UNDEAD───不死人 (カチカチチーズ)
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始まり/獣狩り

Twitterの方でアンケートを取りまして、今回正式にUNDEAD──不死人を連載する事になりました。
ひとまずは竜王ではなくこちらを投稿してきます。皆様どうかよろしくお願いします



 

 

 火は陰り、王たちに玉座なし

 

 

 嘗て不死院にて牢に繋がれた不死人は数奇な運命により不死院を抜け鐘を鳴らし、蛇が告げた言葉に従いその身に秘めた使命を成すため神話の都へ向かい、火継ぎの旅へと殉じた。

 死者の王を討った、鱗無き白竜を討った、公王らを討った、王のソウルを集めそして不死人は王を倒し世界の礎となった。

 

 されども不死人の魂は眠る事はなく、目覚めた先で新たな使命を成すために遥か北の地にあるという国へと至り、彼の地にて嘗て討ち倒した深淵の主が落し仔を滅ぼした。

 

 そして、三度目の旅路にて再び不死人は火継ぎの旅へと歩みを始めた。

 名も無き灰として、嘗ての己と同じ薪の王であった者らを玉座へ戻すべく旅をした、貧相ながらも王らしい小男、ファランの狼血を流す不死の騎士団、深みの聖職者にして神喰らい、偉大なる巨人の王、双王子。

 彼らを玉座へ戻し不死人は再び最初の火の炉へと至る。

 

 

 

 

 

 そして、彼は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 私はそこにいる。

 何もする気が無く、私はそこにいる。

 所々岩が生え、幾つもの剣や杖が墓標の様に刺さった地、その中心にあるただの篝火を私はただ、ただ見つめ続ける。

 弱々しい火。しかし、見る者に温もりを与えるそれは私の荒んだ心を癒してくれる。

 もはや、全てが終わる。

 今までの歩み、その終止符。

 私は嘗てを想起する。今まで様々な者らと出会った。多くの困難に出会った。

 それらを私は時に一人で、時に仲間と共に乗り越えてきた…………しかし、それはもはや過去のもの。この手にあるのは燃え尽きた後に残る灰だけ、もはや取り戻す事など出来はしない。

 だから、だろうか。

 私は弱々しい、されども篝火として充分なそれに手を伸ばして────────

 

 

『────ネームレスさん、ヘロヘロさんが来たので一度円卓に来てくれませんか?』

 

 

 …………、…………、…………はぁ。

 気が削がれた。

 私は篝火へと伸ばしていた手を戻し、その場から立ち上がってその指にはめられていた指輪の力を行使する。

 転移の力は問題なく発揮され、私はその場から姿を消した。

 

 一瞬の暗転を挟み、私は先程の場所とは打って変わった豪華絢爛な円卓が置かれた部屋へ足を踏み入れた。

 視線を動かせば円卓には二人の人物が席に着いていて…………人物という括りでいいのか?

 

 

「あ、ネームレスさん」

 

「お久しぶりです、ネームレスさん」

 

 

 どうも、ヘロヘロさん。

 

 円卓の間にやってきた私に気がついたのかこちらへ顔を向けるのは二人の異形。豪華な黒いローブに身を包んだ骸骨と黒い不定形なスライム。

 私が所属する異形種ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターことモモンガさんとギルドメンバーの一人であるヘロヘロさんだ。

 私はヘロヘロさんに軽く会釈をして、私の席へと腰掛ける。ふむ、それにしてもヘロヘロさんは疲れているようだ……声音に元気がないな。

 

 

「いやー、まさかナザリックがまだあったなんて……これもモモンガさんやネームレスさんが頑張ってくれてたおかげですね」

 

「……ええ、ネームレスさんにはお世話になりましたよ」

 

 そんなことは無い。私は趣味に走ってその副産物をナザリックの運営資金に当ててただけでほとんどモモンガさんのおかげですよ。

 

 私はそう二人に告げてコンソールを開き弄り始める。どうやら、まだまだユグドラシルのサービス終了まで時間があるようだ。

 さて、ロールが途切れてしまったからな。そろそろ自己紹介といこう。

 私の名はネームレス、プレイヤーネームなのは許して欲しい。君たちとて私のリアルネームなんてどうでもいいだろう?

 まず、私は転生者だ。ダークソウル・リマスタードが発売され、有休を二日ほどとり寝る間も惜しんで墓王ニトまで進め、さてボス戦と意気込みながらおつまみのチーズを摘んでいたら唐突に喉が辛くなり────間違いなくチーズが詰まった────苦しんだと思ったら赤ん坊になっていた。

 何を言ってるいるのか分からないだろうが、私も分からない。さて、赤ん坊になった私はすぐにそれが転生だと理解し、同時にダークソウル・リマスタードが出来なくなった事に絶望した。ついでに言えば転生先の世界を見てさらに絶望した。

 外にはマスクを付けなければ出歩けない、義務教育の撤廃、富裕層と貧困層、アーコロジーなどなど……そんな恐ろしい世界に転生した事は私の心を打ちのめしたが運の良い事に私は富裕層の中でもそこそこの家に生まれ良い暮らしが出来た。そんな世界で育ち前世の性格や口調が変わっていき、企業で上役となった頃にとあるゲームが発売された。

 

 その名を『ユグドラシル』。DMMOーRPGの一つなんだが、それを聞いて私は理解した。

「ここ、オーバーロードの世界かよ」

 それを理解した私はすぐさまユグドラシルを購入し、異形種を選んだ。フロムにより鍛えられた技術────間違いなく衰えてる────を以て異形種狩りプレイヤーやPKを狩るなど楽しい楽しい暗月警察暮らしをしているとある日、正義降臨ことワールド・チャンピオンの一人であるたっち・みーさんと出会いなんやかんやあってアインズ・ウール・ゴウンへと入ることが出来た。ちなみに調べたらフロムは過去に存在していなかった……。

 

 オーバーロード×ダークソウルな二次創作によくあるコラボはない、という事を知ってしまった私はなら私がやるしかないじゃないか!と富裕層で企業の上役という立場を利用し廃課金を行いこのナザリックのNPCにかぼたんを創ったり、装備の見た目をダークソウルにしたり、来る異世界転移の為に様々な用意をしてきた。

 まあ、そんなこんなで現在ユグドラシルはサービス終了日を迎えた。

 

 

「…………ぁ、モモンガさん、すいません。いま、寝かけてました」

 

「大丈夫……じゃないですね。どうぞ、ログアウトしても大丈夫ですよ?ゆっくり寝てください」

 

「……はい、ではお言葉に甘えて…………ユグドラシル2とかがあったらまた……」

 

『ヘロヘロさんがログアウトしました』

 

 

 

 と、どうやらヘロヘロさんがログアウトしたようだ。私はコンソールを切りモモンガさんへと視線を向ける。見た限りでは原作の様な反応は見受けられない……原作ではモモンガさんは一人ユグドラシルを続けて運営資金を稼いでいたが…………なるほど、趣味に走っていたとはいえ私がいた事で決して一人ではなかったからか。

 ふむ……

 

 

 モモンガさん。

 

「っ、はい。なんですかネームレスさん?」

 

 ……ユグドラシル楽しかったですね。

 

「……そうですね。みんなと楽しく騒ぎましたね」

 

 そうだ。実はモモンガさんに隠してた事があるんです。

 

「……?なんですか?」

 

 実はですね。個人でとったウロボロスを五回ほど内緒で使ってました。

 

「は?」

 

 

 私の告白にモモンガさんは疑問符を浮かべ、しばし固まっている内に私は席を立つ。

 そして、次の瞬間のために私は遮ることができる訳では無いが耳を押さえておく。

 

 

「はぁァァァァアア!!??あんた、何してんですかぁ!?」

 

 私の課金だ。問題あるまい。

 

「いや、確かにそうでしょうけど。一言くらい言ってくれませんか!?ギルメン!報連相!」

 

 

 絶叫する骸骨。失笑。

 私はそんな彼を諌める様に言葉をかける。

 

 

 大丈夫。大丈夫。スキル名変えたりアイテム実装させただけだから。

 

「いや、何が大丈夫なんですか!?というか、いったいどんなアイテムを作ったんですか……」

 

 ウロボロス一つ素材に使う無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)の超上位互換。通常のアイテムボックス二枠潰す代わりに無限の背負い袋の四倍入れられて且つ、入れてるアイテムの所持可能上限が無い。

 

「はい?ちなみにどういう理由で作ったんですか?」

 

 趣味と素材集め。

 

 

 正確に言えば、異世界転移した際に必要になるであろうアイテムを溜め込むために作ったんだがな。スクロールやらなんやらを大量に突っ込んである。

 まあ、ダークソウル的な装備品の為のデータクリスタルやら素材を入れるのにとても役立ったのは事実だな。

 

 

「な、なるほど……だから、あんなに副産物っていいながら稼いで来てたんですね」

 

 そういうこと。……と、そろそろか

 

 

 ふと、私はコンソールを開き時刻を確認する。別にわざわざコンソールを開かなくとも設定で視界の端に時刻が出るように出来るのだが、私はもっぱらそういう設定はせずにコンソールをいちいち開いて確認している。

 さて、時刻を見ればもう残り三十分を過ぎている。そんな私にモモンガさんは疑問符を浮かべているので私はきちんと教えておく。

 

 

「あ、ほんとだ。もう三十分ぐらいか……やっぱりネームレスさんは第六階層で終わりを迎えるんですか?」

 

 ええ。私にとっては彼処がマイルームみたいなものですから

 

「わかりました。それじゃあ、私は玉座の間に行くんで」

 

 はい。あ、ギルド武器持ってていいですよ?何せ、作ってから使ってないんですし……最後ぐらい……ねぇ?

 

「そうですね。持っていくことにしますよ」

 

 

 そんなふうに話して私は指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い円卓の間に来る前までいた第六階層の片隅にある私にとってのマイルームこと最初の火の炉へと転移した。

 

 

 砂とも土とも言える地面を踏みしめ、辺りに生える黒く焼けた岩、突き刺さる槍や剣に杖……さながら墓標の様に見えるそれら、そしてBGMは存在せず地面を踏む足音しか聴こえぬ静寂のエリア。

 その中心にある篝火へと私は近づく。

 

 そんな私に反応したのか篝火の傍らにて跪き祈っていた火防女が立ち上がり私を見る。

 ダークソウルなプレイをする為にやはり、かぼたんは必要だろうと他の人に手伝ってもらいながら作った私のNPC:火防女ことレティシア。名前の由来だが、ダークソウル3の火防女の容姿で見た目がジャンヌっぽいと思ったからだ。異論は認める。

 フレーバーテキストにはダークソウルな設定を色々書いた。名も無き灰と共に火を消し闇の世界ENDの後に消えたがしかし、蘇った名も無き灰────つまり、私によってこの最初の火の炉を模した場に蘇ったという旨を。

 まあ、分かる通り、私自身のフレーバーテキストにもダークソウル的な設定を書いた。無印から3まで経験してる的な…………。

 

 

 じき、世界は終わる。

 

 

 アイテムボックスを確認すればきちんと必要なスクロールやらアイテム、様々な防具や武器、指輪類、サービス終了日故に馬鹿みたいに安売りしていたワールドアイテムが一つ。

 

 

 再び火は消える。

 

 

 まあ、これで異世界転移出来なかったら…………仕方ないな。その時はリアルでペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さん、たっち・みーさん辺りを誘って何かしようか。

 

 

 しかし、どれだけ小さくとも、暗闇の中に火は現れる

 

 

 ふむ……できれば他にもダークソウルNPCを作りたかったな……確か傭兵NPCを自作できる課金アイテムがあった筈だ……カタリナのジークバルトを作っても良かったな。

 …………転移後はどうするかな。フレーバーテキストがアルベドの様に影響しているのであれば私も火防女もそのフレーバーテキストの影響を受けるのだろうか?ともすれば私は自らのフレーバーテキストに記した通り、様々な旅を経た不死人となるわけで……もしかすれば経験したことが無い不死人の記憶が流れ込むという可能性もありえる。

 二次創作の読み過ぎだ、と言われれば終わる話だが……しかし、この現実自体が私にとっては夢幻の体験と何一つ変わらない。さて、どうなるか。

 時刻を見れば既に五分を切ったようだ。

 

 いや、待て。モモンガさんはやはりアルベドのフレーバーテキストの最後の一文。

 『ちなみにビッチである。』を『モモンガを愛している。』に変えているのだろうか?変えていたら……下手すれば私は転移先でアルベドに敵対視される可能性が?いやいや、私は最後までモモンガさんと一緒にナザリックにいたわけだからそれはないだろう……ないと信じたい。

 とりあえずモモンガさんが魔王ルートを歩まないように注意していくか。

 

 

 

『────ネームレスさん』

 

『……モモンガさん、もう終わりですよ』

 

『はい、そうですね。……その、いままでありがとうございました』

 

『いえ、こちらこそ。アインズ・ウール・ゴウンだから今日まで私はやってけたんです。何時辞めてもおかしくなかったのに……』

 

 

 本音だ。

 異世界転移を知っていたが、それでも私はこのユグドラシルをサービス終了までやれたかどうかは分からない。もしかしたら辞めていたかもしれない。

 それを考えると彼に感謝の念を向けるのは当たり前な事だ。

 

 

『…………終わりですね』

 

『ええ……』

 

『その、ヘロヘロさんが言ってましたけど……』

 

『はい。ユグドラシル2があったら……』

 

『その時はまた』

 

 

────五十二、五十三

 

 

『それじゃあ、締めますか』

 

『ええ』

 

 

────五十四、五十五

 

 

 

『『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!』』

 

 

 

────五十八、五十九

 

 

 

────零

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか────?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────カハッ」

 

 

「これで、希望をもって、死ねるよ……」「私は汚れ、声を出すべきではありません」「それでは奇跡の話をしましょうか」「不死の勇者よ。わしはここで待っておるぞ」「俺の太陽が……沈んでいく……」「あんたには期待してるんだ。しっかり働いてくれよ」「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ」「……死ぬんじゃねぇぜ。あんたの亡者なんて見たくもねぇ……」「棄てられた都とて、勇者に導きくらいは必要だろう?」「よく参りました、試練を越えた、不死の英雄よ」

 

「よろしい、ならば、汝はこれより暗月の剣となる」

 

「王たるものよ、玉座へ……その先は、貴方にしか見えないのです」「だが、だからこそ……霧の中の答えを求めるのか」「いつの日か、その旅に終わりが訪れんことを……」「火を求める者 王たらんとする者よ……力を手にするがよい そして、汝の望むがままに……」

 

「兄上は私の、ロスリックの剣 だから、どうか立ってください……それが、私たちの呪いです」「さあ、最後の乾杯だ 貴公の勇気と使命、そして古い友ヨームに」「ノーカウントだろ?ノーカウn」「……さあ、これより貴方は暗月の剣」「あるいは、私たちが最後となるか……『最後の王』とは、小人にすぎた栄誉というものだな」

 

「はじまりの火が、消えていきます。すぐに暗闇が訪れるでしょう…………そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が…………」

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、私の頭蓋は軋む、割れる、砕ける、前世も今世も味わった事が無いほどの激痛に襲われ────しかし、何時か味わったであろう痛みに比べれば大したものではなかった。

 痛みより立ち直った私は気がつけば最初の火の炉ではなくまったく知らない何処かの草原に胡座をかいていた。

 そんな事態に対して私は冷静に対応する。

 間違いなく異世界へと転移出来たのだろう……しかし、ここはナザリックでは無い。ではナザリックの外に広がっていたという丘になる予定の草原か?となればこの周辺にナザリックがあるはず…………私はアイテムボックスから一定範囲内のエネミー及びプレイヤー、NPCを探知する事が可能な指輪を取り出しリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと取り替えて指にはめる。

 

 

 ………………あぁ。なるほど。

 

 

 指輪をはめたことで理解する。私がいる場所はナザリックが転移した草原では無い、何故ならばおおよそ20レベル前後のエネミーの反応が無数にあるからだ。

 そして、私の視認できる距離に街……いや、都であろう場所が見える。そこへ迫っていく大量のエネミー……オーバーロードを知っているならば何となく察せられる。

 

 

 つまるところ獣狩り(Bloodborne)というわけか。同じフロムだが私と作品違うぞ。

 

 

 さて、どうするか。仮にも異形種である私としては人間が彼らに食われるのは別に何か感じる訳ではない……ないが……

 

 

 何、新たな世界。その初陣と考えれば良きものだ。

 

 

 すぐさま私は早着替えのローブを纏い、セットしておいた装備へと姿を変える。

 外見としてはファーナムの騎士装備だろう、特にこの両肩の毛皮部分が拘りでこれの為にいったいどれほどの神獣クラスを狩った事か……んん、指にはリング・オブ・サステナンスとリング・オブ・フリーダム、反応感知の指輪に人化の指輪をはめる……ついでに回数制限がある召喚系指輪をはめておこう。

 さて、足が必要だ。ダークソウルといえばこういう時はシフに乗って駆けるのがロマンなのだろうがしかし、残念ながら私の持つ指輪では狼系のモンスターは呼べない。

 

 

 まあ、レベルを考えれば何度か跳べば着くだろう。

 

 

 適当に屈伸し、私は大地を蹴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国の王都へと進行したおよそ五千ものビーストマン。

 それに対抗するべく竜王国の兵士らは決死の覚悟で迎え撃つこととなった。

 

 

「────!!」

 

「────!!!!」

 

 

 しかし、ビーストマンは一体一体が人間の成人男性十数倍もの力を持つ怪物。如何に兵士と言えどもビーストマン五千は並大抵の数ではどうにもならなかった。

 そもそもビーストマンにとって人間とは餌でしかなく、殺す事を目的とする人間に対してビーストマンは人間を食えればいいのだ。仮に兵士の剣がビーストマンの腕を切り落としたとしてもその間にビーストマンが兵士の首へ噛み付けばそれで人間は終わり。

 ビーストマン一体に対して兵士はいったい何人食われるのか、そんな事が分からない彼らではない。だが、それでも彼ら兵士は家族の為に戦うしかない、たとえ死ぬとしても。

 

 

 ああ、だからこそ。

 

 

 唾液を撒き散らしながらけたたましく吼えるビーストマンらが兵士へと躍りかかる瞬間、ただ稲光が迸った。

 

 

「は?」

 

 

 視界を焼く雷光に思わず兵士は目を瞑り、それを開けた瞬間視界に飛び込んできたのは目前のビーストマンが数十個の黒炭へと変貌したというもの。

 いったい何が。それを見た兵士もビーストマンもただそれだけが思考に満ちて────

 

 

────龍雷(雷の槍)

 

 

 戦場へと響く流麗なその言葉に兵士はその視線を向け、ビーストマンは沈黙を捧げた。

 都合六度迸った雷光はビーストマンを尽く蹂躙していく。

 ビーストマンだった黒炭が高野に溢れ、兵士は先程までビーストマンがいた場所に見知らぬ誰かがいるのを視認した。

 

 

 

 それは一人の騎士だ。

 

 色鮮やかな水色のキュレット、肩を覆う毛皮が目に付く流麗な装備。農民上がりで美術品などを見る目などないような兵士ですら、その装備が国宝級を遥かに凌ぐ素晴らしいものである事を理解した。

 左手には直剣が握られ、右手には稲妻の名残が残っており、兵士はその騎士がこの光景を作り出したのだ、と納得し同時に声を上げそうになった。それを止めたのはひとえに騎士の視線────と言っても兜を被っている為兜のスリットが向いている方向だが────が未だ生き残っているビーストマンの群れに向けられているのを知ったからだ。

 確かに雷光は多くのビーストマンを殺した。数にすればおおよそ七百を超えた辺り。つまり、全体の一割少しでしかない、ビーストマンはまだまだいるのだ。

 

 無茶だ、そう呟く者もいる。

 もしかしたら、と呟く者もいる。

 

 

 そんな兵士らの視線を背に受け、騎士はその右手で既に握っていた直剣と同じものを引き抜き双剣のスタイルをとって、一歩、一歩、ビーストマンの群れへと歩んでいく。

 そんな決して速くはない歩みにビーストマンは動けず少しずつ後退していく、がやはり獣なのかそんな緊張を、萎縮する自身を奮い立たせようと雄叫びと言うよりも悲鳴を上げながら騎士へと飛びかかる者が出た。

 

 

 ああ、やはり。振るわれる刃はいとも容易く飛びかかったビーストマンを解体し切り捨てた。

 騎士は切り捨てられたビーストマンの死体には一切目もくれず、ただ、ただ進む。

 もはやビーストマンにとって騎士は怪物だ。餌と似たような姿をしただけの怪物。むしろ、自分たちを鏖殺にする為だけに餌と同じ姿をしているのではないか?と錯覚させるほどに、だから、ビーストマンは逃げた。

 

 

 一切の恥を捨ててその場から逃げ出した。

 あの怪物から逃れられるのならば、プライドなんて捨ててやると言わんばかりのそれに兵士らは唖然とし、しかし騎士は見逃さない。

 大地を蹴り、騎士は跳ね飛ぶ。宙へと身を投げた騎士は大気を蹴りつけ逃げるビーストマンの真ん中へと着地しそのまますぐにビーストマンへとその刃を振るった。

 逃さないと言わんばかりのそれにビーストマンは恐れ、硬直しいったい何が起きたかビーストマンは逃げる事を止め、全員が騎士へと殺到した。

 しかし、四千いくらかのビーストマンがたった一人に殺到するなど同胞を踏み潰しかねない行為であり結果、同士討ちで半分近くのビーストマンが死んでいった。

 

 飛びかかったものは股下から切り上げられ、隙を突かんとしたものは短剣により首を切り落とされ、背後から来たものには脚で蹴り殺しすぐさま体勢を立て直し他のものどもへと対応していく。

 まさに尋常ならざる英雄が如き所業。

 自分たちが何人も束にならねば殺せぬ獣を次々と鏖殺していく様を見て兵士らは次々と叫んでいく。それは食われ殺された同胞たちへ捧げるもの、食われ殺されるだけだった自分たちに降りてきた希望への歓声、そして彼らが守る者らへ伝える勝利の雄叫び。

 それらを背に受けて鏖殺した騎士はその兜の下でぎこちなく笑みを浮かべた……が、それが分かるのはきっと騎士本人だけなのだろう。

 

 

 






 NPCが動くなんて……本当に異世界転移でもしてしまったんだろうか?…………いや、待て、そうだネームレスさん。
 ネームレスさんはどうなったんだ!?あの人は確かあの時、第六階層にいたはず……もしかしたら一緒に来てるかもしれない……でも、だとしたらどうして連絡をくれないのか……
 意を決して伝言を使い────


『《伝言》ネームレスさん、いまどこにいますか!?』

『────《伝言》現在暗月警察中なので後日おかけください』ブツッ

「………………はァ!?」


 え、あ、はァ!?あの人何してんの!?というかどこにいるの!?
 暗月警察ってあの人流のPKKの事だった筈だが……というか伝言が通じたって事はそういうことなのか?少なくともネームレスさんはこの世界にいる……と。
 とりあえず言われた通り後日連絡しよう。
 そして会えたら文句でも言おう。


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情報/一歩

「灰の方、私とグウィンドリン様どちらがお好きですか?」

こふっ……無理ぃ……

【YOU DIED】


 

 

 

 

 

 果たして何体のビーストマンを切り殺しただろうか。

 はて、ろくに数えていないから分からんな。ひとまずはヘイトスキルを使用する事でこの戦場にいるビーストマンのタゲを集中させたわけだが……ふむ、こうも上手くいくとは思ってもいなかったな。

 曲がりなりにもこの世界は現実だ。ならば、たった一人に殺到すれば背後の味方に踏み潰されるのは簡単に予想出来る。だが、そんな事はタゲ取りされたこのビーストマンどもには分かりはしない。なにせ本能で生きてるのだから。

 

 

 まあ、本能でなくともどうせ逃げられんからな。

 

 

 両の手に握ったゴットヒルトの双剣を振るいながら私は着実にビーストマンを葬っていく。戦ってわかるが、この世界の人間の実力は低いとしか言えない……いや、ユグドラシルやダークソウルを基準にしてはいけないな。

 そもそもダークソウルに至ってはフロムの死にゲーだ。死んで覚えるものだった……こちらではおいそれと死ねんだろう…………。

 と、どうやらあらかた切ったようだな。ひとまず剣を鞘に納め私はこちらを見ている兵士らのもとへと歩き始める。

 

 

「ぁ……ぁ、あああああ!!!!」

 

「おぉおおおおお!!!」

 

「「「────!!!」」」

 

 

 私へと向けられる歓声。それを聴きながら私はふと自分の鎧に視線を向ける。

 普段の火継ぎの鎧一式からファーナムの騎士鎧一式に着替えたはいいがもう少し別のでもよかった気がするな。少しビーストマンの血が目立つ…………お偉いさん……竜王国なら竜王の血を半分だか引いているという女王か、その人と会う前に鎧を変えておいた方がいいだろうな。

 はてさて、どうなるのやら……。

 

 ……そう言えば、モモンガさんから伝言来てたな……切ってしまったが大丈夫だったろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こちらです……!」

 

 

 そんな緊張しつつも溌剌とした若者の言葉に私は浅く頷き、示された部屋へと入室する。

 ビーストマンの襲撃に対して暗月警察らしく人々を食らったビーストマンへの復讐代行────きっとグウィンドリン様には苦言を賜るだろうが────を行った私は竜王国の者らに歓迎されこうして王都のかなり質の良い宿屋へと案内された。

 流石に夜中の襲撃だった為、女王との謁見は明日ということらしい。

 

 

「そ、それでは……正午前にお迎えにあがります……!!」

 

 ああ、その時は頼む。

 

「は、はい!」

 

 

 緊張しつつも溌剌としていた彼に私は声をかけてから案内された部屋を見渡す。

 王都の中でも上位に入るほど質の良い宿屋、それは決して虚偽ではなく確かに部屋に飾られている調度品や日用品、さらには清掃などきちんと良く行き届いているようだ。

 しかし、ナザリックを見慣れている身としてはつい、ナザリックと比べてしまう。そのせいで少し物足りない気がするがそこはナザリックだから仕方ないと割り切る。

 内装に凝ったギルメンが何人もいたのだ、現実離れした美しいホームと比べるのは可哀想としか言いようがない。

 一応不眠不食不性の三大欲求全滅しているアンデッド種であるため、明日の正午前まで起きて色々とアイテムボックスを漁っているか……。

 

 

 …………む?……ああ、そういえば。

 

 

 しかし、感じる睡眠欲求に一瞬私は首を傾げる。がすぐに自分が人化の指輪をはめている事を思い出し、ひとまず腰を落ち着けようとソファーへ腰掛ける。

 人化の指輪を取ればアンデッド種に戻り、三大欲求は失せるわけだが……それは亡者と変わらんようなものだ…………理性があれども人間らしいものがないのは駄目だ……モモンガさんに会った時は指輪を分けてやろう。彼もオーバーロードになって、人間らしいものがなくなっているだろうしな。

 

 ……と、まずは鎧を脱ぐか。ある程度落としたとはいえ血濡れの部分も決して少なくない、今はまだ大丈夫だが何時このソファーなどが汚れるか分からんからな。

 とりあえず私はアイテムボックスからローブを取り出し纏って、この鎧を着込んだ時のように予めセットしておいた装いへと早着替えを行う。

 着替えたのは特にダークソウルでもない私服のような衣服。今までは鎧の下にあるのはアンデッド種のそれだったが人化の指輪によりきちんとした生気溢れる人間のそれになっている。

 

 

 さて、どうするか。始まりとしては竜王国だが…………モモンガさんと連絡を取り合って行き先を考えるか。

 

 

 机の片隅に置かれている地図を広げて、私はこれからの行き先を考え始める。

 北西へと進めばカッツェ平野に出るのか……ならばそのままエ・ランテルへと入りナザリックへ帰還する……ふむ、しかしな。

 これはとても個人的な話だが私としては帝国に行きたい。原作を考えればモモンガさんは王国で冒険者をするだろう、その際に私は帝国に…………む。

 

 

『────《伝言》ネームレスさん、通じてますか?』

 

『《伝言》もしもし……モモンガさん』

 

 

 何か糸のような繋がりが頭に繋がったかのような感覚。私はつい少し前に来たものと同じ、つまりは伝言である事を理解し、すぐさま応答してみれば、やはりと言うべきかモモンガさんからの連絡であった。

 

 

『さっきはすいませんね。ちょっと戦ってたもので』

 

『…………えっと、ネームレスさんも異世界にいるんですよね?』

 

『ええ。最初の火の炉で終わったと思えばユグドラシルじゃないどこかに来てしまったことは事実ですよ』

 

 

 私の言葉に伝言越しのモモンガさんから何やら安心したような雰囲気が伝わってくるがどうやったらそんなのが出来るのだろうか……不思議だ。

 

 

『あ、慎重派なモモンガさん。モモンガさんの事ですからこの世界の生物の強さに警戒してるようですが、ユグドラシル基準で兵士がだいたい十レベルと少しいくかいかないか……時折強くて二十前後ですよ』

 

『え?弱くないですか?……というか何故にレベルがわかるんですか……ああ、いやネームレスさんはそういう探知系の指輪持ってましたね』

 

『ええ。ちなみに何をしてたかと言いますと……草原にいて困惑中に一応指輪付けてたんでそしたら範囲内に色々いましてね……レベル的に問題ないだろうなぁ……と思って近づけば人間の街……いや、王都か。それを襲う五千ぐらいのビーストマンの群れがいまして、明らかに人間が不利と思い暗月警察的に助太刀という名の無双してました』

 

『エンジョイしすぎか、おい』

 

 

 もちろん、そんな理由じゃない。しかし、モモンガさんに原作知識なんぞ教えるつもりはないので嘘を多分に含んだ話を作った。

 ユグドラシルでの私の行動からモモンガさんは普通に納得するような話だ。

 

 

『……王都って言いましたよね?それで窮地を救った?もしかしてお偉いさんと謁見とかするんですか?』

 

『ええ。とりあえずもう遅いので次の日、正午前に迎えが来る予定です』

 

『……なるほど。あ、一応聞きたいんですけど…………』

 

 

 モモンガさんからの質問に答え、手元にある地図の情報を伝えるなど互いに情報のすり合わせを二、三時間ほど私たちは行った。

 

 

 

 

『────と、いうことなので……あー、すいません。いま人化の指輪付けてるんで結構眠気が……』

 

『え、あ、そうなんですか?それはすいません……って人化の指輪きちんと使えるんですか』

 

『ええ。生気溢れる身体になってます……あ、モモンガさん、合流したら余りの指輪を渡しますよ』

 

『ほんとですか?よかった……なんか、眠気とかが無いと本当に自分が人間じゃなくなったって打ちのめされてるようで…………』

 

『…………はい、それじゃ。次はこっちから伝言使いますんで』

 

『はい、わかりました。おやすみなさい』

 

 

 

 

 ふぅ。モモンガさんとの情報整理も上手い具合に出来たな。さて、合流後の目的はその時に考えるとしてひとまずは明日の謁見か。

 竜の血を引いている女王……プリシラを想起させるな…………あの腐れ聖職者、しこたま殴り殺したい……いや、とりあえずなんかいい感じの瓶に本体詰め込んでシェイクしてやるか……。

 ああ、あの腐れ聖職者を思い出した途端に苛立ってきたな…………落ち着こう。深夜テンションで作ったグウィンドリン様(二分の一)像が確か入ってたはず、出して跪こう。

 

 

 嗚呼、グウィンドリン様……

 

 

 アイテムボックスから取り出したグウィンドリン様像に人間性が溢れそうになりつつも抑え、跪く。

 もうね、なんというかアレなんだよ。グウィンドリン様は女神として育てられた男神だけどさ……男でも良くね?いや、普通に女神でもまっっったく問題ないんだがな!?

 

 

 暗月の使徒として、御身に復讐の証を……

 

 

 ……む、ビーストマンの耳は……むむむ、グウィンドリン様に獣の耳を捧げるのはどうか……、ひとまずクレマンティーヌの耳は捧げよう。

 立ち上がり、寝室へと足を向ける。

 ひとまずは今日はもう寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、貴公!どうやら亡者ではないらしいな。俺はアストラのソラール。見てのとおり、太陽の神の信徒だ」

「不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に俺自身の太陽を探しに来た!」

「む、貴公は太陽よりも月が好きなのか?そうかそうか、月も太陽とは切っても切れないものだ。否定などするものか」

 

 

「おお、貴公。貴公とは奇妙な縁があるな……む、貴公、そういえば名はなんという……何?名がわからない……そうか……よし、ならば俺が貴公にピッタリの名を考えよう!」

「確か貴公は月が好きだ、と言っていたな……ううむ……セレネというのはどうだろうか。異邦では月を示すそうだが……」

 

 おいおい、女みたいな名前だな。なんだ、貴公は私を女々しいと言いたいのか?

 

「ウワッハッハハハ!!すまんすまん、だが決して俺は貴公を女々しいとは思っていないぞ?貴公は立派な騎士だ、そんな男を女々しいなどとは口が裂けても言えんよ」

「さて、俺はもう少ししばらくここで太陽を眺めていくよ」

 

 

「どうだろう?俺と同じ太陽の戦士にならないか?……悪い悪い、冗談だ。俺は知っているとも。貴公は決して信仰を鞍替えするような安い男でない事を」

「俺は太陽の、貴公は暗月の、互いに強き信仰を胸に、前へと歩んでいく……うむうむ、しかしそう考えれば考えるほど共に太陽の信徒として戦ってほしいと思ってしまうな。ウワッハッハハハ!!」

 

 

「……なぜだ……なぜだ」

「……なぜ、これほどに探しても見つからないんだ……」

 

 

「……ついに、ついに、手に入れたぞ、手に入れたんだ…………俺の、俺の太陽……俺が太陽だ……」

「太陽万歳!」

「やった……やったぞ……どうだっ、俺は……やったんだ」

 

 っ…………!

 

「……ああ、駄目だ」

「……俺の、俺の太陽が、沈む……。……暗い、まっくらだ…………」

 

 

 

『火は陰り、王たちに玉座なし…………貴公、俺の声が、聞こえているか…………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ッ!!??……ハァハァ

 

 

 夢……なのか?

