心までは完全に制御すことはできない。少年兵という存在を許そうが許すまいが、彼女の両親はもう戻ってこないのだから。いくらその少年兵達に彼女の両親を殺す意思が無かったとしても、実行犯であるという事実に変わりはない。

 

 昭弘とMPSにしてもそうだ。

 両親亡き後、セシリアは自身の家を「金目当ての親戚共」から守るために死に物狂いで勉強した。休む間もなく。友人を作る間もなく。悲しむ間もなく。

 ISの適性検査も受けた。適性はA。適性最大値がSなので、これは極めて高い数値と言えた。IS操縦者としても、脇目も振らずに努力した。国家代表候補生という強力な肩書を得るために。そして、最終的には『国家代表』という絶大な地位を手に入れるために。

 そうしてとうとう、彼女は頂きに手が触れられる距離にまで近づいた。その証が国家代表候補生の肩書なのである。セシリアは歓喜した。自身の努力は無駄では無かったと。そして、自身を此処まで連れてきてくれたISという存在に、最大限の感謝の意を示した。

 それを・・・たかが拾われた、しかも少年兵が操る「MPS」などと同じモノにされてはたまったものでは無い。

 

 どんなに頭では理解していようと、そんなことで「人の憎悪」は消えはしないのだ。

 

(昭弘・アルトランド・・・1週間後の模擬戦では、もう此処IS学園には居たくないと泣きべそをかくまで徹底的に痛めつけて差し上げますわ。)

 

 英国貴族セシリア・オルコットは、改めて自身の心にそう誓いを立てた。ドス黒い炎を、そのコバルトブルーの瞳に宿しながら。




 という話でした。セシリアは、原作とは大分違う性格にしてあります(多分)。
 あと、ごめんなさい。もしかしたら次中編後編で分けることになるかもしれません。


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第4話 英国貴族の逆襲(中編)

大変申し訳ございません。
私のヘマかバグのせいで、4話後編のデータが丸々消えてしまいました。恐らく、今現在執筆中のモノが、そのまま上書き保存されたのかと。
今後なるべく早く直して行きますので、初めて閲覧された方には本当にご迷惑をお掛けいたします。
前編・中編・後編に分けます。

追記:4話すべての編集と再投稿が完了いたしました!
   皆さん大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。


ーーーーーーーーーー4月8日(金) 5時限目ーーーーーーーーーー

 

 その時間は、ISの『最適化処理(フィッティング)」に関する授業だった。

 ISには「最適化」という機能が存在し、操縦者に合わせて文字通り機体を最適化させるのである。

 先ず、操縦者がISを機動させている間、ISコアが操縦者の性格、体力、身体能力、体格、体重、血液型、五感、バランス能力等を読み取る。それらを情報としてIS側にフィードバックさせることで、IS側と操縦者側との間で生じている空中機動のズレを修復するのだ。

 この最適化処理を先に済ませておかないと、操縦者の思う通りにISを機動させることが出来ず、その為の安全処置として出力も大幅に抑えられてしまうのだ。

 因みに、最適化処理後は機体の形状が変化するのだが、これを『形態移行(フォームシフト)』と呼ぶ。

 ・・・というのが、この授業の要約である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー放課後ーーーーーーーーーー

 

 昭弘は映像資料室にて、セシリアとブルー・ティアーズの公式戦での試合映像に噛り付いていた。先程、真耶に部屋の案内をされ、その後真耶に情報資料室での閲覧許可を貰ったのだ。

 機体名は『ブルー・ティアーズ』。中距離・遠距離特化型のISで、まるで大海原からそのまま切り取ったかの様な美しい群青色の装甲を、両腕両脚に纏っていた。最大の特徴は4機の浮遊移動砲身「ビット」であり、操縦者からの脳波コントロールによって敵機を追い回し、四方から狙い撃つという恐ろしい兵器だ。

 

(・・・ビットの威力の低さと、ビットを操っている時は自身のISを動かせないのが弱点か。・・・・・・うし、戦術も凡そ纏まったな。)

 

 心の中でそんな感想を述べると、昭弘は映像資料室を後にする。昇降口に向かって廊下を歩いていると・・・。

 

「あっ!アキヒーだ~~。お~~~い。」

 

「ちょ、ちょっと良しなって本音!」

 

「こ、殺されちゃうよ!?」

 

 後ろから声が聞こえてくる。「アキヒー」・・・もしかして自分のことだろうかと思いながら、昭弘はゆっくりと後ろを振り向く。そこには、比較的小柄な少女が立っていた。

 

(・・・たしか同じクラスの、「布仏本音」・・・だったか?)

 

 僅かに茶色がかった桃色の髪をしており、両側頭部で小さく結んだ髪型をしていた。全体的な髪の長さは、ミディアム程度だろうか。

 

「ふ~やっと話しかけることができたよ~~。アキヒーで最後ぉ~~。」

 

 どうやらアキヒーとは、昭弘の渾名の様だ。しかし、何が最後なのだろうか。

 

「最後ってのは、どういうことだ?」

 

「話しかけた相手~~。今日一日でクラス全員とお話することが今日の私の目標~~。アキヒー教室に居なかったり、お勉強してること多いから、最後になっちゃった~~~。」

 

 そんな事の為に、自身に話しかけてきたのかと昭弘は思ったが、態々話しかけて来てくれたという嬉しさの方が遥かに大きかった。昭弘自身も、クラス中から怖がられているという自覚はあるのだ。昭弘は、微笑を浮かべながらお礼の言葉を贈る。

 

「そうか、態々ありがとうな。これからも、よろしく頼む。・・・にしてもすごいなお前、全員ってことは、あのオルコットにも話しかけたって事だろ?」

 

「そうだよ~。「媚び売りのつもりなら、私に構わないで貰えます?」って言われちゃったけど、めげずにもっともっとアタックしてみるよ~~~。」

 

 昭弘はそれを聞いて、「奴ならそう言いそうだな」と思いながら、本音の更に後方に視線を送る。そこには、明らかに自身に対して恐怖心を抱いている2人の女子生徒が震えながら立っていた。

 

(あいつらは確か、「相川清子」と「谷本癒子」だっけか。)

 

「あれ~~?2人共こっちおいでよ~~~。」

 

 本音にそう促され、2人は恐る恐る昭弘に近づく。すると、無理に引き攣った笑顔を浮かべながら名乗り出る。

 

「よ、よよよよよよよろしくお願い致しまする。相川清子でご、ございまする。」

 

「た、たたた谷本癒子でご、ございますっ!よ、よ・・・よ、よろしくお願いしまする。」

 

 そんな調子の2人に、昭弘は苦笑いを浮かべながら名乗り返す。

 

「昭弘・アルトランドだ。さっきは教室で、おっかない思いをさせちまって悪かった。気軽に話しかけてくれると嬉しい。」

 

「さて、オレはそろそろ部屋に戻らないとだな、色々と()()ことがあるんだ。布仏もオルコットへのアタック、頑張れよ。」

 

「ありがと~アキヒー。じゃあね~~~。」

 

 本音はそう言いながら、昇降口へと離れていく昭弘に、10cm程余った袖をブンブンと振った。

 

「アキヒーって無口だけど優しいよね~~。セッシーとも仲良くできればいいのに~~。・・・アレ~?何で2人共座り込んで白目なんか向いてるの~~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昭弘は茜がかった夕焼け空の下、寮へと歩を進めていた。寮へと近づくと、聞き覚えのある少女の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

(この声は・・・箒か?)

 

 そう頭の中で声の主を予想すると、声が聞こえてくる寮の裏口へと進む。

 

「む?昭弘か。」

 

「オッス!アルトランド。お疲れーー。」

 

「おう、お疲れさん。」

 

 昭弘の予想通り、箒と一夏がそこには居た。一夏は芝生の上に座り込んでおり、箒がそれを見下ろしている形だった。

 

(アイツ達が来ている防具は確か・・・「ケンドウ」だっけか?アイツ達が今手に持ってるフルフェイスメットみたいなので、頭部を護るのか。)

 

 そんな風に頭を巡らせた後、昭弘は彼等に尋ねる。

 

「・・・んで?何してんだ、こんな時間に。」

 

「うむ。オルコットとの闘いに備えて、せめて一夏の武術面の勘だけでも取り戻そうと思ってな。」

 

 一夏は、早速訓練機の予約を1週間分職員室に申請しに行ったのだが、1週間でたったの30分しか、訓練機借用の予約が取れなかったのだ。

 訓練機の借用には、IS関連企業への就職に備える為か、2年生3年生が優先される。加えて、IS学園には訓練機も含めて精々30機程度しかISが存在しない。たった30分でも、1年生である一夏が訓練機を借りれたのは最早奇跡に等しい。

 

「んで勿論。結果はボロボロさ。オレは昔箒と一緒に剣道をやってたんだけど、中学じゃずっと帰宅部だったからさぁ。」

 

「いい訳無用だ!」

 

 そう言うと、箒は一夏の頭を竹刀で軽く叩いた。

 

「イテッ!!しょうがないだろ!バイトやら何やらで、色々と忙しかったんだよ!」

 

 その後、昭弘は箒の頭に軽く手刀を入れる。

 

「理由はどうあれ、箒。人の頭を竹刀で叩くな。」

 

「ムゥ・・・。スマン昭弘。」

 

「・・・・・・いや、オレにも謝れよ!?」

 

 そんなやり取りをしていると、昭弘がある提案を切り出す。

 

「武術面の勘か・・・。確かにそれも大事だが、先ずは体力作りと、「体幹」を集中的に鍛えるのもいいだろう。体力作りは当然として、どのスポーツでも体幹を使わない競技は無いだろうしな。精密なバランス感覚を求められるISなら、猶の事だ。」

 

「成程、体幹か・・・。」

 

 無論、今から1週間程度剣道や筋トレを繰り返したところで、付け焼刃程度にしかならないだろう。それでも、何もしないよりはマシだ。

 

「まぁでも、毎日剣道もやるんなら、「筋トレスケジュール」みたいなのを組んだ方がいいかもしれんな・・・。」

 

「それじゃあ、今から私と考えよう。一夏、お前はその間素振りでもしてろ!」

 

「あいよ!時間が掛かりそうなら、素振りの後にランニングでもしてくるぜ。」

 

「ああ、程々にな。」

 

 こうして、昭弘と箒による、一夏短期強化プランが話し合われた。

 

 

 そんな3人のやり取りを、寮の屋上から見下ろしている人影があった。茜色の夕日が、その人物の金色の髪を怪しく照らす。

 

「織斑一夏・・・。」

 

 否、当の人物「セシリア」が見ていたのは3人のやり取りではなく、素振りをしている一夏であった。

 

「唯一の・・・男性適合者・・・。」

 

 ふと、そんな言葉を呟く。その時のセシリアの表情は、一夏の真っ直ぐな瞳に見惚れている様にも見えた。

 

「・・・ッ!フン、まさか。」

 

 セシリアはそう自身に言い聞かせて、今自分が一夏に対して抱いている想いを即座に否定する。「ただ珍しいから意識しているだけだ」と。

 そう無理矢理自身を納得させると、踵を返して部屋に続く廊下へと歩を進める。

 

 

(・・・オルコットの奴、寮の屋上からコソコソと一夏のことを見てやがったな。何か用でもあったのか?)

 

 セシリアの動向は、昭弘にしっかりと察知されていた。箒と一夏には気付かれなかった様だが。

 

「おい、昭弘。ちゃんと聴いているのか?」

 

「ああ、しっかりと聴いてるさ。」

 

 昭弘と箒によるスケジュール作成は、思いの外時間が掛かっていた。

 放課後における真耶の予習も踏まえて、筋トレの時間帯を細かく調整しているのだ。

 

 ある程度話が纏まったのは、既に一夏がランニングへと出た後だった。

 昭弘は自室に戻って「ある事」を()()うと思っていたのだが、丁度箒に聞きたいこともあったので、そのまま一夏の帰りを待つ事にした。

 

「・・・なぁ箒、一つ聞いて良いか?」

 

「む?何だ?」

 

「お前は、織斑のどういう所に惚れたんだ?」

 

 その一言で、箒の仏頂面は大きく崩れ、誰の目から見ても明らかな程に顔を赤らめていた。

 

「なっ!?な、な、な、な何を言い出すんだお前はいきなりッ!?あ、あんな朴念仁に誰が惚れるかっ!!」

 

 あくまで強がる箒に対し、昭弘は苦笑を漏らしながら答える。

 

「ハハッ、何も隠す事は無いだろう。それに、今は当の本人も此処には居ない。なぁに、話の種ってヤツさ。無理に話せとは言わん。」

 

 昭弘がそう言うと、箒は顔を赤くしたまま、口を閉ざしてしまった。

 昭弘が「やはり無理か」と思った矢先、箒はポツリポツリと言葉を紡ぎ出す。

 

「・・・・・・あの時は未だ、小学校の低学年だったろうか。・・・私は当時から、武道の家柄もあって「男勝り」な性格をしていてな。よくクラスの男子から「男女」とか「リボン付けた男」とか言われて、馬鹿にされていたんだ。」

 

「そんな時、私を庇ってくれたのが一夏だった。「女の子にそんな事言うな」と、その男子たちを追い払ってくれたのだ。」

 

「・・・「一目惚れ」って奴か?」

 

「いや、少し違うな。そんな出来事がある以前から、私は同じクラスメイトとして一夏の事は知っていたしな。・・・私は多分、アイツの外面ではなく、「内面」に惚れたのだと思う。そして・・・それは今でも変わらない。私のアイツに対する想いは・・・。」

 

 昭弘はそれを聞いて、箒の事を「何処までも一途な女」だと思った。

 これだけの年月が経過しても尚、彼女にとっての一夏はずっと「あの時」の織斑一夏なのだ。昭弘は、恋愛に関しては未だ良く解っていないが、長い年月が経ってもずっと変わらない想いが、どれだけ尊いモノなのかは良く解っているつもりだ。

 昭弘は、そんな感想を抱いた後、自身の今の心境を語り出す。

 

「・・・そんだけ好きなら、尚更言葉に出して伝えないとな。」

 

「そっ、それが出来たら苦労しておらん!!」

 

 箒が駄々っ子の様に喚くと、昭弘は神妙な面持ちとなって更に語る。

 

「だが、言葉に出さなけりゃ、何も伝わらないのも又事実だ。相手が朴念仁の織斑なら、尚のことだろう。」

 

「それに・・・何だか勿体無い気がしてな。折角誰にも負けない位の「強い想い」を持っているのに、何時までも伝えられないってのはな。それは何と言うか・・・お前の気持ちが、お前自身が、酷く“不憫”だ。」

 

「・・・フンッ。また「御説教」か昭弘。」

 

「ああ、スマンな。」

 

 そう、少し反抗的な態度を取る箒ではあったが、本心では「その通りだ」と思っていた。それでも、「余計なお世話だ」と言う思いが前面に押し出されてしまったのだ。

 彼女と昭弘は、出会ってから未だ1日しか経ってないのだ。そう言いたくなるのは何も不自然ではない。

 

(全く・・・つくづく昭弘には、調子を狂わされる。他人の恋路など、放っておけば良いものを・・・。)

 

 そう思いながらも、箒は心の何処かで何故か“安心”していた。その安心感の正体は解らないが、少なくとも今迄箒が感じたことの無いモノだった。

 

 すると、丁度一夏がランニングから戻って来た。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ただいまぁ・・・。話は纏まったか?」

 

 箒は当の本人が現れて慌てて意識を切り替えると、もう既に話が纏まった旨を伝えた。

 その後、少しだけ今後の事を3人で話し合うと、その日はもう解散となった。

 

 箒と一夏に別れの挨拶を告げた昭弘は、これから()()事に対して大きく胸を高ぶらせていた。

 

 

 箒たちと別れて自室である「130号室」前迄来た昭弘。因みに箒と一夏は隣の「128号室」であった。

 普通なら、男性同士である昭弘と一夏が同じ部屋となるだろう。そうならなかった理由は、簡単に言えば束が国際IS委員会に圧力を掛けたからだ。どの様な方法を取ったのかは不明だが、昭弘をIS学園に入学させた時と同じ方法であろう。

 一人部屋であるならば、束やT.P.F.B.と連絡が取りやすくなるし、昭弘がこれから()()事にも何ら支障を来さない。一夏は女子と同部屋で大いに混乱していた様だが。

 自室の扉を開いた昭弘は、部屋の大半を占拠している夥しい数の「筋トレ器具」を見渡して、怪しげな笑みを零す。

 ダンベル、バーベル、ハンドグリップ、プッシュアップバー、チンニングラック、シットアップボード、バランスボール、ベンチプレス、各種プロテイン等々、見ているだけで息苦しくなって来る様なそれらが悠然と並んでいた。

 

(にしても、バランスボールは念のため2つ調達しておいて良かったぜ。こいつを織斑に貸し出せば、バランストレーニングの幅が増えるな。)

 

 そんな事を考えた後、昭弘は直ちに意識を切り替えて、自身の「趣味」に没頭していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月9日(土)ーーーーーーーーーー

 

 昭弘と箒による特訓は、土日も関係なく続いた。

 

「脇が甘いッ!胴ォッ!!」

 

「グォオ!?」

 

「ハァ・・・ハァ・・・織斑、あと1kmだ、頑張れ。」

 

「ゼェハァ・・・ゼェハァ・・・・・・おうよ・・・ッ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月11日(月) 放課後ーーーーーーーーーー

 

「織斑。山田センセイの補修はどうだった?」

 

「ウーン・・・何となく解ってきた・・・様な気がする。」

 

「そうか、後でオレにもノートを見せてみろ。何か助けになれるかもしれん。」

 

「ああ!サンキューな、アルトランド。・・・そういや、箒は部活動見学とかはいいのか?」

 

「大丈夫だ。どうせ剣道部に入部することは私にとって決定事項だしな。仮入部期間中の今なら、多少抜け出しても問題はあるまい・・・多分。」

 

「多分て・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月13日(水) 放課後ーーーーーーーーーー

 

「どうだ織斑。『打鉄』を纏った感じは?」

 

《・・・やばいな。静止しているだけなのに、もう既にフラフラすると言うか・・・。》

 

「そうか・・・。まぁ最初はそんなもんさ。それじゃあ山田センセイ、後はお願いします。すんません、お忙しい中。」

 

《いえいえ!可愛い生徒の頼みですもの!これ位何のことはありません。》

 

「むぅ、私も訓練機を借りれたらなぁ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月14日(木) 放課後ーーーーーーーーーー

 

「良かったな一夏。専用機『白式』が間に合って。」

 

「おうよ!けどこれ、武装が「刀」しか無いみたいなんだけど、大丈夫かな?」

 

「刀だけの方が、お前らしくて良いんじゃないのか?」

 

「箒・・・何か適当言ってないか?」

 

(成程な。唯一の男性操縦者だから、データ取りも兼ねて、代表候補生でもない織斑に専用機って訳か。ISコアは束が男性用に再設定したのを、コッソリ摩り替えたってとこか?)

 

「まぁ兎も角、先ずは最適化処理だな。どうにか明日までに間に合わせるぞ。」

 

「「分かった!」」

 

 

 

 こうして、彼等3人の短い1週間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月15日(金) 放課後ーーーーーーーーーー

 

 放課後、4つのアリーナの内の1つである『アリーナA』にて『1年1組クラス代表決定戦』が行われようとしていた。

 観客スタンドには、思いの外大勢の生徒が集まっていた。今回の模擬試合は、特例で部活動中の生徒の観戦も認められているのだ。何せ「一国の代表候補生」と「世界初の男性IS操縦者」と「世界初(公式上)のMPS操縦者」という滅多にない対戦カードの組み合わせだ。試合を見学するだけでも、得られる物は大きいだろうという、学園側からの粋な計らいだ。

 

 場所は変わって、アリーナAのピットには既に千冬、昭弘、一夏、セシリアの4人が集まっていた。既に昭弘たち3人は、ISスーツにその身を包んでいた。

 千冬が説明した試合のルールはこうだ。

 先ず、試合は完全に1対1で行い、シールドエネルギーの枯渇、若しくは操縦者の戦意喪失(気絶等も含む)により、勝敗を決める。

 3回に分けて戦い、1回戦目で勝った者が2回戦目で3人目と戦う。もし2回戦目で3人目が勝てば、3回戦目でその者と1回戦目敗者が戦うという仕組みだ。しかし、もし3回戦目で1回戦目敗者が勝ったとしても、その時点で今回のクラス代表決定戦は切り上げとなる。他の2年生や3年生の為にも、それ以上アリーナAを貸切る訳には行かないのだ。

 そうなった場合は、クラスメイトからの推薦が最も多かった一夏がクラス代表ということになる。しかし、順当に勝ち進んだ場合に関しては、千冬は敢えて明言を避けた。もしここで「勝った者をクラス代表とする」と明言してしまえば、千冬の思惑は破綻する。

 

 千冬は粗方説明を終えると、試合の順番を決めるべく話を進める。

 

「試合の順番で何か希望はあるか?ピットからは管制塔の遠隔操作が無ければ試合映像が観れないから、順番で優劣が決まることは無いが。」

 

「私は特にございませんわ。」

 

「オレも無いッス。」

 

「オレは・・・1回戦目がいいかな。少しでも昨日の感覚を覚えている内に、試合に臨みたいし。」

 

「成程な。では先ず、織斑が1回戦目で、相手は・・・オルコットで良いだろう。クラス代表に一番意欲的なのはお前だ。お前が最初に出ておいた方が、クラスメイトからの心証も良いだろう。」

 

「分かりましたわ。では、その様に。」

 

 順番が決まると直ぐに、千冬は管制塔に続く道へと消えていった。

 その後、セシリアが一夏に対して啖呵を切りに来る。

 

「織斑さん?私に負けた時の言い訳、今の内に考えておいた方が宜しくってよ?」

 

 そんな風に言いながらも、セシリアの瞳は何処か輝いている様に見えた。まるで、気になる相手についちょっかいを掛けてしまうかの様な。

 

「そっちこそ、こんな初心者相手に苦戦なんかするなよな?代表候補生殿?」

 

 負けじと、一夏もセシリアに挑発で返す。

 セシリアはそんな挑発を鼻で軽く嗤うと、今度は昭弘に視線を移す。

 

「・・・」

 

 無言。一夏とは対照的に、唯々濁り切った憎悪の眼差しを向けるだけであった。

 昭弘はそんなセシリアに動じること無く、普段の仏頂面を貫き通す。

 

 

 セシリアが反対側のピットに移動した後、昭弘は一夏に激励の言葉を贈った。

 

「大丈夫だ織斑。さっきお前も感じたとは思うが、オルコットは明らかに慢心している。きっと良い試合運びができるさ。」

 

「ああ!その・・・ありがとなアルトランド、今迄色々と。」

 

 そう返す一夏に対し、昭弘は無言の微笑みで軽く頷いた。

 

 昭弘の微笑みを見て安心した一夏は、早速フィールドに飛び立つべく、右手首に嵌めてある「白い腕輪」に意識を集中させる。忽ち、青白い粒子が一夏の全身を包み込み、その粒子が純白の装甲へと変わっていく。

 

(・・・全く、いつ見ても信じられんな、ISってのは。あんな小さい腕輪に、一体どういう原理であんな馬鹿デカい装甲を捻じ込んでるんだか。)

 

《織斑及び白式、発進準備完了。どうぞ!》

 

 そんな今更どうでもいい事を考えていた昭弘は、管制塔からのアナウンスで我に返る。

 

《んと・・・それじゃあ。織斑一夏、白式、行きますッ!》

 

 そう言った後、一夏は昭弘に対して右手の親指でサムズアップをし、1対の巨大な機械翼を羽ばたかせながらフィールドへと飛び立っていった。



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第4話 英国貴族の逆襲(後編)

皆さん、大変お待たせいたしました。
ようやく、4話全てのの手直しが終了いたしました。

旧4話では描写が無かったセシリアと一夏との戦いや、同じく描写が薄かった昭弘と箒と一夏による会話なども追加描写しておきましたので、「もう既に読んだ」という方も、是非読んでみてください!

そして、今4話前半で止まっている読者の方には、大変ご迷惑をおかけしました。


 フィールド上空にて、セシリアは唯々見惚れていた。

 セシリアは、今迄“男”と言う生物は下等で薄汚いモノだと考えていた。自身の利益と保身の事しか頭にない「情けない生物」だと。しかし、自身の真正面にて佇む、まるで天使の様な翼を生やした純白の「騎士」。その騎士である少年の瞳は、セシリアが今迄に見たことが無い程までに美しい輝きを放ちながら、セシリアを直視していた。

 

《・・・ん?何だよ?ボケーッとして・・・。》

 

 純白の装甲を纏った少年『織斑一夏』から専用回線でそう言われて、漸くセシリアは我に返る。

 

「な、何でもございませんわ!!」

 

 そう返すと、セシリアは普段の高慢ちきな態度に戻り、一夏にある提案を言い渡す。

 

「そんなことより、織斑さん?今なら未だ、手心を加えてあげても宜しくってよ?ご安心ください。専用回線ですので、観客の皆さんには聞こえませんし、貴方だって無様な姿を観客の皆さんに晒したくは無いでしょう。」

 

 確かに、一夏が勝てる可能性は限りなく低い。圧倒的な大差で負けてしまえば、「男の癖に情けない」と今後ずっと馬鹿にされるかもしれない。それなら、セシリアの提案を受け入れて、少しでも格好良く負けた方がずっと良い。しかし・・・。

 

《・・・断る。それじゃあ、今迄特訓に付き合ってくれた昭弘や箒、山田先生に失礼だ。あの人たちの為にも、アンタの提案は吞めない。」

 

 そう言うと、一夏はより一層瞳の輝きを強める。そんな一夏の「男の顔」を見て、セシリアは一瞬顔を赤らめてしまうが、直ぐに「普段の自分」に無理矢理引き戻す。

 

「・・・そうですの。馬鹿ですわね。では思う存分後悔させてあげますわ。」

 

 そう言いながらも、セシリアは心の何処かで僅かに期待していた。「この殿方は自分に“何”を見せてくれるのだろう」と。

 

《へっ!後悔するのはどっちかな!!》

 

 一夏がそう返すと同時に試合開始のブザーがフィールド上に鳴り響く。

 

 

 

 ブザーが鳴ると同時に、セシリアは67口径レーザースナイパーライフル『スターライトMkⅢ』を即座に構えて、一閃の光の束を放つ。

 しかし、白式も又ブザーと同時に真横にスラスターを放った為、ビームは白式の肩を掠るに留まった。

 

(良しっ!アルトランドの言った通り、ブザーが鳴ったら真横に避けろってのは正解だったぜ!)

 

 当のセシリアも、初手のレーザーが外れて、幾許か動揺している様だ。

 

 

 

(おのれっ・・・!ちょこまかと・・・!!)

 

 セシリアは一旦距離を取り、再度スターライトMkⅢの照準を白式に合わせようとする。

 しかし、白式はセシリアが思っていたより遥かに速く、照準がまるで定まらない。

 

(・・・!そこっ!!)

 

 射線を見極めたのか、高速のレーザーを再度放つ。しかし、白式にはあと寸での所で当たらなかった。

 

《隙ありィ!!》

 

 直後、スラスターを最大限に吹かせた白式が急接近して来る。

 

(しまった!!速いッ!!)

 

 白式専用の機械刀『雪片弐型』が、ブルー・ティアーズに迫る。

 セシリアは避けようとするも、その瞬間に垣間見えた一夏の真っ直ぐな瞳にまたもや見惚れてしまい、反応が大きく遅れる。

 

《ッ!?》

 

 一撃を覚悟していたセシリアだったが、彼女の予想とは異なり、白式の一閃は大きく逸れてしまう。

 

(ッ!!占めたッ!!やはりまだまだ初心者!姿勢制御が上手くできていないのですわねッ!!)

 

 セシリアは気を取り直して、体勢を崩した白式にスターライトMkⅢを放つ。それは至近距離で白式の胸部装甲に直撃し、白式のSE(シールドエネルギー)を大きく減少させる。

 

 

 

「グアァッッ!!」

 

 衝撃で大きく後方へと吹き飛ばされる白式。フィールドと観客スタンドとの区画シールドバリアにぶつかる前に、どうにか体勢を立て直す。

 

(クソッ!今のを当てていれば・・・!)

 

 一夏が後悔する間も無く、ブルー・ティアーズから4機の高速浮遊砲身「ビット」が飛来してくる。

 

(やっぱり来やがったな!ビット兵器!!)

 

 一夏も又、映像資料室でセシリアの公式戦映像を観ていたので、ビットの存在は知っていた。

 

(結局、()()()()()も思い付かなかったけど、やれるだけやってみるか!!)

 

 しかし、作戦が何も無い訳では無い。一夏は昨日丸一日掛けて、昭弘と共に白式の「能力」を網羅していたのだ。

 

 

 

 観客スタンドは、大いに盛り上がっていた。

 未だ初心者の一夏が、代表候補生相手に互角に渡り合っているのだ。まさかの展開に、全生徒の視線は白式に釘付けになる。

 

「ヒューーッ!!流石織斑くん!」「やっぱり、千冬様の弟ってだけあって違うわね!」「はぁ・・・恰好良い・・・。」

 

 夫々が思い思いの感想を口にする中、箒は無言のまま試合を観ていた。

 

(・・・頑張れ・・・一夏。)

 

 そんな言葉しか、今の箒には浮かんで来なかった。

 

 すると、隣の席に座っていた本音が呟く。

 

「う~~ん・・・何かセッシー、調子悪そう。ちゃんと“スイッチ”入ってるのかな~~?」

 

 

 

「ありがとう。山田先生。」

 

 管制塔にて、突然千冬は真耶に感謝の言葉を述べる。

 

「な、何ですか織斑先生!突然!」

 

「決まっているだろう。織斑の補修や、打鉄のテスト飛行を手伝ってくれたのだろう?その事への感謝だ。」

 

 恐らく、初心者であるにも関わらず、先程から良い試合運びをしている一夏を見て、自然とそんな言葉が零れたのだろう。

 そんな千冬の言葉に対し、真耶は苦笑を浮かべながら返答する。

 

「・・・私だけじゃ、ありませんよ?アルトランドくんや篠ノ之さんが居てくれたから、今の彼が在るんです。」

 

 その返答を聞くと、千冬は納得した様に微笑を浮かべた。

 

 

 

 4機のビットから逃げ惑う白式。何発かの黄緑色の線が命中し、少しずつ白式のSEが減少していく。しかし・・・。

 

(なっ!?今何が起こりまして・・・!?)

 

 セシリアは己の目を疑った。何と白式が、ビットが放ったビームを雪片弐型を振るって吸収したのだ。その直後、セシリアが動揺した事で動きが鈍くなったビットの一機を、白式が雪片弐型の横薙ぎ一閃で破壊する。

 白式の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『零落白夜』である。

 

 単一仕様能力とは、簡単に説明すればそのISのみが使える特殊能力の事で、専用機にしか備わっていない。通常は最適化(一次移行(ファーストシフト))状態では発動せず、二次移行(セカンドシフト)しなければ発動しない。しかし白式だけは別で、束が一次移行後でも発動できる様に、白式のISコアを弄っているのだ。恐らく、初心者である一夏への配慮だろう。

 零落白夜の能力は、白式のエネルギー刃を当てることで、ビーム兵器を無効化することができるのだ。そして、もう一つ・・・。

 

(そ、そんな・・・私のビット(ティアーズ)が・・・。)

 

 呆然と立ち尽くすセシリア。刀がビームを吸収するという非常識と、自慢のビット兵器が一機撃墜されたという驚愕により、今のセシリアの脳内は「混乱」という二文字が支配していた。更に・・・。

 

《何ボサッとしてんだぁ!!!》

 

 再度、白式が迫る。

 

(ッ!?ま、不味い!!)

 

《今度は外さねぇッ!!!》

 

ザシュッ!!

 

 零落白夜の一閃が、ブルー・ティアーズの右脚部装甲に直撃する。すると・・・。

 

(はぁ!?『絶対防御』が発動したですって!?)

 

 これこそが、零落白夜の真骨頂である。

 ISは、装甲の無い生身の部分もシールドバリアで覆っている。そこに一撃を加えられると、ISは操縦者を保護する為に絶対防御と言う機能を発動させる。しかし、絶対防御機能が発動してしまうと、SEが大幅に減少してしまう。無論この機能は、装甲部分にも存在する。

 零落白夜発動中は、雪片弐型の威力が大幅に上昇し、その余り有る程の強大なエネルギーをぶつけることで、強制的に相手の絶対防御を発動させてしまうのだ。

 しかし、この零落白夜にも弱点が有り、発動中は自身のSEも著しく減少していくのだ。

 

(そんな・・・訳が・・・訳が分かりませんわ。・・・一体・・・貴方は・・・一体!?)

 

 そんな混乱をどうにか振り払いながらも、セシリアは白式から距離を取る。

 しかし、セシリアは内心では謎の喜びに襲われていた。

 次は何?次は一体どんな凄い事を、この殿方は魅せてくれるのだろう?と。

 セシリアは最早、完全に「スイッチ」が切り替わってしまっていた。それは最早「戦士」としてのスイッチでは無く、一人の「女」としてのスイッチであった。

 

 

 

(よっしゃ!流れは今、完全にこちらに有る!・・・もしいざとなったら、山田先生から軽く教えて貰った“アレ”も試してみるか。成功するか分かんないけど。)

 

 一夏はそんなことを考えながらも、先程から動きが鈍っているビットに狙いを定める。零落白夜でビームを吸収しながら、ビットを次々と落として行く。

 しかし、最後のビットを落とした瞬間ーーー

 

(な、何だ!?いつの間にかビットが増えている!?)

 

 白式の周囲に、更に2機のビットが浮遊していたのだ。

 

(けど、関係無いね!こいつらも零落白夜で無力化してやるさ!!)

 

 しかし、一夏の考えは甘かった。

 

バシュバシュゥ!!

 

 そのビットが放ったのは、ビームでは無く「ミサイル」だったのだ。

 

(何ッ!?ミサイル!!)

 

ドォゴォォン・・・

 

 ミサイルは2発とも白式に直撃し、周囲には黒煙が撒き散らされていた。

 

 

 

(やった!?)

 

 セシリアは、黒煙が撒き散らされている空間にスターライトMkⅢを向けながら、様子を伺う。しかし、その様子は何処が寂しげであった。

 ーーー直後

 

バァォンッ!!!

 

 黒煙から“何か”が超高速で飛び出して来たのだ。セシリアがそれの正体を認識した時には、もう既に遅かった。

 白式が、『瞬時加速(イグニッションブースト)』を敢行して来たのだ。

 

 瞬時加速とは、ISのスラスター部分からエネルギーを放出し、その放出したエネルギーを一度内部に取り込み、圧縮して再度放出するという高等技術である。その際に得られる慣性エネルギーによって、爆発的な加速を得られるのだ。

 

 セシリアは、最早驚愕することすらできなかった。

 代わりに想っていた事は、今尚自身に接近してくる、純白の装甲を纏った彼のことであった。

 

(・・・嗚呼、何故今の今迄気付かなかったのでしょう。・・・・・・いえ、違いますわね。気付いていたのに、無理に強がっていただけですわね。・・・・・・()()さん、私は、貴方の事が・・・。)

 

《ウオオオオォォォォォォォォォ!!!!!》

 

 最早勝利は目前かに思えた。

 ・・・・・・・・・が、しかし・・・。

 

 

 

《白式!SEエンプティ!!勝者、セシリア・オルコット!!》

 

「《・・・・・・・・・・・・え?》」

 

 一夏とセシリアの間の抜けた声が重なる。

 

「ええええええええええええええ!!!??SE切れかよぉ!!?全然気付かなかった!!!」

 

 そう、度重なる零落白夜の使用により、白式のSEは既に枯渇寸前であったのだ。その状態で零落白夜を発動しながら更に瞬時加速まで行えば、当然白式のSEはあっと言う間に尽きる。

 SEが尽きると同時に、白式の操縦者保護機能が働き、ブルー・ティアーズにぶつかる直前で白式は動きを止める。

 それにより、至近距離で一夏とセシリアの目が合う。

 

《・・・ッ!》

 

 セシリアは顔を真っ赤に染めると、無意識に視線を逸らしてしまう。

 

「?」

 

 一夏は、そんなセシリアの表情に疑問を浮かべながらも、相手に賛辞の言葉を贈る。

 

「流石は、代表候補生だな。けど、オレだって結構良い試合したと思うぜ。」

 

 しかし、尚もセシリアは無言のまま顔を赤く染め、視線を合わせようとしない。てっきり今迄通りの高圧的な態度で来ると思っていた一夏は、大きく拍子抜けてしまう。

 すると・・・。

 

《い、()()さん!》

 

 突然下の名前で呼ばれ、驚く一夏。その名を呼ぶと同時に、コバルトブルーの瞳を一夏に向けるセシリア。

 その時のセシリアの瞳は宝石の光沢の様に潤んでおり、そんな瞳で見られた一夏は、少しだけ頬を赤らめてしまう。

 

《その・・・・・・・・・・・・・・・あ、ありがとうございました。》

 

「あ・・・いや、こちらこそ?」

 

 軽く頭を下げてくるセシリアに対し、未だ状況が飲み込めていない一夏は、良く解らないまま返してしまう。

 その後、一夏は更に言葉を連ねる。

 

「け、けどまぁ、未だアンタを完全に許した訳じゃ無いからな?勝負には負けちまったから、何も言えないのは分かってるけど。」

 

 一夏にそう言われると、セシリアは誰が見ても判る程に落ち込んでしまう。

 女の子にそんな顔をされてしまった一夏は、慌てて頭の中から言葉を探し出す。そして・・・。

 

「その・・・。次の試合、頑張れよな!!」

 

 一夏は笑顔で、セシリアにそう告げる。その言葉は本心から出た言葉であった。

 無論、昭弘を侮辱したセシリアを許した訳では無いが、それでもセシリアは同じクラスメイトだ。クラスメイトに激励の言葉を贈るのは、何も不思議ではあるまい。

 

 一夏からそう言われて、セシリアは今迄に無い程の満面の笑顔を見せる。

 

「ってやっべ!!そろそろ白式が粒子化しちまう!!じゃあオレ、先にピットに戻ってるわ!」

 

 そう言うと、そそくさと白式をピットへと向かわせる一夏。

 そんな一夏の後姿を、セシリアは潤んだ瞳でいつまでも見つめていた。

 

 

 

 

 

《白式!SEエンプティ!!勝者、セシリア・オルコット!!》

 

 昭弘が待機しているピット内に、スピーカーから流れる悲報が木霊する。

 

(一夏は勝てなかったか・・・。だが、オルコット相手に7分間も持ったんなら、上出来過ぎるな。)

 

 実際、試合におけるISバトルは、10分掛かればかなりの接戦なのだ。普通、お互いの実力に大きな差がある場合は、それこそ3分と掛からずに試合が終了してしまう。

 

(・・・ブルー・ティアーズのエネルギー充填と武装補充、んでオルコット自身の休憩も含めると、後30分ってとこか?)

 

 昭弘は、それまでストレッチでもしながら待つことにした。

 ピット内にて、そんな昭弘の吐息が静かに響き渡っていく。

 

 

 

ーーーーー15分後ーーーーー

 

 

 

《アルトランド、予定より早くブルー・ティアーズのエネルギー充填と武装補充が完了した。オルコット自身も、いつでも行けるそうだ。》

 

 管制塔から千冬の通信が入ったので、既にストレッチを終えていた昭弘は、ベンチから重い腰を上げる。

 

「了解。」

 

 そう短く返事をすると、腰に巻き付けてある迷彩柄のウエストバッグから、“ドーム”状の物体を取り出す。その物体は、反対側が平面になっていて、縦に穴が2つ並んでいた。

 昭弘は、平面が上になる様な形でその物体を右手に持つと、そのまま物体を背中に生えている2本の阿頼耶識へと持って行く。物体平面側の2つの穴に、阿頼耶識のピアスがピッタリと挿入される。

 

「そんじゃあ、()()()()()()頼むぜ。グシオン。」

 

 昭弘は自身のMPSの名を呼ぶと同時に、背中の阿頼耶識に付けている待機形態のグシオンに意識を集中させる。

 すると、ドーム状のグシオンから青白い「粒子」が放出され、忽ち昭弘の全身を包み込む。それに呼応するかの様に、深緑色の重工な装甲が、昭弘を覆っていく。背中から両肩と腰へ、両肩から更に両肘へ、腰から更に両膝へと、先ずは頭部以外が装甲に覆われていく。次に、後頭部から頭頂部・前頭部へ、乳突部から耳介部・側頭部へと頭部全体を覆っていき、最後に顔面全体にツインアイのマシンマスクがセットされる。

 その形状は、全体的に丸みを帯びており、一目で重装甲だと相手に解らせる代物であった。

 

《アルトランド及びグシオン。発進準備完了。どうぞ!》

 

「昭弘・アルトランド、グシオン。出るぞ。」

 

 そう言い放ち、ISコアの『拡張領域』から巨大な『グシオンハンマー』を呼び出し、グシオンのスラスターに火を付ける昭弘。

 全身装甲(フルスキン)の怪物が、フィールドへと遂にその姿を現す。

 

 

 

 フィールド上空には、既にセシリアがブルー・ティアーズを纏って待機していた。

 そこで、昭弘はある異変に気付く。

 

(?・・・何だ?オルコットの様子が可笑しいな。)

 

 セシリアはブルー・ティアーズを纏いながらも、頬を桃色に染めており、瞼を閉じながら右手を右頬に当てていた。そして、まるで何かを思い出しているかの様な笑みを浮かべていた。

 

(まさか、初心者の一夏に勝てて嬉しかった・・・って訳でもあるまい。)

 

 気になった昭弘は、専用回線を使ってセシリアに訊いてみることにした。

 

「よぉ、随分と御機嫌な様だが、何か良いことでもあったのか?」

 

 途端、セシリアから先程の表情は消え失せ、代わりに敵意の籠った眼差しが現れる。

 昭弘の知るいつものセシリアだ。

 

《・・・お前には関係の無い事でしてよモルモット。》

 

「ああ、そうかい。」

 

 何処までも淡白な返答に対し、昭弘も又淡白に返す。

 そこから更に続けて、昭弘はセシリアにある提案を言い渡す。

 

「おっと、そうだ。アンタに約束して欲しい事があったんだ。」

 

《・・・何でしょう。》

 

「もしオレが勝ったなら、オレの背中から生えているこの「2本の突起物」を侮辱した事を、誠心誠意謝って貰うぞ。」

 

 昭弘からの要求に対し、セシリアは右手の親指と人差指で顎を触りながら、考える素振りをする。そして・・・。

 

《良いでしょう。但し、此方からも約束事がございますわ。もし私が勝った場合、お前には此処『IS学園』から出て行って貰いますわ。》

 

「ああ、良いだろう。」

 

 昭弘は、その自身の要求とまるで釣り合わない要求を、何の迷いも無く受け入れた。

 

 

 

(一夏・・・。私をこの試合に笑顔で送り出して下さった貴方に、非の打ち所の無い「勝利」と言う言葉を贈り届けてみせますわ。)

 

 セシリアは、自身が愛する男への手土産を心の中で選定すると、少しずつ自身の中に存在する「スイッチ」を切り替えていく。

 

(そして・・・昭弘・アルトランド。貴様には約束通り、この試合を以て此処『IS学園』から消えて貰いますわ。)

 

 そして、昭弘への明確な「敵意」を皮切りに、セシリアのスイッチは完全に切り替わる。そう、「戦士」としてのスイッチに。

 今の彼女は、一夏と相対した時とは違う。目の前の昭弘の事を一つの「敵」としか認識していない。

 

 セシリアのスイッチが完全に切り替わった直後、皆が待ち焦がれていた「試合開始」のブザーが、アリーナ全体に鳴り響く。

 

 ブザーが鳴った瞬間、グシオンは開始早々ブルー・ティアーズに突っ込んで来る。

 

「!」

 

 しかし、セシリアはブルー・ティアーズのスラスターを下方へと吹かして、上方へと回避する。それにより、 グシオンが横凪ぎに大振ったハンマーは、虚しく宙を切る。

 

(図体の割には、意外と速いですわね。)

 

 グシオンは体勢を立て直すと、更に下方に向けてスラスターを放ち、自身の上方に佇んでいるブルー・ティアーズへと肉薄する。

 今度は下からハンマーを掬い上げる様に振るが、ブルー・ティアーズは左半身を後方にずらして、最小限の動きで避けて見せる。

 

(・・・スターライトMkⅢで狙い撃とうにも、こうも追い回されていては、狙い撃つ前にあの巨大なハンマーで叩き落とされる可能性が高いですわね。ミサイルビットや“アレ”も、あの重装甲には効果が薄いでしょうし。)

 

(向こうも恐らく、此方のビットの事は調べている筈。ビットの威力が低いと知っているなら、ビットの攻撃など意に介さない。そうなれば、ビットによる牽制も無意味に終わってしまう。寧ろ、悪戯にビットを出して、早い段階でビットの動きに順応される訳にも・・・。・・・誠に遺憾ではありますが、暫くは回避に徹して、相手の弱点を探るのが賢明ですわね。)

 

 こうして、フィールド上では逃げるブルー・ティアーズ、追うグシオンと言う構図が出来上がっていた。

 

 

 

 グシオンとブルー・ティアーズによる単調なドッグファイトが始まってから、既に5分が経過していた。

 

「うーん、なんか。」

 

「つまんないねー。同じ動きばっかり。」

 

「やっぱり織斑くんが特別だったのかなぁ?」

 

 観客スタンドの生徒たちは、フィールド上での終わりの見えない「鬼ごっこ」に辟易していた。

 

 そんな中、箒だけは未だに熱い視線をグシオンに送り続けていた。「きっと何かが起こる筈だ」と、そんな根拠の無い期待を胸に抱いているかの様に。

 

「ムフフフフ~~~。」

 

「む?どうした、布仏さん。」

 

 何やら意味深な含み笑いを浮かべている本音に、箒が反応する。

 

「しののん~?私の“予感”が正しければ、きっとここから面白くなるよ~~。・・・根拠は無いけど。」

 

(無いのか・・・。)

 

 思わず方の力が抜けてしまい、座っているのにズッコケそうになる箒であった。

 

 

 

「・・・成程な、そういう事か。」

 

 管制塔でも、千冬が怪しげな笑みを浮かべていた。

 

「え?ど、どう言う事なんですか?」

 

 急に呟きだした千冬に、真耶は驚きながら訊ねる。

 

「まぁ見ていろ山田先生。そろそろ試合が動くぞ。」

 

 

 

(はぁ・・・下らない。)

 

 セシリアも又、何を仕掛けて来るのかと強く警戒していた為か、何も起こらない単調な鬼ごっこに心底うんざりしていた。

 

(ま、所詮「モルモット」など、この程度なのでしょうね。作戦も纏まりましたし、そろそろ終わらせようかしら。)

 

 セシリアの考えた作戦はこうだ。

 先ず、ブルー・ティアーズを区画シールドの方へと、相手に勘づかれない様に移動させる。そして、区画シールドギリギリの所迄接近し、そこでグシオンの攻撃を躱す。勢いの余ったグシオンがそのままシールドに激突した所を、スターライトMkⅢで至近距離から狙撃。シールドへの激突と至近距離からの狙撃により、装甲へのダメージとSEの大幅な減少は必須。

 そうして、ビットとスターライトMkⅢによる連携攻撃にて止めを刺す。

 

 セシリアは、早速作戦を実行に移すべく行動するが、何故か胸糞の悪い感情が浮き上がって来る。

 

(全く・・・理解に苦しみましてよ一夏さん。どうして「こんな奴」を、あそこまで貴方は師事するのか・・・。)

 

 その感情の正体は、恐らく“嫉妬”。

 何故私では無くコイツを?何故コイツばっかり、一夏から輝かしい“笑顔”を向けられる?セシリアはそんな現実と、身勝手な嫉妬を燃やす自分自身が、腹立たしくてしょうがないのだ。

 そんな事を考えている内に、区画シールド付近に辿り着いたセシリア。

 

 

 

(オルコットが区画シールドに?・・・成程、そういう事か。丁度良い、こっちもそろそろ()()()()()と思ってた所だぜ。)

 

 昭弘はそんなことを考えると、フルフェイスマスクの中で静かに笑った。

 

 

 

 グシオンが今迄通りにハンマーを振り被った瞬間、ブルー・ティアーズは左に避けて、自身の元居た空間にスターライトMkⅢの銃口を向ける。こうすれば、グシオンがシールドに激突した瞬間をほぼ「ゼロ距離」で狙撃できる。

 しかし、グシオンは自身が銃口を向けている空間に()()()。ーーー瞬間

 

(ッッ!!!!???)

 

 まるで一瞬の内に身体中を駆け巡る電撃の様な悪寒が、セシリアを襲う。それと同時に、ハイパーセンサーのアラートが雷の様に鳴り響く。

 後方に振り向いた時には、何もかもが遅すぎた。

 

ガァギャィィン!!!

 

ドォゴォォォォン・・・

 

 

 

 観客スタンドの生徒一同、口を大きく開けたまま硬直してしまっていた。一瞬の内に()()()()()()が起きたので、殆どの生徒は情報の処理に時間が掛かっている様だ。

 先ず、グシオンはハンマーを振り被ってそのままブルー・ティアーズに突撃すると見せかけ、斜め下方向へと軌道をずらす。ブルー・ティアーズの丁度真下迄来ると、突如青白い粒子を纏い出して“形状”を変えたのだ。

 その直後、凄まじい速度でブルー・ティアーズの背後に回り、巨大な「斧」の様な武器でブルー・ティアーズを叩き落したのだ。

 

 

 

「やはりかッ!!山田先生!これから面白くなるぞ!?」

 

 管制塔では、突如騒ぎ出した千冬に唯々困惑している真耶が居た。

 

 

 

 昭弘は、土煙が舞っているフィールドのグラウンド部分を、『ハルバート』を構えながら油断なく見下ろしていた。

 

 今昭弘が纏っているグシオンの外見は、最早先程の重装甲とは別物と言っても良い程に変化していた。

 色は深緑色からベージュ色に変わっており、全体的に丸みを帯びていた重装甲は、幾らかスマートに且つ鋭角的になっていた。頭部は更に小顔で鋭角的になっており、両側頭部からは後方に伸びる橙色の角が、左右対称に付いていた。背中からは一対の丸い翼の様なユニットが伸びており、腰には楕円形のシールドが、まるでスカートの様に付いていた。

 先程のグシオンが「怪物」だとするなら、今のグシオンはまるで「中世騎士」を彷彿とさせる様な外見をしていた、

 

グシオンリベイク

 

 これこそが、昭弘のMPSの真の姿である。

 

 話は戻るが、もし先の一撃でセシリアが気絶していたなら、戦意喪失と見なされ昭弘の勝利となる。

 しかし、砂煙が晴れてくると、昭弘の表情が曇る。

 

(・・・チッ、“化け物”が。)

 

 何と、未だにブルー・ティアーズは健在だったのだ。

 ハルバートの直撃を受けた際のダメージは有るものの、落下した際のダメージは殆ど見受けられなかった。

 

(何て奴だ。頭から落下しているあの一瞬で、体勢を戻したってのか。んでもって地面に激突する瞬間、それこそ生身で着地するみたいに両脚に姿勢制御のすべてを集中させて、衝撃を最小限に抑えやがったのか・・・。)

 

 しかし、昭弘が相手に感銘を受けているのもそこまでだった。今のグシオンは先程の重装甲とは違い、ビット兵器によるダメージを普通に受けてしまう。

 相手が攻撃態勢を整える前に、こちらから打って出なければならないのだ。

 

 

 

(うぅ・・・未だに眩暈がしますわ。あんな衝撃を食らったのは久方ぶりでしてよ、野蛮人めが!)

 

 セシリアが悪態をつく間も無く、グシオンリベイクはスラスターを全開にして一気に距離を詰めてくる。

 

(ッ!!この速度、ティアーズもスターライトMkⅢも間に合わない・・・!)

 

 咄嗟に、セシリアは回避を選択する。

 しかし、グシオンリベイクの振るったハルバートは、ブルー・ティアーズの左腕装甲部分に直撃する。

 

(馬鹿なッ!?今のはギリギリ回避が間に合った筈!なんてスピードですの!?)

 

 更にSEが減少するブルー・ティアーズ。

 尚もグシオンリベイクは、まるで「猟犬」の様に追撃を止めない。

 

(チィッ!!これでは「あのモード」に切り替える余裕も・・・!)

 

 

 

「・・・しかし、どうにも解せません。どうしてアルトランドくんは、最初からあの形態で出撃しなかったのでしょう。」

 

 真耶が、恐らく観客の生徒全員が思っているであろう疑問を口にする。

 

「簡単だよ、“慣れ”さ。」

 

 余りにも呆気ない答えに、真耶は目を見開く。

 

「アルトランドはオルコットに、重装甲状態のグシオンの機動に慣れて貰う為に、敢えて単調な攻撃を繰り返していたんだ。そして、重装甲グシオンの「鈍足」に“目”が慣れてしまったオルコットは、今のグシオンの高機動に付いて行けなくなっているんだ。」

 

 補足すると、重装甲グシオンならばセシリアが当分様子見を選ぶことも、昭弘は先読みしていたのだ。そうなれば、よりじっくりと重装甲グシオンの機動に慣れて貰える。

 

「恐らく今のグシオンの動きは、オルコットからして見れば今迄のグシオンの5倍にも6倍にも感じられるのだろう。しかし、両機のスペック上の機動力は、殆ど差が無いと言っていいだろう。」

 

「・・・けど、所詮は「慣れ」ですよね?時間が経てば、結局今のグシオンの機動力にも慣れてくると思うのですが。」

 

 真耶がそう発言すると、千冬は待ってましたと言わんばかりに、真耶を指差しながら答える。

 

「そこだよ。そこからが面白いんだ。オルコットが慣れる前に、アルトランドがどう攻め抜くか、そんなアルトランドの猛攻をオルコットがどう凌ぐか。」

 

 

 

(・・・不味いな、少しずつ間合いが離れていく・・・。)

 

 昭弘は内心焦っていた。昭弘の想定よりも遥かに早く、セシリアがグシオンリベイクの高機動に慣れて来たのだ。

 

(もうそろそろ“アレ”を使うか?・・・いや、未だだ。未だ“その時”じゃねぇ。)

 

 

 

(・・・良し、この辺りで仕掛けると致しましょうか。向こうは恐らく「オルコットは動き回りながらビットを操る事ができない」と考えている筈。)

 

 その思考の後、セシリアは怪しげな笑みを浮かべながら更に思考を続ける。

 

(フフフ・・・確かに、()()()()のティアーズは、無理ですわね。)

 

 

 

 昭弘は、セシリアの取った行動に思わず驚愕する。何と、動きながらビットを操り始めたのだ。

 

(ッ!!?・・・・・・成程、()()迄なら、何の制約も無く操れるって訳か。だが、ビット2機分の弾幕なら、多少食らっても問題は無い!)

 

 しかし・・・。

 

バシュバシュゥッ!!

 

(ッ!!ミサイルビット!?しまった!!)

 

 ミサイル兵器は、ビーム兵器よりも衝撃力が強い。直撃を食らえば、大きく体勢が崩れてしまう。その隙に、スターライトMkⅢで狙い撃ちされては溜まったものでは無い。

 昭弘は、直ぐ様グシオンの軌道を斜め上方向に変え、ミサイルを避ける。しかし、2発のミサイルはしつこく追尾してくる。

 昭弘は、自身の直ぐ後方までミサイルが接近した所でグシオンを反転させ、真正面から向かって来るミサイルをそのまま腰部シールドで防ぐ。

 

ドガガァァン!!

 

 ミサイルは2発ともグシオンの腰部シールドに直撃し、周囲に黒煙を撒き散らす。

 昭弘は直ぐ様周囲の黒煙から脱すると、見たくも無い光景をその目に焼き付けてしまう。ブルー・ティアーズがスターライトMkⅢをしっかりと構えてこちらを狙っているのだ。

 

(ッ!!どう出る!?そのまま狙撃か!?それとも・・・。)

 

 昭弘は、咄嗟に腰部シールドを構える。

 しかし、スターライトMkⅢが銃口を光らせることは無く、代わりに飛来してきたのは・・・。

 

《お行きなさいッ!!!ティアァァァァァァズ!!!!!》

 

 通信越しで聴こえるセシリアの怒号と共に、合計6機のビットが昭弘へと向かっていく。

 

(占めたッ!!やはり万全を期す為に、態々ビットとの連携攻撃に出たか!!)

 

 昭弘は、待ってましたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべる。

 そして、6機のビットがグシオンリベイクを取り囲んだ瞬間ーーー

 

ジャキィッ!!

 

ドゥゥルルリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!

 

ダァォダオォォン!!!!!

 

 『M134B ビームミニガン』と『炸裂弾頭搭載型滑腔砲』が火を噴いた。

 

 

 

 セシリアは、突然の事態に身を固めてしまう。

 

(未だ・・・武装を隠していたというのですか・・・!?)

 

 自身のビットたちがグシオンを囲む直前、グシオンの背中に生えている2つのユニットから、“新たなる腕”が一本ずつ生えてきたのだ。そして、6機のビットがグシオンを取り囲んだ瞬間、計4本の腕に夫々「ミニガン」2丁と「滑腔砲」2丁が呼び出されたのだ。

 それらが放つ無数の「黄緑色の線」と、ビット近くで炸裂する「花火」により、ビームビット2機と更にミサイルビット2機が落とされてしまう。

 しかし、セシリアが硬直するのもほんの一瞬で、直ぐ様残り2機のビームビットを引き戻す。

 

(・・・・・・そんなに・・・そんなにも撃ち合いを御所望でしたら“悪夢”を見せて差し上げますわ・・・!!)

 

 狂笑を浮かべるセシリア。

 

 直後、彼女の両目を青藍色の“バイザー”が覆い隠す。

 

キュィィィィィン・・・

 

 不気味な起動音を放ちながら、バイザーの端から端まで続いている「一本の線」の様なカメラアイが、紅く輝く。

 

ーーーブルー・ティアーズ、『中距離高速戦闘特化モード』に移行。スターライトMkⅢを、『アサルトモード』に切り替えます。

 

 ブルー・ティアーズの中から、無機質な音声が静かに響く。

 

 

 

(残り2機・・・!!居ない!?)

 

 残り2機のビームビットは、いつの間にかブルー・ティアーズの直ぐ傍まで戻っていた。

 それらに向かって、ビームミニガンと滑腔砲による一斉射撃を行おうとする昭弘。

 

(ッ!!速いッ!!?)

 

 しかし、ブルー・ティアーズはまるで悶え苦しむ蛇の様な軌道を描きながら、超高速でグシオンリベイクに接近してくる。両肩付近には、2機のビットを浮遊させていた。

 

ミ゛ィ゛ィン!!ミィミィィン!!ミ゛ィ゛ィ゛ィ゛ン゛!!!

 

デュゥーーン!!デュデュデュデュデュデュデュデュデュデュゥン!!!!

 

 2機のビットとアサルトモードのスターライトMkⅢによるビームの嵐を食らい、グシオンのSEが大きく減少する。

 

(チィッ!!さっきのミサイルビットと言い、公式戦の映像を当てにしすぎたな・・・。だが、もうここまで来れば小細工は関係ねぇ!そうだろオルコットォ!!)

 

 昭弘も負けじと、ビームミニガン2丁と滑腔砲2丁で応戦する。

 

 

 

 観客スタンドは、熱狂の渦に包まれていた。

 先程の退屈な鬼ごっこが一変、フィールド内では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

 

「すごいすご~~い!アキヒーもセッシーもカッコイ~~!」

 

「ああ!そうとも!!本当に凄いぞ昭弘!!」

 

 2機の攻防は、観る者を魅了していた。2機共「動く」「狙う」「撃つ」という動作の他に「操る」という動作まで取り入れていながら、動きの精細さをまるで欠いていないのだ。その様は、最早芸術的とさえ言えた。

 狂笑を浮かべながら区画シールド沿いに美しく動き回るセシリアとブルー・ティアーズは、女子生徒たちを大いに魅了した。その美しい黄金色の髪に余りにも不釣り合いで不気味なバイザーが、その魅力に更なる拍車を掛けていた。

 そして、そんなブルー・ティアーズを機械的な無表情で迎え撃つグシオンリベイクは、女子生徒達に大いなる恐怖と畏怖を抱かせていた。

 

 その後、更に戦いは熾烈さを増していく。ブルー・ティアーズは、両肩に浮遊させていたビットを自身から遠ざけると、まるでグシオンを囲い込むかの様に「ブルー・ティアーズ、ビット、ビット」による3方向からのオールレンジ攻撃に出たのだ。

 グシオンはこれを生物的な機動を以って躱していくが、何発かが直撃してしまう。しかし、グシオンは区画シールドを背にする事で死角を減らし、オールレンジ攻撃の効果を半分に減らす。まるでシールド上を脚部スラスターで滑る様に移動しながら攻撃を掻い潜り、ビームミニガンと滑腔砲にて応戦する。そして、滑腔砲が放った炸裂弾頭がビット付近で爆発し、ビット1機を撃破する。

 未だにSE残量ではセシリアの方が上だが、ビット一機が落とされたことにより、少しずつ昭弘に軍配が傾き始める。

 

 

 

(チィッ・・・ですが、未だにSE残量はこちらが上・・・!なればやることは単純にして明確!こちらのSEが尽きる前に、奴のSEを削り切るのみですわ!!)

 

 セシリアはそう己を鼓舞し、今迄以上にグシオンに接近しながらビームの雨を降らせる。

 

(決して負けられませんわ・・・!一夏(あの人)の為に!!)

 

 そう、一夏は自分に言ってくれた。「頑張れ」と。なれば「頑張った末に負ける」のでは無く「頑張った末に勝つ」事こそが、大好きな彼への手向けとなるだろう。その想いは、昭弘を学園から追い出したいという邪な思いを優に凌駕していた。

 

(にしても・・・“強い”。私が今迄戦ってきた者達の中でも、恐らく3本の指に入る程に。)

 

 今のセシリアは、昭弘をモルモット呼ばわりしていた数分前の自分を恥じていた。それ程迄に、セシリアから見ても昭弘の実力は「別格」であった。

 

 

 

(クソッ、なんつー気迫だ。ビットを1機落としたってのに、まるで勢いが衰える感じがしねぇ!)

 

 「それ程自分をこの学園から追い出したいのか」とも昭弘は考えたが、やはり違う。たかが自分一人を学園から追い出す為だけに、これ程迄にねばるとは昭弘には思えなかった。・・・もしかしたら、彼女もまた自分と同じ様に、何か“譲れないモノ”の為に戦っているのかもしれない。

 

(・・・だが、負けられないのはこっちも同じだ!絶対に謝らせる!!オレの“家族”を侮辱したことをな!!)

 

 昭弘は、すべての銃口を残りのビット一機に向ける。その際、ブルー・ティアーズからの猛攻を受けてしまうが、最後のビットの撃破に成功する。

 

 

 

(最後のビットが・・・!?しかし、もう奴のSEは残り僅か。後はこちらが先に削り切れば・・・!)

 

 

 

(後少し・・・!後少しだ!!絶対にこっちが先に削り切ってやる!!)

 

 お互いに譲れない想いの為に、唯々引き金を引き続ける。今の二人には、最早「回避」という考えすら無かった。

 

「ウォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ラ゛ァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ドゥルリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
 

ダダォォン!!!ダダォォン!!!

 

 

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!」

 

デュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュデュゥン!!!

 

 

 

ビーーーーーーッ!!!

 

 試合終了のブザーが、アリーナ全体に鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ブルー・ティアーズ!SEエンプティ!!勝者、昭弘・アルトランド!!》

 

 管制塔からのアナウンスが鳴り響いた数秒後、観客スタンドからはまるで雪崩の様な拍手喝采が巻き起こった。

 

 

 

 セシリアは、俯きながらビットに戻ろうとする。

 すると、昭弘から専用回線で通信が入る。

 

「何ですの?謝罪なら来週の月曜日にちゃんと・・・」

 

《違う、その件じゃない。》

 

 昭弘に自身の言葉を遮られ、僅かに眉を顰めるセシリア。

 

《・・・・・・お互い良い戦いだった。・・・そんだけだ。》

 

 実際、昭弘が事前にブルー・ティアーズの事を調べていなければ、昭弘の敗北も十分に有り得た。それ程、昭弘にとっても一進一退の攻防だったのだ。

 セシリアはそんな昭弘の言葉に少し驚いた顔をすると、口角を僅かに上げながら言葉を返す。

 

「・・・ええ、そうですわね、()()()()()()。」

 

 この日、漸くセシリアは昭弘のことを苗字で呼んだ。




やっとだ・・・やっと話を進められる。


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第5話 悔いの無い

・・・・・・アレ?何か気が付いたら一夏との戦闘が長くなってしまった。
もっと手短に済ませようと思ってたのに・・・。
きりが良いのでこのまま投稿します。



 一夏は、ピットにて静かに待機していた。ピット内は静寂・・・と言う訳でも無く、僅かな機械音がそこら中から聞こえてくる。考えていることは無論、次の対戦者のことだ。

 

(次は昭弘が相手かぁ・・・。けど、流石に1戦目程の緊張は無いな。さっきの戦いで、白式(こいつ)の扱い方も何となく解ってきた。)

 

 無論一夏は、昭弘に敵う等とは微塵も思っていない。

 昭弘の勝利の報は、一夏にもしっかり届いていた。あのセシリアに勝つのだから、少なくとも自分より格上の実力を持っていることは最早明白。

 それでも、やれるだけのことはやる。「まだ初心者だから」という言葉を言い訳にはしたくない。それに、どんな状況だろうと本気でやらなければ、今まで練習に付き合ってくれた箒や昭弘に失礼だ。何より“男”らしくない。

 

(・・・やってやるさ!オレは、家族を・・・千冬姉を護れる男になるんだ!)

 

 そう、最愛の家族を護る。それは果たして「目標」か「目的」か、それともただの「願望」なのか。それは一夏本人にも、未だ解らない。

 

《織斑、アルトランドのMPSのエネルギー充填と、武器・弾薬補充が完了した。いつでも行けるぞ。》

 

 そんなことを考えていると、管制塔からの千冬の声が、ピット内に響き渡る。

 

「・・・了解。」

 

 一夏は短くそう答えると、白式を展開し純白の装甲を身に纏う。

 

《織斑及び白式、発信準備完了。どうぞ!》

 

 管制塔からの通信を受け、ピットからフィールドを見上げる。

 

「織斑一夏、白式。行きます!」

 

 1対の非固定式の美しき機械翼を羽ばたかせ、一夏と白式はフィールドへと飛翔する。

 

 

 

 フィールド上には、既にMPSを纏った昭弘が待機していた。

 ハイパーセンサーで敵機の名称や特徴等を確認すると、一夏は先程の試合とはまた違った緊張感を味わうことになった。

 

(アレが昭弘のMPS『グシオンリベイク』か・・・。武装は主に射撃兵装・・・なのかな?なんと言うかこう、フルフェイスってやっぱ不気味だよな。表情が分からないってのが、こんなにも不安感を煽るとは思わなかった・・・。あとカッコいい。ツインアイの部分とか。)

 

 今回昭弘は、最初からグシオンリベイクで出撃することにしたのだ。これに関しては、昭弘に深い考えは無い。

 全体的な性能では、グシオンよりグシオンリベイクの方が上だ。敵機の情報がほぼ無いと言った状況ならば、後者を選ぶのが自然であろう。

 

《そんなに気張んな、織斑。好きなようにやりゃあいいさ。オレも、ちゃんと“本気”で行くから安心しろ。》

 

「お、おうよ!オレも本気で行くぜ!!(い、生きて帰れるかなオレ!?)》

 

 緊張を解すために放った昭弘の一言は、一夏にとっては却って重荷となってしまった様だ。それでも一夏は、不器用なりにも自身のことを気に掛けてくれる昭弘に、重荷以上の感謝を感じていた。

 

(・・・よし!最初はやっぱ“アレ”で行くか!)

 

 一夏は、頭の中で最初に自身が起こすべき行動を既に決定していた。

 

 

 

 そして・・・

 

 

 

 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 試合開始のブザーが鳴る・・・と同時に。

 

バォンッ!!

 

 一夏が、最初にとった戦法は、言うなれば“先手必勝”であった。

 まず一夏は、試合開始のブザーが鳴ると同時に“瞬時加速”を敢行。機動性と加速力に優れた白式の爆発的なスピードで、自身とグシオンリベイクとの間合いを一気に潰そうとする。

 それと同時に、白式が持つ“単一仕様能力(ワンオフアビリティ)”“零落白夜”を発動させる。

 

 単一仕様能力とは、文字通りそのISだけが持っている能力のことで、通常は“二次移行(セカンドシフト)”後でなければ発動できない代物である。未だ一次移行しか済んでいない白式では発動できないはずだが、その辺は未だ初心者の一夏に対する、束からの()()()()()プレゼントであった。無論一夏は、そんなこと知る由もないが。

 零落白夜とは、『雪片弐型』という巨大な刀に一時的に形成される“エネルギー刃”のことで、このエネルギー刃を食らったISは、その余りある威力に対して絶対防御を発動させてしまい、シールドエネルギーを大幅に減少させてしまうという恐ろしい能力だ。しかもこの零落白夜は、相手からのビーム攻撃を無効化することができるのだ。因みに、この能力を発動させている時は自身のISのシールドエネルギーも減少していくという「諸刃の剣」でもある。

 

 しかし、一夏の行動は昭弘に完全に読まれていた。

 グシオンリベイクは、試合開始のブザーが鳴ると同時に大きく右方向へとスラスターを吹かしたのだ。これにより、一夏にとって渾身の一撃は空しく宙を斬る。

 白式が態勢を立て直している隙を昭弘が見逃してくれる筈も無く、先程のセシリア戦と同じように「M134B ビームミニガン」2丁と「炸裂弾頭搭載型滑腔砲」2丁による一斉射撃を行った。

 

ドゥゥゥリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!! ダダォーーン!! ダダォーーーン!!

 

 それらをモロに食らってしまった白式は、シールドエネルギーを大幅に減少させてしまう。

 一夏は、自身の作戦を悔いるよりも前に、グシオンリベイクの変貌っぷりに驚愕の色を示していた。

 

(なんじゃありゃ!?腕が背中から更に2本()()()()()ぞ!!?)

 

 一夏が驚愕している間にも、グシオンリベイクの猛攻は絶え間無く続く。未だ戦闘経験の浅い一夏は、それらの攻撃を必死に避ける事しかできない。

 

 

 

(っ!・・・・・・一夏・・・!)

 

 観客席にて、箒は二人の試合を固唾を吞んで観ていた。余りにも一方的な試合を。

 一夏は、今もグシオンリベイクの猛攻を必死に掻い潜ってはいるが、いくら機動力に長けた白式でもあれだけ濃密な弾幕を全弾回避できる筈も無く、少しずつ白式の被弾数が増えていく。対するグシオンリベイクは、未だにスラスターによるものでしか、エネルギーを消費していなかった。

 箒は、正直なところ、2人の勝敗はどうでも良かった。ただ、悔いの無い戦いをして欲しかった。・・・しかし、そんな儚い願望とは裏腹に、現実的な結果は箒にだって目に見えている。

 白式には、射撃武装が存在しない。増してや一夏はほぼ初心者。そんな状況で、昭弘の様な歴戦のパイロットにあんな風に弾幕を張られてしまえば、最早攻め入ることなんてできない。

 先程のセシリア戦では、相手が油断していたというのもありビットのビームを上手く無効化することで善戦できたが、今回は訳が違う。昭弘に油断や慢心なんて一切無いし、ビーム兵器とは言え速射能力の極めて高いミニガンが相手では、零落白夜で弾くにも限界がある。しかもそれが2丁。更には、実弾を搭載している滑腔砲まである。

 ここまで条件が揃ってしまえば、一夏の敗北は最早決定事項と言っても過言では無い。

 箒は、自分はつくづく我儘な女だと、己を責めた。何が悔いの無い戦いだ。初心者とは言え一夏は一方的な猛攻に晒され、昭弘は心を鬼にして嬲りたくもない一夏を嬲り続けねばならない。

 いったいこれの何処に悔いの無い戦いがあるというのか。そんなもの、自分の身勝手な願望でしか無いというのに。

 

 

 

(クソッ!シールド残量は・・・16%か・・・流石にもうキツイかな・・・。)

 

 ただひたすらに前向きな一夏でも、この状況は最早絶望的としか言えなかった。否、考えが甘すぎたのだ。敵わないことは分かっていたが、それでもここまで一方的な試合になるなんて思いもしなかったのだ。

 慢心していたセシリア相手に多少善戦した程度で、何を浮かれていたのだと己を責めようとする前に、昭弘から通信が届く。

 

《おい、織斑。さっきのオレの言葉、もう忘れたのか?》

 

 攻撃を続行しながら通信を入れる昭弘に、一夏は驚く。返す余裕なんて今の一夏には何処にも無いので、そのまま黙って聞くことにした。

 

《・・・・・・「箒にいいとこ、魅せてやれよ」って言ったろうが。》

 

 その言葉を、まるで一夏自身が待っていたかの様に、心の奥へと浸透させていく。

 そうだ、いつもずっと一緒に居てくれたあの娘。苦言を呈しながらも、どんな時でも自身を支えてくれたあの娘。それは、此処IS学園に来てからも変わらなかった。

 そんなあの娘に、せめてもの恩返しがしたい。喜ぶ顔が見たい!自身のかっこいい所を魅せてあげたい!!あの娘に対して“悔いの無い”顔をしていたい!!

