私の楽しいホグワーツ (まりも28)
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1


とうとう投稿してしまった。
完結するといいなぁ。


私の最初の記憶。

 

ぼやけた視界に移る、揃ってこちらを覗き込んでいる、モノクロな何か。

 

耳に聞こえるのは甘い声。

私の事が大好きで、大切でしかたないっていう、あまやかな声。

 

それが、何かはわからなくても、モノクロの何かを恐いとは欠片も感じなかった。

ただ、大切に、愛されているのが感じられるのが嬉しくて嬉しくて、おもわず口の端が緩めば、金色も茶色も揃って喜びの声をあげた。

幸せで幸せで、私はゆっくりと眠りに落ちる。

金色から聞こえるのは、音程の外れた上手いとは言えない外国語のものだろう子守唄。

それに合わせて静かに笑う低い笑い声。

「HAHAHA!!」

 

 

 

、、、、、、、、え、えいご?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、遠い昔の記憶に思いを馳せる今日この頃。

 

 

茶髪美人の母親と手を繋ぎ、可愛らしく、子どもらしく、キャッキャッとプライマリースクールから戻った11才の誕生日のこの良き日に…

玄関先のポストに立ち尽くす、不審すぎる人物たちを見付けてから、私の日常は180度変わっていくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ~~~!!誰なの!?あなたたちは!?」

 

力強く発せられる母の声。

ちょっと気の強い母の手にぎゅっと力が込められて、少し痛いくらいだった。

それでも、小刻みに母の震えが伝わってきて、私も力の限り母の手を握り返す。

ポストの前に立つ二人の人物は、こちらをゆっくりと振り振り返る。

 

「、、、は?」

 

その容姿に、私の中の記憶とあまりにも似通い過ぎている、その姿に、今まで被ってきた猫が剥がれ、間抜けな声が漏れてしまう。

しかし!それも仕方のないことと思って欲しい。

 

片や深緑のマントにとんがり帽子だなんて、物語の魔女のような姿をしていて、キリリとつり上がった目に四角いメガネ。記憶のものより随分若く張りのある肌。

厳格な雰囲気をまとった、背筋をピンと伸ばした美人の女性。

 

片や、髪をしっかりと撫で付け、豊かな口ひげを蓄えた、一般的な住宅の前にタキシードなんかをキッチリと着こんだ男性。

一見すると普通に見えるのだが、見過ごせない点がただ1つ。

、、、、、背が低い。

驚く程に背が低い。

振り向くまではタキシード着た子どもかと思ってたのに。

チビと呼ばれる私よりも低い。

 

 

そんな怪しすぎる見た目の二人組に不審がったり怯えたりするなというのが無理なのだろう。

鋭い声を投げ掛けた母を普段から大好きだが、更に尊敬してしまう。

 

「ま、ママ。。。」

 

彼女らに何かしようものなら、母の身が危ない。

そんな思いから力の限り握りしめ続ける私を怯えていると勘違いしたのか、こちらを見てしっかりと首肯くとより目に力を込めて相手を睨みつける。

 

「大丈夫よ、愛しいリア、あなたはママがこの身に代えても守ってみせるわ!」

 

「ッママ~!!」

 

ちっがうよ!ママ!あなたが危ないんだよ!

そう言いたいのに、ママの豊満な胸に抱き込まれ、一切声を出せない状態に!?

い、息が!!ママ!今、あなたに身の危険を感じてますが!?

 

「むー!むー!!」

 

「あの、よろしいかしら?」

 

そんな私たちの茶番劇じみた行動に待ったをかけたのは目の前の二人組、女性の方。

 

「なっ、なにっ!?」

 

声をかけられたことに驚いた母に更に絞められ、段々と血の気が……

 

 

「いいから!早くその子をお放しなさいっ!」

 

「私たちからかわいいリアを取り上げるつもりなのっ!?

なんて人たちなの!ヤードを呼ぶわよっ!?」

 

「ここら一帯にはマグル避けの魔法を使ってます!

マグルは近寄れませんよ!

っではなくて!」

 

 

ああ、目の前が暗く…

言い合う声に気になる単語が混ざっていたのに、私の意識は酸欠により、ゆっくりと沈んでいく。

 

 

マグルとか、それ、なんてハリー・ポッター?

 

 

 

 

 





誰だかわかるだろうか?


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2

主人公回想。


突然何言ってんだって、思う人はいると思うが、私には前世の記憶がある。

 

日本って、極東の島国で、一般的な?大人として働き、日々、人一人が生きていくのに必要なお金を貰えるだけのお金を稼ぐ為、面白みもなく、惰性的に働く毎日。

 

趣味はゲームとかアニメとかのサブカルチャー、スマホがないと生きていけないような、オタク系現代人。

こどもの頃に爆発的人気を誇ったファンタジー小説の、後半へいくにしたがって、大人たちの現実を見せてくるJ.K回る人にふざけんな!と、拳を握りしめたりしてたのが懐かしく思える歳になった。

そうだよね、大人だもん。

山あり谷あり何ありあるよね。

以外な人の以外な一面とか、この人思ってたよりクズだな、とか、若気の至りを大人になってまで引きずるとかこいつら若いな、とか。

色んな感想を持ちつつ、大人になった今に思う。

人間って、いろいろだよね!って。

 

 

そんなことをのんびり考えて横断歩道を渡っていたのが不味かったのか。

耳障りなクラクション、辺りに響く悲鳴、何故か、私は空に近づいていた。

それが、大人の私の最後の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのとき、私は車に撥ねられて死亡したのかも知れない。

かも、とか、しれない、とか。

なんかあやふやなのはしょうがないと思って欲しい。

だって、次に意識をハッキリと持ったとき、私の目に移るのは、茶髪を美しく伸ばした美人のお姉さまと、黒髪なのに、目が青い男性が、二人で何やらこちらに手振り身振り交えて喋りかけてくる図である。

しかもどちらも外国人。

英語が全く得意でない、むしろ、苦手意識の強い私は全力で引いた。

引いた拍子に何故だか泣けてきて、余計にビックリして、更に泣いた。

止まらない涙とオギャアオギャアと泣き続ける私に更に焦った外国人二人組が、近づいてくるので、更にパニックになって、泣いた。

 

その後は眠るまで泣き続けた。

 

 

 

次に目を覚ましたとき、周りには誰も居なくて、私は少しだけ冷静になれた。

あの二人組は私を心配していたみたいだったのに、私はただ泣き続けるだけ。

とても失礼なことをしてしまった。

次に会ったら謝らなければ!

なんて、決意を固める。

 

気合いを込めて手を握り締め、天に向かって拳を突きだす。えいえいおー!

 

「だうぁっ!」

 

、、、、、、だう?

 

突き上げた拳は骨格のしっかりした大人の手ではなく、まるまるともっちりした小さな拳。

口から出るのはだうだう、うだうだ。なんの言葉にもなっていない柔い声。

その瞬間、私は全てを理解した!

そう!私の強くてニューゲームが始まったのだと!!!

 

「だうあーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、オレTueeeeeを期待していた時期が私にもありました。

ありました…。

 

あはは、私、生まれ変わっても日本に生まれるのだとばかり。

サブカルチャーを極め、あわよくば、声優さんたちとお近づきになれる日を夢見て今度こそ、勉学に邁進するつもりだった私。

 

そんな私のドリームは笑えるくらい儚く散りました。

だって、だって、私!

 

 

外国人に生まれてたんですけど!?

大切なことなのでもう一度。

 

外国人に生まれてたんですけど!?!?!?けど!?

 

最初に見た外国人二人組、どうやらあの方達が私のママンとパパンらしい。

外国人補正で見てるせいか、どうにも美人とイケメンにしか見えない。まだ鏡を見てないのでなんとも言えないが、こんな二人組の遺伝子なら私って、かなり美人なんじゃ!?

うふふ、ステキ!

とか、浮かれていられたのもほんの少し、なんせ、我が両親だろう二人組が何を言っているのかさっぱりと理解出来ないからだ。

 

二人組は外国人、私もその娘なら、当たり前に外国人。

で、ここからも当たり前。

そう、外国人は日本語を喋らない。

そして、私は英語が苦手で全く勉強してこなかった為、ヒアリングすら出来ない。

当然、二人組が何を喋ってるのかが、全くわからない!?!?

 

あれ!?これ大丈夫じゃないよね!事故案件だよね!!?

せっかく生まれたのに、中身の奴(私)のせいで、両親が何を言ってんのか全くわからなくて、なんの反応も返せないとかどんないじめだよ!?

私も涙目だが、両親も涙目だよ!?

 

オレTueeeeeじゃないよ!!おれYoeeeeeだよ!!

強くてニューゲームはどこ行った!!

とんだバグじゃねぇか!

運営にクレームいれてやるぞ!日本語で!!

 




主人公は乳幼児!
話進まないので、さっくりと。


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3

最初の頃の話


 

あのあとから、必死だったなぁ。

英語の勉強…。

 

幸いにも、前世のツルツル脳味噌とちがい、ニューボディの若くてピチピチな生まれたての脳味噌、こいつは凄い。最高だぜ!

 

なんせ、物凄く記憶力がいい。

ちょっと気合いを入れて記憶をすれば、一週間の献立どころか、半月まで余裕で覚えてられる!

たとえ、母の母乳、粉ミルクオンリーの二者択一の献立だとしても!!途中で飽きて覚えるの止めたとしても!

 

これは転生特典なのかも!!!

と、献立覚えて調子に乗った半月後、どんなに出来が良くても中身が私じゃ宝の持ち腐れ感凄いのに気付いた。

 

そもそも、いくら聞き取りに慣れてきたとはいえ、ママンとパパンの会話を覚えてられたって、単語も知らなきゃ、文法もわからない。

 

この身体はまだまだ幼いから、ミルク飲んで寝て、ミルク飲んで寝てミルク飲んで寝てミルク飲んで寝てたまにバタバタして、ミルク飲んで寝て。

過去最高にニートしか出来ない。

 

それでも、笑いかけられたら笑い返して、お腹空いたら唸ってみせてと、一般的な赤ちゃんとしての日々を過ごしてはみるものの。

 

あれ?これって不味くないか?

今はまだ1才になったばかり。

喋れなくて当たり前。

動けなくて当たり前?

だが、しかし。

子供って喋れるようになるのって、何歳?

ハイハイって、いつからしたら一般的?

普通の赤ちゃんの成長過程が全くわからない!!!

 

え、これ、知恵遅れとか、障害とか疑われたりしないだろうか。

せっかく生んでくれて愛してる家族に申し訳なくないか!?

 

早く行動出来ても気持ち悪いだろうし、遅すぎても心配かけるだろうし…。

 

誰かぁ~~~~~~~っ!?!?!

 

赤ちゃん一般マニュアルください!

「これで貴女も今日から立派な赤ちゃん!」みたいな!

 

運営さーーん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私は神童路線よりも知恵遅れ路線を進むこととなる。

何故って?

英語、ワカラナイカラネ!

 

動けたり感情表現問題ないのに、何故か喋れない。

精密検査して、完全に健康体なのに、何故か喋れない。

しかも、言葉の意味、通じてない時もある。

 

何故って?

中身の人(私)が英語ワカラナイカラだよね!

 

それはもう、心配をかけまくった。

両親は善良ってか、普通にいい人で、私を一度も責めたりはしなかった。

自分達に問題があるんだろう。

何かストレスを与えてしまっているんじゃないだろうか。

そんなこと言ってる本人達が原因を探ろうと、顔色悪くして、目の下に隈まで常駐させて、それなのに、私たちがいけないのって、私に涙ながらに謝ってくれて。

ソーリーとかうろ覚えしかわからないバカですみません!!!

 

両親にそこまでさせて、そこまで愛されて、一念発起しない子供なんているだろうか?いや!いない!!!

 

必死だった。

それはもう、必死だった。

歩けるようになったら、即絵本にかじりつき、子ども番組の読み聞かせを聞きまくり。

物を指差してはママに「あれは?なに?」と手振り身振りだけで、聞きまくり。今思えば、これはうざかったろうに、一つ一つ丁寧に教えてくれたっけ。

 

兎に角勉強、勉強、又勉強。

この脳味噌は記憶力が通常の人より遥かに高性能。

考える頭は残念な私だけど、つめ込みつめ込み。

ひたすら、英語に馴染む訓練をし続けた。

 

傍目にはブツブツなんか呟いたり、本やテレビにかじりつく、明らかにおかしな子供だったかもしれない。

しかし、幼子の行動は大抵は不可思議な物。

両親の初めての子供ということもあり、私の奇怪な行動は特に不審感を与えなかったらしい。

 

そんな過程を経て、私は2年かけて英語を完璧にマスターするに至った!!

やったーー!!!

おめでとう、私!ありがとう私!

 

遅いとか言うな!

かなり大変だったんだからな!辞書とかないし!そもそも読めたらおかしいし!

 

私が初めて英会話を両親と成立させたのは、私が3才の時。

一言二言ではあったが、最新の注意を払い、もにょもにょ会話を試みたのである。

 

発音が日本語英語にならないように。

テレビでみた乳幼児たちのように幼く。

一音節で、ポツポツと。

 

 

あのときの両親の幸せそうな顔といったら!!

どれだけ心配させたか、どれだけ歯痒い気持ちをさせたか、どれだけ怖がらせただろうか!

 

ああ、私って、愛されてる!!!

申し訳なく思いながらも嬉しくて、大声で泣きわめいてしまった。

両親も泣いていたし、まぁ、似たもの親子って、ことで。

 

後から判明したが、私があまり表情も変わらず泣きもしなかったのも、不安にさせていた要因だったらしい。

日本人特有の薄いテンションと気遣いで泣かなかったのが、とんだ惨事を巻き起こしていたらしい。

本当に申し訳ない。




英語を覚えるのって、歳取れば取るだけ難しいですよね。


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4

事前説明の回


と、若かりしあの頃、あの日あのときより、私の夢は決まったのだ!

そう!人生のドリーム!!

 

 

オックスフォード大学をとにかく卒業!

良い会社、又は著名な医者となり、親孝行をする!

 

そして、ゆくゆくは極東日本にて!夏冬の祭典にて!夢の欲しいジャンル大人買いを目指すのだ!!!

 

そう、決めた1964年の冬の日。

 

そう、1964、、、、だと!?

 

お気付きだろうか。

何かがおかしいことに。

というか、気付かないとは言わせない!

 

私が死んだ年、つまり前世の夏の祭典は94回目を迎えようとしていた。つまり、2010年以降。

 

ちなみに、初回祭典の開始が1975年。

 

あれ?おかしいなぁ?計算が余りにも合わないぞぉ!

 

 

 

 

いや、薄々?おかしいなぁとは思っていましたとも。

英語勉強にかじりついた我が家のテレビはブラウン管。

両親はスマホどころか、携帯電話すら携帯していないし、新聞は妙に固いし、字は汚い。パソコンは見当たらない。

カレンダーの日付けは……見なかったし。

 

 

私は、前世より生まれかわり、強くてニューゲームなのだとばかり思って3年を過ごしてきた。

しかし、現実には、そもそも私が生まれるどころか影も形もない時代に生まれているわけだ。

 

意味がわからない。

 

え?なんなの?これ。

前世認識してる記憶の時代より遥かに前の時代。

つまり?これは前世の記憶を覚えてる、転生とかではなく、前世より、更に前世の?いや、意味がわからない。

 

もう一度思う、意味がわからない。

 

 

そんな困惑を振り切り、日々を勉強に費やしてきた、私の11年の人生。

すべてがゴミクズとなる光景が今、ここに!!

 

 

 

 

「こちらが、ホグワーツ魔法魔術学校からの入学許可となります。」

 

玄関のゴタゴタに私の失神という残念なオチがつき、一応の落ち着きと一通りの説明がされた。

居間のテーブルを挟み、緑のマクゴナガル様(多分)が仕事から帰ってきたパパとママに挟まれた私に上品な仕草で差し出して来た一通の手紙。

四角い便箋に赤い蜜蝋、ホグワーツのマークで封蝋されたこれはまさしく、あれだ。

二次元の彼方にしか存在しないと言われ、前世では偽物しかお目にかかれなかった。例の、手紙。

 

警戒し、疑いの眼差しを手紙に注ぐ両親を尻目に、そっと手紙に手を伸ばし、ペーパーナイフで細心の注意を払って切っていく。

ここで中身に傷の一つも付けようものなら、私は死なねばならない。そんな、覚悟である。

 

そんな家宝級の代物に入っていた手紙を、期待に心臓張り裂けそうな気持ちを押さえ込み、ゆっくりと開くと憧れのあの文章が!!

 

 

 

「ホグワーツ魔法魔術学校 

 

 

 

校長 アルバス・ダンブルドア

 

 

 

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会長

 

 

 

親愛なるアヴァロン殿

 

 

 

 このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 

 新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。 

 

 

 

 

 

敬具

 

 

 

副校長 ミネルバ・マクゴナガル」

 

 

 

「ふぁっ!!」

 

き、キタコレーーーーー!!!

 

正に正に正に正に正に正に!!

ボグワーツからの正式な入学許可証!!

 

大阪やイギリスで買うのでも、通販で届いたのでもない!まさに正・真・正・銘!!本物の入学許可証!!

 

余りの嬉しさに最初に奇声を発した以外、うつむきプルプルと身体を震わせる私は周りの目など気にしている場合ではなかった。

 

私はただ、生まれ変わっただけだと思っていた。

外国の通常などわからない。

あまりにも生きてた時代と違うなら二次元へ転生したと気付けたかもしれない。

空を飛べたり、スーパーサイヤ人が居たり、ハンター文字が公用語だったり。

しかし、私が生きていた場所は普通に普通のイギリスの片田舎だった。

穏やかなプライマリースクール。のほほんとした友人。

どこにも異常なんてなかった。

しかし!齢11才にして、私は自分がハリーポッターの世界へと転生を果たしたのを知ったのである!

 

なんということでしょう!

今までの死物狂いで勉強した、算数英語その他もろもろ。

すべてがゴミとなったのである。

 

その全てを犠牲に、今、憧れの二次元の世界へ!!!

 

ほろりと零れる涙は見なかったこととしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな歓喜に震える私を尻目に後で広がる光景を私は知らなくて良かったと思う。

 

 

「彼女、大丈夫ですの?」

 

「さぁ?私にもよくはわかりませんが・・・。」

 

 

 

「まぁ!あなた!あの子があんなに喜んでるだなんて!今まであったかしら?」

 

「あぁ!すごいことだ!見てごらん?今にも跳びはねたいのをあんなにわかりやすく我慢しているよ?

こんなこと、今までなかった気がするなぁ。

泣くことは多い子だけれど、喜んだりはしゃいだりなんて、わかりやすくする子じゃあないからなぁ!」

 

 

 

「・・・・彼女、本当に大丈夫ですの?」

 

「・・・・どうでしょうねぇ。」

 

 

 




クリアは、入学許可証、を手に入れた!


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5

主人公、初イベント!


「それじゃあ、行ってきます!」

 

「えぇ、行ってらっしゃい。リア。楽しんできてちょうだいね?

知らない所へ行くのだから、先生方から離れてはダメよ?」

 

「いいかい?リア。

気に入った物があるのなら、僕たちに気を使わずに買うように。

これから使う大切な物なんだろう?

僕たちの子供にしては、リアは良い子すぎて、今までワガママや欲しい物一つ言わなかった。

それは、僕たちとしては少し寂しかった。

けれど、その分、今回は気にせず買うこと。いいね?」

 

 

 

玄関先で私の渾身の笑顔におだやかな笑顔を返してくれる両親。

私が入学許可証を見つめている間に両親の警戒は随分と薄れ、説得をする必要もなく、私はホグワーツへの入学が正式なものとなった。

流石は数々の家族と関わる優秀な教師二人組である。

善良なマグル夫婦の警戒を瞬時に解ける人徳的なものが滲み出ているのだろう。

 

ああ!

憧れの二次元!憧れてたハリーポッターの世界!!

その、最初の舞台、ダイアゴン横丁に行けるなんて!

しかも、ホグワーツの教師なんて、身元ばっちりお墨付きの引率!!ハリーでさえ、ハグリッド一人だったのに!

完全なマグル族である私には、念を入れ、二人の引率!

 

私、マグルで良かった!

 

「ふふふふふふふ」

 

 

 

びば!ハリポタワールド!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぐ。

うえっぷ。」

 

 

ついさっきまで最高の気分だったのに、私、クリア・アヴァロン。

今、最高に吐きそうな気分です。

うぇお。

 

 

「だ、大丈夫ですか?気をしっかりと持ちなさいね?」

 

そんな風に優しく声をかけて、今にも吐きそうな私の背中を擦ってくれるマクゴナガル先生マジマクゴナガル先生。うぇ。

 

「いやはや、うっかり失念しておりましたなぁ。

姿くらましや、姿あらわしは、初めての者の中には酔うものもいたのでした。

しかし、ここまで酷い状態になるものも全くもって珍しい!

クリア・アヴァロン、君は自分でこの術を使えるようになるまで、付き添いをしないようにするのをお勧めしよう。」

 

 

おい、小さいオジさん!ひげ撫でながら朗らかに笑ってんじゃねぇぞ!うぇぷ。

 

 

 

憧れのハリポタワールド、その最初のパブにて、クリア・アヴァロンは人生の尊厳と戦っています。

あれは駄目だ。

姿あらわしや姿くらましは細いパイプの中に押し込められるとかウィキ先生が言ってた。

あれ、舐めてた。

 

中身が引き摺り出されて細いパイプに強制的に詰め込まれてく感。

こちとらウィンナーじゃねぇんだよ!!!

全力で拒否してるのに、引き摺り込まれ、気付いた時には気持ち悪い感じに詰め直される。

何を言っているのかわからないかもしれない。私も最早よくわからないや。

 

 

正直、今吐いてないのが奇跡のようだ。

憧れの二次元、最初の出来事が、嘔吐イベントとか、誰得だよって、話で。

ちくしょぅ……。

 

 

「は、はは、マクゴナガル先生様、もう、大丈夫、です。ありがとうございました。

だいぶ、落ち着いてきました。うぐっ。」

 

「ミス・アヴァロン。

大丈夫、そう無理をすることはありませんよ?

貴方が落ち着くまで、私達は決して側を離れません。

今は身体をしっかりと休ませるのが先決なのですから」

 

「ははは。そうですぞ、ミス・アヴァロン。

あいにく、私もマクゴナガル先生も癒しの魔法は得手ではありませんからな。

貴方が落ち着くまでいくらでも待ちましょう。

ああ、マスター、バタービールを。」

 

「フリットウィック先生!」

 

 

あっけらかんと言い放ち、バタービールを飲み出すフリットウィックに殺意しかわかない。ていうか、あんた、オフの時にはそんな性格なの!?

てめぇ、乗り物酔いの呪いを覚えた暁には真っ先に餌食にしてやる。

無かったら、開発してでも同じ苦しみを味わわせて、うぇっぷ。

 

「こほんっ!

えー。ミス・アヴァロン?

貴方が落ち着くまで、今の魔法界について、少し話をさせていただきましょうか。」

 

私の女神であるマクゴナガル先生が慈愛の籠った眼差しで私に最初の講義を授けてくださると!

はい!喜んで!

言葉を出すのが辛くて、首を上下に振ることで精一杯の返事をした私が余計に気持ち悪くなったことは、想像に難くない。

その横でバタービール片手に朗らかに笑ってた小さいオジさん。マジで覚えてろ。

 

 

 

その後、女神マクゴナガル先生より、現在の魔法界の現状をご教授いただいた、私。

そこで、驚愕の事実を知ったのである。

 

ハリー、影も形もねぇじゃん!!

って、ことである。

いや、女神マクゴナガル先生が若くてまさに女神な状態だから、時代的には本編より前かなぁとか思ってはいたが、まさかの闇の勢力全盛期時代とか、これは酷い。

トムでリドルな帝王がまだハリーに撃退されてない世界。

マグル産魔法使い排斥傾向とか、確かその頃が全盛期で、へぇーハリポタにも人種差別ってあるのかぁとか、呑気に読んでた時代真っ只中。

それが今!ここであると!?

 

とんだハードモードだぜ!

いや、まぁ、あの両親の子供に生まれたことを恥じることは何一つないし、両親大好きだけれども。

下手したら死亡フラグが将来乱立しまくってる件。

闇の勢力に殺された場合は親不孝者カウントされちゃうんだろうか。

 

、、、、、いや、うん。

とりあえず、難しく考えるのよそう!

憧れの二次元!薄暗いことばっかり考えて根暗に生きてくよりは、やりたかったこと、妄想してたこと、全てをやりきる気で行こう!

どうせ、私ごとき小物がなにかしたって原作は変わらない!だろうし!

原作は原作でハリーに頑張って7巻分を生き抜いて貰えば、ね!

ハリーまだ生まれてないし、そこずれちゃえば、あとは何がどうとかないわけだしね!

 

 

 

楽しんでいこう!ハリーポッターワールド!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フリットウィック先生のキャラがいまいち掴めない。


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6

夢のダイアゴン横丁


パブ「漏れ鍋」の裏庭、物語の通りに杖でつつくだけでレンガの壁がひとりでに動いて行くのはマジで興奮した。興奮のあまり、両手を挙げてFoooo!!とか叫ぶくらいには興奮した。

二人の先生方から注がれるいたずらに成功したような目線がマジかわいくて、語彙が死んだ。

マクゴナガル先生可愛いすぎかな?

 

 

そこから広がる魔法の世界。

沢山の人々で賑わうゴチャゴチャした通り。

とんがり帽子をかぶって俯いて歩く人々。

両親と思わしき男女にしっかりと手を繋がれ、足早に歩くおや、こ?

 

「えっと?」

 

なんか、暗くないか?

全体的に?

あれぇ?映画だと、入学や進学準備もあって、物凄い賑わいだったはずだったんだけどなぁ?

 

「あの「さ、ミス・アヴァロン。行きますよ。

私としっかりと手を繋ぎ、けして、はぐれることのないように。」

 

「あ、ハイ」

 

女神にしっかりと手を繋がれ、傍らの小さいオジさんはローブの中に手を入れ、いつでも杖を取り出せるように身構えている。

え?これ、なんて状況?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状態の三人組なのに、誰にも怪しまれることもないままに、怒濤の勢いで買い物は続く。

憧れの魔法書物だらけのフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店。

なんの感慨を与えられる暇もなく、書店を見回ることもなく、「ホグワーツ一年生用」の看板の下、帯に括られ山積みにされた本の束を購入。セット価格でお安くなってるらしい。え?

 

マダム・マルキン洋裁店では、入ってすぐにゆたかな体の女性に突撃を受けた。

危うく三途の川を渡るはめになりかけたが、そんなのはお構いなしに寸法を測られていく。あ、やっぱり鼻の穴も測るんですね?

測りつつも、「まぁ!こんなに小さいなんて!貴女はどこの妖精さん?」とか、ディスってくるのはやめてください。心が痛みます。あと、イギリスの平均身長は140辺りってだけで、130辺りしかない私が小さいのではなく、成長期がまだ来てないだけです!ここ、テストに出るので、間違わないようにしてくださいね!

寸法を大幅に詰めるとかで、時間がかかるらしく、さっさと追い出される私達。

詰める時間がかかって悪かったな!!

 

羽ペンに羊皮紙、鍋に薬瓶安全手袋。

胸がときめくレパートリーなのに、うっかり壊しそうとか考えちゃうと、口を挟んで丈夫なヤツに変えてもらう。修復呪文、早めに覚えなくちゃなぁ。

ていうか、鍋二個も要るとか、どうやって持って帰ろうか。

 

 

そんな怒濤の買い物ツアー。

道すがら教えて貰ったのは魔法界の硬貨について。

今の換金率は1ガリオン5ポンド。

日本円換算で1ガリオン1000円かぁ。

おいおい、金貨のくせに安いな!?

魔法界、物価安いんだ。

それがひとつめ。

 

もうひとつは、この横丁、最近こんな暗いというか、殺伐とした雰囲気になったらしい。

そう、例のあの人、トムでリドルなヤツのせいであるらしい。

闇の勢力がいつ襲撃してくるかもわからない。

どんな所へ現れるかもわからないこの現状で、のんびり楽しく買い物は出来ないとのことである。

 

そりゃそうだ。

言うなれば、これもよく知らないけれど、戦時中ということなのだろう。

娯楽は少なく、必要な物資のみを求めて短時間外に出る。

あとはなるべく安全であろう我が家に帰る、と。

 

うへぇ。つまらない。

 

いや、彼らにしてみれば必死な案件なんだろう。命の危険と明日への不安。

心の余裕なんてどこにもないだろうし、誰が闇の勢力かもわからないから疑心暗鬼。

生きてくので精一杯で、怖くて怖くて仕方がない。

でも、子供たちはイギリスの中で唯一といってもいいほど安全なホグワーツへ行って欲しい。

安全な場所で楽しく、素晴らしい魔法に触れて欲しい。

だから、親は恐怖に負けずに外へ出て、子供の為に買い物を。

でも、危ないから、なるべく早く終わらせていく。

その姿勢にどこかへ寄るとかっていう、心の余裕なんかまったくないのだ。

 

店側もそれがわかってるから、探す手間をなるべく省けるように商品を陳列してる。実際に一部の魔法使いや魔女を除き、店という店に子供の姿も無ければ笑い声も無い。

なんとも味気ない風景である。

憧れの二次元、魔法界。

残念感が拭えない。

ハリーの存在を誰も知らない状態なのだから、仕方の無いことなんだろうけども。

なんとも、悲しいことだなぁ。

 

 

 

 




現実のダイアゴン横丁


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7

真のイベント到来!


 

そんな私にビッグイベント到来!

吐いてないよ?

 

オリバンダー杖店への到着である!

イギリス魔法界一、歴史ある由緒正しい杖店である。

杖を買うならここ!ってぐらいお薦めの店だと向かう道すがら、楽しそうに教えられた。

ダイアゴン横丁の買い物ラッシュの中で、始終険しい表情だった二人が見せてくれた笑顔にじんわりと泣きそうになった。

 

オリバンダー杖店は一度入るとその杖の多さに圧倒されてしまった。

ショーウィンドに紫のクッションで飾られた高そうな杖たち。

天井まで積み上がった杖の入ってるであろう箱の山。それが店の奥の奥の奥。見えなくなるまで続いている。

外観から窺える店の面積と全く合ってないのだが、どうなってるのか、もはや魔法である。

 

「おや、小さな小さな魔女さん、いらっしゃい。

ホグワーツの先生方も、ご機嫌麗しゅう。」

 

イギリス一の杖職人で、杖選びの眼力確かと呼び声名高いかのオリバンダー氏は、満月みたいな目をしたお爺さん。穏やかな笑顔が大変可愛い人だった。

 

「お、お邪魔します。」

しかし、オリバンダー氏よ。

なぜ、二回小さい言ったし。

 

「ご機嫌よう。ミスター・オリバンダー。

私達は彼女の荷物を漏れ鍋へと預けて参ります。

その間、よろしくお願いしますわ」

 

「やぁ、ミスター・オリバンダー。

いいかい?ミス・アヴァロン?