 ひとまず休息をとるために用意された部屋のベッドで眠りについた……だが、寝ている間に私は……何かを見た。

 前世も今世も私にはそんな記憶は無い。そんな体験はない。だが、だがしかし…………

 

 

 この身体が、ソウルがそれを憶えている……のか。

 

 

 現実と化すフレーバーテキスト。重要視していた……と思っていたが思いのほか私はそれを軽く考えていたようだ。そもそも昨晩、私がこの世界に来た際にも似たような現象……と言ってもアレは勢いよく記録が流れ込んできただけでまるで本を読むようなものだった。

 だが、さっきのは違う。アレは明確な記憶だ。意識すればするほど、アレがただの夢と振り払う事が出来なくなっていく……はっきりと私が経験したものだ、と断言できてしまう。

 精神の異形化も恐ろしいものだが、これもまた恐ろしいものだ。

 

 

 …………時間は……そろそろ着替えた方がいいか。

 

 

 アイテムボックスからローブを引っ張り出し、纏う。早着替えする装いは…………アレでいいか。

 選んだのはファーナムとは違うシンプルな騎士鎧。青いサーコートに首周りを覆う赤い布が特徴なそれを着て私は妙に満足感を憶え、アイテムボックスから適当な特に効果があるわけでもない嗜飲料を取り出しグラスに注ぐ。

 

 口に含んでみれば口の中に満ちていく甘い柑橘系の味、確かギルメンと一時期こういった特に効果があるわけでもないアイテムを作るのにはまっていたな。確か名前は……………………みかん太郎だったな。よそで言うのはやめよう。

 

 

 

────トントントンッ

 

 

 どうやら、迎えが来たようだ。

 

 

 飲み終わったグラスと飲料の入った瓶をアイテムボックスにしまい私は部屋のドアを開け、迎えに来た兵士に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

「戦場に突如として現れた謎の騎士……のう」

 

「はい、戦場の兵士らは口々にその勇猛さと武勇を讃えていましたよ」

 

 

 竜王国・王城の玉座の間にて女王ドラウディロンは昨晩のビーストマンによる王都襲撃の際に現れビーストマンを蹂躙したという騎士の話をしていた。

 兵士長からの報告書によれば国宝と言ってもいい様な武具に身を包み、一撃で数百ものビーストマンを消し炭に変える稲妻を放つ謎の騎士。

 

 

「名は名乗らなかったようだが、まあもうすぐ来るらしいしその時に聞けばよかろう」

 

「そうですね。出来ればそのままこの国に仕えてくれるとありがたいのですが」

 

「まあ、難しいじゃろうな」

 

 

 宰相と謎の騎士について話していると伝令がやって来て、じき来ることを伝える。

 それに対し宰相は頷き、ドラウディロンはやや緊張する。

 それを見た伝令は幼い女王が自国の危機を救ってくれた騎士と会える事に緊張しているのだろう、と微笑ましく思った。がしかし実際のところはその騎士が一体どういう目的でやって来たのか、など一国を治める王として思考を巡らせているためなのだ。

 

 

「────陛下」

 

「うむ、来たようだの」

 

 

 伝令は下がり、玉座の間への扉が開く。

 そして、入ってくるのは一人の騎士。

 シンプルな騎士鎧だが、その青いサーコートや赤い布、鎧に使われているであろう金属、その腰に下げている直剣といいどれもが国宝級のそれを凌ぐものだ、とドラウディロンはその身に流れる竜の血が訴えているのを感じ取り、同時にその騎士から感じる力に竜の血が警鐘を鳴らしているのを理解した。

 

 

「────お、お主が」

 

 

 声が震える。

 目の前のそれが騎士という形をした全く違う埒外の何かなのだ、と理解してしまったが故に。

 もしも、ここにいるのが騎士ではなくその友人ならば問題はなかった。しかし、目の前にいる騎士は如何に人化していようともその身体は、そのソウルは……古の竜すら屠る怪物なのだ。

 そんな戦慄いているドラウディロンを無視して、宰相は跪いた騎士へと視線を向ける。

 戦士ではない宰相だが、目の前の騎士が英雄に類する傑物なのだ、と感じ取り礼を示し竜王国に籍を置いてもらわねば、と思考を巡らす。

 

 

 此度、お招き頂き感謝します。女王陛下

 

「う、うむ……わ、私はドラウディロン。ドラウディロン・オーリウクルス、この竜王国の女王じゃ……き、騎士殿は」

 

 

 騎士の言葉にドラウディロンは意識を戻し、冷や汗を垂らしながら目の前の怪物と言葉を交わす。そんな事はないのだが、一瞬でも目を離せばその瞬間に腰に下げている直剣が自らの首を断つのではと想像し緊張の中対応する。

 そんなドラウディロンの心境などいざ知らず、騎士は誇る様に照れ臭い様に自らの名を告げる。

 

 

 セレネ。アストラのセレネと申します……女王陛下。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 さて、行くか。

 

 

 竜王国の王都を背に、騎士は女王より貰い受けた駿馬の上で地図を広げていた。

 既に伝言で目的地を決め、今はそこへ向かうための道のりを思考していた。

 本来ならばその指にはめている召喚系の指輪を行使し騎乗用のモンスターを召喚、それにより早々に目的地へと向かうつもりだったが女王より報酬として得たものを考えれば多少ゆったりとしても良いだろうと考えた。

 

 

 まずはカッツェ平野だな。……人化の指輪は外せないな……私が原因でとんでもないアンデッド種が発生されては困る。

 

 

 マッチポンプはモモンガさんの十八番だしな。そう、苦笑し地図を折りたたみ懐へしまって手綱を動かす。

 この駿馬も何れはアンデッド化……ソウルイーター辺りにでもしよう、と不穏な考えをしつつ騎士は竜王国を後にした。

 

 

 

 

 

 

 






────鐘の音が聴こえる

 身体が軋む。まるで何年も、何十年も、何百年も、いや何千年も身体を動かしていなかったのように身体が軋み悲鳴をあげている。
 視界が暗い。どうやら、何処か狭い場所にいるようだ……そして穴はない。……棺桶だろうか、石造の棺桶なのだろう。

 ふむ、どうするべきか。

 ひとまずはここを出よう。軋む身体を動かし腕を前方、いやこの場合上なのだろう。立っているのではなく横たわっているのだから。
 掌を壁に押し付けそのまま力を加える。すればどうした事だろうか、壁は……いや蓋は容易く動き、そのまま横へとズレて落ちた。


 ぬぅぅ。


 眩しい。溢れんばかりの光が視界に差し込んでくる。いったいこれはなんなのか、いや、これは……もしや……。
 すぐさま軋む身体を無理矢理動かし、棺桶から立ち上がる。空を見ればそこには清々しい程の青空が広がり、そして眩いばかりの雄々しく全てを照らさんばかりの太陽が輝いていた。



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火防女/誘導

「俺も早く異世界で冒険したい!」

 骨は待ってろ。もうすぐ出れるから

「灰の方は何時帰ってくるのですか?」

「ネームレスさん、はよ」


 

 

 

 生えでる岩々、墓標のように突き刺さる剣や杖の武器の数々、静寂が支配するその空間で一人の女が祈りを捧げ続けていた。

 

 ナザリック地下大墳墓・第六階層『最初の火の炉』

 至高の四十二人、その一人であるネームレスにとって第二のマイルームと言えるその領域にはただ一人だけそこにいる事を許されたNPCがいる。

 領域守護者という肩書きはあれども、守護者としての行動は一切無く、ただ祈る事だけを望まれたNPC。

 名をレティシア。ネームレスに創られた火防女としてのNPC。ユグドラシル時代においてはネームレスのジェスチャーに反応したジェスチャーをするかこの領域の中心にある篝火に祈りを捧げるだけのNPCでしかなかったが、ナザリックが異世界へと転移した現在、彼女はほかのNPCとは違うものになっていた。

 

 

「……灰の方」

 

 

 ネームレスが彼女に記したフレーバーテキスト。それは彼女がネームレスと同じく嘗ては違う世界違う時代で生き死した存在だったが彼女のソウルをこの世界に現れたネームレスが嘗ての彼女そっくりの身体に注いだ事で蘇ったという旨。

 本来ならばただのフレーバーテキストだったがフレーバーテキストが現実化した以上、彼女はそうなのだ。

 嘗てネームレスが火の無い灰であった時に彼とともに火を消した火防女、それが蘇った者。そういう経緯が現実化した為か、彼女はナザリックのNPCでありながら他のNPCのようにナザリックに忠誠を誓っているわけではない。

 彼女は第一にネームレスを、その次に至高の四十一人に対して敬意を払っている。故に彼らがナザリックを去るというのならば止めはしない、それが彼らの選択ならば止めるというのは間違っていると判断しているからだ。

 

 だから、彼女は種族もあってナザリックの他のNPCから浮いている。

 さて、そんな彼女がいる領域に一つの人影が訪れた。

 

 

「確か、レティシアだったか?」

 

「……モモンガ様」

 

 

 魔王然とした黒いローブに身を包んだ白骨の異形、ネームレスと同じくアンデッド種に属するスケルトン系の最上位種が一つ『死の支配者』たる至高の四十二人が一人にしてナザリックの最高支配者・モモンガ。

 慈悲深い声音の彼に彼女は一礼する。

 

 

「……ふむ、ネームレスさんがいないがどうだ?」

 

「はい、灰の方がおりませんがしかし何も変わりません。ただ、いつもより祈る時間が長いだけです」

 

「そうか……」

 

 

 顔の半分近くを仮面のようなもので隠している彼女の表情は読めず、悲しんでいるのか怒っているのかどうなのかがわからない為モモンガがどう話すべきかを迷っている内に、今度は彼女が口を開いた。

 

 

「モモンガ様。灰の方は……また旅へ出られたのですね。何時終わるともしれない旅を」

 

「…………いや、あの人は戻ってくる。既に伝言(メッセージ)によって話した」

 

「本当ですか……!……あ、いえ、申し訳ございません」

 

 

 不安気で儚げな彼女の言葉に一瞬、モモンガは言葉が詰まりそうになったがすぐにかぶりを振ってつい十数時間ほど前の伝言のやり取りを口にする。

 それは彼女に対して致命的なまでのものであったか、儚げな雰囲気の彼女らしからぬ喜びに満ちた声音を出させた。

 そして、すぐにそんな自分を恥ずかしみ頬を薄く赤らめた彼女にモモンガは軽く心の中で笑みを浮かべつつナザリックの外を自由気ままに旅しているであろう友人に対して罵倒を投げつける。

 

 

「……そういう事でだ、ネームレスさんが帰ってくるまで少し待たせる」

 

「…………いえ、大丈夫です。戻ってくる、そう分かっているのなら……それだけで、私は」

 

「そうか……(帰ったら絶対イチャつくんだろうなぁ……しかもリア充みたいにじゃなくて熟年の夫婦みたいに……)」

 

 

 こういう相手が欲しかったなぁ……。そう心の中に押しとどめ、モモンガはこの領域を後にした。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 時と場は移り変わり、カッツェ平野。

 竜王国より北西に位置する年中霧が満ちる平野であるが、この地はいわく付きのものだ。それはアンデッドが多発するという事。アンデッドが出るだけならば危険な場所程度で収まるがしかし、アンデッドが集まるとより上位のアンデッドが発生しやすくなるという概念がある為に王国・帝国共にアンデッド退治を重要視している土地だ。

 そういった背景からこのカッツェ平野は両国の冒険者及びワーカーにとって稼ぎ場であるという認識が大きい。

 

 

 そんな土地にて今日もまた一つのワーカーチームがアンデッドを相手に仕事をしていた。

 

 

「クソッ!野郎まだついてきやがるっ!!」

 

「そんな文句言ってる暇があんならもっと速く走らせなさいよ!」

 

「うっせぇ!?これ以上は無理だ!馬が潰れるぞ!!」

 

「……私が飛行(フライ)を使えば……」

 

「駄目です。アルシェ……それは貴女が囮になるという事と同義です…………大丈夫、頑張れば何とかなります」

 

 

 霧に包まれたカッツェ平野。そこを疾駆するのは三つの影、正確に言えば前方を進む二つの影を後方の大きな影が追いかけているという所だろう。

 まず前方の二つの影。それは二頭の馬に二人ずつ乗った人間、装備を見るに恐らくこのカッツェ平野でアンデッド退治をするためにやってきた冒険者またはワーカーなのだろう。そして、そんな彼らを追いかけている影の正体は────

 

 

「……なんで、こういう時に限ってスケリトル・ドラゴンが出てくんだよッ!」

 

 

 無数の人骨によって形作られた竜の如きアンデッド、名をスケリトル・ドラゴン。第六位階以下の魔法に対する絶対的耐性、つまるところこの世界においては一切の魔法が効かないアンデッドである。

 ミスリル級冒険者チームならば充分討伐できるであろうそれに相対して逃げる彼らはそのレベルではないのか?そう考えられるが決して彼らは実力不足という訳ではない。

 万全ならば充分にスケリトル・ドラゴンを討伐出来る。がしかし、彼らはつい先程までアンデッド退治を行っており、それに応じて消耗してしまっていた。

 

 それ故の逃走だが、片や一頭の馬に二人ずつ乗って逃走、片や疲労など存在しない大型のアンデッド。これがただの獣に追われているならばいずれ疲れ諦めるだろうが、難しいだろう。

 さらに言えばここはカッツェ平野。アンデッドの多発地域である。

 

 

────ザシュッ

 

『ヒヒィィンッ!?』

 

「うわぁ!?」「キャッ!?」

 

 

 唐突に二頭の内の一頭、大柄な男と華奢な少女が乗っていた馬がつんのめりそのまま二人は地面に投げ出された。

 流石に修羅場を潜り抜けてきただけはあるのか、双方共に受身はしっかりととった事で落馬による負傷は無いようだ。

 そんな二人が乗っていた馬をもう一頭に乗っている彼らのリーダーであるヘッケランは見て、すぐさま落馬の理由を悟る。

 

 

骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)かっ!クソッタレ!!」

 

 

 見れば馬の右前脚に深々と刺さる矢が一本。ヘッケランはすぐさまそれがこのカッツェ平野に発生するアンデッドの一種、骸骨弓兵だと理解し手綱をさばいて彼らの方へ馬を動かそうとしたが

 

 

「ヘッケラン!私の事はいいです!」

 

「な!?」

 

 

 大柄な男、ロバーデイクの叫びにヘッケランと彼と同じ馬に乗るイミーナ、そして彼と共に投げ出された少女アルシェは目を見開く。

 

 

「アルシェ、貴女は飛行でヘッケランたちと共に逃げてください。ここは私が殿をつとめます」

 

「そんな……」

 

 

 それは自分を犠牲にして生き延びろ、という言葉だ。これがまったく違うチームの人間ならば躊躇なく逃げただろう、しかし今まで共に戦ってきた仲間を置いて逃げ出せるほど彼女は、いや彼らは薄情者になれなかった。

 

 

「ロバー!!」

 

「ヘッケラン!?何故……!!」

 

 

 ロバーデイクの名を叫びながらロバーデイクのもとへ戻ってきたヘッケランとイミーナ。そんな二人にロバーデイクは困惑と責めるような声音をだす。

 しかし、そんなロバーデイクにヘッケランはぎこちない、だが気持ちの良い笑みを向ける。

 

 

「仲間を囮に生き延びた、なんて恥ずかしくて帰れたもんじゃねえよ」

 

「そういうこと。……アルシェ、あなたは」

 

「みんなが戦うなら、私も……スケリトル・ドラゴンには効かなくても補助は出来る」

 

「…………!」

 

 

 全員が武器を構えスケリトル・ドラゴンを見据える。ヘッケランへと走るスケリトル・ドラゴンはようやく殺せる、と言わんばかりに唸り声を上げている。

 決して万全ではない。希望的に見て何とか全員帰還、普通に考えれば半数は死ぬ、絶望的に見れば全滅。そんな状況にも関わらずヘッケランとロバーデイクは笑っていた。

 全員で、生きて帰るのだ、と。

 

 

 

 ああ、だからだろうか。

 

 

 

 その意気や、良し

 

 

 

 スモウハンマー(武技・処刑鉄鎚)

 

 

 

 

 瞬間、カッツェ平野の濃霧を吹き飛ばさんばかりの雷光が迸りスケリトル・ドラゴンが爆散した。

 

 

「は?」

 

 

 そんなありえない光景に覚悟を決めていた彼らの顔は唖然としたものとなり、スケリトル・ドラゴンが存在していた場所から姿を現す何某はそんな四人にとても軽く言葉をかけた。

 

 

 良い仲間だ。仲間を見捨てず力を合わせる、見事だよ貴公ら。

 

 

 シンプルな騎士鎧に青のサーコート、首元に巻かれた赤いスカーフ、そして一際目が向くのはその身の丈以上の大きさを誇る大鎚。

 そんないきなり現れた騎士、それにすぐヘッケランは硬直より戻り騎士の胸元に輝くものを見つけた。

 

 

「アダマンタイト────?」

 

 

 ヘッケランが見つけたのは騎士の胸元に垂れ下がっている一つのプレート。それは冒険者のランクを示すもので騎士が所持しているのはアダマンタイト……すなわち冒険者の中でも最上位のもの。

 すぐさまヘッケランは自分の記憶からこの騎士が何者なのか考えるが、大鎚を持ったアダマンタイト冒険者など何人もいる訳ではなく王国のアダマンタイト冒険者チーム『蒼の薔薇』に所属する戦士(ガガーラン)を思い浮かべたが噂に聞くような体躯には見えない。

 では、いったいどこのアダマンタイト冒険者か。そう、警戒して────

 

 

 獲物を横取りする形になったが大丈夫だったろうか?

 

「……ああ、いや、助かった」

 

 

 何故だろうか。ヘッケランもイミーナもロバーデイクもアルシェも、全員が目の前の騎士へ対する警戒心を失った。

 理由はわからないが、全員それでいいか、などと普段ならありえない事を考え騎士へと近づいていく。

 

 

「……あんたはいったい」

 

「どこのアダマンタイト冒険者よ……」

 

 む?ああ……私は竜王国の冒険者だよ。と言ってもあくまで身分保障の為に冒険者になっただけで国は大して関係ないか……と、私が誰かか。

 

 

 竜王国。騎士の言葉にヘッケランはすぐに竜王国のアダマンタイト冒険者であるセラブレイトを想像するが恐らく別人だ、と考えつまりは新しいアダマンタイト冒険者と納得した。

 竜王国は年中ビーストマンにより襲撃を受けている。もし、そこで大手柄を挙げたのならアダマンタイト冒険者になれてもおかしくはないし偽っているわけでもないのだろう。

 何せ一撃でスケリトル・ドラゴンを破壊しているのだ。ミスリルやオリハルコンではいささか不可能な事だ。

 

 

 私はアストラのセレネ。先も言ったが竜王国の冒険者だが……まあ、身分保障の為になった結果アダマンタイトを得たに過ぎない。さて、君たちは?

 

「お、俺たちはフォーサイト……帝国のワーカーをやってる。……俺はリーダーのヘッケラン」

 

「イミーナよ」

 

「ロバーデイクと言います」

 

「アルシェ」

 

 

 ヘッケラン、フォーサイトの面々の自己紹介を聞いて何度かセレネは頷きその手に持っていた大鎚から手を離す。すると、まるで靄のように大鎚はその場から消えた。

 それにフォーサイトの面々は目を見開くが何でもないように振る舞うセレネにそういうものなのか、と何故か納得してしまう。

 

 

「あー、セレネさん?」

 

 好きに呼んでくれて構わないとも

 

「……んじゃセレネの旦那。あんた、竜王国の冒険者つったけどこんな所になんの用で来たんだ?依頼?」

 

「ちょっと、ヘッケラン」

 

 構わないさ。ふむ、何故ここにいるか、か。まず、依頼ではない。単純に拠点の移動だよ。とある事情でね、竜王国は私を縛れない……だから、こうして他国へ拠点を移せる。

 

「なんと…………拠点を移すとなると王国か帝国のどちらかですね」

 

 

 セレネの言葉にロバーデイクは頷き、セレネが向かうであろう国を二つあげる。

 

 

 ああ、ひとまずはエ・ランテルに向かおうと思っていてね。貴公らは?

 

「あー、俺らはこのまんま帝国に戻りますわ。結構消耗してますし……」

 

 ふむ、では霧を抜けるまで共に行こうか

 

 

 そんなセレネの提案に一切の不安を持たずに賛同するフォーサイト、恐らくはそのスケリトル・ドラゴンを一撃で粉砕させる実力から自分たちのようなワーカーを騙す必要なんてないだろう、と判断しての事なのだろうがしかしあまりにも素直な事だ。

 そんな四人にセレネは頬付き兜の下で笑みを浮かべこのカッツェ平野を四人もの旅仲間と共に────射られた馬にはポーションを使用し無事に足として作用した────進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はてさて。よもや、あのフォーサイトと縁が出来るとは…………関わらなければナザリックに誘い込まれて無残に死ぬ、そんな未来を許容したのだが…………人化しているからか、友愛が湧いてしまうな。

 まあ、帝国での活動の際に寄る辺が出来たのは丁度いいな…………それにしてもビーストマン殲滅の報酬にアダマンタイト冒険者としての地位と自由に動く権利をもぎ取って正解だった。

 竜王国のアダマンタイト冒険者……なんだったか、ペロ助みたいな性癖持ちの人があの場にいて助かった。彼と兵士らの言葉がなければせいぜいミスリル、良くてオリハルコンだったからな。

 

 にしてもこの指輪、確かレベル二十以下ならNPC、プレイヤー、エネミー関係なく攻撃対象に選ばれないとか何とも微妙とも言えない性能の指輪だったが…………この世界では本当に結構重要だな、おい。

 彼らはまったく警戒していなかったし……攻撃対象に選ばれない、がどうやら装備者に対して友好的にさせるとは…………せいぜい警戒はすれども攻撃しようとは思わない程度だと思ったんだがなぁ。

 

 

 捨てずに持っておいて正解だったか。

 

「……?セレネさん、どうかした?」

 

 なに、こうして少しの間だがこの辛気臭い場所を一人で通らずにすんで、よかったと思ってね。

 

「はは!確かに、こんなところ一人で突っ切りたくはないわな」

 

 

 そんな風に笑うヘッケランに私は兜の下で笑っておき、彼らを見据える。

 帝国での活動の際に利用するのは確定だ。しかし、彼らをナザリックで処分するかというのはいささか遠慮したい。彼らは良いチームだ、無論アインズ・ウール・ゴウンに敵うことはないがそれでもとてもよくまとまっていると思う。

 そうだな、原作どおりに事が進めば充分対応出来るがしかし…………そんなのは私がいてもいなくても変わらない。ならば、崩すのもありか。

 と、どうやら霧が途切れたようだ。

 

 

「おや、無事抜けられたようですね」

 

「てことは、ここでお別れね」

 

 ええ。では、皆さん短い間でしたがお世話になりました。

 

「おいおい、セレネの旦那。世話になったのは俺らの方だって、助けてくれてありがとな」

 

「帝国に来た時は、案内する」

 

 ええ、その時はお願いしますよ。フォーサイトの皆さん。

 

 

 彼らの声を背に、私はエ・ランテルへ向けて馬を進める。

 さて、そろそろモモンガさんから伝言がくる頃合だが…………

 

 

『《伝言》────あ、ネームレスさん、聴こえますか?』

 

『聴こえているよ、モモンガさん』

 

 

 噂をすれば何とやら、だな。

 

 

『実はですね…………』

 

『ふむ…………』

 

 

 カルネ村と接触したのか…………で、今はその村の村長と情報交換中、と。ということはもうすぐガゼフ・ストロノーフとそれを付け狙うニグン率いる陽光聖典……か。

 で、カルネ村で名乗った際に使ったのは自分の名で組織としての名前でアインズ・ウール・ゴウンを出した……アレか。この世界には私がいるのが分かっているから自分の一存でアインズとは名乗れないとかそういうのなのか。

 そう、モモンガさんの言葉をかなり好意的に解釈し、私は彼らにどう動いてもらうかを考える。

 

 

『……まあ、少なくとも意味もなく兵士が村を襲うってことはないでしょう…………竜王国で得た情報的に帝国の鮮血帝?は賢王らしいので多分帝国じゃなくて偽装兵?』

 

『偽装兵ですか?……となると何が狙い…………あ、ネームレスさん、またどこかの団体が来たようです』

 

『ん?それじゃあ、伝言を切っても────』

 

『いえ、このままでいきましょう』

 

『……はい、わかりました』

 

 

 どうやらガゼフ・ストロノーフとその仲間たちがやってきたようだな。はてさて。

 竜王国を見た身では、彼ら陽光聖典には生きて欲しいが…………ううむ。どうするか……そもそも私が竜王国で得た情報をナザリックに送った以上、彼らをわざわざ捕らえる必要がなくて………ついでに生かす必要もなくて……ううむ。

 いや、待てよ?わざわざ法国と敵対する理由なんてないわけで…………

 

 

『…………さーん、おーい、ネームレスさーん』

 

『!?ぁ、ああ、すまないモモンガさん。考え事をしていてね、それでどうしたんですか?』

 

『えっとですね。カルネ村に来た団体なんですが、どうやら王国戦士長?の一団らしくて』

 

『ガゼフ・ストロノーフですね。竜王国でも英雄級の戦士と噂されてました…………恐らくは彼を始末する為の偽装兵なのでは?』

 

『なるほど……ですがあの偽装兵の実力を考えても…………そうか、囮部隊ですね?』

 

 

 流石モモンガさんと言うべきだろう。この人は自己評価が基本的に低いが今の御時世の平均を考えるとこの人普通に上の方なんだよな。

 そりゃあ、アインズ・ウール・ゴウンには公務員なたっち・みーさんややまいこさん、教授がいるから仕方ないけどこの人、小卒だろ?

 なのに結構有能なんだよなぁ……ネーミングセンスは悲しいぐらいに終わってるが。

 

 

『王国は結構腐ってるらしいので恐らく法国ですね。人間が生き残る為に人間はまとまらないといけない、けど王国が腐ってるからもう駄目だ。よし帝国に取り込ませよう……とかそういう話でしょう』

 

『…………なるほど。にしても法国ですか……確か、ネームレスさんはプレイヤーが作った国と考えてるんですよね?』

 

『ええ。竜王国で調べた限り六大神、それと戦って相打ちになった八欲王は間違いなくプレイヤーでしょうね。で、法国のプレイヤーはいないと考えて大丈夫ですが……世界級がある可能性は頭に入れといてください』

 

『プレイヤーの遺産ってことですね?……わかりました』

 

『それと、もし法国だった場合……生かして捕縛でお願いします』

 

『……?プレイヤーがいないのなら報復を警戒しなくてもいいんじゃないですか?』

 

 

 まあ、そういう反応だろうね。

 

 

『今はいなくても今後、私たちみたいに来るかもしれないでしょう?それで下手に殺してしまったら…………』

 

『なるほど……人間種のトップギルドが来た場合、間違いなく敵対されますからね……大義名分を少なくする、と言うことですか?』

 

『ええ……まあ、微々たるものなのかもしれませんが』

 

『わかりました。出来うる限り気絶に留めますね』

 

『はい、お願いしますモモンガさん』

 

 

 …………切れたか。さて、何とか陽光聖典を生かせそうだが…………ァ……巫女姫は死ぬわ。

 うーん、うーん……仕方がない。この際、漆黒聖典を釣るための犠牲と考えよう…………すまなんだ。シャルティアに対しての世界級の使用、これは回避させるついでにあの漆黒聖典の隊長が持っているであろう二十の一である槍は何とかして処理する必要がある。

 もし仮に世界級を持っていないNPCが相対して使われれば…………それだけは避けねばならない。

 

 

 嗚呼、まったくエゴいなぁ……

 

 

 私はそう呟いて苦く笑った。

 

 

 

 

 

 

 







 燃えるッ!?

 貴公ッ!、ヌゥっ俺にもか!?

 ……貴公ら一回下がれッ!!



 まさか、石像が火を吐くとは思わなんだ……

 まったくだ。いや、それよりも二体は流石に狡くはないか?

 そういうこっちは三人だろう

 だな


 その男に初めてあった時はただ利用出来る奴が来た、としか思わなかった。
 まあ、話してみるとなかなか面白い奴ではあったな…………だからだろう、奴の召喚に応え共に戦った。


 と、飛んだァ!?掴んだァ!?

 ぬぅぅおおぉぉぉ!!??食べられるぅゥ!!??

 おい、貴公らぁぁぁ!!??


 …………ああ。うむ、まあ、絆されていったのが理解出来た。
 故にこれ以上は駄目だ、私の使命の為にも彼らと共にいることは出来ない……そう判断して私は奴のもとから離れた。その際に用済みの女を殺してな……。



 ほう、貴公か…………多少は賢いと思ったが、そうでもなかったようだな。
 哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ。
 そう思うだろう?なぁ、あんた達。



 ああ、クソッ…………せいぜい、足掻け……貴公……






「…………なんだここは」



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冒険者/暗躍

実はバジリスクにより呪われながら頑張って貪食を倒しました。
え?ロートレク?ソラール?……解呪がね……おかしいなこんなに死ぬもんだったかな……

俺は沖田オルタを引くぞ!ソラァァル!!


 

 

 いつもと変わらない風景。

 いつもと変わらない喧騒。

 なんらいつもと変わらないある日、それはやってきた。

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国にある都市エ・ランテル、その都市にある冒険者組合の扉が開かれた。

 組合の中で仲間たちと談笑を交わしていた冒険者が、掲示板を見て依頼を吟味していた冒険者が、冒険者らに仕事を斡旋する受付嬢が、何となくその入ってきた人物に目を向け、固まった。

 シンプルな騎士鎧に青いサーコート、首元に巻かれた赤いスカーフ、とうてい一冒険者では用意出来ないような国宝級の鎧に身を包んだ騎士。そんな彼を見た冒険者はどこかの貴族の息子かその護衛が着飾ってるんだろうと考えたが、その鎧についている歴戦の傷や騎士の佇まい、そして何よりその胸にかけ下がっているプレートを見てその考えは誤りだと理解した。

 

 アダマンタイト。

 

 騎士のかけ下げているプレートはそれを示すものだった。エ・ランテルは王国の中でも大きい方の都市で、それに見合った情報が流れ込んでくる。故に冒険者たちはその騎士を見て自分たちの知るアダマンタイト冒険者を思い浮かべたがすぐにその誰とも違うと考えた。

 受付嬢は一瞬、偽装か?と考えたがアダマンタイトは希少金属でそうそう偽装など出来はしないし調べれば簡単に分かってしまう。偽装するにしても白金級かオリハルコン級のだろう。

 

 

 さて、件の騎士は組合に入って脇目も振らずにまっすぐと受付嬢のもとへ向かっていく。そんな姿に受付にいた冒険者たちは次々と道を開けていき、受付嬢と騎士は対面した。

 

 

「え、えっと、ど、どのような御用でしょうか……」

 

 竜王国より拠点をこちらへ移す為に来た。

 

「はい、わかりました…………え?」

 

 

 竜王国?竜王国のアダマンタイト?拠点を移す?騎士────セレネの言葉にそれを聞いていた周囲の冒険者は仲間内で顔を見合わせる。

 竜王国について詳しいものは竜王国のアダマンタイトと聞いてすぐにセレネについて思い出そうとするがしかし、セレネが冒険者となりアダマンタイトとなったのはつい数日前の事、いまだその情報は王国まで届いてはない。

 

 

「り、竜王国の冒険者ですか……えっと、その……」

 

 アダマンタイトの偽装を疑っているのだろう?わかっているとも。

 

 

 セレネはそう言うと、かけ下がっているプレートを外し更には腰に下げている筒状のものを取り外し受付嬢へと手渡した。

 プレートはともかく手渡された筒状のものに受付嬢は首を傾げるがすぐに恐らく蓋の部分とも思われる場所に記されている竜王国の紋章に目を見開きセレネへと目を向ける。

 

 

 竜王国が王より貰い受けた証文だ、組合長に渡してくれ。

 

「は、はい!!??」

 

 

 もはや、そんなものまで渡されては目の前の冒険者が偽装しているなど思えるわけもなくすぐさま受付嬢は組合長を呼びにその場を後にした。

 焦っているのか慌てたように走り、途中躓き転びそうになった受付嬢の背を見ながらセレネはただ首を竦めるだけ。

 そんな彼を見て、周囲の冒険者たちは彼がいったいどんな偉業をなしてアダマンタイトになったのかを口々に話し合い始めた。

 

 

「竜王国ってこたァやっぱり、ビーストマン相手に色々尽力したってことか?」

 

「うぅむ、確かに竜王国でアダマンタイトになるとしたらそれが一番確実であるな」

 

「だな。それに、ビーストマンの相手は熟練の冒険者でも苦戦するらしい…………もしも本当にビーストマン相手にかなりの功績をあげたのなら……」

 

「相当な実力、英雄級の冒険者ってことですね…………」

 

 

「あの鎧……相当なモンだな、だが貴族か王族とかそういうのじゃねえ…………ありゃあ本物の英雄だ」

 

「ああ、身のこなしといい一切の隙がねぇ……」

 

 

 そんな大きいような小さいような話し声を右から左へ流しつつ、セレネはこれからの事を考えていた。

 セレネは転生者だ。故に何となくではあるがこの世界のこれからの流れが大まかではあるが分かっている。暫くはこのエ・ランテルが中心となって物事は起きてくる。

 と言ってもそれらはギルドマスターことモモンガ、が変装した冒険者モモンがこの都市に来てからの話。前回からの情報交換を考えてもまだまだモモンはこの都市に来ないだろう。

 故にセレネがやる事はモモンがこの都市に来るまでに信頼を勝ち取る事だ。

 

 モモンガがこの都市で動きやすくする為の、その為のアダマンタイト────

 

 

(とりあえずナザリックに合流するまでは冒険者として励むとするか、モモンガさんには悪いが冒険者を存分に楽しませてもらおう)

 

 

────のはずだ。

 と、そこでようやく先程組合長のもとへ向かった受付嬢が戻ってきた。

 

 

「はぁ、はぁ……んん。はい、プレートは本物、竜王国の証文も紛れもなく本物でした。では、組合の登録の為、書類に必要事項を御記入ください」

 

 心得た。

 

 

 受付嬢が出した書類を受け取り、腰に下げたポーチから何やら高価そうな羽根ペンを取り出しインクに付けず書き始める。

 それに受付嬢は疑問符を浮かべたがすぐにその疑問は解消された。インクに付けていないのにその羽根ペンは次々と文字を記していくのだ。

 恐らくはそういうマジックアイテムなのだろう、流石はアダマンタイトと納得した受付嬢だが実際はそれだけではなくこの羽根ペンには文字を書く際に設定した言語を自動的に書くという機能を持ったユグドラシルではネタアイテムの一つである。

 

 

(まさか、これが役に立つとは思わなんだ)

 

 

 若干のコレクター癖があるセレネが処分せず残しておいたそれの意外な活躍にセレネは感心しつつ必要事項を書き終わらせ受付嬢へと書類を渡す。

 

 

「はい、ありがとうございます。名前は……セレネ様ですね。我々エ・ランテル冒険者組合は貴方様を歓迎します」

 

 はい、ではこれからどうぞよろしく。

 

 

 そんなふうに軽く兜の下で笑い、一瞬だけ掲示板へと顔を向けたがすぐに出入り口である扉の方を向きそのまま歩いていく。

 その姿を見た冒険者らはいままでアダマンタイトがいなかったこのエ・ランテルでは自分の実力に見合う依頼がまだない、と判断して今日は登録だけして帰るのか、と想像し……扉へ消えるその背を見送った後すぐにセレネについて興奮するように話し始めた。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 ふぅ……登録は終わったな。後はどこで寝泊まりするか……。

 

 

 

 冒険者組合を後にし、様々な道を進んで人気のない路地裏に辿り着いたセレネは壁に寄りかかりながらその頭を包む兜を外す。

 そうすることで外気に晒されるのは目付きが鋭く肌の白い灰色の髪の美男顔。驚くべきは兜の下に眼鏡をかけていたことだろうか、セレネは眼鏡の位置を直すように人差し指の関節で眼鏡のブリッジを押し上げ、兜を被り直そうとして動きを止めた。

 壁に寄りかかりながら、セレネはその鋭い視線を路地裏のより奥、周囲の建物のせいで光が入らず影が満ちる空間へと向ける。

 

 

 

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)……いや、違うな。蟲か?

 

 

 その空間より僅かに微かに感じた違和感にセレネが心中を吐露すれば、一際影が濃い部分が蠢きそこから現れたのはネームレスも見たことがある人間大の異形。

 忍者服のようなものを着た黒い蜘蛛のようなそれを見て、セレネは一つ頷く。

 

 

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)か……ナザリックの隠密でいいのだな?

 

「ハッ、モモンガ様の御命令を受け、ネームレス様の下に馳せ参じました」

 

 ふむ……つまるところ、モモンガさんは貴公を私の好きなように扱ってもいい、という事で送り付けたと認識していいのだな?

