UNDEAD───不死人 (カチカチチーズ)
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始まり/獣狩り

Twitterの方でアンケートを取りまして、今回正式にUNDEAD──不死人を連載する事になりました。
ひとまずは竜王ではなくこちらを投稿してきます。皆様どうかよろしくお願いします





 火は陰り、王たちに玉座なし


 嘗て不死院にて牢に繋がれた不死人は数奇な運命により不死院を抜け鐘を鳴らし、蛇が告げた言葉に従いその身に秘めた使命を成すため神話の都へ向かい、火継ぎの旅へと殉じた。
 死者の王を討った、鱗無き白竜を討った、公王らを討った、王のソウルを集めそして不死人は王を倒し世界の礎となった。

 されども不死人の魂は眠る事はなく、目覚めた先で新たな使命を成すために遥か北の地にあるという国へと至り、彼の地にて嘗て討ち倒した深淵の主が落し仔を滅ぼした。

 そして、三度目の旅路にて再び不死人は火継ぎの旅へと歩みを始めた。
 名も無き灰として、嘗ての己と同じ薪の王であった者らを玉座へ戻すべく旅をした、貧相ながらも王らしい小男、ファランの狼血を流す不死の騎士団、深みの聖職者にして神喰らい、偉大なる巨人の王、双王子。
 彼らを玉座へ戻し不死人は再び最初の火の炉へと至る。





 そして、彼は────









────────────────






 私はそこにいる。
 何もする気が無く、私はそこにいる。
 所々岩が生え、幾つもの剣や杖が墓標の様に刺さった地、その中心にあるただの篝火を私はただ、ただ見つめ続ける。
 弱々しい火。しかし、見る者に温もりを与えるそれは私の荒んだ心を癒してくれる。
 もはや、全てが終わる。
 今までの歩み、その終止符。
 私は嘗てを想起する。今まで様々な者らと出会った。多くの困難に出会った。
 それらを私は時に一人で、時に仲間と共に乗り越えてきた…………しかし、それはもはや過去のもの。この手にあるのは燃え尽きた後に残る灰だけ、もはや取り戻す事など出来はしない。
 だから、だろうか。
 私は弱々しい、されども篝火として充分なそれに手を伸ばして────────


『────ネームレスさん、ヘロヘロさんが来たので一度円卓に来てくれませんか?』


 …………、…………、…………はぁ。
 気が削がれた。
 私は篝火へと伸ばしていた手を戻し、その場から立ち上がってその指にはめられていた指輪の力を行使する。
 転移の力は問題なく発揮され、私はその場から姿を消した。

 一瞬の暗転を挟み、私は先程の場所とは打って変わった豪華絢爛な円卓が置かれた部屋へ足を踏み入れた。
 視線を動かせば円卓には二人の人物が席に着いていて…………人物という括りでいいのか?


「あ、ネームレスさん」

「お久しぶりです、ネームレスさん」


 どうも、ヘロヘロさん。

 円卓の間にやってきた私に気がついたのかこちらへ顔を向けるのは二人の異形。豪華な黒いローブに身を包んだ骸骨と黒い不定形なスライム。
 私が所属する異形種ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターことモモンガさんとギルドメンバーの一人であるヘロヘロさんだ。
 私はヘロヘロさんに軽く会釈をして、私の席へと腰掛ける。ふむ、それにしてもヘロヘロさんは疲れているようだ……声音に元気がないな。


「いやー、まさかナザリックがまだあったなんて……これもモモンガさんやネームレスさんが頑張ってくれてたおかげですね」

「……ええ、ネームレスさんにはお世話になりましたよ」

 そんなことは無い。私は趣味に走ってその副産物をナザリックの運営資金に当ててただけでほとんどモモンガさんのおかげですよ。

 私はそう二人に告げてコンソールを開き弄り始める。どうやら、まだまだユグドラシルのサービス終了まで時間があるようだ。
 さて、ロールが途切れてしまったからな。そろそろ自己紹介といこう。
 私の名はネームレス、プレイヤーネームなのは許して欲しい。君たちとて私のリアルネームなんてどうでもいいだろう?
 まず、私は転生者だ。ダークソウル・リマスタードが発売され、有休を二日ほどとり寝る間も惜しんで墓王ニトまで進め、さてボス戦と意気込みながらおつまみのチーズを摘んでいたら唐突に喉が辛くなり────間違いなくチーズが詰まった────苦しんだと思ったら赤ん坊になっていた。
 何を言ってるいるのか分からないだろうが、私も分からない。さて、赤ん坊になった私はすぐにそれが転生だと理解し、同時にダークソウル・リマスタードが出来なくなった事に絶望した。ついでに言えば転生先の世界を見てさらに絶望した。
 外にはマスクを付けなければ出歩けない、義務教育の撤廃、富裕層と貧困層、アーコロジーなどなど……そんな恐ろしい世界に転生した事は私の心を打ちのめしたが運の良い事に私は富裕層の中でもそこそこの家に生まれ良い暮らしが出来た。そんな世界で育ち前世の性格や口調が変わっていき、企業で上役となった頃にとあるゲームが発売された。

 その名を『ユグドラシル』。DMMOーRPGの一つなんだが、それを聞いて私は理解した。
「ここ、オーバーロードの世界かよ」
 それを理解した私はすぐさまユグドラシルを購入し、異形種を選んだ。フロムにより鍛えられた技術────間違いなく衰えてる────を以て異形種狩りプレイヤーやPKを狩るなど楽しい楽しい暗月警察暮らしをしているとある日、正義降臨ことワールド・チャンピオンの一人であるたっち・みーさんと出会いなんやかんやあってアインズ・ウール・ゴウンへと入ることが出来た。ちなみに調べたらフロムは過去に存在していなかった……。

 オーバーロード×ダークソウルな二次創作によくあるコラボはない、という事を知ってしまった私はなら私がやるしかないじゃないか!と富裕層で企業の上役という立場を利用し廃課金を行いこのナザリックのNPCにかぼたんを創ったり、装備の見た目をダークソウルにしたり、来る異世界転移の為に様々な用意をしてきた。
 まあ、そんなこんなで現在ユグドラシルはサービス終了日を迎えた。


「…………ぁ、モモンガさん、すいません。いま、寝かけてました」

「大丈夫……じゃないですね。どうぞ、ログアウトしても大丈夫ですよ?ゆっくり寝てください」

「……はい、ではお言葉に甘えて…………ユグドラシル2とかがあったらまた……」

『ヘロヘロさんがログアウトしました』



 と、どうやらヘロヘロさんがログアウトしたようだ。私はコンソールを切りモモンガさんへと視線を向ける。見た限りでは原作の様な反応は見受けられない……原作ではモモンガさんは一人ユグドラシルを続けて運営資金を稼いでいたが…………なるほど、趣味に走っていたとはいえ私がいた事で決して一人ではなかったからか。
 ふむ……


 モモンガさん。

「っ、はい。なんですかネームレスさん?」

 ……ユグドラシル楽しかったですね。

「……そうですね。みんなと楽しく騒ぎましたね」

 そうだ。実はモモンガさんに隠してた事があるんです。

「……?なんですか?」

 実はですね。個人でとったウロボロスを五回ほど内緒で使ってました。

「は?」


 私の告白にモモンガさんは疑問符を浮かべ、しばし固まっている内に私は席を立つ。
 そして、次の瞬間のために私は遮ることができる訳では無いが耳を押さえておく。


「はぁァァァァアア!!??あんた、何してんですかぁ!?」

 私の課金だ。問題あるまい。

「いや、確かにそうでしょうけど。一言くらい言ってくれませんか!?ギルメン!報連相!」


 絶叫する骸骨。失笑。
 私はそんな彼を諌める様に言葉をかける。


 大丈夫。大丈夫。スキル名変えたりアイテム実装させただけだから。

「いや、何が大丈夫なんですか!?というか、いったいどんなアイテムを作ったんですか……」

 ウロボロス一つ素材に使う無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)の超上位互換。通常のアイテムボックス二枠潰す代わりに無限の背負い袋の四倍入れられて且つ、入れてるアイテムの所持可能上限が無い。

「はい?ちなみにどういう理由で作ったんですか?」

 趣味と素材集め。


 正確に言えば、異世界転移した際に必要になるであろうアイテムを溜め込むために作ったんだがな。スクロールやらなんやらを大量に突っ込んである。
 まあ、ダークソウル的な装備品の為のデータクリスタルやら素材を入れるのにとても役立ったのは事実だな。


「な、なるほど……だから、あんなに副産物っていいながら稼いで来てたんですね」

 そういうこと。……と、そろそろか


 ふと、私はコンソールを開き時刻を確認する。別にわざわざコンソールを開かなくとも設定で視界の端に時刻が出るように出来るのだが、私はもっぱらそういう設定はせずにコンソールをいちいち開いて確認している。
 さて、時刻を見ればもう残り三十分を過ぎている。そんな私にモモンガさんは疑問符を浮かべているので私はきちんと教えておく。


「あ、ほんとだ。もう三十分ぐらいか……やっぱりネームレスさんは第六階層で終わりを迎えるんですか?」

 ええ。私にとっては彼処がマイルームみたいなものですから

「わかりました。それじゃあ、私は玉座の間に行くんで」

 はい。あ、ギルド武器持ってていいですよ?何せ、作ってから使ってないんですし……最後ぐらい……ねぇ?

「そうですね。持っていくことにしますよ」


 そんなふうに話して私は指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い円卓の間に来る前までいた第六階層の片隅にある私にとってのマイルームこと最初の火の炉へと転移した。


 砂とも土とも言える地面を踏みしめ、辺りに生える黒く焼けた岩、突き刺さる槍や剣に杖……さながら墓標の様に見えるそれら、そしてBGMは存在せず地面を踏む足音しか聴こえぬ静寂のエリア。
 その中心にある篝火へと私は近づく。

 そんな私に反応したのか篝火の傍らにて跪き祈っていた火防女が立ち上がり私を見る。
 ダークソウルなプレイをする為にやはり、かぼたんは必要だろうと他の人に手伝ってもらいながら作った私のNPC:火防女ことレティシア。名前の由来だが、ダークソウル3の火防女の容姿で見た目がジャンヌっぽいと思ったからだ。異論は認める。
 フレーバーテキストにはダークソウルな設定を色々書いた。名も無き灰と共に火を消し闇の世界ENDの後に消えたがしかし、蘇った名も無き灰────つまり、私によってこの最初の火の炉を模した場に蘇ったという旨を。
 まあ、分かる通り、私自身のフレーバーテキストにもダークソウル的な設定を書いた。無印から3まで経験してる的な…………。


 じき、世界は終わる。


 アイテムボックスを確認すればきちんと必要なスクロールやらアイテム、様々な防具や武器、指輪類、サービス終了日故に馬鹿みたいに安売りしていたワールドアイテムが一つ。


 再び火は消える。


 まあ、これで異世界転移出来なかったら…………仕方ないな。その時はリアルでペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さん、たっち・みーさん辺りを誘って何かしようか。


 しかし、どれだけ小さくとも、暗闇の中に火は現れる


 ふむ……できれば他にもダークソウルNPCを作りたかったな……確か傭兵NPCを自作できる課金アイテムがあった筈だ……カタリナのジークバルトを作っても良かったな。
 …………転移後はどうするかな。フレーバーテキストがアルベドの様に影響しているのであれば私も火防女もそのフレーバーテキストの影響を受けるのだろうか?ともすれば私は自らのフレーバーテキストに記した通り、様々な旅を経た不死人となるわけで……もしかすれば経験したことが無い不死人の記憶が流れ込むという可能性もありえる。
 二次創作の読み過ぎだ、と言われれば終わる話だが……しかし、この現実自体が私にとっては夢幻の体験と何一つ変わらない。さて、どうなるか。
 時刻を見れば既に五分を切ったようだ。

 いや、待て。モモンガさんはやはりアルベドのフレーバーテキストの最後の一文。
 『ちなみにビッチである。』を『モモンガを愛している。』に変えているのだろうか?変えていたら……下手すれば私は転移先でアルベドに敵対視される可能性が?いやいや、私は最後までモモンガさんと一緒にナザリックにいたわけだからそれはないだろう……ないと信じたい。
 とりあえずモモンガさんが魔王ルートを歩まないように注意していくか。



『────ネームレスさん』

『……モモンガさん、もう終わりですよ』

『はい、そうですね。……その、いままでありがとうございました』

『いえ、こちらこそ。アインズ・ウール・ゴウンだから今日まで私はやってけたんです。何時辞めてもおかしくなかったのに……』


 本音だ。
 異世界転移を知っていたが、それでも私はこのユグドラシルをサービス終了までやれたかどうかは分からない。もしかしたら辞めていたかもしれない。
 それを考えると彼に感謝の念を向けるのは当たり前な事だ。


『…………終わりですね』

『ええ……』

『その、ヘロヘロさんが言ってましたけど……』

『はい。ユグドラシル2があったら……』

『その時はまた』


────五十二、五十三


『それじゃあ、締めますか』

『ええ』


────五十四、五十五



『『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!』』



────五十八、五十九



────零













「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか────?」












「────カハッ」


「これで、希望をもって、死ねるよ……」「私は汚れ、声を出すべきではありません」「それでは奇跡の話をしましょうか」「不死の勇者よ。わしはここで待っておるぞ」「俺の太陽が……沈んでいく……」「あんたには期待してるんだ。しっかり働いてくれよ」「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ」「……死ぬんじゃねぇぜ。あんたの亡者なんて見たくもねぇ……」「棄てられた都とて、勇者に導きくらいは必要だろう?」「よく参りました、試練を越えた、不死の英雄よ」

「よろしい、ならば、汝はこれより暗月の剣となる」

「王たるものよ、玉座へ……その先は、貴方にしか見えないのです」「だが、だからこそ……霧の中の答えを求めるのか」「いつの日か、その旅に終わりが訪れんことを……」「火を求める者 王たらんとする者よ……力を手にするがよい そして、汝の望むがままに……」

「兄上は私の、ロスリックの剣 だから、どうか立ってください……それが、私たちの呪いです」「さあ、最後の乾杯だ 貴公の勇気と使命、そして古い友ヨームに」「ノーカウントだろ?ノーカウn」「……さあ、これより貴方は暗月の剣」「あるいは、私たちが最後となるか……『最後の王』とは、小人にすぎた栄誉というものだな」

「はじまりの火が、消えていきます。すぐに暗闇が訪れるでしょう…………そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が…………」



「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」






 瞬間、私の頭蓋は軋む、割れる、砕ける、前世も今世も味わった事が無いほどの激痛に襲われ────しかし、何時か味わったであろう痛みに比べれば大したものではなかった。
 痛みより立ち直った私は気がつけば最初の火の炉ではなくまったく知らない何処かの草原に胡座をかいていた。
 そんな事態に対して私は冷静に対応する。
 間違いなく異世界へと転移出来たのだろう……しかし、ここはナザリックでは無い。ではナザリックの外に広がっていたという丘になる予定の草原か?となればこの周辺にナザリックがあるはず…………私はアイテムボックスから一定範囲内のエネミー及びプレイヤー、NPCを探知する事が可能な指輪を取り出しリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと取り替えて指にはめる。


 ………………あぁ。なるほど。


 指輪をはめたことで理解する。私がいる場所はナザリックが転移した草原では無い、何故ならばおおよそ20レベル前後のエネミーの反応が無数にあるからだ。
 そして、私の視認できる距離に街……いや、都であろう場所が見える。そこへ迫っていく大量のエネミー……オーバーロードを知っているならば何となく察せられる。


