死の支配者と星の御子 (識神)
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設定1

当小説の主人公の設定となります。
死なない事を目的に構成されたビルド・装備。
ソロ専て、どうしても器用貧乏な構成になりますよね。
魔法の位階は、公表されているもの以外は独自設定です。


  プレイヤー名:
  エン・シルキティアス・ギルバーティス

  カルマ値:0(中立)

  レベル:100
  種族レベル:水精霊=5、風精霊=5、古の光精霊=5、プライマル・プリズム・エレメンタル=10、星の子(ガイアード・コア)=5

  職業レベル:テンプル・ナイト=5、ロード・ナイト=10、クレリック=5、神官=5、ビショップ=5、召喚士=5、パラディン=10、パラディン・ロード=5、星御子=10、星の執行者=10

  ビルド構成:ソロで動く事が殆どであった為、防御・回復・バフに特化した構成になっている。低い攻撃力は召喚やバフで補っている。『ユグドラシル絶景天体観測スポット踏破イベント』にて、優勝した際に与えられたユニーク種族『星の子』と種族に依存するユニーククラス『星御子』・『星の執行者』がかなり強力だった為、よほどの局面でなければ、死ぬことは無くなった(但し、強くなったとは言えない)。

  主武装:
  星剣シリウス:神器級片手直剣。使用者の能力向上、炎・神聖属性の攻撃にボーナスがつく。斬りつけた相手に炎属性に対する強力な耐性低下を付与し、炎属性のスリップダメージを与える。第10位階魔法『フレアー・オブ・ザ・サン』を使用可能(リキャストタイムは300秒)。

  デュアル・ザ・サン:神器級重鎧。使用者の各種耐性強化。リジェネレーション付与。水・風・地属性に対する完全耐性。炎・光・神聖属性吸収(ダメージの5%)。1日に2回、HP全回復・ステータス異常回復・デバフ解除・装備中のアイテムに限り耐久値を回復する効果を使用可能(リキャストタイムは3時間)。

  他:その他諸々。本編で出てきたものから順次記述。

  《リング・オブ・ゲートキーパー/転移門の守護者の指輪》:伝説級指輪。《ゲート/転移門》、《グレーター・テレポーテーション/上位転移》が込められている指輪。リキャストタイムが長めに設定されている為、連続使用には向かない。前者のリキャストタイムは30分、後者は10分。

 トータルエクリプス:伝説級騎士盾。レベル50以下の攻撃を自身の防御力の数値分上乗せして反射する。レベル51以上89以下の攻撃に対し3%のダメージを軽減する。腐食効果に対する強い耐性を持つ。



  所持しているワールドアイテム:

  星喰い(ほしくい):
  指輪型のワールドアイテム。エンが(景観的な意味で)好んで探索していたダンジョンの隠し小部屋のギミックを抜けた先に安置してあった。
  成長型のアイテムで、装備していると取得経験値の10%を食らってレベルアップしていく。転移時点でのレベルは23(最高レベルは50)。
  1レベル毎に能力向上、取得魔法スロット拡張(1レベルで3枠)、取得スキルスロット拡張(1レベルで1枠)のどれかを選択できる。1度振り分けると、レベルがリセットされない限り再振り分けができない。
  能力向上に関しては、任意のステータスを4%上昇させる。例えば、50レベル全てをHPに振り分けると、HPは元の300%になる。
  スロット拡張に関しては、スロットにセットした魔法・スキルは任意で変更が可能。但し、変更後24時間は変更不可になる。
  セット可能な魔法は取得しているクラスが取得可能であれば、前提条件を無視してセット可能。
  スキルもまた同様に、取得している種族・クラスが取得可能なスキルを前提条件を無視してセット可能。例えば、クラスレベルが1でも、レベル10で取得が可能になるスキルをセットできる。
  転移時点での振り分けは、能力に10(HP・MPに5ずつ)、魔法スロット拡張に5、スキルスロット拡張に8である。


  外見:
  種族「星の子」の種族特性により人型をとる。18〜20歳くらいの細身の青年。群青色の髪に青い瞳。中性的な容姿をしている。精霊系の種族特性に引っ張られている為か、感情による表情の変化はやや少なめ。
  精霊型の外装時は、流動的なオーラ状の物質がひとまとまりになった様な姿になる。

  性格:
  大人数でワイワイやるよりは、1人で黙々と好きな事をするタイプ。社交的で知り合いは沢山いるが、本音で語れる親友を持たないタイプ。転移後は種族特性に引っ張られて、やや尊大な考えをする時がある。

  リアル事情:
  実年齢は転移時点で28歳。高卒まで行けるくらいには裕福である。職業はとある企業の研究助手。あまり自分に立ち入らせない性格が災いして、童貞である。



※1『星喰い』のステータス向上に関する記述で、4%が1レベル分ずつ乗算なのか、加算なのかに関わる修正提案を頂きましたが、あとの補足説明で加算である旨を説明しておりますので、このままとさせて頂きました。
※2『星喰い』のステータス向上については、素のステータスを参照とします。他の装備の影響は受けない設定とさせて頂いております。

ご提案下さった事に感謝いたします。


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第1章:異世界転移 第1話:Prologue

 DMMORPG『ユグドラシル』

 此処には現実の世界(リアル)では手に入れることができない物が存在していた。

 自然、住居、食べ物、調度品、嗜好品……。この世界(ユグドラシル)で手に入る素材、通貨、時には現実の資産をつぎ込めば、望むものほぼ全てを再現する事ができた。

 無論、それらがまがい物である事を殆どのプレイヤーが十全に理解していた。

 だが、それでも自らの儘ならぬ欲をほんの少しでも満たしてくれるこの素晴らしき世界を、プレイヤー達は愛していた。

 そして『エン・シルキティアス・ギルバーティス』もまた、この世界に魅了され、この世界を愛し続けたプレイヤーの1人である。












「んー……。終わっちゃうんだなー……」

 時刻は23時30分。

 精霊系の種族が多く集まる村、その外れにある、村を一望できる丘の上で、朝からやっていた作業の後始末をつけながら感慨深く呟いた。

 基本的にソロで行動していた自分には、物や人などのしがらみが比較的少ないのだが、それでも約10年の積み重ねは伊達ではなかった。

 最も時間が掛かったのは世話になったプレイヤー仲間への挨拶だったが、それはなんとか終わらせた。

 最終日だけあって、大概は早いうちからログインしていて捕まえるのに苦労がなかったが、それでも2、30人連絡がつかない奴らはいた。だがまぁ、それも仕方がないだろう。

 あれ程この世界で自然の再現に心血を注いでいたあのブルー・プラネット氏ですら、だいぶ前に引退していたのだから。

(そういえば、彼が作った夜空を模した天井…結局見ずに終わってしまうなぁ……)

 昔、見にこないかと誘われた事があったが、かの悪名高いアインズ・ウール・ゴウンの拠点にお呼ばれするのは中々に畏れ多く、また自分は割りかしと人間種とも友好的にやり取りしていた為、他のプレイヤーに妙な勘繰りをされるのも面倒だと、機会を先延ばしにしていたのだった。

 結局、一度もお邪魔する事なく終わりを迎えてしまった事に、誘ってくれた自然愛好仲間やギルド長さんに対する申し訳なさを感じてしまう。



 挨拶と同時進行で進めていたのは、所持アイテムの目録作りだ。

 まぁ、やっぱりこれだけのめり込んだゲームの証を残しておきたいという、タラタラな未練を少しでも慰める為に、画像データに残そうと思った訳だ。

 自分はアイテムボックスを課金で限界まで拡張しており、加えて《インフィニティ・ハヴァザック/無限の背負い袋》を重ね履きする手法ーーどこに何が入っているか判り難くなる為、上級者ほどやらないーーにより、相当数のアイテムを所持していた為、これまたかなりの時間を費やす事になった。

 もっとも、元々几帳面に整理整頓を心掛けていた為、目的のものを探す事よりも、いちいち取り出したアイテムに対する感傷に浸っていた事が時間浪費の主な原因なのだが。

 取り出していたアイテムの片付けを終えて時計を確認すると、残り時間は10分を切っていた。



「さて……と、あとやり残した事は……」

 指折り数えながら確認をし、最後にやると決めていた事以外を無事に済ませた事が分かると、《フライ/飛行》の呪文を唱えて大空に舞い上がる。

 グングンと高度を上げる。この世界が定める限界まで飛び上がると世界を見渡す。

 最期は憧れて止まなかった星空で…と決めていた。

「この星空も見納めか……。昔資料で見たやつに比べて、かなり適当なんだけど、それでも最初は感激したっけな……」

 様々な資料である程度本物の星空の知識を蓄えた今にしてみれば、お世辞にも素晴らしいとは言えない星空のエフェクトを見ながら、この世界にやってきた時の事を思い返した。






 23時58分


「楽しかったなぁ……」


  呟いた言葉は静かに空に溶け込んでゆく。


  「ふふ……。これから先、ここまでのめり込む事は無くなるんだろうなぁ」


 自分はいい歳の大人だ。ここまで何かに夢中になる事も、無くなっていくだろう。

(さぁ、この世界の最期を感謝の気持ちで迎えよう)

 目を閉じてサービス終了による強制ログアウトを待つ。





 23:59:56、57、58、59














 00:00:00、01、02、03……

(ん……? ログアウトのアナウンスが流れない……?)

 本来なら流れるずのアナウンスが流れてこない事に違和感を覚える。

 最後の最後にケチがついたような気がしたが、あの運営ならやりかねないと、なんとも締まらない気持ちで仕方なしに目を開く。



「なっ!?」



 目の前に広がるのは規則的に並ぶアプリケーションのタイトルなどではなく、満天の星であった。



始めてしまいました。

エタらぬ様に続けたいところです。

※オリ主情報を前に差し込めたので、次回投稿は第2話ですね。



スペッキオ様、誤字報告有難うございました。


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第2話:貴方の精神を沈静化

〜前回あらすじ〜

エン「締まらない終わり方しやが……ふぁっ!?」


  目の前に広がる満天の星。

  さっきまでのどこかチープなものじゃない。


  「これは……どういう事だ?」


  眼に映る限りなく本物に近いと言える光景はさることながら、そもそも何故自分がログアウトしていないのかが謎だ。

  (運営のサプライズ……?)

  いや、それはない。ユグドラシルの継続であろうが、ユグドラシル2の実装だろうが、顧客であるユーザーへ一切の情報を出さない意味がない。

  いくら客側の選択肢の狭い世の中であっても、商業的に宣伝をしないなんて選択はあり得ない。

  (やはり不具合か? 何か別ゲーのサーバーと混線した?)

  いずれにせよ自動でログアウトされないなら、コンソールからログアウトしなければならない。


  「あれ? コンソールが出ない……?」


  慣れた動作でコンソールの呼び出しを試みるが、何度試しても上手くいかない。

  一瞬途方にくれて、ハタ……と気付く。


  「そういや、さっきから視界にステータスバーも時計もマップも表示されてない……。やはり、システムエラーの類か?」

  これは最早いちプレイヤーで対処出来るトラブルではない。

  GMコールで運営にコンタクトを取るべきだと行動に移すが、その行動は無駄に終わる。


  「GMコールが通じない……だと? どう対処しろというのだ、このバカ運営!! ……って、むぅ?」


  あまりの事態に声が自然と怒気を含むが、怒りの沸点に差し掛かる直前、水を浴びせられた様に感情が萎んでしまった。

  (???)

  今までに感じた事がない感情の動きに戸惑ってしまうが、お陰で思考がクリアになった気がした。

  疑問は何一つ解決していないが、クリアになった思考が一度地上に降りるべきだと判断する。

  自分と同じ様に取り残されているプレイヤーがいるものと思われるし、空を飛んでいては不測の事態に対処しきれない場合もあるだろう。

  行動を起こす際、システムのエラー中にまともな動作が取れるか心配ではあったが、それは杞憂におわる。

  いやむしろ不自然な程自然に、身体と動作が滑らかに噛み合ったのだ。

  (操作性が向上している? いや、操作というより本当に自分の体の様な……)

  新たな疑問が湧き出た事に頭を抱えそうになるが、そうはならなかった。

  地上近くまで降りた自分の目に映ったものが、さっきまで作業をしていた精霊の村ではなかったからだ。


  「っっっ!! ……」


  一瞬驚きでパニックになりかけるが、また感情が何かに引っ張られるように萎んでいく。

  一体何なんだと釈然としないのだが、この異常事態のなか少しだけ有り難みも感じていた。再び冷静さを取り戻した頭で、もう一度足元を観察する。

  やはりさっきまでいた村ではない。建物の配置は違うし、建物の造りもだいぶ粗末に見える。何より地形が大きく違う。方角が定かではないが、村の向こう側に大きな山脈が横たわっている。山脈と村の間には森林が広がっているようだ。

  それに自分と同じ様に取り残されたプレイヤーがいるのなら騒ぎになっているはずだが、村はシーンと静まり返っている。

  村の中央にある他の建物より幾分か大きめの家の入り口に、小さな灯が点っているをみるに廃村という訳でもなさそうである。


  「俺以外の取り残された者はいなさそうだ……。静かなのは単純に夜中だから……という事か?」


  流石にこの状況にすぐさま慣れて、『さぁ、明日に備えて寝ましょう』なんて猛者が居るとは思いたくない。


  「今は情報が欲しい。夜闇に紛れて偵察をさせてもらおう」


  混迷極める状況の中、正しい判断をする為には生の情報が少しでも欲しい。この村に住むのがとてつもない化け物である可能性が無いわけではないが、現時点での情報だけで判断すれば、少なくとも夜は休息を必要とする種族であるはず。

  意を決して明かりの灯る家から1番離れた建物の側に着地する。念の為に《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》をかける。

 飛行魔法の効果が継続していたから、魔法は使えるはずと考えていたが、どうやら当たりのようだ。しかもコンソールを開けなくても、魔法を使う事に意識を集中させると、自分の残りMPや魔法に付随する情報が意識に流れ込んでくるではないか。

  (便利になってる)

  一体全体どういう仕組みなのか分からないけど、今は有り難い。

  村の中を慎重に見て回りながら情報を集める。家は木造、金属の使用は最低限、ガラスが濁っているうえ濁り方が均一じゃない、家畜を飼っているようで獣臭い…?


  「匂いを感じる? いや、ありえない……」


  最先端技術を使っても嗅覚の再現は不可能なはずだ。何千・何万にも及ぶ化学物質のパターンに加え、個人ごとの差異が大きい感覚。

  だが、今まさに自分の嗅覚は匂いを感じている。鼻に意識を集中させると、獣臭だけではなく草の青臭い匂いや、微かな煙の匂いを感じるのだ。

  匂いを感じるという情報から、1つの可能性が現実味を帯びて頭をもたげる。

  (間違いない。ここは仮想の世界ではない)

  そう。ここはきっと現実の世界。何がどうなったかは分からないが、どこか不明の場所に転移してしまったと考えるべきだろう。そう確信してしまえば、色々な事に合点がいく。

  そして何よりも自分にとって大事な事に気付き身震いする。

  (つまり、今空に散りばめられた星々の輝きは本物! ……ってあれ?)

  歓喜の感情が高ぶっていき、爆発寸前で3度めの沈静化が起こる。マイナスな感情だけでなくプラスな感情にも沈静化が働く事がわかり、何だか居た堪れなくなる。

  ともかく、ここが現実世界ならば尚更情報が大事だ。得るべき情報は山程あるが、まず確認するべきは自分に関する事だ。何ができて何ができないのか、アイテムは発動するのか、装備品の性能は十全に発揮できるのか。

  ともすれば、一先ず長居は無用だ。先程考えた様にここが化け物の集落である可能性もある訳だし、有無を言わさず戦闘になるなんてのは御免被りたい。

(モンスターの心配はあるが、1度山脈の裾に広がる森に身を隠すべきか。いざとなったら逃げ出せばいい。魔法は使える訳だから転移系でなんとかなるだろう)

  再び飛行魔法を発動させると、先程確認した山脈に向かう事にした。







  距離にして5キロ程だろうか。村から山脈に向かって数分で森の端に辿り着いた。単純にゆっくり下降していた時と違い、速度を上げて飛んでいる間に感じる風が気持ち良かった。

  飛行魔法を切り再び大地に足をつけると、今度は徒歩で森の中へ分け入っていく。


  「とりあえず、目立たない所に小さな小屋でも建て、仮の拠点としよう」


  森の外からは見えず、だからといってあまり奥にはいかない様するべきだろう。あまり奥に入り込んで、強いモンスターに出くわしたら目も当てられない。

  数分ほど進むとちょうど良さそうな場所を見つけた。こちらからは薄っすら森の外が見えるが、森の外からは見辛いはずだ。


  「さて、拠点作成用アイテムはっと……」


  徐に空中に手を伸ばすと、空間の裂け目に手がズブリと沈んでいく。少々面食らったが、ユグドラシルではウィンドウが開いてアイテムの選択画面が表示されたことを考えれば、現状の仕様はまだ納得のいくものだ。

  (基本的なシステムは生きてるけど、視覚に直接表示されるタイプのインターフェースは再現できないって事なんだろうな)

  手慣れた手順で拠点作成系アイテムが収められている《インフィニティ・ハヴァザック/無限の背負い袋》を取り出すと、中から《シークレット・ログハウス/秘密の丸太小屋》のカプセルを引っ張り出した。

  取り出したカプセルを平坦な地面に投げると、一瞬でシンプルな外観のログハウスが目の前に現れた。

  《シークレット・ログハウス/秘密の丸太小屋》はシンプルな見た目ながら、低位ではあるが認識阻害系の魔法がかけられていたり、室内が魔法的な作用によってかなり広くなっていたりと、中々使い勝手がいいアイテムだ。

  室内設備も簡素ではあるが、寝具や食料庫、風呂も付いており、食料庫には初めから飲み物や食べ物が少量ではあるが備え付けられている。

  (やれやれ……、これでようやく一息つけそうだ)

  中に入ろうと扉の取っ手に手をかけたその時。


  「ウガーーーっっっ!!!」


  森の奥の方からけたたましい雄叫びの様な声が聞こえた。



時を同じくして。

モモンガ「世界征服なんて面白いかもね」
デミウルゴス「!?」



さて、第2話です。
異世界認定早すぎね?って気持ちはよく分かる。
当小説の主人公は意外と割り切れるタイプなんでしょう。


スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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第3話:闇の小精霊

〜前回あらすじ〜

エン「っ!?異世界転移もの…だと?」


  「なんだ今の声………?」


  森の奥から聞こえたそれは、少なくとも自分の知る人間のものではない。また、ユグドラシルの魔物が放つそれよりも生々しい印象を受ける。

  こちらに向かって来る気配は感じないが、どう転ぶかは分からない。

  さて、どうするべきか。正直、今は積極的に動きたくない……。とはいえ下手に後手に回って、致命の事態に陥る事は避けるべきなのもわかってはいる。


  「そうだ……。今こそ色々試すべきだよな」


  これまでに魔法が使える事は確認できた。ならば今度はスキルを試してみなければならないだろう。それに、眷族の作成スキルが使える様なら、そいつを偵察にやればいいじゃないか。

  (さて、偵察に向いているのは風か闇か……。森の奥なら闇の方が紛れる事も容易だよな…)


  「下位精霊作成・闇の小精霊(ニルヴァ)!」


  頭の中に流れ込んでくる一覧から目的のスキルを見つけると、力を込めた声を発する。

  一呼吸の間を置いて、暗闇から真っ黒なエネルギーの塊が無数に集まりはじめる。集まったそれは1つに纏まりグニグニと蠢きながら形を成していく。

  その様子を眺めながら、先程使用したスキル以外の情報もつらつらと頭の中に流れ込んできた事を思い出し、いちいち確認したい気持ちになるが、後回しにするべきだと自制する。

  そしてうごめく真っ黒な塊は、ついに自分のよく知っている姿を形取る。

  闇の小精霊(ニルヴァ)はレベルにして25の精霊系のモンスターである。見た目は、50センチくらいの真っ黒な雫状の身体に大きな1つ目、崩れかけたコウモリの様な翼が1対生えている。時折雫のてっぺんの尖った部分をピョコピョコと伸縮させているが、正直不気味さの方が強い為に、なんともシュールな絵面を作り出している。

  ちなみに、夜の時間帯や光量の少ないダンジョンではステータスにボーナスがかかり、実質レベル30程度になる。一応闇に紛れて死角から攻撃したり偵察する能力を有しているが、カンストプレイヤーからすれば弱すぎる為、ほぼ使い道の無い産廃モンスターである。

  (どうしよう……不安しかない。しかし、あまり強い眷族を向かわせて藪を突く真似も控えるべきだろうし)

  呼び出したものの、踏ん切りをつけられ無いでいると、頭の中に声が響いてくるのを感じる。


  『ドウゾ、何ナリトゴ命ジクダサイ。我ガ主人』
  「(うわっ、喋れるんだ……。ちょっとびびった)そ、そうか……? で、では、ニルヴァ。これより小屋から1キロの範囲で森の探索を頼む。お前の特性を活かし、可能な限り隠密に遂行してくれ。戦闘は極力避けるべきだが、この小屋に向かおうとする魔物がいたら、囮になり反対方向へ誘導する事。探索が終わり次第、帰還して報告しろ」
  『カシコマリマシタ』


  闇の小精霊(ニルヴァ)に命じると、彼(?)は一度で内容を理解したらしく、真っ直ぐに森の奥に向かっていった。

  (おや? 姿は見えないのに何をしているかが何と無くわかるぞ?)