 

「はい、御身の手足として働く様に命ぜられました」

 

 

 なるほど。そう呟いたセレネは虚空────アイテムボックスを開きそこからとあるアイテムを取り出す。

 暗い青色の布にとある紋様が刺繍されたもの。それを八肢刀の暗殺蟲へと与える。

 

 

「こ、これは……!!」

 

 見間違える、という事はないだろうが……私の指揮下にいるという証だ。そうだな、腕に巻いておくといい

 

「は、ハハァッ!!」

 

 

 感涙し五体投地────常人と違い腕が四本多く、この場合は九体投地だが────する八肢刀の暗殺蟲にセレネは肩を竦め、次にスクロールを取り出し空中へ放る。

 

 

 《伝言(メッセージ)》────

 

 

 放られたスクロールは空中で焼け消え込められた魔法が発動する。

 

 

『《伝言(メッセージ)》……デミウルゴス』

 

『────!?ネ、ネームレス様っ!?』

 

 

 伝言が発動し、繋がったのはナザリックにて一二を争う知恵者。ナザリック第七階層が守護者デミウルゴス。

 

 

『謝辞やら何やらは不要。私からの指示を実行して欲しい』

 

『わ、わかりました……いったいどのような御命令でございましょうかネームレス様』

 

『影の悪魔を数体……そうだな、十体ほど私の指揮下に送って欲しい』

 

『影の悪魔を十体ですか?……わかりました、私如きでは窺いしれぬお考えがあるのですねネームレス様』

 

『うむ……さて、ナザリックだがこちらでの信用を確固たるものにしてから向かう。しばし待て』

 

『はい、わかりました。ネームレス様』

 

『では、切る────』

 

 

 デミウルゴスとの伝言を切り、セレネは兜を被り直し待機している八肢刀の暗殺蟲へと目を向ける。

 

 

 では、私は冒険者としての活動に従事する。貴公は……そうだな、この都市にて強者を探せ……あらかじめ言うがレベル30以上がこの世界では英雄クラスだ……それを考慮せよ

 

「御意」

 

 

 そう返事し、すぐにその場から姿を消した八肢刀の暗殺蟲を見送り、セレネもその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り変わり王都の某所にてそれは起きた。

 

 

「ぃぁ────」

 

「エドストレーム!!??」

 

 

 三日月刀(シミター)の六刀流という奇異な剣士である女、エドストレーム。王国を裏から支配していると言っても過言ではないとある組織に属している女はその身体を無様に輪切りにされて放り捨てられた。

 その同胞らが眼を剥く中、彼らの長はただただ冷静に下手人を見つめる。

 

 

「……ふん、何故わざわざこんなのを浮かばせるんだ。盾を浮かばせた方がよっぽどマシだろう」

 

 

 それは真鍮の鎧をまとった誰かだった。

 エドストレームが持つ三日月刀と似たような形状の武器を両手に持った戦士、声音からその戦士が男なのだと理解出来る。

 彼ら、『六腕』の長であるゼロは目の前の戦士が自分では到底敵わない存在だと本能で見抜いた。そして、同時にその気になればこちらが迎撃準備が完了する前に輪切りにされたエドストレームのようになると理解していた。

 

 

 ダメだ。勝てない。命乞いが通じるのか?

 

 

 そんなふうな思考を回しながら、ゼロは目の前の戦士を見て────────戦士はゼロを見た。

 

 

「なぁ、一人死んだな」

 

「俺の武器とコレのそれは似ているだろう?」

 

 

 何を言っているのか理解出来なかった。その言葉にいったいどんな意味があるのか分からなかった。

 

 

「一つ席が空いたな」

 

「俺には情報が必要だ。俺にはやる事があるのかもしれない。なら、差し当って必要なものがある」

 

「金だ。情報だ────なぁ、わかるだろう?」

 

 

 その言葉にゼロは今度こそ理解し、戦士へとその手を差し出した。

 全ては生きる為に。この目の前の人の形をした化け物から自らの命を守る為に。

 ゼロはその話に乗った。

 

 

「お前は……いったい…………」

 

「俺か?俺の名は────────」

 

 

 




不死人の癖にタコ殴りで死なないとかチートだろ。ユグドラシルスキル持ってるから仕方ないね。


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印象/対応

ま、まさかの週間六位……日間一位……お、恐ろしや……。
まさかそこまで人気が出るとは思いませんでした……そして、誤字脱字報告、ほんっとうにありがとうございます。

ところでオーンスタインってこんなに難しかったかなぁ……(連続十回死亡)


 

 

 

 

 新たな王国のアダマンタイト級冒険者、『白晶』のセレネ。

 唐突に竜王国より現れた異邦の冒険者はビーストマン五千を前に単身で殲滅、その偉業をもってアダマンタイト級冒険者となる事を許された。

 そんな彼はつい数日前にエ・ランテルの冒険者に登録してから多くの依頼をこなしてみせた。王国においては信用は未だないが竜王国の女王直筆直印の証文により組合はアダマンタイトとして充分の実力があると判断し、組合からの依頼を任せたのが始まりだった。

 

 オリハルコン級冒険者チームが苦戦するモンスターを瞬殺、アダマンタイト級冒険者ガガーランですら石化の魔眼を防ぐ為の魔眼殺しを装備し支援を受けてようやくなんとか勝てるレベルのギガント・バジリスクの瞬殺、などといった並の冒険者……いや、実力のある冒険者でも決して簡単ではないそれを軽々とただ一人で打ち倒して見せた。

 そして、恐らくこれこそが『白晶』のセレネの最も有名な逸話でありその二つ名が付けられたきっかけとも言うべき戦い。

 

 エ・ランテルより南東に進んだ所にある嘗ては砦だった廃墟に現れた巨大な火竜の討伐。

 チームを組まず単身で依頼をこなしているセレネに対して嫉妬心と僅かばかりの好奇心を抱いた愚かなミスリル級冒険者チームが補助を申し出ての依頼だった。

 冒険者組合としてはアダマンタイトから二段は劣るミスリル級冒険者チームを同行させるのは渋い顔をしたがセレネの鶴の一声により彼らは同行を許され、そしてセレネの偉業を伝えるための道具と化した。

 

 

「まず、廃墟に現れたっつう火竜だが……ありゃあ御伽噺の中の怪物としか言いようがなかった。バハルス帝国の元オリハルコン級のワーカーが倒したっつう緑竜以上の怪物だ……アレ一匹で人類が滅ぶって言われても信じちまうほどに、だ」

 

「やっぱりアレだよな。あの白い大剣……同じアダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇のラキュースが持ってるっていう魔剣に負けずとも劣らない英雄の剣……!」

 

「正しく聖剣……憧れちまうよ……あんなんよぉ」

 

 

 白い刀身の大剣に盾、そして結晶の様な輝きを放つ未知の魔法。

 それらを駆使したセレネは人類の危機とも言える火竜を討ち滅ぼしてみせた。

 

 

 もはや嫉妬することすら恥ずかしくなったミスリル級冒険者チームは自らセレネを讃えるべくエ・ランテルに意気揚々と帰還した。それはまるで英雄譚に心踊らせる童のようであった、とエ・ランテルの人々は笑った。

 

 

 

 

 

『────マッチポンプ、お疲れ様です。ネームレスさん』

 

『おつありです。信用を得るために利用できる者は利用するのが一番でしたからね』

 

 

 まあ、そんな偉業はセレネによるマッチポンプであるのだが、そんな事は身内以外誰も知らない。

 セレネはエ・ランテルで拠点にしているそれなりの宿屋、その部屋で兜を脱ぎ側頭部に指を当て伝言を使用している。無論、相手は友人のモモンガである。

 

 

『確かヘルカイトでしたっけ?あの火竜』

 

『ええ、課金ガチャの微妙枠で、第六位階相当の召喚魔法が付与された指輪で呼び出せるモンスターですけど、実際のカタログスペックだと第七位階相当な火竜ですよ』

 

『確かぶくぶく茶釜さんがレベル90台のドラゴンを当てちゃった時の課金ガチャに入ってた奴ですよね』

 

『ペロ助とのガチャ勝負で当てたもので、なかなか使う時がなかったんですけど意外な活躍しました……』

 

 

 そう笑ってセレネが思い出すのはギルメンの一人であるエロゲマニアにして爆撃の翼王な友人との勝負。

 結果的にいえば勝負に負けた為にそれを思い出して苦い顔をするが、それはこの場にいないモモンガには分からないことでモモンガは変わらず話していく。

 

 

『いいなぁ、早く俺も冒険者になりたいです』

 

『ふふ、モモンガさんが思ってるほどロマンある仕事じゃあないですよ。ところで影の悪魔に持たせた人化の指輪、どうでした?』

 

『あ、とても気に入ってますよ!いままで食べれなかったナザリックの美味しい料理を食べれましたし、ゆったりと寝れました。……ただ、アルベドの目が怖い』

 

『アルベドが?……あー、確か設定がちなみにビッチであるとかなんとかでしたね』

 

『そうなんですよ……タブラさん、ギャップ萌えだから……変えた方がいいかなぁ?って思ったんですけど、やっぱり人の書いたのを変えるってのは気が引けて……』

 

『なるほど……』

 

 

 モモンガさん、設定変えなかったんだな……と呟きつつ、アイテムボックスから取り出した剣の刀身を布で拭き始める。

 

 

『それでいつ頃ナザリックに……?』

 

『うぅむ……一応組合の方に暫く留守にするって伝えてからだから……明日ナザリックに行きます、滞在時間はだいたい三日間ぐらいですかねぇ……』

 

『信用というか社会的地位が結果足枷になってますね……』

 

『すまなんだ……こうなるとは……このネームレスの目をもってしても……』

 

『……と、とりあえず、迎え役として転移門が使えるシモベを送りますね』

 

『よろです。それじゃあ────』

 

 

 

 

 暫くモモンガとの談話を楽しみ、伝言を切ったセレネは立ち上がる。

 

 

 さて……ひとまず組合に行かねばな。

 

 

 そう言って部屋を後にする前に一度、足を止め……

 

 

 私が留守にしている間は、例の少年と死霊術師を監視しておけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ネームレス。

 異形種狩りが流行っていた際に現れたPKKを主体としてプレイしていた異形種プレイヤー。

 当時、たっち・みーさんに異形種狩りから助けられた俺がたっち・みーさんたちのように異形種狩りに反発するプレイヤーが他にもいるのか、と感嘆していたある日の事、たっち・みーさんがまるで犬か猫でも拾ってきたかのように件の異形種プレイヤー・ネームレスさんを連れて帰ってきたのだ。

 聞けば複数の高レベル異形種狩りプレイヤーにタコ殴りにされていたネームレスさんを見かけ、『正義降臨』として乱入し共に全員打ち倒したらしい。それでたっち・みーさんが若干無理矢理連れて帰ってきたわけで……流石のウルベルトさんも反応に困っていた。

 

 それでなんというか、流れ?でネームレスさんはアインズ・ウール・ゴウン入りし俺たちは仲間として活動する事となった。

 

 聞けばネームレスさんがユグドラシルを始めたのはこのゲームなら自分の中の理想が叶えられると思ったかららしく、様々な設定を見せてくれた。

 どれもこれもこう、心擽られる設定ばかりで一時期それを使った装備を作ろうと考えたが残念ながらネームレスさんが謝りながら止めてきたので、きっと恥ずかしくなったのだろう。

 

 そして、ギルドを作り、ギルドホームたるナザリックを手に入れ内装やNPC作成の際にネームレスさんは第六階層の一角と二人分のNPC作成権をもぎ取り『最初の火の炉』と二人のNPCを作った。

 うち一人はプレイアデスの末妹と同じく人間種NPCレティシアを作ったのだが、もう一人は教えてくれなかった。

 最初は結局作らなかったのか?と思ったが聞けばはぐらかされるばかりで作りはしたんだろうな、と考えつつ何時しか宝物殿にいる自分のNPCを思い出して聞くのを止めた。黒歴史を掘り返されるのは辛いよなぁ。

 

 さて、ユグドラシルが過疎化していく中、意外にもネームレスさんは最後まで残っていた……というよりはあの人の趣味である武器や防具といった装備作成に熱を上げていた。

 過疎化した事で素材集めも横槍が少なくなり、嘗てはかなり高かった素材などがそこそこの値段で売られていたり、上位プレイヤーであるネームレスさんにはソロプレイでも充分だったのだろう。まあ、その際の副産物としてかなりの量のナザリックの維持費を入れてってくれていたため文句は何一つない。

 それに何よりあの人は結構付き合いがいいのだ。基本的に趣味に走るがこちらが金策に誘うとこちらを優先してくれる。頭が上がらない……。

 

 

 だから、異世界に来てしまったかもしれないと知った時はとても焦った。まあ、すぐに精神が強制的に落ち着かせられたんだが…………ともかく、伝言を使ってみればあら不思議。

 異世界だろうがエンジョイしてるんだよなぁ……あの人。しかもいきなりレベル20台のビーストマン五千に蹂躙されそうな国を一つ救うとか何してんですか、アンタ。

 いやまあ、現地の色々な情報を沢山手に入れたのはとてもありがたいことなんですけどね……?

 

 にしても本当にネームレスさんがいてくれてよかった。

 まだ会えてはいないけれど、毎日毎日の情報交換はとても有意義でとても精神的にも助かっている。守護者たちの前では支配者ロールしないといけないからなぁ…………。

 後は、ネームレスさんが影の悪魔に持たせてくれた人化の指輪……あれのおかげでリアルじゃ絶対食べられないような美味しい料理を楽しめたし、この世界に来て初めてゆったりと寝る事が出来た。

 本当にネームレスさん様々としか言えないな…………早く、ネームレスさんと会いたいな……それで一緒に冒険を…………あぁ、眠くなってきたな。

 自室の扉の前にいるメイドに暫く寝る旨を伝え、部屋から退出させアルベドを通さないように暫く誰も部屋に入れないように指示を出して俺は豪華でデカいベッドに入り目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜王国に現れた謎の騎士、か」

 

「聞けばおよそ五千ものビーストマン相手に放った魔法は数百体のビーストマンを消し炭にし、逃げるビーストマン共へ身を投じながら一切の傷を負わずに殲滅したという」

 

「並の実力ではあるまい。英雄級……いや、恐らく番外席次とはいかずとも漆黒聖典の隊長クラスの実力はあるだろう……」

 

「流石にそれは高く見積もりすぎだろう……」

 

「いや、前回からもう百年近く経つ…………そういうことなのやもしれん」

 

 

 

 どこか、豪華な装飾の施されたまるで教会の聖堂かのような場所で六人もの老人らが話し合っていた。

 彼らは嘗てこの世界に現れたプレイヤーらによって創られた宗教国家、スレイン法国の最高神官。そして、そんな彼らがこうして集まり話し合っているのは数日前に突如として竜王国に現れ竜王国の王都を攻め滅ぼそうとしたビーストマンの軍勢をただ一人で殲滅した騎士について。

 曰く、名をアストラのセレネ。

 彼の騎士はビーストマン殲滅の報酬として、アダマンタイト冒険者としての地位と竜王国に縛られない、そして僅かばかりの金銭。

 身に纏う国宝級の武具すら霞む程の装備に身を包んだ騎士が求めるものとは到底思えないそれらを報酬とした、という不自然さが彼ら最高神官らにとある予想を作らせた。

 

 

「我ら人類を守護する御方なのやもしれぬ……」

 

「うむ……そうなれば接触を図らねばならないが……」

 

「聞けば王国へと向かったらしいが……」

 

「よりによって王国か…………」

 

 

 百年毎の『ぷれいやー』の降臨。

 彼らは竜王国に現れた騎士……ネームレスをプレイヤーであると考え接触する為の策を考え始めるが同時につい先日の陽光聖典の任務にて起きた事態を思い出す。

 

 

「王国と言えば、陽光聖典を監視していた土の巫女姫及び神官らの被害は甚大だ……破滅の竜王の復活と何か関係があるのやもしれん…………」

 

「……もしや、彼の騎士は破滅の竜王の復活に対する……?」

 

「……!!なるほど、可能性はありえる。となれば接触を悩む必要は皆無であろう……」

 

「ならば、漆黒聖典を動かし破滅の竜王の調査の際に一部を向かわせよう…………地理と冒険者として活動する事を考えればエ・ランテルへと向かった可能性が高い」

 

「人選は……?破滅の竜王の調査もあるのだ。一人でも抜けると厳しいものがあるぞ……?」

 

 

 ネームレスとの接触に破滅の竜王の調査、どちらも重要事項である為に会議が長引く中、一人の最高神官が呟いた言葉に他の五人は固まった。

 

 

「ならば、番外席次を向かわせよう」

 

「何を言っている……流石にそれは早計過ぎる」

 

「そもそも奴を送ったら防衛はどうするのだ」

 

「…… もし、仮に破滅の竜王が蘇り更には破滅の竜王に対して神の至宝が効かなかった場合、そのまま番外席次を戦わせる」

 

「だから、何故そうなる!?わざわざ番外席次を出す必要はないだろう!」

 

 

 声を荒らげる他の五人たちなど暖簾の腕押しと言わんばかりに一人の最高神官はかなり強い口調でつげる。

 

 

「もしも本当に彼の騎士が神であった場合、どうするのだ?神への謁見なのだ、下手に下位の者を向かわせれば侮られていると取られかねん。ならば、番外席次を送るべきだ」

 

「そ、それは……」

 

「だ、だがしかし……」

 

「むむ……上位の者となれば確かに限られる。カイレ様や漆黒聖典の隊長は破滅の竜王の調査からは決して外せん……それを考えれば他の者ではやはり……」

 

「か、かといって……番外席次一人でも不敬になりかねんぞ」

 

「なれば、クインティアの片割れはどうだ?」

 

 

 もはや、四対二にまで賛否が分かれた中、最初の一人の案に賛成した者らで次々と話が煮詰まり始める。

 そんな状況を見て反対していた二人も賛成に傾いていた。

 

 

「第五席次を?それは何故…………ッ、もしや」

 

「うむ、風花聖典の者によればあの裏切り者はエ・ランテルへと向かったそうだ」

 

「つまりは裏切り者、妹の処分をついでに任せると?」

 

「確かに……もしも彼の騎士が本当に人類の守護者であらせれば…………快楽殺人鬼を許されぬであろうな」

 

「……ふむ、第五席次ならば申し分あるまい」

 

 

「では、エ・ランテルへと向かわせ彼の騎士と接触するのは番外席次と第五席次、問題ないな?」

 

 

 

 

 そうして会議は締め括られ、次々と最高神官らは退出していく。

 この世界に本来存在しなかった筈のネームレス。彼がいることでこの世界はいったいどのように変わっていくのか。

 それはきっと、まだ誰も知らないだろう。

 

 

 




今回は序盤の頼れる武器(チーズ的に)飛竜の剣を落としてくれるヘルカイトを少しと月光の大剣装備したセレネ、そしてそんな彼の印象と対応のお話でした。
正直モモンガ視点と法国は少し悩みながら書きました。

……感想にセレネとモモンでプリ〇ュア的なのを言われてぶっちゃけビビりました。
ちなみに作者は漆黒聖典の中でクアイエッセと番外席次が好きです


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人間性/苛立ち

感想の方で主人公の台詞が地の文(一人称視点)と混ざる、と言われたので試験的に主人公の台詞に「」をつけました。どうでしょうか?

以蔵はまさかの限定、吐血しそう


 

 

 正直に言おう。

 私は原作を知っていたからナザリックのNPCらの反応やら態度やらをなんとなくは知っていた為にある程度心持ちはしていた。

 前世を見てもメイドとか護衛とか、そういう経験なんて一つたりともなかったがある程度対応は考えていた。考えていたんだけどなぁ……。

 

 

 冒険でやや汚れた鎧を着ていたら……

 

『ネームレス様、装備が汚れています……よろしければ拭かせて頂きますが……』

 

『え、いや、別に……』

 

『どうか、至高の御方の装備を拭かせて頂けますよう……』

 

『あ、はい。よろしく』

 

 

 マイルームでゆっくりしようかな?と思えば……

 

『どうぞ、ネームレス様』

 

『え、あ、うん』

 

『お待ちを。室内の安全確認を』

 

『え、あ、はい』

 

 

 マイルームに持ってきてくれた飲み物、それを飲もうと自分でコップに入れれば……

 

『ッ!?な、何か、粗相をしてしまいましたでしょうか!?』

 

『え?』

 

『申し訳ございません!どうか、どうか、御許しください!!??』

 

『えぇぇ……』

 

 

 うん、いや、想像していたものの何倍もヤバいよ。こう、あまりにアレでナザリック帰還の一日目で胃に穴が空きそうな程に緊張してます。まあ、ナザリックにいる間は人化の指輪を外してるから穴が空く胃は腐って……いや、ゾンビ系の種族だがメインがメインだから別に内臓腐ってるわけじゃないのか?

 一応ものは食べれるのだから。いや、そもそも今は着けてるから空くわ。

 で、とりあえず正面を見よう。

 

 

「いやぁ、ネームレスさんも俺と同じ緊張を味わってくれて嬉しいですよ」

 

「いい笑顔をするな、いい笑顔を」

 

 

 現在、私は予定通りナザリックに帰還し、感動した守護者たちから祝いの言葉を受け、専属メイドやら護衛やらの些か過保護な扱いを受け、胃に穴が空きそうな程緊張し、そして今こうして私のマイルームでモモンガさんと二人きりで食事をとっていた。

 やはり、人化の指輪を送っておいたのが良かったのかとても人間性溢れる良い表情で食事をしている。良い表情だがいい笑顔だ、殴りたいこの笑顔。

 

 

「それでどうです?リアルじゃ到底味わえない食事は」

 

「ほんと、感謝しかないです。いや、マジで、異世界に来て最高ですよ」

 

「モモンガさんを考えるとユグドラシルのサービス終了したら、ヘロヘロさんとは言わなくともかなり壊れますね……それを鑑みればやっぱり異世界転移は最高の偶然ですね」

 

「「まあ、その代わりプレッシャーがデカいですけどね」」

 

 

 台詞が被った私とモモンガさんは互いの顔を見て、思いっきり笑いあった。人化の指輪により種族特有のスキルは機能しない為、互いにアンデッド種の精神沈静化は発動せず途中で気分が平坦になる事は無い。

 人化の指輪が送られるまで、どんな感情も強制的に沈静化させられていたモモンガさんからすればそれは人間性を留める良いものとなる。

 私は彼を魔王になどさせない。

 私はモモンガさんをアインズ・ウール・ゴウンにはさせない。

 その為なら私は────

 

 

「ネームレスさん?」

 

「……え、あ、すいません。少し考え事をしてまして」

 

「考え事ですか?……あ、もしかして冒険者のですか?」

 

「まあ、そんなところですね」

 

 

 適当に誤魔化しつつ、モモンガさんの話を聞く。転移してからの事、カルネ村での出来事、ガゼフ・ストロノーフの事、陽光聖典の事、様々な出来事を聞き私はただ、ただ笑みを浮かべる。

 さながら、それは子供が親に学校でどんな事があったのかを楽しげに話すのを微笑ましく見ている親のような気持ちだ。

 

 

「それで、ネームレスさんはどんな事がありました?伝言でそれなりに教えてもらいましたけど、そこまで詳しくは教えてもらえませんでしたから」

 

「うーん、私としては冒険者になにやら憧れを向けてるモモンガさんのそれを失望させるような事は言いたくないんですがねぇ……まあ、いいですよ」

 

 

 まあ、モモンガさんが冒険者になった時のことを考えて話すのが一番か……。

 

 

「そうですね……まず、冒険者としての最初の仕事はですね────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なるほど、つまり冒険者は俺が思ってるような冒険をするものではなく、モンスターに対する傭兵または何でも屋みたいなものなんですね……」

 

「残念ながら」

 

 

 私の話にあからさまに残念がっている態度を出すモモンガさんに私は苦笑をしつつ、件の陽光聖典の話にシフトする。

 

 

「さて、モモンガさん。件の法国の特殊部隊ですが」

 

「あぁ、彼らですか。とりあえず法国とあまり敵対しない事を考えると捕虜の扱いも慎重にしないといけないので第六階層の一角にマーレのスキルで牢を作らせてその中に」

 

 

 天使を呼んでも弱くて牢は破れないんで大丈夫ですよ。そう、笑うモモンガさんに私は頷きつつ、陽光聖典をどうするかを考える。

 未だ、法国と縁はない。そんな状態で陽光聖典を法国に送り返しては少しまずいだろう……となれば、どう法国と繋がりを持つか……。

 

 

「一先ずは法国と何らかの繋がりを持つまではいまのままの扱いでいいでしょう」

 

「法国と繋がりですか……となるとあまり、守護者たちやそれ以外のシモベに人間を襲わせないように言わなきゃならないですね」

 

「うーん、その辺は野盗やらカルト集団とかの社会的に駆除されるべき悪人に対してのみ許可すればいいのでは?それと、ナザリックの不利益になる〜とか言っておけばあまりやらなくなるんじゃないですか?」

 

「なるほど……後は極力そういった悪人以外に対しては退却する事を命令すれば大丈夫ですかね?」

 

「多分、そうすれば、いいんじゃないですか?」

 

 

 まあ、そんな漠然とした対策しか出来ないんだよなぁ。彼らが何かやらかす前に私が接触出来ればいいんだが…………いや、待てよ?

 そうだよ。確か陽光聖典と相対した時に対情報魔法に対する攻勢防御発動したんだよな……となれば、土の巫女姫は死んでしまったわけで……原作通りなら漆黒聖典が破滅の竜王の調査に来るわけだから……シャルティアに先んじて接触がもしかしたら出来るのでは?

 そうすれば、シャルティアが操られるという展開が無くなるわけで…………よし、そうしよう。

 

 

「と、そうだ。モモンガさん」

 

「なんですか?ネームレスさん」

 

「冒険者やるって言ってましたけど、お一人ですか?私は状況が状況だったから一人ですけど…………」

 

 

 護衛役は沢山潜んでいるけどね。

 原作ではプレアデスのナーベラルが護衛役として相方を務めていたが……。

 

 

「ええ、実はアルベドにせめて護衛役を、と言われまして……」

 

「なるほど……しかし、護衛役をナザリックからですか。全体的にカルマ値は悪ですからねぇ……揉め事が起きそうで、何とも言えないですよ」

 

「善よりのユリやセバスがいいかなぁ、と思ったんですが……セバスは王国に商人チームとして行きますし……ユリはデュラハンなのでなにかのひょうしに首が外れたら……アウトなんで……」

 

「ううむ…………宝物殿」

 

「ゴフッ」

 

 

 あ、吐血した。……ぇ。

 まさか、いまの一言が胃に穴でも空けたのか?やばいな、黒歴史。

 ……え?黒歴史?わっかんないなぁ…………あぁでも会わなきゃならないか……レティシアはともかく彼女はなぁ。

 レティシアはフレーバーテキスト的にも、性格的にも問題は無いが彼女は…………仕方ない、会わねば始まらん。

 

 

「アクターなんだから、命令さえすればボロも出さないでしょう」

 

「た、多分、そうなんでしょうけども……」

 

「モモンガさん。今回会わなかったら次、顔出すのはいったい何時になるんです?絶対先延ばしにするでしょ、あなた」

 

「うぐ……」

 

 

 実際、原作でもシャルティアのアレがなければ顔を出しにいかずに何やかんやで先延ばしにするであろう、というのはなんとなく分かる。

 まあ、黒歴史を見たくないのはわかる……その黒歴史が動いてるならなおさらだ。

 

 

「まあ、いずれ会わなきゃならないんですから。会いに行きましょ?」

 

「で、でもですね……」

 

「でもも何もねぇよ、行け骸骨」

 

「焼死体」

 

 

 互いに微笑みながら互いの頬を掴み、私はモモンガさんにヘタレと呟く。それが突き刺さるのか呻くモモンガさん、掴んでいた頬をはなし席を立つ。

 

 

「……片付けですか?」

 

「ええ、互いに人間性を保つ為にはきちんとした生活をせねばならないですし。多少の徹夜はしょうがないとして」

 

「う……善処します」

 

 

 食べ終わった皿をこの……あの、……そのなんだアレだ。食事とかを乗っけて運ぶ手押し車?に重ねていく。……そうだ、ワゴンだ。……ワゴンであってるのか?前世でもあまり口に出したり紙に書いたりしないような名前だから分からん。

 そんな私を見て、モモンガさんも立ち上がり自分が使ったグラスやらをワゴンに乗せようとしたが私はそれを止める。

 

 

「モモンガさん、下手にやるとアレなんでどうぞそのまま宝物殿に」

 

「え、まさかの確定事項」

 

「ハリーハリーハリー!」

 

「えぇぇ…………」

 

 

 渋々といった顔で私の部屋を後にするモモンガさんを見て、私は軽く肩を竦めてワゴンに汚くならないように皿やグラスを置いていく。

 メイドに任せれば良い話だがあまり誰かにこういったことを任せるのは得意でないため、一人でやる。

 まあ、また失望されたと勘違いしてしまうメイドが出るかもしれないがこれは性分、なかなか変えれるものではない。ノックされた扉の方へ入室の許可を出し私は席に再びつく。

 

 

「失礼します、ネームレス様」

 

「ああ。それじゃあ下げてくれ」

 

「承知致しました」

 

 

 ワゴンを引き、そのまま部屋を出ていくメイドを無視して私は寝室へと入っていく。

 

 

「はてさて、彼女に会わねば話は進まない。気が引けるが…………うぅむ」

 

 

 これがただのNPCだったなら特に何も言わない。彼女もまたレティシアや私のようにダークソウル的なフレーバーテキストが盛り込まれている。そして、苦手意識がある……いや、苦手意識というよりも罪悪感というか申し訳なさというかついでに言えばレティシアと違い彼女は私が殺したわけで…………。

 

 

「ついでに言えば、ぶっちゃけユグドラシル時代からあんまり会ってなかったから彼女を創ったのを忘れていた……というなんとも最低な理由がある…………からなぁ」

 

 

 どうしよう…………モモンガさんにああ言った手前、私が彼女に会わないというのは……うぅむ。

 仕方ない……ナザリックを出る前に会いに行くか……。はぁ、不安だ。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

「ふん、何が不死王だ。そこらの亡者よりちと頭が回って魔術が使えるだけじゃないか」

 

「ぎぃぃ…………」

 

 

 王都・八本指が一部門、警備部門の根城として使われているとある家屋にて真鍮の鎧を纏った騎士が何か人間大のものに腰掛けていた。

 よく見れば小刻みに動き、呻いているそれは人間……いや、アンデッド……俗に言う死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の一体でアンデッドでありながら人間の組織である八本指のメンバーに名を連ねている『不死王』の異名を持つ者だった。

 そんな彼に腰掛けているのはつい最近、警備部門の中でも屈指の実力を誇る六人の猛者『六腕』の内の一人を瞬殺し空いた席に座った男。

 

 

 カリムのロートレク。

 

 親しき者は嘗てロートレクと呼び、共に笑いあった異界の騎士である。

 そんな彼はショーテルをその手で弄びながらその足を『不死王』デイバーノックの片手の甲に置き、踏み躙る。

 

 

「この世界の奴らもどいつもこいつも弱い奴らばかり……にも関わらずさも自分が強いとばかりに振る舞う…………子供か何かなのか?ん?」

 

 

 ロートレクの言葉にあるのは苛立ちだ。

 理由は定かではないが嘗てとある男……友人と呼べる────ロートレクは恥ずかしいのか頑なに呼ばなかったが────騎士に殺され、ソウルが尽きて亡者として彷徨う事もなく意識が消失した筈なのだ。

 だが、気がつけばこの見知らぬ世界にて目覚めていた。聞けば嘗ての様な不死人はいないが亡者もどきのアンデッドやモンスターがいる、それはそれで面白いと意気込んでみれば、

 

 

「この始末」

 

 

 どれもこれも弱いのだ。

 無論、磨けばアノール・ロンドの番兵共を倒せるようになるだろう人間もいた。

 だがしかし、大半が目に余るほどに素質が無く、そして諦観しているのだ。決して上を目指そうという者がいないというわけではないが目指している場所がロートレクからすれば低いのだ。

 故にロートレクからは彼らは諦観しているようにしか見えない。

 

 

「雑魚がいきがるな、雑魚は雑魚らしく部屋の隅で震えてろ」

 

「ふざけ……るナ……」

 

「どうした?何か言い返したいなら言ってみたらどうだ」

 

 

 せせら笑うロートレクにデイバーノックは歯がゆい思いをし、どうにか動こうとして────

 

 

「もう、我慢、ならん……死ねッ」

 

 

 空気を切り裂きながらロートレクに不可視の刃が放たれた。

 振るったのは黒い全身鎧を身にまとった戦士。彼もまた六腕の一人で『空間斬』の異名を持つ男、名を────

 

 

「ぎぃああ!?」

 

「な……!」

 

 

 しかし、憐れな事に男が放った一撃はものの見事にデイバーノックを切り裂き、ロートレクは既にそこにはいなかった。

 仲間を切り裂いた事に男は動揺した為か、消えたロートレクを探すのに一瞬のラグが挟まり、そして

 

 

「まったく、憐れでしょうがない」

 

「こふっ」

 

 

 男の鎧を貫通して腹から生え出たショーテルの刀身、兜から吹き出る血液、急速に熱が失われていく手足、背後から聞こえる声。

 

 

「ま、雑魚が一匹二匹消えた所で何も変わりはしないか」

 

 

 鎧ごと肉を引き裂きショーテルを抜いたロートレクはそのまま仲間に切られ動けないデイバーノックの頭を踏みつけ、部屋を出ていった。

 後に残るのは血濡れの部屋と遺体だけであった。

 

 

 




感想で言われてしましたが主人公のヒロインはかぼたん以外はろくすっぽ考えてないです。増えるかもしれんし増えないかもしれない……


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出立

今回は少し短いです。
というのも本来もう少し長いはずが途中で「あ、これだいぶ長くなる……途中で切らなきゃ次投稿すんの遅くなるわ」となり申して。途中で切って投稿しました。



 

 

 

 

 

 こう言っては悪いがやはり、ナザリックにいるよりもこうして外にいる方がとても楽だ。

 そんな事を考えながらネームレスことセレネは竜王国より貰った駿馬フロム────ネームセンス皆無のモモンガによりダークホースと名付けられそうになったがリバーブローによって何とか回避した────に跨り冒険者としての拠点であるエ・ランテルへと向かっていた。

 本来ならば三日ほどナザリックに滞在している予定だったのだが、新たなアダマンタイト冒険者という肩書きのためにそこまでエ・ランテルを離れる事が出来ずナザリックには一日と半分しか居られなかったのだ。

 そういった事なら仕方ない、とモモンガ共々納得したセレネはこうして渋々ナザリックを出たのだが…………

 

 

 いや、まったく。緊張しないですむのは助かるな。

 

 

 なお、兜の下の顔はわりかし笑顔である。

 そう呟いて思い浮かべるのはナザリックでの出来事。ほぼ間違いなくプレッシャーと期待と緊張で胃に致命的な穴が空くであろう玉座の間での守護者謁見である。

 

 

 

 

 

 遡る事数時間前…………

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓・第十階層玉座の間には様々な人物が集まっていた。

 長い銀色の髪を片方にまとめ、肌は白蝋じみた白さ、瞳は真紅という人間離れした容姿に漆黒のボールガウンドレスを身にまとった可憐な少女(シャルティア)

 カマキリとアリを融合させたかのような直立歩行したライトブルーの体色を持つ常人以上の巨躯の蟲、四本の腕と口に該当する場所には虫特有の下顎を持つ異形(コキュートス)

 金髪を肩口で切りそろえ緑と青のオッドアイに浅黒い肌、ベストと長ズボンを着たボーイッシュな少女(アウラ)、そしてそんな少女に良く似たおかっぱ頭とベストにスカートを履いた少年(マーレ)

 黒髪のオールバック、肌はやや日焼けしたような色で丸メガネをかけストライプ入りの赤い三つ揃えのスーツを着用したビジネスマンか弁護士を思わせる青年(デミウルゴス)……しかし、腰部からは銀のプレートで包まれたような尾が生えていた。

 純白のドレスを纏った女神の如き容姿を持つ黒翼を生やした美女(アルベド)

 

