盲目で灰色な日々~暗闇に響く歌声は~ (清夜)
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プロローグ

はじめまして、清夜と申します。

今回はプロローグでありながら少し長く、かなり暗い話となっています。

原作キャラも登場しません。

そんなの嫌だ!という方は悲しいですがブラウザバックを。

それでも構わないという方はお付き合い下さい。

では、物語の始まりです。




「お前目が見えないのかよ!障害者め!」

 

「なんでこんなやつが同じクラスにいるんだよ!」

 

「障害者なら障害者が集まる学校に行けばいいのに。」

 

 

 

 

ある事件を境に目が見えなくなった俺はそんな言葉ばかり浴びせられていた。

 

別に目が見えないこと以外皆と違うところがあったわけではない。

 

普通に喋れるし、耳も聴こえる。

 

両足は動くし、両手は傷が目立つがそれを抜きにしたら普通に動く。

 

『目が見えなかったらだめなの?』

 

「当たり前だろ!その腕の傷も気持ち悪い!!」

 

『目が見えなかったら君たちと遊ぶことも許されないの?』

 

「ふん!逆に目が見えないお前と何して遊ぶんだよ!お前と遊ぶためにこっちが遊びたくない遊びをしなくちゃいけないのか!もう俺たちに話しかけんな!」

 

『目が見えなかったら君たちと話すことすら許されないの?』

 

「う~ん話すことというより~もう私らと関わることすらやめてくれる?その腕の傷も気持ち悪いんだよね。」

 

『そっか...』

 

ケガする前までは普通に接していた皆もある事件を境に僕を同じ人として見なくなった。

 

対等な人間と見なくなった。

 

人として認識しているかもわからなかった。

 

別にその事で暴力を加えられたりはしていない。

 

でも...言葉の刃が俺の心をズタズタにした。

 

唯一の救い...それは喉が無事だったこと。

 

それ以外は何も残されていない。

 

厳しく叱りながらも時には愛情を示してくれた父も。

 

辛い事があっても優しく包み込んでくれた母も。

 

僕にいつも笑顔で抱きついてきてその日にあったことを楽しそうに話してくれた妹も...

 

全員いなくなってしまった。

 

 

 

あの夏の夜に...

 

 

 

 

俺の目の前で真っ赤に染まって父と母は倒れていた。

 

妹は大人の男2人に囲まれ泣いて何度もお兄ちゃんと叫んでいた。

 

そんな中俺は1人の男に殴られ、蹴られ、倒れこんだ俺に腕を中心に所々ナイフで傷つけられる。

 

その男は僕が叫び声をあげたり、泣いたりする反応を見て嗤っていた。

 

そして浅く傷つけるだけじゃ物足りなかったのか俺の目にナイフを突き立てた。

 

僕が絶叫をあげると嗤い声はさらに大きくなる。

 

そして髪を強く捕まれ固定され、もう片方の目に鋭い痛みが走る。

 

理由は言うまでもない。

 

僕は痛みに反射し痛みの走った目を押さえようと手を伸ばし、何かを掴む感触がした。

 

それは恐らく男が使っていたナイフ。

 

そのときの僕はそれを理解すると自分の目からそれを引き抜き馬乗りになっているだろう男に力の限り振り回す。

 

なにか野太い叫び声が聞こえた気がする。

 

何カなまアタタかい液体がカオニついたキガスル。

 

ボクにノッテイたオモイもノが軽クなッタキガする。

 

なニモカンガえラレナクなッテイクきガスル。

 

ナンデモイイヤ。

 

ナイフを振り回す。

 

何かが当たった気がする。

 

不快な感触がナイフを握る手に何度も走る。

 

「おい!あのガキ!!」

 

「まじかよ!長門が殺られた!」

 

そんな声が聴こえた瞬間僕の体が吹き飛ぶ。

 

恐らく殴られたのだろう。

 

「長門!長門!!駄目だ。死んでやがる!!」

 

「くそ!せっかくあの女で楽しんでたってーのに!!おい!あの女殺せ!俺はこのガキ殺す。そして逃げんぞ!」

 

「わかった!」

 

そんな会話が聴こえる。

 

俺は吹き飛ばされてもなおナイフを振り回していた。

 

すると少し離れたところで妹の叫び声が聞こえた。俺はそれに気づいて妹の声がしたところへ走ろうとする。

 

「オラァ!!」

 

しかし走り出した背中に鋭い痛みと熱が広がり、堪らず前に倒れ混んでしまう。

 

「こいつ!よくも!!」

 

すると、

 

外からパトカーのサイレンが聞こえ始める。

 

「やばい!警察か!!」

 

「おい!逃げるぞ!!」

 

「ああ!!」

 

「そのガキ早く殺せよ!」

 

「どうせほっといても助からねーよ!!俺たちが逃げるのが先だ!!」

 

そうして廊下を走っていく音が聞こえ、玄関の扉を勢いよく開けて出ていく音が聞こえた。

 

俺は必死に妹の声が聞こえた場所へと向かう。

 

起き上がって進もうとするも何かに足をとられ床に倒れ、床に叩き付けられた痛み、背中を斬りつけられた傷や腕の傷、両目の激痛に悶える。

 

それでも立ち上がるために何かに捕まろうとして両手を這わせる。

 

何かを捕まえ手の感触に伝わるのは冷たくなった人肌。

 

恐らく両親の物だろう。

 

しかし今は悲しんでいられなかった。

 

慧を呼ぶ結希の声がどんどん弱くなっていく。

 

怒りも悲しみも痛みも全てを心の奥に押し込んで床を這いながら進む。

 

時間感覚が無くなっていた。

 

永遠の時をこの地獄でのたうちまわっているような。

 

しかし明確に目指す場所へ。

 

ただ手探りで結希の下へ。

 

それはまるで地獄の底に垂らされた糸にすがり付くように。

 

そして遂にたどり着く。

 

全てが真っ暗な世界で聞こえた声の下へ。

 

『結希(ゆき)!!』

 

「お...にぃ...ちゃん」

 

声に力がなく、慧が結希の手に触れたときにはもう温もりは感じる事が出来なくなっていた。

 

手遅れだということが嫌でもわかってしまう。

 

『結希!結希!!ごめん!守れなかった!!みんな!みんな!!』

 

「おにぃ...ちゃん...ユキ..も、ごめんね...おに..ちゃ...んのおよ..めさんに.....なるっ..て」

 

『結希!』

 

失った目では結希の顔すら見えない。

 

最後の姿すら見えなかったら。

 

だが見えない方が良かったのかもしれない。

 

結希も今の姿を見てほしくなかっただろう。

 

「お...にぃ...ちゃ.......生き...て」

 

結希の声が消えかける。

 

それはもう力尽きる前の言葉は最後の息吹きだった。

 

『結希!!一人にしないでくれ!!僕を...俺を一人にしないでくれ!!』

 

「お..ちゃ.だ.すき」

 

その言葉を最後に結希は何も言わなくなる。

 

『結希...?...結希!!』

 

見えないながらも結希へと手を伸ばす。

 

しかし触れた結希の頬は冷たくなっていた。

 

いつもの抱きついてきた時の温もりは無くなっていて、もう結希は2度とあの愛らしい声で言葉を紡がないことを理解してしまう。

 

『結希!結希!!なんで!なんでだ!!なんで俺たちがこんな目に!!!赦さない!!ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!』

 

少し前までこの部屋にいた大人たちの顔を頭のなかで思い浮かべ怨嗟の言葉を叫び続ける。

 

心の奥底に押し込んでいた感情が爆発する。

 

最後に残るのは純粋な怨み…

 

しかし不意に体に力が入らなくなり、意思とは裏腹に倒れ混む。

 

本来であればこうして叫んでいられることすら不思議だったのだろう。

 

力が抜けてからは壮絶な痛みが襲ってきた。

 

それと同時に体がどんどん冷たくなっていくのがわかる。

 

(俺も死ぬのか...これで、皆のところへ...)

 

家族のもとへ行けるのだと思えるとどこか安心してしまった。

 

全身に広がる冷たさ、痛みも後少しだろう。

 

そのまま押し寄せてきた睡魔に身を任せようとする。

 

しかし頭にあの忌々しい男の顔がよぎる。

 

『しね...ない...』

 

あいつらが生きているのに!

 

全てを奪っていったあいつらが生きているのに!!

 

爆発して燃え尽きたはずの想いは荒れ狂う。

 

怨みが全てを先導して。

 

しかし体は限界だった。

 

体は動かない。

 

だが意識は迫り来る死に抗う。

 

「君!!大丈夫か!!」

 

誰かが部屋の中へと入ってきて僕を抱き上げる感触がある。

 

体は動かないが重い口で言葉を紡ぐ。

 

『しに..たく.....ない..あい..つ.らを....こ..までは』

 

そう口にする。

 

「!!ああ!!死なせない...絶対に!!」

 

その言葉が聞こえるとそのまま意識が途切れた。

 

 

 

 

 




はい、ということで、かなり暗い始まりとなってしまいました。

次の話も多少暗い話となりそうです。

ですが、どうにか原作キャラを出そうと思っているので、そこのところは楽しみにしていただけるとうれしいです。

では。


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1話 悪魔が残した傷痕

どうも、清夜です。

プロローグでわかっていただけると思いますが、この小説は基本シリアス進行になると思います。

重い!!という方もいると思いますが、主人公がどう変化していくのか、注目していただけると幸いです。

では、この物語の主人公、水瀬 慧(みなせ けい)の物語の始まりです。


ふと夢から覚める感覚を感じると共に激しい吐き気に襲われる。

 

『グッ!?ウグッ!!』

 

(けい)!!」

 

吐くのを我慢すると直ぐに隣から名前を呼ばれると同時に何かを押し付けられる。

 

「うっ!」

 

慧は躊躇わず渡されたものに胃の中のものを吐き出す。

 

その間隣に居た人物は優しく背中を撫で続けてくれていた。

 

『っ!う...』

 

「大丈夫?」

 

ひとしきり慧が吐き終えると隣の人物は心配そうに声をかけてくれる。

 

『...うん、いつもごめんね、紗夜。』

 

「気にしないで、仕方ないわ。今日もアレを見たのでしょう?」

 

紗夜の言うアレ...小学5年生の夏休みに起きた忌々しい出来事。

 

あの日に慧は光と家族を失った。

 

三人の悪魔によって...

 

真夏の真夜中に家に押し入った強盗は人をなぶり、殺して快楽を感じる異常者だった。

 

その標的にされてしまったのが慧の家族、水瀬家だった。

 

両親は共に子供の目の前で見せしめの様に惨たらしく殺され、妹は辱しめを受け殺された。

 

唯一生き残ったのが慧ただ一人。

 

かなりの重症で生死の境をさ迷い、それでも一人生き残った。

 

しかし、生き残った彼に希望はなかった。

 

愛する家族は殺されこの世を去り、両目を潰され光を失い、死に物狂いで足掻いた故に体に残る罪の感触。

 

近所からの通報で警察官が駆けつけその場でみたのは地獄絵図だった。

 

犯人の男三人の内、二人は逃走するも警察の捜査により逮捕。

 

調べていく内にかなりの罪状が上げられ、死刑判決を受けることとなった。

 

残りの一人は...

 

水瀬家の地獄絵図の一つとなっていた。

 

鑑識によると、犯人の男と、被害者である水瀬慧の指紋が付着したナイフで滅多刺しにされているのがわかった。

 

さらに、先に犯人の男の指紋の上から慧の指紋が付着したことから慧の正当防衛が認められた。

 

しかし、いくら法に認められた出来事であっても幼い少年の心を大きく歪める出来事だった。

 

自分は家族を殺したあいつらと同じ殺人鬼...そう思い込んでしまうのも仕方ないことであった。

 

しかし彼の歪みは別にあった。

 

「未だにあの悪夢に囚われているのね。」

 

紗夜は悲しげに眼を伏せる。

 

 

 

『本当...何で僕は生きてるんだろう...?』

 

「っ!!」

 

紗夜の顔が泣きそうに歪む。

 

しかし、慧は気づかずにまるで何かに取りつかれたように呟き出す。

 

『確かにあの死にそうな時に生きたいと願った。父さんや母さん、結希はもう死んでしまったのに。生きたいと願った。でもそれは...あいつらを...あの悪魔二人を殺したいと思ったからなのに!』

 

慧は許せなかった。

 

自分の平和を壊した奴らを。

 

家族を殺したあいつらが生きているのを許せなくて、この手で仇を取りたくて生きたいと願ったのに。

 

彼が事件後の深い眠りから覚めたときには犯人二人は法で裁かれていた。

 

死刑判決を受けて実行された後だったのだ。

 

『なんで!!』

 

怒り、哀しみ、後悔、全ての感情が押し寄せてくる。

 

この手で仇を取れなかった。

 

怒りを向ける矛先が無くなってしまった。

 

生きる意味を無くしてしまった。

 

『なんで俺は生きてるんだ!!』

 

「もうやめて!慧!!」

 

激しい感情に支配されたときふと、優しい温もりに包まれる。

 

「そんな悲しいこと言わないで!もし貴方まで居なくなっていたら...わたしは!!」

 

紗夜に抱き締められてようやく理性を取り戻す。

 

彼女は泣いていた。

 

慧は寝起きに精神が不安定になることがよくある。

 

理由は先程のように過去のトラウマを「夢」で見てしまうためだった。

 

その際、起きて直ぐに嘔吐し、錯乱を起こすのが定期化していた。

 

本来なら今面倒を見てもらっている同居人が落ち着かせてくれるのだが、仕事が忙しく家に居るのが不定期だったりするため、慧の寝起きを幼なじみである紗夜やその妹に任させることもある。

 

『ごめん、紗夜。ありがとう。もう大丈夫だから。』

 

紗夜の温もりを感じ、落ち着いた慧は未だにすすり泣く彼女に謝罪とお礼を口にしながらもう大丈夫だと表すように紗夜の背中をポンポンと軽く叩く。

 

「...私こそごめんなさい。私まで感情的になってしまいました。」

 

紗夜はゆっくりと体を離す。

 

紗夜の体温を名残惜しく思いながらも紗夜が泣き止んでくれたことに安心する。

 

「では、私は朝食を暖め直してきますね。着替えたら降りてきてください。」

 

『うん、ありがとう。千秋さんは今日も早かったの?』

 

「ええ、朝の4時には出勤するとのことでした。お昼に半休を取って夕方から夜遅くまで出勤とのことでしたし下校は日菜が付き添ってくれるはずです。」

 

千秋とは今慧が一緒に暮らしている女性で、慧を事件後に引き取ってくれた人物でもある。

 

そして、事件の時に駆けつけて慧を直ぐに病院へ連れていってくれた警察官でもある。

 

『そっか...毎回ごめんね。日菜にも伝えといて。』

 

眼が見えない慧を千秋が送り迎え出来ないときに手伝ってくれる紗夜と日菜の姉妹に申し訳なさを感じて自然に謝罪をする。

 

しかし紗夜は

 

「慧、毎回言っていますが私たちは好きで貴方を支えているのです。感謝してくれるのは構いませんがそこまで謝られると少し悲しいです。」

 

紗夜は少し怒ったように、そしてどこか寂しげに言う。

 

「あなたは...もっと私達を頼ってください。」

 

『......うん、ありがとう。紗夜』

 

「はい!」

 

慧には見えてないが恐らく紗夜は微笑んでいるのだろう。

 

そして彼女が出ていった後、紗夜の気持ちに罪悪感を感じながら呟く。

 

『僕は...何を目的に生きていけばいいんだろう.....』

 

 

 

彼の明日は誰かに手を引いてもらいながら歩むだけで、先は暗闇のままだった。

 

 

 

 

 

 

 




鬱すぎたかな。

本当はもっと軽めにするつもりだったのですが...

一応最後はハッピーエンドにするつもりなのでご安心を。

こんな駄文で良ければまた読んでくれると嬉しいです!

後、是非感想、ご意見をお聞かせ下さると嬉しいです!!

クロムスさん!感想を直ぐ頂けてありがとうございました!!

ご希望に添えたかわかりませんが、少しでも添えていると嬉しいです。

あと、一応言っておきますが、メインヒロインは友希那の予定です。

では!次回にお会いしましょう。


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2話 もう叶わない願い

どうも!清夜です。

1話が2話になっていたため修正し、サブタイトルをつけました。

今回は短めです。切れの良いところで区切りたかったので。

そのせいかなかなか進まない…

次からは暗い要素は少なくなるかも。

では第2話!!どうぞ!!



「...つい感情的になってしまいました。」

 

紗夜は慧の部屋から出て、朝食の準備をしながら顔を赤くして呟く。

 

慧の言葉に過剰反応するのは今日が初めてというわけではない。

 

これまでに何度かあり、慧はあの事件以降生きる意味を無くし、よく死にたいと思うことがあるようだった。

 

これでもまだ落ち着いた方で、当初はもっと酷かった。

 

「千秋さんが止めていなければ今の慧は居なかったでしょうね。」

 

慧はこれまでに何度も自殺行為に走ろうとしたことがあった。

 

その度に今保護してくれている千秋さんや紗夜、日菜が止めに入っていた。

 

慧には基本必ず誰かが付き添っている。

 

それはただ眼が見えないからサポートするだけではなく、自殺行為を止めるための監視に近いものもある。

 

「ただ私たちが一緒に居たいというのもあるのですが。」

 

日菜も慧によく懐いていた。

 

幼なじみで家族ぐるみの付き合いがあったため、別におかしな話ではないのだが、

 

「日菜は...いえ、考えるのはやめましょう。そろそろ慧も降りてくるでしょうし。」

 

そういいながらベーコンと卵を焼き終え、それと同時にトーストが焼き上がり、皿へ入れていき、暖めていた味噌汁をお椀に入れ準備を終える。

 

『うん、良いにおいだね。お腹空いたよ。』

 

慧がリビングに顔を見せる。

 

慧は眼が見えずとも自分の部屋からリビングに向かうのも問題なく一人で来れるようになっていた。

 

「包帯取り替えたのですか?」

 

『うん。そろそろ無くなるからまた買いに行かないといけないけどね。』

 

慧はいつも両目を隠す為に包帯を巻いている。

 

寝起きや汗かいた時に取り替えるのだが、その姿は紗夜も日菜も見たことはない。

 

「言ってくれれば手伝うと何度も言っているのに...」

 

そう言いながら紗夜は慧の手を引き椅子へと誘導し座らせる。

 

『出来ることは自分でやりたいからね。』

 

慧はそう言いながら苦笑いをする。

 

こうして手を借りている状態で言うのも抵抗があったのだろう。

 

「それでは、」

 

「『いただきます』」

 

紗夜と二人の朝食。

 

誰かに用意してもらわなければ食べることさえ出来ない。

 

『(だめだ。朝からこんなネガティブになっていたら。せっかく紗夜が準備してくれた朝食なんだしおいしく食べなきゃ失礼だ)』

 

『うん、美味しいよ紗夜。』

 

「ありがとうございます。もう少し凝ったものをつくりたいのですが…」

 

『いいよ、只でさえ朝早くから来てくれているのに凝ったのつくるとなったらもっと早く来ないといけなくなるでしょ?』

 

慧が起きる時間帯は基本6時半から7時くらいだ。

 

故に紗夜は6時くらいから来てくれて僕が起きるまでベッドの横にいて今回の時のように起きるのを待ってくれている。

 

千秋さんや日菜の時もそうで、今にも思うと慧は更に申し訳なくなる。

 

「慧、何度も言いますが私たちは嫌々やっているわけではありません。貴方の側にいたいから…その、支えてあげたいと思うからこうしているのです。それを忘れないで」

 

きっと顔に出ていたのだろう。紗夜は途中顔を赤くしながらもはっきりと言う。

 

『うん。ありがとう。そうだね、これじゃあ紗夜たちに失礼だ。』

 

いつまでもうじうじしていられないと慧は切り替えることにする。

 

「そうです。それでいいんです。」

 

紗夜もふわりと柔らかく微笑む。

 

「今日の登校は私が付き添います。下校は日菜が迎えに来てくれる予定です。明日も千秋さんは忙しいでしょうし、朝は日菜が、明日の下校は私が付き添います。」

 

『うん、わかった。紗夜は今日もギターの練習?』

 

「はい。昨日バンドを組むことになった人がいまして。」

 

紗夜の声が少し熱を持った気がした慧は少し興味を覚えた。

 

『へぇ、紗夜が珍しく嬉しそうにするなんて余程その人は上手なのかな?担当は?』

 

「ボーカルです。湊友希那さんという方です。私たちと同い年ですよ。」

 

『そっか。紗夜のギター、また聴きたいな。』

 

慧も思わずふわりと微笑んでしまう。

 

「…そうですね。私が自分で納得できるレベルになれば、そのときはまた聴いてくれますか?」

 

『うん、是非聴かせて!』

 

慧は無邪気に笑い、紗夜もまた嬉しくて笑ってしまう。だが…

 

「(願うなら…また慧と…皆とセッションしたかったですね。)」

 

紗夜はもう叶わない水瀬家の皆とセッションした幸せな時間を思い出しながら目に涙が溢れかけるのを我慢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次からは学校での様子です。

本当は主人公の通う学校で悩んでいました。

原作キャラのいない共学の学校にするか、原作キャラのいる女子高に特別枠で入れるか。

まぁ、結局特別枠で入れることになりました。その代わり主人公は他の生徒とは一緒に授業しません。

まぁ、その辺りは次回のお楽しみということで!

では、

ブラッドイーターさん!ご意見ご感想、ありがとうございます!

希望通りの展開に出来るよう頑張りたいと思います!

ここまで読んでくださった方、良ければご意見ご感想貰えると嬉しいです!

では!次回にまた会いましょう!


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3話 鎮魂歌

どうも!清夜です。

今回から学校回です。

原作キャラも登場します。

めっちゃ難しいキャラでした…

なんかメインヒロイン出すまでが長すぎる...

では!第3話 鎮魂歌 どうぞ!!


朝食をとり終えた慧と紗夜は学校へ向かっていた。

 

他の人と比べて早い時間。

 

ホームルームが8時45分からなのだが、今の時間は7時半。

 

慧の家から学校までは歩きでも15分で学校につく。

 

一時間以上も余裕はある。しかし、慧は一人で学校へは登校出来ない。

 

現在も紗夜に手を引かれながら登校している。

 

慧が向かうのは羽丘女子学園。

 

紗夜が慧の朝をサポートする場合、紗夜が羽丘女子学園へと送り届け、それから自分の学校へ通う必要があった。

 

さらに、紗夜は風紀委員のため、他の人に比べ少し早く登校し、登校してくる生徒の服装チェック等の仕事があった。

 

故に紗夜と慧の家を出る時間は少し早くなってしまう。

 

本来なら女子高である羽丘学園なのだが、慧は特別枠でこの学校へ通っている。

 

それは、慧が事件のおり眼が見えないことで登校が難しく、毎回誰かの手を借りることになるため、慧が親しい人が通っている高校で送り迎えが出来る環境が必要だった。

 

そこで慧が今千秋さんと住んでいる家のすぐ近所である日菜か紗夜が通うどちらかの学園で登校することとなった。

 

そして許可の降りたのは羽丘女子学園であり、女子高であるゆえに他の生徒と一緒に勉強をするのではなく、個別の適当な空き教室で一人の先生と授業することを条件に通うこととなった。

 

慧が別の学校へ行かないのは他にも理由があるのだが…

 

「慧、気分は大丈夫ですか?」

 

『うん、やっぱり朝の空気はなんか気持ちいいね。』

 

慧と紗夜はいつもの日常となっている通学路を手を繋ぎながら歩いていた。

 

手をつないでいる部分だけを見れば朝からイチャイチャしているカップルのようだろう。

 

しかし、慧には両目を覆い隠すように巻かれている包帯があるため、誤解をうむことなく登校することができる。

 

しかし、それでも好奇の眼で見られることはあるのだが…

 

「そうですね。やはり早起きは生活リズムを正しくする第一歩ですから。きっと体にもいいですよ。」

 

紗夜も微笑みながら共に歩く。

 

二人の間に穏やかな時間が流れていた。

 

この時間は慧と紗夜が毎回大事にしている時間でもあった。

 

「…」

 

『…』

 

お互いに必要以上に会話することはなかった。

 

しかし、それは居心地の悪い沈黙ではなく、心地良い沈黙であった。

 

羽丘女子学園の校門が見え始めた頃、

 

「やぁ!水色の仔猫ちゃんに儚き歌鳥じゃないか。」

 

後ろから変な呼ばれかたをし、振り替えるとそこには長身の中性的な顔立ちをした女性が歩いてきた。

 

『その声は薫さんですか。こんな時間に登校なんて珍しいですね。 』

 

「…」

 

瀬田 薫が現れると紗夜は少し顔をしかめてしまう。

 

「顔をしかめてしまうなんて、可愛い顔が台無しだよ?仔猫ちゃん。」

 

「なら不愉快な呼び方を止めて貰えますか?せっかくの時間を台無しにされたのですから謝罪も要求します。」

 

「おや、なにやら不愉快にさせてしまったみたいだね。あやまるよ。でも歌鳥を見つけてつい嬉しくて声をかけてしまったよ。」

 

「ムッ…何故慧を見つけたら嬉しいのですか?」

 

紗夜は少し目を鋭くさせて薫へ詰め寄る。

 

「普通の学校生活では中々会えないからね。滅多に無い機会をみすみす逃がす手はないよ。かのソクラテスも言っているからね。「財産や名誉を得る事のみ執心し、己の魂を善くする事に努めないのを恥とは思わないのか」と、つまりは…そういうことさ」

 

「わけがわかりません!」

 

紗夜はついに声を張り上げてしまった。

 

『落ち着いて、紗夜。』

 

慧は苦笑いしながら紗夜を宥める。

 

「…すいません、どうかしてました。」

 

「気にする必要は無いさ、誰にでも失敗はある。かの…」

 

「貴方には謝ってません!」

 

紗夜がピシャリと言い切る。

 

「そんなことより教室に向かおう。こんなところで立っているのも不自然だしね。」

 

言うが早いか薫が慧の手を取って歩き出す。

 

「あっ!待ちなさい!!」

 

紗夜も続こうとするが、

 

『紗夜!時間!!』

 

慧に言われケータイのスマホを見ると学校へ向かわないといけない時間だった。

 

「~~~っ!今日の下校は日菜が来ますから!」

 

紗夜のその声を最後に僕は教室へと引きずられていく。

 

 

「いつも仲睦まじいね。」

 

『まぁ、幼馴染みですから。』

 

慧と薫は並んで教室へと向かっていると薫から話を振ってきた。

 

「私にも幼馴染みがいるのだけれどね。いつも態度が冷たくて…まぁそこもひとつの魅力なのだけど」

 

薫は少し楽しそうに話す。

 

『薫さんも幼馴染みは大切なんですね。』

 

慧も頭の中で紗夜と日菜のかおを思い浮かべながら優しく微笑む。

 

しかし直ぐにその顔も曇ってしまう。

 

「?…なにか心配事かい?」

 

慧の眼は包帯で隠れているのに直ぐ表情の動きを理解できる薫は演者としてのスキルが優れているからなのか、それともそれだけ慧のことを見ているからなのか。

 

『いえ、何でもないです。』

 

「……そうか。それにしても、君の歌声はいつになったらきけるのかな?」

 

『………今の僕は皆に聞かせられるような歌は歌えません。』

 

薫が話題転換するも暗い雰囲気変えることは出来なく、更に暗い空気になってしまう。

 

「…あの時聴いた君の歌は確かに暗く、物悲しいものだったが、一種の美しさを持っていた。私の胸を打つ何かを持っていた。それでも…聴かせてはくれないのかい?」

 

『……すいません。』

 

慧は申し訳なさそうにするも断る。

 

「そうか…よし、ここで良いかな?」

 

薫は少し寂しそうな声を出す。

 

一階にある職員室のとなりにある空き部屋に着く。

 

最早慧一人の教室となっている場所である。

 

「? 入らないのかい?」

 

薫が教室のドアを開け手を引こうとするも、慧は入ろうとしなかった。

 

『薫さん。少しワガママを言っても良いですか?』

 

「? 私にできる範囲であれば構わないよ。」

 

『僕を屋上へ連れていってもらえますか?』

 

慧は薫の手を握る力が少し強くなっていた。

 

「…わかった、おいで。」

 

薫は少し考えると慧の手を引いていく。

 

屋上へ向かう途中。

 

「それなら私のささやかなワガママもきいてくれるかな?」

 

薫が慧へ提案する。

 

『ええ、僕でできる範囲であれば。』

 

「同い年なんだし敬語を止めてくれないか?なんか距離を取られているみたいで悲しいよ。」

 

それに、と薫は言葉を続ける。その時の薫は何か真剣な、しかし、どこか微かに怯えているような雰囲気で、

 

「その僕って言い方、君の本質ではないだろう?」

 

『………そうですね、薫さんにはなんだかんだで良くしてもらってるし、信用できる。これで良い?薫』

 

慧の薫に対する他人行儀な話し方が変わる。

 

「!!!ああ、とても満足だよ。」

 

慧との距離が一気に縮まったような感覚を覚える薫は顔を緩めてしまう。

 

「さて、着いたよ。」

 

屋上へ着き、薫が扉を開ける。

 

 

『ありがとう。』

 

そう言うと慧は薫の手を離し、前へと進んでいく。

 

「薫。もうひとつワガママ。教室に戻ってまた5分後くらいに迎えに来てくれないか?」

 

「? 良いけどどうしたんだい?」

 

『…薫の教室はこの直ぐ下だよね?』

 

薫の問いに答えず重ねて薫に聞く。

 

「そうだよ。」

 

『この時間帯には誰か教室に居るかな?』

 

「恐らくいないだろう。いつもはいないから。」

 

薫の答えを聴いて満足したように頷く。

 

『なら、教室に着いたらわかるよ。今日だけ、薫の要望に応えてあげる。』

 

薫は慧の言っていることが理解できなかったが、従う方が良いと自然に思った。

 

「わかった、また迎えに来るよ。」

 

そう言って薫は屋上から出ていく。

 

少しして…

 

『うん、もう教室に着いたかな?』

 

そう慧は呟くと、大きく深呼吸する。

 

 

 

『♪~』

 

慧は歌い出した

 

 

それは哀しみに暮れた歌

 

 

はぐれた子供が両親を探すような…

 

 

愛しい人をもういないとわかっていながらも認められず探すような

 

 

時には楽しかった日々を思いだし

 

 

涙する

 

 

慧は歌う

 

 

それはレクイエム

 

 

歌うことで忘れないようにするかのように。

 

 

今は亡き愛しき人達のための鎮魂歌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、てことで!

