立てば石楠花、座れば牡丹、戦う姿はゴリってる!!! (九十九夜)
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初っ端からハードモード・・・?

リハビリついでに新しいの書けば?と勧められたので書いてみた。
といってもお試しなので続くかどうかは未定。


「私はこの通り国に仕え、王に仕えるもの。故に貴女を寂しがらせてしまうこともあるかもしれない。ですが、これから先何者からも貴女を守って見せると誓いましょう。ですからどうか、私を受け入れてください。」

 

熱の籠った男の、宣誓にも似た言葉に、思いがけずも心が揺れた。

こんな私でも、誰かを愛していいのだろうか、恋に生きていいのだろうか。

幸せを夢見て、いいのだろうか。

 

「誠実な方。けれど、それならば。条件があります。次の新月の日の夜にまたここにきて私と語らってくださいまし。その時に明かす私の身の上を聞いて、それでも受け入れてくださるというのであれば、私は貴方の物になりましょう。」

 

 

そして次の新月の夜。待てど暮らせど、ついに朝日が昇っても、男が来ることはなかった。

 

―――ああ、どうして。どうして、来てくれないのですか。

約束したのに、約束したのに。

 

ポロリポロリと女は泣く。

信じていたのに。と、顔を覆って。

 

 

***

 

 

オス、おらモブ。名前はもうある。コンラッドっていうんだ。よろしく。

早速だが俺の自慢の家族を紹介しようと思う。

まず、我らが一家の大黒柱、父・アグラヴェイン。(年齢不詳)

まるでやーさんみたいな強面でごつごつした印象を受けるけど、何でもこなして且つ、俺とかーちゃんを大切にしてくれる自慢のとーちゃんだ!

次に、我らが家族のオアシス、母・クローディア。(かなり若く見えるけどこっちも年齢不詳)

すげーぞ。何がすげーってうちのかーちゃん超美人。更に更に料理も出来て、そこらの騎士じゃ勝てねーくらいつえーんだぞ!スゲくね!?

あ、でもさ。たぶん俺のかーちゃん転生者っぽいんだよね。なんせ作ってくれるのブリテン料理じゃなく日本食が主だったりするから。いやまあ、うまいんだけどさ。

 

は?なんでわかったか?ああうん。オレも転生者だから・・・。

え・・・死因を晒せ・・・?落ちたんだよ・・・肥溜めに・・・。

管理者がさ・・・蓋・・・締め忘れたんだって。

 

 

・・・・はいはいはいはい!気を取り直していってみましょう!

続いての話題はこちら!

どん!はい、見ての通り水面に俺の顔が映ってますね~。

ね?ほら、すごい美形でしょ?

この母親譲りの青い目に~どっから来たかわからない金髪に~

これまたどっから来たかわからない精悍な清々しいイケメン面~

 

どう見たって目の色違う太陽さんじゃねーかどチクセウ!!

どーなってんだよアッくん要素一つもねーよ。

不義の子()確定じゃねーか!!

何故かアグラなヴェインさん何も言ってこねーしよー・・・。

あ、もしかしたら隔世遺伝みたいなもんか!!

なーんだそっかあ、心配して損した~

 

 

・・・なんて思ってる時期か俺にもありました。

 

今日ってか明日。オレは騎士として城仕えが決まった。

その際に兜を渡され俺の出自とこの役割の理由を打ち明けられた。

 

曰く、本当はオレの父はかのガラティーン卿でいろいろあって俺の存在を知らぬまま母と別れてしまった。

曰く、父(アグラヴェイン)が下手に動くことのできない円卓内部の不忠者を発見またはそれの兆候を見せたものへの対処、報告をするため。

とかなんとか・・・うん知ってた。

そして父よ。多分俺に気を使っていろんなところの言葉ぼかしてんだろうけれどさあ・・・

結局あれだろ。なんやかんやあって酒の勢いで同僚だった男装騎士(かーちゃん)と関係を持ったガラティーンさんがなんか勘違いの末に別人だと思って逢瀬()重ねて婚姻迫ったけど返事待ちの間に他に婚約者できて身重のかーちゃん捨てたってことだろ。

それぐらい俺でもわかるよ。

 

え?アグラヴェイン優し過ぎねって?

なんか最初男性不信だったかーちゃんに親近感湧いて取り敢えず気遣ってたみたい。だけど、そのうち俺にも懐かれて情もあるからってかーちゃんと結婚することになったんだと。

それからまともな家庭の中で家を回しつつオレを目一杯可愛がるかーちゃんを見て色んなところのネジが緩んだり取れたりして現在のちょい親ばかと嫁馬鹿が入った鉄の男に転身した。

愛の力()ってすげーな。熟年夫婦ばりのコンビネーションの万年新婚夫婦がそこにはいた。

あ、もうすぐ俺にーちゃんになるんだぜ。

 

 

ちなみに俺の顔とかゴリラ卿そっくりだけどムカつかないのかそれとなく聞いてみた。ら、「見た目は兄上だが中身は私とほぼほぼ変わらないから気にしない。」と返ってきた。マジで?それ喜んでいいの?

ちなみに同じようなことをかーちゃんにも、モードレッドの姐さんにも言われた。Oh・・・。

 

取り敢えずアレだ、ゴリラ卿。首洗って城の裏な。

 



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マッシュ、マッシュッ、マッシュッ!!

お気に入りがついている・・・だと・・・!?

じゃ、じゃあ。二話目、い、いってみよー、かー?


こんにちは皆さん。元気に騎士()やってるコンラッドです。

ま、騎士っつっても円卓には入ってないんだけども。

そう、俺は騎士になったはいいがあくまでも城内でそれとなく動けるように、なんであって表立って尽くせっていう訳じゃない。逆にこれからのことを考えるとむしろ目立たないほうが好都合だろう。

そう思っていたのは俺だけではなかったようで父も快く頷いてくれた。

 

だからその、俺の表向きの設定はロット王に仕える名門貴族のへなちょこ息子が女の子で言う行儀見習いをしに奉公に来ている的なナヨッともやしっ子設定になっている。

・・・なっているんだが。

 

「コンラッド。いいところに、王にお出しする軽食を作ったのですが、その、作りすぎてしまいまして。よろしければお食べになりませんか?」

 

心なし恥ずかしそうに微笑む目の前のゴリラに溜息を吐きたくなる。

会いたくねえ奴に、会いたくねえタイミングであっちまったよ・・・。

 

「い、いえ。あの、お気持ちはうれしいのですが自分はもう・・・」

 

言いかけて、ゴリラ越しに部屋を覗くと震えるギャラハッド卿と目の死んだ父上が椅子に座っていた。

どうやら運悪く捕まってしまったらしい。

取り敢えずとんずらだと思っていたら二人と目が合ってしまった。

父上に関しては首を振ってくるなと言っているが、ギャラハッド卿はまるで地獄に仏と言わんばかりに涙を溜めた顔を破顔させる。

 

「さあ、どうぞこちらへ!!」

 

グイっと腕を引かれて室内へ。

ヤバい。逃げるタイミング逃した。

放しやがれええええっゴリラゴリラゴリラああァッ!!

 

あっ、ああああああ!?――――

 

 

***

 

 

ひ、ひどい目に遭った。マッシュはもう、もう・・・。

取り敢えずあの後、ギャラハッド卿とはマッシュ被害者の会を結成した。

イエスポテト、ノウマッシュ!!

固い握手を交わした後、今度は口裏合わせようねとかと約束して別れる。

・・・今度何か手料理持ってってやろう。

フラフラのギャラハッド卿の後姿をみてそう思ったのは此処だけの秘密である。

ちなみに父上は食べ終わったと同時に執務があるからとすぐに戻ってしまったが俺は知っている。

「クローディアの手料理が食べたい・・・。生姜焼き、味噌汁、卵焼き、豚汁、カレー、ハンバーグ・・・。」

とブツブツとまるで呪詛の様にかーちゃんの作る料理名を言っていたことを。

がんばれとーちゃん!あと一か月の辛抱だ!!

 

現代社会出身としてはちょっとどころではないくらいアレなのだがここはブリテンである。

残念なことに騎士のほとんどが脳筋だったり癖が強すぎる奴がほとんどで書類仕事ができる奴がいない。

文官もいるが現場に出るわけではないのでどうしても足りないことが出てくる。

だからそのぶんとーちゃんの様に両方できる奴は貴重なのである。

俺?俺はほら、いいとこのコネ坊ちゃんだからさ。

 

いやあの・・・だからさ。話は戻るけど・・・あの、ゴリラ卿?俺間違っても円卓の候補にすらなれねー奴だから・・・さ。あの、構ってほしくないんだけど・・・。

つか、こっちこないでえええええええっ!?

 

何なんだ奴は!おかげで碌に探れやしないんだけど!?

何なの?あんたは直感B+でも持ってんのか!?

エンカウント率高すぎんだけどおおおおお!!

 

・・・俺はまだ知らない。

俺の手料理を食べたギャラハッド卿が(食の)安全地帯として割とエンカウント率高めになることを・・・

そして、そんな息子と関わりの深い俺にランスロット卿が関わりを持とうとしてこちらもエンカウント率高めの案件になるという事を・・・

 

 



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そうだ、外道になろう!

まさか一日二日でここまで増えると思わんかった。


「はっ」

 

ガキン

 

「せいっ」

 

ギャンッ

 

「ぜりゃああッ」

 

ガッ  ・・・カラカラ

 

「・・・参りました。」

 

ハローみんな、俺は今絶賛剣の稽古中です。

相手は何を隠そう叔母・・・ンンッ叔父のモードレッド卿に稽古をつけてもらっています。

 

「よし!今日はこれくらいにしとくか。」

 

「ありがとうございました。」

 

言って、丁度正午だからと母さんに渡された弁当をモードレッド卿に手渡し、自身の分に手を付ける。

 

「お、サンキュー。今日のもうまそうだな。」

 

箸を付けて暫し咀嚼した後「そういえば・・・。」とモードレッド姐さんが漏らす様に言った。

 

「お前、なんで大振りな技出さねーんだ?小手先が器用なのは知ってっけど、それじゃ決定打何て打てねーぜ?」

 

いつ来るかと思っていた質問だった。

俺が普段から使っているのは細身の長剣で、確かに小手先の自由は聞くが決定打には欠けると言われると頷ける。

西洋の刃は日本刀の様に引いて斬るのではなく自重により押し切る。または刺し貫く事に重きを置く構造になっている。そこからすればやはりというか、心配してくれているのであろう。

しかしだ、俺にも譲れないモノがある。

 

「・・・だって、大振りにしたら似るんですよ。動きが、ゴリラ(アレ)と。」

 

「はあ?・・・あ。」

 

命のやり取りで何言ってんだとか言われるかもしれない。

だが!俺は!奴みたいには!なりたくない!!