 つまるところ獣狩り(Bloodborne)というわけか。同じフロムだが私と作品違うぞ。


 さて、どうするか。仮にも異形種である私としては人間が彼らに食われるのは別に何か感じる訳ではない……ないが……


 何、新たな世界。その初陣と考えれば良きものだ。


 すぐさま私は早着替えのローブを纏い、セットしておいた装備へと姿を変える。
 外見としてはファーナムの騎士装備だろう、特にこの両肩の毛皮部分が拘りでこれの為にいったいどれほどの神獣クラスを狩った事か……んん、指にはリング・オブ・サステナンスとリング・オブ・フリーダム、反応感知の指輪に人化の指輪をはめる……ついでに回数制限がある召喚系指輪をはめておこう。
 さて、足が必要だ。ダークソウルといえばこういう時はシフに乗って駆けるのがロマンなのだろうがしかし、残念ながら私の持つ指輪では狼系のモンスターは呼べない。


 まあ、レベルを考えれば何度か跳べば着くだろう。


 適当に屈伸し、私は大地を蹴りつけた。










────────────────────











 竜王国の王都へと進行したおよそ五千ものビーストマン。
 それに対抗するべく竜王国の兵士らは決死の覚悟で迎え撃つこととなった。


「────!!」

「────!!!!」


 しかし、ビーストマンは一体一体が人間の成人男性十数倍もの力を持つ怪物。如何に兵士と言えどもビーストマン五千は並大抵の数ではどうにもならなかった。
 そもそもビーストマンにとって人間とは餌でしかなく、殺す事を目的とする人間に対してビーストマンは人間を食えればいいのだ。仮に兵士の剣がビーストマンの腕を切り落としたとしてもその間にビーストマンが兵士の首へ噛み付けばそれで人間は終わり。
 ビーストマン一体に対して兵士はいったい何人食われるのか、そんな事が分からない彼らではない。だが、それでも彼ら兵士は家族の為に戦うしかない、たとえ死ぬとしても。


 ああ、だからこそ。


 唾液を撒き散らしながらけたたましく吼えるビーストマンらが兵士へと躍りかかる瞬間、ただ稲光が迸った。


「は?」


 視界を焼く雷光に思わず兵士は目を瞑り、それを開けた瞬間視界に飛び込んできたのは目前のビーストマンが数十個の黒炭へと変貌したというもの。
 いったい何が。それを見た兵士もビーストマンもただそれだけが思考に満ちて────


────龍雷(雷の槍)


 戦場へと響く流麗なその言葉に兵士はその視線を向け、ビーストマンは沈黙を捧げた。
 都合六度迸った雷光はビーストマンを尽く蹂躙していく。
 ビーストマンだった黒炭が高野に溢れ、兵士は先程までビーストマンがいた場所に見知らぬ誰かがいるのを視認した。



 それは一人の騎士だ。

 色鮮やかな水色のキュレット、肩を覆う毛皮が目に付く流麗な装備。農民上がりで美術品などを見る目などないような兵士ですら、その装備が国宝級を遥かに凌ぐ素晴らしいものである事を理解した。
 左手には直剣が握られ、右手には稲妻の名残が残っており、兵士はその騎士がこの光景を作り出したのだ、と納得し同時に声を上げそうになった。それを止めたのはひとえに騎士の視線────と言っても兜を被っている為兜のスリットが向いている方向だが────が未だ生き残っているビーストマンの群れに向けられているのを知ったからだ。
 確かに雷光は多くのビーストマンを殺した。数にすればおおよそ七百を超えた辺り。つまり、全体の一割少しでしかない、ビーストマンはまだまだいるのだ。

 無茶だ、そう呟く者もいる。
 もしかしたら、と呟く者もいる。
 

 そんな兵士らの視線を背に受け、騎士はその右手で既に握っていた直剣と同じものを引き抜き双剣のスタイルをとって、一歩、一歩、ビーストマンの群れへと歩んでいく。
 そんな決して速くはない歩みにビーストマンは動けず少しずつ後退していく、がやはり獣なのかそんな緊張を、萎縮する自身を奮い立たせようと雄叫びと言うよりも悲鳴を上げながら騎士へと飛びかかる者が出た。


 ああ、やはり。振るわれる刃はいとも容易く飛びかかったビーストマンを解体し切り捨てた。
 騎士は切り捨てられたビーストマンの死体には一切目もくれず、ただ、ただ進む。
 もはやビーストマンにとって騎士は怪物だ。餌と似たような姿をしただけの怪物。むしろ、自分たちを鏖殺にする為だけに餌と同じ姿をしているのではないか?と錯覚させるほどに、だから、ビーストマンは逃げた。


 一切の恥を捨ててその場から逃げ出した。
 あの怪物から逃れられるのならば、プライドなんて捨ててやると言わんばかりのそれに兵士らは唖然とし、しかし騎士は見逃さない。
 大地を蹴り、騎士は跳ね飛ぶ。宙へと身を投げた騎士は大気を蹴りつけ逃げるビーストマンの真ん中へと着地しそのまますぐにビーストマンへとその刃を振るった。
 逃さないと言わんばかりのそれにビーストマンは恐れ、硬直しいったい何が起きたかビーストマンは逃げる事を止め、全員が騎士へと殺到した。
 しかし、四千いくらかのビーストマンがたった一人に殺到するなど同胞を踏み潰しかねない行為であり結果、同士討ちで半分近くのビーストマンが死んでいった。
 
 飛びかかったものは股下から切り上げられ、隙を突かんとしたものは短剣により首を切り落とされ、背後から来たものには脚で蹴り殺しすぐさま体勢を立て直し他のものどもへと対応していく。
 まさに尋常ならざる英雄が如き所業。
 自分たちが何人も束にならねば殺せぬ獣を次々と鏖殺していく様を見て兵士らは次々と叫んでいく。それは食われ殺された同胞たちへ捧げるもの、食われ殺されるだけだった自分たちに降りてきた希望への歓声、そして彼らが守る者らへ伝える勝利の雄叫び。
 それらを背に受けて鏖殺した騎士はその兜の下でぎこちなく笑みを浮かべた……が、それが分かるのはきっと騎士本人だけなのだろう。







 NPCが動くなんて……本当に異世界転移でもしてしまったんだろうか?…………いや、待て、そうだネームレスさん。
 ネームレスさんはどうなったんだ!?あの人は確かあの時、第六階層にいたはず……もしかしたら一緒に来てるかもしれない……でも、だとしたらどうして連絡をくれないのか……
 意を決して伝言を使い────


『《伝言》ネームレスさん、いまどこにいますか!?』

『────《伝言》現在暗月警察中なので後日おかけください』ブツッ

「………………はァ!?」


 え、あ、はァ!?あの人何してんの!?というかどこにいるの!?
 暗月警察ってあの人流のPKKの事だった筈だが……というか伝言が通じたって事はそういうことなのか?少なくともネームレスさんはこの世界にいる……と。
 とりあえず言われた通り後日連絡しよう。
 そして会えたら文句でも言おう。


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情報/一歩

「灰の方、私とグウィンドリン様どちらがお好きですか?」

こふっ……無理ぃ……

【YOU DIED】







 果たして何体のビーストマンを切り殺しただろうか。
 はて、ろくに数えていないから分からんな。ひとまずはヘイトスキルを使用する事でこの戦場にいるビーストマンのタゲを集中させたわけだが……ふむ、こうも上手くいくとは思ってもいなかったな。
 曲がりなりにもこの世界は現実だ。ならば、たった一人に殺到すれば背後の味方に踏み潰されるのは簡単に予想出来る。だが、そんな事はタゲ取りされたこのビーストマンどもには分かりはしない。なにせ本能で生きてるのだから。


 まあ、本能でなくともどうせ逃げられんからな。


 両の手に握ったゴットヒルトの双剣を振るいながら私は着実にビーストマンを葬っていく。戦ってわかるが、この世界の人間の実力は低いとしか言えない……いや、ユグドラシルやダークソウルを基準にしてはいけないな。
 そもそもダークソウルに至ってはフロムの死にゲーだ。死んで覚えるものだった……こちらではおいそれと死ねんだろう…………。
 と、どうやらあらかた切ったようだな。ひとまず剣を鞘に納め私はこちらを見ている兵士らのもとへと歩き始める。


「ぁ……ぁ、あああああ!!!!」

「おぉおおおおお!!!」

「「「────!!!」」」


 私へと向けられる歓声。それを聴きながら私はふと自分の鎧に視線を向ける。
 普段の火継ぎの鎧一式からファーナムの騎士鎧一式に着替えたはいいがもう少し別のでもよかった気がするな。少しビーストマンの血が目立つ…………お偉いさん……竜王国なら竜王の血を半分だか引いているという女王か、その人と会う前に鎧を変えておいた方がいいだろうな。
 はてさて、どうなるのやら……。

 ……そう言えば、モモンガさんから伝言来てたな……切ってしまったが大丈夫だったろうか?









「こ、こちらです……!」


 そんな緊張しつつも溌剌とした若者の言葉に私は浅く頷き、示された部屋へと入室する。
 ビーストマンの襲撃に対して暗月警察らしく人々を食らったビーストマンへの復讐代行────きっとグウィンドリン様には苦言を賜るだろうが────を行った私は竜王国の者らに歓迎されこうして王都のかなり質の良い宿屋へと案内された。
 流石に夜中の襲撃だった為、女王との謁見は明日ということらしい。


「そ、それでは……正午前にお迎えにあがります……!!」

 ああ、その時は頼む。

「は、はい!」


 緊張しつつも溌剌としていた彼に私は声をかけてから案内された部屋を見渡す。
 王都の中でも上位に入るほど質の良い宿屋、それは決して虚偽ではなく確かに部屋に飾られている調度品や日用品、さらには清掃などきちんと良く行き届いているようだ。
 しかし、ナザリックを見慣れている身としてはつい、ナザリックと比べてしまう。そのせいで少し物足りない気がするがそこはナザリックだから仕方ないと割り切る。
 内装に凝ったギルメンが何人もいたのだ、現実離れした美しいホームと比べるのは可哀想としか言いようがない。
 一応不眠不食不性の三大欲求全滅しているアンデッド種であるため、明日の正午前まで起きて色々とアイテムボックスを漁っているか……。


 …………む?……ああ、そういえば。


 しかし、感じる睡眠欲求に一瞬私は首を傾げる。がすぐに自分が人化の指輪をはめている事を思い出し、ひとまず腰を落ち着けようとソファーへ腰掛ける。
 人化の指輪を取ればアンデッド種に戻り、三大欲求は失せるわけだが……それは亡者と変わらんようなものだ…………理性があれども人間らしいものがないのは駄目だ……モモンガさんに会った時は指輪を分けてやろう。彼もオーバーロードになって、人間らしいものがなくなっているだろうしな。

 ……と、まずは鎧を脱ぐか。ある程度落としたとはいえ血濡れの部分も決して少なくない、今はまだ大丈夫だが何時このソファーなどが汚れるか分からんからな。
 とりあえず私はアイテムボックスからローブを取り出し纏って、この鎧を着込んだ時のように予めセットしておいた装いへと早着替えを行う。
 着替えたのは特にダークソウルでもない私服のような衣服。今までは鎧の下にあるのはアンデッド種のそれだったが人化の指輪によりきちんとした生気溢れる人間のそれになっている。


 さて、どうするか。始まりとしては竜王国だが…………モモンガさんと連絡を取り合って行き先を考えるか。


 机の片隅に置かれている地図を広げて、私はこれからの行き先を考え始める。
 北西へと進めばカッツェ平野に出るのか……ならばそのままエ・ランテルへと入りナザリックへ帰還する……ふむ、しかしな。
 これはとても個人的な話だが私としては帝国に行きたい。原作を考えればモモンガさんは王国で冒険者をするだろう、その際に私は帝国に…………む。


『────《伝言》ネームレスさん、通じてますか?』

『《伝言》もしもし……モモンガさん』


 何か糸のような繋がりが頭に繋がったかのような感覚。私はつい少し前に来たものと同じ、つまりは伝言である事を理解し、すぐさま応答してみれば、やはりと言うべきかモモンガさんからの連絡であった。


『さっきはすいませんね。ちょっと戦ってたもので』

『…………えっと、ネームレスさんも異世界にいるんですよね?』

『ええ。最初の火の炉で終わったと思えばユグドラシルじゃないどこかに来てしまったことは事実ですよ』


 私の言葉に伝言越しのモモンガさんから何やら安心したような雰囲気が伝わってくるがどうやったらそんなのが出来るのだろうか……不思議だ。


『あ、慎重派なモモンガさん。モモンガさんの事ですからこの世界の生物の強さに警戒してるようですが、ユグドラシル基準で兵士がだいたい十レベルと少しいくかいかないか……時折強くて二十前後ですよ』

『え?弱くないですか?……というか何故にレベルがわかるんですか……ああ、いやネームレスさんはそういう探知系の指輪持ってましたね』

『ええ。ちなみに何をしてたかと言いますと……草原にいて困惑中に一応指輪付けてたんでそしたら範囲内に色々いましてね……レベル的に問題ないだろうなぁ……と思って近づけば人間の街……いや、王都か。それを襲う五千ぐらいのビーストマンの群れがいまして、明らかに人間が不利と思い暗月警察的に助太刀という名の無双してました』

『エンジョイしすぎか、おい』


 もちろん、そんな理由じゃない。しかし、モモンガさんに原作知識なんぞ教えるつもりはないので嘘を多分に含んだ話を作った。
 ユグドラシルでの私の行動からモモンガさんは普通に納得するような話だ。


『……王都って言いましたよね?それで窮地を救った?もしかしてお偉いさんと謁見とかするんですか?』

『ええ。とりあえずもう遅いので次の日、正午前に迎えが来る予定です』

『……なるほど。あ、一応聞きたいんですけど…………』


 モモンガさんからの質問に答え、手元にある地図の情報を伝えるなど互いに情報のすり合わせを二、三時間ほど私たちは行った。




『────と、いうことなので……あー、すいません。いま人化の指輪付けてるんで結構眠気が……』

『え、あ、そうなんですか?それはすいません……って人化の指輪きちんと使えるんですか』

『ええ。生気溢れる身体になってます……あ、モモンガさん、合流したら余りの指輪を渡しますよ』

『ほんとですか?よかった……なんか、眠気とかが無いと本当に自分が人間じゃなくなったって打ちのめされてるようで…………』

『…………はい、それじゃ。次はこっちから伝言使いますんで』

『はい、わかりました。おやすみなさい』




 ふぅ。モモンガさんとの情報整理も上手い具合に出来たな。さて、合流後の目的はその時に考えるとしてひとまずは明日の謁見か。
 竜の血を引いている女王……プリシラを想起させるな…………あの腐れ聖職者、しこたま殴り殺したい……いや、とりあえずなんかいい感じの瓶に本体詰め込んでシェイクしてやるか……。
 ああ、あの腐れ聖職者を思い出した途端に苛立ってきたな…………落ち着こう。深夜テンションで作ったグウィンドリン様(二分の一)像が確か入ってたはず、出して跪こう。


 嗚呼、グウィンドリン様……


 アイテムボックスから取り出したグウィンドリン様像に人間性が溢れそうになりつつも抑え、跪く。
 もうね、なんというかアレなんだよ。グウィンドリン様は女神として育てられた男神だけどさ……男でも良くね?いや、普通に女神でもまっっったく問題ないんだがな!?


 暗月の使徒として、御身に復讐の証を……


 ……む、ビーストマンの耳は……むむむ、グウィンドリン様に獣の耳を捧げるのはどうか……、ひとまずクレマンティーヌの耳は捧げよう。
 立ち上がり、寝室へと足を向ける。
 ひとまずは今日はもう寝よう。










「おお、貴公!どうやら亡者ではないらしいな。俺はアストラのソラール。見てのとおり、太陽の神の信徒だ」
「不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に俺自身の太陽を探しに来た!」
「む、貴公は太陽よりも月が好きなのか?そうかそうか、月も太陽とは切っても切れないものだ。否定などするものか」


「おお、貴公。貴公とは奇妙な縁があるな……む、貴公、そういえば名はなんという……何?名がわからない……そうか……よし、ならば俺が貴公にピッタリの名を考えよう!」
「確か貴公は月が好きだ、と言っていたな……ううむ……セレネというのはどうだろうか。異邦では月を示すそうだが……」

 おいおい、女みたいな名前だな。なんだ、貴公は私を女々しいと言いたいのか?

