ありふれた職業で世界最強(女)と文字使い(ワードマスター) (アルテール)
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前日談〜異世界召喚前〜 文字使い日記① 

息抜きで投稿、勘違いものを書きたかった。反省はしている、後悔はしていない。

2018/6/28 リメイクしました。


■月■日

 

 

日記が持てるようになったことと、ペンを買ってもらったことを記念に五歳から日記を書いていくことにした。

いや、まぁ、別に見る人なんていないと思うが単なる気持ちの整理程度にしか書いていないため適当なのはご愛嬌だろう。

 

では、吾輩は転生者である、現在は五歳、名前は神代日色という。

 

やっぱり名前の無い猫風に言ってしまうと何やらペンが進まなくなってしまう、普通に話そう。

 

俺は転生者だ。ある日、アボーンと殺されて、神々しい雰囲気(笑)の女性(神w)に特典をアボーンと渡され、アボーンと転生された哀れな転生少年Aである。

 

前世の記憶はあるが死ぬ瞬間は覚えていない。

 

女神に転生してもらうわーと言われ、ファンタジーの小説の世界にレッツゴーや的なことを言われたんだわ。

モチのロン私は拒絶した、転生してもらうことは感謝している、だが平和な世界にしてくれと。

それを言った神様はこう一言、

 

 

 

「え?嫌ですけど」(意訳)

 

 

思い出すだけで腹立たしくなってきた。やはりあのクソ神は死ね、氏ねじゃなくて死ね。

 

閑話休題

 

そんなわけで俺が貰った特典(強制)は『文字魔法』というものだ。

 

 

 

文字魔法(ワード・マジック)

 

 

 

それは『金色の文字使い~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~』というラノベに出てくる丘村日色という主人公の能力だ。その能力は簡単に言えば書いた文字の意味の現象を現実に起こすという能力だ。

 

例えば地面に『硬』と書けば地面が一定範囲硬くなったり、刀に『伸』と書けば『13kmや(ドヤァ!!)』ができたりするのだ。……まぁ、流石にそこまで伸びないと思うが。

 

とまぁ、異世界に飛ばされなければ嬉しい特典なのだが、異世界にはどれだけ頑張っても必ず飛ばされるらしい、おい、ふざけんな神様。

 

飛ばされる異世界は神が世界を支配している『トータス』というものらしい。

 

 

わかっただろうか?『ありふれた職業で世界最強』の世界である。

 

 

あぁ、なるほど神はもう一度死んで来いと言っているらしい。

 

HA!HA!HA!救いないじゃん!無理じゃん!俺絶対生き残れる自信がないよ!?

 

とまぁ、そんなわけで俺は生き残れる可能性を1%でも上げるために前世では行っていなかった運動を積極的にすることにした。

 

――が、ここで問題が発生した。

 

 

特典の影響なのか、元からコミュ症な俺だからなのか神様が俺の肉体に細工をした。

 

 

わかりやすく言えば、容姿が丘村日色になり、言動が鋭くなってしまうのだ。

 

 

つまり、言葉をオブラートに取り繕うことができず、他人をイラつかせてしまうのだ。

 

文字魔法で治せるかなと思っていたが――そもそも文字魔法が使えなかった、は?と言いたくなり、気づいた。そう、文字魔法とは魔力を使って文字を書き、その意味の効果を起こすものだ。

 

つまり、魔力がないから使えません♪

 

異世界まで待てよバカヤローらしい。

 

 

結果、友達がいない。(涙目)

 

 

……ちょっと泣いていいですかね?

 

 

( ´∀`)月( ^ω^ )日

 

原作に備えて運動能力の向上と異世界から戻って来た後のために毎朝起きて、ランニングをし、夜は勉強。

 

まるで小学生がやることではないと思うがまるでゲームキャラを育てているみたいで楽しかった。

 

一応大学を卒業していたが抜けていた知識があったり、わからなかった所があった為、やるたびに「へーなるほどな」となることが多かったし。

 

こっそり親父の本や、お小遣いを貯め高校生専用の勉強の本を買ったりし、小学生一年生の頃にはもう高校一年生までの勉強は完璧にマスターしていた、だが、これで安心してはいけないなぜなら記憶とはいつか忘れてしまうものだと前世の隣のおばあちゃんが言っていた気がする、このまま復習を続けていくことを決めた。

 

運動は朝のランニングでは足りないと思い、母親に相談してみたところ選ばれたのは剣道だった。

 

いや、なんで?え?近くにやっている道場があるから?

 

初めてお母さんを殴りたくなったような気がした。

 

 

( 」´0`)」月\(//∇//)\日

 

 

剣道を初めて数ヶ月が経った。

剣の腕は上達していると思うのだが、常にある問題に頭を悩ませている。

 

察しただろうか?

 

 

そうです、言動です。

 

どんな人が相手でも一切変わらない言動が、相手からしては喧嘩を売っているように見え、よく剣道に先生に怒鳴られることがあるのです。

 

メンタルが少ない俺は内心絶叫、だけど表情は鋼鉄の様に変化ナッシング。

 

 

 

辛い、心底辛い。

 

 

 

それでも、生き残るためだと考え、真意に取り組んだ、昔からそういう地味な作業には慣れているのだ。

 

継続は力なり、だ。

ブラック企業で生きてきた俺の実力を舐めるんじゃねぇ!!三日間徹夜なんて当たり前なんだぜ!?

 

何度も基礎を繰り返し、ネチネチと影から聞こえる悪口に内心号泣しながら頑張ること数ヶ月、初めて全国大会で優勝した。

泣いた、本当に泣いた、号泣したよ内心はな!!地域大会や地方大会を勝ち進むたびに強敵と出会い戦うたびに自分の成長が感じられた。

 

あれ?俺そんな戦闘狂だっけ?違うよね?どうして剣道にハマっちゃたの俺?

 

確実にジャンル違いに気づいたのは全国大会に優勝した後だった。

本当に、どうして異世界なんかに飛ばされるのか?飛ばされなかったらいい人生を送れるのに。

 

これも全てあの神のせいだ、エヒト神よりタチが悪いのかもしれない。

 

いや、まぁ、こんな神様ボディを作ってくれたことには感謝するが……一里ぐらい。

 

 

(*´∇`*)月_φ( ̄ー ̄ )日

 

 

本当に思うのだが、剣道で女子に面!するの辛くね?え?辛くない?そうっすか。

目の前にいる胴衣を聞いた少女の面を体勢を半歩ズラすだけで避け、紙一重で避ける。

しかし少女は止まらず、胴、篭手、面、多種多様な攻撃を放つが俺は時に竹刀で剣戟の軌道をづらし、首を傾けることで避け、足をずらし体の重心を動かす事で滑らかにヌルヌルと動き続ける。

 

うん、月を7割がた蒸発させたタコ型生命体の気分だ、ヌルフッフフフ!!

 

さてとそろそろ反撃ですかね。

 

襲いかかる胴をわざと竹刀で受け体勢を崩れさせる。

 

「……面ッ!!」

 

その隙を逃すまいと上段で面!と襲いかかる少女に合わせるように俺も竹刀を上段で振るう。

竹刀と竹刀がぶつかる直前、竹刀を動かし、襲いかかる竹刀の機動を変え、そのまま彼女の頭に面を取る。

 

これは面打ち落とし面というらしい。

 

「面!」

 

俺の掛け声と共に少女に面を決め、立ち会いが終了する。

 

 

 

「…………フゥ」

 

胴衣を脱いで、暑苦しい空気から解放される。

最近思ったこと、剣道は強敵との立会いは楽しいが暑い。

 

俺、暑いのは苦手なんすよ、おやびん。

 

そう内心ではっちゃけていると、隣に一人の少女がやって来た。

 

「……何の用だ、ポニー」

「何?私が隣にいたらダメなの?あとポニーは止めなさい、私には八重樫雫という名前があるのよ」

 

そう言いながら俺の隣にスポーツドリンクを飲みながら座った八重樫雫。

本当にどうしてこうなったのだろうか?

 

八重樫雫

 

それは原作のキャラで主人公南雲ハジメのヒロインの一人だ、剣道を習っており、主人公たちの始末に巻き込まれる苦労人系ヒロインだ、通称オカン。

祖父に剣道を進められていたために可愛らしいものが欲しい欲求を幼初期から殺し続けていたために女性らしさがパッと見では無いが本当は可愛らしいものが大好きな少女だ。

そんなギャップ萌えを引き起こしてくれるようなヒロインなのだが自分からすれば死亡フラグが迫ってきているような気しかしない。おい、誰か南雲ハジメか天之河光輝を連れてこい。

 

そう、俺が通っているのは八重樫流の道場なのである。

 

えぇ、出会いましたよバッチリと。

 

そして俺の首が斬り裂かれる姿を幻視した。ギヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!死亡フラグだぁあああああああああああああ!!!と内心絶叫した俺は悪くない、お、俺は悪くねぇ!

 

とは言っても俺は関わることはしていない。

 

有無肖像の一人として認識してくれればいいなと思って過ごすことこの頃、ある日、立会いで八重樫さんに勝ったときに言った台詞が問題になった。

 

 

「可哀想な奴だなお前」

 

 

言語ーーーーーーーーーーーー!!!!

この言葉のせいで彼女に攻め寄られ、いろいろと口出す事になってしまった(ちなみに恐怖で何を言ったかは覚えていない)

 

まぁ、途中で泣かれたため嫌われたならそれでもいいかと思っていたのだが、その後彼女がよくこちらに絡むようになった。

 

あぁあああああああああああああああああああああ!!!絶対恨んでるよこの人!!(恐怖)

 

俺が行けば、後ろに付いてきて、俺が休めば隣に来る。

 

コイツっ!確実に俺を精神的に追い詰める気だ!(愕然)

 

いや、普通の少女だったらまだいいのだ、妹や子供の扱いをして日色言語で話せばなんとかなるし。

けどさ、けどさ!『ありふれ』で最強とも言える剣士にそんなことを言ったら首が切り落とされるだろうが!!!

一度勇気出して断ったことはあったよ!だけどそうすると捨てられた犬のような雰囲気を出しちゃうんだよ!!!

 

そんなの、精神年齢が最低でも60歳超えている俺にできるわけないじゃないかぁ!(絶叫)

 

 

それがこれまでの経緯だ。言語は八重樫さんのことをポニーと呼んでいるが絶対これポニーテールから来たよな。

 

 

「それにしても、どうして勝てないのよ。私、これでもあなたより長い期間やっているのよ?」

「ハッ、やる気の差と才能だな。俺だから出来るに決まっているだろう」

 

うわぁ、言語の豪語不遜さが出まくりだぁ、俺の命も風前の灯だぁ。

 

「お前も、稀には自分の欲望に正直になったほうがいい」

「……無理よ、私はそんなこと……出来ない」

 

そんなことを少し沈んだ声でいう八重樫さん、なんだか黒い沈んだオーラが出ている

というか、八重樫さん、可愛らしいものが好きじゃなかったっけ?これも親のことを考えすぎているから欲望を押さえ込んでいるんだよなぁ。

子供なんだからもう少し、我儘になってもいいと思うけど。

 

…………おかしい、最近思考が老人になってきている気がする。

 

 

いや、まぁ、精神年齢が50歳を軽く超えているから当たり前のことなのだが。

 

 

「ま、どうするかなんてお前の自由だ。好きにしろ」

 

そう言い、俺は飲み物を飲む、一応言っておくがこれは言語が言っていることなので俺は関係ないからね?

 

「まぁ…………そのせいで女らしくなくなってサムライ女や筋肉女なんて言われないようにしろよ」

「余計なお世話よッ!!!」

 

次の瞬間、真っ赤な顔になった彼女の拳を左手で防いだのだが、かなりジンジンと衝撃が残ったのは覚えている。

 

ちなみに内心は

 

(死ぬ!!マジで死ぬ!!一瞬拳がぶれたんですけど!、チリって空気が摩擦で燃えた気がしたんですけど!!!)

 

かなり絶叫していた。

 

 

Σ(゜д゜lll)月(●´ω`●)

 

ある日いつも通りに道場で剣道の練習をしていると、道場に天之河光輝が入ってきた。

 

まさかの勇者(笑)の登場である。

あのアンちゃんダメだわ、どうしようもねぇレベルでダメだわ。

八重樫さんに「君は俺が守る!」とか普通に言っちゃうんだぜ!?クサいよ!マジでクサすぎるんですけど!!?

道場仲間の喧嘩に殴り込むな馬鹿、騒ぎが大きくなるだけだろうが!

 

いや、いいよ!?八重樫さんが天之河に連れて行ってもらえれば、勇者パーティ(笑)が出来上がるし、俺の死亡フラグも減るからいいんだけどね!?

本当にお前の思考はどうなっているんだよ、正義とか悪とか知らないけどさ、この現代でそんなもの求めるなよ。

 

いや、待て、落ち着け俺、大丈夫だ。これを乗り切れば、八重樫さんは天之河について行き、俺から離れていくはずだ――

 

 

――筈だったのになぁ。

 

 

どうしよう、八重樫さんが離れていかないんだけど。

 

いや、俺も彼女から距離を取ったよ!?だけどさ、普通についてくるんだよ!!

 

 

 

え?何!?俺なんかした!?「今までよくも私に迷惑をかけたな」的な意味で嫌われてるの?

 

 

 

君がこっちに来るとセットで天之河も来るんだよ!?そして「余り彼女に迷惑をかけるんじゃない!!」とか言われるんだよ!?

かけてねぇよ、むしろこっちがかけられてるよ!

天之河とは剣道の手合わせぐらいでしか関わらない様にしてたのにさ、君が来たら強制的に関わってしまうじゃん!!

 

そのまま行けよ!ついて来なくてもいいじゃん!!

 

試しにそんな事を言ってみると彼女、捨てられた子犬の様な顔になるんだよ!?なんだか俺が悪いみたいじゃん!!

 

俺が彼女に距離を離すと、それにつられて彼女が距離を縮めてくる。えぇい!犬か八重樫さんは!!未来のオカン属性は何処に行った!?

別に天之河も八重樫さんも嫌いではないけどさ死亡フラグだから関わりたくないんだよ!!!

 

(`・ω・´)月(*^▽^*)日

 

母親に仕事の関係で少し遠くに引っ越すと言われた。県外に行くわけではないが道場から離れるために行き帰りが難しくなるらしい

 

ここら辺が潮時だろうか?

 

お母さんが申し訳なさそうにしているが道場に行く原因になったのはお母さんだってこと忘れてない?

 

まぁ、剣道仲間で初めて、友達、友達!、友達!ができたのだ名残惜しいといえば名残惜しい。

まぁ……約2名、最終的には合う奴がいるんだが。

 

 

(`・ω・´)月●日

 

「というわけで、引越しすることになった」

「何が『と、言うわけで』よ!聞いてないわよ!?」

 

そう言いながら襲いかかる拳を受け止める。

翌日、道場が終わったあと、近くの公園で事情を説明すると、プレゼントされたのはグーパンチである。

涙を浮かべながらこちらを睨みつける八重樫さんに俺はどんだけ嫌われているんだと気になるわ。

 

「なんで、いつも……突然そんなことを言うのよ!」

 

服を捕まれ勢いよく揺さぶられ目が回る、あ~星が見えるんじゃー。

 

「仕方ないだろう、昨日言われたしな」

 

そう言うと、八重樫さんは静かに手を離し、彼女の頬に涙が流れていく、どうやらもう喜びの涙を耐えるのに限界らしい。

ハァ、どうやって彼女をなだめようか、あ、そういえば買っておいたブレスレットがあったな。

ポケットにある買っておいた紫色の石が嵌っているブレスレットを取り出し、ポイっと投げ渡す。お別れの品という奴だ……そこまで高い物ではないが。

 

「ほらよ」

「え?あっ、ちょっ!!?」

 

ワタワタとさせながら何とか受け取る八重樫さん、少しほっこりするがそれは後だ。

 

「それ、くれてやるよ。どうせ、可愛らしいものを一つも持っていないんだろ?」

「ッ!そ、そんなこと……ない……わ……よ……」

「徐々に声が小さくなってるぞ。ま、別に捨ててもいい物だしな」

 

ツンデレ八重樫さんカワイイ。

そう思ったあと、俺は彼女から背を向け歩き出す。フッ、去り際もかっこいいぜ……なんだかナルシストみたいだな…止めよう。

 

そう思いながらさらに歩を進めると突如背後から声をかけられた。

 

 

 

「ねぇ!」

 

 

 

今にも泣き出しそうな、甲高い声。突然の大声に顔を微かに歪めながら振り向くと必死に泣かないように堪えている八重樫雫の姿があった。

 

 

 

「なんだ?」

「また、会えるよね!?」

 

 

………………そりゃあ、会いますよ。異世界に飛ばされるんだもん。

 

 

 

そう思いながら微かに苦笑し、言葉を掛ける。

 

  

 

「あぁ、きっと会えるさ」

 

  

 

俺の死亡フラグとしてな!!!

 

 

( ̄ー ̄)月┌(┌^o^)┐日

 

これで八重樫さんとの関係がなくなる――

 

――わけではなく

昔、八重樫さんとの連絡先を教えてた為か彼女との関係は切れることはなかった。あの頃の俺、何故連絡先を教えてしまった!?

そんなわけで彼女とのメール交換を行いながら数年 中学生になった俺は近くの本屋に来ていた。というか八重樫さんメール多くないか?毎回返信するのが怠いんだが。

 

え?何のためか?読書の為だよ、せっかく『ありふれた職業で世界最強』の世界に転生したんだぜ?

 

是非ともラノベなどを読みたいじゃないですかー。

 

 

そう思いながら来てみるも、ラノベの本の種類がありすぎて困ってます……(汗)

 

 

いや、どれも面白そうだけどさ。お小遣いにも限りがあるからできるだけ面白い小説を買いたいじゃん?

 

 

そう思いながら近くの本を物色していると視界の端に同じ制服の生徒が視界に映った。

 

制服からして女子らしいがラノベのコーナーで真剣に近くのラノベ本を見比べたりしている。

 

 

え?何あの子?オタク女子?

 

 

厨二病のような人だったら距離を取りたいがこの場合は話は別だ、人気なラノベに詳しそうなため教えてもらおうかな? 

 

「すまん、ちょっといいか?」

「ひぇっ!は、はい!な、なんですか?え!?神代さん!?」 

 

少女はビクンッ!と驚きこちらを振り向くと驚くような視線でこちらを見つめた。

 

えー、俺。何かした?

 

うーん、この子どっかで見たことがあるような気がするなぁ?……確か同じクラスだったけど名前が思い出せないな……

 

 

「……君が持っている本はその……ラノベ本だよな?」

「えっ?あ、は、はい。そうですが?」

 

 

ふむ、決して厨二病の人ではなかったな、それじゃあこの人に済まないと思うがオススメを教えてもらうか?

 

 

「君は、こういう系の本に……詳しい方か?」

「う、うん、結構?」

 

 

よし、決定。教えてもらおう。

 

 

「そうか!すまないが、人気な本を教えてくれ!こういう本に興味があったんだがどれがいいのかわからなかったんだ」 

 

彼女の手を掴み、顔を近づける。

 

うん、やっていることはただの変態だが仕方がない。読書ができるならばそんなものは関係ないからな、本は正義ナリー!!

 

 

「ひゃ、ひゃい。ぼ、僕のお勧めは――」

 

しかもまさかのボクっ娘だと!?実在したのか!?

 

まぁいい、この子とは是非オタク友達になりたい!そのために自己紹介をしなくちゃ!!(興奮)

 

 

「あぁ、ちょっと待ってくれ。自己紹介をまだしていなかったな、俺は神代日色だ」

「は、はい、知ってますよ。最近僕のクラスに転校してきた人ですよね」

「同じクラスだったのか?そうか、それじゃあお前の名前を教えてくれ」

 

 

きっとこんな言動がクソな俺に教えてくれるんだ、一体なんて名前の人なんだろうか?

 

 

「ぼ、僕の名前は――――」

 

 

その言葉を理解することを俺はすぐに理解できなかった。

 

 

 

居るはずのない名前、居るはずのない存在。

 

 

 

そう、ありえないのだ、姿もちょっと違うし性別も違う。

 

 

 

そう、この物語の()()()なんて名前が出るはずがない。

 

 

 

だけど、俺の聞き間違いでは無いと言うならば、彼女はこう言ったはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「南雲ハジメです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………え?

 

 

俺の知っている物語の歯車が狂いだした。

 

 

これは、この物語は、俺、神代日色と彼女、南雲ハジメの異世界巡り物語だ。

 

 

 

 

 




続けるか、だって?知らんよそんなもの気分気分(丸投げ)


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八重樫雫(幼少期)兄を知る 

主人公の顔芸、無表情、呆れ顔、冷めた顔、笑顔(稀)。
このぐらいですw、主人公は基本的無表情、コミュ症はつらいよ……

勘違い系の難しさを知った作者です。一応書いてみましたがコレジャナイ感が……

ま、息抜きですからいいですよね!(丸投げ)



2018/07/22 リメイクしました!


彼に出会ったのは小学生の頃の剣道の道場だった。

久しぶりに新たに入ってきた門下生は一言で言い表すなら傲慢や唯我独尊とでも言うべき人だった。

同じ門下生には堂々とタメ口で聞き、決して自分を偽らず、ズカズカと土足で他人の心に入ってくるようなそんな人。

 

神代日色

 

それが彼の名前だった。

流石に先生にはタメ口で聞いたりはしないが言い方からして決して尊敬しているようではない。

初めて見た時私は彼は剣道に長続きしないだろうと思っていた、当たり前だ先輩の門下生にも敬語を使わず、知った事かと一蹴していく彼に一体誰が剣道に長続きするだろうと思うのだろうか?

 

しかし、彼は違った。一日また一日と時間が経つ度、まるで別人の様に剣道の腕前が上達していく。一を知れば十を知る様に、十を知れば百を知る様に、先生の教えを吸収し、まるで砂漠の様にその技術が衰えることはない。

嘗てユラユラとブレブレな型の構えは今では美しく構えられ、遅い竹刀の振るう速度は今では風を切り裂き相手に反応すらさせず一本取ることもある。

 

才能が違った。

 

私は彼を見るたびいつも思う。

 

あぁ、気にくわない。

 

彼を見るたびに、胸がざわめき苛々する。

この感情を私は知っている。

 

『嫉妬』だ。

 

私は妬んでいるのだ、私が努力した道のりを、ぶつかった壁を彼が関係なしに踏破していくことに。だから、私は神代日色が嫌いだ。あんな、自分の努力を無下にして行く奴のことが大っ嫌いだった。

 

ある日、私は彼との立ち会いをすることになった。

 

グングンと伸びる彼の実力に先生が私と試合させ、さらに努力させようとしたのだろう。

これはチャンスだ、と私は思った。ここでアイツをコテンパンて負かしてやれば胸に溜まる嫉妬も和らぐだろうと。

私の努力はアンタなんかに負けないと、そんな才能だけしか取り柄のないやつなんかに負けるわけがないと思い、胴着を着て、手に持った竹刀で目の前の神代へと斬りかかった。

 

 

そして――負けた。

 

 

自信を持っていた、決して油断などしていなかった。

だけど、八重樫流の剣術を使っても全て、いなされ、躱され、弾かれた。

そして、気がつけば胸に襲いかかる竹刀の衝撃と共に敗北した。

 

負けた、負けたのだ。

 

才能しかない、あんな奴に。

その事実に絶望する私に、彼は私を横切る瞬間、こう言った。

 

 

「可哀想な奴だな…お前」

 

 

は?、と思考が止まった。

 

彼は一体何を言っている?

私が可哀想な奴?どう言うこと?

 

そのまま着替え室へと向かう彼に、私は怒りの感情に支配された。

 

ふざけるなッ!!!私のどこが可哀想な奴なのよ!剣道を弱音も吐かず努力し、親を喜ばせるために勉強だって行っていると言うのに!!

 

私はその怒りをなんとか抑え、道場の終わりに彼に話があると言い、道場の裏に彼を誘った。日はもう沈みかけ私や彼の足元には長い影が伸びている。

 

 

「で、俺に一体何の用だ?八重樫雫」

 

 

まるで刃の様に鋭利な目つきに何の感情も浮かばせない氷の様な黒い瞳。そして黒い眼鏡をかけ、無表情でこちらを見つめている神代。

私はそれに対抗するかの様に彼を睨み、口を開く。

 

「……今日の言葉はどういうこと?」

「…何の話だ?」

 

まるで訳がわからんとでもいう様な彼の態度に私の怒りが増大していく。

 

「今日の試合、終わった時に私に言った言葉をどういうことって言ってるの!!」

 

苛立ちで声が強まり声を荒げてしまう。その言葉を聞くと彼はあぁ、なるほど。とでもいう様に頷いた。

 

「別に何も?そのままの意味だ」

「ふざけないでッ!!」

 

遂に怒りが私の沸点を超え、感情のままに彼の胸ぐらを掴み上げる。

 

「貴方なんかに何がわかるのよ!何!?同情でもしてるの!?めいいっぱい努力して、頑張って、頑張り続けて、その道のりを何食わぬ顔で乗り越えて言った貴方なんかに!!可哀想?ふざけないでッ!!アンタなんかに私の気持ちがわかるもんですか!!」

 

勢いよく、何度も何度も声を荒げ、彼をまくしたてる。お前に何がわかると、わかってたまるかと。

暫くまくしたてたことで私は荒い息を吐きながら呼吸を整える。

これでいい、彼は愕然としているだろう、そう思い顔を上げ――硬直した。

 

何故なら彼の表情は怒りでも恐怖でも驚きでもなく――哀れみの表情だったからだ。

 

「やっぱり、お前…可哀想な奴だな」

「………何…言ってるの?」

 

彼は胸ぐらを掴まれているのにも関わらずまるでいつもの様な声色で、いつもの様な無表情でこちらを見つめてい

た。

 

「本心を抑え込んで、親の顔を見て機嫌取り。ハッ、笑えるなまるで悲劇のヒロインだ」

「だから……何を言っているのよ!!」

 

声を荒げて聞き返すと彼はハァ、と目に見えるようにため息をつき「だから…」と呟いてこう言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

呼吸が止まった。

 

その言葉がまるでカチリと何かの錠を外した気がして、つい胸ぐらを緩めてしまう。

胸の中から何かの感情が湧き上がってくる。私はそれを無意識に押さえつけ、神代を睨みつける。

 

「何………言ってるのよ……そ、そそんなわけないでしょう!?」

「そうか?だったらどうしてお前は道場で一度も笑っていないんだ?」

 

やめて。

 

「……き、気のせいよ」

「嘘をつくな、お前と同じクラスの門下生に聞いてあるぞ。お前は学校では楽しそうに笑っているってさ」

 

それ以上言わないで。

 

 

「予想してみるに……お前、親に勧められたんだろ?剣道の才能があるから」

「………黙りなさい」

 

 

それ以上言われたら、私は。

 

 

「本当は別の事がしたい、もっと自分らしくしたい大方そんなところか」

「……黙れ」

 

 

もう――

 

 

「だから言っている。可哀想な奴だと、自分を偽り、空っぽな気持ちで竹刀を振るうお前が哀れでな」

「だ、まれぇえええ!!」

 

 

もう――我慢できなくなる

私の中で何かが砕けた音が聞こえた。

無理矢理彼の胸ぐらを掴んで力任せに、壁に叩きつける。

 

 

「わかってるわよ、そんな事ぐらい!!剣道が嫌いな事だって、もっと女の子らしくしたいなんて自分が何よりもわかってる!!」

 

 

涙が溢れ、視界が歪む。喉がはち切れそうな程叫んで次第に嗚咽へと変わっていく。

祖父に剣道を勧められた時から、思っていた。もっと女の子らしくしたいと、もっと可愛いものが欲しいと。

だけど――

 

 

「だけど!出来るわけ無いじゃない!!祖父が、両親が、私を期待の目で見るのを裏切れるわけないじゃない!!」

 

 

祖父も祖母もお父さんもお母さんも私を期待の目で見ていたから。貴方はできる、貴方にはその才能がある、八重樫流を全て受け継ぐ様な才能が、と。

 

 

「楽しくなくても……グスッ………好きじゃなくても、 両親が…グスッ……喜んでくれるなら別に構わないと思ったのよ……!私だって――」

 

 

私はあぁ、と思い、気づいた。私が彼のことを『嫉妬』していた理由を。

才能に嫉妬したわけではなかった。ただ、私は憧れていたんだ。

自分を偽らず、堂々としている彼のことが、自分の本心を吐露できる彼のことが。

彼の様に、なりたいと思って、彼のことが羨ましくて、次第にそれが嫉妬へと変わっていった。

 

 

私だって――

 

 

私だって――

 

――貴方の様になりたかった。

 

 

「私だって、女の子らしくしたいわよ………っ」

「………そうか」

 

 

彼のその言葉がどうしようもなく優しくて、私は彼の胸の中で静かに泣いて、泣いて、泣き続けた。

 

 

そこから、彼との交流が始まった。

最初は彼を呼んだことを謝って、それから初歩的な会話をする様になった。

挨拶から、好きなもの、趣味や小学校のこと。決して彼からは話しかけてくることはなかったけど決して嫌がったりはしなかった。

そのうち私は彼を日色君と呼び始め、彼は私を『ポニー』という可笑しな渾名で呼ぶ様になった。私はいつも雫と呼んでと言っているのだが決して変えようとしない。……というかこれ確実に私の髪型からとったわよね。

 

いつのまにか私が可愛いものが好きな事を知られ誕生日の日に可愛いウサギの人形を渡されて恥ずかしさと嬉しさが合わさってつい殴ってしまったのは仕方がないことよね。………顔色変えず止められたけど、止められたけど!

 

いつしか彼に抱いていた嫌悪は親愛に変わり、私にとって彼の隣にいることはありふれた日常になっていた。

 

もし、兄がいたらこんな気持ちになるのかしら。

 

私は彼を追いかけようとするたびにいつもそう思うのだ。

 

日色君が全国大会に初優勝してから一ヶ月後、新たな門下生が入ってきた。名前を天之河光輝というらしい。

あれは驚いたわ、いきなり“雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ”なんて言われるんだもの。

……なんというか死んだ目で天之河君を見つめていた日色君がとても印象的だった。

 

 

彼はあらゆる問題ごとに持ち前のカリスマと能力で解決していこうとする正義感のある人なのだけど、なんというかご都合主義思考が激しかった。

日色君が私に迷惑をかけていると思い込んで注意したりしてくるため、いつしか彼と日色君の仲は険悪になっていった。……まぁ、大半は注意してくる天之河君を日色君がいなし続けるだけなのだけど。

 

そんな彼らの争いを私はいつも見ているのだが見るたびに天之河君と日色君は性格が似ているようで全く似ていなかった。

 

彼らの共通点は人助けなのだろうけど在り方は全く違っていた。

 

日色君の場合、門下生同士の問題があった時はその者たちが仲直りできる様に影で支え、彼へと指導を教わりに来た者は誰であろうと懇切丁寧に付き合って教えてくれる。

そして自分の事を悟らせず、相手の成長を願い、そのキッカケをこっそり作ってくれるタイプの人だった。

決して目立たないように、その人が自信を持てるように手伝い、自分は決して他人のふりをし続ける。

日色君は、口は悪いのだけど、決して優しくないわけではない。むしろ最も他人を思いやっている。

天之河君以外の他の門下生もそのことに気づいてるし、感謝もしているのだけど決して自分が行ったことを認めないひねくれている日色君に言っても「なんのことだ?」と言われるだけなので言わないのだ。

 

対して天之河君の場合は直接止めに行くようなタイプだ。

自分の思い込みによる行動で物事に関わろうとするので基本的に私が後始末を行わなければならないため、正直言って私からすれば傍迷惑でしかないのよね。しかも、持ち前のカリスマと才能のせいで決してその行動を直そうとしないため苦労が絶えない。

 

だから私はそんな日色君に憧れ、いつしか彼と並べるような技量を持てるようになろうと今日も剣を振るっている、彼との剣道は……あまり嫌いではないのだから。

 

そんな私の幸福な日常は――

 

 

「というわけで、引越しすることになった」

「何が『と、言うわけで』よ!聞いてないわよ!?」

 

ある日公園で彼の何気ない言葉により粉砕された。

つい勢いで拳で殴りかかるがパシッ!と右手で受け止められる。

彼は言う、家が引越しすることになり道場が遠くなるため通えることができなくなると、しかもその近くに剣道を行う道場がないため胴着やトロフィーも全て道場に返すとのこと。

つまりもう彼とは会えないということだった。

 

突然だった、あまりにも突然すぎた。

 

「なんで、いつも……突然そんなことを言うのよ!」

 

彼の胸元を掴み、何度も揺さぶり、声を荒げる。彼は無表情で静かに呟く。

 

「仕方ないだろう、昨日言われたしな」

 

手に篭っていた力が抜け、胸元を掴む手が緩む。

頬に涙が流れ、嗚咽が溢れてしまう。

嫌だった、離れたくなかった。涙が止まらず、嗚咽が止まることを知らなかった。

 

そんな泣き続ける私に彼はハァとため息をついてポケットから何かを取り出し――私に放り投げた。

 

「ほらよ」

「え?あっ、ちょっ!!?」

 

慌てて受け取ると綺麗な紫色の珠が嵌っているブレスレットだった。

 

「それ、くれてやるよ。どうせ、可愛らしいものを一つも持っていないんだろ?」

「ッ!そ、そんなこと……ない……わ……よ……」

「徐々に声が小さくなってるぞ。ま、別に捨ててもいい物だしな」

 

咄嗟に声を絞り出してみるが、図星を突かれたことにより、徐々に声が小さくなっていく。

彼はその言葉に小さく苦笑し、私から背を向けて去っていく。私にはその去っていく背中を止めることができず、無様に眺めてしまうしかない。

まだ伝えたいことがたくさんあった。教えてもらいたいこともたくさんあった。

 

だけど、それでも彼は止まらない。

 

 

嫌だ、声を出せと、理性が命令を出す。

 

 

彼に絶対伝えたいことがあるのだから。

 

「ねぇ!」

 

今にも泣きそうな声が出る。

伝えなきゃ、伝えなきゃと胸から這い出てきた熱い灼熱の感情が体から噴出していく。

 

私は、貴方のことが――

 

「なんだ?」

 

だけど、振り向いた彼を見てしまうと私はその感情を搾り出すことができなかった。

 

 

「また、会えるよね!?」

 

違う違う!!私はそんなことを言いたいんじゃない!!私は――

 

 

彼は笑う、まるで微笑ましいものを見るように。優しく、そして小さく、笑った。

 

「あぁ、きっと会えるさ」

 

 

その表情は、その顔は、私が見惚れてしまうほどのカッコいい笑顔だった。

私は彼に自分の思いを伝えることができなかった。

 

 

 

それ以来、私は携帯を持ってから彼とメールのやり取りによる交流が多くなった。

 

流石にやり過ぎたかな?と思ってしまうほどのやり取りのメールの総件数であり、今見てみれば送信数が300件を超えていた。

 

彼に貰ったブレスレットはいつも腕につけており自分が可愛らしいものが好きだったこともあってかいつしか大切な宝物となっていた。彼がお別れの品にくれたものなのだ、決して無くしたくない。

 

 

彼と別れて、約3、4年、私は彼と再会した。彼と同じ高校に進んだから当然といえば当然なのだが彼と再び笑い合える時が来ると思うと自然と頬が緩んでしまう。

 

そうして出会ったのが少年期よりも引き締まった肉体に整えられた容姿、昔より鋭い目つきになった瞳に黒く輝くメガネをかけた彼、神代日色。

 

一応、私も再会したときは女らしさを意識してみたけど彼は何一つ変わらず声をかけてくれた。

小さい時の彼とは少し低い声に更に鋭くなった容姿にむしろこちらが驚いたりした。

高校の最初の一年は天之河君に付き纏われることもあったが彼と共にいたあの頃に戻ったようで楽しかった。

 

 

だから、私は決意した。

今度こそ、私はあなたに告白する。

 

 

私は貴方のことが好きです、と。

 

 

だけど私は二年にあがるとすぐに私は後悔した。

どうして私は、あの道場から去っていく彼に伝えることができなかったのだと。

 

悔やんだとしてももう遅すぎた。

それを悔やんだ時、彼はもう――

 

 

――異世界『トータス』で私の目の前から迷宮の崖から落ちていった時なのだから。

 

 




え?雫がミュア枠?……その発想はなかった。


ところで、『文字使い』と『踏み台転生者に憑依したら化け物じみた力を手に入れた件』どっちをメインにして欲しいですかね?


――追記

リメイクを書き終えて思ったこと、お前ら本当に小学生かよ!!


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文字使い日記②

ある日、ふとお気に入りに登録を見てみるとこのようなことが書かれていた。

お気に入りに登録 205件

( ゚д゚)

( ̄ー ̄)ゴシゴシ

((((;゚Д゚)))))))

あるぇ?一体いつ自分は鏡花水月を食らいましたかねぇ?

皆さん!こんな小説にお気に入りに登録して言ってくれてありがとうございます!
感謝感激の雨あられ*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

これも全て日色君のお蔭!ありがとう日色君!!

ところで、豹変したハジメちゃんの口調……どうしようか?


( ̄▽ ̄)月(´∀`*)日

 

はい、皆さんこんにちは!みんなのアイドル、日色だよー☆

 

何を日記に書いてんだ俺は?最近ストレスが溜まっているせいか日記に書く文字がハッチャケてしまっている、首◯パッチじゃあるまいし賢者の心を取り戻さなくては。

 

さて、前回書いたのはどこまでだったかな?そうだったそうだった。

南雲ハジメ(女)に出会ったところまでだったな。

 

結論から言えば俺は南雲さんと友達になった。

いや、うん、本を買う→読む→再び買いに行く→南雲さんに出会うの無限ループにより自動的に親しくなってしまったよ。

 

南雲さんと友達になる=原作に関わるという図式になってしまっているがそもそも八重樫さんに出会ってしまっている以上強制的に勇者パーティや魔王ハーレムに関わってしまうのだろう。

 

というか、その場合ハジメハーレム達による百合的な展開が起こってしまうのだろうか?

 

……そんなことはお兄さんが許しませんことよ!!

薄い本が厚くなる展開は断固拒否しなければ。少年向け小説が大人用に変わってはダメなのである。

 

……まぁ、だからといっても自分が出来ることなどほぼ無いのだが。

いや、だって俺そこまで強くないし?せいぜい役に立つのは文字魔法ぐらいだし?それも現在は全く使えないんだよ?

 

それに対して魔王を見てみろ。

 

敵だったらドパンッ!!、ウザかったらドパンッ!!、とりあえずドパンッ!!だぜ!?

 

お、恐ろしい……!!(偏見)

 

目の前にいる少女もいつかそうなってしまうのだ。あ、でもそんな南雲さんも見てみたいな、原作を知っている身としては、かっこいいぜ兄貴とか言いそうになるだろう、まぁ表情に一切変化はなく、せいぜい内心で叫ぶしかないのだが。

 

そう思いながら机の向かい側で数学の問題に頭をひねっている南雲さんを横目に歴史の勉強を行う。

て、あれ?そこは——

 

「…南雲、そこの問題はその方法では無理だ」

「え?」

 

俺はそう言いながら、彼女のノートを取り、数学の問題に南雲さんが解けるようなヒントを彼女のノートに書き、シャーペンを指示棒代わりに使い、説明する。

 

「———という訳だ、後は分かるだろ?」

「う、うん」

 

どうやらわかってくれたらしい、俺はフゥ、と溜息を吐き、再び歴史の勉強に戻る。

しかし、どうしてこうなったんだ?

 

 

 

 

事の発端は中間テストだった。

現在は大学生までの勉強を完璧にマスターしている俺は中間テストなど只の早く帰宅出来るイベントの様なものなのだが、歴史だけは前世とは違う為何度も覚え直している。

いや、うん、前世の日本との歴史が違うからね、うろ覚えなら歴史の得点が大変落ちてしまうのだよ。

そう思っているとHR終わった為に教室を出ると同じく教室を出た南雲さんが暗いオーラを醸し出しながらトボトボと帰っているではないですか。

 

「おい、南雲。お前なんでそんなに落ち込んでいるんだ?」

「……あ、神代さん…実は中間テストで平均点以上を取らないと暫く遊んではダメだと親に言われてしまって…」

 

目に見えるレベルでドヨーンとなっている南雲さん。なんかあれだな、デジャヴ感じるな。八重樫さんと引けを取らない鬱オーラを放出させている。ば、バカな、何だこのオーラ量は!?(困惑)

 

しかし、南雲さんと暫く遊べなくなるのは困るな。俺、基本的ボッチだし……やめよう自分で言って悲しくなってきた。

ん?だったら、彼女の点数を上がるように俺が教えたらいいんじゃね?

ナイスアイディアだ、俺!

 

「……南雲、勉強手伝ってやろうか?(訳:南雲さん、俺と勉強会をしませんか?)」

 

て、バカ!俺のバカ!言動が変換されたにしてもその言い方はなんだ!!

どれだけ上から目線なんだよ!!

 

「……え?」

 

……見てくださいよ、兄貴。南雲さんの表情が驚き一色だぜ。

あぁ、終わった、南雲さんとの関係はここで終わりだ。

きっと南雲さんも「うわー、何この人何様なの?頭が少しいいだけで調子乗るなんてマジ引くんですけどw」などと思い俺から距離を離すだろう、変な噂を広げられたら号泣する。

あれ?おかしいな?涙腺から液体が出てきそうだよ ……な、泣いてなんか無いもん!日色君は泣かないんだもん!

 

「だから、お前の点数が上がるよう教科ごとに教えてやろうか?と言っているんだ」

 

 

……あぁ、言動が勝手に変換されるー!

その事に若干苛立った表情をしてしまうが、それどころではない!

泣きたいです、本当に。ねぇ、もう誰か助けて!変わってくれい!!

そんなことを言ったとしても助けは来ないんですけどねー!!(達観)

 

そんな悲鳴を内心上げていると、南雲さんは希望の光を見る目でこちらを見つめてきた。

 

ま、眩しい!まるで某波紋使いの山吹色の波紋疾走を出したような瞳だ。

 

「い、いいの!?」

 

あれ?南雲さん?顔ひきつってね?怒ってる?ねぇもしかして怒ってるの!?

ど、どうしよう……そ、そうだ!ダメもとでも謝るしかない!と、友達なら許してくれるよね……!?(震え声)

 

「あぁ、オタクで馬鹿で、『趣味の合間に人生』を座右の銘としているもはや現代社会で生きようとすることを諦めているゾウリムシに匹敵するようなお前だが…………」

 

「ぐふっ!!?」

 

バカーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

どうしてこんな状況でそんな言葉が出せるの!?というか、今確実に俺が言おうとした言葉とは全く別の言葉に変換されたんですけど!!おい神様!特典が故障してるんですけど!

南雲さん見てよ、もうノックダウンだよ!!やめて、彼女のライフはもうゼロよ!!!

 

「……一応、友達だからな。友に助けを出すのは当然だろう」

 

え?もしかしてデレ?この言動はデれてるの?

……いやいやいやいや、おい、何やっている言動。勝手にデレるな、どんな表情をすればいいかわからないだろう!?

 

「あ、ありがとう」

 

ほら、南雲さんが困ってますよ!?どうしろって言うんだよこの状況!?

俺は第三者から見れば自業自得な状況に内心頭を痛めていた。

 

 

 

これがこれまでの経緯だ。うん、完全に原因は俺だね。

俺は祝日の日に南雲さんとの勉強会を約束し、結果現在に至っている。自業自得とはこのことだろうか?

 

いや、まだいいんだよ、ここまでは。問題は――

俺が南雲さんに勉強を教えていると部屋の扉からコンコンと戸を叩く音が聞こえた。

すると、扉が開きそこから南雲さんの面影を持った女性が現れた。

 

「ハジメ、日色君、お菓子ここに置いておくから勉強頑張ってね」

「母さん……わざわざ来なくても僕が取りに行くのに……」

「すいません、わざわざありがとうございます」

 

――ここ、南雲さんの家なんだよなぁ。

えー私こと神代日色は、現在魔王の家にいます。やばい、命の危機が半端ない、頑張れ日色!ミスったら殺されるぞ!!

 

南雲さんの母親、南雲菫さんは南雲さんの部屋の俺たちが座っているテーブルの横にトレイに乗っている菓子類とジュースが入っているコップを置きニコニコと廊下へと去っていった。

 

「……時間も時間だし休憩にするか」

「う、うん。そうだね」

 

俺と南雲さんは鉛筆を置き、勉強を止め少し休憩にすることにした。

ふぅ、とため息をついた後、菫さんが置いてくれたジュースを一口飲む、味はオレンジジュースでした。

 

「すまないな、本来なら俺の家でやるはずだったんだが……」

「ううん、むしろこちらこそごめんね。母さんと父さんが友達と勉強すると言ったら是非うちに誘ってきてなんて言うものだったから……」

 

そう、本来なら勉強会は俺の家でやるはずだったのだが今日はお父さんが家に新しい家具を買ったらしくそれを入れるために暫く家で勉強するのは止めてくれと言われたのだ。いや、父さん、テスト期間中にそんなもの買うなよ。

それにキレたお母さんがお父さんにO☆HA☆NA☆SHIを実行、おそらく今頃帰ってしまえば真っ赤なケチャップが天井や床に付着しているため、南雲さんの家にお邪魔してもらっているのだ。おのれ!お父さん、俺に一体なんの恨みがある!魔王城に幽閉された気分になるんだぞ、背中に冷や汗がドパドパと分泌されております。

 

訪れた時は大変だった、菫さんと愁さんが涙を流しながらこちらに出迎えに来たのだ。

えぇ、一瞬思考が停止しましたよ。

 

その時の表情は苦笑いしていたんじゃないだろうか?

 

それにしても、と俺は南雲さんの俺が持ち出してきた問題集をコピーした用紙を眺める。

 

南雲さんの学力、普通なんだよなー。

 

そう彼女の点数、どれか突出しているのかな?と思い見てみると普通だった。

いやマジで、本当に普通だったのだ。平均が全て65点台、数学が中でも最も低かったがそれでも頑張ればなんとかなるレベルだ。

さすが主人公、ドパンッ!する前は特筆する点が全くないわ。

 

「ごめんね、神代さん」

「ん?何がだ?」

 

そんなことを考えていると唐突に南雲さんから声がかかった。何ですかね?まさかもう用済みだとか!?

 

「僕のために、こんな時間を作ってくれて」

「気にするな、生憎とお前とは違って予習は完璧だからな」

 

あぁ、もうこの言動に自分が慣れてきてますわー。もう末期かな(白目)

 

「凄いね、神代さんは、僕とは違って勉強も運動もできるから――」

 

え?何言ってんのこの魔王は?

 

運動?――将来、神様に喧嘩売れるほどの力を持っている魔王が言うことか?

 

勉強?――概念魔法を付与できる奴が何言ってんの?しかもトータスから帰ってきた時に楽しく大学生活できんだろうが!?(怒)

 

俺は南雲さんへと怒りのデコピンを食らわす。我が怒りを思い知れ!(激怒)

 

「――ッ!!??」

 

ズドンッッ!!と南雲さんの額から俺の必殺のデコピンが炸裂し南雲さんは額を抑え、暫く痛みに悶えてしまう。

 

▼ 効果 は バツグン だ

 

俺は手に持ったビスケットを食べた後、涙目になった南雲さんへと呆れた視線を向ける。

 

「い、いきなり何を……」

「バカか、お前は?その自分とは違いますねオーラを出すな、鬱陶しい。第一、俺とお前が違うのは当たり前だろうが」

「……え?」

 

ただの凡人と魔王ですよ?格が違うんだよ!格が!一瞬で殺される未来しかないだろうが!!

あぁ、見える、俺が南雲さんの一撃で殺されるイメージが……

 

もうダメだーおしまいだー(ヤケクソ)

 

「お前にできないことを俺ができるのは当たり前だ、同一人物じゃないんだからな。そんな自分と他人を比べた所で何かが変わるわけでもないだろうが」

 

だからこそ、と俺は付け加える。

 

「お前にしかできないことは必ずあるんだよ、才能が違う?アホか、万能な人?バカか、なんでも出来る人間なんていない、そう見えるだけだ。個ができることなんてたかが知れているだろう?俺はただお前より少し優れていることがあるから教えているだけだ」

 

うっわ、クサ。なにこれ、何してんの言動、南雲さんを慰めるための言葉がなんで哲学を語ってんの?絶対南雲さんに嫌われるって。

 

南雲さんはその言葉を訊くと顔を俯かせ、何やら沈黙していた。………………あ、怒らした、絶対怒らしたよね!

 

そんな内心を見ず知らず、口はだから、と紡ぎ出す。

 

 

「いつか、俺が困った時お前が助けてくれ。これは貸しだ、絶対忘れるなよ」

 

 

その一言で、哲学じみた話が全て台無しだよ!?どうしてこんなところでギブアンドテイクを出すかなぁ!?

 

そんなことを思っていると、南雲さんが唐突に立ち上がった。

え?もしかしてグー!?グー出すの!?ついにそこまで嫌われた!?暴力沙汰になっちゃった!?

 

「ん?どうした?」

「……ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

彼女はそう言ったあと、何も言わず無言で廊下に出て行った。

 

 

 

 

つ い に き ら わ れ た ! ! ?

 

 

 

 

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

俺の数少ない友達がぁあああああああああああああああああああああ!!!

 

 

そんな感じで内心絶叫していると、コンコンという音が聞こえ、扉から菫さんが現れた。

 

「……失礼するわ、日色君」

 

あるぇー?どうしてお母様がここにー?あれ?オワタ!?これオワタなの!?

あ、もしかしてよくも南雲さんに危害をくれてくれたな、みたいな?

 

 

 

\(^o^)/オワタ

 

 

 

内心が絶望に染まるが外側は一切表情は変化せず、「……どうぞ」と会釈する。

 

 

「どうしたんですか?」

「えぇ、ハジメがいない内に、彼女の話をしようかと思ってね♪」

「は、はぁ」

 

やっぱり!怒ってますよね!すいませんでした、はい!

 

「ハジメはね、私の漫画やハジメのお父さんのせいでオタク知識を多く知っていたわ」

「えぇ、知ってますが」

 

漫画家とゲーム会社の子供だからね、オタク文化に詳しいのはある意味当然だよ。

そう思いながら聞いていると菫さんの表情に影が差した。

 

「ハジメはアニメや小説が大好きでね、たくさんの物を買って見ていたわ」

 

だから、なのかしら、と菫さんは呟く。

 

「そのせいであの子は、人と関わることが苦手になってしまったのよ」

「……コミュ症ってことですか」

「…………えぇ、日色君はこんなことをズバッと言うのね」

「……元からこんな性格なんです」

 

すいませんね本当に。

 

「いつしか、あの子から人が離れていったわ。昔はイジメもあったし、オタクなんてと言われて馬鹿にされたこともあったしね」

 

今はもうイジメは無いけどね――と菫さんは悲しそうに言う。

 

「そして、あの子はいつしか一人になってしまったの」

「ボッチですか」

 

「……………………えぇ」

 

若干菫さんは顔が引きつった気がしたが気のせいだろう、気にしてはいけない。

 

「だから……久しぶりに見たの、ハジメが心の底から笑ったのは」

「………………」

 

え?何言ってんの?南雲さんなんて基本的、いつも穏やかに微笑んでるよ?あんたいつも南雲さんの何を見てんだよ。

 

「驚いたわ、ハジメは帰ってきて私たちの前で笑顔でこう言ってたの、『友達が出来たよ!』てね」

「……そうですか、良かったですね」

 

そう俺は呟くと、菫さんは突如、俺の肩に手を置いた。

 

はひぃ!?な、なななななななななんでしゅかーーーーーー!???

 

「……なんですか菫さん」

「ねぇ、日色君。お願いがあるの」

 

そ、そそそそそそそそそ、その前ににに、顔を離しししてくくくくだささいいいいいいいい!!!!ち、ちちちち近いです!!!?

 

「これからも彼女の、ハジメの友達でいてくれないかしら」

 

こんな状況で何言っているのあなた!?私のメンタルはもう虫の息なんですけど!?

 

「………俺は、あいつの過去なんかに興味はありません。あいつがいじめられていようが、嫌われていようが、所詮他人です」

 

こんな状況でその台詞をよく言えるな俺ぇ!!

見てよ!菫さんを!さっき「……そう」って悲しそうに呟いていたよ!?

ここは慰める台詞だろうが!!

 

その内心を汲み取ったのか、言動さんが「……ですが」と言葉を紡ぐ。

何だ!?まだあるのか!?もう勝手に変換しないで下さいよー!!

 

「俺は彼女が望むなら友達であり続けたい」

 

うわー、またまたクサい言葉を言いますねー(白目)

というか、お願いだから菫さん今すぐ離れてくれぇえええええええええ!!俺のメンタルが死ぬぅぅうううううううう!!!

内心絶叫しながらこの気持ちよ伝われと菫さんを見つめるがそれを聞いた菫さんは微笑んで——

 

「……そう、ありがと――」

 

 

 

 

「……母さん!?………何……してるの?」

 

 

 

 

不意に扉を見ると、そこには魔王こと南雲ハジメが立っていた。

あ、ハジメが帰って来た。

 

 

その後一悶着あったが割愛させていただこう、あまり思い出したくないし。

 

 

その後日が沈みかけるまで勉強を教えていたが、そろそろ夕焼けが沈む為、菫さんにお家に帰りなさいと言われた。

 

「ごめんね、夜遅くまで付き合ってもらって」

「いや、気にするな。お前の底辺な学力を上げる為だ」

 

いとも簡単にさらっと毒を吐く俺に南雲さんは「はは、そうだね……」と苦笑する。

 

……天使や、天使がおるぞ。

 

え?何この人優し過ぎんだろ!?絶対癒し系の部類に入るって!!何でこの人は今までに友達が居なかったの!?

 

そんなことを思いながら勉強道具が入ったリュックを持ち、玄関に置いてある靴を履く。

外を見ると空は暗がりに包まれてかけ太陽は沈みかけている、このぐらいに帰らないと親も心配するだろう……ま、余り魔王の家に居たく無いっていう本音も混ざっているけどね!

 

「それじゃ……」

「うん、今日はありがとう。じゃあね、()()

 

……………………………………………………………………………………………………………あれ?

 

「お前……今、初めて俺を下の名前で言ったな」

「え?……あ!ご、ごめん!つい……」

 

ゑ?マジですか?下の名前で呼んでくれたんですか?

 

ふぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 

人生で一度は言われて見たいこと第10位に位置する氏名で呼んでくれるだとーー!!?

我が生涯に……一片の悔いなし……by日色

 

 

いや、結構あるわ。未練。

 

いや、落ち着け俺、これは南雲さんを下の名前で呼んでいいというチャンスだ!

前世での灰色の青春を今すぐ脱却できるチャンスなのだ!!この機会、逃す術は無い!

 

「…えっと、嫌なら止めるけど……」

「いや、構わない。じゃあな………ハジメ」

 

言えたーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 

こんな時はちゃんと言ってくれる言動に感謝、感激雨あられだ。

つい表情が緩み様になるが必死抑える、今頃表情は、気持ち悪く微笑んでいるだろう……俺の……バカ……

 

ハジメさんはその言葉を聞くとハッと目を見開き、すぐに微笑んだ。

 

「うん…バイバイ、日色」

 

その表情は一瞬見惚れてしまうほど、可愛かったと記述しておく。

 

 

ちなみに、家に帰宅すると笑顔の母さんと簀巻きにされ宙吊りにされている父さんがいたがいつもの事なので割愛する。

 





Q主人公はどうして知り合いを苗字で呼ぶんですか?

A、コミュ障な主人公だにとって親しくない人を名前で呼ぶなんて言語道断。親密度が一定ラインを超えれば名前で呼んでくれます。ハジメちゃんは今回超えてくれました。

Q、主人公、うるさくね?

A、灰色の青春を送った主人公にとって女性は近寄られるだけでメンタルが消し飛ぶほどの脅威なんじゃあ!!まぁ、それは内心だけの話なんですが。

Q、主人公、敬語使うんですね

A、尊敬できる人、迷惑をかけたくない人には敬語を使います。それ以外は平常運転。

Q、次の更新はいつですか?

A、……ダッ!!(作者無言の猛ダッシュ)………………………ガシッ!!(何かが捕まえられた音)


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僕の大切な友達(←ここ重要)前編

お久しぶりです、筆者ことアルテールです。


聞いてくださいよ親方、ある日、評価バーを見てみると赤色に変わっていたんですよ!!
クッ!やはりもう自分は鏡花水月を食らってしまったのか!?

皆様!ありがとうございます(*´ω`*)


あ、今回はハジメちゃん視点なんですが前編と後編に分かれ、しかもコレジャナイ感が出ています、許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)

え?理由?…………めんどくさゲフンゲフン……文字数が一万程になってしまうからです(目逸らし)


いつからだろう、心の底から笑わなくなったのは…

いつからだろう、世界に色を失い、空想の世界に逃げようとしたのは…

いつからだろう、涙を流さなくなったのは…

 

そして、いつからだろう、それら全てが戻って来たのは……

 

決まっている、僕は何度確かめても確信できる。

僕の世界が変わり始めたのは、『彼』との出会いが始まりだったのだから。

 

 

キーンコーンカーンコーン!

 

登校時間のチャイムが鳴り響くと同時に僕は教室の扉を開ける。

開けると共にクラスメートの視線が一瞬僕へと集中するがすぐさままたいつもの喧騒へと戻っていく——が、微かにボソボソと話している人たちがいた。

 

何を――とは言わなくても分かる。僕の悪口だろう。

嫌われ者、頭のおかしい奴、インキャ、オタク、そんな言葉が似合う僕は一言で表すと孤独だ。

別に僕は返事をしない訳でも、相手を苛立たせるようなことをしたことなんてない、声をかけられたら応答はするし、相手のことを気にして、言葉遣いも気をつけている。だけど、オタクというものは嫌われるもので最近では裏で悪口を囁かれている。

が、これでもまだマシな方だ、昔はイジメなどもあり、殴られもしたのだから。

 

僕はそう思いながら、自分の机へと向かい席に座り、持ってきたラノベを取り出した後、湧き上がってきた眠気により欠伸を一つ。

昨日は夜遅くまでゲームしていた為、どうやら眠気は完全に取れてはいないようだ。……いやまぁ、夜早く寝たとしても眠気が完全に取れたことはないが、自分の座右の銘は『趣味の合間に人生』である以上、早寝することはもはや不可能と言っていい。

 

 

そんなことを思っていると、教室の扉を開けて、先生が入ってきた。それを合図に喧騒が止み、ホームルームが始まった。

僕は半ば作業のように挨拶を行い、机にグッタリと崩れ落ちる。後は、先生の話を聞くだけだ。

そうやって先生の話に耳を傾けていると――

 

「今日は、転入生が来ます。皆さん、是非仲良くしてね」

 

は?転入生?

 

僕の思考は一瞬停止した。

 

いやいや、なんで?どうしてこんな時に転校生が来るの!?

 

周りの人達も僕と同じらしくガヤガヤと騒いでいた――あ、男子一人が手を挙げた。

 

「先生!転入生は男子ですか?女子ですか?」

「男子です」

 

次の瞬間、女子達がきゃぁあああああ!!と歓声を上げ、男子達がくそぉおおおおお!!と苦悶をあげる。

いや、そんなに女子転入生であって欲しかったの!?(動揺)

 

先生が教室の扉へと「入って来なさい」と言うと、扉がガラガラと開き、そこから一人の少年が現れた。

 

僕は、少し期待しながら現れた一人の少年を見て——意識が釘付けになった。

 

少年の容姿は艶のある黒髪に黒く輝くメガネを掛け、瞳は黒水晶のように澄んでいて、かつ、鋭い刃の様な目つき。顔つきはとても整っていて、俗に言うイケメンというべき人だった。

 

少年は先生の元まで歩いた後、此方を僕達生徒を見て――

 

「……神代日色です。引っ越しのついでにこの学校に転入しました、よろしくお願いします」

 

『……………………………………………………………………………………え?』

 

生徒の大半が疑問の言葉を呟いた。

 

え?いや?ちょ、え?

かみしろひいろ?神代日色!?何でそんな人がこんな学校に来るの!?(困惑)

 

神代日色、オタクな僕はあまり知らないけどれっきとした有名人だ。

最年少で剣道の全国大会に優勝——どころか三連覇し、前代未聞の無敗を誇っている天才少年。

入ってから僅か2年で全国大会を優勝し、数々の記録をいとも簡単に塗り替えた人物。

そんな将来を約束された彼は突然、表舞台から姿を消し、行方を眩ました。(ニュース抜粋)

 

そんな人がどうしてこんなところに!!?

 

そんな大混乱が僕の内心で巻き起こり、周りのクラスメートも大混乱が起こるというカオスな現状が出来上がったが、良くも悪くもそれが後に異世界で伝説として語り継がれる僕、南雲ハジメと『彼』神代日色の出会いだった。

 

 

「…うーん」

 

転入生が僕らのクラスに入って来てから数日、僕は近くの大きな本屋で頭を捻らせていた。

右手にはファンタジー系のラノベ小説、左手には日常系のラノベ小説、そう現在僕は悩んでいた。

母さんにお小遣いを貰った僕は新作の小説の発売日ということで本屋へ直行、いざ、買おうかという時にとても興味を惹かれるファンタジー系の小説を見つけてしまったのだ。

財布に入っているのは新作のみ買う予定だった為700円しか入っておらず、両方とも買う為には一度戻らなければならない、しかし二つとも人気小説であり、残りの在庫は二つとも後一冊、戻っている間に売り切れにでもなったら笑えない。

 

僕はハァ、と溜息を吐いた後、片方の日常系のラノベ小説を買うことにした。本来の目的を忘れてはいけない、人気小説ならばすぐに再び入荷されるはずだろうその時にまた買えばいい。

そう思い、ファンタジー系の小説を戻そうとして――

 

「すまん、ちょっといいか?」

「ひゃ、ひゃい!」

 

突然背後から声をかけられた所為で小説を落としそうになった。

慌てて受け止め、声のかけられた方向へ向くと――

 

――そこには無表情で此方を見つめている神代日色がいた。

 

★◯↓∴▽◎♫♩※▲×◇ッッ!!!!????

 

ナンデ!?ナンデコンナトコロニ神代日色ガイルノ!?

 

あまりの驚きで声が溢れてしまい、それを聞いた神代さんは眉を顰める。

が、すぐに元の表情に戻り、何の感情を浮かべているか分からない瞳がこちらを見据える。

 

「……君が持っている本はその……ラノベ本だよな?」

「えっ?あ、は、はい。そうですが?」

 

突然聞かれた質問に咄嗟に答え、自分の持っているラノベ小説に目を落とす。

よかった、数分前の自分を評価したい、こんな時に変な小説を持っていたらきっとゴミを見るような目で見られていただろう。

 

「君は、こういう系の本に……詳しい方か?」

「う、うん、結構?」

 

て、バカ!僕のバカ!そんな馬鹿正直に答えるなんて引かれてしまうだけじゃん!

そう思ってしまうが時すでに遅し、言葉はもう紡ぎ出されている。彼は俯いたままなので表情は見えないが恐らく引かれているだろう。

その後、自分から距離を離し、陰口を囁いたり、いじめを行ったりするのだろう。

それは仕方がないことだ、人間は異分子を嫌うように自分の様なオタクは嫌われてしまう。

だから、自分の周りには誰もいない、世界が灰色に染まり、白と黒のモノクロでしか無い。

そういえば……自分が心の底から笑ったのはいつだったのだろう――

 

そう、思考が別の方向に行きそうになった時、突如肩を掴まれ神代さんの顔が一気に近づいた。

 

「そうか!すまないが、人気な本を教えてくれ!こういう本に興味があったんだがどれがいいのかわからなかったんだ!」

 

え?

 

思考が停止した。

彼の表情は嫌悪は無く、喜びの表情で。その瞳は嘘偽り無く僕を嫌っていなかった。

 

「ひゃ、ひゃい。ぼ、僕のお勧めは――」

 

咄嗟に返答するが、内心は驚きを隠せない。久しぶりに見たのだ、親以外で自分を嫌悪する様な表情ではなく、まるで友達の様に自然体で話す彼のような表情を。

 

彼は突然、ハッっとしたかと思うと僕の顔を再び凝視し、口を開いた。

 

「あぁ、ちょっと待ってくれ。自己紹介をまだしていなかったな、俺は神代日色だ」

「は、はい、知ってますよ。最近僕のクラスに転校してきた人ですよね」

「同じクラスだったのか?そうか、それじゃあお前の名前を教えてくれ」

 

神代日色、その名前を僕は胸に刻みつける。例え、この時だけの関係だけとしても忘れたくはないと思ったから。

 

「僕の名前は――南雲ハジメです」

 

ところで、僕の名前を聞くと神代さんは目を見開いていたがなんだったんだろう?

その真相は永遠に僕はわかることはなかった。

 

 

時が過ぎていく。

 

僕が学校帰りに本屋に行く時、神代さんと会うことが多くなり、不思議な関係が続くようになった。

彼は学校では成績優秀、運動神経抜群という完璧に完璧を重ねたような人で、性格や言動が少し悪いけど僕のことを決して嫌ったりしなかった。

 

片や学力学年首位で運動神経抜群、性格には少し難があるが決して他人には迷惑をかけない優等生

 

片や運動神経も学力も平均であり、オタク知識などによる趣味によりクラスからハブられている平凡な少女

 

そんな二人が話したりしていればクラスからの圧力が増えるだけだと神代さんは言い、学校では不干渉でいてくれて、放課後や休日は友人として接してくれた。

決して無理に距離を詰めようとせず一定間隔で接し、付き合ってくれた。

 

だけど、彼と接するたびに思ってしまうのだ。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

一度抱いてしまった疑問は消える事なく膨らみ続ける。

そう、僕が彼に何かをしてあげたことがあっただろうか?

 

 

 

あるにはあるだろう、だがそれは自分が好きな小説を教えているだけで只の趣味の範囲でしか無い。

 

でも、彼が僕にしてくれたことはなんだ?

勉強を教えてくれた、友達になってくれた、一緒にゲームをしてくれた、ラノベ小説を語り合ってくれた。

 

つまり、僕はただの彼の金魚の糞でしか無いのだ。

これほど悲しい関係があるだろうか?僕はただの役立たずでしか無いのだ。

 

頭のいい彼のことだ、神代さんはきっとその事に気づいているはずだ。

 

だけど、縁を切ったりしないのは単純に優しいからなのだろう。

彼は不器用ながらも口には出さないけども、他人を思いやり、助ける優しさを持っているのだから。

 

対して僕はなんだ?クラスでは嫌われ者、学力も平凡、誰かを助けることすらできない只の少女だ。

 

何が友情だ!?何が友達だ!?そもそも僕にそんな物が築けるはずが無いだろう!!

 

こんな平凡で嫌われ者な僕が万能で完璧な彼との友達なんて関係を維持する力なんてあるわけが無いというのに!!!

 

 

HRが終わった為、僕は溜息をつきながら教室を出る。どうしてこんなに黄昏ているかというと中間テストが近くなっているからだ。

えぇ、一定ラインまで点数が超えなければ遊びに行くのを禁止されましたよ。最近は学力が低くなっていたから仕方がない事だけど……遊びに行く事を禁止されるのは流石に辛いなぁ…。

僕はしばらく遊べなくなる事を諦め、大人しく帰路につく事にした。

 

うぅ~勉強するのは嫌だなぁ~

 

そう思いながら、トボトボと帰っていると突如後ろから声をかけられた。

 

「おい、南雲。お前なんでそんなに落ち込んでいるんだ?」

 

声の主は神代さん、眼鏡をクイっと片手で上げ、もう片方の手でバックを持って、此方を感情の見えない瞳が見つめていた。

 

「……あ、神代さん…実は中間テストで平均点以上を取らないと暫く遊んではダメだと親に言われてしまって…」

 

ハハッ、と僕は誤魔化しの為に曖昧に笑う。まぁ、雰囲気が暗いせいか逆効果かもしれないけど。

それを聞いた神代さんはフム、と首に手を置いたあと意を決したように口を開いた。

 

「……南雲、勉強手伝ってやろうか?」

「……え?」

 

一瞬聞き間違えかと思った。

え?え?神代さんが勉強を教えてくれる?あの神代さんが!?あの学校一の唯我独尊の神代さんが!!??

 

「だから、お前の点数が上がるよう教科ごとに教えてやろうか?と言っているんだ」

「い、いいの!?」

 

一筋の希望の光が暗闇を照らした瞬間だった。僕は驚いて声を荒げてしまうけど、神代さんはコクリと頷いて――

 

「あぁ、オタクで馬鹿で、『趣味の合間に人生』を座右の銘としているもはや現代社会で生きようとすることを諦めているゾウリムシに匹敵するようなお前だが…………」

 

「ぐふっ!!?」

 

――さらっと吐いた言葉の刃が僕に突き刺さった、効果は抜群だ。

うぅ~否定したくても否定できない…べ、別に大丈夫だからね!お母さんの少女漫画やお父さんのゲームクリエイター、どちらも即戦力としての技術はあるんだから!未来設計はちゃんとしているから!!

彼は少し躊躇した後、続けるように言葉を零した。

 

「……一応、友達だからな。友に助けを出すのは当然だろう」

 

どうしよう、断ってしまうべきだろうか?

……いや、当たり前だ。僕は彼に迷惑しかかけていない、これ以上彼に迷惑を掛けるわけにはいけない。

だから、断ることが最も良い答えだ。そう思い口を開き———

 

 

 

 

だけど

 

 

 

どうしてだろう

 

 

 

そうするべきだと

 

 

 

分かっているはずなのに

 

 

「……あ、ありがとう」

 

 

僕は何故か否定の言葉を出すことが出来なかった。

 




…………この小説、完結するまでに3、4年掛かりそうな予感が来ます。

あ、あとハジメちゃん(豹変)の口調は『私』でいいですかね?今のところクーデレキャラになりそうなんですが、よかったら感想にアイディアください。


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僕の大切な友達(←コレ重要)後編

コレジャナイシリーズ第三弾!!

一応書いたのですが、ハジメちゃんがめっちゃ欝気味な人になってしまいました。

ま、息抜きに書いているんだから別にいいよね(投げやり)

あとお気に入り登録が400人突破しました!
あれ?さっきまで200人だったはずなのに……


皆さんありがとうございます!!(((o(*゚▽゚*)o)))


カリカリと無機質にシャーペンが紙に文字を書いていく音が僕の耳に聴こえてくる。

僕と彼の境をテーブルが仕切り、手を動かす度に削る音がBGMとなり静かな空間に響き渡っていく。

 

彼の勉強会に何故か参加してしまう事態にいくら思考してもどうしてあの時断れなかったのか分からない。僕がただただ押しに弱い小心者だったか、それとも別の理由か……

今更そんな事を考えても仕方がないと思うけど、疑問は未だに胸の奥に居座っている。

 

いけない、いけない、集中しなきゃ。えーと、この問題は——

 

数学の問題を見て、手を付け始めるが……

 

ムゥー、解き方がわからない。問題にウンウンと唸っていると、

 

「…南雲、そこの問題はその方法では無理だ」

「え?」

 

突如、神代さんがにゅっと僕のノートにスラスラと書き、問題の説明をしてくれた。

その内容は僕でも分かりやすく、懇切丁寧に教えてくれて、その時のコツすらも説明してくれる。

 

シャーペンを指示棒代わりに使いながらも教えてくれる彼をふと見つめると少し穏やかな気分になる。

艶のある黒髪に黒塗りの眼鏡、瞳は黒水晶の様に美しく、顔つきはよく整っている。

恐らく渋谷などを歩いたら10人中9人程は振り向くのではないだろうか?

それはそうだろう、彼は学校でクールキャラとして『毒舌ながらも他人を思いやる心を持った優しい人』として人気だし、学校で影で囁かれている彼氏にしたいランキングを常に王者である為、一部ではファンクラブが出来ている程だ。

こんな自分が本来なら関わらない天の上の人なのだ。

 

「———という訳だ、後は分かるだろ?」

「う、うん」

 

とと、彼を見つめるのに夢中で忘れていたが彼は勉強を教えてくれたのだ。試しにもう一度解いてみるとスラスラと解けた為、一応理解はしているのかな。

 

歴史の勉強に戻った彼を見ながら僕も再び数学の問題に立ち向かう。

 

が、何時になっても僕は胸に渦巻いている『何か』が晴れることはなかった。

 

 

そうしてしばらく経った頃、部屋の扉からコンコンという音が聞こえ母さんが入ってきた。

 

「ハジメ、日色君、お菓子ここに置いておくから勉強頑張ってね」

「母さん……わざわざ来なくても僕が取りに行くのに……」

「すいません、わざわざありがとうございます」

 

そう、僕は現在、神代さんを自宅に招き入れているのだ。勉強会を本来なら神代さんの家で行うはずだったのだが親の事情でできなくなったらしく代わりに僕の自宅ですることになったのだ。

 

母さんはトレイに乗っている飲み物と菓子類を置いたあとニコニコと扉を出て行った……チラッと一瞬だけ僕を見て。

 

え?何?母さん?どうして今、振り向いたの!?

 

そんな疑問を視線で訴えるが母さんは微笑みを返すだけで何も語らず、そそくさと去っていく。

 

 

「……時間も時間だし休憩にするか」

「う、うん。そうだね」

 

僕はどうして母さんが振り向いたか疑問に思いかけるが神代さんの声に正気に戻り勉強を止める。

神代さんは母さんが入れたオレンジジュースを飲みながら僕がやっていた問題集を見る。

 

眉を顰めている辺り、僕の学力の無さに呆れているのだろう。

 

自分なんかに時間を費やしてくれるのだ、友達だからという理由だけで。だけど僕は何も彼の役に立ったことはない、ただの役たたずだ。

 

そうして、なお一層胸の中で渦巻き続ける『何か』を僕は理解した。

 

 

「ごめんね、神代さん」

「ん?何がだ?」

 

 

それは

 

 

「僕のために、こんな時間を作ってくれて」

「気にするな、生憎とお前とは違って予習は完璧だからな」

 

僕は彼の言葉に笑う、小さく、儚く、悲しい声で、彼とは全く別で何も出来ない役立たずな自分を嗤った。

 

 

「凄いね、神代さんは、僕とは違って勉強も運動もできるから――」

 

 

それは  『嫉妬』

 

自分が出来る事など何もない、全て彼は自分で成し遂げることができるのだから。

 

 

だから、

 

 

だから、

 

 

もう、

 

 

僕なんかの為に

 

 

自分のことを犠牲にすることを

 

 

止めてよ

 

 

もう、

 

 

僕に関わらないで

 

 

口は動く、言葉を紡ぐ。あなたにもう迷惑をかけたくないと僕は彼との縁を切ろうと言葉を零し――

 

 

ズドンッッ!!という音と共に額に激痛が走った。

 

「――ッ!!??」

 

咄嗟に僕は額を抑え痛みに悶えてしまう――って本当に痛い痛い痛い!!!!!