私達が戻ってくるまで、けして一人で外へ出てはいけない。わかったね?」

 

「はい、フリットウィック先生」

 

二人とも目が真剣だ。

ここで、いいえ、とか絶対に言えない雰囲気に、私も頷かざるを得ない。基本的に良いこだからね!

 

 

そんな二人が颯爽と店を出ていくのを手を振って見送ると、さて!憧れの杖の入手イベントである!

 

 

 

「お嬢さん、さぁ、杖腕を出して」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

おどおどと腕を差し出すと腕の長さを確かめたり手のひらをじっと見たり、うん、これ、すごくいたたまれない。

一頻り確かめた後、うんうんと一人で頷き、首をひねりながら一人で奥へと去って行くオリバンダーさん。

あれ?そこら辺の杖を試すとかじゃないの?

紫のクッションに乗ってるのとか、ショーウィンドウに飾ってあるのとかは?

え?私の杖ここに無いの!?

 

 

「あ、あの~?」

 

奥からごそごそと音がするわりには一向に帰ってこないオリバンダー氏。

あれぇ?ハリーの時って割りとすぐに帰ってきてはブンブン振ってたよなぁ?

杖を棚からボトボト落とし、ガラスだかを割りまくり。

でも、最後は謎のオーラを発して鮮やかに主人公感を演出する。

流石の主人公っぷりを「ああ!あったあった!」

 

「ひぇっ!!」

 

突然棚の奥から大声を出すのは本当に止めて欲しい。

妄想してるときに大きい声とか、普通に心臓に大負担だから。クリアさん11歳の寿命が縮んじゃうんで。

 

「さぁ、この杖を試してみようか。

リンゴの木、ユニコーンのたてがみ」

 

初っ端から随分とファンシーな素材が来ましたな!!

原初の実、りんご。一角獣ユニコーン!まさに乙女!

おっ?おっ?

きちゃいますかね!きちゃいましたかね!?

 

オリバンダーさんから、差し出された杖をきゅっと握っ「ああっ!違ったようだね」る前に奪われた!?

 

「え?」

 

「それでは、こっちでどうだい?

ブドウの木、ドラゴンの琴線」

 

「あ、はい」

 

ブドウ、それは美味しい実。ドラゴンの琴線という王道の道へ!?

 

「じゃ、じゃあ」

 

さっきの様にやっぱり違うとか言われる前に素早くオリバンダーさんから、奪っ、、、お預かりする。

初めての杖振りいざ!

 

 

 

 

 

 




そして、次回へ!


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8

杖選び、それは試練の始まり


「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

荷物を置いてきたホグワーツの偉大なる教師陣に、あり得ないモノを見るような目を向けられているのをひしひしと感じる。

そして、私たちのことを固唾を呑んで見守るギャラリーたちの視線も。

すべての視線は向かい合い鋭い表情で杖を差し出すオリバンダー氏と、それを恭しく受けとる私とにそそがれていた。

 

「ミス・アヴァロン。

次はこれだ。

クリの木、ユニコーンの毛、20センチ。使用者によく馴染む」

 

「は、はい」

 

周囲の緊張と期待に満ちた眼差し。

その期待に応える為、しっかりと杖を握りしめ、慎重に振り下ろす。

その瞬間、私の視界は真っ白に染まった。

 

「ぐ、ぐわぁぁぁあ」

「目が!目がああああ」

「ま、眩しすぎる!」

 

阿鼻叫喚の店内の中、オリバンダー氏から落胆のため息が聞こえ、杖から発生したフラッシュに目を潰された私も一緒にため息をついた。

 

 

あぁ、この杖もダメだったのかと。

 

 

 

 

大きいとは言えない杖店の中、ものすごい光が杖から発生した。そんな大惨事が一応の収束を迎え、辺りが落ち着きを見せ始めた頃、店の入り口にてこの事態を見ていた教師二人が近付いてきた。

 

「これは一体何ごとですか!!」

 

「随分とギャラリーが沢山いるようですが?」

 

こんな暗黒魔法界時代に、沢山の魔法使いや魔女が杖店に集まって、杖選びを固唾を呑んで見ている。

 

どんな人が見ても疑問を持つのは当然のことだろう。

しかし、二人の疑問に答えたくとも、あまりにも情けない状態に口は重くなるばかり、ついでに視線も下がっていってしまう。

そんな私を見かねたのか、または視界が元に戻ったからなのかはわからないが、オリバンダー氏が二人に説明を開始する。

その行為すら私の心をえぐる訳だが、自分から言う方がダメージが大きいので、ここは視線をそらしつつ、黙らざるをえない。

 

「実はですな」

 

オリバンダーさんが口を開くと気遣わしげにこちらを見やる視線が私に集中するのを感じる。

ええいっ!ギャラリー共!そんな目で見るんじゃあない!!

 

「彼女の杖が見つからんのです」

 

「・・・・どういうことなんです?」

 

「それは、また」

 

二人の訝しげな声に、今度は詳しく説明し始めるオリバンダーさん。

私はそれを遠い目をして見つめる他ない。

 

「つまり、ですな。

あなた方がここを出て、すぐに彼女の杖選びを始めたのですが、合う杖が未だにみつからんのですじゃ。

こんなことはオリバンダー杖店の長い歴史の中でも初めてのこと。

私も困惑しておりますじゃ」

 

「まぁ・・・」

 

「なんと、そんなことが?」

 

 

「ぐぅっ!」

 

困惑する二人の声が胸に突き刺さる。

 

「ですが、彼女に魔法の才能がないというわけではない。

そうでなければ、たとえ杖を振るったとしても反応すらしませんからな。

わしの見立ても上手くいかず、今は端から順番に試しているところですじゃ」

 

現状を改めて説明されると、自分が明らかにおかしな子なんではないかと思わずにはいられない。

杖を振りまくり、窓を叩き割り、水浸しにし炎で前髪を焦がし衝撃波的なモノが勝手に出て杖の山を崩壊させてetc...。さっきはフラッシュで目を潰された。

例え魔法の才能があろうとも、ここまで杖に嫌われる奴なんて、普通にいないだろうに。

 

「・・・すみません」

 

「ああ!大丈夫じゃ!ミス・アヴァロン!

ここまでやってきたんじゃ!

必ずやわしが君にピッタリの杖を見つけ出してみせるからなぁ!」

 

「オリバンダーさん!」

 

二人でガッシリと手を交わすと、店内には拍手が広がり

口々に私達を応援する声がギャラリーから聞こえてくる。

ホグワーツの教師二人も目に涙を滲ませ、力強く頷きながら拍手をしてくれている。

 

後ろのギャラリー共は、私とオリバンダーさんが杖を選んでいる最中に、さらっと入ってきては、オリバンダーさんが鮮やかにさらっと決めた奴らである。まさに一撃必中。

初めての自分の杖に感動する前に、そのそばで爆発したり、吹っ飛んだりしてる私を見て不憫に思ったのだろう。そばで固唾を呑んで見守り出した。

その子たちの親は私がやらかしたことの後片付けをしてくれたりと、援護は万全の態勢で行われている。

それが、今では増えに増えオリバンダー杖店の中に犇めき合う事態となっているわけである。

 

 

 

頼むから!帰ってくれ!!恥ずか死ぬわ!!

 

 

 




そして、次回!

※すみません、誤字報告にて、物語上でのミスが指摘されました!訂正させてもらいます!
ケンタウロスのたてがみ→ユニコーンの毛
矛盾してて申し訳ない!ご指摘、ありがとうございました!


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9

杖を手渡されては杖を振り、杖を手渡されては杖を振り。

そんなサイクルを繰り返す中で、オリバンダーさんは杖についての知識を色々教えてくれた。

そんな話をしてないと色々辛いのだろう。私もです。

 

なんでも、ちゃんとしたオリバンダー製の杖というのは、今のギャリック・オリバンダーさんが、若い頃に試行錯誤して、様々な材木や芯材を組み合わせ試していった結果、確立していったものらしい。

材木の種類は38種類、杖芯はなんと『ドラゴンの心臓の琴線』『ユニコーンの毛』『不死鳥の羽』3種類しかないらしい。そのうちの1種類は不死鳥の羽なのだから、実質2種類だ。

単純計算で38×2の76種類。

そこから、杖の長さや個性を見たりで更に種類は増えていくのだという。

そんな数を作り、様々な魔女や魔法使いにぴったりの杖を提供し続けるオリバンダーさんは物凄い職人さんだ。

更には他の素材を使って作られた杖もあるという。それはオリバンダーさんやオリバンダーさんのご先祖様達がいろんな素材で作ってきた歴史ある杖なんだそうだ。それについては、ちょっと目をそらされながらの説明だったけど。

 

そして、そんな凄い職人さんのオリバンダーさんをここまで手こずらせる私は・・・、ほんとに魔女なのだろうか。どんどんと不安になっていくのだが。

空を暗闇が覆い、ちらほらと星が輝き始め私の魔法界での夜がオリバンダー杖店にて過ぎていく。

その後もちらほらとやってくる他の客の相手をしつつもひたすら杖を振り続ける私をみなさん不憫な子を見るような目で見ては去っていく。

そうだよね。流石に夜中まで一緒にはいられないですよね。

教師の二人は私の他にも案内しなければいけない子がまだまだいるそうで、すでに居ない。

 

「これならどうじゃ!

柊の枝、不死鳥の尾羽、28センチ。

良質でしなやかじゃぞ!」

 

「とりゃあ!」

 

当然の様になんの反応も起こらない杖を前にして、オリバンダーさんと二人、もはやなんの感慨も湧かなくなってきている。杖を振るう機械に、私はなれる。

 

「ぬぬぬ、これもいかんかったか」

 

「さぁ!いくらでもきてくださいよ!どんな杖でも振ってみせますからね!」

 

「よう言うた!

・・・・・・とはいえ、この状態のままでは入学に間に合わなくなってしまう可能性もある」

 

「・・・・・・」

 

そんなに私は絶望的なのか。

オリバンダー杖店の薄暗さもあり、目の前が真っ暗になる心地だ。

2次元転生しただけなのに、何故に運営さんたちは私に試練と絶望ばかり与えるのか。別に、貴重な杖とかを望んでる訳ではないのに。

ごく普通の杖で、当たり前の様に魔法界を満喫したいだけなのに。

暗黒時代真っ只中だわ、買い物はろくに出来ないし、杖は見つからないわ、『付き添い』術は吐きそうなくらい気持ち悪いわ。

あれ?憧れの2次元でいいことが少ないような?

 

 

「そうじゃっ!」

 

「ひぇっ」

 

うわぁ、びっくりした。

危うく思考すら暗黒期に入りかけたよ。

せっかく2次元に来れたのだし、もっと前向きにせねば。

まぁ、2次元は2次元だけど結局この世界は実際にあるものだし、今の私にとっては、『ハリー・ポッター』って作品の世界ではなく、『私が生きてる世界』な訳で。

上手くいかないことだらけでも、納得っていうか、人生そんなに甘くないよねっていうか。

前世も割りと上手くいかないこと多かったしなぁ。

 

とかなんとか思ってる間に、オリバンダーさんがいつの間にか大きな木箱を慎重に地面に置いていた。

あれ?オリバンダーさん、いつの間にとりに・・・って、『アクシオ』使えば一発で取れるか。

 

「それは?」

 

「うむ、これは私の若い頃作った物だったり、父や祖父の作った物を詰めた箱だ。

とはいえ、どちらかといえば、失敗作が主なんじゃが」

 

「失敗作?」

 

「あのぅ、それって」

 

不良品の魔女には不良品がお似合い的な?

不安が顔に出たのか、慌てたように箱の中身を説明してくれた。

 

 

「ち、違うぞ?失敗作・・・・、そう!これは商品としてはちと難しいというだけなのじゃ。

今のオリバンダー製の杖は最低限の安定性と強さを備えた杖なのじゃが、この箱に入っている杖は万人が使えるがとても弱い力しか持たなかったり、その逆にとても強い力を持つが誰も選ばなかったりと杖職人としては出せぬ杖がこの箱に入っておる。

アヴァロン嬢ちゃん程うちの杖が合わない魔女は見たことがない。

ならば、この箱にお主の杖があるのではないかと思ったのじゃ。

杖として使えぬというわけでは決してないのじゃ!」

 

それ、結局は不良品なのでは?

なんてことを思いつつも、オリバンダーさんが持ってきた木箱の中身に妙に惹かれている気がするのだ。

この中に自分の杖があると思いたい願望なのかもしれないとは言い切れないのが辛いとこではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、杖選び編ファイナル!

※指摘をいただき、杖の種類について加筆修正いたしました!いつもありがとうございます!


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10

ついに杖決定!


地面に置かれた木箱の中をのぞきこめば、黒いのや白いの、金色みたいなのまでちらほら混じっていた。

長さもまちまちで木箱に斜めに詰められてるのや、他の杖に埋もれて先端しか見えないやつ、木箱のサイズと似通った長さのやつと微妙に違う長さのやつ。同じ杖は一つとしてない。

そんなのが、木箱に乱雑にぎっしりと詰められている。

まさにカオス。

片付けられない、捨てられない人の荷物代表みたいな有り様である。

杖が痛ましくなるほどにギュウギュウだ。

暴発とか暴走とオリバンダーさんは言っていたが、こんな地獄絵図みたいな現状で杖はストライキとか起こさないんだろうか。

 

「な、なんじゃ?」

 

「・・・・いえ」

 

片付けられていない自覚はあるのだろう。

そうでなければ、私にオリバンダー製の杖が合わないと感じたときに真っ先にこの木箱を持ってきていたはずだし。

祖父の代から詰め込んだ木箱は地面に置かれたまま悲鳴を上げるかの様にミシリミシリと音を鳴らしているが、オリバンダーさんが杖を一つ振りハーマイオニー御用達、『修復呪文』を唱えると強制的に沈黙させられてしまった。

 

ああ、こうしてこの杖たちは何百年と木箱に詰め込まれて来たのか。

もしかしたら、まだこの木箱はオリバンダーさんの家のほんの一部で、家にはまだまだそれこそ序ノ口と思える程の杖が木箱に詰められているのかも知れない。

魔法の杖なのに。

そこら辺の木の棒より少し上等なだけの扱いとは。

 

「魔法界って、結局は現実なのかぁ。」

 

「ええいっ!いいから、箱の中を覗いてみなさい!

この箱の杖は私には判断出来ぬ物が多いのじゃ!

何か気になる杖はないのか!」

 

「そりゃ、こんな扱いをされたら・・・」

 

反抗的にもなるよね。

 

最後の言葉はバレてそうだが、一応呑み込み気を取り直してわくわくする心を思い出しつつ、覗き込む。

木箱から出たくて私の杖になってくれる杖さん、居ましたら何か合図くださいねー。

 

とはいえ、初めに覗き込んだときに、どうしても惹かれる杖があったのは確かだ。

意を決してその杖を箱から引っ張り出す。

握った瞬間から、杖から不思議な暖かさとわくわくするような、今にも走り出したくなるような、そんな気分が伝わってくる。

今までの杖からは一切、全然、全く、感じられなかったこの感覚!!!

 

 

「ふむ?それはナナカマドの杖じゃな。防衛力にとても優れる。

長さは15センチとずいぶんと短いが、お嬢ちゃんには取り回しが良いじゃろう。

どうじゃ?」

 

 

傍で杖について説明をしてくれるオリバンダーさんには悪いが、私の中では振る前からこの杖に決まっていたような気がしてくる。

私の為に造られたような安心感、試しにひと振りしてみれば、穏やかだが、力強い光が杖から溢れてくる。

 

「おお!素晴らしい!

杖の反応が今までとはあまりにも違う!」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「うむ!その杖こそ、お嬢ちゃんの杖じゃ!」

 

「~~~~~~~っ!!」

 

やった!感動だ!苦節一日弱!数々の試練を私は乗り越え、ついに魔法使いの相棒をこの手に!!!

 

 

くるくると杖と周りつつ喜ぶ私はオリバンダーさんが呟いた不穏なフラグを聞かなかった。

それが、良かったのか悪かったのか。

それは、私にはわからない。

 

 

 




老人「はて?あの杖の芯材はなんだったのか。
・・・いや、まぁ、よいじゃろ。うん」


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11

レッツ!キングス・クロス駅!


1971年8月31日。

父さん、母さん。

私、クリア・アヴァロンは、大都会ロンドンのキングス・クロス駅にて、大都会の厳しさを痛感しています。

 

山ほどの荷物をカートに載せ、よろよろと進む私を見る世間の目は冷たい。

・・・・うん、そうだよね。

私も何も知らない人間だったら、何に使うかもわからない鍋とか大量のカバンだとか、バンドでまとめてある本の山とかを見て、大変そう。とかは思えど手伝ってあげよう!とかは思わないもん。

親が傍についてないから、余計に不審だろうし。

なるべくなら、関わりたくない部類に入るだろう。

わかる!わかるよ!

しかしだね!

しかしだ!普通に助けて欲しい!

どこまで持ってくの?とか、大丈夫?とか!

遠巻きに見てヒソヒソしてる時間的余裕があるのならば!

せめて9番線までこの荷物を運んで欲しい!切実に!

 

 

「現実って世知辛いなぁ。」

 

深くため息を吐き出してしまうほどには辛い。

中身は大人なので重いのを運ぶのは精神的には我慢できる。

けど、体は小さいので物理的に無理なことは無理なのだ。

右へよろよろ左へよたよた。積み上げた荷物のせいで前はほぼ見えないし、誰にぶつかろうが舌打ちされた後であまりにも小さいのが運んでるのに気付いて気まずい顔をされたり。ごめんよ、悪いのはこの大量の荷物共なんです。

 

「うぅ」

 

変なものを見る様な目は、魔法界デビューしてから既に何度も見られているから、気にはしない。

あの杖の一件さえ、乗り越えた私、なにを気にするものぞ!という気分である。

それでも歩みは遅々として進まない。

精神的ではなく、単純に重いし先が見えないという物理的な意味でだ。

変に見栄張って心配する両親に自分だけで大丈夫!まかせてよ!とか言わなきゃよかった。

せめて、母さんに着いてきて貰えれば。

いや、私のせいで大量の出費をさせてしまったのだから、さらにあんな片田舎から出てきて余計なお金を使わせるわけには!!

 

「よいしょ!よいしょ!さー!もうひとんばり!」

 

もはや掛け声は日本語で、気分とノリでこの広大なキングス・クロス駅を突き進むのみである!

はーどっこい!

奇声という名の掛け声を発する私を他人は何事かと振り返り、その大量の荷物を見て飛び退いて。

そして出来た道を私が大量の荷物を押してひぃこら進む。

羞恥心さえ捨て去れば、出来ぬことなど何もない!

強いて言うなら、喉が痛くなってきたことぐらい。無事にたどり着いた暁には、母さんが淹れて持たせてくれた、お弁当とお茶でも飲んでコンパートメントで優雅に過ごすんだ!

そんな希望を胸に突き進む私は9番線の4番目そこだけ妙にぽっかりと空間が空いているお馴染みの場所に漸く到達したのである。

結局誰も手伝ってくれなかった!

 

 

 

 

 

実際に9と4分の3番線に到達して感動にうち震える私。長かった。とても長かった!

元々部屋に篭って勉強したり、本を読んでる方が好きだし外になんか出たくない派な私の腕は酷使されたせいでぷるぷるしてるし、膝とかガクガクしてきてる。

早くコンパートメントに行って休みたい。ただただそれだけを考えてあの憧れの9と4分の3番線を無感動に通り抜けてしまったのだから、見栄張るんじゃなかったと何度も後悔することになるが、全てが今更なのだ。




ヒソヒソ「あの子夜逃げかしら」
ヒソヒソ「親御さんはどこに?」
ヒソヒソ「助けてあげた方が?」

ヒソヒソ「奇声をあげ始めたわ」
ヒソヒソ「関わらない方がいいわね」


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12

沢山の出会い


人、人、人、人。

柱を通り抜けた先、その先にはまさに映画の世界が広がっていた。

ダイアゴン横丁の様なもの寂しい感じはなく、色とりどりのローブを来た親子が我が子との一時の別れを惜しんで抱き締めあってたり、窓の所から体を出して手を振る我が子に涙ながら手を振り返したり、久々に会う友達と奇声をあげながら走り回ったり。

見るたびに思うが、悪くはないんだが、皆リアクションオーバーだよね。

家を出るときも滂沱の涙を流す両親を仕事に押し出しながら出発したし、前夜なんか狭いベッドに三人でギュウギュウ詰めになって寝たり。

もう、前世年齢+11なので、そこまでのスキンシップはいらないかなぁとか思うのだけど。いや、嬉しいことは嬉しいのだけど。

外国の方は激しいなぁ。

 

辺りをキョロキョロと眺めながらガラガラとカートを押してコンパートメントを探すが、そもそも荷物ってどうするんだろうか。

ハリー・ポッターの時っていつの間にか荷物が消えてハリー達は着替えの入ったキャリーとバッグぐらいしか持ってなかったよな?ロンのお父さんアーサー・ウィーズリーが持ってってくれてたみたいだし、やつはどこへ荷物を持っていったのか。う~む。

 

「やぁ!そこの新入生!」

 

「ひぇっ!」

 

妙に爽やかな声と共に急に肩に手を置かれ声をかけられた私の心臓はキュッてなったぞ!なぜこの魔法界の人は人を驚かせるのが好きなのか!

 

「もう!アーサーったら、いけないわ!

急に声をかけたら驚かせてしまうじゃない」

 

「すまないすまない!モリー、なんせこの騒がしさと人混みだろう?声をかけても気付かないんじゃないかと思ったのさ」

 

「ごめんなさいね?アーサーも悪気があってあなたに声をかけた訳じゃないのよ?許してちょうだいね」

 

「・・・・は、はい」

 

驚いて振り返ったらさらに驚いた。

アーサーとかモリーとか似た名前多いよなぁとか思ったら、燃えるような立派な赤毛を持った男女がイチャイチャしながら立っていた。

あれ?ご本人?でも、この人たち、もう卒業してたはずだし。

 

「あらあら。もうアーサーったら、ビックリして固まっちゃったじゃない!」

 

「違うさ!僕の可愛いモリウォブルに見惚れてしまったのだよ!」

 

「やだわ!アーサーったら!」

 

あれ?別人?未来のウィーズリー夫妻だよね?こんなバカップルだっけ?

イチャイチャと、なにやら仲睦まじいが、リア充末長く爆発しろ。

 

「あ、あの?なにか私にご用でしょうか?」

 

「ああ!すまない。

僕はアーサー・ウィーズリー。ホグワーツ、グリフィンドールの5年生さ。君は新入生だろう?窓から見ていたら、君がキョロキョロしていたのをモリーがとても気にしてね。何か困ってやしないかと思って声をかけたのさ!」

 

「私はモリー・プルウェットよ、よろしくね。

アーサーと同じグリフィンドールの5年生なの。

あなた、ここに来る前にキングス・クロス駅で一生懸命カートを押していたでしょう?

たった一人で大丈夫かしらと思って。アーサーにお願いしたのよ」

 

「愛しいモリウォブルの頼みなら、何だって叶えてやりたいのさ!」

 

「ふふふ、アーサーったら!」

 

「あ、ありがとうございます、先輩方」

 

なにやら善意の人、アーサー氏に荷物をお願いし、荷物問題を片付けた私。

一緒のコンパートメントにも誘われたが、砂糖を吐く予感しかなかった為、日本人スキル「恐れ入りますすみません。善処しますね!」を駆使し、丁重にお断りすることに無事に成功。

なるべく彼らと離れるべく、後ろのコンパートメントで一人優雅に過ごすことを目標に、誰も居ないコンパートメントを見付けることが出来た。

見送りとかを考えなければ、ホームから離れたここは人気がなく穴場的なのではないだろうか。

アーサー氏に聞いた所、ホグワーツ特急の荷物置き場に載せた荷物はいつの間にか寮の部屋に届いているから大丈夫だとのこと。

しもべ妖精さんたちですね、わかります。

美味しい食事、キレイなお部屋、行き届いたサービス。

働くことを美徳とする。献身の鑑とも言える彼ら。

社畜過ぎて現代日本社会の闇を体現するような彼ら。

ホグワーツで会ったならば、感謝とこれからよろしくの意を込めて、お菓子とか差し入れをしたいなぁ。

あ、その場合は彼らが作ったお菓子を彼らに渡すことになるのか?それはちょっといけないよなぁ。

出来れば厨房をお借りして作りたい。

 

そんなこれからのことを考えていればいつの間にか汽車が動き始めたのか、景色がゆっくりと動き出してきた。

それと同時に別れを惜しむ声が一際大きくなる。

そんな声をBGMに母さんが持たせてくれたお弁当を噛み締める。

お袋の味はしばらくお預け、しっかりと味わっていただくね、お母さん。

包んでくれたサンドイッチは少しだけしょっぱかった気がするよ。

 




A「おい、新入生っぽいおちびさんが、5年生のバカップルに捕まってるぞ」
B「見ろ!今にも砂糖を吐きそうなあの顔を!」
C「入って最初のホグワーツに着く前になんて奴等を引いてしまったんだ」
A「相当運がないに違いないな!」
BC「「違いない!!」」


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13

1日に連続投稿してます。

出会いイベントの連続


ところで、魔法界には未成年は魔法使ったら法律違反で捕まってしまうというルールがあるわけなのだが、ここ、ホグワーツ特急の中では適用されないっぽい。

原作で、ハーマイオニーは『修復呪文』レパロ使ってたし。

ということで、たった一人のこのコンパートメントを利用して、私は人生初の魔法呪文の行使をしてみたいと思うのだ!ちょっと隣のコンパートメントが騒がしい気もするけど、なんの問題もない!

いそいそとバッグから取り出すのはマイ相棒杖!

ナナカマド材のナナさんである。

芯材は未だにわからないけれど、どっしりとした安定感、守られているような安心感。握った時のフィット感。何から何まで、私の為の様にぴったりな杖さんなのだ!

一年生時に使う教材は休みの間に全て読破済みである。スッゴい楽しかった。魔法感漂いまくってた。脳みそに刷り込む様に読ませて頂いたよ。

代わって教材すべてを記憶し終わった時の絶望感は計り知れないものがあった。枕を涙で濡らしつつ、ナナさんと添い寝して気を紛らわせたあの日々。

そんな日々も今!報われるのだ!

 

教材には呪文の活用法、歴史、振り方などなど、細々と書かれていた。危険な技術であることもしっかりと明記されていたので、今回選んだ呪文は『杖灯り』ルーモスのチョイスである。

呪文自体も簡単で、事故も目にフラッシュ喰らうぐらいの軽いもので大体がすむらしい。

監督してくれる人の居ない私の状態ではこのくらい安全が高いのじゃないと現時点ではとてもではないが、試せないのだ。

なんせ作中では一番最初の授業で、『浮遊呪文』ウィンガーディアムレヴィオーサでの爆発事故まで起きていた

。まだ爆発はしたくない。

 

「さて!」

 

雰囲気出しに早々に着替えたローブの裾を捲りつつ、記念すべき初魔法行使!

 

「いきますぜ、ナナさん!」

 

握った杖から、ばっちこい!とでもいうような力強い雰囲気が伝わってくる。

なんて素敵なナナさん!カッコいい!

いざ!

 

『ルーモ「いい加減にしてちょうだい!」』え?

 

隣から大きな声とドカリと何かが壁に倒れる音が聞こえてきた瞬間、私の集中力は呆気なく切れた。

杖から炸裂する想定外の光。

あ、やっちまったぜ。

そう、思った瞬間、私の記念すべき初魔法は失敗に終わり、コンパートメントは真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、目が、目がああああ。」

 

盛大に呪文を失敗した今、私は芋虫の様に地面を這いずり回っている。

ナナさんは手に握ったままだが、視界が回復しない。椅子に戻ることも出来ずにのたうち回るしかない。

何が安全なのか、危うく失明するとこだよ!まだ目の裏でチカチカしていて、立つこともままならない。

こんなのは杖選びの時のフラッシュ以降だよ!あれ?つい最近の出来事だったか。

漸く安定してきた視界だが、さっきの叫び声以降隣のコンパートメントの騒ぎがどうにも大きくなっている様だ。まだ幼い子供だし、テンション上がって騒いでいるのかと放って置いたら、不穏な雰囲気が聞こえて来る。

まぁ、例えケンカだとしても、殴り合いくらいなら放っておいてもかまわないだろう。

怖いのは魔法による決闘紛いの事だが、流石にそこまではなぁ。

 

「うーん」

 

流石に何の関係も権限もない私が出た所で何か出来る訳でもなし。

もう少し騒ぎが大きくなるようなら、誰か上の人が気付いて止めにくるだろう。

私の中身はことなかれ主義の日本人。

積極的に関わりを持とうとは、あまり思わない訳で。

まぁ?野次馬根性はあるので?こそーっと扉を開けて何があったかを知るくらいはいいかなぁとか思ったりするけどね?

そっと扉に忍び寄り、薄く開けるとさっきよりも隣の騒ぎがハッキリと聞こえてくる。

 

「信じられない!行きましょう!セブルス!」

 

ん?セブルス?セブルスって、あれだよね?ハリー・ポッターの重要人物。魔法薬学教授。二重スパイで究極の一途男、セブルス・スネイプ?

へぇー、同じ時代ナノカァ。

何て、遠い目で廊下を覗いていたら、扉を勢い良く出てきた少女と目が合ってしまった。

 

「あ」「あら」

 

あー、なんとキレイな緑の瞳デショウカ。

 

「どうも」

 

「・・・・お邪魔してもいいかしら?」

 

「善処します」

 

少し照れた様に聞いてくる美少女だが、そのはにかんだ笑顔と行動が全く合っていないのはどういうことなのか。

笑顔で見つめ合い、スッと扉を締めようとした私の手をスッと包み込まれ、にっこりと笑う背後からの「エバンズ!どこへ」という声が聞こえた瞬間、私が耐えきれない力強さを発揮したハリー・ポッター親世代ヒロインは強引に我がコンパートメントへの侵入を果たしてくる。

その後ろから可能な限り素早く入り込んできた黒い固まりを見た瞬間、スパンと良い音をたてて扉は閉まっていった。

びったりと扉に張り付き開けさせまいとするヒロインと扉をドンドン叩き「エバンズ!入れてくれよ!」「ジェームズ、俺が代わってやろうか?」なんて騒いでるのはまさかとは思うが、ハリー・ポッター親世代のヒーロー一味なのか?これが?嘘だろ?