「ウワッハッハハハ!!すまんすまん、だが決して俺は貴公を女々しいとは思っていないぞ?貴公は立派な騎士だ、そんな男を女々しいなどとは口が裂けても言えんよ」
「さて、俺はもう少ししばらくここで太陽を眺めていくよ」


「どうだろう?俺と同じ太陽の戦士にならないか?……悪い悪い、冗談だ。俺は知っているとも。貴公は決して信仰を鞍替えするような安い男でない事を」
「俺は太陽の、貴公は暗月の、互いに強き信仰を胸に、前へと歩んでいく……うむうむ、しかしそう考えれば考えるほど共に太陽の信徒として戦ってほしいと思ってしまうな。ウワッハッハハハ!!」


「……なぜだ……なぜだ」
「……なぜ、これほどに探しても見つからないんだ……」


「……ついに、ついに、手に入れたぞ、手に入れたんだ…………俺の、俺の太陽……俺が太陽だ……」
「太陽万歳!」
「やった……やったぞ……どうだっ、俺は……やったんだ」

 っ…………!

「……ああ、駄目だ」
「……俺の、俺の太陽が、沈む……。……暗い、まっくらだ…………」



『火は陰り、王たちに玉座なし…………貴公、俺の声が、聞こえているか…………?』









 …………ッ!!??……ハァハァ


 夢……なのか?
 ひとまず休息をとるために用意された部屋のベッドで眠りについた……だが、寝ている間に私は……何かを見た。
 前世も今世も私にはそんな記憶は無い。そんな体験はない。だが、だがしかし…………


 この身体が、ソウルがそれを憶えている……のか。


 現実と化すフレーバーテキスト。重要視していた……と思っていたが思いのほか私はそれを軽く考えていたようだ。そもそも昨晩、私がこの世界に来た際にも似たような現象……と言ってもアレは勢いよく記録が流れ込んできただけでまるで本を読むようなものだった。
 だが、さっきのは違う。アレは明確な記憶だ。意識すればするほど、アレがただの夢と振り払う事が出来なくなっていく……はっきりと私が経験したものだ、と断言できてしまう。
 精神の異形化も恐ろしいものだが、これもまた恐ろしいものだ。


 …………時間は……そろそろ着替えた方がいいか。


 アイテムボックスからローブを引っ張り出し、纏う。早着替えする装いは…………アレでいいか。
 選んだのはファーナムとは違うシンプルな騎士鎧。青いサーコートに首周りを覆う赤い布が特徴なそれを着て私は妙に満足感を憶え、アイテムボックスから適当な特に効果があるわけでもない嗜飲料を取り出しグラスに注ぐ。

 口に含んでみれば口の中に満ちていく甘い柑橘系の味、確かギルメンと一時期こういった特に効果があるわけでもないアイテムを作るのにはまっていたな。確か名前は……………………みかん太郎だったな。よそで言うのはやめよう。



────トントントンッ


 どうやら、迎えが来たようだ。


 飲み終わったグラスと飲料の入った瓶をアイテムボックスにしまい私は部屋のドアを開け、迎えに来た兵士に笑みを浮かべた。










────────────────────





「戦場に突如として現れた謎の騎士……のう」

「はい、戦場の兵士らは口々にその勇猛さと武勇を讃えていましたよ」


 竜王国・王城の玉座の間にて女王ドラウディロンは昨晩のビーストマンによる王都襲撃の際に現れビーストマンを蹂躙したという騎士の話をしていた。
 兵士長からの報告書によれば国宝と言ってもいい様な武具に身を包み、一撃で数百ものビーストマンを消し炭に変える稲妻を放つ謎の騎士。


「名は名乗らなかったようだが、まあもうすぐ来るらしいしその時に聞けばよかろう」

「そうですね。出来ればそのままこの国に仕えてくれるとありがたいのですが」

「まあ、難しいじゃろうな」


 宰相と謎の騎士について話していると伝令がやって来て、じき来ることを伝える。
 それに対し宰相は頷き、ドラウディロンはやや緊張する。
 それを見た伝令は幼い女王が自国の危機を救ってくれた騎士と会える事に緊張しているのだろう、と微笑ましく思った。がしかし実際のところはその騎士が一体どういう目的でやって来たのか、など一国を治める王として思考を巡らせているためなのだ。


「────陛下」

「うむ、来たようだの」


 伝令は下がり、玉座の間への扉が開く。
 そして、入ってくるのは一人の騎士。
 シンプルな騎士鎧だが、その青いサーコートや赤い布、鎧に使われているであろう金属、その腰に下げている直剣といいどれもが国宝級のそれを凌ぐものだ、とドラウディロンはその身に流れる竜の血が訴えているのを感じ取り、同時にその騎士から感じる力に竜の血が警鐘を鳴らしているのを理解した。


「────お、お主が」


 声が震える。
 目の前のそれが騎士という形をした全く違う埒外の何かなのだ、と理解してしまったが故に。
 もしも、ここにいるのが騎士ではなくその友人ならば問題はなかった。しかし、目の前にいる騎士は如何に人化していようともその身体は、そのソウルは……古の竜すら屠る怪物なのだ。
 そんな戦慄いているドラウディロンを無視して、宰相は跪いた騎士へと視線を向ける。
 戦士ではない宰相だが、目の前の騎士が英雄に類する傑物なのだ、と感じ取り礼を示し竜王国に籍を置いてもらわねば、と思考を巡らす。


 此度、お招き頂き感謝します。女王陛下

「う、うむ……わ、私はドラウディロン。ドラウディロン・オーリウクルス、この竜王国の女王じゃ……き、騎士殿は」


 騎士の言葉にドラウディロンは意識を戻し、冷や汗を垂らしながら目の前の怪物と言葉を交わす。そんな事はないのだが、一瞬でも目を離せばその瞬間に腰に下げている直剣が自らの首を断つのではと想像し緊張の中対応する。
 そんなドラウディロンの心境などいざ知らず、騎士は誇る様に照れ臭い様に自らの名を告げる。


 セレネ。アストラのセレネと申します……女王陛下。


 







────────────────────







 さて、行くか。


 竜王国の王都を背に、騎士は女王より貰い受けた駿馬の上で地図を広げていた。
 既に伝言で目的地を決め、今はそこへ向かうための道のりを思考していた。
 本来ならばその指にはめている召喚系の指輪を行使し騎乗用のモンスターを召喚、それにより早々に目的地へと向かうつもりだったが女王より報酬として得たものを考えれば多少ゆったりとしても良いだろうと考えた。


 まずはカッツェ平野だな。……人化の指輪は外せないな……私が原因でとんでもないアンデッド種が発生されては困る。


 マッチポンプはモモンガさんの十八番だしな。そう、苦笑し地図を折りたたみ懐へしまって手綱を動かす。
 この駿馬も何れはアンデッド化……ソウルイーター辺りにでもしよう、と不穏な考えをしつつ騎士は竜王国を後にした。











────鐘の音が聴こえる

 身体が軋む。まるで何年も、何十年も、何百年も、いや何千年も身体を動かしていなかったのように身体が軋み悲鳴をあげている。
 視界が暗い。どうやら、何処か狭い場所にいるようだ……そして穴はない。……棺桶だろうか、石造の棺桶なのだろう。

 ふむ、どうするべきか。

 ひとまずはここを出よう。軋む身体を動かし腕を前方、いやこの場合上なのだろう。立っているのではなく横たわっているのだから。
 掌を壁に押し付けそのまま力を加える。すればどうした事だろうか、壁は……いや蓋は容易く動き、そのまま横へとズレて落ちた。


 ぬぅぅ。


 眩しい。溢れんばかりの光が視界に差し込んでくる。いったいこれはなんなのか、いや、これは……もしや……。
 すぐさま軋む身体を無理矢理動かし、棺桶から立ち上がる。空を見ればそこには清々しい程の青空が広がり、そして眩いばかりの雄々しく全てを照らさんばかりの太陽が輝いていた。



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火防女/誘導

「俺も早く異世界で冒険したい!」

 骨は待ってろ。もうすぐ出れるから

「灰の方は何時帰ってくるのですか?」

「ネームレスさん、はよ」





 生えでる岩々、墓標のように突き刺さる剣や杖の武器の数々、静寂が支配するその空間で一人の女が祈りを捧げ続けていた。

 ナザリック地下大墳墓・第六階層『最初の火の炉』
 至高の四十二人、その一人であるネームレスにとって第二のマイルームと言えるその領域にはただ一人だけそこにいる事を許されたNPCがいる。
 領域守護者という肩書きはあれども、守護者としての行動は一切無く、ただ祈る事だけを望まれたNPC。
 名をレティシア。ネームレスに創られた火防女としてのNPC。ユグドラシル時代においてはネームレスのジェスチャーに反応したジェスチャーをするかこの領域の中心にある篝火に祈りを捧げるだけのNPCでしかなかったが、ナザリックが異世界へと転移した現在、彼女はほかのNPCとは違うものになっていた。


「……灰の方」


 ネームレスが彼女に記したフレーバーテキスト。それは彼女がネームレスと同じく嘗ては違う世界違う時代で生き死した存在だったが彼女のソウルをこの世界に現れたネームレスが嘗ての彼女そっくりの身体に注いだ事で蘇ったという旨。
 本来ならばただのフレーバーテキストだったがフレーバーテキストが現実化した以上、彼女はそうなのだ。
 嘗てネームレスが火の無い灰であった時に彼とともに火を消した火防女、それが蘇った者。そういう経緯が現実化した為か、彼女はナザリックのNPCでありながら他のNPCのようにナザリックに忠誠を誓っているわけではない。
 彼女は第一にネームレスを、その次に至高の四十一人に対して敬意を払っている。故に彼らがナザリックを去るというのならば止めはしない、それが彼らの選択ならば止めるというのは間違っていると判断しているからだ。

 だから、彼女は種族もあってナザリックの他のNPCから浮いている。
 さて、そんな彼女がいる領域に一つの人影が訪れた。


「確か、レティシアだったか?」

「……モモンガ様」


 魔王然とした黒いローブに身を包んだ白骨の異形、ネームレスと同じくアンデッド種に属するスケルトン系の最上位種が一つ『死の支配者』たる至高の四十二人が一人にしてナザリックの最高支配者・モモンガ。
 慈悲深い声音の彼に彼女は一礼する。


「……ふむ、ネームレスさんがいないがどうだ?」

「はい、灰の方がおりませんがしかし何も変わりません。ただ、いつもより祈る時間が長いだけです」

「そうか……」


 顔の半分近くを仮面のようなもので隠している彼女の表情は読めず、悲しんでいるのか怒っているのかどうなのかがわからない為モモンガがどう話すべきかを迷っている内に、今度は彼女が口を開いた。


「モモンガ様。灰の方は……また旅へ出られたのですね。何時終わるともしれない旅を」

「…………いや、あの人は戻ってくる。既に伝言(メッセージ)によって話した」

「本当ですか……!……あ、いえ、申し訳ございません」


 不安気で儚げな彼女の言葉に一瞬、モモンガは言葉が詰まりそうになったがすぐにかぶりを振ってつい十数時間ほど前の伝言のやり取りを口にする。
 それは彼女に対して致命的なまでのものであったか、儚げな雰囲気の彼女らしからぬ喜びに満ちた声音を出させた。
 そして、すぐにそんな自分を恥ずかしみ頬を薄く赤らめた彼女にモモンガは軽く心の中で笑みを浮かべつつナザリックの外を自由気ままに旅しているであろう友人に対して罵倒を投げつける。


「……そういう事でだ、ネームレスさんが帰ってくるまで少し待たせる」

「…………いえ、大丈夫です。戻ってくる、そう分かっているのなら……それだけで、私は」

「そうか……(帰ったら絶対イチャつくんだろうなぁ……しかもリア充みたいにじゃなくて熟年の夫婦みたいに……)」


 こういう相手が欲しかったなぁ……。そう心の中に押しとどめ、モモンガはこの領域を後にした。






────────────────────







 時と場は移り変わり、カッツェ平野。
 竜王国より北西に位置する年中霧が満ちる平野であるが、この地はいわく付きのものだ。それはアンデッドが多発するという事。アンデッドが出るだけならば危険な場所程度で収まるがしかし、アンデッドが集まるとより上位のアンデッドが発生しやすくなるという概念がある為に王国・帝国共にアンデッド退治を重要視している土地だ。
 そういった背景からこのカッツェ平野は両国の冒険者及びワーカーにとって稼ぎ場であるという認識が大きい。


 そんな土地にて今日もまた一つのワーカーチームがアンデッドを相手に仕事をしていた。


「クソッ!野郎まだついてきやがるっ!!」

「そんな文句言ってる暇があんならもっと速く走らせなさいよ!」

「うっせぇ!?これ以上は無理だ!馬が潰れるぞ!!」

「……私が飛行(フライ)を使えば……」

「駄目です。アルシェ……それは貴女が囮になるという事と同義です…………大丈夫、頑張れば何とかなります」


 霧に包まれたカッツェ平野。そこを疾駆するのは三つの影、正確に言えば前方を進む二つの影を後方の大きな影が追いかけているという所だろう。
 まず前方の二つの影。それは二頭の馬に二人ずつ乗った人間、装備を見るに恐らくこのカッツェ平野でアンデッド退治をするためにやってきた冒険者またはワーカーなのだろう。そして、そんな彼らを追いかけている影の正体は────


「……なんで、こういう時に限ってスケリトル・ドラゴンが出てくんだよッ!」


 無数の人骨によって形作られた竜の如きアンデッド、名をスケリトル・ドラゴン。第六位階以下の魔法に対する絶対的耐性、つまるところこの世界においては一切の魔法が効かないアンデッドである。
 ミスリル級冒険者チームならば充分討伐できるであろうそれに相対して逃げる彼らはそのレベルではないのか?そう考えられるが決して彼らは実力不足という訳ではない。
 万全ならば充分にスケリトル・ドラゴンを討伐出来る。がしかし、彼らはつい先程までアンデッド退治を行っており、それに応じて消耗してしまっていた。

 それ故の逃走だが、片や一頭の馬に二人ずつ乗って逃走、片や疲労など存在しない大型のアンデッド。これがただの獣に追われているならばいずれ疲れ諦めるだろうが、難しいだろう。
 さらに言えばここはカッツェ平野。アンデッドの多発地域である。


────ザシュッ

『ヒヒィィンッ!?』

「うわぁ!?」「キャッ!?」


 唐突に二頭の内の一頭、大柄な男と華奢な少女が乗っていた馬がつんのめりそのまま二人は地面に投げ出された。
 流石に修羅場を潜り抜けてきただけはあるのか、双方共に受身はしっかりととった事で落馬による負傷は無いようだ。
 そんな二人が乗っていた馬をもう一頭に乗っている彼らのリーダーであるヘッケランは見て、すぐさま落馬の理由を悟る。


骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)かっ!クソッタレ!!」


 見れば馬の右前脚に深々と刺さる矢が一本。ヘッケランはすぐさまそれがこのカッツェ平野に発生するアンデッドの一種、骸骨弓兵だと理解し手綱をさばいて彼らの方へ馬を動かそうとしたが


「ヘッケラン!私の事はいいです!」

「な!?」


 大柄な男、ロバーデイクの叫びにヘッケランと彼と同じ馬に乗るイミーナ、そして彼と共に投げ出された少女アルシェは目を見開く。


「アルシェ、貴女は飛行でヘッケランたちと共に逃げてください。ここは私が殿をつとめます」

「そんな……」


 それは自分を犠牲にして生き延びろ、という言葉だ。これがまったく違うチームの人間ならば躊躇なく逃げただろう、しかし今まで共に戦ってきた仲間を置いて逃げ出せるほど彼女は、いや彼らは薄情者になれなかった。


「ロバー!!」

「ヘッケラン!?何故……!!」


 ロバーデイクの名を叫びながらロバーデイクのもとへ戻ってきたヘッケランとイミーナ。そんな二人にロバーデイクは困惑と責めるような声音をだす。
 しかし、そんなロバーデイクにヘッケランはぎこちない、だが気持ちの良い笑みを向ける。


「仲間を囮に生き延びた、なんて恥ずかしくて帰れたもんじゃねえよ」

「そういうこと。……アルシェ、あなたは」

「みんなが戦うなら、私も……スケリトル・ドラゴンには効かなくても補助は出来る」

「…………!」


 全員が武器を構えスケリトル・ドラゴンを見据える。ヘッケランへと走るスケリトル・ドラゴンはようやく殺せる、と言わんばかりに唸り声を上げている。
 決して万全ではない。希望的に見て何とか全員帰還、普通に考えれば半数は死ぬ、絶望的に見れば全滅。そんな状況にも関わらずヘッケランとロバーデイクは笑っていた。
 全員で、生きて帰るのだ、と。



 ああ、だからだろうか。



 その意気や、良し



 スモウハンマー(武技・処刑鉄鎚)




 瞬間、カッツェ平野の濃霧を吹き飛ばさんばかりの雷光が迸りスケリトル・ドラゴンが爆散した。


「は?」


 そんなありえない光景に覚悟を決めていた彼らの顔は唖然としたものとなり、スケリトル・ドラゴンが存在していた場所から姿を現す何某はそんな四人にとても軽く言葉をかけた。


 良い仲間だ。仲間を見捨てず力を合わせる、見事だよ貴公ら。


 シンプルな騎士鎧に青のサーコート、首元に巻かれた赤いスカーフ、そして一際目が向くのはその身の丈以上の大きさを誇る大鎚。
 そんないきなり現れた騎士、それにすぐヘッケランは硬直より戻り騎士の胸元に輝くものを見つけた。


「アダマンタイト────?」


 ヘッケランが見つけたのは騎士の胸元に垂れ下がっている一つのプレート。それは冒険者のランクを示すもので騎士が所持しているのはアダマンタイト……すなわち冒険者の中でも最上位のもの。
 すぐさまヘッケランは自分の記憶からこの騎士が何者なのか考えるが、大鎚を持ったアダマンタイト冒険者など何人もいる訳ではなく王国のアダマンタイト冒険者チーム『蒼の薔薇』に所属する戦士(ガガーラン)を思い浮かべたが噂に聞くような体躯には見えない。
 では、いったいどこのアダマンタイト冒険者か。そう、警戒して────


 獲物を横取りする形になったが大丈夫だったろうか?

