コードギアス 白蛇は勘違い (砂岩改(やや復活))
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第一章 スナック感覚で転生するとかやめません?
ふざけるなバカヤロウ!


「ふざけるなバカヤロウ!」

 

 ボロボロの廃墟。確かゲットーと呼ばれていた場所で少女が絶叫していた。あきらかに治安が悪そうな場所での絶叫は人目を集め、自分が危険になる行為だが現在の状況では意味はない。

 

(なんでこんな修羅場なんだよぉ!)

 

 真っ白のショートヘアをなびかせてその場で隠れている少女。なぜこのようになったかはしっかりと説明しなければならないだろう。

 

 それは少し前のことだ。

 

ーーーー

 

「って感じでそれがだいたいのあらすじだな」

 

「ほぉ…」

 

 俺、こと佐脇薫は昔からの馴染みだった親友に連れられ映画館に足を運んでいた。

 親友の熱烈な薦めにより今回見ることとなった映画は《コードギアス反逆のルルーシュ》と言うやつだ。軽く説明すれば主人公がヒーローではなく悪の親玉という変化球系のアニメ…らしい。あらすじは先程聞いたが寝ればすぐ忘れてしまうだろう。

 

「てことで時間だ。いくぞ!」

 

「あぁ…」

 

 現在、全く興味が湧かないのだが百聞は一見にしかず。思ったより面白いかもしれない、そう思いながら映画が始まるのだった。

 

ーー

 

 うん、とても面白かった。キャラの掘り下げは映画だからカットされていただろうが凄く面白かった。特にカレン、ワンコみたいで可愛いわドストライクだわ。

 

「なぁ、俺の言ってることは間違いないだろ?」

 

「今回は認めよう。凄く面白かった」

 

 映画が終わり照明が一斉に点灯する。一瞬のホワイトアウトの後、目を開けると視界に広がったていたのは廃墟でした。

 

「はぁ?」

 

 あれ、なんか声がおかしいぞ。美しい女性の声が聞こえるんだが…。

 

「……おぉ、ぱい」

 

  近くにあった粉々の鏡を覗き込むとそこには美しい真っ白な少女がいた。首振り、手を振り、目玉を回す。

 はい、俺です。悲しいかな貧相な息子と突然のお別れを果たし夢と希望の塊が二つ登場した。

 …ちょっと待って確認します。ありませんね、手遅れですわ。

 生まれ変わるなら女がいいって思ってたけどなんか嬉しくねぇ…。

 

「転生?転性か…。神様は?トラックは?ドッキリって言うのもワンチャン?」

 

 辺りを見渡すが完全な廃墟街。絶対セットとかじゃないなこれは、せめてトラックに轢かれたなりなんかで死んだならすぐ分かるのになんでホワイトアウトで転生してんの? そんなスナック感覚で飛ばさないでもらえます?しんちゃんの映画かよ!?

 

 ヒューーン

 

「ヒューン?」

 

 なにか遠くから音がすると同時に廃墟が爆発、瓦礫のシャワーが襲ってくる。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

 尻餅ついて急いで四つん這いん、四本の手足で台所の人気者、黒光りティGさんの如く逃げる。今思い出したけど俺、今女なんだよね、絵面最悪だわ。

 手足、最悪ですわ。擦り傷パラダイスですわ。

 

「なにごと!?」

 

 物陰からよく見れば所々から煙や炎が上がってる。そしてその煙を突き破って姿を表したのは紫色のロボット名は《サザーランド》。

 サザーランドは縦横無尽に走り回り気晴らしと言わんばかりにアサルトライフルを撃ちまくっている。

 

「はい決定。映画のくだりから分かってたけどコードギアスです。ありがとうございます!」

 

 映画の冒頭で見たよ、似たようなシーン。あれでしょ…シンジュク事変!怒りで肩がふるえているけどもう知らねぇ。

 

 映画を見た限り、主人公のルルーシュが決起する切っ掛けになったやつだよね。

 ならどうする?

 

 自らも戦線に参加して共にヒャッハー!→それはない(アズミ感)

 

 ルルーシュじゃたよりねぇ、俺がいくぜ!→よぉし!誰かダイナマイト持ってこい、口に突っ込んで火を付けてやる

 

 ひたすら息を潜め、事態収集を待つ→それだぁ!(カバさんチーム感)

 

 はぁ、夢小説みたいに介入してこれから死ぬキャラたちを助けろだとぉ?てめぇ、頭沸いてるのか!人間が一人、加わるだけで運命変わったら苦労しねぇんだよ!(誰も言ってない)

 ってか死ぬキャラとか知らねぇし!俺が知る限りヴィレッタが金髪にぶち抜かれてシャーリーパピーが死んだことぐらいしか知らねぇし!

 

 とにかく、サザーランドに見つからないように影から影に移動して建物の中に逃げよう。出る杭は打たれる、つまり出ない杭は打たれない!

 

ーー

 

「ふざけるなバカヤロウ!」

 

 そして今に至る。

 

 結構時間経ったけど現れないんですゼロ様が!ルルーシュ様が!アレなのか?お前がルルーシュになるんだよか?ふっざけんなよ!

 

「やってられるかー!」

 

 逃げよう、俺は奇跡を待ってる方の一般人だ!

 

 俺が身を潜めていた建物の二階の窓の外の真横にハッチ開きっぱなしのサザーランドさんが着けてあった。奇跡ですね、奇跡は待ってたら起きるんですよ。

 これに乗って逃げようか。鍵もつけっぱなしだし、割れた窓の破片で太もも切ったけど我慢して乗り込む。パイロットはいないようだな。

 

「えっと確か。オレンジのレバー引いたら閉まるよな?」

 

 上手く閉まった。よっしゃ、前進じゃあぁ!なんか上手く前進したサザーランド。でも全速力で、すると建物の影から出てきたサザーランドさんと大激突、思いっきり頭を打ちました。

 その際にボタン色々と押しちゃったけど変なことなってないよね?

 

「救世主だ!」

 

「ついに神の御使いが現れた!」

 

 あ、第一村人発見。ってか頭から血が流れてて前が見えない。座席の下に包帯あったから全部巻いておこう、ハサミないし。なんとか血が止まったので一回降りて話をしたい。

 どうやってしゃがむの?しゃがもうと四苦八苦してる間に発見した老齢の方々が叫んでいるが気にしない。今こっちは忙しいんです!勝手に前進したり後退したり、挙げ句の果てにはライフル撃っちゃうしで滅茶苦茶。

 俺ですか?レバーしか見てませんよ!

 

 

 不恰好だけどなんとかしゃがめた俺はハッチを開けてその方々の元に降り立つ。後ろでサザーランドぶっ倒れてるけど気にしない。

 

「助けてください。ブリタニア軍は私たちを憂さ晴らしのために殺しているんです!」

 

「このままじゃ私たちも人狩りで殺されてしまう!」

 

「……」

 

 なんかやけに高かったテンションが鳴りを潜め状況を理解した俺は吐きそうになる。後ろのお婆ちゃんが抱えているのは血まみれの子供。なんて惨い…。やべ、吐きそう…。

 

「うぷ…」

 

「ありがとうございます!」

 

 なに、この方々。俺のゲロ見て楽しいの?あ、俺美少女だったわ。綺麗な女の子はなにしても良いってほんとなのね。

 

「レジスタンスがまだ戦っています!助けてあげてください!」

 

「……」

 

 そう言って無線機渡してどっか行こうとする老人たち。ちょっと待てよ!

 

「お姉ちゃん…助けて……」

 

「……今回だけだ」

 

 断れないよこの状況、子供盾にするとかマジあり得ないんですけど。

 

「見よう見まねでやってみるか…」

 

 本当に今回だけね。全滅しても知らないからね!

 

ーー

 

 まぁ、レーダーらしきものには敵の位置がはっきりしてるし。さっき、映像どおりサザーランド満載してる電車あったから走らせておいたけど。

 

「神様、俺を飛ばしたのヤベッて思ってるなら助けて!」

 

 さっき渡された無線から男女の声が入り乱れている。あれだよね、カレンのグループだよね。確か扇さんがリーダーやってる。

 

「おい、このグループのリーダーは誰だ?」

 

「なに、誰だお前?どうしてこの番号を知っている?」

 

「誰でもいい。勝ちたいのなら私に従え、そうすれば後悔はしない」

 

「…分かった」

 

 頭の中のルルーシュ像を壊さないように話してみる。すると向こうも切羽詰まっているようだ。渋々、了承する。

 

「指定座標に集まれ、そこにプレゼントを用意してある」

 

 さぁ、始めようか。命がけのゲームってやつを(ヤケクソ)

 

 



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ルルーシュみたいにいかねぇつってんだろ!

「うぅーちょっともよおして来ちまった」

 

 とあるサザーランドのパイロットは突然、沸き上がった尿意に耐えきれずに機体から降り、近場の影で済ましていた。

 

「ふぅ、スッキリしたぜ!…あれ?」

 

 やること済ませて帰ってきたパイロットは自分の機体が忽然と姿を消したことに気づく。

 

「おわぁぁぁぁ!」

 

 あまりのことで絶叫するパイロット。そんな彼の機体は同じ頃、他のサザーランドと大激突していた。

 

ーー

 

 逃げる、ひたすら逃げる。ここはイバラキゲットー。え、どこかのバカがシンジュクゲットーって言ってた?残念でしたここはイバラキゲットーです。

 

 このイバラキを統治している基地では最近、突発的に殺戮が行われるようになっていた。トウキョウ租界の目を出し抜きながら人狩りをする。そんな彼らに我々、日本人たちはなす術もなく殺される。

 

「もうだめじゃ」

 

「しっかりするんだ。まだこの子は生きてるんだよ」

 

 初老の女性、片桐はレジスタンスの一味だった。護身用の拳銃を懐に忍ばせているがナイトメア相手だと全く意味がない。一緒にいるのは傷ついた子供と隠れていた男の老人。

 客観的に見ても逃げられるような面子ではない。

 

「来たぞ!」

 

 後ろから迫るのはブリタニア軍の主力。サザーランド、人の歩みなど遥かに越える速度で追いかけてきた機体はゆっくりとライフルを構える。

 

「うわぁ!」

 

 もうダメだと叫ぶ。そんな時にビルの影からサザーランドが現れると追いかけてきたサザーランドに体当たりをしたと思えば後方にて追随していた2機のサザーランドをたった二発で片付ける。

 

「救世主だ…」

 

「ついに神の御使いが現れた!」

 

 連れてきた老人がうるさいが本当に凄い。3機のサザーランドを二発で仕留めた。

 

「いや、まだだ!」

 

 体当たりをされたサザーランドが起き上がり両腕に装備されたトンファーを展開する。

 

「まだやられていないぞ!」

 

 片桐は思わず叫ぶ。しかし助けに来たサザーランドは敵のサザーランドが立ち上がるのを許してしまう。その上、味方に振り返ろうとしない。

 

「後ろだ!聞こえないのか!」

 

 その瞬間、サザーランドは目にも止まらぬ速さで敵を足払い。構えたライフルでコックピットを撃ち抜く。玄人レベルの動き、これは並みではない。

 

 そんな動きに驚いているとサザーランドはしゃがみコックピットハッチが開き、顔全体に包帯を巻いた少女が姿を表す。真っ白な髪に病的なまでに色白の肌。そのスラッとした出で立ちは神の使いである白蛇のようだった。

 

「助けてください。ブリタニア軍は私たちを憂さ晴らしのために殺しているんです!」

 

 必死に叫ぶ。明らかに年下だろうが思わず敬語で話してしまう。そんな雰囲気を持っている人物だった。

 

「このままじゃ私たちも人狩りで殺されてしまう!」

 

 なにかが変わるかもしれないという思いを込めて片桐は叫んだ。するとその女性――これからは《白蛇》と言おう――彼女はゆっくりと歩むと抱えていた子供を見つめている。そんな彼女に自分が持っていた無線機を渡す。これで仲間を助けてくれと分かるはずだ。

 

「うむ…」

 

「ありがとうございます!」

 

 静かに頷く白蛇に頭を下げて喜ぶ。

 

「レジスタンスがまだ戦っています!助けてあげてください!」

 

「……今回だけだ」

 

 思わず泣きそうになる。今まで死にかけていたから余計にだ。やはり年を取ると涙腺が緩くなっていけない。そんな女性に感謝しつつ片桐は全力で地下鉄に逃げるのだった。

 

ーー

 

「くそっ、ブリタニアめ!」

 

「このままじゃ全滅だ!」

 

 赤く染めた髪を伸ばした女性。伊丹智香はランチャーを片手に周囲を確認する。彼女は元軍人でブリタニア侵攻時も前線で戦った猛者だ。

 

「伊丹さん、ここは逃げるしかない!」

 

「馬鹿者!ここで逃げたら民間人はどうなる、片桐さんと連絡は取れないのか?」

 

「応答が取れません」

 

 鋭い目付きの若者。伊坂シュンは脱出を提言するが彼女はそれを否定する。

 

「このままでは…」

 

『―――おい、このグループのリーダーは誰だ?』

 

 その時、なぞの声が全員の持っていた無線機から流れる。

 

「なに、誰だお前?どうしてこの番号を知っている?」

 

 伊丹はその状況においても冷静に返事をして脇に伏せていた青髪の女性。柏木に目線を移す。

 

「恐らく、片桐さんからの無線ですねぇ。声の主は違うようですけどぉ」

 

『誰でもいい。勝ちたいのなら私に従え、そうすれば後悔はしない』

 

 勝ちたいのなら…全員がその言葉に反応して目を合わせる。千載一遇のチャンスか、それとも破滅への罠か。どうせ死ぬのなら乗るしかない。そう感じ取った伊丹は静かに了承するのだった。

 

「…分かった」

 

『指定座標に集まれ、そこにプレゼントを用意してある』

 

「おい、行くぞ」

 

「「了解!」」

 

 その言葉に従い、移動する一同。さて…鬼が出るか蛇が出るか。

 

ーー

 

「緊張してもう吐きそう…」

 

 指定地点を遠くから見えるビルの影にサザーランドを移動させ様子を窺う薫はレーダーを見ていた。

 数は20機ほど、指揮者は居ないようでそれぞれバラバラで狩りに興じていると言ったところか。

 改めてみるとブリタニアって惨いこと平然としてるな。ブリタニア人以外、生き物と見てないなこれは。

 

 列車の中にあるのは7機のサザーランド。ルルーシュとは違ってそんなに奪えなくてごめんなさいね。あとは映画を思い出して動くだけだ。

 

「エチケット袋はどこだ?」

 

 結局なくて外で吐きました。

 

『これがプレゼントか?』

 

「あぁ、役に立てるかな?」

 

 口からレボリューションしているときに通信が到着。口の中がイガイガのまま話をする。無線機のノイズが酷すぎて相手が男か女かすらも分からないが文句を言ってられない。

 

ーー

 

『あぁ、役に立てるかな?』

 

「っ!」

 

 急に声が低くなった相手に伊丹は戦慄する。企みが実現に限りなく近づき相手が本性を現したのだろう。

 

(この殺気、藤堂中佐並みかそれ以上の人物か)

 

「我々は貴方の傘下に入る。我々を勝利に導いてくれ」

 

『愚問だな、では準備を完了させろ』

 

「了解した」

 

 自分達のリーダー的存在である伊丹が緊張しているのを見て伊坂たちも緊張を持つのだった。

 

ーー

 

 とりあえずはよし。これでルルーシュのようにレーダーを見ながら指示を出せば。

 

『こちらは準備が完了した』

 

「よし、そちらに2機が向かっている。お前たちから見て西の方角到着は15秒後だ。壁越しに撃ちまくれ」

 

『了解した』

 

 そして恐らく扇グループであろうサザーランドが西の方角に向く。あれれぇ、おかしいぞぉ?なんで東に向いてるんだぁ?

 

 改めてレーダーを見る。右が西じゃないの?アレ、右は東か?ヤバイんじゃね、完全に反対に向かせちゃったのだが。しかももう撃っちゃった!なにも居ないよそこにわぁ!

 もう15秒経ったの?早くね、ってか早く修正しないと!

 

「続いて東だ。すぐに来るぞ!」

 

 ミスったなんて思わせない。ミスはミスじゃない、もみ消せばいいのさぁ!

 ほら。赤い人も言ってるじゃん、過ちを気に病む必要はない、ただ認めればいい。それが大人の特権だってね! 方角の記号の右は東、左は西って覚えたから許して。

 

 なんとか2機は撃墜。半分ぐらい減らしたら逃げるでしょ、気を取り直して次だ。

 

「移動しろ、S28だ」

 

『了解』

 

「前方に装甲車3両、踏み潰せ。南西の方角から3機……今だ!」

 

 もう5機も撃墜。やれるじゃないか、私はこのまま殲滅してやるぜ!…あれなんか忘れてるような。

 そうだ、ランスロットだ!あのイカれ運動神経のスザクが乗る鬼畜ナイトメア、ランスロットが控えているじゃないか!ヤツが来るまでに逃げねば!

 

「そろそろ頃合いだ。脱出ルートは確保した。各自、地下道から撤退しろ」

 

『もう少しでブリキ野郎を殲滅できるんだ!やらせてくれ!』

 

「貴様たちは何も分かっていない。戦場では何が起きるか分からない。敵が新型を投入してきたらどうする?(主にランスロット)貴様たち素人に切り抜けられるのか?」

 

 ごめんなさい、めっちゃ偉そうに言いました。でもこう言うときって下手に出たら舐められるからこれでたぶん正解だと思います。はい…。

 

『―――なのだな?』

 

「あぁ…?」

 

 ごめん、なにも聞いてなかった。なんぞや?

 

『分かった…我々は退く』

 

「それでいい…」

 

 どうやらお遊びで出てきた敵もゲットーの外に逃げているようだ。そういえばG1っていうデカイ乗り物が見当たらないけど…クロヴィスってやつ殺さなきゃいけない感じ?

 それはいいか、俺は別にここを逃げたいだけだし。これからどうしようかな、せっかくコードギアスの世界に来たからアッシュフオードには見学にいかないとね。

 

「ふふふ~ん」

 

 鼻唄をしながらこちらも地下道で逃げる。地下道を迷いながらも進んでいくとそこにはサザーランドが沢山停まっており道を塞いでいた。

 

「ちょい待て!アレって扇グループ!?」

 

 なんで待ち伏せしてんの?ルルーシュより無能だから殺しに来たのか!しかたねぇだろ、今さっきまで将来のことすら考えてなかった高2だったんだぞ。

 

『白蛇よ、我々は貴方に礼を言いたいのだ。どうか降りてきて頂けないだろうか』

 

「はくじゃ?」

 

 なんすか、もうアダ名着いてるんですか?もしもの時はゼロって名乗ってやろうかと思ったけどそれを使わせてもらおうかな。

 まぁ。とにかく出なきゃいけない空気ですね、俺はKYなんてもんじゃありません。出ますよ出ますよ。

 

「私は伊丹智香。このグループのリーダーをしている人物だ」

 

「グループリーダー?」

 

「あぁ」

 

 ホワイ!扇さんじゃないのかよ!おいどこ行ったリーゼント、なんでこんな美人がリーダーしてんだよ!

 

「よせ、照れるじゃないか」

 

 あんまり見つめてたから照れたじゃねぇか。可愛いなぁおいっていうのは置いといて。ちょっと質問、

 

「ここは?」

 

「ん、イバラキゲットーだ…」

 

 イバラキゲットー!?シンジュクじゃねぇのかよ!俺の勇気と覚悟を返せ!マジでゼロにならなくちゃならないと思ったじゃねぇか!

 …ん?なんかこっち見つめてるぞ、ごめん、なんかまた質問した?

 

「まぁな…」

 

 取り敢えず返事しとくわ。あれ、みんな気まずい顔してるぞ選択しミスったかな。

 

「気にするな。俺の問題だ」

 

 取り敢えずフォローしとくよ。フォロー大切。

 

「…どこなのだ?」

 

「シンジュクゲットーだ」

 

 シンジュクゲットーだと思ったんですよ。ごめん。頭混乱してるあんまり話聞いてないわ。聞く気ないわ。

 

「俺は疲れた。悪いが帰らせてもらう」

 

 家ないけど取り敢えずアッシュフォード目指しますわ。超初心者だけどファンの一人として。

 

「待ってくれ!」

 

 なんすか…ウッぷ。やべ、まだ吐きそう。早くどっか行かないとヤバイ!

 

「下す…」

 

「なんだと?」

 

「全てを戻す…。(もう吐きそうです、ヤバイです!)そのために急がなきゃならない」

 

「分かった…」

 

 ありがとう。言葉って大事、事情を話したらすぐに解放してくれた。その後、心置きなくスッキリするまでレボリューションしました。

 汚くてごめんね、血まみれの人とか無理なんす。

 

 



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白亜の救世主

「あぁ、役に立てるかな?」

 

「っ!」

 

 急に声が低くなった相手に伊丹は戦慄する。企みが実現に限りなく近づき相手が本性を現したのだろう。

 

(この殺気、藤堂中佐並みかそれ以上の人物か)

 

「我々は貴方の傘下に入る。我々を勝利に導いてくれ」

 

「愚問だな、では準備を完了させろ」

 

「了解した」

 

 自分達のリーダー的存在である伊丹が緊張しているのを見て伊坂たちも緊張を持つ。

 

 各自に準備をさせて次の通信に備えて待つ。通信相手は恐らく女性、通信機が安物のせいで詳しいことが分からないがただ者ではないというのは確かだ。

 

「こちらは準備が完了した」

 

「よし、そちらに2機が向かっている。お前たちから見て西の方角到着は15秒後だ、壁越しに撃ちまくれ」

 

「了解した」

 

「伊丹さん。相手は凄そうなのは分かりましたがこの指示は…」

 

「カウントダウンを怠るな」

 

 メンバーたちからも不安の声が上がるが伊丹はそれをあえて無視する。この一撃で奴の能力が決まるのだ。彼女はそれを見極めたかった。

 

「3…2…1…撃て!」

 

 7機のサザーランドによる全力射撃。だがその先には敵は居らずただコンクリートの道路を破壊するだけに終わった。

 

「居ないねぇ…」

 

 柏木は明らかな疑問を持って声を出す。

 

「続いて東だ。すぐに来るぞ!」

 

「後方に反転。射撃開始!」

 

 他の者からの疑念の声を掻き消すように叫んだ彼女はすぐさまサザーランドを反転させコンクリートの壁を撃つ。伊丹の怒号に他の者たちも動き攻撃するとそこには2機のサザーランドがいたのだ。

 

「本当にいた!?」

 

「伊坂、なら一発めはなんだったんだよぉ」

 

「た、確かに…」

 

「伊丹さん、後方に敵機!」

 

「なに!?」

 

 すぐさま異変に気づいたサザーランドが3機、ランドスピナーを高速回転しながら現れる。

 

「マズイ、迎撃を!」

 

「無理です!間に合いません!」

 

 やられる。そう思った瞬間、岩盤が崩れ落ちサザーランド3機が地下に吸い込まれていく。

 

「助かった?」

 

「まさか、先程の攻撃は岩盤に対しての攻撃だったのか?」

 

「それが本当だったらヤバイですねぇ」

 

「嘘だろ…」

 

 一瞬でサザーランドを5機も撃破した伊丹たちは事実に騒然としているとあの声が再び無線から聞こえる。

 

「移動しろ、S28だ」

 

「了解」

 

 先程の成果に全員がこの声は信頼に足ると判断した。それからの行動は素早かった。

 

「前方に装甲車3両、踏み潰せ」

 

「やってやるぜ!」

 

 サザーランドに乗り込んだメンバーがライフルを構えて乱射。数の差と性能の違いで一方的にやられる装甲車。

 

「南西の方角から3機……今だ!」

 

 流れるような発砲。出会い頭になるはずだった敵のサザーランド2機はやられる。

 撃墜数は8機。今まででは考えられない大戦果だ。

 

「そろそろ頃あいだ。脱出ルートは確保した。各自、地下道から撤退しろ」

 

 そんなところで声の主は撤退を指示した。こちらの目的はあくまでも敵から民間人を逃がすこと。それを忘れずに行動している、今まで舞い上がっていた自分達が恥ずかしい。

 

「もう少しでブリキ野郎を殲滅できるんだ!やらせてくれ!」

 

 メンバーの一人が調子に乗ってまだ戦いたいと声をあげる。伊丹以外のメンバーも思いは同じようだ。

 

「貴様たちは何も分かっていない。戦場では何が起きるか分からない敵が新型を投入してきたらどうする?貴様たち素人に切り抜けられるのか?」

 

 帰ってきたのは冷徹な声。次、逆らえば見捨てる。言外に言っていたのは明らかだ。

 

「よせ、この声のいう通りだ。撤退するぞ」

 

「わかりました」

 

 伊丹はそういうと自らも地下道にゆっくりと降りていく。先程の戦闘のせいで岩盤がガタガタだ。気を付けなければ。

 

「大丈夫なのだな?」

 

「あぁ…」

 

 一応聞いてみたが計算の内か…。我々が逃げる分には岩盤が崩れないように測っていたようだ。

 

「分かった…我々は退く」

 

「それでいい…」

 

 そう言うと声の主からの声が途切れる。これで用事は済んだと言うことか。そう思い、彼女たちは地下道の奥深くにむかうのだった。

 

ーー

 

「桐山さん!」

 

「伊丹か、よく無事だったな!」

 

「はい、なぞの声が助けてくれました」

 

「なんと、白蛇は私の願いを聞き届けてくれたのか」

 

「白蛇?」

 

 地下道をゆっくりと進む彼女たちの目の前に姿を現したのは薫が一番最初に出会った、桐山。そんは彼女の言葉に首を傾げると事の経緯を桐山は説明した。

 

「なるほど…」

 

「伊丹さん、なにか来ます!」

 

「なに?」

 

 警戒に当たっていたサザーランドは自分達が来た道からナイトメアが来たのを確認した。そのサザーランドはこちらを見つめると動かなくなる。

 

「もしや、白蛇か?」

 

「なるほど…白蛇よ、我々は貴方に礼を言いたいのだ。どうか降りてきて頂けないだろうか」

 

 桐山さんから聞いた人物なら交渉に応じてくれるはず。すると白蛇はナイトメアから降りるとこちらに顔を向ける。顔に包帯を巻き付けた少女。その包帯は血まみれであった。

 

「私は伊丹智香。このグループのリーダーをしている人物だ」

 

「グループリーダー?」

 

「あぁ」

 

 値踏みするように全身を見られる。

 

「美しいな…」

 

「よせ、照れるじゃないか」

 

 呟くような言葉に思わず顔を赤くする。慣れないことを言われたせいで取り乱したがすぐに顔を引き締める。

 

「ここは?」

 

「ん、イバラギゲットーだ。すまないが、その包帯は火傷でもしたのか?」

 

「まぁな…」

 

 やはり不味いことを聞いてしまった。その立ち姿なら綺麗な顔をしているだろうに。こんなことになってしまったのだろう。

 

「気にするな。俺の問題だ」

 

「あぁ…」

 

 自分に降りかかった不幸だけでも大変なはずなのにこんなに落ち着いている。それどころかこちらに的確な指示を送り、地形を熟知した作戦を展開した。

 

「出身はどこなのだ?」

 

「シンジュクゲットーだ」

 

 わざわざ東京からここまで来たのか。見た目からして外人だと思っていたが日本人らしい。

 

「俺は疲れた。悪いが帰らせてもらう」

 

「待ってくれ!」

 

 面倒くさそうに振り返る彼女に一瞬だけ気圧されるが伊丹は本当に聞きたいことを問う。

 

「なぜこの様に振る舞える。お前は我々とは違う、お前は何をするつもりだ!?」

 

「下す…」

 

「なんだと?」

 

「全てを戻す。そのために急がなきゃならない」

 

 ブリタニアに罰を下すと言ったのか…。それに全てを戻すと言ったのか?もしや彼女はブリタニアから日本を取り戻すということなのか?

 

「分かった…」

 

 彼女はブリタニアと戦争するつもりだ。テロ等ではない本当の戦争を…。彼女は必ず現れる、我々という駒を見定めた彼女は必ず現れるだろう。そして我々はそれまでに覚悟を決めなければならないのだろうな。

 

 静かに地下道の闇に消えていく白蛇。その後ろ姿を伊丹は静かに見つめるのだった。

 

ーー

 

 その数日後。

 

「そうか…伊丹大尉のグループが動いたか」

 

「日本解放戦線を抜けて地元に戻ったと思ったらここまでの戦果をだすとは…」

 

 日本の反抗グループを支援しているグループ。キョウトの中枢、そこには五人の人影が話をしていた。

 

「通りすがりの人物が手助けをしたらしい」

 

「通りすがりとは面白いですね。どのような方なのですか?」

 

「おや、神楽耶さま。気になるのですかな?」

 

「白蛇と呼ばれた女性です。」

 

「白蛇?」

 

 神楽耶はその言葉に意味が分からずに首をかしげる。しかしすぐに答えにたどり着いたようだ。

 

「白い蛇と書いて白蛇ですね。神の化身あるいは神の使いと呼ばれる」

 

「左様、その者を見た印象がそれだったと」

 

「さぞかし美しい方なのでしょうね。是非ともお会いしたいわ」

 

「そのような人材こそ今の我々には必要だ」

 

 神楽耶の言葉に桐原も同意する。

 

「その白蛇を探すのだ」

 

「はっ!」

 

 桐原の言葉に側に控えていた者たちが下がる。

 

(髪肌が白く、顔に大きな火傷がある人物。髪肌が白く日本人であるのなら恐らくアルビノ、その上顔に火傷を負っているとなれば捜索は容易いだろう)

 

 まさに特徴のオンパレードの人物の捜索、だが桐原の予想を大きく上回り捜索は難航することとなったのだった。

 

 

 



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ラブリーマイエンジェルシャーリーと魔王

「それは災難でしたね。大丈夫ですよ、名前を照合したところヒットしました。IDを再発行しますね名前はカオル・ヴィヨネット様でよろしいですね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 どうも佐脇薫です、第4話にてちゃんと自己紹介した気がするわ。ってかカオル・ヴィヨネットって誰だよ、俺だよ!そんな名前で俺、ブリタニア人登録されてたんだね。じゃあ、現在の状況を報告しましょうか。

 今はイバラキの租界です、地下道から出たらブリタニア軍が待ち受けていまして…即刻捕まったわ。いやぁ、死ぬかと思ったわぁ!

 ダメもとで薫ですって言ったらこの通り、なんとブリタニアで戸籍がありました!

 

「財布も全て無くされたんですよね。あそこら辺はテロリストが活発でよく戦闘が起きるのですよ」

 

「そうですか…」

 

 よく言うぜ、憂さ晴らしで殺してたくせに。ヤバイ、レボリューションしそう。12発だ! やかましいわ!12回もレボリューションしたら死んでまうわ!

 

「手当てで自宅に帰れるように手配しました。三十分後に電車が出ます」

 

「本当にお世話になりました」

 

「いえいえ」

 

 何度も礼をいう俺に対して担当の男はデレデレしながら返してくる。地下道で包帯を取った今の俺はただの傷ついた美少女。いやぁ、気分がいいね!

 こっちに来て早々ドンパチだったからこういった余裕がなかったんだよ!

 

「俺の家、トウキョウ租界にあったんだなぁ」

 

ーーーー

 

 ということで俺の家に帰ることになりました。これってもしかして転生じゃなくて憑依なのではと怖くなってきたんだが。

 まぁ、ともかく電車にのってトウキョウ租界に移動した俺はなんとか家に辿り着いた。まぁ、そこそこの大きさのマンションの一室。

 その中は実に殺風景、必要最低限の家具に生活感の無い部屋だろう、俺の部屋だったら発狂しちゃうね。俺の部屋だわ。

 

「ん、なんじゃこりゃ?」

 

 壁のコルクボードにはなにかのお知らせらしき紙が張り付けてある。それをよく見る薫、《アッシュフォード学園入学式のお知らせ》

 学園イベント来たぁぁぁぁぁぁぁ!?ってことは俺はルルーシュの後輩か!まさかの後輩設定!

 そう言えばと振り返り、今のカレンダーを見る。見るのは当然、年号の方。《皇歴2016年》まさかの原作開始一年前ですかぁぁぁぁぁぉぁ!!

 

 やべぇよ、やべぇよ!俺、ルルーシュが動き出す一年前に動き出しちゃったよ!事態に介入しちゃったよぉぉぉぉ!

 

しかもフラグの塊であるアッシュフォード学園に入学→ルルーシュたちと同級生→たぶん、巻き込まれる→死亡フラグまっしぐらじゃねぇぇぇかぁぁぁぁ!

 

 そんな彼?の心の叫びと共にアッシュフォード学園の入学式が幕開くのだった。

 

ーー

 

 どうも皆さん最近、涙腺ではなく血栓が緩くなってきた薫です。あの怒濤の出来事からはや一週間、一日に2、3度鼻血が飛び出してきます。主にトイレとお風呂で…しかたねぇじゃん、女体なんて拝める機会なかったんだから。しかも美少女って、自分の体だけどね!

 

 あぁ、気づいたんだけど俺の佐脇腹。なんかぶち抜かれた跡があったんだが…。俺ってもしかして既にヤバイものに首突っ込んでたりするのかね。そしておでこに治らない傷ができました。原因は分かってます、あの大激突ですわ。

 

 今日はアッシュフォード学園の入学式です。家を探したらありましたわあの黄色い女子制服。あれってスゲーミニスカートなんだよね、デザインしたやつとはいい酒が飲めそうだ(未成年だけどね)

 

 ともかく、それが自分に降りかかってくるとキツいわけですわ。はっ?ふざけんなよ。一週間前までは男だったんだぞ!俺に女装趣味はねぇよ!

 っというわけで男装?します。男子制服を改めて買って参りました。 アッシュフォードに申請だしたら秒でOKでたわ、なんかミレイ会長知ってるから予想通りだわ。でもさ男装美少女っていいよね、クール&ビューティーってやつだよね。私服もオールドシーズンのジーパン6着ぐらい買ったわ。スカートマジ無理。

 

 あっ、ついでに初日に来てた服は前世?の俺の服のまんま男装だったからね。あの後、ボロボロになった服はしっかりと防虫してしまってあります。だってあの服、俺の唯一の転生者って証だぜ。捨てられねぇよ。

 

「あのぉ~」

 

「はい?」

 

 家にあったプリントの地図を参照にアッシュフォードを目指してると話しかけられました。この男装美少女になにかようかな(キラッ! 

 

「もしかして道に迷ってました?」

 

 オレンジ色の綺麗な髪の毛を持った少女。ん?知ってるような知ってるような…。

 

「あぁ、私シャーリー・フェネット!私もアッシュフォードに入学するんです。あなたは?」

 

 超主要キャラきたぁぁぁぁぁぁぁ!ルルーシュに最も近い人物ぅぅぅぅ!

 落ち着け薫、ラブリーユアエンジェルシャーリーがここにいますよぉルルーシュ!おちつけ、まだ慌てる時間じゃない!っとよし、取り敢えず挨拶だ。

 

「カオル・ヴィヨネット…」

 

「へぇ、男装してるんだね。珍しいね」

 

 なんでバレたの?あぁ、サラシしてないからね胸の膨らみで分かったんだね。残念ながら俺はまな板じゃ無いんだよ!そのボディーに何度悩殺されたか!(自分が)どこぞの勅礼さんとは違うのだよ!

 なんでや!ウチは関係ないやろ!

 

 いやね、男装するならサラシでしょって準備はしたんですよ。見よう見まねで…出来なかったんだよ!触るのはもう抵抗ないんすわ、どこぞの瀧くん如く揉みしだいてたからな!でも巻いてたら…柔らかくて溢れるんすわw。

 

 おっとそこまでだ。今はコードギアスのヒロインシャーリーを対処しなければ。

 

「まぁ…」

 

 やべ、女子と話すのって超久しぶりだから恥ずかしい。はいそこ!お前、女だろとか思わない!こころは青春真っ盛りの男子ですよ!

 

「迷ったんなら一緒に行こ!ちょうど、私も一人で寂しかったんだ」

 

「よろしく…」

 

「うん!」

 

 天使や!天使がおる!ええ子に見初められたなルルーシュ。あんたは幸せもんやで!

 

「へぇ、そこに住んでるんだ。なら途中まで一緒に帰れるね」

 

「そうだな…」

 

 友達ですよ!彼女のなかでは私はもう友達判定ですよ、こんなに嬉しいことはない!女友達なんて何年ぶりだろう。

 

「私は昔からやってる水泳部に入ろうと思ってて、カオルさんは予定あるの?」

 

「いや、特に…」

 

 そういえば、部活なんて考えてなかったな。でも来年になったら部活どころじゃなくなるんだろうなぁ。

 

「なら水泳部も一緒に見学にいこ!」

 

 マジすか!あ、ダメだそんなことしたら鼻血が止まらなくなる。

 

「分かった…」(すまない、水泳は苦手で…)

 

「ほんと?やった!」

 

 うん、初の友達であるシャーリーの頼みだ。トモダチノタメニイッテヤラネバ…。片言だったて?なにを言ってるんだ君たちは!決して誤作動なんてもんじゃないよ!

 

「あ、着いたね」

 

「おぉ…」

 

 ここがアッシュフォード学園。映画で見たよりずっと広そうだ。ってか広すぎね?

 

「すごいね。体育館はこっちだよ!」

 

「あぁ…」

 

 シャーリーに連れられて体育館に向かう。その際に手を握られたのだがもう駄目ですわ。心臓動きすぎで止まりそうなんだけど、女子ってスキンシップ多いから慣れないとヤバイな。

 

 そして到着、あぁ、ここは若本皇帝が演説してたシーンにルルーシュたちがいた場所じゃん。どこぞのオレンジ天使と同じ名前の…シャルルだ!

 

「ここが空いてるよ!」

 

「ありがとう、シャーリー」

 

「どういたしまして、カオル!」

 

 悪くないな。そしてある程度慣れてきて話せる文字数が増えた。

 

 そして色々とイベントが終わり教室移動。シャーリーと俺は同じ教室であった。彼女は俺に抱きついて喜んでいた、それと同時に俺はあまりの出来事に意識を失いかけた。

 

「良かったね」

 

「あぁ、一緒で良かったよ」

 

「だよねぇ!」

 

 シャーリーってスキンシップ多いんだね。俺は無事に学園生活を送れるのだろうか。そんなシャーリーに気をとられていたが一つ、思い出した。ルルーシュと同じクラスじゃねぇかと、しかもカレン居るよ!ワンコちゃんいるよぉぉぉ!

 

 黒の騎士団ルートあるよ!せっかくうまく逃げたのに、神め…俺の隠居は認めないというのか!俺はシャーリーと一緒に平和な余生を過ごしたいんだぁ!

 

「なんとしてでも生徒会には入らないようにしないと」

 

「え、生徒会に入りたいの?」

 

 ホワイ!?

 

「いや…」

 

「確かに魅力的だよね。兼部も良いらしいし」

 

 待ってくれラブリーマイエンジェルシャーリー、俺は入りたくないんですよ。なんとかして話を逸らさなければ!

 

「水泳部の見学は今日、行くのか?」

 

「え、うん。今日から見学期間だし」

 

「なら、すぐに行こう」

 

「え、うん。今日終わったら行こうね」

 

 ほっ、なんとか話は逸らしたぞ。

 取り敢えず、ひと安心。そう思って窓の方に顔を向けるとガッツリ目が合う。誰かって?ルルーシュだよ!目が合った瞬間、すぐに視線をそらすルルーシュ。

 俺ってなにか目立つことしましたかね?

 

ーー

 

 はぁ、疲れる…主に精神的にな!

 約束通り水泳部の見学に行きましたよ。部長らしき人からどうぞどうぞと入れられたのは更衣室。取り敢えず学校の指定水着を持たされ着替えさせられました。みんなといっしょにぃぁぁぁぁ!

 

 鼻血は耐えたわ、流石に耐えたわ!あれで出してたら学校生活ボッチ決定だからなぁ!結構な時間泳がされて体は冷えきってるし…ついでにシャーリーは親からの呼び出しですぐに帰りました。お父さんが帰ってきたらしい。

 …お父さん助けられないかなぁ。

 

 そんな訳で一人で帰路に着こうとアッシュフォード敷地内を歩いていると進行方向に立ち塞がる影。誰だよ、ルルーシュだよ!

 

「お前、佐脇薫だろ」

 

「……」

 

 なんで本名知ってんだよぉおぉおぉぉぉぁ!どこから漏れたぁぁぁ。俺は本名名乗ったおぼえはねぇぞ!

 

「俺だよ、ルルーシュだ」

 

 あくまで優しく話しかけてくるルルーシュさん。怖いっす、あんたの存在事態が怖いんですよ。なんか変な顔で見るなよ、ギアスか、ギアスでもかけるのかぁ!?

 

「ルルーシュ…」

 

「ほら、六年前に枢木神社で一緒に遊んだことがあるだろ?」

 

 え、なにそれ?知らないんですけど、うそやろ。ルルーシュと繋がりがあるのか俺?しかも幼少期って、スザクくんに並ぶ大親友ポジじゃね?

 

「え、知らない…」

 

「……」

 

 あれれぇおかしいぞぉ。ルルーシュの雰囲気が一気に悪くなってるぅ?違うんです、本当に悪気があった訳じゃないんですよ。ただね、俺が来たのは1週間前であって六年もいた訳じゃないんですよ!

 

「おまえ…」

 

「ごめんなさい!覚えてないんです!」

 

 ここは正直に伝えよう。じゃなきゃ殺される!ガチで殺される、そりゃもう惨い殺し方で殺されるだろう。

 

「覚えてないだと?」

 

「ごめんなさい!昔の事は本当に覚えてなくて!確かに俺は佐脇薫です!ヴィヨネットは偽名です、でも本当に昔の事は覚えてないんです!」

 

 頭を抱えて死刑宣告を待つ。神様、助けてくれぇ!

 

「……」

 

 まさかの沈黙、ち・ん・も・く!あぁ、もうさっきまで泳いでたから腹痛くなってきたんだが!

 

 ん?なんか、ルルーシュの雰囲気が変わった?って言うかダメージ受けてるんじゃね、凄い傷ついた顔してんだけど…。

 まぁ、久しぶりに友達に会って覚えてませんなんて言われたら傷つくわな、しかも親友設定っぽいし…。

 恐る恐る、顔をあげるとルルーシュが急接近してきた。ひぃぁぁぁぁぁあ!

 ソッと近づくルルーシュは俺の耳元で話す。

 

「ナナリー・ヴィ・ブリタニアの名は知っているか?」

 

「ナナリー」

 

「そうだ」

 

 正直に答えます!ちゃんと答えます!

 

「知っています」

 

「そうか…ならナナリーが慕っていたのは?」

 

 慕ってた?誰だろう、でも幼少期エピソードの登場人物なんてスザクぐらいしか…。

 

「スザク?」

 

「…そうだ」

 

 ルルーシュ氏、さらにショックを受けてます。ごめんね、君もしっかり知ってるんだよ。むしろ、一番知ってるんだ。でもなんか勢いで知らないふりしたけど知ってるよ。映画の冒頭では君たち見てたら辛かったもん。

 

「まぁ、薫。本人なのは分かった、昔のことを覚えていないと言ったな?」

 

「は、はい!」

 

「お前の家はどこだ?」

 

「トウキョウ租界の…」

 

「違う、6年前まで住んでた家だ。流石に覚えているだろう?」

 

「いえ、全く…」

 

「両親のこともか?」

 

「はい…」

 

 この状況をなんていうかって?尋問だよ!じ・ん・も・ん!腹痛に加えて胃痛が!ストレスマッハ!!

 

「はぁ……」

 

 うわぁ、思いっきりため息つかれた。正直に答えただけなんだが…そしてなんか憐れみの視線を感じる…。すいませんね、記憶力なくて。一週間前に更新されたばかりでなんにも覚えてないんす、すんません。

 

「まぁいい…」

 

「はい…」

 

「取り敢えずクラブハウスまで来い。ナナリーに会わせてやる」

 

「え?」

 

 な、なんですとぉぉぉぉぉぉ!

 

 

 



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純白の少女

裏と表の2話連続投稿しました。

どちらから読んでも支障はありませんのでご安心ください。




 カオル・ヴィヨネット。そんなちょっと不思議な女性に出会ったのは本当に偶然だった。

 

「あのぉ~」

 

「はい?」

 

「もしかして道に迷ってました?」

 

 アッシュフォード学園の入学式に向かっている途中。フラフラしている男子学生がいた。困っている人は放っておけない人種のシャーリーが話しかけるのは当然のことなのだ。

 

「あぁ、私シャーリー・フェネット!私もアッシュフォードに入学するんです。あなたは?」

 

「カオル・ヴィヨネット…」

 

 カオル・ヴィヨネット。確かに男子制服を来ては居たがその正体は美しい女性であった。バランスの取れたスタイルに真っ白な肌や髪は彼女の美しさをさらに引き立てる。

 

「へぇ、男装してるんだね。珍しいね」

 

「まぁ…」

 

 どことなく元気のない返事。まさか色白なのは病弱だからだろうか?

 

「迷ったんなら一緒に行こ!ちょうど、私も一人で寂しかったんだ」

 

「よろしく…」

 

「うん!」

 

 自身が出した提案にカオルは静かに頷く。もしかしたら断られるのではと思っていたがそんな事はなく、ひとまず安堵するシャーリー。

 どことなく警戒している様子の彼女。もしかしたら過去に何かあったのかもしれない、男装もそれに絡む理由だとしたら彼女は他人に対して心を閉ざしているのかもしれない。

 まぁ、人には言えないことなんて誰にでもある。こう言うのは触れないに限る。

 

「へぇ、そこに住んでるんだ。なら途中まで一緒に帰れるね」

 

「そうだな…」

 

「私は昔からやってる水泳部に入ろうと思ってて、カオルさんは予定あるの?」

 

「いや、特に…」

 

 いくつか質問を投げ掛けてみたがカオルの言葉は淡々とした受け答えであった。やはり、何かあったのかもしれない。そんな思いが頭を過っている間にシャーリーは一つ、提案を出してみる。

 

「なら水泳部も一緒に見学にいこ!」

 

「分かった…」

 

「ほんと?やった!」

 

 渋々と言った感じではあったが頷いてくれるカオル。彼女も彼女なりにこちらから歩み寄ろうとしてくれている。そんな彼女の思いを感じながらアッシュフォード学園にたどり着く。

 

「あ、着いたね」

 

「おぉ…」

 

「すごいね。体育館はこっちだよ!」

 

「あぁ…」

 

 広大な敷地を持つアッシュフォード学園。乗馬部が馬を全力で走らせても全く問題ないぐらいの敷地を持つこの学校は私立でありながら、高い人気を誇る学校だ。

 

「ここが空いてるよ!」

 

「ありがとう、シャーリー」

 

「どういたしまして、カオル」

 

 ここにきて初めての名前呼び。シャーリーは少し照れ臭そうにする。カオルを見て笑みを浮かべてる彼女は実に嬉しそうだった。

 

「良かったね」

 

「あぁ、一緒で良かったよ」

 

「だよねぇ!」

 

 アッシュフォード学園の入学式。クラス分けが行われ生徒たちが入ってくる。そんなクラスの中で唯一、つまらなさそうにしている生徒。ルルーシュ・ランペルージはとある人物たちが入った瞬間、その表情を一変させる。

 

(あれは、もしかして薫か?)

 

 六年前、日本の人質として枢木家に引き渡されたルルーシュとナナリー。そこでスザクと出会う訳だが実はもう一人、そこで出会っていた少女がいた。

 

「なんとしてでも生徒会には…」

 

「え、生徒会に入りたいの?」

 

「いや…」

 

「確かに魅力的だよね。兼部も良いらしいし」

 

 それがルルーシュの視線の先にいる少女。佐脇薫、出会った当時もすぐに死にそうな肌の色と日本人離れした白髪。あの時は心身ともにボロボロであったが。まさか、彼女が生きていて、ここに来るとは…。

 

「水泳部の見学は今日、行くのか?」

 

「え、うん。今日から見学期間だし」

 

「なら、すぐに行こう」

 

「え、うん。今日終わったら行こうね」

 

 なるほど、今日は水泳部の見学に行くのか。なら待たせてもらおうか。

 

ーー

 

 水泳部の見学に回せる時間、プールから出口に至るルートまで計算して最も通る可能性の高いルートを決定。そこで待ち受ける、予想通り彼女はすこし疲れた様子で歩いてきた。

 

「お前、佐脇薫だろ」

 

「……」

 

 薫は驚いた表情を見せるとこちらを見つめる。しかも少しずつ逃げるように後退する。

 

「ルルーシュ…」

 

 予想外の反応に困惑しながらもルルーシュは自分の名を言う。一応は六年も経っている。お互いに成長して分からないだろうと察しての行動だったが彼女の反応は変わらないままだ。

 

「ほら、六年前に枢木神社で一緒に遊んだことがあるだろ?」

 

「え、知らない…」

 

 知らないだと?ならこいつは本当に瓜二つの別人なのか、これは不味い。昔馴染みに会えたと思って昔の話を話してしまった。これは口封じをしておかなければならないな。

 

「……」

 

「おまえ…」

 

 六年前の記憶とはいえ彼女のことを間違えるとは思えないが向こうが知らないのなら…。

 

「ごめんなさい!覚えてないんです!」

 

「覚えてないだと?」

 

「ごめんなさい!昔の事は本当に覚えてなくて!確かに俺は佐脇薫です!ヴィヨネットは偽名です、でも本当に昔の事は覚えてないんです!」

 

「……」

 

 早口で謝る薫。ガタガタと震えながら怯える彼女を見ると昔の事を思い出して申し訳なくなってくる。この様子を見るに言っていることは本当のようだ。どうやら、ただ物忘れが激しいと言うわけではなさそうだ。

 

(もしや記憶障害か?)

 

 過去に辛い出来事があった時に無意識で自己防衛機能が働き、記憶を封印する事がある。六年前の戦乱で彼女はさらに大きく傷ついてしまったのならこのような事態に陥るのも納得できる。

 

「ナナリー・ヴィ・ブリタニアの名は知っているか?」

 

「ナナリー」

 

「そうだ」

 

 誰にも聞かれないように口を震えている彼女の耳に寄せる。ほんの少しだけ震えが収まった彼女は静かに頷く。

 

「知っています」

 

「そうか…ならナナリーが慕っていたのは?」

 

「スザク?」

 

「…そうか」

 

 間違いない、彼女は俺の知っている佐脇薫だ。だが自分の事だけ覚えていないと言うのは少し、というかかなり辛い。

 

(昔の俺は強く当たっていたからな。彼女にとってはかなりのストレスだったかもしれないな)

 

 あの頃の俺は彼女が幽霊か、それに近い存在だと心のどこかで思っていた。病的なほど色白な肌は今、思えばアルビノを持っていたと言うのが分かる。

 

 アルビノは動物学において、メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体を指している。そんな彼女は幼い頃から一族に忌むべき存在として扱われ辛い幼少期を過ごしていたのだ。

 

「まぁ、薫。本人なのは分かった、昔のことを覚えていないと言ったな?」

 

「は、はい!」

 

「お前の家はどこだ?」

 

「トウキョウ租界の…」

 

「違う、6年前まで住んでた家だ。流石に覚えているだろう?」

 

「いえ、全く…」

 

 一応、記憶障害がどのような規模なのかを探ってみる。聞いている限り、かなり酷い。これほどの記憶障害を抱えていれば過去を喪失したのと同じ。恐らく、彼女はかなり苦しんだだろう。

 

「両親のこともか?」

 

「はい…」

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出てくる。久々に会えた友人がこれほどの記憶を失い、その上、精神に変調をきたしているのを見ればため息もつきたくなる。

 

「まぁいい…」

 

「はい…」

 

 申し訳ない気持ちで一杯になってしまったルルーシュは小さくなっている薫を見て言葉を放つ。

 

「取り敢えずクラブハウスまで来い。ナナリーに会わせてやる」

 

「え?」

 

 本来の目的はナナリーに彼女を会わせること。元々、仲の良い二人だったからナナリーも喜ぶと思っての行動なのだが…。知らなかったとはいえ、ズカズカと彼女に踏み込みすぎた。

 

 これはナナリーと薫のために会わせなければならないと判断したルルーシュは彼女をクラブハウスまで案内するのだった。

 

 



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ナナリーは天使。これは譲れない

「ここがクラブハウスだ。主に生徒会の書類決済など、様々な用途で使われている」

 

「クラブハウス…」

 

 ナナリーに会わないかという想像を絶する言葉を耳にした俺は皆さんお馴染みのクラブハウスまでやって来ました。

 

「そして俺とナナリーが住んでいる場所でもある」

 

 よく存じております。映画しか見てないけど彼がナナリーを大事にしているのはよく分かるし友達もルルーシュはナナリーのことに関してはヤバイ。つまりシスコンって言ってたし相当なのだろう。そんな彼女を会わせてくれるってことは俺はスザクに並ぶ親友キャラってことになる。

 

(あれ、これって外堀埋まってね?)

 

「ところで、なぜ男装を?」

 

「スカートを履きたくない。女性の格好は怖い…」

 

 あぁ、聞かれると思ってましたよ。シャーリーは詳しく聞いてこなかったけどね。あえて触れなかったんだよね。やっぱりシャーリーは優しいわ。

 この前、言った通り。あれですよ、スカートなんて履きたくないんですよ。だって男があんなミニスカート履いたら恐怖でしょ?怖いわ。

 

「そうか…」

 

 うん、彼も深くは聞いてこないな。あんまり言えることじゃないからねこれに関しては。

 

「ごめん、ルルーシュ。その前にトイレに行かせて貰えるか」

 

「どうしたんだ?」

 

「さっきから腹が痛くて…」

 

「そうか、トイレならそこを左だ。俺は咲世子さんに準備をさせるから」

 

 助かります。ずっと水に浸かってて腹痛かったんですよ。ってかプール見ましたか?凄い広いんですよ、どこの遊園地のプールですかって話ですよ。

 

「ほんとうに疲れるわぁ。なんでこんなに外堀埋まってるんだよぉぉ」

 

 やっぱりさ、アニメとかって第三者視点だからこそ楽しめるのであって当事者になるとたまらんわ。そらそろ胃痛とお友だちになってくるも知れない。

 

「これも全てブリタニアのせいだ!」

 

 ルルーシュのブリタニア嫌いが込み上げてますね。本当にお母さんのこと好きだったんだなぁ。こんなに愛されるなんてよほどいい人だったんだろうな。

 

「ルルーシュ?」

 

「あぁ、薫。この先にナナリーが居る、ゆっくり休んでいってくれ」

 

「はい…」

 

 シスコンの権化であるルルーシュの妹、ナナリーとの面会。下手なことをすれば即刻地獄行き。気を引き締めなければ、ここからは地雷まみれだ。

 

「ただいま、ナナリー」

 

「お帰りなさい、お兄さま。入学式はいかがでしたか?」

 

「あぁ、退屈だったよ。それより、ナナリー。お前に会わせたい人が居るんだ」

 

「あら、珍しい。お兄様がここに人を招くなんて」

 

「そうかい?」

 

 天使や…。こんなにキレイな子がこの世にいるなんて…ルルーシュの気持ちも分かる気がする。でも背後にいるルルーシュの視線のせいで泣きそうです。

 ルルーシュを見て恐る恐る近づく。すぐ目の前にはナナリー、彼女は目が見えない。なにかしらアクションをこちらが起こさないと気づいてくれない。手を握るのはハードルが高すぎるし、頭を少し触る程度なら…。

 

「ひゃっ!」

 

(ひゃぁ!)

 

 驚くよね、それは驚くよね。ごめんなさいね!

 

「優しい手ですね。とても懐かしいです…」

 

「ナナリー…」

 

「その声は…もしかして薫さん?」

 

「うん…」

 

「薫さん!生きていたんですね!」

 

 優しく、とても優しく手を握られた。慈しむように優しく、ふっと母親を思い出してしまう。

 

(でも別ベクトルで泣きそうなんですが!)

 

 背後にいるルルーシュ、殺気を!殺気を感じる気がしますよ!漏れてる殺気!ルルーシュさん、俺を殺す気ですかぁ!

 

(ごめん、もう泣く)

 

ーー

 

「懐かしいですね。あの時は女の人は二人だけでしたから、よく遊んでいましたね」

 

「……」

 

「薫さん?」

 

「え、うん…」

 

 無事に生き残りました。ところで皆さん、俺は今。ナナリーとお茶をしています。紅茶なんて全くわからなくて美味しくもなんともないがマイ天使ナナリーが笑っているだけで幸せです。

 ルルーシュも先程まで出していた殺気を綺麗に納めて対応中、ナナリーの前だと猫かぶりすげぇなおい。

 

「ナナリー、ちょっと良いかい?」

 

「はい?」

 

 そうして連れ去られる。ナナリー…あれっ。なんかやばくね、俺もう先がない感じ?でもルルーシュの反応見る限り、そんなに敵視してないと思いたい。

 

(なにかやらかしただろうか…)

 

 いや、とにかく。今は状況を整理しよう。ルルーシュとナナリーはブリタニアの棄てられた皇子たち。母親を殺され、父親から見捨てられた悲劇のヒーローとヒロイン。

 

 そんな二人が俺と知り合い。しかも同じ学校に所属しているとなるとこれは偶然ではないだろう。

 

(でも俺に出来ることなんて…)

 

 前回は上手く行ったかもしれないけど、無能な俺じゃなにもできない。

 

(そうか…俺はもう人を殺してるんだな)

 

 実感はないが人を殺している。俺が指示したからブリタニア軍が大勢死んだ。そう思うと凄い虚脱感に襲われる。

 

(もう俺は人殺しか…)

 

 改めて襲ってきた罪悪感に心が壊れそうになる。気づかなくていいことに気がついてしまった気分。ルルーシュたちもこんな思いで戦っていたんだな。

 

 そんな事を思っているとナナリーとルルーシュの二人が帰ってくる。

 

「そうだ、どうせなら今日は泊まっていってはどうですか」

 

「「え?」」

 

 突然、発せられたナナリーの一言。さっきまで沈んでいた気分など気にしてられないぐらいのショックが襲ってくる。思わずルルーシュを見つめて聞く。

 

「いいんですか?」

 

「ナナリーが言っているんだ」

 

 渋々、うなずくルルーシュ。絶対納得してないじゃないですか!これはあれか原作開始までに俺を殺そうとしてんのか、ナナリーの無垢な善意が俺の命を付け狙う!

 

「昔みたいに一緒のベッドで」

 

「「ほわぁ!!」」

 

 ほわぁぁぁあぁぉとぉぉぉぉこ!一緒のベッドでですか!?男女七歳にして同衾せずという言葉を知っていますかぁ?

 ダメですよ、ナナリー今何歳?俺は16歳ですよ!七歳どころじゃねぇよ!その倍を行ってんじゃねぇか…あ、今の俺は女か。やかましぃわ!俺の魂は男なの、青春期真っ盛りの男なのですよぉ!駄目ですよねぇルルーシュさん!

 

「いいの?」

 

「……いい」

 

 ……いい。じゃねぇよ、ごらぁ!否定しろ、少しは否定しろ!お前はNOと言えない人種じゃねぇだろ!

 お前ら、俺に心を許しすぎなんだよ!俺は別人です、たぶん別人なんだよ!お前らの知ってる昔なんて知らねぇんだよ!

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫でふ!」

 

 ほらルルーシュさん、ちょっと怒ってんじゃねぇか。俺はなんもしねぇよ、したら殺される未来しか見えねぇよ。しなくても殺される気しかしねぇげどなぁ!!

 おかげで舌噛んだよ!メチャクチャ痛いよ!

 

 まぁ、そんなこんなでナナリーと寝ることになりました。

 

ーー

 

 ルルーシュたちのメイドさんたちの手助けのもとベッドに移動したナナリー。そうか、ナナリーは一人じゃベッドにも行けないのか。

 

「大丈夫ですよ薫さん。私は」

 

「ナナリー…」

 

「昔もそうやって心配してくれましたね。薫さんは変わりませんね」

 

 ベッドに腰かけるともう寝そべっているナナリーは笑いかけてくれる。自分が一番辛いはずなのになんで笑っていられるんだ。こんなに人の事を想っていられるんだろうなぁ。

 

「偉いなぁ。ナナリーは俺とは大違いだ」

 

「薫さん?」

 

 優しく出来るだけ労りの気持ちが伝わるように頭を撫でる薫。彼女の幸せのために立ち上がったルルーシュの気持ちが痛いほど分かる。こんな子を泣かせちゃいけないよな。

 

「もう遅いですし。寝ましょ?」

 

「そうだな、いい夢を見てくれよ」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をするナナリーの横にそっと寝そべる。

 やべ、毒気は完全に抜かれたけどめっちゃドキドキする。すると手を握って笑うナナリー。貴方は天使だ(確定)…結婚しよ。

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

 結局、寝れなかった薫だが脳内処理がオーバーヒートして気絶するように就寝したのだった。

 

 



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再会

「おぉ!」

 

「伊丹さん。凄いですよ、無頼が5機も!」

 

「そうだな」

 

 あの白蛇事件から数日後、全国のレジスタンスを束ねるキョウトから支援物資が届いた。レジスタンスの支援組織と言っても実力があり、見込みのあるグループにしか支援してもらえない。

 

「サザーランド4機はあげすぎだと思いますけどねぇ」

 

「そう言うな柏木、そのお陰でキョウトからの支援を受けられる。ナイトメアの数だけが全てじゃない」

 

「まぁ、そうですよねぇ」

 

 やけにのんびりとした口調の柏木だが冷静な視線の持ち主で役に立つ。私こと、伊丹を中心に添えたグループは他のグループに比べて弱小だ。

 メンバーのほとんどが女性と言う構成は他のグループにはない上に平均年齢も低い。そんな我々がブリタニア軍に勝ったと言う事実は大きい。

 

「これで白蛇のお眼鏡に適うグループに近づけたでしょうかね?」

 

「わからん、訓練を欠かすなよ。しばらくしたらシンジュクゲットーに出向いてみる」

 

「お願いします」

 

(白蛇よ。私は貴方のご期待に報いて見せる)

 

 伊丹はそう思うと完熟訓練に明け暮れる仲間たちのもとへと向かうのだった。

 

ーー

 

「ここがクラブハウスだ。主に生徒会の書類決済など、様々な用途で使われている」

 

「クラブハウス…」

 

「そして俺とナナリーが住んでいる場所でもある」

 

 日本に人質として送られてきた際に出会った佐脇薫、彼女はカオル・ヴィヨネットと言う名前に変えてアッシュフォード学園に入学してきた。こういうのを運命、いや運命の悪戯と呼ぶのだろう。

 

「ところで、なぜ男装を?」

 

「スカートを履きたくない。女性の格好は怖い…」

 

「そうか…」

 

「ごめん、ルルーシュ。その前にトイレに行かせて貰えるか」

 

「どうしたんだ?」

 

「さっきから腹が痛くて…」

 

「そうか、トイレならそこを左だ。俺は咲世子さんに準備をさせるから」

 

 まさか薫と出会えるとは思っていなかったからもてなしの用意をしていなかった。脇腹を押さえる彼女を見送るとほんの少しだけ表情を暗くする。

 ここまで話していたが所々、異常な点が見られる。俺と言う一人称に加え、言葉遣いが荒い。まるで本物の男のようだ。男装をしているのはアルビノが原因で日光に当たらないようにしているのだと思っていたが。

 

《スカートは履きたくない。女性の格好は怖い…》

 

(あの戦乱の後。身寄りもないアイツはどうやって生き延びていたんだ?)

 

 ルルーシュとナナリーはアッシュフォード家のバックアップのお陰でなんとか生き延びたが彼女は本当に助けてくれる人など居ない。年端もいかない女の子がどうやってお金を稼いだのか…。

 

「まさか…」

 

 辿り着いた可能性にルルーシュは思わず吐き気がする。男らしい言動に俺と言う一人称、男装などの男性に対する防衛反応的な症状。顔の筋肉が全く、機能していない無表情、そして過去の記憶障害。この可能性ならば全ての辻褄が合う。

 

「くそっ!」

 

 やりきれなくなったルルーシュは思わず壁を叩く。

 

「これも全てブリタニアのせいだ!」

 

 昂る気持ちをなんとか抑えるといつも通りの笑顔に戻す。せっかく、ナナリーと会うのだ。これで二人とも気持ちが楽になってくれれば良いんだが。

 

「ルルーシュ?」

 

「あぁ、薫。この先にナナリーが居る、ゆっくり休んでいってくれ」

 

「はい…」

 

 なにか顔色が悪い気がするがナナリーと会えば気持ちも晴れるだろうと踏んだルルーシュは扉を開ける。

 

「ただいま、ナナリー」

 

「お帰りなさい、お兄さま。入学式はいかがでしたか?」

 

「あぁ、退屈だったよ。それより、ナナリー。お前に会わせたい人が居るんだ」

 

「あら、珍しい。お兄様がここに人を招くなんて」

 

「そうかい?」

 

 いつも通りの和やかな会話。それを見つめていた薫は少し泣きそうな顔をしている。そんな彼女にルルーシュは優しく行くように促す。

 薫はそれにしたがって向かうとナナリーの目の前で止まり、恐る恐る頭を撫でる。

 

「ひゃっ!」

 

 突然、頭を撫でられ驚くナナリーに反応してすぐに手を離す薫はこちらを見るがこちらは笑顔で良いぞと視線を送る。

 

「優しい手ですね。とても懐かしいです…」

 

「ナナリー…」

 

「その声は…もしかして薫さん?」

 

「うん…」

 

「薫さん!生きていたんですね!」

 

 薫の手を慈しむように触るナナリー。彼女は涙を流して再会を喜ぶ。それを見て感極まった様子の薫も涙を流してナナリーの両手を強く握る。

 

(薫、ナナリー。辛い思いをさせて本当にすまない)

 

 涙の再会を果たした二人を見ていたルルーシュは心の中で謝る。それと同時にブリタニアへの憎しみをさらに募らせる。

 

(俺は必ずブリタニアをぶっ壊してみせる!)

 

ーー

 

「懐かしいですね。あの時は女の人は二人だけでしたから、よく遊んでいましたね」

 

「……」

 

「薫さん?」

 

「え、うん…」

 

「ナナリー、ちょっと良いかい?」

 

「はい?」

 

 紅茶を片手に和やかに話すナナリーと薫だが、薫方がぎこちない、それはそうだ。彼女は記憶がないのだから。それを見かねたルルーシュはナナリーに声をかけると少し廊下に出る。

 

「ナナリー、落ち着いて聞いてほしい」

 

「どうしたのですか?」

 

「薫だが俺たちの事をあまり覚えていないかも知れないんだ」

 

「え…」

 

「彼女は俺たち以上に辛い生き方をしていたみたいでね。その記憶を封印してしまったんだよ」

 

「そんな、薫さんにそんなことが…」

 

 あまりの出来事に気を落とすナナリー。本当ならナナリーには言わないでおきたかったがこれは二人のためでもある。

 

「私はどうしたら…」

 

「ナナリーはそのままで良いんだよ。これから俺たちで記憶を作っていこう」

 

「はい、そうですね。お兄さま!」

 

 そう、ナナリーが変に気を使わなくてもいい。彼女が笑っているだけで心は救われるのだ。手短に話を済ませたルルーシュは薫の待つ部屋に戻るとナナリーが言葉を発する。

 

「そうだ、どうせなら今日は泊まっていってはどうですか」

 

「「え?」」

 

 ルルーシュと薫の声がハモる。当の本人であるナナリーは楽しそうに答えを待っている。するとルルーシュは素早く薫の元に移動する。

 

「いいんですか?」

 

「ナナリーが言っているんだ」

 

 他の奴なら絶対に泊めないが薫なら……まぁいい。

 

「昔みたいに一緒のベッドで」

 

「「ほわぁ!!」」

 

 ナナリーはさらに爆弾を投下。流石に二人はすっとんきょんな声を上げて驚く。

 

「いいの?」

 

「……いい」

 

 スザクだったら絶対に許せないが薫は女だし、昔からの付き合いだ。………………………………………………………………………まぁいい。

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫でふ!」

 

 ところで彼女の予定を全く聞いていなかったが大丈夫のようだ。と言うことで佐脇薫ことカオル・ヴィヨネットの宿泊が決まったのだった。

 

ーー

 

「……」

 

 みんなが寝静まった頃。ナナリーの部屋を覗き込むルルーシュ、仲良く眠っている二人を見て一安心する。

 

(話しかけたときはどうなるかと思ったが…)

 

 こちらの事情も変わったが随分と変わってしまった薫の事を思う。まさか男装までしているとは思わなかったが彼女の過去を思えば仕方ないだろう。

 

(落ち着きを持っているとはいえ、不安定なのは変わりない。俺やナナリーの目の届くところに居させた方が向こうも安心するだろう)

 

 そういえば、生徒会長であるミレイから生徒会員を集めてくるように言われていた。

 

(本人も気にしていたしちょうどいい。薫を生徒会に入れよう)

 

 確か、教室で他の女子生徒と生徒会の話をしていた。どうせならミレイ会長に紹介しようとルルーシュは決める。この瞬間、薫の生徒会入りが決定するのだった。

 

 

 



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お前らレジスタンスなんだからもっと忍べよ!

「じゃあ、よろしくね!」

 

「はぁ…」

 

 翌日、ナナリーと寝て無事に生きて起きられた俺は咲世子さんの朝食を頂きました。朝御飯は日本食ですごく美味しかった。

 それまではいい、しかし問題はここからだ。なぜか目の前に生徒会長であるミレイさんが登場したと思えばよろしくねだと!?

 

「お前、生徒会に興味があったんだろ?」

 

「部活も決めてないんでしょ。いやぁ、助かったわ。なんせ今はルルーシュとニーナ、私しか居なかったからね!」

 

 元凶はお前かルルーシュぅぅぅ!ってか最初から生徒会メンバーが集まってた訳じゃないのか。

 あぁ、あれはニーナとか言ってたな。同じクラスだったし映画にも出てきたけど特に目立った活躍がなかったから忘れかけてた。

 

「…よろしく」

 

「よろしく」

 

 文字通りコンプレックスの塊と言った感じだな。俺と同じ臭いを感じる。なんか親近感湧くな。

 

「まぁ、カオルも入ってきたおかげで大分楽になったわ。他のメンバーもおいおいと集めるとしてとりあえずは運営できるわ。ありがとうね」

 

「は、はい」

 

 アニメでも見たけど凄い勢いの人だな。ミレイ会長、なんかルルーシュとは違うタイプのカリスマ?を感じるな。勢いに任せて周りが巻き込まれていくタイプの人間。こういう人って尊敬するわ。

 

「とりあえず、しばらくはルルーシュと一緒に仕事しててね。色々聞いてもらって構わないから」

 

「会長、そのセリフを言うのは俺ですよ」

 

「まぁ、固いことを言わない」

 

 まぁ、こうして俺こと。カオル・ヴィヨネットの生徒会参加が決まったのである。

 

ーー

 

 こうして俺の学園生活が幕を開けることとなる。

 まぁ、色々と大変だったがなんとか新たな学園生活を送ることに支障はなくなり、トウキョウの中を色々と歩き回ることにしてみた。

 

「いつもどうも!」

 

「いつもの」

 

「カリフォルニアドック玉ねぎ多めとアイスですね」

 

 公園の出店でよく見かけるホットドッグ屋さん。いつも学校の帰りに食べるのがいつものコース。この人とは仲は良好だ。最近はよくサービスしてくれるしね。

 

 本当はシャーリーと帰りたいんだけど生徒会と水泳部じゃ終わる時間が合わなくて帰れない。その代わり、学校ではよく話す。もう親友と言ってもいいんじゃないだろうか。

 

 そして俺がこの世界に来てからもう3ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 ルルーシュやナナリーとの関係も良好、生徒会室ではたまにルルーシュとチェスをやっている。動かせる駒を動かしてるだけだから全敗してるけどね。

 でも何度もチェスに誘ってくれるのは嬉しいしナナリーはよく食事に誘ってくれる。最初はどうなるかと思ったけど二人はとても優しかった。

 

ーー

 

 そして俺はこの世界に慣れてきた頃。俺は今まで行けなかった場所に足を運ぶことにした。

 

 

 ところでルルーシュによると俺はアルビノっていう珍しいものであまり紫外線を浴びれない体質らしい。なので現在は長袖に薄手のロングコート、長ズボンでサングラスに手袋、そして一生懸命のおしゃれでハンチングハットを被っています。そして編み上げブーツ、完全に不審者ですごめんなさい。でも俺ってなんでも似合うから趣味全開にした結果がこれです。

 あ、手袋は常日頃からしてます。

 

「ここが…シンジュクゲットー」

 

 全てが始まった場所。シンジュクゲットー、イバラキゲットーとあまり変わらない気がするが確かにアニメで見た大きな建物もあるしここで間違いないようだ。

 

 思ったより簡単に行けた。別に柵がしてあるわけでもなかったし思ったより分別化が進んでいるわけでも無さそうだった。みんなテロテロって叫んでるけど原因はこう言うとこだと俺は思うね。

 来年にはここで虐殺が行われる。なんとかして止められないだろうか。あんなものを見るのはもう嫌だ。

 

(ん?)

 

 そしてふっと視線に入ったのは赤い髪の人物。

 このシンジュクゲットーは扇グループの根城でそこには扇、玉城、カレンなどのコードギアスの主要キャラが集まっている場所だ。

 

 特に印象に残ってたのはカレンと玉城の二人だ。あのリーゼントはいい人そうだけどあまり印象がない。友人曰く、最後らへんで凄く印象に残るらしいがそこまで俺は見てないから分からない。

 

「ちょっとアンタ」

 

「はい!」

 

 なんかボーッとしていたらいつの間にか背後を取られ声をかけられる。びっくりした俺は急いで振り返ると背後の人物は勢いよく後方に飛び退く。

 俺の後ろに音もたてずに立つようなまねをするなってな。ゴルゴさんじゃねぇよ。いや、違うから命!って人じゃないからオクタンの奇跡を残した人じゃないから。

 

「カレン…」

 

「貴方、やっぱりあの時クラスに居た」

 

 え、さっきまであそこに居たよね。どうやって後ろ来たの?しかも例のポーチ型仕込みナイフ持ってるし、あれぇ。おれってピンチ?ちょっとだけ聖地巡礼しただけじゃないっすか。まだ無実、弁護人を呼んでこい。

 

「どういうこと、まさか貴方も私と同じ…」

 

 全力で頷く。ワレ、ニホンジン、源氏バンザイ!。

 

「そうだったんだ!いきなり見つかって動揺しちゃって…」

 

 なんかカレンの顔がパーって光った気がする。うわぁ、子犬感が凄くわいてきたぞ。ナリタのカレンは凄くかっこよかったのを覚えてるわ。日本側のトップエース感が凄かったもん。

 

「そうだ、どうせならどこかで話さない?同じ境遇の人なんて中々会えないから」

 

 心の開きかたがエグいぐらい早いなカレン。俺を疑おうって気が全くないわ。それでいいのかレジスタンス。

 

「ちょっと待っててすぐ着替えてくるから」

 

 カレンの格好は映画冒頭で登場して着ていたあのヘソだし服。あれって絶対腹痛くなると思うんですわ。俺は胃腸が貧弱だから絶対壊すわ。

 俺は肌を見せないスタイルでいきます。ところで最近は手袋しすぎて、しながら紐を結べるようになりました。

 

「おまたせ、じゃあ。いきましょうか」

 

「あぁ…」

 

 まぁ、とにかく。カレンと会えました、それもかなり友好的な形で…。

 

ーー

 

 学園の制服を着て跳び跳ねていた髪の毛をストレートにしてすっかりお嬢様となったカレンは私服の俺の横をあるく。精神が男なんで嬉しい状況ですね。

 

「やっぱりゲットーの風景は懐かしい?」

 

「そうだな、あそこに住んでいたのはよく覚えてる…」

 

 結構割愛したけどここにきてもう3ヶ月も経ってるとここも慣れてきてゲットーの風景が懐かしくなってくる。俺は東京都民じゃないからあれだけどテレビでよく見た町並みだったしね。

 ブリタニアの町は近未来感がやばくて違和感凄いからね。これが2016年ですよ、俺が来たのは2018年だからね。過去だよ過去。

 

「貴方はどこに住んでたの?」

 

「山梨…」

 

 地元っすか俺は山梨でした。富士山を眺めながら育ちましたよ、山紫水明を謳う富士山は俺の誇りだったわ。

 

「へぇ、富士山のある県よね」

 

「そうだな、俺も富士山を見ながら育ったから」

 

「そうね、辛いわよね」

 

「そうだな」

 

 この世界の山梨はまだ知らない。たぶん、ゲットーみたいになってると思うと少しだけ悲しくなるな。

 

「でも意外ね、貴方も私と一緒なんて。でもよく考えれば名前がカオルだったし、男口調なのは驚いたけど」

 

 そればかりは直せませんね。16年間も男として暮らしてたんだから口調は勘弁。最近は頑張って足を広げて座らないようにしてます。ズボン生活だけどね。

 

「まぁ、色々あってな」

 

 説明は出来ないけど濃い人生送ってるわ…本当に。

 それにしてもカレンといるといつも以上に話しやすい。彼女のサバサバとした性格からかは知らないけどなんだが楽に話せる。カレン、生徒会、ルルーシュにナナリー、シャーリーと話してきたけど頭になって良かったなと思えてくる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、俺は幸せ者だなってな」

 

「変なの」

 

「そうかい」

 

 不自然ににやけていたのかカレンに指摘されるがやはり画面の中の人が目の前にいるというのは表現しづらいよさがある。

 

 その後はまぁ、満喫しましたわ。カレンって意外と町を知ってて安くて上手いカツカレー屋さんとか行ったりして楽しみましたわ。まぁ、平和に暮らせた一日だったんだけどこれで終われないのが転生後の俺の人生。

 

「また会いましょう」

 

「あぁ」

 

 すっかり仲良くなったカレンとシンジュクゲットーで別れて帰路につく。ゲットーの町中を歩いてるとなんか面白いもんがあった。

 

「蛇?」

 

 白を基調としたお面。鼻から上が隠れるタイプのお面。口は出てる奴ね、それが落ちてたんだよ。本当は耳が取れた狐の面だったんだけど色々と削れてて蛇に見えなくもない。

 

「白蛇ね…」

 

 イバラキで言われた名を思い出す。どこをみて白蛇になったかは知らないが親近感が沸かないと言えば嘘になる。状態も悪くないし被ってみるとこれまたピッタリ。

 

「鏡、鏡…」

 

 うん、中々。似合ってるんじゃない、やっぱり美少女はなんでも似合ってしまうのは世の常なんだなぁ。

 

「白蛇…」

 

「ん?」

 

 え、誰か呼んだ?しかもその名前で?

 

 気になって振り向いてみればそこに立っていたのはイバラキにいた伊丹とかいうレジスタンス。カレンと同じ赤髪を長く伸ばした彼女と目が合う。

 

「やはりここにいらっしゃいましたか」

 

 なんでお前がここにいるんだよぉぉぉおぉ!

 

 

 

 



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それぞれのカオル

 カオル・ヴィヨネットこと佐脇薫は不思議な人物だ。数年ぶりの再会を経てルルーシュがたどり着いた答えがそれだった。

 現在彼は薫のことについて三ヶ月で得たデータを頭でまとめ、これからの彼女に対する態度を考えていた。

 

 想像を絶する過去を歩んできた彼女はやはり、どこかしら臆病で警戒心が強い印象を受ける。そうやって生きなければならない世界を歩んできたのだから当然だろう。

 

(…やはり似ているな)

 

 無性に感じる親近感は他人を考えずに心から信用ならないと言う警戒心を持っているからだろう、自分と同じだ。

 そして彼女もまたたゆまぬ努力で研鑽を重ねてきたと言うのも知った。

 気まぐれで誘ったチェス、彼女はお世辞抜きに強かった。シュナイゼル程ではないがチェスではいつもヒヤリとさせられる。なんとかこちらは凌いでいるがいつやられるか分かったもんじゃない。

 特にクイーンの使い方が絶妙だ、いつの間にかクイーンの配置に追い込まれてしまう。

 

(あいつは現状に満足しているとは思えないな)

 

 アイツは最近、いろんな場所に足を伸ばしている。特に名誉ブリタニア人との交流が激しい。振る舞いの割には行動が大胆で一種の不安定さを感じさせる。

 

 性格は相変わらず温厚な性格で生徒会との交流にも特に目立った物はない。反ブリタニア思想はあるはずだがそれを一切表に出さないのを見る限り、こちらに対しても完全に心を開いていないことが分かる。

 

(この6年と言う隙間はかなり広いな。ナナリーのお陰で笑ってはいるが基本的に能面のような顔だからな)

 

 彼女と出会い、共に行動したのはスザクと比べてもかなり少ない。出会い自体が事故のようなものだったしなんとも言えない。危険人物ではないのは確かだが彼女は不安定に見える、こちらが見ていなければな。

 

 まるで妹が二人出来たような感覚。もちろんナナリーの方が断然に大切だが気を配る程度のことはしてやろうと思うルルーシュだった。

 

ーー

 

 カオル・ヴィヨネット。彼女はカレン・シュタットフェルトこと紅月カレンから見た第一印象はいけすかない奴だった。

 

 彼女を見たのは扇さんたちから勧められてはいったアッシュフォード学園の入学式。自分より一回り身長の大きい彼女はその容姿を含めて注目されていた。それを知らないふりして偉そうにしていると言うのが彼女の印象だった。

 

「え、嘘。なんでこんなところに?」

 

 それ以降、アッシュフォードには通学していないカレンにとってはもう会わないであろう人物であったのだが三ヶ月後、シンジュクゲットーでその姿を見かけた。サングラスとか色々としているが雰囲気が彼女だ。恐らく、間違いない。

 

 ブリタニアの学生が面白半分でゲットーに来ては冷やかしに来るがその類いだろうか。だが彼女は何も言わず、微動だにせずゲットーを見つめる。その姿はまるで過去を懐かしんでいるようだった。

 

 そう思った瞬間。カレンは動く、勝手に体が動いたと言ってもいい。

 

「ちょっとアンタ」

 

「はい!」

 

 背後に回ったのは警戒していたから。だがあとから考えればこの行為事態がうかつではあった。ナイフを取り出して脅してみると強烈な殺気に襲われる。それに反応したカレンは勢いよく後方に飛び退く。

 

「俺の後ろに音もたてずに立つようなまねをするな…」

 

「っ!」

 

 濃い殺気と低い声。およそ想像していなかった反応に思わず逃げてしまった。

 

「カレン…」

 

「貴方、やっぱりあの時クラスに居た」

 

 やはり彼女はカオル・ヴィヨネット。彼女はあくまでも冷静にこちらを見つめる。

 

「どういうこと、まさか貴方も私と同じ…」

 

 全力で頷く。先程の懐かしむような様子を考えてもしやと思ったがやはりそうだった。彼女も日本とブリタニアのハーフなのだ。

 

「そうだったんだ!いきなり見つかって動揺しちゃって…」

 

 日本とブリタニアのハーフ。自らの出自を明かせばそのどちらからも距離をおかれバカにされる。そんな境遇の同士がいたことにカレンは心から喜んだ。

 

「そうだ、どうせならどこかで話さない?同じ境遇の人なんて中々会えないから」

 

 この格好だと不味い。すぐに着替えると言ってアジトに戻ろう、すぐにあるのが制服だけであったがそれでも構わない彼女を待たせないようにすぐに向かわなければ。

 

「ちょっと待っててすぐ着替えてくるから」

 

 素早く着替えを済ませるとそこには待ってくれていたカオルの姿があった。

 

「おまたせ、じゃあ。いきましょうか」

 

「あぁ…」

 

ーー

 

 学園の淑女モードは疲れるが見た目だけ。話し方もすべて素で話している。日本からもブリタニアからも鼻つまみものとして扱われてきた私たちは私たちにしか分からない思いがあるのだ。

 

「やっぱりゲットーの風景は懐かしい?」

 

「そうだな、あそこに住んでいたのはよく覚えてる…」

 

 思いの他、彼女は男口調。今思い出したが彼女は学校でも男子制服を着ていた。普通ならそんなことをしない、彼女も触れられたくない過去があるのだろう。

 

「貴方はどこに住んでたの?」

 

「山梨…」

 

「へぇ、富士山のある県よね」

 

「そうだな、俺も富士山を見ながら育ったから」

 

「そうね、辛いわよね」

 

「そうだな」

 

 富士山を昔から眺めていた彼女はさぞ心を痛めただろう。今や、その山の半分が削り取られ機械と化している。まさに日本の今の姿を体現していると言っても過言ではない。

 

「でも意外ね、貴方も私と一緒なんて。でもよく考えれば名前がカオルだったし、男口調なのは驚いたけど」

 

 しまった、思わず聞いてしまった。少しは頭で行動するようにしないと…。

 

「まぁ、色々あってな」

 

 当然のごとく会話を濁される。むしろ嫌な顔をせずに…というか無表情で分からない。だがこちらをやけに見てくる気がする。

 

「どうしたの?」

 

「いや、俺は幸せ者だなってな」

 

「変なの」

 

「そうかい」

 

 ふっと彼女が笑った気がした。変なのと言ってしまったが私も同じ思いだ。彼女もやはり寂しかったのだろう。

 

(貴方のためにもブリタニアを倒して見せるわ)

 

 この日、紅月カレンは唯一無二の親友を得たと喜んだのだった。

 

 

 



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テロリストからの天使

 前回のあらすじ。カレンと遊んだあとに恥ずかしい過去を知る人が現れた!

 

「白蛇…」

 

「ん?」

 

 だからなんであんたいるの?

 

「やはりここにいらっしゃいましたか!」

 

 ちょっと、なんで敬語?なんか土下座しそうな勢いなんですけど、恐怖を覚えだしましたけど!

 

「どうか、あの時の奇跡を我々に与えてください!」

 

 次回、新世紀エヴァ◯ゲリオン…奇跡の価値は?やかましいわ!あまりの事態に現実逃避したじゃないか!なんで向こうから来るの?なんでシンジュクゲットーにいるんだよ!

 

「どういうことだ?」

 

「我々は貴方に相応しくあろうとしました。賛同者も増えております。ぜひ、我々のリーダーとして!」

 

 質問大切。聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥っていうからね。からのなんで俺がリーダーなんだよぉぉぉ!

 リーダーって言うのはね俺のような一般ピーポーじゃないひとがやるものなんてす!殿下もおっしゃってるでしょう!《自らの手を汚すことを、厭うてはならない。道を指し示そうとする者は、背負うべき責務の重さから目を背けてはならない》って!そんな大層な覚悟は俺にはない!

 

「白蛇さま…」

 

 やめて、様づけしないで!しかも年上から言われるとなんか変な感じがする!ここは正直に覚悟がないって言うしかない!

 

「俺は命を背負うつもりはない」

 

「はい、貴方なら命を背負う必要はないでしょう」

 

 ホワイ?なに言ってるの貴方?俺の理解力が追い着いていないだけ?あ、リーダーってあれね偶像とか象徴とかそういう感じね。後ろで座っていてくれって事でおけ?

 

「そういえば、桐山さんから伝言があります。《あの子は無事に助けられた。貴方のお陰です》っと」

 

「そうか…あの怪我でよく」

 

 え、あの子。助かったの?あんなに大怪我してたのに…。良かったなぁ…。

 

「貴方が居なければあの子もその友達も死んでいたでしょう。貴方は我々、イバラキゲットーの救世主なのです」

 

「俺に柱になれと言うのか?」

 

「いえ、貴方は既に私たちの柱です」

 

 柱、やはり俺に旗印になれと言っているのか。俺の指揮能力の低さはイバラキゲットーにおける戦闘で露呈した。だが、俺にリーダーになれと言う。ゼロといい仮面被ってた方が象徴としては良いのだろうか?