という訳で、頑なに奴とは別の方向に鍛えていくつもりである。

・・・というか俺も顔がばれるにしろばれないにしろ奴に倣って将来的に「ゴリラ2号」とか呼ばれるのが嫌なのもあったりする。

俺はゴリラやない!!人間や!!

なんか知らんが向こうは俺との戯れは楽しいらしいが俺としては早く離れたい対象でしかない。

ギャラハッド卿はそんな俺たちから何故か自分と傍迷惑卿を投影したらしく、最近前にも増して優しくなった。

というか気にかけてくれる頻度が増えた。さすが、確かな目をお持ちである。

・・・ある種要注意人物でもあるという事でもあるが・・・。

そんなことを考えていると草陰からビュンっと何かが投擲される。

掴んだそれは投げナイフだった。

それを見たモードレッド卿は雄叫びとともにその草陰に突っ込み、見事暗殺者を伸してしまった。

かっけえ!流石姐さん!!どこぞのゴリティーン卿とは大違いだ!!

暗殺者の身ぐるみを引っぺがして、これまた暗殺者の持っていた縄でぐるぐる巻きにして転がす。

あれ?これ俺らの方が追剥みたいじゃね?

 

「あーっと・・・これは、たぶん毒だな。で、こっちがきっと仕込み針で・・・と。」

 

「ん?なんでしょう、これ。」

 

よく見れば髪の毛の束らしいものが入っていた。

マジもんの人毛である。少し気味が悪い。

 

「うえっ、なんつーもん持ってんだコイツ・・・。」

 

日の光に当たってきらりと光る髪の毛。

恐らく魔術用か、はたまたは現場攪乱のためのものか・・・。

どちらでも良かったが、俺はその時輝きによって見えずらくなった髪を見てふと、魔が差した。

というか、思いついた。

これ、暗殺道具に使えんじゃね?・・・と。

 

「いいこと思いついちゃいました。」

 

疑問符を浮かべるモードレッド卿をそのままに俺は手順やら耐久性やらを考えていた。

 

 

***

 

 

ひうん ひうん

 

クンッ  スパン

 

「・・・やっぱり音がなあ・・・。」

 

あれから俺は暇なときはもっぱらこの糸の訓練に時間を使っていた。

一応糸そのものは幾度かの試行錯誤の末に何とか実用までは持って行けたのだがいかんせん音が鳴ることが目下の課題である。

いや、確かに糸遣いとしては曲絃師とか憧れるよ?でもどちらかと言えば某吸血鬼漫画の執事さんの鋼線術の方が音もそんなに出ないし好都合なんだよね・・・。

え?お前騎士じゃねえのかって?

いやうん騎士だよ?表向きはね?

だけどいざとなったら、というかそのうちこういった技能は必要になってくると思うんだよね。

それ以前に俺別に騎士じゃなくてもいいし。

これ言ったら他の連中にぶん殴られるかもしれないけど・・・俺は成り行きで騎士になったんであって、憧れて騎士になったわけじゃないから。

暗殺者兼騎士。略して暗殺騎士。あれ?そんな略されてなくね?

という訳でまあ俺は現在暗殺技能を磨いている訳である。

・・・あの身体でも使える技の一つや二つも欲しいからね。

 

さて、今日も楽しく外道チャレンジ!

今日はどれくらい精度上げられるかなっと。

 

小さな音の後にスパンスパンと木が切れた。

 

「そこで見てるの、だーれだ?」



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外道、誘拐するってよ。

あ゛あ゛あ゛あ゛っ


「はぁっはぁっはぁっ・・・キャッ!?」

 

足が縺れてしまいそのまま少女はドシャっと倒れ込む。

その後を追うように近づいてきた複数の馬の蹄の音にハッとして起き上がろうとするが、どうやら足を挫いているらしく、うまく起き上がれない。

とうとう少女のすぐ傍にまで迫り「やっと見つけたぞ!手間を掛けさせやがって!」と怒鳴り声が響いた。

 

降りて近づいてくる男たち。

もうどうしようもなく絶望的な状況であり、少女には強張った身体を丸める他なかった。

「おいっ立て!」という男の言葉に首を左右に振りそのままの体勢を保とうとすると髪を鷲掴まれて無理矢理目線を上げさせられた。

 

「いいとこの姫さんだか何だか知らねえが調子乗ってんじゃねえぞ!!」

 

「黄色い猿が!!」

 

ガッ

 

「う゛っ」

 

頬を思い切り殴られる。

 

 

泣こうが悲鳴を上げようが変わらず降ってくる拳と蹴りと罵声と厭らしい笑い声。

そんな中で現実逃避気味に彼女は思考する。

 

どうして、なんで、なぜ。

 

私はただ、あの日常から、世界から逃げたかっただけなのに。と

 

少女はこの世界の人間ではなかった。

未来で第二魔法とか言われる並行世界とやらから来たわけでもなく、俗にいう観測世界。

異世界とやらから逃げるためにこんな空想的な手段に走った人間だったのだ。

それ自体は別段罪でも何でもない。が、彼女は失念していた。

上手く飛んだあと、どうやってその世界で生計を立てていくのかを、

どうやってうまく周りをだまして生活を保障してもらうのかを、

その後のことを全く考えていなかったのだ。

 

あるのはこういった魔法とかが使えるようなところの知識が漫画や小説を通じて断片的に。

果たして、それで無事でいられるのか?

 

・・・結果はご覧の通り。全くもって芳しくない。

この世界、ブリテンには魔法は存在している。

が、全てがそんなアニメや児童書の様にふわふわとしたご都合主義で成り立っているわけではない。

というか、どちらかと言えばシビアである。

魔法には理論があり、現象には理由がある。

故に、価値観だってなんだって、何処までもそれこそ悲劇的なくらい現実的(シビア)だ。

 

ここはブリテン。後のイギリス。ブルネットの髪はいないわけではないが珍しい。

黄みがかった肌。中世辺りのこの国ではやはりというか肌の色は白い。

そうして極めつけは、コーカソイドらしき人々が多いこの国の中で浮いてしまうモンゴロイド独特の人相に身綺麗な格好。

 

正に、珍妙ないいカモなのであった。

現にこうして奴隷商人か盗賊みたいなのに捕まりかけている。

 

ああ、きっと私。ここで死んじゃうんだ。

 

ポツリと、幼い子どもの様に漠然と少女は思った。

 

いやだなあ、いやだなあ、いやだなあ。

でも、死んじゃうんだ。

 

そう思っていた時、不意に足音が聞こえた。

さっきまで降ってきていた拳や蹴りはもう来ない。

代わりに聞こえてきたのは男たちのどよめきと、安い革靴の音でも、馬の蹄の音でもない、重厚な鉄の音。

 

「ふむ、ここには闇市があると聞いてきたのですが・・・。」

 

気絶するふり、というかどのみち動かない身体をそのままに耳をそばだてる。

若く、張りのある男性の声だ。

 

「んだ?何かと思えばどこぞの騎士様じゃねえかよ。」

「こんなしけたとこになあんのごようでしょおかあ?騎士様よお!?」

「はっそんなすかした兜被りやがって!!」

 

「・・・あまり品物に期待できそうにもありませんし。摘発したほうが無難かなあ・・・。」

 

殺気立つ男たちを前にして、鉄の足音の持ち主は何事かを呟くとうん、と納得したかのように頷いた。

 

「あ゛!?おいおいおい兄ちゃん。あんた立場ってもんがわかってねえなあ?ああん!?」

「これが見えねえのか?」

 

グイっと引き合いに出されて、苦痛に悲鳴を上げる。

暫し沈黙の後、びゅっと何かが風を切る様な音がして思わず目を開ける。

男性が「そこのレディに免じて一太刀くらいは許しましょう。」というのとほぼ同時に彼の首を狙って横振りに斧が振られた。

ガギャンッという音がして間もなく、ガシャンと何かが落ちる。

思わず瞑ってしまった目を開けると、吹っ飛んだのは兜だったようで彼の首はちゃんとついていた。

が、ここで少女は驚く。

 

えっ・・・?

 

だって、その顔は。

少女が異世界でよく見知った顔だったのだから。

 

ガ、ガウェイン!?

 

そんな唖然としている少女を余所に会話は続く。

 

「へ、へへっ兜の下は優男ってか!?」

「こいつぁ丁度いい!二人揃って売り飛ばしちまえ!!」

 

やんややんやと騒ぐ周りをそのままに沈黙していた男性は顔に手を遣って確認する仕草を取る。

 

「・・・確かに、一撃で決めるならそれこそ袈裟斬りか首を狙うか。けれど、こうもピンポイントで継ぎ目を狙ってくるとは思いませんでした。いやはや、よい腕をお持ちで。」

 

ニコニコとこの場に似合わぬ温和にして凛々しい笑顔で言って「でも、」と言葉を濁す。

 

「予定は変更です。この顔を見られたからには、申し訳ありませんが処理させていただきます。」

 

そう言ったその顔は、欠片も笑ってなんかいなかった。

 

 

 

***

 

 

「ううっこ・・・こ、は・・・?」

 

「気がつかれましたか、レディ。」

 

気が付いたらしい少女に寄って行って膝を付く。

きょとんとこちらを見る少女に微笑みでもって返すと、その頬はポウッと赤く色づいた。

うん、こういった対話やら誘導やら尋問やらのときに滅茶苦茶役に立つよね、この顔。

しばし呆気に取られていた少女が何かを思い出したように起き上がろうとする。

いや、あんた全治2カ月の重病人なんだけど。

案の定少女はずるりと傾き倒れそうになった、ところを支える。

 

「ああ、無理をしてはいけませんよ。貴方は最低でも後2カ月はこのまま安静にしなくては。」

 

「あ、あのっでも私・・・お金とか・・・その、持って、ません。し・・・。」

 

「安心してください。そう言ったことは求めていませんので。」

 

で、でもっ!とまた何か言い募ろうとする彼女を遮る様に口を開いた。

 

「まず先に、あなたの関わったあの男たちの報告をさせてください。まず、あの男たちですが。どうやら最近周辺を暴れまわっていた盗賊団だったそうで、取り敢えずそのまま衛兵に身柄を引き渡しました。」

 

・・・もっとも、それは自身を後ろから斧で斬りつけた奴だけであって、それ以外の俺の顔を見た奴は全員糸でバラしたが。いや本当に、あの時咄嗟に殴って気絶させておいて良かった。

 

「は、はあ。」

「それともう一つ。貴方の身柄の事なのですが・・・。貴方がここで治療を受けて眠っている一週間の間に貴女の関係者を探してはいるのですが・・・その、申し訳ないことに力及ばず・・・。」

 

もちろん王にも、円卓の連中にも、父上にすら話しておらず。全て独自のルートでだけどな。

俺の言っていることに申し訳ないのか、はたまたは不安からなのか悲し気な表情で俯く少女。

前者は彼女がトリップとか転生とかしていた場合で、後者が日本から人買いの手によって売られてきた場合だ。

たぶん前者だろう。なんせ、セーラー服着てたし。ヘアスタイルからして現代か。

 

「いいんですっ。むしろ謝るなら私の方で・・・助けていただいてありがとうございました。その上こんなに良くしてもらって・・・面倒だったでしょう・・・ごめんなさい。」

 

生憎お金もなくて・・・どうすれば・・・と少女がまたしゅんとした表情になる。

なんだこの子、いい子だ。いい子過ぎる。

具体的にいえばオトゲーのヒロインかギャルゲーの健気系後輩ポジ。

下心とか全くない感じの超純粋ないい子だった。

下心っつか、打算ありきで拾った俺が逆に申し訳ないよ。うん、ごめん!!