 そんな人ならざるものらが跪き、そんな彼らを見下ろすように数段高い位置に佇むのは二柱の魔人。

 片や玉座に座す、漆黒の魔王然としたローブに身を包み胸元からは紅い宝玉が覗く死の支配者(オーバーロード)

 片や玉座の傍らに立つ、焼け爛れ歪んでいてもなお圧倒的な威を放つ騎士鎧、後頭部に異形の王冠が形作られた兜を纏う死を亡くした者(アンデッド)

 

 彼らこそがナザリック地下大墳墓における至高の四十二人が二人。

 

 

「各々が忙しい中、よくぞ集まってくれたお前達…………さて、此度呼んだのは他でもない。我が友であるネームレスさんが帰還した事を伝える為だ……無論、既に知っていた者もいるようだが」

 

 すまないな、貴公ら。ナザリックがこの世界に転移した際に私はナザリックより離れた土地にて一人佇んでいた…………ナザリックが転移してはや数日、帰還が遅いと言われても仕方がないな。

 

「ふ、友よ。そのような事を言うものはこのナザリックにはおらんよ」

 

 そうか……それはよかった。さて、貴公ら……すまないが伝える事がある……私とモモンガさんが共に話し合い……このナザリックの新たな方針を決定した。困惑するだろうがどうか聞いてほしい。

 

 力で世界を支配するのは容易かろう。智謀を奮って支配するのも容易いやもしれない。しかし、私もモモンガさんもそれは良しとはしない…………我らが望むのは世界を支配するのではなく異形も人間も亜人も共に過ごせる国…………甘い夢想事ではあろう……しかし、我らはそんな夢幻を追いかけ掴む『プレイヤー』故に…………どうか貴公らの力を貸してほしい。

 

 

 そんな演説に跪く彼らはただ、ただ御意と一言高らかに叫び自分たちの支配者にしてその全てを捧げるべきいと尊き至高の御方の理想に応えるべくその忠誠をより強く誓った。

 そんな彼らに満足したのか二柱とも、軽く頷き解散の旨を伝えその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 流石に玉座の間でのあれこれは疲れたな。あの時は人化の指輪を外していたからよかった……。

 

 

 あ、でもその時のが今更に……うっ……。そう、呟きながら腹に手を当てる主を慰めるように嘶くフロム。

 そんなフロムの背を撫でながらセレネは守護者らに告げた言葉が例え無理難題のそれだとしても間違いなく守護者らはそれを成そうと奮闘するのだろうと考えていた。

 セレネとモモンガからすればその夢想事は別に重要ではない、二人が望んだのはモモンガが呟いた言葉からデミウルゴスがそのまま受け取りその後曲解してナザリック内に浸透した『世界征服』という野望を止めること。

 異形種と人間、亜人が共に暮らせる国に関しては魔導国があったからいけるだろうという考えがあってこそ、なければなかったでまた別の考えを探したが…………

 

 

 世界征服なんぞしたら、それこそモモンガさんが魔王化する…………いや、それより先にこっちが人間性を失いそうだな。

 

 

 兜の下で苦笑いをしながらセレネは次に第六階層での、最初の火の炉での出来事を思い浮かべる。

 本来ならば真っ先に会いに行かねばならない女性のもとにあろう事かセレネは一番最後、ナザリック出立の前に寄ったのだ。

 如何にNPCとはいえ、彼女……レティシアはそのフレーバーテキストによりダークソウル3の記憶が存在しており、レティシアにとってセレネとはNPCにとっての創造主や至高の御方とはまた違う大切な存在なのだ。

 彼女自身がどれほど時間がかかっても帰ってきてくれさえすればいいと思っていても一人の女性としてレティシアはそんな自分の気を知らないセレネに対して、NPCとしては酷い対応をもって訴えた。

 

 

 

 久しいなレティシa────スパァンッ

 

『ええ、本当にお久し振りです、灰の方。ですが顔を出すのが些か遅いのでは?聞けば灰の方はナザリックを出立すると聞きました……そして、今がその直前だと…………遅すぎはしませんか?』

 

 え、あ……その。

 

『嘗ては真っ先に私のもとに来てくださいましたのに…………いいですか?如何に火防女と言えども私もまた一人の乙女……恋い慕う殿方に後回しにされるというのはとても辛い……です』

 

 ……そうか、それはすまなかった。レティシア、私の配慮が足りなかったらしい……次からは真っ先に貴公のもとへ行こう。

 

『はい……ありがとうございます、灰の方…………ですが、それはそれとして貴方には言いたいことがいくつか』

 

 あ、はい。

 

 

 

 

 

 

 そんなレティシアに次会えば間違いなく自主的に正座しかねない出来事にブルリと身を震わせる。兜の下では出会い頭に張られた頬がひくつき、その記憶に蓋をする。

 

 

 と、とりあえずエ・ランテルに戻って依頼をこなそう……信用を高めればモモンガさんが冒険者業をする際に口利き出来るかもしれないし……。

 

 

 乾いた声でそう呟く彼の背は到底ナザリックの支配者の一人でもアダマンタイト級冒険者でも薪の王でもなく一人の苦労性にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、まだつかないの?」

 

「……これでもかなり急いでいるんですが、まあ鷲馬(ヒポグリフ)ですので遅くても後一日かかりませんよ」

 

 

 王国及び法国国境付近上空にて一頭の鷲馬(ヒポグリフ)がやや急ぎながら飛行している。それだけならば珍しいで終わるがその背には二つほど人影がありなにやら話していた。

 一人は鷲馬の手綱を握っている白と茶色のコートに腕輪の様な装飾を付けている金髪の青年、もう一人は青年の後ろでやや危なげに腰掛けている髪が真ん中で白と黒に分かれ更には瞳も髪とは逆だが白黒とオッドアイになっている十代前半程の見た目の少女。

 少女からは退屈そうな雰囲気が醸し出され、そんな雰囲気を背中に感じる青年はやや頬が引きつっている。

 

 

「そう……」

 

「…………はぁ」

 

 

 青年の言葉に興味を無くしたように辺りの景色を見ている少女に聴こえないように青年はため息をつく。

 実際、少女の質問した回数はこれで両の手の指では数えるのに足りなくなった。そう何度も聞かれれば流石に辟易するというものだが、青年はそれについて文句は言えない……それは少女が青年よりも実年齢としては歳上且つ実力が上だからだろうか。

 そもそも何故自分がこんな事を……と思う青年。今回のこれは青年と少女が所属する法国のまとめ役ともいえる最高神官らから下されたぷれいやーまたは神人の可能性がある、アダマンタイト級冒険者との会合。

 青年としてはもしかすれば神に出会えるやもしれないと乗り気ではあったが、この同行者がいただけなかった。これで神ではなく神人だったら青年にとって疲労しか残らないだろう。

 

 そんな青年の気心など知ったものか、と少女は法国より持ってきたルビクキューと呼ばれる玩具を弄りながらただ、ただ辺りの景色を見ている。

 それを見ることは出来ないが、できればそのまま到着まで黙っていてくれ……と思う青年だがそんな思いは儚く散ってしまった。少女が何ともなしに口をまた開いたのだ。

 

 

「ねぇ、そのエ・ランテルの騎士は私より強いと思う?」

 

「え?…………神人だったら貴女ほどじゃあないと思いますよ?ただ、もしも本当に神なら……その時は貴女よりも強いかもしれません」

 

「ふーん、なら私より強い事でも祈っておくわ」

 

 

 そんな少女らしからぬ言葉にふと気になった青年は、その疑問をそのまま少女にぶつけてみる。

 

 

「つ、強さですか?……いえ、確かに人類の守護者になってもらいたい以上、強者であるのはこちらとしても都合がいいですが……」

 

「私はね、敗北を知りたいの」

 

 

 敗北を知りたい。青年の疑問に返された答えはそれだった。

 それは生まれついての強者故の傲慢な望み。敗北というものを知らないから出てくるもの。

 彼女は敗北の辛さを知らない、敗北の恐怖を知らない、敗北の痛みを知らない、敗北の惨めさを知らない、何より彼女は敗北の清々しさを知らないのだ。

 だがまあ、そんな彼女の言葉に青年は引きつった表情をするがしかし前を向いてる青年のそれを少女が見れるわけではない為、それに気付かず話を続ける。

 

 

「私ね、私より強い男の子供を産みたいの。私より強いなら美しくても醜くても、外道畜生でも清廉潔白でも、高潔でも下卑ていても、頭が良くても悪くても、何なら人間じゃなくても……うん、亜人でもたとえ異形種でもいいわ。私は私より強い男の子供を孕みたいのよ」

 

「だって、私と私より強い男の間に産まれた子供ならきっと凄く強いわ。もしかしたら竜王よりも強い子供が産まれるかもしれないじゃない?」

 

「………………」

 

 

 青年の心の中で、聞かなければよかった、ただその言葉だけが満ちていた。

 彼女は神人、しかも最強の人間なのだ、そんな彼女より強い者との間に産まれる子供は確かに強いだろう。そして、未来の人類の守護者として君臨するのだろう…………しかし、強ければ器量や性格、種族はなんでもいいというのは流石に問題だ。

 もしかすれば人類にとってとんでもない怪物が産まれる危険性もあるのだから。

 青年、クアイエッセは疑問をぶつけた数秒前の自分と彼女に同行する様に命じた隊長と最高神官らを軽く呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、法国の裏切り者でクアイエッセの妹の抹殺命令もあるのだがそんなものは最初から些事でしかなく、少女からとんでもない望みを聞いてしまった今のクアイエッセからすれば割とどうでもよかったりする。

 

 

 

 

 

 

 




強かなかぼたんことレティシア。
沖田オルタは以蔵3になりました。つらたん


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熔鉄/依頼

Twitterや活動報告で言ってましたが一週間ほど諸事情で投稿出来ずすいませんでした。問題はなくこれからもきちんと投稿したいと思います。

にしてもオーバーロード三期のキービジュアル……子山羊召喚しちゃうのかァ……


 

 

 

 

 

「はぁ…………」

 

 ナザリック地下大墳墓が支配者、モモンガの心は何とも言えない複雑怪奇な曇り空であった。

 ナザリックの外へ出て、冒険者としての先駆者であるネームレスのように冒険者をやりながら情報集め、もとい息抜きを目論んでいたモモンガはアルベドやデミウルゴスらを何とか説得し────デミウルゴスに関してはネームレスが説得したようだ────こうしてナザリックの外で冒険者稼業をする事が出来るわけなのだが…………そんな希望が通って嬉しいモモンガの心を悩ますものはなんなのか、それは目の前の人物だろう。

 

 

「どうしたモモン」

 

「ん、あ、……うん、何でもない」

 

 

 それは全身鎧の何某である。

 灰色の熔鉄が如き重厚な鎧を軽々と身にまとい、その頭を収めた兜はまるで竜の顔の様で鼻頭に当たる部分の両側面からはまるで牙か角か、はたまた東洋の龍の髭のように鋭利な刃じみたものが伸び後頭部には赤くたなびく兜飾りが伸びている。

 そんな並大抵の人間では装備出来ぬ重厚な鎧をまとう重戦士らしくその背に背負っているのは恐らく得物であろう鋭利な片刃の大斧と大盾である。

 モモンガと共にいるということはナザリックのNPCなのだが彼の様な姿のNPCはナザリックには存在しない……では、果たして何者か?

 その答えはモモンガの創造したNPC。宝物殿というナザリックの他施設とは違う空間に存在する領域の守護を任されたが故に一部の至高の御方以外名前しか知らぬNPCである。

 しかしモモンガのNPC……パンドラズ・アクターとはこのような姿では決してない。リアルにおいて欧州アーコロジーで勃発したという事件の際にとある軍が着ていたらしい黄色の軍服をまとうゆで卵に埴輪の様な顔をしたドッペルゲンガー。

 そんな彼が何故こんな姿をしているのか、それはモモンガが彼に与えた能力にある。彼、パンドラズ・アクターはモモンガを含む至高の四十二人全てを本来の八割程度の実力でだが再現する事が出来た。そんな彼をモモンガのお供に推薦したネームレスが自分の姿をとらせつつ、るし☆ふぁーやタブラ・スマラグディナにウルベルト・アレイン・オードルと共に隠れて作成したドレスルームに保管していた型落ちの装備を引っ張り出して装備させた結果がこれだ。

 ネームレス曰く、『熔鉄の竜狩り』シリーズ……その聖遺物級に型落ちした装備。型落ちしているとはいえ、性能は高く雷系のダメージを五割カットするなどといった性能がある。

 

 

「……それにしてもネームレスさんはほんと色々作ったなぁ」

 

「ネームレス様はモモンガ様のアイテムフェチのように装備フェチのきらいがありますからねぇ……んんッ失礼」

 

 

 冒険者となるべくエ・ランテルを目指す二人組の旅人、凄腕の魔法詠唱者モモンとその相棒である重戦士アクトという設定でナザリックの外へと出たモモンガ。

 モモンガは当初、ネームレスのように支配者ではなくただのモモンガとして冒険をし息抜きをしようとしていたがNPCたちの嘆願により一人では出れず結果、こうして自分のNPCであるパンドラズ・アクターと共に冒険者として活動することに決まった。

 モモンガとしては自分の黒歴史とも言えるパンドラズ・アクターが目の前で動いているのがかなり精神に来ており、ネームレスにパンドラズ・アクターと会わせた際には恥ずかしさのあまり宝物殿で超位魔法を暴発させようとしたほど。

 さて、そういった事だけがモモンガの心を複雑怪奇な曇天にしているわけではない。口を開けば芝居がかったウザい言葉、動けばいちいち大袈裟なウザい動きしか出てこないあのモモンガ印の黒歴史がネームレスから何か耳打ちされ装備を身にまとった途端、先程までのそれがなりを潜めてまるで長年の相棒の様に振る舞い始めたのだ。

 

 

「……(いや、ほんと、ネームレスさんいったい何を言ったんだ?)」

 

 

 ネームレスがエ・ランテルへ向かう前にそれとなくネームレスに聞いても適当にはぐらかされた。ただ、少なくともモモンガ自身に何も悪い事はないと保証されている為、モモンガは釈然としないが深くは聞かないようにしているがやはり気になるものは気になるのだろう。

 そんな心境がモモンガの心を複雑怪奇にしていた。

 

 

「(旅をする以上、主従関係では少し怪しまれる……ならば長年の相棒として振舞え、アクターならその程度軽々と出来るだろう?────ふふ、流石ですねネームレス様。普段ナザリックの支配者として緊張しているモモンガ様の御心を配慮し気を楽にさせるための演技……このパンドラズ・アクター感服致しましたァッ!!)」

 

 

 なお、パンドラズ・アクターの内心ではウザい口調は健在である。

 さて、そんな二人は現在先にエ・ランテルへと着いたネームレスに一日遅れでエ・ランテル入りを果たし、冒険者として登録すべく組合へ向けて歩いていた。

 ネームレスの命令でエ・ランテルの詳細な調査を行った八肢刀の暗殺蟲から街に入る前に調査の際に作成した地図を確認したパンドラズ・アクターを案内にしている為、そうそう迷うことはなく寄り道せずに二人は組合へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 時同じくして冒険者組合。

 その二階にある応接室にてアダマンタイト級冒険者セレネは冒険者組合の組合長プルトン・アインザックと対面していた。

 

 

「すまなかった。休暇をあまり与えられず」

 

 いえ、アダマンタイト級冒険者である以上理解はしています……それで私を呼んだ理由は?

 

 

 話はまずアインザックの謝罪から始まった。それは度重なる依頼を終えたセレネが羽を伸ばすために申請した一週間程の休暇をアダマンタイト級冒険者という冒険者組合としても都市としても重要な立場である為に二日程しか許可しなかったこと。

 本来、希少なアダマンタイト級冒険者はその重要性などからかなりのわがままを組合に通す事が出来るのだがあまり主張せず二日という妥協でもないそれを受け入れたセレネにアインザックは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。

 しかしいつまでもそれを引っ張るわけにもいかず、アインザックはセレネの催促に先程までの申し訳なさそうな雰囲気を組合長としての威厳あるものへ変える。

 

 

「ああ、君を呼んだのはアダマンタイト級冒険者への依頼だ」

 

 ふむ……

 

「このエ・ランテル近郊にとある盗賊団が現れてね……調査のもと銀級や金級の冒険者に盗賊団討伐の依頼を出したんだが」

 

 失敗した、と。

 

 

 セレネの言葉にアインザックは頷き、机の下から羊皮紙を取り出しセレネへと手渡す。

 それを受け取ったセレネは書面の記載事項に目を通す。

 そこに記載されているのは命からがら逃げ延びた銀級冒険者の報告。

 

 

 ……規模はそこそこですが、罠と用心棒ですか。

 

「ああ、逃げ延びた冒険者曰くその用心棒はブレイン・アングラウスだったらしい」

 

 

 本当かどうかは定かではないがね。そう付け足すアインザックにセレネは兜の下で眉を顰める。それは流れから自分がこの盗賊団及び用心棒の対処をするということが分かっているから。

 

 

 それで、私ですか

 

「……そうなる。もし本当にその用心棒がブレイン・アングラウスだった場合……ミスリル級では厳しい依頼になる、それを考えるとアダマンタイト級の君に任せたい」

 

 ……了解した。では、詳細事項を頼む

 

「ああ、少し待っていてくれ。地図を取ってくる」

 

 

 そう言って応接室を退出するアインザック、それを見送りセレネは少し気を抜く。

 

 

 ……盗賊団か。

 

 

 となればシャルティアの洗脳は起きずにすむかな?そう心の中で呟き、念の為に漆黒聖典に対する行動を考え始める。

 セレネ自身は世界級(ワールド)を保有している為、漆黒聖典と共にいるであろう老婆(カイレ)の世界級による支配を防げるだろう、しかし警戒すべきは漆黒聖典の隊長……第一席次。

 身に纏う装備に対して些か貧相な槍、どのような形状であったかは既にセレネは思い出せない……しかし、そんな明らかに不自然な槍についての議論は覚えていた。

 

 

 ロンギヌス……アレには本当に切っても切り離せない縁があるな

 

 

 使用すれば使用者のデータが消し飛ぶというハイリスクがあるものの対象のデータを消し飛ばすというハイリターンが存在する消費タイプの世界級。二十の内の一であるそれはネームレスにとって決して浅からぬ縁があった。

 彼の前任者が様々な経緯があったものの最終的にそれで消されたのだから。

 

 

 自業自得相応の末路……少なくとも世界級があるし運営はいないからそういう事にはならないだろうが…………警戒しなくてはなぁ

 

 

 異世界且つ自分という存在によるバタフライ・エフェクトをより一層警戒し呟いて気持ちを切り替える。

 それの数秒後、応接室の扉が再び開き何枚かの大きめの羊皮紙を持ったアインザックが入ってきた。

 

 

「すまない、待たせた」

 

 いえ、気にせず

 

「そうか、それはありがたい。……さて、件の盗賊団の根城だが……」

 

 

 机上に広げられたエ・ランテル近郊の地図と、斥候などの冒険者が集めた情報から判明した盗賊団の根城の位置などの説明をアインザックは始めていき、セレネもまた懐からメモを取り出し情報を書き込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 ようやく終わったか…………

 

 

 応接室に入ってから果たしてどのくらい経っただろうか。如何にリング・オブ・サステナンスを付けているとしても精神的に疲れはするのか、応接室から出てきたセレネは右手を左肩に当てながら首を動かしている。

 そんなセレネの姿を目にした何人かの冒険者は苦笑し、その中の何人かがセレネへと近づいていく。

 

 

「よぉ、なかなか長かったじゃねえか」

 

 イグヴァルジか……そりゃあ色々情報とかの確認作業があったからな

 

 

 話しかけてきたのはセレネの偉業の一つ竜退治の際に同行したミスリル級冒険者チームクラルグラのリーダーを務めるイグヴァルジという男。当初はセレネに色々と難癖を付けていた男だが竜退治以来、以前の態度は形を潜めこうしてセレネに気安くなっていた。

 下手に上下関係を表に押し出した振る舞いをされるのは嫌なセレネとしては、気安い同僚の様なイグヴァルジを歓迎していた。

 

 

「ってえと、アレか。ブレイン・アングラウスが用心棒してるとかいう盗賊団か」

 

 そうなるな。かの戦士長と互角の男が用心棒の可能性があるならアダマンタイトの私に仕事が回ってくるのは必然だろう

 

「ぶっちゃけた話、戦士長よりアンタの方が強いだろうな。蒼の薔薇ですら竜を撃退したっていうのを聞く程度だ」

 

 

 そんな竜を一人で討伐したアンタが周辺諸国最強かもな。

 そんな風に呵呵大笑するイグヴァルジをよそにふとセレネは二階吹き抜けから一階の様子を見た。そこから見えるのはいつも通りの冒険者組合の光景────とはまた違ったものがあった。

 

 

 ………………

 

 

 受付嬢の対面に立つセレネの視界には、見慣れぬ姿の二人組が映っている。片方は黒い軍服の上から魔法詠唱者の様なローブをまとった男、もう片方は灰色の全身鎧で身を包み、その背には大斧と大盾が背負われている。どうやら受付嬢と何か言い合っているようだ。

 そんな二人組を見ている事にイグヴァルジは気がついたのか複雑そうな表情をして口を開く。

 

 

「あー、ありゃ数時間前に冒険者に登録した新人だな…………うん、アレだ。アンタに会わなかったら絶対分からなかったがありゃ俺らより強いわ」

 

 

 そんなイグヴァルジの言葉にクラルグラの面々は驚きと共に仕方ないという反応を見せる。

 一瞬セレネは首を傾げたがすぐにその理由を悟る。イグヴァルジはセレネがやって来るまでこのエ・ランテルにおいて最高位のミスリル級冒険者を務めていた為に傲慢であった。しかし、セレネの竜退治を目撃してから鼻を折られ嘗てなら実力を過小評価していたが今のイグヴァルジは冷静に二人組の実力を察する事が出来た。

 自分たちミスリル級冒険者よりも強い、と。

 

 

 規則である以上、私のような例外を除けば基本的に最初は(カッパー)から始まるからな…………仕方ない

 

「見る限り、ランク以上の依頼をやりたいようだが……規則だからな……」

 

 

 イグヴァルジと彼ら二人組について話していると二人組は諦めたのか浅くだが頭を下げて……何やら四人組の冒険者が声をかけてきた。

 それを見てセレネは兜の下でほくそ笑んでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

『────と、まあ、そんな経緯で漆黒の剣という冒険者チームと一緒にンフィーレアさんの依頼を受けることになりまして』

 

『ンフィーレアというとこの街の有名な薬師ですね。確かどのようなマジックアイテムも使えるとかいう何とも面白いタレントだとか…………あまりおおっぴらに言うもんじゃないですけどね、そういうの』

 

『ですね……』

 

 

 冒険者組合を後にした私は一人、エ・ランテルの幾つかある門の内、目的地に一番近い門の前で馬の用意が終わるまでモモンガさんと伝言を使い、互いに情報を交換していた。

 原作のようにナーベラルとモモンガさんではなくパンドラズ・アクターとモモンガさんで組ませたが……その変化がどう影響するのかが少し不安だ。少なくともパンドラズ・アクターならナーベラルの様に情報漏洩はしないだろう。

 ……ん?モモンガさんがフレーバーテキスト変えてないならその場合どうなるんだ?

 モモンガさんの伴侶=アルベドというのは、モモンガさんがフレーバーテキストを変えたから生じたものなのか……果たして…………。

 

 

「セレネさん、用意が終わりました」

 

 ん、ああ、わかった。すぐ行こう

 

『用意が終わったそうなので、そろそろ』

 

『あ、はい。わかりました、それじゃあ次は依頼終わってからかけますね』

 

『ええ、それでお願いします。それじゃ』

 

 

 伝言を切り、馬の用意をしてくれた衛兵に軽く会釈し私はすぐに向かおうと足を向けて────

 

 

 ぁ────?

 

 

 指輪の知覚範囲内に現れたソレにただ、身体の深奥、ソウルが熱を孕んだ気がした。

 

 




モモンガの為にパンドラズアクターやデミウルゴスの説得を頑張ったネームレス。
ついでにエルダーリッチにならずにすんだイグヴァルジ


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遭遇

ここ最近、夜寝る前に尋常じゃないほど鼻から血が出てくるチーズです。ほんと暑くなってきましたね読者の皆さんも熱中症にならないように気をつけてください。
今年こそ黒王を当てるんだ……

そういえば、オーバーロードのアプリ事前登録始まりましたね。我々はどの立場なんだろうか……私としてはナインズ時代に抜けたというプレイヤー枠がなんやかんやで戻ってきてモモンガさんと転移したのでは?と考えています


 

 

 

 

 

 ソウルが熱を孕む。

 久しく感じていなかった感覚だ。

 知覚範囲内に現れたソレに付き添うように小さな気配が二つ……両方ともレベルは三十前後。この世界で考えれば充分強者と言えるだろうがしかし…………

 

 

 あぁ……

 

 

 ソレのレベルは段違いだ。正確なレベルは分からないがソレのレベルは九十代、この世界で見てきた誰よりもレベルが高い強者。

 プレイヤー?そうではない。ソレは現地人だ。

 少しずつ欠損が出ている原作の記憶を漁れば否応にもソレの正体に心当たりが生まれる。いったいどこの馬鹿だ、アレを差し向けたのは。最高神官の中にそんな馬鹿がいるのか?

 それほど私を警戒しているのか、どうかは分からないが……しかし

 

 

 番外席次・絶死絶命……そのソウルでどんな武器が造れるのだろうか────

 

 

 昔通りの笑みを浮かべながら…………昔通り?……いや、気のせいか。ともかく私はそのまま用意された馬────残念ながらフロムではなく組合の方で用意された馬だ────へと向かった。

 少なくともまだソレは知覚範囲内に入ったばかりで射程範囲外だ。無視するというのも後ろから襲われかねない……射程範囲内に入ったら少しちょっかいをかけてみるか。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルよりカルネ村への道を進む集団が一つ。

 馬に引かれた荷車に乗り馬の手綱を握る少年と荷車の周りを立って歩く多種多様な装いの六人。

 軽薄そうな赤っぽい装束に身を包む野伏(レンジャー)、好青年という印象を抱かせる茶っけの軽鎧を着込む戦士、中性的な茶色のローブを纏い身の丈ほどの杖を持つ魔法詠唱者(マジックキャスター)、大柄で温厚そうなメイスを持った森司祭(ドルイド)の四人組に加え、灰色の全身鎧を身にまとったアクトに漆黒の軍服の上にローブを羽織ったモモンの二人。

 何故先の四人組……銀級冒険者チーム・漆黒の剣の彼らと共に仕事をしているのか、それはモモンとアクトが冒険者組合にいた時に遡る。

 

 

 

 

 冒険者登録を済ませ宿屋で一悶着あった後、モモンとアクトは再び冒険者組合にて依頼が張り出された掲示板の前にいた。

 本来ならばこの世界の文字を読む事の出来ないモモンとアクトだが、事前にネームレスより貰っていた解読用の眼鏡────装備すると幻覚で眼鏡は周りから見えない様に調整されている────をかけている為に掲示板に張り出された依頼内容を解読することが出来ていた。

 

 

「……薬草採取、畑荒らしのゴブリン……銅級では大したものは受けられないか」

 

 

 事前に聞いていたように夢のない冒険者の仕事に改めて肩を落とすモモン、分かっていたとはいえ一縷の望みがあっただけに落胆は大きく適当にゴブリン退治でもするかな、と考えている中、モモンの背後に立ち掲示板を見ていたアクトは唐突に掲示板へと手を伸ばす。

 

 

「アクト……?」

 

 

 アクトが手を伸ばしたのは銅級(カッパー)の依頼ではなく、あろう事かミスリル級の依頼。

 それにモモンは目を見開き、そんなモモンを置いてさっさとアクトは依頼用紙を片手に受付の方へとずんずん進んでいってしまった。

 

 

「え、あ、ちょ」

 

 

 背後からモモンの声が聞こえるがアクトは気にせず、受付嬢の前で止まりカウンターにミスリル級の依頼を出す。銅級冒険者のそんな行動に受付嬢はややその表情を引き攣らせる。

 

 

「あ、あの……これはミスリル級以上の依頼で……銅級冒険者である貴方方では受けることは────」

 

「知っている」

 

「え?」

 

「銅級の仕事などちまちまやってられんよ。我々は実力に相応しいより高ランクの仕事をこなしたい」

 

 

 不遜。そうとしか言えないアクトの言葉は受付嬢とアクトの話に耳を傾けていた冒険者たちの不興を買った。しかし、そんな彼ら等何処吹く風と言わんばかりにアクトは態度を変えずに受付嬢に意見する。

 

 

「彼、モモンは第四位階の魔法詠唱者だ。そして、私も彼に相応しい戦士だと自負をしている……まぁ、流石に例の白晶ほどのではないが竜退治(ドラゴンスレイ)も成したことがある……どうだ?」

 

 

 第四位階……!?い、いやはったりだろ……。竜退治!?少なくともアレは見掛け倒しってわけじゃねえってのは分かるが……。流石に盛りすぎだろ……。

 そんな冒険者たちのざわつきを背後に顔を顰めてアクトのもとへ向かってくるモモン。

 

 

「アクト、お前な……規則なんだから私たちの実力関係なく銅級の仕事で我慢しろ」

 

「む、身の丈に合わない仕事をするのは実力を腐らせかねないぞ」

 

「だとしても規則だろう」

 

 

 モモンは先程アクトが口にした事を否定も肯定もせず、規則なのだから諦めろとアクトを諌める。

 なお、表面上仲間を諌める落ち着いた魔法詠唱者なモモンだが内心ではいきなり予想外の事をしだしたパンドラズ・アクターに驚愕するモモンガである。

 

 

『ちょ、パンドラズ・アクター!?お前なにしてんのぉ!?』

 

『モモンッガ様!この不肖の息子パンドラズ・アクターにお任せ下さいッ!!』

 

『えぇ……』

 

 

 ナザリックにおいて、知恵者であるデミウルゴスやアルベドと肩を並べるパンドラズ・アクターの考えている事などモモンガに分かるはずもなく諦めたのか内心で肩を落とす。

 そんなモモンなどいざしらず、アクトは受付嬢に圧をかける。

 

 

「それで、これを受けたい。我々なら充分こなせる」

 

「いえ、規則ですので」

 

「────そうか、我儘を言ってすまなかった。では銅級で受けられる最も難しいものを頼む」

 

 

 まるで掌を返すようにきっぱり諦めたアクトにモモンは微妙な視線を向ける。

 こいつは何を考えているのだろう……自分で作ったパンドラズ・アクターの事がいまいち分からないモモンガである。ちなみにだが、もしこの状況をネームレスが見ればきっと苦笑するだろう。流石親子やる事が同じだ、と。

 ともかく、受付嬢との戦いが終わりモモンも安心して────────

 

 

「なら、我々の仕事を手伝いませんか?」

 

 

 

「ほう」

 

「おうふ……」

 

 

 モモンはアクトの手綱をしっかり掴んどかねば、とこれからの事を考えて胃と心に誓った。

 

 

 

 

 

 

「こふっ……」

 

「モモンさん?……どうかしましたか?」

 

「いえ、少しうちの馬鹿がやらかした事を思い出しまして……」

 

「あー……」

 

 

 荷車の後衛を歩くモモンを心配する様に声をかけるのは漆黒の剣の魔法詠唱者ニニャ。

 モモンの言葉に彼ら漆黒の剣も声をかける前までの冒険者組合での出来事を思い出したようで、同情するような視線を向ける。

 そんな視線が痛いのかモモンはその視線から逃げるように顔をニニャとは真反対の方へ向ける。それにニニャは苦笑いし、話を変えていく。

 

 

「そういえば、モモンさんは第四位階の魔法詠唱者とアクトさんが言ってましたが……本当なんですか?」

 

「……ええ、といっても大したものじゃあないですよ。上には上がいますから」

 

「上には上って……そ、それでも第四位階は凄いですよ!だ、第三位階ですらそんなにいないのに」

 

 

 第四位階という決して常人が至れぬ位階にいる者とは思えぬモモンの言葉にニニャは目を丸くし、声を少し荒らげる。

 それはタレントにより第二位階に至ったニニャにとってその謙遜は今までの自分の努力は大したものではない、と聞こえてしまったから…………しかし、そんな事はモモンは知らないし何よりニニャ本人がそう感じてると自分でも気づいていない。

 さて、そんな魔法詠唱者二人に口を挟まず話し合っているのは荷車の前衛にいる四人。

 戦士で漆黒の剣のリーダーを務めるペテルに野伏のルクルットと森司祭のダイン、そしてアクトである。

 

 

「アクトさん、竜退治をしたって言ってましたけど本当ですか?」

 

「ああ、といっても白晶が討伐したという砦に巣食ってた火竜程のではないが」

 

「具体的にどんな奴だったんだ?」

 

「青い飛龍だな、雷の息吹を使っていた」

 

雷の飛龍(ライトニング・ワイバーン)ですね……確か難度は90は固かったはず…………」

 

 

 ペテルがアクトの話した特徴からモンスターの名と難度を導き出し、その難度にルクルットもダインも驚愕を顕にしていた。普通なら嘘だろうと考えるものだが、アクトを見ればさも当然かの様な威風堂々とした態度。それがモモンとアクトの実力が本物なのだ、とペテルらに納得させた。

 

 

「これじゃあ、抜かれるのもあっという間だな」

 

「うむ、まったくそうである」

 

 

 ルクルットとダインはまったく妬んでいる様子もなく軽く笑い、それにペテルも笑って返した。

 

 

「────む?」

 

 

 その時、アクトは意識をどこかへ向けた。何かを感じたのだ、ペテルもルクルットもダインもモモンもニニャも雇い主も誰も気づかなかった何かを。

 そして、パンドラズ・アクターは何ともなしにもう一人の支配者の名を心中で零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 それに気がついた時には既に遅かった。

 唐突なまでに急速に近づいてくるそれにセレネは盾を構え────

 

 

 ずうッ!!

 

 

 それは盾を避けてセレネの左肩を裂いた。

 

 

 まくられたか……

 

 

 追撃を防ぐ為に馬から飛び退き、それとの距離を大きく開かせ、その間にそれを注視する。

 それは白黒の何とも奇抜な風体の少女、髪も瞳も白黒と分かれているのだ。そんな少女は嗜虐的な笑みを浮かべながら自分の武器である戦鎌の刀身に付いた血を指で拭い舐めた。

 十代前半ほどの見た目にそぐわぬ妖艶さを思わせるソレをセレネは吐き捨て、改めて武器を構える。

 

 

 ……影の悪魔(シャドウデーモン)、応えず行動しろ。至急、ナザリックに戻りレティシアに言伝を…………こちらから伝言があるまで待機。レティシアに伝えたらお前はレティシアに伝言が来た際にここに転移門(ゲート)を開け……レティシアがそれのスクロールを持っている。…………行け

 

「「────」」

 

 

 音もなくセレネの影から別の影が蠢きバレないようにナザリックの方向へと消えていった。

 少女はそんな事は些事とただセレネを見る。

 

 

「ねぇ、貴方よね。竜王国の英雄って」

 

 

────強いの?

