ユウキの勇者 (にゃはっふー)
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プロローグ・始まり、変わった世界

人は勢いで書き、それがよくできていると投稿したい生き物。そう思う今日この頃です。

ゼルダの伝説クロスオーバー、ソードアート・オンライン原作編。

オレンジにならない程度に厄災していると信じ、投稿。よろしくお願いします。


 ある日のこと、大学に向かう途中で事故に遭い死んだ。

 

 だが神様から不手際と言われ、特別に創作物の世界に似た場所に転生されてくれるらしい。

 

 その転生先は『ソードアート・オンライン』。始まりは仮想世界で、ゲームへと完全フルダイブするゲームが発売されたが、その製作者が異世界を夢想し、ついにこの世界を創り出した男。

 

 確か自身の夢想のために、この世界をある種の現実にしたいがために、プレイヤー一万人を閉じ込めたところから、物語は始まる。

 

 俺はこの物語を知っていて、ある場所で挫折した。

 

 それは好きになったキャラクターが死んだからだ。そのために読まなくなったが、このゲームはクリアからその後の事件まで知っている。

 

 ただガンゲーのところは飛んでいる、実はアニメから入り、そのアニメもガンゲー編、名前すら出てこないところで忘れてしまっているのだ。

 

 それには理由があるが、まずは話を戻そう。

 

 俺は特典三つを『デスゲーム被害者を減らす』と、その好きなキャラ『ユウキの病気の完治』に、そして『とある勇者の力を習得する』だ。

 

 一つ目は完全では無いが、自殺者や外部からの介入で死ぬ。と言うことは起きないらしい。

 

 二つ目は彼女たちは病気にはかかる、入院はするが特効薬が見つかる。これって彼女の仲間たちも助かる?と聞くと、頷かれた。嬉しい誤算だ。

 

 だが三つ目は、俺の人格をぶち壊すには十分なことだった。

 

 俺は勇者がした偉業全て、体験させられる。

 

 ボス戦、ダンジョン攻略、それまでの経緯。

 

 崖から落ちれば死ぬほど痛い思いをし、リスタート。

 

 マグマに焼かれ、数多の死を体験した。勇者はギリギリで体験しなかった、それらを。

 

 俺は、体験した………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 デスゲームが始まる頃には、転生のこともあり、あまり人と会話することもせず、またそんなことをしている暇があるのなら、少しでも体力作りと、夢の世界の勘を身体に染みこませることしか考えなかった。

 

 デスゲームは起きるか分からないが、起きることを前提に物事を進める。

 

 両親は良い方で、俺が無口で不愛想でも愛してはくれている。正直彼らのことを考えると、ソードアート・オンラインをやるのは忍びない。

 

 だが、デスゲームはなにも、自殺や外部が無理矢理ナーヴギアを取ろうとしたからだけではないからだ。

 

 彼らの死を回避するには、仮想世界に行く必要はある。

 

 俺の選択肢は一つであり、特訓の所為で忘れる記憶はノートに書き、ログイン前に破棄。

 

 これでゲームを始める準備は済んだ。

 

 だがこの早い段階で記録したのも、虫食いが酷い。

 

 記憶と照らし合わせて、最初のボス攻略、ギルド《月夜の黒猫団》壊滅。

 

 ダメだ、この二点以外の記憶も記録もあやふや過ぎる。

 

 そもそも階層や日付まで覚えているほど気にかけていないアニメからの人間だ。後はキャラクターの顔くらいか。

 

 攻略に役立つ情報もゼロ、まあいい。

 

(一つだけ、よかったと思うことはある)

 

 それは小さい頃に、ユウキたちがかかる病気の特効薬発見され、治療方法が見つかったと言うニュース。

 

 だがそれも完全ではないが、これで怖い病気から、長期スパンにより治る病気へと世間一般常識に変わる。

 

 治る可能性があれば、ユウキたちは助かるはずだ。

 

 そう、この早い時間に発見されたんだ。姉、母は助かる、そう信じるしかできない。

 

 俺はそう思いながら首を振る。

 

 そろそろ現実世界からしばらく別れることになるな。

 

 二年半か、そう思いながら鏡を見る。

 

 金色の髪、ハーフの顔、まるで彼だ。

 

 16歳、終わる頃は18か。

 

 アバターネームは決まりだな。

 

「リンクスタート」

 

 そして俺は『リンク』として、仮想世界へと降り立つ。

 

 まずは見回り、そして時間が来たら備えるだけでいい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 まず原作通りと言うべきか、GМ『茅場晶彦』の宣言に阿鼻叫喚が広がる。

 

 混乱する広間から出て、情報整理。

 

 まずは予想通り、外からの電源遮断で人は死んでいない。

 

 後は後でいい、ともかく次の、先ほどまでいた町まで移動する。

 

 その後はその後で考えよう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 12月3日、ボス攻略。

 

 俺は会議にも出ず、それまで武器の確保を目睫にしていた。

 

 片手剣《アニール・ブレード》を強化八回成功させた物から、数回の物、ともかく数を揃える。

 

 いまの見た目は《ハイリアのフード》に似た物など、被っていた。

 

 ボス部屋の前、ここまで来たが俺は有名人にもなる気も面倒を背負う気も無い。

 

 だけど死ぬと分かっている者を無視はできない。例え無駄だと分かり切っていたとはいえ、このデスゲームの可能性を知っていて何もしなかった自分の、言い訳だ。

 

 気配を殺し、全員の視界から、エネミーからも隠れながら入り、そして、

 

(ここか)

 

 ディアベルがラストアタックに選択を誤った瞬間、エネミーが武器変更する瞬間だ。

 

 タルワールから刀に変えられていたボスのパターン。攻撃し、ピンチになった彼らを見た。

 

 

 

 

 

 そこにボスへと突き刺さる無数の刀剣。

 

 

 

 

 

 なんてことは無い、俺がいらない武器を投擲の応用でぶっ刺した。

 

 それにキリトが続く瞬間を見た瞬間、俺はその場から立ち去る。

 

 もう名前は思い出せないがいちゃもんを付けるプレイヤーがいた。それに関わるより、いまのだけでここでの仕事は終えた。

 

 俺はすぐに立ち去り、後は主人公にでも任せるだけだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それからというもの、目的はレベル上げ並び素材集めを基本に、この仮想世界で活動する。

 

 基本とするのは片手剣と盾の装備だが、

 

「矢があるのか」

 

 NPCの店に弓矢が置かれていて、その説明欄を見る。

 

 どうやら過去の大戦、何かしらの設定であまり真っ直ぐ飛ばないと、どうも飛距離が決められているらしい。これなら槍の方がいいだろうが購入。

 

 この世界でまず最初の『フロアボス攻略時犠牲者』は0にした。ってかしてもらった。

 

 あれからしばらくして情報を集める中、キリトは不名誉なことは起きたのか知らないが、ベータテスターだのと言う噂が流れ、ソロで活動しているらしい情報。

 

 そこまでは変えられなかったらしい。だがそこまで俺が関わる気は無い。

 

 俺はそんなこんなで槍、刀、弓矢、投擲武器を用意する方向でプレイしてた。

 

 まず暇があれば、適当な鉄を叩き、鉄槌スキル上げや、小石を投げ投擲スキルを上げる。

 

 木材加工スキルでブーメランができた。持ったまま斬り続ければ、鉄槌、短剣スキルを上げた。

 

 微々たるものだがやらないよりマシだ。

 

 いまは拓けた階層で、片手剣を軸にレベリング。

 

 だが俺は神なんてものを信じる意味を見失う事件が起きる。

 

 それはレベリングをしていると、戦闘音が聞こえ、俺はすぐにそちらの様子を確認しに出向く。

 

(HPゲージの差があるな、助け――)

 

 その時俺の思考が一瞬止まる。

 

 俺の目の前に、

 

「くっ」

 

ユウキ(・・・)っ!?)

 

 あの《絶剣》ユウキが追い詰められていた。

 

 数は結構いたらしい形跡がある中、大型に追い詰められているとすぐに頭を切り替える。

 

 すぐに投擲、投剣スキル《シングルシュート》で短剣など、投げる物を投げる。

 

 ともかく危険なエネミーのHPゲージを減らし、隙を作った。

 

「えっ」

 

「いまだっ」

 

「あっ、でえぇやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ユウキの片手剣が大型を消し、すぐにその場に座り込む。

 

「あ、ありがとうございますっ。おかげで助かりました」

 

 そう微笑むユウキの笑顔が、俺には絶望でしか無かった。

 

 なぜこの子がこの剣の世界にいる。

 

 その思考に落ちる前に、俺は切り替え続けた。

 

「回復アイテムは」

 

「ごめんなさい、もう尽きてて……。いまの戦闘で全部使いました」

 

 見た目12か13、レーティングギリギリの年齢の少女。

 

 ばつが悪そうな顔をしていて、俺はアイテムストレージからポーションを取り出す。

 

「使え」

 

「け、けど」

 

「死んでほしくない」

 

「………はい」

 

 アイテムを受け取り、それでHPゲージが回復したのを確認して、ともかく町の方を見る。

 

「えっと、ボクは『ユウキ』っ、あなたは」

 

「………リンク」

 

「リンク、リンクだね。あの、アイテムありがとう」

 

「別にいい、だが一人で無理はするな」

 

「………ごめんなさい」

 

 そう言い、彼女も町に出向く為、俺たちは町へと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町に戻ると、彼女とすぐに分かれよう。いまも気を付けていないと、気が狂いそうだ。

 

「それじゃ」

 

「あっ、はい、あり」

 

「ユウキっ!」

 

 その時、本当に、俺は気が狂いそうになった。

 

「『ミファー』姉ちゃんっ」

 

「よかった、ユウキがいましたよ」

 

 そこから俺の気が壊れないか、一周回って冷静になった。

 

 赤い髪、綺麗な赤色の女性、そして後ろから黒人の女性。

 

 弓矢使いの男と、巨大な斧の使い手の大男。

 

 そして、金色の髪、彼女がそこにいた。

 

「リンクに助けられて、ごめんなさい、一人でフィールドに出て………」

 

「心配させないでください。えっと、ユウキが迷惑をかけたようですね。あの」

 

「………リンクだ」

 

「リンクさん、私は『ゼルダ』です。お礼がしたいので、少し時間良いですか?」

 

 そう丁寧に話しかけられたが、首を振り、すぐにその場から去る。

 

 後ろからあっと言う声が聞こえたが、俺は急いでその場から去った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 気が狂いそうなほど頭の中がグルグルする。

 

 なぜユウキがこの世界にいて、彼女たちがここにいるんだ。

 

 ユウキはロングだが少し短く、他は少しALO衣装に近いだけ。違っていて欲しかった。

 

 建物の影に隠れながら、座り込み静かに考える。

 

 俺と言う異物の所為で、彼女たちに似た人間が生まれ、この世界でなにをしている?

 

 話題になっていない、この世界だけで話題になっていることは。

 

(……………低年齢プレイヤーを保護している、ギルド)

 

 そう言えばそんなギルドがすでにできていて、アイテム製作や武器の強化を受け持つと言うことをしている話を聞く。

 

 これか、この役割か?

 

 彼らがここにいるのは、俺が自殺者を止めると言う願い故になのか?

 

「ははっ………ははっ………ハハハハハハハハハハハハ―――」

 

 限界が来た、もう笑うしかない。

 

 俺が望んだのは彼女が平和にVRの世界で生きること。

 

 断じて死に怯え、PKを恐れ、こんな世界に滞在させることではないッ。

 

「………この世に神はいねえ………」

 

 ひとしきり笑い終え、まだ気が狂いそうになるが、歯を食いしばり、すぐに行動する。

 

 もう考える暇は無い、事前準備は終わっているのだから。

 

 やるべきことができた、彼女たちギルドの動きの把握に、キリトたちの動き。

 

 最初のボス攻略は犠牲者はいない。なら次はギルド《月夜の黒猫団》壊滅回避。

 

 それ以外に考える必要は無い。

 

「もうどーとでもなれ………」

 

 そう俺は呟き、暗闇の中に溶け込んだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

「ユウキ」

 

「あっ、はいっ、ごめんなさいっ」

 

「はあ、心ここにあらずですね。わたしもそうですが、あの人ですね」

 

「気にすることないじゃない? 放っておきなよ二人とも」

 

 ゼルダとユウキが考え込む中、弓矢の男『リーバル』はそう言う。

 

「しっかし、かなり死に急いでるって顔だな」

 

「まあね、お嬢様やユウキだけが気にかけてるわけじゃないさね」

 

 大男『ダルケル』と女性、短剣と盾使いの『ウルボザ』はお互い、先のプレイヤーを心配する。

 

「そうですね……彼、リンクさんは大丈夫でしょうか」

 

 槍使いである『ミファー』もまた、そう考え込み、リーバルはため息をつく。

 

「ともかく僕らはいま、ギルドの運営第一だろ? ユウキも勝手に動かないでほしいよ」

 

「ごめんなさい………」

 

「ええそれじゃ、ギルド《トライフォース》。頑張りましょう」

 

 それに全員が意気込む中、ユウキは彼が去った方角を見る。

 

「また会えるといいな………」

 

 そう呟き、彼と、彼女たちの剣の世界が動き出す………




はい、いかがでしょうか。大きく変わる物語、そして彼はこの事態にキリト以上に追い詰められてます。

多くの変化、これから先どうなるか、お楽しみに。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第1章・彼の周り

最初くらいは早めに投稿。


 彼は困惑していた。

 

 彼のアバターネームは『キリト』。とある情報の食い違いから来る差別意識を抑え込むため、ベータと言う差別を自ら背負い、仲間を作らずソロだった。

 

 だったのは、彼は偶然ギルド《月夜の黒猫団》と組むようになってからだ。

 

 彼らには本当の経歴を隠してはいる。それだけベータと言う差別はいまだ酷いと言うこと。

 

 それでも彼は疲れた。ベータであること、一人でいることに。

 

 そんなある日、別のベータテスターと言うプレイヤーを見つけた。

 

「おいあれ」

 

「彼奴………《亡霊》か」

 

 彼に付けられた通り名は《亡霊》と言うもの。

 

 槍、刀、大剣、片手剣二つ、投擲用武器多数に盾。

 

 なぜか彼は多くの武器を取り出した状態で携帯し、亡霊のようにフィールドで出会う。

 

 彼がベータテスターと言われるのは、

 

「おいあれ」

 

「アラームトラップ? だけど」

 

 遠くからかぎ爪付きロープで宝箱を開き、彼はアラームトラップをわざと起動させる。

 

 彼は罠により、フロアに閉じ込められた。

 

 だが彼は気にせず、武器を構え、フロアを埋め尽くすエネミー相手に戦い始める。

 

 それを鉄格子によって塞がれた入口の隙間から見ていた。

 

「彼奴、俺たちから奪ったリソースで、あんな真似して………」

 

 誰かが言った言葉は、それがベータテスターとして狩り場をすでに把握し、一般プレイヤーからリソースを奪った意味を持つ。

 

 それは俺、ベータテスターである俺がしていたことだ。

 

 だが、だからこそ言える。

 

 彼は何者だ?

 

 彼のようなプレイヤーは、ベータテスト期間聞いたことも何も無い。

 

 彼はベータテスターではないのだから、なぜあんな動きができる、なぜあんなにレベルが高い?

 

 ただ一つ言えるのは、俺はこれ以上、彼らと行動できるほど、心は強くなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 2023年、8月頃。

 

 コーン、コーンと小石を《シングルシュート》を木にぶつけて、少しでも上げていた。

 

 上がるまで100回くらいしないとさすがに上がらない気がするがし続ける。

 

 フードから覗く金色と共に青い瞳が狂気に似た光を宿す。

 

 不意に、彼は小石を投げるのをやめた。

 

「時間だ」

 

 まるで示し合わせたように小石のストックが消え、彼は町へと向かう。

 

 今日は人と会う約束をしているからだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 とある層の一角、言われた時間帯に鍛冶屋へと来る。

 

「頼んでいた物はできてるか」

 

「リンク~? できてるよ」

 

 紅色の髪、だが彼女曰く銀色の髪、ハーフとのことだ。赤い服装の女性が出て、一通りの武器を出す。

 

 カウンターに並べられる数々の武器には、独自に用意してもらった物もある。

 

 ブーメランは《投擲武器作成》で作られた金属製が数点。

 

 それらオーダーメイド他、短剣は投擲用に何本もホルダーにしまう。

 

 俺はいまでは《加工スキル》で作った、特殊なホルダーを着込んでいる。全ての武器を身体上に装備するため。

 

 それに蒼いコートを羽織って、それにあのフードのようなものを付けている。

 

 とはいえ町中では、武器や特殊加工したホルダーなどアイテムストレージに仕舞って、外では目立ち、町では逆に印象を消す。普段の格好は目立ちすぎる故に。

 

 普段は左腰に刀、金属製ブーメランを二本下げて、背中には細長い両刃大剣、三叉槍を背負っている。

 

 右腰には片手剣とブーメラン二本と矢のホルダー。後ろ腰に弓とブーメラン二本。

 

 斜めに背にメイン片手剣、左腕に固定された盾が籠手として存在する。

 

 後はメイスか。我ながら実用性のみ追求したが、おかしなくらいにおかしいことになった。

 

 それらの装備を時折ここ、鍛冶師『レイン』に頼み、調整してもらっている。

 

「悪いな、いつも妙な注文して」

 

「ほんと、けどまあ嫌じゃないけどね」

 

 俺の武器はほとんどオーダーメイドなのは、カテゴリーがギリギリのラインを狙ってのこと。

 

 システムの誤認なのか、ブーメランは持ったまま斬り込めば片手剣か短剣、鉄槌などの打撃武器扱いになる。

 

 そう言う微妙なラインの武器を、彼女に頼んで調整してもらう。

 

「これで足りるか」

 

「足りすぎ、まあいつもの迷惑料でもらうわね」

 

 そんなこと言うが、相場より高めなのだが………

 

 武器を手に取ると、やはりここがゲームの世界なのがよくわかる。

 

 軽く振るが、実際の武器と所々違う。

 

 この世界はありていで言えば、プレイヤーに求められる筋力で持てる範囲の重さなどしかない。

 

 例えで言えば筋力10で装備できる武器防具の重さが、ほぼ同じなのだ。

 

 鍛えられた肉体と技をゲームに合わせるのに時間がかかったが、早めに終わった。

 

 元々途中からあの剣以外だって使う場所がある。そのおかげで違くても慣れると言う作業は早く済んだ。

 

 そしてすぐにアイテムを仕舞い、すぐに出ようとすると、

 

「ねえ、リンク」

 

「? どうした」

 

「いやね、あなた、パーティー組む気ない?」

 

 それに首を振る。

 

 レインは少しばかり心配した顔で、

 

「あんたが無理してるのは、少し分かるんだよね。あんた、周りからなんて言われてるか知ってる?」

 

「ベータだろうがなんだろうが興味ない」

 

「………それでも、このままソロじゃ、いつか死んじゃうよ」

 

 そう言われながら、だが、

 

「問題ない、死ぬ気は無い」

 

 死はもう遭い過ぎたくらいだ。

 

 そしてまたここから出ていく。

 

 三つの黄金の三角形のマークのギルドから………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 わたしはこの店から出る彼と知り合ったのは、あの日。

 

 それはいつものように店を運営していた時だった。

 

「いらっしゃいませ~♪」

 

 正直女の子がしている店に来るのは、性能目的じゃなく女の子目的だったりが多い。

 

 わたしは銀色の髪を赤く染めて、わざとオシャレしてる鍛冶師のふりをする。

 

 真面目な仕事を求めているのなら、わたしを見ず、わたしの武器を見てほしかった。

 

 そして彼は武器しか見なかった。だけど、

 

「………すまない、片手剣でもう少し刃と柄が長いのは無いか」

 

 彼がいま持つのは、片手剣で一番良い物なのだが、お気に召さなかったらしい。

 

「それが一番ですよ。それにそれ以上長くしたら片手剣から両手剣に成りますね」

 

「ならいいか……、邪魔した」

 

 そう言って出ようとしたとき、

 

「レイン、いまい………」

 

 そうして入ってきたのは『ルクス』。

 

 彼女は顔を赤くして、動揺している。彼女はわたしが所属するギルドメンバーの知り合いだ。

 

 普段はもう一人、まあ素直じゃないツーサイドアップの子といまは組んでいる。

 

「あああ。あなあな、あなたはっ」

 

「?」

 

「ああーーーー、リンクだっ♪♪」

 

 ユウキが嬉しそうにその腕に張り付くが、わたしはその言葉に驚く。

 

 リンク、彼は《亡霊》と呼ばれている、フィールドを彷徨うプレイヤーだ。

 

 そして、

 

「あの今日はお日柄もよくご存じですかあたしはその」

 

「ほらほら落ち着いてルクス」

 

 ルクスは良く上がる方だが、今回は酷い。そう苦笑するのは、シーフ系にスキルを伸ばす『フィリア』。

 

 深呼吸をして、しばらくして彼女は意を決して彼を見て、

 

「あ………」

 

 ボンっと言う音と共に真っ赤になる。

 

「………俺になにかようか」

 

 さすがに彼も困惑しながら、そう呟く。

 

 まあ、よく見れば彼もハーフか純粋かは知らないが、綺麗な金髪と碧眼。かっこいい男子なのは確かだ。

 

 真っ赤のままじゃ、あの子との会話が続かないな。

 

「貴方、前に誰かを助けたことない? 30層付近」

 

「………ああ、一人でいて転移罠で焦っていた」

 

 それに何度も頷くルクス。

 

 彼女はそれ以来、まあ彼のことが気になって仕方ないのだ。

 

「ああああの時は、ありがとうございますっ」

 

「気にするな、死んでほしくないし、死にたくないだけだった」

 

 そう言う彼に、倒れかけるルクスに笑顔のユウキ。ユウキも彼に助けられて、こうして会話することがしばしばある。

 

 ふむ………

 

「少しチャレンジしてみようかな?」

 

 そう思い、彼に、

 

「ねえ、あなた、材料調達に付き合ってくれたら、少しチャレンジするわよ」

 

「?」

 

 こうして彼との長い付き合いが始まるとは、考えもしなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 35層、猿人型モンスター《ドランクエイプ》を倒しながら、わたしたちはとある場所を目指すが………

 

「あなた、その装備はどうなの?」

 

 正直良い物とは言えない金属のブーメラン、刀に槍、両手剣と片手剣とか色々装備していた。

 

 噂通りおかしな組み合わせであり、だがレベルは高い。

 

 それ用にスキルを伸ばしているフィリアよりも早く相手に気づいたりと、不思議なところがあるが、強い。

 

 まずエネミーが出て来る。

 

 即座に懐に鉄槌武器を投擲し、硬い敵だからか、鉄槌武器を取り出し叩く。

 

 こんなことを一連の流れで行い、戦闘を終わらす。

 

(まあ)

 

「やぁぁぁぁっ」

 

 それはユウキも同じであり、彼と同格の動きをする。

 

 この子も、プレイヤーでもデュエルや圏内戦闘では誰にも負けていない。きっとこんなことにならなきゃ、トッププレイヤーだろう。

 

「………」

 

 彼は何度も剣を持つ手を回しながら、感触がいまいちなのか、難しい顔をしていた。

 

「ブーメランとか弓矢はどこで仕入れてるの?」

 

「ブーメランは自分だが、鍛治スキルは低い。ほぼ弓矢もだ、この世界は弓矢なんて、槍より少し遠い場所からだからダメージは見込めない」

 

「あなたは」

 

「俺は………」

 

 その時、木になる実を見つけた。

 

 彼は速射をすると、おかしな動きをして、実を落とす。

 

「そう言えば、この世界って、矢がちゃんと飛ばないから、そばじゃないとダメなんだよね」

 

「だから剣とか槍の方がいいな、食うか」

 

「うんっ♪」

 

 ユウキに果物を渡しながら、全員分落とした。

 

 せっかくだから食べるが、

 

「貴方はどうしてそう」

 

「たくさん撃って、矢が曲がる法則を把握した」

 

「へえ………」

 

 フィリアが感心するが、さすがと言うか、それなら彼が言った通り槍とかにした方が早いのではないか?

 

 そう思いながら、目的の場所に来る。

 

「ここは、ゴーレムか」

 

「あ、知ってるのね。ここに来るとイベントが発生して、巨大な岩モンスターが出るから、それを倒す」

 

「確かそのモンスターが鉱石落とすんだよね」

 

「うん、最近ここのモンスターの材料がよく流れるんだけど、結構いいんだよね~」

 

 辺りを確認する。よく流れると言うことは、ここを狩り場にしているプレイヤーかギルドがあると言うこと。

 

 それとかち合うのは少々まずい、あるギルドは狩り場を独占したりして色々問題視されていたりと、そう言うところは難しいが、

 

「ここのモンスターは固く、武器の耐久性を著しく削るんだ。狩り場にしたくても、メリットが鉱物くらいだから、場所にするギルドは少ない」

 

「あっ、確かに。そんな話をゼルダさんから聞いたかも」

 

「なら、頑張るしかないねっ♪」

 

 ユウキが燃える中、準備を整える。

 

 気を付ければあたしたちのレベル体なら問題ない。唯一分からないのは彼だが、この道中で見ても彼のレベルは高い方だ。

 

 そう思っていると、

 

「!? 様子がおかしい」

 

「あれ?」

 

 その時は知らなかったが、レアケースで岩では無く、鉱石のみで形成される状態、レアゴーレムとのちに言われることが稀に起きる。

 

 それがいまあたしたちの前で起きて、情報と違うモンスターに一瞬驚いたとき、ユウキに鉱石の拳が、

 

「はやっ」

 

 ユウキがすぐに反応したけど、間に合わないと思った時、彼が間にいた。

 

 ガキンと盾と激突し、甲高い音が鳴り響くと共に、わたしたちはすぐに戦闘態勢に入る。

 

「ご、ごめん」

 

「気にするな。いまはともかく、レアケースだ。レベルも跳ね上がっている」

 

「分かったわ」

 

 そして戦いだす中、彼は凄かった。

 

 ユウキと動きを合わせ、全員の攻撃を一手に引き受けるタンク。

 

 そして、

 

(凄い………)

 

 連続で攻撃を決めて、確実にダメを蓄積させて、人を魅了させる剣の冴え。

 

 決めた。

 

 わたしは彼の剣を打つと。

 

 その時決めた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それ以来、彼の注文を聞くようになり、彼も少しずつエスカレートする。

 

 ブーメランから弓、片手剣と両手剣の間や、もうシステムの誤認レベルで武器の重みまで要求し出す。

 

 わたしも意地になり、ついつい練り込む中、彼が店の一角の隅で待つと共に寝るようになる。

 

 ユウキやルクスも来るようになる。彼が来るからで、フレンド登録を頼み込むが、彼は首を縦に振らない。

 

 そうこうして良い出来の武器ができそうになる。

 

 嬉しくて、最後の調整、つい歌ってしまう。

 

 歌うのが好きで、ある仲間プレイヤーから一緒に歌わないかとも言われてしまう。まあ悪い気はしないかな。

 

「よしっと、そろそろ起きるわね」

 

 そうしていると、少しカウントすると、彼は目を開けて動き出す。

 

 心の中でつい笑いそうになる。彼は体内に時計でもあるのか、指示した時間に起きるのだ。いつものようにやり取りをして、武器を渡した。

 

「それじゃあな」

 

「ええ、また」

 

「ああそうだ」

 

 その時彼は、

 

「いい歌だったよ」

 

 そう言って去る彼に、わたしは、

 

「な、なに言ってるのよバカーーーーーっ」

 

 そう叫び声を上げ、彼は姿を消した。

 

「全くっ、聴いてたなら聴いてたって言えばいいのに………」

 

 そう言いながら、後始末をしていると、ふと、あることを思いだす。

 

「そう言えば、あそこの鉱石ってまだ役に立つから使われてるな」

 

 だけど結局、武器や防具の耐久性は削るし、レアゴーレムがあるから、ケチることができない。

 

 だから難しい場所だが、いまだ品物がプレイヤーの店に流れている。

 

「どこかのギルドが毎日狩ってるかな?」

 

 そう疑問に思う中、彼女は仕事に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは何発も矢を受けて、ゴーレムは崩れる。

 

 大男並みのゴーレムが崩れ、また蘇生待ち。この辺りはこれで生存率を上げさせる。

 

 俺が弓矢を使うのは、装備の整備を長持ちさせるため。ここではかなり役に立つ。

 

 寝る時間も何もかも削れば、レア以外からアイテムを一定量ドロップし続けるだけ。

 

「出て来い………出て来い………」

 

 まだ持っている武器は問題ない。

 

 いまはメイス、やはりこういう武器が長持ちする。

 

「まだだ………まだ、まだだ………」

 

 ここを終わらせたら、次は迷宮区のトラップ潰し。

 

 アラームなのは知ってる。なら全て潰してリソースに替えればいいだけだ。

 

「ははっ、いいな。効率がいいなこれ」

 

 こうして《亡霊》は、フィールドを彷徨い続ける………




キリト、サチに相談される前に別れ、黒猫団は少なくても無茶なレベリングは途中まで。どうなるかは、彼がいるので時間がかかりますが問題無し。

赤い月が来る時間を待つように、トラップ片付けてゴーレム狩り、トラップ復活かプレイヤー活動前に罠を片付けるサークル。

色々彼もこれくらいぶっ壊れていてもおかしくないですね。

武器も多数使い始めたのは、彼が壊れたやり方で少しでもスキルを強化しようとがむしゃらに鍛えています。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第2章・物語の変化

偽物の勇者が活動する中、変わり出す物語をどうぞ。


 いま迷宮区、そこに駆け付けた俺は、手ごろなトラップは無いか歩いている。

 

 ここ最近の稼ぎ方は、罠をわざと作動させて、エネミーを狩ること。

 

 これがいい感じでたくさん出るから助かる。

 

「………? 歌」

 

 そんなことで彷徨っていると、歌が聞こえ出した。

 

 歌はスキルでできた歌と知る。そして情報ではまずい状況ではと思い、速足で駆けだす。

 

 歌のする方、そこには数名のプレイヤーがいる。

 

「頼む、彼奴を………『ユナ』を助けてくれッ」

 

 そう頼み込み、目の前ではヘイト集め、エネミーを引き受ける吟遊詩人がいた。

 

 すぐに意識を替える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ああ、私はここで死んじゃうんだ。

 

 そう思い、薄暗い牢獄のようなダンジョンで、私は思う。

 

 後悔は無い、こうしなければ、もっと多くの人、救出しようとした人たちも死んでしまう。

 

 唯一心残りは、彼と、大きな舞台で歌いたかった。

 

 そう思い、目を閉じた瞬間、

 

「一」

 

 そう静かに呟き、一人のプレイヤーがここに流れ込んできた。

 

「ぇ………」

 

「邪魔だ」

 

 そう言い、私を掴み上げ、彼ら『ノーチラス』たちがいる方へ強引に投げた。

 

 ノーチラスが私を受け止めながら、私は彼を見る。

 

 彼は《亡霊》と罵られるベータテスターと言う噂のプレイヤーで、持っている刀を捨て、ブーメランを投げながら、片手剣を構え、動き出す。

 

「だめ、だ」

 

 めと思ったけど、彼の動きが凄かった。

 

 後ろに目があるように背後の攻撃を避けたり防いだり、ヘイトが彼にスイッチしたようで、全て彼に集中するが、彼は一向に気にも留めず、一人攻撃をけして受けず倒す。

 

 二十体以上いた獄吏型のモンスターは、少しずつ少しずつ、数を減らして………

 

「エンド」

 

 そう言い、盾で弾いて倒れたモンスターに剣を差し込み、全てを終わらした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 片手剣はこの大急ぎでダメになり、ブーメランもダメになった物が出た。

 

 盾も少し不安が残る。今回はイレギュラーがあったとは言え、またすぐに顔を出すのはまずい。狩り場を変えて、槍などで時間を潰そう。

 

 俺は刀を拾い上げ、プレイヤーたちを見る。

 

 嫌悪よりも、驚愕の様子であり、それでも無事ならいいか。

 

「あの、ありがとうございますっ、助けてもらって」

 

 そう言い前に出たのは吟遊詩人のプレイヤーだった。

 

 だが、

 

「なんでヘイトを一手に集めた」

 

「ッ!? それは」

 

 歌スキル、吟唱が正式名称か。

 

 数少ないが、多くの者にバフをかけたり、ヘイトを集めたりする。今回は異常な数のヘイトを集めていたんだろう。

 

「どんな事情があろうと、死ぬことを前提にした行動をした奴から礼なんて聞きたくない」

 

「! 待ってくれ」

 

 一人《血盟騎士団》らしい人物が前に出ようとするが、吟遊詩人が止める。

 

 俺は睨まれながらも気にせず、この場を後にした。

 

 こんなところで止まっている暇は無い。

 

 クリスマス、イベントの為にも、備えなければいけないのだから………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ユナ、どうして」

 

「あの人の言う通りだから………」

 

「いや……」

 

「俺たちもなにもしてない、あんたのことを見捨てようとした。言っても意味が無いのは分かる、すまない」

 

 土下座までしようとする男の人たちと共に、ノーチラスまでもすまなそうな顔をするけど、

 

「ううん、ううん違うよ……。今回、本当にあの人がいたおかげだよ」

 

「だけど彼奴はベータ」

 

「ベータじゃないよきっと」

 

「えっ……」

 

 私は確信を持って言える。

 

 あの人は戦いの最中で、常にこちらを気にかけていた。もう少し立ち振る舞いがあったはずだ。サポート専門である私だから分かった。

 

 何より私を気にかけて、あの場から避難させたのだって、

 

「ベータだろうとなんだろうと、この場にいたプレイヤーはあの人に救われたのは事実だよ」

 

 それにみんな少しずつ納得し出す。

 

 いつか、あの人にちゃんとお礼を言える。そんな日の為にも、いまはここから脱出しないと………

 

 だけどその帰り道、エネミーに一切遭わずに、私たちは無事町へと戻れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クリスマス、俺ことリンクは、あのキリトすらギリギリで倒したと言うイベントボス。『背教者ニコラス』と戦闘する。

 

 俺は雪が降る中、エネミーが出ない限り、ずっと当たりと思われる木の下にいた。

 

 カーン、カーンと鉄をトンカチで叩く。

 

 鍛治スキルはかなり低いが、これだけで少しは上がるのだ。ならやる。

 

 雪が積もり、身体を覆い隠す中、金属音だけが響き続けた。

 

 そして、

 

「………来たか」

 

 俺はこの情報は前世の記憶から持っていた。

 

 場所となるのは、戦闘ができる広いエリアであり、かつ情報が少ない場所と決めて、そして、

 

「イベントのモミの巨樹を全て伐採したかいがあった」

 

 念のため、カーディナル、この世界を管理するプログラムがイベントを発生させる条件を限定させた。

 

 ここのは壊れなかったし、当たりは強いと踏んだ。

 

 ちなみにその際に手に入れた木材はきちんと使う。

 

 イベントボスはソリから飛び降り、片手には斧と血まみれの袋を持つ、サンタのようなもの。

 

 だが関係ない。

 

 こいつは数秒のタイムラグの間に使用すれば蘇生する、蘇生アイテムドロップエネミー。

 

 そして戦闘が始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺がここに来たのは、キリトがここに来ない可能性があった。

 

 少しもったいないことと、このアイテムが巡り巡って役に立つ可能性もある。

 

 斧どころか袋まで武器であり、今回はスピード回避の為、片手剣と盾で攻める戦法だが、時間がかかる。

 

 面倒くさいと思いながら雪を踏み鳴らす。ブーツにも工夫をして、雪の上でも動き回れるように、靴底に細工しておいた。

 

 いつものようにステップで避けながら斬り込み、すぐに引く。

 

 キリトはここに来たのは確か、蘇生アイテム目的。いまのキリトはそれを求める理由は、

 

「君はっ!?」

 

 無いと思っていたが、彼は『クライン』たちと共にいる。彼のことも一応調べていた、ギルド《風林火山》のギルドリーダー。

 

 まさかここに現れるとは思わなかった。

 

 もうだいぶ削ったところだが、確実にこいつを倒しておきたい。

 

「ドロップ品は手に入れた者の物だっ」

 

 それは途中参加の条件であると叫び、それにキリトとクラインが目を合わせて、すぐに戦いへと参加する。

 

 俺はそれにすぐに下がる。やはり被弾はいくつかしたか。

 

 回復アイテムはもう切れていたこともあり、大人しくアイテムは彼らに譲ろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトがトドメを刺し、イベントボスはポリゴンの屑へと変わる。

 

 結局彼は戦いに参加せず、静かに見守る形でいた。そしてドロップした物は、

 

「ふざけるなッ」

 

 キリトはあまりのことに叫び声を上げ、クラインたちは困惑しながら、それを見る。

 

 それは『このアイテムはポップアップメニューから使用を選択するか、あるいは手に保持して≪蘇生・プレイヤー名≫と発声することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーは蘇生させることができます』

 

 ギルド《風林火山》は各々憤る中、キリトはその場に座り込む。

 

「………君」

 

 その時、そのメニューを確認し終え、しばらくしてその場から去ろうとした彼を呼び止めた。

 

「これは君の物だ」

 

「………俺はドロップさせた奴の物と」

 

「なら、俺が君に渡す。それでいいだろ」

 

「………」

 

 周りの様子を見ると、リーダーのクラインは構わないと言う顔であり、彼はしばらくしてそれを受け取り、静かに頭を下げてから去る。

 

「いいのかキリの字」

 

「ああ………」

 

 キリトやクラインたちはどちらかと言えば、この蘇生アイテムが結局役に立たないと、その落胆が強かった。

 

「けど彼奴、いつからここにいたんですかね?」

 

 ここに来る前に《聖竜連合》、フラグボスの為なら、一時オレンジ、プレイヤーに危害を加えたプレイヤーになることも辞さないギルドと交戦した。

 

 だが彼はそれとも遭遇せず、ここにいた事実。

 

「俺よりも早く、ここがイベント場所と踏んで、待っていた………」

 

 キリトはそう言うが、それも危険である。

 

 ここでない可能性も高く、それなのにここに留まるのは自殺行為だ。

 

 他のエネミーに殺される可能性がある、それなら自分たちより早く出て、ここにいたのだろうと、そう思った。

 

 それがある意味、彼と彼らの違いであるとは、この時は誰も気づかない………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあ………」

 

 鍛冶師レインは、少し憂鬱な気分になる。

 

 彼はここでのお得意さま、だが問題児。

 

 女の子プレイヤーだからと言うだけで物を買う客はお断り。にしたいくらいの店。彼は良い物しか買わず、悪い物もそれ相当の理由を付けて買う。

 

 そして難しい注文ばかりする。

 

「レインいる?」

 

「あれユウキ、またリンクに会いに来たの?」

 

「うんっ♪ 今日はいないみたいだけど、ボクリンクと友達になりたいんだっ」

 

 それにこの子は本当にいい子だ。噂や何かで人を判断しない。

 

 ここにいないことを知り、少し残念がりながら去る。

 

「………まったく」

 

 彼が持ち込む武器や防具は、全部ボロボロ。

 

 それはレベリングが過酷なものを意味している。

 

 楽にしているベータと言う噂だが、彼の顔やそれらを見て、デマと分かった。

 

 だからこそ、心配になる。

 

 この世界で一人と言うのは、辛いのだ。

 

 なのに彼は日に日にそれが酷くなる。

 

 まるでここに来る前から一人で戦っていたかのように一人で、ここで休む時は本当に死んだように眠るのだ。

 

「………はあ、あの子も、一人で頑張って無きゃいいけど」

 

 ユウキも一人でエネミーを狩る。

 

 さすがにプレイヤーに武器は向けられない、当たり前だ。

 

 だからこそ自分はエネミーをいっぱい狩る。それがあの子の意思。

 

 だけど強すぎる、いつか攻略組に追いつき、追い越しそうなんだ。

 

 そんな日が来れば、あの子はきっと………

 

「どうしてこうなるんだろうね、ゼルダ」

 

 そう言い、三角形が組み合うマークを見ながら、今日もわたしは鉄を打つ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ここは《迷いの森》と呼ばれ、対峙するのは猿のモンスターであり、彼はいつものように狩ろうとしていたとき、

 

「………」

 

 森がいつもより賑やかだと気づき、時折切り上げながら、狩りをしていると、

 

 

 

「ピナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 その叫び、よりも名前に聞き覚えがある。

 

 それはあるビーストテイマーの相棒。ここで、今日、彼女の物語が動くのかと思い、だが念のために駆けだす。

 

 すると、異変が起きていた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 そこにいたのは《黒の剣士》だけでなく、パープルブラックの、

 

「ッ!」

 

 すぐに背中と腰のブーメランを投げつけると共に、大剣を引き抜く。

 

 三体、プレイヤーの前にいた者は、背後からのクリティカルで消え、最後の一匹は、

 

「消えろ」

 

 その瞬間、大剣で貫き塵へと変わった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ありがとうございます……助けてくれて」

 

「ううん……その、間に合わなかったよ」

 

「すまない………」

 

 そこに《黒の剣士》キリトと、すでに《絶剣》とも言われるユウキがいて、ビーストテイマーに謝る。

 

 ああ、どうしてこうも人を狂わせるゲームなんだここは。

 

「リンクもありがとう、助けに来てくれて」

 

「………君は一人か」

 

「うん、森の入り口付近ならって思ったら、つい。レベルは高いよっ、気を付けてモンスターからは逃げるし。だけど」

 

 ユウキは悲しそうに言い、彼女『シリカ』は首を振る。

 

「いえ、わたしがバカだったんです。一人でこんなところを抜けようとして」

 

 そう言い《ピナの心》を大切そうに持っている。

 

 そんな彼女に、キリトが蘇生情報を伝え出した。

 

「それ、ホントっ!?」

 

 やはりユウキも知らないのか。

 

 もうここまで来れば仕方ない。俺は情報を補足した。

 

「最近の情報だが、本人が47層《思い出の丘》に、本人が出向くと手に入ると言う話だ」

 

「よ、47層………」

 

「だが、タイムリミットがある。使い魔の心が形見に変われば、蘇生はできない」

 

 それは彼女にとって絶望的な数値であり、再び涙を流しだす。

 

「待って、四日、四日あればボクの知り合いが来るよ。あの人たちに」

 

「リミットは三日だ、それでは間に合わない」

 

「そんな………」

 

 ユウキも塞ぎこむ中、シリカはずっとアイテムを手に持ち泣き、ユウキも泣きそうな顔になっていた。

 

 キリトはそれに、アイテムを出し始め、シリカに協力しようとする。

 

 これで流れを知らない俺がする行動は、

 

「待て、なぜそこまで彼女に協力する? それでレベル5、6底上げできるのは確かだが」

 

 そう、ここまでする必要性が見当たらない。

 

 記憶の奥底では安心できるが、それでも理由を思い出せない以上そう聞くしか無かった。

 

 それには無論、シリカも警戒するが、

 

「笑わないか?」

 

「ものによる」

 

「………妹に似ているからだ」

 

 それについシリカとユウキは笑ってしまい、ばつが悪そうなキリト。

 

 仕方ないか、ユウキを見る。彼女もレベルが足りないな。

 

「ユウキもだ、これを装備しろ」

 

「! うんっ」

 

「君らも付いてくるのか?」

 

「死にたくはないが、死んでほしくもない」

 

「ボクも、最後まで付き合うよ」

 

 ユウキに売り用のアイテム一式を装備させる。これでシリカ同様レベルの代わりにはなる。

 

 こうして俺ことリンク、ユウキが本来の物語に追加されて行動を共にする。

 

 なぜこうなるんだろうか………




と言う訳で、シリカの物語+される。

さらにリンクはあまり物語を知らないため、原作の一部を壊していることに気づいていません。

ここからシリカの物語に加わりますが、どうなるか。

ここからゆっくりしますか。では、お読みいただきありがとうございます。


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第3章・関わる物語

ここまでで変わった物語。

一つ、キリトがサチが限界に来る前に、すでに黒猫団をやめた。

一つ、低年齢プレイヤーを助けるギルドの中にゼルダ、ミファー、ダルケル、ウルボザ、リーバル、そしてユウキがいる。

一つ、とある物語を始まる切っ掛けが無くなった。

一つ、シリカの物語に関わるリンクとユウキ。

それではどうぞ。


 転移門から町に出向くと、シリカがフリーになり、パーティー勧誘しにすでに人がいたらしい。

 

 問題になりかけたが、シリカが丁寧に断り、俺は気にせず、キリトは苦笑、ユウキも微笑む。

 

 俺はいまは『ピナ』を蘇生以外に興味は無い。

 

「ともかく、明日ここに集合しよう。お互い確認したいことがあるはずだ」

 

「………君は別れるのか?」

 

「ああ、何か問題があるか」

 

「できれば打ち合わせをしたいが」

 

 キリトがそう言うが、こちらはあまり関わり合いたくないのが本音だ。

 

「悪いがアイテムの整備もある。俺は場所を知ってるから問題ないよ」

 

「………そうか分かったよ」

 

「またねリンクっ」

 

「それでは、また」

 

 詳しい集合時間などを決めて、すぐに彼らと別れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 記憶を思い出す、シリカは確かに好きなキャラの一人だ。リズは確認していて、他に《閃光》も確認している。

 

 だが詳しい話は、すでに磨耗して思い出せない。

 

 ただ『エギル』と『アルゴ』は会話したことがある、彼らは店と情報屋をしているからだ。

 

 歯を食いしばり、無理矢理記憶を呼び起こそうとするが、できなくなった。

 

「………もう前世の記憶は役に立たない」

 

 そもそもSAO編では無く、重点的に見たのはユウキの物語かその前だ。

 

 書籍もユウキのところで止まっている。彼女の死は、それほどまで心に刺さった。

 

(考えないようにしていたが、ユウキのいまはどうなっている)

 

 早い段階で彼女の病気は治る、もしくばだいぶマシになったニュースは確認した。

 

 確かに重い病気なのは変わらないが、助かる可能性はある。

 

 確認した。

 

 確認はしたんだ

 

 だが、していないところはある。

 

(姉と母親か)

 

 同じ病気の二人がどうなったか分からないし、知らない。

 

 いい気になっていたのか、救った気に。

 

 内心舌打ちし、世界を睨む。

 

(もう茅場、確か《血盟騎士団》の団長か。いまから殴り込むか)

 

 無駄だ、GМである彼が、自分がそう簡単に死ぬようになにもしてないはずがない。

 

 何をしてキリトは彼の正体を暴いた?