痛みが全く治まらない、ヒリヒリと痛む額を抑え涙目になりながら彼を見ると神代さんはビスケットを食べながら呆れた視線をこちらに向ける。

 

「い、いきなり何を……」

「バカか、お前は?その自分とは違いますねオーラを出すな、鬱陶しい。第一、俺とお前が違うのは当たり前だろうが」

「……え?」

 

彼はなぜわからないとでも言うように此方を見ながら言葉を紡ぐ。

 

ピキリッ

 

自分の何かに亀裂の入っていく音が聞こえた。

 

 

「お前にできないことを俺ができるのは当たり前だ、同一人物じゃないんだからな。そんな自分と他人を比べた所で何かが変わるわけでもないだろうが」

 

言葉が出せなくなった。

 

ピキリッ!ピキリッ!

 

再び音が鳴り、何かの亀裂が奔る。

 

「だからこそ――」

 

彼は続ける、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「お前にしかできないことは必ずあるんだよ」

 

 

 

 

 

呼吸が止まった。

 

 

 

「才能が違う?アホか、万能な人?バカか、なんでも出来る人間なんていない、そう見えるだけだ。個ができることなんてたかが知れているだろう?俺はただお前より少し優れていることがあるから教えているだけだ」

 

 

割れていく、崩れていく。

 

灰色の世界が、絶望の世界が、幻想のように、夢だったかのように。

 

そして、そして、

 

 

「だから――」

 

 

彼は言った。

 

 

「いつか、俺が困った時お前が助けてくれ。これは貸しだ、絶対忘れるなよ」

 

 

世界が木っ端微塵に破壊された。

灰色の世界が色彩のある鮮やかな世界へと変わり、僕は俯いてしまう。

 

 

嬉しかった。

 

 

僕は足でまといではないと言われて。

 

今までの自分が恥ずかしくなってしまう、何が役たたずだ?何が金魚の糞だ?

 

 

彼はそもそも僕のことを信頼して、信用していたのに。

 

僕のことを自分よりも知っていてくれたというのに。

 

 

「ん?どうした?」

「……ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

僕は俯きながらそう言い、立ち上がって部屋から出て扉を閉め、少し離れている洗面所に向かう。

 

俯いていなければ涙を見せてしまうから。

 

 

誰もいない、静かな洗面所で鏡に映る自分を見て、蹲る。

 

 

そして錆び付いて、枯れていた涙腺と心の枷を外した。

 

 

「ぅぁ、あっ、あぁああ!!うわぁぁぁああああああああぁぁぁぁああああああぁあぁああんッッ!!!!」

 

 

涙が枯れない、止まらない。いくら声が張り裂けようと声は収まらず、泣き声は止まらない。

 

昔から泣いて、泣いて、泣き続けて、いつか枯れきって、曖昧に笑うことしかできなかった仮面がついに限界が来てしまったことを自覚した。

 

 

これも、全て神代さんのせいだろう。彼に仮面が壊され、砕け、ぐちゃぐちゃに踏みつけられたようにもう、偽りの表情を作ることができなくなってしまっている。

 

 

僕は止まらない涙を零し、泣いて泣いて、泣き続けた。

 

 

だから、扉から微かに覗いている誰かに気づく事は出来なかった。

 

 

 

 

「うぅ……グスッ……グスッ……早く、泣き止まなきゃ……神代さんに……変に思われちゃう……グスッ……」

 

数分後、僕は鼻を赤くさせ、必死に涙を拭っていた。

 

というか、彼にこんな姿を見せたくないのだ。

 

そう思い、自分の部屋の扉へと向かおうとして――

 

「――に見たの、ハジメが心の底から笑ったのは」

 

――扉へと伸ばした手が止まった。

 

え?母さんの声?え?なんで!?

 

突然の出来事に混乱するがとりあえず耳を澄ませ、会話を聞き取ろうとする。

 

「驚いたわ、……メは帰って……私たちの前で笑顔で……言ってたの、『友達……来たよ!』てね」

「……そ……すか、良……たですね」

 

所々で聞こえなくなるがおそらく自分のことを話しているのだろう。

 

「……なんですか菫さん」

「ねぇ、日色君。お願いがあるの」

 

「これからも彼女の、ハジメの友達でいてくれないかしら」

 

ちょっと待って、母さんは一体何の話をしている?

勉強のこと?僕のこと?

 

まさか、僕の過去!?

 

慌てて扉に手を伸ばす、嫌だ、彼に僕の過去を知ってもらうわけには行かない!!

 

しかし、もう遅いだろう、おそらく母さんはもう会話的に僕のことを話してしまっている可能性が高い。

ドアノブに手をかけて扉を開けようとし――

 

「………俺は、あいつの過去なんかに興味はありません。あいつがいじめられていようが、嫌われていようが、所詮他人です」

 

 

――開ける力が一気に無くなった。

 

「…………あ」

 

視界が真っ黒になった気がした。

 

他人

 

他人

 

他人

 

 

その言葉が僕に深く突き刺さる。

 

分かっていたはずだ、世界はそんな救われる世界ではないと。

 

分かっていた。

 

 

分かっていた。

 

 

分かっていた。

 

 

だけど、だけど、彼にそう言われることが何よりも辛かった。

 

何度もそんなことを言われていたのに、それらとは比にならないほど辛かった。

僕は扉を開ける勇気がなくなり、その場で立ち尽くしてしまう。

世界が再び灰色に染まりかけ――

 

「ですが……」

 

彼の言葉が聞こえた。

 

 

「俺は彼女が望むなら友達であり続けたい」

 

 

――今度こそ、消し飛ばされた。

 

そうだ、彼は言っていたではないか友達と、僕のことを友達と言ってくれていたじゃないか。

僕は一体、何を恐れていたんだろう、彼はそんなことするはずないというのに。

 

僕は勢いよく扉を開ける。

 

彼に感謝の言葉を投げかけるために。

 

 

そして―――

 

 

 

 

扉の先には神代さんの肩に両手を乗せ、顔を彼に近づけている母さんがいた。

それは第三者から見ればキスシーンのような体勢だった。

 

では、何も知らないハジメちゃんが見ればどうなるのか?

 

 

 

 

「……母さん!?………何……してるの?」

 

 

 

 

 

世界が凍った。

 

 

その後どうなったかはこれを見ている君が想像して欲しい。

 

まぁ、ロクな事しか起こっていなかった事は言っておこう。

 

 

 

 

その後日が沈みかけるまで勉強を教えてもらい、神代さんの帰宅時間となった。

 

「ごめんね、夜遅くまで付き合ってもらって」

「いや、気にするな。お前の底辺な学力を上げる為だ」

 

彼の言葉にグサッっと突き刺さるがこれにはもう慣れたものだ。

僕は「はは、そうだね……」と苦笑する。

 

こんな事にさえ彼と話すと気分が良くなってしまう。

 

 

「それじゃ……」

 

「うん、今日はありがとう。じゃあね、()()

 

そう、彼に別れの挨拶をすると彼は怪訝な顔をして、此方を見る。何か変なことでも言ったかな?

 

「お前……今、初めて俺を下の名前で言ったな」

「え?……あ!ご、ごめん!つい……」

 

咄嗟に口元を押さえるが、彼はフッと笑う。

 

えっと怒っていないのだろうか?

 

 

「…えっと、嫌なら止めるけど……」

「いや、構わない。じゃあな………()()()

 

 

日色はそう言った後、目に見える程に笑った。

 

僕はそれを見て、文字どうり見惚れてしまい――

 

 

トクンッ!

 

 

胸に、熱く、そして優しい『何か』が生まれた。

 

――ハッ!いけない、いけない。

 

 

「うん…バイバイ、日色」

 

 

僕もせめて笑顔でお別れを言おうと笑った。

 

その時から彼と会うたびに、胸が熱くなるようになった。

 

ちなみに、中間テストでは僕の点数の大半が90点台を獲り上位20台に入ると言う偉業を成し遂げ日色くんの凄さをさらに実感するんだけどそれはまた別の話。

 




ハジメちゃん、恋心を覚える(自覚なし)

勘違い系を書きながらこれは無理矢理すぎたかなと思うこの頃です。

次は『し』から始まって『り』で終わる人を書きましょうかね?


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文字使い日記③

一話と二話をリメイクすることにしました!

そしてお気に入り登録が600人突破しました!!
皆さん本当にありがとうございます!
ついでに10評価してもいいんですよ?いいんですよ!?

そして物語が全く進んでいないことに絶望するこの頃……




あ、今回主人公が二回キレます。


_φ( ̄ー ̄ )月( ˊ̱˂˃ˋ̱ )日

 

黄昏の海岸で君の青い瞳を見た、どうも皆さん日色です。

 

最近返却された中間テストでハジメちゃんがニコニコ笑顔でテストの点数を見せてきた。

どうやら90点台を取れたらしく、学年上位20位台に入り、両親に大絶賛され遊べる様になったらしい。

 

よかったね、遊べるようになって。

 

え?俺?全教科満点ですが何か?(ドヤァ!)

 

学年首位の座は譲らないのである、あ、ただし生徒会長とかは勘弁な。

 

_φ( ̄ー ̄ )月( ・∇・)日

 

今日は日記に親の紹介をしようと思う。

 

まずは我が母親こと神代香澄(かみしろかすみ)

フワフワとした茶色の長髪に優しそうな茶色の瞳、常にニコニコとしておりマイペースな母さんである。

職業は大手洋服会社の社長らしく頭脳明晰で容姿もかなり若く見え、一見完璧の優良物件に見えるのだがあり得ないレベルで料理が下手な事とマイペースすぎることが問題となっている。

 

次に我が家の大黒柱こと、神代零士(かみしろれいじ)

黒メガネをかけた少し天然パーマな黒髪黒眼、此方も穏やかな性格で優しいお兄さん(?)といった感じだ。

職業は大手クルマ会社(ト◯タやホ◯ダみたいな感じ)の専務取締役、家事などもでき、母さんの代わりに朝は弁当や洗濯を行ってくれる主夫系の父親である。……まぁ、夕食を作っているのは俺だが。

 

そんな家族の紹介が終わって現在、学校から帰宅すると俺の部屋にエプロン姿の父さんがニコニコ笑顔で来ていた。

 

「……で、親父何の用だ?」

「うん、日色。僕の代わりに買い物に行ってくれないかな?」

 

超嫌なんですが、なんだ買い物って?父さんが行けよ車あるじゃん。

 

「嫌だ、親父が行けばいいだろ」

「そうしたいんだけどね、急遽会社に行かなくてはならなくなったんだよ」

 

あぁ、なるほど。だからその笑みか、フッ甘いな我が父よ、前世高校までニートだった俺の粘り強さをなめるなよ!!

 

「もし日色が断ったら——」

 

一週間カップラーメンで生きたこの実力(その後、吐き気が三日間止まらなかった)見るがいい!!

 

 

 

 

「——仕方ないけど、お母さんに買い物と料理を頼むことにするよ」

「分かった、行ってくる」

 

 

 

 

即答だった。

 

行って参りまーーーすッッ!!!!!!!

 

即座に父さんから買い物袋と金を貰い、ドアへと走っていく。

 

母さんに買い物を任せる?ダメだ、絶対ダメだ。

 

ハンバーグの材料買って来てと言ったら、薬屋と雑貨屋に行こうとする母さんに任せたら臨死体験を味わうことになる!!!

 

笑えるだろ?どんな材料を使っても料理の原型はあるんだよ………味は天国への片道切符だが。

食べられるものと言う前提を粉砕してくる我が母には絶対に厨房を任してはいけないのである。

 

Q、米を研ぐために必要なものは?

 

A、クレンザー

 

それがうちの母の回答である。

 

 

 

*分からない人のための補足

 

・クレンザー……主にケイ酸鉱物などの研磨材を含んだ食器や金属器を洗浄する為の洗剤、勿論洗剤なので米を研ぐ時に使うわけではない、そこの君は絶対に真似しないように。

 

 

 

クソッタレェェえええ!!!せっかくの愛しい自由時間がぁぁぁあああ!!!

 

俺は、背後で「いってらっしゃーい!」と声をかける父さんを背に、勢いよくドアを開けた。

 

 

 

「玉ねぎに人参……じゃがいもに…………あぁ、今日はカレーか」

 

 

買い物袋に入っていた紙を見ながら、食材を集めていく。基本的に平日は朝食を父さんが夕食は俺が担当しており、休日は俺が両方担当する代わりに、父さんが昼食を担当する。……これではただの雑用じゃねと思う人もいるかと思うが、小さい頃からやっていたのだ、すぐに慣れましたよ。

 

 

それに、あの母さんの料理を食べると思うと寒気が……(恐怖)

 

 

 

今回買う食材で、父さんが作る料理を予測し、隠し味の調味料でも買おうかね?

決して自慢ではないが……決して!自慢では!無いが!自分は料理は上手いほうだと思っている(ドヤァ)

 

前世から一人暮らしだったことも含め、父さん直伝の料理方法や、インターネットによる料理調べでかなりの腕とは思うのだ、親にも美味しいと言われたしな……建前かもしれないが。

 

俺は、いつか親父の『ゆき●ら』を受け継ぐんだ!(某お粗末系主人公)

 

おっと、いけないいけない、思考が逸れた。

 

定員にお金を渡し、スーパーマーケットから出る、ハァ、憂鬱だ。早く帰ってラノベでも調べよう。

 

そう思い、来た道を戻り始める。

 

 

――わ、見てみてあの人、スッゴイイケメンじゃない?

――え?どれどれ?きゃあ、ホントだ!カッコいい!!

 

 

と、俺の耳にそんな声が聞こえてきて憂鬱な気分が増してしまう、チッ!イケメンめ爆裂しろ、ついでにリア充も死ね!氏ねじゃなくて死ね!

 

そう思いながら帰っていると何やら裏路地で揉め事が起こっていた。

どうやら子供とおばあちゃんに厳つい男がぶつくさと罵っている。

 

あー、あれか。白崎香織が南雲ハジメに惚れてしまう原因となった出来事か。

 

子供が柄の悪い男にぶつかってしまい、クリーニング代を請求しているのだ。

恐らく近くにハジメちゃんや白崎香織もいるのだろう、だったら俺が何かする必要はないはずだ。

 

故に私、神代日色は何も見なかったことにしてスルーする、是非ともハジメちゃんが助け白崎香織を惚れさせて欲しい、いや、百合になっても困るけど。

 

そう思い、その場から離れようとし――

 

アレ?原作にあの子供って()()とか持っていたっけ?そんな描写なんて書かれていなかったはずだが。

 

あ、柄の悪い男が子供の胸ぐらを掴んだ。ドンマイ、少年。

持ち上げられた少年は、泣いて、手に持っていた物を落とし、おばあちゃんが子供を守ろうと庇おうとしている。

 

 

 

 

 

ん?ちょっと待て?

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら、柄の悪い男が背を向けて逃げていた。

背後を見ると、子供が泣きかけになっていた為、頭を撫でてやり、何故か手に持っていた絵本を渡してやる。

 

 

「大丈夫か?ほら、受け取れ」

 

 

ついでに持参している飴(計23種類)の一つ、ぶどう味をポケットから取り出し、渡してやる。

子供は飴を食べると笑顔になり、「ありがとう、お兄ちゃん!」と言ったあとお礼を言ったお祖母ちゃんと共に帰っていった。

 

あー、ホントまたやっちまった。

 

先程、俺は何をしたか?簡単に言えばキレました。

 

そう、イライラしている時に本の素晴らしさがわからない塵芥に本が汚されたという事実に怒りの許容限界がヒャッハーしてしまったのである。

 

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 

超恥ずかしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!

 

 

内心絶叫するが表情は一切変わらず、去っていった子供の方を見つめている。

こんな時はありがたいな肉体、よくやった。

 

もういい!今日はさっさと寝てこのことは忘れるんだ!

 

そう思い、帰るために裏路地から出ようとして――

 

 

「あ、あの……や、優しいんですね」

 

 

突如、背後から少女の声が聞こえた。

 

時が止まった。

 

ギッギッギッと首がゆっくりと動き、背後にいる少女を見る。

 

その少女は腰まで届く長く艶やかな黒髪を持ち、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

その少女は女神と呼ばれるほどの美貌を持つものだった。その少女は銀髪の身体を正史では持っていた。

その少女は、とある魔王に心を奪われたものだった。

 

その人間を、その者を、その少女を、日本語の名称でこういう。

 

 

白崎香織

 

 

またの名をヤンデレ系女神超特大死亡フラグである。

 

 

あ、ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあっぁぁああぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

彼が叫ぶ、希望が消える。

真の絶望が押し寄せた。

 

 

 

お、落ち着け俺、冷静になれ。

思考を止めるな、最適解を探り続けろ。

 

でなければ、でなければ、

 

「別に、あの男が気に食わなかっただけだ」

 

殺される!!!

 

逃走経路、確保、対象白崎香織との距離約二メートル、逃走力おそらく現在では可能性アリ。

俺は彼女にそう言った後、彼女から距離を離して、裏路地から出る。……途中で何か聞かれた気がしたが気にしない

そして、道の角を曲がった途端、全力でその場から逃げ出した。

 

速く!速く!あそこから逃げなければ!!

 

その後全力で家まで帰り、家に閉じこもった。

 

今日は過去最悪の一日だった。

 

 

_φ( ̄ー ̄ )月■日

 

数日後、俺はデパートで自分の財布を片手に買い物をしていた。

そう、今日はラノベの発売日なのである。ついでに言えばハジメにも買うことを頼まれた為了承し、二冊買う予定なのだ。

 

そして、見事オタク達の闘いに勝利し、二つの目的の小説にその他の興味を惹かれた小説を買い取ったのだ。

 

つまり、現在の俺のテンションは最高潮である。ヒャッフー!!

しかも、親に昼食も済ませておいでと言われ、美味しい食べ物が食えるとかなりノリノリである。

 

しかし、現実は悲しい、いいこともあれば悪いこともある。

 

そう例えばヤンキーたちに絡まれている白崎香織を見つけるとかさ。

 

 

うわー、超関わりたくねぇ……

 

 

というわけで関わりません、買った小説を読みながら歩きその場から離れ――

 

「おい、てめぇ。何俺らの前を通ろうとしてんだ?」

 

――できませんでした。

 

どうやら顔を隠すために小説を見ながら移動していたため前が見えなくなっていたらしい。

えーとヤンキーが…………1、2、3……6人か。

 

「ん?あぁ、見えなかった。済まなかったな」

 

取りあえず謝って、その場から離れようとする。きっとこういうのは天之河光輝君がなんとかしてくれるよね!(少年風)

 

「ハァ?逃すわけねぇだろ?おら、慰謝料に財布の中身を全て出してもらおうか?」

 

いや、待って、本当に待って!?そんなこと言ったら言動が――

 

「ほぅ?お前みたいな存在が金を使う知能があったんだな?あぁ、すまないこれは失礼なことをした、てっきり脳まで筋肉な脳筋だと思っていたよ塵芥」

 

やっぱりぃいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!

死ぬ!マジで死ぬ!絶対殺されるって!!

 

「て、てめぇ!、どういうつもりだ!?」

 

ほら!ヤンキーの人たちが殺気立っているんですけど!?白崎香織が泣きそうな顔で心配そうに此方を見ているよ!?

 

「このオタク野郎が!!覚悟は出来ているんだろうな!!」

 

あ、ついに目の前のヤンキーがカンカンに起こり、拳を振るって俺の持っていた小説を叩き落す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――――あ?」

 

 

 

 

 

 

 

コイツハイマナニヲシタ?

 

 

 

次の瞬間、俺は首、鳩尾、腹に三度、殴った後、蹴りを股間に蹴り上げる。

ヤンキーが突然の激痛に痛みを悶える前に流れるように足、足腰、腕、手、を螺旋状に捻りながら運動エネルギーを消費させず、勢いよく踏み込み、右手をヤンキーにぶつける。

 

 

発勁!

 

 

「ゴフッ!!」

 

最近知った中国の拳法が直撃したため、目の前のヤンキーが胸を抱え、口から透明な液体を吐き出し、地面に沈む。

俺が与えた衝撃すべてが、身体を抜けず発勁により内部に直撃したのだ、手加減はしたがしばらくは気を失っているだろう。

落ちた小説を手に取り、パンパンと払ったあと、沈み込んでいるヤンキーを掴んで、ヤンキー達の前に転がしてやる。

 

 

「一度だけ言ってやる、……消えろ」

 

 

自分でも驚くほど冷たい平坦な声に驚くが今はそれどころではない、こちらとしては是非とも立ち向かって欲しいのだ、本を大切にしない奴は死ねと思っているしな。

 

『ひっ!』

 

 

ヤンキーたちは怯えて、その場から倒れているヤンキーを抱え、バタバタとその場から逃げていった。……チッ立ち向かってこなかったか。

 

せっかく楽しかった気分が台無しだ、ハァ、とため息をついて憂鬱な気分になる。

今日はもう帰ろうとしたとき――

 

 

「あ、あの……前に会いませんでしたか?」

 

 

あ、彼女のこと忘れてた。

 

 

 

 

さて、どうする俺。

現れるは目の前の死亡フラグ、選択を見すれば即座に死が確定する。

 

選択肢①

・その場から逃走する

 

駄目だ、そんなことをすればただの「自分をヒーローだと錯覚しているバカ野郎」になってしまう。

 

選択肢②

・正直に言う

 

それもダメだ、死亡が確定し、奈落に落ちる未来が高まる。

 

 

そう、ならば第三の選択肢を選んでしまえばいい。それは!

 

 

「いえ、人違いです」

 

 

そう言ってその場から歩き出す。

そう!『人違いで誤魔化そう作戦』である!!

 

 

「ま、待って!嘘だよね?絶対一度会ってるよね!?」

「いえ、気のせいです、人違いです。では私はこれで」

 

 

彼女の掛け声を無視して、そのまま歩いていく。

 

 

「待って!お礼をしたいの!」

「いえ、結構です。急いでますので」

 

 

よし、これで逃げれる!フハハハッ!これで俺の勝ち――

 

 

「あ、あの!今日限定の特別スイーツの店があるんです!一緒に行きませんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在俺はとある人気カフェの中にあるテーブルでとても美味しそうな『スペシャルショートケーキ』とその隣にあるコーヒーがテーブルには置かれており、自分が座っている反対側には自分と同じケーキとオレンジジュースが置かれておりニコニコとしている白崎香織がいた。

 

えぇ、見事釣られましたよ。お父さん、自分の欲望には勝てなかったよ……

 

コーヒーを手にとってコクりッと一口飲んだあと、彼女をちらりと見る。

 

「そういえば、どうしてあんなことが起こったんだ?」

「え、えっと。新しい洋服を買おうとデパートに向かったら、絡まれちゃって」

「あぁ、ナンパか」

 

なるほど、ヤンキーは別にモテたりしないもんな、美少女がいたら誘いたくなる気持ちがよくわかる。……俺の前世は女性との関係なんて皆無だったからな!!(涙目)

 

「だから、あの時助けてくれてありがとう。私は白崎香織です、貴方は?」

「神代日色だ、別に気にするな」

 

そう言い、ケーキに手をつける。

フォークに突き刺すとプルンッという感触とともに突き刺さり、一息で頬張る。

 

そして――

 

「……っ!!?」

 

あまりの美味しさに声が出そうになった。

クリームの程よい甘さが舌の上で舞い踊り、その宴を彩るかのように苺の酸味が花火を咲かせる。

優しさと甘さ、そして美しさが舞い踊る上品で至福な祭りのようだ。

 

何度でも味わいたいような至福の境地に満足な声が出そうになる。

 

「……美味い」

「美味しい!」

 

どうやら白崎さんもケーキに手をつけていたらしい、同時に同じことを言ってしまったため、少し笑いそうになるがそれは肉体さんが何とかしてくれたようだ。無表情のままである。

 

 

その後、他愛のない会話をした後、解散となった。

 

…………彼女に連絡先を知られてしまったがな!!さすがの俺も「連絡先を教えてくれないかな(笑顔)」の恐怖に負けてしまったようだ。

クソッタレぇええええええええ!奈落に落ちる可能性がグッと上がったじゃないか!!

 

やはり、幸福なことと不幸なことは均等に配分されているらしい、今回の事でよくわかったよ……

 

その後、ハジメにラノベを渡したら満面の笑みでお礼を言われたことにより癒されたことを言っておこう。

 

やはり、少女の笑顔は癒されるなぁ……

 

 

 

 




主人公の特徴(今までのまとめ)

・本を雑に扱う奴はマジ死ねと思っている。氏ねじゃなくて死ね

・料理上手で美味しいものが大好き

・キレると声色が低くなり、眼にハイライトが消える。

・基本的な集中力がかなり高い

・彼の認識では原作キャラは全て死亡フラグ

・思考が全てうるさくはっちゃけている、最近は老人じみている。


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ヤンデレに萌え要素?ねぇよそんなもんby赤ローブ

お久しぶりです、どうも皆さん!アルテです!
テスト期間のため暫く更新を辞めます。

お気に入り登録900人突破!ありがとうございます!
そしてなんと日別ランキング64位に乗りました!感謝感激の雨あられやでぇ!

こんな駄目文ですがこれからもよろしくお願いします!


とあるカフェの店内にある一つテーブルと二つの椅子がセットで置かれている場所に二人の少女が座っていた。

 

片方は艶やかな髪を腰まで伸ばした少女、少したれ目の大きな瞳とスっと通った鼻梁に小振りの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧に配置されている容姿を持った少女、私こと白崎香織はニコニコと微笑みながらテーブルに置いてあるコップに入っているストローを使ってオレンジジュースを飲んでいた。

 

もう片方はポニーテールの長い髪型に切れ長な瞳、凛とした侍を彷彿とさせる引き締まった肉体に冷たいというよりカッコイイという印象を与える容姿を持ち、右手にはブレスレットをつけている少女、私の幼馴染八重樫雫は仏頂面でこちらを睨んでいる。

 

「それで、雫ちゃんは好きな人とどれだけ近づけたの?」

「……う、いつものようにメールのやり取りを……できるようになるところまで……」

 

恥ずかしそうに言葉を零す雫ちゃん、何故こんなことしているかといえば、恋愛相談である。

小学校の頃、雫ちゃんと同じ剣道仲間の初恋の人(名前は聞いても顔を真っ赤にするだけで教えてもらえなかった)がいたらしくその人とまた会えた時に告白したい為、女というか女子力を磨くためこうして私に相談してきているのだ。

なんというか、青春してるな~と思う。学校ではお姉さまと慕われ、男子に告白されているけど凛と断っているのにこの時だけ恋する少女になっちゃうのだ。雫ちゃん可愛い。

 

「もう!そんな弱気でどうするの、そんなのだったら誰かに取られちゃうよ!」

「うっ!で、でも……」

 

顔を真っ赤にしてアワアワとする雫ちゃん、なんというか学校とのギャップが激しい。

 

「引越しした場所で可愛い女の子がいたりして」

「ウッ!!」

 

私の一言でビクンッと体を硬直させる雫ちゃん。

 

「その女の子が初恋の人に告白したりして」

「……ッ!!??」

 

ビクッビクッ!と更に体を震わせる。

 

「そしてその初恋の人が……」

「もう止めて!」

 

うぅー!と耳まで真っ赤になった頭を抱えて悶絶する雫ちゃん、どれほど初恋の人のことを思っているんだろう?

 

「もう!この話は無し!一旦終わりよ!」

「あはは、ごめんね。雫ちゃん」

 

やっぱり顔を真っ赤にする雫ちゃんは新鮮だ、いつもは私が弄られるからなぁ……

 

「そういえば、香織は気になっている人とかいないの?告白されたりするんでしょう?」

「うーん、そこまで気になる人はいないかな」

 

私には現在好きな人どころか気になる人すらいない、なんというか大体の男の子は私をいやらしい目で見てくるような気がするし。

 

「光輝とか……」

「えっと、光輝くんはちょっと……」

 

確かに光輝くんは私をそんな目で見たりはしないけど、ご都合的思考で物事を言ってしまうから。友達としてはいい人なんだけど……

雫ちゃんも「まぁ、そうよね……」と苦笑する。

 

オレンジジュースを飲みながら、小さく思う。

 

 

はぁ~私にもいつか春が来るのかなぁ~?

 

 

私は顔の見えない王子様を想像しながら雫ちゃんと話し続けるのだった。

 

 

 

 

 

ある日私は学校帰りに商店街に来ていました。

本来ならいつもの帰路で帰るんだけど、今日は気分が変わり、商店街に通ることにしたの。

 

ガヤガヤと聞こえる人々の騒音を振り切るように正面通りを歩んでいく。

 

 

――なぁ、あの子めっちゃ可愛くない?

――ん?お、マジだ!おい、お前誘ってこいよ。

――嫌だよ、拒否られるのが目に見えてるじゃねぇか。

 

 

そんな声が騒音に混じって微かに聞こえてくるがこれにはもう慣れたものだ。

もう自覚しているけど私の容姿は大変整っているらしく、事務所の人やナンパの人によく声をかけられたりするのだ……大半は笑顔でお断りしているが。

 

だけど、来る日も来る日も私に如何わしい目で見てくるため、いつしか家や雫ちゃん以外に本心を打ち明けるようなことができなくなってしまった。……光輝くんは私をそんな目で見たりはしないけどなんというかストーカー紛いのことをしてくるというかなんというか……とにかく本心を打ち明けることができない。

 

だから、私は雫ちゃんのように純粋に恋ができる人たちが羨ましい。

 

「……あれ?」

 

そう思っていると、どうやら裏路地が騒がしくなっていた。

 

慌てて人混みをかき分けて向かうと何やらお婆ちゃんが男の子を庇っていて、それを罵っている柄の悪い男性が正に怒り心頭といった様子でした。

どうやら察するに男の子が男性にぶつかったせいで服が汚れてしまったらしい。

 

 

――どうしよう

 

 

助けに行く?できない、私が行ったところで助けられない。

次第に恐怖で体が震え、動くことができなくなる。周りを見ても誰も助けに行くことはなく、見て見ぬふりをしていた。

 

――どうして?

 

 

そう思ってすぐに気づく、決まっている怖いのだ。あの柄の悪い男性に何をされるかわからないから。

ついに怒り心頭だといった感じに男性は左手で首根っこを掴み、持ち上げる。

 

「あぁ!!?」

 

少年の悲痛な声が聞こえる。

そして、男性は右手で男の子を勢いよく殴りかかる。

 

 

――危ない!

 

 

私は次の最悪の出来事を想像して目を逸らしてしまう。しかし訪れたのは、打撃音でも少年の悲鳴でもなく――

 

 

――パシッという拳を防いだ音だった。

 

 

「………………あ」

 

 

私は無意識に吐息を零していた。

 

柄の悪い男性の拳を受け止めていたのは私の身長に近い背丈の一人の少年

艶やかな黒髪に黒色のメガネをかけ、大半の者が通り際に振り向きそうな整った容姿を持った少年が突き刺すような鋭い視線で柄の悪い男性を睨んでいて。

 

そして、次の瞬間――

 

――商店街に絶対零度の吹雪が訪れたかのように重く冷たい圧力が襲い掛かった。

 

 

「失せろよ、オッサン。ガキ相手にそこまでする必要はないはずだ」

「ひっ!!」

 

 

冷たく、そして重たい平坦な声が裏路地で響き渡る。そのあまりにも冷たすぎる声と圧力により柄の悪い男性は悲鳴をあげ、一歩後ずさり――背を向けて逃げ出した。

男性が見えなくなると彼がフゥとため息をつくと共にさっきまでの圧力が霧散した。

彼は少年が落とした本を手に取りパンパンと払い、突然柄の男性に落とされたことで涙目になっている少年に本を手渡した後彼は少年と同じ目線までしゃがみ込んで少年の頭を優しく撫で始める。

 

 

「大丈夫か?ほら、受け取れ」

 

 

それでも泣きかけになっている少年にポケットから小さな飴玉を取り出して、少年の手に渡した。嗚咽を零していた少年は彼から貰った飴を食べるとたちまち笑顔になり「ありがとう、お兄ちゃん!」と言って、その隣にいるお婆さんがペコッとお礼をして共に帰っていった。

手を振っている少年に応えるように手を微かに振るう彼に視線を戻して――

 

 

――微かに微笑む彼の姿に一瞬見惚れてしまった。

 

 

「………………ハッ!」

 

 

慌てて正気に戻ると彼は未だに少年の方を向いていたため、私は話しかけることに決めた。えぇ、決してあの笑顔に心を奪われたわけではないです。

 

 

「あ、あの……や、優しいんですね」

 

 

それが私が彼に初めてかけた言葉だ。その声を聞いてこちらに振り向いた彼の表情を見て――一瞬思考が停止した。

 

 

困惑そして嫌悪。

 

 

分かり易く言えば何だこいつ?とでも言うような視線でこちらを見てきたからだ。

いや、これはどちらかと言えば当然の反応なんだろうけど、私にとっては新鮮だった。

私だって多分突然知らない人に声をかけられたらそうなるだろうけど、大半の男子達は私を見るなり背中に寒気が走るような変な目で見てくるからなぁ。

 

 

「別に、あの男が気に食わなかっただけだ」

 

彼は私に関わることがめんどくさいとでも言うようにそう言うと早足で私から離れ路地裏から出て行った。

 

「え?……あ、待って!」

 

慌てて追いかけようと路地裏から出ると、商店街特有の人混みのせいで彼の姿を見失ってしまった。

まるでヒーローのように去っていくあの彼を思い出しながら思う。

 

「名前……聞いてればよかったな……」

 

 

 

数日後、私は近くのデパートに来ていました。

一応、新しい靴を買いに来たんだけど、とある人気カフェの今日限定デザート無料券をお母さんにもらったからだ、お母さん曰く「彼氏と共に行ってきなさい♪」らしい……お母さん、私に彼氏なんていないよ……

 

雫ちゃんと一緒に行こうかと思ったけど生憎雫ちゃんは今日は用事があるらしい。

 

……光輝くんと行くことも考えたけどそうした場合ろくなことしか起こらないからもちろん却下です。

 

そう思いながら定員からお金を渡し靴を受け取って、店から出る。

あとはもう、特別デザートを食べるだけかなと思って、とあるに人気カフェに足を運ぼうとして。

 

「なぁ、お嬢ちゃん。俺らと一緒に遊ばない?」

 

えっと、ヤンキーのような男性たちに絡まれました。どうしよう。

 

「ごめんなさい、急いでいるので」

「おいおい、少しぐらい付き合ってもいいだろ」

 

私はやんわりと断ってその場を後にしようとするが、強引に腕を掴まれてしまう。

 

「は、離してください!」

「いいから付き合えよ!」

 

有無も言わさない男性の言葉に私は顔を歪め、いっその事、大声を上げようと思い始めた時――

 

「おい、てめぇ。何俺らの前を通ろうとしてんだ?」

 

何やら声が聞こえた。私を取り囲んでいる人たちの端っこにいる男性が何やら話していた。ここからだと男の身体に隠れて見えないがどうやら絡まれたらしい。

 

 

「ん?あぁ、見えなかった。済まなかったな」

 

――あれ?

 

おかしい、この声にどこか聞き覚えがある。そう、それは――

 

 

「ハァ?逃すわけねぇだろ?おら、慰謝料に財布の中身を全て出してもらおうか?」

「ほぅ?お前みたいな存在が金を使う知能があったんだな?あぁ、すまないこれは失礼なことをした、てっきり脳まで筋肉な脳筋だと思っていたよ塵芥」

男の身体に隠れていた者が明らかになる。

それは――艶やかな黒髪に黒色のメガネをかけ、大半の者が通り際に振り向きそうな整った容姿。あの時の私を助けてくれた少年だった。

 

喉が干上がるかと思った。彼は助けようとしているのだ、見えなかったなんて言っているがそれは私を助けるための嘘なのだろう。

 

無茶だ、たった少年一人が男達6人に勝てるわけがない。

 

私は逃げて、と言いたかったそう思い声を出そうとするが恐怖で声を上げることができなかった。

 

「このオタク野郎が!!覚悟は出来ているんだろうな!!」

 

彼と話していた男がついに怒り狂い、彼の持っていた本を地面に叩きつけ、そのまま彼の顔面に殴りかかる。

私は次の瞬間を容易く想像して、小さく悲鳴をあげ、目を瞑ってしまい――

 

 

「―――――――――――――――――あ?」

 

 

彼の重く響く冷たい音が聞こえ、ゴッ!!という鈍い音と何か重たい物が倒れる音が聞こえた。

ゆっくり目を開けるとそこには――

 

――床に倒れて気絶している男と地面に落ちた小説をパンパンと払い、悲しそうにしている彼の姿だった。

 

 

『……………………………………え?』

 

 

男の人達の疑問の声が全員ハモって聞こえた。

目を瞑っていた香織の知らないことだが男達からすれば日色の小説を男が叩き落としたところから日色の姿がブレ、次の瞬間床に崩れ落ちる仲間の姿があったのだ、驚くのはある意味当然だろう。

 

まぁ、そんなことを知らない香織は日色が無事なことにホッと一息着いたのだが。

 

 

彼は気絶した男の襟首を掴んで私や男の人達の方向にポイッと投げ――

 

「一度だけ言ってやる、……消えろ」

 

冷たい声と共に数日前襲った冷たい圧力が再び襲い掛かった。

私も突然の圧力に体を縮こませてしまう。

 

『ひっ!』

 

男達は慌てて、倒れている男性を抱えバタバタとその場から逃げていく。

 

 

助けられた。

 

 

漸くたってそのことに気づき、腰が抜けて座ってしまう。

 

慌てて震える体を奮い立たせ立ち上がると、彼はハァとため息をついて、心なしか落ち込んでいるように見えた。

私はこの機会を逃すまいと勇気を振り絞って声を掛けることにした。

 

「あ、あの……前に会いませんでしたか?」

 

その声にビクッと震え、振り返った彼の表情は驚き一色で――

 

 

「いえ、人違いです」

 

 

次の瞬間、無表情に戻った彼は、スタコラサッサと私から距離を離して歩いて行く。

 

 

え?

 

 

「ま、待って!嘘だよね?絶対一度会ってるよね!?」

「いえ、気のせいです、人違いです。では私はこれで」

 

慌てて声を上げるけどもすぐさま返答と共にスタスタスタと早足でその場から離れていく。

息をつく暇もない、とは正にこのことだろう。

 

 

「待って!お礼をしたいの!」

「いえ、結構です。急いでますので」

 

どうしよう、一向に止まる気配がない。

えっと、えっと、彼を止めるような物は……

 

 

次の瞬間、ピカッと私の脳裏に何かが閃いた。

思い出されるのはお母さんに渡されたもの。

 

「あ、あの!今日限定の特別スイーツの店があるんです!一緒に行きませんか!?」

 

 

スタコラサッサと歩いていた彼の進行が止まった。

 

 

「………………………………………………………………………………何?」

 

 

 

 

テーブルの上に乗っている二つの美味しそうな限定商品『スペシャルショートケーキ』にコーヒーとオレンジジュースが置いてあり、私の目線の先には手に持っている小説を片目に見ながらこちらを見つめている彼の姿があった。

 

彼に特別スイーツの話をすれば見事乗っかってくれて、一緒にお茶を誘うことができました。

これを機に彼と話せたらいいなぁ、とは思うんだけど、なかなか会話をする勇気が出てこない。

 

彼はコーヒーを一口飲むと、本を閉じて私に向けて口を開いた。

 

「そういえば、どうしてあんなことが起こったんだ?」

「え、えっと。新しい洋服を買おうとデパートに向かったら、絡まれちゃって」

「あぁ、ナンパか」

 

慌てて答えると、ふむっと頷いて、再びコーヒーを一口飲む。

どうやら彼が言うにはあの時、少年を助けたのはあの子が持っていた本を男性が粗末に扱ったからだと言っているけど、本当は助けたかっただけなのだろう。

 

「だから、あの時助けてくれてありがとう。私は白崎香織です、貴方は?」

「神代日色だ、別に気にするな」

 

そう言って彼、神代日色くんは、ケーキにフォークを突き刺して一口食べる。

私も日色君に釣られて、ケーキに手をつける。

 

優しい甘さといい酸味の苺が合わさってとても――

 

「……美味い」

「美味しい!」

 

声が一緒にハモりつい笑いそうになってしまう。

日色君は微かに微笑んでいたが、その笑顔を見ると心が少し暖かくなる。

 

私はそれから、チャンスだと思っていろいろなことを話しました。

学校のことや自分の紹介、何が好きなのかなどの他愛のない話をすることが雫ちゃんと話すときのように楽しかった。

彼は、少し呆れたようにしていたが自分のことを少しだけ話してくれた。

 

よく考えたらこれほど男の子と話したのは初めてだったんじゃないかなぁ?

 

日色君はいうならば光輝くんとは似ているようで全く別の優しさを持っていた。

利益がなければ助けない、ギブアンドテイクを信条にしていると言っているけど、私を助けたように他人を思いやる優しさを持っていた。

 

光輝君はご都合主義の解釈で物事を解決したりするけど、それは返って迷惑になったりする時があるもんなぁ。

 

その後私はお別れの前に日色君に連絡先をナンパのような行為で知ってしまったけど別に構わないよね♪

 

 

 

『で、突然電話をかけてきてどうしたのよ?』

「う、うん。少し話したいことがあって」

 

その日の夜、私は自分の部屋で雫ちゃんに電話をかけていた。

 

『ふーん、香織が私に話したいことねぇ……』

「むぅ、別に何か悪い?」

 

電話越しに聞こえてくる雫ちゃんの意地悪そうな声に私は少し不思議に思う。

何かおかしな事でもあったかなぁ?

 

『まさか……好きな人ができたとか?』

「ゑ?」

 

雫ちゃんのエスパー的な直感にビクッと体を震わせる。

ど、どうして知っているの!?

 

『え……?まさか本当に出来たの!?』

「えっと、うん…………好きな人ができたの……」

 

今日の彼のことを思い出して…………は、恥ずかしい//

私は今日起こったことを雫ちゃんに伝えた……あ、名前は伏せたからね!?

 

『ま、まさか……香織の心を掴む人がいるなんて……』

「ちょっと待って雫ちゃん、あなたは私をなんだと思っているの?」

 

親友が自分をどう思っているか気になるところだ。

 

『まぁ、私もそんなことが起こったらその人のことが気になるわね』

「そうだもん、私は普通の女の子だもん」

『あぁ、はいはい。ごめんなさい』

 

しっかり反省して欲しい。

 

『それで、あなたの思い人は一体なんて名前なの?』

「えっとね!か――」

 

ちょっと待て、もしこれで日色君の名前を言ってしまえば不公平じゃないかな?

雫ちゃんも好きな人の名前を隠してるし……

 

「やっぱり言わない!」

『もう!そんなことに意地を張らないで教えなさい!』

「いーやー!雫ちゃんが教えてくれなければ教えない!」

『そ、それはちょっと……』

「じゃあ私だって教えないもん!」

 

慌てている雫ちゃんにそう言ったあと、通話をプツッと切る。いい気味である。

自分でも自覚している、私が日色君のことを好いていることぐらい。

 

「また、会えるよね……」

 

ベットの枕を抱きかかえながら、ケータイに載っている『神代日色』の連絡先を見つめる。

我ながら安い女だとは思っているけど、別に構わない。

 

大好きです、日色君♪

 

 

 

 

ただ、彼女は一つの可能性を見落としていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ッ!??」

 

自分の部屋で小説を読んでいた日色は突然の寒気に身体を硬直させる。

 

「……気のせいか?」

 

(あるぇ?どうして今心臓を鷲掴まれたような感覚に陥ったんですかねぇ?ま、まさか!あの死の帝王と呼ばれる骸骨に『心臓掌握(グラスプ・ハート)』されましたかねぇ?終わった?終わちゃった?まだだ!私はまだ死なんぞジョジョ!!)

 

やはり彼の思考は今日も平常通り残念である。

 




最近、本と美味しい食べ物を探しに旅に出る日色とその後ろを慌てて着いてくるハジメちゃんの夢を見た。
そんな小説を書きたいなぁ、と思うこの頃。


誰か!金色の文字使いを書いてくれ!


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幕話 ありふれた少女の恋愛事情

テストが終わったーーー!オワッタァアアアアアアア!!!

今回はリハビリのために三人称に挑戦!
駄目文ですし、物語も進みませんが、ご了承ください。





やっぱり恋愛って難しい、誰かコツを教えてください……(懇願)


南雲ハジメは困っていた。

 

あの時、日色に救われて以来、彼の顔を見るたびに胸や顔が熱くなる。

最初は風邪かな?と思いもしたが温度計に記された数値は常に平熱、では日色に会うたびに発症する病があるのか?そんなわけがない。

最近では、顔すら見ることが難しくなってきている。

 

 

南雲ハジメは慌てていた。

 

別に男子に告白されたわけでもないし、美少女に声をかけられたわけでもない。

では何故慌てているか?

 

答えは簡単。

 

 

 

 

 

『ハジメ、俺の家に来ないか』

『……………………………………ゑ?』

 

 

 

ハジメの大切な親友、神代日色に家に誘われたからだ。

 

 

春が近づいてきた中三年の三月半ば、高校受験が終わり、今までの勉強した分思いっきり遊ぼうぜ!という期間。

彼曰く適当に決めた高校にハジメも行くために勉強し、見事合格した後、お祝いという理由で日色にハジメは自宅に誘われていた。

ハジメが彼と同じ高校に行こうとした理由は簡単だ。

 

『神代日色と離れたくないから』である。

 

簡潔に言えばハジメは日色に依存していた。

まぁ、本心を偽り、親以外に拒絶されていた彼女を日色は救ったのだ。依存されるのは仕方ないだろう。

どっかのヤンデレ女神とは違って、日色からすればハジメは豹変するまではいい奴認定され、しかもハジメは決して他人に迷惑をかけない。

 

ただ、日色の匂いがすると落ち着く程度である。

 

 

閑話休題

 

 

そんなわけでハジメからすれば友達の家に行くということは一種の憧れとなっている。

親以外に拒絶されていたため恋愛面には疎く、「ウチ来る?」→「今日は親はいないんだ」→「アーッ!!?」みたいな展開は知らないし、そもそも日色(バカ)にそんな展開が起こせるわけがない。

 

だがしかし、ハジメにとって彼の家に行くことは胸の中にある『何か』が燃えているが故に簡単に言えば恥ずかしいのである。…………決してPCで邪な物を見てしまったわけでは無い、無いったら無い。

 

そんなわけで現在、ハジメは日色の家のチャイムで押そうか押さないか行ったり来たりしていた。

 

(うぅ~、ど、どうしよう。やっぱり押せないよ~、で、でもここに来て帰るのは……うぅ~、な、悩むなぁ~)

 

とまぁ、こんな感じ。まさに悩める少女である。

家のチャイムのボタンへと指が伸びたり引いたりして一分か十分後。

悩む少女ハジメに気づいた日色が家から出るが未だにチャイムを押すか押さないかで悩んでいるため、一切気づいていなかった。

 

「ぅ、ぅう~」

「で、いつまでそこにいるんだ?ハジメ」

 

未だに気づかないハジメに痺れを切らしたのか日色はハジメの首元を人差し指でチョンっと突くと突然の声と感触と共にハジメの思考に空白が生まれ、口からは甲高い声が射出された。

 

「ひゃひんッ!!?」

 

ビクンッ!とまるで凍った秋刀魚のように硬直したハジメ、慌てて振り向くとそこに日色がいることにようやく気付いたようだった。驚愕により微かに青くなっていたハジメの表情が一瞬で真っ赤に染まり始める。

 

「ぃ、いいいいいいいいいつからそこに!?」

「2、3分前だな、なんか集中しているからほっといてやろうかと」

「言ってよ!なんだか恥ずかしいじゃん!」

 

うわぁー!と顔を真っ赤にしながら悶えるハジメを無表情で見つめる日色。内心では『おぅ、なんだか小動物みたいだなー、萌えるわー』なんて思っていたりする。

 

 

「…………ところで、まだ入ってこないのか?」

「慰めてよ!」

 

 

 

ハジメが日色の家に入って真っ先に見たものは豪邸の玄関といった感じだった。

傷一つない木製の床に靴などを置いてある美しい白い石、一応ハジメの両親も裕福な家庭であるが流石にこれほど綺麗な豪邸に入ったことなどない……友達の家に誘われなかったためだが。

 

「す、凄い家だね。両親は何やっているの?」

「お袋が大手洋服会社の社長、親父が車会社の専務取締役だ。俺の部屋に行くからついてこいよ」

「ま、待ってよ」

 

そう言いながら廊下をスタスタと進む日色にハジメは慌てて靴を脱ぎ追いかけていく。廊下の壁には一定間隔で飾られている美しい絵や写真にハジメは目を取られてしまい――

 

「あ、あれ?日色?」

 

――彼を見失ってしまった。

家の中で迷子になるなんて笑うしかないが取りあえず彼が向かっていた方向へと足を運ばせると2階に続く階段と微かに開いているドアを見つけた。

 

 

「こ、ここかな?」

 

 

恐る恐る、僅かに開いているドアを開いてみるとそこには――

 

 

プチプチプチプチ

 

 

――日色の母親らしい女性が居間らしき部屋で割れやすいものを包むために入っているプチプチを無言で押していた。

 

 

「……………………え?」

「……おい、ハジメ」

 

目の前の光景に目を疑いたくなるが次の瞬間、背後からいつの間にかいた日色に引っ張られドアを強制的に閉められる。

バタンッと閉められたドアに日色はまるで見られたくなかったものを見られたとでも言うようにため息をつく。

 

「………………全く、どうして迷子になるんだ?まぁいい、さて、俺の部屋に向かおうか」

「え?でも、今のは母さ「気のせいだ、ハジメは幻覚でも見たんだろう」

「で、でも「気のせいだ、いいな」……アッハイ」

 

有無を言わさない日色の声色にハジメは口を閉じてしまうと居間のドアからさっきの女性の声が聞こえてきた。

 

 

『あら?さっきまで12時だったのにもう3時になってるわ』

 

 

どうやら3時間もプチプチで費やしていたらしい。

 

 

『仕方ないわねー、ご飯を食べてから続きをしましょうか』

 

 

しかもまだ続ける気らしい。

 

 

ふとハジメは心配そうに日色を見ると、日色は普段のような無表情が一転して苦虫を潰したような顔で顔をしかめていた。初めて彼のこのような表情を見たがなんというか苦労人のオーラを醸し出している。

 

 

「ハジメ、先に階段に登っていてくれ。登ったあと左に曲がったところに俺の部屋があるから……」

「う、うん」

 

 

まるで逆らってはいけないような声の力強さにほぼ反射の域でハジメは頷き階段を上っていった。背後を振り向くと日色が居間へのドアを開き、さっきの女性のところに向かっていた。

 

 

『お袋!何でいるんだ!?今日は仕事だって言ってただろ!』

『あら、日色。それはねぇ、今日の3月7日じゃなくて8月の23日だったの。パッと見で似ているから間違えちゃった』

『何がパッと見で間違えただ!数字どころか文字数すら合ってないだろうが!!』

『コラ、日色。母さんをまるで年寄りみたいな扱いして、まだまだ若いんですからね』

『何が若いだ!お袋の黄金期は十数年前に終わっただろうが!!』

 

『……ところで日色、お友達でも呼んできたの?』

 

『その前に人の話を聞けぇぇええええええええええええ!!!!!!!』

 

 

途中下の廊下から聞こえてきた会話はハジメは聞かなかったことにした、普段の彼からは想像できない会話だったので彼の尊厳が音を立てて崩れそうだったからだ。彼の為にもあまりあの母親のことは聞くべきではないのだろう、どうやら完璧に見える彼も家では苦労しているらしい。

 

 

「……………………すまんな、ハジメ。少し騒がしくしすぎた」

「う、ううん。別に大丈夫だよ」

 

数分後、日色の部屋ではゼェゼェと乱れている呼吸を整えようと深呼吸を行い謝る日色にハジメはブンブンと首を横に振っていた。

 

 

「と、すまん、飲み物を持ってくるのを忘れたな。とってこよう」

 

 

そう言って、え?とハジメが声を出す前に立ち上がってスタコラサッサと日色は部屋から出ていってしまう。

バタンと閉まるドア。階段にトントンと降りていく音と共にハジメはようやく自分が一人で日色の部屋にいることに実感が湧いてきた。

 

 

(ひぇっ!?ど、どうしよう!?日色の部屋に一人でいるなんて、うぅ~は、恥ずかしいよ~//)

 

 

どこに恥ずかしがる要素があるんだ?と思ったそこの君、そこはあまり気にしてはいけない。乙女の事情だ。

ハジメは一度日色の部屋をぐるりと見渡す。

 

 

日色の部屋はたくさんの小説や漫画が本棚に綺麗に整理されており、床や窓にはホコリ一つなくゲーム機などは綺麗に棚に入れられており、いわば普通の男の子の部屋とでも言った感じだった。

 

中でもハジメの注意を引くものが一つ、それはベットに置かれている天日干しされ、綺麗に畳んであるシャツである。

 

 

「……日色の……シャツ……」

 

 

まるで餌に吸い寄せられた虫のようにハジメは無意識にベットに近づき、シャツを手に取ってしまう。

そしてそのまま、シャツを自分の顔に近づけ――

 

「はっ!……僕は何をっ…………?」

 

 

次の瞬間、ハッ!、と正気に戻り、ハジメは自分の顔に近づけたシャツを慌てて遠ざけて――

 

 

遠ざけて――

 

 

「べ、ベットに戻さなきゃ……日色に変な奴だと思われちゃう……」

 

 

遠ざけ――

 

 

「ベットに……戻さなきゃ……」

 

 

遠ざ――

 

 

「ベットに………」

 

 

徐々に再びシャツを自分の顔に近づけていく。おい、何やってんだ主人公。

そんな何処かの声を無視して、ハジメは謎の興奮と共に腕を自分に引き寄せて顔に日色が来ていたシャツを近づけ――

 

――シャツを抱き締め、めいいっぱい匂いを吸い込んだ。

 

 

「……ん、スゥ……フゥ……スゥ……」

 

 

天日干し特有の気持ちの良い太陽の匂いと微かに残った彼の匂いが混ざり合い、ハジメは吸うたびに落ち着きと幸福感が押し寄せて――

 

 

 

 

「ハジメ、何やっているんだ?」

「ピャイッ!!!!??」

 

 

 

 

――飲み物とお菓子を持って来た日色に見つかりましたとさ、ちゃんちゃん。

 

 

 

 

「あー、見なかったことにしておいとくからさ。その、なんだ?元気出してくれ、ハジメ」

 

 

返事がない、ただの屍のようだ。をまさに実行したかのように、暗いオーラを迸ながら部屋の隅っこで体育座りで落ち込んでいるハジメ。皿にクッキーやケーキ等の色とりどりなお菓子を乗せて、二つのコップと炭酸飲料やフルーツジュースを持ってきた日色が慰めているがあまり効果がないようだ。

と、暫く声をかけ続けているとハジメが涙目になりながら微かに振り向き、一言小さく零した。

 

 

「……………………怒ってない?」

「いや、何故怒る?」

 

 

逆に日色が聞き返すと、ハジメはホッ、とため息をつき暗いオーラが霧散し始める。

 

 

 

 

 

「まぁ、見た時は若干引いたがな」

「どうしてそこで上げて叩き落とすの!!?」

 

 

 

無自覚に打ち出された上げて落とす日色の言葉のミサイルにハジメは悲しみの涙を流した。

 

 

「もう!ひどいよ、日色!」

 

まさに怒り心頭です、とでも言ったハジメに日色は一切変わらない表情で「すまん」と謝る。残念、全く反省していないようだ。

 

 

「日色!本当に分かって――」

「あー、はいはい。わかったからちょっと食え」

 

「――むぐっ!?」

 

 

未だに説教しようと口を開いたハジメの口にホイっ、と持ってきたクッキーを放り込む。

ハジメは慌てて口に入ったクッキーを飲み込み、再び日色に文句を言うために口を動かすと、サクサクとした食感にまろやかに広がる甘味、まるで高級なお菓子でしか味わえないような美味しさが口内に襲いかかり――

 

「(ゴクンッ)……おいしい」

「おっ、そうか。作ったかいがあったな」

 

再びもう一枚とクッキーへと伸ばしたハジメの手がピタッと停止した。

 

「………………え?これ日色が作ったの?」

「ん?まぁな、基本的な料理は俺が担当しているからな。この程度はお前でもできるさ」

 

 

そんなわけあるか。

日色の料理の腕は軽く高級料理店に匹敵するほどの腕前を持っており、毎日両親を喜ばせている程だ。

決して日色のような腕を持った中学生など世界に数人しかいないだろう。

 

「ま、そんなことは置いておいて。ひとまず乾杯しようぜ」

「いや、僕にとっては重要なことなんだけど……」

 

料理もできる完璧クール系少年(バカ)の実力にハジメは自分の無力さを嘆いた。

が、不屈の精神を備えたハジメにとってそんなことなんてもう慣れたものだ。決して泣いてなどいない、無いったら無い。

炭酸飲料の入ったコップを日色が掲げるとうぅ~と声を零しながらハジメもそれに応じてコップを掲げ、ともにカシャンと鳴らす。

 

「ほら、乾杯」

「……乾杯」

 

とまぁ、自分の無力さに嘆いた少女と単なるバカのパーティーはなんとも締まらない感じで始まったのだった。

 

 

そんなわけで二人だけのパーティーは始まったわけだが特に特別なことをしているわけではない。

日色が用意したお菓子を食べながら、ゲームをするというだけとなっている。

 

カチャカチャカチャカチャとコントローラーを高速で押す音が部屋に響き、テレビの画面内で二体のキャラが高速で動き回っていた。

 

「ふははははは!!どうだ!ハジメっ!防戦一方じゃないか、このままくたばるがいい!!」

「フッ!甘いね日色!このキャラによる逆転技を忘れてるでしょ!」

「なっ!しま……」

「もう遅い!これで終わりだァ!」

「ぐわぁああああああああああああ!!」

 

 

『GAME SET!』

 

 

とテレビから聞こえてくる音声と共にコントローラーを置いて両手両膝をついている日色と勝った!とでも言うように人差し指を立て片膝立ちで勝利のポーズをしたハジメが満面の笑みでいた。

 

「フフフ、これで4連勝目だね。日色」

「クソッ、次だ!次こそ勝ってやるよ!」

 

勝ち誇っているハジメに日色が悔しそうな表情でビシッと指を指す。

ハジメは「ふふ、いいよ」と再びゲームに取り掛かる。

 

彼と共に居るたびに楽しさが増し、よく笑ってしまう。

 

トクンッ!トクンッ!と彼と会うたびにハジメの胸は何度も熱くなる。

数年前までは一欠片も思わなかったようなことがハジメにとって今では自然のことになっている。

 

「そういえば……」

 

ゲームをしていると隣で日色に声をかけられた。

 

「どうしたの?日色」

「いや、何。ハジメは将来の夢はあるのかと思ってな」

 

将来の夢、それはハジメにとってあまりに気にしなかったことだ。まぁ将来のことが決まっているということもあるがいじめに遭っていたハジメにとって未来のことはあまり考えない。現在が辛い彼女に未来なんてものはあまり考えたいことではないのだ。

 

 

だけど、

 

 

今の彼女は違う。

 

 

稀に見る自分の両親を見て、時々思ってしまうのだ。

 

 

自分の将来のことを、隣にいてくれる人のことを。

 

 

もし、

 

 

もし、自分の隣で共に歩んでくれる人がいたとすれば――

 

 

それは――

 

 

その時にいてくれる人は――

 

 

ハジメは無意識に、彼へと目を向けてしまう。

日色はハジメが自分を見ていることに気づいたのか、こちらを向き――

 

 

「――どうした、ハジメ?俺の顔を見て?」

「――ッ!?な、なんでもないよ!!」

「そ、そうか」

 

つい彼を見てしまったハジメは顔を真っ赤にして慌てて目を逸らし、ゲームに集中する。

思考を打ち切り、画面内のキャラを動かして日色のキャラを倒そうと動かしていく。

 

 

意識してはいけなかった。

 

 

思ってはいけなかった。

 

 

もし、ハジメがそれを自覚してしまっては――

 

 

 

 

 

――もう、彼女は自分を抑えることはできないから。

 

 

 

彼女の恋の蕾はもう、今か今かと開花の瞬間を待っていた。

 




次から高校編です、異世界までもう少し!

頑張れ日色!負けるな日色!修羅場になることは確定したけど、頑張ってね!


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文字使い日記④

こんにちわ、アルテールです。

全然話が進まねぇ!!と思うこの頃、いつになったら異世界に行くんですかねぇ?
あ、あと一話二話のリメイク終了しました。


( ;∀;)月(*゚▽゚*)日

 

舞い散る桜の花弁を見るとその散り様が自分の未来を暗示しているようで恐怖しているどうも、皆さん日色です。

中学生活も終わり、今年からは高校生活を始める春休みだ。

 

えぇ、原作が開始しますよ、ベイベー!

 

いや、頑張ったよ俺。高校の進路をちゃんとありふれたような高校を選んだよ?

だけど、だけどさ……

 

……どうしてハジメちゃんも一緒の高校を選んでいるんですかねぇ!?

 

こ、これが強制的に異世界に飛ばされるということの意味か!?どの高校を選んでもハジメちゃんがハッピーセットでついてくるということ!!?あれか、マ○ドか!

しかも、メールからは八重樫さんも白崎さんもその高校らしいんだぜ!?今すぐ高校を変えようかと思ったけど、時既に遅し、先生に提出した後だった。

 

 

ハイ、原作介入決定♪俺の死亡フラグも大増殖っと♪

 

 

死んだ。

 

( ;∀;)月(^◇^)日

 

高校の試験に合格した為、ハジメと共にパーティーをした。

えぇ、何故か母さんがプチプチに熱中していたり、ハジメちゃんが俺のTシャツを抱き締めていたりしたけどまぁ、楽しかった。

ハジメに臭いなんて言われたらどうしようか?

あれか、反抗期か、「お父さんの洗濯物と一緒に洗わないで」とか言われる年頃だからなぁ。俺の匂いが腐った卵の匂いがするなんて言われた日には1ヶ月ほど寝込みそうだ。

 

臭く、ないよね……?(涙目)

 

( ̄∇ ̄)月( ̄^ ̄)ゞ日

 

今日は待ちに待った(永遠に来ないでほしい)高校の入学式。

試験の結果は見事に二位、問題から最も取れそうな人の点数の合計を予想しギリギリ届かない点数を取った。いやまぁ、全教科を全て95点にして出したらカンニングされてんじゃないかと思われたのではないかとヒヤヒヤしたが、まぁそんなことはなかったらしい。

というか、泣くな両親!どうして母さんも父さんも入学式のときに号泣するんだよ!?

写真を撮るときも泣き続けて、俺の肩に涙が落ちてくるんですけど!?

 

おい、ハジメ!そこでこっそりと見てんじゃねぇ!苦笑すんな!助けてくれよ!

 

 

異世界召喚が近づいて来てとても憂鬱な件について。

もはや異世界に飛ばされるのは確定だが、一つ懸念があった。

 

 

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そう、原作にはハジメ達が転移した時は明確な日付が記されていないのだ。

しかも書籍と原作の場合とは転移する時間帯が違っており書籍では朝、原作では昼食の終わりとなっているのだ。

ここからは転移する可能性を書いていこう。

 

まず、前提条件は召喚する日がハジメが憂鬱だと言っていた月曜日だということ。

これは書籍版と原作も同じである為月曜日に転移する可能性が高い。

そして次、クラスの大半が17歳だったという事、おそらく異世界にいる間に誕生日を迎えていると考えると異世界召喚前は大半が16歳だったと考えるべきだろう。

また、書籍版では制服が半袖のような夏服では無く、またブレザーを着ていたということはまだ、暑い夏ではない。

つまり、これらを真実だと仮定して、考えると召喚される日はおおよそ高校二年生の4月から5月の範囲で起こる可能性が最も高いということだ。

 

あと、恐らく一年か。後一年すればハジメちゃんの百合百合しい展開が起こるのかぁ、やっぱりリア充は死ね、氏ねじゃなくて死ね。クリスマスで一人で過ごす悲しさを味わえ世界中のリア充めらが。

 

( ̄∇ ̄)月( ・∇・)月

 

入学式の翌日、クラス発表があり新たな友達を作れる期間である。

……まぁ、俺なんかが作れるわけないけど。主に言語のせいでな!クソッタレ!

えーっと、クラスメイトを見るに――おぉ!最大級の死亡フラグである白崎香織がいない!密かに内心でガッツポーズである。まぁ代わりにハジメが居ない為俺の一年がボッチ確定したが。

て、あれ?どっかで見たことのあるような名前が……

 

「日色」

 

と次の瞬間肩をトントンと叩かれた。

 

…………………………え?

 

ギギギと後ろを振り向くとそこには長い髪をポニーテールにして、こっちにニコニコと微笑んでいる侍女こと八重樫雫がいましたとさ。

 

アエェェエエエッ!?八重樫!?八重樫さんナンデ!?

 

「なんだ、ポニーか」

「なんだ、って何よ久しぶりに会った友達なのよ?というかいい加減雫って呼んでくれないかしら」

「断る」

 

というか、あんたとは毎度毎度メールでやり取りしているじゃん。知ってる?君達のメールで携帯の容量が三十%埋まったんだよ?スマホに機種変更したから今は大丈夫だけど。っていうか近い!近い!胸が、胸が!豊かな母性の象徴に目が行きかねないから離れてくれぇええええええええええ!!

 

制服越しに膨らんでいる巨大なサイズに俺に突き刺さる精神ダメージはクリティカルヒット!

 

▼ 片翼 の 女神 の 攻撃 !

▼ 効果 は 抜群 だ !

▼ 神代 日色 は 力尽きた……

 

というログが出てきそうだ。

久しぶりに八重樫さんと会話しながらチラッとクラスメイトが書かれてある表を見ると俺と同じクラスに八重樫雫の名前があるんですよね。

 

HA!HA!HA!どうやら俺は八重樫と同じクラスらしい、死んだ。……遺言書でも書いておこうか?

 

俺の死亡フラグが留まることを知らないんだが。

 

( ̄∇ ̄)月(。・ ω<)ゞてへぺろ♡日

 

こんちわ、震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!!サンライトイエローオーバードライブ!!!したい日色だ。

前回の日記から約一週間が経過した。え?何をやっていたかって?友達がいないから図書室の本を読みまくっていただけだよ!(号泣)

同じクラスの友達なんて八重樫さんしかいないからね!基本的迷惑をかけないように距離をあけているのさ!(キラッ!)昼食などに必ず誘ってくるからあんまり意味がないけどなッ!意味ないけどなッ!!

そのせいでハジメとの二人だけの時間は放課後ぐらいになってしまい拗ねられてしまった、どうしろって言うんですかね?

最近はこっそり盗んだ屋上の鍵を幾つか複製して、昼食の時屋上で静かに食べ、本を読んでいるためある程度溜まっているストレスを発散できるからいいけど、これがバレたら平穏な時間がまた無くなるからなぁ。バレないようにしないと。

 

あ、あと今日、ハジメが初めて友達が出来たよ!と喜んで報告してきた。

 

……俺は友達じゃなかったのか(絶望)

 

そう思い絶望しているとハジメが慌てて弁解し始めた。どうやら初めての女の子友達だったらしい。……何だてっきり俺は友達じゃなかったのかと思ったわ。

 

名前を聞いてみるとハジメは満面の笑みでこう言った。

 

 

「うん!白崎香織さんって言うんだ!」

 

 

…………………………………………………………え?

 

( ̄▽ ̄)月(*゚▽゚*)日

 

やっぱり世界は俺のことが嫌いなのだろう。

ありふれた今日の昼食、屋上へと向かおうとした俺は見事に八重樫さんに捕獲され、校庭で一緒に食べようと誘われた。いや、厳密には誘われたではないよアレ、世間一般では誘拐って言うんだよ?どうして俺の手を万力のごとく握り締めるんですかね?あれか?断ったら俺の手を握りつぶすつもりなの!?

 

そんなわけでほぼ引きづられるように連れて行かれる俺氏は八重樫さんにさぁいざ行こうという寸前で現れたのは天之河率いる八重樫さん除いた勇者一行。

 

「雫、俺達と昼食を摂らないか?」

 

ナイスだ!天之河!お前はやっぱこういう時に勇者だよな!

そんな彼に内心ガッツポーズする俺、さぁ行くがいい八重樫雫!お前を救ってくれる奴はハジメか天之河しかいない!

 

「せっかくだけど遠慮するわ。私は日色と食べるから」

 

なんでぇえええええ!?行けよ!天之河が俺を視界に入れると「雫にあまり迷惑をかけるなよ」と言っているんですけど!?お前、それ剣道の時からずっと聞いている気がするんだが。

というか雫さん?あんた俺の意見ガン無視しているよな?俺、一度もいいよともYESと言ってないよ?

 

「い、いや。だが……」

「別にいいじゃない。第一、どうして光輝に決められなきゃいけないのよ」

 

あ、やばい。コレ、天之河が負ける気がする。が、さすがは勇者、未だに諦めず言い合い続けている。

これはチャンスだ、ちょうどよく八重樫も注意を天之河に向けているし。

俺はこっそりと気配を断ちながら、その場から逃走する。

 

目指すは平穏の場所、屋上だ!!

 

 

「なっ!日色!?逃げたわね!!?」

 

 

途中廊下で聞こえてきた声は聞かないことにする。

男は過去を振り返ってはいけないのだ。

 

 

片手にお弁当を持ちながら屋上へと続く扉へとなんとか辿り着く。

あ、危ねぇええええええ!なんとか逃げ切れて助かった。さて、少し時間が削れたがここからが俺の平穏な一人の時間が始ま――

そう思い、鍵を使って屋上の扉を開ける。

 

「え、えっと日色君?な、何しているの?」

 

――始まりませんでした。

ギギギギとゆっくり壊れた機械のように振り向くとそこには白崎という名の女神(死亡フラグ)が。

 

ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!???

 

「……何の用だ、白崎」

「え、えっと、雫ちゃんと一緒にご飯食べようと思ったら日色君を見つけたから……」

「ポニ……八重樫なら天之河達と一緒に食堂で食べているはずだ、じゃあな……」

 

そう言って俺はサッサと屋上へと足を踏み出そうとして――

 

「ま、待って。どうして日色君は屋上に行っているの?」

 

再び手を掴まれて止められた、おのれ!どうやっても行かさない気か!?

 

「人が居ないからだ、静かな所が好きだからな」

「じゃ、じゃあ。い、一緒にご飯を食べていいかな?」

 

…………………………は?待て待て待て、どうしてそうなった?会話が成立してないんですけど?

自分もおかしな事を言っていることに気づいたのか、白崎さんは顔を真っ赤にさせ、身体をモジモジとさせている。

さて、どうする?本当なら断るんだが、これでもし先生にチクられたら――

 

白崎さんが先生にチクる

    ↓

クラスメイト全員に知られる

    ↓

クズやゴミなどと罵られ、仲間はずれにされる

    ↓

異世界に飛ばされて奈落に落とされる

 

ガタガタガタガタ(恐怖)

 

やばい、この白崎さん、かなりの策士だ。ここで断れば俺を確実に殺す作戦を立ててやがる。

な、なんて奴だ(愕然)

 

ハァとため息を吐く、なんというかこれぞ本当に一難去ってまた一難って奴ではないだろうか?

あぁ、平穏な時間が「さよならー」と去っていくイメージが見える……

 

「ハァ、わかった。いいぞ、一緒に食べても」

「ほ、本当!?」

 

さっきまでの赤面顔を満面の笑みに変えて喜ぶ白崎さん、残念ながら俺からすれば死の恐怖しか感じない。

 

「ただし、この屋上の事は誰にも言うなよ。面倒くさくなる」

「う、うん!」

 

もう一度俺は溜息を吐きながら屋上へと足を踏み出す。

 

やっぱり世界は俺のことが大っ嫌いなんだろうなぁ。

そう、思った俺は決して悪くないだろう。

 

ちなみに昼食は常に白崎さんに分解攻撃されないかヒヤヒヤでどんな味がしたのかわからなかった。

 

 

 



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文字使い日記⑤

お久しぶりです、アルテールです。
今回は主人公視点とヤンデレ女神視点を一緒に入れようかと思いましたがヤンデレ女神視点が長くなりそうなので区切ったため今回は短くなっております。

許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)


o(^▽^)o月m(_ _)m日

 

ザ・ワールド!止まれぃ!時よ!したい日色だ。

日が経つほどに近づいてくる原作開始日に怯えるこの頃、図書室の本は大半を読み終えたが、異世界に飛ばされる前にやり残したものがないか捜索中である。

ほら、異世界転移って一種の処刑だし?遺言を残すのもアリかなって思うじゃん?異世界に飛ばされて「わーい、異世界だー(・∀・)」なんてことができるのは主人公だけだ。現実的に考えてみろよ、突然異世界に飛ばされて勇者として戦え?アホらしくね?無理だろ?命懸けで戦うなんて無理に決まってる。

やっぱり?どこにでもいる普通の一般人である俺は主人公のように誰かを無償で助けようとも思わないし、できれば戦いたくもない。

丘村日色の行動原理がよくわかるような気がするな。

 

と、いうか異世界に飛ばされたらどうしようか?

うーん、ハジメが神様(笑)を倒すまでハイリヒ王国でイモリますかねぇ?ほら、魔王ハジメはクラス全員地球に返してくれたし。

 

いや、ダメだ。王国には勇者(笑)にヤンデレ募らせた一途(重)な乙女『中村 恵里』がいる。流石にハジメを馬鹿にするモブ達の一人である『近藤 礼一』のように剣をぶっ刺されて、『YOU DIED』、「アイツはいい奴だったよ……」みたいなこと言われるのはまっぴらだ。

じゃあどうする?奈落に落ちるか?もっと論外だな、命の危険が高すぎるし、第一、豹変したハジメに「よくも今まで馬鹿にしてくれたな」といった感じでドパンッ!されるのは嫌ですわ。

 

じゃあ、こっそり一人で王国から抜けるか?これしかないような気がする、でもエヒト神(糞)に駒にされる可能性があるしなぁ……。

 

あれ?もしかして詰んでる?

 

(´;ω;`)月(*^_^*)日

 

おかしい、最近、八重樫さんと白崎さんの睨めっこが多い気がする。というか何あれ?彼女達の目が笑ってないんですけど!?背後にス○ンドらしきものが出ているんですけど!!?おかしいな、「オラオラオラ!!」と「無駄無駄無駄!!」という幻聴が聞こえてきている気がするんですけど!!?

ていうか、お前らどんだけ昼食を一緒に食べたがっているんだよ!!毎日誘いすぎだっちゅうの!!