原作キャラ二人目!! 瀬田薫さんです!!

なんかキャラが難しくて儚い儚い言えませんでした。

違和感あるかもしれませんが、どうかお許しを…

また、慧が歌を歌いましたね。

ご意見ご感想あれば是非ともよろしくお願いします!!

また、誤字脱字があれば報告してくれると嬉しいです!!

では、4話でお会いしましょう!!


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4話 夕焼けの5人組


どうも!清夜です。前回の投稿から少し時間がたってしまった。

今回はタイトル通りって所ですね。

では4話 夕焼けの5人組 始まりです!


『ふぅ…』

 

慧は一曲をアカペラで歌い終えて一息つく。

 

『(俺はこうしてあの世に居る家族にしか歌うことしか出来ない。)』

 

少し過去に浸る。

 

あの事件が起きる前の懐かしい日々。

 

母親、父親共に音楽関係に携わる仕事をしていた。

 

高校の頃にバンドを組んでいたらしく、そのバンドでそのまま恋仲となり結婚までしたらしい。

 

父親はドラム、母親はピアノを習っていて、バンドではキーボードをやっていたそうだ。

 

結婚してからも音楽からは離れられず、父親は楽器を弾く方ではなかったが、楽器のメンテナンス等をする仕事で、母親はピアノ教室の先生をしていた。

 

こうして音楽関係の仕事をしている両親から生まれ育てられた俺達兄妹は自然と音楽に惹かれていった。

 

俺は歌を歌うことが自然となり、妹の結希は両親がやっていたバンドのメンバーであったベース担当の菜月(なつき)さんと仲良くなってベースを習っていた。

 

そして幼馴染みの紗夜も影響を受けてギターを弾くようになり、日菜は観客で、たまに色々な楽器を教えて貰っていたようだった。

 

そうして俺達家族と氷川姉妹を巻き込んだ家族のセッションは俺達にとってかけがえのない時間となっていた。

 

紗夜と日菜もあの時は仲睦まじい姉妹だった。

 

あの時は皆幸せだったと思う。

 

しかし今は俺と紗夜と日菜だけしか残っていない。

 

紗夜は新しくバンドを組んだ。

 

日菜も何かギターをやるらしい。細かくは聞いてないが。

 

二人は今あまり仲が良くないみたいだ。

 

そして俺はあの時の幸せな時を思い出しては哀しみ、戻らない時間に手を伸ばしては空を切る手を叩きつける日々を送っていた。

 

もう自由に歌えないのだ。

 

家族の為にしか歌えない。

 

歌うことで楽しかったあの感情を忘れた。

 

セッションすることで覚えた興奮を忘れた。

 

家族や紗夜と音を交わしあって心で繋がった思いを忘れた。

 

それでも歌うのはそれしか生きる意味を見いだせないから。

 

せめてこの世を去った家族が俺の歌を聴いて少しでも慰めになって欲しいから。

 

『(俺の歌で慰めになるかわからないけど。)』

 

「とても良い歌だったよ。慧」

 

慧が一人考え事をしていると後ろから迎えに来てくれた薫に声をかけられた。

 

『ありがとう。』

 

「けれどどうして聴かせてくれたんだい?あそこまで嫌がっていたのに。」

 

『…気まぐれだよ。』

 

慧は少し間を置いて言う。

 

「…そうか。なら君の気まぐれを逃さないためにずっとくっついておけばまた聴けるのかな?」

 

『勘弁してくれ』

 

慧は苦笑いしながら応える。

 

「さて、教室に戻ろうか。そろそろ先生達も来る時間帯だろう。」

 

そう言って薫は自然に慧の手を優しく握る。

 

『ああ、ありがとう。』

 

慧は薫に手を引かれながら教室へ戻る。

 

 

 

「あっ!薫せんぱーい!」

 

薫に手を引かれ職員室の近くまで来たとき、後ろから薫を呼ぶ声が聞こえた。

 

「おや?仔猫ちゃんじゃないか。」

 

パタパタと走ってくるピンクの髪の少女。

 

その後ろから続く四人組。

 

慧は状況が分からず止まるしかなかった。

 

「薫先輩!!今日は早いんですね!!」

 

「まぁね、今日は早く起きる運命だったようだ。貴重で尊い体験も出来たしね。ああ!儚い…」

 

「キャーー!!」

 

『…』

 

薫の芝居がかったセリフに歓声を上げる少女に『ああ、なるほど』と一人納得してしまう慧がいた。

 

薫はどうやら女性から人気があるみたいで、慧は顔を知らないが、それだけ中性的で美形なのだろうと安易に予想がつく。

 

『(しゃべり方がもっと普通だったらな)』

 

そうけは心の中で思うも、そのしゃべり方が周りを惹く一種の魅力なのかもしれないと思い直す。

 

「ひまり、急に走っていくからびっくりした。」

 

黒髪に赤いメッシュが入った少女がピンクの髪の子に言う。

 

「ひーちゃんがこうなる理由ってひとつしかないでしょ~ら~ん~」

 

銀髪ショートカットののんびりとした口調の少女がメッシュの少女を蘭と呼びついてくる。

 

「おはようございます。薫先輩」

 

赤い髪で長身の少女は普通に薫に挨拶する。

 

「あはは、相変わらずだね。ひまりちゃん」

 

もう一人の茶髪でショートカットの子はピンクの髪の子を見て苦笑する。

 

「やぁ、おはよう。仔猫ちゃん達」

 

薫も皆に挨拶をする。

 

「あれ?先輩、そこにいるのは?」

 

赤い髪の少女が慧に気づく。

 

「ああ、紹介しなきゃね。慧」

 

『いいのか?』

 

「大丈夫だよ。君の存在事態、学校のみんなは入学前に説明されているからね」

 

『そっか。なら 初めまして、水瀬 慧です。男子学生で二年生です。』

 

「っ!男子って、なんでここに?」

 

赤いメッシュの子が訝しげに問う。

 

「おいおい蘭、入学前に言われただろう、一人だけ特別に男子高校生を迎え入れているって。」

 

赤い髪の子が蘭に言う。

 

「どうも、初めまして。私は宇田川 巴です。」

 

赤い髪の子は自己紹介をする。

 

「わ、私は羽沢 つぐみです!」

 

茶髪のショートカットの子がつづく。

 

「わたしは上原 ひまりです!!」

 

ピンクの髪の子が元気よくつづき、

 

「青葉 モカで~す」

 

銀髪ショートの子がのんびりとつづく。そして…

 

「美竹 蘭」

 

メッシュの子がぶっきらぼうに自己紹介する。

 

全員の自己紹介が終わり、巴が

 

「話しには聞いていましたけど初めて会いますね。普段はどこに?」

 

『ええ、そこの職員室の隣の空き教室ですよ。』

 

「それより!なんで薫先輩は手を繋いでいるんですか!!」

 

ひまりが驚いたように薫に聞く。

 

「あっ!バカ!」

 

巴が非難する声を上げる。

 

『ああ、すいません、薫には送って貰っていたのですよ。僕は目が見えなくて。』

 

そう言われてひまりは慧の目に包帯が巻かれていることに気づく。

 

「あっ!す、すいません!」

 

ひまりは巴に非難された理由に気付き直ぐに謝る。

 

『別に気にしなくて良いですよ。仕方ないことです。それに女子高にいる自分事態が本来おかしいのですから。』

 

慧は柔らかく微笑む。

 

「すいません、配慮が足りなくて」

 

巴も謝ってくる。

 

『本当に気にしないでください。慣れてますので。それより薫、そろそろ時間。』

 

「ああそうだね。じゃあ仔猫ちゃん達、教室に行くといい。私は慧を送り届けてから教室に向かうからね。」

 

そう言って薫は慧の手を引きながら教室に向かった。

 

その後ろ姿をみてひまりは

 

「薫先輩に手を引かれるなんて…いいなぁ~」

 

「おい!反省してるのか?」

 

巴が呆れたように言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい!

てことでAfterglowが登場です。

まぁ、Afterglowで大きく関わってくるのは主に一人だけになると思いますが…増えるかどうかは著者もわからない。

てことで!次回のお楽しみってことで!!


遅くなりましたが、小石音瑠さん、アンカーさん、評価ありがとうございました!

モスネコさん!一言付き評価ありがとうございました!!

未だに評価の見方がわからなくて気づくのがおくれた自分です…

ハーメルンを使いきれていない…

まだまだ文章力も何もかもが未熟な自分ですが、これからも読んでいただけるとうれしいです!

では、次回でお会いしましょう!!


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5話 穏やかな日々


どうも!清夜です。

今回は少しはのほほんとした話に出来たかな?

最後はやっぱり微シリアスになってしまったけど…

では!!5話 穏やかな日々

どうぞ!!


薫に教室へ送ってもらい、先生が来るのを待つ。

 

それほど待ち時間は無く、教室に着いて数分で先生が現れる。

 

「おはよう、水瀬くん」

 

『おはようございます。佐藤先生』

 

入ってきたのは教育実習生である、佐藤 美波(さとう みなみ)先生である。

 

慧の授業は基本授業が無い時間帯の先生が受け持つのだが、教育実習生の経験を積むには都合が良いため、新任の佐藤先生が受け持つ場合が多い。

 

恐らく、学校側はここまで考えて慧の入学を決めたのだろう。

 

「今日は現代文と数学、歴史が2コマに英語が2コマです。」

 

『わかりました。』

 

そうして慧の高校生活が始まる。

 

 

 

~昼休み~

 

 

 

「今日はここまで。わからないところはあったか?」

 

歴史の授業が終わる。

 

担当は柊 琴音(ひいらぎ ことね)先生。

 

『いえ、大丈夫です。』

 

「そうか。しかし、本当に君は優秀だな。紙に書くことが出来ないから暗記するしかないというのはわかるが、ここまでスルスルと暗記できるやつはなかなかいないんじゃないか?」

 

琴音先生は不思議そうに言う。

 

『どうなんですかね?』

 

慧は苦笑しながら応える。

 

「慧!!」

 

琴音先生と雑談していると教室のドアを勢いよく開ける人物がいた。

 

その人物は慧を見るなり飛び付いてくる。

 

女の子特有の良い香りが鼻腔をくすぐる。

 

『日菜!お願いだから急に抱きついてくるのは止めてって言ってるでしょ。』

 

「え~~!!危なくないようにいつも勢いは無くしてるし倒れないように体重はかけてないでしょ!!」

 

日菜が不満そうに言う。

 

顔は見えてないが、頬を膨らませて不満そうな顔をしているのが安易に予想できる。ていうか現実にしていた。

 

『そういう問題じゃないでしょ、女の子がそんな簡単に男子に抱きついちゃダメ!』

 

「慧のケチ~」

 

『まったく。』

 

日菜はブーブー言いながらも慧の腰に回した手を離さなかった。

 

「はいはい!先生を前にいちゃつかないの!」

 

琴音先生が呆れたように言う。

 

「あ!先生、居たんだ。」

 

日菜は全然気づいていなかったようで驚いていた。

 

「私はそんなに存在感ないか?」

 

先生は片眉をひくひくさせながら日菜を睨む。

 

『まぁ先生、日菜も悪気があった訳じゃないですし、ここは大人の寛大な心で見逃して貰えませんか?』

 

「まったく、君がそうやって甘やかすから氷川も直らないんだよ。まったく。」

 

先生はぶつくさ言いながら教室を出ていく。

 

慧は声が遠くなっていくことでそれを感じ、先生に心の中で謝る。

 

『日菜?先生の言うことも正しいよ。これからは気を付けてね』

 

「は~い!」

 

日菜の返事が聞こえるが、まったく反省していない声だった。

 

「それより!今日の弁当食べようよ!腕によりをかけて作ってきたんだから!!」

 

慧の弁当はいつも日菜が持ってくる。

 

今日は慧を学校へ連れていくのが紗夜だったので日菜が作り、もし日菜が慧を朝に送る場合、紗夜が弁当を作り、日菜がそれを持って慧と登校する形となる。

 

『そうだね、ありがとう日菜。』

 

「えへへ~」

 

日菜は嬉しそうな声をあげいそいそと弁当を広げる。

 

慧と日菜は弁当を全部完食し、お昼の心地良い日差しと少し開けた窓から吹いてくる涼しい風に眠気を感じていた。

 

「う~~眠たい…」

 

『今日は天気も良いしね。』

 

日菜が机に寝そべるように顔を伏せ、慧はまるで目が見えているように日菜の頭を優しく撫でていた。

 

日菜は嬉しそうに微笑み、そのままされるがままにしていた。

 

これが二人のお昼休みのいつもの光景だった。

 

「クゥ~」

 

『寝ちゃったか』

 

日菜は気付けば可愛らしい寝息をたてていた。

 

『ふぁ~っ』

 

慧も欠伸を洩らしてしまう。

 

『俺も少し寝るかな。』

 

そうして慧は椅子の背もたれに体を預けて睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い!!授業始まるぞ!!」

 

琴音先生の声で起こされる。

 

「う~ん…あと二時間~」

 

「長いわ!!」

 

『すっかり眠ってしまったみたいですね。』

 

日菜と先生が漫才をしているのを聴いて意識がハッキリする。

 

「ぐっすりとな。まぁ、いつものことだが」

 

琴音先生は呆れながら言う。

 

「ほら!氷川!遅刻するぞ」

 

「う~~~まだ眠たいのに~」

 

『日菜、サボるわけにもいかないだろ?早く教室へ戻って。』

 

「う~~~わかった~」

 

日菜は立ち上がり弁当箱を持って出ていく。

 

「まったく、あいつはお前しか言うことを聞かないんだから…」

 

『あはは、まぁ、日菜ですし。』

 

「それで納得出来てしまう自分が怖いよ。さて、無駄話もここまでにして、授業始めるぞ。」

 

『はい。お願いします』

 

日菜とのちょっとした安息の時間を終え午後の授業が始まる。

 

琴音先生は羽丘学園の教師で、担当は英語だが、他の教科も幅広く出来ることから美波先生が慧の授業に出れないときはほとんど琴音先生が受け持っていた。

 

口調や性格は男勝りだが、面倒見の良い先生だった。

 

そして六時間目の授業まで終える。

 

「よし、今日はここまでだ。お疲れ様」

 

『ありがとうございました。いつものように分かりやすい授業でした。』

 

「誉めてもなにもでねーよ。そだ、帰りのホームルームは私がやるし、そのまま終わらせちまうか。」

 

『そうですね。先生もその方が楽でしょう。』

 

「まぁ、帰りのホームルームなんて特に何もないけどな。明日の時間割だ。一時間目は…」

 

3分もしないままホームルームは終わり、帰宅となる。

 

「それより、本当に氷川とは付き合ってないのか?」

 

『付き合ってませんよ』

 

琴音が毎日聞いてくることだった。

 

「ほんとかよ?この年頃で幼なじみだからってそんなベッタリなつきあい方してるやつなんていないぞ?氷川姉みたいな感じだったらわかるが…」

 

日菜は紗夜に比べてスキンシップが多く、平気で抱きついてきたりする。

 

『きっと、日菜にとっては俺も家族みたいなもんなんですよ。幼い頃からそうやって育ってきましたから。』

 

「…そういうもんかね?」

 

『そういうもんです。』

 

慧はそう言って窓の遠くを見るように顔を向ける。

 

目は見えていないはずなのに。

 

『二人は眩しすぎる…俺の罪を照らして目の前へ突きつけるみたいに…』

 

慧は小さく呟く。

 

琴音先生には聞き取ることができなかった。

 

ただ、慧のその姿は余りにも危うく見えた。

 

 

 

 





相変わらず話が進まない…メインヒロインはいつ出せるのだろう…

ある読者様からプロローグの描写についてご指摘を頂きました。

実は書き始めた当初、プロローグはもう少し長いもので、あれでも省いた方なんです。

その省いた部分の修正が完璧でなく、今回の描写の不一致を招くことになりました。

なので、省いた部分を少し簡略して戻すことにしました。

余り大きな修正出はないので気にしなくても大丈夫です。

この話が投稿される頃には修正も終わってると思います。

今回のご指摘ありがとうございます!

他にもなにか違和感や、描写についてご指摘などあればぜひ感想等で送ってもらえると嬉しいです!!

では!次回、お会いしましょう!!


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6話 日だまり少女と青色の偶像

どうも、清夜です。

仕事が忙しくてなかなか更新できなかった…楽しみにしてくれていた方は遅くなってすいません。(いるのかな~?)

では!6話 日だまり少女と青色の偶像

どうぞ!! 


「慧~!!」

 

放課後、授業が全て終わり日菜の迎えを待っていると教室のドアを勢いよく開ける音と日菜の声、そして走りよってくる気配がした。

 

「ゴール!!」

 

『まったく、何回言っても聞かないんだから』

 

慧は抱き付いてきた日菜を受け止め、諦めたように言った。

 

「さぁ慧、帰ろ!!」

 

『わかったから離れなさい。』

 

慧はまるで妹に言い聞かせる兄のように日菜を諭す。

 

「む~…慧が冷たい~」

 

『はいはい、わかったから。』

 

日菜はぶーぶー言いながらも慧の手を取って歩き出す。

 

日菜に連れられて廊下へ出ると、

 

「あ!日菜!慧さん!!」

 

「あっ!リサちー!!」

 

パタパタと誰かが走ってくる音がした。

 

「日菜、さっきぶり。慧さんは久しぶりだね。」

 

『お久し振りです、今井さん。』

 

「もう!リサって呼んでって言ってるのに。」

 

声をかけてきたのは今井リサ。

 

見た目はギャルそのものだが、本当は面倒見の良い優しい少女である。

 

ただ物凄くコミュ力が高く、慧を下の名前で呼ぶ。

 

慧は別に呼ばれることは問題ないが、呼ぶことには抵抗を覚える面倒な性格をしていた。

 

そこへ

 

「おや?歌鳥じゃないか。今帰りかい?」

 

次は反対側から薫がやってきた。他にも大勢の気配を感じるのはおそらくファンに囲まれているからだろう。

 

『そうだよ。薫は?』

 

「いまから演劇部に顔を出すところさ。」

 

『そっか、ならはやく行ってきなよ?薫はいつも遅刻していると先生からよく話を聞くんだから。』

 

「おや、どうやら麗しい子猫からも噂を聞くくらいに私は皆は私の魅力の虜となっているようだ。ああ、儚い…」

 

「「「キャー!!」」」

 

薫の言葉の後に大人数の女子の黄色い声が聞こえる。

 

その中の一人の声に聞き覚えがあるのは気のせいだろうか?

 

『わかったから早く行ってきなさい。部員と顧問の先生を待たせるな。』

 

「つれないね、わかったよ。ではまたね、歌鳥。」

 

そう言いながら薫は演劇部へと向かっていく。

 

「む~」

 

薫とその取り巻きがいなくなった後、不満そうな声を出している少女がいた。

 

『どうしたんですか?今井さん。』

 

「薫だけ呼び捨て、敬語なし…」

 

『…』

 

慧はなにも返せず無言になる。

 

「なんで私だけ~!!女の子から距離縮めてるんだから男の子も応えなきゃ!」

 

『…もう少しだけ待っててもらえますか?なんとか頑張ってみます…』

 

慧は苦笑しながら答える。

 

「ファイトだよ!リサちー。慧はシャイだからあまり押せ押せじゃ慧も引いちゃうよ。」

 

「押してダメなら退いてみろ!って事だね!」

 

『日菜はどっちの味方なんだ?』

 

慧は味方だと思ってた日菜に裏切られショックを受ける。

 

「でもねリサちー、慧は渡さないから!」

 

日菜はそう言いながら慧に抱きつく。

 

『うわ!日菜!!だから人前で抱きつくなって言ってるだろ!』

 

只でさえ注目を集めているのに日菜が抱きつくことで更に注目を集めるのがわかり、すぐに日菜を引き剥がした。

 

『まったく、何回言ったらわかるんだ!お前は女の子なんだから…』

 

慧が日菜に説教を初めて日菜は耳を手で塞ぎ聞かないふりをしていた。

 

「…なんか二人とも兄妹みたいだね」

 

そんな二人を見ていたリサはポツリと言葉を漏らした。

 

『っ!!』

 

慧はリサの呟きが聞こえたとき固まってしまった。

 

「!そんなことないよ!幼なじみなんてこんなもんだよ!」

 

日菜は慧の様子に気付き、リサに悟らせないように明るく振る舞う。

 

「そうかなぁ~」

 

「そうだよそうだよ!ほら!慧かえろ!」

 

日菜は振り向き慧を見る。

 

その眼差しは少しの後悔ともになにか強い決意を秘めていた。

 

「気を付けてね~」

 

「リサちーも部活頑張ってね~」

 

日菜はリサに手を振りながら慧の手を引いていく。

 

慧はなにも応えずにただ手を引かれるまま歩いていた。

 

「今日は天気が良いね。」

 

『…』

 

日菜が明るく慧に話しかけるも慧は応えなかった。

 

「今日の晩ご飯はなにかな~」

 

『…』

 

慧は応えない。

 

日菜は繋いでいる手をぎゅっと握りしめる。

 

「…慧…」

 

日菜はリサが兄妹みたいと言った時、安心してしまっていた。

 

 

なぜならわざと妹らしく振る舞っていたからだ。

 

幼い時から慧とその妹、結希のことはよく知っている。

 

結希は慧が大好きでよく慧の後ろを付いてきてよく抱きついていた。

 

その時の結希はとても幸せそうな顔をするのだ。

 

そして慧も満更でなさそうにしていた。

 

結希は亡くなるときに慧に『生きて』と言っていたらしい。

 

日菜は結希と性格が似ていた。

 

過度なスキンシップとよく姉の後ろから付いて回る娘だった。

 

だから日菜は思ってしまった。

 

「もし私が慧の妹になれば…結希の代わりになれれば…」

 

慧は自殺を考えないのでは…と。

 

実際、慧も日菜を結希に重ねて見ている時がある。

 

頭では結希はいないと理解している。

 

しかし心は結希を、結希の偶像を欲していた。

 

それに気付いた日菜が妹のように接することで僅かでも満たされていたのも事実だった。

 

「(慧はきっと苦しんでいる。私を…氷川日菜を水瀬結希の偶像ではなく一人の氷川日菜として見ようとしている。)」

 

慧がその事で苦しんでいるのは知っていた。

 

しかし、もしちゃんと氷川日菜として慧が認識してしまったら…

 

「(きっと心が耐えられなくてまた自殺を考えてしまう…それだけは…ダメ)」

 

事実、慧が事件の後何度も自殺を図っていたのが収まったのは日菜が妹のように振る舞い初めてからである。

 

結希を思い出す度にあの時の「生きて」という言葉を思い出すのだろう。

 

最初はお兄ちゃんと呼んでいたのだが、慧の精神が安定しはじめてからはお兄ちゃんと呼ぶことを嫌っていた。

 

だから呼び捨てで呼んでいるのだが、やはり結希と重ねて見るのはどうしても抜けなかった。

 

「(…それでも…私は…慧の為ならどんな歪んだ関係でも続けてみせる。たとえそれで慧が傷ついたとしても…大好きな慧が生きていてくれるなら…)」

 

たとえこの恋が実らなくても…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てことで、6話でした。

今回はリサの登場回と見せかけどちらかというと日菜主役みたいになってしまった。

ミュミュシュシュさん!感想ありがとうございました。

何人からかのご感想で、メインが決まっている為、他のヒロインの立場が可哀想という感想がありました。

それは自分も考えていたことで、結構辛いんですよね。

なので、少し意見を聞きたいのですが、自分的にこの話にハーレムは合わないと思っていて、ヒロインの個別ルートにしようと思っています。

よければその事に関してご感想をいただければとおもいます。

では、次回お会いしましょう。


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7話 ギターの理由と孤高の歌姫


はい、どうも!清夜です。

前回の投稿からかなり時間が空いてしまった...

でもやっと仕事が落ち着いてきたのでそれなりにペースは戻ると思います!!