  どうやら、スキルで作成したモンスターとは不思議な繋がりで結ばれるようだ。これならば、異変があった時になんらかの形で知覚する事ができそうだ。

  (ようやく一息つける)

  小屋に入りながらふぅーっと長い溜息を吐いた。
















  結果から言えば、どうやら闇の小精霊(ニルヴァ)の偵察はうまくいったようだ。彼の報告によれば、ゴブリンやオーガなどが暮らしているようだが、いずれも彼の足元にも及ばぬレベルであるとの事。雄叫びの主はオーガのようで、例え集団で押し寄せてきても何も問題はないと思われる。


  「ふぅ……やれやれ。ここに拠点を構えた事は問題なさそうだ……」
  『主人ハ我々精霊ノ王デコザイマスレバ、ナニモ恐レル必要ナドナイト愚行イタシマス』
  「あ……はい………。えっと……、目的は達成したから、帰ってくれていいかな」
  『御意』

  なんだか盛大な思い違いをしているようだが、恐らく否定をしても無駄になると思われたので、適当に流して帰還を命じる。

  闇の小精霊(ニルヴァ)は黒い霧の様に散り散りに消えていった。

  彼が偵察から帰って来るまでの間、自分はというと一通りの確認を済ませていた。対象となる存在が居ないとわかりづらい効果のものもあったが、習得しているスキルはほぼほぼ機能しているようだ。

  しかし、改めて確認すると知覚スキルや探知スキルも持っていたのに、完全に失念しアワアワしていた事が酷く滑稽に思えた…。

  (流石に疲れたな……。いや体ではなくて心が……)

  とりあえず魔法やスキルに関しての大まかな確認は終わったし、あとはおいおいやってくしかないだろう。

  不思議と眠気は無いが、兎に角気疲れしてしまったので床に入ることにする。眠れずとも目を閉じてじっとしていれば、少しは疲れも癒されるはずだろう。


  「おやすみなさい……」


  誰に聞かせるでも無く、癖になっている言葉を呟いて、室内の照明を落とした。



時を同じくして

セバス「お一人で出ていかれるなど…クドクドクドクド」
モモンガ「ごめんなさい……」



さて、第3話ですね。
ニルヴァは何というか、『バハムートラグーン』のムニムニを真っ黒にしたイメージです。

エンがここまでスキルを使わなかったのは、完全に失念していたからです。

次回はじっくり「何ができて何ができないのか」の部分に焦点が当たっていきます。
彼が現地人と交流できるのは、あとどのくらい先になる事やら……。


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第4話:『エン・シルキティアス・ギルバーティス』

〜前回あらすじ〜

エン「しゃべったーー!?」


  「おはよ〜…………」


  眠気は全く無かったけど、寝る事自体は可能なようだ。床から起き上がり、何となく凝り固まっている気がする四肢をほぐすように伸びをする。


  「腹が減らないって、不思議な感覚だな……………」


  現実であれば必ず感じていた欲求を感じない事に違和感を覚えながら、部屋に備え付けられている姿見の前に立つ。昨晩からの出来事を思い返しながら、自分の体について確認を始める。

  まず、姿形はユグドラシルのアバターのままである。元々実体が曖昧な精霊種を選択していたが、『星の子』と言うユニーク種族を取得した後、人間の姿のアバターを設定できるようになった。

  異形種然としたアバターでいた頃はPKを狙われる事も多かったが、人型を設定してからはそれもだいぶ減ったので、大いに助かったのを覚えている。

  中性的な見た目は、精霊種には性別が無いと言う設定からそのようにした。現実の自分はモロ東洋人な顔立ちだし、鏡に映る端麗な姿とは似ても似つかない。

  (オフ会とかに出てたら、詐欺とか言われるのかな)

  次に精神的な作用だ。感情の起伏が最大値を振り切る前に沈静化される。昨日の様な状況では随分助かったわけだが、プラスの感情にも沈静化が働くという事は、安全装置として機能しているわけではない……という事だ。

  後は生理的な部分。眠気は感じないが睡眠は可能。身体的な疲労も感じないようだ。空腹も感じないのだが、飲食は可能。これについては備え付けの食料ですでに試した。


  「これってあれか? フレーバーテキストが現実になってるって事か……?」


  だとすれば納得がいく。確かユグドラシルの精霊種のフレーバーテキストは、精神異常無効、疲労無効、飲食不要、性別不明……とかだったかな。あと細かい部分はうろ覚えだ。


  「そういや、一応ついてる(・・・・)けど使えるんだろうか?」


  何の事かと言えばナニの事である。性欲は正直無いと言っていい。試しに現実世界でよくお世話になっていた絵面を思い出してもみたが、反応はかなり鈍かった。

  大体、飲食不要で排泄も多分必要無い状態で、そっちにも使えないとなれば完全にただの飾りである。

  (はぁ。不能ってのもなんか釈然としないんだけどな……)

  もっとも、使用可能であっても相手がいなければ意味がないわけだが。

  最後にスキルとして取得していない事はやろうとしても必ず失敗する、という事も確認できた。備え付けの食料に手を加えようとしたら、全く思った通りに行かなかった。現実ではそれなりに料理の腕があったのにもかかわらず……だ。

  (知っていても失敗するのは気持ちの良いものではないな)














  「……飽きた」


  あれからしばらく自分の身体について色々確かめてみたわけだが、流石に2時間も費やせば飽きがくるのも自然な事だろう。ナルシストでもあるまいし。


  「アイテムの確認は……後回しだな。ログハウスが機能してるわけだから、まぁ大丈夫だろう」


  そもそも目録作るためにほぼ全てのアイテムを出し入れしたのはつい昨日の話だ。好きな事なら黙々とこなす自信があるが、そうでもなければ精々90分がいいところだ。

  さて、何をしよう……と考えてみたが、スキルを実際に使ってみるくらいしか思いつかない。自分は案外、暇というものに弱いのかもしれないと、苦笑を浮かべる。


  「ま、とにかくやってみるか」


  昨日確認した頭の中にある一覧から、自分に害がなく、対価を必要とせず、面白そうな(これ重要)スキルを選び出す。


  「《コール・エレメンタル/精霊召喚》」


  精霊種の種族、召喚士の職業のレベルが一定以上あると習得できるスキル。その場の地形に適合する精霊系モンスターを1〜5体ランダムに召喚するスキルだ。

  召喚されるモンスターはプレイヤーの種族レベルに応じて強くなる。とはいえ、状況に応じた者が召喚されるわけでは無い為、ユグドラシルではネタスキルに挙げられる。更に、作成系のスキルと違い使用者の眷族強化スキルの対象外であり、あくまで野良にいる精霊を呼びつけた体になっている。

  目の前の空間が歪むと何処からともなく風が吹き込んでくる。風は歪んだ空間を中心に緑色の光を帯びながら渦を巻き始め、やがて渦の中から美しい容姿をした女性が現れた。


  「御用命に従い参上致しました。よろしくお願い申し上げます、我ら精霊の王たる御方よ」
  「え? ちょっ!? 王ってなんの事! ………………む……」


  現れたと思ったら急に跪いて臣下の礼をとり始めるとか、一体なんの冗談だろうか。びっくりし過ぎて沈静化も発動してるし。そういえばニルヴァも言ってたなと思い出し、昨日のうちに彼から聞いとけば良かったと後悔した。


  「我らは本来1つ、稀にあっても2つしか属性を司っておりません。しかし貴方様は精霊としてのお力を極め、全ての属性を司っておいでとお見受け致します。なれば、それは王たる者以外には考えられぬ事に御座います」
  (そういう事か!)

  跪いたままの美人さんの答を聞いていて、1つ思い当たる事に気が付いた。

  (ユニーククラスの『星御子』と『星の執行者』の事だ)

  どちらもユニーク種族『ガイアード・コア/星の子』を取得している者だけがとる事ができるクラスで、属性に対する絶大なアドバンテージを有している。

  そもそも精霊系種族には属性特化の特性があり、上位種族になればボーナス値が大きくなる。『星の子』だけでも全属性に対するボーナスが付くが、それ以上に『星御子』も『星の執行者』もアホかと思うくらいの属性ボーナスが付く。エレメンタリストとかが知ったら、匙を投げて踏み付けて踏み躙るぐらいの反応をすると思う。


  「して、御方。この度はいかなる御用向きに御座いましょうか……」
  「あっ……えと、済まないけど君の種族は何だっけ? ……風の上位精霊である事は分かるんだけど……」


  いくら何も考えてなかった故の時間稼ぎとは言え、これは流石に失礼だっただろうか。こちらを見上げて愕然とした表情をしているし。探知スキルのおかげでレベル50台くらいなのは分かるんだけど、実際こんな美人の精霊今まで見た事が無いのだからしょうがあるまい。


  「こ、これは大変失礼致しました。偉大なる王が、わたくしなどの矮小なる者をご存じ無いのは当然の事で御座いました。わたくしは御方の仰る通り、風を司っております風の上位精霊(シルフィード)の1柱で御座います」


  風の上位精霊(シルフィード)と言えばシルフの女性名称だよな……。でも、もとよりユグドラシルのシルフは女性型だった気がするけど、シルフとは別種族扱いなのだろうか。それともこの世界のシルフは男の姿なのだろうか? 尽きぬ疑問はさておき、思い付いたお願いを伝えなければ……。


  「んじゃシルフィード、悪いけどこの小屋を出て周辺50キロメートル内にある、人間の集落の位置を調べて欲しい。ちょっとばかり範囲が広いけど、風の上位精霊の君ならこなせると思う」
  「は、仰せのままに。お望みならば制圧もして参りますが……」
  「へ? ……いや、制圧は余計だ。位置のみ調べて報告してくれ」
  「ははっ。余計な口を挟み申し訳御座いませんでした。行って参ります」
  (制圧って……ねぇ……?)

  彼女は大げさに一礼すると、次の瞬間には風を纏って飛び出して行った。なんだかどっと疲れた気がする。どうせなら精神疲労無効とかあっても良いだろうにと、無い物ねだりしながらがっくりと肩を落とした。











  彼女を見送った後、今後どうするかを考えた。

  元の世界に帰る方法は不明。もしかしたら存在しないかもしれない。

  リアルではそれなりに裕福な生活をしていたが、充実していたかと言われれば否と答えるだろう。

  一方で、此方には発達したテクノロジーはなさそうだが、リアルではとうに失われた色々が存在していて、技術はなくても魔法でなんとかなる。何より此方にはリアルでは望むべくもない星空がある。それも作り物、まがい物ではない本物だ。

  (あぁ……ブルー・プラネットさん、諸星キラリンさん、真夏の太陽さん、にっこり流星群さん……、貴方達に話したらきっと目を輝かせて飛びついてくるでしょうね)

  ふと、ユグドラシル大自然愛好会でよく情報交換した仲間達の事が思い出された。


  「決めた。この世界で精一杯生きよう。自然を守り、星空を守るために生きよう」


  そうと決まれば情報収集をしなければ。

  まずは風の上位精霊(シルフィード)が集めてくるであろう情報を元に、人間達の様子を伺いながら同時に森の調査だ。

  (これだけ立派な森林を無視する道理はない)

  化け物の可能性が消え去ったわけではないが、余程でなければスキルや魔法で対処可能だろう。いざとなれば切り札もある。

  可能であれば、現地種族とも交流を深めていきたい。環境保護は現地の協力なしにはなし得ないのだから。

  あとは自分以外のプレイヤーだが、カンストのガチ勢でなければ戦闘になって死ぬ事はないだろう。元々死なない事に重点を置いた構成をしているのだから。


  「よっしゃ、やるぞー」






  森の中の小屋の中に気合を入れる精霊の王が1人。

  だが、彼はまだ知らなかった。

  時を同じくして、世界征服を目論む最恐の集団が転移して来ている事を…………。



時を同じくして

モモンガ「これも使える、こっちも大丈夫…、ん?こんなもの持っていたか…?…ブツブツブツ……」
アルベド(流石は私の愛する至高の御方、モモンガ様。悩ましげに宝具を見つめるお姿もお美しい…)
モモンガ(なんか睨まれてる気がするんだけど…)



第4話ですよ!
だんだん文字数が増えていく……。
スキルを取っていないと出来ないというのも不便ですね。
精霊種は大自然からエネルギーを摂取しているという設定なので、飲食不要。飲食しても残らずエネルギーに変換出来るので排泄も無しという設定です。

ちなみに、シルフィードに関してはシルフの上位種と考えています。実際は表記の問題なんですが、字面が上位っぽいのでそのようにしてます(単純)。

さて、まだ主人公の戦闘描写が無く、本編では書く機会に恵まれていないので補足をば。
設定1で記載の通り、主人公は某厨二リーダーと同じく神官騎士スタイルです。集団戦では中衛を務め、回復・バフをかけつつ、遊撃・後衛の守りを行う忙しないスタイルです。ソロ戦ではスキル・魔法で召喚した僕とともに立ち回ります。
騎士系の職も取っている為、単純な肉弾戦も純粋な魔法職や生産職には圧勝できます。
扱える魔法は信仰系がメインですが、魔力系も属性魔法・バフ・防御系は扱えます。精神系は苦手で、特殊系はユニーククラスが習得可能な魔法がいくつか分類されます。
ちなみに、転移系は《リング・オブ・ゲートキーパー/転移門の守護者の指輪》を使っている為、素の習得魔法には入れていません。

次回から新章です。いよいようちの主人公が動き出します!!


スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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第2章:生ける者達と死の支配者 第5話:狙いはシャルパト村

〜前回あらすじ〜

エン「子孫を残せぬのは生物として負けな気がする…」
???「ぐはっ…。いや私はすでに生きてないし…」



  シャルパト村。バハルス帝国領の西外れ、アゼルリシア山脈の麓に広がるトブの大森林の北限から北東に7キロ程離れた場所(拠点の小屋から10キロ程)に位置する村である。

 世帯にして約50、人口300人程度の小さな村で、村人の殆どが農業と牧羊による肉・乳・羊毛の生産に従事している。一応、鍛治を嗜んだ者も住んでいるようだが、どちらかと言えば大工仕事の方が需要があるようだ。

 村の中央を西から東へ山脈から流れてくる小川が横切り、上流側では水を汲む人が、下流側では洗濯をする人や体の汚れを落としている人がそれぞれ利用している。

 村の北側にある広い木の囲みの中では、革製の胸当てや木製の額当てなどを身に付けた男たちが、麦藁でできた人形相手に打ち込みの訓練をしていたり、走り込みをしていたりしている。

 年若い者達は大人達の手伝いをしたり、より幼い者達の面倒をみている。時折喧嘩をしているらしい様子も見られるが、周りの大人達の様子からしていつもの事なのだろうと思われる。

 村の真ん中に位置する1番大きな建物は村長の家らしく、書斎と思しき部屋の中で恰幅の良い中年の男が、羊皮紙を広げしばしば悩ましげに首を傾げながら何やら書き記している。

  (みんなのんびり暮らしてるな……)

  遠く離れた森の小屋の中で、偵察に向かわせている僕から送られてきた視覚情報を確認しながら、羨ましげな溜息を吐く。

 彼らからすればその日その日を懸命に生きているのであって、余暇時間に家庭菜園などをやるのとは訳が違うのだから、失礼極まりない感想ではある。





 風の上位精霊(シルフィード)から情報を貰ったのは2日前に遡る。その情報によれば、探索範囲内に人間の集落は大小合わせて10ヶ所との事。

 すぐさまその中でも比較的距離の近い4ヶ所に僕を送り込み情報を集める事を決めた。空気と一体化できる風の小精霊(エア)ならば、人々に見つからずに情報を集める事が可能と判断して送り込んだわけだが、中々どうして成果は上出来であった。

 ちなみに風の小精霊(エア)をスキルで作成する時に、目の前にある空気を触媒にする事で、この世界に存在を固定化させる事が出来ると判明した。

 自身は酸素不要の種族であるので、周囲の空気がごっそり減っても何も感じなかったが、よくよく考えれば普通の生き物の近くでこんな事をすれば、酸欠であっという間に死屍累々となる事に気付き、気を付けなければ何気ない事で沢山の命を奪ってしまうと反省したのだった。

 同じ様に他の眷族もその属性に関わる触媒を用いる事で固定化できる事も判明した。ゆくゆくは精霊の部隊を編成できるかもしれないと、さっきの反省とは別に浮かれていたのは内緒である。

 ともかく、そうして集めた情報を継ぎ接ぎして、この世界の事が少しずつ判明してきた。

 先ず、僕を送り込んだ4つの集落は近い方から順に、『ダート村』『トーメス村』『フルーネの町』『シャルパト村』と呼ばれている。そしてそのいずれもバハルス帝国なる国に属している。この帝国だが、近々隣接する王国なる国と戦争になるらしい。尤も、参加するのは帝国の専任の騎士団で平民は無関係との事らしいが。

 それから、転移直後に少しだけ様子を伺った村が『ダート村』と呼ばれる村で、4ヶ所の中では最も規模が小さな村だ。『フルーネの町』は他の3ヶ所より人口も多く建物もしっかりしている。なんでもこの地方を纏める領主が住む町らしい。

 また、『シャルパト村』以外は警備体制がしっかりしているようで、定期的に巡回の騎士団が見回りに来ているようだ。一方の『シャルパト村』は主要な街道から少し離れているため、巡回の騎士団ではなく村の自警団が治安の維持を行なっているようだ。とは言え2ヶ月に1度程、騎士達と警備の状況について情報のやり取りをしているとの事らしい。

 そんな訳で、他の場所も引き続き情報収集をさせるが、記念すべき初接触の目標としては、余所者が近づいた時に最もトラブルが小さく済みそうな『シャルパト村』が最適であると結論付けたのである。




(さて、どういった口実で近づくのが最も自然だろう)

 初接触の目標として狙いを定めたのは良いのだが、上手い口実が中々思い付かずにいた。この村の監視を重点的に行い始めて半日程経っているにもかかわらず……だ。いきなり訪問して『仲良くしましょう』とかやった日には、いくら平和な村であっても警戒され不審者と認定されるだけだろう。

  (ここはやはりシンプルに旅人を装うのが1番だろうか)

 何か困った事でもあるようなら、助けに来た風に装ってナチュラルにファーストコンタクトをとれるのに……などと身も蓋も無い事を考えるあたり、他者が困ることに対してあまり罪悪感が湧かなくなっているのかもしれない。

 あれこれ考えていると、森側に送り込んだ古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)からメッセージの魔法が繋がるのを感じた。


  『ご報告致します。現在のところ突出した強者は確認できませんでした。現地の木精霊(ドライアード)からも話を聞きましたが、主人の拠点辺りにいた者達が周囲に移動した為、押し出された者達が人間の集落を襲うかもしれないとの事です』
『なんだって? 俺の拠点の周りからってどういう事だ?』
『恐れながら、主人の発する強力なお力に耐えきれぬ者が逃げ出したので御座いましょう』
『もしかして、星霊のオーラの事か?』
『はっ。お力の仔細は分かり兼ねますが、周囲を威圧する効果があるのでしたら、その可能性が高いと愚考致します』
(やってしまった……)


 星霊のオーラは『星の子』が持つパッシブスキルで、レベルの低い生物に対して威圧効果を発する。レベルⅠ〜Ⅴまでの段階があり、Ⅰで怯み効果、Ⅱで恐怖効果と段々に効果が上がっていく。最終段階のVになると敵避け効果と錯乱効果を付与する。錯乱効果はこちらに敵対の意思を示す者に選択的に付与される為、敵避けの効果が主に働いているのだろう。


「しまったな……。スキルの確認をした時に虫除けにちょうど良いと思って有効にしたままだった。まさかここまで広範囲に効果が及ぶとは……」


 すぐにスキルのレベルを最低まで落とすが、恐らくあまり意味がないだろう。魔物達も馬鹿ではない。一度危険と判断したら暫くは近づいては来ないだろう。


『すぐに森の淵に移動し、森の外に出ようとする魔物の群れを見つけたら俺に報告してくれ。単独で出て行く者は無視して構わない』
『畏まりました』


 風の小精霊(エア)の偵察で分かった事だが、この世界の一般人の強さはレベル1〜3程度らしい。戦う事を仕事にしている者で5〜10程度。つまりユグドラシルの基準から見て極端に弱過ぎるのだ。

 初日にあれだけ警戒したのが馬鹿らしくなる程だ。もちろん、あくまで偵察した範囲内だけの事で、もっと強い存在がいないと決まった訳ではない。

 恐らくこの森の魔物……それも縄張り争いに敗れて押し出される程度……の1匹や2匹なら、村の連中でもどうにかなるだろう。だが流石に群れとなれば、被害を出さずに対処するのはどう見ても困難を極めるだろう。

(やらせを仕掛ける事になるかもしれないとか、コミュ障かよ……)

 積極的に仕掛ける訳じゃない。あくまで森からあぶれ、人里を襲おうとする群れを利用するだけだ。頭の中でいくつか都合の良い言い訳を述べつつ、自身を納得させるようにウンウンと何度か頷いてみる。


『主人、森から出て人里へ向かうゴブリンとオーガの群れを見付けました。位置は主人の元から北へ2キロ。主人が目をかけていらっしゃるシャルパト村の方角へ進行中です』
『分かった。お前は引き続き森の外縁で森を出る群れがいないかを見張ってくれ』
『御意のままに』
(おいおい……。考えていた通りに事が進んでいるんだが)


 都合の良い展開にドギマギしながら作戦を立てる。村に張り付いている風の小精霊(エア)の1体にゴブリンとオーガの群れへ向かうように指示を出す。数分後にはギャーギャーと騒がしい魔物の一団が風の小精霊(エア)の視覚を通して伝わってくる。

 連中の足だと村に到達するのは30分後ぐらいか。いきなり村の中に転移するのは不味いだろうから、やや離れたところにするべきだろう。連中と反対方向のからの方がいいな。万が一にも魔物をけしかけたとか言われたら心外だ。














「敵襲ー! 敵襲ー! 方角西方! オーガ10! ゴブリン20!」


 警報と共に50人程の男達が集まってくるのが見えた。誰も彼も貧相な装備だ。不味いかもしれない。ゴブリンはまだしもオーガは彼らの手に余る可能性が高い。少しばかり人間の戦力を贔屓目に見過ぎていたようだ。


  「予定変更だな。早々に介入しないと惨事になりそうだ」


 当初の予定では村の自警団と魔物達がぶつかり合い、ジリジリと戦線が下がり始めたタイミングで介入する筈だった。しかしそんな悠長な事態では無い事が一目でわかった。

(流石に何もかもが思い通りって訳にはいかんな)

 急ぎ前線に向かうと、既に自警団とゴブリン達が戦端を開いていた。まずはオーガ達を落とさねば、奴等の一撃は村人にとって致命的だ。

 混戦模様の戦場で人と人の隙間を縫う様に駆け抜ける。走り抜けながら、できる限りゴブリン達を間引いて行く。自警団の人達は後方から乱入して来た自分に驚いていたようだが、今はリアクションを返している時では無い。

 ふと前方に視線を向けると、オーガが盾を構える中年の男に無骨な棍棒を叩きつけようとしているところだった。

 速度を上げ急いでオーガと中年男性の間に身を滑り込ませ、左手に装備している盾『トータルエクリプス』で棍棒を受け止める。

 瞬間、オーガの右腕が爆発するように弾け飛んだ。


「グゥガーーー! ウ、ウデガーー!?」


 痛みと自らに起こった事象が理解できない事で生じた隙を逃す事なく、右手に持つ『星剣シリウス』で胴を払う。事も無げにオーガの肉体を切り裂いた刀身は一切の曇りもなく、青白い光を放っている。そして一瞬で事切れたオーガの死骸は、地面に転がると血を撒き散らす間も無く剣の放つ光と同じく青白い炎に包まれ、程なくして跡形も無く燃え尽きてしまった。


「ナ、ナンダオマエ!」


 オーガ達は突然現れた闖入者に身構えていた。斬られた者が燃え上がり跡形も無くなってしまうなど聞いた事もないのだ。

 闖入者は切っ先を声を発した者に向け、叫ぶ様に答える。


「我が名はエン! 旅の道中、貴様達に襲われている村に助太刀に参った者だ!」


 我ながら決まっているのではないだろうかと思う。短時間の間に考えた名乗りにしては、中々に格好が良い。そう満足しながら、次の獲物を仕留めにかかる。

 呆然としているオーガやゴブリンを次々に狩っていく。相手が弱過ぎて、全く楽しくもなんとも無いのだが、自警団の手前わざと逃す訳にはいかない。

 魔物達も流石に不味いと思ったのだろう。残りが1割になろうかと言う段階になり、漸く逃げ出そうと踵を返すが時既に遅し。難なく追いついてシリウスを突き立てる。

 最後の1体が燃え尽きるのを確認すると、剣を鞘に収めて自警団の方へ向き直る。そしてゆっくりと歩みよると、未だに何が起こったのか理解できず呆然としている彼らに声を掛ける。