時々もう構ってられるか!と逃走をしているんだけど最近、彼女たちの敏捷性がありえないぐらい高くなっている。

気がついたら背後に回られるし、壁キックで追いかけてきたりする。おーいパンツ見えてますよー(ニッコリ)

ちなみに最近の逃走経路は窓からの脱出だ、重力がかかる前にこっそり持ってきたフックで屋上の手すりにかけて逃げております。

え?何故逃げてるかって?彼女達に関わったら勇者チームにエンカウントするからだよクソッタレ!!奴らに関わると奈落フラグが増築されていくんだよ!!

 

HELP!ヘルプミー!!助けろ、テンプレ勇者!またの名を対女神用人型使い捨て装甲板!君だけが俺の頼りだ!!

 

最近は一週間に二日のペースに校舎裏でハジメと食べるようになっている。え?屋上?白崎さんと八重樫さんにいることをバレてしまっているから最近はあまり使わないっすわ。

今日も作ってきた唐揚げを美味しそうに食べるハジメに癒されます。……しかしご飯を箸で直接ハジメの口に持っていくと顔を真っ赤にしているのはどうしてだろうか?高熱?熱中症?

 

そういえば最近別のクラスの檜山大介をリーダーとした小悪党組に目をつけられるようになった、いや、待てお前らはハジメに絡んできているんじゃないのか!?

特に檜山!なんでお前は俺を目の敵にしてんの!?白崎さんが恋してんのはハジメだろうが!!

 

(`・ω・´)月┌(┌^o^)┐日

 

最近、ハジメがクラスに敵愾心を持たれるようになった、原因はお察しの通り白崎香織だ。白崎さんは自分がハジメと話すたび、天之河やがハジメにグチグチと言っていた。

 

……無性に天之河をぶん殴りたくなってきたが、それはできない、ハジメに基本的学校では他人の振りをする約束をしてしまっているのだ。

 

ハジメは大丈夫だよ、気にしないでと言っていたが俺の気分は最悪である。あぁ、なるほど何もできない無力さとはこういうことか。

あまりの苛立ちさに誰もいなくなった校舎裏で右腕を全力で壁にぶん殴り、壁に罅を入れた俺は悪くないと思う。

 

 

…………………………あまりの痛さで泣きかけたのは秘密だ。

 

 

(`・ω・´)月( ´ ▽ ` )日

 

今日は何故か天之河に絡まれた、あれだ「俺と久しぶりに剣道の試合しないか?」と決め顔で言われた。

あれかな?決闘状みたいな感じっすか?

 

ふ、もちろん断りましたよ、だって竹刀持ってなかったし!?もう剣道なんて辞めたからね!!

 

まぁ、日色言語で言った場合――

 

「断る。俺にメリットがないだろう?第一俺はもう竹刀を持っていないしな」

 

 

バカァアアアアアアアアアアアア!!喧嘩売ってどうするつもりなんだよ俺は!!

クッ!と悔しそうにする天之河さん、そのまま帰れと思ったが、トントンと肩を押され、振り向くとなんとそこには竹刀を持ったニコニコ笑顔の八重樫さん。

 

「私が竹刀を貸すわ。それなら文句無いでしょ?」

 

…………あんた俺を殺す気か?

天之河光輝だぞ?あの天之河光輝だぞ!?あの大量の《暗き者》の軍団相手に一度も引かず守り続けた男だぞ!?(分からない人はなろう版の光輝アフター編を見てね♪)

骨も残らず殺されるに決まっているだろう!?(偏見)

 

「……いや、だが俺にメリットが「もし勝ったら私が飲み物を奢ってあげるわ」……チッ」

 

有無を言わさない彼女の表情に理解する。あ、これ無理なやつだ、と。はい、死亡確定です。

その言葉と同時に何故かクラスのみんなが騒ぎ出す。

 

――おい!あの神代と天之河が剣道の試合するってよ!

 

――きゃあ!夢の対決だわ!

 

――クールな神代君対熱血な天之河君の女を巡っての対決よ!見逃せないわ!

 

 

きゃあきゃあ、わあわあと騒ぎ立てるクラスメイト達、あのね、君たち?凡人な俺があの天之河に勝てると思ってんの?馬鹿なの?死ぬの?俺が死ぬわクソッタレ!!

 

天之河キサマァ!絶対あれだろ!!そんなに八重樫さんと白崎さんに振り向いてもらいたいのか!?今なら三十分以内にお電話頂いたお客様には送料無料で送ってやるよッ!!

そんな悲鳴は誰にも伝わる事はなく、先生に許可をもらい体育館で試合することが決定したのだった。

 

 

剣道の試合が終わって私、日色は現在自宅で引きこもっております。

 

戦闘描写?日記に書きはしない。

まぁ結果を報告すれば負けました。

 

いや、頑張ったよ?最初の二本はかなり粘って負けたけどさ、最後は一本取ったし。

我ながらよく頑張ったと思う、しばらく剣道をしてなくてこの成績ならかなり優秀だと言えるよね。

これで白崎さんも八重樫さんも俺に冷め、天之河又はハジメに行くはずだ。いやまぁ、白崎はもともとハジメ一筋だったけど。

 

いやはや、ホント今回は俺は頑張ったと思う。しかし、どうして最後は勝てたんかねぇ?気がついたら終わってたからあんまり覚えていないんだよなー。確か二本目を取られた時に誰かを見た気が……いや、止めよう。誰かを見たから力が発揮したとかどこの少年漫画だよ。俺はそんな妄想野郎でも主人公ではないんだから。ないんだからね!!(念押し)

まぁ、十中八九キレたのだろう、記憶が曖昧になるのはキレた時だけだし。

試合が終わったあと、胴衣を脱ごうと更衣室に戻ろうとしたとき何故か観客の中にハジメがいたんですよ。

 

見ないで!こんな俺を見ないでッ!!(懇願)

 

なんて叫びたくなったが、言語さんはそれを許してくれず、無言を貫くだけだ。

しかし優しいことにハジメは俺が気持ち悪い視線を向けていることに気がついたのかハッ!と眼を見開いて、その後ニコッと微笑んでくれた。

 

 

あぁ、癒されるわー(ほっこり)

 

 

……最近、自分は変態なんじゃないかと思うこの頃である。

 

 




やっぱり一人称は主人公視点以外書きにくい……
異世界に言ってからは日記と三人称だけにしようかと検討中です。


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白崎香織は恋敵を知る

……お久しぶりです、最近文才が低下してきたアルテです。

よぉぉぅぅううううううやぁぁぁあああああくっ!!!次話から異世界召喚編へと迎えるのですが今回はとっても文章が長くそして駄目文&ゲシュタルト崩壊している可能性があります。
深夜テンションで書いたからね、仕方ないね。

そんなわけで『なんでこいつこんな時にこんなこと言ってんの?』『言ってることおかしくね?』等という疑問はあまり気にしないでください、ご都合主義です。というか今回の話は見なくても別に物語に支障をきたしません。それでも別にいいよという器が東京ドーム並に大きい方はこんな駄目文をこれからもよろしくお願いします(´・ω・`)


私は中学を卒業した時、ひとつの高校に入学することができた。別にその高校に特別な思い入れがないというわけではないけど、そこには私の好きな人が通っているのだ。

その好きな人の名前は『神代日色』

これを機会に私はもっと彼のことを知って、いつか彼を振り向かせたいなと思いこの高校に入ったのだ。……と、いうか絶対に振り向かせてみせる。

 

だから幼馴染な雫ちゃんも一緒にその高校に入学するなんて思いもしなかった。まぁ、光輝君もわざわざこの高校に入学してきたのはどうしてかわからなかったけど。

 

クラス発表がされた時、私は真っ先に自分のクラスに日色君が居ないか探してみたけど残念ながら書かれておらず代わりに雫ちゃんのクラスに書かれていた。雫ちゃん、今すぐそこを変わってくれないかな?なんて言いたいけどもそんなことを言っても変われるわけがない。しかも同じクラスには光輝君がいて頻繁に私に話しかけてくる。

 

うん、そうだね。と返しながら周りを見てみるといつも見ていたポニーテールが目に映った。

あ、雫ちゃんだ!と思い、声をかけようとして雫ちゃんが笑顔を向けている者へと目を向けて――思考が停止した。

艶のある黒髪に刃のような鋭い目つき、黒い眼鏡をかけ大変顔つきが整っている少年、私が好きな日色君だったからだ。

 

雫ちゃんの表情はいつものような苦労しているような疲れている表情などではなくまるで恋する乙女のようにどこにでもいるような普通の女の子の表情で微笑んでいた。

 

どうして?だって雫ちゃんは好きな人が――

 

 

 

 

――()()()()

 

 

 

再び高速で回転する思考を頼りに今までの思い出を思い出していく。

 

・雫ちゃんは小学生の頃、好きな人が出来ていた。

・その人は親の事情で引越しして雫ちゃんとはしばらく会えなくなってしまっていた。

・雫ちゃんはそれを気に女の子らしくなりたいと私に相談してきた。

・その人は剣道で全国に行くほど上手だった。

 

どうして女の子らしくなりたいと思ったの?――もしかしたらその人が鈍い人だったからではないか?

どうしてあんなに恋する乙女のように微笑んでいるの?――もしかしたらその好きな人が雫ちゃんのことをちゃんと分かってくれたからじゃないか?

 

思考が回って回って、ある記憶を思い出す。

 

かつて小学生の時、お父さんの真似をして新聞を読んだときに書かれていた剣道の記事のこと。

 

その題名は『神代日色、三度目の全国大会優勝』

 

繋がった、繋がってしまった。

 

彼女が好きだった人は、彼女が愛した人は――『神代日色』だったのだ。

 

――だけど、

 

私の胸に熱い『何か』が生まれる。

 

――だけど!

 

そう、だけど。例え親友の想いビトだとしても、私は、私は――

 

 

――日色君は渡さない!!!

 

 

彼のことが好きなのだから。

 

 

私が決意を固めてから、三日後、本屋で本を探していました。えっと日色君はよくラノベというジャンルの本を読んでいると言っていたからなぁ、これを機に何かの本を買おうかなと思っているんだけど……

 

「……うーん」

 

――どうしよう、どれを買ったらいいか全くわからない。

 

そう、大量の本棚の中でどれを読んだら日色君に近づけるのかわからないのだ。

ムーと、しばらく考えていると隣で私と同じ制服を着た少女が本棚にホイっと手を伸ばし、幾つかの本を取っていく。

ここで私にピコンッ!と名案が思い浮かんだ、そうだ、この人に聞いてみればいいじゃないかと。

 

それはどっかの馬鹿も同じ考えで行動したということを香織は知らない。

 

「あ、あの、すみません」

「ひゃ!?は、はい!な、なんですか?」

 

試しに私は少女に声をかけると少女はビクンッと驚き、此方を向く。

どこにでもいるような()()()()()顔つきの少女は私を見ると共にとても狼狽した。

 

「え!?白崎さん!?どうしてここに?」

「え?私のこと知ってるの?」

「知ってるも何も同じクラスメイトですよ!」

 

え?こんな子なんていたっけ?……あ、そういえばこの子の名前は確か――

 

「えっと、()()()()()()()()()……だっけ?」

「は、はい。そうです、南雲です」

 

ペコッと頭を下げる南雲ちゃん、その表情は白崎さんのような女神に知ってもらって嬉しいですとでもいうような微笑みなのだが――

 

(………っ、気のせい……かな?)

 

どうしてか、私には一瞬彼女の瞳が昏く濁っている様に見えた。

慌てて私は目を擦り、改めて彼女を見つめるとその瞳の濁りは消えており、不思議そうな顔をした彼女だけだった。

 

「あの……どうしました?」

「え?う、ううん、なんでもないよ。えっと、お願いがあるんだけどラノベ小説のオススメってないかな?」

 

私はさっきの違和感を気のせいだと思い、記憶の片隅に放り込み私は彼女へと声を掛けると南雲ちゃんは「え!?白崎さんもラノベ小説読むの!!?」と驚いていたんだけどどうしたのだろう?

 

「は、はぁ。白崎さんがラノベをですか……」

「え、えっと、迷惑……だったかな……?」

「だ、大丈夫です!ちょっと、意外だっただけで……」

 

やっぱり迷惑だったかな?と思ったけど南雲ちゃんはハハハ、と曖昧に笑って大丈夫ですと言ってくれた。

南雲ちゃんはうーんと少し悩んだ後、そうだと手の平をポンッと叩いて、「着いて来てください」と本屋を案内し始めた。私は慌てて「う、うん、ありがとう」と言葉を呟き彼女の後ろを追いかける。

 

これが私と南雲ちゃんの初めての出会いだった。

 

 

それ以来、私は南雲ちゃんと交流を持つようになった。

基本的には同じクラスなのでアニメや小説の話をしているのだけど、最近は光輝君が入ってきて南雲ちゃんに何故か説教をしてくるから楽しく会話することができないの。

本当に光輝君はどうして関わってくるんだろう?そのせいで最近は憂鬱な時が多いなぁ。

 

あ、でもいいこともあったんだよ?ある日、雫ちゃんが日色君を連れて(引きずって?)行くときに光輝君達が一緒に食事を誘っていたの。やっぱり雫ちゃん日色君のことが……って絶望したんだけど、雫ちゃんと光輝君が話している間にこっそりその場から離れている日色君がいました。慌てて追いかけてみると鍵を掛けられている筈の屋上に入ろうとしている日色君の姿だった。

 

「え、えっと日色君?な、何しているの?」

 

慌てて声をかけてみると日色君はまるで見られたくない奴に見られたとでも言うようにこちらを振り向くと顔を歪めた。

 

「……何の用だ、白崎」

「え、えっと、雫ちゃんと一緒にご飯食べようと思ったら日色君を見つけたから……」

 

冷たい彼の声色に慌てて言い返すと彼は面倒くさいとでも言うようにハァと溜息を吐き、私を微かに見て――

 

 

「ポニ……八重樫なら天之河達と一緒に食堂で食べているはずだ、じゃあな……」

 

――というと共に再び屋上へと再び足を踏み出そうとする日色君。というか雫ちゃんをポニー呼び!?

 

 

「ま、待って。どうして日色君は屋上に行っているの?」

 

その場の勢いでつい彼の手を掴んでしまったけどなんとか彼を止めることには成功した。

が、香織は慌てて自分が彼の手を掴んでしまったことを認識してしまい、次の瞬間、香織の顔は恥ずかしさで真っ赤に染め上がった。

 

(あ、あわわわわわわわわわっ!つ、つい勢いで掴んじゃったよう……ッ!)

 

そんな香織の思考がオーバーヒートしている時、日色君は踏み出そうとした足を止め、静かに呟く。

 

「人が居ないからだ、静かな所が好きだからな」

 

私はその言葉を訊いたけど、彼の手を掴んでいることに頭がいっぱいでまともに理解することができなくて、つい口を開いたとき射出された言葉は全くの場違いで可笑しな言葉だった。

 

「じゃ、じゃあ。い、一緒にご飯を食べていいかな?」

 

私のバカァ!どうしてこんな時にそんな言葉が出るの!?こんな時にそんな言葉が出てくる自分に私はバカバカと罵る。

うぅ~日色君に嫌われちゃったかなぁ。

 

暫く何も言わない彼に嫌われてしまったのではないかと考えたけど次の瞬間、

 

数瞬の静寂をハァという溜息が破った。

 

「ハァ、わかった。いいぞ、一緒に食べても」

「ほ、本当!?」

 

 

あまりの嬉しさに自然と頬が緩み、喜んでしまう。

 

「ただし、この屋上の事は誰にも言うなよ。面倒くさくなる」

「う、うん!」

 

ハァと溜息を吐きながら屋上へと足を踏み出す日色君のあとを追うように私は片手に持っているお弁当を落とさないように追いかける。

その後の彼と食べた昼食はあまりの恥ずかしさと緊張で味がわからなかった。

 

 

 

そんな出来事を思い出すだけで自分の顔がにやけてしまうのを感じた。

えへへへ、また一緒に昼食を食べたいなぁ。

週に三回程、日色君とは昼食を食べているんだけど決して二人っきりというわけではなく雫ちゃんを含めた三人で食べているからなぁ、たまには二人だけで食べたいよう。

日色君は時々、昼食を誘おうとする前に姿を消したり逃走したりするけど一体どこに行っているんだろう?

 

そんなことを考えていると昼食の終わり程クラスメイトからこんな声が聞こえてきた。

 

――ねぇ、ねぇ知ってる?今日の放課後神代君と天之河君が剣道の試合するんだって

 

――うん、知ってるよ。クールな神代君と正義感の天之河君による夢の対決よね。

 

――どっちもカッコイイなぁ!

 

「ねぇ、ちょっと詳しく教えてくれないかな?」

 

私はつい話している少女たちに詳しく聞いてみるとわかったのは――

 

曰く、光輝君が日色君に剣道の試合を誘った。

 

曰く、避けられない男の戦いである。

 

曰く、一人の女の子を巡る戦いである。

 

うん、最後の一つを詳しく聞かせてくれないかな?(ニッコリ)

そう思ったけど、少女たちにはこれぐらいしか知らなかったらしく確かめるには放課後体育館に行くしかなかった。

 

うん、決めた。今日の放課後剣道の試合を見に行こう。…………決してその女の子が気になるわけじゃないよ?ホントダヨ?

 

 

場所は一転して体育館。

どうやら日色君と光輝君の試合の話はかなり広まっているらしく、体育館に着くとそこにはかなりの人数が集まっていた。私は必死に人混みをかき分けて進んでいくと、観戦場所とでもいう場所の最前線に視界に見知った親友がいた。

 

「あれ?雫ちゃん?」

「え?香織?どうしてここにいるのよ」

 

引き締まった身体にリンッと思わせる雰囲気を持ち、長い髪をポニーテールにした私の親友、八重樫雫ちゃんが此方を首を少し傾け、疑問を浮かべていた。

 

「えっと、日色君と光輝君がここで剣道の試合をすると聞いて……」

 

私は曖昧な目的を伝えて、本命の目的を伏せて話した。すると雫ちゃんはあぁ、なるほどとでもいう風に頷いて――

 

「あぁ、彼らが一人の女の子を巡って試合をしようとしているなんて聞いたから確かめに来たのね?」

「ソ、ソソソソソ、ソンナコトナイヨ?」

 

アー、シズクチャンハイッタイナニヲイッテイルンダロウ?ワタシニハワカラナイナァ?

いとも簡単に暴かれた私の本命の目的に動揺してしまう。雫ちゃん、恐ろしい子……

 

「図星ってことね。香織、アンタの嘘はわかりやすいのよ」

「はい、その通りです……」

 

やれやれと頭を振りながら額に手を当てた雫ちゃんに(´・ω・`)ショボーンと落ち込む私。

 

「安心しなさい、あんなのただのデマよ」

「ほ、本当!?」

 

私は雫ちゃんの言葉に咄嗟に彼女の肩を掴み、ガクンガクンと揺さぶってしまう。

よかった!日色君は決して恋人なんていなかったんだ!

 

「ちょ!香織、少し落ち着きなさい!」

「あ、ご、ごめん」

 

未だに揺さぶり続ける私を目を回しながら必死になだめる雫ちゃんによりなんとか感動の衝動を抑え、スーハーと一度深呼吸を行う。

うん、落ち着いた。

 

「じゃあどうして日色君達は剣道の試合を?」

「あー、それは――」

 

えっと、簡潔に話すと光輝君が日色君に剣道を誘い、日色君が剣道道具を持っていないというわけでそれを拒否――しようとしたけど雫ちゃんが竹刀を貸したことで試合することになったという。

 

「……えっと、それって雫ちゃんが原因ってこと?」

「…………否定できないわね(さっ)」

 

ジー、と雫ちゃんを見つめると彼女はシラーと目を逸らす。つまりこの出来事の元凶は雫ちゃんらしい。

 

「仕方ないじゃない、久しぶりに見たかったのよ日色の剣道を」

「そういえば、雫ちゃんって日色君が剣道をやってた事知ってたんだね」

「あれ、知らなかったの?彼はうちの道場に通ってたのよ?」

「え!?そうなの!?」

「えぇ、だから私は日色の幼馴染というわけよ」

 

ふふーん、と鼻を鳴らしながら胸を張る雫ちゃん、というか胸を地味に強調しないで!私の方が……おっきいんだもん!!

 

「ふんっ!日色君に昼食を誘えなかった雫ちゃんとは違って、私は二人っきりで昼食を食べているんだからいいもん!!」

「な、なんですって!!」

 

ぐぬぬぬぬ、と私と雫ちゃんは睨み合いながら、しばらくお互いに威嚇していると何やら馬鹿らしくなりお互いにハァと溜息を吐いた。

 

「止めましょうか、なんだか虚しくなってきた」

「うん、そうだね。それで、日色君と光輝君は?」

「えぇ、それはあそこで――もう、始まっているわね」

 

そう言って雫ちゃんが指を刺した方向を見ると、そこには二人の剣道着を身に纏った者が竹刀を振るっていた。

雫ちゃんが「右が光輝で左が日色よ」という説明をしてくれたけど私にはその言葉があまり耳に入ってこなかった。

竹刀が振るわれ空気が薙ぎ払われる。打ち合うたびにパンッ、パンッ、と音が鳴るのだがその度に空間が震えるように感じ、その衝撃が伝わってくるような錯覚をしてしまう。

 

光輝が胴を狙い横薙ぎで振るうと日色は半歩下がることで竹刀との距離を数センチ残して避けるが、光輝は止まらず更に竹刀を振るう。

唐竹の一撃は片足を半歩下げることで避けられる、続けて放たれた胴は日色が竹刀を振り上げ、左斜め下から右斜め上へと逸らされ、反撃とばかりに胴の横凪を日色が繰り出すがギリギリ光輝は竹刀を戻すことで受け止める。

光輝は再び、突きを繰り出すが竹刀の柄頭で叩き落とされ、それでは止まらぬと胴を繰り出せばまたもや半歩下がることで避けられる。

 

「すごい……」

 

目の前で繰り広げられる攻防に私は感嘆の息を零してしまう。

光輝君は剣道が上手いということは知っていたけどまさか日色君もこれほど上手いなんて……

だから――

 

「おかしいわね……」

 

――まるで、どうしてそうなっているかわからないとでも言うように顎に手を置き首をひねっている雫ちゃんのことに疑問を浮かべてしまう。

 

「ど、どうしたの?」

「……日色、全然昔のキレがないわ」

「そ、そうなの……?」

「えぇ、動きのキレも悪くて、身体のしなりを生かした移動方法も使ってない……」

 

雫ちゃんの解説に私は何を言っているか分からず目を白黒させるけど、どうやら日色君は昔より動きにキレがなく、まるで疲労し、ズタボロになった身体を動かしているような動きらしい。

 

『胴、一本!!』

 

つい、日色君達の方を見てしまうと、一際大きいパァンッ!!という叩く音と共に審判の人が光輝君を示す白い旗を上げる。次の瞬間、体育館に大きい歓声が響き渡り、更に声援がヒートアップする。

私はそんな歓声を聞きながら、必死に日色君を応援する。必死に応援していると不意に耳にこんな会話が聞こえてきた。

 

――きゃあ!天之河君が神代君に一本取ったわよ!

 

――神代君、大丈夫かな?数分前に先生がサッカーゴールの撤去を神代君に殆ど手伝ってもらったって言ってたんだけど……

 

――えぇ?嘘!?じゃあ神代君は休み無しで天之河君と戦っているの!?

 

 

「………………………………え?」

 

思考が止まった。

え?日色君が先生の手伝い?撤去で体力を使った?

じゃあ、日色君は今、疲労しているということ?

 

「雫ちゃん、どうしよう!さっき同級生の人が日色君が光輝君との試合前にサッカーゴールの撤去で疲労してるって!」

「なっ!嘘でしょ!?」

 

私の言葉を聞いた途端、雫ちゃんも瞠目し、バッ!と日色君達の方を見る。前方では光輝君が繰り出した突きをなんとか竹刀を振るって左に受け流し、距離を離す日色君の姿があった。

それをすぐに光輝が距離を詰め、上段による唐竹の一撃が日色へと襲い掛かり――

 

パァンッ!!

 

『面有り、一本!!』

 

日色はその攻撃を避けることができず、上段の唐竹の一撃は見事に日色を捉えた。

 

◆◇◆

 

光輝は憤っていた。

今日の剣道の試合を求めた光輝だが、こんな戦いは望んでいなかった。

それは目の前にいる日色の動きが、拙く、鈍く、もはや息絶えだえとでもいうような動きである。

その動きは体感では光輝が日色と今まで戦った中で最も彼の動きは遅く、鈍い。

 

これは光輝が強くなったからか?――否だ。

 

さすがの光輝も理解している。

()()()()()()()()()()()()、わざわざ勝ちを光輝に譲るために。

 

(……ッ、ふざけるな!)

 

光輝は内心そう思いながら更に竹刀を振るうがそれをなんとか躱し日色は距離を離す。

面の胴具を被っているために完璧には見えないが汗をかきながら日色は変わらず表情を感じさせない瞳で光輝を見つめている。

普通、剣道を行っている場合、表情や瞳は変化するものだ。緊張や興奮、恐怖などのように。

だが、日色の瞳や表情は何一つ変わっていない、無機質な無表情のままである。

 

まるで、お前など眼中にないとでも言うように。その気になればいつでも倒せるとでも言うように。

 

――だから喜べ、わざわざ手を抜いてやろうとでも言うように。

 

(クソッ!)

 

自分は鍛錬を人一倍努力を取り組んでいたはずだ、途中でやめた日色とは違い、自分の方が努力していると実感している。だが、日色の三冠記録を塗り替えるどころか一度も全国大会で優勝することすらあと一歩で逃してしまった。

何が違う!どうして届かないッ!あんな人を見下す目の前のコイツにどうして俺は届かないんだ!!

 

距離を離した日色の距離をすり足で一気に距離を詰め、怒りに任せて上段による唐竹の一撃を繰り出す。

しかし、目測を誤ったか微かに距離が足りない、このままでは竹刀は日色の前方を通り過ぎ決定的な隙を作り出してしまう。

 

そして、光輝は見た。

 

振り下ろした竹刀へと一歩踏み出すことで()()()()()()()()()()()()()()

 

「なッ!?」

 

パァンッ!!という音が響き渡り審判を担当している先生が『面有り、一本!!』と白色の旗を挙げ、二本取ったことで光輝の勝利となった。

次の瞬間、体育館に歓客の生徒たちから歓声が上がるが光輝はそのことすら意識が向いていなかった。

 

なんだこれは?

 

八百長のような戦いで、必ず勝てるように手を抜かれ、ましてやわざわざ当たらない攻撃をわざわざ当たりに来る。

達成感などないこんな試合に何の意味があるだろう?

 

フゥ、終わった終わったとでも言うようにその場から離れようとしていた日色を光輝は声をかける。

 

「待て、神代!」

「……なんだ、テンプレ勇者?敗者に慰めの言葉でもかけるのか?」

 

光輝の言葉に日色は立ち止まるが振り向かず、淡々とした言葉が返ってくる。光輝はその言葉に顔をしかめるがそれがどうしたとでも言うように言葉を投げかける。

 

「もう一度、俺と勝負しろ……」

「はぁ?何言ってんだお前、試合はお前が勝っただろう?」

「ふざけるな!あんなのが試合な訳がないだろう!」

 

しらばっくれる日色に光輝は苛立ちと怒りの声色を無意識のうちに出してしまう。

その言葉に日色はハァとため息をつき、関わってられるかとでも言うように「断る」と呟いて、その場から離れようとして――

 

「お前も――」

 

次に光輝が零した言葉に日色はつい立ち止まってしまった。

 

「お前も――()()と一緒だな……いつまで香織達に迷惑をかけさすんだッ……!」

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………は?」

 

日色の言葉が小さく体育館に響き渡った。そう、光輝の言葉が日色の琴線に触れたのだ。

彼の足が止まり、日色は身体を光輝の方へと向き直し、氷のように鋭い瞳が光輝を映しだす――が、その瞳は普段よりも昏く瞳に光が映っていなかった。

 

「いいだろう、あと一本だけ勝負してやる」

 

そう言って日色は再び竹刀を構え、光輝へと剣先を向ける。

光輝は突然やる気になった日色のことを不思議に思っていたがまぁ、いいかと思い竹刀を構えながらチラリと審判である先生を見る。

審判である先生は少し躊躇していたがすぐにコクりと頷いた、光輝の無言のお願いに特別に試合をもう一本行うことを許可してくれたらしい。

 

「行くぞ!」

「……すぐに終わらしてやるから早く来い」

 

そして、次の瞬間――

 

――二人は同時に踏み出した。

 

 

光輝は集中により時間の流れが緩くなるのを感じた。

自分と同時に踏み出した日色の動きを一片の油断もなく観察し、自分ができる最大の技を放つ。

 

八重樫流刀術――断雫(たちしずく)

 

体の捻りを生かした体重移動により生まれた余分なエネルギーを全て右上から左下へと振り下ろす高速の斬撃。

日色との距離を完璧に見極め放たれた高速の斬撃は確実に日色の面を叩くだろう。

 

日色はまだ動いていない。

 

勝った――と光輝は確信する。日色はまだ反応できていない、このままでは防御も間に合わず確実に叩きつけることができるだろう。

 

 

()()()

 

 

それは日色が並の剣士であればの話だが。

 

 

引き伸ばされる時間の中、少し遅れて日色が動く、竹刀を左腰へと動かし、左手で支え鞘と成し、右手の力を少し抜く。

それだけの行動が高速で行い光輝が振るった竹刀が五センチ動く間に行われ、抜刀の体勢が完了する。

 

そして――

 

――閃光が奔る。

 

左足を踏み出し、抜き放つは神速の抜刀。

右手の振りや腰の捻りの勢いを一切殺さないように抜刀し、踏み込みによって起こる加速と加重すら抜刀に乗せる超高速の斬撃。

 

日色が某人斬り抜○斎を目指して暇つぶしに行い、今では彼の、彼だけが使える、彼だけの抜刀術。

 

目指したのは『天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』、しかし彼は己の居合はそこには到れず偽物と思いその名を使うことを侮辱と断じた。

ならばその技の名はなんという?

 

そして彼は考えた。

 

『天翔龍閃と名乗るにはあまりに拙いから略せばいいんじゃね?』と

 

故にその名、その技名。

 

我流刀術――天閃(てんせん)

 

かつて全国大会の決勝の相手すら二撃目を防ぐことができなかった神速の抜刀が光輝の振るう竹刀よりも何倍も早く胴へと襲い掛かる。

光輝にはその斬撃が閃光に見えた。

 

パァアンッ!!!

 

もはや常人には視認不可能な竹刀が弧を描きながら光輝の胴を的確に叩き、微かに遅れて音が体育館に響き渡る。

 

 

数瞬の静寂。

 

 

『え……あ…ど、胴有り一本!』

 

 

そして何が起こったかわからないと困惑している審判の声と共に爆発的な歓声が体育館に響き渡った。

 

◆◇◆

 

「……凄い、ほんとに光輝君に勝っちゃった」

「全く、できるんだったら最初っからしなさいよ…………心配したじゃない

 

湧き上がる歓声の中、私は意図せず小さく呟いていた。最初はあんなに苦戦していたのに最後の光輝君との戦いでは竹刀が霞む程の速度で光輝君の胴を叩いたのだ。

隣で雫ちゃんが何か呟いていたけど日色君の剣道に夢中になっていた私は彼女の声が小さくてよく聞こえなかった。

 

日色君と光輝君の試合が終わると共に観客が一斉に拍手を送り、私もそれにつられて二人に拍手を送る。

ふと耳を傾けると観客達の歓声に混じって日色君達を称える声援が聞こえてくる。

 

 

――やっぱり天之河君と神代君はかっこいいなぁ!

 

――最初天之河君が推していたけどそこで返した神代君も凄いよね!!

 

――えぇー、やっぱり凄いのは天之河君だよ!

 

――いやいや、神代君でしょ!

 

どうやら日色君派と光輝君派に明確に分かれており声援に混じって言い合いが発生しているらしい。え?私?もちろん日色君推しだけど?

試合が終わり、暑苦しいとでも言うように面を脱ぎ、更衣室へと退場する日色君に私はこちらに向いてもらおうと

精一杯手を振って――

 

 

――日色君がある方向へと()()()()()()()()に気づいた。

 

―――――――――え?

 

思考が、停止した。

 

日色君は朴念仁で無愛想だ。基本的、表情があまり変化することはないけれど誰かを思いやる優しさは持っている。前に一度、私は顔を真っ赤にしながらお弁当のおかずを箸で直接彼の口に持っていくと「ん、いいのか?」と言って顔色一つ変えずに食べたこともあるほどだ。

 

そんな日色君がまるでありふれた少年のように微笑んでいた。まるで――大切な人を安心させるかのような笑みを浮かべていたのだ。

 

つまり、つまりつまりつまりッ!!

 

――私や雫ちゃんとは別に彼にそんな表情をさせる人がいる?

 

慌てて日色君が向いていた方向を向いて、日色君が微笑んでくれた人を探すけど一向にそんな人は見当たらない。

再び日色君を見てみても日色君は元の無表情に戻っておりさっさと帰ろうとでも言うように早足で更衣室へと向かって行っている。

 

――気のせいかな?

 

私が見た彼の微笑みは気のせいだったのだろうか?いや、そうに決まっている。体育館の熱で自分が疲れてしまったのだろうと考える。

 

そうだよ、何を怯えているのだろう?そんな新たなライバルなんていないはずだよね。

 

ソウダヨネ、ヒイロクン♪

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ヘックション!!クソッ、最近風邪気味だ……」

 

(死期が近くなってくると背中に寒気を感じるようになると聞いた事がある気がするけど……大丈夫だよね?死なないよね?今すぐ十二の試練(ゴッドハンド)みたいな蘇生系の転生特典が欲しいんですけどぉお!!うぉおおお!!探せ!!ドラゴンボールを探すんだぁあああ!!!)

 

そして何も知らないお馬鹿が一人。

 

 




勇者(笑)の口調が全く再現できないことについて。

ようやく異世界へと召喚させることができます、独自解釈や独自設定が大量に出現しますがご了承ください。


…………主人公をどうやってシリアルに奈落に落とそうかなぁ?
おかしい、どうやって考えても奈落に落とされたら文字魔法で『飛』を書いて戻ってきそうな気がする。


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原作開始~フラグだらけの異世界巡り 文字使い日記⑥

最近本当に文才が無くなってきて絶望しているアルテです。

前書きも書く事がなくなりエタってきているこの頃、感想で日色をどうやって奈落に落とす案を送ってくれる皆様、本当にありがとうございます!!!

これからもこんな拙い文ですが文をよろしくお願いします(´∀`)


(*´ω`*)月ヽ(;▽;)ノ日

 

やぁやぁ皆の衆、最近睡眠中によく目覚めることが多い日色だ。

いや、まぁ原因は分かっている。原作が刻一刻と近づいて来ていることによる恐怖心だろう、起きたらいつも寝汗びっしょり。おそらく第三者が見たらナニしたんだお前と誤解されそうである。

もう季節は冬が終わり、春が近づいてきているほどだ、最近では白崎さん(女神系死亡フラグ)や八重樫さん(斬殺系死亡フラグ)、あとはまぁハジメとの駄弁りに疑問を持たなくなり、彼女たちが着いてくるのは仕方がないもんだと思うことにした。……うん、末期だねこれ。

まぁ、だからといって彼女達から逃げるのを諦めるわけではなくさりげなぁーく彼女たちを天之河や最近現れた檜山大介に擦り付けている。

 

そんな日常ももうすぐで崩壊すると思うと涙が出そうになる。

 

( ;∀;)月(*^_^*)日

 

高校二年生にレベルアップした。テッテレー!!

生存難易度もアップした(絶望)テッテレー!!

 

学年が一つ上がったことでクラスルームも変わるので今までのクラスメイトとは別れることとなる。

じゃあ別のクラスへ行けたら召喚に巻き込まれない可能性がある!!という淡い希望を抱いたが見事にクラス発表を見ると自分の名前の欄にはハジメ達の文字がバッチリ書かれていましたとさ。

 

ハイ、オワタ\(^ω^)/原作介入決定っと♪

 

自分に同じクラスに慣れてよかったね♪などと言ってくる白崎さんや何故か拗ねている八重樫さんに、俺の隣の席となったほぼ常に曖昧に笑っているハジメたち相手にあ~はいはいとほぼ作業のように返すこの頃である。

まぁもちろんの事、ハッピーセットで天之河や坂上龍太郎が現れ、俺やハジメにグチグチと言ってくるのをハジメは曖昧な笑いで俺は最近は基本的無視している。いや、アレなんだよ、自分が口を開くと日色言語が射出されてくるからさ、じゃあ口開かなければいいんじゃね?などと思った結果こうなった。

毎度毎度白崎さんや天之河達のコントを死んだ目で見ながらラノベの世界へと現実逃避をする毎日である。

 

というか天之河、お前は中村さんの所へ行ってやれよ、彼女さ、偶に眼のハイライトが無くなったのを見たことあるんだよ?俺、嫌だよ?本性現してヤンデレ化した中村さんに殺されるのは……(恐怖)

 

……ぅ、今夜の夢に出てきそうだ。

 

ちなみに偶に先生から手紙やプリントを集配するのを手伝う時があるが天之河にプリントなどを渡す時は基本的、中村恵里に渡している。天之河にあまり関わりたくないという口実を使ってな!!中村さんの恋には興味はないができるだけ火の粉は被りたくないのだ。

 

少し前に白崎さんにとっても()()笑顔でハジメとどういう関係なのかと言われたので本でお互いに話し合う仲だと言ったら少し怪しまれたがハジメのフォローによってなんとか助かった。……女子の笑顔って怖いよね、稀に殺気を感じる時があるんだよ?ほら白崎さんとか八重樫さんとか。

 

ほんと、誰か助けてください……(涙目&懇願)

 

( ;∀;)月(´∀`)日

 

異世界召喚に備えて、毎日日記を持っていく日色だ。

 

今日の朝、図書室で借りてきた小説を見ていると遅刻ギリギリでふらふらと教室の扉を開けてハジメが登校してきた。するとハジメが入ってくると共に大半の生徒から嫉妬と侮蔑の混じった敵愾心を向けられ舌打ちやら睨みやらがハジメへと飛んでいる。しかもそれに追撃するように檜山グループが現れ、やれ変態オタクだの、キモオタ等と馬鹿にしてくる。その居心地の悪さにハジメが肩身を狭くしながら俺の隣の席へと向かってきた。

 

しかし向かう途中で白崎さんによりニコニコ笑顔で捕獲され挨拶(強制)を食らっていた。それに釣られてクラスメイトから「どうしてあんな奴が……」などと聞こえてくるけど俺はあまり聞かないようにしながらラノベで現実逃避を続ける。

いや、だってアレだよ?ハジメには顔見知り以上親友未満程の付き合いをしてくれと言われているから介入なんてしたらハジメの迷惑だし、第一、日色言語でそんなこと言ったら喧嘩になること待った無しだ。

今日だって自分が登校してきた時に檜山グループからなぜか俺にハジメと同じようなことを言われ、どうしてそういうことになったのかため息をつこうとしたら出てきた言葉はとても重く冷たい声で「――あ?」である。

 

なんでこの言語はこんな時に喧嘩を売ろうとするんですかねぇええ!!??(涙目)

 

その言葉と共に檜山グループが何故か急に静かになり、席に着くことができたけど更にクラスから孤立したような気がするわ……

とまぁ、そんなわけでなんとか自分の席につけたハジメと挨拶をすると再び白崎さんが会話に入ってきて、続いてハッピーセットのように勇者パーティが現れた。

 

おーい、わかってる?君たちの会話してる場所の中心は俺の席なんだよ?なんなのお前ら?どうして俺に本を読ませてくれないの?アレなの?いじめなの?ついにハジメも混ぜた集団リンチ?

 

…………ちょっと泣きたくなった。

 

そんなわけで時間は過ぎて昼食。

休み時間を使って日記を書いている――って、おいハジメ!コラ見ようとするな!この日記は見せるわけにはいけないんだよぅおおおお!!!

そんな見ようとしてくるハジメを叱りつけると彼女はしゅん、と落ち込んだ為、仕方あるまいと慰めるついでに唐揚げをあげようとして――

 

――パクっと白崎さんが横から一口で食べられた。

 

微かに顔を真っ赤にさせながらもぎゅもぎゅと美味しそうに頬張る白崎さんに対し対照的にハジメはずーん、と落ち込んでいた。小さく「……唐揚げ……美味しい唐揚げが……」と呟いている。

そんなハジメを不憫そうな目で見ていると白崎さんが満面の笑顔でお弁当を持ちながら――

 

「日色君、南雲ちゃん、一緒にご飯食べようよ!」

 

嫌です。

 

なんて特大死亡フラグには言えず彼女の顔は笑顔だが俺には『逆らったら殺す』とでも言うような微笑みにしか見えなかった。ハジメももうご飯を食べ終わっているや天之河君達と食べたらどうかななどと言っているが一向に効果がないようである。ついでに言えば周りの圧力も倍増していた。

フフフッ!!だが甘いなジョ○ョ!!俺がそんなのに屈するわけがないだろう!!こんな時に役に立つ優れた仲間がいることを忘れたようだなッ!!

いでよッ!!我がしもべ――

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。日色や南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

――対女神用人型兵器天之河光輝!!!

 

爽やかに笑いながら登場したテンプレ勇者の気障なセリフに白崎さんはキョトンとする。別に俺は決して気持ち悪いなんか思ってないよ?うっかり「……一々言うことがクセぇよ、テンプレ勇者」なんて言ってないからね!!

まぁいい、行け!勇者!お前の力を見せてやれッ!!

そんなクサイセリフが白崎さんへと襲い掛かり――

 

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

華麗に弾き飛ばされましたとさ、近くで「ブフッ」と吹き出す八重樫さんがすごく気になったがあまり気にしないほうがいいのだろう。天之河はそのことに困惑しながらあれこれ話しているがあまり効果がないようだ。

そんな光景にハジメは苦笑いして俺はため息を吐き――

 

……………………っ?、おかしい、既視感を感じる。

 

そうまるでこんな会話を一度原作で読んだことがあるよう――(ここで日記は途切れている)

 

 

異世界【トータス】に飛ばされた。

決して逃れようのないことだと思っていたけどまさかこんなにも早く起こるなんて……

 

泣きたい、心底泣きたい。

 

嫌だってあれだよ?教室に魔方陣が包むと同時にイシュタルとかいうおっさんが現れたんだよ?金星の女神に変わってくれ、赤い悪魔でもいいからさ。

 

魔方陣により召喚されるとクラスメイトの一人一人が困惑や混乱し、中にはドッキリかとでも思っている生徒もいた。え?俺?一人だけ場違いに長年の相棒である革製の日記帳に異世界召喚魔法の魔方陣を必死に思い出して書き写していたよ、帰宅できる魔法を使える可能性があるかもしれないし……嘘です、厨二が再発しただけです。悪いか!!(逆ギレ)

 

その後、天之河のカリスマEXによって混乱はある程度収められ、イシュタルの話がスムーズに進み、場所を案内するということで十メートル以上のテーブルが幾つも置かれている大広間に案内された。

その部屋は召喚された場所と同じで煌びやかで素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋のものが壁に飾られている。おそらく晩餐会をするような場所なんじゃないか?その部屋に案内されるまでに生徒達が騒いだりすることがなかったのは単純に突然のラノベ的展開に現実感が追いついていないからだろう。

 

取りあえずイシュタル(ブス)が入口から一番遠い席に座ると共にその近くからうちの担当の先生である愛子先生、光輝、雫、龍太郎……という順に学校の人気者つまりスクールカースト順に座り始めた。え?俺?最後尾付近を適当に座るとなぜか隣にハジメが座り、もう片方の席を白崎さんが何故か座った、何故し。というか周り見てよッ!特に檜山!アイツなんか俺に憎しみのこもった視線を向けているんだけど!?だからお前の憎しみの矛先はハジメだろうが!!俺じゃねぇよ!!

 

そんな俺の恐怖心なんていざ知らずみんなが座った後まさかまさかのメイドさん達が紅茶らしきものを入れたコップを大量にカートの上に置いて押しながら現れた。しかもそのメイド達全員、美女や美少女であるため男子生徒達はここで見なければ男が廃るとでも言うようにガン見して女子生徒達に氷点下以下の冷たい視線を男子生徒達に向けていた。俺の元にも銀髪なメイドさんが傍に来て目の前に飲み物を持ってきてくれたとき何やらいくつかの視線を感じたが無視である。

 

皆に飲み物が行き渡ったのを確認したイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

あのジジィが話したことを要約するとこうだ。

 

――この世界【トータス】には簡単に言うと3つの種族に分かれているよ♪人間族、魔人族、亜人族だね!!

 

――そんな中人間族と魔人族は仲が悪くてよく喧嘩するんだ!!かなり長い間喧嘩してきたんだけど最近魔人族が

 

――ワル~い動物である魔物を使役して苛めてくるんだ!それに困った人類の守護神エヒト様が異世界から正義の味方を召喚☆

 

――やったね、人間族!助けが来るよ♪

 

――だからおねがい!あの悪い魔人族たちを懲らしめて!!!

 

そんな感じ、え?雑すぎないかだって?知らん、イシュタルの恍惚な表情で吐き気がこみ上げてきて吐かないように必死だったんだから。

とまぁ、そんなイシュタルの言葉にプリプリと断固抗議し始める愛子先生がいたが持ち前の背の低さと整った子供のような顔つきのせいでその怒りが愛らしさに変換され全く怖くない為、全く相手にされてなかった。

 

しかもイシュタルに現状では元の世界に帰ることはできず自分たちが地球に戻れるかどうかは全てエヒト様のご意思次第らしい。

 

まぁモチのロンその言葉に生徒たちは動揺し、口々に騒ぎ出した。

いや、まぁそれは当たり前のことなんだけど……あれ?ハジメ?どうして俺の袖を掴むの?どうしてそんなに震えてるの?君その気になったら全員ドパンッできるでしょうがッ!

 

しかし次の瞬間、その場を収めるように一人の少年が立ち上がった。そう案の定正義感だけで物事を考えるご都合主義の塊、天之河光輝である。

何やら世界の危機に俺たちは戦おうとか倒せたら神様も帰してくれるかもしれないとか、この世界の人々が危機に陥っているのだから放って置いておくことはできないとか原作と同じような事をぬかしてくる。

 

……バカじゃないだろうか?そもそも情報が不足しているこの現状でどうして戦おうとするのだろう、もしかしたら魔人族が平和を望んでいるかもしれないのに。……そんなことはなかったけどなっ!!

大方、アニメやラノベのような展開に舞い上がっているだけなんだろうなぁ、少年の心を忘れていない的な?

しかもそれに釣られて便乗する坂上龍太郎(バカ)や八重樫さんや白崎さんが立ち上がりそれに釣られクラス全員が賛同していく。

 

…………やっぱりこいつら馬鹿なのかもしれない。

 

俺は無駄なカリスマによって戦争を決意した天之河達を諦めと達観した瞳で見つめた。

 

 

現在は召喚された聖教教会の本山である【神山】という場所からその麓である【ハイリヒ王国】の王城へと移動していた。え?移動方法?標高八千メートを超える【神山】から王城までつながっている魔法で動くリフトのようなものだよ。ちなみに景色は壮大で綺麗でした。

そして到着した俺たちを待っていたのは【ハイリヒ王国】の国王であるエリヒド・S・B・ハイリヒに王妃であるルルリアナ、第一王子であるランデルそして将来魔王の嫁のひとりになる王女であるリリアーナという王族の勢揃いである。

エリヒドがイシュタル(ブス)を立って出迎えたり、大臣や騎士達の紹介したり晩餐会でランデル王子がしきりに香織に話しかけたり、何故かランデル王子に睨まれたのでスルーしたり……

その後、王宮で一人一室用意された部屋に現在、俺は休んでいるのだが如何せん眠れない。

 

いや、まぁこれから命を賭けた戦いが始まるのだ、死の恐怖ですぐには眠れないのだろう。

 

生きるためには人を殺す事もある為、ある程度心構えしているが、本当に自分は殺すことができるのだろうか?

 

あー、クソッ。欝になってくる。『自分の為に殺す、誰かの為などと言い訳をしない』これを信条に生きていこうと決意しているがこれからのことを考えるだけでその決意が揺らいでいく。

もういいや、日記の裏にはメモ帳というべき場所に『ありふれ』の今後の展開が書かれているため寝る前に見直しておこうっと。

 

そう思いながら俺はベットにダイブし意識を闇へと落としていった。

 

 




最近勘違い要素はない気がする……


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本は神聖なもの異論は認めないby本バカ

朝の日光を浴びると灰化してしまうアルテです。

おかしい、異世界に飛ばそうとしたのに未だに飛べてない。
朝のホームルームを書いただけで終わったんだけど……




月曜日。

 

それは一週間の中で最も憂鬱な始まりの日である。きっと大人数のものが最も天国だった日曜日の名残を惜しみ、これからの一週間を考え、溜息を吐き月曜日という存在に世界を呪うだろう。ちなみに月曜日が祝日だった場合は火曜日がとばっちりを受ける。哀れ、火曜日。

 

そして、その月曜日を恨む会のひとりである南雲ハジメも今日からの一週間を考え憂鬱な気分になる。但し、ハジメの場合は単に面倒であり、そんなことするよりもハジメが大好きな彼と居たい等という問題ではなく(いやまぁそれはそれで問題なのだが)学校の居心地がすこぶる付きで悪く、それ故の憂鬱さが大半を占めていた。

 

そんなハジメはいつものように徹夜でフラフラな体を引きずりどうにか遅刻ギリギリで登校し、教室の扉を開けた。

 

次の瞬間、男女合わせた大半の生徒達に睨みや舌打ちを頂戴してしまう。一部の生徒達の視線は侮蔑や嫉妬が篭っており、そんな視線に哀れな子羊ハジメは肩身を狭くしてトボトボと自分の席へと向かうしかない。

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせBLエロゲでもしてたんだろ?腐女子だしな!」

「うわっ、キモ~。BLエロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

そんな声が聞こえてくるがハジメは持ち前のスルースキルで聞かないことにする。さっきゲラゲラと笑いながら馬鹿にする男子生徒達は最初にハジメを馬鹿にしてきた者が檜山大介(ひやまだいすけ)続けて右から斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)の三人である。合計4人がハジメに絡んでくる小悪党グループである。

 

別にハジメはオタクという分類に入るのだが決して容姿も言動も見苦しいというわけではない。髪は少し短めの短髪だし、寝癖も無い。どこにでもいるような一般女子高校生Aである。おとなしくもきちんと受け答えはするし陰気は感じさせず、単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。

 

世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。

では何故これほど大半の生徒に敵愾心を持たれているのか?

 

その答えが彼女だ。

 

「南雲ちゃん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメの下に歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない()()()()()であり、この事態の原因の一人でもある。

 

 名を白崎香織(しらさきかおり)という。学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

常に微笑を絶やさず、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さである。

 

そんな彼女はよくハジメとあの彼に構うのだ。休み時間や昼食時間、暇があれば彼女は必ずハジメとあの彼の近くにおりニコニコと接している。生徒達の中では徹夜のせいで居眠りの多いハジメや彼は不真面目な生徒と思われており、生来の面倒見のよさから香織が気に掛けていると思われている。

決してハジメは馬鹿ではなく、基本的な学力は平均点であり、時々それ以上を取っているのだがそれを知っているのはごく僅かである。

ちなみに極一部だけだが香織がそっち系の人ではないかと言われているのは余談である。

 

ハジメはそんな彼女が苦手だった。初めて本屋で出会った時は優しくていい人だと思ったが、人目を気にせずニコニコと関わってこられると生徒達の妬み等の怨念で祟られるのではないかと思うほど注目を浴びてしまうからである。

決して彼と二人だけの時間が少なくなったから、苛立っているわけではない。

 

「う、うん。おはよう、白崎さん」

 

ファ!?これが殺気!!?と一層深まる殺意と嫉妬の眼光にハジメは人知れず冷や汗を流す。ニコニコしている香織など意識する暇すらないようだ。

そんな眼光に晒されながらもハハハ、と曖昧に笑いながらなんとか足を動かして自分の席まで辿り着く。

すると隣で本を読んでいた少年がハジメに気づき、本をパンッと閉じてハジメの方へと振り向いた。

 

そう、今ハジメの目の前にいる少年こそが出ていた()であり、ハジメに敵愾心を向けないもう()()()()()でありハジメの親友とも言える存在。

 

「あぁ、おはよう。ハジメ」

「……うん、おはよう。日色」

 

艶やかな黒髪をさっぱりとした短髪に切り揃え、瞳は氷のように無機質で刃の如く鋭い、容姿は大変整っており黒色の眼鏡をかけてクールさを醸し出している。身体は無駄なく鍛えられ、細マッチョとでも言うような体型であり、まるで二次元から現れたようにイケメンだった。

彼の名は神代日色(かみしろひいろ)、学年成績は常に一位、運動神経は最上位、容姿は大変整っており二大王子の一人と言われている(ちなみに日色は知らない)クール系完璧男子である。

女子達に常に彼氏にしたいランキングで二位と一位を上下し、軽く神聖化しかけている。

性格は少し難があり言葉を偽ることはせず鋭いのだが言葉の所々に隠れた優しさが込められておりその捻くれ度が女子達に人気となっている。

 

そんな彼もハジメが生徒達に敵愾心を持たれる原因(主に女子から)である。理由は少し時が遡る。

 

ある日、日色とハジメが学校終わりに本屋に向かっているとそれに気づいた香織がわざわざ追いかけ日色達にどのような関係か聞いたのだ。……ちなみに香織は笑顔だったが背後には般若が立っていたと後にハジメは語っている。

日色は顔色ひとつ変えず、「ハジメは俺と本を語り合う友達だ」と言い、ハジメのフォローによってなんとか香織は納得し彼女のスタンド?は消え去ってハジメと日色の命の危機は去ったのだ。

 

――近くにこっそり聞いていた同じ学校の女子高生がいなければ。

 

ハジメが日色の友達であるという事実は瞬く間に広がり次の日、登校したハジメは圧倒的殺意と嫉妬の波動に意識が一瞬飛びかけたらしい。

 

そんなわけでハジメは男子女子両方に敵愾心を抱かれていた。

 

しかしハジメがもし生活態度を改善したり香織ほどではなくともこのクラスの担当である可愛いちびっ子癒し系に分類される愛子先生程の容姿を持っていたら文句を言う者たちはいないだろう、しかしハジメの容姿は極々平凡程度であり、“趣味の合間に人生”を座右の名としていることから態度改善も見られない。

男子達はハジメだけではなく香織がよく接している日色にも敵愾心は抱いてはいるものの整えられた容姿に生活面でも運動面でも完璧な日色に文句をつけられず鋭すぎる眼光で「――あ?」と言われてしまった場合大半の者が竦んでしまうだろう。

まぁ、日色は肝心の性格に難があるため結局は敵愾心を向けられているのだが。

 

つまり檜山グループがハジメを馬鹿にしたりするのは単純に日色に最も親しいからであり、日色の眼光に竦んでしまった為の八つ当たりである。つまりとばっちり。

 

女子達はいわずもがなハジメが平凡な容姿をしているくせに日色に最も親しいため敵愾心を向けられている。が、ハジメはそれだけは絶対直そうとはしないだろう。……日色に依存しているし。

 

そんなハジメは荷物を机の横に置き、ニコニコと日色とハジメの場所に来る香織をみて、数秒後の展開を想像してハァ、と内心ため息を吐く。

 

「そういえば南雲ちゃん、日色君、昨日――っていう本を見つけたんだけど……」

「あぁ、あの本か。あれは割と読みやすいぞ、題材がかなりシンプルの癖に描写がわかりやすいからな」

 

こんな状況でよく話せますねっ!?とハジメは増幅している殺気を孕んだ眼光を浴びながら顔色ひとつ変えず会話する日色達にハジメは内心驚愕する。というか白崎さん、いい加減この恐ろしい眼光に気づいてくださいッ!!

ハジメはどうやって会話を切り上げようと眼光に羊のように怯えながら考えていると三人の男女が近寄ってきた。

 

「日色、南雲ちゃん。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また二人の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「フンッ、そんなやる気ないヤツらにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫(やえがししずく)。香織の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の瞳は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与え、百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった身体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる――というのがクラスメート達の認識であるが本当は違う。

彼女は日色と居た時のみ女らしくなり、分かり易く言えば顔が一瞬でゆで卵になったり、偶に日色に熱を額を置いて測られた時、非常に女の子らしい声を出したりする。

 

ハジメは後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で“お姉さま”と慕われ、正しく凛々しい印象を与える彼女のイメージが日色によってあっという間に懇切丁寧に破壊されたのはかなり最近の記憶である。

日色とは昔剣道で知り合った幼馴染らしく剣道の腕はかなりのもの、美少女剣士として雑誌に載っており日色に「本当にサムライ女って言われるようになったな」と言われグーで殴った思い出がある(ちなみに片手で何食わぬ顔で受け止められた)

 

次に、些か臭いセリフで香織に声を掛けたのが天之河光輝(あまのがわこうき)。如何にも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。日色曰く通称『テンプレ勇者』

サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい、これ重要!)。小学生の頃から日色と同じく剣道の道場に通っておりよく衝突していたらしい(八重樫雫談)全国大会に行くほどの猛者らしいのだが日色に一度も勝てたことがなく、あったのはあの日色が手を抜いた試合だけである。

二大イケメンの一人であり、ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。

 

ハジメから見ても日色と光輝の性格は全く合っていないように思え、怒りに燃える光輝を「だからどうした?」と日色が冷たく逸らすだけである。

 

ちなみにハジメが日色に光輝のことを聞いてみると「アイツは自分が正義だと思いこみが激しいただのガキだ、誰かを助けたいという考え方は嫌いじゃないだがな……方法が馬鹿すぎるんだよ、価値観もクソだしな」らしい。

 

最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かい事は気にしない脳筋タイプである。日色曰く『ただの馬鹿』

 

龍太郎は努力とか熱血とか根性とか『もっと熱くなれよぉ!』とかそういうのが大好きな熱血系の人種なので、ハジメや日色のように学校に来ても寝てばかりの熱血という言葉が辞書に収められていない日色やハジメは嫌いなタイプらしい。まぁ日色の場合する必要がないからしていないだけなのだが。

 

そんないつも通りの三人にハジメはははは……と乾いた笑みを浮かべながら挨拶を返した。ちなみに日色は三人を一瞥した後、すぐさま本へと視線を戻した。関わりたくないらしい。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河さん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

雫達に挨拶を返すハジメだが「なに、おねぇ様に話しかてんだゴルァ!!」や「八重樫さんに話しかけるとは死にたいようだな、あぁ?」等という殺意の篭った視線が周りから大量に突き刺さる。

ちなみに雫も香織と同じ2大女神の一人であるためかなりの人気を誇る。

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? 何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君達に構ってばかりはいられないんだから」

 

そんな曖昧な笑いを零すハジメに光輝が忠告をする。光輝の目にもやはり、ハジメは香織の厚意を無碍にする不真面目な生徒として映っているようだ。ちなみに隣で日色が「その優しさに甘えている俺に負けているお前はどうなんだ、テンプレ勇者」と小さく呟いていた。ハジメとしては甘えたことなんてないよ! むしろ放っておいて欲しい! と声を大にして反論したいのだがそんなことをすれば天之河様になんてことを!とイジメに遭うことが確定する。光輝自身、思い込みが激しいところがあるので反論しても無駄であろうことも口を閉じさせる原因である。

 

と、いうかハジメからすれば香織が関わらなければ日色との関係がバレなかったし、父親はゲームクリエイターで母親は少女漫画家であり、将来に備えて父親の会社や母親の作業現場でバイトして将来設計がバッチリなため香織が関わらなければ中学生の時の関係のままだったのだ。香織なんかがいなければ――

 

「あ、あはは~」

 

ハジメは飛びかけてた意識を戻して曖昧に笑いながらその場を切り抜けようとするが今日も変わらず女神の無自覚に落とす爆弾のせいで切り抜ることができなくなった。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲ちゃんと日色君と話したいから話してるだけだよ?」

 

ざわっとクラスメイト達が騒がしくなり舌打ちなどが聞こえ始める。光輝は驚いた顔をしていたが「え?……あ、あぁ香織は優しいよな」と香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。

そんな光輝と香織をおいてクラスメイトの殺気が猛烈に高まり――

 

――ドンッ!!という日色が本を勢いよく置く音と共に殺気が消し飛んだ。

 

「――おい」

 

一瞬静寂になった教室で静かに日色の声が響く。クラスメイトの数々がやばい!日色を怒らした!と身構える。

 

「俺は今、本を読んでいるんだが?」

 

低く、重く、静かに、そして微かに怒りを込めた声で。

 

「騒ぐのは構わないが俺の席の隣でベラベラベラベラと騒がないでくれるか?」

 

シーンと彼のその言葉と共に静寂が訪れた、日色の怒りの混じった眼光の圧力に光輝や香織は言葉を失った、雫はあぁ、またかとため息を吐き、ハジメは少し苦笑いしている。

話は変わるがハジメ達が通っている学校の高2学年にはひとつの暗黙の掟がある。

 

『神代日色をキレらせたらいけない』と

 

奴の機嫌を損ねたら絶望が訪れるぞ、と。

 

そんな静寂を破るように始業のチャイムが鳴りガラガラと教室の扉が開かれる。

 

「はーい!ホームルームを始めますよ――ってどうしてこんなに静かになっているんですかぁ!?」

 

現れた癒し系先生畑山愛子先生の登場に日色を除いたクラス全員が感謝した。

 




文字使い「本を読んでいる俺の隣でイチャイチャイチャイチャするんじゃねぇ!!勇者どもがッ!当てつけか!!」


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魔法陣ってロマンあるよなby文字使い

お久しぶりです、夏風邪で寝込んでいたアルテです!

頭痛に悩ませられながらなんとか書いたため誤字があるかもしれません。ご了承ください!

そして、なんとお気に入り登録数が1400件超えました!皆さん本当にありがとうございます!。こんな駄目文ですがこれからもよろしくお願いします。


……ちなみに今回ハジメちゃんが不憫です。


日色が少しプッツンしてから時は過ぎて昼頃の3時限目、社会の時間である。

愛子先生が小さい背丈を椅子を使いながらなんとか授業をして生徒達の心を癒す時間帯。

 

そんな時間にハジメは唐突に眠気が覚めたため、左隣に左肘を机につき左手で顔を支え目を瞑っている日色の寝顔を見つめていた。日色は本当に寝ているのか右手でシャーペンが三秒に一回ほど一回転させており、どうやっているの!?と内心ハジメを驚かせている。

ハジメはそんな日色の寝顔をもっと見つめようか彼を起こそうか、欲望と理性が乱闘を起こしていた。

 

そしてそんな二人を現在、授業中の先生の眼を掻い潜って見つめているのが香織と雫である。

雫は日色を起こそうか左手を行ったり来たりしているハジメを、新たなライバルかしら?と警戒しながら見つめ、香織は南雲ちゃん、今すぐその場所変わって?と地味に背後から般若の姿をしたスタンド?を出していた。

 

スースーと日色が寝息を立てている中、彼の右手が場違いのように動きペン回しを更に加速させて風圧でノートの紙がペラペラと捲られている。もはや回す速度が速すぎてシャーペンをハジメは視認することすらできない。

 

(えぇえええええええ!???)

 

視認することができないほどの高速ペン回しを寝ながら行っている日色にハジメは驚愕を禁じえず、つい声をかけてしまう。

 

「ちょっ!……日色!?」

「……ん、なんだ?」

 

その声に日色は目が覚め、ペン回しは止まったがどうやら騒がしくなってしまったようだ。畑山愛子先生が「はひっ!?」と驚いた声を上げ、バッっと勢いよくハジメ達の方へと振り向き、ハジメが日色に手を伸ばした状態で先生に見つかってしまう。

小さな小柄に反して威厳ある教師を目指している愛子先生は今日こそきちんと神代君を叱ってやらなければ!と意気込み右手にチョークを装填させる。

 

「あ、あの!神代君!や、喧しいですよッ!!」

 

そう言って愛子先生は勢いよく右手に構えたチョークを投擲する。

勢いよく投げられたチョークはスナップを掛けたことで猛烈な横回転が加わり生徒達の間を高速で突き抜けて日色へと襲い掛かる。

 

「……は?」

 

突然自分に襲い掛かってきた投擲物に日色は一瞬反応ができず、回避が遅れてしまう。そんな日色の額に目掛けて横回転が加わったチョークが襲い掛かり――

 

「はぎゃっ!!?」

 

――その横にいるハジメへとカーブして直撃した。

 

「……な、なんで……僕……?」

 

愛子先生渾身の一撃は見事ハジメの哀れな遺言を残してハジメの意識を闇の中へ、ドサッとハジメを机に撃沈させた。教室にハジメが倒れる音と共に静寂が訪れる。

シーンと静まった教室の中で一人日色が呟いた。

 

「……凄いな、カーブしたぞ!」

 

違う、そうじゃない、と大半の生徒が思ったが声に出す者はいなかった。

 

「南雲ちゃん!?ご、ごめんなさい!」

 

一人気絶した教室の中で愛子先生の可愛らしい声が響き渡った。

 

 

「うぅ~、酷い目にあった……」

 

時が経って昼休み、気絶からなんとか目覚めたハジメは未だに痛む額を片手で摩りながら、今日のお昼ご飯である十秒で栄養がチャージできる便利な簡易食、銀のパックに包まれたゼリーを取り出して、蓋を捻る事で開ける。

飲み口に口をつけて一息にジュルルルルと飲み干す。あっという間にカラッカラのカラになってしまった銀パックの飲み口を蓋で閉めて、うひーと机に倒れ伏す。

このまま一眠りしようかと顔を横に向けると、視界には日色がいつも食べているお弁当(ちなみに自作らしい)を開かずに彼が愛用している革製の日記をめくって何か文字を書いていた。

 

ピコン!ピコン!とハジメの好奇心レーダーが反応を示し、そろ~りと日色の背後から彼の日記を眺めようとして――

 

「――え?みぎゃ!!?」

 

――パタンッ、べシッ!と日記に栞を挟む→本が傷つかないように優しく閉じる→ハジメを日記の表でを叩くという動作を高速で行い、見事ハジメを撃退した。

ハジメは突然襲い掛かる日記帳に反応できず、ぺシッ!っと頭に衝撃が駆け巡った。

 

「……何勝手に日記を見ようとしているんだ?」

「うぅ~、だとしても叩くのは酷いよ、日色!」

「自業自得だ、なんならもう一度してやろうか?」

「ごめんなさい」

 

見られたくないものを見られそうになったとハァ、とため息を吐く日色にハジメは叩かれた額を摩りながら涙目になって恨めしそうに日色を見て僅かな抵抗を試みるが日色の鋭い睨みによってハジメの抵抗は完膚無きまで撃沈される。

日色の睨みに屈服されたハジメは(´・ω・`)ショボーンと落ち込んだ。「うぅ~不幸だ」と呟きながら座って地味に床をイジイジとつついている。

 

「あー。ハジメ、大丈夫か?ほら、唐揚げをくれてやるからさっさと機嫌をなおせ」

「ほ、本当!」

 

さすがの日色もかなりの陰キャオーラを放出しているハジメを見かねたようだ、自分のお弁当を開けて中に入ってあるおかず『唐揚げ』を取り出す。ちなみにハジメの好物の一つである、食べ過ぎて太らないのだろうか?

日色の言葉にハジメは捨て犬が新たな飼い主に拾ってもらった時のような希望の光を見たような表情で日色に振り向いた。念のためにいうが日色は別にハジメを餌付けしているわけではない、ないったらない。

 

ほら、と取り出した箸で唐揚げを掴みハジメの口へと近づけさせる。ハジメは少し恥ずかしそうにしながらアーと口を開ける。クラスの女子から殺気が出るがハジメは無視である、例えクラスに殺気を向けられてもこの唐揚げは渡さない!とでも言うように。そんな幸福を訪れさせる美味しそうな美しい焦げ色を持った唐揚げはハジメの口に近づいていき――

 

「いただきます!」

 

――突然横から現れた香織にハムッと食べられた。

もぎゅもぎゅと微かに顔を赤く染めながら美味しそうに唐揚げを食べる香織を見てひと噛みするたびにハジメが「……あぁっ……あぁっ!」と悲痛な声を出してドサりと床に四つ這いの体勢になって悲しみの涙を流す、言おうガチ泣きである。

香織はゴクリと唐揚げを飲み込むと共にパァと文字どうり女神のような表情で「美味しい!」と呟いた。

 

「そうか、それは良かった。――で、白崎、何の用だ?……というかハジメ、もう1つやるからいい加減目を覚ませ(ペチっ!)」

「……唐揚げ……僕の唐揚げ……はっ!そ、そうだ、白崎さん、どうしたの?」

 

突如現れた我等の女神の登場に日色は眉一つ動かさず、未だに四つん這いになって壊れたハジメをデコピンで再起動させ、香織へと質問を投げかけた。彼の瞳には「めんどくさいことになりそうだ」と言うように少し目を細めている。香織はわ、忘れてた!とでも言うようにハッ!と驚いてワタワタと持ってきたお弁当を取り出して笑顔でこう言った。

 

「ねぇ、日色君、南雲ちゃん、一緒にご飯食べようよ!」

 

再起動したハジメは内心「しまった」と呻いた。今日が月曜日であり少々寝ぼけていたことと日色の日記に好奇心を持ってしまったことですっかり香織が関わってくる可能性を忘れてしまっていた。いつもなら香織達に関わる前に校舎裏などで日色と食べるのが昔からの定番なのだが二日連続の徹夜は少々きつかったらしい。

 

ざわざわと騒然としだすクラスメイト達にハジメは内心悲鳴を上げる。香織しゃん?どうしてわっちに構おうとするんでごわすか?という意味不明な謎の方言が飛び出そうになった。え?日色?隣で小さく呑気に欠伸をしているよ?どうしてこんな時にそんなに呑気になれるんだ!とハジメが思ったのは言うまでもない。

 

そんなわけでハジメは再び抵抗を試みる。

 

「あ~、誘ってくれて有難う、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河さん達と食べたらどうかな?」

 

そう言って、ミイラのようにカラッカラのカラになった十秒チャージの銀パックを彼女にヒラヒラと見せる。断るのも「何様だ!貴様!」等と思われるかもしれないがその後クラスメイト達にハジメの処刑方法を会議する会話を聞くよりかは何倍もマシである。ちなみに日色の場合、最終手段は一瞬の虚を突いて窓から脱出するらしい。

 

しかし、勿論のこと女神にそのような抵抗は通じない、女神からは逃げられないのである。

容赦なく香織に追撃を加えられた。

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと!今日は分けやすいサンドイッチを作ってきたから!」

(香織さぁあああああん!!!気づいて!周りの視線に気づいて!皆さん僕に殺気向けているんだけど!!)

 

ハジメが冷や汗を流し始めたとほぼ同時に香織の頭にピカァン!!と天啓が振り降りる。ここで日色君を先に誘ってしまえばハジメもついてくるんじゃないの?やったね、成功したら勝ち組だよ香織ちゃん!

 

そんなわけで香織はくるりと日色の方を向いていつものようなニコニコ笑顔で声をかける。

 

 

「日色君も一緒に食べよう!この前昼食を分けてもらったからそのお返しにいつもより多く作ってきたの!」

 

 

そんなニコニコ笑顔に日色はなぜこっちに来たし?みたいな苦虫を潰したような表情をとって静かに返答する。

 

「結構だ、俺は自分の弁当があるし今日はあまり食欲がなくて眠いんだ。俺より栄養が欠けているハジメにくれてやれ」

 

そんな日色の言葉にナニィ!と声を上げそうになったハジメである。この男、まさかハジメを盾役に使ってる?冷や汗が流れる勢いが更に増幅した。裏切ったのかキサマァ!!

しかしそんな日色の言葉には怯む我等の女神、香織ちゃんではない、食欲がないってことは朝食を抜いてきたのでは!?と何故か勘違い、更に声をかける。

 

「もう!昼にきちんと食べないと午後に持たないよ!朝も夜もちゃんと食べてるの!?」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだよ……昨日徹夜してたから昼食を作るために朝は食って無い、夜はあるもん食べたから別にいいだろうが」

「ダメだよ!きちんと一日三食バランスの良い食事をしなきゃ健康になれないんだから!」

「なんでお前までオカンのようなこと言っているんだ?ポニーと一緒じゃねぇか…………これはもう二大女神じゃなくて二大オカンだろ

 

途中で日色が小さく何か呟いていたがハジメにはよく聞こえなかった。どこかで「誰がオカンよ!」と叫んでいたがそれもきっと気のせいなのだろうそう、きっとそうに違いない。

キャンキャンと説教する香織をハイハイと右耳から左耳に流す日色にクラスメイトたちはギリギリと歯ぎしりや睨み、中にはカッターナイフやシャーペンを苦無のように持って投擲しようと思う者たちもいる。ちなみに日色に一度カッターナイフなどを投げた者たちはいたにはいたが全て片手で掴み取られ、高速で投げ返されたらしい。威力はシャーペンが壁に浅く突き刺さる程の威力である。

 

そんな殺意や嫉妬の敵愾心をハジメや日色に集中的に向けられハジメは冷や汗を流していると一筋の希望の光が現れた、そう我等の勇者パーティ光輝達である。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだし、神代は香織の優しさを無下にしているようだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐いて登場した光輝にキョトンとする香織。天然が入っている彼女には光輝のクサいセリフやイケメン爽やかスマイルは効果ないようだ。

 

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

素で聞き返す香織の言葉に「ブフッ」と雫と日色が吹き出した。光輝が困ったように笑いながら香織にあれこれ話しかけているが一向に効果がないようだ。しかし、結局は人気者4人プラスαが集まっているのだ。ハジメに向けられている圧力がもはや増大しすぎて空間が歪んでいる幻覚が見えるほどだ。

隣の日色ももう、逃げようと腰を上げかけており、ハジメももう彼らなんて異世界に勇者召喚で行ってくれたらいいのに!なんて思い、退散しようと腰を上げて――凍りついた。

 

突如、ハジメの目の前、つまり光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様、俗に言う魔法陣が現れたからだ。円環と幾何学的模様により構成された魔法陣は、悪戯やドッキリで済ませられるようなものではないというのは一目見てわかる完成度であり、ついでに言えば真下から突風が吹き荒れ、香織がスカートを咄嗟に抑えていた。

 

この異常事態にはすぐ周りの生徒たちは気づいたがまるで金縛りにあったように魔法陣を注視する。

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。自分の足元まで異常が迫って来たことに漸く硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だに教室にいた愛子先生が何か叫んだ瞬間、カッと魔法陣が一際明るく輝いたかと思うと、光が教室を満たす。

 

数秒か数十秒か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

残されたのは食べ残された弁当や生徒達の荷物だった物、横倒しに蹴り倒された椅子、ボトルが外れたことで中身の水を床にぶちまけたペットボトル。まるで生徒達の姿だけが突如消えたかのように生徒達がいた痕跡のみが残った教室が静かにあった。

 

この事件が後に集団神隠しではないかと騒がれる出来事となる。

 




現在主人公の職業を妄想中……


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話があまり進まないからタイトルが思いつかない!の回

こんにちはアルテールです。

今回はあまり話が進みません、説明会みたいなものだからね、仕方ないね。
それではどうぞ。


光が収まり、視界が良好となった日色は反射的に誰かを抱きしめようとしたのだろう日色の左腕をぎゅっと抱きしめている香織を何やってんだお前とでも言うように少し目を細めて見つめる。しばらく香織は呆然としていたが自分が日色に抱きついているということにようやく自覚して、瞬時に顔がダルマのように真っ赤になった。「ご、ごめんなさい!」と謝ってバッと手を離し、日色から少し離れた。……少し両手をワキワキと動かして名残惜しそうにしているのはどうしてだろうか?