 

「そうか…」

 

 マイリスペクト悠陽殿下は仮面被ってなかったけどね。でもシャアとか仮面キャラが上に立つのって多い気がする。

 俺がそんなものであの子のような子が救えるのなら…。

 

「用件はそれだけか?分かっている筈だ、俺の意思は最初から変わらない」

 

 いや、俺はそんな出来た男じゃない。人の命を引っ張っていけるほどの力も無ければ覚悟もないんだ。だからこそ冷たく切る。これでこちらがそんな意思がないと伝わるはずだ。

 

「いえ、もう一つ。京都にお越しいただいて欲しいのです」

 

「京都だと?」

 

「はい、京都は当然。ご存じですよね」

 

「あぁ、有名だからな」

 

 ってかバカにしてる?地理ぐらい分かりますけど!やっぱり無能だってバレてるわ。それでも求めてくるってどんだけ切迫してるのやら。

 

「そこでお会いしたいというお方がおりまして」

 

 せめてその方には会ってくれって意味か。こんなところまで探しに来てもらったのにそれも断るのは気が引けるな…。その人に会うだけはいいか…。もしかしたらそいつが伊丹たちの大本かもしれないし。

 

「…分かった」

 

「ありがとうございます」

 

 そうすると伊丹はアタッシュケースを渡してくる。爆弾じゃないでしょうね?どこかの旅の小説では開けて閉めた三秒か後に爆発するアタッシュケースがあったけどそれの親戚とかそういう感じじゃないよね?

 

「これは?」

 

「必要なものを纏めておきました。我々の誠意とお受け取りください」

 

 京都の旅とかのやつね。それにしても京都で会いたい人ってどんな人なんだろうね。そして沈黙、どうやらそっちの用は終わったようだ。そしたらすぐに帰った方がいいよね。一応、これもテロ行為だし。

 

(じゃあ、お先に失礼します)

 

 ふかぶかと頭を下げる伊丹を横目にそそくさと退散する俺。なんとも締まらない逃げかただった。

 

(伊丹さん…本当にごめんなさい)

 

 俺は戦わない、戦えないんだ。俺は救世主じゃない、何度も言うけどアニメや漫画などで活躍できる奴等みたいに能力を持っていない。だから、俺はルルーシュとナナリーが少しでも笑顔に居られるように友だちで居続けることを決めたんだ。

 

ーー

 

 カレンと遊んで伊丹さんと会って疲れた俺はアッシュフォードに戻りナナリーに会いに行く。

 

「ナナリー!」

 

「薫さん、また来られたのですか?」

 

「ナナリーは存在が癒しだからな」

 

 優しくナデナデ、ひたすらナデナデ。女子特有の距離感の近さはナナリー相手に対しては強く作用する。この妹力、そして包容力は本当に凄い違う扉を開きそうになる。

 

 え、女子とは話しにくいって言ってなかったかって?ナナリーはナナリーなんだよぉぉぉ!女の単位で括るんじゃねぇ!

 三ヶ月でこんなに仲良くなれたのも俺の過去のお陰だと思うと感謝したくなる。

 

「薫、また来ていたのか?」

 

「ルルーシュ、駄目だったか?」

 

「いや、お前も楽しそうで何よりだ」

 

 一階の声を聞き付けてルルーシュも登場。さらに咲世子さんも現れてリビングが一気に賑やかになる。

 

「薫さま、何にいたしますか?」

 

「咲世子さんにお任せします」

 

「承知いたしました」

 

 キッチンに消えていく咲世子さん。そして紅茶を片手に談笑するナナリー、ルルーシュは部屋から持ってきたチェス盤をテーブルに広げる。

 

「またやるのかルルーシュ?」

 

「あぁ、お前とやっていると愉しいからな」

 

「私は弱いぞ」

 

「そんなことありませんよ薫さん。この前だってお兄様、負けそうだったって言ってましたもの」

 

「ナナリー、そう言うことは」

 

「煽てるなよ、何も出ないぞ」

 

「分かっている、気にするな」

 

 あぁ、この時間が凄く楽しい。家族も友達も世界も全て失った俺にはこの空間が唯一の場所とも言える場所だった。

 

「ここはどうだ?」

 

「む、やるな」

 

 絶賛チェス中の俺は他のことを考えていた。どうせ何も考えずに打っているのだ。やっていることはあまり変わらない。

 

(そういえばシャーリーとルルーシュはくっつかないな)

 

 映画ではシャーリーはルルーシュにベタぼれだったがそんな予兆はない。それどころか好感度はマイナスだ。シャーリー曰く《頭いいくせにお高く止まってるのが嫌いらしい》ラブリーマイエンジェルシャーリーがそんなこと言うとは思わなかったが。

 まぁ、言われてみれば思い当たる節はいくつかあるな。

 

「ナナリー様、そろそろお時間です」

 

「もうそんな時間ですか?」

 

 咲世子さんはナナリーの就寝時間であることを知らせると彼女は残念そうな顔をする。

 

「薫さんは泊まって行かないのですか?」

 

「すまない、ナナリー。今日は私服で来てるんだ、制服がない」

 

「そうですか、それは残念です」

 

 うん、天使だ。結婚しよ…。

 

「俺の制服は着られないのか?」

 

 こらルルーシュ、お前は俺の味方だろうが。なぜか最近はルルーシュも俺が泊まっていくことを勧めてくるようになった。おい、シスコンそれでいいのか?

 

「胸が入らん」

 

 悪いなルルーシュ、お前の細身に合わせた制服だと上着が入らん。入学式から何度かサラシチャレンジはしてみたんだが上手くいかなかった。あれはね、アニメだけの話ですわ。あ、これもアニメの中か?

 

「そ、そうか…」

 

 そして照れるなルルーシュ。俺は男だ、読者はBLを望んでいない。そして俺はノーマルなので女好きだ。ガチの美人はだいたいレズ(偏見の塊)。

 

「それは仕方ありませんね。遅くならないようにしてくださいね」

 

「ありがとう、ナナリー」

 

 マイ天使、心のオアシスが退出。そのあとは咲世子さんも帰宅、クラブハウスにはルルーシュと俺だけになった。

 

「どうしたんだ?」

 

「なんだ、急に…」

 

「何かあったのか?」

 

「…いや」

 

 なんかルルーシュが優しい。映画での容赦のないルルーシュを見ているとなんか裏がありそうだが三ヶ月も暮らしていると少しは分かってくるようになった。

 彼の探りは一種の癖のようなものだ。幼少期に裏切りだらけの生活を送らされた弊害といっても良いだろうか。

 

「お前こそなにもないんだな?」

 

「俺か?」

 

「あぁ…」

 

 自分が具合が悪いときって他人に話を振る傾向がある。これはルルーシュだけじゃなく人も同様の行動を起こすことが多い。それを思って聞いてみたが特にないようだ。これは失礼と話題を変えてみる。

 

「買い物でもしてみたらどうだ?」

 

「欲しいものといっても特にないな」

 

「そんなことはないだろう」

 

 欲しいものがないなんて普通ではあり得ないだろう。どんだけ優等生なんだよ。

 

「チェックメイト」

 

「なに?」

 

 適当に動かしていたらクイーンがルルーシュのキングを狙い澄ましていた。キングは逃げ場がない、これは詰みだ。

 

「俺が負けたのか?」

 

「クイーンは強いぞ」

 

 クイーンは強い、使い勝手がいいから俺は好きだ。ナイトとかよく分からん。

 

「ありがとう…」

 

 ほう、負けて礼を言われるとは思わなかった。負けることで己の未熟さを知るそれを教えてくれた相手には礼節を尽くさねばならない。武道的な考え方だがルルーシュがそれに精通しているとは思わなかった。

 

「そろそろ帰る」

 

 時間は9時半、そろそろ帰らないとヤバイ。補導される。

 

「送っていく」

 

「…いや、いい」

 

 ルルーシュにはナナリーと一緒にいて欲しい。それは俺の願いだ、その思いを汲んでくれたのか彼は引き下がってくれる。

 

「じゃあ、また明日な」

 

「あぁ、そういえば明日。出掛けるつもりなんだがお前も来ないか?」

 

「ん?俺は別に構わないが」

 

「分かった、詳しい話はまた明日」

 

「あぁ」

 

 去り際の言葉を受け取った俺はクラブハウスを出て帰路に就くのだった。

 

 



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スカウト

 あの奇跡からおよそ三ヶ月。キョウトの支援のお陰で豊かになった伊丹グループは主要メンバーを集めて会議をしていた。

 

「やはり我々にはリーダーが必要だ」

 

「え、伊丹さんがリーダーじゃ駄目なんですか?」

 

「いや、確かにこれまでの体制でも駄目じゃないが私たちは知ってしまった。カリスマというものを…戦場を手の上で転がせる人間がいることを」

 

「このゲットーでも多くの者が白蛇の雄姿を知っておる。老若男女問わず、彼女を称える者は少なくない」

 

 伊丹の言葉に賛同するのは桐山。彼女は老齢ながら多くの人間の支えとなっている。このゲットーがレジスタンスに対して当たりが激しくないのは彼女のお陰と言っても過言ではない。

 

「実際にここ数ヵ月で白蛇に集えって入団希望者が増えてるでしょ?しかも他のゲットーからもぉー」

 

「人の口に戸は立てられぬ。他のゲットーにも白蛇の賛同者が集まりつつあるからのぉ」

 

 世間に疎い柏木も白蛇の噂はよく耳にする。ここ最近、明るいニュースが無かったから余計に噂が広がっているのだろう。

 

「キョウトからの勅書も来ている。見つかり次第、連れてくるように言われている」

 

「え、待ってくださいよ。そんな勅書が届いてるってことはキョウトですら白蛇に辿り着けてないって事じゃないですか?」

 

「そうだな」

 

 キョウトからの勅書の意味を悟った伊坂は呆然とする。一体、どんな人物なのだ白蛇という人物は。あのキョウトですら調べられない人物なんて。

 

「とにかく私はシンジュクゲットーに向かう」

 

「あの時の言葉を信じるんですか?」

 

「あぁ、確かに彼女はシンジュクゲットーなどには居ないかもしれない」

 

 あの時、出身地を聞いてさらっと答えたがあれだけ思慮深い人物が答えるはずがない。なら答えはひとつ、嘘か…それともそこに行けば何かがあるのかだ。

 

「居ても居なくても私たちにはこれしかないんだ。彼女はブリタニアを罰し、この日本をもとに戻すと言った。彼女ならやってくれる」

 

 伊丹の言葉に集まっていた全員が頷く。こうして伊丹グループの白蛇捜索が開始されたのだった。

 

ーー

 

「といってもすぐ見つかれば苦労はしないか」

 

 伊丹は無事にシンジュクゲットーにたどり着いたものの見つからず困っていた。

 

(仕方がない。今夜は扇グループの所で泊まるか…)

 

 シンジュクゲットーのレジスタンスのリーダー。扇要との話は終えている一週間、彼らの力も借りて捜索するがこの調子だと見つけられそうにない。

 

「どうしたものか…あ……」

 

 悲嘆に暮れていた伊丹の視界に映ったのは真っ白な髪。夕陽に彩られた寂れたゲットーの中に居たのは間違いなく白蛇その者。

 

「白蛇…」

 

「ん?」

 

 思わず呟いた言葉に反応し振り返ったのは蛇の仮面を被った白蛇の姿。

 

「やはりここにいらっしゃいましたか!」

 

 思わず敬語で話し頭を下げる。

 

「どうか、あの時の奇跡を我々に与えてください!」

 

「どういうことだ?」

 

「我々は貴方に相応しいくあろうとしました。賛同者も増えております。ぜひ、我々のリーダーとして!」

 

 フッとすれば消えていきそうな儚い存在。それでもなお、その姿はどこまでも頼もしい。夕陽の中の彼女はどこまでも力強く見えた。

 

「自らの手を汚すことを、厭うてはならない。道を指し示そうとする者は、背負うべき責務の重さから目を背けてはならない」

 

「白蛇さま…」

 

 だれかからの請け負いなのか、それとも信念なのか。そう呟く彼女は消え入りそうな声だった。

 

「俺は命を背負うつもりはない」

 

「はい、貴方なら命を背負う必要はないでしょう」

 

 彼女は誰一人、仲間を殺さないと告げた。極論だがそれは決意とも取れる。口は固く結ばれ、その仮面越しに決意思いが伝わってくる。これは了承と思ってもいいだろう。

 

「そういえば、桐山さんから伝言があります。《あの子は無事に助けられた。貴方のお陰です》っと」

 

「そうか…あの怪我でよく」

 

「貴方が居なければあの子もその友達も死んでいたでしょう。貴方は我々、イバラキゲットーの救世主なのです」

 

「俺に柱になれと言うのか?」

 

「いえ、貴方は既に私たちの柱です」

 

 柱…というより英雄。伊丹は心からの感謝を告げる。

 

「そうか…」

 

 大きく仰ぎ見る白蛇はしばらく空を見上げるとこちらを睨み付ける。

 

「用件はそれだけか?俺の意思は最初から変わらない」

 

 やはり彼女はやるつもりなのだ。ブリタニアとの戦争をあの時、イバラギゲットーで口にした言葉は嘘ではなかったのだ。

 

「いえ、もう一つ。キョウトにお越しいただいて欲しいのです」

 

「キョウトだと?」

 

「はい、キョウトは当然。ご存じですよね」

 

「あぁ、有名だからな」

 

「そこでお会いしたいというお方がおりまして」

 

「…分かった」

 

「ありがとうございます」

 

 伊丹は深々と頭を下げると手にしていたアタッシュケースを差し出す。このアタッシュケースの中には希望の日時、場所などの書類とこちらからのせめてもの気持ちが入っている。

 

「これは?」

 

「必要なものを纏めておきました。我々の誠意とお受け取りください」

 

「分かった…」

 

 そう言うと白蛇は用は済んだとばかりに身を翻してゲットーの中に消えていく。その姿を伊丹は黙って見つめるのだった。

 

(女の私から見ても美しい方だ)

 

 口許も整っているところから見るとかなりの美人。是非とも素顔を窺いたいものだがそんなことは出来ない。だがこれで白蛇は我々を導いてくれるだろう。

 

ーー

 

「薫、また来ていたのか?」

 

「ルルーシュ、駄目だったか?」

 

「いや、お前も楽しそうで何よりだ」

 

 夜も更けてきた頃。一階が少し騒がしくなってきたのを念のために確認しに行く。だがその原因は心当たりがあるので一応、チェス盤を持っていこう。そしてそこにははやり、薫の姿があった。

 

「薫さま、何にいたしますか?」

 

「咲世子さんにお任せします」

 

「承知いたしました」

 

 キッチンに消えていく咲世子さん。そして紅茶を片手に談笑するナナリー。彼女が現れたお陰でナナリーの笑顔を見る機会も増えた。

 

「またやるのかルルーシュ?」

 

「あぁ、お前とやっていると愉しいからな」

 

「私は弱いぞ」

 

「そんなことありませんよ薫さん。この前だってお兄様、負けそうだったって言ってましたもの」

 

「ナナリー、そう言うことは」

 

「煽てるなよ、何も出ないぞ」

 

「分かっている、気にするな」

 

 昔に比べてかなり変わったがそれでも仲良くしてくれる彼女はありがたい。学校では確か、シャーリーとかいう生徒ばかりと居て男子を寄せ付けない。その点から過去が原因で男性恐怖症を患っているのだろう。

 だが、会う時はそれを感じさせない。俺を信頼してくれているのかナナリーの為なのかは分からないが。恐らく、後者だろう、最初に会ったときなんかひどく怯えていたしな。口の割りには無表情だったが。

 

「ここはどうだ?」

 

「む、やるな」

 

 最近では会うと必ずチェスをしている。挨拶にも等しい行為になっているチェスでは久しぶりに味わうスリルを楽しむためだ。

 

「ナナリー様、そろそろお時間です」

 

「もうそんな時間ですか?」

 

 咲世子さんはナナリーの就寝時間であることを知らせると彼女は残念そうな顔をする。

 

「薫さんは泊まって行かないのですか?」

 

「すまない、ナナリー。今日は私服で来てるんだ、制服がない」

 

「そうですか、それは残念です」

 

 残念そうに呟くナナリー。なんとか力になってあげたいが流石に制服なしではキツいだろう。

 

「俺の制服は着られないのか?」

 

 幸いなことに彼女の制服は男子制服。体格もあまり変わらないし、一日ぐらいは大丈夫だろう。

 

「胸が入らん」

 

「そ、そうか…」

 

 完全に失念していた。胸だ、彼女には胸がある。しかも並みではない立派な胸が…いかん。雑念が入った、決して胸と言うワードに驚いたわけではないぞ。

 誰が童貞坊やだ!言ったやつは出てこい!

 

「それは仕方ありませんね。遅くならないようにしてくださいね」

 

「ありがとう、ナナリー」

 

 突然のワードに動揺したルルーシュを横目に部屋から退室するナナリー。それを薫と見送る…そして沈黙が訪れる。

 

「どうしたんだ?」

 

「なんだ、急に…」

 

「何かあったのか?」

 

「…いや」

 

 おそらく彼女は今日は訪れる予定などなかったはずだ。その証拠にこの身一つで訪れている。いつもはナナリーが喜びそうなお土産を持参してくるのだが今回はない。なにかあったのだろうか。友人として聞いてみたが拒絶されてしまう。

 

「お前こそなにもないんだな?」

 

「俺か?」

 

「あぁ…」

 

 話題を変えようとこちらに質問を投げ掛ける薫。 

 

「買い物でもしてみたらどうだ?」

 

「欲しいものといっても特にないな」

 

「そんなことはないだろう」

 

 やけにピンポイントな質問に思わず動揺してしまう。確かに、最近は軍の払い下げ品のナイトメアシミュレーターを買うための軍資金を集めているが…察しているのか?

 

「チェックメイト」

 

「なに?」

 

 そんな思考を巡らせているといつの間にか追い詰められ完全に詰んでいた。

 

「俺が負けたのか?」

 

「クイーンは強いぞ」

 

 クイーン、それはある種の暗示だろう。俺が王だとするならば彼女は王女と言ったところか。彼女はもっと私にたよれと言ってきているのだ。

 

「ありがとう…」

 

 ここは素直に礼を言おう。そしてその言葉に甘えてもいいかもと思えてしまう。ずっとナナリーを一人で守ってきた、だが今は薫も居る。

 

「そろそろ帰る」

 

 時間は9時半、いつの間にかこのような時間になっていた。日が上ってきた頃と言ってももう暗い。

 

「送っていく」

 

「…いや、いい」

 

 立ち上がろうとするが薫に止められ中途半端な体勢で止まってしまう。

 

「じゃあ、また明日な」

 

「あぁ、そういえば明日。出掛けるつもりなんだがお前も来ないか?」

 

 俺が裏で何をしているのか彼女には見せるべきだろう。そう思ったルルーシュは約束を取り付ける。

 

「ん?俺は別に構わないが」

 

「分かった、詳しい話はまた明日」

 

「あぁ」

 

 相変わらず表情筋は死んでいるが声色はとても優しい、そんな彼女の背中を見つめルルーシュは見送るのだった。

 

 



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やっぱり非合法っていうのはよろしくないね

 

 

 ナナリーから癒しを貰った次の日。シャーリーのお昼を泣く泣く断り、屋上で昼食を取りながらルルーシュと話していた。

 

「非合法チェス?」

 

「あぁ、互いに金額を吹っ掛けてチェスで勝負する。貴族の娯楽みたいな物さ」

 

「それで金を貯めてるのか?」

 

「あぁ、EUや中華連邦の内政が混乱しているうちにネットバンクで荒稼ぎするのもいいが危険がある。これは比較的にリスクが少ない」

 

「なるほどな」

 

 屋上に着くなり説明を開始するルルーシュの背後で俺はちょっとしたイタズラ?を思いつき実行していた。持ってきたのは敷物とお弁当を二つ。まぁ、冷凍食品と肉を焼いた男弁当だが勘弁。

 

(ズバリ、美少女から弁当を貰ったら照れるのか?検証ぅ!)パフ、パフパフ!

 

 昨日は胸と言うワードだけで照れまくったルルーシュ君の女性耐性を検証する今回の企画は俺が生前、転生前といった方が良いのかな?とにかく、前の俺が美少女にして欲しかった願望をルルーシュ君に押し付ける企画です!

 

 最終的には壁ドンまで行こうと思います!これで一生からかってやるぜ!

 

「どうした?」

 

「どうせ、お前は購買のパンだろう。俺が作ってきてやった」

 

「なに?」

 

 あやしみながらもきっちり弁当を受けとるルルーシュ。おい、照れろよ。

 

「毒なんて入ってないぞ」

 

「いや、そう言うわけではないんだが…お前なんか話したいことが?」

 

「特に理由はない、気が向いただけだ」

 

「そ、そうか」

 

 何事も理由がないとルルーシュが納得しないんだな。バカめ、俺の施しを受けるがいい堅物、ここでこういう耐性を着けることでシャーリーとルルーシュをくっつけてやるぜ!

 まぁ、反応を見たいと言う俺の願望もあるがシャーリーとルルーシュをくっつけると言うメインの目的がある。

 

 まぁ、そのためにはルルーシュの琴線を見つけなきゃならんのだが。勘違いされてこっちに異性的好意があると思われても困るしな。

 

「難しいな…」 

 

「どうした?」

 

「いや、何でもない」

 

 その後もルルーシュの説明を受けて放課後に合流することになった。移動手段は公共交通機関、そういえばリヴァルが居ないのか。

 気づかなかったが生徒会メンバーであるリヴァルはいない、確か同じクラスだった筈だが。基本的にシャーリーと一緒に居たから気づかなかったな。

 

「カオルって、ルルーシュ君とはどんな関係なの?」

 

「ん?」

 

「いや、よく一緒にいるから気になって」

 

 どうしたラブリーエンジェルシャーリー?

 科学の授業のために移動していた俺とシャーリー。彼女の質問に俺は首を傾げる。

 

「幼馴染みらしい。昔の記憶はないのだが、良くしてもらっている」

 

「記憶がないって…大丈夫なの?」

 

「俺は気にしてない」

 

「そうなんだ、なら聞かない」

 

 こう言う察しの良さも彼女の魅力だよな。俺は彼女ほどの人間を知らない。前の世界ではこんな理想の塊なんて子は居なかったわ。

 

「付き合ってるの?」

 

「っ!?」

 

 まさかの爆弾発言。思いっきりずっこけそうになるが必死に耐える。俺はノーマルだ!

 

「俺は男に興味はない!」

 

「え、あ…うん。そういう感じね、私はよく分からないけどそれもいいと思うよ!」

 

 ん、待て。俺はさっき、物凄いカミングアウトをしてしまったのでは?

 

「待てシャーリー。間違っていないが間違っている、だから引かないでくれ」

 

「え、うん?大丈夫、私は友達だから!」

 

 シャーリーの優しさが痛い!待ってくれ、確かに俺は女が好きだが外聞的に不味い、待ってくれぇ!

 

「神はこの世に居ないのか!」

 

「俺のカオルちゃんが!」

 

「それでも好きだ!」

 

「むしろそっちの方が興奮する!」

 

「キマシ!」

 

 待てコラ外野。勝手に騒いでんじゃね、二人目!その妄想は頭の中にしまっとけ、後半二人!気持ちは分かるが黙ってろ!

 

「私にもワンチャンあり?」

 

「キャー、私を抱いてカオル様ぁ!」

 

「薄い本が厚くなるわ!」

 

 ギャァー、瞬く間に広がっていくぅ。高校生の電波力凄まじすぎだろ。そして性癖開花して引かれてるやつ居るぞ!そこぉ、俺で描くなぁぁぁぁぁ!

 

「シャーリー!」

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」

 

 その後、カオル・ヴィヨネットは男も女もいける両刀使いと一部の女子と男子に広がり、カオル親衛隊の入団者が激増したらしい(主に女子が)。

 

ーー

 

「……」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だ…」

 

 そして放課後。シャーリーから伝播した噂は当然の如く、クラスの外に漏れだし男子と女子(一部の特殊な訓練を受けた)が殺到。カオル親衛隊(自称)たちの護衛(自主的に)のお陰でなんとか学校を脱出したのだ。

 アッシュフォードの男子間ではそれぞれの推しによって地下闘争があるのだがそれはまた別の話で…。

 

「お前は人気があるからな」

 

「そうらしい…」

 

 美少女も楽じゃないな。これからは振る舞いを考えないと同じ事が起こりそうだ。外見はあれだが中身は男だ、そういうことは全く考えてなかった。

 

「無理することはないぞ」

 

「この調子だとナナリーにも会えないし、気晴らしにチェスでもさせてくれ」

 

 ルルーシュの優しさが心に染みる。彼は本当に親友だよ…アイツは何をしているだろうか。

 一緒に映画を観に行った友人、剣崎駿(けんざき しゅん)ももしかしたらこの世界で苦労しているかもしれないし、元の世界で俺がいなくなって驚いているかもしれない。

 

(どっちにしろ、確かめられないか…)

 

「降りるぞ」

 

「あぁ」

 

 気を取り直してバスを降りるルルーシュと俺。時間は少し遅め。二人とも制服でバーの中に入っていく。

 

「ここが非合法チェスを斡旋しているバーだ」

 

「あれは…」

 

 そんな非合法賭博場と化しているバーの一角。そこにはリヴァルが苦悶の表情を浮かべながらチェスをしていた。

 

「クラスメイトだな。気になるか?」

 

「助けられるか?」

 

「あの盤面ならいくらでも逆転できる」

 

「頼む…」

 

「薫の頼みなら仕方ないか…」

 

 やれやれと言った感じでリヴァルの元に向かうルルーシュ。

 

「君もチェスをしに来たのかな?」

 

「いえ、連れの付き添いです」

 

 ルルーシュを見送ると恰幅のいい貴族がやってくる。

 

「彼氏の応援かな。残念だがここは子供の遊び場じゃない、彼氏を慰める準備でもするのだな」

 

「失礼だな、アンタ。アイツが負けるわけないだろ」

 

 ルルーシュの事をバカにされて思わず頭に来る。あいつの強さは折り紙つきだ、負けるわけないと笑っていればいいんだろうがバカにされたのが許せなかった。

 

「どうかな、どうせ君とじゃれ会うためにしていただけだ」

 

「喧嘩を売ってるのか?」

 

「なら私と勝負するかね?」

 

「いいだろう」

 

 俺だってルルーシュに鍛えられてる。やってやろうじゃないか。

 

「金は持ってきてるかね?」

 

「ない」

 

「私が負けたらこの小切手に好きなだけ書くがいいだが私が勝ったら君を召し使いとして使い倒してやろう」

 

「いいだろう」

 

 かかったと言わんばかりに笑う貴族。その笑みを見て俺は事の重大さに気づいてしまった。不味い、これって負けたらかなりヤバイんじゃね。

 

「あの…」

 

「もう遅い。君はいいスタイルだなぁ」

 

 ゾワゾワと悪寒が走る。どうやら頑張って勝つしかないようだ。

 

ーー

 

 そして10分ほどが経過した。

 

(ヤバイヤバイヤバイ!)

 

 こっちの心の余裕がない上に完全に相手の手の上だ。3ヶ月で二、三十回もやらされたらこちらもやり方を覚えるし現在の状況がどのような状態かぐらい分かる。

 

「お嬢ちゃん、どうやらこの戦いは私の勝ちのようだね」

 

「いえ、どうでしょう」

 

「強がるな、さぁ。今夜は君とたっぷり遊ぶとしよう」

 

「……」

 

 どうしよう。ルルーシュ!ヘルプミー!俺が◯人誌になっちゃうぉぉぉぉ!

 こちらがピンチだと分かっている筈なのにルルーシュは動かない。なにやってんだこの野郎、助けてくださいお願います!小さくルルーシュに手を降るが相変わらず動かない。

 

(こうなったら万能のクイーン先輩で敵陣に斬り込むしかねぇ!)←ヤケクソ

 

 まずは怖いビショップとルークを潰す。まずはビショップ先輩だ!突撃ぃぁぁぁぁぁ!

 

 二分後

 

 よっしゃあ、なんか知らんけどクイーン先輩の大暴れで形勢逆転じゃぁ!

 

「どういうことだ!」

 

 知るかボケぇ、俺にやられるんならお前が下手なんだよ!ふははっ!今頃、焦っても遅いわ。すべては俺の掌の上なんだよ(調子乗ってる)

 

 

 五分後

 

「チェックメイト」

 

「馬鹿な…」

 

 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!クイーン先輩を舐めるなよ、この野郎!

 心の中ではミニカオルが飛びはねダンスを披露している。じゃあ、この小切手貰ってきますね。

 

「ルルーシュ」

 

「ん、これは」

 

「好きな額を書き込め」

 

「くぅ…」

 

 悔しがる貴族。俺はどれぐらいが引き出せるいい塩梅なのか分からないのでルルーシュに小切手を提出。受け取ったルルーシュはすぐさま金額を書き込む。

 

「貴様っ、吹っ掛けすぎだろう!」

 

 金額を見て怒鳴る貴族だがルルーシュは耳打ちをするとみるみる大人しくなっていく。

 

「分かった、振り込む…」

 

 こうして人生初めての賭けチェスは無事に終息した。

 

「いやぁ、ルルーシュといい二人はチェス強いんだな」

 

「俺なんてルルーシュの足元にも及ばない」

 

 40戦39敗1勝なんて悲惨な数字だからな。ルルーシュとの成績はこんな、悲惨な数字を示している。よく心がおれなかったと誉めてくれ。

 

「どうだ、俺。バイク持ってるんだけどお礼に送っていこうか?」

 

「いや、いい」

 

「送ってもらおうか」

 

「おい!」

 

「ん?」

 

 え、ラッキーじゃん。バス代も浮くしすぐに家に着くし、いいことずくめじゃないか。

 

「お前はなんで変なところで抜けてるんだ」

 

「失礼な…」

 

 俺は目を点にするリヴァルを横目を横目にルルーシュに連れて行かれるのだった。

 

 



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最強のクイーン

 薫の突如の来訪から一夜開けた昼休み。ルルーシュは薫を誘い屋上にいた。

 

「非合法チェス?」

 

「あぁ、互いに金額を吹っ掛けてチェスで勝負する。貴族の娯楽みたいな物さ」

 

「それで金を貯めてるのか?」

 

「あぁ、EUや中華連邦の内政が混乱しているうちにネットバンクで荒稼ぎするのもいいが危険がある。これは比較的にリスクが少ない」

 

「なるほどな」

 

 現在、ナナリーを救う手立てを出来るだけ話してみる。自分なりにも出来る最善の方法だと思うが一応、薫の意見も欲しかったのだ。なにも言わないということは賛成してくれているのだろう。

 

「どうした?」

 

「どうせ、お前は購買のパンだろう。俺が作ってきてやった」

 

「なに?」

 

 話している間もゴソゴソとしていた薫に対して我慢できず質問を投げ掛けるとそこから予想外の言葉が出てきた。

 弁当を作ってきてくれた、この俺に?いつもは作られるより作る側だったために少し動揺してしまった。

 

「毒なんて入ってないぞ」

 

「いや、そう言うわけではないんだが…お前なんか話したいことが?」

 

「特に理由はない、気が向いただけだ」

 

「そ、そうか」

 

 表情からは分からないがこちらを気づかっての行動と言うのは痛いほど分かった。少しでも疑った自分が恥ずかしい。

 

「難しいな…」 

 

「どうした?」

 

「いや、何でもない」

 

 イメージで語るのは申し訳ないが外見とは似つかわぬボリューミーな弁当。そう言えば、薫は普段でも食堂でガッツリしたものを食べている。よく太らないものだ。

 他人に弁当を作ってもらうというなかなか体験できないことを体験したルルーシュはそのボリュ―ムに四苦八苦しながらも無事に完食した。

 

ーー

 

 その後、科学の授業のために廊下を歩くルルーシュ。彼の少し前には薫とシャーリーが仲良く話していた。シャーリーとか言う女子生徒は誰にでも話しかける度胸を持ち、偏見を持たない人物だ。

 だからこそ彼女も信頼を寄せているのだろう。

 

「付き合ってるの?」

 

「っ!?」

 

(なに!?)

 

 聞くつもりなどなかったが耳に入ってしまったのなら仕方がない。学園生活においても目立たないように、最悪。噂人にはならないように暮らしていたが薫関連でそのような噂が流れていたとは。

 

(どこからそのような噂が…)

 

「俺は男に興味はない!」

 

「え、あ…うん。そういう感じね、私はよく分からないけどそれもいいと思うよ!」

 

「待てシャーリー。間違っていないが間違っている、だから引かないでくれ」

 

「え、うん?大丈夫、私は友達だから!」

 

 色々と思考を巡らすうちに事態が深刻になってきた。助け船でも出したいところだがルルーシュが加わればさらに事態が深刻になることは目に見えていた。

 まぁ、彼女の性癖については大方予想は出来た。男性恐怖症の女性にその様な可能性があることも予測できたが。

 

(まさかナナリーを好きになっていないだろうな)

 

 別にナナリーが好かれるのは良い。ナナリーは誰にも好かれるような素晴らしい妹だ。だがLikeではなくloveなら話は別だ、一緒のベッドで寝るのは考えさせて貰わなければならない。

 

「神はこの世に居ないのか!」

 

「俺のカオルちゃんが!」

 

「それでも好きだ!」

 

「むしろそっちの方が興奮する!」

 

「キマシ!」

 

 なんか外野が騒がしくなってきたな。

 

「私にもワンチャンあり?」

 

「キャー、私を抱いてカオル様ぁ!」

 

「薄い本が厚くなるわ!」

 

 この調子だと今日一杯で噂が広がるのは確実だろう。ルルーシュは心のなかで謝りながらもその場をこっそりと後にする。

 

「シャーリー!」

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」

 

 薫の渾身の大声に全力で謝るシャーリー。どうやら俺以外にも友達がいたようだな。少し安心するルルーシュの背には大勢の人から揉みくちゃにされる薫の姿があった。

 

ーー

 

「……」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だ…」

 

 そして放課後。表情は相変わらずだがオーラが彼女の疲労度を示していた。これまでにないぐらい疲れているのだろう。

 

「お前は人気があるからな」

 

「そうらしい…」

 

 彼女の親衛隊、ヴィヨネッ党はカレンの親衛隊、シュタッ党にならぶ二大勢力の片割れでその規模は大きいらしい。

 

「無理することはないぞ」

 

「この調子だとナナリーにも会えないし、気晴らしにチェスでもさせてくれ」

 

 向かっている中で言う台詞ではないが彼女は着いてきてくれる。まぁ、彼女の実力ならそこらの貴族程度になら圧勝できるだろう。

 

「降りるぞ」

 

「あぁ」

 

 気を取り直してバスを降りるルルーシュと薫。時間は少し遅め二人とも制服でバーの中に入っていく。

 

「ここが非合法チェスを斡旋しているバーだ」

 

「あれは…」

 

 そんな非合法賭博場と化しているバーの一角。その店内を見渡していた薫は一人の人物に眼をつけていた。リヴァル・カルデモンド、たしか彼はクラスメイトだった筈だ。彼女の記憶力もなかなかだな。

 

「クラスメイトだな。気になるか?」

 

「助けられるか?」

 

「あの盤面ならいくらでも逆転できる」

 

「頼む…」

 

「薫の頼みなら仕方ないか…」

 

 やれやれと言った感じでリヴァルの元に向かうルルーシュ。会話内容からリヴァルの相手をしている貴族はかなりの額を吹っ掛けているようだ。稼ぐチャンスだろう。

 

ーー

 

 結果は圧勝。副産物としてはリヴァルに心から感謝された。まぁ、気分は悪くない。それはそうと先程から薫の姿が見当たらない。

 

「お嬢ちゃん、どうやらこの戦いは私の勝ちのようだね」

 

「いえ、どうでしょう」

 

 すると薫の声が耳に飛び込んでくる。どうやら貴族に捕まってそのままチェスに持ち込まれたようだ。

 

「強がるな、さぁ。今夜は君とたっぷり遊ぶとしよう」

 

「……」

 

 余裕しゃくしゃくと言った感じの貴族が薫と対峙しチェスを打っていた。あきらかに不快な視線で薫を舐め回すように見続ける貴族に一瞬、殺意が沸くが盤面を見て落ち着きを取り戻す。

 

「おい、大丈夫なのか?お前の彼女なんだろ?」

 

「一応訂正しておくが彼女ではない。そして、薫は勝つ」

 

「え、でもあんな悲惨な盤面は見たことないぞ」

 

「だからこそだ」

 

 ルルーシュの言葉を理解できないとばかりに首をかしげるリヴァル。

 リヴァルはカオルと戦っている相手を知っている。カヴァリル卿は権力と金は持っているが人間的にはあまりよろしくない人物だ。息子も相当なドラ息子らしい。

 

「見ていたら分かる」

 

「あぁ…」

 

 ルルーシュの言う通り。黙って見つめるリヴァル、すると薫はこちらに気づいたようでこちらに軽く手を振る。

 

(この余裕。流石、薫だな)

 

 そしてルルーシュにはその手を振ると言う行為の真の意味が分かる。彼女はあと五分で終わらせるとこちらに宣言したのだ。ならゆっくりと観戦させてもらう。そう思い、ルルーシュは静かに盤面を見つめるのだった。

 

 二分後

 

「どういうことだ!」

 

「今頃、焦っても遅い。すべては俺の掌の上なんだよ」

 

 圧倒的絶望からの起死回生。薫のクイーンが貴族の駒を蹂躙し綺麗に掃除されてしまった。そして貴族は悟る、遊ばれていたのはこちらの方だと。彼女の眼が獲物を狩る鷹のような鋭い眼で見つめる。 

 

 五分後

 

「チェックメイト」

 

「馬鹿な…」

 

 圧倒的勝利。完膚なきまでに叩き潰された貴族は呆然としているのを見てルルーシュは薫の元に行く。 

 

「ルルーシュ」

 

「ん、これは?」

 

「好きな額を書き込め」

 

「くぅ…」

 

(すまないな)

 

 小切手を渡されたルルーシュは薫に心から感謝すると貴族からギリギリ引き出せるであろう金額を書き込む。

 

「貴様っ、吹っ掛けすぎだろう!」

 

 金額を見て怒鳴る貴族だがルルーシュは耳打ちをする。

 

(非合法なチェスで来ている客のツレを金の貸しとして好きなようにしているんだろう。貴族としての富と名声を守りたければ大人しくするんだな)

 

 ルルーシュの言葉に見る見る大人しくなっていく。それを見て満足したルルーシュ、正直。薫を奪われそうになって怒っていたというのも事実だ。彼は自分のものが奪われると言うのを嫌う。それは過去の経験から来るものだが…これは本人も自覚していないのであろう。

 

「分かった、振り込む…」

 

 こうして薫の人生初めての賭けチェスは無事に終息した。

 

「いやぁ、ルルーシュといい二人はチェス強いんだな」

 

「俺なんてルルーシュの足元にも及ばない」

 

 確かにルルーシュと薫の戦績は40戦39敗1勝だがどれもルルーシュはかなりのところまで追い詰められている。あんなことがあったばかりなのに冷静な奴だ。

 

「どうだ、俺。バイク持ってるんだけどお礼に送っていこうか?」

 

「いや、いい」

 

「送ってもらおうか」

 

「おい!」

 

「ん?」

 

 リヴァルの提案に乗ろうとする薫に思わず突っ込みを入れるルルーシュ。どうせ、楽だろうとか思っているのだろうがバイクの2人乗りは車とは違う。

 車両面積の関係でどうしても二人目は運転手に体を密着させなければならない。スピードが出る車両ならなおさらだ。

 

「お前はなんで変なところで抜けてるんだ」

 

「失礼な…」

 

 変なところで変な度胸を出すから目を離せない。ナナリーの方が聞き分けが良いからかなりいいが薫までそうというわけにはいかなかった。

 

(全く、世話の焼ける)

 

 ルルーシュは薫を引きずって賭けチェス場をでる。端から見ればかなり特殊な状況だろうが構わず連れていくのだった。

 

 



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蛇と会長

 

「カオルちゃん!どうだったの夜遅くまでルルーシュといっしょに居たみたいだけど?」

 

「やましいことはしていませんよ会長」

 

 ルルーシュの薦めで生徒会入りした新人。カオル・ヴィヨネットは複雑な過去を持つ人物らしい。あのルルーシュが同情するとは余程の過去を持っていたのかそれとも日本に居たときに何かあったのかは聞かないで置いた。

 

「いやぁ。私としてはルルーシュに友達が出来て良かったと思ってるのよ。彼って結構複雑な性格してるからさぁ」

 

「まぁ、否定はしませんが」

 

 書類整理をしている彼女の表情こそ読み取れないが声色は優しい。少なくとも彼女は自分を警戒していないと思ってもいいだろう。

 

 ミレイは誰に対してもこのおおらかな態度を崩さない。同情なんて言葉はそのものに対して侮蔑に等しい。

 誰しも辛い過去を持っているものだ。そんな彼らに対して彼女が取れる行動は少ない。だからこそ、こういう態度の方がお互いに良いのだ。

 

「どうかされましたか?」

 

「いやぁ、またお見合いにいかなくちゃいけなくてさぁ」

 

 カオルは基本的に無駄口を叩かない。だからこそミレイは彼女を信用している。そのような雰囲気を彼女は持っているのだ。

 

「潰せば良いんですか?」

 

「え?」

 

「なら、お見合いを潰せば会長は楽になりますか?」

 

 急に雰囲気が変わったカオルに対してたじろぐミレイ。そんな独特な雰囲気に気後れしていた彼女だがいつも通りの態度を貫く。

 父親から渡された見合い相手の経歴などを書いてある紙をヒラヒラしながら答える。

 

「まぁね、せっかく楽しめるモラトリアムが短くなるのは勘弁かな。せっかく、楽しめそうになってきたしね」

 

 気軽に言った言葉。それに反応するようにカオルは立ち上がると気圧されたミレイが後ろに下がろうとするが壁があるために下がれない。

 カオルの手が壁に着きミレイを固定する。いわゆる壁ドンと言うやつだ。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、少しこけただけです。すいません」

 

 引っ掛かった?そんな訳はない、彼女は明確な意図をもって行った行動だ。なにかを確かめるためにこんなことをしているのだ。その意図が掴めない。

 相手の経歴などを書いてある紙が床に落ち、カオルにばっちりと見られた。他にも学園に届いていた資料やチラシが床に散らばる。

 

「会長、落としましたよ」

 

「えぇ…」

 

 彼女は資料などを拾い上げると動きが止まる。こちらからは顔があって見えないがおそらく見合い相手の資料を読んでいたのだろう。もしかしてこの資料に目を通したかっただけなのか?

 

(楽しそうな目をしてる)

 

 実に楽しそうな目線。それはなにかを企んでいるような怪しく、惹かれる目線であった。

 

ーー

 

 そしてお見合い当日。ミレイ・アッシュフォードは心底退屈そうにしていた。言うならばいつも通り、見合い相手は自分の家の自慢をしながら機嫌良く話していた。

 

 相手はカヴァリル卿という大きな権力を持つ貴族だ。今回は父親が持ってきた縁談ではなく向こうの息子、つまり彼女と対峙している彼が惚れたと言って強引に押し込まれたわけである。

 

(それにしてもカオルちゃんは何であんなこと言ったんだろう)

 

 相手の話など聞き流していたミレイはカオルの変わりように思考を馳せていた。

 

(どうせなら本当に助けてきてくれないかなぁ…)

 

「それで式の準備はあらかた済ませてあるから」

 

「はい?」

 

 完全に思考をよそにやっていたミレイは予想外な言葉に思わず変な声を上げた。

 

「まぁ、恥ずかしがることはない。君は実に幸せ者だよ」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 なぜか勝手に凄いところまで話が進んでいたのを思わず止めるミレイ。と言うよりなぜこちら側がOKという限定で話が進んでいるのか。

 

「なに、断る気?父上がその気になれば君ぐらいの家なんてすぐに潰せるんだよ。君の学園もどうなるかな?」

 

「それでも貴族ですか?」

 

「君より立派な貴族だよ」

 

 交渉ではなく脅迫。想定はしていたがまさか本当にしてくるとは思わなかった。貴族どころか人としてどうなのかと問いたくなるが言っても無駄だろう。

 

「写真で見かけたときに感じたんだよ。運命を…俺好みの体だよ」

 

 そっちかよ!

 まぁ、スタイルには多少なりとも自信はあるがそこまで率直に言ってくるなんて…。逆に尊敬を覚えても良いかもしれない。

 

「これから時間はいっぱいあるんだ。ゆっくりと夫婦の時間を…」

 

 カヴァリル卿はそう言ってジリジリと近づいてくる。こうなればいつもの最終手段を取るしかないと構えるミレイ。

 

「簡単に体を許すと思うなクソ野郎!」

 

 その瞬間、黒服と共にドアが飛んでくると思えばカヴァリル卿は下敷きになる。

 

「カオル!」

 

「お前、どこの馬の骨だ!」

 

「会長!」

 

 カヴァリルを全無視。彼を蹴り意識を奪ったカオルはミレイに近づくと安堵したような声色で話す。それも一瞬、蹴破られた隣の部屋にはカヴァリル卿の父の方が待機していた。すっかり怯えていた彼の胸ぐらを掴んだカオル。

 

「いいか、今度同じことしてみろ。お前を殴る、女の体は高いんだ、お前みたいな下衆どもに許せるものじゃない。俺の物だ!」

 

「はいぃぃぃぃ!」

 

「ちょっ、カオル。なに言ってるの!?」

 

 突然の所有物宣言に焦るミレイ。確かにこう言った類いに対してドラマでは良く言うが本当に言われると気恥ずかしい。

 というより当の本人は頭にキているようで口調がいつも以上に荒い、なぜあれで顔の筋肉が仕事をしていないのか不思議だ。

 

「約束は果たせよ…」

 

「わ、分かった!」

 

「さっさと行くぞ…」

 

「か、カオル!」

 

 あまりの出来事に腰が抜けていたミレイを見た彼女はしばらくミレイを見ると抱き抱えられる。

 

「すいません」

 

「ち、ちょっと!」

 

 見合いの場から連れ出されたミレイは近くの公園に連れ出されると彼女はホットドックを持って来た。

 

「すいません、お見合いを邪魔して」

 

「いや、良いのよ。どうせ断るつもりだったし」

 

「そうですか。それなら良かったです」

 

 外面だけの謝罪。彼女が見合いの場に現れる理由など前回の壁ドン以外にあり得ないのだが。

 

「あれってどういう意味?」

 

「はい?」

 

「俺の物っていう発言よ」

 

「それは当然でしょう。俺の物ですから…」

 

「そんな恥ずかしい事を…」

 

 彼女はこんなに大胆であっただろうか。いや、もしかしたらこちらが誤解しているかもしれない。

 

「恥ずかしいなら言ってませんが」

 

(あら、この子。意外と大胆なのね)

 

 イマイチ、彼女との距離感が掴めない。言動からして恐らくLOVEではなくlikeの方であるだろうが。

 

「なんであんなに怒ってくれたの?」

 

「こちら側の事を考えずに無理難題を押し付けて。あまつさえ身体にまで手を出そうとしたんです。当然の報いですよ、この件については向こうはなにも言ってきませんよ」

 

「え?」

 

「当然ですよ」

 

 ルルーシュの幼馴染みとはいえ。この事の運び方と容赦のなさは彼に似ている節がある。それが自然に行われていることだとすれば彼女とルルーシュは他の人たちとは違う特別な繋がりというものを持っているのだろう。

 

「そうだ、カオルちゃん。お礼と言ってはなんだけど夜ご飯は奢るわ。どこにいきたい?」

 

「あぁ、それなら」

 

 手軽なファーストフード店から本格的なフレンチまではご馳走しよう。今回は本当に助かった、そのお礼にと連れていかれたのはスイーツ店。

 

「ん?」

 

「行きましょう」

 

 やっていたのはスイーツバイキング。まさかの店に驚くミレイだがカオルはお構い無しに入っていく。当初はミレイを気にしてと思っていたがカオルの食べたケーキの数が20を超えたとき、彼女は考えるのを止めたのだった。

 

 



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屋上へ行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…

「カオルちゃん!どうだったの夜遅くまでルルーシュといっしょに居たみたいだけど?」

 

「やましいことはしていませんよ会長」

 

 いつも元気な我らが生徒会長。ミレイ・アッシュフォード、彼女は常に笑顔を崩さずにこちらを気にかけている。視野も広い彼女は常にフォローをしてくれる。菩薩のような方。

 

(映画だとルルーシュばっかりだったけどこんなに魅力的な人だったとはね)

 

 陰キャの俺には眩しい存在だが俺の経験則からしてみればこういう人の方が無理しているのが多い。

 

「いやぁ。私としてはルルーシュに友達が出来て良かったと思ってるのよ。彼って結構複雑な性格してるからさぁ」

 

「まぁ、否定はしませんが」

 

 どうやらルルーシュとは深い関係らしく彼のことはよく知ってる。ブリタニアの皇族ってことも知ってるらしい。こんな重要ポジのミレイだったが映画のカットには抗えず消えている。

 

(凄いいい人だよな)

 

 同じ生徒会にニーナもいるがあまり話せていない。こちらから話しかければ答えてくれるんだけど向こうからはあまり来ない。ちょっと悲しい。

 

「どうしましたか?」

 

 ミレイさんという太陽に癒されながら話を聞いていると彼女の顔が少し曇っているのに気づいた。

 

「いやぁ、またお見合いにいかなくちゃいけなくてさぁ」

 

 彼女が現在立たされている問題。それはお見合いだ、ミレイの家は元々大きな貴族だったらしいがとあることで転落。家の復興を賭けた政略結婚にミレイが駆り出されているのだ。

 

「潰せば良いんですか?」

 

「え?」

 

「なら、お見合いを潰せば会長は楽になりますか?」

 

 少し冗談ぎみに言ってみればミレイは驚いたように顔を引き締める。貴族とか政略結婚とかとは無縁の人生を歩んできた俺には理解できない事だが嫌ならちょっと本気で潰しても構わない。彼女にはそれだけ世話になってる。

 

「まぁね、せっかく楽しめるモラトリアムが短くなるのは勘弁かな。せっかく、楽しめそうになってきたしね」

 

 持っていた紙の束をヒラヒラとするミレイ。そこに見たような顔を発見した俺は見せて貰おうと立ち上がる。

 

(あれ?)

 

 まさかの自分の足で足を引っ掻けるという愚行に対応できなかった俺はそのままミレイにダイブ。

 

(綺麗なクッション)

 

 彼女の持つフカフカのクッションによって怪我は避けられたが紙を落とさせてしまった。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、少しこけただけです。すいません」

 

 いきなりむ…クッションダイブに驚いたミレイ。本当にごめんなさい。故意じゃないんです。

 

「会長、落としましたよ」

 

「えぇ…」

 

 素早く紙を拾い上げる。

 

(こ、これは!)

 

 《女性限定スイーツバイキング!!》

 

 スイーツバイキング。こう言った催しは女性限定だったり、平日の昼間にやっているせいで中々行けない悲しい行事。だがこれは休日の昼間。行ける、行ってやろうじゃないか!

 

 先程、興味をもったミレイの資料の事をすっかり忘れスイーツバイキングを楽しみにする薫だった。

 

ーー

 

 そしてスイーツバイキング当日、薫は実に不機嫌だった。学校の帰り、校門で待ち受けていた黒服に言伝を伝えられたからだ。

 

 相手はカヴァリル卿。この前のチェスで辛くも勝利し大金を受けとる予定の貴族だ。準備ができたから取りに来てほしいと言われ仕方なく指定された場所に向かったのだ。

 

「貴族ってのは大きくて派手なのが好きなんだな…」

 

 完全個室のレストランらしいが。まぁ、話の内容はあまり大勢の前では言えない内容なので仕方ないだろう。

 

「あぁ、よく来たね」

 

「かなり一方的でしたが約束ですから…」

 

 皮肉を込めて入室する。今の俺はスイーツバイキングを先送りにされてかなりイライラしている。甘味は心底大好きなんだ。

 

 それからは話はスムーズに進んだ。送金は明日に必ずしてくれるらしいと仲良くなったリヴァルが言っていたが貴族はプライドがあるから支払いは確実でいいカモらしい。

 

(それにしても異様な空間だよなここは)

 

 カヴァリルの後ろには護衛の黒服が二人と際どい服を着させられているメイドが壁に並んでいる。全員、表情は暗い。

 

「あぁ、私のコレクションだよ。いい娘たちだろう?」

 

「……」

 

 男として趣味はよろしいと思うが無理矢理は解せない。これに関してはあえてなにも言わない。

 

「もし私がこの額の倍を払うと言ったらどうする?一ヶ月だけでも私の元で働く気はないか?」

 

 後ろのメイドたちが逃げろと目で訴えかけている。これはルルーシュを連れてくれば良かったなあ…。

 

「君はただ寝てるだけでいいんだよ。それで大金が入ってくる」

 

 カヴァリルの側にいた黒服が動き出す。これはヤバイな、本気でヤバイかも。

 

「やれ…」

 

 カヴァリルの指示で襲ってくる黒服。薫は急いで立ち上がるが足を引っ掻けて椅子の背もたれを支点に回って落ちる。

 

「痛った!」

 

 薫は知らないが転んだ拍子に大きく回転した身体。そこから産まれた強力な蹴りが黒服の顎を蹴り上げて気絶させる。

 

「この小娘!」

 

 相棒がやられたのを見てスタンガンを取り出す。

 

(それは反則なのでは!)

 

 得物を持った黒服と対峙する俺。ジリジリと距離を詰められる。とにかく右手を押さえてスタンガンを排除しなければ。

 

「おらぁ!」

 

 襲ってくる黒服の右手と胸ぐらをつかんで背負い投げをしたかったが動かない。

 

(圧倒的なパワー不足!)

 

 予想以上に貧弱だった。

 

ーー

 

(なんだこの女…)

 

 今まで経験したことのない殺気。それに加え、身体を完全に固定されてしまった。延びきった腕と胸ぐらを掴まれ動きを封じられればなす術はない。

 

 目を合わせ続けると引き込まれるようなその目に発狂させられそうになる。

 

(くそぉ!)

 

 これ以上目を合わせるとおかしくなる。そう悟った黒服は無理やり押し倒そうとすると意識を奪われるのだった。

 

ーー

 

「……」

 

(なんか自滅したんだけど…)

 

 いきなり押し倒されたと思ったら膝が黒服の腹に直撃。すぐに沈黙した。

 

「ま、まさか…」

 

 狼狽えるカヴァリル卿にスタンガンを持って近づく薫。正直に言えばこの時、すでに彼女はぶちキレていた。そして容赦なくスタンガンを当てる。

 

「しっかりと…金払えよ」

 

「は、はい!」

 

「そしてな…」

 

 最後に言いたかった事を言うために息を吸う薫。それと同時にカヴァリルの背後にいたメイドの一人が動き出す。

 薫の背後に意識を取り戻し、立ち上がった黒服を蹴り飛ばしドアを破壊しながら飛んでいくのだった。

 

「簡単に体を許すと思うなクソ野郎!」

 

 その瞬間、黒服と共にドアが飛んでいくと思えばカヴァリル卿(息子)は下敷きになる。

 助けてくれたのは金髪の綺麗なメイド。ちらりと見えたか筋肉質ないい身体をしている。薫は助けてくれたメイドに目線で礼を言う。

 

「カオル!」

 

「お前、どこの馬の骨だ!」

 

 特に意味はないけど言ってみたかったセリフ。それと同時に背後からミレイの声が耳に届く。

 

「会長!」

 

 なぜここにいるのか分からないが知り合いを見るとホッとする。ミレイの部屋に入るときに何かにつまずいたが気にしない。

 

「いいか、今度同じことしてみろ。お前を殴る、女の体は高いんだ、お前みたいな下衆どもに許せるものじゃない。俺の物だ!」

 

「はいぃぃぃぃ!」

 

「ちょっ、カオル。なに言ってるの!?」

 

 こいつ隙あらば俺の身体を楽しもうとしてやがった。俺の身体は俺の物だ。血の一滴から毛の一本まですべて俺の物だ!それを捧げるに値する人間にしか渡さない。それが男か女かは分からないけどな。

 

「約束は果たせよ…」

 

「わ、分かった!」

 

「さっさと行くぞ…」

 

「か、カオル!」

 

 座り込んでいたミレイを少し恥ずかしいが抱き抱えて持ち上げる。その背後では意識が朦朧としているカヴァリルをここぞとばかりにボコボコにしているメイドたち。どうせ後で俺のせいにするんだろうなぁ。

 

「すいません」

 

「ち、ちょっと!」

 

 こんな場からは一刻も早く帰りたい俺は走って逃げる。これ以上の問題はごめんだ。

 

「すいません、お見合いを邪魔して」

 

「いや、良いのよ。どうせ断るつもりだったし」

 

「そうですか。それなら良かったです」

 

 公園にたどり着いた俺は行きつけのホットドッグ屋からホットドッグを貰ってミレイに渡す。まぁ、本人も嫌がってた見合いを潰せたのは良かった。結果オーライとはよく言ったものだ。

 

「あれってどういう意味?」

 

「はい?」

 

「俺の物っていう発言よ」

 

「それは当然でしょう。俺の物ですから…」

 

「そんな恥ずかしい事を…」

 

 どこに恥ずかしい要素があるのか。もしかして中二病発言にはずかしいって言われたのか?

 

「恥ずかしいなら言ってませんが?」

 

 言ったことを後で問われても仕方がない大人しく中二病患者なのを認めておくか。

 

「なんであんなに怒ってくれたの?」

 

「こちら側の事を考えずに無理難題を押し付けて。あまつさえ身体にまで手を出そうとしたんです。当然の報いですよ、この件については向こうはなにも言ってきませんよ」

 

「え?」

 

「当然ですよ」

 

 マジで腹立った。一方的に呼び出しといて俺の女になれだとマジでギルティー。

 向こうの汚ない面がにじみ出たからね。今回は言いたくても言っては来ないでしょう。

 

「そうだ、カオルちゃん。お礼と言ってはなんだけど夜ご飯は奢るわ。どこにいきたい?」

 

「あぁ、それなら」

 

 見合いを潰した礼に奢ってくれると言うのだから遠慮せずに当初の目的地に。

 

「ん?」

 

「行きましょう」

 

 やって来ましたスイーツバイキング。女子だけで入るってことは今までなかったので新鮮。そして俺はミレイさんの見合い相手の愚痴を聞きながらケーキを頬張るのだった。

 

 ついでにルルーシュに事の顛末を話したら呼べと怒られました。本当に軽率でしたすいません。

 

 

 



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第二章 白蛇 目覚める時
説明をください!切実にぃ!


 

 どうも薫です。あの乱入から数日後、ルルーシュから物凄い大金が渡されました。あの貴族からの金というんだがこんな大金は流石に気が引け、半分ほどルルーシュにあげました。

 と言っても現在、俺の資金は一生、遊んで暮らせるほど口座にあり金には一切困っていないのだ。

 

 ついでにいえばその日を境に会長との距離が近くなり、これまで以上に仲良くなった気がする。そしてリヴァルが生徒会に参加。入るやいなや、どうやら会長に一目惚れしたらしい。

 

(そういえば、アタッシュケース)

 

 そういえば、忘れてたけど伊丹から受け取ったアタッシュケースはまだ未開封です。だって怖いんだもん、と言って開けずに約束をすっぽかすのも人間としてどうかと思うので開けます。

 

「ほっ…」

 

 中に入っていたのはお金と書類。そこには日時と場所が指定してあった。今から3週間後でシンジュクゲット―となっている。

 おそらく、京都では伊丹の上司と会うのだろう。そこでまた一緒に戦ってくれなんて言われるんだろうが丁重にお断りします。俺みたいな一般人がテロなんて無理です。

 

(証拠は少ない方が良いよな)

 

 そこで俺は衣装を新調することにしました。怖い人と会うんだから普段来ている服を着ていくと町中で目をつけられる可能性がある。ということでちょっとしたコスプレ的な服をこの軍資金で買おうかと思います。

 

(いや、決してコスプレしたい訳じゃない。俺はこの外見でちょっとカッコいい衣装を趣味で買いに行くわけでは決してない)

 

 そう、別に買いにいきたい訳じゃない。これは俺の命を守るための必要事項だ!

 

ーー

 

 と言うわけでやって来ました。服屋さん、ネットで色々と調べていたらコスプレや何でもオーダーメイドで仕上げてくれる店を見つけて直行した訳です。外見はパッとしないけどまぁ、気にしない。

 

「いらっしゃいませ!」

 

「真っ白な服を仕立てて欲しいのだが」

 

「っ!少しお待ちください!」

 

 元気よく出迎えてくれた若い男性店員は俺を見ると驚いた顔して店の奥に消えていく。どうした、俺の顔に見惚れたか?

 まぁ、俺から見ても外見はかなり良いと思う。似たような反応を前にもされたことがある。あの時はあと少しで電話番号を交換させられるところだった。気を付けよう。

 

「あんたが客かい?」

 

「あぁ…」

 

 奥から出てきたのは威厳のある男性。年齢的には50代と言ったところか、この容姿だと恐らくは日本人だろう。

 

「用件はなんだ?」

 

「先程、述べた通りだよ」

 

 せっかく、肌も髪も白いんだから真っ白な衣装の方が統一感があるでしょう。黒系もいいけどやっぱり白の方が良いでしょう。

 

「この紙に記入してくれ」

 

 渡されたのはチェック欄がある用紙。手渡された用紙に希望に近い方をチェックしていく。

 

「アンタ、主義者かハーフか?」

 

「いや、見た目はアレだが純日本人だよ」

 

「そうか…他にカスタムして欲しいものとかあるか?」

 

「これも頼む」

 

 俺が渡したのはシンジュクゲット―で拾った。蛇のお面、おでこから鼻まで隠すぐらいの大きさの面を渡すと店主は物珍しそうに調べる。

 

「いいのかい?」

 

「いいよ。問題ないでしょう」

 

「分かった」

 

 その後、店主らしき男性と二、三回。言葉を交わすと彼は満足したようにうなずく。そして体のサイズを測り、無事に終える。

 

「デザインは俺に任せてくれるんだな」

 

「あぁ、カッコよくしてくれ」

 

「分かった。二週間後、取りに来い。その時に付属品も渡してやる」

 

「ありがとう」

 

 最初はどうなるかと思ったけど何とかなったな。コスプレなんて初めて買ったからどんなものか楽しみだ。アンケートの備考に女らしい服装は禁止って書いといたから大丈夫でしょう。

 

ーー

 

 そして二週間後。え、飛んだって?気にしないで、日常回は前回やったでしょう。

 

「これが注文の品だ」

 

「素晴らしいな、まるで武士のようだ」

 

 あの店に立ち寄ってみると見事に完成しており用意された姿見で仕上がりを見てみる。和洋折衷とはよく言ったもので外見は完全に和服、着方は完全に洋服だ。袴は白を基調に鮮やかな刺繍が入れてある。でも中身はズボン。しかも動きやすく違和感がない。

 しかし少し防具が重い、胴と腰回りそして鉄のブーツ。両腕には手甲、鉄っぽいけど軽いから違うよね。

 

「これが付属品です!ご要望通り、安全なものを用意しました」

 

「ありがとう」

 

 格好のイメージ的には決戦仕様瑞鶴の改二甲バージョンです。それがミニスカートじゃなくて普通の袴になってます。わからない人はググってね。さらに蛇のお面も紐ではなく顔にくっつく謎仕様に変更された上に視界を一切遮らない親切仕様となっている。

 

 そして若い店員から渡されたのは刀。ちょっと思ったよりかなり重いけど刀を抜いてみる。安全に配慮して刀の刃は潰してもらった。模造刀でも危ないからね。

 

「どうだ?」

 

「予想以上だよ。これほどいいとは思わなかった」

 

 これは中二心がくすぐられますわ。やばい、テンション上がって来たわ。所々にプロテクターのようなものもついててさながら鎧武者、これに興奮しないやつはいないだろう。

 

「アンタは他とは違う。刀は俺からのプレゼントだ」

 

「すまない」

 

 店主の心遣いに感謝しながら値段を見る。ネットで見かけたコスプレの四倍ほどの値段が書いてあったがこれほどまでやってもらって断る理由はない。快く払った。

 

ーー

 

 そんな、やや高めのテンションを維持しながらさらに一週間。

 

 俺はシンジュクゲット―の廃墟で着替えを済ませると指定の場所で伊丹を待っていた。家の姿見で確認したがかなり良いと思う。中身は洋服だから着崩れしないし見た目に対してスゴく楽だ。

 

「白蛇さま」

 

「白蛇でいい」

 

 年上から様づけとか居心地が悪すぎるので却下。ゲット―の奥からやって来た伊丹を見つけると顔を向ける。よく見ると他にも人が居る。

 

(あれ、なんか見たことあるな)

 

 奥からやって来たのはなんな見覚えのある奴ら。彼らは正真正銘の扇グループ。あのリーゼントは間違いないね、なんで彼らも居るんだ。

 

「そっちは…」

 

「はっ、このシンジュクのレジスタンス扇グループの方々です。是非ともお目にかかりたいと」

 

「よろしく…俺は…」

 

「お前が白蛇か、噂は聞いてるぜ。ブリキ野郎たちを追い払ったそうじゃないか。こんな女がか?」

 

 値踏みするように近づいてきたのは玉城、彼はこちらをじっくりと疑惑の眼で見てくる。

 

(なんか、声が違う…)

 

 そこで薫が思ったのは不快感でなく、純水な疑問。玉城の声が違うのだ。俺が見た映画では倍返しの人だったのに全く違う。どちらの玉城も特徴的な声をして居るので詳しくない俺でも分かる。

 

「玉城!」

 

 そんな玉城の行動に南が怒ると俺から玉城を離す。

 

「あぁ…すまない。うちの団員が」

 

「気にするな扇。ご覧の通り、ただの小娘だ。気にしなくていい」

 

「あぁ…」

 

 毅然に、決して下手にはでないようにキャラ作りはしてきた。この衣装に相応しいキャラを作ってきたはずだ。

 

「それで、行くんだろう?京都に、ご託はいい。早く向かおう、ここからは遠いしな」

 

「え、あ…。はい!」

 

 なんか驚いてるけどまぁいいか。

 薫は扇グループとの顔合わせを終えると伊丹に案内されてその場を去る。するとそこには黒塗りのリムジンが待機しており、そこに乗り込まされる。

 

(拉致とかじゃないよね?)

 

 なんか不安になるけど伊丹からはなにも変な雰囲気はないしナナリーの顔でも思い出して落ち着いておこう。待てコラ、端から見ればただの変態じゃねぇか。

 

 腰に吊り下げていた刀を外して横に置くと少し寝ようと体勢を変える。

 

「休んでおけ、しばらくかかるぞ」

 

「は、はい」

 

 動揺する伊丹をよそ目に少し寝る俺。車のシートはかなりフカフカでぐっすり眠れるだろう。

 

「……」

 

「…………」

 

 こうして眠りについた薫は夢の中で誰かに呼ばれていた。

 

「なんだ?」

 

 そこに現れたのは自分。いや、正確にはカオル・ヴィヨネット。このコードギアスの世界のカオルだろう。俺はそれを本能ながらに察した。

 

「お前か…」

 

 座っていた俺は立ち上がりそのカオルに歩み寄る。

 

「お前か、俺に白蛇と名乗らせたのは…」

 

「……」

 

 馬鹿なりに現在の状況は察している。ここまで事態が大きくなったもの何かしらの影響はあるかと思っていた。それが今、このカオルのせいではないかと薫は思っていた。

 

「お前は俺に何を望む?俺をこんなところに呼び出して何をさせようと言うんだ!」

 

「ルルーシュ…ナナリー…スザク…」

 

「なに?」

 

 カオルは泣いていた。ひたすら涙を流してこちらを見つめていたのだ。

 

(助けて…)

 

「………」

 

 言葉が見つからない。彼女は本気で助けを求めている、それに対して頭がついてこなかったのだ。カオルの言葉は断片的にしか聞こえないが相手は相当、切羽詰まっているというのはよく分かる。

 それにしても先ほどは普通に話していたのに今度は念話のようなものを送られた。彼女はいったい何者なのだ?

 

(皆を助けて)

 

 か細い声だが心からの叫びに聞こえた。この世界に俺を呼んだのは間違いなく彼女だ。神の手違いでもお遊びでもない。彼女が俺に助けを求めて体を明け渡したんだろう。

 

「助けろだと?日本を解放するだけではない、ブリタニアを完膚なきまで叩き潰すのか?」

 

 ルルーシュなら出来るかもしれないが俺は無理だ。原作の知識があれば上手く立ち回れたかもしれないが俺はそんな知識はない。

 

「日本は俺の故郷だ。この状況をなげかないわけはないだろう。だが俺には力がない、覚悟も足りない」

 

(力ならある…貴方にはそれを成せるものが揃ってる)

 

 持っている?それはどういうことだ、確かに人は自然と集まってきている。状況は整っているが…本当に俺にこの世界と向き合えっていうのか。

 

(貴方は為せる力を持っている。どう使うかは貴方次第)

 

 優しく微笑む彼女はそう言って少しずつ消えていく。時間切れのようだ、だが彼女の思いは痛いほど分かった。

 

(分かったよ。俺が出来る限りの事をする、それがお前の…俺のためになるんだよな…)

 

 まだ混乱しているが覚悟は少し完了した。そんな彼を見た彼女は嬉しそうに消えていくのだった。

 意識が覚醒する。

 

「ん?」

 

 そう思って周囲を見渡すとなぜか俺は立っており周囲に人が立っている。それを庇うように伊丹が目の前に立っていた。

 

「面白い、気に入った。お主に協力しよう」

 

(は?)

 

「白蛇、その仮面の下もなにも問わん問わせん。だがお主の怒りはしかと受け止めた。存分に働け…」

 

(誰か説明をよこせぇぇぇえぇ!!)

 

 



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キョウト

 ここはカキミザ裁縫店。ここはオーダーメイドの服を作る専門店でそこそこの売り上げて暮らしている店。店員であるフィアルド・カミザキは親父である神﨑藤五郎の息子である。まぁ、ブリタニアと日本のハーフで働ける場所が少なくとも家業を継いだのだ。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 いつも通り、数少ない己の美点である元気な声で客を迎えた俺は訪れた客に目を奪われた。真っ白な女性はこちらを一瞥すると落ち着いた様子で歩み寄ってくる。

 

「真っ白な服を仕立てて欲しいのだが」

 

「っ!少しお待ちください!」

 

 彼女が放った言葉にフィアルドはおもわず背筋を伸ばす。《真っ白な服を仕立てて欲しいのだが》これは暗号だ。非公式に服を見立てて欲しいと言うサインが出たのを確認した彼は店の奥に引きこもっている親父を呼びにいく。

 

「あんたが客かい?」

 

「あぁ…」

 

 藤五郎は端から見ても客商売には向かない顔をしている。そんな彼に怖じけず客は目を会わせていた。

 

「用件はなんだ?」

 

「先程、述べた通りだよ」

 

 何度も言わせるな。そう言外に言われた藤五郎は表情には出さないが冷や汗をかいていた。見た目にそぐわないとてつもない覇気を持った女性だ。

 

「この紙に記入してくれ」

 

 いつも通り紙を渡す。その手渡す手が震えるのを必死に抑えながら渡した紙にはスラスラと書いていく女性。

 

「アンタ、主義者かハーフか?」

 

「いや、見た目はアレだが純日本人だよ」

 

 商品が商品なだけあって質問を選びながら投げ掛ける。予想に反して快く答えてくれる彼女に少し安心すると藤五郎はやっと仕事モードに入っていく。

 

「そうか…他にカスタムして欲しいものとかあるか?」

 

「これも頼む」

 

 渡されたのは蛇の面。いや、元々は狐の面だったんだろう。これは蛇らしく加工すればいいというのは説明されなくても分かった。

 

(蛇の面…まさか彼女が噂の人物なのでは…)

 

「いいのかい?」

 

「いいよ。問題ないでしょう」

 

「分かった」

 

 正体を悟った藤五郎は自分に明かしても大丈夫なのかと聞いてみるとさも問題なさそうに告げられる。これは誰かに話そうとするものならすぐに殺されると思った方がいいだろう。

 

「デザインは俺に任せてくれるんだな」

 

「あぁ、カッコよくしてくれ」

 

「分かった。二週間後、取りに来い。その時に付属品も渡してやる」

 

「ありがとう」

 

 備考欄には刀も所望している。藤五郎は久々の大仕事に喜びを感じながらも命すら投げ出す覚悟をもってことに当たるのだった。

 

ーー

 

「これが注文の品だ」

 

「素晴らしいな、まるで武士のようだ」

 

 夜を徹して作り上げた最高傑作。着やすさ、動きやすさそして安全面にも配慮した作品。彼女が大きな事を成すに必要であろうものをすべてつぎ込んだ服にした。そして日本人らしい和装を模した作りは日本人の象徴となるには必要不可欠だろう。

 

「これが付属品です!ご要望通り、安全なものを用意しました」

 

「ありがとう」

 

 フィアルドも独自のルートから仕入れた刀を渡す。彼が自らの意思で危険なルートを掻い潜り手に入れた代物。現代の刀匠が近年、作り上げた刀で名は《白露》。

 

「どうだ?」

 

「予想以上だよ。これほどいいとは思わなかった」

 

 鎧には堅く軽い最新式のプロテクトアーマー技術を応用して作られている。彼女はそれも分かっているようで気分よさげに話す。

 

「アンタは他とは違う。刀は俺からのプレゼントだ」

 

「すまない」

 

 藤五郎の言葉にフィアルドは少なからず驚きを覚える。ここまで彼が尽くすなど見たこと後なかったからだ。その後もしばらく話し、彼女も店を後にした。

 

「フィアルド、これは墓場まで持っていけ」

 

「わ、分かったよ…」

 

ーー

 

「色々と世話になった」

 

「いえ、こちらこそ。カレンの面倒を見てくれてありがとうございます」

 

 白蛇との会合の後。伊丹は扇たちとともに行動を共にしていた。その際に、伊丹はグラスゴーをカレンに貸し操縦方法を教え込ませていた。

 

「カレンは筋がいい。是非ともこちらに来て欲しいな」

 

「ありがとうございます。でも…」

 

「冗談だよ」

 

 気軽に笑いかけてくれる伊丹にカレンも笑う。

 

「でも本当に会わせてくれるんですか?」

 

「嫌だと言ったらすぐに退けよ」

 

「わかってます」

 

 これから対峙する相手。白蛇に対し畏怖を持っていた扇は唾を飲み込みながら集合場所に向かう。するとそこには和装に身を包んだ女性が立っていた。

 

「なるほど、だから白蛇か…」

 

 一緒に来ていた井上はその姿を見て納得する。スラッとした立ち姿に全身が白い、服装もだが彼女自身が真っ白なのだ。まるで穢れを知らない天使のような。

 

(どこかで見たような?)

 

 口元や髪の感じといい。後ろで隠れるように見ていたカレンはどこかであったような不思議な感覚に陥るがいまいち分からずに首をかしげる。

 

「白蛇さま」

 

「白蛇でいい」

 

「そっちは…」

 

 こちらに興味を待ったようにこちらを仮面越しに見つめてくる。値踏みするような視線に思わず息を飲む。約1名を除いて。

 

「はっ、このシンジュクのレジスタンス扇グループの方々です。是非ともお目にかかりたいと」

 

「よろしく…俺は…」

 

「お前が白蛇か、噂は聞いてるぜ。ブリキ野郎たちを追い払ったそうじゃないか。こんな女がか?」

 

 玉城の態度に白蛇は反応せずにこちらを見つめている。どこかしら怪訝な表情を見せていたような気がするが分からない。

 

「玉城!」

 

 そんな玉城の行動に南が怒ると俺から玉城を離す。

 

「あぁ…すまない。うちの団員が」

 

「気にするな扇。ご覧の通り、ただの小娘だ。気にしなくていい」

 

「あぁ…」

 

 どうやら怒っている様子はないようだ。それに伊丹は安堵の表情を浮かべる。今回は怒っても仕方のないことだったが彼女は器が広くて助かった。

 

「それで、行くんだろう?キョウトに、ご託はいい。早く向かおう、ここからは遠いしな」

 

「え、あ…。はい!」

 

 白蛇の言葉に伊丹は思わず驚いてしまう。全国のレジスタンスを束ねるキョウト。その実態は我々はおろか、ブリタニアですら把握していないというのに。彼女はその正確な位置を知っているような口ぶりだ。

 

「休んでおけ、しばらくかかるぞ」

 

「は、はい」

 

 彼女はすでに強大な情報網を手にしている。その事に戦慄させられながらも大人しくゆっくりするのだった。

 

ーー

 

「白蛇、白蛇さま」

 

 彼女の言うとおり、しばらくの間走っていた車だったがそれも止まり静止する。沈黙を保っていた白蛇は伊丹の声に反応し顔をあげる。

 

「なんだ?」

 

 とっさに殺気を向けられ怯む伊丹だがなんとか耐えて反応を待つ。

 

「お前か…」

 

「参りましょう」

 

 もし違う人物ならば首が飛んでいたなどと考えるとおぞましい。そして運転手に案内されるまま道を進むと大きなフロアに出る。

 

「こ、これは富士鉱山!」

 

 ブリタニアの侵攻後、富士山の西側斜面を覆うように設けられたサクラダイト採掘施設。そこは関係者以外が立ち入れば尋問なしの射殺という日本国内における最重要施設とも言える。

 

「お前か、何となくだが…来ると思っていたよ」

 

「え?」

 

「ほう、私が分かるというのか?」

 

 伊丹が驚いている時、白蛇は部屋の奥に顔を向けそこに座っていた人物を見ていた。天幕に囲まれた姿はそのシルエットしか分からないが声からしてかなりの高齢だろう。

 

「桐原泰三、サクラダイト採掘を一手に担う桐原産業の創設者にして枢木政権影の立役者。しかし敗戦後は身を翻し、植民地支配の積極的協力者となる通称《売国奴の桐原》しかし、その実態は全国のレジスタンスを束ねるキョウト六家の重鎮…」

 

「そんな大物が…」

 

 桐原泰三と言えばレジスタンスでは知らぬものはいない名をもちろん、汚名の方だがそこまでの人物がわざわざここまで出向いてくるとは…。伊丹は戦慄する、キョウトですら動かす力が彼女にはあるのだろう。

 

「よく見抜いた。流石は知略でブリタニアを打ちのめした者だ」

 

「お前は俺に何を望む?俺をこんなところに呼び出して何をさせようと言うんだ?」

 

「白蛇さま…」

 

 キョウト六家の重鎮である桐原相手に対等の立場で話を進める姿に護衛の黒服は腹を立てていた。それはそうだろう尊敬の念すら伝わってこない彼女の立ち振舞いは無礼このうえない。

 

「なぜお主は仮面を被る。その素顔、すべてを見極めるためにわしはここにおるのだ」

 

「ルルーシュ…ナナリー…スザク…」

 

「なに?お主…もしや…。」

 

 知るはずのない三人の名前。日本の中枢の中ですらごく一部の人間しか知らないであろう名前。その名を知り得る人物に桐原は一人だけ心当たりがあった。

 

「お主、まさか忌み子の…」

 

「なに?」

 

 思わず漏らしてしまった言葉に鋭く反応した白蛇は殺気を漏らす。

 

「貴様!」

 

「白蛇さま!」

 

 それに反応し護衛が彼女を囲み銃を向け、伊丹が庇うように前に出るが本人は全く気にしない。この過剰とも言える反応、桐原の推理は間違っていないということになる。

 

「お主の目的はなんだ。友のためかそれとも…日本のためとも言うのかお主が」

 

 桐原の態度が明らかにおかしくなった。それはその場にいた者すべてが感じていた。

 

「日本を解放するだけではない、ブリタニアを完膚なきまで叩き潰す」

 

「お主…あのような目に遭ってもこの日本を愛すると言うのか」

 

「日本は俺の故郷だ。この状況をなげかないわけはないだろう。だが俺には力がない、覚悟も足りない」

 

 既に多くの人々を魅了してきた彼女が求めるのはもっと先。誰も考え付かないところまで見据えている。飽くなき向上心、ブリタニアへの怒りが伝わってくる。

 

「ん…」

 

「面白い、気に入った。お主に協力しよう」

 

(は?)

 

「白蛇、その仮面の下もなにも問わん。問わせん。お主の怒りはしかと受け止めた。存分に働け…」

 

「ありがとうございます!」

 

 伊丹はその言葉に対し深く頭を下げるが白蛇は当然のようにただ立っているだけだった。

 

 



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無能なりに頑張るとなにか起きると信じたい

前回のあらすじ

gotoヘブンしてたら話が終わっていた





「白蛇さま。私は貴方に尽くします。すべてを捧げる所存です!」

 

 なぜか態度が悪化してしまった伊丹を横目にキョウトの中を歩く。俺達、まぁ覚悟的にも状況的にも後には退けない事になったのでやることを考える。

 

(まぁ、大体決まってるんだよなぁ…)

 

 こう言うことを考えなかった訳ではない。心の底ではやってみたいって思っていたことも否定できないし。でもこれはコードギアスの世界だがコードギアスの話じゃない。

 

 意味わからないって?まぁ、気にしないで深い意味はないから。まぁ、言いたいことはここでは俺が好きに動くってこと。具体的にいうとルルーシュをゼロにさせないのが当面の目標。

 

(ルルーシュ的には納得できないかもしれないけどね)

 

 今の現状を変えようとしているルルーシュには申し訳ないがナナリーはそれを望んでいない。この日本が混乱の渦に巻き込まれればブリタニアの目から完全にルルーシュを隠して逃がせる筈だ。

 

「白蛇さま。これからどうしますか?」

 

「そうだな、まずはブリタニア人の内通者が欲しいところだな」

 

「内通者ですか?」

 

 ルルーシュはメディアのディートハルトを手駒にしてブリタニアの情報を掴んでいた。やはりメディア関係に欲しいかな。

 

「ブリタニアをよく思っていない。関心のない人間がいれば良いんだが…」

 

「我々から主義者を見つけ出すのは難解です。なにせ我々日本人はその存在だけで警戒されます」

 

 それはそうだ。ブリタニア人からしてみれば日本人は危険で野蛮な種族。あまり話さないけどニーナはその傾向が強い。イレブンという単語だけでもビクビクしている。

 

「まぁ、当てはある」

 

「本当ですか?」

 

「お前たちにも動いてもらうかもしれない。動けるように準備をさせておけ。それとしっかりと顔合わせもしたい」

 

「分かりました。主要なメンバーのみになりますが集まれるように手配します。連絡手段はどうしますか?」

 

「あとで手配する」

 

「はい」

 

 なんか思ったよりスムーズに話が進んでいく。そうすると二人はドアの前で立ち止まる。桐原から指定された部屋に来るようにと言われた部屋に着いたのだ。

 

「私はここで待機します」

 

「頼む」

 

「はい」

 

 部屋に入るとそこには整然とした和室が広がっていた。綺麗に纏まっているがどこか落ち着けそうな不思議な感覚。

 

「待っておったぞ…」

 

「桐原公…」

 

 桐原公と呼ぶのが正しいらしいのでそう呼んでいる。なぜ公かは知らないけどね。

 

「どうだ、この部屋は?」

 

「どこか…落ち着きます」

 

「そうか…ここは昔のわしの邸宅の部屋を模した部屋でなお主にも見覚えがあるかもしれんの」

 

「俺の過去を…知っているのですか?」

 

「あぁ…わしも少ししか知らぬがな」

 

 彼の事はよく分からないが重要な人物だということは分かる。そんな主要人物と関わっていたのか…俺は。

 

「俺には過去はありません。すべて無くした、だから貴方が知っている佐脇薫はもういません…」

 

「そうか…では新たな薫。顔を見せてはくれぬか?」

 

 どこか優しげに話してくれる桐原の言葉に俺は頷くと仮面を取る。本当はこの姿は誰にも見せたくない。だけど彼には見せておかないといけない気がした。

 

「お主…本当に変わったな…」

 

「別人ですからね…」

 

 本当に何故だろう。彼には嘘がつけない、これは俺の感情じゃない。おそらくこの世界の薫の感情なのだろう。

 

「そうか…」

 

 悲しそうにする桐原。だがこれ以上はなにも言わないつもりらしい。

 

「ワシはお主に最大限の助力をするつもりだ。お主が奪ってきたサザーランド。我々の方で改良した機がある、それを託そう」

 

「いいんですか?」

 

 桐原とはどんな関係かは知らない。でも向こうの気遣いに甘えていてばかりでなにもしていないことに気まずさを覚えていた。

 

「お主はお主が正しいと思った道を行け。それがワシらを助けることになる」

 

「…ありがとうございます」

 

「他の者にも話を通しておく。顔を出してくれると便宜を図れる」

 

「分かりました…」

 

 なんだが親戚のおじいちゃん的な感覚で会いに行こうと決めた。薫は深々と礼をすると仮面を着け向かう場所を教えてくれた。

 

「白蛇さま」

 

「桐原公から機体を頂戴した。それを貰って帰るぞ」

 

「了解しました」

 

 その後、なんとか帰路に着いた薫は伊丹運転のもと大型トレーラーで新宿まで帰る。

 

「新型ですか?」

 

「いや、サザーランドの改良機らしい」

 

「あぁ、我々がキョウトに送った機体の一機ですね」

 

「そうなのか」

 

 その後も伊丹は色々と話してくれた。キョウトの主力である無頼はグラスゴーの改良機らしい。その上位機のサザーランドの改良機なら性能は他の機体に比べても高いだろう。

 

「名前はどうされるのですか?」

 

白号(びゃくごう)かな」

 

 機体自身のカラーリングは基本的に白色だった。単純な名前だけどそうした方が覚えやすい。

 

(これからどうしたものか…)

 

 俺がこの世界に来た理由が戦うためなら出来るだけやってみよう。彼女の涙を無駄にはしたくない、それにルルーシュたちを護りたい。それはそれだけはヘタレな俺でも覚悟を決意できるに足る理由だった。

 

ーー

 

「単純に疲れた…」

 

 日もくれてきた頃。疲れきった薫は公園のベンチに座って休んでいた。別れ際に伊丹から彼女の携帯を貰いそこに連絡すると話してくれた。こちら側も指定してくれた連絡先に連絡してくれればいいと言われた。

 もちろん服装は私服ですよ。着替えましたよ!