 

「いえ、きにしな「で、でもっそれじゃ私が気にします!お願いです!私にできることならなんでもしますから!!」

 

何言っちゃってんだこの子。それは言っちゃダメなセリフワーストに入る言葉だよ男は狼だよなんなんだよ。

いや確かにありがたいよ?

もう少し懐柔してから頼もうかな~とか、外堀をうめてからかな~とかって考えてたから手間が省けたと言えば省けたんだけどさあ・・・なんか、この子の将来が不安。

悪い男に散々利用された挙句捨てられそう。あ、かーちゃん思い出した。顔も結構なものだから尚更だろう。

 

「・・・そこまで言うのなら頼みがあります。」

 

さらりとベッドから零れ落ちそうになる、足首辺りまである美しい黒髪。

 

「あなたの髪を、私に売っていただけないかと・・・。」

 

 

 

少女はきょとんとした後に快く承諾してくれた。あんなに伸ばしていたのに本当に良かったのだろうか。

でもそのおかげでこっちはホクホク顔である。

なんせ、滅多にお目にかかれないブルネット。それもモンゴロイドの髪である。

こちらの人々特有の金髪よりも丈夫で、且つ、夜闇でも目立たない。

糸の原料には最適だ!!ひゃっほう!!

 

え?例の少女?

安心してくれ。あの後彼女はうちの使用人になった。

表向きは人手不足の解消と彼女の身柄の保護。

魔術師の概要と、少女に秘められた狙われる危険性を話したらこっちも快諾してくれた。

 

良かった。これで彼女を消さずに済んだ。

 

 



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ストーカーとか間に合ってるんで

ガッシャガッシャガッシャ サッ

 

「・・・・。」

 

ガシャガシャガシャ サッ

 

「・・・・・・。」

 

・・・さっきから俺の後をつけてくる野郎が一匹。

その名はランスロット!!

 

・・・え?なんでわかるのか?

HAHAHAだってさっきから物陰から髪やらマントやらがちらちら見えてるし、何よりいつにも増してお嬢さん方がきゃあきゃあ言って俺の後方に駆けて行ってるから。

というかさっきから女の子たち振りきる度に髪やら服装やらがごちゃごちゃになっていく様が面白すぎて気付かないふりしてるんだ。

もうごちゃごちゃっていうか髪に至ってはもちゃもちゃなんだけどwww

装備もいくつか剥ぎ取られてるしwww女の子いいぞwwwもっとやれwww

 

・・・と、暴走するのはここら辺までとして。

 

「何用ですか。ランスロット卿。」

 

「・・・。」

 

返事は返ってこない。

 

「どうしたんですか。こないだ娼館に行くのを白い目で見られていたランスロット卿。

具合でも悪いんですか?娼館で騒ぎを起こして出禁になったランスロット卿。

大丈夫ですか?酒場で毎夜の様に町娘を口説こうと思ったら既婚者で修羅場になったランスロット卿。」

 

「出てこないんですか?連れ込んだ女性が実は男で」と言った辺りでまるでペガサスか何かのような速さで俺を近場の茂みに押し込んだ。いや、本物見たことないんだけどね。

 

「き、貴殿はいったいどこからそう言った情報をっ・・・。」というランスロット卿は息を切らしながらだらだらと冷や汗をかいて、俺の鎧をしっかと掴んでいた。

おいおい大丈夫か?必死過ぎだろ。いったい何があったんだ、女装ホモっ子と。

 

「はあ、まあ。噂が回ってきましたから。円卓内では既に周知の事実かと・・・。」

 

そういうと俯いて暗いオーラを放つランスロット卿。忙しい人だなこの人も。

 

「・・・まあいい。それは置いておいて、君はギャラハッド卿とはどういった・・・。」

 

言い終わらないうちにバシュッと何か。否、矢が俺とランスロット卿の横にあった木に突き刺さった。

めっちゃ食い込んでいる。これ、人がくらったら頭吹き飛ぶんじゃね?

 

馬の嘶きとともに「コンラッドおぉぉぉッ」という友の声が聞こえてきた。

あ、詰んだわコレ(ランスロット卿が)。

だってほら、この状況からすると・・・。

 

「紫髪の騎士みたいなおっさんが君を無理矢理草陰に連れ込んで襲ってるって聞いたんだがっ大丈夫か!?」

 

そう言った彼の手にはいつもの剣ではなく、医者とかが使う様な小ぶりの刃物が握られていましたとさ。

いやそれでお前何すんの?え?そいつを去勢する!?やめて!ランスロット卿のアロンダイトが失敗作()になっちゃう!!

 

この後必死に誤解を解こうとするランスロット卿と養豚場の豚を見るような目でランスロット卿を見るギャラハッドの姿がありましたとさ。

 

 

 

***

 

 

「そうか、私の息・・・いや、ギャラハッド卿を頼んだ。コンラッド卿」

 

君には彼も信頼をおいているようだし。と何処か安堵の笑みを浮かべたランスロット卿は言った。

いや、あんただけだよあいつに塩対応されてんの。

 

「あ、はい。」

 

それではと手を振って別れる。

 

そのとき、俺はどう返したんだったか

 

照れ臭そうに兜を弄ったんだろうか

 

はたまた、丁寧に礼を取ったのだったか

 

 

 

 

あまりにも遠く、穏やかな、脳裏を掠める記憶に眼の前で動揺と悲嘆の声をあげる誰かなぞ、気にならなくなっていく。

 

 

「・・・ど、やら・・・約束はっ・・・守れ、な・・・も、訳あ・・・せ、ん。ら・すろ・・・。」

 

済まないが、俺は貴方よりも、貴方の息子よりも、早く逝ってしまうらしい。

 

父上。アグラヴェイン父上。

 

「申し訳・・・あり、ま、せ・・・。」

 

後は頼みましたよ。ランスロット卿。

 

 

 




と、まあ、不穏な終わり方()してみる。

さて、これから先どうなるんでしょうね。


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zero編
1500年後の残滓


不穏な気配を察知・・・。


『-ということで、まーね。私思うのよ~このコンラッド卿って物語の構成上必要だった?いらねんじゃね?って』

 

長話と私感たっぷりで有名な志鳥ピリカ教授。あだ名はしとぴっちゃん・・・の講義を受けながら私四方瑩子は欠伸を噛み殺した。

 

『ま、彼が役に立ったのなんて精々ギャラハッドに魔法の鐘を使って危機を知らせたことくらいじゃない?』

 

そこまで聞いたときに隣の席に座っていた友人の席の方からメシメシメシっと何かが軋む音がした。

 

「・・・じゃあそういうてめーはコンラッドの物語呼んだことあんのか。」

 

とドスの利いた声で仰られていた。

でたよ円卓物議トーク。まあ仕方ないよね。

あの先生ガウェイン厨だし、この子はアグラヴェイン&コンラッド厨だからなあ・・・。

 

今日の講義の内容はコンラッドから読み取るかつての英国何であって決して必要性が云々ではないのだが、と頭を掻く。別に私はこれと言って円卓に興味はない。が、昔の英国には興味があるからこの講義を取っているにすぎないのだが・・・。正直失敗した。早く終われ・・・。

 

でも、原文の方は割と優しく詳しく書いてあって有難い代物なんだけどなあ・・・。

 

彼亡き後の侍女兼愛人(しかし妻もいない騎士の恋人に愛人はどうか)の黒髪のプリシラがその後すぐにランスロットの勧めでギネヴィアの侍女になったりとか、彼の母クローディア(モルガンの弟子でガウェインを誑し込んだ後アグラヴェインに嫁いだ)が修道院に入ったりとかっていうのを見てると戦前の日本と同じで女性が一人で身を立てるにはかなり厳しかったことが見て取れるし、モードレッドの宣誓やら、彼と時折同一視されるガングランの物語からするに親子関係を立証する確たる証拠の無かった中世あたりは言ったもん勝ちというか・・・信用がものを言う様なところもあったみたいだとか・・・。不便だな中世。

料理の描写も細かくて、公務員的な側面もあった騎士であれぐらいの食事なら、いくら調理技術が発達していなかったとしてもけっこう生活は厳しかったのではなかろうか?