「みなさん、ご無事ですか?」


 反応がない。もしかしたらやり過ぎたのだろうか? 星霊のオーラは切ってあるし、他に影響のありそうなものは思い付かない。


「あのー……。ご無事ですか?」
「はっ! はい。ご無事です!」


 意を決してもう一度声を掛けると今度は反応が返ってきた。そして分かってしまった……。やり過ぎてしまったのだと。



時を同じくして


パンドラ「んー!このアイテムは素晴らしいですねー!しかし、私はいつまでタブラ・スマラグディナ様のお姿でいれば良いのでしょうかね」
作者(時系列が曖昧で、もうネタがないとか言えない)


さてさて第5話で御座います。
このお話から新章となります。記念すべき現地人とのファーストコンタクトはしょっぱくなりそうな予感。

原作でも描写のあった触媒ありの作成スキル。精霊種なので属性に応じた物が必要とさせていただきました。高ランクの僕ほど要求値が高くなるのも原作仕様ですね。

初の戦闘シーンな訳ですが、基本的一方的な虐殺になってしまうので、簡単な描写になってしまいました。難しいね。

主武装の1つ目がお披露目でした。星剣シリウスの『炎属性のスリップダメージ』の部分を表現したらこんな感じになりました。これじゃ耳を持っていけないので、冒険者やワーカー達がいたら非難轟々でしょうね。

盾も出てきました。後で設定1の方に追記します。オーガの腕パァンは盾に込められたカウンター系の能力です。

次回はシャルパト村ともう少し打ち解けられるといいなってお話です。



スペッキオ様、いつも誤字報告有難う御座います。
HIGU.V様、誤字報告有難う御座いました。


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第6話:歓待の宴と守護者の手

〜前回あらすじ〜


エン「やらせじゃないよ!やらかしちゃったけど…」
村人「……(ジト目)」
オーガ&ゴブリンズ「解せぬ」


「いやーアンタ強すぎだろ! 一体何モンだい?」
「オーガが紙みたいに切れちまうなんて、初めて見たぞオイラ」
「んでも、お陰で俺らにゃほとんど被害が出なかったからな。本当に助かったわ」


 村の北側に位置する自警団の詰所、その食堂で無事に魔物の襲撃を乗り切った祝いの宴が行われている。その宴に同席しているのはもちろん、自警団として戦った彼らが誘ってくれたからに他ならない。

 出会って最初こそ警戒されていたが、自分が旅人で路銀や食料が心許無くなってきたところで襲撃騒ぎに気が付き、これ幸いと助太刀に入ったのだと説明すると、一気に警戒心が緩んだように感じ取れた。

 無償の善意より下心がある方が、目的がはっきりしている分安全と言う事なのだろう。只より高いものは無いなんて言葉や白紙の小切手なんて比喩もある訳だし。

 そんな訳で、『来て早々戦ったのでは腹も減っているだろうし、とりあえずの謝礼がわりに』と誘われて今に至る。『あと旅人がする話にも興味があるし』とボソッと付け加えられたが、宴会が始まってから代わる代わる引っ切り無しに話し掛けられている自分の様を鑑みるに、彼らにとってはむしろこちらがメインなのだろう。


「ちょっとちょっと! さっきから俺ばっか話してますけど!」
「なぁに、エンさんよ。このあたりゃ娯楽が少ねえ上、この村は街道から離れちまってるから、こうしてよその人が来ることも滅多にないんでさぁ」
「そうそう。ましてやアンタみたいな旅人なんて、10年くらい来た事ねぇよ」
「つーことは、俺……ツマミにされてるって事!?」
「「がはははは」」


 陽気なやり取りは心地よいが、何となく距離感が近いのはこの世界の人間だからだろうか? リアルでは必要以上に付き合いを持とうという人は稀だったし、ちょっとしたことですぐトラブルになるものだから、人との距離感は必然的に遠くなりがちだった。

 しかしまぁ、旅人を装ってはいるがこの世界にやって来て数日の自分には正直話せる事がほとんど無い。代わりにユグドラシルでの出来事をぼかしつつ話してみたのだが、そも娯楽の少ない彼らには冒険譚の受けが良かった。特にダンジョン攻略の末にお宝を手に入れる話なんかに食い付きがよく、『どんなお宝だ』とか『いくらになった』とか興味津々に聞いて来る。


「そういやエンさんよ、アンタの鎧何つーか寒気がするくらいスゲーもんに見受けられるがよー。一体どんな曰くのもんなんだ?」
「剣の方だってそうだろ! 斬りつけた相手が燃えちまうなんて、見たことねえもんよ」
「あぁ、この剣と鎧はですね……」

 彼らの話からすると、この世界の装備品はユグドラシルの基準からするとだいぶ低級で、簡単な魔法が付与されているだけでとんでもない高級品になるらしい。つまり神器級の主武装2つはこの世界基準ではありえないものと言う事になる。

 という訳で剣も鎧も、かつて潜り込んだダンジョンの奥で朽ちかけていた神様の、最期の願いを叶えた事で与えられた……と言う事にした。


「その神様の願いって何だったんだ?」
「それは話せないよ。神様との約束だからね」
「そんじゃ仕方ねぇか。しかしまぁ、神様が残したもんならすげー性能なのも頷けらー」







 宴は彼らが酔い潰れるまで続いた。こんな状態で再び襲撃があったらどうするのかと思ったが、予備隊がいるので平気だそうだ。


(しかし、俺も結構飲んだけど酔わないのは何の影響だ?)


 アルコールは肝臓で分解される訳だから、『毒』扱いになっているのかな。精霊種は属性によって無効になる状態異常が異なるから、取得した種族毎に対策を立てなければならない。しかし7つの属性を束ねるとされるプライマル・プリズム・エレメンタルの種族を取得してからは、殆どの状態異常に完全耐性を得られたので心配しなくて良くなった。

 さて、それにしても彼らとの話は色々有益だった。殆どこちら側が話してばかりだったが、時折『俺の国ではこうだったけど、こっちの国ではどうなんだい』と話を振ることで、風の小精霊(エア)で観察していた時より情報に厚みが出た。

 まず、この世界で魔法は才能に恵まれなければ習得できず、習得できても優秀な者が努力して第3位階が限度らしい。また、この国の宰相だかなんだかがすごい魔法使いで、第6位階まで使えるとの事である。

 それから通貨。基本的には国ごとに独自の硬貨使用しており、白金貨・金貨・銀貨・銅貨・黄銅板が存在する。この話をしている時に、助っ人代と言う事で金貨2枚と銀貨30枚を寄越してきたが、路銀の事は口実に過ぎなかったし、村の蓄えから出してもらうのも申し訳なかったので、金貨を1枚だけ受け取り後は突き返した。随分気まずそうにしていたが、すぐに稼げるから平気だと説明したら納得してくれた。

 次に、冒険者やワーカーといった職業があるが、一般的には魔物退治を主として採集や護衛などを行う戦闘前提の便利屋みたいなものらしい。もっとも帝国では騎士団が治安維持の殆どを請け負っているので、彼らの仕事はもっと込み入った内容になる事が多いそうだ。なんだか名前負けな仕事だなとも思った。







(さってと……今日はこのまま一泊して、朝になったら一度拠点に帰ろう)

 寝ている彼らを起こさぬように詰所の外へでる。見上げてみれば、空には星が燦然と輝いている。周りに余計な明かりがないため本当に綺麗に見える。

(やはり知っている星が無いな。完全に異世界。それも別の星である可能性も高い訳か……。月はよく似ているようだけど……、クレーターの位置が違うみたいだ)

 だが、今となってはどっちだっていい。こんなにも美しい星空を眺めることができたのだから。あとはどうこの環境を守っていくか……と言う事だ。

 文明のレベルは産業革命が起こる以前の中世といったところか。魔法の存在や生命を脅かす魔物の存在により、技術研究の矛先が生きる為に必要なことのみに向けられていて、まともに科学の研究を行える環境がない……と言う事か。このまま推移しているうちはいいのだが……な。

 自分達人間が発展と引き換えにしたリアルの自然の事を考えていると、頭の中に直接意識が繋がるような感覚を感じた。どうやら森に残してきた古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)からの連絡のようだ。


『主人、至急ご報告すべき事が』
『どうした?』
『主人の拠点より南に1キロ程の地点で、強大な魔物を発見しました』
『なんだと?』


 古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)はレベル40のモンスターだ。しかも眷族強化のスキルで能力は底上げしている。そいつをして強大なと言わしめるほどの魔物がいるなど想定外だ。


『それで、その魔物は?』
『はい。不甲斐なくも勝てるような相手ではないため、やり過ごしました。申し訳ご御座いません』
『いや、お前の対応で間違っていない。種別や大まかでいいのでレベルは分かったか?』
『いえ。なんらかの防御的な力が働いていたのか、はっきり確認できませんでした』


 高位の認識阻害……か。野生だとすれば森の主と言う事か。人の手のもの……だとするならプレイヤーが関わっていると見るべきか?いや、現地勢力の可能性も残されている。


『魔物が何をしていたかわかるか?』
『何かを探している……というより、散策するような動き方でした。縄張りの見回りでしょうか……』
『そうだと決めつけるには証拠がたりないな。今から一度戻る。お前も拠点へと撤収しておけ』


 人に見咎められぬように建物の陰にはいり、上位転移(グレーター・テレポーテーション)を発動させて拠点へと移動する。

 ログハウスに戻ると、一先ず落ち着く為に食料庫から飲み物を取り出し喉に流し込む。程なくして僕の古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)が戻り、詳しい話を聞いた。


「拠点には近づかなかったのか?」
「かの魔物は比較的深い場所を移動していたようで、見つかっていないのではないでしょうか?」
「いや、高レベル帯の魔物の索敵能力は高い。特に森の中をうろつくような輩はな。俺が留守だった為、興味を持たれなかったのだろう。もし、飼い主がいるとすれば怪しい小屋があったくらいの報告はされているかも知れないな」
「では、引き払うので?」
「いや、あえてこのまま残そう。引き払うと逆に怪しまれるだろう。ちょうどシャルパト村の者達とも上手く交流できたので、私はこのまま帝国領内を散策する」


 君子危うきに近寄らず。相手の意図が掴めぬうちに接触するのは避けるべきだ。何となく嫌な感じがしないでもないし、何より今はうまく溶け込めたシャルパト村を足がかりに、帝国の文明を調べておきたい。


「僕である我々はいかがいたしましょう?」
「あ、そうか……。んー風の小精霊(エア)は連れてけるけど、君らは難しいか……。引き続き森に残り、もし件の魔物が野生であれば無用に刺激せずやり過ごせ。飼い主らしき者がこの小屋にやってきたら、主人は何十年も前から留守だと伝えろ。精霊種には精神操作系の魔法は効かないから、無理やり情報を奪われる事もないだろう」
「御意」
「留守を頼むぞ」
「ははっ」


 古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)を残して、再びシャルパト村に転移をする。彼には悪いが代わりはいくらでも作れるから、最悪の場合には囮になってもらおう。村の中央を流れる川に渡された橋の1つ……その端に腰掛け、再び星を眺める。流れ星がひとすじスッと瞬いた。
















 此処は白亜の城。その主人が執務室。

 そこには豪奢なローブを身に纏う死の権化とも言うべき存在。そしてもう1人、絶世の美女と言うべき容姿、しかし頭には人である事を否定する角を持ち、腰元から鴉の濡羽の様な艶のある翼を生やす者が死の権化の横に控えている。

 彼こそがかのアインズ・ウール・ゴウンの盟主モモンガであり、彼女こそがナザリック地下大墳墓が守護者統括を務めるアルベドと名付けられた悪魔である。

「ふむ……。人が立ち入らぬ森に小屋。その近くには古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)か……。不自然だな……」
「アウラの報告では、その小屋に低位の認識阻害の魔法がかけられていたそうです」


 モモンガ改めアインズは配下からあげられてくる大量の報告書に目を通し、情報の共有を行うのが日課であった。そんな彼にトブの大森林の調査を行なっているダークエルフのアウラから、気になる情報があげられてきたのだ。

(これって間違いなくプレイヤーの痕跡だよなぁ……。わざわざ森に拠点をおくと言う事は異形種だったりするのかな……。いやいや、そう決めるのはまだ早いな。報告によればプレイヤーらしき存在は確認出来なかったみたいだけど、留守だったのかそれとも既に廃棄された拠点なのか……)

 しばしの沈黙を置き、隣に控えるアルベドに指示を出す。


「アルベド、アウラに僕を使い小屋を定期的に見回る様に伝えろ。プレイヤーらしき者を確認したら私に連絡をよこせ。私が直接出向き接触する。アウラや僕が誤って遭遇した場合はくれぐれも敵対する事がない様にしろ。その場は適当にごまかして構わないので撤退を優先しろ」
「お待ち下さい、アインズ様が直接出向くなど危険です」
「安心しろ。何も単独で行くとは言っていない。しかし、そうだな…………あまり大所帯では要らぬトラブルが生じかねない。出向く際はアルベドに護衛を頼もう」
「そ、それは初めての共同作業というものでしょうか!?」
「ん? いや、何の話をしている? 大体カルネ……」
「アインズ様!必ずや満足頂ける様な成果を挙げてみせます」
「お……いや、頼りにしている……」


 アインズはアルベドの様子に肩を落としながら、内心では気を引き締めた。そして痕跡の主が友好的な存在である事を切に願った。



時を同じくして

アウラ「あの古の森精霊(エルダー・フォレスト・エレメンタル)飼えないかなー。攫っちゃえばいいかな」
森精霊「……寒気だと?」




第6話です。
遂にアインズ様が登場。果たして我らが主人公はアインズ様と仲良くなれるのか。

ちなみに、早い段階でプレイヤーの痕跡を見つけたアインズ様は一部の計画を遅らせる事になります。
1つはセバスとソリュシャンの王都行き。もう1つはシャルティアの人狩り。ただし、モモンの冒険は計画通り(アインズ様の息抜きが最初の目的でしたからね)。

次回はちょっと寄り道。
6話のIFストーリーを箸休めがわりに。


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(IF)第6話:恥ずかしがり屋の神様

第6話のIFルート。現地人が舞い上がってエンを神様扱いしてしまうルート。なお、続きません。


(なぜこうなった!?)

 何度目かの沈静化を経ても心が落ち着く様子はない。

 ここは村長の家の隣に建てられた集会所。なぜか壇上の中央に鎮座する1人掛けのソファーに座らされている。壇上から見下ろす場には村人達が詰めかけており、口々に『生き神様だ』とか『火の神様だ』とか大いに見当違いな言葉を発している。中には手を合わせて拝み出す人までいて、(おいおい勘弁してくれ)と内心でがっくり肩を落とす。

(どう考えてもおかしい。自警団の話では単純にお礼がしたいからーぐらいのニュアンスだったのに、どこをどう間違ったらこんな状態になるんだよ。伝言ゲーム下手か!! ……また沈静化した……)

 どうしてこうなったか? それは極めて単純な話である。彼等から見れば、突然現れた男が……それも一目見て神々がもたらしたと思わされる武具を身につけた容姿端麗な男が、まるで砂でできた細工を打ち崩すかの様に魔物を滅ぼす様子など、最早人間の業と信じるにはあまりに無理があった。加えて、その救世主の戦いぶりに興奮した自警団のメンバー達が、それはそれは大げさに、尾ひれどころか背びれ胸びれ腹びれに至るまで脚色して村長に報告したからに他ならない。その中に『彼は神の使いだ』とか『いや、神様だ』とか真顔で言う者がいれば、村を救った者を無碍に扱い、不興を買うのは不味いと判断するのは仕方がない事だと思う。

 村を挙げての歓待(?)に辟易していると、身なりの整った恰幅の良い男が人の波をかき分けて向かってくる。村長である。この村の様子は隅々まで風の小精霊(エア)を通して確認しているから間違いない。

  村長は目の前までやって来るとこちらに深々とお辞儀をし、くるりと群衆の方へ向きを変え右手を軽く挙げて見せた。すると先程までとは打って変わりシーンと静かになる。

 再び村長はこちらへ向きを変え、村人達が固唾を呑んで見守る中、2度3度と深い呼吸を繰り返し、覚悟を決めた様に口を開いた。


「エン様、この度は村の窮地をお助け下さいまして、誠に……誠に有難う御座います。村を代表して厚く御礼申し上げます」
「あ、いや……どういたしまして? それより、怪我人とかはいなかった?」
「なんと慈悲深い…………。エン様のご慈悲により誰一人大きな怪我はしておりません。しかし、心苦しくもこの様などこにでもある村で御座いますれば、神たるエン様に差し出すべき供物にふさわしきものが御座いません」


  何というか、僕の精霊達といいこの人達といいもっと砕けた感じに話せないのだろうか? 確かにはっちゃけたのは悪かったと思う。でもそこは『アンタ強いんだねー』くらいでいいんじゃないかな?

 慇懃な態度も行き過ぎれば無礼になる。こんな肩が凝りそうな付き合いは望んだものではない。もうさっさと切り上げて一度拠点に引き上げるべきだ。大体この異様な雰囲気の中にいるのは精神衛生に非常によろしくない。


「礼など不要だ。それに俺は旅の道中にあると言ったはずだ。この様な仰々しい騒ぎに付き合うつもりは毛頭ない。最後に俺は断じて、だ・ん・じ・て! 神様などと言う存在では無い!」


 辟易していた分物言いがきつくなってしまった。しかもつい勢いで立ち上がってしまったものだから、さらに高い位置から村長を見下ろす格好になる。

 その村長はと言えば、神と担いだ男が苛立ちを隠しもせずに急に立ち上がるものだから、何が気に障ってしまっただろうかと気が気ではなく、顔を真っ青にしている。

 村長は恐怖に染まる頭で必死に考える。もしかしたらお忍びで下界に降りたところを騒がしくされ、腹をお立てになったのだろうか……。しきりに神である事を否定なさっているところを見るに間違いないだろう。だとすれば、なんと愚かな事をしてしまったのだろう……。そう考えるに至り、ますます顔色は蒼ざめていくのであった。

 村の代表として上位の者とやり取りをする村長ですらああなのだから、機会に恵まれない普通の村人達は言わずもがなだろう。彼ら、特に男の凄まじい力を直接見ていた者達は先程魔物に向いた矛先が、今度は自分達に向けられるのではないかと震え上がった。


「はぁ……。先を急ぐ旅なので失礼する。村長、あまり人を軽々しく王だの神だの持て囃すべきではないぞ」


 真っ青な顔をしてガクガクと震える人々の姿を見て、もー無理だと思った。もう、どう繕ってもフレンドリーな関係は無理だ。ため息混じりに、転移用に装備している指輪を起動し、《グレーター・テレポーテーション/上位転移》を発動する。

(失敗だ。大失敗だ。あーもーどうしてこうなった!)















 残された人々はまたもや驚愕に染まっていた。つい先程までいたはずの人物が次の瞬間には跡形も無く消えてしまったのだから当然である。

 人々はやはり神様だったのだと確信した。何より村で1番学のある村長が『お忍びで天から降りてきた所を無用に騒ぎ立ててしまった事がお怒りに触れたのだろう』と、もっともらしく言い広めてしまった事がダメ押しになってしまった。更にその話を聞いた村の子供が、『神様は恥ずかしがり屋さんなんだねー』などと言ってしまったものだから、本気で怒っていたのでは無くあれは照れ隠しだったのだ、という事まで付け加わってしまった。

 以降シャルパト村には、『お忍びで下界に降り立っては困った人々を助ける恥ずかしがり屋の神様がおりました。神様は空の様な青い髪に宝石の様な青い瞳を持った美しい容姿で、燃え盛る炎の様な真紅の鎧に身を包み、青く輝く炎を宿した剣を振るって勇ましく戦います。しかし、神様に助けて頂いても決して崇め奉ってはいけません。恥ずかしがり屋の神様は照れて天上へと帰られてしまうから』と言う伝承が語り継がれる事になる。

 そして以後数百年、4大神信仰とは別に密かに信仰され続ける事になる。

 当の本人の預かり知らぬところで。




可能性の未来。でも、考えたらアインズ様もいるから、完全に隠れ宗教的な感じになりそうですけどね。

次回は本編に戻ります。



スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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第7話:生まれつきという不公平

〜前回あらすじ〜


エン「飲み会楽しいな〜」
アインズ「プレイヤーの痕跡発見!警戒!警戒!」


※若干ナーバスな内容を含みます。予めご了承下さい。


 オーガとゴブリンの襲撃から3日、既にシャルパト村はいつも通りの落ち着きを取り戻していた。ただ、変わった事が一つ……。


「おーい、エンさん。その材木を南のアニーさん所に運んでくれますかー?」
「あいよー。ウッドマークさん」


 村を救った凄腕の旅人はすっかり村に馴染んでしまっていた。本来はあの日、夜が明けたら村を出て、風の小精霊(エア)に情報を集めさせていた村や町に足を伸ばしてみるつもりであった。しかしその朝、自警団の団長の計らいで、自警団員の1人であるウッドマークの家で朝食をご馳走になっているうちに、何だか気が変わってしまった。





 ウッドマークは年若い青年で自警団員の中ではまだまだ使いっ走りだ。彼は1年前に結婚したばかりの妻と2人暮をしており、畑と村の土木工事で生計を立てている。最初は新婚のお宅に邪魔をするのは申し訳ない気持ちが強かったが、2人に是非にと言われて、そこまで言われたらと世話になったのだ。

 朝食には羊の乳を使った麦の粥と羊肉の干し肉を炙ったもの、それから干しリンゴを羊のヨーグルトで戻したものを出してくれた。リアルの食料事情を考えたらものすごい贅沢品だ。だが、食べていてなぜか懐かしさを感じた。すーっと、心が落ち着いたのだ。前の晩の宴会の飯も美味かったが、こんな気持ちにはならなかった。

 神妙な顔つきで食べていたせいか、ウッドマークと妻のセルマに心配そうな声色で『お口に合わなかったでしょうか?』と言われ、慌てて感じた事を素直に口に出して否定した。

 するとセルマはキョトンとした後、『そりゃ愛情込めてますから』と微笑んだのだ。普通だったら『このリア充め』とか言いたくなるが、セルマの表情に哀愁と言うか妙な悲しみを感じて、気になってしまったのだ。

 無論、言っておくが断じて人妻に惚れたわけではない。






「ウッドマークさん、運び終わったよ。まだなんか手伝う事はあるかい?」
「え、もう運び終わったんですか? やっぱり鍛え方が違うのでしょうね」
「ま、そこは否定しないけどさ。それより世話になってるからな。どんどん頼ってくれよ」
「いや、今日はもう大丈夫です。力が要る仕事はさっきので終わりですから。後はのんびり過ごして下さい」


 ウッドマークからすれば、一流の腕を持つ旅人に雑用をさせる事に抵抗があった。何やら妻の料理が気に入っている様子だが、身内びいきに見ても別段珍しい料理は作っていない。だから『10日ほど厄介になりたい。宿代がわりに仕事を手伝うから』と頼まれた時には驚いた。もちろん、世話をするのは問題ない。村の恩人だし、旅人の彼の話はとても面白いしワクワクする。しかし、仕事を手伝わせるのは本当に気が引けた。何度もそんな事はしなくていいと断ったが、彼が頑なに手伝うと言って聞かなかったので、仕方なく力仕事を手伝ってもらう事にしたのだ。