 

一方日色は教室の風景から一瞬で変化した石造りの部屋を素早く見渡し、手持ちで持っていた日記帳に教室で現れた魔法陣が思い出せなくなる前に書き写していた。

両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメはざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。

 

まずハジメの目に映ったのは大きな壁画である。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が自然に囲まれているという絵が描かれていた。あまり芸術がわからないハジメでも素晴らしいものだと思う作品なのだがどうしてだろう?何故か薄ら寒さを感じてしまいつい目をそらしてしまった。そのまま周囲を見つめるとどうやらハジメたちは大広間にいるようだ。素材は大理石?、美しい光沢を放つ滑らかな白い石作りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。どうやら教室にいる皆が巻き込まれてしまったらしい。

 

ハジメはふと日色の方へと振り向くと日色が無事なことにホッとして声をかけようとしたが彼は真剣な表情で日記に何か書いていたためそっとしておいたほうがいいのだろう。

そう思っているとこの広間にハジメ達が乗っていた台座の前に祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で少なくとも三十人近い人々がいたのだ。

その中で中でも一番存在感のある老人が動き出し、名乗りを上げる。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、何やら少し怪しい微笑を浮かべるのだった。

 

 

現在ハジメ達は召喚の間から、長いテーブルの置かれた食堂のような部屋に移動していた。イシュタルはこの場では落ち着けないだろうと話を落ち着いてするために案内したのだ。この場所を口から一番遠い場所にイシュタルが腰掛け、その近くから愛子先生、光輝、雫、龍太郎……といった学校の人気者順に座っていくがそれを無視していくスタイルなのが日色である。

最後尾のところを日色が座ると慌ててその右隣にハジメが座り左隣に香織が座った。ちなみに檜山に憎しみのこもった視線を向けられていたが日色が一瞥するだけですぐにおとなしくなった。

日色が檜山から視線を外すと共に部屋にメイド服の女性が入ってきて、生徒たちに紅茶と思わしき飲み物を配っていく。しかもそのメイドさん全員が美少女や美女のオンパレードである。男子達はさすが異世界!!これを逃す期はないぜ!と男子生徒達がメイドさん達をガン見する。そしてそんな男子達を見た女子達の視線が北極の気温まで冷たくなりもはや汚物を見る目となっている。ハジメはまさか、日色も……と日色を見るが日色は肩肘をついてメイド達を少し細めた瞳で少し見つめていたがすぐに興味を失ったように視線を下げた。ついでに言えばハジメとは反対側である香織もそこまでメイド達に興味を示さない日色に内心ため息をしていた。

 

『着こなしがなってないんやでッ!!咲夜さん見習え、ちくしょうが!!』

 

ちなみに内心ではメイド服の着こなしが甘いとお怒りになっていたりする。

そんなことはいざ知らず紅茶を配り終えたメイド達はそそくさと去っていき、イシュタルが話し始めた。

 

「……では、皆様方はさぞ混乱していることでしょう。事情を一から説明する故、まずは私の話を最後まで聞いて下され」

 

こうしてイシュタルが話した内容はハジメにとってどこか聞いたことのあるような、そしてどこか読んだことのあるようなテンプレでファンタジーすぎる内容だった。

この世界『トータス』は大きく分けて人族、亜人族、魔人族の三つの種族が存在している。

人間族が大陸の北側を、魔人族が南側を。亜人族は東側にある巨大な樹海にひっそりと住んでおり、何百年も人族と魔人族は戦争を続けている。魔人族は数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差を人間族は数で対抗し拮抗していた状態だった。そんな状態は、数十年と続いており、その間に大規模な戦争などは起きていなかった。しかしその拮抗が、最近になって崩れ始めてきた。

魔人族が魔物を使役し始めたのである。

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

彼等は本能のままに活動するため今まで使役できる者はほとんど居なかった。使役できたとしても魔法を用いてせいぜい1~2体しか操れなかった。しかし最近の魔人族は一人で何十匹もの魔物を操れるようになったという。

 

それはつまり『人数』という人間族の優位性の消失である。それは同時に人族の存続の危機を示していた。

 

「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っているのです」

 

「まぁ、これもエヒト様の神託から教えてもらったのですが」と言葉を切ったイシュタルは表情を恍惚な表情に変え叫ぶように言った。

 

「そう!あなた達は『神の使徒』なのです!あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

おそらく神託を受けた時のことでも思い出しているのだろう。イシュタルの表情は表現ができないほどの笑顔で体を震わしていた。イシュタルの話によれば、人間族の実に九割が聖教教会に入信しており、神託を受けることができた者は例外なく高位に付くことができるらしい。

ハジメは“神の意思”を疑い無く、それどころか嬉々として従うのであろう彼らの価値観にに言い知れぬ危機感と不安を感じていると突然ガタンッっと大きく音を立てて立ち上がる人物がいた。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の……唯の誘拐ですよ!」

 

猛然と抗議を始めるプリプリと怒る畑山愛子先生。クリクリとしたおめめをキッとし、ボブカットの髪を跳ねさせながら抗議するが哀しかな持ち前の圧倒的庇護欲を感じさせる童顔と低身長のせいで「あぁ、愛ちゃんがまた頑張っているなぁ……」とほんわかな空気にさせるだけである。

 

そんなほんわかな空気は次のイシュタルの言葉で凍りつくこととなる。

 

「お気持ちは察しますが……しかし、現状私達はあなた方を帰還させることは不可能です」

 

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に乗りかかっているようだ。日色を除いて誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

愛子先生がすぐさまイシュタルに食って掛かるが帰ってきた返答は絶望へ誘う最悪の言葉だった。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

ペタンっと愛子先生が脱力したように椅子に座り込む。それを合図に周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

パニックになる生徒達。ハジメも当然の如く平気ではなかったが日色とたくさんのラノベを読んでいるためこういった展開は予想していた幾つかのパターンの内、最悪のパターンではなかったので他の生徒達よりは冷静を保てていた。ちなみに最悪のパターンは召喚者を奴隷扱いされるパターンである。

 

オタクであるハジメは最悪のパターンではないもののあまりよくない状況による不安さでつい日色の学生服の袖を掴んでしまう。

 

「どうした?ハジメ」

 

帰ってきた声はいつもどうりの彼の声、こんな状況でも落ち着きを持っている冷静な声色だった。

だけど――彼の表情がいつもより違っていた。

 

「……ひ、いろ?」

 

いつものような無表情、いつものような無機質な刃のような鋭い瞳。だがハジメは彼の変化に気づいていた。

暗い、昏い、冥い、彼の表情は普段より『くらく』まるで死刑囚のような絶望を感じさせる表情だったのだ。

 

まるでこれから襲いかかる避けられない災難を知っているかのように。

 

 

そんな表情はハジメが声を零してしまうと共にまるで最初からなかったようにいつもの普段の表情に戻っていた。

 

「ん?なんだ?」

「う、ううん、ごめんね。少し不安になっただけだから」

 

「……そうか?」と不思議そうに呟く彼からハジメは視線を外し、イシュタルの方を見る。

イシュタルは誰もが狼狽える中特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

だがどうしてだろうか?悪意に敏感なハジメにはイシュタルの瞳には、侮蔑の色が潜んでいるように見える。

大方「エヒト様に選ばれておきながら何故喜べないのか」とでも思っているのだろう。

 

そんな中一人がバンッ!と机を叩き立ち上がった者がいた、光輝である。

その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない!それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。戦って、この世界を救うんだ!皆が家に帰れるように俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

そして同時に日色の目が死んだ。頭を抱えて「どうしてそうなるんだよ、バカが……」と呟いた。

当たり前だ、光輝が行ったのは日色からすればただの思考放棄である、そもそもエヒト神などという神様が本当にいるとは本来なら分からず、しかもそんな神様が異世界に自分たちを呼んだとは本当はわからないはずなのだ。自分達はエヒト神に出会っているわけではなくイシュタル達や日色達以外の第三者が行なった程度しかわからないのだから。

 

日色は光輝に抗議する考えが浮かんだがすぐに消した。小説からしても実際に出会ってあるが故に彼の性格はよくわかってる。仮にここで介入し光輝のカリスマによって一致団結した生徒達をわざわざ再び混乱させてしまえばめんどくさいことになることは避けたいのだ。決してコミュ症に纏め上げることなんてできないから諦めたのではない、えぇ、決して。

 

そんな彼の思考を無視して新たな者達(犠牲者)が立ち上がる。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。でも、お前ひとりでなんかやらせねぇぞ? ……俺も、戦うぜ!」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないのよね。………しょうがない、私も戦うわ」

「雫……」

「えっと、皆が戦うなら、私も……」

「香織……」

 

いつものメンバーが、光輝のいうことに賛同する。後はもう芋蔓式である、次々とクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。

 

途中から香織や雫から視線を日色は向けられたが日色は興味ないですとでも言うようにプイと目を逸らす。

 

結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるし、未だに現実という認識が薄く、自分達が勇者だから大丈夫だと思っているのかもしれない。

 

それを本当に理解しているのはオタクでありながら幼い頃から虐められ続けられたが故に人一倍負の感情に敏感なハジメと元から異世界の残酷さを知っている日色だけだった。

 

 

ハジメは最もクラスで影響力のある光輝が立ち上がるように話を誘導させたイシュタルの手腕とこの不安でしかないクラスメイト達との未来を考え少し不安になった。

 



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ステータスプレートが何の材料で出来ているか気になる俺氏by赤ローブ

こんにちはアルテールです。

今回は日色君のステータスの発表!
さぁ、一体主人公の天職は一体何なんだ!

まぁ、お察しの人もいるかもしれませんが……

では、どうぞ!


 戦争に参加することが決定した後、ハジメたちは聖教教会の本山である【神山】の麓にある【ハイリヒ王国】の王城へと移動した。標高八千メートを超える【神山】から王城までつながっている魔法で動くリフトのようなものを用いての移動である。標高八千メートルを超える【神山】から見る景色は壮大の一言に尽きたとハジメは後に語る。

王城に到着して待っていたのは【ハイリヒ王国】の国王であるエリヒド・S・B・ハイリヒに王妃であるルルリアナ、第一王子であるランデルそして将来魔王の嫁のひとりになる王女であるリリアーナという王族のオンパレードである。その時エリヒドがイシュタルを立って出迎えたことからハジメはこの国が動かしているのが『神』であると察していた。その後大臣や騎士達の挨拶があったり、ランデル殿下が香織にしきりに話しかけたり、何故か近くにいた日色が睨まれたので日色は完全にスルーしたり。

 

その後王宮の一人一室用意された部屋で休むことになったのだが、天蓋付きベッドに愕然としたのはハジメだけではないはずだ。豪奢の部屋にハジメは少し落ち着くことができなかったが怒号の一日だったからだろう張り詰めていたものが徐々に溶けていくのを感じベットにダイブするとともに意識が闇に沈んでいった。

 

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

生徒たちはまず訓練場に集められ、十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。配られたプレートを何だこれ?と不思議そうに見る生徒達に騎士団長であるメルド・ロギンスから直々に説明がなされた。

 

騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったハジメだったが、対外的にも対内的にも“勇者様一行”を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。

日色は「副団長は苦労人だな……」と少し遠い目をしていたのがハジメは気になった。その瞳がまるで同士を見つけたような目だったからだ。

きっと今頃書類に埋もれている副団長がいるのだろう、哀れ副団長。小さくハジメは名も知らぬ副団長に合掌しておいた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいらしい、近くにいた騎士に聞いてみるとハジメにそのような答えが返ってきた。

 

ハジメ達もその方が気楽で大変有難かった。遥か年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 “ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

聞かない単語に光輝が質問する。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

なるほど、と大半の生徒達が顔を顰めながら指先に針を少しだけ刺し浮き上がった血をプレートに擦りつけると魔法陣が淡く輝き、銀色に輝くステータスプレートが空色のプレートに変わり、数値が映し出された。

ハジメはみんなと同じように少し期待しながらその数値を見る。

 

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南雲ハジメ 17歳 女 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

 

===============================

 

と表示された。

 

まるでゲームのキャラクターになったようだと感じながら自分のステータスをまじまじと眺める。他の生徒たちも自分のステータスをうへ~と眺めている。

日色はどうなったかな?と気になったハジメはチラリと日色を見ると日色は少し顔を顰め、うわーと若干困ったような表情をしていた。

 

「……………………ハァ」

 

日色は面倒臭いことになったとでも言うようにため息をつい、てステータスプレートを身体に近づけることで周りに見られないようにし、こっそりとプレートを()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ねぇ、日色はどうだったの?」

 

そんな謎の動きをしていた日色に疑問を抱いたハジメはチョンと日色の腕を軽く触って聞いてみると日色は「あー、見てみろ」と紅緋色に染まったプレートをポイッっとハジメに渡した。

人によってプレートの色は違うのかな?と自分の水色のステータスプレートを日色に渡して日色のである紅緋色のステータスプレートの数値を眺める。

 

===============================

 

神代日色 17歳 男 レベル:1

天職:筆写師

筋力:30

体力:40

耐性:35

敏捷:40

魔力:35

魔耐:30

技能:紙作成・魔力筆・本製作・高速演算・瞬間記憶・言語理解

 

===============================

 

「ハジメのステータス、完全にゲームであるような初期キャラだな」

「うぅ、別にいいもん!日色とは違ってファンタジーなことができるから!」

 

日色のステータスとの差にハジメはウガー!と怒りに任せて日色のステータスプレートを投げ渡す。至近距離から放り投げたステータスプレートは日色の人差し指と中指に挟み込まれ見事に眉一つ動かさずキャッチされた。

はいはい、落ち着けとまるで娘をあやすようにハジメは日色に宥められているとメルド団長から説明が入った。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に“レベル”があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

どうやらレベルが上がればゲームのようにステータスが上がるのではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

ハジメは自分のステータスを見る。確かに天職欄に“錬成師”とある。どうやら“錬成”というものに才能があるようだ。つまりハジメの天職は『錬成師』日色は『筆写師』というわけなのだろう、その場合、日色才能ありすぎじゃない!?と思ってしまうが同時に日色だからなぁと思ってしまうため内心ため息をついてしまう。

 

まるでゲームのキャラクターになったような感覚にハジメは自然と頬が緩んでしまう。

ニヤニヤとした笑みでステータスプレートを見ていると日色にうわぁと少し引いた視線を向けられてしまい慌てて表情に力を入れようとするがあまり力が入らない。自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものである。

 

しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び嫌な汗が噴き出る事となった。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

この世界のレベル1の平均は10らしい。ハジメのステータスは見事に10が綺麗に並んでいる。つまりクラスメイトのステータスはハジメとは違い三桁程だということなのだ。

 

(あれぇ? どう見ても平均なんですけど……もういっそ見事なくらい平均なんだけど? チートじゃないの? ……ほ、他の皆は?一緒だよね、日色だってこのぐらいだったし、やっぱり最初はこれくらい何じゃ……)

 

「……どうやら、俺とハジメは人一倍ステータスが低いようだな」

「え?」

 

ほら、見てみろよと日色が指差した方向には光輝がメルド団長にステータスを報告しに前に出たそのステータスは……

 

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天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

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まさにチートの権化である。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうである。

 

ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が“派生技能”だ。

これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる“壁を越える”に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

光輝だけならばと淡い希望を持っていたハジメだがどの生徒もステータスが平均が80を超えているのを見てその希望は粉砕された。というか他のクラスメイトのほとんどが戦闘系天職ばかりなのだが……

 

ハジメは自分のステータス欄にある“錬成師”を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。技能も二つだけ。しかも一つは異世界人にデフォの技術“言語理解”だ。つまり、実質一つしかない。だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。こんなのだったら日色の方がマシだった。

そうしてメルド団長がハジメ達のところにやって来たので日色とハジメは同時にステータスプレートを見せた。

これまで見てきた全員が『神の使徒』にふさわしい力を持っていたことにほくほく顔だったメルド団長は、二人のステータスプレートを見て、「ん?」という顔になり、ぶんぶんと振ってみたり裏返してみたり。完全に現実逃避である。さらには金属製のプレートなのに光に透かそうとしてみたりといろいろしたが、やがて現実を受け入れたらしく、凄く微妙な表情で二人にステータスプレートを返した。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……それと筆写師は……書士の上位職だ。紙を魔力で生み出したりできるんだが、あまり持っている者は少ない天職だな……」

「あはは、すみません。ご期待に沿えなかったみたいで」

 

言葉に詰まるメルド団長に、ハジメが苦笑しながらそう言う。日色も「すみません」と謝っていた。

 

「い、いや。そんなことないぞ? 熟練の錬成師が作った武器はアーティファクトに負けないモノもあるし、アーティファクトの整理だってできるぞ? それから……」

 

なんとかハジメをフォローしようとするメルド団長だが、ハジメは「気にしてませんよ」と言う。こういうフォローをしてくれるメルド団長はかなりいい人なのかもしれない。

 

日色を目の敵にしている者たちがそんな日色の欠点を見逃すはずがない、クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では日色やハジメは役立たずの可能性が大きいのだ。代表の檜山大介がニヤニヤとしながら案の定絡んできた。

 

「おいおい、神代。もしかしてお前、非戦系か?筆写師でどうやって戦うつも「そうだな、檜山。お前の言うとおりだ。と、いうわけでメルド団長、俺は訓練はやめておきます」

「え、ちょ!日色!?」

 

日色を馬鹿にするように声を張り上げ、ハジメは日色が馬鹿にされていることに怒りを抱いたが檜山の言葉を遮るように静かにメルド団長へと声を掛けて、ペコッとお辞儀した後、驚きの声を上げるハジメを置いてスタスタと王城内に戻っていこうとすると慌ててメルド団長に止められた。

 

「ま、待ってくれ‼確かに非戦闘系天職ではあるが戦闘ができない訳では……」

「いえ、俺の技能は完全に内政向きです。確かにハジメの錬成師のような天職だった場合は武器などの製作に役立てますが俺のは一切役に立ちません、そんな足手纏いに訓練の時間を割くのは非効率的ですよ」

 

全くの正論だった。確かにハジメの錬成は戦闘で用いれば敵の足止め、行動可能範囲の制限などの補助に役立つだろう、しかし日色の技能は完全に戦闘に役立つものではない。だったらそんな天職を持った日色を置いておいて光輝などの訓練を厚くした方が効果的である。

そしてなによりも……

 

「……日色」

 

ハジメは心配そうに小さく呟いた。ハジメは気づいたのだ日色の意図に。

 

そう、なによりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

太陽が出ていれば金星を見つけることが難しいように、最も役立たずな者がいればそのもの以外を馬鹿にすることはない。日色は自ら人が必ずしも持っている優劣感を利用した自己犠牲の囮となったのだ。

 

しかし、そんな王城内に戻ろうとしている日色に待ったをかけた愛子先生がいた。

 

「神代君、気にする必要はありませんよ!先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。神代君と南雲ちゃんの二人だけじゃありませんからね!」

 

と声高らかに言う愛子先生、ハジメや日色を励まそうとしているようだがどう見てもフラグにしか見えない。

愛子先生はピカッっとステータスプレートを取り出して「ほらっ」とハジメと日色に見せた。

 

=============================

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

 

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

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ハジメの目が死んだ。

 

やっぱり僕なんか……と落ち込み始め、日色に大丈夫か?と慰められていた。立場が完全に逆だと思うのは気のせいだろうか?

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメの様にいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。それを見たメルド団長も「何!?作農師だと!?おい!至急、王に報告しろ!」と騒ぎ始め、兵士たちがドタドタと動き始め少し騒ぎになった。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「あ、あれ?な、南雲ちゃん、大丈夫ですか!?」

 

反応がないハジメに雫が苦笑いを零し、香織が日色とハジメへと心配そうに駆け寄る。

愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

 

日色は騒がしい周りの状況にこれからの未来のことも考えてため息を吐く。

 

それは自分の低いステータスのせいで差別に合うから……()()()()

 

チラリッと日色は周りにバレないように自分のステータスプレートをもう一度見る。

 

すると紅緋色に輝くプレートに朧げに青色に輝く()()が現れ、次の瞬間空気に溶けるように消え去った。

ステータスプレートに現れた文字は『欺』

 

その文字が消え去ると共に現れたステータスプレートはさっきまでとは一切変わっていた。

 

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神代日色 17歳 男 レベル:1

天職:筆写師 文字使い

筋力:30

体力:40

耐性:35

敏捷:40

魔力:200

魔耐:30

技能:紙作成・魔力筆・本製作・高速演算・瞬間記憶・文字魔法[+一文字開放]・剣術・集中・限界突破・言語理解

 

=============================

 

魔力は最初に見たステータスより圧倒的に上がり光輝を超えており、技能は4つも増えていたのだ。

では、何故ステータスが偽られていたのか?それは日色がステータスを見たときにコッソリと文字魔法を使っていたのだ。

文字魔法とは書いた文字の意味を現実に起こす魔法、それを日色はステータスプレートに『欺』の文字を書いたのである。

 

(……やれやれ、ぶっつけ本番にしてはうまくいったな)

 

隠した理由は勿論のこと圧倒的に高い魔力と技能、そして職業が原因だ。……いや、この場合文字使いは肩書きなのかもしれない。

できればステータスは平均程度が良かったのだが魔力を除いて平均が35というしょっぱい数値、技能なんかは論外である。文字魔法で偽れたものの、自分の未来の一寸の先は闇である。

不幸中の幸いといえば文字魔法がきちんと使えたところと日記の紙切れの心配がなくなるというところだろうか。

 

まぁ、まずこれからのことを考えて真っ先にすべきことは――

 

『あの……ハジメしゃん?いい加減戻ってきて欲しいんですけど?あの、どうして上目遣いで涙目になりながら俺の袖を掴んでいるんですかねぇ!!?ちょ!他の生徒に見られた誤解されるから!!地味に他の生徒に見えないように無言で泣くのは止めてぇぇぇええええええ!俺の精神ダメージがしゅごいのぉおおおおおおお!!』

 

この目の前で止めを刺されたハジメをできるだけ早く泣き止ませることだろう。

 




最近勘違い要素が少ない……一度日記視点に変えようかなぁ?


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文字使い日記⑦

こんにちはアルテールです。

今日は久しぶりに日記視点を書いてみたんですがうまく書けず予想以上に駄目文になってしまいました。申し訳ありません!許してくださいなんでもしますから!!(なんでもするとは言っていない)


ヾ(@⌒ー⌒@)ノ月\(//∇//)\日

 

この日記を書くのも久しぶりな気がする日色です。

えーと前回から約二週間ほど経過しただろうか?基本的徹夜していたから時間感覚がわからん。

この二週間何をしていたかというとひたすらに座学と訓練を繰り返していましたよ。朝早く起きたら訓練、その後朝ご飯を食べたら座学を行い、昼ごはんを食べたら再び訓練、その後深夜まで座学という感じとなっている。えぇ、気分はブラック企業の社員です。

かなりハードだと思うがまぁこれは仕方がない、これも日記帳に咄嗟に書き込んだ魔法陣が原因なのだ。

トータスに飛ばされる時に現れた魔法陣の式の構成、意味、その内容を調べようと思ったんだけど調べても一向にわからない。王立図書館にある魔法書のジャンルに入っている書物は全て読み込んだが成果は何一つない、全くの骨折り損である。

あーないわー、マジでないわー。アイスの棒拾ったら『当たれ』と書かれているレベルでないわー。

 

いや、まぁ、わかってたけどね?そんなので地球に帰れるわけがないってことぐらい。だけどどうしてもさ、淡い希望を抱いてしまうじゃん?だからまぁ、後悔はしていない。

 

一応、調べたことは紙に記しておこうかな?と思って紙を貰おうとしたんだけどこんな時に役に立つ技能があった。

【紙作成】とである、なんとこれらは魔力を消費することで【紙作成】は紙を、【魔力筆】はペンとインクを生み出すことができるのだ!(ババンッ!!)

 

ちなみに日記も【魔力筆】で書いています。

 

【紙作成】の能力は文字どおり紙を魔力を用いて生み出す能力である。紙の大きさによって魔力消費が変わり、最近は画用紙ぐらいの大きさまで作れるようになった。【魔力筆】は物に文字を書くたびに魔力を消費していくものだ。ちなみに【魔力筆】50mlで魔力10を消費する。

そんなわけで二週間分の地球の帰還方法を調べた書類を纏め、技能【本製作】で本に作り変えて『地球送還魔法考察目録』と名づけた。決してクサイとは言ってはいけない。

 

後は戦闘能力が無いハジメもできるだけ足手まといになりたくないらしく俺と一緒にメルド団長に頼みにいき、説得しに言った。

説得は見事成功、ヤッタネ、これで思う存分遊べるぞ!

 

……いや冗談です、きちんと体を鍛えるよ。

 

ハジメと一緒に体づくりを中心に一緒に他のクラスメイト達の訓練とは緩い訓練をしている。

後はまぁお情け程度にハジメに比較的簡単なナイフの扱いを教えている程度である。

ハジメはメルド団長に頼んだことで国の練成師から錬成を教わっているらしく、錬成の魔法陣が書かれた手袋を自慢しに来てくれた。なんだかハガレンみたいだなと思った、ちょっと指をパチンと鳴らしたら炎とか出せないだろうか?

いいなぁ~俺もファンタジーなことしたかった。文字魔法は魔力消費が激しく3、4回で力尽きてしまうからなぁ、そんなに使えないんだよ。

 

座学は空いた時間を使って座学の時間に教わることを全て予習しまとめたものを教師役に出すことと免除になったから一瞬で終わらした。こういう時に役に立つのが技能【瞬間記憶】である、効果は文字どおり視界に映る景色を瞬間的に覚え、忘れないというものである、完全記憶能力かよ。

そんなわけで2時間ほどで座学の内容を完璧に予習して、ハジメに理解できるように分かり易く説明し開始して6時間程でレポート的なものを提出した。……驚かれたような表情をされたけど気にしない、それよりも『地球送還魔法考察目録』を書くために調べていたからな、仕方がないことなのである。

 

というかハジメ、時々訓練の時に俺を人外を見るような目で見ないでくれない?泣くよ俺、泣いちゃうよ?

 

ヾ(@⌒ー⌒@)ノ月(^-^)日

 

茶色の残像が軌道を描きながら俺に襲いかかる。左足を勢いよく踏み出すことで振った木製の短刀を俺はハジメの手首に手刀を軽く入れることで込められていた力を逃がし、勢いを無くす。ハジメは前回ならそのまま倒れただろうが踏みとどまって左手で殴りかかってきた。俺は右手で掴み一度軽く押したあと一気に引き寄せて体勢を崩させる。

突然体勢を崩されたハジメはまだだ、とでも言うように短刀を突くが体勢が崩れているためあまり勢いに乗っていない、短刀を左手で逸らした後身体を右に寄せて足を引っ掛けて転かす。

勢いが止まらずハジメがウボァと顔面から地面に突っ込みそうになったので片手を掴んでなんとか踏みとどまらせてやり、模擬戦が終了する。

 

嫁入り前の娘に傷をつけさすにはいかんのだよ!(迫真)

 

にしてもハジメは上手くなったものだ、最初は木製の短刀を持つだけでふらついていたのに今ではかなり様になっている。何よりもこの集中力だ、座学を教えている時も訓練している時も一切思考が逸れていなかった、なんで技能に俺と同じ【集中】がなかったんだろう?というかそもそも未だに【集中】の効果がわからない、何の効果を持っているんだろう?思考速度を上げるとか、黒○のバ○ケのゾーンとか入れたりするのかな?だとしたら夢が広がりんぐ。

 

そんなわけでハジメを褒めてやると照れてくれた、とっても可愛かった。

 

 

そんな頑張ったハジメのために休憩のついでに飲み物を取りに行っていると、途中で生真面目八重樫さんが現れた。ナズェミテルンディス!!

 

ギィヤァアアアアアアアアアアア!!と叫びそうになったけどどうやら俺を殺しに来たわけではないらしい。

どうやら俺に話があるらしく少し話さないかということだった。いや、待て、確実に闇討ちに来ているぞコイツッ!!人がいないところまで俺を誘った後、背後からグサッ!っとするつもりだ!!(愕然)

 

そうは行くか!と断ろうとしたのだが八重樫さんのオーラが断ったら殺すと語っていた。地味に背後に無駄無駄しそうな黄金のスタンドいるような幻覚が見えてしまう。え?あれ、幻覚だよね?本当に使えるわけじゃないよね?

 

そんなわけで近くの日陰のベンチに八重樫さんと共に適当に座ると―――(ここから先は書かれていない)

 

 

左腕が泣きそうなほど痛い件について。

あぁ、クソッ、日記が書きにくい。ひとまず起こったことを書いていくことにしよう。

八重樫さんに言われたことは「どうして訓練をサボっているのか」「どうして戦おうとしないのか」等と言われ、適当に答えていると何故か喧嘩を売られた。

いきなり背後からどこから取り出した二つの剣の片方を俺に渡してきて「構えなさい」だぜ!?俺を殺す気か八重樫さん!!?

アレはないわ、マジで死ぬかと思った。

 

いや、だって剣筋が見えないんだよ?気づいたら八重樫さんの剣が皮膚を触れているんだよ!?死ぬ!!マジで死ぬって!!

しかし、さすがは八重樫さん、手を抜いてくれたおかげでなんとか生き残ることができた。

 

初めて死にかけたかもしれない、恐怖に怯えてしまったせいで元の訓練場に戻る時に八重樫さんについ何か言った気がするけどできるだけ早く八重樫さんから逃げたかったせいで何を喋ったか忘れてしまった。

 

そうして、身体がボロボロになりながら帰ってくるとハジメをボコボコにしている檜山グループが。

 

貴様ら!ウチの娘に何してんじゃボケぇ!!とそんなノリで立ち向かったら左腕を風の魔法でズタズタに切られたあとこんがり美味しく焼かれたよ!!

ヤバイよあいつらめっちゃ強いわ、正直言って香織達が来なかったら左腕がなくなっていたかもしれない。

 

え?わざわざ戦いにいってダサいって?うるさいわい!!(逆ギレ)

 

そんなわけで香織達のおかげでなんとか檜山たちを撃退すると、香織達がハジメの怪我の治療をしてくれた。え?いや、俺は?あ、回復無しですか、そうですか……泣きそう。

 

こっそり後で文字魔法で治しておいたけど、痛みはまだ収まらない、いや、本当に泣きそうなんですけど!

しかも追い討ちをかけるように八重樫さんが忘れ物って俺の日記を持ってきたんだよ!!

 

え?八重樫さん?見ちゃった?もしかして日記見ちゃったの?

 

そうだったら自殺しようと思いながら聞いてみるとどうやら見ていないらしい。もしかして気遣ってる?と思ったけどどうやら本当らしい。よかった、恥ずかしさに悶絶死するところだった。

 

あぁ、もう、本当に俺、地球に生きて帰れるかなぁ(涙目)

 

俺は今日もそんなことを考えながらトボトボと元の訓練場所に戻っていく。あ、ちなみに日記には俺以外に見られないように『封』の魔法をかけることにした。一々日記を書くときに『解』の魔法を使わなければならなくなったがこれは仕方ないだろう。

 

そしてようやく訓練時間が終わり、ようやく夕食の時間まで休めると自分の部屋に戻ろうとしているとメルド団長に伝えたいことがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の中、俺は小さくこう思った。

 

……やっぱり、俺は地球に生きて戻れないかもしれない。

 

 

 

 




現在日記視点を重視するか三人称視点を重視するか考え中……


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無能ちゃんは今日も頑張る

お久しぶりです、アルテです。

夏休みを名残惜しんでどうにかこうにか完成させました。
コレジャナイ感がありますがお許しください。

……最近は別の小説を書きたい衝動に駆られて困っております。


日色が訓練に参加しません発言をし、ハジメが自分の最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられた日から約二週間が経過した。

ハジメはこの二週間の間何をしていたかというとひたすら座学と訓練を日色と二人きりで永遠と繰り返していたのだ。何故、ハジメと日色が二人だけで訓練しているかというとあのハジメと日色が役たたずだと認識された日、結局辞退は拒否され訓練を強制参加させられることとなった日色は真っ先にメルド団長に座学と訓練の自習を頼んだのだ、主に記憶することに長けている技能を持つ日色は知識面と技能で役に立ちたいのでその時間が欲しいと。

それに釣られたのがハジメである、僕も役立たずなので技能と座学を鍛える時間を下さいと日色に便乗して頼み込んだ。何やってんだお前!と日色に見られた気がするがハジメからすれば日色と離れないことが最も重要なことなのだそんなことは気にしないのである。

 

そんなハジメ達の説得(笑)に心を動かされたメルド団長は「お前らの姿勢は素晴らしいぞ!!」と大感激、滅茶苦茶張り切って行動を起こしてくれたおかげでハジメは錬成の魔法がついている手袋を貰い、国の練成師に錬成を教わることとなった。ちなみに日色は王城から大解放された武器庫から雫と同じの刀に似た片刃の剣を適当に見繕っていた。

 

座学の時間は予習したものを纏め教師役の人に提出すれば免除してやると言われ、ここで活躍したのが日色である。技能【瞬間記憶】を用いて座学の内容を開始初日の三時間程で全てを予習し、残りの時間をハジメに教える時間となってしまった。

訓練の時間では座学に時間を使うため他のクラスメイト達より訓練時間が少なくなってしまうため日色が考えた体力作りを重視した訓練を行い、余った時間を比較的扱いやすいナイフを日色がハジメに教えることとなった。

 

そんな訓練の中ハジメはかなりの集中力で行っていた、日色に足手まといなどといわれたくないためにだ。

 

そんなハジメのステータスがこちらである。

 

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南雲ハジメ 17歳 女 レベル:2

天職:錬成師

筋力:18

体力:18

耐性:18

敏捷:18

魔力:18

魔耐:18

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+高速練成]、言語理解

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ハジメは寝る間も惜しんで錬成を日頃から行っていたことで[+高速練成]という派生技能を手に入れたことにより錬成速度が格段に早くなり錬成範囲がかなり広くなり落とし穴程度なら作れるようになった。最近は日色に「細かい錬成もできるように努力すればどうだ?」と言われたため石などを錬成してコップのような形を作ろうと思っているのだが中に空間を生み出すことが難しく行き詰っていた。

 

ちなみに日色はこんな感じ。

 

===============================

神代日色 17歳 男 レベル:2

天職:筆写師

筋力:38

体力:47

耐性:43

敏捷:49

魔力:250

魔耐:37

 

技能:紙作成[+作業効率上昇]・魔力筆[+消費魔力減少]・本製作・高速演算・瞬間記憶・言語理解・文字魔法[+一文字開放]・剣術・集中・限界突破・言語理解

===============================

 

日色もハジメに劣らずステータスが上がっていた。まぁ隠していた技能たちは使っていないため特筆するような変化がなかったが。

ハジメは自分が少しずつだが日色に近づけていることに喜んで――後に明かされた光輝のステータスを見て泣きたくなった。

 

==================================

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:10

天職:勇者

筋力:200

体力:200

耐性:200

敏捷:200

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読

高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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ざっとハジメの成長速度の約五倍である。

ついでに言えばハジメや日色(そもそも日色はいらないと思うが)には魔法適性がないことがわかった。

 

魔法適性がないとはどういうことか。それはこの世界における魔法の概念を少し説明しなければならない。

 

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することは出来ず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる為それは必然的に魔法陣自体も大きくなるという事に繋がってしまうのだ。

例えば、RPG等で定番の【火球】を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になってしまう。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

 

しかし、この原則にも例外がある。それが適性だ。

 

適性とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。この省略はイメージによって補完される為、式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

大抵の人間は何らかの適性を持っているため、上記の直径十センチ以下が平均であるのだが、ハジメの場合、全く適性がないことから、基本五式に加え速度や弾道・拡散率・収束率等事細かに式を書かなければならなかった。そのため、【火球】一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

余談だが魔法陣は、一般には特殊な紙を使った使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないが、何度でも使えて威力も十全というメリット・デメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は後者だ。

 

え?日色(バカ)はどうだって?火球のような魔法を使う場合は――

 

魔力を人差し指に貯めます。

    ↓

『炎』という文字を地面に描きます。

    ↓

【火球】の何倍も威力のある火炎が舞います。

 

以上だ。しかし確かに日色の文字魔法はチートなのだが魔力消費が激しく数回しか使えない、一回でステータスで表すと魔力を60も消費してしまうのだ。

 

しかもハジメの場合敵の眼前でしゃがみ込み、地面に手を突くという自殺行為をしなければならず、日色の場合どこかに指を着けて文字を書かなければならないという決定的な隙が生まれてしまい結局のところ戦闘では役立たずであることに変わりはない。

正直言って才能の差に嫉妬してしまいそうになるハジメだった。

 

そんなハジメは現在訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。その手には“北大陸魔物大図鑑”という何の捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑があった。

ハジメは人間に敵対する魔人族ついて調べようとしているのだが、『邪悪で狡猾』とか『神敵である』といった曖昧な情報しかなかったので、こうして別種族のことに移行したというわけである。

ハジメはこれも神が関係しているのだろうと予想していた、おそらくだが信仰の妨げになるような情報は一切書かれていないのだろう。

この二週間で主にハジメが日色と離れたくなくてでしゃばったのが原因だがハジメは『無能』日色は『能無し』というレッテルを貼られてしまった。

 

もういっそ日色と一緒に、旅にでも出てしまおうかと、図書館の窓から見える青空をボーと眺めながら思う。大分末期である。ハジメはもし行くなら何処に行こうかと、ここ二週間頑張った座学知識を頭の中に展開しながら物思いに耽り始めた。

 

(やっぱり、亜人の国には行ってみたいなぁ。ケモミミを見ずして異世界トリップは語れないし……でも“樹海”の奥地なんだよなぁ~。何か被差別種族だから奴隷以外、まず外では見つからないらしいし。流石に奴隷として見るのはちょっと……)

 

ハジメも年頃の女の子、ヲタクであるのも含めてそっち系のことはあまり妄想はしたくないのである。

ハジメの知識通り、亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がる【ハルツィナ樹海】の深部に引き篭っている。なぜ、差別されているのかというと彼等が一切魔力を持っていないからだ。

 

神代において、エヒトを始めとする神々は神代魔法にてこの世界を創ったと言い伝えられている。そして、現在使用されている魔法は、その劣化版のようなものと認識されている。それ故、魔法は神からのギフトであるという価値観が強いのだ。もちろん、聖教教会がそう教えているのだが。

そのような事情から魔力を一切持たず魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と考えられているのである。

 

じゃあ、魔物はどうなるんだよ? ということだが、魔物はあくまで自然災害的なものとして認識されており、神の恩恵を受けるものとは考えられていない。唯の害獣らしい。何ともご都合解釈なことだと、ハジメは内心呆れた。

なお、魔人族は聖教教会の“エヒト様”とは別の神を崇めているらしいが、基本的な亜人に対する考え方は同じらしい。

この魔人族は、全員が高い魔法適性を持っており、人間族より遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で強力な魔法を繰り出すらしい。数は少ないが、南大陸中央にある魔人の王国ガーランドでは、子供まで相当強力な攻撃魔法を放てるようで、ある意味、国民総戦士の国と言えるかもしれない。

人間族は、崇める神の違いから魔人族を仇敵と定め(聖教教会の教え)、神に愛されていないと亜人族を差別する。魔人族も同じだ。亜人族は、もう放っておいてくれといった感じだろうか? どの種族も実に排他的である。

 

そんなことを思っていると訓練の時間が迫ってきたようだ。“北大陸魔物大図鑑”を日色にちゃんと本を大切にしろなどと昔言われた為、傷がつかないように読んでいた本を片付け、すっかり顔なじみになってしまった司書に挨拶をした後、図書館を出て、訓練場へと向かっていった。

 

 

ハジメは右手に木製の短刀を持って目の前の3メートル先にいる日色と対峙していた。

対してヒイロは左腰に刀に似ている片刃の剣を腰に差しているが一向に抜く気配がない。

ハジメが日色にナイフの扱い方を教えてもらう時、2週間の間一度も日色は剣を抜いたことはなく毎度毎度無手でハジメは取り押さえられてしまうのだ。

 

しかしそれも今日で終わりだ、ハジメはその気持ちで日色へと飛びかかった。

 

日色との距離を4歩で詰み、勢いよく突きに掛かる。空気を裂くように突かれた短刀は日色に直撃する前に日色が半身を下げながら半歩下げることで掠りもせずに避けられる。しかしハジメは避けられることをこの二週間で悟っていたのか左手で裏拳を放つ。日色を殴ろうとするのはかなり気が引け、未だに当たる直前で躊躇してしまう。

日色は当たる寸前で勢いがなくなったことに気づいたのかハァと小さくため息をつき片手で裏拳を掬い上げていなされてしまう。

 

「やぁっ!」

 

ハジメは左手が掬い上げられるあいだに右手の短刀を戻し右から左へと切りかかる。日色はハジメの手首に軽く手刀を入れることで手首の関節が曲がり力の勢いがなくなってしまう。勢いを乗せて切りかかってきたからだろう勢いが逃がされたことで身体の体勢が崩れそうになってしまう。

 

「こ、のッ!!」

 

なんとか踏みとどまって左手で殴りかかるが日色によって絡め取られるように右手で左腕を取り押さえられてしまう。日色は一度軽く前に押したあと一気に引き寄せてハジメの体勢を崩させる。

突然体勢を崩されたハジメはまだだ、とでも言うように短刀を突くが体勢が崩れているためあまり勢いに乗っていない、日色は短刀を左手で逸らした後身体を右に寄せて足を引っ掛けて転がす。

 

「え?あ、きゃッ!!?」

「ほらよ」

 

勢いが止まらずハジメがウボァと顔面から地面に突っ込みそうになったが日色がその直前で左手を片手を掴んでなんとか踏みとどまらせてやり、模擬戦が終了する。

 

「うぅ~、また負けた……」

「ハッ、流石に初めて二週間の相手に負けるわけ無いだろうに」

 

訓練場の隅の隅で悪態をつきながらショボーンと落ち込んでいるハジメに日色は飲み物を飲みながらタオルをかけてやる。

 

「まぁ、だとしてもハジメはかなり上手くなったな」

「そ、そう……かな?」

「あぁ、最初の頃のあのフラフラしていた頃とは違って……ククッ」

「ちょ!思い出さないでよ!」

 

日色が初日の頃を思い出して突如笑い出すとハジメが顔を真っ赤にしてイヤイヤと恥ずかしがる。ハジメが日色にナイフ術を教えてもらおうとした時、試しに振ってみろといった日色の指示通り振ってみると木製の短刀が手からすっぽ抜け頭に直撃するという間抜けなことが起こったのだ。ちなみにハジメがあまりの痛さに半泣きしかけバッチリ黒歴史入り確定である。

 

うがーとその頃を思い出し恥ずかしがっているハジメをニヤニヤと見ていると日色はある事に気がついた。

 

「ん?ハジメ、お前飲み物はどうした?」

「あ……そういえば近くのベンチに忘れてた」

 

慌てて取りに行こうとするハジメに日色は頭をポフッとおいて、「俺が取りに行ってやるから休んでろ」とハジメに有無も言わせず休ませてスタスタと訓練場から出て行った。

 

 

「……あった、これか」

 

日色は訓練場から出て、歩いて30メートル程先にあるベンチに置かれてある飲み物を手にとって小さく溜息をつく。まさか近くのベンチにあると言っていたが何処にあるのか知らなかった為、5分も探すのにかかるとは思わなかった。日色は自分の無計画さに呆れてしまうがまぁ、いいかと気を取り直す。別に日色は時間厳守させる様なマメな男では無いのだ。

それじゃあ、さっさと戻るかと日色は振り向いて――

 

「こんな所にいたのね、日色」

 

聞こえてきた声の主を察して日色はめんどくさい奴に出会ったとでも言うような表情をとった。

振り向いた日色の目の前に、此方を見て立っている八重樫雫が立っていた。

 

「……わざわざ、こんな【能無し】に何の用だ、ポニー?あのテンプレ勇者率いる主力パーティの一人であるお前はこんな【能無し】に関わる時間などないはずだが?」

「その能無しさんが訓練を他の生徒より怠っている、っていう噂を聞いたから見に来たのよ」

 

「後いい加減、雫って呼びなさい」という雫に日色は面倒臭いとでも言うようにハァ、と溜息を吐いた。日色は八重樫雫が苦手である、決して嫌いというわけではないが雫は香織と同じように関わると厄介ごとしか起きず、何よりも――

 

『ギヤァアアアアアアアア!!妖怪首おいてけが現れたァああああ!!!?』

 

……何よりも出会うたびに命の危険を感じてしまうからである。そんなはっちゃけた内心は放っておいて、日色は嘲笑うように雫へと言い返した。

 

「ハッ、仕方ないだろう?俺はクラスメイトよりステータスが低く、成長速度もあのテンプレ勇者の五分の一だ、そんなんだったら訓練するやる気も無くなるに決まっているだろう?」

 

日色は笑って両手を上に上げてヒラヒラとさせる、不真面目に見えるように、やる気がないように見えるように。

その言葉が雫に突き刺さり――

 

「嘘をつかないで」

 

――一刀両断とでも言うように否定された。

 

「……は?何言ってんだお前?」

「じゃあどうして南雲ちゃんに訓練で構ってあげるのかしら?」

 

微かに怪訝な表情をした日色へと雫は疑問を投げかけ、彼の思惑を暴いていく。

 

「………………」

 

日色は答えない、いや、この場合は答えたくない、が正しいのだろう。

 

「日色、あなた、わざわざ不真面目なように装っているわね。南雲ちゃんに矛先があまり向かないように」

「…………っ」

 

日色の表情が一瞬微かに歪む、その表情を見て、やっぱりと雫は確信する。

この男は、彼は、日色は、ハジメのために自ら囮になろうと演じているのだ。

 

「南雲ちゃんと一緒に訓練をしているのは他人よりステータスが低いからじゃない、南雲ちゃんがクラスメイト達に()()()()()()()()()()()()()教えているんでしょう?」

 

それが日色の目的だった。ハジメが日色と同じ訓練をしたいと言ってきた時、日色は逆にこれをチャンスだと思ったのだ。

短刀の技術を教えることで彼女を足手纏いという認識から外させようとしたのだ。

 

そもそも武術とは弱者が強者に勝つための技術なのだから。

 

まぁ、当の本人の内心は『錬成を頑張らせるのもいいけど護身用に教えるのもいいよね』と全く見当違いのことを考えていたのだが。

 

その言葉に日色は、一瞬何かを思い、ハッ!と笑い飛ばした。

 

「面白い妄想するな、ポニー。だが、それは俺がクラスメイト達に勝てるというのが前提のはずだろ?生憎といくら俺でもそれは不可能だ。……もういいだろう?俺はハジメのところに戻らなければならないんだからな」

 

そう、ハジメがクラスメイト達に【無能】という認識を変えるには最低でもクラスメイト達に互角で戦えるほどではなければならない。しかしクラスメイト達の大半が戦闘職に戦闘向けの技能を持っているのだ、もしハジメがクラスメイト達に戦うとなれば戦闘向けの技能なしで戦わなければならない、従ってハジメに技術を教えるにしても日色が勝てなければならないのが前提条件なのだ。

 

日色はそう言ったあとスタスタと元の訓練場へと帰っていく。よし、これで逃げれる!などと内心思っていた日色は次の瞬間、カチャリと自分の背中に冷たい鉄の感触を感じたことで止まってしまった。

 

「そうね、構えなさい、日色。今から試してみましょうか」

「……は?」

 

つい振り向いてみれば雫はイイ笑顔でこちらを見ていた。そう、とってもイイ笑顔で。

 

「私も久しぶりに剣道の立ち会いをしてみたくなったのよ、貴方が私に勝てたら日色も南雲ちゃんが【無能】なんて肩書きをなくせれる可能性もあるでしょう?」

「……お前、もしかしてこれを機に俺に勝とうとしているんじゃ――(カチャリ)……わかった、やろう」

 

日色は雫に言葉を零しそうになったが言葉の途中で剣を構えられたので日色は了承する。人はこのようなことを脅迫というのではないだろうか?

自分の剣は元の訓練場に忘れてしまっているのでそれを理由に断ろうと一瞬思ったが雫がもう一つの剣を渡してきたので無駄だろうと察した。

 

そんなわけで日色対雫という剣道での久しぶりの対決が始まったのだった。




戦闘描写、どうやって書こうかな……


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ステータス差

こんにちは、お久しぶりのアルテールです。

いや、更新が遅くなったのには原因があるんですよ、単純に書くのがめんどくさ(ry、ゲフンゲフン文化祭とか体育祭の準備的なものがあったんです。

今回は割と変なテンションで書いたため何言ってんのコイツ的なところがあるかもしれませんが許してください!なんでもしま(ry(なんでもするとは言っていない)




技能とは才能を表している。剣術の技能があれば剣を振るう才能が、槍術の技能があれば槍を扱う才能があるように。

では、一つ疑問を浮かべてしまうが技能があるだけでその技能の技術は上がるのだろうか?

 

答えは否だ。技能とは、いうならば道のりを短縮できるショートカット用のチケットの様なものだ。技能を持っていない者より同じ練習内容でコツを早く掴み、上達し易くなるというものだろう。『天翔閃』などという物理法則に喧嘩を売っているトンデモ技は魔力を用いてある程度上達した技能を合わせて起こす技なのではないかと日色は仮定している。

 

だからこそ日色は転移前で学んだ剣の技術は竹刀を握ったこともないクラスメイト達に対して大きな優位性(アドバンテージ)が生まれる為決して無駄なものではないと思っていた。

決して油断しているわけではないがクラスメイト達にある程度戦えるだろうと、日色は思っていた。

 

だが、日色は一つのことを忘れていた。

ステータスの差という溝は決してそう簡単に埋めれるものでは無いということを。

 

 

 

日色は剣を構えて二メートル先にいる雫に一瞬の目を逸らさず立ち会っていた。

両者の構えた剣は少しの震えも無く、目の前の相手を指し示し続けている。

 

「……行くわよ」

「…来い」

 

そして、次の瞬間。雫が勢いよく地面を滑らすように足を踏み出して――

 

――文字通り日色の視界から()()()

 

「ッ!!?」

 

閃光が空中を奔る。

咄嗟に日色は上体を倒れるように仰向けになることで間一髪、鼻先を掠めるように数センチ先の空気を裂くように剣が通り抜けていく。

 

「うッ……そだろ、おい!」

 

慌てて後転の要領で地面に手をつき、後方に下がり距離を稼ごうとするが顔を上げた途端目の前に雫が現れ、剣が日色へと振り下ろされた。

咄嗟に剣を構え受け止めるが――

 

(お……もいっ!)

 

腕に襲いかかる衝撃は地球との比では無い、体感では地球での光輝の剣戟の3倍の重さを感じている。日色は仕方なく剣を傾けることで剣の腹を滑らし雫の剣をいなし、お返しとばかりに振るうが雫はいつのまにか日色の射程外に移動しており、日色の剣は空気を裂くだけだ。

 

「……【縮地】か、非戦闘職の俺にそれはズルくないか?」

「その【縮地】に反応できる貴方が何を言っているの……よッ!」

 

【縮地】それは文字通り一瞬にして距離を詰める高速移動の技能である、しかも移動距離が短い代わりにその速度は低スペックな日色では視認はほぼ不可能である。

再び摺り足による重心移動で素早く、そして滑らかに距離を詰めてくる雫。その速度は最早正確の捉えることなど不可能だ、一息で三メートルの距離を詰められ、飛び跳ねるように剣が跳ね上がり日色の首筋へと襲いかかる。

 

「クソッ、少しは手加減しろ!」

 

確かに剣の刃は潰されているがそれでも鉄であるのは変わらない、おそらく雫はこの程度の攻撃は日色がなんとか凌いでくれるだろうと信用しているのだろうだが日色からすればたまったものではない。

咄嗟に日色は剣の腹を斜めに傾けながら盾にし、全身を沈みこませることによって襲いかかる衝撃を上へと逃して行く。雫との身体能力の差はもう体感している、彼女とまともに打ち合えば確実にこちらが押し負け、避けようとしても身体能力の差でいつか捉えられてしまうだろう。だからこそ、日色は剣を受け流すことでしか対処することが出来ないのだ。

まぁ、それでもステータスが約4、5倍の差がある相手に戦えること自体日色の異常性がわかるのだが。

 

受け流し、いなし、逸らし、偶に反撃する。

元々剣術の才能があった雫の猛攻は例え日色でもそう簡単に捌けるものではない。

ガキゴコッキカキキカキコッカガギガキッ!!!と連続で響き渡る金属音が日色の耳に入り込んでくる。

 

(チッ、このままだったらジリ貧だ、勝負を仕掛けなければ負けるな)

 

そう思いながら舌打ちをして何度目かもわからない襲いかかる横薙ぎの斬撃を後ろに跳ぶことで避け、日色は雫から距離を離す。

しかし――

 

「甘いわよっ!」

 

――日色が次の行動に出る為に足を地面につける前にその距離を踏み越えた雫が剣を勢いよく突いてくる。

日色はまだ地面に着いていない、剣が突き刺さる前に地面を着くことは出来るがそこから左右に避ける事は出来ない。例え自分の剣で防ごうとしても軌道を少し逸らすことしかできず日色に当たるのは間違いないだろう。

だが日色は――

 

(それを――)

 

「――待ってたんだよ!」

 

襲いかかる剣の腹を左手で叩くことで方向を逸らしたのだ。逸らされた剣は日色の頬の横を突き抜けてしまうだけだった。

 

「なっ!」

 

勢いを乗せた突きを外されたことで僅かながら体勢が崩れてしまう雫。日色はその隙を逃す程間抜けではない、剣を雫の肩目掛けて振り下ろす。一応当たる直前で止めるつもりだが念のために剣の腹で攻撃をしている、例え直撃したとしても打撲程度で天職が治癒師である香織に頼めばすぐに回復してくれるだろう。

そうして振り下ろされた剣は雫の服に触れ――

 

「まだよっ!」

 

――咄嗟に雫が日色の背後へと【縮地】を使ったことで何も無い空間を振るうだけだった。

 

「ッ!」

 

まさか避けられるとは思いもしなかったのだろう、日色の体勢が前のめりに傾き、決定的な隙を生んでしまった。日色の背後をとった雫はその隙を逃さず斬りかかる。

勝った、と雫は思った。日色はまだ体勢を崩したままだ、そんな状況で背後の攻撃に咄嗟に避けれるわけがない後は日色に当たる直前で止めれば――

 

(…………え?)

 

そして次の瞬間、雫の思考が停止した。

停止した思考とは裏腹に加速された感覚の中でゆっくりと肉体は日色に向かって剣を振り下ろしていた。

 

では何故雫の思考が停止したのか?それは日色の体勢が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、日色は剣を振り下ろしたのでは()()、雫が反応して避けてくれるだろうと信頼し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

もし日色の振り下ろしを【縮地】で日色の背後に回らなかったら、いや、そもそも剣を盾に受け止めてしまえば間違いなく雫が勝っていただろう。目の前で剣を収めるのだ、決定的な隙を見せてしまうのだから、しかし、それは【縮地】により背後に回られてしまった場合は話は違う。

 

【縮地】とは言うならばジャンプと一緒である、指定した短距離を高速で動き移動する。逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()

つまり、それは日色のわざと生み出した隙が消滅することを意味する。

 

気づいてしまってももう遅い、日色の左足が地面を力強く踏みしめ、身体を高速で旋回させ背後へと振り抜きざまに抜刀する。

 

「―――ッ!!」

 

【天閃】

 

今までの金属音とは違う一際甲高い金属音がキィンと響き渡った。

 

 

「ハァ、まったく。こっちは貴方よりステータスが高いのに負けるなんてね……」

 

遠くに跳ね飛ばされた剣をちらりと見てやれやれと呆れる雫を見ながら日色はめんどくさいことをしたとでもいうように不機嫌な表情をとっていた。

 

「……それで?俺にわざわざ立ち会いを誘った()()()()()はなんだ?どうせお前のことだ、大方別の理由があるんだろ?」

 

その日色の言葉に雫は少し目を見開いてやっぱりバレちゃったわねとでも言うように「……えぇ」と呟き、真剣な表情で日色を見つめた。

 

「私はあなたに自信を持ってもらいたかったのよ」

「………………は?」

 

疑問の言葉を零す日色。

 

「【能無し】【無能】貴方達が役立たずっていう噂が王城中に広まっているのは知っているでしょ?」

「……あぁ」

 

日色は少し顔を不機嫌に歪ませながら頷く。本来なら【能無し】という肩書きで終わらすつもりだったのだがどこかのありふれた少女が原因で肩書きがもうひとつ増えてしまったことを思い出しているようだ。

 

「でも日色も南雲ちゃんも私たちの仲間なのよ。貴方達が馬鹿にされているのに我慢できるわけないじゃない」

「………………」

 

これが雫が日色に立ち会いを求めた理由だった。

雫は許せなかったのだ、役たたずだと言われ、無能だと言われ、それでも片方は努力を怠らず自分の出来ることを鍛え、もう片方はわざと無能を演じることでもう一人を助けようとしている彼達を馬鹿にし、貶している者たちが。

日色の思惑に気づいていたのは決してハジメだけではなかった、雫もきっと気づいていたのだ。

 

気づいていたから、いや、気づいてしまったからこそ葛藤していたのだろう。日色達の役には立ちたいが日色に関わってしまえば日色の目的を達することができない。

その葛藤は一体どれほどのものだったのだろうか?

 

「……………………」

 

日色は黙っていた。

それは雫の葛藤に気づくことの出来なかった自分の無力さに嘆いているのか、それともただ単に殺される恐怖でなにも喋ることができないのか。

 

「皆で一緒に地球に帰る、それが私たちの目標でしょう?私も日色の仲間なのよ?私にも背負わせてよ……」

 

そう言って雫は日色の胸の服を掴んで上目遣いで日色を見つめた。日色はそんな雫を見てハァと溜息を吐いた。

 

そして――

 

「……え?」

 

――ポンッと雫の頭を撫で、小さく呟いた。

 

「………善処しよう」

 

そう言って日色は雫の頭に乗せていた手を離し、「じゃあ、そろそろ戻ってもいいか?」と言葉を零す。

その言葉に一瞬慰めてくれるのかと期待した雫はガクッと力が抜けかけるが、まぁ、これも日色らしいといえば日色らしいわねと思って小さく溜息を吐き、小さく手を離した。

日色はようやく解放されたとでも言うようにスタスタと元の訓練場の方向へ戻っていくがふと、思い出したかのように立ち止まり振り向かずに雫へとポツリと言った。

 

「なぁ、()。もし、こんな役立たずが仲間を見捨てて一人勝手に王城から逃げ出したらクラスメイト達はどう思うんだろうな……?」

 

「…………え?」

 

ポツリと零された言葉に雫は自分の耳を疑うが、その間に日色はスタスタと去っていった。

 

さっきの言葉はどういうことだろうか?

 

さっき呟いた日色の言葉の意味を必死に雫は探ろうとするが一向に答えがわからない。

あぁ、もう!とどうにかぐるぐると回り続ける思考を打ち切った雫はふとベンチの方向を見るとベンチの下には日色がよく使っていた日記が落ちていた。どうやら雫と立ち会いをした時にポトリと落としてしまったようだ。

 

雫は後で日色に渡しておこうかしらと日記を拾い、ふと見つめる。

日記は長年使っていたからなのか革が少し色褪せているが、手入れされているため依然と問題なく使えるようだ。

雫は日記の表裏を眺め、日記が勝手に開かれないように固定されているゴム紐に指を近づけ――

 

「……ハッ!」

 

――慌てて自分が何をしようとしているのかに気づき、慌てて近づけた指を止める。

 

(お、落ち着きなさい!八重樫雫!わ、私は一体何をしているのッ!他人の日記を盗み見ようなんて決して許せないわ!……で、でも少しぐらいなら……い、いえ!ここで誰かに見られたら変な誤解をされるわっ!それに日色の信用も…………あれ?そういえば私、さっき日色に雫って呼ばれてなかった……?―――ッ!!?)

 

お前もかブルータス。

どこかデジャブを感じるような状況にどこからかそのような電波が送られた。

雫はまるで信号機のように顔色を赤青と変化させながらウガァー!と声無き絶叫をあげる。わたしはどうすればいいのよッ!!とでも言うように身体を震わせて雫は迷い続ける。

 

ちなみにこの状況は香織達に声をかけられるまで十分程続いたのだが、後に雫は後悔した。あの時、日色にさっさと日記を返しに行けばよかったと。

 

 




我ながらテンポが遅いなぁと思うこの頃、学校なんてなければいいのに……


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南雲ハジメという少女とは 上

お、お久しぶりです、リアルが忙しかったアルテールです。
活動報告でも書きましたがテスト期間に入ったためしばらくは更新が遅くなります。申し訳ありません!
……まぁ、これを合わせて三話程を書き貯めはしているのですが。



念の為に補足しておきますがハジメちゃんは原作とは全く別の存在です。設定捏造や過去改変などという独自設定がありますのでご了承ください。


クラスメイト達が訓練している訓練場の角の隅でハジメはタオルを肩に掛けながら体育座りで日色の帰りを待っていた。

身体は未だに熱っているがタオルで拭き、休んでいることで汗はもう引いたらしい。

しかし、それでもハジメの顔色は少し悪く、溜息ばっかり吐いていた。なぜなら――

 

「チッ。【無能】の癖に、なんでまだ訓練場に居るんだよ」

「ホント最悪、早く何処かに行ってくれないかしら?」

 

――度々生徒達の非難の声が聞こえてくるからだ。

 

理由なんて考えなくてもわかっている自分が【無能】だからだ。ついでに言えばハジメや日色だけが別の訓練を受け、座学を免除されたりすることもハジメに対する不快感が高まっている理由の一つだ。

ハジメはそんな言葉をまるで他人事のように聞き流していく、この程度の悪口なら昔から聞き慣れているのだ、間に受けてはいけない。だってハジメにとってあの生徒達は――

 

 

『――ボク()にとっては存在すら興味が無いから、でしょ?』

 

 

――どこからか聞こえた謎の声にハジメは歯を食いしばってうるさい、と内心言葉を零す。

まただとハジメは苛立つ気持ちを吐き出すように溜息をつく、この幻聴は日色に出会って以来自分に囁きかけて来なくなったが再び自分に囁きかけてきたようだ。

 

『ねぇ、どうして殺さないの?君にとって()()()()は邪魔でしょ?ねぇ、邪魔なものは取り除かなくちゃ!ねぇねぇねぇ!』

「……黙れ」

 

ハジメは自分の脳内に囁きかけ続ける声に冷たく誰にも聞こえないほどの大きさで呟く。その声にハジメに囁きかけてきた幻聴はまるで最初からなかったことのように鳴り潜めた為、ハジメはようやく静かになったと溜息を吐く。

日色が早く帰ってこないかな、と思うがそもそも日色に飲み物が明確にどこにあるのか言っていなかったことに気づき、しまったと頭を抱えた。きっと日色がまだ帰ってこない理由は飲み物を王城の中で片っ端から探し回っているに違いないだろう。

 

(僕のバカ!あの優しい日色ならこうなるだろうと分かっていたのに!!あの時に明確に言っていればよかった!)

 

ハジメは体育座りから立ち上がって訓練場から日色を探すために出て行った。

 

 

ハジメは訓練場を出て飲み物を置いた場所へと向かうため、近道として訓練場の裏側を通って近道をしていた。

ここから自分が飲み物を置いてきたベンチに向かうには裏側から向かった方が格段に早いはずだ。

そう思いながらハジメは訓練場の裏場を進んでいると――

 

「おっ、無能君じゃ~ん?」

「マジで? ホントだ。おーい、む・の・う・ちゃーん! 何してんのぉー?」

「もうすぐ訓練の時間だけど……ああ、悪い悪い、お前が訓練とか、するだけ無駄だよな。なんせ、無能何だしぃ?」

 

――唐突にバッタリと檜山グループに出会いそんな声が投げかけられる。げらげらと下品な笑いと共に放たれる、聞くに堪えない醜悪な言葉に数々。顔を見ずとも分かる。檜山たちだ。

またか、とハジメは内心溜息を吐くトータスに飛ばされて以来檜山グループのいじめが活発になってきたのだ。日色といる時やハジメが一人だった時、おそらくだが日色が一人の時もこの檜山グループはこのように醜悪な言葉を投げかけているのだろう。

しかし、所詮いじめだ。ハジメはまるで聞こえていないようにスルーし、その場から離れようとする。

いじめとは、相手が反応するから面白いのだ。まるで無反応の相手をいじめても、何の楽しみもない。昔からいじめをくらっているハジメにとってこのようないじめは昔からよくあったのだ。この程度はどうってこともない。

その内檜山たちも飽きて何も言わなくなるだろうと、無視を決め込み、無言でその場から離れようとすると次の瞬間。

 

「てめぇ!無能の分際で無視してんじゃねぇよ!」

「ッ!」

 

背後から感じた衝撃でハジメは吹き飛ばされゴロゴロと地面を転がった。

とっさに受け身をとったのでそこまで痛くはない……が、服は砂埃で汚れてしまった。

 

「……(いっぅ、痛い。今あいつらは魔法を使ったの……?何処か火傷はしてないからおそらく風の魔法だけど……メルドさんに魔法は人に向けちゃいけないって言われているのにッ!)」

「ギャハハ!無様だねぇ、む・の・う・ちゃ・ん♪その程度の魔法でそんなに吹っ飛ぶなんて!」

「ほらほら、大好きな王子様でも助けに呼んでみろよ!!」

 

倒れたハジメに檜山たちが嘲笑を浴びせるがハジメの耳にはそれらの声は一切聞いていない、完全な無表情で地面に手をついて起き上がろうとする。

 

「そら……よっ!」

「ゴホッ!」

 

しかし、檜山が勢いよくハジメの腹を蹴り飛ばしたことでハジメの肺の空気が吐き出され、再び吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転がることとなったステータス差によりかなり痛い衝撃が奔ったがもともと痛みに慣れているハジメである。めんどくさいなぁと思いながら腹を抑え再び立ち上がろうとする。というか、年頃の女の子の腹を勢いよく蹴り飛ばす彼らの思考は少しおかしいのではないだろうか?

 

「オイ、無能。何役たたずな分際で無視しようとしてんの?あぁ?」

「………ッ………」

 

倒れたハジメの手を檜山が踏みつけるが小さくと息を吐いただけで何も感じてないように何も喋らない。

 

「黙ってんじゃねぇよ!」

「アグッ!」

 

檜山は苛立ったようにハジメの肩を掴み勢いよく右手でハジメの顔面を殴り飛ばした。

ハジメは一切の抵抗をせず殴り飛ばされ、地面を無様に転がり、浅く息を吐く。殴られた衝撃で髪留めが飛んでいき留めていた髪が垂れ下がってハジメの瞳を隠した。

ハジメは痛みで震える体で何とか立ち上がり、冷め切った瞳を一片も逸らさず檜山を見つめる。

その瞳に一瞬檜山は「……うっ」とたじろいてしまう。それを見たハジメは空っぽな平坦な声でこう言った。

 

「あのさ……邪魔しないでくれる?僕は君に構っている場合じゃないんだよ」

「……ッ!調子乗ってんじゃねぇぞ!カスがッ!!」

 

まるで檜山に興味すらないとでも言うように言葉を零すハジメに檜山がついにキレた。ハジメに勢いよく飛びかかり投げ飛ばすと肩を押さえることで身動きを取れないようにして肩を、腕を、顔を、腹を、拳で、脚で、魔法で、剣の鞘で、殴って殴って殴り続ける。

 

「お、おい、檜山。流石にそれはやりすぎじゃねぇか?」

「うるせぇ!お前らも手伝え!このクソアマ、立場を分からせてやんだよ!!」

 

檜山グループの一人……確か中野だったろうか?が制止の言葉を投げかけるが檜山が怒鳴るように言った事で3人が加わり、更にハジメへと攻撃を仕掛ける。

もはやそれは従来のイジめなどとは比にならない、普通、これほどのイジメを受けた者は精神的に耐えきれず自殺してしまうかもしれないだろう。

 

しかしハジメは悲鳴を上げずただ冷めた瞳で檜山たちを見ていた。ただし、その瞳には檜山たちを一切映しておらず、内心本当にコイツらはつまらない人達だなぁと内心呆れ返っていた。

 

『どうして反撃しないの?』

 

そんなことを思っていると再びどこからか謎の声が聞こえてきた。

その声にハジメは顔を歪ませ、内心またかと呟く。

 

『コイツらは君が日色の元に行くのを邪魔したんだよ?』

 

それがどうしたとハジメは内心呟く、目の前の檜山達に邪魔されることはしょっちゅうあるだろう、今回はかなり酷いが昔とそう変わらない。慣れて仕舞えば別に気にする必要なんてないだろう。

 

『殺そうよ』

 

聞こえてきた謎の幻聴にハジメは一瞬思考が停止した。

 

『そうだよ、殺そう?殺せば全て解決するじゃないか!こんな存在する価値のない塵芥なんか綺麗さっぱり掃除しなくちゃ!そうだよ!最初からそうすればよかったのさ!!君の、いやボク達と日色の邪魔をするものなんて全て殺して壊してしまえばいい!!』

 

何度も何度も声を荒げ、聞こえてくる謎の声。ハジメは身体に襲う痛みすら一欠片も気にせず聞こえてくる声に黙ってと口を開くなと内心叫ぶ。

 

『あの邪魔しかしない()()も!日色に近づく()()()も!目の前にいる檜山達も、全部全部殺してしまえば――』

「……ッ!(う、るっさいんだよッ!!さ…っさと!消えろッ!!)」

 

何度も何度もまるで暗示をかけるように殺せと囁く謎の声にハジメは心の中でその声をかき消すように叫んだ。

自分が白崎さん達を傷つけるわけがないだろう!そんな事をすれば日色が悲しむに決まっている!そうハジメは思い、謎の声の主にだからさっさと消えろと叫ぶ。

その言葉に声の主は少し驚いたのか、へぇという声を零し、不気味に笑い始める。

 

『ハハハ、いいさ別にボクは強要させているわけじゃない、君がそう思うのならそうすればいいよ』

 

その言葉と共に、謎の声は笑いながら徐々に遠ざかっていく。そして、もはや聞こえなくなる直前、声の主はハジメを嘲笑うように言葉を零した。

 

『だけど、()はそれを認めるのかなぁ?』

 

その言葉にハジメが、え?と疑問を思う瞬間――

 

――絶対零度の刃の如き殺意がハジメや檜山達を中心に辺り一面を包み込んだ。

 

「「「「ヒッ…!」」」」

 

その殺意に檜山達は小さく悲鳴を上げハジメへの攻撃の手を止めてしまう。

唐突に攻撃が止んだことにハジメは疑問に思いながらも滅多打ちにされたボロボロの身体にムチを入れて立ち上がろうとするが予想以上にやられた様だ。いくら頑張っても全身が痛みで震え、力が抜けそうになってしまう。

どうにか倒れた状態から体を起き上がらせて、冷たい殺意の発生源であるハジメが訪れた方向へと視線を向ける。

 

 

そこには――彼がいた。

 

 

「なにを……している?」

 

 

腰には訓練場に置いてきたはずの片刃の長剣を差し、なんの感情も抱かせない無表情でこちらへと歩いてくる神代日色の姿があった。

 

 




謎の声の正体はあと二話程でわかります。


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南雲ハジメという少女とは 中

こんにちは、アルテです。

今回は完全に戦闘シーンだけです、お申し訳ありません!
そして戦闘シーンの難しさを最近実感しました。………なにか描写のコツとかないですかね?



 

 

ザッ……ザッ……と日色が歩み寄ってくる音が聞こえてくる。

 

日色の姿をみた檜山は最初は表情が若干引き攣っていたが今は余裕を取り戻し嘲笑うような歪んだ笑みを浮かべていた。斎藤、近藤、中野も少し引き攣っていたがヘラヘラと笑っている。

おそらく檜山たちが余裕を取り戻せたのは日色が圧倒的に低いステータスを持っていたからだろう。

そんな歩み寄ってきた日色へと檜山はヘラヘラと笑いながら話しかける。

 

「よう、神代。わざわざ正義の王子様気取りかぁ?言っておくが俺達は南雲の"特訓"に付き合ってただけだからなぁ?」

 

ニヤニヤと歪んだ笑みで日色に笑いかける檜山、どうやら『檜山達が南雲の訓練に付き合ってやっている』という建前で言い訳しようとしているらしい。例え切り抜けなくても低ステータスである日色ならば大丈夫だろうと思っているのだろう。

 

「そっ、そーそー!珍しく一人でいたもんだからさ!」

「今日は一人で特訓すんのかなーって思って、せっかくだから!」

「でも南雲、すーぐバテちゃってさぁー!」

 

そう言ってヘラヘラと『疚やましい事何もありませんよ』笑う檜山達に日色は小さく「……そうか」と呟いた。

 

「つまりお前らはこんなところでハジメの訓練に付き合ってたと?」

「あ、あぁ、そうそう」

 

そう言って笑う檜山達に日色は、なるほどなるほどと呟いた後、小さく笑った。

しかしその微笑みをハジメは知っている、その表情の意味をハジメは見たことがあった。

 

「それはハジメが迷惑かけたな――」

 

日色は笑う、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

「――その"お礼"をしてやるよ」

 

 

 

 

そして日色は次の瞬間、ハジメ達の視界から消え去り、最も日色の近くいた中野の鳩尾へと肘打ちを食らわせた。

 

「グヘッ!?……ゴフッ!!!」

 

中野が突然の鳩尾の痛みに体の空気を全て吐き出し、何が起こったのか理解する前に日色は鳩尾に肘を突き刺した右腕を跳ね上げ中野の首へとアッパーを繰り出して中野の脳を揺さぶり意識を刈り取る。

 

「「「……………………は?」」」

 

何が起こっているのか分からない、という表情を浮かべる檜山達に日色はドサッと地面に倒れた伏した中野をチラリと見たあと、ギロりと檜山達を睨みつける。

 

「……お前ら、俺の友達を傷つけられて黙って見ていると思ったのか?」

 

小さく、そしてゾッとするような冷たい声が辺り一面に静かに響き渡る。

檜山達は日色の冷たい瞳にまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

 

「来いよ、塵芥共。俺の友達に手を出したらどうなるか教えてやる」

 

その言葉と共に日色は檜山達へと駆け出した。

 

 

「テメェェエエエエエ!!!上等だクソッタレが!!」

「このクソ野郎が!よくも中野を!!」

「死にやがれ!!クソ野郎!!」

 

日色が接近してきたことでようやく現状の認識ができた檜山達はそれぞれ目の前の日色を倒すために行動を起こした。真っ先に硬直が解けた近藤が自分が持っている槍を操り日色へと襲い掛かり、檜山と斎藤は後方で詠唱し魔法を使おうとする。

 

「し、ねぇえええええええッ!!!」

「誰が死ぬか」

 

声を上げながら近藤は槍を薙ぎ払い、日色の胸めがけて槍を振るうが日色が咄嗟に上体を下げ背中向きに倒れることで紙一重で日色の頭上を槍が空気を唸らせながら過ぎていく。

 

「オラァアア!!」

 

しかし近藤は薙ぎ払った槍を引き寄せることで持ち手を穂先に近づけ、倒れた体勢である日色へと再び突きを放つ。この間約二秒

元々ステータスが高い戦闘職である近藤だからこそこのような高速で槍を操ることができるのだろう、おそらくだが技能も関係しているのかもしれない。

 

もちろんのこと日色は背面で倒れている途中な為左右に避けることはできない。

だから日色は――

 

「チッ!」

 

――両手を後方に回し手に地面がついた途端、両手に力をいれバク宙をすることで近藤の槍の穂先の腹の部分を蹴り飛ばすことで槍を真上へと跳ね飛ばした。

 

「なっ!」

 

おそらく決まったと思っていたのだろう槍が突如真上に跳ね飛ばされたことで驚愕の声を上げ手から槍が離れてしまう。

もちろんそれは隙でしかない、バク宙により体勢を立て直した日色が体勢を低くし一瞬でバク宙により開いた距離を詰める。

 

そして――

 

ダンッ!!!!