「……ああ、いや、助かった」


 何故だろうか。ヘッケランもイミーナもロバーデイクもアルシェも、全員が目の前の騎士へ対する警戒心を失った。
 理由はわからないが、全員それでいいか、などと普段ならありえない事を考え騎士へと近づいていく。


「……あんたはいったい」

「どこのアダマンタイト冒険者よ……」

 む?ああ……私は竜王国の冒険者だよ。と言ってもあくまで身分保障の為に冒険者になっただけで国は大して関係ないか……と、私が誰かか。


 竜王国。騎士の言葉にヘッケランはすぐに竜王国のアダマンタイト冒険者であるセラブレイトを想像するが恐らく別人だ、と考えつまりは新しいアダマンタイト冒険者と納得した。
 竜王国は年中ビーストマンにより襲撃を受けている。もし、そこで大手柄を挙げたのならアダマンタイト冒険者になれてもおかしくはないし偽っているわけでもないのだろう。
 何せ一撃でスケリトル・ドラゴンを破壊しているのだ。ミスリルやオリハルコンではいささか不可能な事だ。


 私はアストラのセレネ。先も言ったが竜王国の冒険者だが……まあ、身分保障の為になった結果アダマンタイトを得たに過ぎない。さて、君たちは?

「お、俺たちはフォーサイト……帝国のワーカーをやってる。……俺はリーダーのヘッケラン」

「イミーナよ」

「ロバーデイクと言います」

「アルシェ」


 ヘッケラン、フォーサイトの面々の自己紹介を聞いて何度かセレネは頷きその手に持っていた大鎚から手を離す。すると、まるで靄のように大鎚はその場から消えた。
 それにフォーサイトの面々は目を見開くが何でもないように振る舞うセレネにそういうものなのか、と何故か納得してしまう。


「あー、セレネさん?」

 好きに呼んでくれて構わないとも

「……んじゃセレネの旦那。あんた、竜王国の冒険者つったけどこんな所になんの用で来たんだ?依頼?」

「ちょっと、ヘッケラン」

 構わないさ。ふむ、何故ここにいるか、か。まず、依頼ではない。単純に拠点の移動だよ。とある事情でね、竜王国は私を縛れない……だから、こうして他国へ拠点を移せる。

「なんと…………拠点を移すとなると王国か帝国のどちらかですね」


 セレネの言葉にロバーデイクは頷き、セレネが向かうであろう国を二つあげる。
 

 ああ、ひとまずはエ・ランテルに向かおうと思っていてね。貴公らは?

「あー、俺らはこのまんま帝国に戻りますわ。結構消耗してますし……」

 ふむ、では霧を抜けるまで共に行こうか


 そんなセレネの提案に一切の不安を持たずに賛同するフォーサイト、恐らくはそのスケリトル・ドラゴンを一撃で粉砕させる実力から自分たちのようなワーカーを騙す必要なんてないだろう、と判断しての事なのだろうがしかしあまりにも素直な事だ。
 そんな四人にセレネは頬付き兜の下で笑みを浮かべこのカッツェ平野を四人もの旅仲間と共に────射られた馬にはポーションを使用し無事に足として作用した────進んでいった。










 はてさて。よもや、あのフォーサイトと縁が出来るとは…………関わらなければナザリックに誘い込まれて無残に死ぬ、そんな未来を許容したのだが…………人化しているからか、友愛が湧いてしまうな。
 まあ、帝国での活動の際に寄る辺が出来たのは丁度いいな…………それにしてもビーストマン殲滅の報酬にアダマンタイト冒険者としての地位と自由に動く権利をもぎ取って正解だった。
 竜王国のアダマンタイト冒険者……なんだったか、ペロ助みたいな性癖持ちの人があの場にいて助かった。彼と兵士らの言葉がなければせいぜいミスリル、良くてオリハルコンだったからな。

 にしてもこの指輪、確かレベル二十以下ならNPC、プレイヤー、エネミー関係なく攻撃対象に選ばれないとか何とも微妙とも言えない性能の指輪だったが…………この世界では本当に結構重要だな、おい。
 彼らはまったく警戒していなかったし……攻撃対象に選ばれない、がどうやら装備者に対して友好的にさせるとは…………せいぜい警戒はすれども攻撃しようとは思わない程度だと思ったんだがなぁ。


 捨てずに持っておいて正解だったか。

「……?セレネさん、どうかした?」

 なに、こうして少しの間だがこの辛気臭い場所を一人で通らずにすんで、よかったと思ってね。

「はは!確かに、こんなところ一人で突っ切りたくはないわな」


 そんな風に笑うヘッケランに私は兜の下で笑っておき、彼らを見据える。
 帝国での活動の際に利用するのは確定だ。しかし、彼らをナザリックで処分するかというのはいささか遠慮したい。彼らは良いチームだ、無論アインズ・ウール・ゴウンに敵うことはないがそれでもとてもよくまとまっていると思う。
 そうだな、原作どおりに事が進めば充分対応出来るがしかし…………そんなのは私がいてもいなくても変わらない。ならば、崩すのもありか。
 と、どうやら霧が途切れたようだ。


「おや、無事抜けられたようですね」

「てことは、ここでお別れね」

 ええ。では、皆さん短い間でしたがお世話になりました。

「おいおい、セレネの旦那。世話になったのは俺らの方だって、助けてくれてありがとな」

「帝国に来た時は、案内する」

 ええ、その時はお願いしますよ。フォーサイトの皆さん。


 彼らの声を背に、私はエ・ランテルへ向けて馬を進める。
 さて、そろそろモモンガさんから伝言がくる頃合だが…………


『《伝言》────あ、ネームレスさん、聴こえますか?』

『聴こえているよ、モモンガさん』


 噂をすれば何とやら、だな。


『実はですね…………』

『ふむ…………』


 カルネ村と接触したのか…………で、今はその村の村長と情報交換中、と。ということはもうすぐガゼフ・ストロノーフとそれを付け狙うニグン率いる陽光聖典……か。
 で、カルネ村で名乗った際に使ったのは自分の名で組織としての名前でアインズ・ウール・ゴウンを出した……アレか。この世界には私がいるのが分かっているから自分の一存でアインズとは名乗れないとかそういうのなのか。
 そう、モモンガさんの言葉をかなり好意的に解釈し、私は彼らにどう動いてもらうかを考える。


『……まあ、少なくとも意味もなく兵士が村を襲うってことはないでしょう…………竜王国で得た情報的に帝国の鮮血帝?は賢王らしいので多分帝国じゃなくて偽装兵?』

『偽装兵ですか?……となると何が狙い…………あ、ネームレスさん、またどこかの団体が来たようです』

『ん?それじゃあ、伝言を切っても────』

『いえ、このままでいきましょう』

『……はい、わかりました』


 どうやらガゼフ・ストロノーフとその仲間たちがやってきたようだな。はてさて。
 竜王国を見た身では、彼ら陽光聖典には生きて欲しいが…………ううむ。どうするか……そもそも私が竜王国で得た情報をナザリックに送った以上、彼らをわざわざ捕らえる必要がなくて………ついでに生かす必要もなくて……ううむ。
 いや、待てよ?わざわざ法国と敵対する理由なんてないわけで…………


『…………さーん、おーい、ネームレスさーん』

『!?ぁ、ああ、すまないモモンガさん。考え事をしていてね、それでどうしたんですか?』

『えっとですね。カルネ村に来た団体なんですが、どうやら王国戦士長?の一団らしくて』

『ガゼフ・ストロノーフですね。竜王国でも英雄級の戦士と噂されてました…………恐らくは彼を始末する為の偽装兵なのでは?』

『なるほど……ですがあの偽装兵の実力を考えても…………そうか、囮部隊ですね?』


 流石モモンガさんと言うべきだろう。この人は自己評価が基本的に低いが今の御時世の平均を考えるとこの人普通に上の方なんだよな。
 そりゃあ、アインズ・ウール・ゴウンには公務員なたっち・みーさんややまいこさん、教授がいるから仕方ないけどこの人、小卒だろ?
 なのに結構有能なんだよなぁ……ネーミングセンスは悲しいぐらいに終わってるが。


『王国は結構腐ってるらしいので恐らく法国ですね。人間が生き残る為に人間はまとまらないといけない、けど王国が腐ってるからもう駄目だ。よし帝国に取り込ませよう……とかそういう話でしょう』

『…………なるほど。にしても法国ですか……確か、ネームレスさんはプレイヤーが作った国と考えてるんですよね?』

『ええ。竜王国で調べた限り六大神、それと戦って相打ちになった八欲王は間違いなくプレイヤーでしょうね。で、法国のプレイヤーはいないと考えて大丈夫ですが……世界級がある可能性は頭に入れといてください』

『プレイヤーの遺産ってことですね?……わかりました』

『それと、もし法国だった場合……生かして捕縛でお願いします』

『……?プレイヤーがいないのなら報復を警戒しなくてもいいんじゃないですか?』


 まあ、そういう反応だろうね。


『今はいなくても今後、私たちみたいに来るかもしれないでしょう?それで下手に殺してしまったら…………』

『なるほど……人間種のトップギルドが来た場合、間違いなく敵対されますからね……大義名分を少なくする、と言うことですか?』

『ええ……まあ、微々たるものなのかもしれませんが』

『わかりました。出来うる限り気絶に留めますね』

『はい、お願いしますモモンガさん』


 …………切れたか。さて、何とか陽光聖典を生かせそうだが…………ァ……巫女姫は死ぬわ。
 うーん、うーん……仕方がない。この際、漆黒聖典を釣るための犠牲と考えよう…………すまなんだ。シャルティアに対しての世界級の使用、これは回避させるついでにあの漆黒聖典の隊長が持っているであろう二十の一である槍は何とかして処理する必要がある。
 もし仮に世界級を持っていないNPCが相対して使われれば…………それだけは避けねばならない。


 嗚呼、まったくエゴいなぁ……


 私はそう呟いて苦く笑った。





 






 燃えるッ!?

 貴公ッ!、ヌゥっ俺にもか!?

 ……貴公ら一回下がれッ!!



 まさか、石像が火を吐くとは思わなんだ……

 まったくだ。いや、それよりも二体は流石に狡くはないか?

 そういうこっちは三人だろう

 だな


 その男に初めてあった時はただ利用出来る奴が来た、としか思わなかった。
 まあ、話してみるとなかなか面白い奴ではあったな…………だからだろう、奴の召喚に応え共に戦った。


 と、飛んだァ!?掴んだァ!?

 ぬぅぅおおぉぉぉ!!??食べられるぅゥ!!??

 おい、貴公らぁぁぁ!!??


 …………ああ。うむ、まあ、絆されていったのが理解出来た。
 故にこれ以上は駄目だ、私の使命の為にも彼らと共にいることは出来ない……そう判断して私は奴のもとから離れた。その際に用済みの女を殺してな……。



 ほう、貴公か…………多少は賢いと思ったが、そうでもなかったようだな。
 哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ。
 そう思うだろう?なぁ、あんた達。



 ああ、クソッ…………せいぜい、足掻け……貴公……






「…………なんだここは」



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冒険者/暗躍

実はバジリスクにより呪われながら頑張って貪食を倒しました。
え?ロートレク?ソラール?……解呪がね……おかしいなこんなに死ぬもんだったかな……

俺は沖田オルタを引くぞ!ソラァァル!!