 そんな視線の訴えにセレネは兜の下で笑みを浮かべてしまう、何時もなら面倒そうな表情を浮かべるのに今だけは喜悦に塗れた笑みを。

 だからだろう。

 

 

 

 火が漏れた。

 骨が燃える。

 肉が焼ける。

 ソウルが熱を孕む。

 意識が燃えるように切り替わっていく。

 

 

 

 背負う月光の大剣をしまい、代わりに腰に下げているアストラの直剣を引き抜く。紋章の盾の代わりにスキルのクールタイムを短縮する草紋の盾を取り出す。

 

 

 神人のソウル────果たして何が造れるのか

 

 

 きっとその兜の下の顔はモモンガが見ればネームレスとは思わないだろう。

 そして、ネームレス本人もそれを自分とは感じないだろう。

 何故ならここにいるのは………………。

 だが、まあそんな事は少女もセレネも何らどうでもよくどちらが先にかは誰もわからないが互いに相手へと駆けていく。

 

 

 スキル《被虐強化(ヘイト・チャージ)》《ボディ・オブ・ウォール》《アキレス・ハイ》────

 

 

 接触する前にセレネがスキルを発動させていく。ヘイト値が上昇すればするほどスキルのクールタイムを短縮させるもの、移動速度を四分の一にする代わりに防御力を三倍に上げるもの、移動速度を通常の三倍にするもの。

 一瞬鈍重になったがすぐ元の速さと変わらない状態になり、さらにスキルを行使していく。

 

 

 《シールドアタック》

 

「っう────」

 

 

 地面を踏み抜き少女の眼前へと進んだセレネが盾を少女へ叩きつけるが少女の身体と盾の間に戦鎌が滑り込み防がれる。

 密着した状態、剣を触れるほどの間合いは無いためにそのまま盾で押し潰そうとするセレネに対して少女は口を開く。

 

 

「《流水加速》」

 

 

 武技の発動により、少女は正しく流れる水のようにセレネの盾から逃れ距離をとり不敵に笑う。

 左肩に浅いが傷を負っているセレネ、いまだ無傷の少女。まだ、どちらも準備運動の域を出てはいない。

 

 

 




活動報告及びTwitterにて現在ネームレスの現地ヒロインアンケートを行っております。
詳細は活動報告にてどうぞ。皆様の御参加お待ちしております。
ドラウディロン……2
聖棍棒()……1
ラキュース……1

スキルや武技、オリジナル考えないとたいへんだぁ


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二代目

何故だろう意外と早く投稿できた
ヒロインアンケート現在
イビルアイ、ラキュース……4
ドラウディロン……8
聖棍棒……5
ネイア、アルシェ、レイナース……1

人気だなドラウディロン……


 

 

 

 

 はて、自分は今どうして戦っているのだろう。

 番外席次の一撃を剣で防ぎながらそんな事を考えていた。普通なら番外席次のレベルは九十代そこら、カンストプレイヤーで前衛を務めている私の実力ならば十分に番外席次を抑え込めたはずだ。

 にも関わらずこうして私は番外席次と戦っている。ついでにいえば一瞬、意識が飛んだ気もする。

 

 

 まあ、そこは覚えが無いというわけでもないが……

 

「私との戦い中に余所見かしら!!」

 

 余裕なもんで、ねっ!

 

「うっ」

 

 

 振るわれる戦鎌を剣の腹で受け止め、番外席次の腹に蹴りを打ち込む。いい所に入ったのか番外席次は口から胃液を吐いて呻く。

 流石に中身が出る事はなかったようだ……まあ、如何に戦っている敵とはいえ女の子に吐かせるのは男としてどうなのか、と思うから少し加減したのだが。

 まあ、そんな隙を見逃すほど甘くないのも事実なので更にそこから戦鎌の柄にシールドアタックを打ち込みよろけさせる。

 

 

「つぅ……小細工ばかり」

 

 レベルが格下なら十分その小細工も有効なんでね。

 

 

 ────まあ、格下って言ってもあくまでレベルの話で……ステータス上だと人化の指輪によって種族レベル由来のスキルが使えないから実質九十代……番外席次と大して変わらないんだが……。

 さて、ヘイト値稼いでスキルのクールタイムを短縮するのはいいが、わりとジリ貧……どうするか。

 

 

 まあ、なんとでもなるか────連鎖する龍雷(雷の大槍)

 

「ッ!!」

 

 

 付けていた指輪の一つに意識を向け、まるで槍を投擲するかのようにして指輪に込められていた魔法を放つ。

 第七位階魔法・連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)……レベル九十代には対して効かんだろうがあいにくこの指輪に込められているそれは我らが悪魔閣下(ウルベルト)に込めてもらったものだ。充分九十代にも効くものだ……いや、ほんとチートじゃないか?悪魔閣下。

 

 

 まあ、その代わり使用回数が限られているんだが、な!

 

「ラァ!!」

 

 

 両手で振り抜かれた戦鎌の刀身に剣を滑らせつつ、身体を動かし戦鎌の間合いを潰してその右肩を切り裂く。

 だが、浅かったのだろう。呻きもせずにすぐさま鎌から片手を離し間合いを詰めた私の腹に拳を叩き込んできた。鎧をつけていたおかげでそこまでダメージは入らなかったが普通に腹が痛む。

 イザリスの楔デーモン並に痛いんだが……。

 ひとまず距離をとる。

 

 

「ふふ、ふふふ、いいじゃない。あいつなんかより貴方の方が強いわ」

 

 そりゃどうも。まあ、そのあいつって誰かは知らないからなんとも言えないがね

 

 

 にしても、PVPに比べれば圧倒的に暇な戦いだ。ゲームであるようなバフがけプレイヤースキルで戦うんじゃあなく、剣道とか武道の試合に近いな……いや、武道にあんな流水加速みたいなものは無いが……ないよな?仕方ない、人化の指輪を外してゴリ押しするか……。

 同レベルのカンストプレイヤーやカンストNPC相手ならともかくレベル的に格下相手にわざわざ律儀にPVPする必要も無いな。

 

 

 そもそも現状装備してるのがオール聖遺物級(レリック)なのもアレだしな

 

 

 番外席次の装備が何級なのかは知らないが、私の装備はカンストプレイヤーの装備としては些か心もとない。いや、アストラの上級騎士シリーズは伝説級(レジェンド)もあるんだが……それは装備する予定はない。ぶっちゃけ趣味の範疇だからな

 本気でやるならオール神器級(ゴッズ)の薪の王にあの指輪を装備すればいいが…………そうなると蹂躙になるからな。

 さて、どうするか────

 

 

「《鎌鼬》」

 

 チッ、《ミサイルパリィ》

 

 

 恐らく武技であろう遠距離攻撃をスキルで弾き、ショートカット機能を使いいくつかの指輪を別の指輪と取り替える。

 

 

 魔封じの指輪は限りがあるんでね、少し趣向を変えてみようか

 

 

 サモン・アップ・リング、二重の指輪、動死体召喚の指輪(リング・オブ・サモン・ゾンビ)。新たに付けた三つの指輪の能力を行使する。

 最後に使ったのはナザリック大進行で壁役を大量召喚した時か?ともかく指輪の力が発動され、眼前に広がる光景を私は少し下がりながら見る。

 アンデッド系種族レベルに応じて召喚できる動死体系のモンスターが増え、選んだモンスターを一日に最大八体まで召喚できる動死体召喚の指輪(リング・オブ・サモン・ゾンビ)により召喚される八体もの死の騎士(デス・ナイト)

 指輪系アイテムの能力を二重発動出来る二重の指輪により動死体召喚の指輪(リング・オブ・サモン・ゾンビ)の力が二重発動して更に八体もの死の騎士(デス・ナイト)が召喚される。そして、最後にサモン・アップ・リングの力で召喚された死の騎士らのステータスが上昇する。

 ぶっちゃけレベル九十代相手に最後のそれは大した意味は無いがそこは様式美ということで割り切ろう。

 

 

「っ、アンデッド……!!」

 

 さて、十六体の肉壁だ────どれだけ持つかね?

 

 

 死の騎士が。

 死の騎士の壁の後ろで私は早着替えの外套を準備する。選ぶのは薪の王とは言わずともそれなりに性能高い伝説級を。

 となるとファーナムか黒騎士だが…………

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国最強の戦士こと番外席次・絶死絶命は今回の任務に大した期待はしていなかった。自分の付き添いである第五席次・一人師団に対して期待するような事を呟いていたが実際の所退屈を紛らわす程度にしか今回の任務を考えていなかった。

 だから彼女は任務の目標である竜王国の英雄が神人かプレイヤーなどどうでもよく、とりあえず第一席次、漆黒聖典の隊長にやらせた様に馬の尿で顔でも洗わせようと思っていた。

 そして、エ・ランテルまでもう一時間と言うべき場所で感知した自分と同じぐらいの実力者を持ち前の直感で嗅ぎつけ鷲馬(ヒポグリフ)から飛び降り襲撃してから始まったこの戦い。

 互いに決定打の入らない戦い。隊長程度なら簡単にのせる一撃も、連撃も、簡単にいなされるか弾かれる。番外席次は苛立って来ていると自覚して────そんな自分の表情は笑みを浮かべているのに気づかない。

 

 

「ああ、もう、邪魔ッ!!」

 

 

 セレネが召喚した十六体もの死の騎士。一度だけ必ず体力が一残るという壁役として高い性能を誇る死の騎士に番外席次はイライラしていた。

 決して強いというわけではない。彼女や隊長を除く漆黒聖典の面子の誰よりも強いがそれでも彼女からすれば充分蹂躙できる程度の存在だ。しかし、彼女が苛立つのは先程述べた特性を持つ死の騎士は決して複数体で来ず一体一体足止めに来ている事だ。

 彼女なら一撃で死の騎士の体力を削れるだろう、しかし必ず一耐えるという特性上二撃入れねば倒せないのだ。

 

 

「同時で来るならともかく、一体一体とか……」

 

 

 段々と作業地味てきたそれ。

 死の騎士のもう一つの特性であるヘイト集中もあり、死の騎士の後方にいるセレネへは攻撃が出来ない。

 およそ十体は滅ぼし────ふと、番外席次は思い至った。

 

 

「あっちが複数体来るのを待つんじゃなくて、私が全員同時に殺せばいいじゃない」

 

 

 事実彼女の扱う武技の中には広範囲へのモノが存在する。決して馬鹿ではない彼女がそれを思い出すのは当たり前で…………。

 満面の笑みで彼女は武技を行使する。

 

 

「《真能力向上》《無双絶撃》《疾風迅雷》《能力超向上》《戦気梱封》」

 

 

 身体強化系の武技を次々と発動させていき、一番近くの死の騎士に飛び込んでその頭を蹴り砕きより高く飛んでその戦鎌を振りかぶる。

 それは番外席次が持つ最強の武技。

 神人故に放つ事が出来るこの世界の人間の誰も到達出来ない極地の一撃。

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴン・ロード)が番外席次を自分に痛手を負わせられると危険視している所以。

 その武技の名を────

 

 

「《絶死絶命》────!!!」

 

 

 

 戦鎌は振るわれ、放たれるのは夜よりも暗い漆黒の嵐。

 範囲内のあらゆる命に絶対な死を与え絶命させる最強の武技。

 それを放った彼女は上手く地面に着地し漆黒の嵐が荒ぶる光景を目にしながら笑みを浮かべる。これを使わせたのは彼女の記憶の中で実の母親ただ一人。まさかの二人目に笑みを浮かべつつ心の中ではセレネが強いから出した訳では無い事に失望の色が漂っていた。

 

 

「番外席次……!!」

 

 

 そんな彼女に背後から声が届く。

 

 

「……何?」

 

「何って……いったい何をしているんですか!?」

 

 

 漸く追いついたのか、声の方へ振り向けばそこにいるのは鷲馬と付き添いである第五席次ことクワイエッセ。

 彼はこの目の前の光景を見て、恐怖しながらも彼女に憤怒の声をかける。それはこんな場でこんな一撃を放った事、人類の守護者になるかもしれない戦士を殺した事、そして白金の竜王を呼びかねない事態を起こした事。

 しかし、番外席次はクワイエッセの言葉などどうでもいいと無視してそのまま鷲馬とクワイエッセへと歩き始め

 

 

 

 

 

 

 

────────世界が斬られた。

 

 

 

 生命を蹂躙する黒い風は吹き払われ光が現れた。

 それは最初は小さな小さな光だった。

 騎士たちは唸り声を上げる、盾を足を大地に着いて音を上げる。

 光否、火は大きく熾る。

 火の粉が舞い、灰が散る。

 

 

 火の象徴とは不死なれば……

 

 

 

 クワイエッセは目を見開き、その火に神を視た。

 番外席次は恐怖した。不敬であろうが彼女は六大神ですら戦えば自分が勝つだろうと傲慢にも思っていたにも関わらず自分の最強のそれを吹き払う存在がいる事を。

 死の騎士らは歓喜した。自らの王の威に触れる事を。

 

 それは焼け爛れ歪んだ騎士鎧を身にまといその頭には異形の王冠を戴き、その身から火を絶やさずその手に握れているのは玉座無き彼らの前にずっとあった篝火に刺さる螺旋の大剣である。

 彼の名はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』がギルドメンバーの一人、火継ぎの王(セレネ)火の無い灰(ネームレス)

 ユグドラシルの火を継いだ騎士(二代目ムスプルヘイム)である。

 

 

 ゆったりと歩んでくる。

 火継ぎの大剣を肩に乗せながらゆったりと番外席次に近づいてくる。

 ゆったりとした歩み、しかしそれは番外席次の脳裏に最大級の警鐘を鳴らさせる死神の歩みだ。

 だからだろう

 

 

「ァアアああぁ!!」

 

 

 汗ばむ手で戦鎌の柄を握りしめ、恐怖を紛らわす様に叫びながら突貫する番外席次。

 そんな番外席次を兜のスリットから覗く火の如き光は見守り、その手を振るった。

 

 

「ぁえ」

 

 

 焼け炭に変わる左腕、肩口から断ち切られ吹き飛んだそれに番外席次は一瞬目を奪われるがすぐに彼を睨み残った右腕だけで戦鎌を振るう。

 

 

「ぁ」

 

 

 だが、まあ、そんなものは格好の獲物でしかない。

 迫る戦鎌を左腕で弾く(パリィする)、するとそのまま番外席次は腕を広げてしまい守るものは何もなくただ自分の腹部へと迫る炎を纏った螺旋の大剣を見届けた。

 腹部を貫く大剣はそこから番外席次の身体を焼いていく。尋常ならざる熱が番外席次を襲うがしかし、番外席次はこの時その熱以外の熱を感じていた。

 下腹部が熱を帯びて疼くのだ。目の前の強者を求めて疼き始め、その熱に酔いしれて────

 

 

 私の勝ちだ

 

 

 その言葉を最後に番外席次はその内側から生まれた炎に焼かれた。

 

 

 




オリアイテム
・魔封じの指輪……第八位階までの魔法を一つ込められる。込めた魔法詠唱者によって威力は変動、一日に三回までしか使えない。
・サモン・アップ・リング……召喚モンスターのステータス上昇
・二重の指輪……指輪系アイテムの効果を二重発動できる。実はあの星の指輪も……
・動死体召喚の指輪……アンデッド系種族取得者しか使えない。アンデッド系種族の合計レベルによって召喚できるモンスターの選択数が増える。ネームレスはデス・ナイトを選んでる。デス・ナイトだと一日八体までしか召喚出来ない

オリジナル武技
・真能力向上……能力超向上の上位互換
・無双絶撃……剛腕豪撃の上位互換
・疾風迅雷……流水加速の上位互換


ネームレス「あ、やば、神器級装備しなきゃ」

ヒロインアンケートはまだまだやっておりますのでどうぞ御参加ください


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本音

火曜のうちに投稿するつもりだったのに十天衆の素材集めに集中してたらこんな時間に……すまぬ、番外席次が何でもするから許してクレメンス

今作でNPC関係ないダークソウルキャラは四人ぐらいしか出しません




 

 

 

 や、やらかしたァぁぁ!!

 

 現在ネームレスの心中にあるのはそれである。

 本来ネームレスの予定では死の騎士の肉壁相手に苛立っている番外席次を伝説級(レジェンド)装備の一つ、ハベルシリーズと大竜牙でゴリ押すつもりだった。

 しかし、蓋を開けてみれば番外席次が武技を連発した挙句にモモンガの魔法最強化(マキシマイズ・マジック)した現断(リアリティスラッシュ)と同火力であろう広範囲武技をぶっぱなして来るというまったくの予想外に急遽、ハベルシリーズと大竜牙を取りやめ普段のオール神器級・ムスプルヘイム仕様を装備し自分は次元断層を発動、絶対防御を成した。

 その後は武技が消えるまで待とうとしたのだが、何を血迷ったのか次元断切(ワールド・ブレイク)を使って吹き飛ばし番外席次の左腕を焼き切って更にはパリィからの致命を入れて殺す、というネームレス本人もどうしてそうしたのかいまいちよく分かっていない状況だった。

 

 とりあえず消し炭となった番外席次をどうにかしよう、とネームレスはアイテムボックスからスクロールを取り出して────

 

 

「か、神よォォォォォォォ!!つ、ついに御降臨なされたのですね!!??」

 

 ひぇ……

 

 

 目の前で土下座しながら音的に涙と鼻水を出しながら感激の意を示している金髪モブことクアイエッセにネームレスは若干引く。

 しかし、顔を伏しているクアイエッセはそんなネームレスに気づく様子はなく言葉を続ける。

 

 

「ど、どうか、我ら人類をお導きください…………どうか、どうか」

 

 

 信仰深く漆黒聖典という法国の深い所に関わっているクアイエッセは勿論六大神や八欲王がプレイヤーである事を知っていた。

 そして、先祖返りした事でプレイヤー程ではないがそれに近い実力を持つ番外席次をああも容易く打ち倒すなどプレイヤー以外にありえない。…………竜王という選択肢はクアイエッセのなかから消えているようだ。

 何より、クアイエッセはネームレスに神を見た。もはや、信仰深い彼がネームレスを神と信ずるのは無理がなく…………。

 

 

 え、あ、うん

 

 

 ついでに言えばネームレスは押しに弱い。

 ネームレスとしては神扱いされるのはどうしようもなく苛立つがしかし、法国の舵をきるには丁度いい為ソウルから迫り上がる怒りを抑えクアイエッセを見下ろしつつスクロールを使う。

 発動するのは伝言(メッセージ)。予定通りレティシアに言葉を伝え何かを言われる前に切る。

 

 

 ああ、クソっ……さて、どうするか

 

 

 ネームレスは火継ぎの大剣をしまい、土下座をしているクアイエッセの肩に手を置く。無論、その際にクアイエッセが燃えないよう炎を消してだが。

 

 

「っ……!!」

 

 あー、名は?

 

「く、クアイエッセ……ハゼイア・クインティア……でございます……!」

 

 

 そういや、そんな名前の奴いたな……。とネームレスは心の中で呟いて顔を上げさせる。

 顔を上げたクアイエッセに既視感を覚えつつ、数歩離れた所に出現した黒い歪みに視線を移す。

 

 

 来たか……

 

「……お呼びでしょうか灰の方」

 

「なっ……」

 

 

 転移門から現れた火防女に目を見開くクアイエッセを放置してネームレスは火防女へ歩き……

 

 

 レティシアに蘇生して貰いたい娘がいるんだが…………

 

 

 瞬間、背筋に氷を突っ込まれたかのような寒気を感じてネームレスは言葉を止めた。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 あ、失言した。

 そう理解した時には遅かったのかもしれない。黙って俯いたレティシアからは普通では無い雰囲気が醸し出されている。

 氷を突っ込まれたかのような寒気……なんてちゃちなもんじゃあない。きっとこれはエルフリーデよりも寒い何かだろう……うん、間違いなくレティシアからの好感度はパッチへの期待度以下に下がっていってるはずだ。

 ああ……ナザリックにいる間は教会にいよう。きっと彼女なら受け入れてくれるはず……あ、いや、異世界転移してから一度も顔出してないし、若干忘れてたし…………好感度下がっていたらどうすればばばば────

 

 

「……灰の方、どうか、おやめ下さい…………」

 

 え?

 

 

 俯くレティシアの口から零れた言葉は今まで聞いたことがないほど寂しげだった。

 まるで私の思考など見当違いも甚だしいと言わんばかりのそれに私はただ、ただ動揺し

 

 

「……もう使命は終わったのです。だから、どうか無闇に自ら危険に飛び込むなんて……ことはしないでください」

 

 …………。

 

 

 ああ、クソったれ。前回レティシアの所に顔を出しした時はなんとも言えない雑なものだったが…………彼女はきっと自分の言いたいことを抑えていたのだろう。

 想起するのは嘗ての記憶……あの頃、彼女はずっと祭祀場にいた筈だ。外に出た時なんて……最後のあれだけか。

 となると彼女はずっとずっと、外へ使命の為に奔走する私を見てきて、傷つきボロボロになった私を見てきて……何度も死んだ私を見てきて…………ユグドラシルで創り出した時も最初の火の炉から出ずに毎度毎度狩りから帰ってきた私を出迎えるばかり……ああ、まったく

 

 

 ……すまない。それは少し約束できないな

 

「っ…………」

 

 使命は終われど、今の私には貴公は勿論ナザリックの、友らの子供らをモモンガさんと共に守るという義理がある。だから、すまない

 

「ですが……」

 

 それに性分なのでな。それは幾ら死んでも変えられない

 

「…………わかりました。灰の方はずるい御方ですね、私では貴方を止められないようですし」

 

 

 顔を上げ、微笑を浮かべた彼女に私は手を伸ばしてその綺麗な肌を傷つけないように優しく撫でる。

 これだけじゃあ足りないだろうな、またナザリックに戻った時は一緒に食事でもしよう……そして、その時には彼女の所に行かねばな。

 

 

 と、それですまないが蘇生を頼みたい……出来るか?

 

「はい、火防女としての役目を果たしましょう……どれを使いましょうか」

 

 死者復活(レイズデッド)……いや、あれは死体がなければ無理だったな、ペストーニャなら真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)が使えたが……まあ、仕方ない。蘇生(リザレクション)で頼む

 

 

 そう言って先程の戦闘で切り飛ばしていた番外席次の左腕を拾ってレティシアの前に置く。

 第七位階なら問題は無いはずだ。これで駄目なら虎の子の真なる蘇生入りのスクロールを使うがアレは他のスクロールと違って絶対数が無いと言うかマイルームのボックスに入れっぱなしだ。

 あのザ……蜥蜴人(リザードマン)の蘇生直後を思い出してみれば満足に身体が動かせず呂律も回っていなかったが番外席次はどうか分からんからな、もしも蘇生直後に動けてレティシアに危害を加えられても困る為、火継ぎの大剣を用意しておこう。

 

 

 さて、クアイエッセと言ったか……貴公らは何をしに来た

 

「っ……!!は、はい……わ、我々は……さ、最高神官長方の御命令により竜王国の危機を単身救った御身を神人かプレイヤー様かを確認、いえ御伺いする為に来ました……」

 

 ああ……それもそうか。人類の守護者を名乗ってる以上、数千のビーストマンを単身滅ぼした相手を引き込もうとするのは当然か

 

 

 クアイエッセの言葉に頷きつつ、レティシアの魔法行使を見守る。

 これなら身体を吹き飛ばさず殺せば良かったな………………いや、駄目だわ。この装備だと種族認識不可の指輪を付けてる代わりに人化の指輪外しているから種族レベル由来のスキルがあるわけで…………死の騎士(デス・ナイト)取ってたからな、番外席次の死体が残ってたら従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)が発生してしまう。そうなったら面倒だ。

 間違いなく法国との亀裂は確実だろう。

 

 

「蘇生────」

 

 

 行使される魔法は光となり左腕を包み込んで少しずつ大きくなっていく。

 丁度人一人分の大きさになったと思えば光は消え、そこには一糸まとわぬ番外席次が────

 

 

「は、灰の方!!」

 

 ぐふっ────

 

「ァアッ!?」

 

 

 兜のスリットに入り込む白魚の様に美しい二本の指、眼球に走る激痛、隣から聞こえたクアイエッセの悲鳴。

 おうふ、目が痛い。

 

 

「灰の方、何か、何か着替えを……!」

 

 あ、ああ……こ、これでいいか……

 

 

 片手で目元を────兜を被っているため正確には目元を抑えられていないが────抑えつつもう片方の手でアイテムボックスを開き鎧ばかりの装備の中からローブ系……黒金糸の上下を取り出してレティシアに渡す。

 そういえばそうだった。蒼の薔薇と違いシャルティアの様に遺体がない状態での蘇生だから裸で蘇生されるのか……ああ、目が痛い。

 

 

「……もう、大丈夫ですよ」

 

 ……目が……

 

 

 そこそこに回復した視力でちらりと番外席次をみれば元々十代前半そこらの体躯であった為にややぶかぶかな黒金糸を着ている少女がいる。つい先程までの戦意などなく、何やら妖しい……いや、やばい眼をして更にはやばい雰囲気を醸し出している。

 そう、とても嫌な予感しかしない。さながら狭間の森その湖の奥にあった黒い歪み、さながらあのマヌスの落とし仔な王妃、さながら螺旋の剣が刺さったグンダ。

 

 

 …………え、あ

 

 

 だから、だろうか。私はつい、呻くように数歩下がり……

 

 

「私貴方の子を孕むわ────」

 

 ファッ────!?

 

 

 番外席次の言葉に私はモモンガさんと違って臓物がある為に胃がキリキリとしているのが嫌にはっきりと理解出来てしまった。コフッ

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火は燃える。

 火は燃える。

 

 嘗て使命に囚われた憐れな火防女は火の無い灰に語った。

 

 火は消える。しかし、どれだけ小さくとも、暗闇の中に火は現れる。

 

 

 

 

 そこは大地の中にあった。

 岩を削り出したかのような建築物、普通に建てられた建築物、そんな複数種類の建築物が立ち並ぶその都市には天井があった。

 先にも述べた様にその都市は地下に広がる都市……いや、一際巨大で悠然と佇む建築物をみればただの都市ではなく王都という呼称が正しいだろう。

 そんな王都には小さくずんぐりとした体躯のモグラのような種族が跋扈しているがきっと彼らがこの王都の支配者ではないのだろう。

 文明に対して彼らの身なりが釣り合ってはいない。さしずめ侵略した都市にそのまま居座っているのだろうが…………。

 

 

 そんな王都の中心街路にポツリと異様なモノが顕れた。

 灰に埋もれた白骨。

 唐突なそれに誰も気が付かない。

 そこに突き立てられた螺旋の剣。

 

 そして、火は舞い、灰は散り

 

 火が熾った。

 

 

 

────火を継いだ者がこの世界に顕れた事で縁は作られ王の縁者もまた火の無い灰として顕れた。

 

 

 そして、いま、また一人

 

 

 火は吹き上がり、その中より一つの人影をこの世界にい出させた。

 しかし、その体躯人にあらず。

 家屋二階分では足りぬ体躯に人二人分はあろう大鉈を持ち、王冠を戴く者。

 

 

「……古き友よ(old friend)

 

 




ヒロインアンケート
イビルアイ……13
ドラウディロン……12
聖棍棒、ラキュース……9
レイナース……3
ネイア、アルシェ……2
エンリ……1

こんな感じですかね。イビルアイがドラウディロンを抜かしたようです。とりあえず土曜まで受け付けてるのでまだの方はどうぞ


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変化

本っ当に遅れました。
ネームレスや三人称視点ばっかだったので別の視点とかを書いては何か違うとか書き直したりとかやっぱりやめたりとかで時間をかけ、グラブルで四象が来て、なかなか書き終わりませんでした。
アンケート結果は後書きです
よう考えたら3の主人公ってルートによりますけど公式カプとしてアンリいますね。なんせ伴侶なんだから……つまり、かぼたんは浮気相th (うわ、やめろ、かぼたn……【YOU DIED】


 

 

 

 

『と、まあ、そんなわけで現在法国の暗部の一人に神認定からの崇め奉られて、法国の鬼札から貞操もとい胤を要求されています』

 

『いや、どうしてそうなった』

 

 

 やや空が赤くなり太陽が地平線の彼方に沈みかけている最中、私は冒険者稼業を頑張っているであろうモモンガさんに緊急の連絡としてつい少し前に起きた事とそこからの顛末を伝えていた。

 レティシアの力を借りて無事蘇生した番外席次、死者復活よりもレベルダウンは緩和されているとはいえちょいレベルダウンした番外席次は指輪によるとちょうど九十ピッタリらしい。

 ともかく、そんな番外席次からの蘇生成功一言目によりアンデッド故にどうなっているのかわからない胃への痛みを覚えつつ、感涙故の滂沱から落ち着きを取り戻し正気になったクアイエッセから番外席次の行動に対して止めなきゃ間違いなく自害していたであろう程の謝罪を受け、暴走しだす前に番外席次を押さえつけた。

 

 

『え、いや、だから、竜王国救ったらなんか法国に目をつけられて神人オアプレイヤーかの確認をしに来た使者のうち現地人最強に襲われまして次元★断切しました』

 

『えぇ……というか神人って?』

 

『プレイヤーの子孫が先祖返りした実力がある人物らしいです』

 

『……うーんと、やっぱり法国はプレイヤー関連なんですね?』

 

 

 とりあえずクアイエッセから得たていの情報をモモンガさんに流しつつ、これからどうするかを考える。

 予定通りに盗賊団を討伐して、ブレイン・アングラウスは適当に逃がすか……で、その後は…………破滅の竜王調査の漆黒聖典と合流するか?いや、してどうする……漆黒聖典に実力を見せつけるか?

 いや、実力云々は番外席次を一回殺した以上こっちにかなり従順……従順?ぶっちゃけ原作のアルベドみたいに押せ押せな気がしないんだが……うっ胃が……。

 

 

『……スルシャーナ、確か俺と同じオーバーロードのプレイヤーらしいけども……なのに法国は人間至上主義……いや、王国や帝国に法国とかの外側をみれば亜人国家が多いらしいし…………ネームレスさんが救った竜王国なんて何度も何度もビーストマンに襲撃を受けてるから……人類を纏めるのに特定の敵を作るのは必要で…………』

 

 

 うーん、モモンガさん。伝言で独り言始めたぞー。

 まあ、とりあえずモモンガさんは置いといて現状の依頼とかを片付けた後、ナザリックとしての動きを考えよう。モモンガさんと話し合って多少変わるが人化の指輪でそれなりに人間性があるモモンガさんならすんなり受け入れてくれるだろうモノを。

 

 まずデミウルゴスにはスクロールの素材探しさせてるが……対象はある程度制限させとこう。まあ、間違いなく人間だろうが……せめて悪人、例えば今回の依頼の盗賊団などを対象にさせよう。そういえばビーストマンはどうなんだろうか、一つ試させておくか。上手く行けば法国に対して人類の味方ですよアピールしつつ竜王国のビーストマン狩りが出来る。

 次に聖王国………………やばいな。まっったく覚えてない、なんか目付きが悪い貧乏くじ引かされる少女しか思い出せない……ああいう娘結構好きよ。とりあえずその辺は調査してからにしよう。

 王国はとりあえず腐敗してる所を引きちぎる。あの八本腕だか足だかは悪人だろうからスクロールの素材に使えるだろう。

 帝国は…………あー、うん。フォーサイトと知り合ったからなぁ……出来れば生かしてやりたいところ。

 

 

 まあ、そこらはモモンガさんと要相談だな

 

「どうかなされましたか?神」

 

 あー、別に気にしないでくれ。ちょっと独り言だからな

 

 

 私の独り言に反応したのか、私の横を鷲馬で並走しているクアイエッセが声をかけてきたが適当に私はそれをあしらい、私と同じ馬に乗って私の腹に腕をまわす誰かさんに内心溜息をつきつつ独り言で思考し続けるモモンガさんに呼びかける。

 

 

『おい、戻ってこい骸骨』

 

『てことは八欲王はだいたい異形種狩りを騒いでたプレイヤーってわけで……恐らく例え異形種プレイヤーでもスルシャーナという前例がある以上人間を守る意思があれば彼らは従う気もあるわけで────なんだ、焼死体』

 

『独り言長すぎ。いや、自分の事言えないが……ともかく、納得した?』

 

『ええ、まあ、なんとなくは。それよりもネームレスさんだけイベント豊富でズルいなと思ってます』

 

『羨ましいだろ』

 

 

 モモンガは激怒した。必ず、彼の邪智暴虐の薪の王を除かねばならぬと決意した。

 そんな冗談交じりの怒気を見せる彼に私は笑いそうになる。誰か友人が一人いるというのは気分がいい、そもそもこの転移とてモモンガさんと一緒にではなく私一人ナザリックと共に転移していた場合だってあったのだ、彼と共に転移できたのは良い事だった。

 

 

『で、法国に対してどうします?陽光聖典は無傷で返すのが得策かと』

 

『それで我々二人が彼らと敵対するつもりは無いって証明すればいいんですね?……出来ます?』

 

『ぶっちゃけ下手に出ず、こちらの武力を見せつけつつ上位者として人類を守るというていさえ出せばいいんじゃないですかね。人類至上主義はまあ、一致団結に必要だったんでしょうから適当に少しずつ緩めさせて最終的に無くせばいいんですよ。スルシャーナの例を出せばいけますって』

 

『ちゃんとそれっぽい事を言いつつ微妙に不安を残す辺りやっぱりネームレスさんですね』

 

『おい、それはどういう意味だ。うちの孔明とかと比較するな』

 

 

 まったく失礼な話だ。人の提案をそんなふうに言うなんて……いや、まあ、うん、昔からそういうところがあるのは自覚してるから……。にしても本当にモモンガさん、なんというか言うようになったな。

 こう私の中のモモンガさんのイメージというか印象は自分の意見をあまり言わずちょいちょい微妙に遠慮しながら言うだけだったが……今はどうだ。こうなんというかずけずけ言ってくる……湯に入れて出汁取るか。

 

 

『一先ず法国に対しては色々と胃とか辛くなるでしょうがこちらを上位者もとい神として敬わせる方向で行きましょう……魔王ルートかと思えば神ルートか』

 

『考えただけで胃が……いま、人間状態ですから……実物があるだけに……うっ』

 

『やめよう、これ以上は胃に悪い』

 

 

 胃がキリキリし始めたのを感じてすぐに話を切り、次の事に移らせる。……くっ、不死人であっても胃痛からは逃れられないのか…………結晶トカゲかアンリがいればこの胃痛は治まるぞ。

 結晶トカゲ……適当に殴って倒した身体を持ち上げてみると意外とぷにぷにしていてとても癒された…………んぁ?……違和感があるようなないような……気にすることでもないな。

 

 

『とりあえず法国を助ける事を考えると自動的にナザリックの面々に人間を簡単に殺すなと言いつけないと駄目ですね』

 

『そうですね。……シャルティアには強く言い聞かせないと駄目だろうなぁ』

 

『あー、確か若干アホの子でしたっけ?ペロ助ェ……ついでに偽乳、両刀、ネクロフィリア……業が深すぎるだろお前』

 

『ペロロンチーノさん……』

 

 

 今亡きペロロンチーノの業の深さにため息をつく私とモモンガさん、いや決してペロロンチーノは死んだわけではないが…………うん、もしかしたらしばらくシャルティアを見る目が可哀想なものを見る目になりそうだ。

 アウラとマーレは言っておけばなんとかなるだろう、コキュートスやセバスは言わずもがな。

 

 

『問題はデミウルゴスとアルベドですね』

 

『私はナザリックでそんなに話してないんで知らないんですが……そんなにですか?』

 

『いや、あの二人、種族が悪魔じゃないですか。こうなんというか……オーバーロードならともかく今の人間状態で考えると悪魔的基準で……』

 

『あー……異形種状態でなら流せても人間状態だと悪魔の異質さは分かりますよね。例えば人間を羊扱いとか』

 

 

 意外と鋭いな。しかし、なるほど、人間視点だからこそ察せるものもあるのか……さりげなくデミウルゴスが人間を羊扱いする可能性を出しておく。

 これで最悪人間は悪人でも駄目だと言われてもビーストマンなら……となるかもしれない。多分。

 

 

『ま、その辺はナザリックに戻ってから話しましょうか』

 

『ですね』

 

 

 そう言って伝言を切り首を抑える。……ううむ、身体は変わっても癖は直らないのか。

 さて、どうするか。

 

 

 まあ、なんとかなるだろう

 

 

 意識を思考から現実に戻して私は手元の地図を見る。銀級冒険者の報告より得た地図によればそろそろ件の盗賊団のアジトとなる。

 一応私の依頼だから、クアイエッセと番外席次はこの辺で待機させておこう……ああ、レティシアは既に転移門でナザリックに戻っている。

 

 

 それじゃあ、ここからは依頼なのでな。すまないがここらで待機してくれるといいのだが

 

 

 腹に回された腕を外して……流石レベル九十……力強いな、おい。ともかく、番外席次を引き剥がして馬から降り、クアイエッセらに告げる。暗についてくるな、と込めて。

 

 

「で、ですが……万が一にも」

 

「その万が一って殆ど無いようなものよね」

 

 

 私と同じぐらいのがそんなぽいぽいいるわけないじゃない。と正論じみた番外席次の言葉にクアイエッセは言葉が詰まったが………すまない。お前並みの実力者がぽいぽいいるユグドラシルですまない。

 ともかく、そんな二人を置いて私は盗賊団のアジトがあるらしい森へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 まずその姿を見た時に感じたのは嘲り。

 

 つい先日に十人余りでやってきたがあっという間に自分たちの用心棒に一人を除いて殺された冒険者たちを思い出しての事だ。

 自分たちを見下していた奴らがあっという間に殺されていく姿を見るのは大いに自分たちの自尊心を満たすのに役立っていた。

 冒険者が一人逃げたのは知っている。間違いなく冒険者組合に情報が行っているのだろう。そして殺された冒険者たちよりも強い冒険者が派遣される。だが、それがどうしたというのだ。

 自分たちの用心棒はあの男だ。周辺国最強の王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合った男だ。王国戦士長本人が出張らない限りこの盗賊団は安泰なのだ。

 故に現れた冒険者一人を嘲笑う。その胸に最高位のアダマンタイトのプレートが下げられていようが勝てるわけはなく。

 

 

 そんな盗賊団のアジト入り口の警護をしていた盗賊は決して自分たちが強くなった訳でもないのに目の前のアダマンタイトを殺せると信じてその剣を引き抜き────

 

 

 

 

 呆れた事だ。他者の強さで組織が強くなれども貴公が強くなったわけではないだろうに

 

 

 次の瞬間には装備の残骸とミンチとなった肉が混じったものが二つ出来上がり、アストラの鎧に身を包んだ騎士は肩を竦めた。

 振り下ろしていた武器を肩に背負い、そのまま堂々とアジトへと入っていく。なお、入り口にはそれを知らない人間────仲間以外が通れば分かる様に鳴子がかけられているが騎士はそんなもの関係無しと進む。

 アジト内に響く鳴子に盗賊団の者が武器を片手に嘲笑を浮かべながらやってくる。

 哀しいかな、誰も彼もが自分が強くなったと過信して疑わない。

 

 だからこそ彼らはガラクタと肉の合い挽きに変わる。振るわれるのは身の丈はある無骨な棍棒────否、それは牙である。古龍の牙をそのまま武器としたモノ、名を大竜牙……騎士セレネがユグドラシルで竜種のワールドエネミーの素材から作り出した神器級のドラゴンウェポンである。

 

 

 フンっ

 

 

 既に人化の指輪により若干のステータスダウンが発生しているとはいえ、この世界では到底辿り着けない────番外席次という例外はあるが────ステータスから振られる大竜牙は正しく竜の一撃と言っても過言ではなくて。

 一振りする毎に数人の生命が散る。

 思えば、セレネが直接的に人間を殺したのはこの依頼が初めてではないだろうか。

 番外席次?彼女はただの人間として扱うのは難しすぎはしないか、ともかくセレネ否『    』は 人を殺すのは初めてだ……だがしかし―――

 

 

 そう、初めての筈なのだ。にも関わらず私は……どうも思わない。

 

 

 正確に言えばそれは違う。決してどうも思わない訳では無いのだ。ただ、慣れてしまっていたのだ。

 ネームレス、『    』の感覚を侵す程のセレネの記憶。不死人の記憶はただの人間であった彼を容易く侵し、彼は違和感を感じられどもそうなのだ、と認識出来ないでいた。

 原作にてモモンガがその人間性を大きく失っている事に気がつかないように。

 

 

 まあ、気にするだけ無駄か。

 

 

 しかし、セレネはドラゴンウェポン・大竜牙を振るいながら、自分の中に湧いた疑問を薙ぎ払うように盗賊達を葬っていく。

 そうやってどれほど進んだだろうか、どれほど殺しただろうか。

 血濡れの通路を進んでいると、ふとセレネは足を止める。

 

 

「よお、何ともまあ派手にやったじゃないか」

 

 

 通路前方より姿を現した男。

 クセのある青い髪に無精髭を生やした軽装の青年。そして、セレネの目を引くのは腰に下げた刀、セレネは嘗て見た達人と名乗る男を思い出したがすぐに捨て置き、大竜牙をしまった。

 

 

 貴公がブレイン・アングラウスか

 

「…………ああ、そうだ。俺がブレイン・アングラウスだ」

 

 

 目の前で身の丈ほどの武器が唐突に消えたことに一瞬目を見開いた為か、返答にやや間が空いたがセレネはそんなブレイン・アングラウスに兜の下で笑みを浮かべつつ腰から剣を引き抜く。

 

 

「アダマンタイト……そうか、先日逃げた奴が組合に情報を届けたわけだ」

 

 そうなるな。周辺国最強の王国戦士長と互角に渡り合ったという男にはアダマンタイトでなければ駄目だろう?