 

 

 




エバンズ「もう!なんなの!しつこい!」
ポッター「エバンズ!開けてくれよ!」
黒いの「・・・・・・・」
私「・・・・・・・」


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14

電車の旅はまだ続く


片や扉を開けさせまいとする深い色の赤毛に印象的な緑の瞳の美少女。推定主人公母。

片や扉の向こうで扉を開けようとしている。推定眼鏡の主人公父。

 

それをコンパートメントの中で眺める私と黒い推定未来の魔法薬学教授。

 

「ねぇ」

 

「・・・・・・・」

 

「これ、どうしてくれるの?」

 

「・・・・・・・・すまない」

 

静かに一人魔法に挑戦していた私のお楽しみタイムをぶち壊し、未だにギャアギャアと騒ぎ立てる子供達。

いや自分も子供なんだけれども。

 

「・・・・はぁ」

 

「・・・」

 

ため息しか出ない。

とりあえず、この騒ぎに収集をつけなければ始まらない。男子一人とは拮抗していた彼女も男子二人がかりでは徐々に力負けしてきているし、隣の黒いのは多分役には立つまい。色々と圧倒されているようだし。

ナナさんをしっかりと握り締め、決着の時を待つ。

 

「「せーっの!」」

 

「きゃっ!?」

 

スパーンッと良い音をさせて開かれた扉、少女の腕下を通り抜けて真ん中に立つ。

 

「誰だい?君は「ルーモス!光よ!」え?」

 

さっきの失敗を帳消しにする為、全力を込めて声高らかに『杖灯り』の呪文を使う。

もちろん、自分は目をしっかりと閉じておくのを忘れずに。

瞼の裏に光が炸裂するのを感じながら、自らのルーモスが引き起こす惨状で、奴等に一矢報いられることを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

結果として、床に4体の芋虫が誕生した。

口々に苦悶の声を上げつつ丸まる奴等はまさに無様の一言につきた。

さっきまでの自分もこんなんだったのは爽やかに見ないフリをして、自分のコンパートメントの椅子に座りお母さんの淹れてくれたお茶を注ぎ優雅に一口。

 

「うむ、うまし」

 

「「「「うまし、じゃない!」わよ!」じゃねぇ!」よ!」

 

丸まる芋虫共がなにやら喚いているが、爽やかに聞き流す。人のコンパートメントに力ずくで入ってきて撃退されただけ。

どちらが悪いのかなんて、火を見るより明らかだろう。

 

 

お茶を飲み終わる頃にはだいぶ回復したのか、よろよろとゾンビの様に起き上がる芋虫達にそれぞれコンパートメント内の椅子を勧めてみると割りと大人しくみんな座った。子供で体も小さい為、4人用のコンパートメントでも5人座れている。

私と主人公母で一つの席ではなく、主人公母、私、黒い薬学教授でなんとか収まっているのは悲しい事実である。

 

「さて、それでは」

「エバンズ!どうしてだい!」

「ちょっと!近付かないで!」

「ポッター!リリーに近づくな!」

「ジェームズはてめぇに用はないんだよ!」

 

「ルーモス!光よ!」

 

炸裂する閃光、上がる4つの悲鳴、出来上がる4体の芋虫。上がる習熟度。

 

「ふぅ。」

 

ゆっくりお茶を飲む。うむ、うまし。

 

床にうごうごと蠢く4体の芋虫に静かに話し掛ける。

子供に話し掛けるときはしっかりと聞き取れるよう、言い含めるように話すこと。

近所の子供たちと遊ぶときに学んだことではあるが、この場合は必要なことだろう。

 

「一つ、これ以上騒ぐなら次はもっと光量をあげる。

二つ、まずは落ち着いて話をしましょう。

三つ、ここは私のコンパートメントです。

四つ、不満ならさっさと出てけ。以上」

 

最後だけ少し低めに声を出せば、蠢く芋虫達は一様にうなずいて静かに蠢くままとなった。

こいつら、目が見えなかったから大人しく椅子に座っただけで、大人しくなったわけではなかったのか。

ホグワーツ悪戯仕掛人と言われる存在とそれに対抗する存在だけあって、まだ子供なのにとてつもなく我が強い。出来れば相手なんてしたくない。穏便でなくてもいいから、騒ぐならここじゃなくて元のコンパートメントに戻ってから騒いでくれないだろうか。

 

「で?」

 

未だに目が回復しないのか、席にはついたが目を擦ってどうにも見えにくそうにしているうちになんでこんな事態になったのかを聞いて、出来れば出てって欲しい。切実に。

 

「この人達が私の親友をバカにしたのよ」

 

「親友!?こんな根暗な奴が君みたいなステキな人のかい!?」

 

「ポッター!!また貴方は!なんて失礼な人なの!?」

 

「リリー、落ち着きなよ。

こんな失礼な奴、それこそキミが相手にする必要はないだろう?」

 

「てめぇ、言わせておけば!ジェームズを侮辱すんじゃねぇよ!」

 

「先に私の親友を侮辱したのは貴方達の方じゃない!」

 

 

ギャアギャアと騒ぎ立てる声はこのままじゃ、ホグワーツに着くまで収まりそうにないうえ、堂々巡りもいいとこだろう。

 

「はぁ、一つ、これ以上騒ぐなら『ルーモス・マキシマ』!!」

 

今度は目を瞑り、手でおおい、下を向く。それでも眩しさが瞼の裏に届いてくる。

直撃を喰らった奴等はしばらくは動けまい。

 

4体の芋虫達は苦悶の声を上げつつ転げ悶えている。

少しは学習すればいいのに。抑えのルーピンが居ないとこんな事態になるのか。早くルーピンが仲間になるといいよね。

私はもう、知らん。

 

転がる芋虫を踏みつけて、自分のバッグを取ってコンパートメントを出る。

すぐ隣には無人のコンパートメントがあるわけで。

そこに移動し、ゆっくりとお茶を飲む。

子供はどうにも苦手だなぁ。

 

 

 




ポッター「目が、目がああああ」
ブラック「ちくしょぉ!あいつ!さっきからなんなんだ!」
エバンズ「やだ!セブ、さっきの子、出てっちゃった?」
スネイプ「多分」


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15

次は組分け!


コンパートメントでのんびりと他人様に奢ってもらった店内販売のお菓子をかじりつつ、穏やかな時間を過ごす私。

 

「あ、モリー!今回のお弁当もとても美味しかったよ!流石は僕の愛しいモリヴォブル!」

 

「やだわ!アーサーったら!

でも、貴方にそう言って貰えるなら朝から作ったかいがあったわね!」

 

「ははは!モリーはすぐにでも素敵なお嫁さんになれるさ!もちろん、僕のお嫁さんだけどね!」

 

「アーサー!」

 

「モリー!」

 

「・・・・・・・」

 

真向かいで広がる少女漫画もかくやという程に目の前に広がる遠慮のないいちゃつきっぷり。

燃やしてぇ。

 

・・・なぜ、私がこの様なバカップルのいちゃつきをコンパートメントの向かい側という一等地で観覧しなければならないのか。

それは、全て奴等のせいなのだ。そう、私の素敵なコンパートメントを襲撃してきた悪戯仕掛人コンビと幼なじみコンビ。

奴等4体の芋虫の追撃から逃れるべく、隣のコンパートメントに移動したまでは良かった。

しかし、私は気付いてしまったのだ!

そう!コンパートメントの扉に鍵が掛からないことを!!

私はおおいに焦った。それはもう!

私の『ルーモス』強化版によって視界をちょっぴり潰された奴等はきっと報復しにくるに違いない。私ならそうするし、みんなそうする。

 

隣のコンパートメントに奴等が居たのは悲しい事故だったのだ。

しかし、私は奴等が更正するまで関わる気はないのである。あと約5年はそっとしておいて欲しい。

なので、ホグワーツに着くまでに奴等に捕まる訳にはいかない!そして!出来れば関わりを持ちたくない!

しかし、奴等からホグワーツに着くまで逃げるのを目的としても、長大なホグワーツ特急といえど長さには限りがある。嵩張るカバンとキャリーもあるから尚更移動速度にも限界がある。私の体力的な意味で!

逃げ場は徐々に失われ、ついには・・・・・。

 

なんてことになりかねない!

そんなフラグはへし折らねばならない!

そこで私は苦渋の決断をすることにしたのである。

キングス・クロス駅で会ったバカップル。

アーサー・ウィーズリーとモリー・プルウェットの二人のコンパートメントに匿ってもらうことにしたのだ。

 

カバンやキャリーを引き摺りながら二人を探しながら進む廊下では、ホグワーツの神秘を見ることになる。

既にローブに着替えた上級生が多く、緑のローブにはなんだあれみたいな変なモノを見る目で見られ、青のローブには一瞥もされず。

赤いローブには大丈夫かい?お嬢さん?と声をかけられ、アーサー夫妻の名を出せば、死んだような目でコンパートメントの場所を教えられ、黄色いローブには荷物を運んでコンパートメントまで案内してもらった。

組分け帽子は末恐ろしくなるような精度でもって、生徒達を各寮に振り分けている。

帽子を作った魔法使いの偉大さには限りない尊敬の念を感じざる得ない。

そして、山ほど居るだろう生徒のなかで、ウィーズリーの名を出せば皆さん程度の差はあれど、死んだような目をするのがとても印象的でした。

ソンケイノネンヲカンジザルヲエナイ!

 

辿り着いたコンパートメントは一種の結界でも張ってあるかの様に二人っきりの空間だった。

手を握り、愛妻弁当を食べさせ合い、花を飛ばしあってる二人を見て、誰が立ち去らずに居られるだろう。

一瞬、ルーモスを放ちそうになったが、モリー先輩の暖かな母性愛溢れる笑顔と、社内販売のお菓子を差し出され、大人しくコンパートメントにお邪魔させていただいた訳である。

初めて食べる魔法界のお菓子は正直、美味しくはなかった。日本人の味覚を覚えている私には少し、まぁ、なんだ。

しかし、美味しくないお菓子とバカップルの砂糖を足せばまぁ、なんとか。食べなければやってられない現状で、惰性でかじり続けることは出来る。

 

あぁ、味噌、醤油、お出汁。控えめで優しい味わい。甘くとも、渋い緑茶でマッチする。そんな、日本食が懐かしい。

自分の母さんが料理上手だったばっかりに、舌はしっかりと肥えてしまっている。

遠い魂の故郷を偲び、美味しくはないお菓子をかじりつつ、目の前のバカップルを眺めながら行くホグワーツ特急。

 

正直、二度とごめんである。

全ては奴等のせい。

 

 

 

 

 




アーサー&モリー「「ふふふふふ」」


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16

やっと着いたよ!ホグワーツ!


ホグワーツ到着への汽笛が鳴るなか、バカップルへ盛大なお辞儀と握手を求めて、社畜妖精がどうやってか運んでくれるらしい荷物を置き去りにナナさんだけを握り締め、いざ!ホグワーツへ!

 

「イッチネンセイはこっちだ!」

 

生徒達でごった返すホームの中で、人より横にも縦にも大きい、ハリー・ポッターではどじっ子的な立ち位置のハーフの巨人ハグリッド氏だ!

 

「すみません!握手お願いできますか!?」

 

「握手?俺はただの森番だぞ?変わったイッチネンセイだなぁ?」

 

いぶかしげな顔をしながらも少し照れた様に手を差し出してくるハグリッド氏の私の倍どころじゃない手を両手で握ってがっしりと握手!

ふおおおおお。リアルハグリッド。リアルハリー・ポッター!!

 

「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!あ!今度小屋に遊びに行かせてくださいね!」

 

「そりゃあ、構わんが・・・」

 

「うひゃあ!ありがとうございます!」

 

握手させてくれた相手にしっかりとお辞儀をして、ハグリッド氏が示す湖まで同じ一年生の波を縫って走り出す!うっひゃあ!テンション上がりますなぁ!

奇声が出ようが構うまい!人にどう見られようと構わない!今の私はテンションうなぎ登りである!

少ない体力で動き回った結果、湖に着く頃には肩で息をする羽目になったが、たまには運動も良いと普段の運動嫌いを手の平返す程のテンションだ!

 

暗い湖に浮かぶ小舟にテンション上げたまま近付くと、岸と小舟の間の空間が少し広く感じた。私にこれを乗り越えて小舟に乗り込めと?

誠に遺憾ながら、私の身長は平均以下を記録したまま成長期など夢のまた夢、そんな奇跡を迎える事なくすくすくと成長している。

よって、腕も短けりゃ、足も短い訳で。

これ、乗り越えられなかったら、沈むのでは?

入学式に?湖に水没?ねぇわ。

 

「あーー。」

 

あ、あの

 

ここはいっそのこと、ハグリッド氏を待って抱き上げてもらう?いや、諦めて小舟へと跳んでみる?あいきゃんふらい!いやいや、たぶんほぼ転ぶか足を縁に引っかけて転ぶか最悪湖にどぼん「あ、あの!!」

 

「うひゃい!」

 

「うわっ!」

 

またか!人が考え事してるときに驚かすのが本当に好きだな!ここの人らは!

バクバクする胸を押さえつつ、声のする方を見れば、私が乗ろうとしていた小舟には既に先客が居たらしい。あれ?居たっけ?

 

「居たっけ?」

 

「最初からね」

 

「あれ、声に出てた?」

 

「うん。」

 

小舟の先客は鳶色の髪に緑の目の少年だったようだ。目を少し自信無さげに逸らしながらも優しげな声をかけてくれる。

 

「小舟の前で唸ってるから、具合でも悪いのかと思ったよ。」

 

「あー、うん。具合は全然、むしろ絶好調なんだけどね。この隙間をどうやって越えようかと。」

 

「隙間?」

 

どうやら、いぶかしげな様子を見るにこの優しげな先客には、私には越えられない谷に見える岸と小舟の隙間は見えないらしい。

ならば!

 

「悪いんだけど、・・・手を貸して貰ってもいい?」

 

「・・・ああ!気付かなくてごめんよ。え、えと、どうぞ」

 

小舟と私を見て私の言いたいことに気付いてくれたみたいだ。小舟の上に危なげなく立つと少し恐々と差し出された。その手をしっかりと借りて、やっと谷を越え無事に小舟に乗り込むことが出来た。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「う、うん。気付かなくて、ごめんね」

 

「いや、悔しいことに私が小さいのが今回の落ち度だからね。というか、助けて貰ったのはこっちだし」

 

「えっ!ご、ごめん。」

 

「いや、だから」

 

「・・・・ごめん」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ふむ」

 

二人の間に流れる謎の空気。

極度のコミュ障らしい少年は俯いて黙ってしまったが、既に日本人ではないクリアさんは日本人奥義、エアーリーディングを捨て去った身であるからして。

そして、今のクリアさんはかつてないテンションアゲアゲなのだからして。

 

「あのさ!」

 

「っ!?」

 

「いや、そんなに驚かないでよ。

明らかに君のが身体大きいし、力も強いんだから」

 

「ご、ごめ「そうじゃないんだよ!」」

 

「っ!?」

 

「せっかくのホグワーツだよ!何でそんな暗い顔してるのさ!って、ことだよ」

 

「暗い、かな?」

 

「うん、お先真っ暗って顔してるよ。

いや、確かに湖真っ暗だけど。って、そんな話じゃなくてね?

さて、突然だけど質問だよ?ここはどこでしょう!」

 

「えっと、ホグワーツ、だね?」

 

「そう!ホグワーツ!ホグワーツ魔法魔術学校なんだよ!」

 

「そう、だね?」

 

「そう、だね?なんて小首傾げて可愛く言ってもダメだよ!ただ可愛いだけだよ!」

 

「か、かわいい?」

 

「魔法!魔術!学校!なんだよ!?

魔法が学べる魔法の世界なんだよ!?

人に迷惑かけても自分が楽しまくちゃ!

人生の中で輝かしい学生生活は二度と体験出来ないんだよ!

友達作って勉強して、遊んで満足出来る7年間にするんだよ!

その為には!」

 

「その為には?」

 

「悪いことしてないのにいちいち謝ってる場合じゃないじゃん!

今のだって私のこと、助けてくれただけでしょ?

私が謝るのは解るけど、助けた側が謝るのは違うでしょ!

ハイ!ってことで、私はクリア・アヴァロン、よろしくね!

改めて、さっきは手を貸してくれてどうもありがとう!」

 

声高らかに、一息に言い切って相手を見やれば目を俯いていた顔を上げて、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔をしてやがるわ。

暗い顔よりは全然いいんだけどね。

 

「・・・・・」

 

「返事は?」

 

「あ、うん。・・・どういたしまして、かな?

ははっ、僕はリーマス・ルーピン。

これからよろしく、アヴァロン」

 

はい、握手ー。

おー。リーマス君かぁー。えと、穏やかな笑顔どうも。

なんだ、笑えるんじゃん。へー?同い年の子と遊んだことないんだー。

へー。リーマス君かぁー。

 

 

 

どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リーマス「少し変わった子だなぁ」


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17

悪戯仕掛け人コンプリートまであと少し


ふふふふ。

暗い湖に鮮やかに浮かび上がる古城。

びば!ホグワーツ!

 

ここまで辿り着くのに、ちょーっと会ってはいけないあの人達に会いまくり、なんなら今も勝手に動く小舟の中でその中の一人と並んで古城を見ているわけだけども!

 

やっと!やっと!やっと着いたーーー!!

なんだが、すごくすごく長かった気がする。

学校に来るまでの時間がいろいろありすぎて濃すぎたせいなんだろうけど!

 

「すっごいねぇ!ふわははははぁっ!」

 

「アヴァロン、落ち着いて!そんなに乗り出しちゃったら小舟から落ちちゃうよ!」

 

「すごーい!すごーい!」

 

「アヴァロン?ねぇ、聞いてる?大丈夫!?」

 

「ひゅー!」

 

「・・・・やれやれだなぁ」

 

「やだなぁ!ルーピンくん!楽しみなよ!ホグワーツはきっと何度見ても素晴らしいに違いないけど、最初のホグワーツの感動は今だけなんだから!」

 

「・・・僕まで君みたいにはしゃいだら、二人して舟から落ちちゃうだろうけどね」

 

「・・・・それは、困るね」

 

「でしょう?」

 

緩く笑む姿は11才の容姿と相まって天使の様だ。最初のコミュ障っぷりはどこへやら、ずいぶんとリラックスしている様子だ。

 

「でも、楽しいでしょ?」

 

「うん、まぁ、はしゃいでるアヴァロンを見てるのが楽しいかな」

 

「おいっ!」

 

どういう意味だ、それは!

全く、失礼な話である。

しかし、そんなことなど些末なことよ!

ゆっくりと古城へと到着する小舟から降りたらローブの裾を直したりして、憧れのホグワーツで組分けなのだから!

 

「アヴァロン、ローブ捲れてるよ。」

 

「え、ごめん」

 

「女の子なんだから、身だしなみはしっかりしないと」

 

「お母さんか」

 

「こんな大きな子供はまだいらないよ」

 

苦笑混じりにいわれるが、気にしないのだ!紆余曲折を経て小舟を降りたらいよいよ大広間だし!

小舟から降りるのをルーピンに手伝ってもらったら、お別れだ。

奴はRで私はAだからね!

 

「じゃあね、ルーピンくん!

ホグワーツを楽しんで!」

 

「お別れみたいに言わないでよ、授業とかで会うんだから。

アヴァロンこそ、ホグワーツを楽しんでって、言うまでもないか」

 

「もちろん!」

 

大きく手を振って、大広間目掛けて駆け出してく。

私の予定では、悪戯仕掛け人たちと幼なじみコンビとはかかわる予定はないので、合同授業で会えば挨拶するくらいの当たり障りの無さでひとつ。

 

大広間の前には麗しの女神、マクゴナガル先生が厳粛な雰囲気を出しながらお待ちかねである。

 

「さぁ!一年生の皆さん、アルファベット順にならび、着いてきてください!」

 

「マクゴナガル先生!お久しぶりです!」

 

「はい、ミス・アヴァロン、お久しぶりです。

しかし、今は静かに速やかに並びなさい。」

 

「はい!」

 

ああ!厳格な貴女が素敵です。

組分けには組分け帽子を使うこと、組分け帽子に寮を言われたら速やかに移動すること。

マクゴナガル先生が、厳しい声で話す度に隣の気の弱そうな子がびくびくしてるが、あの美しさで厳しく言われる良さがわからないなんて、まだまだ子供だよね!

一部の業界では、ご褒美だっていうのに。

 

そんな至福の時が終わればいよいよ大広間への入場だ。

映画とは違う、3Dとも違う。本当に本物の魔法で飾り付けられた夢の空間!

マクゴナガル先生に言われた通り、きっちりアルファベット順に並びゾロゾロと行進し、大きな扉をくぐった先には・・・・。

 

 

 

 

まさに夢の様な光景が広がっていた。

頭上に浮かぶキラキラした蝋燭、テーブルには輝く食器!

そして、天井には満天の星空!!今生の田舎のおじいちゃん家を思い出す、そんな、素晴らしい星空だ!

おじいちゃん家で見る星空とあまり変わらないのでは?

とか思った瞬間、夢が醒めた気にもなったが、これは私が悪い。

だって、辺りを見渡せば、みんな見蕩れて上を向いてポカーンと大口開けてるからね。あ、これは可愛いな。

それに、私が星空にあまり感動出来ないのは田舎の中の田舎に住んでるおじいちゃん達のせいだし。いや、星空キレイで空気美味しくていいんだけどね。

どうせ、スマホないから電波なくてもやってけるし。

だから!けっして、私が年を取ってるから感動出来なくなってるってことじゃないし!違うからね!

 

なんだか虚しくなってきたので、前を向けばいつの間にか古ぼけてくたびれたとんがり帽子が椅子に置かれていた。例の組分け帽子さんですね、わかります。

しかし、想像以上に古ぼけている見た目だ。

別にパッチワークとかしてある訳じゃないけど、実物の骨董感って、実際に見ないとわからないもんなんだなぁ。

劇中で大きな意味を持つ小物だし、感動と言えば感動なのだが埃っぽそうという考えが先に来ちゃう見た目だ。

外見イギリス人だが中身が日本人のせいでイギリスの入浴事情は大変辛い。理由も事情もわかるけど、辛い。

なので、あまり汚れたくはないんだけど、帽子、キレイかなぁ。

 

なんて、思いながら眺めていれば、くたびれて折れ曲がってただけだと思ってた場所がぱくりと割れて声高らかに歌い出した。

 

 

私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シルクハットはすらりと高い

私はホグワーツ組み分け帽子

私は彼らの上をいく

君の頭に隠れたものを

組み分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気ある者住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く誠実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん!恐れずに!

興奮せずに、お任せを!

君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!

 

 

高らかに歌いきった帽子がまたぱくりと口を閉じれば、辺りは拍手喝采、私も痛いくらいに手を叩くよ!

汚い帽子とか言ってサーセンでした!

興奮するなとか、無理じゃないかな!?

 

 

 

 




帽子「さて、今年はどんな組分けになることやら」


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18

組分け開始!


「クリア・アヴァロン!!」

 

マクゴナガル先生が私の名前を呼ぶのはあっという間のことだった。

まぁ、アヴァロンのAだからね。

呼ばれて前に出るのは良いんだけど、何が問題って、ね。

ひそひそ「小さい」「同い年?」とか聞こえるのがね、もう本当に覚えてろっていうか。

とんがり帽子様のある壇上に立てば嫌でも目立つし、下に居る例の奴らとは極力目が合わないよう、深く深く帽子を被る。

深く被り過ぎて目の前真っ暗だし、ちょっと埃っぽいけど、顔が奴らに覚えられるよりは全然マシだもんね。

 

「おや。・・・・ふーむ?

これはまたずいぶんと風変わりなお嬢さんだ」

 

「よろしくお願いしまっす!」

 

「ふむ、これは難しい!

君は大切な者の為ならどの様な手段を用いても目的を遂げる狡猾さを持っている!スリザリンであれば生涯の友を得るだろう!

更には、君は学びや知識を得ることにとても貪欲だ!レイブンクローであれば最高峰の知慧を得るだろう!

 

さぁ!お嬢さん、どちらがよろしいかね?」

 

「ハッフルパフ一択で!」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「スリザリンかレイブンクロー「ハッフルパフで!」

 

「あー、お嬢さん。確かにハッフルパフも素晴らしい寮だ。だが、「ハッフルパフ」」

 

「・・・・・」

 

「ハッフルパフ」

 

「・・・理由を聞いておこうか」

 

「スリザリンもレイブンクローも確かに素敵な寮です!それは私、わかってるつもりです」

 

「ふむ、その心に偽りはないようだね」

 

「もちろん!しかしですよ!ツンデレ寮もクーデレ寮も二次元ならそれはそれは素晴らしいですが、現実的に自分が過ごすとなると話は別になるんですよ!」

 

「・・・む?」

 

「スリザリン!これは選民思想を強く持つ寮ですね。魔法族の中でも純血を尊び半純血やマグル出身者を尽く毛嫌いします。その反面、純血同士の結束がとても強く身内に甘い集団の典型です。まさにツンデレ!萌えポイントです!

スリザリンの寮の子達は純血家庭で育っているので、貴族的な高貴さもある子が殆ど。学年が上がるに連れて洗練されていく優雅さや高貴さ、貴族的であるが故の詰めの甘さから生まれるたまのうっかりさなどもとても萌えるポイントですよね!

見た目も綺麗系が多いですよね。いいです!」

 

「・・・つんでれ?」

 

「次にレイブンクロー!こちらは知識を尊ぶが故に知識を持たぬ者にとても冷たい!スリザリンとは違い持たない者には分け隔てなく興味の欠片すら見いださない!持つ者と持たない者への温度差はまさにクーデレ!攻略心が萌えますよね!

知識を求めるストイックさ、興味のあることにしか熱意がないせいで全体的に野暮ったいところのある子が多く、ミステリアスな雰囲気!一部の方々に大人気必須です!実は美人とかネタ多そうだよね!」

 

「・・・くーでれ?」

 

「どちらもとてもとても素晴らしく萌える寮ですよね、わかります!」

 

「あー、ならば何故?」

 

「二次元ではなく、現実ですから。」

 

「すまない、少し意味が」

 

「どちらも当事者になるのは辛い寮ということですよ。

スリザリンになるにはそもそも私が純マグル産であるということが大きなネックとなります。

スリザリンで友人作ろうと思ってもお前マグルじゃねぇか!で門前払いですし、うまく仲良くなれても純マグル産と仲良ししてやがるぜ!みたいな感じで相手に迷惑かけちゃうじゃないですか。あと、部屋が地下なのはちょっと。

レイブンクローはそもそも頭良くないといけないし、エリート共通の身内内での蹴落とし合いが盛んではないですか?教科書隠されるとか?まぁ私的には構わないのですが、これから7年暮らす寮がそんな殺伐としてるのはちょっと。あと、部屋に行くまでに高い階段上りたくないですし、クイズ解けないし。

 

この2つの寮は遠くから眺めて萌えてるのが絶対に楽しいですよ!各寮で普通に友達作ればいいだけですし」

 

「な、なるほど?」

 

「グリフィンドールはそもそも論外です。麗しのマクゴナガル先生はかなりの魅力ですが、そこは個人的に攻めて行こうと思ってます!正統派は正統派で魅力を感じますが、子供的で傲慢な雰囲気を持つ子も多いですし、そういうのはぶん殴りたくなるので、グリフィンドールに配属されたら、粛清して回ることになっちゃうじゃないですか!」

 

「・・・正統派・・粛清?」

 

「それに比べてハッフルパフは4つの寮の中でも癒し系の最たる寮です!すべてを穏やかに受け入れる包容力!苦労を苦労と思わず取り組む勤勉さ!常に真っ直ぐ向き合う実直さ!ふんわり癒し系はまさに人生の清涼剤!世界の財産!そんなハッフルパフで私は癒されたい!寮丸ごと暖かい!いいよね!ハッフルパフ!!最近の乙女ゲー主人公だらけの素敵な寮!」

 

「・・・・」

 

「私の熱意!わかっていただけましたか!?

わかっていただけないなら!」

 

「あー、クリア・アヴァロン」

 

「はい!」

 

「ハッフルパフ!!!」

 

「よっしゃああああ!!!」

 

勝ち取った!父さん!母さん!私、勝ったよ!

寮選び!多分ハッフルパフ適性ほとんど無いんだろうなぁとは思ってた!でも!でも!私の溢れる熱意が頑固一徹の組分け職人の帽子さんに届いたよ!

びば!ほぐわーつ!

私!楽しんでるよ!

 

 

 

 

 

 

 




ざわざわ
「組分け、困難者?」
「あれ、困難っていうの??」
「なんなんだ、あいつは」
「あいつ、今自分で決めてなかったか?」
「はは、すごいな」
「ぼ、僕はどこに行くんだろう」


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19

初めての同寮者


帽子さんを爽やかに脱いで黄色い集団に飛び込んだ私を待っていたのは、なにやら珍妙な生物を見たような眼差しである。

 

「よろしくお願いします!クリア・アヴァロンです!」

 

私渾身の満面の笑みでペコリとお辞儀!

私が怖くないことを全力でアピールすれば、流石の包容力!ふわりとした笑みを浮かべた先輩方に拍手で迎え入れてもらった!

 

「やぁ!ようこそハッフルパフへ!随分目立つ組分けだったじゃないか!俺はテッド・トンクス!5年生で監督生をしている。寮で困ったことがあればなんでも聞いてくれよな!」

 

「はい!よろしくお願いします!トンクス先輩!」

 

爽やか監督生!すごい!流石ハッフルパフ!

よろしくの握手をして暖炉のそばの暖かい座席にわざわざ案内してくれて、にこりと笑って座れば周りの上級生が手ずから皿にキレイに盛られたご飯を渡してくれる。

もっきゅもっきゅ。ううん!うまい、だと!?まさかイギリス料理がここまで美味しく感じるなんて!!

ヘルガ・ハッフルパフが考案した数々の料理!今後の食生活が大変楽しみである!

しかし、先輩方、そんなに次から次に盛って来なくても!そんなに食べれないんですけど!?

頭撫でながら笑顔で皿置かれたら食べない訳には!もっきゅもっきゅ。うん!うまし!

 

しかし、食べてる間にどんどん組分けが進む訳だが、ハッフルパフ配属がかなり少なく感じるのは気のせいか?新しい人が来る度に挨拶はするが、他寮に比べて間隔が長いような気がするし、ちらりと大広間を見れば黄色い机だけ列が短いような?

 

「はふぅ、トンクス先輩!」

 

「どうした?小動物後輩?」

 

「いや、私クリアです。じゃなくて、ハッフルパフって他寮に比べて少なくないですか?」

 

「・・・まぁな」

 

「他寮も素敵ですけど、うちだって負けてないと思うんですけどねぇ?」

 

「・・・まぁな!」

 

「まぁ、昨今の魔法界情勢的には尖った子が多くなりがちになるのはしょうがないのかもですけど」

 

「小動物は随分と難しい言い方を知ってるな。偉いぞぉ!」

 

「ちょっ!髪が乱れる!やめてくださいよっ!周りの先輩方も笑ってないで助けてくださいっ!」

 

「うんうん、なかなかの撫でこごち」

 

「うわーん!」

 

私の髪型が蹂躙されていく!周りはにこにこ笑ってて止めてくれる気配はないし!いや、どう見てもじゃれてる様にしか見えないのはわかるけども!

どうやって抜けだそうかと考え初めてすぐに、周囲のざわざわとした雰囲気がピタリと止まった。

 

「?トンクス先輩?どうしたんですか?」

 

「いやぁ。あれ、見てみろ」

 

「あれ?」

 

トンクス先輩が壇上を指差した先には、まさかの天使がいた。

 

「ふわぁ!」

 

波打つフワフワの金髪に空みたいな碧眼、唇はうっすらピンク色で肌は白磁の様に真っ白だ。ショーウィンドウに飾ってあるビスクドールみたいな顔してて、腕はほっそりしてて、まさに天使!完璧に天使じゃん!