 

「あら、貴方さまは?」

 

「あ、貴方は!」

 

 そんな時、とある人物が自分の前に立ち止まり話しかけてくる。彼女は覚えている、黒服を蹴り飛ばしたメイドだ。

 

「はい、ジェシカ・フレヤンスです。あの時のカオルさまは惚れてしまいそうでした」

 

「いや、俺も頭に来ていたから…。みっともないところを見られた」

 

「ご友人を助ける所なんて白馬の王子のようでした」

 

「いえ…」

 

 いきなり褒められ少し照れて口元を隠していると考えてきた案が再び頭に浮かぶ。

 

「フレヤンスさん」

 

「ジェシカで」

 

 こんな公園で話すことではないが場所を移すのも危険そうなので近づいて内緒話をする。

 

「ジェシカ。貴方は救われたくないですか?」

 

「え?」

 

 驚く表情のジェシカ。彼女はすぐに表情を戻して興味深そうに耳を傾けてくれた。

 

「貴方の仲間も含めて俺に救われてみる気はないですか?」

 

「良いのですか?」

 

「その為にはあなた方の協力が不可欠です。アイツなら不正の証拠ぐらいたくさん出てくるでしょう?」

 

「それをどうするのですか?」

 

「しかる場所にばら蒔く。君たちの身は我々が保護しよう」

 

「我々?」

 

「えぇ、でもそれをすれば貴女方は二度と陽の目を見ることはないでしょうね」

 

「貴方は…いったい…」

 

 自分でもかなり軽卒な行動をしているのは自覚している。でもこれはチャンスだ。彼女たちがあの貴族に辟易しているのは分かっている。

 

「分かりました全ての資料をお渡しすれば良いのですね」

 

「えぇ、信頼しますよ」

 

「お任せください」

 

 随分といい顔で頷く彼女。かなり我慢していたんだろうなと感じさせる。離れ際にポケットの中に連絡先を書いた紙を渡す。もちろん、伊丹さんのではない。

 

「私は貴方をなんとお呼びすれば?」

 

「そちらに任せますよ」

 

 名前だろうが名字だろうがどっちでもこだわりはない。彼女が協力してくれるなら考えていた計画が使える。俺の現在の最終的な目的はC.Cの奪取。つまり、ルルーシュのゼロ化の最大のフラグをへし折る。それが俺の目的だ。

 

「とりあえずやってみるか…」

 




白号 壱式

 後に白号壱式と呼ばれる機体。白蛇としての最初の搭乗機である。
 従来の無頼と同じ改造が施されており外見は無頼改の藤堂機とほぼ同じ。隊長機の証として2本の長く伸びた頭飾りが着いているが元の機体がサザーランドのため肩アーマーは通常の無頼より大きく脚部のデザインが多少異なる。
サザーランドベースのため性能的は格段に向上し開発当時は日本側の最高峰の性能を獲得している。(残念ながら紅蓮どころか月下にも性能的には敵わないが)

無頼改の装備《対ナイトメア戦闘用日本刀(ヒノカグツチ)》は装備されていない。




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白蛇立つ

 

「白蛇さま。私は貴方に尽くします。すべてを捧げる所存です!」

 

「……」

 

 正直、桐原と白蛇の間で何が起きたかは分からない。だが結果的には彼女は他のレジスタンスグループより高位な関係をキョウトと結んだ。

 

「白蛇さま。これからどうしますか?」

 

「そうだな、まずはブリタニア人の内通者が欲しいところだな」

 

「内通者ですか?」

 

 確かにそうだ。その考えに対して伊丹も全面的に同意する。だがそれはかなり難しい。特にこちらが日本人ならばそれだけで向こうを警戒させてしまうからだ。

 

「ブリタニアをよく思っていない。関心のない人間がいれば良いんだが…」

 

「我々から主義者を見つけ出すのは難解です。なにせ我々日本人はその存在だけで警戒されます」

 

「まぁ、当てはある」

 

「本当ですか?」

 

 ブリタニア人の当てがあると言うことは租界に彼女は侵入でき軍からの目を気にすることなく動けるだけのコネがあるということだ。

 

(どれだけの根回しをしてきたんだこの方は…)

 

「お前たちにも動いてもらうかもしれない。動けるように準備をさせておけ。それとしっかりと顔合わせもしたい」

 

「分かりました。主要なメンバーのみになりますが集まれるように手配します。連絡手段はどうしますか?」

 

「あとで手配する」

 

「はい」

 

 今までは組織の維持だけを目的として来た行動だったが彼女に意見を聞くだけで今までにない速度で物事が決まっていく。

 

(これが本当のリーダーというものなのか)

 

 そうこうしているうちに桐原公に指定された部屋に到着する。

 

「私はここで待機します」

 

「頼む」

 

「はい」

 

 今までグループの長として振る舞ってきた伊丹だが今までにない充実感に溢れていた。個人に対してこれほどまでに尽くしたい、貢献したいと思えるのは初めてだ。圧倒的な戦略的手腕、観察眼、どれをとっても一流だ。

 

「そうか…これがカリスマというものなのだな」

 

ーー

 

「待っておったぞ…」

 

「桐原公…」

 

 桐原は自分専用の客間として使っている部屋に白蛇を招き入れた。本来ならこんな仮面の人物など入れないのだが彼女は特例だ。

 白蛇こと薫は先程の態度とはうって変わって敬意を感じる態度に少々、驚きながらも桐原は態度を変えない。

 

「どうだ、この部屋は?」

 

「どこか…落ち着きます」

 

「そうか…ここは昔のわしの邸宅の部屋を模した部屋でなお主にも見覚えがあるかもしれんの」

 

 幼き頃の薫。まだ無垢な少女だった彼女は遠縁であったが縁者であった。数えるほどしか招いてはないが彼女も日本時の自身の邸宅を知っている筈だ。

 

「俺の過去を…知っているのですか?」

 

「あぁ…わしも少ししか知らぬがな」

 

 彼女の態度に少々の疑問が残る。彼女の態度は知られたくない過去を隠そうとしているより。その過去を知りたがっているような態度だった。

 

「俺には過去はありません。すべて無くした、だから貴方が知っている佐脇薫はもういません…」

 

「そうか…では新たな薫。顔を見せてはくれぬか?」

 

 いや、彼女は過去を棄てたのか。彼女の過去は決して幸福なものではなかった。そうでなければこれほど強く記憶に残っていないだろう。言い方は悪いが縁者は沢山いるのだ。

 彼女は静かに仮面を取る。その顔を見た瞬間、桐原は思わず唾を飲んでしまった。

 

「お主…本当に変わったな…」

 

「別人ですからね…」

 

 別人、確かにその表現の方が正しいかもしれない。仮面の下から現れたのは日本人形のような生気を失った顔。なにも知らない者が見れば恐怖するようなほどの無表情であった。

 

「そうか…」

 

 今日まで彼女の所在など知りもしなかった。どれほどの理不尽が彼女に襲いかかってきたなど想像に容易い。

 

「ワシはお主に最大限の助力をするつもりだ。お主が奪ってきたサザーランド。我々の方で改良した機がある、それを託そう」

 

「いいんですか?」

 

「お主はお主が正しいと思った道を行け。それがワシらを助けることになる」

 

「…ありがとうございます」

 

「他の者にも話を通しておく。顔を出してくれると便宜を図れる」

 

「分かりました…」

 

 今まで放っておきながら身勝手なのはよく分かっているが。彼女は放置すれば勝手に崩壊してしまう。そんな確信が桐原の中には産まれていた。そんな彼女が殺し合いを始めるのだ。観察していないと気が気ではなかった。

 

(あの子を象徴として祭り上げなければならんのか)

 

 自身の無力さを感じた桐原は誰もいなくなった部屋でほんの僅かだけ表情を強ばらせるのだった。

 

ーーーー

 

 どうも皆様。カヴァリル卿のメイド(奴隷)のジェシカ・フレヤンスです。文字通り、様々な意味での奴隷となった私たちは怒りを覚えながらも何も出来ずにいます。

 

(あの時は本当に楽しかったですね)

 

 ドラ息子とクソ親父が文字通りボコボコにされる姿は控えめに言っても最高でした。ミレイ・アッシュフォード様を助け出す姿は我々の憧れそのものでした。

 

 ジェシカはいつも通りの買い物コースで邸宅に戻るルートを通っているとそこには先程まで考えていた人物がベンチで座っていた。これは声をかけなければならない、一種の使命感のようなものに駆り立てられ話しかける。

 

「あら、貴方さまは?」

 

「あ、貴方は!」

 

 向こうも想定外だったようで。こちらに気づくと反応してくれる。

 

「はい、ジェシカ・フレヤンスです。あの時のカオルさまは惚れてしまいそうでした」

 

「いや、俺も頭に来ていたから…。みっともないところを見られた」

 

「ご友人を助ける所なんて白馬の王子のようでした」

 

「いえ…」

 

 先程まで考えてきたことを告げると少し恥ずかしかったのか口元を隠す。表情からは分からない、仕草からの判断だが照れてくれていると思う。

 

「フレヤンスさん」

 

「ジェシカで」

 

 こんな反応もしてくれるのかと思っていたジェシカは急に近づいてきた薫に反応できずに接近を許してしまう。まぁ、気づいていても止めなかったが。

 

「ジェシカ。貴方は救われたくないですか?」

 

「え?」

 

 小さな話し声。囁くような彼女の言葉を受けたジェシカは脳髄を溶かされそうなほどの感覚を与えられた。こんな声で心に閉じ込めていた願望を言い当てられる。彼女は驚きを含みながらも一瞬で薫の中に引き込まれた。

 

「貴方の仲間も含めて俺に救われてみる気はないですか?」

 

「良いのですか?」

 

 この方は全て知っている。自身が叶わないと思って捨てた願望を、ジェシカは薫に全てを見透かされているような感覚に陥っていた。

 

「その為にはあなた方の協力が不可欠です。アイツなら不正の証拠ぐらいたくさん出てくるでしょう?」

 

「それをどうするのですか?」

 

「知る必要が?その後は我々が君たちを保護しよう」

 

「知る?我々?」

 

 彼女の話術と囁くような声で完全に支配下に置かれたジェシカはこの瞬間、半ば思考停止した人形のようになっていた。

 

「えぇ、でもそれをすれば貴女方は二度と陽の目を見ることはないでしょうね」

 

「貴方は…いったい…」

 

 もとより陽の目など見ていない。戻ろうとも思っていない。ならこちらにデメリットなど皆無なのだ。彼女なら現状を打破してくれるそれだけの確信が彼女の中には溢れていた。

 

「分かりました全ての資料をお渡しすれば良いのですね」

 

「えぇ、信頼しますよ」

 

「お任せください」

 

 断る理由など皆無。なら従うのが道理だと言うものだ。彼女の口元が離れると正気を取り戻した彼女は問う。

 

「私は貴方をなんとお呼びすれば?」

 

「そちらに任せますよ」

 

 実に端的に告げられた言葉。あの言葉には薫という名で呼ぶなと言う意味が込められているのだろう。ジェシカは早まる鼓動を感じながらも吉報を仲間に伝えるために帰路につくのだった。

 

 




薫の隠れステータス

カリスマ A+

ルルーシュ EX

藤堂 A


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二面生活は危険ばかり

「では今週末には集まれるな」

 

「はい、なんとかなると思います」

 

 アッシュフォード学園の校舎屋上。出入り口から離れた場所で薫は携帯を耳に着けて話していた。

 

「それまでに出来るだけ初の作戦に関する資料は用意しておく。ナイトメアは使う予定はない。そこまで派手にするつもりはないからな」

 

「了解しました」

 

 他人名義の携帯を手にした薫はその番号を関係者たちに送り。連絡体制を整えると自身が考えていた作戦について色々と詰めていた。

 伊丹たちとの顔合わせもまだ済ませていない。その時にはある程度の作戦内容は決めておきたいところだ。するとジェシカから連絡が来る。

 

「ご主人様、ご無沙汰しておりました」

 

「その呼び名は面映ゆいな」

 

 彼女は自分のことをご主人様と呼ぶ。高圧的なキャラを作ってるとはいえ内心、恥ずかしいことこの上ない。

 

「失礼しました。指定されておりました資料の半分は確保いたしました。例の駅のロッカーにしまってあります」

 

「邸宅の地図は正確か?」

 

「はい、各員が目を盗んでその目で確認いたしました。例のルートは使用可能です」

 

「わかった。君たちは優秀だな」

 

「お褒め頂き感謝いたします」

 

 結果だけ言えばジェシカはカヴァリル卿配下のメイド全員を仲間に入れるとこちらに全面的な協力を約束してくれた。というより、同じ番号で代わる代わるのメイドたちが連絡を寄越してくる。向こうにバレないようにする偽装工作も兼ねてるだろうがテロメンバーよりこっちの方が先に名前やらを覚えてしまった。

 

「そちらの人数は6人でいいのか?他に一緒に逃がしたいと言う奴は居るか?」

 

「はい、少々」「性別と身体情報などをリストに書きまとめておいてくれ」

 

「はい、いつまでに?」

 

「今週末までには」

 

「即刻、リストアップします」

 

「分かった。頼む」

 

 一通りの電話を終えて一息つく薫。これからは昼と夜の顔を分けて使わなきゃならない。カレンもルルーシュも大変だっただろうな。

 

「はぁ…」

 

「こんなところでどうしたの?カオルちゃん!」

 

「会長…」

 

「まさか彼氏との電話だった?ごめんね」

 

「いえ、彼氏なんていませんから」

 

 背後から抱きついてくるミレイを無抵抗で受け入れる。あのとき以来、こう言ったスキンシップが急増した。向こうの中で自分がちょっと上のランクの友達に認定されたのだろう。

 

「シャーリーは?」

 

「中庭で合流します。シャーリー、今日は弁当を忘れてきたみたいで」

 

 現在の時間は昼休み。まだ始まったばかりなので下を見れば多くの生徒がそれぞれの目的地に向かって動いている。

 

「私も混ぜて!」

 

「構いませんが…会長はいいんですか?」

 

 最近はシャーリーと会長の三人でご飯を食べている。と言うより会長は会長で友達と食べないのか。

 

「会長って言わなくてもいいわ。ミレイでいいわよ、私たち親友でしょ!」

 

「それは嬉しいですね会長」

 

「もぉー。カオルのいけず」

 

「そのうち慣れるんで我慢してください」

 

 まぁ、会長とご飯を食べるとなると喜んでリヴァルも参戦してくるのだが。だいぶ原作メンバーが周囲に集まってきた気がする。

 

「ニーナも来ますか?」

 

「もちろん」

 

ーー

 

「全く、相変わらずの男料理ね」

 

「好きなものを入れたらこうなるんですよ」

 

 中庭にて集まったミレイたちは談笑しながらご飯を食べる。みんなの弁当は女の子らしい色鮮やかな弁当に対してこっちの弁当は茶色と少しの緑という二色弁当。

 ちょっと高かったが買った味噌で炒めた肉とレタスを少々。これで白米があれば言うことない。

 

「よくそんなに食べて太らないわよね」

 

「この前、こっちが胸焼けするほどケーキ食べに行ったのに太らないのはずるいわよねぇ」

 

「え、ミレイちゃん。ヴィオネットさんと食べに行ったの?」

 

「まぁ、時々ね。週一のペースでケーキ食べてるわよこの子」

 

 ミレイの言葉に一番の反応を見せたのはニーナ。なぜか知らないが彼女はミレイの事に関すると過剰な反応を見せる。だからこそ二人でたまに遊んでいることを知られたくなかったのだが。

 

「そうなんだ…」

 

「……」

 

 めっちゃ睨まれてるんすけど。ミレイは気づいてないの?完全に目の敵にされてるんですけど。

 

「よくそんなにお金があるよね」

 

「いいバイトを見つけたからなそれで俺はだいぶ金持ちになった」

 

 賭けチェスも現在進行中。リヴァルのバイクで俺がサイドカー、ルルーシュがリヴァルの後ろで移動して色々と代打ちやらしてる。そのお陰で財布が潤いまくって止まらない。学生が使う金額を優に越える金額が動いているから当然なのだろうが。

 

「危ないことしてないわよね?」

 

「大丈夫だ、そんなことして稼ぐほど困ってないよ」

 

「んな訳ないじゃんだって…」

 

 余計なことを言いそうなリヴァルの口に特大ハンバーグをねじ込み黙らせる。眼でしゃべるなと脅せばリヴァルは全力で頷く。

 

「…そうだよね」

 

 シャーリー、なんだかんだ勘がいいな。既に怪しまれてるんだが…なにかの拍子にポロッと言ったら怒られるだけで済むだろうか。

 

「そうよね、なにもやましいことはしてないわよねぇ」

 

「ハイ、ソウデスネ…」

 

「むむ、やっぱり怪しい」

 

 おいこら。シャーリーセンサーが反応したじゃないかミレイ!ってか知ってんのかよ、流石は会長だな、何でも知ってるのかよ。

 

「勘弁してくれよミレイ…」

 

 ほんの小さな呟き。悪態の意味合いの方が強かったのだ呟く程度に抑えたのだが。

 

「むむ、ならその美味しそうな肉炒めを貰おうかな」

 

「聞いてたのかよ…」

 

「その調子でマイハニーと読んでくれて構わんよ」

 

「お黙りください」

 

「あ…美味しい」

 

 これ以上、ニーナのヘイトを溜めたくないので頼まれていた豚の生姜焼を口に突っ込み黙らせる。

 あれ、これってまさかの間接…。なんて呟いてたリヴァルの頭をはたく。

 

 会長と関わってからというもの楽しくはなったが慣れてくると少し困ってくる。なんとか彼女を意図的に大人しくさせる方法はないものか。

 

 仲良く談笑をしているとポケットの中の携帯が鳴る。しかも裏の方の携帯がだ。忙しいからかけてくるなとは言ってなかったので仕方ないがどうしたものか。

 

「席を外します」

 

「最近、よく電話が来るわね」

 

 生姜焼を食べ終えたミレイが画面を覗き込んでくるが阻止。

 

「大人しくしてろミレイ」

 

 流石に見られると不味いのでちょっと強めの口調で釘を刺す。誰にも聞こえないように耳元で言うとそのまま席を外す。

 

ーー

 

「失礼しました。お忙しかったですか?」

 

「出れん時は無視する。用件は手短に」

 

「はい。扇グループの仲介で場所を提供していただけることになりました」

 

 扇さんたちとコネクトがあるとはいえ世話になりっぱなしだな。

 

「向こうの具合は?」

 

「はい、多少の重火器があるぐらいです。ナイトメアは持っていません」

 

「資料を見たがうちにはグラスゴーがあったな。それを礼として扇グループに譲渡してやれ。これからも世話になると」

 

 確かカレンが乗っていたのはグラスゴーというやつで間違いないはずだ。写真と記憶を照らし合わせただけだが。サザーランドも無頼も渡せないがグラスゴー一機なら大丈夫なはずだ。

 

「はい、私もそれは提案させて頂こうと思っていたところです。実は出来の良いのが居まして」

 

「きれいな赤髪の子だな」

 

 カレンですね分かります。

 

「はい、よくご存じで」

 

「いい眼をしていたからな」

 

 いい眼をしている、それに度胸もいい。ランバ・ラルとアムロ・レイとの初対面の際にランバ・ラルが言った言葉。渋くて格好いいだろ?

 

「詳細はまたあとに。今はあまり時間を作れない」

 

「承知しました。ではまたの機会に」

 

「全く、休まる時がないな…」

 

 少し疲れたように電話を切った薫はため息をつきながら元の場所に戻る。その様子を聞いていた人影、その人物はなにも言わずにその場から去るのだった。

 

 

 



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嫉妬

 ニーナ・アインシュタイン。

 

 内気で引っ込み思案な性格であり、人付き合いも余り得意な方とは言えない。生徒会に入れたのもこちらを配慮してくれたミレイのおかげ。

 

 彼女にとって生徒会室は学校での唯一の場所であった。大好きなミレイがいながら静かに自分の世界に入れる貴重な空間。当初からルルーシュという存在は居たが彼は自らこちらに接してこないからたいして気にも止めなかった。

 

 そんな波風の立たない日常に入ってきたのがカオル・ヴィヨネット。最初はあまり気にしていなかった。ルルーシュと同じであまり干渉してこないからだ。

 

(彼女は何でも持ってる…)

 

 彼女はなんでも持っていた。他者からの信頼、羨望、恵まれた体を持った女性。振る舞いや口数もあまり変わらないというのに全く反対の生活を手に入れた女。そんな彼女のことは少し嫌いだった。

 

「よくそんなに食べて太らないわよね」

 

 まぁ、そんなことを言っていたが実際にそんな奴なんていくらでもいる。気にすることは無かった。そんな彼女が最近、決まってきたメンバーと食事をしている時。驚愕の真実を知る。

 

「この前、こっちが胸焼けするほどケーキ食べに行ったのに太らないのはずるいわよねぇ」

 

「え、ミレイちゃん。ヴィオネットさんと食べに行ったの?」

 

「まぁ、時々ね。週一のペースでケーキ食べてるわよこの子」

 

 何気ない会話のヒトコマ。そこに投入された爆弾は彼女にとってはかなりの威力を誇っていた。

 

「勘弁してくれよ。ミレイ…」

 

 動揺しているニーナの耳に届いたのは小さく呟くカオルの言葉。その一言でこの二人がただの友人とは言えない間柄だということは用意に推測できる。

 

「むむ、ならその美味しそうな肉炒めを貰おうかな」

 

「聞いてたのかよ…」

 

「その調子でマイハニーと呼んでくれて構わんよ」

 

「お黙りください」

 

「あ…美味しい」

 

 端から見れば完全に恋人な二人。ヴィヨネットは同性愛者なんて噂も流れてるし不安と言えば不安でもある。昔っから共に過ごしてきたミレイを奪われるような思いをしたニーナはカオルを見つめる。

 

(なんなのよ…)

 

 見た目に反して彼女は男よりだ。口調を含め食べ物の趣味やらも男のような感じだ。そのギャップが良いとか外野も叫んでいるけどそれも無視。

 まぁ、こちらからしてみれば異質極まりない。

 

「席を外します」

 

「最近、よく電話が来るわね」

 

 生姜焼を食べ終えたミレイが画面を覗き込んでる。正確な日にちは覚えていないが彼女はこうやってカオルに過剰に接触している。いつもしっかりと線引きをしている彼女にしては珍しい。 

 

(本当になんなの…)

 

 こうしてニーナは明確にカオルに対して敵意を覚えることになる。

 

ーー

 

 当初のイメージを遥かに越えてカオルは異常なほど行動力が高い。普通ならお見合い会場に殴り込みをかけるなんて聞いたことがない。しかも貴族同士のお見合いだ、貴族制を取り入れているブリタニアでは貴族は絶対。

 そんな貴族の大事な行事でやらかすなど誰が思おう。

 

「大人しくしてろミレイ」

 

 こそっと囁かれた言葉にゾクッとするミレイ。落ち着きのない子供をたしなめるような言葉遣いにおもわず鳥肌がたつ。

 

 彼女の悪ふざけか、それとも気まぐれなのか。カオルはたまにそう言うことをしてくる。

 

「全くもう…」

 

 言葉にならないため息がもれる。あの時以来、彼女を遊んでいた自分が今度は弄ばれているような気分になる。

 

「わざとだったら相当の策士よね」

 

「ん、どうしたんですか会長?」

 

「いや、なんでもない。あれ、ニーナは?」

 

「トイレにいくって言ってましたよ」

 

「ふーん」

 

ーー

 

「きれいな赤髪の子だな」

 

 こっそり後をつけていたニーナはカオルが周囲の目を気にしながら電話している姿が見える。

 

「いい眼をしていたからな」

 

 どうやら誰かの話をしているようだ。おそらく女性の話だろう。というかミレイという存在がありながらまだ他の女に手を出しているのか。

 

(女たらし…)

 

「詳細はまたあとに。今はあまり時間を作れない」

 

 デートの約束でもしていたのだろうか。彼女は申し訳なさそうな感じで話していた。

 

「全く、休まる時がないな…」

 

 一通りの話を聞いたあと。彼女はため息をつきながら電話を切る。彼女、クールな顔をしていながらとんでもない裏の顔を持っていた。こんな彼女をミレイに近づけてはならない。そう思ったニーナは静かにその場を立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

 そしてその週末。ついに白蛇、最初の作戦が始まるのだった。

 

 

 



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新たな仲間

今回は1話にまとめたスタイルです。
これからは度々、主人公の本音と勘違いを混ぜたスタイルがあると思います。




 シンジュクゲットー。主要メンバーが集まっているという部屋に案内された薫は待ち構えていたメンバーと顔を会わせる。

 

「どうも~」

 

 軽薄そうな青髪の女性、柏木遥は手を脱力しながら振る。伊坂シュンは緊張したような面持ちでこちらを見ていた。

 

「よく私の願いを聞いてくれた。本当に感謝するよ」

 

「いや、俺としても兵力は欲するものだった。互いが求めるものが一致しただけにすぎない」

 

 奥から現れたのは桐山。彼女の傍らには小さな子供が着いていた。その子はあの時の血だらけの子供だ。この目で見ると感慨深い。

 

「で、作戦があるんでしょ?早く話してよ」

 

「柏木!」

 

「私はまだその仮面に信頼を寄せるだけの材料がないんだよねぇ。この目で見ないとさぁ…」

 

 伊丹が叱るが柏木はなにも言わずにカオルを見つめる。

 

(思ったよりキャラ濃いかも。この組織…)

 

 一瞬だけ気圧される薫だがここで負けてはいけないと踏ん張り。手にしていたアタッシュケースを彼女らの前に置くと開ける。

 

「作戦に必要な情報だ。この作戦は単純に言えば救出作戦、それもブリタニア人のな」

 

「ブリタニア人?」

 

「なんで敵を助けるんですか!助けるべき日本人なんていくらでもいる!」

 

「人種などどうでもいい」

 

「なっ!?」

 

 不満を漏らすシュンの機先を制するように重く話すカオル。こういうのは下がったら敗けだと勝手に思ってる。

 

「ブリタニアを打倒する。その目的ならブリタニア人とて助けよう。俺は彼女らは力になると思っている」

 

「ふーん」

 

「でも!」

 

 シュンはそれでも納得いかなそうだったが柏木に止められ黙る。どうやら柏木というやつの攻略が先のようだ。

 

「作戦は?」

 

「実に簡単だ。地下のルートから侵入する、警備システムは救出対象が止めてくれる」

 

「へぇ、もう準備は万端だってことかぁ。なら私たちが行かなくてもあなた一人でも大丈夫じゃないの?」

 

「いや、屋敷の制圧は我々が行う。借用書などの目標を滅却し、ついでに地下に眠っている脱税金をたっぷりと頂く。人員と資金問題をここである程度、解決させる」

 

 作戦内容は簡潔にすまされたが全員に渡された資料たちがこの作戦の成功率の高さを物語っている。だがこの資料があくまでも正確であればこそだ、罠ならどうしようもない。

 

「トラックを二台。無頼を二機づつ載せて付近に待機、もしもの時は証拠もろとも焼き尽くす」

 

「……了解」

 

 しばらく思考を巡らしていた柏木だがなにも言わずに了承する。

 

ーー

 

「このトラックならナイトメア3機はのるなぁ」

 

「ぎゅうぎゅうに積める必要もないでしょ」

 

「私たちは作戦命令書どおりに動けばいいのよ。合図を見過ごさないで」

 

 ナイトメアのパイロットに選ばれた人員がトラックに無頼を載せながら談笑する。そして白蛇含め、10人の制圧メンバーが選ばれると装備を確認する。

 

 薫も腰の刀と貰ったリボルバーを確認する。自動拳銃もあったがこっちを選んでしまうのは男だから仕方がない。

 

 目標であるカヴァリル卿の屋敷に直接向かう後方支援隊が先に出発。その後に薫たちも目的地に向かう。作戦開始は深夜、闇に紛れて全てを終わらせる。

 

 場所は無人の変電施設。所定の位置に待機していると地下に通じる扉がゆっくりと開かれる。

 

「お待ちしておりましたご主人様」

 

「それは止めろと言った筈だがな。俺は白蛇だ」

 

「はっ、白蛇さま」

 

 中から出てきたのは金髪の美しいメイド。ジェシカは礼儀正しく礼をすると通路を開ける。そんな光景にシュンを初めとする男性陣は息を飲む。

 

「徒歩10分ほどで到着します。どうかお願いいたします」

 

「あぁ…」

 

 ジェシカの案内の元、地下通路を移動した薫たちは。突入の準備を行う。

 

「ジェシカ、状況確認」

 

「はっ、ミレナ。警備室はどうなっていますか?」

 

 警備室にお茶を運んでいた黒髪短髪のミレナは日本人と言うより中華連邦系の人種だ。彼女の周りではすでに睡眠薬入りのお茶を飲んだ警備員が転がっていた。

 

「こちら、ミレナ。問題ありません」

 

「こちら、バレット。警備詰め所もクリアです」

 

 対して浅黒肌のバレットはガスマスクを着けて詰め所を見渡す。睡眠ガスを流し込んだ彼女は口笛を吹きながら詰め所の鍵を指で回していた。

 

「よし、いくぞ!」

 

 白蛇の声と共に邸宅に侵入。伊丹たちは銃を構えながら邸宅を静かに占拠していく。目的の資料があるのは2階のカヴァリルの書斎。奴もそこにいるはずだ。

 

「伊丹、お前は地下の金を運べ」

 

「はい」

 

「柏木、俺と供に来い」

 

「…了解」

 

 柏木は白蛇の命令に疑問を持ちながらも後に着いていく。2階に上がったちょうどその時、徘徊してきた警備員と鉢合わせる。

 

「貴様ら、何者!」

 

「くそっ!」

 

 柏木が拳銃で撃ち殺そうとした瞬間。一番近くに居た白蛇が剣に手を伸ばし、そのまま柄で腹を殴る。

 

「うっ…」

 

 その衝撃で気絶した警備員は静かに倒れる。

 

「サイレンサー無しの銃は使うな…」

 

「すいません…」

 

 柏木が感心している他所で薫は汗がダクダクだった。本当なら刀を抜いて気絶させるつもりだったが抜けなくてそのままの勢いで柄で殴ってしまったのだ。

 

(危ない、危ない…)

 

 冷や汗をかきながらもなんとか書斎に辿り着いた薫はゆっくりと扉を開ける。

 

「なんだ…おい。お前たち、何物だぁぁぁぁ!?」

 

 カヴァリルは突然入ってきた白蛇たちに驚き、叫ぶが背後に控えていたメイド。エクレは隠し持っていたスタンガンを容赦なく首に当て気絶させる。

 

「こちらエクレ、任務完了」

 

「よくやってくれた…」

 

 全て問題なく作業は進む。というよりこの屋敷の全てを知り尽くしているメイドたちが味方についていることが最大の要因だろう。

 

(なんもやることがない…)

 

 薫たちがやったことと言えば書類を見つけて綺麗に燃やしただけ。後は伊丹の班が金を運ぶのを待つだけとなってしまった。既にカヴァリル親子はメイドによって鎮圧され報復にあっている頃だろう。

 

「すべて、作戦通りって訳か…こんなに簡単に手に入るなんて」

 

 金がこんなに簡単に転がり込んでくる。チラリと見ただけだが金塊などをどっさりと頂いている。

 

「これで少しは認めてくれたか?」

 

「いえ、なんかすいません」

 

(この子、いい子だな)

 

 素直に謝れるのは美徳だ。最初はどんな奴かと思って戦々恐々としていたがなんとかなりそうだ。そんなことを思っているとメイドたちが世話しなく動き回っているのが見えた。

 

「ジェシカ、なにをしてるんだ?」

 

「白蛇さま。折角ですので良い茶葉や酒は持っていこうかと、どうせ我々が居なくなれば管理もずさんになりましょうし」

 

「好きにしろ」

 

「ありがとうございます」

 

 さっきから鞄やアタッシュケースを抱えて運んでいるメイドたちは放っておくとして薫は最後のつめを用意する。

 

「それは?」

 

「あぁ、カヴァリル卿の不正の証拠だ。通報すればこれをバラ撒くという脅しさ」

 

「なるほどね」

 

 柏木が納得するのを見て薫は机の上に書類を置く。思った以上に分厚い書類にため息が出る。こいつが下手すればミレイの婚約者となっていたのだ。笑えない話だ。

 

「ナイトメア隊には撤退の合図を。安全運転で帰れよ」

 

「了解しました!」

 

 部下の一人に合図に向かわせると背伸びをして地下通路に戻る。

 

「作戦完了。撤収する」

 

「「「了解!」」」

 

 一人の怪我人も一発の弾も使わずに作戦を終わらせた白蛇。当然ながらグループ内でもその手腕は高く評価され誰も彼女がリーダーになることに不信を示すものは居なくなったのだった。

 

「こりゃすげぇ!」

 

「金の山だぁ!」

 

 無事に拠点に搬送された金や金塊を見て興奮するグループ員たち。それを見届けながら白蛇は一息つくために椅子に座る。

 

「こちらを…」

 

「あぁ」

 

「どうぞ…」

 

 その瞬間、小さな円卓が薫の元に運ばれ、いつの間にか紅茶を持たされていた。

 

(い、イリュージョン…)

 

 あまりにも自然の所作に薫は呆然とする。

 

「うまい…」

 

「ありがとうございます」

 

 薫の言葉にジェシカは頭を下げると側に控える。

 

「お前たちはどうするつもりだ。これからは自由なわけだが…」

 

「メイド一同。白蛇さまに最後まで奉公させて頂きます」

 

 総勢20名のメイドたちは白蛇の元で働くと宣言。他にカヴァリル卿の元で働いていた者たちは口外しないことを条件にブリタニアの街に戻っていったりした。

 

「俺はテロリストだぞ…」

 

「はい、これまで様々な目に合ってきました。ならこれからは主人を自分の意思で決める。そう考え、実行した結果です」

 

「白蛇様、我々は良いですよ。彼女たちと我々は同じ者を信じているのですから」

 

 伊丹を筆頭に彼女たちをグループに入れるのは概ね賛成のようだ。

 

「なら、よろしく頼む」

 

「御意…」

 

 こうして白蛇を中心とするグループにブリタニア、中華連邦、ユーロピア。三つの人種が参戦することとなった。その後、彼女らはブリタニア軍を恐怖させる侍従隊と呼ばれることになる。

 

 



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第三章 政庁に潜入せよ!
フラグが建ったよ!建ったんだよ!


 

「疲れてない…」

 

 人生初のテロリスト活動から夜が明けてアッシュフォード学園。カオルは疲れきっておらず、むしろこれまで以上に快調であった。

 

(全身くまなくやってくれたからな)

 

 本当なら次に集まる日を決めて帰ろうと思ったのだがメイドたちに捕まり、全身くまなくマッサージを施してもらったのだ。そのおかげで肩が異常に軽いのだ。

 

(胸で肩凝りって都市伝説じゃなかったんだな…)

 

 そんなこと言ってるとどこぞの大阪弁空母に怒られそうだが仕方がない。自分もそれなりのバストを誇っているというのをあまり考えないのが主な原因だろうが。

 元男なのでそこら辺は勘弁してほしい。ついでにこの前、身体検査があってしっかりとしたサイズを計ってきました。シャーリー〈俺〈ミレイの順だった。

 

「おはよう。珍しいな、ボーッとして」

 

「あぁ…少し色々あって…」

 

「無理するなよ」

 

「ありがと」

 

 ルルーシュからの優しい言葉を貰うと机に突っ伏す。正直、拍子抜けという言葉が正しいのかもしれない。本当になにもしていないのだから。

 

 だが次の作戦こそが本命だ。ルルーシュをゼロにさせない方法。それの最大の理由はC.Cとの出会いだ。元々、因果な関係とはいえ二人が出会わなければ彼がゼロにはならなかっただろう。

 

(ならそのフラグを潰す)

 

 つまり、ルルーシュが介入してくる来年までにC.Cを奪還し俺がゼロの代わりとして動くのだ。

 

 つまり、次に行う作戦は政庁に捕らえられているC.Cの救出作戦を実行する。扇グループにも出来たのだ、出来ないことではない。

 

(問題はどうやって内情を探るかだな…)

 

 ジェシカたちをブリタニアへの間者として紛れ込ませるにしても一年以内にそんな中枢に潜り込めるとは思えない。

 

(桐原さんの所に相談にいくか…)

 

 使える権力は使うべきだ。そう思い立ったカオルは考えることを止めることにした。

 

「カオル、今日は部活休みだったから一緒に帰ろ?」

 

「いいな、ちょうど生徒会もなかったんだ」

 

 前にも言ったかもしれないがシャーリーと俺は帰れるタイミングが中々ない。こちらは生徒会、向こうは水泳部。水泳部なら予定はしっかりしているが生徒会に関しては明確な予定などはない。

 

「お互いに予定が合わないから大変よね」

 

「そうだな、シャーリーが一番最初の友達だから。もっと仲良くしたいんだが…」

 

「そう、もう仲良しじゃない?」

 

「お前のそういうとこ好きだよ」

 

「もう、カオルってば」

 

 お互いに歩いて帰る。もちろん電車は使って、普通ならバイクでも買った方が楽なのだが。歩いた方が話しやすいしいろいろと寄り道しやすいのだ。

 

「それにしても、最近大丈夫?」

 

「何がだ?」

 

 シャーリーから話を切り出されたのはクレープを露天から買ったときであった。

 

「最近、電話が多いし。変なことに巻き込まれてないかなって…」

 

「……」

 

 まぁ、巻き込まれたのは間違いないが。内心、こっちもノリノリで参加している点もあるので全否定はできない。ルルーシュとナナリーは辛い過去を持っている。そんな二人には幸せであってほしいのだ。

 

「やっぱりなにか…」

 

「いや、何もない」

 

「ほんとに?」

 

「あぁ…」

 

 こっちを本気で心配してくれているのに嘘をつくのは忍びないが仕方がない。実はテロリストをやってて困ってるんだよなんて言えるはずもない。

 

「まぁ、気にしないでくれ。そう言えば、今日は公園でアイスの露天が出てる日だ」

 

「あぁ、この前言ってた店?」

 

「あそこは旨いぞ」

 

 カオルの寄り道コースは必ず公園を通る。そのお陰で色々な露店商と顔見知りになった。とくにお気に入りはホットドッグ屋とアイス屋だ。

 

「最近は甘いもの食べれなかったから嬉しいな」

 

「期待していいぞ」

 

 やっといつも通りの会話になってきた頃。歩いていた道で派手な激突音が響いた。

 

「なに?」

 

「ん?」

 

 車同士の激突事故。後ろから激突してきた若い男が前に停車していた老人夫婦に怒鳴り散らす。明らかに若い男の方が悪いが老夫婦は言い返せずに困っている。

 

「なんだ、あの男は!」

 

 同じ男としても許せない光景だ。こう言った理不尽は個人的には許せない。

 

「ちょっとカオル!?」

 

 ズカズカとその男に近寄るカオルをシャーリーは慌てて止める。ちょっと今までにない雰囲気だったので戸惑ったのだ。

 

「あれ、ルルーシュ?」

 

「ルルーシュくん?」

 

 そんな時、突如あらわれたルルーシュはレッカー車のウインチを持って登場。若い男の車に引っ掻けるとそのままリヴァルの待つバイクに戻っていく。

 

「あいつ…」

 

 ウインチを引っ掻けられたと知らないレッカー車は若い男の車を連れていく。その様子をみていた周囲の人間たちは笑うが等の本人であるルルーシュはつまらなそうにしていた。

 

「へぇ…」

 

 シャーリーはつまらなそうにするルルーシュを興味深げに観察する。

 

(もしや…やっとフラグが建ったのか!)

 

やっとやって来た原作ぽい現象にカオルは内心テンションが上がる。

 

(やっとぽいの来たなぁ)

 

 そんな感覚に思わず笑みを浮かべたカオルは黙ってルルーシュを見つめるのだった。

 

ーーーー

 

 その後、シャーリーと久々の癒しタイムを得たカオルは無事に帰宅。秘密の携帯を起動させるとキョウトへと連絡をいれる。

 

「もしもし、白蛇です。桐原公にお繋ぎ下さい」

 

「承知しました」

 

「薫かどうした?」

 

「桐原公。ブリタニアの政庁についての情報を欲しいのですが」

 

「ほう…。前回の作戦の成功報告は伊丹から聞いておる。また仕掛けるつもりか?」

 

「えぇ、ブリタニア政庁内部での実験施設のありかを探りたいのです。バトレー将軍関係にあるかと思いますが」

 

 映画の記憶が正しければあの太った将軍がC.Cに関与しているのは間違いない。

 

「お主、その情報をどこから得た?」

 

「ただの勘ですよ。ですが詳しい場所などは不明です。そちらの方で詳しく分かるでしょう?」

 

 ただの当てずっぽうだがこっちが期待しますよって感じて話せば向こうも頑張ってくれるとこっちは信じている。

 

「…分かった。わしもその筋から聞いてみよう」

 

(ほんとに内通者がいたのか…)

 

 なんか日本側ってブリタニアに劣っているって言う感じの描写が多かった気がするけどやっぱり情報戦においては負けてないみたいだな。

 

「よろしくお願いします」

 

 電話越しだけど深々と頭を下げながら電話を切る。

 

「ふぅ…C.Cさえ手に入れればルルーシュは普通の生徒として居るしかない…」

 

 ルルーシュには危ない目に会って欲しくない。薫はその手を握りしめると窓から見える夜景を見つめる。

 

(ちょっとかっこよく言ってみた…)

 

 



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企み

 

 どうも皆様。カオル様、もとい白蛇様の侍従長をしておりますジェシカと申します。

 我ら総員20名、現在は白蛇様の指揮下のもとそれぞれの能力に合わせた仕事を行っております。

 

 ミレナ、バレット、エクレを筆頭に現在は白蛇様のグループの運営について試行錯誤を行っております。

 

 元々はリーダー格の伊丹、桐山が組織の運営についての事務仕事を行っていましたが現在は資産運用部門、備品管理部門、整備部門、実働隊部門、にと大まかに分け、組織を管理運営しています。

 

「やはりそうでしたか…」

 

「女性しか見かけないと思ったら。実情はこんなもんですよ」

 

 メンバーリストを新調していたブリタニア系人種のケルナはほぼ完成したメンバーリストを見て呟く。

 この白蛇のグループは七割が女子供と言った者達ばかりだ。リーダー格が二人とも女性だというのもあるだろうが伊丹たちが拠点にしていたのはブリタニア軍の横暴が顕著だったイバラギゲットー。男手がこぞって既に戦死しているのだ。

 

「レジスタンスとして活動していたのが嘘のようですね」

 

「これではただの難民集団ですよ」

 

 実働隊部門の管理をしていたバレットはため息をつきながらやって来る。彼女は元ユーロピアの兵士だった。ユーロピアの軍も大概腐っているが練度はそこそこあった。

 

「仕方ないさ。我々の4割は白蛇さまの噂を聞き付けてやって来た者達ばかりだ。銃の扱いも分かってない」

 

「これは伊丹様」

 

 白蛇のグループはテロリストグループの中でもトップクラスの戦力を保有している。ナイトメア、しかもブリタニア軍で正式採用されているサザーランドを数機保有しているからだ。

 だが持っているだけ、それを運用できる人間を集められていないのだ。

 

「機体の完熟訓練もいまいちだな」

 

「私はすべてのシミュレーターをクリアしましたが」

 

「流石だな…」

 

 実はジェシカはナイトメア特性が高く。真っ先に完熟訓練を終わらせた猛者だ。ついでにバレットも元パンツァーフンメルに乗っていた為にすぐに終わらせれた。その他の柏木などの古参メンバーもパスしている。

 

「レジスタンス組織ではよくあることですが人員の育成が必要ですね。せめて、白蛇様の緻密な作戦を実行できる程度には」

 

「そうだな…」

 

 伊丹も思わず腕を組んで悩む。組織とは人だ、人あってこその組織なのだ。

 

「ジェシカ、当番表が出来たよ」

 

「エクレ、ご苦労様です」

 

「それは?」

 

 エクレが持ってきたのはメイドたちの名前が記載された表。そこには順番が割り振られている。

 

「白蛇様のお世話をする際の順番を明確にしたものです」

 

「来た時みたいに全員でやればいいんじゃないのか?」

 

「いえ、それに関して少々トラブルが発生いたしまして…」

 

「そうか…」

 

 なにやらややこしそうだったので聞かないでおく伊丹。そのトラブルの原因は言わずも分かる通り白蛇こと、薫にあった。

 

ーーーー

 

「お疲れ様です白蛇様。こちらへ」

 

「あ、あぁ…」

 

 ことの発端はジェシカが薫に対してマッサージを行ったことだ。鎧のような服を脱いだ薫は下着姿で用意されたベッドに寝転ばせる。

 

「「「………」」」

 

 一切、飾りっ毛のない下着を身に纏っていた彼女だがスタイルは整えられており同性であるメイドたちも少し息を飲んだ。

 

「では失礼します」

 

 いつも通りの手筈でマッサージを開始するジェシカ。

 

「心地いいな…」

 

「ありがとうございます」

 

 薫もジェシカのマッサージにご満悦。心地良さそうにしていた彼女だったが特に凝っていた肩や足あたりになってくると。

 

「ん……」

 

 ほんの小さく薫の艶やかな声が漏れる。彼女自身は痛いのを我慢しているだけなのだがその声でジェシカや周りでサポートしていたメンバーたちの変なスイッチが入った。

 

(肌の艶もさることながら、非常にさわり心地が良いですね)

 

 今まで、男の固い肌などをマッサージしてきたジェシカにとっては全てにおいて最高レベルの体を持つ薫のさわり心地は最高によく感じられた。

 

 その光景を見て周りのメイドたちもジェシカがマッサージ以外の事に意識を寄せているのは分かっていた。

 

 憧れの存在。そのような方の無防備な姿と言うものは同性ながら、グッと来るものがある。

 

(ゴクッ…)

 

 こうして次に薫をマッサージするのは誰かという争いが勃発。これが完璧な連携を見せていたメイド同士の初めての争いだった。

 

ーーーー

 

 まぁ、ひと悶着はあったものの無事に解決した彼女たちはしっかりと仕事をこなしていた。キョウトの支援もあってブリタニアからの監視の目も緩い。

 

「白蛇様は次は何をされるんだ?」

 

「あぁ、私も独り言を聞いただけなのですが政庁に潜入するとかなんとか…」

 

「なに、政庁だと!?」

 

 このエリア11を束ねる政庁。皇族でもあるクロヴィス殿下の根城に潜入するなど考えもつかなかった。

 

(白蛇様はいったい何を…)

 

ーーーー

 

「ほぉ、外の者を引き入れたか…」

 

 場所は変わり富士鉱山。そこに居を構える桐原は伊丹たちから送られてきた報告書を読んでいた。

 資金と人員を補充を済ませただけではなく。その事をブリタニアに察知されていないというのは大きな点だ。

 

 この作戦は前哨戦の様なものだ。彼女の本命はどこにあるのか…。

 

「桐原公。白蛇より連絡が来ております」

 

「うむ、まわせ」

 

 連絡を貰った桐原は回線を繋がせ薫と話す。

 

「薫かどうした?」

 

「桐原公。ブリタニアの政庁についての情報を欲しいのですが」

 

 政庁の情報。検問やらの情報かと思った桐原はそのまま会話を続ける。

 

「ほう…。前回の作戦の成功報告は伊丹から聞いておる。また仕掛けるつもりか?」

 

「えぇ、ブリタニア政庁内部での実験施設のありかを探りたいのです。バトレー将軍関係にあるかと思いますが」

 

 薫から放たれた言葉。それを聞いた瞬間、桐原の表情は変わる。その情報に関してはこちらに先程届いた出来たての情報だったのだ。

 

「お主、その情報をどこから得た?」

 

「ただの勘ですよ。ですが詳しい場所などは不明です。そちらの方で詳しく分かるでしょう?」

 

(政庁内の協力者も察せられていたか…)

 

 確かにキョウトはNACという表の顔を持ちエリア11の高官と密接な関係にある。その協力者たちについて彼女は知っているような口ぶりだった。

 

(キョウトでも僅かな人間しか知らぬことを…)

 

「…分かった。わしもその筋から聞いてみよう」

 

「よろしくお願いします」

 

 彼女はなにか大きなことをしようとしているのはよく分かった。桐原は彼女の察しの良さにヒヤヒヤしながらも通信を切る。

 

「彼らに連絡をとれ」

 

「はっ…」

 

 早速、薫が求めている情報を得るために部下を動かす桐原。

 

「本当に世界を動かすつもりか…」

 

 

 



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バブみを感じるわぁ…

「なぁ、ミレイ」

 

「なに?」

 

「俺はお前の後輩だよな」

 

「そうね」

 

 どうも皆さん薫です。突然ですが俺はミレイの膝で眠っていました。まぁ、自分がしてほしいとかそんなことは言っていない。昼寝して起きたらこうなってただけだ。

 

「他の奴に見られたら、俺の百合疑惑がさらに上がるんだが?」

 

「じゃあ、女の子は嫌いなの?」

 

「大好きだな!」

 

 モチのロン!だって俺は心は男ですからね、女の体になってしばらく経つけどこればっかりは譲れない。

 

「じゃあ、良いじゃない!」

 

「お前に懐疑の目が向けられるのが嫌なんだよ」

 

「私は別に構わないわよ。むしろ、謎のある会長なんてロマンじゃない?」

 

 なぜか一層元気になるミレイを見てため息をつく。本人がそういうならそれでいいが。向こうは完全にこっちをからかってるのは丸分かりだ。

 

(なんか、弄られてばっかりって言うのも癪にさわるな…)

 

 そう思った薫はミレイの腹に顔を埋めて抱き締める。

 

(バブみを感じる…)

 

 女性とのスキンシップは苦手なのだがミレイは別である。いつも抱きつかれたり触られたりしているせいで彼女に対してだけはこうして強く出る事が出来るのだ。

 

「ちょっとくすぐったいわよ」

 

「……」

 

 慌てるミレイに対して薫は遠慮せずに強く抱き締める。女の子同士ってこんなことするんでしょ?(完全なる偏見)。

 

「…なにかあったの?」

 

「いや、なにもないさ…」

 

「無理は駄目よ…」

 

「わかってるさ…」

 

 人肌ってのは良いもんだ。今になってあの時の潜入作戦が怖くなってきた。自覚は無かったが今まで緊張してたらしい。

 

「ミレイといるとホッとするな」

 

「そう?もっと甘えてもいいのよ」

 

「もうやめとく…」

 

 なんか違うモードになってしまったせいで急に恥ずかしくなってきた。すぐに腹から離れると立ち上がる。その際に彼女は少し残念そうだったが気にしないでおく。

 

「じゃあ、みんなが来る前に仕事を用意しないとね!」

 

「ミレイ?」

 

「あれ?」

 

 立ち上がったミレイだったが急にふらつく。膝枕のせいで足が痺れていたのだろう。というかこっちも寝起きなので足元が確かじゃない。

 

(男の意地!)

 

 ここで彼女に怪我をさせては男としての面子に関わる。無事にキャッチしたのはいいがそのまま机と椅子に激突。

 

「いっつぅ!」

 

「大丈夫!?」

 

 ミレイは無事だったがこっちは色んな所を打ってメチャクチャ痛い。おかげで目が完全に覚めた。痛がるカオルを心配するミレイ。

 

「大丈夫、怪我はないか?」

 

「えぇ」

 

「それは良かった」

 

 手を取り立ち上がらせるとミレイに湿布を背中に張って貰う。

 

「そういえばミレイに話があるんだ」

 

「え、なに?」

 

 話を終えた頃にはリヴァルたちが生徒会室に到着。いつも通りの作業に進むのだった。

 

「遅れました」

 

「遅いじゃないルルーシュ。なにしてたの?」

 

「色々としてました」

 

「またまた、そうやってサボってたんでしょ」

 

 生徒会の仕事を行っていると遅れてルルーシュが登場。待ってましたとばかりにミレイが席を立つ。

 

「ここでお知らせがあります!」

 

「なんですか急に?」

 

「また追加ですかぁ?」

 

「違います!」

 

 ルルーシュとリヴァルは興味ゼロで答えると彼女は少し怒ったフリをしながら話を進める。

 

「カオルの推薦で新たに生徒会に参加してくれる子が居ます。今日は部活でいないけどね」

 

「誰なんだ?」

 

「シャーリーだよ」

 

「あぁ、薫といつもいる」

 

「そうだ」

 

 実は先日。シャーリーを生徒会に勧誘した。彼女も薫と一緒に帰れるしと了承してくれた。こちらの本命としてはルルーシュと親密になってほしいからなのだが。そこは黙っておく。

 

(これでシャーリーも生徒会入り。原作メンバーがついに揃ったか…)

 

 着実に原作の開始が近づいてくる。それまでになんとしても作戦を成功させなければ。

 

ーーーー

 

「なるほど、やはり政庁内で何かしらの実験を…」

 

 生徒会の仕事を終えて帰宅した後。薫は桐原と話をしていた。

 

「うむ、クロヴィスが主動で進められておるらしい。なんの実験かは分からなかったがの」

 

 俺個人としてもC.Cの実験内容はよく分かっていない。C.Cは不老不死らしいのでそれに関係した実験ではあるだろうが。

 

「詳しくは分からんが何人かが特殊なケースに閉じ込められておるらしい。現在、よく使われておるのは二つらしいが」

 

「よくここまでの情報を。ありがとうございます」

 

「いや、政庁に侵入するための用意も送っておく」

 

「ありがとうございます」

 

 キョウトの情報網を持ってしてもここまでが限界か。いや、ここまでよく集められたと言うべきか。

 

(やっぱりこの目で見るしかないか…)

 

 だいたいの場所は絞り込めている。それならなんとかなるだろう。

 

「日本のトップとして顕在する政庁に侵入か…」

 

 ジェシカの定時連絡では組織は現在。大改革の途中でまだ行動するには少し時間がいるというし…。

 

 無理矢理盗み出しても映画の最初あたりみたいに軍に追いかけ回されてしまう。

 

(中身だけこっそり盗み出すしかないか…)

 

 スニーキングミッションなんてやったことがない。メタ◯ギアでも即刻敵に見つかるぐらいだったからな。

 桐原もなんとか準備はしてくれるらしいが…。

 

「むずかしいなぁ…」

 

 



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過去の傷跡

 

 

「うーん」

 

 アッシュフォード学園の生徒会長。ミレイは一つの悩みを抱えていた。

 

(カオルが構ってくれない…)

 

 最近のカオルは忙しそうにあっちこっちを行き来し、放課後になるとすぐに帰宅してしまうのだ。本人に聞いても「なんでもない」っと言われるばかり。

 

 それに心なしか疲れているようにも思える。なにかやらなければならないことでも出来たのだろうか。

 

「まぁ、仕事はしっかりとこなすから。文句はないんだけどね…」

 

 そんな悩みを抱えながら生徒会室にたどり着いたミレイは中で居眠りをしていたカオルの姿があった。

 

(相変わらず綺麗ね)

 

 その真っ白な髪は太陽光を反射させ輝いていた。カメラが手元にあれば撮っていたほどだ。

 ルルーシュにはカオルの過去についてはなにも聞かないでほしいと言われている。

 

(それでも知りたいと思ってしまうのは何でかしらね…)

 

 一度だけ、彼女のお腹を見たことがある。そこには痛々しい傷跡が残っていた。ブリタニア軍の日本の占領時になにかしらあったのかもしれない。

 

 全く起きる気配のないかカオルの横に座ってみる。

 

(まぁ、会長として少しは労ってやりますか)

 

 そうしてミレイはゆっくりと膝を貸すのだった。

 

ーーーー

 

「どうだ?」

 

「はい、解析は続けているのですがいまだに…」

 

「違う、もう一人の方だ」

 

 エリア11政庁の最重要研究区画に足を運んだのは現在、総督であるクロヴィスの補佐をしているバトレー・アスプリウスだった。

 

「肉体改造と必要最低限の知識を教育し終えましたが。どのような措置を行っても意識が目覚めません」

 

「そうか、優秀な兵士になるのは間違いないのだが…」

 

「やはり神根島にて実験を行った方がよいのでしょうか?」

 

「分からん。まさか遺跡の中に生きた人間が眠っているとは誰も思うまい。前例がないのだからな」

 

 拘束着を身につけられた青年を見つめるバトレー。不老不死の女よりは利用できるかといろいろと手を加えてみたが意識が目覚めないのではどうしようもない。

 

「フェネットくんはどこにいるんだ?」

 

「彼は家ですよ。娘に会ってくるそうです」

 

「彼は愛娘家だな」

 

 バトレーは内心ため息をつく。自分自身は所帯をもつという行為は行っていないためになんとも表現しにくい。

 バトレー・アスプリウスという人間は己の全てをブリタニア皇族に捧げると誓った男。家族というコミュニティーは場合としては邪魔になりかねないからだ。

 

「念のためにカプセルに圧縮しておけ。殿下には私から説明して神根島に連れていけぬか聞いてみよう」

 

「ありがとうございます」

 

 研究員が改めて頭を下げるのを見届けるとその場を去る。

 

(やはり、いい気はしないな…)

 

 皇族の為になるからこそこんなことをしてはいるが本来ならこんなことはやらない。人間を隔離して実験を行うなど…。

 

ーーーー

 

「殿下、バトレーです」

 

「ん、バトレーか。入れ」

 

「失礼します」

 

 クロヴィスの執務室に出向いたバトレーは礼儀正しく入室すると持ち込んできた案件の説明に移る。

 

「殿下、例の実験生体の件ですが。研究員から発掘された神根島の方で臨床実験を行いたいと言うことで」

 

「あぁ、あの目を覚まさない生体の事か。それほどまでに大切なのか?」

 

「はい、今までのどの生体よりも優秀なはずだと…」

 

「ならそのように手配しろ」

 

「承知いたしました」

 

 神根島での臨床実験。それは当然ながらC.Cの事ではない。では一体誰なのか?それは薫も知らぬことであった。

 

ーーーー

 

「ちょっとくすぐったいわよ」

 

「……」

 

 その頃、カオルとミレイは生徒会のソファーの上で抱き合っていた。正確にはミレイが抱きつかれたと言った方が正しいが。

 女の子同士で抱き合ったりすることはよくある。ミレイ本人もよく誰かに抱き付きながらスキンシップを取っている。だが彼女はこんな事をするタイプではないと思ったのだが。

 

「…なにかあったの?」

 

「いや、なにもないさ…」

 

「無理は駄目よ…」

 

「わかってるさ…」

 

 やっぱりなにか隠してる、そうミレイは悟った。心を開いてくれていることに喜びを覚えるがそれ以上に彼女が苦しむのを見ていられない。

 

「ミレイといるとホッとするな」

 

「そう?もっと甘えてもいいのよ」

 

「もうやめとく…」

 

 するとあっさり立ち上がるカオル。それに一抹の寂しさを覚えながらも仕方ないと思う。彼女は強い人間だ、だからこそ彼女が求めてきたら答えよう。受け入れられる存在でいよう。

 

「じゃあ、みんなが来る前に仕事を用意しないとね!」

 

「ミレイ?」

 

「あれ?」

 

 こっちも元気よく立ち上がったつもりだったが急に足にの力が抜ける。慣れないことをしてしまったせいだろうかふらついてしまった。

 

「いっつぅ!」

 

「大丈夫!?」

 

 カオルの苦悶の声に驚くミレイ。結構派手な音が鳴り響くが自分は無事だった。彼女に抱き抱えられたミレイは柄にもなく動揺しする。

 

「大丈夫、怪我はないか?」

 

「えぇ」

 

「それは良かった」

 

 背中を強打したのか背中を抑える彼女に急いで湿布などが入っている薬箱を持ってくる。

 

(お腹の傷…)

 

 湿布を背中に張り付けながらミレイは腹にある大きな傷跡を確認する。実に痛々しい様だ。彼女のお面を張り付けているような表情の根元が過去にある。しかしそれを問うことは出来ない。

 

(私ってこんなに臆病だったかしら?)

 

「そういえばミレイに話があるんだ」

 

「え、なに?」

 

 思考の海に使っていたミレイはカオルの言葉によって引き戻されそのお願いを聞くのだった。

 




 最近はやり?のカスタムメイドで主人公を作ってみました。
 技術の進化って凄いですね。


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最強のナイト

 

 

「次の作戦が決まった…」

 

 イバラギゲットーレジスタンス本部。そこで優雅にティータイムと洒落込んでいた者たちは白蛇の言葉に背筋を伸ばして耳を傾ける。

 

「ついに本格的な戦闘ですか!?」

 

「いや、今回も前回と同じくスニーキングミッションだ」

 

 幹部の中で一番の若手である伊坂は彼女の言葉にションボリと肩を落とす。なんかこっちが苛めてるみたいだが断じて違うので。

 

「それで、今度はどこに潜入するのですか?」

 

「トウキョウ租界の中心。政庁だ」

 

「なっ!?」

 

 まさかの言葉にその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべる。中には立ち上がっているものまでいる。

 

「すまないが今回、伊丹たちはなにも出来ない。今回は俺と侍女隊で作戦を遂行する」

 

「我々が参加できないのは薄々、理解できます。しかし、なぜ政庁などに潜入するのですか?」

 

 伊丹たちは日本人顔が政庁潜入に向いていないと判断したのだろうが本音はカオル自身が素顔を晒して潜入しなければならないことが大きな理由だ。

 その点、ジェシカはカオルの素顔を知っているので問題ない。

 

「クロヴィス殿下の殺害とか?」

 

「うそだろ…」

 

「違う…」

 

 柏木の軽口で伊坂を始め、多くの者がさらに動揺するがすぐに白蛇は納める。

 

(確かに、政庁に入れるのならクロヴィス暗殺もできるのか…。いや、それだとC.Cの存在がどこにいくか分からないしなぁ)

 

 原作ブレイクを狙ってこそいるが派手に動き回ればブリタニアから目をつけられる。それだと組織そのものが崩壊する可能性がある。

 

(ジェシカ達のおかげでかなり組織らしくなったけど不安な面も多いし)

 

 やはりディートハルトと言った変態連中がこういう時には大切だなと思えてくる。

 

「今回の目的はブリタニア政庁内にて実験されている。強化人間の奪還だ」

 

「強化人間ですか?」

 

「戦うために作られた兵士。それに近い存在だ」

 

 完全に嘘だ。誰が不老不死で不思議な力を持っている少女を助け出すと言って信じるものか。今回嘘を着いたのは完全に声優繋がりなのだが。まぁ、気にしない。

 

「そのような人道に外れた行為は決して許されない。我々はそれを奪取しその計画を潰す。我々の身がバレないようにな」

 

「そのような情報を一体どこから…」

 

 まぁ、ブリタニア軍でもごく一部しか知らないであろう存在だけど。こっちは一部だが予知に近い記憶がある。それが廃れる前に存分に使って行かなければならない。

 

「キョウトの情報だが。奴等はどこかの島にその人物を搬送して何かしらの実験を行うらしい。その輸送中に強奪する」

 

 輸送中に襲うのは常套手段だが今回は政庁内でも知っている人物は限られてくる。相対的に護衛も少ないはずだ。

 

「では作戦会議を始める」

 

ーーーー

 

「しかしよろしかったのですか?このような少数で」

 

「仕方ないだろう。偽造パスポートがそれしか手に入らなかったんだから」

 

 政庁の検問を車で待っているのはカオルとジェシカの二人。桐原がなんとか用意してくれた偽造パスポートも二枚だけ。それに一気に大量の部外者がやって来たら誰だって怪しむ。

 

「検問はジェシカが担当してくれ」

 

「分かりました」

 

(一応、ブリタニアの学生だしな)

 

 こちらは一応。アッシュフォード学園の生徒としての面も持っている。ここであまり顔を知られるのは困るのだ。

 

(でもC.Cを奪取するには俺は必ず参加すべきだし)

 

 なんだかんだ考えていると無事に検問を突破。今は研究員の格好に身を包んでいる。そしてカオルは牛乳瓶の底のような分厚い丸眼鏡を着けて申し訳程度の変装をしている。

 

(仕方あるまい。俺は美少女だから!)

 

ーーーー

 

「では私は先に船で向かう」

 

「はっ、後で追いかけます」

 

「頼むぞ」

 

 バトレーたち主なメンバーは先に機材などを積んである船から出発。カプセルは空輸で運ぶようだ。

 

ーー

 

「政庁に入ったのはいいが…」

 

「中々の構造ですね」

 

「あぁ、テレビ局と同じだな。テロなどで占領されにくいように複雑な構造になっているんだろうな」

 

 桐原の情報だと、この時間なら輸送機に運び込まれている頃だと思うが輸送機の場所がわからない。

 

「どうされます。このままでは時間が…」

 

「政庁の内部図までは手に入らなかったからな」

 

「おい、そこでなにをしている?」

 

 困っていた二人に背後から声をかける人物。紫色のカスタム軍服を見に纏った女性がこちらを睨み付けていた。

 それを見てジェシカは竹で出来たナイフを袖に忍ばせる。それをカオルは慌てて止めると顔を向ける。

 

「は、はい。私たち、道に迷ってしまって…バトレー将軍に輸送機に向かえと言われたのですが」

 

「やはりお前たちはバトレー将軍貴下の研究員か」

 

「もしや、純血派のヴィレッタ・ヌゥさんですか。お会いできて光栄です!」

 

「そ、そうか。それは良かった…」

 

(原作キャラ来たぁぁぁぁぁ!)

 

 銀髪のポニーテールに褐色の肌。あの金髪メディアに撃ち抜かれていたヴィレッタじゃねぇか。すげぇ、ダイナマイトボディ。まぁ、俺には敵わないがな!

 てか、なんでこんな時に原作キャラに会うんだよ!嬉しくねぇよ!町中で会いたかったよ!というかこの人って確か、誰かといつも一緒じゃなかったけ?

 

「どうしたヴィレッタ?」

 

「ジェレミア卿。実は研究員が迷っていまして」

 

 ジェレミア・ゴッドバルト!ルルーシュのギアスで人生めちゃくちゃになった人じゃねぇか!当初の落ち着いた雰囲気とかたぶん一話から出てきた所からラスボスこの人じゃねって思って脱落した人じゃん!?

 

「あぁ、バトレー将軍の…いつも地下に引きこもっているから他の場所が分からなかったのか?」

 

 うわ、嫌みすげぇ。

 

「この道をまっすぐ行けばナイトメアハンガーに着く。その手前を右に曲がって真っ直ぐだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 撤退撤退!

 

 用件を済ませたらジェシカを連れて速攻逃げるカオル。それを不思議そうに見つめるジェレミアとヴィレッタであった。

 

「白蛇様、あれは?」

 

「純血派のツートップだ。まさかこんなところで会うなんてな」

 

「純血派…」

 

 ブリタニア軍はブリタニア人のみで構成すべきという思想を持ったグループそれが純血派だ。ブリタニアの支配領域は広大かつ戦争状態が続いている。

 広大な土地に延びきった戦線。これを維持するにはブリタニア人だけではとても賄えない状況なのも事実。まぁ、純血派はブリタニアの選民主義の代表組織のようなものなのだ。

 

「そういえば白蛇様はなぜ私たちを受け入れてくれたのですか?」

 

「お前が助けを求めてきたんだろう?」

 

「そうですが。まさか組織にその中心にまで入れるとは思いませんでした」

 

「選民主義は身を滅ぼす。志あるものは皆平等だ、意志のない者に、何もやり抜くことは出来ん」

 

「白蛇様…」

 

 ハルバートン提督の名言だ、有能な人ほど早く死んでしまう。ルルーシュだって死に直面するのは避けられないはずだ。

 

「とにかく、今は輸送機が先決だ」

 

 惚れ惚れとしていたジェシカを連れて飛行場に急ぐカオルであった。

 

ーーーー

 

「おい、あれだろ?」

 

「あぁ、化学兵器らしいな」

 

 その頃、飛行場ではブリタニアの兵士が気味悪そうに話していた。

 

「今日、実験をするらしいぜ」

 

「マジかよ。クロヴィス殿下もよく許したな」

 

 正体不明の紫色のカプセルはブリタニア兵士たちにも気味悪がられている。無差別に人を殺せる殺戮兵器を好ましく思う連中などそんなにいない。決して日本人が可哀想だとかそういった感情は一切ないが。

 

「バトレー将軍貴下とはいえなにやってるんだか…」

 

「おい、早速来たぞ」

 

 そこに見えたのは二人の研究員。白髪と金髪の女性だった。

 

「おい…」

 

「金髪だな」

 

「俺もだ」

 

 輸送機を護衛していた兵士はジェシカを見て密かに品定めをしているとあっという間に二人は輸送機に入っていく。本来ならIDカードの照合を行わなければならないのだが政庁内部というだけあって警備意識は皆無に等しかった。

 

ーー

 

「これか…」

 

「この中に人が入っているのですか?」

 

「そのはずだ…」

 

 原作通りのカプセル。これは間違いない、C.Cが入っていたカプセルに間違いない。

 

(どうやって開けるんだこれ?)

 

 映画では勝手に開いていたから分からないし。ここでゴタゴタしていても始まらない。

 

「ジェシカ、適当なところまで飛ばせ。後で爆破して海に流す」

 

「承知いたしました」

 

 ジェシカはすぐさま操縦席に向かい輸送機を操作する。幸い、まだ準備の途中のようで操縦士も見当たらずに上手く出発することが出来だった。

 

「少し、上手く行きすぎてる気がする…」

 

 しばらくの間は怪しまれないだろうが素人の作戦がこんなに通用するなんて。ブリタニア軍が緩みきっているのか、それともなにかしら変な力がはたらいているのか…。

 

(まぁ、ここは現実世界だしそんなことないか…)

 

 少し気疲れしてしまいカプセルにもたれ掛かる薫。その時、何かの鼓動が聞こえた気がした。

 

「なんだ?」

 

 慌てて振り返る薫。するとカプセルがゆっくりと開き、中から拘束着を着た人間が現れる。

 

 流れるような長い緑髪、美しい顔立ちの美少女が姿を現す。訳ではなく、美しい銀髪を持ったイケメンの男性が現れる。

 

(イケメン死すべし慈悲はない!)

 

 おっと、前世の陰キャ思考が条件反射として沸いて出てしまった。

 ってかC.Cじゃない!?誰だこいつ?銀髪の超イケメン男性って誰だよ。人によってはルルーシュよりのイケメンキャラがコードギアスに居たなんて…。

 

 キャラデザ的に主要キャラなのは分かるけど…。もしかして2期のキャラクターか?ブリタニアの実験対象と言うことは2期のライバルキャラかな?

 

「おい、無事か?生きてるか?」

 

「……っう」

 

(わぁお、イケメン。俺が女だったら惚れちゃうねって、今は女でした)

 

 脈もあるし、息もしてる。碧色の瞳はまるで宝石のようだ。

 

「君は…」

 

「俺は薫、佐脇薫だ」

 

「カオル…」

 

「かなり衰弱しているな。安心しろ、俺が安全な場所まで連れていってやる」

 

「ありがとう…」

 

 そう言って静かに意識を失う青年。まるで眠り姫のようだ、相手が女なら良かったんだが…。まぁ、イケメンだから絵になるし許してやろう。

 

(まぁ、問題が増えただけだよなぁ…)

 

 未確認のキャラの存在に頭を悩ませる薫。目の前で眠る男性を見ながら頭が痛むのを感じていたのだった。

 

 

 





と言うことで例のキャラも参戦します!



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第四章 イバラギ掃討作戦
奇妙な生活


 

(しかしこいつは…)

 

 なんとかブリタニアの政庁から脱出し無事偽装工作は上手くいったしキョウトからブリタニアの動きが活発化しているという話も聞かない点から見てないんだよな大丈夫だろう。

 

(とりあえず手元に置いておくか…)

 

 ここは自分の部屋。ベッドにはカプセルから出てきたイケメン君が転がっている。得体の知れない人物をアジトに置いておくわけにはいかないし。もし発見されてもたまたま見つけたと言えば誤魔化せるだろう。

 

「ブリタニア側の人間か?」

 

 顔を見る限り、日本人ともブリタニア人とも取れる顔立ち。どちらかと言えばカレンと顔の雰囲気が似ている。

 

「あれ、カレンって日本人なのか?」

 

 今思えばカレンもブリタニア人と言われても問題ない顔立ちをしている。

 

「う…」

 

「目を覚ましたか…」

 

「ここは…どこだ…」

 

「俺の家だ。全く、俺の計画が目茶苦茶だ。これで政庁に潜入出来なくなってしまった」

 

 瞬時に辺りを見渡した彼はこちらを振り向くと真っ直ぐこちらを見つめてくる。どうやら警戒しているようでこちらの体を見てくる。武装はしてないので襲われたら抵抗できないのだが。

 

「佐脇…薫……」

 

「そのとおり、お前の名前はなんだ?」

 

「ライ…」

 

「名字は?」

 

「名字?」

 

 意味がわからないと言った風だったがすぐに思い立ったようで頭を捻る。

 

「分からない…」

 

「記憶喪失か…どこまで覚えている?親は兄弟は?」

 

「……」

 

「そうか…」

 

 ライというキャラなんて聞いたことがない。当然ながら友達もそんな人名を言葉にしなかった。もしかして外伝キャラなのか、それならここで大きくストーリーが変わることがない。だがそれは困る、このままではルルーシュがゼロになってしまう。

 

「引き寄せられたと言うべきかな?」

 

「?」

 

「俺も記憶喪失でな。ここ数ヵ月の記憶しかないんだ、親の顔も兄弟が居たのかすら分からない」

 

 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。まぁ、俺は完全な記憶喪失と言うわけではないんだが。

 

「そうなのか」

 

「まぁ、思い出すなら勝手に思い出すさ。しばらくは世話をしてやる」

 

 拐ったくせに捨てるなんて非常識なことはしませんよ。

 

「なぜそこまでしてくれる?」

 

「親近感を感じたからさ」

 

 キンキンに冷えた麦茶を渡し、飲み干す。やっぱり麦茶が一番うまい。

 

「ブリタニアになにをされていたかは知らないがゆっくりと休め。それからでも遅くない」

 

「ありがとう」

 

「きにするな」

 

 政庁侵入から数日後のこの日。それから薫とライの奇妙な同棲生活が始まった。

 

ーーーー

 

 一応、ライには外に出歩かないように言っておいた。しばらくの間は彼の存在を隠しておく必要があるからだ。その間、彼は薫の家に泊まることになった。

 

「歴史については随分と堪能だな」

 

「勝手に出てくるんだ。覚えた記憶はないんだが」

 

「やっかいだな。これじゃ、どこの国出身かわからんな」

 

 当初は必要最低限のものしか置いていなかった部屋は住んでいるうちにどんどんと物が増え、普通の部屋と化していた。この中でもテレビとラジオはライにとって貴重な暇潰しツールだ。

 

「それにしても強いな」

 

「そうか、俺より強い奴ならいくらでもいるぞ」

 

 現在、ライと薫は互いにチェスをしている。20回やって1回勝つ程度の勝率だがライにも勝っている。他にも将棋やオセロ、トランプゲームなど様々な種目で勝負している。

 まぁ、そのほとんどがライに勝ち越されているのだが…。

 

「そろそろ外に出るか?」

 

「いいのか?」

 

「ほとぼりも覚めてきている頃だろう」

 

 彼と同棲して一ヶ月近くの時間が経過した頃。ライにようやくの外出許可が降りた。それまできっちり守っていた彼も誉めてやりたいが仕方なかったのでどうとも言えない。

 

ーー

 

「やはり、外界の刺激と言うのは良いものだろう?」

 

「そうだな」

 

 そして外に繰り出した二人は公園を散策していた。ライは薫の私服を来ているのだがサイズ的には問題ない。身長はルルーシュ並みに高いライだが薫自身もルルーシュ並みの高身長なので問題はなかった。

 念のためにサングラスをつけさせているが…なんとかなるだろう。

 

「薫はテロリストなのか?」

 

「まぁな、反ブリタニア活動を主に行っている」

 

「そうなのか」

 

 馴染みの露天でカリフォルニアドックを食していた二人はベンチで一息つきながら話す。

 

「無理をするなよ」

 

「無理してるように見えるか?」

 

「あぁ」

 

「なら気を付けようか」

 

 イバラギでの反抗作戦、ブリタニア貴族襲撃、政庁侵入をやり遂げた白蛇の組織は他のレジスタンスグループよりも頭ひとつ抜けた存在として認識されつつある。主に関東地方を中心に救出や援護作戦を実施し各関東県の組織との連携を強めている。組織は確実に拡大し強力なものへと変わっていった。

 

(移動は辛いから近場の関東とか山梨を主な任務地にしてるけど連日ドンパチやってるから死にそうだ)

 

 キョウトから送られてくる依頼をこなしているがこっちの身が一つなので本当に疲労で死にそうになる。学校も少しづつ休んでいる様だ。

 

「お前は外に出たくせに能面みたいな顔して…」

 

「それはそっちもだと思うけど」

 

「マジか…」

 

 一ヶ月も寝食を共にすれば兄弟のような感じにはなってくる。少なくとも薫はライの事は信用してる。というか自分の表情筋が死んでるなんてはじめて聞かされたんだが。

 

「お前は記憶を取り戻したいのか?」

 

「薫はどう思ってるんだい?」

 

「俺は別に記憶なんていらない。今、優しくしてくれる友人がいるし、仲間もいる。だから記憶なんて今さらあったところでな」

 

「そうだな、僕もいらないかな」

 

「そうか…なら俺の仲間を紹介してやる」

 

 いつまでもニート生活を送らせるわけにはいかない。でもブリタニアで働くにしたら彼は危険すぎる。なら裏の世界しかないだろう。この選択肢を奪ったのも俺のせいかもしれないが…。

 

「ありがとう」

 

「礼を言われるほどの事はしてないさ」

 

 彼がどんな人物かはある程度分かっているつもりだが。いろんな手段で彼を調べるべきだと言うのはよく分かった。

 

(ジェシカに色々と手配してもらうか…)

 

 

 



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 不思議な夢を見た。一人の女性がこちらに手をさしのべてくれる夢だ。彼女はこちらを見て確かに言った。佐脇薫だと。

 

「う…」

 

「目を覚ましたか…」

 

 目を覚ましたのは見知らぬ部屋。そこには一人の女性がこちらを見下ろしていた。彼女は、夢に出てきた謎の女性だった。

 

「ここは…どこだ…」

 

「俺の家だ。全く、俺の計画が目茶苦茶だ。これで政庁に潜入出来なくなってしまった」

 

 反射的に周囲を確認する。他に人がいる気配がなく、目の前にいる彼女からも敵意を感じない。こちらが警戒しているのを見ているのに落ち着いた態度でじっとしている。それはまるで母親が子供を見るかのような優しい眼差しだった。

 

「佐脇…薫……」

 

「そのとおり、お前の名前はなんだ?」

 

 夢の中で名乗られた名前、それは見事に的中する。そして自分の名を聞かれた時、一瞬戸惑うが頭に浮かんだ名を言う。

 

「ライ…」

 

「名字は?」

 

「名字?」

 

 名字、確かラストネームの事だったはずだが先程のように頭に浮かんでこない。

 

「分からない…」

 

「記憶喪失か…どこまで覚えている?親は、兄弟は?」

 

「……」

 

「そうか…」

 

 何個か質問を投げられるがそれに対し、なにも答えられない。それに対する答えが見つからないのだ。

 

「引き寄せられたと言うべきかな?」

 

「?」

 

「俺も記憶喪失でな。ここ数ヵ月の記憶しかないんだ、親の顔も兄弟が居たのかすら分からない」

 

 目は口ほどに物を言うというが彼女がそのもっともたる象徴だろう。彼女の表情は一切動かないが慈愛に満ちた優しい瞳をしている。おそらく、優しい人なのだろう。

 

「そうなのか」

 

「まぁ、思い出すなら勝手に思い出すさ。しばらくは世話をしてやる」

 

 この瞳を見ていると頭が痛くなる。だれかが頭の奥で微笑んでいるような感覚。

 

「なぜそこまでしてくれる?」

 

「親近感を感じたからさ」

 

 飲み物を渡され一瞬、警戒してしまうがそれを察知した彼女は目の前でその飲み物を飲み干した。すると安心して飲み物を手をつける。

 

「ブリタニアになにをされていたかは知らないがゆっくりと休め。それからでも遅くない」

 

「ありがとう」

 

「気にするな」

 

 まさに運命とも言うべき出会い。彼女がこの時、まさか彼女が僕の◯◯になるなんて思いもよらなかった。

 

ーーーー

 

 同棲生活が始まったが薫から外に出歩かないように言われてしまった。おそらく、自分の事を思っての事だろうが彼女は実に多忙でいつもクタクタになって家に帰ってくる。

 

(学生なのに変だな…)

 

 彼女が普通の人間ではないことは分かっていたことだが。やはり、ただの学生ではないようだ。

 彼女が学校に行っているとき、湧き出た好奇心に勝てずに彼女がいつも持ち歩いているアタッシュケースを開いたことがある。

 

「これは…」

 

 防弾、防刃使用の服とプロテクター。火薬式の回転銃、そして押し入れには刃を潰した刀が置いてあった。

 少し予想を越えた代物に驚くがすぐに思考にふける。彼女はいつも朝には味噌汁を作って白米を炊く。言語も日本語を多用している。

 その点から見て彼女は日本人、そしてこの武装。反ブリタニア勢力の組織に所属している可能性が非常に高い。と言うことは自分はブリタニアに捕まっていたまたはそれに近い状況であった事が考えられる。

 

(助けてくれたのなら何で言ってくれなかったんだ?)

 

 隠された…いや、隠してくれた。というのが正しいのか。

 やはり最初の感触は間違いなかった。彼女は、とても優しい人間だ。それが分かるだけでかなり気が楽だった。

 

ーーーー

 

「機体の整備は念入りにな」

 

「了解!」

 

 白蛇グループ。イバラキ本部では忙しくナイトメアの整備が行われてきた。最近は特に忙しいイバラキでの反抗作戦、ブリタニア貴族襲撃、政庁侵入をやり遂げたこの組織は他のレジスタンスグループからも名が知れてきたことが大きい。

 

 ナイトメアを運用する作戦も増えてきたしその度に白蛇も出撃。組織の回りが良くなったが白蛇の仕事量は激増していた。

 

「白蛇様も体力が無限にあるわけではありません。このままでは倒れられてもおかしくないですよ」

 

「でもうちの組織って白蛇様ありきの組織だからなぁ…」

 

「あと少しだろう。あと少しで白蛇様が思い描いた構想が実現する」

 

「構想とは?」

 

 侍従隊の懸念に割り込んできたのは伊丹。彼女の言葉にジェシカたちも食いついてる。

 

「救援要請などは多くの県からキョウトを通して来る。だが白蛇様は主にここら周辺、関東地方を中心に作戦に参加していらっしゃる」

 

 確かに主に関東地方を中心に救出や援護作戦を実施し各関東県の組織との連携を強めている節はある。茨城、千葉、埼玉、群馬、神奈川、山梨。その主なレジスタンスグループとは協力関係を既に築いていた。

 

「こ、これはもしや…」

 

「そうだ、東京を完全に包囲している形になったんだ…」

 

 レジスタンスグループによる東京包囲網。これが白蛇の狙いだったのだ!(違う)

 

 関東圏の組織が手を取り合うことで戦力と情報を交換しやすくする。それこそが白蛇の描いた関東連携構想だと伊丹は確信していた。

 

「キョウトではない。我々のグループが関東を統制する立場になりつつある」

 

「ゲットーでもかなり噂になってるよ。日本解放戦線、サムライの血、白蛇の三大巨塔だってさ」

 

 伊丹の言葉に柏木も同意しながら情報を付け加える。

 

 日本最大のレジスタンスグループは文句なしに日本解放戦線である。旧日本軍の兵たちが過半数を占める日本解放戦線は保有兵器、兵力ともに最強とも言われている。

 

 その次点として名を挙げられているのが白蛇、ナイトメア保有数は15を越え、中にはサザーランドも含まれている。練度も実戦を重ねているために高い組織。さらに白蛇というカリスマがリーダーであることも多いだろう。

 

 奇跡の藤堂、救世主の白蛇。この名が日本人の中でかなり浸透していた。

 

「流石は白蛇様。我々は坦々と戦っていたのに対してこれほどの思案を巡らせていたとは!」

 

「我々幹部は白蛇の思考を少しでも汲み取らなければならない。確かに白蛇様は最近、オーバーワーク気味だ。侍従隊は白蛇様のケアを怠らないでくれ」

 

「「了解!!」」

 

ーーーー

 

 その頃、アッシュフォード学園においても盛大な勘違いが発生していた。

 

「なぁ、ルルーシュ君。ちょっと気になることを聞いたんだけど」

 

「なんだ、リヴァル?くだらない話じゃないだろうな?」

 

「いやぁ、それがね」

 

 アッシュフォード学園、生徒会室。そこでリヴァルは小耳に挟んだ噂を話していた。

 

「カオルが彼氏とデートしてたって噂なんだけど」

 

「なに?」

 

「なんですって!?」

 

 その話題に当然ながら食いついたルルーシュ。予想外だったのはミレイだった。机の反対側から出現した彼女に度肝を抜かれたリヴァルは話を続ける。

 

「いやぁ、公園でカオルがかなりのイケメンとデートしてたって噂があったんですよ」

 

(あの薫が男とデート…ありえないな)

 

 リヴァルの噂を信じるに価しない物だと判断するがそれでは疑問が残る。火の無い所に煙は立たぬ、日本の諺だが彼女が男性と共にいた可能性は捨てきれない。

 

「もっと詳しい情報はないの!」

 

「んなこと言われてもぉ~」

 

 噂好きのミレイが過剰反応しているのをシャーリー含め和やかに見ている中。ルルーシュは完全に思考モードに入っている。

 

(ならその人物はだれだ?あいつに兄弟なんていない、親と会うなんて考えられないし彼氏と勘違いされないだろう。なら、昔の知り合いか?俺と再会する前の知り合いだとすれば納得がいく。しかし、アイツの過去は悲惨なものだ。彼女とて過去は抹消したい存在のはず。いや待て、薫が好き好んで男性と接触するわけがない。と言うことは彼女が望んでない場面とすれば。そう言った関係のスカウトマン、それとも薫の過去を知っていて脅していたという線もある。薫は金持ちではない、金銭を要求するには説得力がないな。もしや、脅され薫と関係を持とうとする奴である可能性も。つまり、薫が危険な状況に立たされているということになる)

 

「薫が危ない…」

 

 ルルーシュはそう判断する、次に学校で会う時に必ず聞き出して見せると決意するのだった。

 

ーーーー

 

「我々は忘れない、あの時の辛酸を舐めた戦いを!」

 

 ブリタニア軍、イバラギ基地。

 

「下等なるイレブンごときに我々は敗北し、やつらは付け上がり白蛇等という名で名を広めている!これは我々に対する宣戦布告と同義だ!」

 

 薫の指揮の元。撃退したブリタニア軍が態勢を立て直し殲滅作戦を展開しようと動き始めていた。

 

「政庁の部隊が到着次第、我々は下等なる反乱分子を一人残らず殺し尽くすのだ!」

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

「オールハイル、ブリタニア!」

 

「「「オールハイル、ブリタニア!オールハイル、ブリタニア!」」」

 

 ルルーシュの予感は違う形で実現する。転生後の薫に最初の最大のピンチが訪れるのだった。

 

 

 



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イバラギゲットー壊滅作戦 Ⅰ

 

「おい薫!」

 

「な、なんだよ?」

 

「お前、隠していることがあるだろう?」

 

「はい?」

 

 いつも通り、登校し教室にたどり着いた薫はいきなりルルーシュに捕まると質問をされた。

 

(え、まさかテロリスト活動がバレたのか!?)