 

(そうだ・・・!未だ試合は終わってねぇ!!何かあるはずだ!一矢報いることができる何かが!!)

 

 一夏は、何か使えるモノが無いかと、回避を続けながら周囲を見渡す。すると、あるモノが自身の目に飛び込んできた。

 フィールドを囲む、観客席のスタンド。そのすぐ外側から聳え立っている、フィールド上を照らす照明だ。

 それを見た一夏は、心の奥底から叫んだ。

 

「ソレだぁァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 叫ぶと同時に、照明のある方角へと突っ込んでいく一夏。今までとは違い、馬鹿正直に一直線な軌道だったために、白式の被弾率はさらに上昇する。

 

(シールド残量5%・・・ッ!もう零落白夜は使えないな・・・。けどっ!ならせめて一撃だけでもッ!!)

 

 

 

 昭弘は、照準を白式に合わせたまま、一斉射撃を続行していた。一瞬たりたも、白式への視線を外さずに・・・しかし、それが却って仇となってしまった。

 白式が向かった先は、丁度照明とグシオンリベイクとの中間点に位置する空間だった。当然、白式から視線を外さなかった昭弘は、白式の後方から光る照明をも視線に捉えてしまう。

 

(ッ!!?しまった!逆光か!!)

 

 突然自身の視界に雪崩れ込んでくる膨大な光の束に、昭弘は反射的に右手を眼前に掲げてしまう。

 

《隙有りィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!》

 

 その隙を一夏は逃すこと無く、ここぞとばかりに瞬時加速を敢行する。逆光を背に超高速で突っ込んで来る白式は、流石の昭弘でも正確な視認が困難であった。

 

(“迎撃”間に合わねぇ。“腰部シールド”間に合わねぇ。“回避”間に合わねぇ。・・・・・・食らうしかねぇか・・・!)

 

 一瞬でそう判断した昭弘は、両腕の肘を曲げて眼前で交差する。更に両脚も同じように曲げて交差し、まるで蹲るかのような防御姿勢をとる。

 

ガゴォォン!!!

 

 一夏は、雪片弐型を『袈裟懸け』の要領でグシオンリベイクの真正面に叩き込んだ。最早捨身の突進の様な白式の斬撃に、後方へと大きく押し出されるグシオンリベイク。

 しかし、フィールドの区画シールドに激突するギリギリの所で、どうにか踏みとどまる。

 白式は、瞬時加速とグシオンリベイクに突撃した際の衝撃によって、遂にシールド残量は0という数値を迎えてしまう。それに呼応するかの様に、白式も青い粒子へと形を崩していく。

 白式の展開維持が限界を迎え、落下しそうになる一夏を、昭弘は右腕で優しく抱き止める。

 

《白式、シールドエネルギーエンプティ!勝者、昭弘・アルトランド!!》

 

 アナウンスと同時に、先の試合に負けない位の歓声と拍手が響き渡る。

 確かに、シールド残量的には昭弘の圧勝だが、一夏による捨て身の斬撃は、2年生3年生からも感銘の声が上がっていた。

 

「昭弘ッ!やった!やったぜ!?オレ!!」

 

 敗者であるにも拘わらず、まるで勝者の様な雄叫びを上げる一夏。その理由は正に“悔いが無いから”その一言に尽きるであろう。

 昭弘は、そんな一夏に対し、グシオンリベイクのフルフェイスマスク越しに優しく微笑み返す。

 

《嗚呼全くだ、本当に良くやったぞ。・・・にしても無茶をする、最後の逆光からの突撃は流石に焦ったぞ。》

 

 一夏の大胆な戦術をそう評価すると、昭弘はハイパーセンサーを使って箒の姿を探す。一夏に、箒に、今のお互いの表情を見せてあげたかったのだ。

 

「・・・居たぜ、箒。」

 

《・・・マジでか?何処に。》

 

「昭弘のすぐ後ろ。区画シールドを跨いだ、スタンドの最前列。」

 

 そう言われて振り返ると、満面の笑みでこちらに手を振っている箒が、そこに居た。

 

「・・・何か、箒があんなに笑うところ、すげぇ久しぶりに見たな。」

 

 そう言って、一夏も満面の笑顔で手を振り返す。

 

 

 

(・・・何だか・・・・・・先程の自分が、馬鹿馬鹿しく思えてくるな。ただ2人を信じて、見届けていれば良かったのに。)

 

 箒は、無我夢中で手を振っていた。先程の陰鬱な箒は、もう遥か彼方へと吹き飛んでしまっていた。

 そんな箒に気づいたのか、一夏も満面の笑みで手を振った。一夏の笑顔を見て、箒は嬉しさの余り涙が零れそうになるのを必死に抑えていた。

 対する昭弘は、箒を見ているだけに留まり、マスクのせいで表情も見えなかった。

 

 箒は、そんな昭弘の静かな反応に、()()()()()()()()()()を感じた。その感情は、幼い頃に箒が一夏と離れ離れになってしまった時のモノと、少し似ていた。

 

 

 

(折角の2人だけの時間だ。オレまで顔出して手を振るのは、少々野暮ってもんだな。)

 

 この時、昭弘は気が付かなかった。箒は一夏だけでなく、昭弘に対しても手を振っていたということを。

 

 

 

 

 

 こうして、短い様で長いクラス代表決定戦は、幕を下ろした。




えっ?未だにMPSの説明も他のISキャラとの進展も無い?
次回から描写していける・・・といいなぁ・・・。


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第6話 夫々の思惑と夫々の謝罪

今更ですが『デッドプール2』面白かったです(ダイマ)


ーーーーー西暦2022年4月15日(金) 某時刻ーーーーー

 

 二人の教師が、一時的に人払いが為されている映像資料室にて、ある映像とデータを照らし合わせていた。

 映像は、ISとMPSによる模擬試合を映したモノだ。群青色のISとベージュ色のMPSが、空中で激しく入れ替わる様に撃っては避けてを繰り返している。

 滅多にお目にかかれない程の一進一退の激戦だったが、二人が気にしていたのは“データ”の方だった。

 

「織斑先生。やはり・・・こんな数値が、あり得るのでしょうか?」

 

「・・・・・・私も気になって、計器の方を整備課の者と共に調べたが、これと言って異常は見当たらなかった。」

 

「・・・・・・・・・織斑先生、確認なのですが、ISと搭乗者との『シンクロ率』は、高くても80%前後、今迄の記録では最大でもあなたと『暮桜』の92.7%・・・そうですよね?」

 

「そうだ、間違いない。」

 

 この『シンクロ率』という数値が高ければ高い程、搭乗者の思いのままにISを操ることができる。つまり、搭乗者の思い描いた通りの生物的な空中機動が可能になるということだ。

 

「では、アルトランドくんとグシオンリベイクの数値・・・シンクロ率99.4%。この数値が示す意味って・・・。」

 

「シンクロ率99.4%。普通に考えれば絶対に有り得ない数値だが、彼は神経を有線で機械側と直結させている。そうなれば話はまた変わってくる。」

 

「そして・・・MPSはどうなのか分からないが、ISならばこのシンクロ率が100%に達した場合、ISとその搭乗者は理論上完全に“一体化”する。」

 

「・・・一体化すると、その搭乗者は・・・どうなってしまうのですか?」

 

「それは分からない。何せ前例が無いんだからな。」

 

 千冬がそう答えると、真耶は不安気に目を逸らしてしまう。

 

「兎も角、先ずはアルトランドの体調面や精神面に、気を配った方がいいだろう。何せMPSなどと言う全くの未知数な代物だ、心配し過ぎるに越したことは無い。可能であれば2週間に1回のペースでアルトランドの身体検査やメンタルチェックも行うべきだろうな。」

 

「はい・・・そうですね。」

 

 2人は教師として、生徒の安全を第一に考えることにした。

 それでも、2人にとってグシオンリベイクは、余りにも不可解なことが多すぎた。

 ISにはそのコアが放つ識別信号と言うものがあるが、グシオンリベイクからの識別信号は、少なくとも純正のISコアでは有り得ない()()が検出された。この反応からして、少なくともこのグシオンリベイクは擬似ISコアにより動いている・・・と2人は判断した。無いとは思うが、純正ISコアの信号を()()()()()()()()()している可能性も頭に入れている。

 また、シンクロ率がMPSとその搭乗者にどんな影響を及ぼすのかも、まるで未知数だ。

 映像からも、ブルー・ティアーズとグシオンリベイクはほぼ互角の戦いをしている様にしか見えない。因みに、ブルー・ティアーズとセシリアのシンクロ率は77.3%であった。そのブルー・ティアーズと互角と言うことは、 MPSにとってシンクロ率とはそこまで重要なファクターでは無いのだろうか?それとも・・・。

 

 一つだけ解ったことと言えば、グシオンリベイクの装甲がISの纏っている部分装甲とほぼ同じ原理で稼働しているということだけだった。

 堅牢な装甲を、更にエネルギーシールドで覆っている所だけは、ISと変わらない仕様らしい。

 

(まったく・・・ある意味一夏以上の()()かもしれんな、これは。)

 

 千冬は心の中でそう呟くと、右手で目尻を抑えながら、真耶と共に映像資料室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー西暦2022年4月17日(日) 21:32ーーーーー

 

 その時、昭弘は寝間着姿のまま、自室の窓から唯々外を眺めていた。

 その日の分の筋肉トレーニングもノルマは達成し、明日の授業の予習も済んでいた。又、この時間帯はアリーナのスケジュールが埋まっているので、MPSによる機動訓練もできない。箒と一夏も、明日の授業に備えてもう寝ているかもしれないので、彼らの部屋にお邪魔するのは遠慮しておいた。

 特にやることが無いので、唯何となく、気晴らしに外を眺めていたのだ。と言っても、時刻はすでに21:30を回っている。窓越しに昭弘の目に入る景色は、暗黒の中でポツンと、証明に照らされながら不気味に輝くアリーナAくらいだ。

 

ーーーーーピロリロリロン ピロリロリロン ピロリロリロン ピロリロリロンーーーーー

 

 唐突に、昭弘のスマートフォンが静寂の中で鳴り響く。

 深緑色の外殻で覆われたスマートフォンの画面に表示されている名前を見て、昭弘は僅かに表情を曇らせる。電話越しだろうと、昭弘にとっては余り積極的には話したくない人物だった。

 そんな思いの中、昭弘は渋々と電話に出る。

 

「・・・もしもし。」

 

《夜分遅く失礼致しますぅ↑~~。皆から愛されるT.P.F.B.の『どぅわいひゃうとぅおぉりしまるぃ役ぅ』!!デリー・レーンでございますぅ↑↑~~~!!》

 

 男性にしては若干高く、独特な発音をした若々しい声が、電話越しに昭弘の脳を揺らす。

 

 この男こそ、T.P.F.B.の実質的なトップであり、束と“秘密の契約”を結んだ張本人『デリー・レーン』である。生粋のアメリカ人だ。束とT.P.F.B.との取引がスムーズに進んだのも、この男の異常に早い決断力のおかげである。

 束から持ち掛けられた取引は、簡単に言えば昭弘の阿頼耶識システムに関する技術の譲渡であった。

 束は、昭弘の背中に埋め込んである阿頼耶識のピアスは自分が創り出したと嘘を吐き、阿頼耶識の技術をT.P.F.B.に“条件付き”で提供したのだ。無論、束への見返りは無い。

 その「条件」とは、

 

 1.今後、昭弘・アルトランドのMPSの戦闘データを私「篠ノ之束」を通じてT.P.F.B.に送ることになるが、その際の戦闘データに関しては決して余計な詮索を入れないこと。

 

 2.送ったデータはあくまで「兵器」としてのMPSの性能向上や量産化の為だけに使い、それ以外の用途を禁ずる。

 

 3.今後、MPSと少年兵に使われている有機デバイスシステムの総称を、『阿頼耶識システム』と改名すること。

 

 デリーは、これらの条件を受けて尚、この取引に快く乗った。MPSに関する最新の技術を無償で提供してくれる様なものだ、当然乗らない筈が無い。

 無論、デリーは不気味な程にこちらが有利な取引に裏を感じなかった訳でもないが、取引相手は世界を揺るがすあの大天災。無下に断ったとしたら、()()()()()()分かったものではない。だからこそ、デリーは危険を承知で即決したのだ。今後どんなことが起ころうと、今滅ぼされるよりはマシなのだから。

 束も、デリーのその決断力と狡猾さが解っていたからこそ、この取引をT.P.F.B.に持ち出したのである。

 

「何の用だ?グシオンの戦闘データなら、もう束がそっちに送ったはずだが。」

 

《もぉ~そんな冷たい反応しないで下さいよぉ~~。さぁて!では気を取り直してぇ↑先ずは昭弘様、遅くなってしまい大変恐縮なのですが、セシリア・オルコット嬢への勝利、おめでとうございますぅ↑!》

 

「・・・・・・そいつぁどうも。」

 

 デリーからの祝福の言葉に、昭弘は取り敢えず淡々と返事をする。

 

《いんやぁ、それにしても素晴らしいデータでしたよぉ↑!やはり天災様様でございますなぁ。あの戦闘データさえあれば、従来のMPSなど比較にならないレベルの強力なMPSが作れることはまず間違い無し!・・・と技術部の連中が呟いておりましたぁ! あっ!むぅぉちろん!昭弘様の操縦技術が勝敗を分けたということは、重々承知しております故↑。》

 

 T.P.F.B.は、“人体”側の阿頼耶識システムの技術はもう持っているが、“MPS”側の技術は未だ束から与えられていないのだ。

 理由としてはやはり、グシオンリベイクに純正のISコアが使われているという事実が大きい。ISコアは、現状束にしか作ることができない。グシオンリベイクのデータをそのままT.P.F.B.に送ったとしても、擬似ISコアしか作れない彼等では、データの扱いに困り果てるだけだろう。

 ISコア内の詳細な技術データ込みで送り付けることも可能ではあるが、そうなると束にとって不都合が起きるのだ。自身の計画の為にも、彼等の様な武器商人にISそのものを“兵器”として量産化されてしまってはたまったものでは無い。

 だからこそ束は、グシオンリベイクのデータを彼等でも()()()()()ようにするため、「グシオンリベイクによる戦闘データ」を更に束が“編集”したモノを彼らに送り付けているのだ。彼等に渡ったら不味い情報を改竄するという意味合いも含めて。態々IS学園で戦闘データを取るのも、有名なIS操縦者との戦闘データの方が、データに“箔が付く”からである。理由としてはもう一つあるが、ここでは省略する。

 おそらくデリーも、戦闘データが後から手を加えられていることは、何となく察しは付いているのだろう。まぁ彼にとっては、利益にさえなればそれで良いのだろうが。

 

「・・・そんなことより、()()()()は元気にやってるか?」

 

《おやっ!気になりますかぁ?元気も元気ぃ↑ですよぉ↑。》

 

 “あいつら”とは、T.P.F.B.の本社や支社の警備に就いている少年兵達のことである。

 全員少年兵という訳では無いが、本社等の重要な拠点においては、MPSで武装させている場合もあるのだ。MPSのデータを取らせる意味合いも有るのだろう。

 ただ、T.P.F.B.は表面上は義手義足等を開発・販売する真っ当な企業だ。MPSの存在が世間に公となる訳にもいかないので、待機中のMPSを警備の戦力として駆り出すのはあくまで最終手段だ。

 昭弘も、束とともにT.P.F.B.本社に訪れた際、彼等少年兵に会っていた。皆生き生きとしており、自分たちを私兵として雇ってくれたT.P.F.B.には感謝してもしきれないといった思いを持っていた。

 昭弘は、そんな彼ら少年兵の笑顔を見て、T.P.F.B.に対して複雑な感情を抱いた。

 彼らの笑顔を見るまでは、昭弘はT.P.F.B.のことが正直気に入らなかった。子供を商売の道具にすることがどれ程薄汚れたものなのかは、昭弘自身がその身をもって体験している。“物”としてぞんざいに扱われる日々、過酷で危険な仕事、いつ死ぬかもしれないという恐怖。それと同じ様なことを、T.P.F.B.が子供たちにやらせていると思っていたのだ。

 だからか、生き生きと仕事に励む少年たちを見て、昭弘は何が正しいのか、何が間違っているのか解らなくなったのだ。分かったことは、彼等少年兵がT.P.F.B.を慕っているということだけだった。

 昭弘は、そんな彼等少年兵のことを唯々心配する。昭弘にとっては、彼等の境遇は最早他人事ではないのだ。何故なら、自身も前世では子供の内から戦場に身を置いていたからだ。変わらず元気にやっているのか、T.P.F.B.の技術者共に騙されてはいないか。今の自身と似ている様で似ていない境遇の彼らを、昭弘は気にかけずにはいられないのかもしれない。

 

《彼等にも本当に感謝してますよぉ↑。彼らが我々を護ってくれているからこそ、我々も日々の業務に集中できる訳ですからねぇ↑。貴方様のことも、「自分達MPS乗りの誇りだ」と、良く言っておられますよぉ?》

 

 昭弘は、このデリー・レーンという男に対して、束とはまた違った不気味さを感じていた。

 少年兵を「商品」や「実験体」としか思っていない割には、まるで彼らに敬意を払っているかのような素振りも見せる。昭弘に対してもそうだ。物としてしか見ていない癖に、今回の様に不必要な連絡を入れてくる。デリーが何を考えているのか、昭弘には良く解らないのだ。それとも、社会に身を置いている商人という人種は皆こうなのだろうか。

 ・・・・・・一先ず、このデリー・レーンという男には仕事のこと以外では関わらないようにしようというのが、昭弘の出した結論だった。

 

「あいつらが変わらずやっているならそれでいい。・・・そんじゃ、もう切るぞ?明日も早いんだ。」

 

《はいはいは~い↑!。また時間が取れたら、こちらからご連絡を致します故ぇ↑。もし差し支えなければ、束様にもよろしく言っておいてくださいましぃ↑。何せ我々からでは一切連絡が取れませんのでぇ、何故か。》

 

「わかった。そう伝えておく。」

 

 そう短く返すと、昭弘は逃げるように通話を切った。

 その後、昭弘は静かにベッドに腰を下ろす。考えることは、“今の自分”のことだった。

 

(・・・オレは本当に此処に居ていいんだろうか。)

 

 昭弘は、そう思わずにはいられないのだ。

 本来ならば、昭弘は彼等少年兵と同じ道を辿っていたかもしれないのだ。それが何の因果か、篠ノ之束という天災に偶然拾われ、此処『IS学園』という学校で平穏な日々を送っている。

 昭弘は、そのことに少なくない罪悪感を覚えているのだ。自身がこうしている間にも、彼等少年兵は戦場で生きるか死ぬかのやり取りをしており、大人たちから理不尽な暴力を受けているのだ。中には、運よくMPSを手に入れてそれなりの待遇を受けている者もいるだろうが、ほとんどの少年兵はそうでは無いのだろう。

 

ーーーーーーーーーーゴッ!!

 

 昭弘は、右拳の甲の部分で己の額を殴った。

 

(・・・しっかりしろ・・・!どんなにウジウジ考えたところで、過去は変えられねぇ。変えられねぇってんなら、今も戦っている少年たち(アイツら)の分まで、今を必死に生きるしかねぇんだ・・・!)

 

 昭弘は、そう自身に言い聞かせて、半ば無理やりプラスの思考へと引っ張ろうとする。

 明日からまたIS学園(此処)での日常が始まるのだ。自身の身勝手な罪悪感に1年1組のクラスメイトまで巻き込む訳にはいかない。

 

 そんなことを考えながら、昭弘は部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込み、瞼を閉じる。

 

 此処での日常に備えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー翌日 朝 08:11ーーーーー

 

 屈強な男が、その風貌に似つかわしくない制服をキッチリと身に纏いながら、IS学園の廊下を歩いていく。

 すれ違う女子生徒たちは、そんな彼を見ると反射的に目を逸らしてしまう。理由は簡単、恐いからだ。しかし、少数派ではあるが彼の制服越しでも解る屈強な肉体を一目でも拝もうと、頬を赤く染めて凝視している女子生徒も居るには居る。

 そんなすれ違う女子生徒たちの反応に一切動じることなく、昭弘は1年1組の教室に辿り着き、扉を左に引いて入室する。

 

「おはよう。」

 

 昭弘は、短く朝の挨拶を発する。

 

「おはよう昭弘。」

 

「おう昭弘!おはよっ!!」

 

「おはよ~~アキヒー~~。」

 

 箒、一夏、本音の3人が昭弘にそう返すと、他の生徒達も「お、おはよー。」と、若干震えが混じった声で昭弘に返す。

 昭弘が座席に着いた直後、同じく教室右前方の扉がガラリと引かれ、セシリアが入室してくる。

 

「おはようございます。」

 

 まず、クラスの皆にそう挨拶をすると、すぐさま一夏の下へと駆け寄る。

 

「一夏!おはようございますっ!」

 

「おっ!?おう、おはよう()()()()。」

 

 満面の笑みで頬を僅かに赤くしながら挨拶をしてくるセシリアに、一夏は困惑しながら返す。

 そんな馴れ馴れしく自身の想い人に近づくセシリアを、鋭く睨みつける箒。

 

「わ~いセッシーだ~おはよ~。ぎゅ~~~っ。」

 

「はぁ・・・はいはいおはようございます、布仏さん。その・・・挨拶をするたびに抱き着いてくる癖は、どうにかなりませんこと?」

 

「だって~~セッシーは何と言うか~~抱き着き心地が良いというか~。」

 

「何ですの抱き着き心地って・・・。」

 

 セシリアは、困惑と疲労が混ざった表情をしながら、後ろから抱き着いている本音からの拘束をやさしく解く。

 

 そして、セシリアは昭弘の席に向かう。

 

「アルトランド。」

 

「何の用だ?」

 

 1年1組に、一週間半ぶりの緊張が走る。今度は何を言う気なのだと、ビクビクしながら二人の様子を伺うクラスメイトたち。一夏は不安気な表情で2人を見つめ、箒はすでに臨戦態勢でセシリアを注視している。

 しかし、セシリアの表情からは、今迄の昭弘に対する侮蔑の様なものは感じられなかった。

 直後、セシリアは身体を前方90度に曲げて、その姿勢を維持しながら次の言葉を発した。

 

「昭弘・アルトランドさん。貴方のその、背中の突起物を皆の前で侮辱したことを、心の底から後悔しておりますわ。・・・大変、申し訳ございませんでした。」

 

 その言葉にクラスメイトは唖然とする。あのプライドの塊の様なセシリアが、あれだけ忌み嫌っていた昭弘に謝罪したのだ。しかも、あんなにも腰を折り曲げながら。

 昭弘が口を開こうとするより前に、セシリアが謝罪を続ける。

 

「それと・・・貴方をモルモット呼ばわりしたことに関しても、猛省しておりますわ。もう既に口に出してしまった言葉が消せないということは重々承知しておりますが、それでも謝らせてください。本当に・・・申し訳ありませんでした。」

 

 昭弘は、少しばかり意外そうな顔をしながら、未だに腰を深々と折り曲げるセシリアを見る。

 あのときの口約束に、その件まで謝ってもらうとは一言も言っていなかったからだ。

 セシリアは、姿勢を元に戻すと、真剣な、と言うよりも何処か“悔しげ”な面持ちで更に言葉を連ねる。

 

「貴方が一体、どの様な血の滲む努力を重ねてきたのかは、私にも測りかねます。確かな事は、貴方が私よりも“強い”ということ。出自等関係無く、その一点だけは私も認めざるを得ませんわ。」

 

 セシリアがそこで言葉を区切ると、今度は昭弘が口を開く。

 

「・・・ならばオレからも、謝罪の言葉を贈らせてもらおう。オルコット、すまなかった。オレもアンタを誤解していた。他者を見下し、蔑む事でしか己を表現出来ない愚か者だと。」

 

「だが、あの戦いでオレも気づいたんだ。アンタにも譲れない何かが、大切なモノがあるということを。オレはそんなアンタを・・・心から尊敬する。」

 

 謝罪の後、そうセシリアのことを評すると、徐に右手を差し出す。

 

「だからまぁ、今までの事は水に流して、こんなオレでも良ければ仲良くしてくれると嬉しいんだが。」

 

 セシリアもまた、呆気に取られていた。

 まさかアレだけ罵声罵倒を浴びせた相手から逆に謝罪されるとは、夢にも思わなかったのだ。しかも極めつけには仲良くして欲しいと来たものだ。

 ここまで来ると「お人好し」を通り越して何か裏があるのではないかと、貴族特有の勘繰りが働いてしまうセシリア。

 

 そういった勘繰りを抜きにしても、セシリアは昭弘とは特別仲良くなろうとは思わなかった。

 無論、昭弘への謝罪の気持ちは本物であるし、自身よりも腕が立つ強者だということも認めてはいる。しかし、それが仲良くするという理由にはならないのだ。

 実際、セシリアは少年兵への“憎しみ”を捨てた訳ではないし、昭弘とMPSの背後関係への疑念も失ってはいない。

 何よりセシリア自身、昭弘とは気が合わないということは分かりきっていたのだ。貴族令嬢と元少年兵。物事の考え方や価値観が余りにもかけ離れすぎている事は、火を見るより明らかであった。それに、先の模擬試合(戦い)でも解ったことだがお互い我が強く、それこそ相手が負けを認めるまで“己”を貫き通そうとする。自分と彼は正に“水”と“油”だ。

 

 そんなことを考えながらも、昭弘からの握手はきっちりと右手で握り返すセシリア。

 

「・・・貴方のそのご厚意には、この上ない感謝の気持ちをお贈り致しますわ。しかしながら、単刀直入に言わせていただきますと、「仲良くする」ことに関しては、丁重にお断りさせていただきますわ。気の合わない相手と無理をして仲良くする程、私も大人ではございませんの。」

 

「まぁ、そう言うと思ったぜ。それならそれでいいさ。無理して仲の良い振りをするというのも、可笑しな話だ。それじゃあこの「握手」は、“仲直り”ではなく“お互いの()()を認める”ってことにしないか?」

 

 昭弘がそう提案すると、温和な笑みを浮かべて同意する。

 

「ええ、構いませんことよ。」

 

 

 そのやり取りが終わると、クラス中から安堵の息が漏れる。

 この一週間、ずっと二人の間で険悪な雰囲気が続いていたのだ。まるで骨を抜かれたかの様に、クラスメイトたちの身体から力が抜けていく。 

 

「えぇ~~~?セッシーとアキヒーにはもっと仲良くなってほしいのに~~~。」

 

 どこか不満そうな顔をしながら発言する本音に、セシリアと昭弘は困惑する。

 

「いや・・・そんなこと言われましても・・・・・・。」

 

「オレも二人には、できれば仲良くなって欲しいなぁ。折角同じクラスなんだし。」

 

 今度は一夏がそう言うと、セシリアは途端に態度をコロっと変える。

 

「なっ!いっ一夏まで・・・!?・・・一夏がそう仰るのでしたら、まぁ・・・・・・仲良くしてやっても良くってよ?アルトランド。」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・唖然。さっきまでの貴族令嬢らしい貫禄は、一体何処に吹き飛んでしまったのだろうか。「恋は盲目」とは恐ろしい言葉であると、昭弘は実感した。そんなことを考えながら、昭弘は心底呆れ果てた視線を、これでもかという程にセシリアに向ける。

 

「む?何ですのその目は?それよりホラぁ、前言撤回ですことよぉ?貴方の望み通り、仲良くして差し上げますわよぉ?一夏の為に。

 

 セシリアから挑発的にそう言われると、昭弘は先程の自身の発言を心底悔やんだ。そして、意を決したかの様にこの『捻くれ貴族令嬢』に対して次の言葉を放った。

 

「・・・じゃあオレも前言撤回だ。お前とだけは死んでも仲良くならん。」

 

「なっ!?・・・まったくこれだから野蛮人はっ!!柔軟な考え方というものを持ち合わせていないのですわね!!!」

 

「何が柔軟な考え方だ。大好きな()()()()に振り向いて欲しいだけだろが。」

 

 普段の仏頂面でそう返すと、セシリアは大袈裟に取り乱す。

 

「あ、あっ貴方!!何故そのことを!?」

 

「いや、お前・・・アレで隠していたつもりなのか・・・。」

 

 昭弘の爆弾発言に、一夏は「誰のことだろう」と首を傾げる。お前のことだよ朴念仁。

 

「と、兎に角!私と仲良くしなさい!アルトランド!!」

 

「断る。」

 

「しなさい!」「断る。」「しなさい!」「断る。」「しなさい!」「断る。」

 

 まるで子供の様な押し問答を繰り広げる二人に、周囲は再び困惑する。

 

「良かった~~。オリムーのお陰で二人とも仲良くなった~~。」

 

「いや・・・多分違うと思うぞ?うん。」

 

 本音の楽観的な発言に、冷静なツッコミを入れる一夏であった。

 

「・・・・・・おーい・・・私だけ置いてけぼりにしないでくれないかーーー。」

 

 一方で、余りの急展開についていけなかった箒であった。




こんな感じに仕上がりました。
ISとのシンクロ率云々は完全にうろ覚えです。
あと、ようやくT.P.F.B.のトップの名前と声だけ出すことができました。
昭弘のリミット解除は大分先になるかと思いますが、今後の展開に乞うご期待ください。
最後に、のほほんさんかわいい。


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第7話 戦士たちへの労い

今回は日常回です。
話は中々進みません。あと、チッフが若干ポンコツ化してる・・・かもです。
ISの実技演習や鈴の登場は次回に持ち越しちゃいます。すみません。


ーーーーー4月18日(月) 08:30ーーーーー

 

 朝のチャイムが鳴ると同時に、千冬と真耶が1年1組へ入室して来る。

 クラス全員の出席を取り終えいよいよSHRへと入る前に、セシリアが挙手をし、この場を借りての発言を求めてきた。

 内容は、平たく言えばクラスメイト皆への謝罪であった。この1週間、自身の高圧的な態度や聞く者を不快にする様な発言をしてきたことを、先程の昭弘に対して行ったソレと同じ様に、深く頭を下げて謝罪したのだ。一夏に対しては、特に大袈裟に今までの無礼を謝罪した。 

 そして、今後はISに関して何か解らないことがあったならば、是非自分のことを頼って欲しいとも発言した。一応、先程未だ教室に居なかったクラスメイトにも配慮して、昭弘には既に謝罪を行った旨も説明しておいた。

 クラスメイトたちは、そんなセシリアの謝罪を快く受け入れてくれた様だ。

 その後、ようやくSHRが始まった。時間も押しているので、千冬は間髪入れずに議題に入った。

 

「さて、ではこのSHRの時間を利用して、()()クラス代表を決めたいと思う。」

 

 千冬のその発言に、クラス中が頭に疑問符を浮かべる。

 

「織斑先生、クラス代表はアルトランドで決定した筈では?」

 

 セシリアは、クラスメイト全員が抱いている疑問を代弁するかの様に言葉を発した。

 そんなセシリアの疑問に、千冬はしたり顔で答える。

 

「おや?何も私は勝った者をクラス代表にするとは、一言も言っていない筈だが?」

 

 千冬の答えに、クラス中が呆気に取られるが、同時に安堵もしていた。入学初日ほどではないにしろ、やはり未だにクラスメイトの大半は昭弘に対しての苦手意識が拭えない様であった。無論、当の昭弘自身もそこまでなりたい訳では無いのだが。

 「では何のための模擬試合だったのか」と、セシリアが反論する前に千冬は話を進める。

 

「そこで、模擬戦に出た3人を含めたクラス全員に再度問う。誰が良いと思う?()()()()は問わん。」

 

 千冬がそんな一声を投げかけると、そう短く無い間、静寂が1年1組を支配した。

 しかし、1分程経過すると、やがて挙手をする者が現れた。ーーーそれはセシリアではなく、以外にも一夏であった。

 

「チフ・・・織斑先生、その・・・・・・・・・オレに、クラス代表をやらせてくれませんか!?」

 

 突然の申し出に、クラス中が驚愕する。

 

「ほう、前回はそこまで乗り気じゃなかったというのに、随分な気の変わり様だな?」

 

 そんな口調で言葉を発する千冬に対して、一夏は彼女が理由を求めているのだと解釈し、これまでの気持ちの変化を語り始める。

 

「確かに、最初に他推されたのは、正直嫌でした。ISに関してほとんど知識も無く、動かし方すら良く解ってないオレなんかじゃ、絶対無理だって。何より、IS自体には、そこまで興味や関心が無かったし。」

 

「けど、この一週間昭弘や箒、山田先生からISについて色々教わって、改めて「ISって面白いな」って感じる様になったんです。それだけじゃなく、セシリアや昭弘との模擬戦を通じて、もっともっと強くなりたいと思うようになったんです。」

 

「だから、クラス代表をやってみようと思ったんです。クラス代表になれば、ISについて色んな角度から関われるようになるかもしれないし、 模擬戦の機会も大幅に増える。」

 

 流石に「千冬姉を護りたいから」とは、この場では言わなかった。

 そこまで言い終えると、一夏は申し訳無さそうに周囲を見渡してから再び口を開く。

 

「・・・きっと、クラスの皆にも、迷惑を掛けることになると思います。1年1組への指導方針だって、オレに合わせることになるんだろうし。・・・もしそれでも良いと言うならば、オレがクラス代表になっちゃ・・・ダメですか?」

 

 一夏のその真摯な態度に、千冬は一瞬だけ柔らかい笑みを溢すと、再びクラス全員に向き直る。

 

「だ、そうだ。皆、織斑がクラス代表となることに異議はあるか?」

 

 千冬からの確認に対して、先ずは昭弘とセシリアが返す。

 

「それだけ意欲が有るんなら、オレは一夏がクラス代表で良いと思います。少なくとも、オレやオルコットがなるよりはよっぽど良いかと。」

 

「・・・確かに私も、今回の模擬戦で少し頭を冷やしましたわ。冷静に考えてみれば、クラスの皆さんには大変失礼かと思いますが、私やアルトランドの実力に合わせるとなると皆さんもついていけなくなるかと思いますし。」

 

 二人の意見を聞くと、千冬は「他には?」と言いたげに周囲を見渡す。

 

「私も、織斑君で良いと思います。」

 

「私もそう思います。というか、先の模擬戦を観た限りだと、少なくとも私たちなんかよりは余程実力があると思いますし。」

 

「私もオリムーで良いと思いま~~す。」

 

 一応、反対意見は出なかった。納得の行かない顔をした生徒も若干名いたが、反対意見を口に出さない以上、数には含めなかった。

 もう少しだけ周囲を見渡すと、千冬は締切に入った。

 

「それでは、本日より織斑一夏を此処1年1組の代表者とする!時間も押しているので、これにてSHRを終了する、以上!!」

 

 

 

ーーー廊下にてーーー

 

 朝のSHRも終わり、千冬と真耶は職員室へと歩を進めていた。

 すると千冬は、真耶からの懐疑的な視線に気づく。

 

「どうした?山田先生。私の黒髪に白髪でも混ざってたか?」

 

 等と千冬がすっとぼけると、真耶は皮肉交じりに言葉を放つ。

 

「・・・良かったですね。()()クラス代表が決まって。」

 

「全くだ。山田先生、これで君も解っただろう?私の考えが。」

 

「・・・織斑先生、失礼を承知で訊きますがまさか「結果オーライ」・・・だなんて考えていませんよね?」

 

 真耶が笑顔で、且つ静かな怒気の入った声で尋ねると、千冬は首ごと真耶から視線を逸らす。

 

「お・り・む・ら・せ・ん・せ・い?」

 

 そう言いながら真耶が千冬の顔面がある方に回り込むと、千冬はとうとう観念したのか、深く息を吐いた後素直に白状した。

 

「・・・・・・ああそうだ、全く君の予想していた通りだ。今回の模擬戦に、深い考えは無かった。完全なる「結果オーライ」だよ。」

 

「・・・つまり、「戦わせれば何とかなるのではないか?」・・・こういうことですね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うむ。」

 

 その力無い返答を聞いて、真耶は心底呆れ返ってしまった。

 確かに、結果だけ見れば実に素晴らしいものだ。昭弘とセシリアの険悪さは成りを潜め、クラスの雰囲気も良くなり、おまけにクラス代表も無難な人選となった。しかし、また別の結果も有り得たのだ。まぁ、確かにやり方としては千冬らしいと言えば千冬らしいが、真耶は千冬が「凄さ」と同時に併せ持つ「危うさ」をも改めて実感した。

 今後は、自分も副担任としてしっかりしなければと、真耶は今迄以上に「教師」として意気込んだ。

 ただ、未だに罰の悪そうな顔をしている千冬を見て、「流石に言い過ぎたか」と思い至った真耶は、今度は千冬のフォローに入る。

 

「まぁその・・・織斑先生のそういう大雑把なところも含めて、私は貴女のことを尊敬していますよ?ただ、今後は私にも是非意見を求めて下さいね?私はインターン生ではなく、副担任なんですから。」

 

 真耶の露骨なフォローを察したのか、千冬は苦笑いを見せながら返答する。

 

「ありがとう、山田先生。私よりも、君の方が余程教師らしいよ。」

 

 千冬がそう返すと、真耶は慌てて否定する。

 

「そ、そんなこと無いですよ!私だって、今回のクラス代表選出はただ傍観していた様なものですし。」

 

「HAHAHAHAHA!まぁ、お互い今回のことを次の糧にしようじゃないか。なんせ我々は、教師としてはまだまだ「未熟も未熟」なのだからな。」

 

(・・・・・・アレ?何だか私、開き直るためのダシに使われた様な・・・?)

 

 真耶がそんなことを考えていると、千冬がもう既に10歩程前を歩いているので、慌てて追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー放課後ーーーーーーーーーー

 

パァン!!パパァン!パン!

 

 食堂にて、軽快なクラッカー音が鳴り響く。

 

「では改めましてぇ!!」

 

「「「「「織斑くん!クラス代表就任おめでとうございまぁす!!」」」」」

 

 困惑する一夏を他所に、勝手に盛り上がり始める1年1組のクラスメイトたちであった。

 一夏のクラス代表就任を記念して、学校の食堂を使ったパーティーが開かれていたのだった。放課後で、且つ他の部活動の迷惑にならないという条件付きで、特別に許可が下りたのだ。実は今回のパーティーは、入学日初日から相川らが密かに計画していたものだった。食堂の貸し切りも、先週の月曜日に済ませておいたらしい。凄まじい行動力である。

 一応此処IS学園の食堂の防音対策はしっかり為されているし、学食の周囲には決まった部活動も無いので、特に問題は無いのだが。実際此処の食堂は、放課後クラスの集まりに偶に使われていたりする。

 一夏の両脇には、右手側にセシリア、左手側に箒が控えており、両者の間で陣取り合戦が行われていた。

 昭弘は、そんな三者の様子を少し離れた所から微笑ましく見ていた。

 

「一夏♡はいアーン♡。」

 

「えっ?あ、あーん・・・?イデデデデデ!!」

 

 一夏は、セシリアからクッキーを食べさせてもらおうとしたが、箒による一夏の左耳への抓くりによって阻まれる。

 

「おい一夏。こっちにお前の好きなポテトチップスの「梅マヨネーズ味」があるぞ。」

 

「まぁっ!!なんて乱暴なお方なのでしょう!一夏?大丈夫ですこと?」

 

 そう言うとセシリアは、箒を突き飛ばして今度は一夏の左手側に陣取る。

 

「貴様!!さっきから鬱陶しいぞ!!」

 

「鬱陶しいのは貴女ですわ!!」

 

 箒とセシリアが言い争っている間に、今度は他の女子生徒たちが一夏の隣を陣取る。

 

「イェーイ!今度はあたしが隣ィ!!」

 

(昭弘ォォ、助けてくれぇぇ。)

 

 一夏は心底疲れ切った眼で、昭弘を見つめる。

 

(そんな目で見られてもな・・・オレが行っても周囲の居心地が悪くなるだけだしな。)

 

 そう申し訳なさそうな顔をしながら、昭弘は一夏の懇願の眼差しから目を背ける。

 そんな昭弘の表情を見て、一夏は自身の懇願とは関係無しに、一抹の寂しさを覚える。折角のパーティーで友人が一人で居るのは、一夏にとっても気分の良いものではないだろう。

 一夏は、未だにセシリアと口論を続けている箒と「アイコンタクト」を取る。一夏と付き合いの長い箒は、それだけで一夏の考えを察した。

 

「あっ!織斑くん!何処行くの?」

 

「ちょっ!篠ノ之さん!逃げる気ですの!?」

 

 二人して昭弘の方に向かうと、一夏が昭弘の右肩、箒が左肩を掴むと半ば強引に昭弘を連れて行こうとする。

 

「「お前も来い昭弘。」」

 

「あ?いや、しかし、オレまで居るt「「いいから来い。」」・・・わかったわかった。」

 

 昭弘は、後ろめたい気持ちを隠しながら、クラスの皆が居るテーブルへと赴く。

 

「わぁ~~い、アキヒーも来た~~。」

 

「あらあら、一夏のご厚意に感謝することですわねアルトランド。」

 

 本音とセシリアは対照的な反応をしながら、昭弘を迎え入れた。

 昭弘が来た途端、やはりと言うべきか先程の賑わいがピタリと止んだ。連れてきた張本人である一夏と箒も、どうにか話題を切り出そうと必死に頭を振り絞る。がしかし、いくら頭を捻ってもクラスメイトと昭弘との共通の話題が見つからない。するとーーーーー

 

「そう言えば皆は、もう学校生活には慣れたか?」

 

 意外にも、昭弘からクラスメイトに話しかけてきたのだ。

 

「えっ?あ、はい、それなりには・・・。」

 

 クラスメイトの一人がそう答えると、昭弘は静かに笑みを溢しながら返した。

 

「そうか、そいつは何よりだ。・・・実は、オレはまだまだ此処での生活に慣れていなくてな。皆はどうなのか、少し気になっていたんだ。」

 

「えっ・・・そうなんですか?普段から落ち着いているから、てっきりもう慣れたのかと・・・。」

 

 谷本が意外そうな反応を示すと、昭弘は首を左右に振った。

 

「そんなことは無いさ。何せ今迄、此処とはまるで違う世界で生きてきたんだからな。」

 

 

 そう、昭弘が今迄やってきた事は、平たく言えば“人殺し”だ。確かに鉄華団を立ち上げてからは、強い目的意識を持つようにはなったが、仕事の内容は以前とほぼ変わることはなかった。

 束達と過ごした2ヶ月間をもってしても、昭弘の根幹に根付いた“日常”までは変わることは無かった。

 

 そんな昭弘にとって、此処IS学園は言うなれば「何処か別の惑星」に等しい場所であった。

 最大の違いは、子供が誰一人として武装していないことだった。 護身用の拳銃やナイフすら持ち合わせていないのだ。緊急時に“殺す、殺される”と言うこと自体、そもそも想定してないのだ。

 そして「先生」と呼ばれる大人たちも、子供に暴力を振るうどころか、常に子供たちを心配しており、暖かい目で見守っているのだ。少なくとも昭弘にとっては、大人は子供を殴って当たり前、子供は大人に殴られて当たり前だった。

 他にも細かい違いは有るが、挙げるとキリがないので省略する。

 

 

「本当に、此処は何もかもが違う。勿論、それは良いことなんだとオレは思う。この一週間と少しの間で、()()()()()()()()のが、その理由だ。」

 

「誰一人死ぬこともなく、皆日々の勉学や活動に生き生きとしながら取り組んでいる。・・・時々オレは思うんだ、此処は「天国」なんじゃないかってな。実際のオレは()()()()()()()()()()()、今迄頑張ってきたオレへの褒美として、神様がこの平穏な世界をくれたんじゃないか・・・なんてな。まぁ、実際に人を殺しまくったオレが、天国に行けることはないとは思うが。」

 

 クラス一同、ただ真剣に、黙って昭弘の話を聞いていた。そして、その途方もない位に異なる昭弘の“価値観”を、脳内にしっかりと刻んでおいた。

 学校という閉鎖された空間、決して楽ではない難しい授業、人間関係、規則・規律。自ら望んで入学したにしろ、彼女たちにとってそんな日常は、決して天国などではなかった。そんな、彼女たちにとって当たり前の日々の繰り返しも、昭弘にとっては1日1日が掛け替えの無い大切なモノなのだ。

 そんなことを考えただけで、彼女たちは自分自身が酷く情けなく思えてしまう。これだけ恵まれた環境に身を置いていると言うのに、何を日々の学校生活に疲れた気でいるのかと。

 

「おっと、スマン。話が長くなりすぎたな。・・・そういや、今回のこの「パーティー」とやらは、誰が企画したんだ?」

 

 昭弘が周囲にそう尋ねると、相川が吃りながら名乗り出る。

 

「わ、わわ、私ですっ!・・・その・・・お気に召して・・・くれましたか?」

 

「・・・今回のパーティーの主役は一夏だから、オレに聞くのは筋違いな気もするが・・・。まぁ、偶には良いんじゃないのか?皆で騒ぐのは、存外嫌いじゃない。」

 

 昭弘の返答を聞いて、相川はホッと胸を撫で下ろし、緊張で強張っていた表情を緩ませる。

 確かにこのパーティーの主役は一夏だが、皆で楽しめなければそれは最早パーティーとは言えない。だからか、相川なりに、折角のパーティーで少し距離を置いている昭弘のことが少し気懸りだったのかもしれない。

 

 

 その後は雰囲気も元に戻り、彼女たちの雑談は続いた。

 

「ねぇねぇ!オルコットさん!“アレ”やってよ!」

 

「?・・・アレとは何のことですの?」

 

 急なクラスメイトからの“謎の要求”に、セシリアは困惑する。彼女たち4人の瞳は、期待の光で満ち溢れていた。

 

「ホラ!この前の模擬戦で、アルトランドさんと戦った時のあの“凶悪な笑み”!私達アレ見てオルコットさんのファンになっちゃったんだよねぇ!」

 

「は、はぁ・・・(何ですの!?この方たちは!?俗に言うマゾという奴ですの・・・!?)。」

 

 内心で動揺しながらも、セシリアは彼女たちの要求に応えようとする。

 この1週間、クラスの雰囲気を少なからず悪くしていたので、少しくらいならクラスメイトからのお願いには応えたいのだ。一夏との絡みを邪魔されたのは癪だが。

 一つ小さくため息を吐きながら、セシリアは彼女たちに向き直る。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ギロリ

 

「「「「きゃーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」

 

 黄色い歓声が食堂に響き渡る。

 

「やばいよやばいよ!マジ「ゾクッ」と来ちゃった!」

 

「そ、そうですの。それは・・・良かったですわね・・・。」

 

 引き攣った笑いを浮かべながら、セシリアは彼女たちから僅かに距離を取る。

 

「ああ、確かにかっこいいな!やっぱりアレかな?お嬢様が普段見せないって言う「ギャップ?」みたいなのもあるのかな?」

 

 一夏からそう言われて、セシリアの“引き攣った笑み”は“満面の笑み”へと変貌する。

 そんなセシリアに、箒は嫉妬の眼差しを向けながら呟く。

 

「フン!馬鹿共が・・・。」

 

「お前も一夏にやってみたらどうだ?」

 

 昭弘がそう言うと、箒は頬を赤く染めながら答える。

 

「だ、誰がやるか!!」

 

「えぇ~?しののんもやってよぉ~~。」

 

「うっ・・・布仏さんまで・・・。」

 

 流石の箒も本音の頼みは中々断れないのか、一夏に顔を向けることにした。結局やるようである。

 

「おい一夏。」

 

「うん?どうした箒?」

 

 深く深呼吸をし、顔の表情を両手で軽く解すと、自身の思い描いた「かっこいい笑み」を浮かべる。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ギロリッ

 

「うおぉっ!!恐ッ!?ど、どうした箒!?オレまた何かやらかしたか!?ど、どうしたら許してくれる!?」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 箒は一夏に向けた“表情”をそのままに、椅子を両手でブン回しながら一夏を追いかけ回す。

 

「ヒィィィィィィィィィッッ!!!昭弘ぉぉぉぉぉぉぉ!!!お助けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「まぁ・・・・・・そうなるか。」

 

「アレ~?かっこいいと思うんだけどなぁ~~~。」

 

 取り敢えず、暴れる箒を止めるために重たい腰を上げる昭弘。

 

 

 すると、2回のノックの後に食堂の扉が徐に開かれる。入室してきたのは、眼鏡をかけた茶髪の少女だった。黄色いリボン・・・どうやら2年生のようだ。

 

「1年1組の皆さん、こんにちは!新聞部副部長『黛薫子』です!今日は先日熱い模擬戦を繰り広げた3人のインタビューに参りました!」

 

 まさかの新聞部副部長直々のインタビューに、クラスメイトは「おーーーーーっ!」と驚嘆の声を上げる。

 間髪入れずに、先ずはセシリアの下に向かう黛。

 

「はい!では先ず最初にセシリア・オルコットさん!!今回の模擬戦について何か一言!!」

 

「新聞部副部長である黛先輩からの直々のインタビュー、誠に光栄でございますわ。先ずは、やはり一夏のことでしょうか。素人同然のはずなのに、この私をあそこまで追い込むその決して諦めない“気高き心”。そして、彼の内に秘めた極めて高い潜在能力。私、今でもあの時の胸の高鳴りが忘れられませんわ。」

 

「アルトランドに関しては・・・“強い”、唯その一言に尽きますわ。彼のことは、人として気に入らない部分も多々ありますが、その強さとMPSに費やしてきた努力は、間違いなく本物かと。」

 

 続いて一夏の番が回ってくる。

 

「えっと・・・何と言うか、こう“熟練者”に対する大きな壁を感じました。自分が如何に未熟者なのか、改めて痛感させられたと言いますか・・・。けど、今回の模擬戦と模擬戦に至るまでの特訓や勉強のお陰で、オレはISに強い興味を抱くようになりました。このことが、オレにとって一番の収穫ですかね。」

 

 そして、最後に昭弘の番がやってきた。

 

「・・・・・・・・・・・・2人ともすげぇ・・・ってことぐらいですかね。」

 

「・・・・・・ありゃ、それだけ?」

 

「はい、言いたいことは2人が全部言ってくれたんで・・・。もう少し細かく述べるなら、セシリアの凄い所は射撃の腕と状況判断能力の高さ、一夏の凄い所は起死回生の爆発力・・・こんな所ですかね。」

 

「ふむふむ・・・まぁ簡単に要約すると、3人ともお互いを「良き好敵手」として認めたってことかな?」

 

「ええ。」

 

「はい!」

 

「ウス。」

 

 3人にとっての“好敵手”の解釈はそれぞれ違うかもしれないが、3人の力強い返事に対し、黛はサムズアップをしながら笑顔でこう答えた。

 

「了解っ!!めっちゃ面白い記事にするから、皆楽しみにね!!」

 

「そしてぇ!今回私にとっての最大の目的ッ!!・・・1年1組の記念撮影をしたいと思いまぁす!!」

 

「「「「「イェ~~~~~~イ!!!!!!」」」」」

 

 まさかのサプライズに、クラス中が歓喜の叫び声を上げる。

 早速並び始める1年1組の面々に、黛が指示を飛ばす。

 

「そうそう!織斑くんが真ん中に・・・ってこらこら!オルコットさんも篠ノ之さんも、こんな時まで織斑くんを取り合わないの!!アルトランドくんは・・・そうだ!腕を組んで、一番端っこで仁王立ちしてみて!!良いねぇ!!何か担任の先生みたい!!顔はもっと眉間に皺寄せて・・・そうそう!コワカッコイイ!!」

 

 しばらくして全員顔が見える位置に並び終えると、黛がカメラのシャッターを切る。

 

「はぁい、そんじゃあ撮るよぉ!!あいえすぅぅ~~~?」

 

「「「「「がくえぇぇ~~~ん!!!」」」」」

 

カシャアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表就任パーティーも終わり、パーティー用の装飾で彩られていた食堂は、普段通りの食堂に戻っていた。

 辺りもすっかり暗くなっている中、箒は昭弘、一夏、セシリアと共に学生寮へと向かっていた。

 

ーーー128号室ーーー

 

「おい、一夏。」

 

「ん?何だ箒。」

 

「少し、昭弘と話があるから、先にシャワー浴びていいぞ。」

 

 唐突にそう言われて、一夏は頭に疑問符を浮かべる。

 

「おう、分かった。何か相談事か?」

 

「まぁそんなところだ。・・・念の為言っておくが、お前が嫌いだからお前に相談しないという訳では無いからな?それと、私が居ない間、勝手に知らない女を部屋に上げたりするなよ?あと、絶対私に付いて来るなよ?」

 

「いや、分かってるってそれぐらい!!」

 

 きっと、昭弘にしか相談できないようなことでも有るのだろうと、一夏は納得した。

 

 

 

 学生寮の裏庭にて、昭弘と箒は斜面になっている芝生の上に腰掛ける。

 

「んで、話って何だ?また一夏関係か?」

 

「まぁ・・・それ()ある。」

 

 「も」と強調した部分が昭弘は気になるが、取り敢えずこちらから切り出してみることにした。

 

「今回のパーティーは、中々()()()()だったんじゃないのか?あそこまでお前が露骨にアピールしたんだ。流石の一夏も“何か”は感じたんじゃないか?」

 

 そう言われて箒は嬉しくなるが、何故か嬉しさの他に僅かな不満を覚えた。原因は当の箒にも解らない。

 

「それと同じ位、オルコットの邪魔も入ったがな。」

 

「そこら辺はしょうがないだろう。男のオレから見ても、一夏は十分ハンサムの部類に入る。倍率も高くなるさ。大体、一人の異性を、周囲を蹴落としてでも独り占めしたいものなのか?皆で仲良く愛せばいいんじゃないのか?」

 

「ッ!そんな訳が無いだろ!!好きな相手に一番に愛されたいのは、男女問わず当たり前の感情だ!!」

 

「じゃあ()()()()()()奴の想いはどうなる?皆が皆、負けて「はいそうですか」と引き下がるものなのか?」

 

「・・・ッ!!・・・・・・敗者のことなど、知らん!!」

 

 箒がそう突っ返すと、昭弘はそれ以上何も言わなかった。これ以上は、自分の考えや常識を相手に押し付けている様で、気分が悪い。

 しばらく両者の間で沈黙が続くと、またもや昭弘から言葉が投げかけられる。

 

「そういや、さっき「それもある」と言ったが、もう一つの話ってのは何なんだ?」

 

 そう言われて、箒は「ハッ」とした様に顔を上げる。それは、箒にとっては「話したいこと」と言うより「訊きたいこと」と言った方が正しい表現だった。

 

「いや・・・その、お前に一つ、ずっと訊きたいことがあったんだ。ただ、無理に答えなくてもよいぞ?」

 

「・・・・・・言ってみろ。」

 

「・・・・・・・・・ラフタという女性のことについてだ。一体、どんな人だったんだ?」

 

 そう、箒は昭弘と初めて会った時から、そのことがずっと気になっていたのだ。今の今迄、一夏の特訓やら何やらで訊く機会が中々無かったのだが。

 確かに、あの時の昭弘の取り乱し様を見たら、どんな人間なのか気になるのかもしれない。

 

(・・・ああ、そういえばそんなこともあったな。今思えば、結構こっ恥ずかしい間違えだったな。)

 

「・・・まぁ、ラフタがどんな奴だったかってくらいなら、話してもいいぞ?」

 

「先ず、フルネームは『ラフタ・フランクランド』。兎に角明るい人だったな。年上とは思えないくらい、普段から元気と活気で満ち溢れていた。「ムードメーカー」って奴だったのかもしれん。まぁ、結構好戦的な部分も多かったがな。」

 

「金髪で、髪を後ろで2つに縛っていてな、あと「マニキュア?」とかいう物を手足の爪によく塗っていた。」

 

「それに、オレは彼女のことを、同じ人として尊敬していた。自分が為すべきことを、未来をしっかり見据えていて、そこに続く道を臆せずに選択できる人だった。」

 

 昭弘は、組織やモビルスーツの部分は伏せて、ラフタの人となりだけを抽出して箒に語った。

 箒は、昭弘からラフタの人となりを訊いて、自虐じみた笑みを浮かべてしまう。

 

「何だか、私とは真逆の女性だな、ラフタさんという人は。会っただけで、嫉妬してしまいそうだ。まぁ、好戦的な所は似ているかもしれないが。」

 

「・・・もう二度と、逢うことはできないがな。」

 

 そんな昭弘の反応を見て、箒は自身の何気ない一言を心の奥底から悔やんだ。

 

「す、すまない!昭弘!!そんなつもりは・・・無かったんだ。」

 

「フッ、気にすんな。」

 

 その後、またも沈黙がその場を支配する。風によって草木の擦れ合う音だけが、その裏庭に響いていた。

 そんな沈黙の後、今度は箒から口を開く。

 

「なぁ、昭弘。・・・・・・お前は、その女性(ひと)のことが“好き”だったのか?」

 

「・・・!ーーー

 

 

 

ーーーーーーーーーーぎゅ~~~~~~っ!!!ーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーー・・・・・・少なくとも、異性として意識していたのは確かだろうな。だが、それが明確な恋心だったかどうかは、オレにも良く解らん。」

 

「・・・そうか。」

 

 「恋心かどうか解らない」・・・箒は何故か、その言葉に強い“親近感”を覚えた。

 

バンッ!

 

 そんな親近感に浸っていると、唐突に昭弘が箒の背中を平手で叩いてきた。

 

「痛ッ!!」

 

「お前も、今自分が抱いている明確な恋心を大事にしろよ?そして、それが恋心だと解っているうちに、とっとと一夏に告っちまえ。」

 

 ラフタの話の後だからか、箒には昭弘のその言葉に今迄以上の重みを感じた。

 

「・・・ありがとう。昭弘。」

 

 箒はそう言うと、昭弘は優しく微笑んでくれた。

 

(やはり、昭弘と話していると・・・何と言うかこう、落ち着くな、うん。)

 

 箒はそんなことを考えながら、昭弘と共に寮の正面入口へと歩いて行った。

 

「そんじゃ、また明日な箒。一夏にも、よろしく言っといてくれ。」

 

「ああ、また明日な、昭弘。」

 

 

 

「おう、お帰り箒!・・・?どうした?顔赤いけど熱でもあるのか?」

 

「・・・へ?」

 

 一夏にそう言われて初めて、箒は昭弘の微笑みを見た後から自身の頬が紅葉していたという事実に気づいた。

 

(なっ、何故!?)

 

 彼女が自身の想いに気づくのは、もう少し先になりそうである。




最近、10000字以内に収めるのが難しいです。


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第8話 来襲、中国娘

今回は意外と早く投稿できました。・・・内容は薄いかもですが。

そしてまさかのUA10000突破!
これも普段から愛読してくれている皆さんのお陰です!
それと、いつも誤字報告をしてくれる方、本当にありがとうございます。いや・・・あれでも投稿する前にちゃんと見直してるんですよ?・・・いやマジで。

それと、今更クッソ恥ずかしいミスに気づきましたが、「滑空砲」じゃなくて正しくは「滑腔砲」でした・・・。後で修正しときます。大変申し訳ございませんでした。


ーーーーーーーーーー4月19日(火) 夜ーーーーーーーーーー

 

 IS学園の正門前に、一人の少女が仁王立ちしていた。

 女子の中でも比較的小柄な体格で、茶色の髪は丁度側頭部が左右対称となる様に結んでいた。左右で横向きに結んでいるそれは、彼女の両肩より内側の部分で重力に逆らえなくなり、彼女の両肘より奥まで垂れていた。

 顔の各部位はどれも整っており、十分美人の部類に入るのだろうが、彼女の表情からは勝ち気で血気盛んな雰囲気が伝わってくる。

 

 何故彼女が態々「夜」に訪問したのかと言うと、簡単に言えば道に迷ったのである。

 電車の乗り間違えが何度も重なった結果、日中に訪問する予定が大幅に狂ってしまったのだ。既にスマートフォンの着信履歴には、学園からの着信が積み重なっていた。

 しかし、彼女はそこまで動揺している様子は無く、寧ろ「まぁ遅れてしまったものはしょうがない」といった感じで開き直っていた。

 

「此処が『IS学園』ね・・・。」

 

 そんな彼女は、自身の身長に似つかわしく無い巨大なボストンバッグを肩に掛けながら、翡翠色の美しい瞳を輝かせていた。

 

「待っていなさいよ!一夏!!」

 

 その名を嬉しそうに口に出すと、学校の敷地に足を踏み入れるべく、歩を進める。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まっ、乗り越えちゃってもいいわよね。一応学園には、“遅れる”って言っといたし。」

 

 彼女自慢の身体能力で閉まり切っている正門を乗り越えると、センサーが反応して警報が鳴り響いた。

 

「うわっ!うるさッ!!・・・ま、まぁ私は明日から『此処の生徒』なんだし、守衛さんたちも多めに見てくれるっしょ!」

 

 等と言った彼女の希望的観測は空しく、駆けつけてきた警備隊からは厳重注意を受け、確認を取るため警備隊に呼ばれたIS学園の教員からもこっ酷く叱られ、彼女は転入前日から流したくもない涙を流す羽目になってしまった。

 

 

 少々みっともない登場を果たしてしまったが、彼女の名は『凰鈴音』。中国の代表候補生であり、此処IS学園の新たな仲間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月20日(水) 2時限目ーーーーーーーーーー

 

 その時刻は晴天・・・と言う程でもなく、見上げた先の青空と比較して4割程の雲が掛かっていた。

 場所はIS学園のグラウンド。時々太陽の眼前を通過する羊雲が、ISスーツを纏って整列した1年1組の生徒たちの頭上を、影となって覆ったり通り過ぎたりを繰り返している。

 そんな中、彼女たちの殆どは、何故か顔を赤くしながら目のやり場に困り果てていた。原因は寒さでは無く、ある人物の服装にあった。

 

「よし!では2時限目はISの機動演習を行う!まだ肌寒い季節だが、辛抱してくれ!」

 

 白いジャージに身を包んだ千冬が、クラス全体にそう告げる。千冬の隣には、昭弘、一夏、セシリアの3人が控えていた。

 すると千冬は、クラスメイトたちの赤面に気付き、恐らくその原因であろう人物に訊ねる。

 

「・・・先の模擬戦の時も思ったのだがな・・・アルトランド、ISスーツのデザインはもう少しどうにかならなかったのか?」

 

「えぇ?オレはかっこいいと思うけどなぁ、昭弘のISスーツ。オレのもああいうデザインだったらなぁ。」

 

「えっ?・・・そ、そうでしょうか?」

 

 昭弘のISスーツは、言うなればかなり際どいデザインをしていたのだ。

 色合いは全体的に黒色で、丁度心臓の部分には「白い炎」のようなイラストが描かれていた。そして、右脇腹の付近には『T.P.F.B.』のロゴマークがあった。

 下半身は、言うなればメンズ用のレギンスの様なモノを履いており、丈は足の踝まで伸びていた。しかし、女子のまるでスクール水着の様なISスーツと同様、素肌との密着率は極めて高く、昭弘の麗しい筋肉がそのまま浮き彫りになっていた。流石に、()()()()()()まではその限りでは無かったが。

 上半身に関しては、更に凄まじいものだった。最早タンクトップとほぼ同様の形状をしており、本来襟で覆われている筈の部分からは、昭弘最大のチャームポイントでもある大胸筋が姿をチラつかせていた。そして何より、スーツ越しに筋肉が浮き彫りになっているどころか、素肌に色を塗っただけなのではないかという程にスーツが昭弘の筋肉にめり込んでいた。

 要するに、途轍もなく“ガチムチ”な状態だったのだ。

 因みに、このスーツの発案者はデニー・レーン本人である。何でも、見る者にインパクトを与えるためだとか。

 

「?・・・同種のISスーツしか持ってませんが・・・。何か問題でも?」

 

 昭弘はキョトンとしながら訊き返す。

 

「・・・年頃の女の子に見られて、何か思うことは無いのか?」

 

「いえ、特には・・・。」

 

 昭弘は、前世では上半身裸で過ごすことも多かったので、この程度の露出なら特に気にはならない様だ。例えそれが異性の前だったとしてもだ。

 余りにも昭弘があっさりと否定するので、千冬は最早問い詰める気も失せたのか、溜め息交じりに次へと進む。

 

「はぁ・・・・・・まぁいいだろう。さて諸君!先ずはアルトランド、織斑、オルコットの3名による飛行演習を見学してもらう。それが終わり次第、諸君らにも訓練機『打鉄』に搭乗してもらうことになる!」

 

 グラウンドの脇には、IS学園が保有する訓練機『打鉄』が10機程並んでいた。

 

 先ず、千冬が3人に出した指示は、IS及びMPSの展開であった。

 各々がIS・MPSを展開する中、皆まじまじと昭弘によるMPSの展開を凝視していた。

 

「へぇ~、MPSってあんな風に展開するんだ・・・。何か展開自体はISと似てるね。」

 

「あの2本の突起物に待機状態のMPSを装着するんだ・・・。今更だけど、あの突起物って『阿頼耶識』って言うんだっけ?ニュースでチラっと言ってたよね?」

 

「何かロボットみたいだよね。」

 

 等と、各々が感想を述べている中、昭弘とセシリアの展開は完了した。しかし、一夏だけは多少時間がかかってしまった。

 

「少し遅いぞ織斑。実戦じゃ相手はお前の準備を待ってはくれないのだぞ?」

 

《はい!すいません!》

 

 千冬の叱責に、一夏は素直に返事をする。クラス代表である彼は、こんなことでへこたれる訳には行かないのだ。

 更に、千冬が次の指示を飛ばす。

 

「良し!今度は3人そろってその場から急上昇しろ!上空300mの所で静止だ!そこまで到達したら、3分程好きな様に空中機動をやってみろ。」

 

ドヒュゥッッ!!

 

 ブルー・ティアーズとグシオンリベイクはほぼ同時に離陸をし、ほぼ同時に目標地点に到達した。

 白式は、最初の加速が遅れた為か、若干後に目標地点に到達する。

 またもや、千冬から叱責を受ける一夏であった。

 

「頭に角錐を思い浮かべる・・・だっけか?うーん・・・中々上手く行かないなぁ・・・。スペック上は、加速やスピードなら白式がこの中で一番上な筈なのに・・・。」

 

 思い悩む一夏に、セシリアは優しく声を掛ける。

 

《焦る必要はございませんことよ一夏。さぁ?私と手を繋いで、少しずつ空中機動に慣れて行きましょう。》

 

 がしかし、そのセシリアの提案に、昭弘は反発する。

 

《いや、逆だ。一夏、厳しいかもしれないが、今のうちに少し無茶な機動もやるぞ。》

 

 セシリアが折角一夏と良いムードを作ろうと思っていた矢先に、昭弘からの横槍が入ったので、当然セシリアは気分を害する。

 

《お前の意見は聞いていませんことよアルトランド。お前は大人しく、私と一夏のフォローに入っていればよろしいのですわ。》

 

《放課後のアリーナの使用時間は限られている。こういう時に、少しでも激しい機動に慣れておくべきだ。》

 

《お前は教員でもない癖に、そんなことを初心者同然の一夏にやらせて、彼や地上に居るクラスメイトの身に何かあったらどう責任を取るつもりですの?》

 

《寧ろそうならない為のオレ達だろうが。そろそろいい加減にしとけよ?》

 

「あのぅ・・・2人とも?」

 

 ジワリジワリと、2人の間に存在する大気が歪んでいく様に、一夏には見えた。

 セシリアはまるで蛇の様な鋭い視線を昭弘に送り、昭弘はグシオンリベイクの表情無きツインアイを不気味に光らせている・・・様に見えた。

 一夏は、ただオロオロしながらそんな2人を見ている事しかできなかった。

 

《おいお前らぁ!!喧嘩も良いが、もう1分が過ぎたぞぉ!!》

 

 ハイパーセンサーが拾った千冬の一声に、2人はハッとしながら我に返る。

 

《・・・すまなかった、一夏。時間を無駄にした。オレとセシリアがフォローに入るから、好きな様に動いてみてくれ。》

 

《も、申し訳ございませんでした・・・一夏。》

 

「お、おう!分かった!!(サンキュー千冬姉ぇ)」

 

 一夏は、内心では千冬に感謝の言葉を送りながら、改めて2人の気の合わなさに戦慄した。

 

 3人の空中機動が終わった後、最後に千冬は急降下からの急停止を3人に命じた。目標は地上10cm。

 ブルー・ティアーズとグシオンリベイクは、丁度いいタイミングで態勢を立て直し、脚部スラスターを上手く利用して地上10cmでの急停止に見事成功した。

 一方の白式は完全に初速を誤り、猛スピードでグラウンドへと突っ込んで行ってしまった。地面に激突しそうになるところを、上手いことグシオンリベイクとブルー・ティアーズがキャッチした。お陰で、グラウンドに穴を開ける様な事態にはならなかった。

 

 その後は、打鉄を使っての本格的な機動演習へと入っていった。

 昭弘たちも、他のクラスメイトを教えるべく、グラウンド内を行ったり来たりしていた。

 

 

《わ~い!浮いた浮いた~~。セッシー、あっちの方行ってみるね~~。》

 

《あっ!ちょっとお待ちなさい!布仏さん!!勝手にウロチョロしないで下さいまし!!》

 

《えへへ~~こっちこっち~~~。》

 

《お待ちなさいったら!!》

 

 

《緊張すること無いぞ谷本。いざISに振り回された時は、オレが力尽くで押さえ付けてやるから安心しろ。》

 

《はっはいぃぃっ!!》

 

(不味いな、益々緊張させてしまったか?)