 

で、当の本人は最期は足止めで実父にぶっ殺されて遺体はギャラハッドの頼みで聖杯とともに埋葬っと・・・。

 

これギャラハッド踏んだり蹴ったりじゃね?昇天したくなる気持ちもわかるわー。

 

なんて思っていたら講義終了の鐘が鳴った。

ヨッシャ、終わりだ。

 

 

 

***

 

 

 

「っくっそあの教授、覚えてなさいよっ。今書いてる論文が完成したらそれこそぎゃふんと言わせてやるんだから!!」

 

ストローを噛みしめながら先程の友人、明石暁が物凄い勢いでべらべらと資料を捲っていく。

時折ズコーっという吸引音が聞こえるあたりちゃんと飲み物(コーヒーシェイクにガムシロップを5杯、ダイエットシュガーを3つ溶かした、最早冒涜的な何か)を飲んではいるのだろう。

それを私はハンバーガー(カスタマイズによりチーズマシマシ)を食べつつ適当に「頑張れー」とか言ってみたりする。

と、明石友人がガバッとこちらを見上げた。

 

「そういえば、瑩子。あんたんちの骨董屋、確か・・・。」

「んあ?涼風開運堂の事?」

「そう!その涼風開運堂!!今度取り壊しと一緒に品物分けるんでしょ?」

「・・・もしかして。」

「・・・ただでとはさすがに言わないわ。部外者だし。・・・あの本と棺、売ってくれない?」

 

そうそう、言い忘れていたが私のうちはかれこれ6代くらい続く骨董品店をしている。

名前は涼風開運堂。苗字を取るのはわかるが何故に開運?謎だ。

そして、そんな古今東西のお宝()が眠る我が家に彼女を招待した折に彼女に見せたそれ・・・コンラッド卿の遺体が収められているという棺とコンラッドの物語・・・の原本。

当時それを目にした彼女は案の定きらきらとした眼で是非ともこれを売ってほしいと母に嘆願じみたことをしていたが「それは来るべき日が来るまで誰にも譲る気はない。」と頑なだったため、彼女は折れざる得なかった代物での事だろう。

そんな曰く付きの商品を取り揃えた我が家はこの度母の訃報により、今年の冬に取り壊す手筈となっている。

その前になるべく物を減らそうと親族総出で掘り出し物市っぽい遺品整理()を秋ごろにしようという話が決まっていた。

 

「・・・いいよ、いいけどさあ。」

「なによ。」

 

じとーとしたこちらの目線に彼女は頬を膨らませる。

 

「志鳥教授も来たがってんだけど、いい?」

「」

 

 

その発端は、まだ暑さの残る8月の事でした。




駆け足だ!!

因みに母親の旧姓が涼風。


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因果

今回は長い。


「おや、いらっしゃい。」

 

艶のある声がそう、自分に向けて掛けられて、思わずハッとする。

自分はいったい、何をしていたんだろうか。

どうやってここまで来たのだろうか。

そんなことを言い訳代わりに思案していると、その声の女性のすぐ横に見覚えのある美しい少女が目に入る。

 

そうだ、そうだった。自分は少女を追いかけてきたのだ。

気になって、魔が差したから。

 

「何をお探しで?・・・あ、この場合はどんなお悩みで、が正解か」

 

 

うふふと美女は笑う。

そこで、放棄しかかっていた言い訳探しを再開する。

 

たまたま見かけた少女を追いかけてきた・・・これではただのストーカーだ。

だが、自分にはそれ以外の言い訳も何も思いつかない。

この店らしからぬ店が目的・・・と偽っても残念ながら今は持ち合わせがない。

しかし、妙な意地が湧き上がっており、絶対に冷やかしなどとは言いたくない。

と自分勝手に葛藤していると笑んだままの美女が己の唇に指を置いて言った。

 

「別に理由なんていいわ。・・・ただ、貴方が来た本当の切っ掛けは、言わないほうがいいわね。」

 

ちらりと美女が隣の美少女の方を流し見る。

その仕草に顔に熱が集まっていくのを感じた。

この人には全部知られていたのだ。とてつもなく、恥ずかしい。

 

B.B(ビーツー)。お茶の用意をなさい。」

 

その一言に少女は丁寧な所作でお辞儀をして奥へと引っ込んでいく。

名残惜しいような気もしたが目の前の店主らしき女性が有無を言わせない雰囲気を醸し出していることもあり、声を掛けるのは謀られた。

いつの間にか案内されていた部屋のテーブルセットに座るよう指示され、その通りに椅子に座ると、店主はおもむろに口を開いた。

そのテーブルに、先程B.Bと呼ばれていた少女が紅茶を注いだティーセットをセッティングしていく。

 

「あなた、何か背負ってるわね。」

 

急に言われた一言に思わず「は?」と情けない悪態をついてしまった。

いきなりなんだというのだ、この人は。

 

「ああ、いきなりごめんなさい。ただこの店にこれたのはそのお陰・・・いえ、そのせいだと思っただけよ。」

 

そう言って、店主は自分の首のあたりを見つめて、目を細める。

 

「もうひとつ、いえ二つ聞きたいんだけど。貴方は男兄弟だけだと何番目?」

「ど、どうして「3番目。違う?」っつ」

 

何故自分が三男だとわかったのだろう。というかこんな質問に何の意味が・・・そんなあわただしい思考をしている自分を無視するように彼女は続けた。

 

「・・・一番上のお兄さんが事故死。それから後を継いだ二番目のお兄さんは最近強盗に刺殺された・・・で、次の番は自分だと思って役割を放棄しようと教会に頼るも無下にされて帰ってきた・・・あってるかしら?」

 

血の気が引くのが分かった。

このひとはいったい何なんだ。

どうして兄さんたちを、アレを知っている!?

 

「そう怯えなくていいわ。私に貴方をどうこうする気は無いもの・・・ただ、それの始末は早めにつけないとダメね。今のも、そう長くないみたいだし。」

「た、助けてくれっ頼むっ」

 

恥も外聞もなくその場で椅子から崩れ落ちるように土下座する。

この人ならもしかしたら、という藁にも縋るような思いだった。

 

「・・・そう。じゃあ、それに見合ったものを頂こうかしら。」

「み、見合った、もの・・・?」

 

顔を上げた俺に店主は悠然と微笑んだ。それは、傍から見れば悪い女を彷彿とさせそうなものだった。

 

「ええ、そうよ。」

「お、おいくらほど・・・」

 

その問いに、彼女は先程の笑いから幾分か軟化した笑みのまま答えてはくれなかった。

いつもならここで迷うところだが、今回は既に迷う余裕すらなく「お願いします。」と告げる。

このままだとどのみち八方塞がりなのだ。どうなろうがもう、為る様にしかならないならここで騙されたと思ってやるだけやってみようと、他人事のように自暴自棄になっていたのかもしれない。

 

「そう、なら打ち合わせをしなくてはね・・・貴方の妹さんはご在宅かしら?」

「今は寮に戻ってます。あの・・・」

「そう、B.Bあれをこの人に貸してあげなさい。」

 

俺の言葉などお構いなしに端に立っていた少女に店主が声を掛けると、少女は何やら布?のようなものを俺に渡してきた。

手に乗せられたものを改めて見てみると、それは何の変哲もない白いリボンだった。

とは言っても大体のリボンに見られるような化学繊維特有の光沢は無い。が、かなり作りこまれているらしく手触りも何もかもが恐ろしく良い。かなり上質なものなのだろう。

 

「これを妹さんの部屋から例の箱・・・棺のところまで垂らしておきなさいな。そうすれば明日の朝には全て終わるわ。・・・それから三日後に此処にその棺を持ってきなさい。くれぐれも妹さんに触らせてはだめよ。」

 

その言葉に頷いて店を出る。

これで、これでやっと・・・!!

お代は終わってからでいいわ。という店主の言葉を背に俺は走って家に帰った。

 

 

 

―――――

 

 

「瑩子さん。先程の方の案件ってもしかして・・・。」

「ああ、流石に気付いた?そうよ、あの時の棺の方ね。」

「じゃあ、中身は・・・」

「そ、彼ね。とは言ってもこちら側に封入されてるのは何でもない聖遺物だけど。」

「・・・。」

「うふふ、そんなにむくれないの。大丈夫。彼を好きになんてあの子たちじゃ無理よ。・・・たぶん、たまたま見てしまった首に魅入ってしまったのね。・・・それとも棺の方がストック欲しさに彼女を魅入ったのかしら。後はあの人と包帯が何とかしてくれるわ。」

 

鏡を持ってきて頂戴。と言ってはけていく少女に手を振って、店主、四方瑩子はぽつりとつぶやくように言った。

 

「もっとも、彼はともかく棺の方は彼女を逃す気なんて更々ないでしょうけどね。」

 

はーほんと懐かしいわねーと言って彼女は一つ伸びをした。

此処にあるのは既に未来(こちら)の軸のものであり、過去に送ることはできない。

が、恐らくこうして時間が混じったという事は今からくる方が過去に行くべきものなのだろう。

 

「ま、為る様にしかならないわよね。」

 

 

 

***

 

 

 

時を遡って(元に戻して)

 

 

 

「ヤダ!!あれ素敵!あの陶器はいくらくらいするのかしら」

「へー思ったよりも人来てるのね。」

「や、あの、二人とも、頼むからもう少し大人しくしてて・・・。」

 

 

教授と友人の手綱を握るのに四苦八苦している瑩子の前にするりと人を縫うように和装の夫人が現れる。

 

「あ、日紗子さんっご無沙汰してますっ。」

「あら、誰かと思たら瑩子ちゃんやないの。おおきなったねえ。」

 

後ろの疑問符を浮かべていそうな二人に夫人・・・日紗子を紹介する。

 

「こちらは私の叔母にあたる桜井日紗子さん。日紗子さん。こっちはお世話になってる志鳥ピリカ教授と友人で同期生の明石暁さん。」

 

「どうも、文学史学科で教授をしています。志鳥ピリカです。」

「ははは初めまして、明石暁です!!」

 

まるで観察するかのように無機質な眼光を晒す志鳥教授に、それとは打って変わって緊張が表に出ている明石。

そんな対照的な様子の二人に気後れすることも、逆に気分を害しているわけでもなくにこりと日紗子は微笑んだ。

 

「まあまあ、これはこれは丁寧に・・・改めて、桜井日紗子いいます。今日は姉さんの遺品の件で?」

 

罰が悪そうに瑩子が頷くとゆっくりと日紗子が左右に首を振った。

 

「あれはもう片付けたほうがええね。・・・ここの人たち縁がなさそうやし・・・。」

 

あのまま受け取っても、たぶん合わへんよ。という日紗子の言葉に素直に頷いた瑩子は人が少なくなるのを待って撤収作業に入った。叔母の言う事に従った方がいいという事は幼少期の経験から瑩子にとっては当たり前の事であった。

それを見てぎょっとした様子の二人は慌てて片付ける瑩子を止めに入る。

 

「ちょっ待ってよ。四方さん。私まだ全然見てないんだけど!!」

「他はどうでもいいけど棺と本売って!!」

「あー・・・説明は後でするんで取り敢えず片付けさせてください。」

 

そんな言い合いをしているとまた別の方から叔母ともう一人、聞き覚えのない男の声が響いてくる。

 

「やあ、久しぶりだね。日紗子くん。」

「あら、遠坂さんやないの。久しぶりやねえ。」

 

挨拶は和やかに、されど、同時に一触即発とでも言うべき緊張が、当人たちだけでなく周囲にも走る。

 

「お姉さん・・・月詠さんの遺品はもう・・・?」

「ええ、売れはりました。もう目ぼしいもんは何もあらしまへん。」

「ほう・・・。」

 