 

 その瞬間はある、それまで待つしかない。

 

 だが、

 

「………準備はするか」

 

 何かある、これは物語で描かれる話なのだから。

 

 この記憶だけは利用させてもらうしかない。

 

 ディアベルはいまギルド《円卓》と言う名で、攻略組であり、黒猫も念のため彼らが狩り場にしていた迷宮区の危険地帯は潰していたおかげか、キリトが復帰しても彼らは健在だ。

 

 ベータだの《亡霊》だのどうでもいい。

 

 死ぬのも死なれるのもごめんだ。

 

 備える為、急いでアイテム整理に出かける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして彼らと共に、フィールドを進む。

 

 道はキリトも知っているので、彼女たちを案内しつつ、レベルを上げさせた。

 

「きゃゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「うへえ、気持ち悪いよお………」

 

「落ち着いて、そいつ凄く弱いからっ」

 

「………」

 

 危険なところは投擲のブーメランで叩き、彼女らは確実にレベルを上げている。

 

 その間もキリトの妹の話とか、ユウキも含め色々話をしながらだが………

 

 一人我関せずを貫くプレイヤーがいた。俺だよ。

 

「あの、リンクさん。どうしてそんなに武器を」

 

「ああ。サブならともかく、少し多すぎないか?」

 

「この方が早いんだ」

 

「早い?」

 

 だがそれ以上は答えず、会話をそれだけで終わらし、鉄製のブーメランだけで戦う。そんな中フィールドを歩く四人。

 

「助かりますキリトさん、みなさん、ほんと………」

 

「どうした」

 

「い、いえ。少し嫌なことを思い出して………」

 

 それはあるプレイヤーが自分の、大切なピナをトカゲとか言ったり、酷いことを言うプレイヤーがいるらしい。

 

 だが、

 

「………MMOだけじゃなく、プレイヤーはたいてい、キャラを作る。自分をそのまま投影する奴はいない。最初の町で女性プレイヤーが男性になったことがあるだろ」

 

「はい………」

 

 キリトの言葉、当日のことは二人とも思い出したくない情報、少しうつむくが俺が続けた。

 

「なによりこの状況だ、みんな仲良くゲームクリアを目指せればいいが、死にたくないし、戦えない奴もいる。そんな中、誰かを蹴落としてもキャラを強化したい奴も出る」

 

「それは………」

 

「なにより、人が死んでるかはっきり分からない以上、もう自棄になったりしてオレンジになる奴や、言い訳する奴も出る」

 

「………」

 

 二人そろって脅し過ぎたか? いやそれでいいか。

 

 キリトもなにか言いかけたがやめて、このまま続けた。

 

「一つはっきり言えるのは、このゲーム、ゲームクリア以外ログアウト不可であり、プレイヤーは………死んでるんだろう」

 

 そうでなければ、このゲームは後から誰かがログインしている。あまりに酷いドッキリだ。

 

 何より、前世の記憶から、被害者は出ているとはっきり分かっている。

 

 それが、このゲームの事実だ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 丘のところ、情報ではここのはずと思っていると、それらしいアイテムがあって、シリカが手に取る。

 

「シリカ、それは《プネウマの花》か」

 

「は、はいっ」

 

「なら後は心アイテムにその花に溜まる雫を振りかければいい。ここはエネミーがいる、町に戻って行うぞ」

 

「はいっ、ありがとうございます、キリトさん、ユウキさん、リンクさんっ」

 

「ははっ、ボクもピナを助けたかったからいいよ。それじゃ町に」

 

「ああ町に……、そこにいる奴、出て来い」

 

 キリトもすぐ構える中、人が隠れられる場所を睨む。

 

 その時、物陰から一人の女性プレイヤーが出て来る。

 

「あなた」

 

「シリカの前のパーティーの」

 

 ユウキが驚きながら、俺は思考する。ここに来る時に、背後に気配は無かった。

 

 ならば後をじっくりとかけて追いかけてきた、そうとしか考えられない。

 

「へえ、アタシのハンディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルを持ってるのね」

 

 そんなもの伸ばしていない。

 

 これはあの体験で得た技術なんだがな。

 

「………オレンジか」

 

「オレンジって、ロザリアさんは」

 

 プレイヤーに攻撃したら犯罪として、オレンジカーソルになる。だが彼女はグリーン。

 

 それでも抜け穴はある。

 

「………聞いたことある。グリーンプレイヤーが情報や、他のパーティーに入って、オレンジの仲間に誘導するって」

 

 ユウキの言葉に正解と言わんばかりに、オレンジカーソルのプレイヤーが現れる。

 

 そして元々の狙いはシリカが所属するパーティーだが、シリカが途中で抜けてどうするか考えていたら、シリカが貴重アイテムを手に入れに出向くと知り、変更したらしい。

 

 グリーンとオレンジの敵プレイヤーに、俺とキリトは前に出る。

 

「下がってろ二人とも」

 

「け、けど」

 

「リンク、キリト数が、それにグリーンを攻撃したらオレンジにっ」

 

「そういうことさ、分かったらアイテム全部渡しなっ」

 

 そう言うが、気にはせず、一つだけ確認する。

 

「一つだけいいか、お前たち、プレイヤーは殺したか?」

 

「はん? いきなりなんだい? どーでもいいじゃないか」

 

「なっ………」

 

 ユウキは驚愕するが、彼らはこの世界での死が本当の死に繋がる保証も、法律も何もいと言い、気にも留めない。

 

 それに………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そう、か……、ならいいか」

 

 そう彼は、静かに告げた。

 

 瞬間、彼が纏う雰囲気が切り替わる。

 

「? なにが」

 

「いや………、つまりだ。お前たちは殺されても文句は無いってことだよな」

 

 そう言い放つと共に、ヒュンと言う音が鳴り響く。

 

 それに全員が気づかず、次の瞬間、僅かな悲鳴と共に、グリーンプレイヤーが倒れた。

 

「………へっ?」

 

「まず一人」

 

 なにも構えないように見えて、彼は構えている。

 

 グリーンプレイヤーは麻痺が起き、背中にブーメランが刺さって、

 

「え、HPゲージがっ!?」

 

「な、なんでそん、そもそもお前、グリーンをこうげ」

 

 きしているに、彼はグリーンのままだ。

 

「これは、リンク………」

 

 俺が驚く中、それに無表情で語る。

 

「向かって放ったのはダメだが、戻る際のこいつは、俺が攻撃したと認識されないらしいんだ」

 

 彼はなんてことが無いように、あまりにプレイヤーに対しての攻撃に、抵抗感無く呟く。

 

「えっ、あっ、武器を複数持つ《亡霊》っ。それにこいつ《黒の剣士》! こ、こいつらベーターじゃねぇかッ」

 

「レベルはお前らより高いし、スキルも戦闘のみに特化してる。んでだ」

 

 そう言い、手を広げた。

 

 

 

「俺の手元のブーメランは何個だった?」

 

 

 

 その瞬間、グリーンプレイヤーか一斉に倒れ、中にはゲージが半分以下、レッドに近い者も。

 

「お、お前」

 

「まさか、攻撃されないと思ったか?」

 

 そう言い彼は前に出る、胸騒ぎがする。

 

「待てもういいっ、これ以上は彼らの仕事だっ」

 

「なに?」

 

 驚く中、シリカもユウキもお互い。それと共に、後ろから何名のプレイヤーが現れた。

 

「えっ、リーバルにウルボザ、みんなっ」

 

「まったくこの子は………」

 

「やあやあ」

 

「やっぱりつけてたか《トライフォース》」

 

 俺はそう言い、しっかりオレンジギルドを囲むプレイヤーに、ユウキは驚いていた。

 

 その間彼はすぐに武器を回収して、ウルボザを見る。

 

「こいつらは牢屋行きか」

 

「ああ、悪いね。囮のようなことさせて」

 

「気にするな、詳しい話を聞かせてくれるならな」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ウルボザ、これって」

 

「どうも君は気づいたようだけど、いつからだい?」

 

 リーバルはまるでシリカたちを守るように前に出て、不審な目で俺を見ながらキリトに聞く。

 

「元々俺が彼らの被害者に頼まれて、こいつらを監獄に送る為にここに来てたんだ。それでね……。ユウキは《トライフォース》のプレイヤーだから知ってるとばかり」

 

「そうだったんだ………」

 

「ごめん、君たちを囮にしたようなものだ。それに俺は、正直君のことを警戒してた」

 

「………そうか。それで《トライフォース》は前々からこいつらは捜査対象だったと」

 

 どうでもいいことなので、キリトについてはもういい。問題はギルドの方だ。

 

「こいつらはあるパーティーを殺してる、その生き残ったプレイヤーに頼まれて調べてたら、シリカたち。君たち囮のような事させて済まない」

 

「い、いえ………びっくりはしましたけど、平気です」

 

 少し落ち着いたからか座り込む。キリトは手を伸ばし、それを頬を赤くして手を置くシリカ。

 

 キリトはユウキとシリカの安全第一で動いていただろうが、俺も警戒されたようだ。

 

 まあ覚えがある所為でなにも言えないな。

 

 俺はまだ状態を維持して《トライフォース》に警戒されている。

 

(俺が披露したのは投擲武器と言う、攻撃力が低い方法で彼らのHPゲージをレッドに変えたか)

 

 だがそれにも理由はある。それは時間があれば、なんだろうが小石を投げつけて、投剣のスキルを鍛えた。

 

 ブーメランの方も、前々から、

 

「君、前々からオレンジプレイヤーも狩ってるだろ? 同じ方法で脅して捕らえてたみたいだね」

 

 そう方法を言わせない、俺の情報は言わないことで、監獄送りにしたプレイヤーはいる。

 

 俺は俺自身の情報を隠しながらプレイした。

 

 理由は一つ、茅場、ヒースクリフに目を付けられないようにするため。

 

 だが俺はその為に、それ以外のプレイヤーから不審な目で見られる羽目になった。

 

(今回はそれが裏目に出たか)

 

「ともかくオレンジの捕縛はいいんだけど、君、やりすぎなんだよね」

 

「………善処しよう」

 

 こうして今後の身の振りも考えないといけないことに頭痛を感じながら、町へと戻り、ピナは蘇生する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「リンク、もう行っちゃったね」

 

「はい……。ピナのこと、ちゃんとお礼言えたでしょうか」

 

 シリカとユウキが、ピナ蘇生を見届けた後、即座に消えた彼を考える。

 

「あまりああいうのにかかわらない方がいいよ、彼はベータなんだから、ねえ」

 

 キリトを見ながら口にするリーバル。

 

「リーバルっ」

 

 ウルボザが睨みを利かせ、リーバルは平然と受け流すが、

 

「別にかまわない……。ただ」

 

 キリトだけが疑問に思っている言葉を口にする。

 

「彼はベータテスターじゃない、彼は何者なんだ」

 

「? なに言ってる君」

 

「俺がベータなのは認めているよ。だからこそ、彼のようなプレイヤーは見たことも、それも噂ですら聞いてない。ほとんどのベータテスターがデータを取っている中で、誰にも関わらず、ソロを貫いていたのならなおのこと噂になる」

 

「けどね、投剣スキルだけでああもゲージ消せないよ。まあメインで、スキルが戦闘オンリーなら分からないけど、そんなソロプレイヤーは生きていられない」

 

 エネミーの不意打ち対策も何もしてないプレイヤーがどうなるか、それは考えなくても分かる。

 

 なにより彼は気配を消していたプレイヤーを察していた。キリトはそれに無言になる中で、ユウキは、

 

「けど、悪い人じゃないよ。ピナが蘇生するまで、側にいてくれた」

 

「はいはい、ユウキはこれだから………」

 

 リーバルは困った顔をするが、キリトだけは、

 

「そうだな。俺は、正直彼を警戒していた。アイテム狙いか、彼らの仲間か。だけど彼の行動は不自然過ぎて、違うと思ったよ」

 

「やっぱり、ピナのことを心配してたんだね♪」

 

「はいはいはいはい、僕が悪者ね。分かった分かった」

 

「リーバル……」

 

 悲しそうにするユウキに、ウルボザは頭を撫で、シリカは今後のことをどうするか考え、キリトも攻略へと戻る。

 

「………また会えると良いな~」

 

 ユウキはそう微笑みながら、後で一人レベリングを叱られることから、現実逃避していた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………だんだんソロ活動でも目立つか」

 

 静かにエネミーを狩る。

 

 狩るエネミーは、一定の時間が来ると蘇生して、また狩るの繰り返しが基本。

 

 だがそれでは身体が鈍る。

 

 だけど、

 

「ふんッ」

 

 エネミーの中に、仲間を呼ぶと言うことをするエネミーがいる。

 

 これは、新たにエネミーを作り出して寄こすと言う意味であると知ってから、蘇生を待ちせず、狩り続けられた。

 

 迷宮区ではアラームトラップからエネミーが大量に出ると言う事態もある。

 

 この方法なら、多くの経験値が手に入ると共に、感覚は鈍らない。

 

 俺があの体験で得た力は二つ、一つは頭の切り替え。

 

 戦闘、休憩、探索、日常と頭の中全部を切り替えること。

 

 そして感覚、それか集中力。

 

 スローモーションのように世界が遅くなり、空間を把握し、自分は普通に動ける。

 

 子供の頃は時間が短く、連続使用は不可。何度吐いたか分からない。

 

 だが、その結果がこのおかしなレベリングを可能にしている。

 

「集中はまだ持つな、ならまだ仲間を呼んでもらうぞ。経験値より素材はいくらあっても足りないからな」

 

 フードから覗く目、そこにいるのは勇者ではないのは、自分が一番分かっている。




プレイヤーが死ぬかもしれない、そんなのどうでもいい。

魔物を狩り続けた彼にとって、敵の命なんて考える要素が無くなってます。

このリンクこの先どうなるのか。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第4章・ギルドとユウキ

戦え、その言葉が彼を突き動かす。


「………はあ」

 

 ため息が出る中、景色と一体化するように蔦などを巻いて作ったマントなどで同化し、魚が水面に来るのを待つ。

 

 本来ならエネミーも狩り続けたいが、今回は素材が足りない情報があるために、しばらく素材を確保する。

 

 そんな日々の中で、あることがあり続け、少し疲れて来た。

 

 ここ最近、町に来るとストーカーがいます。それは、

 

「リンク~♪」

 

 ユウキである。

 

 彼女は町に俺が出没するたびに現れ、話しかけて来る。

 

 そのおかげでシリカがユウキたち《トライフォース》に入って、いま自分とパーティーを組んでいることなど話を聞く。

 

 俺はそれを聞きながら、居場所バレが起きないように細心の注意を払う日々。

 

 少し疲れた。

 

 ともかくこの下かと、崖の下にある湖を見る。

 

「………」

 

 槍を構え、水の中に飛び込む。

 

 水面に激突する瞬間、ソードスキルを発動させる。槍先が無数に分かれ、魚影の集まりを刺し貫くと共に、水の中に入った。

 

 落下ダメも、ソードスキル発動の際か発生せず、これの繰り返しで落下も下に足場があれば問題ない。

 

 水面から顔を出すと共に、攻撃で浮く魚を回収。繰り返す………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺には秘密はある。

 

 それは前世持ちや特典持ちだけではない。

 

 レベル、スキル。

 

 このゲームには《エクストラスキル》と言うものがあるらしい。現時点では《血盟騎士団》の団長の《神聖剣》のみ。

 

 対してそれらしいスキルが六個ある。

 

 茅場はどういう理由でこのゲームを始めたか分からないが、これらを見過ごすはずもない。

 

 俺は茅場がいま言った《神聖剣》使いであることは知っている。

 

 だがそこまでだ。

 

 俺が何かをして、キリトが彼を倒す流れが壊れる恐れがある以上、目立つのは危険極まりない。

 

 これらを隠しながらソロを続けるしかない。それが俺の選択肢だった。

 

「できれば関わり合いたくもないんだが」

 

 そう愚痴りながら、また水面を攻撃した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大量の素材アイテムを確保し、衣類を変えながら、各店に流す。

 

 主に流すのはプレイヤーが経営する店などがメイン。

 

 元より金が欲しい訳では無い、素材を他者に渡すくらいしか考えに無い。

 

 採れる採取系は全部取り、多くばらまき、生存率を上げる。

 

 金も使う、他の店で買った物を、原価など無視して必要とする場所に売ると言う作業。

 

 ギルド、個人店、果てはNPCの物流。全てを把握してうまく調整する。

 

 個人でするには無理があるが、焼け石に水でもやり続ければいい。

 

 そうした日々の中、

 

「リンク~♪」

 

 そう言い、俺の手を取る少女が現れた。

 

「ユウキ」

 

「今日こそフレンド登録してもらうぞ~」

 

 そう言って、町を徘徊しているとエンカウントするこの少女は、いつも元気そうだ。

 

 別にそれでいいんだけど。いまだ無気力なプレイヤーがいる中、この子はこれくらいでないと、気が狂う。

 

 だが正直この状況もまずい。

 

「俺はフレンド登録する気はない」

 

「えぇ~」

 

 そう言い、周りをウロウロするユウキ。一度転移結晶まで使用して逃げたことがある。

 

 そんなときは、仕方なく食事をすることにしていた。

 

 ユウキとの時間だけ、俺は人間らしい行動をする。

 

 そしてそんな会話の中で、できそうだからなど、たまにはガス抜きも必要かと色々言い訳を考えながら、ユウキとこんなことを約束した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ユウキは今日ご機嫌であり、ミファーとゼルダは少し微笑む。

 

「ユウキ、なにか良い事があったのですか?」

 

「うんっ、今日ね」

 

 それは爆弾だった。

 

 

 

「デートするの」

 

 

 

「「えっ………」」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 小一時間ほど問い詰められて、知り合いも同伴していいただのご飯だったため、ゼルダは自分の仕事を終え、ミファーも保護者としてついていく。

 

 他にも呼べる人間を呼びかける。

 

 そしてとある階層の町で、ユウキはガクガクと震えながら訪ねてきた。

 

「保護者になんて言ったんだ」

 

「ごめんなさ~いっ」

 

 リンク、ビーターやベータと言う噂が流れ、武器をほぼ一式背負い、フィールドを歩く様は亡霊とまで言われるほど、情報と他者との繋がりが少ないプレイヤー。

 

 故に保護者もどうぞと言う話をしたのだが、二人の女性はかなり警戒していた。

 

「保護者なら、この子のことを見ててくれ」

 

「ボクが我が儘言って、リンクが良いって言ってくれただけだから」

 

 説明は受けているし、ここには彼女たちだけではなく、重戦士であるダルケルもいてくれて、お互い苦笑した。

 

「まあ二人とも、ユウキのことは気にかけてる方でな。こっちからのことなのにすまなんな」

 

「別にいいさ」

 

 ご飯の方は準備できているため、テーブルを拭くだけだが、

 

(この部屋、いつも使っているわけではないのですね)

 

 ゼルダはユウキのこともあるが、もう一つ《亡霊》リンクのことを調べることもあった。

 

 彼は数少ない弓矢だけでなく、槍も投剣も、なんでも装備している。

 

 顔も隠す為か、フードを付けているが、いまは外している。ハーフか外人か、綺麗な金髪で碧眼だった。

 

 だが彼は日本人だろう。

 

「もうすぐラーメンできるから」

 

 そう言い、これがメインと言う話である。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「おおっ、うまいなこれ! 本当にラーメンだぜっ」

 

「おいっし~い♪」

 

「ほんと」

 

「おいしい………」

 

 ダルケルはともかく、ゼルダとミファーがラーメンを食べている絵図に、僅かに内心苦笑する。

 

「ラーメンと言っても、ただの麺に、ラーメン風にしただけだ」

 

「けどよお、この世界にはしょうゆはねえだろ? 俺はこの前《アルゲードそば》とかいう、ラーメンもどき食ったけど、ここまでじゃねぇぜ」

 

「それでも店で出すレベルでラーメンを再現してないと思うが………」

 

「いやいやいや、麺と良い、味と良い、豚骨ラーメンだよこれ」

 

「豚……豚肉を使ってるんですか?」

 

「まあ、はじまりの《フレンジーボア》の上位か。そいつがドロップする食材アイテム。それにかん水は、できた」

 

「できたって」

 

 リンクはかん水に関連する要素を述べてから、それに類似する水は無いかと思って、とある山から採れる湧き水を使用する。

 

 驚くべきところは、その水は22層付近と、ダルケルは驚きながら、髭を撫でていた。

 

「まさか水にも味の違いがあるなんてな」

 

「俺も麺に使ったら中華麺に似てたから、後はスープはお好みだな」

 

「なるほど、しょうゆは無いから豚骨と」

 

 それにゼルダはすぐに、

 

「リンクさんっ」

 

「な、なんだ?」

 

 いままで食べていたゼルダに、少し驚くリンク。

 

「そのレシピを売ってもらえないでしょうか」

 

「? 別にタダでいいよ。けどどうした」

 

「い、いえ」

 

 少し落ち着きを取り戻して、自分の考えを静かに口にする。

 

「私たち《トライフォース》は、低年齢プレイヤーや戦えないプレイヤーの方々に、鑑定、製作、そう言った生活面だけでなく、鍛治スキルなどでアイテムを作ることで、攻略組を初めとした方々に貢献する方針です」

 

「………ああ」

 

 少し暗い顔をしたが、すぐにゼルダの言葉の続きを待つ。

 

 ゼルダは、

 

「この料理、食材と材料を集められて、それを店として出せば彼らの収入源になります」

 

「そりゃいい、店を出す案も出てたが、宿も食堂もほとんど出てるし、こいつなら食いに来る客は出るぜっ」

 

「はい、できればその為にも」

 

「………」

 

 リンクは静かに考え込むが、

 

「………それは本当にためになるか」

 

 そう逆に聞き返す。

 

 その問いかけに少し驚き、ゼルダは聞く。

 

「どういうことですか」

 

「まず俺が恐れるのは、この世界に慣れ過ぎること(・・・・・・・・・・)だ」

 

「!?」

 

 それはゼルダも感じていた。

 

 慣れる。それは別に悪いことではないが、結果的に元の世界に、ログアウトの為に躍起になっていたプレイヤーは少しずつだが減っている。

 

 攻略組のモチベーション、その問題があると彼は言う。

 

「この世界に、元の世界の物ができていけば、帰りたいと思う者は少なくなる。まあラーメン一つでそう思いたくはないが、逆もある」

 

「逆?」

 

「求めていた物が側にあると、失う恐怖にもなる。違うか」

 

「………」

 

 確かにたかが食材、料理とはいえ、元の世界の物を出すのは、良い事か悪い事か。ゼルダにはすぐに判断できない。

 

 むしろそうでなければいけないと、彼は思っていた。

 

「なにより真似られる可能性だってある、それを収入源にしたいのならなおのことな」

 

「………」

 

 しばらく目を閉じ、考え込むゼルダ。

 

「………レシピを教えてもらいませんか?」

 

「………いいのか」

 

「すぐに判断はできませんか、ですが手元に置く価値はありますので」

 

 そう真剣に言うゼルダに、リンクはすぐに紙にマップを書く。

 

 水の場所と、簡単なレシピを書き、渡して置くことにした。

 

「ありがとうございます」

 

「別にいい。冷めるといけない、残りも食べないと」

 

「はい、そうですね」

 

 そう静かに微笑むゼルダ。

 

 リンクは僅かに影が差したが、すぐに首を振り、自分の分を盛りつけた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ごちそうさま♪ おいしかったよリンク♪♪」

 

「そうか」

 

「ボクラーメン食べるの初めてだから、ホント嬉しい」

 

 それに僅かに思考が引っ張られた。

 

 ユウキはまだ入院、いや病魔と闘ってるのか。

 

 ならいまの状況はどうだ?

 

 医師の診断も聞けず、いつ死ぬか分からないデスゲーム。

 

 心が冷え切っていったが、無理に頭を切り替えた。

 

「まあ、ラーメンは少しカロリー高いとかあるしな」

 

「そ、そうですね」

 

 ミファーがそう言いながら、ゼルダとダルケルも様子がおかしい。

 

 彼らは知っているのか、ユウキが最初からこのギルドにいるのは、彼らとリアルで知り合い?

 

 どういう背後関係だ。

 

 だが聞けない、聞くことはできない。

 

 俺は言葉を飲み込み、彼らと別れた後はチェックインした。

 

 また迷宮区へと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………あはは、少し口滑っちゃったよ」

 

 複数ある支部、その部屋に帰りに、ゼルダの執務室でそう力無く笑うユウキ。ミファーは静かに微笑む。

 

「問題ないよ、私たちも食べたことないんだもの」

 

「ミファー姉ちゃんたちはお嬢様じゃん」

 

 そう微笑むユウキ。ゼルダは、

 

「ユウキ、あまり無理をしないでください。身体はきっと、お父様たちが治していますから」

 

「………うん。だけどねゼルダ姉ちゃん、ボクは強くなりたいんだ。ほら、なにかあったとき困るでしょ?」

 

「ユウキ………」

 

「それじゃ、ボク他のみんなのところ行くね。それだけだからだいじょうぶっ♪」

 

 そう言って出ていくユウキに、ゼルダは見送るしかない。

 

「………私のしたことは間違いだったんでしょうか」

 

「お嬢様よ、あまり悲観してばっかじゃ、あの子に悪いぜ」

 

「分かってます」

 

 ゼルダは静かに、この世界を睨む。

 

「あの子の病気を治す為、仮想世界へ意識の預ける医療法。メディキュボイド」

 

「私や、貴方のお父様がその可能性を信じて、一手に援助して、あの子の家族が、手術を受ける話。私は間違いじゃないと思う」

 

「ええ………。だけどこのゲームをあの子、ユウキにやらせたことだけは間違いッ」

 

 ゼルダは強く窓枠を握りしめ、悲しそうに二人は顔を背ける。

 

「お嬢様たちのことはこのダルケル、ウルボザ、リーバル。必ず現実の世界に返して見せますぜ」

 

「私は絶対に帰ります。あの子の、双子の姉や母親に、ちゃんと謝らなければいけませんから」

 

「そうだね、みんなで帰ろう」

 

 それに決意を新たに、彼のことをふと考える。

 

 噂とは違う、人間らしいところを見せた彼。

 

 だけど、ユウキが気にかけていることもあり調べたが、ほとんど町を使用せず、迷宮区にいるのさえ怪しいほど情報が少ない。

 

 だからオレンジかレッドではと疑ってしまう。

 

 それは違った、だがある意味酷い意味で違っていた。

 

 あれは何かに、一つのことしか目に見えていないのではないか?

 

 情報通りの人ならば、何か目的があって動いている。

 

(………ユウキじゃなくても心配しそうな人ですね)

 

 そう思いながら、だが今回のことも、ユウキがラーメンって食べたこと無い、ダルケルたちがもどきを食べたと言う話から、作ってやると言う話になったらしい。

 

 唯一人間らしい反応に、ユウキはとても嬉しそうであり、それはこの世界の現実を忘れるには十分だった。

 

 少し考えてしまう。

 

 このまま彼らを会わせ続けていいのか。

 

「いまは新たな収入源の確保ですね」

 

 そしてゼルダはすぐに動き出して、調理スキルの高い人に試してもらう。

 

 しばらくしてラーメン屋が開かれて、あの《血盟騎士団》の団長が来たとか、そんな話を聞いた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なにしてるんだろう?

 

 つい、同じ水でも違いがあるのに気づき、その中にかん水として使えそうな水を見つけた。

 

 その後、保存性が高い麺として使っていたのを、おいしいものに替えるのに苦労する。

 

 食材も急きょだったため、手元にあるもので作ったがうまいものができてよかった。

 

 あの子も笑顔で、少し口を滑らしていたな。

 

「………俺はなにしてるんだっけ」

 

 そう思う中、ユウキの笑顔が頭をよぎった。

 

 まだ戦える?

 

 違う。

 

「戦う以外に選択肢は無い………」

 

 そう頭に刻み、また動き出す。

 

 また………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ユウキ、なにか嬉しいことあったの?」

 

「うん、仲良くなりたかった人と、少しは仲良くなれたかなって」

 

 そう、あの人はいつも一人だ。

 

 一人は苦しくて、辛くて、悲しくて。

 

 だから話しかけた、あの人はそれを拒みはしてるけど、無理矢理引き離すことはしない。

 

 なぜだろう、あの人と仲良くしたいのは。

 

 だって………

 

(このままだと、遠いところに行っちゃいそうなんだもん………)

 

 そうユウキは、静かに思い、空を見上げた。




ラーメン店、人気出る。

ユウキの事情、彼は知らず予測することしかできず、狂います。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第5章・ピンチ

オリジナル時期。一部設定をいじります。


 それは暗闇の中動き回る。第61層は昆虫が多く、溶け込んでいたり、毒が得意なものや、硬いものと多い。

 

 だがそれよりも………

 

 そのエネミーはプレイヤーの気配を探して、森を彷徨う。

 

 指笛でエネミーにこちらに気づいてもらうが、たいていは下で音が鳴った辺りをうろつく。

 

 その間、木々を飛び移り、確実に背後を取る

 

 一匹、また一匹静かに消されていく。

 

 エネミーが彼を見つけるのは、

 

「エンド」

 

 終わるときだけだった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 森がうっそうとしていて、虫が多い故にむしむしランド。全体的に見れば美しい湖が広がるが無視して森に潜む。

 

「木々の上の生活にも慣れて来たな」

 

 木々を飛び移り、昆虫よりも上の位置を取り、集めて狩る。そんな日々で………

 

「?」

 

 フィールド未開拓地らしいエリアにたどり着き、遺跡のようなところだった。

 

 遺跡らしい遺跡と言う印象であり、入口があり、続いている。

 

 ここのフロアボスは、現在パターンを把握されている最中、ここは関係ない。

 

「………まあいい」

 

 リンゴもどきを齧り、中に入っていく。

 

 罠はあった、だが解ける類であり、気にせず進む。

 

 出て来るエネミーも狩りながら、その様子とパターンをチェックする。無論、情報屋に売るため、わざわざ時間をじっくりかけて………

 

 こうして一週間ほど遺跡を確実に攻略していると、

 

「水晶……、ここが遺跡の奥地か」

 

 奥に巨大な水晶の固まりがある、石舞台のような場所。

 

 舞台を囲む欠けたりしている石の柱、なにかの儀式をする場所なのかと思いながら、その舞台の上に上がった。

 

 その時、クエスト発生が起き、ウインドを覗く。

 

 クエスト名《女神の聖女》と言う、謎のクエスト。

 

 魔物に捕らわれた聖女の救出と書かれていた。

 

 何も考えずイエスのボタンを押すと、入ってきた入口が塞がれ、どこからかエネミーの雄たけびが響く。

 

 そして頭上の天井が割れ、降って出てきたのは、

 

「なっ」

 

 それは《ヒノックス》に、頭を切り替える。

 

 なぜだのなんでだのは後回し。

 

 一つ目の巨大な魔物が現れ、即座に距離を取る。

 

 まずはこれを倒す。切り替え並び、目を見開き、集中力を高めた。

 

 その瞬間、周りの景色が広がり、時間が遅くなる。

 

 こちらを見てすぐに向かってくるが、

 

「斬る」

 

 瞬間、その目にブーメランが抜刀の如く放たれ、その目を押さえ、尻餅をつく。

 

 この辺りまで一緒だからと言って油断はしない。戻ってきたブーメランを確保しつつ《双剣》で戦いだす。

 

 ラッシュを決め、起き上がるとすぐに距離を取り、ブーメランを投げる。

 

 ゲージは三つ、いまので最初のゲージ、三分の一は削れた。まだ向こうの方が余裕。

 

(ダメを受けるのは危険だ)

 

 そしてブーメランを投げるが、目を手で覆い隠すヒノックス。

 

 そのまま切り裂いても意味が無いし、刃に付けた毒も効かない。

 

 右手で片手剣を持ち、左手はフリー、盾にして戦うか。

 

「なら」

 

 眼を隠すのをやめた瞬間、即座に腰の弓を左手で持ち、右手で右腰の矢を掴み速射する。

 

 大きな目玉に刺さり、尻餅をつく。

 

「悪いが確認済みだ」

 

 この世界で弓矢ははっきり言えば難しい。

 

 矢が真っ直ぐ飛ばないと言う設定で、あまりに距離があると、おかしな方向に飛ぶ。

 

 だから矢はギミック解除や、囮だったり、ともかく戦闘以外が主な方法。

 

 その矢の変則にも決まった法則があり、それを把握するのに時間がかかったが把握した。

 

 こうなればもうパターンだ。

 

 起き上がるたびに距離を取り、様子を見ればいい。

 

 そうしていればゲージが一つ消し飛ぶ。

 

『ガアァァァァァァァァ』

 

 瞬間、ゲームでは無かった速い動きで両手で叩こうとしたが、

 

「現実ではあった」

 

 バク転してそれを避けて、そのまま目に射撃。

 

 苦しみ尻餅をつくが、今後は瞬発な動きに注意。

 

 その動きも、集中している俺なら即座に対処できる。

 

「じり貧か、いつものことだ」

 

 スライディングして足元をすり抜ける際、両足の筋を斬るように二刀流で斬り、すぐに盾片手剣に替える。

 

 怒り狂って何度も地面踏む。

 

 その様子に経験の中で戦った奴そっくりだ。

 

「鈍いんだよ」

 

 そう言ったら突っ込んできた。

 

 こいつもそうだったようで、それをバク転して背中に乗り、そのまま駆け背後を取る。

 

 振り返ると目玉を狙い、すぐに何度も斬りかかった。

 

 ゲージが一つ減った。

 

 怒り狂って、近くの柱を握り、壊して構え出したヒノックス。

 

「それは無かったな」

 

 雄たけびと共に向かう中、より感覚を研ぎ覚ませた。

 

 ぶんぶんと振り回される欠けた柱を躱しながら、速射を繰り返す。

 

「まどろっこしい」

 

 瞬間、右手の剣を左手に投げ渡し、刀を、

 

「セイ」

 

 放たれる前に刀が鞘ごと発光する。

 

「ハっ!!」

 

 スキル《抜刀術》で、即座に放たれた斬撃を食らい、柱を落とし、尻餅をつく。

 

 硬直の間、動けずにいたが、

 

(こいつは硬直が少ない)

 

 すぐに《双剣》へと切り替え、連撃を食らわす。

 

「消し飛べえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ」

 

 ゲージを一気に消し飛ばし、ポリゴンへと変わるヒノックスを確認した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「イベントボスエネミーは倒したが、水晶か」

 

 切り替え、戦闘から探索へ。世界も元の動きに変わった。

 

 ともかく考える思考を奥に置き、まだ解放されない入口を見る。

 

 別の入口もクエストクリアの表示も無いため、水晶へと近づく。

 

 すると、突然水晶に亀裂が走り、即座に構えると、

 

「!?」

 

 水晶が割れ、裸の女の子が一人、中から現れた。

 

 なにこれ?

 

 即座に切り替え、落下する少女を確保する。

 

「お、おい」

 

「………」

 

 黒髪の少女。それにクエストクリアとウインドを見る。

 

「クエストクリアだと、ならクリア報酬は」

 

 そう思い、ウインドなどを確認すると、俺は目を丸くする。

 

 テイマーのような職業のプレイヤーは知っている、シリカとピナ。シリカとピナのシステムの関係も情報で。

 

 クエストの中には一時的にNPCがパーティーに入ることもあるらしい。

 

 だが彼女はNPCなのは理解できるし、カーソルはそうだが、どういった扱いだ?