 

 

「ISを動かすことに慣れていない内は、先ず両腕両脚に重しを付けている状態をイメージしろ。いきなり生身の時と同じ感覚で動こうとすると、却って動きがぎこちなくなる。場合が悪いと、ISに振り回されるだけ振り回されて終了だ。」

 

《はいっ!織斑先生!!》

 

 

「だっ大丈夫ですよ!?篠ノ之さん!!落ち着いて行きましょう!こ、怖がること無いですよ!?」

 

《わ、分かりましたから、山田先生こそ落ち着いて下さい!》

 

 

 等と言った具合で、どうにか時間内に全員ISに乗ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時限目が終わった後の休み時間、1年1組はある話題で持ち切りだった。

 

「ねぇ聞いた!?今月末のクラス対抗戦の話!」

 

「聞いた聞いた!確か優勝したクラスには学食のスイーツ半年間食べ放題だっけ?」

 

 その話を聞いた一夏は、昭弘に確認を取る。

 

「昭弘、確かクラス対抗戦って、各クラス代表者によるトーナメント戦だったよな?」

 

「ああそうだ。スイーツ?だかには興味は無いが、お前にとっても、今後に向けての良い刺激になるんじゃないのか?」

 

「そうだぞ一夏、余り気負いすぎないことだ。今後の為の経験だと思えばいい。だが、普段世話になっている皆の為にも、無様な試合をしたらぶっ飛ばすからな!?」

 

「箒、お前!そんなこと言われたら嫌でも気負うわ!!」

 

 3人が普段通りの会話をしていると、セシリアも混ざってきた。

 

「一夏。どちらにしろ、現時点で他のクラスに『専用機持ち』は存在しません。普段の訓練通りに戦えば、十分勝ち越せるかと。」

 

「うーん・・・そんなに凄いのか?専用機って・・・。」

 

 そう、それだけ専用機は桁違いの性能を有しているのだ。誰にでも扱える汎用型で、生産性を重視している量産機とは異なり、その「一個人」の為だけに創り上げ、生産性をまるで無視した最新の科学の“結晶体”。それが、専用機と呼ばれる所以なのである。

 他のクラスメイトも、セシリアの発言に便乗する。

 

「セシリアさんの言う通りだよ!1年1組(アタシたち)なら楽勝だって!」

 

「そうそう!例の「転校生」の話も気になるけど、スイーツ無料券は1組のモノも同然ッ!!」

 

 その「転校生」という単語を聞き、昭弘たちは「この時期に?」と疑問を浮かべる。

 

 直後・・・

 

 

「その情報!古いよ!!」

 

 

 突如、1年1組の右前方の出入口から、やけに凛々しい声が・・・否、()()()()()()()()()()()かの様な声が聞こえてきた。

 

「2組も、専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に勝てるとは思わないことね!」

 

 その“謎の人物”の姿を見て、一夏は目を丸くする。

 

「・・・・・・・・・鈴?お前・・・鈴か!?」

 

「そうよ!中国の代表候補生『凰鈴音』よ!!久しぶりね一夏。」

 

 鈴音がそう返すと、一夏は苦笑いを隠しながら感想を述べた。

 

「と言うか何だ?そのキャラ。何か全然似合ってないぞ?」

 

「う、煩いわね!!」

 

 鈴音は、一夏の感想に顔を真っ赤にしながら反応を返す。

 どうやらこちらの表情が、彼女にとってのデフォルトのようだ。

 

「・・・おい一夏。」

 

 そう言い、箒は冷たい視線を一夏と鈴に送る。

 

「な、何だよ?」

 

「そろそろ、2人がどういう関係なのか、聞かせてもらえるか?」

 

 そう凄まれ、一夏はおずおずと鈴音との関係を説明する。

 昭弘も、一夏と親しい人間ということで興味があるのか、彼の話に耳を傾ける。

 

「簡単に説明すれば、鈴も箒と同じ幼馴染なんだよ。ほら、箒は小4の時に他県に引っ越しちまっただろ?鈴は小5の時に、箒と入れ違える様にオレの学校に転校してきたんだ。」

 

 一夏が説明を終えると、鈴音は何故か得意げな表情を浮かべて箒に視線を送る。

 その、箒にとって余りにも分かりやすい挑発に対し、彼女も負けじと嘲笑を浮かべながら()()を差し出す。

 

「篠ノ之箒だ。よろしくな、2 番 目 の 幼 馴 染 殿 ?」

 

「よろしくね~、遠 い 過 去 の 幼 馴 染 さ ん ?」

 

 両者はそう言いながら()()()()()()()()()と、引き攣った笑いを浮かべながら左手に目一杯力を込めた。

 ・・・が、しかし。

 

 ゴスッ

 

「イタッ」

 

 昭弘が箒の頭に軽く手刀を入れたことにより、両者の睨み合いは一先ず中断される。

 

「初対面の相手に対してそれは無いだろう、箒。もう一度、今度はちゃんと()()で握手をし直せ。」

 

「し、しかしだな!昭弘!!」

 

「ホ・ウ・キ。」

 

「・・・ああ~もう分かったよ!昭弘!」

 

 昭弘に威圧され、渋々右手を差し出す箒。鈴音もソレに倣って、半ば投げやりに右手を突き出す。

 両者が一瞬だけ握手を交わすと、昭弘は鈴音に弁明する。

 

「悪かったな、凰。・・・おっと、もうニュースで知っているとは思うが、オレの名は『昭弘・アルトランド』。」

 

「こいつもちと不器用なだけで、別に悪気は無いんだ。大目に見てやってくれ。」

 

 昭弘がそう言うと、鈴音は顎に右手を当てながら、まるで品定めするかの様に昭弘を見据える。

 昭弘・アルトランド。世界初の、男性でも扱えるパワードスーツ『MPS』の(公式上では)最初の搭乗者。彼のIS学園への入学が決定した時は、流石に鈴音も“不気味な何か”を感じた。IS至上主義の権化とも言われるあの『国際IS委員会』が、こんなにもあっさりとISの紛い物とその搭乗者の入学を認めるとは、鈴音にはとても思えなかったのだ。

 何か“裏”がある。根拠は無いが鈴音はそう睨んで、必然的に昭弘への警戒度も上げていたのだ。しかし、今の箒と昭弘のやり取りを見て、少なくとも彼がそれなりの「良識」を持っているということは分かった。

 

「へぇ~、何か意外ね。アンタってニュースでしか見たこと無かったけど、もっと野蛮な人間かと思ってたわ。」

 

「そんなことはございませんわ。野蛮人は所詮、いつまで経っても野蛮人ですことよ。」

 

「お前は黙ってろ“ヒネクレイジョウ”。」

 

「お前も普段通り大人しくしてなさいなこの“筋肉ダルマ”。」

 

 今度は、昭弘とセシリアが不毛な争いを開始しようとする。

 段々と、鈴音は昭弘を警戒するのが馬鹿らしくなっていった。元々、他人を疑うことが余り好きではない彼女は、「無理に警戒する必要も無い」とマイナスの思考を一旦切り離すことにした。

 

「ま、まぁ兎に角!一応アンタ達もよろしくね。さっきから何となく察しは付いてるとは思うけど、アルトランドには()()()()()で色々と相談することもあるだろうから、そこんとこヨロシク~。」

 

「・・・程々にしてくれよ?」

 

「待て、昭弘っ!!他クラスの奴にそこまでする必要など無い!」

 

「というか鈴、オレのことって何を相談するんだ?」

 

「「「「お前はいい加減に気づけ!!!!」」」」「ですわ!!」

 

 昭弘、箒、鈴音、セシリアの声が見事に重なる瞬間だった。

 

「何か、どんどん織斑くんへの倍率跳ね上がっていくよね・・・。」

 

「うん・・・けど、諦めちゃダメよ!諦めちゃ・・・!」

 

「大丈夫~~。オリムーが駄目でも、アキヒーやセッシーやシノノンも居るよぉ~~~。」

 

「「お前は何を言ってるんだ・・・。」」

 

 こちらも見事に重なった。

 布仏本音。彼女に恋愛といった概念は、果たしてあるのだろうか・・・等と、2人のクラスメイトは少々失礼なことを、胸の内で呟いていた。

 

 

 

 鈴音が2組に去った後、昭弘は先の己の言動について考え込んでいた。

 

(・・・オレにしては、少々お節介が過ぎたか?)

 

 昭弘は、先程箒に行った叱責を思いの外気にしているのだ。「いつからお前はそんなに偉くなったんだ」と。

 しかし、それだけ昭弘が箒のことを心配しているのもまた事実だ。正直な所、彼女は昭弘や一夏、本音位しかクラスで話せる相手が居ないのだ。只、本音も様々なクラスメイトと交流しているため、普段から箒と一緒に居るわけでは無い。実質的には、昭弘と一夏しか話し相手が居ないのだ。

 先程の鈴音や、先日のパーティーにおけるセシリアへの態度からも判るように、箒は一夏に近寄る女生徒を快く思っていない。それは即ち、1年1組の大半のクラスメイトの事を快く思っていないということになる。

 昭弘はそれを心配しているのだ。

 クラスメイトたちも箒からそんな風に思われていては、嫌うとまでは行かなくても、いずれは悪い印象を抱くようになるだろう。例え箒がそれで構わなくても、友人である彼女がクラスメイトからそう思われるのは、昭弘だって嫌なのだ。

 自分がやっている事は、きっと余計なお節介なのだろう。それでも、だからと言ってこのままの状態を傍観する訳にも行かない。

 

(・・・・・・難しいもんだな、IS学園(此処)での人間関係ってのは。)

 

 そう。此処での人間関係は、鉄華団の様な“家族関係”とは違う。何処まで行っても“自分”と“他人”。その間には好意、悪意、尊敬、侮蔑、哀れみ、恐怖、関心、無関心、困惑、嫉妬、様々な“感情”が犇めいているのだ。他人に対するそれらの感情は、ふとした切っ掛けでたちまち「変化」していくモノなのだ。・・・良い方向にも、悪い方向にも。

 

 

・・・ヒロ・・・・・・・・・、・・・い・・・・・・キヒロ・・・、オイ昭弘!!」

 

「!?」

 

 一夏の呼びかけによって、漸く思考の世界から脱した昭弘。

 

「スマン、少し考え事をな。・・・んで、何の話だっけか?」

 

「だから、鈴の事だよ。この時期に転入っておかしいなって話。」

 

「・・・確かにな。何故入学式に間に合わなかったんだ?」

 

 それは、中国の政略にあった。

 中国政府は本来、鈴音をIS学園に入学させるつもりは毛頭無かった。IS学園に入学させるよりも、中国でテストパイロットとして育成した方が、ISに関する技術開発面でも、代表候補生である鈴音本人の育成面でもメリットが大きいと判断したからである。

 しかし、男性初のIS適性者である一夏の存在が知れ渡ってからは、態度を一変する。少しでも男性IS適性者に関する情報を一夏とその専用機から得るために、国際IS委員会に対し急遽鈴音の入学を認めさようとしてきたのだ。鈴音を新入生として選んだ理由も、一夏とは旧知の間柄で、より情報を得やすいと考えたからだ。

 無論、余りにも急な申し入れの為、1度目はどんなに多額の“資金”を積んでも断られた。入学は勿論のこと、転入すらも認めてはくれなかった。IS委員会内にも各国の「パワーバランス」があるのだ。無茶な要求をあっさり呑んでしまうと、それを切っ掛けに委員会内での中国の発言が強まり、パワーバランスが一気に崩されかねない。

 余りにも頑なな委員会の態度に、中国は半ば諦めかけたが、一筋の希望の光が垣間見える。それが、昭弘とMPSの存在だ。

 「MPS操縦者の入学は認めるのに、何故IS操縦者の入学は認めないのか」と、中国はIS委員会にとって痛い所を突いてきたのだ。これにより、IS委員会に対する悪評を恐れた各国は、渋々了承したのだ。ただし、前回提示した資金と各費用はあくまで中国が支払い、IS学園理事長の説得やその他の調整により、早くても入学は4月下旬になるといった条件をIS委員会は提示した。

 

 上記のような各国のやり取りにより、鈴音は4月20日という非常に中途半端な時期に転入する羽目になったのだ。

 

「ま、国が絡んでいる可能性は高いですわね。何れにしろ、IS操縦者である私たちが深く考えるだけ時間の無駄かと。」

 

「それもそうか?」

 

「そうだ!一々あんな奴のことを考えるな一夏!!」

 

「お前、どんだけ鈴のことが嫌いなんだよ・・・。」

 

 一夏たちがそんなやり取りをしている中、昭弘は再び思考の渦に沈んでいく。

 

(凰・・・か・・・・・・。一夏関連で、さっきの箒との一件もあるし、妙なトラブルが起きなきゃいいんだが・・・。)

 

 そんな不安を抱えながら、昭弘は箒の不機嫌そうな横顔を見つめる。その横顔を見て更に不安になったので、今度は窓の外に広がる雲一つ無い青空を見上げる。

 

 ・・・・・・・・・・・・しかし、昭弘の中に渦巻く不安と心配は、いくら青空が美しくても拭えることはなかった。




てな具合になりました。
あの「最強」の生徒会長も、そろそろ出そうかと思っております。


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第9話 想うということ

今回は、色々と冒険してみました。
セシリアと箒は、前々からじっくりと会話させてみたかったんです。というか、この2人に限らず、昭弘以外にももっといろんなキャラ同士で会話させてみたいというのが本音です。だから前半ダルいと思った人は   ゆ     る     し     て



ーーーーーーーーーー4月20日(水)ーーーーーーーーーー

 

「・・・それで?用件は何だ?オルコット。」

 

 4時限目が終わった後の昼休み、箒はセシリアに昼食に誘われた。場所は屋上で、天候は未だに快晴だ。

 一夏なら兎も角、恋敵である自分だけを態々昼食に誘うと言うことは、何か裏があるのではないのかと警戒している様だ。

 そんな箒とは対照的に、セシリアは柔らかい微笑を溢しながら口を開いた。

 

「用件・・・と言いますか、少々お節介を焼こうと思い至っただけですわ。」

 

「お節介?」

 

 セシリアにお節介を焼かれる覚えなど一切無い箒は、警戒を解かぬまま視線だけをセシリアに向ける。

 すると、セシリアの顔から先程の微笑は消え失せ、一瞬で真剣な面持ちへと変貌する。

 

「単刀直入に申しますわ。篠ノ之さん、貴女はもう少し「人付き合い」と言うものを覚えた方が宜しくてよ。」

 

 どうやら、セシリアも昭弘と同様に、先程の箒と鈴音とのいざこざに何か思うところがあった様だ。

 そのお節介自体は、箒の予想の範囲内であったが、選りにも選ってセシリアの口から出てきたのは意外だった。自身の知るプライドの塊の様なセシリアと、いまいち人物像が重ならない。

 

「・・・本当に下らないお節介だな。第一貴様には関係の無い話だろう。」

 

 箒の案の定な反応に、セシリアは呆れと困惑を内包させながら更に言葉を発する。

 

「はぁ・・・そう言う所でしてよ篠ノ之さん?私が相手だから良いものの、他の1組のクラスメイトに対しても、そのような態度を取るおつもりですの?」

 

「それがどうした?クラスメイトだろうと、私にとっては他人だ。他人にどう思われようと知ったことではない。」

 

「第一、私には一夏と昭弘が居る。別にクラスで孤立している訳ではない。」

 

「確かに、()()それで良いのかもしれませんわね。」

 

 セシリアが強調した“今”という単語を聞いて、箒は次に彼女が何を言おうとしているのか凡そ察しが付いてしまい、彼女から視線を反らす。

 

「ですが、来年も彼らと同じクラスになれる保証など、何処にも有りはしなくてよ?」

 

 更にセシリアは残酷な現実を突き付けてくる。

 

「例え運良く彼らと3年間同じクラスだったとして、その後はどうなさいますの?その頃には貴女の齢は18。その歳になるまで彼等しか、しかも異性の友人しか居ない状況で3年間を過ごした貴女が、社会に出てからまともなコミュニケーションを取れる自信がお有りですの?」

 

 実際箒は、今現在に至るまで、姉である束が指名手配犯となってからはずっと孤独な学校生活を強いられて来た。

 日本政府が行った『要人保護プログラム』により、篠ノ之家の身の安全を確保するという名目の下、名前を偽り、特定されないために各地を転々とさせられた。「身の安全を確保する」というのも日本政府の目的の一つなのだろうが、実際は篠ノ之束の親族の身柄を抑えることにより、束側からの日本政府への“接触”を期待していた節が大きい。悪い言い方をすれば、体の良い「人質」である。

 それにより、箒は短い期間でしか同じ学校に滞在できず、友人も誰一人できなかった。ーーーどうせ直ぐ別れるからーーー・・・箒の心に芽生えてしまったそんな気持ちが、他者との関わりに自然と「ブレーキ」を掛ける様になってしまったのだ。

 それを危惧したからこそ、箒の両親は日本政府に掛け合って、娘をIS学園へと入学させたのだ。超法規的機関であるIS学園(あそこ)なら、他国からも日本政府からも干渉を受けることは無い。少なくとも、3年間は移動する必要無しに、安全な生活が保障される。箒が今現在本名を名乗れているのも、此処が安全だからという理由だ。ある程度ほとぼりが冷めたというのもあるが。国際IS委員会も、かの『天災科学者の妹』というだけで、入学をあっさり認めてくれたのだ。

 無論、家族とは離れ離れになる為、当初箒自身は猛反発した。しかし、「これ以上箒に孤独な思いをさせたくはない」という両親の必死な説得の末、漸くIS学園への入学を決意したのだ。

 

 ・・・以上の様な経緯が箒にはあるので、セシリアからの問いかけには“否”と答える他無い。

 箒が黙って俯いていると、セシリアは再度優しく微笑み、箒に語り掛ける。

 

「・・・篠ノ之さん、貴女は今非常に恵まれた環境に身を置いていると、私は思いますのよ?はっきり言ってクラスの皆様は、“良い人”たちですわ。貴女を『篠ノ之束の妹』と知っていながら、その事には一切触れることも無く、貴女を特別視しなければ、除け者扱いすることも無い。」

 

「クラスメイトだけではございませんわ。篠ノ之さん、貴女も“良い人”だということを、私は知っております。私がアルトランドを侮辱した際も、貴女はまるで自分のことの様に怒っておりましたわ。彼とはその日が初対面の筈なのに。」

 

「・・・・・・何が言いたい?」

 

 箒からの疑問の言葉に、セシリアは笑顔を崩すことなく答える。

 

「貴女に解って貰いたかったのですわ、クラスメイトも貴女自身も“良い人”だと言うことを。だから貴女も、一々クラスメイトを警戒する必要はございませんし、かと言って無理に仲良くしようとする必要も無くってよ。ただほんの少しだけ心を開くだけで、1組の皆さんとも良い関係を築けると私は思いますわ。何せ貴女も1組の皆さんも、私が認める“良い人同士”なのですもの。」

 

「そうやって、少しずつ“他人”じゃなくなっていくものでしょう?人間関係というのは。」

 

 箒はセシリアの説教を聞いて、正直困惑していた。何故そこまで、友人でも何でも無い自分なんかの為に親身になってくれるのかと。

 箒がそんなことを考えていると、セシリアは思い出したかのように言葉を捻り出す。

 

「あ、そうですわ。最後に一つ言っておきたいことが。次からは「貴様には関係ない」等とは決して言わないで下さいまし。正直、酷く傷つきましたわ。」

 

「・・・えっ?」

 

「貴女が私をどう思おうと貴女の勝手ですが、少なくとも私はとっくに貴女のことを大切な“友人”だと思っておりますのよ?弱い癖に無理に強がる所とか、一見凛としている割には子供っぽい所とか、不愛想だけど本当は優しい所とか。・・・正直、見ていて放っておけなくなりますのよ、()のこと。」

 

「無論、一夏の恋敵であるという事実には変わりはありませんが、それはそれ、これはこれですわ。」

 

 余りにもストレートすぎるセシリアからの告白に、箒は増々戸惑ってしまう。今迄他人だと思っていた相手から突然そう言われては、仕方がないかもしれないが。

 しかし、心の奥底からは戸惑い以上の確かな嬉しさが込み上げてきたので、箒は気恥ずかしさからか強がって不愛想を貫こうとする。

 

「・・・少々おしゃべりが過ぎましたわね。さ、気を取り直して、早々に昼食を済ませてしまいましょう。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・()()()()、その・・・・・・ありがとうな。

 

「アラ?聞こえませんでしたわよ?」

 

「ッ!・・・フンッ!!何でもない!」

 

 そんなやり取りを繰り返しながら、2人の昼休みは過ぎていった。

 

 ただ、セシリアも自身の助言で箒が急激に変化する等と自惚れてはいない。・・・もしかしたら、箒を心配している人間が居るということを、箒自身に知って貰えればそれで良かったのかもしれない。

 ・・・・・・・・・・・・それにしてもセシリアが、普段から啀み合っている昭弘と似たような心配をしていたという点については、最早ちょっとした「皮肉」としか言いようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー同日 放課後ーーーーーーーーーー

 

 薄紅色に彩られた空の下、海水が崖に打ち付けられる音が印象的なアリーナCにおいて、昭弘は訓練に勤しんでいた。無論巨大なアリーナは、その時間帯に一人の生徒だけが使うものではなく、他にも大勢の生徒が使っている場合が殆どだ。

 そして今回も例に漏れず、否、それ以上の生徒がアリーナCを使っていたので、高速機動訓練は危険であると判断した昭弘は、高速切替(ラピッド・スイッチ)の訓練に移ることにした。

 

 高速切替とは、簡単に説明するとISコア内に格納されている武装を「素早く手元に呼び出す」技術(テクニック)である。

 ISコア内には、様々な『後付武装(イコライザ)』が入っており、これを『量子返還(インストール)』することで、自由に手元に呼び出すことができる様になっている。高速切替を使わずに武装を手元で粒子構成するには、通常1~2秒程掛かると言われている。

 又、ISコア内において後付武装を格納する領域を『拡張領域(バススロット)』と呼ぶ。無論、この拡張領域に格納できる武装数には限度があり、グシオンリベイクも例外ではない。

 

 さて、早速訓練に取り掛かる昭弘。

 先ずは両手と両サブアームに、それぞれミニガンと滑腔砲を呼び出す。所要時間は0.1秒。

 次に、両手に現れたミニガンを引っ込め、左手にハンマー、右手にハルバートを呼び出す。引っ込めてから更に呼び出す迄の時間は0.2秒。

 今度は、両サブアームの滑腔砲を引っ込め、空いたサブアームの手元にミニガンを呼び出す。こちらの総所要時間は0.3秒であった。

 

(良し、両手に関してはまぁ上々か?ただ、サブアームに関しては僅かに時間が掛かるのが気懸りだな。・・・・・・納得が行くまで、もう少し連続してやってみるか。)

 

 昭弘は暫くの間、高速切替の練習に勤しむことにした。

 サブアームにハンマーとハルバート、そこから更に左サブアームにあるハルバートを引っ込め、空いた左サブアームで腰に外付けされているシールドを取り出し、それと同時に右サブアームのハンマーをミニガンへと変える。この様な高速切替による組み合わせを、ひたすらに繰り返していった。

 

 

 

 

 

 その日の分の訓練を終えた昭弘は、自室のある寮へと向かっていた。実は、これから『ある人物』と連絡を取る予定なのだ。

 ところが、丁度寮の入り口が昭弘の視界に入ると同時に、()()()()()()()()女子生徒が、寮の入り口から飛び出して来た。しかも、泣き喚きながら昭弘の方角に向かってくる。

 昭弘はそれだけで、何となく“嫌な予感”がした。

 

「あっ!!アルトランド!丁度良かったわ!ちょいと面貸しなさい!!」

 

 鈴音はそう言いながら、強引に昭弘の腕を引っ掴む。

 

(・・・・・・・・・・・・電話は、後回しだな。)

 

 

 一先ず、人気の少ないベンチに腰掛けた二人。すると、鈴音はまるでミニガンの如く愚痴を零し始める。

 

「もうほんと信じられない!あの一夏(馬鹿)!!アタシが中学の頃にあいつと約束した「大きくなったら毎日酢豚を食べさせてあげるね!」って約束を勘違いして覚えていたのよ!?何よ酢豚を御馳走してくれるって!!普通は女子からそんだけ言われれば嫌でも理解するもんでしょ!?あぁ~~~~んもう!!増々イライラしてきた!「パー」じゃなくて「グー」で殴っておくべきだったわ!!大体何よ!この学校!!普通は男女で部屋は別々にするもんでしょう!?しかもそれが寄りに寄って(アイツ)と一夏が同室だなんて・・・!ちょっとぐらい譲ってくれたっていいじゃない!それとも何!?まさかアイツ、アレで一夏を独占しているつもりなの!?自分だけが一夏の幼馴染だとか本気で思ってんじゃないでしょうね!!?」

 

「・・・おい、取り敢えず落ち着け。要するに・・・アレか?お前の「愛の告白」を、一夏は今の今迄勘違いしていた。そんでもって、箒が一夏と一緒に居るのが気に食わない。・・・こんなところか?」

 

 止め処なく溢れ返る鈴音の愚痴を、昭弘は要点を纏めることで一度制する。

 

「ええ、そうよ!あんただって、一夏が悪いと思うでしょ!?」

 

 そう言われて、昭弘は少し頭を捻らせた後、口を開いた。

 

「・・・確かに、オレも一夏のそういうところに対して、何も思わない訳じゃない。」

 

「でしょ!?もう本当にアイツは・・・」

 

「だからと言って、それが一夏を叩いて良い理由にはならないだろう?」

 

「は、はぁ?何言ってんの?女の子との約束を破るような奴、叩かれて当然でしょ!?」

 

「ああ、確かに約束を破るのは良くないことだ。けどな、お前ももっと冷静になるべきだったんじゃないのか?暴力を振るうよりも先に、もっと言うべきことがあったんじゃないのか?」

 

「そ、それは・・・。」

 

「・・・箒にも言ったんだがな、回りくどい事しないで、好きなら「好き」と素直に言えばいいんじゃないのか?」

 

 昭弘に真顔でそう言われて、鈴音は顔を赤く染めながら猛反発する。

 

「ばっ、馬鹿じゃないの!?い、い、言えるわけないでしょーが!!そんなこっ恥ずかしいっ!!」

 

「ああそうだ。お前の言う通り、馬鹿なんだよオレは。特に恋愛に関しては、無知無学もいいとこだ。だから、異性に「好きだ」と想いを伝えることが、どういう感覚なのかイマイチピンと来ないんだ。」

 

 それにな・・・と、昭弘は続ける。

 

「お前が思っている以上に、一夏は“子供”なんだ。良い奴ではあるんだが、察しは悪いし、他人(ひと)の気持ちや想い・今自分が置かれている状況も良く理解していない節がある。・・・凰、お前が一夏に告白した時、どれ程の想いを込めたのかは知らんが、飾り立てた言葉で相手が理解しないんなら、素直に「好きだ、愛してる」と言うしかないだろう。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 昭弘が頭の中から捻り出した言葉に対して、鈴音は複雑な顔をしながら黙りこくってしまった。

 一夏に対する憤りが消えた訳ではないが、昭弘の冷静且つ客観的な言葉によって、鈴音自身も変に冷静になってしまったのだ。折角久しぶりに大好きな一夏に逢えたのに、自分の想いに気づいて欲しかっただけなのに、何であんなことをしてしまったのだろう、と。これじゃあ「告白」以前の問題だ。

 だからと言って、素直に一夏に謝るのも自身の腹の虫が収まらない。朴念仁な一夏にだって非はあるのだ。

 じゃあどうすれば良いのかと、鈴音が思い悩んでいると・・・。

 

「・・・まぁ兎も角、先ずは仲直りからだな・・・。何か切っ掛けがあればいいんだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!そう言えば、クラス対抗戦では一夏と凰が戦うんだったよな?」

 

「?ええ、そうだけど・・・・・・・・・・・・・・・ってソレよぉっ!!」

 

 勢い良く飛び上がり、昭弘を指差す鈴音。

 

「おっ、もう思いついたのか?」

 

「ええまぁ、ぼんやりとね!細かいところは、部屋でじっくり考えるとするわよ!!」

 

 鈴音はそう言って立ち去ろうとする前に、昭弘に次の言葉を贈った。

 

「・・・その、ありがとね、アルトランド。あんたと話してたら、大分冷静になれたわ。・・・・・・結構・・・難しいんだよね、好きな人に正直に“好き”って伝えるの。恥ずかしいというか、相手の反応が怖いっていうか・・・。」

 

「まぁ礼はいいさ。それより、何で態々オレに相談したんだ?こんな恋愛素人のオレなんかよりも、2組にはもっと適任な奴がいるだろう?」

 

 昭弘がそう言うと、鈴音はキョトンとしながら淡々と返答する。

 

「だって、何処のどいつが一夏を狙っているか分からないじゃない。相談相手まで一夏に気があったら、逆にアタシが蹴落とされかねないわよ。」

 

「ああ・・・だから一夏と同性のオレに相談したという訳か(と言うか意外と狡猾な奴だな)。」

 

 昭弘は、そう心の中で鈴音への印象を再構築した後、再び口を開く。

 

「・・・それと、凰。箒のことなんだが・・・。」

 

「分かってる。さっきはアタシもイライラしててあんなこと言っちゃったけど、別にあの娘と悶着起こした訳じゃないから、安心して。まぁ物凄い剣幕でアタシを睨みつけてはきたけど。」

 

(・・・意外だな、あの箒が・・・。何か心境の変化でもあったのか?)

 

 昭弘はそんなことを考えながら、一先ず鈴音と共に寮の入り口へと赴くことにした。

 

 

 

「あ・・・。」

 

「うげ・・・。」

 

 昭弘と鈴音は、寮の入り口に居る人物を見て、心の声を漏らす。

 寮の入り口では、一夏が周囲を見回しながら頭を掻いていた。汗の量からして、どうやら鈴音を探し回っていた様だ。

 鈴音と昭弘に気づいた一夏は、至る所から流れている汗を気にすることなく駆け寄ってくる。

 

「鈴!昭弘も!どこ行ってたんだよ鈴!!結構探したんだぞ!?」

 

「・・・・・・フンッ。」

 

(まぁ、多少冷静になったとは言え、無理も無いか。)

 

 鈴音は一夏の言葉にそう短く返すと、そそくさと自身の部屋のある3階へと向かっていった。

 一夏は、鈴音からの冷たい反応に、ガクリと肩を落としてしまう。すると今度は、まるで縋る様な眼差しで、昭弘を見つめる。

 

「・・・・・・昭弘ぉ・・・・・・・・・。」

 

 昭弘は、一夏のその眼差しだけで、「相談に乗ってくれ」と彼が言っているのが解かった。

 

「はぁ・・・分かったから、取り敢えずオレの部屋に来い。」

 

「・・・・・・すまん。」

 

 

 

「ったくぅ・・・鈴の奴、思いっきり引っ叩きやがってぇ・・・未だイテェし。というかオレが何したって言うんだよ・・・。おまけに箒からは「馬に蹴られて死ね!」って・・・・・・。」

 

 昭弘の部屋で左頬を抑えながら、一夏は愚痴愚痴と言葉を吐き出し始めた。

 無論、隣の部屋には箒が居るのだが、IS学園寮の防音対策は万全中の万全なので、愚痴を聞かれる心配は無い。

 

「・・・氷でも持ってくるか?」

 

「いや、大丈夫。わりぃな心配掛けて。」

 

 昭弘は、事の顛末は概ね把握しているが、話を進める為にも取り敢えず原因を聞いてみることにした。

 

「何か心当たりは無いのか?・・・凰を怒らす様なこととか。」

 

「多分・・・原因は酢豚の話だとは思うんだ。鈴が、「あの時の約束、覚えてる?」っていうから、オレが「酢豚を奢ってくれるって約束だろ?」って答えたら「スパァン!」だよ。・・・何でアレで怒ったのか、理由が解んなくてさ・・・。」

 

(成程な。言葉の真意を解ってなきゃ、まぁ叩かれた一夏からすれば意味不明だろうな。何をどうすれば良いのかも、分からないってとこか?)

 

 昭弘はそう思いながら、「どう答えるか・・・」と腕を組み始めた。

 そして・・・。

 

「・・・理由を本人から聞き出すしかないだろうな。」

 

「聞き出すって・・・けど、どうやって?今の鈴は、その・・・あんな状態だし・・・。」

 

「まぁ、()()無理だろうな。暫くの間は、様子を見た方が良いだろう。」

 

「・・・やっぱ、それしかないのかな?・・・・・・正直、怖ぇよオレ。ずっと様子見している間に、鈴と疎遠になったらって思うと・・・考えただけでもゾッとする。」

 

 一夏はそう言いながら右手を額に当てると、力無く項垂れてしまう。

 昭弘から見ても、正直言って一夏は馬鹿で鈍感だ。・・・だが、いくら朴念仁と言っても、今迄親しい仲だった者と疎遠になるのは嫌に決まっている。それが幼馴染なら猶のことだ。ある意味、鈴音以上に一夏の方が心細いのかもしれない。一夏からすれば、理由も解らないまま絶交されかねない様な状況なのだから。

 昭弘は、そんな一夏の左肩に右手を乗せると、優しい口調で語り掛ける。

 

「幼馴染ってのは、一度の喧嘩で疎遠になる程、脆い関係じゃないだろう?・・・凰を信じろ。」

 

 昭弘がそう言うと、一夏は項垂れていた首を上げる。

 

「・・・“信じて待て”ってことか。」

 

「そうだ。・・・少なくとも、「クラス対抗戦」迄は、辛抱して待ってみろ。・・・・・・なぁに、また精神的にキツくなったら、何時でもオレんとこに来い。」

 

「・・・・・・・・・分かった。もう少し、鈴の事を信じて待ってみるよ。・・・いつもありがとな、昭弘。」

 

 そう言って、一夏は昭弘の部屋を後にした。

 前のクラス代表決定戦の時もそうだが、一夏は愚鈍に見えて、意外と精神面は繊細だ。毎回こうやって昭弘に相談しに来るのが、何よりの証拠だ。

 ・・・昭弘は、時々思うのだ。何かの拍子に、一夏が()()()()()()のではないかと。無論何の根拠も無いが、毎回自身の部屋で力無い一夏を見ると、そう思わずにはいられないのだ。

 

(・・・まぁ取り敢えず、一夏も普段の元気を取り戻したみたいだし、オレも気持ちを切り替えるか。)

 

 

ーーーーーーーーーー19:49ーーーーーーーーーー

 

 昭弘は、深緑色のスマートフォンを取り出すと、電話帳に乗っている『ある人物』の名前をタッチする。着信画面にデリーの名前が表示されている時とは違い、にこやかな表情の昭弘がそこに居た。

 

トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・

 

《はい、クロエ・クロニクルです。》

 

「久しぶりだな、クロエ。オレだ、昭弘だ。」

 

《昭弘様っ!!お久しぶりです!》

 

 クロエ・クロニクル

 束の下で生活している、盲目で銀髪の少女だ。何でも、某国の研究所にて非道な人体実験をされていた所を、束率いるゴーレム達に助けられたのだそうだ。

 今は、束や他のゴーレムたちから、娘同然の様に大切に育てられている。昭弘にとっても、クロエはこの世界において掛け替えの無い家族の一人だ。

 

「悪いな、電話を掛けるには、少々遅い時間帯か?」

 

《いえ、私にとってはまだまだ大丈夫な時間帯です。それより、どんなご用件でしょうか?》

 

「・・・すまん、用件は特に無いんだ。ただ、久しぶりに家族の声が聞きたくなってな。束にも連絡を入れようと思ったんだが、色々と忙しいだろう。」

 

 昭弘は此処IS学園に来てから、束たちと未だに連絡が取れないでいた。

 日々教師から命じられる少なくない課題、放課後を使ってのMPSの機動訓練、先の様な一夏や箒からの相談事、そして「学校」という不慣れな空間での生活。

 昭弘は、最近になって漸くこれらの「日常」に慣れて来たのだ。慣れてくれば、自然と心の余裕も生まれてくるもの。そんな心の余裕が、自然と家族の声を欲したのだ。

 

《そうでしたか。私も、久しぶりに昭弘様の声が聞けて嬉しいです!》

 

「お世辞でも、そう言って貰えると嬉しい。」

 

《お世辞じゃないです!・・・全く、そういうところは相変わらずのご様子で・・・。》

 

「ハハ、すまんすまん。で、最近そっちはどうだ?」

 

《相変わらず、騒がしくも穏やかな日常ですよ。そうそう、ついさっきもタロとジロが、私への教育方針で言い争いをしていたんです。》

 

「またか、あんの過保護共・・・。んで、いつものパターンか?」

 

《いえ、今回は少し違います。シロが仲裁に入ってくるところまではいつも通りなのですが、余りにも2機が言うことを聞かないので、そのまま3機で乱闘を始めてしまったのです。》

 

「乱闘って・・・大丈夫だったのか?お前とか機材とか。」

 

《無論私には配慮して乱闘をしていたのですが、周辺の機材は見るも無残な程にメチャクチャになりました。私は唖然としたと言いますか、呆れ果てたと言いますか、唯々傍観することしかできませんでした。後から駆けつけてきたサブロ達が取り押さえなければ、私だけ残して辺り一面更地と化していたかと。》

 

「・・・束から相当シゴかれたんじゃないのか?タロたち。」

 

《はい、それはもう。ざまぁないです。》

 

「まぁ、そう言ってやるな。タロたちだってお前の事を想って、喧嘩したんだろうからな。」

 

 昭弘とクロエが電話越しにそんなやり取りを繰り返していると、クロエの声が電話越しから僅かに離れる感じがした。

 

アラ、タロ?そろそろ代わって欲しいと?・・・はぁ、仕方がありませんね。昭弘様、タロが代わりたいそうなのですが、よろしいでしょうか?》

 

「勿論だ。寧ろ、ゴーレム全員と話したい気分なんだ。さっきの馬鹿げた「乱闘話」も含めてな。」

 

 昭弘がそう返答したので、クロエはタロと代わった。

 

《昭弘様!!オ久シュウゴザイマス!!》

 

「おう、束からシゴかれた後にしては元気そうだな、タロ。」

 

《久シブリニ昭弘様ノ声ヲ聞イテシマエバ、憂鬱ナド吹ッ飛ビマス!》

 

「・・・ったく、その元気を少しはオレに分けられないか?」

 

《流石ニ、ソコマデノ元気ハ、今ノ私ニハゴザイマセン。・・・本当ニ、死ヌカト思イマシタ。束様ノシゴキハ。》

 

「だろうな。んで、ジロとは仲直りしたのか?」

 

《イイエ。モウ金輪際、アイツトハ口ヲ利キマセン。》

 

「お前・・・先月もジロに同じこと言ってなかったか?」

 

《今度トイウ今度ハ、本気ノ本気デス。抑々アイツハ、クロエ様ノコトヲ何モ解ッテイナイ。少シクールブッタ、唯ノ馬鹿デス。》

 

 因みにジロは、タロのことを「明ルイダケノ馬鹿」と、クロエに言っていたらしい。

 

「・・・確かに、お前から見れば、ジロはクロエのことを余り理解できていなかったのかもしれん。だがな、ジロだってクロエのことを、お前に負けない位大切に想っているんだ。そこだけは、評価してやれよ?」

 

《ムウ・・・昭弘様ガソコマデ仰ルノナラ、ソノ1点ダケハ評価シマショウ。ソシテ、他ノ99点ハ見下ストシマショウ。》

 

「ハハハ!それじゃあ本末転倒じゃねぇか!」

 

 昭弘達は、その後も電話越しにそんな会話を繰り返した。

 久しぶりの家族の声。それは昭弘に久しぶりの安心をもたらしてくれた様だ。

 

 

 

(今週の土日、どうにか会えないだろうか・・・。)

 

 電話が終わった後、ふとそんな事を昭弘は考えていた。

 ・・・タロたちゴーレムは“機械”だ。

 機械にここまで情が湧くことは、可笑しいことなのだろうか・・・等と、今更そんなどうでも良い考えは昭弘には微塵も無く、唯々彼らに「会いたい」という感情だけが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから訪れる悲劇も知らずに。




というか殆ど説教かカウンセリングばっかじゃないか(呆れ)

最後は少々不穏が残る様にしてみました。
今後昭弘に訪れる悲劇・・・それはいったい・・・?


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第10話 望まぬ再会

今回は、昭弘の束のラボでの過去話が大半を占めています。
描いている自分が言うのも何ですが、ゴーレムクッソかわいいですね。・・・あ、そうでもない?
まぁけど、やはりクラス対抗戦までは若干急ぎ足になってしまった感は否めないですね。

あと、今回からゴーレムタグを付けようと思います。


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ーーーーーーーーーー2月13日(日)ーーーーーーーーーー

 

 束のラボにて、昭弘は無人ISである『タロ』『ジロ』と共にいつも通りの“訓練”を終えた後、雑談をしながら束が今現在籠っている研究室へと向かっていた。

 純白で無機質な廊下を、1人と2体の足音がまるで異なる音響を奏でながら進んでいく。

 

「にしても、相変わらず強いな2体とも。未だ『グシオン』が調整中とは言え、毎回こうも負けが重なると流石にショックを受けるな・・・。」

 

 昭弘の力無い一言に、タロが長い腕を小さく振りながら反応を示す。

 

《イエイエ!ゴ謙遜ヲ!未ダ調整段階ノグシオンダトイウノニ、モウ()()()()ナラ少シズツ勝チ星ヲ取レテキテイルデハアリマセンカ!コノママ順調ニ進メバ、ゴーレム最強デアル私ニ対シテモ、十分勝チ星ヲ取レルヨウニナルカト。》

 

 タロの上から目線な受け答えに苦言を呈するかの様に、今度はジロが言葉を発する。タロとは正反対の白銀のボディが、より一層タロへの反発心を露わにしているかの様な光景だ。

 

《・・・昭弘様、コイツノ言葉ハ真剣ニ聞クダケ無駄カト。・・・己ノ力ニ己惚レテイル様ナ奴ノ言葉ナド、所詮ハ高ガ知レテオリマス故。》

 

《昭弘様、ドウヤラジロハ私ノ実力ノ高サニ嫉妬シテイルヨウデス。温カイ目デ見守ッテアゲテ下サイ!》

 

《・・・抑々戦闘面以外ノスペックナラ、貴様ヨリモ私ノ方ガ全テニオイテ上ダ。・・・貴様ハモウ少シ、己ノ置カレテイル立場ヲ再認識スベキダ。・・・要スルニ調子ニ乗ルナ。》

 

(・・・やれやれ、毎度毎度懲りない奴らだ。)

 

 タロとジロによるいつもの口論が始まると、昭弘は心中でそう呟く。

 元気で明るくてお調子者なタロ、冷静で常に客観的な思考のジロ。そんな2体が度々衝突するのは仕方の無い事なのかもしれないが、毎回その間に挟まれる自分の身にもなってほしいものだと、昭弘は思わず溜め息を吐く。その上「辛辣」な部分はお互い共通しているので、益々たちが悪い。

 

 昭弘たちが会話を続けながら廊下を進んでいると、丁字の角の部分で「水色に白い斑点模様」のゴーレムと遭遇する。そのゴーレム『サブロ』は、自身の右肩の部分に盲目の少女『クロエ』を乗せていた。

 

「昭弘様!お疲れ様です。訓練の方は如何でしたか?」

 

 動物は、五感の内一つの感覚を失うと、他の感覚が今迄以上に研ぎ澄まされると言われている。それは、人間に於いても例外ではない。

 クロエもその例に漏れず、靴音から生じる昭弘の体重、匂い、大気の流れの変化等から情報を読み取ったのだ。

 

「おう、クロエにサブロか。こっちはまずまずってところだな。タロを倒すには、もう少し時間が掛かりそうだ。・・・そう言うお前は、どういう風の吹回しだ?サブロの肩に座ったりしてよ。」

 

 少しばかり彼女を小馬鹿にするかの様に昭弘が訊ねると、彼女は頬を赤くしながら答える。

 

「いえ・・・私も好きで乗っている訳では無いのですよ?サブロが「疲れているだろうから乗ってください」と半ば無理矢理・・・。私、まだ10歩程度しか歩いておりませんのに・・・。」

 

《イエ、昭弘様。クロエ様ハ、明ラカニ疲レテオイデデシタ。》

 

「・・・んで?本心は?」

 

《ハイ、クロエ様ヲ僕ノ肩ニ乗セタカッタダケデス。》

 

「・・・だろうと思ったぜ。そう言やクロエは、何処に何の用があるんだ?」

 

 昭弘はサブロに対して苦笑いを浮かべた後、クロエに尋ねる。

 

「ええ、実は束様に呼ばれておりまして。・・・もしかして昭弘様も?」

 

「まぁ、そんな所だ。・・・この廊下じゃ少々大所帯になっちまうが、一緒に行くか?」

 

「はい!是非!」

 

 そんなこんなで昭弘は、合流したクロエたちと共に束の籠る研究室へと歩を進める。

 

 因みに、束の保有する実戦投入可能な無人ISは、全部で136機存在する。これらを除いた世界各国で実戦配備されているISが総計322機と考えると、相当な軍事力を束が保有しているのが解る。

 近距離・遠距離万能対応型の『ゴーレムタイプ』が10機、遠距離・中距離射撃特化型の『メテオタイプ』が26機、索敵・支援・陽動特化型の『エイジェンタイプ』が100機と言った構成となっている。

 ゴーレムタイプは製造日が古い順から『タロ、ジロ、サブロ、シロ、ゴロ、ムロ、ナロ、ハロ、クロ、ジュロ』といった名前が付けられている。どの個体も極めて高い戦闘力を誇っており、その実力は平均的な国家代表候補生をも凌ぐ。タロに至っては、最早国家代表とタメを張れるレベルだ。

 メテオタイプに至っても、国家代表候補生レベルの実力が備えられており、彼らにもゴーレムタイプと同様、個体ごとに名前が付けられている。

 エイジェンタイプは索敵や後方支援等が主な目的だが、素の戦闘能力においても現行の量産型ISである『打鉄』や『ラファール・リヴァイヴ』を大幅に上回る。即ち、索敵も支援も戦闘もこなせる、ある意味ゴーレム以上の万能機なのだ。どうやら、エイジェンタイプにも1機1機に態々名前を付けている様だ。

 真に恐るべき事は、束にとってこれらはあくまで必要最低限の戦力に過ぎないと言うことだ。彼女がその気になれば、あっという間に500機でも1000機でも無尽蔵に戦力を増やせる。

 そうしない理由は、単純に彼女の目的が侵略行為に有らず、自衛の為の戦力だけで十分だからだ(それでも十分すぎる戦力だが)。現在束が推し進めている『計画』を優先する為にも、余計なことに労力は使わないべきではあるし、何より余分な戦力は管理も周辺各国の目も厳しくなるだけなのだ。

 

 説明は一旦このくらいにして、話をラボの廊下での状況に戻そうと思う。

 昭弘は、会話に夢中になっていた為か、気が付いたら研究室のすぐ目の前まで来ていた。

 中に入ると、束が忙しなくキーボードを指先で叩いていた。と言っても、キーボード自体はホログラム化されているので、カタカタといった喧しい音は聞こえなかった。

 キーボードと同じく、青白くホログラム化されている画面を真剣に見つめていた束は、入室してきた昭弘たちに振り向くと、作業を中断させて笑顔で駆け寄ってくる。束を手伝っていたジュロも、その巨体を昭弘たちの下へゆっくりと向かわせる。

 

「やぁやぁ!来たねぇ?皆の衆☆」

 

 束はそう言うと、クロエに視線を移す。どうやら、先ずはクロエに話がある様だ。

 

「そんじゃ先ずは、レディーファーストってことでくーちゃんから!・・・ハイこれ☆」

 

 束は、上品そうな白いシルクの布を捲ると、その中に静かに佇んでいる『黒い直方体』をクロエに手渡す。

 

「・・・束様、これは?」

 

 突然謎の物体を渡されて困惑するクロエに対し、束は両手を腰に当てると得意げに説明する。

 

「君の専用IS『黒鍵』だよぉ☆一応電脳戦に特化した第3世代機なんだけど、それ以外の部分は通常のISとほぼ一緒だから安心して☆詳しい説明は、後程ねっ!」

 

 よくよく見てみると、その待機状態のISはピアノの盤上における「黒鍵(こっけん)」と同じ形状をしており、ネックレスの様な細い鎖が通されていた。

 

(・・・?なぜ今になってクロエに専用機を?)

 

 クロエが思っているのと全く同じ疑問を、昭弘も抱いていた。

 

「おっとぉ、二人とも「何故今更?」とか思っているでしょ?正直私としては、くろちゃんを“兵器”としてのISには乗せたくないんだけどね。けど、今後はアフリカや中東の勢力がより活発的になっていくと思うから、何かあった時の為にも護身はより強力な方がいいでしょ?現にこの黒鍵は、電脳戦以外にも防御力や機動力には異常なまでに特化しているから、逃げるには打って付けって訳☆」

 

「あ、ありがとうございます!束様!大切に使わせていただきます!」

 

《良カッタデスネ、クロエ様!コレナラ昭弘様ヤ僕タチト、モット遊ベルヨウニナリマスヨ。》

 

(アフリカ・中東勢力か・・・・・・束の計画と、何か関係があるのだろうか?)

 

 昭弘がそんなことを考えていると、束が昭弘の方へと振り向く。

 

「さて、アキくんにはグシオンの“設定”の件で話があるんだっ☆」

 

「・・・設定?」

 

「そ!今迄はグシオンの戦闘データに基づいて、束さんが細部の設定を行ってきたでしょ?今後は、アキくんが自分の戦闘経験に基づいて自分で設定してみて欲しいんだ☆」

 

「・・・まぁ確かに、その方がより感覚的な部分まで調整が行き届くだろうし、IS学園への入学に備えて、今の内に慣れておいた方がいいか。」

 

「そゆこと☆けどまぁ、アキくんはISの設定・整備に関してはまだまだ勉強段階だから、最初の内は束さんがアキくんに付き添うよ。解かんないことがあったら、傍にいる束さんに訊いてみて☆」

 

「ああ、そうさせて貰おう。・・・悪いな、何から何まで。」

 

「いいって事よ☆・・・で、どう?武装の方は満足行ってる?」

 

 束が若干心配そうに尋ねると、昭弘は喜々として答える。

 

「ああ、特に不満はないぞ、どれも良い武装だ。特に『M134B』と『炸裂弾頭』は良いな、確かT.P.F.B.が考案したんだったか?」

 

「流石は裏で悪どい商売しているだけのことはあるよねぇ。因みに、正式名称『非接触式炸裂榴弾』は、考案も開発もT.P.F.B.(アイツラ)だよ。砲弾の側面に特殊なセンサーが埋め込まれていて、相手が躱したりこっちが外したりしても、10m以内までならセンサーが反応してドカン!!破片が広範囲に飛び散るって訳!勿論センサーは砲弾の側面にしか付いてないから、直撃させることも可能だよん☆性能面でこの束さんに「折り紙付き」と言わせるなんて、認めたくはないけど大したもんだよ。」

 

《マァ結局、ビームミニガンヲ開発スル技術ハ持チ合ワセテイナカッタ様デスガ。》

 

 ジュロも会話に混ざってくると、昭弘は彼等ゴーレム達に視線を向ける。

 

「お前たちにも、いつも感謝しているぜ。訓練とか・・・・・・後、家事とか・・・。」

 

《・・・アレ?ソレダケデスカ?》

 

「い、いや、ちょっと待て!他にも沢山あるぞ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 昭弘が真剣に頭の中で褒められるような事を探す。タロ、ジロ、サブロ、ジュロが昭弘を4方向から囲み始める。彼らに表情は存在しないが、どうやら昭弘を急かしている様だ。

 束とクロエは、そんな光景を目の当たりにして懸命に笑いを堪えている。

 昭弘は漸く思いついたのか、顔をゆっくりと上げる。

 

「・・・その、アレだ。・・・・・・今更こんなこと言うのも恥ずかしいんだが・・・。」

 

 少し顔を赤らめながらも、昭弘は思い切って“その言葉”を口に出す。

 

「いつもありがとな。一緒に居てくれて。」

 

 昭弘のその言葉に対して、ゴーレムたちは口をそろえて返答する。

 

《 《 《 《ドウイタシマシテ!》 》 》 》

 

 昭弘は日々、神様に感謝の言葉を贈っていた。

 「この世界においても、自分にこんな家族を与えてくれてありがとう」と。昭弘にとっては、最早そこに人間も機械も関係など無くなっていたのだ。

 

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ーーーーーーーーーー4月25日(月) 3時限目ーーーーーーーーーー

 

 1年1組でのこの時間は、「ISコアの感情」に関する授業であった。

 「ISコアの感情」は、既に入学初日に行われている授業内容である。しかし、今回の授業では「本当にISコアに感情はあるのか」「ある場合はそれをどの様に立証するのか」と言った、よりISコアについて深く理解していく様な内容となっている。ISにとって、ISコアは最も重要な部位と言っても過言では無い。ISコアについて深く理解することは、今後社会においてISと関わっていく者の定めなのだ。

 先ず始めに、千冬はISコアに感情が“ある”派と“無い”派の意見を、それぞれ黒板代わりの巨大なタッチボードに取り上げていくことにした。

 ただ、意見としては“無い”派の方が圧倒的に多く、その理由は「科学的に第三者に証明できないから」といったものが殆どだった。

 確かに、ISコアとの意思疎通に成功したというIS操縦者は一定数存在するが、ISコア自身はその搭乗者にしか己の感情を見せないのだ。いくら彼女たちが「私は自身のISのコアと意思疎通をした。」「私にも感情を見せてくれた。」等と自身の体験を語った所で、第三者に且つ科学的に証明できなければ意味がない。人間の「脳」とは違って、ISコアの中身は完全なる“ブラックボックス”状態であり、名立たる科学者たちがいくら英知を振り絞っても、何一つ解明できないでいた。無論そんな状況でISコアの感情を観測出来る筈も無く、しかも自分以外の人間には一切感情を見せてくれないのであれば、「感情など無かった」と結論づけるしかないのだ。

 しかし、感情がある派の中には、中々興味深い意見を持ち出す者も居た。拡張領域に「ぬいぐるみ」や「フィギュア」等、武装以外の物を入れてみてISコアがどのような反応を示すのか確かめてみるといった、奇抜な意見もあった。

 

 クラス中が議論に白熱している中、昭弘は全く別のことを考えていた。

 

(会えるかどうか、駄目元で束に相談してみたまでは良いが、まさかあんなにもあっさり断られるとはな。・・・まぁ、あいつは指名手配の身だから、しょうがないことなのかもしれんが・・・。)

 

 昭弘が残念そうな顔をしていると、突然千冬から指名される。

 

「アルトランド、お前はどう思う?ISコアに感情はあると思うか?」

 

 突然の指名に、昭弘は僅かに狼狽するが、直ぐに思考を切り替える。

 

「・・・オレは、あると思います。」

 

「ほう、何故そう考える?」

 

「それは・・・・・・。」

 

 何故・・・昭弘は、千冬からそう聞かれて答えを出すことができなかった。

 無論、ゴーレムたちのことを言えないというのもあるが、そもそも昭弘は彼等のことについて何も考えたことが無かったのだ。何故感情が与えられたのか、その感情は自分達人間と全く同じモノなのか、それとも全く異なるモノなのか。そんなことを考える前に、昭弘は彼らを家族として受け入れていた。それだけ、彼らの存在は昭弘にとって最早自然そのものだったのだ。

 

「・・・・・・・・・すいません、理由は解らないです。」

 

 昭弘は、そう答えるしか無かった。

 

「そうか・・・。まぁ、元々MPS使いであるお前には、ISコアの感情なんて縁の無い話かもしれんがな、ISのことをより深く知りたいのなら、そういったところもしっかり考えておけよ?」

 

「・・・ハイ!」

 

 昭弘は、低くドスの利いた声で短く返事をした。

 

 

 

ーーーーーーーーーー3時限目終了後 休み時間ーーーーーーーーーー

 

「そう言や一夏、今日の放課後の訓練はどうする?」

 

「おう!今日もよろしく頼むぜ昭弘!・・・正直、()()()()もあるし、訓練にせよ何にせよお前と一緒じゃないと心細いんだよ・・・。」

 

「おいおい、ガキじゃあるまいし。まぁ、別に構わんがな。」

 

 そんな二人のやり取りを見て、箒とセシリアは危機感を募らせていた。

 

「な、なぁセシリア。最近の一夏、何時でも何処でも昭弘と一緒に居ないか?」

 

「え、ええそうですわね・・・ってぇ!貴女!!まさか一夏とアルトランドが()()()()()等とふざけた事を考えているのではありませんわよね!?」

 

「流石にそこまでは考えていない!!しかし、最近放課後の特訓もずっと昭弘と一緒だし・・・。」

 

「なればこそ!女なら即行動でしてよ!!先ずは放課後の特訓を私たちに代わってもらいましょう!!」

 

「う、うむ!・・・そうだ!布仏さんも一緒なら考えを変えてくれるかもしれん!!」

 

 何故本音が一緒なら上手く行くと箒が考えたのか理由は定かではないが、今のテンションの彼女たちについて深く考えるだけ無駄だという事だけは確かだ。

 

「一夏!今日と言う今日はアルトランドでは無く、私たちと一緒に特訓いたしますわよ!!」

 

「へ!?な、何だよ急に!!?」

 

「ホラ!布仏さんからも何とか言ってくれ!!」

 

「えぇ~~何で私が~~~?」

 

 無論、余りに突然のことで、流石の本音も困惑する。

 それでも、渋々説得する本音であった。

 

「ね~オリムー、今日はしののんやセッシーと一緒に特訓してあげて~~。良く解んないけど。

 

「いや、別にいいけど・・・昭弘も一緒じゃなきゃ嫌だぞ?」

 

「ウッ・・・むぅ、分かり・・・ましたわ。」

 

 渋々セシリアが了承した後、箒が尋ねる。

 

「・・・一夏、そんなに昭弘が好きなのか?」

 

 箒はそう言いながら、嫉妬の眼差しを向ける。ただし、彼女の場合は()()()()()()()()()()()()()のかは判らないが。

 

「えっ?好きだけど?」

 

「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」」」」」

 

 箒とセシリアを含めた女子生徒たちの叫びが、クラス中に木霊する。

 

(・・・・・・馬鹿共が・・・。)

 

 壮大な勘違いをしているクラスメイトたちに、昭弘は心の中で毒づく。

 

 昭弘がクラスメイトとそんなやり取りを繰り返していると・・・・・・・・・・・・・・・。

 

(・・・・・・・・・何だ?この感じは・・・。)

 

 突如、昭弘は背中から“何か”を感じ取った。冷たい手で背中を撫でられている・・・かの様な感覚。少なくとも、良いモノでは無いということだけは、昭弘にもはっきりと判った。

 昭弘は、あくまで表情は変えずに、ゆっくりと首を冷気が漂ってくる方に向けていく。

 ・・・・・・そこに居たのは、IS学園の制服を纏った一人の女子生徒だった。

 丁度教室の入り口付近に佇んでいて、扉に寄り掛かっていた。黄色いリボンを付けていたので、2年生だというのが判る。まるで、空に溶け込んでも何の違和感も無さそうな美しい水色の髪で、髪型は外跳ねのショートヘアーであった。深紅の瞳は間違いなく昭弘を捉えており、口元は静かに笑みを零していた。右手には扇子を持っており、広げたソレは彼女の口元近くに在るのだが、彼女はその扇子で笑みを隠そうともしない。

 彼女は昭弘と2~3秒程視線を交わした後、ゆっくりとその場から立ち去った。

 

(・・・・・・・・・何だったんだ?今の女性(ひと)は。)

 

 当然の疑問が、昭弘の脳内を埋め尽くす。唯一解かったことは、彼女がとてつもなく強いということだけ。恐らく、自身やセシリアよりも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月29日(金) 5時限目ーーーーーーーーーー

 

 クラス対抗戦当日、天候は晴れ。

 今回のクラス対抗戦は、放課後だけではとても時間が取れないとのことで、5時限目以降すべてクラス対抗戦となっている。

 IS学園人工島の丁度中心に位置するアリーナAにおいて、昭弘は観客スタンドの丁度中腹部分に腰掛けていた。

 

(しかしまさか、いきなり1回戦目から一夏と凰がぶつかるとはな・・・。)

 

 昭弘はそんなことを考えながら、2人の試合を今か今かと待ち望んでいた。

 昭弘の左隣には相川が座しており、相川の更に左隣には谷本が腰掛けていた。

 箒とセシリアは、一夏の姿をより近くで拝みたいのか、スタンドの最前列に腰掛けていた。

 そして、昭弘の数列後方には、先日昭弘に殺気を送っていた水色の髪の少女が腰掛けており、今回も彼に視線を送っていた。

 

(今のところ妙な動きは無いか・・・。何か事を起こすとしたら、今日は絶好の日なのだけれど。・・・もしこの前送り届けた殺気が効いているのなら、この上無く嬉しい限りだわ。)

 

 どうやら彼女は、昭弘に対して強い懐疑心を抱いている様だ。

 彼女は、入学当初から昭弘に目を付けていたのだ。T.P.F.B.が絡んでいる時点で怪しいとは感じていた様だが、同じ男子生徒である織斑一夏が居るのに態々一人部屋にされるともなれば、更に強い懐疑心を抱くのも無理はないだろう。

 

「『生徒会長』少しは休まれては?貴女が休んでいる間は、私が目を光らせておきますので。」

 

 左隣に座していた三つ編みの少女が、心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫大丈夫虚ちゃん!!試合が始まったら交代して貰おうと思ってた所だから。」

 

「・・・まったく、それでは私が試合を観れないではありませんか。本当に何処までも都合の良い・・・。」

 

 本学園の生徒会長『更識楯無』は、そう冗談を言いながらも監視を続ける。

 

 

 

 一夏と鈴音は、既にピットから飛び立ってフィールド上にて待機していた。

 一夏は、少々気不味く感じながらも、鈴音を見つめる。

 白式のハイパーセンサーに表示された相手のIS名は『甲龍』。全体的なカラーリングは紫檀色で、所々小紫色の部分もある。脚部は比較的鋭角的なデザインをしており、踵が異常なまでに後方へと伸びていた。上背部からは非接触式の小さい翼の様なユニットが浮かんでいた。

 すると、先に鈴音から専用回線で通信が入る。

 

《一夏、アタシが何であの時アンタを引っ叩いたのか、理由を知りたい?》

 

 突然の鈴音からの通信に半ば意表を突かれるが、一夏は気をしっかり持ちながら答える。

 

「ああ、知りたいね。」

 

《ま、でしょうね。》

 

 鈴音はそう短く返した後、まるで考えるかの様な素振りを見せながら更に続ける。

 

《そうねぇ・・・この試合でアタシに勝てたなら、何でアタシが怒ったのか理由を教えてあげるわ。勿論、この前引っ叩いたことも謝罪する。・・・但し、もしアタシが勝ったなら、その・・・・・・こっ、今度!一緒に買い物に付き合って貰うから!当然!アタシとアンタの二人っきりで!!》

 

「お、おう!上等だよ!(つか、買い物関係あんのか?)」

 

 一夏が鈴音とそんな約束を交わした直後、試合開始のブザーがアリーナ全体に響き渡る。

 

 

 

(始まったか。先ずは2人共、正面切っての斬り合いに出たか。)

 

 昭弘は、一夏と鈴音の闘いを冷静に観戦していた。どうやら、甲龍も近接格闘がメインのISらしい。巨大な青龍刀『双天牙月』と白式の雪片弐型が、金属音を撒き散らしながら激しくぶつかり合う。

 すると・・・。

 

ドォン!!

 

 突如、何の前触れも無く白式が吹っ飛ぶ。

 

「うわっ!何々今の!?突然白式が吹っ飛んだよ!?」

 

 相川が良いリアクションを見せながら、谷本に声を掛ける。

 

「・・・衝撃砲か。簡単に説明すれば、不可視の砲撃だな。」

 

「知ってるんですか?アルトランドさん。」

 

「まぁな、先進各国の第3世代機の事は、暇な時間を見つけては粗方調べ上げている。詳しい原理は解らないが、空間に強い圧力をかけてその場に砲身を作り、衝撃を砲弾の様に打ち出しているらしい。・・・要するに空気砲って訳だ。しかも、空間圧縮によって見えない砲身を作り上げている訳だから、相手が何時どのタイミングで自分を狙っているのか判らないし、射角も無限だ。衝撃砲に死角は存在しない。」

 

 昭弘の説明を聞いて、谷本は顔を青ざめながら、力無く言葉を吐き出す。

 

「そんなの・・・一体、どうやって倒せば・・・。」

 

 現に、吹っ飛ばされてからの白式は、衝撃砲を警戒してか、明らかに攻めあぐねていた。

 

「・・・完全無欠の兵器なんて、この世に存在しない。どんな兵器にも、必ず欠点やデメリットはある。考えてもみろ、砲身が見えないのは一夏だけじゃない。凰だって砲身が見えない筈だ。的を狙って撃つ際、自身が持つ銃の砲身が見えないのは致命的だ。その的が高速で動いてるのなら猶の事だ。」

 

「アレ?けどさっきは普通に当たってましたよね?単純に近かったから・・・?」

 

 相川の疑問に、昭弘が答える。

 

「恐らくな。現に、距離を取っている状態の白式には、未だ1発も当たっちゃいない。・・・いや、もしかしたら()()()()()()のかもな。」

 

「?・・・それって、どういうことですか?」

 

「命中精度が低いってんなら、散弾の様に銃弾をバラまくのが常道だ。もし衝撃砲もそうだとするなら、散弾という特性上、距離があればある程威力は弱まる筈だ。だから距離を取っている白式に当たっても、僅かなダメージにしかなっていない。」

 

「しかも、さっきから観ている限り、そこまで衝撃砲の連射性は高くない。・・・案外、付け入る隙は結構あるかもしれないぞ?」

 

 昭弘の言った通りなのかは解らないが、少しずつ白式が攻勢に出始めた。

 まるでタイミングを見計らっているかの様に、甲龍に対して「ヒットアンドアウェイ」を繰り返しているのだ。

 それに気づいた甲龍は、すぐさま戦法を変え、序盤の近距離戦へと再び移行する為に、白式を追い回す。

 

(2人とも良い戦いっぷりだ。特に一夏は、短期間で良くここまで強くなったもんだ。相手は代表候補生だってのによ。)

 

 昭弘は、そんな2人の熱戦を微笑ましく観戦していた。

 そんな昭弘の微笑に気づいたのか、相川と谷本が声を掛ける。

 

「アルトランドさん何か・・・。」

 

「まるで“お父さん”みたいですね。息子と娘の試合を観戦している様に見えますよ?」

 

「ハハッ。そんなことねぇって、ただ身体がデカいからそう見えるだけさ。」

 

 昭弘たちは、観戦しながらそんな談笑を繰り返していた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー瞬間

 

 

 

 

 

ドガァァァン!!!!!

 

 

 

 

 

 フィールド中央で巨大な爆発が起こると同時に、衝撃でアリーナ全体が激しく揺れ動く。

 

「「キャアァァァァッ!!!」」

 

「何だ!?何が起こった!!?一夏と凰はッ・・・!?」

 

 辺りは騒然となり、未だに事態が把握できずに固まって動けない者も居れば、一目散にスタンドの出口へと駆けていく者もいた。

 昭弘はフィールドに視線を戻すが、巻き上がった土煙で内部の状況がまるで判らない。

 ならばと、昭弘は上空へと視線を変える。先程の爆発が、上空からの攻撃であることは、昭弘も既に把握していた。上空には、人型の何かが移っていた。

 

(クソッ良く見えねぇ・・・!だが、ハイパーセンサーを部分展開させれば・・・!)

 

 そう言いながら、昭弘はグシオンのハイパーセンサーを部分展開させ、再度人型の飛行物体を確認する。

 

 人型の“ソレ”は、ハッキリとハイパーセンサーに映し出された。

 

 

 ーーーーーそう、残酷なまでに()()()()と。

 

 

 

 ーーーーーそれは皮肉にも、昭弘がここ最近ずっと会いたかった()一つ(一人)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・タロ?)




次回からは、結構原作ブレイクが多くなるかと思われます。


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第11話 その慟哭は誰にも聞こえず(前編)

大変お待たせしました!色々と構想に時間が掛かってしまいました。
今回は確実に10000字は超える事が予想されるので、前編と後編に分けることにしました。それでも、前編だけで8000字を超えてしまいましたが・・・。
残念ながら、前編は昭弘の出番は余りございません。観客スタンドの状況や学園側の対応等、面倒なことを先に済ませておきました。なので、昭弘は後編に凝縮することにしました。


(良しっ!いい感じだ!!)

 

 一夏は、最初こそ見えない砲弾には驚かされたが、一旦距離を置いて冷静に観察してみれば、どんな兵器でも弱点は見えてくるようである。

 今一夏が衝撃砲について把握している弱点は、連射性の悪さと遠距離での威力の低さである。

 そうなれば対処は単純だ。距離を取って相手の射撃を促し、相手が撃った直後に白式の機動力を活かして一気に距離を潰し、一撃を加える。要するに「ヒットアンドアウェイ」戦法だ。

 

(昭弘から教わったヒットアンドアウェイ戦法、中々いいぜ!白式の機動力と上手いことマッチしてるし、距離を置くことで一旦冷静にもなれる!)

 

 ヒットアンドアウェイ戦法は、あくまで戦術の一つとして昭弘が一夏に教えたモノだ。

 甲龍の衝撃砲については、一夏と鈴音の勝負に水を指したくなかったのだろう。敢えて昭弘は教えなかった。

 

(見ててくれよな昭弘ッ!必ずこの勝負で鈴音と仲直りして見せるぜ!!)

 

 

 

 鈴音は、白式が2度目のヒットアンドアウェイを繰り出してきたことで、衝撃砲の弱点に気づいたのだと当たりをつける。

 すると今度は、甲龍が白式を追い回すようになる。

 衝撃砲の真骨頂は、中距離・近距離にこそある。近接格闘中如何に効率良く相手にダメージを与えるか、如何にこちらのペースに引き込むかが勝敗の鍵となる。なので鈴音は、衝撃砲による威嚇射撃を一時中断し、再び白式との近距離戦に持ち込もうとする。

 

(こっちから近距離で龍砲(衝撃砲)を撃っても、躱されたらまたウザッたいヒットアンドアウェイ戦法で翻弄されるわね・・・。“序盤”の様な近距離戦に引き戻す為にも、上手いこと斬り合いに持ち込まなきゃね。)

 

 そう頭を巡らせながら、鈴音は双天牙月をもう一本呼び出し、白式と再び切り結ぶ。

 

(・・・これは勝っても負けても、アタシにメリットがある勝負。けどそれでも、勝たせて貰うわよ一夏!クラスの為にも、初対面のアタシなんかにあれだけ親身になってくれたアルトランドの為にも!!)

 

 そう、鈴音にとってこの試合は、一夏と仲直り(若しくは告白)するための切っ掛けに過ぎない。

 しかし、それでも彼女はクラス代表だ。クラスの為にも、勝利を捥ぎ取らねばならない。何より彼女は、頭に“超”が付く程の負けず嫌いなのだ。

 

 お互いにそんな想いを秘めながら、次々と己の刀をぶつけ合っていく。

ーーーーー瞬間

 

 

 

パリィン!

 

 

 

 上空から()()が「割れる」音が聞こえた。

 “何事か”と、一夏と鈴音が割れた音に反応するより先に・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ドォガァァァァン!!!!!!!

 

 

 

 シールドを外側から破壊した“ビーム”はそのまま地面へと突き刺さり、巨大な爆風を巻き上げる。白式と甲龍は、その爆風の衝撃に吹き飛ばされてしまう。

 しかし、2機ともどうにか受け身が間に合い、シールドバリアに激突することは無かった。

 

「クッソッ!!何だってんだ一体!!?鈴!!無事か!?」

 

《こっちは大丈夫!一夏こそ怪我は無い!?》

 

「ああ!今のところはな・・・。と言うか、何が起こったんだ一体!?土煙で何も見えねぇ!!」

 

《落ち着きなさい!!多分上空からの砲撃よ!それと、ハイパーセンサーが着弾地点に反応しているわ!・・・これは・・・IS・・・?。》

 

 鈴音が言った通り、確かに白式のハイパーセンサーもISの反応を示している。

 一夏と鈴音は取り合えず、シールドバリアに密着する様な形で、土煙が晴れるのを待つことにした。もう既に、シールドバリアの割れた部分は、自己修復が完了しているので脱出できないのだ。

 今のところ観客スタンドの生徒たちや来賓の方々に被害は無い様だが、突然の事態に大いに混乱している様だ。

 

 そして少しずつ、舞い上がった土煙が重力に従いながらゆっくりと落ちていき、薄ぼんやりと人形の輪郭が見え始める。

 とうとう土煙が完全に晴れ、一夏と鈴音の瞳に飛び込んできたソレの形状は、正に“異形”そのものだった。

 その「全身装甲(フルスキン)」のISは異常なまでに両腕が長く、頭部は完全に両肩部分と繋がっていて、首が存在しなかった。そして、頭部の中心付近で赤く輝くカメラアイが、白銀の全身をより不気味に際立たせていた。

 

《・・・・・・ッ!!一夏!来るわよッ!!》

 

 鈴音の掛け声と同時に、その白銀のISは白式へと突っ込んで来る。

 

 

 

 昭弘はただ、ひたすらに頭を巡らせていた。

 しかし、周囲の喧騒もフィールド内の状況も、今の彼の頭には一切無く、有るのはハイパーセンサー越しに映るタロの事だけであった。

 

ーーー何故タロが此処に?

ーーー何故一夏たちを撃った?

ーーーそもそもアレは本当にタロなのか?

 

 しかし、昭弘が頭を巡らせるのもそこまでだった。いや、考えるよりも先に身体が動いてしまっていたのだ。

 昭弘は、念のためにインナーとして着込んでいたISスーツを露にし、今現在背中の阿頼耶識に接続している待機形態のグシオンに意識を集中する。忽ち、青白い粒子に追随するかの様に、鋼鉄の肉体が昭弘を覆い尽くす。

 昭弘はグシオンリベイクを完全に展開すると、周囲に生徒たちが居ないことを確認し、スラスターを吹かせて飛び立った。

 

《アルトランド!!何をしている!?一生徒が勝手にMPSを展開するな!!》

 

「・・・すいません、織斑センセイ。罰は後で受けます。」

 

 管制塔の千冬からの叱責を、昭弘はそう短く返すと、直ぐ様タロへの専用回線に切り替える。それと同時に、管制塔からの通信も途絶える。

 

「タロッ!!オレだ!昭弘だ!!一体どういう事だこいつは!?」

 

 らしくもなく口調を荒らげる昭弘。

 本来、生徒によるIS・MPSの展開は、教員の許可が必要である。有事の際も、基本的に鎮圧を行うのは教員の仕事であり、生徒の主な役目は避難誘導やISによるそれらの護衛等である。

 無論昭弘自身も、そんな事は百も承知だ。しかし、自分の“家族”が今正に人を傷つけようとしている時に、悠長に規則を守ってなどいられない。

 

《・・・》

 

 しかし、タロからの返事は無く、その赤い単眼はただ機械的に昭弘を見つめていた。

 そんなタロの反応に対し昭弘は、憤る気持ちを必死に抑えながら、今度は口調を落ち着かせてタロに尋ねることにした。

 

「・・・何故、フィールドを攻撃した?・・・束からの命令か?」

 

《・・・》

 

 尚も、タロは答えない。

 ・・・段々と昭弘は、憤り以上に恐怖を覚えるようになっていった。昭弘の知るタロは、兎に角お喋りでお調子者。そんなタロが一言も喋らないなんて、昭弘には今の今迄想像もできなかったし、したくもなかった。終始無言のタロなんて、昭弘にとっては最早タロではない。

 

 そんなやり取りを繰り返している中、昭弘は漸くハイパーセンサー上に表示されている新たなISの存在に気づく。今の今迄、タロしか視界に捉えていなかったからだろうか。ハイパーセンサーには、白式と甲龍の他にジロの反応もある。更に上空にはサブロ、シロ、ゴロの反応も表示されている。

 そんな中、昭弘は()()()に気づく。それは、ハイパーセンサーに表示されているISの位置だ。・・・フィールド内に、白式と甲龍とジロの3機が固まっているのだ。・・・・・・嫌な予感が、昭弘の脳裏を過る。

 そして、少しずつフィールド内の土煙が晴れていき、3機のISの姿が露わになる。

 

(・・・おい・・・まさか・・・・・・。止せ・・・!ジロッ!)

 

 昭弘のそんな願いが届く筈も無く、ジロは白式に突っ込んで行き、そのままフィールド内にて交戦が開始されてしまう。

 

「止せェェェェェェェェェェェッ!!!!!!」

 

 昭弘は、雄叫びの様に静止の声を張り上げながら、フィールドを覆っているシールドバリアへと突っ込もうとする。

 

ガゴォン!!