 いつもと変わらない風景。
 いつもと変わらない喧騒。
 なんらいつもと変わらないある日、それはやってきた。



 リ・エスティーゼ王国にある都市エ・ランテル、その都市にある冒険者組合の扉が開かれた。
 組合の中で仲間たちと談笑を交わしていた冒険者が、掲示板を見て依頼を吟味していた冒険者が、冒険者らに仕事を凱旋する受付嬢が、何となくその入ってきた人物に目を向け、固まった。
 シンプルな騎士鎧に青いサーコート、首元に巻かれた赤いスカーフ、とうてい一冒険者では用意出来ないような国宝級の鎧に身を包んだ騎士。そんな彼を見た冒険者はどこかの貴族の息子かその護衛が着飾ってるんだろうと考えたが、その鎧についている歴戦の傷や騎士の佇まい、そして何よりその胸にかけ下がっているプレートを見てその考えは誤りだと理解した。

 アダマンタイト。

 騎士のかけ下げているプレートはそれを示すものだった。エ・ランテルは王国の中でも大きい方の都市で、それに見合った情報が流れ込んでくる。故に冒険者たちはその騎士を見て自分たちの知るアダマンタイト冒険者を思い浮かべたがすぐにその誰とも違うと考えた。
 受付嬢は一瞬、偽装か?と考えたがアダマンタイトは希少金属でそうそう偽装など出来はしないし調べれば簡単に分かってしまう。偽装するにしても白金級かオリハルコン級のだろう。


 さて、件の騎士は組合に入って脇目も振らずにまっすぐと受付嬢のもとへ向かっていく。そんな姿に受付にいた冒険者たちは次々と道を開けていき、受付嬢と騎士は対面した。


「え、えっと、ど、どのような御用でしょうか……」

 竜王国より拠点をこちらへ移す為に来た。

「はい、わかりました…………え?」


 竜王国?竜王国のアダマンタイト?拠点を移す?騎士────セレネの言葉にそれを聞いていた周囲の冒険者は仲間内で顔を見合わせる。
 竜王国について詳しいものは竜王国のアダマンタイトと聞いてすぐにセレネについて思い出そうとするがしかし、セレネが冒険者となりアダマンタイトとなったのはつい数日前の事、いまだその情報は王国まで届いてはない。


「り、竜王国の冒険者ですか……えっと、その……」

 アダマンタイトの偽装を疑っているのだろう?わかっているとも。


 セレネはそう言うと、かけ下がっているプレートを外し更には腰に下げている筒状のものを取り外し受付嬢へと手渡した。
 プレートはともかく手渡された筒状のものに受付嬢は首を傾げるがすぐに恐らく蓋の部分とも思われる場所に記されている竜王国の紋章に目を見開きセレネへと目を向ける。


 竜王国が王より貰い受けた証文だ、組合長に渡してくれ。

「は、はい!!??」


 もはや、そんなものまで渡されては目の前の冒険者が偽装しているなど思えるわけもなくすぐさま受付嬢は組合長を呼びにその場を後にした。
 焦っているのか慌てたように走り、途中躓き転びそうになった受付嬢の背を見ながらセレネはただ首を竦めるだけ。
 そんな彼を見て、周囲の冒険者たちは彼がいったいどんな偉業をなしてアダマンタイトになったのかを口々に話し合い始めた。


「竜王国ってこたァやっぱり、ビーストマン相手に色々尽力したってことか?」

「うぅむ、確かに竜王国でアダマンタイトになるとしたらそれが一番確実であるな」

「だな。それに、ビーストマンの相手は熟練の冒険者でも苦戦するらしい…………もしも本当にビーストマン相手にかなりの功績をあげたのなら……」

「相当な実力、英雄級の冒険者ってことですね…………」


「あの鎧……相当なモンだな、だが貴族か王族とかそういうのじゃねえ…………ありゃあ本物の英雄だ」

「ああ、身のこなしといい一切の隙がねぇ……」


 そんな大きいような小さいような話し声を右から左へ流しつつ、セレネはこれからの事を考えていた。
 セレネは転生者だ。故に何となくではあるがこの世界のこれからの流れが大まかではあるが分かっている。暫くはこのエ・ランテルが中心となって物事は起きてくる。
 と言ってもそれらはギルドマスターことモモンガ、が変装した冒険者モモンがこの都市に来てからの話。前回からの情報交換を考えてもまだまだモモンはこの都市に来ないだろう。
 故にセレネがやる事はモモンがこの都市に来るまでに信頼を勝ち取る事だ。

 モモンガがこの都市で動きやすくする為の、その為のアダマンタイト────


(とりあえずナザリックに合流するまでは冒険者として励むとするか、モモンガさんには悪いが冒険者を存分に楽しませてもらおう)


────のはずだ。
 と、そこでようやく先程組合長のもとへ向かった受付嬢が戻ってきた。


「はぁ、はぁ……んん。はい、プレートは本物、竜王国の証文も紛れもなく本物でした。では、組合の登録の為、書類に必要事項を御記入ください」

 心得た。


 受付嬢が出した書類を受け取り、腰に下げたポーチから何やら高価そうな羽根ペンを取り出しインクに付けず書き始める。
 それに受付嬢は疑問符を浮かべたがすぐにその疑問は解消された。インクに付けていないのにその羽根ペンは次々と文字を記していくのだ。
 恐らくはそういうマジックアイテムなのだろう、流石はアダマンタイトと納得した受付嬢だが実際はそれだけではなくこの羽根ペンには文字を書く際に設定した言語を自動的に書くという機能を持ったユグドラシルではネタアイテムの一つである。


(まさか、これが役に立つとは思わなんだ)


 若干のコレクター癖があるセレネが処分せず残しておいたそれの意外な活躍にセレネは感心しつつ必要事項を書き終わらせ受付嬢へと書類を渡す。


「はい、ありがとうございます。名前は……セレネ様ですね。我々エ・ランテル冒険者組合は貴方様を歓迎します」

 はい、ではこれからどうぞよろしく。


 そんなふうに軽く兜の下で笑い、一瞬だけ掲示板へと顔を向けたがすぐに出入り口である扉の方を向きそのまま歩いていく。
 その姿を見た冒険者らはいままでアダマンタイトがいなかったこのエ・ランテルでは自分の実力に見合う依頼がまだない、と判断して今日は登録だけして帰るのか、と想像し……扉へ消えるその背を見送った後すぐにセレネについて興奮するように話し始めた。






────────────────────





 ふぅ……登録は終わったな。後はどこで寝泊まりするか……。



 冒険者組合を後にし、様々な道を進んで人気のない路地裏に辿り着いたセレネは壁に寄りかかりながらその頭を包む兜を外す。
 そうすることで外気に晒されるのは目付きが鋭く肌の白い灰色の髪の美男顔。驚くべきは兜の下に眼鏡をかけていたことだろうか、セレネは眼鏡の位置を直すように人差し指の関節で眼鏡のブリッジを押し上げ、兜を被り直そうとして動きを止めた。
 壁に寄りかかりながら、セレネはその鋭い視線を路地裏のより奥、周囲の建物のせいで光が入らず影が満ちる空間へと向ける。



 影の悪魔(シャドウ・デーモン)……いや、違うな。蟲か?


 その空間より僅かに微かに感じた違和感にセレネが心中を吐露すれば、一際影が濃い部分が蠢きそこから現れたのはネームレスも見たことがある人間大の異形。
 忍者服のようなものを着た黒い蜘蛛のようなそれを見て、セレネは一つ頷く。


 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)か……ナザリックの隠密でいいのだな?

「ハッ、モモンガ様の御命令を受け、ネームレス様の下に馳せ参じました」

 ふむ……つまるところ、モモンガさんは貴公を私の好きなように扱ってもいい、という事で送り付けたと認識していいのだな?

「はい、御身の手足として働く様に命ぜられました」


 なるほど。そう呟いたセレネは虚空────アイテムボックスを開きそこからとあるアイテムを取り出す。
 暗い青色の布にとある紋様が刺繍されたもの。それを八肢刀の暗殺蟲へと与える。


「こ、これは……!!」

 見間違える、という事はないだろうが……私の指揮下にいるという証だ。そうだな、腕に巻いておくといい

「は、ハハァッ!!」


 感涙し五体投地────常人と違い腕が四本多く、この場合は九体投地だが────する八肢刀の暗殺蟲にセレネは肩を竦め、次にスクロールを取り出し空中へ放る。


 《伝言(メッセージ)》────


 放られたスクロールは空中で焼け消え込められた魔法が発動する。


『《伝言(メッセージ)》……デミウルゴス』

『────!?ネ、ネームレス様っ!?』


 伝言が発動し、繋がったのはナザリックにて一二を争う知恵者。ナザリック第七階層が守護者デミウルゴス。


『謝辞やら何やらは不要。私からの指示を実行して欲しい』

『わ、わかりました……いったいどのような御命令でございましょうかネームレス様』

『影の悪魔を数体……そうだな、十体ほど私の指揮下に送って欲しい』

『影の悪魔を十体ですか?……わかりました、私如きでは窺いしれぬお考えがあるのですねネームレス様』

『うむ……さて、ナザリックだがこちらでの信用を確固たるものにしてから向かう。しばし待て』

『はい、わかりました。ネームレス様』

『では、切る────』


 デミウルゴスとの伝言を切り、セレネは兜を被り直し待機している八肢刀の暗殺蟲へと目を向ける。


 では、私は冒険者としての活動に従事する。貴公は……そうだな、この都市にて強者を探せ……あらかじめ言うがレベル30以上がこの世界では英雄クラスだ……それを考慮せよ

「御意」


 そう返事し、すぐにその場から姿を消した八肢刀の暗殺蟲を見送り、セレネもその場を後にした。







────────────────────







 場所は移り変わり王都の某所にてそれは起きた。


「ぃぁ────」

「エドストレーム!!??」


 三日月刀(シミター)の六刀流という奇異な剣士である女、エドストレーム。王国を裏から支配していると言っても過言ではないとある組織に属している女はその身体を無様に輪切りにされて放り捨てられた。
 その同胞らが眼を剥く中、彼らの長はただただ冷静に下手人を見つめる。


「……ふん、何故わざわざこんなのを浮かばせるんだ。盾を浮かばせた方がよっぽどマシだろう」


 それは真鍮の鎧をまとった誰かだった。
 エドストレームが持つ三日月刀と似たような形状の武器を両手に持った戦士、声音からその戦士が男なのだと理解出来る。
 彼ら、『六腕』の長であるゼロは目の前の戦士が自分では到底敵わない存在だと本能で見抜いた。そして、同時にその気になればこちらが迎撃準備が完了する前に輪切りにされたエドストレームのようになると理解していた。


 ダメだ。勝てない。命乞いが通じるのか?


 そんなふうな思考を回しながら、ゼロは目の前の戦士を見て────────戦士はゼロを見た。


「なぁ、一人死んだな」

「俺の武器とコレのそれは似ているだろう?」


 何を言っているのか理解出来なかった。その言葉にいったいどんな意味があるのか分からなかった。


「一つ席が空いたな」

「俺には情報が必要だ。俺にはやる事があるのかもしれない。なら、差し当って必要なものがある」

「金だ。情報だ────なぁ、わかるだろう?」


 その言葉にゼロは今度こそ理解し、戦士へとその手を差し出した。
 全ては生きる為に。この目の前の人の形をした化け物から自らの命を守る為に。
 ゼロはその話に乗った。


「お前は……いったい…………」

「俺か?俺の名は────────」





不死人の癖にタコ殴りで死なないとかチートだろ。ユグドラシルスキル持ってるから仕方ないね。


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印象/対応

ま、まさかの週間六位……日間一位……お、恐ろしや……。
まさかそこまで人気が出るとは思いませんでした……そして、誤字脱字報告、ほんっとうにありがとうございます。

ところでオーンスタインってこんなに難しかったかなぁ……(連続十回死亡)






 新たな王国のアダマンタイト級冒険者、『白晶』のセレネ。
 唐突に竜王国より現れた異邦の冒険者はビーストマン五千を前に単身で殲滅、その偉業をもってアダマンタイト級冒険者となる事を許された。
 そんな彼はつい数日前にエ・ランテルの冒険者に登録してから多くの依頼をこなしてみせた。王国においては信用は未だないが竜王国の女王直筆直印の証文により組合はアダマンタイトとして充分の実力があると判断し、組合からの依頼を任せたのが始まりだった。

 オリハルコン級冒険者チームが苦戦するモンスターを瞬殺、アダマンタイト級冒険者ガガーランですら石化の魔眼を防ぐ為の魔眼殺しを装備し支援を受けてようやくなんとか勝てるレベルのギガント・バジリスクの瞬殺、などといった並の冒険者……いや、実力のある冒険者でも決して簡単ではないそれを軽々とただ一人で打ち倒して見せた。
 そして、恐らくこれこそが『白晶』のセレネの最も有名な逸話でありその二つ名が付けられたきっかけとも言うべき戦い。

 エ・ランテルより南東に進んだ所にある嘗ては砦だった廃墟に現れた巨大な火竜の討伐。
 チームを組まず単身で依頼をこなしているセレネに対して嫉妬心と僅かばかりの好奇心を抱いた愚かなミスリル級冒険者チームが補助を申し出ての依頼だった。
 冒険者組合としてはアダマンタイトから二段は劣るミスリル級冒険者チームを同行させるのは渋い顔をしたがセレネの鶴の一声により彼らは同行を許され、そしてセレネの偉業を伝えるための道具と化した。


「まず、廃墟に現れたっつう火竜だが……ありゃあ御伽噺の中の怪物としか言いようがなかった。バハルス帝国の元オリハルコン級のワーカーが倒したっつう緑竜以上の怪物だ……アレ一匹で人類が滅ぶって言われても信じちまうほどに、だ」

「やっぱりアレだよな。あの白い大剣……同じアダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇のラキュースが持ってるっていう魔剣に負けずとも劣らない英雄の剣……!」

「正しく聖剣……憧れちまうよ……あんなんよぉ」


 白い刀身の大剣に盾、そして結晶の様な輝きを放つ未知の魔法。
 それらを駆使したセレネは人類の危機とも言える火竜を討ち滅ぼしてみせた。


 もはや嫉妬することすら恥ずかしくなったミスリル級冒険者チームは自らセレネを讃えるべくエ・ランテルに意気揚々と帰還した。それはまるで英雄譚に心踊らせる童のようであった、とエ・ランテルの人々は笑った。





『────マッチポンプ、お疲れ様です。ネームレスさん』

『おつありです。信用を得るために利用できる者は利用するのが一番でしたからね』


 まあ、そんな偉業はセレネによるマッチポンプであるのだが、そんな事は身内以外誰も知らない。
 セレネはエ・ランテルで拠点にしているそれなりの宿屋、その部屋で兜を脱ぎ側頭部に指を当て伝言を使用している。無論、相手は友人のモモンガである。


『確かヘルカイトでしたっけ?あの火竜』

『ええ、課金ガチャの微妙枠で、第六位階相当の召喚魔法が付与された指輪で呼び出せるモンスターですけど、実際のカタログスペックだと第七位階相当な火竜ですよ』

『確かぶくぶく茶釜さんがレベル90台のドラゴンを当てちゃった時の課金ガチャに入ってた奴ですよね』

『ペロ助とのガチャ勝負で当てたもので、なかなか使う時がなかったんですけど意外な活躍しました……』


 そう笑ってセレネが思い出すのはギルメンの一人であるエロゲマニアにして爆撃の翼王な友人との勝負。
 結果的にいえば勝負に負けた為にそれを思い出して苦い顔をするが、それはこの場にいないモモンガには分からないことでモモンガは変わらず話していく。


『いいなぁ、早く俺も冒険者になりたいです』

『ふふ、モモンガさんが思ってるほどロマンある仕事じゃあないですよ。ところで影の悪魔に持たせた人化の指輪、どうでした?』

『あ、とても気に入ってますよ!いままで食べれなかったナザリックの美味しい料理を食べれましたし、ゆったりと寝れました。……ただ、アルベドの目が怖い』

『アルベドが?……あー、確か設定がちなみにビッチであるとかなんとかでしたね』

『そうなんですよ……タブラさん、ギャップ萌えだから……変えた方がいいかなぁ?って思ったんですけど、やっぱり人の書いたのを変えるってのは気が引けて……』

『なるほど……』


 モモンガさん、設定変えなかったんだな……と呟きつつ、アイテムボックスから取り出した剣の刀身を布で拭き始める。


『それでいつ頃ナザリックに……?』

『うぅむ……一応組合の方に暫く留守にするって伝えてからだから……明日ナザリックに行きます、滞在時間はだいたい三日間ぐらいですかねぇ……』

『信用というか社会的地位が結果足枷になってますね……』

『すまなんだ……こうなるとは……このネームレスの目をもってしても……』

『……と、とりあえず、迎え役として転移門が使えるシモベを送りますね』

『よろです。それじゃあ────』




 暫くモモンガとの談話を楽しみ、伝言を切ったセレネは立ち上がる。


 さて……ひとまず組合に行かねばな。


 そう言って部屋を後にする前に一度、足を止め……


 私が留守にしている間は、例の少年と死霊術師を監視しておけ。








────────────────────






 ネームレス。
 異形種狩りが流行っていた際に現れたPKKを主体としてプレイしていた異形種プレイヤー。
 当時、たっち・みーさんに異形種狩りから助けられた俺がたっち・みーさんたちのように異形種狩りに反発するプレイヤーが他にもいるのか、と感嘆していたある日の事、たっち・みーさんがまるで犬か猫でも拾ってきたかのように件の異形種プレイヤー・ネームレスさんを連れて帰ってきたのだ。
 聞けば複数の高レベル異形種狩りプレイヤーにタコ殴りにされていたネームレスさんを見かけ、『正義降臨』として乱入し共に全員打ち倒したらしい。それでたっち・みーさんが若干無理矢理連れて帰ってきたわけで……流石のウルベルトさんも反応に困っていた。

 それでなんというか、流れ?でネームレスさんはアインズ・ウール・ゴウン入りし俺たちは仲間として活動する事となった。

 聞けばネームレスさんがユグドラシルを始めたのはこのゲームなら自分の中の理想が叶えられると思ったかららしく、様々な設定を見せてくれた。
 どれもこれもこう、心擽られる設定ばかりで一時期それを使った装備を作ろうと考えたが残念ながらネームレスさんが謝りながら止めてきたので、きっと恥ずかしくなったのだろう。

 そして、ギルドを作り、ギルドホームたるナザリックを手に入れ内装やNPC作成の際にネームレスさんは第六階層の一角と二人分のNPC作成権をもぎ取り『最初の火の炉』と二人のNPCを作った。
 うち一人はプレイアデスの末妹と同じく人間種NPCレティシアを作ったのだが、もう一人は教えてくれなかった。
 最初は結局作らなかったのか?と思ったが聞けばはぐらかされるばかりで作りはしたんだろうな、と考えつつ何時しか宝物殿にいる自分のNPCを思い出して聞くのを止めた。黒歴史を掘り返されるのは辛いよなぁ。

 さて、ユグドラシルが過疎化していく中、意外にもネームレスさんは最後まで残っていた……というよりはあの人の趣味である武器や防具といった装備作成に熱を上げていた。
 過疎化した事で素材集めも横槍が少なくなり、嘗てはかなり高かった素材などがそこそこの値段で売られていたり、上位プレイヤーであるネームレスさんにはソロプレイでも充分だったのだろう。まあ、その際の副産物としてかなりの量のナザリックの維持費を入れてってくれていたため文句は何一つない。
 それに何よりあの人は結構付き合いがいいのだ。基本的に趣味に走るがこちらが金策に誘うとこちらを優先してくれる。頭が上がらない……。


 だから、異世界に来てしまったかもしれないと知った時はとても焦った。まあ、すぐに精神が強制的に落ち着かせられたんだが…………ともかく、伝言を使ってみればあら不思議。
 異世界だろうがエンジョイしてるんだよなぁ……あの人。しかもいきなりレベル20台のビーストマン五千に蹂躙されそうな国を一つ救うとか何してんですか、アンタ。
 いやまあ、現地の色々な情報を沢山手に入れたのはとてもありがたいことなんですけどね……?