 

「トンクス先輩!あの子、羽が生えてないです!」

 

「小動物、言いたいことはわかるが普通は生えてねぇ」

 

なるほど、突然ざわめきが止まったのは、あの子が壇上に上がったからか。

あんなド級の美少女が出れば、どこの寮に行くか気になってみんな黙るよね、そして神に祈るよね。

なにやら帽子とぼそぼそ話をしている様に見えるけど、果たしてあんな儚げな子が頑固一徹の組分け帽子氏に勝てるのだろうか。

みんなが一様に見守る中、帽子さんがぱくりと口を開く。

 

「・・・ハッフルパフ!!」

 

歓声と絶叫、今この大広間は天国と地獄に分けられた。

組分け帽子をとった天使は真っ直ぐこちらに向かって来るが、表情はふわりと笑ってるのに心なしか元気がない様に見える。日本人のエアーリーディング力の低い私だけど、イギリスの人って日本人に比べてかなり分かりやすいから、多分合ってるはず。

疑問はあれど、既に男女問わず声を掛けられながら暖炉のそばの席までやってくる天使にドキドキしながら挨拶。

 

「はじめまして!クリア・アヴァロンです!」

 

ファーストインパクトって大事!にっこりと笑顔で最大限の猫を被ってご挨拶。うん、なかなか感じいいんじゃないかな?

 

「はじめまして、シャーロット・フォウリーです」

 

小首を傾げつつニコリと笑って挨拶してくれる声はまさに鈴を転がした様に聞こえる。こんな完璧美少女って、この世にいるんだ!すげぇ!

私のテンションがうなぎ登りなのに、彼女の挨拶を聞いた途端、周りがざわめき出した。うんうん、わかるよ、美少女にこんな笑顔向けられてこんな挨拶されて冷静になれる奴なんていないよ!そいつは男じゃないもん!私も冷静じゃいられないしね!

 

「すっごい!」

 

「・・・・そう、かしら」

 

「名前まで美少女!」

 

「な、まえ?」

 

「だって!シャーロットだよ!シャーロット!外見天使で声は天上の美声!更には名前まで可愛いとか!完璧じゃん!完璧な美少女だよ!握手お願いします!」

 

「・・・・・」

 

「ありがとうございます!

ふおぁ!手までスベスベ!トンクス先輩!すごい!ここに究極可愛い天使が居ますぜ!」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「ちっちゃい!可愛い!素敵!マジでリスペクト!我がハッフルパフ寮の天使!」

 

「ふ、ふふふ」

 

「笑い方まで天使、だと!?」

 

「小動ぶ・・・いや、クリア。お前、変わってるな。

あと、小さいのはお前だ」

 

「なんですと!?」

 

「ふふふふふ」

 

「可愛い!」

 

「よろしくね、クリアちゃん。

わたしくしのことはシャーリーって呼んでちょうだいね」

 

「ちゃん!?」

 

「あら?いけなかったかしら?」

 

「いえ!滅相もございません!

え、えと。よろしくねシャーリー。」

 

「ええ!」

 

いつの間にか表情には陰りが消えて、輝かんばかりの笑顔!ま、眩しい可愛い!

周りの先輩方や同級生と話すシャーリーは麗しの天使さん。まさか、こんな可愛い子とお近づきになれるなんて、びば!ほぐわーつ!だよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「フォウリー家っていえば、聖28家でも、不透明な部分の多い貴族家なんだが、わかってるんだが、わかってないんだが。変なヤツだ」
「ふふふ、家柄と関係なく、あんなに見た目だけを純粋に誉められたのは初めてだわ!変わった子!」


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20

二人目の美少女!(主人公の感性より)


うまし!うまし!

シャーリーや他の同級生と並んで出されるご馳走を食べる。

ヨークシャープティング!うまし。

ちょっと摘まむフィッシュ&チップス!うまし。

ご馳走の王道ローストビーフ!うまし。

もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。

 

「ふふふ」

 

「?シャーリー、どったの?」

 

「口にソースが付いてるわよ?クリアちゃん」

 

「うぉ。ありがと」

 

一心不乱に食べてた代償?ご褒美に美少女から笑顔いただきましたぁ!

しかし、付けたままではいられないので、しっかりと拭う。

 

「クリア、お前ね、11には見えないな」

 

「トンクス先輩、お言葉ですが」

 

「ん?」

 

「先輩の右のほっぺにグレービーソース付いてます」

 

「うわ!?マジか!?」

 

「先輩、ホントに15ですかぁ?」

 

「おっ前なぁ~~!」

 

「ぎゃあ!髪はやめてくださいよ!

そんなテンプレしたら突っ込まずにいられないじゃないですか!わざとかと!!」

 

「お~ま~え~は~な~!!」

 

「お静かにっ!!」

 

更に髪の毛がぐしゃぐしゃにされる所を厳格な女神マクゴナガル先生の一喝で救われた!流石は女神マクゴナガル先生!私の中でマクゴナガル先生への支持はうなぎ登りですよ!

 

「ダンブルドア校長よりのお言葉です。みなさん、お静かに聞いてください」

 

そういって、マクゴナガル先生が後ろに下がると真ん中で食べてたダンブルドア校長が立ち上がり、閉式の挨拶を話し出した。

 

うぅん、ハリー・ポッターシリーズは魅力的なキャラや殴りたくなるキャラが多いけれど、このサンタクロースみたいな老人は少しだけ苦手だ。

自分で倒せるはずの例のあの人を愛を持つものが倒すのだと予言と自分の判断で決め付けて、スネイプに自分を殺させて全てをハリーに任せた。

ハリーが倒せる様に試練と苦難を山ほど残して、沢山の犠牲を強いて。正直、ダンブルドアがその気になって、例のあの人を倒す方法を見付ければあっという間だったのではないかと思う。まぁ、そしたらハリー・ポッターは話として成立しないし、多分2~3ページぐらいで終わる短編小説になってしまうのだけど。

愛や憐れみを全ての人間に持っているけど、自分で愛とはとか考え過ぎるから、目に見える形で愛の証のあるハリーとか予言に縋ってしまったのかなぁ。自分の中の愛というものに自信が持てなかったとか?

まぁ、小説の中だけでも色々しんどいエピソード目白押しのおじいちゃんだし、なまじっか優秀過ぎるから頼るとかもあんま無かったんだろう。やっと同等の友達が出来てもそいつに妹殺されちゃうし。あれ?そう考えると仕方ない、のか?

ダンブルドアの周りの大人って、父親はアズカバン、弟はほぼ絶縁状態、妹は殺されて、友人は妹殺して、側近のマクゴナガル先生は未亡人、スネイプは裏切り者で?

あ~~。ろくな幸せエピソードがないんだ。で、自分は超が付くほど優秀で頼ったこと自体が少ない、と。

 

「う~~ん」

 

これは、仕方ない、のか?老人って、年を取れば取るほど頑固になるし、又はボケるし。

 

「クリアちゃん?」

 

「うーん?」

 

まぁ、原作に私ごときモブがどう介入しようとも変化するわけでもないだろうしなぁ。

 

「あら、どうしましょう?」

 

「フォウリー嬢、簡単ですよ。

こうっ!」

 

「あだっ!」

 

「すりゃあいい」

 

「あらあら」

 

「なっにするんですか!トンクス先輩!」

 

「おら、ぼーっとしてねぇで行くぞ」

 

「へ?」

 

「クリアちゃん?あのね?ダンブルドア校長のお話も終わって、みんな寮に帰りましょうってことになってるのよ?」

 

「なんと!?」

 

「お前が食べ物口に詰めたまま唸ってるから、親切な監督生である俺が指導してやったんだろうが」

 

「指導て」

 

「ほら、さっさと行くぞ。

食べ足りないなら、糖蜜パイでも、プティングでも持ってけ。あ、飲み物も忘れるなよ?」

 

「あ、ふぁーい」

 

「落ち着いて飲み込めよ?詰まっても大変だからな」

 

「はいー」

 

割りと急いで飲み込むと別の同寮生から飲み物を差し出される。

 

「あ、ありがとう」

 

「新入生も先輩方もみんなちゃんと待っててくださってるから、ゆっくりで大丈夫よ」

 

「う、うん!ありがとう!えっと?エヴァ・ブルームちゃん、だっけ?」

 

「そ、当たり。よく覚えてたわね」

 

「うん!エヴァちゃん11とは思えぬキレイ系美少女だからね!将来は美人確定だよ!覚えとかなきゃ損じゃない

!」

 

「・・・・そんなに美少女じゃないと思うんだけど」

 

いやいや!ストレートの艶やかな黒髪、深緑の瞳、キリリとつり上がる眦!シャーリーとは別のベクトルの美人系!今年のハッフルパフは豊作なんじゃないかな!?

 

「キレイ系美少女の照れ頂きましたー!!」

 

「おらっ!アホ言ってないでそろそろ行くぞ!」

 

「うおぅ」

 

「まったく。ほら、行くわよ」

 

「うん!シャーリー!お待たせー!」

 

「ええ。大丈夫よ」

 

「エヴァちゃんも行こう!いざ!ハッフルパフ寮へ!!」

 

「あ、こらっ!糖蜜パイ落とさないの!」

 

「あぁっ!おやつが!」

 

「ふふふふ」

 

 

両側に美少女!両手におやつ!素敵なハッフルパフへの初侵入!

まだまだホグワーツ初日はこれからだよね!

 

 




「なんか、弟たちに似てる子ね」
「この糖蜜パイは非常食保存しとくべきかしないべきか」
「バカ、腐るわよ。(弟たちよりダメなんじゃ?)」


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21

ハッフルパフ寮へ!

※お気に入り数が気付けば100近く!みなさん!ありがとうございます!これからもクリア・アヴァロンをどうぞよろしくお願いします!


 

ポコポコ♪

樽底を叩く軽快なリズム

 

ビシャー

かけられる熱されたビネガー

 

「ぅあっちぃ!!」

 

響く私の悲鳴。

 

 

「やれやれクリア、お前壊滅的だな」

 

「あらあらあら、クリアちゃん大丈夫?もう少し間を取らないといけないわよ?」

 

「ちょっと!?大丈夫!?」

 

監督生と新しい友人二人に囲まれて樽底を叩きつつ、クリア・アヴァロン、憧れの楽園を前に最大の壁にぶち当たってます!

 

ところで、ハッフルパフ寮って他寮より何気にセキュリティが厳重って知ってる人が何人いるだろうか。

そもそもホグワーツのセキュリティ自体が恐ろしく厳重なのは言うまでもないことなんだけど。

ホグワーツ創始者がそれぞれに創った各寮は入口が隠されていて、他寮には絶対に秘密にされているらしい。一般的凡人のこの私、クリア・アヴァロンなんかは縁のないことではあるが、我らの未来の主人公、ハリー・ポッターなんかはその有り余る主人公力を駆使して、4つの寮のうちなんと3つの寮への侵入を果たしている。

これはホグワーツ史上の快挙ともいえよう。

そんな快挙を成し遂げた主人公ですら、我がハッフルパフ寮への侵入は叶わなかったのだ!本編の流れ的に入る必要性もなかったんだけどね。

 

ちなみに、グリフィンドールとスリザリンは合言葉制を採用している。やっぱり合言葉って男のロマンだよね!わかります!

レイブンクローはクイズ式を採用している。ただし、レイブンクロー生でも答えられなきゃ寮に入れないという鬼畜仕様。何故家に帰るのに一般人に解けないようなクイズを出されるのか。

最後の我がハッフルパフ寮はなんと!音ゲー制の採用である。

 

ポポン♪

ビシャー

 

「あぢー!」

 

「だぁーー!!だから違うっての!」

 

「クリアちゃん、今のは随分と急ぎすぎたわねぇ」

 

「あぁっ!もうっ!ほら、タオル!火傷はしてないでしょうね!」

 

「うう、ありがとう」

 

「おっ前なぁ!ビネガーもタダじゃねぇんだぞ?」

 

「トンクス先輩ひでぇっす!気にするとこはそこ!?」

 

「言いたくもなるわ!今ので何回目の失敗だと思ってるんだお前は!」

 

「先輩!自分!過去は振り返らない主義です!」

 

「アホか!お前のこれからに関係するんだから少しは振り替えって反省しろ!」

 

「うぐぅ!正論!」

 

「でも、クリアちゃん?このリズムを覚えないと寮に入れなくなっちゃうわよ?私、クリアちゃんが寮に帰って来られないのは悲しいわ」

 

「そうよ?新入生で貴女だけが出来なかったのを、監督生の先輩がわざわざ気にしてこうして教えてくださってるんだから、もう少し真面目に頑張りなさい。

毎回私たちハッフルパフの生徒が来るまで外で待ってる訳にも行かないでしょ?」

 

「うぐぅ!正論のダブルパンチ」

 

「っにしても、なんだってこれがそんなに出来ないんだよ?

これ、そんなに難しくはねぇだろ?」

 

ポコ・ポコ♪

 

トンクス先輩が樽底で軽快なリズムを刻めば、黄色を基調とした暖かな談話室が見えてくる。

中にいる生徒達がパッと顔を明るくしてこちらを見てくるが、トンクス先輩が顔をしかめ片手を振ると残念そうな悲しそうな顔をしているのが見えた。うぐぅ!申し訳ない!

悲しそうな顔が扉が閉まることで見えなくなるが、心の罪悪感が半端ない。チラッと見えたが、皆さん持ってきた軽食やお菓子を机に並べてはいるものの、和やかなパーティーをしている様にはちっとも見えなかった。

 

「ううぅ。」

 

「あいつら、まだ始めてねぇみたいだったな」

 

「うぐっ」

 

「あらあら、あれからそう短くはない時間が過ぎてるはずよねぇ?」

 

「うぐぁ」

 

「みんな、クリアを待ってるってことよね」

 

「い、言うなぁ!言うんじゃないいいい!」

 

「大丈夫だから。早く『ハッフルパフ・リズム』覚えちまえ。うちの寮の奴等はんなこと気にしねぇし、お前が心配なんだよ」

 

「トンクス先輩!」

 

「なんせ、過去に『ハッフルパフ・リズム』を覚えるのにここまで苦戦してた奴なんて見たことねぇからな」

 

「ぐっふ」

 

「あらあら」

 

「ちょっ!トンクス先輩!トドメ刺しちゃダメですって!」

 

この地獄はハッフルパフ寮恒例イベントらしく、新入生が『ハッフルパフ・リズム』を覚えて自分で扉を開き自己紹介し、和やかにパーティーをするという、なんとも心癒されるイベント!なのだ。『ハッフルパフ・リズム』を叩けたらなぁ!!!

この歓迎パーティー用にホグワーツのキッチンへと繋がる扉から軽食とかも屋敷しもべ妖精さん達に頼んでいるらしいのに!

この扉?を隔てた向こうに楽園があるのに!あるのに!!

あぁ、ハッフルパフ寮!

黄色と黒を基調にした暖かな空間!

巨大で柔らかなソファーにふかふかのクッション!

優しい火を燃やす暖炉に可愛い樽蓋の扉!

薬草学の教師で我が寮監スプラウト先生の持ち込んだ和みの観葉植物たち!

美味しいデザートや優しい寮生達がこの向こうにいるのに!!

 

ぽぅん、ぽぅん

ビシャー

 

「ぎゃー!」

 

「・・・・もはや才能だな」

 

「クリアちゃん、叩く力が弱すぎるわぁ」

 

「タオル、そろそろ換えなきゃ」

 

「ちくしょう!!!こんなところで!」

 

楽園が遠い!!

 

 

 

 




「あ、また悲鳴が」
「大丈夫かな?あの新入生」
「トンクスもついてるからいつかは入ってこれる、筈?多分?」

ぎゃー!

「あの子、大丈夫、かな?」
「あ、このお菓子を取っといてあげよう」
「じゃあ、これも」
「これも食べるんじゃないかな?」
「飲み物は何がいいんだろう?」
「ソファーの一番いいとこ、開けといてあげなきゃ」

「「「今年もうちの新入生すっごく良い子ばっかり!!」」」


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22

はじめまして!同室者!


「ふふ、ふふふふふふ」

 

「おい、これで最後だからな」

 

「・・・・・あらあら」

 

「シャーリー、あれにはまだ近づかない方がいいわ。今は離れてましょ」

 

「ちくしょう!この樽め!往生せいやっ!」

 

ポコ・ポコ♪

 

ありったけの恨みを込めたこの二撃!届け!

樽底を射抜かんばかりに叩いたら、樽が私に恐れをなしたのか、ゆっくりと寮への扉が開きだした。

 

「おっ!」

 

「今度はバッチリだったわぁ」

 

「・・・嘘!信じられない!」

 

「エヴァちゃん!?」

 

そして、私はハッフルパフ寮へ英雄の如く迎え入れられたのだ。

穏やかだが賑やかなパーティー。

試練を乗り越えた私を暖かい暖炉の火が迎えてくれて、優しい同寮者達が、お皿に盛った軽食やらデザート、果ては飲み物まで差し出してくれて、労いの言葉をかけていってくれた。

曰く、最後まで諦めず挑戦し続ける忍耐力は素晴らしかった。

曰く、いつ終わるかもわからない挑戦の中、君に寄り添い続けた素晴らしい友人達とこんなにも早く出会えるなんて、すごいことだよ!

曰く、手の痛みはどうだい?辛かったら言って欲しい。

曰く、君の様な素敵な子が我がハッフルパフで嬉しいよ!

などなど。

 

・・・・つらい。

なにがつらいか?

同寮者達の純粋さが辛い。

数々の労いの言葉はからかってるとか馬鹿にしてるとかではなく、本気で本心から言っているのがわかってしまうから辛い。

誰しもが一発合格出来た『ハッフルパフ・リズム』を数十回もかけてやっとこさ叩ききっただけ。しかも、周りの方達よりも中身だけならかなり年上な私が。

これが、馬鹿にしてるとか、からかってるならいくらでも反撃出来るのに・・・。

ただただ手放しで快挙を成し遂げたかのように誉められ続けることのなんと辛いことか!!!

あれって、そんな誉められるようなことじゃないんだけどなぁっ!!

 

頼みのツッコミ役候補、トンクス先輩は涙ぐんで鼻を擦って近くの同輩だろうか?と肩を叩きあって爽やかに笑ってやがるし。貴方もハッフルパフ脳か!!

 

シャーリーとエヴァは二人でのんびりとお茶飲んでるし。私も混ぜて!助けて!

 

誰か助けてください!すごくすごくいたたまれないよ!!

ハッフルパフが善人の集団過ぎてすごく可愛いけど、恥ずか死ぬ!!

 

 

 

 

一通りの挨拶という名の拷問がすんだ頃だろうか?

裏切り者トンクス先輩の解散の声と共に本日のパーティーは終わりを迎え、各割り振られた部屋へとみんな帰っていく。恐ろしい羞恥プレイを集団で純粋にかましてくるとは、ハッフルパフ、なんて末恐ろしい子たち。

そりゃ、他の寮のひねくれ者とかがかなう訳なかった。

あの純粋ビームは辛い。騙すのすら恐れ多いと思わせる程の純粋さ。

どこで育てばああなる・・・って、そっか、ここハッフルパフ寮で7年培養されるんだった。

 

「お疲れ様、クリア」

 

「クリアちゃんったら、さっそく人気者さんねぇ」

 

「・・・エヴァ」

 

「なによ?」

 

「私達は強く、自分を持ってこうね!」

 

「意味がわからないわ」

 

「あら、二人だけなんてズルいわ。私も仲間に入れてちょうだいな」

 

ガッシリと手を握りエヴァと見つめ合えば、胡乱気な眼差しを注がれるが、その視線にほっとする自分がいる。

エヴァ、君は変わらずにいて欲しい。

シャーリー、君はハッフルパフに染まるのが早そうだ。ほわほわ天使が凄く可愛いことになるだろうけどね!時たま私の精神値と引き換えになる時もあるだろうけど。

 

 

「あ、そだ。

二人とも、部屋ってどこ?

今度遊びに行くねー」

 

「ええ、いいわよ。私は一番端って聞いたわ」

 

「へぇ?角かぁ。いいよねぇ。私も角らしいんだぁ」

 

「あらあら?私も端の方だと教わったのだけど」

 

「・・・みんな?」

 

「ふぅん。女子寮って三角形の形してるのかな?」

 

「そんなことはなかったと思うのだけどぉ?」

 

三人供が角部屋案内?この真っ直ぐな通路の角?

樽蓋みたいな扉が左右に並び、暖かなカンテラの火が通路を明るく照らしているのに、浮かび上がる予想がこの通路を寒々しいと感じさせてしまう。

バカなことを言ってみたが、シャーリーに無情にも撃墜されてしまう。

三人の歩みは誰一人止まることなく、とうとう通路の端に着いてしまった。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・あらあらあら?」

 

「ねぇ、クリア?」

 

「なぁに?エヴァちゃん?」

 

「あら素敵!三人一緒の部屋なのね!!」

 

「の、ようね」

 

「わー。なにこの偶然。ホグワーツ怖い!」

 

「どうやって部屋決めてるのよ!」

 

「わかんない。ホグワーツ怖い!」

 

偶然仲良くなった子が偶然同室?それ、どんな偶然?しかも、部屋の中を見たが、私達三人部屋なのか誰も居ない。

普通は5人部屋のはずだよね!?

奥に山盛りになってる荷物とかあるけど、それを抜きにしてもどんな偶然!?

 

「二人ともー!中もとっても素敵よぉ?」

 

「シャーリーが平然としてるってことは魔法界じゃあ普通なの?これ」

 

「普通だとしても怖い!ホグワーツ怖い!」

 

 

 

 




「ハッフルパフでもこの子たちは少し難しい子達ですね。では、一緒の部屋にしておきましょうか」
「そうですな。あ、あのクリア・アヴァロンもハッフルパフでしたな」
「でしたら、あの子をこの部屋にするのはどうでしょう?彼女らの良い緩衝材になるかもしれませんわ」
「ほほぅ?マクゴナガル先生とフリットウィック先生両人が注目しておるなど、珍しいこともあるものじゃ」
「彼女は面白い子ですよ、ダンブルドア校長」
「人の心の壁を乗り越えるのに長けた子ですわ」
「ふむ、ならばそうしてみようかの?」
「はい、では、シャーロット・フォウリー、エヴァ・ブルーム、クリア・アヴァロンを同室にしますね」


実は本当に偶然だった恐怖の部屋割り


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23

最初の優しさ


ホグワーツ初めての夜!

女子三人集まって!

さあ!

「「お休みなさい」」

 

え?

隣のベッドから聞こえてくるのは安らかな寝息!?

嘘でしょ!?もう寝ちゃった?

 

「「・・・・・」」

 

なんということでしょう。

いや、確かに私の試練のせいで随分遅くなってしまったけどさぁ。

そんな即刻で寝なくたっていいのになぁ。

どうせならキャッキャウフフの夜の女子トークとかさぁ。いや、まだ子供だし、夜更かしは辛いか。

でもなぁ、私達お互いのことまだ名前しか知らないのに。

そもそも明日の授業の準備してないけど、大丈夫なのかな?あの謎の時間割、私読み方わかんないんだけど。

最初はオリエンテーション?いや、ハリーさん達初日から授業してなかったか?ってことは教材いるよね?

あれ?何も準備してないけど。というか、授業場所知らないけど?

・・・・・うーん。

 

日本人としてのサガなのか、どうにも事前準備なにもなしというのは落ち着かないんだよなぁ。

うーん。上級生で何人か談話室で話してたから、まだ誰かしらいる筈。

ちょっと行ってこようかなぁ。

そーっと部屋から抜け出して、左右の蝋燭の灯りだけで浮かび上がる薄暗い一本道を一人逆戻り。なんか、お化けでも出そうな道だなぁって前世の私ならびくびくするんだろうけど、ホグワーツって当たり前みたいにゴーストふよふよ浮いてるからなぁ。

なんか、日本の幽霊とは怖さが別方向だし、あんまり怖くないんだよなぁ。

うーん?どうせならピーブズ辺りを教育して、由緒ある日本式幽霊の作法を教授するべきなのだろうか。

 

薄暗い一本道から樽蓋のドアを潜ると暖かな談話室には上級生らしき何人かが集まって話をしていた。

 

「あの~」

 

「あ?クリアじゃねぇか。どうした?寝られないのか?」

 

どうやらトンクス先輩も居たようだ。

流石にほぼ初対面の先輩方に聞くのは多少緊張してしまうので一安心である。

 

「テッド、またそんな乱暴な口調で」

 

「下級生が怖がっちゃうだろって、今話をしていたばっかりだろう?」

 

「う、悪ぃ」

 

「いや、トンクス先輩全然怖くないので、大丈夫ですよ?」

 

「そうかい?」

 

「まぁ、爽やかだったの最初だけで、あとは全部フランクというか、あれでしたが」

 

「「ぶふっ」」

 

「てめぇ、クリア」

 

「で、でも!トンクス先輩が優しいのは少し話せばわかるんで!気にしなくても大丈夫だと思うのですが!!さっきのも私のことを心配してくれてたんですよね!?」

 

「お、君はわかってるね!」

 

「そうさ!テッドは我がハッフルパフの中でも面倒見もよく頭がいいし、箒乗りまで上手いんだよ!

僕らの自慢の新監督生さ!」

 

「まぁ、口調が少し乱暴な所があるから下級生や女子生徒に怖がられるとこもあるんだが、テッドが良い奴なのは間違いないな。君は見所があるぞ?」

 

「~っやめろ!バカ共!」

 

「なんでだ?本当のことじゃないか?」

 

「バカ、我らがテッドは照れてらっしゃるんだよ」

 

「本当のことなのにか?」

 

「そこがテッドの謙虚なとこさ」

 

「てめえら!!」

 

「・・・・うわぁ」

 

ハッフルパフの純粋攻撃の被害者がここにも。もう一人はわざとだろうけど。

 

「で!クリアはどうして談話室に来たんだ?

もう寝る時間だろ?」

 

無理矢理話題を変えようとしてるのはバレバレだが、こっちが本題だし、ここはノらせていただこう。

 

「あ、はい。明日の授業のこと何もわからないので、誰かに聞こうかと思って出て来たんです。

時間割の読み方とかがよくわからなくて」

 

「え?」

 

「あれ、わからないのかい?」

 

「あー」

 

三者三様の反応だが、二対一で私が変みたいな扱いなんだが?唯一トンクス先輩だけは何やら納得がいってるみたいなのが救いである。

あの、四角い紙に真ん中から四角く渦状に書かれた意味不明な時間割を読めない私がおかしいとでも???

 

「クリア、お前やっぱマグル系だったか」

 

「え?トンクス先輩には私が魔法使いの子に見えたんですか?」

 

「いや、あんだけ何にでもはしゃいでたらマグルにしか見えねぇよ。・・・・まぁ、そこが問題にもなるか」

 

「ですよねー。・・・はい?」

 

トンクス先輩?今、問題って言わなかったですか?

 

「あれな、月曜日から土曜日まで、真ん中から読んでくんだよ」

 

「真ん中から、だと!?」

 

「な、普通はそんなんわかんねぇよな」

 

「そんなに変なのかい?」

 

「真ん中からが当たり前だと思ってるんだけどな」

 

「お前ら魔法使い族だけだよ、あんな訳わかんねぇ時間割」

 

「ですよね!?もっと良いやり方ありますよね!?」

 

「まぁ、それはそれとしてだ」

 

「え!?時間割置いといちゃうんですか!?」

 

「置いとけ」

 

「あ、はい」

 

「あのな?クリア、お前今のホグワーツで自分からマグル生まれとか言うのはやめろな?」

 

真剣な声で言うトンクス先輩の忠告には心当たりがありすぎる。ハリーの存在どころか、あの予言すらない暗黒時代の魔法の世界。

 

「・・・・差別、と、『例のあの人』ですか?」

 

「・・・ああ、お前はバカの割りに頭がいいな」

 

「普通は逆では!?」

 

「お前は普通を語るな」

 

「ひでぇ!」

 

「正直な話、うちの寮内でさえも差別主義な奴は少しだが、居る。

他寮程過激な訳じゃねぇが、マグルを受け入れるのを怖がってるんだろな。

一番気を付けなきゃなんねぇのはもちろんスリザリンだが、レイブンクローやグリフィンドールにだって居ないわけじゃねぇ」

 

「・・・差別って、そんなに根深いんですか?」

 

「・・・まぁな。ここんところは特にだろうが、俺が一年生の時だって少なからずあった」

 

「テッドも最初はいろいろあったよな」

 

「今でさえ、実力を認められて監督生にまでなってるけど、その分風当たりも強かったりするからな」

 

「俺のことは今はいいんだよ。

特にうちの寮はマグル生まれが多い。その分他寮から差別的な扱いを受けることもある。何かあったらもちろん上級生や俺が助けてやる。・・・が、情けねぇ話だが、俺らがどこまで出来るかはわからねぇ」

 

「ハッフルパフ寮は基本的に気が優しい子ばかりだから、争い事は苦手な子が多いからなぁ」

 

「それに、マグル生まれが多いからそもそも魔法が苦手だったりするんだよな」

 

「て、ことだ。これはハッフルパフ全体がそうなんだが、気の良い奴が多いから他寮から目の敵にはされねぇが、対抗も出来ねぇ。

俺みたいなのはハッフルパフ内じゃあ特殊な方だな。

だからこその監督生でもあるんだが・・・」

 

「テッドは他寮にも顔が効くから凄いんだよ!」

 

「呪文も上手いし?」

 

「茶化すな!」

 

「でも、トンクス先輩、私は自分がマグル生まれだと恥じる気持ちは全くないです」

 

「俺だって無ぇよ。けどな、魔法界全体が今はそんなんばっかなんだよ。

俺は可愛い後輩も尊敬する先輩方にもそんな辛い目には合って欲しくねぇ。

けど、俺に力が足りねぇのも事実なんだよ。

・・・・・すまねぇ」

 

「トンクス先輩・・・」

 

「っと、悪ぃ。初日から怖がらせちまったな。

お前は危なっかしいからつい、な」

 

そう言って苦しそうに笑うトンクス先輩を二人の友人が辛そうに見ている。

 

 

 




「不甲斐ない監督生だよな」
「・・・テッドだけじゃないだろ」
「俺達だって」



「つまり?」


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24

最初の決意


なにやら寂しげな様子の先輩方だが、それは至極簡単に解決出来るんじゃないだろうか?

 

「先輩方!つまりは!補習をすればいいんですね!?」

 

「は?」

 

「あ、すみません!

補習じゃ聞こえが悪いですもんね!勉強会って言っときます!」

 

「え~っと?」

 

「どういうことかな?」

 

「つまりは!ハッフルパフの子達が自衛出来ないのが問題な訳ですよ!」

 

「まぁ?そう、なのか?」

 

「え?そうなの?」

 

「ハッフルパフからケンカを売るような人は滅多に居ないというなら、他寮からの差別や偏見が問題なんです。

それならマグルってだけでいちゃもん付けられない様に、しっかりとした実力を身に付ければいいんですよ!