では!7話 ギターの理由と孤高の歌姫


リサに妹みたいと言われたとき全身が冷水を浴びたように冷たくなって動けなくなってしまった。

 

それは自分が自覚しながらも直せていない歪な関係。

 

『(なんでこうなったんだろうな…)』

 

そう自分に問いながらも理由はわかっている。

 

未だに家族のことが忘れられず依存しているだけ。

 

もし他にも母に似ている人や父に似ている人がいればその人に面影を重ねてしまうだろう。

 

そして日菜は結希を知っていてどういう性格で、どういう行動をとるか知っていた。

 

だから日菜は結希になることを選んだ。

 

日菜自身容認してしまった。

 

俺も心の底では許してしまった。

 

理性は悲鳴を上げているというのに…

 

「慧…家についたよ?」

 

日菜に肩を捕まれ、心配そうに声をかけられた。

 

『っ!ああ、ごめん。ありがとう。』

 

日菜に先導され家の中に入る。

 

家の中に入ると後はある程度勝手がきく。

 

手を引かれずとも動けるのだが、今日の日菜は手を離そうとしなかった。

 

そしてそのままリビングのソファーへと手を引いてもらう。

 

『…ありがとう、日菜』

 

「どういたしまして~」

 

そして日菜も隣へ座り慧へと抱きつく。

 

慧は複雑な気分になるも、話題を振ることにした。

 

『前に言ってたギターをやるって言ってたのはどうなったんだ?』

 

「あ!聞いてよ!!私アイドルになるんだよ!!」

 

『え?』

 

ギターを弾く話からアイドルへと話が飛んで理解が出来なくなる。

 

『どういうこと?』

 

日菜の話によればギターのオーディションをしているのを見つけてそれを受けたところ見事に合格した。

 

けどそれはアイドルバンドのメンバーの選考だったらしく、そのメンバーのギター担当に受かったということらしい。

 

『日菜がアイドルか…』

 

本人は自覚無いが、幼い頃から男子に人気があった氷川姉妹である。

 

今の成長した姿はわからないが、二人が美少女になっていることはわかる。

 

しかしアイドルになるとは…

 

『(みんなどんどん先に行ってしまうな…)』

 

周りが前を見て夢へと、未来へと歩みを進め成長していくことに僅かに嫉妬を覚えてしまっていた。

 

「これで慧にギターを聴かせられるね!お姉ちゃんが慧に弾いてくれるまで私が慧に聴かせてあげる!!」

 

そう、日菜がギターを始める理由…

 

勿論、大好きな姉がやっているからというのもあったが、初めはベースを弾こうとしていた。

 

結希が弾いていたから…だが、慧はそれだけは容認出来なかった。

 

もし、日菜がベースを弾いていたら…理性すら受け入れてしまうから…

 

だから悪あがきをした。

 

日菜が日菜であるために。

 

結希が結希であるために。

 

俺が全てを終わらせられる様に。

 

「アイドルをやってる所を見てもらえないのは残念だけど、ギターは聞かせられるから!!」

 

『うん…楽しみにしてる』

 

日菜と紗夜の仲があまり良くないのは知っている。

 

恐らく日菜がギターを始めればなおのこと拗れるだろう。

 

それでも…

 

『(最悪だな、俺…)』

 

個人の都合で幼なじみの姉妹の仲を拗れさせてしまうことに罪悪感を覚えてもそれを曲げることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

~紗夜視点~

 

 

 

「ふぅ、少し休憩にしましょう、紗夜。」

 

「はい、湊さん」

 

紗夜は美しい銀髪の少女とCiRCLEというスタジオで音を遇わせていた。

 

少女の名は湊 友希那(みなと ゆきな)、このスタジオでは有名な少女で、その高い歌唱力と透き通る様な歌声を持つことから孤高の歌姫と呼ばれる少女である。

 

その少女が一人のギタリストとバンドを組んだ。

 

このスタジオではかなり話題になった出来事でもあった。

 

そして紗夜は友希那の高い目標、歌に対する熱意と執着心を聞き、その実力とも言える歌を聞いたとき、共に頂点へと至る為にお互いを高め合う事の出来る人だと思えた。

 

そして、頂点へ到達出来たとき…

 

「日菜と向き合い…胸を張って…また貴方の歌と共に演奏できるのでしょうか…」

 

「?、なにか言ったかしら?紗夜」

 

「いえ、なんでもありません。」

 

気づけば無意識に口をついていた言葉。

 

それは小さな呟きで友希那には聞こえてないようだった。

 

「そう、それにしても、そこまでの技量…随分とギターを弾いているのね。同年代でも中々見ない技術力だわ。」

 

「小学生の時から弾いてますから。幼なじみの父親から子供用のギターを貰って始めました。」

 

紗夜は懐かしそうに目を細める。

 

「そう…貴方と私は似ている。音楽に対する熱意、想い、そして…執着心…」

 

「.......そうですね…それは私も思っていました。」

 

紗夜が始めに思ったことを友希那も感じていたらしい。

 

「けれど、このバンドに私情を持ち込むことだけはしないわ。あなたもそうでしょ?紗夜」

 

「…はい。私たちが目指すのは頂点、それは変わりません。」

 

「そう、やっぱり貴方と組んで正解だったわね。有意義な時間になるわ。」

 

友希那はそう言うと休憩は終わりと言って練習の準備を始める。

 

紗夜はそれに応えギターを肩にかけ直し演奏の準備を始めた。

 

「(待っていて下さい、慧。あの時は戻らなくても…今度は二人で…音楽を…)」

 

紗夜はそう心に秘めながらギターを弾く。

 

いつか来ると信じる未来に向かって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、てことで7話でした。

やっとメインヒロインの友希那は登場したもののまだ主人公と接触しないというこの焦らし感…

わざとではないのです。

書くとこうなるのです…

だがそう遠くはない!!

前回のあとがきの件でたくさんの意見をもらい、かんがえさせてもらった結果、ひとまずメインヒロインの友希那で一度完結させて、アフターストーリーで別ヒロインを書いていくことに決定いたしました!!

意見を下さったみなさん!!ありがとうございました!!

これからもご意見、ご感想があれば是非よろしくお願いします!!


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8話 拠り所


どうも、清夜です。

友希那を出したのは良いものの今回はまた絡みなしという…

難しいですね。

では!

8話 拠り所


 

「たっだいま~」

 

日菜と共に夕食を食べ、時間も遅くなってきた頃。

 

日菜に家へ帰るよう説得し始めた頃、疲れきった声と共に帰還を告げる人がいた。

 

「疲れたよ~!!」

 

そう泣き言を言いながら入ってきたのはこの家の主。

 

葛城 千秋(かつらぎ ちあき)である。

 

「千秋さん!!」

 

日菜は帰ってきた千秋に嬉しそうに抱きつく。

 

「おう~!日菜ちゃん!!今日も慧を見てくれてありがとね~!!」

 

千秋も喜んで受け止めていた。

 

『お疲れ様です、千秋さん。今日は早かったんですね。遅くなると聞いていましたが?』

 

「け~い~!!」

 

『のわ!?』

 

千秋は慧の疑問に応えるでもなく、慧に抱きついてくる。

 

慧も急なことでビックリし、変な声を出してしまう。

 

「私今日も頑張ったんだよ~誉めて誉めてー!!」

 

千秋は慧に甘えるように頭を慧の胸板にすりすりと擦り付ける。

 

その千秋の後ろから腰に日菜が抱きつくという奇妙な光景が出来上がっていた。

 

『わかりましたわかりました!わかったんで離れてください!!』

 

慧は千秋を引き剥がそうとするもなかなか離れない千秋にあきらめることにした。

 

『まったく…』

 

慧は呆れたようにため息をつき、その頭を撫でていた。

 

「えへへ~~慧成分が満たされていく~」

 

千秋はいつもならキリッとしていて、なかなかこんな緩んだ顔を見せないのだが、慧が居る家の中では別人のように変わってしまう。

 

 

一度千秋が部下をつれて家に来たことがあったが、慧を見た瞬間に別人に豹変した千秋を見てあまりにもの変わりように部下が数十分硬直して動かなくなったことがあったとか無かったとか…

 

『(なんで俺じゃなくてこの人が俺にベッタリなんだよ…)』

 

慧は呆れるも千秋に必要とされることに安心感を覚えていた。

 

無理もない、千秋にとって慧は同情で引き取ったに過ぎない。

 

そんな慧がいつ邪魔で面倒に思われてもしょうがないのに、こうしておふざけでも必要としてくれていることに安心感を覚えずしていられようか?

 

例えそれが偽りの安心感であっても、一時の拠り所でも…それにすがるしかなかった。

 

「慧…?慧!!大丈夫ですか!!」

 

玄関から誰かが心配の声を上げながら急いで入ってくる人がいた。

 

「慧!?」

 

『紗夜?かな、どうしたの?』

 

慧は声で判断し、急いで入ってきた紗夜に不思議そうに応える。

 

「えっ?あの…これは一体?」

 

状況が読めていない紗夜が困惑していた。

 

『いつも通りに千秋さんが帰ってきてこの状態になっただけだよ?』

 

慧が苦笑いしながら応える。

 

「そう…ですか…」

 

紗夜は安心したように脱力する。

 

そして、

 

「千秋さん!!」

 

「はい!!」

 

紗夜が目を吊り上げ、千秋を呼ぶ。

 

千秋は肩をピンと伸ばし、紗夜へ向き直り正座する。

 

何故か隣に日菜も正座していた。

 

「まったく…警官ともあろう貴方が!ドアを開けっ放しで家のなかには入るとはどういうことですか!!なにかあったらどうするんです!!」

 

「はい!すいません!!」

 

慧は目が見えずとも紗夜が腰に手を当て、千秋に説教している姿が思い浮かんだ。

 

「慧!あなたもですよ!!」

 

『え?俺?』

 

「貴方は千秋さんをあまやかしすぎです!!」

 

『す…すいません…』

 

紗夜ははぁ、とため息をつきそのまま続ける。

 

「以後、気を付けるように!」

 

「イェス!サー!!」

 

「私は女です!!」

 

「イェス!マム!!」

 

『軍隊のノリは気にしないんだね…』

 

慧は呆れながらもツッコミを入れる。

 

「千秋さん相手に気にするのも疲れるだけです。」

 

「紗夜ちゃんの愛が厳しいよ~、日菜ちゃ~ん」

 

「よしよし~怖かったね~」

 

日菜は子供をあやすように千秋さんを撫でていた。

 

「それで、慧、今日1日大丈夫でしたか?」

 

『うん、何ともなく平和だったよ。』

 

「そうですか…良かった。」

 

紗夜は本当にホッとしたようだった。

 

『心配性だな、紗夜は。』

 

慧は柔らかく微笑む。

 

「貴方はもう少し自分の危うさを自覚してください。」

 

紗夜は少し顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「否定はしないんだ~。紗夜ちゃんかわい~!!」

 

「///知りません!!日菜!もう帰る時間ですよ!!」

 

そう言って紗夜は出ていってしまう。

 

「あっ!待ってよおねぇーちゃん!!じゃ!慧、また明日ね!!」

 

そう言って日菜もぱたぱたと紗夜を追って出ていく。

 

二人が出ていって千秋と慧の二人っきりになる。

 

「優しいな、あの二人は…」

 

千秋はポツリと呟いた。

 

『そう…ですね。だからつい甘えてしまう。』

 

慧は少し暗く言った。

 

「でもあの二人はもっと甘えてほしいはずだ。」

 

『俺は十分に甘えているつもりなのですけどね。』

 

慧は苦笑いしながら応え立ち上がる。

 

「お風呂?」

 

『はい。』

 

「ん、わかった。」

 

そうして慧も出ていく。

 

リビングに残された千秋は一人呟く。

 

「気づかないと思っているのか?馬鹿慧。知ってるよ、お前が遠慮しているの。距離を取っているのも。」

 

何故慧が距離をとっているのかも薄々気付いている。

 

「私が見捨てると本当に思っているのか?私が迷惑に思っているって本当に思っているのか?」

 

千秋は返ってこないと知っている問いを投げかけずにはいられなかった。

 

「馬鹿…」

 

千秋はひっそりと涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





てことで、オリキャラの千秋回でした。

このキャラは結構書きやすいかも…

ある方からの疑問で、主人公は目が見えないのに、なぜ髪色がわかるのかとのご質問がありました。

これは、物語自体、第三者視点であり、慧の視点では無いためです。

技量が足りず違和感を覚えさせて申し訳ありません。

他にもなにか違和感や、ご指摘等があれば是非感想欄などにお願いします!!

では!次にお会いしましょう!


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9話 忍び寄る悪意と歪んでいく心

どうも、清夜です。

前回の投稿からかなり時間が空いてしまった…

言い訳するつもりではないのですが、この時期はやはり仕事しながらだとキツいですね…

しかも少し短めです。

もっとペースを上げなければ…

では!9話 忍び寄る悪意と歪んでいく心


慧が浴室へ入る。

 

脱衣所にはバスタオル等を入れる場所とは別に慧の私服等を入れている棚もある。

 

慧の部屋へ着替えなどを取りに行かなくても済むよう、少しでも楽に過ごせるようにと千秋が考えた方法であった。

 

慧は皆の好意を当たり前と思ってしまわないかと自分を恐れていた。

 

目の包帯を外し、転ばぬように慎重に歩いてシャワーを浴びる。

 

千秋さんと共同生活をはじめた頃は千秋さんにお風呂を入れてもらっていた。

 

その時のことを思い出すと恥ずかしさで頭が一杯になってしまう。

 

『だめだ、変なことを思い出すのは止めよう。』

 

いくら小学生から中学生の初めの頃の事といえど流石に精神的に来るものがあった。

 

思考を停止し頭を洗い、体を洗い終えると着替えて新しい包帯を巻き風呂場を出る。

 

「おや?もう出たんだね。」

 

『はい。』

 

「じゃあ私も入ろう。」

 

そう言って千秋は出ていく。

 

そうして一人になった慧はゴロリと広くなったソファーに寝転ぶ。

 

『俺は…なにしてるんだろうな…』

 

ただなにをするでもなく皆の手を借りながら何を産み出すでもなく、ただ生きている。

 

誰かの役に立つでもなく、むしろ足枷としかなっていない。

 

『俺に…なにが出来るんだろう…』

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~、いい湯だった。ん?慧~…寝ちゃったのか~」

 

そうして千秋は慧の頭の直ぐ横にこしかける。

 

そうして慈しむように頭を撫でていると、

 

「!?」

 

バイブにしていた携帯が着信を受け震える。

 

「もしもし、葛城だ」

 

千秋は先程までとは違い、鋭い雰囲気を纏う。

 

相手は同僚の後輩警官からだった。

 

「あっ!先輩!長門 美希(ながと みき)が慧君の通っている学校の周辺で見かけたという情報が!!」

 

「なっ…嘘だろ!長門が!!」

 

千秋は大声で叫んでしまい、すぐ我に帰って隣で寝ている慧を見る。

 

『スー…スー…』

 

慧は起きることなく寝息をたてていた。

 

慧が起きていないことに安堵し、千秋はそのまま後輩に話を促す。

 

「どうやら一昨日の事のようです。目撃されたのは夜の8時頃。ずっと慧君が通う学校を見上げて不気味な微笑みを浮かべていたみたいです。たまたま通った通行人が気味が悪いと思ったことでよく覚えていたようです。」

 

「一昨日の話が何でこんな遅くに!!」

 

千秋は慧を起こさないように、しかし憤りを隠しきれずに後輩へ怒鳴る。

 

長門 美希…彼女はあの過去の事件…水瀬家で起きた悲劇で慧が手にかけた長門 雄二(ながと ゆうじ)の娘であった。

 

歳は慧と同じ今年17歳。

 

「…先輩だって気付いているでしょう、先輩より上の人間はあの事件に関しては先輩に話が行かないようにしている。先輩は慧君の事になると歯止めが効かないんですから。本当は自分がこうやって話を流していることがバレても結構ヤバイんですよ。」

 

「………そうだな…すまない。」

 

千秋は落ち着いて返した。

 

「…先輩の気持ちは分かります。僕だってあの事件は話でしか聞いてませんが許せるものではありません。ですが、彼女が慧君に対して恨みを抱いてるとは限りません。もしかしたら謝りたいだけで、それが許されないと知っているからかもしれません。」

 

「そう…だな」

 

千秋は後輩の言葉に肯定を示す。しかし、そう答える反面、

 

「(それはあり得ない)」

 

そう思っていた。

 

最後に見た彼女を思い出す…被害者である慧を恨みと殺意で歪んだ顔で人殺しと叫んで狂ったように喚き散らす彼女の姿を…

 

「連絡ありがとう…危険な橋を渡らせてすまない。」

 

「構いませんよ、慧君に何かあったら僕も嫌ですから。」

 

後輩も慧と面識がある。

 

何度か千秋の仕事中の送り迎えの席に彼が乗っていることがあり、直ぐに打ち解けていた。

 

「それじゃ、お休み山田」

 

「はい、おやすみなさい。葛城先輩」

 

そうして千秋は後輩である山田 光(やまだ ひかる)との通話を終える。

 

そして慧の顔を見る。

 

さっきと変わらず安らかに寝息をたてている慧の髪を撫でながら呟く。

 

「大丈夫だ慧、例え長門がお前になにかしようとしても絶対に守るから。」

 

そうして千秋は立ち上がり、慧の為に毛布を取りに行った。

 

しかし、千秋はが出ていったあと…

 

『…』

 

慧の口許には歪んだ笑みが張り付いていた…

 

 

 

 

 

 

 

 




はいっ!てことで、9話でした。

少し短いですがご容赦を…

そして!次回やっとメインヒロインと主人公が絡みます。

長かった…

なんだか感慨深いな…

では!次回会いましょう!!


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10話 孤高の歌姫と


どうも、清夜です。

最近投稿が遅くなっている…転職したいな…

愚痴はここまで!

今回とうとう慧とメインヒロインが出会います!!

後半のちょっとだけど…

では!!10話 孤高の歌姫と

どうぞ!!


俺たちに近づくな

 

お前とはもう遊べない

 

正直気持ち悪いんだよね、その腕の傷

 

周りに影が蠢いていた。

 

人影だ。

 

そして場所は…どこかの教室だった。

 

顔はわからない、しかし口々に慧を否定する。

 

『ああ、夢か』

 

本来であれば人影や教室の風景なんてわかるわけがない。

 

もう慧の目は光を映さないのだから。

 

そして恐らくこれは過去の記憶…

 

普通の日常が…慧の壊れた心の記憶の断片。

 

この先を慧は知っている。

 

ガラガラガラ

 

教室のドアを開けて入ってきた人影がいた。

 

その人影は慧の元へ来た。

 

「慧!!どうしたんだ!その包帯!!それに腕も」

 

その声はよく知っている声だった。

 

親友と呼べる相手…

 

(ゆう)…』

 

唯一心配してくれた親友…長嶋 裕(ながしま ゆう)だった。

 

過去の慧は親友だけは通常通りで安心し、安堵からつい心配させたくなくて嘘をついてしまう。

 

『これはなんでもないんだ。ただちょっと怪我しちゃってさ、怪我じたいはそんな大変なものじゃないんだけど、暫く巻いとけってさ…腕も遊んでいたときに激しく転んじゃってさ!』

 

慧は唯一心配してくれた親友に心配させたくなくて…最悪の方法をとってしまう。

 

「そっか…良かった。」

 

裕は安心したようだった。

 

それから少し気まずそうにし、口を開く。

 

『(やめろ…)』

 

「なぁ…慧」

 

『(聞くな!!)』

 

『ん?なんだ?』

 

人影から気まずそうにする裕の声だけが聞こえる。

 

何も知らない慧はただ聞き返す。

 

「今日からもう…話しかけないでくれ」

 

『………え?』

 

「もう俺に関わらないでくれ…」

 

そう言って裕の声を出す人影が離れていった。

 

『え、裕!どうして!!』

 

訳がわからず問い返すも裕の声はもう聞こえない…

 

クスクスッ…

 

周りの蠢く人影が小声で嗤う。

 

慧はわからなかった。

 

夏休み入る前までは普通に話していたクラスメイト、心を許した親友…

 

その皆が俺を嗤い、気味悪がり、遠ざける。

 

『なんで…』

 

過去の慧は呆然とし呟く…

 

そんな光景を現在の慧は唯見ていた。

 

『なぜ皆が急に態度を変えたかわからなかった…いや、今でもわからない。』

 

過去の慧は皆に冷たい対応を取られても前みたいな関係に戻れるよう話しかけていた。

 

『あのときの俺は必死だった。家族が居ない辛さを学校では忘れたくて…支えが欲しかった…でも!』

 

いい加減に話しかけてくんなよ!

 

迷惑なんだよ、わからないのか?

 

三日目で諦めた。

 

もう信じられなかった。

 

毎日学校まで送り迎えしてくれる紗夜や日菜も本当は面倒だと、俺なんか居なくなればいいと思ってるのではないかと…

 

慧はそれほどまで追い詰められていた。

 

三日目の放課後…担任の先生に連れられて紗夜の待つ校門へ来た。

 

「先生、ありがとうございます。では行きましょうか、慧」

 

紗夜が手を握り、帰ろうとする。

 

「慧!!」

 

後ろから慧を呼ぶ声がする。

 

『…裕?』

 

忘れもしない()親友の声だった。

 

「慧、明日も来るよな…絶対登校しろよ!!」

 

ナニを言ってイルンダゆウは?

 

『アシタ?』

 

「そう!明日だ!明日にはみんな笑って前みたいに楽しく過ごせるから!!」

 

どこか必死な声で裕が言う…しかし、

 

『……イコウ、紗夜』

 

「え、ええ」

 

慧はなにも返さず紗夜へ促した。

 

『きっと行ってもまた傷つけられるだけ。あの時の俺にとってもう学校なんて居場所でもなんでもなかった。』

 

現在の慧は無表情でその光景を見ていた。

 

そしてその夜…

 

千秋が眠りについたであろう時間に慧は起き、手探りで台所へむかう。

 

『どこだ?』

 

ゴソゴソと台所であるものを探していた。

 

眠っているであろう千秋を起こさぬよう探すもどうしても物音は鳴ってしまう。

 

『!!…あった…』

 

慧はとうとう探していたものを手に取る。

 

『後は外に出るだけ…』

 

そう言って慧は外へ出ようとする…しかし。

 

「慧!?そんなもの持ってなにする気なの!!」

 

『っ!』

 

千秋に見つかってしまった慧は焦る。

 

「…それを置きなさい…慧!!」

 

千秋は緊張した声で叫ぶ。

 

『…』

 

しかし、慧は動かない。

 

もし慧を抑えようとして慧が暴れれば怪我は免れないだろう。

 

しかし慧は…

 

『すいません…千秋さん』

 

慧はそう言って左手に持っていた包丁(・・)で自分の利き手である右手首を思いっきり切り裂いた。

 

そして現在の慧はグッと後ろへ引っ張られる感覚を覚え、意識が覚醒する。

 

『…』

 

慧は上半身を起こす。

 

すると隣に気配を感じ、手を伸ばすと誰かの頭へと触れる。

 

「クゥー、スー」

 

可愛い寝息をたてているのは恐らく日菜だろう。

 

『俺が起きるのを待ってる間に結局寝てしまったのか。』

 

そうして慧は日菜の頭を撫でる。

 

コンコン

 

慧の部屋の戸をノックする音が聞こえる。

 

そして入ってきたのは千秋さんだった。

 

「ああ、起きていたんだ。」

 

『うん、日菜は寝ちゃってるけど。』

 

「まぁ、寝かしといてあげなよ。ご飯は作っておくし。」

 

千秋は日菜の頭を撫でながら言う。

 

『すいません、お願いします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん!慧!!」

 

千秋さんのご飯を食べ終え学校へ向かう途中、慧の手を引く日菜が謝ってきた。

 

『別に気にしなくていいよ、今日は普通に起きられたし。』

 

確かに嫌な夢は見たが、あの事件程ではない。

 

「う~…ほんとにごめんね」

 

日菜がしょんぼりとしながら謝る。

 

『だから大丈夫だって。日菜は笑っている方がきっと可愛いよ?』

 

慧が日菜を慰めていると、

 

「あっ!慧!日菜!!」

 

「あっ!リサチー!!」

 

後ろからリサの声がし、日菜も応える。

 

どうやらリサも登校するところだったようだ。

 

「おはよ~二人とも。」

 

『おはようございます。今井さん』

 

「もう!リサって呼んでって言ってるでしょ!」

 

相変わらず名前で呼ばない慧にリサはむっとしたようだった。

 

すると、

 

「リサ」

 

リサの隣からとても綺麗で、澄んだ声が聞こえた。

 

「ああ、ごめん友希那。紹介するね。彼は水瀬 慧」

 

「水瀬…慧」

 

「それで慧、このとても綺麗な声をしているのが私の幼なじみの湊 友希那!」

 

『湊さんか、宜しくね湊さん。』

 

「ええ、宜しく。」

 

 

 

これが…孤高の歌姫、湊 友希那との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いかがでしたか?

これからは友希那も本格参戦出来ると思います。

多分…

もっと更新ペース上げなければ…

では!次にお会いしましょう!!


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11話 世界中を笑顔に…

はい!てことで清夜です!

タイトルからわかるようにあのメンバーの人が出てきます。

やっぱり書きにくいよ…あの人。

では!