 にしても本当にネームレスさんがいてくれてよかった。
 まだ会えてはいないけれど、毎日毎日の情報交換はとても有意義でとても精神的にも助かっている。守護者たちの前では支配者ロールしないといけないからなぁ…………。
 後は、ネームレスさんが影の悪魔に持たせてくれた人化の指輪……あれのおかげでリアルじゃ絶対食べられないような美味しい料理を楽しめたし、この世界に来て初めてゆったりと寝る事が出来た。
 本当にネームレスさん様々としか言えないな…………早く、ネームレスさんと一緒に会いたいな……それで一緒に冒険を…………あぁ、眠くなってきたな。
 自室の扉の前にいるメイドに暫く寝る旨を伝え、部屋から退出させアルベドを通さないように暫く誰も部屋に入れないように指示を出して俺は豪華でデカいベッドに入り目を閉じた。






────────────────────









「竜王国に現れた謎の騎士、か」

「聞けばおよそ五千ものビーストマン相手に放った魔法は数百体のビーストマンを消し炭にし、逃げるビーストマン共へ身を投じながら一切の傷を負わずに殲滅したという」

「並の実力ではあるまい。英雄級……いや、恐らく番外席次とはいかずとも漆黒聖典の隊長クラスの実力はあるだろう……」

「流石にそれは高く見積もりすぎだろう……」

「いや、前回からもう百年近く経つ…………そういうことなのやもしれん」



 どこか、豪華な装飾の施されたまるで教会の聖堂かのような場所で六人もの老人らが話し合っていた。
 彼らは嘗てこの世界に現れたプレイヤーらによって創られた宗教国家、スレイン法国の最高神官。そして、そんな彼らがこうして集まり話し合っているのは数日前に突如として竜王国に現れ竜王国の王都を攻め滅ぼそうとしたビーストマンの軍勢をただ一人で殲滅した騎士について。
 曰く、名をアストラのセレネ。
 彼の騎士はビーストマン殲滅の報酬として、アダマンタイト冒険者としての地位と竜王国に縛られない、そして僅かばかりの金銭。
 身に纏う国宝級の武具すら霞む程の装備に身を包んだ騎士が求めるものとは到底思えないそれらを報酬とした、という不自然さが彼ら最高神官らにとある予想を作らせた。


「我ら人類を守護する御方なのやもしれぬ……」

「うむ……そうなれば接触を図らねばならないが……」

「聞けば王国へと向かったらしいが……」

「よりによって王国か…………」


 百年毎の『ぷれいやー』の降臨。
 彼らは竜王国に現れた騎士……ネームレスをプレイヤーであると考え接触する為の策を考え始めるが同時につい先日の陽光聖典の任務にて起きた事態を思い出す。


「王国と言えば、陽光聖典を監視していた土の巫女姫及び神官らの被害は甚大だ……破滅の竜王の復活と何か関係があるのやもしれん…………」

「……もしや、彼の騎士は破滅の竜王の復活に対する……?」

「……!!なるほど、可能性はありえる。となれば接触を悩む必要は皆無であろう……」

「ならば、漆黒聖典を動かし破滅の竜王の調査の際に一部を向かわせよう…………地理と冒険者として活動する事を考えればエ・ランテルへと向かった可能性が高い」

「人選は……?破滅の竜王の調査もあるのだ。一人でも抜けると厳しいものがあるぞ……?」


 ネームレスとの接触に破滅の竜王の調査、どちらも重要事項である為に会議が長引く中、一人の最高神官が呟いた言葉に他の五人は固まった。


「ならば、番外席次を向かわせよう」

「何を言っている……流石にそれは早計過ぎる」

「そもそも奴を送ったら防衛はどうするのだ」

「…… もし、仮に破滅の竜王が蘇り更には破滅の竜王に対して神の至宝が効かなかった場合、そのまま番外席次を戦わせる」

「だから、何故そうなる!?わざわざ番外席次を出す必要はないだろう!」


 声を荒らげる他の五人たちなど暖簾の腕押しと言わんばかりに一人の最高神官はかなり強い口調でつげる。


「もしも本当に彼の騎士が神であった場合、どうするのだ?神への謁見なのだ、下手に下位の者を向かわせれば侮られていると取られかねん。ならば、番外席次を送るべきだ」

「そ、それは……」

「だ、だがしかし……」

「むむ……上位の者となれば確かに限られる。カイレ様や漆黒聖典の隊長は破滅の竜王の調査からは決して外せん……それを考えれば他の者ではやはり……」

「か、かといって……番外席次一人でも不敬になりかねんぞ」

「なれば、クインティアの片割れはどうだ?」


 もはや、四対二にまで賛否が分かれた中、最初の一人の案に賛成した者らで次々と話が煮詰まり始める。
 そんな状況を見て反対していた二人も賛成に傾いていた。


「第五席次を?それは何故…………ッ、もしや」

「うむ、風花聖典の者によればあの裏切り者はエ・ランテルへと向かったそうだ」

「つまりは裏切り者、妹の処分をついでに任せると?」

「確かに……もしも彼の騎士が本当に人類の守護者であらせれば…………快楽殺人鬼を許されぬであろうな」

「……ふむ、第五席次ならば申し分あるまい」


「では、エ・ランテルへと向かわせ彼の騎士と接触するのは番外席次と第五席次、問題ないな?」




 そうして会議は締め括られ、次々と最高神官らは退出していく。
 この世界に本来存在しなかった筈のネームレス。彼がいることでこの世界はいったいどのように変わっていくのか。
 それはきっと、まだ誰も知らないだろう。





今回は序盤の頼れる武器(チーズ的に)飛竜の剣を落としてくれるヘルカイトを少しと月光の大剣装備したセレネ、そしてそんな彼の印象と対応のお話でした。
正直モモンガ視点と法国は少し悩みながら書きました。

……感想にセレネとモモンでプリ〇ュア的なのを言われてぶっちゃけビビりました。
ちなみに作者は漆黒聖典の中でクアイエッセと番外席次が好きです


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人間性/苛立ち

感想の方で主人公の台詞が地の文(一人称視点)と混ざる、と言われたので試験的に主人公の台詞に「」をつけました。どうでしょうか?

以蔵はまさかの限定、吐血しそう




 正直に言おう。
 私は原作を知っていたからナザリックのNPCらの反応やら態度やらをなんとなくは知っていた為にある程度心持ちはしていた。
 前世を見てもメイドとか護衛とか、そういう経験なんて一つたりともなかったがある程度対応は考えていた。考えていたんだけどなぁ……。


 冒険でやや汚れた鎧を着ていたら……

『ネームレス様、装備が汚れています……よろしければ拭かせて頂きますが……』

『え、いや、別に……』

『どうか、至高の御方の装備を拭かせて頂けますよう……』

『あ、はい。よろしく』


 マイルームでゆっくりしようかな?と思えば……

『どうぞ、ネームレス様』

『え、あ、うん』

『お待ちを。室内の安全確認を』

『え、あ、はい』


 マイルームに持ってきてくれた飲み物、それを飲もうと自分でコップに入れれば……

『ッ!?な、何か、粗相をしてしまいましたでしょうか!?』

『え?』

『申し訳ございません!どうか、どうか、御許しください!!??』

『えぇぇ……』


 うん、いや、想像していたものの何倍もヤバいよ。こう、あまりにアレでナザリック帰還の一日目で胃に穴が空きそうな程に緊張してます。まあ、ナザリックにいる間は人化の指輪を外してるから穴が空く胃は腐って……いや、ゾンビ系の種族だがメインがメインだから別に内臓腐ってるわけじゃないのか?
 一応ものは食べれるのだから。いや、そもそも今は着けてるから空くわ。
 で、とりあえず正面を見よう。


「いやぁ、ネームレスさんも俺と同じ緊張を味わってくれて嬉しいですよ」

「いい笑顔をするな、いい笑顔を」


 現在、私は予定通りナザリックに帰還し、感動した守護者たちから祝いの言葉を受け、専属メイドやら護衛やらの些か過保護な扱いを受け、胃に穴が空きそうな程緊張し、そして今こうして私のマイルームでモモンガさんと二人きりで食事をとっていた。
 やはり、人化の指輪を送っておいたのが良かったのかとても人間性溢れる良い表情で食事をしている。良い表情だがいい笑顔だ、殴りたいこの笑顔。


「それでどうです?リアルじゃ到底味わえない食事は」

「ほんと、感謝しかないです。いや、マジで、異世界に来て最高ですよ」

「モモンガさんを考えるとユグドラシルのサービス終了したら、ヘロヘロさんとは言わなくともかなり壊れますね……それを鑑みればやっぱり異世界転移は最高の偶然ですね」

「「まあ、その代わりプレッシャーがデカいですけどね」」


 台詞が被った私とモモンガさんは互いの顔を見て、思いっきり笑いあった。人化の指輪により種族特有のスキルは機能しない為、互いにアンデッド種の精神沈静化は発動せず途中で気分が平坦になる事は無い。
 人化の指輪が送られるまで、どんな感情も強制的に沈静化させられていたモモンガさんからすればそれは人間性を留める良いものとなる。
 私は彼を魔王になどさせない。
 私はモモンガさんをアインズ・ウール・ゴウンにはさせない。
 その為なら私は────


「ネームレスさん?」

「……え、あ、すいません。少し考え事をしてまして」

「考え事ですか?……あ、もしかして冒険者のですか?」

「まあ、そんなところですね」


 適当に誤魔化しつつ、モモンガさんの話を聞く。転移してからの事、カルネ村での出来事、ガゼフ・ストロノーフの事、陽光聖典の事、様々な出来事を聞き私はただ、ただ笑みを浮かべる。
 さながら、それは子供が親に学校でどんな事があったのかを楽しげに話すのを微笑ましく見ている親のような気持ちだ。


「それで、ネームレスさんはどんな事がありました?伝言でそれなりに教えてもらいましたけど、そこまで詳しくは教えてもらえませんでしたから」

「うーん、私としては冒険者になにやら憧れを向けてるモモンガさんのそれを失望させるような事は言いたくないんですがねぇ……まあ、いいですよ」


 まあ、モモンガさんが冒険者になった時のことを考えて話すのが一番か……。


「そうですね……まず、冒険者としての最初の仕事はですね────────」










「…………なるほど、つまり冒険者は俺が思ってるような冒険をするものではなく、モンスターに対する傭兵または何でも屋みたいなものなんですね……」

「残念ながら」


 私の話にあからさまに残念がっている態度を出すモモンガさんに私は苦笑をしつつ、件の陽光聖典の話にシフトする。


「さて、モモンガさん。件の法国の特殊部隊ですが」

「あぁ、彼らですか。とりあえず法国とあまり敵対しない事を考えると捕虜の扱いも慎重にしないといけないので第六階層の一角にマーレのスキルで牢を作らせてその中に」


 天使を呼んでも弱くて牢は破れないんで大丈夫ですよ。そう、笑うモモンガさんに私は頷きつつ、陽光聖典をどうするかを考える。
 未だ、法国と縁はない。そんな状態で陽光聖典を法国に送り返しては少しまずいだろう……となれば、どう法国と繋がりを持つか……。


「一先ずは法国と何らかの繋がりを持つまではいまのままの扱いでいいでしょう」

「法国と繋がりですか……となるとあまり、守護者たちやそれ以外のシモベに人間を襲わせないように言わなきゃならないですね」

「うーん、その辺は野盗やらカルト集団とかの社会的に駆除されるべき悪人に対してのみ許可すればいいのでは?それと、ナザリックの不利益になる〜とか言っておけばあまりやらなくなるんじゃないですか?」

「なるほど……後は極力そういった悪人以外に対しては退却する事を命令すれば大丈夫ですかね?」

「多分、そうすれば、いいんじゃないですか?」


 まあ、そんな漠然とした対策しか出来ないんだよなぁ。彼らが何かやらかす前に私が接触出来ればいいんだが…………いや、待てよ?
 そうだよ。確か陽光聖典と相対した時に対情報魔法に対する攻勢防御発動したんだよな……となれば、土の巫女姫は死んでしまったわけで……原作通りなら漆黒聖典が破滅の竜王の調査に来るわけだから……シャルティアに先んじて接触がもしかしたら出来るのでは?
 そうすれば、シャルティアが操られるという展開が無くなるわけで…………よし、そうしよう。


「と、そうだ。モモンガさん」

「なんですか?ネームレスさん」

「冒険者やるって言ってましたけど、お一人ですか?私は状況が状況だったから一人ですけど…………」


 護衛役は沢山潜んでいるけどね。
 原作ではプレアデスのナーベラルが護衛役として相方を務めていたが……。


「ええ、実はアルベドにせめて護衛役を、と言われまして……」

「なるほど……しかし、護衛役をナザリックからですか。全体的にカルマ値は悪ですからねぇ……揉め事が起きそうで、何とも言えないですよ」

「善よりのユリやセバスがいいかなぁ、と思ったんですが……セバスは王国に商人チームとして行きますし……ユリはデュラハンなのでなにかのひょうしに首が外れたら……アウトなんで……」

「ううむ…………宝物殿」

「ゴフッ」


 あ、吐血した。……ぇ。
 まさか、いまの一言が胃に穴でも空けたのか?やばいな、黒歴史。
 ……え?黒歴史?わっかんないなぁ…………あぁでも会わなきゃならないか……レティシアはともかく彼女はなぁ。
 レティシアはフレーバーテキスト的にも、性格的にも問題は無いが彼女は…………仕方ない、会わねば始まらん。


「アクターなんだから、命令さえすればボロも出さないでしょう」

「た、多分、そうなんでしょうけども……」

「モモンガさん。今回会わなかったら次、顔出すのはいったい何時になるんです?絶対先延ばしにするでしょ、あなた」

「うぐ……」


 実際、原作でもシャルティアのアレがなければ顔を出しにいかずに何やかんやで先延ばしにするであろう、というのはなんとなく分かる。
 まあ、黒歴史を見たくないのはわかる……その黒歴史が動いてるならなおさらだ。