 

そもそもが、先輩方だけでみんなを庇いきるなんて土台無理な話なんですから。

そんなに先輩方が背負い込む必要って全くないですよ?」

 

「・・・・・」

 

「確かに、差別されることの精神的ダメージは大きいので、先輩方はそこを気にしてらっしゃるかもしれませんが、それこそ仲間同士強く生きてけばいいわけですしね」

 

「・・・・・」

 

「経験談ではありますが、多少の苛めや差別なんて、心の底から信頼出来る友人が居るだけでどうでも良くなったりしますからね」

 

「・・・・・」

 

「あ!勉強会の実施に関しては色々計画立ててみますね?こっちも授業始まってからでないとわからないことが多いので!」

 

「「「・・・・」」」

 

「そうと決まれば、今日はもう寝ますね!

・・・・だから!そんな顔してちゃダメですからね!

おやすみなさい!」

 

一方的に捲し立ててあっけに取られているうちに戦略的撤退!

女子寮の廊下を足早に進みながら羞恥と後悔と少しスッキリした気分を噛み締める。

今日入学したばかりの新入生にこんなこと言われたってなんの説得力もないわけだけど、でも、嫌だったのだ。

組分けの後、優しくしてくれた人が悲しそうな顔をしてるのも、優しくしてくれた人達が悲しい思いをするのも、前世含めて数十年の自分より圧倒的に年下の子達が楽しいはずの学生生活をあんな重苦しい事考えながら過ごさなきゃなんて耐えられない!

前世の私なら心の中でうだうだ考えても絶対実行しようとか宣言とか、心に浮かんだことそのまま言うなんて絶対しなかったし、あり得ない!

でも!今の私は前世の後ろ向きでオタクで引きこもりとは違う私なのだ!

どうせ人生なにがあるかわからない!

うっかりすぐに事故にあって死んじゃうとか、前世であったんだから、後悔だけはしないように生きないとって両親を悲しませてしまったときに心に決めてる。

人生の座右の銘は唯我独尊!!好きに行動して好きに生きる!

私はつまらない人間だけど、誰かの悲しい顔とか吹き飛ばせるような人間になる努力を今こそするのだ!

勉強だって努力でどうにかなるんだしね!

 

決意を新たにベッドにたどり着き、ゆっくり休む。

明日から忙しくなるぞー!

 

 

例のあの人とか、マグル差別とか、モブの私にはなんの関係もないからね!

楽しく生きて行こう!みんな笑って生きていこうよ!

ビバ!ホグワーツ!だよ!

 

 

 

 

 




「・・・・・・」
「・・・・は~、びっくりした」
「アッハッハッハッハ!!なにあの子!!」


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25

最初の朝食


昨夜は色々あった訳ですが、なんの関係もなく朝は来るわけで。

 

「ふわあ~~ぁ」

 

あぁ、眠い。

昨日はわくわくして寝付けなくて、更には計画を実現可能とか何も考えずにアイデアだけ考えて寝付けなくて。

幼いマイボディに夜更かしは厳禁だったのに、ついうっかりと明け方までそわそわしてしまった。

 

しかし、イギリスでも美味しい朝食、しかもホグワーツの朝食を逃す愚を犯す訳にもいかない。

眠気の取れない顔に冷水を被って肩甲骨まである少しうねってる黒髪を少しだけ整えて、ローブを頭から被ればさぁ、完璧である。

 

「いよっし!バッチリ!」

 

「あらぁ、クリアちゃんすごいわぁ。とっても早いのね」

 

「私たちより遅くに起きたのに一番早く身支度終わってるのはとっても早いで済ませていいものなの?」

 

「いやぁ~だってまだ10代になったばっかだしさぁ。

それに、シャーリーやエヴァみたいに美少女でもないからそこまで気にしてないしねぇ」

 

「うふふ、クリアちゃんもとっても可愛いと思うわぁ」

 

「そうゆう問題?あなた達、会話噛み合ってる?」

 

「まぁまぁ、せっかく早めに起きれたんだし!

朝ごはん早く食べて、早めに教室に向かおうよ!

昨日先輩方に聞いた限りだと、教室へ向かうのも大変だって話だよ?」

 

「あ~、あの変な時間割のせいじゃなくて?」

 

「うん、全く別の問題」

 

「えっ、あれ以上におかしなことがまだあるの?」

 

「うん」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「早く食べて移動しましょ」

 

「異議なーし」

 

「あらあら?二人の時間割、どこか間違ってたの?」

 

 

やっぱりあの時間割になんの疑問も持っていないシャーリーを横目で見つつ広間で朝ごはんをかっこむ。

イギリスの朝食って、かなり早く食べれるの重視。腹持ちも気にするけど、基本は早く食べてのんびり紅茶がいいよ。

ついでに周りの同級生に時間割の読み方と今日の時間割、ついでに初日の一年生の大半を遅刻にさせるヤバい階段の話をすればみんな顔色を失くしつつ、朝ごはんをかっこみ始めた。

中には是非とも一緒に行かせてくれないかと鬼気迫る勢いの生徒が居たり、教えてくれてありがとうと涙を浮かべる集団も居たり。

先輩の中には早めに来れる子達は教室まで案内してあげると言ってくださる方も居たり。

我がハッフルパフ寮の助け合い精神に朝からほっこりとした気分で紅茶をすする私である。

うん、今日もうまし。

 

「ほら!クリア!お婆ちゃんみたいに紅茶飲んでないで行くわよ!」

 

「わ、わかったって!」

 

「ふふふ、みんな仲良しねぇ」

 

「シャーリーも笑ってないで早くする!」

 

「はぁい」

 

エヴァって世話焼きさんだよなぁ。

テキパキと周りの子達にも声をかけて遅れてる子の世話をして。

将来はきつめ美人の姉さん女房かぁ。

わ~私が嫁に欲しい。是非とも欲しい。

 

「ねぇ?エヴァちゃーん」

 

「なに?」

 

「嫁に来ない?」

 

「行かない」

 

「だよねー」

 

あっさりとフラれてしまった。まぁ、頷かれても困る訳ですが。

朝からぞろぞろとハッフルパフ大移動に他寮から奇異の目で見られてるけど、気にしない。

ハッフルパフの先輩方は頑張ってとか間に合うようにねとか優しく声をかけてくれるし、優しげな笑顔で手を振ってくれる。

一年生軍団もはにかみながら手を振り返すし、なにこの幸せ空間。朝から癒され過ぎでしょ。

 

「あぁ、今日1日これだけで頑張れる気がするよ」

 

「あら、クリアちゃん。そんなに朝ごはん美味しかったの?」

 

「クリア、簡単ねぇ。まぁ、いいことだとは思うわよ?」

 

「ぐぅっ!二人とも可愛すぎかよ!!」

 

「突然なに!?」

 

「あらぁ、ありがとう」

 

 

ああ!ホントに組分け帽子に全力で逆らってハッフルパフになったかいがあった!

我が楽園はここにあったんだ!

 

 

 

 

 

 

 




「毎年新入生に声かけるタイミングを迷うよね」
「わかる」
「急に話し掛けたら怖がっちゃう子も居るし」
「そしてハッフルパフ生の大半が遅刻して得点が下がるんだよね」
「今年は全員間に合いそうで良かったねぇ」
「そこまで寮杯気にしてる訳じゃないけど、減点は喜べないもんね」
「「「よかったよかった」」」
「おい!お前らも急いで食べろよ!遅刻するぞ!」
「「「はっ!!!」」」
「テッドは今年も安定のハッフルパフのママだね」
「そだなー」


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26

最初の同志


ホグワーツ最初の授業にみんなとってもわくわくそわそわしてる。

急いで寮の各部屋に戻ってお昼までの授業の準備を抱えて、出くわした廊下で足りないものを確認し合う。

羽ペン忘れる子もいたが、この子は何で勉強する気だったのか少し気になるところだ。

 

そして、私達の最初の授業を聞いた後の先輩の顔が何やら不憫な者を見る眼差しになったのがとっっっても気になった。

ねぇ、先輩?何故そんな顔をなさるのでしょうか?

ねぇ、先輩?『闇の魔術に対する防衛術』に何があるんですか!?

その先輩の顔を見た同級生達は一様に緊張しながらも、動く階段に驚愕し、こいつのせいで沢山のハッフルパフが遅刻の憂き目にあったのだと怒りの眼差しを向け、先輩の後を小鴨よろしく着いていく。

そんな後方で少し隙間を空けて着いていく私がしていることは何か?

 

「だからさぁ、ピーブズ~。単純に大きな音出したり急に飛び出したりが幽霊の驚かし方の全てじゃないと思うわけ」

 

「いや!そこは偉大なる悪戯者としての矜恃ってものがあるだろぉ?」

 

「そりゃあ、最初とか一年生なら構わないんだろうけどさぁ。マンネリっていうの?七年間同じような手口じゃ飽きがきちゃうじゃない?子供は流行に敏感なんだし、実際七年生にはほとんど効果ない訳なんでしょ?」

 

「そりゃあ、ハッフルパフの大間抜け共・・っと失礼。可愛らしいパピー達なら何時でも効果覿面だぜぇ?」

 

「おいこらテメェ口を慎めや。

・・・まぁ言い直ししたから特別に目溢しするけどさぁ。

やっぱなってないっていうかさぁ。

ゴーストだろうと成長って必要だと思うよ?

さっきの登場も、最初に一発ってならいいんだろうけどねぇ」

 

「・・・・・まぁ、その最初の一発にすらビビらなかったハッフルパフが居たが。

・・・・・・なぁ?お前、本当にハッフルパフか?」

 

「おお!そのケンカ買うよぉ!今に見てなね、ゴーストに効果のある呪文ソッコー習って実地でじっくりしっかり試してあげるからね!」

 

「やめてくれよぉ、兄弟。

アンタと争うって気はさらさらないぜぇ?」

 

「しょうがないなぁ、兄弟は。

まぁ、今回はお互い出会ったばかりだし、わからないのもしょうがないね。

ハッフルパフの!私は寛大で優しいからね!

貸しにしとくけど、二度目はないからね」

 

「ギャハハハハ♪ありがとよ!兄弟!!」

 

「やれやれ、兄弟は調子がいいんだからさぁ~」

 

「いやいや!クリア!あんたは何してんのよ!!」

 

「オレンジと青の半透明の風船と意気投合してます」

 

初志貫徹。初の授業に急ぐハッフルパフ生を驚かそうと盛大に登場したピーブズに驚かすとは何か?を語り合い意気投合した所である。

 

幽霊とは何か?

ゴーストとはどの様にするべきか?

これは、ことホグワーツにおいては人生観、またはゴースト観とも言うべきか。そんな哲学的な学術的な話となるだろう。

 

「やっぱ、驚かすにもいきなり驚かせるのと、思わせ振りに間を持たせるのってかなり違うじゃない?」

 

「でもよぉ~。間を挟んでも失敗するのがオチだぜぇ~?」

 

「そこがピーブズが成長しなくちゃならない部分なんでしょー?だからさぁ「クリア!あんたいい加減にしなさいよ!」うわっ」

 

「ほら見ろよ兄弟。や~っぱり驚かせるには、突然!大きな音!気付かせずに一気に!ってのが重要なんだよ」

 

「えー!今のは所詮条件反射な訳じゃん?真の恐怖ってのはじわじわっと、そして一気に止めをってのがそうなんじゃないの?」

 

「結局は一気だろぉ?」

 

「ちっがうんだよ!

間を置くことで生まれる恐怖感がだねぇ!なんっでわっかんないかなぁ!」

 

「クリア!いい加減にしないと怒るわよ!!」

 

「あー、御言葉だがミス・ブルーム?」

 

「なによ?ピーブズ!」

 

「既に怒ってるのでは?」

 

「ピーブズ!!!」

 

「ギャッハハハハハ♪

今年のハッフルパフは変な奴が何人もいるなぁ!

ああ、楽しい新入生ちゃん達だぜぇ」

 

「おっとぉ、ピーブズ、そろそろ教室だしまた後でね」

 

「おお!兄弟!是非とも語らうとしようぜぇ!

あんたほどこのピーブズ様と話の合う奴はなかなかいないからなぁ!」

 

「さっさと消えなさい!この風船バカ!!」

 

「んだよぉ、ミス・ブルームぅ?そぉ~んなに俺様のはじめましてが気に入ってくれたのかぁ?

嬉しいなぁ~?」

 

「言わせておけばぁ~~~!!!」

 

「ギャッハハハハハ♪またなぁ~」

 

「あ、またね!」

 

「もう二度と来るなぁ!!!」

 

 

さぁ!壁の向こうに風船の兄弟は去っていったし、いよいよ初の授業で、ある!

 

 

 

 




「急に出てきてビックリしたねぇ」
「ゴーストがいるなんて、ホグワーツってすごいや!」
「おっきな音、怖かったよ~」

「みんなぁー!あれには気を付けるようにね!
・・・・・・あのビーブス相手にあんな平然と話してる子初めて見た。テッドに伝えとこう」



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27

最初の授業


「私はクリア・アヴァロンです!

イギリスの一般家庭の一人っ子!両親共にマグルのマグル生まれです!

杖腕は右で、相棒の杖はナナカマド杖のナナさんです!

ホグワーツでは楽しい毎日をみんなと送っていきたいと考えてます!どうぞよろしく!」

 

ぺこりと頭を下げると柔らかな拍手に迎えられ、私の自己紹介は終わり。

次の人が教室の前に・・・・・・。

 

どうしてこうなった?

 

 

まぁ、どうしたもこうしたも。

不憫な者を見る目をした上級生に連れられて、無事に『闇の魔術に対する防衛術』の教室に着いた我らハッフルパフ一年生。

授業開始までそわそわドキドキと待っていたのに、待てど暮らせど教師が来ない。

そうこうしてる間に授業開始の鐘が鳴るのに教師が来ない。

ざわざわとするハッフルパフ一同。

周りには聞けそうな人が一人も居ない。

することもない。

しょうがないので、自己紹介をして待ってようか!と半ばやけで提案した案が見事可決。

嘘だろ!?

なんて思いながらもABC順で自己紹介を初め自分の番を終わらせた所である。

 

「ねぇ、エヴァ?」

 

「なに?」

 

「先生が初日からボイコットする授業ってなんぞ?」

 

「私が知るわけないでしょ・・・」

 

隣の席のエヴァちゃんは疲れた様に机に肘付いて自己紹介を眺めてる。

時折羊皮紙に自己紹介とかを書き留めてるみたいで真面目だなぁとか感心してしまう。

私はハッフルパフの天使達のことを脳味噌に刷り込み中だから大丈夫なんだがね!特技の全力使用である。

あ、あの子も可愛い。

 

「不思議よねぇ」

 

「シャーリー、それは不思議ですませちゃいかんヤツです」

 

「でも、みんなのことちゃんと知れて私、嬉しいわぁ」

 

「うぐぅっ」

 

私を挟んで隣に座るシャーリーはふんわかした笑顔で可愛いこと言っててまじ天使。

私と一緒で記憶派なのかニコニコと自己紹介を見つめている。

周りの子もシャーリーの言葉にうんうんと頷いてる辺り同意見なんだろうが、みんな天使かな?

 

「でもさぁ、自己紹介だけじゃ授業の意味全くないよねぇ」

 

「だからって、何も出来ないでしょ?

先生が居ないし、初日だから課題があるわけでもないんだし、教科書読んでるくらいしか出来ないわ」

 

「いやぁー。初日の初の授業でコレってなんなの?

まじ私の期待と夢を返して欲しいんですけど!?」

 

「私に怒られてもしょうがないじゃない!!」

 

「え!?シャーリーに怒れって?エヴァ!それは無理じゃないかな!?」

 

「そういう意味じゃないっての!」

 

「あらぁ?わたくしはクリアちゃんに怒られてしまうのかしらぁ?」

 

「滅相もございません!!」

 

「シャーリー!このバカの相手、いちいちしてたら付け上がるわよ!」

 

「なんて言ってても相手にしてくれるエヴァが好き!」

 

「黙りなさい!!」

 

「うふふ、エヴァちゃんったら照れてるわぁ」

 

「可愛い、エヴァまじ尊い・・・」

 

「いいから黙ってなさい!自己紹介、聞こえなくなっちゃうでしょ!」

 

エヴァったら、尊いなぁ。

 

「ふへへ、って、エヴァ?そこスペル間違ってるよ?」

 

「え・・・・っ」

 

「ほら、そこ。Eじゃなくて、Iでしょ?

もー、うっかりさん」

 

「~~~~~~っ!!!」

 

「あの、エヴァ?」

 

「あ、あんたが横で騒ぐからでしょう!」

 

「ひぇっ!ごめんて、そんなに怒んなくても」

 

「もうっ!大人しくしててよね!」

 

「は、はーい?」

 

怒りながらも急いで書き直してるエヴァはどこか必死さが漂う様子だ。

スペルちょっと間違ったくらいでそこまで必死になれるって・・・・エヴァって、本当に真面目さんだなぁ。

でも、魔法って、スペル一字で命取りっていうし、私も見習わなきゃなぁ。

 

あ、あの子は将来イケメンかな?

ハッフルパフは優しげな雰囲気の子が多いから将来が楽しみだよなぁ。

悪戯仕掛人のリーマスも幼さがあるけど、優しげな雰囲気のイケメンだったし。

眼鏡と駄犬はよく覚えてないけど、薬学教授もまだ暗いというか、大人しめ?理知的な雰囲気の美少年だったし、流石に二次元、みんな綺麗なんだよなぁ。薬学教授は将来的に不幸が続いて逆に色気が出てるし、どうやってもイケメンしか居ない。

そういえば、ピーター・ペティグリューはまだ見たことないけど、これからの学園生活で必ず悪戯仕掛人として活動するんだろうし、早めにしめてトラウマ的要素を残しておくべきか。

 

ふ、私のちんちくりん度が辛い。両親割りと顔整ってはいるんだけど、流石に主役級には勝てる気すらしない。

それ考えるとエヴァとシャーリーって本当に破格の麗しさだよね!

 

・・・悪戯仕掛人が目立ってきたら、兄弟のピーブズにでもどんな様子か聞いておこうかなぁ。

 

 

 

 




(・・・・言わなくちゃ、ダメよねぇ)

(別に。スペルミスくらい、みんなしてるわよ、大丈夫、大丈夫、なんだから)

(あぁ、みんな尊い)


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28

最初の黒歴史


残念ながら、ざっと自己紹介を終えてもまだまだ時間は有り余っている。

 

「あ~また暇に」

 

「まぁ、うちの寮はもともとが人数少ないんだから、終わるのも早いわよね」

 

「・・・・・・・」

 

「シャーリー?」

 

「どうしたのよ?真面目な顔なんかしちゃって」

 

「ふふふ~。やっぱり、ちゃんと言わなきゃダメよねぇって、思ったの」

 

暇だ暇だと騒いでいた私達と違いなんだか憂い漂う真剣な表情をするシャーリー。

そんな表情も麗しいの一言に尽きるけど、ここでそんな事言おうものならエヴァからどんな眼差しで見られることやらわからないので、単純に聞き返す。

 

「なにを?」

 

「このバカにハッキリ言うなら早いうちの方がいいわよ?」

 

「エヴァちゃん!?澄んだ瞳でなんてこと言うの!?」

 

「そうよねぇ。クリアちゃんにもちゃんと言わなきゃよねぇ」

 

「えっ!?」

 

「え、あの、シャーリー?クリアにだって悪気がある訳じゃないのよ?そんなに酷いとこあった?」

 

自分で言っといて肯定されるとこっち以上に焦ってフォロー入れ出すエヴァマジ尊いが、え?シャーリーにそんな顔させる程ヤバいこと私しちゃってたっけ?本当に?え、私何したの???

 

「あら?違うわよぉ、エヴァちゃん。

わたくしね?クリアちゃんがあんまりにも無防備だから心配になってしまったの。

みんな何も知らないから、とても心配になってしまったの。

クリアちゃんだけじゃないわ。エヴァちゃんも、このハッフルパフのみんなもとても素敵な子ばかりなんですもの」

 

「何も知らない?」

 

「何を知らないってのよ?」

 

「魔法界について、かしら」

 

「そんなの、魔法族じゃないんだから、知るわけないじゃない」

 

「そう。知らないのよ。でもねぇ?エヴァちゃん。

それは知らないままではいけないことなのよ。

魔法族じゃないからこそ、危険なことだって起こりうるのだから」

 

「危険なこと?」

 

「・・・・・・・あ~」

 

エヴァはきょとんとした顔してて可愛いけど、それとは別で私にはシャーリーの真剣な顔と魔法族じゃないからってので、思い当たる事がありすぎる。

 

「『例のあの人』・・・だね」

 

「クリアちゃん・・・・・知ってたのぉ?」

 

驚きに目を見張るシャーリーに怪訝そうな顔をするエヴァ。

周りのみんなの目線も集まって気まずい事この上ないけど、何人かはシャーリーと同じ驚きの表情の子がいるから、あの子たちは魔法族なんだろうなぁ。

 

「そんな詳しくは知らないけど、まぁ、さわりだけ?」

 

「それを知っていて、あんな自己紹介をしていたってこと?」

 

「・・・・はい」

 

シャーリーの言葉尻に少し非難めいたものを感じるし、美少女に責める様な眼差しは正直心が痛いけど、事実なので、肯定するしかない。

 

「クリアちゃん、それは、とても危険なことなのよ?

わかっているんでしょう?」

 

「うん。まぁ。

でも、私は自分がマグル族だからってことがそこまで非難されることだとは絶対に思えないし、私は自分の両親が大好きだよ。

私を愛して育ててくれた」

 

昨夜も言ったことだけど、私は私の生まれのことで差別されることは我慢がならない。

 

「でもね?どんなにクリアちゃんのご家族が素敵な方だとしても、『彼ら』には関係がないの。

『彼ら』に大切なのはクリアちゃん自身ではなくて、クリアちゃんに流れる血なのだから」

 

「それこそ血なんか関係無いでしょ?

『彼ら』は血筋で見てるけどさ、魔法族とかマグル族とか関係なく、性格の悪い子だっているし、シャーリーみたいに優しい子だっている。

成績の悪い子だって、優秀な子だって、多少、まぁちょっとは関係あるかもだけど、どんな血が流れてるからってそれで全てが決まるなんて絶対にありえないんだから」

 

「・・・・クリアちゃんがそれで良かったとしても、他の子たちはどうなるの?

みんなも・・・・、私もね、クリアちゃんみたいに強くはないのよ」

 

「・・・・・・」

 

悲しげで寂しげなシャーリーに私は言い返すことが出来ない。

人のメンタルなんて本当にまちまちで、決して簡単に強くなれるものじゃない。

前世の私は嫌なことから逃げて、目を背けて、何も考えずにただ日々を生きてきた。

前世の現代日本で身体が傷付くことなんて滅多にないけど、心は簡単にいくらでも傷つけられるから。

仕事で失敗したり、他人に嫌なこと言われたりして落ち込んで嫌な気分にもなったし、世間に出るのが怖くなるときもあった。

元はそんなにメンタル強い訳でもなかったし、どちらかといえば自分の外へと境界線を引いて一歩引いて自分が傷付かないよう、鈍感なフリもしていたんだろう。

更にはこの世界は身体的にも簡単に傷付けられる世界だから、怖さも違ったものがあるんだろう。

 

でも・・・・・。

 

「シャーリー、それは、違うよ」

 

「・・・・何が、違うって言うのかしらぁ?」

 

「私だって、最初から強い訳じゃないよ。

むしろ、そこまで強いとは自分じゃ思ってないよ。

私が強くいられてるなら、それは私が知ってるから」

 

「知ってる?」

 

「そう!私は愛されてる!!」

 

「・・・・え?」

 

「私はね!両親に愛されてる!!溢れんばかりのでっかい愛情でもって大切に愛されてる!

私だって両親を愛してる!両親に負けないくらい愛してる!

だから、強くいられるの」

 

「愛されてるから?」

 

「そう!所詮人間なんてものは助け合わなきゃ凄く弱くて脆いんだよ!

嘘みたいだけど、本当の話だよ?

百人敵が居ても、たった一人でも自分を愛してくれて味方になってくれる人がいるなら、その人に格好悪い所なんて見せたくないじゃない?

そしたら、虚勢だろうと見栄張って強くいられるんだよね」

 

「本当にそんなことで?」

 

「もちろん!」

 

シャーリーには言えないけど、私だってこの世に転生してから初めて知ったことだ。

前世の家族とは折り合いがあまり良くなかったし、会社とか学校では知り合い程度しか居なかった。

自分の全力でありのままでぶつかってくなんてすごく怖くて、とてもじゃないけど出来なかったからね。

でも、この2度目の生で、私は私の両親にそれはもう愛された。

例えどんなことがあったって、この二人に愛されてるって実感出来てる限り、私は強くいられる。

そう、思える程に強く強く愛された。

だから、私はありのままの自分で全力でぶつかっていける。

 

「だからね?シャーリー。

ハッフルパフ寮のみんなは私にとっての新しい家族なの」

 

「・・・・・家族」

 

「そう!家族!七年間、自分の家族よりも多くの時間を過ごしていく新しい家族!みんな、優しくて可愛くて素敵な子たちばっかり!まだまだ知らないことも多いけど、きっとすごく好きになれると思うんだよね!

たった二人、味方が居ればこんなに強くなれるんだから、こんなに沢山の家族が味方になれば、どんなことだって問題になんかならないよ!」

 

「「「「・・・・・。」」」」

 

まぁ、ちょっと誇張しすぎの青春しすぎな感じで暴走して語ってしまった感もあるけど、基本素直で優しいハッフルパフ一年生にはきっと受け入れてくれる、はず!!!

あぁ~~~自分で言ってて恥ずかしくなってきた!

誰か!突っ込んで欲しい!!エヴァちゃん!?黙り込んじゃって、ツッコミはどうしたのさ!!

 

 

 




(あ~~~、はーずーかーしーぃーーー!!!)
(そんなこと考えたこともなかったわぁ)
(家族、ね?そんなにいいもんでもないと思うけど、ね)

(((確かに、家族って、いいよね!!)))


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29

最初に人を泣かした



私の未成年(中身は大人)の主張は、心澄んだハッフルパフの子達に温かく受け入れられた。

まぁ、マグル生まれでホグワーツに来れてる子って、よっぽど特殊な事情でもない限り、普通にマグルの学校行くよりも高額な学費やら資材費やら授業の道具費用やらを親に快く出して貰える程には裕福で、ハッフルパフに配属される程に真面目で優しいなら、親に愛されてるだろう子が殆どだから、愛され実感を持ってるんだろう。

ほとんどの子がキラキラした目でうなずいてくれている。

愛、友情、勇気、勝利。

幼き子供たちや大きなお友達すらも鷲掴みにする魔法の単語だよね。

難色を示してたシャーリーはともかく、他の魔法族の子達は『家族』発言に感激したのか新しい『家族』が困らない様にと自分達の知ってる知識をマグル生まれの子達に前に立ってあーでもないこーでもないと話し出した。それを必死に羊皮紙に書き込んだり質問したりするマグルの子達。あ、エヴァちゃん、羊皮紙片手に混ざりに行くんだね。真面目か!!

 

なんというか、すごく素直でいい子達だなぁ。

本当にハッフルパフって天使の住む寮なんじゃないかな?天使しか居ない。

その中の黒い染みとして私は居る訳だが。

なんだろう。大人って、汚いよねぇ。

 

天井をなんとなく見続けながらも隣からのシャーリーから突き刺さる様な視線に耐えぬいていられるのも、私が大人だからなんだろうね!うん!

 

「・・・・クリアちゃん?」

 

「・・・・・」

 

「・・・わたくし、さっきのこと、謝る気はないわよぉ」

 

「・・・うん、シャーリーの心配もわかってる。

これがそんなに簡単な話じゃないのもね」

 

「・・・ううん。クリアちゃん、貴女は全然、わかってないわぁ」

 

「・・・シャーリー?」

 

こっちを見るシャーリーの目には恐怖と嫌悪、あとは憎悪、なのかな。負の感情を煮詰めたみたいなドロドロした色が向かい合ってる私を通り越して、どこか別へと向けられている。

 

「わかってないのよ。クリアちゃんは。あの人達の怖さも、恐ろしさも、残酷さも。どれだけ・・・」

 

「シャーリー?」

 

「わたくしは、聖二十八家の一つ、フォウリー家の嫡子。見たくないことも、知りたくないことも、見なければならず、知らなければならない。

・・・・クリアちゃんは、クリアちゃんはわかってないのよぉ!!」

 

「・・・しゃー・・りー」

 

声は他の子に聞かせたくないからかな。小さく抑えた声なのに、どこか叫んでるようにも聞こえるのに。

表情も声色も、さっき見せた負の感情は全く見えない。何にも、シャーリーの今の感情がわからない。

昨日はあんなに笑ってたのに。優しく楽しそうに笑ってたのに。

さっきは怒って悲しんでたのに、憎悪と嫌悪にまみれた目をしていたのに。

話続けるシャーリーの表情から、どんどん感情が消えていく。言葉は鋭いのに、感情が、表情が、シャーリーから消えていってしまう。

 

「・・・・・」

 

これが、本当に夢のハリー・ポッターの世界?こんな可愛い天使みたいな子にこんな空虚な表情をさせる世界が?

主人公という希望が未だ無く、暗闇の中の物語だから?

同じ空間に居るはずなのに、シャーリーだけ、どこか別の世界に居るみたい。

・・・いや、実際にそうなのか。

聖二十八家には純血の魔法族しか居ないということになってる。

『例のあの人』側の人が沢山居るだろう。ハリー・ポッターという希望があってさえ、死喰い人や『例のあの人』寄りの思考の人間が居なくなったわけではなくて、更に今はハリー・ポッターの予言も存在すらないわけで。

それこそ、死喰い人や、そこまでいってなくても闇の陣営の思考寄りな人達は魔法族には原作時よりも沢山居るんだろう。

闇の陣営の攻勢が厳しくなってきているらしい昨今、この様子からして、もしかしたらシャーリーの両親あるいは親族連中も死喰い人、又は闇の陣営寄りの思考なのかな。

シャーリーくらい綺麗で聡明なら、どんな思惑に晒されるかわかったもんじゃない。

そして、その思惑を、例え隠されていても、理解してしまうのだろう。

見た目はこんなに儚くて頼りなげな天使でふわふわな性格だけど、シャーリーは頭が良いし、聡い。付き合い短くても、なんとなくはわかるよ。

ねぇ?シャーリー?

家に居て、ずっとそんな無感情な表情をしてるの?

笑えば花すら恥じらう可憐な笑顔なのに?

鈴を転がす様に可愛く笑うのに?

ハッフルパフの中のハッフルパフなんじゃないかってくらい優しいのに?

私が馬鹿な事しても楽しそうに笑ってくれて、知り合って間もないのに、私が危ないことしそうだからって本気で怒ってくれるくらい優しいのに?

前提からしてあり得ないけど、シャーリーならこんなこと言えば私が離れてっちゃうかもくらいは考えつくでしょ?

 

そんなに、優しいのに、そんな顔、するの?

 

 

「・・・・あり得ない」

 

「っっ!!まだ、信じられない、かしらぁ?」

 

我ながら相当低い声が出てしまった。目の前のシャーリーが怯えてるけど、ごめんね?