 

「痛ッ!?」

 

――勢いよく近藤の足を踏み潰した。

 

突然の足元の激痛に近藤は顔を歪め隙を生み出してしまう。

その隙を逃さず日色は吐息を吐きながら勢いよく右手で近藤へと殴りかかる。

 

「――フッ!!」

「ク、クソッ!」

 

咄嗟に近藤は自分に殴りかかってくる拳に気づいたのだろう槍を手放して顔を腕で防御する。

しかし日色は近藤の顔面を殴るのではなく、近藤の顔の横を右腕で通らし、左腕をもう片方向へと潜らせ、両手を掴む

そう、ちょうど近藤の頭を両腕で抱き抱えるように。

 

「歯、食いしばれよ!」

「っ?……ガァ!!?」

 

そして日色は勢いよく両腕を近藤の後頭部めがけて叩きつけた。

 

 

後頭部攻撃(ブレインシェイカー)

 

 

敵の後頭部に強い衝撃を与える事で致命打を浴びせる技だ。

各種格闘技では後頭部への攻撃は脳障害などの後遺症を起こし易い為禁止されており、これを受けた者は脳を揺さぶられることで一瞬で戦闘不能にさせることができるのだ。

所詮日色とクラスメイト達のステータス差は決定的である。たとえ全力で殴ったとしても相手を気絶されることは不可能であり最悪アザすら無いかもしれない。

ただし、それはある部分に関してはそれは違う。

 

 

人体にはどれだけ鍛えても決して強く出来ない箇所がある。

一つは鳩尾、そしてもう一つは()である。

 

 

例えどれだけのマッチョでも脳を揺らされた場合気絶やバランス感覚を失ってしまうように例えステータス差がある程度離れていたとしても気絶させることは可能なのだ。

何故なら武術とは弱者が強者に勝つ為の物なのだから。

 

脳を揺さぶられたことで意識が飛んだ近藤を捨て置き、次の獲物めがけて日色が振り向いて見えたものは――赤と薄緑の球体と衝撃だった。

 

「ガハッ――チィ!」

「日色!」

 

日色は咄嗟に左腕を盾にしたものの、あまりの衝撃で吹き飛ばされゴロゴロと地面を転がってしまう。ハジメの悲鳴が聞こえたので受身を取りながら勢いよく立ち上がると再び詠唱を行っている檜山と斎藤がいた。どうやらさっき食らったのは魔法のようだ。

咄嗟に左腕を盾にしたせいか服が少し焦げ炎魔法によりところどころ火傷しており、風魔法により火傷したところから血が流れていた。

 

「ハッハァ!ざまぁ見やがれ!」

「このクソ野郎が、もう一度焼かれちまえ!!」

 

「チッ、メンドクサイ奴らだな」

 

日色は檜山達が魔法を詠唱しているのを見て自分の魔法とは違い使い勝手がいいことに悪態を吐き、再び距離を詰めるため体勢を低くし、一気に飛び出した。日色は詠唱が終わる前に一気に距離を詰めようとしたがあと一歩のところで間に合わなかった。

 

「ここに風撃を望む。『風球』」

「ここに焼撃を望む。『火球』」

「クソッ!」

 

檜山達の距離が残り1メートルほどで日色へと打ち出された火球と風球に対し、日色が躱す術はない。なぜなら日色はトップスピードで一直線に檜山達へと向かって行っていたのだ。急に方向を変えることなどできるわけがない。

 

ただし――

 

(だったら――

 

 

 

 

       ――避けずに攻撃すればいいだろうが!!!)

 

――だからといって何もできないというわけではない。

 

「ッ!――ハァッ!!」

 

日色は腰に差している片刃の長剣を勢いよく引き抜き、斎藤へと勢いよく投擲した。

襲い掛かる火球と風球を傷ついた左腕で薙ぎ払い防御する。猛烈な激痛と衝撃に左腕の感覚が無くなり倒れそうになるが歯を食いしばってそのまま一直線に檜山達へと向かう。

 

(こんな傷など――ハジメの傷に比べたら安いものだ)

 

「ギャァアアアアアアアアア!!!」

「よ、善樹!?」

 

どうやら投げた長剣は見事斎藤の腕に突き刺さったようだ。日色は我ながらナイスな投擲技術だと思いながら、腕を長剣に貫かれたことで倒れこみ、なんとか引き抜こうとしている斎藤へと飛びかかり、突き刺さった長剣をさらに深く突き刺した。

 

「ヒッ!ギィャアアアアアアアア!!」

 

日色は痛みに悶える斎藤を抑えつけると勢いよく引き抜いて、クルリと檜山へと振り向く。斎藤はあまりの痛みで傷口を抑えしばらくは動けないようだ。

 

「……後は、お前一人だ」

「ヒ、ヒィ!ヒィィッ!ごめんなさい!俺が俺が悪かったからっ!だから――「まさか、許してもらえるとでも?散々ハジメを(いたぶ)っておいて謝れば許すほど俺は優しくはない」

 

ギロリと日色が振り向くと檜山が腰が抜けたのか尻餅をつきながら仲間たちの死屍累々とも言うべき姿を見て……そして『次はお前が"こうなる"番だ』と見せ付けられて、完全に恐慌状態に陥っている。

日色は空っぽの無表情でゆらりゆらりと檜山へと近づいていく。

一歩また一歩と日色が近づくたびに檜山の顔が涙や鼻水でベトベトに汚れていく。

 

「ヒィイイイイ!!止めろ!止めてくれ!!もう南雲にも手出ししないからっ!!嫌だ!!痛いのは嫌だァアアアア!!」

「……………………」

 

日色は喋らない、もはや檜山と話すことはないとでも言うように片刃の長剣を構え、また一歩近づく。

そして檜山へと振り上げた刃を振り下ろすというところで――

 

「待って、日色!!僕はもう大丈夫だから!!」

 

――ハジメの声によりピタリと空中で長剣は停止した。

 

日色は視線を檜山からハジメに移し、感情のない声で語りかける。

 

「本当にいいのか、ハジメ。こいつらはお前を痛めつけたんだぞ?」

 

その言葉にハジメはある程度痛みは収まったとはいえ未だに身体に奔る痛みに顔を顰めながらも、なんとか震えながらも立ち上がり、コクリッと頷いた。

それを見て日色はハァとため息を吐き、仕方がないとでも言うように長剣を腰の鞘に戻した。

 

「……わかった」

 

日色はそう呟くと、檜山から背を向きハジメの元へと向かった。いち早くハジメを香織に頼んで治してもらうと思ったのだろう、いや、だからこそ気づかなかった。

 

「ヒ、ハ、ハハ……し、ねぇえええええええ!!神代ォおおおおおお!!!」

 

背後から剣を鞘から抜き日色めがけて振り下ろそうとしている檜山のことに。

ハジメが咄嗟に「日色ッ!!」と叫ぶがもう遅い、日色は反応に一瞬遅れてしまった。

 

避けることは不可能、剣での防御は鞘に差してしまって不可能だ。

 

だから日色は咄嗟に――

 

 

「ぁ、ぐ、ガァアアああああああああああッッ!!!」

 

 

――火球により火傷し、風球により血まみれとなった左手で剣を防いだのだ。

 

グチュリッ!!とまるで腐った果実が潰されたような気持ちの悪い音が響いていく。

だが、不幸中の幸いは檜山が剣を振るう体勢が崩れていたおかげであまり勢いがなく左手が少々切り裂かれただけで済んだのだが、もともと火傷している左腕を切り裂かれたのだ、その激痛は通常の比では無い。

 

日色の視界がチカチカと明滅するように瞬き、体勢がぐらりと崩れてしまう。

 

だけど――

 

「――ぁ、ぁああああああああああああああああああッ!!!」

 

――日色は決して倒れない。

 

ダンっと勢いよく左足を踏み出し、傾いた体勢を無理矢理前に踏み出す。

 

 

「ヒィ!!」

「歯ァ、食いしばれッ!」

 

踏み出したことで手に入れた力をロス無く、足から腰、胸、腕の順に捻りを入れながら伝え、右腕を一切躊躇無く檜山の顔面へと殴りかかる。

 

ゴッッ!!!

 

という音が日色の右腕を通して伝わってきたのを日色は感じた。

日色の渾身の一撃を食らった檜山は勢いよく地面に叩きつけられ、ピクピクと数度痙攣した後、気絶したのだった。

 




アレ?おかしいな、日色の戦闘技術が軽く殺人レベルまで行っている気がするんだけど……
あ、ちなみに次回謎の声の正体がわかります。


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南雲ハジメという少女とは 下

こんにちは、アルテです。

今回はハジメちゃんの独自設定が含まれています、ご了承ください。
そして安定のなかなか話が進まない案件……



あ、そういえば最近、『黒子のバスケ』を見ているのですが、あの白熱した戦いを観るたびにこう思います。

『あれ?これ、遠藤がいたら最強じゃね?』と、ほら持ち前の影の薄さで小細工しなくても『消えるドライブ(バニシングドライブ)』できますし、シュート打った瞬間、落ち込んだりしていれば存在感が現れるので一瞬視線を奪われますので『幻影のシュート(ファントムシュート)』が行えます。

……まぁ、影が薄くてパスすらもらえないと思いますが。

『あり文字』が終わったら後日談で書いてみたいですね。



「日色君!!?」

 

日色が檜山を殴り飛ばして数十秒後、どうやら騒ぎを聞きつけて駆けつけた香織達が現れた。

どうやら日色と檜山達の戦いは予想以上に騒ぎを大きくしてしまったようだ。

日色は来るのが遅いとでも言うように溜息を吐いて、左腕が白崎や八重樫に見えないように()()()()()駆け寄ってきた香織へと話しかける。

 

「白崎、とりあえず事情は後で話してやるからまずはハジメの怪我を治してくれ」

「う、うん。わかった!」

 

そう言って慌ててハジメの全身につけられた傷を見て「南雲ちゃん!」と慌てて治療しに行ってくれた。

ようやく一息つけるかと思った日色だが新たに緋色の前に現れた雫達に面倒臭そうに視線を向ける。

 

「それで?日色、どうしてこんなことをしたのか説明してもらえるのでしょうね?」

「……別に、俺はあの檜山達に『お礼』しただけだ」

 

その言葉に何を言っているとでも言うように会話に入ってきたのは龍太郎だった。

 

「『お礼』……だと?」

「あぁ、こいつらが南雲の特訓に()()()()()()()()()の『お礼』をくれてやっただけだ」

 

その淡々と告げられた言葉に食いついてきたのは光輝だった。

 

「お礼だと!?ふざけるな!これの何処がお礼だって言うんだ!!」

「全部だ、むしろ俺はこの程度で済んだことに感謝してほしいな。この程度、ハジメの傷に比べればマシな方だろう?」

「だとしてもこれはやり過ぎだろう!聞けば南雲は、訓練をサボって図書館で読書に耽ふけっていたそうじゃないか!それを知った檜山たちは、そういう南雲の不真面目さをどうにかしようとした「だとしても――」……ッ!!?」

 

光輝の言葉を遮るように日色は少しも光輝から視線を逸らさずこう言った。

 

「――男が4人寄ってたかってハジメが動けなくなるまで暴力を加えるのは間違っているだろうっ!お前は白崎やポニーを訓練という名目で動けなくなるまで暴力を振るうのか?」

「そ、それは……」

 

その言葉に光輝は答えることができない。なぜなら肯定すればそれは光輝の正義が間違っており、否定すれば結局は檜山達が悪いことになるからだ。

 

答えることができない光輝を見て日色はまるで興味を失ったように視線を外し、香織に治してもらっているハジメの元へと向かった。

 

「ハジメ、大丈夫か?」

「う、うん、白崎さんのお陰で大体は治ったよ。ありがとう、白崎さん」

「ううん、私は治療師だから。怪我を治すは、私の仕事だよ」

「あとごめん白崎さん、お願いなんだけど檜山達の傷も治してくれないかな?」

 

そう、ハジメが言った事で香織はあ!忘れてたとでも言うようにハッとした顔をして、急いで檜山達の傷を治しに行ったのだった。そんな香織を眺めたあと、日色へと視線を戻すと日色がこう言ってきた。

 

「いいのか?あいつらはお前を傷つけたんだぞ?」

「うん、僕は大丈夫だから。それよりも日色!左腕は大丈夫なの!?白崎さんに治してもらったほうが……」

「そうね、日色。あなた、左腕怪我しているでしょう?香織に治させてもらいなさい」

 

ハジメの言葉に同調して現れた雫の言葉に日色はチッと舌打ちをした。

 

「……気にするな。ちょっとした切り傷だ、放っておけば治るさ」

 

そう言って左腕を見せる日色、腕は袖に隠れて見ることはできないが袖は浅く裂かれ少し血がにじみ出ているだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(…………アレ?こんな浅い傷だったかな?)

 

日色が火球に当たったのを目撃したハジメはそのことに疑問を抱くが、もういいだろうと日色が隠してしまったのでわからなくなってしまった。

 

「俺に、白崎の治療はいらん。もういいだろう?俺は訓練施設に戻るぞ」

「ちょっと待ちなさい日色、忘れ物よ」

 

そう言って踵を返そうとする日色に雫が日色へと革製の本を投げた。日色は咄嗟に()()()()で受け取り、それが自分の日記だと知ると「なんでお前がこれを持っている?」というような視線で雫を睨みつける。

雫はやれやれといった感じに言葉を零す。……若干頰が赤く染まっているのはどうしてだろうか?

 

「あの時、あなたが落としていったのよ。これ、あなたの物でしょう?」

「まさか……見たのか?」

「そんなわけ無いでしょうが、それに()()に香織に治してもらわなくていいの?」

 

その言葉に日色はあぁ、と呟いた後、訓練場へと歩き出した。

 

 

「……ク……ソっ、流石に、もう限界……だな」

 

現在、日色は訓練場に――ではなく、訓練場の近くに設置されている井戸の元で顔を汗だくにしながらも座り込んでいた。

日色は、近くに置いてある桶に満タンの水を入れた後――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして瞬間――辺りが鮮血に染まった。

 

 

緋色の左袖は所々焼け焦げ、真っ赤に染まっており、左腕は出血しておりドクドクと今も血を少しだが流している。

そして、その左腕に浮かび上がる『欺』の文字。

 

そう、日色は左腕の傷を文字魔法で掠り傷のように見せていたのだ。文字魔法の『欺』の効果は『書いた対象を見せたい物に見せる』というもの、つまり日色が受けた傷は予想以上に浅かったのではない、ただ『欺』で傷を偽り、日色はハジメ達と会話している間も奔る激痛を押し殺してハジメ達を欺いていたのだ。

そして現在、『欺』によって隠されていた傷が解放されたことで血が出血し、辺りを染めてしまった。

 

(とは言っても……察しがいいポニーにはある程度バレていただろうが)

 

しかし、雫もこれほどの傷とは思っていなかっただろう、彼女のことだからもしこれほどの傷だと思っていたのなら必ず香織に治療させようとしたのだから。

もし、あのままこの傷を隠さなければおそらく香織はわからないが、オカンな雫はきっと檜山達相手にキレるかもしれず、しかもメルド団長にも伝わり更に大事になっていたかもしれない。日色にとってそんな面倒事は全力で避けたいのだ。

 

(まぁいい、そんなことよりさっさと文字魔法で治さなければ)

 

日色はそう思って桶の中の水を使って左腕を洗い水を血で流していく。

 

「…………ッ!」

 

左腕に奔る激痛が日色を襲うが日色はそれを押し殺して決して悲鳴を上げないようにする。

どうにか痛みに悶えながらも水で傷口を洗った後、日色は再び文字魔法を使い、治すために人差し指を傷口に近寄せて――

 

「ひ……いろ……?どう……したの……それ?」

「……ッ!チッ、最悪だ」

 

――突如声のした方向を振り向くとそこには驚いた表情のハジメがいた。

 

「……何の用だ、ハジメ」

「……え?あ……ひ、日色が……訓練場にいないから……探しに……来たんだけど……でも…その、ち、血が……」

 

日色の左腕が血だらけな事によっぽど動揺しているのだろう、言葉が途切れとぎれで表情が徐々にクシャクシャになって泣きそうになっている。

 

それを見て日色は内心頭を抱える。

この傷がバレたくなかったからわざわざ隠していたのに訓練場の近くで治療しようとしたのが悪手となるとは。

ではなぜ日色が傷を隠していたのか?それは――

 

「もし……かして、その……傷は……檜山達と戦った時の……」

「……お前には関係ない」

「嘘だよ!」

 

その日色の言葉に一気に泣きそうになり涙が零れそうになるハジメ。

その姿を見て日色は内心悪態を吐く。

 

(……だからお前に知られたくなかったんだ、ハジメ)

 

――ハジメに知られたくなかったからである。

ハジメと知り合ってから日色はハジメの性格などある程度は理解している。昔からなのだがハジメは日色が絡むとなぜだかは日色は知らないが思考が時折自分のせいだと勝手に思って落ち込んでしまう癖があるのだ。

日色からすれば自分の為に行動した結果だというのにハジメが勝手に落ち込んでしまうのを避けるために今回このような行動をしたのだがどうやら無駄になったようだ。

 

「その傷は……僕のせいで……」

 

そう言いながら落ち込むハジメに日色はあぁ、クソッ!と頭を抱えた後、立ち上がってハジメの頭をデコピンを食らわせた。

ズドンという音が響き、落ち込んでいるハジメはデコピンを食らったことで「痛いッ!」と呻くことになった。

 

「勝手に落ち込むなバカが、これは俺が行動した結果だ」

「で、でも…っ」

「お前の意見は聞いてない。いいか、これはお前には関係ないことだ、勝手に自分のせいにして俺の目の前で泣くな、正直言って目障りだ」

 

その日色の言葉にようやくハジメは嗚咽を零しながらコクりと頷き、ヒックヒックと徐々に泣くのを止めてくれた。日色は「……漸く泣き止んだか」と呟いてハジメの頭をポンと右手を置き、ワシャワシャワシャと撫でる。

 

「えっ!?ちょ!日色!?」

「泣き止んだなら早く戻るぞ、メルド団長が確か俺達を呼んでいただろう?どっかの泣き虫のせいで遅れてしまったら困るからな」

 

その言葉に泣き虫ハジメはうぅ~とまた迷惑をかけたことに落ち込んでしまうもふと思考に日色の傷をそのままで大丈夫なのかという疑問が浮かび上がった。

 

「で、でも、日色。その傷は本当に大丈夫なの!?白崎さんに見せてもらった方が――」

「あぁ、大丈夫だ――と言ってもお前のことだから心配するんだろう?せっかくだ、ちょっと見せてやるよ」

 

そう言って日色は「見てろ」と言ってハジメに見えるように水で洗ったことである程度血は流されている傷だらけの左腕を掲げた後、右手の人差し指を近づけ、瞬間――

 

――日色の右手の人差し指が高速で動いた――と思ったら左腕に青い『治』という文字が浮かび上がると淡い青色の光となって左腕を包んでいき、そして光が消えると左腕の傷がほぼ全て治っていたのだ。

 

「えっ!?き、傷が…っ!」

「なっ?だから言っただろう?大丈夫だ、ってな」

 

そう言って日色はヒラヒラとまるで痛みなど元からないように左手首を動かす。檜山によって切り裂かれた切り傷は血が止まり、いつの間にか切り傷には瘡蓋が出来ており、火傷の痕や痣はまるで元から無かったように消えてしまっている。

その不可思議な現象にハジメは目を見開いて瞠目する。

 

「今のは……!?」

「あぁ、俺の魔法だ。詳しくは時間がないから話せないが俺の魔法は少し特殊でな、今までクラスメート達には隠していたんだ。すまんな」

「で、でも……ステータスプレートには書いてなかったよ?」

「映らないようにしたんだよ、わざわざ手の内を全て出すわけ無いだろ?ほら、さっさと戻るぞ、後でポニーとかに説教されるのは嫌だからな」

 

そう言って、日色は溜息を吐いた後スタスタと王城へハジメを差し置いて歩いていく。

取り残されたハジメは慌てて「ちょっ!ひ、日色、待ってよ!」と叫んで慌てて日色の後を追いかけていった。

 

慌てて追いかけてくるハジメを視界に入れながら日色は彼女にバレない様に歯をくいしばる。

 

(だからといって……痛みが引くわけではないけどな)

 

日色の左腕に奔る痛みは未だに和らいでなどいなかった。

 

 

その後、雫がメルド団長に事情を説明したらしく、日色は厳重注意を受けたものの特に咎められる事は無かった。

どうやら雫と龍太郎、そして香織が目覚めさせた檜山四人組に、何をしていたのかを尋もn……説得(笑)を行った末に『元々は檜山四人組が悪く日色は少しばかりやり過ぎではあったが、そこまで重症ではなかったため』らしい。

 

そして現在、訓練終わりにいつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだがメルド団長が野太い声で

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

と言われ、ざわざわと生徒達は喧騒に包まれながらも夕食の時間が終わり、自由時間になった頃、ハジメは薄暗い自分の部屋で一人ベットの上で体育座りになって蹲っていた。

 

思い出すのは今日のこと、自分のせいで傷ついてしまった日色のことである。

日色が檜山達に立ち向かったことで左腕が血まみれになるという重傷を負った。

 

『一体誰のせいで彼は傷ついたんだろうね?』

 

またあの声が聞こえた。

不気味にハジメを嘲笑うような笑いを含めながら謎の声がハジメへと語りかける。

 

『少し考えたらこうなると君はわかってただろう?彼が、日色が決して君に何かあったら見て見ぬ振りをするわけがないって』

「………………」

 

ハジメは答えない、一層顔をうずめ身体を震わせるだけだ。

 

『ねぇ、答えてよ【南雲ハジメ】、いったい誰が日色が傷ついた原因になったんだい?』

 

そんな問いにハジメはハハッと小さく自分を自虐する様に笑う。

そんなことは言われなくてもわかっている。

あの時、日色が檜山達に立ち向かう原因になったのも。

あの時、日色が左腕を斬られる原因になったのも。

 

「……全部、僕のせいだ」

 

ハジメは目尻に涙を浮かべながら小さく呟く。

日色は言った、お前には関係がないと、お前のせいではないと。

 

 

 

 

 

本当に?

 

 

 

 

 

そんなわけないッ!!!

自分が檜山達に反抗して、逃げていれば日色が立ち向かうことはなかった。

自分が日色を止めなければ、日色が左腕を斬られる事はなかった。

彼に傷をつけたのはまぎれもない――

 

『そう、君のせいだよ。ハジメ』

 

薄暗い部屋の中、窓から入ってくる月明かりの光がハジメの長い影を作り出している。

しかしどうしてだろうかハジメの足元から伸びた影がハジメを見つめ、嘲笑っているようにハジメには見えてしまう。

 

『最初っからそうだ、君は日色の足を引っ張っているだけでなんの役にも立っていない』

「違うッ!僕は――『だったら――』」

 

謎の声と共に影が揺らめき、ハジメを嘲笑う。

ハジメは必死に叫び返そうとするがそれを遮るかのように声が響く。

 

『――どうしてあの時、君は抵抗しなかったの?』

「……え?」

『あの檜山達に虐げられた時、どうして君はなんの抵抗をせず受け入れていたの?』

「そ、れ……は……」

 

思考が空白に染まった。

ハジメは聞こえてくる声に慌てて言い返そうとするも零れる声は小さくまるで何かに言い訳するように言葉が甲高くなっていた。

 

「そ、それは……もし傷つけたら日色が悲しむから――」

『日色が悲しむ?じゃあどうして日色が檜山達に立ち向かったの?いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

えっ?と自分の口から無意識に声が出たのを感じた。

影は笑う、まるでハジメが必死に隠そうとしている物を徐々に暴こうとしているかのように。

 

『ハハッ!正直に言いなよ【南雲ハジメ】。ボクは知ってる、ボクだけは君の歪みに気づいてる。君は――』

 

やめろ、聞くな。それを聞いてはいけない。何処かでハジメはそう感じていた。

しかし、自分の耳に囁いてくる謎の声にハジメは声をかけることができなかった。

 

 

『君は――ただ、日色に嫌われたくなかっただけだろう?』

 

 

呼吸が止まった。

ハジメは目を見開き瞠目する。いくら口を開いても酸素を吸えず、謎の声の意味を知ることができない。

 

『もし、檜山達に抵抗をして檜山達を傷つけたら日色は自分から距離を離すかもしれない。君はそう思ったから抵抗しなかったんでしょう?虐められる悲劇のヒロインであろうとしたんでしょう?』

「ち、ちが――」

 

否定の言葉を言おうと思っても口からは言葉にできず小さく空気が溢れるだけだ。

 

『違わないよ、君は自分のことしか考えてない。一人だったから、孤独だったから、もう一人になりたくなかっただけだ』

「………ぁ、ぅ……」

 

声は出ない、言葉は出ない。

いくらハジメが否定しようと思っても何処かではハジメは肯定してしまうのだ。

 

『君はただ、寄生虫の様に日色に甘えているだけなんだよ』

「……ぼ、くは」

 

ハジメはもはや病人の様に声を出すことすらできなかった。全身が汗だくになり全身がガチガチと無意識に震えてしまっている。

そんなハジメに影は笑ってこう言った。

 

『だからさぁ、()()()()

 

その言葉にハジメはピクッと反応すると共に今まで震えていた震えが一切止まった。ハジメはゆっくりと顔を上げ、自分の影へと目を向ける。

 

「…………………」

『代わってよ、代わりにボクが上手くやってあげる。檜山も、白崎も八重樫も天之川も、みんなみんな()()壊して、日色と共に地球に帰るんだ。だから――』

 

影が一際大きく揺らぐ、まるで影が宿主を引きずり落とし()()()()()()とする様に。

そして――

 

「…うるさい」

 

――瞬間、ハジメの一声であれほど揺らいでいた影がまるで金縛りにあった様に停止した。

あれほどハジメに囁いていた謎の声が静まり返り、微かに驚いたような小さな声が聞こえてきた。

 

『…………まったく、君はいつになったら代わってくれるの?』

「……………………」

 

ハジメは答えない。

何も答えないハジメに謎の声は溜息を吐き、『……まぁいいや』と呟いた。

 

『代わりたくなったらいつでも呼んでよ、ボクはいつまでも待ってるから』

 

謎の声はそう呆れながら言うと共に徐々に声は遠ざかって、消えていった。

月明かりが照らす薄暗い部屋の中、一人になったハジメは倒れこむようにベットに横になりながら小さく泣いた。

 

「……僕の……ぅう…せいで………ごめん………なさいっ……!…グスッ……ひ、いろ………っ!」

 

誰も聞こえないように、誰にもバレないように、一人静かにハジメは泣き続ける。

何度も、何度も……

 

 

 

正史の『南雲ハジメ』とこの【南雲ハジメ】という名の少女には幾つかの違いがある。

ひとつは性別。

そしてもう一つはこの世界のハジメは幼い頃からイジメに遭い、孤独だったということ。

 

幼い頃から【南雲ハジメ】という少女は多くの虐めにあっていた。

 

最初は自分の趣味を馬鹿にされ、次に物を隠された。そして虐めはだんだんエスカレートし殴られることもあった。本来なら虐められた者は先生に報告し助けを求めるだろう、しかし、【南雲ハジメ】という少女はそれをしなかった。

その少女は幼い頃から普通の子供とは少々ズレており人一倍、精神が成熟していたのだ。

 

『親に迷惑をかけてはいけない』

『誰かを傷つけてはいけない』

 

両親に言われるそんなありふれた言いつけをズレている少女はきちんと冷静にその意味を考え、律儀に守っていた、()()()()()()()

 

親に迷惑をかけないように、虐めにあってもそれを言わず、決して虐めのことを悟られないようにいじめられた証拠すら見つからないようにした。

誰を傷つけてはいけないから、自分の表情で誰かを傷つけないように自分の感情を隠し、どんな時も曖昧に笑うことにした。

 

誰にも助けを求めずに、どれだけ馬鹿にされても、どれだけ虐められても、どれだけ虐待を受けていたとしても、少女はいつもの様に笑ってありふれた少女の様に生きていた。

 

しかし、どれだけ隠しても所詮子供である、いつしか両親に虐めのことがバレてしまった。虐めの暴力により身体に残った痣がついに見つかってしまったのだ。

そのことに両親は泣きながら少女を叱った、どうして教えてくれなかったの、と少女は言った、お母さんとお父さんに迷惑をかけたくなかったから、とそういうと両親は泣きながら少女を抱きしめた。ごめんなさい、ごめんなさいと言いながら。

 

それを聞いては少女はこう思った。

 

『あぁ、迷惑をかけてしまった』

 

それが少女の心が壊れた原因となった。

我慢した、どれだけ辛くとも少女は両親に迷惑をかけたくなかったから。幾たびも虐げられ続けた少女の心はもはや擦り果て、『迷惑をかけない』という思いだけが少女の支えになっていたのだ。

だからこそ少女は壊れた。支えが無くなってしまったことで。

 

では、幼い頃から誰にも助けられず虐められ遂に耐えられず壊れてしまった少女は一体どうなってしまったのだろうか?

 

答えは『解離』だった。

砕かれ、壊れた少女の心は人間の防衛本能としてその時の憎悪の感情とトラウマになった記憶を切り離し、少女のその時の記憶を曖昧にしたのだ。

 

ではここで疑問が生まれる。

その時の感情と記憶はどうなったのか?

 

答えは簡単。

裏でその記憶と感情は成長し、一つの人格として存在しているのだ。

時にもう一つの人格へと囁きかける様に、時に身体の所有権を奪おうとする様に。

 

それが正史の『南雲ハジメ』との決定的な違いだった。

この南雲ハジメという少女には障害を持っている。

 

 

障害の名を【Dissociative Identity Disorder】通称DID

日本語で【解離性同一性障害】

 

 

つまり、南雲ハジメという少女は二つの人格を持った多重人格者なのだ。

 




そんなわけで『過去に壮絶な虐めを食らったなら二重人格設定いけんじゃね?』等というアホみたいな思考が脳裏によぎったことでハジメちゃんが痛々しい二重人格になってしまいました!
ごめんなさいッ!!(土下座)

ちなみにハジメちゃん(裏)はイジメによる憎悪や絶望の感情でできているため結構やばいです。もし表に出てきたなら勇者大好きメンヘラ女よりもやばいことに……

まぁ、そんなことになったら原作自体が破綻するためそう簡単には出てきませんけどね、現状ではハジメちゃん(表)が主導権を持っていますからそんな『お前は出てくるな!』みたいなことは起こりません。


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月下での決意

お久しぶりです。更新が遅れて申し訳ございません。

今回は難産でかつてないほど駄目文になってしまいましたご了承ください。
なんとまさかの1万三千文字突破、だというように未だに迷宮に入っていないというこの現状。
どうしてこうなった(白目)


【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気があるのは、階層により魔物の強さを測りやすいからということである。階層が深くなるに連れて出現する魔物は強くなっていくが、逆に言うと浅くなるほど弱いということなのだ。故に魔物の強さを段階付けし易いという点を活かして、新兵の訓練などに使われており、しかも出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているためだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

例えるならば歯車の動きを良くする潤滑油のような役割を持っているのだ。

その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われており、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

次の日、そんな迷宮に実践訓練を行うために勇者一行は(若干二名程、気分が沈んでいた者がいたが)メルド団長と複数人の騎士とともに冒険者たちのための宿場街【ホルアド】に到着していた。

 

昨日、メルド団長の通達を聞いた日色は即座にメルド団長に直談判し非戦闘職業である自分やハジメを置いていくように頼んだのだがメルド団長はついぞ首を縦に振らず上層部から生徒たちは全員訓練に参加するように、と言われているようで、どうしようもないらしい。

「大丈夫だ、いざとなれば俺が絶対お前らを守ってやるから!」などと男臭く笑って言ったのだが原作を知っている日色からすれば軽く死刑宣告である。ベヒモスが出てくるんだよクソッタレがッ!などと内心毒吐きながら、恐怖で寝れなかったため顔色が悪くなっている原因となっているのだ。ちなみにハジメは言わずもがなである。

 

そんなわけで冒険者たちのための宿場街【ホルアド】に到着し、まずは実戦の空気に慣れろ、ということで迷宮探索は明日になり、王国直営の宿屋に泊まることになったのである。

 

最低二人で一部屋使われるために、日色ともう一人のペアになるのだがまさかの相部屋が南雲ハジメだとは日色にとって予想外だった。男女で同じ部屋なのは問題があるのでは……と、思われたが、誰も何も言わなかったのでなし崩しである。……まぁ、若干二名ほど二人を目の笑っていない笑顔で日色とハジメを見つめていたのだが無視である。

 

そんなわけで若干緊張しながら日色と共に宿屋の部屋に入ったハジメだが、久しぶりに見る普通の部屋につい、ベッドにダイブして一息吐いてしまう。

そんなハジメに小さく苦笑しながら日色は上着を脱いで近くの木製の椅子に掛けた後、自分の鞄から『地球送還魔法考察目録』と書かれている本を取り出し、自分のベットへと座り込んだ。

そうして日色が本を見ている間にうへへへとベットのフカフカさを堪能した後ふと気づいたように「……そういえば」と日色へと話しかけた。

 

「――ん?どうした?」

「そういえば日色、昨日使ってた魔法って何のなの?」

 

そのハジメの言葉に日色は「――あぁ、アレか」と呟いて手に持っていた本を閉じた。

 

「アレは俺の固有魔法、『文字魔法』だ」

「文字……魔法?」

 

日色の言葉に復唱するように疑問符を浮かべながら呟いたハジメに日色は「…あぁ」と頷く。

そして日色は右手をあげ人差し指を伸ばした後、ベットの布団へとゆっくりと文字を書いていく。

 

「この魔法の能力は簡潔に言えば『書いた文字の効果を実際に起こす』魔法だ……こんなふうにな」

「え?――うわっ!?」

 

日色はそう言ってハジメに見えるように布団に『浮』の文字を書き、布団をハジメへと放り投げると次の瞬間――布団がまるで空を飛ぶように布団が空中を浮いた。

その摩訶不思議な現象にハジメは驚きの声を上げてしまう。

 

そんな驚いたハジメを見て微かに笑う日色にハジメは羞恥を覚えるが、慌てて思考を戻し日色の魔法の効果に一つの疑問を零す。

 

「じゃ、じゃあ……それを使ったら地球に戻れたりはできるの?」

「……いや、文字魔法は書いた文字の効果を起こすことができるが今の俺には文字数が一文字しか書けないんだ、成長したらもっと書けるかもしれないけどな」

「それでも十分チートだと思うんだけど……」

 

そう言って未だに空中に浮き上がっている布団を自分のベットに戻しながら悔しがる日色にハジメは小さく溜息を吐く。確かにそんなチートな魔法を持っていれば黙っているかもしれないだろう、おそらくだが日色のステータスプレートもそれで隠蔽していたのかもしれない。

 

「……とは言っても魔力消費が激しすぎて一日3、4回しか使えないし、ハジメの錬成と一緒で書くためには一度対象に直接触れなきゃいけないからな、役立たずなのは変わりない。残念ながらそこまでチートというわけじゃないんだよ」

「へ、へぇ……」

 

難儀なものだと溜息を吐き、再び手に持った本を読み始める日色にハジメはハハハと曖昧に笑った後、何も喋らなくなった。

少しの静寂の後、唐突にハジメはポツリと呟いた。

 

「……ねぇ、日色。日色は……怖くないの?」

「……何がだ?」

 

ハジメへと視線を向けず、パラリと本を捲る日色。

 

「明日の実践訓練……日色は怖くないの?」

 

そのハジメも言葉に本を捲る日色の手が止まった。ちらりと本から目線を変えハジメを見つめ、「ハジメはどうなんだ?」と呟いた。

 

「……怖いよ。戦うのは……やっぱり怖い。戦わないと帰れないのはわかるけど……やっぱり……ッ、怖いよッ……」

 

ハジメはベットの上で布団を抱きしめて目を瞑り震えながら声を零す。

きっとハジメは不安なのだろう、いや、それも当たり前か、突如日常が壊れ、命懸けの戦いに巻き込まれるのだ不安にならない訳が無い。

例え正史では将来『魔王』と呼ばれるほどの力を持ったとしても、今はただの『南雲ハジメ』という少女なのだから。

日色の返答はない、落胆されたのだろうか?

 

そんなことをハジメが微かに思った瞬間――

 

――ドサッとハジメと背中合わせに日色が座ってきた。

 

「――えっ?ちょっ!日――「安心しろ――」……え?」

 

突如ハジメに肌が触れるほど近づいてきた日色にハジメは驚愕の声が出るがハジメの声に被さるように呟いた日色の声に言葉が詰まってしまう。

 

 

 

「――俺だって怖い、戦うのはな」

 

 

ハジメの震えが背中越しから伝わる日色の体温の暖かさで止まった。

ハジメは暖かくそして頼りがいがあるその背中に無意識に寄りかかってしまいそうになる。

そんなハジメに日色は「だから――」と告げる。

 

 

「――今だけは隣にいてやるよ」

 

 

だからもう怯えなくていいんだ、ハジメ。

 

そう、ハジメは言われたような気がした。

その言葉を言うと共に日色は再び無言になり本を捲る音が聞こえる。ハジメは小さく「……そっか」と呟き、日色へと重心を預け、もたれかかる。

 

(……日色の身体……あったかいなぁ……)

 

小さな部屋の中で、小窓から差し込む月明かりが、寝台で背中を合わせる二人を照らし出す。まるでそれは、背中を合わせた少年少女の一つの物語の始まりだとでも言うように。

 

背中越しに日色から感じる体温にハジメは安心感と父性を感じていると徐々に眠気が襲ってきた。

ゆっくり、ゆっくりと目蓋が落ちていき、意識が闇へと落ちていく。

 

そして遂に眠気に負け、深い眠りへとハジメが着く直前――

 

――コンコンとノックの音が響き渡った。

 

「日色君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

「ちょっと、話があるの。開けてくれないかしら」

 

そんな彼女達の声にハジメの眠気が一瞬で覚ざめ、冷や汗がボタボタと背中から流れて出る。

え?いやいや、待って、ちょっと待って欲しい。こんな状況で白崎さんや八重樫さんに見られたらどうなるのだろうか?

月明かりの中、男女二人が狭い個室で距離を近づけ、背中合わせ。

 

……考えなくても修羅場になることが確定するだろう。

 

「あぁ、入ってきていいぞ」

「ちょっ、日色!?」

 

そんなハジメの危機感を知らずに部屋に招き入れようとする日色にハジメは慌てて日色の口を黙らせるために日色の方向へと立ち上がりながら身体を動かして――

 

ズリッ

 

「ゑ?」

「ん?――うぉっ!!?」

 

――ベットのシーツに足を滑らしてしまいハジメは日色の方へとスッテンコロリンと倒れてしまった。

もちろんそれに驚いたのは日色だ、突如転んで此方へと倒れてきたハジメに目を剥いて反応が遅れてしまう。

 

結果どうなったか?それは突如日色へと倒れこんできたハジメを成す術も無く押し倒されたのだ。

そう、それは第三者が見ればハジメが日色を押し倒したような体勢に。

 

「え?ちょっ、日色君?どうしたの!?」

「あ、ちょっ!香織っ!?」

 

そんな日色の驚いた声に反応したのはドア越しにいる香織である。慌てて扉を開き、部屋の中にいる日色達の光景を視認する、してしまう。

そして、そこから先はお察しである。

 

「……ふ、ふふふふふふ」

「もうっ!お邪魔しま……って! な、なななななな何をやってるの、二人とも!」

「ちょっ!白崎さん!八重樫さん!違うんだ、これはっ!」

「フフ、何が違うのかな……?南雲ちゃん?ねぇ、日色君にイッタイナニヲヤッテイルノ?」

「ハジメがいきなり襲いかかってきたな」

「ちょっ!日色!誤解を招く言い方しないで!白崎さんの目がさっきから一切笑ってないんだけど!!?」

「……ッ!? と、とにかくすぐに離れなさい二人ともぉ! 不純異性交遊なんてダメよ! 駄目なんだからね!?」

「……フフッ、フフフフフフフフフフフフッ♪」

「すぐに止めます!止めますから白崎さんを止めてくださいっ!さっきから白崎さんが笑いながら椅子を振りおろそうと掲げているのが怖いんですけどっ!!?」

 

雫が顔色を真っ赤に染め、恥ずかしそうに顔を両手で隠し(ただし指の間からバッチリと見ている)香織は瞳に光が無いレイプ目になって寒気がするような笑い声を零し、確実に対象を撲殺することに適した手頃な椅子を掲げている。そんな彼女たちに弁明をするかのように日色の腹の上でハジメは両手で必死にそんなことをしようとしたんじゃないんですっ!と横に振り続けている。

そんなカオスな状況の中で日色は小さく呟く。

 

「で、ポニーと白崎は何の用だ?」

「今、こんな状況でそれを聞くッ!?」

 

そんなマイペースな日色の言葉にハジメの悲鳴のようなツッコミが突き刺さった。

 

 

「で、一体何の用だ?夜這いか?だったらあのテンプレ勇者に構ってもらえ」

「殴るわよ?」

 

カオスな状況から数分後、事態が収束した後、取りあえず誤解は解けたため日色は白崎達が訪問した理由を聞くために取りあえず紅茶モドキを四つ入れ、トレイに置いて持ってきた。

雫と香織を日色のベットに座らせた日色は、紅茶モドキを全員に手渡した。香織やハジメもありがとうと言いながら紅茶モドキの入っているコップを貰った。

 

途中日色のジョーク(?)に雫は静かに拳を構え、香織は顔を真っ赤にし「よ、夜這い?ち、ちちちちちちちちち違ッ!」と言っていたのはご愛嬌。

 

そんな月明かりの中始まった四人だけのありふれたお茶会の中でハジメは、なんでこうなったんだろうと若干現実逃避しながら紅茶モドキを一口。

水出しの紅茶モドキのためお世辞にも美味しいとは言えないが身体が温まり心は安らぐだろう。

 

茶菓子も無くキレイな部屋でも無いため決して御伽噺のお茶会とは言えないがそれでも月明かりの中ネグリジュの姿にカーディガンを羽織った香織と似たような服装をした雫は並大抵の男子が見たら天使と勘違いされ、つい赤面してしまう程のものだろう。まぁ、案の定日色は一切顔色を変えていないが。

 

「それで、何の用だ?」

「えっと、私は別に大したことじゃないんだけどさ、この世界に来てから日色君と二人で話すことなんてなかったし、なんか寂しかったから……雫ちゃんが日色に用があるっていうから付き添いに……」

「ふーん、といっても何か話すことなんてあるのか?」

「何言ってんの、ステータスのこととかこの世界に来てから何をしてたからとかあるでしょう?」

「割と頑張った」

「「適当!?」」

 

会話に入ってきた雫の言葉に怠けたように帰ってきた適当な返答に香織とハジメがツッコミを入れる。

日色はそんな彼女たちの言葉にめんどくさそうに目を細め、「じゃあ、質問しろよ。適当に答えてやる」と呟き、ハジメが内心で結局適当なの!?と驚かせたりした。

 

そんなわけで始まった会話は基本的に香織が話し、日色が返して、そこにハジメ達が混ざるという形式だったが初めての異世界生活にどれだけ困惑したかや魔法という新しいものにちょっとワクワクしたことなど、言葉は普通だが所々の言葉に香織が不安が募らせていることがハジメにもよくわかった。

 

空になったカップをカチャリと戻して、目の前の存在に不安そうな表情を隠しもせずに顔をうつむかせ気味に、香織は思っていることを言葉に変え吐露する。

 

「どうしてこうなっちゃったのかな……」

「さぁな、日頃の行いが悪かったかそれとも単純に運がなかったか。まぁ、神なんて存在がいるならば一発殴ってやりたいところだろうな」

「ハハ、日色らしいね」

 

そんな日色の答えにハジメは小さく苦笑する、他の香織達もそんな日色の答えに勇気づけられているようだ。

その会話を気にしばらくの沈黙が訪れたが次に日色が雫を見ながら「……で、ポニーは何の用だ?」と呟いた。

それに雫は「いい加減雫と呼びなさいよ」と毒づきながら、「まぁいいわ……で、日色」と呟いた。

 

「なんだ?」

「あなたが私と訓練した時に言った言葉の意味ってどういうことよ」

 

その雫の言葉にえっ?と反応したのはハジメと香織である。

 

「ちょっ!日色!?八重樫さんとも訓練してたの!?」

「そんな!羨ま……言ってくれたら私も一緒に手伝ったのに!」

 

慌てて日色へと詰め寄るハジメ達に何慌ててんだお前らとでも言うように「ハァ?」と疑問符を浮かべた。

というか香織、お前今途中まで何を言おうとした。

 

「別に訓練ってほどじゃない、そこのポニーに軽く誘われたから少しだけ付き合っただけだ」

 

軽く脅迫じみた誘いだがな、という言葉は日色は飲み込んでおく。ここで下手なことを言って再び雫と立ち会うのは遠慮願いたいのだ。……香織が恨めしそうに雫を見ているのはどうしてだろうか?

 

「……話を戻すわよ、それで日色。あなたが言っていた『こんな役立たずが仲間を見捨てて一人勝手に王城から逃げ出したらクラスメイト達はどう思うんだろうな……?』、って言葉の意味、説明してもらえるかしら?」

「ひ、日色君、そんなこと言っていたの?」

 

身を乗り出すように聞いてきた香織に日色はうわーとでも言うように頭を抱え、どうして過去の自分はそんなことを言ったのか内心頭を抱えた。

 

「……説明するのが面倒臭いから説明しなくていい――「だめよ」……マジか」

 

言葉が言い終わる前に雫に拒否された日色はめんどくさいなとでも言うように溜息を吐いた後、意を決したように「あー、そうだな」と言葉を零し――

 

 

 

「――俺は、あと数日たったら王城を旅立つから」

 

 

――と、なんともないように衝撃の言葉を呟いたのだった。

 

 

「「「………………………………は?」」」

 

三人の思考が停止した。

素っ頓狂な疑問の声が無意識に零れてしまい、日色の言った言葉の意味を理解することができない。

だというのに日色は何故ハジメ達が疑問符を浮かべているかがわからないとでも言うように首を傾けている。

数秒後、いち早く再起動した雫が「えーと、ちょっと待ってね」と呟きながら少しの間眉間をほぐしながら日色へと話しかける。

 

「えーと、旅立つ?」

「あぁ」

「誰が?」

「俺が」

「どこを?」

「王城を」

「いつ?」

「明確には決まってがないが五日以内には……もういいだろう?明日は早いんだ、もう寝させて――」

「いい訳がないでしょうが!!」

 

ダルそうに溜息を吐く日色に雫が叫び日色の肩を掴んでガクンガクンと揺さぶる。

そんな雫に日色は内心『解せぬ』と思いながらも「じゃあ、何が悪いんだよ」と呟くと、その言葉に雫はブチリッと青筋が浮かび上がった。

 

「全部よ!ぜ、ん、ぶ!!どうしてそんな重要なことを言わないのよ!あぁ、もう!昔の頃と一切変わってないわね!!日色ッ!そこに正座しなさいっ!」

「いや――「い、い、か、ら、言、う、こ、と、を、聞、き、な、さ、いッ!!!」……わかった」

 

雫ちゃん、マジ怒である。

あまりの怒気により、あの日色もおとなしく正座し、ハジメと香織はとばっちりを受けないように雫から怯えるように距離を離すしかない。

まさか雫がこれほど怒るとは思ってもいなかったのだろう、香織は「こんな雫ちゃん、初めて見た……」と小さく驚いたように呟いている。

ガミガミガミ!と日色へと説教している姿はもはや角を生やし雷が落ちたオカンにしか見えない、そんな雫へとハジメは日色に助け舟を出すために雫へと話しかけるが――

 

「貴方っていつもそうよねッ!なんでそう大事なことをもう手遅れな時に言うのよ!!日色には圧倒的に報・連・相が足りてないのよッ!!報告連絡相談がっ!!!」

「あ、あの~、や、八重樫さん?そこまでにしておいたほうが……「あぁッ!?」……ヒィ!ご、ごめんなさい!」

 

――残念、その助け舟はオカン雫の睨みによってあっという間に撃沈してしまった。

しかし、一応効果はあったのだろう、雫は一度深く息を吐いたあと冷静さを取り戻し、睨むような視線を日色へと向けた。

 

「……それで?貴方が出て行く理由は?まさか無いなんてないでしょうね?」

「そ、そうだよ!日色君はこの世界の人たちを助けようとは思わないの!?」

 

雫の言葉に続くように日色へと言葉を投げかける香織に日色はハァと溜息をついて「なぁ、白崎――」と言葉を返した。

 

 

「救うって誰を救うんだ?」

 

 

「…………え?」

 

そんな、なんともないように疑問を香織に投げかけた日色に、香織は無意識に疑問の声を零してしまう。慌てて口を開き「そ、それは勿論――」と声を出そうとするが再び疑問を零す日色の言葉に遮られた。

 

「魔人族だって人の姿をしているんだぞ?人族を助けたいのなら魔人族を殺す――要は人殺しを強制的にやらされそうになってんだぞ俺達は、そこんとこちゃんと理解しているのか?」

 

そのような冷めきった瞳で香織を見つめる日色に香織はゴクリと無意識に喉を鳴らしてしまう。わかっていたはずだ、これから自分達は殺し合いをするのだと。香織はちゃんと理解している、だがだからこそ思ってしまうのだ。自分達は勇者だから大丈夫だろうと、相手は悪なのだから気にする必要は無く、自分達は正義だから必ず勝てるのだ、と。

異世界召喚という余りにも現実離れした現象にクラスメート達には現実感というものが薄くなってしまっているのだ。

 

「でも、魔人族を倒さないと地球に戻ることは出来ないのよ?仕方ないじゃない」

 

言葉に詰まった香織をフォローする様に会話に入ってきた雫の言葉に日色は少し眉を顰め、そして雫の言葉に呆れたように言葉を吐き出した。

 

「根拠は?」

「……え?」

「だから根拠だよ根拠。どうして地球に戻れると思ったんだ?あのイシュタルのジジィ共がもしかしたら魔人族を倒せばなんとかの神が元の世界に戻してくれる『かも』しれないと言っただけだろうが。証拠は?根拠は?実際に俺達は元の地球に送還されたのを見たのか?実際に神様に会ったのか?いや、そもそも神なんているのか?この異世界に召喚されたのが何兆分の一の確率で俺達の教室で起きた『現象』で、あのジジィ共がその『現象』を神だと思っているだけかも知れないのに?ちょっと考えただけでこれだけの疑問が出てきたんだぞ、なぜお前ら、テンプレ勇者達は疑問に思わない?これだったら王立図書館で情報を集めていたハジメの方が何倍もマシだ。だというのにあのテンプレ勇者め、何が訓練をサボっているだよ…脳筋か?脳筋なのか?どこの誰が喜んで殺しの技術を学ばなきゃ行けないんだよ……」

「日色、だんだん只の愚痴になってきているよ」

 

徐々にただの愚痴になり謎の苦労人オーラを放出させてきた日色にハジメはブレーキをかける。しかし、日色を落ち着かせながらもハジメは内心日色の言葉をその通りだ、と肯定していた。異世界に飛ばされ、いきなり殺し合いをさせられるのは冷静に考えればおかしいのだ。

 

貴方は勇者です、貴方は強力な力を持っています、だから私達の代わりに私達の敵を全滅させてくださいと言われているようなものだ、それにハイと躊躇なく答えるものがいたとすればそれは文字どうり命を捧げた軍人か、ただのサイコパスである。ましてやありふれた高校生である自分達がそう簡単に命を奪うことなどできるわけもない。……まぁ、日色がこれほどまで考えていたのは予想外だったが。

 

ハジメはちらりと日色から視線を外し香織達を見ると、香織は悲痛そうな表情で両手を胸で握り、雫は目を伏せ、自分の認識が甘い事を理解したのか、ベットの上に置かれた手を強く握っている。

そんな彼女達を差し置いて日色はフゥと一度息を吐いた後、再び口を開いた。

 

「……それに、ハジメも気づいているだろ?この国の歪さに」

「……うん、異常な程の神への信仰だよね」

 

日色はそのハジメの言葉にその通りだ、とでもいうようにコクリと頷いた。

 

「そうだ、この国の信仰の深さ、それが余りにも深すぎる。正直言って狂気じみているレベルでな。冷静に考えてみろ、人間族の存続の危機にいるかもわからない神様が選んだどこの馬の骨も知らない少年少女を勇者として一切疑わず尊敬の気持ち悪い視線を向けているんだぞ。普通におかしいだろうが」

「そ、それもそうね……」

 

さらりと毒を吐く日色に雫達は苦笑いするしかない。

 

「――以上が、俺が王城を離れる理由だ。幸いにも俺は役立たずだしな、どうせいなくなってもクラスメイトたちの支障にはならない」

「あなたの場合、そうなるように動いてたからでしょうが」

 

日色の思惑をようやく理解した雫は手を強く握りしめ、歯を食いしばる。

日色の狙い、それは自分の重要性を最底辺に下げることでクラスメイト達の認識を下げ、いなくても構わないような状況に持ち込んだのだ。

自分達には圧倒的に情報が足りない、故に日色は自分の存在価値を下げ、自分が王城を離脱することで単独で情報を集めるのだ。もし、これで仮に雫や香織達が離脱してしまえば重大な役割が空いてしまうことでクラスメイト達に混乱が生じてしまうだろう、内部分裂が起こってしまうかもしれない。光輝によってまとめあげられたクラスメイト達は少しでも重大な人物が居なくなってしまえば亀裂が奔ってしまうのだ。

 

「だ、だったら私も一緒に――「「だめよ(だ)」」――ど、どうしてっ!」

 

慌てて香織が日色についていく事を言葉にしようとすればそれを言い切る前に日色と雫に遮るように拒絶された。

 

「香織、今貴女が抜けたら皆が混乱するわ。今は光輝のおかげでどうにかなっているけど『無能』の肩書きをつけられた南雲ちゃんはともかく私や貴女がいなくなったら混乱を招くわ。日色も……それが分かっているから今まで言わなかったのよ」

「そんな……」

 

悲痛な香織の声が溢れる。慌てて日色の方を違って欲しいという願いを込めて顔を向けるが、日色は何も喋らない。つまり、それは肯定の意を示していた。

そんな香織を置いて、雫は日色へと視線を向け再び質問を行う。

 

「日色、本当に行くのね」

「……あぁ」

「だったら南雲ちゃんはどうするのよ。もちろん、どうするかなんて考えているのよね?」

 

その雫の言葉に日色の眼は見開き、口を開いてまるで『忘れてました』とでも言うような驚愕の表情を取った。

 

「…………………………あ」

「……忘れてたのね」

 

雫は頭に手を置いて、肝心なところを忘れてしまっている日色に溜息をついてしまう。

またまた日色への怒りが湧いたがここで出しても仕方ないだろう。雫はハジメへと視線を向けて微かに表情に影が差したハジメへ声をかけた。

 

「それで、南雲ちゃん。貴女はどうするの?このまま此処にいるか、日色と共に行くか。貴方の自由よ、好きに決めなさい」

「え?あ、ぼ、僕は……」

 

その雫の言葉にハジメは慌てて口を開くが、学校にいる彼女とはまるで別人のように表情に影が差し、声も少々小さく、心細い。

 

「……少し、考えさせて欲しいな。まだ……答えが出来ていないんだ……」

「そう、意外ね。てっきり日色についていくと即答するかと思ったのに……」

「あの……八重樫さん?僕をなんだと思っているの……?」

「ふふ、冗談よ」

 

そう言ってハジメをからかって小さく笑う雫にハジメの表情は若干引きつっている。

そうして笑い終わると雫はベットから立ち上がった。

 

「それじゃあ、私は部屋に戻るわ。香織はどうする?」

「……えっと、私は日色君達とまだ話したいことがあるから……」

「……そう、それじゃあ早く戻って来なさいよ。日色、南雲ちゃん、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

「うん、おやすみなさい。八重樫さん」

 

そう挨拶を残し、小さく手を振って雫は部屋を出て行った。

 

 

バレてはいなかっただろうか?

 

耐えることができただろうか?

 

雫は香織との共同部屋にある自分のベットで布団を被りながら小さくそう思う。

現在の彼女の手は小刻みに震え、まるで自分を抱きしめるように両腕を手で掴み、怯える子供のように身体を震わせている。

 

知りたくなかった。

 

日色が王城を離れようとしていることに。

私達から離れようとしていることに。

 

分かっている。

 

自分たちが何よりも必要なのは地球に戻る方法ということに。

だからこそ、日色が取ろうとしている行動は正しいものだろう。

 

だけど、

 

もし、

 

日色がそれが原因で死んでしまったら?

 

「…………違う」

 

止めよう、考えてはいけない。

そんなことは決して起こらないのだから。

だから、大丈夫だ。きっと、大丈夫。

 

さぁ、明日は早いのだ。早く寝ないと。

 

 

 

 

 

 

――ホントウニ?

 

 

 

 

 

雫の頬には小さな一つの透明の水滴が零れていた。

 

 

場所は変わって宿から少し離れた青白い月明かりが照らす小川沿いの歩道。

そこに二人の人影、日色と香織が居た。

 

何故、彼らがそんな場所にいるか?それは香織が日色と二人きりで話がしたいと言ってきたのでハジメにはいち早くベットで寝てもらうことにしたのだ。

ハジメも最初は渋っていたがすぐ済むからという日色の言葉に仕方なく頷き、一足早くベットで寝てもらった。

 

「――で、わざわざ二人きりで話したい要件とは何だ?」

 

月明かりの下、日色は月が映る川を少し眺めたあと、目の前の香織の方へと振り向いた。

 

「……ねぇ、日色君。やっぱり、王城から旅立つのを変更することはできない…かな?」

 

そう言って服をかすかに握りしめながら言葉を零す香織に日色は小さく「……あぁ」と呟く。

 

「……どうして?」

「地球に戻らなければならないからだ。クラスメイト一丸となって魔人族を全滅させても元の地球に戻してくれる確証がない以上、国を回って情報を集めないといけないからな」

 

淡々と感情を感じさせない声色で語る日色に香織の表情に影が差し、胸のあたりで服を握りしめる力が強くなる。胸から溢れそうになる何かを香織は無理矢理押し込んでどうにか「…そっか」と呟くことができた。

 

「日色君は、変わらないね。どんな時でも真っ直ぐで……ねぇ、日色君。初めて私と出会ったこと覚えてる?」

「……いや、覚えていない」

 

日色は少し顎に手を置いて昔のことを思い出すような仕草を数秒したがすぐに軽く頭を横に振るい、否定の言葉を零した。

 

「中学二年の時にね、小さな男の子とおばあさんが、不良っぽい人に囲まれてたときの事なんだけど…」

「――あぁ、あの時のことか。確かそんなこともあったな」

 

まるで大切な思い出を語るかのように話す香織に日色は昔のことをようやく思い出したようで、手の平をポンッと叩いた。

 

「あの時、私は怖くて何もできなかったの。強い人の助け方しか知らないから自分は強くないから誰か強い人が助けてあげてと思うだけだった、だから日色君が助けに言ってくれたのはすごく嬉しかったの」

 

そう言って、朗らかに微笑む香織に日色は「別に助けようとしたわけじゃない」とぶっきらぼうに言葉を零す。

 

「あれはただの八つ当たりだ。それに助けることだったらあのテンプレ勇者の方が多くの人を助けているだろうが?」

 

日色は波打つように流れている川を微かに見たあと、香織の方を向きまるで自分を自虐するように言葉を吐き捨てた。

その言葉に香織は小さく笑って――

 

「違うよ、日色君」

 

その言葉を否定した。

 

「――何?」

「日色君はね、自分では気づいてないのかもしれないけど。光輝君や雫ちゃんのように強い人だから暴力で解決できるような人じゃないんだよ。私が初めて日色君に出会った時は光輝君達と同じ強い人だと思ってたんだけど、本当は違ったの」

 

そう、日色がクラス達に人気な理由は光輝達のようにヒーローとして助けてくれるからではない。日色の強さはそんなものではない、そのことはハジメも雫も、そして香織も知っている。

 

「日色君は、光輝君とは違って暴力で解決するんでもなくて、陰ながら困ってる人を助けてくれる優しい人なんだよ。他人の成長を願って、そのきっかけを作って、それでも自分は他人として陰ながら支えてくれる。だから私の中で日色君は誰よりも優しくて強い人になったんだよ」

 

それが、神代日色の強さ。全て自分の為と言いながら陰ながら誰かを助けようとし、あくまで表向きは他人として接し続ける。自分の為ということは逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

日色は言葉を失った。

思わなかった。

まさか、香織に自分がそう思われていたなんて、一欠片も思っていなかったのだから。

 

 

「――死なないで、日色君」

 

 

気がつくと香織が正面にいて日色の手を包み込まれていた。

彼女の声色は普段のような元気な彼女らしくなく、不安にまみれている。

瞳は潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 

「ずっと不安なの。日色君がいつか遠くに消えてしまうんじゃないかって」

「…………」

「今日の夢だってそう……日色君がいたんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……最後には……」

 

徐々に、彼女の声に嗚咽が混ざっていく。

 

「……最後には……消えちゃうの……」

 

日色は沈黙を保っていた。

香織の体勢が徐々に日色へと傾いていき、日色の胸へと香織の頭が触れ、小さな嗚咽が青白く輝く月下に響いていく。

 

香織は身体を震わせて日色の胸で嗚咽を漏らしていると、日色は溜息を吐いて「おい、白崎。顔を上げろ」と呟いた。

その言葉に香織は「……ふぇ?」未だに止まらない嗚咽を漏らしながら顔を上げると――

 

――ズドンッッ!!という音と共に香織の額に激痛が走った。

 

「――ふにゅッ!!??」

 

突然の激痛に香織は額を抑え痛みに悶えて涙目になってしまう。

 

「な、何するの――!!?」

「震えは止まったか?」

「―――え?」

 

いきなり何をするのか?

抗議の視線を香織は日色に向けるが、淡々とつぶやく日色に香織はおそるおそる手に視線を向けると、不安と恐怖で震えていた香織の手は既に震えは止まっていた。

 

「お前が俺を心配するのは嬉しいが、勝手に死ぬ前提で話をするな」

「で、でも――」

「でもじゃない。いいか、白崎。お前に心配されなくても俺は死なん。何があろうと生きて地球に帰ってやるよ」

 

そう、香織の不安を打ち消すように日色はそう宣言した。

傲慢に、そして大胆不敵に。

その言葉に香織は目を見開いて驚愕し――

 

「ふふ、日色君らしいなぁ」

 

――つい、笑いを吹き出して、いつものようにくすぐったそうに笑った。

不安はある、恐怖も少し薄れただけだ。だがそれでも、覚悟はできた。

 

だからきっと大丈夫だ。

 

「ほら、明日は早いんだ。早く戻―――っておい」

 

日色は明日に備えて早く戻ろうと香織に声をかけようとすると、次の瞬間――

 

――香織に自分の腕を絡まれてしまった。

 

「ごめんね日色君。今だけは……こうさせて?」

「……拒否権は「ないよ」……チッ」

 

日色は歩きにくいため、香織を離そうとしたが、香織の声色に強い意志を感じたため、日色は舌打ちをしたあと諦めることにした。

 

夜空を照らす月が二人の少年少女の道を照らす。

香織は腕から感じる日色の体温を感じながら、小さく思う。

 

(日色君は……私が守るよ)

 

そんな決意をした香織を置いておいて、対象者となった日色は彼女に片腕を抱かれながら思う。

 

『あ゛ーッ!腕に胸が当たってんのに死の恐怖を感じすぎてそこまで喜べねぇ!!てゆうかなんなの?どうしてハジメに起こるフラグが俺に建ってんの?どうして落下フラグ成立してんの?馬鹿なの?アホなの?死ぬの?死ぬのは俺だけどなっ!アッハッハッハッ!!!(乾いた笑み)……念の為に『アレ』の数増やしておこう』

 

やっぱり、この男にはどうあがいてもシリアスが通用しないのだろうか?

 




最近筆力と語彙力が圧倒的に無くなって来ているこの頃、誰かコツ教えてくれませんかね?


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トラップは主にバカ共のせいで引っかかる

こんな夜遅くに投稿していくスタイル。どうも、眠気に襲われているアルテールです。
今回はあの敵に遭遇するまで、主人公が本格的に活躍し始めるのは次回からです。

未だにハジメちゃんの豹変の性格がなかなか決まらない自分って……

では、どうぞ!


次の日、日色達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

『モ○ハンですね、わかります』

 

そんな思考をしている日色は放っておいて、どうやら受付窓口がある理由はステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

ちなみに日色は途中見つけた串に刺されタレを塗り美味しそうに焼かれている肉をこっそり買おうとしたのだが雫に強制的に引きずられていた、ハジメ曰く、日色は地味に食べられなくて涙目だったらしい。

 

しかし、迷宮の中に入ると外の賑やかさとは無縁であるように静かだった。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進み、日色とハジメは最後尾で辺りを見渡しながらついていく、しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけまるでボディビルダーのように毛が無く、そして瞳は殺意に濁っており、どこかの夢の国の鼠とは大違いである。……まぁ、某夢の国の鼠も時と場合によっては恐怖を感じるのだが。

 

一行の最前列である光輝達は(頬が引き攣っている雫がいたが)訓練通りに間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃し、その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。クラスメイト達が何度も行ったありふれたフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソード〝聖剣〟を高速で振るい、ラットマンを数体をまとめて葬っている。

 

〝聖剣〟とはハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つであり、光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。ちなみに日色は〝聖剣〟という銘をつけた王国のネーミングセンスに若干呆れていたりする。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。日色は「どんな理屈だよ」と呟いていたがこれもまぁ、魔法という謎現象のおかげなのだろう。

龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようである。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。あまりの洗練された技に騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

日色は冷めた瞳で、ハジメは自分との力の差に乾いた笑みを浮かべながら彼らの活躍を見ていると詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

後衛の三人が同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て、絶命していく。

 

気がつけば他の生徒達の出番なく、ラットマン達は絶滅していた。光輝達のステータスでは一層の魔物は弱すぎるらしい。

よく言えばオーバーキル、悪く言えば死体蹴りだった。

 

その証拠にメルド団長も苦笑いをしていた。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

気を抜かないよう注意するメルド団長だが初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がり、頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めるしかない。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

そのメルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

そんな彼らの活躍を見ながら日色とハジメは最後尾で完全に傍観者気取りで眺めていた。とはいえ、周りへの警戒を怠ることは無く、何が起きてもすぐに対処できるようにしていたが。

 

「やっぱり皆チート過ぎじゃないかなぁ?白崎さんも非戦闘職なのにアレ程の魔法を出せるなんて……」

「まぁ、仮にも全ステータスが100を軽く超えている奴らだからな、俺達とは違ってこの辺りの魔物なんて相手にならないだろう」

 

微かに落ち込んでいるハジメを日色は慰めながら列へと続いていくと。

 

「クッ、数匹抜けたぞ!」

 

そんな声が前方から聞こえてくる。どうやら、前衛組が相手にしていた魔物の――日色が見ると2――いや3匹、ラットマンや犬のような魔物が此方へと向かってきていた。

どうやら前との列を離れすぎたことで日色達が標的に選ばれたらしい。

 

「――っと、話していると魔物が来たな。ハジメ、行けるか?」

「う、うん。だ、大丈夫だよ……多分」

 

そう少し体を震わせながら鞘に入ったナイフを抜きながら呟くハジメに日色は小さく微笑む。

 

「だったら安心だ――じゃ、行くか」

 

そうして日色が腰に差している剣を抜刀の体勢になりながら、襲い掛かる魔物達を迎え撃った。

 

 

最初に日色達に襲いかかったのは一匹のラットマンだった。

 

日色達の距離が二メートルを過ぎた途端、跳躍し一気に毛がついていないムキムキの右腕で殴りかかる。

それに反応するように前に出たのは日色である。襲い掛かるラットマンの右腕に沿うように剣を抜き放ち、右腕を剣で撫でながら軌道を逸らしていき、打ち出された右腕は空を切る。

 

「――シッ!」

 

そのまま剣を反撃とばかりにラットマンの喉元向けて剣を振るう。

振るった斬撃は寸分の狂いもなくラットマンの喉元へと直撃し、肉を切り裂くが――

 

「キィッ!」

 

突然の喉元の痛みにラットマンは悲鳴の叫びを上げるが、それに反して日色の顔色は優れない。

 

(――チッ、浅い!)

 

元々の日色の低いステータスでは一撃で魔物を殺すことはできない、その為に喉を狙ったのだがラットマンの攻撃をハジメにも当たらないように逸らすことに力を使ったことで勢いが足りなかったようだ。

しかし、日色はそれだけでは止まらない。

 

仕留め損なったと認識した途端、身体を一気に旋回。再び勢いを乗せた横薙ぎの斬撃を喉元めがけて振るう。

全身の捻れを利用した斬撃はラットマンの喉を切り裂いて、続けざまに突きによる一撃を喉に放つことで万が一のラットマンの生存の可能性を無くし、絶命させる。

 

次にその止めを指した日色に襲い掛かる狼のような魔物にハジメが回り込むようにナイフを片手に立ちふさがる。

 

「させない!」

「グルァ!」

 

まるで邪魔だとでも言うように勢いよく跳躍し、ハジメの喉笛を噛み付くために襲いかかるが――

 

「錬成!」

 

――突如いきなりハジメの目の前の地面から出現した横幅40センチ高さ1メートル厚さ1センチの石壁が狼の魔物の突撃を阻み、突然の出現に狼の魔物は一切のスピードの減速ができず顔面にまるまるぶつかってしまい石壁に罅を入れながらも脳を揺らしてしまう。

突然現れた石壁、それはハジメのスキル[+高速練成]による錬成である。寝る間も惜しんで錬成を日頃から行っていた成果が今ここで発揮されたのだ。

 

「錬成!――やぁ!」

 

石壁に激突したことで動きを止めてしまった狼の魔物の隙を逃さずハジメは罅が狼の魔物がぶつかったところから放射状に奔り今にも壊れそうな壁を蹴りで壊すことで、狼の魔物へと壁の破片を飛ばし、狼の魔物を怯ませる。

ハジメが生み出した壁の厚さがわずか一センチ程で錬成したのは魔物の勢いをある程度落とすためであり、もし壁が壊れなければ、ハジメが自ら壊すことで破片を飛ばし、相手を一瞬だけ怯ませるためだったのだ。

 

狼の魔物が怯んだ隙に左手を地面に着き、再び錬成を行うことで狼の魔物の足元に十数センチの落とし穴を作り、動けなくなった狼の魔物の喉仏をナイフで切り裂き絶命させる。

 

「グギィ!!」

 

断末魔と共に息の根が止まったことを確認したハジメはフゥと呼吸を整えるために息を吐こうとするがそのハジメの死角から最後の狼の魔物が襲い掛かり――

 

「グギャ!?」

「油断大敵だ、ハジメ」

 

――横から現れた日色が剣を振るい息の根を止めた。

 

「う、うわっ!ひ、日色、ありがとう!」

「気にするな。それにしても上手かったぞ、その錬成の使い方」

「えへへ、そ、そうかな?」

 

日色の称賛にハジメは妙にくすぐったい気持ちに襲われ照れてしまい、つい頬が緩んでしまう。

取りあえず、こちらに向かってきた魔物はこれで全てなのでこれで一息つけるだろう。

 

「ところでハジメ、魔力は大丈夫か?」

「う、うん。錬成は工夫してある程度消費は抑えてるからあと二、三回は大丈夫だと思うよ」

「……そうか、あと一回程になったら魔力回復薬を飲んでおけ、余裕はある程度ある方がいいからな」

「…うん、わかってる。改めて思うけどやっぱり、こうして命を奪うのはなれないや」

 

ハジメは鞘にナイフを収め、我ながら情けないよと苦笑しながら日色に呟くと日色は若干呆れた表情でハジメの額を小突いた。

 

「イタッ!」

「全く、何を当たり前のことを言っている。そう簡単にハジメが命を奪うのに慣れてしまったら逆に困るだろう、別に情けないことじゃない」

「そう……なの、かな?」

「あぁ、今のままで大丈夫だ。ほら、さっさと進むぞ、前の奴らと距離が少し離れてしまったからな」

 

そう言い、前へと向かう速度を速める日色の言葉にハジメは心が軽くなったのを感じた。命を奪ったことに対しての気持ち悪さや忌避感は残っていても、それを気にするのは当たり前で、決して情けないことではない。そう言ってくれる日色にハジメはまた励ましてもらったな、と思いながら日色の後を追いかける。その足取りはいつもより軽くハジメは感じた。

 

その後も日色とハジメは時々抜けてくる魔物相手に時に騎士たちの手を借りながらも戦闘訓練を行っていった。

二人とも、時に魔物を足止めし、時に片方が囮になりながら、お互いを支え合いながらも確実に相手を仕留めていく。もともと4倍さのステータス相手に反応できる日色とそんな日色に教えられたハジメだ、お互いを支え合い、支援しながら戦うことで一切の怪我を生み出すことは決してなかった。

 

ハジメは『錬成』を、日色は少しながらも『剣術』を交えた戦闘術を多用しているため魔力のステータスの伸びがよく、レベルも4つも上がっていた。そんな二人に度肝を抜かれたのは騎士たちである。

非戦闘職であるため、「この二人に戦闘は無理だろう」全く期待していなかった――が、蓋を開けてみるとどうだろうか?