「まあ、いずれ会わなきゃならないんですから。会いに行きましょ?」

「で、でもですね……」

「でもも何もねぇよ、行け骸骨」

「焼死体」


 互いに微笑みながら互いの頬を掴み、私はモモンガさんにヘタレと呟く。それが突き刺さるのか呻くモモンガさん、掴んでいた頬をはなし席を立つ。


「……片付けですか?」

「ええ、互いに人間性を保つ為にはきちんとした生活をせねばならないですし。多少の徹夜はしょうがないとして」

「う……善処します」


 食べ終わった皿をこの……あの、……そのなんだアレだ。食事とかを乗っけて運ぶ手押し車?に重ねていく。……そうだ、ワゴンだ。……ワゴンであってるのか?前世でもあまり口に出したり紙に書いたりしないような名前だから分からん。
 そんな私を見て、モモンガさんも立ち上がり自分が使ったグラスやらをワゴンに乗せようとしたが私はそれを止める。


「モモンガさん、下手にやるとアレなんでどうぞそのまま宝物殿に」

「え、まさかの確定事項」

「ハリーハリーハリー!」

「えぇぇ…………」


 渋々といった顔で私の部屋を後にするモモンガさんを見て、私は軽く肩を竦めてワゴンに汚くならないように皿やグラスを置いていく。
 メイドに任せれば良い話だがあまり誰かにこういったことを任せるのは得意でないため、一人でやる。
 まあ、また失望されたと勘違いしてしまうメイドが出るかもしれないがこれは性分、なかなか変えれるものではない。ノックされた扉の方へ入室の許可を出し私は席に再びつく。


「失礼します、ネームレス様」

「ああ。それじゃあ下げてくれ」

「承知致しました」


 ワゴンを引き、そのまま部屋を出ていくメイドを無視して私は寝室へと入っていく。


「はてさて、彼女に会わねば話は進まない。気が引けるが…………うぅむ」


 これがただのNPCだったなら特に何も言わない。彼女もまたレティシアや私のようにダークソウル的なフレーバーテキストが盛り込まれている。そして、苦手意識がある……いや、苦手意識というよりも罪悪感というか申し訳なさというかついでに言えばレティシアと違い彼女は私が殺したわけで…………。


「ついでに言えば、ぶっちゃけユグドラシル時代からあんまり会ってなかったから彼女を創ったのを忘れていた……というなんとも最低な理由がある…………からなぁ」


 どうしよう…………モモンガさんにああ言った手前、私が彼女に会わないというのは……うぅむ。
 仕方ない……ナザリックを出る前に会いに行くか……。はぁ、不安だ。





────────────────────






「ふん、何が不死王だ。そこらの亡者よりちと頭が回って魔術が使えるだけじゃないか」

「ぎぃぃ…………」


 王都・八本指が一部門、警備部門の根城として使われているとある家屋にて真鍮の鎧を纏った騎士が何か人間大のものに腰掛けていた。
 よく見れば小刻みに動き、呻いているそれは人間……いや、アンデッド……俗に言う死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の一体でアンデッドでありながら人間の組織である八本指のメンバーに名を連ねている『不死王』の異名を持つ者だった。
 そんな彼に腰掛けているのはつい最近、警備部門の中でも屈指の実力を誇る六人の猛者『六腕』の内の一人を瞬殺し空いた席に座った男。


 カリムのロートレク。

 親しき者は嘗てロートレクと呼び、共に笑いあった異界の騎士である。
 そんな彼はショーテルをその手で弄びながらその足を『不死王』デイバーノックの片手の甲に置き、踏み躙る。


「この世界の奴らもどいつもこいつも弱い奴らばかり……にも関わらずさも自分が強いとばかりに振る舞う…………子供か何かなのか?ん?」


 ロートレクの言葉にあるのは苛立ちだ。
 理由は定かではないが嘗てとある男……友人と呼べる────ロートレクは恥ずかしいのか頑なに呼ばなかったが────騎士に殺され、ソウルが尽きて亡者として彷徨う事もなく意識が消失した筈なのだ。
 だが、気がつけばこの見知らぬ世界にて目覚めていた。聞けば嘗ての様な不死人はいないが亡者もどきのアンデッドやモンスターがいる、それはそれで面白いと意気込んでみれば、


「この始末」


 どれもこれも弱いのだ。
 無論、磨けばアノール・ロンドの番兵共を倒せるようになるだろう人間もいた。
 だがしかし、大半が目に余るほどに素質が無く、そして諦観しているのだ。決して上を目指そうという者がいないというわけではないが目指している場所がロートレクからすれば低いのだ。
 故にロートレクからは彼らは諦観しているようにしか見えない。


「雑魚がいきがるな、雑魚は雑魚らしく部屋の隅で震えてろ」

「ふざけ……るナ……」

「どうした?何か言い返したいなら言ってみたらどうだ」


 せせら笑うロートレクにデイバーノックは歯がゆい思いをし、どうにか動こうとして────


「もう、我慢、ならん……死ねッ」


 空気を切り裂きながらロートレクに不可視の刃が放たれた。
 振るったのは黒い全身鎧を身にまとった戦士。彼もまた六腕の一人で『空間斬』の異名を持つ男、名を────


「ぎぃああ!?」

「な……!」


 しかし、憐れな事に男が放った一撃はものの見事にデイバーノックを切り裂き、ロートレクは既にそこにはいなかった。
 仲間を切り裂いた事に男は動揺した為か、消えたロートレクを探すのに一瞬のラグが挟まり、そして


「まったく、憐れでしょうがない」

「こふっ」


 男の鎧を貫通して腹から生え出たショーテルの刀身、兜から吹き出る血液、急速に熱が失われていく手足、背後から聞こえる声。


「ま、雑魚が一匹二匹消えた所で何も変わりはしないか」


 鎧ごと肉を引き裂きショーテルを抜いたロートレクはそのまま仲間に切られ動けないデイバーノックの頭を踏みつけ、部屋を出ていった。
 後に残るのは血濡れの部屋と遺体だけであった。





感想で言われてしましたが主人公のヒロインはかぼたん以外はろくすっぽ考えてないです。増えるかもしれんし増えないかもしれない……


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出立

今回は少し短いです。
というのも本来もう少し長いはずが途中で「あ、これだいぶ長くなる……途中で切らなきゃ次投稿すんの遅くなるわ」となり申して。途中で切って投稿しました。








 こう言っては悪いがやはり、ナザリックにいるよりもこうして外にいる方がとても楽だ。
 そんな事を考えながらネームレスことセレネは竜王国より貰った駿馬フロム────ネームセンス皆無のモモンガによりダークホースと名付けられそうになったがリバーブローによって何とか回避した────に跨り冒険者としての拠点であるエ・ランテルへと向かっていた。
 本来ならば三日ほどナザリックに滞在している予定だったのだが、新たなアダマンタイト冒険者という肩書きのためにそこまでエ・ランテルを離れる事が出来ずナザリックには一日と半分しか居られなかったのだ。
 そういった事なら仕方ない、とモモンガ共々納得したセレネはこうして渋々ナザリックを出たのだが…………


 いや、まったく。緊張しないですむのは助かるな。


 なお、兜の下の顔はわりかし笑顔である。
 そう呟いて思い浮かべるのはナザリックでの出来事。ほぼ間違いなくプレッシャーと期待と緊張で胃に致命的な穴が空くであろう玉座の間での守護者謁見である。





 遡る事数時間前…………




 ナザリック地下大墳墓・第十階層玉座の間には様々な人物が集まっていた。
 長い銀色の髪を片方にまとめ、肌は白蝋じみた白さ、瞳は真紅という人間離れした容姿に漆黒のボールガウンドレスを身にまとった可憐な少女(シャルティア)
 カマキリとアリを融合させたかのような直立歩行したライトブルーの体色を持つ常人以上の巨躯の蟲、四本の腕と口に該当する場所には虫特有の下顎を持つ異形(コキュートス)
 金髪を肩口で切りそろえ緑と青のオッドアイに浅黒い肌、ベストと長ズボンを着たボーイッシュな少女(アウラ)、そしてそんな少女に良く似たおかっぱ頭とベストにスカートを履いた少年(マーレ)
 黒髪のオールバック、肌はやや日焼けしたような色で丸メガネをかけストライプ入りの赤い三つ揃えのスーツを着用したビジネスマンか弁護士を思わせる青年(デミウルゴス)……しかし、腰部からは銀のプレートで包まれたような尾が生えていた。
 純白のドレスを纏った女神の如き容姿を持つ黒翼を生やした美女(アルベド)

 そんな人ならざるものらが跪き、そんな彼らを見下ろすように数段高い位置に佇むのは二柱の魔人。
 片や玉座に座す、漆黒の魔王然としたローブに身を包み胸元からは紅い宝玉が覗く死の支配者(オーバーロード)
 片や玉座の傍らに立つ、焼け爛れ歪んでいてもなお圧倒的な威を放つ騎士鎧、後頭部に異形の王冠が形作られた兜を纏う死を亡くした者(アンデッド)

 彼らこそがナザリック地下大墳墓における至高の四十二人が二人。


「各々が忙しい中、よくぞ集まってくれたお前達…………さて、此度呼んだのは他でもない。我が友であるネームレスさんが帰還した事を伝える為だ……無論、既に知っていた者もいるようだが」

 すまないな、貴公ら。ナザリックがこの世界に転移した際に私はナザリックより離れた土地にて一人佇んでいた…………ナザリックが転移してはや数日、帰還が遅いと言われても仕方がないな。

「ふ、友よ。そのような事を言うものはこのナザリックにはおらんよ」

 そうか……それはよかった。さて、貴公ら……すまないが伝える事がある……私とモモンガさんが共に話し合い……このナザリックの新たな方針を決定した。困惑するだろうがどうか聞いてほしい。

 力で世界を支配するのは容易かろう。智謀を奮って支配するのも容易いやもしれない。しかし、私もモモンガさんもそれは良しとはしない…………我らが望むのは世界を支配するのではなく異形も人間も亜人も共に過ごせる国…………甘い夢想事ではあろう……しかし、我らはそんな夢幻を追いかけ掴む『プレイヤー』故に…………どうか貴公らの力を貸してほしい。


 そんな演説に跪く彼らはただ、ただ御意と一言高らかに叫び自分たちの支配者にしてその全てを捧げるべきいと尊き至高の御方の理想に応えるべくその忠誠をより強く誓った。
 そんな彼らに満足したのか二柱とも、軽く頷き解散の旨を伝えその場を後にした。







 流石に玉座の間でのあれこれは疲れたな。あの時は人化の指輪を外していたからよかった……。


 あ、でもその時のが今更に……うっ……。そう、呟きながら腹に手を当てる主を慰めるように嘶くフロム。
 そんなフロムの背を撫でながらセレネは守護者らに告げた言葉が例え無理難題のそれだとしても間違いなく守護者らはそれを成そうと奮闘するのだろうと考えていた。
 セレネとモモンガからすればその夢想事は別に重要ではない、二人が望んだのはモモンガが呟いた言葉からデミウルゴスがそのまま受け取りその後曲解してナザリック内に浸透した『世界征服』という野望を止めること。
 異形種と人間、亜人が共に暮らせる国に関しては魔導国があったからいけるだろうという考えがあってこそ、なければなかったでまた別の考えを探したが…………


 世界征服なんぞしたら、それこそモモンガさんが魔王化する…………いや、それより先にこっちが人間性を失いそうだな。


 兜の下で苦笑いをしながらセレネは次に第六階層での、最初の火の炉での出来事を思い浮かべる。
 本来ならば真っ先に会いに行かねばならない女性のもとにあろう事かセレネは一番最後、ナザリック出立の前に寄ったのだ。
 如何にNPCとはいえ、彼女……レティシアはそのフレーバーテキストによりダークソウル3の記憶が存在しており、レティシアにとってセレネとはNPCにとっての創造主や至高の御方とはまた違う大切な存在なのだ。
 彼女自身がどれほど時間がかかっても帰ってきてくれさえすればいいと思っていても一人の女性としてレティシアはそんな自分の気を知らないセレネに対して、NPCとしては酷い対応をもって訴えた。



 久しいなレティシa────スパァンッ

『ええ、本当にお久し振りです、灰の方。ですが顔を出すのが些か遅いのでは?聞けば灰の方はナザリックを出立すると聞きました……そして、今がその直前だと…………遅すぎはしませんか?』

 え、あ……その。

『嘗ては真っ先に私のもとに来てくださいましたのに…………いいですか?如何に火防女と言えども私もまた一人の乙女……恋い慕う殿方に後回しにされるというのはとても辛い……です』

 ……そうか、それはすまなかった。レティシア、私の配慮が足りなかったらしい……次からは真っ先に貴公のもとへ行こう。

『はい……ありがとうございます、灰の方…………ですが、それはそれとして貴方には言いたいことがいくつか』

 あ、はい。






 そんなレティシアに次会えば間違いなく自主的に正座しかねない出来事にブルリと身を震わせる。兜の下では出会い頭に張られた頬がひくつき、その記憶に蓋をする。


 と、とりあえずエ・ランテルに戻って依頼をこなそう……信用を高めればモモンガさんが冒険者業をする際に口利き出来るかもしれないし……。


 乾いた声でそう呟く彼の背は到底ナザリックの支配者の一人でもアダマンタイト級冒険者でも薪の王でもなく一人の苦労性にしか見えなかった。







────────────────────







「ねぇ、まだつかないの?」

「……これでもかなり急いでいるんですが、まあ鷲馬(ヒポグリフ)ですので遅くても後一日かかりませんよ」


 王国及び法国国境付近上空にて一頭の鷲馬(ヒポグリフ)がやや急ぎながら飛行している。それだけならば珍しいで終わるがその背には二つほど人影がありなにやら話していた。
 一人は鷲馬の手綱を握っている白と茶色のコートに腕輪の様な装飾を付けている金髪の青年、もう一人は青年の後ろでやや危なげに腰掛けている髪が真ん中で白と黒に分かれ更には瞳も髪とは逆だが白黒とオッドアイになっている十代前半程の見た目の少女。
 少女からは退屈そうな雰囲気が醸し出され、そんな雰囲気を背中に感じる青年はやや頬が引きつっている。
 

「そう……」

「…………はぁ」


 青年の言葉に興味を無くしたように辺りの景色を見ている少女に聴こえないように青年はため息をつく。
 実際、少女の質問した回数はこれで両の手の指では数えるのに足りなくなった。そう何度も聞かれれば流石に辟易するというものだが、青年はそれについて文句は言えない……それは少女が青年よりも実年齢としては歳上且つ実力が上だからだろうか。
 そもそも何故自分がこんな事を……と思う青年。今回のこれは青年と少女が所属する法国のまとめ役ともいえる最高神官らから下されたぷれいやーまたは神人の可能性がある、アダマンタイト級冒険者との会合。
 青年としてはもしかすれば神に出会えるやもしれないと乗り気ではあったが、この同行者がいただけなかった。これで神ではなく神人だったら青年にとって疲労しか残らないだろう。

 そんな青年の気心など知ったものか、と少女は法国より持ってきたルビクキューと呼ばれる玩具を弄りながらただ、ただ辺りの景色を見ている。
 それを見ることは出来ないが、できればそのまま到着まで黙っていてくれ……と思う青年だがそんな思いは儚く散ってしまった。少女が何ともなしに口をまた開いたのだ。


「ねぇ、そのエ・ランテルの騎士は私より強いと思う?」

「え?…………神人だったら貴女ほどじゃあないと思いますよ?ただ、もしも本当に神なら……その時は貴女よりも強いかもしれません」

「ふーん、なら私より強い事でも祈っておくわ」


 そんな少女らしからぬ言葉にふと気になった青年は、その疑問をそのまま少女にぶつけてみる。


「つ、強さですか?……いえ、確かに人類の守護者になってもらいたい以上、強者であるのはこちらとしても都合がいいですが……」

「私はね、敗北を知りたいの」


 敗北を知りたい。青年の疑問に返された答えはそれだった。
 それは生まれついての強者故の傲慢な望み。敗北というものを知らないから出てくるもの。
 彼女は敗北の辛さを知らない、敗北の恐怖を知らない、敗北の痛みを知らない、敗北の惨めさを知らない、何より彼女は敗北の清々しさを知らないのだ。
 だがまあ、そんな彼女の言葉に青年は引きつった表情をするがしかし前を向いてる青年のそれを少女が見れるわけではない為、それに気付かず話を続ける。