 

 しかし、タロの長い右腕による殴打を食らい、グシオンのシールドエネルギーが減少する。

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしてだ・・・。)

 

 昭弘は、アリーナ外へと吹っ飛ばされてる最中、頭の中で問いを繰り返す。

 

(どうしてなんだ・・・!タロ!ジロ!)

 

 しかし、いくら自問を繰り返した所で「時」は待ってなどくれない。今は兎に角、タロたちを止める方が先だ。

 昭弘は、頭の中に充満している「問い」を半ば無理矢理取り払うと、各部スラスターを器用に小さく吹かしながら体勢を整える。直後、グシオンの全スラスターを後方へと思いっきり吹かし、タロへと躍りかかる。

 

 

 

 管制塔にて、千冬は事態の収拾に追われていた。真耶の方は、観客スタンドの避難誘導に向かっている。

 クラス対抗戦の最中にて、突然の襲撃。千冬は直ちに、職員室にエマージェンシーコールを掛け、教員部隊の出撃命令を下した。しかし、事態は最早、最悪の一歩手前辺りまで来ていた。

 その理由の一つは、襲撃犯が搭乗しているISの異常なまでの火力である。アリーナのフィールドに使用されてるシールドバリアの強度は、当然のことながら並大抵のものでは無く、如何に火力重視のISであろうと破壊することなど到底不可能だ。そんな代物を、しかもたったの一撃で破壊してしまう程の火力を秘めている怪物が、今まさにシールドバリアの内側で暴れているのだ。もし奴の流れ弾が、シールドバリアを突き破って観客スタンドに直撃したら、最悪怪我人程度では済まないだろう。

 もう一つは、そのアリーナAの観客スタンドから誰一人()()()()()のである。アリーナ全体のシステムに異常が発生したのか、どのエリアのゲートも扉も開かなくなってしまったのだ。その事が混乱に更なる拍車を掛けて、最早観客スタンドは恐慌状態と化していた。

 3つ目は、シールドバリアがこちらの操作を一切受け付けなくなっているのだ。これでは、フィールド内の一夏と鈴音に増援を送ることができない。

 幸い、フィールド直上に佇んでいた黒色のISは、昭弘が上手くアリーナAから引き離してくれたが、それでも無断でMPSを起動させたのは決して関心できた物ではない。

 

《こちら教員部隊!!織斑先生、出撃準備完了しました!》

 

「了解、少々予定を変更する。指示があるまでそのまま待機せよ。」

 

《し、しかし!それでは生徒たちの安全が・・・》

 

「現在のアリーナAは、最早生徒も含めた観客全員が人質に取られた様なものだ。フィールド内のIS以外にも、上空では既に3機の未確認ISが確認されている。悪戯に奴らを刺激して、観客席の生徒たちを攻撃されては敵わん。・・・歯痒い気持ちは解るが・・・。」

 

《ッ!・・・・・・了解、しました。》

 

 通信相手の教員は、無理矢理自身を落ち着かせた様な声で返事をすると、通信を後にした。

 

(・・・一番不気味なのは、敵の目的がまるで判らないところだな。もし仮に、世界初の男性IS操縦者である一夏の身柄が目的だとしても、ならば何故一斉に襲い掛かって来ない?何故上空の3機はずっと待機しているんだ・・・?)

 

 千冬は、襲撃犯に得体の知れない不気味さを感じながらも、直ぐ様別の心配事に思考を塗り潰される。

 

(・・・「勝て」とは言わん。せめて無事でいてくれ・・・。一夏、鈴音。)

 

 今フィールド内では、自身の弟とその幼馴染が懸命に戦っているのだ。しかも、これは演習ではなく“実戦”だ。下手をすれば命に係わる。そんな状況に置かれている弟を心配しない姉など、居はしないだろう。無論、千冬もその一人だ。

 しかし、今の彼女はあくまで「一教師」。ISと言う名の装甲に護られている2人と、無防備な状態で観客スタンドに取り残された生徒たち。どちらを優先するかは、最早語るに及ばずだろう。

 すると、管制塔に一本の通信が入る。

 

 

 

 観客スタンドでは、悲鳴と怒号が行き交っていた。

 

「何で開かないのよッ!!この馬鹿ゲートッ!!」「出してよぉぉぉっ!!!死にたくないぃぃ!!!!!」「ちょっと押さないでよ!!」「イタイッ!!痛いってば!!」「み、皆さん落ち着いて下さい!!ゲートに殺到しないで下さい!!」

 

 箒も他の生徒と同様に、パニックに陥りかけていた。

 

「クソッ!!何でスタンドから出られないんだ!?このままでは、フィールド内で暴れている「奴」の流れ弾が、シールドバリアを割って飛んでくるぞ!!」

 

 そんな風に取り乱す箒を、セシリアは落ち着いた口調で制する。

 

「落ち着きなさい箒。確かに事態は深刻ですが、未だ最悪という段階ではございませんわ。」

 

「つい先程、フィールド内で暴れている敵性ISの流れ弾がシールドバリアに直撃したのですが、私が見た限りではシールドバリアは()()()()()()()でしたわ。」

 

「・・・・・・どう言うことだ?」

 

 箒にそう返されると、セシリアは考える素振りをしながら返答する。

 

「理由は解りませんわ・・・。最初に砲撃を行ったISよりも威力が低いタイプなのか、エネルギーを消耗してしまったからなのか、・・・それとも()()()()威力を抑えているのか。」

 

「・・・成程。だが、そうと解れば、周囲の人たちにもその事を伝えて落ち着かせないと!!」

 

「残念ながら、現状ではやるだけ無駄かと。この様な恐慌状態では、誰も話など聞いてはくれませんわ。」

 

「そんな・・・。ッ!!そうだ!セシリアのブルー・ティアーズなら、ゲートを破壊できるのではないか!?」

 

「ええ、それは可能ですわ。しかし・・・。」

 

 セシリアは、苦虫を嚙み潰した様な表情をしながら、上空を見上げる。

 

「先程私も、ハイパーセンサーを部分展開して周囲を軽く索敵したのですが・・・どうやら遥か上空にも3機、敵性ISが待機している様ですわ。しかも、砲塔をこちらに向けながら。」

 

「ッ!!?・・・それは、つまり・・・。」

 

「・・・現時点では、上の連中は未だに観客スタンドへの砲撃は行っておりませんわ。・・・しかし逆に、こちらが妙な動きを見せれば、砲撃される危険性は十分に有り得ますわ。」

 

「要するに、私たちは「人質」ってことよ。」

 

 箒とセシリアが打開策を話し合っていると、あらぬ方向から凛とした声が返ってきた。声がした方に振り向いてみると、そこには水色の美しい髪を持った生徒が悠然と立っていた。

 

「貴女は・・・更識生徒会長!!」

 

 セシリアがその名を呼ぶと、楯無は融和な笑みを零す。

 

「ソッ!皆のだぁい好きな、更識生徒会長で~~す!!・・・と、おふざけはこの位にして、二人共さっきから真剣に話し合ってるとこ悪いんだけど、現段階で打開策は無いわ。」

 

 楯無の冷徹な一言に、箒が物申す。

 

「・・・では何ですか?このまま指を咥えて、昭弘や一夏たちが戦っているのを唯々見ていろと?」

 

「はいはい、そうカッカしな~い。実はさっき、管制塔に「ある通信」を入れておいたの。もうちょっと待ってて。」

 

 直後、アリーナ中に設置されているスピーカーから大音量で「指示」が飛んでくる。それは、()()()()()()()()力強い声だった。

 

《こちらは管制塔である。現在フィールド内に居る敵性ISの砲撃だが、シールドバリアを突き破る程の威力は無いということが判明した。もう1機の敵性ISも、今現在はアリーナAから引き離されている。故に、アリーナから無理に退避する必要性は無い。アリーナの機能不全に関しては、目下調査中である。教員並びに生徒会員の指示に従い、安全な体位で待機せよ。又、周囲に傷病者等がいる場合は、これの応急処置に努めよ。繰り返すーーー》

 

 管制塔からの千冬の言葉に、教員たちは安堵の息を漏らし、恐慌状態にあった観客たちも比較的落ち着きを取り戻した様だ。

 

「・・・成程、更識会長も、事態の凡そは把握しているという事ですのね。上空の3機は、伝えれば更に無用な混乱を招く恐れがあるから、敢えて伝えなかったと・・・。」

 

「そこは、織斑先生の判断なんだけどね。私が伝えたのは、あのフィールド内の敵性ISが、シールドバリアを破壊できないという旨だけよ。シールドバリアが破壊されない、上空からの攻撃も今のところは無いのなら、下手に動く必要も無いでしょう。」

 

 無論、未だ安全とは程遠い状況にあることに変わりはないが、先ずは観客を落ち着かせることが重要だ。先の状況は正に、群衆雪崩が起きる一歩手前の状況であったのだ。既に、その恐慌の原因で怪我人も出始めていた。

 

「・・・まぁ、2人共思うところもあるとは思うけど、今は“限られた状況”でやれることをやるしかないでしょ?」

 

 楯無のその言葉を受けて、セシリアは力強く頷き、逆に箒は力無く頷いた。

 

「そんじゃっ!私は生徒会長としての役目を果たさなきゃだから、ここらで一旦さよならするね。」

 

 そう言い、その場を後にする楯無。

 

「箒、私は本音を探してまいりますわ。無事だとは思うのですが、どうにも先程から心配で・・・。」

 

「・・・・・・強いな、セシリアも皆も。冷静と言うか・・・。私なんか、慌てて取り乱してばかりだ。昭弘は突然飛んで行ってしまうし、一夏はフィールド内に取り残されてしまうし。・・・もう、何が何だか解らなかったんだ。」

 

 箒がそう言うと、セシリアは少し間を置いてから、優しく微笑んで言った。

 

「私だって、本当は怖くて怖くて仕方がありませんわ。今もこうして戦っている一夏の身に、もしものことがあったらと思うと・・・考えるだけで背筋が凍りますわ。・・・私はそんな想いを、唯々必死に隠しているに過ぎませんわ。」

 

「だから、怖いのは貴女一人だけでは無くってよ?勝手に“独りぼっち”にならないで下さいまし。」

 

 そう言うと、セシリアはその場を後にした。

 その後姿を見送った後、箒は苦笑を浮かべながら「敵わないな」と小さく呟いた。

 

 

 

 鈴音は、フィールド内の敵性ISに激しい憤りを感じていた。それは正に、毒々しい怒りの炎に彼女の心中が包まれているかの様だった。

 自身と一夏による、二人っきりの真剣勝負に水を刺されたのだ。憤りを覚えるのも当然だろう。

 しかし・・・

 

(ったく!図体の割にメチャクチャ速いわねコイツ!!)

 

 鈴音は、敵性ISの機動力の高さに、思わず愚痴を溢しそうになる。

 機動力だけでは無く、乗っている者の実力も相当なものだ。鈴音と一夏は、件のISと交戦してから未だに2~3分程度しか経っていないが、少なく見積もっても代表候補生以上の実力が有ることだけは解った。ただ、例の「砲撃」の威力が、アリーナを最初に攻撃した一撃よりも低くなっているのは少々気懸りだった。初撃を担ったISよりも、威力が低いタイプなのだろうか。

 因みに、白銀のIS「ジロ」は、タロに次ぐ実力者でもある。

 

ミ゛ューーーーーーーーン!!!

 

 白銀のISが、両腕の先端に2門ずつ付いている砲塔から、合計4本の極太のビーム砲を放つ。瞬間、白式はそれを既の所で避けると、一気に距離を潰して斬り掛かろうとする。先程、鈴音に対して行っていたヒットアンドアウェイ戦法だ。

 

(あれだけの威力があるビームじゃ、リロードにも相当時間が掛かる筈!このタイミングなら・・・行けるっ!!)

 

 しかし、それは敵の罠だった。

 

デュゥルルルルルルルルルルルルルルゥン!!!!

 

 砲と砲の間に仕込まれていた窪みから、ビームの雨霰が飛んでくる。

 その内何発かが白式へと直撃し、シールドエネルギーが減少する。

 

《グアッ!クッソッ!!》

 

 鈴音も、白式とほぼ同時に、敵の右腕に斬り掛かろうとしていた。しかし、こちらもギリギリの所で避けられ、お返しとばかりに右手による裏拳を貰ってしまう。

 

(ッ!なんて奴なの!!わざと大出力のビームを放って、こっちの攻撃を誘ったって言うの!?)

 

 しかし、その思考より若干遅れて、鈴音は「ある重要な事柄」に気がつく。

 

(・・・・・・?ちょっと待って、あのIS。今アタシをぶん殴った時・・・・・・・・・・・・()()()()()()()()させていた・・・?)

 

 もしソレが、自身の見間違えでは無いと言うのなら、件の敵性ISは“人間”ではないと言うことになる。腰が360度1回転する様な人間など、この世に存在しない。

 

(・・・じゃあ、何?あのISは・・・・・・いや、けど()()だとしか。)

 

 鈴音は、相手の出方を伺いながら、一夏にも確認を取ることにした。

 

「ねぇ一夏。アンタは見た?あのISの動き。」

 

《ああ、腰の動きの事だろ?バッチリ見たぜ。》

 

 一夏のハッキリとした返答を聞いて、鈴音はほぼ確信を持った。と言うよりも、半ば無理矢理確信付ける事にした。

 敵の正体が曖昧なままだと、こちらの心理的な負担が無駄に大きくなるだけだ。

 

「と、言うことは。」

 

 その直後、鈴音と一夏の発する言葉は、内容もタイミングも完璧に一致していた。

 

「《無人機》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後編へ続く




てな具合の話になりました。
少々退屈だったかもしれませんが、後編は昭弘をいっぱい出しますので、乞うご期待ください!


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第11話 その慟哭は誰にも聞こえず(後編)

すみません。今回めっちゃシリアスです。


 鈴音は、件の敵性ISを「無人機」と判断はしたが、そう判断した自分自身でも信じられなかった。

 現段階におけるこの世界の科学力では、『無人IS』を創る事など到底不可能だ。鈴音も代表候補生という立場上、様々なISをその瞳に焼き付けてきたが、少なくとも実物の無人ISは一度も見た事が無かった。

 逆に、一夏にはそこまで驚く様子は見受けられなかった。彼の場合、IS学園に入学するまではISに関わったことが無かったので、無人ISに対してそこまでの新鮮さは無かったのだ。「何処かで秘密裏に創られてても可笑しくは無い」程度の認識なのだろう。

 

《・・・無人機のメリットは、戦闘の際に恐怖や躊躇いが無く、より効率的・効果的に相手を殲滅できることね。何より、有事における犠牲者が少なくて済むわ。》

 

 そんな鈴音の分析に対し、一夏が更に付け加える。

 

「・・・メリットならこっちにも有るぜ。相手が無人機ってんなら、情け容赦なく闘える。相手の安否を一々気にする必要も無い!」

 

 一夏の言葉に対して、鈴音は笑みを浮かべながら同意する。

 

《それもそうね。丁度良いわ、さっきからこのISには随分とムカッ腹が立っていたのよねぇ。》

 

 一夏も又、そんな鈴音に笑みを溢すと、瞳に今迄以上の闘志を燃やし、雪片弐型を正眼に構える。

 

《そんじゃまぁ》

 

「気を取り直して」

 

「《行くとしますか!!》」

 

 その台詞と同時に、白式と甲龍は其々別方向にスラスターを吹かして、行動を開始する。

 

 

 

 昭弘は、学園から5km程離れた海上凡そ300m地点にて、タロと一進一退の攻防を繰り広げていた。

 彼は、常にタロより上方に位置することにより、タロのビーム砲が学園側に向かない様に努めていた。その分、昭弘が学園側に銃口を向けてしまう事になるが、射程距離の比較的短いビームミニガンなら、学園にビームが届くことは無い。グシオンのビームミニガンは、あくまで中距離戦用にカスタマイズされているので、ビームと言っても射程距離が1kmに届くことは無い。滑降砲においても、5kmも離れていれば砲弾は届かない。

 グシオンリベイクは、タロの直上からビームミニガンの雨を降らせるが、タロは難なくこれを回避する。しかし、続け様にサブアームに装備されている滑降砲から炸裂弾頭が発射される。砲弾はタロの回避先へと一直線に向かって行き、一発は大きく回避されるが、もう一発の砲弾のセンサーはタロをしっかりと捉えて起爆する。大小様々な破片がタロへと降り注ぎ、タロのシールドエネルギーが減少する。

 

(・・・良し、少しずつこちらに形勢が傾きつつあるな。後はこのまま形勢を維持できれば、先にタロのシールドエネルギーが切れる。・・・そう易々と行かせては貰えないだろうが。それにどうもさっきから、タロにしては立ち回りが消極的すぎる様な気がするな・・・。)

 

 昭弘は、タロに対して射撃戦を徹底している。

 タロは他のゴーレムと比べると近接戦に極めて特化していたが、射撃戦に関しては、他のゴーレムよりは若干見劣りするレベルであった。昭弘とタロの実力はほぼ拮抗していると言って良いが、撃ち合いに関しては昭弘に軍配が上がる。

 しかし、相手はゴーレム最強の無人IS。射撃戦だけで勝てれば、昭弘も束のラボであそこまで苦労はしなかった。

 

 

(ヤハリ、私ヲ撃破スルツモリハ無イ様デスネ、昭弘様。動キニイツモノキレガ無イ。高ガ機械ノ私ニ、随分トオ優シイコトデ。)

 

 タロは心の中で、賛辞とも皮肉とも取れる言葉を、昭弘に対して贈っていた。

 

(・・・イヤ、甘イノハ私モ同ジカ。)

 

 タロも又、グシオンリベイク相手に本気を出せないでいた。

 無論束からは「箒以外の人間は気にせず全力で闘え」と指示を受けている。しかし、いくら実戦慣れしているタロと言えど、非戦闘員であるIS学園の生徒たちに銃口を向けるのは、流石に抵抗があったのだ。例え束の命令だろうと、それだけはできなかったのだ。でなければ、昭弘の誘いにこうもあっさり乗ったりはしないだろう。

 昭弘の誘いに乗った後も、タロは学園の生徒の安否が気懸りなのか、イマイチ戦闘に集中できないでいた。

 

 すると突然、グシオンからの攻撃が止み、その代わりに昭弘から専用回線で通信が入る。

 

《・・・なぁ、タロ。もう止めにしないか?》

 

 タロは尚も、昭弘からの通信に対して無言を貫く。しかし、動きは完全に止めてしまっていた。

 

《お前たちが本気じゃないことも、ましてや操られていないことも判っている。でなければ、お前がオレの誘いにこんなにもあっさり乗り、学園から離れる訳が無い。それに、ちょくちょく学園側に視線(ハイパーセンサー)を向けているのが丸分かりだぜ?大方、犠牲者が出ていないか気懸りなんじゃないのか?》

 

(・・・バレテイマシタカ。)

 

 尚も、昭弘は続ける。

 

《お前らの目的が何なのかは知らん。だが少なくとも、今投降すれば楽になるぞ。IS学園の教員は、皆優しくて話の分かる人たちだ。未だ犠牲者が出ていない今、お前たちが誠心誠意謝罪すれば、きっと寛大な処置をしてくれる筈だ。》

 

 当然のことだが、昭弘は犠牲者が一人も出ていないと言う確証は持っていない。しかし、タロたちを止めるにはこう言う他無かった。

 

(・・・・・・・・・本当ニ貴方様ハ御優シイ。ソノ御心遣イダケデ、私ハ満足デス。・・・デスガ。)

 

 そう、タロたちだって、無意味に此処に攻め込んできた訳では無い。例え拘束されることになったとしても、目的は果たさねばならないのだ。

 

ーーー昭弘にタロを殺させるーーー

 

 それが束からの命令なのだ。そして、彼等ゴーレムにとって束からの命令は最早“絶対”。

 

(・・・思エバ、最初カラ()()()()ヲ採ッテイレバ良カッタノダ。・・・今コノ御方ト相対シテ解ッタ。恐ラク私ハ、コノ御方カラ嫌ワレタクナカッタノダロウ。シカシ昭弘様、申シ訳ゴザイマセン。私タチニトッテハ束様コソガ創造主デアリ、絶対者デアリ、神デアルノデス。)

 

 タロはそう決意を固めると、“アノ方法”とやらを実行に移す為に行動を起こす。

 

 

 昭弘は、固唾を吞んでタロからの返答を待っていた。しかし・・・

 

ヴゥイイィィィン・・・

 

 タロは身体を学園側に向けると、そのまま瞬時加速を敢行しようとする。

 

(ッ!?何をする気だ、タロ!!)

 

 昭弘はビームミニガンと滑腔砲で牽制しようとするが、遅かった。

 

ダオォォォン!!!

 

 タロは瞬時加速により、一気にIS学園へと迫る。

 昭弘も直ちに瞬時加速を行い、タロに追随する。音速を大きく超えるタロとグシオン。グシオンがタロに攻撃する間もなく、あっと言う間に2機共アリーナへと辿り着いてしまう。

 

 

 タロは、アリーナAの直上数十m付近に辿り着くと、再び昭弘と相対する。

 

ヴイィィン・・・

 

 するとタロは、両腕の計4本の主砲から、深紅に輝く『ビームサーベル』を展開する。腕の先端から2本ずつ伸びているソレは、まるで長大な“鉤爪”を彷彿とさせる。

 そのビームクローを展開すると、タロは恐らくフルフェイスマスクの中で表情を歪めているであろう昭弘に、専用回線で通信を入れる。

 

《貴方モ存ジテイルカト思イマスガ、コレダケアリーナガ近ケレバ、モウ射撃兵装ハ使エマセン。・・・ハッキリ申シ上ゲマスト、近接格闘ナラ貴方ヨリ私ノ方ガ上デス。》

 

 すると、昭弘から哀愁の籠った声が返ってくる。

 

《・・・やっと話してくれたと思ったら、第一声がソレか・・・。けどな、オレにはもうこれ以上、お前と戦う理由は無い。お前たちが学園の生徒を傷つけられない事は分かっている。》

 

 昭弘が通信越しにそう言うと、タロは俯きながら返答する。

 

《・・・・・・ソウ言ウト思イマシタ。》

 

 するとタロは、ある指令を下す。()()()()()()()()様に。

 

《コチラハタロ、コレヨリ第3フェーズニ移行スル。サブロ、シロ、ゴロハ直チニ・・・》

 

篠ノ之箒ヲ捕ラエヨ。》

 

 

 昭弘は、タロがサブロたちに下した「指令」を聞いて、頭の中が真っ白になる。しかし直ぐに、これから起こりうる“惨劇”が、昭弘の真っ白な頭中を侵食していく。教員部隊との避けられない交戦、その流れ弾によっていともたやすく蒸発していく観客たち、爆風によって物言わぬ肉塊へと変わる生徒、そして・・・連れて行かれる箒。助けてと泣き叫ぶ箒。そんな光景を見て絶望し、発狂する一夏。

 ゴーレムたちがそんな惨劇を起こさない事は、昭弘も頭では解っている。

 しかし、一度でも最悪の事態を想像してしまっては、後はもう止まらない。その悍ましい脳内映像に嗾けられるかの様に、昭弘はアリーナに向かっている3機を食い止めようと動く、が・・・。当然の如く、タロは昭弘に立ち塞がる。

 

「・・・頼む、退いてくれタロ。もし退かないと言うなら・・・。」

 

《・・・私ヲ倒スシカアリマセンネ。》

 

「・・・・・・クソったれが。」

 

 昭弘がそう呟くと同時に、グシオンのハルバートとタロのビームクローが、勢いよくぶつかり合った。

 

 

 

 千冬は、アリーナに向かって来る敵性ISに動じること無く、教員部隊に出撃命令を下す。

 国際IS委員会にも既に報告は入れてあるが、千冬自身彼らの動きには正直期待していなかった。例え増援が間に合ったとしても、指示系統が却って混乱する可能性もある。かと言って事後報告にする訳にも行かないので、取り敢えず報告だけは入れておいたというのが、千冬の本音だ。

 

「こちら管制塔。事態急変につき、教員部隊は直ちに出撃せよ。但し、到着後はアリーナA周辺にて待機し、こちらからの指示を待て。」

 

《こちら教員部隊、了解!》

 

 更に、アリーナ全体に指示を出す為に、千冬は一瞬だけ頭を巡らす。

 

(・・・止むを得ん、待機を継続させるべきだな。どの道今から避難の指示を出しても間に合わん。混乱による怪我人が増えるだけだ。)

 

 千冬は苦渋の決断をし、指示を出す。

 

「こちらは管制塔である。現在IS学園に、所属不明のISが接近中。慌てること無く、その場での待機を継続せよ。繰り返すーーー」

 

 

 

「な、何だ?こいつら・・・?」「こいつらも敵・・・なの?それとも味方?」

 

 観客スタンドに降り立った3機のISは、暴れることなくゆっくりとスタンド内を歩き始める。

 観客たちは、楯無の予想とは異なり、唯々困惑しているだけに留まった。千冬の迅速な指示もあるのだろうが、事前情報が「所属不明のIS」しかない観客たちにとっては、「突然現れた謎のIS」程度の認識なのだろう。

 その3機のISは、歩き回りながら紅くて丸いカメラアイをキョロキョロと動かしていた。

 

(何なのだアイツら・・・?まるで、何かを探している様な・・・。)

 

 箒は、相手の目的が何なのか考え込んでいた。

 実際にサブロたちは、ハイパーセンサーによって箒の居場所は既に特定している。それなのに()()()()()()()()()()理由は、無用な混乱を避ける為にある。彼等の最大の目的は、あくまで“全開状態”のタロを昭弘とグシオンに倒させることなのだ。重要なのは今箒を捕えることでは無く、観客スタンドに立つことで「いつでも箒を捕縛できるぞ」というアピールを昭弘に対して行うことにある。

 

 ふと、サブロたちは、観客たちがアリーナ上空を見上げていることに気づく。

 彼等ゴーレムが危害を加えてこないから、警戒心が薄れたのだろうか。それにしては、観客たちの表情が()()()()。まるで「この世のモノとは思えない」何か強大なモノを見ているかの様に、口を「あ」の字に開けながら目を見開いている。

 しかし、サブロたちは彼等観客が()()()()()()のか、凡そ見当は付いていた。彼等が今観ている光景こそが、束の狙いなのだから。

 

 箒はその光景を観て、ただ茫然と立ち尽くすしか無かった。

 

「昭弘・・・。」

 

 彼の名前を呟くと同時に、箒は思った。「()()()()は本当に昭弘なのだろうか」と。

 

 

 

 ジロも又、フィールド内にて激戦を繰り広げていた。

 

(・・・成程、流石ハ中国ノ代表候補生。マルデISヲ“生物”ノ様ニ操ッテイル。・・・一夏様モ、束様ガ男性用ニ設定シタ白式ノコアト、上手クイッテイル様デ何ヨリデス。)

 

 そんなことを考えながらも、ジロは2機の専用機を相手に互角以上に渡り合っていた。タロとは正反対の射撃戦に特化したジロは、様々な射撃武装を駆使して白式と甲龍を翻弄する。

 甲龍は、至近距離から衝撃砲を発射した後、双天牙月を2本同時に大きく振り下ろしてくる。更に背後からは、白式が雪片弐型を腰だめから振り上げてくる。ジロは衝撃砲を上方に躱した直後、両手の主砲を瞬時に「散弾タイプ」に切り替える。そして、向かってくる甲龍にはそのまま左手で、背後から接近する白式には長い右腕を左脇から後方に回した状態で、夫々黄金色に輝く無数の熱線を浴びせる。

 

 

「グゥッ!」

 

《キャアッ!!》

 

 無人ISからの思わぬ反撃に、鈴音と一夏は痛みも感じていないのに声を上げてしまう。

 

《ああ!もうッ!!さっきから何なのよコイツゥ!!あの主砲にどんだけ“飛び道具”詰め込んでんのよ!!》

 

「畜生!!今のは絶対に入ると思ったのに・・・」

 

 その時、一夏も又フィールド上空を見上げてしまっていた。見上げた理由は彼自身にも良く解らない。唯、何となく「気になった」のだ。しかし、彼は今現在戦闘中であるので、一瞬見上げたら直ぐに意識を切り替えた。

 それでも尚、一瞬だけ見えた“ソレ”は、一夏の脳裏にこびり付いて離れない。

 

(・・・・・・・・・・・・一瞬だったから良く見えなかったけど、MPSって・・・()()()()()ができるもんなのか?)

 

 そう考えた途端、一夏は例えようのない恐怖を感じた。それは、一瞬見えたグシオンリベイクが恐ろしかったからでは無い。まるで・・・そう、昭弘が()()()()()へ行ってしまい、そして二度と戻って来ない様な・・・そんな確証の無い恐怖だ。

 

 実はこの時、箒自身も一夏と全く同じ恐怖を感じていた。

 

 

 

 タロは、常に瞬時加速を使っているかの様な超高速機動で、グシオンリベイクに迫る。深紅のビームクローが、タロが通過した空間に深紅の峠道を描いていく。

 その勢いをそのままに、タロの禍々しい右腕のビームクローが、グシオンを横薙ぎに切り裂かんとする。昭弘はグシオンリベイクの左腕に腰部シールドを構えてこれを防ぐが、タロの有り余るパワーに押し負けてしまい、右後方へと大きく吹っ飛ばされる。

 グシオンはアリーナに激突する前に体勢を立て直すが、そんなことお構いなしにタロは突っ込んで来る。

 

(・・・・・・・・・・・・・・・何だ?・・・この感じは・・・?)

 

 昭弘は、タロと交戦していく内に、妙な違和感を覚える。それは迫り来るタロでは無く、自分自身に対してだ。

 しかし昭弘は、直ぐにその違和感の正体に到達する。

 

(泣いているのか・・・?オレは?・・・・・・何故だ・・・?)

 

 何故・・・。それは心当たりが無いのではなく、心当たりが多すぎる故に浮かんだ言葉だった。

 家族を相手に戦わなければならないという絶望、箒が連れて行かれるかもしれないという恐怖、こうすることしか考えが思い浮かばない自身への激しい怒り、決して犠牲者を出してはならないという焦燥。そして・・・形はどうあれ、こうして久しぶりに家族に会えたことへの、ほんの僅かな喜び。

 それらの感情が昭弘の中で渦の様に混ぜ合わさり、形の見えない激情となっていったのだ。

 更に昭弘の激情は加速度的に膨張していき、それは阿頼耶識を伝ってグシオンにも影響を与え始めた。

 

(・・・・・・・・・何だ?・・・タロ以外の景色が白く霞んでいく。・・・・・・それに・・・タロの動きがどんどん遅くなっていく。)

 

 まるで昭弘の激情にグシオンが呼応するかの様に、昭弘とグシオンはより深く、深く、深く、深く繋がれて行く。

 

ーーーーーシンクロ率:99.8%

 

(・・・・・・・・・グシオンを纏っている感じがしない。何だ・・・?これは・・・・・・?)

 

ーーーーーシンクロ率:99.99999999%

 

(・・・・・・・・・・・・違う。オレはグシオンを()()()()()()()()()()・・・。・・・・・・・・・・・・()()()()()・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・()()()()()ーーー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーシンクロ率:100%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昭弘の結論を、グシオンから流れているアナウンスが冷徹に遮る。

 

ーーーーーグシオン、リミッター解除を確認。これより、単一仕様能力『狂獣(マッドビースト)』を発動します。

 

 直後、グシオンの緑色のツインアイが紅く輝き始める。

 

 

 タロは、グシオンに対して、左手のビームクローによる渾身の突きを放つ。

 

ヴゥォン!!

 

 しかし、その空間に既にグシオンの姿は無かった。ーーー瞬間

 

グァシッ!!!

 

 タロの直上から飛来したグシオンに、タロは頭を鷲掴みにされる。グシオンはそのままの状態で瞬時加速を敢行し、タロをシールドバリアに外側から叩きつける。叩きつけられた衝撃でタロのシールドエネルギーは大きく減少し、今尚もタロの頭部に圧力が加えられているので、更にシールドエネルギーが減少していく。

 タロはその巨大な両腕で、グシオンを無理矢理引き剥がそうとするが、まるで万力の様にビクともしない。

 

(・・・止ムヲ得マセンネ。)

 

 タロは、右手のビームクローを解除する。その後、左手のビームクローでグシオンを斬り続けることにより、万力の様に動かないグシオンでもシールドエネルギーは減少していく。そして、空いた右手の砲塔を器用にシールドバリアに向けると、そのままシールドバリアが割れるギリギリの出力でビーム砲を放つ。丁度タロとグシオンが居た部分のシールドバリアが割れ、タロは身体を僅かに沈める。同じ様に体勢を崩し、タロの頭部から一瞬だけ力を抜いてしまったグシオンに対して、タロは思いっきり長大な両腕で突き放すと、割れた部分が塞がる前に即座にフィールドから脱出する。

 

 

 タロに突き放された昭弘は、右手にハルバートを構えると、間髪入れずにタロに突撃する。タロは腰を沈める様に躱し、昭弘の懐に左手のビームクローを手刀の様に叩き込もうとする。しかし、昭弘は恐るべき瞬発力をもって左手の腰部シールドでそれを防ぐと同時に、いつの間にか右サブアームに呼び出していたグシオンハンマーでタロを叩き落とす。タロは再び、フィールド上方のシールドバリアに叩きつけられる。

 今の昭弘には、タロの動きの全てが()()()()()()()()に見えていた。しかし昭弘は、この能力に驚嘆する余裕すら無かった。

 

(ウグッ!!ゥ゛ゥ゛、ア゛、頭が、割れそうだ・・・!・・・ほんの少しでも、気を抜いたら・・・意識を持っていかれちまう・・・ッ!!)

 

 しかし、タロは悶え苦しむ昭弘のことなど構わず、更に腕を変形させて突っ込んで来る。各腕に2本ずつ並んでいる砲塔が、腕ごと縦に裂ける様に分離したのだ。それはまるで、サブアームを展開している昭弘と同じく、腕が4本あるかの様な光景だった。2連砲塔が分離した事で、各腕の先端に1本ずつ生えているビームサーベルを自由自在に操るタロと、再び昭弘は切り結ぶ。

 昭弘とタロは、目まぐるしいドッグファイトを繰り広げた。昭弘のツインアイとタロのビームサーベルが、まるで複雑に絡み合う様に美しき「紅い光」の曲線軌道を描いて行く。その中で彼らが切り結んだ際に生じた火花が、複雑な曲線軌道に更なる彩を加えていく。

 

 そんなドッグファイトの最中、タロが2本の右腕を掲げて迫る。しかし、昭弘は未だ動かない。タロは昭弘とぶつかるギリギリの所迄接近すると、右腕と見せかけて2本の左腕をそのまま突き出す。しかし、これらも今の昭弘の驚異的な瞬発力には叶わず、昭弘の右手と右サブアームに捕まってしまう。

 タロを捕まえた状態で、昭弘は左手と左サブアームで力強く握ったハルバートを振り下ろす。

 しかし、「カチャン」という音と同時に、タロは掴まれている2本の左腕を根元から分離することで、昭弘の拘束から脱する。大きく空振って体勢を崩す昭弘に、タロは再び連結させた巨大な右腕による横薙ぎを昭弘にお見舞いする。

 吹き飛ばされる昭弘だったが、直ぐに各部スラスターを小さく刻む様に吹かして、最小限の動きで体勢を立て直す。

 タロは再び右腕を縦に裂き、片方を左腕に連結させると、再度昭弘と切り結ぶ。

 しかし、形勢は完全に昭弘に傾いていた。ゴーレム最強のタロでさえも、昭弘とグシオンの驚異的な瞬発力と機動力に付いていくことができなかったのだ。しかも昭弘は、サブアームですらもまるで“生身”の様に扱っていた。

 

 昭弘がハルバートでタロをアリーナ外の地面に叩きつけると、遂にタロのシールドエネルギーは底を尽きてしまう。しかし、シールド以外のエネルギーが未だ残っている為か、タロは尚も起き上がろうとする。

 昭弘はそのままタロの居る場所へと急降下し、ハルバートを用いてタロの両腕両脚を淡々と切断していく。

 昭弘は、最後の一閃をタロの頭部に叩きこもうとハルバートを振り上げるが、振り上げたところで動きを止めた。それは、振り下ろそうとする“昭弘自身”を必死に抑え込んでいる様にも見える。

 

「タロ、オレは未だこいつの能力を完全に使いこなしている訳じゃねぇ。今こうして刃を止めているのも、後何十秒持つか分からん。・・・だから頼む、箒たちを解放してくれ。オレにお前たち“家族”を殺させないでくれ・・・。」

 

 タロは、数秒程昭弘を見つめていた。しかし、返って来たのは余りにも残酷な言葉であった。

 

《・・・デハコウシマショウ。私ヲ殺サナケレバ、観客全員ヲ「皆殺シ」ニシマス。》

 

 その言葉を受けて、昭弘は心の中で必死に鬩ぎ合う。

 

ーーーハッタリだ。サブロたちが無抵抗の人間を殺める筈がない。

 

ーーーそんな保証が何処にある?現にアイツらはいつでも人を殺せる状態にある。

 

ーーー武装しているという証拠は無い!

 

ーーー武装していないという証拠も無い。抑々、武装が無くたって、アイツらは人間を簡単に肉塊にできる。

 

ーーータロは家族だ!オレに殺せる訳が無いだろう!!

 

ーーーじゃあ観客を見殺しにするか?たかが機械と、何百人の命、どちらが大事かなんて一々考えるまでも無いだろう。

 

 昭弘の鬩ぎ合いも空しく、無情にもその時は訪れる。

 

《・・・・・・・・・・・・コチラハタロ。新タナル指令ヲ下ス。観客ヲ全員・・・》

 

 

 

《殺セ。》

 

 今その言葉を聞いてしまった昭弘には、もう選択肢など無かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーガシュッ!!    ゴトン・・・。

 

ーーー昭弘様。・・・モウシワケ・・・・・・アリ・・・マ・・・セ・・・

 

 

 

ーーーーー現在作戦遂行中の全ゴーレムに伝達事項有。

 

ーーーーーグシオンによるタロの撃滅を確認。作戦完了。

 

ーーーーー機密保持のため、現在作戦遂行中の全ゴーレムの記憶を消去、機能も完全に停止する。

 

 

 

ーーー・・・嗚呼、ヤッタノデスネ、昭弘様。・・・折角久シブリノ再会ダトイウノニ、ナ・・・ンノオモ・・・テナシ・・・モ・・・デキ・・・・・・・・・ナ・・・

 

 一夏と鈴音は、ジロ相手に防戦一方の状況に追い込まれていた。衝撃砲以外は近接武器しか持ち合わせていない2人にとって、様々なビーム兵器を使い分けるジロは、最早最悪の相手と言って良いだろう。零落白夜も、散弾やフルオートで攻撃されれば、対処が難しい。

 シールドエネルギーも残り僅か。一夏が何か手は無いかと頭を振り絞っていると・・・。

 

(?・・・何だアイツ?動きを完全に止めている・・・?)

 

 いくらジロが一夏たちを手に掛けるつもりが無かったとしても、何も知らずに追い詰められていた一夏と鈴音にとっては、最早“敵”でしかない。例え機能を停止したとしても、極限状態に陥った人間はそう簡単には止まらない。

 

《何か分かんないけどチャンスよ!一夏!!アタシは後ろから!アンタは前から串刺しにしちゃいなさい!!》

 

「ッ!!おうよ!!ウウウォォォォォオオオオオラァァァァァ!!!!」

 

ガシュッ!!! ゴァシャァッ!!!

 

 

 

 観客スタンドにおいても、同様の現象が起きていた。

 

「な、何、コイツら!?急に倒れたわよ!?」「え?何で急に?」「ちょっと皆!!ゲートが開くようになったよ!!」「マジ!?やったぁ!!」

 

 周囲が歓喜に浸る中、楯無は倒れた状態のISを見つめて顔を顰める。

 

(・・・結局、こいつらの狙いは何だったのかしら・・・?)

 

 

 

 

 

 昭弘は、タロ()()()金属の塊を抱きかかえていた。しゃがんだ状態で、その金属の後頭部の様な部分を左腕で起こし、顔と思しき部分を唯々見つめていた。

 その顔を見つめていると、彼等と過ごした日常が頭中に湧き上がってくる。思えば、この世界で一番最初に遭遇したのもタロだった。ドス黒いボディに深紅のカメラアイ。最初に見たときは凶悪な印象しか抱けなかったのも、今となっては最早懐かしい記憶だ。

 

「・・・・・・・・・・・・タロ。」

 

 昭弘は、タロの名を呼ぶ。一言だけでいい。「何デショウカ」と言って欲しかった。しかし、タロに繋いだままの専用回線は、耳障りなノイズが響くばかりだ。

 

「なぁ・・・・・・タロ・・・・・・・・・。」

 

 尚も、タロの名を呼ぶ。先程と何一つ変わらないノイズだけが、昭弘の耳を劈く。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・ああ」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

 

 昭弘はただ叫ぶ。顔を涙と鼻水で濡らしながら。

 しかし、未だタロとの専用回線に繋いだままの慟哭は、誰の耳にも届きはしない。

 どんなに顔面をグシャグシャにしようと、フルフェイスマスクに包まれた彼の表情は誰にも判らない。

 どんなに大声で泣き叫ぼうと、返ってくるのは聞きたくも無いノイズだけ。

 

 

 

 どんなに強く抱きしめても、そこに在るのは唯の鉄屑に過ぎなかった。




昭弘を不幸のまま終わらせはしません。
さて、次回からが難しい。各国政府の動きとか束の葛藤とか昭弘の葛藤とか・・・。
自分も早く、シャルやラウラと昭弘を絡めていきたいです。


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人物紹介・その他設定

今回は、ちょっとした息抜きに人物紹介なるモノを投稿してみました。
もしかしたら、本編で抜けている部分も上手く補正できていたりするかもしれないので、是非読んでみてください。



・登場

 

 

昭弘(アキヒロ)・アルトランド

 本作の主人公。

 戦場にて命を落とし、目が覚めたら全く別の世界に転移していた謎多き青年。天災科学者「篠ノ之束」との契約により、IS(インフィニット・ストラトス)操縦者育成学校「IS学園」に通うことになるが、昭弘はその理由を一切聞かされていない。現在は「T.P.F.B.」という企業に所属しており、IS学園で得た自身のMPS(モビルパワードスーツ)の戦闘データを、束を通じてT.P.F.B.に送っている。

 基本無口で不愛想な男だが、情に厚く、困っている者や悩んでいる者を放っておけない性格をしている。その巨躯や人相の悪さが災いし、IS学園の女子生徒からは常に怖がられているが、彼と親しい者からは相談事を受ける事も多い。特に箒や一夏とは仲が良く、彼等からはほぼ毎日の様に相談事を受ける。

 筋トレをこよなく愛しており、彼の部屋の大部分は筋トレ器具で占拠されている。その甲斐もあり、制服越しでも判る程の屈強な筋肉を持っている。露出度の高いISスーツを着ている時は、その余りにもガチムチな肉体美に、1組の生徒が顔を赤くして目を逸らす程。

 背中に「阿頼耶識」という名の管が2本生えており、これにより脊髄とMPSを直結させることでMPSを起動させている。元々少年兵であった彼自身の抜群の戦闘センスも相俟って、「天下無双」の実力を発揮する。

 

 

篠ノ之箒(シノノノホウキ)

 昭弘のクラスメイト。

 篠ノ之束の妹であるが、本人はその事について快く思っておらず、束に対して激しい劣等感を抱いていた。しかし、昭弘にその内に秘めた想いをぶちまけてからは、少し考えを改めた様子。

 凛とした顔立ちをしており、如何にも「大和撫子」と言った雰囲気を纏っているが、意外と子供っぽい一面が目立つことも。また、人一倍人見知りが激しく、クラスメイトからはその事で良く心配される。

 幼馴染である一夏に対しては、異性として密かに想いを馳せている。そして、彼に近付く異性に対しては激しい敵対心を持つ。最近では、昭弘に対しても「特別な感情」を抱くようになってきているが、箒自身は未だそのことに気づいていない。

 

 

織斑一夏(オリムライチカ)

 昭弘のクラスメイトであり、1組のクラス代表。

 世界で唯一、男性の身でありながら女性にしか扱えない兵器「IS」を動かした人物。その原因は、IS適性試験会場に密かに置いてあった、偶々束がコアの設定ミスをした機体に、偶々乗り合わせた為に起きた偶然であった。

 基本的に、明るく活気な性格をしているが、精神面は見た目以上に子供で、他人の想いが汲み取れない部分も多々有る。

 昭弘を「実の兄」の様に慕っており、彼にだけは自身の抱えている苦悩を曝け出す。実の姉である「織斑千冬」を「家族として、男として護りたい」と思っている反面、何か「別の感情」をも抱いている節がある。

 整った顔立ちをしており、異性から好意を抱かれることが多いが、一夏本人はそのことについて全く自覚が無い。

 

 

セシリア・オルコット

 昭弘のクラスメイト。

 イギリスの国家代表候補生であり、次期国家代表最有力候補とまで言われている「若きカリスマ」。

 入学当初は常に周囲に高圧的な態度を取っていたが、一夏や昭弘との模擬戦以降はその態度を改め、クラスメイト全員に今迄の無礼を謝罪した。

 昭弘との模擬戦では文字通り「一進一退」の接戦を繰り広げており、その「優雅と狂気」を融合させたかの様な超機動によって、観客の女子生徒達を大いに魅了した。現時点では、セシリアのファンクラブまで存在する程だ。

 セシリアも箒と同様、一夏に異性として好意を抱いているが、箒のことも「友」として大切に思っている。しかし、昭弘とは相も変わらず「犬猿の仲」で、事あるごとに衝突する。

 

 

凰鈴音(ファンリンイン)

 2組のクラスメイトであり、クラス代表。

 中国の国家代表候補生で、急遽IS学園に転入してきた。

 血気盛んで勝ち気な性格をしており、転入初日は一夏絡みで箒と火花を散らしていた。

 彼女も一夏の幼馴染であり、例に漏れず彼女も一夏に惚れている。一夏に対する愚痴を真剣に聞き、それに対する適切なアドバイスをしてくれた昭弘の事は、「男友達」として頼りにしている様だ。

 IS乗りとしては、1年間という短期間で見る見る成長していき、あっと言う間に代表候補生の座に躍り出た天才肌の持ち主。しかし、クラス対抗戦でのゴーレム襲撃の際は、一夏と共に果敢に応戦するも、ジロ相手に終始翻弄され続けてしまった。未だ代表候補生になって日が浅いのと、相手との相性が悪かったことが災いしてしまった様だ。

 

 

布仏本音(ノホトケホンネ)

 昭弘のクラスメイト。

 入学初日において、クラス中が昭弘に恐怖心を抱く中、物怖じせずに昭弘に話しかけた人物。

 常に間延びした様な口調で話し、クラスメイトからは非常に可愛がられている。人とのコミュニケーション能力に長けており、クラスの誰とでも仲良く接することができる。セシリアとは特に仲が良く、セシリアが未だクラスメイトに高圧的だった時期から、彼女にしつこく話しかけていた。

 

 

相川清香(アイカワキヨカ)

 昭弘のクラスメイト。

 入学当初は、昭弘に対して激しい恐怖心を抱いていた。しかし、クラス代表パーティーでの彼の素顔を知って以降は、少しずつ彼に対する警戒心を解いていった。今では、昭弘に対して「まるでお父さんみたいですね」と軽口を言える程だ。彼に対して敬語なのは相変わらずだが。

 谷本と仲がいい。

 

 

谷本癒子(タニモトユコ)

 昭弘のクラスメイト。

 彼女も相川と同様の経緯で、昭弘への警戒心を薄めていった。一夏と鈴音によるクラス対抗戦を観戦していた時は、昭弘の実況と解説を相川と共に生真面目に聴いていた。

 相川と同様、昭弘に対して敬語なのは、やはり彼を年上の様に畏怖しているからだろう(実際に昭弘は、実年齢では彼女たちより年上なのだが)。

 

 

更識楯無(サラシキタテナシ)

 IS学園生徒会長。

 ロシアの国家代表であり、IS学園最強の生徒会長。IS操縦者としての詳しい実力の程は未知数だが、恐らく昭弘やセシリアをも上回っている可能性が高い。

 昭弘に対して激しい懐疑心を抱いており、入学初日からずっと監視の目を光らせて来た。クラス対抗戦が近付くと、自ら1年1組に赴いて昭弘に分かる様に視線で「殺気」を飛ばし、「何も事を起こすな」と無言の威圧を加えた。

 しかし、普段はかなりおちゃらけた自由奔放な性格をしており、常に笑みを崩さない。

 

 

布仏虚(ノホトケウツロ)

 IS学園生徒会役員。

 楯無の従者であるが、学年的には楯無が2年生で虚が3年生であり、彼女の方が先輩に当たる。本音の姉でもある。

 良く楯無に振り回される。

 

 

織斑千冬(オリムラチフユ)

 1組のクラス担任であり、一夏の実の姉。

 世界最強のIS操縦者であり、「ブリュンヒルデ」の異名を持っている。生身で量産型ISを圧倒してしまうと言った噂も。

 世界の全女性の憧れでもある彼女は、当然生徒からも絶大な人気が有り、入学初日から今現在に至るまで既に数名の女子生徒から告白されているらしい。無論断ったのだろうが。厳格でクールそうに見えて、意外とフランクな性格をしていると言うギャップも、彼女の人気に拍車を掛けているのかもしれない。

 仕事はできる方なのだろうが、意外と猪突猛進な所があり、度々副担任である真耶から静かなる叱責を受ける。

 

 

山田真耶(ヤマダマヤ)

 1組のクラス副担任。

 千冬とは対照的な印象を受ける、おっとりとした物腰の教師。高校時代からの、千冬の後輩でもあるらしい。

 普段は弱腰な印象を受ける彼女だが、千冬に対しては時々強気に出ることも。

 

 

 

 

篠ノ之束(シノノノタバネ)

 ISの生みの親である天災(天才)科学者。宇宙にISを進出させるという夢を持っている。

 彼女は中学生の時にISを創り上げ、早速学会にて発表した。しかし、彼女の発明は「馬鹿馬鹿しい夢物語だ」と一蹴されてしまう。

 業を煮やした彼女は、世界中の2000発もの弾道ミサイルをハッキングし、日本本土へと発射するという凶行を起こす。その2000発もの弾道ミサイルを、自身の原初のIS「白騎士」に無力化させるという途方もないマッチポンプを行ったのだ。

 しかし、この「白騎士事件」により、ISの優位性は「宇宙進出」ではなく「兵器」として強く認識されてしまう。絶望した彼女は、ISコアの生産をストップし、姿を隠すようになる。その結果、世界最大の「お尋ね者」となってしまった。

 ・・・そして、今度こそ自身の「夢」を実現させるために、「計画」を実行に移したのだ。その計画の全容は、未だ見えては来ない。どうやら、T.P.F.B.に新型MPSの技術を提供している様だが・・・。

 常にハイテンションでふざけた言動が目立つ彼女だが、実の妹である箒のことは誰よりも大切に思っている。しかし、彼女は基本的に自身が興味を抱いた者以外の人間はどうでも良く、例え死のうが何とも思わない。IS学園をゴーレム達に襲撃させた際も、多少犠牲が出ても構わないと考えていた様だ。大切な人間の優先順位としては、箒>クロエ>千冬>昭弘>一夏であり、それ以外の人間は彼女にとって「ゴミ」と一緒である。

 

 

クロエ・クロニクル

 IS関連の研究所にて非道な「人体実験」をされていた所を、束率いるゴーレム部隊に救出された盲目の少女。

 自身を救ってくれた束のことを「絶対者」として崇拝しており、彼女自身も束からは「実の娘」の様に大切に育てられている。昭弘のことも、家族の一員として大切に思っている様だ。

 

 

デリー・レーン

 T.P.F.B.の代表取締役。

 俗に言う「武器商人」であり、独特な敬語口調が特徴。

 極めて冷酷な人間であるが、自身が「商品」や「利益」として価値を見出した人間に対しては、誠心誠意を持って接する。昭弘もその対象に含まれているが、昭弘からは苦手意識を持たれている様だ。

 束からの技術提供には何らかの「裏」を感じてはいるものの、世界の情勢よりも自社の利益の方が遥かに大切な彼にとっては些細な問題らしい。

 

 

 

 

 

・登場IS&PS

 

 

グシオンリベイク

 昭弘の専用MPS。

 全身装甲(フルスキン)型のMPSであり、全体的にロボットの様な形状をしている。全身はベージュ色で、背中から生えている一対のユニットが特徴。そのユニットから、サブアームを展開することができる。

 MPSと認識されてはいるが、実際には純正のISコアを使っているので、実質的にはISである。

 中距離・近距離型のMPSであり、昭弘と神経を直結させることで驚異的な「シンクロ率」を誇る。そのシンクロ率が100%に達した時、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)「マッドビースト」が発動し、パワー・機動力・反応速度が飛躍的に向上する。また、相手の動きが極めて「遅く」映る様になる。

 しかし、この能力は昭弘自身未だ完全なる制御下に置いた訳では無く、初めて能力を発動させたときは、意識をグシオン側に持っていかれそうになった。

 又、全身装甲にはデメリットも多い。肌の露出が無いので絶対防御という機能が抑々存在しないのだ。昭弘のグシオンリベイクも例外では無い。

・武装:M134Bビームミニガン×2 炸裂弾頭搭載型滑腔砲×2 ハルバート グシオンハンマー 腰部シールド サブアーム×2

 

 

白式(ビャクシキ)

 一夏の専用IS。

 束が一夏の為に男性用にコアの設定をし、「倉持技研」に作らせた純白のIS。束のミスにより運悪く適性試験会場にてISを発動させてしまった一夏に対し、束がせめてもの「罪滅ぼし」として一夏に贈ったモノ。未だ一次移行(ファーストシフト)状態であるのに単一使用能力が使えるのも、束が初心者の一夏用にISコアをそう設定したからである。

 近接戦闘特化型の高機動ISであり、武装が「雪片弐型(ゆきひらにがた)」という機械刀1本しか存在しない。単一仕様能力は「零落白夜(れいらくびゃくや)」であり、発動中は雪片弐型の威力が大幅に上昇し、当たれば絶対防御が発動する程。実はこの零落白夜、絶対防御機能の無い全身装甲型のISに当てれば、相手の装甲を粉砕することができる危険な能力でもある。又、発動中は白式自体のシールドエネルギーも減少していく諸刃の剣。

・武装:雪片弐型×1

 

 

ブルー・ティアーズ

 セシリアの専用IS。

 群青色の美しいISであり、遠距離・中距離に特化している。主な使用武器は、「スターライトMkⅢ」という67口径のレーザースナイパーライフルである。

 最大の特徴は第三世代兵装である6機の浮遊砲身「ビット(ティアーズ)」で、搭乗者による脳波コントロールで自由自在に動き回ることが可能。しかし、ビットを3機以上操った状態では、並列思考に限界が生じる為か、ブルー・ティアーズ本体を動かすことができない。

 又、スターライトMkⅢは銃身を変形させ「アサルトモード」に切り替えることで、中距離での激しい撃ち合いにも対応可能。その場合は普段以上の高速機動下での戦闘が予想されるので、高速機動戦用のバイザーが自動的に装着される。

・武装:スターライトMkⅢ ビット×6 インターセプター(コンバットナイフ)×1 高機動用バイザー×1

 

 

甲龍(シェンロン)

 鈴音の専用ISで紫檀色の派手な色合いをしている。

 白式と同様、近距離特化型のISで、機動力に重きを置いている。

 最大の特徴は、第三世代兵装「衝撃砲(龍砲)」であり、空間圧縮によって「見えない砲弾」を発射する。強力な兵装だが、弱点がバレればあっさりと形勢を逆転されてしまうことがある「極端な兵装」でもある。代表候補生である鈴音だからこそ、この穿った性能の衝撃砲を上手く使いこなしているのである。

・武装:双天牙月×2 衝撃砲×2

 

 

ゴーレム

 束が創り上げた無人IS。

 人間の脳と何ら遜色が無い程の、高度なAIを兼ね備えてる。現在10機が確認されているが、どの機体も感情が豊かで、昭弘やクロエは「家族同然」の様に彼等と接している。どの機体も優しい心を持っており、決して無抵抗の人間を傷つけることを良しとしない。

 遠距離・中距離・近距離と、どの局面にも対応可能であり、その実力は少なく見積もっても国家代表候補生以上だと言われている。又、4門のビームカノンは出力の調整が可能。

 

タロ

 束がゴーレムの中で一番最初に創り上げた漆黒のIS。

 性格は明るくてお喋りだが、調子に乗りやすく、創造者である束に対しても時々軽口や憎まれ口を叩く。

 これ迄、束を狙う輩との度重なる戦闘で、膨大な戦闘経験値が蓄積されていき、現在では最早国家代表と肩を並べる程の実力を秘めている。しかし、束の計画の犠牲となってしまい、現在は記憶を抹消されたISコアだけが残されている。

・武装:大型ビームカノン(MB-46S ビームカノン)×4 高出力ビームクロー×2(高出力ビームサーベル×4)

 

ジロ

 名前の通り、束によって2番目に作られた白銀のゴーレム。

 常に冷静で客観的に物事を考えることができるが、その為かタロとはよく衝突する。

 タロに次ぐ実力者であり、様々な射撃武器を自由自在に使い分けることが可能。彼も又、タロの撃滅と同時に記憶を抹消されて機能停止となり、その直後白式と甲龍によって止めを刺される。現在はタロと同様記憶の無いISコアだけが残されている。

・武装:大型ビームカノン(MB-46S ビームカノン)×4(戦闘中に散弾タイプやスナイプタイプに変更可能) 小型ビームマシンガン(H&K MPB5 内部収容型ビームサブマシンガン)×2

 

サブロ、シロ、ゴロ

 ゴーレムの中でも比較的良識のある3機であるが、毎日の様に喧嘩をしているタロとジロに対しては常に切れ気味。

 タロの撃滅に伴い、3機共機能停止させられる。記憶は既に残っていないが、未だに無傷の状態なので、再起動すれば直ぐに目覚める。現在はIS学園にて保管中だが、今後の処遇は不明。

・武装:大型ビームカノン(MB-46S ビームカノン)×4

 

ジュロ

 良く束の研究を手伝っているゴーレム。ゴーレムの中では末っ子であるが、束と接している時間は最も長い。

・武装:大型ビームカノン(MB-46S ビームカノン)×4

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

 ISの操縦者や整備士を育成するための教育機関。人工島に建てられており、4つのアリーナ、広大なグラウンド、IS整備用の格納庫、食堂、学生寮、大浴場等が有り、極めて広大な敷地を有している。

 最近では無人IS部隊の襲撃を受けるも、外部の力を借りずに事態を収束させ、犠牲者を一人も出さなかった。

 

 

T.P.F.B.

 表向きは義手や義足等を格安で医療機関に販売しているが、本業は兵器開発であり、その販売も同社で行っている。近年ではIS以外の新たなるパワードスーツ「MPS」の開発にも着手している。ISよりも性能面では遥かに劣るものの、コストパフォーマンスの良さと戦闘ヘリをも上回る戦力として、人気が高い。現在も着々と会社の規模を拡大させている。

 又、彼らによる紛争地域への武器の提供が、戦火を更に拡大させてしまっている。

 更に、束から新たなMPSの戦闘データを受け取っており、もしこのMPSが量産化されてしまえば、アフリカ・中東地域の内戦や紛争は更に拡大する可能性が高い。




束だけ長すぎる。

現在怒涛の4話中編後編大編集中です。なるべく内容は変えないようにしますので、ご安心ください。
なので、次話はもしかしたら再来週くらいになるかもしれません。
本当に、申し訳ない。

追記:大変お待たせいたしました!
   4中編後編がようやく完成しました!内容は大まかには変わっていませんが、セシリアVS一夏や、昭弘と箒・一夏との会話等、追加描写も増やしましたので、既に読んだという方も気が向いたら是非読んでみてください。


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第12話 波紋

今回は少し短めです。
2週間ぶりに話を進めたのに短くてすみません。

というかまたオリキャラを出してしまった・・・。


 其処は、某所の最上階。更にそのプライベートルーム。

 内装は黒一色に染まっており、壁をよく見ると何かの「花」の模様が無数に掘られている。テーブルと椅子だけがまるで激しく自己主張しているかの様に、白く輝いていた。テーブルの丁度真上には、山吹色のダウンライトが、1つだけポツンと付いていた。ガラスの外は、何処までも漆黒となっており、上には天然の、下には人工による無数の「光点」が延々と続いていた。そのガラスは、外からは見えない特殊素材で作られていた。

 そんな一室にて、二人の「男女」が向かい合って座していた。男は純白のスーツに黒のYシャツを着こなしており、女はかなり露出度の高いワインレッドのドレスを身に纏っていた。

 しかし、首から上だけ見れば、二人の顔が“瓜二つ”と言うのもあり、まるで美女が鏡を覗いているかの様な光景であった。

 

「それで?最近「そっち」はどうなのだ?」

 

 彼らは、とある“組織”の「2トップ」。不定期にではあるが、こうして毎度場所を変えながら意見交換や情報交換を行っているのだ。

 そんな中、男が女性の様に甲高くも麗しい声を発し、女に他愛もない話を切り出す。しかし、女は澄まし顔で上等そうなコニャックを傾けながら話の流れを絶つ。

 

「そんな事より、さっさとに本題に入らない?面倒事は先に済ませておきたいの。」

 

 誰もが嫉妬してしまいそうな美しいアッシュブロンドの髪を静かに撫でなから、女は尊大な態度を崩さない。

 

「せっかちなのは相変わらずの様で安心した。まぁアタシは、お前とは違って優しいからな。要望通りさっさと本題に入ってやろう。」

 

 男も又、女の態度に一切動じること無く、無表情のまま左胸辺りで束ねてある自身の髪を弄る。その髪は、女の髪と()()()()であった。

 

「運営本部に、こんなモノが届いた。」

 

 そう一言だけ口にすると、胸ポケットから半透明なケースを徐に取り出し、女に中身を見せる。

 

「・・・SDカードが、どうかしたの?」

 

「少し待ってろ。中に入っている「映像」を観せる。」

 

 男はそう言うと、SDカードを楕円形で掌サイズの機械に挿入し、映像のホログラムを観せた。

 映像には、とある学園で暴れる2機の全身装甲ISと、そのISを撃破する1機のMPSと更に2機のISが映っていた。

 この映像の最も肝心な所は、2機のISは襲撃IS1機相手に手も足も出なかった(実際は最後に撃破したが、映像ではそこまで映っていなかった)のに対し、MPSは単独で襲撃ISの内の1機を撃破していると言う点である。

 

「へぇ・・・。T.P.F.B.のアルトランドくん(坊や)がねぇ。」

 

「アタシ宛てに送られて来ていてな、同封されていた手紙には「好きに使え」と書かれていた。」

 

 数秒程女は夜景を観た後、男に質問を投げ掛ける。

 

「相手は判ったの?」

 

「今正にあらゆる手を尽くして探している最中だ。まぁ、アタシの予想が正しければ、その人物は見つからんだろうがな。」

 

 「見つからん」という言葉で、女も誰が送り主なのか察する。

 

「・・・天災ちゃん?」

 

「ああ。そもそも、最新鋭のセキュリティの塊であるIS学園で、これ程鮮明な映像を、しかも誰にも気付かれずに撮れる者など、アタシは天災しか思い浮かばん。当然、IS学園側でも今回の件には厳しい緘口令が敷かれている筈だ。恐らく今現在この映像を持っている者は、ごく一部の人間か、アタシだけか。」

 

 男がそう言うと、女は話を強引に進める。

 

「で?私にどうして欲しい訳?」

 

「話が早くて助かる。明日21:00の幹部会で、この映像における全てのISとMPSの戦力評価をして欲しいのだ。「実動部隊のトップ」であるお前なら、容易い事だろう?『スコール』。」

 

 更に男は続ける。

 

「お前も観て判ると思うが、これは世界をひっくり返しかねない「爆弾映像」だ。状況は多少異なるとは言え、IS2機掛かりで倒せなかった敵の1体を、MPSが倒したのだからな。そんな「お宝映像」を、幹部連中に「相手が弱かった」だの「どんぐりの背比べ」だのと思われては敵わん。」

 

 その女『スコール』は、少しばかり考えた後、男の要望に応じる。

 

「ええ。別に構わないわよ。たまには幹部会に顔を出しておこうと思っていたし。けど、実動部隊も暇じゃないの。連中には遅れるって伝えておいて貰える?」

 

「ああ、良いだろう。」

 

 男の即答を聞いた後、スコールは()()()()()()を彼に訊ねる。しかし、スコールの口調はまるで男の返答が判り切っているかの様であった。

 

「で?「運営トップ」のアンタとしては、この映像をどう使うつもりなの?『トネード』。」

 

 男『トネード』は先程のスコールの様に夜景を数秒程眺めた後、ゆっくりと口を開き始める。

 

「アタシとしては無論「ばら撒く」さ。・・・主に『アフリカ・中東地域』にな。上手く行けば、彼等に「MPSでもISに対抗できる」という認識を植え付けられるだろう。それらも明日の幹部会で、ばら撒く対象の“組織”や“タイミング”等、詳細を決定しようと思う。」

 

 トネードの返答を聞いて、スコールは口角を釣り上げる。

 

「・・・量産化されているMPSの性能が右肩上がりな今、正に絶好の機会って訳ね。」

 

「ああ。」

 

 そう短くトネードは答えると、グラスに注がれている赤ワインを舐める様に眺めながら、更に言葉を連ねる。その時の彼は、全ての人間を優しく包み込むかの様な、柔らかい“微笑み”を浮かべていた。

 

「・・・今現在、この惑星に「我が物顔」で踏ん反り返っている『先進人』共は、思い知ることになるだろう。この惑星の“正当な支配者”が、一体誰なのか・・・。」

 

 その呟きを皮切りに、トネードはグラスの中身を一気に飲み干す。

 その後も、『ミューゼル兄妹』は雑談の様に情報交換を繰り返して行った。中でも重要だったのは、T.P.F.B.から「ご要望の『究極のMPS』が、もう直完成するでございましょう↑↑」という連絡が、スコールに届いたと言う情報であった。

 その情報によって、2人はある一つの確信を持つ。それは、この映像を送りつけて来た者が天災であれ誰であれ、自分たちの計画を知っている人間であると言う事だ。スコールに『究極のMPS』に関する連絡が届いた矢先、まるでそれを後押しするかの様な映像が送られて来たのだ。そう考えるのが自然である。

 

(ただ一つ気になるのは、我々の計画を後押ししてその者にどんなメリットが有るのかということだが・・・まぁ良いだろう。折角の情報だ、有難く使わせて貰うぞ。)

 

 そして、ある程度話が纏まると、二人はその場を後にした。

 

亡国機業(ファントムタスク)

 

 それが、彼らの組織の名前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーT.P.F.B. 某研究所ーーーーー

 

「す・・・素晴らしい・・・!!」

 

 とあるデータを閲覧した技術主任は、髪を「七三分け」に固めている男に、自身の興奮をぶつける。

 

「んーーとぉ・・・そんなに凄いんです↑?このデータ。」

 

 そんな七三男の微妙な反応に、技術主任は口調を荒げる。

 

「凄い等と言う次元ではありませんよ!!この戦闘データと、先の「対ブルー・ティアーズ戦」のデータがあれば、従来のMPSを大幅に上回る「新型MPS」の量産化が可能となる!しかも、超短期間で!!」

 

 技術主任は、モニターに映っている呪文の様な数式の羅列を指差して、七三男にそう告げる。

 技術主任の反応を確かめた後、七三男は今自身が「2番目に」気にかけていた事を、技術主任に尋ねる。

 

「・・・その新型MPS、戦力としては何機でIS1機分になりますぅ↑?」

 

「少なく見積もっても、2機でラファール・リヴァイヴ1機分相当の戦力にはなるかと・・・。」

 

「・・・マジです?」

 

 その驚愕の事実を聞いて、七三男は金魚の様に目を丸くする。

 従来のMPSは、戦場で重宝されていたにしろ、ISの足元にも及ばない性能であった。精々、20機でIS1機に太刀打ち出来るかどうかと言う次元であった。

 それがまさかの「2機でIS1機相当」と言う、途方も無い「戦力のインフレーション」を成そうとしているのだ。

 その事実に心踊らせた後、七三男は「1番気掛かりな事」を、技術主任に訊ねる。

 

「・・・それじゃあ、スコール・ミューゼル様からご依頼があった、『究極のMPS』も・・・いけますぅ↑?」

 

「勿の論にございます!寧ろこのデータは、そちらが本命なのでは?」

 

 自信満々に、その技術主任が答えると、七三男は満面の笑みを浮かべて両腕で「ガッツポーズ」を取る。その際、七三男の黄緑色に彩られたブレザーの裾が上下に荒ぶる。

 

(いいですねぇ↑いいですねぇ↑!!束様と昭弘様には、本当に「感謝感激雨霰」ってヤツですねぇ↑!!これで亡国機業からの莫大な資金と信用を得られれば、我が社の存在は最早不動のものとなりますねぇ↑↑!!さぁてと、そんじゃ早速電話電話っと♪)

 

 七三分けの男『デリー・レーン』は気分を高揚させながら、そのままスコールに電話を掛ける。

 トネードの下に件の映像が届いたのは、その僅か1日後だったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー4月30日(土) 03:02ーーーーーーーーーー

 

(・・・・・・何処だ此処は?)

 

 IS学園内の何処かで、昭弘はベッドに横たわっていた。未だに意識が朦朧とするからか、此処の正確な場所が把握できないでいた。しかし、仰向けで寝ている事を考えると、恐らく・・・。

 

「おう。起きたか、アルトランド。」

 

 横たわっている昭弘の左腕手前辺りに、ここ最近ですっかり見慣れた人物の顔があった。

 

「・・・織斑センセイ、此処は・・・?」

 

「お前の自室だ。・・・すまない、未だ保健室には、お前の“背中”に対応したベッドが無くてな。やむを得ず、此処で応急処置を取る事にしたんだ。」

 

「・・・応急処置・・・ですか?」

 

 昭弘は、今放った言葉に「事の顛末を教えてくれ」と言う思いを密かに乗せていた。視線は未だに千冬を捉えたままだ。

 それを察してくれたのか、千冬は事細かに一から説明してくれた。

 

「お前があの無人ISを撃破した後、お前はグシオンを纏った状態で、2時間程そのまま意識が無かったのだ。」

 

 早速頭に疑問符が浮かぶ昭弘。そんな昭弘を気に掛けつつも、更に千冬は続ける。

 

「漸くグシオンが待機状態に戻った後も、お前は今の今迄、ずっと意識が無かったのだ。お前の身体に、一応簡易的な検査を施したが、これと言って特に目立った異常は見られなかった。お前の意識が無い状態で、待機形態のグシオンを無理矢理引き剥がすのも危険だと我々は判断したのでな、 未だお前の背中にはグシオンが付いたままだ。」

 

 「本日の午後、保健室にてより詳しく検査をする」と言った後、千冬は何故か押し黙ったまま昭弘の右腕側に目配せをすると、意味深な笑みを零す。

 

「それにしても、モテモテだなアルトランド。そいつらだけは、いくら言ってもこの場を離れなくてな。」

 

 千冬の発言により、昭弘は漸く自身の右腕側に視線を移した。そこには2人の男女が居り、女は椅子の上で、男は壁にもたれ掛かって寝息を立てていた。彼らは、流石に眠気には勝てなかった様だ。

 

「箒・・・一夏・・・。」

 

 昭弘は2人の名を口にすると、仏頂面を柔らかい微笑に変える。一先ず2人の無事が分かって、少しばかり安堵している様だ。

 幾らか心が落ち着いたのか、昭弘は今自身が訊きたい事をポツリポツリと吐き出していく。

 

「学園の被害は・・・どうでしたか?」

 

 その質問に、千冬は笑顔をそのままに答える。

 

「多少施設は壊されたが、安心しろ。犠牲者は一人も出ておらん。怪我人は出たが、全員軽傷で済んだ。」

 

 千冬の返答で、昭弘の安堵の思いは更に大きくなっていった。

 しかし、次の質問に移ろうとすると、昭弘の中から「安堵の思い」は消え失せる。

 

「・・・・・・襲撃犯である無人ISは・・・どうなりましたか?」

 

 昭弘の次なる質問に対し、千冬も又笑顔を消し去る。そして、少しだけ間を置いてから答える。

 

「・・・・・・・・・すまない、アルトランド。その件は、未だ何処まで話せばいいのか・・・・・・。お前は無人ISを撃破したとは言え、あくまで一般生徒の域を出ない。」

 

 そう突き返される事を予想していた昭弘ではあったが、実際に言われるとどうやら相当こたえる様である。自身が気絶していた間、家族(ゴーレムたち)がどうなってしまったのか、何処に連れていかれたのか、今の昭弘には想像も付かない。と言うよりも、「想像したくない」と言った表現の方が、寧ろ正しいのかもしれない。

 

「・・・いえ、結構です。」

 

 昭弘は必死に自身の想いを隠しながら、千冬にそう返した。

 

「・・・本日、土曜日ではあるが、学園全体に緘口令を敷くために全校集会を開く。既に全生徒に緘口令のメールは送っているが、実際に伝えた方が効果があるだろう。今回騒動に巻き込まれた生徒に対する「事情聴取」の意味合いも含めてはいるがな。」

 

「特にアルトランド、お前に関しては「生徒会長」である『更識楯無』が、直接聴取したいと言っていてな。・・・ここだけの話だが、更識には気を付けろよ?奴はどうにも、今回の騒動に関して、お前も「首謀者の一人なのでは?」と考えていてな・・・。」

 

「・・・・・・分かりました。」

 

 昭弘がそう淡々と答えると、千冬は「まぁ私も同席するから安心しろ」と軽く笑いながら返してきた。

 

「さて、私はそろそろお暇するが、その2人はどうする?起こすか?」

 

 千冬にそう言われて、昭弘は意外にも思い悩む。

 

(2人を起こすのも悪いしな・・・。いやしかし、折角この時間までオレの傍に居てくれたんだ、オレが目覚めた事実を伝えないと言うのも・・・。)

 

 思い悩んだ末、昭弘は2人を起こすよう千冬にお願いする。

 千冬は2人の頬に軽く平手をお見舞いしながら、彼女なりに優しく起こす。

 

(・・・もう少し、優しく起こせないのだろうか・・・?)