 

「ともかく、茅場はなにを考えてるんだ」

 

 俺には無縁であるはずの、パーティーのステータス、HPゲージを表示される場所に、仲間キャラクター『』があった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺はともかく、少女を背負って遺跡を後にした。

 

 即座に町へのルートを確保する。時間帯は深夜、プレイヤーに見つかれば間違いなく誤解される時間帯。

 

 染みついた能力で足跡も物音も作らずに、NPCの宿に入り、部屋を借りて中に置く。

 

 いまは適当な衣類アイテムを装備、着せてから来たが………

 

「空欄なのはどういう意味だ? サポートNPCがクエスト報酬? なにがどうなってやが」

 

 その時、頭の中の引き出しで、ある話を思い出す。

 

 この世界の舞台《アインクラッド》の創世に、二人の女神がこの《浮遊城アインクラッド》を作った物語。

 

 まさか………

 

「聖女と言う単語じゃ、現時点ここまで………」

 

 ともかく、ベットは彼女に渡して、壁に背を預け、座り込む。

 

「早朝、もしくば彼女が起きるまで就寝」

 

 そう呟き、目を閉じ、頭を切り替えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 幻影の彼が斬りかかる。

 

「ハッ」

 

 何度も剣がぶつかり、盾で防ぎ、彼が身軽に剣を避け、隙間を縫うように斬りかかる。

 

 それを繰り返しながら、最後に切り裂かれたとき、目が覚めた。

 

「………頭の中くらい勝たせろ」

 

 そう言いながら、少女の様子を覗き込む。すやすや呼吸はしていて、少しだけ安心した。

 

 すぐに調理場を確認して、料理をすることにした。人数は二人分。

 

 アイテムストレージを確認して《魚入りミルクスープ》とパンを作ろうと準備し出す。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら料理をしていると、背後から気配を感じる。

 

「?」

 

 殺気では無い為、普通に振り返ると、

 

「………」

 

 急ごしらえで着せただぶだぶ服の女の子がそこにいた。

 

 早くどうにかしないと俺は監獄へと送られてしまう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「おいしかったです」

 

 彼女は素直にそう言い、俺は彼女から情報を得ることにした。

 

 そしたらなんと言うか、自分は力を使い果たした女神とのことだ。

 

 自分は《聖大樹》と言う二本の巨木に仕える二人の巫女、その一人。

 

 だが争いが起きて、争いを止めるため大地を空へと切り離した。この辺りは設定だな。

 

 だが肝心なのは、

 

「ですがわたしは女神としての力を失い、その全ては魔法石として、この浮遊城のどこかにあるでしょう」

 

「その辺はいい、なぜあそこにいた」

 

「力を無くした私は、魔物に水晶の中に閉じ込められていました。そこを貴方が救ってくれた」

 

 そう言いながら、いまの君はどういう状態か聞くと、

 

「もう女神として、聖女、巫女の力は僅かしかありません」

 

 その力の内容に頭が痛くなる。

 

 ともかくだぶだふ服の美少女はまずい、色々まずい。何度も思うがこのままでは俺は監獄行き。

 

 話を聞いてまとまった情報は、パーティーサポートNPCとしか思えない。

 

「ともかく飯を食い終えたら服買おう」

 

 目のやり場が無いしな。

 

 もぐもぐと頬を膨らまして食べている少女を見て、資金を頭の中で計算する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ミファーとユウキは最前線の町、そこの物流を確認しに、町に出ていた。

 

 買い物の為もあるが、彼らは物流を把握は大切だ。ポーションの物流の把握と、結晶を確保。

 

 そう言った物から前線で使われている装備も確認しておきたい。

 

「あれ?」

 

「どうしたのユウキ?」

 

「あれ、リンク」

 

 マントを羽織った誰かの手を取るリンクがそこにいて、衣類を扱うNPC店へと入る。

 

「知り合いかな? ミファー姉ちゃん」

 

「うんいいよ、私も気になるから」

 

 嬉しそうに微笑み、ユウキは店へと走っていく。

 

 その様子を微笑ましく見ながら、後を追う。

 

 そして、

 

「………」

 

 ユウキの冷ややかな無表情な顔は初めて見た。

 

「? ごきげんよう」

 

「………」

 

 そこには服を着せているリンクがいて、自分は凍り付く。

 

 綺麗な素肌の少女はインナーすら着ておらず、リンクは適当なそれらを手に持っていて………

 

「………監獄ってどうすれば送れるのかな」

 

 ユウキからとてつもなく冷ややかな声が響いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そんなクエストが………」

 

「後から情報を売りに、情報屋に出向く」

 

 後から聞かされたが、信じられない二人。

 

 だが連れていた少女がNPCであり、他の仲間NPCとは違う様子に驚いていた。

 

「ともかく、こいつの装備は助かった」

 

 武器防具は自分が用意したが、他の衣類は彼女たちに用意してもらった。

 

「レベルはどうなんですか」

 

「………この後、全部を預ける気は無いが、協力してくれるのなら公開する」

 

 彼は周りに神経を張り巡らせ、聞き耳を立てている奴はいないか確認する。

 

「協力とは」

 

「こうなったらこいつらの面倒を見る。NPCでもな」

 

 その言葉に嘘は無く、町でもフードはつけていて、片手剣と盾は外していない剣士はミファーを見る。ユウキは心配そうにミファーは、

 

「大丈夫です、例えNPCでも、誰かの大切なものを踏みにじる気はありません」

 

 はっきりと告げた彼女の目を見る。

 

 リンクはしっかりと見た後、

 

「分かった」

 

 レベルはそう簡単には開かせられない。巫女としての力だけでなく、彼女は攻略組と変わらず、現在最大レベルよりやや下。

 

 まるで攻略組を参照にして組まれたようで、黒はサポートに特化していた。

 

 だが問題はそこでは無い為、彼女たちのギルドリーダーがいる場所に移す。

 

 リンクはともかく、ギルド《トライフォース》に協力を求めた。




町では武装しても盾と剣だけ、金髪は目立つからフードはたいてい装備。

これからどうなるか。とりあえずユウキの誤解は解けるのに時間がかかりました。

お読みいただきありがとうございます。


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第6章・聖女とトライフォース

 ギルド《トライフォース》は、はじまりの町を始め多くに支部を持つ。

 

 主な活動は支援特化。低年齢プレイヤーを保護して、アイテム製作だけでなく、武器の製作にも力を入れて助かっているのが実際だ。

 

 中にはドロップアウトした腰抜けと笑う者もいるが、そいつこそがバカだと俺は思う。

 

 無理に攻略するよりも、こうして攻略する者を支援している方が正しいのだ。

 

 そんなギルドを仕切るのは、ゼルダと言うプレイヤーと、彼女の周りにいる四人のプレイヤー。

 

 その中で一番凄い剣士なのがユウキ、攻略組レベル。それが俺の知る限りの情報。

 

 そしていま、ゼルダが詳しい話を聞き、難しい顔をする。

 

「そのようなクエストが………」

 

 いまは幹部と言える者たちがいる中で、彼女を連れて、話していた。

 

「にわかには信じられないけど、ホントのようだね」

 

 リーバルがそう言い、ゼルダは難しい顔のまま俺を見る。

 

「貴方の方針はどうしたいんですか」

 

「安全地帯に置いて、ソロ活動」

 

 それにむっと言う顔になる。

 

「リンク、確かにわたしは以前の力はありません。ですけど貴方の足を引っ張ることは」

 

「だとしても、正直困る」

 

 そう言う中、リーバルはこちらを吟味する。

 

「君さ、隠している情報無いの?」

 

「リーバル」

 

 ウルボザが前に出るが、ユウキは心配そうに見ている中で、俺を見る。

 

「君が慈善活動するとは思えないし、妙に情報を隠してるからさ」

 

「………ちっ」

 

 それにお手上げと言う仕草をして、俺はゼルダたちを睨む。

 

「本当にこいつの安全を約束するか」

 

「………はい」

 

 はっきりと敵意を向けたが、ゼルダはなにも言わず、静かに頷いた。

 

「………作れるんだよ、限定で。結晶を」

 

「なんですって!?」

 

 それは巫女として、女神としての能力。僅かにある女神の力で、

 

「わたしはクリスタル、回復、転移、回路、解毒、記録結晶内どれかを。合計一日10個まで作成が可能です」

 

 クリスタル、結晶アイテムは貴重で、モンスターからのドロップまたはトレジャーボックスで手に入れるしかない貴重品。

 

 それが、いくつかの材料があれば作れる。

 

 ちなみに材料は手ごろで、中層プレイヤーでも用意できる材料だ。

 

「そりゃ凄いね、きっと」

 

「多くのプレイヤーやギルドがこいつを奪いに来るだろうな、ちなみにレベルも高い。前線に無理矢理出されるのが目に見えてる」

 

「………確かに秘密にしたくなる内容ですね」

 

 その話をし終え、俺は《トライフォース》に頼みたいことを言う。

 

「クリスタルの売買はここでもしているから、その中に紛れ込ませて隠せるはずだ。そして俺は遺跡の場所情報を売る」

 

「私たちがあなたの代わりに遺跡に挑戦、クエストをクリアして、戦闘プレイができるNPCを手に入れた。ということですね」

 

「レベルはパーティーメンバーしか分からないだろう、悪いが実験させてもらえれば分かる。どうもテイムモンスターとは扱いは違う」

 

 自分の意思でパーティーに入る入らないが決められ、最終決定権が俺にあるだけ。

 

 それらの話を聞き、向こうは、

 

「いいでしょう、彼女を保護します」

 

「ま、クリスタル作成スキルは、10個でも十分過ぎるからね」

 

「異論はないよ」

 

「ですけど」

 

 ゼルダは纏まりつつある中、こちらに近づいて、

 

「いまのところ、名前をちゃんと聞いていません。そこはあなたがしっかり名前を決めなければ」

 

「わたしの名前は《聖大樹の巫女》です。ですがいまではその名も意味のないもの。あなたに付けてほしい」

 

「………えー」

 

 こうして彼女たちと話し合い『プレミア』が、ギルドへと保護される話は纏まる。

 

 正直俺から離れるのが不服らしいが、ユウキが、

 

「時々会いに来ればいいんだよ」

 

 とか言うから、当然ですねと言う顔でプレミアが見てくる。

 

 仕方ない為、頷き、後はプレミアについての話し合いだが、すぐにできないため、しばらく町を見たり、結晶作成したりして暇をつぶす。

 

 前に………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あの子をユウキとミファーに預けてから、情報屋の一つ、信用できるプレイヤーの下に出向く。

 

 彼女はアルゴと言い、金次第ではベータテスター情報以外なら何でも売るらしい。

 

「リンクカ、新しいマップでも持ってきたのカイ?」

 

 それに頷きながら、情報と資金を受け渡しし、それとは別に、

 

「口止め料込みで情報を買いたい」

 

「ほウ? それはどんなんダ?」

 

「パーティーNPCのついて。テイムモンスターのように、手に入れたなどと言う情報はあるか」

 

「そんな情報はないゼ。なんだ? キー坊みたいに、女の子でも引っ掛けたカ?」

 

「誰だよキー坊って……。口止めだ、無いならそれでいい」

 

「OK、ま、ありがとサン。お代は安くでいいゼ」

 

 口止め料と言っても、彼女はとても信用できる。ちゃんとした値段を渡しておけばいい。

 

 まあそれ以上の金を出されたらどうなるんだろうか、いまはいいか。

 

「ああこれはサービスダ」

 

「?」

 

「ここ最近『ラフコフ』が動いてないらしい………。気を付けてくれヨ」

 

「………ああ」

 

 レッドギルド、殺人集団ね。ソロで動くだけならば気に掛ける必要性は無い。

 

 所詮彼ら程度の殺気なぞ、赤ん坊程度でしか思えなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 数日後、見た目のこともあり、遺跡は隅から隅まで探索が始まる話を聞きつつ、そろそろ色々試そうとゼルダは考えた。

 

「というわけで、このことは貴方たち、私たち《トライフォース》の前線メンバーに伝えました」

 

「はい、このことは、そのリンクって人も承諾してるの?」

 

 ここ最近トレジャーハンターとして、マップ作成を主なフィリアがそう聞くと、

 

「はい、それは承諾済みです」

 

「ま、約束破ったら殺しに来そうだったけどね」

 

 リーバルの軽口に、全員が呆れながら、一人だけ緊張で真っ赤になる。

 

「り、リンクさんがいたんですかっ!?」

 

 彼女、ルクスは別のパーティーだがレベルが高く、リンクとの面識もあり、時たまにユウキたちとも組むためこうしてここにいる。

 

「確か。ルクスは彼が助けたことで不満言う人たちと別れたんだったんだね」

 

 ウルボザの問いかけに、はいと頷くルクス。

 

 ロシア人とのハーフの鍛治師レインだけが良く知る為に、すんなり彼の行動を受け入れていた。

 

「う、うん……。ベータかどうかはともかく、彼は私たちを助けてくれたのは事実なのに」

 

「ベータだからできたとか、リソース奪ったとかね。わたしから言わせれば無いなって思うけど」

 

「うん……私もそう思う」

 

 吟遊詩人ユナは、戦闘以外でも歌を歌い、多くのプレイヤーを勇気づけていた。

 

 そんな彼女たちから見れば、

 

「彼の防具や服装はボロボロ、武器も限界ギリギリまで利用してる。ただ」

 

「ただ?」

 

「全部なんだ。サブならサブで、特徴があるんだけど、それも無いの」

 

 レインがそう言い、全員が首をかしげる。

 

 だがゼルダはそれ以上の詮索はマナー違反であると考え打ち切り、今後について詳しく話す。

 

 パーティー人数は最大6人。

 

 ユウキ、ミファー、フィリア、レイン、ユナ。そしてゼルダ。後でこのパーティーで動きを見ると決めた。

 

「ユナさん、ノーチラスさんは」

 

「………彼はまだ《血盟騎士団》です。障害のことは伝えたんですが」

 

 ノーチラスは簡単に言えばアバターに、理性よりも生存本能を優先させられ、身体が思うように動かない。

 

 VRゲーム、少なくてもこのゲームをするに辺り、障害を抱えていると、相談されたゼルダは判断した。

 

 だが彼はそれでも止まれないと、いまだ必死に抗っている。

 

「分かりました。それでは貴方たちは転移門より移動し、いつも通りレベリングしましょう」

 

「悪いね、お嬢様たちと一緒に行きたいけど、最近《軍》の連中が悪さするから、少し警告しないといけなくてね」

 

「分かってます。それとユウキ、レベルがみんなより上だからと言って、あまり前に出ないでくださいね」

 

「はーいっ♪」

 

 こうして全員が分かれ、会議は終わりを告げていた。

 

 そう言えばと、

 

「どうしたんだいダルケル」

 

「いやな。つい言い忘れてたが、奴さん、フレンド登録していればな~と」

 

「レベルとか分かるから嫌がるんじゃない? 彼、情報少なくしてるし」

 

「まあそうだがな………。どーも少し気になって」

 

「まあ確かに……、最初といまじゃ違う目をしてたからね」

 

 ウルボザたちの最初の印象は、頭のネジが外れかかったプレイヤー。だがそれはこのゲーム故に仕方ないところもある。

 

 だが今回の彼は、まともな思考であり、プレミアを第一に考えていた。

 

「ボクはそう思わないよ」

 

 ユウキはそう微笑みながら、

 

「リンクはあの時だって、ピナやシリカのこと気にかけてたもん」

 

 今回は古株で無いことで話には参加してないが、最近よく話す彼女のことを言い、ユウキは嬉しそうだった。

 

 シリカも《トライフォース》に入り、ピナと共にお世話になっている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 やはり一人の方が気が楽だ。

 

 情報が安定するまで町に滞在したが、ユウキが保護者と来るし、プレミアはよく食べるし色々な日々。

 

 少し慣れないことで疲れた。

 

 全ての武器を定位置にし、少し息を深く吸い、切り替える。

 

「………行くか」

 

 そう呟いたとき、

 

「………あっ」

 

 あることに気づいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは森や崖など、岩が目立つ階層。ここのアイテム狙いもあり、ここで安全にレベリングしていた。

 

「ふう、どうにかなったね」

 

「レインもやるね~、わたしも頑張らないと」

 

 フィリアが辺りの索敵スキルを駆使して、慎重に気を付けている。

 

 はずだった。

 

「あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「この辺り、もうマップが出来上がってると思ったけど、少し穴が。どうする?」

 

「本当ですね」

 

 マップを見ながら進んでいたが、新しい未開拓地がある。

 

「念のため確認しておこうか? わたしたちのレベルなら、罠にさえ気を付けていれば対処できるよ?」

 

「フィリアの言う通りね、私も………。もうヘイトを集め過ぎて囮はしないよ」

 

 そう頷き、ユウキたちもまだ戦えると確信して、ゼルダはしばし悩んだ後、そのマップへと入っていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そうして気を付けて歩く中、宝箱部屋のようで、宝箱があった。

 

「あ~お宝だ~」

 

「フィリアの出番ね」

 

「彼女がスキルで確認するのですね」

 

「ええ」

 

 プレミアの疑問に、ユナが答えつつ、立ち位置を気を付けながら、フィリアが近づこうとしたとき………

 

 

 

 

 

 それが開いた。

 

 

 

 

 

 全員が驚く瞬間、鳴り響くアラーム音。

 

「アラームトラップッ!!?」

 

「けどわたしたち誰も宝箱に触れて」

 

「待ってください、あの宝箱、糸がついて」

 

 

 

「イッツ・ショウ・ターイムッ!!」

 

 

 

 それは、あるギルドの掛け声のようなものだと、全員から血の気が引く。

 

「いまから起きるわ、か弱い女性プレイヤーたちの戦いだっ」

 

 ケラケラ笑うのは、何名かのオレンジ、いやレッドギルドのプレイヤー。

 

「あなたたち」

 

「《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》………」

 

 森の中か岩とフィールド罠で塞がれた道の中、片方はエネミーで、片方はレッドギルドメンバーが防いでいた。

 

「『さあどっちを選ぶゲーム』っ、好きな死因を選びなっ」

 

「ユウキっ」

 

「ぁ………」

 

 ユウキが震えながら剣を持つのでやっとであり、プレミアが細剣、全員が武器を構えるが、

 

(だめ、私を初め、誰も対人戦闘なんてできないっ)

 

「あれれ~なんでNPCもいるんだろう?」

 

「どーでもいい、一緒だろ? 最後は」

 

 ケラケラと笑う中、ゼルダはすぐに指示を飛ばせない。

 

(よりにもよってラフコフだなんてっ)

 

 自分の判断ミスを呪いながら、ミファーを見る。彼女は結晶を使おうとしたが、

 

(ダメ、結晶アイテムが使えないエリアだ)

 

 ミファーたちは絶望しながら、周りを見る。

 

(どうする………)

 

 どちらを突破する力は、ユウキと合わせればいいが、ユウキは戦えそうにない。

 

 当たり前だ、彼女に死の選択肢なんて、させたくない。

 

 だけど、ここはユウキの力が必要で………

 

(だめ、それだけはダメッ)

 

 ゼルダがそう強く、心の中で叫んだとき、

 

「来るよっ」

 

 エネミーたちが一斉に………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 助けて………

 

 死にたくないし、誰かを傷つけるなんてしたくない。

 

 たす、けて………

 

 だけどこのままじゃみんな………

 

(だれか………たすけて)

 

 その瞬間、エネミーが、

 

 

 

 

 

「抜刀ッ」

 

 

 

 

 

 そう叫び声が聞こえ、全エネミーが横一文字で切り裂かれ、ポリゴンへと変わる。

 

 全員が驚く中、ユウキやゼルダたちの視界に飛び込んだのは、

 

「リン、ク………」

 

「任せろ」

 

 そのまま刀を仕舞い、レッドプレイヤーたちへと迫る。

 

 何名か憤怒のまま、無策に飛び込んでくるが、彼はすぐ居合いの構えを取った。

 

「邪魔だ」

 

 何のためらいもなく、彼らを斬り飛ばした。

 

「なっ………」

 

 レッドとはいえ、躊躇いも無く人を攻撃できる。それは、普通の神経では無い。

 

 だが彼らは死なず、武器だけが破壊され、変わりに短剣が刺さり、その場に倒れた。

 

「毒かッ、俺たちの得意芸をッ!」

 

 一人の赤い目、エストック使いが斬りかかるが、

 

「切り替え」

 

 一撃を躱した瞬間、即座にスピードが上がり、深々と短剣が刺さる。

 

 だが舌打ちをして、そのまま躱して蹴り飛ばす。

 

「うわっと」

 

 そのエストック使いの後ろから、肉切り包丁を持ったプレイヤーが斬りかかろうとしていたため、エストック使いを蹴り飛ばして盾にした。

 

「キミィ~、なかなかいい動きするねっ。どう? ウチら《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》入るかい♪」

 

 ケラケラ笑いながら、そう言い後ろの仲間に彼を渡しながら、リンクは静かにしていた。

 

 ゼルダたちはすぐ後ろにいて、即座に位置を間にして、睨む。

 

「気を付けてくださいっ、彼は『PoH』! レッドギルドのリーダーですッ」

 

 そう言われながら、パフォーマンスするように大きく腕を広げている。

 

 だが、

 

 

 

「ラファンコファン? 知らないな」

 

 

 

 とても的外れなことを言って、片手剣と盾を構えた。

 

「………は?」

 

「いやだから知らない。なんちゃらってレッドギルドはあるのは知ってたが、お前らか」

 

 それに後ろにいるユウキたちも驚いていたが、彼はその場で軽く飛びながら、

 

「そのリーダーなら問題ないか。来いよ、殺してやる(・・・・・)

 

 とても簡単に言い、構えた。

 

「だめッ、彼の持つ武器は魔剣クラスですっ。ただの防御力じゃ、HPゲージが」

 

「もう遅いイィィィィィィィィィッ!!」

 

 楽しそうに向かってくるが、彼は、

 

「………」

 

 静かに彼の攻撃を全て防ぎだす。

 

 金属音が鳴り響き、交差する剣舞に、全員が驚く。

 

「わ、わたしの剣っ。相手はフルプレートアーマーの装甲値も貫くのに」

 

「いや、うまくすれば防げるぞ」

 

 リンクは余裕の様子で、ほぼその場にとどまりながら、ラッシュを防ぎながら、無言であり、気にせず斬撃を放って吹き飛ばした。

 

 そのまま吹き飛び、ゲージが逆に減らされ、こちらを睨む。

 

「お前………」

 

「………」

 

 殺気の中、気にも留めず、静かに構えるが、

 

「いいのか? そろそろ他ギルドメンバーが来るぜ。俺がここにいるってことはどういうことか、分かるか」

 

 その言葉に、いまだ麻痺で動けないプレイヤーは睨み続け、彼も舌打ちして、

 

「キミ、かお、覚えたから」

 

「そうかい」

 

「覚えてろ………」

 

 赤い目のプレイヤーは立ち直り睨みながら、レッドギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》は他の動けない仲間は見捨て、その場を後にし、彼は、

 

(弱すぎだよ、お前らの殺気)

 

 僅かに吐き捨てるように、鞘に剣を収めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 はっきり言えば、彼がここを知ったのは、プレミアとフレンド登録されていたからだ。

 

 した覚えが無かったが、どうやらクエスト結果によるもので、されていたらしい。

 

 そして別にギルドメンバーが来るのは、嘘だ。

 

 単純に戦う気は無かったから、あんな嘘を言った。

 

「ともかく、平気か」

 

「ええ……。ありがとうございます、リンク」

 

「気にする……、ユウキ?」

 

「………」

 

 呼びかけられたユウキは倒れかけ、それを急いで抱きしめる。

 

「ユウキッ」

 

 呼びかけるが返事は無く、ミファーたちも驚く中、彼は回路結晶即座に使い、転移門側に全員を移動させた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 倒れたユウキを《トライフォース》の支部へと運び、捕まえたプレイヤーも牢屋へ。

 

 今日はここで休ませもらうことにし、その一室を借りて休む。

 

「居てくれて助かります。きっとあの子、ユウキはあなたの安否を聞くと思いますので」

 

「………」

 

 それになにも言わず、結局彼は何者か分からない。

 

(一瞬でアラームのエネミーを消すソードスキル、リンク……。あなたはいったい)

 

 ゼルダは感謝と疑念が入り乱れながらも、彼がユウキのために今日はここに留まることに感謝しながら、

 

「そう言えば、なぜプレミアを探していたのですか?」

 

「………彼奴の所持金、装備は渡したが、アイテムもなにも渡してなかったからな………」

 

 そう言い、彼は与えられた部屋で休む。

 

 やはり彼は分からない。そうゼルダは思い、色々な手続きの為に、部屋へと戻るのだった………




正常と異常切り替えて、彼は正常に生きています。

これは果たして正常か?

人を殺すことの忌避感も、もはや遠い過去。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第7章・空白期

オリジナルは続くよ。


 第65並び66層、古城のようなエリアを、それはいつものように狩りをしていた。

 

 現在66層、多くの攻略組やプレイヤーがマップを作ったりして、攻略している。

 

 マップの情報や、モンスターのパターン情報は売買する。故に彼もここにいた。

 

「さてと」

 

 アストラル系、つまりオバケなどのモチーフモンスターが多いフロアで、意外と阿鼻叫喚が響き渡る。

 

 そんな中俺はいつも通りであり、念のため銀製にしたりする程度。

 

 初撃は抜刀かブーメランかくらいで、その後攻撃を変える。

 

 周りに多数いるのなら槍を振り回し、前にいるのなら二刀流。大型なら大剣で、始めてみるのなら盾と片手剣。

 

 様々な情報を得てから倒し、闇夜に溶け込む。

 

 格好は本人の感覚では《ハイリアシリーズ》に似た、コートの装備。

 

 懐には多数の投擲武器があり、アイテムも隠し持つ。

 

 いつものように《亡霊》は亡霊エネミーがウロウロするエリアをうろつくのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

(………攻略組か)

 

 部屋の死角、身体を隠し長い槍を持つ。

 

 その視線の先には《血盟騎士団》が前に進んだり、マップ製作していた。

 

(そう言えば《閃光》はいない………)

 

 彼女とユウキの友情はどうなるんだろうか? それを考えると、いまの状況で母親と向き合うとか以前の問題過ぎて、どうなるか分からない。

 

 頭を切り替えよう。

 

 静かに物音を立てずに、彼はその場を後にした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女《閃光》の『アスナ』はオバケ系は苦手だ。

 

 攻略になんか行きたくない。

 

 そうして以前のように顔を隠し、それでも何もしないことはできないため、町近くのフィールドを歩く。

 

「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない―――」

 

 その様子こそ怖いと誰かが言いそうだが、誰も言うものはいない。

 

 そして彼女はエネミーですら怯えていた。彼女の方が格段に高く、出会ったら光速で倒して撃墜はしているのだが………

 

「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない―――」

 

 そうしていたら、

 

「あれ、ここどこ?」

 

 迷った………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 メッセを飛ばす。

 

「助けて助けて助けて助けてたす、きゃーーーーーーオバケーーーーーッ」

 

 メッセを三桁ほど飛ばして、キリトに連絡を取ろうとするアスナ。

 

 本人はもう病的なほどの量なのに、場所は一向に送られてこないため、フィールドを駆け巡りながら、送られるメッセの処理をしていた。

 

 悲鳴を上げながら、アストラル系エネミーを余計に呼び出して、悲鳴を上げながらフィールドを駆ける。

 

 その悲鳴に多くのプレイヤーが悲鳴を上げる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やっ、はっ」

 

 ユウキがレイスを切り裂き、プレミアが細剣で突き、レイン、ルクスが片手剣が交差して切り裂いた。

 

 今回もルクスは別パーティーだが、行動を共にする。

 

 そして今日はユナの側に《血盟騎士団》のノーチラスもいて、レベリングしながら進む。

 

 白いワンピースのような衣類のミファーはゼルダを見る。

 

「ゼルダ、だいじょうぶ?」

 

「ええ………。ふう、やはり銀製でなければダメージが少ないようですね」

 

「うん。今回はノーチラスくんがいるから、だいぶ楽だね」

 

「わたしは出番が無いな~」

 

「あたしもです、ピナは大活躍ですけどね」

 

 シリカもまた、そのパーティー加わり、ピナと共に行動している。

 

 いまだ各々から渡された装備、ユウキ共々愛用できていて、シリカはその装備を身に纏い、こうして前線階層付近で、パーティー戦をしていた。

 

 ピナもみんなと仲が良く、メンバーを再度確認するゼルダ。

 

 自分、ミファー、ユウキ、シリカ、フィリア、レイン、ルクス、ユナ、ノーチラス。

 

 そしてやはりと言うか、最近注目を集めるNPCプレミア。パーティー人数を越えて連れて来られる彼女は、戦闘してなくてもレベルが上がる。

 

(おそらくは、本来クエストクリアした彼のレベルを基準にしてるんでしょうね)

 

 その男、リンクは時々彼女の前にふらりと現れ、装備の確認やお小遣いを渡しに来る。

 

 ユウキもその事もあり、プレミアと組むようになり、彼と関わることが増えた。

 

 リーバルは相変わらずで、ダルケルとウルボザは、それでも変わらない彼のソロ活動に心配している。

 

 悪い人では無いのだが、彼は一人を選びすぎている。それはゼルダたちの感想だ。

 

「あれ?」

 

「どうしたのユウキ」

 

 ミファーが首をかしげると、ユウキは、

 

「いやなにか悲鳴が」

 

 

 

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 

 そう言い悲鳴を上げながら、彼女たちの下に現れた《閃光》に、全員が驚くと共に一斉に走り出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ごめんなさいっ」

 

「い、いえ」

 

「このエリアのエネミーは怖いですからっ」

 

 そう言い、フィールドを走りかけた彼らは、フロアを確認してた。

 

「ゼルダ、この辺りはまだ未開拓だと思うよ」

 

「ルクス……、まだ結晶は使えますから、ここからはマッピングやフレンド相手の位置で場所を確認しましょう」

 

 ゼルダたち《トライフォース》は多くのフレンド登録をして、自分たちの位置把握を利用してのマップ製作を得意としている。

 

 これは《血盟騎士団》も信用できることであり、アスナはメッセを飛ばし続けた。

 

「あ、あの、そろそろメッセ飛ばすのは」

 

「だってだってっ、キリト君ぜんっぜん来ないんだもん!」

 

「ふ、副団長? いくらなんでも飛ばし過ぎです………」

 

 手の動きだけが高速で、ソードスキル並みに飛ばされている。

 

「アスナさん、怖いの苦手?」

 

「うっ、うう~」

 

「そ、それは私も苦手ですよ。オバケは仮想と分かっていても、急に出てきますし」

 

「うう~………ノーチラス君、分かってるよね」

 

「は、はいぃっ」

 

 急に鋭い目つきになり、黙るように言われ、ユナは苦笑する。

 

「ううっ、アスナさんとキリトさん、どういった関係なんでしょうか」

 

「頑張ってシリカ」

 

「はい、ルクスさんも」

 

「わわわ、わたししししは」

 

 そんな会話の中、ゼルダは周りを確認するが、少し距離があった。

 

「やはり知り合いは遠い位置ですね」

 

 そう呟くと、

 

「いえ、近くに彼がいます」

 

 そうプレミアが言い、それにルクスとユウキが食いつく。

 

「それってリンク?」

 

「りり、リンクさんが側に!?」

 

「お、落ち着いて。プレミア、分かりますか?」

 

 ミファーの問いかけに、指さす方角は、

 

「壁だね」

 

「壁……、って、この壁」

 

 フィリアが何か気付いて、調べると、ぼこっと言う音と共に、壁が開いた。

 

「隠し扉っ」

 

「さすがトレジャーハンター!」

 

「へっへーんっ」

 

 得意げのフィリアと共に、プレミアは、

 

「地図の位置から、この先にいます」

 

「正直先に進むのは危険ですが、このメンバーなら問題ないですね」

 

 ゼルダはそう言い、先に進むことにした。

 

 隠し扉は階段で、少し薄暗く、全員で進んでいく。

 

 少し奥へと進むと、落とし穴と言うか、亀裂がある。

 

「これは………」

 

 そしてロープが柱に結ばれ、亀裂の下に続く。

 

「位置は重なってます」

 

「それでは、彼はこれを使って下に?」

 

 彼らはしばらく考えた後………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「暗いな………」

 

 下に着いた俺の感想は、たいまつ程度の灯りで、道は先はある。だが少しばかり奥が見えない。

 

 トラップがきついなと思いながら、俺は揺れるロープに気づかず、カンテラに火を灯したりして、準備していたら、

 

 

 

「うわあーーーーーーっ」

 

 

 

 上から何か聴こえると共に、ロープがポリゴンに変わった。

 

「ロープの耐久性が!? そもそもいまのこっ、えっ!?!」

 

 上から何名か、プレイヤーが落下してくる。

 

 一人はすでに受け身の耐性だが、他は、

 

「くそっ!!」

 

 瞬時全ての武器を外し、俺は着地する男以外全てのプレイヤーをキャッチしては下して次へと繰り返す。

 

「エンドっ」

 

 そう言い抱き止めたのは、赤毛の少女。

 

「平気か」

 

「は、はひ………」

 

 ともかく、全員は即座に助けることができて、帰り道は無くなった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「結晶は不可、道はトラップ系と思われる道しか無しか」

 

「すいません、ロープが切れたのは私たちの所為です………」

 

「いまさら言っても仕方ない。ともかく」

 

 槍をメインに切り替え、その刃先に油を染み込ませた布を巻き、たいまつも用意。

 

 カンテラも用意して、ゼルダ、アスナに持たせた。

 

「このカンテラ、明かりの範囲が広い………」

 

「あとはたいまつだ、エネミーにタゲを取られやすくなるが、この暗さじゃ、気付かない方が危険だ。いま火を点ける」

 

 手慣れたもので、火をすぐに点け、槍の布にも点けた。火を移してだいぶ明るくなる。

 

「ピナは索敵スキル持ちか、この暗さじゃシリカは短剣よりたいまつを。光源担当はレベルの低い奴と、高い奴。前衛と後衛。後衛はカンテラ持ち一人に二人付いてくれ」

 

 そう言いながら、不満が無いが、

 

「慣れてるね、指示」

 

「まーな、考えるのが好きなだけだ」

 

 レインにそう言いながら、ともかく話はここで区切り、奥へと進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 槍の刃先、耐久性を削らないように火を点け、灯りと共に、床を叩きながら慎重に進む。

 

 カンテラを盾の手に付け、右手で火の点いた槍を持つ。

 

「とはいえ戻ったら整備だ」

 

「………はあ」

 

 レインがため息を付き、フィリアとルクスはまあまあと話しかける。

 

 奥に進む中、エネミーはいないかわりに、トラップが多く。

 

 アスナはユウキの後ろにずっといる。

 

「落ち着いてくださいアスナさん……」

 

「だって、もしもここでエネミーが出たら………キリト君はなんで来ないのっ」

 

「副団長、さっきから思ってましたが、階層は伝えてるんですか?」

 

「ノーチラス君ナイスっ、キリト君早く来てッ」

 

 そして今度は隠し扉の件を忘れ、彼に送信し続けることを彼女は知らない。

 

 リンクは気にせず、息を殺し、物静かに進んでいた。

 

「静かに」

 

 そう唐突に告げストップする。光源で先を照らすと、

 

「壁になにか?」

 

 壁はただの古いレンガ作りの壁。

 

 だがフィリアが目を凝らしてよく見ると、

 

「! この壁っ、レンガを使って隙間に穴があるっ。矢か槍が飛び出るトラップだよ」

 

 フィリアの言葉に、リンクは壁際に近づき、微かに調べる。

 

「手伝う?」

 

「君はピナと共に襲撃を警戒してくれ。俺は」

 

 少し大きめの石をストレージから取り出し、投擲スキルでショートする。

 

 矢が一斉に放たれ、次に二射を放ち、反応が無いのを確認し、

 

「俺が先に行って、トラップが発動しないか確認する。返事が来るまで来るな」

 

「分かりました」

 

 矢が発射されてからタイムラグがあるのを確認して、彼は今度は火が付いた石で投擲。

 

 明かりのおかげで矢が放たれ、どこが安全か確認しつつ、次に進む。

 

 進む彼を見ながら、フィリアは感心していた。

 

「手慣れてるよ彼。光源が向こうにも設置してから進むなんて、かなり慎重かつ、少し強引に進んでる」

 

 そしてガコンと言う音の後、問題が無くなり、彼が戻る。

 

 以下のようなトラップを繰り返しながら、先へと進む。

 

 そして、

 

「待て」

 

「声?」

 

 リンクとフィリアだけがそう言い、ユウキたちは耳を傾けた。

 

「なにも聞こえませんが」

 

「フィリアは聞き耳スキル伸ばしてるからね」

 

「きゅあ」

 

「ピナも。索敵に反応です」

 

 先ほどの光源の石で、先を照らしてみると、扉がある。

 

「扉………索敵は」

 

「敵……ではありません。プレイヤーです」

 

「さてと、問題は何色かだ」

 

 その言葉にユウキが僅かに下がる。その姿を見たアスナは、やっと本調子に戻る。

 

「貴方たちは後ろに下がっていて、ノーチラス君は彼女たちの護衛。オレンジ並びレッドだった場合、私たちが対処します」

 

「あっ………」

 

「だいじょうぶ、ここまで守ってもらったから。あなたのこと、ちゃんと守るよ」

 

 アスナはユウキにそう語り掛け、扉を見る。

 

「開けるぞ」

 

 そしてリンクは扉を開ける。

 

「っ!?」

 

 そこにいたの、グリーン・カーソルのプレイヤー。

 

「あなたたち」

 

「《月夜の黒猫団》」

 

 そして彼らだけの物語は動き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「アスナっ、どこだ。アスナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 一方、階層を走り回る《黒の剣士》がいた。

 

 彼のことをいま彼女は、完全に忘れているとも知らずに………




キリトくん大変だな。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第8章・変わり出す時

迷宮区で出会ったのグリーン・カーソルのギルド。

月の夜の黒猫との出会い、何が起きるのか。


 槍使いの女性、メイスと片手剣盾の前衛、シーフ系に棍、スタッフのリーダー。

 

 これが最近頭角を出している攻略組、ギルド《月夜の黒猫団》であり、そのリーダーの『ケイタ』から話を聞くと、隠し通路を発見して潜ったところ、トラップにだいぶやられ、いまは安全圏であるここで休んでいる。

 

 この部屋だけは部屋と言うように綺麗であり、光源もしっかり機能している。扉は一つ豪華なものがあり、これが先に続く道だ。

 

 黒猫団は床に疲れ切って横になっていたりしていたとき、もう一つの入り口、自分たちが入った扉から自分たちが現れた。

 

「普通に進んだ先がここ? 私たちはロープを使っておりましたが」

 

「えっ、それはおかしいです。僕たちはただ下りて行きました」

 

 ゼルダとアスナが彼らと会話すると、深く考えだす。

 

「どう思いますか」

 

「おそらく、迷宮区が動いたとしか」

 

「通路が切り替わったんだろう」

 

 俺は静かに相談会の中で、情報を提示する。

 

 それだけでアスナには通じたらしい。

 

「そうか、誰かが通ったり、一定の時間が経つとフロアの入り口が変わる仕掛け。確かに聞いたことあるわ」

 

「なら我々が通った道も、いまは別の道に変わっていますね。あれ? ならあなたの時は」

 

「俺は入口は微かに開けたまま、閉まらないように仕掛けにストッパーを仕掛けている」

 

「あっ………」

 

 フィリアは心当たりがあるようにそう言い、それに少し失敗したらしい。

 

「ともかくここで情報交換と状況確認しましょう」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まずは私《トライフォース》ギルドリーダーゼルダ。そして幹部のミファー。仲間のフィリア、レイン、ルクス、ユウキ、シリカ、ユナ。そしてプレミアのパーティー」

 

「私はソロで探索をしていた《血盟騎士団》のアスナです。彼らとは途中合流を。そして」

 

「《血盟騎士団》のノーチラスです」

 

「ソロのリンク」

 

「こちらは《月夜の黒猫団》ギルドリーダーのケイタ。同じ前衛の『ササマル』にシーフの『ダッカー』。メイスの『テツオ』に」

 

「『サチ』です」

 

 前衛か後衛か話をしながら、アイテムの数も確認するが、

 

「すでに潜っていたプレイヤーは仕方ないが、俺以外全員結晶頼りだったのか」

 

「すいません」

 

 リンクからポーションを分けてもらいながら、全員にHP回復アイテムを受け取り、一部を使う黒猫団。

 

 それでも数はまだあり、ストックは貯めているらしい。

 

「あんた意外とお金もあるし、普段からどんなレベリングしてるのよ」

 

「基本だ」

 

 リンクはそういう中、ケイタたちは僅かに怪訝な顔をする。

 

 ともかく、ゼルダとケイタ以外、ギルドリーダーはいない。

 

「すいません、これからの方針を決めます。アスナさんとリンクさん、貴方たちの意見も聞きたいので参加を」

 

「ああ」

 

 そうは言うが、どうするかはほぼ決まっている。

 

「先に進む、それしかまずないと思いますが」

 

「そうですね……、通路が一度使うたびに切り替わっているのなら、どこがどう変化しているか分からない以上、戻るのは危険です」

 

「ただどうする? この大人数で先に進むのか?」

 

「全員が初対面、さすがに無謀ですが仕方ないですね」

 

 ゼルダはそう言うが、気になる点もある。

 

「俺はもう一つ注意するべきことがある」

 

「フロアボス、よね」

 

 アスナの言葉に、全員が僅かに硬直する。

 

 いまだ見つかっていないこの階層のフロアボス。もしかすればこの先にいる可能性があるのだ。

 

「ですが逆に考えれば、フロアボスのエリアなら、結晶を使い町に帰還することもできます」

 

 そんな話をしながら、一応このメンバーは気を付けていればここのエネミーは問題なく倒せる。

 

 そして話がまとまり、ちぐはぐなパーティーが結成された。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ともかくいまは昼時です、せっかくですから食料を分け合って食事にしましょう」

 

「そうですね」

 

「ボクお腹ペコペコ~」

 

 そうして全員が張り詰めた空気から、ピクニック風に変わりながら、食事の準備をし出す。

 

 仕方ないかと《山菜おにぎり》と《肉おにぎり》を出して食べる。

 

「リ~ンクっ♪ 交換こしようよっ」

 

「別にいいが、女子受けしそうなのは《ナッツケーキ》しかないぞ」

 

「なにそれおいしそうっ♪」

 

「いただきます」

 

 プレミアがすぐに気づいて近づいてくる。この子はなんていうか、腹ペコな子になった。

 

 そんな感じで会話する中、ルクスたちがこちらを見て微笑んでいる。助けろ。

 

 こうして食事を終えて、とっとと脱出しようか。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 私たち黒猫団を交えて、探索を始める。

 

 私たちはすでに疲労していることもあり、真ん中にしてもらい、先頭は彼、リンクが歩いてくれてます。

 

 こうして先に進む中、少し不服そうな顔のケイタ。

 

 あの後、私が追い詰められて逃げて、相談に乗ってくれた後、キリトがベータの《黒の剣士》と知ってから、みんなキリトの話をしなくなった。

 

 彼らベータは、リソースを早く確保して、前線に出ている。

 

 彼もそうだろうか?