でもさ。

 

「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないっ!!」

 

「~~~っ!?!?」

 

「あり得ないっ!!!」

 

「く、くりあ、ちゃん?」

 

私の奇行にシャーリーの無表情が驚きに崩れる。

うん、シャーリーはそんな顔でも最高に可愛いよ。

 

「シャーリー!!!」

 

「く、くりあ、ちゃ~~ひゃっ!?」

 

椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がってシャーリーのふわふわの髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を抱き締める。

ふんわりいい臭いするし暖かい。すみませんごめんなさい、変態じゃないよ。

 

「くりあ、ちゃん?」

 

「私ね?シャーリー大好きだよ?」

 

「・・・え、とぉ」

 

「優しくて温かくて可愛くて、シャーリーと最初の友達になれてすごくすごく嬉しい。こんな子に友達だって思ってもらえてすごくすごく嬉しい」

 

「くり、あ、ちゃん・・・」

 

「私はまだ子供で、なんの力もなくて、シャーリーの助けになんにもなってあげられない。

でも、私は!シャーリーがそんな顔するのは嫌だ!我慢出来ない!

私の自慢の友達が、そんな顔してるのは嫌だよ!

・・・・私は今後、心配も迷惑もたっくさん、シャーリーにかける!

・・・だから、だからさぁ。シャーリーも、私に心配も迷惑もかけてよ。力になれないかもしれないけど、頑張るから。今は助けてあげられないかもだけど、頑張って助けてあげられるようになってみせるから。

そんな、そんな顔しないで!!」

 

物語を知ってるから、全てを知ってるつもり、わかってるつもりで、実際の私は何も理解出来てない。

物語の暗闇でこんなに苦しんでる人が居るのを、全然、理解出来ていない。

きっと、今もよくはわかってない。

こんなシャーリーを見なければ、きっと欠片すらも理解出来なかった。

それでも、こんな私だけど。

友達が、こんな顔してるのを黙って見逃すってのは我慢出来ないのは理解出来る。

昔の、『前世の私』じゃこんなこと見て見ぬふりだろう。

でも、今なら、クリア・アヴァロンなら、もう、ありのままって決めた私なら、出来る、やってみせるよ。

 

「く、くり、あ、ちゃん」

 

「迷惑だって言われても、邪魔だって貶されても、まとわりついてへばりついて、シャーリーが根負けするまで付きまとうからね!」

 

「~~~~~っ」

 

「あ、でも、本気で鬱陶しいなら加減くらいはするし!押し売りだったら、その」

 

だから、笑ってよ。

 

「ひくっ」

 

「え、引いちゃう?」

 

「ぅ、うう~~!!」

 

「わー!!ごめん!怒んないでっ!!・・・って」

 

力の限りのギリストーカー宣言に引かれたのかと抱き締めてた頭を解放すれば・・・・。

 

「しゃーりー?」

 

「うっ、ひぐぅ、う」

 

「えと、泣くほど嫌だった?」

 

「う、うわぁ~~~あああん!!」

 

「ギャーーーー!!!シャーリー!?ご、ごごごごめんなさい!申し訳ない!お願いだから泣かないでぇええええ!!」

 

シャーリー大号泣である。

そんなに気持ち悪かった!?

とりあえずまた抱き締めて頭撫でたら泣き声悪化した。

おおおうぅ、ど、どうしたら!?

 

「アンタ!何シャーリー泣かしてんのよっ!!」

 

泣き声を聞きつけてエヴァ様がお戻りに!!

 

「え、エヴァ様ぁあああ!!!たす、助けっ!」

 

「アタシがちょっと離れただけでシャーリー泣かすなんてとんでもないことしたんじゃないのっ!?」

 

「と、とんでもないこと!?」

 

え、そんなに気持ち悪かった!?

 

「ごごごごめんなさい!シャーリー!!」

 

「うああああんん!!!」

 

「わ~~!?!?」

 

「・・・本当に、アンタ何したのよ」

 

「ごごごめんねぇ!!シャーリー!!!」

 

その後、しがみ付いて離れず泣き続けるシャーリーを手を繋いでくずるまで宥めるのに授業の時間を目一杯使ってもギリギリだった。

 

そ、そんなに気持ち悪かったのかな、ごごごごめんなさい!シャーリー!!

 

 

 

 

 




「アンタ、本当に何をしたの?まだグスグスしてるわよ?」
「わ、わかんない。え、ストーカー宣言アウトだったかな」
「すとーかー?なにそれ?」
「えっ、ストーカーって無いの!?」
「よくわかんないけど、アンタが悪いのね?」
「た、たぶん」
「しっっっかり、謝まって許して貰いなさいね!」
「も、勿論です!!」
(まぁ、クリアの手をしっかり握ってるし、そんなに怒ってはないんでしょうけど。
本当に何したんだか・・・)

(人に抱き締めて貰うのって、あんなに暖かいものだったかしらぁ。
本当に優しくてあったかいのは、クリアちゃんの方だわぁ。
・・・しばらくは握ったままでもいいわよねぇ?
ふふふ、誤解を解くのは後にしようかしら)


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30

最初の、本当の授業


わっくわくのどっきどき始めての授業に教師が居ない。

そんな絶望的な状況は次の魔法薬学にて完全に払拭された。

 

「私がこの魔法薬学の担当教授、ホラス・スラグホーンだ」

 

私達は希望を胸に迷路の様なホグワーツ内を全力で走り抜けた。

時に助け合い、時に様子を見に来たピーブズに助言をもらないながらなんとか辿り着いた魔法薬学の教室。

途中、動く階段に何人か連れ去られ、あわや遅刻かと絶望した時に本人が言うには偶然通り過ぎたらしいピーブズ氏を拝み倒した時にみんなのあまりの必死さにドン引きしてたピーブズが居たけれどそんなのは気にしない。

 

「・・・・・」

 

「いやはや、のんびり屋な子たちが多い為か毎年初日の授業は何人か必ず欠けているのが常なハッフルパフ生が全員遅れずに参加しているとは、なんとも素晴らしいことだ!」

 

そんなことよりも大事なことがある!

 

「・・・・・」

 

「魔法薬学は大変繊細で難しく感じることもあるだろう。しかし、とても興味深い学問であることは間違いがない」

 

将来絶滅しそうな大地をピカリと光らせるデコ。

背は低めで体は丸く。

少しつぶらな薄いスグリ色の眼差し。

毎朝ピシッとセットされているであろうセイウチ髭。

 

「・・・・・ぃ」

 

「だが、私は君たちのうち、何人かでも優秀な生徒がいてくれることを願っているよ。

特に、ミス・フォウリー!君には是非とも我がスラグクラブへと参加して欲しいものだ!」

 

あぁ!!貴方こそ!!!

 

「せ、先生・・・?」

 

「ん?どうしたね?そこの女子生徒?」

 

訝しげにこちらを尋ねるそのお声!!

 

「せんせぇええええ!!!」

 

もう!抑えることなど出来ぬこの感動!!

椅子を蹴倒す勢いで立ちあがり、机を迂回しつつセイウチの様な身体に飛びかかる。

 

「なぬっ!?」

 

「うわぁああああ!!!」

 

ふかふかのお腹にいとも容易く受け止められて私は安堵の叫びを上げずにはいられない!!

 

「どうしたというのだ!?!?!?」

 

「せ、先生がぁぁぁ。

 

 

 

先生が居るよぉおおおおお!!!」

 

あぁ!今や私たちハッフルパフは絶望に打ち勝ち、希望を手にしたのだ!

あぁ、見上げる先生がピカピカと輝いて見える!!

 

「うぉっほん!」

 

「はっ!?し、失礼しました!スラグホーン先生!」

 

「あ~、大丈夫かね?ミス・・・、ミス?」

 

「あ、はい。クリア・アヴァロンです!スラグホーン先生!」

 

「そうか。では、ミス・アヴァロン?もう一度言うが、大丈夫かね?」

 

「はい!大変失礼いたしました!先生が居てくださったのが嬉しくて、つい」

 

「私が居るだけで?

・・・・・あぁ、君たちの最初の授業はもしや闇の魔術に対する防衛術だったのかね?そうだとすれば、それはとても絶望的だっただろう確実的だな。

今年の闇の魔術に対する防衛術の教師はお世辞にも丈夫とは言えない方だからね」

 

「病弱なんですか?その、闇の魔術に対する防衛術の先生は?」

 

「あぁ、とてもね。

彼はとても珍しいことに闇の魔術に対する防衛術の二年目の教師だが、一日に一回は吐血しているのを見たと証言が上がっている。

今年、教壇に立てるか危ぶまれているのだよ。

本人たっての希望だが、いつまで保つのやら」

 

え?じゃあもしかしたら先生奥の部屋で吐血して倒れてたとか?あれ?見てきた方が良かった?

 

「あぁ、そこまで顔を青くせずとも大丈夫だろう。

屋敷しもべ妖精が彼の部屋を時間ごとに見回っているからな」

 

まさかの屋敷しもべ妖精の巡回付き・・・・。

 

「さて?安心出来たかね?出来たなら授業を再開しよう」

 

「はい!」

 

授業!授業だってさ!なんて素敵な響きだろうか!

 

「では、まずはこれらの薬を見て欲しい。

君たちの中では知らない薬ばかりだろうが、どれがどれだかわかるかな?」

 

そう言ってスラグホーン先生が杖を一振りすると教壇に四つの薬瓶が現れた。

一つ目は緑色の瓶。二つ目はヤバそうな青色。三つ目はうっすらとピンク色の煙が漏れている。四つ目は白い錠剤が入った瓶。

 

「さぁ、羊皮紙に書いてみてごらん。どうしてそれを選んだのか、その薬の効能なども書くように。

羊皮紙はあとで集めるぞ。そして!全問正解者にはこの中から好きな薬を贈ろう!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「さぁ、ハッフルパフの諸君、頑張りたまえ。

教科書を参考にしても構わない。授業の終わりまで各自調べてごらん」

 

おぉ~みんなが目の色変えて教科書を睨み始めた。

まぁ、大半が分かるわけないという顔してるけど。

 

「スラグホーン先生!」

 

「なにかな?ミス・アヴァロン?」

 

「近くで見てもいいですか?」

 

「もちろんじゃ!だが、触れない様に気を付けなさい」

 

「はい!」

 

教壇の薬をじっくりと見る。

緑のはうっすらととろみがついてる。

青はサラサラしてるけど、本当に色ヤバイな。蛍光色の濃い青色って。

ピンクの煙のは薬自体はクリームの様な白かぁ。

錠剤はまんま白の粒。

 

「ふむぅ」

 

「わかるかね?」

 

「これ、一年生用の薬ですよね?」

 

「・・・・・ほぅ。その通りだ」

 

「なら、たぶん」

 

「それは素晴らしい。君の解答を楽しみにしているよ。ミス・アヴァロン」

 

「はい!スラグホーン先生!!」

 

よしよし、読破した教科書から考えるに。

一つ目の緑は回復薬ウィゲンウェルド薬に違いない。

二つ目の青は強力な除草薬。

三つ目のピンクの煙はおできを治す薬。

四つ目の白い錠剤は目覚まし薬ってとこかな?

 

解答と特徴と効能と。

後は楽しくなってきたから材料と作り方も記載して。

あぁ、授業が楽しいとか、ほとんど初めてだよ!

絶望からの希望に私の胸はわっくわくのどっきどきだよ!

 

ペンが止まらない!!

 

 




「ちょっと、クリア!いつまで書いてるのよ!?」
「クリアちゃ~ん?授業、終わってしまうわよぉ?」
「・・・・・・・」
「もうっ!聞こえてないのっ!?お昼よ!食べないとお腹空いちゃうわよ!」
「クリアちゃん、ずこぉく真剣ねぇ。えらいわぁ」

「うわぁ、すごいなぁ。羊皮紙あれで三枚越えるねぇ」
「あんなに書くことあったっけ?」
「そもそも何かわからなかったよ、僕」
「私も~」
「とりあえず、お腹空いたねぇ」
「あ、エヴァさん、叩いた」
「良かった。クリアちゃん、気付いたみたいだよ」
「良かった~。これでみんなでご飯を食べれるね!」
「「うんうん」」
「僕、クリアちゃんの先生に渡してくるよ」
「そうね、あんなに頑張って書いてるのに、提出時間過ぎちゃったら可哀想だもんね」
「ここからなら大広間近くていいね」
「迷子にならないよね」
「「良かった良かった」」



(ふむぅ。採点が思ったより大変になりそうじゃな)


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31

初めての減点


みんながお昼に私を待っててくれてすごく嬉しい!

しかぁ~し!

すまない!みんな!私にはやらねばならないことがある!!

 

「ちょっ!クリア!早食いは身体に悪いんだからねっ!!」

 

「むぐがぁっ!ごくっ」

 

サンドイッチを無理矢理口の中に詰めこみ。

 

「クリアちゃん?お行儀が良くないのはいけないことよぉ?」

 

「んぐっ、んぐっ」

 

「・・・はぁ。はい、ミルク。喉詰まらせるんじゃないわよ」

 

「あぶぁ!」

 

エヴァからのミルクで一気に飲み干す!!

 

「汚いから、喋るんじゃないわよ!」

 

「ごめんごめん、ごちそうさまでした!!

じゃ、みんな!後でね!」

 

エヴァの小言とシャーリーの困惑の声を背に私は行かねばならないのだ!!

 

「え、えぇ?」

 

「食べた後ですぐ走るとお腹痛くなるんだからね!!

もうっ、なんなのよ!突然!!」

 

「クリアちゃん、すごぉく笑顔だったけどぉ?何かあったかしらぁ?」

 

「知らない。なんなのかしらね?でも、ろくなことじゃないわよ、多分」

 

「それも、そうねぇ」

 

 

すまない、みんな!!しかし、私は止まれない!!

何故ならば!私は次の授業に必要な、必須項目ともいえる物を寮部屋に置いたままにしてしまったのだから!!

 

 

大広間の扉を力の限り開く!

 

「あいたぁっ!!」

 

「し、シリウス!?」

 

「だだだ大丈夫!?!?!?」

 

「あれ?クリア?どうし「あばよ!!」た、の?」

 

そして兎の様に軽やかな脱出!!!

危ない危ない危ない!!

メインキャラとの邂逅とかそんなイベントお呼びじゃないんだよ!!

こちとら、次の授業に命かけてるんだっぜ!!

 

黒い犬公の元々高い鼻が無くなろうと大丈夫!公式イケメンなんだろ???

鼻なんか無くても大丈夫だって!イケルイケル!!

 

ルーピン、早速悪戯組に合流したんだね。友達出来て良かった良かった!

私のことは爽やかに忘れてくれてもいいんだぜ!!

 

 

「よぉ!きょうだギャアアアア!!!」

 

大広間から階段への難所のヘアピンカーブも、通りすがりのピーブズに顔面から腹に突っ込むことで無事に通過ぁっっ!もう誰も私を止められない!!!

にしてもピーブズの腹の中、ヒヤッとした。夏はピーブズの腹の中に居ようかな。凄い快適空間かも。

あ、でも視界が常にオレンジでモツが丸見えは困るな。

 

ハッフルパフリズムを渾身の力で叩ききり、談話室を全力のままに突っ切る。

追いかけてきたピーブズは太った修道士に対応をお願いした。きっと、改心させてあげて欲しいと!

ピーブズと太った修道士がぶつかり合う決定的な瞬間すら見ずに自室へと突撃。

 

勢いのまま自分のベッドへ見事ゴールイン!!

おぇっ。

うぐっ、気持ち悪い~。

今、私の体の中でミルクとサンドイッチが胃の中で大戦争を繰り広げ、脇腹が反乱を起こし、喉の奥の方が死亡の断末魔をあげているぅ。

 

しかし!しかしだよ!!立ち上がれ!クリア・アヴァロン!君には使命がある!とても、崇高な使命が!!!

痛みに呻く身体に鞭打ち、私はやらねばならない!

昼休みが終われば次は誰の授業だ!

そう!変身術だ!変身術なんだ!!

 

我が女神!マクゴナガル先生の、授業なんだぞ!

 

胃痛がなんだ!腹痛がなんだ!もやし故の喉の血の味がなんだって言うんだ!!

 

昨日から忙しかったからとか理由にならないだろ!!

お前には!やらねばならないことがあっただろ!!

 

家から出来るとこまで作って持ってきた、自作のうちわ。表に『先生ステキ!』裏に『叱って!』って、厚紙使ってしっかり作ったんだ!

途中で潰れてしまうのは許されないと手提げにいれてきた暗いグリーンのモール。魔法産のは信用ならないとお小遣い貯めて買ったマグル産の身元のしっかりした奴。

 

頑張って、作ったんだ!!!

 

 

「これを!今使わずにいつ使うって言うんだ!!!」

 

 

アイドル応援するならうちわにハチマキでしょ!?!?!?

 

 

ハチマキは風紀違反かもしれない!

ならば、せめてうちわだけでもと、縁にキラキラしたモールを括りつけて、いざ!決戦の地へ!!

 

応援は!遊びじゃないんだよ!!!

 

 




「ハッフルパフ!10点減点!」
「ええっ!?」
「授業に関係の無いおかしな物を堂々と初日から持ってくるとは何事ですか!!」
「これ、応援うちわですよ!?」
「それがなんだと言うのですか!?」



「ほらね、ろくなことじゃなかったわよ」
「そうねぇ」


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32

最初の攻撃


「すんまっせんでしたぁっっ!!」

 

授業日初日にして減点をマクゴナガル先生よりいただき、談話室の絨毯にて額を擦りつけ土下座を繰り出す私、クリア・アヴァロン。

 

「なにしてんだ!?やめろって!」

 

「だぁ~いじょうぶだって。

10点だけなんでしょ?俺らの代なんてクラス丸ごと遅刻して5点×人数分減点されたこともあったし、それに比べたら10点なんてどうってことないよ」

 

「あぁ~、あれは凄かったよなぁ。

丸ごと移動階段に連れ去られて何がなんだかわかんなかったもん」

 

あぁ、あの移動階段にハッフルパフは常に苦しめられ続けているのか。先輩方、ふんわか言ってますけど、一体何点減点されたんですか?

 

「あらあらぁ」

 

「・・・あの移動階段、本当にろくな物じゃないですね」

 

「お前ら!下級生に向かってろくでもない話してんじゃねぇ!!」

 

「「は~い」」

 

「・・・・ったく。

まぁ、あいつらも言った通りだが、悲しいことに我がハッフルパフでは初日に10点減点だけで済んだのはここ数年なかった事だ。

むしろ凄いことだぞ?

それに、減点を気にしてんなら、次同じ事をしないよう、気をつけてくれりゃいい」

 

「テッド先輩っ!」

 

え、そこは点を稼げとかじゃなくていいんですか!?

いや、凄くいい先輩なんだけども!

 

「ま、先輩の受け売りなんだがな。

しかしだ!その妙な代物は授業に二度と持ってくなよ。持ってったらインセンディオで跡形もなく燃やしてやるからな」

 

「テッド先輩っ!?」

 

私の力作が燃やされるだと!?

杖を構えるテッド先輩から我が『マクゴナガル先生応援うちわ』をひっしと抱きしめて庇う。

 

「というか、それなんなんだ?マジックアイテムの一種なのか?」

 

「え~、魔法界にはこんなの見たことないよ?マグルのなんじゃない?」

 

「えっ、すみませんが、先輩。

失礼な誤解をしないでくださいよ。

私たちマグルの文化にこんな変な物はありません。

それに、変な物は基本魔法界の物じゃないんですか?」

 

「ん~、でもねぇ?エヴァちゃん?魔法界の物であるとしても、これには何の魔法も感じなければ勝手に動く訳でも光る訳でもないじゃない?

特に面白みがあるわけでもないしねぇ?」

 

みんなで取り囲んで私のうちわを貶してくるだと!?

 

「応・援・うちわ!ですよ!!」

 

「「「「応援うちわ???」」」」

 

「畜生!!ここでもジェネレーションギャップかよ!!

2000年が遠過ぎる!!

いいですか!?応援うちわとは!

極東日本にて心の底から尊敬し、崇拝し、愛している推しを決して同志に迷惑をかけず、尚且つ推しに気付いて貰えるよう、心を込めて自作したり汗水垂らして稼いだ給料をかけて頼んでみたりして個人的な欲求を満たしつつ、推しに如何に応援する者がこんなに居ますよ、私は貴方を応援してますよ、と伝える為の個人が用意するのに適している素敵アイテムの一つなんですよ!?!?」

 

「「「「・・・・・・・。」」」」

 

一息に我が情熱を力説してみたが、皆さん目が点ですね、わかります。

 

「わかっていただけましたか!?!?」

 

「あ~。すまん、全くわからねぇ」

 

「ですよねぇっ!!」

 

現実がオタクに優しくないよ、この世界!!!

リアルOrzのポーズを取る私に皆口々に慰めの言葉をかけてくれるが、その、変な宗教にハマってる人を見る目はやめてくれないかなっ!?

 

 

 

「あー、なんだ。まぁ、それがお前にとってなんでそんなに大事なのかはわからねぇが、わかった」

 

「テッド先輩!!・・・・あの?それって結局わかってないのでは?」

 

「・・・とにかくだ!金輪際、そのうちわは()()()()、持ってくな!!」

 

「あぅ、わかりました」

 

うぅ、せっかく作ったのに燃やすしかないのか、我がうちわちゃん。よしよし、私が痛くないように供養してやるからな。

 

「あらあらぁ?クリアちゃん、今のでも気づかなかったのぉ?」

 

「やれやれね。

アンタ、鋭いんだか鈍いんだか」

 

「はぇ?」

 

ふわふわニヤニヤしながら美少女二人が優しげな雰囲気で背を叩いてくるが、鈍いとは?はて?

 

「あ~、だから、だな」

 

「あはは~、テッドもなんでそこ濁すかね?

あれだけ怒った手前、言いづらくなったんだろうけど。

 

あのね?()()じゃなければ、関係無い物持ってても誰も怒ったりなんかしないんだよ?」

 

「・・・・・え?」

 

「というか、そんな見た目だけおかしな物よりもよっぽど取り締まらなきゃいけない物なんて、上級生の厄介な奴等はみんな持ってるんだな~、これが」

 

「・・・・・あれ?それは、つまり?」

 

「だからだな!休日に大広間とか廊下とかでそれを振り回してても誰も気になんかしねぇんだよ!

あ~、なんだ。

・・・そんなに大事な物なら下手に壊されねぇようにしろ?

んで!授業に関係ない、危なくないとこで遊ぶようにな。

ついでだし、今度、レパロって修復呪文教えてやっから。

・・・いいか?せいぜい真面目に授業受けろよ?」

 

言いながら、ぺしりと軽く頭を叩かれたが、そんな軽い衝撃、今のテッド先輩から受けた衝撃に比べたらまさにそよ風!!!

 

「ぐはぁっ!!!」

 

幻覚の吐血を吐きつつ、絨毯の海に沈む私に一片の悔いなど残るはずもない。

倒れた私を真剣に心配して集まり出す同級生に囲まれて、私は今!心の底から幸せです!ここは理想郷、天使しか居ないハッフルパフ!

この天使の集うハッフルパフ以外に寮杯に相応しい寮なんてある!?

否!あるわけがない!

この天使達の笑顔に勝るご褒美がある!?

否!あるわけがない!!

ならば!私はやらねばならぬ!

 

「私、決めたよ!!」

 

「きゃ!?ちょっと!急に立つんじゃないの!!」

 

「クリアちゃん?突然倒れるなんて大丈夫なのぉ~?」

 

「おい、大丈夫か?デコ赤くなってるぞ?」

 

「それで?何を決めたのかな?」

 

「あのテッドの攻撃を喰らってよく短時間で復活出来たね、ただ者じゃないね、君は」

 

心配と戸惑いと好奇心と感心と、その他の様々な視線を一心に浴びて、私はハッフルパフの談話室で宣言をしよう!!!

 

「私が!このクリア・アヴァロンが!

この楽園を守り!ハッフルパフを寮杯という栄光に導いてみせると誓います!!」

 

きっと、それが私がこの世界に生れた意味に違いない!

そうだ!そうに違いない!今決めた!

 

「ああ!びば!ホグワーツ!」

 

私、幸せだ!!!

 

 

 




「うわぁ~、かっこいいや!」
「私も力になれるよう頑張るわ!」
「先輩達、これからよろしくお願いします!」
「ああ!新入生達のお陰で今年は減点がとても少ないからな!
任せろ!今年の寮対抗クィディッチトーナメント、我がハッフルパフが優勝してみせるさ!」
「ひゅー!キャプテン、格好いいぞ!」
「俺達、キャプテンについて行きますよ!」

「お前ら!こんな時間に騒いでんじゃねぇぞ!!」
「いや、原因の半分くらいはお前だぞ?」
「俺がなにしたってんだ!?」
「・・・爆弾に火を点けた、のかしらね?」
「いつだよ!?」
「ふふふ~。賑やかで素敵だわぁ」
「普段より割り増しで賑やかだけどねぇ」



「ぐはぁっ!!」
「耐えろよ、新入生。
その気持ちわかるけどよ。
うち、マグルが多いせいで、他の寮はあんまり交流ないから知らないだろうけど、ハッフルパフって・・・いいだろ。
すげぇ毒気抜ける。実家に帰りたくなくなるもんな」
「はぁ・・・ですね。
あのクリア・アヴァロン、でしたっけ?
あのほんわか集団の真ん中でよく生きてられますね」
「いや、同じ生き物なだけだろ」
「なるほど」


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33

2019年。今年もチマチマ上げて行きたいと思いますので、気長によろしくお願いします。



ハッフルパフ寮の為、身を粉にしてでも寮杯を勝ち取ってみせると決めたは良いものの。

その道は険しい。

 

長年ホグワーツにて生活しているピーブズに確認を取ったところ、ピーブズがゴーストを始めて数百年。

我がハッフルパフ寮が寮杯を獲得しているところを数える程しか見たことがないらしい。

数百年かけても数える程とはいやいかに。

ピーブズが騙しているのか?・・・いや、そんなはずは!

と、太った修道士にたまらず確認を取れば、目を明後日の方に飛ばしながら、悟った様な表情をして一つ頷いただけだった。

ゴーストなのに目から涙が溢れている様に見えて、私はそっと目をそらし、クールにその場を立ち去った。

 

 

 

 

「と、言うわけなんだよ!」

 

「うちって・・・・」

 

「あらあらぁ」

 

「ギャハハハハ!!!」

 

広場の隅っこで悩ましくため息を出す私にみんな言葉もないようだ。そりゃそうだよね。こんな話聞かされたら誰だってそうだろうよ。

その輪の中に当然の様に青とオレンジの風船が居るのは、私が暇そうにしてるピーブズに声をかけたからである。

声をかけた瞬間は何でか少し固まって、もう一度声をかけたら変な顔したあとに大人しく着いてきてくれた。

魂の兄弟とか言ってくれてたのに酷い反応である。

太った修道士にぶち当てたのがそんなに気にくわなかったのだろうか?

後で謝っておかなきゃだよね。

 

「ハッフルパフ寮があんなに天使なのに、何百年かけて数回って、おかしいよね!?」

 

「天使と寮杯に何の関係があるってのよ。まぁ、変だけど」

 

「そうよねぇ。

テッド先輩方だって、劣等生という訳ではなさそうだったのだけれどねぇ?」

 

「・・・・・」

 

「ね!むしろ、みんな良い子過ぎて減点とかなさそうなのに何でなんだろ?」

 

「・・・加点があまりないとか?」

 

「・・・あとはぁ、テッド先輩が言ってたみたいに遅刻とかかしらぁ?」

 

「あ~~~~」

 

「え!?うちそんなに遅刻してたのかな!?」

 

「どうかしらね?先輩は一学年丸ごとっておっしゃってたし、あり得ないこともないんじゃない?」

 

「そうねぇ。

勉強事が得意じゃない子もぉ、他寮より多いそうよぉ?」

 

「おうふ、深刻そうな事実」

 

「あのよぉ、兄弟?」

 

「何?兄弟?」

 

何やら気まずそうに片手を上げて発言をするピーブズに不覚にも胸をほっこりさせながら促せば、頬を指でかきながら、思い当たる節を言ってくれた。

 

「お前らが言うのも確かにあんだけどよぉ。

あーー、なんだ。ハッフルパフ寮の主な減点理由としちゃあな?勉強が得意じゃねぇとか、道がわからねぇとかもあるんだが。

あー、俺様が見てるに、だな?」

 

「うん?」

 

「他寮からの妨害があるんじゃあねぇかなぁと、思うんだが」

 

「・・・・は?」

 

「・・・なにそれ?」

 

「ピーブズ、それはどういうことかしらぁ?」

 

ピーブズの発言に固まる私とエヴァとは違い、シャーリーは実に冷静に問い返している。

 

「あーー、なんだ。

ハッフルパフ寮の奴等は基本ド真面目で甘ちゃんばっかりだ。

俺様が見てる限りだが、加点も少ねぇが、最初の遅刻以外は減点も少ねぇ。

寮杯に対してやる気はねぇが、クィディッチには熱心な奴等が多いから優勝した年は寮杯争いに混じる事も少なくねぇな」

 

「あれ?それはかなり優秀なんじゃないの?」

 

「なんだ、凄いじゃない!」

 

「それでぇ、妨害なのねぇ?」

 

ゆるふわな口調なのに眉をひそめたシャーリーは苦いもの口にしたときみたいな顔をしている。

シャーリーの純血らしい一面である。

自寮が優秀なのを素直に喜ぶエヴァは、きつ目の見た目にそぐわずハッフルパフらしく素直な所がかわいい。

けど、シャーリーは家柄もあって大人びているというか、達観しているというのか。

結論として、二人とも大変魅力の多い美少女である。

 

「・・・え、マジかぁ」

 

「・・・」

 

「そうよねぇ。しないわけないわよねぇ」

 

「まぁ、なぁー。

ハッフルパフが抜きん出る年もあるにはあったが、その分、スリザリンの奴らの妨害というか、いじめ、みたいなもんだな。とか、グリフィンドールの奴らのイタズラなんかがハッフルパフに集中しちまうもんだから、結局寮杯を取り逃すんだよな。

ハッフルパフの奴らは寮杯にやる気もねぇし、反撃なんて考える奴が滅多に出てこないもんで、やられっぱなしだしよぉ。

そんなのも理由になんだろうな」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「マグルや魔法族に限らず、そういうことを考える人って言うのは、当然居るものよねぇ」

 

恐ろしきトップ争いに言葉が出てこない。

トゥシューズに画びょうって、何年前の話?

・・・って、そういえば今頃の話だっけか?あれ?もう少し先だっけ?

気まずげに具体的な妨害方法を濁すピーブズに前世も今世も喧嘩とかいじめとかに縁の無い私は具体例が画びょう位しか思い浮かばないんだけど、魔法界流の妨害やいじめってどんなのなんだろうか。

主人公ハリーのライバルのマルフォイ君はどちらかと言えば噛ませ犬系でむしろ可愛さすら感じるけど、親世代はドSだらけで可愛さは無かったもんな。

某薬学教授なんて、主人公の父達との対立の影響で、ただでさえひねくれてたのがより捻れちゃったし。

 

「自衛も出来ねぇ状態で目立つのは良くねぇと俺様が忠告しとくぞ。俺様が言うのもなんだが、純血の奴らはプライドが異様に高い。下手に反感買おうもんなら何されるかわかんねぇからな。

・・・ハッフルパフ連中はただでさえ疑わねぇというか、気にしなさすぎというか。

・・・とにかくだ!今は何かしでかすんじゃねぇぞ。特に兄弟な」

 

「私限定!?何故に!?」

 

「あーー。

・・・昨日今日会った、知らねぇとは言え、ポルターガイストの、混沌の生き霊たる俺様にそんな目を向けてくんのは兄弟だけしか見たことねぇからだ、な」

 

「えっ、どんな目?