11話 世界中を笑顔に…


「ねぇ、水瀬くん。私たち昔に会ったことあるかしら?」

 

お互いに自己紹介を終え、諸事情で羽丘女子学園に通っていることを伝えた後、友希那が慧に聞いてきた。

 

『僕たちですか?無いと思いますけど。』

 

「そう…急にごめんなさい、勘違いのようね。」

 

「な~に~友希那。会って直ぐにナンパ?」

 

リサがニヤニヤしながら友希那をからかう。

 

「違うわ。ただの勘違いよ。」

 

友希那がジト目でリサを見ながら返す。

 

『会ったことはありませんが、話だけなら聞いてますよ?』

 

「…どういうことかしら?」

 

友希那が不思議そうに慧を見る。

 

『氷川紗夜とバンドを組んだんですよね?氷川紗夜と僕は幼なじみなんです。』

 

「!!…そうだったの。」

 

「てことは日菜って…」

 

友希那が驚き、リサは日菜を見る。

 

「うん♪私は双子の妹、氷川日菜だよ!」

 

「こんな偶然があるのね…」

 

「ビックリだよね。」

 

日菜は胸を張り、友希那とリサはただただ驚いていた。

 

「ということは紗夜が言っていた歌の上手い幼なじみとは貴方のことだったのね。」

 

『……どう、でしょうね。』

 

友希那の質問に慧は歯切れ悪く答える。

 

「違うの?」

 

「あってるよ!慧は歌がとっても上手なんだ!!」

 

『…』

 

慧の代わりに日菜が答え、慧はなにも言わなかった。

 

「そう、やっぱり貴方なのね。是非とも貴方の歌声聞いてみたいところね。」

 

「珍しいね、友希那が音楽で他の人を気にするなんて。しかも歌でなんて。」

 

リサは友希那の様子にも少し驚いたようだった。

「別にそんな驚くようなことでもないわ。あの(・・)紗夜があそこまで誉めるのだもの。気にもなるわ。」

 

『買い被り過ぎですよ。今の僕の歌には誰かに聞かせる程の価値なんてありません。』

 

『(俺は生きている人のために歌えないのだから…)』

 

「…そう、残念ね。無理強いをするつもりはないけれど。」

 

友希那は残念そうにするも何かを感じとり深くは追求しなかった。

 

『すいません。』

 

「別に謝る必要は…」

 

「それよりさ!」

 

慧と友希那の会話にリサが割って入る。

 

「慧っていつもお昼はどうしてるの?」

 

リサが暗くなりそうな雰囲気を変えようとして強引に話を切り替える。

 

「慧はいつも私と食べてるよ~。あの職員室の空き教室で。」

 

「そっか、だから日菜はいつも教室にいないんだね。」

 

「それがどうしたの?リサチー?」

 

するとリサは友希那を見てにっこりと笑う。

 

「…何かしら?」

 

「いやね、今日のお昼は慧の所で食べたいな~って」

 

リサはニコニコ顔を崩さず友希那に聞いてきた。

 

「……許可取るべきなのは私じゃないはずなのだけれど。」

 

「だって友希那も一緒だしさ、一応友希那の意見も聞いておかなきゃ…ね?」

 

「どうせダメと言っても聞かないのでしょう?なら聞くだけ無駄よ。」

 

友希那は呆れた顔して返す。

 

「それじゃ!友希那からの許可もとれたし、慧!お昼一緒してもいい?」

 

『…日菜が良いのなら構いませんよ。』

 

「私は慧が良いなら喜んで!…てことはOKってことだね!!うん!るんっ♪てした!!」

 

「やった!決まり!これで友希那にも友達が増えるね。」

 

「リサ…貴方は私の保護者か何かなの?」

 

友希那はため息を吐く。

 

そうして他愛のない話をしていると学校へとたどり着く。

 

「それじゃ!慧を送ってから教室に向かうね!」

 

「うん、わかった。また後でね、日菜!慧も!お昼にね!!」

 

そうしてリサ達と別れ、慧の教室へと向かう。

 

「今日のお昼楽しみだね~慧!」

 

『そうだね。何時もより賑やかになりそうだ。』

 

そうして慧の教室へ着く。

 

「それじゃ!慧、またお昼にね!!」

 

『うん、日菜も授業頑張って。』

 

日菜を送りだし、日菜と入れ替わるように先生が入ってきた。

 

すると、日菜と入れ違いに美波先生が入ってくる。

 

「おはよう、水瀬くん。」

 

『おはようございます、美波先生。』

 

「HRまでまだ時間あるし、もう少し待っててね。」

 

『わかりました。』

 

 

 

 

そうして慧は授業を受けていくと、二時間目が終わった休み時間。

 

「やぁ、儚き歌鳥。ご機嫌はいかがかな?」

 

『薫?どうしたの、こんな時間に。』

 

長いお昼休み等ならまだしも、短い休憩時間に薫が顔を見せるは珍しい。

 

「なに、少し聞きたいことがあってね。」

 

そう言うと薫は慧の近くまで来る。

 

慧は薫がすぐ隣に来る気配を感じると共にいつもの雰囲気とは違う微かな真剣さを感じた。

 

『聞きたいことって?』

 

「うん、私は今ある子猫ちゃんからバンドに誘われていてね。」

 

『へぇ、バンドか。』

 

薫がまさかバンド関連の話をしてくるのは以外だった。

 

「ああ、私はその子猫ちゃんの思想がとても気に入ってね、嗚呼、儚い…」

 

『(良かった、いつもの薫だ。)』

 

変な所で安心してしまう慧だった。

 

『その娘の思想って?』

 

興味が湧いた慧は薫に聞いた。

 

「…世界中の人を笑顔に…それが彼女の…いや、弦巻こころの思想だ。」

 

『世界中の人を笑顔に…か。』

 

慧は余りにも叶えるには現実味のない話に面食らっていた。

 

そして薫はまた真剣さを帯びた雰囲気で慧に問う。

 

「君はこの考えをどう思う?…愚かだと思う?無理だと笑う?所詮は絵空事だと切り捨てる?」

 

薫の慧に問う声は少し震えていた。

 

『そう…だね、それを叶えるにはとても現実味のない話だ。』

 

「っ!!」

 

薫の顔は悲痛に歪むが、慧は『けど、』と続ける。

 

『もしそれが叶うなら…って、叶ったその世界はとても幸せなんだろうな…』

 

慧は呟くように言った。

 

それは少なからず慧もそうであってほしいと願っているようだった。

 

「そうか…良かった。」

 

薫はこの話をしたとき慧がどんな反応をするかわからなかった。

 

笑われるのが怖かった。

 

否定されるのが辛かった。

 

けれど慧は笑わなかった。

 

確かに現実味は無いと否定された。

 

けれど慧もそうであってほしいと願っていた。

 

ならば…

 

「ならば私たちが叶えて見せよう!この色褪せた世界に笑顔の花で一杯にしようじゃないか!!」

 

薫は急に芝居がかった動作をしながら宣言する。

 

「そして…必ず君に偽りではない、本物の笑顔にさせて見せる!!」

 

『!!』

 

「それまで待っていたまえ、歌鳥!」

 

そう言って薫は出ていった。

 

『…偽りの笑顔…か』

 

慧はポツリと呟いた。

 




はい!

てことで薫さんでした。

なんか3馬鹿のはっちゃけた薫さんが書けない…難しいな。

次は友希那達とお昼回からの…

では!次にお会いしましょう


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12話 小さな魔王


はい!てことで清夜です。

ザブタイ通りかな~。

後半になるけど。

感想で薫がカッコ良すぎて主人公のパートナーでも可笑しくないって言われてしまった…

実は自分も思ってたり…友希那の挽回劇、刮目せよ!!

まだだけど…

てことで!12話 小さな魔王


慧は薫が去った後も考えていた。

 

「世界中を笑顔にする」

 

それは途方もなく、絵空事と言えるほどだろう。

 

それでも…何故ここまで気にかかるのか、自分には全然わからなかった。

 

そして、薫に言われたこと…偽りの笑顔ではなく、本当の笑顔にさせると…

 

『気づかれていたんだな…』

 

薫は演者だ。

 

恐らく、偽りを演じることに関しては人一倍敏感なのだろう。

 

敵わないな…

 

慧は薫には偽れないと理解し、これからどう対応するかも悩みとなる。

 

『(まぁ、今更つきあい方を変えるつもりはないし、そのままでいいか…それに…)』

 

それに恐らくその夢は叶わない。

 

慧がいる限り。

 

『笑顔?アイツだけは笑顔にさせるものか…』

 

慧は歪んだ笑みを浮かべ、声には怨嗟を含んでいた。

 

慧が一人で考えていると、

 

「さて、次の授業始めるわよ。」

 

そう言いながら美波先生が入ってきた。

 

慧は一瞬でいつも通りの仮面を被り直した。

 

そうして四時間目までの授業をこなし、昼休みとなる。

 

「慧~!!」

 

勢い良く教室のドアが開き、走ってくる足音と共に慧を呼ぶ声がする。

 

そして、日菜が入ってきたと理解する間もなく抱きつかれる。

 

『はぁ、もう何か言うのも無駄だね』

 

慧は呆れながら呟き小言をいうのを諦める。

 

「本当に仲良いよね、二人とも。」

 

「…私たちお邪魔じゃないかしら?」

 

後からリサと友希那が入ってくる。

 

『気にしないで下さい、いつものことなので。』

 

慧はそう言ってひっついている日菜を優しく剥がす。

 

「うう~慧の愛が冷たいよ~」

 

日菜は嘘泣きしながら教室の後ろに固めてある机と椅子の中から椅子だけを取り出し三人分持ってきた。

 

「ありがと~、日菜」

 

「ありがとう。」

 

リサと友希那はお礼を言って慧の机を囲むように座る。

 

「それじゃ、食べよっか」

 

皆が弁当を開き、リサが促す。

 

「それじゃ!いただきます!」

 

『「「いただきます」」』

 

日菜の元気な食事の挨拶と共に三人が声を揃える。

 

食事が始まり、慧達は箸を進めた。

 

「へぇ、慧目が見えないのに迷いなく食べていけるんだね。」

 

リサは感心しながら見ていた。

 

『ええ、最初に日菜が意地でも食べさせようとしてきたので自分で食べれるよう感覚で覚えました。気を使って箸で掴みやすいものだけ入れてくれるので難なく慣れることができましたよ。』

 

「慧ったら誰も見てないのに恥ずかしがるんだもん。るんっ♪てしない!」

 

日菜が怒っているのを見てリサは苦笑する。

 

『流石にこの年で食べさせてもらうのは恥ずかしいだろ。それに頼ってばっかりじゃいられない。』

 

慧はそう言って弁当を平らげていく。

 

すると、日菜が何か思い付いたようだった。

 

「そっか!これから私が作るときは箸で掴みにくいものを作ればいいんだ!そしたら私が食べさせてあげられる!!」

 

『意地でも食べさせたいのか!』

 

「うん!!」

 

日菜が即答するものだから慧は呆れた。

 

「貴方も大変ね。」

 

『わかってもらえて何よりですよ、湊さん。』

 

友希那が同情してくれることに感謝しながらため息を吐く慧だった。

 

「ねぇ!慧、そろそろ私たちにも楽な話し方にしても良いんじゃないかな!!」

 

諦めて食を進めた慧に、リサは急に抗議し始める。

 

『またその話ですか…』

 

慧は再びため息を吐く。

 

「昨日は引き下がったけど今日はもう逃がさないよ!!」

 

『逆に何で敬語は嫌なんです?』

 

慧は分からずに問いかける。

 

「だって距離取られてるみたいじゃん。」

 

リサがキッパリと言った。

 

昨日と今日でリサが慧の名前を呼び捨てになっているのはやはり距離を詰めようとしているのだろう。

 

「こうなったリサは止められないわ。諦めた方が懸命よ。」

 

「慧は…迷惑?」

 

諦めるよう言う友希那に不安そうに聞くリサ。

 

『…はぁ、断れるわけないじゃん。』

 

慧は諦めた様に溜め息を吐いた。

 

「その…慧さんが無理してでもってのはやっぱり嫌だからさ…」

 

リサは少し苦しそうに言った。

 

『だからそんな風に言うのがズルいんだ…』

 

慧はそう呟き、リサに言った。

 

『わかりましたよ、僕の敗けです!!僕のことは好きに呼んでください!!』

 

いつの間にか慧くんから慧と呼び捨てに変わっていたリサの変化を気づいていた慧は投げやりに言う。

 

「でも無理は…」

 

『僕がそう呼んでほしいんです!!だからリサも好きに呼んでよ!!』

 

リサの言葉を遮り、慧はリサに言った。

 

「!!そっか!なら遠慮なく慧の友達として接するからね!!」

 

リサはビックリして、それから嬉しそうに慧に応えた。

 

『(もうどうにでもなれ…)』

 

そう思いながら慧は昼休憩を過ごした。

 

そして慧の一日の授業は終わり、放課後となった。

 

「それじゃあ慧、行ってくるね!!本当はお姉ちゃんが来るまで待っていたいんだけど…」

 

学校の校門で日菜と別れる所だった。

 

日菜はこれからアイドルの仕事の打ち合わせがあるため、今日はここで別れることとなる。

 

紗夜が迎えに来るので、それまで校門で待つことになる。

 

『気にしないで、日菜はやりたいことをやるんだ。僕のことで縛られる必要はないよ。』

 

「またそういう言い方する~」

 

日菜は拗ねる様に言う。

 

「まぁまぁ、慧は私たちが付き添っとくし行ってきなよ。」

 

リサが優しく日菜に言った。

 

リサと友希那は紗夜が来るまで一緒に待っていてくれることになっていた。

 

『ほら、待ってるよ?』

 

校門の前には日菜を迎えに来たマネージャーらしき人が車で待っていた。

 

「…うん、行ってくるね!」

 

『うん、頑張っておいで。』

 

そうして日菜は車に乗り行ってしまった。

 

「アイドルか~日菜も凄いね!」

 

『うん、デビューが楽しみだよ。』

 

「私には無理ね、私は歌うことしかできないから。」

 

友希那は到底無理だという。

 

「友希那もキレイなんだし後は愛想が良かったらな~」

 

リサは苦笑いしながら言う。

 

そうやって他愛のない話をしていると…

 

「友希那さん!お願いします!!」

 

後ろから少し幼い声が聞こえた。

 

「あれ?あこじゃん。どうしたの?」

 

リサが不思議そうに声の主に問いかけた。

 

どうやらあこという名前らしい。

 

「…リサ、知り合いなの?」

 

友希那はリサとあこの繋がりを知らないようだった。

 

「お願い!お願いお願いお願いしますっ!絶対いいドラム叩きます!お願いします!!」

 

少女はただ友希那に頼み込むのだった。

 

 

 





場面切るの中途半端でしたかね?

でもこれ以上進めると場面を切るタイミングが思い付かなかった…

感想、誤字脱字報告があればよろしくお願いします!

では、次にお会いしましょう!!


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13話 奇跡の音色

どうも!清夜です!!

やっと本編に入って行けてるな!!

それでもまだ先は長い…

てことで!13話 奇跡の音色

どうぞ!!


「お願いします!!」

 

必死に友希那へお願いする少女に友希那は冷たくあしらう。

 

「何度も言わせないで。私は遊びでやっているわけではないの。」

 

「ちょ、ちょっと待って。えと…あこは友希那のバンドに入りたいってこと?」

 

「うん!!でも何度も断られちゃって、どうしたらあこの本気が伝わるかなって考えて…それで、えっと、友希那さんが歌う曲全部叩けるようにしてきました!いっぱいいっぱい練習してきて…その…一回だけ!一回だけでいいので一緒に演奏させて下さい!!それで…それでダメだったら諦めるから…」

 

あこは必死だった、何故そこまで友希那のバンドに固執するのか慧は気になった。

 

「何度も言ってるけど…『良いじゃないですか?一度くらい。』!貴方…」

 

断ろうとする友希那に割って入る慧。

 

『事情を知らない僕が言うのも失礼かもしれませんがまだメンバーは集まって無いようですし、本人も一度合わせるだけで良いと言ってます。探す手間が省けると考えても良いのでは?』

 

「そうだよ友希那!私はあこを知ってるけどやるときはやる子なんだから!それにほら、あこのつかっているスコア、こんなにボロボロになるまで何度も何度も練習してきてるってことでしょ?」

 

リサも慧の説得に乗ってくれるようだった。

 

「はぁ、分かったわ。一曲セッションするだけよ?」

 

「ほ、本当ですか!!やった!リサ姉ありがとう!!えと…先輩もありがとうございます!!」

 

『気にしないで、それに喜ぶのはまだ早いよ?これからが本番だ。君の演奏楽しみにしているよ?』

 

「はい!!」

 

「?…慧、貴方も来るのかしら?」

 

友希那は訝しげに聞いた。

 

『まぁ、焚き付けたのは僕ですからね。責任と言っては大袈裟かもしれませんが、それに、紗夜も直ぐにスタジオへ行けるでしょう。あこさんの演奏が終わればスタジオの外で待機しているので邪魔はしませんよ。』

 

 

「…まぁ構わないけれど。」

 

友希那は溜め息を吐き同行を認める。

 

「ワタシも行くからね!」

 

リサも忘れるなと言わんばかりに声を上げる。

 

「…リサは来るなと言っても来るでしょ。」

 

「!…そうだけどその言い方なんか傷つくな~」

 

リサは苦笑いしながらも自然に自分も数に入っている事が嬉しいようだ。

 

「お待たせしました、慧。?湊さん、それに貴方達は?」

 

慧を迎えに来た紗夜に事情を話す。

 

「…慧も来るのですか?」

 

「?…ダメだった?」

 

「…いえ…わかりました。」

 

紗夜は煮え切らないようだったが切り替えたようだった。

 

「(いずれは聞いてもらうつもりでした。それが早くなっただけのこと…)」

 

紗夜はそう思い直す。

 

「じゃあ行きましょうか。」

 

友希那がそう言って歩きだす。

 

慧も紗夜に手を引かれながら着いていった。

 

 

 

そしてスタジオに着き、準備を始める。すると紗夜が、

 

「出来ればベースもいるとリズム隊としての総合評価が出来るのですが…」

 

ポツリと呟く。

 

「そうね、けれどこればかりは仕方ないわ。このまま…」

 

「あ、あのさ、アタシが弾いちゃ駄目かな?」

 

友希那の言葉に被せるようにリサが提案する。

 

「リサ?」

 

「え?リサ姉ベーシストだったの?」

 

「昔ちょっとやってたんだよね、誰もいないんでしょ?だったらアタシが弾くよ♪待ってて、ベース借りてくるから。」

 

そう言ってリサは出ていく。

 

『これで一通り揃うのか…』

 

慧はポツリと呟く。

 

あこや紗夜を魅了した友希那の歌声…それが聞けると思うと少し楽しみな自分がいることに慧は驚いていた。

 

『(未だに未練があるということかな。)』

 

今度は声には出さなかったが、その心境は複雑だった。

 

聞きたくないという気持ちと聞きたいという気持ちが心の中でごちゃ混ぜになっていた。

 

『(聞くことを何故恐れる?)』

 

自問する。

 

『(わかっていることだろう?)』

 

自答する。

 

そう、わかっている。

 

もし聞いてしまえば…俺は…

 

「お待たせ!借りてきたよ。準備オッケー。」

 

リサが戻ってきたことで慧は考えるのをやめて切り替える。

 

「それじゃあ、行くわよ。」

 

そうして4人の演奏が始まる。

 

「(…!なに…?)」

 

「(…この感じ…? 見えない力に引っ張られるみたいな…!)」

 

友希那と紗夜は自分達が奏でている演奏に驚きを隠せなかった。

 

「(え…!? 暫く弾いてないのに…アタシ…!)」

 

「(凄い!練習の時よりもっと上手に叩ける…!…ってあれ?でもなんか不思議な…?)」

 

リサは自分のブランクが信じられなくなり、あこはいつもの調子が良いとき以上に調子が良いことに喜び、また全員が感じている不思議な感覚に疑問を覚える。そして…

 

『ッ!!』

 

それを聞いていた慧は絶句していた。

 

彼女達が奏でる演奏に何も言えず、ただ聞き入るしかなかった。

 

そして気付けば演奏は終わっていた。

 

「「………」」

 

友希那と紗夜は口を開かなかった。

 

「あの…さっきから皆黙ってるけど…あこ、バンドにはいれないんですか?」

 

誰も黙ったままだったので、あこが不安そうに聞く。

 

「そ…うだったわね。ごめんなさい。いいわ、合格よ。紗夜の意見はどうかしら?」

 

「いえ、私も同意件です。ただ…その…」

 

「いやったぁー!!」

 

あこはバンドに入れることがよほど嬉しいのだろう。

 

素人が聞いても彼女のドラムはなにか引き寄せられるものがあった。

 

「それにしてもなんかとてもすごかった!!初めて音を合わせたのに勝手に体が動いて!!」

 

「!アタシも…あこもそう思ったんだ!なんかいい感じの演奏だったよね。…てことは二人も…?」

 

あこは興奮ぎみにまくしたて、リサはあこに同意する。

 

「そうですね…これは…」

 

「場所、楽器、機材…メンバー。技術やコンディションではないその時、その瞬間にしか揃えられない条件下でだけでしか奏でられない音…」

 

『ミュージシャンの誰もが経験できるものじゃない…そう…バンドの奇跡とでも言うのかな…』

 

友希那の後を引き継いだのは慧だった。

 

『そっか…紗夜はいいバンドを見つけたんだね…』

 

慧はポツリと呟く。

 

「慧…?どうかしましたか?」

 

紗夜が心配そうに慧へ声をかける。

 

『…ううん、何でもない。あまりにも凄い演奏にだったから面食らって。あこさん、とてもいい演奏だったよ。』

 

「ありがとうございます!!」

 

そうして慧は立ち上がる。

 

『ごめん紗夜、スタジオへの入り口まで連れていって貰っていいかな?確か休憩スペースがあったよね?そこで終わるまで待ってるから。』

 

「…わかりました。」

 

『それじゃ、皆、また後でね。』

 

そうして慧は紗夜に手を引かれ部屋を後にした。

 




本編突入!

慧君が彼女達の曲を聞いて何を感じたのでしょうね?

それは次回明らかになりますが…

感想、誤字脱字、ご指摘等があれば頂けると嬉しいです!!

では!次回お会いしましょう!!


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14話 心に渦巻く感情

どうも、清夜です。

やっと原作のストーリーに介入できたというのに今回もほぼオリジナル回…

だけど今回はあまりスポットの当たってない人が出てきます!!

では!!

14話 心に渦巻く感情

どうぞ!!


紗夜に休憩スペースまで連れてきて貰い、紗夜は友希那達の所へ戻っていった。

 

戻る際に少し慧を心配していたようだが、慧は皆が待っているからと少し強引に送り出した。

 

『…』

 

そして慧は一人で友希那達の演奏を思い出していた。

 

きっかけはあこがあそこまで友希那のいるバンドに固執する理由を知りたかった。

 

紗夜があそこまで評価する彼女の歌が気になった。

 

そして彼女達の歌を聞いて慧はただ圧倒された。

 

別次元だった。

 

見た目は分からないが中等部と聞いていたあこは恐らく小さな体躯であるはずなのに力強いドラム。

 

リサのブランクを感じさせないベースは上手く皆の演奏を引き立てている。

 

紗夜のギターは正確で、技術は申し分ないだけでなく、惹き付けられる何かがあった。

 

そして…湊友希那。

 

彼女の歌声は幻想的で美しいのにその歌声には力強さがあって、彼女の芯の強さを歌でそのまま表しているかのようだ。

 

自分にはないその強さ…慧の歌は芯のない…空虚で空っぽだった。

 

そんな自分が惨めに思えて、幼い頃家族と一緒に演奏していた紗夜も友希那とバンドを組んで…そう…

 

『(俺は友希那に嫉妬しているんだ…)』

 

後輩からの憧れ、親友からの親愛、バンドパートナーからの信頼、そして揺るがない信念。

 

その全てを持っている彼女は眩しくて…手が届かなくて…

 

『(今更何を言っているんだ…)』

 

別に後輩の憧れがほしいわけじゃない、親友の親愛は幼なじみから沢山貰っている、これ以上何を求める?

 

『(強欲でワガママだな、僕は…)』

 

ネガティブ思考に落ちていた気持ちを振り切り、曲でも聞こうと思い、鞄からiPodを出そうと手探りで探す。

 

すると…

 

「あれ?水瀬先輩?」

 

『?…その声は宇田川さんかな?』

 

「声だけで良くわかりましたね。」

 

慧に声をかけてきたのは宇田川 巴だった。

 

「席、良いですか?」

 

『どうぞ。』

 

巴の申し出に頷き、巴はお礼を言いながら慧の向かいの席に座った。

 

「先日はすいませんでした。」

 

『?…なにかありましたか?』

 

巴が改まって謝ってきたが、慧は何故謝られているかわかず、つい聞き返してしまった。

 

「いえ…あの、うちのひまりが…その、目のことで。」

 

巴がしどろもどろにながら言う。

 

『ああ、別に気にしなくて大丈夫ですよ、慣れてますし。むしろ気を使われる方が…ね?だから気にしないで下さい。』

 

「…わかりました。そうします。」

 

渋っていた巴だが、慧の好意に甘えることにした。

 

 

『それにしても宇田川さんはバンドでも組んでるのですか?』

 

「はい!幼なじみと一緒に組んでるんです。それで…あの…」

 

再び巴が言いにくそうにする。

 

「出来れば敬語止めてもらえませんか?後輩なんですし楽に話してもらって大丈夫ですよ。」

 

巴の言葉に苦笑いをする慧。

 

『すいません、どうもこれが接しやすいんですよ。中々タメ口には慣れなくて。』

 

「え?でも薫先輩にはタメ口でしたよね?」

 

『まぁ、そうですね。薫も敬語は嫌だと言っていたので。彼女には何度も助けられていますし、逆に敬語がおかしいような感じになってしまったので。』

 

「そうだったんですね。けどやっぱり敬語だと距離を取られてるように感じてしまうんですよね。先輩からだと特に。」

 

巴も苦笑いしながら言う。

 

『…本来であれば僕はあの学校へ通えないはずだったんです。それを特例で入れてもらった。そんな僕は普通こうして学校の女子高生と普通に接するべきではないんですよ。女子校に通わせている両親からしたら女子校に男子学生がいるのは不安でしょうしね。』

 

「…けど私たちの学年はそれを事前に話を聞いている上で通っているんです。慧さんがあまり気にすることではないのでは?」

 

巴が不思議そうに言う。

 

その言葉に苦笑いを強める慧。

 

『美竹蘭さんでしたっけ?』

 

巴は一瞬何故蘭の名前が出てきたかわからなかったが、初めて慧と出会った時のことを思いだし顔をしかめた。

 

『確かに聞いた上で選んだ学校かもしれません。けれどそれは関わらない前提(・・・・・・・)の話なんですよ。美竹さんのような反応が当たり前なんです。関わりすぎた人がいるのも事実ですが…』

 

「けど、蘭は別に慧さんが嫌であんな態度を取った訳ではないんです!」

 

巴は焦りながら蘭をフォローする。

 

それに対し慧は柔らかく笑った。

 

『わかってますよ。ただ不審に思うのが普通だと言いたかっただけです。例えが悪かったですね。すいません。』

 

そして慧は暗い雰囲気を切り替えるように話を切り出す。

 

『宇田川さんはバンドでなんの楽器を担当しているんですか?』

 

「え?あ、ああ!ドラムです。結構商店街の祭とかで太鼓叩いたりしていたんで。」

 

『なるほど、良いですね。ドラムは結構体力使うでしょう。』

 

「まぁ、体力には自信があるんで。」

 

巴は笑いながら誇らしげに言う。

 

「そういう慧さんは?ボーカルでもしてるんですか?」

 

巴は慧がここにいることに疑問を持ったようだった。

 

『いや、幼なじみがバンドをしているんです。それで着いてきただけで。』

 

「そうだったんですか。」

 

巴は納得したように頷く。

 

「慧さんも歌ってみたらいいのに。声綺麗だから。」

 

巴の誉め言葉に慧は顔を一瞬暗くするも、直ぐに切り替える。

 

『そんなことありませんよ。歌が上手い人なんて僕より沢山います。』

 

慧はさっきの友希那達の演奏を思い出しながら唇を噛む。

 

「慧さん?」

 

巴が心配そうに声をかけたとき、

 

「巴?」

 

スタジオの入り口から巴を呼ぶ声がした。

 

 




はい!

てことで巴の回でした。

後輩メンバーは中々絡ませづらい…

次回はafterglow中心になるかな?

では!!次回にお会いしましょう!!


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15話 夕焼けと慟哭

どうも!清夜です。

更新遅くなってすいません!

中々安定しないですね(-_-;)

今回も後半シリアスなのです。

てことで行ってみましょう!