 

 そう言う疑念が私たちの中にあり、それでもゼルダさんやアスナさんの指示を的確に聞く。

 

 ゼルダさんは支援ギルドとして名高い《トライフォース》で、レベルは攻略組で私たちくらいだけど、指示に関しては攻略組としてしっかり聞いている。

 

 その中で《絶剣》のユウキちゃん、そしてサポートNPCプレミア。この二人に古株のメンバー四人が凄い。

 

 そして《血盟騎士団》のアスナさん。この人も攻略組として聞かない日は無い。

 

 そんな中、私は《亡霊》リンクを見つめた。

 

 多くの武器を身に纏って、攻略にも出ないベータ。

 

 実力は分からないけど、ゼルダさんたちがここにと言ったのだから、私たちはなにも言わない。

 

 そしてだいぶ奥までくると、

 

「少し待て」

 

「どうしたの?」

 

 後ろのアスナさんが訪ね、リンクさんはカンテラを掲げ、周りを見る。

 

「広い部屋、拓けたエリアに出る。こういったところ、入ると罠が発動する決まりもある、できれば調べてからか、覚悟してはいるかのどちらかにしたい」

 

「えっ? 暗くてなにもって」

 

 フィリアさんが何か言う前に、ストレージから布が巻かれたこぶしほどの石を取り出して、火を点けてから投擲する。

 

 彼が言う通り、拓けた場所であり、妙に広すぎた。

 

「これはなにかあると判断した方がいい。光源も、やけに狭いな。こういうところは明かりを点ければ仕掛けが解けるのが多いから、関係があるかもしれない」

 

「確かに」

 

 彼の言葉が的を射る言葉であり、私たちも頷く。

 

「気を引き締めて中に入りましょう。中に入ったら」

 

「トラップ解除は、この手は先に言ったものか、スイッチ系とエネミーを倒す系か」

 

「だね、暗い部屋………。明かりを付けたりする類か」

 

 フィリアさんの言葉に、方針として、明かりを点ける場合は私たち黒猫団と明かり組が、エネミーなら彼とアスナさん、ユウキちゃんとプレミアちゃんが組んで、ユナさんのバフの歌を受けて戦う。

 

 そして全員が部屋に入ると共に、部屋の入り口が塞がった。

 

「お、おいっ」

 

「落ち着いてっ、予想できる事態よ! 全員注意っ」

 

 アスナさんの言葉に、言われたことを思いだして、構える。

 

 それと共に、部屋の奥から、

 

【おおぉぉぉぉ………】

 

 アストラル系のエネミーが多数出て来た。

 

「いっやあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「えっ、あ、はい?」

 

 リンクさんを始め、私たちは困惑する。アスナさんがユウキちゃんを抱きしめて、その場に座り込んだ。

 

「あ、アスナ」

 

「おば、おばおば、オバケーーーーーーーー」

 

「副団長せめて他の人にっ」

 

 その瞬間、ブンっと言う音と共にブーメランが放たれていて、アストラルエネミーにヒットしたけど、

 

「ダメージが入らない、仕掛け系でしか消えないトラップ」

 

「ならタゲを取ってて、私たちが仕掛けを解く」

 

「仕方ないか」

 

 リンクさんが走り出し、攻撃は効かなくてもタゲを取るために前に出る。

 

 鎌や剣、西洋のオバケのようなそれらの攻撃を避けながら、少しずつ数が増えていく。

 

「お、おい俺たちも仕掛け、急げっ」

 

 全員が動く中、アスナさんも悲鳴を上げながら動き出す。

 

「燭台らしい台座ありっ、火を点けます!」

 

 急いで全員が持っている火で火を点ける中、彼は、

 

「す、すげえ」

 

 ケイタたちが驚くのは、リンクさんがギリギリで全部の攻撃を避け、けして武器で防がない。

 

「なんで武器で」

 

「あの手の罠は武器も通過する可能性が高いよっ、急いで火を点けてっ」

 

 ルクスさんからそう言われ、私たちが火を点けている。

 

 そろそろ部屋全体、そう思った時、カンテラを持ったシリカさんが、

 

「最後の一つですっ」

 

「それを壊しても構わないっ、早く火を点けろっ」

 

「は、はいっ」

 

 そう言って、思いっきり叩き付けて、燭台に火を点けると、アストラル系のエネミーは悲鳴と共に消えて、部屋が明かりで照らされ、いままで真っ暗だったのが不思議なくらいに明るくなった。

 

「ご、ごめ、ごめんなさい。キリト君はなんで来ないの~~~っ」

 

 その時、アスナさんからキリトの言葉を聞き、私たちは驚く。

 

 彼はアスナさんにも慕われるほど、凄い人になっていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ごめんなさい、カンテラを一つ壊してしまって」

 

「構わない」

 

 そして彼はそう言うが、あの手の道具は高い気がした。できればギルドリーダーとして弁償しなければいけない。

 

 それでもなにも言わず、彼は奥の部屋を見る。

 

「これは」

 

「スライドするパネル……、バズルか」

 

 リンクの言葉に、私はそのパネルを見て、これは、

 

「「町でよく見かけるマーク」」

 

 私の言葉と共に、リンクはそう言う。

 

「町? 町ってこの階層の?」

 

「えっ、ええ。確か、正しいマークは」

 

「問題ない覚えている」

 

 そう言ってパネルを動かしだす彼。私たちは距離を置く。

 

 彼は迷いなくパネルを動かして、次々と形になっていく。

 

「もう少しで完成する」

 

 そう言うと共に、パネルが完成すると、壁画が沈み、階段が現れた。

 

「これでよし」

 

「あんたこんだけできて、どうして攻略組にいないのよ………」

 

 レインがそう呟くと、彼は嫌な顔をする。

 

「個人戦ならボスには挑むさ。だがボスは個人でどうこうできるはずもない」

 

「それは、ならギルドにでも入れば」

 

「ベータなんて言う噂がある奴、入れる奴いるか」

 

「だけどっ、リンクはベータじゃないんでしょ」

 

 ルクスの言葉に、黒猫団の皆さんが驚く。

 

 確かに彼はそう言う噂が流れているが、

 

「確かに………。キリトくんから聞きました、貴方は、ベータテストの時いなかったって」

 

 アスナさんの言葉に裏付けは取れた。

 

 キリトはベータテスターとして有名な《黒の剣士》だ。

 

 その彼が知らないのなら、

 

「リンク、私はベータなどなんだので人を決めません。貴方が良ければ《トライフォース》に来ませんか」

 

 そう私が言うと、彼はそれは嫌悪な顔で、

 

「あんたがよくても周りは良くないんだよ」

 

「それは」

 

「《黒の剣士》キリト。彼がベータと言われ、ゲーム始まってソロを貫いたことは知っているな」

 

 その言葉に、私とアスナさんは黙る。

 

「その理由はベータテスターが情報を出し渋っただの難癖が付けられ、結果彼が自分のプロフィールを公開することで話は終わった。だけど結果彼はソロ活動をしなければいけなかった」

 

「それは」

 

「ソロで活動できたからした? そんなわけないだろ。ベータだからと言う嫌悪は全プレイヤーが抱くもの、自分以外に矛先が向かないように、ソロ活動してたんだろう」

 

「………どうしてそう思うんですか」

 

 それには彼ははっきりと、

 

「《黒の剣士》はほぼ攻略戦において、必ず出る。周りからどんな目で見られてもな。俺ならやだね、死ぬかもしれない中、自分だけ味方がいないと言う事態」

 

「だけど彼奴らベータはリソースを奪ったんだろ」

 

 ケイタさんがそう吐き捨てるように言うが、それこそ彼は吐き捨てるように、

 

「それは自分たちはしてない言い方だな」

 

 それに私たちは黙る。

 

「攻略組だろうがなんだろうが、結局このゲームはプレイヤー同士のリソースの奪い合いが大前提のゲームだ。もうこの時点でベータたちは死ぬかもしれない中、茅場の所為でこのゲームを作った者の一人なんてものはない。俺はそう言える」

 

「………」

 

 それに私たちは黙り、彼ははっきりと、

 

「《黒の剣士》はそんな視線の中、いまだ死線をこなしてる。俺は《軍》よりも信頼できる」

 

「………あなたは」

 

「ちなみに俺が前線に出ないのは、噂だけじゃない。結局、ボス攻略戦も、他の手を借りるとリソースの奪い合いが始まるから。どちらかが折れて納得するまでな」

 

「………」

 

 アスナさんはその言葉に黙り込む。

 

 確かに、リソース。情報やアイテムの温存など考えてしまう。

 

 私たちは支援する立場であるため、前に出るギルドへの支援ははっくりさせている。

 

 その中で《軍》だけ攻略には出ないのに、治安維持の為に出せと意味も無く貴重なアイテムを要求してきたこともあった。

 

「ちなみに、今回で初戦でフロアボスと出会い、討伐した場合はどうなる?」

 

「………関係上、このメンバーならゼルダさんの《トライフォース》がボスを討伐したことになり、波風は立ちません」

 

「だが応募があった際中なら」

 

「………問題になります」

 

 アスナさんの言う通り、情報だけ盗んで出し抜く行為はかなり厳しい罰があるが、

 

「だがゲームクリアを目指すんなら、誰がボス倒そうが関係ないはずだろ」

 

 矛盾していると彼は言う。

 

 確かに、誰が倒すだなんて関係ない。

 

 私は、私たちは早くこのゲームを終わらせたいのだから………

 

「俺は出れば必ずボスを倒す」

 

 それはまるでできるできない関係なく、すると言う意思が込められた言葉。

 

「だからこそ、妙なルールや縛りがあるのなら、マップ作製とエネミーパターン情報を売り続けている方が攻略が早まると思っている」

 

「………あなたは」

 

「おかしいか、おかしいだろうが、俺はその方が気楽だ。俺は早くこのゲームを終わらす。それ以外に興味は無い」

 

 それには怒り、憎しみが込められた本音だと、はっきり伝わった。

 

 この人にとって最善が、攻略組に参加するのではなく、パターンなどの情報確保こそが早いと、彼がそう思っている。

 

「ゲームがクリアできるのなら、ベータだろうがビーターだろうが関係ない。それでベータやピーターに文句を言うのは、ゲームクリアより、自分の身や仲間を第一にする奴か、ただのバカだ」

 

「………辛口ですね」

 

「本音だ」

 

 そう言い、彼は階段を昇っていく。

 

 私は………

 

「ゼルダ姉ちゃん………」

 

 不安そうなユウキがそこにいて、私は、

 

「だいじょうぶ」

 

 私の目的はこの子を安全な世界へと帰す。

 

 それが私の願いだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 リンクさんの言葉に、私たちは言葉が無い。

 

 私たちはどうだろう。キリトがどんな気持ちでソロで活動して、私たちと一緒に居たのだろう。

 

 彼は疲れていた気がした。

 

 とても疲れて、そして私たちと一緒に居て楽しそうだったはずだ。

 

 だけど、彼はそこからいなくなった。

 

 彼は………

 

(どこで間違えたんだろう)

 

 そう思いながら、急いで彼らの後を追う………




彼らはどうなるか、黒猫団はどうなるか。次回に続きます。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第9章・初めての戦い

 階段を上ると、中心に水晶の固まりが奥にある、広々とした円形の空間。

 

 周りの燭台に灯が灯り、それだけで部屋が照らされていく。

 

 それに俺は、俺たちは嫌な予感しかしなかった。

 

「アスナさん、ここは」

 

「ボス部屋よっ」

 

 そう彼女は焦り、叫んだ時、部屋の壁を駆け巡り、馬車の音と共に首無し騎士が二頭の馬と共に現れ、水晶の前に現れた。

 

 黒い甲冑に傍らに兜を持ち、兜の隙間から赤い眼光が見え、青白い炎が灯っている黒い鎧騎士。それが馬車の上に立っている。

 

 大きさは大の大人ほどの人型、馬は巨大であり、炎からの熱は感じない。

 

 その手にはまずは両刃両手剣が片腕で握られていて、馬も鎧と青白い炎でできていた。

 

「チッ、ボス戦だけはしない方針だったがッ」

 

 向こうが巨大な大剣を構える中、ゲージができた瞬間、俺は前に出る。

 

 まずは初撃でブーメラン。出ると共に投擲し、それは鎧の僅かな隙間を切り裂かれる中、ゲージは四本と確認。

 

「撤退を優先しますっ。すぐに結晶を!」

 

 オバケだが、ここの指揮が大事だと意識ははっきりしているアスナさんが叫ぶが、

 

「それでも壁はいるだろっ! 俺が壁になるッ」

 

 そう、全員が転移で逃げる時間を稼がなければいけない。

 

 駆け抜けて二頭の馬の間で斬り合いが始まる。

 

 馬からの攻撃も来る中、前足にて踏み殺さんとする馬たちの攻撃を避けながら時間を稼ぐ。

 

 はずだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼自身、時間を稼ぐつもりだけだった。

 

 だが聞こえてしまう。

 

「ユナは時間までバフをっ、防御優先。ユウキあなたには悪いですがプレミアと共に彼のスイッチ相手を」

 

「うんっ」

 

「分かりました」

 

 その瞬間、ゼルダは指示を飛ばし、奏でられる歌と共に駆けだす二人。

 

 片手剣と細剣を構える二人が後ろからサポートに来ると、己が持つ、片手剣の刀身に映る二人を見たリンク。

 

 その瞬間、彼は豹変する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ふざけるな、ユウキに危険な役目任せられるか。

 

 金属音の音が早くなる。

 

 振り下ろされる剣を弾き、鉄を斬る音が何度も響く。

 

 盾で防ぎ、ただ早く対処をする。

 

 早く、早く早く早く早く早く早く早く―――

 

 ステップを踏み、攻撃パターンを見切り、その中で斬り込む相手を見抜き、小刻みに斬り込む。

 

「急に動きが」

 

「リンク!?」

 

 後ろから声が聞こえるが、いまは雑音のようなものだ。気にするな。

 

「セイッ」

 

 その瞬間、素早く剣を仕舞い、背負っていた大剣を構え、

 

「ハッ!!」

 

 馬を斬り払い、首無し騎士を地面に降ろす。

 

「早く結晶使え」

 

 ともかくいまは逃げてもらわないといけない。振り返り叫ぶが、

 

「だけど、リンクを置いて行けないよ!」

 

「いいからは、くっ」

 

 いつの間にか地に下りた騎士はハルバートを持っていて、首を持っていた手で握りしめている。

 

 それによる刺突をかわしながら、すぐに向かい合い斬り合う。

 

 首が炎を帯びて浮遊して、馬がポリゴンになり消えた。

 

 どうやら落としたのではなく、下りたの間違いだったようだ。

 

「もうパターンが」

 

 その瞬間、また斬り合いが始める。

 

 身体から噴き出した炎から火の玉が放たれて、それを盾で叩き砕きながら、全ての攻撃を防ぎ、躱し、砕く。

 

 スイッチをするつもりは無かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ゼルダっ、リンクさんがスイッチしないっ」

 

「なん………まさか、ユウキとプレミアだから」

 

 ゼルダが困惑する中、アスナは指示の為、戦場全体を見ている必要があった。ゼルダも同じく、結晶を使うタイミングはまだ後だ。

 

 それにケイタたちも驚き、結晶は使わない。

 

「これがボス戦………」

 

「これ、が」

 

「キリトのいる場所………」

 

 否、使うタイミングを完全に外していた。

 

 ボス戦、攻略戦と言う前線の戦い、その空気に、彼らは動くこともできない。正直リンクが初戦のボスの動きについて行っていることに驚く。

 

 だが全部ギリギリで、危険と隣り合わせなのは分かる二人の指揮官。

 

「スイッチして、少しくらいなら大丈夫だよリンクっ」

 

「リンクっ」

 

 ユウキとプレミアも、そのラッシュの中に入れず、彼はまたゲージを消し飛ばそうとしてる。

 

 これは、

 

「ユウキちゃん、プレミアちゃん下がりなさいっ」

 

 アスナは即座に判断して、二人に指示した。ゼルダは一瞬迷い、彼女たちも一瞬迷いはしたものの離れた。

 

 その瞬間、首無し騎士が発火して、彼が初めてダメージを受けます。

 

「がっ」

 

 ゲージが削られた彼は、後ろに吹き飛ぶ。青い炎の中から、炎の腕で掴まれた斧を取り出す。

 

 ハルバート、両手剣、斧を持つ首無し騎士。首無し騎士の首が笑いながら、周りに炎の固まりが増え、放たれ続け、

 

 

 

「舐めるなッ!」

 

 

 

 その炎へ短剣が突き刺さり消し飛ばし、彼は斬り合いを続行した。

 

「くっ。ノーチラスくんはここに、ギルド黒猫団は待機っ。トライフォースは中距離を維持してくださいっ!」

 

「アスナの指示に、バフはこのまま防御続行っ」

 

 ユナの歌が響く中、アスナが駆ける。

 

「スイッチ!」

 

 それにリンクがまるで反応したかのように、反射的に入れ替わる。

 

 その際、腰に下げた弓矢へと攻撃手段を切り替え、いくつも矢がクリティカルヒットし、アスナが斬り始めた。

 

(レイド戦は初めてのはずなのに、いまのは反射的に行動した!?)

 

 驚愕するアスナをしり目に、ゼルダもまた苦肉の策で指示する。

 

「ユウキ、プレミアいまです」

 

 その言葉に、リンクと入れ替わるように前に出る二人。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 その時、彼はユウキを見た。

 

(そうか彼は)

 

 その時、ゼルダは、己を一瞬見た彼の目を見た。向けられたのは怒り。

 

 獣のように鋭い、殺気すら感じる。

 

(彼は………優しい)

 

 ユウキの方にすぐに視線を変え、弓矢を構え援護する。

 

 彼は真っ直ぐに飛ばない矢を自在に操り、炎を貫き、そのおかげで動きやすく戦っていた。

 

 それでも炎に注意しながら、接近戦をするみんな。ミファーたちも放たれる炎を撃退している。

 

「パターン変わりますっ」

 

 ゲージを見ていたゼルダの言葉に、ポーションを一気飲みするリンク。

 

「スイッチッ」

 

 今度はリンクがそう言い、アスナが下がり、パターンが変わる瞬間、

 

「散れ」

 

 切り刻むため放たれた抜刀。刀をすぐに捨て、そのまま背中の剣を引き抜く。

 

(!? いまのはなに)

 

 あり得ないほど強力な一撃に、アスナは困惑する中、彼は大剣で戦いだす。

 

 彼はそのまま、吹き飛ばすように大剣を叩きこみ続け、いつの間に持つ鎖鎌のような炎のムチが放たれる。

 

 どうやら次のパターンは、炎の鎖鎌らしい。また炎の腕で、鎧の腕と合わせて四つの腕を持つ首無し騎士。

 

 それをギリギリで避けながら、大剣を構え、ボスの後ろへ向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ここだ。

 

 両手剣《エクストラスキル》が一つ《暗黒剣》。

 

 人目はボスにより隠れた瞬間、暗闇色の光を纏い、何度も斬りかかる。

 

『グオオォォォォォォォォォォォォ』

 

 振り向きざまに炎の鎌がそのまま放たれる。この方角は、

 

「ターゲットユナっ、避けろっ」

 

 鎖の先は狙ったのかたまたまか、放たれた鎌は後方のユナへと放たれる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その時の僕は、いつものように、理性よりも生存本能が勝ち、身体を繋ぎ止め、動かさない。

 

「ターゲットユナっ、避けろっ」

 

 その言葉に、僕は顔を上げた。

 

 ユナに向かって、火の鎌が放たれている。

 

 ダメだ。

 

 ダメだッ。

 

 動けよ………

 

 死ぬのが怖い、認めてやるッ。

 

 だけどな、だけどなあ。

 

 あの日、僕はユナがヘイトを集め、犠牲になろうとした瞬間が思い出していた。

 

 その日を繰り返すのか? また他人に任せるのか?

 

 あの日感じた思いは、

 

「死ぬことよりッ、怖かったじゃないかァァァァァァァァ!!」

 

 そしていつの間にか走り、僕はユナを突き飛ばし、共に攻撃を避けていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あ、あなた、身体が」

 

「あ、ああ………」

 

「スイッチッ」

 

 驚く二人よりも早く叫び声を上げ、アスナとユウキ、プレミアだけでなく、シリカたちもソードスキルを構える。

 

「ユナ攻撃サポートっ」

 

「は、はいッ」

 

 歌が鳴り響く中、全員のソードスキルが一斉に決まり、その瞬間、最後は彼が大剣を構え、

 

「エンド」

 

 その身体を貫いた。

 

 ボスの悲鳴が響き渡る中、ポリゴンになり消える様子を確認し、両手剣を仕舞う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ま、まさか。ぶっつけ本番でボス攻略だなんて………」

 

 アスナが驚く中、リンクは剣を仕舞い、気まずそうに頬をかく。

 

 周りのみんなは現実が受け入れられず驚く中、バリと言う音が鳴り響く。

 

 その時、水晶に亀裂が走り、そちらに目をやるリンク。

 

「は?」

 

 間の抜けた声を出して駆けだす。

 

 亀裂が走り、砕け散ると一人の少女が現れると共に彼が確保する。

 

「またか」

 

 そして一糸纏わない少女を見て、急いでコートで隠す。

 

「………リンク」

 

「距離があったはず………」

 

 ユウキがなぜか側にいて、物凄く冷たい目線でリンクを見る。

 

 リンクは慣れた手つきでコートで纏め、背負った。

 

「リンクさんその方は」

 

「プレミアと同じ、てか同じ過ぎる」

 

 それはプレミアの髪を白に変えた少女であり、それにレインが物凄い形相で近づいてくる。

 

「待て俺が悪いのかっ」

 

 ルクスは悲しそうに、ミファーも少し悲しそう。

 

 ゼルダはその様子に呆れながら落ち着かせ、砕けた水晶の先に入口があり、新たな階層は解放された。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町に戻る頃、すでに誰かがぶっつけ本番で攻略したことが話題になっている。

 

 予測から伝達され、だいぶ参った話であり、彼女『ティア』についても詳しい話を《トライフォース》とすることに。

 

「では今回は《トライフォース》さんがボスと接触し、やむなく倒したと、ご報告させていただきます」

 

「はい、お願いします」

 

 あそこにいた全員が《トライフォース》の支部にいて、詳しい話をした後、彼はティアについてプレミアたちと話し合っていた。

 

「ケイタさんたち、大丈夫ですか?」

 

「あっ、は、はいっ」

 

 初めてのボス攻略戦に驚きながら、彼らも詳しい話を聞きながら、やり取りを聞き、そして解放された。

 

「………あれがボス攻略戦、か」

 

「キリトの奴、一人でずっと戦ってたのか」

 

「………だな」

 

 彼ら『月夜の黒猫団』は微かにキリトに対して、裏切られた思いがあった。

 

 キリトはプレイヤーからリソースを先に奪い、攻略に挑むペーターと。

 

 だが、攻略は甘くなかった。

 

 例え他にもパーティーがいても、いるだけで感じるプレッシャーに、彼らは再度身震いする。

 

「………しかも」

 

 町の中では誰がボス攻略戦を出し抜いた。まるでリソースを横取りしたような言い方をする輩もいる。

 

 そんなんじゃない。あれは必死に対処した結果だ。

 

「リンクさん、ユウキさんが前に出たとき、ゼルダさん睨んでた」

 

 サチは見逃していなかった。あの一瞬で、彼がゼルダに不満をぶつけていたのを見ていたし、彼はユウキたちが前に出ないよう、前に出ていた。

 

 それを横取りとは心外だ。

 

 自分たちは思い違いをしていたと、ここでようやく知った。

 

「………俺ら、頑張って攻略戦に出られるギルドにしよう」

 

「ケイタ………」

 

「………そんでさ、キリトにだましてたなこの野郎って、笑って言って、またあの頃みたいに、一緒に戦おう」

 

 それにみんなの中の、心のもやもやは消えた。

 

 それにサチも、

 

(負けたくないな)

 

 あの《閃光》に対して、彼女は強く思い、静かに黒猫団は決意を改めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「わたしの名前はティア、覚えた。これからよろしく」

 

「ティアだけ連れていく気ですかリンク?」

 

「置いてく」

 

 どうも彼女はラストアタックボーナスで、また彼が所有者。

 

 二人目のNPCサポートキャラに、彼は頭を痛める。

 

 ミファーたち共々、いまは詳しい話を聞いていた。

 

「わたしは戦闘能力を多く、戦闘は任せてくれ」

 

「戦闘って、なにか能力があるのか。どんなものだ」

 

「これだ」

 

 ティアの身体が光に包まれ、それが止むと、成長した女性の姿を見た瞬間、多くの女性プレイヤーに目を潰された。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 光が収まり、現れたのは成長したと思われる。ティアの姿。

 

 先ほどまで服を着ていたが、その姿は初期装備なのか、インナーすら着ていない姿であり、それを認識したほぼ全女子プレイヤーから、彼は目を貫かれた。

 

 ここは園内、痛みはあったもHPゲージは消えないし、オレンジにならない。痛みはあるが。

 

「ご、ごめんリンクっ。けどダメっ、ダメにものはダメ」

 

「いまのでオレンジにならない理不尽さと圏内戦闘扱いな件はどうなんだぁぁぁぁぁ」

 

 かなり痛い為、目を押さえながら床を転がるリンク。もう一度言うが裸のティアを持た瞬間、無数の指を見た彼は、次は激痛だった。

 

「なぜリンクはわたしを見ない」

 

「いま見てたらだめだからですっ」

 

 ミファーが急いで成長モードの服も整える中、途中でアスナと共にいたノーチラスとアスナが部屋に入り、部屋の様子に驚く。

 

 目がああぁぁぁと転がる彼と、少しすまなそうにする女子プレイヤー。成長しているティア。カオスである。

 

「えっと、ともかくリンクさん。今回あなたがいて助かりました」

 

「いえ、てか見えない」

 

 まだ回復しない彼に、ゼルダはメンバー全員を見る。

 

 ユウキを初め、少しばつが悪い様子だが、話を聞き仕方ないと、こほんと咳払いして、

 

「ともかくボス討伐はウチとアスナさんの間で取り扱います、それでティアさんは」

 

「プレミアと同じ………その二人も知ったのか」

 

「えっ、はい。所有権はあなたにあると」

 

 やっと痛みが引いたのか、目をぱちくりさせながらアスナとノーチラスを見るリンク。

 

 それを聞きながらリンクはそうかと納得し、ともかくピナが頭に止まる中、話を纏めに入る。

 

「ティア、悪いがプレミアと一緒にここでお世話になれ。頼む」

 

「………あなたがそう言うのなら」

 

「………まだわたしもダメなんですか」

 

 見つめて来るプレミアに、駄目だと言いながら頭を撫で、静かにレインの方を見る。

 

「しばらくしたら店に顔を出す」

 

「うん、分かったよ」

 

 そう言って彼はもうここから去ろうとしていた。

 

「あの、待ってくれませんかリンクさん」

 

 ゼルダが前に出て、すぐに歩みを止める。

 

「………なんだ」

 

「あなたはギルドに入る気は無いのですか」

 

「ない」

 

 それは酷く簡単に即答し、それを聞くと共に疑問に思うゼルダ。

 

「それはプレイヤー同士に奪い合いに参加したくないからと」

 

「………想像に任せる」

 

 彼はそれ以上何も言わず、目頭を押さえながら部屋を出る。

 

 そうして彼は去り、アスナも少しだけ、

 

「なんか昔のキリト君みたい………」

 

 そう小さく呟いた。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

「!? ど、どうしました?」

 

「キリト君、メッセ飛ばし過ぎてた………」

 

 ノーチラスはすぐに帰りたい気分になったが、副団長のどうしようと言う相談、会議に参加させられる。

 

 後日、フレンド登録をしたため、女性たちは一気に仲良くなる。これには黒猫団のサチも混じっていた。

 

 そして………

 

 それと共に新たな《血盟騎士団》の剣士と、新たなギルドが攻略組に参加するようになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戻る道の中、話の軸はもう止められないくらい壊れている気がする。

 

 ならば自分がすることは調整か。

 

「………攻略組には入れれば」

 

 茅場の目が無ければユウキのため、いや、他のことも考えて動ける。

 

 俺の願いはなんだった?

 

 何のために得た力なのか………

 

「ははっ、もう笑うしかねえ」

 

 そう思いながら、頭を切り替え、すぐにいつも通りの生活に戻る。

 

 彼は戦う理由は、もう分からなくなっていた………




目を貫かれても、圏内だからセーフ。

何人の子が目を潰したかご想像にお任せします。

では、お読みいただきありがとうございます。


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第10章・アルゴの調査

ちょっとした日常回。


 それはフィールドを練り歩く。

 

「………」

 

 61層は通称虫ばかり、一応湖があり綺麗だが、昆虫系は多い。

 

 虫型素材も多く、小型は素材扱い。それに気づかれずに採取しては次に移動。

 

 草陰など、色々な物陰に溶け込むようにして、中腰で移動する。

 

 色々パターンはあるが、花だったり、樹に止まっていたりするのを静かに取るだけ。

 

 時々大型が出るが、その時立ち上がると共に弓矢、すぐに片手剣二つなどで対処。さすがに大剣などは仕舞って戦う。

 

 そんなやりくりを繰り返し、しゃがんだまま歩き、静かに確実にアイテムを確保する。

 

 そして、

 

「?」

 

 声を出さず、気配を殺し、それに気づく。

 

 別のプレイヤーが一人、同じように採取活動をしていた。

 

(情報屋アルゴか)

 

 特徴からそのプレイヤーが誰であるか分かる。彼女が扱う情報ではベータ情報以外なら、自分のステータスも売ると豪語する者。

 

 確かバカな奴がスリーサイズ聞こうとしていると噂が立つ、女性プレイヤー。なんだかな………

 

 蝶々採取アイテム。それを取ろうとして近づき、失敗して遠くに飛ばれている。

 

 ついにあーーーーーーと叫び出して走り出す。

 

 そんな様子に呆れ、もうここでの採取はできないと移動を開始する。

 

 静かに、気配を殺して………

 

「この辺りにリンクがいます」

 

「リンクはここにいる」

 

 静かに気配を最大まで殺す。

 

 少しだけ顔を草陰から出すと、そこにユウキ、プレミア、ティアがいる。

 

 ティアが入ってから、彼女とプレミアの二人で、俺の位置を特定し、ユウキがアタックを仕掛けて来ることが多々ある事態になった。

 

 ティアの方は攻略組レベルなこともあり、この二人はかなり目立ちながら、中層プレイヤーたちを助けたりしていた。おかげで彼女たちに言い寄る男性プレイヤーもいるらしい。

 

 そんなことはさておいて、彼女たちは攻略組と大差ない。三人だけのパーティーで十分か。

 

「今日こそリンクとフレンドになるぞー」

 

「「おーー」」

 

 気配を殺し、風景と同化して、彼女たちが探索に集中した瞬間、このフロアから脱出するため、転移結晶の準備に入る。

 

 ここ最近転移や回廊の消費率が高くて、大変だな………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「おヤ? 君は《トライフォース》ノ」

 

「あれ? おねーさん、ボクらのこと知ってるの?」

 

 それはもう走って捕まえようとしていたアルゴ。ユウキたちに気づき、そのパーティーメンバーをよく見る。

 

「まあネ、おねーさんは情報を集めるのが得意だからナ。キミらが《トライフォース》に入ったって言うNPCカ」

 

 プレミアと、成長したティアを見て少し驚く。

 

 大剣を背負うティアにも驚くが、プレミアも十分強い。

 

 NPCであることと、美少女や美女であることからも人気があるし、なにより攻略組と大差ない強さは目立つ。

 

「情報屋? だったらリンクがいないか知らない? ボクら彼とフレンド登録しに来たんだ」

 

「アア、成長する、ティアだったカ。は確か、彼奴が《トライフォース》に預けたって話だったナ。悪いがその情報は売れない、知らないからナ」

 

 アルゴがそう言い、あれ?と全員が首をかしげたら、ティアは驚く。

 

「もう別の場所に、転移結晶を使われたっ」

 

「えぇーーーーっ。また逃げられた………」

 

 もうとぷんぷんと頬を膨らますユウキ。気づいているのか避けているのか分からないが、ユウキは少し頬を膨らます。

 

 そんなユウキを、

 

「ほほーう、ユウキはリンクとフレンドになりたいのカ」

 

「うんっ、ボク、リンクのことが好きだからっ♪」

 

 それは情報屋の前で言うには、少しばかりまずいことだった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いらっしゃいっ」

 

 エギルの店、武器は一式仕舞いやってきたリンク。

 

 スキンヘッドの黒人男性が経営していて、彼に採取したアイテムなどを売買する。

 

「んじゃ、商談成立だ」

 

「ああ」

 

 彼はあまり考え無しにアイテムを売る。必要ないし、お金も少しあればいい。

 

 装備などはドロップ品から選んだり、レインの店で整える。それでなぜアイテム集めばかりするかと言われれば、必要とするプレイヤーがいるから。

 

 資金、自身の強化よりも、別プレイヤーの強化が目的だ。彼自身はすでにカンストしたようなものだ。少なくてもプレイヤースキルはすでに他と違う。

 

「たまには喫茶店の方も利用してくれよ、お前はある奴と違ってお得意様だからな」

 

「酷い言い方をするな………」

 

 そう言い、そこには座り、飲み物を飲んでいた《黒の剣士》キリトがいて、お互いここを利用しているらしい。

 

 たまには食事もいいか。そう思い、手軽なものを頼み、席に座る。

 

 フードを外し、金色の髪と碧眼が目立つ。

 

「前々から思ったが、お前さんハーフだけど、かなり目立つな」

 

「ああ、よく言われる」

 

 そして食べ物を待っていると、また誰か来た。

 

「いらっしゃい」

 

「おおっ、いたいた。キリの字っ」

 

 彼は《風林火山》の『クライン』。彼がキリトの席へと近づいていく。

 

「おい見たか、掲示板」

 

「なんだ? もうフロアボスを見つけたのか」

 

「いんや違う。これこれ」

 

 そう言ってキリトのテーブルに紙を広げ見せたそれに、

 

「なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 キリトが悲鳴を上げ、水を吹きかけた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エギルは料理を持って来て、彼も驚く。

 

 俺は簡単な料理、スパゲティみたいなもん受け取りを、消えないうちに口の中に流し込む。

 

「おい静かにしろキリト、いまはお前以外にも客がいるんだぞっ」

 

「だって、こんなん。君にも関係あるぞ」

 

「?」

 

 エギル以外、そんなに会話もなにもしていないはず。急に話しかけられてもな。

 

 そう思い、俺はそれを読み上げた。

 

「なになに………。これは『SAO新聞』?」

 

「SAOの色々なことが書かれたもんだよ」

 

 SAO、このゲームは情報が大事だ。

 

 罠、エネミーパターン、トラップ。フロアボスや最近のアイテム流通まで多種多様。

 

 情報はどうしても切り離せず、日々プレイヤーから求められている。

 

 まあ、中にはシリカファンクラブなど、怪しい情報まで扱う奴がいるが………

 

「まあ大事なこと………なにこれ?」

 

 俺もまた首を傾げて、エギルが受け取り、それを読み上げる。

 

「『全男性プレイヤー当選、美人美少女党選挙』………なんじゃこりゃっ!?」

 

 それはSAOの女子プレイヤーの明らかな盗撮写真が記載されたものであり、シリカやアスナはぱっと見でいるし、レインなどもいた。

 

 ユナもまたいて、横にノーチラスへの怨嗟も書き込まれている始末。

 

 こうして見ると、多くの知り合いが掲載されているが、それはいまは置いておく。

 

「しかも投票者についてのコメント欄と相手を」

 

「なになに………」

 

 知性のお嬢様ゼルダ、聖女ミファー、元気妹系ユウキ、マスコット少女シリカ、ミステリアス少女プレミア、大人の魅力を持つ少女ティア………

 

「いや~………《トライフォース》が多いし、しっかり《閃光》にも入ってるな」

 

 そうなのだ。ほとんど知り合いばかりであり、ユウキなどに至ってはVサイン。これは後でゼルダから説教だな。

 

 だが問題はそれでない。無論、ユウキからお兄ちゃんと呼ばれたいなど抜かすアホもいまは問題では無い。後でギルドに根絶やしにされるだけだ。

 

「これ、俺らも入れたことになってるのか」

 

 そう、全男性プレイヤー投票とか書かれているが、俺たちがこんなアホなことな付き合う道理は無い。

 

 そもそもほとんど活動時間を迷宮区に回す俺に、こんな情報は知ることは無いのだ。

 

「えっ、お前ら投票してないのか? 俺はウルボザさんかミファーさんとか、結構悩んだんだぜ」

 

 さも当然のようにクラインは言うが、俺とキリトは嫌な顔をする。

 

「………俺もこれに参加したことになってるのか」

 

 キリトが顔を覆い隠し、天を仰ぐ。

 

 こんなん女性プレイヤーから白い目で見られるのが確実なこと、誰かがするか。

 

 気にしても仕方ないと、エギルの料理を食べていると、

 

「あっ、お前ら、やばいかも知れないぞ」

 

「ん?」

 

「誰と誰が」

 

「キリトとリンク、ほれ」

 

 それは下の項目で『悲報、我らの女神《黒の剣士》キリトと《亡霊》リンクに好意あり』と………

 

 俺とキリトが顔を合わせるようにそれを見た。

 

「「ふっざけんなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」」

 

 そこには俺がユウキ、レイン、ルクス、プレミア、ティア、ミファー、ゼルダ。

 

 キリトはアスナ、シリカ、サチ、リズベットと色々書かれていた。

 

 怨嗟の声はともかくとして、これは完全なとばっちりが確定している。

 

 どうするの俺ら?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まずユウキに投票したプレイヤーを牢獄に入れましょう」

 

「ゼルダ、落ち着いて」

 

 ゼルダはフィリアに押さえつけられ、新聞を握りしめた。

 

 いまユウキは運が良い事か、このことを知らない。

 

 シリカやルクスたちみんながいて、全員が投票されていた。

 

「わた、わたしがリンクとできてるって。誰よこんなこと書いたのッ」

 

 レインは激昂し、シリカは真っ赤になり、自分とキリトの写真が大きく取り扱われている。

 

 キリトだけは町中の写真が使われているが、リンクだけは似顔絵。彼は町で見かける機会はほぼ無い。写真を用意できなかったのだろう。苦肉の策と書かれていた。

 

「私は………ううっ」

 

「ルクスはまあ本当だからいいんだけど、ミファーはどうなんだろう?」

 

「ミファーはともかく、私まで彼のことをとか、嘘もここまで書くなんて」

 

 ゼルダはすぐに塵へと変え、静かに武器を構える。

 

「けど実際、お嬢様は彼のこと気にかけてるじゃ………。ごめんごめん睨まないで」

 

 リーバルの軽口に、ゼルダは鋭い眼光を光らせた。

 

 一行は呆れ、ユウキも彼のことが好きとか書かれている。

 

「ユウキはそう言うのではないのです。もしもデリケートなユウキがこれを見たら」

 

「ま、まあすんなり受け入れそうだけどな」

 

「まあね」

 

 ダルケルとウルボザは苦笑しながら、プレミアとティアも、

 

「わたしたちはリンクのものです、ですから問題ありません」

 

「いや、その言い方まずいからね」

 

「? 事実だ」

 

 こんなことも出回れば、本当になにかことを起こすプレイヤーがいるかもしれない。

 

 いまだって、彼女たちのファンクラブ。または結婚の申し込みなど、彼らからすればふざけたことがあるのだから。

 

 プレミアとティアはともかく、レインは、

 

「彼奴とっちめて、この風評を消さないとッ」

 

「あーレイン、それ逆効果………」

 

 レインもお怒りで、フィリアがまあまあまあまあと落ち着かせていた。

 

 そして一方そのころ、黒猫と鍛冶師と《閃光》も、恥ずかしさの余り、これを書いたプレイヤー狩りを始めていた。

 

 攻略組やギルドで目立つ女性プレイヤーはしっかりとコメントが書かれていて、いま男性プレイヤー狩りが始まろうとしている………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「《黒の剣士》はどこだあぁぁぁぁぁぁ《圏内戦闘》じゃあぁぁぁぁぁ」

 

「ちくしょう、ちくしょう《亡霊》めッ」

 

「なんでこいつらばっか、ちくしょうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「シリカたーーんーーーーーーー」

 

 外ではバカな男性プレイヤーが町中で獲物を構えながらうろついていて、キリト共々こそこそしていた。

 

 そして、

 

「よお二人サン、また珍しい組み合わせだナ」

 

 情報屋アルゴの下へと向かって、会っていた。

 

「アルゴ、良いから答えろ」

 

「この情報、お前がばらまいたんじゃないだろうな?」

 

 彼らはある種の信頼から、情報源を決めつける。

 

 だがそれに落ち着いてくれと言いながら首を振るアルゴ。

 

「やめてくれヨ。オレっちは裏付けもない情報は売らないゼ」

 

 だけどと、

 

「別にいいじゃないカ? モテるってことはいいことだロ?」

 

「いま町中で《園内戦闘》を完全無意味に仕掛けられそうになってるのにか」

 

「この悪質な情報をばらまいたバカは知らないか」

 

「その情報なら………」

 

「待て」

 

 喋り出そうとしたアルゴを手で止め、リンクが急に止め、静かに、

 

「まずその情報を誰に売った」

 

 その言葉を聞き、アルゴはしばらく黙り込み。金を受け取り、

 

「《閃光》」

 

 そして町中で悲鳴が轟く。

 

 すでに粛清が始まったようだ。

 

 どこからか悲鳴が響き渡り、キリト君はどこおおおおおと言う叫び声も聞こえた。

 

 彼はいま青ざめ震えあがり、これにレインの激昂した顔が過り、頭を痛める。

 

「………迷宮区に籠ろう」

 

「途中まで一緒でいいか」

 

 なぜか次は自分たちと思い、彼らは迷宮区にそれぞれ逃げ出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ううっ………こ、これ、冗談とか思われてる? それとも本気? はふうぅぅ」

 

「きゅう」

 

「シリカもルクスも落ち着いて」

 

「店来たらとっちめてやるんだからッ」

 

 真っ赤になるルクスとシリカ。レインが燃える中、周りが落ち着かせていた。

 

 ミファーは少し恥ずかしそうにするが気にしていない。ゼルダは戦力を整えていく。

 

 そんな中、ユウキがやっとこの騒ぎに気づいた。

 

「? これのどこがダメなの?」

 

 そう首をかしげて聞いて来たため、場は少し停止した。

 

「えっと………」

 

 フィリアはゼルダが《閃光》に手を貸しに出かけていることもあり、正解を必死に考える。

 

 いまユウキの扱いを間違えれば、自分にもとばっちりだ。

 

「これはね、大好きは大好きでもね。だ、男性としての好きってことを言ってるの」

 

 さんざん悩んだ挙句、正直に話すことにした。

 

「………そうなんだ」

 

 ユウキのその反応に普通たとほっとするフィリア。

 

「ま、まあこんな情報、真に受ける男子なんていないから、心配しなくていいよ」

 

「あっはは、別にいいよ。ボクは好きだもん、リンクのこと」

 

 気にしてなさそうに言うユウキに、本当にほっとするフィリア。

 

「それじゃ、ボク部屋に戻るね」

 

「? うん?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 部屋に戻った後、

 

「あれ………」

 

 ドキドキと胸が鳴っていた。

 

 顔が赤い気がして、リンクがこれを見てどう思ったか凄く気になる。

 