 

 いや、ルルーシュに対しては特に注意を払って行動していた。そう簡単にバレるわけがない。筈だが、こっちが気づかないうちにミスしている可能性なんて山ほどある。

 

「俺にはなにも問題はない」

 

「そういう風には見えないがな…」

 

 完全に疑いの目マックスのルルーシュ。それを見てチビりそうになる。こんな目をされたのは最初にあったとき以来だ。完全に疑われている。まぁ、前回とは違ってこっちを心配してくれているのは分かるけど。

 

「大丈夫だ…俺を信用してくれ…」

 

「薫…」

 

 ルルーシュの手を取り、目を合わせる。他人に信用されるためには目を合わせて、スキンシップを取る。近しい仲だからこそ出来る芸当だがこうすることでこちらの誠意が伝わるだろう。

 

「分かった…辛かったら言ってくれ」

 

「ありがとう、ルルーシュ」

 

 少し卑怯な手だがテロ活動の事は聞かれては不味い。事情が説明できない以上、こちらからは嘘しかつけない。

 

(悪いな…)

 

ーーーー

 

 友人に嘘をつくというのは気分のいい話じゃない。なんだかんだ言ってルルーシュはこの世界での最初の友達。あまり無下にはしたくなかった。

 

「どうしたの薫?」

 

「いや、ちょっと罪悪感に浸ってただけだ」

 

 その日の授業は残念ながら早退し現在はライと共に電車に乗っていた。イバラキゲットーに向かうためだ。なぜそこまで急いで向かっているかというと伊丹から緊急の連絡が入ったからだ。

 

(もしもの時に作っておいた緊急コールが鳴るなんてな)

 

 作ってはいたが使っていなかったために存在を忘れかけていたが。

 

 列車を降りるとそのまま着替え、本部に辿り着く。そこではせわしなく動くメンバーたちがいた。

 

「伊丹、何があった!?」

 

「白蛇様!」

 

 薫の存在に気づいた伊丹は急いで駆け寄ると状況を説明する。

 

「実はキョウト含め、協力組織からブリタニアに不審な動きありと報告を受け、祖界で活動しているツァールに調べさせた所」

 

 ツァールはメイド組の一人で祖界にて情報収集に当たらせている人物だ。

 

「テレビ局でイバラキゲットーの殲滅作戦が報道されることになっているらしいのです」

 

「イバラキゲットーの殲滅作戦だと?」

 

 ちょっと笑えない状況じゃないか!?ライを連れてくる場面じゃなかった。イバラキのブリタニア軍を退けたせいで逆に報復をしようとしているのか。

 

「はい、既に基地では政庁に居るはずの純血派の機体も確認されています」

 

「不味いな」

 

 純血派ってジェレミアとかの部隊じゃん。カレンを圧倒してたし実力はかなりあるんじゃ…。

 

「とにかく、民間人の避難を最優先に。他県で受け入れてくれる所は?」

 

「白蛇様のお陰で関東圏の県は快く受け入れてくれるそうです」

 

「荷物は最低限度に、地下鉄から避難させろ。避難完了地区から順次トラップを仕掛ける。可能な限り武器をかき集めろ。民間人の避難完了まで我々が持ちこたえる!」

 

「「「了解!」」」

 

 敵の攻撃時間が分からない以上。出来るだけの手をうっておくべきだ。

 

「避難は今から始めろ!すぐに行動するんだ!」

 

 手持ちの戦力は薫専用機《白号》とサザーランドが5機、無頼が10機。あとは歩兵が持てる火力しか持ってない。

 

「周辺の地図を…」

 

「はい!」

 

 凡庸な脳みそをフル稼働させて考える。考えろ、今まで散々戦闘系のアニメを見てきたんだろ。知識はあるはずだ。

 

「この通りにワイヤートラップを仕掛けろ。ここは封鎖する、ナイトメアの配置は中央部に集中させる。縦深防御に徹する」

 

 ガルパンで大洗が大学選抜に仕掛けた戦術だ。相手をあえて進行させてるのを引き換えに敵の被害を増大させる戦術。

 

「では周辺地帯はトラップなどを張り巡らし数を減らす。撃ち漏らしはナイトメア隊で叩く。ランチャーなどの火力歩兵は建物の中からゲリラ戦を仕掛ける」

 

 障害物の多い都市部の戦闘では歩兵の火力はロボットには不利だ。それによって多くのMSが連邦軍に撃破されたか。

 

 問題は純血派の部隊だ。向こうが精鋭であるならばそれなりの備えが必要だ。

 

「なら、あの戦術が使えるか?」

 

 元々はとある超人を撃破するために巡らされた計だがそれを応用すれば。持ちうる限りの戦術を展開する白蛇とそれを地図にメモする部下。それを見ていたライもその作戦書を見る。

 

「それだとここに抜けられたらまずい。爆薬を仕掛けて通路を封鎖させたら」

 

「なるほど、遠隔操作式の爆薬を仕掛けよう」

 

 ライの的確な判断に舌を巻く薫だったがその意見も取り入れて中央部の防衛を磐石にしていく。

 

(戦術にも詳しい。やっぱり、フォウみたいな強化人間の類いなのか?)

 

 そんな時、裏の携帯がポケットの中で震えるのを知覚し慌てて出る。

 

「薫…」

 

「桐原公…」

 

 電話の主は桐原。突然の連絡にただでさえ慌てていた頭がさらに混乱する。

 

「報告は受けておる。どうするつもりだ?」

 

「もちろん、迎撃します。民間人の避難が最優先です」

 

 軍人になったつもりはないがこの街を守れるのは俺たちしかいない。なら、危険だから逃げるなんて事は決してできない。かなり過疎地域だがここには一万近くの日本人が暮らしている。

 人員が増えてきていたからと言っても300に満たない人員だ。真っ正面から戦って勝てるわけがない。

 

「すまないがそこは政庁に近すぎる。こちらからは手を出せん」

 

「必要ありません。我々で適切に対処いたします、この程度の危機など危機ではありません」

 

 あたりまえだがこれは完全なる嘘だ。余裕なんてものはない、でも桐原にこれ以上心配させたくなかった。

 

「お主の無事を祈っておるぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「お前の作り上げた組織はこの日本に必要とされている組織だ。ワシらキョウトとしても事後対処は行う」

 

「桐原公…この恩は必ず」

 

「うむ…」

 

 電話越しだがブカブカと頭を下げて礼を言う。これほどまでにこちらを気にかけてくれるとは思わなかった。歳こそかなり離れているが裏の世界で一番気を許しているのは桐原なのかもしれない。

 

「薫、僕にもナイトメアを貸してほしい」

 

「おい、何を言っているんだ!?」

 

 電話を終えるとライは必死の形相で頼み込んでくる。それを見た伊丹が驚きながら止める。そらそうだ、誰か知らない奴にナイトメアという最高戦力を預けられるわけがない。

 

「あれは知っている。僕は乗れる…」

 

「ナイトメアにか?」

 

「うん」

 

 ライが強化人間ならばナイトメアに乗れることも納得がいく。むしろ、人知を越えた操縦技術を持っているかもしれない。だがナイトメアの数も有限だが。腕のいい兵士を起用しないのは勝率を下げることになるし。

 

「サザーランドにのれ。俺の直衛につけ」

 

「ありがとう!」

 

「白蛇様!?」

 

「すまん、伊丹。だがこいつは信用できる…信じてくれるな?」

 

「っ!いえ、貴女を私は信じ続けます!」

 

 殺し文句みたいになってしまったが仕方がない。最近、こう言った卑怯な言い方が上手くなってきた気がする。

 

ーー

 

 薫が到着してから突貫作業で防衛陣地の制作に徹していた。いつ敵が来るか分からない状況に恐怖を覚えながら作業を続ける。

 

「避難民の状況は?」

 

「全員が避難を始めていますが。完了しているのはまだ半分ほどです。一応、地下鉄構内に避難させていますが受け入れの車が足りず、何度も往復させています」

 

 こういう時、誰かが駄々をこねて逃げかねないものだが従順に従ってくれているようだ。

 

「武装は?」

 

「他のグループからもナイトメアで使えそうな武器を持ち寄ってくれましたが。めぼしいものはなく」

 

「仕方ない、向こうはナイトメアを持ってないんだ」

 

 工事用ナイトメアで使うようのピックや巨大な鉄板などあまり良いものとは言えないが他組織からの精一杯の誠意だ。無下にするわけにはいかない。

 

「白蛇様、ツァールから報告が…」

 

「来たか…」

 

ーーーー

 

 イバラキ基地から堂々と出撃していくナイトメアたち。その中には肩を赤く塗ったサザーランドたちがいた。

 

「ジェレミア卿、なぜこの様な作戦に参加なされるのですか?」

 

「クロヴィス殿下、直々の命令だ。それに久々の実戦、他の者たちを鍛えるのにも最適の狩り場だと思わないか?」

 

 文官たちは渋っていたがクロヴィス殿下は前から機嫌が悪く。頭角を表してきたイレブンたちを目障りに思ったのだろう。

 機嫌の悪さの根元は大事にしていた被検体を失ったことに起因しているだろう。

 

「確かに、そうですね」

 

「それにイレブン風情が付け上がるのも癪にさわる。今のうちに教育をしてやらねばならんだろう」

 

 ジェレミアは余裕の笑みを浮かべながら目の前に広がるイバラキゲットーを見るのだった。

 

 

 



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イバラギゲットー壊滅作戦 Ⅱ

 イバラギゲットー壊滅作戦は薫たちが駆けつけた次の日の朝に開始された。轟音と爆音と共にイバラギの町が破壊されていく。町の外縁部からゆっくりと進撃してくるブリタニア軍は獲物を追いやる狩人のような気分であった。

 

「なんだ、イレブンの中でもマシなレジスタンスと聞いたが張り合いのない」

 

「ふ、イレブンごときにそのような力があるものか。多く殺せなかった方が奢りだぞ」

 

「負けられんな!」

 

 バカな笑い声を響かせるサザーランド。その一機に風穴が開くと爆散する。

 

「な、なん…」

 

 驚く僚機も訳が分からず撃破され絶命する。

 

「こちら柏木ぃ、敵機2機を撃破」

 

「よくやった。ポイントを移せ」

 

「了解ぃ」

 

 柏木が乗っているのは無頼カスタム。ロングバレルのライフルを持ち、カメラをサザーランドの物に変えたカスタム機だ。

 

「こちら伊丹、敵を捕捉」

 

「伊坂です。攻撃します!」

 

 各所に配置したナイトメア隊が敵に牽制攻撃を開始。あわよくば敵の数を減らしていく。

 

「順調だね」

 

「あぁ、空爆されたら終わりだがな」

 

「大丈夫だよ。テロリストの殲滅ごときでは空爆は使わない。金がかかるからね。それに絵にならない」

 

 周囲にはブリタニア人の住む祖界も存在する。ピンポイントで攻撃できない空爆は危険だし、無駄な金がかかる。それにナイトメア隊で敵を蹂躙した方が絵になる。

 まぁ、切羽詰まったら行うかもしれないがその頃には俺たちは逃げているという算段だ。

 

「よく分かっているな…」

 

 さっきのは完全に独り言。というより完全にそんなこと考えてなかった薫は内心、汗ダラダラで答える。迎撃の算段をつけるので精一杯で他のリスクなんてなにも考えてなかったのだ。

 

(知ったか乙。なんでそこで知ってるフリするかな俺は!)

 

 顔を手で覆って隠れたくなるがそれは出来ない。今は敵を迎撃するそれしか許されないのだから。

 

ーー

 

(ちょっと試されたかな…)

 

 それに対してライも内心、ホッと息をついていた。最初こそ仮面を被った彼女の雰囲気に飲まれていたものの、なんとか落ち着きを取り戻して答えきったのだ。

 

 先程の質問、恐らく自分がどこまで俯瞰できるかを試したのだろう。

 

(気を付けないと…)

 

 仮面を被った彼女はレジスタンスグループのリーダー。普段の生活のように甘えさせてはくれないだろう。

 

ーー

 

「各隊、第一フェーズを終了。以後、第二フェーズに移行します」

 

 ナイトメア隊による散発的な攻撃。ゲリラ戦法を使ったのなら敵は固まって移動してくるはず。そこを歩兵で一網打尽にする。

 

ーー

 

「くそっ、イレブンめ!」

 

「ナイトメアの襲撃を警戒しろ!数はこちらが多いのだ押し潰すぞ!」

 

「イエス・ユア・ハイネス!」

 

 読み通りサザーランドは4機編成で固まり、襲撃を警戒しながら進んでいく。中にはグラスゴーの部隊も見かけたがごく少数だった。

 

「まだだぞ…」

 

 バレットを中心とする歩兵隊は息を潜めてナイトメアや装甲車が通りすぎるのを待つ。ナイトメアが足を踏みしめる度に大きな地響きが鳴り、恐怖を掻き立てるが歩兵連中は必死の形相で待機していた。

 

「最優先は歩兵と装甲車だ。上階層の部隊はナイトメアにかましてやれ!うてぇ!!」

 

 バレットの言葉と共にランチャーやRPGが放たれる。背後から奇襲されたブリタニアの部隊は悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。

 

「雑魚が!ぐわぁぁぁ!」

 

 サザーランドも頭部を吹き飛ばされ視界を失う。なんとか無事だったサザーランドも二射目を放ったバレットの弾頭がコックピットに直撃。バランスを失い倒れる。

 

「よっしゃ!」

 

「このイレブンがぁ!」

 

「っ、逃げろ!」

 

 頭部を吹き飛ばされたサザーランドがライフルを乱射。咄嗟に伏せたバレットだが他の兵たちは襲いかかる弾丸や落ちてくる瓦礫に巻き込まれて絶命する。

 

「静かにしてやがれ!」

 

 彼女は潰された仲間の死体からランチャーを剥ぎ取りコックピットに直撃させるとサザーランドは動きを止めた。

 

「こちら歩兵第一分隊。敵を殲滅するが被害甚大、これより撤退する」

 

「バレット、良くやってくれた。お前たちは脱出しろ」

 

「白蛇様…ありがとうございます」

 

ーーーー

 

「ふぅ…」(吐きそう…)

 

 こっちの手駒が増えたお陰で大規模戦闘になっている。それは喜ばしいことだがこれまでにどれだけの命が散ったかは分からない。自分の指示一つで命が簡単に散っていく。それを嫌というほど実感していた。

 

(ちきしょう、逃げたくてたまらねぇよ)

 

 リーダーが居なくなる。その重要性は素人なりに理解しているはずだ。だからこそ動かない、動じていないように振る舞う。理想のリーダーであるために。

 

「作戦は順調だが、これからだな」

 

 まだ純血派が出てきていない。それにこちらの勝利条件は戦闘の勝利じゃない。

 

「ジェシカ、避難民の退避はどうなっている?」

 

「現在、約9割が終了しました。安全圏まで完全に退避するにはあと3時間はかかるかと。」

 

「引き続き護衛を頼む」

 

「了解しました」

 

 まだ避難民の事は察知されていないらしい。その間にこちらも時間を稼がなきゃならない。避難民の護衛にナイトメアを3機も割いているのだ。これ以上の支援は無理だ。

 

「こちら第二防衛ライン。敵多数なれど持たせられます!」

 

「こちらはお任せください!」

 

「すまない、各主要メンバーは最終防衛ラインに終結せよ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 既にかなりの足止め作業を行っている。中心部に迫れば迫るほど足場が悪くなり行動がナイトメアに限定される。地の利はこちらにあるのだがいかんせん数が多い。

 

(どこまで持たせられるか)

 

ーーーー

 

「行けるぞ。このまま白蛇様の指揮があれば!」

 

「ほう、その白蛇とやらはこの奥か?」

 

「なに!?」

 

「このカラーリング。純血派か!」

 

 第二防衛ライン。そこに展開していた無頼2機がジェレミアと接触、一瞬のうちに撃破される。

 

「ふん、他愛もない。皇帝陛下の寵愛を理解できぬイレブン風情では無理もないが」

 

「ジェレミア卿、敵の掃討も完了しました」

 

「敵の防衛ラインも二つ越えた。次辺りが本命だろう」

 

 続いてヴィレッタのとキューエルが続く。純血派の活躍により一瞬のうちに防衛ラインが崩されてしまう。

 

「白蛇とやらがどれほどのものか。このジェレミア・ゴッドバルトが見極めてやろうではないか!」

 

ーーーー

 

「2ー3地点の反応が消えました。敵に突破されたと思われます」

 

「ちっ、力押しではやはり負けるか。各機、予定通りに行動せよ。ライ、俺に着いてこい!」

 

「あぁ!」

 

 薫はスラッシュハーケンをビルの壁に突き刺し白号を降ろすとライのサザーランドを降ろして続く。

 

「伊丹、トラップを起動させろ。ここに民間人がいないと悟られれば後はないぞ!」

 

「了解!」

 

 進軍してくるジェレミア純血派と薫の全面対決が始まるのだった。

 

 



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イバラギゲットー壊滅作戦 Ⅲ

「随分と足場が悪いな」

 

「はい、なにぶん。整備が行き届いていないエリアですので」

 

「いや、これは意図して細工されたものだ」

 

 中心部に近づくほど路面状況が悪化することにより、こちらの戦力はナイトメアに絞られた。ナイトメアの踏破能力が他の兵器より抜きん出ているがゆえの状況。これはナイトメアが兵器としてなぜ存在しているかをしっかりと理解しているやつの策略だ。

 

「まさか、イレブンが」

 

「ふん、イレブンの中でもまともな奴がいるらしいがこのジェレミア・ゴッドバルトの目は騙せん」

 

 ジェレミア・ゴッドバルトはイレブンに対して偏見も差別意識もあるし、慢心もしていないと言えば嘘になる。しかし油断はしていない。戦場での油断は死だ、それだけは心得ていた。

 

「それにしても惰弱だな、イレブンは…。各機、遅れるなよ」

 

「「イエス・マイ・ロード!」」

 

 純血派の機体は合計10機。ジェレミアとヴィレッタ、キューエルたち熟練のパイロットと新兵も混ざった部隊だ。だが新米といっても皇族至上思考を持つエリートばかり、場数もいくらか踏んでいる猛者たちだった。

 

ーー

 

 イバラキゲットーの中心部。巨大な交差点が存在する地点にたどり着いたジェレミアたちは周囲を警戒しながらこの街の違和感に気付く。

 

「ジェレミア卿、これは…」

 

「ここにはまだ我々の本隊は来ていないはずだな」

 

「あぁ、我々が一番に乗り込んでいる」

 

 ゲットーとはいえ、街の中心部だというのに人の気配がない。大規模な制圧作戦とはいえ、情報は秘匿されていたはずだ。だがそれではこの静けさは不気味すぎる。

 

「周辺警戒を厳にしろ!」

 

「「イエス・マイ・ロード」」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩を進めるサザーランド。その足元には細いワイヤーが通っている。ワイヤートラップと言うものだ。

 

カチッ…

 

「なんだ?」

 

 当然の爆発、サザーランドの右足が吹き飛び倒れてしまう。

 

「ワイヤートラップ!?」

 

「くっ、謀られた!ここは罠か!?」

 

 ジェレミアは用意周到に仕掛けられたトラップを見て察するがもう遅い。すでに逃げられないように罠が張り巡らされているだろう。

 

「ヴィレッタ、私に続け。ここを突破するぞ!」

 

「はい!」

 

「敵機接近、ぐぁ!」

 

 ジェレミアが動き始めた瞬間。背後から無頼が襲撃、サザーランド一機のアサルトライフルが破壊される。

 

「正面、スナイパー!」

 

「路地に待避だ!」

 

「駄目だ、そのまま直進!」

 

 キューエルの命令をかき消しながら直進するジェレミア。彼の咄嗟の命令に反応するが一機が対応しきれずに路地に身を翻してしまう。

 

「またワイヤートラップかぁ!?」

 

 サザーランドの胸辺りに張られたワイヤートラップを起動させ瓦礫に埋もれてしまう。

 

「くそっ、ダンベルが!」

 

「スナイパー!」

 

 乱数回避により狙撃を避ける純血派だが一機が左腕を吹き飛ばされる。

 

「おのれ、イレブンの分際で!」

 

「敵機、2機。さらに出現!」

 

 現れたのはサザーランドと謎の白い機体。サザーランドは正確無比の射撃で先頭にいたサザーランドの頭部とコックピットを正確に射抜く。

 

「フォレスト!」

 

「おのれ!」

 

 ジェレミアたちはサザーランドに射撃を加えるが当たらない。当たっているはずなのに機体をすり抜けているように当たらないのだ。

 

「なんだ、イレブンのゴーストか!?」

 

「もう一機も来ます!」

 

 ヴィレッタの目の前に迫ってきていたのは白い無頼。無頼の手にはピッケルが握られており彼女を倒さんと振るわれる。

 

「そんな工事用の備品でなにができる!」

 

 勝ったと言わんばかりにライフルを構えるヴィレッタだが次の瞬間。ライフルを奪われてしまう。

 

「なんだと!?」

 

 ピッケルの先端がライフルのトリガーガードに引っ掛けられそのまま上空に飛ばされてしまう。飛ばされたライフルを白い無頼が回収、ほぼゼロ距離で形勢をひっくり返される。

 

「ヴィレッタ!」

 

 すんでの所で無頼に奪われたライフルが破壊される。ジェレミアの正確な射撃により破壊されたライフルを捨てた無頼はそのままヴィレッタに激しいタックルを喰らわせる。

 

「何て奴だ!」

 

 ジェレミアはライフルを破壊したことで敵が退くと踏んで無頼の背後に向けて斉射を加えたのだが。奴はそれを読んでヴィレッタを潰しにかかったのだ。

 

「イレブンめ!」

 

 だがヴィレッタとてただではやられない。倒れると同時にスタントンファを展開、無頼の頭部めがけてぶん殴る。その一撃は見事に命中し砕けた頭部から触角のような飾りが落ちる。

 それと同時に膝で頭部を破壊され、ピッケルで右肩の隙間をえぐり取られる。

 

「駆動系が!?」

 

 サザーランドの剥き出しの駆動系をピンポイントで破壊され行動不能に陥る前にコックピットブロックを離脱させる。

 

「おのれ、ヴィレッタを!」

 

「イレブンに負ける?誇りあるブリタニアの騎士であるこの私が!」

 

「キューエル!」

 

 恐ろしく強いサザーランドに撃破されたキューエルも無事に脱出。スタントンファで対応するジェレミアも自身が押されていることには気づいていたが退くに退けない状況だった。

 

 いつの間にか無頼の数も増え、敵に包囲されている。本来なら脱出が最善手だろうがまだ動ける機体を捨てて逃げるのは避けたかった。

 

「一瞬で…このイレブン風情が!」

 

 瞬く間に9機も撃破された純血派。用意周到に張り巡らされた罠に飛び込んだこちらに非があるが激昂をせずにはいられなかった。そして残り一機になったところで敵の集中攻撃を受ける。

 

「調子に乗るなよ」

 

 ジェレミアはケイオス爆雷を放り投げると無数の破片がスナイパーに降り注ぐ。たまらずスナイパーは退避するが反応が遅れライフルを失ってしまう。

 

 続いて白い無頼が放った弾丸を避けながら脇道に逸れる。使っていたランドスピナーを収納し小ジャンプ。ワイヤートラップを飛び越えると追撃して来たサザーランドを見て右のトンファをパージ。

 ワイヤートラップを起動させるとサザーランドを足止めする。

 

「これで…」

 

 するとスラッシュハーケンで大きく飛んでいた無頼がピッケルを振りかぶって攻撃、それを左のトンファで受け流す。

 足止めをされたせいであのサザーランドにも追い付かれてしまい絶体絶命に陥る。

 

「くっ…」

 

 一瞬、死を覚悟したジェレミアだったが白い無頼は突然、手を上げて引き返す。すると次々と無頼たちが引き上げていきこちらから離れていく。

 

「なんだ、なんだというのだ?」

 

 突然の撤退行動に意味を見いだせなかったジェレミアだったが機体もボロボロでありそれに乗じて撤退するのだった。

 

ーーーー

 

「ジェレミア卿」

 

「無事だったかジェレミア」

 

「ヴィレッタ、キューエル。無事で何よりだ」

 

 駐屯地に無事に撤退したジェレミア。他の部隊も損害を受けたようで撤退し傷ついた機体や体を直していた。

 

「確認をしたのですがあのゲットーにはテロリストどもしか居なかったそうです」

 

「やはりこちらの情報が漏れていたか。それならあの罠も納得できるな。で、他の部隊員は?」

 

「ジェレミア…撤退できたのは我らだけだ」

 

「…そうか」

 

 あの包囲網から無事に脱出できたのは三人だけ。あいつらは皇室への忠誠の高い奴等だった。かならずや、これからのブリタニアを背負っていく人材だっただろう。

 

「この借りは必ず返すぞ…」

 

 ジェレミアは逃げ去ったテロリストどもを見つめるように静かに呟くのだった。

 

 



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ジェレミアってサザーランド乗ってる時も相当強い

「白蛇様、対象の侵入を確認」

 

「よし、全ての罠を起動させろ」

 

「了解」

 

 イバラギゲットーの中心部。巨大な交差点が存在する地点にたどり着いていたサザーランドの部隊を確認すると行動を開始する。純血派隊は不審そうに周囲の確認を行っている。

 

「やはり、気づかれるか…」

 

「やっぱり、中心街に誰も居ないのは不自然だからね」

 

「そうだな。だがここまで来てもらった以上、返さんよ」

 

 ライの言葉に薫は腹をくくる。今までは散発的な戦闘は行ってきたが直接出ることはなかった。だが今回は全面的に前に出る、最新鋭機にのっているのだ。それぐらいの働きをせねばならない。

 

「作戦開始!」

 

「「了解!」」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩を進めるサザーランド。その足元には細いワイヤーが通っている。通路に仕掛けたワイヤートラップの起動と同時に動き始める。

 

カチッ…

 

「かかった!」

 

 当然の爆発、サザーランドの右足が吹き飛び倒れる。それと同時に戦闘ステータスまで機体を立ち上げて動き始める。

 

「各機、敵に考える隙を与えるな!柏木!」

 

「は~い!」

 

 素早く動き始めるサザーランドたち。高所のビルに伏せていた柏木がロングバレルライフルを構えて撃つ。それは見事にサザーランドのライフルを破壊する。

 

「ほれほれ~。やっちゃいましょう!」

 

「各機、路地警戒!」

 

「「了解!」」

 

 スナイパーがいる以上、身を隠すのは常道。だが路地には全てトラップが仕掛けてある。もしトラップが足りずに突破されても先には部隊が潜んでいる。

 一機が路地でトラップを起動させる、だが他の機体は真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 

「あれ、こっちに来るかぁ」

 

「頭が回る奴がいますね」

 

「ライ、俺と来い!伊丹たちは背後から挟撃をかけろ、柏木は任せる。移動してもかまわん!」

 

「「了解!」」

 

「なら、少し粘るかな!」

 

 柏木は敵が迫っているというのに冷静。乱数回避により狙撃を避ける純血派だが一機の左腕を吹き飛ばす。このおかげで敵もかなり威圧されるだろう。

 

「僕が前に出るよ!」

 

「すまない!」

 

 ライのサザーランドと薫の白号が姿を表し純血派機と対峙する、冷や汗ダラダラの薫だが前に進み続けるととんでもない光景を目にした。ライのサザーランドに弾が当たらないのだ。まるですり抜けているような。

 

「本当に強化人間ってやつなのか」

 

「うおぉぉ!」

 

 自分も負けていられない。下手ではあるがある程度の操作は出来る。それならばこちらは時間稼ぎをしてライに倒してもらうのが妥当だろう。

 

「とにかく、一機!」

 

 白号が手にしているのは工事用ナイトメアが持つピッケル。当然ながら、腕にはスタントンファが付いているが手になにか持ちたかったのだ。ライフルの数だって全員分あるわけではない。なのでこっちが余り物を使っているのだ。

 …かなりみんなに反対されたが。

 

「ピッケルだって使えるんだよ!」

 

 どこぞの鉄血世界の傭兵たちを見てみろ、モッさんとかな!ピッケル一つでヒョイヒョイ敵の武器を剥ぎ取ってくんだぞ!

 

(まぁ、そんなこと出来ないんだけどね!)

 

 勝ったと言わんばかりにライフルを構えるサザーランド。リーチが短いピッケルなのでしっかりと接近して振るう。とにかく射線がこちらからは逸れれば良いのだ。

 

(あれ?)

 

 深く入りすぎて銃身どころか、ピッケルの先端がライフルのトリガーガードに引っ掛かる。そのままの勢いで上空に飛ばしてしまったが両者唖然である。

 

(ほわい?)

 

 飛ばされたライフルを回収、ほぼゼロ距離で形勢をひっくり返えしてしまった。

 

(予想外です…)S◯ftBank

 

「やった、ライフルゲット!」

 

 一人でテンションが爆上がりの薫だったが秒で破壊されてしまいテンション爆下がり。

 

「ちっきしょう、この野郎!」

 

 横にいたサザーランドに怒りの視線を向けると足場の悪い道路に足を引っ掛けて転ぶ。無様に敵のサザーランドにタックルをかましたようになり一緒に倒れてしまう。

 

「痛て!」

 

 倒したサザーランドに思いっきり殴られカメラの調子がおかしくなる。おそらく、頭部を思いっきり殴られたのだろう。慌てて逃げようと立ち上がるがサザーランドともみくちゃになって中々立てない。その時に敵の頭を踏んでしまうが仕方ない、最終的にピッケルをサザーランドに突き立てて立ち上がる。

 

「脳震盪起こすわ!」

 

 まだ反撃するかもと構えていると相手は脱出。なんとか一機を撃退することができた。

 

「なんだありゃ…」

 

「あれが天才と言うものなのか…」

 

 サザーランドたちを包囲しつつある伊丹たちはライの恐ろしく強い姿に唖然としそれを見つめる。

 

「柏木さん!」

 

「まずっ!」

 

 ケイオス爆雷を放り投げつけられた柏木はすぐに撤退。無数の破片が柏木さんに降り注ぐがライフルを失っただけでなんとか逃げられた。

 

「白蛇さま!」

 

「すまん!」

 

 伊丹から受け取ったライフルで牽制射を加える薫。すると最後のサザーランドが脇道に逸れる。そこにはワイヤートラップが仕掛けてあったがサザーランドは使っていたランドスピナーを収納し小ジャンプ。

 ワイヤートラップを飛び越えると追撃していたライを牽制するためにわざとワイヤートラップを起動させられてしまう。

 

「ライ、無理をするな!」

 

 するとスラッシュハーケンで大きく飛んでトラップを回避した薫はピッケルを振りかぶって攻撃、それも左のトンファで受け流されてしまう。

 

「やはり、強い!」

 

「白蛇さま、避難民の退避が完全に完了いたしました」

 

「そうか、すまないな。ジェシカ!」

 

「いえ」

 

 目の前にはサザーランドが一機、こちらを睨み付けているが数の差は歴然、こちらが押せば勝てるはずだが。

 

「全機、撤退だ!」

 

「しかし白蛇さま!」

 

 無駄な被害は我々を滅ぼす。勝てるだろう、勝てるだろうがこちらに被害が出ないはずもない。ただでさえ損耗している戦力をこれ以上減らすのは避けたかった。

 

 真っ直ぐと脱出ルートに向かう薫の姿を見て撤退していく伊丹たち、こうしてイバラギゲットー脱出作戦は成功したのだった。

 

 



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落ち込んだ時って案外変な理由で立ち直る

 元千葉県、ウラヤスゲットー。イバラキゲットーから逃げてきた薫たちは無事に受け入れ先に到達し一息ついていた。

 

「白号の修理を優先しろ!」

 

「ナイトメアの点検は怠るなよ!」

 

 旧遊園地跡に身を寄せた薫たち。ここは元々巨大なテーマパークが存在していた土地なのだが度重なる液状化現象によりブリタニアが危険地域として指定した区画であった。故にここは封鎖され無人地区となってしまったのだ。

 だが住むには十分な場所であることは間違いない。安住の地をなくした彼女たちにはぴったりの場所だった。

 

(あのサザーランド。絶対にジェレミア卿だったよな、あんなに強かったなんて…)

 

 ライたちの案も取り入れた完璧な包囲網を突破されるのは予想外だった。あれ以上の才能を持つスザクが出てくるとなると対処しきれないだろう。

 

(出来るだけ接触しないようにしないと…)

 

 あの戦闘で無頼を4機も失ってしまったが思わぬ収穫もあった。それはライだ。彼の戦闘能力は異常だ。あの軌道、熟練パイロットであろうと無理な動きだ。

 

(才能と言うべきなのだろうか…)

 

 ライは仲間たちに祝福されながら迎えられている。あれだけの動きを見せれば誰だって認めざるを得ないだろう。侍従隊のおかげで人種による確執は比較的和らいでいる。彼にとっても住み良い場所だろう。

 

(ライの参加を喜ぶ前にやっておくことをやっておこう)

 

 まぁ、簡単にいけば挨拶回りだ。今回死んだ者たちの家族、恋人などの者たちに直接会って話す。ただそれだけだ、俺のせいで死んだ、俺のせいでこんな酷い目にあった。これは俺が背負わなければならない罪だ。

 

ーー

 

(ふぅ…)

 

「お疲れさまでした…白蛇様」

 

「ジェシカ、俺は無能だよ。こんな有り様になってしまったのだ、もっとうまい方法があった筈なのにな」

 

「いえ、本当の無能は自身を無能とは言いません。私から見ては完璧ですがそれでも満足されないのなら。ご一緒いたします」

 

 皆は俺を責めなかった、涙を浮かべながら言った。貴方のお陰で勇敢に死ねたと。俺はそんな存在じゃない、ルルーシュみたいな知略もスザクのような武力もない。

 

 逃げてはならない。彼らの期待に応えなければ、死んだ奴が浮かばれない。

 

(もう本当に戻れないところまで来てしまったんだな…)

 

ーーーー

 

 街の人びとはこちらを完全に信頼している。いや、依存していると言っても過言ではない。千葉のレジスタンスもこちらに参加してくれると言うし、規模だけで言えば戦闘前と変わらなくなるだろう。

 

(人間を駒と言う勘定に入れてしまうのは。いやだなぁ…)

 

 組織を運営していくなかでは必要なことだ、だが慣れない。人としての感情が邪魔をしてしまう。

 

(もう手なんて残ってないぞ…)

 

 その後、イバラキゲットー壊滅作戦は成功と言う形で報道が行われることとなる。

 対してレジスタンス間では白蛇グループの評価がさらに上がることとなった。

 

ーーーー

 

「イバラキゲットーの脱出は見事であった」

 

「いえ、優秀な部下と幸運があってこその成功でしたので」

 

 キョウト本部。そこに呼び出された薫は桐原の私室でお互いに向き合いながら茶を啜っていた。

 

「お主、ここ最近は休みなく動いていたようだが…」

 

「はい、少し無理をしていたのは否定できませんが。我々の組織は建て直し中です少しは休めるかと」

 

 桐原の私室では薫は仮面を外している。

 

「無理はせぬことだ」

 

「はい」

 

 常日頃からいかつい顔をしている桐原だがなんだかんだ言ってこっちを心配してくれるのはありがたい。親がいない薫にとって信頼できる人の一人であった。

 

「ところで、枢木のことは覚えているか?」

 

「知ってはいます。しかし昔の記憶は…」

 

「すまぬな…。ワシも探しているが本家とは切れておってな。ブリタニア軍に入隊したことまでは分かっておる」

 

「スザクがブリタニア軍に入隊…」

 

 原作通りになった。正直に言えば彼が入隊するまでに接触してそれを阻止するのも一つの手だと考えていたが。

 

(原作の開始が来年度の始まりだと仮定するなら。時間はない、もう半年も残っていない)

 

 一応いっておくと現在は寒い冬、12月ごろだ。あと四ヶ月でどうにかできるなど、かぎりなく不可能な話である。

 

(困ったなぁ…)

 

「こちらの動きとしてはインド軍区から技術者が派遣されることになっておる。その試作機と新型を送ってくると通達は来ておるが」

 

「新型機ですか?」

 

「あぁ…」

 

(紅蓮のことか…)

 

 紅蓮、詳細なスペックは知らないがブリタニア産ナイトメアとは違い、獣に近い猫背フォルムに大きな右腕に特殊兵器を持つ完全オリジナルナイトメア。確か、あれは日本製ではなかったのだが、インド製ナイトメアだとは思わなかった。

 

(あれにはカレンが乗るはずだったな)

 

「時期にもよるが日本解放戦線かお主らのグループに手配するようになるだろう。お主の白号の戦闘データを元に無頼の改良機の開発も進んでおる」

 

「こちらには優秀なパイロットもおります。新型を持て余すことはありません」

 

「ほう、それは期待できるな」

 

 落ち着きのある和室は二人だけの空間。だが二人が身を置いている環境的に自然と殺伐なものになってしまう。

 対して桐原も世間話と言っても薫の過去については触れないように心がけているので自然と話の内容も減ってくる。

 

「そうであった。この前、菓子を貰ったのだがワシにはちと甘すぎる。手伝ってくれぬか?」

 

「喜んで…」

 

 桐原が取り出したのはまんじゅう。黒糖まんじゅうと呼ばれるものでよく温泉街で見かけられたものだった。

 

「おいしい、お茶の苦味によく合いますね」

 

「そうか、それはなによりだ」

 

 その後もポツポツと経過報告をしながらお菓子を頬張るのだった。

 

ーー

 

「ふぅ…」

 

 その後、かなりの時間をゆっくりしてしまった薫は桐原に進められてキョウトのお風呂でゆっくりする。ここのお風呂は温泉らしく、室内だが露天風呂のようなセットが組まれ、大きな湯風呂でくつろぐ。

 

「あら、だれか居るのですか?」

 

「はい?」

 

 現れたのは長い黒髪の幼女。

 

(オーマイガット!!)

 

 今だに幼女耐性がついていなかった薫は大パニック。風呂場に乱入してきたのは皇神楽耶。日本のレジスタンスグループを束ねるキョウト六家の当主。つまり、日本のレジスタンスグループのトップと言うことになる。

 

「あら…その髪、その肌。貴方が白蛇ですね!」

 

「えぇ…」

 

 女体にはかなり慣れたが違う種別の女体は今でもかなりきつい。ミレイとかの裸だったらまだ興奮しないが(嘘)。やっぱり小さな女の子の裸を見ると言うのは罪悪感と言うか、そう言うのが沸いてくるのだ。

 

「桐原公がいつもおっしゃっておりました。貴方は日本を救える存在だと」

 

「いえいえ、恐れ多い。俺はただながされながらももがいているだけの人間ですよ」

 

「あら、そうでしょうか?」

 

 無邪気な笑み。そんな彼女の笑みを通しては何も分からないが大きなものを感じた。

 

「覚悟がなければこのような道にはたどり着きませんよ」

 

「……」

 

 なんだか励まされているような気がした。それだけ、たったそれだけで俺はお風呂の中でも大きな声で笑ったのだ。

 

「あら、思ったより気さくな方なのですね」

 

「そのようです。ありがとうございます、神楽耶さま」

 

ーーーー

 

「そうか、エリア11の騒動は収まったか」

 

「はい、正直のところ。こちらに要請をと思っておりましたが、テログループは無事に鎮圧されたようです」

 

「クロヴィスは政治より芸術や文化に秀でているからね」

 

 ブリタニア本国。そこでエリア11の情勢を聞いたシュナイゼルはチェスを行いながら話を続ける。

 

「エリア11の騒動ですか…」

 

「あぁ、新興のテロリストが名を馳せていたらしい」

 

「貴方はエリア11の事は気にするのね、他の事は目もくれないけど。それほどの物があそこにあるの?」

 

「あぁ、あそこは気になるな」

 

 シュナイゼルの側に控えるカノン、その二人と対峙しチェスの相手をしている青年が一人いた。

 

「意外だな。ナイトメアと戦場にしか興味がないと思っていたからね。そう言えば、ロイドたちもエリア11でランスロットの実証実験を行うといっていたね」

 

「ランスロットですか…」

 

「あぁ、君は行かなくて良いのかな?」

 

「行きたいのは山々なんですがね。俺は皇帝陛下直属なんでね」

 

 真っ白の軍服に藤色のマントを纏った青年は鋭い目付きで盤上を眺める。

 

「そうだったね。皇帝陛下直属部隊 ナイトオブラウンズ ナイトオブ13 ヴィヨネット卿」

 

 

 




次から原作開始です。



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とある組織の裏会議 夏

本編とは一切関係がありませんのであしからず。





 アッシュフォード学園 某所

 

「これより神聖なる会議を始める」

 

「「「御意!」」」

 

 真っ暗な部屋の中には仮面やら紙袋やらを被り、顔を隠している複数の生徒たちが真剣な眼差しで机に向き合ってきた。

 

「第一次から第五次聖女戦争より半年。我らはあまりにも多くの犠牲を払いすぎた。だが我らは団結し取り決めを行った」

 

「その通り、我ら三大派閥はより平和に聖女を語り合わなければならない」

 

「その通り、これも全て会長派閥のリヴァ…ではなく。ミスターRのお陰だ」

 

「やっぱり、話し合いが大切でしょ!」

 

 会議の面子は男女問わずに多くの人間が参加。数多の激戦を潜り抜けた幹部たちがついに結んだ平和条約のお陰だ。

 

 アッシュフォード学園には古くから存在する《元気と勢い健康系元気満タン!お祭り大好きミレイ・アッシュフォード派》が政権を握ってきたが今年になって新興派閥が二つも誕生した。

 

 《病弱おしとやか系癒し美女、病弱な彼女に献身的に看病して欲しいカレン・シュタットフェルト派》

 

 《これこそクール&ビューティー。趣味も好物、口調さえ男らしい、でもところどころに魅せられる優しさが心に染みるカオル・ヴィヨネット派》

 

「諸君、この季節がやって来た。我らの学校には天候関係なく使用できる屋内プールが存在する」

 

「くっ、カレンお嬢様はお体が弱く学校に来られていない!」

 

「では我らから行こう」

 

 男の手から出てきたのは複数の写真。そこにはプール授業の際に隠し撮りされたカオルの写真が並んでいた。

 

「「「おぉ!」」」

 

「シルクのような美しい肌、穢れのない髪の毛。まさにこの世のヴィーナス。いや、彼女は単なる女神ではない!美と戦いの女神フレイヤ!」

 

「この筋肉、素晴らしい!」

 

「おぉ、プロフェッサー筋肉。分かるのか?」

 

「この肉体は無駄なく鍛えられている。その上、この美しい肌体型を崩さない程度に納めている。脂肪と筋肉の比率が完璧だ!」

 

「そして全てを達観したような無表情がさらに我らをかきたてる!」

 

「それだけじゃないわ!」

 

「ミスL!」

 

「この休憩の写真よ!」

 

 それはカオルが休憩中に水筒の氷を噛み砕いてる場面だ。

 

「嘗めるのではなく噛み砕く。男らしい、こんなお姉さまに迫られたら私は瞬時に昇天してしまうわ」

 

「くっ、駄目だ!俺には会長を敬ってきた歴史がある!うごくな俺の心ぉ!」

 

「ふふっ、ならこれならどうだ?」

 

「こ、これは男女逆転パーティーの!」

 

 男が取り出したのは一枚の写真。カオルは普段から男装をしているのでこの日だけは女装を命じられた。その時にミスターRがフィルムに納めた写真だ。

 普段男装しかしない色気が抑えられている彼女が…。

 

「チャイナドレスだとぉぉぉぉぉぉ!」

 

「チャップレン!」

 

 血反吐を吐き出しながら倒れるチャップレン。

 

「まだだ、我らのターンは始まっていない!」

 

「会長の男装はどうだぁぁぁぁ!」

 

「「「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」」」

 

「カレンお嬢様だって。飼育部の飼っているウサギと戯れている写真だぁぁぁだ」

 

「「「ぐぉぉぉぉぉ!」」」

 

「まぁ、待ちなって。良い写真ならあるよ」

 

「なんだと?」

 

 泥沼の戦場となろうとしていた会場だったがミスターRの言葉に全員が落ち着きを取り戻す。

 

「さぁ、見てらっしゃい寄ってらっしゃい!一枚だけの限定品!」

 

 中身が分からない封筒。それを見せびらかすミスターRに会員たちが続く。

 

「1000!」

 

「2000!」

 

「いや、5000だぁ!」

 

 一気に競り市場と貸した会場でウハウハのミスターRは競りを閉廷する。

 

「はい、終わり。7500円で落札だ!」

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

 

 封筒を渡される落札者。それを全員が注意深げに見つめる。

 

「題名は《会長とカオルのツーショット。会長の膝枕を添えて》」

 

「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

 こうして第一次聖女会議が終わりを告げるのだった。

 

 

 

 





今日もアッシュフォードが平和である。



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一期
魔神が生まれた日


 あのイバラキゲットー脱出作戦から数ヵ月が経過した。白蛇グループは実質的に関東方面のレジスタンスグループの頂点に立ち。以前以上の戦力を保有するのに至った。

 

 絶対的カリスマを持つ白蛇と絶対的エースのライがいる白蛇グループは幾度もブリタニア軍と衝突するも無事に潜り抜けて暗躍していた。だが薫が行いたい本当の目的であるC.Cの情報は手に入れられなかった。

 

「ルルーシュは?」

 

「リヴァルが連れてっちゃって」

 

「また代打ち、ポーカーかなそれとも」

 

「二人とも生徒会の自覚がないんだから…。お金かけてるんですよ!しっかり勉強していれば成績だって…ねぇ。カオル」

 

「そうだな。まぁ、それは本人のやる気次第だこっちからはどうしようもない」

 

 アッシュフォード学園の庭では昨今のエリア11を騒がせている張本人であるカオルの姿があった。もはや、いつもの光景と化したこの光景の中でカオルは違和感を感じていた。

 

(この感じ、どこかで聞いたことがあるような…)

 

 遠い記憶の中で探ってみるがあまり記憶にない。この世界に来て一年ほど経っているために前世の記憶が所々曖昧になってきた。

 

(女の体にも慣れたしな…)

 

 この前まではミレイなしではランジェリーショップに入れなかったが今じゃ平気では入れるようになった。悲しいことに女性の下着では反応しなくなってしまった。

 男としてこれはどうかと思うが今は女なので仕方がない。まぁ、性癖は変わらないが。ガチガチのレズビアンだ(外見)。

 

「それで、今日は平和なのね。カオルは」

 

「ミレイ、ひさびさの俺の昼飯タイムなんだ。そこに触れないでくれ」

 

 放課後と昼休みはだいたいミレイ、シャーリー、ニーナ、カオルの四人で食べているのだがよくカオルは席をはずす。

 

(女になってモテ期が来るとはな)

 

 よく男に告白されるのだ。付き合ってくれとか、俺と釣り合うのは…なんて男にコクられても精神的にサン値減るからやめてほしい。

 

「よく言うわ。この前、ちょっと悩んでたでしょ?」

 

「確かにセリネの告白は少し悩んだな…」

 

 それでも中には女もコクってくる事もある。その時は死ぬほど悩む、普通にタイプだったし。童貞、彼女なしで転生した俺にとっては悩ましかった。

 

「やっぱり、カオルって同性好きなの?」

 

「らしいな」

 

 まぁ、中身は男だしね。

 

「心配するな、シャーリーにはルルが居ることは分かっている」

 

「なっ!?」

 

 ルルーシュに完全ゾッコンとなったマイ天使シャーリー。彼女なら告白されても迷わずOKを出すのだが。

 まぁ、俺の裏の顔があるかぎり。だれかと親密な関係になることは避けなければならない。

 

「むー」

 

 不機嫌そうにするミレイ。正直に言えば、彼女の気持ちは察している。俺はラノベの主人公じゃない、あんなことやこんなことをされれば嫌でも気づく。だけど気づかない振りをし続ける。彼女に血みどろの世界は似合わない。

 

(住む世界が違うって結構きついよな…)

 

ーーーー

 

「ジェシカ、ツァーリから連絡が来てるぞ」

 

「ありがとう、バレット」

 

 ウラヤスゲットー、白蛇グループ本部。そこで待機していたジェシカは潜伏していたツァーリから連絡が来るといぶかしみ、通信機に向かう。

 

「どうしましたか、ツァーリ?」

 

「ジェシカ、紅月グループが政庁に潜入したと」

 

「紅月グループが?」

 

 紅月グループは昔から懇意にしているグループだ。シンジュクゲットーのレジスタンスグループだが政庁に潜入できるほどのモノは持っていなかったはずだが。

 

「伊丹さま、白蛇さまに連絡を」

 

「そうだな」

 

 小さなグループとはいえ、紅月グループが何かしらの行動に出たという事は連絡をいれなければならないだろう。

 

ーーーー

 

「なに、紅月グループが?」

 

「はい、そんな大それたことをするとは思えず。一応連絡をと思いまして」

 

(原作が始まった…)

 

 先程のミレイたちの会話。あれは映画を通して全く同じ台詞を聞いたから違和感があったのだ。ということはC.Cはカレンたちの所に。

 

「シンジュクに向かう。今すぐ動けるか?」

 

「それは厳しいです。すでにブリタニア軍は部隊を展開させています。こちらから動けば本部の場所が」

 

「だろうな、報告ご苦労。他のレジスタンスグループにも通達。警戒レベルを最大限まで上げさせろ」

 

「了解しました」

 

 イバラギの時のように飛び火が出ては困る。伊丹たちに指示を出し終えると再び電話を開いて通話をする。

 

「ライ、今すぐ正門まで迎えに来い」

 

「どうしたの薫?」

 

「説明はあとだ。虐殺が始まる前にシンジュクに向かうぞ」

 

「っ!分かった、すぐに用意する」

 

 ついでに言うとライとは今だに同棲している。ミレイには弟として紹介した。幸いなことに同じ青い目と白い髪を持っていたので向こうも渋々納得してくれたのだ。

 

「シャーリー、午後の授業は休む。先生に言っておいてくれ」

 

「どうしたのカオル?」

 

「ミレイ、シンジュクについてのニュースが入れば連絡を入れてくれ」

 

 心配そうに見つめるミレイ、それを見たカオルは彼女にしか聞こえない声でそう呟くと弁当をしまい正門に向かう。

 

「カオル…」

 

 すごい形相のカオルを見送るミレイは心配そうに見つめるのだった。

 

ーー

 

「薫!」

 

「早いな」

 

「バイクは機動力命だからね」

 

 フルフェイスのヘルメットを受け取った薫はバイクに飛び乗るとライに行くように告げる。

 

「何があったんだい?」

 

「俺が手にいれたかった人物をカレンたちが盗んだんだ。一度忍び込んだから潜入は無理だと思ってたんだが。本当にやりとげられるとはな」

 

「相当の主要人物みたいだね。ブリタニア軍は大慌てだよ」

 

「当然だ、あれが公表されればクロヴィスは廃嫡だろうよ」

 

「そこまでかい?」

 

「そこまでさ、だから怖い。クロヴィスは証拠を消すためには何でもするぞ」

 

 薫の言葉に息を飲むライ。というより、いつもより胸が当たり、少し雑念が入っていたのは言わないでおく。

 

ーーーー

 

「逃げられただと、それでも親衛隊か!」

 

「申し訳ありません。爆発は上方に拡散したのですが、岩盤が」

 

「何のためにお前たちに教えたと思っている」

 

「た、探索を続行します!」

 

 シンジュクゲットー外苑部。そこに移動していたGー1ベース内では残念なことに物語通りに物事が進んでいた。

 

「しかたない」

 

「しかし殿下!」

 

「あれがバレれば私は廃嫡だよ。本国には演習を兼ねた区画整理と伝えよう。クロヴィス・ラ・ブリタニアが命じる、シンジュクゲットーを壊滅せよ!」

 

 シンジュクゲットー壊滅作戦全ての始まりである事件が幕を開けたのだった。

 

 



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白き騎士

「遅かったか…」

 

「これは、ブリタニアの親衛隊?」

 

 薫が急行したのはとある倉庫。そこにはブリタニアの親衛隊の死体が転がっており、その真ん中には突っ立っている銀髪の女性がボーッとしていた。

 

「ヴィレッタ・ヌゥ。こいつがいるということはまだ近くにいるはずだな」

 

 薫は迷いなくスタンガンをヴィレッタに押し付けて気絶させると親衛隊を近くで観察する。

 

「なんでこんなところで親衛隊が…この銃創は自殺?戦場のど真ん中で?」

 

「ギアスだな…」

 

「ギアス…」

 

 ギアスというフレーズに引っ掛かりを覚えるライ。だが薫はそんなことを気づけるほど冷静ではなかった。

 

「こうならないために俺は動いた。情報も集まりやすくした…なのに。なのに、なんだこの体たらくは!くそっ!」

 

 トタンで出来た壁を蹴りつけ苛立ちを隠さない彼女の姿に驚くライ。彼女がこんなに感情を露にするのは珍しかった。

 

「まぁいい。次だ、こうなったらとことん援護してやる」

 

 すると薫は親衛隊の服を物色し始めた。

 

「薫、一体何を…」

 

「親衛隊がいるということはグロースターがあるはずだ。それを奪って参戦する。お前なら出来るだろう?」

 

「そうだね」

 

 薫の言葉に対してライは少し悪い顔をして笑う。彼の表情は豊かだ、最初は能面みたいだったが多くの人と触れたお陰だろう。

 親衛隊のIDカードと制服を奪った二人はすぐに着替える。

 

「でも、制服とIDカードを奪えたからって簡単にナイトメアは」

 

「俺の予想通りならもうすぐ混乱が生まれる。そこに乗じる」

 

(全部後手に回ってしまった。こうならないために力を手に入れたのに…この俺の無能が!)

 

「本当に混乱が…」

 

「カレンたちが盛り返したんだろう」

 

「そんな力があるの?」

 

「いや、ない。俺の師匠が手を貸してるんだろうよ」

 

「師匠、師匠がいるの?」

 

「まぁ、似たようなものだ」

 

 薫の言葉に驚くライ、それを見て慌てて訂正する。

 まぁ今ごろはルルーシュの指示で紅月グループが大暴れしている頃だ。その隙にグロースターを起動、こんなに容易く奪われるなんて軍としてどうかと思うが仕方ない。

 

「どうだ、ライ?」

 

「サザーランドよりパワーがあるね。でもサザーランドより使いやすいかもしれない」

 

「まぁ、お前の腕だと専用機を用意しなければならんからな。グロースターで勘弁してくれ」

 

「いや、その気持ちだけでありがたいよ」

 

 本当は全てのグロースターを頂きたいのだがここは2機で我慢しよう。

 

「これで援護に向かうの?」

 

「いや、ここまで来たら我々二人で状況に介入することは不可能だ」

 

 ルルーシュの邪魔もしたくないしね。

 

「俺たちは新型ナイトメアの威力偵察だ。それとパイロットもな」

 

 ついにスザクとランスロットが出てくる。そんな彼からルルーシュを逃がす手伝いをする。それが今できる選択肢のひとつだ。

 

(最初、俺はここで間違えてたんだよなぁ)

 

 グロースターを奪った二人は物陰に潜んで待っていると二人に大きな振動が襲う。おそらく、ルルーシュがサザーランドの大部隊を地下に叩き落としたのだろう。

 

「よし、そろそろ動くか」

 

「了解」

 

ーーーー

 

「ランスロットMEブースト」

 

「ランスロット、発進!」

 

「ははっ!いきなりフルスロットルか!」

 

 機嫌の良い開発者の声を後ろに残しながら出撃する白き騎士。これでやっと話が始まってしまうのだった。

 

ーーーー

 

「ふっ、もう少しで検問を崩せる」

 

 ブリタニアの大軍勢相手に無双を繰り広げていたルルーシュは有頂天になっていた。自身の持つ知略と戦略、そしてこの不思議な力があればブリタニアをついに切り崩せる。そう思ったからだ。

 

(薫、お前の暗い過去もこの俺が焼き尽くしてやる)

 

 今もなお、苦しむ親友に意識を向けているとき。指示していたテロリストから通信が入る。

 

「こちらBグループ敵影を確認」

 

「ん、増援か。実戦は違うな、状況は?」

 

「全員脱出はしたが、四機があっという間に」

 

「敵の数は?」

 

「一機だよ、一機。新型じゃないのか、見たことのないタイプだ」

 

「おい、どうした?」

 

 不自然に途切れる通信。撃破されたのだろう、それはいいがこの妙な胸騒ぎ。それがルルーシュには気に入らなかった。

 

「なに、実弾を弾く?」

 

「あぁ、どうすれば…石田っあぁ!」

 

(使えないテロリストだな。たかが一機、物量で押し潰せば)

 

 確かに異常な強さを誇る敵ではあるだろう。だが数の暴力に耐えられるはずがない。押し潰せばそれで終わり、その時はそう高をくくっていた。

 

「N4、N5足止めしろ。後続部隊が着いたら囲め」

 

「分かった!」

 

「止められねぇて、こんなの!?」

 

「おい、どうした?」

 

 的確に指示を出しているはずだ。だがそれを力で捩じ伏せられる、現場の詳細が分からない。だからこそ、原因がここでは分からないのだ。

 

「なんだ、何が起こっている?」

 

「うわぁ!」

 

「敵は、本当に一機なのか?」

 

 愕然とする、こんなことがあるのか?戦略を戦術で押し潰されるなんて、本当にあっていいのか?

 

 するとルルーシュが伏せていたビルに白い機体が姿を表し攻撃してくる。

 

「こいつか、俺の作戦を!」

 

 サザーランドが悲鳴を上げる。明らかにパワーが負けている、見たことのないタイプであるし、本当に新型なのか。

 

「たかがパイロットが、よくも!」

 

 珍しく苛立ち、叫ぶルルーシュ。だがあきらかに分が悪い。

 脆い足場が崩れ、落ちる二機。粉塵が上がり、視界が悪くなる。

 

「仕方ない、ここで脱出を!」

 

 脱出レバーに手をかけた瞬間。敵機が空中で回転しながら蹴りをサザーランドに放つ。たまらず吹き飛ぶルルーシュを庇うように横合いから紅いグラスゴーが新型に攻撃する。

 

「おい、借りは返したぞ!」

 

「なに?」

 

「ここまでか!」

 

 パンチを防がれ、スラッシュハーケンも防がれたグラスゴーは攻撃手段を失い、脱出する。

 

「学ばないとな、実戦の要は人間か…」

 

 その隙にビルから脱出したルルーシュは安全圏までの脱出を試みるが異常な加速をする機体に追い付かれつつあった。

 

「ちっ!」

 

 どこまでもしつこい。ライフルで迎撃しようとした時、前方を塞ぐように展開する敵機の姿。それはブリタニア軍の高性能ナイトメア、グロースターであった。

 

(挟まれた。まだ親衛隊の生き残りがいたのか!)

 

 前方には二機、後方には化け物が一機。完全に挟まれたルルーシュは打つ手なしと落胆する。

 

(薫、ナナリー。すまない!)

 

 俺が捕まっても、なんとか逃げ延びてくれ。そう思考したルルーシュの予想とは裏腹にグロースター2機はサザーランドに構うことなく白い機体に突撃していくのだった。

 

ーーーー

 

「サザーランドの援護にまわる。敵はランスロットだ!」

 

「分かった!」

 

 サザーランドとすれ違い、大型ランスを構えて突撃する薫とライ。まさかの状況に動揺したランスロットは薫の一撃はなんとか受け流したがライの攻撃をモロに食らうとビルに激突する。

 

ーーーー

 

「あいたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その光景をランスロットのカメラ越しから見ていたロイドは絶叫しながら頭を抱える。

 

「そんな、あれは親衛隊のグロースターですよ!」

 

「親衛隊とは通信が取れなくなっているらしいじゃない。敵に奪われたとしか考えられないよね」

 

 先程まで無双していた相手とは違う。あきらかに二人とも手練れだ。目立った武器を装備していないとはいえ、スザクが操縦するランスロットが押されている。

 

「敵の指揮官機の位置をロストしました!」

 

「まぁ、いいデータが取れそうだから良いか」

 

「不謹慎ですよ!」

 

 セシルの叫びにロイドは首を傾げるだけであった。

 

ーー

 

「くっ!」

 

 それと同時にスザクも二機のグロースター相手に苦戦を強いられていた。前衛に立つグロースターの動きが精密かつ、機敏に動くために対応が辛い。その上、後衛のグロースターの援護射撃が的確で流れを完璧に奪われてしまった。

 

「くそっ、指揮官機が!」

 

 あのサザーランドには完全に逃げられてしまったが目の前に手練れの二機がある。それの対処が先だ。

 

ーー

 

「くそっ、見てた通りチートだな!」

 

「薫、長期戦は止めた方がいい」

 

「分かっている」

 

 ランスロットのでたらめな軌道。直に見てこそ分かる、こいつは化け物だ。次に会うときには武器も携帯しているのだから手がつけられない。

 

(ここでスザクを殺せば…)

 

 そんな考えが頭をよぎるが否定される。未だ、中でほのかに生き続けるカオルが拒否しているのだ。

 

(仕方ないか)

 

「ライ、ケイオス爆雷を投げる。それと同時に引き上げるぞ、地下を伝えば本部に戻れる」

 

「分かった!」

 

 指示と同時にケイオス爆雷を投擲。瞬時に爆発しランスロットを襲う、ランスロットはシールドを展開するとそのまま受けきる体勢に入る。

 

「撤収する!」

 

 その後は全力で撤退。無手状態ではあったがなんとかランスロットから撤退することが出来たのだった。

 

 



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再会

 

 

「解析が終わるまではなんとも言えないが。グロースターの三倍以上はあると見て良いだろうな」

 

「やられるかと思ったよ…」

 

「あの機体並みの性能機を持てるようになればお前にも楽させてやれるんだがな」

 

 薫の部屋、そこではパソコンとにらめっこしていた彼女が溜め息をつきながらお茶をすする。

 

「敵の新型ナイトメアの性能もそうだけどパイロットも凄まじい」

 

「あぁ、お前と互角に戦えるんだ。かなりの才能だよ」

 

 まだ半年ほどしか見ていないがライは凄まじい。操縦技術もさることながら戦略眼等と言った軍事的な面も鋭い、これほどの逸材がいるなんて思わなかった。

 

「とにかく、回収したグロースターはお前に渡す。残りも俺が乗ろう。キョウトに送りつけて改良を頼んでいるところだ。出来れば連絡が来る」

 

「ねぇ、薫」

 

「なんだ?」

 

 ぴったり真横に座ってくるライを気にせずに話を続ける薫。

 

「薫はあの機体のパイロットとか知ってるんじゃない?」

 

「……余計な詮索は身を滅ぼすぞ」

 

 ためしに脅してみたが彼は怯むことなくこちらを見つめてくる。

 

「あのランスロットって機体。初見で叫んでたから」

 

「ライには敵わんな」

 

「僕が必死に君に食らいついているだけなんだけどね」

 

 ライの洞察力も異常だってなにこの主人公、もしかしてどっかかの夢小説が混ざってるって言っても納得しますけど。

 

「俺は学校に行かなきゃならん。その間にランスロットの解析を頼む」

 

「分かったよ」

 

ーー

 

 その頃、特派では先日盗まれたグロースターについての話が上がっていた。

 

「どうでしたか、あのグロースターは?」

 

「うん、クロヴィス殿下の親衛隊ので間違いないね」

 

 確認を入れたところ、親衛隊は全滅。そのうち二人は身ぐるみを綺麗に剥がされていた所を見れば、誰だってグロースターが盗まれたのは分かる。

 

「テロリストにグロースターが渡ってしまうなんて」

 

「仕方ないんじゃない?あの時はかなり混乱してたしね」

 

「パイロットもかなりの手練れです。コーネリア殿下がご着任なさるというのに」

 

「僕たちが言ってても仕方ないよ。それよりセシルくん、これ見て」

 

 ロイドが示したデータを覗き込むセシルはその数値を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「この数値は異常です。ありえません」

 

「でも現実にいる。面白いねぇ、このグロースターのデヴァイサーは」

 

 それは敵の反応速度を回数ごとに示した数値。その反応速度も異常だがなにより見るべきは回数ごとに分けられていると言うのに全く同じ数字が並んでいることだ。

 

 つまり、あのグロースターのパイロットであるライはいついかなる時もコンマ秒単位で全く同じ反応時間で動いているということになる。人間は意識をどこに向けているか、その時の思考などで反応速度は増減するものだ。だがこの異常な数値、とても人間とは思えない動きだった。

 

「面白くなってきたねぇ…」

 

ーー

 

「こらルルーシュ。今寝てたでしょ、手が止まってた!」

 

「だからって叩かないでくださいよ」

 

「俺を置き去りにした罰だ」

 

「そうそう、なにやってたのよ昨日」

 

「あぁ、いや」

 

 いつも通りの生徒会。本当に生徒がやっていいのかと言うぐらいのレベルまでの事務仕事をやらされるここでは大忙しであった。

 

「はいはい、話を逸らさないの今は部活の予算審査早く終わらせないとどこも予算が降りないでしょ?」

 

「そんなことになったら…」

 

「馬術部なんてマジ怒り。またここに突入してきたりして」

 

 去年の悲劇が思い出される。こちらの手違いで予算が降りなかった馬術部の部長が馬ごと生徒会室に突撃したのだ。

 

「カオルが居なかったらどうなっていたか…」

 

「あれは凄かったわよね…」

 

 まぁ、あれも偶然なのだが。寝起きのカオルが放ったテレフォンパンチが馬の鼻っ面に直撃し部長を撃退したのは良い思い出だ。

 

「とっとと終わらせる。授業に間に合わん」

 

 猛烈なスピードで書類を書く薫を見て唖然とする一同。

 

(書類なんてどんだけ書かされたか)

 

 公私ともに大量の書類を書かされた薫にとってすでに書類の山など簡単な作業と化していた。

 

ーー

 

「終わった」

 

「お疲れさま、カオルが居なかったらヤバかったわ」

 

「なら書類を溜めるな」

 

 書く作業と言うものは肩が凝る、これが中々キツいんだ。ミレイ枕で休んでいると昨日のことを思い出す。

 

(枢木スザク、果たして俺にとってどのような人物なのか…)

 

 ルルーシュとかなりの信頼関係を築けていた点から見てスザクともそれなりの仲なのだろうか記憶がないので想像がつかない。

 

(変に深い関係じゃないと良いんだけど…)

 

 もし、スザクと最近まで関係を持っていたのなら俺が偽物だってことはすぐにわかってしまう。それだけが懸念だった。

 

「教室に戻るよ…」

 

「カオル、昨日のシンジュクってどういう意味だったの?」

 

「……」

 

「毒ガス騒ぎと関係していたりする?」

 

 ミレイの言葉に黙って目を合わせるカオル。彼女自身、どこかで察している点があるかも知れないが。

 

「毒ガス事件とは無関係だ。俺は毒ガスなんて関わってない」

 

「そうよね」

 

 ズルい言い方をした。限りなく嘘に近い真実を述べてしまった。厳密には嘘はついていないがこんな言い方、嘘と同義だ。

 

「また放課後な」

 

「えぇ…」

 

 お互いに後味の悪い結果となってしまったが仕方がなかった。

 

ーーーー

 

(悪いことしたなぁ…)

 

 一抹の後悔を浮かべながら教室に向かっていると反対方向から見覚えのある少女がやって来た。

 

「カレン…」

 

「カオル、久しぶりね」

 

 紅月カレン、偽名ではカレン・シュタットフェルト。彼女を学校で見るのはかなり久しぶりだった。

 

「良かったのか?」

 

「えぇ、教室にいても他の子の相手しなきゃならないし」

 

 再会した二人は屋上に向かうと周囲を気にしながら話す。

 

「シンジュクの件は聞いている。無事でなによりだ」

 

「ありがとう、でも私たちのせいで多くの人が死んでしまったわ」

 

「悔やんでもどうにもならない」

 

「ありがとう」

 

 カレンは意気消沈している様子でいる。こんな彼女を励ましてやりたいのだがどう元気つけて良いか分からない。

 

「でもよく逃げられたな。かなりの部隊が出動していたようだが」

 

「うん、私たちを助けてくれた人がいて。誰だか分からないし、生きてるかも分からないんだけど」

 

「男か?」

 

「たぶん、カオルは知ってたりする?」

 

「まさか」

 

「そうよね、ごめん」

 

 内心、かなり参っているようだ。

 

「無理すんなよ。話は聞いてやるから」

 

「ありがとう…」

 

 無事にカレンとの再会を果たしたカオル。こうして原作の開始を実感したのだった。

 

ーーーー

 

 その後もルルーシュとカレンのせめぎ合いが発生したりしていたが基本的にはノータッチ。二人の間に入ってもいいこと無し、変に二人に警戒されても困るので。

 

 その後、放課後にミレイに呼び出されカレンの歓迎会の準備を行うのだった。

 

「そっち見つかった?こっちも出来たから始めようか」

 

「繊細な料理は肩が凝るな」

 

「大きいから凝るよね胸が」

 

「それは関係ない…はずだ」

 

 一緒に料理を仕上げたミレイとカオルはホールに用意された机に運び込む。

 

「うおーすげ!」

 

「流石はカオルとミレイさん!」

 

「ふふっ、もっと誉めるが良い」

 

 皿を並べる二人に戸惑うルルーシュとカレン。

 

「あの、なんですかこれ?」

 

「知らないはずないだろうルルーシュ。カレンの歓迎会だ」

 

「歓迎会?」

 

「カレンは体の事もあるので生徒会に入れるそうだ。まぁ、他の部活に入ってもカレンの人気では満足に動けないだろうしな」

 

 まぁ、カレンに正体がバレても個人的には良い気がするが念のためにルルーシュを庇っておく。

 

「え、カオルってルルーシュくんと知り合いなの?」

 

「幼少期からな…幼馴染みという奴だ」

 

「そうなんだ…」

 

 俺の幼馴染みと聞いて警戒が緩むカレン、次いでナナリーの登場ですっかり笑顔になってくれた。

 

「さて、まずは乾杯といきますか!」

 

 場も暖まって来たところでリヴァルが取り出したのはシャンパンそれを見た一同は驚く。

 

「あ、シャンパン」

 

「生徒会自らこれは不味いんじゃ…」

 

「まぁまぁ、固いこと言わないで」

 

「もう、カオル。風紀委員として取り締まってよ!」

 

「ん、なんだ?」

 

 なんだいシャーリー、俺はシャンパングラスの手配で忙しいんだ。

 

「なんで、飲もうとしてるのよ!」

 

 シャンパングラスを持って待機しているカオルに突っ込みをいれつつシャンパンを取り上げようとするシャーリー。

 

「ルルーシュパス!」

 

「え?」

 

「あぁ、もう。ルルも簡単に受け取らないの!」

 

 シャンパンの取り合いでごちゃごちゃしている二人。それを横目にカレンにシャンパングラスを渡す。

 

「「あ…」」

 

 あ…とは何事かと思えば襲いかかるコルクが眼前に。それをカレンが手で払うも後から飛び出してきたシャンパンの中身が放物線を描いて降り注ぐ。

 それはカレンのみならずカオルにも見事に降り注ぎ全員がやらかしたと二人を見つめるのだった。

 

ーー

 

「着替えは…」

 

「咲夜子さんが…」

 

 びしょ濡れになったカレンは即刻お風呂へ、カオルは濡れたまま洗濯機の前で腕組をしていた。

 

「ごめんね、カオル」

 

「コルクが緩んだ状態で暴れるからだよ」

 

 特に不快感はないが着替えは欲しい。ミレイの用意してくれた女子制服を携えて奥で着替えるのだった。

 

ーー

 

「やっぱりスカートはスースーしてるな」

 

 こんなミニスカートでよく恥ずかしくないものだ。常日頃ズボンを愛用している身としては恥ずかしいものがある。

 スカートについての脳内議論を行っていたカオルはホールに戻ってくると全員がテレビの前でニュースを見ていた。

 

「ミレイ、どうした?」

 

「クロヴィス殿下が亡くなられたのよ」

 

「殺されたんだってさ」

 

「そうか…」

 

 犯人として挙がったのは知っての通り枢木スザク。これでゼロの初舞台が始まる。ブリタニアに対する反撃の始まりだ。

 

(ゼロの誕生か…)

 

 

 



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ゼロの初舞台だけど当事者じゃないから裏でウロウロすることしか出来ない

ちょっとダイジェスト気味にお送りしております。





「ナナリーは寝かしつけたのか?」

 

「あぁ、不安そうにしていた」

 

「まさか、スザクが人身御供として吊し上げられるとはな」

 

 スザクのニュースを見た夜。ナナリーを寝かしつけたルルーシュはリビングで待っていたカオルと話をしていた。

 

「お前、スザクが生きてること知ってたな」

 

「知っていたが知らなかった。生きてるなんて思ってなかった」

 

 シンジュクでスザクに会ったのは分かっているがシラを切って知らないフリをする。

 

「どうする。スザクが処刑されるのを見過ごすのか?」

 

「そんなことはさせない!」

 

「手伝うぞ」

 

 スザクの救出作戦は俺にとっても大切なイベントだ。原作通りに動くのなら介入しない方が良いのだろうが中身のカオルがざわついて仕方がない。

 

「薫…」

 

「助けるんだろ?俺も手伝ってやる。血にまみれようが死のうが構わない。俺にも手伝わせてくれ」

 

「っ、駄目だ。お前まで巻き込むわけにはいかない!」

 

「ははっ!」

 

 結構真剣に言ったというのに全力で拒否されてしまう。だが

ルルーシュの反応に対して俺は思わず笑ってしまった。

 

「何がおかしい?」

 

「その言い草。スザクの件に介入するって言っていると同義だぞ」

 

「っ!?」

 

 ルルーシュと肩を組むと顔の距離をゼロにする。おでこをぶつけ、目を見る。

 

「ルルーシュ、頼む。役に立たないかもしれないけど俺もスザクを救いたいんだ。例え、血にまみれても…」

 

「薫…。分かった、手伝って欲しいことがある」

 

「ありがとう」

 

ーーーー

 

「この携帯を東京タワーの受付でカレン・シュタットフェルトの落とし物と言うことで届けてくれ。時間は指定通りにな」

 

「それだけでいいのか?」

 

 翌日、朝にクラブハウスに呼び出された薫はルルーシュから携帯を受けとる。

 

「あぁ、それと。お前なら分かるだろうから言っておく。その後、テロリストが現れるだろうが一切関わるな」

 

「嫌だと言わせてくれるか?」

 

「これは俺の問題でもある。薫を巻き込みたくない、俺の大切な友の一人として…」

 

 泣きそうな顔をするルルーシュにこっちも思わず泣きそうになるが堪える。ルルーシュはあくまでも一人で背負おうとしてるのだ。現時点では彼の思いを無下にはできない。

 

「分かった。でも覚えててくれ。お前の理解者は俺だ。お前が困ったとき、苦しい時、俺を頼ってくれ」

 

「…ありがとう」

 

 ルルーシュに抱き締められる、彼も内心一杯一杯なのだろう。彼には母はいない、ずっと頑張ってきた。だからこそ、俺程度で少しでも楽になるのなら俺は命を掛けてやる。

 

 親友として。

 

ーーーー

 

「ミレイ、悪いけど今日は…」

 

 そして放課後、生徒会を休むと告げるために生徒会室に訪れたが誰も居なかった。

 

「ニーナは居たみたいだな…」

 

 生徒会の隅っこ、ニーナ専用のデスクに置かれたパソコンを見る。彼女はいつもここで何かの研究をしている。こんなことならそう言う学校に行けば良かったのに。

 

「ウラン235?」

 

 何故だろう、どこかで聞いた気がする。なにかの素材だったか、結構シリアス系の洋画とかで名前を聞いた気がするが…。

 

「まぁ、いいか」

 

 思い出せないのは仕方がない。悩んでいてもあれなのでさっさと東京タワーに向かうことにした。

 

ーーーー

 

「これ、落とし物なんですけど」

 

「はい、携帯ですね。心当たりはありますか?」

 

「えぇ、カレン・シュタットフェルトって子なんですけど。どこにいるのか分からなくて」

 

「そうですか、ありがとうございます。すぐにお呼びしますね」

 

 受付に指定の携帯を渡した俺はすぐにその場を離れる。念のために手袋をして指紋も残していない。

 

(さて、こっちも動くとするか…)

 

「伊丹、枢木スザクの件だが」

 

「白蛇さま、どうされるおつもりですか?」

 

「無論助けるさ。だが俺たちじゃないがな」

 

「はい?」

 

ーーーー

 

「ナイトポリスを?」

 

「あぁ、その中に紛れてお前が判断して援護するんだ」

 

「判断って…」

 

「ヤバそうなら助けてやれ」

 

 スザクが移送される通りはブリタニア軍が固めるがその下は警察が警備している当然ながらナイトポリスもで張ってくる。アニメ通りならルルーシュたちは下に降りてくるはずその援護をライに恃んでいるのだ。

 

「薫は?」

 

「昔馴染みに会ってくるのさ」

 

 スザクと学園で再会する前に確かめたいことがある。ルルーシュが助け出した後、スザクは一人でブリタニアサイドに戻っていくその時に接触したい。

 

「薫って枢木スザクと知り合いだったんだね」

 

「あぁ、愛しい愛しい幼馴染みさ」

 

「ふーん」

 

 まぁ、こっちには記憶が一切ないんだが仕方がない。

 シンジュクゲットー付近の監視カメラと公衆電話の位置を確認しておく。こんなところで無様に姿を見られるわけにはいかない。

 

「さて、頼むよ。ライ」

 

「分かった」

 

 こちらはあくまでも裏方に徹する。まだルルーシュに俺の存在を知られる訳にはいかないからな。

 

ーー

 

 そしてゼロの初めてのショーが幕を開けた。毒ガスのブラフとオレンジ疑惑。二つの爆弾を納めたゼロは見事に枢木スザクを助けだしその場から飛び降りる。

 

「飛び降りた、やはり仲間が」

 

 下で待機していた扇がなんとか受け止めるもキューエルがハーケンを使い扇に照準を合わせる。

 

「馬鹿者、警備網のど真ん中で!」

 

「今かな?」

 

 キューエルのライフルが火を吹く直前。下で警備をしていたライがナイトポリスのリボルバーで狙撃。キューエルのライフルを弾き飛ばす。

 

「え?」

 

「なに?」

 

「キューエル卿。私の命令に従えないのか?これ以上の行為は処罰の対象となる。いいか、全力をあげて奴らを見逃すんだ!」

 

 こうしてゼロの初舞台、オレンジ事件は終息したのだった。

 

ーーーー

 

「そろそろかな?」

 

 シンジュクゲットー外縁。そこにはバイクに股がり、フルフェイスのヘルメットを被ってスザクを待っていた。ルルーシュたちの位置も把握している。そこから最短でゲットーを出ようとすればここにたどり着く筈だ。

 

「来たか、枢木スザク…」

 

「君は…誰だい?」

 

 姿を表したスザク、明らかにこちらを警戒している。無理もないこの状況なら誰だって警戒する。

 俺はヘルメットを脱ぎ捨てて改めてスザクと向き合う。バイクから降りて顔がよく見えるだろう位置まで移動する。

 

「スザク…俺を知っているか?」

 

「あぁ、薫…」

 

「あぁ、俺は佐脇薫だ…」

 

「薫!」

 

 次の瞬間、薫は押し倒され固いコンクリートに叩きつけられる。

 

「会いたかったよ、薫!」

 

(なんか思ってたより激しめだな!)

 

 質問 スザクと再会したらどうなる?

 

 結論 会った瞬間に押し倒され抱きつかれました

 

 ホワイ?

 

 



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薫という少女

 

 シンジュクゲットーでの虐殺事件。それを切っ掛けに俺は新しい力を手に入れた。ギアスという未知なる力を、それによりクロヴィスの暗殺にも成功し打倒ブリタニアへの道が開かれた。

 

 だがそのせいでスザクが犠牲になってしまった。どうすればいい、スザクを救い出さなければならない。アイツは優しいやつだこのまま殺させるわけにはいかない。

 

「大丈夫か、ルルーシュ?」

 

「薫…」

 

 佐脇薫、またの名をカオル・ヴィヨネット。俺の親友、そして数少ない相談相手だった。だが今回に限っては話せない。話したくない、彼女まで俺の闘いに巻き込むわけにはいかない。

 

 彼女は優しい、そして傷ついている。これ以上、彼女が傷ついているのは見たくなかった。

 

「助けるんだろ?俺も手伝ってやる。血にまみれようが死のうが構わない。俺にも手伝わせてくれ」

 

 だが彼女はそんな覚悟でさえも解きほぐそうとしてくる。駄目だ、甘えてはいけない。俺の手に薫とナナリー、二人の幸せが転がっているんだ。

 

 だが薫の説得に少し折れ、結局手伝わせてしまった。

 

「この携帯を東京タワーの受付でカレン・シュタットフェルトの落とし物と言うことで届けてくれ。時間は指定通りにな」

 

 あきらかにこどものお使い。だが彼女は何も言わなかった。それは俺の覚悟を、彼女は汲み取ってくれたということだ。

 これから俺はブリタニアと敵対するために姿を表す。彼女には気づかれてしまうだろう。だが押さえて欲しい、これは俺のやるべきことなんだ。

 

「でも覚えててくれ、お前の理解者は俺だ。お前が困ったとき、苦しい時、俺を頼ってくれ」

 

 心を鬼にして突き放そうとした時、薫は微笑みかけて言った。彼女は無表情だが微笑んだ気がしたんだ。

 

「薫!」

 

 思わず抱き締める。普段なら恥ずかしくて出来ない事だろうがやってしまった。

 

 しまったと思ったのも既に遅い。だが彼女はそれを静かに受け止めてくれた。何も言わずにただ黙ってこちらを受け止めてくれる。

 

(いい匂いだな…)

 

 ほんの一瞬だけ心に平穏が訪れたルルーシュ。だが薫から離れた後に自らの行為を恥、赤面したのは別の話である。

 

ーーーー

 

 みなさんライです。僕は薫に拾われ半年近く同棲生活をしています。彼女は不思議な人物でした。見た目は文句なしの美少女、だが裏の顔は関東のレジスタンスグループを纏め上げる女傑。

 

(まぁ、家だと全然違うんだけどね)

 

 見てくれは気にしてるみたいだから良いんだけど。彼女は片付けは苦手だしだらしない。何もないと布団から出てこないときもある。スイッチが入るとテキパキするんだけど、普段の彼女は正直、だらしなかった。

 

(だけど…)

 

 戦場の彼女は美しい。何も言わない、何も感情を表さない。ただ目的のために淡々と作戦を遂行する冷徹な指揮官。

 だが彼女は激情家でもある。仲間とのコミュニケーション、死んだ仲間の供養は欠かさない。そんな彼女だから皆が付いてくる。彼女は決して表には出さないけど心で泣いているのだ。だからこそ、僕がそばに控えようと決めた。例え、世界が全て敵に回ろうとも尊敬する彼女を護る騎士になろうと決めた。

 

「だから僕は君を信じる。僕は薫の振りかざす剣の切っ先だから」

 

 ライは静かに射線を合わせる。銃口の先にはキューエルのサザーランド。超人的な狙撃でライフルを弾いた彼はすぐさま撤退するのだった。

 

ーーーー

 

「先程のナイトポリスはお前たちが手配したのか?」

 

「いえ、ゼロが手配したのでは?」

 

「私は手配していないな」

 

 スザクを連れて撤退中のルルーシュは疑念を覚える。他のレジスタンスグループだとしてもあの警備に紛れ込めるものなのか?

 それだけ強力な組織が俺の動きを察知してあらかじめ手配していた。つまりそれは、こちらの動きが予測されているということだ。

 

(バカな、前情報など皆無なこの場面で適切に兵を配置させたというのか)

 

「もしかしたら…」

 

「どうした、扇?」

 

「いや、確信はないんだが心当たりなら」

 

「誰だ?」

 

「白蛇だよ」

 

「ハクジャ?」

 

 聞き慣れないフレーズに思わず聞き返すルルーシュ。

 

「関東のレジスタンスグループを纏め上げたカリスマで。この東京を囲むように配置されたレジスタンスグループを配下に納めた人で蛇の仮面を被った女性だ」

 

「女性だと?」

 

「あぁ、日本解放戦線に並ぶ一大レジスタンスのトップだよ」

 

 そのような組織が存在していたとは想定外だった。それに俺の策略を完全に把握していたこの配置。相手はかなりの切れ者だろう。

 

(もしかして…)

 

 あの時、シンジュクで新型を足止めしてくれた2機のグロースターもその白蛇の手配した部下だとすれば。俺は白蛇の掌で踊らされていることになる。

 

(バカな、そんなことまで折り込み済みだとでも言うつもりか)

 

 だが無視は出来ない。ゼロという名を広めるためには白蛇は避けては通れぬ道。

 

(全てお前の思い通りに動くと思うなよ)

 

 他人の掌で踊らされることが最も嫌いなルルーシュは拳を強く握りしめる。

 

(とりあえず、スザクの方が先だな)

 

ーーーー

 

 枢木スザクが記憶している限り、佐脇薫という人物はこの世から隔絶した天使であった。枢木神社近くの山、そこの小川で出会ったのが全ての始まりだった。

 

「だれだ、お前は?」

 

「佐脇薫…」

 

 髪も肌も全身真っ白な少女。少年期のスザクからすれば見たこともない神秘的な存在だった。だが彼女はその美しい肌にいくつもの打撲痕や裂傷を抱えており、血まみれであった。

 

「お前、空から落ちてきたのか?」

 

「え?」

 

 傷ついた天使、それが幼き頃の薫であった。少なくともスザクの中ではだが。

 

「スザク…俺を知っているか?」

 

「あぁ、薫…」

 

 拷問によって体をボロボロにされ疲れきった体にムチ打つ。他の名誉ブリタニア人のためにゼロの元から離れたスザクは待ち受けていた人物を見る。

 

「あぁ、俺は佐脇薫だ…」

 

「薫!」

 

 懐かしき少女、薫がその場に立っていた。ルルーシュとの再会でもしやとは思っていたが彼女もあの戦火から生き延びていたのだ。

 

「会いたかったよ、薫!」

 

 感激のあまり我を忘れて彼女に抱きつく、薫はそれを黙って受け入れてくれた。

 

「あ、ごめん。いきなり」

 

「気にするな、びっくりしたがな」

 

「うっ…本当にごめん」

 

 土にまみれた服をはらう薫は無表情のまま立ち上がるとこちらを静かに見つめる。

 

「ごめんね、一緒に逃げようって言ったのに」

 

「……スザク。早く行くぞ」

 

「え、どこに?」

 

「ブリタニアに連絡するんだろう?公衆電話までは付き合ってやる」

 

 そう言った彼女はバイクのヘルメットをスザクに投げ渡すと自分もヘルメットを被る。

 

「出てきたら、また会おう…」

 

「うん、ありがとう」

 

 幼馴染みの言葉に久しぶりに笑った気がするスザクは笑みを浮かべながらバイクに跨がるのだった。

 

 

 

 



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悲劇への布石

 オレンジ事件から翌日。薫はアッシュフォード学園ではなく富士のキョウトにまで足を運んでいた。

 

「うむ、来たか。白蛇」

 

「ご招待いただき、ありがとうございます」

 

「うむ、お主らにもこれを渡そうと思ってな」

 

 桐原に呼び出された薫はライ、伊丹たちを引き連れてやって来るとそこには無頼改が並んでいた。

 

「これは、白号ですか?」

 

「いや、白号の戦闘データをもとに開発された無頼の改良機だ。お主らに5機、日本解放戦線に5機を任せるつもりだ」

 

 回転刃刀が装備された無頼改は日本人向けにカスタムされた専用機、それを任されるということは俺たちがどれだけ信頼されているかがよく分かる。

 

「無論、白号用のパーツも用意してある」

 

「壱型はお前のものだ。お前が使いやすいようにカスタムしろ」

 

「ありがとうございます!」

 

 白号壱型(元サザーランド)は伊丹に任せている。後は伊丹が上手くやってくれるだろう。

 

「それとお主らが奪ってきたグロースターなのだがな…」

 

「これは、グロースターですか?」

 

 目の前にあるのはグロースターからかけ離れた見た目の機体。肩には白い文字で蛇と書かれたエンブレムも施されているために白蛇用とは分かるのだが。

 

「なんか、かっこよくなってる」

 

 頭部は兜を被ったようなデザインからツインアイに変更、ブレードアンテナがつけられ通信能力が強化してある。コックピット周りや膝、肘などに装甲が追加され防御力と攻撃力が上がっている。

 肩アーマーは紙を真ん中で折ったテントのような形で横からは刃が見えている。

 

 腰には愛用のピッケル。コックピット側面には回転刃刀が懸架されている。それに加え、衝撃拡散自在繊維が編み込まれたマントを装備している。

 

 白号弐型《白夜叉(しろやしゃ)》これが薫の愛機となるのだ。名前のわりに見た目は完全に騎士だが気にしない。

 

「貴方が白蛇ね。会えて光栄だわ」

 

「このレディは?」

 

「EUから派遣された技術者だ。スマイラス将軍貴下の開発部隊だったらしいのだが」

 

「初めまして、クリミア・ディンセンフォールよ」

 

 美しい黒髪を短く切り揃えたクリミアは白蛇と握手を交わす。

 

「失礼でなければ…なぜEUから?」

 

「EUの首脳部はパンツァー・フンメル系のナイトメアモドキしか採用しないからよ!メーカーの利権とかが絡まっているんでしょうけど。それなら、私たち開発部が居てもいなくても同じじゃない?」

 

「確かに、EUは大きな損失だな。君のような技術者を失ったのは」

 

「ふっ、口が達者なのね」

 

「そうかい?」

 

 なるほど、EUの技術者が作ったデザインだから騎士っぽいのか。純日本製ナイトメア《白夜叉》。素材はブリタニアのグロースター、開発者はEUの技術者。どこに日本がいるのかと言いたくなるがこれもプロパガンダのためだろうな。

 

「桐原公、もう一機のグロースターが見当たらないのですが」

 

「あぁ、それはなぁ…」

 

「ないわよ。だって2機分使ってるんだもん。その代わり、第七世代に匹敵する性能を獲得したわ」

 

(うそん…)

 

 ぶっちゃけ、ライの方が腕は上なのでライのために作って欲しかったのだがまさかのパーツ化。ワンチャン、この白騎をライにあげた方が。

 

「いや、安心しろ。この機体ほどではないがグロースター以上の性能をもつ機体を用意してある」

 

「それは良かった」

 

 うん、ほんとうに良かったよ。俺はグロースター2機の改良をお願いしたのに一機が消えてたよテヘッなんて言われたら怒るところだったよ。

 よく見れば白騎の後ろに見たことある機体が覗き込んでいる。確か、あれは映画で藤堂たちが乗っていた機体に酷似している。

 

「月下の先行試作機だ。これはインド軍区から来た技術者が作ったものだが性能は折り紙つきだ」

 

「月下、先行試作機か…」

 

「輻射波動と呼ばれる兵器を搭載した機体でな白騎に劣らぬ性能を誇っておる」

 

「こんな物まで用意してくださるとは…ありがとうございます」

 

 本当に桐原には頭が上がらない。深々と頭を下げるとその先に巨大な兵器を見つけた。

 

「あの奥の機体は…」

 

「あぁ、あれは…」

 

「なるほど、貴様があの白蛇か」

 

 奥にあった巨大な大砲を持った兵器を見つけた薫だったがその質問は後ろからやって来た野太い声に遮られる。

 

「白蛇…」

 

「失礼ながら貴方は?」

 

「日本解放戦線の草壁である。俺も機体を受領しに来たのだ」

 

 薫を庇うように前に出るライを見て気にくわない表情をした草壁だが話を続ける。

 

「白蛇と申します。以後、見知りおきを」

 

「あぁ…」

 

「中佐、白蛇さまにその様な態度は」

 

「ほう日本解放戦線を抜け出したかと思えばこの様な小娘の下に着くとはな伊丹大尉」

 

 草壁の言いように後ろに控えていたジェシカたちも殺気を強める。まさに一触即発、日本のレジスタンス本部で二大組織が睨み合う結果となってしまった。

 

「伊丹、ジェシカそれにライも…。落ち着け」

 

 こんなところで喧嘩などたまったものではない。まだ正式な面識がない日本解放戦線に悪いイメージを持たれても困る。

 

「しかし白蛇さま!」

 

「大層な噂の割りに対して俺のような若輩者が出てこれば当然の反応だ。仕方ない」

 

 これが本心だ。というより、噂に尾ひれが着きすぎて尾ひれが本体みたいな感じになってしまっている。この反応が当然なのだ。

 

「まだ子供か?」

 

「あんな奴があの白蛇とはな」

 

 草壁の部下たちも白蛇に対して落胆の声を上げる。

 

「ふん、我らと並ぶレジスタンスと聞いてみればとんだ張り子の虎だな。部下も程度が知れる」

 

「っ!」

 

 草壁の吐き捨てるような問答に薫は一瞬だけ体が冷えるような感覚を感じた。その瞬間、腰の刀を抜刀。瞬時に草壁の首元に刀を止める。

 

「なに!?」

 

「中佐!」

 

「部下の悪口は止めて貰おうか。無能の俺に付き合ってくれてる気の良い奴等だよ」

 

 目にも止まらない抜刀に全員が唖然とする。彼女が生身で戦おうとするのは今までになかった分、驚きである。

 

「ふん、勝手にしていろ」

 

 捨て台詞を吐いた草壁は受領しに来た雷光の元に向かう。それを見て薫は少し後悔する。

 

「白蛇さま!」

 

「すまんな、伊丹。お前の立場を悪くさせた」

 

「いえ、貴方の思い。我々にはしかと届きました」

 

 薫の前で膝を降ろして跪く伊丹たちを見て恥ずかしくなってくるがここはあえて偉そうに深く頷くのだった。

 

ーーーー

 

「超電磁式榴散弾重砲?」

 

 なんじゃ、その漢字の塊?