15話 夕焼けと慟哭



「巴?…とこの間の…」

 

「ああっ!!薫先輩と手を繋いでた人!!」

 

巴と話をしていたら入り口のドアを開けると共に巴を呼ぶ声があった。

 

「ひまり!いい加減にその話やめろ!」

 

入ってきたのは巴の幼なじみの面々だった。

 

『そうか…彼女達とバンドを…』

 

慧は薄々そうではないかと思っていた。

 

まぁ、巴の知り合いを彼女たちしか知らないというのもあるが…

 

「どーしたんですか~?こんなところで~」

 

のんびりとした口調のモカが慧に聞いてくる。

 

『…別に、知り合いがバンドをしているのでちょっと着いてきただけですよ。邪魔になるといけないのでここで待機しているのですが。』

 

慧は微笑みながら答える。

 

「そーだったんですか~。てっきりともちんと会瀬してるのかと~」

 

「モカちゃん、私達と待ち合わせしているのに会瀬にはならないんじゃ…」

 

「そっか~、つぐ頭良い~」

 

「すいません、先輩。騒々しくて。」

 

巴が申し訳無さそうに謝る。

 

『気にしなくて良いですよ、それよりメンバーも揃ったようですし、練習頑張ってきて下さい。』

 

「はい!先輩、話に付き合ってくれてありがとうございます。」

 

巴はお礼を言ってたちあがる。

 

「…」

 

「?どうしたの、蘭?」

 

蘭はさっきから黙って慧を見ていて、ひまりが不思議そうに聞く。

 

すると蘭が、

 

「先輩、私たちの演奏、聞いてみませんか?」

 

「「「「えっ!!」」」」

 

皆が蘭の突然な提案に驚き、慧は首をかしげる。

 

「…だって待ってるだけなんて退屈でしょ?この前は…その…失礼な態度取ったし…ひまりも迷惑かけたから。」

 

蘭が口ごもりながら答える。

 

人見知りな彼女がそんな提案することに驚きを隠せなかった。

 

蘭の気遣いに慧は蘭に対する印象を改めることにした。

 

どうやら彼女は心優しく、気遣いのできる娘だったようだ。

 

しかし、さっき友希那達の演奏を聞いて激しく嫉妬を覚えたばかりでためらってしまう。

 

『ありがたい提案ですが迷惑じゃないですか?』

 

「…まぁ、先輩が良ければ是非。私達もいずれライブとかするわけだし、その予行練習と思えばこっちもプラスになりますから。」

 

巴が返事をし、他も異論は無いようだった。

 

本来であれば蘭はこんなことを言う娘では無いのだろう。

 

さっきの巴達の反応でそれは良くわかる。

 

故に断るのも申し訳なくなった。

 

『そうですか…ならお願いしようかな。ちょっと待ってて下さい。』

 

だから慧は彼女達の演奏を聞いて確かめることにした。

 

本当に自分が嫉妬しているのがなに(・・)にたいしてなのか確かめるために。

 

そして慧は鞄からスマホと折り畳み式の小さいキーボードを取り出し、スマホに繋ぐ。

 

慧が目の見えないままスマホの画面をタッチすると、ケータイから「Eメール」という機械音声が流れた。

 

慧はそのアプリを今度はダブルタップし、連絡先をタップしてキーボードでメールを打ち始める。

 

「すごい、スマホにこんな機能あったんだ…」

 

ひまりが驚きの声を上げ、他の四人も驚きと興味を持った目で慧を見ていた。

 

『部屋番号は何番ですか?』

 

「ああ、8番です。」

 

『わかりました。』

 

そうして慧はメールを終える。

 

お待たせしました、じゃあいきましょうか。

 

そうして慧は鞄にケータイをしまい、立ち上がると誰かが右手を優しく取ってくれていた。

 

「大丈夫ですか?先輩。私が手を引きますね。」

 

『ああ、ありがとう宇田川さん。』

 

「フーフー、ともちんだいたん~」

 

「ば、はか!そんなんじゃない!!」

 

モカが巴をからかい、巴は顔を赤くして怒る。

 

「巴ちゃんがあんな反応するなんてなんだか珍しいね。」

 

「そうだよね~。もしかして本当に先輩に気があったりして。」

 

つぐみが不思議そうに巴を見、ひまりが興味深そうに見ていた。

 

「…」

 

そして蘭は何故か不機嫌そうにムスッとしていた。

 

「ん?どうしたの蘭。」

 

「…なんでもない。行くよ」

 

不機嫌そうなまま歩いていく蘭にひまりとつぐみは顔を見合せ不思議そうに首をかしげ、後を追った。

 

 

 

そしてスタジオに入り皆が準備を終え、早速初めの曲を歌い始める。

 

「それじゃあ、アスノヨゾラ哨戒班から。」

 

蘭がそう曲名を告げてから演奏が始まる。

 

それはカバー曲でありながらも蘭達のバンド、afterglowとしてその曲を自分達の物にしていた。

 

いつもはのんびりしているモカはギターで激しい音を奏で、ひまりの明るい性格をしていながらも乱れることの無いベースで、滑らかにキーボードを弾くつぐみと共にリズム隊としてみんなを支える。

 

そして蘭はギターを弾きながらおざなりにならない歌。

 

やはりその歌には彼女の熱い心が籠っていて、巴の力強いドラムが蘭の心を更に熱くしていた。

 

いや、巴だけじゃない。

 

モカ、ひまり、つぐみ、四人の演奏が蘭のギターと歌声に熱を与え全員が1つの演奏を作り上げていた。

 

友希那達とはまたちがうバンド。

 

友希那達の演奏は静かに響き、しかし確かに情熱はあって聞くものを自然と魅了し、惹き付けて止まない青い炎だとするなら、蘭たちは自分達の全てをぶつけて力付くでもすべての視線を釘付けにするとでも言わんがばかりの赤い炎だった。

 

そして、彼女達の持っている…かつて自分が失ったものを見つけた。

 

『歌を…音楽を楽しむ心…か。』

 

技術や実力だけで言えば確実に友希那達が上だろう。

 

しかし、彼女達には楽しむという心があこ以外には余り見られなかった。

 

あこのオーディションの時のバンドの奇跡を起こした時は少なくとも他の三人も楽しむ心は生まれていたようだが、今のafter glow程ではない。

 

『そっか…そうだよな。』

 

慧は微笑みながら少し下へ俯く。

 

『やっぱり…キツいな…』

 

蘭達が歌い続ける中、泣けない彼は心の中で哭いていた。

 

 

 

 




てことで、15話でした。

中々話進んでないんだよな…てかつぐみが空気になりがち…

こんな不定期更新ですが、これからも見ていただければ幸いです!

では!次回お会いしましょう!!


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16話 小さな魔王の姉

どうも、清夜です。

Roseliaのファンミーティング行きたかった!!

まじ辛い…

なにやらネットの話題を見ていたらゆりかさんがでていた模様…

未だに遠藤さんじゃないリサに慣れない自分です…

さて、今回までafterglowメインですね。

では!

16話 小さな魔王の姉

どうぞ!!


「…よし、じゃあ5分休憩ね。」

 

アスノヨゾラ哨戒班の後3曲通しで演奏して小休憩を取る5人。

 

そして巴が慧の下へやってくる。

 

「どうでした?先輩。」

 

『すごかったです。圧倒されました。あそこまで熱い演奏をするんですね。』

 

「おどろいた~?蘭は~こう見えて心の中は激アツなんだよ~」

 

「こう見えてって何?モカ。」

 

巴との会話に割って入ってきたモカに蘭は不満そうにする。

 

「だって~蘭って普段口数が少なくて~無愛想だからそんな風には見えないっていうのが周りの感想だよ~」

 

「…ふん」

 

蘭は不機嫌そうにそっぽを向く。

 

『まぁ、確かにそんなイメージですよね。実際僕もそう思ってましたし。』

 

「慧先輩まで…」

 

『まぁ、僕はそれほど長い付き合いではないですから。』

 

「…つまりそれって第1印象は無口で無愛想ってことでしょ。」

 

『…まぁ…その…うん。』

 

フォローしたつもりが墓穴を掘った慧だった。

 

「別に気にしてないし。別に…」

 

明らかに蘭が落ち込んでいた。

 

「ま…まぁまぁ、気にするなよ蘭。これで慧先輩の蘭へのイメージは変わるんだしさ!」

 

巴が元気付けるように言うも、蘭は変わらず不機嫌だった。

 

『…余計なことを言いました…』

 

「先輩は気にしないで良いですよ、モカがいつものノリで蘭を弄ったのに巻き込まれただけですし。」

 

「そ、そうです!先輩は気にする必要ありません!」

 

「わたしのせいなの~?」

 

話を聞いていたひまりがフォローしつぐみがそれに同意、モカは不満そうにしていた。

 

『プッ…』

 

「「「「「え?」」」」」

 

『クスクス…ごめんなさい…プッ…』

 

慧はクスクスと笑いながら謝る。

 

そんな慧に五人は驚いたように目を丸くする。

 

「だ、大丈夫ですか?先輩。」

 

巴がまだ少し驚いていながらも慧に聞く。

 

『うん、ごめんなさい。なんかこんな雰囲気久し振りなものだから。』

 

彼女達からしたらいつものノリと雰囲気なのだろう。

 

それはかつて慧にもあったはずの日常と友好関係で、今の慧には無いものだった。

 

今の紗夜は慧を支えると共に、どこか壊れ物を扱うような遠慮と距離を感じる。

 

日菜に至ってはかつての関係性を変えて自分を縛ろうとする。

 

千秋は元々他人のため慧の方が距離を取ってしまう。

 

そんな慧にはafterglowの幼なじみ同士の関係性は懐かしくも、もう届かない夢をみているような感覚だった。

 

『…そっか…これが君たちの居場所なんだね…』

 

そう言って慧は立ち上がった。

 

「先輩?」

 

呟きと立ち上がった慧を不思議に思った蘭は声をかける。

 

『ありがとう、君たちの演奏はとても良かった。』

 

慧は微笑む。

 

『やっとわかった。だから十分だ。』

 

「先輩?」

 

巴は訳がわからず戸惑う。

 

他の四人もそうだった。

 

「失礼します。」

 

ドアをノックし、入ってくる人がいた。

 

『…紗夜。』

 

「迎えに来ましたよ、慧。」

 

『ありがとう。』

 

「!紗夜さん!」

 

巴が驚いたように声を上げた。

 

「?私たちどこかでお会いしましたか?」

 

「あ、いえ、私が一方的に知っているだけです。」

 

「そうですか。」

 

紗夜は特に気にした様子もなく返し、慧の前まで歩み寄る。

 

「帰りますよ。」

 

『うん。じゃあ皆、今日は演奏を聞かせてくれてありがとう。』

 

慧がお礼を言い、紗夜も一礼をし出ていこうとする。

 

「あ!あの!!紗夜さん!」

 

巴は思わず紗夜を呼び止めていた。

 

「まだなにか?」

 

「その、今日宇田川あこって子が来ませんでしたか?」

 

「!…ええ、来ましたが。」

 

「その…あこはバンドに入れてもらえたんですか?」

 

「…その前に貴方は宇田川さんとはどういうかんけいなのですか?」

 

紗夜は眉を寄せて巴を見る。

 

「ああ、すいません、私は宇田川 巴。宇田川 あこの姉です。」

 

「っ!!そう、貴方が…」

 

紗夜は驚き、どこか納得したように呟く。

 

「安心してください。彼女は正式に私たちのバンドの一員となりました。」

 

「そうですか!良かった。これからもあこを宜しくお願いします。」

 

「…それは彼女次第です。わたし達には目標があります。もしその目標に届かないと判断した場合は辞めてもらいます。」

 

紗夜は冷たく巴に言った。

 

それにいち早く反応したのはひまりと蘭だった。

 

「なっ!そんな言い方無いんじゃないんですか!」

 

「目標の為なら仲間でも見捨てるの!?」

 

そんな二人に紗夜は目を鋭くして彼女達を見る。

 

「私達は遊びで音楽をやっている訳じゃないの。それに納得出来ないなら私たちのバンドに居る必要はない。」

 

「だから…!!」

 

「やめろ!蘭。」

 

紗夜の言葉に更に文句を言おうとした蘭を巴が止める。

 

「巴?」

 

「なんで止めるの巴!」

 

蘭は戸惑いひまりは止める理由がわからず巴に苛立ちをぶつける。

 

「これはあこが決めたことだ。あこは知っていて紗夜さん達のバンドに入った。なら私たちが口を挟むことじゃない。」

 

巴が有無を言わせない様に二人へ言った。

 

「…すいません、紗夜さん。」

 

「…いえ、わたしも少し言いすぎました。ですがさっき言ったことは撤回しません。私達は音楽の祭典…future world Fesへと出場し頂点を取ります。その為に私と湊さんはバンドを作りました。」

 

そう言いながら紗夜は巴を見る。

 

「そして宇田川さんは私たちとそのフェスを目指すメンバーとなりました。彼女の演奏はきっと私たちのバンドで必要な筈です。」

 

「…そうですか。紗夜さんにそう言って貰えるならきっと大丈夫ですね。」

 

巴が嬉しそうに笑った。

 

「…それでは、私達は失礼します。」

 

そう言って紗夜と慧は出ていった。

 

 

 

 




てことで!16話でした。

次はRoselia回です!

まだ全員揃ってませんが…

ご感想、ご意見、ご指摘あれば是非お聞かせ下さい!!

では次回にお会いしましょう!!


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17話 小さな燻りと大きな悪意


どうも、清夜です。

今回はなんとか早めに投稿できた!

なんとか頑張って投稿できるようにします。

では!17話 小さな燻りと大きな悪意

どうぞ!


『そっか、あの二人は姉妹だったんだ…』

 

「私も驚きました。宇田川さんが自分は世界で二番目に上手いドラマーだと言っていました。つまり一番は巴さんだということなのでしょう。」

 

紗夜はそう言いながら顔を曇らせていた。

 

「(巴さんはあこちゃんをとても大切にしているようだった。そしてきっとあこちゃんも巴さんのことを慕っているのだろう。紗夜にしては複雑な所だな。もっとも…俺が心配する資格なんて無いんだけどな…)」

 

慧は何も言えずに紗夜の隣を歩いていた。

 

「あっ!紗夜!慧!遅いよ。も~」

 

手を引かれてスタジオであるCircleから出ると前からリサの声が聞こえた。

 

「すいません、慧と一緒にいた方達と少し話しこんでしまいました。」

 

『すいません、勝手に動いたばかりに。』

 

「別に構わないわ。言うほど待っていないもの。それじゃあ行きましょう。」

 

友希那が先を促した。

 

『?紗夜、これから帰るんだよな?』

 

「ええ、そうですよ?。」

 

『待っててくれたのか?』

 

「え?そんなに驚くこと?」

 

リサが不思議そうに聞いてくる。

 

「そうですよ!慧先輩も一緒に帰りましょうよ!!!」

 

「今更女子だけで肩身狭いとか言わないよね~」

 

あこは元気に誘ってくれ、リサはからかいながら暗に逃がさないと言っていた。

 

そのからかいに悪意を感じるのは慧のだけでは無いはずだ。

 

『…俺なにかリサにしたか?』

 

「別に~なにもしてないよ~」

 

慧が聞いてもリサが答える様子がなかった。

 

「リサ姉、慧先輩がいなくなって少し寂しそうでしたし。」

 

「な!あこ!別にそんなんじゃないってば!私はただ久々のベースだったから不安だっただけで…」

 

リサが顔を真っ赤にしながら否定するも説得力が無かった。

 

あこは無邪気で、リサがムキになる理由がわからなかった。

 

唯一の救いは顔が赤くなっていることが慧にはわからないことだろう。

 

もっとも…

 

「リサ?顔が赤くなってるわよ。気分が優れないなら…」

 

「もう!友希那~!!」

 

そういうこと(・・・・・・)に疎い人がもう一人居るわけで、台無しになるのは目に見えているのだった。

 

友希那はリサが怒っている理由がわからず、首をかしげていた。

 

「今井さん…」

 

しかし紗夜だけは気づいていた。

 

「(まだ漠然としたもののようだけど…時間の問題かしら。)」

 

紗夜は途中で考えるのをやめた。

 

「(私に口を出す資格なんてないわ。慧を恐れてしまった私には…)」

 

紗夜は顔を歪め涙を流さぬよう堪えていた。

 

『紗夜?』

 

気づけば紗夜は無意識に慧の握った手に力を込めていた。

 

「あ!ごめんなさい!痛かったですよね。」

 

紗夜は手を話しそうな勢いで力を緩めた。

 

「…っ!慧?」

 

しかし慧が逆にぎゅっと握っていた。

 

『…紗夜は…どうしておれから距離を取るの?』

 

「!!…それは…」

 

『紗夜は俺が…いや、なんでもない。』

 

慧は言葉を続けるのを止め、首を横に振った。

 

慧も握っていた手の力を弱めて何時ものように手を引かれる様になった。

 

「(…きっと慧は気づいてしまった…私が慧を恐れていることを…それだけはばれてはいけなかったのに!!)」

 

紗夜は唇を噛む。

 

「(ちがう!強くなるの。そう決めたはず。今はまだ向き合えなくても。頂点に立てたら…私だけの()を、自信手にいれれば…だから…)」

 

「慧…待っててください。」

 

『…?紗夜?』

 

「必ず貴方に向き合います。…今はまだ支えるだけで無理かもしれません。だけど…必ず!」

 

紗夜は繋いでいる手を握り締める。

 

「…無理しないで。紗夜が出来ないっていうなら無理して一緒にいなくても…」

 

「そんなこと言わないでください!前にも言いましたが私は自分の意思で貴方の側にいるんです…向き合えない私が側にいるのは迷惑ですか…?」

 

紗夜の切実な声に慧は驚いていた。

 

『紗夜、僕は人殺しだ。そしてあいつを殺したことになんの罪悪感も覚えていないし、死んで当然だとすら思っている。今の俺は自分の中でそれなりの理由さえあれば殺すことを何も思わない。』

 

紗夜が慧を恐れる理由の一端を紗夜に告げる。

 

「…ええ、そうですね。でも、私はそれでも貴方を受け入れたい。」

 

「?紗夜、慧、どうしたの?置いていくわよ。」

 

「あっ…」

 

『すいません、湊さん。少し話し込んでしまいました。紗夜、行こう。』

 

「ええ…」

 

紗夜は慧に促されいつの間にか落ちていた歩くペースを上げ友希那達に追い付く。

 

そして五人が帰路で分かれ道に差し掛かった。

 

「それじゃあ!リサ姉!友希那さん!紗夜さん!慧先輩!さようなら!!」

 

「じゃあね!あこ!気をつけて帰りなよ!!」

 

「ええ、また。」

 

「宇田川さん!走ったら危ないわ!」

 

『またね。これからも練習頑張って。』

 

元気なあこと別れ、友希那達とも別れる。

 

「それじゃあ、紗夜、慧、また明日。」

 

「じゃあね!紗夜!これからメンバーとして宜しく!慧は明日のお昼にまたね!」

 

そう言って二人と別れる。

 

そして紗夜と二人きりで帰路につく。

 

「…」

 

『…』

 

二人は会話がなかった。

 

そして慧の家の前についた。

 

慧がドアの前まで来て。

 

「それでは。また明日、私が迎にきます。」

 

『…うん、ありがとう。』

 

少し気まずい雰囲気で二人は別れた。

 

そして慧が家に入ろうとしたとき、

 

「久し振りね~、慧君?」

 

家に入ろうとする体が止まった。

 

慧の心が急速に凍てついていく。

 

『長門…美希…』

 

「あら?覚えててくれたの?嬉しいわ~」

 

顔は知らない。

 

目が見えなくなる前に会ったことはないから。

 

けれどその声は忘れない。

 

『勿論覚えているさ…俺が今世界一殺したいやつだからな…』

 

振り返った慧の唇は醜く歪んでいた。

 

 

 

 

 





てことで17話でした。

オリキャラが出てきましたね~

長門美希、前回にも話だけ出てきましたね。

これからどう転ぶのか…そのまま読んでくれると嬉しいです。

なんか紗夜がめっちゃヒロインしてる気がする…

ご感想、意見、指摘があれば感想欄にお願いします!!

では!次にお会いしましょう!!


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18話 憎しみの邂逅


どうも!清夜です。

1ヶ月も投稿が空いてしまった…すいませんでした!!

京都の調理人には辛い季節の秋なんです!!(言い訳)

紅葉が終わるまではペース落ちると思われます…

それでも続けていくので見捨てないで下さい!!

では!!18話 憎しみの邂逅

どうぞ!!


「随分と楽しい学校生活を送っているみたいね?水瀬慧君?」

 

『そういうあんたは随分と惨めな生活を送ってるみたいだな。俺の通っている学校を見つめている所を目撃されて警察に追われているみたいじゃないか。』

 

お互いが顔に歪んだ笑みを浮かべながら皮肉を言い合う。

 

「本当よ、まったく。私はなにも悪いことしてないし、むしろ被害者なのに接触禁止令が出されるなんて…おかしいと思わない?」

 

『お前が脅迫さえしなければまだこうならなかったかもな。』

 

長門美希は不満そうに言うも慧は当然だと言わんばかりに返した。

 

「それは脅迫したくもなるわよ。だって父親が殺されたんだもの。その人殺しが未だに法で守られてのうのうと生きてるのよ?なら私の手で殺してやるって思わない?」

 

『同感だな、俺もそう思ってあの時に生きたいと願ったんだからな。』

 

「あら?そうなの。なら生きていて良かったわね!それでどう?家族が死んで自分だけ生き残った感想は?」

 

『…マジで最悪な気分さ。殺したいと願った二人の男は既に死刑で死んでいて、家族を失い、光も失い…復讐相手すらうしなった。あの日から生きる意味を無くした。けどな…お前が居る…』

 

歪んでいた慧の笑みは更に歪む。

 

「今の貴方に何ができるの?」

 

『なにができるんだろうな。試してみるか?』

 

「…やめておくわ。まだその時じゃないし。」

 

慧が感じていた威圧感は跡形もなく消える。

 

『怖じ気づいたのか?』

 

「そんなんじゃないわ。言ったでしょ?その時じゃないって。」

 

『…何を企んでいる?』

 

「さぁね~」

 

そう言って長門の気配が遠くなるのを感じた。

 

『…』

 

慧は長門の声が最後に聞こえた場所へずっと睨むように顔を向けていた。

 

『今はその時じゃないか、何を考えている?』

 

慧はその言葉を残して家へと入っていった。

 

 

 

慧は靴を脱ぎ、リビングへ向かった。

 

そしてそのままの服装でソファーに寝そべる。

 

『くそっ、体がだるい。今日は厄日だな。』

 

慧は精神的に消耗していた。

 

『これじゃ、寝起きは最悪かもな。』

 

そう思いながらも慧は睡魔に抗うことは出来なかった。

 

そのまま闇へ引きずられるように眠りに落ちていった。

 

「ただいま~」

 

慧が眠りに落ちて一時間ほどして千秋が帰ってきた。

 

「?電気がついてない。」

 

玄関の電気をつける。

 

玄関には慧の靴があった。

 

「リビングで寝てるのか。」

 

千秋は納得してリビングへ向かう。

 

リビングの電気をつけてソファーを見る。

 

案の定慧が眠っているのを確認して微笑む。

 

「私は慧の検定があるなら何級だろうと満点をとって見せよう!」

 

慧のこととなると暴走しがちな千秋だった。

 

そして寝ている慧の隣に座る。

 

慧がソファーで寝ているときは隣に座って慧の頭を撫でながら髪をすいたりするのが習慣になりつつあった。

 

「もし私が親だったら親バカになってるだろうな。別に慧を息子として見ている訳ではないが…どっちかというと弟?」

 

千秋はどうでも良いことを考え始める。

 

しかしこんなどうでも良いことを考える時間が千秋は好きだった。

 

「このまま慧と暮らして行けるなら私はずっと独身で良いな。」

 

千秋は慧と暮らすようになって誰か男性と付き合うなんて考えることが無かった。

 

そもそも千秋はそういう恋愛事が疎く、経験もなかった。

 

それは恐らく慧がいることで独り暮らしのときの孤独感も感じなくなったし、慧の為に来てくれる紗夜や日菜もいる。

 

「慧はいづれどっちかと結婚するのかな…?」

 

千秋は呟いてふとチクリと刺す胸の痛みに気づいた。

 

「…これが子を送り出す親の気持ちなのかな~」

 

はじめての感覚に千秋はそう結論付ける。

 

「?…慧?」

 

千秋は撫でていた手を止め、慧の顔を覗きこんだ。

 

慧は苦しそうな顔をして微かに唸っていた。

 

「慧…大丈夫、大丈夫だから。私がいるから…支えてくれる皆がいるから…」

 

千秋は慧の右手を握って声をかけた。

 

『だからもう過去に囚われないで、自分を責めないで。』

 

さっきまで苦しそうにしていた慧が穏やかな寝息をたて始めた。

 

その様子を見た千秋は微笑んで立ち上がり、お風呂の準備をして浴室へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください、慧。」

 

『紗..夜...』

 

優しく揺すられて慧は眠りから覚める。

 

『(…珍しくなんの夢も見なかったな…昨日長門に会ったからまたあの夢でも見るかと思ったんだが…)』

 

「こんなところで寝むらないで下さい。風邪ひきますよ?」

 

『?…ああ、そっか、ソファーで寝てたんだね、ごめん。』

 

「体調に異常が無いなら構いませんが…」

 

紗夜の手を取り起き上がる。

 

『ありがとう紗夜。少しシャワーを浴びてくるよ。』

 

「はい、では朝御飯の支度をしておきます。」

 

慧はもう一度ありがとうと言ってリビングを出ていった。

 

「…昨日のこともありますし、少し気まずくなるかとおもったのですが…いえ、切り替えましょう。向き合うと決めたのですから。」

 

紗夜はそう言って朝食の支度を始めた。

 

紗夜が朝食の支度を終えると、千秋の部屋へ向かう。

 

「千秋さん!朝ですよ。」

 

ノックしながら千秋を呼ぶも反応がなかった。

 

「千秋さん!入りますよ!」

 

紗夜は一言かけてドアを開ける。

 

「千秋さん、起きてください。」

 

千秋を優しく揺り起こす。

 

「う~ん…紗夜~…?紗夜ちゃ~ん!!」

 

「きゃっ!」

 

寝ぼけた千秋は紗夜に抱きついた。

 

「ちょ!千秋さん!!寝ぼけてないで起きてください!!」

 

紗夜が悲鳴混じりに声を上げる。

 

千秋の格好は下着姿で、スタイルも良いので同性の紗夜でさえ顔を赤くしてしまうほどだった。

 

「う~ん…まだ眠いよ~」

 

「子供ですか!!」

 

そんな子供と母親みたいな会話をしていると、

 

ピリリッピリリッ

 

「っ!はい、葛城です。」

 

千秋のケータイが鳴り、さっきまでの寝ぼけ様が嘘のようだった。

 

「はい、はい、わかりました。直ぐに向かいます。ごめん、紗夜直ぐに仕事へ向かうことになったから朝御飯食べれない。」

 

「わかりました、仕方ありませんね。ラップして冷蔵庫に入れておきますし、お昼に帰ってこれるなら食べておいて下さい。」

 

「ありがとう!それじゃ行ってくる!」

 

話している間に素早く着替えを終え、千秋は出ていく。

 

「…気をつけて下さい。千秋さん。」

 

あわただしく出ていく千秋を紗夜は少し心配そうに見送った。

 

 





てことで18話でした!

お待たせしていて本当に申し訳ないです!