「あれ、あれれっ」

 

 その場に座り込み、だんだん心音が聞こえて来る。

 

 扉に寄りかかり、座り込む。

 

 頭の中で、ボス攻略戦などの戦うリンクがフラッシュバックしていく………

 

「なんで、なんでボク………あう……あうあう………」

 

 自分が抱く感情に戸惑いながら、ユウキは自問自答し続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 外周を囲む支柱みたいなところ、一人のプレイヤーが張り付いていた。

 

 迷宮区ではエネミーとプレイヤーがいるから、この辺りにいれば会う可能性は無い。

 

「ん?」

 

 張り付きながら、妙な気配を感じ、もうしばらくここにいようと決め込む。

 

 のちに、この記事を書いたプレイヤーは《閃光》たちによってとっちめられ、騒ぎになる。

 

 なお、情報を売った情報屋は最後まで不明………




どこのどなたが売ったのだろうね。

目立ちますがリンクは迷宮区で時たま見かけるレベルで珍しいものです。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第11章・知られるスキル

 それはある鉱物入手クエストの一部。

 

 本来はそのドラゴンが排出した金属のことを言うため、そのドラゴンを倒す必要は無い。

 

 だが、クエストを発生させるとすぐに蘇生するその性質と、その金属の貴重性に俺は《白竜》を狩り続けた。

 

 壁を走り、かぎ爪付きロープで絡み取り、背後を取り片手剣で斬る。

 

 慣れればなんてことは無い。倒した後、巣に下りて回収する。繰り返す。

 

 この手のボスは山ほど倒した、慣れれば楽なものだ。

 

 そしてそのアイテムを各方面に売り、確実に中層プレイヤーや攻略組に流す。

 

 俺は使用していると流しているのが俺だとバレる可能性を考慮して、気を付けていた。

 

 このイベントボスは、実りの割りに経験値以外は低く、経験値の良さから分かる通り、退治しようとすると団体戦が基本。

 

 それをソロで倒し続けていると、茅場に知られるわけにはいかない。

 

 そんな日々の中、記憶の磨耗が酷い。

 

 残っているのは経験だけになってきた。

 

(………記憶の磨耗、前世は大学生。単純なことしか思い出せない)

 

 それに憤りを感じる事すらなくなった。そろそろ危険なイベントが減っていると、だがまだなにかあるのではと言う可能性が捨てきれない。

 

(………武器の手入れするか)

 

 最近上の層で仲間呼びするエネミーが現れ、おかげでだいぶレベリングが捗る。

 

 そして資金はプレイヤーが経営する場所で消費する。そんな日々………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………はあ」

 

 町はユウキが接触する可能性は高い、正直前世では好きだが、いまは苦手だ。

 

 いまは2024年10月、ユウキは俺に構いだし、フレンド申し込みもたびたびある。

 

 シリカも最近ユウキと組んで、中層プレイヤーだが、パーティーメンバー次第では攻略組と大差ないくらい成長していた。

 

 プレミアたちのこともある。逃げられないこともある。

 

 町に戻ると俺は憂鬱になる。ユウキは俺に友好的過ぎるから………

 

(だが調整しないとな)

 

 レインの店で、武器の整備を全て任せることが増えてきた。

 

 まあ俺の注文は短剣、刀、三叉槍以外、それは酷い。

 

 ブーメランなんてほぼレインが独自に用意してくれたし、槍と刀はどこでもいいが、大剣、片手剣、盾は死活問題。

 

 少し休んでいてと言われ、頭を休ませるため、店の隅で座り眼を閉じた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「レイン~いる~?」

 

「フィリア~?」

 

 フィリア、同じ《トライフォース》のメンバーで、すぐ側で壁に寄りかかりながら座って寝ているプレイヤーに気づく。

 

「あれ、この人………」

 

「! リンクさん」

 

 ルクスが頬を赤くして、全員が彼を見る。

 

「久しぶりにお会いしましたね………」

 

 ミファー、このギルド初めからいるメンバーで、ユウキや自分たちとよく組む槍使い。

 

 彼女からそんなことを言われたが、ルクスは首を振る。

 

「どどど、どうし、どうし」

 

「はいはい落ち着いて」

 

 ルクスにそう言うフィリア。ルクスは彼に助けられて、彼の前だとあがってしまう。

 

 いまは一緒だが、普段は別の子と共に活動している。

 

「ほら、いまは寝ているんですから、そっとしましょう」

 

「あと少ししたら起きるよ、彼、時間通りに起きるんだ」

 

「そうなの? 器用なんだね」

 

 フィリアの言葉の中、彼を見るミファーは静かに、

 

「ボロボロだね………」

 

 彼の服は至る所年季が入っていて、ボロボロだ。

 

 フードから僅かに覗かれる顔は疲れ切った顔をしていて、ミファーも噂は噂だと改めて思う。

 

 金色の髪、碧眼の彼は亡霊と呼ばれるほど、主に迷宮区ばかりで目撃される。ここまで騒いでも起きる気配は無い。

 

「ユウキが心配するはずだね」

 

 そう言いながら、静かに見ていると、

 

「どういう状況だ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「どういう状況だ」

 

 俺が目を覚ますと、周りに人が集まり、一人は彼女である。

 

 少し驚き、俺は静かに立ち上がる中、レインは武器を全部出す。

 

「私のパーティーなんだから、いてもおかしくないでしょ? はいこれ、確認して」

 

「ああ」

 

 大剣、片手剣二本、ブーメラン数品、矢も数点買いながら、全部ストレージに収めた。

 

「迷惑だったか」

 

「迷惑よ、まあその分料金もらってるけどね」

 

「ここで寝たこと……いやいい」

 

 そしてそのまま去ろうとしたとき、

 

「見つけた♪」

 

 そう言い嬉しそうに抱き着くのは、

 

「ユウキ」

 

「あっ、ミファー姉ちゃんたち」

 

 そこにユウキと、そして、

 

「こんにちはリンクさん」

 

「こんにちは、皆さん」

 

「きゅあ♪」

 

 ユナ、シリカ、ピナ。ここ最近《トライフォース》で活躍する者たち。

 

「リンク、ここにいました」

 

「リンク」

 

 プレミアとティアまで来て、少し賑やかになりかけ、すぐに出ていくことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は攻略最前線、74層のフロアを練り歩く。

 

 だが、

 

「………何でここまでついてくる」

 

「ボクらはここでレベリングする気だよ」

 

 ふっふーんと言うイタズラっ娘がいて、ミファーとシリカ、フィリアにレイン。

 

「わたしたちは本来あなたと共にいる者です」

 

「当然だ」

 

 そう言い、細剣のプレミアと、成長し大剣のティア。

 

 ルクスとユナ。それに《血盟騎士団》のノーチラスのパーティーが付いてくる。

 

 何名は申し訳なさそうに、楽し気に各々反応は違う。

 

 全ての武器をいつものようにセットする中、静かに歩き出そうとしたが、

 

「! 人が来る」

 

「えっ、あっ、うん」

 

 フィリアが急に索敵スキルに引っかかったのか、彼女がそう言い、俺はすぐに森のようなこの通路で隠れることにした。

 

「お前らも」

 

「確かに……どんな人たちか分からないもんね」

 

「そうですね、では」

 

 各々別々に隠れだし、しばらくすると、

 

「あれって《軍》?」

 

「………だな」

 

 なぜか側にユウキ、ルクス、ミファーにプレミアやティア。ここだけ狭いが草陰に隠れている。ピナなんか俺のコート内。

 

 だがいまはいい、あれはギルド《アインクラッド解放軍》と名乗っているが、ここ最近攻略でいい結果を出さず、町の治安維持と言う名目の恐喝もしていた。

 

 それで色々あったらしいが、俺は町を利用する機会が無い為、彼らと接触する機会は少ないが、あまりいい噂は聞かない。

 

 治安維持なら《トライフォース》でもういいと言うところもあり、ユウキたちのところではよく衝突しているらしいが、トップにそのつもりが無い為、いつもトップが《トライフォース》に謝ったりすると言う。

 

 ともかく、ここで彼らと出会いたくはないが………

 

「いまのなんだったんだろうね?」

 

「かなり本気の装備だったね」

 

「攻略………ここのフロアボスって、見つかったっけ?」

 

 フィリア、ルクス、ユナの順に疑問を口にして、ノーチラスは首を振る。

 

「そんな話はまだ聞いてない。それに、最近は僕もボス攻略戦に出ているけど、ボス攻略には他のギルドと協力して大パーティーで挑むのが定石だよ」

 

「それじゃ、あの人たちは斥候?」

 

「でしょうね、さすがにそうと思います」

 

 レインの疑問に、ミファーも納得する。マップ製作も、レベルとパーティーは必須。

 

 そう思いながら、結局俺はこのメンバーでは本気で動けないため、適度にエネミーを狩りながら帰る、途中、

 

「あれ、パーティー交戦してる」

 

「どうする?」

 

「………問題ない、攻略組だ」

 

 ギルド《風林火山》のメンバーに、キリトと《閃光》のアスナがエネミーと戦っていて、手を貸すこともなく、戦闘は終わった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「副団長」

 

「あなたは、ちょうどいいわ。ここに《軍》が来なかった?」

 

「《軍》ですか? いまさっき、何かあると思い隠れてましたが、通り過ぎて行きました」

 

「おいおい、アイテム使って帰ってないのかよ」

 

 同じギルドのノーチラスたちの会話を聞き、ギルド《風林火山》のクラインが呆れながらそう言い、キリトが難しい顔をしていた。

 

「どうした」

 

「いや、この先にボス部屋があるんだ。まさかと思うけど」

 

「まさか、ほとんどの人が疲労してました。ただの確認では」

 

 HPゲージに余裕があっても、精神的な疲労はある。

 

 よほど壊れていなければ、精神面の疲労を無視して戦うことはできない。

 

「………戻ろう」

 

 全員が嫌な予感がして、急ぎ引き返した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 途中《風林火山》のメンバーを置いて行ったが、ボス部屋らしい扉の先は阿鼻叫喚だ。

 

 山羊の二足歩行型悪魔モンスターが、両手剣を振るい、ほとんど蹂躙し終えた後だった。

 

「あっ……ぐっ………」

 

 ユウキも思考が止まる。すぐにミファーが前に出て、ノーチラスが剣を構える。

 

「おいあんたたちっ、急いで転移しろ!」

 

 部屋の外からキリトが叫ぶ。

 

 だが《軍》の一人が首を振る。

 

「だ、駄目だ、クリスタルが使えないんだ!」

 

 その言葉はここが《結晶無効化空間》と言う、一部のトラップルームで使われるエリアであると、それがボス部屋と言う最悪なことが伝わる。

 

「何を言うか……、我々解放軍に撤退の二文字は無いッ。戦え、戦うんだ!」

 

 バカが一人いた、この状況下、統制も何もできていない最悪な事態でバカなことを言う。

 

 今頃になりクラインたち《風林火山》が来たが、状況を知ってもどうすることはできない。

 

「な、なんとかできないのか」

 

「こちらも疲労したりしてるんだぞ」

 

 ここで突撃しても彼らの二の舞になる。それが分かり切っているため動けない。

 

 顔を歪ませながら、バカがさっきから突撃突撃とうるさい。

 

「だ、だめ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「だ、だめ」

 

 ユウキの顔が歪む。

 

 悲しそうに、怖いと言う顔で………

 

 だけど、

 

「チッ」

 

 いまからでも剣を抜こうと、突撃を仕掛けようとするユウキに、持っている武器のほとんどを投げ渡す。

 

「えっ」

 

「セイッヤアァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」

 

 選択するのは両手剣、スキルもそれを選択する。サポートに投擲武器をいくつか投げてから突撃した。

 

 獲物の切り替えは無し、投剣スキルでいくつか背中に当たり、タゲが突進する俺に切り替わる。

 

 大剣が黒い炎を纏う。

 

「セイッハっ」

 

 轟ッと言う音が鳴り響き、ボスが吹き飛びかけた。

 

 それにアスナ、クライン、キリトが我に返り、参戦してくれる。

 

 さすが《閃光》と《黒の剣士》か、そして四人組の中、前に出るのは、

 

「セイッ」

 

「アァァァァァァァァァァァ―――」

 

 二つの片手剣を振るう二刀流と、見たことも無い両手剣のスキルを使う、プレイヤーだった。

 

 ボスの攻撃をすり抜け、大打撃、ゲージを一気に削る大剣。

 

 コンボを決め、確実にゲージを削る二刀流。

 

「「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」」

 

 大剣で生まれる隙を、キリトが防ぎ、俺はキリトが切り開いた隙を叩く。

 

 一気にゲージが削れていき、ボスはポリゴンへと吹き飛んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ははは、見ろ、我々解放軍の勝」

 

 言い終わる前に、バカはクライン、そしてアスナが剣を向け黙らした。

 

「な、なにを」

 

「貴方に指揮官の資格は無いわ。仲間を危険にさらして、いまので勝利って言えるの」

 

「そ、それは。あ、彼奴らが弱かっただけだっ、私は」

 

「ふざけるんじゃねぇよッ。テメエはこの部隊の隊長だろうがッ! その責任も取らねえで、なに言ってやがるッ!!」

 

 解放軍と風を吹かせていたが、ギルドリーダーであるクラインと、大手の副団長アスナの激昂には逆らえない。

 

「おいお前ら、このバカのことも含めて、ちゃんと上に報告しろっ」

 

「このことは我々他のギルドも報告するので、お忘れなく」

 

 ミファーもまた《トライフォース》の古株メンバーであり、それに解放軍は頷くしか無かった。

 

「それより、おめえら、そのスキルなんなんだ」

 

「………言わなきゃダメか」

 

「ったりめえだ、なんだよあんなの! 見たことねえぞっ」

 

 そしてキリトはエクストラスキル《二刀流》を口にした。

 

 エクストラスキルは《血盟騎士団》の団長の《神聖剣》が初めてで、これで事実上、キリトが二人目だ。

 

 そして、

 

「君のも教えてくれないか、黒いオーラみたいなの。明らかに両手剣スキルじゃないスキル」

 

「まさか」

 

「………《暗黒剣》。それが俺の両手剣《エクストラスキル》だ」

 

 新たな《ユニークスキル》の公開に驚く周り。キリトと共々、なぜ発現したかは不明の、習得方法不明スキル。

 

 この説明をしてから、多くの者にこれだけは公開した。

 

 だがこれで嫌でも注目を集める。

 

 今後どうなるか、頭が痛い。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「《エクストラスキル》、習得者が二人も」

 

 ゼルダがミファーからの報告を聞きながら、ノーチラスもいる中、みんな驚く。

 

 ノーチラスはアスナが報告していることもあるため問題は無い。

 

「やはり彼は《エクストラスキル》所有者。だから情報を隠し通そうとしてるのね………」

 

 色々大変なことになってきたと、ゼルダは頭を押さえる。

 

「ともかく、貴方たちが前線に出なくてよかった………」

 

 ゼルダがそれにホッとすると、ユウキだけが下を向く。

 

「ごめんなさい……、ボク、倒しに出向こうとした」

 

 それにゼルダたちははっとなるが、ミファーが説明する。

 

「彼、リンクが《ユニークスキル》対象外の武器を渡して、動けなくしたの」

 

「彼が………」

 

 それにゼルダは、彼が優しいプレイヤーであることを思いだす。

 

「ほんと、あの人は………」

 

 それに驚く中、彼が《ユニークスキル》所有者と知り、そしてふと机に目が行く。

 

「? これは」

 

 それは店の帳簿であり、彼の仕事内容。

 

 色々情報は大事なこともあり、やはり彼も調べてしまう。

 

 そして、

 

「あ……れ………」

 

 

 

 彼が使用するメイン武器は片手剣であると、帳簿が語る。

 

 

 

「メインが片手、両手じゃない? なのに」

 

「どうしたのゼルダ?」

 

「………まさか」

 

 まだ隠していることがある。

 

 彼女たちだけが気づいた、彼の事実であった………




どうなることか、お読みいただきありがとうございます。


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第12章・異常性

 空飛ぶ魔物と戦う。

 

 空から落とされたり、雷鳴や、火に焼かれた。

 

 大型の魔物と戦う。

 

 引き潰されたり、壁や地面に叩き付けられた。

 

 水中の魔物と戦う。

 

 息が苦しく、何度心が折れかけた。

 

 否折れても終わらない。

 

 選んだのは自分であり、それに見合うほど力を得た。

 

 索敵スキル無しで敵の位置を察して、攻撃を防ぐ。

 

 もう戦う術は染み込んだ。

 

 もう砕ける心は無くなった。

 

 もう何が目的か分からない。

 

 だから………

 

 なんで俺はここにいるんだろうか………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 この前のボス戦だが、俺は報酬の分け合いは断った。

 

 正直あれはイレギュラーであり、キリトがラストアタックでドロップも得ていたこともあり、俺は問題ないと言って、厄介ごとから逃げたのだ。

 

 だが武器のこともあり、大剣だけはレインたちに預け、しばらくして全ての武器を調整する必要が出て、町に戻る。

 

 そこで事件は起きた。

 

「あっ、来た来たっ。リンク大変だよっ」

 

 いつものように装備はストレージに仕舞い、人気を避けてレインのもとへ。

 

 そこで慌てている彼女が出迎えた。

 

「どうした」

 

「あなたにメッセージを頼まれたの!」

 

 それは《血盟騎士団》団長からの挑戦状だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そこはお祭り騒ぎであり、申し訳なさそうに《閃光》がそこにいた。

 

 新たな階層は古代ローマ風であり、コロシアムがご丁寧に存在し、観客たちが好きな料理や飲み物片手にわいわいがやがやと席に着く。

 

 彼らはなんのために集まっているか、それはだいたい分かるため嫌になる。

 

 そこの控え室でアスナから詳しい説明を受けていた。

 

「実は、あの後私の一時離脱を団長に申し込みました。ですが団長は一度キリト君、彼と話がしたいと言い、そこで」

 

 自分の一時離脱を許すことはしない。もしもそれでも離脱したければ剣で奪いたまえと言う流れになり、負ければギルドに入る話をキリトは承諾した。

 

 その話の中、自分のことも話になる。

 

「だけど私も彼も、貴方とフレンド登録はしていないうえ、誰も貴方と連絡ができず、貴方にも話がしたいと言うことが」

 

 詳しい話は分かった。なぜか噂ばかり聞くが、それほど団員を縛ったり、自分の意見を強引に通さないはずの男。それがなぜ、強引にこんなことをしているかは分からないが。

 

「俺もこのイベントに参加すると? 俺は君らの問題に一切も関わっていないのに」

 

 そう、俺からすればアスナ、彼女の一時脱退など全くの無関係。

 

「ごめんなさい!!」

 

 申し訳なさそうにするアスナに対して、まあいいと首を振る。

 

「ご丁寧に武器の手入れも終わってから……、悪意を感じる」

 

 このまま何も無く終われば余計な悪評が立つ。

 

 さすがに《亡霊》とまで言われてはいるが、これ以上無用な噂は避けたい。面倒でしかない。

 

 クレームを言いに行きたいし、俺自身の敗北したらどうするか、勝利報酬もなにも決まっていないのだ。

 

 だが、

 

「団長は試合の為、しばらく謁見できません………」

 

「了承はしていないのに」

 

 負ければギルドに入れとか、ふざけ過ぎている。だからこそそれは無いだろう。

 

 そんなことを考えながら、キリト対ヒースクリフの戦いが始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いはワンヒット勝負。最初の攻撃がお互い防がれたら、次に大ダメージを与えた方が勝者になるルール。

 

 戦いは互角かと思われたが、

 

「!?」

 

 一瞬、確実に届くと思う動きの中、ヒースクリフの動きが加速し、攻撃を防ぎ、硬直状態のキリトに一撃が決まり、彼が負けた。

 

(いまのはなんだっ!? 明らかに一瞬だけスピードが違った)

 

 その違和感が、これではっきりする。

 

(ヒースクリフは茅場晶彦だ、あの一瞬でGMの、システムアシストを受けた動きをした)

 

 確信しながら、俺はどうする。少なくてもギルドなんぞに入りたくない。

 

 ここで殺すか?

 

 そう思ったが、すぐに首を振る。

 

(いや、俺のヒットでHPゲージが全壊する可能性は低すぎる。なにより向こうがGМとして動くのなら、できないと想定するべきか)

 

 ならどうする、出来レースもいいとこだ。

 

 そう思いながら、俺の番が回ってきた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ふざけたことをしてくれたな」

 

 フードを付けながら、三叉槍、刀、大剣、片手剣、ブーメランなどの投擲武器。

 

 腰に数少ない弓矢に、固定された盾の剣士が現れ、闘技場はざわめく。

 

 なぜこんな装備なのが不明過ぎるからだろう。

 

 そして俺の前に《血盟騎士団》、団長『ヒースクリフ』が、十字の巨大な盾と剣が備わった武器を持ち、静かにたたずむ。

 

「すまないね、君のことについては謝罪する」

 

「俺はギルドには入らないぞ」

 

「………いや」

 

 俺がすぐに本題を切り出すが、静かに首を振り、にこやかに笑う。

 

「悪いがギルドに入れとは、話を直前にした手前言えないが、攻略組参加とレベル公開はしてもらおう」

 

 それに対して、俺はいささかリスクがありすぎだ。

 

 そう、こいつに目を付けられた。これだけでもいまもまずい。

 

 こいつが茅場なら、俺のアカウントなり調べれば分かりそうだが、なぜそれをしない?

 

「俺は攻略前線に出る気は無い」

 

「これが君が負けた場合のリスクだ。私かギルドメンバーの誰かと連絡ができるようフレンド登録し、攻略でパーティーを組む以上、レベル公開も仕方ないだろう」

 

「………承諾するとでも」

 

 それにヒースクリフは静かに、

 

「悪いが攻略の安全性を確実にするためにも《ユニークスキル》所有者を腐らせる気は毛頭ない。君が前に出ないのなら」

 

 それは、

 

 

 

「ここ最近頭角を現している《トライフォース》の、ある少女をスカウトしよう」

 

 

 

 その瞬間、歓声が途切れた。

 

 その原因は一つ、なにかしら会話している二人の中で、突然空気を変えた男がいたからだ。

 

「………いいだろう。スカウトできないようにここでへし折る」

 

 そしてヒースクリフがそれに微笑み、すぐに気を引き締め、デュエル申請をする。

 

 ワンヒット勝負。始まる中、剣を抜くヒースクリフに対して、俺は決めた。

 

 キリトを視界の端で確認する。おそらく彼も疑問に思っているだろう。

 

(その疑問を確実にする)

 

 全てを出し切ることを前提に、構えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ヒースクリフは剣を抜き、彼はなにも構えず、手を少し前にかざすだけ。

 

「キリト君」

 

「ああ……彼の戦いが、始まる」

 

 カウントが0にさしかかる瞬間、指が動く。

 

 そして0になった瞬間、

 

「っ!?」

 

 甲高い金属音が響き渡り、それが、

 

「な、んだ」

 

 刀が鞘から解き放たれ斬撃は、鞘から即座に斬りかかったにしては重撃の一撃だ。

 

「初撃は耐えられたか」

 

「き、みは」

 

 僅かに聞こえた彼らの会話に、ヒースクリフも驚愕していた。

 

 彼は右手で持つ刀を地面に刺し、左腕は右腰の片手剣を抜き、そのまま背中の剣を右手で持つ。

 

「ッ!?」

 

 ヒースクリフも驚愕した、彼は即座に動き出す中、その動きは、

 

「キリト君と同じっ!?」

 

「………《二刀流》っ!? けどあれはユニーク!?」

 

 観客たちもざわめく、彼は両手剣の《ユニークスキル》使い。それがいきなり片手剣、俺と同じ《二刀流》を使いだしたんだ。

 

 だが彼は盾で固定された左手の剣を地面に刺し、地面を滑りながら流れるようにブーメランを投擲した。

 

「っ! 投剣スキルかっ」

 

 その瞬間、ブーメランは一つに見えたが複数同時だった。確実に死角へと降り注ぐ。

 

 盾で防ぐヒースクリフに、剣を背中に戻し、両手で剣を握る大剣。

 

「なんだあれは、投擲スキルにあんな動きは無いぞっ」

 

「まさか、いまのスキルなの?」

 

 すでに次の瞬間、大剣が甲高い音を轟かせながら、二つのスキル《神聖剣》と《暗黒剣》が激突する。

 

 盾と剣がつばぜり合い中、ヒースクリフは笑う。

 

「驚いた……、いまのは一体なんなんだい?」

 

「………」

 

 血走った目で睨みながら、彼は加速する。

 

 左肩でタックルするように槍をホルダーに仕舞ったまま、刃先を向けた。

 

 剣で塞がれるが、大剣を地面に刺しすぐに槍へと切り替え、今度は槍で対決し出す。

 

 最初ヒースクリフの片手剣をフォークのように絡め落とそうとしたが、それは回避され、戦いは再開する。

 

 槍が光ると共に差し込むる瞬間、光が伸び、無数に機動を変えた。

 

 すれすれでかすめる程度、だがその槍スキルに、

 

「………いまのって」

 

「ああ、熟練の槍スキルだ」

 

 アスナと共に目の前の光景に驚く。

 

 彼が使用したのはエクストラに分類される槍のスキルだ。

 

 ユニークはいまだ所有者が一人しか見つかっていないが、エクストラは別だ。一応習得方法は知られている。

 

 だがそれは使える者はかなり少ない。だからこそエクストラ。

 

 両手剣のユニーク持ちが、系統が違う槍エクストラを持っている?

 

 あり得ない。彼は投擲、投剣スキルもかなり上げている。他のスキルを上げている暇なんて存在しない。物理的に不可能だっ。

 

 斬り込み始める中、盾の一撃が放たれる際、槍を捨て、盾同士が激突して吹き飛ぶ。

 

「………なんだ」

 

 俺はある可能性がいま見えた。

 

「キリト君まさか、彼《神聖剣》も持ってる?」

 

「いや、だけどあれは、違う気がする」

 

 盾での攻撃だが、動きが僅かに違う。

 

 それを観察して気づく。あれは体術スキルの動きに似ていた。

 

 俺以外にも観客たちも気づく者たちが現れ始め、全員が困惑する。

 

「君は」

 

「切り替え」

 

 彼は短く、俺たちにしか聞こえないレベルのつぶやきと共にスキルを使う。

 

 今度は《シングルシュート》でかぎ爪付きロープが放たれたが、それをヒースクリフはすぐに避ける。が、すぐにそれを引き、何かが引っかかる。

 

 後ろから回転しながら刀がヒースクリフに迫った。

 

「!」

 

 すぐに避けられたが、それを確保して斬り合いが始まる。

 

 武器の位置まで把握しているだけでは無い。

 

 いまの一連の流れで、ブーメランが的確に死角からヒースクリフに迫っていた。

 

「!?」

 

 まただ、あの時、俺の一撃を避けたように、時間が盗まれたように避けられた。

 

 だがその隙を見逃さず、矢が迫る。なんて早く、正確なショットだッ!?

 

 それも剣で防がれた、すぐに距離を取る二人。

 

「なんなんだ………」

 

 どこまで強いんだあの二人……

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は次の攻撃の為に刀を仕舞い、武器の位置を把握する。

 

 いま手元でまともの獲物はこいつだけだが、ブーメランも短剣として使える。切り替えを連続使用しようか。

 

「君はいくつ戦い方を持っている?」

 

 切り替える。

 

「別に、持っている武器全てだよ」

 

 切り替える。

 

 短剣とブーメランを剣として振るい、二刀流の真似事をした。

 

 切り替える。

 

 短剣を盾の隙間に向けて放つが顔を反らして避けた。

 

 切り替える。

 

 瞬間、拳、体術で懐に踏み込み、吹き飛ばしたがダメージ判定では無いため、決着がつかない。

 

 切り替える。

 

 懐からまたナイフ、短刀を取り出し、斬り合いを始めた。

 

 それに観客がどよめく。ヒースクリフは僅かに笑い、つばぜり合いをし出す。

 

「君の二刀流はキリト君の《二刀流》ではない。君の全てのスキルは〝プレイヤースキル〟によるものだッ」

 

 声高らかに言い放ち、観客がヒースクリフの推測に驚く。

 

 だからどうした?

 

「だが分からない。君の戦いの中にはエクストラ、習得が困難な、高難易度のものが複数ある。同時習得はできるはずがないッ、普通ならね!!」

 

 つばぜり合いから弾かれ、静かに距離を取る。

 

 首を鳴らし、静まり返る観客の中、俺は不思議だった。

 

「戦っただけだ」

 

 そう戦った。

 

「仲間呼びするエネミーは蘇生待ちせず延々と戦える」

 

 その言葉に、

 

「イベントボスは受理するたびに蘇生するから、何度もこなしていた」

 

 会場が冷え込む。

 

「アラームトラップで大量にエネミーを出して、全部狩った」

 

 誰もが忌避の目で俺を見る。

 

「君は」

 

「ただそれを繰り返し続けただけだ」

 

「………だとしても、そこまでスキルを高めることなぞ」

 

「寝る時間と食事する時間は削ったが?」

 

 それに今度こそ言葉が無くなる。

 

 俺は両手を広げながら、喋り続けた。

 

「そもそもこの世界はゲームの世界だ、寝る、食事をする時間すら削れる。物理的に二十四時間戦える時間さえ確保しつつ、全スキル平等に上げ続けていれば自然とそこまでなるだろ?」

 

 なにかおかしい?

 

「だがそれでも精神的疲労は残る。君はそれをどうしてた」

 

「切り替えてた」

 

「なに?」

 

 そんなことは、

 

「切り替えた、頭の中、思考、考え感情疲れた腹減った眠い攻撃防御回避回復麻痺毒デバフ武器立ち位置攻撃方法死にたくない死んでほしくないその他もろもろ全て切り替えて零に切り替え続けた」

 

 いまの俺は、どんな顔をしている?

 

 知るか、それよりやらなきゃいけないことばかりだ。

 

「自分が何のために何しているかですらもう考えることを放棄したよ」

 

 ダメだ、いまはおかしい。

 

 笑いが僅かにこみあげて来る。だが、すぐに切り替える(・・・・・・・・)

 

 これでいい、もう笑いが消えた。

 

「気が狂った、それが俺が強い理由だ」

 

 俺が特典で得た力は、思考の切り替えの圧倒的速さだ。

 

 反射速度と言うより、理解が速く、情報を脳が早く処理してくれる。

 

 そろそろ頭の思考が、お前を殺したいと言うものに切り替わりかかっているんだ。

 

「次で終わらすッ」

 

 その瞬間、爆発するような光が抜刀の一撃を放つ、ただ体重、動きだけの威力。

 

 現実では無い仮想では、ダメージ量は変わらないが、相手の武器など、バランスを崩すのには、これが一番、しっくりくる。

 

 盾を吹き飛ばす。

 

 刀は捨て短剣を取り出し、そのまま斬りかかるが、

 

(やはり)

 

 刃が届く前に、時間の動きだけが僅かに変わり、剣で防がれた。

 

(切り替え、ここで終わりだ)

 

 その隙に大ダメージを受けてしまう。

 

 これでデュエルは終了した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ヒースクリフ、キリト、アスナとフレンド登録すると共に、俺のレベルが他者にも知られるようになる。

 

 俺のレベルは90、全プレイヤートップレベルに驚かれていた。

 

 だがパーティー戦や組んでいることを前提にした戦闘をソロでし続けたんだ。それくらいあって当たり前だろう。

 

「それでは今後、攻略組に参加していただこう」

 

「………ならいいか」

 

「迷宮区に出向くのか」

 

「町よりあそこが落ち着く」

 

 そして《血盟騎士団》の本部を後にしようとしたが、

 

「ああそうだ、あの件、実行したらレッドになったとしても、貴様を殺す」

 

 それにキリトとアスナは困惑と共に、身構えた。

 

 ヒースクリフは静かにそれを聞き、涼し気に受け流す。

 

「ああ分かった。ありがとう、今後ともよろしく」

 

 その場から去り、本部の外に来ると、

 

「待ってくれ」

 

 キリトが話しかけて来て、俺は止まる。

 

「なんだ」

 

「なぜ君は前線に、攻略に出なかった」

 

 キリトの疑問は、茅場に目を付けられたくないことの他に、理由はある。

 

「このゲーム攻略者は、本当にゲームクリアを目指しているか?」

 

「えっ」

 

「ゲームクリアに置いて、ベータだろうがピーターだろうが、クリアできればそれでいいはずだ。だがそう言ったプレイヤーは迫害される。なぜだ」

 

「それは」

 

 それは答えられないだろう。

 

 なら答えてやろう。

 

「自分より生き残るからだ。誰も死にたくない、誰よりもだ。この世界でよくて仲間以外のプレイヤーに、気にかけている暇は無い」

 

「君は全プレイヤーは自分の身を、仲間を第一に動いていると」

 

「でなければラスボスのラストアタックがいちいち議題にならないし、ドロップ品でパーティーが解散なんて話も聞かない」

 

 レアアイテムドロップでパーティーが解散したり、いちいち他のプレイヤーが強化されるたびに、ひと悶着が起きる。

 

「俺はそんな面倒な場所に飛び込むくらいなら、他でレベリングして、誰もボス攻略しなくなったらした方が早いと思った。逆に聞くが、攻略は本当に協力し合って攻略してるか?」

 

 その言葉に、僅かに黙る。

 

「………ああ、みんな協力して、クリアを目指している」

 

「そうか、君にはそう見えてるのならいいさ。まあ《軍》の様子を見て、俺はそう思えないが」

 

「………」

 

 そして俺は頭を切り替えて、迷宮区へと潜る。

 

 また俺は《亡霊》へと戻って………




反射速度は、何かの反応を考えるよりも早く対処できることを指すと自分は思います。

キリトは剣で斬りかかられたから防ぐと言う行動を、振り上げられたりした剣を見て考えるよりも先に実行する。

彼は剣の動きを見て、どんな攻撃をするか考え、確実に防ぐよう動くと言うような扱いです。

ですのでユニーク《二刀流》はキリトの物で、彼は別のユニークを会得した。

ユウキはユニークを習得するほど戦闘をしていない、させてもらえていないですね。

理由はその内明らかになるでしょう。

では、お読みいただきありがとうございます。


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第13章・壊れだす思考

ここのリンクは偽なので、精神はもう………


 正直、イライラしている。

 

 だが切り替えてから、レインの店に行き、武器防具の整備を確認していた。

 

「どう? 新しいのは」

 

「………問題ない」

 

 そう言いながら、もう街中でも全部武器定位置に置き、静かに考え込む。

 

「ったく……、ヒースクリフも余計なことを」

 

 新たな攻略組として、情報が流れ、話題にされた。

 

「………」

 

 武器を渡し、資金をちゃんと受け取りながら、仏頂面でレインが彼を見る。

 

「生憎と、まともに寝る時間だってここで過ごすときと、他人と飯食う時以外削った結果だ」

 

 それに心配されていることを察して、目をそらしながら答える。

 

 彼が言うのは嘘だ。明らかにそう分かる仕草に、彼女は悲しそうに、

 

「………死ぬよ」

 

「死なないよ」

 

 そう言って出ようとしたら、バンッと前に現れ、壁を叩かれた。

 

「こっちが心配するって言ってるのっ! 良い加減にしてよっ」

 

「………レイン」

 

「わたし、あんたのこと気に入ってるんだよ? わたしの武器を色眼鏡無しで見て、気に入ってくれて………。もう馬鹿なレベリングしないで」

 

「………」

 

「このままじゃあの子、ユウキだって」

 

 その瞬間、切り替わったように雰囲気が変わる。

 

 レインはそれに、彼がユウキを特別視している。前々から少しばかりそれは感じ取っていたが、いまので確信した。

 

「………悪いな」

 

 そう言って出ようとしたが、その腕を掴まれた。

 

「フレンド登録、しないと今度から倍価格」

 

「………」

 

 渋々と言った様子で大人しくして、フレンド登録後、部屋から出る。

 

 町の中、空を憎々しげに睨む。

 

「最悪だ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 55層、荒れに荒れていた。

 

「アァァァァァァァァァァァ、アアァ、アアァァァァァァァァァァ―――」

 

 頭が痛い、おかしくなるくらいに戦闘方法が駆け巡る。

 

 目につくエネミーをただ最速で倒しながら、意味もなく暴れていた。

 

「アアアァァァァァァァァァァァァ」

 

 手あたり次第にエネミ―を狩り、これはただの八つ当たり兼、俺の思考切り替えだ。

 

 茅場晶彦がすぐそばにいた。

 

 あれを殺させれば、ユウキを助けられたのに。

 

 そう、俺は結局奴を殺す機会は無かった。だが頭の中で、それが微かに残る。

 

「くそがッ」

 

 そう言いながら、最後の一体を斬り殺すと、

 

「!?」

 

「………」

 

 ミファーが悲しそうにそこにいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 叫び声のように荒々しい声を出して暴れていた。

 

 我ながら落ち着かず暴れ過ぎていて、やっと冷静に戻れたようだ。

 

「じっとしててください………」

 

「こんなの、自動回復スキルで十分だ」

 

「それでも」

 

 回復アイテムが使われながら、大人しくしていた。

 

 いまはその辺りの岩場に座る。ここは植物の少ない乾いた荒野、座る岩はその辺りにある。

 

「………あなたはなんでユウキを気にかけてくれるんですか」

 

「………」

 

 危険なところを聞かれた。

 

 前世の記憶から、彼女のことは知っていると言えばいいのか。

 

 いや、もう理由は思い出せないくらいおかしいな。

 

「………別にいいだろ」

 

「否定はしないんだね」

 

「………」

 

 やはり危険なところだった。

 

 そして傷が癒えて、しばらく二人っきりになる。

 

「あの、私ここの薬草を取りに来たの。一緒に行きませんか?」

 

「………分かった」

 

 頭が狂いだしている。いまは落ち着かせるためにも、一人は危険だ。

 

 こうしてミファーともフレンド登録し、共にフィールドを歩く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 しばらく頭を冷やすはずだった。

 

 謎の奇声と悲鳴が聞こえなければ、

 

「これって?」

 

 瞬間、静まり返った沸騰が再加熱した。

 

 爆発的に壁を蹴り走り、完全にミファーを置いて行く。

 

 流れる景色、遠のく声………

 

 そして、

 

「っ!?」

 

 流れる景色の先に獲物がそこにいた。

 

 蹴り飛ばし、ギリギリで少々太った男がHPゲージが残り、キリト他一人のプレイヤーが麻痺状態でいた。

 

 そして制服を見ながら、俺は頭を切り替える。

 

 だが予測通りPKの現場であり、俺の怒りの吐口。

 

「んで、仲間同士のいざござにしては、悪趣味この上無いな」

 

 そこにいたのは《血盟騎士団》のプレイヤーたち。PKを仕掛けたオレンジ含めて四名。その中に、

 

「お、お前っ」

 

 彼ことキリトいて、そちらの方を見ると、彼はすぐに叫ぶ。

 

「彼奴が麻痺毒を俺たちに、解毒結晶を」

 

「ああ」

 

 すぐに結晶をポーチから取り出そうとするが、すぐにオレンジプレイヤーが斬りかかる。

 

 だが、

 

「遅い」

 

 瞬間、その腕を斬りおとすように斬撃を放つ。

 

 ポリゴンの腕が斬り落とされ、俺は驚愕する相手を見る。

 

 元々取り出す気は無く、こちらへの誘発のために芝居だ。

 

「すまないが少し待て、取り出す時間が無い」

 

 そう言い、剣を構え、静かに前に出る。

 

「き、みは」

 

「お、おま、くそが《亡霊》っ。こんな、こんなところでウロウロしてるんじぇねえよッ」

 

 向こうは後ろに下がるが、武器を持つ手はいま斬り落とされ、別の武器は無い。

 

 虚勢を張るものの、後ろに下がるしかできない相手に、消して逃さないように武器を構えた。

 

「生憎亡霊らしく、罪人でも狩りに来たかった。テメェ、オレンジギルドか」

 

 ギルド《血盟騎士団》の制服だが、斬り込んだために、服の耐久性を斬り、あるエンブレムがあらわになる。

 

「そ、それは、ラフィンコフィンっ!?」

 

「ま、まさか。復讐の為にっ!? いや、そんな、クラディールっ!?!?」

 

 そんな犯罪ギルドを聞いたような聞かなかったような………どうでもいい。

 

「ああうっさいうっさいうっせえぇぇぇんだよ脳筋がッ」

 

 クラディールとか言われた男は確実にこちらを睨む。

 

「テメエの所為で計画がぶっ壊れだ亡霊ッ」

 

「だからどうした」

 

 片手剣と盾を構え、静かにしていると、それに喉を鳴らして笑う。

 

「知ってるぜ亡霊。お前人殺せないよな~、そうだよなふつ」

 

 その瞬間、斬り殺すように突きを放ち、それに反射的にどんなに無様でも避けた男。

 

 クラディール。そう呼ばれた男は青ざめた顔でこちらを見ていた。

 

「な、なん」

 

「………リンク?」

 

「………ははっ」

 

 その時の俺は、

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――」

 

 おかしなくらい笑った。

 

「どーせテメエは仲間から俺が殺しはしないとか聞いてるんだろうが、テメエは殺しはするんだろ? ならされない道理はどこにある?」

 

「お、おま、お前」

 

 殺される、そう思ったのだろう。

 

 彼はすぐに尻餅を付き、下がる。

 

「お、お願いしますっ。死にたくないんですっ、も、もうこれ以上のことは、お願いしますこの通りッ!」

 

 そう言い命乞いする中、俺は静かに構えを外し、

 

「あめぇぇぇぇぇぇんだよ亡霊ッ」

 

 瞬間、落ちていた剣を拾い、斬りかかるそいつに、

 

「どっちが?」

 

 カンッと言う音と共に、そいつの武器が弾かれ壊れ、その顔に盾で吹き飛ばす。

 

「俺が殺しをしなかった理由を教えてやろう。子供が側にいたから、それだけだ」

 

 吹き飛んだそいつは、また自分が騙されたことに気づいているのだろうか? いまはどうでもいいことか。

 

 そう言い放ち、静かに俺は歩き出す。

 

「ま、待ってくれっ。い、いまの、いまのも魔がさしただけですっ」

 

「二度目の不意打ちか。古典的過ぎてもう笑いすら起きない」

 

 オレンジをいくら攻撃しても、オレンジにはならない。

 

 なら………

 

 その時、一人の女性が駆け寄ってきた。

 

「リンクっ!?」

 

 彼女が現れたとき、俺はふとっそちらを見た。

 

 その瞬間を逃すほど、彼は弱くない。

 

 隠し持っていたのだろう短剣を取り出し、最後の隙を突く。

 

 向かってくる白刃に対して………

 

「だから笑えないっての」

 

 見ずにそう言い、その腕を掴み、体術で投げ飛ばす。

 

 地面に激突する瞬間、彼は起き上がるがレッドゾーンの自分のHPを見て愕然となると共に、

 

「解毒結晶」

 

 ゆっくりそう言いながら、手の中のそれを見せつけながら使い、消える様子を見せた。

 

 キリトたちがすぐに起き上がり、回復結晶をレッドゾーンの男に渡す。

 

「君は」

 

「………ミファーがいるから殺さない」

 

 そう静かに言い、回復した彼らに囲まれ、クラディール。ラフコフのメンバーは捕まった。

 

 だが、

 

「………いなかったら、な………」

 

 その言葉がそいつの精神HPをゼロにはした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「疲れた」

 

 現行犯の男は町に完全に意識が消え、結晶で牢獄に送り終えたあと、残ったメンバーで詳しい話などするため、町まで戻る始末。

 

 どうやらキリトの入団テストだが、こんな事態では日を改めるか、もういいかのどちらからしい。俺には関係ない。

 

 頭が痛い。

 

 もうイライラしているのか、なにがしたいか、分からない。

 

 どこか宿でも取り、休むとするか。

 

 ギルドのいざござの後始末を終えて、静かに帰ろうとしたとき、

 

「リンクっ」

 

 そう、あの声、

 

(………まったく)

 

 どこかこの声に安堵している。

 

 この声を聞くたび、何かが壊れる。それか、直るのだろうか?