 

「うむ、簡単に言えばレールガンだ」

 

「そんなものを日本解放戦線はなぜ?」

 

「なにかの作戦で使用すると言っておったが」

 

「日本解放戦線がですか?」

 

 かなりの間。目立った組織行動を行わなかった日本解放戦線がこんな下準備をしているとは。

 

「白蛇さま…」

 

「…嫌な予感しかしないんだよなぁ」

 

 別に平等主義を唱うわけではないが日本人至上主義というのも違う。

 

(ああいうタイプは周りを巻き込んで暴走するんだよなぁ)

 

 そんなカオルの懸念は見事に的中するのだがそれを知るのはまだ後の話である。

 

 




 白蛇の抜刀が早い理由。

「双龍閃!天翔龍閃ぃ!」

 秘密の趣味にて刀を振るっているせい。


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キャラ 機体設定

 佐脇 薫(さわき かおる)

 

 本作の主人公。高校二年生の時、コードギアスの映画を見た後に転生。コードギアスの事は映画で見た内容と友達の解説から教えてもらった予備知識しか持っていない。

 本人は戦闘などに関わらずひっそりと暮らしたいようだが周りが許してくれない模様。

 

 カオル・ヴィヨネット(佐脇薫)

 

 転生した薫がなっていた姿。実名は同じで佐脇薫、日本人らしい。メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体であるアルビノで肌や髪が白い、彼女の顔立ちの良さもあって人間離れした美しさを誇っている。

 ついでにスタイルも良く、カレンやシャーリーたちと比べてもひけを取らない。

 どうやら転生してきた薫がそのまま性転換したのではないようだが詳細は不明。

 

 ライ

 

 薫がC.Cと間違えて連れてきた少年。並外れた身体能力とナイトメア操縦技術、軍略を兼ね備えた万能青年。顔も良く白蛇グループにおいてもファンがいる模様。

 薫本人はその並外れすぎた能力からどこかの夢小説から混ざってきたのではと考えているが実際はPSPソフト。コードギアス《ロストカラーズ》の主人公。

 ゲーム内にはないルートに入った彼はどうなるのかは不明である。

 

 伊丹

 

 白蛇グループの実質的No.2。旧日本陸軍大尉で元々は日本解放戦線にいたが帰郷してテロ活動を続けていた。

 

 柏木

 

 マイペースでドライな性格。狙撃の腕はピカ1であり狙撃に特化した無頼を使っている。

 

 伊坂

 

 メンバーの中では15と最年少。勢いはあるが後先考えずに突っ込む毛色がある。

 

 ジェシカ

 

 白蛇グループの侍女隊隊長、白蛇に絶対的な忠誠を誓っている。彼女の素顔を知っている数少ない人物であり密かに白蛇に思いを寄せている。

 

クリミア・ディンセンフォール

 

 白号弐式こと白夜叉の開発者。元々はEUの技術者であったが兵器製造を受け持っている企業の顔色を伺う首脳部に嫌気を覚えてキョウトの技術者として海を渡ってきた。

 といってもロイドやラクシャータと言った画期的な技術を開発したわけではないただの技術者であるので既存の兵器などを組み合わせるマイナーチェンジを主にしている。

 

 しかしユグドラシルドライブなどのエンジン工学についてはエキスパートでありダブルユグドラシルドライブは彼女の完全なオリジナル。(欠点は多いが)

 

 

 白夜叉

 

形式番号 

 

分類 第七世代相当KMF

 

所属 白蛇グループ

 

製造元 ブリタニア軍

 

生産形態 フルカスタム機

 

全高 5.18m(ブレードアンテナ込み)

 

全備重量 9.72t

 

 デザインベースはブレイクブレイドのトロイア

 

 機体色は白で肩には蛇と漢字で書いてある。シンジュク事件にて薫とライが強奪したグロースター2機とシンジュク、イバラギ事件にて回収されたサザーランドのパーツを遠慮なしに使い開発されたワンオフ機。結局のところはグロースターベースのツギハギでありバランスが悪く、運用には高度な操縦技術が必要とされる。 

 

 高性能機であるグロースター2機分のユグドラシルドライブを使用しているために基本的な性能は紅蓮やランスロットに引けを取らない高性能機と化した。

 

 しかし、クリミアの作ったダブルユグドラシルドライブは稼働時に異常発熱が発生、長時間戦闘はオーバーヒートしてしまうために行えないという弱点がある。

 

 対応策として機体装甲の隙間に排気ダクトを施して定期的に冷却している。そして通常行動モードと戦闘モードの差別化しユグドラシルドライブの出力を制限している。

 故に通常行動時は一般のグロースターと性能は大差ない。

 

 武装

 

 万能戦闘対応型という名の近接特化仕様で技術者の趣味で改造されたこの機体には固定武装が豊富に取り揃えてある。右腕部には仕込みチェーンソー、左腕部には速射砲が内蔵されている。

 

 頭部には外付けのバルカン砲や肘や膝、コックピット周りの装甲は爆発反応装甲を採用しており攻撃にも防御にも転用できる。

 

 胸部ではなく腰部にスラッシュハーケンを装備、機体重量が重いゆえに機体の上下運搬を安定させることを重視した結果。

 

 専用のシールドは特殊合金を何層にも重ね合わせた多重装甲を採用。その特殊合金を研磨して製作された大型の十字剣はとんでもない強度を誇る。

 

 以上の説明で分かる通り、紅蓮やランスロットとは対称的に超重量級のパワー型ナイトメアであり、機動力は期待できない。しかしパワーと分厚い装甲は他に類を見ない物であり開発当時は他のナイトメアでは破壊は非常に困難である。追記すると白夜叉はランスロットより少し背が高い。

 

参考

 

ランスロット=全備重量 6.89t

 

紅蓮=全備重量 7.51t

 

白夜叉=全備重量 9.72t

 

ガウェイン=全備重量 14.57t

 

 



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猫だ、猫を探せ!俺の貞操のためにぁぁぁぁぁ!

 

 いつも通りのアッシュフォード学園の朝。だが今回だけは違った、朝のホームルーム。その時に誰もが予想しなかった人物が転校してきた。

 

「今日よりアッシュフォード学園に通うことになりました枢木スザクです」

 

 クロヴィス殿下を殺した枢木スザク。そのレッテルは重く、教室に居たもの全員が警戒するのは仕方のないことだった。

 ホームルーム後もスザクを取り囲むように教室のメンバーが彼の噂をする。クロヴィス殿下を殺したのはゼロだ。でも怪しかったから捕まった。

 

(全く、悪事千里を走ると言うけど。スザクは完全に被害者なのに…)

 

 ありもしないような噂が立ち上がり蔓延する。カオルはそんな陰口を耳に入れながら静かに立ち上がる。

 

「おい、カオル…」

 

「カオル?」

 

 スザクの元に真っ直ぐ歩いていくカオルを見て止めようとするリヴァルとそれを見つめるシャーリー。

 

「スザク」

 

「薫、駄目だよ来ちゃ…」

 

「ふざけるな。それは俺の勝手だ」

 

 小声で来るなと言うスザクを無視して隣の席に座るカオル。すると腕を首に回して拘束。ルルーシュに目伏せをして立ち上がらせる。

 

「行くぞ」

 

「ちょっと、薫!?」

 

 首に腕を回され動けないスザクは引きずられて行くようにして教室を後にする。それを見ていた一同はさらにあり得ない光景を目にして唖然とするのだった。

 

「もう、随分と強引だな。昔の君はどこに行ったんだい?」

 

「対してお前は随分大人しくなったな。あの頃の生意気な小僧はどこに行った?」

 

(あれ、俺ってスザクの幼少期を知らないはずなのに…何で言えたんだ?)

 

「七年もあるんだ。人は変わるさ」

 

「ルルーシュ、無事だったんだね」

 

「あぁ、お陰でな」

 

 校舎の屋上で合流した三人は幼馴染みとしての面を露にする。

 

「薫、君は七年もの間。どこで何をしていたんだい?」

 

「………」

 

 スザクの質問に俺は言葉を詰まらせる。残念ながら記憶などない、知らないことを話すことは不可能だ。

 

「無理をするな、薫。スザク、その事に関しては俺が説明する」

 

「ルルーシュが?…分かったよ」

 

「まぁ、とにかく…再会を祝おう。放課後にクラブハウスでな」

 

「あぁ」

 

「分かったよ」

 

ーーーー

 

「カオルって枢木スザクくんと友達だったの?」

 

「あぁ、幼馴染みというやつだ。俺は昔から日本に住んでいたからな」

 

「あ、そうなんだ。なんか意外」

 

「そうか?」

 

 お昼時間、一緒にランチをしていたシャーリーの言葉に薫は疑問を覚える。こちらとしては純日本人のつもりだったのでその反応は意外だった。

 

「カオルってかなりの美人だし、何となくだけどずっとブリタニアに住んでいたんたと思ってた」

 

「美人なのは否定しないが。俺はブリタニアの土を踏んだことはないぞ」

 

「へぇ…」

 

 全て本当のことだ、俺の記憶の範囲では。改めて思うと自分の過去の事を話したことがないな。というより話せないんだが。

 

「じゃあ、カオルって気持ち的には日本人って感じ?」

 

「そうだな、俺はブリタニア人だってあんまり考えたことはない。というより一切ない」

 

「そうなんだ…」

 

 ミレイはなにか腑に落ちたと言わんばかりの顔をしてそれ以降は話さなくなった。

 

「どうしたんだろ、会長?」

 

「分からん、なにか考え事があるんだろう」

 

 ミレイの事はかなり気になるがこっちもスザクの事で頭が一杯だ。とにかく放課後にならなければ話にならない。

 

ーーーー

 

 そして放課後、スザクはナナリーと感動的な再会を果たして現在に至る。

 

「あの頃の四人がやっと揃いましたね」

 

「そうだな、ナナリー」

 

「まさか、スザクとの再会がテレビ画面だとは思わなかったがな」

 

「もう、本当に大変だったんだよ」

 

 薫の言葉にむくれるスザク。そのやり取りを見て笑みをこぼすナナリーとルルーシュ。

 

 不思議な状況だ。片やブリタニア軍の新型を操るパイロット、片や一大レジスタンスグループのリーダー、片やクロヴィス殿下を殺した仮面の男、そして無垢な少女。

 そんな四人がテーブルを挟んで笑いあっている。いつ崩れるか分からない綱渡りの上に俺たちは今、立っている。

 

(無性に悲しくなってきた)

 

「薫…」

 

「どうした?」

 

「お前、泣いてるぞ…」

 

「え?」

 

 慌てて顔に手を当てると一筋の涙が俺の頬を伝っていた。

 

「あれ、なんで泣いてるんだ?」

 

 先程の悲しさでは涙を流すのは少しやり過ぎな気がする。自分でも理解できない。なんで泣いているのかが。

 

「カオルさん」

 

「なんだ?」

 

 するとナナリーに手招きされ歩み寄り、しゃがむと頭を撫でられた。

 

「悲しいときは人の体温が効くそうですよ」

 

「ナナリー…」

 

 ナナリーが眩しい!これはこの世の天使か!

 

 あぁ…とけりゅぅ…

 

 ワシワシされている犬のような気持ちでナナリーのナデナデを堪能する俺。うむ、素晴らしい!棚からぼたもちとは良くいったものだ。

 

「ありがとうな」

 

「いえ…私で良ければいつでも」

 

 久しぶりの絶対天使ナナリーに浄化されました。

 

ーーーー

 

 ナナリーに無事、浄化された俺は快眠し次の日の学校を迎えた。スザクには自分には近づかないようにと言われたが既に俺は手遅れだったので休み時間の合間に机にお邪魔している。

 

「もう、薫の評判が悪くなるだけだよ…」

 

「気にするな、評判なんて基本的に気にしない。それにずっとこのまま学校に通い続ける訳か?」

 

「うっ…」

 

「いい加減に諦めろ」

 

「ありがとう」

 

 うむ、素直になったスザクは可愛らしい。まるでワンコのようだ、コードキアスはワンコの成分の奴が多い気がするが気にしない。

 

 放課後、クラスメイトが少ない教室で談笑していると放送が校内に鳴り響く。

 

「猫だ!」

 

「は?」

 

「え、なに?」

 

「校内を逃走中の猫を探しなさい!部活は一時中断、協力してくれた部活は予算を優遇します!」

 

「ミレイがなにか始めたな」

 

「え、こんなことあるの?この学校」

 

「たまにな」

 

 ミレイの突発イベント開催にヤレヤレと方をすくめる薫だったが次の瞬間、彼女の目の色が変わる。

 

「そして、猫を捕まえた人はスーパーなラッキーチャンス。生徒会メンバーからキッスのプレゼントだ!」

 

「生徒会って…俺も含まれてるのか!?」

 

「「「そうですよね!」」」

 

「「うわぁ!」」

 

 教室の掃除ロッカー、教卓の裏、廊下、外の窓から大量の人間が出現し一瞬で薫を取り囲む。というか、ここは二階だぞ。

 

「生徒会の風紀委員ですし」

 

「あぁ、お姉さまの唇!」

 

「手の甲とかにキスしてお姉さまぁぁぁ!」

 

「え、場所って指定可能!?」

 

 何故か女子の比率が多い気がするが。おいそこ、スカートなのに二階の窓の縁から顔出してるんじゃねぇ。

 

「ということは…」

 

「これって相当不味いんじゃ…」

 

「スザク、分かっているさ」

 

「「「いくぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 一斉に動き出す一同。それと同時に薫も慌てて立ち上がる。さすがにマウストゥーマウスはキツい!

 

「薫、捕まって!」

 

「え、なに!?」

 

 廊下を駆け抜けようとした薫だったがスザクに抱き抱えられお姫様抱っこをされると二階の窓から飛び降りる。

 

(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

 

 内臓が浮くような感覚に内心絶叫しながらスザクにしっかりしがみつく。

 

(てか、この話、俺は知らないぞ!) 

 

「スザク、見つけたら俺に連絡しろ!」

 

 無事に着地するとスザクから解放される、我に帰った薫はすぐに走りだし猫を探すのだった。

 

「生徒会メンバーってことはルルーシュくんもOK?」

 

「キャー!」

 

「私ミレイさんがいいな」

 

「こんなところでカミングアウトしないで…」

 

「「「ファイトー!」」」

 

「マタタビだ!マタタビを探せ!」

 

「機動力なら馬術部の右に出るものは居ない!」

 

「カオルさんのキスは我らの共有財産だぁぁぁ!」

 

「科学の力に限界はないのだぁぁ!」

 

 上品な学校を保っていたアッシュフォード学園、校内は様々な者たちの欲望を駆り立て阿鼻叫喚の地獄と化す。

 

「我ら3同盟の結束の時がきたぁ!皆で推しのキスをいただくのだぁ!」

 

「「「うぉぉぉぉぉ!」」」

 

《元気と勢い健康系元気満タン!お祭り大好きミレイ・アッシュフォード派》 

 

 《病弱おしとやか系癒し美女、病弱な彼女に献身的に看病して欲しいカレン・シュタットフェルト派》 

 

 《これこそクール&ビューティー。趣味も好物、口調さえ男らしい、でもところどころに魅せられる優しさが心に染みるカオル・ヴィヨネット派》

 

 影の3同盟も雄叫びをあげながら猫捕獲作戦に全戦力を投入する。

 

「ニャー」

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 それに加え、ナナリーの猫真似により男子諸君はさらに興奮する。

 

(ヒャッハー!)

 

 その声には当然ながら薫も興奮していたのは本人しか知らなかった。

 

ーーーー

 

「くそっ、どこだ…。女はまだ良いが男とファーストキスなんて嫌だぞ…」

 

 これだけ追い回されているんだ人気の少ないところに移動しようとするはず。少し校舎から離れた時計塔まで来てみたがどうしたものか。

 

「カオル!」

 

「ルルーシュ、大丈夫か?」

 

 すると息を切らしたルルーシュが登場。彼も相当焦っているようだ。

 

「猫はどこだ?」

 

「それを俺も探してるんだよ」

 

「ニャー」

 

 すると時計塔の中から猫の鳴き声が鳴り響く。

 

「そうか、猫は上だね」

 

「おう、スザク。お前も来てたのか」

 

「何となくね」

 

 スザクみたいな脳筋タイプは直感も物凄く働く。その勘でここまでたどり着いたんだろう。

 

「スザク、カオル。お前たちは帰れ!」

 

「でも生徒会長さんが捕まえろって!」

 

「いいから帰れ。猫は俺が!」

 

「そこまでキスが欲しいのか?」

 

「バカ、違う!」

 

 薫の言葉に顔を赤くしたルルーシュが必死の形相で追いかけてくる。体力面で言えば、スザク、薫、ルルーシュの順番なので必然とそう言う順番で階段を駆け上がる。

 

「運動は僕たちに任せて。前に小鳥が逃げた時だって」

 

「古い話を持ち出すな!」

 

「たった7年前だよ!」

 

「全く、相変わらずの体力バカが!」

 

 二人のやり取りを聞いているとやっぱり幼馴染みなんだと気づかされる。だが俺にはその頃の記憶なんてない。だからこそ、余計に悲しくなった。

 

「大丈夫、怖くないから」

 

「スザク、よせ」

 

「大丈夫、まかせて」

 

「ルルーシュ、無理をするな」

 

 屋根によじ登って確保しようとするスザクを止めようとするルルーシュ。なにか必死な様子で何事かと疑うが走り回ってクタクタのルルーシュにはこの足場が不安定な場所は危険すぎた。

 

「大丈夫だ薫。この程度、俺にだって…っ!」

 

「ルルーシュ!」

 

 案の定、落ちてしまったルルーシュの腕を掴む薫だが彼女自身も身を半分乗り出していたので一緒に落ちてしまう。

 

「やばっ!」

 

「薫!」

 

 足をスザクに捕まれた薫は上下逆さまになりながらもルルーシュの手を離さない。

 

「薫、手を離せ。このままだと死ぬぞ!」

 

「バカ、お前が一番、死んだらダメな奴だろうに!」

 

 気がつけば下には観衆が集まり、三人を見守っている。これで薫がスカートだったら様々な方面に物凄い被害が出ていたが彼女は男装をしているためにその悲劇?は防がれた。

 

「スザク、俺の足をどこかに引っ掛けろ。なんとかする」

 

「分かった!」

 

 足を引っ掛けられる場所に取りつくと体を固定。その隙にスザクがルルーシュを回収する。

 

「なんとかなったな…」

 

 一息ついて安心する薫。スザクは先に猫を回収して降りていくとルルーシュはなにかやるからとまた屋根に登っていった。懲りないやつだ。

 

「ルルーシュのポエムが」

 

「そういうことですか、会長」

 

「あぁあ~せっかく弱みを握れると思ったのに」

 

「ルルって格好付けだから」

 

「全く、個人の興味に学園を巻き込むなよ」

 

 ルルーシュの恥ずかしい何かを手にいれたいというくだらない理由でのこの騒動。流石に呆れるがそれが彼女らしい。

 

「ねぇ…2人って知り合いなの?」

 

「だって…イレブンと……」

 

 するとニーナが一言、こぼす。

 

「あっ…」

 

「……いや、僕は…」

 

 必死に言い訳をしようとするスザクだったが

 

「友達だよ。会長、こいつを生徒会に入れてやってくれないか?うちの学校は必ずどこかのクラブに入らなくちゃならない。でも…」

 

 ルルーシュは迷わず答える。イレブンがなんだ、スザクはスザクだ。ルルーシュや薫にとってそれは変わらない事実である。

 薫も直接の思いでこそないが彼が優しい人物だというのは良く分かった。それだけでいい。

 

「副会長の頼みじゃ、しょうがないわね」

 

「これで一件落着ですね。皆さんお耳を」

 

 ナナリーに呼ばれた三人は彼女に顔を近づけると頬にキスをされる。

 

「ナナリー?」

 

(ほわぁがぁぁぁぁだ!?)

 

「ミレイさんが公約したご褒美です。お三人ですから半人前の私で我慢してくださいね。余分の半人分はお兄様を助けてもらったお礼です」

 

 思わずピョンピョンしそうになる薫だがギリギリのところで理性が働きピョンピョンを阻止する。

 思わず笑みを浮かべるルルーシュとスザクを横目で見て薫もホッコリするのだった。

 

 

 

 



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シュン・ヴィヨネット

 クロヴィスの追悼式典。全てのブリタニア領土に宣伝された放送に全員が見つめる。

 

「人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な身体を持つ者。生まれも育ちも才能も、人間はみな違っておるのだ。」

 

「これが、僕たちの敵ですか…」

 

「そうです。白蛇さまの障害となる者たちです」

 

「相変わらず壮大だな。ブリタニアは…」

 

 ウラヤスゲットー、白蛇本部。そこで放送を見ていたライ、ジェシカ、伊丹たちはブリタニア皇帝シャルルの演説を見ながらも睨み付ける。こいつが全ての元凶、許せるはずがない。

 

「そう、人は差別されるためにある。だからこそ人は争い、競い合い、そこに進歩が生まれる。」

 

(極論だな。でも俺は認めない、強者が弱者を食い尽くすのが人間の本質ならただの動物と変わらない。人はただの動物より理性的に生きなければ…)

 

 アッシュフォード学園の講堂で画面を見つめる薫は大画面に表示される敵に反感をもって見つめる。

 

「不平等は悪ではない。平等こそが悪なのだ。

権利を平等にしたEUはどうだ?人気取りの衆愚政治に堕しておる。富を平等にした中華連邦は怠け者ばかり。だが、我がブリタニアはそうではない。争い競い、常に進化を続けておる。」

 

「それが人間の本質。どうしようもないなら、強者が弱者を導いてやるしかないだろうに」

 

 飛行機のテレビ画面で演説を見つめる青年。薫に瓜二つの青年、彼は凶悪な表情を浮かべながら笑う。

 

「ブリタニアだけが前へ、未来へと進んでいるのだ。

我が息子クロヴィスの死も、ブリタニアが進化を続けているという証。戦うのだ!競い、奪い、獲得し、支配する。その果てに未来がある!!オール・ハイル・ブリタニア!!!!」

 

「「「オール・ハイル・ブリタニア!」」」

 

 シャルル・ジ・ブリタニアの演説と共に叫ばれる大合唱。それを見ながら薫たちは覚悟を改める。世界の3分の2を占めるブリタニア、その強大さに。

 

ーーーー

 

 ウラヤスゲットー。そこに駆けつけていた薫にジェシカが貯まっていた業務について話す。

 

「白蛇さま。コーネリア軍に潰されたサムライの血の生き残りから配下に入れて欲しいと打電が」

 

「断る理由などない。受け入れてやれ」

 

「分かりました」

 

 クロヴィスに代わりエリア11の総督になったコーネリアは破竹の勢いでレジスタンスグループを壊滅させていく。ブリタニア軍の中でもトップクラスの練度を誇るコーネリアの軍隊は中部最大グループである《サムライの血》を簡単に壊滅させた。

 

「ナイトメアを持っていなかったとはいえ、現状における最大勢力の一つが潰されるか」

 

「我々の存在がバレればその矛先がいつこちらを向くか…」

 

「コーネリア・リ・ブリタニアか…」

 

 圧倒的な武力を誇る彼女に対抗するにはやはり、ルルーシュの力がいるか…。

 

ーーーー

 

「いやぁ、流石ですね。コーネリア総督」

 

「ヴィヨネット卿、私は着任したばかりで忙しいのだ。無駄話は止めてもらおう」

 

 エリア11の政庁。その総督室には部屋の主であるコーネリアと客人であるヴィヨネットがいた。

 

「日本の2柱であるレジスタンスグループ、サムライの血を挨拶代わりに潰すなんて。…あ、皇帝陛下のご命令でしばらくの間。このエリア11でお世話になります」

 

「そっちが本命だろうが。おまけみたいにいうな」

 

「すいません」

 

 藤色のマントをはためかせた彼はご機嫌だ。そんな彼とコーネリアが話をしていると部屋に訪れたユーフェミアが声をあげる。

 

「あら、シュン!」

 

「ユーフェミア、久しぶりだな」

 

「本当にお久しぶりです。来ていたなら連絡ぐらい」

 

「なにせ急な命令だったもんでね」

 

 ナイトオブラウンズの13番目。シュン・ヴィヨネット卿は満面の笑みでユーフェミアを迎える。それをコーネリアは面白くなさそうに見ていたがそこは置いとく。

 

「しかし解せんなヴィヨネット卿。貴様はシュナイゼル兄様とEUを相手取っていたのではないのか?」

 

「そうですけど、ナイトオブラウンズの中で一番、身軽なのは俺ですからね。白羽の矢が立ったんですよ。それに、ちょっと気になることがありましてね」

 

「ん?」

 

「ゼロとか言うテロリスト。矛を交えばかなりの逸品かと」

 

「相変わらずの戦闘狂だな」

 

「お褒めいただき光栄のいたりです」

 

 薫と瓜二つの顔であったが唯一違うのは眼。燃え盛る炎のような真っ赤な瞳を持つシュン・ヴィヨネットは狂暴な笑みを浮かべて笑うのだった。

 

ーーーー

 

「ふぅ…やっと着いた」

 

 コーネリアの元を後にしたシュンはアッシュフォード学園の向かい側にある大学に足を運んでいた。

 

「ロイドさん。来ましたよ」

 

「ヴ、ヴィヨネット卿。なぜここに?」

 

「セシルさん。いや、ロイドさんには話してあるんだけど?」

 

「ロイドさん。私聞いてませんよ?」

 

「え、言ってなかったけ。それより、良く来たね」

 

 特別派遣嚮導技術部。シュナイゼル殿下貴下のブリタニア屈指の技術力を誇る技術チーム。シュナイゼルと懇意にしている彼はロイドたちとは見知った仲だった。

 

「皇帝陛下直属のナイトオブラウンズを呼び出すなんて…」

 

「良いんですよ。俺が頼んでる立場なんで」

 

「まぁ、君はスザク君とは違った扱い方だから興味深いよね」

 

 相変わらずハイテンションであるロイドを相手にしながら彼は幕を被った機体を見つめる。これを見る限り、まだ未完成のようだがある程度形にはなっているようだ。

 

「ヴィヨネット卿が提供してくれたグロースターをベースに改造を施しました。ですが、予算の都合上、ランスロットほどの出力は得られませんでした。申し訳ありません」

 

「いえ、スザクくんの方が適正が高いんだから仕方ないよ。それに高スペック過ぎると戦闘が味気なくなるだろ?」

 

「相変わらずイカれてるねぇ」

 

「お互い様でしょう?」

 

 彼のマントの色に合わせた藤色のランスロット・クラブ。それを見た彼は満足そうにしていた。

 

「サイタマゲットーには間に合わなくて良いんですよ。その代わり、次に大きい作戦があるんでそこには参加します」

 

「分かりました。それまでにはなんとか手配を」

 

「ありがとうございます」

 

 用件を伝え、大学を後にするシュンは帰り道にアッシュフォード学園を静かに見つめる。

 

「さて、原作通りの世界なら問題ないんだけどねぇ」

 

 

 



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カオルの一日


かなり遅いですがお気に入り1000突破記念として書きました。

※当然のごとく捏造設定が入っています




 

 これはまだライやC.Cが居ない頃のお話。

 

「んにぅ…」

 

 アッシュフォード学園のクラブハウス。そこでナナリーの部屋にお泊まりしていた薫は静かに目覚める。目の前にはナナリーがスヤスヤと眠っている。この世に舞い降りた天使の寝顔を堪能しつつ静かに布団から出た彼女は欠伸を噛み殺して部屋を出る。

 

「おはようございます。薫さま」

 

「あぁ、咲夜子さん。おはようございます」

 

「本日、薫さまは特別メニューとさせて頂きました。焼きシャケと白米、味噌汁とさせて頂きました」

 

「日本人としてはたまらないメニューですね。咲夜子さん…」

 

「はい、ご飯大盛にさせていただきます」

 

「ありがとうございます」

 

 焼きシャケにご飯と味噌汁とか反則だと思うんですよ。日本人にそのメニューは抗えませんよ。

 

「ああ、薫か。おはよう」

 

「おはよう、ルルーシュ」

 

 すでにテーブルにはルルーシュがコーヒーを飲みながら新聞を広げており優雅な朝の時間を過ごしていた。

 

「相変わらず優雅に過ごしてるな」

 

「何度もいってるがそんなに金はかかってないぞ」

 

「そういう意味じゃない」

 

 薫はコーヒーが苦手なので飲まない。と言うか体質的にコーヒーが駄目なのでいつも咲夜子が用意してくれる温かいほうじ茶が出迎えてくれるのだ。

 

「お前は本当に日本人だな」

 

「俺の場合は好き嫌いが多いから必然的にこうなっただけだ」

 

 いつもルルーシュとナナリーの朝食はパンだ。というより基本的に朝はいつもパン。まぁ、ブリタニアの文化はパン文化でご飯ではないので必然的にそうなるのだが。なのでいつも薫だけ朝はご飯なのだ。

 

「しかし朝からよくそんなに食べられるな」

 

「逆に朝、そんなに少なくて大丈夫なのか?」

 

「俺は無駄にエネルギーを消費するタイプではないからな」

 

「俺だって、バカ騒ぎなんてしてないさ」

 

 確かに、薫も基本的に部活などもやっていないし激しい運動は体育の時ぐらいだ。対してご飯などはよく食べる…なのに太りもせずにいるのは。

 

(変なところにエネルギーを使ってるからじゃないだろうな…)

 

 一瞬だけ変な思考が働き、ルルーシュは対面する薫の胸を見つめてしまう。

 

「ん、どした?」

 

「いや、なんでもない!」

 

 慌てて視線を逸らすルルーシュに疑問符を浮かべながらもほうじ茶をすする薫であった。

 

ーーーー

 

 家の中に学校があるのは素晴らしいものだ。ゆっくり寝られるしなにより登校時間が少ないのは魅力的だ。

 

「おはよう、カオル!」

 

「シャーリー、朝練か?」

 

「うん、薫こそクラブハウスで何してたの?」

 

「まぁ、色々とな」

 

 例えシャーリーとはいえ、流石にルルーシュの家に一泊していたとは言えない。そんなことがバレればどんな騒ぎになるものか想像がつかない。

 

「まぁいいや、早く教室にいこ」

 

「そうだな」

 

 こうしてアッシュフォード学園での授業が開始される。

 

 薫は学力で言えば中の上ぐらいで基本的に問題なく単位を獲得している。ルルーシュのようにサボることもないのだがたまにテロリスト活動があるのはキツい。できるだけ週末にしているのだが。

 

「ではここをカオルさん。答えてください」

 

「はい、そこは…」

 

 教師との関係も良好であり、そのおかげで生徒会の風紀委員長を勤めていたりする。

 

「カオル、行ったぞ!」

 

「あぁ!」

 

 前世との違いを挙げるとすれば体育成績が上がったことだ。運動音痴の俺だったがそれはある程度改善されている。まぁ、女子の体育に混じっているというのも理由かもしれないが。反射神経と動体視力は確実に強化されたと思っている。

 

 カオルはボールを受け取るとそのままバスケットゴールにボールを叩きつける。

 

「おぉ!」

 

「やったぜカオル!」

 

「ナイスパスだ」

 

 そしてなにより特筆すべきは身長だ。前世の俺は167cmだったのだが現在の身長は175cmとかなりの長身だ、前世より10cm高い。

ついでに言うとルルーシュの身長は178cmでスザクの身長は176cmなので薫が少し低かったりする。

 

「はい、今日はここまで!お疲れさま!」

 

「「はーい」」

 

 無事に体育の時間が終了しみなさんご期待のお着替えタイムに突入。

 

「薫って胸も大きいよね」

 

「そうか?平均ぐらいらしいが…」

 

 前にも話したが仲間内ではミレイが一番大きいのは確かだ。確か、彼女はHぐらいあるのではないかと思う。うん、話の流れ的にサラッと聞いたぐらいだからあまり確かな情報ではないが。

 

 ついでに言うと俺はGカップである。前世界のアメリカではEカップは平均的な大きさらしい。まぁ、俺は日本人なのでこの大きさは異常なのかもしれないが。

 

「そんな事ないよ」

 

「そうそう、薫は持って産まれてきたから分からないんだよ」

 

「そうだなぁ…」

 

 転生直後はかなりはしゃいでいたが流石に毎日見ていると完全に慣れてしまった……悲しい。

 

ーー

 

 そして全ての授業が終了して放課後になると俺は風紀委員長としての活動が待っている。基本的に生徒会の事務がないときは校内を歩き回って何か異常がないか見張るのだ。

 

「カオルさーん!」

 

 部活中の奴らが俺を見かける度に手を振ってくれるのは気分がいい。ひととおり周り終わると自販機で買った飲み物を飲みながら屋上で一服する。

 

「やっぱりここに居たのか」

 

「おぉ、ルルーシュ。何か用か?」

 

「いや、特にはな」

 

「そうか」

 

 沈黙の時間が続く。だが決して苦ではない、ただルルーシュが隣にいて校庭で部活をしている奴等をただ見つめるだけ。

 

「薫」

 

「なんだ?」

 

「お前は…幸せか?」

 

「さぁな、でもルルーシュやナナリーがいるし、ミレイやシャーリーも優しくしてくれる。今には不満はないよ」

 

「そうか…」

 

「お前はどうなんだ、ルルーシュ?」

 

「あぁ、俺もここだけは壊れてほしくないと思う」

 

「そうだなぁ…」

 

 どれだけ大切にしていても持っているものはいつか壊れてしまう。だからこそ今、手元にあるうちに大切にしたいとそう思っている。

 

 いつか、どうしようもないものが俺たちにもやって来る。だからこそ、今をしっかり生きるのが大切だとしみじみ思うのだった。

 

 



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体操服は青春の証

今回はスザク回です。




 

「なぁ、カオル」

 

「なんだ、リヴァル?」

 

 アッシュフォードの中庭で日光浴をしていたカオルはリヴァルに話しかけられて振り向く。

 

「スザク見なかったか?」

 

「スザクがどうした?」

 

「体育の時間を休んでから姿が見えないんだよ」

 

「なに?」

 

 あの真面目君と化したスザクからは考えられない行動に思わず聞き返す。

 

「だからどこにいったか分からなくて」

 

「分かった。俺も探してみよう」

 

 スザクが体育の授業を休まざるを得ない状況が発生したと言うことは一大事だ。カオルはすぐに探しに向かう。

 

ーー

 

 そしてスザクは校舎の端の水道で自分の体操服を洗っていた。スプレーで罵詈雑言を記された体操服を手に必死に洗っているようだがそんな事で汚れは落ちない。

 

「……」

 

「随分とくだらないことに巻き込まれたな」

 

「薫!?」

 

「そんなんで落ちるわけないだろう」

 

 泡だらけの体操服を取り上げてみると真っ白な体操服に真っ赤なイタズラ書きがされていた。

 

「これは酷いな」

 

「いいんだよ、薫」

 

「お前が良くても俺が許さん」

 

 水浸しの体操服を絞ると自分の肩に掛ける。

 

「何をするつもり?」

 

「まぁ、俺が人気者なのは前回の騒動で分かったからな。なら、やりようはあるさ」

 

 幸いなことに俺とスザクの背丈は同じだ。俺が直々に処罰を下すわけではなく他の奴がやってくれる。一個人の強大な力より、大衆の視線の方がキツいことはよく知っている。

 

(背丈は一緒だけど服のサイズは違うと思う…)

 

 とある一点において差があることを指摘したかったスザクだが純な彼には少々、難題な議題であった。念のために1サイズ大きいものなのだがそれでもキツいのでは…。

 

「代わりに俺のを使え」

 

「えぇ!?」

 

「なんだ?」

 

 スザクの過敏な反応に疑問符を浮かべる薫。野郎同士が体操服を交換するのに何の抵抗があると言うのだ。

 

「いいよ、それは!新しいの買うから!」

 

「ちゃんと洗えば落ちるんだから買わなくて良いだろう。落としとくからその間は使えって」

 

「流石にそれは…」

 

「だって今日は最後の時間にも体育あるじゃないか」

 

「うーん…」

 

 そう、不幸なことに今日は昼前と最後に体育が二回ある特別な日。クロヴィスの作った芸術週間で授業が潰れるので前もって振り返りがあるのだ。

 

「すまないな、バスケしてたから汗まみれで」

 

「汗まみれ!?」

 

「干してあるから大丈夫だと思うが。今回で犯人あぶり出すから」

 

「ダメだよ薫。僕たち風紀委員が風紀を乱したら!」

 

「いや、これこそ風紀の為だ。首辺りは少ししっとりしてるかもしれないが。今後のためだ嫌だろうが我慢してくれ」

 

「しっとり!?嫌がってる訳じゃないんだけど。精神的な青春的なやつで!」

 

 なんかどんどんスザクの顔が真っ赤になっていく。助けを求めようと辺りを激しく見渡しスザクは草むらに隠れるリヴァルと数人の男女たちを見つけて助けを求める。

 

(タスケテ!)

 

(ナイス尊み!)

 

 アテにならないと判断した彼らを放って他を見渡すが居ない。推し連盟にとってはその推し対象の判断こそ絶対。彼女とどうこうしたい訳では…少しあるが。基本的に彼女が誰と付き合おうが何をしようが基本的に寛容なのだ。これぞ、推しを見つめる者のマナーである。

 

「分かったよ。今回だけだよ」

 

「ありがとう。乾いたら持ってくから、この体操服は貰ってくぞ」

 

 スタコラサッサと体操服片手に教室に戻る薫を見送ったスザクは一層、疲れた様子で一息つくのだった。

 スザクだって思春期の男の子である。

 

ーーーー

 

 そして肝心の最後の体育の授業。その開始と共に授業を受けていたメンバーはざわめく。薫の体操服に書かれた罵詈雑言の言葉を見て女子の体育は授業どころではなかった。

 

「カオル、どうしたの?」

 

「ん?スザクに予備の体操服をあずけていたらこうなってた」

 

「カオル…怒ってる?」

 

「あぁ、怒髪衝天だな」

 

 彼女の行動に生徒だけでなく先生も行動を起こし犯人はすぐに炙り出されるのだった。

 

「なんか、今日は変じゃね。スザク」

 

「あぁ、なんか凡ミスが多いよな」

 

 一方、スザクはいつもとは別の意味で注目を集めていた。

 

「まぁ、この調子なら犯人はすぐに見つかるだろう」

 

「お前、えげつないな…」

 

「スザクを虐めた罰だ」

 

「まぁ、前から思っていたがお前は心を許した奴に対しての距離感がおかしいのはよく分かった」

 

 なんかルルーシュにドン退かれているのだが。視界の奥には頭から煙を出してるスザクの姿と看病するリヴァルの姿が。

 

「カオル、連れてきたよ!」

 

「カオルとスザク君を苛めようとした張本人たちね!」

 

 するとシャーリーとミレイが二人組の男を連れてやって来た。のはバンダナを被った奴と青髪の学生。

 

「君たちは…」

 

「知ってるのか?」

 

「うん、出所後にちょっとね」

 

 いつの間にか復活したスザクの言葉によれば何かあったらしいがそれは関係ない。

 

「こいつは名誉のクセに俺のカメラを壊したんだ!」

 

「イレブンどもを見逃したんだぞ!」

 

「貴様らの弁明など俺は聞き届けない。今回の騒動における生徒の処罰は風紀委員長の判断を生徒会長、副会長の審議をもって執行される。すでに先生方には自由裁量の許可をいただいている!」

 

 カオルの冷たい言葉に思わずその場にいた者すべてが息を飲む。

 

「ここはアッシュフォード学園。人種や宗教、思想すら問わない唯一の学園だ。だが秩序を乱すものには処罰を…行動を起こすならもっと味方を見つけるのだったな」

 

「カオル、そんなに重い罰は…」

 

「お前たちは3日間の停学処分を言い渡す。それとスザクの体操服を二人で弁償するんだな…次はないぞ」

 

「「はい!」」

 

 彼女のあまりの迫力にひれ伏す二人は処分を言い渡されるや否やすぐに逃げていくのだった。

 

「薫、僕の体操服は洗ったら白くなるんでしょ?なんで弁償なんて…」

 

「……」

 

「薫?」

 

「あぁ、アレな。どうやらサイズが小さかったらしくて伸びちゃったんだよな。これが…」

 

「「………」」

 

 まさかの事実に黙り込む一同。

 

「ルルの変態」

 

「なんでだ!?」

 

 突然、シャーリーからの攻撃を受けて驚くルルーシュ。

 

「いや、考えてること丸分かりでしょ…」

 

 流石のリヴァルも呆れ顔で鏡を見せる。するとルルーシュの鼻から鼻血が少し垂れていた。

 

「ほわぁ!?」

 

「おーい、スザク?」

 

 その一方、なにも話さなくなったスザクを揺する薫。不思議に思ったミレイが覗き込むと納得の表情を浮かべる。

 

「フリーズしちゃってるわね」

 

 

 



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会合

 

「白蛇さま!?」

 

「分かっている。コーネリアめ、まさかサイタマゲットーを狙ってくるとはな!」

 

 ブリタニア軍の中でも屈指の軍事力を誇るコーネリア軍。彼女は事もあろうにサイタマゲットーの壊滅作戦をマスコミに報道させ大々的に作戦を公開した。

 

「白蛇さま、これにはどういう目的があるのでしょうか?」

 

「たぶん、ゼロに挑戦状を叩きつけてるんだ。クロヴィスが殺されたシンジュクゲットーを再現して向かって見せろと挑発してるんだよ」

 

「だろうな。そしてゼロは必ず現れる」

 

 サイタマゲットーのテロリストグループとは交流がある。当然ながら救援要請を出してきたが向こうが完全に包囲していてナイトメアを潜り込ませるだけの隙がない。

 

「人的支援だけで止めるしかない、避難民を地下鉄を使って救出する。俺も直接指揮を執る、集められるだけの移動手段を揃えろ」

 

「「了解!」」

 

(ルルーシュの性格なら出てきてしまう。ブリタニアの皇族に嘗められたと憤慨するだろうな)

 

 ルルーシュの性格は知っている、一年間も共に過ごしたのだ。だからこそ、これは確信だ。アイツは絶対にサイタマに現れる。

 

(なんだ、この嫌な感触は…)

 

 ザワザワするような変な感覚、それを拭うことが出来ない薫は冷や汗をかいていた。

 

「俺は、お前に会うまでずっと死んでいた。無力な屍の癖に、生きているって嘘をついて…何もしない人生なんてただ生きているだけの命なんて緩やかな死と同じだ。また昔みたいになるくらいなら…」

 

 その頃、ルルーシュはクラブハウスの私室で自身の頭に銃口を突きつけていた。

 

「待て!」

 

「ん。」

 

「確かに意味は無いな。そんな命。」

 

 

 対峙していたC.Cは静かに銃を下ろすとルルーシュを見直す。

 

「気を付けろ。今回は今までとは違う、敵はブリタニアだけではないのだからな」

 

「分かっている。俺は白蛇とかいう奴の手の上で躍り続けている。だが俺は人形ではない。奴に思い知らせてやる俺がどのような存在なのかを」

 

ーーーー

 

「何故です!ここには子供も老人だっている。我々はなにもしていないのに!」

 

「だからこそだ。貴様たちはここに反ブリタニア組織が居たのを知りながら庇い、隠した。これは明確なブリタニアに対する反逆行為だ!」

 

 サイタマゲットーの管理者たちは一列に並べられブリタニア軍に銃口を向けられている。絶体絶命、責任者は涙を流しながらこれからはじまる悲劇を悔いる。

 

「なるほど、黙っていたから殺すか。随分と器量のない国だなブリタニアは」

 

「なに?」

 

 歩兵の隊長が声の主に振り向く。そこには蛇のお面をした女性が静かに立ち、リボルバーを構えていた。

 

「ブリタニアのくそ野郎が!」

 

「っ!」

 

「隊長!」

 

 至近距離で放たれた銃弾は脳天を貫き隊長を絶命させる。それと同時に全方向から銃弾を浴びせられ部隊が全滅する。

 

「白蛇さま!」

 

「地下水路に脱出路を確保した。早く住民を避難させろ」

 

「ありがとうございます!」

 

 サイタマゲットーの管理者は深々と礼をしながら去っていく。

 

「ナイトメアは相手にするな。出来る限りの住民を避難させるんだ!」

 

「「「了解!」」」

 

ーーーー

 

「なに?そうか…分かった」

 

「どうした?ダールトン」

 

 サイタマゲットー外縁に布陣しているG-1ベースにて報告を聞いていたダールトンの表情は険しいものだった。

 

「管理者の掃除の件ですが。失敗したようです」

 

「ほう、テロリストどもがもう動き始めたか?」

 

「いえ、随分と手練れのようでして一瞬にして部隊が全滅したそうです」

 

「なに?」

 

 歩兵とてコーネリアの部下に素人などいない。エリア18を平定した猛者たちばかりだ。それを一瞬のうちに掃除されるとは、ただのテロリストではないだろう。

 

「どうやら、変なネズミが紛れ込んだようです」

 

「想定外の部隊が潜伏している可能性があります」

 

 ギルフォードとダールトンの言葉は注意せよと言う警告だ。そんなことは分かっている。だがこれはゼロを誘き寄せるための罠、想定外の敵がいようと捩じ伏せるのみ。

 

「作戦は続行する。そのネズミもろとも焼き払え」

 

「イエス・ユア・ハイネス」

 

 こうしてコーネリアのサイタマゲットー壊滅作戦が決行された。

 

ーーーー

 

「外環はだめだ!」

 

「埼京線は突破できないか!」

 

「装甲列車が塞いでいて…。」

 

「農道も使えない。」

 

「援軍は?」

 

「白蛇さまたちが。今、住民の避難をしてくれてる。それまで時間を稼がなきゃ!」

 

 サイタマゲットーのテロリストグループであるヤマト同盟はひとまず住民たちの安全に安堵しながらもコーネリアに対して時間を稼がなきゃならないことに焦っていた。

 

「イズミさん!」

 

「どうだった、戸田や川口方面は?」

 

「それよりコレ!」

 

「私はゼロ!」

 

「ゼロ?」

 

「ゼロってあの…?」

 

「シンジュク事変の事は聞いているはずだ。私に従え。そうすれば助けてやる。」

 

 突然、湧いてきた好機。これを逃す手はなかった。

 

ーーーー

 

「確保できるだけ確保しましたが。ここいらが限界です」

 

「逃がせたのが100人ほどか。0よりはマシだろうな」

 

「白蛇、これ!」

 

 伊丹の報告を聞いていた薫だったがライの慌てた様子に気が向く。彼はヤマト同盟たちの無線機を片手に音声を最大まで上げた。

 

「P6、P8、どうした!B7、N4のカバーに回れ!」

 

「こちらB7別の獲物を見つけた。先にこっちをやる!」

 

「違う、そいつは囮だ!B7命令に従え!」

 

「何言ってんだい!ここでやらなきゃ…」

 

「下がれ、上から来る。B7!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

「バカが!B8そちらから状況の報告をしろ!」

 

 明らかに不利に陥っているヤマト同盟。というより、これでは指揮系統が目茶苦茶で戦略どころではない。

 

(嘘だろ。ルルーシュが負けるなんて…)

 

 いや、これはルルーシュの問題ではない。ルルーシュを最後まで信用しきれなかったヤマト同盟に問題がある。だがそんなことが言い訳になるとは思えないが。

 

「全員撤退だ。これ以上は全滅する」

 

 薫の言葉に素早く反応する一同。薫たちもそれぞれバラバラのルートを使って撤退する。ルルーシュの事は気になるが巻き添えはごめんだ。

 

ーー

 

「不味いな…一個早く曲がっちゃった」

 

 それぞれバラバラのルートで撤退した白蛇たちだが肝心の薫は道を間違え複雑な地下水路で迷子になってしまった。

 

「条件が同じならば、負けはしなかった!」

 

「条件をそろえるのも実力のうちだ…」

 

「だったら揃えてやるさ!ブリタニアに負けない、オレの軍を!人を、国を!!」

 

 水路に響き渡る声。これは間違いなくルルーシュの声だ、そして相手はC.Cだろうか。というか、こんなシーンは知らない。やっぱり原作アニメは予習しておくんだった。

 

(やっぱり、苛立ってるなぁ…)

 

「っ!誰だ!」

 

 激おこプンプン丸のルルーシュを影から観察しているとC.Cがこちらに素早く反応し仮面を被る。対してルルーシュも急いでヘルメットを被り顔を隠す。

 

(やばっ、バレたか…)

 

 ここで逃げるのも手だが道も分からない場所で鬼ごっこをしても殺される可能性が高い。なら、堂々と出るしかないか。

 

「誰だとはご挨拶だな。ずっとお前を見守って居たんだよゼロ…」

 

「貴様が白蛇か!」

 

「そうだ。以後、お見知りおきをゼロ。俺がこの関東一帯を支配下に置くテロリスト。白蛇だ」

 

 



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白蛇とゼロ

 

 

 

「条件が同じならば、負けはしなかった!」

 

「条件をそろえるのも実力のうちだ…」

 

「だったら揃えてやるさ!ブリタニアに負けない、オレの軍を!人を、国を!!」

 

 圧倒的な組織力、それを見せつけられた。だがここで諦めるわけにはいかない。ナナリーのためにも薫たちのためにもここで止まるわけにはいかないのだ。

 

「っ!誰だ!」

 

 その瞬間、C.Cから珍しく鋭い声が飛んだ。何者かがこの近くにいる。それを察したルルーシュは慌ててヘルメットを被る。コツコツとゆっくり歩いてくる人物をよく見ると仮面をしているこれではギアスは使えない。

 

「誰だとはご挨拶だな。ずっとお前を見守って居たんだよゼロ…」

 

「貴様が白蛇か!」

 

「そうだ。以後、お見知りおきをゼロ。俺がこの関東一帯を支配下に置くテロリスト。白蛇だ」

 

 俺の動きをすべて察知し援護してくる謎の人物。白蛇、奴がここにいることは予測できた。まさかここまで奴に手がバレているとは。

 

「ルルーシュ」

 

「なんだ?」

 

「アイツは危険だ。他の奴等と雰囲気が違う」

 

 C.Cの言葉に対してルルーシュは最大限の警戒を白蛇に向ける。

 

ーー

 

(なんだこの感じは…)

 

 C.Cはこれまでにない雰囲気に警戒していた。まるで世界の理から外れたような雰囲気。どことなく本能がコイツは違うと語りかけてくる。

 

(そう言えば、似た雰囲気の奴がルルーシュの近くにもいたな)

 

 カオルとか言う幼馴染み。彼女も他の奴とは違う異質な雰囲気を持っていたがコイツは、白蛇は比べ物にならない。

 

(もしかしたら、本質的にギアスが通じない可能性があるな)

 

 不確定な予測だ。だが彼女はそれが確信に似た物を得ていた。

 

ーー

 

 相手の落ち着いた眼差し、こちらは二人で向こうは一人。とは考えられないだろう。気配の察っせない場所で伏せている可能性もある。

 

「なぜ俺の動きを把握している!お前は俺の何を知っている!」

 

 C.Cの背中の影に隠れながら白蛇に問いかける。

 

「全て…は傲慢か。知っているよ、アッシュフォードでの生活も大切な幼馴染みも妹もな」

 

「っ!?」

 

 誰なんだコイツは…ダメだ、情報が欠如しすぎている。対して向こうは何もかも知っている。不利すぎる、全てにおいてこちらが負けている。

 

「お前は何者だ!」

 

「さぁ、お前と同じブリタニアの皇族かもしれない。ただの日本人なのかもしれない。もしかしたら、ブリタニアの混乱を望む中華かEUの手先かも知れない」

 

「貴様、俺がブリタニアの関係者と知って!」

 

(やべ、ちょっと口が滑った)

 

 あまりにもテンパりすぎて余計な情報まで口から出してしまった。敵じゃないと素直に言いたいんだがそれを言っても納得しないだろうし。

 

(仮面をしているせいでギアスが使えない)

 

 試しにギアスを発動させてみるが全く反応がない。やはり、仮面越しでは辛いのだろう。

 

 にらみ合いが続いていると白蛇の背後から複数の足音が聞こえる。敵の援軍が到着したらしい。それは白蛇も気づいている彼女は背後を振り返るとこちらを見つめる。

 

「今回はここまでだ。だが分かって欲しい、俺は君の味方だ。こうなってしまった以上、我々は交わるときが来る。次に会ったとき俺も正体を明かそう」

 

 また落ち着ける場所で話せるのならそこで俺の正体を明かす。ルルーシュを裏切る形になるがお互いに殺し会うよりマシだろう。

 

「さらばだ、ゼロ。我が心からの盟友よ!」

 

 そして白蛇は暗闇の中に姿を消すのだった。

 

ーーーー

 

「薫、誰と会っていたの?」

 

「まぁ、少しな」

 

「ふーん」

 

 ライに疑いの目で見られる薫は話を逸らそうと話題を持ちかける。

 

「それで、ヤマト同盟はどうした?」

 

「全滅したよ。一握りだけどね住民の避難が出来たんだ。それでよしとしないとね」

 

「そうだな…」

 

 ヤマト同盟のイズミはひねくれた性格だったが根はいい奴だった。仲良く出来る人種だったんだが残念だ。

 

(ルルーシュとの態度も考えなきゃならんな)

 

ーーーー

 

「それで、ここに介入してきた謎の組織は?」

 

「はい、それらしき部隊は発見できず。もしかしたら、地下水路を使って脱出されたかもしれません」

 

「住民の避難に専念したわけか…」

 

 作戦は完璧だった。ゼロにも一泡吹かした、だがコーネリアの顔は晴れない。裏で動いていたであろう組織を取り逃したのだから。

 

「ダールトン。お前の想像でいい、奴らは何者だ?」

 

「はっ、少し気になる組織があります。約半年前に壊滅したとされる白蛇と呼ばれる組織です」

 

「クロヴィスが対処した案件だな」

 

「はい、作戦の詳細を精査すると疑問点がいくつか存在します」

 

 一つの町を潰した割りには死者が少なすぎる。この少なさはあらかじめに避難が行われたことを意味する。と言うことは白蛇のグループはブリタニア軍を遅滞させ脱出したことが予測される。

 

「日本解放戦線に並ぶ一大勢力か」

 

「頭が回る点から見ても日本解放戦線より脅威は高いと思われます」

 

「耳が早いのならば次の作戦も勘づかれているか…」

 

「その可能性は高いはずです」

 

 次の作戦、日本解放戦線の本拠地であるナリタ連山の総攻撃。それに白蛇も参戦するのならばもう一度、作戦内容の見直しが必要だ。

 

「ゼロに加え、白蛇か…。ユフィに渡すのはまだ先になりそうだな」

 

「はい、このエリアを綺麗に掃除する。それが我々の目的でありますゆえに」

 

「ヴィヨネット卿にすぐに機体を用意させよ」

 

「はっ」

 

「旧時代の遺物はこの私が踏み潰してやる」

 

 



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カオルの真の姿


 ブリタニアの少年ルルーシュは、謎の少女C.Cから特殊な能力を手に入れた。《ギアス》いかなる相手にでも命令を下せる絶対順守の力。妹ナナリーの為、神聖ブリタニア帝国の破壊を目論むルルーシュ。

 そして全てが謎に包まれた薫は自身の組織を磐石なものにしていた。

 一方、彼の友人枢木スザクは、帝国内での足場を築きかけていた。

既にこの時、先行きの命運が必然として約束されていたのかもしれない。



 

 

「カワグチ湖?」

 

「そう、カワグチ湖のコンベンションセンター。そこに一泊してくる」

 

 あのサイタマゲットーの事件から数日後。カオルは荷物を纏めて旅行の準備をしていた。

 

「大丈夫なの?こんな時期に旅行なんて、テロリストたちが活性化しているっていうのに」

 

「仕方ないだろう。俺が決めたんじゃないんだから、だから俺が着いてくんだよ。女しかいねぇからな」

 

「じゃあ、これ持っていきなよ」

 

 ライが手渡したのは小型の銃、銃のわりには随分と軽い。

 

「セラミックと竹を使ったニードルガン。これは金属探知機にも引っ掛からない」

 

「なるほど、金属探知機があってもいいようにか」

 

「弾は3発。予備の弾は無いからね」

 

「まぁ、もしものためにリボルバーも持ってくけどな」

 

 ニードルガンは上着の袖に、リボルバーはジーパンに差し込む。少し大きめのシャツを被せてあるから見える心配はない。

 

「何かあったらすぐに行くから」

 

「頼もしい騎士だなお前は。その時は頼りにしてるよ」

 

 そう言って家を後にする薫、それをライは静かに見送るのだった。

 

ーーーー

 

 カワグチ湖に向かう電車に乗り込んだ薫は用意されたお菓子を頬張りながらゆっくりする。サイタマゲットーの住民の受け入れやらで休む時間がなかったのだ。

 

「私、トウキョウ租界を出るの初めてなんですよ!」

 

「ルルーシュも来られると良かったのにね」

 

「うっ…」

 

 旅行に参加したのはシャーリー、ミレイ、ニーナにカオルの四人。実質の女子会になったのだ。

 

「良いではないか。夜通し語り明かそうぞ好きな子の話とかさ」

 

「会長にいるんですか、そんな人?」

 

「さぁね」

 

(あぁ、癒されるぅ…)

 

 この死から遠く離れた空気が何よりの癒し空間なのだ。

 

(ルルーシュの件もあるしコーネリアは強気の姿勢だしで精神崩壊しちまうよ)

 

 ひさびさの外だからか怯えるニーナに寄り添うミレイ。それを横目に薫はひさびさの安眠につくのだった。

 

ーーーー

 

「もう、カオルは電車で寝てばっかりじゃない」

 

「すまん、最近寝てなくてな」

 

「あんまり、無理しちゃダメよ」

 

「すまんな、ミレイ」

 

 やっとのこと着いたカワグチ湖のコンベンションセンター。そこはいつも以上の警備が敷かれており、あちこちに警備員の姿が見える。

 

「物々しいな」

 

「今日、このホテルでは各国のサクラダイトの配分会議があるの。より厳しい警備だから安心でしょ?」

 

「そうだな」

 

 各国の主要人物が集まる会議。と言うことはテロ目標になっても文句は言えない場所だ。

 

「嫌な予感するなぁ…」

 

 するとホテルの入り口では警備員が手荷物検査を行っていた。幸いにも体に武器を忍ばせているために無事であったが逆に警備が随分と手緩い気がする。

 

「ミレイ、早く荷物をおいて名所とやらにいこう」

 

「なによ、カオル。随分とノリ気じゃない」

 

「いや、そう言うわけではなくて…」

 

「動くなぁ!」

 

 ホールでチェックインの手続きをしていると室内で怒声と銃声が鳴り響く。

 

「我々は日本解放戦線だ。ここは占拠した、指示にしたがってもらおう!」

 

(なんでこうなるかなぁ)

 

 両手を上げて無抵抗を示す。あの制服は確かに日本解放戦線、まさかこれほどの組織が押し寄せてくるなんて予想もしていなかった。

 

ーーーー

 

「日本解放戦線の草壁である。我々は日本の独立解放の為に立ち上がった。諸君は軍属ではないが、ブリタニア人だ。我々を支配するものだ。大人しくしているならばよし。さもなくば…」

 

「ルル…」

 

「ちっ、草壁め…」

 

 どこか暗い部屋に集められたカオルたちは銃口を突き付ける日本解放戦線の兵たちに見張られ人質として扱われた。

 

(ブリタニア軍もこの状況を把握しているはず。この地下には大きな物資搬入口があったはずだが)

 

 トラックが通れる大きさならナイトメアは悠々と入ることが出来る。狭い空間とはいえ、日本解放戦線が戦線を維持できるとは…。

 

(そうか、だからこその超電磁式榴散弾重砲か。レールガンで放たれる高速の散弾ならあの限定空間なら絶対兵器になるはずだ)

 

「よく考えてるじゃないか…」

 

ーー

 

 人質として扱われてしばらくたった頃。カオルの様子があきらかに異質なものに変わっていくのを感じ取っていた。

 

(カオル…)

 

 この殺気だった空間にカオルは自然と白蛇としてのモードに入っており彼女自身も殺気だっていたのが主な原因だろう。

 

 ミレイは自分の知らないカオルが現れてくることで不安になる。彼女がどこか遠くの存在になっていくようで不安になるがどうしようもないことだった。

 

「は、了解しました」

 

 拘束されてからかなりの時間が経過した頃。日本解放戦線の兵が通信を受けて一人の男性を立ち上がらせる。

 

「な、なんなんだ!」

 

「いいから来い!」

 

 無理矢理つれていかれる男性を見てミレイは思わずカオルに抱きつく。

 

「なんなの?」

 

「見せしめだろうな。ブリタニアと交渉しているなら変な遅滞交渉を行わせないために人質を一人ずつ殺していく。まぁ、方法の1つではあるがな」

 

 怯える彼女に対してひどく冷静なカオル。それを見て、彼女は本当に同じ人物なのかと疑問が湧いてくるほどだ。

 

「なんでそんなに冷静なのよ」

 

「慣れたんだよ。嫌でもな…」

 

 彼女の眼は酷く冷めていた。

 

ーーーー

 

 どちらにせよ。こちらが無傷で逃げ切るのはむずかしい上に俺が白蛇だと自供しても信じては貰えないだろう。

 

(さてどうしたものか…)

 

「い、イレブン…」

 

 その時、信じられない言葉がニーナの口から発せられた。この状況で最も口にしてはならない言葉を的確に吐いたニーナに対して今までにない苛立ちを感じる。

 

(ちっ、バカが。なんでそんなことを口走るんだよ!)

 

「なんだと、貴様。今なんと言った!?イレブンだと我々は日本人だ!」

 

「分かったわよ訂正するから!」

 

「なんなんだ、お前たちは!隣の部屋まで来い!きっちり教え込んでやる!」

 

 激昂した兵はその怒りを納めずにニーナの腕を引っ張り立たせようとする。それを庇おうとするミレイとシャーリーも怒りを買われて大騒ぎになる。

 

(仕方ない)

 

 薫が袖に仕込んだニードルガンを取り出そうとした瞬間。

 

「お待ちなさい!」

 

「なに?」

 

「私を貴方たちのリーダーに会わせなさい、私はブリタニア第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです!」

 

 その瞬間、その場が凍りつきユーフェミアに視線が集まるのだった。

 

ーー

 

 ユーフェミアの出現騒ぎでニーナの件は流れてしまったが。彼女が連れていかれ、静かになるとイレブンと呼ばれた兵士はこちらを睨み付けてくる。

 

「おい、こいつはお前たちの友達だな?」

 

 そういうと兵士は薫に向けて銃口を向ける。

 

「そ、そうですけど」

 

「次に飛び降りてもらうのはコイツだ」

 

「カオル!」

 

 こんな時だけしっかりと答えるニーナの答えに満足した兵士は俺の手を取って立ち上がらせる。どうやら、彼女自身を殺すのではなくその周りから殺そうという魂胆らしい。

 

「ほら、行くぞ」

 

(ちっ…)

 

 カオルが連れていかれそうになるとミレイは必死に抵抗して彼女に抱きつく。

 

「お願い、私も連れてって!私も一緒に飛び降りる!」

 

「ミレイ!」

 

「お願い、カオル。貴方が先に死ぬなんて嫌なの!」

 

 日本解放戦線の連中に殴られながらも必死にしがみつく彼女についに折れた奴らは渋々了承する。

 

「大丈夫か、ミレイ?」

 

「大丈夫よ、どうせ死ぬんならね」

 

 屋上に向かうためにエレベーター連れていかれた二人は二人の見張りと共に上るエレベーターの中で過ごす。するとカオルはミレイを強く抱き締めると耳元で囁く。

 

「ミレイ、俺が叫んだら伏せて目と耳を塞ぐんだ。いいな」

 

「…分かった」

 

 ミレイは詳しくは聞かずに頷く。右手を腰に回してリボルバーを手に取る。弾は6発きり、チャンスは一度。

 

「伏せろ!」

 

 薫は叫ぶと共にリボルバーを発砲。エレベーターのスイッチを見つめていた兵の腹に当たり苦しみながら倒れる。

 

「貴様!?」

 

 慌ててマシンガンを向けるもう一人の兵士だがその間に薫はリボルバーを3発放つとその一発が心臓を貫き絶命する。

 

「貴様、一体…」

 

「……」

 

 エレベーターの端で苦しむ兵士の脳天を貫き止めを刺す。お陰で返り血がベットリとつくが気にしない。

 

「いいぞ…」

 

「カオル…これは一体……」

 

 悲惨な光景におもわず嘔吐するミレイはあくまで冷静なカオルを見つめる。

 

「俺は佐脇薫、これが本名だ。そして日本人、テロリストだよ。日本解放戦線ではないがな」

 

「薫…」

 

 ついに言ってしまった。この状況は言い訳が出来ない状況だから仕方がないがミレイにだけは秘密にしておきたかった。

 

「すまん、黙っていて。騙したかった訳じゃない、ただ俺は…」

 

 気まずくて目をそらしているとミレイに顔を掴まれて動かされる。すると薫はキスをされた。

 

「ミレイ…」

 

「これで隠しごとは無しね。良かった、これで私に何でも話せるわよ。辛くても話せなくない、だって私が貴方を愛してるから、なんでも聞いてあげる。貴方を癒してあげる。」

 

 待っていたのは全く予想してなかった展開。それを見て薫は泣きそうになる。

 

「俺は女だぞ…」

 

「関係ないわ、私は貴方、佐脇薫という人間に惚れたのよ」

 

「敵わないな、そしていい女だ」

 

「あら、今ごろ気づいた?」

 

「いや、知っていたさ」

 

 もう一度だけ互いに口づけをする。

 

「元気になった?」

 

「そうだな!」

 

 屋上にたどり着いたエレベーターのドア越しに待っていたのは兵を撃ち殺す薫。彼女はなぜか、心が晴れ晴れとしていた。

 

「薫、貴方?」

 

「なんだ?」

 

「笑ってるわよ」

 

「ん?」

 

 今まで能面であった顔が少しだけ微笑んだ。それを見たミレイは満面の笑みで笑い返すのだった。

 

 

 

 



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正義とは

(薫、みんな!)

 

 カワグチ湖のコンベンションセンター。そこにゼロと共に潜り込んだカレンは急いで人質が連れられているという部屋に急行した。

 

「扇さん、生徒会の人たちは?」

 

「遅かったみたいだ。二人が屋上に連れられたらしい」

 

「そんな!」

 

 連れていかれたのは会長と薫の二人。よりにもよってこの二人が連れていかれるなんて。

 

「まだ追いかければ間に合うかもしれない。ここは井上に任せて俺たちもいこう」

 

「はい!」

 

 いそいでエレベーターを呼び出して乗り込もうとした瞬間。目に映った光景に息を飲む。そこには日本解放戦線の兵たちの死体が無惨に転がっていたのだ。

 

「誰が…こんな…」

 

「とにかくいこう」

 

 動揺している暇はない。すぐに屋上に向かったカレンが見たのは薫の姿。

 

「たっ、助けてくれ!」

 

「……」

 

 彼女は助けを求める解放戦線の兵をニードルガンで冷静に仕留める。

 

「誰だ?」

 

「落ち着いてくれ、俺たちは君たちを助けに来たんだ」

 

「黒の騎士団か…」

 

 彼女の鋭い眼光に怯んだ二人だが扇はすぐに持ち直して向き合う。薫はなにやら呟くと銃をしまうと横で休んでいたミレイを抱き上げる。

 

「助かった。誰だか知らないが礼を述べさせてもらおう」

 

「あぁ、力になれてなによりだ」

 

 先程とはうって変わって落ち着いた雰囲気になった薫はこちらの指示に大人しくしたがってくれている。もしもの時はどうしようかと思っていたカレンは一息つく。

 

 会長は怖かったのか薫にずっと抱きついたまま動かない。薫の変わりようもそうだが色々とありすぎて頭が追い付いていないのだ。

 

(まぁ、全員無事で良かった)

 

ーーーー

 

「第五射も突破されました!信じられない」

 

「臆するな!四連腕部自在砲台を展開!ここは絶対防衛線である。死守するんだぁ!!」

 

「セシルさん、ここでヴァリスを使います!」

 

「え?待って、それは危険よ!!」

 

「活動領域が狭まりました。爆風は覚悟の上です!」

 

 一方、救援に駆けつけていたスザクの戦いもついに決着を迎えようとしていた。

 

ーー

 

 薫たちが脱出用のゴムボートに乗り込んだ際には大きな振動がコンベンションセンターを襲い施設がゆっくりと沈んでいく。

 

「なに?」

 

「基礎ブロックが破壊されたんだろう。心配するな、ここに影響はない」

 

 片時も離れなくなってしまったミレイを落ち着かせる薫は一際大きな船に乗るゼロとカレンたちを見つめる。するとゼロはこっそりとこちらを確認している。なんだかんだ、自身の目で見て安堵しているのだろう。

 

 そしてついに、ゼロによる演説が始まる。

 

「人々よ!我らを恐れ、求めるがいい。我らの名は《黒の騎士団》」

 

「騎士団?」

 

「皮肉だね、テロリストがナイトを名乗るなんて」

 

 日本の全国に流れている。いま、まさに彼の声が日本中に鳴り響いているのだ。

 

「我々、黒の騎士団は武器を持たない全ての者の味方である。イレヴンだろうと、ブリタニア人であろうとも。日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質にとり、無残に殺害した。無意味な行為だ、故に私が制裁を下した」

 

 ついにゼロが、ゼロという存在がこの世界に現れる。歴史に刻まれる1ページがついに書き込まれたのだ。

 

「クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たないイレヴンの虐殺を命じた。このような残虐行為を見過ごすわけにはいかない。故に制裁を加えたのだ」

 

 日本人であろうとブリタニア人であろうと平等に裁く。この存在がどう転ぶか分からない。

 

「私は戦いを否定しない。しかし、強いものが弱いものを一方的に殺す事は断じて許さない!撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!我々は、力ある者が力無き者を襲う時、再び現れるだろう。例えその敵がどれだけ大きな力を持っているとしても」

 

 つい先日、ブリタニア皇帝が演説で放った弱肉強食論を真っ向から否定するようなゼロの言葉はまさにブリタニアとの対立を示していた。

 

(正義の味方…)

 

「力ある者よ、我を恐れよ。力無き者よ、我を求めよ。世界は我々黒の騎士団が、裁く!」

 

 後に黒の騎士団宣言となるこの演説はまさに日本を震撼させる出来事であった。

 

ーーーー

 

「まぁ、安静にしてろよ」

 

「えぇ、ありがとう薫」

 

 ホテルジャック事件後、薫はミレイを実家までしっかりと送り届けていた。

 

「ニーナの事は責めないであげて。あの子、繊細だから」

 

「それどころの騒ぎではなかっただろうが。下手すれば全員死んでいたかも知れないんだぞ」

 

「うん、でもお願い…」

 

「…分かった」

 

 渋々納得した薫は苛立ちをぶつける相手を失ってしまいイライラする。

 

「ありがとう…」

 

 するとミレイからキスをされてそのまま家の中に帰っていく。それを唖然として見つめる薫。

 

「そういえば、告白したんだっけ…」

 

 結構なトランス状態とはいえ、とんでもないことをしてしまった気がするが仕方がない。それだけ、受けいれてくれたのが嬉しかったのだ。

 

「こういうのは慣れてないんだよなぁ」

 

 心の中で赤面しながら帰路に着く薫。それをミレイは家の窓からこっそり見ていたのだった。

 

ーーーー

 

 それから数日後、ミレイは数ヵ所の打撲痕を残しはしたがしっかりと元気に復帰した。ついでに薫は毎日お見舞いをして家の人と仲良くなるほどまで彼女の家で過ごした。

 そしてミレイが復帰した日に彼女は早速、イベントを開催するのだった。

 

「やめろ、やめるんだ!!」

 

「ごめんルルーシュ。会長命令だから。」

 

「顔が笑ってるだろ、オイ!薫、お前も助けてくれ!」

 

「あきらめろ、俺はもっと恥ずかしい格好なんだ」

 

 女性のラインをこれでもかと主張している猫服を着ていた薫はジーとルルーシュを見つめる。

 

「無表情だからって騙されんぞ!おまえ、絶対楽しんでるだろ!」

 

「なにが悪い!」

 

「開き直ったなぁ!」 

 

「動かないの!」

 

 シャーリーにがっちりホールドされてるルルーシュ。男としては情けないことこの上ないのだが非力なルルーシュと体育会系のシャーリーとでは絶望的な差がある。無理だろうな。

 

「え?」

 

「おはようニャン!」

 

 すると生徒会室にカレンが登場。病弱設定に信憑性が出てくる疲れ具合だ。黒の騎士団活動が大変なのだろう。

 

「おは…ようございます。何これは?」

 

「アーサーの歓迎会よ」

 

 なので猫の格好。うん、ここまでする必要はないと常々思うがミレイの思い付きはいつも通りなので何も思うまい。

 

「カレンはいらないだろ?とっくに被ってるもんな」

 

「あなたテレビにでも出れば?人気者になれるわよ」

 

「どうですか、テレビスターさん?」

 

「そっちに振るんだ…」

 

 本当に大変だった。コンベンションセンターから脱出できたのは良いものの被害にあった可哀想な学生たちというレッテルを張られた薫たちはマスコミたちに猛突撃され大変だったのだ。 

 

「まぁ、これもモラトリアムよ!」

 

 これでよしとしておこう。

 

 その後も、スザクが泣くというハプニングもあったがなんとも平和に事が終わるのだった。

 

ーー

 

 その放課後、生徒会室で薫はカレンの家に行ったミレイを待ってゆっくりしていた。部屋にはアーサーと戯れるスザクと雑誌を読むルルーシュもおり久しぶりにこの面子だけになった。

 

「あんな所で泣くなよな、恥ずかしい奴」

 

「素直って言ってよ」

 

 対して俺は暇すぎてクロスワードパズルに真っ最中だ。なんか部屋においてあった雑誌のやつで送るとピザ屋のマスコットチーズくんが貰えるらしい。

 

「ま、皆が助かったのは良かったけどな黒の騎士団さまさまだ」

 

「犯罪者を取り締まりたいなら、警察に入ればいいのに…彼等はどうしてそうしないんだろう?」

 

「警察じゃできないと思ったんだろう。警察なんて…」

 

「今はダメでも、警察の中に入って変えていけばいいじゃないか」

 

「変える過程で結局は色々なしがらみを抱える事になる」

 

「それは、ギリギリまで変える努力をして初めて言える事だよ。それをしない限り彼らの言い分は独善に過ぎない」

 

「独善?」

 

「彼等の言う悪って何だい?何を基準にしているのかもわからないじゃないか。一方通行の自己満足だよ!」

 

 なんか横でとんでもない議題が炸裂しているが触らぬ神に祟りなし。それを無視してクロスワードに勤しんでいると。

 

「薫はどうおもう?」

 

「俺か?」

 

 気づいたらスザクもルルーシュもこちらを向いて答えを待っている。なんで俺を巻き込むんだよ…まったく。

 

「悪と正義の定義だっけ?俺から言わせれば悪なんて存在しない。元々、戦いなんてお互いの正義と正義のぶつかり合いだ」

 

 互いに正しいと思ってるからこそ、相手が悪だと思ってるからこそ命を懸けて兵士は戦うものだ。

 

「それは…」

 

「人一人の思想が違うようにそれに沿った正義が本人の中では存在する。その人の立場や状況で正義なんてものはコロコロ変わる。まぁ、ゼロの発言だとほとんどの大衆はゼロに転がるだろうな。彼は正義のためならクロヴィス殿下さえ殺すんだから。誰もが信じるだろうさ」

 

少なくともルルーシュとスザクの正義は相反している。悲しいがいつか本当の意味で二人か戦い合うのは確実だな。

 

 

「確かに、薫の言う通りかもしれない。でも僕は」

 

「お前はそれでいいのさ…。お前は大衆に意見を合わせるようなやつじゃないだろう?」

 

 そう言うと立ち上がる薫。話は終わりだとばかりに帰り支度を整えるとドアに手をかける。

 

「お前たちはもう少し学生らしい議論でもしてろ。俺はミレイとケーキバイキングだ」

 

 そう言って生徒会室を去る薫を二人は黙って見送るのだった。

 

 



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ナリタ連山攻防戦 Ⅰ

 黒の騎士団の宣言からしばらくした後。黒の騎士団は義賊として法では裁けない悪を一方的に罰していった。その気運もあってテロリストたちも活発化を果たしていた。

 

「まさか片瀬少将に呼ばれるとはな」

 

「やっぱり草壁中佐の事かな?」

 

「たぶんな」

 

 カワグチ湖コンベンションセンターでの出来事は俺の方も被害者なので呼び出される謂れはないのだが仕方がない。せっかく、日本解放戦線から本部に招待されたのだ。行かないわけにはいかない。

 

「でもなんでうちの主力を全員連れてきたの?」

 

「いや、やな予感がするんだよ…」

 

 薫たち一行は大型トレーラー四台編成でうちの主力ナイトメア、人員を全員根こそぎ連れてきたのだ。確か、コーネリア軍が日本解放戦線を倒すために軍事行動を行うはずだ。いつかは知らないが。

 

 もしもの時は俺たちだけでブリタニア軍を突破しなければならないかもしれない。そのための戦力を連れてきたのだ。

 

「薫の言うことなら信じるけどね」

 

 トレーラーを運転していたライは助手席で休む薫を横目にナリタ連山に向かうのだった。

 

ーーーー

 

「ん、なんだ?」

 

 ナリタ連山の山荘に訪れていたゼロは山の中に入っていく大型トレーラーを確認していた。山荘に置いてあった資料を見ると白蛇と記してある項目を見つける。

 

「白蛇…お前もここにいるのか。まさか、ブリタニアの動きを把握してここに…」

 

 やつらの戦闘能力がどれ程のものかは知らないがイレギュラーが発生する可能性もある。

 

「不穏要素は早めに排除しておかねばな…」

 

 これもスザクやナナリー、薫のためだ。日本解放戦線や白蛇たちは味方などと思っていない。駒として使えるのは黒の騎士団のみ、他はこちらを生かすための存在でしかないのだから。

 

ーーーー

 

「操縦はマニュアル通りです」

 

「おけ、ありがとうセシルさん」

 

 ナリタ連山外縁、そこには待機しているコーネリアの旗艦G-1ベース。その脇には特派のトレーラーが止まっておりランスロット・クラブの説明を行っていた。

 

「僕たちは命令系統が違うからねぇ。ランスロットが出せないかもしれないからちゃんとクラブで取ってきてね!」

 

「了解です。ロイドさん」

 

 ナイトオブラウンズのシュンはクラブを受けとると作戦内容を記した書類に目を通す。ダールトンの部隊に混じっての進撃となるが何も問題はない。

 

「本当にランスロットがもう一機あったんですね」

 

「そうよ。まぁ、これはグロースターの改造機だから純粋なランスロットじゃないんだけど」

 

 もう一機のランスロットの存在にやや驚くスザク。そんな彼を見つけたシュンは笑顔で彼に近づく。

 

「おぉ、君がスザクくんか!」

 

「はっ、枢木スザク准尉です!」

 

「遊びに行っても中々いないから本当にいるかと心配したよ!」

 

「すいません、普段は学校に行っているもので…」

 

「まぁ、気にするな」

 

(薫に似ている…)

 

 やけにフレンドリーに接してくるシュンを見たスザクは彼の顔に驚く。多少の顔立ちの違いこそあるがほとんど薫にそっくりだったからだ。

 

「あの、佐脇薫って人を知っていますか?」

 

「えっ…。その名前をどこで…」

 

「ヴィヨネット卿、もうすぐ作戦時間だ。ナンバーズと馴れ合う前に配置につけ!」

 

「ちっ…」

 

 明らかに食い付きが違ったシュンだがコーネリアからの通信を貰うと渋々クラブに乗り込む。

 

「スザクくん、その話はまた後にしよう」

 

「あ、はい」

 

 こうしてランスロット・クラブがダールトン隊に組み込まれたことで全軍の配置が完了する。

 

「総督、時間です」

 

「よし、作戦開始!」

 

 それと同時にコーネリアの時の声でブリタニア軍が進軍を開始する。

 

「日本解放戦線、刻に取り残されし者どもが…自愛を忘れた者どもが…今こそ、まほろばの夢と共に朽ちて消え逝け…」

 

 こうしてナリタ連山攻略作戦を開始するのだった。

 

ーーーー

 

 その少し前、薫たちは日本解放戦線の首魁である片瀬少将と面会をしていた。

 

「よく来てくれた。君たちの活躍は聞いているよ」

 

「ご招待いただきありがとうございます」

 

「藤堂も会いたがっておったのだがキョウトに新型を取りに行っていてな。今は居らんのだ…」

 

「今なんと?」

 

 挨拶を済ませ話に進もうとする片瀬の言葉を遮り、薫は聞き直す。今、藤堂が新型を取りに行っていて居ないと言っていた。新型とは無頼改で間違いないと言うことは映画で見た場面と同じではないか!

 

「片瀬少将、失礼ながら進言します」

 

「どうしたのだ?」

 

 白蛇の突然の行動に控えていた将校たちは身構えるがそんなことは気にしない。

 

「コーネリアを主力とする部隊がこのナリタ連山を落とすために軍を進撃させています。すぐに脱出の準備を!」

 

「馬鹿言え!このナリタ連山は我らが日本解放戦線の本部、例えコーネリアと言えど容易く手が出せる場所ではないわ!」

 

 そばに控えていた将校の怒声に怯むことなく片瀬を見つめる白蛇。

 

「もしそれが本当なら一大事だな…」

 

「片瀬少将!」

 

「片瀬少将、緊急事態です!ブリタニア軍が!」

 

 白蛇の意見に耳を傾けようとした片瀬を諌めようと将校が声を出した瞬間。客間に兵が駆け込み事態を告げる。時は既に遅く、ブリタニア軍は動き始めていた。

 

「敵襲だと!?」

 

「はっ、ブリタニア軍はこのナリタ連山を包囲しています。その数、およそ100以上!」

 

 ナイトメア一個小隊が4機だと計算して約一個連隊ほどか…。それにしても大部隊だ。コーネリアの手持ちの部隊を総動員していると推測される。

 

「我々は完全に包囲されました。地下協力員も一斉に逮捕されたようです!」

 

「片瀬少将、コーネリア軍から投降せよという連絡が入っておりますが…」

 

「馬鹿め、ここで降ったら日本の抵抗活動はおしまいだ!」

 

「では少将、撃って出ますか?それとも籠城策を…」

 

「藤堂は、藤堂はどうした?」

 

「いまだにキョウトより帰投しておりません。四聖剣も行動を共にしています。予定ではもうそろそろ着くはずですが」

 

「藤堂は間に合わん。無頼、出撃準備!敵の包囲網を突破し脱出する!日本の誇りと意地をかけよ、回天の時である!」

 

「片瀬少将、我々も出ます」

 

 一通りの指示を出し終えたのを確認すると白蛇は片瀬に進言する。すると嬉しそうに振り返ってくる。

 

「おぉ、助かる。田端少佐の部隊と共に出てくれ、そこが我らの本命だ」

 

「仰せのままに…」

 

 片瀬から許可を貰うとそのまま司令部を後にする。そばに控えていたライは歩きながら耳打ちをする。

 

「なんで、もう少し状況を見て出ないの?」

 

「日本解放戦線と心中する気なんてさらさらない。俺たちは俺たちのタイミングで逃げるさ。最低限の義理だけ果たしたらな」

 

「なるほど、了解」

 

ーーーー

 

「各機、深追いは禁物だ。敵はコーネリアの精鋭たち、油断すればしぬぞ」

 

「「了解!」」

 

 白蛇の持ってきたトレーラーから顔を出したのは白蛇専用機、白夜叉。ライの月下、伊丹の白号、ジェシカたちの無頼改。

 

「流石は白蛇さまだ。まさか、ブリタニア軍の動きを察知していたとは」

 

「それをも想定しての我ら、この信頼に応えずして何が部下でしょう」

 

 機体を起動させながら白蛇を誉める伊丹とジェシカ。白蛇グループの共通回線を使っているので本人にも聞こえているのだが…。

 

(ヨイショするなら密かにやってくれよな…)

 

 本人はとても恥ずかしかった。

 

ーーーー

 

「我らは貴様らを信用している訳じゃない。それを忘れるなよ」

 

「それで結構、我らは独自行動を取らせて貰うからな」

 

 格納庫から山の表面に上がるためのエレベーターでは白蛇たち以外に田端少佐率いる部隊も運ばれていた。田端はこちらを敵視しているがこっちはそんなこと関係ない。

 

「なに?」

 

「身内同士でいがみ合うより先にやることがあるのでは?」

 

「貴様…」

 

 そう言っていると表面に到着し下を見るとブリタニア軍がわんさかと湧いてこちらに進軍してくるのが見える。

 日本解放戦線が次々と進撃していく中、白蛇は山荘前に陣を敷いてそのまま動かない。

 

「重いなぁ…」

 

 薫は白夜叉の機体重量と背面に装備してあった十字剣を取り、呟く。現時点ではナイトメアが持つ剣の中で最高硬度を誇るらしいがとにかく重いのだ。

 

(まぁ、機体は操れないことはないが…)

 

「白蛇様、敵です!」

 

「ほう、ここがゴールだというのに随分と速いじゃないか」

 

 目の前にはバズーカーなどの高い火力を誇る武装をしたグロースター。その中に紫色のランスロットの姿が見える。

 

(嘘だろ、ランスロット?いや、よく見れば形状が微妙に違う、でもランスロット?なんでそんな機体がここに?)