長い目で見てもらえたら嬉しいです。

では!次にお会いしましょう。


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19話 戻る場所

どうも!清夜です。

前回の投稿から1ヶ月以上空いてしまいましたね、お待たせしてすいません!!

取り敢えず忙しい時期を乗り越えたので少しの間はこっちに時間を割けると思います。

まぁ、年末年始はまた地獄なのですが…

では!!19話 戻る場所

どうぞ!!




『あれ?千秋さんは?』

 

慧がお風呂を上がって朝食の席に着くと二人で朝食を取ることになったのだが、今日は夜まで半休の千秋が共にいないことに慧は気付く。

 

千秋はいつも夜まで半休の場合、いつも朝食を慧達と取るようにしていた。

 

「どうやら急な仕事が入ったようです。さっき電話がかかってきてそのまま出ていきましたので。」

 

紗夜から話を聞いた慧は一瞬昨日の出来事が頭をよぎった。

 

『(まさか…あいつと会っているのを見られたか?もしそうだとしたら少し厄介だな。)』

 

「…大丈夫ですよ、千秋さんなら。」

 

慧が1人考えこんでしまったのを紗夜は勘違いしたようで、慧を安心させようと声をかける。

 

『…そうだね。千秋さん、仕事ではきっちりしてるし。』

 

「私たちの前でもそうしていてくれると嬉しいのですが…」

 

不満そうに言う紗夜に慧は苦笑を返す。

 

『きっと千秋さんにとって気が抜けるのはここしか無いんだよ。』

 

「それは…そうですが…」

 

別に紗夜も本気で怒ってるわけではないのは分かっているのだが、千秋さんの苦労を全てではなくても知っている故に千秋さんを自然とフォローしてしまう。

 

『さぁ、せっかく紗夜が作ってくれた朝食だし食べちゃおう。』

 

慧が促して二人は止まっていた箸を進めるのだった。

 

朝食を食べ終わり、慧と紗夜は家を出る。

 

「慧、今日の下校は…」

 

『ああ、それなんだけど。』

 

紗夜の言葉を途中で慧が遮る。

 

『今日は僕一人で帰るよ。』

 

「…えっ?何故ですか?」

 

『紗夜も日菜も最近忙しいみたいだしさ。邪魔できないでしよ?』

 

驚く紗夜に慧はそう返す。

 

「っ!だから邪魔とかそんな…」

 

『それに!…少しよりたい場所があるんだ。』

 

その一言に紗夜は言葉を止める。

 

慧は時々こうして一人で帰りたいと言う時があった。

 

最初の頃は一人に出来ないため、一人で帰すことは無かったが、最近は安定してきているため、一人で帰すこともあった。

 

決まってその時は寄るところがあると言うのだが、どこいっているのかは教えてはくれなかった。

 

慧が何処に行っているかは千秋さんがいつでも分かるようにケータイのGPS機能がついている。電源オフでもわかるものだった。

 

それによって千秋さんは慧が何処に行っているか知っているようなのだが、千秋さんも教えてはくれなかった。

 

「…わかりました。ですがせめて何処に行っているか教えてはくれませんか?」

 

『…ごめん。でもちゃんと帰ってくるから。』

 

食い下がってもやはり教えてはくれなかった。

 

「…わかりました。」

 

紗夜はそう返していつの間にか止まっていた歩みを進めた。

 

その歩みは重く、いつもの心地良い沈黙は逆に重苦しい沈黙だった。

 

学校の校門が見えてくると校門の前に立つ人影が見えた。

 

「やぁ、おはよう。儚き歌鳥と水色の子猫ちゃん。」

 

「なんで貴方が…」

 

そこにいたのは薫だった。

 

『おはよう薫。どうしたの?』

 

「いやなに、ここで待っていれば君たちに会えるだろうとおもってね。」

 

「待ち伏せですか。」

 

「君は二人の時間を邪魔されるのがイヤだったみたいだしね。」

 

薫は苦笑いしながら紗夜へ宥める様に言う。

 

「…そうですか。では慧を宜しくお願いします。」

 

紗夜はそう言って慧に手を離しますよと優しく呟いて手を離す。

 

慧が礼を言うと同時に薫が慧の手を取った。

 

「それじゃあ行こうか、慧。」

 

そうして慧は薫に手を引かれて学校へと向かい始める。

 

紗夜はそんな慧を見て唇を噛む。

 

「…彼を支えてくれる人は多い方がいい…けど私が一番じゃないと嫌だと思うのはワガママなのでしょうか…」

 

紗夜は慧の背中を見送って誰にも聞かれることのない呟きだけ残して学校へ向かうのだった。

 

 

『まさか待っているとは思わなかったよ。薫』

 

「なに、今日もたまたま早く目が覚めてね。」

 

『たまたまね…』

 

すこし呆れ気味に慧は返した。

 

「別に下心なんてないさ。ただタイミングが良ければまた歌を聴く事が出来るかもしれないと思っただけでね。」

 

『それを下心と言わずして何て言うのだろうね?』

 

「それに、かのシェイクスピアもこう言った。一分遅刻するより三時間早い方がいいと…つまりそういうことさ。」

 

『はいはい。』

 

薫の言葉を適当に流して歩いていると教室へとたどり着く。

 

『言っておくけど前回はただの気まぐれだからね。』

 

「わかっているさ、そう何度も聴けるとは思っていないよ。その分、次聴ける楽しみも増えるというものさ。」

 

『次聴くのは確定事項なんだね…』

 

慧は諦めた様にため息を吐く。

 

薫はクスクスと笑いながら教室のドアを開け、慧をいつも座る席へ導き座らせる。

 

そして自分の椅子を持ってきて慧の向かい側へ座る。

 

『?薫は教室へ行かないの?』

 

「早く学校についてしまって刹那の儚い時間にも余裕が生まれたんだ、それならキミと有意義な時間をと思ったんだけど…駄目だったかな?」

 

『全然、寧ろ話相手がいてありがたいけど…俺と居ても別に楽しくないよ?』

 

慧は苦笑いしながら薫に言うも、薫は気にしないさと言いながら話を続ける。

 

「考えてみればキミについて何も知らないことばかりだったしね。ちょっとでも知れたらと思ったんだよ。」

 

『…まぁ、色々と触れないで欲しいこともあるからそれ以外で頼むよ。』

 

そう言いながら慧は目に巻かれている包帯に触れる。

 

「そうか、わかった。」

 

そして薫と他愛の無い話をする。

 

慧から薫に質問したりしてお互いのことを話し合っていた。

 

それは意外に話が弾んでいたことに気付いて慧はこれも薫の魅力だからこそ皆から好かれるのだろうなと思った。

 

「確かにファンも出来るな…」

 

「ん?なにか言ったかい?」

 

『ううん。何でもない。』

 

慧は笑って応えて雑談に戻った。

 

 

 

 




てことで!19話でした。

まぁ、タイトルの意味は次回でわかるかな。

なんか薫を書いていると慧がヒロインになっている気が…

次の投稿もなるべく早く出来るよう頑張ります!!

では、次回でお会いしましょう!


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20話 彼岸の咲く場所


どうも皆さん、お久し振りです。
投稿まで4ヶ月以上かかってしまいました。
この作品を覚えてくれている人はいるのだろうか?

決してこの作品を書くのを止めたわけではないことを宣言しておきます!!

では、20話 彼岸の咲く場所

どうぞ!



「それじゃ、これで授業を終わる。」

 

琴音先生の授業を終え、昼休みとなる。

 

『ありがとうございました。』

 

「あいよ。午後からの授業は佐藤先生が担当だ。」

 

『わかりました。』

 

「慧~!!」

 

琴音先生と話をしているといつも通りに日菜が慧を呼びながら入ってくる。

 

「まったく、相変わらず氷川は落ち着きが無いな。」

 

相変わらずの日菜に文句を言う気も失せたのか琴音先生は呆れた様に言葉を溢し、廊下に出る。

 

「あはは…おつかれさまです。柊先生」

 

「ん?今井に湊じゃないか。どうしたんだ?」

 

労いの言葉をかけるリサにその後ろに控えている友希那を見て琴音は首を傾げる。

 

「いや~最近慧と一緒にご飯を食べるようになって。」

 

「ほう、湊もか。」

 

「私はずっとリサと食べていたので。」

 

「なるほどな。」

 

琴音は理解したように頷く。

 

「気づけば水瀬のやつも色んな関わりを持ってるな。一応此処は女子高だし、周りの関わりを持たないことを条件としていたはずなんだがな。」

 

琴音はいつもの様に日菜とじゃれている慧を見ながら呟く。

 

「っ...慧は悪くありません。私たちが自分で関わりを持っているんです。」

 

リサは少し食いぎみで琴音に言う。

 

「それで納得しない人もいるということよ。リサ。」

 

「友希那?」

 

「へぇ、湊はわかってるみたいだな。」

 

そのリサの言葉を返したのは意外にも友希那だった。

 

「…友希那は反対なの?」

 

「別に反対するわけではないわ。リサの言った通り彼と関わる人間は自分から関わりにいっている。それで彼を責めるのは筋違いだし、私も責める気はないわ。けれど…ここはあくまで女子高。男子生徒がいるのは異例であり、生徒の親からしたら不安もあるのは仕方ないことなのよ。」

 

「けど!」

 

友希那の言葉を聞いても納得できなかったのか、リサが声を上げる。

 

中に居る二人には聞こえないよう声は抑えていたが…

 

「…なんで皆は…受け入れてくれないのかな…」

 

ニコニコといつもの様に笑いながら話していた日菜が急に暗い顔して呟く。

 

慧も廊下での会話が聞こえていた。

 

『仕方ないさ。湊さんも言っているけどここは女子高なんだよ、本来僕が…』

 

「ここだけの話じゃないよ。」

 

慧の言葉を遮って日菜は言う。

 

「あの日以来から…っ!!」

 

日菜は顔を歪め目は潤んでいた。

 

そんな日菜に慧は見えないはずの頭を自然に撫でなから言う。

 

『大丈夫だよ、今は受け入れてくれる人達がいる。日菜や紗夜、千秋さんもずっと支え続けてくれている。だから大丈夫。だから笑っていてよ。その方が日菜は可愛いはずだよ?』

 

慧は日菜の涙を拭えないことに少し苛立ちを覚えながらも微笑む。

 

日菜は「うん」と返事をし、またいつもの笑顔に戻って弁当を広げる。

 

「ごめ~んおまたせ。少し先生とテストのことで話し込んじゃってさぁ~」

 

『気にしないで、そんなに待ってないし。』

 

慧は微笑みながらリサと友希那を迎える。

 

「それじゃあ、食べよ!」

 

日菜のその一声でいただきますの声を揃えて昼食を始めた。

 

『そういえばバンドの調子はどうですか?湊さん。』

 

「そうね、そういえば貴方にお礼を言うのを忘れていたわ。」

 

『お礼?』

 

「ええ、あのとき貴方がすすめてくれたおかげであことリサがメンバーになったようなものだから。」

 

友希那の言葉を聞いて慧は頬をかきながら微笑む。

 

『気にしないでくださいよ。あれは僕が単純に湊さんのバンドを知りたかったからですし。』

 

 

「それでも結果は変わらないわ。」

 

『...』

 

友希那の真っ直ぐな言葉を聞いて慧は内心苦笑いする。

 

『(湊さんはあまりにも真っ直ぐすぎる。僕にはやっぱり眩しいや。)』

 

『そうですか。なら意地を張らないで素直に受け取っておきましょう。』

 

「?…何に意地を張るの?」

 

『いえ…それよりどうですか、練習の方は?』

 

慧は話題を変えた。

 

「そうね。かなり良くなってるわ。まぁ、リサはブランクもあるしまだまだ練習不足だけれども。」

 

「うっ…ガンバリマス…」

 

「あははっ!リサチー面白い!!」

 

リサは日菜に笑われていじけ、それをみて更に日菜が笑うという流れになり、慧もだんだんこの賑やかな時間も悪くないなと思い始めていた。

 

その賑やかな時間も終わり、午後の授業を終えて放課後となる。

 

「これでとりあえず連絡事項は全てだ。」

 

『わかりました。今日も1日ありがとうございました。』

 

先生の授業を終え、帰りの支度を整えて鞄から伸縮性の白杖を

取り出す。

 

「ん?今日はお迎えはないのか?」

 

『ええ、今日は一人で帰ります。』

 

「そうか、なら校門まで私がエスコートしようじゃないか。」

 

琴音先生の提案に慧は驚いたものの、断る理由も無いので言葉に甘えることにした。

 

琴音先生に校門まで送ってもらい、白杖を使いながら道を進んでいく。

 

いつもとは違う道を歩く。

 

しかしその道は歩き慣れた道で、今はほとんど通る事の無くなった道。

 

そしてある一軒の家へとたどり着く。

 

玄関の両脇には花が咲くには少し早い彼岸花が咲いていた。

 

慧は鞄から鍵を取り出し玄関を開けた。

 

扉を開くと家の中の懐かしい匂いが慧を包む。

 

『…ただいま。』

 

慧はそう呟くと家に入っていった。

 

 

 



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21話 過去という名の檻

なんとか今日中にもう一回更新できた。

今回は結構慧一人の話が半分くらい占めます。

では!21話 過去という名の檻

どうぞ!!


『やっぱり落ち着くな。』

 

慧はソファーに座ってぼんやりしていた。

 

頭の中に蘇るのは過去の記憶。

 

(おにぃーちゃん!結希と遊んでよ!!)

 

(結希、あまりお兄ちゃんを困らせないの。)

 

(まぁ母さん、良いじゃないか。仲が良いことは喜ぶべきことだ。なぁ?結希。)

 

(うん!だって結希はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもん!!これくらい当たり前だよ!!)

 

この家で過ごした記憶がまるで昨日のことかの様に黄泉還る(よみがえ)

 

見えないはずの目は過去の景色を映し出していて、ソファーに座っている慧の膝に掴まりながら見上げて笑顔を浮かべている結希の顔。

 

そんな姿を隣で優しい顔で見守ってくれるお父さん。

 

そして困り顔を浮かべながらも口元が緩んでいるお母さん。

 

 

幸せだったあの日が今ここにある。

 

会いたいと焦がれた両親がいて、離したくないと願った妹とその温もりすら感じることができる。

 

(ねぇ!おにぃーちゃん!また歌を歌ってよ!!)

 

いつも結希には歌をせがまれていた。

 

自分の歌の何が良いのかわからなかったが、結希が望むのだったら断る理由もなくて、お父さんやお母さんに誉められるのが嬉しくて。

 

『ああ、歌おう。結希が望むなら…』

 

慧は歌い始める。

 

ただ歌い続ける。

 

望まれたから。

 

誉めてくれるから。

 

もっと歌ってとせがまれるから。

 

ここは檻。

 

慧専用の檻。

 

彼岸に囲まれた檻。

 

偽りの幸せが満ちる檻。

 

そして慧にとってはこの世とあの世の境界。

 

ここに来れば今は亡き家族に会える場所。

 

例えそれが偽りだとしても。

 

その幸せが空虚でも。

 

慧は歌う、その幸せに求められるまま。

 

時を忘れて何分でも、何時間でも。

 

そしていつか歌い疲れて睡魔に身を委ねる。

 

(おにーちゃん?疲れちゃったの?)

 

『ああ、疲れたよ。』

 

(そうか、ならゆっくりと休むと良い。)

 

『父さん…俺を置いて何処にも行かない?』

 

(行くわけないでしょ。ここは私たちの家なんだから。私たちはずっとここに居るわ(・・・・・・・・・)。)

 

お母さんの言葉に安心して慧は微睡みに沈む。

 

幸せに包まれて。

 

そしてその幸せは毒でもある。

 

彼岸花に毒が有るようにその捕らえようとする過去はこの場所に縛り付けようとする。

 

そしてそれを受け入れる慧はここから出ようとしないだろう。

 

次に目を覚ませばまた歌い、疲れはてて眠り、また目を覚ませば歌い続ける。

 

空腹すら忘れて永遠に過去に囚われる。

 

その先に待つのは…

 

今の彼には過去の幸せは毒でしかない。

 

毒が薬になることもある。

 

それは彼の精神の薬にもなるだろう。

 

しかしまた、多すぎる薬はやはり毒になるのだ。

 

だから誰かが止めなければならない。

 

誰かが扉を開いて入ってくる。

 

「慧…帰ろう。私たちの家に。」

 

それはもともと慧がここに来ることを知っていた千秋だった。

 

 

 

 

時間は夜の8時前。

 

Roseliaの練習を終え帰宅途中のリサと友希那だった。

 

「すっかり遅くなっちゃったね~」

 

「そうね、でも良い練習が出来たわ。」

 

二人は帰り道を歩きながら喋っていた。

 

「いや~、やっぱりこんなに暗いと怖いな~」

 

「昔から暗いところは駄目だったものね。」

 

「アハハ…もう高校生なのに恥ずかしい限り…」

 

苦笑いしていたリサがピタリと止まる。

 

「どうしたのリサ?」

 

そんなリサを不思議に思い、リサが凝視している場所を見る。

 

そこには薄暗い中、ある家を玄関の前から見つめる髪の長い女性がいた。

 

その女性の横顔は笑みを浮かべているのだが、物凄く不気味だった。

 

「ゆ、ゆきぃなぁ~」

 

少し涙目になりながら震えるリサが弱々しく友希那を呼ぶ。

 

「ハァ、なに怖がっているのよ。ただの女性の人じゃない。」

 

「だってぇ~」

 

それでもリサの震えは止まらないようだ。

 

その女性がゆっくりとリサ達を見た。

 

「ひぃ!」

 

リサは思わず友希那の腕に抱きつく。

 

友希那も思わず身構える。

 

その女性の目に浮かぶのは明らかに普通じゃない何かだった。

 

その目を向けられた友希那は怖気が走る。

 

しかしそれでも友希那は睨み返した。

 

その女性はそれをみると尚笑みを浮かべ去っていった。

 

女性が見えなくなると友希那は体の力を抜いてリサに女性はいなくなったと伝える。

 

リサは確認すると安心するも友希那のうでを離さなかった。

 

友希那は諦め、女性が見ていた家の前まで行く。

 

その家は庭等に彼岸花が植えられ、まるで家を彼岸花で囲っているような家だった。

 

「この家は?」

 

「私知ってる。」

 

不思議そうに呟いた友希那にリサは答えた。

 

「ここ、何年か前に一家の殺人事件があった家だよ。なんでも四人家族で長男の男の子だけが生き残ったとか。」

 

リサは震えながら話していた。

 

「ということはその男の子が住んでいるのかしら?」

 

「ううん、なんでもその男の子は別の人が引き取って別の場所に住んでるみたい。でも家の所有権はまだ男の子にあって手放さないからそのままあるみたいだよ。」

 

「そう…」

 

悲惨な事件があったことに少し心を痛めつつも過去の終わったことだと思いリサに帰ろうと促すと、その家の扉が急に開く。

 

誰もいないと思っていた家から人が出てきたことに驚きリサに関しては悲鳴を上げる。

 

しかし出てきた人物を見て二人は驚いた。

 

「水瀬…君?」

 

そこには大人の男性に担がれた慧と大人の女性が出てきた。

 



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22話 歌鳥の夜明けはまだ遠く

どうも!清夜です!

忙しかったGWも終わってやっと一息つけました!!

では!22話 歌鳥の夜明けはまだ遠く

どうぞ!!


「ん?君たちは…?」

 

凛々しい雰囲気を発しながらも綺麗な顔立ちをした女性が友希那とリサを見て不思議そうにする。

 

「慧をどうするつもりですか!!」

 

慧を担いだ男性とその後に出てきた女性にリサは声を荒げて聞いた。

 

「…葛城先輩、僕たちもしかして勘違いされてます?」

 

「そうだな、完璧に誤解されているだろう。」

 

男の方は困ったように、女の方はやれやれといったように首を振っている。

 

「水瀬くんを離してください。警察呼びますよ?」

 

友希那は携帯を取り出しながら言う。

 

友希那の警告に男性は吹き出して笑っていた。

 

「なんか皮肉ですね。まさか警察に通報されそうになるなんて。」

 

「まぁ、なかなか良い皮肉だ。泣きたくなってくる。」

 

二人の反応は軽いもので、全くもって緊張感のないものだった。

 

友希那はそんな二人に苦い顔をする。

 

「慧を…慧を連れていかないで!!」

 

友希那の後ろにいたリサは必死な声で叫んだ。

 

「リサ!落ち着いて…」

 

「でもこのままじゃ!!」

 

友希那が宥めてもリサは焦る一方だった。

 

そんな二人に慧を担いだ男性は微笑を逆に申し訳なさそうな顔に変えていた。

 

「あの、先輩…」

 

「わかっている。」

 

男性の弱った声に女性は軽くため息をつきながら懐を探る。

 

それを見た友希那とリサは固まる。

 

二人には刃物やもしかしたら拳銃を突き付けられるかもしれないという不安に駆られる。

 

しかし女性が取り出したのは意外なもので…

 

「葛城 千秋巡査長です。」

 

女性、千秋が警察手帳を見せながら名前を言う。

 

「同じく山田 光 巡査であります。」

 

慧を担いだ男性は千秋に習うようにして名乗る。

 

「巡査って…」

 

「警察の人だったのね…」

 

リサは呆然とし、友希那は腑に落ちたように呟く。

 

「まぁ、そういうことだ。騒がせてすまなかった。」

 

「え?でもどうして慧を警察の人が?」

 

「それは...」

 

千秋は困ったように目線を逸らす。

 

「あはは...」

 

光も空笑いするだけだった。

 

「まぁ色々あるんだ。あまり詮索しないでくれ。」

 

千秋は話を終わらせようとして光に目配せをして行こうとする。

 

「あ…友希那」

 

リサが慌てたように友希那を見る。

 

友希那はリサの視線にため息を付くと、

 

「そうですか、なら明日…本人から直接聞きますね。」

 

友希那は千秋に向けて言った。

 

それを聞いた千秋は立ち止まる。

 

そして千秋は振り返らず言葉を続ける。

 

「出来ればそれは遠慮してほしい。これはデリケートな問題だから。」

 

「私もそうしたいですけど...流石にそうも行きません。彼は学校にとっては特別です。本来はあの学校に通うことは無かった筈の人。その人が警察の人に連れていかれることがあったとなれば…」

 

「ちょっと、友希那。」

 

リサは友希那の言っている事が不穏な方向へ行っていることが分かったのか止めようとする。

 

しかし友希那は厳しい目を一度リサに向けて視線を戻した。

 

「…成る程、君は聡いな。おおよそ検討はついているんだろう。」

 

「…完全ではありませんが。」

 

千秋は振り向いて友希那を見る。

 

「今日はもう遅い。また次の機会に…」

 

「もし今日話してくれないのなら明日聞くことになりますね。」

 

「…」

 

千秋の言葉を遮り友希那が睨む。

 

「はぁ、まったく。なんでこうもままならないかな。」

 

千秋はため息を吐いて歩き出す。

 

「着いてこい。慧の家で話すとしよう。」

 

そうして友希那とリサは千秋の運転する車に乗り、ある一軒の家につく。

 

光は慧を背負って千秋が先導して家に入る。

 

「慧!!」

 

ドアが開くと同時に奥から一人の少女が走ってくる。

 

「紗夜?」

 

友希那とリサは走って来た少女が紗夜と知り驚く。

 

そんな二人に気付かず、紗夜は光の背負っている慧の頬に触れて温もりを確かめる。

 

問題ないことを確認した紗夜は千秋へ鋭い視線を向ける。

 

「慧に何があったのですか!答えてください!」

 

「紗夜、落ち着いて…全部話すから。慧が起きてしまう。」

 

紗夜の肩に手をおいて宥める千秋。

 

そして後ろで事態を見守っていた友希那とリサに声をかける。

 

「君達も入っておいで。一緒に聞いてもらうとしよう。」

 

「っ!?湊さん、今井さん…?」

 

紗夜は千秋の視線を追って二人を見ると驚きと困惑で呆然とする。

 

「アハハ…さっきぶりだね、紗夜。」

 

「…」

 

困惑を隠しきれてないリサは無理やり笑うもののその顔は苦笑いになっていた。

 

友希那はなにも言わず黙っていた。

 

「これはどういうことですか?」

 

再び千秋に鋭い視線を向ける紗夜に千秋はため息を吐く。

 

「それを今から彼女達を交えて話す。どうやら知り合いみたいだし、彼女達も慧のことをある程度知ってしまったみたいだしね。取り敢えず山田くん、慧をいつもの場所へ。」

 

「了解です。」

 

そう言って光は慧の部屋へ入っていく。

 

千秋はリビングに入っていき、友希那、リサ、紗夜を招き入れる。

 

千秋の横に紗夜が座り、机を挟んで千秋の前に友希那、紗夜の前にリサという形で座る。

 

「先輩。」

 

「今日もすまなかったな、山田くん。」

 

「いえ、僕はもう帰りますね。」

 

「ああ、今度昼ご飯でも奢ろう。」

 

光はありがとうございますとお礼を言いながら帰っていった。

 

「さて、君達は慧の事をどれだけ知っている?」

 

千秋は友希那とリサを見ながら問いかけた。

 

先に口を開いたのはリサだった。

 

「どれだけって言っても…何かの理由で目が見えなくて、紗夜や日菜に助けてもらわないと学校に通えないから羽丘に特別に通わせて貰ってる男子生徒としか。」

 

「そうね、私もそれくらいだわ。」

 

友希那も同意するのを聞いて千秋はそうかと頷く。

 

「では、慧はなぜそうなったと思う?」

 

千秋の問いにリサは首をかしげる。

 

しかし友希那だけは目の力が増したのが千秋には分かり、友希那に先を促した。

 

「…私はリサからある事件を聞きました。ある一家の惨殺事件を。」

 

友希那の惨殺事件と聞いたとき紗夜の肩がビクッと跳ねるのが友希那にはわかった。

 

リサは自分の名前が出てきたことに驚き、一拍置いて顔色が悪くなり初める。

 

「…まさか。」

 

震える声でリサが呟くと。

 

千秋は今日何度目かのため息を吐く。

 

「…ああ、そうだ。慧はその事件の被害者だ。」

 

千秋のいつもより低い声はこの場にいる皆の心に冷たく響いた。

 

 

 

 

 

 



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23話 陽だまりでも照らせない闇

どうも!清夜です!!

今回はもうちょっと早く投稿したかったな。

ポピパのCD今週発売ですね!!

めっちゃ買いたい!けど金がない…

なんて私情は置いといて…

23話 陽だまりでも照らせない闇

どうぞ!!