「そうか。でも、ちゃんと役立ててるか?」
「勿論ですよ。お陰で余裕ができたし、明日は昼前には仕事を切り上げてもお釣りがくる位です」


 ウッドマークからその言葉を聞いて、ようやく彼女の秘密に近づけるチャンスが巡って来たと、苦労(と呼べるほどの事はしてない)が報われた事に安堵した。そう、ウッドマークの反対を押し切ってまで手伝いをしたのは時間を作るためだったのだ。通年の仕事をしている者が、多少時間が空いても次の仕事を早めにやってしまおうとする事は分かっていたので、なるべく手間がかかりそうな力の要る作業を率先して手伝った。


「そりゃ良かった。じゃ……明日の昼飯の後にちょいと付き合って貰えないか?」
「え? エンさんにですか? そりゃ、構わないですけど……一体何するんです?」
「そう身構えなさんなって。話がしたいのさ」


 話? と疑問符を浮かべるウッドマーク。立ち入るべきではないのかも知れない。しかし身勝手な言い分だが、立ち入られたくなければ気取られちゃだめだ。現に気付いた者が立ち入ろうとしてしまっているのだから。










 翌日、昨日の良い天気とは裏腹に空は重たい鉛色に覆われて、シトシトと時期にしては冷たい雨を降らしている。


「悪いな。でも、どうにも気になってさ」


 自警団の修練場に備え付けられている荷物部屋。悪天候のためか、今日は誰も利用していない。


「一体どうしたんですか?何か気に障るような事をしてしまったでしょうか?」


 ウッドマークは重い雰囲気を察したのか、先ずは自分に非があったのではないかと問うてくる。まったく、いくら恩人相手であっても気を遣い過ぎだ。


「いや、君ら夫婦は本当に良くしてくれて有難いと思っているよ」
「では……」
「だからこそ気になったんだ。奥さんは、セルマさんは何であんなに悲しそうなんだ……?」
「え……?」



 話があるから付き合ってくれ。そう言われた時には予感はしていたんだ。彼は一流の腕前を持つ旅人。幾多の冒険を乗り越えて来たのだから、洞察力だって人並みじゃないはず。そんな彼なら僕ら夫婦の秘密に気付いてしまうだろうと。


「立ち入るべきではないのは承知だ。だが、何が原因かは聞かねば分からないが、旅人の知識が役にたつかも知れない。話してはくれないだろうか?」
「いやそれは…………」


 軽々しく話せる内容ではないのだろう。ウッドマークの口はなおも鉛のように重そうに見えた。しかし、幾度か呻くように小さな声を挙げると、ポツリポツリと話し始めた。


「まず初めに、その…………この話は誰にも言わないで下さい」
「もちろんだ。口が軽い旅人など、それだけで罪と言えるだろうさ」
「ありがとうございます。実は、妻は……セルマは生まれつき子供を作れない体質なのだそうです。私と夫婦になって、その……えと……それなりに愛し合ったりもしたのですが、一向に授かる気配がなく…………。それで大きな町、領主様のいらっしゃる町の神殿で診てもらったら……」


 ウッドマークが『皆に知られればセルマがキツく当たられてしまうので……』と続けるのを聞き、納得がいった。

 リアルでも今でこそ多様な婚姻関係が認められていたし、子供のいない夫婦などそれこそ数え切れないくらいいた。しかし、昔は子供を作れないというだけで離婚されたり、酷く扱われたりという事が実際にあったと聞いた事がある。特に、子が年老いた親の面倒を見るのが当たり前になっている社会では、その風潮はより強いものになるだろう。

 そして、この世界ではそれがある種当たり前のことなんだろう。

(年金とかの概念は無いもんな……。まぁ、リアルでも大企業の役付きクラスにならなきゃ加入自体無理だったけど……。子がいないから他人に面倒見てくれとか、無理があるもんな)

 さて、それはともかくこの世界では先天性の障害はどういう扱いになるのだろうか? ユグドラシルはゲームの世界故、ダメージやステータス異常による行動制限は存在したが、生まれつきの病気や障害については想定されていなかった。精々、フレーバーテキストで雰囲気作りをするぐらいなものであった。

 ここで、「生まれつき」の「異常」を魔法が判別する事が可能であるかという疑問が生じる。もし、それを「正常」と判断するなら恐らく回復は不可能。それこそ《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》クラスの方法で根本的に作り変えなければ難しいだろう。

(ん? でも待てよ? 神殿とやらは異常があると判断したわけだよな…………?)

 確か神殿は医者がいる訳ではなく、回復魔法が使えるクレリックや神官が病や怪我の治癒を行なっているという話だった。つまり、医学的見地からの診断ではなく、何か魔法的な力で判断しているはずだ。魔法が異常だと判断している。だとした状態異常を完全に回復できる《ヒール/大治癒》でいけるんじゃないだろうか?


「なあ、ウッドマークさん。もしかしたら何とかなるかもしれない……」
「っ!? 神殿でも無理だと言われたのにですか!?」
(あ、しまった。《ヒール/大治癒》は第6位階魔法だ)


 重要な事に気がつくも、途中まで提案しておいて『ゴメン、やっぱり今のウソ』は流石に外聞が悪いと思い、覚悟を決める。だが、下手にこの世界で人間が使える最高位とされている位階の魔法が使えます……とか言えば厄介な事になるのは分かりきっている。だから…………。


「あぁ。俺は1人で旅をしてるから、もしもの時に備えて触媒を使った儀式魔法を修めているんだ。だからもし触媒を用意する事ができたら、奥さんの体質を治す事が出来るかもしれない……」


 という事にした。あとは適当な素材を触媒という事にすれば、なんとか誤魔化されてくれるだろう。


「そ、その触媒とはなんですかっ!? お願いします。俺に差し出せるものならなんだって、命と言われれば命だって差し出します。だから、セルマが悲しい思いをしなくていいなら、どうか……」
「ちょ、ちょっと落ち着け! まだ、完全に治るかは分からんし、ちゃんと発動するかも分からん。ともかく、まず落ち着け!」


 地に頭をくっつける、いわゆる土下座というやつをしながら懇願されるとは思いもしなかったので、気圧されてしまった。まさかここまで取り乱すとは……。

 彼はゆっくりと立ち上がり、真剣な……でもほんの少し羞恥を感じているような面持ちでこちらを真っ直ぐに見る。

「すみません……」
「いや、落ち着いたなら話を進めよう」
「はい。お願いします」


 ウッドマークの取り乱しようを見て少しだけ軌道修正。やはり価値観の相違が1番ネックになりそうだ。今後はもっと慎重にしないと厄介事に絶対巻き込まれる。


「まず、儀式魔法は魔力の消費が大きいので、そう気軽には使えません。だから、この事は奥さんと貴方の秘密にして下さい」
「はい。分かりました」
「触媒に関してはいざという時に魔法が使えないのは困るので、いくつかストックがあります。なので奥さんの了承が取れれば、いつでも発動ができます」
「はい。妻も反対する事はないと思います」
「結構。では最後に対価についてですが…………」


 ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。目の前に立つ男は覚悟を決めるかの様に静かに目を閉じる。


「貴方が出来る範囲で結構です。この地の自然を守って下さい」
「え……と?」
「この先、もしかしたら何百年も先になるかもしれない。人の文明が発展していくにつれ、必ず森や草原や川や空が蔑ろにされていく。私は長い旅路の中でいくつも自然を失った国を見てきた。だから、貴方には自然を守って貰いたい。そして貴方の子や孫に伝えて欲しい。一度失われた自然は生半の事では戻らないのだと」


 恐らく目の前の彼には意味が分からないだろう。現にさっきまで閉じていた目を今度はパチクリと開閉している。まぁ、今現在において自然を破壊する程の発展は生じていないのだから、理解できなくても当然だ。だが、だからこそ種を撒く必要がある。

 私はまだ対価の意味を咀嚼できないでいる彼に、古びたしかし密度が高くズッシリとした木の枝を、懐から取り出して見せた。


「これは数千年を生きた古木の枝です。そしてこれが儀式魔法の触媒なのです」
「数千…………。そんな貴重なものを……使うのですか?」
「はい。しかし、これで私が示した対価の意味も理解できるのではないでしょうか?」


 そう言われてウッドマークは理解した。遠い未来、この旅人の様に儀式魔法を使う者が古木の枝を必要とするかも知れない。つまり、ここで自分達に使う分を未来の誰かに返してくれという事なのだと。


「分かりました。必ず、必ず自然が失われない様にいたします。妻が回復して子を成すことができたら、子にも孫にもそのまた先にも伝える様にいたします」


 ウッドマークが理解してくれたのを確認して、まずは良かったと胸をなで下ろす。もっとも、先ほど見せた木の枝はユグドラシルでは割とポピュラーなアイテム素材である。フレーバーテキストに『数千年生きた……』のくだりが書かれていたが、NPCの素材屋でも店売りしている中級の安物だ。まぁ、この世界基準でいけば間違いなく貴重品だろうけど。


「じゃあ、奥さんを説得してここに連れてきてくれるかい? それまでに俺は準備を済ましておくからさ」
「分かりました! すぐに行ってきます!」


 自宅へと向かうウッドマークの足取りはとても軽やかだった。















 雨が降り止む気配がない。シトシトと緑に覆われた大地を潤している。

 修練場の一角、死角になっていて周りからは見辛くなっている位置に3人分の人影があった。


「それじゃ始めようか」


 3人のうちの1人、濃い青の髪に青の瞳を持ち、燃え盛る炎の様な鎧に身を包む青年は、まるで遊びを始めるかのごとく軽い口調で残りの2人に告げる。

 青年は地に書かれた魔法陣の中心に古びた木の枝を突き刺すと、腰に下げた剣を抜き放ち木の枝を縦に切り割った。途端に切り口から青白い炎が湧き上がる様に現れ、古木の枝を灰へと変えていく。

 青年は、両手を胸の前で握り祈りを捧げる女の頭に手をかざすと、呪文を唱え始める。するとかざした手から神聖な光が溢れ、女の身体を柔らかく包み込む。

 やがて光は女の身体に吸い込まれて、最後の一瞬身体の全体が眩く輝いた。

 青年はかざしていた手をゆっくりと引っ込めて、同じ歳の頃の男女に声を掛けた。


「まだ本当に治ったのかは分からないけど、多分大丈夫だと思う。一応、以前に診てもらった神殿で確かめて貰って。お礼の言葉とかは、確認して貰ってからでいいからさ」
「わかりました。明日にでも神殿に向かいたいと思います。本当にありがとうございました」
「私のために貴重な物を使って頂いて、お礼の言葉もありません。ウッドマークから聞いた対価のお話だって、本当にそれでよろしいのか……」
「いやいや、さっきも言った様にまだ治ったかどうかは分かりませんから。それに対価だって十分ですよ。まぁでも、そうだな……。また俺がこの村へ寄った時は、飯を作って下さい」


 青年のあっけらかんとした言葉に夫婦は泣き笑いをうかべて、もう一度感謝の言葉を述べた。











 翌日、夫婦は徒歩で1日かかる距離にある神殿のあるフルーネの町へと出かけていった。





 そして無事に神殿で治った事を確認でき、夫婦は涙を流しながら喜びに身を震わせた。

 この時夫婦は気付いていなかった。喜びのあまり細かな事まで気が回らなかったのだ。

 神殿に仕えるクレリックの『一体どんな治療を』との問いに、『旅人様の不思議なお力で』と答えてしまった事に。





 そして、その話があっという間に神殿のネットワークを通じて広がっていく事になろうとは、この時点では誰も予想していなかった。



時を同じくして


アウラ「今日もいないねー。やっぱり森精霊とっ捕まえて聞いた方が早いんじゃないかな?」
アインズ(なんでウチの子たちは短気なんだろう?)



ちょいと暗めな第7話でした。
タイトル通り、生まれつきでどうにもなんないのにって事で不公平な仕打ちを受けるって事はありますね。
今回は《ヒール/大治癒》で治す事ができましたが、生まれや環境なんかはそうはいかんですからね。ままならないものです。
さて、お気付きかと思いますが、エンという人間はゲームのプレイヤーとしては優秀でしたが、現実を生きる上では意外と不器用でやらかします。ケアレスミスが多いタイプの人間です。研究助手としてどうなのかと言われそうですが…。今回の話でも、エンとしては上手く『自然を守る』という目的の布石を打てて上出来…と言いたいところでしたが、情報が流出してしまいました。
でも、夫婦を責めないで下さいね。彼らは『儀式魔法』に関する事を秘密にしなければならないと思っているので。

ちなみに、エンがセルマの料理に懐かしさを感じたのは、リアルでは離れて暮らしている母親を感じさせたからです。セルマは自分に子が出来ない事を知っていたので、母になる事への願望が強くあったのでしょうね。

そういう訳で神殿を通じて法国や、ジルクニフや、アインズ様にもすぐに情報が伝わる事でしょう。はてさて、どうなる事やら。



スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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第8話:三者三様の食指

〜前回あらすじ〜

エン「秘密は暴かれた!!」
クレリックA「情報流出!!」


 帝都アーウィンタール。精緻に整備された石畳の通りは行き交う人々で活気にあふれている。通りに面した建物の外観は統一され、まるで巨大な一つの建物であるかの様に錯覚させる。

 この洗練された街並みのおよそ中央に皇城が鎮座している。この国の象徴でもある城の中に、ごく限られた者しか入室を許されない部屋があることを知る人物はかなり少ない。

 贅を尽くした造り、と表したら良いだろうか。足元は一面赤い絨毯が張られている。極上の柔らかさと手触りを持つそれは、行儀悪が許されるならば転がって全身でその感触を楽しみたいと思わせるほど。部屋の周りを飾る調度品の数々も、いかにも高級品であるという顔付きをしている。そのどれ1つをとっても、おいそれと手を出せるようなものではない。

 その部屋の中に置かれた落ち着いた色調の長椅子に、スラリと長い下肢を投げ出してくつろいだ姿をしている男が1人。

 秀麗眉目。男の容姿を一言で表すならば最も適当な言葉であろう。紫の瞳は知性と威厳を秘めており、ただ美しいだけの王者ではない事を示している。

 彼こそがバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスその人である。

「それで? その治癒に長けた旅人とやらは今どうしている?」
「はっ。我が国の領内の集落を転々としているとの事ですが、時折急に見失う事があるとの事です」


 ジルクニフは淀みなく口を動かす秘書官のロウネ・ヴァミリネンの報告を聞きながら思考を巡らす。


「ジイ……、お前はどう思う?」
「ふむ。生まれつきの異常を治癒できるならば、魔法で言うところの少なくとも《ヒール/大治癒》相当……第6位階の力を持っているという事ですな。それに、恐らくじゃが転移の魔法が使えるか、それに準じたマジックアイテムを持っているようじゃの。手練れの監視から逃れるとしたら、それしかないでしょうな」


 腰の高さまで伸ばされた真っ白な髭に同じ様に真っ白な髪。顔に刻まれた深いシワは長い年月を生きてきた証である。皇帝であるジルクニフに『じい』と親しみを込めた声で呼ばれ、またその彼に不敬にならない程度の言葉使いで意見を述べられる。それはつまり、それを許される立場にあるという事である。

 彼の名はフールーダ・パラダイン。帝国の首席宮廷魔法使いであり、この世界における人間の中での最高戦力の1人だ。普段は物腰柔らかく智慧に富んだ男であるが、今現在、妙に浮ついているように感じられる。


「じい、わかっていると思うが……、そやつがこちらの仕掛ける檻に囚われるまでは自重しろよ?」


 ジルクニフはフールーダの本質を知るだけに、念のために口頭でクギを刺す。『分かっておりますとも』と至極落ち着いた声が返ってくるが、本当に分かっているのかはジルクニフにも分からない。

 さて魔法狂いのフールーダはともかく、神殿に紛れ込ませている密偵から情報が上がってすぐに、ジルクニフはエンを監視する為の人員を向かわせている訳なのだが、状況はなかなか面白い事になってきている。


「カルネ村の一件といい我が領内の件といい、妙な事が続くものだ。アインズ・ウール・ゴウンなるマジックキャスターとエンなる旅人に繋がりがあると思うか?」
「可能性はありますな。エンという旅人、やはり魔法による覗き見は出来ませんでしたからな」
「ふん。同等の実力者、あるいはマジックアイテムを有している者が同時期に現れたのだからな。可能性があるとしたら、別働隊……。アインズ・ウール・ゴウンから視線を外させる為……と考えるべきか」


 小癪な手を……。とジルクニフは含み笑いを漏らした。


「よし、ここは奴らの手に乗ってやろう。単独行動をしているなら引き込むチャンスだ。上手くやれば、アインズ・ウール・ゴウンとも有利に交渉できるだろう」
「では、皇城へ招くべく使者を送りましょうか?」
「あぁ。じい、お前も使者に同行しよく見て(・・・・)来るがいい」
「もちろんですとも。いかなる力を秘めているのか、この目でしかと見て参ります」
「それから遺跡の方も同時進行だ。その方が気取られにくくなるだろうからな」
「畏まりました陛下」


 ジルクニフは諸々の支度のために部屋を後にする2人の背を見送り、ふぅ……っと長い息を吐き出し、不敵な笑みを口元に浮かべた。


「さてさて、鬼が出るが蛇が出るか。1つ知恵比べといこうじゃないか」







 ※







 スレイン法国。かつてこの地に降り立ち人類のために戦った6人の神が作った国。人類の守り手として、純粋な人間のみの栄華こそを是とする国。その国の中枢を司る最高機関、そこでは高級ではあるが華美ではない、きっちりとした司祭服に身を包む者達が荒げた声を口々に挙げていた。


「本来、病や怪我の治癒は神殿の占有事項だ。いくら旅人とはいえ、神殿の権利を侵害したのなら連行し聴取すべきだ」
「何を言う。強い治癒の力は非常に稀有だ。それは貴様も分かっているだろう。ならば、丁重に迎えて神殿に取り込めば良いではないか!」
「帝国がすでに接触を図ろうと画策している。先手を打たれる前に、まず連れて来る事を優先すべきではないか」
「だから、その口実を話し合っていたのだろう。耄碌したか」


 まさに喧喧囂囂。収拾はつきそうもない。しかし、陽光聖典が行方不明、様子を見ようとした土の巫女姫は不明の攻撃により死亡。漆黒聖典からは裏切り者が逃亡し、しかも裏切り者は闇の巫女姫から叡者の額冠を奪い去っている。その影響で闇の巫女姫は発狂して使い物にならない状態。ここに集っている全員が懸念している通り、破滅の竜王が復活するまで時間的猶予のない今、戦力の増強は急務でもある。


「ええい。仕方あるまい。破滅の竜王を調査している漆黒聖典を向かわせる事とする。抵抗されるようなら多少手荒になるが、力づくで連れて来させよ。説得だなんだは後からでもどうとでもなる!」


 最高神官長の一喝で静まり返る執行部。反対の意を示す者がいないのを確認すると、最高神官長は漆黒聖典へ指示を出す段取りを部下たちに命じる。




 だが、彼らは知らない。その相手が不倶戴天の敵である『異形種』である事を。







 ※







『アインズ様。例の小屋の主であろう人物と思しき者の情報が入って参りました』


 エ・ランテルの一角、先程までアンデッド騒ぎで混乱の様相を呈していた街は、魔獣を従えた漆黒の戦士の活躍により落ち着きを取り戻していた。もっとも、それなりの代償があった事はあったが、アインズからすれば特に気にもならない程度であった。

 アルベドからの連絡を受けアインズは気を引き締めた。と同時に(ようやくか……)と、思っていたより時間がかかったために安堵感にも似た感情が湧く。アウラの配下に見回りをさせていたが例の小屋の主は一向に現れず、待ちぼうけを食らった気分になっていたからだ。


「そうか。すぐにナザリックへ帰還する。守護者及びセバスとプレアデスを玉座の間に集めておけ。時間は……そうだな、3時間後だ。詳しい報告はそこで聞く」
『畏まりました、アインズ様』


 アインズはメッセージを切ると側に控えるナーベラルと、 薬師の青年の護衛任務の途中で支配下に置く事になった、ハムスケと名付けた巨大ハムスターの方へ体を向ける。


「ナーベ、一度ナザリックへ帰還する」
「は。このちくしょ……ハムスケはどう致しますか?」
「……連れて行く。ナーベ、お前は帰還後すぐにハムスケを連れてナザリックの者達に面通しをしておけ」
「はっ! 承知致しました……」
「殿? ナザリックとは宿の事ではないのでござるか?」
「あぁ、私やナーベの本来の拠点だ。まぁ、私の配下になったのだから、食われる様な事はないだろ」
「ひぇ、拙者は食べられてしまうでござるか?」


『食われる』と言う部分に過剰反応するハムスターから目をそらすと、「殿〜」と情けない声が聞こえてくる。ハムスケにはすでにオーバーロードとしての姿を見せている。迂闊に話す様な事はしないだろうし、見た目に反してこの世界では強大な魔物に分類される為、好き好んでハムスケに近づく者もいないだろうが、今後の事を考えて身内に知らせて置くべきだと判断したのだ。まぁ、大丈夫だと思う。いや、思いたい……。

 そしてナーベ……いやナーベラル・ガンマはあまり気がすすまない様子であるが、アインズは敢えてそれを無視する事にした。

(今はハムスケよりプレイヤーだ)










 ナザリックへ帰還したアインズ一行は、それぞれのやるべき事を行う為に墳墓の入り口にて別行動に移った。アインズは地表部で受け取ったリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させ、9階層のロイヤルスイートに転移すると、自室の前へと徒歩で向かう。


「プレイヤー対策か。考えたくないけど、万が一に備える必要があるな……。はぁー……行きたくない………………」


 自室の目の前でアインズは宝物殿のアレを思い出し、自分の心が羞恥に染まるのを感じていた。右往左往と扉の前を行ったり来たりしながら、うんうんと唸っている姿は完全に不審者だが、このナザリックにそれを指摘するものはいない。色々と葛藤はあるが、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明こと『ぷにっと萌え』の教えを蔑ろにする訳にはいかない。十全な備えこそ何よりも武器になり得るのだ。己の黒歴史如きに負ける訳にはいかない……。


「悩んでも仕方ない。覚悟を決めるか」






 目の前にそびえるのは黄金の山。指輪で転移したのは宝物殿のエントランス部分。ここには『とりあえず』の名目で適当に放り込まれた資材や金貨、アイテムがうず高く積まれていた。しかもその山は1つではなくいくつも並んでいるのだから、それだけでもアインズ・ウール・ゴウンの財力がズバ抜けている事が窺い知れる。

 だが、その宝の山でさえここでは序の口だ。周囲に備え付けられた棚にも所狭しと宝が納められている。大粒の宝石をいくつもあしらった兜、見る角度によって七色に輝く全身鎧、豪華な装飾をされた魔道書、緻密な彫刻が刻まれた短杖……と挙げていけばキリがない。

 アインズは広大とも言えるエントランスを《フライ/飛行》を使い移動すると、扉の形をした真っ黒な闇の前に降り立った。


「奥に向かうのは久々だからな……。パスワードは……なんだったかな…………。……仕方ない、アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」


 闇の前でブツブツと呟くと、闇の中に文字が浮かび上がる。


「えーと、ラテン語だっけ? ほんと細かく設定したもんだよな」


 ナザリックのギミック作成の一翼を担っていた『タブラ・スマラグディナ』の凝り性ぶりが思い出されて微笑ましくなるが、今は思い出に浸っている訳にはいかない。


「かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう……だったか?」


 記憶の隅に置いやられていた言葉を思い出し徐に唱えると、真っ黒な闇の扉は形を歪め何かに吸い込まれる様に一点へ凝集していく。後に残されたのは扉の中央辺りに浮かぶ拳大の黒い球体だけだ。

 扉の先、左右に巨大な棚がいくつも並ぶ通路を進む。棚には様々な武器が綺麗に陳列されている。シンプルな造形のナイフ、トゲ状の突起をいくつも生やす禍々しい棍棒、貴重鉱石から削り出された杖、どれも仲間達と収集した大事な宝である。

 通路を抜けると少しひらけた場所に出る。中央には簡単なローテーブルとソファーがおかれており、そのソファーに腰掛ける者が1人。

(あれ? タブラさんの姿?)