 

 映画ではもっと後からヒーローっぽく登場するはずだ。

 

(本当にランスロットか?)

 

 信じれないと言うより信じたくなかった薫はよく見るために機体を前に進めると地面から変な音がした。

 

ピシッ…。

 

(ん?)

 

 その瞬間、地面が少し崩れバランスを崩した白夜叉はそのまま脚を滑らしながら斜面を降っていく。

 

(ほわぁぉあぁぁぁ!)

 

「各機、白蛇様に続け!」

 

「「おぉぉぉぉぉ!」」

 

 白蛇の前進を皮切りにライたちも出撃、山頂に進軍していたダールトン隊と激突するのだった。

 

ーー

 

(もうなんともなれ!)

 

 滑り落ちた先に居たのはダールトンのグロースター。ダールトンは他の機体からランスを受けとると白蛇が振るった十字剣を受けるが機体重量と勢いの差でグロースターが吹き飛ばされる。

 

「ライ!」

 

「分かってるよ!」

 

 すると側面から紫色のランスロットがMVSを起動させながら突っ込んでくるがすぐ側にいたライの月下が回転刃刀で受け流すと左手の輻射波動で掴もうとするが逃げられる。

 

「僕はこの新型を相手する。白蛇を頼む!」

 

「白蛇様を援護しろ!」

 

「「了解!」」

 

(くそっ、敵のど真ん中に来ちまった!)

 

 白蛇は目の前のグロースターのバズーカ弾をシールドで受けると左手で頭部を掴むと逃げられなくして十字剣をコックピットに突き刺す。

 コーネリアの精鋭と言えどまだ対処できる。そう踏んだ白蛇は腰についたスラッシュハーケンでその後方にいたサザーランドを破壊する。

 

(よし、まだ戦える!)

 

 混戦となった戦いは乱れ熾烈を極める。白蛇がダールトン機と戦っていると突然、山が揺れる。

 

「なに、地震か!?」

 

「こんなときに!」

 

「白蛇さま!」

 

 異変に気づいた伊丹が山頂を指差す。その先には巨大な山崩れによって発生した濁流がこちらに襲ってくる光景。

 

(しまった、これを忘れてた!)

 

「総員、左に退避!急げ!」

 

 ダールトンとの戦いを中断して逃げる白蛇たち。それはダールトンたちも同じで逃げに徹する。

 

「くそっ、ルルーシュめ!」

 

 今回ばかりは彼を恨まずには居られない。だが鈍足の白夜叉では逃げ切れない。

 

「まずっ!?」

 

「白蛇さまぁ!」

 

 

 




こんな場面ですが正月に入るのでしばらくお休みします。



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ナリタ連山攻防戦 Ⅱ

 

「敵の拠点は山中にあると想定されていますが正確な場所は分かっておりません。しかし協力メンバーのリストを手に入れるためには本拠地ごと空爆で潰すわけには参りません」

 

「敵は我が軍の包囲網に対して部分突破を図るでしょうから。そこから敵の本拠地を割り出します」

 

「正面戦力は3つ。ダールトン将軍、アレックス将軍そしてコーネリア総督の率いる部隊です。としては側面戦力としては…ん?」

 

「敵のECMですね」

 

ーー

 

「まもなく、敵部隊が出てくるはずだ。こちらはECCMを展開、チャンネルをアルファ4に設定。敵の…なんだったか?」

 

 ナリタ連山山荘付近、コーネリアの側近中の側近。アンドレアス・ダールトン将軍率いる部隊がゆっくりと進撃していた。

 

「無頼ですか?」

 

「あぁ、グラスゴーもどきには気を付けろ」

 

「イエス・マイロード」

 

 その中には藤色のランスロットも隊列を組んで進撃。装備はSMVSショートメザーバイブレーションソードを二本装備し専用のヴァリスを構えながら進軍していた。

 

「しかし慣れませんな。あのナイトオブラウンズが自分の部隊にいるとは」

 

「俺は指示待ち人間でね。誰かの下にいた方がなにも考えなくていいんだよ」

 

「ご冗談を…」

 

 ダールトンたちは軽口を叩きながらも的確に敵を潰していく。

 

「ダールトン将軍、解析の結果、敵の本拠地入り口はあの山荘という結果が出ました」

 

「ビンゴっと言うのだったかなこう言うのは?」

 

「いえ、正確にはで…」

 

「合わせろよ正直者め…」

 

 まったく昔からウォッチは正直者だ。だが彼もまたコーネリア親衛隊発足当時からの面子。もはや恒例行事となっていた。

 

「ダールトン将軍、山荘前面に敵部隊を確認」

 

「なに?」

 

 部下の言葉に目を向けると確かに未確認のナイトメアを含む部隊が展開していた。

 

「なんだあれは?」

 

「未確認機、2機確認。他カスタム機と思われる機体もあります」

 

「落ち着け、敵は小勢。包囲して確実に叩くぞ」

 

「「イエス・ユア・ハイネス!」」

 

 いくら新型を投入してこようがこちらにはコーネリアに従える精鋭と圧倒的な物量がある。確実に潰した方が賢明だ。

 敵を包囲しようと展開を始める部隊。その瞬間、白い機体が斜面を滑りながら突撃してくる。

 

「な、なんだと!?」

 

「敵、一機。いえ、全機が突っ込んできます!」

 

「迎撃だ!」

 

 ダールトンの声と共にライフルやバズーカーが火を吹き敵を迎え撃つが先頭の機体は大きな十字剣とシールドを盾にしながら突っ込んでくる。

 圧倒的な火力を前に怯むことなく突っ込んでくる。

 

(やられた。このまま突っ込まれれば混戦になる!)

 

「ダールトン将軍!」

 

「すまん!」

 

 ダールトンは部下からランスを受け取ると目の前に迫ってきた白い機体の十字剣を受け止める。

 

「んぐぅ!」

 

「ダールトン将軍!?」

 

 勢いに押し負け、ダールトンのグロースターが吹き飛ばされるがすぐに他のグロースターがカバーに入る。

 

「ダールトン将軍を援護しろ!奴が隊長機だ!」

 

 ウォッチは即座にバズーカを発射するが防がれ爆炎で視界が塞がる。

 

「しまった、近すぎた!」

 

 危険と判断した彼は即座に退避しようとするが爆炎から出てきた手に頭を掴まれ逃げられなくなる。

 

「ウォッチ!!」

 

「オール・ハイル・コーネリア!」

 

 十字剣をコックピットに突き立てられウォッチは絶命する。

 

「このぉ!」

 

 カバーに入ろうとしたサザーランドもスラッシュハーケンでライフルと頭部を破壊され倒れる。

 

(やられた!)

 

 ダールトンは思わず歯噛みする。

 ダールトンの部隊は遠距離系の武装が主だ通常ならランスも持って来るのだが火力を底上げするために両手武装を装備しているために携行していない。

 コーネリアの部隊は当然ながらランスを携行しているため問題ないだろうが遠距離武装が主なこの部隊は混戦になれば同士討ちを恐れて攻撃し辛いのだ。

 

(部隊の編成を一瞬で見抜き、突撃を仕掛けてくるとは…)

 

「白蛇、予想以上に厄介な敵だ…」

 

 白蛇が介入してくることは想定していた。だからこそ包囲部隊を余分に配置していたのだが。まさかすでに中に居るとは。いや、中にいるからこそ好機。ここで奴を叩かねばならない。そのためにシュンも部隊に加えているのだ。

 

「ここで奴を叩くぞ。覚悟しろ!」

 

「敵の後衛が到着します!」

 

「チェストぉ!」

 

 白号を与えられた伊丹は渡された回転刃刀でグロースターの右腕を切断するとそのままサザーランドを真っ二つにする。

 

「こいつら、やるぞ!」

 

「数はこちらが上だ!囲んで叩け!」

 

 敵味方入り乱れる戦場は混迷を極めていた。

 

「ダールトン将軍、戦場を移します。ここは不味い」

 

「なんだと?」

 

「とにかく、ここは不味い。戦闘状態を維持しつつ場所を移します!」

 

「分かった!」

 

 シュンの突然の言葉に疑問を浮かべるダールトンだがすぐに各部隊に指示を出して少しずつ戦場を反らしていくのだった。

 

ーーーー

 

「よし、全ての準備は調った。黒の騎士団、総員出撃準備!」

 

「くそっ、やるしかねぇ」

 

「死んでたまるか」

 

「奇跡ってやつを起こしてやる!」

 

 ナリタ連山山頂部。そこに陣取っていた黒の騎士団たちは一斉に出撃準備を開始し戦闘モードに移行する。

 

「これより黒の騎士団はブリタニア軍に対し、山頂より奇襲を敢行する。私の指示に従い、第3ポイントまで一気に駆け降りろ。作戦目的はブリタニア第二皇女コーネリアの確保にある。突入ルートを切り開くのは紅蓮弐式だ」

 

 山肌に無数に突き刺された掘削機。その中の1つに紅蓮は大きなかぎ爪を添えて準備をする。

 

「カレン、貫通電極は3番を使う。一撃で決められるな?」

 

「はい、出力確認。輻射波動機構外債状態維持……外周伝達!」

 

 掘削機に輻射波動の高熱が伝えられ巨大な地響きが鳴り響く。

 

「やった!」

 

 滑り落ちる斜面。予想通りの位置に土砂崩れを誘導できた。もちろん、ブリタニア軍が集中している所を狙ったのもあるがルルーシュの中には白蛇ももろとも消そうという腹積もりも存在したのも事実だった。

 

ーーーー

 

「白蛇さまぁ!」

 

「くっ!」

 

 ダールトン将軍の部隊がずれたお陰でギリギリ、難を逃れた薫。だがあまりの事態にお互い部隊を退かせて様子を見るのだった。

 

「各員、被害状況を報告!」

 

「こちら侍女隊、問題ありません」

 

「こちらも問題なし!」

 

「よし、日本解放戦線の動きを確認しつつ移動するぞ!」

 

「「了解!」」

 

 全員の無事を確認した薫は思わず歯噛みする。映画でもこのシーンはあった。こんな大事なことを忘れてたなんて。

 

(ルルーシュめ。後で恨んでやる!)

 

ーーーー

 

「我が軍の被害は?」

 

「信号の反応は30%を切っています」

 

「30%…これでは指揮系統が成り立たん!」

 

 シュンのお陰で難を逃れたが助かったのはダールトン直属の部隊のみ。他のアレックス将軍をふくめた部隊は土砂崩れに巻き込まれてしまった。

 

「無事ですか、ダールトン将軍」

 

「ヴィヨネット卿、無事だったか」

 

「なんとか」

 

 よくみるとランスロット・クラブは傷ついていたが土砂崩れでの損傷ではないようだ。

 

(あれってライだよな…。まさか白蛇グループに身を寄せてたとはなぁ。メチャクソ強かったんだが…)

 

 戦場は渡り歩いてきたはずだ。だがライはこの中でも特筆すべき化け物だ。正直、土砂崩れがなかったら危なかった。

 

「無事な部隊はわれわれと合流しろ!」

 

 ダールトン将軍の部隊は残存戦力をかき集めて戦線の維持を図る。そうしている間に薫たちは移動を開始していた。

 

ーー

 

「白蛇さま、どうされますか?」

 

「ブリタニア軍もかなりの被害があったはずだ。この隙に包囲網を突破して脱出する。とにかく戦況を確認したい、山頂にいくぞ」

 

「「了解!」」

 

ーーーー

 

「おい動け!イレブンに負けてしまう?誇りあるブリタニアの…」

 

「キューエル卿!」

 

 一方、黒の騎士団たちは紅蓮を中心に純血派の部隊を押し退けブリタニア軍の陣形奥深くまで侵入していた。

 

「よし、紅蓮は予定位置へ。残りの者でここを突破しコーネリアを狙う!」

 

「はい!」

 

「分かった!」

 

「行けるぞ俺たち!」

 

 黒の騎士団、ナイトメア隊は純血派の残存部隊と交戦を開始する。

 

「ここは死守するぞ!」

 

「杉山、生きてるか!?」

 

 しかしその勢い虚しく、ルルーシュたちはその場で足止めされるのだった。

 

ーーーー

 

「よし。このままゼロを釘付けにしろ!」

 

「ヴィレッタ卿、背後より所属不明機が!」

 

「なに!?」

 

 なんとかゼロたちの足止めを行っていたヴィレッタたちだったが背後より近づいてきた敵の存在を知り構える。

 

「所詮、敵はグラスゴーの改造機。臆することはない!」

 

「来ます!」

 

 そして森の中から姿を現したのは白いナイトメアの部隊。

 

「なんだ、こいつらは!?」

 

「やれ…」

 

 ヴィレッタは一瞬にして薫の白夜叉に武器を奪われる。

 

(この工事用のピッケルは…イバラキの!?)

 

 こんな芸当が出来るのは奴しか居ない。奴らがこんなところに居るなんて。

 

「全機退避だ!」

 

 ヴィレッタはコックピットを脱出させ逃げる。その直後にサザーランドは薫によって蜂の巣にされ破壊される。

 

「このイレブン風情がぁ!」

 

「白蛇!」

 

 ヴィレッタ機を破壊した薫を狙うサザーランドにライは左腕で掴むと輻射波動を叩き込む。

 

「バカな、あれは!?」

 

「輻射波動だと!?」

 

 それを見ていたルルーシュは驚愕する。あれはキョウトから与えられた紅蓮にしかない機能のはず。それを白蛇の部隊も運用しているとは。

 

「あの新型って見たことないよな」

 

「あぁ、なんだあの機体は?」

 

 そして特筆すべきは白く巨大なナイトメア。純血派を壊滅させたあと、そのナイトメアはこちらを向き、ゆっくりと歩み寄るのだった。

 

 

 

 



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ナリタ連山攻防戦 Ⅲ

「くっ、各機。ポイント9に進撃する遅れるなよ!」

 

「ゼロ、白蛇は!?」

 

「行くぞ!」

 

 こちらに絡まれても厄介だと判断したルルーシュは即座にコーネリア討伐に向かう。それを黙って見送った薫は伊丹たちの方へ振り替える。

 

「伊丹、お前は侍女隊を連れて退路を作れ」

 

「はっ!」

 

「ライ、俺と来い。俺たちはコーネリアを潰す」

 

「分かった!」

 

 ランドスピナーで加速した月下を薫が追う形で二人は山頂に登る。すでに戦況もかなり終盤に差し掛かっているのだった。

 

ーーーー

 

(この戦力なら…)

 

 紅蓮と月下、白夜叉の3機がいればランスロットを排除しコーネリアを捕縛できる。

 

「白蛇、よこ!」

 

「っ!」

 

 森の奥から出現したのは紫のランスロット。二振りの剣を構えて突撃してくるが薫も十字剣で受け流す。

 

「来たな、知らないランスロット!」

 

「お前は何者だ!白蛇!?」

 

「邪魔するなぁ!」

 

「弾かれた!?」

 

 MVSを真っ正面から受け止め弾く堅牢なシールドを目の前にして舌を巻く。まさかこんなナイトメアが存在していたとは。

 

「スザク並みに強いぞ、こいつ!?」

 

「白蛇、僕に任せて!」

 

 バルカンとヴィレッタから奪ったライフルで牽制をしつつ後退する薫をカバーするように月下が前に出る。

 

「また月下かよ」

 

 回転刃刀と輻射波動のコンボに猛襲されるがそれをすべていなして距離を置く。

 

「化けもんかよコイツ!」

 

 シュンが一瞬怯んだ瞬間に薫のスラッシュハーケンが左のMVSを弾く。

 

「くそっ、イレギュラーどもめ!」

 

 ブレイズルミナスで輻射波動を抑え込むとピッケルを持った白夜叉が距離を詰めてくる。先に潰すなら白夜叉の方だと判断したシュンはハーケンを撃ち込むがシールドにいなされる。

 

「白蛇!」

 

「距離を詰める、援護を!」

 

 近距離のハーケンを対処するのは通常では不可能だ。それをやり遂げてしまう薫も尋常ならざるパイロットに成長していた。

 振るわれるMVSそれと同時にMVSの鍔にピッケルが引っ掛かる。

 

「なに?」

 

「貰った!」

 

 ピッケルを器用に使ってMVSを上空にかち上げる。

 

「ちっ!」

 

 シュンは悪態をつきながら後退し腰に懸架してあったヴァリスを構えると速射、銃弾は十字剣に当たり弾かれる。

 

「もらった!」

 

「まだだ!」

 

 ヴァリスの二射目。それが放たれると同時に薫は落ちてきたMVSを掴むとヴァリスの銃口を切り裂く。

 だがヴァリスの二射目は見事にコックピットを直撃し派手な爆発が起きる。

 

「白蛇!」

 

「退くしかないか!」

 

 ゆっくりと倒れる白夜叉を見たシュンはコーネリア救出を断念して後退する。対してライは急いで駆け寄ると薫の安否を確かめようとする。

 

「無事だよ…死にかけたがな…」

 

「よかったぁ…」

 

 コックピット周りに仕掛けられた爆発反応装甲が早速、役に立つとは思わなかった。ヴァリスというチート兵器相手に凌ぎきったのは大きいだろう。

 まぁ、その衝撃で頭から血が出ているが…。

 

「大丈夫、薫?」

 

「まぁな、それより。戦況は?」

 

「ブリタニア軍が撤退を始めて日本解放戦線が前線を押し上げてるみたいだね」

 

 仮面を外してライに包帯を巻いてもらっている薫は無線を聞きながら戦況把握に勤める。

 

「やることはないか…。俺たちも撤退するか」

 

「薫…」

 

「なんだ?」

 

「無茶しないでよ。薫が死んだら、僕はどうやって生きていけば良いか分からなくなってしまう」

 

「ライ…」

 

 シュンとなるライを見て頭を撫でてやる。全く、見た目は一人前以上なのに中身はまだ子供のようだ。 

 

「バカ言え、誰が好き好んで死んでやるか」

 

「そうだよね」

 

「あぁ、そうさ…」

 

 こうしてナリタ連山攻防戦は終了、戦いの主役であった日本解放戦線とブリタニア軍、双方とも甚大な被害を出して終了するのだった。

 

ーーーー

 

「総督の作戦で日本解放戦線はほぼ壊滅しました。逃走中の団員も次々と捕まっています」

 

「それは嫌味か?我が軍が建て直しを迫られているというのに」

 

「あぁ…いえ。そんなつもりは」

 

 ナリタ連山の攻防戦から翌日。政庁において事後会議が開かれていた。

 

「そもそも占領後の政策が間違っていたのでは?エリア11の地下鉄網や鉱山坑道をなぜ放置された。ゲットーでは各地の所有権も曖昧なまま反政府活動の温床が放置されている」

 

「えぇ…地下鉄はほぼ全国に張り巡らせておりまして租界以外を埋めるには予算が…」

 

「テロリストの拠点や逃走経路になっていると分かっていてもか!」

 

 ギルフォードの怒りは最もだ。実際に白蛇やゼロは地下鉄を利用した逃走経路を多用している所から見てテロリスト側からすれば地下鉄網は逃走経路にうってつけなのだ。

 

「クロヴィス殿下の指示でして…強く出ると内乱状態になり、中華連邦につけいる隙を与えると」

 

「すでに与えている。ゼロの勢力が力をつけつつあるしな」

 

「事務次官、内政省の管理下にこのエリア11の自治を司るイレブンの代表たちが居ましたな。確かNACとかいうグループの。先日の作戦でNACの尻尾を掴みたかったのですが資料は土砂の下。しかし、疑いは濃厚です。ここを先に抑えれば」

 

「うむ、名門と財閥の集合体。もはや過去の異物か…」

 

 NAC、テロリストからはキョウトと呼ばれるグループ。つまりすべてのテロリストの頂点に立つ存在。相変わらずダールトンの分析は細かく、正確だ。

 

「お待ちください、それはあくまでも噂。証拠は全くございません彼らを抑えればイレブンたちの経済がたち行かなくなります。本国への徴税にも影響がでましょうし」

 

 事務次官の必死の擁護を面白そうに見つめるシュン。彼は一貫して沈黙を守り、会議には参加していなかった。

 

「それで、日本解放戦線に身を寄せていた白蛇グループの件だが。どうだったダールトン?」

 

「はっ、一言で言えば。油断ならない敵です。少なくとも私以上の操作技術と鋭い観察眼、度胸を兼ね備えている人物です」

 

「ダールトンをそこまで言わせるとはな」

 

「現在に至るまで白蛇に関する情報が上がってきて居ないということは既に敵は潜伏を始め、潜んでおりましょう。もしものためにそういった場所を確保していたのかもしれません」

 

 謎のグループ白蛇。黒の騎士団並みに警戒を強めなければならない相手だ。

 

「しかし、我々と共に土砂崩れに巻き込まれかけていました。ゼロと白蛇の関係はまだ皆無といった方が良いでしょう。二人が手を組む前に何とかしなければ」

 

 確かにゼロと白蛇が手を組めばブリタニアにとって厄介な敵になることは容易に想像できる。それまでにどちらかの勢力を潰しておかなければならない。

 

「しかし、黒の騎士団を含め。未確認機が3機も」

 

「しかも凄腕だよ。死ぬかと思ったもん」

 

「ヴィヨネット卿までもがいいますか」

 

 紅蓮、白夜叉、月下。このナリタ連山での戦いで3機も新型が現れたのだ。こちらもうかうかしてられない状況だろう。ギルフォードは思わず眉を潜める。しかも相手はナイトオブラウンズをすら手惑わせる強者だ。

 

「参りましたね…」

 

ーーーー

 

「ブリタニアの皇女がこれほどとはな」

 

「解放戦線は分裂し日本の灯火は消えました」

 

「待たれよ。逃走中とは言え藤堂は今に健在ですぞ!」

 

「しかれども、無頼改まで失っては…」

 

「白蛇も手を尽くしているが対応しきれんだろう。時間が必要だ」

 

 キョウト本部。その御前会議で桐原たちはコーネリアの苛烈なほどの侵略スピードに思わず舌を巻いていた。

 

「希望ならありますわ」

 

「黒の騎士団…紅蓮の件もそうですが枢木スザク救出以降、ゼロにご執心ですな」

 

「白蛇とゼロ。二人が手を取り合う必要がありますわ」

 

「手配いたしましょう」

 

ーーーー

 

「なにその包帯は?」

 

「ん、いや。寝ぼけて頭を打ってな…」

 

「嘘つき…」

 

「うっ…」

 

 アッシュフォード学園生徒会室。まだ誰もいない部屋にはミレイと薫の二人だけがいた。

 

「昨日のナリタに居たのよね?」

 

「敵わないな、ミレイには」

 

「嫌でも分かるわよ」

 

 そうやってミレイは薫の後ろから抱きつき頭を撫でる。

 

「止めろなんて無粋なことは言わないわ。でも心配はさせて…」

 

「ミレイ…」

 

「日本の解放が貴方の生きる道なら、私にとっての生きる道は貴方よ。貴方は助けてくれた、誰も手が出せない、出そうとしなかった手を差し伸べてくれたのよ。ルルーシュでもリヴァルでもない、貴方が」

 

「例えどんなに時間がかかっても帰ってくるさ。俺の帰る場所はお前だからな」

 

 つくづく思う。俺は果報者だと生まれ変わってからこんな良い女性と出会って結ばれたんだから。

 

「薫…」

 

「ミレイ…」

 

 ピリリリリッ!

 

「なんだ、無粋な」

 

 せっかく良い雰囲気だったのに。それをぶち壊された薫は苛立ちながら電話を取る。

 

「なんだ、ジェシカか。どうした?」

 

「はっ、実はキョウトから参上せよと勅書が」

 

「なに、キョウトから勅書…分かった。週末だな」

 

 まさかの呼び出し…流石にそれは予想してなかった。

 

「仲間から?」

 

「あぁ、すまないが…」

 

「週末のデートは中止ね…」

 

「埋め合わせはするから」

 

「期待しないで待ってるわ」

 

 すっかり不機嫌になってしまったミレイ。だがそれも可愛いと思うのは惚れた弱味という奴か。

 

「一泊二日の温泉旅行なんてどう?富士辺りにいい旅館があるのよ」

 

「温泉か…いいなぁ」

 

 そう言えば最近、風呂には入るが温泉には浸かっていない。それも良いかもしれない。

 

「でしょでしょ!富士山が見える温泉があるんだって!それもサクラダイト採掘場が見えない側の」

 

「それはひかれるなぁ」

 

 昔の状態の富士山を眺めながら温泉、最高じゃないか。

 

「じゃ、決まりね。また予定が決まったら教えてね」

 

「分かった」

 

(温泉も楽しみだが取り敢えずキョウトだな…)

 

 

 

 



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キョウトの使者

 

「いやぁ、派手にやりましたね」

 

「かなりの激戦だったからな」

 

 キョウトの開発区画。そこで白夜叉のオーバーホールをしていたクリミアは一回の戦闘でボロボロになった白夜叉を見て一息つく。

 

「それにしてもこのMVSは興味深い。高周波ブレードなんてもんをナイトメアに乗せてるなんて…」

 

 あの紫のランスロットから奪ったMVSを興味深げに解析するクリミアの開発陣。

 

「多重装甲シールドがなければ死んでいたよ」

 

「どんな切られ方したか知らないけど…。うわ、3層まで真っ二つか…」

 

 白夜叉の多重装甲シールドはそれぞれ性質の違う5層の装甲板で構成されている。耐ショック、耐貫、防刃、防弾、耐熱で防刃の装甲でしっかりと受け止められていた。

 通常の剣なら剣が砕けてもいいぐらいの硬度を誇っているのにこの有り様。

 

「それにこのコックピット周りの傷も…レールガンかリニアカノンでも受けたの?酷いわね」

 

「携行式のな」

 

「ブリタニアって化け物なのか…」

 

 傷だけでどんな損傷か分かるものなのかと内心感心しているとクリミアはこちらに振り返って近づいてくると。

 

「そのリニアカノン、持って帰ってきてね!」

 

「出来たらな…それも解析するのか?」

 

「私は残念ながらこんなに素晴らしい脳は持ってないの。新たな武器を産み出すのは天才のやることよ。月下の輻射波動もそう、でもそれを学んでより良きものを作り出すのは凡人でも出来る。基盤は目の前にあるもの、私たちなりに昇華させて見せるわ」

 

「期待してるよ。貴方は我々の貴重な開発者だ」

 

「もちろん。そのための私よ」

 

ーー

 

「ゼロと俺を?」

 

「あぁ、日本解放戦線がなくなった以上。日本の灯火はゼロとお主だけ。その為にもゼロを見極めておく必要がある」

 

 いつも通り桐原の私室にお邪魔していた薫は一つ問いただす。

 

「桐原さん、俺個人として聞きます。ゼロの正体、気づいているのでは?」

 

「いや、ただの妄想だよ…」

 

「なら、その役目。俺にやらせてもらえませんか?」

 

「なに?」

 

「貴方の代わりに俺がゼロの真意を暴きます」

 

 桐原の驚いた顔とは対照的に薫は凛とした声色で聞く。その声色に彼は黙ってうなずくのだった。

 

「すいませんが、カンペみたいなものをください」

 

「うむ、分かった」

 

ーーーー

 

「白蛇、ゼロが来た」

 

「そうか、ライ。護衛は任せたぞ」

 

「うん…」

 

 キョウトの用意した車が到着する。薫は暗幕の中に移動して仁王立ちで待つ。暗幕の前には桐原が用意したSPが構える。

 

「ここは、富士鉱山!」

 

「嘘だろおい、そんな所に来られるわけ…」

 

「でも間違いないわよ。この山、この形!」

 

「ってことはこの下にサクラダイトが。戦争の元になったお宝だろ、侵入者は尋問なしで銃殺だっていうのに」

 

「こんなところまで力が及ぶなんてやっぱりキョウトは凄い…」

 

 来るや否や興奮して窓に張り付く扇たち。確かに、ここまでの位置にテロリストの親玉がいるなんて考えもつかないだろう。さて、ここからがこちらの勝負だ。

 

「醜いだろう?」

 

 出来るだけ威厳のある声で声を張ると緊張した面持ちでカレンたちがこちらを振り向く。

 

「かつては山紫水明、水清く緑豊かな霊峰として名を馳せた富士の山も今やブリタニアに屈しなすがままにされる日本の姿そのものだ。富士の真の姿もその高潔なる愛国心も今や心に止めるのみとなった。嘆かわしい…」

 

 薫の言葉にカレンたちは黙って聞くことしか出来ない。それほどに彼女の声には力があった。この声に逆らってはいけないという強迫観念に近いものが存在していた。

 

「顔を見せぬ非礼は詫びるがそれはゼロも同じ。お前を見極めるために見せてもらうぞ!」

 

 鞘に納めたままの刀を振りかざすと奥から無頼が4機出てくる。これも桐原が用意したナイトメアたちだ、それと同時に奥で待機していたライもいつでも動けるようにする。

 

「お待ちください、ゼロは我々に力と勝利を与えてくださいました、それを!」

 

「扇、お前がゼロの仮面を外せ!」

 

 カレンが必死に擁護しようとするが無視。映画によるとルルーシュは無頼に潜んでいるはずだ。

 

「扇さん!」

 

「すまないゼロ。俺も信じたいんだ俺も…だから信じさせてくれ」

 

 扇はゆっくりとゼロの仮面を取る。その仮面が外され、露になった素顔、そこにはC.Cの姿があった。

 

「お、女!?」

 

「そんな」

 

「違うわ、私は見た。この人がゼロと一緒にいるのを!」

 

「だろうな。俺も見たことがあるぞ、サイタマの地下でな」

 

「っ、お前は白蛇か…」

 

「ふふっ。その通り、本来なら桐原公自ら出る予定だったが俺が出させてもらった」

 

 C.Cの言葉に白蛇は笑いながら暗幕から姿を表す。

 

「白蛇さん!?」

 

「カレン、久しぶりだな。これからはもっと会うことになるだろうがな」

 

「ゼロが居ないというのでは仕方がない」

 

 すると隣にいたSPがカレンたちを抹殺しようと合図を送ろうとした瞬間。一機の無頼が動き、3機の無頼を叩きのめした後に白蛇にライフルを突きつける。

 

「やめろ、遠隔射撃されるぞ誰も手を出すな!」

 

「やはりそこにいたなゼロ」

 

「くっ、やはり俺の思考を読んでいたか…。なぜだ、なぜ私の先回りをする!貴様はいったい何者だ!」

 

 ゼロは無頼から降りると白蛇に詰め寄る。仮面と仮面が近距離で近づきかつてないほどに二人は接近する。ここからの位置だとカレンたちには無頼が邪魔になって見えない。

 

「それは、お前の怒りも悲しみも、考えも分かっているからさ」

 

「だからなぜだ!」

 

「ゼロ、冷静になれ。俺はお前の敵じゃない、お前の味方だよ」

 

 そう言うと薫は静かに仮面を外す。仮面の下の素顔が明かになるとゼロは明らかに動揺する。

 

「な、なぜお前がここに…お前が白蛇だったのか?」

 

「そうだよ。俺は日本人だ、当たり前だろ?」

 

 ルルーシュは仮面を外して改めて薫と向き合う。

 

「俺は…お前を殺そうとして…」

 

「あぁ、ナリタは本当に死ぬかと思ったよ」

 

「すまない…か…白蛇!」

 

「気にするな。俺とお前の仲じゃないか」

 

 抱きついてくるルルーシュをなだめる薫は背後にいたライに下がるように命じるとそのまま頭を撫でてやる。

 

「扇、カレン」

 

「「はい!」」

 

「キョウトは全面的に貴様らをサポートすることを誓おう。そしてゼロを信じろ、ゼロは俺の最初の友にして同志。彼は必ず日本に勝利を与えてくれるだろう」

 

「は、はい。ありがとうございます!」

 

ーーーー

 

「まさかあの時、人身御供として預かっていた子とはな」

 

「はい、彼は間違いなくブリタニアの敵。疑いようがありません」

 

「そうだな」

 

 そして薫は取り敢えずルルーシュを先に帰らせて映像越しに見ていた桐原と私室で話していた。

 

「最初の友にして同志か…」

 

「桐原さん?」

 

「いや、運命とは面白いと思ってな」

 

「そうですね。まさか、枢木神社にいたガキたちが世界を相手に戦うなんて思ってなかったでしょう」

 

「現実は小説より奇なりか。面白いのぉ」

 

「えぇ、全くです」

 

 ピリリリリ…

 

 桐原と話していると電話が鳴り響く。それを桐原の了解を得て取る、相手はミレイであった。

 

「ごめんね、でも緊急で」

 

「どうした?」

 

「シャーリーのお父さんが亡くなったの…ナリタ騒ぎで」

 

「あっ……」

 

 



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シャーリーと父

 トウキョウ租界の墓地。そこではシャーリーの父親の葬儀が行われていた。

 

「もう埋めないであげて!」

 

 シャーリーの母親の悲痛な叫びが響く中。薫は静かに棺を見つめる。忘れていた、いや、知ろうとしなかったのだ。あんな状況でシャーリーの父親の位置など把握できるはずがない。だからこそ目を逸らしていたんだその未来を知ってもどうにもならない事実に。

 

 カレンとリヴァルが謝る中、シャーリーはあくまでも冷静で笑顔を浮かべていた。

 

「よしなって、それより私はあんたの方が気がかり。ちゃんと泣いた?今、変に耐えると後で辛くなるよ」

 

「もういいの、もう十分泣いたから…」

 

 カレン、いやルルーシュには相当キツいだろう。自身の事を好いていてくれている女の父親を自分で殺したのだから。

 

「卑怯だ!」

 

 するとスザクは突然叫ぶと感情に身を任せて言葉を並べる。それを止めようと薫は口を挟む。

 

「黒の騎士団は、ゼロのやり方は卑怯だ!自分で仕掛けるのではなく、ただ人の尻馬に乗って事態をかき回しては、審判者を気取って勝ち誇る。あれじゃ、何も変えられない!」

 

「スザク…」

 

「間違ったやり方で得た結果なんて意味はないのに」

 

「スザク!」

 

 その瞬間、薫はスザクをぶった。グーで殴らなかったのは薫がまだ冷静でいられている証だった。

 

「薫…」

 

「今、ここで。言うべき事じゃないだろう!」

 

 なんで殴ってしまったのかは自分でも分からない。でもほんの少しだけ八つ当たりが入ってしまったことに薫は自責の念に駆られる。

 知っていたはずなのだ、彼女の父が死ぬことは。だが忘れていた。一年という年月に加え、なれないテロリストの先導などやることが多く忘れ去っていたんだ。まぁ、これは言い訳だが。

 

「シャーリー。もし、どうしようもない時は俺に相談しろ。必ず力になる」

 

「ありがとう、カオル」

 

「あぁ、じゃあ。また教室でな」

 

 シャーリーに一言添えると薫はスザクを連れてこの場から去る。これ以上、スザクに変なことを言われても困るからだ。

 

 シャーリーが一番仲良くしている生徒会メンバーの半分がシャーリーの父の死に関わっている。

 

(本当に胸くそわりぃ…)

 

ーーーー

 

「薫、大丈夫?」

 

「あぁ、知っていても俺には選択肢がなかった。いや、本気で助けようとすれば助けられたのに俺はそうしなかった。シャーリーの父を殺したのは俺でもある」

 

 だからってテロリストを止めるつもりなんて毛頭にない。ルルーシュはそれでも前に進もうとするはずだ。俺より悲しい過去を持つ奴なんていくらでも居る。

 

「ルルーシュもシャーリーもこれ以上悲しみを増やさないために…やってやるさ」

 

ピリリリリ!

 

 部屋の隅でボーッとしていた薫の元に着信が入る。それはシャーリーであった。彼女はすぐに会いたいと用件を伝えると薫は急いでシャーリーの実家に向かうのだった。

 

「ごめん、急に呼び出して…」

 

「気にするな、どうしたんだ?」

 

「実はルルが黒の騎士団と関わってるって軍人さんが…」

 

「ルルーシュが黒の騎士団と?」

 

 ちっ、ヴィレッタか。映画だとダイジェストだったしわすれかけてたがこんな出来事もあった。危ないところだった、また後の祭りで思い出すところだった。

 

「私だって信じたくないの。でも今夜だけ、ルルをつけてみようとと思って…」

 

「分かった。俺も付き合うよ」

 

「ありがとう、カオル」

 

 今夜は日本解放戦線が埠頭から脱出する日だったはずだ。そこにルルーシュも現れなければならない。最悪のタイミングだがこっちで何とかするしかないか。

 

ーーーー

 

「もしルルーシュが黒の騎士団の仲間だったらどうするつもりだ?」

 

「分からない。でも今は確かめたいだけ…」

 

「もしゼロが目の前にあらわれたら?殺すのか?」

 

「……」

 

 ルルーシュを追って電車に乗り込んだ薫とシャーリーは向かい合いながら後を追う。

 

「薫は両親はどうなの?」

 

「俺には居ないんだ、親という存在がな。居たのは知ってるが記憶にない。俺は記憶喪失だからな」

 

「カオルが記憶喪失?」

 

「あぁ、だからお前の気持ちを理解してやることは出来ない。でも仲間が死んでいくのは何度も目にした。嫌なものだ…」

 

 カオルの予想外の事実に驚くシャーリー。するとルルーシュは電車を降りて埠頭の方に向かう。するとシャーリーは電話を取り出して電話を掛ける。

 

「誰に?」

 

「一応、あの人にも連絡をしておかないと」

 

「あぁ、そうか」

 

 ヴィレッタを呼び出した二人はこうして埠頭に入っていく複雑な道の埠頭のせいで見失い埠頭をさ迷うことになる。

 

「どうしよう。迷っちゃった」

 

「もう止めようシャーリー。十分だ、ここまで…」

 

 薫がシャーリーを諌めて帰させようとした時。湾岸で巨大な爆発が起き、大きな水柱が立つ。

 

「まさか、テロ?」

 

(ちっ、このタイミングで!)

 

「シャーリー、隠れて!」

 

 戦闘が発生したのならどこが戦場になるか分かったものではない。ここは頑丈なコンテナが密集している場所。そう簡単に危険にはならないと思うが。

 

ーー

 

「ハッチを砕いて引きずり出してやる。コーネリア!」

 

 日本解放戦線を囮にした作戦でコーネリアに切迫したルルーシュはライフルを向けるがその奥に謎の熱源反応を関知していた。

 

(シャーリーに薫か!?)

 

「ゼロ、お前のやり方じゃなにも変わらない。結果ばかり追い求めて、他人の痛みが判らないのかぁ!」

 

ーー

 

(くそっ、はぐれた!)

 

 謎の大爆発のせいでシャーリーと離れ離れになってしまった薫は一生懸命に走り回ってシャーリーを探しているとなんとか見つけ出す。

 

「私が…お父さんの!」

 

 するとシャーリーは銃を構えてゼロに向かって引き金を引こうとしていた。

 

「シャーリー!」

 

「え?」

 

 薫の声で振り返った瞬間。ゼロの仮面が外れる、薫はそのまま駆け寄ると。

 

「すまん、シャーリー」

 

 腹に渾身の一撃をお見舞いする。するとシャーリーは気絶し力なく倒れる。

 

(危機一髪だったな…)

 

「お前に人は殺させない…」

 

「美しい友情だな。学生」

 

「お前か、シャーリーに変なことを吹き込んだのは!」

 

 シャーリーを気絶させるとコンテナの影からヴィレッタが姿を現す。

 

「お前、どこかで」

 

「誰だお前…」

 

「…気のせいか。それよりゼロの顔を見せてもらおう」

 

 ヴィレッタはゼロに駆け寄ると髪の毛をつかんで顔をよく見る。

 

「これは驚きだな。学生自身がゼロだったとは、しかもブリタニア人」

 

「……」

 

 気分よく笑っているヴィレッタの後ろで薫は静かに懐からリボルバーを取り出す。

 

「こいつをコーネリア総督に引き渡せば私は貴族になれる。騎士候ではない本物の貴族だ、それにまだ生きている。いいぞぅ、どんな処刑がお好みかな?」

 

「……」

 

 音の鳴らないように撃鉄を上げて狙いを定める。シャーリーを巻き込んだツケをここで支払ってもらう。自身の欲のためにシャーリーを巻き込んだこいつは殺すべきだ。

 

「総督にはお前たちのことも…」

 

「必要ない、総督には誰も報告に行かないからだ」

 

「迂闊、思い出したぞ。お前は半年前、政庁にいたな!」

 

「そうだな、じゃあ死ね」

 

「こんなところで!」

 

 容赦なくヴィレッタに撃ち込まれる銃弾。腹に撃ち込まれたヴィレッタは血を撒き散らしながら倒れる。

 

「ガハッ、きさま…」

 

「運が悪かったな」

 

 止めを刺そうと銃口を頭に押し付けると引き金を引こうとする。ここで殺せば目撃者は居なくなる。

 

「っ!」

 

 すると突然のフラッシュバック。

 

「な、なんだこれは…」

 

 記憶の中に出てきたのは血塗れの死体。二人の男女の死体を見下ろしているような記憶が頭を駆ける。

 

「これは、カオルの記憶なのか…」

 

 様々な感情の渦が沸いてくる。それに耐えきれずに薫は胃の中身をすべてぶちまける。

 

「おうぇぇぇぇ!」

 

 銃の持つ手が震えて使い物にならない。暴発の恐れもあるのでしまうと嘔吐物を放置してヴィレッタを抱き抱える。

 

「海に捨てよう」

 

 幸い、すぐ先は海だ。この状態で海に流せば生き残る可能性は0だ。ヴィレッタを海に落とすとシャーリーを背負ってそのまま立ち去る。ルルーシュには後で説明しよう。

 

「とにかく逃げるぞ」

 

 こうして間一髪だったがシャーリーとルルーシュの接触を防げたのだった。

 

 

 





復活のルルーシュのテーマ曲「この世界で」が最高すぎる!



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友達と敵

 

 

「カオル…」

 

「気がついたか。すまない、黒の騎士団が来ていたので逃げてきたんだ」

 

「私、気絶して…」

 

「すまん、お前を助けるために飛び付いたんだ」

 

 かなりむちゃくちゃな気がするが仕方がない。シャーリーにルルーシュの正体を気付かれるわけにはいかなかった。

 

「シャーリー、聞きたいことがあるならルルーシュ本人に聞くんだ。お前が真剣に聞けば向こうも真剣に答えてくれるはずだ」

 

「…分かった」

 

「いい子だよ…帰るぞ」

 

「うん」

 

ーー

 

 その後はシャーリーを家まで送り届けてそれでおしまい。特別なことはなにもない。

 

「ごめんね、カオル。変なことに巻き込んで」

 

「気にするな。今日はゆっくり休んでまた学校で会おう」

 

「うん」

 

 今の自分にはこれぐらいしか出来ない。シャーリーの為にはどうするべきかなんて自分には分からなかった。

 

ーーーー

 

「あぁ、その件なら俺だ」

 

「なんだと、薫もあの場にいたのか?」

 

「シャーリーとな」

 

 翌日、電話を掛けてきたルルーシュに昨日の顛末を話すとルルーシュは安心したようにする。

 

「良かった。それなら安心できるな、お前が居てくれて本当に良かった」

 

「そうだな、だがシャーリーに疑われていることには変わりない。咄嗟だったからもしかしたら見られたかもしれないしな」

 

「…分かった。こっちもこっちで調べてみる」

 

「頼むよ、分かったら連絡を」

 

 ナリタ騒ぎからというものもルルーシュや薫はゆっくりとした時間が取れずにいた。折角、正体を明かしたというのにそれに関してまだなにも話し合っていない。

 

「とにかく、シャーリーの件だけはハッキリ終わらせておかなきゃな」

 

 この世界に転生してから出来た初めての親友。彼女を守らずしてなにが男か。

 

ーーーー

 

「お前か、佐脇薫というのは」

 

「初めましてだな。C.Cさん?」

 

「私の名前を知っているのか?」

 

「まぁ、色々あってな」

 

 念のため実家に帰ったシャーリーの家の近くで見張っていた薫はルルーシュの私服を着たC.Cと出会う。彼女が向こうからわざわざ接触してくるとは思わず内心驚く。

 

「色々と聞きたいことがあってな」

 

「答えられるなら…」

 

 思わぬ場所で対談することになった二人は場所を移して話すことにした。

 

「お前はいったい何者だ?」

 

「一つ目の質問にしては大胆だな…」

 

「それが最大の疑問だからこうしてわざわざ足を運んできたんだ」

 

「………」

 

 C.Cの言葉に思案する。ここで正体を話しておくべきか…。

 彼女の黄金の瞳は自分を捉えて離さない。その目に観念して薫はため息をつく。

 

「俺はたぶん、普通の人間じゃない…。これはルルーシュにも言ってないことだ…」

 

ーーーー

 

「嘘ではないようだな…」

 

「ギアスなんてオカルトもあるんだ。100%不可能というわけでもないだろうさ」

 

「それならお前はこれから起こる未来を知っているということになるが…」

 

 C.Cも半信半疑だろうが。否定する要素が少ないから俺の話を一旦、飲み込んだのだろう。

 

「途中までな。それにもう俺の知ってる世界とはズレが起きてる。ナリタ連山での2機目のランスロットなどもその代表だ」

 

「ふむ、そうか…」

 

 俺が話し込んでいる間にも彼女は喫茶店のピザを全て制覇し二週目に突入している。もしかして、俺が払うのか?

 

「なら過去もなにもないお前がなぜ、ルルーシュに肩入れする?お前にとっては幼馴染みでもない他人だろう?」

 

「そうだな、ルルーシュはあくまでも他人だよ。俺が命を懸けるほどの思い入れはないさ。でもな…」

 

 俺は見てしまったんだ。蹂躙される日本人をささやかに笑みを浮かべるナナリーの姿を。

 

「俺は日本が好きだ。ここは俺の故郷だ、たとえ世界が変わろうとも日本は変わらない。日本は俺の故郷であるし、ルルーシュは俺に優しくしてくれた。初めての男友達なんだ」

 

 ルルーシュと居ると楽しいしスザクといると心が暖かくなる。ナナリーといると癒される。そんな彼らを守れるなら、どうせ二度目の人生だ。その力が俺の手にあるなら命だって賭けてやるさ。

 

「例え、目を失っても命を失っても後悔はない。理由は分からないけど、そう思えるんだよ」

 

「無粋なことを聞いたな」

 

「気にするな。それより、どんだけ食べるつもりだ?」

 

「あぁ、気にするな。お前の金だ」

 

「おい、このピザ女。ふざけるな!」

 

「全く、お前もルルーシュと同じ呼び方をして…」

 

 ルルーシュの気持ちがよく分かるな。

 

ーーーー

 

(財布が軽くなったな…)

 

 主にピザのせいで軽くなった財布をポケットにしまうと悲しくなる。

 

「C.Cめ、もう少し遠慮しろよ…」

 

「へぇ…興味深いね」

 

「なに?」

 

 気配が一切感知出来なかった。真後ろにいたのは長身の男性、サングラスとイヤホンを着けた男性はこちらを静かに見つめる。

 

「随分とへんな人だね君。思考は読めないのに深層は読めるなんて…」

 

「何をいってるんだ?」

 

「C.Cのこと教えてよ。悪いようにしないからさ」

 

 明らかに不審者な男性に教えるわけがない。それにC.Cはルルーシュの弱点になりえる存在だ。

 

「教えるわけないだろ…」

 

「残念だな君も魅力的なんだよ。とても静かだからさでも体で金を稼ぐ売女はちょっとね」

 

「は?」

 

 俺は処女だ(ここ重要)!しっかり確認しましたので間違いありません!

 

「それにかなり殺してるね。凄いなぁ」

 

(なんだこいつ…)

 

 妙に腹が立つその男性にイライラしてくる。なにかしってるような雰囲気だし…人目の無いところで…。

 

「うっ!?」

 

 あの時に似たフラッシュバック。認識できない速度で頭の中の静止画が連続で流れてくる。

 

(この記憶はこの世界の薫のか!?)

 

 冷や汗が止まらなくなる。思わず頭を押さえて苦しんでいるとその男は楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「急に読めるようになってきたね。へぇ…君があのテロリストのねぇ…」

 

 男性がなにか言っているようだったが薫は頭の痛みに耐えきれずに倒れるのだった。

 

 

 

 

 



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おい、お前ら!そこに食いつくのかよ!

 

「え、薫が行方不明ですか?」

 

「そうなのよ。弟さんにも聞いたんだけど、昨日は帰ってないって言うし」

 

 薫とC.Cが接触した次の日。生徒会室でミレイがルルーシュに相談を持ちかけていた。

 

「連絡は?」

 

「ついてたら苦労しないわよ」

 

(白蛇として活動しているなら分かるが。流石に連絡が取れないというのは気になるな…)

 

 ルルーシュは薫の裏の顔を考えて思案するがそれはミレイも同じ、テロリスト活動でなにかあったのではないかと気が気でないのだ。

 それをお互い知らないものと思っているために相談できない状況だったのだ。

 

「分かりました。こちからからでも調べておきます」

 

「頼むわね」

 

ーーーー

 

(あー、気分悪り…)

 

 その頃、目を覚ました薫は山奥の廃墟に縛られていた。

 

「やっと目を覚ましたようだね。君は静かで助かるよ、煩わしい声が聞こえないからね」

 

「お前は何者だ?」

 

「僕はマオ。安心して君には危害は加えないから、佐脇薫さん?」

 

「………」

 

 ガッチリ拘束されているのを確認すると観念して大人しくなる薫。こう言うときは相手を刺激しないのが一番だ。

 

「昨日の倒れる前は君の声が聞こえたんだけど今は無理だね。まさかC.C以外にもギアスが効かない人がいるなんてね!」

 

「ギアス能力者か!?」

 

 確かにルルーシュ以外にもギアス能力者がいるのは不思議でないがまさかこのタイミングで出てくるなんて。

 

「君は静かだけどC.Cの事を知るためには不便だなぁ。まぁいいや、君が倒れる前にヒントは貰ったから」

 

「俺の携帯!?」

 

 マオが持っていたのは俺の携帯。その画面にはルルーシュと表示された画面が。

 

「駄目だよ…」

 

 すると額に銃口を突きつけられる。

 

「思考が読めなくても流石に分かるよ。大人しくしてないと殺しちゃうよ?」

 

「くっ!」

 

 厄介なものに巻き込まれてしまったと言う後悔となにも出来ない悔しさで唇を噛むのだった。

 

ーーーー

 

「本当にここなんだな?」

 

「あぁ、実際に会っていたしな」

 

 その頃、ルルーシュはC.Cを伴ってシャーリー宅付近の町に来ていた。彼女の案内が恐らく一番最近の目撃証言だろう。何かあったとすればここ辺りだろうが。

 

「手分けして探そう。その後の目撃情報が欲しい」

 

「分かった」

 

ーー

 

ピリリリリ!

 

「っ、薫!?」

 

 捜索していたルルーシュの元に薫から連絡が入る。素早く取り出す彼は電話に出ると知らない男の声が聞こえた。

 

「薫、今まで何をしていたんだ?」

 

「さぁ、何をしてるんだろうね?」

 

「なに!?」

 

 素早く後ろを振り向くとそこにはマオが不敵に立っており笑みを漏らす。

 

「貴様、薫に何をした!」

 

「いいねぇ、怖い顔だ。自分の女を取られて許せないって顔」

 

「薫はどこだ!?」

 

「知りたい?なら勝負しようよこれでね」

 

「くっ!」

 

「お話ししようよ。色々とさ」

 

ーー

 

(やっぱり着いてきて良かったな)

 

 そんなルルーシュの姿を遠くから監視していたライは鋭い表情でマオとルルーシュを見つめる。あの人物、ライは近づいてはならないと本能で感じる相手だ。

 

「薫、絶対に助けるからね」

 

ーー

 

 すぐ近くの高尾山のケーブルカーに乗せられたルルーシュは無人の車内でチェス勝負を行っていた。

 

(こいつが誘拐犯か?おそらくチェスはきっかけに過ぎない。本当の目的は俺を人気のない場所に連れ込むこと。)

 

「初めてやるんだよね。このゲーム」

 

(電話にかけてきたのも演出。いや、俺の顔を知らなかったからだ。と言うことは俺の写真を手にいれる時間がなかったと言うこと…ならば…)

 

「付け入る隙がある?」

 

「っ!?」

 

「しっかりしないと死んじゃうよ。薫がね」

 

「くっ、なにが初めてだ。この嘘つきめ!」

 

ーーーー

 

(手頃な誘拐なら人気のなく、防犯設備のない場所を狙うはず)

 

 高尾山の斜面をバイクでかけ上がったライは周囲を確認する。ケーブルカーの近くに呼んだことは近くに拠点か、それとも薫を捕まえている場所があるはずだ。

 

(ケーブルカー整備用の休憩所かな)

 

 整備員が腰を落ち着けるための小屋、そこならば該当する。山のチュウフク辺りの小屋に忍んで入ると人がいた形跡がある。慎重に奥に進むが。

 

「そう簡単には行かないか…」

 

 明らかに誰かが拘束された後があったがそこには誰もいない。どうやら移動させられた後だったようだ。

 

ーーーー

 

(ぐぅ…頭いてぇ……)

 

 ケーブルカーの終点にくくりつけられていた薫は対峙するマオとルルーシュが視界に入る。

 

「ルルーシュ!」

 

「薫、気がついたか!?」

 

 安堵の表情を浮かべたルルーシュに対してマオは不敵に笑うばかり。

 

「君たちには罰を与えないといけないんだよね。C.Cをたぶらかした泥棒ネコ達はね」

 

「くっ!」

 

 どうやら、俺が寝ている間にかなりルルーシュが追い詰められているようだ。銃を構えるマオに対して武装をしていないルルーシュは対抗できない。

 

「大丈夫だよ。後で薫も送ってあげるからね…ん?」

 

「薫ー!」

 

「ライ!?」

 

 絶体絶命の状況でバイクがケーブルカーの路線を飛び越えてやって来た。運転手はライ、彼は空中のバイクから発砲。それと同時にマオも発砲した。

 お互いの銃弾でマオのサングラスが飛び、ライはバイクのバランスを崩す。 

 

「うわぁ!?」

 

「この野郎が!」

 

 大クラッシュするライを援護するためにマオの脛を思いっきり蹴り飛ばす。

 

「いたぁ!?」

 

「薫!」

 

 痛がるマオの横を通り抜け薫をお姫様だっこで回収するルルーシュ。めちゃくちゃ重そうだが何も言うまい。

 バイクの下敷きになったライも銃で追い討ちをかけるがケーブルカーに逃げ込まれる。

 

「ルルーシュ、早く解け!お前はバイク上げられないだろ!」

 

「分かっている!」

 

 車内で新たにライフルを取り出しているマオを見て慌てる二人とバイクから抜け出そうとするライ。

 するとケーブルカーが勝手に動き出して降りていく。

 

「C.C…」

 

 C.Cの登場に車内でハイテンションなマオを横目に拘束を解かれる薫。

 

「ありがとう、ライ!」

 

「いや、無事で良かったよ」

 

 バイクから抜け出したライに抱きついてよしよししてやる。その背後で不服そうなルルーシュと煽り率100%のC.Cが横で見ていた。

 

ーーーー

 

「まぁ、とにかく助かった。ルルーシュもC.Cもありがとう」

 

 ライも伴って無事にアッシュフォードのクラブハウスに戻ってきた四人は腰を落ち着けると改めて礼を言う。本当にどうなるかと思った。

 

「大変だったんだ。キスぐらいしてもらわないとな」

 

「C.C!」

 

 キスか…。まぁ、確かに頬にキスはゲームやアニメでよくある行為だが…向こうが許可しても男にするのは…。C.Cになら喜んでするが…まぁ、ルルーシュも美形なので無理ではないな。

 

「ほら、手を出せ…」

 

「「?」」

 

 ルルーシュとC.Cに手を出させると手の甲にキスをする。これでも恋人がいる身なのでこれで勘弁してください。

 

「ほわぁ!?」

 

「なんだ、口ではないのか…」

 

「してやろうか?」

 

「C.C ぅ!要らないからな、これだけで充分だ!いや、決して嫌という訳ではないがぁぁぁ!」

 

 慌てて立ち上がったせいで椅子に足を取られそのまま倒れるルルーシュ。

 

「これだから童貞ボウヤは…」

 

「薫、個人的には彼との付き合いを改める必要があると思うな」

 

「冗談だよルルーシュ。初めては大事な時まで取っておけよ」

 

「う、うむ…」

 

 一通り、ルルーシュをからかった所で本題に入る。

 

「所で、コイツら信用できるのか?」

 

「失礼な、誰が君を助けたと思ってるんだい?」

 

「心配しなくていい。裏の世界でライほど信用している者はいない。何せ、こいつは俺の尻のホクロの位置まで知ってるからな」

 

「は?」

 

「やめてよ薫!あれは事故だから知らないよ、と言うかあったの!?」

 

「なら余計にこいつはなんだ!」

 

「お前たちといると退屈しなさそうだ…」

 

 勝手な盛り上がる男性陣に対して紅茶をすすりながら静観するC.Cであった。

 

「まぁ、安心しろ。こいつはお前と同類だ…」

 

「なに、と言うことはギアス能力者か?」

 

「ライ?」

 

 いきなり凄いことを言われて驚く薫。そんなこと知らなかったぞ。

 

「ギアス…どこかで聞いたことが…」

 

「薫、こいつは…」

 

「ブリタニアに実験されているところを助けたんだ。偶然だがな、その時から記憶を失ってて…まさかギアスの件で実験を」

 

「僕は…」

 

 嫌な予感がする。そんな気配を察知した薫はライの手を強く握る。

 

「無理をするな。気にすることじゃない、お前が何者だろうと俺たちの関係が変わる訳じゃない」

 

「ありがとう、薫」

 

「すまないな、C.C。この件は…」

 

「あぁ、予想以上に複雑なようだな。ここで話す話ではないな」

 

 マオの話を戻さなければならない。そう判断した全員は彼の話に移行する。

 

「それで、マオについて話してもらおうか?」

 

「分かった。あれは私の責任でもある…」

 

ーーーー

 

 C.Cからマオの話を粗方聞き終える頃には紅茶が冷め、全員が苦い思いをする。

 

「C.Cに執着している訳は分かった。なら今度は本格的に仕掛けてくるぞ」

 

「そうだな、その意見には賛成だ。今度こそチェックをかけに来るだろう」

 

「でもその話だと薫もルルーシュも弱点を握られてる事になる」

 

 薫が白蛇であること、ルルーシュがゼロであること。二人にとってこれ以上の致命傷はないだろう。

 

「あぁ、だが向こうにとっての奥の手でもある。俺や薫に捜査の手が伸びればC.Cにも手を出しにくくなるからな」

 

「奥の手が分かってるならこっちも手の打ちようはあるだろうさ。こっちが有利だ」

 

「でもそのためには奴のギアスを何とかしなくちゃ…。C.Cさんを使うのは危険すぎる」

 

「それなら俺の出番だ。俺はギアスが効きにくい体質らしいからな…」

 

「なんだと?」

 

「え?」

 

「………」

 

 薫の言葉に思わず聞き返すルルーシュとライ。ギアスは絶対の力、誰もその力には抗えないはずだ。

 

「実際にこっちの思考は読めないと言われた」

 

「確かに…あの場面……」

 

 あの時、ライがバイクで突入してきた時はマオが事前に反応し反撃されたが薫のスネ蹴りにはまったく対応できていなかった。その原因が薫の思考を読めなかっただとしたら。

 

「C.C…」

 

「あり得る話だ。彼女は他とは違い、特別だからな」

 

 ギアスはこの世界の理。この世界の外の住人なら世界の理に従う必要はない。

 簡単に言えばこの世界そのものを王に例えるなら薫だけは違う王に従う身、なのでそこに発生するはずの強制力が働かない。もしくは働きにくいと言う事になる。

 

「とにかく、こちらは向こうの出方を伺うしかない。この関東圏全域を俺の黒の騎士団と薫の白蛇グループに見張らせよう」

 

「賛成だ」

 

「伊丹さんたちに《殺されそうになった》って言えば血眼になって探すだろうね」

 

「その件は伏せておこうな」

 

 ライの言葉に薫の血が引く、容易に想像できてしまうのが怖いものだ。

 

「ルルーシュ、お前はナナリーについてやれ」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

「俺もしばらくはクラブハウスで寝泊まりをしよう。もしもの時のためにな。ライは連絡役をたのむ」

 

「分かった」

 

 折角だ、スザクも呼んでナナリーを喜ばせよう。

 

 一通りの方針が決まったところで一度、解散する。対マオ対策委員会が設立され行動を始める四人であった。

 

 



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蛇は冷徹である

 

「状況は?」

 

「申し訳ありません。白蛇様、マオと言う中華連邦人は今のところ…」

 

「気にするな。警戒するだけでいい、網にかかったら連絡を頼む」

 

「了解しました」

 

 伊丹たちからの情報はなし。ルルーシュの方も成果なしとなるとキツイな。

 

「まさか、皆さんと一緒にご飯を食べられるなんて…嬉しいです」

 

「そんなに喜んでくれるなら毎日来てもいいぞ」

 

「そうだね。僕も可能な限り行くよ」

 

 ルルーシュ、スザク、薫にナナリーと四人が共に一緒に夕食を食べるなんて久しぶりだ。ナナリーを除く3人は色々と忙しい身なので中々難しいが。

 

 クラブハウスには無数の監視カメラを増設し室内警護は万全だ。それにここにはスザクがいる。彼ほど頼れる奴は居ないだろう。

 

(長期戦になるとこっちが不利だな…)

 

ーーーー

 

「カオル!」

 

「シャーリー、もういいのか?」

 

「うん、ごめんね。色々と迷惑かけちゃって」

 

「気にするな。おまえと俺の仲じゃないか…」

 

 マオを警戒している最中。シャーリーが喪から復帰し笑顔を見せる。

 

「ルルーシュとはどうするつもりだ?」

 

「確かにあのヴィレッタって人の話は気になるけど。ルルはルルだもん。それは変わらないから」

 

「そうだな。強く生きろよシャーリー」

 

「ありがとう、カオル」

 

 ヴィレッタがシャーリーに植え付けた疑問は晴れないかもしれない。だがそれでも彼女は笑顔でいようと決めたのだ。

 

(強いな、シャーリーは…)

 

 本当にシャーリーが羨ましい。そんな姿に自分も励まされた気がしたのだった。

 

ーーーー

 

「薫…」

 

「どうした、C.C?」

 

「このまま待っているだけか?」

 

 いつも掴み所のない彼女らしからぬ質問に不安を与えないように言葉を選ぶ。

 

「黒の騎士団と俺の組織が探している。もう少し待て」

 

「だがすでにこの祖界の中に居たらどうするつもりだ?」

 

「トウキョウの中にも手を回している。こっちにはブリタニア人の手下もいるんだ。慌てるなよ」

 

 彼女の焦りも分かるがこっちも出来るだけの手は打っている。

 

「果報は寝て待てと言うだろう?焦っていては見つかるものも見つからん」

 

「…分かった」

 

「状況が好転しなければお前を使う。それまで待っててくれ」

 

「あぁ、その時はしっかり使えよ」

 

「それと…これを持っておけ」

 

 懐から出したのは一丁の拳銃。

 

「ナンバリングもすべて消してある。絶対に足はつかない」

 

「助かるよ…」

 

 拳銃を手渡すと別れる二人。マオ…出来ればC.Cと接触する前に仕留めたいが…。

 

ーーーー

 

 全員が焦る中、日にちだけが過ぎていく。そんな時だ、情況が動いたのは。

 

「薫」

 

「どうした?」

 

 一度、家に戻り。組織の書類を整理していた時にそれは訪れた。

 

「マオから連絡が来た。C.Cは向こうに付くと…」

 

「そうか、まぁ。助ける気になったら俺に連絡しろ。あいつの居場所は把握してるから」

 

「…あぁ」

 

 ルルーシュからの電話を切ると薫の中でスイッチが切り替わる。

 

「薫…」

 

「柏木と侍女隊を呼べ。狩りを始めるぞ」

 

「いいの?」

 

 ライの言葉に彼女は鼻で笑う。

 

「ルルーシュが動くならそれでいい。どちらにしろマオは俺たちの正体を知ってる。口封じは必要だ、警察無線を監視しろよ」

 

「分かった!」

 

 C.Cに渡した拳銃には発信器が取り付けてある。どっちにしろ生きては返さんよ。

 

ーーーー

 

 結論から言えばルルーシュは動いた、C.Cを取り戻すために。

 

「警察には賄賂を渡してある。俺の指示でいつでも発砲できる」

 

「すまないな。」「気にするな、さっさと決着をつけよう」

 

 ルルーシュとの連絡を終えるとマオに気づかれない位置で場所を陣取る。

 

「じゃあ、ジェシカ頼むわ」

 

「了解しました…」

 

 ルルーシュのビデオでマオがぶちキレた辺りで警察に扮したジェシカたちを投入。

 

「柏木、狙撃準備だ」

 

「オーケ~」

 

 ビルの上から狙撃銃を構える柏木。彼女とマオの直線距離は800mほど、存在を知覚されることはない。

 

「なぁにが最後だ!ポリスども、よく聞け!そこにいるのがテロリストの!」

 

「撃て…」

 

 柏木の狙撃は見事に命中しマオは倒れる。

 

「すいません、逸れました。心臓ちょい右」

 

「気にするな。後始末はやっておくからお前は退避してくれ」

 

「了解です!」

 

 マオから血が湧き出るのを確認すると様子見していた場所から移動し駆け寄る。

 

「すまない、助かった」

 

「気にするな。お前はC.Cを頼む。後は俺がやっておく」

 

「分かった」

 

「薫さま、どういたしますか?」

 

 ルルーシュが立ち去るのを確認するとジェシカは警察のメットを上げて顔を見せる。

 

「どうするかな…」

 

「あ…うぅ……」

 

「我々の医療技術なら生かして利用できますが…」

 

 しぶとく生きようとするマオを見下ろしていた薫は静かに告げる。

 

「確実に殺せ」

 

「承知しました」

 

「あっ!う…」

 

 侍女隊は静かに拳銃を構えて人体急所に的確に撃ち込み殺すのだった。

 

「徹底的にな…もう後悔したくないからな……」

 

ーーーー

 

 全てを終えてミレイに会いに行くと彼女は意気消沈と言った様子で項垂れていたのだった。

 

「どした、ミレイ?」

 

「クロヴィスランド、しばらく休園だって…」

 

(あぁ…)

 

 マオの死体が見つかって休園にしたんだろうな。人が死んだ遊園地なんて縁起悪いし色々とするんだろう。

 

「せっかく週末に薫と遊園地デート出来ると思ったのぃぃ!」

 

 駄々っ子のように足をバタバタさせるミレイ。この様子だと俺が原因って言ったら殺されるな。

 

「なら他のところに行こうな。ミレイ」

 

「うん…」

 

 ミレイを落ち着かせるのにかなりの時間が掛かりました。

 



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ひさびさのデート

 ウラヤスゲットー。そこでは白夜叉、月下がゼロ無頼と紅蓮と顔を付き合わせ対峙していた。

 

「……」

 

「……」

 

 白蛇グループと黒の騎士団。ブリタニアに対抗する日本の切り札同士がついに会談という形でお互いに顔を会わせたのだった。

 カレンや扇たちは緊張した面持ちで用意された会議室に座る。その反対側には伊丹やライを始めとする白蛇グループの幹部たちが座っていた。

 

「ふむ、組織図はこっちの方がいいな」

 

「そうか、これはディートハルトに仕切らせているんだが使える奴でな。でも本当にいいのか?」

 

「構わない。部下たちにも言ってある」

 

 別室でお互いの組織の組み込みを話し合っていた薫とルルーシュはお互いに仮面を脱いで目を合わせる。

 組織の規模からすれば黒の騎士団が白蛇グループに組み込まれるのが自然だ。だがこの案は黒の騎士団に白蛇グループを組み込むと言ったものだ。つまり、黒の騎士団が有利な同盟関係を結ぶと言うことになる。

 

「元々はお前とナナリーのための組織だった。それにお前の方が頭が回るしな」

 

「そうか…わかった。だが俺たちの立場は同一だ、あくまで同盟関係なのだからな」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 ある程度草案をまとめた二人は仮面を着けると皆が待つ部屋に足を運ぶのだった。

 

ーーーー

 

「以上だ、つまるところ我々は同盟関係を結ぶ。実質的に一つの組織として行動することになるだろう」

 

「なのでこれからは顔を合わせることが多くなるだろう。よろしく頼む」

 

 説明を終えて薫が軽く頭を下げるとカレンたちも慌てて頭を下げる。それを見て少し微笑ましいがやることは沢山だ。

 

「豪勢ではないが食事を用意してある。そこで親睦を深めよう」

 

「それはありがたい」

 

 薫の提案はゼロも力強く頷きささやかな親睦会が開かれることになった。

 

ーー

 

「お久しぶりです、白蛇さん」

 

「お久しぶりです。扇さん、いつの間にかこんなに立派になって…驚きましたよ」

 

 立食のバイキング形式である親睦会ではぎこちないが話が増え。やっと親睦会らしくなってきた。

 

「まさか白蛇さんたちと共に戦えるなんて思っても見ませんでした」

 

「黒の騎士団と我らの組織。ブリタニアと対抗するには必要な組織ですからね」

 

 扇と和やかに話をしていながら周りを見る。最初は警戒していた玉城もジェシカたちのおだてと酒ですっかり上機嫌で注目を集めている。

 

「へぇ、貴方。日本とブリタニアのハーフなの?私と同じね」

 

「そうなんだ、こんな所で会えるなんて光栄だよ」

 

 ライとカレンは意気投合し楽しく話し合っている。ライの記憶はまだ戻らないが様々な手を尽くして調べている。今分かっているのは残念ながらブリタニアと日本のハーフだということだ。

 

(俺の記憶も無いと言うわけでは無さそうなんだが…)

 

 ヴィレッタを殺し損ねた時のあの断片はいまだに頭にこびりついている。

 

(原作知識ももうほとんど穴だらけだし、どうすればいいのか…)

 

「白蛇さん?」

 

「ん、いやすまないな。少し考え事を」

 

「いえ、こちらこそすいません」

 

 とにかく扇さんは良い人なのでそこは安心した。

 

 

 黒の騎士団の幹部連中との顔合わせも終えるとゼロを残して先に帰っていく一同。

 

「随分と意気投合していたな」

 

「嫉妬してくれた?」

 

「馬鹿言え。お前が初対面とあんなに話すのは珍しいからな」

 

「そうだね、なんでかな。波長が合ったんだよ」

 

「良かったじゃないか」

 

 ライ本人も楽しめたようで何よりだ。お互いの技量なら背中を合わせて戦う日も近いだろう。

 

 白蛇グループと黒の騎士団、そして藤堂鏡士郎…。

 

「やっとスタートラインだよ」

 

「薫…」

 

ーーーー

 

「薫、しばらく暇でしょ?」

 

「ん、まぁしばらくはな。急用が入らなければ」

 

 なぜか得意気なミレイの顔を見て疑問符を浮かべる。

 

「旅行に行くわよぉ!」

 

 元気100%なミレイの言葉と共に薫も思い出す。そういえば、富士の見える場所に温泉に行こうと話していたのを忘れていた。

 

「もしかして忘れてた?」

 

「ソンナコトアリマセン…」

 

 顔を寄せられ思わず逸らす薫。完全に忘れていましたごめんなさい。

 

「明日から行くわよ!」

 

「明日は学校だろ?」

 

「大丈夫よ、お爺様に頼んで公欠にしてあるから!」

 

 なんという権力の無駄遣い。すでに予定は組まれているらしく一泊二日の温泉旅行が決定するのだった。

 

ーーーー

 

「やって来ました、元静岡県!」

 

「やって来てしまった…」

 

 ミレイの勢いに流されるままついに静岡県にまで来てしまった。ルルーシュやライには言っておいたが二人とも「明日っ!?」って驚いてた。俺も驚いたよ。

 

「さぁ、色々あったけど。やっと薫とイチャイチャ出来るわ!」

 

「ミレイの中身って女だよね?男じゃないよね?」

 

 色々あってデートがことごとく中止になっていたのでミレイが怖い。まぁ、さんざん我慢させたのはこちらなので仕方ないが。

 

「さぁ、行くわよぉ!」

 

「おぉ…」

 

ーーーー

 

「お、静岡のお茶だ…」

 

「あぁ、グリーンティーね。薫はよく飲むの?」

 

「飲むな。なにせ俺は緑茶に目がなくてな」

 

 元々、静岡は茶畑から取れるお茶が名産品の一つである。ここはトウキョウとは違って日本のお店が多く見られる。やはり都心から離れるとそう言った店が増えるのか…。

 

「静岡と言ったらなにを食べるの?」

 

「そうだな。ウナギもいいし、おでん、もつカレー…うーん」

 

 静岡は美味しいものが多くて大変だ。でもやっぱり静岡に来たのなら浜松の…。

 

「餃子だな」

 

 うん、餃子だ。浜松の餃子は中に入っている野菜が甘くてタレ無しでも美味しく食べられる。まぁ、生前は住んでいた場所が山梨なので浜松の餃子しか食べられなかったからな。栃木の宇都宮餃子もぜひ食べてみたい。

 

「あぁ、そういえば。腹が…減った!」

 

「どうしたの?」

 

「ん、ちょっと頭の中に五郎さんが出てきただけ」

 

「うん、まぁいいわ。なら餃子を食べに行きましょう!」

 

ーーーー

 

「意外と食べるな」

 

「そうね、餃子は私も好きだしここは美味しいからつい」

 

 最初の一皿目でかなりの量を一気に頼んだのだが問題なく完食しそうだ。まぁ、嬉しいことに昔と変わらぬ味なので美味しく頂けることとなった。

 

「こんなに美味しいけど、中華連邦の餃子に近いの?」

 

「いや、日本の餃子はベースこそ中華連邦だが独自に進化を遂げたものだ。向こうは水餃子が主流だが日本では焼き餃子の方が主流だし、材料や器具も違うらしい」

 

 山盛りのご飯に餃子を乗せて口に放り込む。これが堪らなく美味しいのだから困る。

 

「店主、三人前追加だ」

 

「はいよ、ありがとうな!」

 

 これほどの店だというのに客の姿はまばらだ。これなら大人気店間違いないと言うのに。

 

「うちはまだ繁盛してる方ですよ。他の店はもっと酷いです」

 

 薫の視線を察した店員がおかわりの水を注ぎながら答える。

 

「やっぱり、日本人というレッテルは辛いか…」

 

「えぇ、他のエリアだと少しは良いらしいけど。ここは抵抗活動が激しいから…」

 

 客商売は信用第一。まぁ、なんでもそうなのだが。日本人に対しての心象が変わらない限り、厳しい営業をせざる得ないのだろう。

 

「テロリストが憎いか?」

 

「いや、そんなことはないさ。うちらはその日のために働いてるけど。あの人たちは明日のために戦ってる。そんな人たちを尊敬するよ」

 

「そうか…」

 

 静かに渡された水を飲む薫。向かい側に座っていたミレイは静かに微笑むのだった。

 

ーーーー

 

「良かったわね」

 

「あぁ、だからこそ。これ以上の長期戦は好ましくない」

 

 旅館に戻った二人は先程の店での話をしていた。

 

「世界中のエリアも日本の動向が気になっているだろう。ブリタニアに逆らったらどうなるか…その行き着く先をな」

 

「勝てるの?」

 

「分からん。駒は揃った、後はどう動くかだ…」

 

 黒の騎士団、白蛇同盟軍は文句なしに日本最大の抵抗組織となった。これから本当の戦争が始まるのだ。

 

「こーら、せっかくの旅行に重い話を持ち込まないの!」

 

「む、それは…すまなかったな」

 

「今は私とどう楽しむかを考えればいいのよ」

 

 ちょっと白蛇スイッチが入りかけた時。ミレイに枕で頭をポンポンされる。意図してやってるのか、それとも天然なのかは分からないが…。

 

「薫、ちょっと相談があるんだ…」

 

「強引だと思ったがそれか…」

 

「分かっちゃった?」

 

「お前は猪突猛進だが、人の意見を聞かないわけではない。俺にしか話したくなかったんだろ?」

 

「薫にはお見通しか…」

 

 ミレイに相談事を切り出されたのは温泉に浸かっていたときだった。

 

「俺は誰の恋人だと思ってたんだ?」

 

「っ…。本当に薫のそういう男らしいところに弱いわぁ…」

 

 顔を真っ赤にするミレイ。対して薫も変にキザなことを言っているのは自覚があるので耳が真っ赤だった。

 

「それで…見合いか…」

 

「分かっちゃった?結構、外堀埋められちゃってね。薫の事は公言できないしで行くことになっちゃった」

 

「相手は?」

 

「ロイド・アスプルンド伯爵って言うんだけど。ブリタニアの技術者では最高権威らしいんだけど」

 

「スザクの上司か…」

 

 原作キャラだ。そんなストーリーは知らないがマオの件もあるし原作ストーリーに沿っているんだろうな。ロイドさんっていう人の話しも聞いたことがある。

 

「え、スザクくんの上司なの?」

 

「らしい…そして宿敵、ランスロットの開発者」

 

「え、もしかして手を焼いてる敵って…」

 

「スザクだよ。まだ実際には戦っていないがいつかは殺し合うだろうさ」

 

「そんな…」

 

 衝撃の事実に驚愕するミレイ。しばらく黙っていると彼女は顔をあげてこちらを見る。

 

「分かった。私決めたわ」

 

「なにを?」

 

「私は他の誰を裏切っても貴方の味方で居る。安直な言葉だけど世界が敵に回ろうともね。だから私は私に出来ることを貴方のためにやるわ」

 

「ミレイ…お前は俺の帰る場所でいてくれ。どれだけ困難でも絶対に帰ってくるから」

 

 お互いに笑う。ミレイの相談が解決したわけではないが彼女は何かを決心したようだ。

 

「さて、この後は旅館の美味しいごはんを食べてゆっくりしましょう?」

 

「もちろんだが…」

 

 なんか急に距離を近づけてくるミレイ。

 

「この予定の静岡なら日帰りでも良かったのよねぇ…」

 

「……」

 

「なんで泊まりにしたと思う?」

 

「後悔するなよ」

 

「モチのロンよ!」

 

 

 

 



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それぞれの思い

「ここ?」

 

「あぁ、俺の記憶にはないがな…」

 

 ミレイとの旅行の二日目。その帰りのついでにとある場所に足を踏み込んでいた。

 

 作りとしては簡素な神社、だがルルーシュ達にとっては因縁浅からぬ場所。《枢木神社》俺がルルーシュとスザクの幼馴染みとして生きていくには向き合わなければならない場所だと判断したのだ。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ…」

 

 鳥居の前に辿り着く頃には息が上がってゼェゼェ言っていた薫は冷や汗がびっしょりだった。

 

「嫌な感じだ…」

 

 階段を上がる度に体が拒否しているのが分かる。それ程までに佐脇薫がいやがる場所なのだ。

 

(マオが最初に言っていた言葉。もしかしたら俺の過去なのかもしれない)

 

 マオの言葉に頭痛が反応したのなら。この体が反応したと言うことだ。

 

「座りましょ。普通じゃないわ」

 

「そうだな…」

 

 境内の椅子に座った二人。弱りきっていた薫はミレイの膝を借りて休養を取る。なにかここで薫にとって大きな出来事があったのは確実だ。

 

「帰った方が…」

 

「駄目だ…」

 

 あの時、埠頭で起きたフラッシュバックは薫のトラウマ。検討はついている。

 

「俺は…両親を殺したのだろうな」

 

「親を…」

 

「あの記憶は俺の両親か育ての親だろう。それを、この手でころした…親を……っ!」

 

 すると頭がさらに痛くなる。そこから浮かび上がってくる映像は影。障子越しに見える大人と子供の影、突き飛ばされた子供は大人を刺し殺す無惨な映像。

 

(そうか…スザクは。親を殺していたな)

 

 原作の知識として、そして佐脇薫の記憶としてそれは確実だ。幼い薫は見ていたのだ、親友のスザクが親を殺すのを。

 そしてそれを見た薫は何をしたかは想像しやすい。老若男女違いなく、恐慌状態に陥った人間は何をするか分からない。

 

(そして…俺も……)

 

 そこからの記憶はない。おそらく、体が異常な負荷を探知して気絶したのだろう。次に目を覚ましたのは日が高く上った頃だった。

 

ーーーー

 

「ん…」

 

「気がついた?」

 

「お前のお陰でな…」

 

 ミレイから水を差し出されて飲む薫。

 

「この旅行でかなりディープな話まで聞いてしまった気がするわ」

 

「すまないな、暗い話題ばかりで」

 

「いいのよ。貴方はこう言うの吐き出さないでしょ?息抜きは大切よ、何事にもね」

 

 ミレイは本当に出来た女だ。こんな女性が今まで男性に靡かなかったのが奇跡なぐらいだ。まぁ、俺も性別的には女なのだが。

 

「すまん、俺にも俺の事がよく分からないんだ。だからお前にはかなり迷惑をかけることになる」

 

「気にしないで、私が好きでしてることだから」

 

「ありがとうな…」

 

 こうしてミレイとの二日間旅行は静かに終わりを迎えたのだった。

 

ーーーー

 

 それからの学校というものは暇な時間がやって来た。今は亡きクロヴィス殿下が行った芸術週間が始まったのだ。

 

(だからこその役か…)

 

 生まれ変わっても絵がとことん下手な薫はルルーシュの代わりにデッサンの肖像としてみんなの真ん中に座っていたのだ。

 

(単位の為とは言え1限まるまる微動だにしないのは疲れるな…)

 

ーーーー

 

「いやぁ、悪いね。スザクくん」

 

「いえ、ナイトオブラウンズにお呼びとあれば」

 

 その頃、スザクは学校を休んで政庁の一室を訪れていた。その部屋の主であるシュン・ヴィヨネットはスザクを呼び出していたのだ。

 

「君の言っていた佐脇薫って子だけど」

 

「はい」

 

「男かな?」

 

「いえ、女性です」

 

「そうか…日本では佐脇も薫もめずらしい名前ではないからな」

 

 ナリタ連山での作戦前に聞いた名前。それに反応していたシュンは少しだけ肩を落とす。シュン・ヴィヨネット、彼の経歴はいたって普通だ。平民出の軍人で入隊当時からその才能を発揮して駆け足でナイトオブラウンズにまで登り詰めた天才ではあるが。

 

(ヴィヨネットという名字が重なってるのも気になるけど。俺も平民出だし、同じ奴がいても不思議じゃない…)

 

「ヴィヨネット卿?」

 

「いや、すまないね。大昔の知人と同名でね、モシカシタラト思ったんだけど。そいつは男なんだ、映画を一緒に観に行ったきりどこに居るのか分からなくてね」

 

「そうなんですか…」

 

「別件でこの日本から離れなきゃならないから聞いておきたかったんだ。それにこれから忙しくなるだろうしね」

 

「はい?」

 

 言葉の後半の意味が分からずに思わず聞き返すスザクをシュンは少し悲しそうな顔をしながら彼の肩を叩く。

 

「ユーフェミアはいい子だ。あの子は君をすごく気に入っているんだ」

 

「そうなのですか?」

 

「あぁ、だからもし近づく機会があったら大切にしてやってくれ。出会いも別れも突然やって来るからね」

 

「はい…」

 

 シュンの言葉にスザクは敬礼をして返すと部屋を去る。

 

「これでいいんだよ、本当にこれでいいんだ…」

 

 一人残されたシュンは自分に言い聞かせるようにそう呟くのだった。

 

ーーーー

 

「薫…」

 

「なんだ?」

 

「藤堂鏡志朗の件だ。四聖剣がキョウトを通して支援を要請してきた。俺たちの初めての共同作戦だ」

 

「場所は?」

 

「調布の収容所だ」

 

 調布は都心にかなり近い場所だ。そんなところには大部隊は送れない。なら、ライと俺、伊丹、ジェシカで他は撤退路の確保に当たらせた方がいいか。

 

「分かった。俺含め四人で出る」

 

「すまないな」

 

 この作戦ならば四聖剣と黒の騎士団本来のメンバーで事足りるがこれは内外に白蛇とゼロが手を組んだと周知させるための宣伝もかねるつもりなのだろう。

 

「予定の場所と時間は後で連絡する」

 

「分かった」

 

 手早く仕事の話を済ませると一旦離れる。屋上で暇を潰しているとミレイが申し訳なさそうにやって来る。

 

「ん、どうしたミレイ?」

 

「…婚約してきました」

 

「は?」

 

 あまりにも、突然のことにおもわず低い声が出てしまった。

 

「あのスザクの上司とか?」

 

「うん、大丈夫よ!あの人は私が目的じゃないからね!それに…」

 

「………」

 

 無言で距離を一気に縮めた薫に思わずミレイは言葉を失う。

 

「なんで?」

 

「お見合いの連鎖を絶ち切りたかったから…」

 

「まだあるな…」

 

「…スザクくんが薫の敵なら側に居た方が良いかなって」

 

「……」

 

 つまりお見合い関係を利用した間者になろうとミレイは決意してOKしたようだ。それに加え、ロイドという人物があまりにもミレイという一個人に対して興味がなかったからだろう。

 

「俺が嫌がるのを承知でか?」

 

「えぇ、これが貴方のためと私が勝手に判断した結果よ」

 

「………」

 

 無表情だが明らかに不機嫌になった薫を唾を飲んで見つめるミレイだったが突然手を掴まれるとビクッとなる。

 

「なんでしょうか?」

 

「ん…いやね、唾でもつけとこうと思ってな」

 

「もうすぐ午後の授業が…」

 

「自主休講だ」

 

「あの時も思ったけど薫って超ドSよね」

 

「知るか、手加減しないからな」

 

「ひぇ……」

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

「薫、お前なんか機嫌がいいな」

 

「そうか?」

 

 藤堂救出のために一緒に学校を出たルルーシュはなんか機嫌がいい薫を見て疑問符を浮かべるがそれ以上のことは聞けなかった。

 

ーー

 

「リヴァル、会長どうしたの?」

 

「知らないよ。来た時からこうだったんだ」

 

 対して生徒会室、そこにはピクリとも動かないミレイが机に突っ伏していた。

 

(あぁ…どうやって帰ろう……)

 

 



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騎士の正体

 

「ハイドロ系は一ヶ所に固めるなって言ってるだろ」

 

「だから無頼とは違うんだよ」

 

 調布の収容所近辺の高架下では黒の騎士団と白蛇の機体たちが最終メンテナンスを行っていた。

 

「持ってきてくれたMVSだけど。解析が終わったから一応装備させてるよ」

 

「すまん、俺だけがこんなに持ってるのはどうかと思うが」

 