 

 昭弘がそう苦笑を零していると、先に箒が唸り声を上げながら目覚める。

 

「むぅぅん・・・。ッ!!!昭弘ッ!!」

 

 その直後、一夏も同じ様に目覚める。

 2人はまるで濁流の如く、昭弘に話しかける。

 

「昭弘ッ!本当に何とも無いのか!?」「お前!本当に昭弘だよな!?変な別人格とかだったりしないよな!?」「私が判るか!?」「オ、オレが判るか!?一夏だよ一夏!!」

 

 いきなり支離滅裂な事を聞いてくる2人に、昭弘は思わず間の抜けた声が漏れそうになる。

 しかし、昭弘とグシオンの「あの動き」を見た後では、そんな事を聞いてくるのも無理はない。2人も怖かったのだ。昭弘が昭弘でなくなっているのではないかと、2度と昭弘が目覚めないのではないかと。昭弘も、そんな二人に困惑こそしつつも、自身を心配してくれていると言うことだけは分かった様だ。

 

「ああ、別に何とも無い。・・・すまなかったな、心配を掛けて。」

 

 昭弘の口から流れ出る普段通りの重低音に、箒と一夏は心底安堵した様だ。

 

 その後昭弘は、こんな深夜まで自身の為に残ってくれた3人に感謝の言葉を贈る。その言葉に千冬は「担任だからな」と返し、箒と一夏は「気にするな!」と返答する。

 

 

 3人がそう反応した後に退出すると、再び昭弘だけの時間が訪れる。

 一人の時間。今の自身を見ている者が居ない時間。考える事は、自身がこの手に掛けてしまった家族の事であった。

 

(・・・・・・・・・オレが・・・・・・・・・・・・・・・殺した・・・・・・。)

 

 昭弘は心の中で、一つの事実を大した意味も無く復唱する。

 昭弘は、前世では家族を失う事こそあったものの、自分の手で殺めたことは一度たりとも無かったのだ。

 

(・・・・・・「罰」なのだろうか・・・オレへの・・・。)

 

 この世界には、昭弘と同じ境遇の少年が数えきれない程存在する。その少年たちは親も居なければ、寝る場所すらも無い。そんな中、昭弘だけが平穏な生活を送っているという事実。そんな自身への罰だと思うと、昭弘は何も言えなかった。

 若しくは、「何てことは無い、少年兵(彼ら)が今正に感じている絶望と比べれば」・・・そんな事を考えているのかもしれない。

 

 

 

ーーーこいつは鉄華団を裏切った、そんな奴はもう家族じゃない。

 

ーーーオレがこんな思いをしている間・・・ッ!アンタだけ「家族」と幸せに・・・・・・ッ!!

 

 

 

 彼の脳内にて、前世で聞いた言葉が再生される。

 家族を殺した自分に対して、三日月はどう思うのだろうか。

 報いを受けた自分を見て、(昌弘)は自分を許してくれるのだろうか。

 

 今は亡き家族たちの言葉にどれだけ意識を向けようと、タロはもう戻っては来ない。そんな当たり前の事に、かなりの時間を要して漸く気づいた昭弘であった。

 

(・・・・・・今は先ず、ジロたちの現状を確認するのが先だ。)

 

 そう心の中で意識を切り替えると、彼は明日の取り調べに備えて己の情報を纏める。

 中でも彼を悩ませているのが、「束の事を何処まで話せばいいか」と言うことである。

 

(・・・束のことは、少なくとも「オレと深い繋がりがある」と言う事実は、生徒会にも言うべきだろうな。ただ、あの狡猾な兎女が、オレに対して何の「口封じの策」を講じていないとも思えないが・・・。)

 

 昭弘が束と自身の関係を大まかに脳内で纏めていると、今度は束との今後について、頭が巡ってしまう。

 

(・・・・・・束。・・・オレは今後、アイツとどう接するべきなのだろうか。家族にあんな事をさせたアイツと・・・。)

 

 束の狙いが何なのかは、昭弘にも相変わらず分からない。そもそも、彼女が今回の首謀者であるという証拠すら無いのだ。

 それでも、唯一つだけ解ったことがある。それは、少なくとももう束とは「今迄の様な関係」では居られないということだ。

 

 昭弘はある程度情報を纏めると、残りの時間を睡眠に割くべく、瞼を閉じる。

 

 ジロたちの無事を祈って。

 

 

 そして願わくば、いつもの「此処での日常」に戻れることを祈って。




トネードさんの声は「坂本真綾」さんか「沢城みゆき」さん辺りを想像していただけたらと思います。スコールさんと同じく「平野文」さんでもいいかな。

出来れば次回か次次回あたりで、学園のゴタゴタを片付けたいです・・・。


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第13話 昭弘の奮闘、束の葛藤

仕事が忙しくて投稿が遅れてしまいました(クソ言い訳)

昭弘がサブロたちを何とかするために、色々と頑張るお話です。
長い上に駄文全開なので、読む際にはご注意を。


ーーーーーーーーーー4月30日(土)ーーーーーーーーーー

 

 その日は土曜日。時刻は09:00。

 本来ならば、多くの高校生は未だ布団の中で丸まっているか、部活動に精を出している時間帯であろう。中には、友人との買い物や恋人とのデートを、その日の予定に組み込んでいる者も居たのかも知れない。

 しかし、そんな彼女たちの望む普段通りの土曜日は、「その日」だけは訪れなかった。「全校集会」と言う形で、今回の襲撃事件に関する「緘口令」を聴かなくてはならないのだ。

 唯でさえ、クラス対抗戦が中止となって気分が滅入っている生徒一同にとって、それは中々に酷であった。

 因みに当日来訪していた一般観衆には、人数も少なかった為かその日の内に“口止め”を済ませてある様だ。

 

「まぁいいや。どうせこのあと部活だし」「これから友人とショッピングに行く予定だったのになぁ~」「と言うか届いたメールだけで十分じゃん」

 

等と感じる生徒も居ればーーー

 

「世間を混乱させない為には仕方のない処置だ」

 

等と生真面目に考える生徒も居た。

 

 

 

 全校生徒が気だるげに箝口令を聴き終えた後、何名かの生徒はそのまま体育館に残された。これから、何班かに分けられて「取り調べ」が行われるのだ。

 IS学園側としても、今回の事件において少しでも多く情報を集めておきたいのだ。犯人の目的や、今後の対策も踏まえて。

 何名かの参加は強制となっており、それ以外の生徒はあくまで自主的な参加となっている。

 

 そんな中、昭弘はその巨躯を活かして周囲の生徒を見渡す。自クラスの見知った顔もあれば、他クラスの見知らない顔もある。

 

「・・・なぁ、昭弘。取り調べって・・・何するんだろうな。」

 

 一夏が、そう不安げに昭弘を見上げて来る。

 

「別に固くなる必要も無いだろう。戦っていて気になったことを、有りのまま言えばいいんじゃないのか?(尤も、オレの場合はそうも行かないだろうがな。)」

 

「ホントよ。シャキッとなさいよ一夏!」

 

「それは分かってるけどさ・・・。」

 

 昭弘からの温かい返答に、鈴音も乱暴に便乗してくる。

 

 

 箒は、昭弘たち3人から少し離れた所で待機していた。どうやら彼女も、今回の取り調べに自主的に参加した様だ。

 

「凰さんが疎ましいんですの?箒。」

 

 所在なさげにしていた箒に、セシリアが小声で話しかけてくる。そのすぐ傍には本音も居た。

 セシリアも箒と同じく自主的に、ISに詳しい本音は強制参加となっている。

 

「・・・別にそう言う訳じゃ無い。今あの3人に混ざっても、気不味くなるだけだ。」

 

 そう言いながらも、その視線はしっかりと鈴音を見据えていた。「失せろ」とでも言いたげに。

 

「そう言うセシリアこそ、私なんかより一夏と居た方が有意義なんじゃないのか?」

 

「一夏の直ぐ傍に邪魔な「大木」が居りますので、箒や本音と一緒に居る方が、ずっと有意義ですわ。」

 

「またまた~~、1人で居るしののんが気掛かりだったクセに~~~。」

 

 本音の一言に対して、わざとらしく咳払いをするセシリア。どうやら的を得ていた様だ。

 

 

 そうやって少しずつ生徒一人一人の口数が増していく中、体育館前方から「パシン!」と言う手と手を叩く音が、小気味良く体育館に響き渡る。その人物の一拍子で、不思議と生徒の雑談はピタリと止む。

 

(!・・・あの人は確か・・・この前、教室の入り口で・・・。)

 

 昭弘が頭の中で、その人物を探し出す。数秒程目を合わせただけに留まったが、忘れもしない。その鮮やかな水色の髪と、血流を一瞬で止めてしまう程の“圧”を。

 

「はいはーい!皆初めましての人が多いかな?私、此処IS学園生徒会長の『更識楯無』と申します!」

 

「先ずは今回の取り調べに自主的に参加してくれた皆に、感謝の意を評するわ。そして強制的に参加させられた子達には、悪いけどもう少し付き合って貰うわ。」

 

 昭弘は生徒会長と言う単語を聞いて、深夜での千冬の言葉を思い出す。

 

(・・・あの人が織斑センセイが言っていた「生徒カイチョウ」殿か。教室入口でオレを睨んでいたのを考えると、どうやら入学初日辺りからオレに目を付けていたみたいだな・・・。)

 

 昭弘が頭の中で「生徒会長」という人物を特定した後も、楯無による今後の説明は続いた。

 

 

 

 

 

 楯無による説明の後、早速取り調べを行うべく、各自教員に引率されて体育館から別れる。

 

 今回昭弘は、「生徒指導室」という空間で取り調べを受けることになった。昭弘はその空間で、()()()()()なだけに、まるで肌を紙鑢で削れているかの様な威圧感に襲われていた。

 その原因の1人である楯無が、今回の取り調べに参加させてくれた千冬に礼を述べると、今度は昭弘に向き直る。

 

「じゃあ先ず自己紹介から!私は更識楯無。改めて宜しくね!アルトランドくん!初対面・・・・・・じゃ無いか、一応。」

 

「昭弘・アルトランドです。本日は宜しくお願いします。」

 

 楯無の演技がかった明るい振る舞いに対し、昭弘は静かに模範的な挨拶で返した。

 

 2人の軽い自己紹介が済むと、千冬は早速取り調べに入る。

 一応昭弘も、何処まで答えて何処まで黙秘するか凡その考えは纏めてきた。念のため、ある程度質問に答えたらジロたちの現状を教えて貰う様に、千冬に頼み込んでおく。

 

 

 ある程度質疑が済むと、千冬は一旦インターバルを設けた。

 

(・・・予想はしていたが、あの無人機集団が束の所有物だったとはな。そしてアルトランド自身も、あの無人機たちと浅からぬ面識を持っていたのか。・・・何よりも驚いたのは、あの無人機に「自我」が在ると言う点だな。俄には信じられないが、嘘か本当かは、()()()()()()()()()済む話か・・・。)

 

 楯無も又、考えている事を頭の中に留める。

 

(取り敢えず、今回の学園襲撃には無関係・・・本当に何も知らなかったのね。今のところ“嘘”は付いてない、か。あの時発動した単一仕様能力に関しても、「自分でも良く解らない」の一点張りねぇ。)

 

 楯無の「観察眼」は、人間の常識を大きく逸していた。相手の眼の動き、口調の僅かな変化、ちょっとした表情の強張り等々、それら“外側”の情報だけで相手が嘘を付いているのかが判るのだ。

 更に楯無は思考を続ける。

 

(・・・けどアルトランドくん自身が、虚事を真実だと思い込んでいる可能性も捨てきれないわね。例えばあの天災に、「知らず知らずの内に脳味噌を弄られてる」・・・なんてのは考えす過ぎかな。)

 

 ふと、千冬からの視線に気づいた楯無は、昭弘の言葉に嘘偽りが無いという事を、“アイコンタクト”で千冬に伝える。

 

 

 インターバルが終了すると、楯無は間髪入れずに、昭弘に“ある事”を訊ねる。

 

「ねぇねぇアルトランドくん!実は私、ずっと気懸りだったことがあるのよ♡・・・・・・・・・単刀直入に訊くけど、『篠ノ之束博士』と『T.P.F.B.』って、何か関係あったりする?」

 

 それは、今の昭弘にとって最もして欲しくない質問だった。昭弘は出来るだけ早く質問に答えるべく、頭を必死に回転させる。

 

(・・・どうする?関係は無いと嘘を吐くか?いや、もし嘘だとバレれば、オレの状況が悪くなるだけだ。じゃあ「お答えできません」と言うのは?・・・いや、駄目だ!!そんなの遠回しに「関係がある」と言っている様なもんだ!!)

 

 この質問は、昭弘にとっては正にギリギリの「綱渡り」であった。

 昭弘も解っているのだ。あの狡猾な束が、自身から情報が漏れると言うリスクを考慮していない訳が無い。なれば、何らかの口封じの策を講じている筈。その“口封じ”が「昭弘の爆殺」等と言った場合には、周囲の人間まで犠牲になりかねない。

 昭弘は、それを一番恐れているのだ。

 しかし、どうにか答えを導き出すと、昭弘は直ぐにそれを言葉に変えて吐き出す。

 

「T.P.F.B.と篠ノ之博士が、関係を持っているのは確かです。」

 

「ッ!!・・・・・・馬鹿な!あのプライドの高い束がT.P.F.B.と・・・?」

 

 明らかに狼狽している千冬に構うことなく、楯無は更に質問を続ける。

 

「それはどんな関係?」

 

「・・・それ以上は「社内情報」になりますので、流石にお教えすることはできません。オレも一応、T.P.F.B.に所属する身ですので。・・・どうか、事情や立場をお察し願いたい。」

 

 昭弘は、最後にそう締め括って頭を下げた。これが、今の昭弘にできる精一杯であった。要するに、「T.P.F.B.と束は裏で繋がってはいるが、詳細はそちらで勝手に調べてくれ」と言うことであった。

 

 楯無は一旦質問を中断し、思考の渦に身を委ねる。

 

(フーン・・・。けど、今ので大体輪郭が見えてきたわ。もう少し情報も欲しいけど、無理強いして織斑先生からの不興を買うのもねぇ・・・。彼は一応、織斑先生の教え子なんだし。)

 

 生徒会長とは言え、楯無もあくまで一生徒。今回の取り調べも、特別に参加させて頂いている様なものなのだ。そんな状況で、教員である千冬以上に出しゃばるのは、流石の楯無でも躊躇われる様だ。

 一先ず、楯無は千冬に話を振ることにした。

 

「・・・だ、そうですが。織斑先生からは、何かありますか?」

 

「フム・・・私からは、特には無いな。T.P.F.B.と束が繋がっているという情報だけでも、大きな収穫だ。」

 

 千冬も、今の情報だけで満足している様なので、楯無はそれ以上の詮索を止した。

 

「・・・お二人共、解っているとは思いますが、今回オレが話した情報はくれぐれも内密にお願いします。せめて、教員内だけで・・・。」

 

「当然だ。」

 

「はいはーい!(ま、()()()()にはバラすけどね)」

 

 

 千冬と楯無からの質問が一段落すると、今度は昭弘から口を開き始める。

 

「・・・織斑センセイ、そろそろ他の4機の無人ISが、どうなったのか教えてくれませんか?」

 

 千冬は昭弘からの質問に答えようとするが、楯無は「渋い表情」を昭弘に向ける。未だ彼女は、昭弘に対する疑いの目を濁らせてはいない様だ。

 

(ま、いいか。お互い情報を共有しといた方が、何か進展があるかもだし。)

 

 楯無がそうやって、思考をプラスの方面に切り替えると、千冬は昭弘に事の顛末を告げる。

 

「・・・織斑・凰と交戦した無人ISは、2人に撃墜された。今は、お前が撃墜した黒いISと同様に、記憶の無いISコアだけが残されている。他の3機の無人ISは、今現在も問題なく機能しているが、此方も記憶が抹消されている。」

 

 千冬の声によって感無量に並べ立てられた文字の羅列を聞いて、暫く昭弘は顔を俯かせる。

 

(・・・・・・そうか、ジロまで・・・・・・・・・。)

 

 ISコアは、『コア・ネットワーク』という情報網にて繋がれている。タロたちゴーレムも、当然例外では無い。

 このコア・ネットワークによって、ISの「公開回線(オープン・チャネル)専用回線(プライベート・チャネル)」による通信が可能となっている。応用すれば、ISコアの蓄積データを別のISコアに移動させることも可能だ。

 束は、タロたちによる計画の情報漏洩を防ぐ為、任務完了と同時にタロたちの記憶が完全に消去される様に設定していたのだ。しかも、外部からの余計な情報がタロたちに入らない様に、コア・ネットワークを完全に分断してある。

 

 そんな理由を凡そ予想しながらも俯いている昭弘に対し、千冬が恐る恐る口を開く。

 

「・・・アルトランド。今のお前の気持ちが解らない程、私も馬鹿ではない。だが・・・織斑と凰の事は、恨んでやるなよ?」

 

 そんな千冬の言葉を聞くと、昭弘は僅かに顔の角度を上げる。

 

「解っていますよ。“戦場”と言う極限状態の中で殺すなと言う方が、寧ろ無理があるでしょう。」

 

 昭弘が納得している様子を確認した千冬は、安堵しつつも、何処か申し訳なさそうに視線を下げる。

 

 その後も、昭弘は更に質問を重ねていった。

 

「・・・ゴーレム(彼等)の、今後の処遇はどうなるのでしょうか?」

 

 昭弘からそう聞かれると、千冬は一瞬だけ楯無に目配せをしながら答える。

 

「・・・・・・未だ議論は為されていないが、2つのコアも3機の無人ISも、恐らくIS委員会預かりとなるだろうな。生徒達に危険が及ばないとも限らないし、それに、何処からかあの無人ISの情報を嗅ぎ付けた者が、更なる襲撃者となる可能性も有り得る。・・・何より、無人ISは最新科学の結晶体だ。それを一教育機関に預けるなど、到底許されんだろう。」

 

 千冬が至極真っ当な事を一通り述べると、楯無が昭弘への視線を強くする。それは、まるでこれから昭弘が反論することを予期しているかの様であった。楯無は知っているのだろう。昭弘がゴーレムと離れたくないと言うことを。

 案の定、昭弘が重たい口を開き始める。

 

「・・・織斑センセイが仰っていることは尤もです。ですが、オレはそれが最適解とは思えません。」

 

 昭弘がこれから述べようとしている提案を察して、楯無は口を挟む。

 

「・・・まさか貴方、あの無人機たちを「この学園に残す」なんて言うつもりじゃないでしょうね?」

 

 楯無の問いに無言で頷いた後、昭弘はいくつかの「利点」を上げていく。

 

「・・・・・・彼等を此処に置いておくメリットは3つ有ります。」

 

「先ず一つ目は、此処の生徒に対してです。彼等の持つテクノロジーは、整備課の生徒を始め、多くの生徒の知識として役立つでしょう。IS委員会に対しても、向こうの息の掛かった研究員をIS学園に置いておけば済む筈です。寧ろ、IS委員会所有の研究施設まで、輸送する時のリスクの方が高いかと思われます。」

 

「二つ目は、単純に“有事”の際の戦力として優秀と言うことです。オレが知る限りの彼らの実力は、国家代表候補生を凌ぎます。それに、今問題となっているアリーナAの復旧作業にも、大いに役立ってくれるでしょう。」

 

「三つ目は、これはIS委員会側に置いた場合のデメリットになりますが、ゴーレムを良く知る人間が居ないという事です。彼等IS委員会が、ゴーレムをどの様に扱うのかは分かりませんが、何らかの弾みでゴーレムが暴走しないとも限りません。その点オレは、彼等ゴーレムの事を良く知っています。何も知らない人間よりも、暴走させないように監視する自身はあるつもりです。」

 

「それにIS委員会には、IS至上主義と同じく、『女尊男卑至上主義者』が多く存在すると聞き及んでいます。そんな彼らが、無人ISを世の為に有効的に使うとは思えません。最悪、隠蔽の為に唯々廃棄処分される可能性もあります。」

 

 昭弘は、一通り利点を述べ終えると、千冬と楯無を曇りなき眼差しで見据える。千冬と楯無も、数十秒程口を閉ざす。

 

(へぇ・・・何も考えなかった訳じゃないようね。どの提案も一応理に適ってはいるわ。)

 

 楯無がそんな風に、昭弘に抱いていた印象を若干上方修正していると、千冬が突然とんでもない事を言い出す。

 

「良し、じゃあゴーレム・・・だったか?奴らを此処に留めておく方針で行くか。無論、コア状態の2機も含めてな。」

 

「・・・・・・って「良し」じゃないですよ!織斑先生ッ!!何勝手に話を進めちゃってるんですか!?」

 

 当然、楯無は混乱の極みに達する。

 

「いや、そうは言われてもなぁ・・・。アルトランドの言う通り、向こうの研究者やら技術者やらをIS学園に置いた方が、向こうもリスクが少なくて済むだろう。どうせIS委員会の上の連中など、己の保身の事しか頭に無い屑ばかりだ。生徒の安否など、表面上でしか心配しておらんさ。」

 

「・・・では、管理責任はどうなさるのです?もし何か事が起きた場合、IS学園が責任を押し付けられるのがオチでしょう?それに、私は此処IS学園の『生徒会長』です。少しでも生徒を危険にさらす可能性を秘めた物を、此処に置きたくはありません。」

 

 楯無の反論に対し、千冬は僅かに間を置いて答える。

 

「・・・更識、お前が学園の事を第一に考えるのは解るが、アルトランドが述べたメリットも捨てがたい。生徒の安全は勿論最重要だが、それと同じ位に、生徒が持っている「可能性」を広げることも重要だ。」

 

 楯無はそう言われて、言い返すことができなかった。それは千冬に賛同した訳では無く、言い返したところで意味が無いと判断したからだ。方向性は違えど、楯無も千冬も生徒を想う心は同じだ。そんな2人が反論を重ねたところで、お互いの意地の張り合いになるだけだし、抑々最終的に決議するのは、IS学園理事会と国際IS委員会だ。

 

「なぁに、もし彼等ゴーレムが暴れたりしたら、私とアルトランドで対処しよう。お前は構わんな?アルトランド。」

 

「はい。勿論です。」

 

 昭弘の迷い無き返答を聞いて、満足げな笑みを零す千冬。

 しかし、次の話に入ると、千冬は急に顔の険しさを増す。

 

「アルトランド。お前も既に察しは付いてるとは思うが、今後束との連絡は一切禁止とする。T.P.F.B.とのやり取りも有るだろうから、スマートフォンの没収とまでは行かないと思うが、もし束から連絡が来た場合、電話には出ず直ぐ様私に一報を入れてくれ。」

 

「・・・・・・分かりました。」

 

 昭弘は自身の予想が当たって、諦観した様に目線を斜めに下げる。

 

 千冬は一通り述べ終わると、徐に席を立つ。

 

「さて、では以上で取り調べは終了だ。色々と貴重な情報をありがとうな、アルトランド。明後日の理事会では、私やIS委員会の連中も出席するから、その場でゴーレムのメリットについて上手く説明しとくさ。管理責任に関しても、まぁ何とかなるだろう。」

 

 千冬の肯定的な反応を見て、昭弘は一先ず胸を撫で下ろした。しかし、未だ聞いていない事が残っていた昭弘は、そのまま千冬を呼び止める。

 

「あの・・・織斑センセイ。・・・ゴーレムたちには、いつ会えるのでしょうか?」

 

「ん?・・・少なくとも、今日は無理だな。今正に、整備課の教員たちがゴーレムと意思疎通を繰り返しているらしいのだが、今ゴーレムが保管されている場所は、原則生徒の立ち入りが禁止となっている。其処で危険性が薄いと判断された後、少しの間だけ地上の格納庫へと移動させるそうだ。」

 

「・・・分かりました。(・・・今の言い方からすると、サブロたちは今地下に居るのか?)」

 

 今現在、サブロたちには記憶が無い。無論、昭弘の事も一片の欠片も無く忘れてしまっている。

 それでも昭弘は、一刻も早くサブロたちの顔が見たかったのだ。そして、どうしても彼等に直接言わなければならない事があったのだ。

 むず痒い思いを抱えながらも、昭弘は一先ず肩の力を抜いて、生徒指導室を後にする。

 

 その後昭弘は、予定通り午後から保健室にて身体検査を行い、身体に別段異常が無いと言うことを確認して貰った。

 グシオンの単一仕様能力に関しては、余程の事が無い限り使用を極力控える様に命じられた。

 

 それらが全て滞りなく終了して、昭弘は漸く自身が殺されていないという事実に気付いて安堵した。

 

 

 

 取り調べが終了した後、楯無は生徒会室へと続く廊下をゆっくりと進みながら、今回の襲撃事件について頭を巡らせていた。

 

(・・・今回の襲撃の目的は恐らく、MPSと無人ISを戦わせる為。あの状況は、そうとしか考えられない。)

 

 実際、IS学園の重要なデータは何一つ盗まれておらず、教員部隊を近づけさせないような上空の無人ISの動きも相まって、楯無はそう考えていた。

 

(白式と甲龍まで戦わせたのも、恐らくそれに関係している筈。アリーナAへの「クラッキング」のタイミングから考えて、意図的に白式・甲龍を無人ISと戦わせたのは明らかだし・・・。)

 

(それと・・・昭弘・アルトランド。此処IS学園に対して、敵対意識は無い様だけど・・・。今回の学園襲撃も、私の予想が正しければ、間接的な原因は彼にある。・・・・・・少なくとも、安易に「味方」と解釈しない方が良さそうね。やっぱり今迄通り警戒して・・・。)

 

 色々と考えている内に、気が付いたら楯無は生徒会室の扉を開けてしまっていた。

 扉を開けた先は正に『地獄絵図』と形容してもいい程に、生徒会役員たちが天手古舞であったのだ。

 クラス対抗戦が中止になったと言う事は、即ち優勝したクラスも存在しないという事。では褒賞はどうなるのかと言う事で、生徒からの問い合わせが殺到しているのだ。

 

(はぁ・・・先ずこっちからね。)

 

 自由奔放な生徒会長殿の平穏は、暫くは訪れそうにない様だ。

 

 

 

 

 

「んむーーっなぁんか肩凝ったぁ~~。」

 

「オレもだぁ~。」

 

 一夏と鈴音もまた、長い取り調べが漸く終わった所であった。2人が同じ様に背伸びをしながら廊下を歩いていると、一夏は思い出した様に口を開く。

 

「そう言や、結局勝敗は決まらなかったけどさ、あの約束・・・どうすんだ?」

 

「ブホッ!?」

 

 一夏の言葉を聞いて、鈴音は不覚にも奇声を上げてしまう。その直後、少し慌てながらも即座に言葉を返す。

 

「も、もういいわよっ!その約束はぁ!!」

 

 鈴音の半ばやけ糞な返答に対し、一夏は更に言葉を綴る。

 

「いや、良くはないだろ。それじゃあ結局、何でオレが鈴に怒られたのか解らないし。お前の買い物だって・・・。」

 

 そう言われて、鈴音はらしくも無く腕組みしながら考える。

 

(むーん・・・どう落とし所を着けるかなぁ。このままじゃ、何か中途半端よね・・・。ぐぬぅ、こんな時、アルトランドならどんなアドバイスを!?)

 

 鈴音は心の内側で葛藤しながらも、漸く落とし所が見つかったのか、一夏に向けて右手の人差指を突き立てながら言った。

 

「うおっ!?な、何だよ?」

 

「・・・両方勝ちってことにしましょう!!結果的にではあるけど、襲撃してきた無人機の1体を2人で倒したんだから、アタシはそれでもいいと思うわ!」

 

 鈴音の提案に、一夏は目を丸くして感心する。

 

「成程!良いなソレ!じゃあ早速お互いの約束を果たそうぜ!!鈴がオレを引っ叩いた理由と、買い物に行くって約束だったよな?」

 

「わ、分かってるわよ!!ち、ちゃんと理由を説明するから、ちょっと待ってなさい!!」

 

 鈴音は頬を赤く染め上げながらそう言うと、目を瞑りながら深呼吸をする。

 ある意味、ここからが鈴音にとって最大の正念場であった。

 

「・・・その前に先ず、一言ね。その・・・ゴメン。アンタのこと引っ叩いたりして。」

 

「あっ、いや・・・。・・・・・・気にすんな!」

 

「・・・・・・アンタを引っ叩いた理由は、アンタが酢豚の約束を勘違いして覚えていたから。」

 

「・・・やっぱそうか。それで、あの約束の本当の意味は?」

 

 これ以上先を行ってしまえば、それは最早『告白』と同義である。鈴音も当然そんなことは百も承知だ。

 鈴音の心の鼓動が全身に響き渡る。その喧しい鼓動音が、鈴音の発声の邪魔をする。

 

ーーー正直に「好きだ、愛してる」と言うしか、無いんじゃないのか?

 

 しかし、あの時の昭弘の声が、鈴音の中で響き渡っている鼓動音を一瞬だけ掻き消してくれた。ーーー今だ。鈴音がそう思った時には、彼女の告白は終了していた。

 

「あの約束の本当の意味はねぇッ!「これから毎朝、アタシが作った味噌汁を飲んで欲しい」って意味だったのよ!!」

 

 言い切った直後、鈴音は「しまった」と心の中で大きく叫んだ。普通の人間なら、今の言葉が「愛の告白」であると容易に解釈するだろう。しかし、相手は()()織斑一夏。筋金入りの朴念仁には、今の言葉の真意ですら、常人とは全く別の解釈として映ってしまう。

 

「・・・そうだったのか。鈴、オレに毎日酢豚を食べて貰うことにより、どの味付けが一番美味なのか、オレに採点して欲しかったんだな!!クソッ!!ホントにごめん!鈴!!どうしてオレはこんな簡単なことに今迄気付かなかったんだッ!!?」

 

 鈴音は余りにも予想通りな一夏の反応を見て、口を「あ」の字に開けながら半ば放心状態に陥った。そんなこと等気にも掛けずに、尚も一夏は上機嫌に話を進める。

 

「良しッ!酢豚の真意も解ったことだし、今度はオレが鈴の約束を果たす番だな!!うーん、折角の買い物なんだし、昭弘や箒たちも誘おうぜ!鈴!!」

 

「・・・・・・・・・もう、好きなだけ誘えばぁ~~~。」

 

 鈴音は放心状態のままそんな言葉を発すると、何処までも永遠に続いている様に見える廊下を、フラフラと進んで行く。

 すると、突然ピタリと止まる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ん?どうした鈴?」

 

 突然立ち止まる鈴音に、一夏は何げない顔で尋ねる。すると・・・。

 

「ウガア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!!!そんなド直球なことッ!!!やっぱ言える訳無いでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!アルトランドのヴァカァァァァァァァァ!!!!アタシはもっとヴァカァァァァァァァァァァ!!!!!一夏はもっともっともっとヴァカァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 鈴音は発狂した様に奇声を発し、頭を掻きむしりながら廊下を全力疾走で駆けていく。

 

「お、おい!待てよ鈴!!廊下を走るな!!」

 

 一夏も又、廊下で危険行為を繰り広げている幼馴染を止めるために、早歩きでそのまま続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー篠ノ之束の某ラボーーーーー

 

 盲目の少女が、銀色の美しい髪を棚引かせながら、短い歩幅で重厚な自動扉へと近づいていく。少女がその扉にある程度近付くと、文字通りに自動扉が真横にスライドし、薄暗い内装が露わになる。

 

「おんやぁ、クーちゃん!!どしたのどしたの☆」

 

 すると、いつも通り機械でできた兎の耳を付けた束が、これまたいつも通りな感じでクロエに近づく。傍に居たジュロもそんな束に釣られて、クロエが佇む入り口の方へと向かう。

 当のクロエは何故か恥ずかしそうに、自身が束の研究室に来た訳を話す。

 

「・・・その、何だか・・・眠れなくて・・・・・・。」

 

 ボソボソと己の寂しさを主張するクロエに対し、束は「プププー」と嘲笑を堪えながら、人差し指でクロエの右頬を優しく突っ突く。

 

「しょうがない奴め~☆ま、タロもジロもサブロたちも居なくなっちゃったし、しゃーないしゃーないって!」

 

 束は自分でそんな事を言うと、何故からしくも無く黙り込んでしまう。余りにも長く黙り込んでいる束に対して、クロエがどうしたのか訊こうとする。しかし、束が口を開く方が少しだけ早かった。

 

「・・・・・・ねぇ、クーちゃん。・・・私の事、恨んでるよね・・・。」

 

 束はそんな力無い声で、クロエに束自身の心の内を吐き出す。クロエは、そんな束に怒りも哀れみも見せずに、少しだけ悲しげな表情を見せながら、今度ははっきりと己の想いを口に出す。

 

「・・・確かに、タロたちが居なくなったのは、私にとってこの上なく悲しいことに違いはありません。」

 

「ですが、私にとってもタロたちにとっても・・・・・・貴女が一番なのです。」

 

 束は、そんなクロエの言葉を聞いて、表情を隠すように視線を床へと向ける。

 

「貴女の為に、貴女の命令で死ねるのなら、きっとタロたちも本望だった筈です。そしてそれは・・・・・・私も同じです。私を此処迄生かせてくれた貴女に、「死ね」と言われれば・・・・・・私は喜んで死にます・・・。」

 

《クロエ様・・・。》

 

 クロエの覚悟とも悲壮とも取れる言葉を聞いて、ジュロは思わずクロエの名を呼ぶ。

 再びクロエは、いつまでも俯いている束に声を掛ける。

 

「・・・寧ろ、タロたちは幸せ者です。自分たちの為に泣いてくれる人が居るのですから。・・・今の束様みたいに。」

 

 束はクロエのそんな言葉を聞いて、俯きながら必死に言葉を紡ぎ出す。

 

「はぁ?何であんな奴等が居なくなった位で、この天災束様が泣かなきゃなんないのさ?寧ろ毎回喧嘩ばっかしてるタロやジロが居なくなって、済々している位だよ?クーちゃん盲目だからって、あんまし適当言っちゃいけないよぉ?」

 

「・・・・・・でも・・・束様の顔から、涙の匂いがします。」

 

 束はクロエのその一言で、まるでダムが決壊したかの様に力無く姿勢を崩してしまう。そして涙腺から流れ出る感情の雫をそのままに、クロエを抱き締める。

 

「・・・・・・ホント・・・駄目だよね、束さん。夢の為に・・・覚悟決めたつもりでいたのに・・・・・・。」

 

 束は涙声を隠そうともせずに、更にクロエに言い聞かせる。

 

「それとね・・・クーちゃん・・・・・・。束さんなんかの為に・・・「喜んで死ぬ」なんて、言わないで欲しい・・・。」

 

 束はそう言うと、クロエを抱き締める力を強くする。

 

「・・・良く理解しました。ごめんなさい、束様。」

 

 そう束に謝罪した後、クロエは不安げな表情を束に対して向け、恐る恐る口を開く。

 

「昭弘様とは・・・もう会えないのでしょうか?」

 

 束はそんなクロエの言葉を聞いて、今度は薄暗い天井を見上げる。そして、そのまま瞼を閉じる。

 1分程瞼を閉じ続けた束は、漸く瞼を開けると再びクロエに向き直る。その時の彼女の瞳は、先程の涙に被われていたソレではなかった。

 束はクロエの両頬に優しく両手を当てて言った。

 

「・・・ゴメン、クーちゃん。アキくんは、もう家族じゃない。・・・・・・諦めて。」

 

 束が無情にもそんな事を言い捨てると、クロエは再び悲しげな表情を露にし、無言のまま頷いた。

 

 その後、束はジュロに対してクロエに付いていてあげるように指示し、クロエとジュロはそのまま研究室を後にする。

 1人となった束は、傍にあった椅子に力無く腰掛けると、溜息と同時に心の中身を吐き出す。

 

「はぁ・・・ホント、束さんってどっち付かずだなぁ。」

 

 束は、疾うに覚悟を決めていた筈だった。「夢」の為にどんな犠牲を払っても構わないと。

 しかし、実際の程はどうだろう。自分自身でタロたちの犠牲を選択しておきながら、その結果泣き崩れ、挙げ句の果てにはクロエにまで心配を掛ける始末。

 結局彼女は、未だに“割り切る”ことが出来ていないのだ。夢を叶えたい。けどその為に、出来れば家族を犠牲にしたくない。出来れば昭弘にもう一度会いたい。そんな想いが、未だに彼女の中でドロドロと燻っているのだ。

 そして次の台詞こそが、束が割り切れていないと言う何よりの証拠だった。

 

「・・・サブロ、シロ、ゴロ、せめて箒ちゃんだけでも・・・・・・・・・護ってよね・・・。」

 

 束の計画により、世界が大きく乱れる事は、束自身1番良く解っている。先ず間違いなく、世界を巻き込む大きな戦争が起きるだろう。そんな中、IS学園に被害が及ばない保証など何処にも無い。その被害は、当然彼女の妹にも・・・。

 天才故に、天災故に、何だって手に入った少女『篠ノ之束』。そんな彼女は、「選択」と言う概念そのものから、余りにもかけ離れすぎていた。

 

ーーー夢も、妹も、家族も、何一つ失ってなるものかーーー

 

 そんな切望にも似た彼女の想いは、哀しい程に勢いを増し、選択と言う概念を飲み込んでいった。




私の構成力では、10000字チョイで纏めるのが精いっぱいでした。

次回は買い物回です。ようやくだ・・・ようやく昭弘を日常に引き戻すことができる。皆さん、長らくお待たせしてしまい、面目次第も御座いません。

あと、次回でタロとジロに対する昭弘の想いもしっかりと描写しますので、どうかご安心を。



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第14話 決壊

皆さん大変お待たせしました!

買い物回です。ゴーレム要素はありません(大嘘)6人分の私服のコーデ考えるのスゲーキツかったゾ~。

あと、相変わらず文章構成クッソガバガバで、すみません。


ーーーーー5月1日(日)ーーーーー

 

 IS学園裏門にて、一夏は黒いレザーベルトで固定されている腕時計を凝視していた。時刻は午前09:01を指しており、黒い文字板を覆う透明なケースに、雲一つ無い澄んだ青空が薄く写る。

 

「・・・ねぇ、やっぱ30分前は早過ぎたんじゃないの?」

 

 隣で所在無さげにしていた鈴音が、一夏にそう声を掛ける。

 二人共私服に身を包んでおり、一夏は黒のチノパンと白のウエスタンシャツをシンプルに着こなしていた。鈴音は、白いデニムのホットパンツとショッキングピンクのバルカン・ブラウスを着ていて、一夏と比べるとかなり派手さが目立った。

 

「まぁけど、一応言い出しっぺであるオレたちが、最初に集まっとくべきだろ?」

 

「確かにそうだけど、細かいこと言うなら皆も誘うって言ったのはアンタよ。」

 

「うっ・・・・・・スマン。」

 

 約束とは言え、一夏と二人きりではない鈴音は、若干不機嫌な様子だ。

 箒とは違ってコミュ力の塊である鈴音自身は、他人と関わることに之と言った抵抗はない。しかし、大好きな異性と二人きりで居たいと言う思いは、やはり女としての性なのだろう。

 鈴音は今更になって、「買い物じゃなくてデートって言えば良かった」と後悔してみる。

 

 二人がそんなやり取りを繰り返してから10分後、2つの人影が少しずつ一夏と鈴音に近づいて来る。

 

「おっ!セシリアとのほほんさんだ。おはよう!」

 

「おっはよーー。」

 

 比較的近付いてきた所で挨拶する一夏と鈴音に対し、セシリアと本音も足早に歩を進めながら挨拶を返す。

 

「おはよ~~~オリムーにリンリン~~~。」

 

「おはようございます。一夏、凰さん。」

 

 本音は相変わらず袖のダボダボなパーカーにハーフパンツと言うコーデであり、フードには獣の耳の様な飾りが付いていた。

 セシリアは白のシャツジャケットを上に羽織っており、青くて真っ直ぐなタイトスカートを履いていた。今日は愛しの一夏の為に、より一層服装に気合いを込めて来たようだ。

 

 2人が裏門に到着すると、鈴音は先程の顰めっ面を喜色溢れる笑顔に切り替え変えながら、セシリアたちに第一声を掛ける。

 

「改めて、中国代表候補生の『凰鈴音』よ!呼び方は『ファン』でも『リン』でも良いけど、さっきの布仏さんみたいに斬新な「渾名」があるなら、是非聞かせて欲しいわ!」

 

 冗談も踏まえた鈴音のさっぱりとした自己紹介に対し、セシリアも気品溢れる笑顔を以て返礼する。

 

「御丁寧でユーモア溢れる自己紹介に、感謝致しますわ。『セシリア・オルコット』と申します。イギリスの代表候補生を努めさせて頂いておりますわ。」

 

「『布仏本音』だよ~~。宜しくね~リンリン~。」

 

「にしてもアンタたち、そんな格好で暑くないの?それともアタシが暑がり過ぎるだけ?」

 

「お洒落は暑さや寒さを耐えてこそだと、私は考えておりますわ。」

 

「暑いけど可愛いでしょ~~~?」

 

 滑らかに会話を進めていく3人の社交性の高さに、一夏は苦笑いを浮かべながら尊敬にも似た関心を覚えた。

 その反面、一夏は中々姿を見せない昭弘と箒を心配していた(と言っても未だ10分前なのだが)。

 

(箒の奴、オレより早く起きてた癖に「先に行ってろ!」って・・・そんなに服装に拘る奴だったかな?昭弘は・・・・・・ノックしたときの反応からして、まさかの寝坊か?)

 

 

 

 裏門へと続く道を、昭弘と箒は早足気味に進んでいた。

 昭弘はジトリとした眼差しを箒に向けながら、ため息混じりに吐き捨てる。

 

「・・・ったく、愛しの誰かさんの為とは言え、服選ぶのにどんだけ時間掛けてんだ。」

 

 箒は僅かに慌てた様子を保ったまま、昭弘に「言い訳」と言う名の単語の羅列を吐き捨てていく。

 

「い、一夏の事ばかり考えながら服を選んでたら、時間を忘れていたんだ!!」

 

 そんな事をお互いに言い合いながら、昭弘は白いTシャツと迷彩柄のカーゴパンツを、箒は水色で七分丈のジャケットと黒のミディスカートを各々小刻みに揺らしながら歩を進める。

 

 そんな中、ふと箒は自身の中で燻っている感情に違和感を覚える。

 

(・・・何だ?私は今、緊張している筈だ。自分の服装に対する一夏の反応を、他の何よりも意識している筈だ・・・。なのに何と言うか・・・()()()()()()()()様な感じがするのは何故だ・・・?)

 

 その理由は簡単だ。既に昭弘に服装を見られているからである。

 しかし、未だ昭弘への想いに無自覚な箒が、その理由に勘づく筈も無く、箒は謎の違和感を抱えたまま一夏たちと合流することになる。

 

 その際、箒はやはりと言うべきか鈴音と顔を合わせようとはせず、鈴音も箒と無理に話そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 IS学園のある人工島から、日本本土へと延びる長大なモノレールを滑らせること約30分。一同の乗るモノレールは高層ビルに囲まれている駅に到着し、一同はその駅近くに位置する広大なショッピングモール『レゾナンス』へと向かっていた。

 

「にしても、昭弘の筋肉相変わらずスゲェよなぁ。Tシャツパッツンパッツンじゃん。」

 

「さっきもモノレールで同じこと言ってきたが、そんなに凄いもんなのか?オレの筋肉は。」

 

「ねーねーアキヒー『おっぱい』の筋肉触ってもいい~~?」

 

「・・・・・・なぁ布仏よ。ちゃんと『胸筋』と言ってくれないか?かなりゾッとしたぞ、その言い回し。」

 

「アッハッハ!!おっぱいの筋肉は流石にないだろ!のほほんさん!!」

 

「え~~?だってアキヒーが一番巨乳だよ~~?」

 

「「「・・・」」」

 

 昭弘の筋肉で盛り上がる一夏たちを、箒、セシリア、鈴音たちは濁り切った瞳で後方から見据えていた。鈴音に至っては引き攣った笑みまで浮かべている。だが無理もないのかもしれない。折角一夏の為に、服装にいつも以上の気合いを入れてきたと言うのに、当の一夏は先程から昭弘の筋肉に夢中だ。

 

(不味いな・・・。)(不味いわね。どうせ貧乳ですよーだ。)(不味いですわね・・・。)

 

 昭弘の独壇場に危機感を募らせる女三人衆。

 そんな中、先に行動を起こしたのはセシリアだった。彼女は、昭弘を押しのけて彼らの間に割り込むと、にこやかに一夏の右腕を両手でしっかりと掴む。

 

「そう言えば一夏!未だ私が着ている衣服の感想を聞いておりませんでしたわ!さぁさ!是非ご感想を!!」

 

「うぉ!?な、何だよ突然!?」

 

 朴念仁の一夏は当然その様な反応を示すが、少しだけ悩んだ末にやはり朴念仁らしい感想を述べる。

 

「・・・似合うけど、やっぱ暑そうだよな!セシリアの服装!さっきも思ったけどさ。」

 

「えっ?あー・・・・・・あ、暑くなどありませんことよ?」

 

 一夏の微妙な反応が予想外過ぎたのか、セシリアも又苦笑いを浮かべながら微妙な返答をしてしまう。

 

 セシリアが前に出たことにより、箒は鈴音と一緒に取り残される。気不味い空気の中、箒はチラリと一瞬だけ鈴音に視線を移す。

 すると其処には、目を細めて箒の顔を凝視している鈴音の姿があった。睨んでいると言うよりは、何かを探っていると言った感じだ。

 

「な、何だ?」

 

 箒は、声のトーンを低くして威嚇する様に訊ねる。

 

「うーーーーん・・・・・・。ごめん、やっぱ何でも無いわ。それより、早く進まないと逸れるわよ?」

 

 鈴音は、箒の反応に動じる事無くそう答えると、前方の昭弘たちにとっとと合流するよう箒に促した。

 

 

 

「一夏、私にもジーンズが似合うかどうか、御検討宜しいでしょうか?」

 

「ちょっと一夏ぁ。これ試着するから見てくんない?」

 

「見て見てオリムー、猫耳ぃ~~。」

 

「分かったから!一人ずつにしてくんない!?」

 

 駅から歩くこと10分。会話に夢中だったからか、気が付けば昭弘たちはレゾナンスに到着していた。

 そのレゾナンス内に並んでいる様々なテナントの一区画にて、やはりと言うべきか、女性陣は早速今流行りのコーデを試している様だ。

 

(・・・今更ながら、慣れないもんだな。こう言うのは。)

 

 そんな4人を遠目に見ながら、木造りのベンチに腰掛けた昭弘はそんな事を内心で呟く。

 

 今回昭弘がこの「買い物」に参加したのは、決して時間を持て余していたからではない。件のゴーレム襲撃事件において、勝手にMPSを起動させた事への罰則として、反省文を20枚以上書かねばならないのだ(襲撃者撃墜の功績からか、謹慎処分等には至らなかった)。今朝の寝坊も、深夜までそれを書いていた為である。更には、サブロたちの今後について、整備課との綿密な調整や引き継ぎ等も行わなければならない。要するに途轍も無く多忙なのだ。

 それでも合間を塗って今此処に居るのは、ただ単純に箒や一夏たちと一緒に居たかったからだ。・・・若しくは、ゴーレムたちの事を一旦頭から離したかったのかもしれない。

 

「・・・なぁ昭弘。何やら疲れている様に見えるが・・・大丈夫か?」

 

 心配そうに昭弘を見詰めてくる箒に対し、昭弘は平静を装う様に静かな笑みを浮かべながら答える。

 

「・・・・・・まぁ、ここ2日間で、色々あったからな。そんなことより、お前も一夏に何か服でも選んで貰ったらどうだ?」

 

 昭弘がはぐらかす様にそう返すと、箒は表情をそのままに再度訊ねる。

 

「はぐらかさないでくれ。どう見ても疲れている、と言うより、何かソワソワしてないか?まるで何かやることでも残っているみたいに・・・。」

 

 箒にそう言われて、昭弘は「つくづく自分は隠すのが下手な男だ」と思った。

 結局彼は、今此の時もサブロたちの事が頭から剥がれなかったのだ。

 

(・・・オレも勝手な男だよな。要は、ゴーレムたちの事で「共感」してくれる相手が欲しいだけじゃねぇのか?)

 

 そう自身を蔑みつつも、昭弘自身内側に溜め込んでいる感情を、少しでも吐き出したいと思っていた。

 昭弘は言葉を慎重に選び抜くと、逆に箒に問い掛けてみる事にした。

 

「・・・なぁ箒よ。お前はあの無人ISについて、どう思う?」

 

「?・・・・・・アイツらをか?」

 

 小声で言い放たれた昭弘の脈絡の無い質問に、箒は首を傾げる。しかし、直ぐに意識を切り替えると、腕組みしながら数秒程沈黙する。

 その後、自身の纏めた考えを口にした。

 

「これは、単なる勘に過ぎないが・・・・・・「悪い奴らじゃない」・・・様な感じがした。なんと言うかこう・・・人を傷付けることを躊躇っている様な、そんな感じがしたのだ。いやまぁ、そもそも機械に感情がある訳無いとは思うが。」

 

 箒の「答え」を聞いて、昭弘は不思議な安心感を得るに至った。

 箒としては、特に何の意識も無しに答えたつもりなのだろう。しかし、昭弘にとってはまるで自身の溜め込んでいる感情に共感してくれている様な・・・そんな気分にさえなったのだ。

 昭弘は友人の心ある言葉に、内心にて感謝の意を表す。

 

「・・・そうか。」

 

 昭弘は一言だけそう返すと、先程の焦燥感溢れる表情を綺麗さっぱり消し飛ばし、普段の不器用そうな笑顔を箒に見せる。

 

「さて、オレも何か服でも見てみるか。」

 

 そう言って、一夏たちと合流しようとする昭弘を箒は慌てて止めようとする。

 

「あっ!待て昭弘ッ!未だ私の質問に答えてな・・・」

 

ーーー!!?ーーー

 

 昭弘に意識を集中させていた箒は、自身の直ぐ左横から突き刺さる視線に、大分遅れて反応する。そこには、何時の間にか先程と同じ様に自身を凝視している鈴音の姿があった。

 

「な、何なのだ貴様は!?さっきから人の事をジロジロと・・・。」

 

 ズイと迫る箒に対し、鈴音は表情を変えないまま昭弘たちの方角をチラリと確認する。自分たちとはそれなりに距離がある事を確認すると、再び箒に向き直って口を開く。

 

 

 

アンタ、昭弘の事好きでしょ?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 

 

 その言葉は、箒を混乱の渦へと叩き落すには、余りにも十分過ぎる程の破壊力を秘めた一言であった。その余りにも唐突過ぎる言葉に、つい箒も間の抜けた声を漏らしてしまう。

 声を漏らしてからどれ位経っただろうか。箒にとっては短すぎるその間も、実際には鈴音がイラ立ち始める程時間が経過していた。

 痺れを切らした鈴音が箒の左頬を軽く2回叩く事で、漸く箒は声を発することができた。

 

「い、いやいやいやいやいやいや!!なな、な、何を訳の分からない事を言っているッ!!?そんな訳があるか!!!」

 

 動揺しながらも激しく否定の意を示す箒に対し、鈴音は自身が「観察」した結果を冷静に述べる。

 

「だってアンタ、さっきから昭弘の事ばっか気に掛けてるじゃない?」

 

「別に、特別気に掛けてる訳では無い!!一人で居るから「友人」として放っておけなかったのだ!」

 

「いや、さっき昭弘はアタシたちに「後で行く」って言ってたじゃない。」

 

「それは・・・昭弘の様子が、気懸りだったから・・・。」

 

「だから、「特別」気に掛けてるじゃない。何でそれを顔真っ赤にしながら否定すんのよ?」

 

 鈴音の淡々とした受け答えが、徐々に箒を追い詰めて行く。遂に何も言い返せなくなった箒は、歯軋りをしながら下を向く。

 そんな箒が少し居た堪れなくなったのか、鈴音は溜め息交じりで助け舟を出す。

 

「はぁ・・・別に良いんじゃない?好きな人が何人居ようが。まぁ、最終的にはその中から1人を選ばなきゃならないんだろうけど。アタシとしても、「一夏が欲しいから昭弘とくっ付いて欲しい」なんて無粋な事言うつもりは無いし。」

 

 助け舟・・・とまでは行かなかったかもしれないが、鈴音の言葉で箒は普段の落ち着きをほんの少しだけ取り戻した。更に鈴音は続ける。

 

「後ね、アタシの言う事、あんまし気にしないでくれて良いわよ?アタシの悪い癖でさ、気になる事があるとつい余計な口が開くのよ。それにアタシの発言のせいで、アンタがアルトランドに変な意識向ける様になるってのも、どうもね・・・。」

 

 鈴音はそこまで伝えると、一夏たちの下へと戻って行く。

 大分心が落ち着いた箒は、両手で己の両頬を叩き、頭の靄を振り払おうとする。

 

(・・・・・・凰の言う通りだ!一々他人の言葉に惑わされるな!!・・・昭弘は私の大切な「友達」だ。・・・きっとこれからも。)

 

 箒は自身にそう厳しく言い聞かせ、靄を振り払った()()()になった。

 

 

 

 一通り買い物を終えると、一同は一先ず腹拵えをしていた。チョイスは「しゃぶしゃぶ」屋だが、日曜日と言うこともあって、時刻が13:00を回っていても未だに混んでいた。

 

「?・・・・・・??・・・・・・なぁ、肉ってのは焼くもんじゃないのか?何処にも「鉄板」らしき物が見当たらないんだが・・・。」

 

 昭弘の素朴な疑問に対し、皆一時唖然とするが、直ぐに「昭弘がしゃぶしゃぶに行ったことが無い」という事実を察する。そんな中、一夏が率先して昭弘の疑問に答えて行く。

 

「ここでは、肉を「焼く」んじゃなくて「茹でる」んだよ。焼肉とは大分食感が違うけど、サッパリしてて上手いんだぜ!オレと鈴が、肉とか野菜とかじゃんじゃん茹でるから、皆適当に取ってってくれ。こういうの慣れてるだろ?鈴。」

 

「(うわ、昭弘に良いとこ見せたいのね。)ハイハイ、まぁ言われなくてもやるけど。」

 

 そう切り出すと、一夏と鈴音は食材を捌きつつ、昭弘にしゃぶしゃぶの食べ方を教えていく。箒は肉や野菜を取りながらも、「何か手伝った方が良いのか」と言った具合に、チラリチラリと昭弘たちに視線を移す。本音は、構うことなくマイペースに食べ続けていた。

 そんな中、セシリアが昭弘に口を挟んで来た。

 

「全く、まるで大きな「お子ちゃま」ですわね。恥ずかしくありませんの?」

 

「・・・悪かったな。」

 

 セシリアが嘲笑しながら皮肉を口にすると、昭弘は顔を顰めて短く返す。

 しかし、その僅か数分後。

 

「アッ!アッツッ!!アッチチ!!ファ、凰さん!!何やら激しく沸騰しておりますわッ!!あ、溢れてしまうのではなくて!?」

 

 しゃぶしゃぶに慣れていない英国貴族は、鍋の中で盛り上がる熱湯の塊を見て喚き散らす。

 

「あーもう落ち着いて!火を弱めるから。後、アンタもう危なっかしいから、下手に手出さないで!」

 

 鈴音に叱られ、らしくも無くしょぼくれるセシリア。そんなセシリアを見て、昭弘はニヤつきながら次の言葉を言い放った。

 

「無理すんな「お子ちゃま」。」

 

 その直後、昭弘とセシリアの間で不毛な肉の取り合いが起きたことは、最早言うまでも無い事なのかもしれない。

 

 そうして昼食を摂り終えた後、一同は再び様々なテナントを観て回った。

 

 

 

 帰りのモノレール内にて、昭弘一同は大量の紙袋を抱え込んでいた。

 久しぶりの外出でストレスが発散できたからか、皆疲れながらもどこかサッパリとしていた。・・・ただ一人を除いて。

 

(ハァ・・・・・・折角の一夏との買い物でしたのに、一夏が一番話し掛けていた相手は、結局アルトランド(あの男)でしたわね・・・。)

 

 セシリア自身、一夏と昭弘の仲が良いと言う事は、とうに把握している。しかし、あの模擬戦以降、セシリアも一夏には多大な好意を以て接しているつもりだ。それなのに、未だに一夏からセシリアに接してくる割合は、昭弘と比べるとかなり少ない。

 セシリアは、その事実がどうにも気に食わなかった。「こんなにも一夏を愛しているのに、何故?」と。

 

(・・・一体何が足りないと言うのでしょうか?・・・人としての魅力?同性か異性か?・・・それとも、ISの技量?)

 

 確かに、IS・MPSの技量に関しては、昭弘に大きく天秤が傾く。今までほぼ互角であった両者の均衡は、あの学園襲撃事件を切っ掛けに崩れ去ってしまった。あの異次元的なまでのグシオンの機動・パワー・俊敏性。少なくとも今のセシリアとブルー・ティアーズでは、到底届く事の無い領域であった。

 

 セシリアは額に手を当てながら、昭弘と楽しそうに話す一夏の横顔を見つめる。

 

(・・・・・・・・・もし、私がアルトランドよりも強くなれば・・・・・・貴方はその笑顔を、私に向けてくれるのでしょうか・・・?)

 

 セシリアのそんな考えは、最早推測の域すら出ない。何の根拠も無い、単なる思い付きに等しかった。

 

 セシリアがあれこれ考えていると、いつの間にか本音がセシリアの顔を下から覗き込んでいた。

 

「セッシー、何だか怖い顔してるけど、大丈夫~~?」

 

 そう言われて初めて、セシリアは今自身がどんな顔をしているのか気付き、本音に対して苦笑を漏らす。

 

「いえ・・・私がもっと強くなったら、一体どうなるのだろうと考えていただけですわ。」

 

 そんなセシリアの言葉に対し、本音は迷うこと無く、満面の笑みで堂々と返した。

 

「セッシーがもっと強くなったら、もっともっともぉーっと恰好良くなるね~~!!だって『セッシー』だもん!!」

 

「ッ!」

 

 本音の笑顔と共に放たれたその一言で、セシリアの悩みは呆気なく消え去った。そうだ、自分は次期国家代表最有力候補『セシリア・オルコット』。その自分が更に強くなってどんなデメリットがあるのか。唯でさえ「完璧」な自分がその上更に強くなれば、最早落とせない男など居はしない。

 どの道『国家代表』を目指すには、更に実力を付けなければならないのだ。それに、何に関しても「負けっぱなし」は、自分の性に合わない。

 

(・・・強くなろう。IS乗りとしても、人間としても、女としても。そして・・・いつも「セシリア・オルコット」を見てくれている、本音(この娘)の為にも・・・。)

 

 セシリアは本音に柔らかい笑顔を向けて礼を言った後、紙袋の紐を握る手に力を込め、今度は昭弘に鋭い眼光を送る。それは、入学初日に向けた濁り切った眼光では無く、“倒すべき好敵手”に向ける覚悟の込もった眼差しであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー17:08 IS学園ーーーーー

 

「スマンな、アルトランド、布仏。日曜日に、しかも買い物帰りに呼び出してしまって。」

 

「いえ・・・。早いに越したことは、ありませんから。」

 

「私も大丈夫で~~す。」

 

 千冬はそう言いながら、昭弘と本音を後ろに従えて学園端に在る「格納庫」へと早足で進んでいた。

 

「私も驚いたよ。ほんの1時間程ではあるが、まさか僅か一日で、ゴーレムの地上格納庫への移動許可が下りるなんてな。ウイルスや自爆装置の様な物も見当たらず、意思疎通も極めてスムーズに進んだそうだ。・・・ここまで順調だと、逆に薄気味悪くなって来るな。」

 

「・・・・・・記録(記憶)が無くなっても、本来の“在り方”は変わらなかった・・・ってことでしょうか。」

 

「・・・かもな。」

 

「えへへ~無人ISと会話するの楽しみ~~。」

 

 一応生徒会の書記であり、整備にも詳しい布仏も、今回ゴーレムとの対面に参加することとなった。

 会話を続けながら早足で進んでいた彼等は、あっと言う間に格納庫へと辿り着いていた。

 格納庫には、整備課の教員が数名と、生徒会長である楯無が居た。昭弘はその中に一人、髪色がやけに印象的な少女を見かける。

 

(うん?・・・・・・アイツも、オレと同じ1年生か。「髪色」も含めて、生徒会長と何処か()()()()な・・・。)

 

 その楯無と何処か似ている「水色の髪の少女」は、格納庫の隅っこで静かに立っていた。

 しかし、今の昭弘はいつまでも初対面の他人に関心を引く程、心の余裕が無い。その少女の事を一瞥だけすると、昭弘は心臓の鼓動を早くしながら、正面の「ユニットハウス」の様な黒い物体に静かに近づく。

 その物体は、近くで見ると極めて重厚感のある外見をしていて、扉の近くには「パネル」の様な物が付いていた。話によると、IS学園の「地下施設」に直接通じているらしい。

 

「私だ、もうそろそろ出して良いぞ。」

 

 千冬は、物体の中に居るであろう教員にそう連絡を取る。楯無や未だゴーレムと話した事が無い教員が身構える中、千冬は特に之と言って緊張している様子は無く、ただ静かに扉を見つめていた。

 しかし、昭弘にはこれ迄に無い程の緊張が直走る。記憶を失った家族と、一体どう接すれば良いのか。何を話すかは事前に決めていても、“接し方”だけは実際にやってみなければ分からない。

 

ウィーン・・・・・・

 

 昭弘が緊張を抑えるのに四苦八苦している内に、その重厚そうな扉が真横にスライドして開かれる。先ずは、中から「先導役」らしき整備課の教員が出てきた。

 

「さぁ、もう出てきて良いわよ。」

 

 その教員の合図で、黒い物体の中から夫々「水色に白斑点」「深紅に白の2本線」「黄緑色で胸部に白の星」の模様をした全身装甲ISが、長い腕を小さく揺らして歩み出て来る。

 その内、水色に白斑点の模様をした1体が、昭弘に声を掛ける。

 

《初メマシテ!ボクハ『XFGQ-03 機体識別名:SA.BU.RO.』ト申シマス!以後、オ見知リオキヲ。》

 

 他の2体も、続いて自己紹介を行う。

 

《初メマシテ。同ジク『XFGQ-04 機体識別名:SHI.RO.』ト申シマス。私ノ「紅イボディ」ヲ、気ニ入ッテ頂ケタノナラ幸イデス。》

 

《同ジク『XFGQ-05 機体識別名:GO.RO.』ト申シマス。整備課ノ皆様トハ、トテモ有意義ナ時間ヲ過ゴサセテ頂キマシタ。》

 

 そんな彼等を目の当たりにして、楯無は思わず言葉を失ってしまう。

 

(・・・・・・本当に無人ISなのか、疑いたくなるレベルね。自己紹介に、冗句や感想まで織り交ぜてくるなんて・・・改めて、篠ノ之博士が途方も無い存在だと言う事が解ったわ。・・・まさか実は「中に人が入っている」なんてオチはないわよね?)

 

 3体の軽い自己紹介が終わると、昭弘は少しの間顔を俯かせる。記憶を失っていると事前に聞いてはいるものの、実際に会って「初めまして」と言われると、精神的なショックは何倍にも膨れ上がるようだ。それでも昭弘は、駄目元で訊いてみることにした。

 

「・・・『昭弘・アルトランド』だ。失礼を承知で訊くが、オレの事、覚えているか?」

 

 昭弘がそんな質問をすると、ゴーレムたちは人間の様な仕草でお互いのカメラアイを見合う。その後、サブロが質問に答える。

 

《・・・・・・申シ訳ゴザイマセン。貴方トハ、本日ガ初対面ノ筈デスガ・・・。》

 

 やはりと言うべきか、返って来たのは昭弘にとって残酷過ぎる一言であった。昭弘の顔を見て、昭弘の名前を聞いて思い出してくれる程、現実は生易しくはないらしい。

 昭弘は再び俯いた後、3体に謝罪の言葉を贈る。

 

「・・・・・・・・・いや、此方こそすまなかった。気にしないでくれ。」

 

 その後、他の初対面の者とも自己紹介をし、IS学園残留が決定した場合の流れなども軽く話し合われた。

 ある程度話が纏まり、昭弘と千冬以外の人間が解散すると、昭弘は千冬にある事を切り出す。

 

「織斑センセイ。ゴーレムたちと、少しだけ「個人的な話」をしても、宜しいでしょうか?・・・できれば、あの黒い直方体の中で。」

 

「ああ、構わないが・・・一応私も立ち会わせて貰うぞ?後、ついでに言っとくが、中からは操作無しで自動で出られるから安心しろ。」

 

「・・・・・・分かりました。」

 

 千冬は、条件付きで昭弘のお願いを聞き入れると、その黒い物体のパネル部分に左手を翳す。機械音と同時に扉がスライドすると、2名と3体が中に入って行く。

 

 

《ソレデ、アルトランド殿。話トハ、一体何デショウカ?》

 

 サブロが昭弘に訊ねるが、昭弘は未だに無言を貫いたままだ。暫くの間沈黙が続くかと思われたが、千冬やサブロたちの予想は大きく裏切られる事となった。

 

「!?」

 

《 《 《!!?》 》 》

 

 皆が驚くのも無理はない。何故なら、昭弘がいきなり両膝を付き、首を垂れて来たのだから。

 千冬が昭弘を問い質すよりも早く、昭弘が先に口を開く。

 

「お前達ッ!・・・本当にッ・・・・・・すまなかった!!!」

 

 昭弘のその言葉によって、皆の驚愕はいよいよ頂点に達しようとしていた。しかし、皆の反応など構わずに、昭弘は尚も続ける。

 

「オレはお前たちの家族を・・・タロを殺してしまったッ!!ジロも死なせちまったッ!!!・・・どうにか・・・・・・止めようとしたがッ・・・駄目だった・・・・・・。」

 

 昭弘の表情は、本人が俯いているせいで良く見えないが、濁りの無い透明な雫がポタポタと床に落ちていた。サブロたちは、その床に出来たシミを見つめながら、昭弘の言葉に耳を傾き続けた。

 

「・・・もう・・・お前たちに・・・・・・家族の記憶が無い事は分かっている・・・。そんなお前たちからしてみれば・・・・・・今のオレの行動なんざ、意味不明だろうさ・・・。それでもッ・・・ずっと、謝りたかったんだ。」

 

 昭弘は己の内に蔓延っている感情を、濁流の様に吐き出していく。それは最早、先程箒に対して吐き出したモノとは比べ物にならない程の激情であった。

 今の今迄、昭弘にはタロとジロを失った悲しみを吐き出せる相手が居なかったのだ。若しくは、悲しむ余裕さえ無かったのかもしれない。

 ソレを今「謝罪」と言う形を以て、サブロたちにぶつけているのだ。

 

 更に昭弘の激情は増大し、言葉による表現もより過激さを増していく。

 

「・・・オレはお前たちから、許して貰えるなどと思っちゃいない・・・。今この場でお前たちに殺されたとしても・・・・・・文句なんざ一言も口にしねぇッ!!」

 

 そう言うと、昭弘は土下座する様に頭をサブロたちの足下に向ける。まるで「殺してくれ」と言わんばかりに。

 千冬は驚愕に顔を歪めつつも、念の為携えていた警戒棒を構え、サブロたちを睨む。

 

 そのまま硬直状態が続き、息苦しいまでの沈黙が昭弘と千冬を襲った。

 しかし、サブロが発する機械音声により、その状態はアッサリと途切れた。

 

《・・・・・・・・・「アリガトウ御座イマス」昭弘様。》

 

 それは、余りにも意外な一言であった。少なくとも昭弘は、彼等に感謝される様な事はしていない。寧ろ、今自分がしている事は、彼等にとってはとんだ「傍迷惑」だろう。

 サブロの想いを代弁するかの様に、ゴロが続く。

 

《確カニ我々ニハ、過去ノ記憶ガ御座イマセン。怒レバ良イノカ、悲シメバ良イノカ、許スベキカ許サナイベキカ・・・我々ニハ解リマセン。》

 

 更にシロが、その代弁に加わる。

 

《シカシ、我々ノ中デハ、今確カニ渦巻イテイル「感情」ガアリマス。ソレハ怒リデモ悲シミデモナイ、“嬉シサ”デス。》

 

 「嬉しさ」という単語を耳にした昭弘は、少しずつ頭を上げていく。

 

《機械デアル我々ノ為ニ、泣イテ下サル人ガ居ルト言ウ事。・・・・・・ソノ事実ガ、我々ハ堪ラナク嬉シイノデス。》

 

「・・・」

 

 尚も姿勢をそのままに、沈黙を続ける昭弘に、サブロが歩み寄って腰を屈める。

 

《・・・・・・モシ・・・モシモ僕タチガ、全テヲ思イ出ス日ガ来レバ・・・ソノ時ハ『タロサン』ヤ『ジロサン』ノ話ヲ沢山シマショウ・・・・・・。》

 

 サブロのその言葉を最後に、3体は地下施設へと続くエレベータの前まで歩を進める。そのタイミングに合わせる様に、今度は千冬が昭弘に歩み寄る。

 

「・・・・・・アルトランド、私もこのまま彼等に付き添うが、お前の方は・・・・・・もう大丈夫か・・・?」

 

 千冬の声掛けに対し、昭弘は無言のまま小さく頷く。

 

 

 千冬たちが地下施設に移動した後、昭弘は暫くの間一人でその場に座り込んでいた。

 全てを吐き出した今の昭弘の中には、虚無感と安心感、そして僅かな寂しさが残っていた。

 

 中でも一番色濃く残っている感情は、記憶を失っても()()()()()()()()()()家族への“嬉しさ”であった。




今回一夏の影が薄かったけど、ラウラ編辺りから一夏の抱える闇を皆さんに見せて行けるかと思います。
簪さんは、一応容姿だけ出しときました。生徒会でも整備課の人間でもないけど、楯無の妹だし整備得意だし、ま、多少はね?