確かにシャーリーやエヴァみたいに美少女じゃないけどお母さん譲りのお気に入りの目なんだけど」

 

「それ、アンタの目自体がどうとかじゃないと思うわよ」

 

「ふふふ、それはねぇ?「だぁーー!!!俺様はもう行くからな!またな!兄弟!」あらあらぁ」

 

「えっ!?これから対策一緒に考えてくれんじゃないの!?」

 

「また今度だ!!!」

 

「えぇ~~!!ピーブズならなんかいい案あるかと思ったのにぃ~~!」

 

「やっかましぃっ!!あばよ!」

 

「ちぇ~!」

 

何処へともなく飛んでいく兄弟、忙しいのか?

それなのに私に呼び止められたら素直に着いてきてくれるなんて、いい奴である。

出逢い頭のあの変な顔は用事でもあったのを言い出せなかったんだろうか。全くもって、兄弟はいい奴である。

 

「・・・ピーブズって、実はいい奴なの?」

 

「兄弟はいい奴だよ!」

 

「多分、本当はそんなに良い人じゃないわよぉ?

そもそも、ポルターガイストなのだから人ですらないわぁ」

 

「ポルターガイスト?ピーブズはゴーストじゃないの?」

 

「まぁ、あの風船みたいな人間はなかなか居ないでしょうけど?」

 

「そうではなくてねぇ、マグルではどうか知らないけれどぉ、魔法族ではポルターガイストとゴーストって別の物なのよぉ」

 

「別の物?」

 

「んん?ゴーストはゴーストでしょ?

マグルだとポルターガイストってゴーストが起こす超常現象の事を言うんだけど、魔法族だとどう違うの?」

 

「そうねぇ、簡単に言うと、ゴーストは魔法族の者の中でも死後、さまざまな理由があって、この世にとても執着してしまった人達がなるのよぉ」

 

「そこはマグルのゴーストの解釈とあんまり違わないかな?」

 

「そうね。映画とかでもだいたいが、死後の怨みがー、とかだしね」

 

「マグルでもそうなのねぇ。不思議だわぁ。

ただ、ポルターガイストは全く意味が違うみたいねぇ。

マグルのいう超常現象って、本当は嘘か魔法族によるイタズラなのぉ」

 

「え、霊能力者とか夢とか幻なの?」

 

「クリア、そういうオカルト系信じてるんだ」

 

「えっ!?エヴァは実際に魔法があるこの世の中なのにオカルトは信じてないの!?」

 

ここに前世持ちの転生者がいるのに!?とは言えないけども!!!

 

「だって、見えない物は信じる価値ないじゃない?」

 

「ゴーストは見えてるじゃんか!!」

 

「ゴーストは魔法だって話じゃない!魔法ならオカルトとは違うはずよ!」

 

「なんか矛盾を感じる!!!」

 

「気のせいよ!!」

 

「・・・ふふふ~、エヴァちゃんはオカルトが苦手なのねぇ」

 

「~~~っっ!!シャーリー!!」

 

「あれ?そういう?」

 

「クリア!黙ってなさい!」

 

「可愛いな!おいっ!」

 

「黙りなさい!」

 

「・・・うぃっす」

 

つり目美少女が図星を指されて羞恥に顔を染めて目を潤ませるってそれなんてご褒美。

言うこと聞いちゃうわ~。素敵だわ~。心のメモリにRECだわ~。

 

「それで!!ポルターガイストって結局なんなのよ!」

 

「話題をずらしていくぅ」

 

「本題はこっちだったでしょ!!」

 

「ふふふ、ピーブズも少し言っていたけれどねぇ?

魔法族のポルターガイストって言うのは混沌のエネルギーの塊なのよ」

 

「混沌のエネルギー?」

 

「スゴく中二病っぽいね!」

 

「チュウニビョウが何かはわからないわぁ」

 

「デスヨネー!!って、あれ?エネルギーの塊ってことは生物じゃないの?」

 

「・・・そうなるわねぇ」

 

「・・・・混沌のエネルギーが人みたいな形をしているだけってこと?

それ、人じゃないじゃない」

 

「・・・そうなるわねぇ」

 

「・・・ピーブズは人じゃない?」

 

「ええ、そうよぉ。ポルターガイストは、人じゃない。人だったことがないのよ」

 

「クリア・・・」

 

「・・・・・」

 

心配そうに見詰める二人の視線を感じつつ、胸に去来するのはただ、一つの感情のみである。

 

「兄弟すごくね!?!?!?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「エネルギーの塊が自我を持つだけでも凄いことなんじゃない!?

あんなに感情豊かってことは長い年月で成長してるってことだよね!?ロマンだよ!!しかも混沌の生き霊でしょ!?どこの二つ名!?

うわぁ!私そんなロマンの塊と魂の兄弟ってこと!?

私もすごくね!?!?!?」

 

「アー、スゴイワネ」

 

「ふふふ。クリアちゃんって不思議ねぇ」

 

「Foooooo!!!」

 

広場の隅っこで私は叫ぶよ!!

 

「ファンタジー最高!!!やふーーー!!」

 

 

 




「あんなデカイ声で叫んだらイヤでも聞こえるわ、バカな兄弟め」
「ん?どうした?ピーブズ、随分気持ちの悪い顔をしているではないか」
「い、いえ、閣下、なんでも。なんでもありません!」
「・・・ふむ?」


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34

丸々太ったセイウチが、つぶらな瞳を輝かせながら教壇の前で両手を広げ、三人の生徒を見ている。

 

「素晴らしい出来事だ!諸君!」

 

拝啓、魂の兄弟ピーブズ氏へ。

 

「諸君、よく聞いて欲しい」

 

私は、君の忠告通り一週間位はきちんと大人しくしてたよ?

 

 

「前回の薬当てクイズだが、全てを正解した者は私が寮監を勤めるスリザリンからはたった一人、セブルス・スネイプのみとなった。実に、嘆かわしい結果だ。皆の以後の研鑽を期待するとしよう。

セブルス、この調子で勉学に励みなさい。スリザリンに10点をあげよう!」

 

「・・・はい!ありがとうございます!」

 

セイウチに褒められて青白い顔に少し血の気を通わせながら幸薄そうな少年が目を輝かせている。

少年、もっとよく周りを見るのだ!あの憎々しげに見てくる緑の集団がお前は怖くないのか!?

私はすごく怖いんだけど!?

 

「更に喜ばしいことに、この合同クラスからはセブルスの他に更に二人の正解者が出た。それも、二人ともがハッフルパフからだ!」

 

お前!!セイウチ!それ、本当に喜んでるのわかるし、照れるけど!そんな大袈裟にしないで!緑の視線の圧力が上がっちゃうから!!

隣のシャーリーはふんわか笑って天使達の声援に手をふって応えてるけど、すごく余裕だね!?

 

うぅ、こちとら人前に立たされたり注目されたりなんてしたことないってのに。

ピーブズに目立つなって言われたけど、これ、目立つに入るのかな。

忠告を言われる前の出来事だから、しょうがない、よね?ピーブズも許してくれるよ。いい奴だし。・・・多分。

 

「こちらのシャーロット・フォウリー嬢は聖28家の名に恥じぬ素晴らしい見識だった。ハッフルパフに10点!

フォウリー嬢、よろしければ、我が素晴らしきスラグクラブへ招待をさせていただきたい。よく考えておいて欲しい」

 

「ふふ、光栄ですわぁ。スラグホーン先生」

 

にっこり笑ってはいともいいえとも言わず流すシャーリー先輩。完全に純血の聖28家でこの可憐さを前に流石の緑集団も殺気を収めざるをえないのか、視線の圧力が和らいだ。ナイス!シャーリー!!

しかし、別に家柄がいいからシャーリーが頭良いわけではないんだが、このセイウチ、なんていうか。・・・こう、あれだな。本家でもそうだが、あの校長も認める実力を持ってるっていうのに、残念な人だよなぁ。

 

「えー、おほん!そして最後にハッフルパフ、クリア・アヴァロン嬢!」

 

「あ、はいっ!」

 

セイウチ!半純血でも純血でもない生粋のマグルの私のことはアッサリ流していいからな!!

 

「君のレポートはまさに素晴らしいの一言に尽きた!!」

 

「あー、ハイ?」

 

なんですと?

 

「それぞれの薬の特徴、用途、制作手順等を実に正確に細かく記されており、尚且つ、それぞれの薬について羊皮紙一枚ずつのレポートを作成。

あの短い時間の中でよくもあそこまで詳細に書き記すことが出来たものだ!君の年でなかなか出来ることではない!!全くもって素晴らしい!!ハッフルパフに10点!!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

前世含めて11歳+α歳ですからね!

しかしだ!セイウチ!私のことはよくわからないからか、生粋のマグルの私をそんな全力で褒めるんじゃない!圧力が!視線の圧力が全てこっちに!!

 

「しかし、それなのに実に、実に残念だ、クリア・アヴァロン」

 

テンション高く人を褒めたと思ったら突然物憂げな顔をするセイウチ。

私に集中してる視線も訝しげな物に変わった。

教室の雰囲気を自分の仕草一つで変えるセイウチ。

このセイウチ、接して初めてわかる凄さがある。

スラグクラブなんてものを長い期間続けられるカリスマ性ってものがこのセイウチにはある。

しかし、見た目は完全にセイウチだ。

 

「君の解答なんだが、全て一問ずつずれていてね」

 

「・・・・え」

 

「解答が全て完璧に合っていただけに実に惜しい!

ケアレスミスにも程がある結果だ!ハッフルパフ5点減点!」

 

「・・・ええっ!?」

 

「では、セブルス・スネイプ、シャーロット・フォウリー。

後で私の部屋に来るように、二人には正解のご褒美、あの中から好きな薬を選んで持っていくといい。

残念ながらクリア・アヴァロンはなしだ。

席に戻りなさい」

 

「・・・あ、はい」

 

緑の集団から小バカにしたような囁きと黄色の集団からは慰めの言葉をかけられつつ席に戻る私が考えることは一つ。

 

あれ?私が教壇の前に行った意味とは?

 

これに尽きる。

あのセイウチ、無駄に目立たせやがって!

今度ひげむしってやる!!

 

 

この一件は、他にも全問正解者が居たためか、私が完璧なレポートを提出したと言うことよりも、私がうっかりで一問ずつ間違えてレポートを提出したと言うことが不思議な程大きく噂になった。

ハッフルパフのうっかり者。と暫く影から正面から言われるようになったわけだが、これ、目立っては、ない、よね?




「みんなぁ?いいぃ?クリアちゃんがぁ、虐められたり、他の寮の子に取られちゃったりしちゃうのは、嫌じゃなぁい?」
「いや、だからって、うっかりだけ噂にするってどうなの?」
「ぼくたちがクリアの嫌な噂流してるなんて知られたら、嫌われちゃうんじゃ・・・?」
「悲しませてしまうかもしれないわよ?」

「でもでもぉ、優秀なのが広まって、他の寮に目を付けられても大変じゃなぁい?」
「それは・・・・、そうかも?」

「苛めらて泣いてしまうかもしれないわぁ?」
「それは・・・、可哀想だわ!」

「・・・そうでしょぉ?それなら、わたくしたちがクリアちゃんを守らなくっちゃ」
「・・・そう、なの?」

「そうなのよぉ。今、クリアちゃんを守れるのはわたくし達ハッフルパフの寮生だけなのよぉ?」
「「「それもそうか!!!」」」



「お、おおぅ、なんだ、あれ」
「ミス・フォウリー嬢主導の『クリアちゃん守り隊』?らしいよ?」
「流石に純血家だけあって、カリスマ性高いよね。
みぃーんな言いくるめてるや。」
「いいのか?あれ?」
「うーん、みんな、楽しそうだし、いいんじゃない?」
「そうそうー。悪いことしてる訳じゃないし。校則にも引っ掛かってないし。何より見てて楽しいよ?」
「・・・・・ま、いいか」
「「そうそうー」」


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35

あれから、ハッフルパフのうっかり者と言われ出したこの私クリア・アヴァロンであるが。

 

周囲?いや、主に魂の兄弟ピーブズが心配していたようなトゥシューズに画鋲的な目には一切あっていない。

あっていない所か、たいして注目すらもされなかった。

 

原因は四つ程なら考えられる。

 

まず一つ目、ハッフルパフのうっかり者って、正直誰のことだかわからないのが現状だ。

ハッフルパフにはのんびり屋さんな子が大変多く、うっかり者のが多い位だった。

ローブに食べ物溢すし、何も無い所で転ぶし、忘れ物は多いし、大抵どっか日向にて黄色いローブが集団で固まっておやつ片手に日向ぼっこしてるし。

ハッフルパフのうっかり者が選り取りみどりの状態である。

凄く、癒されます。

 

二つ目、私の見た目がまず目立たない。

親譲りのお気に入り、ザ・外国人!みたいな濃いビー玉みたいな青い目。

以外は平均より小さいことを除けば肩までの黒髪に、外国人にしては彫りの浅い顔立ちで特に目立つ所など無いのである。

普段一緒にいるエヴァとシャーリーが美少女過ぎて添え物感あるよね。

 

三つ目、ホグワーツ敷地内にあの、『暴れ柳』が植えられた為である。

原作知ってる身としては近づく者を無差別に蹂躙する恐怖の柳が何故植えられたのか理由がわかるから、ミーハー的好奇心から一目見れば満足なんだけど、上級生の方々は何故そんなものが突然植えられたのか興味津々だし、無謀な奴らは度胸試し感覚で暴れ柳に突撃かましてボコられ、保険医のマダム・ポンフリーに説教され減点されている。

刺激的な新しい物に夢中になるのは世の常だが、なぜ自らボコボコにされに行く人達がこんなに多いのか・・・・。

死に急ぎ野郎は別の世界線の子だったはずなんだけどなぁ。

 

 

そんな事をうだうだと考えつつ大王イカが時折水しぶきを飛ばしマーピープルが宙を舞う。

ささやかな太陽が近付く冬を思わせる、そんな大きな湖のそば。

穏やかなお茶の時間を満喫しつつ、そんなうっかり者達をエヴァがローブを拭いてあげて、シャーリーが『修復呪文・レパロ』で破けたりした所を修復したりしてる所を、集団から少し離れた木を背凭れにして魂の兄弟がそばに漂っているのを眺めつつ、おやつを持ってきてくれた屋敷しもべ妖精君を小脇に抱えのんびり卵サンドイッチを頬張る。私、クリア・アヴァロン11歳。

うん、うまし。

 

「は、離して!離してくれ、のです!!」

 

「・・・おい、兄弟?」

 

「むふー。うましうまし」

 

「は、離せ、離してぇええ!!」

 

「・・・・・」

 

「あ、この紅茶美味しい」

 

「うっうっうっ、なんで」

 

「兄弟、泣いてるぞ、それ」

 

小脇に抱えた屋敷しもべ妖精は少し暴れてはいたが、いつの間にかぐったりと哀愁漂わせながら泣いていた。

そんなに泣くなよ。かわいいな。

 

「兄弟は俺様達が目を離すと何しでかすか本気でわかんねぇな」

 

「やだな、兄弟!褒めるなよ!」

 

「褒めてはねぇな・・・はぁ。

まぁ、ほどほどで離してやれよ。そいつらも暇じゃねぇんだからよ」

 

疲れた様にため息を溢す兄弟を呆気に取られたように小脇に抱えた屋敷しもべ妖精が眺めていた。元々溢れんばかりのパッチリお目めを更に落っことしそうな程に見開いている。どこにそこまで驚きの要素が?大王イカが空でも飛んだのだろうか。

それは是非に見てみたい!!

 

「兄弟!そこら辺に大王イカ飛んでない!?」

 

「イカは飛ばねぇよ!?」

 

「何の話!?です!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人仲良く叫んだ所で、上をふよふよ漂う兄弟に首が痛くなってきた旨を告げ目線を合わせるようにお願いして下に降りてきて貰い、それを見て更に驚く屋敷しもべ妖精を小脇に抱えるのではなく横に座って貰うよう説得?し紅茶を一啜りする。

尚、逃走防止に右手は屋敷しもべ妖精と握ったままである。

正直、130センチ程しかないマイボディで90センチ程の痩せ細った屋敷しもべ妖精を小脇に抱え続けるのはそろそろ限界だった。

魔法の行使が上手な屋敷しもべ妖精には腕力がほぼ無かったのが私のツイてた所だよね!日頃の行いがいいからだなぁ!

 

「ふふふふ」

 

「・・・あー、んで?兄弟はなんでなんの罪もないコイツをその、いじめ、じゃねぇ。捕まえてたんだ?」

 

言葉を濁しきれてない兄弟が気の毒そうに屋敷しもべ妖精を眺めるけど、何故そんな目をされなければ?

 

「えっ!?兄弟わかんないの!?」

 

「わっっかんねぇよ!?というか、大半の奴らはわかんねぇからな!?」

 

「ぼ、私にもわからな、わかりません!!」

 

二人してそんなに怒るなよなー。

 

「えーー」

 

「ハッフルパフの奴らはお前のする事だからとおかしいぐれぇに全く気にしてねぇが、普通は屋敷しもべ妖精を取っ捕まえたりなんざしねぇよ!!」

 

「ぼ、私は悪いことなんかしてね、してない、です!!」

 

「俺はコイツらによくイタズラするが、コイツらただ働いてるだけの奴らだぞ!なんでこんなことしてんだよ!」

 

「無実だ!です!」

 

私を置き去りにいつの間に仲良くなったのか、二人で息ぴったりに説教してくるのは酷くないか!?

 

「なんで私が怒られてるの!?」

 

「「当然だろ!」です!」

 

何が当然なのか、甚だ遺憾である。

 

「だって・・・・」

 

拗ねくれた気持ちそのままにジト目を両脇に向ければ、魂の兄弟は自らの過去に疚しいことが山程ある身に、覚えがいくつもあったのか気まずげに目を反らしている。

昔のイタズラについては知らないけど、この前兄弟が突然机から顔出したせいで、落っことしたプティングの恨み忘れじ。

いや、食べ物に夢中で兄弟のこと無視しちゃってた私が悪いとは後からエヴァに言われたけど。

 

反対に、屋敷しもべ妖精は本当に潔白なので訝しげな眼差しをこちらに向けている。

やめろ、そんな澄んだ目をこっちに向けるんじゃない!!

 

「あー、なんだ。内容によっては怒るから言ってみろよ、な?」

 

「あれ?それ結局怒るよね?」

 

「あのピーブズが諭してる、です!?」

 

「てめえは、黙ってろ。いつまでもそのままでいいのかよ?」

 

「っ~~!」

 

「涙目で両手でお口チャックとか可愛すぎかな!?」

 

「兄弟!脱線すんな!」

 

「うぐぅ」

 

完全に場の主導権を兄弟が握ってしまった。

確かに、真面目に仕事してる屋敷しもべ妖精を拘束するのは少しは悪いかなぁとは思わなくもないけど、私の目的達成まであと少しなんだから、もう少しだけ我慢してもらう方向で、ひとつ。

 

「・・・で、なんでこんなことしてる?」

 

「・・・お、お礼を言いたくて、つい」

 

「・・・・・・え?」

 

「・・・・・・あ?」

 

「・・・・・・てへっ☆」

 

つまり、そういう事である。

 

 

 

 




「はぁ?
いつも真面目に働いてくれてる屋敷しもべ妖精にお礼ぇ?」

「そうなのよぉ。わたくしも聞いたこともないから驚いてしまってぇ」

「いや、まぁ、お礼くらいしてもいいんじゃない?」

「どうしてぇ?屋敷しもべ妖精はそういう魔法生物なのよぉ?お仕事が彼らの存在意義なのだからぁ、お礼ってするもの・・・・だったのぉ???」

「あ、魔法族的な考えはそうなのね。
まぁ、マグルでもわざわざ捕まえてまでってのはないでしょうねぇ。明らかにおかしなことなら尚更ね」

「そうなのよぉ。
それでねぇ?クリアちゃんが言うには、わたくし達のおやつを運んだりしてくれる屋敷しもべ妖精はいつも一緒の人だからってぇ。そもそも屋敷しもべ妖精の違いなんて見てもわからないわぁ」

「というか、屋敷しもべ妖精って、私初めて見たわよ。ご飯とかおやつとか、いつも勝手に出てくるとばかり思ってたわ」



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36

お礼を伝えて取り敢えず満足した私は、繋いだ手を離し屋敷僕妖精さんを解放した。

 

屋敷僕妖精さんはこっちを溢れる様なお目目でしばらく眺めていたあと、びくりと一度身体を震わせた後、姿くらましで厨房へ戻っていった。多分。

 

最後に涙目になりながら、「お、お前!変!です!」って叫んでたんだが、真性の社畜種族にはお礼を言うことすら禁止項目に抵触してしまったのだろうか。

彼?彼女?の上司に怒られたらごめんね。

 

 

「かぁわいい~!」

 

「可愛いか?」

 

「え!あの可愛さがわかんないと!?」

 

「・・・あいにくと、わかんねぇなぁ」

 

「あの、明らかに慣れていない丁寧語!他とは格段に違った感情駄々漏れの態度!幼い仕草!!私は最初っからあの子には目を付けていたんだよ!」

 

「・・・・」

 

「厨房覗いててもさぁ、他のしもべ妖精に指導されながら一所懸命に仕事してる感じも可愛かったし、みんなが美味しそうに食べてたらこっそりその料理増やしたりしてるし!細やかな気配り屋さんでね!いい子なんだよ!!」

 

 

5つ星ホテルもビックリの気配りをして、約500人以上は居るホグワーツの住人の食事に掃除に多岐に渡る仕事をほんの数十人の屋敷しもべ妖精が回しているわけで。

普通の人間ならサボるところも一切サボらず過労死一直線の仕事ぶり。

お疲れ様です。いつもありがとう。

 

 

 

「・・・・」

 

「兄弟?どしたの?」

 

「・・・あのな、兄弟?」

 

「うん?どしたの?そんな真剣な顔と声で?」

 

「ここは、バレなきゃ校則破っても誰も咎める奴はいねぇ。

だがな?俺様が言うのもなんだが。

・・・・犯罪はバレねぇからってやっちまってもいい訳じゃあねぇんだぞ?」

 

「突然の犯罪者認定!?」

 

「その、なんだ。俺は兄弟が例え、犯罪者だろうと味方になってやるのもやぶさかじゃあねぇが、兄弟だって他の寮生とかに迷惑をかけたくねぇだろう?」

 

「え?待って待って待って!!突然の犯罪者認定は酷くない!?いじめ!?いじめなの!?」

 

「・・・・」

 

「えっ、なんで顔背けるの?背けても透けてるけど、突然過ぎない??

まだ何にもしてないよね?」

 

「まだ・・・か?」

 

「え?・・・っ!?ちがっ!!これは言葉の綾ってヤツだからね!?そもそも兄弟の中で私は誰に犯罪する予定なの!?」

 

「いいんだぜ?兄弟。俺様は味方だ、な?」

 

「優しい言葉と真剣な眼差しが、兄弟のマジ度を突き付けてきて辛いなぁ!!どうしてそうなった!?」

 

その後必死で兄弟を取り成してなんとか犯罪予備軍で認識を留めて貰って一安心したよ。やれやれ。失礼な兄弟だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、そんな、幸せで平凡な日々がずっと続くのだと思ってた。

魔法の世界の常識と、私の常識に多少の誤差はあれどたいした違いもなく、私たちは同じ世界に居るのだと思っていた。

本編にさえ関わらなければ大丈夫。

なんて、ホグワーツに居る限り、そんな簡単な訳なかったのにねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッフルパフ生として穏やかに緩やかに日々を過ごす中で、私たちは最初のモノ慣れなさも落ち着いてゆっくりと魔法の世界に馴染んでいった。私だけ妙に馴染んでたとか兄弟は言うけどそんなことないよ。ちゃんと、緊張していたよ。ね?

 

兄弟がほぼ毎日私のそばにふよふよ浮かんで居るのも当たり前になりつつあるし、ハッフルパフ生のみんなも一塊じゃなくて、特に気の合う子達同士でグループ作って探検したり遊んだりご飯食べたりたまに勉強したりするようになっていった。

 

 

「くすん、エンジェル達も巣立ちの時期なんだねぇ」

 

「あのねぇ、学級単位でなんていつまでも動いてられないじゃない。

みんな、そんな小さな子供じゃないんだし」

 

「ふふふ~、そぉねぇ?

でもぉ、なんだかさびしいわよねぇ?

わたし、あんなに毎日賑やかに過ごしたの、初めてだったけれど、とっても楽しかったわぁ」

 

「そーだよね!そーなんだよ!いや、慣れるまでの数ヶ月だったけどさぁ!エンジェル達とわらわら移動したりとか日向ぼっことかオヤツタイムとか・・・まさに至福のひとときだったんだよ!!!勿論!エヴァもシャーリーもエンジェル筆頭なんだけどね!!」

 

「・・・慣れればみんな別々に行動するなんて当たり前のことでしょう?全く二人とも何言ってるんだか」

 

「エヴァ、ドライや。あんなに世話焼いてたのに」

 

「ふふふ~」

 

「ヒヒヒッ、そぉーんなこと言っちゃあいるがよぉ?

素直じゃあねぇなぁ?ミス・エヴァ~?」

 

「・・・ピーブズ、この風船野郎。何が言いたいのかしら?シャーリーも変に笑うのやめてよね」

 

「ヒヒヒッ、俺様は見たぜぇ~?ついこの前食堂でよぉ?

二~三人前を取り分けて隣に渡そうとしてたろぉ?」

 

「・・・それが何よ?」

 

「ありゃ?」

 

「ふふふ~」

 

「んでだ!そのあと気付いて無理矢理自分で食べてたよなぁ?あれは何のつもりで取り分けてたんだかなぁ~?ミス・エヴァ~??」

 

「・・・・ピーブズっ!!あんた!今日こそその青とオレンジの風船みたいな身体を本物の風船みたいに紐に括りつけて簡単には動けないようにしてやるんだから!!!」

 

「ギャッハハハハハ!!!ムリムリ!俺様はそう簡単にゃあ縛れねぇぜ!!精々腕を磨かなきゃあなぁ!!」

 

「も~~!!!なんなのよ!そういう時は見て見ぬふりするもんでしょうが!!!ほんっとにいらないとこばっか見てるんだから!!」

 

「・・・アカン、エヴァ尊い」

 

「うふふ、エヴァちゃんったらぁ、杖を無闇に振り回すと危ないのよぉ?どうやってもぉ、ピーブズにはまだ当たらないわぁ」

 

 

杖を振り回し、頬を染めてピーブズを滅多打ちにせんと駆けるエヴァとそんな様子を心底楽しそうに見ては逃げるピーブズ。

そんな穏やかに過ごしていた私たちに、掛けられる声。

 

 

「やぁ!君が噂のミス・アヴァロンだね?」

 

「は?人違いですけど」

 

「おまっ!せっかくジェームズが話かけてんだぞ!なんだよその態度は」

 

「黙れよ駄犬。金魚のフンみてぇなこと言ってんじゃねぇぞ」

 

「な~~~っっ!!」

 

「行こ、シャーリー」

 

「ええ」

 

「エヴァ~、きょーだーい、移動しよー」

 

 

私は何も見なかったし何にも声なんて掛けられてない。よし。

眼鏡のと、その友達三人なんてまるで見えない。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!」

 

 

折角寒いの我慢して湖まで来てたのにさっきまでの楽しい気分が台無しですのことよ。全く。

 

 

「待ってくれってば!」

 

「~~どぅわっ」

 

 

通りすぎようとした手首を焦りからか思い切り引っ張られたせいで力負けした体が後ろに傾ぐ。

 

「~~いったぁ」

 

そのまま思いっきり冷たく湿気った地面に尻餅ついた挙げ句に握られたままの手首がぐぎりと捻られた。

くそぉ、今日は厄日か!?

 

 

「「クリア!!」ちゃん!」「兄弟!大丈夫かよ!」

 

「ごっ、ごめん!大丈夫かい?」

 

「な、なにしてんだよ!鈍くせぇなぁ!」

 

「あわわ、大丈夫?」

 

「クリア、痛いとこは?」

 

 

一斉に取り囲まれた。クリアは、逃げられない!!

 

 

「大丈夫だから!お尻が冷たい以外は本当に平気だよ、エヴァとシャーリー、しゃがんだら二人が濡れちゃうからしゃがまないの!兄弟はそんな顔しないの!キャラがぶれてる!!

ええいっ!メガネは、早よ手首離してよ!立てない!

駄犬は黙ってろ!あわわ、じゃないから!ありがとね、リーマス大丈夫だから。

 

てゆーか、みんな退いてったら!起きれないから!!」

 

わっちゃわっちゃしてんのは私抜きでしてください!!!

 

ようやっと立ち上がった頃には下着までびしょ濡れでお尻に冬の冷たい空気が吹き付けて非常に寒くなってしまった。

 

その場を着替えの為にさっさと寮に戻ると告げて逃げるように去る。なんなんだ、何故奴らは絡んできたんだ!?!?!?

 

 

「・・・はぁ、こんな一般市民に今ホグワーツ注目度No.1共が何の用事なんだか」

 

「なによ、クリア知り合いなんじゃないの?」

 

「・・・知り合いたくもない。出来ることならお近づきすらなりたくないよ」

 

「「「・・・・」」」

 

「・・・なに?」

 

「・・・別に?ねぇ?ピーブズ」

 

「・・・あぁ、ミス・エヴァ」

 

「・・・???」

 

 

二人とも、なぜにそんな息ぴったりで目を反らすの?本当に仲良しさんだよね。クリアさん、少し妬けちゃうぜ!

 

 

「・・・ところでぇ、クリアちゃん、さっきは転んでしまったけれどぉ?本当に、痛いところはないのぉ?」

 

「え、あ、うーん。実は微妙に手首捻った、かも?」

 

「まぁ!!それは大変よぉ。着替えたらすぐにマダム・ポンフリーに看てもらいに行きましょう?杖を振るのに影響が出てはいけないものぉ」

 

「え、捻ったくらいだし、我慢できるよ?」

 

「だぁめ、杖腕のケガは小さな事でも放っておいてはいけないのよぉ?それにぃ、私はクリアちゃんが痛い思いをするのは悲しいわぁ。クリアちゃんはぁ、私やエヴァやピーブズ、みんなに悲しい思いをさせるのぉ?」

 

瞳を潤ませた美少女に片手をそっと取られ、両手を包み込み心配げに小首を傾げ見つめられたら私の取れる行動は一つである!!!

 

「イエス・サー!!!」

 

あれ?本日はすんごい良い日じゃない!?!?!?