「なにいってるの、自分の近接戦のデータログ見てないでしょ。ライくんに並ぶ才能だよ。ピッケル捌きなんて鬼畜だよね」

 

「そうか?」

 

 改良された白夜叉の説明を受けるとクリミアはライやジェシカの元へと向かう。それと入れ替わりで四聖剣のメンバーが挨拶に来る。

 

「白蛇だ、よろしく頼む」

 

「ナリタではお世話になりました」

 

「日本解放戦線は貴重な同士だったが…片瀬少将は残念だった」

 

「…………」

 

「これ以上、日本のための希望を潰してはならない。絶対に助けよう」

 

「そうですね」

 

 同じ女性である千葉を主体にして話す薫。

 

(うーん。いいスタイルしてるな)

 

 カレンも魅力的だが千葉もまたちがった魅力がある。こう言うクールな女性は個人的に好みだ。

 

(っ!?なんか寒気が…)

 

 そんな事を考えてるとなにやら寒気が止まらなくなる薫だった。

 

ーー

 

 その後、ラクシャータが合流し挨拶を済ませる。クリミアもやけに頭を下げながら挨拶を済ませると作戦が始まるのだった。

 

 初手は四聖剣の月下4機による奇襲で始まる。ゼロとカレンは藤堂の救出。薫たちは他の囚人、主に日本解放戦線のメンバーの救出を主な任務として行動を開始した。

 

「クリミア…」

 

「分かってるわよ。全セキュリティーを無力化、ロックは全て解放。OKよ!」

 

「伊丹、誘導任せる。ジェシカ、ライはトレーラーの援護。クリミアは脱出しろ」

 

「「了解!」」

 

ーー

 

「なんだ?」

 

「ぐわぁ!」

 

 十字剣でサザーランドを切り裂きながら合流地点を目指す。壁を爆破して収容所に入ってくるトレーラー。それをライとジェシカの月下と無頼改の護衛の元、収容所のど真ん中で停車する。

 

「順調だな」

 

 そこに四聖剣とゼロたちが集結すると藤堂が姿を表す。感動の対面中では薫たちが迫るサザーランドたちを薙ぎ倒していく。

 

「中佐!」

 

「おかえりなさい藤堂さん」

 

「みんな、手間をかけさせたな」

 

「なに、安いものです」

 

「ゼロに協力する。ここの残存兵力を叩くぞ!」

 

「承知!」

 

 藤堂が月下に乗り込んだことにより四聖剣たちも戦線復帰。これで十分すぎるほどの戦力が整った。

 

 すると遠方からスラシュハーケンが飛来するそれに反応したのはライとカレン。ライは自ら足場になるとカレンが月下を踏み台にして高く飛翔しスラシュハーケンを叩き落とす。

 

「ありがとう、ライ」

 

「ナイスだ、カレン」

 

「おやおや、残った問題が自らやって来るとはな!」

 

 ランスロットの来襲。調布における戦闘はついにランスロットと同盟部隊による戦いに続くのだった。

 

ーー

 

 月下の機動力を生かしつつ他の機のカバーを忘れない四聖剣。

 

「くっ、戦い慣れてる!」

 

 一度退く月下を影に白夜叉もシールドを全面に押し出してタックルをかますと巨大な十字剣を振るうが避けられ地面に剣が突き刺さる。

 

「貰った!」

 

「させない!」

 

 一瞬の薫の隙を見てヴァリスを構えるスザクだが。目の前に迫っていたライの輻射波動をブレイズルミナスで受け止める。すると今度は白夜叉の左腕に内蔵された速射砲が火を吹く。

 

「この連携はあの時の!?」

 

 シンジュクゲットーで対峙した2機のグロースター。あの2機の連携にそっくりだ。いや、同一人物だろう。

 

「やっぱり押しきれないか…」

 

 数的には1対11なので圧倒的だが全部が全部、ランスロットと同時に戦えるわけではない。

 

「打つ手はある。ここは私の指示に従って欲しいが…」

 

「分かった、ここは君に預けよう」

 

「白蛇もいいかな?」

 

「構わないさ。君に預けるよ」

 

「全機、距離を取れ!」

 

 ルルーシュの声に弾かれるように動き出す一同。

 

「奴の攻撃には一定パターンがある。最初のアタックは正面から、フェイントをかけることは絶対にない!」

 

「かわされると次の攻撃を避けるためにすぐに移動する。移動データを読み込めS57」

 

「いただく!」

 

 建物の影から躍り出た薫はピッケルを使ってヴァリスをランスロットから剥ぎ取る。空中に飛ばされたヴァリスを薫が素早く手に入れると銃口を向ける。

 

「そうだ、その場合、次のオプションは後方へと距離を作る。場所はX23、これでチェックだ!」

 

 着地地点に待ち受けていた藤堂の月下による刺突、繰り出される三つの刺突。

 

「これは!?」

 

「読んだのか三段突きを、だが!」

 

 コックピットブロック上部を切り飛ばした藤堂。するとランスロットのパイロットが目の前に現れる。

 

「うそだ…」

 

「え?」

 

「スザクくんなのか?」

 

(ついに来たか…)

 

「あれは薫の友達の?」

 

「そうだ、枢木スザクだよ」

 

 プライベート回線で聞いてくるライに静かに答える薫。正体は分かっていたが実際に目で見ると悲しくなる。

 

(運命には抗えないのか…)

 

「どうして…お前はそんなところに居ちゃいけないんだ。お前はナナリーの側に…」

 

「ゼロ…ゼロ」

 

 放心状態のルルーシュを見た薫は無頼に近づき接触回線を開く。他の回線を全て切断してプライベート回線を繋げる。

 

「ルルーシュ!」

 

「っ!?」

 

「今は現状把握と解析だろ。指揮官としての役目を果たせ!」

 

「そうだな…すまない」

 

「お前はイレギュラーに弱すぎなんだよ。早くしろ!」

 

「あぁ…」

 

 ルルーシュを元に戻した薫はレーダーを見て周囲の状況を確認する。政庁に近いだけあって敵の増援がやって来ていた。

 

「パスワードは僕の好物!」

 

 ランスロットのハーケンブースターが四聖剣の武装を弾く。

 

「ゼロ!」

 

「もうやめろ!目的は果たした、ルート3を使い。ただちに撤退する!」

 

「ライ、ジェシカ、チャフスモークだ!」

 

 ヴァリスでランスロットの右足を破壊するとチャフスモークを展開させ撤退する薫だった。

 

ーーーー

 

「薫…」

 

「よしよし、よく頑張ったな…」

 

 黒の騎士団たちを解散させた後。動揺するルルーシュを落ち着かせる薫。スザクがランスロットのパイロットだと分かってかなり動揺しているのだろう。

 

「俺は…どうすれば……」

 

「それは、お前が決めるんだ」

 

 答えなんて無いし言えない。だって俺にだって分からないからだ。

 

「お前がどのような選択を取ろうとも俺はお前の味方だよ」

 

「すまない、薫…」

 

「いいんだ、気にすんな」

 

 もう俺が見てきた映画の内容を通り越してしまう。これからは俺自身が後悔しないように向き合わなければならない。

 

 



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最悪の敵

 

 日本近郊の海。そこにはラクシャータを通してインドが提供してくれた潜水艦がひっそりと航行していた。

 

「それでは黒の騎士団再編成による新組織図を発表する」

 

 潜水艦内でもっとも広い部屋の大画面前に立つゼロ。その隣で同じように黒の騎士団、白蛇グループのメンバーと向かい合う白蛇。今日正式に一つの反抗組織として一つになる事になったのだ。

 

「軍事の総責任者に藤堂鏡士朗」

 

 藤堂を主とする日本解放戦線残党、白蛇を中心とする白蛇グループ、ゼロを中心とする黒の騎士団。この三大勢力がついに一つとなったのだ。

 

「情報全般。広報、諜報、外交の総責任者にディートハルト・リート」

 

 ディートハルトはブリタニア人だ。反ブリタニア勢力だけあって一悶着あったがゼロが上手く黙らせる。

 

「副司令は扇要」

 

「俺が、でも白蛇は?」

 

「気にするな、役職の割り当てには俺も関わっている。俺が推薦したんだ」

 

「不服か?」

 

「いや…」

 

 最初はルルーシュも薫を副司令にしようとしていた。それを薫が辞退したのだ。彼女曰く、それだと組織の風通しが悪くなると言う。確かにその意見も一理あるのでルルーシュも受け入れたのだ。

 

「技術開発担当にラクシャータ」

 

「当然」

 

 そして0番隊。つまりルルーシュの親衛隊の隊長にカレンが選ばれ彼女は思わず笑みを浮かべる。

 

「作戦参謀、白蛇」

 

「うむ」

 

「特務隊総隊長、佐脇ライ」

 

「はい」

 

 特務隊は参謀直轄つまり白蛇指揮下の特殊部隊を指す。それに参謀はかなり自由に動き回れる役職だ。扇はもちろん、藤堂やゼロにも意見を言える上に指揮権はかなり上位に位置する。実質的な副司令であった。

 

 特務一番隊隊長 伊丹

 

 特務二番隊隊長 ジェシカ

 

 特務三番隊隊長 柏木

 

 特務隊は正直なところ。組織に混乱を招かないための処置の一つであった。白蛇の人望は絶大だ、そんな彼女に付き従ってきた者たちはこの黒の騎士団に白蛇が組み込まれることを良しとしていない。実は伊丹やジェシカたちがその筆頭である。

 その反感を少しでも納めるための措置。つまり白蛇の構築してきた指揮系統を黒の騎士団にそのまま組み込むと言うものだった。

 

(正直、上手くいくか分からないけどね…)

 

「ゼロ、一つよろしいでしょうか?後程、協議すべき議題があります」

 

ーーーー

 

「枢木スザク、彼はイレブンの恭順派にとって旗印になりかねません。私は暗殺を進言します」

 

「暗殺、枢木をか?」

 

「なるほどね。反対派にはゼロや白蛇が居たけど。恭順派には居なかったからね」

 

 象徴と言う存在はあるとなしではかなり違う。確かにスザクはこちらにとって目障りな存在になってしまった。

 

「人は主義主張だけでは動きません。ブリタニアの恭順派にとって旗印が現れた以上。最も現実的な手として暗殺を…」

 

「反対だ。そのような卑怯なやり方では日本人の支持は得られない」

 

「そうです。俺たち黒の騎士団は武器を持たないものを殺さない。暗殺と言うことは彼が武器を持っていないプライベートを狙うってことでしょ?」

 

 ディートハルトの提案に藤堂と扇が反対する。

 

「参謀はどうです?」

 

「確かに、ディートハルトの意見は概ね賛成だな」

 

 それに対して白蛇は肯定的な反応を示した。だがこれをするに当たっては一つの大きなリスクを抱えている。

 

「だが殺したとしても殉教者として枢木スザクが神格化されたらこちらが手を出せなくなる。今殺すのは得策ではないな」

 

「私は最も確実でリスクの低い選択を選んだまで。最終的に決めるのはゼロです」

 

 最終判断はゼロに委ねられる。ゼロは白蛇を伴って自身の私室に入っていった。

 

ーーーー

 

 C.Cとルルーシュが話している間。薫は書類のサインをひたすら書き続ける。ルルーシュが落ち込みーシュになると基本的に役に立たないのが痛い。

 

「まぁ、とにかく。スザクを言葉で説得するしかないだろうよ」

 

「あぁ、だがその材料がない」

 

「……ルルーシュ。結果的にスザクが仲間になって欲しいから言う」

 

 これはスザクを裏切る行為だと言うのは分かっている。だが彼の心を揺さぶるにはこれ以上の手は無いと判断した。

 

「なんだ?」

 

「日本の降伏のきっかけとなった枢木ゲンブ首相は自決したんじゃない」

 

「なに?」

 

「スザクが殺したんだよ…」

 

「っ!?」

 

ーーーー

 

「それでは我がアッシュフォード学園生徒会。風紀委員補佐、枢木スザクくんの騎士叙勲を祝いましておめでとうパーティー開始!」

 

 時と場所を移してアッシュフォード学園。そこではスザクの騎士叙勲パーティーが開かれていた。まさかスザクのためにこれほど大きなパーティーが開かれるとは思っていなかったがこれも彼の人徳だろう。

 

「どうせ他のパーティーはお前は冷遇されたんだろ?ここでは楽しんでくれ」

 

「ありがとう薫」

 

 柔らかい笑みを浮かべるスザクを見ていると罪悪感が襲ってくる。

 

「祝いの品でも用意しようと思ったがあいにく急で…すまない」

 

「気にしないでよ。こうして祝ってくれるだけで嬉しいよ」

 

「まぁ、こんなものでなら」

 

 すると薫はスザクの手にキスを落とす。この前、ルルーシュにもやっていたがスザクはなにもしてなかった。これで平等と言うやつだ。

 

「薫…」

 

「気張れよ。お姫様の騎士なんだからな!」

 

「うん!」

 

 二人で話していると遅れてきたルルーシュが合流するも続いてロイド伯爵が登場し会場は若干の混乱に見舞われる。

 

「婚約者だもん…で、いいんだよね?」

 

「え、えぇ…」

 

 完全に薫のご機嫌を伺っているミレイ。案の定、薫は相変わらずの鉄仮面だが明らかに目を細めて不機嫌そうだった。横でリヴァルが騒いでいる中、ミレイはなんとか現状を打破しようと必死だった。

 

ーーーー

 

 太平洋に浮かぶ式根島。その付近まで潜水艦を進めていたゼロたちは新兵器であるゲフィオンディスターバーを使って枢木スザクの捕獲作戦を展開させることを決定する。

 

「次から次へと新兵器って。天才は分からないわねぇ」

 

「お前もただで終わるつもりはないんだろ?」

 

「当然でしょ!」

 

 特務隊の専任整備長となったクリミアは新たな新技術に目を光らせる。彼女の本分は改良と応用だ、ただでは転ばない。

 

「でもヴァリスは柏木機で良いんですか?」

 

「あぁ、ヴァリスは狙撃銃としても使えるからな」

 

 式根島における戦闘は途中の航空艦の介入さえなければ上手く行くはず。それを援護してスザクを仲間に率入れる。

 

「ターニングポイントだな」

 

ーーーー

 

 そして開始された枢木スザク捕獲作戦は順調に進行。捕獲予定地点までの誘導に成功した。

 

「ゼロ、これで!」

 

「お前を!」

 

「捕まえた♪」

 

 切り札であるゲフィオンディスターバーの起動と同時に効果範囲にいたゼロ無頼とランスロットの機体が停止。それを白蛇たちが包囲する形で展開する。

 

「各機、周辺警戒を厳にしろ。増援を送られたら手間だ」

 

「「了解!」」

 

 後はルルーシュの説得を待つだけだが…。やはり上手く行かすにルルーシュが拘束されてしまう。

 

「ゼロ、今助けに!」

 

「待て、カレン。紅蓮が使い物にならなくなるぞ!」

 

 飛び出そうとするカレンを押さえるがすでに空からは大漁のミサイルが飛来していた。

 

「全機、飛来するミサイルに弾幕を展開しろ!全弾撃ち尽くしても構わない!撃てぇ!」

 

 薫の言葉と同時に各自手持ちの射撃兵器でミサイルを迎撃する。薫も左腕の速射砲と頭部のバルカンでミサイルを撃ち落とす。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 するとその射線を塞ぐように現れた航空浮遊艦。その光景に思わず息を飲む一同。

 

「柏木。ヴァリス、フルパワーだ!」

 

「は、はい!」

 

 薫も指示を出すと同時に背中の大剣を渾身の力で投擲するがその二つの攻撃は虚しくもブレイズルミナスによって弾かれた。

 

「くそ、これでもダメか!」

 

「白蛇様、敵艦。下部ハッチを展開、中になにかが!」

 

「くそっ!全機散開しろ、乱数回避!」

 

 拡散された高熱源体が飛来し黒の騎士団に襲いかかる。そこで薫の意識が途絶えたのだった。

 

 

 

 

 



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薫とスザク

 

 

「いっつぅ…」

 

 気を失った薫が目を覚ましたのは滝壺のすぐ横であった。確か、機種不明機に襲われて逃げ惑っていたと思うのだが全く思い出せない。

 

「やられたわけではなさそうだが…」

 

 機体の残骸が確認されない以上、大破した機体から放り出されたわけではなさそうだが。それにしてもこの島は静かすぎる。

 

「まさか、違う島とかあるのか?」

 

 それほど長い間、気絶はしてないようだがこうなってしまえば普通はブリタニア軍に捕まっている筈だが。

 

(とにかく、ちょっと…)

 

 誰も居なさそうなので水浴びでもしておこう。服の中に砂が入りまくって物凄いことになってる。プロテクターと一体化している服を脱ぐと全裸で水浴びをしながら服を水洗いする。

 

「え?」

 

「は?」

 

 そんな時だった、草むらからスザクが姿を表したのは。

 

「マジかよ!」

 

「くっ!」

 

 薫は慌ててリボルバーを上空に向けて威嚇射撃を行おうとするがその前にスザクがなんか回転しながら飛んできた。

 

「この身体能力お化けが!」

 

 武術なんて習ってない薫は簡単に滝壺に叩きつけられ沈められる。

 

「お前は、白蛇だな!」

 

「降参だ、抵抗はしない!」

 

 いまだに仮面を被ったままなので白蛇とバレてしまったが抵抗するつもりはない。と言うか全裸で痛い目に合いたくないのだ。

 

ーーーー

 

 その後、服は着させてもらったが木のツルで手を拘束されそうになって慌てて止める。

 

「待ってくれ、スザク」

 

「僕は君の事は知らないよ」

 

「それはないだろう?」

 

「え?」

 

 あっさりと仮面を取る薫。その素顔を見たスザクは思わず動きを止める。

 

「薫…」

 

「…大正解」

 

「どうして君が…」

 

「本気で日本を救おうとしてブリタニア軍に入るのはお前ぐらいだよ」

 

「でもテロリストなんて…あんな事があったのに…」

 

 動揺するスザク。そんな二人はお互いに話が必要だとそう感じたのだった。

 

ーーーー

 

「薫が僕の父の事をゼロに教えたのかい?」

 

「あの事は俺が墓場まで持っていくべき話だ。教えるとしてもルルーシュやナナリーぐらいだろうさ」

 

「そうだよね…」

 

 スザクがゲンブを殺害したことは本人であるスザク、目撃者である薫とそれを隠蔽した桐原しか知らない筈だ。ルルーシュやナナリーたちすら知らない事件であった。

 

「でも、本当にそれからどこに居たの?この七年間…親に頼ってはないもん。どうやって一人で…」

 

「…なんで俺が一人で生きていると?」

 

 スザクのハッキリとした口調に疑念を覚えた薫は思わず聞き返す。

 

「当たり前じゃないか。君の親はあんな状況で君を気にかけるほどの人間じゃないよ…」

 

「……」

 

「だから薫は僕のところに居たんだから…」

 

 繋がった…あの記憶の断片とスザクの証言でやっと繋がった。桐原公の家系ということはバリバリの日本人家系だ。しかも旧時代的な思想を持っていてもおかしくない。だからこそ、アルビノである俺は異端児だったのだ。

 

(虐待か…)

 

 身体的、精神的虐待やネグレクト。そんな理不尽な暴力が彼女を襲っていたのだろう。そしてスザクによって引き取られ居候状態。ルルーシュたちとはそこで出会ったのだろう。

 

「そして殺した…」

 

「え…」

 

「スザク、俺はな…。親を殺したんだよ二人ともな」

 

「っ!?」

 

 思わず絶句するスザク。そらそうだろう、彼女も自分と同じ道を渡り歩いてきたのだ。親殺し、彼女はそれを背負いながら暮らしてきたのだ。

 なら、もっと納得できない。なぜ彼女は命を懸けてまで日本に尽くすのか。彼女を苦しめたのは日本の伝統そのものだというのに。

 

「それをお前が聞くか?」

 

「え?」

 

「日本は俺たちの母国だろ?」

 

 特別な理由なんてない。例え、苦しい過去があっても俺は日本人で祖国は日本なのだ。それ以上の理由なんてないだろうに。

 

「そうだね…」

 

「とにかく、俺たちは今、協力し合えるだろ?」

 

「うん、取り敢えず。この島で今晩は過ごさないといけないからね」

 

 二人は互いに手を差し出して握手を交わす。ここだけは白蛇とバレてしまったがランスロットのパイロットとしてではなく。二人の親友としてあるのだった。

 

ーーーー

 

「秘技、燕返し!」

 

ピギィー!

 

 刃の潰してある刀を猪の脳天に叩き込むと気絶する。それを木のツタで縛り上げると引き摺ってキャンプ地まで運ぶ薫。対してスザクは海で器用に魚を確保して十分すぎる食料を確保していた。

 

「やるね、薫」

 

「お前こそ、素手で魚とか熊かよ…」

 

「手厳しいな、よく見れば掴めるよ」

 

「それはお前だけだと判断する」

 

「そうかい?」

 

ーーーー

 

 食料を無事に確保し、火を起こした二人は向かい合いながら食事をする。

 

「それで、どうなんだ?」

 

「なにが?」

 

「あの…えっと。ユーフェミア殿下についてだよ」

 

 俺が気になっていたことそれはユーフェミアとスザクについてだ。報道やコンベンションセンターの件で彼女は人格者というのはよく分かった。二人はお似合いのカップルと言えるだろう。

 

「え、ユーフェミア殿下?」

 

「そうだよ」

 

 皇族のお姫様と属領となった日本人とのラブロマンス。うん、物語としても美味しいし、なによりそう言った話があってもいいだろう。年頃の男女なのだから。

 

「すごく感謝してるんだ。こうしてルルーシュやナナリー。薫に会えたのは殿下のお陰だしね。こうしてブリタニア軍人としても居られる」

 

「お前はブリタニアで居場所を見つけたんだな…」

 

「うん…薫は?」

 

「俺は張り子の虎さ。外面だけ成長して中身は空っぽだ」

 

「そんなことないさ。薫はもう立派だよ、もう僕やルルーシュが居なくても生きていけるじゃないか。でも白蛇なのはびっくりしたけど…立派になりすぎだよ」

 

「ははっ、成り行きさ。全部、俺が仕組んだ訳じゃないし俺一人ではなにもできなかった」

 

 伊丹、ジェシカたちが居たからこそ今の組織がある。こうしてルルーシュと手を組めた。

 

「薫、白蛇をやめるつもりはないの?」

 

「ない」

 

「テロリストの最期は悲惨だよ…」

 

「スザク…今ここで逃げてしまえば俺は俺じゃなくなる。俺は一生後悔して行くことになる」

 

「そうだね、本当に薫は強くなった」

 

「もし、俺たちの道が重なれば…」

 

「そうだね、僕もそうしたい。そうなることを願ってるよ」

 

 静かな島で二人は決意する。目の前にいる彼/彼女は戦場では敵なのだと。

 

 




次回は他の島メンバーです


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刺客


 私はライカレ派。





 

 

 式根島からさほど遠くない海中。そこには黒の騎士団の潜水艦が息を潜めて停泊していた。その食堂では黒の騎士団中枢メンバーによる会議が開かれていたも

 

「やはりこれ以上、ここの海域に留まるのは危険だ。引き返そう」

 

「あぁ…」

 

「いえ、あくまでもここに留まりゼロを探すべきです!」

 

「そうだな」

 

 残念ながら現在の最高責任者は扇だ。そんな彼だが藤堂とディートハルトの二人に頷いて判断しかねている。食事を配っていたバレットは思わずため息を溢す。

 

「だが捜索隊も出せない状況。ラクシャータのおかけで隠れられているがもはやゼロや白蛇たちが生きている確証も掴めない。一歩間違うと組織の存亡に関わる」

 

「なにを言うのです。逆です、ゼロあっての我々。ゼロが居るからこそ組織が成り立つのです」

 

「人あっての組織だ。貴様の物言いは実にブリタニアらしいな」

 

「ではブリタニアついでに失礼します」

 

「ジェシカ…」

 

 水を注いでいたジェシカは藤堂の言葉に反応して話に割ってはいる。

 

「黒の騎士団について明確な指針を持っているゼロと白蛇様、無くしてこれからどうしろと言うのです。この組織は日本人だけの組織ではありません。ブリタニアやEU、中華連邦の人間までいるのですよ。あくまで引き返すと言うのなら我々はここで待機し白蛇様たちを待ちます」

 

「そのような勝手が許されると?」

 

「我々、特務隊は白蛇参謀直下の独立遊撃部隊です。我々に命令を下せるのは白蛇様のみ」

 

 ジェシカの言葉は侍女隊含め、特務隊の総意だ。それを見て藤堂は眉間にシワを作る。

 

「藤堂さん、ゼロや白蛇様もですが。こちらのエースであるカレンとライも行方不明です。流石に全てを捨てるのは…」

 

「伊丹大尉。しかしな…」

 

「では食料の確保してある明日の昼まで待ちましょう。とりあえず…」

 

 伊丹の発案に渋々納得する藤堂。ジェシカたちは不満そうだったが伊丹の気持ちを思ってなにも言わずに下がる。

 

(やはり白蛇は必要か…)

 

 そんなやり取りを見ていたディートハルトは心の中で呟く。白蛇貴下の部隊は実践経験の豊富な貴重な組織だ。

 最初こそディートハルトは白蛇のカリスマを疎ましく思っていたが同時に白蛇の存在は元白蛇グループの不満のストッパーになっている。

 

 白蛇グループの戦力を取り入れるためには白蛇が必要不可欠なのだと改めて実感したのだった。

 

ーーーー

 

「う、うーん」

 

「気がついた?」

 

「か、カレン!?」

 

 とある島の一角。そこの浜辺では気絶していたライを気遣うようにカレンが彼の顔を覗き込んでいた。

 

「ここは?」

 

「分からないわ。どうやら式根島ではないみたいだけど」

 

「確かに。島が静かすぎるね」

 

 どこかの島に流されてしまったようだが時間もそれほど経っていなさそうだし距離的には離れていないはずだが。

 

「インカムは?」

 

「持ってたけど海水でお陀仏。そっちは?」

 

「僕はどっかに流されたみたいだ」

 

 こういった電子機器と言うものは役に立たないのが常道であるが実際に起きると迷惑以外の何物でもない。

 

「仕方がないね。なら、食料を確保しながらの周辺探索かな」

 

「そうね。賛成するわ」

 

 取り合えず。二人はこの島を無人島を想定して動き出すのだった。

 

ーー

 

「あっつ!」

 

「美味しそうね」

 

 二人の食卓に並べられたのは魚や貝類の魚介類。調味料がないのが惜しまれるが中々に豪華な料理を作れた。

 

「カレンの槍捌きはすごかったね」

 

「まぁ、運動神経は自信があるからね」

 

 木の枝をナイフで加工して作った槍で魚を大量に仕留めてきたカレンを見ておもわず驚いたのは無理もない。

 

「まぁ、食べきれるかな…」

 

「うっ…調子に乗ったのは認めるわよ」

 

 和やかに食事を進めていた二人は自然とゼロと白蛇についての話になっていく。

 

「そうなんだ。ゼロって突然現れたんだね」

 

「えぇ、私たちがピンチの時に助けてくれた救世主で正義の味方。それがゼロよ」

 

「伊丹さんたちから聞いた話だけど白蛇も似たような感じだったらしい。まぁ、伊丹さんたちが必死に探し当てた結果なんだけどね」

 

「見てて分かるわ、白蛇と貴方たちは家族みたい。私たちとは少し違う感じね。素顔を知ってるの?」

 

「うん、知ってるよ」

 

「え!?」

 

 冗談のつもりだったんだがライの言葉に驚くカレン。対してライもこうもスラッと話してしまったのは驚くが彼女に対してだと何故だが話してしまうのだ。

 

(薫みたいなのかな?)

 

「僕含めてごく一部だけどね。まぁ、素顔が分からなくても僕は白蛇に忠誠を誓うよ。彼女は僕に人生をくれたからね」

 

「人生…」

 

「うん、僕は元々。ブリタニアの実験人間だったんだよ…」

 

 白蛇…薫は僕に手を差し伸べてくれた。生きると言う喜びを、変化を教えてくれたのだ。ライにとって薫は母であり、姉であり、親友であったのだ。

 

「そうなの…」

 

 ライの話を聞いたカレンは彼に対して猛烈な親近感を覚えていた。カレンはゼロにライは白蛇に助けられ忠誠を誓った。今思えば、ゼロに亡き兄の姿を重ねているのかもしれない。

 

 人の中に無と言うものは存在しない。人は無意識のうちに無を補完してしまう。カレンはゼロの仮面と言う無に兄であるナオトの顔を補完していたのだろう。

 

「カレン、ゼロは絶対の存在じゃない。人間だよ、もちろん白蛇も。だからこそ僕たちは考えなきゃならない。本当にゼロが白蛇が正しいのか問い続けていかなきゃならない。一点を見るのではなくその点を線で繋いで見るんだ。線で見てこそその人の本質が見えてくるんだよ」

 

「……」

 

「他人がどう言おうと。君が実際に見たこと聞いたことは嘘はつかない」

 

 ゼロを疑えと言う言葉に普段なら激昂するカレンだが彼の言葉は何故だか受け入れられた。それが何故だかは分からないが彼の言葉にはそれだけの重みがあったのだと思う。

 

「分かったわ。ありがとう、ライ」

 

「どういたしましてカレン」

 

 何故だが二人は握手を交わす。お互いに笑みを浮かべながら握手をしているとなんだか気恥ずかしくなり、やめるのだった。

 

ーーーー

 

 そして夜が明けた次の日。ライとカレンは島の中心部に向かうことにした。夜に見かけたサーチライトの光、ブリタニア軍がこの島にやって来た可能性が高い。

 

「まさか、ここまでブリタニア軍が来るなんてね」

 

「ちょうどいいわ。船なりヘリなり奪ってみんなと合流しないと」

 

「そうだね。最悪、通信機器さえ手に入れば…」

 

 カレンと話していたライは突然。話を中断して足を止める、そんな彼の行動に疑問を示すことなくカレンも周囲を確認する。

 

「なに、この殺気…」

 

「カレンも気づいた?」

 

 不穏な空気を感じた二人は戦闘体勢に入る。すると森の茂みから幼い少年が姿を現すのだった。

 

 



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技術進歩

 

 一見は人懐っこそうな少年。だがこんな無人島に一人で、こんなに殺気を漏らされては警戒せざる得ない。

 

「逃げた方がいいか!」

 

「賛成!」

 

 可能性的に相手はブリタニアの暗殺部隊。それに関する刺客である可能性が高い。こんなに物陰が多い場所での戦闘なんて不利だし相手はプロの可能性が高い。逃げるのが賢明だろう。

 

「逃げるわよ!」

 

 ひたすら逃げる二人。だがその距離は離れることなく、相手はワープしているかのように距離を縮められる。

 

「なんなんだ!あいつは!」

 

「知らないわよ!」

 

 二人でバラけるのも考えたがそれでは敵に対して不利に働く可能性がある。あっという間に島の端に追い詰められた二人は崖を背にして振り返る。

 

「くっ!」

 

「……」

 

 カレンは仕込みナイフを取り出し、ライも構える。このような絶望的な状況でライは体の中でなにかが沸き上がる感覚があった。本能的になにかを叫ぼうとした瞬間。

 

 ズドン!

 

「え?」

 

「は?」

 

 次に映ったのは刺客の少年が倒れている姿。ナイフを狙撃されていたために倒れた少年、その奥には白い影。

 

「「白蛇!」」

 

「俺の部下から離れろ!」

 

 リボルバーを構えた白蛇がいた。

 

ーーーー

 

 薫がライたちの元に駆けつけた理由。それは嫌な気配がしたからと言うわけではなく。残念ながらたまたまであった。

 

「夜中に見えたのが軍のサーチライトならその方向にブリタニア軍がいるはずだよ」

 

「なるほど、これで年貢の納め時ってやつか?」

 

「僕も出来るだけ…」

 

 残念ながらスザクに連行されていた薫は突然のスザクの停止に驚く。すると空を飛んでいた鳥さえも置物のように落ちてきたのだ。

 

「は?」

 

 自分以外の時間が停止したと思われた瞬間は一瞬。すぐに鳥もスザクも動き出す。

 

「掛け合ってみるから…どうしたの?」

 

「いや、なんか変な体験をしてな…」

 

ガサッ…

 

「なんかヤバそう…」

 

「え、薫!?」

 

 それから薫の動きは速かった、音のした方に向かって全力疾走。追いかける度に停止した動物たちが姿を表して不気味だったがそのまま突き進むと崖に追い詰められたライとカレンの姿があった。

 

ーー

 

「変な力を使ってるな、少年」

 

「くっ!」

 

 リボルバーを牽制で撃った筈だがたまたまナイフに当たったのが幸いした。少年の標的は薫に変更、すると目が紅く輝きナイフに手を伸ばす。

 

「いや、なに普通に取ろうとしてるんだよ!」

 

「え!?」

 

 思わず突っ込んでしまった。少年の足元に銃弾を撃ち抜くと牽制する。

 

「そんな、僕のギアスが効かないなんて…」

 

「時を止めるなんて大層なものではなさそうだが。厄介なギアスを持ってるようだな。誰の差し金だ?なぜ二人を狙う!」

 

 見た目はまだ幼い子供だと言うのに…。こんな子が暗殺に差し向けられている時点でろくな組織であるはずがない。ブリタニアだとすればライを取り戻しに来たか、それとも排除しに来たか…。

 

「狙いはライだな!」

 

「くっ!」

 

 歯噛みする少年に向けてリボルバーを向ける薫だったが突然。付近の木が倒れる。

 

「嘘だろ!?」

 

 明らかに不自然な倒木に慌てて避ける。するとその少年の姿が消えていた。

 

「くそっ、逃がしたか…」

 

「白蛇!」

 

「白蛇さんもここに?」

 

「白蛇でいいよ。カレン、たまたまだったがな。お前たちもここに流れ着いていたのか」

 

「うん、無事で何よりだ」

 

「そうだな。この先にブリタニア軍がいる、通信機器を奪って潜水艦に連絡しよう」

 

「そうだね」

 

 スザクを置いてきてしまったがまぁ、なんとかなるだろう。取り敢えずブリタニアに捕まる可能性がかなり低くなったと言うわけだ。

 

「とにかく山頂だな。ブリタニア軍の様子を探ろう」

 

「「了解!」」

 

ーーーー

 

「スザク、ゼロにユーフェミアだと!?」

 

「白蛇か!」

 

「かお…白蛇。君もか!」

 

 島の山頂に集結した一同。スザクがユーフェミアを奪い返した瞬間。全員が立っていた床が大きく揺れる。

 

「なんだ?」

 

「これは!?」

 

「枢木少佐…それにゼロ?」

 

 エレベーターのような床が降りた先。そこはブリタニア軍のど真ん中。ロイドたちが声をあげたのに反応して薫も顔を向けると彼女は驚愕する。

 

「嘘だろ…」

 

「白蛇?」

 

 薫が見たもの…それは"自分"であった。

 

(なんで以前の俺が…)

 

 彼女の視界にしか映らない幻影。それは転生前の佐脇薫、男の薫が静かに立っていたのだ。

 

「白蛇!」

 

「っ!?」

 

 男の薫に意識を向けていた薫はゼロの言葉に意識を戻す。すると安心したゼロは彼女の手を引いて巨大なナイトメアに乗り込む。

 

「複座式か、機体の制御を頼む!」

 

「分かった!」

 

 機体のコックピットに乗り込んだ二人。ルルーシュが後ろ、薫が前に乗り込むとコックピットを閉じる。

 

「ありがたい。無人な上に起動もしているとは」

 

「だが武装は二つしかない。外の部隊を突破できるか?」

 

「やるしかないだろう」

 

 外でライとカレンが暴れる中。ガウェインと表示された画面を見て呟く。

 

「ブリタニアの新型か…今までのタイプとは違うようだな」

 

「アラート1、アラート1!」

 

「邪魔だ!」

 

 ライとカレンを機体に乗せている間に迫ってくるサザーランドを左手のスラッシュハーケンで薙ぎ倒す。

 

「こいつ、指がスラッシュハーケンになってるのか!面白いな!」

 

「ライとカレンの収容は完了したぞ」

 

「分かった。このまま外に出る!」

 

 すると外の増援が出口を塞ぐが薫は次の武装を展開させる。

 

「きゃ!」

 

「カレン!」

 

 するとガウェインの両肩の装甲が稼働。エネルギーをチャージするとエネルギー弾をバラ撒く。

 

「ちっ、武器は未完成か!」

 

「ってかこれ、エネルギー兵器かよ!」

 

 拡散したエネルギーによって敵の視界を奪うとガウェインは出口を突破。後方に布陣していた部隊と鉢合わせる。

 

「流石に数が多いか」

 

「問題ない。これは使える」

 

 ルルーシュの言葉と共に薫は突然の浮遊感に戸惑いを覚える。するとモニターに映ったのは空を飛んでいる姿。

 

「まさか、空を飛ぶナイトメアとはな。クリミアが喜びそうなものだ」

 

「ふっ、そうだな」

 

「近いうちに主戦場は空に変わるだろうな」

 

「あぁ、こんなものが作られてはな」

 

「戦いが科学を進歩させるか…」

 

 ガンダムでも非現実的とされてきたビーム兵器や空を飛ぶ機体は常識となり、そのうちにそれが最低限のボーダーラインになっていた。

 

(天才が作り、凡人が増やす。クリミアの言っていた通りだな)

 

 その後、黒の騎士団と無事に合流を済ませた薫たちは無事に帰投するのだった。

 

 

 






 復活のルルーシュを見てきました。
 最高でしたね、皆さんも是非ごらんになってください。私は3回目に行ってきます!




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一息

 

「どうだ、こいつは?」

 

「いやぁ、やっぱり天才は凄いわね。飛行のフロートシステムにエネルギー兵器のハドロン砲。化け物ね」

 

 収容されたガウェインはラクシャータ指導の元に解析と再調整が行われていた。ユーロピアでそれなりの経験を積んだクリミアでもお手上げだと言うのに天才というものは凄いものだ。

 

「だが戦闘向きでは無さそうだがな」

 

「流石、あれは実験機だからね。フロートシステムとハドロン砲、それにドルイドシステムの実験機。戦闘を前提に作られてないから動きは鈍重。どっちかって言うと移動砲台ね」

 

「ドルイドシステムというのは?」

 

「言ってみればスーパーコンピューターね。ファクトスフィアを遥かに凌ぐ非常に高度な演算能力を持つ高性能な解析装置。これなら移動砲台も兼ねた前線司令部になるわね」

 

 まさにゼロに相応しい機体だ。指揮官が自ら最前線に向かうゼロのやり方に合っているしナイトメアの中なら素顔を晒せる。

 

「それに、ちょっと思い付いた事があってね」

 

「なんだ?」

 

 正直なところ。くまなく解析したがフロートシステムの量産や小型化はクリミアの班の技術では不可能だ。だが彼女は小型化もせずに広く運用できるような秘策を思い付いていた。

 

「砂漠用のサンドボードや通常の航空機を元に考えてみたんだけど。フロートシステムを搭載した板をつくるの」

 

「板…そう言うことか」

 

「あら、誰も思い付かないと思ってたんだけど」

 

 薫も予備知識がなければ分からなかっただろう、だが思いついた。

 

「お前が言いたいのはSFSの事だろう?」

 

「SFS?」

 

「すまん、サブフライトシステムの略だ。つまりはそこにナイトメアを乗せて運用するための航空機代わりだな?」

 

「その通りよ!」

 

 サブフライトシステムはガンダムにて使われたMS運用を前提とした航空機の事だ。飛行能力を持たないMSが空戦を行う際に使用された。それに加えMSの作戦可能区域の拡大にも大きく貢献し長い間運用されていた方法だ。

 

「確かに画期的だ。それが使えればこちらが圧倒的に優位になる」

 

 フロートシステムを使用したサブフライトシステムには滑走路が要らない。ヘリのようにその場から出撃できると言う利点もある。狭い場所を行き来するナイトメアにとっては画期的な発明かもしれない。

 

「キョウトに話しは通しておく。試作機の開発を急げ」

 

「ありがとう、分かったわ」

 

 地上戦がメインのこの時代での制空権は意味あいが強い。これは時代を変えるかもしれないと薫は胸を踊らせながらその場を後にするのだった。

 

ーーーー

 

「よくご無事で…」

 

「あぁ、白夜叉の回収もすまなかったな。ジェシカ」

 

「いえ、しかし驚きました。いつ降りられたのですか?」

 

「それが俺にも良く分からなくてな…」

 

 あの時の記憶は突然、切れたような違和感を感じる。もしかして意図的に転送されたのではないかと思うが確証はない。

 

「それに…」

 

「白蛇様?」

 

「いや、なんでもない」

 

 あの時、謎の遺跡の前で見た俺…あれは一体なんだったんだろう。

 

「考えても仕方ないな…」

 

 自分自身、かなりの特異人物だというのは良くわかってるつもりだ。あのギアスのマークが描かれた門、ギアスと自分がどう関わっているのかも知っていかなければならない。

 

「ゼロの所に行く…その後は一度、キョウトに出向く」

 

「白蛇様、九州の件はどうされますか?」

 

 九州の件。澤崎が中華連邦の軍を使って九州を武力制圧した話だ。世間では大騒ぎになっているがこっちには関係ない。

 

「中華の傀儡に用はない、黒の騎士団としては動かないだろう。その件は我々は静観する」

 

「承知いたしました…」

 

「では頼んだぞ。ジェシカ」

 

ーーーー

 

「なに、スザクにか?」

 

「あぁ、正体を知られた。ついでに全裸も」

 

「最後の情報は聞き流そう。だがそれだとお前はもう…」

 

 ルルーシュの私室に来た理由。それはルルーシュに報告せねばならない事があったからだ。それはもちろん、無人島でスザクに正体がバレた件だ。

 

「軍や警察にバレた様子はない。アイツも俺の正体については飲み込んだんだろう」

 

「そうだろうな、俺が同じ立場でもそうする。俺たちはただ他人ではないからな」

 

「だがもしもの時を考えるともう学園には居られないだろうな」

 

「すまない。俺のせいで…」

 

「お前は関係ない。あれは事故だ、どうしようもない」

 

 当然、この事はミレイにも報告してある。彼女はかなり落ち込んでいたが早速、ロイドにこの事を探ってみたが結果は白。つまり、ほんとうにスザクはこの事をだれにも話していないようだ。

 

《こっちで休学の手続きは済ませておくから安心して。それと、学園祭は来てくれると嬉しいな》

 

《分かった。学園祭は行くことにするよ》

 

 学園祭であれ、あまりアッシュフォードに行くことは阻まれるが愛しい女の為だ。そこは骨を折るとしよう。

 

「俺は一度、クリミアたちとキョウトに行く。それと…本当にトウキョウを落とすのか?」

 

「他に誰がやるんだ?」

 

「だろうな」

 

 トウキョウに独立国家を創造する。それはルルーシュの悲願である。その為の黒の騎士団なのだ。

 

「九州の件は任せた」

 

「あぁ…」

 

 ルルーシュの部屋から退出すると潜水艦の食堂を通る。そこには仲良く話すライとカレンの姿が見える。無人島からさらに仲良くなった気がする。

 

「お似合いだな」

 

 理想的な美男美女だ。微笑ましい、俺もミレイが居なかったら血涙を流していただろう。

 そんな光景を見ながらも薫は一旦、潜水艦を後にするのだった。

 

ーーーー

 

 ルルーシュが九州の件に介入している頃、薫はキョウトにいた。

 

「ついにトウキョウに攻め込むか…」

 

「はい、反ブリタニア勢力の気運も上がってきています。我々が決起すれば雪崩れるように決起するでしょう」

 

 桐原との茶会はすでに習慣となったこの頃。最近は明るい話ばかりで嬉しい限りだ。

 

「顔は変わらぬが楽しそうで何よりだ。お主のその姿を見ているだけでワシは嬉しい」

 

「何を言うのです、俺にはもう親族はいません。俺にとって貴方は父のようなものですから…」

 

「ワシが父か…」

 

「すいません、出すぎた真似を」

 

「いや、むしろ心地よい。お主のような娘をもってワシは幸せじゃよ」

 

「桐原公……」

 

 薫の言葉に偽りはない。彼女は心から桐原を尊敬し、この世界の父と思い。尊敬の念を抱いていた。それは桐原も同じであり、薫と言う少女の親代わりになれたと言うのはなんとも言いがたい良いものだった。

 

「九州の件は片付きそうか?」

 

「ええ、ルルーシュも動き出したようですし。じきに収まるでしょう。俺から言わせれば澤崎の方が売国奴ですよ」

 

「ふん、あやつもあやつなりに考えた結果だろう。だが浅はかだったな」

 

 騒がしい世間に対して静寂な部屋。その中でゼロとスザクによって九州が陥落したと報告されるのはすぐ後だった。

 

「みなさん、お待たせしました!これより、トウキョウ祖界で最もオープンな。アッシュフォード学園の学園祭を始めます!スタートの合図はこの一言から!」

 

「にゃー」

 

 全てが順調に進んでいると思っていた。だが、それは悲劇へのカウントダウン。その発端であるアッシュフォード学園の学園祭が開催されたのはその翌日だった。

 



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学園祭

 

 

 アッシュフォード学園の学園祭。それはこのトウキョウでも言わずと知れた大きなお祭りである。学園内にはトウキョウ中の人々が集まる。それは日本人などの多くの人種も含まれている大きなお祭りだ。

 

「相変わらずだな…これこそアッシュフォード学園ってやつだよな」

 

 前の世界では味わえなかった絵に描いたような学園生活。それを手放さなければならないのは少し残念だが自分の立場上、そう言うときが来るのは覚悟していたつもりだが。

 

「ごめんね。やっぱり運営からは中々、抜け出せなくて!」

 

「気にしてないさ。それより、大丈夫なのか?」

 

「うん、ピザはリヴァルに任せたし。ルルーシュがいるからね」

 

 学園の倉庫。ここは立ち入り禁止なのでもし来たとしても生徒会メンバーぐらいだ。だからこそここに薫が身を潜めて潜入していた。

 

「それで、どうするの?」

 

「取り敢えずスザクと話してみるかな。デートはそれからだ」

 

「え、デートしてくれるの?」

 

「せっかくの学園祭だしな…次いつ会えるか分からんし…」

 

「………」

 

「ミレイ?」

 

よっしゃぁ!

 

 喜びのあまり、声を張り上げたミレイの声量に思わず驚く薫。そんな彼女の声は倉庫の外までもしっかりと聞こえていたのだった。

 

ーーーー

 

「スザク…」

 

「薫…来てくれたんだね?」

 

「一応な…なんで俺のことを話さない」

 

 ピザ用の厨房でひたすら玉ねぎを切っていたスザクの元に訪れた薫は二人っきりで対峙する。

 

「薫なら分かってくれると思う。僕は薫をテロリストとして吊るしたくないんだよ」

 

「お前のかかげる正義に反していてもか?」

 

「そうだね。確かに矛盾している、でも僕は薫とは対話で決着をつけたいと思ってる。戦場以外ではね」

 

「ふぅ…」

 

 スザクのお人好しにはあきれるがそれが彼の美点でもある。こんな奴だからこそ薫も心から信頼しているのだ。

 

「分かった。武器を取らずに対話で終わらせられればそれ以上の事はない」

 

「ありがとう、薫」

 

 真底嬉しそうな顔をするスザクに毒気を抜かれてしまい懐にしまってあった銃をしまう。

 

「こんなところに居ないで学園祭、楽しめよ」

 

「薫もね」

 

「あぁ…」

 

ーーーー

 

「学内に入るのは初めてかも」

 

「そうなの、せっかくのお祭りだし少しは楽しんだら?」

 

「そうだね。僕も久しぶりに羽を伸ばそうかな」

 

 ディートハルトが呼び寄せた地下協力員の接触のサポートのためにカレンは学園に来たのだが折角なのでライも誘って学園祭に潜ることにしたのだ。

 

「扇さんたちが来るのも少し先だし、楽しみましょ」

 

「そうだね」

 

ーーーー

 

「いやだぁ!」

 

「やっぱり、変装しないとね!」

 

「お前がやりたいだけだろ!」

 

「何いってるの、貴方のためを思ってのことよ!」

 

 学園祭の模擬店。そこにあるコスプレ店で捕まった薫だがミレイが満面の笑みでそこに引きずり込もうとしていたのを必死に抵抗していた。

 

「たまには女らしい格好をしなさいよ!」

 

「本心丸出しじゃねぇか!」

 

「薫の滅多に見れないエロい格好を見せろ!」(全ては貴方のためよ!)

 

 ミレイの理性は完全に崩壊し理性と本音が入れ替わって聞こえてくる気がする。

 

「勘弁してくれ!」

 

「往生せいやぁ!」

 

「ああぁぁぁぁぁ!」

 

ーー

 

「……」

 

「~♪」

 

 格好いい男装に身を包んだミレイに対して薫は疲れたような表情で自分の格好を見つめる。

 

「誰だぁ!こんなもの用意してたやつぁ!」

 

 どこぞの黒乳王のような衣装を着させられた薫は恥ずかしさのあまり顔を紅潮させるがどうしようもない。

 

「ふふっ…礼「それ以上はいけない!」…そう?」

 

「誰だ、第三の衣装を作ったやつは…。分かったらぶっ殺してやる!」

 

「まぁ、良いじゃない。これで私はハッピー、最高の日よ!」

 

「ただの露出狂じゃねぇか…」

 

 まぁ、私はナイチンゲール派なんですけどね♪

 

「地の文の癖にやかましいわ!」

 

 さっきからミレイの鼻血が止まっていないのだがそれについては黙っていた方が良いだろう。

 

「薫さん…すげぇ」

 

「おぉ、すごい!」

 

「会長も男装お似合いですねぇ!」

 

「ん?」

 

「まぁ、写真に撮らないわけにはいかないわよねぇ…」

 

 なんかやばい気がする。その瞬間、二人は写真撮影会に巻き込まれ何時間も見世物として曝された。

 

 このコスプレでのツーショット。ミレイと薫の姿は誰もが揃って言うだろう二人とも美人だと。非の打ち所のない女性が二人並んだこのツーショット。

 

 美しい学園生活を写したこの幸せな写真。これが二人にとって最期のツーショットになったのであった。

 

ーーーー

 

 撮影会と言う大偉業を終えてピザ製作の指揮所で一息つく二人。そこからは巨大なピザの製作がしっかりと見える。

 

「祭りは必要よ。どんな時にも、どんな人にも、場所でも…あんたまだまだね」

 

「ははっ、勉強になります」

 

「お前のそう言うところが大好きだよ」

 

「あら、そうだったの?」

 

 ミレイは時たま深いことを言ってくれる。それは彼女の根底にあるものがチラリと見える瞬間でもある。自分勝手に見えて他人の事をしっかりと見ているのが彼女らしい。

 

「え、どう言うことです?」

 

 二人の話を聞いていたルルーシュは思わず疑問を口にするがそれを遮るようにナナリーが現れた。

 

「お兄さま」

 

「ナナリー、ピザは…っ!」

 

 そこに現れたのはナナリーと謎の少女。その二人を見たルルーシュは血相を変えて飛び出す。

 

「誰なの?」

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアだろう。あの髪の毛は…」

 

「まさか…」

 

「いや、別件だろうが…不味いかもな」

 

 島で再会したときにルルーシュはユーフェミアと共に行動していた。もしやその時に…。

 

「薫、ルルが女の子口説いてるんだけどぉ」

 

「お前は相変わらずだな、シャーリー。ルルーシュに一番近いのはお前だよ」

 

「べ、別にそういうことじゃないから!」

 

 ルルーシュの後を引き継いで無線係をしているとシャーリーから愚痴が飛んでくる。それを微笑みながら聞き流していると広場で騒ぎが発生した。

 

「三班、何があった?」

 

「ユーフェミアさまがお忍びで来たらしいですよ!」

 

 ユーフェミアの騒ぎのせいでピザがおじゃんになってしまったが仕方がない。スザクの優先目標はユーフェミアだ、ピザじゃない。

 

「これで一年間溜め込んだ資金がパーだ」

 

「あちゃー」

 

 巨大ピザの失敗に顔を覆うミレイだが彼女はそれでも楽しそうだった。

 

「神聖ブリタニア帝国。エリア11副総督、ユーフェミアです。今日は皆さんにお伝えしたいことがあります。私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは富士山周辺に行政特区日本を設立することをここに宣言いたします」

 

 悲劇の宣言。彼女の放った言葉の意味を理解できない薫ではなかった。

 

「ブリタニアが!?」

 

「日本を認める?」

 

「薫?」

 

「俺が二年間、積み上げてきたものを一言でぶち壊しやがった!」

 

 まさかこんな夢話で無力化させられるとは思わなかった。ブリタニアがそれを認めるはずがなかったが今、こうして現実になっているのだから。

 

「この行政特区日本ではイレブンは日本人としての名前を取り戻すことになります。イレブンに対する規制、ブリタニア人の特権は存在しません。ブリタニア人にもイレブンにも平等な世界なのです!」

 

「なにが平等だ!そんなものがあるわけないだろうが!」

 

 感情が抑えきらなくなって叫ぶ。それをミレイが必死に押さえるがそれでも怒りは収まらなかった。あの姫は知らない、ブリタニア人がゲーム感覚で日本人を殺しているのを…。

 

「落ち着いて薫。今は抑えて…」

 

 猛る薫は必死に抱き締めるミレイに根気負けして気持ちを抑える。

 

「すまん…」

 

「いいのよ。私はあんなものに頼らなくても貴方の側に居るから」

 

 

 

 

 



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喪失の白蛇

 

 

「事態は深刻だ。支持者だけではない、黒の騎士団内部でも特区に参加する者たちが増えている」

 

「黒の騎士団とは違って、特区日本にはリスクがありませんしね」

 

「平等って言われたらな…」

 

「散々、我々を虐殺しておいてか?」

 

 黒の騎士団幹部の中でも片寄ってきた意見。その中での白蛇の言葉はとても重い言葉だった。

 

「皇女がいくら綺麗事を並べても実行するのは我々を虐殺したブリタニア人だぞ。夢物語だ」

 

「白蛇に賛成。でも早急に対応を決めないと」

 

 朝比奈も白蛇の意見に賛同する。

 

「白蛇、ゼロはなんて?」

 

「検討中だ、流石にすぐに答えは出せない。策は練る、少し待て」

 

 ここにいては根掘り葉掘り聞かれそうなので退散する。

 

「白蛇さま…」

 

「あぁ、頼んだものは用意できたか?」

 

「こちらに…」

 

 ジェシカはアタッシュケースを開けるとそこには対人装備一式が用意されていた。白蛇の衣装も装甲を設けられているが最低限度。中に着込む用の防弾チョッキとアサルトライフル、グレネードなどの装備だ。

 

「何かされるつもりなのですか?」

 

「念のためだ、これを使わなければそれでいい。その程度だ」

 

「お気をつけて、何かあればコールサインを押してください」

 

「ありがとう、ジェシカ。お前には感謝しきれないよ」

 

「いえ、ご無事で…」

 

 武装を一式、受け取った薫は昨日、ルルーシュと二人で話した事を思い出していた。

 

ーー

 

「自分を撃たせる!?」

 

「あぁ、それしかない…」

 

 ルルーシュが提示した案。それはギアスで操ったユーフェミアによってゼロを撃たせると言うものだった。当然ながら、賛成できるはすがない。

 

「ゼロは民衆の味方でなければならない。ブリタニアは卑劣な敵であり、ゼロだけが救世主なのだとな」

 

「ゼロを殺すための罠だとそう印象づけるのか…だが」

 

「使わせるのはセラミックと竹を使ったニードルガンだ。威力も銃に比べてかなり弱いし致命傷は避けさせる。薫にも協力してほしい」

 

「もちろんだが…」

 

 薫の役目は簡単だ、負傷したゼロの救助のみである。ゼロの負傷を揉み消そうとして来た場合に対抗手段がいる。ガウェインに乗り込めるのは二人。ゼロはガウェインの上に乗って移動するためにもう一人分のスペースに余裕がある。

 

「信用できるお前に頼みたい」

 

ーー

 

「あんなこと言われたらな…」

 

 断れないし断る理由もない。こっちは出来るだけゼロが素早く手当できるように手配するぐらいだろう。

 

「何もなかったらいいんだけどな…」

 

ーーーー

 

 そして当日、その日は来た。行政特区日本の中継は世界中に放送され歴史に残るであろう瞬間を民衆は楽しみに待っていた。

 

「どうしたんだよシュン。顔色悪いぞ?」

 

「ならほっておいてくれジノ。気分が悪いんだ…」

 

 帝都ペンドラゴン。ナイトオブラウンズに与えられた大広間に集まっていた数人のナイトオブラウンズ。気さくに笑うジノに対してシュンは頭を抱えていた。

 

「珍しいわね。貴方が体調を崩すなんて」

 

「俺だって人だからな」

 

「そうなんだ…」

 

「お前な…」

 

 それをからかうように目を細めたのはモニカ。彼女は懐から薬を取り出して差し出す。

 

「これでも飲みなさい」

 

「ありがとう。でも、俺は部屋で休んでるわ…」

 

「本当に大丈夫?送っていってあげるわ」

 

「うーん。ありがとう…」

 

 相変わらずのモニカにジノも笑みを浮かべる。それをアーニャは不思議そうに見つめる。

 

「相変わらずお熱いこって…」

 

「仲良し?」

 

「そうだよなぁ。絶賛片想い中かな?」

 

ーー

 

「大変なことになりました。あのゼロが堂々と姿を現しました。今、ユーフェミア殿下の指示でG-1へと向かいます」

 

(薫…無事でいて…)

 

 行政特区日本の中継を見ていたミレイは必死に手を合わせながら祈る。彼女の怒りよう、このままで終わるとは限らない。必ず何かが起きてしまうはず。その不安感がミレイは拭いきれずに祈るしかなかった。

 

ーー

 

「なぁ、俺たちいつまでもここにいればいいんだよ」

 

「ゼロがここにいろって言ってたのに信用できないの?」

 

 行政特区日本を取り囲むように配置された黒の騎士団戦力。彼らは息を潜めて静かに待つ。

 

「全てはブリタニアの真意を確かめてからだ」

 

「副司令。その真意が分かっているからこそ、全軍を四方に伏せているのでは?」

 

「ディートハルトやラクシャータまで待機させた。それに特務隊がいつも以上に殺気立っている」

 

 地下坑道に身を潜めている特務隊。彼女たちは白蛇の念入りな準備に対して何かあると踏んでいた。

 

「伊丹さん。本当に戦闘になるのでしょうか?」

 

「正直なところはなんとも。しかし、白蛇さまがあれほど警戒されていると言うことは…」

 

「その可能性があると言うことだと我々、侍女隊は判断しました」

 

 特務隊はライが指揮権を保有しているが実際は伊丹、ジェシカ、ライの三人。三人四脚で部隊指揮を行っている。つまり三人に平等に指揮権があると言うことだ。

 

ーーーー

 

「そうか…あそこでお前を見たのか」

 

「幻覚なのか、それとも他人の空似か分からないけれど。見たんだ…」

 

 ルルーシュを待っている間。C.Cと二人きりの時間が出来たので薫は神根島の事を相談していた。

 

「お前がこの世界の理から逸脱しているのなら。一度、Cの世界を通った可能性は高い。その時の前の世界のお前の情報が刻まれたと仮定すれば…本物のドッペルゲンガーかもしれないな」

 

「そうか、オカルトがある世界だもんなこの世界は…」

 

「この世界が出口ならお前の世界は入り口だ。お前が関わらなかっただけで似たような物が存在している可能性は高いと思うぞ」

 

「前の世界はただの一般人だったからなぁ…知らなくて当然か」

 

 そんな話をしているとC.Cは外にいるスザクと目を合わせていた。

 

「見えているようだな。間接接触と神根島の件が切っ掛けになったか…それともあいつが…だとしたら」

 

「おい、C.C?」

 

「すまない、少し確かめたい事ができた」

 

「全く…」

 

 慌てて仮面を着ける薫。それを置いて彼女はさっさと降りていってしまう。

 

「まさか…」

 

「おい、どうした?」

 

 するとC.Cが倒れ、駆けつけたスザクも倒れてしまう。完全に警戒モードにはいったSPも倒れて大変なことになる。

 

「何してるんだ!」

 

「すまない…」

 

「とにかく、ガウェインに…」

 

 ふらつくC.Cを支えて立ち上がるとガウェイン近くまで運ぶ。SPも倒れたし、ルルーシュの救出は楽そうだ。

 

「ねぇ、貴方は日本人ですか?」

 

「は、当たり前だろう?」

 

「おい、そいつは…」

 

 こんなくそ忙がしい時に声をかけてきたのはユーフェミア。それを知らずに薫は振り返ると眼前に銃を突き付けられる。

 

「へ?」

 

「じゃあ、殺さなきゃいけませんね♪」

 

 一切の躊躇いなく引かれるトリガー。ニードルガンの弾は彼女の仮面の右側を砕き、彼女の頭部に入り込む。状況を理解できないまま撃たれた反動でガウェインの足にぶつかり地に伏せる。

 

「おい、薫!大丈夫か!」

 

「……」

 

 必死に呼び掛けるC.Cの声が遠くに聞こえる。薫の顔を必死に抑える彼女だが薫の血は止まらない。お互いに真っ白な衣装を赤く染める中。ユーフェミアは行政特区日本の会場にはしりさっていくのだった。

 

「こんな…ところで……」

 

 そして薫は静かに意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 





 次話を書くのが辛すぎる…




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血染めの式典

「やめるんだ、ユフィぃぃぃ!」

 

 ユーフェミアを追って外に出たルルーシュ。だがその目に映ったのは血まみれの親友、薫の無惨な姿。

 

「薫!」

 

「お前はあの女をなんとかしろ!こっちはやっておく!」

 

「あ…う……あぁ!」

 

 手早く薫の処置をしていたC.Cを見たルルーシュはぎこちなくだが会場に向けて走る。ルルーシュ用の為に持ってきた応急キットが役に立つとは。

 

「脳には達していないようだな…だが目が…」

 

 薫が銃弾を受けたのは右目。威力の弱いニードルガンのお陰で弾は目で止まっているが…。

 

「止血は終わったか」

 

「おい、まだ動くな!」

 

「そんなこと言ってる場合か!」

 

 意識を失ったのはほんの数分、だが状況は理解していた。かなりヤバイ状況だって事ぐらい。

 

「一人でも多く…くっ!」

 

「血が!」

 

 止血した右目から血が染み出てくるがそんなことを気にしている場合ではない。

 

「俺は中に行く。早くルルーシュを拾って撤退するんだろう!?」

 

 視界が片目だけなのはキツいが中に入れば右目の事などどうでもよくなる光景が広がっていた。

 

「嘘だろ…」

 

 死屍累々、阿鼻叫喚。日本人の死体と血まみれになった会場に呆然とする。

 

「えーん!」

 

「赤ん坊まで!」

 

 赤ちゃんを守るように覆い被さった両親らしき遺体。まだ小さな血まみれの赤ん坊を抱えると握っていた銃を握りしめる。

 

「なんで…なんで……なんでこんな事ができるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーー

 

「かお…白蛇。来ておったのか!」

 

「桐原公!すいませんが…」

 

「うむ、まさかこれまでするとはな…」

 

 片眼でありながらブリタニア軍の歩兵を数人始末していると自然と生き残りが集まってくる。来てくれたのは桐原を含めて10人ほどのか弱い一般市民たちだ。桐原に赤ん坊を預けてライフルを手に取る。

 

「お主、目が……」

 

「あのお飾りにやられたんですよ。完全に油断していた」

 

 部屋の鍵を壊して部屋の中に入る。窓もない倉庫、ここなら見つからなければなんとかなるはずだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ。ちょっと意識が飛びそうですが…」

 

「ここに医療道具がありました!」

 

「よし、薫。横になれ」

 

「え?」

 

 外を警戒していると桐原と数人の大人たちがやって来る。

 

「面を見せよ」

 

「うっ…」

 

 C.Cに絞めてもらった包帯を改めて縛られる。現在はアドレナリンのおかげで意識を保っているが一瞬でも気を抜けばあっという間にブラックアウトするだろう。

 

「ありがとうございます。もうすぐ、黒の騎士団が来ます。それまで持ちこたえてください。俺はまだやることが…」

 

 赤ん坊だけはこちらで引き取る。この子だけはほっておけなかったのだ。

 

「気を付けよ」

 

「ありがとうございます。桐原公…」

 

 桐原に見送られ、薫は外に出るのだった。

 

ーー

 

「私は救世主じゃ…メシアなんかじゃないんだ…俺に背負いこめと…」

 

「ルルーシュ、お前!」

 

「薫……」

 

 すがり付く老婆の遺体の前に呆然とするルルーシュを捕まえて胸ぐらをつかむ。こんな惨状を作り上げたのは間違いなくルルーシュだ。その怒りを薫は抑えれなかった。

 

「なんて事を…なんて事をしたんだお前は!」

 

「違うんだ…俺はこんなこと望んで…」

 

「ふざけるな!お前…の……」

 

「薫!」

 

 血を出しすぎて再び、気を失う薫。それを慌てて支えると彼女の腕の中に赤ん坊がいるのが見えた。それを見てルルーシュは逃げたい衝動に駆られるが薫を抱き抱えてガウェインの所へと向かうのだった。

 

ーーーー

 

「あ、うぅ…」

 

「薫!」

 

「くそ、気絶しておきたいが目が痛くて覚めちまう」

 

「安心しろ。もうガウェインの中だ」

 

 ルルーシュの膝の上で眠っていた薫は残った左目でガウェインのモニターを見つめる。すると黒の騎士団のナイトメアが式典会場に突入しブリタニア軍を蹂躙しているさまが見られた。

 

「よくも白蛇さまを!」

 

 白蛇の負傷を知った特務隊は怒りのまま進撃。ジェシカも無頼改を操ってすれ違いざまにサザーランドを切断する。

 

「絶対に許さない!」

 

「こいつらぁ!」

 

 伊丹もライも次々とブリタニア機を破壊していく。

 

「すまん、もう少し寝る…」

 

「あぁ、ゆっくり眠れ…」

 

ーーーー

 

 次に薫が目覚めたのは用意された医務室のベッドであった。

 

「白蛇さま…よくぞご無事で…」

 

「白蛇!」

 

「白蛇さまぁ!」

 

 医療班の必死の処置のお陰で右目から銃弾を摘出。完全に止血を終えて安静状態まで落ち着いたのだった。

 ジェシカやライたちは涙を浮かべて薫の生還を喜んだが、同時に怒りを露にする。

 

「右目は駄目です。もう、使い物にならないと…」

 

「そうか…」

 

「銃弾は脳には達していないから障害とかは大丈夫らしいけど」

 

 白蛇グループの主要なメンバーが一同に会して彼女を心配している。それを見て、薫は少し嬉しくなると上体を上げてみんなを見つめる。

 

「俺の事は気にするな。状況は?」

 

「ゼロが合衆国日本を立ち上げてトウキョウに向けての奪還作戦が始動。日本中が決起し現在、我々も出撃準備に入っています。白蛇さまはこのままG-1にて安静に…」

 

「俺の白夜叉は?」

 

「いけませんよ!白蛇さま!」

 

 出撃しようとする薫を必死に止める伊丹。すると薫は違和感に気づく。そういえば、仮面がない。

 

「俺の仮面は?」

 

「申し訳ありません。治療のために外させていただきました、半分ほど砕けてしまいましたが」

 

 ジェシカから差し出されたのは左側だけ残った仮面。顔の右側は包帯に覆われ、実に無惨な姿だが仕方がない。

 

「ジェシカ、キツく絞めろ。緩まないようにな」

 

「しかし…」

 

「ここで戦わずして、いつ戦うか!」

 

「っ!……はい!」

 

 薫の怒号にジェシカは少し怯えながらも薫の包帯を絞め直す。するとバレットが赤ん坊を抱えてやって来る。

 

「白蛇さまが助けた赤ん坊です。恐らく、二、三ヶ月あたりかと」

 

「よーし、いい子だなおめぇは。白蛇さまだぞぉ」

 

「あーう!」

 

 機嫌がなおったようで笑みを見せる赤ん坊。それを見て薫は涙が溢れる。

 

「白蛇さま…」

 

「良かった。この子だけでも助けられて…」

 

 改めて受けとると小さな、とても小さな命だ。こんなに暖かいものだとは思わなかった。

 

「はい、白蛇さまがお救いした命です…」

 

「マニィ、この子を頼む」

 

「承知しました」

 

 助けた赤ん坊を侍女に預け、改めて決心する。

 

「ブリタニアを倒す、それしか俺たちには道がない。勝つぞ、この戦いを!」

 

「「「承知!!」」」

 

ーーーー

 

「白蛇!」

 

「カレンか…」

 

「やっぱり、その傷…」

 

 白夜叉の出撃準備を進めているとカレンが心配そうに駆けつけてくる。白蛇が右目をユーフェミアに撃ち抜かれたことは黒の騎士団内部ですでに共有されている事実であった。

 

「でも驚いたわ。貴方が薫だったなんて…」

 

「…見たのか?」

 

「見るつもりは無かったわ。でも見ちゃった…」

 

 薫の素顔はかなりの人数に知れ渡っていた。日本人らしい顔立ちの少女が血まみれで運ばれていく様子は見ているだけで心を痛めただろう。

 

「貴方が素顔を隠している理由が分かったしね」

 

「悪かった。騙すような事をしてしまって…」

 

「いいのよ。生徒会のメンバーには迷惑かけたくなかったんでしょ?」

 

「あぁ…」

 

「でも私にぐらい教えてくれても良いんじゃなかったのぉ?」

 

「そうだな。すまない」

 

「ま、これから改めてよろしくね」

 

「あぁ」

 

 カレンと改めて握手を交わすと薫はゼロの居場所を聞くのだった。

 

ーー

 

「薫…」

 

「ルルーシュ、説明しろ。あの惨状のな…」

 

 ゼロを見つけた薫は個室に連れ込むとあらためてあの事件の事を問いただす。いったい何がどうなればあんなことになるのか。ルルーシュは仮面を外す気配がなく、被り続けている。

 

「ちょっとした冗談だったんだ」

 

「……」

 

「……ギアスが、暴走して」

 

 なるほど、だからルルーシュは仮面を脱がないのか。

 

「日本人をみなごろしにしろと?」

 

「あぁ…」

 

「なんで…こんなタイミングで…」

 

 マオとか言う変態ストーカーのザマを見ればわかる。ギアスは暴走してしまうものなのだと。

 

「すまない、全部。俺のせいなんだ!」

 

「そうだな、お前のせいだ。だが全部じゃない…」

 

「え…おい!」

 

 ルルーシュの仮面を外して向き合う。俺にはギアスは効かないからだ。

 

「きっかけはルルーシュが作った。だが実行したのはブリタニア軍だ。ユーフェミアは皇帝なんかじゃない。お飾りなんて言われてた女だぞ。ユーフェミアに絶対の権限があったわけじゃないんだよ」

 

 あの場にいたブリタニア軍は日本人を人として見てなかったのだ。だからあんなことが平然とできる。ユーフェミアがギアスにかからなくてもいつかはやって来たかもしれない未来なのだ。

 

「俺の事は気にするなよ。お互いに片眼を失った…これでおあいこだ」

 

「あぁ、俺はお前の右目になる。だからお前は俺の左目になってくれ」

 

「……そう言うのは他の女に言うなよ。俺でなかったら惚れてたぞ」

 

「ん?」

 

「無自覚か…たち悪いな……」

 

 薫は静かに笑うと残った左目で彼を見る。

 

「日本を取り戻すぞ」

 

「あぁ!」

 

 こうして後の世の《ブラックリベリオン》が幕を開けるのだった。

 

 



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ブラックリベリオン 前編

 テンション上がって一気に書きました。長いです





「聞くがよい、ブリタニアよ。我が名はゼロ、力あるものに対する反逆者である!零時まで待とう、降伏し我が軍門に降れ。これは最終通告である。零時まで待とう、降伏し我が軍門に降れ!」

 

 ルルーシュたち黒の騎士団を中心とする対ブリタニア戦力とコーネリア率いるブリタニア軍はトウキョウの境目を境に向かい合う。コーネリア軍は外縁部に陣を敷き、徹底抗戦の構えを見せていた。

 

「あぁ、すぐにそっちに向かうと思うから。その時は頼む」

 

「分かったわ。貴方がいるから安心ね」

 

「学園の制圧が終わったら俺も前線にとんぼ返りだ。いいな、大人しくさせろよ」

 

「分かったわ」

 

 薫は学園にいるミレイに連絡を取って学園の生徒たちに部屋に戻るように放送をしてもらう。学園のみんなには怪我などをしてほしくないからだ。

 

「ミレイは泣くかなぁ…」

 

 自分が右目を失ったのを見てミレイは正気でいられるか不安になってくる。無事に帰るって約束したのに…その約束を破ってしまった。

 

「そっちの方が憂鬱かもな…」

 

ーーーー

 

 そして始まるトウキョウ奪還作戦。外縁部のフロアパーツの一斉解除により外縁に布陣していたほとんどの部隊を負傷、または壊滅させる。

 

「ゼロ、やっぱおまえはすげえよ…」

 

「これ程の手回しをおこなっていたとは…」

 

「まぁ、これもゼロの力の一端だな…」

 

 ブリタニア軍が崩れた足場に巻き込まれていくさまは全ての兵士たちの度肝を抜いた。だがここで立ち尽くしている場合ではない。

 

「ライ、お前は特務三、四番隊を連れて前線を押し上げろ!」

 

「分かった!」

 

「歩兵と一番隊と二番隊は俺に続け!学園地区に司令部を置く!」

 

「「「承知!」」」

 

 薫は手早く指示を出すと白夜叉をアッシュフォードに向けさせる

。秩序のある黒の騎士団が学園を制圧すれば日本人たちの傍若無人な振る舞いを抑制できると踏んだ結果であった。

 

ーーーー

 

「これで、全ての放送局が…」

 

「失礼ながら、こちらは我々が占拠いたします。ご無礼を!」

 

 テレビ放送で外の状況を確認していたミレイたちの元に武器を持ったメイドたちが部屋に押し寄せてきた。

 

「銃を下ろせ!」

 

「リヴァル、大人しくして!」

 

「でも…」

 

「いいから!」

 

「懸命な判断です。我々も無抵抗の民間人に危害は加えません」

 

 抵抗するリヴァルを抑え込んだミレイはメイドたちを見て無抵抗であることを示す。

 

「凄い来ましたよ。会長!」

 

 シャーリーの言葉にミレイは窓を見る。窓の外には無頼や無頼改、白夜叉などがスラッシュハーケンを使ってよじ登り。学園に踏み込んできていた。

 

「貴方がミレイ様ですね?」

 

「え、はい」

 

「白蛇さまがお呼びです。別室に案内を」

 

「分かりました」

 

 予想通り。薫からの呼び出し、だがそれは端から見れば危険な行為、リヴァルたちが反対する中。彼女は笑顔で安心させて薫の元へと向かうのだった。

 

ーー

 

「コーネリア殿下、ダールトン将軍がお戻りになりました!」

 

「なに、ダールトンがか!」

 

 その頃、政庁で籠城の準備をしていたコーネリアの元にダールトンが帰還した。

 

「姫様、申し訳ありません。ユーフェミア様をお救いできずに…」

 

「よい、ダールトン。お前が無事で何よりだ。それより、手当てを…」

 

 ダールトンの脇腹には銃で撃たれた後が残り。そこから血が溢れている。彼を医務室に送るとコーネリアは改めて黒の騎士団を睨み付けるのだった。

 

ーー

 

「薫…その目は…」

 

「すまん、ユーフェミアにやられてな」

 

「もう、だから無理しないでって言ったのに!」

 

 ミレイは泣きながら薫を抱き締める。彼女が本当に存在しているのか確かめるように。

 

「これがブリタニアだったなんて…私は悔しいわ」

 

「俺が気を抜いたツケが回ってきただけだ。大したことじゃない」

 

「この体で前線に出るの?」

 

「俺は指揮官だ。前線に出ないと見えないこともある」

 

「そんな…」

 

 ミレイの目には愛する人を止められない悲しみとユーフェミアへの深い憎悪が渦巻いていた。それを曝せなくて必死に自分の中で押し止めようと我慢しているのが目に見えて悲しくなる。

 

「私も一緒にた…」

 

 その言葉だけは絶対に許さない、薫は口づけでミレイの口を塞ぐ。

 

「駄目だ。お前はここにいろ」

 

「でも…分かってよ!貴方が傷つくのを黙ってみてる私の身になってよ!」

 

「……」

 

 逃がさないように強く握りしめられた手にやさしく手を添える薫。

 

「ごめん、今の俺は…こうすることでしか未来を描けないんだ」

 

 見てしまった。それが全て、血の感触、臭い。人が冷たくなっていく様を知ってしまったから。もう、ただの人では居られなくなってしまった。彼女と二人で何もない所に逃げられたらどれだけ良いのだろうか。

 

「ごめんなさい、わがままを言って…」

 

「気にするな…」

 

 ミレイも必死に引き留めたいと言う衝動を抑えて離れる。離れ際に触れるようなキスを送られる。

 

「私は待ってるわ…お願い。帰ってきて……」

 

「ありがとう…」

 

ーー

 

「こちら。特務五番隊!ランスロット、急速接近!」

 

「くそ、早すぎる!」

 

「足止めできねぇ!」

 

 無頼たちが必死に弾幕を張るがランスロットの足止めさえできない。怒り狂ったスザクを止められることなく部隊の半分を犠牲にする。

 

「五番隊より白蛇さま!申し訳ありません、突破されました」

 

「あそこにはライとカレンが居た筈だ。特務三番隊は援護に回れ!」

 

「承知!」

 

 ルルーシュも敵の爆撃機の迎撃で忙しい。全体の指揮を執っているのは白蛇であった。

 

「スザク!」

 

「まさか、カレンか!?」

 

「アンタとは戦いたくなかったけど。残念ね、ここで死んでもらう!」

 

「カレンであってもゼロの仲間なら許さない…ゼロはどこだぁ!」

 

「くっ!」

 

 学園地区近くの街で紅蓮とランスロットが出会い、戦闘が始まる。

 

「ライ、ランスロットはフロートユニットを装備している。油断するなよ」

 

「分かってる」

 

「藤堂さんは?」

 

「政庁を包囲しましたが敵の守りが固く。苦戦しています」

 

「あそこは要塞だからな…」

 

 やはりと言うべきか…。こちらも苦戦している、向こうは正規軍に対してこちらは素人ばかりの烏合の衆。ゼロがいなければなにもできないポンコツばかり。

 

「やはり、こちらが二手、三手遅れるか…」

 

「白蛇さま…」

 

「うん…」

 

 側に控えていたジェシカは薫に痛み止めを打つ。右目は完治している訳じゃない。いつ抑えてある血が出てくるか分からない状態だ。ルルーシュに必死に止められなければこんな後方で指揮を執るなんてことは絶対にしない。

 

「白蛇さま、ランスロットが現れました」

 

「ゲフィオン・ディスターバーの用意をしろ!」

 

ーー

 

「最期に言い残すことはないかい?」

 

「くっ!」

 

 紅蓮の右腕を失い、絶体絶命のピンチに陥っていたカレン。すると横合いから回転刃刀が飛来しランスロットのヴァリスを破壊する。

 

「なに?」

 

「え?」

 

「良かった。間に合った!」

 

「各機、放ててぇ!」

 

 物陰に潜んでいた無頼たちが一斉にランスロットに向けて放火を放つ。突然の一斉射にスザクも防御に回る、ライはその隙に紅蓮を回収するとその場を離れる。

 

「待て!」

 

「これ程の砲火。さすがにランスロットと言えどねぇ!」

 

 柏木の狙撃も攻撃に加わりるがランスロットに攻撃を当てられない。

 

「この化け物がぁ!」

 

 ランスロットの三つのハーケンが縦横無尽に暴れまわり特務三番隊を蹴散らす。

 

「三番隊って言っても白蛇さまの直援部隊だよ。それを一瞬で…」

 

 三番隊のメンバーは白蛇旗揚げ当初からいた古参メンバーで構成されている。ブリタニアの一般兵に比べても退けをとらないのに…。

 

「ゼロはどこだぁ!」

 

「うぉ!?」

 

 柏木のサザーランドの前に迫るランスロットだったが横からのハドロン砲が食い込み命を長らえる。

 

「ゼロ!」

 

「枢木スザク。君に対する執着が私の甘さだったようだ。断ち切るためにも一騎討ちにて決闘をおこないたいのだがどうだろう?」

 

「望むところだ!」

 

「ふぅ~」

 

 飛び去っていくガウェインとランスロットに柏木は息を吐きながらコックピットシートに深く座るのだった。

 

ーー

 

「俺は外で罠が破られた時のために備える。扇、お前に任せるぞ」

 

「あ、あぁ…分かった」

 

 ルルーシュがスザクを連れてくる。もしゲフィオンが外れれば彼が危険な状態に陥ってしまうための予備として白蛇は白夜叉へと向かう。

 

「副司令。不審者をとらえました」

 

「学生か?なら逃がしてやれ監禁する理由などないのたから…」

 

「いえ、裏門から校内に侵入したところを…」

 

「侵入?」

 

 薫とちょうど入れ替わりで一人の女が連れられてくる。それは薫が撃ち、扇が港で拾ったヴィレッタであった。

 

ーー

 

「会長、本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ。黒の騎士団は私たちに絶対に危害を加えないわ」

 

 ミレイの確信の表情に全員が押し黙る。彼女には信じるだけの理由も確信も確かに存在していたからだ。

 

「卑怯者!」

 

 その瞬間、響き渡る怒声。それはスザクのものであった。

 

「何が一対一か」

 

「仲間になる機会をことごとく奪ったのはお前だ」

 

「あれってテレビで出てたやつだろ!」

 

「会長、本当に大変ですよ!」

 

「落ち着いて!」

 

 ガウェインにハーケンを向けられているというのにミレイは冷静だった。

 

「大丈夫だから…」

 

ーー

 

(懐に入ってハーケンを…)

 

「ゼロぉ!」

 

「今だ!」

 

 スザクが急降下。機体を地面で走らせた瞬間に薫の言葉が響き渡る。それと同時にゲフィオン・ディスターバーが起動。ランスロットを機能不全に陥れる。

 

「これは!?」

 

「ふふ、これの対策をしている暇はなかったようね。ゼロ、手はず通りに…」

 

「あぁ、その機体は好きにしろ…」

 

「ゼロ!お前はまた人を騙して!裏切って!」

 

「ふん、偽善なる遊びに付き合っている暇はない。さらばだ、枢木スザク…」

 

「くそぉ!」

 

 二人のやり取りを静かに見ていた薫はランスロットを見つめる。

 

「スザク、お前があくまでもブリタニア軍に帰属するのならであった。俺はお前を殺す」

 

「白蛇!」

 

「クリミアか?それが?」

 

「そうよ、試作品だけどね」

 

 すると謎の板が空中から飛来してきた。それはクリミアが発案したSFSであった。

 

「上手くやっておるようだな」

 

「桐原公まで…」

 

「白蛇が心配だからって付いてきたのよ」

 

 クリミアと姿を現したのは桐原。彼もSFSに乗って来てしまったのだ。すると包帯の巻かれた顔を優しく撫でる。

 

「無事のようだが…痛ましいのぉ…」

 

「ご心配いただき、ありがとうございます」

 

 桐原の温情に感謝しながらも頭の中では常に戦況を確認している。

 

「では、俺も行きます」

 

「うむ」

 

「クリミア、ゲタを借りるぞ。ゼロの援護に向かう」

 

「わ、分かったわ。操作はガウェインと同じだから」

 

「分かった」

 

 一回とはいえ、薫もガウェインを操縦している。フロートユニットの扱いは素人ではない。桐原に頭を下げながらも白夜叉に乗り込み、ゲタに乗る。

 

「行くぞ!」

 

 フワリと浮かび上がったゲタはそのまま、空へと飛び立っていくのだった。

 

 その頃、クラブハウス内で扇が撃たれ意識不明の重体になったのはまだ彼女は知らなかった。

 

ーー

 

「どうしたゼロ!」

 

「くっ、スペックでは圧倒している筈なのに!」

 

 政庁の野外庭園にて交戦していたルルーシュとコーネリア。この戦いはコーネリアの圧勝であった。

 

「脆弱者がぁ!」

 

 ハドロン砲やフロートシステムと言った最新兵器を搭載しているガウェインだが。あくまで実験機、戦闘のために開発された機体ではないために動きは鈍重。

 対してグロースターはサザーランドなどを経て開発された実戦的なナイトメア。接近戦を想定し、素早い動きのグロースターをガウェインは捉えることが出来なかった。

 

「捕まえた!お前の命は今、まさに私の手の中にぃ!」

 

「コーネリア!」

 

 空に逃げようとするルルーシュだがハーケンを使って接近を許してしまう。ゼロ距離からの攻撃はいくら分厚い装甲を持ったガウェインでも耐えきれない。

 

「これが裁きだ!」

 

「させん…」

 

 止めと言わんばかりのコーネリアのグロースター。だがその背後から投擲された巨大な十字剣がコックピット付近に突き刺さる。

 

「なに…」

 

「一人で突っ込むからだ。馬鹿者が…」

 

「白蛇か、すまん!」

 

 無事にコーネリアを確保した二人。その頃、生徒会室では…。

 

「貴方は…誰?」

 

「ナナリー、君を迎えに来たんだ…」

 

 気を失って倒れる生徒会メンバー。その中で、謎の人物とナナリーだけが対峙していたのだった。

 

 



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ブラックリベリオン 後編

 

「そうか…ゼロの正体はお前だったか…」

 

 政庁の庭園にて残骸と成り果てたグロースター。そこから薫は十字剣を抜き取るとゲタに乗る。

 

「ブリタニア皇族に対する恨み…ダールトンの分析は当たっていたな…ナナリーのためにこんなことを」

 

「そうです。私は今の時代を破壊し、新しい世界を創る…」

 

「C.C俺は先に戻るぞ」

 

「あぁ…」

 

 あれは二人の空間だ。自分が立ち入っていい空間ではない。そう感じた薫は去る。

 

 

 しばらく、滞空の優位性を使って敵の部隊の牽制に努めていると南から通信が入る。

 

「南さんですか。どうしました?」

 

「扇が撃たれたんだ!今手当てしてるが意識がない。犯人もまだ」

 

「は?なんで司令部でそんな事が起きるんですか!?」

 

「扇の諜報員だった女が裏切って…」

 

 なんで所属不明の人物を入れたのか、意識が甘すぎるんだ。だからこんなことになる。

 

「扇さんをG-1に運んで。そこなら医療器具とスタッフが居るはずです。状況確認と報告を南さんが引き継いでください、俺もすぐに

戻ります!」

 

「分かった。ありがとう、ゼロは扇を捨て駒にしたのに…」

 

「え?」

 

 最後の言葉が聞き取れなかったが向こうは満足したようになので通信を切る。 

 

「薫!」

 

「今度はなんだ!」

 

「ナナリーを確認してくれ!今すぐにだ!」

 

「分かったよ。待ってろ!」

 

 次から次へと…。こっちだって暇ではないことを分かっているのか。渋々、クラブハウスを窓から覗くとそこには倒れている生徒会メンバーたちが。

 

「ミレイ!」

 

 窓を破壊して中に入るとミレイを抱き上げる。気を失っているだけのようだ。

 

「薫…」

 

「何があった?」

 

「分からないわ。気がついたら…」

 

「ナナリーは?」

 

「え?」

 

「くそっ!」

 

 ナナリーが拐われた。ルルーシュの連絡は虫の知らせだったか。

 

「ルルーシュ、ナナリーが居ない。拐われた!」

 

「くっ、やはりそうか。俺は今から神根島に向かう。あとは任せた!」

 

「え、おい!ルルーシュ!」

 

 連絡を一方的に切られたと思ったら今度は繋がらなくなった。今、物凄いことを言われた気がするんだが…。

 