 

「ユウキ」

 

 嬉しそうに駆け寄るこの少女。

 

 なんだおれ………

 

 なにが目的だっけ?

 

 やはり思い出せない。

 

 思い出せないが、

 

「つっかまえたっ♪」

 

 そんな笑顔のユウキに捕まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ラフコフの生き残りね、大変だねどうも」

 

 ギルド《トライフォース》。今回ミファーからオレンジの件を聞く幹部たち。

 

「まあね。それで《黒の剣士》と《閃光》。あとはリンクは」

 

 リーバルたちがいる中、彼がそう訪ねた。ミファーからの報告を受けるゼルダは、

 

「ここの一室をお貸ししました。いまは休んでいます」

 

「ま、まさか気が狂っていたなんて。やっぱり僕、彼嫌いだよ」

 

「リーバルっ」

 

「ウルボザやダルケルはいいのかい? ユウキが彼の傍にいて」

 

 ゼルダの静止を無視し、リーバルはそう言うが、ダルケルは腕を組みながら髭をさする。

 

「俺は、どっちかと言えば、ユウキが彼奴を引き留めてる。そう感じるな」

 

「まあ、あんたは見てないけど、今日の彼奴の顔は、そういう顔だったよ」

 

「ふ~ん、ま、保護者がいいならいいけどね僕」

 

 そして彼は久しぶりに休んでいる。

 

 それを考えていたゼルダは、ドアがノックされたことに気づき、中に入れた。

 

 そこにはプレミアとティアがいて、彼女らは

 

「リンクは」

 

「いま部屋で休んでいます」

 

「ならわたしたちも」

 

「ダメですよ、一緒に寝たら」

 

 そんなことを話しながら、ユウキもはしゃいでいるところがあるから、注意しないといけない。

 

 さすがに一緒は無いが、朝早く行きそうだと、ゼルダはため息をつく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 眠る彼は死んでいるかのように眠っていた。

 

 やはりと言うか、プレミアたちだけでなく、ユウキまで我が儘を言う為、ミファーが心配して様子を見る。

 

 顔にかかる金髪を少しだけ払い、その様子を見た。

 

 きっと優しいのだろう。

 

 自分が着た途端、冷静に戻った。そんな様子だ。

 

「………」

 

 眠る彼を少しだけ見続けると、少しだけ胸の奥が暖かくなる。

 

 それにはっとなり、このままいる訳にはいかないため、少し頬の赤い彼女はすぐに部屋を出ていく。

 

 彼は眠ったままだった

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一週間後、俺は引き止めるユウキたちから逃げて、迷宮区を根城にしていた。

 

 俺は相変わらず、迷宮区を根城にしているのが性に合う。

 

 だが、

 

「メッセってこんなに多いもんなのだろうか」

 

 ユウキ、レイン、ルクス、ゼルダ、ミファーからメッセが酷く届く。

 

 キリトにメッセの数はどんなん?と言うのを送ってみる。なんのことだと返ってきた。

 

 ユウキはアスナとも仲が良いから、察してほしい。なにがにあの後、メッセし合う仲なのか。

 

「………最近、切り替えが緩い」

 

 戦闘の思考、相手に対する思考、日常の思考。

 

 切り替え切り替え切り替えていたそれらが、最近がたつきが目立つ。

 

(これが勇者じゃない偽物の限界か。笑えねえ………)

 

 勇者じゃないくせに勇者を望んだ者の末路は、きっと異常者だろう。

 

 これが終わったら、俺はどうしようか。

 

 ん?

 

 終わりはどこだ?

 

 目的はなんだっけ?

 

「笑えない………」

 

 なんでここにいるんだっけ?

 

 何のために力を得たんだっけ?

 

「………あそこに行くか」

 

 そうこうしながら、俺はある場所に出向いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そこは『生命の碑』。プレイヤー全ての名前が刻まれ、横線の数だけ死亡者がいることを現す。

 

「………」

 

 ここにいるのは死んだ者たち。

 

 もしかすれば助けられた者たちもいるだろう。

 

(果たして俺は正しいのかどうか)

 

 そう、俺は転生者で、なにかしら行動できたのではないか?

 

「………俺は正しいか」

 

 夢を見た。

 

 また彼と戦う、または彼が戦った者たちとの戦い。

 

 闘争の中で、何度死を体験したか分からないが、もうなにがしたかったか分からない。できることはしたはず。

 

 だから?

 

 分からない答えの中、俺は時々見に来てはぼーとしていた。

 

 そうしていると、

 

「リンク?」

 

「? キリト、アスナに、誰だ」

 

 そこにいたのは小さな、小さな少女と、女性プレイヤーだった。

 

 まあ厄介ごとかと、内心ため息をつく………




ユウキの笑顔が、彼の救い………

お読みいただきありがとうございます。


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第14章・意地

 ギルド《アインクラッド解放軍》は内部分裂しかかっていた。

 

 元々大勢のプレイヤーで安全にプレイするための集った集まりだが、リーダーが放任主義のこと、多くのアイテムの秘匿、横流しなどが相次ぎ、主導権を失い始めた。

 

 その中で『キバオウ』と言うプレイヤーが自分と共感する幹部を纏め、治安維持と言う名の恐喝行為を初め出す。

 

 だがそれらは全て、アインクラッドから解放すると言う意味であり、備蓄を集めるだけではダメだった。

 

 つまるところ、実績が無い組織に貴重なリソースを提供できないと言う声を抑えきれなくなってきたのだ。

 

 彼らは一応、攻略組として活動していたが、25層で方針を変えて最前線に出なくなった。

 

 だから一部の恐喝紛いのことをし続けたツケを払う声が高まる。彼らの次の方針は治安維持と組織強化だったが、治安維持は《トライフォース》がすでに行っていたため意味はなく、もう抑えきれなくなったようだ。

 

 故に、前にあったボス攻略戦の強行だが、それは一歩間違えは無惨な結果になると言うもの。

 

 それらを大手ギルドであり、自分らと同じ主義でありながら、確実な成果をたたき出す《トライフォース》に凶弾され、本来のギルドリーダーが力を取り戻し始め、彼の力が徐々に失われ始めてきた。

 

「それでこの、隠しダンジョンにギルドリーダーを騙して、丸腰で転送か。んなことしても《軍》が終わるだろう」

 

 キバオウと言う男は、隠しダンジョンの情報を隠し持ち、結晶アイテムを使用して、丸腰のギルドリーダーをこのダンジョンの奥へと監禁した。

 

 だがそれは悪手である。

 

「はい。あなたの言う通り《トライフォース》と言う、はっきりと実績を持つギルドに何度も忠告などの警告を受けてます。すでに多くのプレイヤーから見放され始めているいま、意味のないことです」

 

 それでも《軍》があったのは、多くのプレイヤーを抱えていることと、いま丸腰で危険地帯の唯一の安全地帯にいる『シンカー』の人徳だろう。

 

 それが無くなれば、ゼルダは躊躇いも無く《軍》を潰す。

 

 彼女は少なくてもその辺りはしっかりしている。治安維持、組織の強化、ちゃんとした実績。

 

 数しか取り柄の無い組織と、他組織と繋がりをちゃんとしている彼女らでは天地の差。

 

 彼女がこのことを知れば、キバオウ一派は、全SAO組織によって潰される未来しかない。

 

「また敵か」

 

 そんな話を聞きながら、その隠しダンジョンへ救出隊として出向いている。

 

 新たなエネミーにすぐに動く。

 

「ハッ」

 

 現れた敵は瞬間、抜刀で切り裂き、中にはこの一撃でポリゴンに変わる。

 

 それで無事でも、キリトの《二刀流》がすぐに消す。

 

 このような作業に、アスナが心底、

 

「貴方のソロとしての強さは」

 

「初撃投擲のブーメランか抜刀によるファーストアタック。次に片手盾、暗黒、二刀流のどれかにする。周りが囲まれていたら槍で薙ぎ払う」

 

「ソロとしてすでにそんな流れが」

 

 アスナが驚く中、その中で一人、アスナとキリトから離れたくないがためについて来た少女が微笑む。

 

「お兄ちゃん、強い」

 

「パパも強いぞっ」

 

 その子は『ユイ』と言うが、少しおかしい。事情があるのだろうから、いまは深く聞かない。

 

 ともかくここは隠しダンジョン《黒鉄宮》。

 

 キバオウが独占しようとした隠しダンジョンだが、レベルが高く断念していたところを利用したらしい。

 

 出て来るのも、高レベルだが、

 

「しゃがめ」

 

 その一言で槍を取り外し、周りに光の軌跡を作り、薙ぎ払う。

 

 それに《二刀流》が追撃したり、キリトだけで対処したりと、

 

「………やっぱり、あなたとキリト君が組めば、100層も夢じゃないかも」

 

 アスナが不意にそう呟く。

 

「買い被るな」

 

 そんな様子に、まだ会話をする余裕はある。

 

 アイテムもドロップする中で、キリトが《スカペンジトードの肉》をアスナに捨てられ、ユイちゃんと『ユリエール』さんが苦笑してしまう。

 

 その様子に、少し驚く。

 

「な、なあリンクっ。リンクもドロップしただろ!? カエルの肉っ、意外とうまいんだって」

 

「絶対に調理しませんっ、あなたも捨ててくださいっ」

 

「い、いや、その前に………。お前ら《結婚》したのか」

 

 それは《結婚システム》。相手のアイテムストレージ共有やステータスを確認できたりする。

 

 相手がプロポーズメッセージを送り、受託すればいい。

 

 つまりはそう言うことだ。

 

 二人は赤くなり、ユイちゃんが、

 

「パパ、ママ、トマトみたいっ」

 

 こうして何とも言えない中で、先に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ユリエールのフレンドマーカーを確認して奥に進むと、

 

「安全地帯の光」

 

「プレイヤー一人、グリーンだっ」

 

「シンカーーーー」

 

 キリトは索敵スキルで確認し、ついに走り出すユリエールを追う一行。

 

 その先に一人の男性プレイヤーがいた。

 

 間違いなく安全地帯らしき場所で、

 

「ユリエーーーールっ、来ちゃだめだっ」

 

 その時、俺の世界はスローに入る。

 

(フッ)

 

 彼女を捕らえるは、黒いボロボロのローブを纏う、大剣使い。

 

 その一撃が彼女を狙って振り下ろされるが、そこにタックルの応用で、ホルダーのまま槍を突き放ち、防ぐ。

 

「ぐっお」

 

 だが受け止めた剣撃はかなり重い。

 

『………』

 

 ただ無言の剣士に対して、静かにホルダーから槍を取り出し、なにがなんでも振り下ろされてはいけないため、無理矢理にでも剣を弾く。

 

「セイッハッ!!」

 

 吹き飛ばすと、黒いそれは一気に距離を取り、大剣を軽々と片腕で持ち、明らかにシステムによりカバーされたエネミーだ。

 

 だが次の瞬間、槍が耐久性が消え、ポリゴンの塵へと変わる。

 

「なっ、耐久性はまだあったはず」

 

「急いでユイちゃんと共に安全地帯へっ」

 

 アスナの指示でユリエールはすぐに我に返り、ユイちゃんを連れて安全地帯へ。

 

「キリト、こいつ」

 

「ああ、かなり危険だ。俺の識別スキルでもデータが見えない。たぶん、強さ的には90層クラスだ………」

 

 死神のようなそれはすぐにこちらへとタゲを取る。

 

 獲物は両手剣、ボロボロの布を巻き、全身を覆う死神のような姿。

 

 すぐにするべきことを考える。

 

「………キリト、アスナと共に結晶で帰れ」

 

「!? なにを」

 

「あの子を置いていく気かっ、お前ら二人は邪魔だ。俺が一人で戦う」

 

 それが一番のベストだと、俺の選択肢が言う。

 

 ここでこのメンバーからゲームオーバーを出すわけにはいかない。

 

 なにより、俺自身がソロ活動が長い。一人で十分対処できると考え至る。

 

「バカなことを言わないでくださいっ」

 

「バカ、バカか。んなもん、このゲーム始める前からだッ」

 

 その瞬間、俺は返答を待たず、大剣使いへと斬り込む。

 

 相手の両手剣、俺でもそんな速さでは無い。細剣並みの速さで振るわれるその一撃を、

 

(切り替えろ)

 

 瞬間、全体のスピードが遅くなる。

 

 この程度の死は慣れた。

 

 そして、

 

「デッヤアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」

 

 金属音が鳴り響きながら、この場にくぎ付けにする。

 

「凄い」

 

「これが、トップレベル………」

 

 脳が壊れるほど使用し、視界から、全ての情報を読み取り対処する。

 

 見るだけでは足りない。

 

 音もニオイも肌で感じる風ですら全て利用しなければいけない状況。

 

 慣れていた。

 

 一瞬一瞬、停止してスローモーションになる攻撃の対処。

 

(大剣以外じゃ、耐久力を考え盾しか防げない。相手の仕方はダークなどの人物戦でボスクラス。キリトはアスナ共々安全圏近く)

 

 僅かな剣に映る後方を確認し、二人の位置を見ながら、大剣で凌ぐ。

 

 大剣を弾き、片手剣がその喉元を捕らえる。

 

(この一撃を食らわせて、のちに安全圏へ)

 

 そう思っていた瞬間、フードから紫色の髪と、

 

「ッ!?」

 

 もう涙が枯れ果てた女性の人型がそこにいた。

 

 泣いている人間との戦闘に、俺の思考が疑問に止まる。

 

(しまっ)

 

 世界の速さが元に戻り、大剣がえぐり込まれ吹き飛ぶ。

 

「リンクさんっ」

 

「リンクッ」

 

 吹き飛んだ瞬間、完全にレッドゾーンまでHPが削れた。

 

「逃げろバカッ、早く」

 

 そして身体を起こすとき、着ている防具もホルダー全て、短剣までポリゴンの塵へ変わる。

 

 大剣も転がり落ちて、すぐに周りを確認する。

 

 安全圏に全員いて、その間に彼女がいて近づいて来た。

 

「………ははっ、笑う」

 

 手元の武器は刀だが、受け止めたりすれば必ず壊れ、そのまま斬られるだろう。

 

 もう手段が思いつかない。

 

「笑えるかっ、いますぐい」

 

「来るなって言ってるだろキリトッ、アスナやユイを置いていく気か」

 

「ッ!?」

 

 悲痛な顔が見えた。

 

 だけどそれ以上に、

 

『………』

 

 俺よりも酷い顔の少女がそこにいた。

 

 ローブの隙間から覗く顔は涙は枯れ切った目で、薄紫の髪もボロボロだ。

 

 僅かに口が開き閉じる。いまから俺を倒すと言うより、殺される少女のような顔。

 

「………お前」

 

 酷い顔だ。この顔は知っている。

 

 あの体験の中で見た。

 

 絶望に泣いている者の顔。

 

「………」

 

 その時、ある少女の顔が過る。

 

 病気に苦しみ、それでも生きた少女。

 

 俺の目的はなんだっけ………

 

 息を吸い、吐き、静かに構える。

 

 俺は勇者では無い。

 

 無いが、

 

「助けてやるよ」

 

 僅かに残る武器は心もとないが、唯一残った刀を構えた。

 

 その言葉に、僅かに目に光が差し込んだ気がした。

 

 だがすぐに消え、大剣を構えた。

 

「………行くぞ」

 

 瞬間、激突する剣舞の中で………

 

 ――助けて――

 

 攻撃を受け流すように捌きながら、声が聞こえた気がする。

 

 だから俺は思いを込めて、斬り込む。

 

 ――助けてみせる――

 

 ――無理だよ………もう消して、私を消して……お願いだから――

 

「断るッ」

 

 キィィンッと言う音と共に大剣と刀が激突する。いつ砕けてもおかしくない。

 

 だが、彼女へ迫るようにつばぜり合いする。

 

「俺は死ぬのも死なれるのも願い下げだ」

 

 ――貴方は………――

 

「それだけは変える気は無い、変えてたまるかッ!!」

 

 止まらない、一撃と回数が足りなければ終わる。

 

 死ぬ。

 

 本当に俺は何をしている。

 

 俺はなんだ?

 

 答えが欲しい。

 

 だからこそ………

 

 瞬間、またあの笑顔が頭を過ぎる。

 

(………はは)

 

 剣をバク転で避け、剣に向かって、ソードスキルを構える。

 

(これが偽物の意地だ)

 

 叩き付けるように刀が激突した。

 

 折れた刃先が俺の真横を回転しながら通り抜き、手の感覚が消える。

 

 そして振りかぶる彼女を見ながら、

 

「………たすけて」

 

 初めて彼女の口かそれを聞き、

 

「ああ」

 

 即座に足元に転がる両手剣を足で蹴り飛ばす。

 

「………ぁ………」

 

 その勢いで浮いた大剣を掴み、

 

「デエェェェェェェェェェェェェ―――」

 

 スキル《暗黒剣》が輝き、大剣同士が激突した。

 

 粉々にお互い砕け散る両手剣。

 

 武器破壊。本来エネミーでもあり得るかと言えば、あるかどうかわからない。

 

 だが彼女はどこか違う、それに賭けた。武器が先に壊れる。一か八かの賭けに、俺は勝った。

 

 その光景に、解き放たれたように微笑む彼女を抱き止め、静かにその顔を見る。

 

「大丈夫か」

 

「………」

 

 彼女の瞳から、一筋の涙が流れる。

 

「………思い出した」

 

 そうユイちゃんが呟くと共に、戦いは終わる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その後ユイちゃんに言われるがまま、とある立方体、コンソールに彼女を近づかせ触れさせた。

 

 いまはもう大丈夫と、シンカーたちは帰して、いま詳しい話を聞く。

 

「アタシ………、そう、システムから解放されたんだね」

 

 目を覚ました彼女、彼女たちは《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》と言う存在。

 

 一号のユイ、その次に『ストレア』として活動する、はずだったらしい。

 

 だがカーディナルが突如予定にない命令を下したため、プレイヤーのメンタル状態のモニタリングすることになる。

 

 その命令はこのゲームが始まった時、茅場がGМ権限で使用した可能性がある話。

 

 命令内容はプレイヤーへの干渉禁止。

 

 その結果最悪な事態へと変わる。彼女たちはプレイヤーのメンタルケアが目的と言うのに、彼らに干渉してケアできず、ただ絶望、恐怖、怒りの感情を見続けた。

 

 義務だけがあり権利が無いエラーだけが貯まる彼女たちの中、ストレアは、

 

「アタシはその中で一番エラーが貯まり、カーディナルに何度も命令の撤回を申請し続けた。そんな中、ここ『ソードアート・オンライン』のコンソールの警護を強制的にさせられた」

 

 ご丁寧に事件当日ログインしなかったプレイヤーの未使用アカウントを使用し、新たなシステムとして、緊急アクセスの為のコンソール警護させていた。

 

 それでもエラー、本来の役割をしながら。

 

 そしてユイちゃんもまた限界が来ているとき、キリト、アスナと言うプレイヤーたちの触れ合いに魅かれ、彼女たちに干渉したいがため、壊れた状態で実体化したらしい。

 

「ストレア、他の子たちは」

 

「………アタシたち以外のプログラムはすでにエラーが貯まりすぎて、カーディナルにデリートされてる」

 

「そうか………」

 

 そしてユイちゃんの願いはパパとママの側に居たい。

 

 だがもう終わりと告げる。

 

「なっ」

 

 カーディナルに放置されていたプログラムだが、ストレアの件もあり、二人はエラーとして処理される。

 

「リンクさん、ストレア、妹を助けてくれてありがとうございます」

 

「なにをバカなことを言うっ、ふざけるなカーディナルッ」

 

「もういいんだよ……。最後に、貴方たちのようなプレイヤーと触れ合えて、アタシたちはもう」

 

「ユイちゃんっ」

 

 消え去ろうとする二人に、キリトと俺はキレた。

 

「カーディナルッ、いつもいつも思い通りなると思うなッ」

 

「キリト俺が専門だっ、だが要領を考えてお前も待機しろっ。二人のデータを俺たちのクライアントプログラムの環境データの一部、二人をシステムから切り離す。ローカルメモリに保存する」

 

「分かったっ」

 

 そして消える前に彼女たち、キリトがユイちゃん。俺がストレアの心を手に入れ、プログラムから切り離した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………二人とも間に合ったし、俺の装備全壊以外万々歳か」

 

「悪い、君だけに任せて」

 

「気にするな」

 

 これからしばらく前線には出れそうにないが問題ない。

 

 キバオウとか言う一派の問題も解決し、全ての問題が解決したのだ。

 

「レイン、俺の武器一式を頼んでる鍛冶師に、ここで手に入れた鉱石素材で武器一式を頼んでくるよ。ホルダーも新調しないと」

 

「少しアイテム交換しようぜ。こっちは武器も防具も新調しないからな」

 

「ああ、なにがいい」

 

「できれば」

 

「キリト君?」

 

 アスナの睨みに、すでに尻に敷かれているキリトを見る。

 

 そんな会話をし終え、俺はレインに頼み込むために、彼らと別れた。

 

「………はあ」

 

 空を見ながら、ただ思う。

 

「どーにかしたぞ、勇者『リンク』」

 

 そう宣言したが、彼はなんて言うか分からない………




ほんの少しの小さな意地。

お読みいただきありがとうございます。


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第15章・目覚め

SAO編、あの最後の瞬間、彼はどうするか。どうぞ。


 レインはその日、最高傑作を作り出した。

 

「ありがとうリズっ、リズのおかげでバカの武器が出来上がったよ~」

 

「どういたしましてっ」

 

 鍛冶師仲間の『リズベット』と共に、片手剣、両手剣、曲剣もとい刀。

 

 全てが全て、現時点で一級品。中でも一部がカテゴリーが分けられるギリギリを要求させられ、難しかった。

 

 それを頼んだプレイヤーは、いまは宿でぼ~としている。

 

「こんにちは~」

 

「あっ、ユウキ」

 

「あれ、武器とかいろいろ並べてるけど?」

 

「うん、全部彼の武器。いまから届けに行くんだけど」

 

「ならボクも行くよっ、リンクに会いたいからね」

 

「それって」

 

「うん………。ボクが攻略組に加わることを伝えに」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 夢の中、彼と戦う。

 

 だがどれも彼に一歩どころか大差で負け続ける。

 

 槍も、両手剣も、弓矢も、片手剣でもなお負けた。

 

 エギルの店で夢想の中で向かう戦いはけして勝てず、頭を切り替えている。

 

 予備を使うが、最前線で無い為、少し切り替えが悪い。

 

 そんなことを考えていると、

 

「リンクーーー、いるわよねっ」

 

「リンクっ」

 

「レイン……、ユウキ?」

 

 そして俺は神なぞ居ないと心底思う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「なにも言わなかったね」

 

「うん………」

 

 だけど何かショックは受けた顔で全ての武器を受け取り、部屋に閉じこもった。

 

 それでも、やらなきゃいけない。

 

「今度のボス部屋は、結晶は使えないし、退路も絶たれる。もう全力を出して攻略しなきゃいけないって。ゼルダ姉ちゃんが言ってた」

 

「うん……。わたしも参加するよ、あなたにばかり、全部任せられないか」

 

「………少し怖いなボク」

 

「みんな一緒だよユウキ」

 

 そして二人は手を繋いで歩いていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………辛気臭い顔をするな」

 

「うるさい………」

 

 しばらく考え込むリンクに、エギルは事情は聞いた。

 

 ユウキがボス攻略戦に参加する。その話を聞いたとき、ヒースクリフを殺すことを考えたが、自分の意思らしい。

 

「キリトやリンク、二人の戦いを見て、ボクも戦わないといけないんだっ」

 

 それを聞き終えてから、気が付いたらここにいた。

 

「今度のボス攻略戦はきついのは分かり切っている、だからこそお前さんがいるんだ」

 

「………俺は勇者じゃない」

 

「分かってる、俺もキリトやお前さんにそんなん期待してない。だからこそ、出るんだ」

 

 そう言って、明日のボス攻略戦に参加すると彼は言う。

 

 そんな話の中、新調した武器たちを見ながら、

 

「俺は」

 

 そして覚悟を決めて、明日全てを終わらせる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス攻略戦当日、キリトを軸に結成され、クラインたちもいる中、ボス部屋へと入る。

 

 ユウキ以外にも《トライフォース》はミファー、ユナ以外全員いる。これは最悪全滅を警戒してのことだろう。

 

 ゼルダも指揮の為にいて、俺がすべきことが決まった。

 

 ボス部屋に入り、扉が閉まった後、すぐに真上を見る。

 

「上よ!!」

 

 その言葉に、全員が上を見た瞬間、ムカデのようなドクロのそれに、

 

「抜刀ッ!!」

 

 すでに斬り込むソロプレイヤーがいた。

 

 そのおかげで初撃が粉砕され、すぐにゼルダが隊列指示、ヒースクリフも動き出す。

 

 骸骨ムカデの猛攻が始まるが、その全てを防ぐ盾がいた。

 

 それは一人の《神聖剣》使い。

 

 重々しい一撃を防ぎ、前へ前へと出て防ぐ。

 

 だがそれだけでなく、キリトとアスナ。二人のプレイヤーの猛攻と、

 

「でえぇぇぇぇいいぃぃぃぃぃぃ」

 

 ユウキと言う、一人の剣士がこの三人の動きについて行き、猛攻が始まる。

 

 だが異常なのは一人いた。

 

 誰よりも前に立ち、誰よりも早く動き、誰よりも危険な場所にその身を出す。

 

 彼の目的は、犠牲を無くすこと以外に何も価値を見出せない。

 

 多くのプレイヤーが危険な駆け引きの中、危険と言う可能性を消す四人のおかげで、

 

「おわ、終わった………」

 

 被害が0と言う形で、彼らは勝利を収めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ゼルダの声、いや誰の声だろうと無視して前に出続けた。

 

 そうでもしないと、犠牲者が出る。出れば、あの子の笑顔に影が差す。

 

「リンクっ」

 

「ユウキか」

 

 全力の思考により、俺は倒れかかっていた。

 

 あまりにこの思考を続けていれば、必ず異常をきたす。そんな確証がある。

 

 ユウキが心配する中、

 

「………」

 

 ヒースクリフ。彼がこちらを見ている。

 

 見事と言う顔で俺とユウキを見ていた。

 

 ふざけるな。

 

 ユウキのおかげで抜刀の隙は見えない。

 

 前世の何もかも、確証も無いがやらなければいけないのが分かっている。

 

 

 

 その時、背後のキリトが動いていた。

 

 

 

 彼の剣とヒースクリフの間にシステムで守られた盾が現れ、全プレイヤーが思考が止まる。

 

 ここで彼はたどり着いた。

 

 前世の記憶から知る俺とは違い。0からのスタートで、

 

(茅場晶彦を、化けの皮をはがしたっ!?)

 

 やはり勇者では無いらしい。

 

 だがそれでもいいか。

 

 瞬間、俺が全ての全能力を使用して動く刹那、ガクンと身体が下に、

 

「がっは」

 

「リンクっ!?」

 

「君が一番の不確定因子だからね、先手は打たせてもらった」

 

 片手で何かを操作するヒースクリフ(茅場晶彦)。重力が伸し掛かる。

 

「お前………」

 

「君、いや君たちの予測通り、私が茅場晶彦だよ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリト以外のプレイヤーは麻痺にし、かつ、俺だけはまるで重力を伸し掛かるように地べたに張り付けになっていた。

 

「彼奴だけ特別扱いか」

 

「正直私としても、彼の存在は特別なんだよ。本来《ユニークスキル》は条件が揃わない限り、90層以降別の条件が解放される。その前に多くの条件を満たしたプレイヤーだ」

 

 彼が答えにたどり着いたのも、俺と自分のデュエルで見せた謎の動き。システムアシストを受けた動きだ。

 

 キリトはそこから答えを得て、茅場に攻撃し、彼の、一定のダメージを受けた後、破壊が不可能な建物などの判定に切り替わるように、システムをいじっていた事に気づく。

 

「彼の《暗黒剣》は多くのエネミーを狩った者、特に強敵との戦闘により習得するものだが、他のユニークを習得していてもおかしくない、見事なものだ」

 

「それは」

 

「彼は他のスキルの習得条件を達成していた。ただ単に《暗黒剣》だけ早かっただけだよ」

 

 そんな話をし終え、彼らは対峙する。

 

 キリトと茅場のデュエルが始まる。これに勝てば全プレイヤーが解放され、負ければキリトを失い、ヒースクリフはラストフロアで待ち続けると。

 

 アスナが自殺しないように設定を頼み、彼は、殺し合いが始まった。

 

 みんなが叫ぶようにこの無謀に戦いを止めようとするが、俺は全神経が終わりを告げている。

 

 主人公(ヒーロー)が負けるはずがない。

 

 終わりだ。

 

 安堵を通り越し、無気力感の中、地べたに張り付く。

 

 もう全てが終わりを告げる。

 

 やるべきことはもうない。

 

 そうだ、もう、

 

「キリトっ」

 

 その時、ユウキの声が響く。

 

「キリトさんっ!」

 

「キリの字ッ」

 

「キリト君っ!!」

 

 本当に終わったのか?

 

 これでいいのか?

 

 彼らを物語のキャラクターで終わらす気か?

 

 僅かに動く顔でユウキを見た。

 

 一番好きで、生きていて欲しいと願った彼女。

 

 何度も触れ合い、その声を彼女の口から聞き、その手で握られた手を見る。

 

 なあ俺………

 

 ここで本当に終わりでいいのか?

 

(言い訳あるかよッ!!?)

 

 麻痺と重力制御で押し潰される中、気合いで顔を上げ、全思考を起き上がることに向けて、身体を動かそうとする。

 

 システムがなんだ。

 

 動かせ、動かせよ。

 

 デスゲームを終わらす。

 

 ユウキを笑顔にしたい。

 

 俺は、

 

(俺はいま、こいつらの仲間(・・・)ならッ!!!)

 

 完全に無理なのは分かっていても、

 

(デスゲームを終わらすッ、その為に全てをッ!!)

 

 顔を上げた瞬間、目に飛び込んだのは、

 

「アスナあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 ユウキの絶叫が響き、

 

 

 

 アスナがキリトの盾になって、

 

 

 

 俺は………

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その瞬間、奇跡が起きた。

 

 一つはシステム上の行動不可であるはずのプレイヤーが動き、黒の剣士をかばった。

 

 そして、HPが消えた彼女は、

 

「『蘇生・アスナ』ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 起き上がった彼は大声で叫び、瞬間何かが砕け散る。

 

 彼もまた動き手に何かを持っていた。

 

「………あ………」

 

 キリトは絶望の淵の中、それを思い出す。

 

「《還魂の聖晶石》………」

 

 その瞬間、彼女を削るポリゴンは消え、彼女を支え、アスナを見つめた。

 

「これって………」

 

「蘇生アイテム………十秒以内の、このゲーム唯一の、蘇生アイテムっ」

 

 クラインが驚きながら声をあげ、彼はすぐに地面に倒れた。

 

「がっ」

 

「リンクっ」

 

 ユウキと言うプレイヤーの声で我に返る。彼はその瞬間、地べたに磔にされた。

 

「………まさかこれは、驚いた………」

 

 茅場もまた、驚愕を禁じ得ない。

 

「どちらも麻痺から回復する手段は無かったはずだ、こんなことが」

 

「ざっけんなッ、キリト用に用意したんだぞッ。キリトっ、折れた剣はアスナのを代用して戦え!」

 

「………」

 

 アスナは気を失っていた。当たり前か、死ぬのが当たり前と思っていたのだから………

 

「………ああッ」

 

 剣士は叫び、折れた剣の代わりにそれを握る。

 

 彼女はいまだ眠りにつく、HPはレッドで残っていることもある。このままでいい。

 

 こうして物語は、一部を変えて終焉を迎えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………終わりか」

 

 全てが終わり《アインクラッド》の空、天空舞台と言うべき場所にいた。

 

 夕暮れか、朝日が昇るのか、その境目。ただ立ち尽くす。

 

 そして、

 

「君はなぜ私が茅場晶彦と思ったんだい」

 

 そんな空間に奴がそこにいた。

 

「………前世の記憶、俺はこの物語を創作物で知っていた」

 

 誰もいないこと、彼が死ぬことから、本人からそれを言う。

 

 それに驚きながらも、

 

「そうか………」

 

「知っていたらデスゲームは起こさなかったか」

 

「いや、むしろよりこの夢想の世界を創り出そうとしたよ」

 

「………なら俺はしたことは無意味か」

 

 それに対して、茅場は俺を見る。

 

「君にとって、あの仮想世界は無意味だったのかい」

 

「無意味さ、お前は間違えた」

 

「ほう………」

 

 断言されたのに、それを平然と受け入れる茅場。彼は続けた。

 

「夢想の世界を、異世界を夢想したあんたに言えるのは、俺からすればこの世界こそ夢想の世界だ。だからこと言える」

 

「間違えたと?」

 

「フルダイブシステムをただ発表して、あんたはよりこの世界を広げていればよかったんだ。そのうち、この世界こそ自分の世界と胸を張って言える人間たちは生まれ、それは続いて行った。この行為はそれを遅れさせる事実だ」

 

「それが前世の記憶を持つ君の意見か」

 

「このゲームがデスゲームじゃなきゃ楽しんでいたよ」

 

 それは本音だ。

 

 俺の世界ではあり得ない技術での世界、未知の、まさに異世界のような冒険の日々。

 

 だが茅場はそれを自らの手で壊した。少なくても、それが答えだ。

 

 それにそうかと頷きながら、俺は、

 

「君はこのゲームでなにを目的にしていた」

 

「目的なんてもう無くなっていた、だが別にもういい」

 

 そう言いながら、静かに目を閉じた。

 

「気が付くのが遅かった」

 

 一人の少女のこと。

 

 そしてこんな俺を心配する鍛冶師やプレイヤーたち。

 

 いつの間にか、仲間になろうとした者たちが多くいた。

 

 いや、もしかすれば彼らの中では仲間かもしれない。そんな奴らだから。

 

 そして静かに、

 

「茅場、ゲームクリアで少し報酬をもらいたい」

 

「ほう、なんだね。君はこのゲームのトッププレイヤーの一人だ。言ってみなさい」

 

「ナーヴギア医療用機器《メディキュボイド》の研究を進めたいからそれに関する物と、ユイ、ストレア、プレミア、ティア、ピナと言う《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》一号と二号と仲間NPC。テイムモンスターをこのゲームから連れていく方法」

 

「意外と多いな」

 

「別にいいだろ」

 

 その言葉に苦笑し、何かを操作する茅場は、こう言った。

 

「君のローカルメモリに方法を全部転送しておいた、後は好きにすると良い」

 

「そうか」

 

 そして静かに、

 

「最後に、ゲームクリアおめでとうリンク君」

 

 そうして全てが光りに包まれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全身に神経が通いだし、ナーヴギアを取り外す。

 

 それと共にローカルメモリを取り外し、すぐに隠した。

 

 病室は騒がしい、そろそろ俺のところにも看護師なり来るだろう。

 

 さて、この先どうするか、まあいい………

 

「疲れた………」

 

 そして俺のここからの前世の記憶は、意味もないこととなり、もう好きにすると決めた。




ALO編、この様子を見て、GGO編をするかどうか決めます。

偽物の勇者、妖精の世界へ。

では、お読みいただきありがとうございます。


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ALO編
第16章・摩擦の記憶と始まるゲーム


妖精の世界へいま降り立つ。


 目が覚めた俺は、このデータをどうするか、キリトとの接触を第一に動く。

 

 どう説明すればいいかとは置いておいて、知り合いを知っておいた方がいいと判断する。

 

 それで分かったことだが、アスナを始め、300人目覚めていないと言う事態に困惑した。

 

 記憶の摩擦から俺は次のゲームには当たりを付けている。

 

「『アルヴヘイム・オンライン』」

 

 スキル制、プレイヤーキル推奨、種族同士の争いがメインゲームであり、リハビリ時間、この時間は病院の監視があり、まともに活動できない。

 

 少しでも栄養を得る為にミルクを飲みながら、情報だけは集めていた。

 

 回復したその次に………

 

 黒い車に捕まり、運ばれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 よく分からないうちに運ばれていった。豪邸に連れていかれ、着いた先にはゼルダを除く《トライフォース》のメンバーがいて驚いた。

 

 シリカ、ルクスなどはどうしているかと思う事態、これは、

 

「まずは頼む、力を貸して欲しい………」

 

 現れた男性、ハイリア王のような人から、彼女、ゼルダも目覚めていないことに、ようやく気付いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なぜゲームはクリアされて、なぜか目覚めない彼女たちの情報を求め、父親が苦肉の策で集めたらしいが、

 

「ダルケルさんたちから聞いてないのか、茅場はもうこれ以上プレイヤーを閉じ込める必要は無い」

 

 そう、彼らだって茅場の最後を見ている。

 

 もしかしたら茅場事態は生きている。そんな噂があるが、悪いが俺はそう思わない。

 

 なぜかは知らないが、彼はナーヴギアの脳破壊シークエンスを外さず、プレイヤーと同じ条件であの世界にいたと断言できる。

 

 だからこそそれを言うと、彼らの方も少しばかり理解できるのか、難しい顔をした。

 

「それには説明したが、どうしてもな」

 

 ユウキとミファーがいないことに気にはなるが、どうするか悩む。

 

「君は彼が死んでると思うのかい?」

 

 リーバルがそう言うが、即座に、

 

「ああ」

 

 そう頷ける。残りの未帰還者たちは別口で目覚めないのであって、その鍵を握るゲームを知っている。

 

 だがそこまで言うことはできない。それは予測であり確証では無い。

 

 結局答えは出ず、ゼルダの父親謝罪を受け、解散することになる。

 

 そこで………

 

「リンクっ」

 

 しばらくしたら帰る為の車の準備が終わる。そう聞き、俺は庭先で暇をつぶさせてもらっていた。ここ豪邸過ぎる。

 

 そんな俺に話しかけてきたのは、俺は初めて、この世界でよかったと思う。

 

 車いすのユウキが、そこにいたのだから………

 

「ユウキか………」

 

「………驚くよね、こっちのボクは」

 

 少し細身の肌、髪は長く、少し恥ずかしそうにするユウキ。

 

「気にしない、元気そうでよかった………」

 

 そう言って手を握ると、ユウキは僅かに頬が紅い、恥ずかしいのだろう。

 

 ミファーが微笑む中、俺は初めてユウキの口から病気のことや、家族のことを教えられた。

 

 ゼルダたちの存在が、紺野家の者たちを助けている。両親も姉もまだ生きている。

 

「いいの? ボクの手を握ってても………」

 

「気にするな」

 

 それにますます顔を赤くするユウキが、元気である証だろう。

 

 その時、俺の携帯が鳴る。

 

「少し待ってくれ」

 

 少し真剣になり、電話に出る。

 

 電話相手はエギルであり、俺の予測が当たっていた。

 

 そう、アスナらしきアバターが、あのゲームの中で目撃されたと言う話を聞く。

 

「分かった、エギルの店で」

 

 そして電話を切ると、ユウキが心配した顔で、

 

「何の話?」

 

「気にすることじゃないよ、それじゃ、今日はこれで」

 

「待ってッ」

 

 ユウキがそう言って、両手で手を握る。

 

 振りほどくのは簡単だ。

 

 だが込められる弱々しい力は、俺を引き留めるには十分すぎた。

 

「………」

 

 真っ直ぐ見つめて来るユウキに対して、俺は………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはある情報で、ルクスたちなどがいないうちにと思ったが、やはり速過ぎた為、彼らにもバレた。

 

 俺はエギルからの情報を得てから引き返して、アスナらしい人が見つかったことを伝える。

 

 情報で、アスナのような子が鳥かごのようなものの中にいると言う情報。

 

 鳥かごは二つあり、その片割れの中にアスナに似た誰かがいる。

 

 リーバルたちが難しい顔で、話の大本の写真を見ていた。

 

「これは」

 

 とあるゲーム内で撮られた、ある場所の写真。その拡大図。

 

 だが俺だけはこれで確信を得た。

 

「俺はずっと考えていた、目覚めないプレイヤーは、まだゲームの中にいる」

 

「それは………だけど」

 

「『ソードアート・オンライン』はもうデータは無い、だがVRゲームはある」

 