 

 

 

 





「クリアって、あんな嫌そうな表情も出来たのね」
「・・・実は、あの表情を俺様は一回だけ見たことあるぜ」
「本当に!?」
「あぁ。
・・・あれは俺様が兄弟の後ろから驚かせたせいで落としたプディングを見詰めた後に俺様に向けた表情にそっくりだったぜ」
「・・・」
「・・・」
「それはそうとぉ、クリアちゃん、どうしてあそこまで彼等を嫌がるのかしらぁ?
ブラックは純血派筆頭だからわからなくはないけれど、クリアちゃんはそもそも純血だとかマグルだとかを少しも気にして居ない子よねぇ?」
「ポッターは?」
「ポッター家は純血派じゃないわよぉ?」
「女の尻おっかけて、スリザリンの奴とケンカしてんのはよく見るぜ?」
「だからって、そもそもが人見知りするような子じゃないじゃない。この前森番の背中によじ登って困らせてたわよ?あのあと他の子にも群がられてたわ。あの人って、見た目ほど怖くないのね」
「彼等だって、今まで近付いてすら来なかったのに、何で今なのかしらぁ?」
「・・・そりゃ、あんだけハッフルパフで固まってりゃ近付いてなんかこれねぇだろうよ」



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37

あの、イタズラわんぱく4人組との初!接触以降、何故か奴等がこちらに接触しようとする素振りを見せることが増えた。

こちら側の切実な事情としてはとにかく関わりにならずに平穏無事な学校生活を送りたいのである。

 

なんせ、関わったってろくなことにならないのは火を見るより明らかなのだから!!

原作に関わるという以前に、ハロウィンに4人で協力したイタズラをして以来、グッと距離を縮めていたが、あの4人はここ最近、とうとう『いたずら仕掛人』を結成したらしい。

平和だったホグワーツ中に一年生ながら、微笑ましいのからわりとエグいのまで、熱心に活動しているらしいが、その行動の派手さもさることながら、主人公母を巡っての教授と恋の鞘当てを繰り返す眼鏡に、グリフィンドールのブラック家として悪目立ちしている黒駄犬。この二人、ネームバリューだけでも目立つのだが、何よりもあの仕掛人達、顔が、良い。そう、顔が良い。

眼鏡も黒駄犬もリーマスも見た目がいいのは知ってた。

本編でも見目よしで書いてあったが、実物はびっくりするほど美少年だった。事実は小説よりイケメンなり。だよ。

非公式ながら既にファンクラブまで出来てるらしくゾッとしたよね。

ネズミさんにも母性を擽られるとかでファンが付いてるらしい。

 

奴等の目的がなんにせよ、早々とホグワーツの若手アイドルとなった奴等とモブの中のモブである、このクリアちゃんが関わりになるとかあり得ない。

原作的にも関わり合いになりたくないのに、倍率ドン!で会いたくなくなるよね。

ほんっとに、なんでこんな壁際系女子の代表格に会いに来ようとしてるんだか。

 

 

絶対に関わりたくないマンと化した私は、シャーリーやエヴァ、兄弟を頼りに接触を避けている現状だ。

基本はピーブズ偵察兵の長年の経験と機転によるルート変更により接触前に逃げ出すことに大抵成功している。奴等もまだこの広大なホグワーツの全てを熟知している訳じゃないからね!うちの兄弟に一日の長ありだよ!

 

「さっすが、兄弟!頼もしい!!」

 

「・・・まぁ!!俺様に任せとくんだな!一年のヒヨコちゃんにゃあ、兄弟達連れてたって追い付かれることはまずねぇぜ!」

 

とか、兄弟イケメンだな!!

 

 

仮に接触したとしても、話術が高く、聖28家の次期後継としてシャーリーが話をしている間に運動神経の高いエヴァに手を引いてもらい、ピーブズの援護を受けて逃走をし、寮又は寮生の塊に混ぜてもらい事なきを得ている。

聖28家として動くのは嫌なんじゃないかとシャーリーに聞いても、本人は「わたくしは、わたくしだって、教えてもらったから大丈夫なのよぉ?」とのこと。

シャーリーってまだ幼いといえる年齢だってのに、しっかりしてるよなぁ。

 

「兄弟!シャーリー、エヴァ!!みんなもありがとう!!」

 

「いいってことよ」

 

「ふふふ、ブラックもポッターも昔から嫌でも顔を会わせるのよ?今更会話の一つや二つ。何も変わらないわよぉ。

それに、クリアちゃんの為だものぉ。そう簡単には、逃がさないわぁ」

 

「ほ、箒があればもっと楽に逃げれるんだけどね!!!アンタ遅いから!しょうがないから引っ張ってくけど!!」

 

「「「クリアには普段から勉強教えて貰ってるし、いつでも逃げてきていいからね!!」」」

 

「ったく、一年坊主はもっと先輩に頼ってもいいんだぞ?その為の監督生なんだからよ」

 

「わ~~ん!!みんな尊い!!大好きぃ~~!!!」

 

なんでこの子達はこんなに天使なんだろう?

前世、特別に徳を積んだ生き方をしてこなかったけど、私の運って、この世界に生まれたことも奇跡だったのに、こんな良い寮に恵まれたってだけで既に来世分までの運使い果たしてるんじゃないかな!?来世はとんだ地獄になるかもしれないが、今がこんなに幸せならいいんじゃないかな!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近付くクリスマス休暇!!楽しみなことばかりである!!!

出来ればみんなに僅かばかりでも感謝の気持ちを込めまくって、お菓子とかクリスマスカードとか送りたいんだけど、お金、足りるかな。

いっそのこと屋敷しもべ妖精さん達のとこにお邪魔して、クリスマス前に作って談話室の机にでも置いとこうかな。ふくろう便で送るお金と家に帰る分のお金を材料に代えて、クッキー焼きまくればいいか。

みんなにはクッキー、私には図書館で好きなだけ本読んで勉強出来て、いたずら仕掛人はホグワーツから居なくなる。

ビバ!クリスマス休暇!

早く来ないかなぁ~!!

 

 

「あ、みんなはクリスマス休暇はどうするの?」

 

「わたくしはぁ、実家に戻っていくつかのパーティーに行かなければいけないのよぉ。毎年のこととはいえ、今年はホグワーツに入学したこともあって、特に大変だわぁ。クリアちゃんもエヴァちゃんも居ないし、ハッフルパフの子達も数人しかいないものぉ。寂しいから早くクリスマス休暇なんて終わってしまえばいいのにねぇ」

 

「シャーリー、まだ始まってもないのに、そんなんで大丈夫な訳?

まぁ、私は普通に戻ってお手伝いかしらね。・・・ミサの準備とかもあるし」

 

「パーティーにお手伝いかぁ~、二人とも大変そうだねぇ」

 

「人に聞いといて、そういうアンタはどうすんのよ?」

 

「クリアちゃんはどうするのぉ?」

 

「フッフッフ、私はねぇ?聞いて羨ましがりなさい!なんと!ホグワーツに残って図書館通いするんだよ!!!」

 

「「・・・」」

 

「あれだけのホグワーツの蔵書を独り占め!!スゴくない!?

宿題なんてパパッと終わらせちゃってさ!呪文学薬学薬草学、変身学とか、あ!あとは魔法理論学とかも見てさ!詳しい書籍も読み放題!うへ、うへへへへ」

 

あぁん!!すんごい楽しみ~~!!!

 

 

 




「いつも思うんだけど、クリアって、あんなんでなんで頭良いのかしらね。教えてもらってても分かりやすいのが助かるんだけど、妙に納得出来ないのよね」
「予習復習もしっかりやってるみたいだけど、その上でみんなにも教えてあげてるみたいよ?」
「クリア、ハッフルパフ、よね?」
「そうねぇ?でも、そんな不思議なところもクリアちゃんらしいわよぉ?」

「・・・ま、最悪俺様がクリスマス休暇中に禁書棚には行かねぇように見張っといてやるよ」
「・・・クリアのことだから、いつかは勝手に行きそうね」
「・・・いつまでクリアちゃん、我慢できるかしらぁ?」
「・・・あの調子じゃあ、どうせすぐだぜ?あれは本の為なら校則とあの司書の女史すら撒くだろ。俺が監督生のうちは庇いきれねぇようなデカイ問題起こすのは勘弁して欲しいんだがな。目ぇ付けられたらヤバいのが同学年にいるからよ」
「あ、確かに」
「な~んか、俺らの5学年は面倒なの多いよなぁ。そのせいでうちの監督生はテッド一択なんだよね」
「へぇ?そうなんですか?」
「そうそう。スリザリンの純血主義に何人かいてね。アイツらに目付けられたらホントに最悪だよ。」
「うちはそこまで目の敵にはされてないんだけどね?グリフィンドールのウィーズリーとスリザリンのマルフォイとか事あるごとに喧嘩してるよ」
「ま、今の季節からどうこう、なんて目ぇ付けられてる奴等は貴族の子ら以外ならあのグリフィンドールの四人組と対立してるスリザリンの奴とグリフィンドールの女の子、ぐらいなもんだろ?」
「それに追われてるんだから、クリアったら何をしてるんだかね」
「クリアちゃんに聞いても心当たりがないみたいだし」
「俺様なんかは兄弟と最初から一緒に行動してるが、あんなガキ達と関わりなんかなかったぜぇ?」
「「「「「「不思議だ」」」」」」


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38

暖かな暖炉、柔らかく全力で清潔にしまくった絨毯、ゴロ寝用クッション。そしてブランケット!

おやつはあまぁいヌガーにトフィーにクッキー!軽食用にスコーンとサンドイッチも添えて。

少し濃い目の紅茶。

図書館からハグリッドに付き添ってもらって山程持ち込んだ魔法書ちゃんたち!!

 

 

「ふっふっふ、ふふふふふふ!あーっはっはっは!!

かんっぺきなのでは!?!?

完璧過ぎるのでは!?!?!?

場所、兵糧、教材!!最高の休日の過ごし方なのでは!?!?」

 

 

みなさん、こんにちわ。

絶賛ぼっち満喫中、寮の談話室にて雄叫び上げる系女子、クリアちゃんでっす!!

 

 

「・・・・・・」

 

ちょっと、さみしいです。

 

クリスマス休暇、原作でも下級生はともかくとして、上級生の何人かは残ってるだろうから、そんなに寂しくないだろな!うんうん!!

 

・・・と高を括ってたのです。

ええ、愚かしいことに、ね。

 

ここは既に「現実」なのだと、私は一体何度思い知ればいいのだろうか!!

 

 

「みんな帰るなんて!!聞いて、ないよ!!!」

 

下級生どころか上級生まで軒並みってどういうこったよ!

 

「・・・あのなぁ、兄弟、言っちゃあなんだがよ、そのな?

少し考えりゃあ多少はその考えに行き着くもんなんじゃねぇか??

あと、床に寝転ぶな、早く起きろ、汚ぇぞ」

 

私以外誰も居ない談話室でゴロゴロジタバタと床に転がる私を見る、嘆く私の周りをふよふよと浮かぶ兄弟からは呆れと憐れみを感じる。

うぅ、そんな目で私を見るんじゃないやい。

 

 

「う、うぐぅ。

だって、だってさ兄弟。

宿題やりがてら残るとか、試験勉強とか、なんか、用事とか、残る理由ある人いるんじゃないの!?」

 

原作なら!!ハリー以外に何人かは居て、大広間でご飯食べてる描写あったやん!!

 

 

「あ〜、他寮なら、まぁ、クリスマス休暇にはそこそこ残る奴も居るには居るが、なぁ」

 

「・・・なんでうちはみんな居ないのさ」

 

「ったく、あいつら言ってたろうが。

マグル族の奴らは家族で過ごす。

魔法族の奴らは年末年始で親戚だのの集まりがあんだっつってよ。」

 

「・・・言ってた、けどぉ!!まさか!寮内全員とか思わなくない!?!?みんな家好き過ぎない!?私も大好きですけどもぉ!!」

 

そして、そんな家族想いの寮生たちも解釈一致過ぎて大好きですけどぉ!!

 

「・・・あのなぁ、そんなに嘆くならよぉ、兄弟も帰りゃあ良かったんじゃねぇのか?

ニンゲンってのは毎年毎年、年末年始を家族で過ごすもんなんだろぉ??

このクリスマス休暇自体、レイブンクローのガリ勉共ぐらいや、その他の寮の奴等がほんの少ししか残ってやしねぇってのに」

 

 

「・・・だってぇ、家帰ったら魔法使って復習も予習も出来ないんだよ!?魔法書だって教科書しか持ち出せないし!!

教科書全部読んじゃったよ!!!

うわ〜〜ん!!

未成年魔法使いの・・・制限事項令、だっけ?があるせいだ!!必要なんだろうけど!!だけど!!」

 

「・・・?せいげんれい??

あ〜、わりぃ。

ホグワーツの外のことは俺様知らねぇからなんとも言えねぇ」

 

「うぐ、ごめん」

 

「なんでそこで兄弟が謝んだ?いい加減床から起きろとは思うけどよ」

 

「ほれ、起きろ、ばっちぃぞ」そういってふよふよと浮かぶこんなにも優しい兄弟は、生まれてからウン百年?を生徒が居なくなったら途端に物寂しくなるこのホグワーツから一歩も出ることなく過ごしてきたんだと、思うとっ!!!

 

「うぐぅっ!!ぐすっ」

 

「どわあああ!?!?

突然泣き出すんじゃねぇよ!兄弟!!どうしたよ兄弟!?

腹ァ、壊したのか!?バカヤロウ!そんな床でゴロゴロしてっからだろうが!」

 

私がゴロ寝してるふかふかの絨毯は『エバネスコ』で埃やゴミ、砂利や砂を消して『スコージファイ』で綺麗に清め、この為に習得した『ルーモス・ソレム』太陽光呪文でダニや虫を徹底的に除菌したふかふかふわふわ、清潔安心なカーペットなのであるので心配無用なのだ!!

呪文ってホント便利!

なお、全ての呪文は教師や周りの先輩方を質問攻めにして、会得した。

意外なこと?に、未だに全体授業が座学だけなんだよね。

なんでも、基礎をしっかり学んでから呪文習得に移るんだとか。

 

闇の勢力との戦争の最中である為に、最初の一年は基礎基本を徹底的に学んで、暴走とかが起きないようにするんだって。

麗しのマクゴナガル先生が言ってた。

 

シャーリーが言うには、最初の授業でマグルと魔法族の知識格差とかをなるべく少なくして、誰がマグルで誰が魔法族なのかをわかりにくくする為なんじゃないのかしらって、ことらしい。

 

私としては、そんな考え微塵もなくて、単純に学期始めからの魔法事故は責任問題とか面倒な理事会とかで、学校側として困るからなんじゃないかと思ってた。

なんか、シャーリーと比べてあまりにも夢も希望もない考えしていた自分に絶望した。

 

 

そんな、無駄に年取った考えしか出来ない私と比べて、みんなやピーブズのなんと純粋なことか!!!

 

 

「ちくしょう!!どうせ私は汚れた大人さ!!」

 

「突然どうしたよ!?」

 

「私なんてっっ!!私なんてぇっ!!」

 

「おいおいおいおい!?兄弟???

なぁ、ホントにどうしたんだよ?さっきまで宿題終わらせるってあんなに楽しそうだったじゃねぇか?

 

・・・・・・なぁ、俺様、なんか、やっちまったか?

俺様みたいな奴に、その、うるさく言われて嫌に、なっちまった・・・のか?」

 

 

「・・・え?なんて?

ごめん、全力で喚き散らしてて。

よく聞こえなかったんだが」

 

すみません、合計年齢ピー才超えと自分の心の汚れ具合に錯乱してました。

おずおずと声をかけてくる兄弟が可愛過ぎて一周回って平常になれたけど、肝心の兄弟が錯乱した私に怯えている、だと!?

 

「うわ、うわあああ!!

ごめんよ、兄弟!!錯乱しててすいませんでしたああ!!」

 

「・・・いや、その、だな」

 

「うっわ!ドン引きなの!?ないわーって感じですか!?

ごめんよぉ、ごめん!!

そりゃ、とにかく喚くし、考え足りないし、英国マナー違反もいいところの床でゴロ寝して喚き散らしてるけど!!けど!!

そ、その、き、嫌わないでよ、兄弟。

その、兄弟に嫌われたら、悲しいし寂しい、です」

 

「・・・・・・・・あ?」

 

「あ、あれ?もう、だ、駄目?怒っちゃった?

せっかく一緒に居てくれてるのに目の前で錯乱してたらそりゃ、嫌だろうけども」

 

「・・・・・・・・・・・おい?」

 

「うぐぅ、兄弟に数百年単位の年長者の余裕を感じて気が緩んじゃっただけで、クリアさん、普段はちゃんと心の中で悶てる、はずなんだよ。

ちょっと兄弟と二人だけだったから、その、はい」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・あの、ごめんね?」

 

どどど、どうしよう。

兄弟の顔が見たことのない顔に。

てか、兄弟って混沌の塊とかって話だったけど、スッゴイ表情豊かだよなぁ。原作でそんなに顔変わってなかった気がしたけど、出番数が微妙だったし、そこまでの掘り下げがなかっただけなんだろね。

最早心配性のお兄ちゃんだよ。可愛すぎか。

 

「・・・・・・はあ〜〜〜」

 

「え、何そのすっごいため息!

兄弟!兄弟の素敵ボディがしぼんじゃうよ!!あと、うちの田舎だと、ため息は幸福が逃げちゃうって言ってね??」

 

「・・・お前なぁ」

 

「ほら、吸って吸って!!」

 

「・・・・ほんと、変な奴」

 

「いいから、吸うんだ!兄弟!

兄弟の幸せ飛んでっちゃうよ!!」

 

「・・・そんなん吸わなくともな、俺様ともなれば幸せなんざ余るぐらいあるからいいんだよ」

 

「マジか!?」

 

 

流石、兄弟!!

 

「ほれ、さっさと宿題やっちまえ。

今日はそれ読んで試したい呪文があんだろ?」

 

「あ、そうなの!フリットウィック先生にね!乗り物酔いの呪いをかけたいから、呪文作るためにそれに必要なことを調べたくてね!!」

 

「・・・、兄弟は、ホグワーツ史上で最も偉大な魔女になれるぜ」

 

「えっ!?突然のベタ褒め!!嬉しいけど、すごく照れる!!」

 

「ほれほれ、寂しがり屋さんな兄弟の為に、今日はそれが終わるまで傍で見ててやるからよ、頑張ってやっちまえよな」

 

「えっ!?兄弟の突然のデレ!?ヤバくないですか!?神か!!待って!録音機材がないよ!?」

 

「いや、アホウか」

 

 

クリスマス休暇出だしから最高過ぎる!!

びば!ホグワーツ!!

 





「みなさま、ごきげんよう。
(はぁ〜、パーティーってぇ、どうして、こんなにも面倒なものなのかしらぁ。・・・・早く、クリアちゃんやみんなと一緒に、ホグワーツで過ごしたい。)・・・はぁ、会いたいわぁ」



「こぉら!!あんた達!ちゃんと椅子に座ってご飯食べなさいよ!!・・・あ!!こらそこ!他の子の物取っちゃ駄目じゃない!!!(あああ~もう!寮の子達のがまだマシだわ!・・・クリアは、ね。何するかホントにわかんないから除外するけど。)あ!そこぉ!!あーー!!もう!!早くホグワーツに戻りた〜〜い!!」



「今年の新入生??あぁ!うちの寮らしく、いい子ばっかりだった・・・ぜ?たぶん?・・・いや、変なのが一人居てな。ありゃ、在学中にナニカをやらかすんじゃねぇかなってな。もちろん、監督生として、きっちり面倒見てやるけどな!!」



「「「「あのね、ホグワーツってね!!楽しいんだよ!!」」」」









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39

初めてのイタズラ


 

しんしん、しんしんと、空から際限無く降り続ける雪は今日も歴史あるボグワーツのお城に降り積もっていく。

そんな、壮大で雄大な景色が広がっているのだけども。

 

 

「さっっっっむ!!!!」

 

え???ありえないぐらい寒いんだけど!?!?!?

 

「いや、だったら戻れよ」

 

「お前!風邪引くですよ!!何してるです!?」

 

 

厚手の服に毛糸の帽子、マフラー、手袋、おまけの靴下にその上からすっぽりとローブを羽織って、城門前でガッタガタと震えているのは、そう、クリアです。

 

 

「なぁ〜、兄弟???生者にはこの寒さは堪えるんだろ?

すっげぇガタガタしてるじゃねぇか」

 

「そそ、そうです!!風邪引くですよ!こんな寒いとこでなにしてるですか!?お前!!」

 

「うゔぅー、ざむい。一応、全力で温かい格好してるはずなのに寒すぎる」

 

 

ガタガタする私のそばにはいつも通りに魂の兄弟たるピーブズと、今日も今日とて社畜全開でボロ布だけをまとった姿で城門前の雪かきをしていたしもべ妖精さんが。

・・・あの、このくそ寒いのにボロ布だけ纏って雪かきさせるとかイジメ?イジメなの???ダンブルドア、ちょっと私と屋敷しもべ妖精さんたちの労働環境について語り合わないといけないのでは???彼らの生態的に仕方ないにしろ、布を厚手にするとかないのか。

 

決闘するなら、魔法だとボロ負けするから拳で語ろう。

幼女の本気を見せてくれよう。

 

なんて、思いつつ、差し出したマフラーは凄い勢いで拒否されたんだが・・・。

貸すだけならいいんじゃね?ねぇ?・・・駄目?解せぬ。

 

 

「風邪引いちゃうのはそっちもじゃんかー。なんで駄目なのさ?」

 

「おおお、お前!!屋敷しもべ妖精に衣類をあげる意味わかってないんです!?」

 

 

真の社畜種族には借りることすら不名誉なのか。

この寒さでボロ布一枚は死に直結しかねないんじゃないかと思うのですが。

 

 

「いや、なんとなく、知ってるけどもさぁ、貸すだけならいいんじゃないかなぁって。こんなさむいのに、そんな布切れ一枚って。

キミ、骨と皮ばっかりでお肉全然ついてないじゃん。凍死しちゃうよ、いや、割と真面目に」

 

「だだだ、大丈夫、です!!こんなの、なんでもないですから!お、お前こそ、こんなところで何してるですか!?

いい加減、どっか行くです!!」

 

「え、行かないけどっふぇっくしゅん!!」

 

 

うう、さむ。二人からの優しい心配で心が温かいのに、物理的に寒い。

 

 

「おいおいおいおい、兄弟、大丈夫か??ほら、早く戻ろうぜぇ?」

 

「バカ!馬鹿です!風邪引きたいんですか!?

いつもみたいに暖炉の前でゴロゴロしてろです!!」

 

「いや、でも」

 

「でも?なんだってんだ、兄弟」

 

 

ぐいくいと裾を引っ張って私を城へと戻そうとする屋敷しもべ妖精さんと普段から愛嬌たっぷりな顔をしかめっ面にしてこっちに詰め寄る兄弟。

可愛過ぎないか??あっ、兄弟、あんまり身体寄せられると、あの、少しヒンヤリが増すんですが!?

しかし、クリアさんには大切は目的がある!兄弟たちの圧力に屈服するわけにいかないのだよ!!

 

 

「・・・今日、ホリデーシーズン最終日だから、みんな帰ってくる、じゃん。

お迎えしたいなぁって・・・。」

 

 

両手をもじもじさせて、チラリチラリと上下に視線を移動させる。さて、これで流されてくれまいか?

 

 

「「・・・・・」」

 

「うぅ、だって!兄弟居てくれたからそこまで寂しくはなかったけど、けどもさ!!

おかえりなさいって、一番に言うのはホグワーツの家族である私の務めであるという、ね???」

 

「・・・本心は?」

 

「え??やだなぁ!兄弟?これが本心デスガ?」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・兄弟よぉ。俺様が居ない間に、なにした??」

 

 

厳しい顔で腕を組んで近付いてくる兄弟。

待って、兄弟待って!!重なってきた部分から冷えがヤバい!タダでさえ寒いのに兄弟ボディで余計に冷えるから!!

 

 

「言う!!言うから!!!

・・・・・・・その、さっき、呪文で遊んでたら、その、管理人の、ヅラを、飛ばしちゃって。

でっ、でも!!

ルーモスで目潰ししてから逃げたから、私とはバレてないはずなの!

1年生は呪文の使用の為の授業ってまだやってないし!

でも、まだみんな帰ってきてないから校内に生徒少ないじゃん?

バレるのは時間の問題・・・。

だから!!いっそのこと、イタズラしそう、かつ!!呪文使える奴等が帰って来たらそいつ等に目がいくだろうから、有耶無耶にならないかなって、思った!!!」

 

「その間校舎の外に潜伏するつもりだった、と」

 

「うん!!!まさかピカピカ1年生の純真純朴なハッフルパフがヅラを吹き飛ばした挙げ句に目潰しして逃走したなんてこと、誰も思わないよ!!」

 

「それって、どうなん、です」

 

「で、でも!わざとじゃないし??」

 

「ローブの色でバレそう、です」

 

「あのときはローブ着てないし、念の為、赤いリボンつけてた」

 

「特定の寮になすりつける気しかないですよ!?こいつ!!」

 

「・・・・はぁ〜」

 

「ほらみろです!!流石のこのピーブズだってあきれ「兄弟!!俺様は嬉しいぜぇっっっ!!!」・・・へ???」

 

「あ・・・、うん、・・・うん???」

 

「俺様ぁ、てっっきり兄弟はイタズラには一切の興味がないもんだと、むしろ、あいつらへの態度から嫌ってんだとばかり思ってたってのに!!

この偉大なホグワーツの最高な管理人、あのエドモンドをヅラだと見抜いた上で『それ』を吹き飛ばした!

しかもだ!!バレないように周到過ぎる程の用意までつけてだ!!これが嬉しくなくて、何が嬉しいってんだ!!

なぁ!!兄弟!!!」

 

「えぇ〜〜。そっち〜?」

 

「・・・そういえば、ピーブズってこんな奴だった、です。

数ヶ月しか経ってないっていうのに、なんだか、遠い昔のことみたい、です」

 

「なぁなぁ!兄弟よぉ!!一体いつ偉大なるエドモンドがヅラだって気付いたんだぁ???

前に俺様が奴にヅラだと指摘したときはよぉ?もっと酷い出来だった!!だが!今のはかなり自然に見せかけてると思ってたんだがなぁ」

 

「え、いや、あんなのあからさまにヅラすぎるよ。魔法界の最先端ファッションかもはや魔法界流のギャグなのかと」

 

「ええー?そうかぁ?

前のやつなんかよりはかなりいいんだぜ??

俺様は、あれを見たときにエドモンドは本気なんだな・・・って、思っちまったってのに」

 

 

兄弟に感心されるのは鼻が高くなるけども、改めてエドモンド管理人の頭部を思い出しても、違和感しか感じないんだよなぁ。

 

 

「材質が明らかに人間の髪らしくないし、既製品だから髪の色が不自然過ぎるよ。土台も硬いのか本人の頭の形とあんまり合ってないから微妙に浮かんでるような違和感もあるし」

 

「へぇ!!そんなんわかるのかよ!?やっぱりすげぇなぁ!兄弟はよぉ!!」

 

「・・・・褒められ、てるんだよね?・・・うん」

 

 

現代の最新のヅラやウィッグなんかを見てると技術力の進化をしみじみと実感するんだよなぁ。なんか、似てる様な生き物の毛なんだろうけど質感とか艶とか、なぁ〜んか違和感だらけで。

 

 

「と、まぁ、そんな訳でさ、バレるとマズイんだよね。

エドモンド管理人、1年四人組+αのせいで随分お疲れ気味みたいでさ。安息期間だと思ってたホリデーシーズンにまさかのヅラ飛ばしされるって、こう、ね?」

 

「悪魔のような所業、です」

 

「いやっっっ!!わざとじゃなくてね??悪戯な風さんがね??

 

「みなまで言うんじゃねぇよ、兄弟!!イタズラってのはよぉ、理屈じゃねぇんだよなあ!!」

 

「兄弟???違うからね?わざとじゃないんだよ??聞いてる?・・・ねぇ?ねぇってば!?!?」

 

 

そんなこんなで、ゴキゲンにふよふよと飛び回るビーブスを追いかけ回してる間に帰ってきた生徒達のおかげで、管理人のヅラの話は有耶無耶になったかと思われた、のだけど。

 

何故か、その後の噂によると、『ホリデーシーズン前に設置した、悪戯仕掛け人の時間式イタズラトラップがエドモンド管理人のヅラを吹き飛ばした』という話に取って代わってしまって、エドモンド管理人の胃痛が更に増した結果となってしまったらしい。

結局、新入生にもヅラだと大大的にバレてしまう結果に。

流石に申し訳なさすぎて、管理人室にストレス軽減に効くという薬草茶をスプラウト先生に譲って貰って差し入れしたら、涙目になりながら感謝されてしまった。

罪悪感に心がズキズキするんじゃあ。

 

 

 





「兄弟、これで悪戯の魅力に気付いてくれれば、一緒に出来ていいんだがなぁ〜。
しっかし、あの凹み様を見るに、兄弟がイタズラをやっちまっても構わないってぇ思える奴等でもいねぇと、そんなのは夢の又夢って、やつ、か。そんなとこも兄弟のいいとこではあるんだがなぁ。難しいぜぇぇ!!
・・・・・こんなことで悩む日が来るなんて、な」


「クリアはもう!!あたし達が居ない間になにやってんだか。」
「ふふふ〜、エドモンド管理人さん。カツラだったのねぇ。
全然気付かなかったわぁ。でもぉ、クリアちゃんが目立っちゃうのは、困るのよねぇ」
「・・・何、考えてるわけ?」
「ふふふふ〜?」
「まぁ、いいわ。シャーリーがやることでクリアの不利になるなんてことはないでしょうしね」
「そぉねぇ。
すこぉし、噂を流すだけよぉ?みんなが楽しめそうな、噂を、ね?」
「・・・噂、ねぇ?」
「大丈夫よぉ。誰かを傷付ける様な噂にはならないわぁ。エドモンド管理人さんのカツラはどうしようもないけれど、誰がやったかなんてみんな知らないんだから。面白いと思える噂を信じるものよぉ」
「う~~ん!シャーリーが味方で良かったわ」
「ふふ、エヴァちゃんだって、クリアちゃんの味方でしょう?」
「あんた程熱心なシンパじゃないわよ」
「・・・救われたの。だから、クリアちゃんにだけは、誠実で絶対の味方で居たいの。例え、どんなことがあっても。」
「・・・そ。いいんじゃない?無理しない範囲なら、止めはしないわよ」
「ふふ、ありがとう、エヴァちゃん」



「すっげええええ!ジェームズ!!お前いつの間にあんなすげぇイタズラ準備してたんだよ!?」
「う、んん??」
「俺にも一枚かましてくれればよかったのによぉ。こんなイタズラやるなんて、流石ジェームズだせ!!」
「ま、まあね?」
「やっぱり、ジェームズくんは凄いなぁ。僕、管理人がカツラだったなんて、わからなかったよ!」
「だろうとも!」
「(ホリデーシーズン前に準備する時間なんてどこにもなかったと思うんだけど・・・)す、凄いね。ジェームズ」
「はははっ!まぁ!当然のことかなぁ!」


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