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第15話 波乱は直ぐ其処に

今回も日常回・・・なのかな?
昭弘と鈴音みたいな「男友達」「女友達」な関係っていいですよね。何と言うか絶妙な距離感と言うか、なんか安心するんですよこの2人。



ーーーーー5月3日(火)ーーーーー

 

「にしても、凄い展開になってきちゃったよねーー。」

 

 1時限目終了後の休み時間にて、谷本がふとそんな話題を切り出す。

 

「谷本さん、それって全校集会での、無人ISの事か?」

 

 一夏が確認する様に訊ねると、谷本は肯定の意を示す。

 

「可愛かったよね~~。」

 

「えっ!?・・・そ、そうかな?」

 

 本音の少しズレた反応に対して、谷本は顔を引きつらせながら視線を逸らす。

 その話題に、相川も乗っかってくる。

 

「でも確かに、私も急展開過ぎて、未だに混乱してるもん。さっきの授業も、全然頭に入って来なかったし。」

 

 今朝、全校集会にて、3体の無人IS『ゴーレム』の紹介が行われた。生徒たちは、前日に「明日の朝、全校集会を開く」としか伝えられていなかった。

 「事前情報がソレしか無い中」「学園の襲撃犯が」「ステージの中央で」「流暢に挨拶をしてきた」のだ。一般生徒が混乱するのは、至極当然と言えた。

 結局彼等は、月曜日に開かれた「国際IS委員会とIS学園理事会との合同会議」にて、学園残留が決定したのだった。

 昭弘の提案通り、IS委員会側の研究員をIS学園側に置くと言う事で、双方は納得した。しかし、管理責任は学園側が負う事になり、昭弘の提案を持ち出した張本人である千冬自身にも、「現場監督責任」が課せられた。

 無論、唯でさえ多忙な千冬が現場まで見張れる筈も無く、実質的には整備課の教員が現場を指揮する事になる。

 

「正直、アタシは反対ね。もう決まった事だからしょうがないけど。」

 

 すると、当然の様に1組に居座っている鈴音が、当然の様に会話に割り込んで来る。

 彼女がこれから述べる言葉は、正に全校生徒皆が持っている懸念の代弁と言えた。

 

「危険過ぎるわ。アタシや一夏、昭弘はアレの同型機と実際に戦っているけど・・・・・・正直、 もう思い出したくない位に強かったわ。」

 

「まぁ確かに、あの『白い奴』と同型機のアイツ等が暴れたらと思うと・・・ゾッとするよな・・・。」

 

「私の見立てでは、少なくともあの『黒』と『白』の無人ISの実力は、国家代表にも匹敵するかと・・・。」

 

 鈴音の言葉に、一夏とセシリアは同意にも似た反応を示す。

 

 昭弘は、彼女たちの意見を腕を組みながら只黙って聞き及んでいた。

 

 クラス全体がゴーレムに対して否定的になりつつある最中、箒が杭を打ち込む様に話に割って入る。その時の表情は、僅かに「ムッ」としている様にも見えた。

 

「私は、特に問題は無いと思うぞ?皆の気持ちも解らんでもないが、私は整備課の先生方の判断を信じる。現に、彼等は・・・ゴーレムは、アリーナの復旧を既に済ませてくれたのだろう?」

 

 意外な人物からの意外な発言によってか、クラスは一旦静まり返る。ゴーレム自身が原因とは言え、アリーナの復旧作業を昨日一晩で片付けてくれた事実は変えようがない。

 そのタイミングを見計らってたのかは定かではないが、昭弘は漸く口を開く。

 

「何はともあれ、先ずは今後のことだろう。・・・確か鷹月と四十院は、2年生からは整備課志望だったよな?お前たち的には、今後の事で何か思うことはあるか?」

 

 そう言いながら、昭弘はクラスメイトである『鷹月静寐』『四十院神楽』に意見を求める。本音にも訊ねようと思ったが、ゴーレムに対して特に思うことは無さそうだったので、止めておいた。

 

「うーん・・・・・・やっぱり、不安はありますね・・・。ただ、“恐怖”と言うよりも、整備課として上手くやって行けるかと言う「自分への不安」と言いますか・・・。」

 

 そう鷹月が「黄色いヘアピン」を少しばかり弄りながら、オドオドと昭弘の質問に答えると、四十院も続け様に答える。

 

「私は、特に不安等は無いわね。寧ろ、早く彼等「ゴーレム」と接触してみたいと言う「好奇心」の方が大きいわ。・・・それと鷹月さん?貴女、十分しっかりしてるんだから、もう少し自身を持っても良いんじゃないかしら?」

 

「う、うん。・・・・・・ありがとう・・・。」

 

 四十院が長く麗しい髪を僅かに棚引かせながらそう言うと、鷹月は軽く返礼の言葉を述べる。その後、更に鷹月は続ける。

 

「整備課の先輩の話によると、整備課の先生か織斑先生の許可が下りれば、一応誰でもゴーレムに会えるらしいよ?タイミングが良ければ、そのまま整備課の2・3年生と一緒に、ゴーレムの調査・研究ができるかもって・・・。ただ、基本的に生徒会や整備課志望の生徒が優先されるだろうけどね。」

 

 鷹月のざっくりとした説明に、一夏が目と口を丸くしながら感心の意を示す。

 

「さっすがクラス一の「しっかり者」、何でも知ってるなぁ。・・・・・・オレも今度、駄目元で先生に頼み込んでみようかな?何か気になるし。」

 

 一夏がふとそんな発言を零すと、セシリアが勢い良く立ち上がる。

 

「一夏が行くと言うのでしたら、私も参りますわ!ゴーレムと接触するのでしたら、この私『セシリア・オルコット』の知識が、きっと一夏の御役に立つかと!」

 

 そう言いながら、セシリアが「したり顔」で鈴音を見やると、鈴音も慌てて立ち上がる。

 

「ア、アタシも行くわ!!警戒する相手の情報を集めるには、良い機会だし。」

 

「(ったく、相変わらず分かりやすい奴らだ。)箒はどうする?今度行ってみるか?」

 

 昭弘は、まるで「肉食獣」の様な眼をしたセシリアと鈴音を引き気味に一瞥すると、箒にそう訊ねる。

 

「ん?ああ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来れば、一夏と一緒に。

 

 箒が小声で最後に付け足した一言を、昭弘は決して聞き逃さなかった。そんな箒を見て、昭弘はニヤついた顔を隠そうともしなかった。

 

 しかし昭弘は、それとは別に心の中で自身が「安堵」していると言う事実に気付く。それは昨日から、しかも1組に居る時だけ感じるモノであった。

 その「原因」を直ぐに見つけ出すと、昭弘は先程のニヤつきとは違った笑みを浮かべる。

 

(・・・・・・皆、オレと()()()()()接してくれてるんだな。)

 

 それは、タロとの激戦時まで遡る。

 昭弘とグシオンリベイクは、単一仕様能力を発動させることにより、タロの撃墜に成功した。そう、文字通り“狂獣”の様な動きを以てして。

 昭弘自身、突然悪魔的な力を発揮した己とグシオンには、少なからず「恐怖」を覚えた。昭弘ですらそうなのだから、一般生徒が昭弘に対して恐怖心を抱くのは、至極当然と言えた。

 それなのに、1組の皆は特別昭弘を避けることもせず、普段通りに接してくれていた(未だに昭弘を怖がっているクラスメイトも勿論居るが、それは元々である)。そんなクラスメイトたちに、昭弘は心の奥底から感謝した。

 

「・・・皆、ありがとうな。」

 

 つい、心の声が自然と漏れてしまった昭弘。当然、クラスメイトたちは「何事か」と昭弘を凝視する。

 昭弘は、赤面しながら短く咳払いをすると、「何でもない」と一言だけ添えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・フンッ・・・フンッ・・・フンッ」

 

「正直、これはまたと無いチャンスだと思う訳よ!」

 

 放課後、皆が未だ寝静まらないギリギリの時間帯。男の口から一定間隔で流れ出る短い重低音が、男の部屋中に小さく響き渡る。男の低い声が響くと同時に、男の腹を分厚く覆っている肉の鎧が強張る。

 ツインテールの少女は、そんな光景に一切動じる事無く、自身の「考え」を口にする。その少女は、寝巻き姿のままソファに深々と腰掛けており、我が物顔で男の部屋に入り浸っていた。

 男は「趣味」に勤しみながらも、取り敢えず少女の話に耳を傾ける事にした。

 

「何せゴーレムと実際に戦ったのは、アタシと一夏とアンタだけだし。少なくともゴーレムへの知識量なら、確実にオルコットや篠ノ之を上回れるわ!それにアタシの代表候補生としての知識と抜群のコミュ力が加われば、アタシが一夏を独占できるは明白も明白よ!!」

 

(・・・・・・毎度毎度オレの部屋に押しかけやがって・・・。筋トレしてても、完全に澄まし顔だな・・・。まぁオレは別に構わんが。)

 

 その少女「鈴音」が話し終わる所で、丁度男も本日のノルマを終えた様だ。鈴音の自信に満ち溢れた表情を見ながら、男「昭弘」は言い辛そうにしながらも、冷酷な現実を突き付けてくる。

 

「水を差すようで悪いが、ゴーレムたちと会えるのは、もう少し先になるぞ?」

 

「・・・・・・・・・マジ?」

 

「ああ。国際IS委員会の研究員の到着が、早くても1週間後らしいからな。ソイツらが来る迄は、勝手に調査や研究等しちゃ駄目なんだとよ。それに何度も言われている様に、整備課志望の生徒が優先されるからな。」

 

 話が少し逸れるが、実はこのIS学園、整備課志望の生徒の方が圧倒的に多いのだ。

 IS操縦者は、確かにIS関連企業の「花形」と言ってもいい存在ではある。しかし、将来への「選択肢」は狭く、精々が「テストパイロット」「代表候補生」「空軍」程度しか、選択の余地が無いのだ。抑々、ISコアの絶対数には限りがあり、必然的に操縦者の数も限られてくるので、世界はそこまでIS操縦者を欲している訳ではないと言うのが現状だ。

 逆に、整備士として進んだ場合の選択肢は広い。先ず、ISに関する知識量がIS操縦者と比べて圧倒的に多い。その膨大な知識量を武器に、ISの専属整備士以外にも「ISの研究・開発」と言った分野への進路変更も可能だ。更に、ISを勉強する過程で得た「情報・工学的知識」は、IS関連以外の企業でも大いに役立てる事ができるのだ。

 

 そんな整備課生の多い現状で、既に「代表候補生」である鈴音やセシリアが後回しにされる事は、最早自明の理であった。「専用機持ち」である一夏も又、同様であろう。

 そんな事実を知った鈴音は、昭弘の様な仏頂面を醸し出しながら呟く。

 

「むーーん・・・・・・暫くは「お預け」って訳ね。・・・篠ノ之やオルコットと、差を開くチャンスだと思ったんだけど。」

 

「・・・いや、だったら尚更、オレの部屋でウダウダやってる場合じゃ無いと思うが?こうしてる間にも、どんどん箒は一夏との心の距離を狭めて行くぞ?」

 

 昭弘が呆れ果てた声でそう言うと、鈴音は反抗する様に答える。

 

「それはしょうがないでしょーが!!いくらアタシが一夏の部屋にお邪魔した所で、ルームメイトである篠ノ之のアドバンテージは揺るがないわ!なら、それ以外の点で攻めていかないと!んでもって、一人でウジウジ考えてても能率悪いから、アンタの部屋にお邪魔してるんじゃない!!」

 

 そう言う鈴音に対し、昭弘はある素朴な疑問を浮かべる。その内容は、以前箒に対して投げかけた疑問と同じものであり、余りにも今更過ぎるものであった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、これは今更過ぎるかもしれんが、鈴音はどういう経緯で一夏を好きになったんだ?」

 

 昭弘のそんな質問を受けて、鈴音は真顔のまま数秒間固まってしまう。その後、少し恥ずかしそうに右頬を右人差し指で掻くと、溜め息交じりに返答する。

 

「・・・切っ掛けは、本当に在り来たりなもんよ。アタシ、日本の学校に転入してきた当初、未だ日本語が上手く話せなかったの。それが原因で、同年代の子から良く揶揄われてたのよ。んで、それを止めてくれたのが、他でも無い「一夏」だったって訳。そこから仲良くなっていったんだけど・・・・・・多分その時から“異性”として意識はしてたんだと思うわ。」

 

「後、アタシの両親、中華屋を営んでたんだけど、今後の方針の事で真正面からぶつかっちゃってさ。そんで2人が険悪になってる時も、一夏はアタシに色々と良くしてくれたの。ま、結局疎遠になって、別居する事になっちゃったんだけどね・・・っていけない!これじゃまるで「自分語り」じゃない!!」

 

 どうやら鈴音も、箒と似たような理由で一夏を好きになったようだ。

 それを聞いて、昭弘は一夏の人の良さを改めて実感する。やはり、自分と彼とでは、「育ち」や「生き方」がまるで違う。今迄の自分ならば、家族の事を考えるのに精一杯で、他人に構っている暇など一切無かった。

 昭弘は、そんな一夏を少し羨ましく思う。誰をも愛し、誰からも愛される。決して、自分には出来ない生き方だ。同年代の女性から好意を寄せられるのも納得出来る。

 

 しかし、同時に併せ持つ一夏の脆さも、昭弘は知っていた。それは決して悪い事ではない。完全無欠な人間など、この世には存在しないのだから。昭弘自身も、心に「脆さ」を抱えている人間の一人に過ぎない。

 だからこそ、昭弘は思うのだ。一夏が、何処か無理をしているのではないかと。

 鈴音が、そのことを知っているのか定かではないが、取り敢えず昭弘は訊ねてみる事にした。

 

「・・・鈴音は、一夏のそんな「男らしい」所に惚れたのか?」

 

「ま、そういう事になるわね。」

 

 やはり、箒や鈴音にとって、一夏は「ヒーロー」のようだ。

 ーーー教えるべきなのだろうか。一夏の脆い一面を。

 そんな考えを、昭弘は蜘蛛の巣を掃う様に頭から追い出す。自分が言った所で、余計なお節介にしかならないだろう。それに、いずれは彼女たちにも知られる時が来る。昭弘は、そんな気がした。

 

 

 

 小一時間程居座った後、漸く出ていった鈴音を見送った後、昭弘は心に蟠りを抱えたままシャワーを浴びる。タオルで拭き取った後も、素肌に僅かに残った汗と言う名の水滴を、濁り無き温水が塗り潰していく。

 シャワーを浴びた後、寝間着姿となった昭弘は、先程鈴音が腰掛けていたソファにゆっくりと腰掛ける。そのまま数分程ボーッとしていると、ベッドに置いてあったスマートフォンが突如鳴り響く。

 

(!?・・・・・・束か?)

 

 昭弘は、警戒しながらその小さな液晶を覗き込む。

 

クロエ・クロニクル

 

「ッ!」

 

 その名を見て、昭弘は出るかどうか一瞬たじろいでしまうが、意を決して通話ボタンを押す。その時昭弘は「束との通話は禁止されてるが、クロエとの通話は禁止されていない」と言った屁理屈を頭に浮かべていた。

 

《昭弘様!良かった・・・。てっきり出てくれないのかと思いました・・・。》

 

 相も変わらずなクロエの静かな声に、昭弘は安堵しながら答える。

 

「おいおい、そんな言い方は酷くないか?出ない理由が無いだろうが。」

 

 昭弘にそう言われて、クロエは少し照れくさそうな声を漏らす。昭弘は、クロエの反応を声で確認した後、用件を訊ねる。

 

「それで、どんな用件だ?」

 

 昭弘にそう訊かれると、クロエは口籠りながらも、単語を継ぎ接ぎの様に足し合わせていく。

 

《あっ、その・・・えと・・・・・・・・・そうそう!束様から、言伝を頼まれたのです!》

 

「・・・言伝?」

 

《はい。今月中に、IS学園に「2人の代表候補生」が転校してくるそうです。しかも・・・内1人は“男性”だそうです。》

 

 その時昭弘は、「転校」や「代表候補生」と言う単語ではなく「男性」と言う単語に意識が向いた。

 

「・・・いや、有り得んだろう?ISコアは基本「女性」にしか反応しない。例外は、現『白式』のISコアだけだろう?」

 

《それが・・・実はもう1機、束様がコアの初期設定を誤った「ISコア」が存在するそうなのです。》

 

「・・・・・・・・・本当か?」

 

 驚愕、と言うよりも昭弘は唖然とした。天下の「大天災」が、そんなんで良いのかと。確かに、世に出たISコアの総数は467機。1機のみならず、2~3機程設定に誤りがあっても可笑しくはない・・・のかもしれないが。

 その後、真正面から襲い掛かって来る「混乱」と言う二文字を振り払う様に、昭弘は質問を続ける。

 

「だが、なら何故今迄その事実を隠していた?何故今更になって、オレに伝える?」

 

 その質問に対して、クロエは特に口調を崩す事無く答える。

 

《いえ、ただ単純に「忘れていた」だけだそうです。束様にとっても、至極どうでも良い事柄だったのでしょう。》

 

 その言葉を聞いた瞬間、今度は持っていたスマフォを思わず落としそうになる程、昭弘は手の力が抜けてしまった。要するに、今更になって思い出したのだ。大方、何らかの方法で各国の機密情報を閲覧している時「あ、そう言えばこんな奴いたっけ」と言った具合で思い出したのだろう。まぁ、束らしいと言えばそれまでだが。

 気を取り直して、更に質問を続ける昭弘。

 

「・・・そいつの国籍は?」

 

《フランスとドイツからだと聞き及んでおりますが、どちらが男性かまでは明言しておりませんでした。》

 

「・・・・・・そうか。取り敢えず、貴重な情報に感謝すると、束に伝えておいてくれ。」

 

 その後、2人の間で数秒程沈黙が続いた。お互い言いたいこと、訊きたいことはまだあると言うのに。

 しかし、だからこそ互いに押し黙ってしまうのだろう。昭弘は、クロエは、きっとまだ何か言いたいことがある筈だと。

 そんな沈黙を先に破ったのは、クロエであった。

 

《あのッ!昭弘様!》

 

「・・・何だ?」

 

 そう、昭弘は優し気な口調でクロエの発言を促す。

 

《その・・・・・・・・・。タロたちの事なのですが・・・。》

 

「・・・」

 

 「タロ」と言う単語を聞いて、昭弘は言葉を失ってしまう。もっと正確に言えば、何と言えば良いのか判らなかったのだ。タロを殺めたことを謝罪すれば良いのか、タロたちを差し向けてきた事に対して怒れば良いのか。

 しかし、昭弘が選択した言葉は、そのどちらでも無かった。

 

「大丈夫だ。サブロもシロもゴロも、記憶を失っちまったが元気にしてるし、タロとジロだって、ISコア自体はちゃんと生きている。・・・心配すんな。」

 

 その言葉が、今この時において正解なのかは判らない。しかし、それは間違いなく、昭弘が今クロエに伝えたかった言葉であった。

 

《・・・・・・そう・・・ですか。・・・・・・ありがとう、昭弘様。・・・・・・・・・では、私はこれで。》

 

「・・・ああ。いつでも電話を掛けて来てくれよな。」

 

 クロエは、まるで満足した様にお礼を言った後、別れの挨拶を告げて通話を切る。昭弘も、元気そうなクロエの声が聞けて満足したのか、明日に備えて寝床に入る支度をし始めた。

 

 ベッドに仰向けのまま倒れこんだ昭弘は、汚れ無き純白の天井を見つめながら、例の「転校生」について頭を巡らす。

 

(またもや、とんでもない時期にやって来るもんだな。・・・・・・・・・やはり、一夏と白式が狙いなんだろうか?)

 

 一先ず、凡その予想を立ててみる昭弘。

 しかしそれとは別に、昭弘は漠然とした胸騒ぎを抱えていた。

 

(・・・最早直感ですらないが、どうにも嫌な予感がする。何事も起こらなければ良いが・・・。)

 

 しかし、昭弘のそんな希望も虚しく、「波乱」は確実に足音を少しずつ大きくしていきながら、昭弘とIS学園に近付いて来るのであった。

 

 

 

 

 

《・・・クロエ様、宜シカッタノデスカ?束様ニバレタラ、叱ラレマスヨ?》

 

 ムロが、束に無断で昭弘に電話を掛けたクロエを心配していると、クロエは開き直った様に口を開く。

 

「大丈夫です。確かに「家族じゃない、諦めて」とは言われましたが、電話をするなとは言われていませんし。」

 

 クロエは、昭弘と似たような屁理屈を並べると、今度は反省するように内を窄める。

 

「・・・昭弘様に嘘を付いてしまった事は、反省しております。言伝などど・・・。」

 

《アレ?ソコハチャント反省スルンデスネ。》

 

 ムロが静かにそんなツッコミを入れると、今度は明るい口調で続け様に言葉を発する。

 

《マァ、開キ直ッテイル様ナラ安心デス。心配シテ大損シマシタ。束様ニモ、特別黙ッテオキマショウ。ドノ道、今ノ人類ノ技術デハ、我々カラノ電話ヲ逆探知ナドデキマセンシ。》

 

 ムロの気遣いに、クロエは「ありがとう」と感謝の言葉を述べると、少しだけ口調を強めて更に続ける。

 

「・・・束様に逆らってしまうのは、私にとっても遺憾の極みではあります。ですが、それでも私は諦めたくはありません。・・・・・・いつか昭弘様とも、「家族」に戻れる日が来ると信じ続けます。」

 

 そう言うと、彼女は僅かに瞼を見開く。細く開かれた瞼の先には、黄金色の瞳が鈍い輝きをチラ付かせていた。しかし、何も見えはしないその瞳は、まるで「マネキン」の様に無機質で、視点もハッキリとしていない。

 それでも無意識に瞼を見開いてしまったのは、それだけ「家族」に再び逢うことを切望しているからだろうか・・・・・・。




鷹月さんと四十院さんは整備課志望っていう設定にしておきました。今後もちょいちょいと、機会があれば1組のクラスメイトを出していきたいと思います。

さぁて!!次回からは皆さんお待ちかね、あの2人が遂に登場しまぁす!!どちらが男性なのかは、お・た・の・し・み。

そして、もうそろそろ一夏の絶望的な苦悩が始まります。今迄以上に複雑な心理描写をしていける様に、頑張りたいと思います。


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第一章 の2 IS学園~ニューフェイス~ 第16話 2人の転校生(1時限目前)

今回も、何話かに分けようかと思います。
どちらが男子なのか判らない様に描くのって、意外としんどいですね・・・。


ーーーーー5月9日(月)ーーーーー

 

 この日も、IS学園周辺は雲一つ浮かんでいない「快晴」であった。5月も間も無く中旬だからか、1組の生徒たちは登校で流れた汗を、SHRが始まっても未だ額に滲ませたままだ。

 しかし、1組の副担任である真耶は、生徒たちとは()()()()()汗を流していた。その汗は、暑いから流しているモノではなく、言うなれば「困惑」「焦燥」から来るモノであった。

 その原因は、彼女の傍らに佇んでいる「2人の生徒」にあった。

 

「え、えーと・・・。きょ、今日は先ず「転校生」を紹介したいと思います!」

 

 本日、1組担任である千冬からSHRを任された彼女は、「チラリチラリ」と転校生と思しき2人に度々視線を送っていた。千冬はその様子を、腕を組みながら心配そうに見守っていた。

 彼女がこれほどまでに動揺している理由は、昭弘の心の声がそのまま代弁してくれた。

 

(・・・無理もない。鈴音の転校から未だ1ヶ月も経ってないってのに、もう新しい転校生。しかも2人と来た。更には全校集会も無しにいきなりだもんな。それが自分の受け持つクラスに2人とも入るなんて、山田センセイからすれば「意味不明」の一言に尽きるだろう。おまけに・・・・・・)

 

 そこで昭弘の心の声は途切れるが、今度は生徒たちの不気味に過ぎる「静寂」が、昭弘の思いを声も無しに代弁する。

 皆一様に口を半分程開けており、目を大きく見開いたまま、2人の転校生を凝視していた。何故ならば、2人の服装が少なくとも()()()()()()()()()()()からであった。

 

 兎にも角にも、先ずは2人に自己紹介を促す真耶であった。それに対して、先ずは『金髪の少年?』がニコやかに応じる。

 

「皆さん初めまして。『シャルル・デュノア』と申します。出身国はフランスです。一応「2人目」・・・の男性IS操縦者になるのかな?異性の身で、色々と御迷惑をお掛けする事もあると思いますが、1年間宜しくお願いします!」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 その少年が自己紹介を終えた後、クラス全体を無言の静寂が覆った。しかし、昭弘は何となく理解した。これは只の静寂ではないと。

 その少年は非常に「中性的な顔立ち」をしており、長い髪を襟足の部分で1つに結んでいた。睫毛はまるで女性の様に長く、小さく可愛いらしい口が、彼の笑顔を更に上の次元へと昇華させていた。

 そんな美少年のまるで「天使」の様な笑顔を目の当たりにした女子生徒一同が、終始無言のまま終わる筈も無く・・・。

 

「「「「「きゃぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」」」」」

 

 直後、昭弘の左耳に「衝撃」が雪崩れ込んで来る。その衝撃は昭弘の脳内を激しく掻き回し、右耳から濁流の如く放出された。その余りにも突然すぎる女子生徒たちの「黄色い歓声」に、昭弘は耳を塞ぐ間も無く、唯々歯を食い縛って耐えていた。

 女子生徒一同は、それだけ叫んでも未だ飽き足らず、怒号にも似た声をそのままに各々の感想を口にしていく。

 

「男子よ!男子!!」 「3人目の男子ッ!!!」 「しかも織斑くんやアルトランドさんとは違う「護ってあげたくなる系」よ!!」 「ま、まるで「王子様」・・・いえ「天使」だわ!」 「わ、私、夢でも見てるのかしら・・・。」

 

 彼女たちは、ここぞとばかりに“鬱憤”を爆発させる。エリートとは言え、彼女たちも思春期真っ只中の女子高生。「イケメン」と言える男子が一夏しか居なかった現状では、彼女たちにとって正に朗報中の朗報と言えよう。

 そして彼女たちの熱い視線は、もう1人の転校生にも飛び火する。

 

「ネェネェ、じゃああの子も・・・?」 「いや、流石に女子じゃない?髪長すぎるし。何より小柄過ぎるし。」 「けど、何か男子っぽい服装だよ?」

 

 期待と疑問を秘めながら、彼女たちはその「少年?」の容姿を小声で伝え合う。

 一言で表するならば、シャルルとは真逆の印象を受ける「少年?」であった。

 何処までも冷えきった紅い瞳。その瞳を更に際立たせる様な鋭い目つきをしていながら、顔はまるで「人形」の如く美しく整っていた。左目は「アイパッチ」で覆われていたが、その美しい顔には極めて不釣り合いであった。「銀色」の髪はまるで色素を削がれたかの様に生気が無く、脚の「脹脛」まで伸びていた。

 服装はシャルルとは少しばかり異なり、ズボンの膝から下は「ロングブーツ」によって覆われていた。

 

「み、皆さんお静かに!!自己紹介の続きに入りますよ!!」

 

 いつまでも静まる気配が無い生徒たちを、真耶は懸命に制する。

 クラスが静まり返ると、真耶はその「銀髪の転校生」に自己紹介をするよう促す。

 

「・・・」

 

 しかし、真耶の言葉の一切を無視するかの様に、転校生は無言を貫く。

 それを見かねた千冬が、大いに困惑する真耶に助け船を渡す。

 

「・・・『ボーデヴィッヒ』自己紹介をしろ。」

 

「はいッ!教官!!」

 

 彼(彼女?)『ボーデヴィッヒ』は、大きな張りのある声で短く返事をすると、クラス一同に向き直る。真耶の時とはまるで()()()()()を示したボーデヴィッヒに対し、生徒一同は疑問を浮かべる。その時、昭弘も含めたクラス全員が「教官」という単語を決して聞き逃さなかった。

 

「・・・『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ。」

 

「・・・」

 

 ラウラがたったそれだけ口にすると、真耶は顔を引き攣らせながらラウラに恐る恐る訊ねる。

 

「・・・・・・あのぅ・・・以上でしょうか?」

 

 真耶の問いに対し、ラウラは一切動じること無く、次の様に即答する。

 

「以上だ。」

 

 

 ラウラが自己紹介を終えた直後、昭弘はクラス一同とはまったく別の事に頭を巡らせていた。

 

(・・・・・・もし、デュノアの言っている事に“嘘偽り”が無いとするなら、デュノアが「男」でボーデヴィッヒが「女」って事になるのか・・・。いやしかし、デュノアには悪いが「男」と言い張るには()()()()()()()()。)

 

 昭弘のそんな感想は、至極的を得ていると言って良い。高校生にもなれば、例え制服越しだろうと男女の身体的相違は否応無しに現れる。その最たる例が「肩幅」であるが、シャルルのソレは男子高校生にしては余りにも狭すぎるように、昭弘には感じられた。

 しかし、勿論の事身体の成長には個人差があるので、昭弘の疑念は所詮推測の域を出ない。

 

(かと言って、それはボーデヴィッヒも同じだ。・・・結局の所、「直接確かめる」事が出来ない限りは、どうしようも無いな・・・。)

 

 そんな事を考えていると、昭弘は突如ラウラから「嫌な気配」を感じ取る。

 

 

 一夏も又、他のクラスメイトたちとはまるで異なる事に意識を向けていた。

 

(・・・名前からして「ドイツ人」・・・だよな?それに、千冬姉の事を「教官」と言っていた・・・・・・って事はやっぱり・・・。)

 

 一夏はそこまで考えると、瞼を僅かに細めてラウラを凝視する。それはまるで「見たくもないモノ」を見る様でもあり、因縁を投げかけている様でもあった。

 

 ラウラは、そんな一夏の視線に気付くと、彼の直ぐ目の前迄歩を進める。それは一見すると今迄通りの無表情に見えるが、その瞳はしっかりと一夏を捉えていた。

 

「・・・おい、()()()。」

 

 千冬のそんな制止も構うことなく、ラウラは席に座っている一夏の目の前に佇む。一夏の顔を自身の正面に捉えると、ラウラの無表情は我慢の限界を迎えたかの様に崩れ去り、そこには“憎悪”に彩られた「鬼の形相」があった。

 

「・・・・・・・・・貴様が・・・!」

 

 そう言うと、ラウラは右手を強く握り締めて「拳」を作り、それを天高く掲げる。

 

「ッ!?」

 

 余りにも突然の事に驚いた一夏は、反射的に左頬を両腕で覆う。クラス一同は制止の声すら掛ける猶予も無く、唯々表情を驚愕に染める事しか出来なかった。シャルルは、未だ傍に立っていたからか対処が早く、ラウラの右腕を押さえようと動く。しかし、ラウラが拳を降り下げる方が早いであろう事は確かであった。

 一夏が両腕への衝撃を覚悟したその時、右後方の席からドスの利いた低い声が静かに響く。

 

「止めとけ。」

 

 その一言で、ラウラは「ピタリ」と動きを止める。自身が敬愛して止まない『千冬』の声とは明らかに異なる一声であったが、その「声の主」が気になった為か反射的に動きを止めてしまったのだ。

 声の主である、先程から最後列で静かに座している「巨漢」を睨み付けると、ラウラは臆する事無く抑揚の無い声で問い質す。

 

「・・・何だ貴様は?」

 

「『昭弘・アルトランド』だ。」

 

 その青年『昭弘』は軽く名乗り終えると、淡々と自身の「お節介」を述べていく。

 

「お前が一夏とどんな関係なのかは知らんが、()()()()()はお前の“今後の為”にならん。だから、止めておいた方が良い・・・。」

 

 昭弘が発した言葉を耳にして、ラウラは更に問い詰める。

 

「それは一体どういう・・・」

 

パンッ!!

 

 しかし、ラウラの問いはその軽快な一拍子によって遮られる。その音を発した張本人である千冬が、合掌していた右手と左手を切り離すと、有無を言わさず次に進もうとする。

 

「さて、自己紹介は以上だ!!デュノアとボーデヴィッヒは、事前に指定されている通りの席に座れ!」

 

 その雷の様な一声がクラス中に響き、シャルルは多少慌てながら、ラウラは渋々と自分の座席に着いた。

 一先ず表面上は落ち着いた様に見えるが、ラウラの中で燻っている憎しみの炎は、未だ衰える事を知らなかった。

 

(・・・・・・今日の所は引いてやろう『織斑一夏』。だが、私は認めない。・・・貴様があの人の弟だなどと、認めるものか・・・!)

 

 

 その後、どうにか動揺を押し留めた真耶は、残り僅かな時間を使って今日の予定を伝達していた。

 

 昭弘はと言うと、ラウラとシャルルの事について頭を巡らせていた。

 

(・・・・・・この際男性云々は後回しにして、先ずはボーデヴィッヒをどうにかした方が良さそうだな。・・・かと言って、デュノアを一夏に任せきりにする訳にもいかんしな。)

 

 そんな事を考えた後、昭弘はこれから確実に訪れるであろう「波乱」を想像してしまい、思わず深い溜め息をついた。

 

 

 

ーーーーーSHR終了後 休み時間ーーーーー

 

 昭弘がラウラに話し掛けようと立ち上がると、いつもの様に一夏が駆け寄って来る。普段と違う点は、箒の代わりにシャルルが居ると言った点だ。どうやら、二人は互いの自己紹介を既に終えている様だ。

 

「昭弘!さっきはサンキューな!助かった!・・・そうだ。デュノア、紹介するよ。もうテレビとかで観たかもしんないけど、彼が『昭弘・アルトランド』。一見寡黙そうでおっかなく見えるけど、優しい奴だから安心してくれよな。」

 

 シャルルは、そんな一夏に合わせる様に、改めて自身の名前を口にする。

 

「改めて宜しくね、アルトランドくん。『シャルル・デュノア』です。少し気弱な所も多いかもしれないけど、同じ男子生徒として仲良く接して貰えると嬉しいな。」

 

 シャルルが短い自己紹介を終えると、昭弘もその巨躯を立ち上がらせ、己の紹介に入ろうとする。立ち上がった昭弘によって生み出された巨大な影が、シャルルに覆い被さる。その余りの迫力に、シャルルは顔を蒼褪めながら僅かに後ずさりしてしまう。

 

「『昭弘・アルトランド』だ。宜しく頼む。」

 

 その後、昭弘は巨大な右手をシャルルに差し出す。シャルルはその武骨な右手を、恐る恐る自身の華奢な右手で握り返す。

 

(あ、改めて近くで見ると、本当におっきいなぁこの人・・・。手なんて、僕の2倍くらいあるんじゃないかな。・・・後、言っちゃあ悪いけど、無言だと確かに凄く怖い・・・。)

 

 

 そんな光景を遠目から見ていたセシリアが、箒に他愛もない感想を零す。

 

「ああして見てみると、本当に同い年の男子とは思えませんわねあの2人。」

 

「・・・・・・・・・うむ。」

 

 微妙な反応を示す箒を見てみると、寂しげな視線を一夏に送っている彼女が其処に居た。セシリアは今の箒の心境を察すると、更に言葉を連ねる。

 

「・・・仕方がありませんわ箒。転校生に対して親身に接するのも、クラス代表としての立派な勤めですもの。・・・今は、少々辛抱なさって下さいな。」

 

 セシリアにそう宥められて、箒は渋々と一夏に向けていた視線をセシリアへと戻す。

 

 

 自己紹介の後、一夏は昭弘にある提案を持ち出す。

 

「でさ、この後実技だろ?更衣室まで、3人で固まって行かないか?」

 

 その時の一夏は、少しばかり焦っている様にも見えた。

 IS学園では、基本的に女子が教室で着替えるので、男子は仮設の更衣室まで移動しなければならないのだ。一夏自身、1人で移動した時は多数の女子生徒に絡まれ、授業時間に間に合わない事があった。増してや、シャルルは誰もが認める「絶世の美男子」。絡まれるどころか、最悪の場合集団で追い回される様な事は、流石の一夏でも想像出来た。

 そこで、昭弘の出番である。大多数の女子生徒から怖がられている昭弘が一緒に居れば、女子生徒からの被害を大幅に減らせると、一夏は考えた様だ。

 無論昭弘自身も、一夏のそんな考えを凡そ察していた。

 

「ああ、行こうか。」

 

「助かる!よしッ!そんじゃあ遅れない様にとっとと移動しようぜ!」

 

「な、なんかゴメンね。僕の為に・・・。」

 

 やはりと言うべきか、未だに学園の雰囲気に慣れていないシャルルは、健気に笑みを浮かべながらもどこか落ち着きが無い様に見えた。

 

 昭弘はそんなシャルルを気に掛けつつ、クラス内を軽く見渡す。すると、「ある人物」の姿が見当たらない事に気が付く。

 

(・・・ボーデヴィッヒの奴は、もう移動したのか・・・?)

 

 良く目立つ「銀色の髪」が、クラスの何処にも見当たらないのだ。先に更衣室へ移動したのか、自分たちが話している間に教室で着替えたのか・・・。

 そんな事を考える間もなく、一夏が昭弘に声を掛けてくる。

 

「どうした?昭弘。早く行こうぜ。」

 

「ん?ああ・・・。」

 

 

 

 IS学園の廊下にて、女子生徒たちは極めて歯痒い想いに襲われていた。

 俗に言う「正統派イケメン」である「織斑一夏」と、「中性的な可愛らしさ」を秘めた「シャルル・デュノア」が並んで歩いている光景。

 しかし、本来ならば群がるなり写真を撮るなり質問攻めに興じるなりの行動に出る筈の彼女たちが、何故か立ち尽くしているのだ。その理由は、彼等と共に歩いている「もう一人の巨漢」の存在にあった。制服越しからでも良く解る程の「屈強な肉体」。顔面も、その肉体に()()()()()強面であった。そんな男が、しかも「不機嫌」そうに歩いていては(実際は不機嫌でも何でも無いのだが)、近づくのも躊躇われると言うもの。

 

 そんな周囲の葛藤を知ってか知らずか、シャルルがその巨漢に話しかける。

 

「な、何か僕たち、皆から・・・怖がられてない?」

 

「心配すんな。怖がられてるのはオレだけだ。」

 

「そんなに怖いかな?昭弘の事・・・。」

 

 一夏の素朴な疑問に、昭弘が抑揚の無い声で返す。

 

「恐らく、外見だけが理由じゃ無いだろうさ。元々オレは「人殺し」を生業にしていたからな。怖いと思わない方が可笑しいだろう。」

 

 更に付け加えるなら、前回のゴーレム戦の影響も強く表れているのだろう。戦いの最中、突如豹変し出したグシオン。その豹変っぷりと余りに異次元的過ぎる性能を目の当たりにしてしまえば、恐怖に似た感情を抱くようになっても不思議ではない。

 

 昭弘の淡々とした受け答えを聞いて、一夏は思わず目を伏せて黙り込んでしまう。 

 自身の友人をそんな風に思っている周囲の人間が腹立たしいのか、どうにも変え難い現実という理不尽が気に入らないからか、周囲からそう思われている昭弘をまるで利用しているかの様な自分自身が嫌になったのか。今の一夏には、黙り込む原因などいくらでも思い当たった。

 

 そんな気不味い空気を払拭する為に、シャルルが慌てながら話題を変える。

 

「そ、そう言えば、仮設の更衣室って、どんな感じなのかな?」

 

 シャルルの疑問に答えるべく、一夏は気持ちを切り替えて顔を上げる。

 

「仮設っつっても、やっぱしそこら辺は天下のIS学園だから、結構奇麗で広いぜ?」

 

 それを聞いて、シャルルはホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 更衣室に着いた3人は、遅れない様に急いで着替え始める。否、正確には急いで着替えているのは、一夏と昭弘の2人だけだ。シャルルは、何故か一夏の露出した素肌を見て、()()()()()()()()。恥ずかしがる様に、視線を逸らすシャルル。しかし、視線を変えたシャルルの瞳にあるモノが飛び込んで来ると・・・。

 

「うわぁあッ!!!」

 

「!?ど、どうした!!?デュノア!!」

 

 一夏が、両手で目を塞いでいるシャルルに声を掛ける。シャルルの真正面にあるモノは・・・・・・「筋肉」、大小様々な形状をしていた「筋肉」の山であった。その筋肉の持ち主である昭弘も、シャルルの様子を確認する。

 

「どうした?」

 

「そ、そんなに凄いか?昭弘の筋肉・・・。」

 

 2人がシャルルにそう訊ねると、シャルルは慌てて目を塞いでいた両手を取っ払う。

 

「そ、そう!余りにもアルトランドくんの筋肉が凄すぎて、ビックリ仰天しちゃった!!HAHAHAHA!!じゃ、じゃあ僕、隣の列で着替えるね!」

 

 そう言い終えると、シャルルは逃げる様にそそくさと着替えを持って移動する。

 

「?・・・っとぉ!オレらも急いで着替えないとな!!」

 

「・・・・・・・・・・・・ああ。」

 

 シャルルに向けていた意識を、直ぐ目の前まで迫っている授業に切り替える一夏。しかし昭弘は、シャルルの“反応”に不信感を抱いたまま、着替えを続けていた。

 

(・・・普通、男が男の裸見て、あんな反応するか?)

 

(・・・・・・・・・・・・・・・あまり考えたくはないが、もし仮に、デュノアが()()()()性別を偽っているのだとしたら・・・。)

 

 どうにも、不吉な予感を振り払えない昭弘。

 ラウラだけではない、シャルルも何か途轍も無い「爆弾」を抱えている。昭弘は、先程のシャルルの反応と行動に、そんな事実が見え隠れしている様な気がしてしょうがなかった。

 

 2人が転校して来てから未だ初日、しかも1時限目前。波乱は、まだまだ始まったばかりだ。




単にホモなだけかもしれない。

ラウラと昭弘は次回もっとしっかり描写しますんで。


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第17話 2人の転校生(初日終了)

いんの「山田先生との模擬戦どうすっかな・・・。セシリア強化しちゃったから、原作通りの圧勝とは行かないし・・・。」

いんの「そうだ!ゴーレムと組ませよう!!」


ーーーーー5月9日(月) アリーナAーーーーー

 

 今回の実技は、1組と2組による合同演習だ。しかも、1時限目と2時限目を丸々使いきる「拡大版」となっている。

 態々合同演習と言う形を採った理由は、千冬があるモノを見せたいが為であった。

 

 

タッグトーナメント

 

 

 文字通り、2対2で執り行われるトーナメント戦であり、先月の『クラス対抗戦』をも凌ぐ規模の「一大イベント」でもある。

 無論、皆IS学園の一生徒として、学園の一大イベントに備えて練習はしている。景品も当然欲しい。

 しかし、圧倒的戦力を誇る「専用機持ち」の存在が、彼女たちの意識を沼の底まで沈めていた。「どうせ勝てないけど、学園の一大イベントだから仕方なく練習する」。そんな意識で練習をした所で、時間ばかりが過ぎ行くだけだ。

 

 

「オルコット!凰!突然だが、これからお前たちには「模擬戦」をしてもらうぞ。前に出ろ!!」

 

 千冬にそう言われて、名前を呼ばれた当人たちは渋々と重たい足を運ぶ。

 

「はぁ~、面倒くさぁ~・・・。」

 

 代表候補生の風上にも置けぬ言葉を、鈴音はボソリと溢す。

 

「・・・こう言うのは、「見せ物」みたいで、余り気乗りしませんわね・・・・・・。」

 

 セシリアも又、『セシリア親衛隊』の熱視線を「これでもか」と言う程に浴びているのに、当の本人は乗り気では無い様だ。

 

 そんな2人に発破をかけるべく、千冬が魔法の言葉をボソリと呟く。

 

「・・・一夏(アイツ)に良いとこ見せれるチャンスだぞ?」

 

 その瞬間、2人の表情は瞬時に“豹変”する。

 

「織斑教諭直々の指名とあらば、イギリス代表候補生筆頭として、全身全霊を持ってお答えしますわ!!」 「「「「キャーーーーッ!!!」」」」

 

「仕方が無いわね!やってやろうじゃないの!!」

 

(チョロくて助かる。) (とか思ってんだろうな織斑センセイは。) (2人共何で急にやる気満々になったんだ?)

 

 千冬、昭弘、一夏が夫々全く違う事を頭に浮かべていると、鈴音とセシリアが早速睨み合っている。今にもISを展開しそうな2人を、千冬が静かに制する。

 

「落ち着け、恋する少女(ガキ)ども。別にお前たち2人の模擬戦を見せたい訳では無い。」

 

 千冬はその言葉を言い終えると同時に、僅かに羊雲がかかっている青空を見上げる。すると、雲に小さな「黒点」が映り出した。その黒点は少しずつ大きさを増して行き、形状が肉眼で確認できる頃には、生徒たちが既に「()()()()」を取っていた。

 

「どっ、どいて下さぁぁぁぁぁぁいッ!!!!!!」

 

 久方振りの搭乗だからか、訓練用の『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶が、コントロールを失ったままフィールド目掛けて突っ込んで来たのだ。その矛先に選ばれてしまった不幸な人間は、一夏であった。

 

「やべッ!!?」

 

 慌てて白式を展開し、衝撃に備える一夏。ラファールは白式を巻き込みながら、小規模のクレーターを作ってしまった。昭弘や箒らが、安否を確認すべく駆け寄る。

 

「はぁ・・・これで教師とはな・・・・・・。」

 

 すると、偶然昭弘の近くに居合わせたラウラから、訊き捨てならない台詞が聞こえてくる。その時のラウラはグレーのISスーツに身を包んでおり、シャルルと同じ様な上半身タンクトップ、下半身ハーフスパッツと言えばイメージしやすいだろうか。

 咎めようとも思った昭弘だが、先ずは2人の安否を確認する。

 しかし、昭弘は態々心配して駆け寄った事を、酷く後悔してしまう。何故なら、一夏が真耶に覆い被さって、彼女の大きな乳房を鷲掴みにしているのだ。その様な体勢となった原因は不明だが、一夏のその大胆不敵な行為により、4人の女子が顔を真っ赤に染め上げていく。真耶は「羞恥心」から、箒・鈴音・セシリアの3人は「怒り」から。

 そんな3人の一夏に対する激昂を、千冬の昂った声が遮る。

 

「おぉーーっと!!そろそろ「特別講師」の登場だ!!」

 

 千冬は、前歯をギラつかせながらそう言うと、先程と同じ様に青空を見上げる。

 生徒たちもそれに釣られて顎を上げると、小綺麗に編隊を組む3つの「光」が見えた。それらはあっと言う間にアリーナ上空へと到達し・・・。

 

ドォゴォォオン!!!

 

 真耶と同様に多少の土煙を巻き上げたまま、ソレらは勝手に会話を進める。

 

《良シ!奇麗ナ着地ダ!!》

 

《・・・君ハモウ少シ静カニ降リル癖ヲ付ケヨウトハ思ワナイノデスカ?》

 

《ソウダ、余リフザケ過ギルナヨ?生徒タチニ嘗メラレルゾ。》

 

 土煙が晴れるまでも無く、その「機械音声」だけで生徒たちはソレらが何なのか理解する。そして、土煙が晴れると同時に叫ぶ。

 

「「「「「ゴーレムゥ!!!??」」」」」

 

 昭弘も含めて、生徒全員の叫んだ単語が奇麗に一致する。

 

 何故彼等が此処に?抑々外に出して良いのか?等と言った生徒の疑問を千冬は一切無視し、やたら楽し気に話を進める。

 

「これから諸君に見せたいモノは、「オルコット・凰」ペアと「山田・ゴーレムペア」による模擬戦だ!因みにゴーレムたちは、安全措置として「リミッター」を施しているから安心してくれ!!」

 

 楽し気な千冬の言葉に対し、セシリアと鈴音は苦言を呈す。

 

「・・・訓練機とリミッターを施されたゴーレムが御相手とは・・・完全に嘗められてますわね。」

 

「全くね。山田先生には悪いけど、チャチャっと終わらせてやるんだから!!」

 

 かくして、急遽“異色”のタッグマッチが幕を開けることとなった。

 

 

 

「何と・・・。」

 

「すげぇ・・・一方的だ。あのセシリアと鈴音相手に・・・・・・。」

 

「・・・・・・ああ。」

 

 観客スタンドにて、箒と一夏は呆気に取られた声を漏らし、昭弘は気を抜かずに観戦していた。

 戦況は生徒たちの予想を大きく裏切って、真耶・サブロペアに大きく傾いていた。

 

「これって、どっちのチームも「初タッグ」なんだよね?・・・訓練機で専用機を圧倒するなんて、山田先生って強いんだねぇ・・・。」

 

 シャルルが昭弘にそんな言葉を零すと、昭弘は補足を織り交ぜて返答する。

 

「無論それもあるだろうが、やはり一貫した戦法を取れているのが大きいな。山田センセイもサブロも、中距離高速機動の利点を良く理解している。」

 

 今回セシリアは、鈴音との連携を図る為にビット4機を操り、遠距離からスターライトMkⅢで狙撃すると言う普段通りの戦法を取っていた。何せ鈴音とのタッグは今回が初。「アサルトモード」で激しく動き回れば、機動力特化の甲龍を妨害してしまう恐れがあるのだ。

 しかし、今回それが却って仇となってしまう。先ず、真耶はセシリアが援護に徹する事を瞬時に見抜くと、「瞬時加速(イグニッションブースト)」で一気に距離を詰めて来たのだ。セシリアはビットをラファールに差し向けるが、振り返り様に放たれた51口径アサルトライフル『レッドバレット』によって、ビット2機を落とされてしまう。中距離寄りの近距離まで接近されたセシリアは、最早狙い撃つ余裕もアサルトモードに切り替える余裕も無く、距離を取る為に逃げるしかなかった。

 鈴音もラファールに接敵しようと務めるが、サブロの執拗な妨害に悪戦苦闘を強いられる。ラファールに接近しようとすれば近距離からビーム砲の嵐を降らされ、サブロに斬りかかろうとすれば直ぐ様距離を置かれる。鈴音がそうこうしている内に、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは着実に減っていった。

 

 そんな中、昭弘は少し離れた所で一人観戦しているラウラの姿を目にする。その目には、先程の真耶に対する侮蔑の色は無く、模擬戦に対する純粋な興味が見え隠れしていた。

 昭弘はそんなラウラの隣に座し、取り留めの無い話を切り出す。

 

「随分と夢中になっている様で安心した。」

 

 そんな昭弘を一瞥すると、ラウラは無表情のまま冷たく返す。

 

「気安く話しかけるな。」

 

 しかし、昭弘は構うこと無く続ける。

 

「・・・そう言や、アンタも代表候補生だったか?」

 

「・・・・・・それがどうした?」

 

「なら話が早い。ドイツの代表候補生として、この試合を詳しく批評してはくれないか?良い勉強になりそうだ。」

 

 昭弘がそんな話題を切り出した途端、ラウラは語調に喜色を織り交ぜながら楽し気に話し出す。

 

「先ず何より目を見張るのは、あの無人ISと山田教諭の高度な戦況判断能力だな。無理なチームプレイに徹するよりも、「1対1・1対1」という状況を作り上げる方が、より効果的に相手にダメージを与えられると瞬時に判断したのは見事の一言だ!先程の山田教諭への陰口は、訂正せざるを得んな。反省はしないが。専用機の2人も、ぶっつけ本番にしては悪くない動きだが、相手が悪すぎたな。まぁどの道、私には遠く及ばないがな。何より一番傑作な所は、“チームプレイに徹しよう”とした方が“チームプレイに徹しない”相手チームに、見事に翻弄されている点だな!皮肉にも程があるッ!!」

 

 そこまで言い終えると、ラウラは「ハッ」とした様に昭弘を一瞥する。そこには、優し気な笑みを浮かべた昭弘の顔があった。

 

「・・・お前さん、戦い(バトル)のことになると、随分と饒舌になるんだな。・・・まるで織斑センセイみたいだ。」

 

 昭弘のそんな反応に対して、ラウラは恥ずかしそうに舌打ちをすると、不機嫌そうに席を立つ。

 

「・・・SHRの時もそうだが、もう私に構わないでくれないか?一人が好きなんだ。」

 

 更に、ラウラは昭弘を突き放す言葉を付け加える。

 

「それに、私はMPS使いに興味は無い。私の標的は・・・『織斑一夏』唯一人だ。」

 

 ラウラはそこまで言うと、更に離れた席に移動してしまう。後を追おうとした昭弘であったが、その頃にはもう試合が終わってしまっていた。

 

 

 

《流石ハ山田先生デス!動キニ迷イガ無イ!!援護スル側トシテハ、コノ上無クヤリヤスカッタデス!!》

 

《い、いえ!そんな事はありませんよ!!サブロくんが凰さんを足止めしてくれていたからこそです!!》

 

 フィールド上空にて、完封勝利に喜ぶ相手チームをジトリと見つめながら、鈴音は口を「ヘ」の字に曲げていた。

 

《申し訳ございません凰さん・・・。戦法を誤りましたわ。》

 

 セシリアが謝罪の言葉を贈ってくると、鈴音も又謝罪で返した。

 

「んや、こっちこそゴメン。ゴーレムに気を取られ過ぎた・・・。」

 

 そう言い終えた後、鈴音は千冬の思惑を大方予想する。

 

(・・・何となく解った気がするわ。織斑先生が何を伝えたいのか・・・。まぁ、アタシやセシリアが「ダシ」に使われたのは癪だけどもね。)

 

 

 

 模擬戦闘終了後、千冬は再び生徒達をフィールド上へと呼び戻し、彼女が伝えたい言葉を述べる。

 

「皆、今回の模擬戦を観て解ったと思うが、それでも敢えて私の口から言わせてもらうぞ。」

 

量産機でも、専用機には勝てる。・・・確かに、山田先生やゴーレムの様に「技量」は必要だ。「戦術」も必要だ。だが機体の性能なんざ、タッグマッチではそこまで役に立たん。・・・その事実が、今回の模擬戦で良く解っただろう。」

 

 千冬のそんな激励にも似た言葉は、先の模擬戦を観て燻っていた生徒たちの「動力炉」に、火をつけるには十分過ぎた。

 生徒たちの目つきがやる気に満ち満ちた所で、千冬は思い出したかの様にもう一つの警告を伝える。

 

「おっとそうだ。もう一つ重要な事を伝え忘れるとこだった。・・・お前ら、今後これを機に「教師」に対する態度には、今迄以上に気を付けろよ?教師と言うものが一体どれだけ強いのか、よぉ~く解ったろう?」

 

 それは正に、真耶に対する生徒たちの接し方を指摘するものであった。まるで同級生宛ら、当然の様にタメ口で真耶に接する1組の生徒たちには、千冬自身前々から憤りを感じていたのだ。

 特に・・・。

 

ーーーギロリ・・・ーーー

 

 猛虎の如き眼光を以て、千冬は銀髪の生徒を激しく睨みつける。どうやら、ラウラの真耶に対する陰口は、千冬の耳にしっかりと届いていた様だ。

 ラウラはその余りにも激しい眼光を受けて、顔を強張らせながら大量の「冷や汗」を掻く。そして、自然と「気を付け」の姿勢を取ってしまう。

 

 

 

 千冬からの激励後、生徒一同は「代表候補生・専用機持ち・ゴーレム」から教えを乞う為に、夫々別れていた。

 一番人気なのはやはりと言うべきか、一夏とシャルルであった。純白のISと橙色のISを身に纏った彼等に、女子たちは瞳を輝かせながら集まった。

 その後、群がりすぎないよう千冬や真耶から指示が飛び、どうにか均一に分かれてはいったが。

 

 

 そんな中、以外にもゴーレム3体に群がって来る生徒は多かった。整備課志望者が多いのもあるのだろうが、先程のチームプレイに感銘を受けた生徒も多いようだ。

 

「今の君たちのスペックって、ISに例えるとどの位なの?」 「オルコットさんと凰さんは強かった?」 「試合運びに、何かコツみたいなのはあるんですか?」 「やっぱり、実弾兵器よりもビーム兵器の方が有利なの?」

 

《ゴロ、ボクタチノ「スペック」ッテ、今ドノ位ダッケ?》 《純粋ナ機動力ニオイテハ、『打鉄』トホボ同等ト聞キ及ンデオリマス。》

 

《オイゴロ、『オルコット』と『ファン』って誰ダ?》 《先程サブロト戦ッタ方タチデスヨ。》

 

《コレハ「コツ」ト言エル事カハ分カリマセンガ、相手ノ「嫌ガル事」ヲスルトヨリ効果的デスヨ。ソウイウ意味デハ、ヤハリ相手ノ情報ヲ集メル必要ハアリマス。》

 

《確カニ、威力ヤ取リ回シノ良サナラ、ビーム兵器ノ方ガ上デス。シカシ、実弾兵器ノ方ガバリエーションモ豊富デスシ、戦術的ニハ相手ニ読マレニクイデスヨ。何ヨリ、整備ガ楽デス。》

 

 殆どゴロが回答していたが。

 

 

 MPS操縦者である昭弘も、生徒たちからの要望や質問に答えられる範囲で答えていた。

 しかし、またしても昭弘の瞳に、銀髪の生徒の姿が飛び込んで来る。観客スタンドでの光景の焼き回しの様に、1人で暇そうにしている。今朝のSHRでの出来事を考えれば、1組の生徒が近寄らないのも頷けると言うもの。そうでなくとも、あれ程に「誰も近寄らせない」と言った雰囲気を醸し出されては、2組の生徒でも近付くのに難儀する。

 千冬の目もある為、教えを乞いに来た生徒は拒まないのだろうが、来ないのならば教える必要性は無いと考えている様だ。

 

ーーーもう私に構わないでくれないか?ーーー

 

 先程のラウラの言葉を思い出す昭弘。しかし本人の要望とは言え、それを大人しく聞き入れる程、昭弘のお節介は生易しくはない。クラス内で孤立する事が、本人にとっても周囲にとっても良い影響を与えないと言う事は、昭弘も何となく理解しているのだ。

 しかし、()()()()()()()()()()()のだが、昭弘は未だその事に気付いていない。

 

「すまん相川、ちょっと待っててくれ。」

 

「え?あ、はい。」

 

 そう言うと、昭弘は暇そうに座り込んでいるラウラに再度近付く。

 ラウラはそんな昭弘を見て渋い顔をすると、気ダルそうに口を開く。

 

「また貴様か・・・。ほっとけと言ったろうが。」

 

「・・・・・・ちょっと手伝ってくれ。」

 

 突然の申し出に、ラウラは「あ?」と苛立ちを含みながら短く返した。

 

「オレは元々IS操縦者じゃない。戦術や感覚面なら詳しく教えられても、ISに関するより突っ込んだ部分となるとそうもいかん。」

 

 口実の為に言ったその言葉は、紛れも無い事実であった。どの道先程のままでは、いずれ教えるのに限界が来ていた事は、昭弘も良く解っていた。

 

「知るか。教えとは乞うものだろう?何故私から教えに行かねばならんのだ?」

 

 ラウラが正論で突っ返すが、昭弘は尚も食い下がる。

 

「だから今、こうしてオレが教えを乞いているだろう。」

 

「雌共の代わりにな。」

 

「そう言う訳じゃない。・・・なぁ頼む、無学なオレを手伝ってくれ。」

 

 そう言って昭弘は頭を下げる。

 そんな昭弘を、ラウラはただ真っ直ぐに見つめる。その深紅に染まった瞳は、少しばかり驚いている様にも見える。「何故私如きに頭を下げてまで頼み込むのか」と。そして・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少しだけだぞ。」

 

「ッ!!恩に着る!!」

 

 ラウラの渋々とした返事に対し、昭弘は更に深々と頭を下げる。

 

(形はどうあれ、頼まれたからにはしょうがない。それに、教官の前で駄々を捏ねる訳にも行くまい・・・。)

 

 

 昭弘は相川たちの元へ戻って来ると、臨時指導員としてラウラを軽く紹介する。無論、先程の昭弘とラウラの会話は一切聞かれていない。

 

「皆、すまない。やはりオレだけじゃ、ISの指導には限界がある。んで急遽、ボーデヴィッヒに助っ人を頼んだ。」

 

 他の専用機持ちは、生徒たちの指導でいっぱいいっぱいだ。なので、ラウラを選んだ昭弘の考えは、相川たちも納得はしていた。

 しかし、どこからどう見ても不機嫌そうなラウラを見て、不安を覚えない筈もなく・・・。

 

「・・・心配すんな。ボーデヴィッヒはこう見えて、結構「良い奴」だ。」

 

 それは、彼女たちの不安を紛らわせる為の一言に過ぎなかった。

 しかし、昭弘のその何気無い一言は、ラウラの胸中に深々と突き刺さった。

 

(・・・・・・「良い奴」か。私の部隊以外の奴からそう言われるのは、初めてかも知れんな。)

 

 心の中でそんな感慨に浸っていると、ラウラは自然と溢れそうになる笑みを必死に堪えた。

 

 

 ラウラが指導に加わった事により、相川たちへの指導はよりスムーズに進んだ。

 

《ど、どうだった?》

 

 空中機動を終えた谷本が、打鉄を纏ったままラウラに訊ねると、ラウラは先程の気だるげな雰囲気を微塵も感じさせずに答える。

 

「軌道が単調すぎる。それでは「戦闘機」と何ら変わらん。もっと「脚部スラスター」を有効活用しろ。自身の脚でより複雑な軌道を生み出す為に、脚部スラスターが存在するのだ。そうだな・・・暫くは、脚部スラスターだけで飛んでみて、慣れて来たら「背部スラスター」を織り交ぜる様にすると良い。」

 

《う、うん!解った!》

 

 谷本が快活に返事をすると、ラウラは他の生徒に向き直る。

 

「これは皆にも言える事だが、ISにおけるスラスターと言う物を、抑勘違いしている節がある。戦闘機とは違い、何故其々「脚」や「背中」等、全く別の位置にスラスターが付いていると思う?」

 

 そこでラウラは一旦区切ると、人指し指で自身の側頭部を軽く2回程突く。

 

「脳だけでコントロール出来るからだ。例えば右脚部スラスターをどれ程吹かして、背部スラスターをどれ程抑えるかと言ったエネルギーの微調整は、手動では限界がある。脳によるコントロールならば、それが可能だ。」

 

「極端な話、ISがあのような形状をしているのも、各スラスターを自由自在に操れるのに「人型」が最も適しているからだ。「背中で加速」し「両脚で泳ぐ」・・・如何にも、脳がイメージしやすそうだろう?」

 

「各員次からは、先ずその事を念頭に入れて飛ぶようにな。」

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

 少女たちの返事に、最早先程の不安は見え隠れしていなかった。その後、彼女たちは先程から使い回していた2機の打鉄に向かって行った。

 ラウラの教え方に感心していた昭弘も、彼女たちに合わせる様に気持ちを切り替える。

 

 しかし、谷本だけは一旦ラウラの元へ駆け寄って来る。笑顔のまま「顔面スレスレ」の所まで急接近されたので、ラウラは軽く驚いて後退りしてしまう。

 

「えへへ。ボーデヴィッヒさんって、「見掛けに依らない」って良く言われるでしょ?」

 

「あぁ?それはどう言う意味だ?」

 

「御想像にお任せしまーーす♪」

 

 何の脈絡も無しに言いたい事を言い終えた谷本は、今度こそ鎮座している打鉄に向かって行った。

 ラウラはむず痒い気持ちに襲われながらも、そのまま普段通りを装い続けた。

 

 

 合同演習終了後。

 後片付けの最中、ラウラは昭弘の元へヅカヅカと無遠慮に向かって来る。

 

「オイ!!デカいのッ!!分かっているとは思うが、今度こそこれ以上私に構うなよ!!?」

 

「・・・」

 

「聞いてるのか!?オイッ!!」

 

「・・・」

 

 

 

ーーー3時限目終了後ーーー

 

「ボーデヴィッヒ、トイレが何処か分かるか?」 「知っている。失せろ。」

 

「じゃあ男子用のトイレは分かるか?」 「知っている。失せろ。」

 

「食堂は何処か知ってるか?」 「知っている。失せろ。」

 

「さっきの授業で何か解らない所はあるか?」 「無い。失せろ。」

 

 

 

ーーー昼休みーーー

 

ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ・・・

 

「しつこい奴だなお前は本当にィッ!!!」

 

「そう言うなって。一緒に昼飯食おうぜ。」

 

「断ァる!!!」

 

「お前らぁ!!廊下を走るなァッ!!」

 

「「すいません!!!」」

 

ダッダッダッダッダッダッダッダッダ・・・

 

「走るなっつってんだろぉがぁッ!!!」

 

 

 

ーーーIS学園 屋上ーーー

 

 正に「ピクニック日和」と言い切れる青空の袂、一夏たちはシャルルを屋上へ誘って昼食を採っていた。

 シャルルは最初こそ遠慮気味であったが、一夏たちの楽しげな雰囲気のお蔭か、大分笑顔が目立つようになっていた。

 

 そんな中、箒だけはどうにも浮かない顔を滲ませていた。

 

(はぁ・・・一夏と2人きりで食べれると思ったらこれだ・・・・・・。昭弘も居らんしな・・・って!何故そこで昭弘が出てくる!?)

 

 箒の無意識な寂しさにまるで同調するかの様に、一夏も憂色を含んだ声を上げる。

 

「にしても、やっぱ昭弘が居ないと何か締まらないよなぁ。「大黒柱」がポッカリ抜けた感じって言うか・・・。」

 

 またしても昭弘の事に意識を向けている一夏に対し、鈴音とセシリアが憤慨しながら物申す。

 

「何よ、アタシらじゃ不満だっての?」

 

「全くですわ。それに、大黒柱なら一夏の方が万倍相応しいですわ。」

 

「い、いや、オレはそういうつもりで言った訳じゃ・・・・・・。」

 

 威圧的な鈴音とセシリアに対し、一夏は尻込みしてしまう。女性に対して弱腰になってしまう所は、彼の悪癖の一つなのかもしれない。

 急変してしまった雰囲気に飲み込まれたシャルルの笑顔は、再び「不安」に覆い尽くされてしまう。

 

ガチャッ・・・

 

 すると、不穏な雰囲気を一旦リセットするかの様に、屋上に続く扉が開く。そして、中から誰もが知っている見知った巨漢がヌルリと現れる。

 

「「昭弘!」」

 

 箒と一夏が、待ってましたと言わんばかりに昭弘に駆け寄る。先ずは何故“汗だく”なのか訊こうとするが、昭弘からの質問が一歩早かった。

 

「ボーデヴィッヒが此処に来なかったか?」

 

 その質問を受けて、箒も一夏も同じように固まってしまうが、その後の反応はまるで異なった。

 

「い、いや・・・来ていないが?」

 

「・・・」

 

 ごく普通に答える箒に続く様に、シャルルたちも首を左右に数回振る。しかし、何故か一夏は不機嫌そうに目を背けるだけであった。一夏の反応が気懸りだった昭弘だが、一先ず事情を説明することにした。

 

「そうか・・・。いや、大した事じゃないんだ。アイツを昼食に誘おうと思ったんだが、逃げられちまってな。」

 

「まぁ、それは御愁傷様ですこと。」

 

 セシリアが若干皮肉交じりで返したタイミングで、一夏も表情を切り替えて昭弘に昼食を摂るよう促す。

 

「と、取り敢えず、飯にしたらどうよ?」

 

「ん?・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そうだな・・・。」

 

 昭弘はもう一度ラウラを探そうと一瞬考えたが、空腹がそれを許してはくれなかった。

 

 

 売店で買っておいた「チキンバーガー」を勢い良く頬張る昭弘に対し、鈴音が呆れの混ざった声で軽く訊ねる。

 

「にしても、アンタも物好きと言うか、お人良しよねぇ。ボーデヴィッヒって、SHRでいきなり一夏をブン殴ろうとした奴でしょ?」

 

 どうやら、ラウラの蛮行は1組以外のクラスにもしっかり認知されている様だ。“噂話”を媒介として。

 昭弘は「それがどうした?」と言わんばかりに、ラウラの悪印象を修正しようとする。

 

「“未遂”で終わったんだ。大したことじゃ無いだろう?皆、過ぎた事を何時までも気にし過ぎなんじゃないのか?」

 

 実際、谷本や相川はもう大分ラウラに懐いている。

 しかし、ここぞとばかりにセシリアが鈴音の側に付く。

 

「あの時お前が止めていなければ、あの子は確実に一夏を殴り抜いていましたわ。そんな危険人物、気にしない方が可笑しくてよ。」

 

「・・・別にオレが止めなくたって、アイツは途中で拳を止めてたさ・・・・・・。」

 

 昭弘にしては少々根拠に欠ける言い分に、鈴音とセシリアは瞼を細めていた。

 そんな、誰の目から見てもラウラを庇っている昭弘に対し、箒は出来る限り「中立」を装って訊ねる。

 

「・・・なぁ、昭弘。何故そこまでして、アイツを構うんだ?確かに、転校生なのだから親身に接するのは解るが・・・・・・本当にそれだけが理由なのか?」

 

 箒の鋭い観察眼に、昭弘はつい感服してしまう。

 そう、昭弘がラウラを構うのは、単に転校生だからという理由だけではない。恐らく彼は“重ねて”しまっているのだ。ラウラに、今は亡き弟である「昌弘」の面影を。

 当然、外見が似ている訳でもないし、性格も大きく掛け離れていると言って良い。しかし、“孤独”を貫き通そうとするラウラを見ていると、どうしても弟の「死に際の表情」がチラついてしまうのだ。家族を殺され、「奴隷(ヒューマンデブリ)」として売り飛ばされてきた弟。そしてとうとう「新しい家族」を得る事も叶わず、最後に実兄である昭弘の姿を瞳に焼き付けて、そして息絶えたのだ。

 そんな死ぬ間際、昌弘が何を想っていたのか、昭弘には今でも解らない。確かな事は、昌弘が絶望的なまでに永い間、孤独を味わっていたという事だけだ。

 ラウラにもそんな思いをさせたくはないという極めて身勝手な感情が、昭弘を激しく突き動かしていたのだ。

 

 しかし、そんな想いと同じ位大きな感情が、昭弘の中で確かに芽生えつつあった。昭弘はその感情を惜しげも無く、箒に対する答えとして己の口から吐き出す。

 

仲良くなりたいのに、一々理由が必要か?

 

 その一言を聞いて、一同は一瞬動きを止める。しかし、箒は珍しく笑みを零しながら、昭弘の答えを受け止める。

 

「そうか・・・ならもうこれ以上、私もとやかく言えないな。」

 

 箒だって同じだ。昭弘・一夏・セシリア・本音とは今後も仲良くしていたいし、1組の皆とももっと仲良くなりたいと思っている。だから昭弘のそんな単純にして明確な答えは、箒が最も聞きたかった答えと言っても過言ではなかった。

 鈴音やセシリアも、余り納得していない様子ではあったが、それ以上問い詰めると言った事はしなかった。

 シャルルは、ラウラの話題には余り深く突っ込もうとせず、周囲の反応を伺っているにとどまっていた。

 しかし、一夏だけはどこか表情に“影”を落としていたのを、昭弘は決して見逃さなかった。

 

(一夏・・・ボーデヴィッヒと、過去に何かあったのか?)