状況が読めない瑩子は観察に徹していた。

遠坂という若作りの男は真っ赤なツーピーススーツに恐らく天然ものの宝石がつかわれているであろう留め具の付いたタイを付け、同じように取っ手に宝石の付いたステッキを持っていた。

髪、髭ともにその面貌を縁取るそれは明るめの茶髪で、瞳は緑。日本人にあるまじき精悍な国籍不明な少し角ばった印象の顔立ちを見るにゲルマン系の血が入っているのではなかろうか。

そんな頭からつま先まで意図的に「完璧さ」を強調していながら、何故ステッキだけはカットも碌々されていない不格好な宝石が鎮座するような形のものを使っているのか、瑩子は不思議でたまらなかった。

そんな視線に気が付いたのか、瑩子の方に遠坂氏が歩いてくる。

訝し気にその行動を見ていると瑩子の前あたりで止まって腕を伸ばしてくる。

腕を伸ばした遠坂氏は・・・そのまま瑩子の後ろ、正確にはそこに立てかけるかのように置かれた件の棺に手を当てた。

 

「ふむ、なかなかに良いものじゃあないか。充分目ぼしいものだよ。これはいくらだい?」

「それは」「ちょーーーーっとまったあああああ」

 

渋りつつも何かを言おうとした日紗子を遮って、自分が目を付けたものを奪われたくない明石が声を上げる。

 

「それはあたしのよ!!なに横やり入れて来てんの!おじさんっ。」

 

「お嬢さん、の?」と戸惑いやらなんやらで怪訝そうに顔を歪めた遠坂氏がじっと明石を見る。

 

「せや、遠坂さん。それは明石さんに既に売約済みなんよ。すんませんなあ・・・それにしても遠坂さん、もう例の物は届いた聞きますけど・・・そんでわざわざうちに冷やかしに来られるなんて、ほんともういけずやわあ」

「おや、もう耳に入っていたのかい?相変わらずだね。確かに既に届いているとも。だが、もしもという事があるだろう?何事も、保険を掛けなくてはね。」

「・・・。」

「お嬢さん。どうだろう。私に少し、ほんの少し間だけその棺を貸してはいただけないかね?もちろんそれなりの礼はさせてもらおう。」

「明石さん。無理せんといてええよ?」

「・・・。」

 

二人の必死さと気迫の前に黙っていた明石が口を開いた。

 

「いいですよ、ただし、条件があります。」

 

 

 

***

 

 

「―――祖には我が大師シュバインオーグ。」

 

 

「・・・なんかさ。」

「うん、言わないで。」

「・・・私たち、場違いじゃね?」

「わかってるわよ、そんなこと。」

 

あの後、明石は貸す代わりに何に使うのか見ていてもいいことを条件に遠坂さんにあの棺を貸した。

少し考え込んだ遠坂さんはその場でOKを出し、今に至る、のだが・・・。

並べられた燭台に部屋の中央には何かよくわからない円形の・・・魔法陣?らしきものが描かれている。その中にはこれまたよくわからない石みたいな干物みたいな何かが鎮座しているわけだが・・・。

 

「誰だよ。なんちゃらオーグなんて私知らんぞ。」

「ブツブツ・・・ブツブツ・・・。」

「で、この絶賛ぜってーちげーだろって感じの呪文()唱えてる奴は。」

「・・・そういえばこの人最近カルトにのめりこんでるとかで・・・。」

「カルト。」

「これに乗じてなんか召喚したりとか・・・?」

「召喚。」

「道行く人を熱心に勧誘してるとかで・・・。」

「ただのヤバい奴じゃん。」

 

何それ、教授がヤバいやつとかこの状況で知りたくなかった。

なんてことを言っていると後ろで何やらガサゴソと物音が聞こえる。

明石とイッセーのーせで後ろを見ると後ろにいた神父(お弟子さんだそうだ)さんが何やら隠れて咀嚼していた。

 

「おい、神父さんもぐもぐタイムだぞ。」

「ヤバいこれまじめにやってんの遠坂さんとうちの教授()だけだ。」

「あ、神父さん食いモン隠した。」

「口の端についてんだけどあれ教えたほうがいいの?」

「や、もしかしたら突っ込み待ちかもしれん。」

「こんなドシリアスまっしぐらっぽいところで突っ込みとか勇気ない。」

「なんか零れ・・・っ目がっ目が焼ける!!」

「・・・やばいくらいの異臭放ってんだけど、よく気付かれないな、麻婆豆腐。」

「や、違うよ。よく見て見なよ遠坂氏涙目じゃん。きっと空気読んで何も言わないんだよ。」

 

訳の分からない儀式()をこうして現実逃避気味に見ていた私たちを尻目に遂に儀式()はラストスパートらしく遠坂氏が一際力んだ声で「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」とおっしゃっていた。

いやいくら力んでも来ねーよ天秤の守り手(んなもん)()。

しかも時臣さん何度か詠唱()中咽てた。

「聖杯のゲッホッ寄るべに従いゲホッ、このゴホッ意、この理にゲエッホゲホッ従うガッならば応えよ」

・・・みたいな感じに。たぶん後ろの神父さんが食べてた麻婆が原因ですわ。

因みにその度に「時臣氏っぶなん・・・っとグホッおいた、わ、し・・・ぐふっ。」って苦しんでるのか笑ってんのかわかんない感じに神父さんが麻婆食べながら言ってたんだけど。いやあんたら味方同士じゃないの?

 

いつの間にか魔法陣()からなんか聖闘士星矢かなんだっけあの・・・刀が楽しそうなの・・・あの・・・あれ。そうだ!刀剣コレクション・・・あれ?なんか違うわ・・・まあいいや。その刀剣なんちゃらに出てきそうな金きらなヤンキーが出てきた。あのヤンキー、アメフトに憧れてたんかな?肩パットやかんみたいな大きさだけど。

あとどうしてトサカヘアーにしたよ。絶対下ろしてた方がいいよ。イケメンがちょっとアレな感じになってるよ。

え?あれがサーヴァントなの?あんな可哀そうなヤンキーが!?

 

うん、まああれだ。サーヴァントという名の残念なイケメンが出てきた。

超痛々しい。明石も私の横でなんか可哀そうなものを見る目で奴を見ていた。

 

いや、遠坂氏。あんた何でそんなに平伏してんの?そいつサーヴァントでしょ?サーヴァントって召使って意味だよ。ねえ、言葉分かる!?サーヴァント()に平伏するマスター()なんてどうよ。字面的に。役割知らんけど。

 

「では、次は君の番だね。」

 

頭に疑問符を浮かべる私を前に「君は月詠さんの娘らしいね。期待しているよ。」「月詠さんはね・・・。」と私のお母さんの話を延々と話すこのヒゲ(もう面倒だからヒゲでいいや)は着々と場を整えている。

「や、あの。私は・・・」と遠慮しようにも「君のその手の包帯の下は令呪と呼ばれるものでね・・・今回の戦争の参加権のようなものさ・・・。」お母様はきっとご自身で出るつもりだったから君には話さなかったのかもしれないね・・・でもお母様の意思をついで・・・とかまた勝手な語りが始まる。

いやいやいや、何言ってっかわかんないけどこれレージュとやらじゃないから!!

ただ単にすっころんで派手に手え打って、でかい青あざできて恥ずかしいから包帯まいてるだけだから!!

 

助けてくれの意で周りを見ていると明石は即座に目を逸らし、教授()はヤンキーに夢中。

ヤンキーはなんか超ムカつく顔でニヨニヨしながらこっち見てた。

神父さんは・・・もぐもぐタイムリターンズやった・・・。

ちくしょう!!やりゃーいーんだろやりゃあよ!!

女は度胸じゃ!!

腹を括ってヒゲの用意した本を読んでいく。

いつの間にか魔法陣と一緒に用意されていたのはあの曰く付きの棺だった。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「―――――Anfang」

 

「――――――告げる」

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

また、まばゆい光に包まれる。

 

煙が晴れてそこにいたのは―――。

 

「サーヴァント、アサシン。召喚に応じ、馳せ参じました。・・・貴女が私の、マスターですか。」

 

アサシンという名を全く感じさせない全身を甲冑で包んだ美男子だった。

思わず全員が全員唖然とする。

思わず私は心の中で叫んだ。きっともういろいろありすぎてキャパがオーバーし、深夜テンションだったこともあるだろう。

 

―――まともな王子様系イケメンキターーーーーーー!!!!!

 

このすぐ後にその王子様()の首が取れたりとかしたが私は全然気にならなかった。

なんせ、その人の反応がこの場にいる人々(明石除く)のなかで一番まともだったから。

パンドラの箱の中身の最後が希望ってきっとこういう事だろう。

 

―――こうして私、四方瑩子は第四次聖杯戦争に参加することが、図らずも決定してしまったのであった。




一応軸は未来→現在。

棺の入手は実は未来でのことで、何らかの手段を使って入手した棺を過去に流した。

そのため未来軸の時点では一時的ではあるが同じ棺が同時に二つ存在することになる。


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不一致

前の話に調子乗って第0夜とかつけて、投稿した後に思った。
これ続くかわかんないじゃん。無理やん。
消そ。ブツン。


さてやってきた召喚の夜。

しかしここで衝撃()の事実が―――!?。


たらり、と儀式を見守っていた遠坂時臣のこめかみに冷や汗が流れ落ちる。

まさか、本当にうまくいってしまうとは焚き付けた彼自身思っていなかった。

彼はあくまでも傀儡としての協力者を得るために彼女を無理矢理唆したのであって、本当にマスターになるなどとは考えていなかったのである。

もちろん普段の自分ならばそれこそ下策としてそんな案は端から却下していたのだが、今回の聖杯戦争は、これだけは何としても勝たなければと、御三家の誇りを賭けての参加だ、失敗は許されない。

しかし、此処で、あるたしかな伝手からの情報で彼は開始を目前まで控えたこの時期に知ってしまったのだ。

 

―――アインツベルンは純潔の誇りを捨て、魔術師殺しという魔術使い(・・・・)を招き入れた。

 

―――間桐はこの日のためにわざわざ凡俗に堕ちた落伍者を連れ戻した。

 