 水死体の様なブヨブヨと膨れた身体にタコの様な頭部を持つ姿は、まさにアインズ・ウール・ゴウンの大錬金術師、『タブラ・スマラグディナ』のものである。

 タブラの姿を借りるそれは、アインズに気がつくと徐に立ち上がり、首を傾げてみせた。


「児戯はやめよ、パンドラズ・アクター」


 言葉と同時にグニャリと身体が歪み、やがて先程とは別の姿が形を現す。現れた者を一言で示すなら軍服を着たハニワだ。

 パンドラズ・アクターは本来の自分の姿に戻ると、身につけた軍靴のかかと部分でカツンと音を響かせ、ビシッと敬礼をして見せる。


「これは我が創造主、ん〜モォモンガ様っ!」
「お、お前も元気そうで何よりだ……」


 アインズは内心で盛大に項垂れていた。いや、もはや精神の中のアインズは身体を支える気力すら失われ、屍の様な様相ですらある。


「はい、お陰様で元気にやらせて頂いてます。して、本日はどういった御用向きで?」
「…………」
「モモンガ様?」
「っは!? いや、何でもない。それよりも……だ。実は…………」


 一瞬、現実逃避のために意識を別次元に飛ばしていたアインズは、怪訝な顔(ハニワ顔でよく分からないが)をしているパンドラズ・アクターに事の経緯を話し、いくつかの課金アイテムを持ち出す事を告げた。

 経緯の説明中や課金アイテムを取り出している途中、何度かパンドラズ・アクターのドイツ語で精神的なHPをごっそり削られる目にも遭ったが、何とか1つ目の難所を乗り切る事ができた。


「さて、パンドラズ・アクター。これからはお前にも宝物殿の外の仕事に携わって貰う。いい機会なので、報告を聞く場にてお前の事を皆に紹介しよう」
「承知しました。アインズ様」


 アインズはパンドラズ・アクターにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡すと、連れ立って守護者達の待つ玉座の間へと向かうのであった。



時を同じくして


ブレイン「暇だな…。どこかに腕の立つ奴はいねぇもんかね」




第8話でございます。
動き始めましたね。スレイン法国だけは、漆黒聖典が主軸になるかと思うので、本国の描写が少なくなってしまいました。
果たしてエンのハートを射止めるのはどこの勢力になる事でしょうか?(違)

ちなみに当小説のアインズ様は、エンを警戒していたため原作以上に慎重に事を運んでおります。結果→エ・ランテルに忍ばせた僕からクレマン&カジットの動向が伝わる。ナーベを漆黒の剣とンフィーレアに付き従わせるも、ドジっ子ナーベの隙をつかれンフィーレアは攫われる。漆黒の剣は多少手傷を負うも命は無事。(なお、ナーベは失態に呆然自失なるも、モモンから多人数を守りながらでは仕方ない事だと慰められたとかなんとか…)
本文中のそれなりの犠牲は主に衛兵達の事になります。
番外編にてこの辺りの話を書けたらなぁと、画策中です。


次回もアインズ様のターンは終わらない!


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第9話:我儘な支配者

〜前回あらすじ〜

ジルクニフ「さぁ、私と知恵比べだ!(ドヤァ)」
最高神官長「力づくでも構わん!!(キリッ)」
アインズ「パンドラが受け入れて貰えるだろうか(ハラハラ)」


 ナザリック地下大墳墓ー玉座の間。

 玉座に腰掛ける死の支配者の見下ろす先に、第4・第8を除く各階層の階層守護者、宝物殿の領域守護者、ナザリックのランドスチュワート、その配下に名を連ねるプレアデス、そして守護者達をまとめる統括が一堂に会し規則正しく跪いている。


「皆の者、面をあげよ!」


 支配者の声に一糸乱れぬ動きで全員がその顔を露わにする。


「まずは、それぞれに役目がある中でこうして集まってくれた事に感謝しよう」
「恐れながら。我々ナザリックに属する者にとって、アインズ様がお呼びとあらば即座にお応え致しますのは、至極当然の事で御座います」


 アルベドの言葉に皆がもっともだと頷く。アインズとしては、このブラック企業体質をどうにか変えたいと思っているが、意識改革はまだまだ難しそうだと頭を痛めている。


「そうか。……ではアルベド、報告をせよ」
「はっ」


 アルベドは短く返事をしスッと立ち上がると、前へ……アインズが座る玉座の右手側へと足を進め、アインズに一礼しくるりと身体を反転させた。そこは守護者統括としてアインズに仕える時の定位置だ。


「では、まず帝国へと潜ませた僕からの報告です。デミウルゴス」


 アルベドに名を呼ばれたデミウルゴスはその場で立ち上がると優雅な所作で一礼する。

 デミウルゴス……第7階層の守護者であり最上位の悪魔(アーチデヴィル)である。三つ揃えのスーツを着こなし、東洋系の顔立ちにオールバックの黒髪、丸眼鏡をかけている。一見すると人当たりの良さそうなインテリであるが、腰から生えたプレートメイルに覆われたトゲ付きの尾が悪魔である事を証明している。


「アインズ様、御報告申し上げます。帝国領内、特にトブの大森林に面した集落を中心に僕を潜ませたところ、次のような情報が上がって参りました」


 デミウルゴスの報告によれば、アウラの僕が小屋を発見した頃から、不思議な旅人が村々に出没するようになった。その旅人は自身を『エン』と名乗っている。ある町の神殿のクレリックの話によれば、第6位階の《ヒール/大治癒》に相当する不思議な力である村の女の身体を癒したらしいとのこと。また、ある村では魔物の襲撃にどこからともなく助太刀に現れ、鬼神の如き戦いをした。時折、一瞬で別の村に移動する事から、転移を使用しているらしい。割と頻繁に集落近くの雑木林を散策している。現在は帝国領内の中でも南に位置する『カサドラの村』に逗留中である。


「……といったところで御座います。強さを測れる僕も同行させましたが、装備品なのかスキルによるものかは不明ですが、測定はできませんでした。種族に関しては、人間種と共に行動する事が多い様ですが、紛れ込む為の偽装の線もあり得ますので判然とは致しません。そして最後になりますが、既にバハルス帝国とスレイン法国がかの者と接触する機を伺っているようです」
「そうか……。両国とも優れた癒し手を欲して……というところが有力か。他に報告すべき事はあるか?」


 この世界の住人達はとにかく弱い。稀にそこそこの強さを持つ者がいる事もあるが、それだってレベル100のプレイヤーにとっては雑魚である。噂に聞く真なる竜王の実力が本物であるならば、対等の戦いをする事ができるだろうが、いかんせん絶対数が少な過ぎるし、人間の国家とは一線を引いているらしい。そう言う理由から優秀な癒し手の存在は、国が生き延びる為の切り札になり得るのだ。


「恐れながらアインズ様。帝国はかの者と我々に繋がりがあるとみて動いている節がございます」
「なに? ……なぜだ?」
「はっ。アインズ様が御手ずから慈悲をお与えになったカルネ村について、既に帝国に情報が渡っております。そこにそれ程間を空けずに今度は帝国で目立つ行動をする者が現れれば……」


 アインズはアルベドの言葉を聞いて成る程と得心がいった。確かに同時期に立て続けに出自不明の強者が人助けをしたとなれば、否が応でも関連づけてしまうだろう。


「つまり帝国は我々との接触を見越して行動している可能性が高い……という事か。では、法国はどうだ?」
「はい。法国は恐らくアインズ様のお考えの通り、戦力増強の一環かと。なにせ特殊部隊の1つが消えてしまった訳ですから」

 法国に関しては人間以外の種族に敵対的だ。アルベドの言う通りカルネ村での陽光聖典の件もあり、ナザリックにとって最も敵対する可能性の高い国だ。と、そこで一つの考えを思いつく。

(法国に対する反応でわかる事が多いんじゃないか?もし異形種であれば法国の方針には拒否反応がある筈だし……。けど、他のNPC達の意見も聞いてから判断すべきだな……)

 アインズは少し考える素振りを見せてから、他の者達にも意見を求める事にした。


「では……我らがプレイヤーと接触するにあたり、帝国と法国の介入を考慮した場合、どの様な手段を用いるべきか、お前達の意見も聞かせて欲しい。それと……最初はなるべく敵対しない方向で、と言う条件もつけさせてもらおう」


 あくまでも自分の考えはあるけど敢えて……という風に演技をしてしまうのは、自分の悪い癖だな。アインズはそう考えながらNPCを見遣る。


「そうだな、シャルティア……お前はどう思う?」
「ひぇ!? わ、わらわでありんすか?」


 まさか自分に振られるとは思っていなかったのだろう。シャルティアと呼ばれた少女は狼狽えている。

 シャルティア・ブラッドフォールン。第1〜第3階層の守護者である吸血鬼の真祖(トゥルーヴァンパイア)だ。体つきこそ幼いが非常に整った容姿をしている。白蠟じみた肌をボールガウンやフィンガーレスグローブで包み隠してしまっている。

 1対1の戦闘において守護者最強を誇るが、その強さゆえに敵を侮るきらいがある。


「人間に遅れを取るのは宜しくないと思いんす。先手を打って、万が一抵抗されんしたら力で屈服させるのが宜しいかと思いんす」
「ちょっとシャルティア、アインズ様は最初は敵対しないようにって言ってるでしょ? ちゃんと話し聞いてた?」
「う、煩いでありんすチビスケ! アインズ様は『なるべく』と仰っていんした。なら、下手に小難しい事をするより確実でありんしょう」


 懸念した通りの短絡的な意見にアウラがツッコミを入れる。確かに簡単ではあるけど厄介ごとになるのは確実だ。


「ふむ。シャルティアよ、後半の力づくというのはいただけないが、先んじて動くべきだというのは貴重な意見だ。ではアウラ、お前はどうだ?」
「はい。私も人間より先に動くべきだと思いますが、どこかナザリック以外の場所に誘い込んで、私達守護者全員で話をすればいいんじゃないかと思います」
「ふむ。アウラは守護者全員でいくべきと考えるわけか……」


 アウラ・ベラ・フィオーラ。第6階層の守護者でダークエルフの女の子。同じく第6階層守護者であるマーレの双子の姉である。レンジャーやテイマーのクラスを持ち、100体もの僕を巧みに指揮する集団戦のエキスパートである。

 アウラもどちらかといえばナザリック以外の者へ威圧的な態度をとりがちであり、今回の意見も力を見せつける意図がありありと窺える。


「ふむ。実は接触の際は無用なトラブルを避ける為に、ごく少人数でと考えているのだ。また、やはりここは直接私が出向くべきだと思っている」
「「「!?」」」
(わかる。わかるぞー。俺が出向くなんて危険だとか、畏れ多いとか考えてるんだろうなぁ……。まぁ危険かも知れないのは確かにそうだけど、そこはちゃんと考えて課金アイテム……勿体無いけど……まで持ち出したんだからな)


 アルベドとパンドラズ・アクター以外が驚愕しているのを見ながら、アインズは先を続ける。


「そして、敢えて法国を先にぶつける。理想は法国、我々、帝国……の順だな。まぁ、帝国は何やら勘違いをしているらしいから順番にはあまり意味が無いが、上手く利用できればそれに越した事はない」
「成る程。そういう事でしたか……。アインズ様の御慧眼、本当に恐れ入ります」
(はい? あれ? デミウルゴスさん?)


 突如何かを悟った様に畏まり出すデミウルゴスにアインズは困惑した。それはそうだ。別に今回の件に大掛かりな意図はなく、単にプレイヤーだったら仲良くやりたい。なるべく第一印象を良くしたいから、下調べを入念にしておきたい。自分たち異形種に対する立ち位置が分からないから、法国をぶつけて反応を知りたい。人助けをしている様だから、上手く協力関係を築いて周りの国にアインズ・ウール・ゴウンは安全だと印象付けたい。そんな程度の思惑しかないのだから、一体どこに感心したのかわからないのだ。


「え?どういう事でありんすか?デミウルゴス」
(よくぞ聞いてくれた!えらいぞーシャルティア)


 臆する事なく疑問を口にするシャルティアに、アインズは心からの賞賛をおくる。


「うむ。デミウルゴス、どうやらお前には私の考えを読まれてしまったようだ。折角の機会だ。皆に説明してやってくれ」
「では僭越ながら……。まずアインズ様は件の人物を使い、法国の情報を丸裸にするおつもりなのです。他国の領土内とはいえ、功績ある者を迎え入れたいと考えるならば、それなりの地位にある者が使者になる筈です。逆に地位の低い者が使者としてやってきた場合、外交や交渉について明るい者がいないか、高位の者を使者に立てられない状態と判断できるでしょう。そして何より、人間以外を敵視している法国に対する態度で、我々の懸念の1つである種族についても判明しますね。もし、彼が人間であっても法国と反目するならば我々としても付け入る隙がありますし、賛同する様な者ならそもそも利用する価値がありません。いずれ法国と共にナザリックの力で滅ぼして仕舞えば良いと判断します。また彼が我々と同じ異形種であれば、法国は必然的に彼を滅ぼすべく動くでしょう。そうなれば法国の戦力について知る事ができますし、彼と共闘して恩を着せる事も出来るでしょう。…………ここまで宜しいですか?」


 嬉々として語るデミウルゴスの説明は分かり易かった。ここまで深く考えていなかったアインズとしては、感心するばかりではあるのだが……。

(なんとなく捨て駒として使ってやる感が……な)

 もっとも、先程とった態度のせいで今更修正させる事も憚られてしまう。

 デミウルゴスは周りが理解しているものと判断した(ある1名に関しては勘定に入れていないようだが)ようで、続きを話し出す。


「次に帝国についてだね。現在、帝国は愚かにも誤った推察に基づいて行動をしているわけなんだけどね、アインズ様はこれを足掛かりに帝国を飲み込んでしまおうとお考えなのだよ」
(な、なんだって? 帝国を飲み込む? なんの話をしているんだ?)


 デミウルゴスの言葉にアインズは先ほどよりも酷く困惑した。あわよくば印象操作……くらいにしか考えてなかったのだから、どうやったらそんな発想が出てくるのかが全く理解できないでいた。


(これは少しブレーキを掛けなければ、とんでもない事になる!)
「んんっ、ちょっといいか? デミウルゴス」
「は。如何なさいましたか? アインズ様」
「帝国に関しては事を急ぐつもりはない。そうだな、やはり時間を掛けて……だな。そ、そう……少しは楽しまねばな」
「おぉ、アインズ様。やはりその様なお考えでしたか。心得ておりますとも……」
「そ、そうか……。すまないな話の腰を折ってしまって」
「とんでも御座いません。未だアインズ様の知謀の足下にも及ばない私に御懸念がおありになるのは当然の事で御座います」


 既にアインズは思考の半分を何処か遠くに飛ばしていた。その飛ばした思考で、このナザリック随一の知恵者を作った大災厄に、貴方の子はこんなにも立派に働いていますと、シミジミと報告していた。

 結局その後もデミウルゴスは饒舌に話し続けた。


「我々が先に接触でき、協力関係を築く事ができれば、彼に帝国内での立ち回りを任せ、帝国が持つ価値観を根本的に覆してもらいます。どうやら彼はこの世界においては稀有な力をあまり出し惜しみをしていない様子ですしね。協力交渉が決裂したとしても、彼が帝国内で活動する限り、我々は不干渉を約束して傍観していても時間が掛かるというだけで結果は変わりません。そうなれば、個人で動いている彼に比べ、戦力も財力もはるかに上回る我々の価値は高まるでしょう。我々が直接手を下さずとも、最終的には帝国側から近付いてくる事でしょうね。そしてこれは仮に帝国に先を越されても、結果は大きく変わらないだろうと考えられるから、順番は重要では無いと仰ったのだよ」


 ここまで一気に話したデミウルゴスの表情は満足げである。周りの者達も感心した様に「成る程」とか、「流石アインズ様」と声を挙げる。しかし、そこへ意外な者から声が発せられる。


「素晴らしいご考察で御座いました。デミウルゴス様!」


 皆の視線が発言者へと向く。パンドラズ・アクターはデミウルゴスとは違ったベクトルでゆったりと一礼する。


「皆、紹介が遅れてしまったな。彼はパンドラズ・アクター。宝物殿の領域守護者として私自ら作り出した者だ。この異常事態に接し、宝物殿以外の任務にも関わらせようと思う」


『私自ら』の部分で周りの者達の纏う空気がにわかに嫉妬に染まるが、誰もそれを表には出さない。


「これはパンドラズ・アクター。こうして顔を合わせられたのは幸いです。できたら敬称などは不要に頼むよ。我々はこの映えあるナザリックに仕える同士なのだからね」
「おぉ! なんと素晴らしきかな。是非ともそうさせて頂きますよ、デミウルゴス。さて、デミウルゴスの見立てはまさしくアインズ様の狙い通りと言うところですが、ただ一点……アインズ様はかの御仁をこのナザリックにお迎えになりたいとお考えです。その証左に!! アインズ様はいくつかの『課金アイテム』と呼ばれるカテゴリーに属するアイテムを持ち出しておられます」


 パンドラズ・アクターの言葉に再び騒然となる。それはそうだろう。デミウルゴスの考えはあくまでも『利用』。そしてそれはナザリックに属する者には大変納得のいくものだ。対してパンドラズ・アクターはアインズが彼を『仲間』にしたいと考えていると言ってのけたのだから。ナザリック以外に対して排他的な考えの者には、信じられない言葉である。


「アインズ様は宝物殿よりアイテムを持ち出す際に仰られておりました。友誼を結んで話がしたい。もしかしたら、御隠れになった至高の御方々と繋がりがあるかもしれない。或いは、我々が知り得ないこの世界の理について、知っているかもしれない……と。そして、持ち出されたアイテムの内、大半は戦闘時に無傷で離脱する事を目的としている物でしたが、1つだけ違う目的の物が御座いました。それは『友誼の割符』と呼ばれるものです。つまり、アインズ様はかの御仁を……」
「そこまでで良い。パンドラズ・アクター……」
「は、これは失礼致しました……」


 アインズはなんだか秘めていた想いをバラされた学生のような羞恥を感じていた。そう。支配者然と振る舞う為に、残されたナザリックを守る為に隠す事が多くなってしまった偽らざる願望。しかし、有り難かった。自分が口に出せなくなっていた事を、代弁してくれたのだから。

(苦手意識を持っていた事が申し訳ないな……。いやだからと言って払拭できる訳じゃないが……)

 アインズはこの際だから正直に話してしまおうと決めた。もしかしたら愚か者の烙印を押されてしまうかも知れない。でも、みすみすこの機会を逃す手もない。


「皆、聞いて欲しい。私は『エン』と言うプレイヤーの種族が何であれ、こちらに敵対的でなければ仲間に迎え入れたかったのだ。無論デミウルゴスの言うように、副なる目的として法国や帝国の情報を上手く引き出し、利用する事も考えていた。……そしてそれを隠していたのは、私がお前達に失望されるのではないかと思ったからだ。このナザリックは41名で作り上げた大切な場所だ。そこに部外者を招き入れる事は、私の勝手が過ぎるかも知れないと……そう思ったのだ」


 アインズの言葉が止まると、しばらく玉座の間を静寂が満たす。すると隣に控えていたアルベドがアインズの目の前に歩み寄ってきていた。


「アインズ様。アインズ様の心中をお察しできなかった我々の愚かさをお許し下さい」


 アルベドは跪き許しを請う。そして、バッと上体を起こすとアインズの右手を両手で包み込んだ。


「アインズ様。確かにこのナザリックは至高の41人でお作りになられた場所で御座います。ですが、だからこそ慈悲深くも今なおこのナザリックを、我々の様な僕達をお護り下さろうと日々御心を砕かれているアインズ様には、もっと我儘になって頂きたいのです。私達は至高の御方のお望みを叶える為に存在しているのですから。例えどの様なお望みを抱かれてお出でだとしても、失望するなど絶対にあり得ません。ですから、アインズ様は思いの儘にして下さいませ」
「有難うアルベド。お前の、お前達の言葉を嬉しく思う。だが、お前達を大切に思っているのも事実なのだ。だから私の個人的な我儘を通す際は、関わった者に臨時ボーナスを出す事にしよう。私に出来る範囲で……と言う事になるがな。なお、畏れ多いから受け取れない……は無しだ。我儘を言い難くなってしまうからな……」


 アインズは心から目の前に並ぶ者達が誇らしかった。時に溢れんばかりの忠誠心故に暴走する事はあるが、それでもだ。

 アインズはスーっと息を吸い込むと強い口調で指示を飛ばし始める。


「我々はこれから『エン』と名乗るプレイヤーと接触する。まずは法国の使者とぶつけ情報を得る。事前の準備として、アウラ、デミウルゴス両名は相談の上、隠密性に長ける者達を多く配し、法国の使者の動きとエンの動きを注視せよ。可能であれば、帝国の使者の動きをそれとなく妨害しておけ。そしてエンと法国の接触時、どの様な展開になってもすぐに対応できるように万全の体制を敷く。アルベドはニグレドに接触時の様子を監視する準備を整えさせよ。特にカウンターの対策は万全にだ。シャルティアは万が一に備えニグレドのそばに控え、《ゲート/転移門》をいつでも発動可能にしておけ。この時点で彼が法国に賛同するならば接触は無しだ。しかし、法国と決裂した場合はそのまま我々が接触する。その際の共はアルベドとする。アルベドは当日フル装備にて共をせよ。プレイヤーがワールドアイテムを所持している可能性を考慮し、真なる無(ギンヌンガガプ)の所持も許す。ただし交渉は私が行う。私の指示が降るまでは守りに徹して待機せよ。アウラ、マーレ、パンドラズ・アクターは後詰としてナザリック内に待機。いつでも出撃できるように準備しておけ。コキュートスはシャルティア不在の第1階層に上がり侵入者に備えよ。セバスおよびプレアデス達はコキュートスと相談しナザリック内の警備に穴がない様に連携して事に当たれ。デミウルゴスはアルベドの代わりにナザリックの運営に当たれ。ただし、侵入者があった場合は指揮権を発動させ、コキュートス、セバス、プレアデス達に指示を出せ。以上だ。疑問や不満があるものは立ってそれを示せ」
「御尊命承りました。必ずや成功させてみせます」