 

 

 その後、鈴音が自作の「酢豚」を一夏に食べさせた事により、箒・鈴音・セシリアの間で軽い諍いが起こった。その結果として、セシリアが一夏に「サンドイッチ」を分け与える事になったのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ以上は、敢えて明記しないでおく。ただ、その後昭弘がセシリアへ「罵声罵倒」を繰り出したせいで、普段通りのいがみ合いが発生したとだけ伝えておく。

 

 

 

 

 

ーーー5時限目終了後ーーー

 

「ボーデヴィッヒ、結局昼食はちゃんと済ませたか?」 「済ませた。失・せ・ろ。」

 

「部屋番号は?」 「『212号室』だ。失・せ・ろ・・・ってしまったッ!!」

 

 

 こうして、昭弘にとって長いようで短い「学校」が過ぎていった。

 そして、この日が波乱の一端に過ぎないという事を、昭弘は何となく察していた。




責任者だからって色々と好き放題やっちゃうチッフでした。ゴーレム辺りはTNP悪くならない様に、出来るだけ不自然無く削ったつもりです。
あと、今回大分昭弘をハッチャケさせてしまいました。まぁでも声のトーンは普段通りだからセーフって事で・・・許して貰えませんか・・・。
ラウラは、一応原作通りっぽくしたつもりでしたが、まぁチョット優しさ20%増し位にしました。
一夏はこっからどんどん精神的に病んでいっちゃいます。無論、病んだまま終わらせはしませんが。


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第18話 少年と少女の正体

何となくどちらが男か察している人も多い気がするので、もうこの回で正体をバラしてしまおうと思います。
普段よりも変態的な描写が多い気がするので、そう言うのが苦手な人はご注意を。


ーーー5月9日(月) 20:43 212号室前ーーー

 

 ラウラとシャルルがIS学園に転校してから、漸く1日が過ぎようとしていた。

 昭弘は放課後の訓練を終えた後、ラウラが5時限目終了時にサラっと口にした「212号室」前まで赴いていた。他の部屋と何一つ変わり無い扉を前にして、昭弘は数秒程立ち止まる。今部屋に居るだろうか、居たら追い返されるだろうか、ルームメイトは誰であろうか、どんな部屋なのだろうか。数秒間の沈黙でそんな事を思い浮かべた後、昭弘はインターホンに翳していた指に力を加える。

 

ピィィン・・・ポーーーン・・・・・・

 

 重々しいチャイムが部屋の内外で異なる音を奏でた直後、子機のスピーカーから“少年”の様に若々しい声が、機械音と交わりながら漏れる。

 

《・・・・・・ちょっと待ってろ。》

 

 子機に備え付けられたカメラで昭弘を確認したラウラは、何故か「疲れ果てた声」でそう一言だけ述べた。その時、微かに“女子の黄色い声”が混じっていたのを、昭弘は聞き逃さなかった。

 

(・・・どうやら、ルームメイトも一緒のようだな。)

 

 そんな事を考えていたら、いつの間にか玄関扉が開かれていた。直ぐ下の方に視線を移すと、寝間着姿の小柄な生徒が、疲労を滲ませた顔を隠そうともせずに昭弘を見上げていた。シャワーも既に浴びたのか、長い銀色の髪は目視で確認できる程度には湿っていた。

 その目は、昭弘の到着を待っていた様にも見えた。

 

「丁度良かった。上がれ。」

 

「・・・御邪魔する(丁度良かった?)。」

 

 随分すんなりと自身を上げてくれた事に疑問を抱く昭弘であったが、そんな疑問を一旦隅に追いやってラウラに続く。

 

「あっ!こんばんは~昭弘さん。」

 

「へっ!?あ・・・・・・こ、こんばんは・・・アルトランドさん・・・・・・。」

 

 ラウラの部屋には、1組のクラスメイトである相川と、同じく1組のクラスメイトである『鏡ナギ』が正に「我が物顔」で寛いでいた。彼女たちも又、既に寝巻姿であった。

 鏡はショートヘアーの相川とは対照的に、黒髪のロングヘアーで椿色のヘアピンを付けていた。相川とは違い整備課志望の鏡だが、昭弘には未だに苦手意識を持ち合わせている様だ。

 

「悪いな、邪魔して・・・。んで?どっちがボーデヴィッヒのルームメイトなんだ?」

 

 昭弘が今頭の中に浮かべている疑問点を相川に訊ねると、相川は腕を組んで“得意げ”な表情をする。

 

「フッフッフ・・・聞いて驚かないで下さいよ?何とッ!!私とナギとラウラ!3人で一部屋扱いなんですよぉ!!」 「オイ、勝手に名前で呼ぶなって言ってるだろう。」

 

「ッ!?・・・・・・確かに、そいつは驚きだ・・・。」

 

 IS学園の学生寮では、「2人1部屋」が原則だ。しかし、成程確かに良く良く見渡してみれば、ベッドが3台ある。何故3人部屋なのか昭弘が訊ねようとする前に、相川が得意げに答える。

 

「ホラ!ラウラとシャルルくんって、急遽入学が決まったじゃあないですか!んでもって、空き部屋なんてどこにも無いって話で、私たちの部屋に捻じ込む事になったんですよぉ!!」

 

 つまり、元々212号室は、相川と鏡の部屋だったと言う事になる。

 実際、IS学園学生寮の部屋は、2人部屋とは思えない程広く設計されている。大方、生徒に快適な思いをさせたいのだろうが。実際この3人部屋は、昭弘から見てもそこまで手狭には見えない。

 

「私としては、勿の論大大大歓迎でしたよぉ!」

 

「3人部屋の方が、楽しそうだしね。」

 

 相川も鏡も、3人部屋にはさして抵抗が無い様だ。しかし、当のラウラは抵抗感剥き出しで“ぐったり”としていた。

 

「・・・本当に、さっきから煩くて敵わん。お前を部屋に上げた理由も、こいつらの「話し相手」をして欲しかったからだ。」

 

「・・・・・・成程な。」

 

 ラウラの気ダルげな反応に、相川が駄々を捏ねる。

 

「えぇ~~!?ヒッドォーーイ!!」

 

「ラウラ?清香から「お喋り」を抜いたら、「スポーツ観戦」しか残らなくなっちゃうから、大目に見てあげて?」

 

 彼女たちの反応に大きく「舌打ち」しながら、ラウラは踵を返して移動する。

 

「ん?何処へ行く?」

 

 昭弘の問いに、ラウラは面倒臭げに答える。

 

「“小便”だ。その間にお前は、そいつらの相手でもしてろ。」

 

 そこまで言うと、ラウラは洗面所のドアを乱暴に閉める。

 

 昭弘は、ラウラが戻って来る迄の短い間、彼女たちと何を話すか考えていた。相川は兎も角、鏡とは接点が殆ど無いので、中々話題が口から出て来ない。

 そんな中最初に口を開いたのは、やはり双方と親しい相川であった。

 

「そう言えば結局ラウラって、やっぱ“女性”なんですかね?・・・それとも“男性”?」

 

 昭弘は、相川の「素朴な疑問」を聞いて「ハッ」とする。昭弘はSHR時以外、一切その辺を気にしていなかったので、今改めて“その事”に頭を回し始めた。

 

「・・・・・・どうなんだろうな?だが一人称は“私”だし、外見も女にしか見えないしな・・・。」

 

 2人がそんな疑問の渦に嵌っていると、鏡が当然の突っ込みを入れる。

 

「・・・と言うか、さっき直接訊けば良かったんじゃ・・・。」

 

 鏡の的確な指摘に、昭弘と相川は「「あ・・・」」と間抜けな声を上げる。すると・・・

 

ガチャッ

 

 ラウラはドアを開けた後、ノソノソと自身のベッドに向かって行った。

 そんなラウラの行動に昭弘は何も思うことは無かったが、()()である相川と鏡は頭に疑問符を浮かべる。

 そしてとうとう、相川が自身の持つ疑問点を口にする。

 

「・・・・・・ねぇラウラ、トイレ・・・早くない?1分も経ってなかったよ?」

 

 ラウラはその疑問の意味が解らないまま、返答する。

 

「さっき“小便”だと言った筈だが?」

 

「いや、そうじゃなくって!普通「お花摘みに行く」時、ほら・・・その・・・・・・“拭く”なり何なりで、2分近くは掛かるじゃない?」

 

 少々恥ずかしそうにしながら、相川はそんな事を口にする。

 相川の言っている意味を何となく理解したラウラは、さも当たり前の様に答える。

 

「それは、“女性”であるお前たちならばの話だろう?」

 

 ラウラのそんな返答を聞いて、昭弘・相川・鏡はもうほぼ確信を持った。そして、途方も無いレベルの「混乱」が、彼女たちの脳細胞に襲い掛かる。

 

「・・・え?いや、え?・・・・・・いや、そんなまさか・・・ねぇ?」

 

「いや、でも・・・・・・シャルルくんだってあの外見で“男”だし・・・。」

 

 そんな彼女たちを余所に、昭弘はラウラを今一度「洗面所」に連れて行こうと、ラウラの左腕を鷲掴みにする。

 彼にとっては、ある程度予想できていた事だからか、相川や鏡程の混乱はなかった。

 

「なっ、何だぁ!?貴様はいきなりッ!!」

 

「すまん・・・1つ確認したい事ができたんだ。」

 

 

 有無を言わせず自身を洗面所へ連れてきた昭弘に対し、ラウラの機嫌は「斜め」どころか「垂直」に角度を変えていた。

 昭弘はそんなラウラに臆する事無く、自身の中で渦巻いている疑問を口にする。

 

「・・・単刀直入に訊くが、お前・・・・・・・・・“”か?」

 

 その単純にして明確に過ぎる疑問は、昭弘にとってはこの上無く重要なモノであった。

 しかし、ラウラにとっては余りにも下らなさ過ぎる問い掛けであったので、声に更なる苛立ちを募らせながら答える。

 

「あ?“男”に決まっているだろう?阿呆か?」

 

 自身の予想があっさりと当たってしまい、長い溜息を吐いてしまう昭弘であった。しかし、()()()()()()()を確認すべく、気持ちを直ちに切り替える。

 

「・・・全裸になれ。」

 

「は?」

 

 ラウラは右耳を前方に傾けながら、昭弘の発言の正当性を求める。

 

「悪い、訂正する。“男性器”を見せろ。お前が“男”であると言う確証が欲しい。明日、昼飯か何か奢ってやるからよ・・・。」

 

「チッ・・・まぁ良いだろう。言葉をそのまま鵜呑みにするのは、無能の所業だ。「確認」は大事だからな。」

 

(いや、良いのかよ・・・。やっぱどこか少しズレた奴だな。オレからお願いしといて何だが・・・。)

 

 意外な程あっさりと、ラウラは昭弘の要求に答える。

 そして何の躊躇も無く、股間のファスナーを勢い良く下げる。この「男に対する恥じらいの無さ」も、ラウラが“男”であると言う確証になり得た。

 

 そして、「社会の窓」からチョコンと姿を覗かせている「肉の塊」を、昭弘は確かに目に焼き付けた。

 もうこれで間違いは無い。『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は歴とした“男性”だ。

 ラウラに言っておきたい事、訊きたい事は山程ある昭弘であったが、一先ずは彼女たちに“真実”を報告すべく、ラウラと共に洗面所を出る事にした。

 

 

「・・・・・・・・・・・・嘘・・・ですよね?」

 

「・・・・・・・・・ハハハ!まっさかぁ!」

 

 相川と鏡の反応は多少異なっていたが、「信じられない」と言った思いは一致している様であった。

 そんな2人の反応を掻き消すが如く、昭弘は冷徹に真実を突き付ける。

 

「いや、間違い無い。ボーデヴィッヒは男だ。先程洗面所で、“男性器”を確認済みだ・・・。」

 

 昭弘の口から発せられた重低音が、彼女たちの耳を通じて身体全体で幾重にも響き渡る。彼女たち2人は唯唯黙り込み、まるで時間が静止したかの様に身体を硬直させてしまった。

 そんな重苦しい雰囲気をまるで意に返す事なく、ラウラは呆れ果てる。

 

「何だ貴様ら・・・。今の今迄、私の事を女だと思っていたのか?」

 

 そんなラウラの反応を聞いて、ここぞとばかりに昭弘が口を開き始める。

 

「いや、そう思うだろう普通。長い髪に、華奢な身体、高い声に「私」っつー一人称。おまけに・・・同姓にこういう事言うのは気恥ずかしいが、顔立ちも整っていると来た。」

 

 昭弘の長ったらしいクレームに対し、ラウラも又長々と返す。

 

「制服はちゃんとズボンを穿いているだろう?抑々私は「軍人」だからな。軍人たるもの、一人称から口調まで、常日頃から厳然たる態度で居なければなるまい?髪は元々切る習慣が無かったんでな。体つきや顔立ち、声帯に関しては最早どうしようもない。・・・抑々、ちゃんとIS学園には「男子生徒」として籍を置いているぞ?気付かない貴様らが悪い。」

 

 良く良く思い起こしてみれば、ラウラが男であると言う“兆し”の様なものはあったのだ。

 1時限目前の「着替え」もとっとと教室で着替えたのではなく、単に先に移動して男子更衣室で着替えただけの話なのだ。2時限目終了時の「着替え」も、後片付けを上手くサボって先に男子更衣室で着替えたのだろう。それに、男子用のトイレも、何故かしっかりと把握していた。

 「籍」に関しては、余りにも急過ぎる転入のせいで、生徒一同確認するどころでは無かったのだろう。外見が「女の子」っぽい時点で、皆「そうであろう」と思い込んだのだ。「部屋割り」についても同様で、最早協議する猶予すら無く、殆ど適当にブチ込んだと言うのが現状だ。

 昭弘もその気になれば、あっさりと確認の許可を取れたのだろうが、途中で性別云々に関しては後回しを選んだので、今回の様なタイミングで気付かされてしまったのだ。

 

 そんなことを思い出していた昭弘は、未だに硬直している相川と鏡に再び向き直る。

 

(・・・無理も無い。1日とは言え、ずっと同性の同級生として接していたんだ。・・・ショックを覚えない事は無いだろうぜ。)

 

 そんな事を思いながら、昭弘は彼女たちに何と言えば良いのか模索し始める。しかし、昭弘が話し掛けるより前に、彼女たちは「ブツブツ」と呟き始める。

 

「・・・とこ。・・・の、・・・た目で・・・。」 「・・・とこ、ぉとこ、男!」

 

 そんな彼女たちを不審に思った昭弘とラウラは、目を細めて耳を傾けてみる。直後ーーー

 

「「超絶美少年」」

 

 相川と鏡はお互いに向き合いながら、まるで確認するかの様にそんな単語を発した後・・・・・・発狂した。

 

「キタァァァァァァァァァァァァァァ!!!キタキタキタァァァァァァアアアア!!!!!まさかの転校生がどっちも男子ッ!!!しかもどっちも「美少年」!!!」

 

「はあ・・・神様・・・貴方様は、本当に存在したのですね・・・・・・。これで、『鏡ナギ』主人公の「逆ハー恋愛小説」が、完成されます・・・。」

 

 相川は奇声を発し、鏡は合掌しながら天を仰ぎ見ていた。

 そんな2人を昭弘とラウラは、先程よりも2歩程引いた場所から、お互い同様に顔を歪ませながら唯々見ていた。

 

「・・・オイ、アルトランド。」

 

「・・・何だ?」

 

 満身創痍な状態で、ラウラは辛うじて声を絞り出す。昭弘も又、疲れ果てた声でラウラの発言を促す。

 

「・・・今日一日だけで良い。お前の部屋に私を泊めてくれ。頼む。一生のお願いだ。」

 

 ラウラが心の奥底から懇願すると、昭弘はラウラの左肩に掌を静かに乗せながら、その願いを聞き入れる。

 

「ああ、今夜は泊まってけ。」

 

 2人は密かにそんな口約束をし、未だに騒いでいる相川と鏡に気づかれぬ様忍び足で後ずさり、その「狂った空間」にそっと蓋をする。

 

 

 

 昭弘の部屋である130号室に上がり込んだラウラは、先ずその部屋の“状況”に絶句する。

 見渡す限り、鉄、鉄、鉄。居るだけで目眩を覚える程の夥しい「トレーニング器具」が、其処にはあった。

 

(・・・私もトレーニングは好きだが、ここまで来ると夢に出てきそうだな・・・。)

 

 

 自身の部屋にラウラを招き入れた昭弘は、先ずクローゼットから「寝袋」を取り出す。

 

「ほう、準備が良いな。」

 

 ラウラが感心を示すと、昭弘は少しだけ得意げになる。

 

「こんな時の為に、この前の「買い物」で買っておいたんだ。」

 

 どうやら、先日一夏たちとレゾナンスに赴いた時、昭弘もちゃっかりと「買い物」に精を出していた様だ。

 

「何か飲むか?一応「緑茶」と「オレンジジュース」を冷やしてある。」

 

 昭弘の気遣いに対し、ラウラは素っ気なく答える。

 

「いや、もう寝る。・・・寝袋、ありがたく借りるぞ。」

 

 そう言いながら、ラウラは寝袋を近くのソファにセットし、アイパッチを外すと直ぐ様両足から身体全体を突っ込む。既に「歯磨き」も、昭弘が212号室へ来る前に済ませてある。

 にしても、疲れているのは本当の様だ。慣れない学園生活の初日で、しかも昼休みには昭弘と全力疾走で「追い駆けっこ」をしたのだから、当然と言えば当然だが。

 しかし、昭弘はラウラが眠りに就く前に、訊いておくべき事を幾つか声に出す。

 

「・・・そう言や、さっき「軍人」って言ってたが、その年でも入隊できるもんなのか?」

 

 昭弘の疑問に対し、ラウラは若干眠気を帯びながらも答える。

 

「私の場合は、色々と特殊なんだ。・・・話せば長くなるから詳しくは言いたくないが、『試験管ベビー』とだけ教えておこう。それ以上は面倒だから聞くな。」

 

「・・・そうか。」

 

(『試験管ベビー』・・・束から聞いたことがある。確か、文字通り「試験管」の中で人工的に生み出された子供・・・だったよな?クロエと同じ様に・・・。)

 

 クロエの研究所での境遇を束から聞かされている昭弘は、ラウラの出生を知って居た堪れない気持ちになる。少なくとも、普通の生活を送れなかった事はまず間違いないだろう。

 もしかしたら、ラウラとクロエが()()()()()()点も、何か関係しているのかもしれない。

 出来ればその辺りをもっと詳しく訊きたい昭弘だが、本人に言われた通り、今は訊かないでおいた。

 

 昭弘は気持ちを切り替えて、次なる話題に移る。

 

「・・・それと、「デュノア」の事なんだが・・・。」

 

 そう、クロエの話に寄ると、「男性IS操縦者」は転校生2人の内1人だけだ。その男性IS操縦者がラウラであると判明した今、シャルルは必然的に“女性”であると言う事になる。

 

「ん?あの“女”がどうかしたのか?」

 

「ッ!・・・やっぱりお前も勘づいていたのか。デュノアが女だって事を。」

 

 少し驚く昭弘を、ラウラは鼻で笑う。

 

「ハッ!あの程度、一目で判ったぞ。この学園の女共は、余程男に飢えていると見た。瞳に「願望」と言う名のコンタクトレンズでも着けているんじゃないか?」

 

 随分と辛辣な言い様ではあるが、その冗談混じりな予想は恐らく正しい。

 日々「異性」に飢えている彼女たちは、「男子」と言う甘美な響きを耳にしただけで、視界に都合の良い「フィルター」を掛けてしまったのだ。

 

「まぁ、それもそうだな。」

 

 昭弘はそう同意した後、本題に入る。

 

「そんで・・・お前はどうする?デュノアの性別をバラすのか?」

 

 昭弘の簡単な問いに、ラウラはどうでも良さげに答える。

 

「まさか。性別を偽って転入したと言う事は、要するにIS学園を“騙している”と言う事だ。そうなると「国家ぐるみで騙している」か、「国家そのものを騙している」と言う事になる。どちらにしろ、間違いなく「国際犯罪」だ。そんなのに巻き込まれるのは願い下げだ。だからバラさん。「触らぬ神に祟りなし」だ。」

 

 昭弘の漠然とした「嫌な予感」は、どうやら的中してしまった様だ。

 この時の昭弘には、シャルルを「何とかしてやりたい」と言う思いは薄かった。

 それよりも「彼女と行動を共にしている一夏の安否」「性別を偽る目的」「背後関係」等々、そんなことばかりが気に掛かった。それもその筈。昭弘は彼女の事を未だ何も知らないのだから。

 ラウラ程冷淡ではないにしろ、シャルルの事で熱くなれると言われれば嘘になるのだ。

 

 一先ず昭弘は、考えを聞かせてくれたラウラに礼を言う事にした。

 

「取り敢えず、お前のお蔭でデュノアはオレが思ってた以上に「ヤバイ存在」だと言う事が判った。ありがとよ。」

 

「・・・フン。」

 

 ラウラの突っ慳貪な返事を聞いた後、昭弘はニヤつきながら、自身が今思っている事をそのまま口に出す。

 

「にしてもお前、随分と“喋る”様になったんじゃないか?・・・そろそろ、オレも気に入られてきたって事か?」

 

 そんな昭弘の言葉を、ラウラは口調を荒げて否定する。

 

「勘違いするなッ!部屋に泊めさせて貰っている事への礼に過ぎん!!」

 

「ああそうかい。」

 

 昭弘が適当に返すと、ラウラは少しばかり訂正するかの様に、再度口を開く。

 

「・・・・・・だがまぁ、部屋に泊めてくれた事は、本当に感謝している。・・・相川と鏡にも、明日キッチリと謝罪するつもりだ。」

 

「気にすんな。オレもお前の“イチモツ”を見ちまったからな。お相子って奴さ。」

 

 昭弘が似つかわしくない軽口を叩くと、ラウラは小さな笑みを溢した。

 

 その後暫くの間“沈黙”がその場を支配するが、何を思い出したのか、昭弘は唐突に口を開く。

 

「そう言や、もう1つだけ訊きたい事があったんだ。・・・お前と一夏は、どういう関係・・・」

 

「スー・・・・・・スー・・・・・・」

 

 しかし、ラウラが“夢の世界”に招かれる方が、僅かに早かった。どうやら、先程の沈黙は再び物事を訊ねるには長過ぎた様だ。

 目が覚めている時の「鋭い眼光」はとうに鳴りを潜め、其処には少女の様に「純真無垢」な寝顔だけがあった。アイパッチを外している事も相俟って、瞼を閉じた姿は益々「クロエ」の佇まいと重なる。

 

 そんなラウラを眺めていても仕方がないので、昭弘もシャワーを浴びて寝る準備をする・・・訳にも行かず、明日の課題に全く手をつけていないと言う事実に気付く。

 自身の怠惰を嘆きながらも、「ラウラとの距離」を僅かに縮められたと思い込む事で、「負の感情」を半ば無理矢理「正の感情」へと引き上げた。




短く済むと思って調子こいたら8000字近く行ってしまいました。
鏡さんも整備科志望にしときました。

あとすみません、昭ラウ(♂)に時間を割きすぎましたね。次回からはちゃんとシャルも描写していけたらいいなぁ。


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第19話 周囲に映る2人、昭弘に映る2人

シャルと昭弘を絡めるのが非常に難しかったです。


ーーーーー5月10日(火) 130号室前ーーーーー

 

 普段度取りの廊下、普段通りの学生服で、一夏は普段通りの登校をすべく、部屋のインターホンに指を翳す。唯一普段と異なる点は、彼の隣に居る「新しいルームメイト」の存在だろうか。

 しかし、彼にとってはその程度なら些細な問題の様で、今日も一日普段通りの「朝」を迎えられるだろうと確信していた。

 

ピィン・・・ポーーン・・・

 

 チャイムを内外に響かせた後、一夏の新たなルームメイトである『シャルル』が、他愛もない質問を繰り出す。

 

「一夏って、いつもアルトランドくんと一緒に登校してるの?」

 

 そんな質問に、一夏は喜色を滲ませながら答える。

 

「まぁな!昭弘と一緒に登校しないと、一日が始まんねぇよ!」

 

 一夏の喜々とした返答に対し、シャルルは温和に微笑みながら言葉を返す。

 

「ほんと・・・仲良しなんだね。」

 

「オレにとっては、最早「兄貴」みたいな存在だからな!!」

 

 二人がそんな雑談を繰り返していると、気が付けばドアの開閉音と同時に見慣れた“巨漢”が姿を半分ほど覗かせていた。

 

「おはよう、待たせたな。一夏にほうk・・・ん?」

 

 昭弘は、本日もいつも通り一夏の隣に「黒髪の大和撫子」が居ると想定していた。しかし、居るのは「金髪の貴公子(女)」であった。

 呆気に取られる昭弘を見かねて、一夏は新たなルームメイトの紹介に入る。

 

「ああ、昨日からシャルルがオレのルームメイトになったんだよ。ホラ、丁度シャルルは“男”だし、オレと相部屋にしようって事になってさ。けど、一つの部屋に「女:1人 男:2人」だと、女子の方は色々と不安だろうって事で、箒には部屋を移動して貰ったんだよ。」

 

 一夏が何食わぬ顔のまま説明を終えると、昭弘は一つの疑問点が頭に浮かんだ為、一夏に訊ねる。

 

「・・・・・・箒は反対しなかったのか?」

 

「それがさぁ、何故か「猛反発」して来たんだよ。それも、支離滅裂な理由ばかり並べてさぁ。んで、オレと山田先生でどうにか説得したって訳。」

 

(そりゃあそうだろうよ・・・。)

 

 箒には可愛いそうだが、何時までも年頃の男女を同じ部屋にしておく訳にも行かない。・・・と言っても、シャルルの性別を鑑みると、()()()()()()()()()()のだが。

 

 昭弘は、居ずらそうに引き攣った笑顔を浮かべるシャルルに対し、「疑念」で塗り固められた瞳を一瞥だけ向ける。

 思い起こしてみると、シャルルは基本ずっと一夏の傍に居る。男性同士ならそれも納得だが、シャルルは性別を偽った女性だ。男性として性別を偽り、一夏に近づく理由は何なのか。そう考えると、“部屋替え”に関しても「シャルルの意図が絡んでいるのでは?」と、昭弘はつい頭を巡らせてしまう。

 

「オイ、早く出ろ。」

 

「イテ・・・。」

 

 昭弘の熟考を、甲高い声と自身の脹脛への「軽い衝撃」が遮る。爪先で軽い小突きを繰り出したのは、昨晩から昭弘の部屋に泊まり込んでいる『ラウラ・ボーデヴィッヒ』であった。

 

 一夏の瞳に、薄気味の悪い『銀色の髪』が僅かに映る。全身は未だ昭弘の影に隠れてはいるが、その吐き気を催す様な「憎たらしい声」だけで、そいつが“誰”なのか一夏は思い知らされる。

 しかもあろう事か、そいつは何故か「昭弘の部屋」から出て来たのだ。

 

ーーー何だこいつ。何時から昭弘とそんなに親しくなった?しかも慣れ慣れしく蹴ったよな?『千冬姉』だけじゃ無く『昭弘』まで手籠めにする気か?ムカツクウゼェムカツクウゼェムカツクウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェ・・・ーーー

 

 一夏は隣に居るシャルルの事など気にも留めずに、ラウラの全身が現れたと同時に“その事”を問い質す。

 

「・・・何でお前が昭弘の部屋に居るんだよ。」

 

 普段の明るげな雰囲気は一変し、威圧的にそう訊ねる一夏。しかし、ラウラはその質問には答えず、一夏の顔を見て普段の無表情面を歪ませる。

 

「・・・オイ、アルトランド。何でこいつがお前の部屋の前に居るんだ?」

 

 一夏に向けて指を指したまま、苦虫を嚙み潰した様な表情で昭弘にそう訊ねると、昭弘は僅かに困惑しながら答える。

 

「何でって・・・さっき「一夏たちと一緒に登校するが、構わないか?」と言ったろう?んでお前は「コクリ」と首を縦に振っ・・・・・・・・・まさかお前、寝ぼけてたのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そんな事も言っていた・・・気がする。」

 

 ラウラの曖昧な反応に、昭弘は“呆れ”を高濃度に含んだ溜め息を吐く。

 

「お前・・・・・・一応「軍人」だろうが。軍人が朝に弱くてどうする。」

 

「フン。軍人にだって得手不得手はある。大体、寝起きでそんな事を訊ねてくる貴様にも非はある。」

 

「いやいや、寝起きじゃねぇよ。お前が寝袋からしっかりと出て来た後に訊いたぞ。どんだけ朝に弱いんだ?」

 

「朝に弱い分、その他は極めて優秀だから問題無いのだ。」

 

 昭弘とラウラが言葉で小競り合いに興じているのを見て、一夏は先程以上に苛立ちを募らせていった。自身の質問を完全に無視された上、昭弘と親し気に喋繰っているのがどうやら気に入らない様だ。

 一夏は、尚も口調を荒げてラウラに訊ねる。

 

「オイッ!先ずはオレの質問に答えろよッ!!」

 

 シャルルは困惑を飛び越えて、最早混乱していた。温和な雰囲気が、ラウラが現れた途端に一変。その余りにも急過ぎる空気の変動に、シャルルの頭は付いて行けなかった。

 昭弘も又、困惑していた。その剣幕はどこからどう見ても、昭弘の知る普段の一夏ではなかった。

 

 ラウラはと言うと、余りにもしつこい一夏に嫌気が指したのか、この場の雰囲気がやり切れなくなったのか、後頭部を少し掻きながら次の様に言い放った。

 

「・・・アルトランド。やはり私は一人で登校しよう。未だ時間もある事だし、適当にその辺をブラついてくる。」

 

「オイ、ボーデヴィッヒ・・・。」

 

 昭弘が呼び止めようとするも、ラウラはそそくさと早足で出て行ってしまう。

 その後数十秒程、3人の間で気不味い沈黙が続いた。

 

(うう・・・何か後味悪いなぁ。これじゃあまるで、僕たちがボーデヴィッヒさんを“除け者”にしたみたいだ・・・。)

 

 シャルルがそんな事を思っている間も、昭弘はラウラを最後にその目で捉えた玄関口を、未だに見つめていた。その瞳が宿していたのは「憂い」か、「遺憾」か、「心配」か、それとも「悲壮」か、将又そのどれでもない「何か」か。

 一つだけ判った事は、いつも眉間に寄っている昭弘の太い「眉毛」が、その時だけは「八」の字に近い水平へと力無く横たわっていた。

 

 

 

「・・・なぁ、一夏。さっきのは確かに、お前を無視したボーデヴィッヒが悪い。オレも、少々思慮に欠けていたかもしれん。・・・だが、何も「あそこ迄」取り乱す事は無かったんじゃないか?」

 

 寮の玄関口を出てから、最初に言い放った昭弘の言葉がそれであった。

 一見優しく諭している様にも聞こえるが、普段無口で温和な昭弘が、第一声で発した言葉がそれだったのだ。昭弘が結構“怒ってる”ことは、然しもの一夏も理解していた。

 当然だろう。先程のラウラに対する一夏の物腰は、誰の目から見ても理不尽そのもの。おまけに、未だ不安も多かろうシャルルを、その場に放置してしまった。

 ここまで自覚している一夏が、昭弘に対して発する言葉など、最早一つしかなかった。

 

「・・・ゴメン・・・・・・。」

 

「謝るんなら、オレにじゃなくてデュノアだな。」

 

「そ、そうだよな・・・。ゴメンな、シャルル。お前は何も関係無いのに・・・。」

 

 一夏の律儀な謝罪を聞いて、シャルルは胸を撫で下ろしながら返答する。

 

「い、いいよ!そんな事!」

 

 そうは言いながらも、シャルルはこの機に乗じてラウラと一夏の関係を訊ねてみることにした。

 

「・・・一夏って、過去にボーデヴィッヒさんと何かあったの?」

 

 シャルルに先を越されてしまった昭弘は、無言で耳を傾けるしかなかった。

 

「いや、実際に会った事は無いんだ。・・・唯、千冬姉の事を「教官」って呼んでたから、昔千冬姉がドイツに滞在していた頃の教え子・・・なんだと思う。」

 

 そう、そこまでは昭弘とシャルルも解っている。気になる点は、一夏がラウラと過去に()()()()()()()()()()という点だ。

 そのボヤけた部分の輪郭をはっきりとさせるべく、昭弘が更に切り込む。

 

「・・・なら、何故あんなにもボーデヴィッヒを敵視する?確かに、初日のSHRで最初に敵意を見せて来たのは向こうだが・・・。」

 

 それは昭弘だけでなく、シャルルも感じていた違和感だ。一夏にしろラウラにしろ、初対面であの険悪っぷりは、どう考えても異常だ。

 昭弘の質問に対し、一夏は先程とは打って変わって、口籠りながら答える。

 

「・・・それは・・・・・・・・・・・・千冬姉を・・・・・・・・・。」

 

(・・・?織斑センセイが何か関係してるのか?)

 

 昭弘が今度は千冬の事について頭を巡らすと、一夏はそれを遮るかの様に続ける。

 

「・・・・・・悪い。これ以上は言いたくないかな。」

 

 まるではぐらかす様に愛想笑いを浮かべながら、一夏はそう言い放った。その言葉を最後に、今日一日一夏がこの件に関して口を開く事は無かった。そんな一夏の曖昧な答えは、昭弘とシャルルに更なる“謎”だけを残す歯痒い結果となった。

 頭の中に重苦しい霧を残したまま、3人は校舎へと歩を進めていった。

 

 

 

ーーーーー1年1組 SHR前ーーーーー

 

「ハァ・・・・・・。」

 

 自身の机に顔を埋めながら、箒は力無く溜め息を吐き出す。らしくもない箒の姿を見かねて、セシリアと本音が心配そうに近付く。

 

「朝っぱらから随分と大きな溜め息ですわね。」

 

「大丈夫~~?何かあった~~?」

 

 2人が心配してくれていると悟った箒は、重たい首を辛うじて持ち上げる。

 

「・・・・・・・・・部屋がな・・・変わってしまったのだ・・・。」

 

 箒が2人に与えた情報はそれだけであった。しかし、社交性が高く察しの良い2人は、それだけの情報で事の顛末を凡そ把握する。

 一応確認の意味合いも含めて、出来るだけ()()()()()様に単語を並べる。

 

「・・・つまり、一夏と一時的(若しくは永久)に部屋を離れる事になってしまったと。そして、一夏の新たなるルームメイトは恐らく・・・。」

 

「デュッチーだろうね~。タイミングからして。」

 

 奇麗に当てて来た2人に感服する間も無く、箒はまたらしくも無く愚痴を零し始める。

 

「・・・私だって、先生方の判断を理解はしているつもりだ。しかしだな!いくら「年頃の男女が相部屋」とは言え、ある日いきなり部屋を変えるなど、横暴も横暴だ!大体ッ!一人部屋である昭弘の部屋にブチ込めばそれで済むだろう!?」

 

 「上の都合」を、儚い感情論で否定していく箒。確かに、昭弘とシャルルを相部屋にすればそれで済む話ではある。しかし、昭弘の「1人部屋」はIS委員会からの指示だ。IS学園にはどうしようもない。

 

「ああもう・・・・・・どうして私は一夏と一緒に居ちゃあいけないんだ・・・。」

 

 今度は再び項垂れる箒。先程から興奮したり沈んだりと忙しない箒を、取り敢えずセシリアと本音は宥める。

 

「先ずは落ち着きましょう箒。憤慨しても憂んでも、現実は変わりませんわ。「上が決めた事」と、一旦割り切るしか御座いません。」

 

「そ~そ~。それに部屋が変わっても、オリムーとは何時でも会えるし~~。」

 

 2人の健気な慰めによって、箒は多少落ち着きを取り戻した。しかし、薄暗い雰囲気は先程と余り変化が無かった。

 少なくとも今日1日限りは、そんな状態の箒を優しく見守るしかないのかもしれない。

 

 

 程無くして、1組の教室に歓声にも似た黄色い声が響き渡る。どうやら、一夏とシャルルが教室に足を踏み入れた様だ。2人は「大袈裟」とでも言いたげにしながら、視線を避ける様に席へと着いていく。昭弘はいつも通りに、その巨体を悠々と自身の席へと進めていく。

 

 更に2分後、少し遅れてラウラも1組へと入室する。

 すると、先程の歓声から生まれた明るい雰囲気が一変する。怯える様にラウラから視線を逸らす者も居れば、異物を見る様な目で睨みつける者も居た。ラウラは、そんな周囲の反応を一切気にも留めずに、教室中央付近に位置する自身の席に着く。

 

「ラウラー!おっはよう!!」 「お早うさーん。」 「おはよー。うわ、今日も目つき悪い・・・。」

 

 そんな雰囲気の中、相川・鏡・谷本らがいつものテンションでラウラに接して来る。周囲はそんな3人を心配そうに見つめるが、それは杞憂に終わる事になる。

 

「ダァもうッ!朝っぱらから喧しい。それと「目つきが悪い」とか抜かしたのは誰だ?」

 

「ああ、それは癒子だね。」

 

「うわ、あっさり売られた・・・。」

 

「ハァ・・・もうどっか行けお前ら・・・・・・。私は朝が駄目なんだ・・・。」

 

 ごく自然(?)にラウラと会話する彼女らに、クラス中が驚愕する。一体どうやってあの「問題児」と仲良くなったのか考えを巡らしていると、やはりと言うべきか『あの巨漢』もラウラに近付く。そして・・・。

 

「ッデ!!」

 

 ごく当たり前の如く昭弘に手刀を御見舞いされたラウラは、奇声を上げた後頭頂部を抑える。

 

「何をするかッ!」

 

 ラウラが不当な暴力を繰り出してきた張本人を睨みつけると、昭弘は当然とばかりに言い放つ。

 

「先ずは挨拶だろうが。それと、クラスメイトに対して「どっか行け」はないだろう。まぁ「手刀」はそれらと一切関係ないがな。ただお前の眠気をすっ飛ばしてやろうと思っただけだ。」

 

 昭弘の言い分を聞いて、相川たちは軽く吹き出しそうになる口を利き手で押さえる。ラウラがそんな言い分で引き下がる訳も無く、赤面しながら昭弘に命ずる。

 

「オイ!アルトランドッ!貴様も頭をこっちに向けろ!!手刀がどれ程痛いかその身体に染み込ませてやる!!」

 

「断る。オレは眠くも何とも無いしな。」

 

「おのれぇぃ・・・!!」

 

 そう吐き捨てた後、ラウラは何とか昭弘の頭に手刀を御見舞いしようとする。しかし、最早大人と子供以上の身長差がある昭弘に対し、ラウラの手刀がまともに当たる筈も無かった。昭弘との身長差を埋めるべく、小刻みに跳ね回りながら手刀を繰り出すラウラを、相川たちは微笑ましく見ていた。

 クラス中がそんな光景に困惑する中、一夏だけははしゃぐラウラに冷ややかな視線を送っていた。その凍てついた瞳は、ラウラの存在そのものを否定するが如きモノであった。

 

 

「おっとそうだ。相川、鏡。」

 

 何かを思い出したラウラは、昭弘への手刀を一時中断すると、相川と鏡に向き直る。すると、何故かラウラは軽く頭を下げて来たのだ。どうしたものかと彼女らが混乱する前に、ラウラが謝罪する。

 

「昨晩は・・・部屋を出て行ってすまなかった。・・・それだけだ。」

 

「あっ、なぁんだ。その事かぁ。いや、出て行って当然だと思うよ?我ながらあのはしゃぎ様はドン引きだし・・・。ね?ナギ。」 「昨日何かあったんですか?アルトランドさん?」 「ん?・・・いや、まぁ・・・・・・色々だ。」 「いや、増々気になるはぐらかし方、止めて貰えます?」

 

 そう言うと、相川は一番気持ち悪いはしゃぎ方をした人物に視線を向ける。すると、鏡は虚ろな瞳を醸し出しながら「苦笑い」を浮かべてしまう。

 すると今度は、相川がラウラに「耳打ち」する。

 

「ラウラが男だって事も、バラさないでおくね?その方が、私とナギだけ得している感じで良いし!!」

 

 相川の下らない提案に対し、ラウラは溜め息交じりに次の言葉を言い放つ。

 

「・・・もう好きにしろ。」

 

 

 

 1時限目終了後の休み時間、シャルルは大量の冷や汗を掻いていた。顔色はそこまで悪くないものの、何やら緊張しているかの様に歯を食いしばっており、肩の強張りも並ではない。

 そんな自身の症状を作り出している“元凶”に対し、シャルルは恐る恐る物申す。

 

「・・・あ、あの・・・・・・アルトランドくん?あんまり凝視されると、怖いよ。」

 

「うん?・・・・・・ああ、スマン。」

 

 そう指摘されて初めて、昭弘はシャルルを間近で凝視していたと言う事実に気付く。

 

「ホントだよ。オレから見ても凄い威圧感だったぞ?シャルルに背後霊でも憑いてたか?」

 

 一夏にまで揶揄われ、昭弘は恥ずかしそうに側頭部を掻く。しかし、どうにか普段通りの一夏に戻った様なので、恥ずかしがりながらも昭弘は安心していた。にしても、人の「監視・観察」とは難しいものだと、改めて昭弘は実感した。

 シャルルの目的が何であれ、先ずは彼女を知らなければ何も始まらない。それにこうして彼女の傍に居れば、一夏の身に“もしもの事”があった時、直ぐに彼女を取り押さえられる。ラウラと一緒に居れないのは癪だが、そこは堪えるしかない。まぁどの道、相川たちが付いているので問題ないとは思うが。

 

 頭の中で自身の目的を整理した所で、昭弘は早速シャルルに対して鎌をかける。

 

「そう言や、デュノアは昨日から一夏とばかり一緒に居るが・・・・・・やっぱり、オレの事苦手か?」

 

 昭弘の突然な問い掛けに対し、シャルルは多少慌てながらも答える。

 

「ええっ!?い、いやぁ、そんな事ない・・・よ?」

 

 更に昭弘は追い込みをかける。

 

「そうか?その割には、お前からオレんとこに来た事、未だ一度も無いぞ?・・・何か妬けるぜ。」

 

「そ、それは・・・その・・・・・・ええと・・・。」

 

 口籠っているシャルルを見かねて、一夏がフォローに入る。

 

「ホラ、昨日は昭弘あっち行ったりこっち行ったりしてたろ?そうなると必然的に、オレ位しか話しかける相手なんて居ないんじゃないか?・・・オレたち男子は、肩身が狭いからな・・・・・・。」

 

「ん・・・・・・・・・まぁ、確かに昨日は・・・そうだな。」

 

 一夏の言う事は一理ある、どころか普通に正論だ。昨日の昭弘は、シャルルそっちのけでひたすらラウラにお節介を焼いていた。話しかける余地など、どの道無かったのだろう。

 

「すまない、デュノア。オレの嫉妬は、身勝手が過ぎたな。」

 

「い、いや!気にしないで。」

 

 一先ず、シャルルにそう謝罪する昭弘。言われてみれば、未だシャルルが転入してから2日目だ。狙いが一夏だと断定するのは、もう少し観察してからの方が良いだろうと、昭弘は早計な自身を心の中で叱る。

 

 丸く収まった所で、一夏が別の話題を上げ始める。

 

「そう言や、さっき授業中なんだけどさ、セシリアがずっと「スマホ」弄ってたんだよ。」

 

 その話を聞いて、昭弘は自身の耳を疑う。

 授業中にスマホ?あの糞真面目な貴族令嬢が?しかも最前列で?

 

「・・・・・・・・・確かか?」

 

「僕も・・・ちょっと信じられないなぁ。あのオルコットさんが・・・。未だ此処に来て、日も浅い僕が言うのも何だけど。」

 

 シャルルも「信じられない」と言った具合で、昭弘の確認に便乗する。まさか、千冬と真耶が気付いていない筈もあるまい。

 

「確かだって!さっき授業中、気分転換に何となく外の景色を見ようと窓の方振り向いたら、堂々とスマホ弄ってたんだよ、セシリアの奴。・・・オレも目を疑ったぜ。」

 

 更に、一夏はとんでもない事を言い出す。

 

「何より一番驚いたのがさ、“同時”に弄ってたんだよ、机の端末とスマホを。右手でしっかりと板書してて、左手で器用にスマホ動かしててさぁ。授業内容だって、千冬姉に当てられた時も、何ら問題なく答えてたぜ?」

 

 一夏のとんでも発言に対し、昭弘とシャルルは腕を組みながら瞼を閉じる。

 そうして少し考え込んだ後、シャルルが自身の憶測を述べる。

 

「・・・単にその時偶々、スマホで調べものでもしてたんじゃないかなぁ?」

 

「よりによって、あの鬼の“ブリュンヒルデ”の授業でか?」

 

 一夏にそう返されて、昭弘とシャルルはより瞼を力強く閉じながら再び考え込む。

 すると、まるで諦めた様に昭弘が言葉を吐き出す。

 

「・・・・・・後で、本人に訊いてみるか。」

 

「「・・・・・・・・・うん。」」

 

 何か、セシリアに特別な事情があるような気がしないでもない3人は、直接訊く事に多少の抵抗がある様だ。

 

 

 その後の授業でも、一夏は度々セシリアの座席を一瞥したが、やはりどの授業でもスマホを弄っていたらしい。

 

 

 

ーーーーー昼休み 学食ーーーーー

 

「ああ、その事ですの。ちゃんと織斑先生と山田先生から、許可は頂いておりますわ。」

 

 恐る恐る訊ねる一夏に対し、セシリアはフォークとナイフによって「豚カツ」を器用に捌きながら、何ともない様に返答してきた。千冬から許可が下りているなら一先ず安心だが、やはり肝心の内容が気に掛かる一同であった。

 味噌汁の御椀を左手に持ったまま、自身の薄暗い雰囲気をどうにかひた隠しながら箒が訊ねる。

 

「しかし、何故態々授業中に?よく織斑先生から、許可が下りたものだな・・・。スマホで、一体何をしていたのだ・・・?」

 

 更なる質問に対し、セシリアは小さく刻んだ豚カツを口に運んだ後、スマホの画面を見せながら答える。

 

「“計算”ですわ。」

 

 スマホの液晶には、既に『計算アプリ』のホーム画面が開かれていた。

 

「うわ・・・(アタシ計算嫌いなのよね・・・)。」

 

 「麻婆豆腐」に向かわせたレンゲをその場で静止させて、引き攣った表情を浮かべる鈴音。そんな鈴音に構うことなく、セシリアは「何故こんなことをしているのか」訊かれる前に自ら説明する。

 

「先に言っておきますが、要は“並列思考”の特訓ですわ。今迄通り授業を受けつつ、それとほぼ“同時進行”でアプリから自動出題された計算を解いていくのです。「出題形式」は、「足し算・引き算・掛け算・割り算」の何れかがランダムに出題されますの。・・・只この計算アプリ、解いた問題の成否に関係なく次の問題に進むのですが、進むにつれて問題も複雑になってきますので、授業終盤では流石に頭が痛くて仕方がありませんでしたわ。」

 

 随分と簡単に言ってのけるセシリアだが、抑々“並列思考”とはそんな生易しいものではない。増してやIS学園の授業レベルも鑑みると、最早途方もない次元の話だ。鈴音はセシリアのそんな話を聞いただけで、何か「不味い物でも食べてしまった」様な表情を浮かべてしまった。

 そんな鈴音を尻目に、より詳細を訊くべくシャルルが僅かに身体を乗り出す。自身が頼んだ「カレーライス」のルーが、袖を汚さない様気を付けながら。

 

「それで、今のところ最高記録は?」

 

「1問1点で100点満点なのですが、今のところ最高69点でしたわ。残りの問題は授業時間内に間に合わず、その様な結果となってしまいましたわ。」

 

 やはりセシリアと言えど、初っ端からいきなり100点近くは取れない様だ。

 更に質問は続く。

 

「けど、何でまた急に?今日からだよな?それに、並列思考って・・・。」

 

 一旦箸を置いた一夏がそう訊ねると、セシリアが答える前に先ずは昭弘が軽く説明する。

 

「要するにオルコットは、自身も動き回りながら、ビットも“全機”自在に操れるようになりたいんだ。だが精密な操縦技術が要求されるISを動かしながらとなると、そう易々とはいかない。“A”を処理しながら、“B”も処理すると言う能力が必要だ。その為に、並列思考を鍛えてるって訳だ。」

 

「成程・・・。」

 

 昭弘のフォローに対し、手間が省けたセシリアは右手を軽く上げて感謝の意を示す。少しばかり突っ込みたい部分もある様だが、そこは一先ず置いて一夏の質問を優先するセシリアは、溜め息交じりに答え始める。

 

「・・・やはり最大の切っ掛けは、昨日の「タッグ戦」ですわね・・・・・・。どんな状況であれ、あそこ迄一方的に叩きのめされては、流石の私も堪えますわ。勿論それ以前から、並列思考の特訓はしているのですが・・・・・・このままでは「タッグトーナメント」に間に合わないと判断しましたので。」

 

 “打倒昭弘&グシオン”を密かに掲げている彼女は、多少の無茶に厭んでいる状況ではない様だ。

 セシリアの切っ掛けを聞いた一同は、何故か皆一様に鈴音へと視線を向ける。何かを訴えかけている様な、或いは少し呆れている様な、そんな瞳をしていた。

 

「な、何よその目は!?アタシだってちゃんと特訓してるわよッ!!失礼しちゃうわねェ!!」

 

 無言の視線を鈴音はそう解釈し、軽くむつけてしまう。鈴音も又、昨日のタッグ戦において苦汁を飲まされている。もしかしたら、彼女なりに何か「今後の対策」を考えているのかもしれない。

 すると、再びシャルルが口を開き始める。

 

「何はともあれ、2人共無茶し過ぎないようにね?特訓が原因で倒れたりしたら、それこそ本末転倒だよ。」

 

 意外な人物から心配されて、セシリアと鈴音は目を丸くする。その後、2人は頬を紅く染め上げながらも、どうにか平静を装って感謝の言葉を贈る。

 

「お、御心遣い、一先ず感謝御礼申し上げますわ・・・(い、いけませんわよ!セシリア!貴女には一夏という殿方が・・・)。」

 

「な、何よ、急に・・・・・・。まぁ・・・アリガト(み、見た目に惑わされちゃダメよ鈴音!)。」

 

 どうやら「貴公子」の心遣いは、セシリアや鈴音までもを魅了してしまった様だ。2人は赤面を誤魔化す様に、食事のペースを早める。

 既に大盛りの「オムライス」を完食していた昭弘は、そんな2人を少し憐れむ様に見つめる。

 

(・・・・・・「知らぬが仏」って奴だな。)

 

 心の中でそう呟いた後、昭弘は気付かれぬようシャルルに視線を移し、彼女の人となりを軽く纏める。

 

(・・・昨日今日見た限りだと、性格は「まとも」・・・と言うより、普通に「良い奴」って感じだな。授業に遅れている様子も無いし、対人関係も良好そうに見える。只、隠すのが下手過ぎると言うか・・・ちょっとした勘繰りに動揺し過ぎな部分があるな。・・・正直言って、最後まで「正体」を隠し通す等、到底不可能に思えてくるレベルだ。)

 

 更に昭弘は、彼女に対して個人的に思うところを、頭の中で復唱する。

 

(・・・・・・正直言って、オレはこいつがどうにも苦手だ。「良い奴」過ぎると言うか、人の顔色をひたすらに窺っていると言うか・・・そこが却って“不気味”だ。・・・一緒に居て何も「面白く感じない」のは、それが原因なのだろうか・・・。・・・・・・ラウラとは、正に「正反対」、対極に位置するタイプの人間だな。)

 

 無論、未だシャルルが環境に慣れていないからと言われればそれまでだ。しかし、それを抜きにしても昭弘から見た彼女は、どうしてもその様に映ってしまう。

 しかし、それは少なくとも「悪い事」ではない。昭弘個人がどう思おうと、他人を気遣う「性格」も相手の顔色を「窺う」ことも、対人コミュニケーションの基本事項と言っても良い。「学園」と言う「閉鎖空間」において大多数の人間は、それらがしっかりと備わっている人間を慕うのだから。

 逆に言えば、だからこそラウラは大多数の人間からは中々受け入れられないのだろう。

 

 

 何はともあれ、今後もシャルルの「監視・観察」を怠る訳にはいかない。昭弘が心の中で纏めた性格が彼女の本質であろうと、内に全く別の「本性」を隠していようと、昭弘がすることに一先ず変更はないのだから。




一夏はこれでも耐えてる方なんですよ。逆に言うなら、それ程彼が抱えている「歪み」はデカいです。
セシリア「超強化」への伏線。下手したら昭弘より強くなっちゃうかもです。鈴音も・・・ちゃんと特訓してるのでご安心ください。今後はグシオンの単一仕様能力を含め、個々人の特訓も上手いこと描写していけたらなと思います。

そう言えば、最近昭弘と箒の進展がないですね・・・。こちらもちゃんと描写していこうと思います。


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第20話 初恋の呪縛を破れ

ガッツリ「アキホウ」回です。ただ、少しやりすぎましたかね・・・。
あと短くてすみません・・・。


ーーーーー5月10日(火) IS学園寮ーーーーー

 

 本日も普段通りの訓練を終え、既にシャワーを浴びた昭弘は、自室にて本日受けた授業内容の復習に勤しんでいた。黒のTシャツ姿のままテレビも点けずに教本を開き、授業中に引いた蛍光ペンの「赤い跡」を、なぞるように視線で追う。

 

 そんな彼の視線を遮る様に、突如インターホンが鳴り響く。ここ最近の客人からして、一夏かラウラ、鈴音辺りを予想していた昭弘は、モニターを観て少し驚く。

 

(箒か。・・・オレの部屋に来るのは、何だか久し振りな気がするな。)

 

 丁度今月に入ってからだろうか。箒は、何故か昭弘の部屋に殆ど来なくなってしまったのだ。それだけならまだしも、昭弘はここ最近ラウラかシャルルに付きっ切りだったので、余り箒とは話す機会が無かったのだ。

 久しぶりに箒とゆっくり話せると思いながら、昭弘は喜々としながらもゆっくりとドアを開ける。

 ドアを開けた先には、浴衣姿の箒が、どこか気不味げにしながら立っていた。

 

「・・・・・・一先ず、上がったらどうだ?」

 

 中々口を開かない箒に対し、昭弘は取り敢えず“いつも通り”部屋に入るよう促す。しかし箒は、昭弘の部屋に上がる事を頑なに拒んだ。

 

「い、いや!大丈夫だ!・・・その、エントランスで、話さないか?」

 

「?・・・まぁ、別に構わないが?」

 

 十分な広さを誇るIS学園寮のエントランスホールには、複数のソファ等が用意されており、壁には巨大な「液晶テレビ」が埋め込まれている。

 何故部屋ではなく、態々エントランスホールまで赴く必要性があるのか解せない昭弘であったが、逆に断る理由も無いのでそのまま部屋を出る。

 

 

 廊下を歩きながら、箒は自身の「意味不明」な行動に内心混乱していた。

 

(・・・我ながら訳が分からん。普段通り昭弘の部屋に上げて貰えば良かっただろうに・・・。)

 

 しかし、それは致仕方ない「感情の変遷」と言うものだ。いくら彼女が昭弘を「友人」だと頑なに主張しようが、彼を一夏と同様「特別な異性」として意識してしまえば、部屋に上がるのも躊躇われると言うもの。箒が昭弘への想いに無自覚であろうと、否、()()()()()()()()()()、昭弘の部屋に上がる心の準備がまるで出来ていなかったのだろう。

 それでも尚、昭弘と2人で居るだけで胸の鼓動が収まらない箒。心なしか、エントランスホールに続く廊下が、普段の何倍も長く感じてしまう。

 

 そんな箒の心情など知る故も無い昭弘は、普段通り箒に話し掛ける。

 

「未だ慣れていないだろうが、新しい部屋はどうだ?」

 

 そう訊かれて、箒は瞬時に意識を切り替ると、慌ただしさを残したまま答える。

 

「ヘ!?あ、ああ部屋か・・・。427号室なのだが、ルームメイトには、良くして貰っている。最初なんて、一夏と離れ離れになった私を、随分と慰めてくれてな・・・。」

 

 それを聞いて、昭弘は一先ず安心したのか、口角を僅かに上げて笑みを零す。そのまま昭弘は質問を続けた。

 

「・・・そうか。部屋は「3人部屋」か?」

 

「ああ。2人部屋に、無理矢理私を捻じ込んだ様な形になってしまった。2人共快諾してくれたのだが、それでも本当に面目ないと言うか、頭が上がらないと言うか・・・・・・。」

 

「・・・まぁ元を辿れば、無理矢理ボーデヴィッヒとデュノアを転入させたドイツ政府とフランス政府が悪いんだ。気に病んでもしょうがないだろう。」

 

「それはそうだが・・・。」

 

 2人が他愛もない話をしながら歩を進めていると、気が付けばエントランスホールに到着してしまっていた。時刻は20:50を少し回った所だが、平日と言うのもあってか、生徒は誰一人その空間に居なかった。因みにこの寮の消灯時間は23:00となっているので、まだまだ時間には余裕がある。

 2人は近くの自動販売機で飲み物を購入すると、玄関から離れたソファにゆっくりと腰掛ける。

 

「・・・それで、今日はどんな「相談事」だ?」

 

 先程から箒の様子が可笑しい事に勘づいていた昭弘は、「今日も何か相談事でもあるのだろう」と思い込み、箒にそう訊ねる。しかし、そんな昭弘の予想は大きく外れてしまう。

 

「いや、その・・・相談事ではないのだ。」

 

 その後、箒は次の言葉まで間を置いた後、ゆっくりと話し始める。

 

「その・・・・・・何と無く、昭弘と話がしたくなったのだ。ここ最近、2人で話す事がなかっただろう?それに・・・部屋も隣同士ではなくなってしまったからな・・・。」

 

 今の箒の部屋は「4階」だ。引っ越し前の様に、気軽に昭弘の部屋へと立ち寄れる距離ではないだろう。それに、ルームメイトも今迄の様に勝手の知った“幼馴染”ではない。ルームメイトへの気配り等を考えると、そう頻繁に部屋を出て行く訳にも行かないのだろう。人に寄っては、「自分と居るのがそんなに嫌か?」と気分を害する事だってある。

 箒の言いたい事を何となく察した昭弘は、少し物寂し気な表情をした後、言葉を連ねる。

 

「・・・確かに、そうだな。・・・・・・すまないな、箒。オレだけ「1人部屋」なせいで、お前を含め、皆に迷惑を掛けちまってる様で・・・。」

 

 昭弘が力無くそんな言葉を吐き出すと、箒は語調を少し強めて昭弘に言葉を返す。

 

「それこそ、元を辿ればドイツとフランスが悪いだろう。昭弘が気にする事ではない。」

 

 自身の言葉をそっくりそのまま返されて、昭弘は苦笑を零した。

 

 そんな、廊下を歩いている時からずっと続いていた2人の取り留めのない会話に終止符を打つように、箒が話題を変える。実はある意味、箒にとってはこちらが本題でもあるのだ。

 

「・・・・・・な、なぁ昭弘・・・。」

 

 そこまで言葉を絞り出しておきながら、箒は昭弘に“この話”を本当にして良いのか、今更悩みだす。

 しかし、当然の帰結として昭弘は箒に向き直る。昭弘の鋭く真っ直ぐな目と自身の目が交錯すると、箒は増々言い辛くなってしまう。

 

ーーーまただ、またしても胸の鼓動が早くなる。顔も熱い。何故?どうして?昭弘を見ているとこんな“気持ち”になるのだろう?わからない分からない解らない判らないワカラナイ・・・・・・ーーー

 

 その“感情”は、正しく初めて一夏を好きになった時の感情であった。いくら昔の事とは言え、そんな大切な感情を箒が忘れる筈などなかった。

 しかし、一夏を初めて好きになった時、そして一夏と離れ離れになってしまった時、一途な箒は心に誓ったのだ。「もう誰も好きにならない」「私にとっての“異性”は一夏だけだ」と。それだけ、彼女にとっての一夏は特別な存在であったのだ。周囲の異性が霞む程に、周囲を異性として見たくなくなる程に。

 だから、箒は「わからない」のだ。昭弘を想う“感情”の正体が。何故なら、自身が一夏以外の異性を好きになるなど「有り得ない」から、「あってはならない」から。もしそんな事があったのならば、自身が一夏と別れてから、今迄ずっと彼を想い続けて来た「5年間」は、一体何だったのか。

 そんな、心の奥底で彼女を固く縛る「初恋」と言う名の鎖が、昭弘に対して抱いている「想いの正体」へと近づかせない様にしているのだ。

 

 それでも、箒は昭弘に問う。昭弘が箒自身の事を、()()()()()()()()()

 

「・・・その・・・・・・お前は、私の事を・・・・・・・・・「友達」・・・と、思っているか?」

 

 余りにも突拍子の無い質問に対し、昭弘は返答が大きく遅れてしまった。

 

「?・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああスマン、少し呆気に取られちまった。そりゃあ当然、箒はオレの大切な友人だが・・・それが、どうかしたか?」

 

 昭弘の返答を聞いて、箒は胸を撫で下ろしながら口を開く。

 

「そ、そうか!それは・・・良かった・・・。」

 

 そう返した直後、本日最大の「驚愕」が、箒に襲い掛かる。何と、昭弘が右手で箒の左肩を「掴んでいる」のだ。余りの「急展開」に、先程の昭弘と同じく反応が大きく遅れてしまう箒。その為か、箒が取り乱すよりも早く、昭弘が先に「肩を掴んだ理由」を述べる。

 

「・・・・・・お、オイ、どうした?箒。何で“泣いている”んだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 そう昭弘に指摘されて、箒は頬を掌で拭ってみる。拭った掌には、透明な液体が付着していた。それを見て初めて、箒は自身が今「泣いている」ことに気が付く。

 

「あ、アレ・・・?可笑しいな・・・・・・。目に・・・埃でも入ったのかもしれん・・・・・・。」

 

 そう言いながら、箒は浴衣の袖で無我夢中に涙を拭い始める。しかし、拭っても拭っても涙腺から流れ出す雫は増えるばかり。

 普段冷静な昭弘も、余りに予想外の事態だからか、慌てながら周囲を見渡す。

 

「ち、チョット待ってろッ!!何か、拭く物・・・・・・あー拭く物・・・。」

 

「エ、エグッ・・・ヒック・・・・・・き、気に・・・ヒック・・・しないで・・・ヒック・・・くれ・・・・・・・・・。」

 

 箒のそんな言葉に反応している余裕など今の昭弘には無く、急いで「何か拭ける物」を探す。すると、テーブルの上にある備え付けの「箱ティッシュ」が、昭弘の視界に飛び込んで来る。直ぐ様昭弘はそれを強引に引っ掴むと、箱ごと箒に差し出す。

 

「・・・ヒッ・・・ヒック・・・ス・・・マン、昭弘・・・・・・。」

 

 そう言うと、箒は残量などまるで気にする事無く、連続してティッシュを引き続けた。その大量のティッシュを以てして鼻をかみ、頬を拭き、瞼の涙を拭い取る箒を見て、昭弘も一先ずは落ち着きを取り戻す。

 

(フゥ・・・・・・此処にオレ達以外、誰も居ない事が、「不幸中の幸い」ってや・・・)

 

 心の中でそこまで言った後、昭弘は背後に“奇妙な悪寒”を感じてしまう。恐る恐る後ろを振り向くと、昭弘は右手で両目を覆いながら小さく溜め息を吐く。

 

 廊下の角付近に居たのは、半袖半ズボンのジャージに身を包んだラウラであった。彼は口を半開きにしながら、気不味そうにその場で立ち尽くしていた。ラウラの困り果てた顔から察するに、恐らく箒が泣き出した辺りからそこに居たのだろう。

 箒は、未だ俯いたまま涙を拭っているので、ラウラの存在には気付いていない・・・筈。今の箒が、自身の泣き顔を「他人に見られている」と知ったら、その場で取り乱す可能性が極めて高いと昭弘は判断した。なので昭弘は、ラウラにコッソリと「ジェスチャー」を送る事にした。

 

昭弘:人差指を自身の口に当て、ラウラに「声を出すな」と合図を送る。

 

ラウラ:首を小さく縦に振る。

 

昭弘:俯いている箒に対して2回程振り向く動作をした後、再びラウラに向き直る。すると、左手の平を外側に向け、まるで「腕立て伏せ」の様に肘を使って、ゆっくりと外側に向けて数回スナップさせる。それと同時に右手で「握り拳」を作ると、そのまま自身の顔面近くまで持っていき、親指と人差指を突き出して指と指の間に2cm程度の空間を作る。その後、合掌してラウラに懇願する。

 

ラウラ:昭弘が「箒が泣き止む迄でいい、廊下の角に隠れていてくれ、頼む。」と言いたいのだと判断し、再び首を小さく縦に振った後、忍び足で廊下の角に隠れる。

 

 

 どうにかこうにか箒が落ち着いてきたのを見計らって、昭弘は箒に声を掛ける。

 

「どうだ?・・・少しは落ち着いたか?」

 

 昭弘の優し気な言葉を聞いて、箒も普段の落ち着いた声を取り戻していく。

 

「・・・ああ、もう大丈夫だ・・・。」

 

 そんな箒を確認した後、昭弘は俯きながら力無く自身の「至らなさ」を言葉に変えて吐き出す。

 

「・・・・・・良く解らんが、多分オレのせいだよな・・・。」

 

 しかし、箒は慌てながら否定する。

 

「いやいやいやいや!!そんな訳がないだろう!?えーと・・・ああっと!そうだ!!一夏と部屋を離れてしまったというショックを、未だに引き摺っているのだろう!私は!!AHAHAHAHAHAHA!!」

 

 そう理由を捲し立てる箒であったが、昭弘は納得し切っていない様子だ。

 再び箒に訊ねようとするが、結局止めてしまう。先程、廊下の角から泣き止んだ箒の姿をしっかりと確認したラウラが、昭弘の直ぐ隣で不機嫌そうに腕を組んで仁王立ちしていたからだ。

 そんなラウラを見た箒は、警戒心を強めて僅かに後ずさる。

 

「貴様・・・!ボーデヴィッヒ・・・・・・!!いつから此処に・・・!?」

 

 箒からそう聞かれると、ラウラは昭弘の目を一瞥だけした後、気怠そうに答える。

 

「・・・・・・今来たばかりだが?」

 

 ラウラがそう答えると、昭弘は小さく息を吐いて胸を撫で下ろす。その後、単純に気になった為か、昭弘は何故ここに来たのかラウラに訊ねる事にした。

 

「・・・んで?エントランスに何の用だ?しかもこんな時間に・・・。」

 

 そう訊かれると、ラウラは「疲れ」と「苛立ち」の混ざった声で答える。

 

「ニュースを観に来たのだ。・・・当然部屋で観たかったのだが、「馬鹿の相川」と「阿呆の鏡」が、見たい「バラエティ番組」があると言うんでな。仕方なくエントランスのテレビを使う事にしたのだ。」

 

 そう言うと、ラウラはテーブルに置いてあるリモコンを手にし、テレビのスイッチを入れた。

 

「・・・そういう事か。だが、パソコンやスマートフォン・iPhoneで観る事も出来たんじゃないのか?」

 

「唯でさえ煩いアイツラが、バラエティ番組を観るんだぞ?煩過ぎて集中出来ない事は、目に見えている。例えイヤホンを使おうとな。」

 

 昭弘の更なる問いに対し、ラウラはニュースを観ながらそう答える。

 箒は、ラウラと未だに話したことがない為か、一歩引いたところで警戒しながら彼を見ていた。すると、昭弘が箒に声を掛ける。

 

「箒よ、別にそこまで警戒する必要は無いぞ?ラウラはこう見えて、結構「可愛い奴」なんだ。」

 

「そ、そうなのか・・・?」

 

 若干の困惑を内包させながら、箒はそんな反応を見せる。しかし、当のラウラは不本意そうに昭弘の左肩を掴む。

 

「貴様、アルトランド。「可愛い奴」とはどう言う意味だ?」

 

「そのまんまの意味だが?」

 

 ニヤつきながらそう答える昭弘を見て、ラウラは赤面しながら短く舌打ちをする。その後、昭弘は箒に再び振り向くと、次の様な言葉を発した。

 

「な?可愛い奴だろう?」

 

 昭弘のいらぬ一言を聞いて、ラウラは昭弘の頭に手刀を食らわせる。今朝の手刀の仕返しが、まさかこんな形で実現しようとは、ラウラ自身思いも寄らなかっただろう。

 

 仲睦まじい2人を、箒は少し恨めしそうに見つめる。彼女がラウラの“性別”について()()()()しているのかは定かではないが、その様に感じると言う事は、ラウラの事を未だに「女性」だと思い込んでいるのかもしれない。

 

 

 結局3人は、そのまま一緒にニュースを観た後、その場で解散する事となった。

 

 

 

ーーーーー427号室ーーーーー

 

 箒はルームメイトたちと軽く談笑をした後、歯を磨いていつも通りにベッドへと潜り込んだ。仰向けになり、既に光を失っているダウンライトを下から眺めながら、箒は声に出さずに頭の中で自身の“想い”を整理する。

 

(・・・・・・はぁ。もう、認めるしかないのだろうな・・・・・・。私は恐らく、昭弘の事が好きなのだ・・・。“さっき流した涙”が、その何よりの証拠だ・・・。)

 

 そう結論付けると、箒は未だに熱い目尻を、指で優しく撫でる。その後、熟考を再開する。

 

(岸原さんに相談すべきだろうか・・・。いや、止めておこう。絶対にウザイ反応をする・・・。では、メースさんに・・・それも止めておこう。変に気を遣われたくない・・・。)

 

 岸原理子、セレーヌ・メース。2人共箒のルームメイトだ。

 岸原は茶髪のショートヘアーで、眼鏡を掛けている。箒と同じ1組の生徒だ。

 メースはカナダ出身で、黒髪を頭頂部辺りから横に垂れる様に結んでいる。彼女は5組だ。

 

 思えば、箒は今迄昭弘以外の人間に「相談事」を持ちかけた事がなかった。そんな箒にとって、未だなったばかりのルームメイトに「相談したい事がある」と打ち明けるのは、中々に勇気が必要だった。コミュニケーション能力に乏しい箒にとっては、やはり「他者からどうこう思われたくない」「変に騒がれたくない」と言った思いが強いのだろう。

 

(なら、やはりここはセシリアに・・・。いや、だが最近特訓で忙しそうだしな・・・・・・。大体、何と相談すれば良いのだ?「一夏だけでなく、昭弘も好きになってしまったのだが、どちらを選ぶべきか」と訊けば、それでいいのだろうか・・・?抑々、セシリアだって一夏を狙っているのだから、「昭弘を選ぶべきだ」と言われて終わりな気が・・・。)

 

 長らく熟考した結果、漸く一番相談するのに最適な人物が、箒の頭に浮上した。

 

(・・・近いうちに、機会があれば『本音』に相談してみよう・・・。今は兎も角、明日に備えて寝る事しか出来ないのだからな。)

 

 そう自身を落ち着かせようとも、やはり箒は中々意識を切り替える事が出来ないでいた。

 『初恋』の呪縛を振り解いてでも、異性として“愛してる”と認めざるを得ない相手。それ程の相手が、この日遂に箒の中で新たに誕生してしまったのだ。箒の心に去来せし混乱は、最早想像を絶するものなのだろう。

 しかし、その強大な混乱の渦中に確かな「嬉しさ」が混ざっている事を、今の箒に認識する余裕など無かった。




と言った回でした。
セレーヌさんは完全にオリキャラです。名前は、かの有名な洋楽アーティストから取りました。皆が皆、ルームメイトが同じクラスメイトだと違和感バリバリかなと思ったので、他クラスの生徒をぶち込みました。ただ、他クラスの生徒だと鈴音や簪以外は流石に分からないので、今回の様な形となりました。

それと、本来はニュースの内容も細かく描写したかったのですが、そうなると全体的な恋愛描写が「大きく断絶されてしまう」と判断したので、今回は割愛させていただきました。
よって、今回は少し構成に工夫を凝らして、ニュースの内容だけ次回に持ち越したいと考えております。ニュースを使ってどうしても描写しておきたい内容がありますので。無論、ニュースを観ている間の昭弘、箒、ラウラのやり取りも、しっかり描写しますのでご安心を。

なので次回は、今回とは打って変わって大分「堅苦しい」内容になるかと思いますが、ぜひ読んでいただけると幸いです。



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第20.5話 四角い世界

あらかじめ言っておきますが、この物語はアフリカや中東での「紛争・内戦」と大きく関わっていきます。
第一章(福音戦まで)では、そう言った描写が少なくなってしまいますが、今回の様に描写できる機会があればどんどん描写していこうと思いますので、堅苦しかったらごめんなさい。

後半は、ちょこっと亡国機業サイドの描写を追加しとこうと思います。









けどやっぱ自信ないッス・・・。


 ラウラが昭弘に手刀を打ち込んでいる時、丁度テレビの画面がラウラの観たかった内容に切り替わる。

 箒の恨めしそうな視線など「我関せず」と言った具合で、ラウラは映像にかじりつく。昭弘も又、ニュースが流れていたら観る様に習慣付けているので、自然と「視界の中心」をテレビに向ける。

 そんな2人に合わせる様に、箒も視線をテレビに向ける。箒自身、なるべくニュースは観るようにしているので、嫌々と言う訳ではない様だ。

 

《こんばんは。9:00のニュースをお伝えします。》

 

 壮年のニュースキャスターがそう挨拶した後、テロップが画面右からスライドして来る。そのテロップには

 

アフリカ情勢、新たなる展開か!?