 

「はっ、アダマンタイトじゃ足りねえよ」

 

 

 不敵に尊大な笑みを浮かべるブレイン・アングラウスにセレネは剣を突きつける。

 

 

 なら、試してみるか?

 

 

 私は強いぞ。そんな威を放つセレネにブレイン・アングラウスは尊大な笑みを歪め、獲物を狙う猛禽が如く鋭い瞳で刀を鞘から抜き放ち水平に構える。

 

 

「そうかい、なら俺の強さの為の踏台になってくれよ────」

 

 

 そうして、どちらが先かその刃を振るった。

 

 

 

 

 




アンケート結果
ドラウディロン……38
イビルアイ……26
カルカ……15
ラキュース……13
アルシェ……5
ネイア、エンリ、レイナース……3
ネム、ハムスケ……1

アンケート御参加ありがとうございました。
ドラウディロンの投票多いな、おい。2位と10以上差があるんだが……。というか、それ以前に何故にハムスケに入れた……NPCや対象外じゃないから有効票にしたが……
とりあえずこのアンケート結果によりドラウディロンはヒロイン確定って事になりますね……しゃあない竜王国にはもう少し大変な目にあってもらうか。ついでに聖王国にも

さて、しばらくネームレス視点や三人称視点がありますがきちんと他の、NPCの視点とかも書かせていただきます。
ところで、冷たい谷の踊り子って……イイよね



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不可視の刀

うーん、短いけど早めに投稿できてよかった。
ちなみに前回のアンケートですが。あくまで現地ヒロインの中でドラウディロンがヒロインになるのが確定しただけなんで、決してドラウディロンだけがヒロインと言う訳では無いです。運が良ければ他の娘もヒロインになれますよ……ええ、運が良ければ




 

 

 

 ナザリック地下大墳墓が守護者の一人、デミウルゴスはナザリックよりそれなりに離れたとある土地にてちょっとした拠点を置いていた。

 遊牧民族が使うゲルの様な形のテントの中で様々な生物の革とおぼしきモノを両手それぞれ違うのを持ち何やら比べていた。

 

 

「ふむ……やはり、ただの獣の革ではスクロールには耐えられませんか……」

 

 

 そう残念そうに呟いて革を丸め机の端へと寄せる。

 現在デミウルゴスが行っているのはナザリックの支配者にして至高の御方々とナザリックの者らが崇拝してやまない存在の一人であるネームレスより命じられた消耗品であるスクロールの素材捜索。

 サンプルとして周辺の様々な獣の革を使ってみたがどれもこれも仕込む魔法に耐えきれず焼け消えてしまっていた……が。

 

 

「ですが……これの革はどうやら第三位階までなら込められるようですね」

 

 

 そう言っていくつかの成功したスクロールとその素材となった革を手に取る。

 それは何やら獣の革とは思えない何処か違ったもの。当たり前だろう、何せその革の持ち主、その種族は獣ではなく

 

 

「人間の皮……意外な価値だ」

 

 

 人間の皮だ。無論、デミウルゴスもその部下も悪魔という人間など弄ぶ対象でしかなく今更、皮の一枚二枚剥いだところで忌避感などはない。

 しかし、デミウルゴスはとある事に慄いていた。

 

 

「よもや、あの御方はこの事を知っておられたのでは……」

 

 

 デミウルゴスは想起する。

 自らに素材捜索を命じた際にネームレスが告げた言葉を。

 

 素材サンプルにするのは消えても問題無い奴にしておけ

 

 消えても問題無い者。すなわちそれは社会において悪とされ、消える事を望まれる者または消えた事が気付かれないような者。

 つまりは盗賊などの悪人、スラムの片隅に転がっている浮浪者。

 

 

「我々異形種や亜人種、そして人間種にすら慈悲を向け安寧を齎す理想郷。ただ支配するのではなく…………ああ、なんという」

 

 

 そして、何よりもその対象となる人間のほんの一部とはいえこうしてデミウルゴスら悪魔の嗜虐心を満たす事とナザリックの物資の為に使う事を許された。

 そういった事からデミウルゴスはネームレスが人間の皮がスクロールの素材となる事を知っていたのでは?と考えそしてその叡智と慈悲に胸を打たれた。だがしかし、ネームレスとしてはそんな考えはなく単純にサンプルの獣がその周囲の環境や生態系に影響を及ぼす様なものじゃない、消えても大して影響のないそういうのにしておけよ、と言うニュアンスだったのだが深読み過大評価のデミウルゴスには察してもらえずガッツリと勘違いされている。

 ほぼ間違いなくネームレスが聞けばその勘違いによるより深い崇拝に胃痛と吐血しかねないだろう。

 

 

「ええ、お任せ下さい。このデミウルゴス、モモンガ様ネームレス様の御期待に応えてみせます!!」

 

 

 応えてくれるのはありがたいが、出来ればこうもう少し俺たちへの期待的なモノは抑えてくれると助かるんだが……。

 そんなモモンガの声が聴こえてきそうだが、デミウルゴスにはそんな幻聴は聴こえるわけはなくモモンガとネームレスへの期待は深まるばかりである。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 先にどちらが振るったのか刃は互いにぶつかり合い甲高い音をたてた。

 そして互いに鍔迫り合う事もなくすぐさまその場を退く。しかし、そんなのはほんの一時でしかなくすぐに刃を振るい合う。

 セレネが振るうアストラの直剣は地面を削りながら切り上げの一撃として迫り、ブレイン・アングラウスが振るう刀は大気を切り払いながら袈裟斬りの一撃として放たれた。

 互いの刃と刃が打ち合い、またすぐに離れ別の一撃を放ち合い、三度打ち合う。

 

 

「ちッ」

 

 

 これで三度ブレイン・アングラウスはセレネと刃を打ち合わせた。だからこそブレイン・アングラウスは理解したのだ、目の前の騎士は自分や宿敵であるガゼフ・ストロノーフに比肩しうる実力者なのだと。

 だからこそブレイン・アングラウスはやりづらさを感じた。セレネがつい先程まで盗賊を挽肉にするのに使っていた武器、それは国宝などとは比べ物にならない程の大業物であった。だが、それをしまって鞘から引き抜いた剣はなんだ。

 

 

「(よくて俺のコレに届くかどうかの剣だぞ)」

 

 

 確かにアダマンタイトが振るうに相応しい武器だが、先程の様な大業物を持つものが使うには些か格が足らない。強くなる為に秀才の努力をした天才たるブレイン・アングラウスの持ちうる観察眼はそう判断した。

 そしてだからこそやりづらいのだ。

 

 

「(明らかにこいつは手加減している)」

 

 

 こちらを侮り手を抜いているならその傲慢を嘲笑いその首をはねよう。だがしかし、同等いやそれ以上かもしれない実力者が手を抜いている状態で切り殺してどうするというのだ。

 そんなもの、自分が強くなる為には認められない。

 

 

「どうした!様子見か!?手抜いてんならさっさと真面目に剣を振れよ!」

 

 

 だから、俺が強くなる為にお前は本気を出せ。そう吼える彼にセレネはその兜の下でほんの僅かに驚きの表情を浮かべて────そのアストラの直剣を鞘に納め新たな武器を取り出した。

 

 

 まずは詫びよう。確かに私は貴公を下に見ていた、侮っていた、手を抜いていた……だが、そう吼えられたのなら抜いた手を戻さねばならないな

 

「はっ、好き勝手に言いやがって」

 

 

 そう吐き捨てるブレイン・アングラウスだが新たにセレネが取り出した武器を見て鳥肌がたちはじめていた。

 それは異形の剣だ。八つの枝刃に無数の棘を持つ黒い直剣。

 まずそれは到底人間が振るうことなど許されないものだろう、きっと自分が握れば即座に呪殺されそうな程の何かを纏ったそれに警戒する。

 

 だから。

 

 

「殺られる前に殺るッ!!」

 

 

 放たれる連撃、武技ではないがそれは常人では到底成せないもの。しかし、セレネはきちんとそれら全てに刃を滑らせて防いでいく。

 連撃後の隙、それを見逃すようなセレネではない。連撃に刃を滑らせてから流れるように刺突を放つがブレイン・アングラウスは無理矢理に横っ跳びする事でその刺突から逃れ直剣よりややリーチのある刀で逃れる際に斬撃を放つが籠手を薄くかする程度に止まる。

 ブレイン・アングラウスはそれに軽く舌打ち、地面を一度二度転がりすぐさま立って構え直す。

 

 

「(分かってはいたが、奴は強い。身体能力だけの馬鹿じゃない、対人慣れしている……いや、アレは戦士としての頂点に近い……だが、だからこそ俺はこいつに勝つ、勝ってみせる)」

 

 さて、どうするか

 

 

 剣を引き、柄に添えていた左手を離し考える。現在セレネはガゼフ・ストロノーフよりもやや強い程度の力量で戦っているがそれでも決して侮らず半殺し程はするつもりで戦っていた。

 だが意外にもブレイン・アングラウスが奮戦する為、攻め悩んでいた。少し力の天秤を動かせばこの奮戦も無くなるだろうがそれはブレイン・アングラウスが死ぬという事。そのためその選択肢はとうに切り捨てた。

 では、どうするか。

 

 

 なるようになるさ。

 そう兜の下で笑ってその刃を振るう。

 

 

 

 

 

 右からの薙ぎ払い、下段からの刺突、そこからの切り上げ、袈裟斬り、再度切り上げ。

 鋒による刀身をずらす、斜め前へと逆に出ることで刺突の回避、切り上げに合わせて刃を滑らせ袈裟斬りを避ける様に袈裟斬り、切り上げからの退避。

 常人では理解出来ぬ剣戟が繰り広げられている。

 互いに一瞬でも、否ブレイン・アングラウスはほんの一瞬でも気が逸れてしまえばその時点でもはや終わりと言うべきぶつかり合い。

 そんな戦いにブレイン・アングラウスはこのぶつかり合いの最中に髪が白くなってしまうのではと、いや老人になるのでは?と考えてしまいそうになるほどの緊張をもって挑む。

 

 

 次だ────

 

「ッ!!」

 

 

 言葉が呟かれたかと思えば、ブレインは大きく距離を取っていた。一体何が来たのかなど見てはいない、ただただ本能に従いその場から飛び退いたのだ。

 何故、などすぐに気づいた。明らかに先程まで以上の威を滾らせ兜のスリットからまるで炎のような瞳が見えた。

 もはや、なりふり構ってなどいられない。

 

 

「つぅ────」

 

 

 刀を鞘に納め、その鍔に指をかける。すなわち居合いの構え。

 瞬間、ブレインを中心として三メートル程の不可視の円形の領域が発生する。

 これこそがブレインが宿敵ガゼフ・ストロノーフに勝つ為に作り上げたオリジナル武技・領域。この領域内においてブレインは極限までに攻撃命中率と回避率、そして知覚能力を上昇することが出来る。

 

 

 面白い

 

 

 セレネにはその領域は見えない。だが、何かあるのは分かっている、だからこそセレネは一撃を放つのだ。

 地面を蹴り、片腕での刺突。

 先程までのブレインならば視認する前にその胸に刃が突き立てられていただろう。

 だがしかし、知覚能力が極限までに上昇している今なら別なのだ。それこそ、その刺突が胸に触れる前にセレネの首を落とす一撃を放つ事が出来るほどに────

 

 

「秘剣────虎落笛」

 

 

 

 第二の武技・神閃。神速の一刀を放つその武技と絶対必中の領域を合わせる事で成立する、対象の急所たる頸部を対象に知覚させる前に一刀両断するブレイン最強の武技。

 居合切りであるそれは恐ろしい速さで鞘から引き抜かれそのまま直剣よりもややリーチのある刀の鋒が寸分違わずセレネの兜と鎧の繋ぎ目へと放たれて────────

 

 

 

「は────?」

 

 

 吹き上がる血飛沫。

 ブレインの頬を濡らす熱い血潮。

 熱を帯びる腹から右肩への一本線。

 振り上げられた柄だけ握ったセレネの左腕。

 直剣が貫いたのではない、領域ですら知覚できなかった一撃が己を切ったのだと理解し…………そこでブレイン・アングラウスはその意識を闇へと溶かした。

 

 

 

 見事。ああ、貴公…………見事だよ

 

 

 




作者の中でアンリは能登さんボイスです。偽ヨセフカと同じ声優さんらしいので日本語訳なら能登さんやろ、ということで


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休息

ちょっと遅れましたね投稿。
風古戦場、風パが弱くて辛たん
これからどんどん暑くなってくぞぉ
るしふぁーの声には笑ってしまった


 

 

 

 

「むぅ……」

 

 

 俺、モモンガこと鈴木悟、現状冒険者モモンはとある悩みを抱えていた。

 なんやかんやで冒険者として先輩である銀級冒険者チーム・漆黒の剣と一緒にモンスター狩りをしようとしていたら、あの街エ・ランテルで有名なタレント持ちの薬師ンフィーレアより指名依頼でこの薬草取りの護衛に来たわけだが……一つ問題が出来た。

 いや、同じ魔法詠唱者で声も似てて名前も似てたからという理由でエンリ・エモットにカルネ村を救った魔法詠唱者モモンガだとバレてしまった事は……うん、そんなに問題じゃあない。

 彼女には内緒にしておいて欲しいと頼んでおいたし、彼女も内緒にしてくれると約束してくれたし…………で、その問題なんだが……。

 

 

「……やはり、無理ですか」

 

「ああ、無理っぽい……」

 

 

 トブの森にて現在依頼である薬草取りの護衛をしている俺たちだがせめて自分らも薬草取りを手伝おうとンフィーレアから薬草と取り方を教えて貰ったのだが…………何故か、俺は薬草が摘めなかった。

 え?パンドラズ・アクター?最初は摘めなかった癖に何か考え込んだと思ったら摘めるようになってたよ!なんなんこいつ……泣くぞ

 

 

「……お前、どうやって摘んだ」

 

「恐らく取得しているスキルか職業または種族の問題かと思いまして至高の御方々の中から指輪を装備出来て且つ森司祭等の職業をお持ちの御方の姿を取らせていただきました」

 

 

 まあ、さらに鎧を装備出来る職業をお持ちであるという条件もありましたが、と笑うパンドラズ・アクターに俺はひとまず納得し少し考え事をする。

 恐らく俺やパンドラズ・アクターが最初薬草を摘めなかったのはパンドラズ・アクターの言う通り職業やスキルの問題なのだろう。だが、それなら魔法詠唱者であるニニャや戦士であるペテルが摘めるのは何故か?恐らくユグドラシルというゲームシステムの影響下にいた我々と違って彼らはそういう経験があった故に出来るのだろう。

 ゲームが違うがなにかの行動についての熟練度により、より良い結果を出せるなどそういったシステムを思い出せば納得出来る話だ。

 経験を積む事で最初は出来なくとも段々と出来るようになっていく、熟練度がレベル関係無しにあるのならそれはきっと我々プレイヤーやNPCたちが限界を超えた成長を得ることが出来ることではないだろうか。

 

 ………………アレェ?そうなると焼死体がより強くなって爆走し始める未来しか見えないぞ。PVPはタイミングとか何とか言うあの人がもし、熟練度上げてこの世界特有の武技なんか手に入れたら……うわぁ、えぐっ。

 鬼に金棒じゃなくてたっち・みーさんにウルベルトさんになってしまう……。

 

 

「モモン、どうした」

 

「ん、あ、いや、すまない。少し考え事をしていた」

 

 

 危ない危ない思考の海にどっぷり浸かってたようだ。アクトに戻ったパンドラズ・アクターに声をかけられ現実に戻ってみれば既に薬草摘みは半分近く終わっていた。

 どうやら、パンドラズ・アクターは俺や別の方で警戒しているルクルットの様に周囲の警戒に回ってきたようだ。

 

 

「それにしても災難でしたね。正体がバレるとは」

 

「お前、他人事だからって軽く見てないか?というか、お前創造主に対して軽くない?」

 

 

 いや、ほんと。他のNPCたちに比べてもなんかパンドラズ・アクターはなんというか気安い。ついつい素が出る程度に気安いんだが……もしかして他のギルメンはともかく自分の創造主に対してはどのNPCはこんなんなのか?

 いや……アルベドといいデミウルゴスといいセバスといい、こんな態度はしないだろう……多分。

 

 

「いえ、実はネームレス様に言われまして。モモンガ様はナザリックのシモベから寄せられる過剰すぎる信頼と言いますか期待と言いますかそういったプレッシャーに応えようと自らを抑えられている、と。なので不肖、この息子パンドラズ・アクターはモモンガ様の為にこうかるーく接しています」

 

 

 なので必要ならどつきます。そう漆黒の剣やンフィーレアには聞こえないように小さな声で俺に告げたパンドラズ・アクター。

 ネームレスさんから貸し出された兜でその表情は見えないがきっと笑っているのだろう。……ああ、本っ当にネームレスさんがいてよかった……いや本当にありがとうございます。

 なんか、パンドラズ・アクターの大仰な仕草やら言葉遣いをこう普通にさせてくれて…………だけどきっと、パンドラズ・アクターはストレス感じてるんだろうな……俺が設定したとはいえ普段の振る舞いをするなって言われたわけなんだから…………よし、ナザリックに戻ったらなんかしてやるか。これも支配者として必要な事だな。

 ………………まあ、なんか、その支配者もといまとめるモノがつい昨日増える予定が出来てしまったんだが……いやいや、法国って……しかも神って……俺、ただのサラリーマンなんだけど、小卒のしがない社畜だったんだけど……どうしてこうなった……とりあえずネームレスさんに投げつけよう。あの人ならなんとか出来るだろう多分。

 

 

「はぁ……」

 

「で?名声の為に例の森の賢王とやらを呼ぶのは?」

 

「ああ、それは止めた。ネームレスさんがランクアップの為のチャンスを上手く作ると言っていたからな……それに銀級の言葉よりアダマンタイトの言葉の方が大きいからな」

 

 

 切り替え早いなーと思いつつ、カルネ村で考えていた案を思い出す。

 聞けばこのトブの森には森の賢王とかいう魔物がいるらしく、冒険者としての名声を勝ち取るべくその森の賢王を倒すか屈服させるかする予定だったのだが……その旨をネームレスさんに伝えたら、なんか普通に「銀級よりアダマンタイトの推薦の方が良くないですかねぇ……いや、別にカッコつけたいならどうぞ」って言われたからなぁ……。

 アレだよなぁ、プレイヤーから見れば初心者プレイヤーの前でそこそこの奴瞬殺して、それを自慢するカンストプレイヤーというなんか恥ずかしい光景だよなあ。

 

 

「なるほど、強さ自慢が恥ずかしいんだな、分かるよ」

 

「口にしなかったことを言わんでいい」

 

 

「あ、モモンさん、アクトさん、薬草は取り終わったので森を出ましょう」

 

 

 と、どうやら、終わったようでニニャが声をかけてきた。俺はそれに軽く会釈し、パンドラズ・アクターを連れて彼らの方へ足を向ける。

 それにしても、偉業を用意するっていうのは別に俺的にはいいけども…………ネームレスさんだからなぁ……。

 

 

「むぅ……新作の素材がなんか色々足りないな……ちょろまかした分合わせても足らない……どうするべきか」

「やはりマラソンか、私も行こう」

「焼死た院」

 

 

 あのるし☆ふぁーさんとそれなりにつるんでいて無茶振りかますところあるからなぁ、普段は趣味に全振りなロールプレイヤーで気配りもするけど、結構……アレなところあるからなぁ。

 変な無茶振りが無いことを祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしかったのですか?」

 

 ん?何がだ?

 

 

 エ・ランテルに幾らかある中でも最高の宿屋である黄金の輝き亭、その宿屋の一角にある部屋にて一人の騎士に青年は疑問を呈していた。

 普段装備している鎧は既に脱ぎ、この世界から見てもそこそこの私服に身を包んでセレネはナザリックのそれとは比べられないほど格の下がったソファーに腰掛けながら、何やら書類のようなものを書いていく。

 

 

「いえ、あのブレイン・アングラウスという男です。確かにあのガゼフ・ストロノーフと同格で人類の戦力としては申し分ありませんが……仮にも盗賊に与していた男、逃がしてもよかったのですか?」

 

 

 ああ、それか。そう呟きながら万年筆を走らせ書類から目を離さずに青年、クアイエッセに告げる。

 

 

 アレは強くなるよ。流石に私たちにはいかないだろうが貴公らには届くだろうさ

 

「……我々にですか」

 

 

 流石に受け入れにくいその言葉にクアイエッセは顔を顰めるがすぐにその表情を崩す。

 自分たちでは決して届かぬ存在、神たる御方がそうおっしゃるのならきっとそうなるのだろう。私如きではその理由は分からないが、神はそれを見抜いていらっしゃる……おお、なんと素晴らしい事か。

 と、まあ、自己完結し始めたクアイエッセをよそにセレネは先程から自分の背中とソファーの間に入り込みセレネの背中に張り付いている人物に意識を向ける。

 

 

 それで貴公はいつまで私に張り付いてるつもりだ?

 

「貴方の子供を孕むまで」

 

 ちっ、死ぬまで離れないのか

 

 

 死んでもお前を抱かん、そう宣言してるに等しい言葉を受けても番外席次は動かず離れない。

 そんな彼女にため息をつきつつ書き終わった書類を傍らに待機していた影の悪魔に手渡し、腰を上げる。無論、番外席次は張り付いたままである。

 

 

 …………降りろ

 

「嫌だ」

 

 降りろ

 

「孕ませて」

 

 

 剥がそうと番外席次の腕を掴むが流石はレベル九十代、ステータスダウンにより殆ど同等のセレネではなかなか手古摺るようでその表情は引きつり、それを見ているクアイエッセはオロオロしていた。

 だが、そんな二人など一切気にせず番外席次はセレネの首元に顔を埋めたままである。

 

 

「か、神…………」

 

 こ、これで外に出るわけにも行かんしなぁ……

 

 

 どうにかして引き剥がさないとなぁ、そんなふうに愚痴りながらもう一度ソファーに腰掛けようとして────

 

 

 む……

 

 

 伝言が繋がったのを感じ取り、指を頭に当てる。

 

 

『私だ────誰だ』

 

『はっ、アルベドでございます。御忙しい中、御身の時間をしばし頂くことを御許しください』

 

『アルベドか……なんだ』

 

 

 アルベドからの伝言に珍しいなと感じつつ、用件を聞く。

 

 

『ネームレス様が御命じになられた竜王国の周辺ビーストマンの調査ですが……どうやら、おおよそ一ヶ月以内に竜王国に攻め入るようです』

 

『ほう……それは面白い、予測規模は?』

 

『報告された時点で数万……少なくとも五万は超える見込みです』

 

『なるほど、前回のは本番前の斥候じみたものか…………ならば、利用するしかないだろう』

 

 

 そう、アルベドに告げて妖しげな笑みを浮かべるセレネ。それを見たクアイエッセは背中に冷や汗が垂れるのに嫌な予感がしつつも、それが人類にとって良い事ではあるのだろうと察し、ここにはいない最高神官長らに後を任せ自分はただ仕えることを決めた。

 

 

 

 

 




悲しい話だ。読者の表によって竜王国により大きな災厄が……
明後日……2章が楽しみです。オフェリアを泣かせたい、屈服させたい、調教したい!(欲望だだ漏れ)
心をもっかい折って依存させたい



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前兆

2章クリアしました。楽しかった。屈服?何それごめん流石にやれないわ、あの娘に。
例のキャスター、真名予想したんですけど、半分あってて半分違くて笑った。北欧の異聞帯だから、あっちじゃなくてこっちだろ……と思ったんですがねぇ
ちょいと今回は短いです


 

 

 

 

 

 瞬間、幾度もの金属音が路地に響き渡る。

 

 

「チッ、いったいどんな素材で出来てんだッ!!」

 

 

 エ・ランテル、バレアレ薬品店の裏口付近にて二人の人物が激突していた。

 片方は金髪ボブカットの恐らく二十歳前後であろうスティレットを操る女戦士。

 それに対するのは竜を象った灰色の全身鎧を纏う重戦士ことアクト。

 常人では簡単には目で追えない速度で放たれるスティレットをアクトは尽くその大盾で防いでいく。

 

 謎の女戦士の連撃を防ぎつつ、アクトことパンドラズ・アクターはこうなった経緯を思い浮かべる。

 

 

 トブの森での薬草採りを終えたアクトらは多少の雑談混じりで陽が落ち切る前に無事エ・ランテルへと帰還した。

 漆黒の剣のリーダーであるペテルとモモンはそのまま依頼から戻った旨を伝えに一行から別れ冒険者組合へ、アクトと漆黒の剣の三人はンフィーレアと共に採取した薬草をバレアレ薬品店に保管するために運びに向かった。

 道中何かあるわけもなく、そのままバレアレ薬品店の裏口へと辿り着き、アクトは薬草の入った箱を持ち上げて────先に裏口から店へと入ったンフィーレアが唐突に声を上げたのを聞きその手を止めた。

 すぐさま漆黒の剣の三人と共に店へと入れば、そこにはンフィーレアと彼の前にいる黒い外套で身を包み片手でスティレットを遊ばせた金髪の女。まるで猫を思わせる嗜虐的な笑みとンフィーレアの反応から決して知人では無いことを悟ったアクトはすぐさまンフィーレアの前に身を出し、同時に放たれた一撃を受け止める。

 

 如何に変身対象……ネームレスの八割程の性能しか出せないとしてもワールドチャンピオンの一角の八割、いやそもそもレベル三十代が英雄級と呼ばれているこの世界においてそうそう彼らを脅かすものはなく。現地人にしてはかなりの速度の一撃にアクトはまず盾で上手く滑らせ、伸びきった女戦士の腕を掴みそのまま投げつけた。

 手加減したとはいえ上位者のそれにより、そのまま店の窓を突き破って路地へと出た女騎士はさながら猫のように着地し、苦々しくアクトを睨みつける。

 ここで漸く状況を理解したのか、漆黒の剣の三人はアクトの名を呼びかけ、それにアクトは三人にンフィーレアを任せ自分も路地へと出ていき────────こうして現在に至る。

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

「…………」

 

 

 女戦士との戦いが始まって暫くは、獲物を狩るが如き嗜虐的な笑みを浮かべていた女戦士だが、自分の攻撃が尽くアクトに防がれるという事と熔鉄の竜狩り鎧にかすり傷とも呼べない僅かな傷しか付けられない事にだんだんと苛立ってきたのか、今ではもう当初の余裕のある連撃は形を潜め、余裕のない歪んだ表情のまま繊細さの欠ける攻撃をし始めていた。

 

 

(ふむ……金髪に黒い外套、そしてスティレット……最初は偶然と思っていましたが、この現地人にしては高い能力…………ネームレス様が仰っていたこの街に潜んでいる、この世界の実力者ですか)

 

 

 アクトことパンドラズ・アクターはモモンガと共に冒険者として活動する為にナザリックを出る際、あらかじめネームレスが調べ提出したエ・ランテルの実力者の調査書に記載されていた人物と目の前の女戦士が同一人物だと理解し、どうするかを考えていた。

 

 

(レベル的にここで倒すのは正しく赤子の腕を捻るより簡単でしょう…………ええ、物理的に簡単ですね。何せ、やろうとすればほぼ間違いなくそれを止めようとするシモベがいますからね!)

 

 

 そんな冗談めかした事を考えながら、目の前の女戦士をここで倒した際にどのようなメリット及びデメリットが生まれるかを考える。

 少なくとも女戦士とその仲間が企む何かを頓挫させられるだろう、しかしデメリットとしては女戦士の裏にいるかもしれない存在の情報が知れないこと。逃せば出撃者を逃したという汚点は付けども何か起きた際に真っ先に向かい解決すればいい……

 

 

(さて、どうしましょうか……)

 

 

 自分だけの失態ならば我慢は出来るが、創造主であるモモンガにもそれが波及する可能性を考え出来うる限りここで捕縛する事を決めて────

 

 

「ぁあああ!!??」

 

「────何ッ」

 

「あはっ」

 

 

 唐突に店の中から響いたニニャの悲鳴にアクトはそちらへ注意が向いてしまい、その隙を突くように女戦士はその場から飛び退いて近場の壁を蹴り家屋の屋根へと飛び乗る。

 そんな女戦士にアクトは舌打ち、追撃をかけるのは諦める。無論、その気になれば一瞬で家屋を傷つけず且つ一撃で殺せるが重戦士がそんな速くに動いたのを誰かに見られれば面倒ごとになりかねないと判断した。

 

 

「ねぇ、アンタ名前は?」

 

「……アクト」

 

「ふぅん。ま、覚えておいてあげる……共同墓地に来い、そこで殺してやるよ。このクレマンティーヌ様が!」

 

 

 一瞬猫なで声でアクトを苛つかせたと思えば、次の瞬間にはその表情を歪ませ憎々しげにアクトを睨み殺害予告を告げる女戦士、クレマンティーヌ。

 そんなクレマンティーヌにアクトは大斧を向けて受けて立つ旨を告げる。なお、内心パンドラズ・アクターはわざわざ敵に名前と拠点をバラしたクレマンティーヌに呆れていた。

 

 

(いや、普通……そこはプライドが許さなくとも情報は隠すべきなのでは?……ちなみに私が同じ立場なら虚偽の情報を匂わせるのですが…………この方、プライド優先にしてますね)

 

 

 そのまま夜の闇に消えるクレマンティーヌに心中でダメ出しをして、つい先程の悲鳴を思い出しパンドラズ・アクターもといアクトは店の中へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どういう状況だ」

 

 

 クレマンティーヌによるバレアレ薬品店襲撃からおよそ十分も経っていない頃、バレアレ薬品店にモモンガことモモンとペテル、そしてこの店の主人でありンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレが店へと姿を表し、モモンが三人を代表して店内の光景を見て声を漏らした。

 何やら溶けたような痕がある床、破砕した籠、そして微かに臭う腐乱臭。何よりも両腕の皮膚が溶けかけたかの様な有様のニニャの姿にボロボロなダインとルクルット、そんな三人を介抱するアクト。ンフィーレアの姿はここにはない。

 

 そんな光景に狼狽する二人を無視して聞いたモモンにアクトは申し訳なさそうな声音で仔細を話し始めた。

 

 

「……ここに薬草を保管しに来たのだが、我々が外にいた際に店内からンフィーレア氏の叫び声が聞こえてな、急いで入ってみれば武器を持った妖しげな女がいた」

 

「それで……?まさか、お前がいたのだから」

 

「……女を咄嗟にそこの窓から外へ投げつけてな、ンフィーレア氏に手は出させないようンフィーレア氏を漆黒の剣の三人に任せ、私は外でその女とやり合ったのだが…………」

 

 

 途中で話を区切るアクト、それを引き継ぐように今度は比較的軽傷のダインが口を開いた。

 

 

「一度、ンフィーレア氏を連れて冒険者組合へと移動しようとしたのであるが、どうやら仲間が来ていたようで……数人の魔法詠唱者に襲われニニャは腕を我々二人は吹き飛ばされ…………面目ないのである」

 

 

 意気消沈した表情と声音の言葉にペテルもリイジーも目を見開く。ンフィーレアが攫われたというショックが大きすぎたのかリイジーは膝をついてそのまま倒れ込んでしまったのを隣にいたペテルが受け止める。

 

 

「……アクト、その女は何か言ってたか?」

 

「墓場で待ってる、とさ。どうやら、まともな一撃を入れられなくて相当御立腹のようだ。虚偽の情報なんて考えないでいいほどプライドを優先していた」

 

「そうか……なら行くぞ」

 

「ああ」

 

 

 まるで友人の家に行くかのような気軽さでモモンは提案し、アクトは頷いた。

 そんな二人にペテルは驚き何かを言おうとして、その前にモモンはペテルへ視線を向けて口を開いた。

 

 

「我々の依頼者を攫った、こんな馬鹿にするような真似を許せると?」

 

「────」

 

 

 その視線と言葉にペテルは何も言えず、動けず、そんなペテルから視線を外したモモンとアクトはそのまま店を出ていき、そのままペテルの視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう、か。

 

 

 ネームレス直下の諜報役兼護衛である八肢刀の暗殺蟲が告げた言葉にセレネは頷き、腰掛けていたソファーから立ち上がる。

 その際にいまだ背中に引っ付いていた番外席次を若干無理矢理引き剥がし、冒険者時に使っているアストラシリーズを着込んでいく。

 背負うのは冒険者としての異名『白晶』の元となった大剣。

 

 

「神よ……」

 

 クアイエッセ、私は冒険者としての働きに向かう……貴公らは待機せよ。何、下手人は分かっているし────これは我々が解決する案件ではない

 

「御心のままに」

 

 

 止めようとしたクアイエッセに先んじて釘を指し、脚に引っ付く番外席次の首根っこを掴んで適当にソファーに放り投げ部屋の扉を開ける。

 

 

 番外席次、とりわけ貴公は部屋を出るな。もしも出て追いかけてきた時は………………ともかく、来るな。分かったな?