「慧の家族が…殺人事件の被害者…」

 

リサは顔を真っ青にしながら呟く。

 

そんなリサの様子を見た千秋は顔をしかめる。

 

「…どうやら君は聞かない方が良いかもしれないな。」

 

「そうですね。」

 

「えっ…?」

 

紗夜が同意し、言われたことが咄嗟に理解できなかったリサは千秋と紗夜を見る。

 

「君の今の状況を見るとこれ以降の話を耐えられる様には見えない。」

 

「そんな…なんで!!」

 

リサは立ち上がるも友希那に止められる。

 

「そうね、私も同意見だわ。」

 

「っ!友希那…!」

 

「今のリサは取り乱し過ぎよ。」

 

声を上げようとしたリサに友希那は落ち着かせるように言った。

 

「様子を見る限り、君達は学校で慧と仲良くしているのだろう?これ以上の事を聞いてこれまで通りに接する事が出来るのか?」

 

千秋の指摘にリサは俯く。

 

「君達には慧にとっての日常であって欲しいんだ。慧が過ごす毎日を何事も無く過ぎていく日常として…過ごしていく内に過去も薄れるくらいの今にしてほしい。」

 

千秋は優しい眼差しでリサを見る。

 

「私は学校が違うので彼を見ていることのできない時間があります。その代わりと言ってしまうと悪いのですが、湊さんと今井さんが見ていてくれると安心できます。日菜だけでは不安なので…」

 

紗夜も苦笑い交えて優しくリサと友希那に言った。

 

「私…は…」

 

リサの弱々しい声が漏れるが、その先を紡ぐ事は無かった。

 

「…私が聞きます。そしてリサに聞かせるかどうかは私が判断します。私はリサ程彼と関わりが長いわけではありません。それで良いですか?」

 

「…わかった。じゃあ君、えっと…今井さんだったかな?君は二階の部屋に…」

 

「すいません」

 

リサが千秋の声を遮る。

 

「慧の部屋で待たせて貰えませんか?」

 

俯いていたリサは千秋の目を見て言った。

 

「…わかった。じゃあ慧を見ていてくれ。」

 

「…はい。」

 

千秋から許可を貰うとリサは出ていった。

 

 

 

~リサside~

 

 

私はリビングから出て向かいの部屋の扉に手をかける。

 

男性の刑事さんがこの部屋に慧を連れていったからこの部屋が慧の部屋だとわかった。

 

扉を開いてみると簡素な部屋で余計な物は余り置かれてない部屋の窓際にベットがあり、上半身を起こしている慧がいた。

 

「っ!慧!?」

 

起きていると思っていなかった慧を見て私はビックリしてしまった。

 

目が見えない筈なのに慧は窓の外を見るように顔を向けていた。

 

『…?』

 

だけど私が声をあげてしまったことで反応して、私を見るように慧が顔を向ける。

 

『…今井…さん…?』

 

意識がはっきりしてないのか、慧が名字で私を呼んだ。

 

「も、もう!私はリサって呼んでって言ったじゃん!」

 

私は何時もの調子を取り戻して明るく話しかける。

 

『…なんでここにいるノ?』

 

だけど慧の言葉を聞いて言葉に詰まってしまう。

 

『…ここ…千秋さんの家?』

 

「そうだよ。山田さんっていう刑事さんが連れてきてくれたんだよ。」

 

「そっか…」

 

慧はまた窓の外に顔を向ける。

 

私は何か言おうとしてなんて声をかけて良いかわからなかった。

 

『…なにかあった?』

 

「え?」

 

『いつもと雰囲気違うから…』

 

慧に言われて千秋さんに言われたことを思い出す。

 

私にはこのまま何も無かったように振る舞うには無理かな。

 

「その…ね。慧の昔の話を聞いたんだ。」

 

『昔…』

 

「うん、慧の家族がもういないって…」

 

私は言うことにした。きっと過去を聞いてしまったことを隠してそのまま接していることは私にはできない。

 

『そっか…聞いちゃったか。まぁ、そういう可能性もあるとはおもっていたけど。』

 

慧は弱々しく笑っていた。

 

 

 

~慧side~

 

いない…そう、もう居ないんだな。

 

全ては夢、俺が作り出した都合の良い記憶でしかない。

 

それでもあの家に行くことは止めることは出来なかった。

 

「…怒らないの?」

 

リサが恐る恐る聞いてきた。

 

『怒る理由なんてないよ。怒るのは筋違いだ。』

 

きっとリサは僕があの家から出てくるのを見てしまったんだろう。

 

その時点で気付かれる可能性はあった。

 

『どこまで聞いたの?』

 

「その…あの家が慧の家で、あの事件の被害者だってことまで。それ以降の話は聞かない方が良いって…」

 

『そっか…』

 

リサはまた申し訳なさそうに言う。

 

『あの事件の時千秋さんが最初に乗り込んできてね。その時まだ息があった僕を千秋さんが助けてくれたんだ。』

 

あの時を思い出す。

 

お父さんが見せしめの様に殺され、それを見せられながらお母さんは男に弄ばれて殺され、そしてその手は俺と結希に…

 

今でも、胸に激情が荒れ狂う。

 

絶対に許すなと、この手で殺せと。

 

一番殺したいやつは居ないのに…

 

『キツいな…』

 

「!!」

 

つい言葉をこぼしてしまい、同時に後悔する。

 

リサには聞こえていた様だ。

 

そして急に暖かい温もりが体を覆った。

 

『リサ?』

 

「ごめんね。ホントにごめん…」

 

リサは俺を抱き締めて泣いていた。

 

そんなリサの背中をさする。

 

『大丈夫だよ、リサ。まだ完全に吹っ切れてはいなけど前は向けているから。』

 

そう、前は向けている。

 

「でも…辛いんだよね。」

 

リサの抱き締める力が少し強くなる。

 

『…大丈夫、俺さ、実はやりたいことがあるんだ。』

 

「やりたいこと?」

 

『そう、やりたいこと。これがある限り俺は生きていける。生きたいと思えるんだ。どんなに辛くても。』

 

「…それって?」

 

『秘密。』

 

「ええ~。そこまで引っ張っておいて秘密なの~」

 

泣いていたリサも少し笑ってくれる。

 

『うん、秘密。でもそれが叶うまでは生きていようって思えるんだ。』

 

「そっか…」

 

リサが離れる。だけど俺の手をとって包んでくれた。

 

「なら私はそれを応援するよ!」

 

『応援?』

 

「そう!応援。そしてそれが叶った時のために新しい慧のやりたいことを一緒に見つけたい!そうしたら慧ももっと生きていたいって、もっと()を生きていたいって思うでしょ!」

 

そっか応援してくれるんだ。

 

何も知らないのに(・・・・・・・・)

 

 

『…ありがとう、リサ。応援してくれて嬉しいよ。』

 

「うん!何があっても私は慧の味方だからね!」

 

きっとリサは今笑顔なんだろう。

 

夜の筈なのに陽だまりのような暖かさを感じた。

 

だから俺は心からリサに感謝する。

 

「ありがとう、リサ。」

 

俺の復讐を応援してくれて…

 

 

 



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24話 闇の一面

お久しぶりです!

長らくお待たせしました。

6月中に2話は投稿するつもりでしたがかなりの難産でした。

簡略的に書くことも出来たのですがそうすると薄っぺらくなるのが嫌だった…。

変なこだわりですが多目に見てください!

では!

24話 闇の一面


リサが出ていった後、三人に沈黙が落ちる。

 

しかしそれを振り払うように紗夜が千秋へと責めるように聞く。

 

「…千秋さん、そろそろ聞かせて下さい。慧は一体何処へ行っているんですか?」

 

「そうだな、慧は自分の家に帰っていたんだよ。」

 

「っ!自分の家に…なぜ!!」

 

「自分の家に帰ることの何が悪い?」

 

千秋は肩をすくめて紗夜を見る。

 

それを見た紗夜は憤りを露にした。

 

「ふざけるのもいい加減にしてください!!彼にとってあの家がどれだけ辛いのか貴方が一番知っているでしょう!!」

 

友希那は怒鳴り声に驚いて反射的に体を小さくした。

 

「!…すいません、湊さん。」

 

それに気付いた紗夜は申し訳なさそうにして椅子に座った。

 

「いえ…大丈夫よ。それより、私にも色々聞かせてください。」

 

「そうだな。まぁ取り敢えず纏めようか。えっと、湊さんで良いかな?」

 

「はい。」

 

「さっきも言った通り彼…慧は約5年前、君たちが居た家に家族4人で暮らしていた。しかしある夏の深夜、その家に暴漢3人が押し入った。」

 

「…」

 

一度言葉を切った千秋は目を閉じて少し黙る。

 

紗夜も友希那も急かすこともなく次の言葉を待った。

 

「…すまない…私が近所の連絡を受けて現場に着いた時には…慧意外の家族3人は息絶えていた。」

 

言葉を続けた千秋の顔は影を帯びていた。

 

友希那は息を飲み、紗夜は悔しそうに唇を噛んでいた。

 

「慧だけは息をしていた、両目から血を流してな。危険な状態だったため私が急いで病院へ連れていき、事なきを得た。」

 

千秋は目を閉じると顔を歪めた。

 

当時の事を思い出しているのだろう。

 

「…その押し入った暴漢達が…水瀬君の両目を…」

 

友希那の消え入りそうな声に千秋は頷いた。

 

「ならばわかるはずです!彼が自分の家に行くなんて!」

 

「それでも!…慧の家なんだよ。」

 

千秋さんの少し苛立った声に気圧され紗夜は怯む。

 

「…水瀬君はもう過去を乗り越えていると?」

 

「…いや、その逆だ。未だに囚われている。」

 

千秋は苦い顔をしながら答える。

 

しかし友希那は疑問を覚えた。

 

それは紗夜も一緒だったようだ。

 

「過去に囚われているのならあの家に帰らないのでは?」

 

あれだけの事件があったのだ。寧ろトラウマとなって自分の家に帰らなくなるのが普通では?と友希那は考えていた。

 

「慧にとってはそうじゃないんだよ。慧にとってあの家は亡くなった家族に会える場所なんだ。」

 

「亡くなった家族に会える?」

 

紗夜と友希那は困惑した顔で千秋を見る。

 

「そうだ。あの家なら家族のことを鮮明に思い出すことができる唯一の場所なんだ。慧は不安定な精神状態から持ち直しはしたが失ったものは戻らない。それが傷となって慧を蝕むんだよ。」

「…つまり慧は自分の作り上げた幻想で失ったものを一時的に埋めている…ということですか?」

 

紗夜の言葉に千秋は頷く。

 

「もちろん慧は自分でもそれが本物でないことぐらい分かっている。あの家に行くときは必ず私に連絡をするんだ…本物ではなくても自力で戻って来ることは出来ないと自覚しているから。」

 

「それだけ固執してしまっているのね。」

 

友希那は悲しみを浮かべた目を伏せる。

 

「家族を失った悲しみは私にはわかりません。幼なじみである私は確かに慧の家族とも付き合いが深くて本当の家族のように接していました…でも…家族ではないんです。」

 

紗夜は自分の家族が亡くなる出来事をまだ経験していないため、気安く気持ちで分かるなんて言えなかった。

 

「…でも…私は…慧を引き取った私だけは慧の家族でありたい。たとえ血が繋がっていなくても…名字が違っても…慧が生き残ったことを後悔なんてさせたくない、させない!」

 

 

千秋の決意に満ちた宣言は友希那や紗夜の胸に重く響くものだった。

 

「…だから…湊さん。慧の日常を壊さないよう強力してくれないか?学校に居る間だけで良い。」

 

千秋は頼むと頭を下げる。

 

「…顔を上げて下さい。付き合いは短いですが彼を友人と思っています。」

 

友希那は優しく、しかし芯のある声で答えた。

 

「ありがとう…」

 

千秋も安心した様で、顔を綻ばす。

 

「…千秋さん、慧をあの家に行くことを止めることは出来ないんですか?どう考えても良いことだとは思えません。」

 

紗夜は苦い顔をしたまま千秋へ言う。

 

「私もそうしたい所ではあるんだけどね。恐らくそうしたら慧の心は持たないだろう。言ってしまえば慧の心は何かに依存しなければ支えられない状況を無理やり立ち直らせてしまったようなものだからな。」

 

「…っ!」

 

紗夜は言われて日菜の事を思い出す。

 

「どういうことです?」

 

事情を知らない友希那は困惑する。

 

「…慧はこの家で引き取った後、何度か自殺しようとしたことがあるんだ。」

 

友希那は息を飲む、だが予想できることだった。

 

「それを実質止めたのは日菜…私の双子の妹なんです。」

 

「日菜…知っているわ。いつも一緒にお昼ご飯を食べてるもの。」

 

「そして慧には妹が居ると言ったな。なんでも慧が気を失う直前まで会話していたのが妹であった結希だったらしい。妹を守れなかったといつも悔いていたよ。その結希に最後に生きてと言われたと慧は話していた。そのせいかやけに結希に対しての執着が強いんだ。それを知った日菜は慧に対して結希の様に振る舞い始めたんだ。」

 

それを聞いた友希那は顔をしかめる。

 

「…妹になりきって慧を繋ぎ止めたのですね。」

 

「ああ…今は慧が自力で妹の執着を抜け出したようだが当時は完璧に日菜の事を結希と思い込んでいた。今でもたまに妹を重ねてしまうときはあるみたいだが。」

 

「慧は理性ではずっと日菜が結希ではないことを理解していた。このままでは駄目だと思ってもいた様で、感情が落ち着いてからは家族はもう何処にもいないと自分に言い聞かせて執着を引き剥がした様です。」

 

紗夜の話を聞いて友希那は納得した。

 

「…不安定なまま引き剥がしたせいで支えがないと崩れてしまう…と。」

 

「ああ、慧はきっと理性が強いのだろう。だけどもて余した感情はストレスを溜め込む。どこかで吐き出さないと理性の器は壊れてしまう。だから必要なんだよ。」

 

千秋は一息ついて紗夜と友希那を見る。

 

「慧が依存できるもの。人ではなく他の何かで支えを見つけてあげなければならない。本当は依存ではなく趣味みたいなもので慧の生きる支えになるものがあればいいんだがな。」

 

それは高望みだろうと千秋は呟きながら疲れたように椅子の背もたれに体を預ける。

 

「慧は理性が強い。なら日菜の時のように自分で完全に立ち直ることもできるだろう。それまでの支えがあの家なんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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25話 抱える思い

全然話が進まない清夜です!

25話まではあんまり話が進まない感じですね。

伏線はありますが…

正直者またキャラ増やすのかって悩んだのですがこういう形で出すキャラが欲しかった…。

てことで!そういうことです!w

次の話から原作ストーリーを進められると思います。

では!25話 抱える思い
 
どうぞ!


~友希那side~

 

「依存の出来るもの…」

 

友希那は自室で慧の家で話していた事を思いだし頭の中を巡っていた。

 

「らしくないわね。」

 

これまで音楽のことしか考えてこなかった自分が音楽以外のことで頭を悩ます事になるとは思ってもいなかった。

 

とはいえ、あそこまで聞いてしまって私は関係無いと言い切れるほど私も冷たくはない。

 

とはいえ、話を聞いただけでその悲惨さは理解したけれど、私自身大切な人を永遠に失ったことが無いから実感も共感も出来ないのが事実。

 

「つまり、なにか水瀬君に目標の様な物を持たせることでも良いと言うことよね。彼に何か生きることの目的でも与えられればあるいは…」

 

そこまで考えて頭を振る。

 

「そんな大それたこと言える立場でも無いわね。」

 

あくまでも私と慧は友人と言える間柄であっても距離が近い訳ではない。

 

リサが居なければ話題も無いし、そもそもリサが慧とお昼を共にしたいと言うから私も同席しているに過ぎない。

 

そんな自分が慧の為なんて言える訳がない。

 

「…数少ない友人と言える人ではあるけれど…私に出来ることはない。精々友人として彼の何気ない日常の一部になる以外何も出来ない。」

 

そう結論付けて私は睡魔に身を委ねた。

 

 

 

~千秋side~

 

「これで良かったのかな。」

 

「そう判断したから湊さん達に話したのではないのですか?」

 

私は独り言のつもりで呟いた言葉に返事が帰ってきたことに驚き振り向く。

 

「おや?紗夜はまだ帰ってなかったのか。」

 

「ええ、今日は泊まろうかと。明日の当番は日菜でしたが今日のこともありましたし。取り敢えず明日の朝食、弁当と慧を起こすのは私がすることになりました。」

 

「そうかい。」

 

私は背を伸ばしながら紗夜の言葉を聞いて立ち上がる。

 

「なら私はお風呂でも入ろうかな。」

 

「…千秋さんは…本当に慧がこのままで良いと思っているのですか?」

 

紗夜の真っ直ぐな言葉につい苦笑いを浮かべてしまう。

 

「このままで良いとは言ってないよ。けれど、私たちが出来ることも無いのが事実だよ。」

 

私の言葉に紗夜が悔しそうに唇を噛み締めるのを見てまた苦笑いを浮かべてしまう。

 

「言い方を間違えたね。私達(・・)ではない、()には何も出来ないんだ。」

 

私のその言葉に紗夜は不思議そうな顔をしていた。

 

そんな紗夜に優しく言い聞かせるように言う。

 

「紗夜、今まで慧の事を一番近くで見守って支えてきたのは紗夜と日菜だ。慧と苦楽を共にしてきた君達ならきっと慧に何か示してあげられるんじゃないかと思っている。」

 

「…ですが…私は自分のことで手一杯で…慧の事を助けたいのに…怖くて、向き合えなくて。」

 

紗夜は俯いて力なく言った。

 

「そうか…」

 

紗夜ももどかしいのだろう。

 

そんな紗夜にこれ以上を求めるのも酷なのだと思ってしまった私には何も言葉を返してあげることができなかった。

 

「ままならないものだな。まぁ、時間が解決してくれるとは思うが…」

 

そう、慧なら時間さえあれば立ち直ることは可能だろう。

 

むしろ最近まではそのつもりではいたのだ。

 

「アイツさえ現れなければ…」

 

つい漏れてしまった言葉に幸い紗夜は気づいていなかったようで安心する。

 

「(やつは何が目的で慧に接触しようとしてきているんだ?それがわからない以上、やはり慧と接触させるのは不味い。)」

 

嫌な方向に思考が流れ始めたことに気付いて考えることを止めて紗夜に何時もの調子で抱きつく。

 

「ま!わからないことを考え続けても仕方ないよ。久々に一緒にお風呂入ろ!!」

 

「なっ!入りません!!前回も千秋さんが無理やり引っ張っていって…」

 

紗夜にじゃれながらお風呂場に引っ張っていく。

 

着替えは紗夜と日菜の分はいつも置いているため、いつも問答無用で紗夜を浴室に連れ込み、顔を真っ赤にする紗夜とお風呂を入っているのだった。

 

「今日も逃がさないよ~。紗夜ちゃんの柔らかい肌堪能するんだから!」

 

「止めてください!!」

 

そんなセクハラもなんだかんだで心を開いてくれている紗夜や日菜だから出来ること。

 

でも明らかに紗夜や日菜よりも慧の方が距離は遠いことはわかっている。

 

「(家族ならこうやってくっついて居るだけで心暖まる筈なのに…)」

 

どうして慧はあんなにも寂しくて…冷たく感じるのだろう。

 

それは肌に感じる温度じゃない。

 

心に感じる温度差だった。

 

 

 

~慧side~

 

「楽しそうだね。」

 

ボーっとしていたら浴室の方から千秋さんの楽しそうな声と紗夜の怒った声が聞こえてきた。

 

紗夜は文句は言っても最終的に断れないのを慧は知っていた。

 

「本当の家族みたいだな。」

 

千秋さんと紗夜のじゃれ会いを聞きながらベットに寝転ぶ。

 

「いつからかな、こんなにも誰かと距離を置かないと不安になってしまうのは。」

 

それはきっと家族を奪ったあの事件からではない。

 

あの時まではまだここまで人に不信感を持ってはいなかった。

 

そう、僕の心に止めを刺したのはあの学校での出来事。

 

「俺が居なくなってきっと精々したんだろうな…あいつらは。」

 

クラスの全員が一斉に悪意を向けてきたあの日…

 

「お前は最後に何が言いたかったのかな…裕?」

 

もう友達でも何でもないあいつを思い浮かべる。

 

あいつが最後に言っていた「明日になれば」

 

もし次の日まで登校していればどうなったのだろう…。

 

今では憎しみすら無くなってどうでもいい相手だが、もし…と考えてしまう。

 

「そういえば…あやちゃんはどうしてるのかな?」

 

それは小学校の時の休み時間に裕と自分ともう一人、あやちゃんという女の子とよく遊んでいた事をおもいだす。

 

あやちゃんは違うクラスで仲良くなった女の子で、家が遠かった為に放課後や休日等は遊べなかったが、仲はとても良かったと思う。

 

「あやちゃんに会えなかった事だけが心残りかな。」

 

もっもと、あの時に会ったとしても皆と同じ状況だったかもしれないが…。

 

「止めよう…もう終わったことだ。」

 

そう言い切って微睡みを迎える。

 

家族の事を同じように吹っ切ることの出来ない自分にニヒルな笑みを浮かべながらその意識は心地よい闇へと誘われる。

 

 

 

 



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26話 歌姫の誘い

お久しぶりです!清夜です。

相変わらずの不定期と亀更新をお許し下さい…

お盆の連休なんて無くなればいいのに…( ;∀;)

前回からキャラ別sideを取り入れましたが、違和感などを感じたらご意見等貰えるとうれしいです!

主人公のイメージの絵を描こうとしたのですが自分の絵心の無さを思いだしやめました。

後描いてる暇ないし…

では!

26話 歌姫の誘い

楽しんで頂ければ嬉しいです!!



~友希那side~

 

「う…ううん?」

 

心地よい微睡みの海から浮上し、カーテンの隙間から太陽の光が私を照らしていた。

 

心地よい眠りを邪魔されたように感じた私はその光を恨めしく思いつつ、直接睨めないことに微かな苛立ちを覚えていた。

 

寝起きはあまり良くないことは自覚しているが、この程度のことに微かでも腹をたてている自分が小さく思えた。

 

時計を見るといつも起きる時間より早かった。

 

二度寝をする気にもなれず、潔く布団からでてシャワーでも浴びようと思い、着替えを持って1階に降りていく。

 

「あら?友希那、おはよう。今日は早いのね。」

 

「おはよう、お母さん。なんだか目が冴えたみたいだからシャワーを浴びてくるわ。」

 

お母さんに軽く挨拶し、浴室に入ってシャワーを浴びる。

 

一通り体を洗い終え、着替えを済ませて浴室を出てリビングに入ると…

 

「あ!おっはよ~。友希那。」

 

「リサ?どうしたの、早いじゃない。」

 

「いや~、なんか早く目が覚めちゃってさ。二度寝も出来なくて…」

 

リサは笑いながら言うが、私には苦笑いにしか見えなかった。

 

「リサちゃん、朝ごはんは食べた?こっちで食べていく?」

 

「いいんですか!それじゃあいただきます!」

 

「…制服に着替えてくるわ。」

 

私は一言残して自分の部屋に戻る。

 

制服に着替えながらリサに水瀬君の過去をどこまで話すか考える。

 

別に全部話しても問題は無いとは思うのだけれど…

 

(もう少し様子を見てからにしましょう。)

 

私はそう結論付けて着替えを始めた。

 

着替えを終え、リサと朝食を食べた後、することもないので早めに登校することになった。

 

「ねぇ、友希那。今日もお昼は慧のところで良いよね?」

 

若干きまづそうにリサが聞いてくる。

 

「そうね、いつも通りで良いんじゃないかしら?」

 

「そ、そうだよね!いや~楽しみだな~♪」

 

少し空元気な感じもするけど喜んでいるのは本当の様だし構わないかと思いながら今日のお昼に水瀬君には過去の事を聞いたことを報告するべきか考える。

 

(紗夜の方から話している可能性もあるけれど…)

 

そこまで考えて私は思考を止める。

 

今考えても仕方無いわね。お昼まで時間はあるのだし。

 

そう考え直してリサと雑談しながら学校へ着き、隣のクラスを通り過ぎようとすると…

 

「あれ?薫じゃん。」

 

その教室には中性的な顔立ちをした女子生徒が居た。

 

「っ!おや?朝早くから珍しいね。仔猫ちゃん達。」

 

リサの知り合いの女子生徒は瀬田薫。何度かすれ違ったりリサが話しているのを見たりはしている位であまり接点は無い。

 

「薫こそどうしたの?こんな朝早く。」

 

そう言いながらリサは教室へ入っていった。

 

他のクラスに簡単に入っていくリサを見ながら教室の前で待つ。

 

「え、えっと…まぁ、早く来るのは良いことじゃないか?」

 

いつもより歯切れの悪い彼女を不信に思ったのかリサが好奇心に目を光らせて詰め寄る。

 

「な~に~?何を隠しているの~?」

 

「あ、アハハ…」

 

そんな二人のやり取りをやや呆れた気持ちで見ていると、どこからか微かに歌声が聞こえた。

 

「え?」

 

それはリサにも聞こえたようで窓の外を見た。

 

私も直ぐリサの元へ行き窓の外に耳を澄ませた。

 

「……何処…るの…何し…の」

 

その澄んだ歌声は段々鮮明になる歌詞で耳に届く。

 

「伸ばした手はなにも掴めず ただ泣くだけの日々で 輝いていたあの日はもう返らずに 未練がましくあの日の欠片を抱いて眠る…」

 

その歌は何処か引き寄せる魅力があった。

 

決して楽しい歌じゃない。

 

激しく胸を打つ歌ではない。

 

胸に響く歌ではない。

 

それはまるで聞いている此方を無視してひたすら何処かへ歌っている歌だった。

 

それなのに私は…いや、この場で聞いている三人はその歌に魅せられていた。

 

「運が良かったね、仔猫ちゃん達。歌鳥は中々うたってくれないんだが珍しく気紛れを起こしてくれてね。こんなことは滅多に無いよ。」

 

薫は外を優しい眼で見る。

 

「会えないと知っている それでも君が居た事実は変わらない だから覚えていよう 例え覚めることのない悪夢でも 」

 

「水瀬君なの?」

 

「え?嘘!慧なの!?」

 

「ああ、そう。盲目の歌鳥…水瀬慧のリサイタルさ!!」

 

薫は両手を広げて芝居がかった動作で紹介する。

 

 

~out of 友希那side~

 

 

「ふぅ~」

 

歌い終えた慧は一息吐いていた。

 

「やっぱり薫に聞かせたのは失敗だったかもな。」

 

朝紗夜と登校してきた慧は学校の入り口で当然の様に待っていた薫に手を引かれて何時もの教室に来ていた。

 

しかし昨日の実家で歌ったことを忘れられずどうしても歌いたくなっていた為、薫に屋上へ案内を頼んだのだった。

 

当然薫は歌を歌うのだと察して興奮し屋上へ案内した。

 

「俺の歌の何が良いんだか…」

 

心底わからないと言いたげに首を振っていると…

 

「今日も良かったよ!歌鳥!!」

 

ドアを開け放って薫が屋上へ入ってくる。

 

「ああ、そう、ありがと。」

 

慧はげんなりして軽く返していたが、他の人の気配を感じた。

 

「…誰?」

 

「アハハ、凄いね慧、あんなに歌が上手かったなんて。」

 

「ええ、どうして隠していたの?」

 

リサが笑いながら会話に入り、友希那も何時もより声のトーンが高めだった。

 

「…薫」

 

「ち、違うんだ慧!私は二人を呼んだり等していない!偶々彼女達が早めに登校してきただけで私は!」

 

「まぁ、別に疑ってないですよ。」

 

必死に弁解する薫に一度ため息を吐いて宥める。

 

「こんなところで歌っていれば誰かに聞かれる可能性は元々あったんだし。…もう学校では歌えないな。」

 

最後の言葉は声が小さくなったが、友希那はしっかりと聴こえていた。

 

「…ねぇ、水瀬君。貴方もスタジオで歌ってみない?」

 

 

 

 

 

 




今回慧が歌った歌はオリジナルというか、作者が考えた詩を繋げただけです。

既存の曲じゃなければ大丈夫ですよね?