 

と表示されていた。テロップに合わせながら、キャスターが言葉を紡ぎ出す。

 

《コンゴ民主共和国で現在も尚進行中の「武力抗争」について、新たな動きがあった様です。》

 

 キャスターがそう述べると、背景の「液晶パネル」の映像が切り替わる。

 

《近年、再度勢力を増してきた反政府勢力SHLA。これに対し、『モノクローム・アバター』と呼ばれる武装集団が、大規模な掃討作戦を展開しております。ウガンダ政府を中心とした周辺諸国や、複数の武装勢力から多大な支援を受けており、SHLAへの掃討作戦としては、過去に類を見ない規模となっております。突如として戦場に現れた組織『モノクローム・アバター』とは、一体どのような・・・》

 

 「SHLA(Shi Honor Lord Army):神を尊びし軍勢」とは、30年以上にも渡って活動を続けている反政府武装勢力であり、ウガンダ、コンゴ民主共和国、中央アフリカ、南スーダンを主な活動地域としている。元々はウガンダでの反政府活動が主な目的であったが、次第に過激な武力活動へと発展していき、略奪や現地民の殺戮、強姦、誘拐等は当たり前になっていった。特にコンゴ民主共和国やウガンダでは、それらの残虐行為が顕著であった。

 戦闘員の90%近くは「少年兵」が占めており、その殆どは誘拐された子供だと言われている。更に近年では、MPSの登場によって少年兵への需要が増していき、誘拐者数は2万人から5万人へと急増した。

 

 キャスターの台詞も未だ途中な所で、昭弘がラウラに口を挟む。

 

「『モノクローム・アバター』・・・聞いたことあるか?」

 

 その質問に対し、ラウラは淡々と言葉を返す。

 

「ああ知っている。『亡国機業(ファントムタスク)』と言う犯罪シンジケートの実働部隊だな。・・・流石にその実態までは何も解らんがな。」

 

 「何故そんな組織の部隊が?」と昭弘は訊かずに、心の中で思い留めた。話し合うのは、もう少しニュースが進んでからでも良いと判断した様だ。

 しかし、箒は自身の中で「何か引っ掛かる事」でもあるのか、未だ馴れていないラウラに対して辿々しく口を開く。

 

「・・・・・・・・・最近気になっていたのだが、SHLAは「5年前の掃討作戦」によって、その規模を大幅に縮小させた筈では・・・?」

 

 5年前、西暦2017年。ウガンダ政府軍の大規模な掃討作戦により、SHLAは最早脅威と見なされない程、戦力を縮小させていた。

 

 箒の質問を聞いて、ラウラは少し意外そうな顔をしながら答える。

 

「ほう。思っていたよりも多少は詳しいな。何、簡単なことさ。大幅に弱体化したSHLAを、脅威と見なさず野放しにした→SHLAが再び“子供”を拐い始め、少年兵を増やした→周辺の武装勢力を取り込んで更に戦力を拡大させた。それだけの事だ。」

 

 事実、近年ではウガンダ北部の都市『グル』にまで火種が広がっており、其処では既に数十人の民間人が殺害されているのだ。

 ラウラは何げなく答えるが、箒はまだまだ疑問点が多く残っているのか、納得しきれていない様子だ。

 

 昭弘も又、ラウラの返答に片耳を傾けていた。その時の昭弘は表情にこそ出さなかったが、歯を強く食い縛っていた。

 昭弘の頭の中は「少年」という単語に支配されていた。敵であろうと味方であろうと、「子供が子供を殺す」という“狂気”。その狂気が、現地では常態化しているのだ。元少年兵である昭弘が、その狂気に無関心でいられる筈もなく、まるで「自分事」の様な寒気に襲われる。そして、今も尚命を散らしている少年たちの断末魔が、聞こえてもいないのに昭弘の中で木霊する。

 

 そんな時、丁度テレビの画面が切り替わり、現地のリポーターがキャスターの代わりに「より詳細な状況」を伝える。地理的に離れている為か、リポーターの反応は毎回数秒程度遅れる。

 

《・・・・・・・・・・・・はい!えー私は現在、ウガンダ北部の都市「グル」に来ております。こちらの「グル市役所」付近では戦闘の痕跡は見られませんが、先程から装甲車や軍用トラックが度々往来し、物々しい雰囲気が犇々と伝わって来ます。しかし、既にウガンダ全域のSHLA掃討作戦は一昨日までに“完了”しており、以降は散発的な銃声すらも、ピタリと止みました。コンゴ民主共和国“東部州”の掃討作戦も本日完了し、残すはコンゴ民主共和国“南部”地域のみとなりました。》

 

 頭の中に記憶してある文章をハキハキと読み進めていくリポーターに対し、キャスターが質問を繰り出す。

 

《モノクローム・アバターに関しては、何か詳細な情報を掴めましたでしょうか?》

 

《・・・・・・・・・・・・はい!ここ数日、多くの軍関係者に対し取材を試みて来たのですが、皆一様にモノクローム・アバターに関しては堅く口を閉ざしており、有力な情報は得られませんでした。と言うよりも、輪郭すらもハッキリしていないというのが現状です。》

 

 そこまで言った後、リポーターは“驚愕の情報”をキャスターに暴露する。

 

《只、現地住民の方々からは、興味深い情報を得ることが出来ました。何と、モノクローム・アバターと思しき部隊が、「“人型の兵器”を使用しているのを目撃した」と仰っていたのです。》

 

 リポーターの発言は、壮年のキャスターだけでなく、テレビ画面を凝視していた箒をも驚愕させた。

 

「馬鹿なッ!?ISの軍事利用は禁止さてれいる筈だ!!」

 

 「IS運用協定」通称『アラスカ条約』において、ISの軍事利用は禁止されている。しかし、明文の解釈によっていくらでも「兵器運用」が可能となっているのが現状だ。事実、明文には「あくまで自衛の為の戦力であるならば、その保有を可能とする。」と記されている。その癖「自衛の範疇」に関しての詳細は一切明文化されていない為、軍事基地や軍事工場への攻撃も「自衛」と見なされる可能性が高いのだ。

 どの道、犯罪シンジケートである亡国機業にとっては、どうでもいい事なのかもしれないが。

 

 箒の驚愕を代弁する様に、キャスターも詳細を訊ねる。

 

《つまり、今回の掃討作戦には、ISが投入されていると言う事でしょうか?》

 

 しかし、リポーターはその憶測を否定する。

 

《・・・・・・・・・・・・いえ!話によると「ISではない」そうです。外見の特徴としては全身を「鋼鉄の鎧」で完全に覆っており、「空中を浮遊していたり、地上を高速でホバー移動していた」そうです。》

 

 リポーターからの情報を聞き、昭弘とラウラは直ぐ様“状況”を飲み込んだが、箒は未だに話が見えて来ない様だ。それもその筈で、「MPSが実戦配備されている」と言う事実は、一部の人間しか知らないのだから。

 昭弘とラウラは、その事実を箒に教えるべきか考えていた。しかし、やはり一般人が知るべき情報ではないし、無用な混乱を招く可能性もあるので、2人は頭を抱えている箒をそのまま放置する事にした。

 

 そんな3人の心境など知る由も無いキャスターは、更に話を進める。

 

《では、ISとも違う「第2の人型兵器」が、今回の掃討作戦で使われていると言う事でしょうか?》

 

《・・・・・・・・・・・・はい!極めて進度の早い掃討作戦からしても、その可能性が高いかと思われます。しかし、戦闘区域及びその周辺では「マスメディア」や「ジャーナリスト」の立ち入りが、異常なまでに厳しく制限されております。よって「証拠」となる映像や音声も存在せず、今のところ“信憑性”の高い情報は何一つ得られていません。また、掃討対象組織であるSHLAも「ISではない人型兵器」を使っていたとの話を、現地民から聞き出せましたが、こちらも決定的な「証拠」となる物は得られませんでした。》

 

 リポーターがそこまで言い終えると、またしても箒が口を開き始める。

 

「・・・・・・やはりと言うか何と言うか、解せない事だらけだな・・・。」

 

 未だ混乱から抜け出せない箒に対し、昭弘は助け舟を渡す事にした。

 

「・・・どうせ不確定な情報なんだ。第2の人型兵器の件は、この際置いとこう。それより、何故今になって「亡国機業」とかいう犯罪組織が、SHLAの掃討を買って出たのかが気になるな・・・。」

 

 そんな昭弘の疑問を嘲笑うかの様に、ラウラは答える。

 

「フン!奴等の事だ。どうせコンゴに眠る鉱物資源が目当てなのだろう。・・・あの辺りの紛争はいつだってそうだ。革命やら反乱やらで政権が変わろうと、中身は何も変わらん。民族衝突、資源獲得競争、その結果起こる内戦・紛争、その繰り返しだ。」

 

 冷たくそう言い放つラウラに対し、昭弘が物申す。

 

「・・・失礼を承知で訊くが、ボーデヴィッヒよ。それは大元の「原因」が何なのか、知ってて言っているんだよな?」

 

 そう。抑々そうした民族対立が起きるようになった原因は、元を辿ればかつての列強諸国による「分割統治」に行き着くのだ。支配する際、1つの民族には富を与え、もう1つの民族には富を与えない。民族同士で敢えて差を付ける事で互いを争わせ、不満の矛先が自分たちに向く事を防ぐのだ。

 

 しかし、ラウラは昭弘の言葉に動じる事無く、己の考えを口にする。

 

「勿論知っているとも。それを踏まえた上での発言だ。」

 

 そこまで言われてしまえば、昭弘も納得するしかない。抑々昭弘自身、子供を「戦争の消耗品」として使う様な連中に、同情など一切しない。

 

 2人のそんなやり取りを見て、箒もまた今回の紛争で感じたことをポツリポツリと口に出す。

 

「・・・結局、『IS』と言う夢のマシンが生まれようとも、争いはなくならないのだな。・・・どの時代でも、どんな場所でも。」

 

 箒はそんな言葉を口にした後、増々力無く俯いてしまう。

 箒が今、姉である「天災科学者」のことをどう思っているのかは定かではないが、“影響”は受けている筈なのだ。ISへの想いを、ISへの願望を、ISへの期待を。だからこそ、箒はやるせないのだ。「本来ならば人を幸せにする為のマシンであるのに、実際はどうだ?」と。

 

 そんな箒の「ISに対する想い」を察しつつも、ラウラはあくまで冷淡に、現実を突き付ける。

 

「当然だろう?ISによっていくら利便性が増えようと、いくら科学技術が進歩しようと、「人間」という生物から争いが消える事はない。自分の利益の為に、どこまでも合理的に利用するだけだ。」

 

 ラウラの冷えきった正論を聞いて、箒は俯いたまま、膝の上に置いている両拳を強く握った。

 どちらにせよ、ISコアを所有できるのは凡そ先進国だけだ。財政が芳しくない発展途上国にとっては、ISコアを保有する余裕など無い。

 

「・・・・・・私だってその為に生み出されたのだからな。」

 

 ラウラのそんな呟きを、箒は俯いていながらも聞き逃さなかった。

 

「?・・・それは、どういう意味なのだ?ボーデヴィッヒ。」

 

 「不安・心配」に近い感情を内包させながら箒は訊ねるが、ラウラの返答は箒が期待した通りのものではなかった。

 

「うん?ああ、気にするな。ただの比喩表現だ。」

 

 ラウラにしては珍しく、箒に対して優し気な微笑を零しながらそう答えた。しかしその微笑を浮かべた表情は、どこか切なげと言うか、何かに対して諦めている様にも見えた。

 

 2人の会話を真ん中で聞いていた昭弘は、自身が“今居る世界”と“前居た世界”を比較しながら、心の中で「嘆き」にも似た呟きを放つ。

 

(「どの時代、どんな場所」・・・どころじゃねぇ・・・・・・。どんな「時空」、どんな「次元」の世界だろうと、戦争からは逃れられないんだな・・・。此処は、偶々平和なだけなんだな・・・。)

 

 

 3人がそんなやり取りを繰り返している間、壮年のキャスターは次のニュースに移ろうとしていた。

 

《コンゴ民主共和国の情勢変化によって、アフリカ全体がどの様に変わっていくのか、今後の動きが注目されます。・・・では次のニュースです。》

 

 所詮、どんなに彼等がアフリカの紛争について頭を巡らせようと、液晶テレビに移っている「四角い世界」には何一つ干渉など出来ない。テレビはただ、己の四角い画面から淡々と情報を提供するだけだ。戦場とは遠く離れた、安全で平和なこの空間に・・・。

 

 彼等3人は遣り切れない思いを抱えたまま、各々の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー5月10日(火) 某作戦指令室ーーーーー

 

 スコールは、退屈そうにモニターを眺めていた。モニターには自身の保有するMPS部隊が、SHLAのMPS部隊を造作もなく殲滅していく様子が映し出されていた。鮮血が飛び散り、焼け爛れた身体の一部が無造作に映し出されても、スコールが表情を変える事は無かった。

 

「・・・・・了解。司令、東部州の制圧が、たった今完了したとの報告が入りました。」

 

「そう。「予定通りに」と伝えておいて。」

 

「了解。」

 

 部下からの報告にも、表情や声色を変える事なく淡泊に指示を出す。

 

 しかしそんなスコールも、「ある自軍のMPS」が映し出された瞬間、表情に喜色を浮かべる。純白のボディは混沌とした戦場において幻想的な輝きを放っており、右手には敵の返り血が乱雑にペイントされた「巨大な金棒」が握られていた。

 

 楽し気にそのMPSを見つめているスコールであったが、唐突に邪魔が入る。左手側のホログラムには、自身の顔が映し出されていた・・・様に見えたが、よくよく観ると()()()()()()()()()()

 

《・・・退屈と言う事は、順調の様だな。》

 

 自身の数少ない楽しみを邪魔されたスコールは、不機嫌そうにトネードに返答する。

 

「そうでもないわ。順調過ぎると、何か裏を感じてしまうものでしょ?内心ビクビクしてるわ。最新型MPSの量産が間に合っていれば、もっと安心して構えていられるんだけど・・・。それに、今回の作戦はISを使えないでしょう?『オータム』と『エム』が「私たちも殺したい」って煩くて・・・。」

 

《だが順調と言う事は、現地でしっかりと指揮を取っているのだろう。現地民から忌避される様な言動を犯していなければ良いのだが・・・。》

 

「そんなに気になるんなら、自分の脚で直接見に行けば?戦闘区域だろうと、アンタなら“生身”でも余裕でしょう?」

 

《冗談。爆風で髪が「とんでもない事」になってしまうだろう。》

 

「あ、そっち?」

 

 先程ラウラは、モノクローム・アバターの目的を「鉱物資源」と予想していた。無論それもあるのだろうが、真の目的はどうやら違う様だ。

 今解っている事は、SHLAを倒す事で「現地民」の支持を得る事。ISではなくMPSで敵を圧倒する事により、MPSの“有用性”をより強固なものにする事。そしてそれらの目的は、先進各国には知られたくない様だ。

 

 そんな軽い雑談をトネードは一旦区切ると、更なる質問に入った。

 

《そうそう。“彼”の調子はどうだ?》

 

 「彼」と言われると、スコールは再びモニターに映っている「純白のMPS」を見つめる。あのMPSに搭乗しているのが、トネードの言う「彼」なのだろう。

 

「安心して、そっちも順調よ。後は「究極のMPS」の完成を待つだけ。」

 

《そうか。「新世代型MPS」の量産化も「究極のMPS」も、『イスラエル侵攻』迄には余裕で間に合うそうだ。》

 

 トネードが短く返すと、スコールは少し拍子抜けた様に目を丸める。

 

「・・・アラ?未だ用件があるんじゃないの?」

 

 すると、トネードは短く息を吐くが、無表情のまま自身の要求を述べる。

 

《・・・・・・IS学園の「タッグトーナメント」、観に行くのだろう?》

 

 無論、トネードの言葉は「IS学園を襲撃する」と言う暗喩ではない。そのまんまの意味だ。言わずもがな、亡国機業トップとしての素顔は隠して行くのだろう。

 

「ええ。使えそうな子、脅威になりそうな子を見定めておこうと思って。・・・何?アンタも観に行くっての?」

 

《ああ。まぁ観戦の理由は、お前とほぼ一緒だ。アタシも運営トップとして、その辺りの事もある程度は把握しておかねばな。》

 

 トネードの在り来たりな返答を聞いて、スコールは嘲りながら言葉を投げ掛ける。

 

「そう言う「建前」はいらないわ。大方、大好きなアルトランドくんに会いたいだけでしょ?」

 

 スコールの予想を聞いたトネードは僅かに笑みを零すが、否定はしなかった。

 

《黙れ。そう言うお前こそ、織斑くんの試合を観るのが一番の目的だろう?》

 

「イヤン!バレちゃった♡ま、お互いその日までには「目先の仕事」を片付けておきましょうか。」

 

《ああ、健闘を祈る。》

 

 トネードは再び無表情に戻ると、その言葉を最後に通話を切った。

 

 スコールはまたしてもモニターを見つめ始めたが、純白のMPSは既に映っていなかったので、つまらなそうに溜め息を吐いた。

 

 

 彼等の計画は、まだまだ途上も途上だ。




申し訳程度の中東要素。

私の表現力や文章構成では、これが限界でした。想像以上に堅苦しい話になっちゃいました・・・。
SHLAの元ネタは、皆さんで調べて頂ければ分かるかと思います。少なくとも去年の段階では大分戦力を削がれたそうですが・・・。
アラスカ条約の「自衛云々」は自分で適当にアレンジしました。

あとすみません。今更気づいたのですが、MPSが少年にしか使えない理由について、全く触れていませんでしたね・・・。理由は鉄血本編と同じく、生体ナノマシンが成長期の子供にしか定着しないからです。第3話に修正入れときました。

純白のMPSを操る少年は、一体何者なのか・・・。







と言うか、やっぱ話のテンポ遅すぎますね・・・。けどやっぱしシャルル・ラウラ編は今迄で最長になる事は分かり切っていたので、どうにか挫けない様頑張ろうと思います。


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第21話 居場所

千冬がカッコいいと思った(小学生並みの感想)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーー・・・何か御用でしょうか。教官殿。

ーーー成程な。確かに“落ちこぼれ”の様だ。

ーーー・・・・・・それが何か?

ーーーああ、スマン。余計な一言だったな。

ーーー・・・私の様な“虫ケラ”より、他の有望な隊員に時間を割く方が、遥かに効率的かと思いますが?

ーーー私もそうしたい所だが、そうもいかん。私の仕事は、君たちの部隊を鍛え上げる事だ。そして、お前が部隊内でどんな“扱い”を受けていようと、同じ隊員である事に変わりはない。

ーーー・・・・・・・・・。

ーーーそんな目で見るなよ。先ずは、「隻眼」での戦い方を教えてやる。それと・・・「心構え」もな。

ーーー?・・・はぁ。

ーーーま、精々頑張る事だ。私の様になる為に・・・なんてな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー5月13日(金) ーーーーー

 

「そう言えば、中止になった「クラス対抗戦」の景品なんだけど、全クラスに「学食スイーツ1ヶ月間食べ放題券」配る事になったらしいよ?」

 

「マジ!?良かった~。」

 

 登校中、曇天を仰ぎ見ながら、鏡と相川の会話に聞き耳を立てるラウラ。最初こそ鬱陶しく感じていたその姦しさも、慣れてしまえば存外にも悪くない様だ。

 

 しかし、そんな彼女たちを見ていると、ラウラは己が如何に「異質な存在」なのか思い知らされる。平和な空間で、安寧を胸一杯に享受し、それを当たり前として日々を過ごす。正に彼女たちは、本来人類が目指すべき「居場所」を体現していると言っても良いだろう。

 そんな誰もが恋い焦がれている居場所に、「疎外感」を抱いてしまうラウラ。そう考えると、やはりラウラも“根本的”には昭弘や少年兵たちに近しいのだろう。

 

(・・・アルトランドの苦悩が、何となくだが解った気がするな。)

 

 ラウラは密かに昭弘を称賛した後、己の「目的」をもう一度見つめ直す。

 

(楽園を楽園として、心置き無く謳歌する彼女たち。楽園と言う空間に居ながらも、「戦場」を心から遠ざけられないアルトランド。そして・・・教官、貴女にとってこの楽園は、一体どんな場所なのか・・・?ドイツの・・・「私の部隊」から離れる程のモノなのか・・・?もしそうだとしたなら、私は貴女の“何”を見れば・・・?)

 

 そんなラウラの声なき独り言は、相川によって遮られる。

 

「ラウラ?大丈夫?何かいつにも増して眉間に皺が寄ってるけど・・・。」

 

 心配する相川と鏡に対し、ラウラは普段通り物静かに答える。

 

「・・・別に何でも無いが。」

 

 そう答えると、2人は「あ、そう?」と言った後、そのまま黙り込んでしまう。ラウラは丁度良いと思いながら、2人に「ある事」を訊ねてみる事にした。

 

「・・・・・・なぁお前たち。もし織斑教諭が、此処IS学園から居なくなったらどうする?」

 

 唐突なラウラの問い掛けに対し、2人は驚きつつお互いの顔を見合うが、その後腕を組んで考え始める。すると、鏡が己の考えを口にする。

 

「・・・正直、泣いちゃうかも。けど、1週間も経てば、また普段の私に戻るんじゃないかな。」

 

 鏡の答えに相川も続く。

 

「いや~私は立ち直れないかな~。私にとっては、やっぱり「世界で一番憧れてる人」だし。・・・てか、それがどうかしたの?」

 

 そう聞き返されて、ラウラは少しだけ口籠った後、適当に答える。

 

「・・・いや、別に深い意味はない。ただ、それだけ織斑教諭を大切に想っているなら、もっと日々を噛み締めて生きろよ?」

 

 ラウラの余計なお節介とも取れる言葉に対し、2人は馬鹿正直に「「はーい!」」と返事をする。そんな2人に対し、ラウラは心の奥で謝罪する。

 

(・・・すまないなお前ら。私は今日、お前たちの想いを真っ向から踏み躙る行動を起こす。・・・・・・本当に、すまない。)

 

 そんな「心の謝罪」が、彼女たちに聞こえる事などある筈もなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーー放課後ーーーーー

 

 既に日も沈みかけて、曇り空が更に薄暗くなっている頃、昭弘は職員室へとその巨体を向かわせていた。「放課後、職員室に来てくれ。職員が全員出払ったら連絡する」と言う千冬の言葉通りに動いていた昭弘は、職員室前まで来て足を止める。

 

「どうしても考え直してはくれませんか、教官。」

 

 声の主はラウラであった。その普段よりも遥かに弱々しい声に、昭弘は「ただならぬ何か」を感じた為か、不本意ながらも盗み聞きを敢行した。

 

「お前が何度懇願しても、答えは同じだ。私は此処IS学園を離れるつもりは毛頭ない。」

 

 千冬が冷たく返答するが、ラウラは食い下がる様に理由を訊ねる。

 

「・・・何故です?何故そうまで、貴女は此処に拘るのですか?」

 

 そのまま、千冬の返答を待たずにラウラは続ける。

 

「私は別段、此処の生徒や教員を侮辱している訳ではありません。ですが、人には「適材適所」と言うものがある!貴女だって解っている筈だ!貴女にとっても、そして私や私の部下たちにとっても、此処は貴女が居るべき場所ではない!」

 

 遠回しに、ラウラは「もう一度ドイツ軍に戻り、我が隊の教官を勤めて欲しい」と言っているのだ。

 千冬は一時期、ドイツ軍に出向しており、そこで1年間「教官」を務めていた。そんな千冬の教官としての能力は、他の追随を許さないレベルであった。

 事実、ドイツ軍はIS学園以上に千冬と言う人材を欲しているし、千冬自身も此処で教鞭を執るより、「新米軍人を鍛え上げる」方が向いていると感じているのだ。

 最後に追い討ちをかける様に、ラウラは捨て台詞を吐く。

 

「此処が本当に、貴女の居場所なのですか?「厳しくも、明るくて優しい教師」と言う仮面を被ってまで、居る意味があるのですか?」

 

「・・・」

 

 2人しか居ない職員室内に、鈍痛の様な沈黙が流れた。昭弘は自身の吐息を響かせない様、呼吸を小さくする。

 しかし、丁度ラウラが踵を返そうとした時、千冬は自身が此処に居る「目的」を述べ始めた。その時の千冬は、どこか物寂しげな笑みを浮かべていた。

 

「・・・私はな、『IS』と言うパワードスーツの“本質”を、より多くの人間に知って欲しいのだ。」

 

 そこで一旦区切ると、千冬は更に言葉を連ねる。

 

「無限の可能性を与えてくれる半面、絶対数が限られていると言う現実。“抑止力”として核兵器が意味を成さなくなった今、それをたった467機のISコアに頼らざるを得ない先進各国。だが、絶対数の限られた抑止力など、たかが知れている。・・・もう解るだろう?ラウラ。私の言いたい事が。」

 

 そう。もし仮に何処かの国、何処かの地域で467機のISを上回る“戦力”が備わってしまったら・・・?抑止力は消え失せ、“その国”の思うがままの「破壊と暴力」が、世界を多い尽くすだろう。

 しかし、「IS至上主義」と言う思想が蔓延している今の世界では、その危険性に気付ける人間自体極めて少ない。

 

 その話を盗み聞きしていた昭弘の脳裏に、“ある戦慄”が一瞬だけ浮かび上がった。それは、先日のニュースでも報道された第2の人型兵器「MPS」の存在であった。

 未だその実態は報道されていないが、今やアフリカでは戦闘ヘリの上位互換として、MPSは優位性を確立している。

 

(・・・・・・・・・まさかな。)

 

 どんなにMPSが進化しようと、兵器としてISを凌ぐ事など有り得ない。昭弘は自身にそう言い聞かせながら、頭の靄を振り払う。

 

「無限の可能性等と言っても、絶対数が限られている現状、有事の戦力としては数的限界がある。・・・そんな今大切なのは、ISをより深く理解した上で“ISこそ絶対”と言う固定概念を払拭する事なのだと、私は考える。」

 

 千冬がそこまで答えると、ラウラが千冬の代わりに結論を述べる。

 

「・・・・・・だから、未来を担う子供たちに、「その事」を教えたい・・・と?」

 

「・・・そうだ。」

 

 千冬は短くそう返すが、ラウラはやはり納得し切っていない様子だ。そんなラウラの心境を察した千冬が、今度は“居場所”について語り出す。

 

「それとなラウラ。私は何時だって“仮面”を被っているぞ?・・・ひたすらに冷静で合理的な「教官」としての仮面、厳しくも優しい「教育者」としての仮面、姉としての仮面、友としての仮面、世界最強(ブリュンヒルデ)としての仮面。・・・・・・唯一被っていない時など、精々一人でビールを飲んでいる時くらいだ。・・・人と接する時、人は無意識に仮面を被るものなのさ。」

 

「居場所にしたってそうさ。この世に唯一無二の居場所なんて、存在しない。今自分が、無意識に仮面を被りながら、人と接する空間・・・それこそが“居場所の正体”だ。だから此処も、家も、お前の部隊も、全て私にとって大切な居場所の一つだ。」

 

 そんな千冬の言葉は、昭弘の心を大きく揺さ振った。

 鉄華団、束のラボ、そしてIS学園。夫々異なる人々と接して来たそれらの居場所に、優劣など付けようがないのだと、昭弘は悟った。

 

 ラウラは再び黙り込むかと思われたが、性懲りもなく我儘を貫き通そうとする。

 

「・・・・・・貴女の考えは、良く解りました。ですがやはり、ドイツ軍(あそこ)こそが貴女の居場所だ。・・・それ以外の貴女など、私は認める訳にはいきません。」

 

 自身の身勝手な価値観を捨て台詞に、ラウラは今度こそ踵を返して職員室を後にする。

 

 

 ラウラは昭弘を見ると、最初から気付いていたかの様に、苦言を呈する。

 

「・・・悪趣味だな。見損なったぞアルトランド。」

 

 そう言われると、昭弘は罰の悪そうな顔をしながら、自身の言い訳を述べる。

 

「・・・スマン。どうしても気になったもんでな。」

 

 昭弘がそう返すと、ラウラは彼の直ぐ傍まで近寄り、小声で「念押し」した。

 

「・・・余計な事するなよ?」

 

「・・・」

 

「無言なら「YES」と受け取るぞ。」

 

 最後にそう言うと、ラウラはそのまま昭弘の傍を通過して行った。

 その際、長く麗しい銀髪の先端が、昭弘の右手を冷たく撫でた。更に「念押し」するかの様に。

 

 

 

 職員室に入った昭弘に対し、千冬は少し申し訳なさそうにしながら話し掛ける。

 

「急な呼び出しでスマンな、アルトランド。・・・飲み物はどうする?コーヒーか?お茶か?それとも紅茶が良いかな?」

 

「・・・では、お茶で。」

 

「分かった、少し待ってろ。」

 

 そうして千冬が給湯室にて茶を淹れた後、昭弘は先程の盗み聞きを謝罪する。

 

「・・・すみません、織斑先生。先の会話・・・聞いていました。」

 

 恐らく千冬も気付いていたのだろうが、それでも謝っておく昭弘。

 

「気にするな。悪いのはお前を呼び出した私と、急遽押し掛けてきたラウラだ。寧ろ、話が省略できて楽だ。」

 

 千冬のそんな言葉で、昭弘は話の内容をある程度予想する。昭弘があれこれ予想しているのを見越す様に、千冬も話を続ける。

 

「・・・さっきの口論を聞いて、お前はラウラに何を感じた?」

 

 千冬の唐突な質問に動じることなく、昭弘は正直に答える。

 

「・・・なんと言いますか、織斑センセイに対して、異常なまでに執着していると言いますか・・・・・・。」

 

 昭弘の答えに対し、千冬は力無く頷く。

 そして自身とラウラの過去について、なるべく手短に昭弘へと伝えていくーーーーー

 

 

 

落ちこぼれ

 

 

 

 千冬が最初、ラウラに抱いた印象がそれだったと言う。とても信じられなかった昭弘だが、更に千冬の話を聞いていくと、手の平を反すように納得してしまった。

 女尊男卑社会である今日、男性の身であり更には片目を患ったラウラが、部隊内で孤立する事は最早必然と言えた。

 

「酷い有様だったよ。雑用にも劣る仕事ばかり任されていてな。だが何よりも酷かったのは、そんな環境を受け入れ、何もかも諦めていたラウラ本人だった。」

 

「・・・そんなボーデヴィッヒを救ったのが、織斑センセイだったんですか?」

 

 昭弘にそう言われると、千冬は気恥ずかしそうに訂正を加える。

 

「過大評価だよ。私の教え方と言うより、アイツが勝手に吸収していっただけだ。」

 

「それからのアイツは、別人の様に成長していった。その常軌を逸した特訓内容と成長速度は、部隊の連中も心を入れ換えざるを得ない程だった。・・・隻眼であるにも関わらずだ。」

 

 そこまで言い終えると、千冬は一段落したかの様に息を吐き、その後更に言葉を連ねる。

 

「・・・・・・大分省略したが、以上の出来事が今のラウラを築き上げたって訳だ。」

 

 絶望的な状況にいた自身に、手を差し伸べてくれた千冬。ラウラの瞳には、それこそ千冬が「救世主」の様にでも映っていたのだろう。

 

「・・・今のラウラはな、私しか見ようとしないんだ。私の様になる為に、私の様である為に・・・と、自身の心に言い聞かせてな。」

 

 ラウラの“目的”は、「ブリュンヒルデの千冬」になる事ではなく、「千冬の様なブリュンヒルデ」になる事なのだ。そうなる為に、ラウラはひたすらに「千冬」と言う存在を見つめ続けて来た。無論、此処IS学園でも。

 

「だが、奥底の本心は違う筈なんだ。・・・その辺は、お前が一番解っているだろう?アルトランド。」

 

 そう、昭弘は良く知っている。ラウラの“不器用な優しさ”を・・・。だから、昭弘や相川たちを無視する事が出来ないし、無意識に千冬以外の人間の事も想ってしまう。

 ラウラは恐らく、「揺れ動いている」のだろう。千冬と言う「絶対的存在」と、昭弘たちとの狭間で。

 

 

 漸く前置きが終わった所で、千冬は昭弘に自身の「頼み」を、力の抜けた声で吐き出していく。

 

「・・・頼む、アルトランド。無能な私の代わりに、ラウラを「私」と言う呪縛から解放してやってはくれないか?。」

 

「此処での私は、軍に居た頃の私ではない。アイツがいくら私を見たところで“答え”は出ないし、優しいアイツでは「織斑千冬」にはなれない。」

 

 「私の事だけでなく、他の事にも目を向けろ」千冬がラウラにそう一言命令すれば、恐らくラウラは従うだろう。それが出来ない理由を、千冬は述べる。

 

「アイツは恐らく、私の言葉には何も考えずに従うだろう。だが、それでは駄目なんだ。アイツには「自分の意思」で、変わって欲しいんだ。」

 

 IS学園と言う、ラウラにとって「異質な居場所」。そこで自身がどうなりたいのか、どうありたいのか、それはラウラ本人にしか解らない。そしてそれらを実行に移すには、本人の“強い意思”が必要になるのだ。

 

 千冬はそこまで言い終えると、昭弘の返答を待つべく、敢えて口を閉ざす。しかし、昭弘から帰って来た言葉は、“了承”の言葉ではなかった。

 

「・・・・・・ありがとうございます。織斑センセイ。」

 

 そう言われて、千冬は力が抜けた様に「ガクッ」と首を倒してしまう。「何故此処で感謝の言葉!?」恐らくは、そんな事を思っているのだろう。

 

「態々オレに頼むって事は、「ボーデヴィッヒの友人」としてオレを信用しているって事でしょう?・・・なんつーか、オレそう言うの、凄く嬉しいんです。」

 

 その雰囲気や風貌に似つかわしくない程の、筋金入りのお節介焼き『昭弘・アルトランド』。そんな彼にとってその様な頼み事は、寧ろ自分から望むところなのだろう。しかも、ラウラの友人として自身を頼ってくれると言うのだから、「お節介心」も燃え滾ると言うもの。

 そんな昭弘の答えは、言うまでも無く1つしか無かった。

 

「・・・喜んで引き受けます。」

 

「!・・・ありがとう!アルトランド!!」

 

 千冬は大いに感謝すると、昭弘の右手をしっかりと両手で握り締めた。

 そして、千冬は嬉しそうに呟いた。

 

「・・・本当に、アイツは良い友人を持ったものだ。」

 

 千冬も、恐らく内心では不安だったのだろう。ラウラがIS学園で上手くやっていけるか、若しくは友人ができるのかどうか。

 そんな千冬の呟きを聞いて、昭弘は苦笑しながら返す。

 

「まぁ、ボーデヴィッヒ自身は、未だオレをどう思ってる事か・・・。」

 

「・・・ったく、相変わらず「変な所」で意地っ張りだな、ラウラの奴は。」

 

 

 そんな風に軽く談笑した後、丁度昭弘は訊きたい事を思い出したので、千冬に訊ねる。

 

「そう言えば、織斑センセイ。・・・一夏とボーデヴィッヒの確執について、何か心当たりはありますか?」

 

「・・・それは、『第二回 モンド・グロッソ』での出来事だろうな。」

 

 『モンド・グロッソ』とは、3年に1度だけ開催されるISの世界大会である。様々な部門に分かれており、総合優勝者には『ブリュンヒルデ』の称号が与えられる。つまり、第一回大会での優勝者こそが「織斑千冬」なのだ。

 

「・・・確か第二回大会では、センセイが途中で棄権したと聞きましたが。・・・もしや、一夏と何か関係が?」

 

 昭弘もモンド・グロッソに関しては、束からある程度話を聞き及んでいる。しかし、詳しい「真相」に関しては、一切報道されなかった。昭弘も又、真相を知らない人間の一人だ。

 

「・・・・・・そうだ。」

 

 それ以上、千冬はモンド・グロッソに関して昭弘に口を開こうとはしなかった。昭弘も、「機密性の高い案件なのだろう」と察し、それ以上訊こうとはしなかった。

 

「・・・ラウラも焦っているのだろう。一夏の剣術もISも、そして「雪片」も、全てが私の“生き写し”だ。一夏に対して「悪しき執着心」が芽生えても、何ら不思議ではない。モンド・グロッソでの出来事が、それに拍車を掛けてしまったのだろう。」

 

 千冬がラウラの心境について予想を立てると、今度は千冬が昭弘に“ある確認”を取る。

 

「ん?・・・なぁアルトランド、一夏もラウラを疎ましく思っているのか?」

 

「?・・・・・・ええ、少なくともオレの目からは、そう見えました。初日のSHRでの出来事を抜きにしても。」

 

 昭弘の返答を聞いて、千冬は手の甲を顎に当てながら考え込む。

 

「・・・心当たりが無いな。ラウラが一夏を疎ましく思うのは解るが、何故一夏まで・・・?」

 

 千冬を崇拝するラウラからしてみれば、千冬に最も近しい存在である一夏を妬ましく思うのは解らなくもない。

 しかし、姉である千冬から見ても、一夏がラウラを疎ましがる理由は、どうやら解らない様だ。

 

 この時、昭弘は勿論、千冬自身も知る由など無かった。一夏が一体、どれ程千冬と昭弘に執着しているのかを・・・。

 

 

 

 結局、一夏の事が何一つ解らなかった昭弘は、歯痒い気持ちを押し殺す様に茶を飲み干すと、職員室を後にした。

 

 

 そんな中、昭弘と千冬は“今更”な疑問に苛まれていた。

 

 

 

(・・・あんな頼み事をしておいて何だが、アルトランドの奴は何か秘策でもあるのだろうか・・・。)

 

 

 

(・・・引き受けたは良いが、何をどうすれば良いんだ?)

 

 

 

 

 

((・・・・・・・・・まぁ、何とかなるだろう。))

 

 猪突猛進な2人は、もう少し「慎重」という言葉を覚えた方が良いのかもしれない。




ラウラの過去や左目については、クライマックスでしっかりと・・・描写しますんで。一夏の過去と第二回モンド・グロッソに関しても同様です。

ラウラ・シャルル編、今までで最長になるかもです。・・・あ、もうなってる?


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第22話 一夏の焦燥

セシリアにだけやたら辛辣な昭弘すき。


ーーーーー5月14日(土) 07:03ーーーーー

 

「こう、ズバーーーッ!!と言う感じで、バキッ!グシャーーッ!!と言った感じだ!!」

 

「だからさっきから何度も言ってるでしょーが、「感覚」よ「感覚」。」

 

「ですから!!左斜め45度から出力を瞬時加速の一歩手前位まで押さえながら接近し、敵に一撃を与えると思わせつつ更に右斜め53度から敵の背後に回り込み、左斜め136度から斬り上げるのが一番効率的だと、先程も言ったではありませんか!!」

 

「?・・・・・・???」

 

 土曜の朝であるにも関わらず、昭弘たちはアリーナBでタッグトーナメントに向けた練習に励んでいた。流石にこの時間帯なら、他の生徒は未だ布団に籠っている様だ。

 そんな中、箒、鈴音、セシリアの3人が、スタンドで一夏に対して熱心に指導をしていた。お世辞にも上手な教え方とは言えないが。

 

 そんな勢いに任せる彼女たちへ、昭弘が物申す。

 

「・・・お前ら自主練でもしてろ。オレが教える。」

 

 その一言を聞いて、混乱していた一夏は歓喜の表情を浮かべるが、女衆は反発する。

 

「何よ昭弘!また一夏を独り占めする気?」

 

「魂胆が見え透いているのですわ。そんなに独り占めしたいのなら、せめてもう少し言葉を選んで立ち回ったらどうですの?」

 

「いや、何故そう言う話になる?それとオルコット、「言葉を選んで立ち回れ」だぁ?今のお前こそ言葉を選んでもう少し解りやすく教えたらどうだ?」

 

「アラまぁ、ここに来て粗探しですの?心の狭い男ですわね。」

 

「おうおう、こんな野蛮人ごときの言葉に反論出来ないのか?貴族令嬢様?」

 

「はぁ?野蛮人風情、相手をする労力すら惜しいだけですわ。」

 

「だぁもうッ!!喧嘩するなら別のアリーナ行ってよね!!」

 

 もう嫌と言う程見てきた昭弘とセシリアの口論に、鈴音が割って入る。

 

 そんな中、隙を突いた様にシャルルが一夏の傍まで赴く。

 

「一夏。良ければ僕と一緒にどう?射撃武器について色々と教えられるかもしれないし、僕自身も白式には興味があるんだ。」

 

「お、おう!喜んで!!」

 

 今の状況では、一夏にとって正に好都合なのだろう。シャルルの提案を一夏は快諾する。

 

 しかし、念の為「箒」の顔色を伺う。こういう時箒が機嫌を損ねると言う事を、流石の一夏も学んだらしい。理由は当然解っていないが。

 

「と言う訳で・・・シャルルとフィールドまで下りるけど・・・・・・い、良いよな?箒。」

 

 そう恐る恐る聞くも、箒の返答は驚く程淡白なものであった。

 

「うん?ああ、別に良いのではないか?」

 

 むつける訳でもなければ、反発する訳でもない。一夏は安心と言うよりも、一周回って不気味なものを感じた。

 

(・・・後で変な制裁受けなきゃ良いけど・・・。)

 

 

 箒自身も、余りに淡白過ぎる自分自身に驚いていた。それは恐らく、好きな異性が2人居ると言う特殊故。心の余裕・・・と言うよりも、以前の様な一夏一人に対する「独占欲」と言うものが薄れているのだ。

 今の彼女は、もう一夏だけを意識する訳には行かないのだから。

 

 

 

 一先ず落ち着いた一同は、一夏とシャルルによる訓練をスタンドから眺める事にした。

 シャルルのIS名は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。全体的に橙色の装甲は頭部以外の大部分を覆っており、ブルー・ティアーズや甲龍と比べると幾らか重厚感がある。更に背部から伸びる4本のウイングが、当機の存在感をより激しく主張していた。

 

 早速、両名はフィールド上で楽し気に斬り結ぶ。そんな2人を、鈴音とセシリアは苦々し気に見下ろす。

 

「フンッ!何よ一夏の奴。男同士で楽しそうにしちゃってさ。」

 

「全くですわね。・・・まさか一夏、本気で()()()()()でもあるのでは?」

 

「バ、バカ言わないでよッ!!」

 

 等と不満を垂れ流す2人とは対照的に、昭弘と箒はシャルルの実力や機体性能を冷静に分析していた。

 

「ラファール・リヴァイヴのカスタム機か・・・・・・。20種に及ぶ武装を収納出来る、膨大な拡張領域が主な特徴だな。機動性こそ第3世代機に多少劣るが、その手数の多さは脅威だろう。」

 

 どうやら昭弘は、第3世代機以外の専用機をも粗方調べ上げている様だ。

 隣に居た箒は、ISスーツが食い込んだ昭弘の麗しい肉体に顔を赤らめながらも、自身の見立てを述べる。

 

「近接戦においても、十分な実力を備えている様だな。一夏が未だ慣らし程度とは言え、彼の剣戟とほぼ互角とは・・・。」

 

 多彩な武装に十分な近接戦闘能力。

 2人の分析を合わせると、シャルルのラファールは今までの機体の中で、最も「全方面」に特化した機体と言う事になる。

 

ドヒュゥゥーーッ!!!

 

 そんな中、2人は突如フィールド上に現れた『漆黒のIS』に目を奪われる。

 しかし、ドス黒いボディの上を揺らめく美しい「銀髪」を見た彼等は、それが誰なのか一瞬で把握する。

 

「チッ!あの馬鹿・・・!」

 

 昭弘はそんなラウラを確認すると、急いで直近のピットへと向かう。

 

「昭弘!私はセシリアたちを留めておく!!」

 

「スマン!頼むッ!!」

 

 去り際に、昭弘はそう叫ぶ。

 セシリアと鈴音は、未だにラウラへの敵意を解いてはいない。感情的になって、これから昭弘が「しようとしている事」の邪魔をされては敵わない。

 昭弘はその辺りを理解してくれている箒に、心の中で短く感謝する。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「何?アイツが一夏をブン殴ろうとした奴?・・・丁度良いわ、一夏に加勢するついでに軽く痛め付けておこうかしら。」

 

 そんな今にもピットへ駆け込もうとする2人を、箒は必死に宥めようとする。

 

「ま、まて!2人共!!」

 

 箒は2人をどう宥めるか必死に考える。そして、この場において考えうる最良の言葉を思い付く。

 

「い、一夏とデュノアが、あんな奴に遅れをとる筈がなかろう!ここは一夏を信じて、見守るべきだ!」

 

 その言葉は、一夏を愛している彼女たちを留めておくには十分であった。

 

「・・・・・・まぁ。」

 

「それも・・・そうですわね。」

 

 

 

 折角のシャルルとの楽しい一時を邪魔された一夏は、憎々しげにラウラを睨み付ける。

 

ーーー相も変わらずムカつく奴だ。何を得意気に嗤っている?オレの嫌がる顔がそんなに面白いか?ーーー

 

そんな心の中で暴れる言葉を必死に押さえながら、一夏はラウラに訊ねる。

 

「・・・・・・何の用だよ?」

 

 半ば投げやりにそう訊ねる一夏に対し、ラウラはどこか得意気に言い放つ。

 

《織斑一夏、私と戦え。》

 

 そう言われると、一夏は不安気なシャルルを見つめる。

 一夏自身は戦っても良かったが、コイツ如きの為に態々シャルルを困らせたくはないし、シャルルと訓練を続けていた方が遥かに有意義だ。

 そんな一夏は、あくまで口調を荒げずに答える。

 

「嫌だね。する理由がねぇよ。」

 

 しかし、無論ラウラは引き下がらずに、右肩の長大なカノン砲を向ける。

 

《お前にはなくても私にはある!!》

 

ドァォオンッ!!!

 

 相手の許可なく一方的に放ったソレは、超高速で白式目掛けて飛来する。余りにも突然の砲撃に対し、反応すら出来ない一夏は直撃を覚悟した。

 ・・・・・・しかし、一夏が予想した衝撃は、傍に居たシャルルがラファールのシールドによって防いだ。

 

「シャルルッ!!」

 

 そんなシャルルを睨みながら、ラウラは毒付く。

 

《・・・ヤルのか?フランスの第2世代機(アンティーク)風情が。》

 

 そんなラウラに対し、シャルルも口調を強めて返す。

 

《ドイツの第3世代機(ルーキー)よりは、戦えると思うけど?》

 

 シャルルの意趣返しを火蓋に、ラウラは「瞬時加速」を敢行して突っ込んで来る。他の「飛び道具」を警戒していた2人は、ラウラの予想外な突進に対してまたもや反応が遅れてしまう。しかし・・・・・・

 

ガギィィインッ!!!!!

 

 まるで先程のシャルルの動きを焼き増した様に、「巨大な影」がシールドを翳してラウラの突撃を防ぐ。その巨体の後姿を拝んだ一夏は、喜色を取り戻してその名を叫ぶ。

 

「昭弘!!グシオン!!」

 

《ア、アルトランドくん!?》

 

 

 

 2人の異なる反応に対し、昭弘は「無機質なツインアイ」を一瞥だけ後ろに向けると、再びラウラに相対する。

 

「よぉ、チィと「おイタが過ぎる」んじゃないか?ボーデヴィッヒ。」

 

 通信越しに聞こえる、昭弘の少しくぐもった声を聴いたラウラは、自嘲する様に口角を釣り上げる。

 

《・・・・・・ハッ!お前が正しいよ!!アルトランド。そりゃあそうだ、私の様な「鼻つまみ者」に肩入れするメリットなど、お前には無いものなぁ?友達でもないなら猶の事なぁ!?》

 

 ラウラの少し演技掛かった返答を聞いた昭弘は、キッパリと否定の意思を示す。

 

「違うな。オレが乱入した一番の目的はな・・・ボーデヴィッヒ、お前と一度戦ってみたかったからだ。」

 

《・・・・・・何?》

 

 突然の告白に、ラウラは短い単語を発する他なかった。シャルルも、目を大きくしながら昭弘に再び振り向く。

 

「・・・悪いか?友人のISが、技量が気になっちゃあ・・・。悪いか?闘技場(フィールド)で戦闘への欲求を満たしちゃあ・・・。」

 

 最後に、昭弘は「止めの一言」を発した。

 

「・・・ま、勝てない相手に戦いを挑むのは、お前にとっちゃ無謀に過ぎるか。」

 

ブツン

 

 ラウラは「謎の音」を脳内に響かせると、ターゲットを一夏から昭弘へと変える。しかし、ラウラの顔にずっと張り付いていた「陰鬱な笑み」は消え失せ、代わりに「無邪気な笑み」が浮かび上がっていた。

 

《・・・面白い。お前のSEを削り切ってから、織斑一夏も叩き伏せる・・・!》

 

 まんまと乗ってくれたラウラを見て、昭弘はフルフェイスマスクの中でほくそ笑む。

 そして、一夏とシャルルへの通信も忘れない。

 

「つー訳だ。阿呆のボーデヴィッヒはオレが押さえておくから、2人は訓練に集中してくれ。」

 

《う、うん!!ありがとう!アルトランドくん!!》

 

 シャルルは、快活に感謝の言葉を述べる。しかし・・・

 

「?・・・・・・一夏、どうした・・・?」

 

 

 

 一夏は、先程の喜色溢れる表情を消し飛ばし、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 その引き金となったのは、先程昭弘が「一番の目的」を言い放った時だった。

 

ーーーまただ、またしてもコイツに昭弘を奪われた。ーーー

 

 「昭弘が割って入って、ラウラを遠ざけてくれた」と言う客観的事実は今の一夏には映らず、暗黒の思考が“別の主観的事実”を網膜に映し出していた。

 そんな一夏を現実に引き戻すべく、シャルルが声を震わせる。

 

《ねぇ、一夏・・・・・・いっ、一夏ッ!!!》

 

「ッッ!!!」

 

 まるで永い眠りから意識を取り戻したかの様に、一夏はシャルルへと振り向く。

 

《と、取り敢えず、僕たちは下がっていよう。アルトランドくんが、どうにかしてくれるみたいだし・・・。》

 

 シャルルはラファールで白式の手を掴み、後方へと下がる。しかし、グシオンから離れれば離れる程、一夏の表情は険しさを増していく。その瞳には、仲睦まじそうに見つめ合う昭弘とラウラの姿が映っていた。昭弘の表情はマスクで見えないが、一夏にはそう見えてしまった。

 そして一夏は、「思ってはいけない事」を思ってしまった。

 

ーーーこんな事なら、さっきボーデヴィッヒをぶっ潰しとけば良かったーーー

 

 

 

「(『シュバルツェア・レーゲン』か。ドイツの最新鋭機だな)おっとそうだ、なぁボーデヴィッヒ。」

 

 相手の機体名を確認した後、昭弘はラウラにある提案を言い渡す。

 

「射撃武装は、無しにしないか?一夏とデュノアに流れ弾が飛んじまう。」

 

 しかしラウラは、その提案を嘲りながら却下する。

 

《知るか!!飛び道具に当たる方が悪いだ・・・ッ!!!??》

 

 ラウラは最後まで台詞を言えず、反射的に腹部を両腕で防御してしまう。その交差させた両腕には、グシオンリベイクの武骨で鈍重な「右足」が減り込んでいた。

 

「オイオイ、もうとっくに始まってるんだぜ?撃つ気満々なら、先に「ヤクザキック」なんて食らうんじゃねぇよ。」

 

 昭弘が更に挑発すると、ラウラは歯を食い縛りながらも笑みを浮かべる。

 

《・・・ミスったのは貴様だ、アルトランド。今のが正真正銘「最後のチャンス」だったと言うのに、近接武器を使わないとはなぁ!!》

 

 

 序盤、レーゲンは下手に接近せず、高機動を活かしてグシオンを翻弄しようとする。しかし、グシオンはその場に佇んだままだ。

 業を煮やしたラウラは、背後から擦れ違い様に右手の『プラズマ手刀』をお見舞いする。ソレを読んでいたグシオンは、振り返りながら左手に腰部シールドを持ってガードする。更にその動きを読んでいたラウラは、左手のプラズマ手刀も発動させ、グシオンの顔面に向かわせる。そのジャブ並みに速い突きは、奇麗に直撃する・・・が

 

ガギッ・・・

 

 直ぐ様引き抜こうとした手刀は、あっさりとグシオンの右手に捕まってしまう。

 

(早いッ!!抜く事に十分意識を集中させていたと言うのに・・・!)

 

 両腕が塞がったラウラは、またしても驚愕に支配される。

 

(背中に・・・腕!?)

 

 既にグシオンの右サブアームにはハルバートが握られており、ラウラの予想通りの軌道でソレは振り下ろされる。

 

ギィン!

 

 しかし、今度は昭弘が驚愕する番になってしまう。

 ソレは・・・強いて言うなら「縄」もっと誇張表現するなら「触手」とでも言えば良いだろうか。レーゲンの左腰に付随しているユニットから伸びて来た3本のソレらは、先端の刃でハルバートを完璧に防いでみせた。

 

(成程な、そういうのもある訳だ。『バルバトス』のテイルブレードを思い出すな・・・。念のため左手のサブアームは隠しておいて正解だったぜ。)

 

 昭弘はそんな事を思うと、直ちに左サブアームを繰り出して、その手にグシオンハンマーを呼び出す。そして、先程のハルバートと同じように鉄の塊を振り下ろす。

 だが、レーゲンは右腰のユニットからも3本のワイヤーブレードを出現させ、先程と同じようにハンマーを防ぐ。

 

(チィッ・・・これは・・・。)

 

(・・・膠着状態、と言う奴か?)

 

 グシオンは4本の腕が塞がれ、レーゲンもこの至近距離でレールカノンを打てば、衝撃でダメージを受ける。

 しかし、そんな膠着状態は長く続かなかった。

 ラウラは右手のプラズマ手刀と6本のワイヤーブレードを引っ込めると同時に、右肩を思いっきり引いて身体を真横に逸らす。その帰結として体勢が崩れたグシオンに蹴りを放ち、左腕の束縛を解く。

 

 その後、空中で幾度となく激しく斬り結ぶ2機。目まぐるしいまでに交差する、プラズマ手刀とハルバート。その斬り合いにワイヤーブレードやサブアームまで加わっているのだから、第3者からは「異形の怪物同士」の戦いに見えるだろう。

 

 しかし、昭弘の中にある疑問が生じ始める。

 無論の事、昭弘はレーゲンの事も粗方調べている。当然、レーゲンが搭載している「特殊兵器」の事も然りだ。未だにラウラがソレを使わない事が、昭弘は不思議でならないのだ。

 

 

 

「・・・・・・妙ですわね。」

 

「ええ。ボーデヴィッヒの奴、何で“アレ”を使わないのかしら?」

 

 その不可思議は、セシリアと鈴音も感じ取っていた。

 代表候補生である2人も、どうやらレーゲンの情報は網羅している様だ。

 

 そんな中、イマイチ状況を把握出来ていない箒を見かねて、セシリアは自ら説明に入る。

 

「レーゲンが持つ「特殊能力」の事ですわ箒。」

 

「特殊・・・能力?」

 

「平たく言えばそうなりますわ。「1対1」の勝負では反則級の力を発揮する能力なのですが・・・何故それを使わないのか・・・。まぁしかし、いずれは使うでしょうから、どんな能力かは観てみれば解りますわ。」

 

 セシリアが言い終えたタイミングで、鈴音は思い出したかのように口を開く。

 

「・・・そう言えば、結局一夏たちは戦わずに終わっちゃったわね・・・・・・。」

 

 少し残念そうな鈴音に対し、箒は今の状況を肯定する。

 

「・・・・・・いや、寧ろそれが良いのだろう。正直、一夏とボーデヴィッヒは、余り関わらせない方が良い様な気がするしな。」

 

 箒の余りにも平和的な意見を聞いて、鈴音とセシリアは先程の好戦的な自分自身を恥ずかしく思ってしまう。

 

 

 

(・・・クソッ!)

 

 互いの剣先を交互に繰り出しながら、ラウラは忌々しくグシオンを見つめる。

 飛び道具を封じている今のグシオンに勝つことは、ラウラにとって造作も無い事であった。それが、レーゲンの特殊能力なのだから。

 では何故使わないのか?それは恐らく、射撃兵装を使わずに向かってくるグシオンの姿勢、そのものにあるからだろう。

 

(・・・駄目だ、やはり使えない。射撃兵装を自ら封じている相手に『AIC』を使うなど・・・卑怯だ。そんな物に頼っている様では、教官の様にはなれない。)

 

 結局ラウラは、ここでも千冬の幻影に囚われているのだ。もっと言うなら、千冬を目指しているラウラにとって、この「特殊兵器」そのものが不要なのだろう。

 

 そんなラウラのジレンマを見破ったかの様に、グシオンは滑腔砲を構える。いきなり約束を破って来た昭弘に対して激怒する間もなく、ラウラは反射的に「両手」を前方へと掲げてしまう。

 瞬間、グシオンの動きはピタリと「停止」してしまう。と同時に、昭弘から専用回線で通信が入る。

 

《・・・何故、最初から使わなかった?》

 

 『|AIC《Active Inertial Canceller》』慣性停止結界。手を翳すだけで相手の動きを完全に封じる事が出来る、レーゲン専用の特殊兵装だ。無論、射程距離や集中力等、発動には様々な条件が必要になるが、一度発動に成功すれば無類の強さを誇る。

 

 そんな昭弘の問い掛けに対し、ラウラも「約束を違えた」事に関して小言を繰り出そうとする。しかし良く良く見てみると、グシオンは滑腔砲を“逆向き”に持っていた。

 ラウラはしてやられたと思いながらも、昭弘の問い掛けに答えようとする。

 

「・・・」

 

 しかし、言葉が上手く出てこない。言いたくないのか、それとも何と答えれば良いのか解らないのか。

 そんなラウラに対し、昭弘はグシオンのマスクを解除しながら言葉を贈る。

 

《・・・()()()、もう好きな様に戦ったらどうだ?ISってのは、自分の「好き」が許される存在だろう?》

 

 ラウラはその聞き慣れない言葉を、心の片隅に閉じ込めておく。

 

「・・・・・・気が変わった。今日の所は、引き下がるとしよう。中々楽しいバトルだったぞ、アルトランド。」

 

 そう言ってピットに戻ろうとするラウラに対し、昭弘は最後の疑問をぶつける。

 

《・・・結局、何で一夏に挑もうとしたんだ?》

 

「・・・・・・“任務”兼“私怨”だ。」

 

 「私怨」に関しては、昨日千冬から話を聞いている。「任務」に関しても、一夏に挑んだ事を鑑みれば、白式のデータ収集であろう事は昭弘にも予想出来た。

 成程確かにそう考えると、ラウラにとってこの戦いは憎き一夏を痛め付け、更には白式のデータ収集も可能。正に一石二鳥と言う訳だ。

 

 そんな結論に至った昭弘は、一夏が無事に済んだ事への「安堵」と、ラウラの任務を害してしまった事への「自責」を、同時に抱いた。

 

「・・・・・・それとな()()・・・私を「友人」と言ってくれた事・・・その、悪い気はしなかったぞ?」

 

 少し照れ臭そうにしながら、ラウラは最後にそんな言葉を放った。

 

 

 

ーーーーー5月14日(土) 20:01 128号室ーーーーー

 

 ここ最近一夏の様子がどうにも可笑しい。口数は以前よりも減り、笑い方もどこかわざとらしい。

 そんな一夏に対し、シャルルは気不味そうに一声掛ける。

 

「い、一夏、それじゃあ僕、先にシャワー浴びてくるね?」

 

「・・・・・・・・・うん?あ、ああ!りょーかいりょーかい!!」

 

 無理に明るく振る舞う一夏を見て、シャルルはやりきれない思いを抱きながら、バスルームへと赴く。

 優しくも何処か弱々しい彼を見ていると、シャルルは己の“愚行”が心底嫌になる。「他人を騙してまで、今の自分に明日を生きる資格があるのか?」と。

 

 

 ふと、一夏はある事に気付く。

 

(・・・シャルルの奴、自分のリンス忘れてやがるな。もう遅いだろうけど、一応届けておくか。)

 

 一夏は重たい腰を上げながら、それをバスルームへと届けに行く。

 そして、ノックもせずドアを開けた先に映ったモノは・・・・・・・・・。

 

 素肌、シャルルの裸体が佇んでいた。まぁシャワーを浴びた後なのだから、それはまだ解る。

 問題はその“外観”にあった。肩幅は男子とは思えない程狭く、腰に至っては更にソレが顕著であった。その割に臀部はやけに膨らんでおり、タオルで隠れた胸部も山の様に盛り上がっていた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 両者とも微動だにしないまま見合っていたが、シャルルは段々と顔を赤く染め上げていった。一夏はと言うと、真顔のまま静かに洗面所から出ていった。

 

 「バタン」と言うドアの閉止音を響かせてから、数秒程経過すると・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!??」

 

 己の怒声と共に、一夏は漸くシャルルが女性であると言う事実に驚愕する。

 

 

 時間がある程度経過し、漸く落ち着きを取り戻した一夏は、何故“この様な行為”に至ったのかをシャルルに訊ねる。

 

「・・・・・・アハハ・・・もう、バレちゃったものは、しょうがないよね・・・。全部、話すよ。」

 

 シャルルはその質問に対して、なるべく手短に己の「目的」と「境遇」を纏めた。

 

 彼女の目的・・・と言うよりも、彼女の「父親」の目的が、一夏と白式のデータ奪取にあったのだ。

 大手IS企業『デュノア社』の代表取締役を務めていた彼女の父親は、男性操縦者である一夏に近付かせる為に、己の娘を男装させてIS学園に転入させたのだ。男装させたシャルルを、会社の宣伝の為に利用する目的もあった。それだけを聞いても、余りに無茶苦茶な内容であった。

 更に胸糞が悪いのは、シャルルの扱いであった。正妻が子供を産めない体質であった為、シャルルの父『アルベール』は、自身と愛人の娘であるシャルルに目を付けたのだ。

 

「父の愛人である母親と2人暮らしだったんだけど、母が他界してからは、デュノア家に引き取られたんだ。・・・それからの日々は・・・・・・何と言うか、まるで「監獄」みたいな日々だった。」

 

 「愛人の娘」と言う立場上、社内でも居場所が無かったシャルルは、今迄一切面識のなかった父親の命令通りに日々を過ごしていた。

 更に、IS適性が高いと言う事実が判明してからは、テストパイロットとしての過酷な訓練を強いられて来たと言う。

 

「・・・父の会社も、よっぽど切羽詰まっているんだろうね。僕にこんな無茶な男装をさせてまで、データの奪取なり、会社のPRなりを画策するんだから。」

 

 その後、彼女は諦めた様な笑みを浮かべると、己の心境を述べた。

 

「・・・・・・今となっては、もうどうだっていいんだけどね。正体がバレた以上、本国に強制送還されるか、最悪「裁判」にかけられる事になるだろうし。」

 

「・・・・・・そう・・・なるよな・・・・・・。」

 

 今一夏の胸には、様々な思いが去来していた。

 何処にも逃げ場がないシャルルへの哀れみ、理不尽を突き抜けるが如き外道を貫く父親への怒り。

 しかし、父親の指示とは言え、シャルルの行為はれっきとした犯罪だ。その事実を誰にも報告せずに隠すと言う事は、最悪一夏まで同罪になりかねない。

 未だ子供の一夏にはそんな小難しい事など頭に無く、あるのはシャルルを「助けたい」と言う思いと、『昭弘』を頼るか否かと言う判断基準だけであった。

 

(・・・・・・やっぱり、先に昭弘に相談した方が・・・いや、けど・・・・・・。)

 

 一度昭弘の事を考えた途端、一夏の脳裏にあるシャルルへの思いは、段々と昭弘一色へ滲んでいく。

 

ーーー昭弘には報告しない方が良いぜ?

ーーーいや、けどオレ一人でどうこう出来る問題じゃ・・・。

ーーー出来るさ。何たってオレは『ブリュンヒルデ』の弟なんだからな。

ーーー・・・・・・それは、関係無いだろ・・・。

ーーーそれに、良いのか?ここで昭弘に「良いとこ」見せておかないと、本当に愛想尽かされちまうぞ?唯でさえクソッタレのボーデヴィッヒに入れ込んでるんだからな。ここは一つ、「オレ一人でもどうにかなる」って形だけでもアピールしとかないと。

ーーー・・・・・・。

ーーーほーら見ろ、反論しない。

ーーー・・・・・・・・・じゃあ、何をどうしろって言うんだよ。

ーーーバーカ。「あの人」が居るだろ?世界中の誰もが知っているあの人さ!

 

 心の中でそんな鬩ぎ合いをしている内に、一夏はある「悪魔的な事」を思いついてしまう。しかし、恐らくそれは“人”としてやってはいけない事だと、一夏自身も自覚しているのだろう。

 しかし、どの道千冬や他の教員に報告した所で、シャルルが犯罪者として本国に強制送還される可能性は極めて高い。

 

「・・・・・・い、一夏?」

 

 すると一夏は、まるで縋るような目で己を見つめているシャルルに気付く。

 一夏は先程の陰鬱な表情を満面の笑みで直隠すと、シャルルに再び向き直る。

 

「・・・良しッ!!オレが何とかしてやるよ!!」

 

「・・・・・・え?な、何とかって・・・何をどうするの?」

 

 完全に諦めかけていたシャルルは、一夏の思わぬ反応に対して首を傾げる。

 

「良い方法を思い付いたんだ!・・・ただその代わり、一つだけ確認しときたい事があるんだ。」

 

 シャルルは一夏の言う「確認」を聞くと、特に迷う素振りもなく肯定の意を示す。

 

「・・・うん、僕はそれでも構わないよ。母の居ないあの国に未練はないし、それに“犯罪者”として生きていく位なら・・・。」

 

「・・・良し、分かった。」

 

 一夏は短く返事をすると、シャルルの肩にやさしく手を置く。あの時、昭弘が自分にそうした様に。

 

「大丈夫、オレが守ってやるよ。女を守るのは男の使命みたいなもんだからな!」

 

 一夏にそう言われると、シャルルは安心した様に口許を綻ばせる。

 

「・・・ありがとう。一夏って「優しい」ね。僕は、君から白式のデータを盗もうとしていたのに・・・。」

 

 その「優しい」と言う言葉は、一夏の心を深々と抉った。自分は優しくなどない。シャルルの事を本気で想っているのであれば、本来なら昭弘に一度相談すべきなのに、自分の「焦り」を優先して勝手に押し進めてしまった。

 そんな事を考えながら、一夏は視線を逸らして小さく頷く。

 

「それと・・・・・・一夏にだけは教えるけど、僕の本名は『シャルロット・デュノア』って言うんだ。」

 

 今までタイミングを見計らっていたのだろう。『シャルロット』が「自身の真」を曝け出すと、一夏も改めて「自身の真」を口に出す。

 

「うし!そんじゃこっちも改めて!『織斑一夏』だ!宜しくなシャルロット!」

 

 そんな2人は、異性同士である事を忘れるが如く、固い握手を結ぶ。

 

 シャルロットは、一夏の先程の様子などすっかり忘れ去っていた。

 そんな彼女が、今一夏の中で犇めいている「翳り」など、よもや観測出来る筈もなかった。

 

 

 

 一旦寮を出た一夏は、「ある人物」に連絡を取るべく、スマホの液晶をスライドする。そして、該当人物の名前が現れると、液晶をタッチする。

 

 

 液晶画面には『篠ノ之束』と表示されていた。




少しずつ成長する箒ちゃん。
IS学園特記事項にある外部からの干渉うんぬんだと、単なる「問題の先伸ばし」になってしまうので、天災科学者にお願いする事にしました。その代償が、昭弘・箒・一夏の関係性を更に複雑にしていきますので、今後も是非御期待ください。
無論、シャルロットの問題もこれだけでは終わりません。

と言うか早くトーナメント本戦まで進めなきゃ。


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第23話 決戦まで

最近投稿が遅くてすみません。もしかしたら、今後も執筆の時間が取れなくなるかもしれませんが、何とかしようと思います。

んでもって大変お待たせしました!次回からようやくタッグトーナメント本戦です!ほんとテンポ悪くてごめんなさい。
私自身描くのが楽しみ過ぎてワクワクしています!

昭弘が誰とタッグを組むのかは、次回へのお楽しみと言う事で。

追記:肝心な事を書き忘れていましたが、ラウラvsセシリア&鈴音、原作と大部異なります。


《おんやぁ☆久し振りぃ!いっくん!!》

 

 余りにもあっさりと連絡が繋がり、呆気に取られていた一夏は、少し遅れて挨拶を返す。

 

「おっ、お久しぶりです!束さん!!」

 

 積もる話もあるのだろうが、これから一夏が話す束への「頼み事」は、他人に訊かれてはならない話だ。懐古に浸る心を抑えて、人気の無い場所で早速本題に入る一夏であった。

 

「あの・・・久し振りで恐縮なんですが、実は折り入って頼みたい事が・・・・・・。」

 

 一夏の遠慮がちな言い回しに対し、束は特に気にする様子も無く答える。

 

《いいよいいよぉ!!私といっくんの仲じゃん☆》

 

 そんな束の反応を聞いても、一夏の沈み切った表情が変わる事はなかった。

 

 

《・・・・・・フムフム。うん!お安い御用だね☆》

 

 一夏が言い放った「無理難題」を、束は「お使い事を頼まれる」が如く簡単に引き受けた。

 

「あ、ありがとうございます!!・・・・・・けど、本当に可能なんですか?」

 

 懐疑心が拭えない一夏に対し、束は自信満々に返す。

 

《当っったり前じゃん!!この「天災兎様」に不可能は無ぁい☆!!ただし・・・・・・。》

 

 無論一夏も、束がただで引き受けてくれるとは端から思っていない。彼女が“条件”を口に出す前に、一夏は“条件の受け入れ”を仄めかす。

 

「も、勿論!タダでとは言いません!!・・・オレに出来る事があるのなら・・・・・・。」

 

 一夏の言葉を聞いて、束は電話越しに口角を釣り上げる。

 

《ホント!?・・・じゃあ、言うね?》

 

 そして、束自身の「計画」とは全く関係の無い、己の我儘とも私欲とも言えるような“お願い”を、彼女は一切の遠慮も無しに口にするーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー箒ちゃんと結婚して、いっくん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー5月15日(日) 06:09 アリーナBーーーーー

 

 フィールドの端っこで、1人の「重装騎士」が佇んでいた。それを纏うは無論の事、『昭弘・アルトランド』である。

 彼は地に足を着いたまま、今自身が持つ「新たなる武器」について頭を巡らせる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーー《ほうほうほう!追加武装が欲しいと!?》

ーーーああ。グシオンの拡張領域には、未だ空きがあるからな。・・・頼めるか?

ーーー《全然OKですよぉ!!水臭いですねぇ↑!!で、どんな物です↑?》

ーーー「マチェット」だ。それも特大のヤツをな。

ーーー《おや?そんなモノで宜しければ100個でも200個でもお贈り致しますが↑?》

ーーー・・・・・・・・・いや、そんなには要らん。予備用も含めて5本程度でいい。

ーーー《畏まりましたぁ↑!!では最高強度の特大サイズをお贈り致します故ぇ↑↑!》

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 頭の奥深くへと響く耳障りな「男の声」を思い出しながら、昭弘は刃渡り1m以上にも及ぶマチェットを見つめる。

 幅15cmはあろう刀身は真っ直ぐに伸びており、刃先と切っ先の間だけが奇麗に反り返っていた。

 先ず昭弘は強度を試すべく、その巨大マチェット『ギュスターブ』を思い切り振り下ろす。

 

ブォゥンッ!!!

 

 突風の様な風切り音と共に、マチェットはグラウンドに奇麗な「切れ目」を残した。ハイパーセンサーで確認した所、別段目立った刃毀れ等は無かった。

 

(・・・良いな、コレ。重さや頑強さは勿論だが、何よりバランスが良い。・・・「名前」は兎も角として。)

 

 ハンマーやハルバートとは異なり、柄が短く、大部分が長く頑強な「刃体」によって構成されているマチェットは、近接攻撃からも身を護りやすい。

 昭弘は、そのまま暫くの間ギュスターブを振り回し、ある程度慣れて来た所で“本命”に入る。

 

(・・・・・・さて、後は・・・コイツの「単一仕様能力(ワンオフアビリティ)」だな。)

 

 昭弘は今現在、単一仕様能力「マッドビースト」を緊急時以外使わない様命じられている。

 しかし、緊急時に己の能力を制御出来ない様であれば、それこそ身も蓋も無い。第一、発動の基準や条件さえ、未だ曖昧な部分が多いのだ。

 もう一つの理由としては、やはり「セシリア」の存在が大きい。本来、昭弘は元々「負けず嫌い」な節が前世から多々あった。それは、親友(ライバル)である三日月に対する感情からも、ある程度想像がつく。そんな彼は、以前よりも着実に力を付けているセシリアに対し、少なからぬ焦燥感を抱いていた。「このままでは負ける」と、もし単一仕様能力を通じて“何か”を得られるならば・・・と、そんな事を考えているのかもしれない。

 無論の事、自身の考えは千冬にも伝えてある。結果として、フィールド上に誰も居ない事と、終了後に必ず身体検査を受けると言う条件付きで、使用を許可されたと言う訳だ。

 

 早速、昭弘は“あの時”の感覚を思い出そうとする。

 しかし、忌まわしい記憶が、昭弘の思考を遮る。

 あの日、昭弘はやむを得ない状況だったとは言え、家族(タロ)を手にかけてしまったのだ。思い出したい筈がない。

 それにあの時、グシオンと「同化」した昭弘は、半分本気で家族を殺すつもりで戦っていた。そんな「狂戦士」に、進んでなりたくはないと言うのが、彼の本音であった。

 

 それでも、やはりやるしかない。

 クラス対抗戦でさえ、あの様な襲撃が起きたのだ。それ以上の規模である今回の催し物では、何が起こるか分かったものではない。その際、“強い”に越したことはないのだ。

 そう自身に言い聞かせ、嗚咽を我慢しながらも、再び意識を集中させる昭弘。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 しかし、いくら意識を集中させても、“あの時”の感覚は戻らない。

 

(・・・やはり、闇雲に思い出そうとする程度じゃ駄目か。)

 

 今、昭弘とグシオンリベイクは「阿頼耶識」によって繋がれている。それは間違いない。

 では、シンクロ率99%と100%を隔てる「1%」とは、一体何なのか。

 

ーーーオレ自身が、グシオンに・・・ーーー

 

 ふとそんな言葉を、昭弘は思い出す。

 もし、あの時呟いた己の言葉通りだと言うのなら、99%と100%は何もかもが異なる。99%の状態が「グシオンを纏った昭弘」ならば、100%の状態は正しく「グシオンそのもの」なのだ。

 昭弘はその事を踏まえて、もう一度頭の中をクリアにする。そして、「あの時の激情」の正体について熟考する。

 

ーーーあの時・・・・・・・・・。そうだ、色んな感情が蠢いてはいたが、オレは最終的に“何もかも”をぶっ壊したくなって。気が付けばオレは、己の「破壊衝動」を感情と共にグシオンへと委ねた。

 

 その結論に至ると、今度は「グシオン」と言うMPSについて考えを巡らす。それは、強いて言うならグシオン本来の“在り方”とでも言えば良いだろうか。

 このMPSは、一体何の為に創られたのか。流石に束の考えまでは昭弘にも測りかねるが、兵器として纏う以上、用途は凡そ絞られる。それは無論の事、「戦う」為である。そんなグシオンのコアに、もし自分と同じ様な破壊衝動があったのだとしたら?そして、阿頼耶識と言う名の“管”を通じて、己とグシオンの「破壊衝動」が重なり合ったのだとしたら・・・?

 

 その答えに行き着いた時、既に昭弘とグシオンに“変化”が訪れていた。

 グシオンの在り方を思えば思う程、破壊衝動に想いを寄せれば寄せる程、昭弘は己が“人間”なのか“機械”なのか、判別がつかなくなっていった。そしてーーー

 

ーーーーーシンクロ率100%。これより、単一仕様能力「マッドビースト」を発動します。

 

 機械的なアナウンスと同時に、“あの時の激痛”が昭弘の脳内に襲い掛かる。

 

(ウッ!!・・・グゥゥ・・・・・・キ、来やがったッ・・・!!)

 

 頭を押さえる余裕などなく、早速フィールドを破壊すべくハルバートを掲げるグシオン。

 

(・・・まだだ。まだ動くな・・・!)

 

 制御に必要なのは、要するに破壊を実行に移す「タイミング」と何を破壊するかと言う「対象」を、己の意思で見極める事だ。

 

ーーー2分後に、70m先の地面を抉る。

 

 そう己の中に「目標値」を設定するが・・・

 

ボォゴッ!!!

 

 「位置」は正確に叩いた。しかし、やはり2分近くは破壊衝動を押さえられず、1分30秒程で身体が自然と動いてしまった。

 

(・・・・・・もう少し、慣れる必要がありそうだな。)

 

 そう思いながら、昭弘は懸命にグシオンと言う名の「狂獣」を制御し続けた。

 

 

(・・・さて、今度は「どうやって戻るか」だな。)