 自分たちがSAOの中にいる間に、VRゲームの魅力は収まらず、安全性を第一にしたゲームが発売されている。

 

 そのゲームこそ『アルヴヘイム・オンライン』。

 

「俺はいま、このゲームに300人のプレイヤーが転移されてると思う」

 

「! それは」

 

「………あり得るよ、このゲーム関係者は、あのゲームの関係者が多いからね」

 

 リーバルの言葉に全員が驚く。俺自身、すでにそこまで情報を知られていることに驚く。

 

「俺はナーヴギアでこのゲームにログインする」

 

「!?」

 

 全員が驚く中、まだ回収されていないナーヴギアのことを伝え、ソフトを使い、確かめるために、このゲームの、写真が撮られた場所を目指す。

 

 写真は《世界樹》と言われる場所で、ナーヴギアはもうゲームオーバー=死ではない。これで少しでも早く進む。それに、

 

「なら私も」

 

「レインたちは来るな、正直現実で動いてほしい」

 

 即座に断りを言われる、そうでもしないと危険過ぎる。

 

 介入で物語通り進まない。まだこの世界が原作通りかは知らないが、もしもを考えると怖い。

 

 それを言われ黙り込む一同の中には、

 

「ボクが行くよっ」

 

 そう元気に言うユウキ。それに、

 

「なら保護者で私も」

 

 ミファーも言う中で、これ以上は迷惑だ、これで全員とする。

 

 元より現実で何かするのは大人しかいない、現実では攻略サイトなどをかわりに見てもらう程度だろう。

 

 それにナーヴギアが二つしか用意できないらしい。

 

 ユウキだけ、医療用の奴がある。普段はそれを使っていて、今日はたまたま許可が下りて会いに来たようだ。

 

「言ってしまうが、ナーヴギアでやることはチートと変わらないぞ」

 

「それでも、いまは」

 

 どうも断れないようだ。

 

 シリカたちがこちらを心配した様子で見ている。

 

「私たちは待つしかないのか………」

 

「リンク、後のことはお願いっ」

 

 レインたちからそう言われ、静かに頷くと、

 

「なら私たち大人は」

 

「これの重役者でも調べますか」

 

「久しぶりの本業だ、しっかりしないとな」

 

 そう言いながら、各々が動く。

 

 そして、

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「部屋の一室を借りるが、まずは種族か。時間とかも統一したいが」

 

 ユウキは特殊な医療機器から、ミファーは自宅から。ユウキはやっと少し現実に出られただけで、すぐに戻された。

 

 キリトとの連絡で、この辺りの経緯も説明し、お互い覚悟を決める。

 

「リンクスタート」

 

 そして俺たちは妖精の世界へとダイブする。

 

 キャラクターは風妖精族(シルフ)を選択して………

 

「なにものの見事に全員バラけてるんだよ」

 

 なぜかは知らないがユウキは闇妖精族(インプ)でミファーは水妖精族(ウンディーネ)で、キリトは影妖精族(スプリガン)と、そしてホームタウンに来るはずがフィールドの中。

 

 スキル制であり、レベルは無く、ログアウトボタンもある事を確認しつつ、現状に困惑する。

 

 なぜ全員がここに集ったか、よくわからない。

 

 ステータスだが、どうもSAOを引き継いでいるようなものであり、アイテムなども使えないがあって………

 

「これは」

 

 俺は茅場からのクリア報酬を見つけた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 この世界で彼女たち、ユイ、ストレア、プレミア、ティアは現れ、ユウキたち共々微笑み、再会を果たした。

 

 そこから分かることは、ここはSAOサーバーの劣化コピーであり、スキルなどはともかく、アイテム類はエラーに引っかかるから捨てた方がいいと言う事。

 

 自分たちの目的はこのゲームの《グランドクエスト》である世界樹を目指すこと。

 

 最大の目的は、

 

「アスナたちを見つける事か」

 

「ここがSAOサーバーコピーなら、おそらく」

 

「はい、リンクさんの予想通りなら、転移システムの応用で、このサーバーにママたちを連れて来ることは可能です」

 

「………色々きな臭くなってきた」

 

 ユイちゃんたちは《ナビゲーション・ピクシー》と言う、このゲームのシステムに変換され、サポートしてくれる。プレミアとティアには悪いが、ユウキとミファーについてもらう。

 

 ちなみに壮大なジャンケンバトルがあったことは割愛だ。

 

「よろしくねリンク♪」

 

「よろしくストレア。それじゃ」

 

「ああ、ともかく移動しよう」

 

 その時、近くで戦闘音があり、そちらを見に行くことになる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは追い詰められた風妖精族(シルフ)と、追い詰める火妖精族(サラマンダー)のプレイヤーが数名。

 

 ユウキとキリトが間を通り過ぎる為、戦闘は中断され、なんとも言えない雰囲気になった。

 

「あっはは♪ 楽しいねこれ♪♪」

 

「着地がミソだな………」

 

 そう暢気にいう中、俺たちはとのあえず大勢を見る。

 

「重戦士六人で女の子一人を襲うのは、ちょっとカッコよくないなぁ」

 

 そんなことを言える余裕があるのかと思いながら、軽い片手剣を構え、静かに見据える。

 

「増援かっ、だが初心者らしい。まとめて狩るぞ!」

 

 二人がこっち、三人がユウキとキリトへ。

 

 だがだいぶHPも減ったプレイヤーに、

 

「ハッ」

 

「セイッ」

 

「斬ッ」

 

 この三人が負ける通りは無かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女こと、助けた風妖精族(シルフ)の『リーファ』に、色々なことを聞くことになり、シルフ領の町に出向く。

 

 正直三人が種族違いと、ピクシーである四人で物凄く不信感は抱かれたが、変にだます気は無いと思われたのか、案内をしてくれる。

 

「けど、やっぱり種族別々パーティーは珍しいのか」

 

「珍しいですねやっぱり。最近は音楽妖精族(プーカ)で、アイドル的な子が《グランドクエスト》攻略の為に集め出してますけど」

 

 そんな話を聞きながら、やはり少人数で来て良かったようだ。きっとメンバーが面白いくらいにばらけるだろう。

 

 街で飛行技術で少し問題があり、彼女の仲間に会ったものの何事もなく、詳しい話を聞く。

 

 ここの《グランドクエスト》は《世界樹》に最初にたどり着いた種族が、限定的な飛行時間から解放されると言う話であり、故に種族PKが推奨されているらしい。

 

 だが入口に入ると、NPCガーディアンが大量に出て、明らかにバランスブレイクだが、運営はけして直そうとしないと。

 

「………きな臭い」

 

「やっぱりそう思うか」

 

 リーファから詳しい話を聞き、ログアウト用に俺が部屋を借りて、全員で纏まった話し合う。

 

「ゲームが動いている状態なら、いつゲームクリアされてもおかしくないゲームプレイヤーを転移はできる。理論上、サーバーからサーバーへ転移は可能か?」

 

「少し難しいかな? けど《カーディナルシステム》からログアウトの際、プレイヤーは解放されるから、狙うならログアウトした瞬間。それなら可能だよ」

 

 ストレアからの言葉に、俺たちは全員お互いを見る。

 

「ゼルダもここにいる、俺は確証がある」

 

 前世の記憶、次の舞台がガンゲーかこのゲームのどちらか。そう確証はある。

 

「ちなみにゼルダを繋ぎ止めてると、メリットってあるのか?」

 

「あるよ」

 

 ミファーが静かに、綺麗な赤色から青に変わっていても綺麗な彼女は、しっかりと、

 

「いま未帰還者たちを支えるために、サーバー管理する会社に多額の寄付金がされてる。ゼルダの家が一手にそれを担ってる」

 

「金か………」

 

 暗い話を一度打ち切り、リーファが仲間になって、世界樹の中立区へ行く話になっている。

 

 ともかく装備も整えて向かいたいところ、そんな話の中、

 

「ところでキリトくん、浮気はダメだぜ」

 

「キリトって手が早いんだね」

 

「おいおい」

 

 苦笑するミファーたちと共にログアウトし、現実へ帰る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「調べたら滅茶苦茶黒に近い男が出て来た」

 

 俺は今日はゼルダの家に泊まり込み、詳しい話をしていると、リーバルが呆れながら言う。

 

「バカみたいにね、結城家の、君らが動く切っ掛けの明日奈。あの子の家と婿養子になるとか、もうね」

 

「調べてみたら黒い噂も。人の脳がVRで干渉できるかって言う実験の話まで出て来た」

 

「あんたらブランクあるんだよね?」

 

 マナーは守るが、食事を取る中つい本音が出る俺。それについても、

 

「まだ証拠が無いのにこれだよ、もうね、僕らだって信じられなかった」

 

 彼らは元々、ゼルダとミファーの護衛兼、死んだ母親の知り合いと言う関係であり、ウルボザも呆れていた。

 

 こんな黒い話を聞けば、嫌でも分かる。

 

「チートでプレイするのはあれだが、このままゲームの世界で、世界樹に行く。あそこが運営経営されている施設なら、証拠がゴロゴロしてるだろう」

 

「ならさ、これ持ってってよ」

 

 そう言って、メイドさんが何かのメモリチップを持ってくる。

 

「これは」

 

「撮影用データ、いまは安全なナーヴギアに接続して、君が見る景色や音声を録画する」

 

「ミファーやユウキも」

 

「まあね」

 

 こうして話と、ゼルダの父親から、もしもなにかあれば私がどうにかすると、

 

「やべ、ゼルダのリアル知りたくない」

 

「知らない方がいいよ~、ミファーもね」

 

 ウルボザたちが苦笑する中、俺たちの方針は決まった………




原作を知らなくても、妖精と銃の世界くらいは知っている。それくらいですが、十分すぎる情報ですね。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第17章・剣士たち

シルフ領にて攻略を開始。

リンク「レインの剣が欲しい」

ユウキ「呼べば来てくれると思うよ?」

キリト「作ってくれる時間が無いだろ」

リンク「仕方ない。キリトお前はいいのか」

キリト「俺はそんなに。リズの剣もいいけど、仕方ないさ」

どこかで自分の扱いについて口論したくなった鍛冶師プレイヤーがいたとかいなかったとか。


 翌日、装備を整えて、リーファの案内で世界樹がある町へと出向くことになるのだが、少しひと悶着。

 

 リーファの仲間がリーファの単独行動を咎めようとする。

 

 別に彼女がどうするか決めるのは彼女の意思、後で聞いたが元より勝手に抜けても文句を言うなと言う条件で加わっているはずなのに、そいつはリーファをパーティーの看板扱いする。

 

 それでキリトが、

 

「仲間はアイテムじゃないぜ」

 

 そう言って間に入るキリト。

 

 少し戦闘になりかけたが、いくら種族PKが可能とはいえ、スパイでもないキリトをいきなり斬れば、町の治安が疑われる。

 

 最終的に町の外にいる時は気を付けろ的な捨てセリフと共に去るが、

 

(あれ絶対に何か企ててる)

 

 そう勘がささやく。

 

 それについては別の、彼女のリアルでも友達の『レコン』が様子を見るらしく、湖まで一気に飛び、そして戦闘が続いた。

 

「………なんで二人とも、コントローラー無しで飛べるんだよ」

 

 キリト、ミファーはいまだコントローラーが無ければ飛行がままならないが、俺とユウキはすでに無しで飛行が可能になった。

 

「面白いよこれ」

 

「慣れた」

 

 滑空を何度もしていればできるようになるものだ。

 

「仲が良いですね………」

 

 槍を持つミファーも羨ましそうに見る中で、しばらくして一時的にログアウトする話になる。

 

 フィールドでのログアウトは即座では無い為、ログアウトしている際、アバターを守る仲間が見回るらしい。

 

「ともかくユウキたちを守る。本当にアバターは残るんだな」

 

「はい、変な事をしたらハラスメントコードが働きます」

 

「リンクが触りたいなら、アタシの触らせてあげようか?」

 

「いいよ別に」

 

「え~」

 

 しかしこうしてストレアと会話する機会は無かったが、だいぶ親しくなっている。

 

「バカなことを言わないでください」

 

「リンク、なぜストレアばかりとお喋りするのですか。わたしともしてください」

 

 プレミアとティアが左右の肩に乗り、頭に乗るストレア。

 

 その様子に、

 

「パパ、リンクさんはハーレムなんですか?」

 

「どこで覚えたそんな言葉っ」

 

「………ユイちゃんに言われたことにショックなんだが」

 

 そんなこんなで俺たちの番になる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 今度はキリト君とリンク君がログアウトし、ユイちゃんにパパは好きかと聞いたら、

 

「リーファさん、好きってどういうことなんでしょう?」

 

 そう聞かれて、少し彼、キリト君を意識してしまう。

 

 そんな中、あたしは少しだけ気になった。

 

「ユウキちゃんとミファーさんは、誰か好きなんですか」

 

 それにユウキちゃんもミファーさんも、彼、リンク君を見た。

 

 そしたら左右から、

 

「リンクはわたしたちのです」

 

「そうだぞ」

 

「えぇ~アタシもいるのに~」

 

 どうもピクシーにモテているらしいリンク君。

 

 詳しい話を聞きたいけど、その瞬間に彼らが戻ってきた。残念っ。

 

「ただいま」

 

「お、お帰りリンク。早かったね」

 

「ああ」

 

 ユウキちゃんと仲良しで、ミファーさんとも知り合い。この四人はどういう関係なんだろう。

 

 そう思いながらも『央都アルン』に向かうため、あたしたちは洞窟を進もうとしたとき、

 

「「っ!?」」

 

 キリト君たちが来た森を見た。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「見られてる?」

 

「ユイ、この辺りに俺たち以外のプレイヤーはいるか?」

 

 それにピクシーたちは首を振り、それでもリンクは、

 

「追跡魔法とか、そう言ったのは。気配はする」

 

「気配って、そんな第六感的なこと」

 

「いや、こいつの勘は侮れない。急ぐか」

 

 リーファは少し半信半疑でありながら、全員が洞窟の中に入り、先へと進む。

 

 その途中、そう言った魔法の解除はトレーサーを見つけられればいいがそれも無理だと話し合い、彼らは《ルグルー回廊》を急ぐ。

 

「そう言えば、キリト君たちは魔法スキルは上げてないの?」

 

「スペル覚えるのが苦手~」

 

「私は初期の、ヒーラーに適したのを少し覚えてます」

 

「回復は」

 

「えっ、知らないの俺だけ」

 

 少しは覚えようと、影妖精族(スプリガン)の暗視魔法を発動させ、道中も魔法のスペルを口にする。

 

 先に進む中、リーファにメッセが届く。

 

 レコンと言う、彼女の同級生仲間だが、彼のメッセは『やっぱり思った通りだ!気を付けてs』で途切れている。

 

 これだけでは分からないが、その後リンクがすぐに気づく。

 

「接近されてる」

 

「って、なんでいち早くリンクが気づくのっ!?」

 

 ナビにも引っかかり、全員が驚く中、ユイが補足する。

 

「プレイヤーが多数接近されてます。数は」

 

「12人だ」

 

 一瞬リーファが隠蔽魔法を使おうとしたが、リンクがストレージから剣を取り出して突然投げ、何かに刺さり、それにリーファが、

 

「高位魔法のトレーシング・サーチャー!? まずいっ」

 

 急ぎだすリーファ、それの後を続く一行。走りながらリンクは尋ねた。

 

「やっぱり目か? 使い手か後から来る12人なら、隠蔽魔法使ってもさっきの使われてダメか」

 

「うんそうっ、そしていまのは火属性の使い魔だから」

 

「サラマンダーっ」

 

 ユウキの言葉に急いで町に出向く。すでに火妖精族(サラマンダー)にはケンカを売っているし、狙われない方がおかしい。

 

 そうして考え込んでいると、

 

「『スイルベーン』にサラマンダーが隠れていた?」

 

「それって、シルフ領の町の名だな。そいつら?」

 

「うんっ、魔法が掛けられたとしたら、だけど」

 

 リーファの言葉から、リンクはすぐに追跡魔法を掛けられたのは、町中、しかもシルフ領の町でしかありえないと判断したらしい。

 

 だが、それは少しおかしいと、走りながらユウキが訪ねる。

 

「居てもおかしいことなの?」

 

「ううんっ、だけどシルフ領とサラマンダー領は敵対関係だから、厳重にチェックされてる。それでピクシーの索敵がある中、あたしたちに魔法を掛けられたこと考えると」

 

「町の中でしか考えられない、ということですね」

 

「それって、どうなってるのっ!?」

 

 つまり、PKを仕掛けるようなプレイヤーが、別種族の町で獲物を吟味したりしているということ。治安が悪いとか言う話では無い。

 

 厳重に確認されているのなら、そう言うことが可能なプレイヤーは入れないかできないように対処されるはず。それがされているということがおかしいと理解した。

 

 ともかく走る中、洞窟の地底湖があり、そこに飛び込むと強力な水棲型と戦うことになると聞き、石作りの橋を渡り急ぐ。

 

 その時、照準が外れた魔法が放たれ、リンクたちは違和感を感じた。

 

 それは目の前に落ち、壁を作り出して道を防いだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「魔法の壁か」

 

「でえぇぇいぃぃぃぃ」

 

 キリトが間髪入れずに一撃を放つが、無意味であった。

 

 魔法でできた壁は魔法で無いと壊せないが、時間が無い。

 

 遠回りすることもできないのなら、すぐに心もとないが剣と盾を取り出す。

 

 正直、レインの作った物で無い為か、全く馴染まない。

 

「リーファ、君の腕を信じ無い訳では無いけど、ミファーと一緒に回復に専念してくれないか」

 

「俺たち三人で12人撃破か」

 

 湖は水棲のエネミーがいるのだから、これしか無い。

 

 ミファーは驚きながらだが、ユウキは静かにすでに剣を抜いていた。

 

「さ、三人ともっ!?」

 

「12人、一人四、二人でいいか」

 

 さすがに魔法がある世界、前衛だけと言う訳では無い。

 

 いまは数を減らしたいと考え、向かう敵を最大四、最低二と計算して話すが、

 

「ボク五人と戦うっ」

 

「………ユウキ」

 

 その時、ユウキは力強く頷く。

 

 ここは『ソードアート・オンライン』では無い。だから、

 

(ボクは、戦えるッ)

 

 その決意を感じ取り、静かに構える。

 

 その時、

 

「?」

 

 ストレアは気のせいか、カチリと何かが切り替わる音(・・・・・・・・・)が聞こえた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大盾を持つ三人組が前に出て、それに対処する三人。

 

 相手は防衛しつつ、魔法攻撃でこちらを倒すつもりだが、そのうち、一人の剣が光りのように早かった。

 

「がっは」

 

 盾の隙間を縫い、串刺してそのまま吹き飛ばす。

 

 その瞬間、二人の剣士は瞬間斬り込むが、大盾で防がれてしまう。

 

 瞬間、回転するように大盾使いは背後を斬られ、盾が緩んだ瞬間、惨殺される。

 

「なっ」

 

「リンクっ背後」

 

 カンッと鳴り響く音、

 

「なにっ!?」

 

 背後を見ず、影を見て剣撃を見切り、背を向けたまま剣を受け止めた。

 

「バカなッ、後ろにでも目があるのかよ!」

 

 その瞬間を二人の剣士が見逃さず、瞬間斬り込みが始まる。

 

 炎の魔法がユウキを捕らえた瞬間、

 

「ッ!!」

 

 敵プレイヤーの一人を掴み、そのまま勢いよく全身を使い投げた。

 

 炎魔法はそのまま、突然現れたそのプレイヤーと激突して消える。敵プレイヤーを盾にすると言う方法で仲間を守るリンク。

 

「うわっ、エグっ」

 

 ユウキはそう言い、すぐに盾になったプレイヤーを斬り捨てた。

 

 そこからは襲撃の中、敵側はHPゲージが減った前衛に回復魔法を唱えようと構え出す。

 

 即座にリンクはアイテムストレージを操作し、手元になにかを取り出した。

 

 一斉に回復魔法を使おうとしたメイジへ拳ほどの大きさの小石を取り出し、その大きく開いた口へと投擲する。

 

 即座に脚で蹴り、口へとヒットさせた。

 

「ぶはっ」

 

「バカ、詠唱止めるなっ!」

 

「金髪のシルフ剣士がやばいッ。動きが尋常じゃねぇっ!!」

 

「インプもスプリガンもだよバカッ」

 

 舞うように剣撃を放つユウキ。

 

 SAOでは人が死ぬと言うこともあり、本来の力は発揮されていなかった。

 

 だがここで一気に爆発する。

 

 大剣を振り下ろされるがすれすれで避け、突き刺すと共に瞬時に身体をひねり斬り込む。

 

「できた」

 

 リンクがした身体を回転させる技ができたため、少し喜ぶ。

 

 だが小技と言うべきものはリンクだった。

 

 相手の剣撃を、盾をしまい、開いた手に剣を投げ渡して、それで剣を防いだり、小石を投げて詠唱を妨害する。

 

 こんな小技は、

 

「いやでしょうね」

 

「キリト回復領域、10秒前」

 

 ピクシーが回復のサポートをし、ミファーとリーファは回復魔法を飛ばす。

 

 空いた手の扱いがうまく、突撃するユウキの首根っこを掴み、魔法から外させたりと、

 

「位置取りがあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 リンクはけして前に行き過ぎず、バックステップで後ろに下がり、またストレージから小石を取り出す。

 

「いくつ小石をッ」

 

 ポケットにも小石を用意しておき、詠唱妨害の準備を続けた。

 

「ははっ」

 

 キリトは笑みが浮かぶ。こうも位置取りや、人が嫌がるタイミングを熟知している。

 

 敵にしたくない相手と思いながら、一気に、確実に、戦線を前に出して、

 

「ユウキいまだ突撃」

 

「分かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 メイジ組が揃う中に、

 

「行かせるかッ」

 

 そう前衛がユウキに集まった瞬間、

 

「キリト飛べ」

 

「おうッ」

 

 そう言ってリンクの背中を足蹴に、僅かの滑空時間を利用して前衛の壁を突破して、メイジ職の固まりに飛ぶ。

 

「ゲッ、フェイクっ!?」

 

「ボクじゃなかったっ」

 

「その変わり瞬殺しろっ」

 

「OKッ!!」

 

 その様子に呆れながら、一気に畳みかけ、最後に一人を捕まえた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 最後の一人を捕まえた後、リンクとユウキ、リーファたちも揃う。

 

「なぜ俺たちを追ってきた? 追跡魔法はシルフ領からか。洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「こ、殺すなら殺せっ」

 

 そう言う中、キリトが、

 

「いっや~ナイスファイトっ、危なかったぜ」

 

「キリト?」

 

 少し周りを確認し終えた彼はそう言いながら、捕まえて座らしているサラマンダーに近づく。

 

「まあまあ、俺一人だったら危なかった。良い作戦だったよ」

 

 一人そう陽気に話しかけながら、静かに、

 

「それでキミ、物は相談だけど」

 

 左手を振り、トレードウインドを出し、サラマンダーにアイテム群をの羅列を示す。

 

「これ、いまの戦闘で俺がゲットしたアイテムと(ユルド)なんだけどな。俺たちの質問に答えてくれたんなら、これ全部、キミにあげちゃおうかなーなんて、思ったんだけど」

 

 その時、サラマンダーは他の仲間、エンドフレイム、いわゆる蘇生待ちが過ぎて、セーブポイントへ戻されたのを確認する。

 

「………マジ?」

 

「マジマジ」

 

 そんな会話を苦笑するが、女性メンバーは、

 

「これっていいのかな?」

 

「男って………」

 

「みもふたもないです………」

 

「いま確認したけど、なんかすごいレアアイテムがあるんだけど」

 

「これは悪い見本ですね」

 

「ああ」

 

 そしてキリトの方にもあったのか、おおっと歓喜の声を上げて、交渉成立したらしく、笑いあう二人。

 

 ともかくサラマンダー戦は切り抜けることはできたのだった。




口の中に小石投げ込まれれば詠唱止まると思う。

曲芸のように剣を投げ渡して、左右の守りをする彼。

キリト「こう斬り込んでから、こうして投げて、空いた片手でキャッチして防ぐ………」

ユウキ「難しいな。右に斬り込んで、左から来る攻撃を、右手で持つ剣を左手に投げ渡して、それで防ぐ。あっ、できたっ」

リンク「なんでこの子らマネしようとするんだろう」

リーファ、ミファー「「むしろどうしてできるの」ですか?」

ぷち曲芸大会をしてます。

お読みいただきありがとうございます。


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第18章・ALO最強プレイヤー

リーファと共に世界樹へ目指す中、サラマンダーの一団に襲われたが撃墜する一行。

その後、キリトと交渉にて、彼から情報を受け取るのだった。


 色々話を聞くと、ようは火妖精族(サラマンダー)は何か大きな作戦をするから、その邪魔になるかららしい。

 

 その作戦の邪魔になる。この前にシルフ狩りで有名なプレイヤーを撃退したプレイヤー。

 

 だからと火妖精族(サラマンダー)彼は納得したとのこと。

 

 別れた彼から他に聞いたのは、作戦に関わるかもしれない話。

 

 まさか《グランドクエスト》に挑戦? とも思ったがそれもあり得ないとのこと。

 

 しかしその《グランドクエスト》。

 

 いまから行く《世界樹》に住む妖精王に、最初に出会った種族が、制限なしで飛行できる種族になるというもの。

 

 だが、

 

「全員が古代武具(エンシェントウェポン)級の武器で、大量の資金が無きゃ受けられない。どんなクエストだ」

 

 クリアさせる気が全く感じられない。

 

 やはり種族協力が無いと不可能ではないか? それにはリーファも、

 

「確かに……、最近ホント、音楽妖精族(プーカ)のアイドルが言うように、全プレイヤーが協力しようって話が出てます。さすがに彼女を筆頭にと考えるプレイヤーはいませんが、その作戦じゃなきゃ無理かって」

 

 そんな話になる中で、先ほどのメッセはどうしたという話になる。

 

「あっ、忘れてた」

 

 レコンと言うプレイヤーからの謎のメッセ。それに妙な胸騒ぎがある。

 

「それじゃ、ユイちゃんみんな、パパがあたしに変な事しないか見張っててね」

 

「俺だけかよ」

 

「あはは、それじゃ」

 

 いま連絡できないため、リアルで連絡しにログアウトするリーファ。

 

 その間、

 

「リンクって、どうやって周りのことを把握してるんだ?」

 

「影と刀身に映る景色、後はにおいと音。か」

 

「におい?」

 

「さすがにプレイヤーからはしないけど、草木からとか、向かってくる刀身とか。火で焦げたら、この世界じゃ魔法食らった仲間のにおいは分かりそう」

 

「なるほど」

 

「女の人なら香水のにおいとかで分かりそうだよ」

 

「風が斬れる音もするから、それからも」

 

「どうしよう、ユウキたちの会話が分からない」

 

「安心してください、パパたちの会話は常人の域ではありません」

 

 そんなことをしていると、リーファが慌てて戻ってきた。

 

「キリト君みんなごめんなさいっ、あたしはここで」

 

「!? なにかあったか」

 

「それなら走りながら聞くぜ、どっちにしろここから足を使って出なきゃいけないんだろ?」

 

「ツッ、ごめんなさい」

 

 そうしてリーファから聞かされた話は、火妖精族(サラマンダー)風妖精族(シルフ)猫妖精族(ケットシー)の会談を襲うとのこと。

 

 リーファたちの元仲間である男は、前々から火妖精族(サラマンダー)と密会していた。

 

 最初のピンチ、俺たちと知り合った時の戦闘も、それはパーティーメンバーであるはずのリーファとレコンのリソースを奪う為の一芝居。

 

 キリトがメリットについて訪ねると、会談が襲われればシルフとケットシー仲が割れて、最悪の場合戦争。

 

 そして領主を倒すとその種族にボーナスが入って、10日間、町を占領して税金は自由にできるらしい。

 

「これはあたしたち、シルフの問題だから………。キリト君たち《世界樹》に向かいたい君たちと関係ない」

 

「だけどリーファには関係あるんだから見逃せないよ」

 

 ユウキがそういう中、リーファはえっと驚く。

 

「ゲームだから何でもあり、殺すなら殺すし、奪うなら奪う………。そんな風に言う奴は嫌ってほど出くわしたよ。でも、そうじゃないんだ」

 

「仮想世界だからって、欲望に身を任せれば、現実の人格も破綻します」

 

 キリト、ミファーがそう言い、俺が最後に話しかける。

 

「悪いがリーファの問題を無視することはできない、急いでいるから」

 

「ああッ、速攻で片付けて《世界樹》に急ぐぞッ」

 

 キリトの言葉を聞き、リーファは嬉しそうに微笑む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あーーーーーーー」

 

 今度は悲鳴となり、エンカウントしても無視して、先を急ぐ。

 

 リーファはキリトに手を引かれ、どうにか外に出て追い払い、世界の樹らしいものを見ながら、ケットシー領の道へ急いだ。

 

「けどどうする、フィールドにモンスターが出ないなら、さっきみたいにモンスターを集めて、大軍をサラマンダーにけしかけることはできないぞ」

 

「ああ………」

 

「キリトたち凄い、思考が」

 

「ともかく、このままじゃ、ケットシー領に逃げ込むか、討ち死にするかのどっちかだよ」

 

「ティア、とりあえずプレイヤー反応に気を付けて、私たちは先行しましょう」

 

「分かった」

 

 そして急いでいたが、どうやら間に合いそうにない。

 

 すでに軍隊が会談近くに迫る。

 

「ありがとうキリト君、みんな。ここまででいいよ……。キミたちは世界樹に行って、短い間だけど楽しかったよ」

 

「リーファ……」

 

 そんな中、キリトは、

 

「いや、ここで逃げ出すのは性分で無いんでね」

 

 そう言って彼は大舞台と会談場所に向かっていく。

 

 これに呆れながらすぐにリンク、次に嬉しそうなユウキも後を追う。

 

「こういう人たちなんです」

 

 そう言ってミファーも急ぐ中、リーファも呆れながら、後を追う。

 

 そして、

 

「双方剣を引けっ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺たちはキリトに言われたのは、俺に任せろと、リーファは領主の下に出向き、俺とユウキ、ミファーはキリトの後ろに。

 

「指揮官に話がある」

 

 その様子に少し間があるが、一人の大男が前に出る。

 

 赤銅色の鎧を身に纏う、両手剣使いの男。

 

「………スプリガン、インプにウンディーネが、何の用だ。どちらにしても殺すが、その度胸に免じて話だけは聞いてやる」

 

「俺の名はキリト!! スプリガン、ウンディーネ、インプ同盟の大使の一人だっ。この場を襲うからには、我々五種族との全面戦争を望むと言う事でいいんだな」

 

 えっ、俺たちでこの大軍と戦うんじゃないの。ともかく嘘が下手そうなユウキの前に、すっと現れ、ミファーは毅然と立ち尽くす。

 

 火妖精族(サラマンダー)の指揮官が驚くが、すぐに表情を戻す。

 

「………護衛の一人もいない貴様らがその大使だと言うのか」

 

「ああそうだ。この場にはシルフ、ケットシーとの貿易交渉に来ただけだ。だが会談が襲われたとなれば、それだけじゃすまないぞ」

 

 よくもまあぽんぽんはったりが言える。ともかく前に出ながら、全員相手にすることをシュミレーションしておこう。

 

「たった一人、たいした装備も持たない貴様の言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな」

 

 それに仕方ないかと、

 

「彼らは大使ですよ、わざわざ武器一式のランクを下げて、シルフ領へと来たプレイヤーです」

 

「………お前は」

 

「シルフ領で彼らの言葉を信じ、この会談の場所を教えた者です」

 

「見ない顔、だが………面白い」

 

 火妖精族(サラマンダー)の指揮官は背に背負う両手剣を抜き、静かに構える。

 

「オレの攻撃を一分耐え切ったら、お前を大使、そしてシルフの護衛と信じてやろう」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一分、あたしは息をのみ、その様子を見た。

 

「まずいな………」

 

 わたしは『サクヤ』さん、シルフ領、領主とケットシー領の領主『アリシャ・ルー』さん。

 

 サクヤさんの顔色が悪いのを見て、その言葉の続きを待つ。

 

「あのサラマンダーの両手剣、レジェンダリーウェポンの紹介サイト見たことがある。あれは《魔剣グラム》。ということはあの男が『ユージーン将軍』だろう」

 

「それって」

 

 確かあたしでも知っている、サラマンダーの凄腕プレイヤー。

 

「サラマンダー領の領主『モーティマー』の弟、リアルでも兄弟らしくてな。知の兄に対して武の弟、純粋な戦闘能力ではユージーンのほうが上だと言われている」

 

「それじゃ、勢力が他よりも高いサラマンダーの、全プレイヤー中最強………」

 

「ってことになるのかな………、とんでもないのが出てきたもんだ」

 

 空中で待機する三人、キリト君を後ろにリンク君が前に、ユージーン将軍は静かに構えている。

 

 雲が流れ、いくつもの光の柱が生まれたとき、将軍の刀身に当たり、まばゆい光が反射した瞬間、斬りかかる。

 

 動作なんて無い攻撃に、目つぶしがリンク君で遮られ、キリト君だけが反応できたけど、リンク君は目を瞑った。

 

「まだだよ」

 

 ユウキちゃんがそう言うと、瞬時に彼は剣に反応している。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 だがその瞬間、リンクは全身に斬られるビジョンが浮かび、全力回避行動に移った。

 

 刀身がすり抜け、それにキリトも驚きながら、それに初手で反応したリンクにも驚く。

 

 後ろに大きく下がったため、キリトに激突したものの、初撃の最大の一撃は回避した。

 

「ほう、俺の《魔剣グラム》を躱したか。その顔はこの剣の能力を知らなかったみたいだが」

 

 下で絶句するリーファたち。アリシャ・ルーが静かに語る。

 

「あの《魔剣グラム》には《エセリアルシフト》っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ!」

 

 僅かに斬られた一撃に、警戒しつつキリトと共に剣を防ぐ。

 

 二人で攻めても光明が見えず、斬り合いの中で刀身がすり抜けた瞬間、キリトたちが避ける。

 

 その攻撃の中、舌打ちするキリト。だがリンクは、

 

「もう一分は経ったんじゃないのか」

 

「気が変わった、斬りたくなった。首を取ったらに変更だ」

 

 それにリンクは静かに、

 

「キリト、しばらく俺に任せて、お前はスイッチの瞬間に、フィニッシュを決めてくれ。隙は俺が作る」

 

「ほう………」

 

「………分かった」

 

 その会話を聞き、静かに距離を取るキリト。

 

 ユージーン将軍は両手で構えたまま、リンクは少し構えを解き、そして剣を見る。

 

「よし、賭けるか」

 

「行くぞッ」

 

 斬り込みの中、一閃が放たれる。

 

「避けるのっ!?」

 

 だが剣を構え、静かに受け止めようとする姿勢に、全員がすり抜けるビジョンが見えた。

 

 

 

 だが、

 

 

 

 キンッと言う金属音が響き、剣がぶつかり合う。

 

 それにユージーン将軍が驚愕する。

 

「バカなっ、なぜ《エセリアルシフト》が発動しないっ!?」

 

「別にそれはいつも作動しているわけでも、発動条件も『刃で振れるもの』限定じゃないのか?」

 

「っ!?」

 

 それにリンクは剣の刃では無く、刀身同士がぶつかるように、つまるところ当たり判定を見抜いたのだ。

 

 手首を操作して、透過条件を突破し激突させた。

 

「斬ることについてはすり抜けられるが、叩き付けることにたいしてはすり抜けられない。イチかバチかだったが、これなら」

 

「防げるとでも、思ったかッ!!」

 

 激突し合う剣撃に、その瞬間、彼が刹那の動きをする。

 

 剣が激突し、相手の力が消えた瞬間、次の動作に移り斬る。そのような芸当をし続けた。

 

「マジかよ……、システムアシスト受けてるみたいだ」

 

 金属音が響き渡る中、すり抜けが起きてもギリギリで避け、小技が続く。

 

 何度も空中戦で、幾度も無く上下が動く中、

 

「リンクっ」

 

 ユウキの叫びを聞き、瞬間的に爆発するリンク。

 

 一気に距離を取られた瞬間、空高く飛び、それを追う。

 

「こざかしいはアァァァァァァァァァァァァ」

 

 下に向いたユージーン将軍がそう言い強力な一撃を放つ。

 

 瞬時その突きを躱し、一撃を食らわすが、それでは届かず、斬り込みが放たれる。

 

「スイッチ!」

 

 瞬間斬られ、剣が火花を散らし斬り弾かれた。

 

 だが弾かれた剣は、

 

「タイミングは」

 

「ばっちりだッ」

 

 瞬間、リンクの剣を受け取り、落下するように斬りかかるキリト。

 

「なにッ」

 

「でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

 流星の如く落ちる二人の剣撃は、まさに流星が飛び交うようであり、それでも斬り放たれた一撃は通過した。

 

 だが首筋に当たる瞬間、もう片腕の剣がそれを受け止める。

 

「くっ」

 

 攻撃を当たる為に非実体化を解いたグラムを受け止め、顔を歪めるユージーン将軍。

 

 落下しながらの攻撃の中で………

 

 キリトは怪しい笑みを浮かべた。

 

「セイッ」

 

 その瞬間、リンクがキリトの剣を持って、斬り込みかかる。

 

「いまの一瞬でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 咆哮を上げるユージーン将軍。いまの一瞬で剣の投げ渡しを行った二人の行動に吠えながら振り下ろされる剣を睨む。

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 雄たけびのように叫び、魔剣を振るう。それでも、それよりも速く切り込む。

 

 相手に大きな隙が生まれた、それに二人は、

 

「「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」」

 

 その隙間を斬り込むように、連続攻撃を放つ。

 

 最後の一撃、リンクごとキリトを斬り伏せる剛の攻撃が放つユージーン将軍。

 

 無論盾や剣で防ごうとすれば非実体化で通過するが、

 

「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 リンクは空いている片腕を突き上げ、刀身を手でアッパーカットし、叩き弾く。

 

 その間にも剣を持つ腕は、キリトと共に。ユージーン将軍へと斬りかかる。

 

 全く違う動作を同時使用した彼の動きに、雄たけびのような咆哮が響き渡った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 このALOでは、近接なら不格好に武器を振り回して、遠距離なら魔法をぶつけ合うのがスタンダード。

 

 だがいまの連携や技の押収はそれとは違う。

 

 それによる静寂の中、サクヤが最初に破る。

 

「見事、見事!」

 

 こうしては火妖精族(サラマンダー)たちは、キリトの話を信じることにした。

 

 ともかくそう言うことにして、キリト、リンクには覚悟しろと伝え、その場を後にする。

 

 残った領主二人にブラフのことを伝えつつ、今回の件の原因は今度のアップデートで実装化される、転生システムを使い裏切ろうとしたプレイヤーがいることで幕を閉じた。

 

「全く、このゲームはプレイヤーの欲を試す陰湿なゲームだぜ」

 

 ともかく裏切ったプレイヤーは領地追放にし、こうして会談は守られ………

 

「しかし、君ほどの風妖精族(シルフ)がいるとはな。リンク」

 

 そう言いリンクの腕を、その胸が当たるほど抱きしめるサクヤ。

 

「ちょっ」

 

「今後君のようなプレイヤーが守ってくれると、シルフ領も安定なのだが」

 

「なら、キミはどう? ケットシー領はかわいい子いっぱいだヨ」

 

 そう言いアリシャ・ルーに抱き着かれるキリト。二人の剣士は困った顔をしたが、

 

「リンク」

 

 物凄く冷たい声でユウキが、ミファーと共にリンクを、リーファはキリトの服を引っ張り、引き離した。

 

「ゆ、ユウキ?」

 

「………」

 

 ともかく意味も分からず土下座するリンク、無表情なユウキは彼を見下ろす。ちなみに左右上に三人のピクシーがいる。

 

 傭兵などのお誘いを断りながら、彼らは本来の目的へ戻るのだった。




まさかの剣の投げ渡しをここで使う二人。

本当にねえ、キリト君、彼が死ぬほど覚えた小技をこうもあっさり習得するなんて。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第19章・世界樹

やはりこの物語はALOだけにしようと思います。

それではどうぞ。


「色々あった」

 

「聞きたくないな」

 

 ミファーはユウキの側でダイブし、俺はゼルダの大屋敷で部屋を借りてログインしている。

 

 故にゼルダ家の捜査状況は報告されるのだ。

 

 ともかく内容からしてまずは、

 

「………僕らの方で調べたんだけど、やっぱり黒か」

 

「マジでか」

 

「正直ブランクあるから、偽情報かなって思うくらいに。もう強行してもいいんじゃないかって」

 

「それは」

 

 少しばかり焦りすぎている。まあ向こうも分かっているようだ。

 

「分かっているよ、強行すれば約300人のプレイヤーはログアウトできなくなる可能性があるからね」

 

 リーバル、ウルボザ、ダルケル。そしてゼルダの父親は苦々しい顔をしていた。

 

 そう、現状場所が分かっても、決定的な証拠が無ければいけないし、なにかしら動けば警戒され、その分彼女たちの危機に繋がる。

 

 ゼルダは金目的だから、他のプレイヤーより安全かも知れないが、そんなことは関係ないのだろう。優しそうだからな。

 

 ともかく決定的で、主導権をこちらで握らなければいけない。

 

 その為に彼らは現実でゼルダ救出のために動いていたら、

 

「もう総合電子機器メーカー『レクト』のフルダイブ技術研究部門で、SAOサーバーの管理人。んで調べてみたらまっくっろけっけ」

 

「面白いくらいに裏の、フルダイブ技術で人の感情、記憶、意識をコントロールできるかって研究内容らしい」

 

「しかもアスナちゃん、この事件の切っ掛けの子ともこのまま意識が取り戻さなきゃ、彼女の裕福な家の養子縁組になる予定」

 

「聞いていて吐きたくなる」

 

「無理に詰め過ぎたわけじゃないね」

 

 いまは食事を取り、フルダイブ時間を伸ばす準備をしていた。

 

 だがそこまで黒なら、

 

「後はゲーム世界だけど、あのゲーム《グランドクエスト》はクリア不可能かも知れない。その理由は」

 

「転移させたプレイヤーの管理か、そっちも聞いたよ。まあ協力者とか出たからいいけど、目的は忘れてないよね」

 

「キリトが一番よく分かってるよ」

 

 それにリーバルも何も言わなくなり、いま《世界樹》の町にいる。

 

 そして食べ物を詰め込み、時間を見る。そろそろみんなと合流か。

 

「ゲームでもしも問題が起きたら、君たちのことは任せてくれ。私が責任を取る」

 

 ゼルダの父親がそう宣言してもらい、それに静かに頷く。

 

「そうならないように、まずは潜りますよ」

 

 そしてミルクを飲み干して、ログインするために退室する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトたちと別れていた、あの後キリトがかっこよく大金をケットシー・シルフ連盟にプレゼントして、金が無いため安宿をリーファと共に借りているはず。

 

 広間でユウキ、ミファー、そしてピクシー三人。後はキリトたちを待つ中、ストレアがにやにやとしていた。

 

「リーファ、キリトのことが好きなのかな?」

 

「キリトにはアスナがいるだろ、まあよく分からない」

 

「えぇ~リンク、そゆとこちゃんと分からないとモテないよ~」

 

「そうですね、少しは周りを見てくださいね」

 

 そんな中、キリトたちがやってきて、すぐに行動に移る。

 

 町の中は中立地区らしく、色々なプレイヤーがいて、そして、

 

「あれが《世界樹》」

 

 巨大な巨木があり、設定ではあそこに妖精王と、無限に空を飛べる妖精がいて、最初に謁見した種族を仲間に転生させる。

 

 キリトが俺を見て、木登りできないかと、SAOで外周の支柱に上ったことでも思い出したのだろうか?