どいつもこいつも、と時臣は内心腸が煮えくり返る思いだった。

が、裏を探せば探すだけ謎が深まる。

もしや、彼らではなく、自分こそがこの戦いを軽く見ていたのではないか?と。

間桐はともかく、魔術師殺しはその名の如く相対した魔術師のそのこと如くを葬っている。

例外は無い。

ようはそうまでしてアインツベルンには聖杯を完成させなくてはならないほど必死にならなくてはならない何かがあるという事だ。

・・・もしや、もうこの聖杯戦争という儀式に限界が来ているという事ではないのだろうか。

はたまたは、既にもう技術自体が枯れていて何としてでも此度の聖杯を持ち帰り、次の趣向に使うためなのかもしれない。

そこまでの推察がそのままであったのだとしたら、確かに魔術師殺しというジョーカーに手を出したのもわからなくはない。

だからこそ、自分もなりふり構わないと決めたのだ。

 

そうして、彼が初めに行ったのは海外にいる愛人と連絡を取ることだった。

仕事先で出会った彼女はやはりというか優秀な魔術師の血筋の人間で、割と強気に口説き落とした記憶がある。

あれから数年。子供が出来たことを人伝に聞いてそのままだったが、人手は多いほうがいいと早速連絡した。

例え自分が脱落したとしても、いざとなったら彼女の後見人の立場からサポートし、遠坂の血が勝つように仕向ければいい。という打算の元での行動だった。

彼女を行儀見習いとして家に置き、環境に慣れさせて、急遽ではあるが手配した聖遺物を使って自身や綺礼と同じように召喚させ、遠坂が計3枠を確保しておく。出来れば三大騎士クラスが欲しいところだがことは急を要する。わがままは言っていられない。最悪、キャスター辺りが出てきたら捨て駒にするのもアリだ。

幸いというか、流石遠坂の血筋と言えばいいのか、その娘の手には令呪が出ていた。

これで準備は整った、後は聖遺物だけだと思い手あたり次第にそれの流れ着きやすいところを回っていく。

 

そんな中で彼がやってきたのは涼風骨董品店の前店主、四方月詠の遺品整理会だった。

涼風自体は遠坂の何代か前の当主から分けられた血筋で、時臣とは遠い親戚、もっと言えば分家と本家にあたる。

しかし、根っからの魔導の血統と、そこから外れて凡俗に混じってその才能をただ腐らせる無能。

遠坂の人間は涼風をあまり快く思ってはいなかった。もちろん時臣も、それ故か彼女の妹からは蛇蝎の如く嫌われている。

そんな良くも悪くも縁のある場所で、時臣はそれを見つけたのだ。

 

それは、美しい棺だった。

 

「コンラッドの棺」

 

その名の通り、かの円卓の騎士(だったとも、そうでないとも)コンラッドの納められていたとされる棺。

かの騎士はこの棺に友、ギャラハッドが賜った聖杯、またはその中身を振りかけ閉じ込めたという逸話のある、三大騎士クラスを呼ぶには最適な聖遺物であった。

中世ヨーロッパのものにしては縁取りに金が流布されていたり、何かよくわからない(鰐のような口の何か動物のようなものなど)模様がそこら中に彫り込まれていたりと少々派手派手しくはあるモノの、それくらい大切に埋葬されていたという事なのだろうと時臣は自身を無理矢理納得させた。

 

さて買い取ろうと行動に移そうとしたその時既に売約済みであることを聞かされたが、時臣は到底その事実を受け入れることが出来なかった。

なんせ、そう言って出てきたのは魔術の魔の字も知らない様な小娘だったからだ。

内心でうまく事が運ばないことに苛立ちつつ、遠坂時臣は提案する。

 

―――そこまで言うのなら、精々役に立ってもらおうじゃないか。

 

「お嬢さん。どうだろう。私に少し、ほんの少し間だけその棺を貸してはいただけないかね?もちろんそれなりの礼はさせてもらおう。」

 

 

 

 

***

 

 

 

瑩子たちが歓喜に沸いたのも一瞬であった。

何故なら―――。

 

「お前が、墓荒らしどもか?」

 

―――瑩子の首筋に、背後から見事な装飾の短剣を押し付ける者がいたからだ。

 

瞬間ゾワリと、此処にいる協力者全員が嫌な汗を噴き出した。

 

「え?・・・あ、え?」

 

状況の飲み込めていない瑩子はそのまま何かを当てているであろう背後の人物を見ようと首を少しずらす。

と、プツリと皮が切れ、肉が裂けて血が零れ落ちた。

それはほんのわずかなものであったが、生まれてこの方首に刃物を突き付けられたことなどない彼女。

そこでようやく突き付けられているものが刃物で、自身は殺されかかっているのだと悲鳴とともに理解した。

 

「我が愛しきものの墓を暴いておきながら、許しなく妾の貌を盗み見ようとは・・・この、痴れ者めっ!!」

 

声は年若い女のもので、その女はまるで宣誓するかのような堂々とした口ぶりで瑩子を罵倒し何かを振り上げた。

恐らく、先程の短剣であろう。

顔を青くして固まる瑩子。慌てる時臣に、呆然としている教授と明石。

「ほう!」と感心したかのように声を上げたのは観察に徹している可哀そうなヤンキーもといギルガメッシュ位である。

ふり降ろされそうになったそれを掴む手が一つ。その手はそのまま襲撃者である彼女を引き寄せる。

 

「お久しぶりですね。ネフェル。相も変わらず美しい人。」

 

首を包帯で巻き直した男の顔をまじかで見た女は瞬間顔を赤らめると、短剣を消して男に飛びついた。

 

「う、うむうむうむうむ。ひっ久しぶりではないかっ。ああああ会いたかったぞ!!エンタハっ。」

「はい、私も会いたかったですよ。ネフェル。」

 

行動とは裏腹に純真な乙女の様な照れた物言いをする女に対して男は終始穏やかに返している。

しかし、エンタハとはいったい誰か?自分たちは確か円卓の騎士()コンラッドを呼び出したのではなかったか。

というか誰だこの女。

 

騎士()と本人を除いた心の一致であった。

とうの二人はと言えば先程の感動の再会()の後に何事かを話し合っている。

「しかし、罪人を罰さぬというのも・・・。」やら「ですがそれでは貴女が・・・。」と言っている辺り此処にいる、正確には盗人とそれを手引きした者の処遇を話し合っているようなので薄ら寒さは消えない。

しばしの話し合いの後、どうにか決着したらしいそれに皆固唾を飲んで注目する。唐突に先程まで目深に被っていたマントを剥ぎ取って現れたのは、黒髪金眼の溌溂とした美女だった。褐色の肌に彫りの深い顔立ちから、恐らくではあるが中東系の血筋なのではなかろうか。

 

「ふはははははっ聞け、愚かなる盗人どもよ!!妾はバストネフェルト!!誇り高き第19王朝が王女でありそこなセテプエンプハタの妻である!!これよりこの争いを持って其方らを見定める故、精々励むがよい。」

 

ではなと言って霊体化した女は去っていく。

騎士()は黙って手を振るだけだ。

そんな騎士の様子に、女・・・もといバストネフェルトが完全に退場したのを確認した時臣が慌てた様子で駆け寄る。

 

「し、失礼するが、君はかの円卓の騎士コンラッド卿ではないのかね?」

 

ギルガメッシュとは違った気安さというか少し距離が近めの物言いに、別段気分を害した様子でもなく彼は口を開いた。

 

「そうであるともそうでないとも・・・一つだけ言わせていただくとするなら、(これ)(ワタシ)は呼べません。」

「何故?」

 

驚いたように目を見開いた彼と、間接的に棺が偽物であると知らされた明石は呆然とする。

そこで、改めて棺を見た瑩子は一周回って冷静になったところでやっぱりなと納得した。

何故なら、その棺自体はヨーロッパでよくある木製の長方形の箱型だが、その周りの装飾に使われている模様はヒエログリフと正しき死者の守護神アメミットなどといったエジプト独特の装飾が成されていた。

コレ、中東からの輸入品じゃね?と冷静になった頭で瑩子は突っ込みを入れた。

 

「まあ、いろいろありまして。(大元)は完全に失われていると言ったらいいでしょうか?・・・それと、おめでとうございます。貴方の目論見通り、彼女は我が妻のマスターに選ばれました。」

 

はっきりしない物言いとともに向けられた笑顔と続けられた言葉に時臣は顔を青くする。

その言葉を聞いて彼は「失礼する」と言ったかと思うとさっさとこの部屋を退出してしまった。

 

 

そして、コンラッド?は瑩子に改めて向き直って自己紹介を始める。

 

「さて、改めて。私はこの通り見てくれは騎士の格好をしていますが一応神官のようなものとでもお思い下さい。マスター。真名はセテプエンプハタ。よろしくお願いしますね。」

 

にこりとこれまたさわやかな笑顔で彼は笑った。




彼は正しくコンラッドではあるがコンラッドではない。
因みに首がデュラハン仕様なのはコンラッドの時に父親に切られてから聖杯を授けられたから。現在はある神様から貰った包帯で縫合している。
でも時折とれる。巻き方変えたら?

経緯とかはそのうち唐突な感じで出す・・・かも・・・?
お試し故確約はできない。

奥さん()は出すかどうか迷ったけど結局出した。
オリジナルだよ。誰だよそれ。

え?生前の奥さんについて?

奥さんの弟R氏「あれはバステトなんぞではない。バステトの皮を被ったセクメトだ。」


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エジプト編
冥界なう


ちょっと遡ってエジプト(冥界)編

今書いてしまった。

仕方ないねだって頭がアレな自分の作品だから・・・。


死んだと思って目が覚めたら冥界でした。

当たり前である。

 

更に言えば目の前には前の前の自分が小学校時代に勉強したあの・・・教科書に書いてあった死者の書に描かれている顔が鰐、胴と鬣が獅子、下半身が河馬という地上で最も恐ろしいものをより合わせたと言われる女神、アメミットがいた。

 

つぶらな瞳でこちらをじっと見つめるアメミット。

それを見つめる自分。下手に動いたら噛みつかれるんだろうか。

と思っているとまるで犬の様にすり寄ってきた。

何だこの女神超かわいい。

そんな邂逅を経て自分とアメミットが遊んでいると咳払いの音が聞こえる。

その顔を見て自分は・・・。

 

「すまないが少しぎゃああああっ」

 

条件反射の如くその人物に対して鋼線術を行使していた。

済んでのところで避けたか・・・ッチ。

 

あろうことか自分に声を掛けてきたのは自分を認知しなかった父親と同じ顔の男だった。

首から下は古代中東の衣装を着ていたが、やはり顔は例のゴリティーン卿である。

 

「なんなの君ほんとに死にたての亡者!?死にたてのゴリラの間違いじゃないの!?」

「すみません。目の前にいたのが生前首を斬られたアンチキショーもげろ案件野郎だったものでつい・・・手が滑ってしまいました。」

「どんだけ恨みつらみ溜まってんの君。」

「勘違いだったようで・・・あとゴリラはてめーもだろ。ゴリティーン卿。ゴホンッ・・・失礼。」

「ほらやっぱり!!」

 

その生前は崩れることのなかった美貌を涙と鼻水で濡らしながら恐怖からなのか何なのか嗚咽を漏らす男にハンカチを差し出す。奴の貌でやめろ。というか奴と同じ顔という事は自分ともほぼ同じ顔という事である。

マジでやめて欲しい。あと鼻はかまな・・・あ、いいです。そのハンカチは貴方に差し上げます。

 

「落ち着いたところで改めて、私はプハタという。職能は・・・まあいろいろ。冥界神だ。あとこの顔は君の認識の中から取ってきた顔であって私の本当の貌じゃないから。頼むからその手に持ってるのしまって。お願い。」

 

・・・?プハタとは確か緑の肌に包帯で肢体を包まれた死者の姿で登場する神ではなかったか?