 

お互いの息の合うコンビネーションに、戦闘方法の創意工夫。己のスキルの予想外の使い方、そして冷静な判断に行動。

この二人の戦い方は前線で戦っている光輝達に引けをとっておらず、『全体を見る』という戦闘方法の中ではクラスメイト達の中で群を抜いていた。

 

「ハジメ!」

「うん!、任せて!」

 

襲い掛かるトカゲのような魔物を日色は蹴り飛ばし、地面に叩きつけられた瞬間、ハジメの『錬成』がトカゲの前足を地面に固定させ、その隙にハジメがナイフで喉仏を斬り裂いた。

 

「ギュィッ!」

 

悲鳴を上げながら命を落としたトカゲの魔物を確認した後、ハジメはようやく安堵の息を吐いて、日色の元へと向かった。迷宮に入っておよそ2、3時間。ハジメと日色の戦闘回数は2桁を超えており、現在の階層は19階層まで来ていた。今回の実戦訓練は21階層までが目標なのでもう少しで終わりである。

 

「やったね、日色!今回も完璧だよ!」

「……まぁ、そうだな。事前に戦い方を相談していたのが功を奏したんだろう、ところでハジメ、魔力は大丈夫か?そろそろ厳しいだろう、魔力回復薬を飲んでおけ」

「う、うん。わかった」

 

日色の指示通りに魔力回復薬の蓋を開け、口をつけるハジメを横目に日色は周りに注意を向ける。

どうやら現在は小休止に入ったため、辺りの警戒は騎士たちが代わりに行ってくれるらしい。

ふと前方を見ると日色は香織と目が合った。香織は日色へと微笑んでいるが、正直言ってあまり関わりたくない日色はサッ、と目を背け香織をガーン!!と落ち込んでいた。……ちなみに香織の隣では雫が若干勝ち誇った表情をしているのが気になるところである。

 

日色はそんな彼女達を横目に見、すぐに視線を変えようとすると突然、背後からねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線を感じた。その視線は教室などで感じていた類の視線とはとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

日色はその視線の主が誰かは悟っているものの、その主の目的を考え、いい加減うんざりする。

 

(……玉砕覚悟でさっさと告っちまえばいいのに、ハジメがアレだから可能性はあると思うんだが……)

 

日色はそう思いながら 深々と溜息を吐くのだった。

 

一行は20階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。現在は四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはないだろう。

 

二十層の一番奥までたどり着くと、鍾乳洞を思わせる複雑な地形の部屋に出た。一行は滑らかなツララ状にとげとげとした壁や足場に横列を組めず、縦列を形成して進んでいく。

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の言葉に一行は目を凝らすと、壁の一部が揺らいでいるのが見えた。その揺らぎが大きくったと思った瞬間、その場に褐色の毛に覆われたゴリラの如き魔物達が出現した。出現と同時に威嚇のドラミングを始める。

どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

そのメルド団長の言葉が言い終わるか否か、そのロックマウントが飛びかかり、メルド団長が言う豪腕を振るう。

飛びかかってきたロックマウントの豪拳を龍太郎が迎え撃ち、光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができないようだ。

 

ロックマウントもまた、状況の悪さに態勢を立て直そうと後ろ向きに飛び退いた。着地と同時に仰け反りながら大きく息を吸い、直後。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

激しい咆哮が部屋中に響き渡せた。

この咆哮こそがロックマウントの持つ固有魔法“威圧の咆哮”である。魔力がのった雄叫びには相手を麻痺状態にする効果があり、前衛にとって非常に厄介な技であると言えるだろう。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

その“威圧の咆哮”をまともに喰らい、硬直してしまう光輝達前衛組。……ちなみにちゃっかり日色は耳を塞いで凌いでいたりする。

 

その怯んだ隙にロックマウントは横飛びに移動し、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって一瞬溜を作り、見事な砲丸投げのフォームで投げつけた。硬直した前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫っていく。

香織達は、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた――が魔法名を告げようとした香織達が目の前の衝撃的光景にピシッと音でも立てたように硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのである。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫っていく――フゴフゴ荒い鼻息と血走った目付きで。

 

その光景に香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまう。

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

咄嗟にメルド団長が向かってくるロックマウントを切り落とし、苦言を呈する。青褪めたまま香織達が「す、すみません!」と謝るものの、持ち直せてはいないようだ。

まぁ、お気づきの方もいるだろうがそんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしく、『キサマァ!許さんぞー!』とばかりに怒りを見せ、その光輝の怒りに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

『あっ………(察し)』

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。そしてそれと同時に日色の目が死んだ。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

もちろん逃げ場などなく曲線を描く極太の輝く斬撃が叫び声をあげることも許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。哀れなロックマウントに合掌。

 

パラパラと部屋の壁から破片やら埃やらが落ちる中、「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った我らの勇者(笑)光輝様。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、案の定笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らったのだった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。ざまぁである。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉にその場にいた全員が指さす方向に目線を向ける。するとメルド団長が一瞬目を細めて、感心したように目を大きく開き、キラキラの正体を語ってくれた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しいな」

 

香織の見つけた青白く発光する鉱物。その名をグランツ鉱石と言い、加工したものは涼やか且つ煌びやかな宝石となる。この世界においては婚約指輪に使う宝石として貴族のご婦人ご令嬢方に非常に人気があるものだ。ざっと言えば宝石の原石みたいなものである。ちなみに求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリと日色に視線を向けた。ちなみにその行動に気づいた雫はこっそり闘志を燃え上がらせ、もう一人は恨みや妬みを心に湧き出していたが。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルド団長が焦るのも無理はなかった。迷宮で最も警戒しなければならないのは魔物ではなくトラップであり、致死性のトラップも数多い為、フェアスコープと言う道具によっての安全確認が必須なのだ。

 

〝フェアスコープ〟とは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものの道具である。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できるのだが索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

しかし、檜山は「チッ、うっせぇな」と小さく呟き、聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

「――ハジメ、今すぐ数歩下がれ」

「え?日色、どうしたの?」

 

そして、それと同時に日色はハジメへと呼びかけた。

その言葉に疑問の言葉をかける日色にハジメは疑問符をあげ、聞き返そうとするが、日色が瞬間、真剣な表情になり、ハジメへと怒気のある声で言葉を投げかける。

 

「いいから従え!!――アレは、()()()!」

 

その怒気のある言葉にハジメが困惑するその頃、メルド団長が檜山を止めようと追いかけており、その中騎士団員の一人がフェアスコープで周囲を確認すると顔を青褪めさせて叫ぶ。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

「クソッ!」

「え?――うわっ!」

 

しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。慌てて日色はハジメの声を無視し、ハジメを部屋の外へと突き飛ばす。

檜山が「よっしゃあ」とグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップである。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

しかし、ハジメは日色に突き飛ばされたことで魔法陣の中に()()()()()()

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達は行動を移そうとするが、遅い、遅すぎる。

光が輝き、全員の視界を真っ白にを染める中、日色は次の出来事に言葉を失った。

 

助けようとした。逃がそうとした。自分の命を置いて、助けたハジメが再び日色へ手を伸ばして、()()()()()()()()()()()()()

 

「日色っ!」

「ッ!、バカ野――」

 

――郎と日色が言い終わる前に視界が真っ白に染まり、一瞬の浮遊感に包まれた。

 

日色達は空気が変わったのを感じ、次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

ハジメは尻餅を吐き、尻の痛みに呻き声を上げながら、ハジメは周囲を見渡す。

クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったのだろう。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外である。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあり、天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

生徒達はメルド団長の轟く声に、必死になって階段へと向かおうとする。ハジメもそんな中、急いで指示通りに動こうとしたがふと、日色を見ると、日色は一切体を動かさず、メルド団長が指示した階段の逆の方向を見つめていた。

一切目を逸らさず、歯を食いしばりながらとても険しい表情で。

 

「――日色?」

「……クソッ。やっぱり、変えられないのか」

 

小さく呟かれた日色の言葉をハジメは理解することができなかった。

しかし次の瞬間、生徒達が向かう上り階段の手前に、赤黒い光で描かれた数多の魔法陣が浮かび上がり、そこから足場を埋め尽くさんばかりの大量の骸骨が現れる。

そして、日色が一切目を逸らさず見つめている通路側の橋から直径十メートル近い魔法陣が不気味に発光し、周辺を赤黒く照らす。

 

その大きな魔法陣から現れたのはこれまで相手取ってきた魔物とは一線を画す巨大さを誇る魔物だった。

 

瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているトリケラトプスのような体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物。

 

その名を呆然と見つめるメルド団長の呻く割にやけに明瞭に響く言葉で呟いた。

 

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

物語が、回り始めた。




これは……ハジメちゃんは原作より強くなってると言っていいのかな?
最近、勘違いが少ないためタグ詐欺じゃないかと思い始めているこの頃。


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たとえ命を懸けてでも 上

前回、主人公が活躍すると言ったな、あれは嘘だ。
はい、そんなわけで主人公は対して活躍しません、どちらかというとハジメちゃんが活躍をしますが筆力がない自分に上手く書けたかどうか……

そして気がつくとお気に入り登録数が2000人突破!
皆様、本当にありがとうございますッ!!(((o(*゚▽゚*)o)))

こんな蛆虫が書いたような文ですがこれからもよろしくお願いします!


橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数が尋常ではない。

 

階段側である小さな無数の魔法陣からは、百体を上回る骸骨の魔物“トラウムソルジャー”が溢れ、しかも一メートルほどの魔法陣はその数を減らすことなく、未だに骸骨を呼び出し続けている。

“トラウムソルジャー”は空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。

 

しかし、反対側の通路側から出現した魔物はハジメの目から見てもヤバイと思わせる物だった。

 

体長十メートル級の四足に瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている魔物〝ベヒモス〟は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

どうやらその咆哮で正気が戻ったのだろう、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いて“トラウムソルジャー”を突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

しかし光輝とメルド団長とのやり取りなどお構いなしに、ベヒモスがその巨体を躍動させ、突っ込んでくる。

 

そうはさせるか!とでも言うように突進による被害を防ぐべく、カイル、イヴァン、ベイルの三人が同時に二メートル四方で最高級の紙に書きつけられた魔法陣を使い詠唱をする。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白の輝きを放つ半球状の障壁が橋の中央に生徒達を包み込むように顕現し、ベヒモスの突進を受け止める。

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

本来、三十八層に出没する魔物である“トラウムソルジャー”は、二十層までの魔物とは比較にならない力がある。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態である。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その時、その中の一人である女子生徒が後ろから突き飛ばされて転倒してしまう。呻き声をあげ、どうにか顔を上げると眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされる。

 

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、その女子生徒へと襲い掛かる剣を阻むように横から空中を奔り、斬撃が間一髪、女子生徒の顔の寸前で押しとどめていた。

 

「クソッ、タレ!お前はさっさと下がれ!」

 

その斬撃の主は日色だ。日色は押しとどめている剣を無理矢理跳ね上げ、胴の空いたトラウムソルジャーを蹴り飛ばし、距離を離させる。

その隙に日色は倒れている女子生徒の襟を掴んで強制的に後ろに下がらせる。女子生徒が「きゃあ!」という悲鳴をあげたが無視だ、今はそんなことよりも標的を日色へと変えたトラウムソルジャーを対処するほうが先決なのだから。

 

骨の身体のくせにどうしたらこれほどの速度で振るえるのかは不明だが動きが単調なため、対処するのは容易い。日色は自分へと襲い掛かる横薙ぎの一撃を体勢を倒れるように下げることで避け、倒れながら剣を振るう。狙いは骨だけな為、日色のステータスでも折ることができそうなトラウムソルジャーの足だ。

 

「ハァっ!」

 

日色の目論見通り、体は骨なため身体能力は高いが防御力はあまりないのだろう。ボキッ!という骨が砕ける音と共にトラウムソルジャーの片足は折れ、体勢を崩してしまう。

それを確認した日色はハジメへと合図を出す。

 

「今だ、ハジメ!()()!」

「錬成!!」

 

瞬間。トラウムソルジャーの足元の地面が突然隆起し、滑り台のように波打って数体のトラウムソルジャーを巻き込みながらも橋の端へと向かい、瞬く間に奈落へと落とした。

 

橋の縁から二メートルほど手前には、座り込みながら荒い息を吐くハジメの姿があった。ハジメは地面を錬成し、滑り台の要領で魔物達を橋の外へ滑らせて落としたのである。

 

日色は急いで助けた女子生徒へと駆け寄り、「さっさと立て!死にたいのか!」と若干怒気を含めた声で呆然となすすべとなっている女子生徒の手を強制的に掴み、立ち上がらせた。

 

「あ、ありがとう……!」

「礼を言う暇があったらさっさと前に進め、冷静に戦えれば俺とハジメを除いて楽勝だろうが」

 

不機嫌そうに日色は頭を数回掻き、女子生徒の背中を軽くバンッと叩いた。

女子生徒は、パチパチと数回瞬きしたあと「……うん!」と元気に頷いた後、再び駆け出した。

その女子生徒の背中を見送った後、日色は小さくため息を吐くと、此方へとハジメが魔力回復薬を飲みながらやって来た。

 

「日色!大丈夫!?」

「見たらわかるだろう、五体満足だよ。だが、状況が最悪だな。生徒全員がパニックになってやがる、しかも肝心のテンプレ勇者がメルド団長のところにいて、あの通路側の化物を倒そうと躍起になってるしな。クソッ!あのバカ、状況が理解できてんのかよ!」

 

日色がハジメに状況を説明していると現状がどれほど絶望な状況か理解して、表情が徐々に不安に染まってきている。

 

現状、誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回しているのだ、このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

(……クソッ、どうする?)

 

ある程度、事前知識がある日色だがだからこそ行動に移せない。ここで光輝の元へ行き説得することはできるかもしれないが、だからこそ奈落に落ちる危険性があるため、日色は躊躇ってしまう。しかしこのまま何もしなければ更に全滅の可能性が高まるだけだ。

日色は必死に打開策を考えていると、背後でブツブツと呟いていたハジメが突如日色の腕を掴んだ。

 

「日色!僕が天之河さんを説得しにいくから、皆をお願い!日色だったら天之河さん程じゃないけどみんなに届くと思うから!」

「なっ!馬鹿な事は止めろ!あっちにはあのベヒモスという化け物がいるんだぞ!第一、あのテンプレ勇者を説得できるのか!」

 

そう言って、ベヒモスがいる方向へ走ろうとするハジメを日色は咄嗟に片手で止め、言葉を零すが振り向いたハジメの決意に満ちた瞳にたじろいでしまう。

 

「これが最善手だよ、日色!誰も死なせずに皆で帰るにはこれしかないんだ!」

「なっ!おいっ……!」

 

ハジメはそう日色へと言うと、日色の静止を無視して光輝達のいるベヒモスの方へ向かって走り出した。

日色は咄嗟に手を伸ばすが、それ以上を進むことはできなかった。

 

「クソッ!」

 

日色は自分を情けなく思い、悪態を吐いてハジメが向かった反対側、階段側へと走り出し、生徒達へと大声で指示を出す。

 

「お前ら!いい加減落ち着け!俺より強いくせに狼狽えるな!!前衛側、バラバラにならず近くにいる奴らと隊列を組め!中衛は前衛の補助と騎士団員達の援護!後衛と回復はさっさと魔方陣を描け!!死にたくなければ訓練通りに行動しろ!!」

 

まるで、逃げている自分から目を逸らすように。

 

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

 障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

本来、この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。だからこそ、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストである。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

だからこそメルド団長はその辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放ってしまっている。

 

おそらく自分の力を過信してしまっているのだろう、戦闘経験がないためまずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

どうやら雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。しかし――

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

龍太郎(バカ)の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

苛立つように声を出す雫に不安そうに声を出す香織。

その時、背後からひとりの少女が向かってきた。

 

「天之河さんっ!」

「南雲ちゃん!?」

「な、南雲!?どうしてここに!?」

 

驚く一同にハジメは必死の形相で光輝へとまくし立てる。

 

「天之河さん!早く撤退してください!このままじゃ!皆が!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「いいから早く撤退して!!」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。あまりの勢いにハジメの瞳には若干ながら潤んでおり、文字通りの必死さが感じ取れ、光輝は言葉を失った。

 

「後ろが見えないの!?皆がパニックになってるんだよ!今は日色が指示しているからなんとか耐えてるけどもう時間の問題なんだよ!!」

 

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

ハジメが指さした方向には生徒達が恐怖を滲ませながらも、所々ではお粗末な隊列を組み戦っているが、大半は訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。敵も増えていくため死傷者が出るのも時間の問題だ。

 

「天之川さんだけなんだよ!皆の恐怖を吹き飛ばせるのは!みんなを助けられるのは!天之河さんはみんなが死んでもいいの!!?」

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

「――ッ!!れんせ――」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により一気に3つ石壁を作り出し、盾がわりに使おうとするが瞬く間に砕かれ吹き飛ばされた。

しかし、一気に三つ石壁を生み出したのが功を奏したのだろう、三枚中二枚が跡形もなく破壊されたが最後の一枚は大きな罅を生み出し、今にも壊れそうになりながらもなんとか耐え切ってくれたおかげでハジメは破片による少々の切り傷で済み、光輝達も対したダメージは無いようだ。

 

舞い上がる埃をベヒモスの咆哮が吹き飛ばす。

 

そこにはハジメの生み出した防壁の範囲に入ることができなかった団長と騎士が三人、倒れ伏し呻き声を上げており衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。

 

「クッ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

光輝が問う。それに苦しそうながらも確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ないだろう。

 

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

 

そう、言うと共に二人はベヒモスに突貫した。

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

 

光輝の指示で香織が走り出す。ハジメは既に団長達の元だ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。とにかく耐久性を上げてこれ以上騎士達を傷つけられる訳にはいかない。

 

そして光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

 

 

極光が奔る。

 

 

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣からは先の天翔閃と同系統だが威力が段違いな極光が迸り、橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。かなりギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしていた。

それもそうだろう先ほどの攻撃は文字通り、光輝の切り札である。残存魔力のほとんどが持っていかれているためもはや光輝の魔力は少ししか無い。

背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。

 

そんな中、徐々に光が収まっていき土埃が舞うように揺れ動いて――

 

(………………っ?)

 

 

その時、異変に気づいたのはハジメだった。

 

 

埃の動きがおかしい、まるで何かが光輝達の方向へと()()()()()、そのせいで何かが動いた風圧で埃が動かされているような気がしたのだ。

それを視認した瞬間、ハジメは勢いよく光輝達の方向へと駆け出す。

 

別に気のせいかもしれない、だがハジメには妙な予感がしたのだ。何か嫌な予感がすると。

 

「みんな!今すぐそこから離れてッ!!」

 

ハジメのその悲鳴に叫びが光輝達の耳に届き、光輝がえ?という疑問の声を出そうとする瞬間――

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

完全に反応が遅れた。回避は不可能、防御なんてもってのほかである。

光輝達は目の前に襲いかかるベヒモスの突撃を呆然と見つめ――

 

「錬――成ッ!!」

 

――寸前、ハジメが錬成の最大効果範囲の5メートルの範囲に光輝達を捉える場所へと辿り着き錬成を繰り出した。

一つは衝撃を抑えるため、光輝達の目の前に魔力を絞りに絞って石壁を生み出し、もう一つ、石壁を真横から生える様に()()()へと生み出した。

 

ハジメの[+高速練成]とは一瞬で石壁などを生み出す技能である。逆に言えば壁を一瞬で生み出すことで物を()()()()のように飛ばすことが可能なのだ。

 

高速で生える様に生み出された石壁は光輝を含めた雫や龍太郎達に直撃し、メルド団長達のいる方向へと吹き飛ばした。

 

瞬間、轟音と衝撃。

 

ベヒモスが石壁に直撃した瞬間、瞬く間に石壁を粉砕し、強大な衝撃を撒き散らした。

光輝達は、ハジメの咄嗟の機転で直撃は喰らわなかったが、衝撃波をモロに浴びて吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

 

そして、それはまた5メートルという近距離にいたハジメも例外ではない。

 

「――ぁ、グ、ギィッ!ゴホッゴホッ!!」

 

ハジメはあまりの衝撃に全身を打ち付けられ、地面に叩きつけられた。あまりの衝撃に内臓に少しダメージが入り、何度も咳き込んで少量の血を吐いてしまう。

視界が歪む、意識が錯乱する。

 

ようやくハッキリと視界ではどうにか動けるようになったメルド団長が光輝達の元に駆け寄って来ており、他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。

ハジメはどうにか身体を動かそうとするがもぞもぞと少しずつしか体を動かすことしかできない。

メルド団長は香織を呼ぼうと振り返ろうとして、突如背後から悲鳴のような叫びにギョッとした。

 

「南雲ちゃんっ!!は、早く逃げて!!」

「な、何っ!!」

 

メルド団長は慌てて倒れているハジメの方を向くと、そこにはハジメへと徐々に近づいてくるベヒモスの姿があった。ハジメは光輝達を助けるために錬成の効果範囲である五メートルまで距離を縮めていた。光輝達はメルド団長達の方へと吹き飛ばしたためベヒモスに最も近いのはハジメなのだ。

 

メルド団長はすぐさま助けに行こうとするが――勇者である光輝の救出を優先するべきである騎士団長としての判断か、ハジメを助けるべきか一瞬躊躇してしまった。

そして、その一瞬の躊躇が分かれ目だった。

 

ベヒモスが再び、突進し始めたのだ。標的は――最も近いハジメである。

 

「南雲ちゃん!!」

 

香織の悲鳴が聞こえた。

 

 

(……あぁ、コレ、死んじゃうのかなぁ?)

 

ハジメは朧げな思考で、まるで他人事のように考えていた。

死にたくはない、確かに死にたくはないがこれはこれで仕方がないことだろう。

 

あの時、ハジメが助けなければ光輝や龍太郎、そして雫はおそらく死んでいただろう。

そうなった場合、日色はどうなるだろうか?彼のことだ、きっと悲しむに違いない。

 

それだけは嫌だった。

 

日色が悲しむのだけは嫌だった。

 

だから、この行動に後悔はない。

 

 

あぁ、だというのに――

 

 

――どうして泣きそうになるんだろう。

 

(まだ……死にたくないなぁ……)

 

嫌だ、終わりたくない、まだ終わるわけにはいかない。

そうどこかでハジメは思ってしまっている。まだ、日色と一緒にいたいと。

 

だが、その願いはもう叶えられないだろう。目線を向けるとベヒモスが頭部の兜全体をマグマのように燃えたぎらせてこちらに向かって突撃していた。

おそらくあれを喰らったら即死だろう。

 

逃げることは不可能だ。助けも間に合わない。

 

だからハジメは目を瞑る。その瞬間が来るのをおとなしく待った。

 

 

そして……

 

 

そして――

 

 

そしてベヒモスはハジメのかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

 

轟音が、響き渡った。

ハジメがいた場所には放射状に幾重にも巨大な罅が奔っており、土煙がその場所を隠すように舞っていた。

 

アレ程の威力だ、どうあがいてもハジメの死は確実だった。

しかし――

 

(……………………あれ?)

 

ハジメに最期の瞬間は未だ訪れてなどいなかった。

その事実にハジメは、疑問を抱き、恐る恐る瞼を開ける。

そこには――

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?」

 

――目の前にいるベヒモスが文字通り、後方へと()()()()()()()()()

光輝の神威を食らって無傷だった肉体には抉られた傷口があり、その傷口はまるで高温の熱で焼かれたような火傷が生まれて、咆哮は苦悶に満ちている。

 

わからない。何が起こったか、何故ベヒモスが傷ついているのかが理解ができない。

 

そんな幾つもの浮かんでは消えていくグルグルと回る思考の中、ハジメは目の前にいる『彼』に守られたという事実をようやく認識した。

いるはずがない、こんなところに彼が居ていいはずがない、本来彼は50メートル後方で生徒達と一緒に戦っているはずなのだ。

 

まさか、ハジメのために、ハジメを守るために危険を晒してここまで走ってきたとでも言うのか?

 

「……なんで……どうしてっ!」

 

ハジメは込み上げてくる感情に身を任せて、目の前にいる『彼』へと疑問の言葉を叫ぶ。

 

『彼』の役に立ちたかった、『彼』を死なせたくなかったから命を晒したのに『彼』に助けられてしまった。

なんで、とどうして、と叫ぶハジメに対し『彼』は左手に持っている焦げて千切れボロボロになった三メートル程の()を捨て、「……なんで――だと?決まっているだろう?」とまるで当たり前のように宣言した。

 

艶やかな黒髪をさっぱりとした短髪に切り揃え、瞳は氷のように無機質で刃の如く鋭い、容姿は大変整っており黒色の眼鏡をかけた少年はハジメへと小さく微笑む。

 

「――親友だからだ」

 

そう言って傷一つない『彼』は、神代日色は笑ったのだった。

 

◇◆◇

 

わざわざ命懸けでハジメちゃんを助けに行ったら拒絶された件について。

……泣いていいだろうか?

 

いやね、本当はハジメが指示した通りに後方でエッサホイサエッサホイサと戦っても良かったんだけどさ、ハジメが頑張っているのにお父さんが頑張らないわけにはいかんでしょうっ!!(ドヤァ!!)

 

……あ、はい、嘘です。ごめんなさい。自分そんな度胸無いです。

別に『気づいてたら体が動いてたんだっ!』みたいな厨二的なことも起こったわけでもないし、そんなのはテンプレ勇者の役割だ、俺は正直言って隅っこで事が済むまでじっとしていようと思ってたよ。

だって、あのクソ檜山の火球に巻き込まれて奈落に落ちたくないし、わざわざベヒモスと戦いたい戦闘狂でもないしな。

 

 

しかし。だがしかしだ、ある時俺の脳内に天啓が振り降りたのだ。

 

 

アレ?別にハジメ、性別が違うんだから檜山に火球で落とされることなんてないんじゃね?、と。

 

そもそも原作で檜山がハジメを奈落に落としたのはハジメ(男)に好意を持っている香織が原因なのだ。檜山は香織に好意を持っており、そんな香織を手に入れるために邪魔なハジメを『野郎オブクラッシャー』するためにハジメに火球を撃ち、奈落へと叩き落したのだ。

 

だが、しかぁしっ!!!

 

今のハジメは女っ!つまり香織がそっちのけの人では無ければ火球を撃たれることはないのだ。

つまり、ハジメが奈落に落とされることはない!

 

だから、助けに行っても大丈夫なのですっ!!

え?原作のことを考えたらそれでいいのか、だって?

 

――知らんな、そんなもの。きっとテンプレ勇者が何とかしてくれるさっ!(キラッ!)

親友であるハジメにそんなことさせるわけ無いだろうっ!

 

何?本当は魔王になったハジメに殺されないか心配なんじゃないか、だって?

………………………………………………………………………………君のようなカンの良い餓鬼は嫌いだよ。

 

 

そんなわけで現在、俺はベヒモスの目の前にいます。……ハジメに拒絶されたせいで若干、涙目なのは秘密だ。

ちなみにベヒモスは俺が前日、このために用意していた魔法陣の効果を受け、決して大きいわけではないがダメージを食らい、俺を仇敵を見るような目でこちらを睨んでいる……どうしよう、恐怖でちびりそうなんですが。

 

しかしまぁ、後ろにはハジメがいるんだ。大人の威厳を見せてやるために引くわけにはいけない。

 

「……なんで……どうしてっ!」

 

背後で俺に言葉を零すハジメに応ずるようにもはや自分自身の言葉か言語さんによるものなのかわからなくなってしまった口が開く。

 

「……なんで――だと?決まっているだろう?――親友だからだ」

 

さぁてっと、ひと仕事いきますか!

娘ができたお父さんや妹がいる兄が最強だってことを見せてやらぁ!!

 

そう言って俺は腰から剣を引き抜いたのだった。

 

 




最後に日色がハジメを守った時に使った魔法は文字魔法ではありません、筆者が独自設定と独自解釈で生み出したオリジナル魔法です。詳細は次回。


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たとえ命を懸けてでも 下

皆さん、お久しぶりです!アルテールです!

最近、更新がなくて申し訳ございません!!
テスト期間に入ったため、勉強に追われ執筆作業の時間があまり取れませんでした。

そんなわけでしばらく更新ができなくなりますがご了承ください!

そして今回の文字数はまさかの一万五千文字以上……やっぱり二つに分けたほうが良かったんですかね?

そして今回、独自設定と独自解釈がございますが矛盾点が見つかってもご都合主義と思ってください自分にはこれくらいが限界です(涙目)

……最近、筆力が落ちてきているような気ガス。


日色を仇敵を見るような瞳で睨みつけるベヒモスを前に日色が執った行動は実にシンプルだった。

 

「逃げるぞ」

「……え?あ、ちょっ!」

 

それは文字通りの逃げの一手。

日色はハジメを有無を言わせず肩に担ぎ、脱兎のごとく全力疾走でメルド団長の元へと走り出す。

それに驚いたのはベヒモスである。まさか一目散に逃げ出すとは思わなかったのだろう、叫び声を上げて慌てて追いかけようと前足を出そうとし――

 

「ハジメ。奴の足に穴を作れ」

「う、うん!【錬成】!」

 

――ベヒモスが脚を踏み出そうとした地面が深く沈み込み、体勢が崩れてしまう。ついでに言えばその穴を二度目の錬成で塞がれてしまうという土産付きだ。

 

「グルァァァァァアアアアア!!?」

 

踏み込むことができず体勢が崩れる+落とし穴を埋められるという妨害をくらいベヒモスが必死に抜け出そうとする前に日色達はメルド団長の元にたどり着いていた。

どうやら香織は他の騎士達の治療をしているらしく、ある程度治療され動けるようになった雫がこちらへと向かってきている。

 

「ハジメ、動けるか?」

「う、うん。大丈夫」

「坊主っ、どうしてここに!そしてあの魔法は何だ!」

 

困惑するように日色へと言葉を零すメルド団長に日色はハジメを降ろしながらメルド団長へと目を向ける。

 

「階段側の戦闘が一時的に安定したので応援に来たんです。そんなことよりもメルド団長早くテンプレ勇者を連れて撤退してください」

「だが、まだベヒモスが……」

「奴は俺が囮になって時間を稼ぎます」

「「「ッ!!」」」

 

そのなんとも無いように呟いた日色の言葉に香織の治療によって回復した雫や日色に下ろされたハジメ、そしてメルド団長が言葉を失った。

 

「恐らくですが奴は敵対し抵抗を行おうとする者を先に狙う習性があります。つまり、俺が抵抗を見せれば俺を集中的に狙うはずです、その間に撤退し、撤退が完了したら全員でベヒモスに一斉攻撃してください、その間に俺は離脱します」

「待てっ!それはつまり……」

 

――自分を時間稼ぎの囮にするということかっ!

メルド団長はその言葉を飲み込み、目を剥いてしまう。確かにそれは勇者である光輝を逃がすためには最も最適な方法だろう、日色が助かる可能性が限りなく少ない事以外は。

その事実を察した雫が悲痛な表情で日色に詰め寄る。

 

「ダメよッ、そんなの!だったら私が――「ダメだ。お前の場合、失った時のリスクが多過ぎる。ポニーはテンプレ勇者の手助けをしろ」――でもっ!!」

 

日色を失いたくない。

その思いに駆られるように雫は日色の考えに反発し、一切引こうとしない。

そんな態度に日色は、ハァとため息をついたあと冷め切った瞳で雫を映し、決定的な事実を突きつけた。

 

 

足手纏いだ

「――ッ!!」

 

 

その言葉が深く雫に突き刺さり、雫の思いを一脚した。

日色の言葉に雫の表情は泣きそうになり、その表情を見られないように顔を下げ表情に影が差す。

分かっている、日色にとってその言葉は彼なりの優しさだと言うことは。そんなのは雫どころかハジメも理解している。

分かっている、自分は香織に治療されたがあくまでそれは動ける範囲では、というだけなのだから。

 

だが、そんな何もできない自分が何よりも雫にとって辛かった。

情けない自分を恨めしく思い雫は血が滲むほど拳を握り締め、唇を噛む。

 

「――死なないでよ」

「当たり前だ、俺を誰だと思っている。ほら、さっさと撤退しろ」

 

言葉を零す様に出した雫に日色はフンッと堂々と言い返す。そんな日色に雫は渋々階段側へと撤退を開始する。

そんな雫を片目に日色は未だに撤退しようとしないハジメへと目を向ける。

 

「……おい、ハジメ。お前も話を聞いていただろう、さっさと撤退しろ」

「――嫌だよ」

「………………は?」

 

撤退を促そうとするとハジメに断固として拒否されたことに日色は目を丸くする。

 

「――おい、さっきポニーとの会話を聞いていただろう。お前のその傷じゃあ足手纏いだ、さっさと撤退――「僕はまだ練成ができる、日色のサポートぐらいはまだできるよ」――なっ!おい、こんな時に屁理屈を――」

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

雫とは違い一切引こうとしないハジメの態度に日色は苛立つように唇を噛み、説得しようとするがベヒモスの雄叫びを聞くと共に「クソッ!」と毒づく。ベヒモスは既に落とし穴から抜け出し戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始しており、もう時間がない。

日色はメルド団長の方を向き、決意をした表情で話しかける。

 

「メルド団長!一度だけ奴の攻撃を凌ぐことはできますか!?後は不本意ですがハジメと共に何とかします!」

「あ、あぁ!可能だ!だが……やれるんだな?」

「やれます」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる日色にメルド団長はこんな状況で場違いのように「くっ」と笑みを浮かべる。

まさか、一番低いステータスを持っている少年がこのような決意の瞳をするとは思わなかったからだ。

 

「わかった、まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

「任せてください」

 

勢いよく返事をするハジメと当然とでもいう風に頷く日色。

メルド団長はその二人の返事に小さく笑うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。

やはり日色の推測は正しく自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

「チッ、ハジメ。今から作戦を伝えるぞ。死にたくなかったら大人しく従え」

「う、うん」

 

そのメルド団長が注意を引き連れてくれる間に日色はハジメへと作戦を伝える。

それは文字通り命懸けの作戦だ、失敗すれば日色達どころか大勢が死ぬだろう。

その作戦の内容を聞いた途端、ハジメの表情が暗くなるがすぐに決意に満ちた表情となる。

そのハジメの表情を見て、日色は問う。

 

「できるな?」

「――うん」

 

そんなハジメの返事に日色はよしと頷いたと同時期。

ベヒモスが赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構え、そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ――【風壁】」

 

詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの光輝達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

再び、頭部をめり込ませるベヒモス。その決定的な隙が生まれた瞬間、日色が叫ぶ。

 

「ハジメ!やれ!」

 

日色の言葉に応えるようにハジメは両手に淡い空色の魔力を迸らさせる。ハジメが名前だけの詠唱に最も簡易で、唯一の魔法。

 

「――【錬成】!」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。引き抜こうとした途端、ハジメの錬成によって頭部を石で固定したのだ。

その隙に日色がベヒモスへと駆ける。右手と右脚、左手と左脚を同時に出すナンバ走りによる高速移動により瞬く間にベヒモスとの距離を詰める。

 

「――フッ!」

 

踏み込む足は右足、重心を低く下げ鞘に収まった剣を引き抜き、ベヒモスの焼け爛れた傷口へと抜刀する。

 

――我流刀術【天閃】

 

神速の抜刀は寸分の狂い無くベヒモスの傷口を切り裂くが傷は血がほんの数滴しか零れず、とても浅い。日色の低スペックさが実感できた瞬間である。

 

しかし、それはベヒモスを怒らせる事実としては十分だった。

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ベヒモスは怒りのままに全身を駆動させ、埋められた頭部を力任せに引っこ抜いた。

己の身体に傷をつけた日色を激怒の炎を瞳に宿らせながら映そうとするが日色はとっくに離脱しておりベヒモスが現れた通路側の魔法陣へと走っている。

 

ベヒモスは雄叫びを上げながら追いかける、もともと低スペックの日色とベヒモスだ。追いつかれるのは時間の問題だろう。

だが、日色の狙いはそこではない、元々自分達の目的は時間稼ぎだ。出来るだけ階段側から離れたほうが失敗したとしても時間は稼げるだろう。

そして遂にベヒモスと日色との距離が10メートルを切った途端、日色は突然立ち止まり、ベヒモスの方向へと向きなおった。

 

ベヒモスは日色が何故止まったのか理解できなかったが好機だと思い、頭上の冠を赤熱化させる。

そして距離を詰め、一気に跳躍する。

 

その一撃は例え勇者だろうと防ぐことができない絶対の一撃、日色が喰らえば間違いなく死に至るだろう。

だが、日色の表情に恐怖は皆無。一切、身体は震えてなどいない。

 

何故なら日色には()()がいるのだから。

 

「ハジメ!行くぞ!」

「――錬成!!」

 

瞬間、日色が身体をまるで何かを飛び越えるかのように沈み込ませた途端、地面から日色を射出させるように()()()()()()()()()()()()()

そう、ハジメの錬成による射出である。

日色が言った作戦、それは単純に言えばハジメの錬成によるサポートで行う高速移動での時間稼ぎである。

 

ハジメの錬成による射出、前回はそれによって光輝達の命を助けたのだがそれを見た時に日色の脳内に一つの疑問が浮かんだのだ。

 

『アレ?それって妖怪首おいてけが使ってた奴じゃね?』

 

もし、仮に射出された時に態勢を崩さず、その石壁を用いて跳躍すれば日色達のような低スペックでも速度を補えるのではないか?

しかしもちろんリスクも存在する。

一つ目は方向、こんな狭い橋の中で射出する方向を誤れば確実に奈落に落ちてしまうだろう。

 

二つ目は角度、ベヒモスの突進を避けるとしても射出される角度が違ってしまえばそのまま直撃し即死してしまう。

 

だが、それがどうした、と日色は思う。

 

日色は知っている。自分の役に立とうと一心不乱に努力している彼女の姿を。

日色は知っている。どんな状況でも他人の心配をする彼女の姿を。

 

だったら、親友である俺が信じなくてどうするのだ。

 

「ぁ、ああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

加速する、加速する、加速する。

 

全身に訪れる風圧を受けながら日色は上空から襲い掛かるベヒモスに上段の構えで迎え撃つ。

その角度、方向は完璧だった。

ベヒモスの体が紙一重低空を飛ぶ日色に当たらず頭上を通り抜け、しかし、日色の剣の射程内である。

 

ベヒモスの跳躍が日色の頭上を通り抜け、同時に勢いよく振るった日色の剣がベヒモスの皮膚を浅く切り裂いていく。

恐ろしい衝撃、力を少し緩めてしまえばベヒモスの勢いに引きずられてしまいそうになる。

 

だが耐える。耐え切ってみせる。

 

そしてベヒモスの下を通り抜けた先にはこっそり錬成の射程内まで近づいて来てくれたハジメがいる!

 

「日色!」

 

日色の名前を呼ぶハジメに日色は着地と同時に猛烈な勢いを逃がすため、受け身を取り何度も転がる。

ようやく止まった頃には日色の全身は擦り傷でボロボロだったが全て軽傷なので良しとしよう。

 

「日色、大丈夫!?」

「あぁ、ハジメの錬成助かったぞ」

 

日色へと心配そうに駆け寄ってくるハジメに日色は立ち上がりながらも微笑で返す。

が、すぐさまベヒモスに意識を戻すとベヒモスはまるで何ともないように頭上の冠を引っこ抜き、再び憤怒の燃え上がる瞳に日色達を映す。

 

そして、再び吼えながら赤熱化を果たした兜を掲げ再度突進をしてきた。今度は跳躍などはしない単純な物量の突撃だ。日色達との距離は5メートル、避けることはできない。

 

「クッ!――え、日色?」

「大丈夫だ」

 

ハジメは咄嗟に石壁を生み出し、その間に距離を離そうと地面に手を触れようとするが日色がハジメの肩に手を置き、大丈夫だとでも言うように前に出る。

困惑するハジメを置いて、日色はポケットから小さな紙を取り出す。

 

その紙の大きさはわずか10センチ程度、紐で丸められておりまるで一種の巻物のようだ。

しかし、次の瞬間。紙の上に『小』という文字が現れ、空気に溶けるように消え失せると紙の大きさが三メートル程まで大きくなった。

 

そして、ベヒモスが日色へと突撃する瞬間、日色は盾にするように紙を広げ、名前だけの詠唱を告げる。

 

「【反鏡】」

 

瞬間、ベヒモスが()()()()()()()()()()()()()()()()

紅緋色の鏡のような壁に触れた途端、ベヒモスが吹き飛ばされたのだ。ベヒモスの身体には新たな抉れ、焼き爛れた傷が生まれている。

 

ここで一つ話が変わるが魔法の知識のおさらいをしておこう。

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経ており、魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

魔法陣の式は主に5つ、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収である。後は誘導性や持続時間等付加要素、適性がないものは速度や弾道・拡散率・収束率等などの式が必要になってくる。

 

逆に言えばそれらの式が書ければ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

例えば【反光壁】というものを知っているだろうか?

それは神代、眼鏡をかけた天才錬成師が生み出した魔法で光属性初級防御魔法の【光絶】に反発の効果を付与した初級防御魔法で靴底に瞬間展開し、空中多段跳躍として用いていた。

 

だからこそ、日色は考え、そして三日間徹夜をかけて生み出した。

自分だけのオリジナル魔法を。

 

名を【反鏡】

 

光属性初級防御魔法である【光絶】にある効果を付与した魔法である。

その効果は『ベクトルの方向反転』

生み出された光の壁に触れた瞬間の衝撃を瞬時に計算し、指定した方向に力の向きを操作する。

それが【反鏡】の効果である。

しかし、もちろんデメリットも存在する。それは魔力の消費量である。

【反鏡】の魔力消費の燃費はかつてないほど悪く、なんと一度の発動に消費する魔力は数値にすると約250。しかも反射する力はあくまで発動した一瞬に触れた衝撃の一つだけな為、二撃目は反射することも防ぐこともできない。

 

だが日色はその欠点を補う方法を考え、一つのアイディアが思い浮かんだ。

 

『ナニィ?チートな魔法を開発したけど使用時に必要な魔力が足りない?

 

――逆に考えるんだ、自分が使う必要はないと考えるんだ』

 

そうして生まれたのは魔法陣に必要な式の一つ『魔力吸収』の変更である。

魔力を流す対象を使用者ではなく対象者へと強制的に吸い取る式に。

魔法陣に魔力が触れた瞬間、触れた魔力を強制的に吸収し、発動するというものに変えたのだ。

魔物とは体内に魔石という特殊な体内器官を持ち、全身に変質した魔力を直接巡らせることで驚異的な身体能力を発揮する。この変質した魔力が固有魔法を生み出していると考えられているのだが、日色はそこで一つの仮説を立てる。

 

もし、仮に変質した魔力が固有魔法を生み出しているというのならその固有魔法に使う魔力を魔法陣に流せば、魔法は使えるのではないか?

 

答えは是だった。

つまり、ベヒモスが吹き飛ばされたのはベヒモスの固有魔法によって赤熱化した兜に触れた瞬間、兜に込められていた魔力を6割強奪し、魔法が発動。ベヒモスは自分の魔力を奪われた挙句、自分の突撃した衝撃を丸々喰らったことになる。簡潔に言えばベヒモスは自分の魔力で発動した魔法でダメージを食らったのだ。一つの博打だったがその仮説が正しかったのは日色にとって助かった。

 

それが日色がこっそり作っておいた5個作っておいた魔法陣、別名『一方通報(アクセロリータ)の紳士壁』である。

まぁ、欠点はまだあり魔法陣の大きさは日色が使うには三メートル程の大きさになるので結局、持ち運びは文字魔法頼みになることやベヒモスのように魔力を込めた攻撃でなければタイミングよく発動できず、本当にギリギリまで追い詰めて大量の魔力を消費しなければならないので、使い方を限定された魔法なのだが。

 

 

吹き飛ばされたベヒモスに注意を向け、日色はハジメに魔法の効果を説明しながら内心溜息を吐く、残りの魔法陣はさっき使ったから3つ、それまでに撤退が完了するか?

わからない、もし魔法陣が尽きれば確実に自分は死ぬだろう。

 

(……まぁ、きっとなんとかなるだろう)

 

今は自分の最善を尽くすべきだ。

 

 

日色とハジメが足止めしている間、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。

 

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほど日色が助けた女子生徒だったりする。地味に貢献しているハジメと日色だった。

 

「待って下さい! まだ、日色君と南雲ちゃんがっ」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 坊主達が足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

「でも!」

 

 なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主達の思いを無駄にする気か!」

「ッ――」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。今は日色達が抑えているがそれは時間の問題なのだから。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で戦い続ける日色を振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と、龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。しかし、それが逆によかったかもしれない。もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだから。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

 

それを悟っている生徒たちの表情は絶望が張り付いている。もはや連携をとっていても限界である。

誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

「――【天翔閃】!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達もその斬撃の衝撃で押し出されて奈落へと落ちていく。

 

直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が遂に見えたのである。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び【天翔閃】が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づき、勇気を与えてくれる。

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が【天翔閃】に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、思考がはっきりとクリアになっていく。これも香織の魔法である。精神を鎮め、リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群だ。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。

 

「さっさと――退きなさい!」

 

中でも殲滅する速度が突出しているのが雫だ。高速で剣を振るい瞬く間にトラウムソルジャー達を殲滅する。

全ては、早く日色を助けるために。

凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

そして、遂に階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

 

光輝が掛け声と同時に生徒たち全員が走り出す。ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせないと光輝が魔法を放ち蹴散らす。

 

その行動にクラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!日色君と南雲ちゃんを助けなきゃ!日色君達がまだたった二人で戦っているの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ないだろう、日色とハジメは役立たずというのがクラスメイトたちの認識なのだから。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに見えた日色達の姿を見て言葉を失った。

 

「な、なんだよ、あれ?」

「あの魔物と、戦ってる?」

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達の視線の先には日色とハジメが満身創痍になりながらも戦っていた。

服はいくつも破け、擦り傷や切り傷は全身に絶え間なく、もはや息絶え絶えと言えるだろう。

だが、それでも決して倒れずたった二人だけで戦っていたのだ。

 

「そうだ! 坊主達がたった二人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! アイツらはもう限界だ!アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

そのメルド団長のビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻っていった。

 

そんな中、クラスメイトの一人である『彼』はいた。クラスメイト達と同じく本気で恐怖を感じていた『彼』は直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

 

緊張のせいか中々寝付けずにいた『彼』は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、ふと外の景色を見るとネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

 

『彼』は初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、ある衝撃な光景が目に映った。

 

香織が日色の腕に腕を絡ませ、まるで恋人のように寄り添っていたのだ。

香織の表情は幸せそうな笑顔で、日色も満更ではなさそうだった(あくまで個人の主観です)

 

それを見て『彼』は頭が真っ白になった。『彼』は香織に好意を持っている。しかし、自分とは割に合わず光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

だが、日色の場合は違う。

 

日色は香織を無下に扱い(あくまで個人の意見です)むしろ邪魔だと思っている(あくまで個人のry)、だというのに日色が傍にいるのはおかしいだろう。自分ならもっと彼女を思いやってあげられる。自分ならもっと彼女に応じれる。自分が傍にいるべきだ。と端から聞けば頭大丈夫? と言われそうな考えを『彼』は本気で持っていた。(あくまry)

 

そしてただでさえ溜まっていた不満は、もはや憎悪にまで膨れ上がってしまっていた。

その時のことを思い出した『彼』は向こうで未だベヒモスの足止めとして戦っている日色を眺め、今も祈るように日色を案じる香織を視界に捉え……

 

憎悪の混じった三日月のような暗い笑みを浮かべた。

 

 

一方、その頃ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。回復薬はもはや一個しか残っていない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

ベヒモスは相変わらずこちらへの攻撃を絶やすことはないが、日色の身のこなしとハジメの錬成によるサポートによりギリギリではあるが足止めすることには成功していた。

 

後は、タイミングを見測りベヒモスを錬成で時間を稼ぎその間に距離を取るだけである。

日色もそれは承知しているのだろう、日色の方を見ると擦り傷だらけの身体でチラリと此方を見、コクりと頷いた。

額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

 

チャンスは一瞬だけだ。

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

再び兜を赤熱化させ全身をバネのように沈みこませ一気に突進を行うベヒモス。

それに反応するように日色が立ち向かうように最後の『反鏡』の魔法陣を右手に携え、駆け出す。

 

両者の距離が瞬く間に接近する瞬間。

 

「ハジメ!」

「【錬成】!」

 

日色の足元に高く天へと高速で生えた石壁が日色を空中へと押し上げる。

ハジメの錬成により地面から3メートルも高く跳躍した日色は魔法陣を襲い掛かる赤熱化した兜へと魔法陣が()()へと向くように広げる。

 

「【反鏡】」

 

そして赤熱化した兜が魔法陣に触れ――瞬間。

ベヒモスの一撃が丸々【反鏡】によって力の向き(ベクトル)を変えられ、石橋へと襲い掛かる。

日色は【反鏡】の向きの反転の性質を使い、空中で受けることで力の向きを地面に変更したのだ。

 

地面は破裂するように粉砕され、幾重にも無数で巨大な放射状の罅が奔り、地面を削り取っていく。

そして、その隙をハジメは決して逃さない。

最後の回復薬を一息で飲み干し、両手の手袋の魔法陣に空色の魔力を迸らせ、残り全魔力を用いて錬成を行う。

 

「…錬――成!!」

 

空色の魔力が地面を伝わり、罅割れ陥没した石橋を錬成させ、ベヒモスの赤熱化している頭部を幾重にも石壁を錬成し、地面に埋める。これで数秒は稼げるだろう。

 

「ハジメ!走れ!」

「……う、うん!」

 

その隙に、ハジメの元へと駆け寄って来た日色によって片腕を掴まれ、一瞬転げそうになるも何とか持ち直し、日色に手を引かれながら全力でベヒモスから距離を離す。

日色達が猛然と逃げ出した数秒後、地面が破裂する様に粉砕されベヒモスが咆哮とともに起き上がる。羽虫風情の分際で己に無様を晒された怨敵を、ハジメと日色を捉えた瞬間――

 

――あらゆる属性の攻撃魔法がベヒモスへと殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスへと直撃する。やはりダメージはない様だが余りの猛攻にベヒモスは地面に縫われ、前に進むことはできない。

日色達は頭を低く下げながら全力で走る。正直言って頭上を致死性のある魔法が突き抜けていくのは生きた心地が全くしないがチートなクラスメイト達を信じて駆けるしかないだろう。

 

既にベヒモスとの距離は三十メートルも広がっている。このまま行けばきっと問題なく皆の元へ辿り着けるはずだ。

そう思い、日色は前を向いてハジメの手を引きながら走り続ける。

 

だが。

いや、だからこそ、日色は気づくことができなかった。

 

代わりにそれに気づいたのはハジメだった。

彼女はこんな命懸けの状況でも日色を見ていたのだから。

 

空を駆ける数多の魔法の中、その中の一つがクイッっと軌道を僅かに曲げたのだ。……日色達へ向かって。偶然ではない、明らかに日色を狙い誘導されたものだ。

 

誰が?一体どうして?そんな疑問や、困惑、驚愕がハジメの脳内を駆け巡るが今はそれどころではない。

軌道は確実にハジメもとい日色を狙って来ている、かなりの速度な為日色を呼ぶ暇など無い。このままでは日色に直撃し、吹き飛ばされ奈落に落ちるか、最悪焼き殺されるか、最低でもたたらを踏んでしまうのは確実だろう。

 

だったら、どうする?

 

答えは、決まっていた。

そしてハジメは――

 

――トンッと日色の背中を勢いよく押した。

突然の背後からの衝撃に日色の体勢は崩れるが数歩ハジメと距離が離れ、驚いた表情で此方を振り向き此方へと手を伸ばしている。

 

自分は今、どんな表情をしているのだろう?

 

出来れば、日色に裏切られたと思われなければいいなぁ、とハジメは思い。

 

瞬間――横からハジメの横腹で炸裂した火球の衝撃によってそんな思考は消しとばされた。

 

 

何が、起こった?

 

日色の思考はまさにそれ一色に染まっていた。

突然の背後からの軽い衝撃、咄嗟に後ろを振り向くと此方を突き飛ばしたハジメの姿があった。

わからない。何故ハジメが日色を突き飛ばしたのか?

わからない。何故、ハジメが笑っているのか?

 

ハジメは笑っていた。

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自分のために浮かべる笑みではなく、誰かを安心させるような弱々しい笑み。

 

何故、そんな笑みを浮かべている?

 

何故――

 

――そんなに泣いているんだ?ハジメ。

 

日色は無意識にハジメへと手を伸ばす。

今にも警鐘を鳴らす胸騒ぎにつられて。

そして、刹那――

 

「ハジ――――ッ!!?」

 

――ハジメの脇腹に火球が突き刺さる。

同時に炸裂し、着弾時の衝撃波がハジメと日色の身体を打ちハジメを元来た通路の方向へ、日色を階段側へと吹き飛ばす。

日色がハジメを叫ぶ声は着弾時の衝撃波で搔き消された。

 

吹き飛ばされた日色は数度転がり何とか体勢を立て直すが、視界が霞み、平衡感覚が狂わされたことですぐには動く事ができない。そしてそれはまたハジメも例外では無かった。

いや、むしろもっと酷いのではないだろうか?ハジメのお陰で直撃を避けた日色ですらそうなのだ、直撃を食らったハジメは脇腹に軽い火傷を負い、ゴロゴロ転がってグッタリと倒れている。

 

それを見た日色は喉の水分が蒸発した様に錯覚した。

急いで立ち上がろうとするが今までベヒモスの衝撃波で喰らった全身の傷と無防備な状態で火球を喰らったからだろう必死に立ち上がろうとするが腕に力が入らず、まるで底無し沼に入ったかの様に全身から力が抜けていく。

 

「…クッ………ソ……!ハジ……メッ!!」

 

しかし日色は諦めず何度も立ち上がろうと挑戦するがいずれも虚しく力が抜け、立ち上がることができない。ハジメを見るとハジメも何とか意識を取り戻したらしく再びフラフラとゆっくり立ち上がろうとしていた。

 

「日色ッ!!」

「し……ず、く?」

 

すると、背後から日色の元へ駆け出している雫の声が聞こえた。背後を振り向くとどうやら制止を振りきって此方に向かっているらしく、その証拠に涙目になりながら必死の表情で此方に向かう雫の背後にメルド団長が追いかけて来ており、さらに背後では今にも駆け出そうとしている香織を光輝が必死に抑えつけていた。

おそらくだが香織が此方に向かおうとして光輝に取り抑えられ、その隙に雫が此方ヘと駆けて来たのだろう。

 

「……雫……頼むッ!早く、ハジメ…を!」

「……ッ、えぇ!」

 

日色の言葉に雫はハジメのいる場所に目を向け、一瞬目を見開いたが、すぐに頷きハジメのいる場所へと方向を変え、さらに走る。現在雫と日色の距離は10メートル、日色とハジメとの距離は7メートル程である。ハジメも漸く立ち上がり三半規管をやられたのかフラフラとなりながらも此方へと少しでも進もうとするが……

 

「グァガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ベヒモスもいつまでも一方的にやられっぱなしでは無かった。ハジメが二メートルほど進んだ直後、背後で咆哮が鳴り響く。

ハジメは思わず振り変えると、赤黒い魔力を噴き上げ、赤熱化を行ったベヒモスの眼光がしっかりとハジメを捉えていた。

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!

 

「ハジメェえええ!!!」

 

フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべるクラスメイト達の悲鳴と怒号。そして、絶叫するようにハジメの名前を叫ぶ日色。

日色の声に反応したハジメはなけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束した様な強烈な衝撃が橋全体に激震する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走っていく。

 

「がぁ!」

「日色!」

 

その衝撃でさらに後ろに飛ばされた日色は間一髪走って来た雫に受け止められる。

霞む視界の中、メキメキと橋が悲鳴をあげる音が聞こえ――遂に橋の耐久限度を超えた。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴をあげながら崩壊し傾く石畳を爪で引っ掻くベヒモス。だが引っ掛けた場所さえ崩壊し、抵抗も虚しく奈落の底へと消えていった。ベヒモスの断末魔の叫びが奈落を木霊する。

それはまたハジメも例外ではなく、何とか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

日色がハジメを叫ぶ声が聞こえる。

ハジメはふと対岸にいる日色を見て――

 

「――――。」

 

呟いた。

 

 

日色は見た。

まるで一瞬が永遠に感じるかのように時間が減速する錯覚をする中、ハジメが奈落へと落ちていく姿を。

 

日色は見た。

その瞳に絶望を抱きながら、かすかに涙を滲ませているハジメの姿を。

 

日色は見た。

ハジメが刹那の中、届かない声で口を動かしたのを。

 

そのハジメが動かした口の動きを言葉にすればこうだろう。

 

『よ、か、っ、た』

 

 

「           ぁ      ッ    」

 

こんな状況で、こんな自分が命を落とす状況で。

それでも日色を助けられたことに微笑むハジメを――

 

――見ているままなど出来るわけがなかった。

 

カチンっ、と日色の何かが切り替わる。

 

 

石橋が崩壊していく中、日色は全身傷だらけで震える身体に鞭を打ち、強制的に立ち上がる。

受け止めてくれた雫が突如立ち上がった日色に「日色?」と困惑の声を零すが日色は雫の方へは振り向かなかった。

 

「……悪い、雫。後は…頼む」

「……え?日色?何を――」

 

日色が振り向かず雫に呟いた言葉に雫は困惑し、咄嗟に日色を止めようと彼の右手へと手を伸ばした。

胸騒ぎがした。

何か嫌な予感がした。

今ここで、日色を止めなければ何か取り返しのつかない事が、起こりそうな気がしたのだ。

そして直後――

 

――日色がハジメが落ちた奈落へと駆け出した。

 

「――日色!?」

 

雫は日色の手を掴もうと手を伸ばしたが一瞬遅かった。

雫の指が日色の手を微かに撫でるように触れたが――瞬間、日色の姿が加速した。

 

――文字魔法『速』

 

日色は立ち上がった瞬間、文字魔法で自分の身体に『速』の文字を書いたのだ。効果は読んで字の如くである。

崩れ落ちていく足場を日色はパルクールのごとく跳び、走り、障害物を乗り越えながら下へ下へと駆けていく。

慌てて雫も追いかけようとするが背後から追いかけてきたメルド団長によって取り押さえられてしまった。

 

「メ、メルドさん!?は、離してください!まだ日色が!!」

「ダメだッ!これ以上犠牲を出すわけにはいかん!!」

「そんな!」

 

雫の瞳に涙が滲みながらの懇願も歯を食いしばりながらも悔やんだ表情のメルド団長に拒否され、強制的に肩に担がれて元の階段側へと戻らされてしまう。

自然と日色と開いていく距離に雫は涙を流さんばかりの声で叫ぶしかない。

 

「――――――ッ!!!」

 

その声はもう、彼には届かない。

 

 

走る走る走る。

もはやそれは落下しているといっても間違いないのかもしれない。

 

瓦礫を足場に安全性を度外視して降りていくと、遂には踏みしめる瓦礫が無くなり日色も奈落に落ちたハジメのように自由落下になってしまう。

 

が、日色にそれに対する恐怖は一切ない。

踏みしめるものがないと理解した途端、左手に輝いている『速』の文字をちらりと見ると『速』の文字の輝きが徐々に薄れ、文字が空気に溶けていく。

それを確認した途端、日色は新たに文字を書いていく。

 

イメージは翼、輝きながらも夜空を駆ける流星の如き速度。

 

「――飛べ!」

 

新たに書いた文字は『飛』である。このまま何もせず落ちていってしまえばハジメを助けることはできない、だからこそ落下速度を速める必要がある。

日色は翼を力強く大空を羽ばたくイメージを行う、方向はもちろん真下だ。

 

そして瞬間、今までの落下速度の数倍の速さで日色の落下速度は加速した。

 

「ぅ、ぉおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

風圧が尋常ではない、体感ではおよそジェットコースターの3倍の風圧だ。

日色は吹き飛ばされそうな風圧に耐えながら、更に加速する。

そしていくら時間が経っただろうか、数秒?数十秒?それとも数分?まぁどうでもいい。

ついに日色は落下する彼女を見つけた。

 

「ハジメェエエええええええええええええええええええええええ!!」

 

どうやら意識を失っているのか、だらりと脱力して落下しているハジメを見つけた途端、日色は更に速度を加速させる。もはや奈落の底が微かだが見えてしまっている、このままでは二人共地面にぶつかり落下死するだろう、しかも『飛』の効果時間も限界が近い、もう時間がないのだ。

 

ハジメとの距離を20メートル、10メートル、5メートル、3メートルと縮ませ、遂に――

 

――日色はハジメの元にたどり着く事ができた。

 

 

が、

 

 

「ぐぅッ!!」

 

アレ程加速しながら体勢が整っていない状態でハジメの身体を抱きしめたのだ。もちろん体勢は崩れ、きりもみ状態になってしまう。

世界が廻る、三半規管が異常をきたす。

それにより日色は中身をリバースしそうになるが根性で押し留める。

 

なんとか体勢を整えようとイメージを働かせようとしたがもう、魔法の限界時間が近いのだろう上手く体勢を整えることができない。

 

「クソッ!」

 

廻る視界の中、必死に体勢を整えようとするがもう奈落の底との距離はもはや50メートルをきっている。底に着くまであと5秒しかないだろう。

万事休すか!と日色が思った瞬間、腕の中から声が聞こえた。

 

「ひ、いろ?」

 

ハジメの声だった。明確に意識は覚醒していないのか、声は小さいが日色にとってはそれで十分だった。

ハジメが生きているというだけで日色にとっては十分すぎた。

 

「あぁ、日色だ!クソッタレ!」

 

活力が再び漲った。

日色はハジメに言葉を返しながら廻る視界の中、壁からせり出ている横穴を視認する。

そこからは地下水が流れており奥に続いているようだ。

 

(――あそこだ!)

 

日色はそれを見つけた途端、真横に羽ばたくイメージを行い、強制的に落下の軌道を変える。

そしてちょうど落下の軌道上に横穴が来るように移動した瞬間、『飛』の文字魔法が役目を終えたように解除された。

だが、それだけでは足りない。日色の落下速度とハジメの落下速度が合わさっているのだ、このまま落ちてしまえばたとえ底が水でも死んでしまうだろう。

だから、日色はハジメを抱っこしたまま左手に文字を書く。

書く文字は『浮』

 

「間に合ぇええええええええええええええ!!」

 

日色の文字魔法が発動するのが先か、落下するのが先か。

その結果を日色が認識する前に日色とハジメはウォータースライダーの如く猛烈な勢いで奥に地下水が流れている横穴に落下し、途中壁の一部に体を強打し意識を失った。

 




今回出てきたオリジナル魔法の詳細

【反鏡】別名『一方通報(アクセロリータ)の紳士壁』

本作出てきたオリジナル魔法、光属性初級防御魔法である【光絶】に『ベクトルの方向反転』の性質を付与し、魔法陣に触れた魔力を吸収し発動する魔法。
相手の魔力を使うため、詠唱はいらず、魔力もいらない手軽な魔法だが、魔法陣が3メートルという大きさなので日色のような物を小さくする魔法や『宝物庫』のようなアーティファクトがなければ持ち運びが難しく、あくまで魔法陣に触れた魔力だけなので魔力の無い攻撃には無用の長物化&発動するのは魔力が込められている状態なのでベヒモスの赤熱化は反射できるが光輝の『天翔閃』などの場合は近距離まで接近し、光の斬撃が剣から発射される前に剣に魔法陣に当てなければならないというデメリットを持つ。
しかし、あくまでこれは日色が三日間で考えた『対ベヒモス用の防御手段試作一号』でしかないため今後の改良による活躍が期待される。


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奈落の底で少女は叫ぶ

テストの点数がそこまで良くないのに更新していくスタイル。どうもアルテです。

ようやくここまでたどり着いたかなぁと思うこの頃。
次回は多分ハジメの豹変にいけるかな?と思います。
今回はギャグ一割、シリアス9割です。

そんなわけで、どうぞ( ´ ▽ ` )



冷たい感覚で意識が目覚め始める。

息苦しく、しかしどこか浮遊しており、ザァーとまるで水が流れているかのような――

 

(――ま、ずい!!)

 

日色は目が覚めると同時に水上らしき上へと慌てて泳ぐ。

何とか水上から顔を出すことに成功し、近くの川岸から川から上がることに成功する。

 

「ゲホッ!ゲホッ!……死にかけたな」

 

日色は気道に入った水を吐き出すため数回咳を行い、荒い息を整える。

あのまま意識が覚めなければ溺死していただろう、不幸中の幸いか。しかし全身が地下水という低温の水にずっと浸かっていた為に、服は濡れ、体を冷えているためこのままでは低体温症になり結局危険なのだが。

日色はそれを理解しているため、服を脱いで絞っていく。

そうしてパンツ一丁になったあとは、人差し指に技能『魔力筆』を使い、【火種】の魔法陣を書いていく。

文字魔法を使えば一瞬で炎を起こすことはできるがここで魔力を6分の一も消費するわけにはいかない。

 

「……こんな時に自分の才能に反吐が出そうだ」

 

本来【火種】の魔法はその辺の子供でも十センチ位の魔法陣で出すことができる簡単な魔法なのだが魔法適性ゼロな日色にはたった一つの火種を起こすのに一メートル以上の大きさの複雑な式を書かなければならない。

十分近くかけてようやく完成した魔法陣に詠唱で魔力を通し起動させる。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、【火種】……チッ、やはり魔法適性がないというのは不便だな」

 

そう毒づきながら日色は発動した拳大の炎で暖をとりつつ、傍に服も並べて乾かす。

 

「しかし……ハジメはどこだ?まさか俺よりも流されたのか?」

 

暖かな火に当たりながらハジメの行方を考えるが今の状況では答えはわからない。暖をとったことで霧がかかった記憶を思い出し、何とか二人共即死は免れたことに日色は安堵の溜息をこぼす。

服が乾ききったので日色は再び服を着て、出発することにした。今最優先なのはハジメの捜索だ。どの階層にいるのかはわからないが迷宮の中であるのは間違いない以上、どこに魔物が潜んでいてもおかしくない。ハジメと早く合流しなければ日色にとってもハジメにとっても危険だ。

 

そんなわけで日色は腰に差してある剣の存在を確認した後、ハジメと合流するため川沿いから捜索を開始した。ハジメも同じように流されている可能性が高いからである。

日色は物陰から少し視界を確認したあと、少しずつ進んでいく。日色の原作知識では奈落の魔物はどいつもこいつも化物だらけなのだ、正面衝突になってしまったら瞬く間に殺されてしまうだろう。……原作のハジメの心を折った爪熊なんて論外である。

 

そうしてスネ○クの如くコソコソと移動していると、視界の端の通路で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜める。

 

そっと顔だけ出して伺うとそこにはピョンピョンと長い耳を携えた白い毛玉が――

――ということを認識した瞬間、日色は再び岩陰に顔を戻し、小さく誰にも聞こえないようにため息を吐く。

 

(……最悪だな)

 

さっき見ただけで何の魔物化が日色には理解できた。

 

白い毛玉、長い耳、さぁわかる人にはわかるだろう。

 

『なんでこんなところにイっちゃんことイナバちゃんと同種族がいるんですかねぇ?』

 

我らのウサギちゃんことイナバちゃんの登場である。といっても同種族だと思うので別人ならぬ別兎なのだが。

イナバ、それは原作にいた重要な回復アイテム『神水』を飲み、魔王化したハジメに憧れた最強のウサギちゃんである。『神水』を飲んだことで知能が上がり、魔王に憧れたことでウサギの強者になるため、そして強くなるキッカケをくれた魔王に一言お礼を言う為に旅を始め、最終的に『谷口鈴』の仲間になったのだ。

 

閑話休題

 

そんなわけでそんなウサギと同種族の魔物と日色は出会ってしまったのだが正直言って逃げようかと思っていた。

あのウサギの固有魔法は【天歩】、あの雫が使っていた[+縮地]や空中に足場を作る[+空力]の技能を手に入れることができ最終的には最終派生技能[+瞬光]を手に入れることができるのだが日色からすれば悪夢でしかない。

 

あの一蹴りでハジメの腕を砕くことができる化け物と戦う?――アホか。

 

そう思って日色はその場から離れたいのだがここは一本道であるここで離れても回り込んで進むことしかできないし、あのウサギは一向に動こうとしない。もしかしたらあの先にハジメがいるかもしれないのだ、ここで逃げるのは得策ではないだろう。

 

(やるしかない……か)

 

日色は静かに近くの手頃な小石を拾って、数度ポンポンと片手で空中に放った後岩陰から地面に鼻をつけてフンフンと嗅いでいる蹴りウサギの少し先の地面を狙って石を投げる。

 

「キュウ?」

 

コツッと日色が投擲した石は綺麗な放物線を描き、見事蹴りウサギの前へと落下し物音を立てる。突然の物音に蹴りウサギが石が落下した地点に振り向いて――

 

「――――ッ!」

 

――瞬間、日色が音も無く背後から剣を引き抜き襲いかかる。

踏み込みは右足、体勢を少し下げ全身のねじれと鞘走りを利用した斬撃を蹴りウサギの首筋目掛けて叩き込む。

 

――我流刀術【天閃】

 

日色の作戦は勿論不意打ち一択である。そもそも光輝(アホ)のようなステータスならば正面からの戦闘も立ち回り次第で戦えるかもしれないが日色のステータスでは不可能である。だからこその背後からの首筋への一撃である。ベヒモスのような巨体ならばいくら日色の【天閃】でもかすり傷が限界だが蹴りウサギならば話は違う。例え斬り裂く事ができなくても吹き飛ばし壁にぶつけることぐらいはできるはず――ッ!!?

 

「キュッ!」

「なっ!?」

 

が、直後。蹴りうさぎはまるで背後に目があるかのように紙一重、地を蹴り空中を宙返りしたことで日色の斬撃を避けたのだ。その俊敏な行動に日色は目を剥いてしまう。

蹴りうさぎは宙返りをした体勢のまま、つまり日色と上下が逆の体勢でこちらを見ていた。

その瞬間日色の背筋に嫌な予感が奔る。

 

もはや無意識に近い。日色は半歩足を下げ崩れた体勢だが強制的に回避を行う。

 

そして、蹴りウサギが霞んだ。否、消えた。

 

さっきまで日色がいた場所を後ろに残像を残して砲弾の如き蹴りを放つ。

おそらく逆さまの状態で()()()()()()()()地上へ隕石の如く落下したのだろう、避けられたのはもはや奇跡に近い。爆発するように着弾点が抉れ、日色はゴロゴロと転がり、蹴りうさぎから距離を離す。

 

しかし顔を上げた先には余裕の態度でゆらりと立ち上がる蹴りウサギの姿が悠々と存在していた。

その姿に日色は悔しげに小さく舌打ちをする。

 

(まさか……背後からの不意打ちを避けられるとはな)

 

やはり、奈落の魔物には化物しかいないことを再認識する。

日色はいつ襲ってくるかわからない蹴りうさぎの襲撃に注意しながら文字魔法の準備に入る。

このような敵に通用する武器は日色には文字魔法しかない、が。

 

(問題は……何の文字を書くかだな……)

 

そもそも文字魔法は現状地面に書かなければ効果を発揮しない、しかもここで下手に意味のない字を書いてしまえば一瞬で頭蓋を破壊されお陀仏だ。

一撃で対象を殺す文字が必要だ。しかし『死』等という直接殺せる魔法は数日前試しに使ってみたが書く事が出来なかった為使えない。

 

(あれで……いくか)

 

そう思い、日色は人差し指を動かして――

 

「きゅい!」

「チィッ!」

 

――瞬間、再び地面を爆発させながら日色に突撃する。奴の狙いは日色の頭だ。

が、それを読んでいた日色は自ら己の足を払い、崩れるように倒れることで蹴りうさぎの蹴りをかわす。

しかし――

 

「ガッ!?」

 

それはあくまで直撃を避けたというだけである。蹴りウサギの一撃が日色の背後にある壁を砕き、その破片の数個が日色の胸に直撃したことで日色は肺から空気を吐き出しながら軽々と吹き飛ばされた。

日色は何度も転がるとようやく壁にぶつかったことで勢いが止まる。

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

何度も日色は咳き込みながら必死に起き上がろうとする、おそらく今の日色に次の攻撃はよけられないだろう。体勢が崩れ、内蔵もいくつか傷んでいるかもしれない、むしろ骨折していないことが幸運だった。

次の攻撃で確実に日色の命は尽きる。

 

 

()()()――

 

 

「クソッ、ようやく倒せたか」

 

 

――次があるのなら、だが。

 

壁が抉れるように砕かれ砂煙が舞う中、その煙が晴れた先には一匹の蹴りウサギがいた。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

――文字魔法『凍』

 

あの時、日色が蹴りウサギの蹴りを避けた時に、コッソリと文字魔法を書いておいたのだ。そして蹴りウサギが壁を蹴り、地面に着地した場所には文字魔法が書かれており、着地と共に発動、見事蹴りウサギの体を凍らせたのだ。

日色は油断せず恐る恐る蹴りウサギに近づき、ツンツンと剣で突いてみるが一切反応を示さない。

 

「氷を破壊して復活――は無さそうだな」

 

日色はどっかの漫画のように『それがどうしたァ!』かのように氷を破壊し、復活するのかと思ったがその可能性はないようだ。まぁ、そもそも『凍』の文字魔法によって蹴りウサギは血液ごと凍らされたのだ。酸素が運ばれなくなった為生きているはずがない。

 

日色は死んだ蹴りウサギをどうするか考えるが文字魔法『元』を使って元に戻し食料にするか考えたが魔物の肉は毒なのだ。回復方法がない現状では食べることはできない。

が、だからといってこのまま放置するのももったいないだろう。

 

「仕方ない……凍らしたままで持っていくか」

 

日色はそう呟いて凍った蹴りウサギを地面から剣を用いて切り離し、懐に収めることにし、再び歩を歩み始めた。

 

『予想以上にお腹が寒いんですけどぉおおお!や、やばいこのままだと、冷た~いアイス○ロッチになりそうなんですけど!』

 

自業自得である。

 

 

同時期、ハジメは慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩を進めていた。

 

「日色……どこにいるんだろう……?」

 

時は数十分遡るが、ハジメは幅五メートル程の川の川辺の岩に引っかかり下半身を川に浸けた状態で目が覚めた。

慌てて川から上がり、地下水という低温の水にずっと浸かっていた為に、すっかり冷えてしまった体を温めるため服を脱ぐことに少し躊躇しながらもえぇーい、ままよとばかりに服を脱いで絞り、錬成の魔法を使って【火種】の魔法陣を作り、暖をとって服を乾かしながら霧がかった記憶を思い出していた。

 

そう、朧げな視界の中、目まぐるしく変わる視界に唯一感じる体温の温かみ。そして日色の声。

 

あの時自分は日色に助けられたのだということを思い出した。寒気が体を走り、一気に血の気が引いていくのを感じたハジメは辺りを慌てて見渡すが日色の姿は見当たらず、服を乾かした後日色を探すために少しずつ移動しながらも日色を捜索していたのだ。

 

そして現在、正しく洞窟といった感じの通路をハジメは進んでいた。

 

低層の四角い通路ではなく岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている。二十階層の最後の部屋のようだ。

ただし、大きさは比較にならない。複雑で障害物だらけでも通路の幅は優に二十メートルはある。狭い所でも十メートルはあるのだから相当な大きさだ。歩き難くはあるが、隠れる場所も豊富にあり、ハジメは物陰から物陰に隠れながら進んでいるのだが未だに全体を把握できていなかった。

 

そしてハジメがそろそろ疲れを感じ始めた頃、遂に初めての分かれ道にたどり着いた。巨大な四辻である。ハジメは岩の陰に隠れながら、どの道に進むべきか逡巡した。

 

しばらく考え込んでいると、視界の端で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜める。

 

ハジメは立ったまま、そっと顔だけ出して様子を窺うと、自分たちのいる通路から直進方向の道から白い毛玉がピョンピョンと跳ねて来たのがわかった。そう蹴りうさぎである。

蹴りうさぎには赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っている。

明らかにヤバそうな魔物の為、ハジメはしばらくは様子をうかがう事にした。

しかしあのウサギがこちらの道に進んで来ないとも限らない。

 

ハジメは気づかれないように左右の道に進めないかと思いながらも観察を続ける。

 

突然、ウサギがピクッと身体を震わせたかと思うと、背筋を伸ばして立ち上がった。

警戒するように耳が(せわ)しなくあちこちを向いている。

ハジメはまさか見つかった!?と即座に岩陰へ、張り付くように身を潜めながら冷や汗を流す。

 

だが、ウサギが警戒したのは別の理由だったようだ。

 

「グルゥア!!」

 

獣の唸り声と共に、これまた白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出したのだ。

 

二本ある尻尾に大型犬くらいの大きさの白い狼はウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。

いつ現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。

 

どう見ても狼の群れがウサギを捕食する瞬間であり、このドサクサに紛れて移動出来ないか、とハジメは考えた……が直後、その認識が覆される。

 

「キュウ!」

 

可愛らしい鳴き声を洩らしたかと思った直後、ウサギがその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転して、その太く長いウサギ足で一体目の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。

すると――

 

ドパンッ!!、という、ウサギの足蹴りが出せるとは思えない音を発生させて、二尾狼の頭部にクリーンヒットし、ゴギャ!、という明らかに鳴ってはいけない感じの音を響かせながら、狼の首はあらぬ方向に捻じ曲がってしまった。

 

ハジメは腰を浮かせたまま硬直する。

 

そうこうしている間にも、ウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめ地上へ隕石の如く落下し、着地寸前で縦に回転。強烈なかかと落としを着地点にいた二尾狼に炸裂させた。

 

べキャッ!