 

「はぁい」

 

 

 番外席次へと念押ししてからセレネは部屋を後にして、数秒後。

 ふと、クアイエッセは何かを思い出したかのように軽く天井を見上げ────

 

 

 

「あ、愚妹」

 

 

 

 

 神降臨で世界の彼方まで吹き飛んでいた今回の任務の内容の一つをポロリと口にした。

 

 




Twitterでも言ったんですが、この作品がだいたい原作でいう大虐殺辺りまで上手く進めたら並行してシンフォギア原作で別の書きたいと思ってます。チーズにするかは未定、チーズにするならもしかしたら先に短編の方にプロローグ的なのを投稿するかな?


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死の螺旋

ちょいと遅れましたが投稿です。
風古戦場はあまり回れませんでしたね……



 

 

 

 エ・ランテル共同墓地に恐怖の叫び声が上がった。

 

 

 その叫び声の主は共同墓地と市街地を分ける門にて職務を行っている衛兵たちのもの。何故に恐怖の声を上げているのか、それは簡単なことだろう。墓地で恐怖するなど死体が動いたか幽霊が湧いたかの二択ぐらい。

 そして、今回は前者だ。

 墓地から、奥から夥しい数のアンデッドが湧き出し、門へ目掛けて来たのだ。

 スケルトン、動死体では飽き足らず他にも食肉鬼(グール)内臓の卵(オーガン・エッグ)血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)、骸骨弓兵など多種多様のアンデッドが湧いている。

 

 如何に衛兵たちが門及び壁上から攻撃を加えていても、アンデッドらの数もあり次第にその数を減らしていく。

 

 

「だ、駄目です。兵長!?」

 

「アンデッドの数が多すぎて────ァァッ!?」

 

「なっ!?」

 

 

 悲鳴をあげるように現状報告をした衛兵の一人が内臓の卵から飛び出た腸にその首を巻き取られ墓地へと引きずり込まれたのを見た衛兵長は部下が死んでしまうことに嘆きと憤怒に顔色を染めて、別方向から伸びてきた内臓の卵の腸を素早く切り裂く。

 

 

「くっ……このままでは門は破られこいつらが街に……いったいどうすれば」

 

「へ、兵長!?」

 

「どうしたッ────な」

 

 部下が何か恐ろしいもの────眼下の状況ほど恐ろしいものは無いが────を見たかのように声を漏らし、衛兵長は部下が震え青褪めながら指差した場所、アンデッドらの群れのやや奥を見て絶句した。

 いったい何だあれは。

 衛兵長は当たり前に、他の衛兵たちもそれを見てそう思った。

 

 それは彼らが一度たりとも見た事がない化け物だ。

 

 

 二、三メートルはある体躯にその四分の三近くの大きさなタワーシールドと一メートル少しはあるフランベルジェを持ち、血管のような紋様があちらこちらに走っている棘が所々に突き出た黒い鎧に悪魔の様な角を側頭部から生やした同じく黒い兜をつけた怪物。フルフェイスではないのか、兜の顔は開いており眼球の無い眼窩に煌々と揺らめく赤い光が灯っている腐りかけた動死体の顔が見える。

 まさしく未知のアンデッド。

 死の騎士(デス・ナイト)と呼ばれるこのアンデッドは決してこの世界に存在しないという訳では無いが伝説級である為にこうして未知のアンデッドとして扱われ、だからこそ衛兵たちにとてつもない恐怖心を抱かせた。

 

 

「アンデッドの騎士……」

 

「み、見たことないぞ、あんなの……」

 

「あんなのが来たら……もう、お終いだ……」

 

 

 恐怖心だけではない、その目の色には絶望と諦めの色が混じっている。もはや、抵抗する事すら諦めた彼らはその手に握っていた槍を弓を剣を落とし、床に膝をついて────

 

 

 

 

「死の騎士か、問題ないな」

 

「ああ」

 

 

 

 軽く、当たり前のように放たれた言葉がやけに強く彼らの耳に響いた。

 そして、次の瞬間には何かが二つ自分たちの頭上を通って、墓地へと降り立った。

 

 

「〈電撃球(エレクトロ・スフィア)〉」

 

「────────!?」

 

 

 着地と同時に灰色の全身鎧に大斧を持った重戦士がその大斧を振るえば周囲のアンデッドが軒並み破壊され、それにより生まれた空白に降り立った漆黒のローブを着た魔法詠唱者により放たれた雷撃の球は死の騎士へと着弾し、その身体を殆ど破壊した。

 しかし、どうやらそれだけでは死ななかったのか、邪悪な笑みのようなものを浮かべた死の騎士はその手のフランベルジェで魔法詠唱者を殺す為に足を前に踏み出し……膨張した雷撃がその肉体を完全に滅ぼした。その際に周囲の何十ものアンデッドを巻き添えにして。

 

 

「は?」

 

「……夢、か?」

 

「何が……いったい」

 

 

 突如として現れた未知のアンデッド。生きてきた中で最も強く恐ろしい存在が現れたと思えばそれがたったの二発……いや正確には一発の魔法で消し飛んだという事実に目の前の光景や状況が夢なのでは?と考え始めてきた衛兵たちだが、衛兵長はすぐに正気になり慌てながらも呆ける彼らへと指示を飛ばしていく。

 

 

「お、お前ら!武器を拾え!あのやばいのは消し飛んだ!」

 

 

 あまりに呆気なかったが決して死の騎士が弱い存在である、とは衛兵長は勘違いしなかった。あの魔法詠唱者が強すぎるのだ、と理解した。

 少なくとも魔法の知識を聞き齧った程度にある衛兵長は、死の騎士に使われた魔法が第三位階の電撃球だというのは理解し、且つ強化してもないのにあの馬鹿げた威力を見たのに侮れるはずがないのだ。

 急いで墓地の二人の方に視線をやれば既に奥へと進む後ろ姿しか無く、

 

 

「……俺らは伝説の一端を見たのかもしれん」

 

 

 慌ただしく動く部下達を余所に衛兵長の呟きは墓地に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、まったく。

 

 

 エ・ランテル市街地。その一角で、いったいどうやって共同墓地から出てきたのか分からない何体ものアンデッドたちが現れていた。

 墓地と市街地を分ける門にも現れていた死の騎士が二体、スケリトル・ドラゴンが数体、そしてスケルトンや動死体が数十体近く。

 スケリトル・ドラゴン自体はミスリル級がきちんと準備を整えチームで挑むならば勝てるだろう、スケルトンや動死体は言うに及ばず……しかし、その数が問題だ。

 何より死の騎士というこの世界において伝説級のアンデッドが二体。その二体から溢れ出る負のオーラに集まった冒険者たちも冷や汗を垂らし、数歩無意識に後ろへさがっていた。

 そんな彼らを近場の建物の屋上から見下ろしているセレネは手を兜の額に当てて首を振っていた。

 

 

 いや、確かに死の騎士はこの世界じゃあ伝説級だが…………はぁ、勝てなくとも挑む気概は欲しいものなんだが……

 

 

 レベル三十五を二体はやり過ぎたか。そう呟いて、大剣の柄に指を這わせる。

 そう、何を隠そう。この眼下のアンデッドや門に現れた死の騎士はセレネが用意したものであった。その理由としてはまず、セレネが知る原作ではこの日と同日に商人として調査をしていたセバスとソリュシャンが乗った馬車が盗賊に襲われるが武技を使う人間の捕縛を命じられたシャルティアに蹂躙され、アジトももちろん蹂躙され……最後に破滅の竜王の調査に赴いていた漆黒聖典が装備していた世界級によりシャルティアは洗脳。

 そして、それの討伐依頼が冒険者組合で組まれ、モモンことモモンガがシャルティアを打ち倒し結果としてアダマンタイトになる────が本来の流れであったがしかし、セバスやソリュシャンを襲うはずの盗賊団が既になくなればシャルティアが漆黒聖典と相対する状況はない。ならば、シャルティア討伐も無いためにモモンガのアダマンタイト昇格は無くなる。

 それを考慮し、セレネは今回のズーラーノーンによるアンデッド大量発生を利用したのだ。

 

 

 一応、殺しはするなって言っておいたし……スケルトンや動死体は巻き込んでいいって言ったからなぁ。

 

 

 さて、どうするか。ちらりと墓地の方向へと視線を向けて、すぐに大剣を掴み屋根を駆け出し眼下のスケリトル・ドラゴンへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様」

 

「ああ……どうやら、セレネさんの事前情報通りのようだ」

 

 

 一時的に人化の指輪を外し、アンデッド特有の闇視を発動して墓地の奥を見てみればネームレスさんが調査して報告してくれた通り、何やら神殿のようなものがあってその前に複数人のローブを着込んだ怪しげな人間が何かをしている。

 確かズーラーノーンだったかな?

 アルベド曰く死霊魔術師(ネクロマンサー)のカルト組織とか何とからしいが…………あれ?死霊魔術師の最上位な俺がオーバーロードの姿でいけば終わるのでは?

 

 

「モモンガ様、お言葉ですが今回は冒険者としての地位を高める為…………それはやめときましょう」

 

「いや、お前何ナチュラルに俺の心読んでるの……」

 

「息子でございますから」

 

 

 え、いや、それ理由になってないだろ。

 ……はぁ、まったく。それでどうするか。

 

 

「まあ、アレらを倒すのが正解なのでしょうが……」

 

「……ああ、お前が戦った……戦ったとは言えんか。ともかくクレマンティーヌとかいう女はお前に任せる。あの魔法詠唱者は私が適当に相手をしよう」

 

「一撃で終わらせるのですぐに戻りますよ、モモンガ様」

 

 

 まあ、一撃だよな。

 さて、行くか。私は人化の指輪を再び付け奴らのもとへ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 




今回も短かったですね。戦闘は長くしたい……かもしれない


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雷撃

前回投稿からそこそこに間が……
シグルド当たりました。やはり単発か
ところで今年の水着はジャンヌだそうですが……滾りますなぁ



 

 

 

 霧と夜の闇が満ちる墓地の奥、謎の神殿のようなものの前で数人の怪しげなローブを着込んだ者らが何やら儀式の様な事を行なっていて────その中の一人がローブのフードを被っていない禿頭の男へと声をかけた。

 

 

「来ました、カジット様」

 

「……ふん、来たか」

 

 

 カジットと呼ばれた禿頭が視線を動かせばその先、街の方向から二人の人影がやってくる。片方は全身鎧、片方はローブ、両方共に銅級(カッパー)のプレートを付けた冒険者。

 カジットはそのプレートに怪訝な表情をする。

 最下級、すなわち銅級の冒険者がたったの二人だけであのアンデッドの群れをどうにか出来るものか、と。カジットとしては来るのはこのエ・ランテルに最近現れたという竜退治を成し遂げたアダマンタイト級冒険者だろう、と考えていたが来たのは銅級。

 首を傾げるがすぐにどうでもいいと考える。

 

 

「やあ、今夜はいい夜だな」

 

「まったくだ、かび臭い儀式をするには惜しくないか?」

 

 

 さながら茶を誘うかのような気軽さで告げられた言葉にカジットは苛立ち気に言葉を荒らげる。

 

 

「アンデッドの群れはどうした」

 

「吹けば散るような脆弱さだ」

 

「全部吹き飛ばしたに決まってるだろう?」

 

 

 さも当然のように告げた二人にカジットは見え透いた嘘を、と零し二人の冒険者を睨みつける。

恐らくどこかに伏兵が潜んでいて、目の前の二人は陽動なのだろうとあたりをつけて。

 

 

「ふん、貴様らなんぞにそんな事が出来るわけがない。どうせ、伏兵がいるのだろう?」

 

「フッ、信じるも信じないもそちらの自由だ。無論」

 

「すぐに理解するが、な────」

 

 

 瞬間、魔法詠唱者の手元に稲妻が迸り、カジットらへと襲いかかった。

 それに気がついたカジットはすぐさま近くにいた配下の襟首を掴み、自分の前へと突き出す。その際に生まれた反動を利用し他の配下からも充分に距離をとって────恐らくは雷撃(ライトニング)であろうそれは配下たちを炭へと変えた。

第三位階にしては威力があるそれにカジットは二人のプレートがこちらに対する偽装工作と見抜き────そんなわけはない────内心舌を打ち、声を荒らげる。

 

 

「クレマンティーヌ!貴様の出番だぞ!殺せ!」

 

 

カジットの叫んだ名前に冒険者の重戦士は一瞬、その手の大斧で反応したがそんなことに気がつくカジットではない。

 

 

「カジっちゃんさぁ、私に中にいろって言ったくせに出すんだァ」

 

「ふん、ワシだけでは時間がかかると判断しただけだ。貴様がいれば無駄に時間もとられんだろう」

 

「そりゃあそうだろうけどさぁ。まっ、別にいいけどね」

 

 

神殿の内部から姿を表したローブを着込んだ金髪の女、猫を思わせるその嗜虐的な表情は間違いなくその女がつい少し前にアクトが逃した女戦士クレマンティーヌだと理解させ、アクトは武器を構える。

 

 

「あぁ、約束どおり来てくれたんだァ……ふぅん、今度はお仲間と一緒ぉ?んじゃあ仲良くあの世に送ってやんよォ!」

 

「ぬかせッ」

 

 

嗤いながら一気に距離を詰め、そのスティレットでアクトを殺そうと鎧と鎧の繋ぎ目へと高速の突きを放ってきたクレマンティーヌに対して、アクトはその大盾を上手く使いその刺突を弾く、そしてそれを皮切りにクレマンティーヌはアクトの大斧の間合いを潰すようにアクトに張り付きながらの攻撃を始めた。

 無論、モモンはそれを見過ごすほど甘くはない────がそんなものはカジットとて同じだ。

 

 

「〈酸の投げ槍(アシッド・ジャベリン)〉!」

 

「チッ、〈衝撃波(ショック・ウェーブ)〉」

 

 

 クレマンティーヌとアクトの距離を離そうとモモンが魔法を使おうとすればすぐさまその隙をついてカジットが魔法を先んじて放ち、クレマンティーヌへ放とうとした魔法でカジットの魔法を防ぐ。

それを尻目にクレマンティーヌは曲芸師のような動きをもって着実にアクトへと攻撃を打ち込んでいく。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)魔法の矢(マジック・アロー)〉!」

 

「〈火球(ファイヤー・ボール)〉」

 

 

 カジットが新たに魔法を唱えればカジットの周りに四つほどの光弾が現れ、モモンへと殺到する。だが当たり前のようにモモンはそれを人の胴ほどはある火球で迎え撃ち、四つの光弾を飲み込む。

 その様を見る前にカジットはその場から距離を取り、すぐさま新たな魔法を紡ぐ。

 

 

「〈魔法最強化・盾壁(シールド・ウォール)〉」

 

 

 それにより不可視の壁がカジットの前面に出現し────その次の瞬間にはカジットの魔法の矢を飲み込んだ火球が炸裂、内部に溜め込んでいた火を撒き散らした。

 

 

「ぬぅぅぅ!!」

 

「存外、手こずるな……」

 

 

事前に発動しておいた盾壁により、炸裂した火のダメージを減らしたもののカジットは身体の所々に大きくはないが火傷を負い、それを見ながらモモン────モモンガはあくまで現地人の中でそこそこ強いだけで自分らからすれば雑魚同然という判断を切り捨てた。

確かにレベル百からすれば弱いが、それでも経験がある、実力がある。何もレベルで強弱を判断するものではない、とモモンガは判断しその上でカジットを倒すと決めた。

 

 

「〈魔法最強化・雷げ────!」

 

 

 その為に最強化した魔法を放とうとして、何かを感じ取ったのか唐突に魔法の詠唱を止めその場から飛び退いた。

 その判断は正しかったのか、次の瞬間モモンがいた場所に何かが勢いよく叩きつけられた。

 

 

「何……スケリトル・ドラゴンだと?」

 

 

現れたそれを見れば無数の骨が集まりドラゴンの形をしたアンデッド。スケリトル・ドラゴンがその尻尾を叩きつけており、モモンは面倒だと思いつつもそれごとなぎ倒すと考える。

 

「そうだ、魔法に対して絶対耐性を持つスケリトル・ドラゴン!魔法詠唱者にとって天敵である此奴を────」

 

「チッ……」

 

 

カジットの後方、神殿のような建築物の上空から更に二体ものスケリトル・ドラゴンが降り立った。

つまるところ、三体ものスケリトル・ドラゴンがこうしてモモンの前に立ちはだかった。

 

 

この世界において魔法とは神話でも見なければ早々第六位階以上という魔法は無い。現地人では帝国のフールーダと呼ばれる魔法詠唱者が第六位階に到達しているが、しかしスケリトル・ドラゴンには第六位階以下の魔法に対する耐性を持っているためにこの世界では実質的な魔法に対して絶対的な耐性を所持している、と言っても過言ではない。

だが…………

 

 

(スケリトル・ドラゴンは別に絶対耐性じゃないんだが……ああ、そう言えばこの世界第七位階なんて神話レベルだったかぁ)

 

「行けぃッ!奴を踏み殺せ!!」

 

 

カジットの指示に応えるように咆哮を上げてモモンへと殺到する三体のスケリトル・ドラゴンにモモンは飛行を発動し、するすると攻撃を回避していく。

その傍ら、モモンは視線を自分の相方であるアクトへ向ける。

 

 

「で?どうした」

 

「クソが!硬ぇんだよ!!」

 

 

超至近距離で刺突を繰り返すクレマンティーヌに体捌きで鎧の隙間への攻撃を上手く弾いていくアクト。

オリハルコンコーティングされたスティレット、というこの世界ではそれなりの武器とクレマンティーヌの常人離れした身体能力であっても凹みもしないアクトの鎧にクレマンティーヌは苛立ちを隠せず、アクトは余裕の態度である。

 

 

「さて、そろそろ煩わしい、なっ!」

 

「ッ────!?」

 

 

唐突にアクトの手がクレマンティーヌの腕を掴んだと思えば、そのまま投げられる。さながらそれはつい少し前、クレマンティーヌがバレアレ薬品店を襲撃した際にアクトにやられた事と同じようなもの。

投げ飛ばされた勢いが強いのか上手く体勢が立て直せないクレマンティーヌは空中で苛立ちを露わにして、

 

 

「ッア!?」

 

「いや、おい」

 

「なっ!?」

 

 

モモンを襲っていたスケリトル・ドラゴンのうちの一体の頭に激突しそのままその頭部を破壊した。

スケリトル・ドラゴンに激突した際にクレマンティーヌはややダメージが入ったのか、腰元から取り出したポーションを飲み、スケリトル・ドラゴンの首へと飛び移りその場で何やら片手でスティレットを持ち女豹のようなポーズを取ってみせる。

 アクトとモモンはすぐさま、それが本気の一撃の予兆だと理解しアクトは武器を握る手を強め、モモンはすぐさま魔法を発動できる様に準備をする。

 

 

「ぶっ殺す────〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉」

 

「武技……か」

 

 

 次々と発動していく武技にカジットはクレマンティーヌの勝利が確定したことにため息混じりに呟き、自らも早々に決着を付けるためにモモンへ視線を向け、仕留める隙を窺う。

 

 

「死ねッ!!!」

 

 

弦につがえた矢を引き絞るように身体を引き、その力を限界まで溜め込んだ瞬間にクレマンティーヌは撃ち出された。その際にクレマンティーヌの脚は足場であったスケリトル・ドラゴンの首を粉砕しながら。

魔法詠唱者であるカジットでは決して目に追えない英雄の領域に踏み込んだ存在の全力の一撃、避ける所か防ぐ事すら出来ぬソレはアクトの身体を容易に粉砕する様をカジットは思い浮かべ────

 

 

「〈シールドアタック〉」

 

「は」

 

 

それに合うように突き出された大盾はクレマンティーヌの一物をへし折り、ありえないそれに目を見開いたクレマンティーヌを余所にアクトはその竜狩りの大斧を両手で持ち掲げ、雷撃が迸った。

激しき雷撃迸る大斧は古竜の体躯を破壊する────無論、型落ちでしかないそれにそこまでの力があるのかは不明であるが……たかだか英雄の領域程度に踏み入っただけのただの人間を討つにはあまりにも、あまりにも強過ぎる。

 

 

「〈戦技・落雷〉」

 

 

大盾でタイミングを合わせ防がれたクレマンティーヌ、その硬直は長くクレマンティーヌ本人も掲げられた大斧から目が離せなかった。故に逃げる事は不可能、大斧は振り下ろされクレマンティーヌの肉を切り裂きその雷撃がクレマンティーヌの肉を焼き焦がした。

 

 

「な、な、な……」

 

「と、言うわけだ。こちらもこれで終わらせよう」

 

 

クレマンティーヌの死を見て言葉が出ないカジットにモモンは軽く笑みを浮かべアクトの大斧同様雷撃を手に纏い、詠唱する。

 

 

「〈連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 

手からのたうつ龍の如き雷撃。第六位階以下の魔法に対して耐性を持つスケリトル・ドラゴン、その耐性を超える第七位階の魔法はそのままモモンより放たれ、そのままモモンのそれに気付かずにカジットはスケリトル・ドラゴンらと共に消し炭と化した。

 

 

 

「……ふぅ、アレだな。こうしてある程度縛りがあるとなかなか厄介に感じるな」

 

「それでも、飛び回って仕留めにくい虫程度の厄介さですが」

 

モモンガの言葉にパンドラズ・アクターは言葉を加える形で首肯し、この墓地に佇む神殿のような建築物へと入っていった。

 

 

 

 




ろくに活躍出来なかったスケリトル・ドラゴンさんたち
「「「(´・ω・`)」」」

今回は時間がかかり何か変な気もしますが……そこは目を瞑っていただけると……
ところでネームレスがダクソロールじゃなくてブラボロールだったら、どうなるのかと考えたら法国がエグい……恐ろしくなります


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後日談

様々な予定が重なり、なかなか執筆時間が取れずこうして投稿が遅くなりました。待っていた皆さんにまずはすいません。
とりあえず今週からはある程度時間が取れるので更新を頑張りたいと思います。



 

 

 

嗚呼、ここは何処だろうか

 

 

ろくに声が発せず且つ動けない中、私は靄がかった視界をぼんやりと見つめる。

ここは何処なのか。ぼんやりとした視界が映すのは石室……ひんやりと涼しく決して薄汚くない場所……何処かの牢屋なのだろうか……いや、私はいったいどうしてこんな所にいるんだっけ?

…………ああ、確か……法国で人形から額冠を剥いで発狂させたんだっけ……うん、その後はどっかの聖典が追っ手になって…………確か、そうエ・ランテルのカジッちゃんの所に行って────────

 

 

「ァ、あぁ……!!」

 

 

そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。

私は、私は、私は!!あの時、カジッちゃんの計画を手伝ってあの『どのようなマジックアイテムも扱える』という破格のタレントを持った薬師を攫って、それでエ・ランテルの共同墓地で私は……あのいけ好かない全身鎧の大斧野郎と戦ってそれで────────

 

 

 

「おや、漸くお目覚めかな?」

 

「ッ」

 

 

石室に響く私以外の声。

声音から恐らく男、そこそこの年齢であろう男だが……明らかにこちらを見下している奴の声だ。私は痛む身体……と言っても何故か首ぐらいしか動かせない為、無理矢理その声のする方へと首を動かし視線を向ける。

朧気な視界、そこに映るのはオールバックの黒髪に日焼けしたような肌で丸眼鏡をかけた…………何やら仕事の出来る男という風体な男。それに加えて白い装束に身を包んだ烏の嘴を思わせる仮面を付けた何かと腕が太く全身の肌が乳白色に加え体にピッタリとした黒い革の前掛けに頭は隙間が一切ない同じく黒いマスクを付けた二体の何者か………。わかる、経験上これらがなんなのか分かってしまう。

 

 

「ぁ……く、ま」

 

「ほう、どうやら現状が理解出来ているようだ」

 

 

私の掠れた声で零れた奴らの正体に丸眼鏡の悪魔はまるで問題に正解した生徒に教師が向けるような笑みと言葉で私を見る。

いったい、どういう事だ。死後の世界だとでも言うのか!?

そんな私を奴らは嘲るように見て……その表情を正した。

 

 

「……さて、無闇矢鱈に騒ぎ立てないでくれたまえ?我々としては君たち人間の悲鳴は実に愉快であるが…………至高の御方の前に我々の趣向は無視すべきものだからね」

 

至高の御方?なんだ、それは。こんな悪魔どもが至高と平伏する何かが存在すると?馬鹿げてる……こんな、どう考えても私じゃ勝てないようなバケモンの上位者なんて────

そこまで考えて私は、自分の元隊長とあのバケモン女の事を思い出した。

法国の切り札。最強の人類。

ならば、アレらに類する神人か何かがこれらの裏にいるのだろうか。

 

 

「ぁぁ、あぁ……!」

 

 

すまない。待たせたな

 

「いえ、そのような事は」

 

 

また、誰かが来た。

朧気な視界に姿を現したのは……銀色の騎士風の誰か。

まるで英雄が討ち倒した獣の皮を纏うように両肩を覆う毛皮、腰に下げてある二本の剣。その佇まいから間違いなくあのバケモン女に近しい力を持っているというのを察せられる……だが、これが神人なのかは分からない。

得体の知れない何かだというのは分かるがしかし、理解出来ない。

 

 

ああ、そうだ。蘇生ご苦労

 

「至高の御方々の御命ならばどのような事でも」

 

本当に助かるよ……そうだ、何か褒美をやろう。何が欲しい?

 

「そ、そのような……御方の御命ならばそれに応えるのが守護者いえこのナザリックのシモベとして当然の事、褒美など畏れ多く……」

 

むぅ……そうか、なら仕方ないか

 

 

そう、騎士風の男は悪魔との話を終わらせ私を見下ろす。

この石室が暗いためか兜のスリットから顔は一切窺えない……いや、いや、覗かれている。

 

 

「ぁ」

 

 

兜のスリット、その闇に浮かび上がる赤いソレが私を覗き見ている。

ソレは火だ。熱い視線を送るという言葉があるが、いま向けられているソレは比喩なんかではなく正しくそれそのもの。

熱量を伴った視線だ。この男がその気になれば私はこの視線だけで焼け死ぬだろう。

 

 

クレマンティーヌ。我が徒たる、クアイエッセが妹よ。貴公は神に仕える巫女姫を徒に狂わせた背信者。異邦なれども誓約は我が心に健在故に

 

 

手が伸びる。

あの糞兄の名前が出てきたがそんなものはどうでもいい。

身体が動かせれば私は今すぐにでもみっともなく悲鳴をあげて、ここから全力で逃げ出したい。

嫌だ、やめてくれ。何をされるのか分からない。分からないが……その何かが終わったら私は終わりだ。

 

 

私が、俺が仕留めたわけではないがその証は貰い受けよう。何にせよ復讐は果たされたのだからな────

 

 

手が私の頬へと伸びて

 

 

「ぉぁ────────」

 

 

引きちぎられた。

焼けた。

音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「耳、だけでよろしいのですか?ネームレス様」

 

ん、構わんよ。もとより私の信条の為に蘇生させたからな……

 

 

血を抜き乾かすといった処理を終えた一対の証を布に包み懐へしまい込むネームレスにデミウルゴスはやや遠慮気味にそう聞いた。

そんなデミウルゴスに対してネームレスは兜を揺らすようにクツクツと笑いながら想起し口を開く。

 

 

なんなら、青ざめた舌を取るというのもあるが……私は暗月の剣、何より復讐の証の方が良いのだ。まあ、今では廃れた風習であるが……

 

「暗月の剣……ネームレス様、御身が時折口にしていたその暗月の剣とはなんなのでしょうか……どうか、この愚か者に御教え頂きたく」

 

ん、あー……そう、だな

 

 

まさか、ソレを聞かれるとは思ってもいなかったのかネームレスはやや戸惑ったような気恥しいような態度を取りつつ兜の頬をかく。

思い出すのはユグドラシル時代、ギルドではなくクランであった頃、ナインズ・オウン・ゴールに入ったばかりの際にこの目の前のデミウルゴスの創造主であるウルベルトより似たような質問をされた時のこと。

その際は上手く誤魔化したが、この今は違う。

原作のデミえもんを知っているネームレスとしては下手に誤魔化せば深読み勘違いによる胃痛の運命が待ち受けているのを手早く察した。

 

 

ん……まず、私はユグドラシルより前にも別の世界で冒険をしていてな

 

「ユグドラシル以前にですか?」

ああ。神代の時代に一人の人間としてひたすら駆け抜けていた。ただ、ただ、使命に殉じて神を屠り、古竜を屠り、英雄を屠り……まあ、そんな頃に属していたのが暗月の剣という復讐代行、神の敵を始末する者、背信者狩り

 

「なんと……ネームレス様はアンデッドになられる以前から強者であらせられたのですね」

 

 

ネームレスの過去に感激しているデミウルゴスを余所にネームレスは石室の出口へ歩いていき

 

 

まあ、そんな頃の名残だ。捧ぐ対象はもはやいないが時折こうしてな。それと、今回の褒美となるのか分からないが……ソレはお前達の好きにして構わない。この世界じゃあ英雄クラスらしいからな、交配実験、スクロールの実験、好きに使うといい

 

 

そう最後に告げ、感謝に打ち震えている悪魔たちのいる石室をあとにした。

 

 

…………竜王国か聖王国に行きたい

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今日この時から君たちチーム『漆黒』がアダマンタイト級冒険者チームとして活動する事をエ・ランテル冒険者組合組合長プルトン・アインザックが認める」

 

「ええ、ありがとうございます。組合長」

 

 

エ・ランテルを舞台に起きた大事件、邪教集団ズーラーノーンによるアンデッド大量発生事件が解決してはや二日。

早期の事件解決、多くの冒険者の協力により驚くほど被害が少なく済んだエ・ランテルは事後処理を終えたこの日、事件解決に尽力した冒険者たちに対して冒険者組合及び都市から報酬が与えられていた。

無論、今回の件でしっかりとした活躍をした冒険者は評価されその実力に見合ったランクへと昇格する事を許された。モモンガことモモンもまたその冒険者たちの中の一チームだった。

 

 

冒険者のランクとして最上級のアダマンタイト。

今回の事件を直接的に解決したモモンとアクトに与えられた報酬の一つがそれへの昇格、無論如何に今回のような大事件を解決したからといって銅級でしかなかった新人チームが最上級ランクになるなど本来だったらありえない話だ。

では、何故こうしてモモンはアダマンタイトに昇格出来たのか、それは―――

 

 

(いやぁ、まさかあのクレマンティーヌ?の実力を証明してくれる人がいたとは。ネームレスさんはなんか疲れてる感じ出てたけど、ラッキーだったな)

 

 

事件の主犯の一人である元スレイン法国の特殊部隊・漆黒聖典所属であったクレマンティーヌの情報を組合長と都市長に開示した人間がいたからだ。

それは元々裏切り者であるクレマンティーヌの処理を命じられていた────戦神と崇めるネームレスに出会った事でつい忘れていたが────クアイエッセが自らの身分を提示しクレマンティーヌの実力を組合長と都市長へと伝え────正確に言えばあくまでクレマンティーヌは法国が追っていたズーラーノーンの幹部の一人で法国の裏切り者という事は伏せた情報であるが───更には現アダマンタイト級冒険者であるセレネの推薦もあり、こうして彼らはアダマンタイトへの異例の大昇格を手に入れたのだ。

 

 

(あらかじめ用意していた────なわけないか。なんか、ネームレスさん去り際に用意してたものが使えなくなったとか言ってたし)

 

 

モモンガが思い出すのは組合に呼ばれる少し前、アダマンタイトへの推薦その他の旨を伝えに来たネームレスがまるで苦虫を噛み潰したような表情で言ったこと。

曰く、本来ならちゃんとモモンら漆黒がアダマンタイトになれるようなものを用意したのだが今回の事件は誤算で仕方なく手を回し、一部のアンデッドを配置したとの事。

そもそもネームレスとしてはミスリル、運が良ければオリハルコンになるだろうという考えで推薦し、そんなアダマンタイト級冒険者に恩を着せようとした為にこの破格の昇格となった。

 

 

(……いや、でもなぁ。アダマンタイトになったはいいけど、新人がいきなり最上級ランクになるって……絶対ベテラン冒険者に難癖付けられるよなぁ)

 

 

出る杭は打たれる。陰口、嫌がらせ等の心配がフツフツと湧くモモンガだが、そんな心配は杞憂である。

原作ならば確かに銅級からミスリルへと昇格したモモンに対して先輩ミスリル級冒険者であるイグヴァルジが突っかかっていたが、この世界においてはイグヴァルジは先日に現れたアダマンタイト級冒険者セレネの勇姿を見て嫉妬心というものを無くし、セレネの推薦があったモモンの実力に納得しているのである。

 

そんな事は知らないモモンガは組合長から手渡されたアダマンタイトのプレートを見ながら内心で溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 




クレマンティーヌは冒険者組合の遺体を回収、その後ナザリック行きとなりました。

そういえば仮面ライダービルドの映画公開されましたね。まだ作者は見に行けてないので早いうちに見に行きたいと思います


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合間の一幕

今回もなんやかんやで投稿が遅れました。
理由としてはFGOの夏イベで少し創作について考えさせられたりしました。
Twitterで弱音を吐いた際には暖かいお言葉をかけていただきありがとうございました。
義務感で投稿するのではなく、楽しく投稿する。



 

 

 

 

ナザリック第九階層。

ナザリックの中では居住区にあたるその階層にはBARや大浴場、美容院、雑貨屋、果てはエステやネイルサロンまである。そんな階層の奥に一つ、守護者や至高の四十二人ですら入るのに制限のかかる施設が存在する。

その施設の名は教会。

このナザリックにおいて崇拝し信仰する対象など至高の御方々をおいて他に存在しないわけであるがその教会は至高の四十二人を信仰しているというわけではない。かといって他の神を崇めているかというとそうでもなく、単純に教会という施設に近しい部屋であるだけ。

さて、何故この施設に入るのに制限があるのか。それはこの施設が至高の四十二人の一人であるネームレスの第二のプライベートルームであるからだろう。

ナザリックを手に入れ内装等の様々な作業を行っていた頃のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。その際に第九階層にいくつか部屋が余ってしまった事があり急遽として行われた『チキチキナザリック余り部屋は誰のものでしょうかゲーム』というイベントにて勝者の一人となったネームレスが獲得、二人目の自作NPCを設置し第二のプライベートルームとした。

教会という施設にしたのは単純にその自作NPCに合わせた為である。

 

寝室同様許可なくば入室を許さぬその教会。

その扉の前で至高の四十二人が一人、この教会の主であるネームレスが護衛とメイドを連れて呆然と立っていた。

 

 

(……最後にここきたのいつ以来だったか。確か、三年前か?……最初の火の炉を造ってからはまったく来なくなったからなぁ)

 

(いや、それよりも動いてるんだよな。レティシアを見る限りあちらの世界での記憶があるっぽいからな。うぅむ……戦闘の可能性を考えなきゃ駄目か)

 

 

まあ、それを考えたからこれなんだがな。そう呟きながら肩を竦めるネームレスの姿はいつも通りのファーナムシリーズと呼ばれる神器級一式装備。指輪は斬撃耐性や氷冷耐性、炎熱耐性ときっちりとしたものを選び、腰には愛用の双剣であるゴッドヒルトの双剣が下げられている。

 

 

……ふぅ、行くか

 

 

息を吐き足を前へと進める。その際に付き従っていたメイドが教会の扉を開けようと手を伸ばすがネームレスは無言でそれを制し自ら扉を開く。

扉が開き、廊下より教会内部が窺える。

それはとても落ち着いた空間。静寂というのだろうか、そういった雰囲気が扉の前にいるメイドや護衛に感じ取らせ、そんな事はお構いなくネームレスは教会へと足を踏み入れる。

無論、それに追従しようとするメイドと護衛だが、その前にさっさと後ろ手に扉を閉める。

 

 

「ネームレス様!?」

 

ここより先は私と私が許した者だけの場。今宵はここにいる、貴公らは普段通りの仕事に従事せよ。いいな

 

「は、ハッ」

 

 

兜の下で面倒くさそうな表情をしつつ、メイドと護衛に解散を言いつけ扉を完全に閉める。

教会へと足を踏み入れたネームレスはそのまま敷かれた絨毯を歩いていきながら、視線を辺りへ向けていく。

ナザリックの内装と比べれば二段階ほどはランクダウンしている内装、それは作成者であるネームレスがあまり華美にしたくなかった為で、静寂を感じるゆったりとした華美になり過ぎず尚且つ質素すぎないように調整したもの。

ギルドメンバー最年長の死獣天朱雀からアドバイスを受けながら作ったそれはネームレスの心に安らぎを与えていた。

 

 

……最初の火の炉とはまた違った安らぎがあるな。

 

「それは良いことですね。亡者の王よ」

 

────ッ

 

 

教会に女の声が響いた。

その声にネームレスはその足を止め、前方を注視するがそこに女の影はない。では、とゆったりと後ろを振り向けばそこには嘗て自分が創り出した女が佇んでいた。

禁欲的な修道服に身を包みフードを被った裸足の女性。

 

 

エルフリーデ……

 

「ええ。御久しぶりですね、亡者の王」

 

 

ネームレスの中にある嘗ての記憶と違いフードで目元まで隠していない彼女の微笑みにややたじろぎつつも、その腰に下げている武器の柄に手を伸ばす。

しかしそんなネームレスの心中など知らんと言わんばかりにエルフリーデと呼ばれた彼女は微笑みを絶やさずにネームレスへと近づいていく。

 

 

(あれ……全然敵意が感じないのだが。いや、俺……私はアリアンデルの絵画世界でアリアンデル諸共彼女を殺したわけで……敵意を抱かれない筈がなくて……ええ?)