そう疑問に思っているとプハタ神が溜息を吐いた。

 

「やっぱりねえ・・・あのね、この姿はあくまでも君の認識の中の強い印象の人物を持ってきただけなの。だってほら、人間やそれに準ずるものは自分と違うものを嫌うものだろう?このご時世で緑の肌だったり包帯ぐるぐる巻きだといろいろあるんだ・・・。」

 

神はそう遠い目をして仰られた。

苦労しているんだな。神も。

 

「・・・それで、私にいったい何の御用で?」

 

その応答によくぞ聞いてくれました!!と顔を綻ばせるゴリティ・・・プハタ神。

当たり前である。神やらその遣いやら妖精やらといった輩が人の前に現れるのは大体何かしらの厄介ごとがつきものだ。宮廷魔術師(ロクデナシ)然り、祖母(モルガン)然り。

 

「あの・・・大変申し訳ないんだけれども・・・」

「はい。」

「君には世界を救ってほしいんだ!」

「はい・・・はっ?」

「よし!決定!!アヌビスーウプウアウトーOKでたよー!!」

 

そこに走ってきたのはかのミイラ作りの神と戦神である。正直モフりたい。

そしてどちらも冥界神だ。あ、冥界だからか。

 

「あの、ほんとにそんな安請け合いしちゃって大丈夫?セクメトの本体じゃなくとも化身ってだけでもすごく危険なんだよ?」

 

セクメト?化身?と首を傾げる自分に心配してくれた方とは逆の・・・こちらは人の身体にジャッカルの頭がついているのでアヌビス神か、が目を見開いてプタハ神の方を向く。

 

「ちょっプタハ神貴方肝心の概要を説明せずに何してんですか!!」

 

言われたプタハ神も素で忘れていたのかあ、ヤバい。という表情になって説明してくれた。

 

曰く、ほんの少し前に重要な役割を持つ子供が生まれたこと。

その子供が様々な手のものから命を狙われていること。

それを見越した神々がちょっといろいろ介入できる者を時間を遡って彼の傍に置いて守れるようにしたこと。

そして、その者・・・彼にとっての姉が現在地上で猛威を振るっていることを聞かされた。

 

「でね、その子がその・・・いろんな女神の合作でさあ・・・主成分は・・・私の奥さんなんだよねえ・・・。」

 

詰まる所あれか?自分にそのバーサーク女神人止めて来いと?

自分で行って自分で片付けてこいや。

てかもう所業が人間のそれじゃないんだけど。

 

「いやいやいや。それを言うなら君もじゃん。普通の人間は熊やドラゴンと並走して首へし折ったりしないよ!?私知ってるんだからね!?きみがパーシヴァルとかいう人と一緒に野山を駆け巡ってハンティングしたりしたの!!」

 

「それは・・・あの、あれですよ。ファンタジーの国ブリテンだから。」

「なにそのディ〇ニーランドだからみたいな理由。駄目だよ全く信憑性無いよ!!」

 

あれはそう、空腹だったんだ。仕方がなかったんだ。

ね?と傍にいるアメミットに言うと仕方ないねとでも言いたげな鼻息を鳴らしてくれた。

一方のプタハ神はまたぐちょぐちょの泣き顔でもう君しかいないんだって!!とがっしりと自分の衣服を掴んだ。

やめて、鼻水とかやめて。

 

「頼むよー。この世界の人間はこれ以上弄れないんだって!!やっと聖杯越しに交信できた君しかいないんだって!!」

 

 

大丈夫、君の肉体やら魂やらは既に溶けてて復元不可能だったけどそこは私たちで何とかするから!!と滅茶苦茶いい笑顔でとんでもねええげつない事実を口にするプタハ神・・・これが・・・神か・・・。

どうやら私に拒否権は無いようです。さようなら前の私(コンラッド)。ハロー誰か。

 

身体の製作やら魂の製作やらをしている現場を見ていた時に怒鳴り声とともに「だって!!その通りにって言ったじゃないですか!!あの人元から首離れてましたよ!!」という声が聞こえた。

出来上がった肉体は案の定首が綺麗すっぱりと離れており、製作した職人たちと冥界神は「いやいやあのね、たぶんあれだ。鍛冶関係の神は身体に不具があるのが定評だからプタハ神のが強く出てこうなったんだと思う」と言われたが・・・いやあの、絶対そっちの過失だよね!?

 

そんなこんなで難行しつつも作られていく間、自分はアメミットと戯れていた。

アメミットちゃん可愛い。

 

結局いろいろと強化やらなんやらを加えられた肉体と魂はプタハ神とアヌビス神とウプウアウト神の三柱分の複合神性持ちマジカルでミラクルな肉体と魂になってしまった。魔改造もいいところである。

というかこれでも不安がるあたりその女神の合作(スーパー女神人)どんなバケモンだよと思ってしまった。

 

「体に気を付けてね。気を付けるんだよおおおおお」とこれまた泣き顔で送り出す三柱に苦笑を溢しつつ棺に入る。

神官たちには話を通しておいたからと言われたが本当に大丈夫なんだろうか。

そんなこんなで次に目を覚ました自分を待ち受けていたのは―――。

 

「お待ちしておりました。セテプエンプハタ様。」

 

メンフィスの神官一同からの手厚い歓迎と、セテプエンプハタという新たな名前だった。

 

「あ、はい。」

 

因みに身体に巻かれていた包帯に染みついていたプハタ神の涙やら鼻水やらを不思議がった神官たちにそのまま話したら着替えとともに包帯を持っていかれてしまった。

いやあの・・・なんに使うの?それ。

 

 




因みにセテプエンプハタはプハタに選ばれた者という意味だそうです。

コンラッドオオオオオオオッ


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いつか大王のラーメス君!

ちょっとアレがアレでアレになる。


スタスタスタ   トコトコトコ

 

スタスタスタ   トコトコトコ

 

あれ、これなんかデジャブじゃね?と思った皆さん。

お見事。正解です。

ただし今回俺をストーカーの如くつけているのは見目麗しい少年です。

名前はラムセス君というらしい、王子様だそうだ。

わけあって一時的に此処メンフィスに静養に来ていると聞いている。

そんな、後の世でかなり有名になるだろう彼は現在俺に興味があるのか熱心に俺の後をつけて回っている。

いや確か君を守るためにとかで派遣された姉ちゃんがちょっとあれな事態を引き起こしてんだけど何でここにいるの君?姉ちゃんのところに居なくていいの?

 

俺が後ろを見れば咄嗟にラムセス君もその辺の柱の陰に隠れる。

俺が歩けばラムセス君も歩く。

その繰り返しである。これでは埒が明かない。

 

俺は少し、ほんの少し驚かせるつもりで、少しだけ走った。

そうして辺りを見回すラムセス君(4歳)の後ろを取って話しかけた。

 

「何か私に御用ですか?」

 

ギギギっと音が響きそうな動作で首をひねり、胴もこちらに向けて、彼は制止した。

そうして、じっと見つめていた彼は・・・。

 

ジョバアアアアアッ

 

そのまま失禁した。

 

ラムセスくうぅぅぅぅぅぅん!?

 

 

 

***

 

 

 

「ふむ、そんなことがあったのですか・・・大変でしたね。」

 

「う、うむ。」

 

グズグズといまだに鼻を鳴らすラムセス君改めラーメス君(本人が呼んでいいって)。

泣きそうになるたびに溜め池の水を派手に顔面にかけて誤魔化したがっているのだが鼻声なので残念ながら隠せていない。

どうやら弱冠4歳にして彼には既にトラウマとでもいうべき出来事があり、あのような事態に陥ってしまった模様。

というか、一瞬姉によく似た雰囲気になった俺に背後を取られて話しかけられてしまったので姉と同類だと思ってしまったらしい。同じ・・・おそらく神威的な何かだろう。元々足早かったけど今はアヌビス神の俊足も合わさって更に磨きがかかっているようだし・・・。

で、何故此処で姉が出てくるのかというと実はそのトラウマとは姉ちゃんなのだそうだ。

 

曰く、大体の場所で鉢合わせしていろんなところに連れまわされ共犯にされる。

曰く、王族を狙ったグループを捕まえた後、問答無用で派手に殺して回る。

曰く、父親も自分も尻に敷かれているような状態で顎で使われる。

 

そうして決定打となったのがさっきの2番目にあった出来事。

最近までラーメス君はそれでも自分の姉ちゃんだからとわりとシスコンの気が入っていたらしい。

が、彼が直接狙われたときに何処からともなくそれを聞きつけてきた姉ちゃんが応戦。

小隊部VS個人で大立ち回りを演じた。

そこまでは良かった。が、ここからがアレだった。

要は此処で姉ちゃんの悪癖っつーか姉ちゃんの主成分セクメト神の悪癖。

人類抹殺ヒャッハー!!がちょっと出ちゃったんだなこれが。

相手がどんな態度を取ろうが一貫して殺しにかかる姉。それも超いい笑顔。

そこにあったのは既に一方的な殺戮だったのだ。

 

所構わずに戦っていたのもあってラーメス君は運悪くその現場を目撃。

呆然としていると頭から放り投げられた血と内臓を被ったそうな。

内臓はおそらく消化器の何処か、たぶん小腸だろうと嫌なことまで彼は記憶していた。

 

今でも姉は好きだが、同時にトラウマでもある彼はその後夜尿(現代で言うおもらし)が出てきてしまい、いざ姉と鉢合わせると先程の俺との一件の如く盛大に失禁するようになってしまった。と・・・。

 

 

「だ、だが決して余はそのような些末事に屈したりはせぬぞ!ファラオだからな!!」

 

そう言って照れたように笑う彼はすごく微笑ましかった。

守りたい、この笑顔。

なんだか姉ちゃん姉ちゃんしてる姉ちゃんの気持ちがわかった気がする。

 

そんなほのぼのとしていたところに遣いの神官が一人やってくる。

 

「失礼いたします。セテプエンプハタ様、メリアメン様。お二人に面会を求める方がいらっしゃっていますが如何なさいますか?」

 

「私に・・・ですか?」

 

「はい。その方はメリアメン様の身柄の引き渡しを要求されていまして・・・。」

 

「それで、私に?」

 

「・・・誠に申し上げにくいのですが私共にあの方の相手が務まるとはとても・・・。」

 

話を聞いていたなんだか嫌な予感がしてきた。

 

「その方の、お名前は?」

 

「バストネフェルト様でございます。メリアメン様の御姉君です。」

 

「う・・・うわあああああああんっ」

 

今度こそ、ラーメス君は大泣きした。

池の中に下半身突っ込んでるから失禁しているのが見られない分まだマシなのだろうか・・・?