 そこに立ち上がる者はおらず、アルベドの威厳ある声が響くのみ。アインズは満足そうに頷くと、玉座から立ち上がり大きく腕を広げた。


「お前達ならば、私の望みを必ず叶えてくれるだろう。では、皆行動に移せ!!」


 玉座の間に死の支配者の声が響くのであった。



時を同じくして


エン「へー。ここの林は広葉樹が多めだな〜。カブトムシとかいそうだな…」



と言うわけで第9話で御座います。
長くなってしまった……。詳細を説明できなかったマーレとコキュートス、ごめんなさい。

と言うわけで、現状エンと接触しようとしている3者の中で最も準備万端なのがナザリック勢です。アインズ様はどうにか我儘をそのまま通せそうです。その為に割りを食ってしまったのはデミウルゴスという…。デミウルゴスには挽回の機会を用意するつもりですが、暫くは落ち込む事でしょう。そしてちゃっかり株を上げるアルベド。原作通りモモンガを愛しちゃってる設定ですが、いやはやエンに対してどう対応するのか……。

さて『友誼の割符』についてですが、オリジナルです。効果はユグドラシルでは、他のギルドやパーティにいるプレイヤーに使用するとお互いの攻撃ダメージが無効になるという効果がありました。敵対ギルドなどにスパイを送り込む時などに使用する事が多かった設定です。
転移後世界ではフレンドリーファイヤが有効なので、更に使える場面が増えるかと思います。なお、ワールドアイテムだけは防げません。

ちょっと今回長くなってしまったので、次回は番外編を書く予定です。箸休めになればと思います。





スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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番外編1:エ・ランテル薬師誘拐事件




カルネ村からエ・ランテルへ戻ってきた日、モモンは潜ませた僕から、ンフィーレアを拐おうとする者が居ると報告を受けていた。誘拐犯をナーベに捕らえさせて、更なる功績を挙げようと画策したモモンであったが………。


「おかえりなさ〜い。あんまり遅いから待ちくたびれちゃった〜」


 突然に店の奥から発せられたその声は、まるで客に媚びを売る娼婦のようであった。









 〜時間は少し遡る〜


「すみません。荷下ろしまで手伝って下さるなんて……」


 エ・ランテルの薬師、ンフィーレア・バレアレは冒険者組合から店舗兼自宅までの帰り道に、それは申し訳なさそうに頭を下げた。


「良いんですよ。今回、私達漆黒の剣はモモンさん達に比べてほとんど活躍できてないので」
「報酬をそのまま受け取るには忍びないのである」


 漆黒の剣のメンバーはそれぞれここ数日の事を思い出し苦笑を浮かべた。任務を共にした2人組の強さが桁外れで、自分達が足手纏いにならなかったという自信が無いからだ。


「しっかし、つえー人はいるもんだなー。階級もすぐ抜かれちまうだろーな。ねぇ、ナーベちゃん」
「黙りなさいフルホンシバンムシ」
「くーっ! キビシー!」
「もー、ルクルット。いい加減諦めたらどうです? ナーベさんもすみません。モモンさんに頼まれたからと言って僕たちに付き合わせてしまって」


 マジックキャスターであるニニャが詫びると、ナーベと呼ばれた黒髪の美人は「別に」と短く返事をした。

 何故、アインズ扮するモモンの護衛であるはずのナーベが漆黒の剣について来ているかと言えば、当然アインズに命じられたからだ。でなければこの様な有象無象と行動を共にする訳が無い。

 命令の内容は『バレアレの店でンフィーレアを拐おうと画策している者が潜んでいる。漆黒の剣とンフィーレアを守り襲撃者を生かして捕らえよ。わかっているとは思うが、第3位階を超える魔法は使うなよ? もし、不測の事態が生じたらメッセージで連絡しろ』と言うものだった。

(何故アインズ様はわざわざこの様な下等な虫に目をお掛けになるのかしら……)

 既に何度も説明は受けていたはずなのに、ナーベはいまいち理解できずにいた。興味のない事にはとことん頭が働かないらしい。







 モモン達の強さについてや、エ・ランテルいちの薬屋との縁ができた事について、話に花を咲かせる5人と、その輪に加わらず最後尾を進む1人の一行は、やがて目的地へと辿り着いた。


「まずは一服休憩しましょう。よく冷えた果実水があるんです」
「そりゃ有難い。皆、お言葉に甘えようか」
「お、珍しく気が利いた判断するじゃんリーダー」


 馬車を店の前に止め、一行は店の入り口へ向かう。1人を除いて店内の気配に気付いている者はいない。ナーベはアインズの命令を守るため、いつでも迎撃できる位置へと向かう。

(はぁ。どうせ襲撃者とやらもコイツらと大差ない虫ケラなんでしょう……。さっさと終わらせてアインズ様と合流したい)

 はっきり言えばナーベは油断しきっていた。ここまで出会った下等生物達の中に、敬愛するアインズはおろか自分にすら届き得る強者はいなかった。この世界で強大と評されるあの毛玉ですら容易く屈服したのだから、人間など言わずもがな……と思っていたのだ。


「あれ? 鍵があいてる?」
「どうしました? ンフィーレアさん」


 ンフィーレアは鍵がかかっていない事に首を傾げた。祖母が鍵をかけ忘れるはずはないし、家に居るとしても明かりが点いていないのはおかしい。


「ンフィーレアさん?」
「いや、鍵が開いているのに明かりが……。おばーちゃーん? いるのー?」


 ンフィーレアはペテルの問いへの返事もそこそこに、扉を開けて中に向けて呼びかけてみた。しかし返事はない。今度は店の中へ入って、奥に向かって呼びかける。


「おばーちゃーん?」


 漆黒の剣とナーベもンフィーレアに続いて店の中へと入る。と、その時奥から足音が聞こえ、声がかけられた……。







 奥からノラリと歩いて出てきた声の主は、明り採りの窓から射し込む月明かりに照らされその姿を顕にする。それは金髪の女だった。女は体に最低限の面積しかない露出の多い鎧を纏い、顔には獰猛な笑顔を貼り付けていた。そしてよく見ると鎧には冒険者のプレートが無数に縫い付けられている。

 女はンフィーレアやその後ろに続く漆黒の剣とナーベをしっかりと見据えると、軽く舌なめずりをして見せて、ンフィーレアに向かって突進を仕掛けてきた。


「危ないっ!!」


 咄嗟にチームの前衛を務めるペテルがンフィーレアの前に出ようとしたが、間に合わずにンフィーレアを掻っ攫われてしまう。同時に女から蹴りを貰ったペテルは、斜め後ろに吹っ飛ばされてしまった。しかもその刹那の合間にンフィーレアを気絶させているのだから、彼女の実力は相当のものだと思われる。


「ンフィーレアちゃんゲットー! んふふふ。……ん〜。まだ少し時間もあるし〜、おねぇさんが遊んであげよっかー?」


 女は気絶させたンフィーレアを床に転がすと、腰に下げていた先の尖った武器を抜き放ち、獲物を前にした肉食獣を思わせる表情を浮かべる。


「くそっ! ペテル! 大丈夫かっ?」
「いっつつ…………。みんな気をつけろ。その女強いぞ!」


 臨戦態勢の漆黒の剣。実力差がありすぎる事が先の動きで十分に理解できた彼らは、死を覚悟していた。

 と、次の瞬間、漆黒の剣の間を縫って、鋭い閃光が武器を構える女に向けて飛んで行った。しかし、直線的な軌道のそれは女に難なく避けられてしまう。女の後ろにある商品棚に焦げた穴が開いたが、この場でそれを気にする者はいない。当の女は「も〜いきなり危ないな〜」と相変わらず獰猛ににやけた顔を崩さないで、さも愉快そうに鼻を鳴らす。すると今度は苛立ちを全く隠す様子も無く、閃光を放った女が口を開く。


「いい気にならないで下さいキリウジガガンボ! それと、お前達はさっさと失せなさい」
「ちょ、ナーベちゃん何言ってんだよっ!」
「足手纏いのゴマダラカミキリムシが何を言っているんですか? 巻き添えで死にますよ」


 ルクルットは戸惑った。いつも辛辣なナーベが自分(達)を逃がそうとして居るのだから。もちろん、ナーベが漆黒の剣を逃がそうとしているのは、アインズから守れと命じられているからに他ならないのだが……。ちなみに、この時のやり取りのせいでルクルットに『まだチャンスがあるに違いない』と勘違いさせてしまったとは、ナーベには知る由もなかった。


「ペテル、ルクルット! ここはナーベさんを信じて、僕達はモモンさんを呼びに行きましょう!」
「ニニャの言う通りである。下手に我々が加勢すれば、マジックキャスターであるナーベ女史の射線を遮ってしまうのである」


 2人の声にペテルとルクルットは互いの顔を見て頷くと、すぐに撤退をはじめる。後衛のマジックキャスターを、しかも大の男が女性を1人残す事に若干後ろめたさを感じたが、彼女の実力は自分達の相当上である事は分かっていたので、この場を任せる判断を下した。


「すぐにモモンさんを呼んできます。どうにか持ちこたえて下さい!!」
「ナーベちゃん! すぐに戻ってくっから!!」


 4人が店の外へ出て行くと、残されたナーベはようやく邪魔者がいなくなったと溜息をついた。対する武器を構えた女は少しつまらなそうな顔をしてみせた。


「あ〜あ〜……。置いてかれちゃったね〜。まさかマジックキャスターが残るとは思わなかったな〜。これじゃ遊びにもならないじゃん」
「そのよく回る口を閉じなさいチャバネゴキブリ。大体、誰が誰で遊ぶと言うの? 己の分を弁えなさい!」


 人の目が無い分、ナーベの口も3割ほど悪くなっている。その悪どさを増したナーベの言葉に、目の前の女はこめかみに青筋を浮かべる。


「あぁ〜ん? マジックキャスターごときが舐めた口きいてんじゃねぇぞ! このクレマンティーヌ様にかかれば、テメェなんてスッと行ってドスッだっつぅんだよ!!」
「ふん。なら口なんか動かしていないで、さっさと攻撃したらいいじゃない。それとも本当は怖気付いて足が動かないのかしら?」


 両者の間には得体の知れない火花が散る。お互いに睨み合いながら、いつでも攻撃を出せる体制を整える。その場の緊張感が指数関数的に膨れ上がっていくのがわかる。もう一瞬……後ほんの一瞬で互いに仕掛けるまでのカウントが終わる。しかし、その直前にしわがれた声が店の中に響いた。


「遊びは終わりじゃクレマンティーヌ! さっさとそのガキを連れてこっちへ来い! 早くせねば、今日中の計画に遅れが出るではないか!」


 声と同時に店の中に異臭を放つ何かが投げ込まれ、その何かからゾンビが3体湧いて出てきた。

 ナーベは一瞬、ほんの一瞬臭いとゾンビに気を取られてしまった。そして気付いた時にはクレマンティーヌもンフィーレアも姿を消していた。


「しまった!」


 ナーベはゾンビを片付けると、店の外に飛び出した。すぐに《フライ/飛行》で屋根に登ってみたが、既に知覚できる範囲には彼らの姿は見当たらなかった。

(ど、どうしよう……。大変な失態だ。早く追いかけて、あの人間を取り返さなくては……)

 ナーベが上空から手当たり次第に探しに行こうとしたその時、意識が誰かと繋がるのを感じた。


『ナーベ、漆黒の剣から話は聞いた。首尾はどうだ?』


 声を聞いた途端、ナーベの体は緊張で硬直した。冷や汗が身体中を伝う感覚がよく分かる……。だが、至高なる主人に嘘を吐くなど以ての外である。ナーベは覚悟を決めると、状況を説明し始めた。

(ユリ姉さん、ルプー姉さん、ソリュシャン、エントマ、シズ、オーちゃん……失態により先立つ不名誉をお許しください…………)








 アインズから言葉が返ってくるまでの時間は、それはもう耐え難いほど長く感じた。


『状況はよく分かった。ならば作戦は変更だ。ちょうど薬師のリジィ・バレアレと合流したところに漆黒の剣がこちらに来た。ここはリジィに恩を売って、ナザリックの現地研究員として引き入れる事にしよう。それに、たった今この街に潜ませている僕から、ンフィーレアと誘拐犯が墓地にいると報告が来た。一度バレアレの店で合流する』
『本当に申し訳御座いませんでした。この失態、かくなる上は死を以って……』
『ナーベ、いやナーベラル。私は許可無く死ぬ事を禁じた筈だ。それに、あの状況でよく漆黒の剣を守りきった。お前が他者を守る術に乏しい事を考えれば、十分な成果だ。ンフィーレアが拐われた事は、確かにお前に隙があったからだと言える。しかし結果的にはより多くを手にする可能性が高くなったのだ』


 ナーベはアインズの言葉に思わず涙しそうになった。なんと慈悲深い事だろうかと、ナーベは己が忠誠心のメーターを大きく振り切らせた。そして、あのニヤけた露出狂に目に物を見せてやると誓うのであった。





















 〜後日〜


「あ、モモンさんナーベさん! ミスリル級への昇進おめでとうございます!」
「これはペテルさん。ありがとうございます」


 礼儀正しい爽やか系のペテル・モークは久し振りに漆黒のフルプレートを見かけ、なかなか会えなかっために言えてなかった言葉をかける。すると、出会った時と変わらず驕らず穏やかな口調で礼が返ってくる。全く、既に自分達を通り越して昇進したのに律儀な人だと、ペテルは苦笑する。

 すぐ隣では、顔をやや赤く染めたチームメイトのレンジャーが獲物に狙いを定め、ややぎこちなく言葉を投げかけている。


「さっすがナーベちゃん。おめでとう! 今度お祝いに2人で飯にでも行きませんか」
「行きませんよ、コメツキバッタ。あなたは1人で野っ原の草でもかじっていなさい」


 相変わらずの辛辣さに思わず同情の念も湧かなくもないのだが、『ナーベちゃんの心には女神にも勝る慈愛が隠されている!』とよく分からない事を熱弁して、全く諦める気配が無いので、もう放って置く事にした。


「ルクルットさんは相変わらずですね……」
「あははは……。ナーベさんも……ね」


 そんなルクルットの様子を見て呆れたようにモモンが呟き、ペテルもまた相変わらずのナーベを見ながら相槌を打つ。

 そして彼らのやり取りは、いつしかエ・ランテルの冒険者組合のお決まりになるのであった。



という訳で、エ・ランテルの騒動のンフィーレア誘拐の部分でした。モモンとナーベ合流後はほぼ原作通りなので、割愛いたします。漆黒の剣も組合の要請で防衛に出向きますが、大怪我をする事もなく無事に生還します。(危なくなると物陰からアインズの僕が密かに手助けをしていたとか、していないとか…)
そして、本文中にも書かれていますが、ルクルットは本当に一欠片くらいは可能性があるんじゃないかと思い込み、会う度にアピールしては玉砕します。全くナーベも罪な女です。以後、漆黒と漆黒の剣は良い関係を続けていく予定です。

はい。そんなこんなで番外編で御座いました。よい箸休めになってくれていたら幸いです。

次回は本編。いよいよ各国が主人公と接触だ!




スペッキオ様、誤字報告有難うございます。


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第10話:人間至上主義の逝き着く未来⑴

〜前回あらすじ〜


デミ「まさか、私がアインズ様の御心を読み違えるとは…。なんたる失態!」
アル「ふふふ。エンとか言う男は気に食わないけど、アインズ様からの覚えが良くなるなら、精々利用しましょう」
パン「私の創造主、ンーアインズ様!!真なる心の内を知り得るのは、当に!!私だけなのでしょうね〜」


 カサドラの村。帝国領の村々の中でも南部に位置し、忌地として恐れられるカッツェ平野へ赴く冒険者や、ワーカー達の補給地の1つである。人口はそれ程多くなく、街と呼ばれる程の規模でもないため、行政区分はあくまで『村』のままであるが、冒険者やワーカーを相手にする商人が多く出入りし賑わっている。

 その村の東にはそこそこの面積をもつ森が広がっており、村の人々は水、野ウサギやイノシシをふた回り程大きくした動物などの肉、木の実やキノコといった自然の恩恵を得ながら暮らしている。

 したがって森には人が入れるように、獣道に毛が生えた程度の生活道路が整備されている。もちろん、狼などの肉食獣も出たりもするが、無闇に縄張りに入り込まない限りは人を襲う事はほとんど無い。寧ろ人が適度に入り活動するため、ゴブリンやオーガなどの種族が住み着かず、適度な調和が維持されている。

 そんな森の最奥、狩や採集に慣れた村人でも滅多に近づかない湧水地に、エン・シルキティアス・ギルバーティスはやって来ていた。


「あー、ここは良いところだなぁ……」


 木々の密度がちょうど良く、風が適度に吹き抜けていく。頬を撫でる冷んやりした風に目を細め、グッと全身で伸びをする。湧き水はちょろちょろと静かにせせらぎ、水面に木漏れ日が反射して幻想的な風景を描き出している。

 2日ほど前にこの場所を見つけた時は、天国かと思った。リアルでは決して目にできなくなった風景。自分達ニンゲンの傲慢さ故、永遠に失われた聖地とも呼べるもの。二度と失ってはならない……、そんな気持ちが強くなるのを感じるが、今のところは大丈夫だろうとも思える。今の人間と森の関係が崩れなければ。

 エンはシャルパト村を出た後、帝国領の村や町を見て回ったり、そこらにある森を手当たり次第に散策した。改めてこの世界の文明や自然との関わり方について調べるためだ。結果として、特に自然破壊を引き起こすような存在や行為を見かける事もなく、概ね気分良く行動していた。

 そんな折、武装した者や商人の類が多く出入りする村を見つけ、何があるのかと興味本位でカサドラの村へやって来た訳だ。そして村を見て回ると、出入りする人の数に比べ畑が少ないような気がして、村人にどうやって食料を賄っているのか聞いてみたのだ。村人の『東の森』という答えに、興味を引かれて散策をした結果、この神聖な場所と出会ったのである。

 この森を探索していてわかったが、この森とカサドラの村の人間の関係は理想形の1つであった。人は森の恵みに生かされ、森は人の手が適度に入る事で調和を保つ。本当に良い関係を築いている事に感心した。

 エンは湧水地のすぐ側にそびえる大樹に、背を預けるようにして胡座をかくと、せせらぎの音とそよぐ風を味わうように目を閉じた。













「隊長、本当にこの森にいるんですか?」
「村の常駐司祭が証言しているからな。間違いないだろう」
「でも、森に入ったのは2日前なんですよね? まだ森の中にいるとしたら、一体何のためなんでしょう?」
「さあな? 旅人だという話だが、何かを探しているのかもしれん。いずれにせよ話を聞いてみねばわからんさ」


 森の中を進む12の人影。純白の生地に龍が描かれたドレスを来た老婆以外は、重厚な装備に身を包み物々しい雰囲気を醸し出している。レイピアを装備した中性的な見た目の隊員と、隊長と呼ばれるまだ幼さがありありと残る青年が、先頭を進みながら言葉を交わす。

 彼らは漆黒聖典と呼ばれるスレイン法国の特殊部隊である。漆黒聖典は神官長直轄部隊・六色聖典の内で最も特殊任務に特化しており、その性質上戦闘や局面突破に長けた者で構成されている。まさに、この世界における人類最強の部隊と言って良いだろう。


「しかし隊長、何故私達が使者なんですか?破滅の竜王の探索のために出撃したはずなのに……」
「仕方ないだろ。我がスレイン法国の最高神官長直々の話だ。優れた癒し手というだけでなく、戦士としても優れているらしいからな。是が非でも引き入れたいのだろう」


 そう。漆黒聖典は本来機密部隊であるため、使者などという役割にはそぐわない。 更に本来の任務である、『破滅の竜王の探索、支配』を後回しにしてまで事に当たれというのだから、余程の事であると想像に難くない。


「ですが、最悪力づくでって……、本国は本気ですかね?」
「秘宝の力を使えという事なんだろう。だからこそ我々なんだろうな」


 あぁ、なるほど……と、レイピアの隊員は納得する。六大神の残した『ケイ・セケ・コゥク』ならば、ありとあらゆる者を支配し意のままに操る事ができる。もっとも、使う度に使用者は大きく疲弊してしまうため、使わずに済めばそれに越した事はない。話のわかる人物だといいなぁ……と、切に思うのであった。






「道が途切れたな……。占星千里、居場所は分かるか?」


 一行が道の突き当たりで足を止めると、隊長が大きな水晶の玉を装備したとんがり帽子の女性隊員に尋ねる。占星千里は水晶に手をかざして数刻の間集中すると、途切れた道の向こう側を指差した。


「何かに邪魔されてはっきりとは見えませんが、この奥に強い反応があります」
「お前の力でも見切れないなら、相当強い力で阻害されているということか……」


 占星千里は探知に特化した隊員である。かの破滅の竜王復活の兆しにも彼女が気づいてくれたからこそ、早めに対策する事が出来ていた。その彼女をして全てを見る事ができないとなれば、相当の実力者か、神が残した秘宝並みの装備を持っているという事になる。自然と全員の腕に力が入る。すると突然、占星千里が警戒の色合いが強い声を挙げる。


「た、隊長! 反応がこちらに向かって来ています!」













「んー? 武装した集団?」


 エンは先程と同じく大樹に背を預けながら、星御子のスキル『感覚同調』を使用していた。警戒……というより、自然をもっと深く感じたいという欲求から使用したのだが、思わぬ情報が入ってきたものだ。

『感覚同調』は一定範囲内の生物の感覚を選択的に読み取る事が出来るアクティブスキルだ。生物とは言っても条件があり、レベルを有さない……つまりユグドラシルではオブジェクト扱いの生物、この世界では植物やモンスターに分類されないただの野生生物にしか効果が無いのだ。一応索敵スキルに分類されているが、生物密度の低い場所では効果が薄いし、数や見た目の大きさ、武装の種類ぐらいしか読み取れない。反面、直接対象を探る訳ではないため、感知されたりカウンターを仕掛けられる心配がない。


「ス……レ、……ン…………コク……。あぁ、スレイン法国の人らなんだ。えー……と? 会話の内容からすると……、んー……俺に用があるみたいだな」


 また聴覚を有する生き物を通じて、音情報が入ってくる事に気づいたのはつい最近の事である。どうやら転移後から少し効果が拡大したようだ。と言っても、言葉を音として捉えているからなのか、非常に聞き取り辛いので利便性はイマイチだ。

 エンは聖域とも言えるこの場所に、彼らを立ち入らせるのが何となく気にくわないと感じた。別に自分の所有物でも無いのだが、時折妙な独占欲のような感覚が行動を誘導する事がある。


「せっかく俺に用があって来たみたいだし、こっちから出向いてやるかー」


 立ち上がって、尻にくっ付いた苔や汚れをパンパンとはたき落とすと、集団のいる方へ足を向けた。










(えーと、俺に用があるんだと思ったのにな……)

 警戒感を露わにして武器を構える集団を前に、エンは戸惑っていた。自分に用があるならと、わざわざ出向いて「こんにちは。何かご用ですか?」と声を掛けたらこの有様だ。もしかして自分は空気の読めない事をしでかしたのだろうかと、少し不安になった。


「あの、貴方がたは俺に用があっていらしたのではないのですか?」
「っ! これは失礼しました。おい、武器を下げろ」


 不安から来る居たたまれなさに耐え兼ねて、もう一度……今度はさっきより丁寧な口調で声を掛けると、先頭に立って槍を構える、幼い顔立ちの青年がハッとしたように頭を下げ周囲に指示を出す。どうやらこの集団のリーダーのようだ。


「先程は御無礼を。なにぶん視界の効かない森の中でしたので、咄嗟に武器を構えてしまいました」
「いやいや。こちらこそ驚かしてしまったようで、すみませんでした」


 とりあえず警戒感が薄れた事にホッとしつつ、リーダーと思しき青年の丁寧な口調に感心もしていた。

(その辺の冒険者とかと違うな……。訓練された宮仕えって感じかな?)