 

「?……ああ、いま私が貴方と殺し合った所で何も意味はありませんので」

 

むぅ、いや、確かに……そうではあるだろうが

 

「こうして死んだ筈の私を甦らせたのはそもそも貴方でしょう……思うところが無いというのは嘘になりますが、我が妹の様に今生では貴方を王として仕えるのも吝かではありません」

 

 

あまりに予想外な言葉にネームレスは兜の下で口を開き唖然とする。そんなネームレスに気づかずエルフリーデは近くにあった長椅子に腰掛ける。

 

 

……いや、待て。

 

「どうしました?」

 

別に貴公が私に仕えるというのは私としても嬉しい話だ。その前に少し聞きたいことがある……貴公、貴公はこの現状……今生をどう認識しているんだ。

 

「今生をですか?……そうですね」

 

 

今生、すなわちユグドラシルにてナザリックのNPCとして作られてからという事。

先日、ネームレスがもう一人のNPCである火防女レティシアにも似たような質問をした際には嘗てとは違う世界にてネームレスがレティシアのソウルを基にレティシアの肉体を創った事で甦った、と返された。ネームレスはレティシアもエルフリーデも同じなのかそれとも差異があるのかを確認する為にこうしてエルフリーデにもこの質問をぶつけた。

無論、やや混乱した頭を整理する為の時間稼ぎという理由もあるにはあるのだが。

 

 

「……貴方がアリアンデルの絵画世界にて私を殺し、得た私のソウルを用いて、このナザリックという領域に在る存在として肉体を創った為に私はこうして嘗ての記憶と共に甦った。そう認識しています」

 

「そして、このナザリックには至高の四十二人と呼ばれる上位存在、神々が如き者が存在していた……今では貴方ともう一人だけ。絶対の忠誠を誓う事は……難しいでしょうが少なくとも私は貴方の事を我が主、もう一人の御方も敬意を払うべきと考えています」

 

そ、そうか……(レティシアと概ね同じ、と。にしてもエルフリーデが私を主と認めるなんてなんというか……考えつかん。これがユリアやヨエル辺りなら分かるんだが)

 

 

そんな微妙な反応を返すネームレスにエルフリーデは首を傾げる。

殺し合った相手である為に目の前の姿があまりにも想像出来ず、ネームレスは頭を抱えるばかりである。だがすぐにこういう事もあるのだろうと割り切り……割り切れてはいないが姿勢を正す。

 

 

ま、まあ、とりあえず、貴公の考えはよく分かった。……では、改めてよろしく頼む

 

「ええ、どうぞよろしくお願いします。我が主」

 

 

仕えられる側が立ったまま、仕える側が座ったまま。そんな些か奇妙な主従の誓いにネームレスは兜の下でクツクツと笑った。

 

 

 

 

 

「ところで、何故私にしたのですか?」

 

奴隷騎士や闇喰らいよりも強かった、からだな

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

ネームレスが教会へとこもっている頃、同じくナザリック第九階層・モモンガの執務室にて部屋の主であるモモンガ、守護者統括アルベド、第七階層守護者デミウルゴス、そしてモモンガが創造した宝物庫領域守護者パンドラズ・アクターが何やら様々なものが書かれた書類を見ながら考え事をしていた。

 

 

「ふむ……やはり、法国の後に法国へ武威を示す為にビーストマンの群れを殲滅。この流れが一番か」

 

「はい、やはり法国を支配下に置く為には我々ナザリックの、ひいては至高の御方々の御力を示すのが一番であると愚考致します」

 

 

書類を見ながら呟いた言葉に反応したデミウルゴスが胸に手を当て、意見を述べる。そんなデミウルゴスの意見にアルベドはやや顔を顰め口を開く。

 

 

「わざわざ至高の御方々の御力を見せなきゃならないの?そもそも至高の御方々の玉体を眼にするだけでも生命を捧げ感動する程の栄誉なのよ?」

 

「いえいえ、アルベド殿。あくまでそれは我々ナザリックの価値観。将来の彼らの子孫ならばともかく今の彼らにそれを求めるのは些か酷でしょう」

 

「パンドラズ・アクター……」

 

 

文句を言うようなアルベドを窘めるようにパンドラズ・アクターが口を開き、そんな彼らを見てモモンガは内心頷いていた。

 

 

(いやぁ、パンドラズ・アクターを宝物庫から出してほんとに正解だったなぁ。俺が創ったNPCだから遠慮する必要も無いし、なんか俺の素も知ってるから気を抜いても大丈夫だし。……うん、あのわざとらしい派手な動きと喋り方がなくなるだけでこんなに感じ方が変わるなんて…………ほんと、ネームレスさんありがとうございます!)

 

(それに何より、こうして人間蔑視をするアルベドを窘める言葉をかけてる。頭ごなしに否定するんじゃなくて改善するようにしてる……うんうん、いいぞ!)

 

(貴方様に創られたこのパンドラズ・アクター。見事期待に応えてみせますとも!)

 

(お、おう……)

 

 

互いにコンタクトする眼球が無い創造主と被造物による唐突なアイコンタクトが行われたのをデミウルゴスもアルベドも知ることは無くより一層計画は練り込まれていく。

 

 

「モモンガ様。このビーストマンですが調べましたところ、ビーストマンの革には第四から第六位階魔法が込められることが判明致しました」

 

「ほう、第四から第六位階魔法を……」

 

「はい。無論、第六位階と言いましてもどの個体も可能というわけでなく、ビーストマンの中でもとりわけ強力な個体のみ第六位階魔法を込められる革が得られました」

 

 

デミウルゴスの説明にモモンガは手を顎に当てながら考えこみつつ、その視線をパンドラズ・アクターへと向ける。

その視線に気がついたのかパンドラズ・アクターはアルベドやデミウルゴスに気づかれないように頷いた。

 

 

「デミウルゴス殿。つまるところ、今回のビーストマン殲滅に際してとりわけ強力な個体、すなわちリーダー格は捕獲するという事ですかな?」

 

「ええ、既に一体程捕獲していますが、一度に取れても精々片手で数えられるほど。安定した供給の為にはせめて五、六体は欲しいところでして」

 

「なるほど……アルベド殿、ビーストマンの軍勢の正確な数は如何程で?」

 

 

デミウルゴスの言葉に頷き、その次にアルベドへと質問を投げればすぐに返答がくる。

 

 

「そうね、流石に細かくは分からなかったけれど、だいたい十万少しじゃないかしら?少なくとも十万は下回らないわ」

 

「それほどの数ならばリーダー格が数体……いえ、十数体はいてもおかしくありませんな。ならば、法国や竜王国へのアピールとなる首の為に殺してもスクロールの素材も確保出来ますね……」

 

 

モモンガにもわかりやすく質問と解説をした、パンドラズ・アクターに心の中で礼を言いつつふとモモンガは心の中で頭を捻る。

 

 

(……これって別に俺が出なくてもいいんじゃ、そもそも竜王国には以前竜王国を助けたネームレスさんの方がいいだろうし、俺が一人で超位魔法を使うのとは訳も違うし……よし、ネームレスさんに丸投げしよう。うん、冒険ならともかく戦争は遠慮したい)

 

 

戦争はネームレスさんに任せよう、そう考えながらナザリック側の軍編成に目を通していると、とある部分で目が止まった。

 

 

「む、アルベド。この死神部隊というのは?」

 

「はい、それでしたらモモンガ様が御創りになられた不死の戦士(デス・ウォーリア)で編成した部隊をネームレス様が直々に率いると伺っております」

 

不死の戦士(デス・ウォーリア)?……ああ、先日のか」

 

 

思い出すのはつい先日の事。何やら実験に使いたいと言ってネームレスがデミウルゴスに用意させた騎士の遺体数人分を使って作成したアンデット。

遺体を使って作った為、消えなかったのか……そうモモンガは納得し頷いた。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

それに気がついたのは蛇によく似たビーストマンであった。

平均的な成人男性の胴回りよりやや細めの身体をした鼻先から尻尾の先までが凡そ二メートル少しの蛇に人間の様な手足……無論、鱗が生え指の数は違い筋肉量も違うが、手足が生えた人間からすれば奇妙か醜悪な見た目の怪物。

そんな蛇のビーストマンが何やら奇妙な物音に気づいたのは蛇らしく日陰にいたからだろう。

舌をチロチロと出しながらその奇妙な物音に首を傾げつつも、好奇心が勝ったのか物音のする方向へと足を向けた。

 

そこはビーストマンの溜まり場もとい集落に面した森の中。

入り口ではない場所から入って凡そ数分もしない場所。

薮を掻き分け、物音のする場所を覗いて見れば……そこには不審なものがあった。

 

 

「血……?」

 

 

まるで何かを殺し解体した……いや、解体というには地面や周囲に溜まり飛び散った血の量が尋常ではない光景。

よく見れば何か毛皮の切れ端のようなものが落ちていたりする。

ビーストマンという面から見てもあまりに奇異なその光景に何か感じたことの無いものを抱き、本能が警鐘を鳴らし始め、すぐさまその場から離れようと蛇のビーストマンは一歩後退して────

 

 

やあ(Hello)

 

「あ────」

 

 

肩……人間でいう肩と呼ぶ場所、腕の生え際へと置かれた冷たい感触と囁かれた音に蛇のビーストマンは固まった。

振り返る事もせず、ただ目を見開き口を半開きに舌を出したまま蛇のビーストマンはそこから動けない。

そんな蛇のビーストマンの反応にどう思ったのか、腕の生え際の感触は消え蛇のビーストマンは一瞬安堵の息を漏らそうとし―――

 

 

「ッア────!?」

 

 

声にならない悲鳴が盛大に漏れ出た。

それは右脇腹に生じた激痛が原因なのだろう、いきなり何か太いもので殴りつけられた様な痛みを感じ、蛇のビーストマンは膝を突いた。

次の瞬間、今度は膝を突いた為に下がった側頭部目掛けて何かが直撃し、蛇のビーストマンはその意識が揺さぶられそのまま横に倒れた。

殆ど潰れた視界。見えるのは赤、朱、紅。

そして、倒れた蛇のビーストマンを見下ろすように立つ金と白の鎧に身を包み鉄塊とも言うべき武器を振り上げる一人の騎士が見た。

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

処理を終えた騎士は武器の血を拭き取り、その場に佇む。

その兜のスリット、そこから覗き見えるのは亡者の赤い瞳であった。

 

 

 

 

 

 





オリジナルモンスター
・不死の戦士(デス・ウォーリア)
……レベル五十台後半のアンデット系モンスター。ゾンビタイプで戦士系職業をとっており、死の騎士と違い比較的人間サイズ。
……鎧を装備させると見た目が変わるなど見た目が変えられる事で一部には人気だが死ねば装備しているアイテムを一部ドロップする、死の騎士よりレベル高いのに性能的に死の騎士の方がいい、などの理由であまり召喚されないモンスター。


ネームレスのNPC2人目は修道女フリーデです。おじいちゃんや闇喰らいよりも死んだ回数が多かった思い出がありますね。
何故、エルフリーデなのかと言いますと、DLCの中でエルフリーデが特に好きで、強く、後は主人公は暗い穴8つ持ちの亡者の王なので黒教会繋がりですね。



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合間の一幕Ⅱ

難産だった癖に短いです。
もう少し増やそうとしたんですが流石に時間が足りなくて、ここで切って投稿しました。


 

 

 

 

 

武技・領域。

 

 

自身を中心としておよそ三メートル程の不可視の円形の領域を創り出す。宿敵に勝つ為に編み出したオリジナルの武技であるそれを使い、鞘に収めた刀の鍔に指をかける。

相手がその領域に入り込み隙を見せれば、その瞬間もう一つのオリジナル武技による一撃を放つ。

故にその瞬間を待ち続け……相手がその右手に握った鋭利な刃による刺突を放ち────鞘に収められた刀が走り、その鋒が相手の兜と鎧の繋ぎ目へと吸い込まれていく。

 

 

コフッ―――

 

 

腹から右肩へかけての熱、それは自身の血潮によるもの。

口から血を吐きながら視線を動かせば相手が右手で何か柄の様なモノを持ち振り上げていた。必殺の一撃は外され、絶対の自信があった領域ですら知覚出来なかった不意の一撃。

薄れゆく意識の中、身体はそのまま崩れ、膝を地面に突き、死の一撃を見る前に終わる。

 

 

「……ああ、またか」

 

 

意識が闇の中へ消えるその瞬間に男は目を開き、口を開いた。

視界に映るのは戦っていた相手ではなく、洞窟を利用して造られた戦いの場でもなく、木張りの天井。男がここ最近見るようになった光景でいまだに慣れない光景。

男は手を伸ばし、握っては広げる動作を繰り返す。

 

 

「また、あの日の事を……」

 

 

そう辛い様な悔しい様な悲しい様な釈然としない様な声音で呟きながら、男は自分が寝ていたベッドから抜け出す。

ベッドの脇に置いてあったブーツに足を通し、立てかけておいた愛用の刀を手に取り腰へと吊り下げる。その際にふと、視界に映ったモノへと視線を向ける。

借りた部屋にある戸棚、そこに立てかけられている一振りの剣。特に飾り立てされているわけでない至って普通の直剣であるがその質は男の愛用している刀に近しいもの。

それは決して男の物ではない。

 

 

「…………」

 

 

男の名をブレイン・アングラウス。周辺諸国最強とうたわれるリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに勝るとも劣らない実力を持つ剣士。

嘗てのブレインは宿敵ガゼフ・ストロノーフに打ち勝ち己こそが最強だ、と示したかった……しかしもはやブレインにはそのような思いはなく、あるのは敗北の記憶。

立てかけられた直剣の持ち主。それこそがブレインを切り裂いた騎士であり、夢の中で何度も何度も切り裂く人物。

いったいどういう意図があって、敵である自分を生かし更には武器を置いていったのか、ブレインには分からない。

 

 

「……クソっ」

 

 

苦々しい表情で吐き捨て、ブレインは部屋から出ていく。

胸の中に渦巻くグチャグチャな感情、それに上手く向き合えないブレインはいまだ敗北より立ち直れていない。

しかし、それでも、と。ブレインは足掻いている。

部屋を出て、廊下を歩き階段を降りていくブレイン。その際に降りた先の部屋に家主がいないことを確認しそのまま玄関へと進んでいく。

 

 

「……今日で何度目だ。少なくとも片手じゃ数え切れない」

 

 

ブレインが敗北の夢を見始めたのは敗北し、意識を失ったその日から。

騎士に敗れ意識を失ったブレインは殺される事もなく、切り裂かれた傷もなく、一人用心棒をしていた盗賊団のアジトにいた。意識を取り戻したブレインは自分の身体に傷一つ無かった為に先程の戦いは夢幻そのものであったのでは?と考えたが周囲の状況からそれは違うと断じた。

何より、ブレインの傍らに一振りの剣、騎士がブレインとの戦いの際に振るっていたものが鞘に収められ置かれていた。

どうして見逃されたのか、どうしてここにこの剣があるのか、様々な事柄が頭の中に渦巻きながらもブレインは剣を抱えて走った。その理由はブレインには分からない。

 

 

「だが、あの夢も悪いことばかりじゃない……」

 

 

そう、最後の一撃。あれは俺と同じ刀によるものだ。

ブレインは何度も夢を見た事でその時では気づけなかったものを僅かながらに気づくことが出来た。夢の中の自分と夢を見ている自分、それは決して同一ではなく夢を見ているブレインは夢の中のブレインと同じ体験をしつつも一歩引いた視点で夢を見ていた。

だからこそ、あの瞬間では気づけなかった騎士の一撃がどのようなものなのかを知れた。

 

 

「……まあ、知ったからどうなんだって話だな」

 

 

そう、思考を終わらせブレインは影のある表情を見せ、手頃な店へと足を向けた。

居合いの剣士、その皮が剥けるのはまだ先の話。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓以下略。

私ことネームレスは自室にてモモンガさんと一対一の話し合いをしていた。いや、割といつも通りのことだけども。

 

 

「と、言うわけで今度のビーストマン戦はネームレスさんにお任せしますね」

 

あー、まあ、別に私としてもそれは構わないんだが。私に押し付ける事に関して罪悪感または謝罪の一つや二つはない?

 

「え?あるわけないじゃないですか。何をいまさら」

 

おい、ギルマス

 

 

曰く戦争は遠慮したい、そんなモモンガさんから私は今度の竜王国へ侵攻してくるビーストマンの大軍に対する戦争?蹂躙?の総責任者を押し付けられた訳だがとうのモモンガさんはその事について一切の遠慮はなく。

清々しい表情で笑っている。殴りたいこの笑顔。

だが、まあ、これもモモンガさんが原作よりも人間らしいという証なのだろう。

私としてもこういった傾向は嬉しいものだ。

だが、それはそれ、これはこれ

 

 

冒険者稼業!神様稼業(仮)!戦争指揮!私に自由はないのか!?

 

「少なくとも全部貴方が自分で関わってると思うんですが?」

 

気のせいです!

 

 

そう、気のせい。気のせい以外の何者でもない。

そもそも法国に関しちゃ番外席次が来たのが悪いのであって私は一切悪くないと思う。

 

 

「ともかくその件はよろしくお願いしますよ?その後は適当に自由にしてくれて構いませんから」

 

自由……そうだ、帝国に行こう

 

「帝国ですか?あ、じゃあその時は現地調査お願いしますね」

 

自由とは何だったのか

 

 

溜息を吐きながら、事前に自分で用意したミルクティーを飲む。

……む、記憶を頼りに作ったから不安だったがそこそこに美味しいな。茶葉か、やっぱり茶葉がいいのだろうな。

仕方ない。とりあえず既に資料が作られてるから上手い具合にそれを使って指揮をしよう。索敵にはニグレドを借りていこう……あの部屋嫌いなんだよな、怖くて。

 

 

「そういえば、帝国と言ったらデミウルゴスが事前に調査してたんですよ」

 

おい、なら現地調査いらないのでは?

 

「え、いや、NPC目線ではなく我々目線での調査が必要だと思いまして」

 

 

モモンガさんの言い分に私は納得し、帝国がどんな国だったかを思い出す。

憶えているのは多くの貴族を粛清したという鮮血帝とこの世界の住人にしては高レベルの魔法詠唱者……無論、大した相手じゃない。他には鮮血帝の護衛もとい帝国の最高戦力の一つである四騎士……確か、一人だけ女騎士がいた記憶がある。

呪いか何かを解く手段を探してて、鮮血帝に仕えているのもそれを探す為だとか……そして、それを解いてやれば喜んでこちらに着く……だったか。解呪……解呪かぁ、呪い、バジリスク、集団リンチ……う、頭が。

 

 

「え、ネームレスさん、いきなり頭抱えてどうしたんですか?そんなに嫌だったんですか?」

 

いや、気にしないでくれ。うん、ほんと。

 

 

最下層で呪死した挙句、それを解呪する為に小ロンドへ足を運び道中で何度も何度も幽霊に殺され殺され殺され心が折れそうになった時に、不死街教区の鐘がある塔に解呪石を売ってくれる男───名前は忘れた───がいる事を知った私はなんというか、その、つい、無意味にロートレクの前に座っていたなぁ。すまん、ロートレク。

さて、それは置いといて。……帝国にはワーカーがいたな。

ろくに憶えていないが確か、カッツェ平野で会った四人組のワーカーがいたな。…………待て、ちょっと待て。名前、名前名前……歳か?いや、恐らくセレネの記憶が圧迫しているのだろうが……本人達からもチーム名は聞いたはずだ……なんだったっけ……

 

 

「それじゃあ、帝国の件とビーストマンの件、よろしくお願いしますね?」

 

あ、ああ、任されたよモモンガさん

 

「ということで。あ、何かあったら伝言飛ばしてくださいね」

 

 

そう言い残して退室するモモンガさん。

そんな彼の背を見送って私はふと、思い出した。

 

 

クゥ、クソがぁあああ!!だったっけ。

 

 

何か違う気がしたので私はとりあえず、法国へ行く時の装備をどれにするか考えるべく椅子から立ち上がり、そのまま最初の火の炉へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 




とりあえず次回は本編に戻ります。
グラブルも11月まで古戦場はありませんから執筆時間は十分に確保出来るので早めに投稿したいと思っています。


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会談

もう、法国というかこういう話は頭を使う。
書いて納得出来ず消し、書いて何か違うから消し、書いて書いて書いて……ふと心の中のジョースター(父)の声を聞きここに出来ました。
時間かけすぎたなぁ

あ、G11出ました


 

 

 

カタッ────

 

 

スレイン法国中枢、最高神官らが集まる神殿奥にて世界の転換点を告げる始まりの音が響いた。

法国のトップである最高神官長と六人の神官長、そんな彼らを守護する番外席次を含む漆黒聖典の十人と法国の至宝を纏う老婆の計十八人の目前に広がる虚空に突如として広がった黒い孔。

そこより伸びたモノが足音をたたせる。

 

まず最初に現れたのは大盾と大鎚を背負った金色の騎士。

それを皮切りにさらに三人もの騎士が孔より姿を見せていく。

殺意の表れともいえる鎧のあらゆる箇所から棘が伸びた騎士、折れ曲がった特徴的な帽子を被り顔を銀仮面で隠し薄汚れた上衣を着た騎士、目元以外を鉄面で隠した斧を持った鎧の上にサーコートを纏った騎士。

神人として生まれ番外席次を除き人類最強と自負する漆黒聖典の隊長はその現れた四人もの騎士を見て理解した。この四騎士は全て自身と同格の戦士である、と。

そんな漆黒聖典の隊長の理解などどうでもいいと言わんばかりに四騎士は法国の人間らに対して一切反応せず孔の前より早々に退き、左右へ分かれ各々が跪き孔より現れる自分らの主を迎える。

 

 

「ひっ―――――」

 

 

誰が漏らしたのだろうか、そんな悲鳴にもならない音が響いたのと同時にソレは現れた。

 

闇よりも暗い漆黒のローブ、それと反するように白魚の如き白骨、法国の至宝と同等たる世界の代物である紅玉を肋骨で覆う死の超越者。

三メートル程の長駆に神話の中の代物としか思えない色鮮やかな水色のキュレット、肩を覆う毛皮が目につく流麗な威風堂々たる鎧を身につける戦神が如き騎士。

二柱もの異形の神。

そしてその神々に付き従い現れるのは黄衣の軍服を纏いまるでゆで卵に埴輪のような顔を付けたような異形と修道女の装いをした裸足の女。

 

瞬間、何人かの神官や漆黒聖典の者達は法国において漆黒聖典の隊長よりも強い法国の切り札たる番外席次へと視線を向けたが番外席次の笑顔で首を横に振るのを見てその顔を青ざめさせた。漆黒聖典の一人は現れた神を見て一瞬発狂しかけたが神々の前で無様を晒すわけにはいかないと自制心をもって自らの発狂を抑え込む。

そんな同胞らの反応を見て一人の神官は内心笑い、一歩足を前へ出す。

 

 

「此度は我々の願いに御応え頂き感謝申し上げます」

 

「よい。我々としても言葉を交わさず敵対するというのは好ましくない故な」

 

 

闇の神官長の礼に死の超越者モモンガは威厳ある言葉でもって応える。それを聴きながら騎士ネームレスは腹の中で苦笑しつつその視線を法国の者達を舐め回すように動かす。

前世よりの知識では目の前の神官長らの詳しい情報はなかった。同時に法国にある世界級のアイテムの詳細な情報も。

故に万が一にいつでも対応出来るように彼らを観察する。

 

 

「御身らはプレイヤー様であると漆黒聖典第五席次より聞き及んでおります。疑うべくもございませんがそれは真でございましょうか」

 

「無論」

 

 

あらかじめ決まってたように虚空よりユグドラシルのポーションを取り出すモモンガに闇の神官長は頷き、他の者達も一様にモモンガとネームレスが自分たちの神と同じ存在である事を改めて理解する様に頷いていく。

無論、赤いポーションなどあくまでユグドラシルのポーションであるということを証明出来るだけでモモンガたちがプレイヤーと証明出来る訳では無い。だが、その取り出し方こそが証明となった。アイテムボックスなどこの世界のモノでは使えずプレイヤーの行う御業である────NPCも可能であるが────という認識が彼ら神官長らにはあった。

普通ならばもう少し他にもあるだろうとネームレスは内心呟くがそこは御都合主義か単純に自分らの切り札である番外席次を一度殺しその後すぐさま蘇生した存在と同格のモノなど自分らの埒外の存在、プレイヤーと認識するしかなかったのだろう、と諦める。

 

 

「プレイヤー様。どうか、何卒、我々人類を御導き、いえ御護りくださいませ」

 

「「「────」」」

 

 

そんな闇の神官長の言葉と共に繰り出された行動に神官長らや漆黒聖典の者達は息をのみ、ネームレスは嘆息する。

一体何をしたのか。

土下座である。紛うことなき土下座を闇の神官長は自らの立場など一切気にせず、やって見せたのだ。国の中枢機関の中でも最上位に連なる立場の人間が躊躇なく行ったそれにモモンガは内心困惑し、ネームレスはそんなモモンガの内心を見透かし闇の神官長の行動理由を察する。

 

 

(自分の立場よりも民草を優先する、か……異形種が相手だと言うのに……いや、その辺りは聞いていた通りか)

 

 

ネームレスが想起するのはつい先日の番外席次との会話。

闇の神官長が元々は司法機関の出であるがかなりのスルシャーナ信徒である、と。故に異形種が新たな神になる事に忌避するものはなく人類の護り手となって貰えるのならば喜んで生命を差し出すような男、そんな番外席次の評価に半信半疑だったネームレスはその評価が正しかった事に一人頷く。

そして、モモンガからひっきりなしにかかってくるヘルプの伝言に苦笑しながら助け舟を出す。

 

 

護る、か。そもそも貴公らは人類至上を掲げ異形種や亜人種の排斥を行っていたはずだ。私もモモンガも異形種であるが?

 

「その御考えは最もでございましょう。確かに我々は人類が滅びを回避する為に人類を纏めるために異形種や亜人種を排斥してきました。我らの信奉する神々の中に異形種であらせられるスルシャーナ様がおられるにも関わらず」

 

 

土下座のままで語る闇の神官長にモモンガは平静を保っているようで中身は全然落ち着いていない中、ネームレスはやや圧を出して闇の神官長に問いを投げかけていく。

 

 

それで?自らの神を裏切る様な真似をしておきながらなにゆえに我らに乞うのか。

 

「一重に人類存続の為。人類至上の考えも御身らにより護られ世代を重ねればいずれ消えましょう。今よりも未来の為に」

 

 

そんな堂々とお前達を利用してやる、ともとれる言葉にネームレスは内心笑い、モモンガはこの場にアルベドやデミウルゴスなどを連れてこなくて正解だったと考え脳裏を過ぎった連れてきた場合の面倒事の可能性に今は無い胃を抑えようとするが状況を思い出して踏みとどまる。

 

 

モモンガ。

 

「そう、だな。なるほど、いいだろう。お前達人類を我々の庇護対象として認めよう……無論、お前達人類だけを贔屓するつもりは無い。我らは神として人類もエルフもドワーフも多くの種を平等に庇護する」

 

我らに牙を向けない限りはどのような種族であろうとも受け入れる。故に人類至上主義をすぐにとは言わぬが徐々に消していけ……わかったな?

 

「ハッ!!」

 

 

漏れる圧力。

モモンガとネームレスから溢れ出る神威とも言うべきそれに他の神官長らは圧倒されゆく中、闇の神官長は二人の言葉を胸に刻み込み一切の異論無く難しい条件を飲み込む。

普通であるならば引っかかる事にも反応せずにこうして流れる様にモモンガとネームレスを新たな神として新たな人類の守護者として奉じる事が決まった。

その光景をモモンガの背後で見ていたパンドラズ・アクターはこの時の事をこう語る。

「従う以外に道がない最上級の脅し文句。父上は無意識でしょうがネームレス様はわりと確信犯ですね」

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ疲れた!?」

 

なんか、若干無茶苦茶言った気がする……

 

 

法国上層部との会談……会談といえるのか?いや、それはともかく諸々が終わった私たちはモモンガさんの部屋で護衛やメイド等を一切入れずに二人だけで息を抜いていた。

思い返すのはつい先程までの会談が予想よりも遥かにはるっっっっっかに呆気なく終わった事、予想していた事よりも早くに終わってしまった為に逆に私たちは疲れてしまった。

私の予想では色々と反発が来てそれを潰すかある程度の妥協を見せてやる様なのだったがまさかの……えぇと、闇の神官長だったか?が土下座をやったのが意外過ぎた。番外席次から色々と人となりを聞いてはいたからある程度、我々を神として迎え入れるのに不満は無いだろうとたかを括っていたらコレだ。

あの時は何となくそれっぽい納得を自分の中でしたがやはりなんというか釈然としない。

いや、何故に?

 

 

「どうしましたか、ネームレスさん」

 

え、ああ……いや、あの土下座とかを見てそんなんでいいのか?って思いまして……

 

「ああ……あの時は俺、困惑しましたけども今考えたら少しわかりますね」

 

へ?

 

 

モモンガさんの言葉はまったくもって意外だった。あの行動をモモンガさんが理解しただと?天変地異の前触れだろうか。

 

 

「ネームレスさん。もしもナザリックにユグドラシルではない全くの未知な存在……それこそ、ナザリックなんて簡単に滅ぼせるような存在が徒党を組んで現れたらどうします?あ、勿論俺たちプレイヤーやルベドでも勝てないような奴らです」

 

…………どうしようもないですね。そうなったらお手上げ、逃げる……いや、無理か

 

「俺なら頭を地に擦り付けてでもナザリックを護りますよ」

 

 

嗚呼、なるほど。下手な気まぐれで滅ぼされかねない以上、生き残る為に土下座をしてでも見逃してもらう……いや、あの神官長からすれば庇護下に入れてもらう、か。

外道畜生、それこそ例の八欲王どもならそんな土下座、下げた後頭部に足を乗っけて嘲笑い滅ぼすだろうが……運がいいと言うのかなんというのか。まあ、私としては舌戦やら交渉事をやらないですんだのはそれでいい。

 

なるほど、まあ、あの神官長が土下座した理由は改めてよく納得しました。……ともかく、結果として私とモモンガさんは必要事項とはいえなんやかんやで神になりましたがその辺の御感想は?

 

「恐怖の大魔王じゃないだけ上々ですよ」

 

ま、そうですね。

 

 

今回のイベントは戦場よりも疲れた……なんというか会談の際になんか変な事言ってないか心配だわ……多分なんか首を捻りそうなこと言ってるんだろうなぁ。

そんな風に心の中でボヤきつつ、モモンガさんの部屋より出て廊下で待機していた伝説級の武具や課金アイテムによってレベルの底上げをし、八十代まで強化した不死の戦士(デス・ウォーリア)四体を引き連れ自室へと足をむける。

今日は風呂に入らずにこのまま寝てしまおう。

風呂は明日。

アンデッドだけれども精神的疲労からは逃れられんのだ。

 

 

 

後日、法国がモモンガさんを冥府神、私を戦神として崇める事を決めたとクアイエッセより聴いた私はついギリシャの様だと笑ってしまった。

 

 

 

 




階層守護者の情報制限などの為に且つビーストマン蹂躙の為に用意した課金アイテム等で強化したオリジナルモンスターこと不死の戦士×四体。

きっとみなさんも今回のというより法国との会談でなんとも言えない気持ちになるでしょう。それは作者も一緒です……俺には難しい話は無理なんだ……デミえもん
ビーストマンの前に王国やろうかな


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