尚、メロディー等は考えておりませんので曲として捉えるのは難しいかもしれません。

では!また次回に!


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27話 終わらない過去は虚無

前回の投稿から約5か月…

覚えてくれている人はいるでしょうか…

遅くなってすいません!

言い訳はしません。

ただ一言…完結させることは諦めてません!!

27話と28話纏めて投稿します。

では、27話 終わらない過去は虚無


『僕が…スタジオで?』

 

「ええ、スタジオなら音も漏れないし好きなだけ歌えるわ。スタジオの中に貴方だけであれば誰かに聞かれる事もない。悪くはないと思えるのだけど?」

 

慧は友希那の急な提案に戸惑っていた。

 

「ちょっと待ってよ友希那。スタジオだって無料じゃないんだよ?それに行き来だってあるんだから。」

 

リサも戸惑いながら友希那に言う。

 

「それなら行き来は私がするわ。それに料金なら私が個人練習のときに一室を借りて共有すればいい。」

 

リサは余計に戸惑った。

 

音楽にかける情熱は人一倍強い友希那は音楽にかける時間を一秒でも無駄にしない。

 

そんな友希那が個人練習の時間を慧の為に割くと言ったのだ。

 

『…それは流石に駄目ですよ。そこまでしてもらう義理はないし僕の歌にそこまでの価値は無いから。』

 

無料で使えるスタジオならここまで渋る事もないだろう。

 

しかしスタジオは有料だ。

 

それも友希那なら月に行く回数は多いことだろう。

 

高校生が自由に使えるお金も多くないのにその貴重な時間を使うことに慧はやはり出来なかった。

 

「…価値が在るか無いかを決めるのは貴方じゃないわ。それを聞いている人よ。」

 

それでも友希那は引かず、慧の歌はその貴重な時間を使う価値が在ると主張した。

 

「けれどその歌すら君は聞かないのだろう?」

 

話を聞いていた薫も口を挟んでいた。

 

「そうね…もし貴方が無償で使うことに抵抗を覚えるならその歌を私だけに聞かせてくれれば良いわ。それならお互いに損はないでしょう?」

 

『…どうしてそこまで?』

 

慧には友希那がそこまでする理由がわからなかった。

 

慧の歌は贔屓なしにみても確かに上手いだろう。

 

しかしそれだけだ。

 

友希那の様に歌だけを追及してきた人間のような声量やオーラも無い。

 

「私がそれだけの価値があると思った…それが全てよ。これ以上問答するつもりは無いわ。行くか行かないか…答えを貰えるかしら?」

 

友希那は冷たく慧に聞いた。

 

『…僕は…』

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、友希那。どうして急にあんなこと言い出したの?」

 

 

友希那とリサは屋上から降り、教室に向かう廊下を歩いていた。

 

『全て言った通りよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。』

 

「慧の歌にはそれだけの価値があるってやつ?」

 

「ええ。」

 

友希那は頷いて言葉を続ける。

 

「言ってしまえばこれは私のわがままで私の利があるようにしか言ってないわ。私はただ彼の歌に私に無い何かを魅せられた…それが何かを知りたい。そうすれば私の歌はもっと良くなるわ。」

 

全ては自分のため…そう言う友希那の目に嘘は無いようだった。

 

「そっか…友希那の音楽のための時間を削る訳でも無いんだね。」

 

「そうね。」

 

リサは少し残念そうにしていたが友希那は見ないふりをした。

 

全ては音楽のため、そして自分の目標のため…その為には慧を利用する事になっても構わないと思い無理やり罪悪感を押さえ込んだ。

 

 

 

 

 

そうして何事もない一日を終えて放課後。

 

「水瀬君、行きましょう。」

 

『はい…湊さん。』

 

朝の提案通り友希那が迎えに来る。

 

『(やっぱり本気なんだな。)』

 

朝の一件で友希那が本気だったことは知っていたが改めて実感した。

 

そのまま友希那に手を引かれてスタジオへ向かう。

 

その間に会話は無く、馴れない故にお互いに気まずさがあった。

 

そしてスタジオに到着し、友希那が手続きをしてスタジオに入る。

 

「さて、少し発声しましょうか。水瀬君もするでしょう?」

 

『…うん、そうですね。発声なんて小学校の音楽の授業以来かもしれません。』

 

慧は少し笑いながら答える。

 

そうして友希那の後を続くように慧は発声練習をする。

 

そして友希那はパソコンで打ち込んでいたDTMの音源で歌って個人練習を始める。

 

そして一通り続けて歌うと慧へ振り向いて感想を聞いてきた。

 

『感想を求められても…ただ凄いとしか言えません。専門的なこともわかりませんし。アドバイスできる程耳が肥えてないので。』

 

慧は苦笑いしながら応える。

 

慧の言葉に謙遜の様子は無かったのがわかり、友希那は「そう」と返すだけだった。

 

「さて、今度はあなたの歌を聞かせてもらおうかしら。」

 

『…わかりました。』

 

慧は友希那の言葉に少し間を置いて頷いた。

 

そして友希那が自分の使っていたマイクの元まで連れていった。

 

『~♪』

 

そして慧が歌い始めると友希那は真剣な顔をして慧の歌に耳を傾けた。

 

そうして友希那と慧が入れ替わりながら二時間程歌い、予定時間になったの友希那が手を引きながらスタジオを後にした。

 

そして帰り道。

 

『やっぱり僕もスタジオ代を…』

 

「何度も言っているわ。お金は元々私が出す予定なのだから必要ないと。」

 

友希那が少しウンザリした様に言う。

 

それはスタジオを出る時から行われたやり取りだった。

 

『…僕の歌にはそれだけの価値があったんですか?』

 

「ええ、それなりに収穫はあったわ。」

 

『…何の収穫なのかわからない…』

 

慧は首を横に振りながら言うもこれ以上の問答は無意味だと悟って諦めたようだった。

 

それから二人の会話はたいして無く、無言のまま帰路を歩いていたが…

 

「っ!慧!!」

 

後ろから声をかけられて慧と友希那の足が止まる。

 

慧は声のした方向へ顔を向けるも困惑した様子だった。

 

『誰?』

 

「本当に慧なのか!俺だ!長嶋裕だ!!」

 

『…裕…』

 

それは過去に傷跡を残した元親友だった。



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28話 距離は遠く

『…長嶋…裕…』

 

慧は少し考える様に呟く。

 

友希那はその声に何故か心のざわつきを覚えた。

 

別に声音は何ともない声音なのに何か冷たさを感じた。

 

『覚えがありませんね。人違いではないですか?』

 

慧は本当に覚えがないように返す。

 

しかし何故か友希那はそれが嘘だという確信のようなものがあった。

 

そんな友希那にも目もくれず慧へ何処か必死に声をかける少年がいた。

 

「そんな!覚えてるだろ、小学校で親友だった…」

 

『俺に親友なんていませんよ。』

 

裕が最後まで言いきらない内に被せるように慧が言う。

 

その声は隠しきれないナニかがあった。

 

その冷たい声に裕は凍りついた様に固まる。

 

そんな彼に見えてない筈なのに的確に裕に顔を向け嘲るように唇を歪める。

 

『まぁ…友達の皮を被った裏切り者は居ましたけどね。』

 

その言葉に込められた冷たさとナニかに友希那は背中が粟立ち、慧と繋いでいた手を振り払いそうになるが、気づけば逆に握り締めていた。

 

「ち、違うんだ…頼む、話を聞いてくれ…」

 

裕は顔は凍りついたままにそれでもか細い声で言葉を紡ぐ。

 

『聞く義理はありませんね。それに小さい頃に親から知らない人と話してはいけないと言い含められていたんです。行きましょう、湊さん。』

 

「え、ええ。」

 

友希那は急に名前を呼ばれ少し驚きながらも正気に戻りそのまま慧の手を引いて歩く。

 

何故か彼と慧をそのままにしておくのは駄目な気がしたから。

 

少し歩いて友希那が後ろへ視線を向けると、手のひらを此方へ伸ばしながらも固まったまま動かない彼の姿があった。

 

それから重い空気のまま慧の家の前へとたどり着く。

 

『送ってくださりありがとうございます。湊さん。』

 

「っ!ええ…」

 

友希那はまるで初対面のような対応を受けたような気がして言葉が詰まる。

 

『…変な面倒事に巻き込んで申し訳ありません。』

 

それだけ言うと慧は家の中に入っていってしまった。

 

友希那は声もかけられずそのまま見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

『…最後に覚えていた声より声変わりしていて気づくのに遅れたな。』

 

慧は無機質な声音で呟く。

 

それは先日夢でも見た元親友だったのだが、まるで古い過去を思い出す様な感覚だったことに自分で驚き、あれ程憎しみを持った相手に今ではまったくもの無関心であったことを自覚して更に驚いていた。

 

しかし彼との邂逅は誰かに心を許す事の愚かさを思い出させた。

 

『ああ…そうだったな。これほどまでに冷たいんだな…現実って。忘れていたよ。』

 

羽丘に通って出会った人たちに何処か多少なりとも心を許していた自分がいることに気付いた。

 

『(流石に紗夜や日菜と距離を取るのはもう無理だけどね…)』

 

慧は苦笑いしながら玄関を上がる。

 

家の中には誰もいなかった。

 

友希那と帰ることになって迎えを頼んでいた日菜に断りをいれていたので家にいるだろう。

 

そのままリビングに向かい、ソファーに座って今日の友希那とのスタジオの事を思い出していた。

 

『やっぱり湊さんの歌声は凄い。けれどあれでもまだ未熟だと言い張るんだから理解できない。』

 

友希那の歌の実力は誰もが舌を巻くだろう。

 

しかしそれで満足できないというのだから慧は尊敬を通り越して何か暗い感情が沸いていた。

 

『…嫉妬…か。』

 

自分の器量の狭さに自嘲が絶えない。

 

『…下らない。結局は未練がましいだけだ。あれだけ家族にしか歌わないと決めていたのに。まぁ、いいか。もう湊さんが誘うことは無いだろう。俺がただの素人だとわかっただろうし。』

 

今日のスタジオでの様子を思い出してそう結論付ける。

 

その頭の中には既に長嶋裕の事など消えていた。

 

 

 

慧が帰ってきてから1時間程すると日菜がやってきて食事を作り、二人で食べてから軽く二人で喋り、いい時間になると引っ付く日菜を引き剥がして家へ帰らせ、シャワーを浴び眠りにつく。

 

 

その夜は悪夢を見ること無く、日菜が起こしに来る前に目がさめたくらいだった。

 

「昨日スタジオに行ったんだよね!どうだった!?」

 

日菜に手を引かれながら登校していると日菜が楽しそうに聞いてきた。

 

『湊さんが凄くてなんか時間貰うのが勿体ないくらいだったよ。』

 

慧苦笑いしながら応えると、日菜はむくれる。

 

「慧の歌だって十分に価値があるのに。まぁいいや今日のお昼に友希那ちゃんに聞こうっと。」

 

『お昼に…ね、来るかな…』

 

最後の言葉は余りにも小さく日菜の耳には入らなかった。

 

 

しかし慧の心配は杞憂で、お昼に友希那とリサはいつものように訪れた。

 

その事に慧は肩透かしを食らうも気を取り直し食事を始めた。

 

しかしそんな慧に他の三人は困惑していた。

 

「ねぇ、慧。」

 

『?どうした、リサ?』

 

「ん…ごめん、やっぱなんでもないや。」

 

どこかリサは居心地悪そうにしていて、慧に声をかけるも表面上は変わり無いためなにも言えずに口をつぐんでしまう。

 

日菜と友希那もそれを感じていて日菜は訳が分からず少し曇った笑顔を浮かべながら他愛のない話題を切り出していた。

 

友希那は昨日の一件があったため何も言わなかった。

 

そんな友希那を見て日菜は雑談しながら目を細める。

 

そして食事を終え、友希那達と一緒に日菜は慧のいる教室を後にした。

 

そして教室に向かう時、日菜は友希那に切り出した。

 

「ねぇ、友希那ちゃん。昨日慧と何かあったよね?」

 

表情は柔らかいのにいつもの弾んだ声音とは遠い真剣さを含んだ声だった。

 

そんな日菜にリサは少し驚いていたが、友希那は予想していたのかすんなりと応えた。

 

「別に私と何か会ったわけではないわ。ただ、昨日の帰りに慧の知り合いと出会っただけよ。」

 

「知り合い?」

 

リサは首を傾げる。

 

対して日菜は友希那の言葉を聞くと顔から表情が消えた。

 

「…それって…誰?」

 

日菜の声にもはや感情は乗ってなかった。

 

友希那はそれに気付かない振りをして応える。

 

「確か…長嶋裕…とか言っていたわね。」

 

「長嶋裕?」

 

日菜の顔に一瞬訝しげな表情が浮かぶが、直ぐにハッとして今度は微かに怒りの表情を浮かべる。

 

「そっか…アレか。」

 

その声音はまるで氷の様な冷たさを秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の投稿でした。

27話の前書き通り完結させることは諦めていませんのでどうか長い目で見守って頂けると嬉しいです。

コロナが世間を騒がせていますが皆さんも気をつけて下さい。

では、次のお話でお会いしましょう。


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29話 孤独な帰路は歪んでいて


どうも!羽丘が学食1日一回が無料設定だったことを気ラジオで知った清夜です。

ここはリサや友希那が慧に合わせて弁当にしたということで納得してもらえれば嬉しいです。

深夜テンションで書いたこともあり不安定なところもあるかもしれませんが、なにか変に思ったことや矛盾など見当たればご指摘等感想にお願いします。

では、29話 孤独な帰路は歪んでいて


~放課後~

 

「水瀬君。」

 

全ての授業がおわり、帰りの支度をしていた慧に声がかかる。

 

『湊さんですか。どうしました?』

 

「今日はなにか予定あるかしら?」

 

友希那がこの後の予定を聞いてくる。

 

『今日もいくのですか?』

 

昨日も行っただけにこんな直ぐに聞いてくるとは思わなかった。

 

「ええ、といっても今日は個人練習じゃなくてバンドで集まるのだけれど。今日の迎えは紗夜だと聞いていたし貴方もそのままスタジオに、とおもったのだけれど。」

 

『…そうですか。すいません、今日はやりたいことがあるので遠慮させて貰います。』

 

「…そう、急にごめんなさい。」

 

『いえ、それに今日は紗夜の迎え断っておきます。一人でも帰れますし、時間は有限ですからね。』

 

友希那の誘いを断り慧は立ち上がって白杖を手に取る。

 

「…そう。」

 

どこか拒絶の意志含む慧の言葉にそう返すしかなかった。

 

 

 

 

~友希那side~

 

「やりたいこと…」

 

私はせめて手を引いて校門まで送ることすら出来ずに慧を見送っていた。

 

杖をつきながらも躊躇い無く進んで行く姿は本当に目が見えないのか不思議に思うくらいだ。

 

しかしそんな事をぼんやりと思いながらも頭を支配しているのは昨日の帰りの光景。

 

「(誰かはわからないけど水瀬君の知り合いだったことは間違いない。もし彼にまた出会うのが嫌で誘いに乗らないのだとしたら…)」

 

そこまで考えて私は思考を断ち切るために首を振る。

 

「(まだ今日断られただけ。また誘ってみましょう。本当に用事があっただけかもしれない。)」

 

そうして私はリサに待っておくよう伝えた教室へ向かう。

 

けれど歩きながら私はもう彼が誘いにのることは無いのではないかという予感めいたものを感じて不安が胸に広がる。

 

~side Reset~

 

 

 

友希那の予感は正しく、一週間以上誘いは断られていた。

 

毎日誘っていたわけではないが、5回程断られている。

 

自然とお昼の時も気まずい雰囲気を隠せなかった。

 

それでもリサと日菜は何時もの態度を装って会話していた。

 

「ねぇ、聞いてよ慧。私たちのバンドに新メンバーが増えたんだ!」

 

『へぇ、そうなんだ。』

 

「うん!燐子っていうんだけど、キーボード担当してるんだ~。慧も顔出してみない?」

 

リサは自然に慧のを誘ってみた。

 

それは最近あえて触れなかった事で、内心リサも緊張していた。

 

『まぁ、そのうちね。』

 

しかしそんなリサの言葉ですらあっさりと流されてしまう。

 

「っ…そっか、うん、約束だよ?」

 

リサは今の答えにその気が無いのは悟っていたがそれでも約束を取り付けようとする。

 

しかしそれを遮るのは…

 

「どうせ来るつもりなんてないのでしょう?ならきっぱりと断ったらどうかしら?」

 

冷たい声で遮ったのは友希那だった。

 

その友希那の一声にその場は凍った。

 

『そう、湊さんの言う通りですね。僕はもう貴方達のバンドに関わる気はありません。ですので今井さん(・・・・)もう顔出すことはありません。』

 

「…えっ?」

 

慧はそんな場の凍った空気の中で拒絶の意志を突きつけた。

 

その明確な拒絶にリサはだけでなく、遮った友希那ですら目を見開いていた。

 

「…っ!行きましょう、リサ。」

 

「え…えっ!友希那!!」

 

いち早く立ち直った友希那はリサの手を取って教室を出ていく。

 

「友希那ちゃん!リサチー!!」

 

日菜の声は悲痛さを含んでいて、それでも友希那の足を止めることは出来なかった。

 

 

 

 

「ちょっと!友希那!!」

 

慧のいる教室からある程度離れた所で友希那はリサの手を離す。

 

「…友希那、どうしちゃったの?急にあんな…」

 

リサがいつもの幼なじみとは違う雰囲気に戸惑いながら聞く。

 

「…っ…なんでもないわ。」

 

友希那はなにかを言いかけようとしてやめた。

 

そんな友希那にリサは更に不安になったが、さっきの慧の言葉のショックもあって、そっか…と返してそのまま会話が途切れてしまう。

 

そんな中予鈴が鳴り、二人は重い足取りのまま教室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

今日の帰り道も一人だった。

 

ここのところずっと一人で帰っている。

 

今日のお昼のこともあり、日菜はいつもより強引に一緒に帰ろうとしていたが、今日は元々アイドルの仕事もあり、少し強めに言い聞かせ、紗夜を呼ぶと嘘を吐いたら渋々ながらも諦めた。

 

帰り道はなるべく一人になりたかった。その理由は…

 

 

 

 

~♪

 

『っ!』

 

ポケットの中のケータイが鳴る。

 

その着信は目が見えなくても誰かわかる。

 

『…もしもし、水瀬です。』

 

「ハロ~、慧くん。今日もちゃんと一人みたいね。」

 

ケータイから聞こえてきたその声に慧は唇を歪める。

 

『ああ、そうだよ。お前がそう望んだんだろ?』

 

「なんの話かしら?私はただ随分と大切な人(・・・・)が増えたのねって言っただけよ?」

 

『…俺の大切な人はもうこの世にはいないさ。何度もそう言っている。』

 

慧は無機質な声音で返すがその表情は険しかった。

 

「あら、そうだったわね。その大切な人を助けるために私の父親を殺したのに結果助かったのは自分だけだものね?でもその割には彼女達の事を気にかけてるみたいじゃない?こうして自分から遠ざけるくらいなんだし。」

 

『別に…元々距離を置くつもりだったから寧ろ好都合だっただけさ。』

 

「あら?どういう心境の変化?」

 

『別に、誰かと仲良くした所で所詮は裏切られるだけだと思い出しただけさ。』

 

「そう、でも当然よね。人殺しと喜んで仲良くなりたいなんて考えるのは同じ人殺しか人殺しの子供くらいだもの。」

 

『…ゾッとしないな。血の雨がふる未来しか想像できない。』

 

慧は立ち止まって周囲に耳を凝らす。

 

「これでも結構本気で言っているんだけどね。」

 

『(近くにいない?周りの喧騒も聞こえないから室内か?だけどまるでその場を見ているように話しかけてくるこいつは一体...)』

 

「そろそろ時間ね。だれも巻き込みたくないなら…あまりイチャイチャしちゃダメよ?惨めな思いしている私と比べてうっかり殺しちゃうかもしれないから…もう少しよ…もう少しで…」

 

その言葉を最後に通話が切れる。

 

『長門…』

 

呟く慧の声は風に流され消えていった。

 

 

 

 





29話ではヒロインとの間に亀裂が出来てしまいます。

どうしよ…

一応この後の展開の構成は出来ているのですが、ご都合主義になりそう…

それでも諦めず読んでほしいというのが自分の思いですので、感想や、軽い批判等は受け付けてます。

ただ、辛辣な批判はショックを受けすぎるので、程々にお願いします…

では次でお会いしましょう!



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30話 逃れられないもの


再びかなりの期間が空いてしまいました…本当に申し訳ないです。

取り敢えずこの一週間にあと1話はあげようとおもいます。

では、
30話 逃れられないもの


友希那達との仲が拗れて更に一週間程、お昼に友希那とリサが来ることは無くなった。

 

前と同じ、日菜と二人だけの時間だった。

 

しかし、4人で食べていた時間はそんなに長かったわけでもないのに日菜は寂しさを覚えていた。

 

「…」

 

『…』

 

二人の間にあるのはほとんど沈黙だけで、日菜はどこか腫れ物を扱うような態度だった。

 

「(なんだろう…なんでこんなに慧が怖く感じるんだろう…)」

 

日菜は慧と友希那の仲が拗れる少し前からどこか距離を取ったいるような感じはあった。

 

いつもその距離感を気にせず平気で踏入って傍にいることができた。

 

しかし、拗れてからの慧はまるで周りが見えない壁で覆われているようで、触れられる筈なのに何故か触れようとする手が途中でとまってしまうのだった。

 

最初の内はそれでも無理やりその手を取っていた。

 

『日菜、これからは手を繋がなくて良いよ。』

 

「え?...ど、どうしたの?」

 

『最近一人で帰ることも増えたし、杖を使うのも慣れないといけないからね。ただでさえ色んな手助けをしてもらってるんだ、一人で出来ることは一人でしないと。出来ることも増やさないとね。』

 

慧のその一言で日菜は手を取れなくなっていた。

 

日菜はわからなかった。

 

普通ならそれすら笑い飛ばして強引にでも手を取れていたのに。

 

それは慧と一緒に過ごしているなかではじめての心からの拒絶だった。

 

これまで慧がここまで日菜を拒絶することがなかった。

 

そのはじめての拒絶に日菜はどうして良いのかわからなかった。

 

その日の帰りも慧は一人で帰っていた。

 

ただ、その日の帰り道はいつもと違う帰り道だった。

 

その道はあの事件がなければ今でも帰るはずだった家がある道のりだった。

 

そしてその家の前まで来ていた。

 

その時、慧の電話が鳴る。

 

「ハロー、慧くん。今日も一人ね。」

 

『ああ…』

 

慧が答えるともに、近くで電車が通る。

 

「随分と不便になったんじゃないかしら?これまで周りに助けられてきた貴方なら随分と心細いでしょう?」

 

『別に、登下校くらい一人でも出来るさ。』

 

「そう言いながら…本当は寂しいんでしょ?私が迎えに来てあげましょうか?」

 

『くだらないこといってないで要件を話したらどうだ?』

 

要件を切り出さない長門に苛立ちを覚えて少し声を荒げる。

 

「ええ、そうね。近々迎えが行くからよろしく。」

 

『迎え?』

 

「ええ、いい加減そろそろ終わりにしましょう?貴方は私を殺したいんでしょ?」

 

『大人しく殺されてくれるのかよ?』

 

「いいえ、どっちが先に目的を達成するか…その舞台を用意しただけ。まぁ、それまで待っていることね。」

 

長門はそう言って電話を切った。

 

『…終わり、か。』

 

長門の言葉が忘れられない。

 

『少なくとも一方的に殺すつもりは無いようだな。それに、どうやらあいつは近くで見張っているわけでもないようだ。』

 

先ほど近くで電車が通ったときに長門の電話から電車の音がしなかったことで確信をもった。

 

『そんな事はどうでもいいか。』

 

慧はそう言って自分の家から離れた。

 

慧の行く先には一つの公園があった。

 

来るのに慣れているのかその公園のベンチへ腰かける。

 

この公園はあの事件の前によく遊んでいた場所だった。

 

今では遊ぶ子供がいないのか静かなものだった。

 

慧はなにも考えずただただ思考を停止していた。

 

そんな慧に声をかける人がいた。

 

 

 

~友希那side~

 

「あれは…水瀬君?」

 

個人練習の帰りにいつも通る公園で慧の姿を見つける。

 

何故こんな所にと一瞬戸惑ったがすぐにその考えを振り払う。

 

「(彼はもう私たちとは関係ない。それは彼が自分で関わらないと言ったのだから。)」

 

友希那はそう思って公園を通り過ぎようとする。

 

だが途中でその足が止まってしまう。

 

そして私は彼の元へ歩き出す。

 

「こんな所でどうしたの?水瀬君。」

 

私が声をかけるとこちらへ顔を向ける水瀬君が驚いているのか口を半開きにしていた。

 

『湊さん?貴方こそどうして?』

 

「私は練習の帰りよ。」

 

そう言って私は彼のとなりに座る。

 

『…僕は思い出していました。ここで遊んでいた思い出を。』

 

「…そう、貴方はいつも過去を見ているのね。」

 

「先の未来を見ることが出来ないから、過去しか見えない。」

 

「過去は変えられないわ。でも未来は自分で作れる。例え見えなくても…手探りでも…自分のやるべきことさえ見据えていれば。違うかしら?」

 

友希那は凛とした声音で言いきる。

 

『…強いね、君は。でも危うくもある。』

 

友希那ははぐらかされたと思って顔をしかめる。

 

『君は僕が過去に捕らわれていると思っているんだろう。でもね、違うよ。』

 

「え?」

 

『決して取り戻せないもの、それは過去…そして逃れられないもの…それは自分だ。』

 

「自分から…逃れられない?」

 

友希那は理解できないように呟いた。

 

『そう…自分からは決して逃げられない。いくら自分が変わろうとも…根本にあるものは変わらない。それを受け入れられず自分は変わったなんて言えるのはただ自分から逃げているだけ。いつか自分に呑み込まれる。』

 

「…よくわからないわ。」

 

『そうだよね、ごめん。ただ1つ。君は自分のこと全て理解出来ている?』

 

慧からの問いに友希那は眉を寄せる。

 

「当然じゃない。自分を全て理解できるのは自分だけよ。」

 

『…そっか、ただ忘れないで。自分には嘘をつけないこと。』

 

「…今更ね。」

 

友希那は聞くまでもないというように首を振る。

 

そして慧は立ち上がる。

 

『それじゃあ、さよなら。湊さん。』

 

「送っていくわ。」

 

『いいよ、大丈夫。一人で帰れるから。』

 

友希那も立ち上がり手を取ろうとするが、慧が断る。

 

「…そう。」

 

友希那はそう言うと慧を追い越し去っていった。

 

心なしか先ほど慧と話していた声音より冷たく感じた慧だったが、今更だと思い帰路についた。

 

 

 





自分の小説を読み返して思ったこと、日菜が原作の日菜より大人っぽいな。

自分はどうもああいうはっちゃけたキャラ書くのが苦手な様です。


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