 相手もまたこちらの応対に感心している様子だ。どうやら同じ事を感じたらしい。改めて集団を見回す。装備品が色々ちぐはぐな印象はあるが、この世界基準で相当な物である事が伺える。ふと、トブの大森林の魔獣の件を思い出したが、見たところレベルが最も高い者で80くらい、後の者達は精々30中盤といったところであり、飼い主プレイヤーでは無いだろうと判断した。何よりこちらの感知スキルを阻害する様子が見られないのだ、恐らく自分の判断は正しいだろう。

 もう少し詳しく見てやろうとすると、視界にとんでもないものが映り込んできた。どう表現すれば失礼に当たらないだろうか? しばしの間逡巡するも、無理だという結論に至る。どうにか柔らかく表現して、違和感しか感じないと評するべきなのだろうか? いや人の服の趣味に口を出すつもりはないが、いかんせん歳というものを考えるべきではないだろか……。

(チャイナドレス……。しかもスリット深目の……。まさかと思うが、似合うと思っているのだろうか……? ……と、いかんいかん。大事なのはそんな事じゃない)

 久しぶりに精神が抑制されるのを感じながら、なんとか思考を修正する。そしてリーダーの男に先程の質問をもう一度投げ掛ける。


「それで、この森には何をしに?」









「こんにちは。何かご用ですか?」


 男の声は妙に通る声だった。

 占星千里が強い反応の動きを察知して間もなく、その男が姿を現し声を掛けてきた。あまりに咄嗟の事で、つい武器を構えてしまった。全く……、習慣というものはどうしようもない。

 男は報告にあった通り、青髪に青い瞳の端正な顔立ちに、真っ赤な鎧に身を包んでいた。腰には立派な鞘に収められた剣が下げられていて、ある種の神々しさを放っている。

(鎧に剣、六大神様の遺産に匹敵するかも知れない)

 幸い向こうはこちらに敵意を持っていないようで、剣を抜き放つどころか気まずそうな表情をしている。隊長は自分の後ろにいる占星千里にハンドサインで合図を送る。遠距離からの探知は阻害されているようだが、直接目視する事で発動する、彼女のタレントなら強さを測ることができる。

 と、その時、再び男から声が掛けられる。こちらを急かすような声色ではなく、戸惑いがちな問い掛けだ。一瞬、指示を見抜かれたと思い反応が遅れたが、どうやら杞憂のようだった。ひとまず怪しまれないように隊の仲間に武器を下げさせると、物騒な反応を示した事を詫びる。

 丁寧な応対を心掛けると、相手も謙虚な話し方で返してくれる。どうやら話の分からない堅物ではなさそうだと、少しだけ肩の荷が軽くなる気がした。

 しかし今度は、男が何かに驚いたような反応をして固まってしまった。男の視線の先には秘宝を身に付けたカイレ様がいらっしゃる。

(まさか、秘宝のことを知っているのか?)

 警戒心がじわじわと高まるのを感じながら、男が固まっている隙にと、占星千里に結果を聞くために視線を向ける。が、視線の先にはあったのは真っ青な顔で首を横に振る占星千里の姿だった。


『そ、その男……、た、た……隊長より、強い……』
「「「!!!」」」


 唇の動きだけで驚愕の事実を伝えられ、一同は緊張に包まれる。

(慎重に事を運ばなければ……)

 隊長はケイ・セケ・コゥクの使用が現実味を帯びるのを感じながら息を呑む。

 と、いつの間にか再起動した男から三度目の声が掛けられた。ここはこちらの警戒心を悟られぬように努めねばならないと、隊長は気を引き締めながら言葉を発する。


「我々はスレイン法国の使者です。この森に優れた癒しの術を使う旅人がいると、聞き及んで参ったのですが、貴方様がその旅人に相違ないでしょうか?」


 リーダーの青年の問いにどう答えるべきか、エンは迷っていた。正直に答えて、『貴方に救って頂きたい人が……』とか言われても面倒だろうし。かと言って、嘘は恐らく通じないだろう。なにせ、この森までわざわざやってきたのだから。当然確証あっての事だと思われる。

(ウッドマークさん、『神殿で色々聞かれましたが、約束通り誤魔化しときました!』じゃないよ……。しっかりバレてるじゃないですか……)

 シャルパト村の好青年の幸せボケした笑顔を思い出して、思わず溜息が漏れる。

 エンは仕方なく正直に話す事に決め、口を開いた。


「えぇ。多分、俺の事だと思いますよ。それで、それが何か?」
「よかった、やはりそうなのですね。実は我がスレイン法国は、戦う力に優れた人を募っているのです。貴方様の噂を聞いた我が国の最高神官長様が、是非貴方様をお迎えしたいと申しているのです」


 成る程。戦力の増強を目的としたスカウト……という訳か。確かにこの世界での回復役の役割は、ユグドラシル以上に重要になる。なんせ、この世界の人々は脆弱だから。

 しかし……だ、毎年戦争をしているらしい帝国や王国ならその話も分からなくはないが、なぜ法国なのだろうか? 少なくとも、帝国内で聞いている法国の状態からすると、わざわざ使者をよこしてまで戦力の増強を図る程、ひっ迫した事情はないと思えるのだ。まぁ、考えてわからなければ聞くしかない。


「なぜ戦力を必要とするのですか?」
「我々スレイン法国は人類の守護者だからです。我々は弱い人間を守るため、残忍で凶暴な亜人種や異形種を滅ぼす戦いに身を投じております。奴らの力は強大で、傷つく者が絶える事がありません。だからこそ、貴方様のような優れた方が必要なのです!」
「………………………」


(今、なんて言った?亜人種や異形種を滅ぼす……? つまり、それは人間だけの世界を作るという事か?)

 リーダーの青年は真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。その表情はある種の自負をたたえており、冗談や嘘ではない事をはっきりと示していた。

 一方のエンは、何度沈静化されても込み上げる感情の渦を持て余し、一切の反応ができないでいた。当然である。人間の傲慢が故に滅びへと突き進んだ世界を知っているのだ。エンにはそれを許せるはずがない。まして、エン自身がこの世界では異形種なのだから。

 しばしの沈黙……。はたから見る者には、両者を包む緊張感が痛いほどに感じる。

 やがて、感情の激流が治まったエンは、先程までより明らかに冷めた声で青年に問い掛けた。


「1つ……聞いてもいいかな?」
「……ど、どうぞ」


 打って変わった声色に気圧されたのか、青年は返事につかえてしまう。さっきまでのやり取りに、何か失礼な事があっただろうかと、冷や汗が流れる。相手は自分より強い。その情報が手に汗を握らせる。


「君達の国……スレイン法国は人間のために、この世界の全ての亜人や異形を殺し尽くすのかい?例え、人間にとって無害の者でも?」
「い、今は無害でもいつ人間に害をなすともわかりません。絶対服従を誓うのであれば、エルフのように奴隷として生かす事も考えられますが、やはり人間の安寧のためには、滅ぼしてしまう事が最善なのです」


 正直に言えば、なぜ目の前の男がこんな質問をするのか理解ができないでいた。スレイン法国に生まれ、スレイン法国で育った隊長にとって、亜人や異形は人間にとって脅威であり、滅ぼすべき存在であるというのは当然の事だった。

 彼が旅人だから、人間がただ食われるために殺される現場を見た事がないから、こんな疑問を抱けるのだろうか? だとしたら、何と甘い事だろうか? 隊長は少なからず旅人に失望していた。

 一方エンは、青年の口から淀みなく吐き出された言葉に、再び怒りが湧き上がっては鎮まるというループ陥り、今にも吐き出してしまいそうな、怒りに任せた言葉を、必至に飲み込んでいた。

(駄目だ。その考え方では失うだけだ。スレイン法国……、それは遠くない未来に滅びを齎す……)


「……………………」
「……………………」


 再び訪れる沈黙。先程と違うのは両者の決裂が濃厚である事。隊長はさっきとは違うハンドサインで、カイレを守る陣形を隊員にとらせる。例え相手が格上でも、秘宝で支配してしまえば関係ない。最早穏便な交渉は無理だ。

 エンは自身の冷静さが戻るのを待っていた。青年の後ろで隊列が変わっていくのにも気づいていたが、それでも慌てずに時を待った。この期に及んで、まだ話を最後までするべきと考えていたのは、伝えねばならないと思ったからだ。

 法国の使者一行が陣を整え終わる頃、ようやく感情の波が治まってくれた。エンは冷静である事を心掛けながら、伝えるべきを伝えるために口を開いた。


「悪いが、俺は君達の国の考えには賛同できない。なぜならば、君達のやり方ではいずれこの世界が滅びてしまうからだ」


旅人の男が発した言葉に隊長は激昂した。自分達が間違っていると言われ、そのために世界が滅びると言われたのだから当然だ。戯言だとしても度が過ぎている。最早隊長には躊躇はなかった。


「何をふざけた事を。こうなっては仕方ない。……使え!!」


 青年が声を挙げると、チャイナドレスの老婆の全身が光輝き、ドレスに描かれた5本爪の黄金の龍が浮かび上がった。そしてその龍は獲物に喰らい付かんとするがごとく、大口を開けてこちらに向かって飛んで来るのであった。



時を同じくして


アインズ「ふふふ。まさか筒抜けとは思うまい」





第10話で御座いました。
エンVS漆黒聖典!!まぁ、なるべくして……ですね。
しかし、カイレ様のイラスト…強烈ですよね。あれは、リアル出身の者なら卒倒レベルの凶器だと思います(失礼)。

さて、探知能力についてちょいと補足。我が小説の探知能力の序列としては、「探知特化プレイヤー>ニグレド>占星千里>フールーダ≒アウラ&デミウルゴスが仕掛けた僕>現地の位階魔法」といった感じで捉えています。
つまり、エンの隠蔽能力(装備込み)はニグレドと占星千里の間くらいと認識してます。

もういっちょ、スキル『感覚同調』について。説明は本文にある通りです。虫やら草木やらと感覚を同調します。範囲はめっぽう広く、今回の舞台になった森のほぼ全域をカバーできます。上位のスキルに『感覚共有』があり、こちらはレベルを有する生物にも効果が及びます。但し、こちらは感知やカウンターの対象になるので、使用前に対策が必要です。

次回は、もう少しVS漆黒聖典にお付き合い下さいませ。






スペッキオ様、誤字報告有難う御座いました。


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第11話:人間至上主義の逝き着く未来⑵

〜前回あらすじ〜



エン「怒りのボルテージが上がってゆく……」
隊長「ゆけカイレ!ケイ・セケ・コゥクだ!!」
カイレ「のじゃ!」


 放たれた黄金の龍は真っ赤な鎧の男に喰らい付こうと、その(アギト)を大きく開いて飛んでゆく。男は秘宝の放つ強大な力に臆したのか、逃げる素振りも見せない。

 しかし当に喰らい付こうという、その刹那…………。


 パシュン。


 あろう事か黄金の龍は何かに弾かれたように、小気味の良い音を立て消滅してしまった。


「な、何が起きた!?」


 隊長は初めて見る現象に動揺した。すぐに後ろを振り返り、疑問の答えを求めようとした。しかし答えを知り得るはずのカイレもまた、何が起きたのか理解ができず、あんぐりと口を開けて放心してしまっていた。


「カ、カイレ様! ケイ・セケ・コゥクは!? 支配はどうなったのですか?」
「っ!? し、失敗じゃ! そやつとは何の繋がりも感じぬ。こんな事は初めてじゃ」


 まさかの事態に漆黒聖典の全員に動揺が広がる。ケイ・セケ・コゥクは絶対不可避のはず。それがここに集う者の常識だった。そう、ただ1人を除いて。


「ケイ・セ……? そうか……、そのチャイナ……どーっかで見た事あると引っかかってたんだけど、あの『傾城傾国』だったのか。あまりに酷い絵面のせいでぶっ飛んでたよ」


 何か仕掛けてくるとは思っていたが、ワールドアイテムによる攻撃とは流石に予想だにしていなかった。もしワールドアイテムである『星喰い』を装備していなければ、精神支配されて良いようにされていた訳だ。エンはそうなった場合の事を思い浮かべ、小さく身震いをした。


「やれやれ……、随分と物騒な真似をしてくれたものだな……。しかし……成る程、確かに傾城傾国ならば、お前達の理想を叶える一助になり得るだろうな」


 そう。この世界で一番強い者を支配して、敵対者にけしかければ良い。そして敵対する全てをその力で屠ったのちに、支配された者に自害でもさせれば、見事に人間だけの世界のでき上がり……という訳だ。


「何故だ!? 何故貴様には秘宝が通じないっ?」


 漆黒聖典と老婆は、目の前で起こった事実を確かに認識していたが、頭が理解を阻む。あり得ない……という言葉ばかりが脳内を埋め尽くし、まともな思考回路を構築する事ができないのだ。

 そんな狼狽する憐れな人間達をよそに、男は淡々と答えを口にする。まるで「何をバカな事を言っているんだ」とでも言いたげに。


「何故かって? 簡単だよ。ワールドアイテムの効果はワールドアイテムによって打ち消される。お前達がその傾城傾国の価値をどの程度と認識しているかは、どうだって良い事だが……。単純な話、俺がそれと同等の価値を持つアイテムを所持しているという事さ」


 六大神の秘宝は唯一無二の価値を持つ。その秘宝と同等の価値を持つアイテムを有しているなど、彼らには信じられるはずもなかった。また、最大の切り札を破られたという事実は、彼らの精神を加速度的に追い詰めていく。しかも相手はこの場にいる誰よりも強い。その上、ケイ・セケ・コゥクの事を知っている。法国の機密中の機密であるはずなのに……だ。

 ここで隊長は気付いた。気付いてしまったのだ……。彼が、自分達が牙を剥いた相手が、ぷれいやーであるかも知れない事に。


「ま、まさか……、あ……なた様はぷれいやー様なのですか……?」


 隊長の言葉に先程まで浮き足立っていた者達が、頭から氷水をぶち撒けられたかのように静かになる。決して冷静さを取り戻したからではない。より深い絶望感が心を染め上げてしまったからだ。

 ぷれいやー。それは六大神や八欲王をはじめとする、世界の在り方を思うままに変えてしまえる、神に等しい存在。

 隊長の頬を冷や汗が伝う。神の遺した至宝に等しい鎧と剣、強大な癒しの力、同時に前線で戦う事ができるという出鱈目な能力、ケイ・セケ・コゥクを気にしていた素振り、占星千里の言葉……。ヒントはいくつもあったはずなのに、何故思い至らなかった? 己の馬鹿さ加減に奥歯を噛み締めた。


「プレイヤー……か。お前達こそ、それ(・・)を持っているという事は、プレイヤーと何かしらの縁があるという事だろう? まさかと思うが、殺して奪った訳ではないだろうな?」


 エンは沈静化の作用や、目の前で繰り広げられている人間の滑稽な振る舞いに、すっかり感情が落ち着いてしまった。じわじわと抑制されない程度の怒りは未だに感じているが、先程までのように制御ができないほどではない。

(あれかな? すっげーテンパってる人を見ると逆に落ち着くってやつか?)

 しかし改めて考えれば、恐らく現地人である彼らが、ワールドアイテムを持っているのは不思議な事だ。背後にプレイヤーがいるとして、簡単に貸し出すだろうか? いや、答えは否だろう。色々とリスクが高過ぎる。


「と、とんでも御座いません! これはスレイン法国を築いた六大神様が遺された、我が国の秘宝です」
(まぁ、そうだよな。ワールドアイテム所持者を殺して奪えるなら、わざわざ俺に迂遠な方法を取る必要はないもんな)


 それに彼らの口から出た六大神とやらに関しては、この世界で何度か耳にしていた。曰く、600年前に降臨した人類を救う神。曰く、いずれも人知を超える力を有していた。転移先の時代がバラバラであるとするなら、その神様達がプレイヤーである事に疑問はない。


「さて、傾城傾国の事は置いておくとして、お前達は俺がプレイヤーだとしたらどうするんだ? 効果がなかったとはいえ、既に俺は一撃貰っている訳だしな」


 隊長の顔色が益々蒼くなる。目の前の神に等しい存在の言葉に激昂し、先制攻撃を仕掛けたのは間違いなく自分達である。果たして自分の首1つで許されるだろうか? 思案してみるが、すぐに無理だろうと思い至る。大方、気が収まらず法国を滅ぼすと、いや…それどころか世界を滅ぼすと言われるのがいいところだろう。

(もはやここまでか……。恐らく彼の怒りを鎮める事は難しいだろう。ならば、何としても秘宝とカイレ様だけは守らなければ……。あとは、本国のあの方にお任せする他ない……か)


 隊長はエンを見据えたのち、静かに目を閉じた。大きく呼吸を2回。そして覚悟を決め、目をしっかと開き声を張りあげる。


「総員撤退!! カイレ様と秘宝を本国まで守り通せ!」
「た、隊長はっ!?」
「私は足止めをする!!」


 青年は部下と老婆に撤退を命じると、みすぼらしい槍を構えてこちらを見据える。その眼には、先程までの狼狽や絶望の色は無く、覚悟を決めた者特有の力強さが込もっている。そして命じられた者達は、一瞬青年を案じるような雰囲気を発したが、すぐにそれを抑え込み老婆を守る陣形を保ちつつ、こちらに最大限の警戒を向けながらジリジリと後退していく。

 正直、ここで傾城傾国を逃すつもりはなかった。もし他のプレイヤー……攻撃特化のカンストプレイヤーなんかを支配して、こちらにけしかけられたら堪らない。あれはあのまま奴らに持たせていてはダメだ。

 とはいえ、目の前には決死の覚悟の前衛職。レベル差があるし、汎用型ビルドの俺には特に弱点になるものがないから、苦戦はしないだろう。しかし、厄介な足止めスキルやアイテムを有している可能性は過分にして大だ。ここは駒を増やす以外の手はないだろう。


「話も終わらぬうちに、せっかちな事だ。だが、傾城傾国を持って逃げられるのは、かなわないな。《ツイン・マジック・サモン・エレメンタル・10th/魔法二重化・第10位階・精霊召喚》 来い! 《プライマル・ウォーターエレメンタル/根源の水精霊》」


 エンの背後に巨大な水球が2つ現れると、それらは激しく渦巻き、やがて2つの巨大な精霊の姿を象った。


「《プライマル・ウォーターエレメンタル/根源の水精霊》よ。逃げ出そうとする11名を捕らえろ!! 但し、殺すなよ?」
「な!?」


 2体の精霊は了解の意を示すと、当に流れるような動きで逃げる者を追っていった。目の前の青年は数瞬、精霊を目で追うと、すぐに苦々しく睨みつけてくる。

(まぁ、そうだよなぁ……。足止めの意味、ないもんな)

 ともあれ、あちらは時間の問題だろう。なんせ根源の水精霊は高位の精霊だ。レベルにして80。逃げた者達では手も足も出ない圧倒的なレベル差がある。


「向こうが心配か?」
「まさか召喚魔法まで扱えるとは……本当にデタラメですね」
「そう怒るな。条件を呑めば無事に帰してやるよ。だが、呑めないなら……」


 暗に命を奪うと脅しをかけると、青年の目つきが更に険しくなる。こちらの要求が何なのか、大体の察しはついているのだろう。なんだか大層な悪役になった気分だが、自分の目的の為に将来のリスクは減らしておきたい。



(要求は間違いなくケイ・セケ・コゥクだろう。くそ、足止めすらできないなんて、これが神との差……という訳か)

 隊長は自嘲気味に口を歪ませると、槍を持つ手に力を入れる。どういう訳か、エンは未だに武器を抜き放つ気配を見せない。油断している……。それとも自分ごときに警戒など必要ないという事だろうか。いずれにせよ、今ならば隙を突いて一矢報いる事ができるかも知れない。それに万が一でもダメージを負わせる事が出来れば、あの強大な力を感じさせる精霊を消せるかも知れない。そう思った瞬間には足が地を蹴り、腕が槍を突き出していた。

 槍の穂先は無防備な男の頭へ、真っ直ぐに向かっていく。とった……。直感的にそう感じたが、一瞬にしてそれが錯覚であったと思い知らされる。先程まで男を捉えていた視界が、急にくるりと回ったかと思えば、すぐに真っ暗になったのだ。

 どうやら避けると同時に、こちらの勢いを利用して投げられたようだ。腹這いに地面に叩きつけられた時に、木の根が剥き出しになっているところで腹部をぶつけたらしい。鎧越しとはいえ、鈍い痛みがせり上がってくる。


「ぐっ……このっ!」
「やれやれ、大人しくできんのかね?こっちは得物も抜いてないってのに、本当に血の気の多いガキだな。さて、もうじきあっちに向かわせた精霊も戻ってくるだろうし、変な真似はよしてくれよ? 上手く捌ききれず、思わぬ犠牲を出したくない」


 意識の奥で繋がる精霊達にこちらに連れてくるように指示を出すと、改めて青年を見下ろす。思いの外強く叩きつけてしまったが、生きているし問題ないだろう。

(それにしても、オートカウンターってあんな感じなんだな……。勝手に突っ込んできて勝手に反転して飛んでくとか、なかなかシュールな絵面だよな……)

 《オートカウンター/自動迎撃》は騎士系の職が習得できるアクティブスキルで、発動中に物理攻撃を受けた場合に、確率でダメージを無効にして弾き返す事ができる。10段階のレベルが設定されており、最大まで成長させておくと、格下相手であれば80%という高確率でカウンターが発動する。更にエンは精霊種特有の高い幸運値によってその確率を底上げしており、ほぼ100%の確率で発動させる事ができる。但し、発動後に約5秒のリキャストタイムが発生するため、多人数で畳み掛けられたりするとどうしようもないし、発動中は魔法に対するカウンタースキルが使用できないなど、デメリットも存在するため、使いどころを選ぶスキルでもある。

 這い蹲る青年が変な気を起こさないように睨みを利かせていると、水でできた体の内側に人を取り込んだ精霊が戻って来た。窒息対策なのだろう、捕らえた人間の首から上を体表面から露出させている。