 

 結局それも侵入禁止エリアの為できず、飛んでいても飛行限界でダメ。

 

 ここに来る切っ掛けになった、数珠つなぎになって肩車して、枝まで届きそうになった話があるが、GМがすでに手を打ってそれも不可能になった。

 

 根元まで近づいたとき、四人のピクシーが反応する。

 

「どうした」

 

「リンク反応だ、この先にいる」

 

「それは」

 

「ボクらで反応するプレイヤーって」

 

「ゼルダさんとママですっ」

 

 それに全員が一斉に木の頂上を見たとき、一人の男が飛び立つ。

 

「ばっ、あのバカはッ」

 

 急いで全員が飛び、キリトを追う。

 

 雲海を越えて、木の枝に近づいたとき、システムの壁がプレイヤーを阻む。

 

「くそっ、俺は行かなくちゃいけないのにッ」

 

 後ろからキリトを羽交い絞めにし、飛行時間を俺が肩代わりする。

 

 すぐに意図に気づき飛行をやめ、何度もシステムの壁に触れ続けるキリト。これだけじゃだめだった。

 

「ユイちゃんストレアプレミアティアっ、警告モードで呼びかけて見てくれ、もしかしたらなにか反応があるかもしれない。なんでもいいからゼルダたちにこっちのことを伝えたいっ」

 

「はいですっ」

 

「分かったよっ」

 

「任せてください」

 

「分かった!」

 

「キリト、俺にしがみつくなりして飛行時間を稼げッ、いざとなれば蹴り飛ばしてもいい」

 

「おうッ」

 

 こいつ迷いなく言いやがった。まあいい。

 

 こうして長く空に留まろうと、躍起になっている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 途中で落ちてしまった、野郎マジで蹴り飛ばして少しでも時間を稼いだ。

 

 最悪の落下だけは、ユウキとミファーが支えてくれて助かる。

 

 しばらくして、キリトがすぐに落ちて来た。

 

 それにキリトはすぐに、話しかけて来る。なにかあったようだ。

 

「みんな聞いてくれ、アスナが俺たちにシステム管理用のアクセス・コードが渡された」

 

「マジか!? ストレアっ、コピーしてそれをリーバルさんに。もしかしたら外で必要になるかもしれない」

 

「分かったよ」

 

 作業内容を聞き、ユイちゃんがすぐにストレアとやり取りを始める。

 

 ユイちゃんを通して、カードキーをコピーしリアルの方に転送する中、すぐに、

 

「キリト、これからは」

 

「リーファと別れて、俺たちで正門から入る。彼女とはもう話を済ませている」

 

 それを聞き、キリトがかなり急ぎ過ぎているが、下手に慌ててない分、逆に扱いづらい。

 

 冷静なのはミファーとユウキか。

 

「大丈夫でしょうか、話を聞く限り、四人だけでは無謀です」

 

 ミファーの言う通りだ。一種族一丸で出向き、それでも攻略されない内容に挑むのだ。ケットシー・シルフの連合を持つのも手だが、それも時間が惜しい。

 

 そう考えていると、僅かに笑うキリトがいた。

 

「別に命が取られるわけじゃない、それにいまこうしているだけで発狂しそうなんだ。頼む、止めないでくれ」

 

「………誰が止めるかバカ」

 

 今回ばかりは仕方ない。

 

 時間が惜しい。向こうが動いたことは、下手をすればなにか動きか変化があったのかもしれないのだ。

 

「行こう」

 

 ユウキの言葉に、全員が頷き、正門から堂々と殴り込む。

 

 そして入り口に来ると、クエスト発生と確認ボタンが出て、さっそく受託し、中に入る。

 

 ドーム状に広がる、無駄に長い白い空間。

 

 樹の内部はその根か蔦の床、半球形のドームとなっている天幕では、ステンドガラスのような入り口らしきものが、

 

「行くぞっ」

 

 キリトが先走り飛び上がり、ユウキが続くが、

 

「ユウキは俺らが落下したら回収、ミファーは下で回復待機ッ。これはキリトを先に行かせれば勝ちだッ!」

 

「!? 分かったよっ」

 

「はい!」

 

 ここの勝利条件なぞ知らん、キリトを先に向かわせればいい。

 

 ユイちゃんが先ほど手に入れたものがある。安心して彼らを先に行かせられる。

 

 それにキリトに遅れて続くと、無数の騎士のような天使のガーディアンが次々と現れた。

 

「こいつは………」

 

 これは確かに過剰防衛過ぎると内心舌打ちした。

 

 だがキリトが咆哮するように先へ、先へと進む。

 

「ちっ、追いつかないッ」

 

 切り替える。

 

 幾万の魔物を殺し続けた戦士へと。

 

 魔なる生き物たちとの闘い、戦士たちと培った技術の粋を。

 

「スゥ」

 

 全て切り替え解き放つ。

 

 いまこの瞬間、ここは仮想世界では無い。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「凄い」

 

 卑怯とも言えるほど、タゲが一手に、戦闘を進むキリトのみに集中する。

 

 弓矢すら持つガーディアンがキリトを狙うが、

 

「セイハァァァァァァァァァァァァァァッ」

 

 剣で兜を貫き、それを投げ飛ばし、無理矢理槍や弓矢、キリトの死角から来る攻撃の盾にする。敵プレイヤーを盾にした戦法だ。

 

 何度か被弾する中、リンクは懸命にもキリトを先へと進めた。

 

 だが、

 

「ダメだよキリト……」

 

 それじゃダメ。

 

 リンクの動きなんて無視して進んでいた。

 

 いつまでもリンクに守らせてるだけじゃ、

 

「無理だっ」

 

 ユウキが悲鳴にも似た声を出した、だがキリトには、いまの彼には届かない。

 

 それでもリンクは、気持ちが分かる。

 

 大切な何かが手を伸ばせば届くのだから………

 

「全く………やるしかないよなアァアァぁぁァァアぁぁぁッ」

 

 狂ったように二人の剣士が空へと吠えた。

 

 目の前にいる敵を斬る者。それを利用し、仲間を先へと進ませる者。

 

 だが一人は我を見失っている。

 

「がっ」

 

 ついに矢が彼の足を貫き、天幕へと手を伸ばしたが届かず、彼は蘇生待ちになり、炎と化した………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 惨めだった。

 

「キリトォォォォォォォォォォォォ」

 

 無数の死角から、無限に湧くガーディアンの中、俺の残り火を掴み上げ、空へと吠える彼が眩しかった。

 

 時には全身を使い、バネにして貫いた敵を投げ飛ばし、手首を利用した剣捌き。

 

 彼だけがこの瞬間を、ただのゲームではない真剣な、あの世界のものとして捕らえて戦った。

 

 死んでもまたやり直せる? 笑わせる………

 

 彼の強さはなんなんだ。

 

 いまだ俺の炎を握りしめ、守るようにガーディアンの波を斬り払う彼の強さは、

 

(アスナも、ゼルダも彼にとってそれほど大切な人か?)

 

 違う。

 

 彼はなんで………

 

 その時、一人の風の妖精が現れてくれた。

 

「キリト君リンク君もうだめッ」

 

「チイィィィィィィィィィィィ」

 

 そう舌打ちしながら、エンドフレイム化した俺を渡し、肉壁のように連なるそれらを睨みながら滑空する。

 

 背後から呪詛のような魔法詠唱が聞こえるが、彼はガーディアンの残骸を投げ込み、盾にして防いでドームの外に出た………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「がっ、くっは」

 

「リンクっ」

 

「リンクさん!?」

 

「俺はいい、蘇生待ちのキリトを」

 

 だが蘇生アイテムは、

 

「私が持ってますっ」

 

 頭を押さえ、切り替わりの限界点ですぐに切り替え、沈静化を始める。

 

 ただひたすら敵を討つ状態はさすがにきつい。

 

 蘇生したキリトは、無言のまま、それでも静かに、

 

「ありがとうリーファ……。でも、もうこんな無茶はしないでくれ。俺は大丈夫だから」

 

 キリトはそう言い、全身から汗が出てきそうな俺へと近づく。

 

 いまのゲーム機器、アミュスフィアだったか。それならきっと、俺は安全装置で強制ログアウトするほど、心拍数は半端ない。

 

「リンク悪い、少しで良い、教えてくれお前の強さをっ」

 

 そんな俺の両肩を、必死に、すがるように掴むキリト。

 

「キリトさん落ち着いてっ、いまリンクさんはつか」

 

「それでもッ!! 彼の強さがいまは欲しいんだッ」

 

 止めるミファーを引き離し、彼はいまにも泣きそうな顔で、悲痛な顔で俺を見る。

 

 俺の強さ? なにバカなことを言ってるんだ。

 

「キリト、俺の強さなんて、お前はもう持ってる」

 

「システム的な意味じゃないんだよッ、あの場で戦い続けられたお前の、あの日々を戦い抜いたお前の強さが、俺が欲しいんだ………」

 

 絞り出すように声を出し、ふらつくように俺の両肩を掴み続けるキリト。

 

 その様子に誰もなにも言えなくなる。

 

「頼む、俺ができることならなんだってやる、だから」

 

「キリト落ち着けっ、いまのお前じゃ………だめだ」

 

 きっと無理だ。こいつは、彼はもう持っている。

 

 俺はただチートで手に入れた、生まれる前から付属される品物だ。

 

 なにもないところから勝ち取った彼に比べれば、いや違う。

 

 大切な者がかかるいまなら、必ず俺の先を行く。

 

 だけどいまは……… 

 

「無理でもやらなきゃ、俺は、俺はもう一度会いたいんだ……。もう一度………」

 

 そして、

 

 

 

「もう一度アスナに………」

 

 

 

 残響のように響く悲痛な声に、俺はなにも言えなくなる。

 

 俺が何か口にしようとしたとき、リーファの様子に気づく。

 

「リーファ?」

 

「………いま………いま、なんて……言ったの?」

 

「ああ………、アスナ、俺の探している人の名前だよ」

 

「でも、だって、その人は………」

 

 目に見えるほど動揺するリーファ。

 

 何がどうなっているか分からず、困惑する三人。

 

 そして、

 

「お兄ちゃんなの………」

 

 まるでそうあって欲しくない叫び声のような声に、キリトははっとなる。

 

「スグ? 直葉………」

 

 まるで全てに絶望したように、キリトを見るリーファ。それがどういう意味か分かるのに時間がかかった。

 

 だが世界は止まらない。

 

「酷いよ………あんまりだよ、こんなの………」

 

 彼女はログアウトを真っ先にして、キリトの叫びも届かず、彼もまたすぐにログアウトした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………どっちが《亡霊》だか分からない」

 

「………」

 

 町のテラスで静かに妹を待つキリトに、俺はそう告げる。

 

 彼からリアルを聞かされた。

 

 十の時、自分の戸籍表示に抹消記録印があるのに気づいたらしい。人のこと言えないがどういう幼年期だ。

 

 それから兄妹、妹である彼女とのすれ違いが始まり、祖父が無理に剣道をやらせようとして、妹が自分の分も剣道続けるからと言ったり、自分はパソコンに逃げたりと。

 

 多くのことがあり、すれ違い、このような形で出会った。

 

「俺に言っても、リーバルさんたちに記録されてるからな」

 

「あの人は、からかうことはあっても、言いふらす人じゃないだろ」

 

 いまユウキたちは席を外してもらっている。

 

 俺とキリトはテラスで静かにしていた。

 

 空を見ながら、静かに、

 

「俺が強いと言ったな、俺は怖いだけだ」

 

「怖い………」

 

 それは本音だ。

 

 どれほど手を伸ばしても届かないものを、俺はたくさん体験した。

 

 勇者の輝かしい物語の裏、数多の血と涙があったことを、それでやっと知ったほど。

 

「俺がどれほど迷宮区のトラップを開放しても、俺がどれほど長くフィールドに留まろうとも、人の死は止められなかった」

 

 神様から優遇された分際で、なにもかも救えなかった役立たず。

 

 それが俺だ。

 

「………」

 

「だからこそ………届くものぐらいは伸ばしたい。死ぬのも死なれるのも嫌なだけだ」

 

「………」

 

「お前も持ってるはずだ、俺よりも。アスナがかかっているからこそ」

 

 そして静かに、

 

「俺は少しユウキたちと町を回る。少しでも装備を良くして、今度こそお前を空に届かせる」

 

「きみは………」

 

「俺はただ、できることをがむしゃらにするしかないから」

 

 偽物はそれくらいが似合いだ。

 

 そう思いながら静かに飛ぶ。

 

「《世界樹》の前で」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 偽物には意地がある。

 

 狂気に似た日々であった。

 

 終わらす気は無い、あれがあるから、助けられた命はあるはずだ。

 

 キリトの分もそろえ、静かにしていると、

 

「ねえリンク」

 

「どうした」

 

 ユウキ、ミファーたちみんなと共に回る中、ユウキが呟く。

 

「リンクはやさしいんだね」

 

 ユウキはそう微笑み、俺の手を握る。

 

「ボクね、リンクの手が暖かくって、優しくて、嬉しかった」

 

 そう言いながら、俺の手を両手で握りしめる。

 

「ボクの病気のこと、伝えるのが怖かった。だけどリンクは気にしないで触れてくれた。ボクの病気、あそこまで回復したの、実は最近なんだ」

 

「ユウキは真っ先に、あなたに会いたい。そうお姉さんやお母さん、先生にも言って、大変だったんですよ」

 

「ボクの手を握ってくれて……ありがと………」

 

 それは、

 

(………ああ)

 

 日向の中、輝く彼女は、俺の知る彼女だ。

 

 だが彼女の笑顔はまだ守れていない。

 

「………まだゼルダを助けていない」

 

 そう言い、その手を引き抜き、彼女の温度を感じた手を握りしめて、

 

「全て終わらして、みんなで会おう」

 

 俺はこの子のためなら、もう一度………

 

 この眩しい笑顔の為なら、もう一度地獄を見てもいい。

 

 勇者の偽物でもいい。

 

 だから………

 

 全てをまた、この瞬間に引きずり出す。

 

「うんっ♪♪」

 

 そう、彼女に誓いを立てた………




ユウキの勇者、再度黒の剣士と共に目指す。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第20章・偽物の勇者と黒の剣士

 向こうも全ての話を終えて、レコンと言う仲間を連れて来た。確かリーファの現実の友達か。

 

 全ての話が終わり、後は進むだけか。

 

「キリト、とりあえず防具はこれでいいだろう」

 

「ああ、アクセか」

 

「いまさら変に固めても勝手が違うだろ」

 

 そうしてミファーたちも頷き、たった6人の《グランドクエスト》トライに、無謀過ぎるが、やるしかない。

 

「あのガーディアンはステータスにさほど強くありません、ですが湧出パターンが異常です。ゲートへの距離に比例してポップ量が増え、最接近時は」

 

「リンクが少しだけキリトより近づいたときは、もう無理だよ。秒数15体、あり得ない」

 

「戦いの中、何体か絶対に倒せない設定のエネミーもいた。そいつはガーディアンぶつけて防いだが限度がある」

 

「むしろよくできたよね………」

 

 ユウキが呆れる中、こんなのソロではよくしてた。

 

 キリトも本来なら別ルートか増援を待つ方がいいが、早くしたいとキリトが言う。

 

 その顔は焦っている顔では無い。俺もそれには同意だ。

 

(カードキーを落とした辺り、急いだ方がいい。そうなると)

 

「行こう、今度こそ、頂上へ」

 

「ああ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いは先の戦闘に、ユウキがミファーたちを守り、ミファーたちはキリトにヒール。

 

 そして俺はキリトのおぜん立てし、キリトは中央突破。

 

 だがやはり比例して敵出現率が早い。

 

 それでも………

 

 あの笑顔をもう一度見たい。

 

 今度はリアル、次にまた仮想。

 

 俺の中に欲望が芽生えた。

 

 それは前世の時、こうであってほしいと言う、考え無しの願望だ。

 

 だがいまは違う。

 

「斬りッ刻むッ!! 道を開けろォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 いつの間にかレコンが自爆魔法を使い、ガーディアンを消し飛ばす。

 

 いつの間にか、ケットシーとシルフ領から援軍が駆けつけた。

 

 ここが勝機だ。

 

「キリトリーファッ、道を開けるッ。そこに突っ込めエェェェェェェェェェェェ」

 

 大軍へガーディアンの残骸を踏み台に、キリトより先へ行き、壁のような敵の数へ、睨み、斬撃を放つ。

 

 回転を加えた軌跡は、全てを巻き込み薙ぎ払う。

 

 そして躊躇いも無くキリトは俺を踏み台に、新たな斬撃として、道を切り開いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトを送り出し、それが何を意味するか。

 

「《グランドクエスト》が完遂したぞッ」

 

「やった、やったぞーーー」

 

 そう下から喝さいが聞こえる。

 

 俺も飛行をやめ、下に落ち、

 

 

 

『まだだ』

 

 

 

 全身が悲鳴を上げるように叫び、ガーディアンの残骸を串刺しにして、メイジ型へ投げ込む。

 

 爆発するそれらを見て、ハッとなる。

 

「クエストが終わっていない。キリトが頂上に行ったのにッ!!?」

 

 これではっきりと分かった。

 

 このクエストはクリアされない使用にされていて、頂上に誰が行きついてもクリアされない。

 

 それを知った瞬間、キリトがいる空を見た。

 

 思考が加速する。

 

 下は無視、いまはどうすれば先に進める?

 

 その時カードキーが引き出され、もしかすればそれで行けるはず。

 

 キリトは本体、こちらはコピーがある。

 

 瞬間、全てが加速した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その時、閃光を見た。

 

「ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ―――」

 

 その時、無双の剣舞を見た。

 

「ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ―――」

 

 その時、魔を滅ぼす剣士を見た。

 

「ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイィィィィィィッ」

 

 ガーディアンの残骸を階段にし、二人目の頂上クリア者を見た。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ははははははっ」

 

 それは《世界樹》のある場所、そこでは悪趣味な高笑いをする男が、アスナらしきアバターの服を引き破り、その肌に触れようとした。

 

 キリトが殺すと叫ぶ中、俺は、

 

「その手を離せクソがッ!!」

 

 空間を壊して、現れた。全員が驚く瞬間、それを蹴り飛ばした。

 

 いつの間にかついてきていたプレミアたちにゼルダたちを任せる。どうもたくさんのプレイヤーとゼルダ、アスナは別々にされていたらしい。

 

 そして俺はストレアの案内でアスナの下に急いだ。理由はキリトや黒幕がいそうだからだ。

 

 キリトがハッとなり、それを理解するのに時間がかかる。

 

「リンクっ」

 

「リンク君っ」

 

「リンク急いでそこから脱出してっ、この空間にアクセ」

 

 瞬間、肩に乗るストレアがこの空間からはじき出され、すぐにリンクは思考は、

 

(斬る)

 

 だが瞬間、肉体を無数の刀剣が刺さる。

 

「がっ」

 

 一手遅かった。男はシステムメニューを開いていて、操作していた。

 

「シ、システムコマンド!ペイル・アブソーバレベル0ッ」

 

 その瞬間、腕を、脚を、腹を、頭部を貫く刀剣か痛みが発生する。

 

 刺さる刀剣は計15本もあり、その場に倒れかけた。

 

「リンクッ」

 

 だが、

 

「この程度がどうしたァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 瞬間、目の前の男へ剣を投げつけ腕に刺さるが、向こうは痛覚が無い状態。それに笑いを浮かべ、手を動かすとリンクの身体が燃えた。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「リンク君っ!!」

 

「須郷ッ、オマエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ」

 

 地面に張り付けにされ、彼のように痛みを再現されて刃を突き立てられているキリトは殺意を向けた。

 

 アスナは目の前の光景がリアルに再現された痛みと知り、悲鳴を上げる。

 

「ヒャッハハハハハ、ねえ痛い?痛いよねぇぇぇぇぇ。僕もびっくりしたよっ。邪魔しやがっ、て………」

 

 男、須郷は笑うのを止めた。

 

 人型に燃える炎。赤く揺らめくそれは、一歩、また一歩歩く。

 

「な、なん、なんでっ!? 痛みはしっかりと、痛覚は生きてるッ。延々と痛みは続いているのにッ」

 

「なめるな、なめるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 業火も串刺しも体験した彼は、すでに限界は超えていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 やっぱり俺は君の強さが欲しい。

 

「クッソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 また武器が彼に刺さる中、それでも須郷に近づくのをやめない。

 

 レベルは0と言っていた。この痛みの比じゃないはずなのに。

 

『君は本当にそれでいいのかい』

 

 言い訳あるか………彼女は、俺が、俺が、

 

『彼が守りたいものがなんなのか分かるはずだ』

 

 ああ、彼奴は、いつだって誰かを守りたいと、

 

『君はそこで這いつくばっているのか?』

 

 仕方ないじゃないか、俺はプレイヤーで、彼奴は、

 

『それはあの戦いを穢す言葉だ、私に、彼と共にシステムを上回る人間の意思の力を知らしめ、未来への可能性を悟らせた、我々の戦いを』

 

 それは、

 

『彼はプレイヤーで、いまだ抗っている。特別だからか?』

 

 ………違う。

 

『ならば立ち上がれ、君も彼も、目的は同じ、いや、君の方が強いだろ』

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 その時、須郷が何かをしようとしたとき、瞬間、彼は先に走り、その腕を掴む。

 

「くっ、おまっ」

 

 この瞬間を逃さず、キリトは叫ぶ。

 

「システムログイン、ID《ヒースクリフ》パスワード」

 

 複雑な英語を口にしたその瞬間、彼を縛るシステムが消え、キリトは立ち上がる。

 

「な、なにっ!? なんだそのIDはっ」

 

 須郷が抵抗しようとしたが、操作パネルを触る手をリンクにより阻まれる。

 

「はな、離せっ、クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁああ」

 

「離すかボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 人型に燃えるそれは、いまだに消し炭に成らず、怒りの再現のように須郷を取り押さえた。

 

「システムコマンド、スーパーバイザ権限変更。ID《オベイロン》をレベル1に」

 

 瞬間、彼の力が上回り、その腕を曲げる。

 

「システムコマンド、プレイヤーリンクのレベルMAX並び、ペイル・アブソーバの初期化」

 

 その宣言と共に須郷を投げ飛ばすリンク。情けない声をあげ、受け身も取れずに地面に落ちた須郷。両膝を突くが、リンクは肩で息をしていた。

 

「………やれキリト」

 

「な、なんだおま、お前らッ。僕より高度なIDだ? あり得ない、あり得ないッ。僕は支配者、創造者なんだ………この世界の帝王、神………」

 

「そうじゃないだろ、お前は盗んだんだ。世界を、そこの住人を。盗み出した玉座の上で独り踊っていた泥棒の王だ」

 

 そしてキリトはすぐに叫ぶ。

 

「システムコマンド!! オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート」

 

 そう言い叫ぶキリトの目の前に、最強の剣が生まれ出る。

 

 リンクは静かに見届けるだけに留め、システムコマンドを利用して、全て解き放つ。

 

 彼の身体の傷が消え、静かに、

 

「そう言えばリンクの剣が刺さったままだぜお前。システムコマンド、ペイン・アブソーバをレベル0に」

 

「な、なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 腕刺さったままの剣が痛みと成り、わめきだす須郷。

 

 その痛みに転げまわり、キリトはアスナを見て、二人だけの会話でもあったように、アスナは頷き、いまだ痛みで転げまわる王を見下ろす。

 

「リンクはその倍の痛みでも動いていたぜ、お前も動いてみたらどうだ」

 

 その剣を引き抜きながら、涙目でいまだ痛いと泣きじゃくる須郷。

 

「逃げるなよ。あの男は、どんな場面でも臆したことはなかったぞ。あの男、茅場晶彦は」

 

「あい、あいふが、またか、また………死んだんだろっ、くたばったんだろうアンタは!! なんで死んでまだ僕の邪魔をするんだよッ!? アンタはいつもそうだよ、僕の欲しいもの全てを掻っ攫って、いつもいつも!! 悟ったような顔をしやがってッ」

 

「バカか、自分が欲しいもんが手に入らないのを、茅場晶彦の所為にするな」

 

 絞り出すように声を出し、上着を脱ぎアスナに掛け、立ち上がるくらいしかできないリンク。

 

 その二人を睨むように怨嗟を吐く。

 

「お前らガキに何が、何が分かるッ。あの男の下にいることを、彼奴と競わされることの意味が、お前にッ」

 

「分かるさ、俺もあの男に負けて家来になったからな。でも彼奴になりたいと思ったことは無いぜ、お前と違ってな」

 

「ガキィィィィィィィィィィィィィィ」

 

 向かってくる須郷に、キリトは無慈悲な一撃を放つ。

 

 斬撃により、腕が斬られ、それに悲鳴を上げ蹴り飛ばされて床に転がる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあうでえぇぇぇぼぐのうでぇぇぇぇぇぇ」

 

「ただの電子信号だろ、リンクはそれの倍貫かれ、燃やされた。だけどそいつは目的のために動いたんだぜ、お前もやってみせろよ。意地があるなら」

 

 だが聞こえていないように泣きわめくそれに、キリトの怒りはもはや限界を超えた。

 

 アスナを、SAOのブレイヤーを、そして仲間を苦しめた男に断罪の刃を振るう。

 

 偽物同士であっても、王に成ろうとした男はただ叫び声を上げ、偽物の勇者と鍍金の勇者によって、討ち取られた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「大丈夫かっ」

 

「平気です………」

 

 あの後すぐログアウトし、モニタリングもしていたのだろうか、すぐに使用人やリーバル、ゼルダの父親まで駆けつけた。

 

「………本気で仮想世界で人体の干渉できるか実験してたのか」

 

 モニタリングしていたのだろう。須郷と言うあの男が、例の男と知り、汗を拭う。

 

「お嬢様もプレミアたちが発見した。アスナのように鳥籠の中でね」

 

「それはきっと、聞いたと思うけどこの家から金を盗る為だろうね。結構多く寄付してるし」

 

「ともかく彼に水を、急ぎたまえっ」

 

 使用人から水を渡され、こぼれても一気に飲み干す。

 

 その時、携帯からストレアたちの声が、

 

『リンク、あの樹の中で行われた実験データが手に入った』

 

「? それはどうして、それにこれは」

 

『分からない、だけど私たちがこうして電話を通じて連絡取るプログラムと、実験の詳細、須郷のノートパソコンパスワード。それにゼルダたちの容体』

 

『彼女はやはり家から資金の援助を受け取る為に幽閉されていたようです。彼女は実験対象外で軟禁されてましたが、いまログアウト。他の方もログアウトを確認しました』

 

 それに全員がやっとすべてが終わったと、

 

「まだだ」

 

 リンクがはっとなり、すぐに身体を起こす。

 

「須郷がまだ捕まってないっ、須郷は」

 

「しまっ、彼の居場所はっ」

 

「会社から出ていないのなら会社だけど、怪しいね」

 

「ならアスナが危ないっ、彼奴キリトに復讐するためならもう後先考えないっ」

 

 それに全員が気づき、

 

「急いで車をッ、なんでもいい病院に急ぐッ!!」

 

 こうしてゼルダの父親も含め、全員が車で移動する。

 

 正直どうなるか分からない中、俺たちはSAO未帰還者たちが眠る病院へ急いだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そこにいたのは気絶している須郷であり、彼はどうやら返り討ちにあったらしい。

 

 深夜の夜、外の車の前、ナイフと泣きべそで失神した男。

 

 キリトは傷を負ったが、そのままアスナの病室まで向かい、須郷はそのままゼルダの父親の部下に拘束された。

 

 彼が使用した車から、彼が使用していたパソコンが見つかり、すぐにパスワードを使い中身を確認。彼の非人道的な実験の証拠が見つかり、全ては解決する。

 

 その全てが終わり、俺もその場についに倒れ、キリト共々病院の一室に押し込まれた。

 

 ゼルダも無事で、非人道的な実験を受けたプレイヤーはそのことを覚えていないが、彼女は健康のまま、生きててもらわないと困る理由から、アスナと同じように幽閉されていたからか、記憶があり、その証拠含め、もはや言い逃れできない。

 

 須郷含め関わった者たちは会社自体も潰れ、こうして全てが本当に終わりを告げる。

 

「やっと終わったが、いまさら眠れないな」

 

「ああ」

 

 その後、キリトと共に病室に押し込まれながらも、明日の朝、キリトはすぐにアスナの下に出向くだろう。

 

 こうして全て、彼の中のSAO事件はやっと、

 

「終わった………」

 

 俺たちはそう思いながら、そして眠れないと言っておいて、俺たちの意識が切り替わるように熟睡した。




グランドクエスト、偽物の王討伐攻略。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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最終章・ユウキの勇者

最終回。

シノンには悪いが、ここでリンクとなった彼の物語は終わりを告げます。

それではどうぞ。


 全てが終わり、須郷の手により、一時VRゲームは大打撃を受けた。仕方ないことだ。

 

 安全性を第一にしていたVRで起きた大事件。SAO未帰還者の拉致監禁と言う事案は、多くの目が向けられる事件として世間を騒がせた。

 

 これによりVRMMOであるALOも一時停止。VRは世間から消されるのも時間の問題。

 

 だがある人物により、それは一転する。

 

 その人物は『世界の種子』と言う、完全フリー権利プログラムを無料配布した。

 

 これは環境さえ整えば、誰もが簡単に仮想世界を創り出せるプログラムであり、それにより『アルヴヘイム・オンライン』を始め、多くのVRゲームが芽吹きだす。

 

 須郷を始め関係者は全て捕まり、いまだ悪あがきしているようだ。

 

 茅場晶彦はやはり、ナーヴギアによる死因で死んでいると、ゼルダの父親から聞かされる。

 

 だが本当に死んでいるのか? 俺の前世の記憶から、自身をデータにして生きている。そんな夢物語を考えてしまう。

 

 彼の死因は、脳をスキャンした結果なのだから、余計にそう感じる。

 

 SAOから帰還した者たち。キリトたちぐらいの学生年齢層は、ゼルダの父親が作った《学校》に通い、ゼルダやミファーもそこに通うらしい。

 

 成人である人たちも、彼のより手厚く保護され、社会復帰が見込まれている。

 

 SAO事件はこうして全ての後始末、結末が決まっていく。

 

 俺の転生した結果、変わったことはそう多く無い。

 

 死んでいない者は死んでいないし、助けられた人は助けられただけ。

 

 俺の独り相撲は結局のところ、なにか意味があったのか分からない。

 

 それでも俺ことリンクは、全てを終えた。終わったのだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはとあるパーティー会場。

 

 多くの人たちが戸惑う中で、正直、俺こと桐ケ谷和人も戸惑っていた。

 

「あ、アスナ、俺ラフ過ぎないか?」

 

「気にしなくていいって、言ってたじゃない」

 

 ここはゼルダの家の屋敷で、SAO関係者が《アインクラッド攻略記念パーティー》として、彼女の父親が場所を提供した。

 

 彼女の父親はかなり強引に捜査したとのこと。色々大変な中で、さらにはVRの可能性も信じてくれて、いまでは大忙しらしい。

 

 そんな中で、ここでのパーティーなのだが、

 

「ホテルの一室まるまる借りるってか、ここ私有地らしいぜ」

 

 クラインが飲み物が入ったグラス片手にビビっている。俺もそうだから他人ごとでは無い。

 

 唯一苦笑するだけなのは彼女。結城明日奈ぐらいか?

 

「あの人、まあ会って分かったんだけど、あの家の娘さんならね」

 

 明日奈はそう微笑みながら、正直縮こまるパーティーのメインに苦笑していた。

 

 ゼルダの彼女は、かなり恥ずかしそうにしている。服装もしっかりされ、ミファーと共にいる。無論、リーバル、ウルボザ、ダルケルも側で控えている。

 

「ルクスやフィリアさんたちもいますけど、ルクスさんもおっかなびっくりです」

 

「シリカ、じゃなかった、あ………」

 

「別にここにいるときはいいんじゃねえか? 正直、オレはまだリンクの本名聞いてないぜ」

 

 綾野珪子こと、シリカが顔を出して、俺は壺井遼太郎こと、クラインはそう言いながら、周りを見渡す。

 

 そうしているとこちらを見つけるプレイヤーが現れる。

 

「おーいシリカ」

 

「フィリアさん、それにルクスさん」

 

「シリカ、その、彼を知らないかな。あ、会いたいって思ってて」

 

 ルクスは頬を赤くして言う中、ユナとノーチラスも辺りを見渡して探していた。

 

「あの人にはちゃんとお礼を言って無いから」

 

「ユナさん、ここに来ていてね」

 

「お父さんにはかなりね。戻ってから心配させたから、少し自重しないと。だけどVRは続けたいかな」

 

「まったく………」

 

 ユナである彼女は、父親にだいぶ心配されていて、ゲームも禁止にされそうということ。

 

 それでも諦められないと、ノーチラスは呆れながら彼女の側にいて、そこに、

 

「楽しんでいますかキリト」

 

「ゼルダさん、あの、その」

 

「すいません、お父様が少し張り切り過ぎてしまって………」

 

 ゼルダは恥ずかしそうにしつつも、楽し気なパーティーにほっとしている様子だ。

 

 ミファーも苦笑する中、レインも周りを見渡していた。

 

「あの、ゼルダ。彼奴知らないかな? 来てそうだけど、やっぱり来てないのかな」

 

 レインの言葉に、少しだけ寂しそうな顔をする二人。

 

 だけどすぐに微笑み、

 

「彼なら」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは少し遅い時間だった。

 

 月明かりの窓を見ながら、一人の少女はぶーたれている。

 

「あーあ、今日も検査大変だったな~」

 

 検査の為、そして自分の病気の為に、パーティーに行けなかった少女は、個室の病室から窓ガラスを見つめていた。

 

 紺野木綿季、15歳。

 

 病気は後天的なもので、母と双子の姉と共に、闘病生活を余儀なくされた。

 

 だが、ゼルダの父親がとある治療機器に希望を見出し、彼女たちを始め、何人かデータを取ることを条件に、その治療を受けられることに。

 

 その結果、母も個室で治療、姉も無菌室だが、時折元気な姿を見せている。

 

 その治療は《メディキュボイド》。痛覚を感じないように、意識を仮想世界に置き、その間身体に薬などを投与する方法。

 

 その結果、彼女は無菌室から出られるほど回復し、もしかすれば薬で治るかも知れない。いま彼女はその瀬戸際にいるほど、回復していた。

 

「髪伸びたな、切っちゃおうかな?」

 

 それでもSAOの中に囚われていた所為で、心配をかけてしまった。取り戻し始めていた筋力も衰えていた。

 

 髪も長く伸びて、ALOの世界の自分に瓜二つだなと思う。

 

 その為、切るのは少しもったいないと思っていると、ドアがこんこんと叩かれた。

 

「はーい」

 

 それを聞き、来客者は静かにその扉を開く。

 

「えっ………」

 

 そこにいたのは、金色の髪をなびかせ、湖のような碧眼の青年だった。

 

「元気そうだな」

 

 どこかほっとするように言い、その姿はこの国ではかなり目立つ顔立ちで、本人からすればかなり迷惑な顔なのは、誰も知らない。

 

「り、リンクっ!?」

 

 不意打ちの為、彼女は少し布団を深くかぶり、顔だけ出す。

 

(ど、どうしてっ!? パーティーは!!? ぼ、ボクのパジャマどうなんだろっ)

 

 そう内心思う中、彼は近づき、椅子に座る。

 

「ど、どうしてここに? パーティーは」

 

 少女は動揺するのを隠しながら、それでもちらちらと青年を見る。

 

「行く気になれないから、ここに来た。パーティー行けなかっただろ」

 

 そう優しく言う中、彼女の中に何かが芽吹く。

 

 嬉しいような、恥ずかしいような、そんな感情。

 

(なにこれっ!?!?)

 

 どんどん身体が熱くなる感覚。彼は気づかず、少女を見ていた。

 

「な、なんか、向こうと同じだね」

 

「あ、ああ。髪は少し切った程度だな。ユウキは少し伸びて、ALOみたいで可愛いよ」

 

 彼は自分の綺麗な金髪をいじる。彼はこのきらきら光る髪は目立つだけのものとしか考えていないかのように雑に扱う。

 

 そう言われた、心音が聞こえてきそうになった。

 

(ナースコールした方がいいのかなボクっ)

 

「ユウキ?」

 

「は、はひっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ユウキの様子がおかしい。ちらちらとこちらを見るが、目線を合わせようとしない。

 

 この顔に生まれ変わってからこんなんばかりだ。そんなに変なのか?

 

 布団でガードされてる気がするが、

 

(年頃の女の子だし、パジャマ姿は恥ずかしいのか)

 

 そう納得しながら、例の件を聞かなければいけない。

 

「ユウキはALOは続けるのか」

 

「えっ、う、うん。姉ちゃんが同じ人たちとギルド作ってるんだ。今度入れてもらう」

 

 新規に始めるのも、SAOの記録を一部引き継いで始める。シリカの場合ピナを連れて行ける。

 

 ストレアたちも、このままピクシーとして、あの世界で生きられるようにしてもらい、俺は火に焼かれたかいがある。まさか現実で遭うとはな。

 

「そうか」

 

「リンクはどうするの」

 

「俺は」

 

 俺の目的は全て達成した。

 

 SAOの被害者は1000人くらいは減っているし、それ以上は俺がどう足掻いても無駄だったと折り合いがつく。

 

 ユウキの様子から、無菌室から出られるほど回復したのに、俺はもうやるべきことは全部したと、そう現実に知る。

 

 ここからの記憶は、もう摩擦の中で消えていた。

 

 これ以上、キリトと言う主人公に関わる必要は無い。

 

 ま、

 

「続けるさ」

 

 それはそれでこれはこれ。

 

 できることはしてやるよ、この芽吹きの先になにかあるか、知るために。

 

 もうここが、いまの俺の世界だ。

 

「そうなんだ………」

 

 嬉しそうに微笑むユウキが、少しだけ防壁を解き、いつものユウキだ。

 

 そして、

 

「ユウキ」

 

 その手を握り、

 

「ふへっ」

 

 少し恥ずかしいのか顔を赤くして、俺はその手を握る。

 

「今度は一緒に遊ぼう」

 

 そう言うと、頬を染めたユウキは静かに、そしていつもの笑顔で、

 

「うんっ♪ 遊ぼうっ、一緒に♪♪」

 

 そう嬉しそうな顔を見て、

 

(………ああ)

 

 地獄を味わい、意味を見失い、目的だけで動いていた人生が、やっと終わる。

 

 握り返された手の中、

 

「ねえリンク」

 

「ん?」

 

「いまからボク、ALOにダイブするから、その………手、握ってて欲しいんだ」

 

 それに静かに頷き、彼女と別れる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ALOの世界、いまから大型イベントが開催される。

 

 ユウキは急いで、姉たちがいる場所に出向く。

 

 その時、ふとっ、町のガラス、自分を見た。

 

「………可愛い、か………」

 

 髪は伸ばしたままにしよう。

 

 そう思い、ユウキはすぐに空に飛ぶ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たな『新生アルヴヘイム・オンライン』は、ALOデータだけじゃなく、『旧ソードアート・オンライン』のデータも渡され、そのアバターなどを引き継ぐことが可能になる。

 

 多くのプレイヤーが引き継ぐ中、キリトは引き継がなかったが、

 

「俺はお前で遊びたいからな」

 

 リンクを見ながら、僅かに笑う。

 

 引き継ぐそのデータで、遊びつくすと共に、何かあれば無双する気でいる。

 

 この世界のVRの問題に、友人が関わると言うのなら。

 

「それくらいはしないと、ま、釣りはある報酬だがな」

 

 そうしていると、こちらに気づく、三人を見る。

 

 ゼルダの父親に、報酬のデータを渡しながら、ついでに三人はピクシーからアバターへと変わり、空を飛ぶ。

 

 そして、

 

「リンクっ」

 

 満面の笑みのユウキを見ながら、俺は、

 

「ああ行こうか」

 

 そう言い、夜空に生まれた『新生アインクラッド』へと飛ぶ。

 

 こうして俺が勝手に作った使命は終わり、今度は俺の選択で先を選ぶと決めた。

 

 この世界の芽吹きと共に………




のちに妖精の世界で、絶対負けない剣士と黒の剣士。

それと共に勇気の勇者と言われるプレイヤーが、この世界に名前を轟かせる。

ただ一つ、勇気の勇者だけは、彼は勇気あるからそう言われているわけではないと、仲間たちは語った。

一人の少女だけは、ほんの少し頬を赤く染めて、その理由を彼に隠し続けている。

お読みいただき、ありがとうございます。


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