「私ね、私より強い男の子供を産みたいの。私より強いなら美しくても醜くても、外道畜生でも清廉潔白でも、高潔でも下卑ていても、頭が良くても悪くても、何なら人間じゃなくても……うん、亜人でもたとえ異形種でもいいわ。私は私より強い男の子供を孕みたいのよ」

「だって、私と私より強い男の間に産まれた子供ならきっと凄く強いわ。もしかしたら竜王よりも強い子供が産まれるかもしれないじゃない?」

「………………」


 青年の心の中で、聞かなければよかった、ただその言葉だけが満ちていた。
 彼女は神人、しかも最強の人間なのだ、そんな彼女より強い者との間に産まれる子供は確かに強いだろう。そして、未来の人類の守護者として君臨するのだろう…………しかし、強ければ器量や性格、種族はなんでもいいというのは流石に問題だ。
 もしかすれば人類にとってとんでもない怪物が産まれる危険性もあるのだから。
 青年、クアイエッセは疑問をぶつけた数秒前の自分と彼女に同行する様に命じた隊長と最高神官らを軽く呪った。







 なお、法国の裏切り者でクアイエッセの妹の抹殺命令もあるのだがそんなものは最初から些事でしかなく、少女からとんでもない望みを聞いてしまった今のクアイエッセからすれば割とどうでもよかったりする。






 



強かなかぼたんことレティシア。
沖田オルタは以蔵3になりました。つらたん


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熔鉄/依頼

Twitterや活動報告で言ってましたが一週間ほど諸事情で投稿出来ずすいませんでした。問題はなくこれからもきちんと投稿したいと思います。

にしてもオーバーロード三期のキービジュアル……子山羊召喚しちゃうのかァ……







「はぁ…………」

 ナザリック地下大墳墓が支配者、モモンガの心は何とも言えない複雑怪奇な曇り空であった。
 ナザリックの外へ出て、冒険者としての先駆者であるネームレスのように冒険者をやりながら情報集め、もとい息抜きを目論んでいたモモンガはアルベドやデミウルゴスらを何とか説得し────デミウルゴスに関してはネームレスが説得したようだ────こうしてナザリックの外で冒険者稼業をする事が出来るわけなのだが…………そんな希望が通って嬉しいモモンガの心を悩ますものはなんなのか、それは目の前の人物だろう。


「どうしたモモン」

「ん、あ、……うん、何でもない」


 それは全身鎧の某である。
 灰色の熔鉄が如き重厚な鎧を軽々と身にまとい、その頭を収めた兜はまるで竜の顔の様で鼻頭に当たる部分の両側面からはまるで牙か角か、はたまた東洋の龍の髭のように鋭利な刃じみたものが伸び後頭部には赤くたなびく兜飾りが伸びている。
 そんな並大抵の人間では装備出来ぬ重厚な鎧をまとう重戦士らしくその背に背負っているのは恐らく得物であろう鋭利な片刃の大斧と大盾である。
 モモンガと共にいるということはナザリックのNPCなのだが彼の様な姿のNPCはナザリックには存在しない……では、果たして何者か?
 その答えはモモンガの創造したNPC。宝物殿というナザリックの他施設とは違う空間に存在する領域の守護を任されたが故に一部の至高の御方以外名前しか知らぬNPCである。
 しかしモモンガのNPC……パンドラズ・アクターとはこのような姿では決してない。リアルにおいて欧州アーコロジーで勃発したという事件の際にとある軍が着ていたらしい黄色の軍服をまとうゆで卵に埴輪の様な顔をしたドッペルゲンガー。
 そんな彼が何故こんな姿をしているのか、それはモモンガが彼に与えた能力にある。彼、パンドラズ・アクターはモモンガを含む至高の四十二人全てを本来の八割程度の実力でだが再現する事が出来た。そんな彼をモモンガのお供に推薦したネームレスが自分の姿をとらせつつ、るし☆ふぁーやタブラ・スマラグディナにウルベルト・アレイン・オードルと共に隠れて作成したドレスルームに保管していた型落ちの装備を引っ張り出して装備させた結果がこれだ。
 ネームレス曰く、『熔鉄の竜狩り』シリーズ……その聖遺物級に型落ちした装備。型落ちしているとはいえ、性能は高く雷系のダメージを五割カットするなどといった性能がある。
 

「……それにしてもネームレスさんはほんと色々作ったなぁ」

「ネームレス様はモモンガ様のアイテムフェチのように装備フェチのきらいがありますからねぇ……んんッ失礼」


 冒険者となるべくエ・ランテルを目指す二人組の旅人、凄腕の魔法詠唱者モモンとその相棒である重戦士アクトという設定でナザリックの外へと出たモモンガ。
 モモンガは当初、ネームレスのように支配者ではなくただのモモンガとして冒険をし息抜きをしようとしていたがNPCたちの嘆願により一人では出れず結果、こうして自分のNPCであるパンドラズ・アクターと共に冒険者として活動することに決まった。
 モモンガとしては自分の黒歴史とも言えるパンドラズ・アクターが目の前で動いているのがかなり精神に来ており、ネームレスにパンドラズ・アクターと会わせた際には恥ずかしさのあまり宝物殿で超位魔法を暴発させようとしたほど。
 さて、そういった事だけがモモンガの心を複雑怪奇な曇天にしているわけではない。口を開けば芝居がかったウザい言葉、動けばいちいち大袈裟なウザい動きしか出てこないあのモモンガ印の黒歴史がネームレスから何か耳打ちされ装備を身にまとった途端、先程までのそれがなりを潜めてまるで長年の相棒の様に振る舞い始めたのだ。


「……(いや、ほんと、ネームレスさんいったい何を言ったんだ?)」


 ネームレスがエ・ランテルへ向かう前にそれとなくネームレスに聞いても適当にはぐらかされた。ただ、少なくともモモンガ自身に何も悪い事はないと保証されている為、モモンガは釈然としないが深くは聞かないようにしているがやはり気になるものは気になるのだろう。
 そんな心境がモモンガの心を複雑怪奇にしていた。


「(旅をする以上、主従関係では少し怪しまれる……ならば長年の相棒として振舞え、アクターならその程度軽々と出来るだろう?────ふふ、流石ですねネームレス様。普段ナザリックの支配者として緊張しているモモンガ様の御心を配慮し気を楽にさせるための演技……このパンドラズ・アクター感服致しましたァッ!!)」


 なお、パンドラズ・アクターの内心ではウザい口調は健在である。
 さて、そんな二人は現在先にエ・ランテルへと着いたネームレスに一日遅れでエ・ランテル入りを果たし、冒険者として登録すべく組合へ向けて歩いていた。
 ネームレスの命令でエ・ランテルの詳細な調査を行った八肢刀の暗殺蟲から街に入る前に調査の際に作成した地図を確認したパンドラズ・アクターを案内にしている為、そうそう迷うことはなく寄り道せずに二人は組合へ向かう。







 時同じくして冒険者組合。
 その二階にある応接室にてアダマンタイト級冒険者セレネは冒険者組合の組合長プルトン・アインザックと対面していた。


「すまなかった。休暇をあまり与えられず」

 いえ、アダマンタイト級冒険者である以上理解はしています……それで私を呼んだ理由は?


 話はまずアインザックの謝罪から始まった。それは度重なる依頼を終えたセレネが羽を伸ばすために申請した一週間程の休暇をアダマンタイト級冒険者という冒険者組合としても都市としても重要な立場である為に二日程しか許可しなかったこと。
 本来、希少なアダマンタイト級冒険者はその重要性などからかなりのわがままを組合に通す事が出来るのだがあまり主張せず二日という妥協でもないそれを受け入れたセレネにアインザックは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
 しかしいつまでもそれを引っ張るわけにもいかず、アインザックはセレネの催促に先程までの申し訳なさそうな雰囲気を組合長としての威厳あるものへ変える。


「ああ、君を呼んだのはアダマンタイト級冒険者への依頼だ」

 ふむ……

「このエ・ランテル近郊にとある盗賊団が現れてね……調査のもと銀級や金級の冒険者に盗賊団討伐の依頼を出したんだが」

 失敗した、と。


 セレネの言葉にアインザックは頷き、机の下から羊皮紙を取り出しセレネへと手渡す。
 それを受け取ったセレネは書面の記載事項に目を通す。
 そこに記載されているのは命からがら逃げ延びた銀級冒険者の報告。


 ……規模はそこそこですが、罠と用心棒ですか。

「ああ、逃げ延びた冒険者曰くその用心棒はブレイン・アングラウスだったらしい」


 本当かどうかは定かではないがね。そう付け足すアインザックにセレネは兜の下で眉を顰める。それは流れから自分がこの盗賊団及び用心棒の対処をするということが分かっているから。


 それで、私ですか

「……そうなる。もし本当にその用心棒がブレイン・アングラウスだった場合……ミスリル級では厳しい依頼になる、それを考えるとアダマンタイト級の君に任せたい」

 ……了解した。では、詳細事項を頼む

「ああ、少し待っていてくれ。地図を取ってくる」


 そう言って応接室を退出するアインザック、それを見送りセレネは少し気を抜く。


 ……盗賊団か。


 となればシャルティアの洗脳は起きずにすむかな?そう心の中で呟き、念の為に漆黒聖典に対する行動を考え始める。
 セレネ自身は世界級(ワールド)を保有している為、漆黒聖典と共にいるであろう老婆(カイレ)の世界級による支配を防げるだろう、しかし警戒すべきは漆黒聖典の隊長……第一席次。
 身に纏う装備に対して些か貧相な槍、どのような形状であったかは既にセレネは思い出せない……しかし、そんな明らかに不自然な槍についての議論は覚えていた。


 ロンギヌス……アレには本当に切っても切り離せない縁があるな


 使用すれば使用者のデータが消し飛ぶというハイリスクがあるものの対象のデータを消し飛ばすというハイリターンが存在する消費タイプの世界級。二十の内の一であるそれはネームレスにとって決して浅からぬ縁があった。
 彼の前任者が様々な経緯があったものの最終的にそれで消されたのだから。


 自業自得相応の末路……少なくとも世界級があるし運営はいないからそういう事にはならないだろうが…………警戒しなくてはなぁ


 異世界且つ自分という存在によるバタフライ・エフェクトをより一層警戒し呟いて気持ちを切り替える。
 それの数秒後、応接室の扉が再び開き何枚かの大きめの羊皮紙を持ったアインザックが入ってきた。


「すまない、待たせた」

 いえ、気にせず

「そうか、それはありがたい。……さて、件の盗賊団の根城だが……」


 机上に広げられたエ・ランテル近郊の地図と、斥候などの冒険者が集めた情報から判明した盗賊団の根城の位置などの説明をアインザックは始めていき、セレネもまた懐からメモを取り出し情報を書き込み始めた。






 ようやく終わったか…………


 応接室に入ってから果たしてどのくらい経っただろうか。如何にリング・オブ・サステナンスを付けているとしても精神的に疲れはするのか、応接室から出てきたセレネは右手を左肩に当てながら首を動かしている。
 そんなセレネの姿を目にした何人かの冒険者は苦笑し、その中の何人かがセレネへと近づいていく。


「よぉ、なかなか長かったじゃねえか」

 イグヴァルジか……そりゃあ色々情報とかの確認作業があったからな


 話しかけてきたのはセレネの偉業の一つ竜退治の際に同行したミスリル級冒険者チームクラルグラのリーダーを務めるイグヴァルジという男。当初はセレネに色々と難癖を付けていた男だが竜退治以来、以前の態度は形を潜めこうしてセレネに気安くなっていた。
 下手に上下関係を表に押し出した振る舞いをされるのは嫌なセレネとしては、気安い同僚の様なイグヴァルジを歓迎していた。


「ってえと、アレか。ブレイン・アングラウスが用心棒してるとかいう盗賊団か」

 そうなるな。かの戦士長と互角の男が用心棒の可能性があるならアダマンタイトの私に仕事が回ってくるのは必然だろう

「ぶっちゃけた話、戦士長よりアンタの方が強いだろうな。蒼の薔薇ですら竜を撃退したっていうのを聞く程度だ」


 そんな竜を一人で討伐したアンタが周辺諸国最強かもな。
 そんな風に呵呵大笑するイグヴァルジをよそにふとセレネは二階吹き抜けから一階の様子を見た。そこから見えるのはいつも通りの冒険者組合の光景────とはまた違ったものがあった。


 ………………


 受付嬢の対面に立つセレネの視界には、見慣れぬ姿の二人組が映っている。片方は黒い軍服の上から魔法詠唱者の様なローブをまとった男、もう片方は灰色の全身鎧で身を包み、その背には大斧と大盾が背負われている。どうやら受付嬢と何か言い合っているようだ。
 そんな二人組を見ている事にイグヴァルジは気がついたのか複雑そうな表情をして口を開く。


「あー、ありゃ数時間前に冒険者に登録した新人だな…………うん、アレだ。アンタに会わなかったら絶対分からなかったがありゃ俺らより強いわ」


 そんなイグヴァルジの言葉にクラルグラの面々は驚きと共に仕方ないという反応を見せる。
 一瞬セレネは首を傾げたがすぐにその理由を悟る。イグヴァルジはセレネがやって来るまでこのエ・ランテルにおいて最高位のミスリル級冒険者を務めていた為に傲慢であった。しかし、セレネの竜退治を目撃してから鼻を折られ嘗てなら実力を過小評価していたが今のイグヴァルジは冷静に二人組の実力を察する事が出来た。
 自分たちミスリル級冒険者よりも強い、と。


 規則である以上、私のような例外を除けば基本的に最初は(カッパー)から始まるからな…………仕方ない

「見る限り、ランク以上の依頼をやりたいようだが……規則だからな……」


 イグヴァルジと彼ら二人組について話していると二人組は諦めたのか浅くだが頭を下げて……何やら四人組の冒険者が声をかけてきた。
 それを見てセレネは兜の下でほくそ笑んでその場を後にした。






────────────────────







『────と、まあ、そんな経緯で漆黒の剣という冒険者チームと一緒にンフィーレアさんの依頼を受けることになりまして』

『ンフィーレアというとこの街の有名な薬師ですね。確かどのようなマジックアイテムも使えるとかいう何とも面白いタレントだとか…………あまりおおっぴらに言うもんじゃないですけどね、そういうの』

『ですね……』


 冒険者組合を後にした私は一人、エ・ランテルの幾つかある門の内、目的地に一番近い門の前で馬の用意が終わるまでモモンガさんと伝言を使い、互いに情報を交換していた。
 原作のようにナーベラルとモモンガさんではなくパンドラズ・アクターとモモンガさんで組ませたが……その変化がどう影響するのかが少し不安だ。少なくともパンドラズ・アクターならナーベラルの様に情報漏洩はしないだろう。
 ……ん?モモンガさんがフレーバーテキスト変えてないならその場合どうなるんだ?
 モモンガさんの伴侶=アルベドというのは、モモンガさんがフレーバーテキストを変えたから生じたものなのか……果たして…………。


「セレネさん、用意が終わりました」

 ん、ああ、わかった。すぐ行こう

『用意が終わったそうなので、そろそろ』

『あ、はい。わかりました、それじゃあ次は依頼終わってからかけますね』

『ええ、それでお願いします。それじゃ』


 伝言を切り、馬の用意をしてくれた衛兵に軽く会釈し私はすぐに向かおうと足を向けて────


 ぁ────?


 指輪の知覚範囲内に現れたソレにただ、身体の深奥、ソウルが熱を孕んだ気がした。




モモンガの為にパンドラズアクターやデミウルゴスの説得を頑張ったネームレス。
ついでにエルダーリッチにならずにすんだイグヴァルジ


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