(なんだか、人の首を生やした新種の生き物みたいだな……)

 もっとも、水の体は透けているので、中の様子もしっかり見える訳で、中ではどうにか抜け出そうと、手足が必死にもがいている。


「さて、役者も揃った事だし……。始めようか? あぁ、それと体力の無駄遣いはよした方がいいよ? 君達ではその子から抜け出すのは絶対無理だから」


 エンは冷淡なーー本人は別にそう思っていないのだがーー声で告げると、改めて全員の姿を見回していく。そして一通り確認すると、聞き取りやすいようにとゆっくり口を開く。


「んじゃ……改めまして、俺の名はエン・シルキティアス・ギルバーティス。君らの想像通り、ユグドラシルという世界から飛ばされて来たプレイヤー……というやつさ。まずは少し話をしようかな……」


 軽く自己紹介をして見せると、幾人かがゴクリと喉を鳴らす。何をされるか分からない恐怖は、歴戦の猛者にとっても恐怖たり得るようだ。


「君達スレイン法国の方針は、人間以外の種族を認めない……だったね?」
「その通りだ。亜人や異形は我々人にとって、敵だ」


 問いに答えたのは隊長。いくらかダメージから回復したのだろう。徐に立ち上がると、こちらと水精霊の方の両方を交互に睨み付けてくる。

(しかしまぁ、清々しい程ブレないね。それが原因でこの状況だというのに)


「成る程。では、質問を変えようか。例えば、人が近付かない森に生きる種族がいたとしよう。その種族は森の中では動物を狩る事で生きており、人間を襲う事はない。君達はそんな彼らも、人間の敵だと滅ぼすのかな?」
「その趣旨の質問には先程答えた。今は無害でもこの先も無害とは限らない。ならばそうなる前に潰すべきだ」


 やはり簡単には思い至るものではないか。エンは厄介だなぁ……と溜息を吐いた。


「それでは、君達はその種族を滅ぼしたあと、森をどう管理するつもりなのかな?」
「なに……? 森の管理だと?」
「そうさ。言っただろう? その種族は森の動物を狩り、生活をしていると。狩る者が居なくなれば、森の中の動物の数は爆発的に増えて、森の中のバランスは大きく崩れてしまうぞ? だから問うたのさ。森をどう管理するのかと」


 段々と質問を具体化していく。しかし問われる側の者達は変わらず怪訝な表情のままである。やはりこの世界では食物連鎖とか生態系だとかの知識は一般的ではないようだ。ますますもって難敵だと気が重くなる。


「森のバランスが崩れたらなんだと言うのだ。それが人類に何の影響がある」
「やれやれ、影響は過大だよ。だから言ったのだ。やがて世界が滅んでしまうと。では、更にその先の顛末を述べてやろう。狩る者がいなくなり増えすぎた動物達は、森を食い尽くす。食い尽くして餌が無くなれば、餌を求めて人里にも出てくるだろう。そうなれば君達……、今度は動物相手にその力を振るうのかい?」
「それは……」


 話の内容を少しは理解したのだろう。先程よりもトーンが下がった気がする。だがまだまだ足りない。もっと絶望してもらわねば、コイツらの考えは絶対に変わらない。もっとも、これだけ頑なだと徒労に終わる可能性の方が高いかも知れない。


「君らは人間の守り手だったね。ならば、まだまだ知らねばならない。そうだな……、もし水源のある森でこんな事が起きたらどうなるだろうね? 死んだ森から流れてきた水は果たして安全だろうか? そもそも食い尽くされた森は、動物たちの屎尿に覆われてしまっているだろうからね。それは毒や疫病の元になるだろう。更に、その水は大地に染み込み、流域の土地を汚染していく。地下の水脈が汚染されでもすれば、遠く離れた土地の井戸水だって安全ではなくなるだろうね。どうだい? 1つの森で起きた事は、こんなにも大きな影響を及ぼすんだよ。しかも、君達がやろうとしている事はこの世界全体に及ぶのだろう? 俺が君達を否定するのは至極当たり前じゃないか」


 話を進めるにつれ漆黒聖典の隊員達はわずかながら迷いを抱いていく。エンの話は順序立った、理屈の通る話しだ。しかし、人類が他の種族に脅かされているのも事実なのだ。頑なに滅ぼすべしと、そう働いてきた彼らの意識を変えるには至らない。


「では貴方は、罪も無い人々が亜人や異形どもに食われるのをただ見ていろというのか!」
「誰もそんな事は言っていないよ。食われたくないから抵抗する。それを決して否定しない。人間を襲う者がいるなら、襲われないように策を弄せばいい。俺が否定するのは全てを滅ぼすという考えだ。この世界は人のみで成り立っているのではない。故に、人しかいない世界で上手くやれるなどと考えるのは、人の傲慢なんだ。俺はね、そうやって滅びへの道を進んでしまった世界を知っている。だから止めるのさ。この世界が同じ道を辿らぬように……」


 通じてくれるだろうか?彼らはとても頑なだ。多分、そう教育されているからだと思われる。これでも無理なら国を根幹から変えねばならないだろう。それほどまでに根が深い。

(さて……と、どう転ぶかな……)


 隊長はエンの話を理解できない訳ではなかった。彼の話は今までに聞いた事がない視点であったが、納得のいくものである。しかし、しかしだ。納得はできたとしても、感情は首を縦に振らない。そうだ、もはや理屈ではないのだ。だから隊長は屁理屈であるとわかっていても、口に出さずにはおれなかった。


「貴方の意見だって、所詮は人の傲慢でしょう! 私たちはこれまで何千何万という同胞を失ったんだ。今更後戻りなど出来ない!」


 隊長の叫ぶ様な言葉をうけて、しばしの沈黙が場を支配する。隊長は次の句を継げないエンを見やり、してやったりと少々ばかり気分を良くした。

 しかし、エンはすぐに苦笑を浮かべて見せると、彼らにとって信じられない言葉を吐き出したのだ。


「あぁ、俺は人間じゃないよ。異形種である精霊さ。まぁ……なんだ、つまり君達にとっては滅ぼすべき敵……という事になるね」
「「「なっ!?」」」


 エンの言葉に全員が絶句した。眼に映る姿はどこをどう見ても人間のそれだ。幻術かもしれないと思ったが、少なくとも幻術看破の装備は反応を示さない。


「俺はね、ちょっと特殊な種族なのさ。人間の姿をとる事ができる。一応、精霊としての姿も見せられるけど、今はやめておこう……」
「なぜ異形種が人の村に出入りしていた!」
「おや、俺が異形だと言った途端に強気だね。悪いけどノーコメントだ。それと、君らの意思は思いの外堅いようだし、俺もこれ以上の説得はゴメンだ。さて、さっき言っていた条件に関してだけど…」
「黙れ! 異形の貴様と取引などしない!」


 いやはや、これはもうアレルギーの類じゃないかと思う。念のため、取り引きに応じそうな者がいないかと思い、根源の水精霊に囚われている奴らを見るが、全員が隊長と同じようにこちらをきつく睨んでいる。

(仕方ないな……。んー…でもメッセンジャーが1人欲しいな。スレイン法国に事実を伝える奴が……。……ま、いいや。別にこいつらじゃなくても……)

 エンは最初、1度全員を殺した後に武器や傾城傾国を回収し、適当に蘇生しようと思っていた。しかし先程の態度を鑑みて、情報が正確に伝わらない事を懸念して考えを改めた。メッセンジャーならいっそ、自分の僕にやらせた方が楽だしなにかと都合もいい。

「従わないなら仕方ない。お前達の命を奪わせて貰う」
「御託はいい。殺すならばさっさとやれ、化け物め」
「その覚悟やよし、せめて苦しまぬ様に終わらせてやる。《マキシマイズ・マジック・イスラシーデリアポーラス・ヴェンティ/魔法最強化・恒星の風》」


 エンの詠唱と共に一陣の風が漆黒聖典たちの周りを吹き抜ける。と同時に彼らは物言わぬ屍に成り果てた。

 第10位階魔法・恒星の風は、実体を持つ生物にのみ有効な範囲即死魔法である。フレーバーテキストによれば、『高密度の電磁波が生命としての機能を停止せしめる。対象として認識した生物に収束するため、環境への影響は無い』との事らしい。本当に魔法ならなんでもありだと、我ながら感心する。


「意外だな……。いっぺんに12人も殺したってのに、何とも思わねぇ……」


 異形種になった影響だろうと分析しながら、根源の水精霊に死体を吐き出すように命じる。


「ご苦労様。もう帰って構わないよ」


 帰還を命じると、根源の水精霊は頷くような仕草を見せて、歪む空間に吸い込まれるように消えていった。


「さて、傾城傾国を回収しないとな。んー……老婆の下着姿とか無理なんで、布系の素材でも掛けとくか……」


 無事に武器と傾城傾国を回収し終えると、死体の始末をどうしようかと思案する。このまま放っておいてもいいが、色々と騒ぎになるのは目に見えてる。狼どもの餌にする事も考えたが、人間の味を覚えて人を襲うようになれば本末転倒だ。


「さて、どうしよう……」
「お困りのようだな。良ければ我々が引き取ろう」


 悩ましげに呟いた声に応える声。慌てて声のする方を見上げると、そこには全身真っ黒の鎧と豪奢なローブを身に纏った骸骨が連れ立って浮かんでいる。

 そしてその骸骨は大きく両腕を広げて見せると、高らかにのたまった。

「初めまして、エン・シルキティアス・ギルバーティス殿。我が名は、アインズ・ウール・ゴウン!」





時を同じくして


フールーダ「行く先行く先、なぜこうも魔物が湧いて出るのだ!!騎士団の怠慢だと陛下に言いつけてやる!!」




第11話でございました。
漆黒聖典は生き延びる事より誇を選びました。と言うより、エンが意図せず彼らを追い詰めていたとも言えます。エンの話しの持っていき方次第では、漆黒聖典生存ルートもあり得たと思います。むしろ、さっさと婆様から傾城傾国を引っぺがしていれば、用は無い訳ですからね。(あ、いかん。IFルートのフラグがってしまう)

さて、現地人には現地人の正義があります。しかしエンの視点はあくまで自然を守っていく事であり、人間を守る事ではないため、どれだけ言葉を交わしても決裂する事に変わりはなかったでしょう。結局はエンも自分の目的第一の石頭という事です。しかも精霊種の精神構造に引っ張られ始めているので、だいぶ人間を突き放した感じになり始めています。先行きが心配ですね。

そしてついにアインズ様登場です。エンはナザリックとどう向き合うのか?忠誠じゃなくて友情が恋しいアインズ様とは、どうなっていくのか。楽しみにして頂ければ、幸いです。



スペッキオ様、誤字報告有難うございました。


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第12話:鏡越しの観察者

〜前回あらすじ〜



エン「この世界は人間だけのものじゃない」
漆黒聖典「「「それがどうした異形種」」」
アインズ「はーい。みんな恐れるアインズ・ウール・ゴウンだよ」


 ーーーー 漆黒聖典一行が森に足を踏み入れた頃 ーーーー



「アインズ様、アウラ配下の僕から、法国の使者と思われる者達が、例の者が滞在中の森に足を踏み入れたと連絡が入りました」
「そうか。では、ニグレド……」


 ここはナザリック地下大墳墓第5階層、氷結牢獄内にある一室。アルベドの姉として作り出された、探知特化型NPCのニグレドに与えられた部屋である。

 アルベドの報告を受け、アインズはいよいよだと気を引き締め、ニグレドに監視魔法を発動させる。すると水晶でできた直径1メートル程の円形のモニターが、アインズ達の眼前に浮かび上がる。そこには武装した11人とチャイナドレスを着た老婆が映し出されている。


「随分と人数が多いな。それに武装もしている。およそ交渉に向かうような集団には見えないな……」
「は。上がってきた情報によれば、トブの大森林方面から現れたようです。恐らく他の任務をこなしていた途中で、使者として交渉に向かう事になったのではないかと……」


 アインズには「他の任務」という言葉に心当たりがあった。彼の国はつい最近、特殊部隊の1つが謎の失踪を遂げており、そしてそれは紛れもなくアインズの仕業なのだから。


「ふん。成る程、恐らく奴らは陽光聖典を探しに来た部隊なのだろう。となれば、あのチャイナ服の老婆が使者という事か。しかし、随分と大胆な格好をするものだな」


 若い女性が着るならまだしも、枯れ木のような老婆が着ているのを見るのは、あまり気分の良いものではない。だからうっかり口をついて出てしまった。


「何というか、アルベドならともかく……あのような老婆が着るのはいただけんな」
「ま、まぁ、アインズ様!? お望みであればすぐに、す・ぐ・に!! 着替えて参ります!」
「なっ!? アインズ様、わたしはどうでありんすか? きっと着こなしてみせるでありんす!!」
「あ、いや……その、ンホンっ。つまらぬ事を言った。許せ。アルベド、シャルティア、今は任務に集中せよ」


 一時的にキャリオンベイビーにまみれた部屋が色めくが、アインズの一言ですぐに緊張感を取り戻す。

(ふー。危ない危ない。ついうっかり思った事が出ちゃったよ。こいつら冗談とか通じないからなー……。気を付けないと……)

 アインズは少し話をそらすように、もう1つ勢力についてアルベドに確認を取る。


「そうだ、帝国への妨害はどうなっている?」
「はい。アウラがスキルでテイムした現地の魔物を、怪しまれない程度にけしかけています。ただ、現地の魔物は弱く人間でも倒せるレベルなので、足止めが精一杯かと」
「十分だ。今日1日、或いは明日まで時間が稼げればよい」


 どうやらそちらは上手くやっているようだ。安心してこちらに集中できる事に、アインズは満足そうに頷いて見せた。


「ニグレド、奴らに気付かれた様子は?」
「今のところは全く。例のプレイヤーに関してもすでに監視可能範囲に捉えておりますが、勘付かれた様子はありません」
「そうか。まぁ、お前は探知に特化しているからな。それに相手はあまり用心深いタイプではないのだろう」


 思い返せば、帝国領内に僕を送り込んで様子を探らせていたが、気付かれたという報告は無かった。或いは、釣りを仕掛けるためにわざと無防備な振りをしているのか……。だがまぁ、最悪罠だとしても、戦闘回避の準備は万全に整えている。既に賽は投げられているのだ。あとは賽の出目次第……。


「ニグレド、音声は拾えるか?」
「はい。可能でございます、アインズ様。今、モニターに出力致します」


 ニグレドがモニターを操作すると、スレイン法国の使者達の会話が筒抜けになる。まさか盗聴されているとは思ってもいないのだろう。何やら重要なキーワードがちらほらと聞こえてくる。

(ふむ。破滅の竜王? 我々の仮称か? それにしては大袈裟な名前だな……。むっ? 力づくだと? 奴らはプレイヤーを屈服させる強さを有しているのか?)


「ニグレド、奴らの強さは測れるか?」
「容易く。……判明しました。先頭の男が81レベル。老婆が15レベル。あとの者達は30レベル中盤といったところです。例のプレイヤーも今測りますか?」
「いや、それには及ばない。しかし随分ばらつきがあるな。それに先頭の男だけ不自然に突出している……」


 不自然ではあるが、どのみちエンとぶつかれば情報が引き出せるはずと、今は思考をエンに集中させる。

 ところで、アインズはニグレドにレベルを測らせる事なく、エンの事をカンストプレイヤーだと予想していた。僕の報告に、断片的ではあるが戦闘に関する事項も含まれていた。情報量が少ないために確証はないものの、戦闘スタイルの当たりをつけていた。その当たりが正しければ、カンストしていなければ力を発揮しきれないはずなのだ。

(神官騎士。恐らくそれが奴の戦闘スタイル。継戦能力を重視するプレイヤーが好む、守備主体のスタイルだ。だとすれば、カンストさせてレベルを余す事なく使わねば、中途半端な強さになる)

 だとすれば、この集団が力づくでなんとかできるはずがない。法国は事前の情報収集能力はあまり高くないと見るべきか。

 アインズは自分の攻性防壁で爆死したのが、法国の情報収集の要の1つである事を知らない。当然、法国がその一件(厳密に言えばもう一件と合わせて)を期に、原因であると思われる破滅の竜王の始末が着くまで、大儀式によるオーバーマジックの発動を控える決定をした事など、知るはずもない。

(しかし随分と余裕があるな。切り札でも有しているのか? ん………秘宝だと? それが奴らの切り札か。……できれば使用するところを見ておきたいが……)

 格上の相手を抑え込む事ができるアイテムが存在する可能性に、コレクター魂が疼いてしまう場面もあったが、概ね法国の使者達の情報は出揃った。


「まぁ、スレイン法国についてはこんなものか。あとは連中が私の欲している情報を引き出せるか……だな」

















「なんだ今の攻撃は……?どうやら弾かれて無効化されたようだが……」


 モニター越しに見えたのは、使者と思われた老婆が放った龍を象った黄金の光であった。両者の会話の流れから、これが切り札である秘宝であると思われるが、まさかあの老婆が着ているドレス自体がそれであるとは思わなかった。

(似合うと思って着ていた訳ではなかったんだな。それにしても、何の効果があったんだ? 有力なのは拘束系か?)

 この時アインズは、老婆が発動した秘宝をさほど重要視していなかった。打ち消されたのもエンのスキルか、或いはレベル差によるものと考えていた。

 しかし、それはすぐに改められる。


「あのチャイナドレスがワールドアイテムだと!? ではやはり、あの漆黒聖典の隊長とやらはプレイヤー……いや、落ち着け。あれは……ちがうな。奴はプレイヤーではない……」


 エンの口から出た言葉で、あの老婆の使ったアイテムがワールドアイテムである事が判明し、アインズは動揺した。だが、すぐに冷静さを取り戻すと、プレイヤーとして有るまじき反応に注目する。同時にその効果が打ち消された事により、エンもまたワールドアイテムの所持者である事も判明する。


「あの、アインズ様? どうしてタイチョーとかいう人間がプレイヤーではないと、わかったでありんすか?」
「うむ。シャルティアよ、あの男はエンがワールドアイテムを無効化した時に、『何故効かない』と口走っていた。ワールドアイテムはワールドアイテムによって打ち消されるという事は、ユグドラシルでは常識なのに……だ」


(つまり、その常識を知らない時点でプレイヤーである可能性は限りなく低いという事だ)

 だが、スレイン法国にワールドアイテムが存在していて、プレイヤーではない現地人が所持しているという事は、他の国にも同じようなケースがあり得ると考えるべきだろう。

 アインズ様はナザリックの外の任務に赴く守護者には、今後ワールドアイテムを持たせる事に決めた。


「やはり先に法国をぶつけて正解だったな」
「はい。スレイン法国がワールドアイテムを所有していたというだけでなく、あの男も所持者だとわかったのですから。流石はアインズ様です」


 アルベドは思う。至高の存在であるアインズが全て予測した上で、先に法国をぶつけたのだと。そして畏怖する。自らの主人の慧眼に見通せぬものなど、存在しないのではないだろうかと。

 途中エンが自らをプレイヤーだと名乗るなどのやりとりが続き、法国側が追い立てられるような形で後退を始める。しかし、それ許すまいとエンが動く。

 精霊種でも上位に位置する根源の水精霊の召喚、恐らく前衛特化であると思われる漆黒聖典隊長の攻撃を跳ね返すスキル。圧倒的な力を背景に、両者のやり取りは完全にエンが有利に進んでいた。

(んー成る程なぁ。自然を守る……か。リアルじゃとっくに失われているから、そういう話はあまりよく分からないんだよなー……。それこそブルー・プラネットさんとかだったら、わかるかもしれないけど)

 アインズはエンの話を聞きながら、在りし日の同胞の姿を思い出していた。と、同時にスレイン法国の徹底的な異形種に対する嫌悪を、不快と感じていた。


「スレイン法国とはやはり相入れそうもないな」
「人間風情が我々を嫌悪するとは不快ですね。早めに潰してしまうべきと、愚考致します」


 アルベドの意見も分からなくはないのだが、まだ表に出ていないワールドアイテムを所有している可能性もある。ここは先手を打たれぬように牽制しつつ、じっくり攻めることが望ましい。


「アルベドよ。そう焦るものではない。何よりまずは情報だ。丸裸にしてから総てを奪い尽くす事が肝要なのだ」
「失礼致しました」
「よい。お前の気持ちはよくわかる……。私の気持ちを慮ってくれた事を嬉しく思っているぞ。それより、奴らのやり取りもそろそろ終幕だ」


 モニターに視線を戻すと、エンが精霊種である事をあっさりバラしたところであった。アインズはようやく種族が判明した事に、安堵の息を小さく吐き出した。異形種ならば、ナザリックに招待した時の軋轢が小さくて済む。上手く友人となる事ができれば、よい話し相手になってくれるかも知れない。

 そしてスレイン法国の使者達がアッサリと殺されたのを見届けると、いよいよとばかりに僕達に指示を出す。


「では、これより私とアルベドでエン・シルキティアス・ギルバーティスに接触する。事前に述べた通りの手筈で動け。ニグレドは我々を監視し不測の事態に備えよ」
「はい。畏まりました、アインズ様」
「シャルティア、ゲートを開け」
「はい。畏まりましたえ。アインズ様」






 エンの後方、その上空にゲートが開く。気配を遮断する備えをしているとはいえ、こちらにすぐに気付かない事を見るに、やはり探知系の能力はあまり高くはないようだ。様子を伺いながら、声をかけるタイミングを探る。

 12体の全く傷の無い死体を前に何やら思案している様子である。どうやら殺したはいいが、始末の方法に悩んでいるようだ。

(あ、そうだ。なんとかしてあの死体を譲って貰えないかな? 蘇生して情報源にできれば有難い。それに、レベルもこの世界の住人にしては高いから、僕の作成の触媒にいいかも知れない)

 だが、ふと思い至る。そんな理由で死体をくれとか言ったら、ドン引きされるんじゃないかと。そうなったら、印象は最悪だ。

(けどなー、彼も困っているみたいだし……。そうだ。これは善意だ。決して邪悪な目的でそうするわけじゃない。互いにメリットのある提案なんだ)

 心の中でもっともらしい言い訳を並べて懸念を希釈すると、勇気を振り絞った。


「お困りのようだな。良ければ我々が引き取ろう」


 エンが素早くこちらを振り返り、見上げてくるのを確認する。アインズは、格好良く印象に残るようにローブを翻しながら両腕を大きく開いて、ハキハキと聞き取りやすいように大きな声で名乗りを挙げる。


「初めまして、エン・シルキティアス・ギルバーティス殿。我が名は、アインズ・ウール・ゴウン!」



時を同じくして


ツアー「なんか監視してた漆黒聖典がアッサリ殺されたと思ったら、物凄い雰囲気の骸骨がきたーーー」




はい。第12話で御座います。
焦らす真似してすいません。アインズ側が覗きをしているお話です。ちなみにアインズはエンに比べて、更に人間に対する感情が希薄なんで、死に急いだ漆黒聖典の事も「なんだそんなものか」程度にしか感じていません。



次回こそ、エンとアインズの交渉シーンとなります。よろしくどうぞ。


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