 

・・・どうやらラーメス君と俺の受難はまだ続きそうです。

俺に至っては始まったばかりだけど。

 




なんだかんだでエジプト編描いてるあたり本人もなんなんだろうねって思う。

因みに王族で次のファラオとして育てられてきた故に弱みが見せられなくて参ってた王子のとこに同じような身分の部外者であるゴリラ()がアニマルセラピー()したことによって心を開いた的な、そんな感じの何かってことで。

ほらあれ、セラピードッグとご老人みたいな。


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お姉ちゃんと対面

今回ギャグ成分が無かったから此処に

「こら、好き嫌いはいけませんよ。ラーメス。」
「っべ、別に食べずらい故後から飲料とともに食そうと分けただけだ!!断じてスキキライなどではない!!」

そんな頬を赤らめている王子に心底ホッとしたように安堵の溜息を吐いたセテプエンプハタ。そんな彼の様子に王子は怪訝そうに眉根を寄せた。

「もし貴方が偏った食生活の末にゴリラにでもなったら私は・・・私は・・・。」
「ゴリラ?」

エジプトには生息していない生き物の名前に首を傾げる王子に、セテプエンプハタは苦笑して謝罪の言葉を述べた後、丁寧に説明してくれた。

「私はゴリラを狩る者。具体的に言えば、金髪碧眼。無駄なくらい全身・・・特に上半身に筋肉が密集していて、他人の感情や職場の状況把握に疎くて、特技が生ごみの製造。その上女癖が悪くて軽薄。ロリコンで、最終的には女子供より王を取る。最終的に出る策は全て脳筋仕様。無駄に前向きで、優等生(笑)・・・そんなゴリラを、私は狩りたい。」

最早願望になっているとか突っ込みどころはたくさんあったが、この日、王子。ラムセス二世は兄貴分として慕っている人物の闇()を垣間見た。


「王女。先程捕縛した容疑者たちはいかがいたしましょう。」

「良い。そのまま尋問せよ。妾が後で情報を精査する。」

「王女。メンフィスの神官から報せが届いています。」

「・・・ラーメスの身に何かあったのか?」

「いえ。そうではないようですが」

「ならば捨て置け。」

「王女。」

「・・・今度はなんだ。」

 

立て続けに来る伝令役たちに鬱陶しそうに王女と呼ばれた女が返事を返した。

現在彼女はリビアとの国境防衛戦から帰還したばかりであり、更に言うのならその疲労の残る彼女を亡き者にしようと目論んでいた者たちの襲撃に対処したところである。

 

「御父上・・・メンマアトラー陛下がお呼びです。」

「父上が?・・・何用か。」

「い、いえ。それがただ呼んでくるようにとだけ、頑なに申し使った次第でして・・・申し訳ありません。」

 

王宮に入ると待機していたらしい侍女5人がすっと女の傍らに歩み寄り彼女を浴室代わりの溜め池へとついてくる様を見た女・・・バストネフェルトは「ああまたか。」と内心で更に苛立ちを募らせた。

 

 

 

***

 

 

「・・・ふむ、なかなか美味だな。」

「ええ、そうでしょう、そうでしょう。」

 

もう一杯いかがですか?と赤い液体が波打つ壺を片手に男が伺いを立ててくる。

頂こうとまた杯を傾けると注がれる液体からは芳醇な果実の香りが漂っていた。

 

「それで、何故わざわざこのようなところに貴方様の様な高貴なお方が?」

「ふん、何を白々しい。ラーメスを連れ帰りに来たに決まっておろうが。」

 

本来ならこのローブを目深に被った礼節を弁えぬこの男を早々に切り捨てているところではあるが、情けないというかなんというか、現在バストはその男が出してきた食事・・・特に飲み物に意識の粗方を持っていかれていた。

このまるでジュースの様な、恐らく果実酒であろうその飲み口の美味さも然ることながら、なによりもその真っ赤な、まるで血の様な赤が何故かバスト自身の内心で燻ぶる何かを潤していくかのような錯覚に陥る。

そう、まるで敵を斬って捨てた時の様な感覚であった。

 

「・・・その件なのですが、もう少々お時間を頂きたいのですが駄目でしょうか。」

「ほう、その首。余程いらないと見える・・・と、普段なら言っているところだが、今妾は気分がいい。少し遊ぶとしよう・・・次の鐘が鳴るまでラーメスを連れたお前が逃げきれたらお前の勝ち。お前の頼みをなんでも一つ叶えてやろう。捕まってしまったのなら私の勝ち。その首を貰い、ラーメスを連れて帰る。」

 

その唐突な勝負の誘いに、男は変わらぬ調子で頷いて見せた。

そんな男にバストはこれまた恐ろしいくも艶やかな微笑を返す。

 

この伴場実益を兼ねた余興に、彼女は先程まで募らせていた周囲への苛立ちが一変し獰猛な悦びへと変わる。

自身を作り上げた女神からやりすぎだと咎められたことも最近では少なくもないが、そんなことは知ったことではない(・・・・・・・・・)

 

この目の前で余裕ぶっているその顔がグシャグシャになって、血と砂と涙と鼻水で汚れた様を見た時、自分は何を思うのだろうか。歓喜だろうか?嫌悪だろうか?それとも別の何かだろうか?

 

四肢を引きちぎり、地面に這いつくばらせたとき、この男はどうするのだろうか。

泣き喚くのだろうか。怯えて命乞いでもするのだろうか。気丈にも立ち向かって見せるのだろうか。

 

考えただけで、ぞくりと身体が震えた。

 

最早、こちらを複雑そうな瞳で影から見つめる弟のことも、慌てふためく神官連中のこともバストの眼には入らなかった。

 

 

 

***

 

 

 

結果は、惨敗だった。

バストは勝負に負けたのだ。

もっと言えば、一度も、たったの一瞬も男に追いつく所か、服の端を掴むことすら出来なかった。

バストはある事情から千里眼(の様なもの)を所有している。

更に言えばこと対人の戦闘、否。殺戮においては他の追随を許さないであろう自信もあった。

 

何故?なぜ負ける?このバストネフェルトが、何故このようなものに・・・。

 

そんな単純な疑問を己の中で延々と繰り返しているバストの元に件の男がやってきた。

 

「尊き御方。」

「よい、わかっておる・・・今更駄々をこねたりなんぞせぬ故安心するがよい。」

「ありがとうございます。」

「ふふ、しかし見事な足運びであった。例え逃げ足だとしてもあそこまでの速さの出るような者はそういまい。貴様、名は?」

「お褒めいただきありがとうございます。ですが、私はただの使いの者故、貴方様に名を覚えていただくような者では・・・。」

「ほう?名が言えぬとな?・・・まあ良い、まだあの飲み物はあるか?あれは良いものだ。」

 

自分への態度が他者と違うものの、実力があり、そこらの戦士より強いであろう目の前の男にバストは好感が持てた。だからだろうか?気分は高揚し、話が弾む。

話自体は先程の鬼事の感想やら世話話やらとコロコロ話題が変わったが、遂に話題はバストの戦歴自慢へと移る。そこでバストを遮って付近に待機していた見ない顔の神官が声を掛けてくる。

 

「大変申し上げにくいのですが王女にはここ最近の行動を少々鑑みていただきたくもがっ!?」

 

どうやら幾分か雰囲気の緩んだバストの様子に今しかないと思っての進言だったようだが、折角の対話を邪魔されてバストの機嫌は急降下する。

それを知っている古株の神官が慌てて口を塞いだようだが既に起こってしまったことである。取り返しはつかない。

 

「・・・誰が口を挟んでよいと言った。失せよ。」

 

激情のままに振るわれる腕と連動した不可視の何かによって、その神官の頭は見るも無残に引き裂かれる。

・・・ことはなかった。さっきまで会話していた男がその神官の前に立って、これまた不可視の何かでその斬撃を止めたからだ。

 

「・・・妾は今気が立っている、貴様はまだ殺さぬ故。避けているがよい。」

「そうしたいのはやまやまですが、お断りいたします。」

 

その言葉にピクリと反応して、バストは更に加える力を強める。

ギギギっと、鉄か何かが擦れるような耳障りな音が響いて、そのまま男の力を強引に突破する。

威力は大分弱くなってしまったが、それでも普通の人間はまずただでは済まないであろうその攻撃を受けて、男の首は、そのまま後方へと落ちた。

何人かがヒッと情けない悲鳴を上げる。

それと同時にバストの胸中には落胆が広がった。

 

「・・・ふん、やはりこの程度か。期待して損をした。帰るぞ、ラーメス。」

「ま、お待ちくださいっ!!姉上!!」

 

そう言って眼前に飛び出てきた弟の抱えているものをみて、バストは僅かに目を見開く。

周りを取り囲んでいた神官たちも驚いて、あるモノは腰を抜かし、あるモノは呆然と口を開け、と様々に反応していた。

そんな、注目を集める王子。否、王子の腕の中にあったのは。

 

「・・・私は、貴方を止めるために、冥界よりメンフィス(此処)へと遣わされたのですから。」

 

ねえ、バストネフェルト王女。と、ここらでは見ない見事な金髪と青眼、そして異様に白い肌の幽玄の美を持った青年の首。

それが首だけの状態で、バストに向かって話しかけ、そうして微笑んだ。

 




デュラハン系主人公。
謎のゴリラX。

色々追加されていくゴリよ!!!

・・・というか今更ながらこのままいったらFGO6章ヤバくね?


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