 

再び鳴ってはならない音を鳴らしながら二匹目の狼の頭部を断末魔すら上げさせず粉砕する。

しかしその頃には更に二体の二尾狼が現れて、着地した瞬間のウサギに飛びかかった。

今度こそウサギの負けかと思われた瞬間、なんとウサギはウサミミで逆立ちしブレイクダンスのように足を広げたまま高速で回転をした。

 

まるで竜巻の如き回転蹴りに飛びかかっていた二尾狼二匹は弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。グシャという音と共に血が壁に飛び散り、ズルズルと滑り落ち動かなくなった。

そして最後の一匹が唸りながらその尻尾を逆立て、バチバチと放電を始めた。

 

「グルゥア!!」

 

咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて乱れ飛ぶ。

 

しかし、高速で迫る雷撃をウサギは華麗なステップで右に左にとかわしていく。そして電撃が途切れた瞬間、一気に踏み込み二尾狼の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。狼は仰け反りながら吹き飛び、グシャと音を立てて地面に叩きつけられた。二尾狼の首は、やはり折れてしまっているようだ。

 

それを見た蹴りウサギは

 

「キュ!」

 

と、勝利の雄叫び?を上げ、耳をファサと前足で払った。

 

それを見て乾いた笑みしか浮かべれないのが硬直しているハジメである。ヤバイなんてものじゃない。ハジメ達が散々苦労したトラウムソルジャーがまるでオモチャに見える。もしかしたら単純で単調な攻撃しかしてこなかったベヒモスよりも、余程強いかもしれない。

 

ハジメは、「気がつかれたら絶対に死ぬ」と、表情に焦燥を浮かべながら無意識に後ずさろうとしたその時。

 

 

 

カラン……

 

 

という音が洞窟内に響いた。

ハジメが無意識に足を後ろに下げた際、足元にあった小石を蹴ってしまったのだ。

あまりにもベタでありふれていて……そしてなによりも致命的なミスである。

 

小石に向けていた顔をギギギと油を差し忘れた機械のように回して蹴りウサギを確認する。

 

蹴りウサギは、ばっちりとハジメを見ていた。

 

赤黒いルビーのような瞳がハジメを捉え細められている。ハジメの背中に冷や汗が大量に吹き出し、逃げろと生存本能が警報を鳴らす。

しかし、ハジメが次の行動を移す前に蹴りウサギが動いた。

 

首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとハジメの方を向き、足をたたみグッと力を溜める。

 

(やばいッ!)

 

ハジメが本能と共に悟った瞬間、蹴りウサギの足元が爆発した。後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してくる。

気がつけばハジメは、無意識に全力で横っ飛びをしていた。

 

直後、一瞬前までハジメのいた場所に砲弾のような蹴りが突き刺さり、地面が爆発したように抉られた。硬い地面をゴロゴロと転がりながら、尻餅をつく形で停止するハジメ。陥没した地面に青褪めながら後退る。

 

蹴りウサギは余裕の態度でゆらりと立ち上がり、再度、地面を爆発させながらハジメに突撃する。

今度は避けられない、ハジメは咄嗟に左腕を掲げ盾にし、衝撃に耐えようと目を瞑る。

しかし衝撃は――来なかった。

 

(――え?)

 

一瞬の疑問が浮かぶが横から訪れた衝撃と浮遊感に慌てて目を見開く。

 

「まったく、世話がやける」

 

そして、ようやくハジメは日色に抱えられていることに気づいた。

 

「ぇ、う、あ、ひ、日色?」

「何だ?そんなに俺が居ることがおかしいか?」

 

そう、ハジメが蹴りウサギに蹴られそうになる瞬間、日色が横から抱きつくようにハジメにぶつかり蹴りウサギの蹴りを避けたのだ。

日色はハジメから手を離し、日色は前に出て、蹴りウサギからハジメを庇うかのように剣を構える。

しかし蹴りウサギの目には見下すような、あるいは嘲笑うかのような色が見え、『雑魚(ハジメ)とその仲間(日色)は自分よりも圧倒的に格下だ』と思われているのが分かった。

 

「……話は後だ。時間は稼いでやるから早く逃げろ」

「で、でもッ!――「いいから早くしろッ!コイツがやばいことぐらいは俺だって理解している!だが問題はコイツよりも強い奴がいる可能性があるんだ!そいつが来る前にこの場を離れ――ッ!?」

 

ハジメの言葉を遮って怒鳴るように叫ぶ日色がその言葉を言い終わる前に異変に気づいた。

それはまるで突然背中に氷を入れられたような感覚、何かどうしようもない驚異と出会ってしまったような、そんな嫌な予感。

 

「……震えている……?」

 

そんなハジメの言葉を聞いた日色は蹴りウサギを注視すると、ウサギの身体はふるふると震え、目からは一切の余裕が消えているのが分かった。まるで、何かの来訪に怯えているかのように。

 

否、事実蹴りウサギは怯えていた。

 

そして、その魔物は現れた。

 

ハジメが逃げようとしていた右の通路から二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮を持った新たな魔物が現れる。

例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っておりその姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

その爪熊が、いつの間にか接近しており、蹴りウサギ、そして日色とハジメを睥睨していた。

 

ハジメは元よりウサギも硬直したまま動かない……いや、動けない。

 

そのウサギの様は、まるで先程のハジメの様で、爪熊を凝視したまま凍りついている。

 

「……グルルル」

 

突然爪熊が、この状況に飽きたとでも言うかの様に、低く唸り出した。

 

「ッ!?」

 

それを聞いたウサギは、まるで夢から覚めたように、ビクッと一瞬震えると踵を返し、まさに脱兎の如く逃走を開始した。今まで敵を殲滅するために使用していたあの踏み込みを逃走のために全力使用する。

 

しかし、その試みは成功しなかった。

 

爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りウサギに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るったからだ。蹴りウサギは流石の俊敏さでその豪風を伴う強烈な一撃を、体を捻ってかわす。

ハジメの目にも確かに爪熊の爪は掠りもせず、蹴りウサギはかわしきったように見えた。

 

だが日色は見た。

 

あの蹴りウサギが身を捻って爪熊の爪を避けた途端、爪熊の爪から風の刃が射出されたのを。

 

この現象は爪熊の固有魔法が原因である。あの三本の爪は風の刃を纏っており最大三十センチ先まで伸長して対象を切断できるのだ。

 

着地した蹴りウサギの体はズルと斜めにずれると、そのまま噴水のように血を噴き出しながら別々の方向へドサリと倒れた。愕然とする日色達。あんなに圧倒的な強さを誇っていた蹴りウサギが、まるで為す術もなくあっさり殺されたのだ。

 

蹴りウサギが怯えて逃げ出した理由がよくわかった。あの爪熊は別格なのだ。蹴りウサギの、まるでカポエイラの達人のような武技を持ってしても歯が立たない化け物なのだ。

爪熊は、のしのしと悠然と蹴りウサギの死骸に歩み寄ると、その鋭い爪で死骸を突き刺し肉を咀嚼する音を立てながら喰らってゆく。

 

ハジメは動けなかった。

あまりの連続した恐怖に、そしてウサギだったものを咀嚼しながらも鋭い瞳でこちらを見ている爪熊の視線に射すくめられて。

日色は冷静に現状の選択肢を判断し、文字魔法の準備に入る。

最善の手を打ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

爪熊は三口ほどで蹴りウサギを全て腹に収めると、グルッと唸りながらハジメの方へ体を向けた。その視線が雄弁に語る。次の食料はお前らだと。

 

そして、その捕食者のような目を向けられたことがないハジメはその視線に耐えきれず、恐慌に陥った。

 

「うわぁああーー!!」

「なッ!バカがッ!不用意に動いたら――」

 

意味もなく叫び声を上げながら日色の制止の声すら無視して必死に立ち上がり爪熊とは反対方向に逃げ出す。

 

だがあのウサギですら逃げることが叶わなかった相手からハジメが逃げられる筈が無い。

ゴウッ!!と風が唸るような音が聞こえ、何かに押された感覚の直後、強烈な衝撃がハジメの左側面を襲った。そして、そのまま壁に叩きつけられる。

 

「がぁっ!!?」

 

肺の空気が衝撃により抜け、咳き込みながら壁をズルズルと滑り崩れ落ちるハジメ。

衝撃に視界が揺れ、思考が霞む。

 

そして直後、強烈な痛みがハジメを襲った。

あまりの激痛にハジメは顔を歪ませ、何が起こったのか理解しようと纏まらない思考で痛みの元へと目を向ければ、そこには半分以上が切断されてプラプラとぶら下がっているだけの様な自身の左腕があった。

そんな現実離れした事実にハジメは夢だと思いかけるがハジメの脳が夢から覚めろというように痛みをもって現実を教えてくる。

そして、あまりの激痛に迷宮中に絶叫を木霊させそうになり――

 

「あがぁッ!!――――――――――――ぁ?」

 

――恐怖の込められた瞳で爪熊の方を見ようとして、文字通り呼吸を忘れ、目を見開いた。

目の前に映った光景にハジメは一瞬、痛みを忘れ、何が起こっているのか理解できなかった。

 

 

待って。

 

 

これは何?

 

 

何が起こっているの?

 

 

なんで輝く『守』の文字が切り裂かれているの?

 

 

なんで地面が真っ赤に染まっているの?

 

 

なんで目の前で日色が倒れているの?

 

 

わからない。

理解ができない。

何が起こっているの?

 

あまりの現実にハジメは、アレ?、と顔を引き攣らせながら、首を傾げる。脳が、心が、理解することを拒んでいるのだろう。

だけど、目の前の現実がハジメの脳裏に明確に焼きつけられる。

 

蛇口を捻られたかのように日色から真紅の血が絶え間なく流れ、地面を真っ赤に染め上げていく。

 

「      ぁ          ?     」

 

体から全身の血が引いていくのを感じた。

もはや口から無意識に溢れる言葉をハジメは認識することができない。

 

なんで日色が倒れているの?――爪熊の攻撃からハジメを庇ったからだ。

 

なんで血が流れているの?――日色の胸を右下から左上に沿うように深く斬り裂かれているからだ。

 

誰のせいで日色が倒れているの?――僕の、せいだ。

 

もはや目の前の事実はハジメの許容量をとうに超えていた。

目の前で日色が死にかけているという事実にハジメは耐えることができない。

あまりの絶望と恐怖にハジメの心はまるで心臓が止まった時に表示される心電図のメーターのように平坦になり――瞬間、爆発した。

 

「――ぁあああああ、ああああっああああああああああああああァア、アアァアアアああアアアアアアあああああああああああああッ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!??」

 

喉が張り裂けるのではないかと思える程の人の声ですらない絶叫が迷宮内に木霊した。

 

 

 

爪熊が悠然と二人に歩み寄る。

その目にはウサギのような見下しの色は無く、ただの食料であるという認識しかない。

 

血まみれの日色の眼前に迫り爪熊はゆっくり日色へと前足を伸ばす。その爪で切り裂かないということは生きたまま食うつもりなのかもしれない。

 

「   ひ、ッ   ぁ、  ぁぁあああああっ!れ、【錬成ぇ】!」

 

それにもはや自分が何をしているのか理解すらできなくなったハジメはあまりの絶望と恐怖に涙と鼻水、涎で顔をベトベトに汚しながら、ハジメは右手を背後の壁に押し当て錬成を行った。ほとんど無意識の行動だった。

 

無能と罵られ魔法の適性も身体スペックも低いハジメの唯一の力。通常は、剣や槍、防具を加工するためだけの魔法。その天職を持つ者は例外なく鍛治職に就く。故に戦いには役立たずと言われながら、異世界人ならではの発想で騎士団員達すら驚かせる使い方を考え、クラスメイトを助けることもできた力。

 

だからこそ、死の淵でハジメは無意識に頼ったのだ。

錬成により背後の壁に縦60センチ、横130センチ、奥行4メートル程の穴が空く。

 

獲物が逃げようとしている事を察知した熊は二人に迫ろうとする。

 

「ギッ、グッ、ァアアアアア!!!」

 

しかし、ハジメはその直後、ハジメはぶら下がっていた自身の左腕を一切躊躇せず、右手で掴んだナイフで()()()()()()

 

グチュリと肉が抉れる感覚と激痛に顔を歪めながらもナイフを捨てハジメは熊に向けて自分の腕を投げつける。

ドチャッ、と熊の横に落ちたハジメの腕に熊は惹かれ、喰らい付いた。

その隙にハジメは血まみれの日色の服に噛み付き、その体を引っ張りながら穴の中へ体を潜り込ませた。

 

「グゥルアアア!!」

 

目の前で獲物を逃したことに怒りをあらわにする爪熊は咆哮を上げながら固有魔法を発動し、ハジメが潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。

 

「ひっ、う、ぁあああーーッ!【錬成】!【錬成】!【錬成ぇ】!」

 

熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら、少しでもあの化け物から離れようと連続して練成を行い、奥へ奥へと進んでいく。

何度も何度も錬成を行いながらほふく前進で日色を引っ張りながら奥へ進むハジメ。

後ろは振り返らない、もはや痛みなど忘れ、『日色を死なせたくない』という想いだけで突き進む。

 

……どれくらい進んだのだろう?ハジメにはわからなかったが、恐ろしい音はもう聞こえなくなっていた。

 

だが、そこまで進んでいないことは無意識にハジメは理解していた。一度の錬成の効果範囲は5メートル程度であるし(これでも初期に比べ倍近く増えている)、人間一人の服を咥えながら引っ張っているし、何より左腕の出血が酷い。

今でもハジメは出血多量により既に落ちかけている。それでも、もがくように前へ進もうとする。

 

だが、

 

「【錬成】 ……【錬成ぃ】 ……【れんせい】 ……【えんせぇ】 ……」

 

何度錬成しても眼前の壁に変化はない。意識よりも先に魔力が尽きたようだ。ズルリと壁に当てていた手が力尽きたように落ちる。

ハジメは、朦朧として今にも落ちそうな意識を何とか繋ぎ留めながらゴロリと仰向けに転がった。

ボーッとしながら引っ張ってきた日色を見つめる。

 

日色の姿はこの辺りは緑光石が無く明かりもないため、見ることはできないが荒い息遣いだけは聞こえてくる。

いつしかハジメは昔のことを思い出していた。走馬灯というやつかもしれないと沈むような思考でハジメは思った。

 

何時しかハジメは日色と出会った頃を思い出していた。

書店で初めて日色に出会って、日色に友達と言ってもらって、一緒にゲームで遊んだ時、好きなキャラクターを話し合ったり、日色にアーンしてもらった時も思い出した。

様々な思い出が駆け巡り、そして最後に思い出したのは……月明かりの下で背中越しに感じる体温とともに傍にいて、微かながらも笑ってくれた大切な人(神代日色)の姿。

 

その美しい光景を最後にハジメの意識は闇に呑まれていった。意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じた。

 

それはまるで、誰かの流した涙のようだった。

 

 

 




一応言っておきますがハジメの左腕は義手にはなりません。お父さんが許しません。



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少女の本質

ま た せ た な ッ ! ! ! (某ス○ーク風)


今まで更新を一切せず申しわけございません!!
ハジメちゃんが原作とは違う設定なのでオリジナル風に書いてみたのですがまさかここまでかかるとは……
あまりの己の才能の無さに絶望を通り越して呆れてしまいそうです。
しかも途中から適当になってきてますし……

そんなわけで今回の話はかつてないほどの駄目文になっていますのでご了承ください。

……できれば、低評価は付けないでくれると嬉しいなぁ(震え声)

ちなみに豹変前のハジメちゃんの容姿はファンキルのロンギヌス。
ハジメちゃん(裏)はブラックロンギヌスをイメージしていただけると嬉しいです。


ぴちょん……ぴちょん……

 

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは徐々に意識が闇から浮上し始めた。

そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生き、てる?……助かった……の?)

 

疑問に思いながらも起き上がろうとグッと腹に力をいれ起き上がろうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「――いっ!!?」

 

突然の額の激痛に思考が混乱するがすぐに自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばそうとした。

しかし、視界に入る腕が一本しかないことに気がつき動揺する。

 

「ぇ、あ?なんで腕が――ッ!?」

 

しばらく呆然としていたハジメだったが、やがて自分が左腕を失っていた事を思い出し、その瞬間無いはずの左腕に激痛を感じた。おそらく幻肢痛だろう。

 

【幻肢痛】、それは四肢を失った者があるはずのない手の先端があるように感じたり、失った部分から電流を流した万力で潰されるような痛みを感じてしまうような幻肢の派生症状である。

幻肢痛は実際の疼痛ではないため、痛み止めや麻酔は効かずミラーセラピーなどにより実際にあるかのように思わせることで緩和は可能だが…鏡のない現状では難しい。

 

ハジメは表情を苦悶に歪めながら反射的に左腕を押さえて気がつく。切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっているのだ。

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん……」

 

暗くて見えないが明かりがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。

 

ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。血が乾いていない、まだ気を失ってそれほど時間は経っていないのだ。

 

「そ、そうだ!……日色ッ!」

 

ハッ、とハジメは日色を探すために身体を動かした。大量出血したことが夢ではないのなら日色はハジメよりももっと重傷なはずなのだ。真っ暗なせいで何も見えないが、腕を動かせば温かみの感じる何か……日色の腕に触れることができた。

耳をよく傾けて聞けば微かだが日色は小さく早い苦しそうな呼吸をしていた……だが、まだ生きている。

 

「……日色……よかった……」

 

日色が死んでいないことはとても嬉しかったが今はそれどころではない日色が出血多量で苦しんでいるのにどうして自分だけがこんな風に傷が塞がっているのか。

ハジメはそんな疑問と共に日色が苦しんでいる状況に苛立ちを浮かべながら必死に考えていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。

それが口に入った瞬間、ハジメは少しだが感じ取れる程度に体に活力が戻ったのがわかった。

 

「……まさか……これが?」

 

ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

 

「日色、苦しいけど待ってて。すぐ……戻るから」

 

苦しんでいる日色にハジメはそう呟くと日色の返事を待たずにふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

 

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

 

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた、言葉で表現するならばそのような言葉でしか表せない美しい雰囲気の石だった。

 

ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

 

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けて啜った。

すると体の内に感じていた鈍痛や、靄がかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

 

ハジメは知らないが、実はその石は【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を【神水】と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

「これなら……」

 

ハジメは錬成によって【神結晶】を一欠片も残さずに岩壁から取り外し通ってきた穴を広げながら日色のもとへ急いで戻った。

そして発光する鉱石のおかげでようやく日色の姿を見て、言葉を失った。

目は閉じられ、一向に開く気配はなく。呼吸は僅かに開いた口で必死に酸素を取り込もうと口が小さく上下を繰り返している。

そしてなにより、あの爪熊にハジメを庇って切り裂かれた胸は悲惨だった。

胸を右肩から斜めに斬り裂かれ、傷口は今も大量出血を引き起こし服を紅く染め、所々に少しだけ骨すら見える。もはや今生きていることすら奇跡だった。

あの時、日色が咄嗟に文字魔法で『守』を書いていなければ日色は両断されていただろう、しかしそれだけでは生き残れなかったのだが今は関係ないので割愛する。

 

ハジメは日色の頭をゆっくりと少しだけ上げ、その隙間に自分の片足を入れる。伸ばした自分の足の上に乗せた後、どうにか鉱石を片手で持ち上げ、滴る水滴を日色の口の中へと垂らしていく。

小さくだがコクリコクリと飲んでいく音が聞こえ、徐々にだが胸の傷が塞がっていき、呼吸が穏やかになっていく。

 

それに安堵してようやく自分達が生き残ったことを実感したハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

そして思い出した死の恐怖に震える体を抱え、体育座りしながら膝に顔を埋めた。

既に脱出しようという気力はない。ハジメは心を折られてしまったのだ。

 

なぜならハジメを餌としてしか見ていない捕食者の目を向けられてしまったのだから。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。

敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。あのような捕食者のような目でも日色が傍にいたのなら立ち向かえたかもしれないだろう。しかし、日色が切り裂かれたのを見てハジメは完全に心が折れてしまった。

 

(誰か……助けて……)

 

しかしここは奈落の底。

 

ハジメの声は誰にも聞こえず、日色は一向に目覚めない。

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

 

ハジメは壁に体を預け、手足を投げ出してボーっとしていた。

ハジメと日色が奈落に落ちた日から既に四日が経っている。

 

その間、ハジメはほとんど動かず、日色を介抱しながら滴り落ちる液体のみを口にして生きながらえていた。

と、言っても日色に神水を飲ませ、自分も飲み、何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、苦痛から逃れる為に再び液体を飲んだり、日色に飲ませてやった後、また苦痛の沼に身を沈めるサイクルを延々と続けるだけなのだが。

 

神水は服用している間は余程のことがない限り服用者を生かし続けるものの空腹感まで消してくれるわけではなかった。死なないだけで、現在、ハジメは壮絶な飢餓感と幻肢痛に苦しんでいたのだ。

 

(どうして僕がこんな目に?)

 

ここ数日何度も頭を巡る疑問。

 

痛みと空腹で碌に眠れていない頭は液体を飲めば回復するものの、回復してクリアになったがために、より鮮明に苦痛を感じさせる。

もう何度、そんな微睡みと覚醒を繰り返したのだろうか。

 

「こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……」

 

そう呟いてから、ハジメは傍で眠っている日色の顔を思い出し死ぬ訳にはいかないと思いながら、意識を闇へと落とす。

 

日色はまだ目覚めない。

 

 

それから更に三日が経った。

ピークを過ぎたのか一度は落ち着いた飢餓感だったが、嵐の前の静けさだったかのように再び、更に激しくなって襲い来る。幻肢痛は一向に治まらず、ハジメの精神を苛み続ける。まるで、端の方から少しずつヤスリで削られているかのような耐え難き苦痛。

 

「……ひ、いろ……目を……覚ましてよ……」

「……ッ………ハッ……うッ……」

 

そんな痛みに耐えながらハジメは日色の(うな)されている声を聞いて、虚ろな瞳を日色へ向ける。

もはやハジメは精神的に限界が近く既に正常な思考が出来なくなっていた。

パタリと日色の横で倒れ、空っぽな瞳でもはや焦点が合わず霞んでいる視界の中、小さくうわ言を呟く。

 

「……また……あの……時の…よう……に、……笑っ……て……」

 

そうしてハジメは再び意識を闇へと落とす。

かつての日常を思い出すように。

 

 

 

 

 

そして、夢を見た。

 

 

 

 

 

明晰夢、というものがあるらしい。

睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことであり、夢の状況を自分の思い通りに変化させられるらしい。

 

だとすれば、今の状況は明晰夢なのだろうか、とハジメは他人事のように思う。

 

窓辺から差し込む黄昏色の夕日の光が電気のついていない無人の教室の灯りとなって、机を照らす。

そんな中自分の席である窓側から二番目の最後尾の席でハジメは座っていた。

別にハジメは自ら座ったわけではない、奈落の底で眠ってただ気がついたらただ一人席に座っていたのだ。

 

あの爪熊に食わせた左腕も元通りに存在している。

ハジメは最初、さっきまでの記憶……すなわち異世界に飛ばされたなんてことは夢で、本当は放課後、夕日の光を浴びながら眠っていただけではないか、それで皆が先に帰ってしまっただけなのではないか、と思っていた。

 

そんなわけないのに。

 

あの傷ついた日色の姿が、あの切り裂かれる瞬間が今でもハジメの脳裏にこびり付いて離れていないのだから。

 

では、だとすればここは一体どこなのだろうか?やっぱり、夢なのだろうか?

 

そんな内心で思った疑問に答えるように、突然前方から声が聞こえた。

 

『――まぁ、夢かといえばここは夢の部類に入るだろうね』

「ッ!!?」

 

そうハジメとまったくの()()()で語る声の主へとハジメはバッと顔を上げ、向ける。

そして、ハジメの視界に声の主の姿が目に映るとともにハジメは無意識に歯を噛み締める。

茶髪の混じった黒髪がハジメと同じ寝癖無く少し外側に跳ねたショートカットに纏められ、ハジメと同じ制服を着て、顔つきも全くの瓜二つ。

ただし、雰囲気とその瞳の色は対極だった。ハジメは気弱でオドオドとした印象を与えるような雰囲気を与えるのに対し、目の前の少女はその真逆、濁りに濁った紅色の瞳は何もかもを憎むかのような禍々しく、雰囲気は昏く、冥く、暗い。

もし、ハジメを知っているものが見たのなら確実に別人だと答えるだろう。

それほど、両者は決定的に違っていたのだ。

 

そんなあまりに変わっている『彼女』は、『ナグモハジメ』は南雲ハジメの到来を歓迎するかのように笑う。

 

『ようこそ、【南雲ハジメの世界】へ。そしてこの姿では初めましてだね、(南雲ハジメ)?』

 

彼女はそう言って壊れきった笑みを浮かべたのだった。

 

 

『……とは言っても、流石にボクも此処に来るとは思っていなかったけどね。本来此処は絶望の深さがボクに近くなければ来れないはずなんだけどなぁ?ボクだって日色が傷ついたことに動揺したけど今の君には正直言ってがっかりだよ』

「……黙って」

 

やれやれと呆れたように呟く『ナグモハジメ』にハジメは『ナグモハジメ』を親の仇の如く睨み、小さく呻くように言い返す。

そのようなハジメの態度に『ナグモハジメ』はハァ、とため息を吐く。

 

『またその反応?いい加減、ボクも飽きてきたよ』

「……うるさいっ、僕はお前に関わっている暇なんてないんだ。早く目覚めて日色を――『助けるって?』ッ!?……そうだよ!」

 

ハジメの声に被さるように呟いた『ナグモハジメ』の言葉にハジメは同意の意を示すと『ナグモハジメ』はへぇ、と呟いてピョンと座っていた机から降りた。

 

『なるほどねぇ……なるほどなるほど』

 

まるで何かに納得したかのように何度もなるほどなるほど、と呟いてハジメへと歩んでいく。

 

『つまり君は日色を助けたいと言うんだね?早く起きて日色にあの謎の水を飲ませなければ、と』

「……何が言いたいの?」

 

ハジメには『ナグモハジメ』の言いたいことが理解できなかった。

日色を助けたいのは当たり前だろう、ハジメにとって日色は大切な人なのだから。

日色を助けるにはあの水を飲ませるしかないのだ、だから早く起きないと――ッ!!?

 

そう思うハジメの目の前まで『ナグモハジメ』はなるほど、と呟いて直後笑顔でこう言った。

 

 

 

 

『嘘つき♪』

 

 

 

呼吸が止まった。

目の前の少女がハジメには何を言っているか理解できない。

嘘つき?僕が?コイツは一体何を言っているんだ?

 

「――なっ、何言ってッ!!?」

『やれやれ、ボクは君から生まれた人格だよ?君の本心なんて知っているに決まっているじゃないか。日色を助けたい?――嘘をつくなよ、君の本心はもっと醜い。君はただ日色に褒めてもらうことに存在意義を見出して行動しているに過ぎないんだ』

 

思考が空白に染まった。

心のどこかで何かが目の前のコイツの言葉を聞くことを拒絶している。

だというのにハジメの身体は一向に動かず、『ナグモハジメ』の言葉を何もせず聞くことしかできない。

 

「ち、違ッ――」

『いいや、違わない。君の行動原理はそれだけなんだよ、『(南雲ハジメ)』。日色が、いやヒーロー(自分を救ってくれる人)が、助けてくれるような悲劇のヒロインを演じて、その人が褒めてくれるような行動を起こす、君の行動原理はただそれだけなんだ』

 

『ナグモハジメ』は嗤う。未だに目を背けている『南雲ハジメ』を侮蔑するように。

『ナグモハジメ』は嗤う。自分の醜い欲望に気づかない『南雲ハジメ』を嘲笑う様に。

そんな彼女の言葉にハジメは自制が出来ないほど身体が震えていた。

 

『君にとって世界は日色と……あとは両親だけかな?君にとってそれ以外の人は興味すらないもんね、例え日色以外のクラス全員が全員死んだとしても君は悲しんだりしないだろう?……あぁ、ごめん、間違ってた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そ……ん、な……わ、けが……ちがッ……ぼ、僕は……」

 

止めろ、これ以上言わないでくれ。

ハジメの何かが壊れていく、崩れていく。

もはや、ハジメの心は壊れかけていた。

 

『日色に嫌われないように、日色に褒められるように友達も作ったんだよね。えーと、確か白崎香織と八重樫雫、だっけ?よかったね、友達が出来て!嬉しかったよね、何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

 

そう、それこそがハジメの本質。

ただ日色に褒めてもらいたい、お前がいてくれてよかったと言って欲しい。

逆に言えばハジメにとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『だから、日色のあの水を飲ませようとしているんだよね。何故なら水を飲ませるだけだ。日色が目覚めてくれたらきっと褒めてくれるはずだから!本当なら最善は命懸けで魔物を倒し、日色の周りの安全を確保することなのに、もし日色に拒絶される可能性が怖いから!』

「もう止めてッ!!」

 

そして遂にハジメが制止の言葉を叫んだ。

もはや今のハジメには元の姿の面影もない、まるで怯えた子犬のように椅子の上に膝を折りたたんで『ナグモハジメ』の声を聞かないように耳を塞いで震えている。

そんなハジメの姿を見て『ナグモハジメ』は溜息を吐く。

 

『……それでどうするの?このままだと日色は死んじゃうよ?』

「…………………………え?」

 

その『ナグモハジメ』の言葉に呆然といったように反応し、顔を上げると『ナグモハジメ』の姿は消え、そこにはさっきまでの教室ではなくなっていた。

変わった場所は一言で言うならば葬式だった。

目の前には白い棺が鎮座して、その奥の段には数々の花が刺されており一枚の写真が飾られている。

だけど、その写真に写っていたのは――

 

 

「        ぇ               ?         」

 

 

あまりにその写真に見覚えがありすぎてハジメの口から疑問の声が場違いのように呟かれる。

ハジメはもはや無意識のようにフラフラと棺へと歩き出す。

そして、ゆっくりと柩の蓋へと手を持っていき、勢いよく棺を開け中身を視認した。

 

「            ぁ  ぅ     ッ      ぁ    ぁ、ぁあああ――――――――――ッ!!?」

 

目の前に映された光景にハジメは一歩、そして二歩と後ずさり、ドサりと尻餅をついてしまう。

そんなハジメに現実を認識させるかのように背後で『ナグモハジメ』は語る。

 

『君が飲ませた謎の水は確かに凄い回復効果があった。だけど、だからこそ問題なんだよ、あんな日色の重傷を一気に治してしまったら体力が無くなって衰弱してしまうに決まっているだろう?もしかしたらあの謎の水は本来衰弱はしない、万能な回復薬かもしれない。だけど、アレ程の傷を一気に治してしまえば衰弱で死ぬ可能性も少なくはないんだよ』

 

そう語る『ナグモハジメ』の声などハジメには届いていない。

なぜなら、今ハジメの目の前で、棺の中に死んだように眠っているのは――

 

――ハジメの大切な、神代日色なのだから。

 

「ぁあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!?」

 

ハジメの壊れた絶叫が辺りに響き渡る。

ハジメの瞳が節操なくギョロギョロと動き回り、止めどなく涙を溢れ出しながら、髪を何度も掻き毟っていく。

この光景を見るだけでハジメにとって『神代日色』がどれだけ大切な存在かがわかるだろう。

 

しかし、そんなハジメへと淡々と『ナグモハジメ』の声が響く。

 

『それは君のせいで起こる可能性の一つの出来事だよ。君がこのまま悲劇のヒロインを気取ったままで日色に甘え続けれるほど世界は甘さも優しさも救いもないことぐらい、嫌でもわかってるはずでしょ?』

 

そう『ナグモハジメ』が呟き、右手を無造作にパチンっと鳴らすと再び景色が変わる。

 

爪熊によって斬り裂かれ血溜まりに沈む日色の光景。

異世界で見たような鎧を着た騎士達に斬り裂かれた日色の光景

大量の狼の魔物に肉片も残らず全身を蹂躙され地面に血痕しか残らない光景。

 

『だけど君は甘え続けた、日色の為だと嘘をついて。それでこのザマだよ、こんな取り返しがつかなくなるあの時になっても君は甘え続けてた』

 

他にも、他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも他にも。

 

何度も何度も数々の悲惨な光景がハジメの目の前に映し出される。

 

『日色は、君のせいでこうなっているんだ。わかってるでしょ?』

「―――――――――――――――」

 

そして元の教室の光景に戻った時には既にハジメには言葉をあげる気力すら無くなっていた。

あまりの悲惨な出来事の連続に、元々精神的に限界に近かったのが遂に限界を超えたのだ。

まるで糸の切れた人形のようにへたり込んで『ナグモハジメ』の言葉にすら何の反応すら示さなくなってしまっている。

 

『それでも君が日色に甘え続けるっていうならさ――』

 

そんな何の反応も示さないハジメに『ナグモハジメ』はコツコツと音を立てながら近づいてきた。

そして――

 

『――もう、ボクが代わりに終わらせるから死んじゃえよ』

 

――ハジメを押し倒しマウントを取るとともにハジメの喉元を掴み力強く締め始めた。

 

「――――ガッ!?――――ッ!!」

『ボクにとっても(南雲ハジメ)にとっても、日色には死んで欲しくない。だからこのまま日色の邪魔になるのならいっそのこと君は()()()()()()()()()

 

眼を見開き、呼吸を行おうと何度も口を開口させるハジメに対し『ナグモハジメ』は無表情で更に絞める力を強めていく。

ハジメは一切抵抗しなかった。なぜならハジメは自分の本質を知ってしまったから、自分が日色に甘えているだけだということが理解できてしまったのだから。

そして――

 

【―――、――――――――。――――、――――】

 

――どこからか、懐かしい大切な人の声がハジメの脳裏をよぎった瞬間。

 

『さようなら、(南雲ハジメ)

 

グキリッ!と骨が折れる音が響いた。

 

 

 

 

 

グキリッ!と骨が折れる音が聞こえた。

 

その音は確実に折れた音であり、もし首ならば確実に死んでいるだろう。

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

『―――なッ!?』

 

骨を折ったのがハジメであり、手首を折られ、驚愕しているのが『ナグモハジメ』だったが。

 

「―――ッ」

 

ハジメは『ナグモハジメ』の手首を折ったと共に『ナグモハジメ』の腹を蹴り飛ばし、マウントを逆転させる。そのままさっきの出来事を逆転するように今度はハジメが『ナグモハジメ』の首を絞め始めた。

 

『どう……いう……こ、と……?まだ、日……色に……甘える、つもり……?』

「…………思い、出した」

『……何?』

 

困惑する『ナグモハジメ』にハジメは大切な思い出を思い出すように語っていく。

 

「……昔、日色と約束したんだ。【いつか、俺が困った時お前が助けてくれ】って、【お前にしかできないことはある】って。こんな僕を……頼りにしてくれたんだ」

 

ハジメが思い出したのは自宅で日色と勉強会を行ったあの日のこと。ハジメの灰色の世界を彩らせて救ってくれた日色との約束。

 

【いつか、俺が困った時お前が助けてくれ。これは貸しだ、絶対忘れるなよ】

 

何故なら約束とは互いに取り決めを行い、その内容を実行すること。

つまりそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

故にハジメは立ち上がった、立ち上がることができた。

 

「――だからこんなところでは消えるわけにはいけないっ、僕は日色に大きすぎる借りを返すんだ!」

『それ……は、……彼なりの……優し、さ……だ、よ。結、局…君は……日色に、甘えているだけ……じゃないかッ!』

「違うッ!」

 

憎しげにハジメを睨みつけながら自分の喉元を締め付けるハジメの両腕を手首の折れていない片手で掴み、引き離そうとしながらハジメの本質をつく『ナグモハジメ』の言葉にハジメは断固引かず否定する。

 

「――僕はもう逃げない。僕は、()は……世界から日色を()()()()!」

『―――――』

 

そうハジメは宣言した。

()()()ではなく()()、と

日色に甘えるのではなく、嫌われないように顔色を伺いながらヒロインを演じるわけでもない。

この世の全ての理不尽から日色を守る、とそう宣言したのだ。

それを聞いた『ナグモハジメ』は目を細め、瞬間。ハジメの両腕をそんな細腕で、しかも片手でありながらありえない力を使って自分の喉元から引き離す。

 

「――ッ!?」

『ハハッ!守る?守るだって?――ふざけるなよ』

 

『ナグモハジメ』は握っているハジメの両腕を自分の喉元から離し、それに動揺したハジメの一瞬の隙をついてハジメの左腕を握りしめて一息で()()()()()()

 

「――ぁグガッ!!?」

 

爪熊に切り裂かれた時と同じように再び左腕から灼熱に溶けた真っ赤な鉄の棒を傷口に入れられぐちゃぐちゃに掻き回されたかのような激痛が奔る。

そんなハジメに『ナグモハジメ』はまるで様々な感情が一気に浮かび上がったような表情で歯を食いしばり、ハジメへと叫ぶ。

 

『何が守るだッ!誰かを傷つけることができない偽善者がっ!昔も、そして今も一切抵抗せず、記憶も思いも全て()()()()()()()()()()()()()()()!』

「――ッ」

 

それはまさしく切り捨てられた者の叫びだっただろう。

そう言って、『ナグモハジメ』はハジメを足で突き飛ばし、体勢を崩させる。

そして倒れたハジメへとどこから取り出したのか右手にナイフを逆手に持ち、一息で振り下ろした。

 

『――そんな奴が今更っ、何を守れるって言うんだッ!』

 

そんな万感の叫びと共に振り下ろされたナイフは寸分違わずハジメの喉元の寸前で停止していた。

もはやあと少しのチカラでナイフを押し込むだけでハジメの喉元は貫かれ、呼吸ができなくなり死に至るだろう。

しかし、どれだけ経ってもハジメの喉元へとナイフが押し込まれることはなかった。

 

「……………………」

『………………ねぇ、一つ…聞いていい?』

 

何故なら、既に『ナグモハジメ』の腹へ『ナグモハジメ』が持っているナイフと全く同じナイフが刺さっていたのだから。

当然、それを行なったのはハジメだ。ナイフを振り下ろされる寸前、まるで空中から現れたかの様に右手に現れたナイフで『ナグモハジメ』の横腹を刺したのだ。

カシャンと『ナグモハジメ』の手からナイフが零れ、床に落ちたと同時に徐々にナイフが刺さった『ナグモハジメ』の横腹から血が流れ、彼女の服を紅く染め上げていく。

しかし、そんな傷を受けてもまるで痛みを感じないかの様に『ナグモハジメ』は変わらない声色でハジメへと質問する。

 

『……どうやって、敵から日色を守るつもりなの?日色からの拒絶を恐れて誰かを傷つけることが出来ない君が?』

「だったら――私が変わればいい。私が変わって敵を殺して日色を守る、ただそれだけだから」

『――その生き方は、日色に拒絶されるかもしれないよ?』

 

そう、ハジメが選ぼうとしている道はまさしく修羅の道だ。

生きる為に、日色を守る為に必要だから日色の生存を脅かす敵は全て滅殺する。

そんな生き方をすればきっと日色に拒絶されるだろう。

だからこそ『ナグモハジメ』は問うのだ。

それでいいのか?と

 

「構わない」

 

答えは是だった。

ハジメは何の躊躇もなく、何の動揺もせず、即答した。

日色のために、例え日色にすら拒絶されたとしても日色の敵を滅殺する道を選んだのだ。

 

「私は、それで日色が守れるのなら、それで日色が幸せならそれでいい!」

 

この時、この瞬間、南雲ハジメは優しく穏やかで、対立して面倒を起こすより苦笑いと謝罪でやり過ごす南雲ハジメは完膚無きまでに豹変した。

 

否。

 

これは決して豹変ではない。これこそが本当の『南雲ハジメ』なのだ。

ただ今まで日色に拒絶されることを恐れ、ありふれた少女を演じていただけなのだから。

 

神の強いた理不尽も、魔物の敵意も、世界なんてどうでもいい。

 

大切なのは『神代日色』だけ。

だから彼のためならばクラスメイトだろうと、世界だろうと、なんであろうと滅殺する。

例え拒絶されても構わない、嫌われても構わない、それで日色を守れるというのなら。

 

例えるならば今までの『南雲ハジメ』は鞘だ。波紋を隠し、刃を隠し、世界から逃げていた臆病者。

だが今の『南雲ハジメ』にはその鞘はもう無い。幼き時から溜め続け、鋭く強く、そして鋭利に森羅万象を尽く斬り裂き滅殺するが如き儚くも美しく、禍々しくも輝く呪いの妖刀だ。

 

『……そう、だったらせいぜい頑張りなよ』

 

そのハジメの決意に『ナグモハジメ』は小さく笑った。

スッと立ち上がり、横腹から溢れ続けている出血すら無視してハジメから距離を取るように歩いていく。

 

『だけど、その道を選んだ君はいつか必ずボクと同じように絶望する』

「何…言ってるの?」

『――ただの忠告だよ。気にしなくていいさ』

 

ハジメの疑問の声に言葉を返すと共に『ナグモハジメ』はクルッと背後のハジメへと振り向いて、笑顔を向けた。

その笑顔はあまりにも狂っていて、壊れていて、絶望していて、そして何よりも――

 

『それじゃあね、(南雲ハジメ)。せいぜい足掻くといいさ、応援してるよ?』

 

――ありふれた少女が泣くのを必死に堪えているようにハジメには見えた気がした。

瞬間、ハジメの視界がまるでテレビの電源を消したかのように一本線に収縮し、プツリと意識を失った。

 

 

「……………ぅ………………っ?」

 

ハジメは右手から感じる冷たい液体の感覚に目を覚まし、ゆっくりと瞼を開いた。

薄暗い視界の中、神結晶の青い輝きが周囲を微かに照らしている。

どうやらハジメが触れた冷たい液体は地面の窪みに嵌めた神結晶から溢れた神水のようだ。意識を失う寸前に見た時より神水の水溜りの深さが増している為、1、2日ぐらいは眠っていたのかもしれない。

 

「……………………ッ………グッ………」

「――日色っ」

 

日色の呻き声を聞くと共にハジメは慌てて起き上がり神結晶へと手を伸ばす。

1、2日意識を失っていたと言うことはそれまで日色に神水を飲ませることが出来なかったことに他ならない。ハジメの身体はすっかり弱っていてろくに力が入らなかったが、どうにか右手だけで神結晶を持ち上げ、いつものように日色の口へと神水を飲ませる。

ようやく、日色が規則正しい呼吸に戻ってきたことで一息つく。

 

「――――――ッ」

 

すると同時に再び忘れていた飢餓感と幻肢痛がハジメに襲いかかる。

ハジメはその苦痛に少し顔を歪めるが、その苦痛を無視して倒れている日色の手を握る。

かつて日色の手に触れた時に感じた体温程暖かくは無かったがそれでも恒温動物特有の体温を感じ、ハジメは頰を緩ませる。

 

そう、生きている。日色はまだ生きているのだ。

ならば自分がどうするべきか、などは考えることもなく理解している。

 

ハジメは弱った身体を動かし、地面の窪みに溜まった神水を犬の様に直接口をつけて啜った。飢餓感も幻肢痛も治らないが、体には活力が戻ってくる。

ハジメは、濡れた口元を乱暴に拭うともう一度眠っている日色の顔を見て、優しく微笑んだ。

 

「待ってて、日色」

 

そして瞬間、ハジメの表情は一変する。瞳をギラギラと光らせ、小さく歪んだ笑みを浮かべる。まさにかつてのハジメを見たのなら豹変という表現がぴったり当てはまるだろう。

禍々しくも美しい笑みを浮かべながらハジメは錬成を始めながら宣言するように呟いた。

 

「――日色は、私が守るから」

 

奈落の化物が生まれる時は近い




うん、自分でも何を書こうとしているのかさっぱりわからないね!(遠い目)
というかこれって豹変というのかなぁ?

まぁ、補足説明をしますと今までのハジメちゃんは基本的に日色の前以外では本心を言っていません。香織や雫達と親しくしているのはそうすると日色に褒めてもらえると思っていたためありふれた少女を演じていただけなのです。
ハジメちゃんは日色に健気に尽くしていますがあくまでそれはありふれた少女としての範囲であり、日色に微かでも拒絶される可能性があるのならそのような行動をしません。
外に出ず日色に神水を飲ませていたのは恐怖で出ることができなかったのではなく『ありふれた少女ができる行動範囲』から超えていたからです。
要は今までのハジメちゃんは『日色に褒められるよう健気に尽くすがあくまでありふれた少女の行動範囲でしか動かず、日色に拒絶されることを極端に恐れている』というわけです。
しかし、これからのハジメちゃんは『日色に拒絶されても日色が守れたならそれでいい』と開き直りました。ですからこれからの行動はまさしく豹変といったような行動をするでしょう。……筆者はそう動かしたいです。

ところで豹変したハジメちゃんの口調……ちゃんとクールになってますかね?


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魔王の生誕

こんにちは、おそらく今年最後の投稿をするアルテです。

ようやくここまでたどり着くことができました!ハジメちゃんの豹変後の姿を何度想像したか……

まぁ一つハジメちゃんの口調が安定しない問題があるんですが……

そんなわけで今回はハジメちゃん一人による戦闘回&魔王の誕生です。
もちろんのこと日色は空気、え?勘違い?何それ美味しいの?

ハジメちゃんの豹変後の容姿のイメージは後書きで書いてます。異論は認めない。

それではどうぞ( ´ ▽ ` )


迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

二尾狼は単体ではこの階層の魔物の中で最弱である為、4~6体で群れで行動する習性がある。故に二尾狼は連携によって単体の弱さを補っているのである。

彼らは周囲を警戒しながら岩陰に隠れつつ移動し、絶好の狩場を探していく。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せなのだ、突然の強襲で獲物が動揺した隙に集団の連携で獲物を仕留める。これが二尾狼の一般的な狩り方である。

 

しばらく彷徨いていた二尾狼達はやがて納得のいく狩場が見つかったのか各自別れ、それぞれの岩陰に潜んだ。

そのうちの一体が岩と壁の間に体を滑り込ませジッと気配を殺す。あとは獲物がやってくるのを待つだけなのだが何やら違和感を感じた。

二尾狼は狩の成否の要は連携である為、ある程度は繋がりを感じることができるのだ。

明確に意識を疎通できるわけでは無いが仲間がどこにいるのか?どんな感情を抱いているのか?何をしようとしているのか?が大まかにわかるのだ。

 

だがその感覚がおかしい、群れの中の一匹が忽然と消えてしまったのだ。

二尾狼は不審に思い伏せていた身体を起き上がらせようと力を入れた直後、今度は仲間の悲鳴が聞こえた。消えた仲間と同じ壁際にいた一体から焦燥感が伝わってくる。

何かに捕まり必死に脱出しようともがいているようだが中々抜け出せないようだ。

 

それに救援に駆けつける為と二尾狼は立ち上がろうとするが瞬間、再びもがいていた一体の気配が消え失せる。

慌てて、二体は二尾狼が消え失せた場所へと向かい、辺りを見回すが何もおらず困惑しながら、消えた二体が潜んでいた場所へ鼻を近づけフンフンと嗅ぎ、手掛かりを探そうとする。

 

しかし次の瞬間、地面がグニャアと凹み、同時に二尾狼二体を覆い尽くすように壁がせり出した。

咄嗟に二尾狼は跳び退こうと足に力を入れるが、その前に沈んだ地面が戻り、足を地面に固定されてしまう。しかし、所詮ただの地面だ。これくらいなら直ぐに破壊し脱出できるだろう。

 

だが、地面が凹むという突然の現象に二尾狼は一瞬だが対応が遅れてしまう。勿論襲撃者はその隙を決して逃すわけがない。

 

「グルァア!?」

 

まるで地面に溶けるかのように壁が二尾狼を覆い、瞬く間に地面へと引きづり込んでいく。

二尾狼は足が固定されていることで何の対応もできず悲鳴をあげて引きづり込まれるしかない。そして最後には、元の平らな地面しか残っていなかった。

 

そして入れ替わるかのように新たに壁がまるで溶けるが如く穴が開いて中から人が現れた。

 

「これで全部……かな?」

 

そう、ハジメだった。日色を守る決意をした日から飢餓感も幻肢痛も全て捩じ伏せて、神水を飲むことで魔力を回復させ、錬成の鍛錬を延々と行っていたのだ。

あくまでハジメの武器は錬成だ、このまま外に出ても死ぬのがオチだということを悟ったハジメは魔力を神水で回復させ、もはや狂気に等しいレベルで打ち込み続けていたのだ。

より早く、より広範囲に、より硬く、より複雑に、と。

 

元々技能[+高速錬成]を持っていたハジメである、丸一日軽く何千回と続けていくことで効果射程範囲は七メートルに増え、一度の錬成範囲は五メートルで可能になり、簡易な剣や槍程度の武器も数秒で作れるようになっていた。もっともあくまで錬成である為土属性魔法のような直接的な攻撃力は皆無なのだが。

 

そしてハジメは神水を石を加工した容器に入れ、錬成を用いて隠れながら迷宮を進み標的を探していた。今ハジメが欲しいのは日色の安全のために己の力が通用するかどうかなのだ、このまま迷宮の魔物を殺せなければ日色を守ることなど決して不可能なのだから。

そこで見つかったのが二尾狼達である。二尾狼達が岩陰で獲物を仕留めようと待ち伏せしていたのを見つけた為、それを逆手に取り逆に地面に引きづり混んだのである。

 

「さてっ……と、まだ生きている?……まぁ、私の錬成で仕留めれるとは思っていないけど」

 

そう言ってハジメは足元の小さい穴から中にいる二尾狼を覗く。その奥にはまさに壁の中とでも言うように周囲を石で固められ身動き一つできない二尾狼達がいた。完全に周囲を石で囲まれている為焦燥の滲んだ低いうなり声を上げるしかない。

その光景にハジメは「…やっぱりね」と呟きながら小さく溜息をつく。

以前、ハジメは孤立した魔物を落とし穴に落とし、底に石の刺で攻撃したことがあったがその時も突き破る速度も威力も足りず結局は断念することとなった。

 

「……【錬成】」

 

ハジメは右手を壁に当て、錬成の魔法を酷使する。作るのは簡素な槍だ、だが先端を螺旋状に変え持ち手の部分に手に持てるハンドルを取り付ける。

空色の魔力を迸らせながら約3秒で片手で扱える簡素な細い石槍が出来上がる。

ハジメは出来上がった石槍を軽く一、二回クルクルと片手で回転させた。

 

「まぁまぁ、ね――ん?」

「グァアッ!!」

 

ふと声がした方へとハジメは振り向くと視界の先には二体の二尾狼が此方へと向かってきていた。どうやら群の数は合計で6体だったらしい。

 

「…まだ居たのね」

 

そう呟いてハジメは槍を自分の右脇に通して、槍を構える。

元々槍など使ったことなどないのだ、構えなど適当だが生憎と此方は槍を相手に()()()()()()()()()()

 

すると、真っ先に此方へと向かってきた一体が一気にハジメへと距離を詰め、飛びかかってきた。その速度は流石に蹴りウサギ程ではないが視認は出来るものの避けれる速度ではない。

 

「グルァ!!」

「……ッ!」

 

だからハジメは躊躇せず槍を盾の様に前に出し背後へ跳ぶように身体を後ろへと傾けた。

避けられないのならいっそのこと逆らわず勢いを逸らそうとしたのだ。自ら後ろに下がることで襲い掛かる衝撃を和らげ、誤って槍を落としたり、吹き飛ばされないようにするためのハジメの策である。

その策が功を奏したのだろう、後ろへと飛んだことで二尾狼の突撃の衝撃を和らげることができ、ハジメの貧弱な力で――しかも片手でありながら槍を落とさず防ぐことができた。

 

「――はぁッ!」

 

そして、その攻撃の直後に出来た隙を決してハジメは逃さない。

二尾狼の飛びかかりを防いだことで二尾狼の身体が重力に従い地面へと着地した。

その着地する瞬間を狙いハジメは槍を叩きつけるように片手で振るう。それは別に槍術を学んだ者が見れば確実に初心者だと分かり、そのような振り方では決して魔物を仕留めることなど出来はしない、それ程の拙い槍の扱い方だ。

だが、ハジメの狙いは槍で魔物を斬殺するわけでも、刺殺するわけでも、撲殺するわけでもない――

 

「ギャンッ!?」

「――ッ、【錬成ッ】」

 

――錬成による捕獲である。

 

ハジメの振るった槍が二尾狼の胴体に直撃すると共にハジメの手袋から水色の魔力が石槍を伝わり――二尾狼の胴体に直撃した時に触れた()()へと流れていく。

瞬間、再び二尾狼を地面が喰らうかのように二尾狼を中心に壁が覆いかぶさり、二尾狼が悲鳴を上げる間もなく先ほどと同じように地面に飲み込まれた。

ハジメの錬成とは対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、敵の眼前でしゃがみ込み、地面に手を突くという自殺行為をしなければならないがこれには抜け道が存在する。

 

それは地面を錬成される時に地面と同じ材質でできた物を地面に触れさせて錬成すればわざわざ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何故なら錬成とは魔力を対象に流して物質の形を変えて、加工を行うことができる。それはつまり錬成の魔法を用いることで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこそ、同じ材質のものならば介して錬成を行うことができるのである。

 

ハジメは二尾狼が地面に飲み込まれたことを確認すると共にすぐさまもう一体の方へと視線を向ける。

もう一体の二尾狼はハジメが油断ならない相手だと認識したのか、グルルと唸りながらその尻尾を逆立てる。すると、その尻尾がバチバチと放電を始めた。どうやら固有魔法を使うつもりのようだ。

 

「そんなこと――「グルゥア!!」――させるわけ無いでしょっ!」

 

咆哮と共に電撃がハジメへと放たれる瞬間、ハジメは一本の矢と化した。

まるで短距離走のスタート体勢のように身体を沈ませ、槍を一直線に二尾狼へと向ける。

そして、ハジメは自分の足元へ二尾狼めがけて石壁を錬成した。そう、あのベヒモス戦で使った[+高速錬成]による射出錬成である。

槍は矢尻、ハジメはシャフト、そして羽は錬成による石壁だ。蹴りウサギの飛び蹴りに引けを取らない速度でハジメは加速し電撃を放とうとした二尾狼へと直撃、そのまま突き進み、二尾狼の背後に存在する壁に激突した。

 

「グルァアアー!?」

「これでも死なないの?……硬すぎ」

 

ハジメは肩が外れたのではないか?と思わせるほどの右腕から奔る衝撃に顔を歪めながら嘆息する。

ハジメの突進を食らった二尾狼は決して軽症ではないが未だ健在だった、魔物は強くなればなるほど硬いというのが基本なので、この二尾狼の皮膚は今までの魔物よりは圧倒的に硬いのだろう、硬い皮膚はなんとか貫けたが皮膚にエネルギーを使いすぎたのだろう、槍は微かに体内を傷つけただけで済んでしまったようだ。

まぁ、それを認識した途端ハジメは錬成で槍の形状を変化させ壁と結合させることで身動き一つ取れないようにしたのだが。

 

これで全部の二尾狼の群れを捕らえたことを確認したハジメは再び錬成を用いてさっきと同じ槍を生み出す。

 

「あとは……掘削っと」

 

そしてさっき捕らえた二尾狼へと近づいてハジメはその槍を突き立てた。硬い毛皮と皮膚の感触がして槍の先端を弾く。

 

「やっぱり刺さらない……か、まぁ想定内だけど」

 

そうしてハジメは槍を二尾狼に刺すと共にハンドルをグルグルと回した。それに合わせて先端の螺旋が回転を始める。そう、ハジメが作った武器は魔物の硬い皮膚を突き破るために考えたドリルなのである。

 

本来なら地面に埋めた魔物にトドメを刺すために作ったため上から体重をかけながら殺そうと思ったのだが目の前の二尾狼は壁に埋まっているため前に体重をかけねばならず、少し力が多く必要になってしまう。

そうして必死に回していると少しずつ先端が二尾狼の皮膚にめり込み始めた。

 

「グルッ!?グギッ、グガァ!!?」

 

その激痛にたまらず二尾狼が絶叫するが――

 

「うるさい」

 

――ハジメが言葉と共に顔面に蹴りを放ったため絶叫が遮られてしまう。

 

「私はお前に一ミリも興味がないの。断末魔なんてうるさいだけだから黙って死んで」

 

淡々とそう言いながらさらに前に体重を掛けドリルを回転させる。二尾狼が必死にもがこうとしているが、周りを隙間一つなく埋められているのだから不可能だ。

 

そして、遂に、ズブリとドリルが二尾狼の硬い皮膚を突き破った。そして体内を容赦なく破壊していく。断末魔の絶叫を上げる二尾狼。しばらく叫んでいたが、突然、ビクッビクッと痙攣したかと思うとパタリと動かなくなった。

 

「やっと、飯確保ね」

 

そう嬉しそうに嗤いながら、残りの5頭もトドメを刺していく。そして、全ての二尾狼を殺し終えたハジメは錬成で二尾狼達の死骸を取り出すと、安全に食事をするために片手で担ぎながら元の寝ぐらへと戻っていった。

 

 

6頭の二尾狼を運び終えたハジメは日色が眠っている寝ぐらへと戻ってくると片手に不自由しながら毛皮を剥がしていく。

 

あの時掘った洞窟は現在ハジメが拡張して二つの部屋となっており、入口はハジメがキチンと閉じてある。

部屋を二つ作った理由は簡単だ、魔物の死骸を解体する際に血の匂いで日色の体調が悪くならないようにする為である。

 

そんなわけでハジメは日色が眠っている部屋の真横の部屋で食欲を必死に抑えながら適当に毛皮を剥いだ後、必死に二尾狼の肉を咀嚼していた。

 

「あぐぅ、がぁ、オエェ!うグッ、まずいっ……」

 

緑光石の明かりが暗闇をぼんやりと辺りを照らす中、ハジメの姿は完全に野生児といった様子だ。現代の人間から見れば酷くおぞましい姿に映っただろう。

 

ハジメは悪態を付きながら二尾狼の肉を必死に喰らっている。

 

硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。およそ二週間振りの食事だ。いきなり肉を放り込まれた胃が驚き、キリキリと痛みをもって抗議する。だが、ハジメはそんなもの知ったことかと次から次へと一心不乱に齧り付き飲み込んでいった。

 

強烈な血の味と獣臭に涙目になりながらも何度も吐き出しながらも口いっぱいに詰め込み神水で強引に飲み干す。

それは決してまともの人間のするような食事ではなかったが飢餓感が癒されていく感覚にハジメは陶然とする。

飯を食えるということがこんなに幸せなことだったとは思いもしなかったのだ。夢中になって喰らい続ける。

 

どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、ハジメの体に異変が起こり始めた。

 

「ん?――っ?アギッ!?」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食され、己を壊そうとするようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「がぁあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

耐え難い痛み。何度も暗転する視界。ハジメは地面をのたうち回る。幻肢痛など吹き飛ぶような遥かに超えた激痛である。

ハジメは震える手で懐から石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぎっ!ぐがぁああッ!?――な、なんで!?なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

ハジメの体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打ちそして同時に至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

 

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。また激痛。

 

神水の回復効果のおかげで気絶することもできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

ハジメは絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。流石に死にたいとは思わないがあまりの激痛で思考が炸裂するため絶叫しながらひたすら耐えるしかない。

 

すると、ハジメの体に変化が現れ始めた。

 

まず髪から色素が抜け落ちていく。おそらく許容を超えた激痛と破綻しかけた精神のストレスが原因だろう。日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

そして神水による超回復による細胞分裂のお陰だろうか?髪が白くなっていくと同時に髪が伸び、首元までだった髪が背中ぐらいまで伸びていく。

 

続いて骨格がゴリゴリと音を立てながら動き、どこにでもいるありふれた女子の体型から最適化され、括れが細くなりそこから先の殿部はしっかりと大きく、腰つきは実に艶めかしいラインを描く女性でも羨むような抜群のスタイルへと変化していく。

 

筋肉は太くなるのではなく、筋繊維の一本一本の強靭な耐久力とそれ相応の重量を持つように変わっていき、肌は汚れ一つないのではないかと思わせるような淡い肌色になっていき、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。

そして注目の胸は平均のCカップだったのが大きくも決して邪魔にならないDカップほどになっていく。

 

超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。

怪我をすれば怪我をするたびに皮が厚くなるように、骨が折れれば骨の強度が増すように。

今、ハジメの体に起こっている異常事態も同じである。

 

魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。

 

この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出していると仮説されているが問題はこの変質した魔力が人間にとって致命的に猛毒であり、人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、ハジメもこの知識はあったのだが、飢餓感がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。

 

故に本来ならハジメは変質した魔力によって死ぬはずだったのだがあるものが原因で生き残っているのだ。

 

そう、神水である。

 

壊れたところから強烈な回復能力で回復していく、その結果肉体が凄まじい速度で強靭になっていくのだ。

 

それはまさに破壊と再生の輪廻。

 

壊れては治るたびに肉体は脈打ちながら変化していく。

その様は、あたかも転生のように脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。ハジメの絶叫は例えるならば産声だ。

 

やがて、脈動が収まりハジメはぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のように赤黒い線が数本ほど走っている。それはまるで魔物のようだった。

 

すると、ハジメの右手がピクリと動いた。閉じられていた目がうっすらと開けられる。その瞳は日本人特有の黒眼ではなく真紅に染まった美しい紅色。焦点の定まらない瞳がボーと自分の右手を見る。やがて地面を掻くようにギャリギャリと音を立てながら拳が握られた。

 

ハジメは、何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「……そういえば、魔物の肉って毒だったっけ……ハァ、迂闊だったなぁ。いや、まぁ食わずにはいられなかったけど……」

 

あまりの激痛で精神が疲れたのか疲れ果てた表情で、自嘲気味に笑うハジメ。

しかし精神とは反して肉体は飢餓感が無くなり、幻肢痛も感じなくなっていた。あまりの壮絶な痛みで消えてしまったのだろうか?

久しぶりに何の苦痛も感じず、それどころか妙に身体が軽く全身に力がみなぎっている様な気がする。

腕や腹を見ると汚れのない美しい肌色でありながらも筋肉がまるで一つの芸術品の様に現在のハジメの姿を損なわない形で綺麗に引き締まっており、腹は括れが細くなってスタイルが美しい曲線を描いている。そして実は身長も伸びており以前のハジメの身長は153センチだったのだが現在は更に10センチ以上高くなっている。

 

「私の体、一体どうなったの?というか何か妙な感覚があるし……」

 

体の変化だけでなくハジメは体内にも違和感を感じていた。温かいような冷たいようなどちらとも言える奇妙な感覚。意識して集中してみると腕に薄っすらと赤黒い線が浮かび上がってきた。

 

「う、うわぁ、気持ち悪い。まるで魔物になった気分。……洒落にならない、しかも何故か髪も伸びてるし……そうだ、ステータスプレートは……」

 

ハジメは耳にかかる伸びた髪をスリスリと弄り、ステータスプレートの存在を思い出すとステータスプレートを探してポケットを探る。どうやら無くしていなかったようだ。現在の自分のステータスを確認すれば体の異常の手がかりが何かわかるかもしれないと思ったのだ。

 

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南雲ハジメ 17歳 女 レベル:7

天職:錬成師

筋力:120

体力:315

耐性:120

敏捷:230

魔力:310

魔耐:310

 

技能:錬成[+高速錬成][+鉱物系鑑定]・魔力操作・胃酸強化・纏雷(てんらい)・言語理解

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「……なんでやねん」

 

昔のように驚愕のあまり癖で関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。ステータスが総じて急増しており、技能も三つに増えている。しかもそれでありながら未だレベル7という数値、最早理解不能である。

レベルはその人の到達度を表していると考えるとどうやらハジメの成長限界も上がっているようだ。

その中でハジメの目を惹く技能があった。

 

「魔力操作?」

 

つまりそれは文字通りに魔力を操作できると言うことだろうか?

ハジメは先程から感じるこの奇妙な感覚こそが魔力なのでは?と推測し、先程と同じく集中して【魔力操作】を試みる。

するとハジメが集中し始めると共に赤黒い線が浮かび上がり、全体に感じる奇妙な感覚――もとい魔力が右手に集まっていく。

 

「おっ、おぉ〜!」

 

なんとも言えない奇妙な感覚に声を上げながら試していると集まっていた魔力が何と右手にはめた手袋の魔法陣へと宿り始める。驚きながらも錬成を試そうとすると、詠唱も無しにあっさりと地面が凹んだ。

 

「……嘘、もしかして詠唱いらずってこと?魔力を直接操作できるのは原則魔物以外いなかったんじゃなかったっけ?……やっぱり魔物の肉を食ったせいなのかな」

 

大正解。ハジメは確かに魔物の特性を取得していたのだ。ハジメは、次に【纏雷(てんらい)】を試そうとする。

 

「……えっと、どうすればいいの?【纏雷】ってことは電気だから……確か二尾狼の尻尾の……」

 

あれこれ試すがなんの変化もない。魔力のように感じるわけではないから取っ掛かりがなくどうすればいいのか分からないのだ。

 

うーむ、と頭を捻っているとそういえば魔法適性があるものはイメージで魔法を行使していたのを思い出す。魔法陣に多くの式を書き込まなくてよい分、明確なイメージがそのまま加工物に伝わるのだ。

 

ハジメはバチバチと弾ける静電気をイメージする。すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

『超電磁砲ですね、ビリビリ女乙』

 

とあるバカがその光景を見ればきっと心の中でそう呟くに違いない。

 

「おぉっ、出来た。……なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事ってことね。というか魔力光も赤……じゃなくて紅色に変わってるし……」

 

その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。おそらく【纏雷】とあるように体の周囲に纏うか伝わらせる程度にしか出来ないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

【胃酸強化】は文字通りだろう。魔物の肉を喰って、またあの激痛に襲われるのは勘弁だ。しかし、迷宮に食物があるとは思えない。飢餓感を取るか苦痛を取るか。その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではとハジメは期待する。

 

二尾狼から肉を剥ぎ取り纏雷で焼いていく。流石に飢餓感が癒された後で、わざわざ生食いする必要もない。強烈な悪臭がするが耐えてこんがりと焼く。途中、纏雷の調整に失敗し、少し焦げてしまったがまぁ、いいとしよう。

 

そしてハジメは一瞬躊躇しながらも意を決して喰らいついた。

 

………………………………………………………………しばらく経っても何事も起こらない。

 

ハジメは次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。しかし、特に痛みは襲って来なかった。胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。理由はわからないがこれで飯を喰う度に地獄を味わわなくて済むことに拳を握った。

 

腹一杯まで肉を喰ったハジメは、保存のために他の二尾狼から肉を切り分ける。最初に比べ幾分楽に捌くことができた。肉をある程度石で作った容器に入れると、ふと自分の現状の体がどうなったか気になった為、壁から錬成で緑光石を取り出した。

現状ハジメの視界は暗闇に慣れてきているとはいえまともに自分の髪すらどうなっているのかわからないのだ、だからこそ緑光石の明るさを使って光を照り返すステータスプレートの裏側を鏡のように使って自分の顔を確かめようとしたのだ。

 

そして、すぐに後悔した。

 

「――な、な、な、」

 

ステータスプレートから鏡のように映る自分の顔は――

 

――穢れ一つない美しい白の長髪が緑光石の光を微かに反射し。

おそらく魔物のような赤黒い線が瞳にも伸びていったのだろう、暗闇にも輝くルビーのような真紅の瞳は前の自分とは別人と思えるほどギラギラと輝き鋭い。

顔つきは地球のアイドルやモデルでさえ比べ物にならなく、まさに空想の人物が現実にポンッと現れたと錯覚してしまうほど整えられている。

 

「なッ――――――――――――――――――――――――――ッッ!!?」

 

そんなあまりの厨二な姿にハジメが数分ほどフリーズしてしまったのは仕方のないことだった。

 




ハジメちゃんの豹変後の容姿はファンキルのレーヴァテインの白髪バージョンをイメージして頂ければ。
え?なぜかって?俺が一番好きだからだよッ!!!!(迫真)
あとはまぁ、短髪にしたらロンギヌスと髪型が似ていたからですね、あとは魔力光が紅色だってと白髪と銀髪って似ているよねってとこから。
ただしレーヴァテインよりかは胸は小さいです、まぁあれは大きすぎるというものもあるけど……

え?異論?そんなもん決して認めんぞ!?
やっぱりレーヴァテインちゃんマジ天使!(知ってる)


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怨敵との再会

新年あけましておめでとうございます!!アルテールです!

今年もよろしくお願いします、ということで新たに更新です。
こんな駄目文ですが今年もよろしくお願いします。

……勘違いタグ、消そうかなぁと思うこの頃。最近ハジメちゃんの容姿がレーヴァテインだと言えば感想欄が爆発的に増えたことに驚きました。さすが同志たちよ(握手)


あ、あとハジメちゃんの武器は原作とは違います。

2019年/2/8 ハジメの銃の構造を知った理由を一部変更しました。


ハジメが己の厨二姿に絶望してから数日が経過した。

 

日色が寝ている部屋に戻ったハジメは最初、魔物の肉を日色に食わせれば目覚めてくれるのではないか?と思ったが元々片腕が無くなったハジメですら悶絶してしまう程の激痛が現在の日色に訪れればショック死してしまう可能性があるため断念することにした。

 

なので次にハジメが行なったのは派生技能[+鉱物系鑑定]である。かつていつの間にか手に入れていたこの技能だが調べてみたところによると王都の王国直属の鍛冶師達の中でも上位の者しか持っていないという技能らしい。

 

通常、鑑定系の魔法は攻撃系より多くの式を書き込まなければならず、必然、限られた施設で大きな魔法陣を起動して行わなければならないがこの技能を持つ者は、触れてさえいれば、簡易の詠唱と魔法陣だけであらゆる鉱物を解析できるのだ。潜在的な技能ではなく長年錬成を使い続け熟達した者が取得する特殊な派生技能である。

 

王国では使う機会がなかったものの現状使わない理由はない、何か有益な鉱石を探すため、ハジメは周囲の鉱物を片っ端から調べることにした。例えば、緑光石に鉱物系鑑定を使うとステータスプレートにこう出る。

 

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緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

 

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なんとも簡素な説明だろう、しかし今のハジメには十分有益な情報だった。

 

それからもハジメはあちこち彷徨いながらも役立ちそうな鉱物を探していると突如、後にハジメの武器を作るのに必要な鉱石を発見した。

 

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燃焼石

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

 

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この説明を見た瞬間、ハジメの脳内に電流が走ったような気がした。

 

もしかしたら燃焼石は地球で言うところの火薬の役割を果たせるのではないか?だとしたら、攻撃には使えない錬成で最大限の攻撃力を生み出せるかもしれない!と。

そう銃火器の作成である。昔父親の仕事の手伝い中に銃の資料を見つけ、様々な銃の構造を教えてもらったことのあるハジメにはあまりにも嬉しくそして興奮する事実だった。

 

しかし容易にはいかないだろう、きっと何千回も失敗するはずだ。そう考えたハジメは大量の燃焼石を探すために幾度も二尾狼を狩るついでに集めていった。

そしてハジメがショックを受けてから2日後、いつものように燃焼石を探し集めて戻ろうとしたハジメはふと、現在自分がいる場所がどこかに気づいて足を止めた。

 

「……ここ、は」

 

そこはかつてハジメに深い絶望を与え左腕を失い、日色を切り裂いた爪熊と遭遇した場所だった。

 

「―――ッ!」

 

自然と右手を握り込む力が強くなり、ハジメの心からドス黒い殺意の感情が溢れてくる。

しかし、ハジメが変わるきっかけになったのもまたこの場所なのだ、ハジメは歯を食いしばるとさっさと元の寝床へ戻ろうとして――視界に輝く何かを見て足を止めた。

 

「あれは……」

 

慌てて近づいてみるとそこには鉄色に輝くハジメがあの時左腕を切り裂き、捨てたナイフがあった。

かつてハジメが宝物庫から錬成の魔法陣が刻まれている手袋のついでに護身用に手にとったものだったがさすが王国製とでも言うべきだろうか血跡がこびり付いているものの決して未だ刃毀れをしていない、おそらく錬成によって再利用すれば使えそうである。

 

「――まだ使えそう」

 

ハジメはナイフを手にとると共に日色とのナイフの訓練を思い出す。

思い出すとともに無意識に持ち手を強く握ってしまうが己を落ち着かせるために腰に差してある鞘にカシャンと収める、これは後に武器として使わせてもらおう。

今のところは銃を作るつもりだが、近接用の武器も必要だろう。そしてなによりも日色との訓練を無駄にしたくないから。

 

そう思ったハジメはフゥとため息をつくことで気持ちを抑え殺意を研ぎ澄ます。

あの爪熊はいつか必ず殺さなければならない、だがそれは今ではないのだ。

 

殺意を必死に押さえつけて寝床に戻ったハジメは早速作業に取り掛かった。

しかし銃を作るのは初めてなのだ、作業は難色をきわめ何千回という失敗と共に錬成はメキメキと上達していく。

 

そして遂にとある物の作製に成功した。

 

全長の長さは約65センチ、この辺りでは最高の硬度と靭性を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉の振出式(スイングアウト)である。長方形型のバレルに王国で手に入れたナイフを錬成によって研ぎ直された後姿を変え、鋭い刃としてタウル鉱石をコーティングした後、付けてある。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れているお墨付きだ。

 

すなわち大型リボルバー式の拳銃に剣を合わせた銃剣だ。

 

弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法【纏雷】により電磁加速され、小型のレールガン化させることや刃に【纏雷】を纏わせることで電磁メスならぬ電磁ナイフとして活用でき、焼き斬るように斬ることや斬ったあとに【纏雷】を流すことで敵にダメージを与えることができるという機能を持っている。

 

ちなみにレールガンの威力は最大で対物ライフルの十倍、電磁ナイフは試してみると二尾狼ですら抵抗なく豆腐を斬るように斬り裂かれた。王国の宝物庫って結構すごいのかも?と思ったハジメである。

 

「これなら……殺せる、日色を……守れる!」

 

ハジメはドンナーの他にも現代兵器を参考に作った兵器を眼前に並べて薄らと笑う。

 

ただ、剣や防具を上手く作るだけ、そんなありふれた天職〝錬成師〟の技能〝錬成〟が、剣と魔法の世界に兵器を産み落とした瞬間だった。

 

==================================

 

タウル鉱石

黒色で硬い鉱石。硬度8、靭性8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

 

==================================

 

 

「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってまずいのね」

 

現在、ハジメは拠点にてモリモリとウサギ肉を喰っていた。そう、蹴りウサギの肉である。かつて自分を見下し嘲笑った蹴り技の達人は、今やただの食料だった。ウサギということで多少はマシな味なのではと期待したハジメだったが、所詮は魔物の肉。普通に不味かった。ウサギを食べたことのないハジメはもしかしてウサギ肉は元々まずいのだろうかと疑問に思い、地球に日色とともに帰ったら美味しいウサギ料理を作ってもらおうと心に決めた。

 

ハジメはペロリとウサギを二匹平らげる。

 

【胃酸強化】を手に入れてから食べようと思えばいくらでも食べられる気がするハジメ。特に固有魔法使用後はお腹が空き収支は五分五分だった。

 

神水があれば死にはしないが、いつ切れるかわからない以上ある程度は遠慮しなければならない。

 

ちなみに、蹴りウサギは罠を張って倒した。スタート地点の川から水を汲んできて蹴りウサギを誘導、爆進して来た蹴りウサギが撒き散らした水の上を通った瞬間、〝纏雷〟の最大出力で感電させる。

 

全身から煙を噴き上げながらも、突進してきたので、電撃で鈍ったところを正面からドンナーで撃ち抜いた。

流石に、電磁加速された秒速三・二キロメートルの弾丸は避けられなかったらしく頭が木っ端微塵に砕け散って絶命した。わざわざ感電させる必要もなかったかもしれない。それくらい、ドンナーの威力は凄まじかった。

ちなみにその後もう一体出会い今度は堂々正面から戦い電磁ナイフを試してみると、蹴りウサギの蹴りを受け流すためにドンナーで触れた瞬間蹴りウサギに感電、蹴りウサギの筋肉が硬直した瞬間、ドンナーを振るえば首を切断され即死した。

 

「さてと、蹴りうさぎを食べた後のステータスは……」

 

===================================

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:10

天職:錬成師

筋力:220

体力:330

耐性:210

敏捷:430

魔力:380

魔耐:380

 

技能:錬成[+高速練成][+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 

===================================

 

やはり魔物肉を喰うとステータスが上がるようだ。二尾狼三匹目程でもう殆ど上がらなかったことを考えると喰ったことのない魔物を喰うと大きく上昇するらしい。

 

早速、【天歩】とやらを調べる。まず一番最初にイメージしたのは、蹴りウサギのあの踏み込みだ。焦点速度が間に合わなくて体がブレて見えるほどの速度。【天歩】の横に[+縮地]とあるのはその技能ではないかと当たりを付ける。縮地といえば地球でも有名な高速移動のことだ。

 

ハジメは足元が爆発するイメージで一気に踏み込んでみる。体内の魔力が一瞬で足元に集まる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し……ハジメは吹き飛んで顔面から壁にダイブした。

 

「はにゅ!?……痛い、これどうやってあの勇者達はああも自在に動けているの?」

 

一応成功したが、加減が難しい。蹴りウサギのようなカポエイラの如き動きをするためには鍛錬が必要なのだろう。銃技と組み合わせれば、きっと強力な武器になる。

 

 次は[+空力]だ。だが、これが中々発動しない。名称だけではどんな技能なのかわかりづらい。あれこれ試す内に、ハジメは蹴りウサギが空中を足場にしていたことを思い出す。

 

早速、ハジメは、踏み出した空中に透明のシールドがあることをイメージする。そして、前方に跳躍してみた。

そして顔面から地面にダイブした。

 

「ぅううううううっ!!?」

 

右手で頭を抑え、ゴロゴロと地面をのたうち回る。しばらく身悶え、痛みが引くと憮然とした表情で神水を飲む。

 

「……一応、出来た。けど痛い……」

 

前方に跳躍して顔面からダイブした原因は中途半端に足場ができたせいだった。要は躓いて転けたのである。どうやら[+空力]は空中に足場を作る固有魔法で間違いないようだ。

どうやらこれらは【天歩】の派生技能らしくなんだか得した気分だった。

 

そして次の目標は――爪熊。

 

おそらく、遠距離からの銃撃で片はつくだろうが、念の為に鍛えておく。あの化け物より強い魔物がふらりと現れる可能性も否定できないのだ。あの爪熊を倒したあとは、この階層の脱出口を探し、日色を見捨てるなんて選択肢がない以上最悪日色を背負って戦わなければならない。迷宮では楽観視した者から死んでいくのだから。

 

ハジメは気合を入れ直した。

 

 

迷宮の通路を、姿を霞ませながら高速で移動する影があった。

 

ハジメである。【天歩】を完全にマスターしたハジメは、【縮地】で地面や壁、時には【空力】で足場を作って立体的高速移動を繰り返して、空間把握能力を意図せず鍛えながらも怨敵である爪熊を探していた。

 

爪熊を殺すことはもはや決定事項だ。日色を抱えて脱出口を探す以上、この階層の中で最強でなければならない、故に一度心を砕かれた相手である爪熊を殺さなければ自分は決して前に進めない。

 

「グルゥア!」

 

途中、二尾狼の群れと遭遇し一頭が飛びかかってくる。しかしハジメの思考は一定に冷静だった。

ハジメはその場で跳躍し宙返りをしながら錬成した針金とナイフの鞘である革を合わせて作り右腰に固定したドンナーを抜き発砲する。

 

ドパンッ!と燃焼粉の乾いた破裂音が響き、【纏雷】で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。

そのまま空中で【空力】を用いて更に跳躍し天井に足を付け、視認したもう一体へと更に発砲する。

再び乾いた破裂音と共に標的となった二尾狼は頭部を粉砕されるが既にハジメはさっきいた場所から消えている。

ハジメは天井に足をつけた途端【縮地】で地面に跳躍、着地と共に三体目へと振るったドンナーの電磁ナイフが牙を剥く。

豆腐を斬るように二尾狼の首が切断され、残りの二体が突然再び現れたハジメに驚愕するが、その前にハジメがドンナーを連続で発砲する。

 

流石に全弾命中とはいかなかったがどうにか全弾撃ち尽くす前に仕留め切った。

 

ハジメは肘から先のない左腕の脇にドンナーを挟み、素早く装填する。そして二尾狼の死骸には一瞥もくれずに再び駆け出した。

 

出会っては殺し、出会っては殺す。蹴りウサギや二尾狼相手にそのサイクルを何度も繰り返しながら進んでいくとようやく宿敵の姿を発見した。

 

「――見つけた」

 

爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメは笑った、まるで子供がなくしたおもちゃを見つけたかのように笑った後悠然と歩き出した。

 

爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

 

それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなど有り得ないことだ。

ならば、この爪熊に対して瞳に絶望を映さず、己を前にして背を見せることもなく恐怖に身を竦ませる事もないこの生き物は一体なんだ?

 

「あぁ、よかった。やっと見つけた。ねぇ、私の腕は美味かった?」

 

どうしてこの目の前の生き物は嬉しそうに笑っている?

かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。

 

「散々探した、もしかしたらいないんじゃないかとも思ったわ。あぁ、でもこれでようやく――」

 

そう言いながらハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

ハジメは構えながら思い出す、日色との思い出を。そしてそれをぐちゃぐちゃに壊された目の前の怨敵を思い出す。

恐怖はある、日色がいなくなってしまうのではないかという恐怖が。

怒りはある、日色が傷つけられたことの怒りが。

絶望はある、日色が傷ついているのに何もできない自分への絶望が。

安心はある、日色が生きているという安心が。

 

ならば、全ての元凶は今ここで鏖殺しよう。

さぁ――

 

「――お前を殺せる」

 

――想いを全て、殺意に変えろ。

 

「――死ネ」

 

その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊へと一直線に迫っていった。

 

 

ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

おそらく、銃弾を見て回避したのではなく、ハジメから発せられた殺気に反応して動いたのだろう。その証拠に肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。しかし、この場合は咄嗟にハジメの殺気に反応し回避行動に映ったのはさすが階層最強の主であるといったところか。二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。

 

その一撃に爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメを『敵』と認識したらしい。

 

「ガァアア!!」

 

爪熊は咆哮を上げながら物凄い勢いで突進する。二メートルの巨躯と多く広げた太くそして長い豪腕が地響きを立てて迫ってくる姿はとてつもない迫力だ。

 

「アハッ!そう!私はもう獲物じゃない、敵だ!」

 

爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメは不敵な笑みを崩さない。

 

ここが一つの分岐点だ。ハジメの左腕を喰らい、心を砕き、変心の原因となった魔物を打ち破る。そうしなければハジメは一歩も前に進めない、己の心がどこかで『妥協』してしまう。そうなれば日色を守るなんて夢のまた夢だ。

ハジメはそう確信していた。

 

 突進してくる爪熊に、再度ドンナーを発砲する。超音速の銃弾が爪熊の眉間を狙うが爪熊は突進しながら側宙を行い回避した。その反応速度はあまりにもその巨躯に似合っていないだろう。

いや、それも当たり前なのかもしれない。何故なら図体が大きいなら動きも遅いなどというのはただのイメージに過ぎない。図体が大きいということはそれはつまり筋肉が発達しているということ。大きくなればなるほど筋肉の重量がまし、その重量を支えるために筋肉の力を使ってしまうのだ。

アリが小柄のくせに自分より大きいものを持てるのもそれが理由だろう。

 

ましてや爪熊は変質した魔力が全身に流れているため本来の筋肉の身体能力と変質した魔力による身体能力が合わさっているのだ、身体能力が高いのは当たり前だろう。

 

自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪んで見える。

 

ハジメはそれを視認すると共に脳裏にかつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が浮かび上がる。ハジメはギリギリで避けるのではなく【縮地】を用いて全力で斜め後ろに回避する。

 

「――ッ」

 

刹那、一瞬前までハジメがいた場所を豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。同時にハジメは僅かに呼気を漏らした。見ると脇腹を浅く切り裂かれ血が滴り落ちている。避けきれなかったのだ。

いくら爆発的に上昇した身体能力でもまだ総合的には反応が追いついていない。

 

爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げ再度間髪いれず追撃で襲いかかる。

 

「――チッ」

 

ハジメは舌打ちを突くとともに風の刃が殺到する。ハジメは【空力】で空中に逃れ、爪熊めがけ三度目の発砲を行ったが爪熊は右爪を地面に突き刺してまるで風車のように身体を右爪を中心に旋回させ、ハジメの紅い閃光を回避した。

 

「グルゥアア!!」

 

ハジメの銃弾を回避すると爪熊は咆哮とともに空中にいるハジメへと十字を切るように両腕を振るう。

刹那、ハジメの背筋を冷たい悪寒が奔っていく。もはや無意識に【空力】と【縮地】を用いて地面へと右斜め下に宙を蹴る。

瞬間、足に風を感じたかと思うとズバンッとさっきまでハジメがいた場所が十字に六本の格子状に削られた。

 

「――風も飛ばせるのッ!?面倒臭い!」

 

ハジメの左足の靴の端が削れ、ハジメの左足が浮き出ている。あと一瞬遅ければハジメの左足の腱が切り裂かれていただろう。爪熊の両腕の射程外にいたのに当たったということはあの風の刃は飛ばせるようだ。

ハジメは身体を宙返りさせることで顔面から地面に落下するのを回避し、地面に着地すると共に【縮地】を用いて一瞬で爪熊へと距離を詰める。

 

「死ねッ!」

「グガァ!!」

 

ハジメは【空力】で跳躍しながら爪熊の首元めがけドンナーの電磁ナイフを振るうとコンマ遅れて爪熊が対抗するように爪を振るう。

両者が重なり、再び離れると共に刃を沿うように血が放物線を描くように空中に飛んでいく。

 

ハジメは爪熊から距離を【空力】と【縮地】を用いて離すが彼女の顔色は優れない。

 

「……外したッ!」

 

苦々しくそう呟くと共にハジメの左頬が三本線で浅く切り裂かれ血が微かに零れる。それと同時に爪熊の左肩が切り裂かれた。

 

「グガァアア!!?」

 

電磁ナイフで切り裂かれたため血は出ないが軽傷は与えられただろう。本来ハジメは爪熊の喉元を狙ったのだが爪熊の風の刃を避けるために全身を捻らせ回避しようとしたため軌道が逸れてしまったのだ。

ハジメは顔を歪ませながらも再び突進してくる爪熊に今度は二度、連続してドンナーの引き金を引いた。連続して激発の音が洞窟内を轟く。

頭と胴体を狙った弾丸を流石に完全に避けきることはできなかったようで爪熊は側宙させることで致命傷は避けたが脇腹を一発貫かれたようだ。衝撃を受けて突進の軌道が逸れる。

 

「ガァアア!!」

「ッ!、しまっ――」

 

しかしそれでも巨体が砲弾の如く突っ込んできたことには限りがなくハジメは咄嗟に避けようとしたのだがズキリッ!と左足が痛んだことで一瞬動きが硬直してしまう。どうやら予想以上に風の爪の威力は左足にダメージを与えていたらしい。

足の怪我で動きが鈍ったハジメを爪熊の体当たりが直撃し、トラックにでも撥ねられたかのようにハジメは吹き飛ばされてしまった。

 

「がはっ!?」

 

地面に転がり肺の中の空気が強制的に吐き出され、何度も咳を繰り返すがハジメの口元は小さく笑っていた。

ドンナーの装填数は六発であり、既に五発使い切っている。残りは一発しか残っておらず再装填の暇を爪熊が与えてくれるはずがない。ドンナーの過剰な殺傷力がなければハジメのスペックでは未だ爪熊に叶う相手ではない。

しかし、ハジメの口は小さく笑っていた。

 

何故なら、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

瞬間、ハジメが目を隠すように片手で目を覆うと共にハジメが吹き飛ばされた場所に落ちている直径5センチ程の深緑色のボール状鉱石がカッと強烈な光を放った。

 

その正体はハジメが作った『閃光手榴弾』である。

 

原理は単純だ。緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。

 

後は【纏雷】で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。苦労した分、自慢の逸品だ。

 

ハジメは爪熊の突進をくらう直前、ドンナーをホルスターに戻し、懐から『閃光手榴弾』を置いておいたのだ。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

その隙を逃すハジメではない。再びドンナーを構えてすかさず発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「……偶然にしてみれば出来過ぎな気もするけど。……まぁいいや、これで私と同じね」

 

ハジメとしては左腕を狙ったつもりはなかった。まだ其処まで銃の扱いをマスターしているわけではない。直進してくる敵や何度もやりあった二尾狼等、その動きを熟知していない限り暴れて動き回る対象をピンポイントで撃ち抜くことは未だ難しい。

 

故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕を奪うことになったのは全くの偶然だった。

 

ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊を注視しながらドンナーを肘から先がない左脇で挟み込む形で再装填すると再度発砲した。

 

爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。

 

どうやらハジメの殺意こそ爪熊にレールガンでの回避という離れ業を成功させている主な原因のようである。

 

既に爪熊はこの短時間で視力を少し回復させたのか残り一本になった右腕を構えこちらを強烈な怒りを宿した眼で睨んでくる。

それを理解したハジメは素早く決着をつけようとドンナーを構える、このまま完全に視力を回復させる前に電磁ナイフで止めを刺そうとしたのだ。

 

しかし、瞬間爪熊の違和感に気づく。

 

「……何?」

 

爪熊の纏う雰囲気が変わったのだ。今までの雰囲気も十分恐怖を感じる程の威圧感を感じさせたが今の爪熊は格が違う。正しく変貌といったかのように。

まるでハジメとは見ているものが違うかのような()()()()()を肌で理解させられた。

 

ハジメの本能がかつてないほどの警鐘を鳴らす。

 

ハジメは咄嗟にドンナーを構え、刃による防御を行おうとして――

 

――ハジメが自分がどうなったのか気づいたのは()()()()()()()()()()()

 

爪熊の紅く輝く瞳の残光を残して姿を消し、咄嗟に構えたドンナーごとハジメの身体を吹き飛ばす。

ハジメの体は一切地面にバウンドせず、迷宮の壁に直撃した。

 

「―――――――がッ!!?」

 

ハジメは肺からの空気と共に血を吐き出し、地面に倒れこむ。

爪熊が行ったことはシンプルだ、ただハジメに接近し爪を振るった。ただそれだけ。

ただし、それらの行動がハジメですら反応できないほどの速度だったが。

 

ハジメが生き残れたのは咄嗟にドンナーを構えたことと爪熊の視界が完全に回復しておらずそれにより右爪がドンナーに直撃した奇跡により生き残ることができたのだ。

 

ただし、衝撃はそのまま食らったため骨は一、二本折れ、全身にろくに力が入らない状態なのだが。

 

「――な、にが……!」

 

何が起こったのか理解ができず困惑するハジメは徐々に近づいてくる爪熊に気づくと何をされたのかはわからなかったが、誰がしたのかを理解した。

徐々に両眼に紅い残光を残しながら近づいてくる爪熊に立ち上がることのできないハジメは憎悪の瞳で見上げるしかなかった。

 

 

そしてその同時刻

 

「…………………ッ………こ……こ、は……………………………………っ…………?」

 

一つの洞窟の中、一人の少年が眼蓋を開き弱々しく言葉を零した。

 

神代日色が目を覚ます。




原作との違いを作るにはどうしたらいいんだろう?→だったらハジメちゃんを強くしよう!→でもそう簡単に決着をつけるわけにはいかないなぁ……→そうだ!爪熊も強くしたらいいじゃん!→そしてこうなった、反省はしているが後悔はしていない。

ちなみに爪熊の技能を新たに一つ増やしました。


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怨敵との決着(ただし一人は寝ぼけている模様)

あぁ、冬休みが終わってしまう……
そんな絶望を噛み締めながら今日も更新を行うアルテです。
今回は後半が凄く適当になっています、ご了承ください。やっぱり勘違いって難しい……。
日色視点の思考がやっぱりハッチャケている為どうしても駄目分になってしまうんですよね。
こんな駄目文ですがそれでもOKという寛大な方はどうぞ!


暗がりの洞窟の中で緑光石の明かりがぼんやりと辺りを照らしている。

そんな中、ゴツゴツとした地面に横たわり眠っていた日色はまるで意識が浮上するように目を覚ました。

 

「…………………ッ………こ……こ、は……………………………………っ…………?」

 

そう呟きながら日色の虚ろで焦点の合わない瞳がゆっくりと動き、現状を把握しようとするために起き上がろうとするが身体には一切力が入ることはなく、無様にバタリッと仰向けから傾いてうつ伏せになり地を舐めてしまう。

 

「……ク、ソ……ッ!……アイ、ツ……は……どこに……?」

 

再び地面に手を置いて立ち上がろうとするがまったく力が入らず自分の身体を起き上がらせることすらできない。

あの日色が一切立ち上がることができないのはあの爪熊に切り裂かれたのが原因だ、文字魔法の『守』とある物が原因で死ぬことがなかった日色だがそれでも胸を切り裂かれ、大量出血をした。神水によって傷は塞がったがだからといって血が増えたというわけではない。

現状、今の日色には血が少なく貧血になっているのだ。それは文字通りロクに力を入れることすらできないほどに。

 

故に現在の日色は思考が錯乱し、此処はどこなのか?何が起こって自分が眠っていたのか?どうしてハジメがいないのか?数々の疑問が浮かびその疑問が晴れぬまま消えていっているのだ。

 

「……探しに………行か…ないと……な……」

 

そう呟き、日色はゆっくりと動き出した。ロクに動かない身体を引きずるように動かして見たこともないはずの神結晶から溢れ出し地面の窪みに溜まっている神水をまるでその効果を知っているかのように一気に顔ごと突っ込んで飲み干した。

血液は戻らないため決して倦怠感と錯乱する意識は晴れないがそれでも活力は戻る。

 

「――――ゴクッ!ゴクッ!――ぷはぁ!…………あ?」

 

そして、神水の溜め池から顔を出すとボトリッと日色の血だらけとなった懐から血だまりの肉の塊が地面に落ちた。

日色は何故こんなものが?と思うが血溜まりに染まった肉の塊に見覚えのある白い耳の残骸が視界に収まり、無意識に理解する。

 

「……あの時の……蹴りウサギ……か」

 

一つ疑問に思わなかっただろうか?爪熊に切り裂かれた時どうして日色が重傷ですんだのか?日色の身体能力は低スペックだ、例え文字魔法である程度威力を抑えたとしても相手は奈落の最強種。そのまま身体を両断されてしまうだろう。

 

ただし、日色は懐にある物を入れていた。

 

――そう、氷の彫像と化した蹴りウサギである。

 

元々の蹴りウサギの皮膚の硬さに合わせ凍らされたことでさらに強度が上がった蹴りウサギは見事日色の胸当ての役割を果たし風の刃の威力を減少させたのだ。

 

しかも低温であったため日色の傷口が冷え出血量がある程度少なくなった効果もある。

そしてその蹴りうさぎの肉は現在日色の血液の体温で温められすっかり氷は溶けてしまっている、つまり鮮度は十分だ。

それを理解した日色は蹴りうさぎを手に取り――

 

「――――食うか」

 

――躊躇なく食らいついた。

 

本来の万全の状態であればもちろん日色でも躊躇しただろう、当たり前だ。原作知識のある日色にとって魔物の肉の猛毒さを理解しているのだから。

ただし、現在の日色は貧血で頭が回っておらず、危機感がないのである。

ハジメを探さないと→でもお腹がすいて力が出ない→飯食って元気出そうぜッ!!という頭のおかしい結論に達した日色の中の人は躊躇なくそれを選んだ。

 

だからこそ躊躇なく蹴りウサギの肉を喰らい、神水を飲み干していく。

 

肉を喰らうたびに倦怠感が無くなり、血が補充され思考が冷め渡っていく。

 

そしてある程度お腹が満たされてきた頃――

 

「――アガッ!!!?――アッ、ギッ、グゥウ!!―――」

 

魔物の肉を食ったことで変質した魔力が肉体を侵し、壊すが神水の回復能力で治っていく。

破壊と再生の輪廻が何度も起こり、日色の精神を激痛で痛めつけていくが日色は小さく呻き声をあげるだけで決してハジメのように暴れまわるのではなく――否、それどころか壁を支えに立ち上がり、出口らしき方向へと歩き出したのだ。

 

一歩進むたびに肉がぐちゃぐちゃに潰されたかのような激痛が奔り、踏み出すたびに全身の筋肉が引き締まり、もともと鍛え上げられていた日色の肉体を更に新たな領域へと昇華させていく。

 

それはハジメと同じ、魔王への領域へと。

 

だが、何よりも驚嘆すべきなのは小さな呻き声しか出さない精神力である。現在の日色の激痛は言葉で表すならば肉をブルドーザーで何度も踏み潰されているようなものなのだ、ハジメですらアレ程悶え苦しんだというのにこの男は呻き声で収めるどころか己の意思で前へと歩いているのだ。

 

もし、かつて魔物の毒で全身が崩れ死んでしまった者が見れば、真っ先に日色を人間とは思わないだろう。

それどころか確実に人の皮を被った人外だと思い、目を剥くはずだ。

 

日色は進む、きっと彼にはそうしなければならない理由があるのだ。と誰もがその光景を見たのならそう思うだろう。

 

ましてや――

 

『――……zzz……うぅ~、全身が筋肉痛で痛いんですけど…zz…徹夜まで働きすぎたかなぁ?空も暗いし、今何時だぁ?…zzz…勤務時間は合計18時間だから休憩時間は……zzz……(半寝半起き)』

 

――ましてや、彼には八割がた寝ているため痛覚がうまく働いておらず、動き出した理由も特に無く、単に寝ぼけているだけなどと誰が理解できるのだろうか?

 

 

その頃、ハジメは地面に倒れ伏し、こちらを紅く輝く双眼でこちらを睥睨する爪熊を憎悪の瞳で睨みつけていた。

爪熊はハジメの睨みに一切動揺することもなくゆっくりと右腕だけとなった右爪を掲げ近づいてくる。

 

「……グルゥッ……」

「――こ、のッ……!!」

 

傷つき容易に動かない己の肉体にハジメは歯を食いしばりながらどうにか動く右腕で懐を必死に探る。

爪熊の歩みは正しくハジメの死へのカウントダウンだ。もしもハジメのもとにたどり着けばハジメは殺されてしまう。

 

「ルゥッ……!?」

 

ハジメが何かをしていることに気づいたのか爪熊は一瞬で倒れ伏したハジメの元へと駆け、左肩の傷を気にせず一気に右爪を振り下ろした。

が、その前にハジメが懐から中に神水を入れてある厚みを薄く作った石製の試験管容器を取り出し、端を噛み砕き中身を飲み干す。

全身の激痛がなくなり、動かせるようになったのを理解するとともに倒れ伏した状態で真横に【縮地】を使用しその場から離れる。

刹那、ハジメの服を微かに浅く切り裂くように爪熊の風の刃が通り過ぎ、地面と壁を切り裂くのではなく()()()()()

 

「――なっ!嘘でしょ!?」

 

ハジメは転がりながらも体勢を立て直し、顔を上げ爪熊の起こした風の刃の一撃に顔色を驚愕に染める。

当たり前だ、今までの爪熊とは根本的に何かが違う。速度も威力も段違いだ。

威力は先ほど見たとおり、速度は体感ではおよそさっきまでの倍以上だ。

ハジメは爪熊がこちらに振り向く前にドンナーを構え、3度発砲する。装填は倒れながら行った、今のドンナーの弾丸は最大の6発だ、発砲を惜しむ理由などない。

 

三発の弾丸は頭、胴体、足をそれぞれ狙い発砲する、いくら爪熊でも回避は不可能だ。たとえ仕留めることができなくても足を止めることができれば十分、次で決めれるとハジメは考えたのだ。

 

ただし、その策も次の爪熊の行動で潰されることになる。

 

ハジメが銃を構える瞬間、爪熊は()()()()()()()()風の刃を地面に放ち地面を抉る。そしてその抉られた隙間に爪を差し込み力づくで引き上げ、簡易的な壁を生み出したのだ。

 

「――ッ!?」

「グルァ!!」

 

別にハジメは壁に銃弾が弾き返されるとは思っていない、電磁加速が加えられた弾丸だ。難なく生み出された壁を貫くだろう。ただし次の瞬間、ハジメの表情は驚愕一色に染まる。

爪熊が生み出した壁が無数の瓦礫となりハジメへと吹き飛んできたのだ。弾丸はその無数の瓦礫に直撃し軌道があらぬ方向へと曲がってしまう。

おそらく爪熊が石壁を突進で粉砕したのだろう、ハジメは脳内でそう思ったが同時にあり得ないと思う。

 

状況判断が早すぎるのだ。

 

相手がもし爪熊と同じ身体能力を持つ人間なら行えるかもしれない――が、それはあくまで知性を持った人間の中で限られたメルド団長などの凄腕の長い戦いの経験を持つ者たちだけだ。ましてや魔物がこれほどの状況判断速度を持つなど理解不能だ。

 

(あの天之河の限界突破のような効果じゃない!?今の爪熊の状態は全く別のもの……ッ!)

 

あくまで【限界突破】という技能は時間制限付きで魔力によって身体のリミッターをある程度外し、ステータスを強制的に上昇させる技能なのだ。身体能力が上がっているだけなので現在の爪熊とは全く別のものである。

ハジメは【縮地】と【空力】で襲いかかる瓦礫を回避しながら必死に策を巡らせる。

が、瞬間ハジメの背後へと爪熊が風の刃を纏わせながら襲いかかる。

 

「グルァアアアアアッ!!!」

「――ッ!?しまッ――」

 

死角を取られたが故に虚をつかれてしまう。

ハジメは咄嗟に背後へとドンナーの電磁ナイフを振り抜きながら【縮地】と【天歩】の同時活用でその場から退避する。

紅い閃光を纏わせながら振るわれるドンナーと爪熊の風の刃が衝突する。

 

そして勝敗が上がったのは――爪熊だった。

 

「――がはッ!!?」

 

根本的に身体能力が違うのだ負けるのはある意味当然だろう。

咄嗟にドンナーを振るったことで風の刃は押し止められ、強制的に回避を選んだことで身体を切り裂かれることはなかったが爪熊の太い腕が胸に直撃し、体内から酸素を放出しながら吹き飛ばされる。

 

ハジメは地面に叩きつけられ何度もバウンドしながら必死に受け身を取り、喉元から胃液を吐き出しそうになるのを神水で無理矢理飲み込んだ。

 

「――ゴホッ!ゴホッ!……ドンナーはッ!?」

 

痛んだ体を神水で強制的に回復させながら己の武器が手元にないことに気づく、あたりを急いで見渡してみると怨敵――爪熊の1メートル手前の斜め前に見覚えのある黒い銃剣が無造作に落ちていた。

 

「――最悪っ!!」

 

こんな時に最も殺傷力のある武器を手放した事実にハジメは毒づいてしまう。

ドンナーのある状況でさえなんとか爪熊に追いすがることができているというのに今武器を無くしてしまえば文字通り絶体絶命だ。

 

「グルァ!!」

「――ッ!【錬成ッ】」

 

そんなハジメに止めを刺すように爪熊は風の刃をハジメへと振り下ろし風の刃を飛ばしてくる。

ハジメは咄嗟に錬成を行い、視界を遮るための壁を生み出し、連続で近くの壁に行い、壁の中へと逃走する。

 

元に戻った壁に風の刃が直撃し、深く削り取るがそこにハジメの姿はない。おそらく連続錬成により壁の中を移動しているのだろうが、爪熊は本能で近くにいるだろうと思考する。あれほどの憎悪の瞳で爪熊を襲い掛かったあの生物が無様に逃げるはずがない。

 

「グルル……」

 

爪熊は生存本能のままに魔力を意図的に操作することによって左腕の出血を止めていった。

 

 

(……さてっと、どうしよう?)

 

ハジメは錬成を行い壁の中を移動しながら時々神水を飲んで策を巡らせていた。

現在のハジメにはドンナー以上の殺傷能力を持つ武器は存在しない、というかドンナー以外は相手の動きを一時的に封じることに特化した道具しか現在のハジメは持っていないのだ。

 

ならば自分ができることは最短でドンナーを拾い、爪熊にとどめを刺すこと。ただそれだけだ。

 

ハジメは己を手札を確認し、爪熊との距離、そしてドンナーの距離を確認した後、小さく深呼吸を行う。

 

「――よし」

 

そして、ハジメは賭けに出た。

 

 

爪熊が辺りを見渡す中、変化は突如現れた。

 

ボコッ!と近くの壁から穴が空き、中から【縮地】と【空力】を使用してハジメが現れたのだ。

一切の躊躇せず己の武器であるドンナーの元へと一直線に突き進んでいく。

当然、爪熊はハジメが壁の中から現れた瞬間反応し、風の刃を飛ばそうとする。

 

――が、その前にハジメが爪熊の目の前に緑色に輝く物を放り投げた。

 

閃光手榴弾だ。

爪熊が右爪を振るう瞬間、ピキリッ!という罅割れる音と共に辺りが閃光で満たされる。

 

「グルゥ!!?」

 

再度失う視力に爪熊は咆哮を上げる。一度見ていたため効果は薄いだろうがそれでも視力は数秒は回復しないだろう。

その隙にハジメは右手である物を走りながら掴み、一目散にドンナーへと駆け抜ける。

しかし――

 

「グルァアア!!」

「っ!?」

 

――ハジメが最初の地点から2メートル進む頃には爪熊が此方へと突進を行っていた。

あまりにも回復が早すぎるとハジメは僅かに目を見開いた。

 

否だ、別に爪熊は数秒で視力が回復したわけではない。

ただ、ハジメの閃光手榴弾を見た瞬間、効果を理解している爪熊は()()()()()()()()()()()()

 

故に視力を失ったのは片目だけ、爪熊は視力を失っていないもう片方の眼でハジメを視認し、突進を繰り出したのだ。

 

片腕を失っているため速度は少し遅いが威力はそこまで変わるわけではない。

ハジメに直撃すれば重症は免れないはずだ、しかし、ハジメの表情は変わらない。不敵な笑みのままである。

 

「――そうだと……思ったよ!」

 

そして、ハジメは拾っていた()()()()()から溢れでる血を、乱暴に掲げることで撒き散らし、ハジメと爪熊の場所を血液でつなげる。

繋げた地点に爪熊が踏み入れた瞬間、ハジメは右手に紅の雷を纏わせ、爪熊の血に叩きつけた。

 

ハジメは【纏雷】を二尾狼のように飛ばすことができないため、電気を通す物質『導体』が必要だ。

だからこそハジメはちぎれた左腕をわざわざ拾ったのだ、動脈が千切られていることで左腕から絶え間なく流れている血液は主に水分で構成されている。

 

『水は電気を通しやすい』、子供でも分かる常識である。

 

まぁ、水は水でも純水である場合は電気をまったく通さない『絶縁体』となるのだが今は関係ない。気になる人は個人でウィキでも調べて欲しい。

 

自らの流した血溜りに爪熊が踏み込んだ瞬間、強烈な電流と電圧が瞬時にその肉体を蹂躙する。神経という神経を侵し、強制的に筋肉を伸縮させる。最大威力と言っても、ハジメが取得した固有魔法は本家には及ばない。

 

ハジメの【纏雷】の出力は二尾狼のモノより半分程度。しかし、それでも一時的に行動不能にさせることは十分に可能だ。ちなみに、人間なら血液が沸騰してもおかしくない威力ではある。

 

「ルグゥウウウ―――」

 

低い唸り声を上げながら爪熊が自らの血溜りに地響きを立てながら崩れ落ちる。その隙にハジメは既に爪熊の左腕を捨て、爪熊の斜め後ろに沈黙しているドンナーへと飛びかかった。

 

ハジメは頬が自然に緩んでしまうのを感じた。

己の作戦通りに事が進んだことに笑っているのだ、現在の爪熊の体は【纏雷】が全身を襲ったことで最低でもしばらくはまともに動けないはずだ。つまり、これでドンナーを手に入れれば爪熊の眉間に確実に銃弾を叩き込み脳髄を粉砕し、殺すことが可能なはずだ。

 

だから。そう、だから――

 

――だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――ぇ?」

 

ハジメの瞳が驚愕に染まり、小さく無意識に息が零れた。

何故、右爪が自分に襲いかかっている?爪熊は【纏雷】で動きを止めたはずだ。

 

そう思ったハジメだが、ハジメには一つの認識の誤りが存在していた。

 

爪熊はこの迷宮内での最強種である。最強種であるが故に数が少なくそれで生態系を保っているのだが、ここで疑問が生じる。

 

数が少ない最強種を最も最弱の二尾狼の固有魔法で殺すことができるのか?という疑問だ。

 

通じると思ったのならそのものは甘いとしか言い様がない。

確かに直撃すれば傷を負うだろう、二尾狼という種族が長い年月生き残るために手に入れた魔法なのだ、通用しなければまたたく間に絶滅してしまう。

 

――が、それは爪熊も同じだ。最強種であるが故に迷宮の環境に適応し、年月を重ね進化していった。

だからこそ二尾狼の固有魔法に対する耐性はある程度できているのだ。

 

 

話は変わるが貴女はデンキウナギを知っているだろうか?

 

学名で【Electrophorus electricus】と呼ばれ、分類上デンキウナギ目ギュムノートゥス科デンキウナギ属に分類される硬骨魚類の一種とされている南アメリカのアマゾン川・オリノコ川両水系に分布する大型魚で、強力な電気を起こす魚である。

さて、そんな電気を起こすデンキウナギであるが発電時どうやって感電からしのいでいるか疑問に思ったことはないだろうか?

 

答えは簡単、別にデンキウナギは感電していないのではなく普通に感電している。

 

ただ、体内に豊富に蓄えられた脂肪組織が絶縁体の役割を果たすため、自らが感電死することはないのである。

 

閑話休題。

 

そんなデンキウナギと同じ仕組みで爪熊の体内の中も脂肪組織は全体で見れば少ないが確かに存在しているのだ。

だからこそ爪熊は二尾狼の【纏雷】をある程度防ぐことができ、最強種として君臨し続けることができる。

ましてや本来の出力の半分程しか出せないハジメの【纏雷】など文字通り一瞬でしか動きを止めることができないのだ。

 

その事実を知らないハジメは驚愕に襲われながらも周囲の情景が、自分を含めスローモーションのようにゆっくりと流れていく。

避けることも、防ぐこともできない。完全に虚をつかれた攻撃にハジメはドンナーに手を伸ばしたまま、爪熊の風の刃の一撃を受けるしかないのだ。

 

全てがスローモンションの世界は時間が止まってしまったかのような感覚だった。

 

このまま、もしかしたら当たらないなんて……なんて思いもしたがそんな訳がない。

 

世界はそれほど優しくなどない。

今、ハジメが味わっているのは走馬灯のようなものに過ぎず己の命を刈り取る風の刃を無様に見続けることしかできないのだ。

 

ハジメの死はもはや決定づけられている。

 

だけど――

 

 

(――ま、だッ……!)

 

 

――ハジメはそれでも生を決して諦めない。

スローモーションの世界でドンナーへと手を伸ばし、動けと何度も心で念じ、無理矢理でも動かそうとする。

 

何故ならここで力尽きることはできないから。まだ、ハジメは日色を守りきっていないから。

だからハジメは己の終わりを認めない、受け入れることなどしない。

 

しかし、いくらハジメが認めなくても現実は非情だ。

 

どれだけ念じても風の刃の軌道を変わらず、ハジメはドンナーに手を伸ばすだけで触れることすら叶わない。

 

(日色……ッ!)

 

ハジメは心の中で大切な親友の名を呟きながら無様に襲い掛かる風の刃を振り下ろす爪熊を無防備に見つめ――

 

 

――同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それをハジメが認識した途端、脳裏に久しく聞いていなかった声が再生される。

 

――アレは俺の固有魔法、『文字魔法』だ。

――文字……魔法?

――あぁ、この魔法の能力は簡潔に言えば『書いた文字の効果を実際に起こす』魔法だ。……とは言っても魔力消費が激しすぎて一日3、4回しか使えないがな。

 

嘗てのその日色との会話が反芻されていくと同時に蒼い『止』の文字が爪熊に直撃しまるで放電現象のように火花を発生させ瞬間、ハジメですら容易に視認することができなかった爪熊の風の刃を纏わせた右爪ごと爪熊の体がピタリッと停止した。

 

そしてスローモーションの世界から時が再び加速した。

 

突然身動きが取れなくなったことに爪熊は困惑がこもった声を零すがその声を掻き消すように洞窟内を一人の少年の声が響き渡る。

 

「ハジメェエエえええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」

「――ッ!!?」

 

もはやその声を聞いた途端、反射でハジメは行動を起こしていた。

ドンナーに飛びつき、転がるように手に取ることで体勢を整え、ドンナーを構える。銃口の狙いはもちろん頭。

 

「――これで…終わり」

 

その言葉と共に引き金を引く。撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、身体を動かすことのできない爪熊の頭部を粉砕した。

 

迷宮内に銃声が木霊する。

 

爪熊は最後までハジメから眼を逸らさなかった。ハジメもまた眼を逸らさなかった。

想像していたような爽快感はない。だが、虚しさもまたなかった。ただ、やるべきことをやった。生きるために、守るために、この領域で生存の権利を獲得するために。

 

ハジメは爪熊の死亡を確認したと共にバッと文字が飛んできた方向を見ると、そこには彼がいた。

 

『神代日色』が。

 

「――ッ!」

 

ハジメは無意識に身体を震わせる。

日色の表情は俯いている為髪の影で見えず、明確にはわからないが身体には服越しに幾つもの切り傷とそして胸を大きく斜めに切り裂かれた跡が服に存在していた。

 

わかっていた、日色を守ることを決意していた時から日色の敵を躊躇なく殺すと決めていた。

そしてそれは例え自分が日色に拒絶されたとしても、だ。

 

「――――ぁ……ッ!」

 

だが、覚悟していたとしても恐怖であることには変わりがない。

髪は短い茶髪の混じった髪から純白の長髪に。かつての穏やかな茶色の瞳はなりを潜め、鋭い目つきを持った紅の瞳に。身長は伸び、顔つきは美しく整えられ、もはや面影のない姿に、殺しに一切躊躇しない性格。

拒絶されないわけがなかった。

 

日色が呟こうと息を吸ったことに反応してハジメは無意識に一歩下がってしまう。

 

そして紡ぎ出された日色の拒絶の言葉がハジメの心に突き刺さり――

 

「――大丈夫か、()()()?」

「――――え?」

 

――思考が停止した。

日色の言葉を自分が望んだ言葉として変換したのではないかとすら思った。

しかし、現実はこれが決して夢ではないと事実を突きつけてくる。

ハジメにとってはあまりにも優しい幸せを。

 

「―――ッ!!」

「グッ!?……おい」

 

あまりの嬉しさにハジメは日色の胸へと飛びついた。

だがまぁ、ハジメのステータスは平均300程。いくら蹴りウサギの肉を食べた日色でもハジメの躊躇ない抱きつき(突撃)は痛いようだ。

ハジメの抱きつきに押され、地面に後ろ向きで倒れた日色は痛む頭を片手で抑え呻きながら、ハジメに苦言を零すが顔を上げたハジメの今にも泣きそうな表情を見て、言葉を失った。

 

「――怖かった」

 

まるで怯えたありふれた少女のように心細い声でハジメは言葉を零す。

 

「――もう、日色が目を覚まさないんじゃないかって」

「――こんな私は拒絶されるんじゃないかって」

 

「……また、独りになるんじゃないかってっ!だから、だから私は――」

 

ハジメは語る。己の本心を。

あまりに醜い自分を自嘲するように。

 

そんなハジメを日色はため息を吐くと優しくハジメの頭を撫でた。

 

「――え?」

 

まるで父親に頭を撫でてもらうかのように優しい感触に訪れる安心感と共にハジメは困惑の言葉を零した。

そんな困惑するハジメに対して日色は小さく申し訳ないように呟いた。

 

 

「……すまん。迷惑を、かけたな」

 

 

その言葉でハジメは限界だった。

心の枷が外れたように様々な感情が濁流となって溢れ出し、涙腺から止めどない涙が頬を伝わり、日色の胸の中で何度も「よかった」と叫びながら泣き続けたのだった。

 

そんなハジメを慰めるかのように日色はハジメの頭を撫で続ける。

 

何度も、何度でも。

 

大切な親友の涙を止めるために。

 

◇◆◇

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

暗闇の中、全身筋肉痛に悩まされながら仕事から帰っていると突然閃光に目を焼かれ、ようやく視界が回復したかと思うと少女が二メートルほどあるだろう大男に襲われていた!

咄嗟に止めようと思ったら人差し指から何かが飛んでいった!

そして突然腹に衝撃を感じ、地面に倒れ目を開けると俺の上に白髪紅眼の少女が乗っていたッ!!

 

何を言っているかわからねぇと思うが俺も何を言っているかわからねぇッ!!

 

幻覚だとか現実逃避だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえッ!!

 

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………

 

とまぁ、今までの現状を簡潔に話すとこんな感じだ。

え?何言っているかわからない?安心しろ、俺もさっぱりわからない。

 

確かあの時、爪熊に『またつまらぬものを斬ってしまった……』状態にされた俺がどうして生きているかは知らない。と、いうか現在も記憶が混雑して何が起こっているのか自分でもわかんないしね。

 

ただ、強大な眠気と共に俺が目覚めた場所は――あの懐かしいブラック企業の会社だった。

 

いや、待って欲しい。ちょっと待ってくれ。ここが夢か天国かは知らないが流石にそこでも働けとおっしゃいますか神様よ。

え?何?食事は置いておくから頑張れって?

 

食事っておまっ!タライに満杯に入った水と巨大なおからこんにゃくだけってそれもう料理の域に達してねぇだろうがッ!!え、何?何なの?俺って家畜なの!?

 

というか、おからこんにゃく硬ッ!!というかマズッ!!

そしてなんで飲み物が水!?お茶にしろよお茶!静岡県の茶葉を持ってこいよッ!!

 

そう嘆きながらおからこんにゃくを完食し働いていると、ようやく帰宅することを許された。

全身は疲労で筋肉痛なのか踏み出すたびに痛みが走り、あまりのブラック企業さに泣きそうになってくる。

既に空は真っ暗であり()()()()()()()()()()が辺りを照らしていた。

そんな照らされた道を進んでいくと突如視界が()()によって光に塗りつぶされた。

 

 

バルスッ!!!

目が、目がぁ~!

 

 

万感の思いでそう叫びながら目を擦っていると、どうにか視界が元に戻った。

なんじゃあッ!警察かっ!と思いながら元に戻った視界で前方を見ると、目の前には今にも前方にいる少女に今にも襲いかかっている二メートル台の大男がいた。

 

……おいおい、犯罪臭がするんだが。

 

こんな夜遅くに歩く少女に襲い掛かる大男とかどう見てもヤバそうな気配しかしない。

アレか、あのままR18ルートに突入しちゃうのか。

 

そうはいかんとばかりに俺は止めようと思ったが如何せん今の自分には少女を助ける方法はない。

こんな時に昔見た丘村日色の『文字魔法』を思い出してしまった。

 

確か日色は空中で文字を書いて飛ばせたんじゃなかったっけ?と思いながら自分もあの大男の動きが止まるように適当に『止』の文字を書いていく、こんな時に厨二心が再び燃え上がってしまったのだ。

どうせ誰も見ていないだろう、あの丘村日色のように真似でもしてみようか。

 

目の前に想像で生み出した蒼く輝く『止』の文字を引き金を引くようにイメージを想起させた。

きっと丘村日色ならばかっこいい決めゼリフとともに空中で文字を描き発射する【空中文字開放】を使うに違いない。

 

そう思い存分に厨二心を発散させると急激に睡魔が襲いかかってきた。それに抗うことができずに俺は瞼をおろし……ッて、あの襲われている女の子どこかで見たことがあるな。そう、確かハジメ、ってハジメェエエえええええええええええええええええええええええッ!!?

 

そこで俺の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

「…………おい」

 

お腹に当たった衝撃と共に瞼を開くと、どうやら自分が倒れていることが理解できたのだがどうして目の前でアルビノ少女が俺に抱きついているんですかねぇええええええ!!?胸がッ!胸が当たってるッ!しかもなんか泣きかけているし!!俺何かしましたかねぇ!?

 

というか、ちょっと待て!この子どっかで見たことあるような……って、アイエエエエ!!ハジメ!? ハジメサンナンデ!?

 

あまりの出来事の連続で思考が追いついていかないぞ。なんでハジメが魔王ハジメになってんの!?しかもココドコよ!?てゆうか、何あの死体!!?めっちゃ見覚えあるんですけどッ!!あれ爪熊だよねッ!?

 

困惑し混乱する思考のせいでハジメが何を言っているのかが聞こえなくなっている。

何をすればいいか全く分からない俺は取りあえず、ハジメの頭を撫でて謝ることにする。

 

秘技『取りあえず謝っておけばいいだろ戦法』である。

 

これを今まで破った者はいな――ってあぁ!ハジメ!?どうして泣き出したの!!?俺何もしてないよね!!?

お願い!お願いだから泣くのは止めてくれぇ!!罪悪感に押しつぶされそうになっちゃうからぁ!!!

 

俺は混乱する現状の中、前に一度こんなことがあったような既視感(デジャヴ)を感じながら泣き続けるハジメを慰め続けるのだった。

 




そういえば思ったんですが蹴りウサギはいつも何を食べているんだろうか?
ウサギだから肉食じゃないだろうし、二尾狼の主な獲物だというなら第一消費者だから草とか食べてると思うけどあの階層に草なんてないし……もしかして石でも食べているのだろうか?


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幕間 少女達は想いを胸に歩き出す

いつから勇者パーティ視点を書かないと錯覚していた……?

そんなわけで勇者パーティ視点です。一応原作を読んでない人の為に書いていますが読んでいる人は別に読まなくても支障はありません。
そしてついになんとか山さんの正体が………!?
最近、最終話まで300話ほど必要なんじゃないかと思いますが……どうぞ!


時は日色達が奈落に落ちていった時に遡る。

 

響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。

そして……奈落に落ちるハジメに手を伸ばし奈落へと吸い込まれるように消えていく日色の姿。

 

その光景を、まるでスローモーションのように緩やかになった時間の中で、ただ見ていることしかできない香織は自分に絶望する。

そんなスローモーションの光景を見ながら香織の頭の中には昨夜の光景が何度もリフレインされる。

 

月明かりの射す部屋の中で、日色がいれた紅茶モドキを飲みながら4人で話したあの時を。二人っきりで月明かりが照らす道の中で自分を慰めてくれた日色との光景を。

 

嬉しかった。

夢見が悪く不安に駆られて、日色達の部屋に訪ねて二人っきりの月明かりの下でその不安をいとも容易く消してくれた日色の言葉が。

 

だからこそ、香織は決意したのだ。

昨夜見た夢が現実にならないように、日色は自分が守ると。

 

奈落へと消えていった日色を見つめながら、その時の記憶が何度も何度も脳裏を巡る。

どこか遠くで聞こえていた悲鳴が、実は自分のものだと気がついた香織は、急速に戻ってきた正常な感覚に顔を顰めた。

 

「離して!日色君の所に行かないと!私がぁ、私が守らなきゃって!離してぇ!!」

 

飛び出そうとする香織を光輝が必死に羽交い締めにする。香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとする。勇者である光輝のステータスですら押さえ込むのに苦戦するほどだ。

このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。今の香織を離せば、そのまま崖を飛び降りるだろう。それくらい、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。いや、悲痛というべきかもしれない。

 

そんな悲痛な形相の香織に光輝は必死に押し止めようと叫ぶ。

 

「ダメだ香織!君まで死ぬ気か!神代達はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、香織の体が壊れてしまう!」

 

それは、光輝なりに精一杯、()()を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきでない言葉だった。

 

「無理って何!?日色君も南雲ちゃんも死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

その香織の言葉に同意するものは一人もいない。奈落の底と思しき崖に落ちていったのだ誰がどう考えても彼等は助からない。

しかし、その現実を受け止められる心の余裕は、今の香織にはないのだ。光輝の言葉に反発して更に無理を重ねるだけだ。龍太郎や周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかりである。

 

その時、雫を抱えてきたメルド団長が雫を下ろしツカツカと歩み寄ると、問答無用で香織の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす香織。

 

ぐったりする香織を抱きかかえ、光輝がキッとメルド団長を睨む。文句を言おうとした矢先、雫が遮るように機先を制し、団長に頭を下げた。

 

「――すいません、ありがとうございます……」

「礼など……止めてくれ。もうこれ以上一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む」

「――はい」

 

離れていく団長を見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の光輝から香織を受け取った雫は、光輝に告げる。

 

「……光輝が香織を止められないから団長が止めてくれたのよ。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、早く行きましょう。あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するために」

 

感情のこもっていない雫の言葉に、光輝は頷いた。

 

「そうだな、早く出よう」

 

目の前でクラスメイトが二人死んだのだ。クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれている。誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方をボーと眺めていた。中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう子もいる。

 

ハジメが光輝に叫んだように今の彼等にはリーダーが必要なのだ。

 

光輝がクラスメイト達に向けて声を張り上げる。

 

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。続々とその数を増やしている。今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。

 

光輝は必死に声を張り上げ、クラスメイト達に脱出を促した。騎士団員達も生徒達を鼓舞する。

 

そして全員が階段への脱出を果たした。

 

上階への階段は長かった。

 

先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に三十階以上、上っているはずだ。魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃だろう。先の戦いでの肉体的にも精神的にもダメージもある。薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものなのだ。

そろそろ小休止を挟むべきかとメルド団長が考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。

 

メルド団長は扉に駆け寄りフェアスコープを使って詳しく調べ始めた。

 

その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。

 

メルド団長は魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。

 

扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」

「戻ったのか!」

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。

 

しかし、ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。

メルド団長は休ませてやりたいという気持ちを抑え、心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。

 

「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

少しくらい休ませ欲しい、という生徒達の無言の訴えをギンッと目を吊り上げて封殺する。

 

渋々、フラフラしながら立ち上がる生徒達。光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。

 

そんな生徒達の中で、後方にいる雫は表情を髪の影で隠しながら香織を抱えながら進んでいく。

すると、近くにメルド団長が近寄ってきた。どうやら殿として務めているらしいがどうしたのだろうか?

 

「……私を恨んでいるか?」

 

そう己の無力さを呻くように小さく呟くメルド団長に雫は表情を隠したまま小さく絞り出すような声で呟いた。

 

「――いえ」

「――そうか……すまなかった」

 

それっきり、メルド団長は雫から距離を離し後方へと下がっていく。再び殿に戻ったのだろう。

あの時、雫を強制的に抱え逃げたことを悔やんでるのだろう。一人の『メルド』としてではなく『騎士団長メルド・ロギンス』としての選択を選んでしまったことに。

 

そして突き進んでいくと遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと少数ではないだろう。

 

今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。

 

だが、一部の生徒――未だ目を覚まさない香織を背負った雫や光輝、その様子を見る龍太郎、恵里、鈴、そして日色が助けた女子生徒などは暗い表情だ。

 

そんな生徒達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド団長。

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、南雲ハジメと神代日色の死亡報告もしなければならない。

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルド団長だった。

 

 

ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。おそらく精神的衝撃と肉体的疲労が大きく負荷になったのだろう。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。

 

そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。

 

だが実際は……

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

…………うわぁ

 

生徒達が見れば必ずそう呟くだろうと思えるような暗い笑みと濁った瞳で自己弁護しているだけだった。

 

あの時、軌道を逸れてまるで誘導されるように日色達を襲った火球は、この檜山が放ったものだったのだ。

そう、なんとか山さんの正体はいじめグループの筆頭、檜山大介なのである。

 

階段への脱出と日色達の救出。それらを天秤にかけた時、日色を見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。

 

そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。

 

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球を日色へと発射させた。……まぁ、あの糞女に庇われてしまったが結果的に落ちていったため結果オーライだろう。流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし分かるはずがない。

 

そう自分に言い聞かせながら暗い笑を浮かべる檜山。まぁ、本当はその日色が正体を知っているのだが死人に口なしである……まだ死んでおらずピンピンしているが。

 

「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」

「ッ!? だ、誰だ!」

 

慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

「お、お前、なんでここに……」

「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」

 

その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

「……それが、お前の本性なのか?」

 

呆然と呟いてしまう檜山。

それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。

 

「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」

「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」

「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。……まぁ、日色の本性の方がもっと信じられないと思うが。

 

「ど、どうしろってんだ!?」

「うん? 心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」

「そ、そんなの……」

 

実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に躊躇してしまう檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なく日色とハジメを殺したのは檜山だと言いふらすだろう。

葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。

 

「白崎香織、欲しくない?」

「ッ!? な、何を言って……」

 

暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。

檜山は完全にその人物に会話の主導権を握られていた。

 

「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は神代にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」

「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる。

 

「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで? 返答は?」

 

あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。

 

「……従う」

「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」

 

楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟くしかない。

 

檜山の脳裏には忘れたくても、否定したくても絶対に消えてくれない光景がこびり付いている。日色が奈落へと転落した時の香織の姿。どんな言葉より雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。

 

今は疲れ果て泥のように眠っているクラスメイト達も、落ち着けば日色とハジメの死を実感し、香織の気持ちを悟るだろう。香織が決して善意だけで日色を構っていたわけではなかったということを。……ただしハジメは知らないが。

そして、憔悴する香織を見て、その原因に意識を向けるだろう。不注意な行為で自分達をも危険に晒した檜山のことを。

上手く立ち回らなければならない。自分の居場所を確保するために。もう檜山は一線を越えてしまったのだ。今更立ち止まれない。あの人物に従えば、消えたと思った可能性――香織をモノにできるという可能性すらあるのだ。

 

「ヒヒ、だ、大丈夫だ。上手くいく。俺は間違ってない……」

 

再び膝に顔を埋め、ブツブツと呟き出す檜山。

 

月明かりの下で、再び呟きだした檜山を横目にその者はいい駒が手に入った、と歪んだ笑みを浮かべる。

 

『自称ヒロイン』と書いてメンヘラ女と呼ぶ、その者は動き出す。

 

大切なものを手に入れるために。

 

 

 

 

そして、初の迷宮探索が終わってから五日が経過した。

 

その後、生徒達は宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だったからだ。

そして何よりも致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアとあの時火球を射った犯人を探すことが必要だとメルドが判断したからだ。

 

メルドは王国に帰還した後、日色とハジメという勇者の同胞が死亡したことを正確に報告した。

途中の訓練の様子、未知のトラップによる強制転移、そして、戦死した勇敢な二人の()()が時間を稼ぐため奮闘してくれたことで残りの者たちが生き残ることができたと。

 

メルドはせめて伝えたかったのだ、彼等は決して『無能』や『役立たず』ではなくメルドを含め全員の命を救ってくれた命の恩人だと。

 

しかし現実は無情だった。メルドの訴えも虚しく帰還を果たし日色とハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが〝無能〟のハジメと“能無し,,の日色と知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。それは国王やイシュタルですら例外ではない。

 

強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

 

しかも中には悪し様に日色とハジメを罵る者までいたのだ。

 

もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。

 

メルドは己の無力さに嘆いた。

これではあまりにも命を賭して戦ってくれた彼等に申し訳が立たない、と。

 

実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ雫は日色を罵った貴族を全て斬殺していただろう。光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、日色を罵った人物達は処分を受けたようだが……

 

逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、日色やハジメは勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった二人だけで抑え続けた彼らだけだというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った()()()だというのに。

 

クラスメイト達は図ったように、あの時の()()の話をしない。自分の魔法は把握していたはずだが、あの時は無数の魔法が嵐の如く吹き荒れており、『万一自分の魔法だったら』と思うと、どうしても話題に出せないのだ。それは、自分が人殺しであることを示してしまうから。

 

その結果現実逃避をするように、あれは日色とハジメが何やら自分で()()()()せいだと思い込むようになった。無闇に犯人探しをするより、自業自得にしておけば誰もが悩まなくて済む。クラスメイト達の意見は意思の疎通を図ることもなく一致していた。

 

メルド団長は、あの時の経緯を明らかにするため、生徒達に事情聴取をする必要があると考えていた。生徒達のように現実逃避して、単純な誤爆であるとは考え難かったこともあるし、仮に過失だったのだとしても、白黒はっきりさせた上で心理的ケアをした方が生徒達のためになると確信していたからだ。

 

しかし、

イシュタルが、生徒達への詮索を禁止したことでそれは不可能となった。メルド団長は食い下がったが、国王にまで禁じられては堪えるしかなかったのだ。

 

そんな中、ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。

 

あの日から一度も香織は目を覚ましていない。

 

医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。

 

しかしそれでも五日は経っているのだ、さすが雫でも心配になってくる。

 

その時、不意に、握り締めていた香織の手がピクッと動いた。

 

「――香織?」

 

雫の囁く声に応じる様に閉じられていた香織の瞼が震え始め、香織はゆっくり目を覚ました。

 

「……雫ちゃん?」

 

香織は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

その言葉に返答するように雫は髪の影で瞳は香織にはよく見えないが小さく笑った。

 

「……えぇ、雫よ。香織……体は平気?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「――そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

 

そうやって体を起こそうとする香織を補助しながらどれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

 

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

徐々に焦点が合わなくなる瞳に記憶を探ろうとする香織の声が徐々に焦燥の混じった声になっていく。

 

「それで……あ…………………………日色くんは?」

「………………」

 

雫は答えない。

その事実に香織は自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織はできていない。

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、日色君や南雲ちゃんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 日色君は……また南雲ちゃんと訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。日色君にお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」

 

現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎ日色を探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

 

「……香織、わかってるでしょう?」

「やめて……」

「香織の覚えている通りよ」

「やめてよ……」

「彼は、日色は……南雲ちゃんと一緒に」

「いや、やめてよ……やめてったら!」

「香織……日色は死んだわ」

「嘘だ!日色君は死んでなんかない!絶対、そんなことない!日色君は言ったもん!!死なないって!死んだりしないってッ!!」

 

雫の言葉を拒絶するかのように香織は雫を胸元の服を掴んで、壁に押しつけた。どこからそんな力が出るのかわからないが雫は為すすべもなく壁に体をぶつけてしまう。

 

「なんで雫ちゃんは冷静なの!?日色君は死んでないッ!勝手に決めつけないでよ!!」

「――さい」

「雫ちゃんは日色君が大切じゃなかったの!!?そんな簡単に諦めていいの!!?」

「――るさい」

「雫ちゃんは日色君のことが好きじゃなかったの!!?」

 

「――うるさいって言っているでしょうッ!!!!」

 

そして瞬間、雫の絶叫が部屋中を響き渡った。

香織は雫の表情に一瞬言葉が詰まり躊躇してしまう。

叫びと共に雫の髪が少し浮かび上がり、雫の表情が明らかになる。

 

瞼には何度も泣いた跡を示すように赤くなって、目の下には一睡もしていないのか隈があり、顔色は暗い。

彼女の表情はまさにうつ病にかかった人とでも言うべきだろう。

 

雫は押し返しすように香織の腕をつかみ、香織が寝ていたベットへと香織を押し倒す。

 

「いいわけがないでしょッ!!私だって今すぐ日色を助けに行きたいわよッ!私だって日色を大切だと思ってるッ!だけどッ!あの時、日色に私は頼まれたのよ!あとは頼むって!!貴女にわかるの!?その託された時の気持ちがッ!!」

 

まるで今まで溜め込んできたものを吐き出すかのように叫びだす雫にはもはやブレーキは存在しない。

どうしようもないほどの絶望が詰まった言葉が吐き出されそれに呼応するように涙が流れ続けていく。

 

「えぇ、そうよ!日色を殺したのは私よッ!!あの時、私は日色の手を掴めなかったッ!!掴めたはずなのに!本当なら助けられたはずなのにッ!!」

 

あの日色に手を伸ばした時、本来なら届くはずだったと雫は思う。

だが、日色を止めるために手を伸ばした時、ふと思った。思ってしまったのだ。

 

――どうして、私じゃなくて南雲ちゃんなの?

 

ふと過ぎった小さな疑問、あの時、落ちていくのがハジメじゃなくて自分だったら日色は助けに来てくれるのか?

と。

だが、その一瞬の躊躇により雫は日色の手を掴むことができなかった。

 

その事実が雫の心を蝕み続ける。

 

「私の小さな嫉妬で日色を殺したのよ!!日色を見捨てた私が、今更日色を助けに行けるわけないじゃない!!……嫌なのよ、もう。日色を失って今度は貴女を失ったら私はどうすればいいのよ?日色に……任されたから、まだ私は立ち上がれるのに……今度は貴女を失ってしまったらもう……私は立ち上がれないのよ……」

 

涙を流しながら雫は言葉を泣きながら零し続ける。

自覚しているのだ、とっくの昔に自分の醜い本性に。

大切なものを失ってから気づいてしまい、気づいたはずなのに嫉妬で全てを無くしてしまう。

 

「……誰でもいいから……教えてよ……」

 

嗚咽を漏らしながら泣き続ける雫に香織は抱きしめ、抱きしめ返されながらも自分も涙ぐみながら聞き続ける。

 

二人は 縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。まるでお互い冷え切った体を温めあってなんとか生きているかのように。お互いの傷を舐め合うかのように。

 

どれくらいそうしていたのか、窓から見える明るかった空は夕日に照らされ赤く染まっていた。香織はスンスンと鼻を鳴らしながら雫の腕の中で身じろぎした。

囁くような、今にも消え入りそうな声で香織が呟く。

 

「ねぇ……雫ちゃん……あの時、日色君を狙っていった魔法の犯人って……誰なの?」

 

その言葉に反応するように雫が小さく呟いた。

 

「……わからないわ。誰も、あの時のことには触れないようにしてるから……」

「……そっか」

「恨んでる?」

「……わからないよ。もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。でも……分からないなら……その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから……」

「そう……」

 

俯いたままポツリポツリと会話する香織。やがて、起き上がると真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、同じく目が真っ赤になった雫を見つめる。そして、決然と宣言した。

 

「雫ちゃん、私、信じないよ。日色君も南雲ちゃんも生きてるって信じてる」

「……でも、香織。それは……」

 

香織の言葉に再び悲痛そうな表情で諭そうとする雫。しかし、香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって……でも確認したわけじゃないから、可能性はゼロじゃないから……信じたいの」

「香織……」

「日色君があのまま死ぬなんて思わない、だからもっと強くなって自分の目で確かめなくちゃ。雫ちゃんだってそうでしょ?」

「……えぇ、日色ならそのまま奈落で生きてそうね」

「うん!きっとそうだよ!」

 

そう言って笑う香織に雫は小さく笑う。香織の目には狂気や現実逃避の色は見えない。ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が宿っている。

 

「だから、一緒に探そう?日色君を。可能性がゼロじゃないなら確かめる価値はあると思うから」

 

そう言って雫へと手を伸ばす香織に雫は考える。普通に考えれば、香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

おそらく、幼馴染である光輝や龍太郎も含めてほとんどの人間が香織の考えを正そうとするだろう。

 

だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

自分も香織も、惚れてしまった人への想いはその程度でなくなるほどでは決してないのだから。

 

だったら、その可能性に賭けてみてもいいのだろうか?

こんな醜い自分を彼は受け入れてくれるのだろうか?

 

「……日色は、私を許してくれるかしら?」

「うん、きっと許してくれるよ!……日色君のことだから『興味ない』で終わるかもしれないけど」

「……ありえそうね」

 

脳内でちゃんと日色の声で再生されてしまうことに二人は笑ってしまう。

雫はしょうがないわねとため息をついて、香織の手を取った。

 

「えぇ、一緒に日色を探しましょう。私も日色に謝らなければ気が済まないわ」

「雫ちゃん!」

 

香織は雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、同じ人を恋した仲でしょ」と、笑う。二人は想いを抱え歩き始める決意を決めた。愛しい彼と再び再開するために。

 

その時、不意に部屋の扉が開けられる。

 

「雫! 香織はめざ……め……?」

「おう、香織はどう……だ……?」

 

光輝と龍太郎だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

 

あの日から、二人の訓練もより身が入ったものになった。二人も日色とハジメの死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのは日色達なのだ。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

 

そんな二人だが、現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

 

「あんた達、どうし……」

「す、すまん!」

「じゃ、邪魔したな!」

 

雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。そんな二人を見て、香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。

 

現在、香織は雫の膝の上に座り、雫の両頬を両手で包みながら、今にもキスできそうな位置まで顔を近づけているのだ。雫の方も、香織を支えるように、その細い腰と肩に手を置き抱き締めているように見える。

 

Q、さて問題です。この体勢を第三者から見ればどう見えるでしょうか?

 

A、百合ですねわかります。

 

雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げた。

 

「さっさと戻ってきなさい! この大馬鹿者ども!」

 

 

 

こうして少女達は歩みだす、己が恋した一人の少年のために。

 

 

「―――」

「日色?どうしたの?」

「――いや、なんでもない…………ところでハジメ、寝ろと言ったのは俺だがどうして寝るのに俺の腕を掴む」

「日色の側じゃないと安心して眠れないから」

「………………そうか」

 

『ハジメしゃんッ!!それはつまり俺に寝るなと言っているんですかぁあああああああ!!?』

 

そんな恋された少年は現在、美少女ハジメに片腕を抱きしめられていた。

 




うん、どうしてこうなった(困惑)
雫メインで書いていたら香織と立場が逆転したんですがそれは?
次回は日記方式プラス三人称でいきたいと思います。


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文字使い日記⑧

……いつから、日記形式でやらないと錯覚していた?

そんなわけで久しぶりの日記形式での投稿です。
最後の方はいつもの第三者形式に戻りますが、久しぶりの日記形式なので大変拙いです、ご了承ください。

そしてようやく吸血姫の登場、ここまで長かったですね。

……ところで本当に豹変ハジメちゃんの性格が書けなくなってきたんですけどどうしたらいいんですかね?



ヾ(@⌒ー⌒@)ノ月(( _ _ ))..zzzZZ日

 

ある日気がつくと親友が白髪紅眼の美少女になっていた。どうしてこうなった。

あ、どうも、現在進行形で混乱中の日色です。

爪熊に体を切られたと思ったらハジメが白髪紅眼の美少女になっているこの自体、誰だろうとポルナレフ状態になるだろう。

 

しかも女の象徴でもある胸が大きくなっているのである!!

 

正直言って泣きそうになった。

大きくなった胸、美しい顔つき、整えられた体つき、これらの要素を手に入れたハジメにはきっと嫁の貰い手が無くなることはないだろう。これでお父さんも安心ですよ!

 

ただし、抱きついて寝るのはやめてくれませんかねぇ!?いや、確かに!寝ろと言ったのは俺だけど!寝不足気味になって肌荒れを避けるためにハジメを強制的に寝させたのは俺だけどさぁ!!胸が気になって仕方がないの!!今度は俺が寝れなくなっちゃうの!!

 

ブラック企業で徹夜は慣れているけどなッ!!!(涙目)

 

ヾ(@⌒ー⌒@)ノ月(T ^ T)日

 

数日……というか三日が経過した。

と言っても、迷宮の上階を探しながら魔物の肉を食って俺が足手纏いにならないようにステータスを上げているだけだったけど。

魔物の肉を食べる事に何故かハジメに反対されたが食料がないなら食べるしかないだろという説得によってしぶしぶ許可してくれた。 ……しかし、魔物の肉は猛毒だったはずなのに初めて食べた時あまり痛くなかったのはどうしてだろう?いやまぁ痛いっちゃ痛いけど耐えられない程ではない。ハジメは最初気絶しかけるほどの激痛だったはずだけどやっぱり神様ボディのお陰だろうか?

 

現在のステータスはこんな感じ

 

===================================

 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル 13

 

天職:錬成士

筋力:330

体力:440

耐久:340

敏捷:490

魔力:450

魔耐:430

技能:錬成[+高速練成][+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・集中・言語理解

 

===================================

 

===================================

 

神代日色 17歳 男 レベル11

 

天職:筆写士 文字使い

筋力:340

体力:430

耐久:320

敏捷:520

魔力:670

魔耐:410

技能:文字魔法[+一文字開放][+空中文字解放]・紙作成[+作業効率上昇][+消費魔力減少]・魔力筆[+消費魔力減少]・本製作・高速演算・瞬間記憶・剣術・集中・限界突破・魔力操作・胃酸強化・纒雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 

===================================

 

……うわぁ、突っ込みどころがいっぱいだぁ……!

 

うん、一つ一つ確認していこうか。

まずは文字魔法の技能[+空中文字解放]である。と言っても効果は簡単で文字魔法を直接物に書かなくても空中で書けるようになり、一直線だが高速で飛ばすことができるのだ。……これで遠距離攻撃が出来るようになったのでチマチマ攻撃していくのも一手だろう。

しかし、一体いつこんな技能を手に入れたのだろうか?

次の[+消費魔力減少]は……読んで字の如くなので端折らせてもらおう、説明がメンドくさ――説明するほどのものじゃないからな。

そして技能【集中】、確か最初はハジメは持っていなかった為ハジメ曰く爪熊から手に入れたらしいが未だに効果が分かっていない、出来れば早く効果を解明したいものだ。

えっと次は【魔力操作】だ、確か自由に体内の魔力を操れる技能だっけ?そう思い試しに纒雷(勿論効果の説明はしない)を使おうとして――

 

――魔力色が変わっていた。

 

もう一度言おう、魔力色が変わっていた。

紅緋色の魔力色だったのが【丘村日色】が使っていた青白い色に……うーん、何色と言ったらいいんだろう?青色?藍色?紺色?碧色?……まぁ蒼色という事にしておこう、ほら紅色の反対って蒼色のような気がするじゃん?

 

だったら髪色も白髪になってんの!?と思ったがそんな事はじぇんじぇん無かった。よかったこれで厨二病なんて言われる事は