「こんばんわぁ~」

 

 それを考える暇なく。学園の上空にアヴァロンが現れフロート装備のサザーランドが襲いかかる。

 

「この声って。ロイド伯爵?」

 

「ミレイ、お前はアイツに助けてもらえ!俺もやることが出来た!」

 

「…分かった。生徒たちを避難させるわ」

 

「頼む!」

 

 ミレイがシャーリーたちを起こしている間に白夜叉に乗り込む。これからが本当の地獄であった。

 

ーー

 

「敵襲!総員、騎乗せよ!」

 

 アヴァロンの来襲に侍女隊の無頼改たちが起動する。

 

「ジェシカ、どうしますか?」

 

「伊丹さんに連絡を…」

 

「ランスロットが動き出しました!」

 

 状況が一気に悪化した。一部ではゼロと連絡が取れないと言う連絡も受けている。

 

「ツァーリ」

 

「はい」

 

「もしものために脱出の準備を…プールしておいた資金を使っても構いません」

 

「分かりました」

 

 ジェシカの本能に任せた指示。これが逆転の一手となるのはもう少し後の話。

 

「状況は?」

 

「サザーランドはフロートユニットを装備していますが。敵は一機、それに加え空中艦も生徒の救出で動けない模様です」

 

「学園地区を放棄する。残留部隊はG-1へ」

 

「白蛇さま。みんな、ゼロからの通信が途絶えたって混乱してるぜ」

 

「やっぱり…」

 

 ルルーシュの言葉。もしかしたらと思っていたけど本当に居なくなるなんて。

 

「こちら伊丹です。白蛇さま、どうされますか?」

 

「全特務隊を学園地区に集結させろ。我らはこれより撤退準備に入る!」

 

 南から送られてくる戦況図を見ればすぐ分かる。完全に前線が崩壊している。象徴であるゼロが居なくなったことで指揮系統に乱れが起きている証拠だ。

 

「練度不足を士気の高さで補ってきたがそれも終わりだ…」

 

「賛成です。ここまで来れば次に備えて少しでも戦力を確保しましょう」

 

「動けるナイトメア隊で殿を行う。藤堂さんにも伝えろ!」

 

ーー

 

「なんでゼロと連絡が取れないんだ!扇は撃たれてるんだよ!」

 

「知らないって!」

 

 玉城を先頭に黒の騎士団の幹部も混乱している中。統制が取れているのは白蛇を中心とする特務隊だけだった。

 

「特務隊、全隊集結しました」

 

「あぁ、ありがとうジェシカ」

 

 特務隊は全隊合わせて六番隊まで存在する。黒の騎士団の潤沢な資金もあって無頼やサザーランド合わせて、計30機近くあったのだが現在は20ほどになってしまった。ちなみにジェシカたちの侍女隊は少し別枠で配置されている。

 

「こちらの混乱を突いて、ブリタニア軍は攻めてくるだろう。我々は一人でも多くの同士を逃がして将来化けさせるのだ!」

 

「化ける…ですか?」

 

「希望を繋げば願いは化ける!各員、俺に命をくれ…」

 

 無線越しに流れる薫の声に誰一人とて反論や不満はなかった。彼女ならそうしてくれるだろうと誰もが思っていたからだ。

 

 こうしてブラックリベリオンの決死の撤退戦が幕を開ける。

 

ーー

 

「学園地区は膠着状態。前線は藤堂が持ちこたえているが時間の問題か…」

 

「ツァーリが千葉のタンカーを押さえたようです。混乱に乗じて我々で買い取りました」

 

「なら、一度。バラけて千葉の港で合流するしかないな」

 

「はい、損害の大きな三番隊を先行させました」

 

 後方の戦線を特務隊が持ちこたえたお陰で撤退もかなりスムーズに進んでいる。ライや伊丹たちが必死にささえてくれているが長くは持たない。

 

「間もなく夜明けです。ブリタニアの太平洋沖艦隊が到着するまでに逃げなければ…」

 

「分かっている。いつでも出せるようにツァーリには言っておけ」

 

「はい」

 

「さて、ブリタニアもそろそろ詰めてくるだろうな」

 

 白夜叉を先頭に侍女隊の無頼改たちが戦線に突入するのだった。

 

ーー

 

「全軍突撃!反乱軍を一挙に粉砕する!」

 

「死守しろ!なんとしても、ここを崩されれば完全に我が軍は崩壊する!」

 

 藤堂の維持していた戦線もズタボロに破壊され親衛隊たちが薫の元に殺到する。

 

「行くか…」

 

「お供します…」

 

「最後までいさせてください」

 

 白蛇を含む16機のナイトメアがブリタニアの大群を相手に牙を向くのだった。

 

 



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決死の撤退戦


これにて一期は終了です



「父上、やはり危険なのでは?」

 

「構わん。この程度の傷、処置をすればなんともないわ」

 

 戦線に復帰したダールトンはグラストンナイツを率いて黒の騎士団の追撃戦に復帰していた。応戦してくる無頼を蹴散らし進撃しているとバートから報告が上がる。

 

「先見隊が全滅?父上、前方になにかが!」

 

「む?」

 

 先行していたサザーランド5機が一瞬で潰滅させられた。爆炎から姿を見せたのはあの白い機体。

 

「白蛇か!」

 

 ナリタにて矛を交わした敵。その恐ろしさはダールトンが一番分かっていた。

 

「流石だな。撤退路の要所を押さえているとはな…」

 

ーー

 

「白蛇さま…親衛隊です。ザッテルブァッフェ装備のグロースターの姿も見えます」

 

「特務隊が完全に撤退完了するまで30分。ついに来たか…」

 

「……」

 

 ジェシカや伊丹たちも戦闘体勢に移行する。

 

「ライくんが居ればな」

 

「仕方ないさ黒の騎士団を見捨てるわけにもいかない」

 

 ライは四聖剣と合流。黒の騎士団の撤退支援を行っている。それがこちらが黒の騎士団に対してできる最大の支援であった。

 

「全機、敵を殲滅せよ!」

 

「承知!」

 

 薫を先頭に親衛隊に切り込みを入れる白蛇隊。薫の十字剣がダールトンのランスと激しくぶつかり火花を上げる。

 

「父上!」

 

「アルフレッド、右だ!」

 

「っ!?」

 

 アルフレッドの側面に接近した伊丹は回転刃刀を振るうがランスで防がれる。

 

「まず!」

 

 するとすぐさま退く。すると先程、伊丹がいた場所にミサイルが撃ち込まれる。

 

「このやろう!」

 

 距離が開くと同時に銃を乱射。牽制しつつ再び、切り込みをかける。

 

「気を付けろ、こいつらは手練れだ!」

 

「こいつは、ナリタのグロースターか!」

 

 薫はダールトンをパワーで押し倒すと右腕の速射砲で近くにいたサザーランドを蜂の巣にする。

 

「左は見えるんだよ!」

 

 左腕のチェーンソーを展開。白兵戦を仕掛けてきたサザーランドのコックピットを串刺しにする。倒れたダールトンが振るってきたランスの盾にするとチェーンソーを抜いてサザーランドごと剣で斬る。

 

「白蛇かなんだろうが!」

 

「くっ!」

 

 右側から突撃してきたエドガー。右目を失った薫の反応が遅れてしまい分厚い肩アーマーを破壊される。物凄い衝撃が襲いかかり、薫の右眼から血が溢れてくる。

 

「うらぁ!」

 

「ぐぅ!」

 

 だが薫も黙ってはいない。そのままエドガーに膝蹴りをお見舞いすると爆発反応装甲を点火。蹴りと爆発の衝撃にグロースターが耐えられずにビルにぶつかりのめりこむ。

 

「エドガー!」

 

「おのれ!」

 

 エドガーが倒されたことに怒る、デヴィットとクラウディオ。

 

「行かせません!」

 

「白蛇さまの右を守れ!」

 

 ジェシカがデヴィットを押さえバレットがクラウディオのミサイルランチャーを破壊する。他の皆も次々と増援に来るサザーランドたちを抑えるのに手一杯。白蛇への援護は望み薄だった。

 

「そうか、右が見えていないのだな!」

 

 だがダールトンはあの一撃だけで悟る。奴は右が見えていないと、理由などどうでもいい。それが分かれば十分だ。

 

「ダールトン将軍!」

 

「ギルフォード卿。白蛇の弱点は右だ!」

 

 そこに駆けつけてきたのはギルフォード。彼は藤堂を捕縛した後にさらに親衛隊を引き連れて来ていたのだ。

 

「分かりました」

 

 薫の右から親衛隊たちの援護射撃。十字剣を盾に使って凌ぐが彼女は身動きが取れなくなってしまった。

 

「このままだと!」

 

「貰った!」

 

「まだだ!」

 

 ダールトンのランスが白夜叉のコックピットに突き進む。だがそこにも爆発反応装甲がある。それでランスを弾くと剣を手放してダールトンのグロースターを掴む。

 

「くっ!」

 

「くらえぇ!」

 

 薫のチェーンソーがグロースターに突き刺さり駆動系に甚大な損傷を与える。そのせいでグロースターは機能不全を起こして倒れる。

 

「父上ぇ!」

 

「白蛇さま、後ろです!」

 

 デヴィットがダールトンの危機を助けるために薫に迫る。彼女は折れてしまったチェーンソーを放棄。ピッケルを取り出すとデヴィットのランスを剥ぎ取る。

 

「なんだと!?」

 

 得物を失ったがまだミサイルランチャーが残っている。ほぼゼロ距離で放たれたミサイルだったがこれも多重装甲のシールドで防がれ、シールドバッシュで地面に叩きつけられた。

 

「舐めるな!」

 

「くっ!」

 

 その瞬間、ギルフォードがランス投擲。彼女の右側を狙った最高のタイミングであった。またしても反応が遅れ、白夜叉の体勢が不安定。これは避けられなかった。

 

「直撃コースか!?」

 

 腰に吊るしていたMVSを抜くが間に合いそうにない。明確に死を覚悟した時。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 その間に白号が割り込むとランスが突き刺さる。

 

「伊丹!」

 

「伊丹さん!」

 

「は…白蛇さ…ま……」

 

 白号はすぐさま爆散し伊丹の死体ごと吹き飛ばす。

 

「伊丹いぃぃぃぃ!」

 

 長年、連れ添ってきた伊丹の死に絶叫するがそんな暇は戦場では許してくれない。ギルフォードはすぐさま、間合いを詰めるとMVSで斬りかかってくる。

 

「覚悟!」

 

「お前がぁ!」

 

「白蛇、撤退完了よ!すぐに退いて!」

 

 怒り心頭の薫の元にクリミアから通信が入る。だが退くと言ってもこのままでは船まで追撃されてしまう。チャフスモークを撒いてもすぐに補足される。

 

「太平洋艦隊が到着したら船での脱出は不可能よ!今すぐ撤退して!」

 

「くっ、全機。撤退だ!チャフスモークを撒きつつ後退しろ、俺が殿を勤める!」

 

「なりません、白蛇さまは我々の希望。ここで散るべきではありません!我々、侍女隊が殿を勤めます」

 

「いえ、我々が行います。侍女隊と白蛇さまは退いてください!」

 

 その言葉を放ったのは伊丹の部下である伊坂。伊丹の部隊である一番隊たちは同意の意を示しす。薫と侍女隊を除いてしまえば一番隊はサザーランドが1機と無頼が4機だけ。押し寄せるブリタニア軍に対しては無力とも言える戦力である。

 

「だが…お前たちは……」

 

「俺たちがいても、戦力になるのがせいぜい。白蛇さまたちが生き残ればまだ未来は明るいですよ!」

 

「早く行ってください!」

 

「これほど、名誉なことがありましょうか!」

 

「こんな、俺たちにみたいなレジスタンスがなぁ!」

 

 一番隊のみんなは笑っていた。これからの運命なんてどうってことないと言っているように。

 

「白蛇さま、御武運を。我々はここで死ねることを誇りに思います!」

 

「……」

 

 薫は静かに涙を飲む。ここで泣けば、彼らの覚悟を無駄にしてしまう気がしたからだ。

 

「お前たちの覚悟。決して無駄にしない!」

 

 その言葉だけで彼らには充分であった。全員、その場でチャフスモークを展開。薫たちは全力で撤退を開始する。

 

「伊丹隊長の誇り!あらためてブリタニアに見せつけろ!総員、突撃いぃぃぃぃ!」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」

 

「逃げる気か、逃がすな!」

 

 迫り来るギルフォードたちに一番隊が決死の突撃を敢行する。彼らは薫がトウキョウから脱出するまで最後までその命を輝かせたのだった。

 

 




1.5期はしばらく休憩して開始します。

皆様には大変申し訳ありませんがしばらく期間が空くことをご了承ください。






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空白の一年編

次の予告的な奴です




「これだけか…」

 

「はい、我々が回収できたのはこれだけです」

 

 無事に千葉の埠頭から空のタンカーを買い取り、脱出した薫たちは船内にて一息ついていた仲間たちを見る。その中にライやカレンの姿はなく気落ちする。

 

「ツァーリが元々、ヨーロッパ行きのタンカーを買い取りましたので予定航路を辿っています。臨検されることはないでしょう」

 

「よくやってくれた」

 

「向こうの言い値で買ったのでプールしておいた資金の5分の1を使ってしまいました。申し訳ありません」

 

「気にするな、これだけの人数を逃がせたんだ。むしろ幸運と言えるだろう」

 

 回収されたナイトメアは合計10機とかなりの数だ。しかしほとんどの機体は損傷し、白夜叉に至っては中破状態だ。

 

「医療機器や薬品などは可能な限り回収かいたしましたが。残念ながら武装などは満足にありません。まともに戦闘が出来るのは一度でしょう」

 

「あの状況でこれだけの手際。流石は白蛇の部下たちだ」

 

「桐原公…」

 

 タンカーには桐原も乗り込んでおり、命を長らえていた。キョウトとは連絡が取れないのを見るとキョウトは陥落したと見ていいだろう。

 

「ジェシカ、これからの予定だけどよ。パナマを通って約1ヶ月ってところか」

 

「ご苦労、バレット。しかしユーロピアがこちらを受け入れてくれるのか?」

 

「それは私たちに任せなさい」

 

 自信満々に言ったのはクリミア。そういえば、彼女はスマイラス将軍直下の開発部隊所属だったはずだ。

 

「交渉ごとはワシに任せろ。せっかく拾った命だ」

 

 それと桐原公、二人が居れば問題ないだろう。それにすぐ着くわけでもない。

 

「ま、俺は安静だからゆっくりさせてもらうか」

 

ーー

 

「おぇ…」

 

 ナイトオブラウンズに用の施設、その洗面所でシュンは胃の内容物を吐き散らかしていた。

 

「……分かっていたんだ。でもどうしようもないじゃないか」

 

 あの惨劇を知ってもなにもしないと言う選択を選んだ少年。シュン・ヴィヨネット否、剣崎駿は鏡に映る自分を睨み付ける。

 

「誰も止められなかったんだ…仕方のない事だった……」

 

 ユーフェミアの行政特区日本構想の失敗。それは彼には分かっていた。佐脇薫と同じ転生者である駿には。だがどうやって止める?

 

 ジェレミアのようなギアスキャンセラーを望むのは博打すぎる。ギアスはその人の真の欲望を形にする力。仮に与えて貰ったとしてもどんな力が発現するか分からない。

 

 ギアスはギアスでしか止められない、それが彼の結論だった。その原因であるゼロを殺すのも論外だ。彼がいなくなれば合衆国日本は成立しない。

 

「無力なんだよな…」

 

 一介のブリタニア人として生まれた彼には必死に成り上がることしか出来なかったのだ。ナイトオブラウンズという特権を手にしても彼には何も出来なかったのである。

 

「シュン、大丈夫なの?」

 

「問題ない、メンタルの問題だ…何用だ?」

 

 姿を表したのは金髪の美しい女性、モニカ。

 

「皇帝陛下からの視察命よ。私と二人で」

 

「どこ?」

 

「ユーロブリタニア…」

 

 ユーロブリタニア。皇族の管理下にない上にナイトオブラウンズと同格の実力を誇る四大騎士団に加え、単純な軍事力の面でも本国に匹敵している。あそこはブリタニアというくくりなのだが向こうはそれをよしと思っていない。つまりブリタニアが最も警戒している国と言える。

 

「ユーロの貴族たちに俺たちと戦争する度胸はないと思うがな」

 

「それを知るために行くんでしょ?」

 

「分かった。いつだ?」

 

「二ヶ月後よ」

 

「分かったよ」

 

ーー

 

 日本某所。そこには逃げ遅れた黒の騎士団メンバーたちが命からがら逃げ出し、潜んでいた。

 

「紅蓮の右腕は月下の輻射波動を移すとして…いいのかライ?」

 

「えぇ、僕は刀だけでもやれますけど。流石に紅蓮に輻射波動なしは…」

 

「そうだな…後はアイツが立ち直れば…」

 

「そうですね」

 

 日本潜伏班の指揮を執っているのは卜部とライ。本当はカレンも加わる予定なのだが。彼女はゼロを捜索した後、すっかり塞ぎ込んでしまいろくに話も聞けない状況であった。

 

「ゼロ……ルルー……」

 

ーー

 

 ブラックリベリオンから数日後。ユーロピア連合、EU軍の将軍。スマイラスは一人の少女を呼び出していた。

 

「お呼びでしょうか。スマイラス将軍」

 

「わざわざ来てもらってすまないね。レイラ、実は一つ頼みたいことがあってね」

 

「はい?」

 

ーーーー

 

 

 これはゼロを失った激動の一年間を見つめる物語。

 

「ほう、赤い月下とマスクをしたランスロットとはな…」

 

「白いナイトメア…」

 

「………」

 

 亡国のアキト、双璧のオズ。二つの物語に蛇が姿を表す。

 

「では契約といこう、我々はこれで共犯関係」

 

「契約を果たせば…貴様の望むものを与えよう」

 

「結ぼう、その契約を!」

 

 



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亡国のアキト&双貌のオズ編
間幕 序



みなさん、平成最後投稿をされてたので急いで書き上げました。
本格的な投稿はまだ先になります。申し訳ありません。




「吉報です。極東事変にて行方不明となっていたナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下が生きておられました。」

 

 タンカーに設置されたテレビを見つめながらお手玉をしていた薫は嫌な顔をする。これでナナリーは正式にブリタニア側へと渡ってしまったと言うことだ。

 

「キョウトが人質としていたようですが先日のブラックリベリオン失敗によるグループ壊滅に伴い、シュタットフェルト家の協力を得たカラレス公爵が皇女殿下を救出したとのことです」

 

「お疲れ様です」

 

「あぁ、遠近感は大方掴めたがやはり片目はダメだな…」

 

 お手玉を使ってリハビリをしていた薫はジェシカのいれた紅茶を飲む。元々タンカーに積まれていたものでブリタニア産だが美味しい。

 

「ナナリーは捕まえられず。ゼロはスザクに捕まったか…」

 

「その功績を認められ、枢木スザクはナイトオブラウンズに任命されるとの報道も上がっていますね」

 

 行政特区で保護した赤子は薫の背中でおやすみ中だ。彼女の背中が気に入ったらしくよく寝ている。薫も拾った手前、ほっとけずにずっと背中に乗せているのだ。

 

「ナンバーズの英雄。これで、あいつは本当にブリタニア恭順派の象徴になったわけだ」

 

「英雄を売って出世した英雄ですか」

 

 それに加えてスザクは日本人を虐殺したユーフェミアの騎士でもあった。日本人は心底スザクが憎いだろう。

 

「そうだな、これまで以上にスザクは羨望と憎しみを自身に集めて生きていくんだろうよ」

 

 悲しい生き方だ。彼はずっと後悔を背負って行くのだろう。彼の帰るべき場所を俺たちは奪ってしまったから。

 

「ミレイ……」

 

 ふと思い出す明るい笑顔。ただひたすらにその笑顔に癒されたかった。

 

ーー

 

 帝都ペンドラゴン。ナイトオブラウンズが一同に会するその場の扉を開いた人間がいた。ナンバーズの英雄《枢木スザク》ラウンズは彼を値踏みするように静かに見つめる中。ブラッドリーの投げつけたナイフに向けて飛翔する。

 

「あぁ、やっぱり君が新しいナイトオブラウンズか」

 

「はい、この度ナイトオブセブンを拝命いたしました枢木スザクです。よろしくお願いします」

 

 何事もないようにナイフを受け取ったスザクはナイトオブラウンズの集まる席にゆっくりと足を運ぶ。

 

「ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーだ。シュナイゼル殿下の特別派遣嚮導技術部に居たそうだが、そのコネを使ったのか?それとも虐殺皇女ユーフェミアの…」

 

 ブラッドリーの相変わらずの減らず口にジノが立ち上がり制止させる。

 

「ブラッドリー卿。言葉には気を付けてください、ナイトオブスリー。ジノ・ヴァインベルグ、よろしく」

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

「久しぶりだね。スザクくん」

 

「お久しぶりです。ヴィヨネット卿」

 

 ジノによって和らいだ空気。それに便乗してシュンも話しかける。彼も気さくな雰囲気を出しながらスザクを見つめる。

 

「君ならナイトオブラウンズになれると思ってたよ」

 

「それほどの実力なの?」

 

「俺並みかそれ以上かな、俺なら正面からは殺りあいたくない」

 

 彼の隣に座っていたモニカもその言葉でスザクの見る目を変える。

 

「それは頼もしい。まぁ、エリア11ではコーネリア殿下も認めていたんだろう。やっとマンフレディの穴が埋まったな」

 

 軽快に笑うアネット。マンフレディもいれば一緒に笑っていただろう。

 

「まぁ、そう言うことだ。あんまり虐めるなよブラッドリー卿」

 

「随分と偉くなったもんだな狂犬。私が人殺しの天才だと忘れたか?」

 

「正面から捩じ伏せてやるよ」

 

「面白い…」

 

 敵意剥き出しの二人に戸惑うスザク。そらを見てジノは笑みを浮かべながら歩み寄る。

 

「まぁ、気にするな。いつもの事だからさ」

 

「そうですか…」

 

「固いな、もっと柔らかくていいんだよ!」

 

「ありがとう…」

 

ーーーー

 

「そう、薫は海外に…」

 

「うん、ユーロピア方面に脱出するって連絡があってそのまんま…」

 

 ライたち残留組はなんとか逃げ出し現在は白蛇グループの本部に身を寄せていた。このウラヤスゲットーの本部ならナイトメアの整備に必要な物資、施設が残っている。

 さらにツァーリの情報操作により疑惑にも上がっていないだろう。そこを終結地点にして様々なルートで残党が集まってきていた。

 

「ここは安全と言ってもこれだけ派手に動いてはいずれ察知されてしまうぞ」

 

「そうですね。卜部さんの言う通り、この場所を過信するのは良くない」

 

 なんとか気を持ち直したカレン。それとライ、卜部が残党軍の実質的な指揮官になる。正直なところライも薫が居なくて不安であったがこの状況を打破しなければならない。

 

「この施設のおかげで一応、紅蓮は戦えるようになったけど」

 

「ラクシャータが中華連邦に逃げちゃったからね。仕方ないよ」

 

 現在の紅蓮はライの月下から移植された輻射波動を装備しているがライは代わりにサザラーランドの右腕をつけられ不安定な常態だ。

 

「とにかく、我々の目的はC.Cの捜索だ。戦闘区域から退避しているはずだしゼロと近しい関係だった。ゼロの奪還はそれからだな」

 

「そうですね」

 

 卜部の言葉にライも賛成する。とにかく行動せねばこの組織は潰れてしまう。

 

(薫に連絡を取るのはもう少し後だね)

 

 薫との連絡手段は持っているがほとぼりが冷めてからだろう。ライはそう思って通信機を懐にしまうのだった。

 

ーー

 

「薫…」

 

 ブリタニア軍に保護されたミレイたちは事情聴取の為に本国に送られることとなった。

 

「無事よね…」

 

 あの戦いから彼女は姿を消してしまい会えなくなったのが寂しかった。

 

 最愛の彼女が傷ついて行くのをただ見つめることしか出来ないミレイの心中は察するに余りある。だが約束したのだ、待ち続けると…薫が羽を休める場所になると。

 

(例え何年たっても貴方を待ち続けるから)

 

 

 

 



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ユーロピア入国


少し余裕が出来たので投稿。


 最後の方に皆様に対してのアンケートみたいなものもありますのでよろしくお願いいたします!




 

 ブラックリベリオンから二ヶ月が過ぎた頃。白蛇が乗ってきたタンカーがユーロピア軍の秘密軍港に停泊した。休憩を挟んだとはいえ、彼女たちが地面に足を着けたのは半月ぶりであった。

 

「ようやく、ユーロピアか」

 

「なかなか、骨の折れる旅でしたね」

 

 右目の傷はすっかりと塞がっているが見苦しいためにバイザーを装着している。仮面は砕けてしまい半分しかない、まだバイザーの方が顔を隠せる。

 

「白蛇隊の皆様ですね。スマイラス将軍より聞いております。どうぞこちらへ」

 

「あぁ、じゃあ。ジェシカ、頼む」

 

「分かりました」

 

 薫とクリミア、桐原はスマイラス将軍に挨拶に向かうのに対してジェシカたちは向こうが指定した基地に向かって移動することになっていた。

 積み荷を満載にした無頼やサザーランドたちが指定された場所まで移動を開始する。ジェシカは白夜叉に乗り込み目的地まで移動を開始するのだった。

 

「めんどくさいな…」

 

「仕方あるまい。こちらは向かいいれて貰っておる身。誠意は見せんとな」

 

「桐原さんの交渉のおかげですよ。お陰で、ナイトメアの修理だけじゃなく新型の製造も出来ます」

 

 リムジンに乗り込んだ三人は数人の侍女隊メンバーを引き連れてユーロピア軍の本部に向かう。

 

「白蛇、私は貴方に最高の機体を渡したつもりだったわ」

 

「白夜叉はいい機体だ。それは俺が保証するが?」

 

「いや、私はまだ最高に至らない事を日本で思い知らされたわ」

 

 MVS、ヴァリス、ブレイズルミナス、輻射波動それとフロートシステム。あんなものを見せつけられて黙っていられるほどプライドを捨ててはいなかった。

 

「私は天才を踏み台にして作り出して見せる!究極のナイトメアを!」

 

 彼女は技術革新を行えるほどの天才ではない、だが彼女も科学者だ。天才たちの知識を使って越えて見せる、天才たちを。

 

ーー

 

 そして薫たちがユーロピア軍の本部についた頃。ジェシカたちも指定されたポイント、古城に到着していた。

 ヴァイスボルフ城。それがジェシカたちが逃げ込んだ基地の名前であった。

 

「これが基地ですか…」

 

 外見は完全に古城。だが所々に手を加えられたような痕跡もあり最新設備も見える。ただの城ではなさそうだが…。

 

「あれが通知にあった白蛇隊ってやつかぁ」

 

 副司令官であるクラウスは眼下に映る敗走兵たちを見ながら酒を呷る。

 

「厄介なものを押し付けられたわね…」 

 

「どうすればいいんだろう…」

 

 ソフィがため息をつく他所でジョンはわずかに怯える。

 

「なんてひどい状態のナイトメアなの…」

 

 その中でクレマンはボロボロのナイトメアを見て悲しむ。彼女もつい先日。自身の手掛けたナイトメアを大量に失っていたためについ同情してしまったのだろう。

 

 ヴァイスボルフ城の人々が見守る中、ジェシカたちは取りあえずの目的地に到着し、一息つくのだった。

 

ーーーー

 

「こちらの先です」

 

「ご苦労…」

 

 スマイラスの執務室に案内された薫たちは先にある部屋に向かうと反対の方向から二人組の男女が姿を現す。金髪の美しい少女と青髪のクールな少年。

 

(日本人か?)

 

 一瞬だけ目が合ったので微笑んでおく。すると少年は少女を庇うように前に出た。

 

(まぁ、こっちは不審者だしな…)

 

 警戒するのは当たり前だと思った薫はそのままスマイラスの執務室にお邪魔することにした。

 

ーー

 

「どうしたのですか日向中尉?」

 

「いえ……」

 

 バイザーに黒スーツと明らかに怪しい人物。彼女と目が合った瞬間。彼、日向アキトはとてつもない悪寒に晒されたのだ。獲物を睨む蛇のような視線。

 ユーロピア軍の関係者はあり得ない彼女は人を殺し慣れている人間の目だった。

 

「この後の予定ですが。ナルヴァ撤退戦の成功記念パーティーがテュイルリー宮殿にて行われます」

 

「成功記念パーティーですか…」

 

「司令?」

 

「いえ、ありがとうございます。日向中尉、それでは行きましょうか」

 

「はい」

 

ーー

 

「目を見せられぬご無礼をお許しを人目には曝せぬ顔ですので…」

 

「うむ、まさかあの黒の騎士団のナンバー2が女性であったとはな。世の中、才覚のある者は世に出るべきして出るのだな」

 

 スマイラスとの挨拶や今後の事を話し合う。ユーロピアにいる間は《wZERO》部隊のヴァイスボルフ城を貸し与える。と言うものだった。

 

「しかし君たちの分の物資は流石に私の一存では決められないな…」

 

「そうでしょうね…貴方はあくまで一介の軍人でしかない」

 

 交渉はクリミアと桐原が主に進めていたが突然。薫が言葉を放つ。髭面の将校、こういうタイプは腹に黒いものを敷き詰めているものだ。

 

「貴方は随分と若い将校たちに気に入られているようだ」

 

「そうだな、私としても嬉しい限りだよ」

 

「ユーロピア内部だけでは動き辛いのでは?」

 

「……」

 

 うん、鎌かけに引っ掛かった。こいつはユーロピア革命を目論む鷹派ってやつだな。マッキーですね、分かります。座っていた椅子から立ち上がりスマイラスの近くに歩み寄る。こう言うのは雰囲気よ!(たぶん)

 

「ブリタニアと貴方の思い通りに動くか分からない。ユーロ・ブリタニアは本国と折り合いが悪い。少しでも隙を見せれば接収されてしまう」

 

 タンカーの船旅は死ぬ程暇であった。なので寄港する度に新聞やゴシップ雑誌を買って読み潰していたのでユーロピアやブリタニアの状況はしっかりと頭の中だ。

 

「だが貴方には今の態度次第で保険を得られる。我々というイレギュラーは使いやすいと思いますが?」

 

「うむ…」

 

 スマイラスにはバイザーの女性。白蛇に心臓を捕まれているような錯覚に陥る。ユーロピアに来たのは今日の筈、だが彼女は自身の企みまで全て知っている。彼はすでに彼女に絡めとられてしまっていた。

 

「我々の目的は日本への帰還。ユーロピア政権なんてどうでもいい。良い話なのでは?」

 

「分かった。最大の援助を取り付けよう」

 

「契約、成立ですね」

 

「あぁ…」

 

 全ての確認事項を終えると世話になるWzero部隊の話になる。

 

「あぁ、先程の女性が司令官でしたか」

 

「あぁ、レイラ・マルカルという。彼女はイレブンと下に見ることはない。うまくやってくれ」

 

「分かりました」

 

ーーーー

 

「レイラ・マルカルねぇ…」

 

「白蛇さま?」

 

 先程すれ違った金髪の女性、文句なしの美人だった。ミレイが居なければ完全に惚れていた見た目だ。性格は分からないが少しどじっ子な感じならなお良いんだが。

 

(まぁ、そんな完璧な子いないよなぁ…)

 

「いや、個人的な打算だよ」

 

「はぁ、悪巧みもほどほどになさってくださいね」

 

「あぁ、肝に命じておこう」

 

 





侍従隊募集のお知らせ

 ジェシカを隊長とする侍従隊の実働部隊約9名のキャラを募集します。

 是非登場させたいという皆さんのオリキャラを登場させる容姿、性格、年齢、過去などみなさんのお好きな設定をお送りください。 
 アンケートに投稿されたキャラたちは出来るだけ採用しますが応募が上限を越えるとこちらで勝手に選定しますのでよろしくお願いします。

 貴方の考えたキャラが活躍するかも!?ぜひご応募ください!

 応募は活動報告、または砂岩に直接メッセージをお送りください!


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それぞれの思惑



とりあえず、一段落~






「改めまして、このヴァイスボルフ基地の司令官であるレイラ・マルカル中佐です」

 

「黒の騎士団の作戦参謀の白蛇だ」

 

 ヴァイスボルフ城の司令室。その半分に分けて配置された各組織の代表者たちは正式に顔合わせを行う。

 

    白蛇隊     ユーロピア軍 wZERO部隊

 

 指揮官

 

 白蛇(薫)    レイラ・マルカル

 

 指揮官補佐

 

 ジェシカ・フレヤンス  クラウス・ウォリック

 

 開発主任

 

 クリミア・ディンセンフォール  ソフィ・ランドル

                 アンナ・クレマン

 

 警備隊長

 

 バレット・F・イケザキ  オスカー・ハメル

 

 実働部隊長(臨時)

 

 柏木遥       日向アキト

 

 

 責任者が一同に会するその場は緊張が流れていた。

 

「スマイラス将軍からは最大の援助をと受けたまっております。詳細はこちらに」

 

「ありがとうございます。我々はあくまでもゲスト。そちらのやり方に従います。苦情などはいつでも」

 

「分かりました」

 

 詳細については資料を受けとる。薫の格好は黒スーツにバイザーといつもの格好ではない。あの服も血まみれで使い物にならなくなってしまったのだ。

 

「久しぶりね。ランドル…」

 

「本当に貴方とはね、クリミア」

 

 ソフィ・ランドルとクリミアは昔からの旧友。二人は脳科学と兵器部門で別れてしまったが今だに交友のある関係であった。

 

「本当にこんなにドックを貸してくれるの?」

 

「前回の作戦で部隊は一機を残して全滅。むしろ余ってたのよ」

 

「なら、遠慮なく。次の決起のためにナイトメアを開発したかったしね」

 

 ヴァイスボルフ城に運び込まれた10機のナイトメアは控えめに言っても使い物になるか怪しいところ。ひとまずはオーバーホールして直さないといけない。

 

 白夜叉や無頼改5機、サザーランド2機、無頼2機が現在の白蛇の戦力であった。

 

「部屋なども前作戦で戦死した兵たちの部屋があるのである程度は収容できると思いますよ」

 

「流石に全員は厳しいですが…」

 

「白蛇さま、我々は野営の準備を…」

 

「すまないな」

 

「いえ、白蛇さまはゆっくりなされてください」

 

 ナイトメアは10機ほどだったが人数はその比にもならない。避難した白蛇の特務隊だけでも約500ほどそれに加えて黒の騎士団や他のテロ組織メンバーたちで合計約1000人ほどの人間が避難している状況だった。その中には日本では生きられないと判断して付いてきた一般人もいたのだ。

 

「完全に避難民だな」

 

「仕方ありません。あれほどの状況だったのです命があるだけよろしいかと」

 

 船旅が倍に延びたのもこれが原因だった。避難民の医療品、食料不足にストレスの増加。定期的にガス抜きをしなければ人員は半分ほど減っていただろう。

 

 その避難民たちはヴァイスボルフ城の城壁の外には巨大な避難キャンプが設立、そこでの暮らしを始めようとしていた。

 

「白蛇、その眼の事で相談があるんだけど」

 

「ん?」

 

 ジェシカと避難民の話をしているとクリミアとソフィが二人でこちらにやって来る。

 

「ソフィ・ランドルです」

 

「彼女はユーロピアにおける脳科学の権威でね。彼女に義眼を造って貰えるように交渉したのよ」

 

「あの血の行政特区事件で負傷したのは聞いています。あの中継は私も見ていたので…」

 

「そうですか」

 

 あの中継は世界中に中継されていた。あの一件でブリタニアの国際的な信頼は地に落ちただろう。

 

「彼女はその知識でブレインレイドシステムの研究をしてるのよ」

 

「ブレインレイドシステム?」

 

 ブレインレイドシステム。ニューロデバイスという端末をパイロットに埋め込むことにより、機体を直感的に・手足のように動かせるシステムでアレクサンダに搭載されている新システムだ。

 

「ほう、面白いシステムだな」

 

 説明を聞いた薫はその画期的なシステムに驚く。まさかサイコミュに類似する装置がこの世界でも存在しているとは思わなかった。

 

「本当は脊髄にニューロデバイスを埋め込むんだけど。白蛇の義眼に埋め込んでデータを取ろうと思ってね」

 

「なるほど、俺は義眼を手にいれ、そちらは研究データを手に入れる。WinーWinの関係だな」

 

「どう?」

 

「右目はどうにかしないとは思っていた。それにナイトメアの動きが少しでもマシになるなら願ってもないな」

 

 スザクやカレン、ライといった超人パイロットがいる以上。少しでも対抗できるようにはならなければならないだろう。

 

「じゃあ、決まりで」

 

「貴方の目を取り戻すために。私も尽力します」

 

「信頼しているよランドル博士」

 

 こうして薫の義眼の製作が始まるのだった。

 

ーーーー

 

「以前、避難民の食料は満足に行き届いていません。子供などには優先的に配給していますが大人は満足な食事ができずに不満を溜め込んでいるようですが…」

 

「不満を漏らせば解決するほどの余裕はない。ほっておけ、子供には優先的に食事をさせろ」

 

「はい、分かりました」

 

 ヴァイスボルフ城を居に置いて数日が経過するも状況が好転するわけではない。スマイラス将軍の支援にも限界がある。1000人近くの人間を満足させる食事なども用意できるわけがなかった。

 

「水が自由に使えるのは助かりましたね」

 

「そうだな、ろ過装置様々だな…」

 

 近くには巨大な湖がある上に湧き水はそこら中から溢れている。

 

「それと、クリミア博士は新型機の設計を開始しました。それと、こちらは検査結果です」

 

「ありがとう、ジェシカ」

 

 ランドル博士のブレインレイドシステムの適性検査だったが良好のようだ。A判定と記された検査票を読み終えると紅茶をすする。

 

 侍女たちがわざわざ街に出向いて買い出ししてくれた紅茶は格別だった。

 

「しかし、よろしかったのですか?フロートシステムのデータをスマイラス将軍に差し出して…」

 

「フロートシステムは常識になる。いずれ、空が主戦場になるさ。こちらにはなにも痛くない」

 

 痛い目を見るのはブリタニア軍だ。こっちには関係ない。

 その代わりにこちらは大量のサクラダイトを手に入れることとなった。新型機開発にはなくてはならない素材だ。

 

「とにかく、一年を目処にここには居よう。俺たちの状況にもよるがな」

 

 白蛇たちが使っていた無線はまだ生かしてある日本にはライが居るはずだから何とかしてこちらに連絡はしてくれるだろう。それまでは力を蓄えておかねばならない。

 

「分かりました。新型の運用試験含めて半年ほどで終わるように予定を組んでおきます」

 

「すまないな」

 

「いえ」

 

「すいません、よろしいでしょうか?レイラ・マルカルです」

 

 今後の予定を大まかに決めると部屋にレイラが姿を現した。

 

「すいません、忙しかったでしょうか?」

 

「いえ、構いませんよ。ジェシカ、紅茶を」

 

「はい」

 

 完全に薫の執務室と化していた部屋はレイラのよく知るヴァイスボルフ城とは違った雰囲気を感じさせていた。

 

「突然すいません」

 

「いえ、どうしましたか?」

 

「実はお願いがありまして参りました」

 

「お願いですか…」

 

「はい、図々しいのは重々承知なのですが…」

 

(そんなに下手じゃなくてもいいのに…)

 

 レイラの姿勢に思わず苦笑いな薫。立場的にはこちらの方が明らかに下なのだが。

 

「貴女方の戦力をお借りしたいのです」

 

「ほう、我々の戦力を?」

 

「はい、現在。この基地には日向アキト少尉しか戦力がありません。しかし、私の提唱したプロジェクトは敵陣背後への大規模奇襲攻撃投入にあります。しかし、戦力の補充はかないません」

 

 敵陣背後への大規模奇襲攻撃。そのフレーズに薫は反応する。

 

「背後とは?敵陣の背後など取れる筈がないでしょう?」

 

 陣を敷く。それは周囲、特に背後での安全が完全に確保されていることを前提に行われるものだ。それに相手はブリタニア軍、索敵を怠っているわけではないだろう。

 

「はい、シャトルで大気圏を脱出して地球を一周した後に目的地まで降下します」

 

「大気圏降下による奇襲攻撃か…成功するのか?」

 

「すでに実戦にて成功しています。帰還機は一機のみでしたが…」

 

「それは詳しく話を聞かせてほしいですね。出来れば前回の作戦データも」

 

「それはもちろん。部下を貸して欲しいと申しているのです。すぐに用意します」

 

「えぇ、我々も部下は大切ですからね」

 

「分かりました。すぐに用意します!」

 

 まるで承諾されたかのように喜んで部屋を去るレイラ。それを見届けた二人は静かに目を合わせる。

 

「なんというか…見ていて不安になってきますね」

 

「なにも知らない無垢な少女だな…」

 

 作戦データは軍の重要な機密データだ。ましてや世界で唯一のナイトメアの実働データは最高機密に該当する物だ。それを易々と渡してしまう辺り、彼女はまだ箱入り娘のように人を信用しすぎる。

 

「それを利用しないのが白蛇様らしいですね」

 

「利用するさ。俺はそんなにお人好しじゃないんでね」

 

「そうですね」

 

 薫の言葉に笑みを溢すジェシカ。それを見て薫も苦笑いを溢す。

 

ーー

 

 白蛇直属の諜報員であるツァーリは宿泊していたホテルから日本人が詰め込まれているエリアを観察していた。

 

 ユーロピア政府はブリタニアを恐れるあまりに日本人をゲットーに押し込み管理していた。腐りきり、身内同士の争いなどが絶えないゲットーの状況は閉鎖空間ならではの光景だ。

 

「私は賛同しない」

 

「そう言っても仕方ないでしょう」

 

 相棒のミレナに不満を漏らすツァーリ。薫はユーロピアで隔離されている日本人たちをこちらの戦力に出来ないかと考えていたのだが。

 

「あんな野蛮な者たちが白蛇さまと同じ人種とは考えたくないです。他者を蹴落として得られる安息などない」

 

「私たちにとって白蛇が良すぎたんだよ。人間なんてそんなものさ。でもこういう状況だからこそ生まれる人材もある」

 

 ミレナが握っていたのは少し古い雑誌。そこにはアムステルダムゲットーの爆発事故があった。

 

「ユーロピアには出来てたんだよ。天然の人間蠱毒がね」

 

「能力があっても白蛇様の障害となるなら殺すしかない」

 

「そこは白蛇さま次第だよね」

 

 ツァーリは冷たい目でゲットーを見つめるのだった。

 

ーー

 

「スマイラス将軍」

 

「なにかな?」

 

「《ナポレオン》の開発の目処が建ちました」

 

 スマイラスは副官の言葉を聞いて笑みを浮かべる。白蛇たちが寄越したフロートシステム。そのおかげで歴史の影で埋もれかけた計画が動き出した。

 

「スマイラス将軍の革命の象徴となるでしょうね」

 

「そうだな。彼女には感謝せねばな」

 

 こちらに踊らされているのも知らずにやって来てくれた白蛇には感謝しきれない。

 

「私の掌で踊ってもらおう」

 

 普通ならば彼の勝ちであろう、だがそれは分からない。薫は確かにただの一般人であった。特筆すべき才能も持っていない無能であった。

 

 だがそれで白蛇を体のいい駒として使うのは早計であったのだ。

 

 

 

 



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ブリタニアの狂犬

 ユーロピアの生活は端的に言えば快適であった。キチンと整った施設に常駐できるというのはありがたいことだ。本当に正規軍が羨ましい。

 当の薫も義眼の埋め込み作業を無事に終えて包帯からやっと解放されていた。

 

「やっと包帯から解放されたか…」

 

「おめでとうございます」

 

「あぁ、なんとか一息だな」

 

 義眼の充電も兼ねた眼帯を着けた薫は久しぶりの解放感にホッとする。どこぞの天龍みたいに刀の鍔を模した眼帯はお気に入りだ。まぁ、これから長いこと使うことになるだろうからデザインも大切だし。

 

「白蛇さま、ユーロピアに来られてから随分と柔らかくなられましたね」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

 基本、表情を崩さない薫様子が変わったのを気づいたのはつい最近だ。僅かだが笑みのような表情を見せることがある。やっと彼女が気を許してくれたのか…それともこちらに気を使ってくれているのか分からないが。

 

(僅かでも白蛇さまの支えとなれば良いのですが…)

 

 それは傲慢だろうが、願わずにはいられない。そう言うものなのだ。

 

 今日、レイラたちはスマイラス将軍の護衛任務のためにこの基地を離れている。ユーロピアの作戦も近づいていると言うこともあってナイトメアの修理も適宜行っている。

 問題なく稼働できるのは白夜叉含めて4機程だろうか。

 

「白蛇さまぁ」

 

「どうした、柏木」

 

 新機体のテストをしていた柏木の訪問を迎えると新型の話になる。

 

「狙撃銃だけ新調できるみたいなんですけどね」

 

「やはり機体はまだか」

 

「はい、流石にそう簡単には。完全新規生産ですからねぇ」

 

 今までのシリーズとは一線を越えた機体を造り上げようとクリミアも必死だ。彼女の満足するまでやってやるのが良いだろう。

 

「見る限りは義眼と分からぬな」

 

「はい、ランドル博士はかなり優秀な人のようですね」

 

 色々と機能が備わった義眼なのだが使っているうちに分かるだろう。だが目の周りには痛々しい傷がチラリと見える。それを見るたびに桐原は少しだけ悲しそうな顔をする。

 

「うぇ…」

 

 静寂な薫の執務室に似合わない鳴き声。拾ってきた赤子。名前が分からなかったので《純白(ましろ)》と名付けて可愛がっている。ついでに女の子だった。

 

「どうした純白?」

 

「うぅ…」

 

 まだ年齢的には高校生なのに子供を持つなんて…。可愛いから良いのだがこんな反政府的な立場なのに子供を保護するのはあまりよろしくなかったかもしれない。

 

「怖い夢でも見たのかな?大丈夫だよ、俺が居るからな」

 

「あう、あぅ…」

 

「うむ、ひ孫が産まれた気分だ…」

 

「あながち間違っていないのが考えどころですね」

 

 その様子を微笑ましく見ていた桐原とジェシカはお互いの顔を見る。こんな光景を守りたいと二人は強く願うのだった。

 

ーーーー

 

 その頃、サンミゲル。そこにて指揮を執っていたモニカは戦線の状況を見て表情を曇らせる。

 

「戦況は芳しくないようね」

 

「はい、天候悪化によりナイトメア隊の動きかかなり鈍くなっています」

 

「砂漠のスコールは水じゃない。砂が降る、地面に染み込むより早く低地へ低地へと砂が滑り落ちてくる。通常装備のサザーランドでは砂に埋まってしまうだろうさ」

 

「シュン…」

 

 黒の騎士団の大抗争は他のエリアやEU、中華連邦の反抗行動の切っ掛けとなった。ブリタニアの圧倒的な武力で押さえつけているがそれでもこちらの仕事が増えたのは明らかだ。

 

「付近に援軍を頼める部隊は居ないのか?」

 

「グランベリーに援軍の要請はしたわ」

 

「グランベリー?」

 

 現在、手を焼いているのはアルジェリアを中心に抵抗活動を行っている「サハラの牙」ベジャイヤ基地の襲撃を察知して事前に潰そうとした所の悪天候。運がないと言えば良いのだが。

 

「ほら、マリーベル殿下の」

 

「あぁ、グリンダ騎士団か。対テロ遊撃機甲部隊の…」

 

「不満そうね…」

 

「俺のライオネルを早く使いたいんだけどなぁ」

 

ランスロット・クラブことライオネルはスザクがナイトオブラウンズ加入するにあたり。ランスロットが2機あるのはややこしいからと改名した名前だ。

 

「この戦闘狂…」

 

「ナイトメアが好きなだけなんだけどなぁ」

 

 シュン用のカスタマイズが行われ完全に別機体化していたのでちょうど良かったのもあり、改名したのだが。まだ改良してから実践で使ってないのだ。

 

「諦めなさいよ、このサンミゲルからベジャイヤまで貴方でも半日はかかる。無駄よ」

 

「へいへい…」

 

「じゃあ、私はマリーベル殿下に挨拶するから」

 

 そう言って通信回線を開くモニカの邪魔をしないようにシュンは画面外へと逃げる。

 

(相変わらず、すごい格好だよなぁ…)

 

 長い金髪は美しく良く手入れが行き届いている。スカートなのは分かる、だがスリット入りって舐めてんのか?誘ってんのか?

 いくらマント常備してると言ってもそのスリットは入りすぎだろ!もう前掛けじゃないか!

 

「シュン、聞いてるの!」

 

「あぁ、すまん。聞いてなかった」

 

「もう、自分が出撃できないって分かるとやる気なくすの止めて貰える?」

 

(そんなつもりないんだけだなぁ…)

 

「グリンダ騎士団、接敵します! 」

 

 ブリタニア市民の希望の星。戦場の狂犬と呼ばれたシュンは静かにグリンダ騎士団を見つめる。

 

「じゃあ、俺はこれで…」

 

「どこいくの?」

 

「ちょっと、野暮用…」

 

ーー

 

「どうしたのトト?」

 

「そんな、ベジャイヤ基地が陥落しました!」

 

 始めての実践を終えたオルドリンたちグリンダ騎士団。だが護るべき基地だったベジャイヤ基地は陥落。直ぐに急行するのだった。

 

「ヴィヨネット卿はどこですか?姿を消してもう三時間ですが」

 

 サハラの牙との戦闘を見終えたモニカは相変わらず居ないシュンは何処かと問いただす。

 

「それが…」

 

「ん?」

 

「まもなくベジャイヤ基地に到着します…」

 

「はぁ!!」

 

 オペレーターのまさかの言葉にモニカは声を上げるのだった。

 

ーーーー

 

「おんなじ…」

 

「顔?」

 

 二人のオズの会合。それと同時に狂犬が目を見開き、獲物を捉えていた。

 

「オズ、白炎に戻れ!上に敵だ!」

 

「っ!?」

 

 空力理論をほとんど無視した巨大なロケットブースターを背負ったライオネルはブースターを分離。重力に逆らわずに高速で降下する。

 

「やはり、白炎。オズか!」

 

 高速で降下するライオネル。それを迎撃しようとするオズだがゲフィオンのせいで反応に遅れる。

 

「ここは退け、二人のオズよ!」

 

 そんな二人の間に割って入ったのは漆黒の機体《アグラヴェイン》。ブレイズルミナスでライオネルのMVSを弾くと間髪いれずに両腕部のハドロン砲を撃つ。

 

「ちっ!」

 

 高高度からの落下直後を思わせない動きでハドロンを回避するライオネル。

 

「ちっ、ナイトオブラウンズは想定外だ!」

 

「いい機体だな。潰しがいがある!」

 

 シュンは改めて原作介入というフレーズに興奮して笑みを浮かべる。まさか生で動いているコイツらを見ることになるとは。

 漫画という静止画でしか見られなかった者たちが動いているのを見ると興奮してきた。

 

「シュン!なにしてるの!?」

 

「皇帝陛下の命令は敵の殲滅。一番成功率の高い方法を選んだまで」

 

「いつのまにロケットブースターなんて用意してたの。あれは人間が乗れる者じゃないのよ!」

 

「悪い、説教はあとで頼むわ!」

 

 アグラヴェインとライオネルの激突を見つめる二人のオズ。圧倒的なレベルの差を見せつけられ二人は黙り込むしかなかった。

 

 



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始まり

「やーやー!ソキアさんがお見舞いに来たよぉ!?」

 

 帝都《ペンドラゴン》中央軍病院。そこにはベジャイヤの作戦にて負傷したグリンダ騎士団のメンバーが入院していた。

 そこに訪れていたソキアは先客を見て驚く。それはベジャイヤにて救援に来てくれたナイトオブラウンズ。シュンだったからだ。

 

「君の団員は元気だね」

 

「申し訳ありません。騒がしくて」

 

「良いんだよ。元気そうで何よりだ」

 

「その怪我は…」

 

 無傷のオズに対してシュンは頬に大きな湿布を張り付けていた。

 

「あぁ、モニカに一発入れられてね。グーで」

 

「あぁ…」

 

 まぁ、彼に一発。お見舞いできるのはモニカぐらいだろう。ブリタニアの騎士からすればナイトオブラウンズは雲の上の存在なのだが彼は噂に対して随分と柔らかな物腰を感じさせる。

 

 その後はオルドリンやレオンハルトを漫画で弄った後に先日の戦闘の話になる。

 

「覚悟してたつもりだったんだけどにゃ。今でも震えが止まらないんだにゃ」

 

「僕もです、機体性能に頼っていました。格上の敵機に手も足も出ないなんて」

 

「うん、自分の無力さを実感できたのはとても良いことだ。実戦において恐怖を感じない兵はすぐ死ぬからね」

 

 空気がどんよりしてきた頃にシュンが口を開く。その場にいた全員が彼の言葉を聞き、真剣に見つめる。あの戦場でハッキリした、彼は別次元に生きている人間だと。だがそのレベルを皆からは求められているのだと。

 

「君たちの騎士団名は?」

 

「え、はい。私たちは対テロ遊撃機甲部隊のグリンダ騎士団です!」

 

 オルドリンの凛とした答えに彼は満足そうに頷くと眼光を鋭くして一同を見つめる。

 

「じゃあ、君たちはいつか死ぬね」

 

「「「………」」」

 

「今の君たちは黒の騎士団の足元にも及ばない」

 

 彼女たちグリンダ騎士団の設立理由は黒の騎士団のようなテロ集団を撲滅すること。当然、その殲滅目標は黒の騎士団も含まれる。

 

「そんなに…」

 

「奴等はナイトオブラウンズ級、いやそれ以上の戦力を持ってる。しかも全員が捕まっていない」

 

 紅月カレン、ライ、白蛇にC.Cも候補に入るだろう。奴等の強さは異常だ。残念ながら彼女たちには太刀打ちできないだろう。

 

「でも黒の騎士団は壊滅状態じゃ」

 

「アイツらは復活するよ必ずね。そう言う奴等だ」

 

 レオンハルトの言葉を一蹴するシュンは完全に落ち込んでしまった一同を見て言い過ぎたのを実感した。だから必死に頑張れと言いたかったんだがやり過ぎてしまったらしい。

 

「なに新人を脅してるのよ。貴方は」

 

「すまん…」

 

「く、クルシェフスキー卿!?」

 

 やれやれと言わんばかりの顔でシュンを小突いたモニカは笑顔をオズたちに向ける。

 

「初戦での戦果としては上々よ。誇りなさい、貴方たちは磨けば良くなるわ」

 

 モニカの言葉に少しだけ元気を取り戻した一同を余所にシュンは疑問を口にする。

 

「どうしてここに?」

 

「ユーロピアの件なんだけど。代理が行くことになったわ」

 

「代理?」

 

「えぇ、あの枢木スザクとジュリアス・キングスレイっていう軍師よ」

 

「へぇ…」

 

 《ジュリアス・キングスレイ》その名前を聞いたシュンは原作を思い出して笑みを浮かべる。

 

「踏み絵か…」

 

「ん?」

 

「いや、どっちにしろEUには出向かなきゃならんだろうさ」

 

 面白そうに笑みを浮かべたシュンに対してモニカは首を傾げるがまだ話は残っている。

 

「それと次の作戦が決まったわ」

 

「作戦?」

 

「えぇ、ドロテアと私たちで」

 

 ナイトオブラウンズ三人を投入しての作戦。本気で落としたい国でもあるのか。

 

「国は小国だけど確かな力を持った国。戦士の国《ジルクスタン王国》よ」

 

 

ーーーー

 

「良かったの?」

 

「えぇ、良かったわ…」

 

 日本。とある空港では日本から脱出した神楽耶たちを見送ったカレンたちの姿があった。ディートハルトたちが築き上げた中華連邦のルートで残存していたディートハルトの部下たちを含め、多数の団員の脱出した。

 

「いつ残党狩りが襲ってくるか分からないのに」

 

「私は黒の騎士団のエースよ。私が居なかったら誰がみんなを守るのよ」

 

「…そうだね」

 

 すっかり元気になったカレンを見て安堵するライ。正直なところ、状況はよろしくない。キョウト六家の刑部辰紀、公方院秀信、宗像唐斎、吉野ヒロシらはブリタニアによって処刑。

 

 日本テログループの枢軸は砕かれ、各地のテログループたちは孤立した状態で身を潜めることしか出来なかった。

 

 それに加え、ナナリー救出の功で日本の総督となったカラレス総督の徹底した残党処理に日に日に数が減っている。

 

「こうして神楽耶さまを脱出させれたのはかなり大きい。彼女は日本の象徴的な存在だからね」

 

 神楽耶は日本の皇族の血を引く存在。彼女が難を逃れたのは結果的に助かった。

 

「桐原公は白蛇と逃げたみたいだしね」

 

 たまたまであったが桐原の生存はかなり大きい。日本のテログループを実質的に纏め上げていたのは桐原だ。

 

「薫…」

 

「心配?」

 

「そうだね。少し…寂しいかな」

 

「その代わりに私が居てあげるから、元気出しなさいよ」

 

「カレン…ありがとう」

 

「ふふっ」

 

 ゼロ、白蛇、キョウト。日本は持ち得る戦力を全て失ってしまった。だが…まだだ、まだ手はある。諦めない限り勝機はあるはずだ。自分達はあと一歩の所まで迫ったのだから。

 

 



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スカウト

 

 

 

「一応、白夜叉には取り込んでみたけどそれだけよ。ほとんどの資材は新型機の製造に回してるから」

 

 ブレインレイドシステムを組み込まれた白夜叉だが機体自体の修復は最低限に留められていた。

 

「それでいい。白夜叉もこれでも十分な戦闘能力を持っているからな」

 

 白夜叉の基本武装の九割は使い物にならず本来の性能よりかなりの低下が見込まれているがそれでも仕方がない。使える武装は十字剣と手持ちのライフル、MVSのみ。内蔵されていた武装などはダールトン達との戦いで使い物にならなくなってしまった。

 

「それよりもお前は新型機を…。ここだっていつまでも使える訳じゃない」

 

「はい、機体自体は7割方完成してるわ。外見は見ての通り完成しているように見えるでしょうけど」

 

 桐原公が色々と手を回してくれているがここに居ることはあまり望ましい状況じゃない。いつスマイラスが裏切るかも分からない以上、のんびりしている時間はない。

 

「白蛇さま」

 

「ご苦労、どうだ?」

 

「やはり動きが…」

 

「やっぱりな…」

 

 ヴァイスヴォルフ城に居候している薫たちはレイラが連れてきた三人組を密かに監視していた。

 

「ツァーリの報告は間違いなかったか…」

 

「そのようです。やはりマフィアを潰した子供たち、ただでは終わらないと踏んでいましたが」

 

「やはりあの少年の情報操作能力は得難いものがあるな」

 

 ツァーリの情報収集能力は大したものだ。

 

「白夜叉、無頼、サザーランドはシャトルに積込準備をさせろ。それと、奴等は泳がせておけ」

 

「承知しました。ですがもし貴方に危害を加えるようであれば…」

 

「好きにして良い」

 

「はい」

 

ーーーー

 

「作戦は参加する。だが我々は君の傘下には加わらない」

 

「それは承知しています」

 

 wZERO部隊の次の作戦が決定すると薫はそれを了承する。ブレインレイドシステムの試験も兼ねたものだが。

 

「前の作戦のデータを見せてもらった。紙一重の作戦だな」

 

「はい…その作戦で多くの部下を失ってしまいました…」

 

「結果的にはこの作戦が功をそうした訳だが…」

 

 アレクサンダの自爆作戦はブリタニア軍を混乱に陥れ、多くの機体を巻き添えにした。兵の練度を考えれば良い作戦だ、結果的にはだが。

 

(そうやって考えてしまうんだよなぁ…)

 

 そんな事を思って言ってしまうのは嫌な気分だ。この世界に来る前と何も変わってないつもりなんだが。他人の死に慣れてしまっているのが堪らなく嫌だった。

 

「ですが…私のせいで……」

 

「それと折り合いをつけていくのも指揮官に必要な要素だ。馴れてはいけない」

 

 俺のように慣れてしまうのか、それともその感情を貫き通すのか。

 

(まぁ、俺には無理だった話だが…)

 

「肝に命じておきます。そしてお話ししなければならない事があります」

 

 レイラの空気が変わったのを感じた薫は作戦が決まったのだと確信した。

 

「ワイバァン隊は現有戦力でワルシャワ方面軍の反攻に同調し、ベラルーシ方面に降下する。つまり、味方の拠点から150㎞も離れた場所の敵中降下作戦です」

 

「無謀だ」

 

「………」

 

 分かりきったことだが言っておく必要がある。だがここで断るという選択肢はない。それほどの立場ではないのだ。

 

「分かった。参加する、だがこちらの戦力はよいとは言えないぞ」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げるレイラを見て罪悪感を覚える。しかしここは仕方ないと言わんばかりの雰囲気を出しておく。

 

「それより…」

 

「はい?」

 

「やつらは大丈夫なのか?」

 

 この前、レイラが連れてきた三人組。その三人についてのことだとすぐに分かった彼女はすぐに悟る。

 

「はい、監視はハメル少佐を始め完璧に…」

 

「出来てない。映像越しだと見逃すこともある」

 

「え?」

 

「現に奴らは動き出してるぞ」

 

「失礼します!」

 

 薫の言葉にレイラは弾かれるように動きだし部屋から退出する。それを見送ると自分も動き出す。

 

「やれやれ…」

 

ーー

 

 レイラが連れてきていた三人組は侍従隊を中心に監視を行っていた。三人が居た部屋を狙っているのは柏木。彼女は部屋で爆弾を巻き付けている成瀬ユキヤの脳天をしっかりと狙っていた。

 

「窓に近づかないのは戦いの基本なのにねぇ…」

 

 腕も技術もある三人組と聞いていた柏木だったが彼の迂闊さにはため息が出る。柏木は彼の頭を狙える位置の塔を陣取り、狙撃銃を構えていた。

 

「自分語りは楽しいかい?」

 

 部屋の壁に埋め込んであった盗聴機を聞きながら柏木は引き金に指を添えるのだった。

 

ーー

 

「よう、来てやったぜ…」

 

「おう、遅かったな」

 

 レイラと入れ替わるように入ってきたのは佐山リョウ。彼は拳銃を構えながら薫の部屋に押し入ってきたのだ。それを待っていたように薫とジェシカは平然としていた。

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

「え…あぁ…」

 

 完全にペースを崩されたリョウは薫の前の高そうなソファーに座らされる。すると薫の飲んでいた同じ紅茶を差し出される。

 

「安心しろ、毒なんて入っていない。毒が勿体ないからな」

 

「……」

 

 これ見よがしに紅茶を飲む薫に対してリョウも対抗するように注がれた紅茶を飲み干す。

 

「俺を足止めさせても無駄だよ。お前たちが行動を起こすのは知っていた。全員に監視がついてる」

 

「ちっ…やっぱりな。最初からそんな気はしてたけどよ」

 

 リョウは最初に見かけたときから白蛇のことはヤバイやつだと察知していた。アンダーグラウンドで培った勘だが見事に当たりだったようだ。

 

「心配しないのか?」

 

「アンタがマフィアみたいな奴だったら俺たちはとっくに死んでるさ。まだ俺たちに資産価値があるうちに話ができてよかったぜ」

 

「そうか…」

 

「なぁ、聞いて良いか?」

 

「良いぞ…紅茶が冷めないうちにな」

 

 本来ならリョウはヴァイスヴォルフ城のナイトメアを盗み出す算段だった…だが彼はここにいる。それは彼の独断であり、話さなければならないという勘に従った結果だ。

 

「アンタは黒の騎士団のナンバー2なんだろ?戦争を起こすなんて随分と物好きだよな」

 

「始まりは君たちと変わらんと思うよ」

 

 リョウが聞きたかったこと。それはなぜ彼女があの黒の騎士団に参加し戦争を起こしたのか。バイザー越しだが彼女は見た目的に自分とあまり変わらない。

 

「ユーロピアに存在する日本人エリア。家畜のように納められたあの檻。あれは日本の縮図だ、あそこから抜け出したいと考えるのはそんなにおかしな事かな?」

 

「そうだな、俺だってあそこから抜け出した身だ。分かりやすくて助かるぜ。でもアンタは日本人じゃないだろ?」

 

「いや、純日本人だよ…俺はアルビノでね。色素が薄いのさ」

 

 思い出したかのようにバイザーを外す薫。するとそこからは美しい顔が姿を表す。その顔にリョウは思わず息を飲むのだった。

 

 

ーー

 

「あんた…誰よ…」

 

「………」

 

 ヴァイスヴォルフ城の城壁外。通信ケーブルの破壊の役割を貰った香坂アヤノは城の古道を使って出た先、そこには人が立っていた。

黒髪の日本人。恐らくアヤノと同じ年ぐらいの少女が眠たそうな目をゆっくりと開いて彼女を見つめる。

 

「…ヴァイスヴォルフ基地は古城を改良したせいで非正規の道が無数に存在する。城に抜け穴はつき物…残念ながらすべての古道はすでに調査済み……」

 

「あんた…黒の騎士団の……」

 

「否」

 

「え?」

 

「我々は白蛇さまの直属部隊。決してゼロの部下ではない」

 

 服の袖か静かにナイフを取り出す少女。それを見たアヤノは自分が命の危機に陥っているのを感じた。

 

「止めてください!」

 

「っ!?」

 

「………」

 

 突然の声に驚くアヤノの彼女の出てきた道から出てきたのはレイラ。彼女は薫の部屋の外に待機していた侍従隊のバレットに案内されてここまで来たのだ。

 

「まさかこんな道があるとは思いませんでしたが間に合ってよかったです。すいません、ここは私に任せて貰ってよろしいでしょうか…えっと…」

 

「弥生…」

 

「弥生さん。お願いします」

 

 一拍置くと静かに頷いた弥生はナイフをしまって無言で二人の間を通り、地下の古道に入っていく。

 

ーー

 

「すまない、いつも着けているから外すのを忘れていた」

 

「白蛇さま!?」

 

「いい、顔を隠していたのは学園に居たからだ。今はあまり意味がない」

 

 仮面を外したのに一番の驚きを表したのはジェシカだが薫の言葉に落ち着きを取り戻す。

 

「佐山リョウ。俺の元に来る気はないか?」

 

「な!?」

 

 ストレートな勧誘。思わず動揺したリョウは驚きを隠せないでいた。

 

「今までの訓練データを含めて全て見させてもらった。君たちは優秀な人材だ。スカウトは当然だと思うが?」

 

「アンタらはユーロピアから匿って貰ってるんだろ?良いのかよ裏切る真似して」

 

「いつ俺たちがユーロピアの手先になったのかな?」

 

「は?」

 

「なぁ、ジェシカ」

 

「はい、問題は…いつ捨てるかですね」

 

 さも当然のように発せられた言葉に嘘はないだろう。つまり彼女たちはユーロピアなど取るに足らない存在だと思っているのだ。

 

「は…ははははは!」

 

 これは笑うしかないだろう、だれもそんな事を思っていない。想像すらしていないだろう。彼女たちは蛇だ、美しい見た目とは裏腹にその鋭い毒牙を突き立てんと大口を開いているのだ。

 

「アンタは本当にスゲエやつだよ。でもよ、部下なんて嫌だね」

 

「そうか…それは残念だな。理由を聞いても?」

 

「アンタの下で何人死んだんだ?俺は駒の補充なんてまっぴらゴメンだ。面白れぇ奴だけどよ…どうせお前も書類の上の数字でしか勘定できねぇ人間だろ?部下を何人見捨ててここに来たんだ?」

 

 エリア11の実情なんて知らない。だが多くの人間が散っていったのは分かる。こんな年でそれをやっているのは感心するが指揮官や親玉なんてもんは部下の死を勘定しか出来ない。

 

「俺たちは数字の肥やしになんかなら…」

 

「浅井、岡部、森下、神田、中井、植田、河村、宮川、前川、稲垣、大川、松崎、長田、若林、飯島、谷、大沢」

 

「急になんだよ…」

 

 突然、始まった薫の呪詛のような言葉の羅列にやってやったと息巻いていたリョウが再び気圧される。圧される彼を見ながらも薫は言葉を続ける。

 

「石塚、堀内、田代、中嶋、江口、岸本、荒川、本多、西尾、細川、岡野、金井、戸田、安達、稲葉、津田、森川、伊坂、伊丹……」

 

「白蛇さま…まさか……」

 

「これはあの決戦で死んだ俺の部下の名前だ…36人も死んでしまった…」

 

「なっ!?」

 

 呪詛の意味を理解したリョウは驚愕する。

 

「そしてその戦いの前に死んだ奴等は147人…俺はこれまで183人もの部下を殺してここにいる…俺はあいつらの屍の上で手を伸ばす!あいつらが夢見た世界を…日本を取り戻す!」

 

 広い空間でも響くような怒声、それにハッとしたのは薫もだった。

 

「すまない…頭に血が上ったな……」

 

 倒した椅子を慌てて直す薫。すると奥の部屋から赤子の鳴き声が響く。

 

「あぁ…ごめんな純白。急に大声だして」

 

「子供?」

 

「白蛇さまが行政特区日本で助けた子です。成り行きでここまで連れてきてしまいました」

 

 必死に赤子をあやす薫を黙って見つめるリョウ。それを横目で確認しながらも他の侍従隊から報告を受けたジェシカは彼の肩を叩く。

 

「残念ながらタイムリミットです。お二方はともに武装解除、ユーロピアの特務も気づき始めています」

 

「あぁ」

 

 二人とも大人しく降参したということは二人とも大きな怪我をしていないだろう。そこに少し安堵を覚えつつも白蛇を見つめる。

 

「勧誘の件だけどよ。少し考えさせてくれ…紅茶。美味かったぜ」

 

「そうか、返事はいつでもいいからな」

 

「あぁ、助かるぜ」

 

 来たときよりかは良い表情を見せたリョウを見て僅かに笑みを溢す薫。それにドキッとしながらも彼はその部屋から退出するのだった。

 

「白蛇さま…」

 

「難民キャンプからも志願兵を集めておけ。次の作戦は近いぞ」

 

「はっ!」

 

(はぁ…つかれたぁ……)

 

 ルルーシュみたいに冷静に説き伏せたかったのだが伊丹たちの事を思い出してしまいついカッとなってしまった。

 

(俺もまだまだだなぁ…)

 

 



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鬼の居ぬ間に


もう少し先の話あたりから薫たちが大暴れします。




 

「ドローン全機確認、佐山准尉、成瀬准尉、香坂准尉。各機位置を報告して!」

 

 佐山を含む三人組の反乱後。ユーロピア軍から要請を受けwZERO部隊はベラルーシ方面に展開していた。そこにはレイラの要請を受けた薫たちも追随していた。

 

「戦争じゃ、指揮官が先に死ぬこともあるよな!」

 

「全機、位置を報告しろ!」

 

「ジェシカ、以下5名。無事に到着しました」

 

 アレクサンダのような翼を持っていない薫たちはパラシュートで降下。レイラたちとはかなり遅れて地表に降り立つと味方同士の内乱が発生していた。

 

「日向准尉。彼らは必ず無傷で確保してください!」

 

「それはどうかな…」

 

 レイラを守るアキトと彼女を襲う三人組。その様子を薫たちは遠くから観戦する。

 

「これが仮にも正規軍ですか…見るに耐えませんね」

 

「軍隊といっても愚連隊みたいなものだからな」

 

 止めに入ってもいいのだが敵のど真ん中で弾薬とエネルギーを無駄使いするほどバカでもない。自分達の命の方が圧倒的に大切だからだ。

 

「白蛇さま…どうされるのですか?」

 

「静観だ。こちらに害が及ばないのならほっておけ」

 

 味方の暴走に動揺を隠せていない無頼は避難民から志願した志願兵だ。薫の連れてきた部下たちのほとんどはヴァイスヴォルフ城にて戦力拡充に奔走している。ここに連れてきたのはジェシカと柏木だけだ。

 サザーランド2機はジェシカと柏木。他の無頼3機は志願兵だ。

 

「でもさぁ、こっち的にはレイラさんが死ぬのは不味くない?」

 

「そうだな、少ししたら仲裁してやるか」

 

「全く…白蛇さまのお手間を取らせるとは…ん?」

 

「なんだ?」

 

 観戦していたジェシカと薫はスピーカーから聞こえる謎の飛翔音を捉えた。それは間違いなくこちらへと近づいてくる。

 

「なんです………」

 

 二人が突然、会話を止めたのを疑問に思って振り向いた無頼が吹き飛ぶ。巨大な爆発が彼女たちに襲いかかった。

 

「敵の砲撃!?」

 

「柏木、弾道計算!ジェシカ、脱出するぞ!」

 

「はっ!」

 

「了解…着弾の間隔から単装砲を何個か用意してるね。飛翔音にロケット推進音がしないなぁ、まさか列車砲…発射音が聞こえないからかなり遠いね」

 

「情報が漏れていた…確実にな」

 

 列車砲は超射程、高威力の化け物兵器だがその分、巨体で動きはかなり鈍重。しかもかなりの精度でこちらを狙ってきている。降下地点をあらかじめ知られていなければ取れない戦術だ。

 

「北北西に進めば…着弾範囲から逃れられる」

 

「レイラ、完全に嵌められた。敵が伏せているだろう、気を付けろよ」

 

「はい、分かりました!」

 

 形態を変更して逃げるアレクサンダに対して白夜叉たちはランドスピナーで逃げる。長距離移動に関してはランドスピナーに分があるようで薫たちが先陣を切る形になった。

 

「ブリタニアのナイトメア隊か…」

 

「砲撃型は任せろ」

 

「了解した」

 

 薫は十字剣を抜刀。砲撃型のナイトメアを2機同時に切り伏せるとライフルでもう一気を仕留める。残りの1機は柏木の狙撃で沈黙する。対して日向も護衛のサザーランドを1機倒していた。

 

「すごっ…」

 

 一瞬で4機のナイトメアが破壊されるのを見てユキヤやアヤノは思わず感想を漏らす。

 

「なにボサッとしてるの。ドローンじゃないんだからさぁ」

 

 柏木は後ろにいた二人を横目にさらに奥にいたサザーランドを一撃で沈黙させる。狙撃用にカスタムしていないサザーランドでもこの腕前、彼女は完全にベテランのスナイパーとなっていた。

 

「白蛇さまぁ。どうするの?」

 

「敵の策に乗るしかないだろうな。その上で突破する」

 

 敵の作戦が想像以上に用意周到だった。ここからなにか出来るならそうしたいがどうもならないだろう。

 

「白蛇さま。前方に市街地が見えます」

 

「なるほど、あそこがコロシアムというわけか…」

 

 スロニムの市街地に到達した部隊は市街地の各地に展開する。だがそこは市街地にしては静かすぎた。

 

「やべぇな。嫌な雰囲気だ」

 

「面白くなりそうだよ」

 

「ユキヤがそう言う時ってろくな事がないんだよ」

 

 閑散とした市街地には人の痕跡はあるが人の姿は見当たらない。

 

「白蛇さま…」

 

「あぁ、分かってる」

 

 ジェシカは静かに回転刃刀を抜いて起動させる。それと同時に薫の上からグロースターソードマンが奇襲をかける。

 

「人間の死角である上からの攻撃…王道過ぎる!」

 

「同じく、後方一機!」

 

 グロースターからの攻撃を防いだ薫はそのまま回し蹴りで蹴り飛ばす。ジェシカも鍔迫り合いから刀身を滑らせてそのまま左腕を奪う。

 

「なんだ、こいつらユーロピア軍じゃない!?」

 

「この機体。まさかエリア11の黒の騎士団か!」

 

 同時に襲いかかったクザンとフランツは白い機体にマーキングされた蛇のマークを見つける。

 

「くそ、こんなところにナンバー2が居るとはな!」

 

 フランツは薫と激しくぶつかるが押し負ける。明らかに重そうな剣を扱っているのに手数だ押し負けてしまう。同じくクザンもいきなり左腕を奪われしまい押される。

 

「くそっ、パワーが上がらん!」

 

 薫は白夜叉の不調に悩まされていた。この機体のウリであるパワーが上がらないのだ。グロースター並みのパワーは発揮できるが分厚い装甲と重い剣のおかげで思うように動かない。

 そのうえ、ブレインレイドシステム使用による操作の違和感を拭えずに苦戦していた。

 

「白蛇さん!」

 

「なんだ!」

 

「こちらのドローンは壊滅しました。増援を送れませんか!?」

 

「ちっ、柏木!」

 

「はい?」

 

「齋藤と高橋を連れていけ!」

 

「了解ぃ」

 

 レイラの要請に対してすぐに対応するとブレインレイドに慣れることに集中する。まさか、実戦でこんなに違和感を感じるとは思わなかった。

 

「機体の動きが一歩、早い!」

 

 せめてこの重い十字剣がパワー不足で重荷になっている。なんとか…。

 

「そうか!?」

 

 十字剣で敵の攻撃を防ぐと腰のピッケルに手を伸ばして掴む。相手の攻撃に合わせて振るう。

 

(一拍…遅く……)

 

 ピッケルの先端がグロースターソードマンのヒートソード鍔を引っ掛ける。

 

「よっしゃあ!」

 

「なに!?」

 

 剣を上空に弾き飛ばして受けとる。よし、この軽さなら問題ない。受け取った瞬間の行動は速かった、一瞬のうちに右腕と両足を切り飛ばしてコックピットを狙おうとするが脱出される。

 

「あぁ、逃げられた」

 

「ヒヤヒヤしました。お気をつけください…」

 

「すまんな、ジェシカ」

 

 ブレインレイドシステム。ユニコーンのNT-Dと考えは似ていると思うんだが…いや、体に機械を埋め込んでるからサイコ・ザクのリユース・サイコ・デバイスの方が近いかもしれないな。

 

「白蛇さまぁ」

 

「どうした柏木?」

 

「なんか大変な事になってますよ。全員が暴走中です」

 

「なに?」

 

 高層マンションに位置取りをしていた柏木は市街地の中で大暴れする4機のアレクサンダを見つめていた。無線ではシネシネとしか言ってなく思考能力の低下を懸念する。

 

「まるでバーサーカーだねぇ」

 

「柏木、齋藤、高橋。4機の映像を保存しておけ。後で解析するぞ」

 

「「「了解!」」」

 

 明らかに頭のおかしい機動をしている4機。レイラや薫たちを置き去りにして四人は暴走を続けるのだった。

 

ーー

 

「なるほどな、ブレインレイドシステムを通して暴走してるなら納得だ」

 

「しかし白蛇さまにはなんの影響も…」

 

 白夜叉に搭載されているブレインレイドは純正ではない。機体の反応速度を上げるためだけにつけられた真に戦闘用のブレインレイドなのだ。

 だからこそ意識の共有し暴走という事態に薫が陥ってないのだ。

 

「ジェシカはアヤノの援護を俺はリョウの援護に回る。柏木、お前はユキヤの援護だ」

 

「え?」

 

「しかし?」

 

 人ならざる力というのは大抵大きな反動が起きるもんだ。

 

「いいから、やれ!」

 

 データリンクで場所を確認して現場に急行する。駆けつけてみれば案の定。棒立ちのアレクサンダが目の前で攻撃を受けている。

 機体が破壊される前にグロースターを攻撃して追い払うとジェシカと柏木も敵を破壊してなんとな機体の大破は避けれた。

 

「無事か?」

 

「すまねぇ」

 

「白蛇さま、南南西からナイトメア2機。金と銀のナイトメアが来てますよ。金の方は四足歩行…齋藤、後ろだ!」

 

「なに!?」

 

 柏木の警告と同時に建物を飛び越えてきた金のナイトメアが大斧を振り回して無頼を真っ二つに切り裂く。

 

「齋藤!?」

 

 動揺した高橋に銀のナイトメアが攻撃を加え悲鳴をあげられずに無事が破壊される。

 

「齋藤、高橋…くそ!」

 

「白蛇さま、右!」

 

「っ!?」

 

 横合いからの攻撃、柏木から報告のあった銀のナイトメア。

 

「ヒュウガ様には近づけない!」

 

「新型か!?」

 

 ライフルを撃ちながら抜刀。剣を抜いたかと思えば腕が延びてこちらに飛んでくる。

 

「紅蓮と同じ!?」

 

 まさかの隠し機能に対応できず左腕の肘から先を失う。押されて冷や汗をかく薫だがその瞬間。銀のナイトメア《グラックス》のライフルが狙撃によって破壊される。

 

「くっ、スナイパーか!」

 

「柏木!」

 

「純白ちゃんの為にも殺させるわけにはいかないでしょうよぉ!」

 

「白蛇さま!」

 

 建物の物陰から強襲するジェシカ。彼女はジャンと激しくぶつかりながら白夜叉を守る。先ほどの戦闘で白夜叉の間接は予想以上に摩耗していた。

 分厚い装甲による重さとブレインレイドによる過敏な反応に機体が悲鳴をあげていた。

 

「この機体はもう駄目か…」

 

 薫、自身もこの時点で白夜叉の限界を感じてしまっていた。

 

 その後、敵の指揮官は撤退。ユーロピア軍の増援と合流しワルシャワの補給基地へと撤退を完了するのだった。

 

ーー

 

「ん、なんだ?」

 

 その頃、ヴァイスヴォルフ城にて侍従隊の指揮を任されていたバレットは城に訪れていたユーピア兵たちに注目する。

 

「どうした、バレット?」

 

「いやぁ、随分若手の将校ばかりだな」

 

「良い顔ぶれだな…」

 

「お前なぁ…」

 

 バレットは意味ありげに紅い目を細める侍従隊の仲間にあきれた視線を向ける。すると若手の将校たちは二人の元に近づくと話しかけてきた。

 

「申し訳ありません。スマイラス将軍の特使として参りました桐原さまはどちらに居られますか」

 

「あぁ…それなら案内しますよ。零子が」

 

「私か!?」

 

「俺は今から地下に潜らなきゃならねぇ。できるよな?」

 

「分かったよぉ…」

 

 用事を押し付けられた零子は少し嫌そうにしながらも案内を始める。

 

「どうぞ、桐原さまと白蛇さまの執務室は同じですので」

 

「ありがとうございます」

 

 




サザーランド改(ジェシカ機)

 サザーランドに無頼改の武装をそのまま引き継いだ機体。接近戦用に各部に追加装甲が施されている。

サザーランド改(柏木機)

 ヴァリス装備のサザーランド。基本的にはサザーランドとあまり変わらない。

白夜叉(中破)

 内蔵武装の全てを喪失し性能も半減している。グロースター並みの戦闘能力は発揮できるが本来の性能とは程遠い。新型機の開発のために最低限の修理しか行われなかった。
 ブレインレイドシステムを実験的につけられ反応速度は通称より高い。




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忍び寄る危機


侍従隊

 全20名の白蛇親衛隊。侍従長のジェシカ、侍従副長のバレットを中心に編成された部隊。
 人種は多種多様。日本人が多いがジェシカはブリタニア人でバレットはユーピア人である。カヴァリルの奴隷として扱われていたが白蛇に助けられ忠誠を誓う。
 服はメイド服を常時着用。ナイトメア操縦以外は基本的にメイド服。その下に全身黒のインナーを着けているので肌が露出しているのは顔だけ。なのでスカートの中が見えようと問題はない。




 

「こちらに桐原さまが居られますよ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 部屋の前まで来て零子はその違和感に気づく。若手の将校だというのは分かる。スマイラス将軍の指示しているのは若手の将校が主だと白蛇さまが言っていた。

 

(よく見れば完全武装じゃない。なんなのよ?)

 

「では我々は中へ」

 

「いえ、待ってください。その前に確認したい事が…」

 

「必要ありません」

 

 零子が振り向くと心臓の位置に拳銃を突き付けられた。サイレンサーをつけられた拳銃を見た彼女は緊急用アラームを押そうとした瞬間。

 

プシュ!

 

「うっ!」

 

 一瞬の呻き声と共に零子が倒れる。

 

「よし、子供と桐原を確保するぞ」

 

「はい、よし。始めろ」

 

 その一言と共にユーピアの特殊部隊が城に侵入。一斉に侍従隊に襲い掛かる。

 

ーー

 

「なんの騒ぎです!許可なく立ち入ることは許されません!」

 

「参謀本部からの命令です。ハメル少佐」

 

 城の警備を監督している特務のハメルは正式な作戦書を見せつけられ黙るしかない。そんな時にも彼の目の前から特殊部隊が城に入っていく。

 

「だからなんの任務ですか!」

 

「白蛇は危険人物です。不安要素となる部下たちの処理を命令されています」

 

「処理って…まさか!」

 

ーー

 

「なんだお前らは!」

 

「黙れ、さっさと渡せ」

 

「ふざけるな!」

 

「今は抑えて!」

 

 銃を突き付けられながらも果敢に食って掛かるクリミアを開発班は必死に止める。

 

「でも折角の白夜(びゃくや)清白(すずしろ)を!」

 

「貴方に死なれるのは困ります!」

 

 乗り込んできた部隊たちは稼働実験までこぎ着けていた高級量産機《白夜》は4機。そして白蛇用に作られたワンオフ機《清白》の接収する部隊。

 

「貴様ら何者だ!この機体は白蛇さまの…きゃ!」

 

「こちら二班、敵襲です!応援を!」

 

 間髪入れずに銃撃され倒れる侍従隊二班。クリミアはそれを黙って見つめることしか出来なかった。 

 

ーー

 

「純白ちゃんをどうするつもりだ!」

 

「バレットに連絡を!」

 

「排除しろ…」

 

 ガガガガッ!

 

 駆け付けた侍従隊を攻撃する部隊。駆け付けた彼女たちに向けて腹や胸に弾丸を容赦なく浴びせる。突然の出来事で装備を持っていない彼女たちが次々と倒れていく。

 

「こちら侍従隊第三班。二班がやられました」

 

「白蛇さまが留守のときを狙われたか」

 

「こちら四班。純白ちゃんが敵の手に!反撃できまっ…!」

 

「なんだと!」

 

 wZERO部隊の人員は部屋に押し込められ城に居た侍従隊たちは次々と銃撃される。

 

「四班応答しろ!」

 

ーー

 

「バレット…」

 

「零子、無事か、桐原さんは?」

 

「弥生が…でも純白ちゃんが…」

 

「分かってる!」

 

 三点射の無駄のない攻撃を体に受けて倒れる仲間たち。次々と通信が途切れる中。バレットも敵と遭遇する。

 

「純白っ!」

 

バンッ!

 

 この侍従隊に対する襲撃は薫がヴァイスヴォルフ城を後にした一週間後に起きた出来事であった。

 

ーーーー

 

「毎日司令部に確認してもらっているのですが。中々、手配できないみたいで」

 

「こんなところさっさと出ていきたいの!」

 

 そんな事も知らず。薫は遥か遠くのワルシャワで一ヶ月もの間、足止めを食らっていた。

 

「それにここの奴等…」

 

「確かに前線の補給基地なんて思えないほどの気楽さだな。この基地は」

 

「そうでしょ。だから薫の力でなんとかならないの?」

 

「ツテはあるがなにしろこっちは居候なのでなぁ」

 

 一ヶ月の間に完全に仲良くなったアヤノと薫。すでにジェシカもアヤノの態度に口を出すことを止めていた。

 

「バレットたちとも連絡が取れないのが痛いですね」

 

「流石にフロートシステムの資料だけでごねるのも限界があるからな」

 

「wZERO部隊に対する嫌がらせに巻き込まれてしまいましたね」

 

「仕方ないよねぇ。ブラックリベリオンから日本人の立場はどんどん悪化してるからさぁ」

 

 流石に一ヶ月も明けるのは辛いが駄々をこねて変な借りを作るより待って我慢していた方がまだいい。それにバレットだって有能な人間だ。ジェシカと薫の不在ぐらいはなんともないだろう。

 

「ヴァイスヴォルフ城との連絡が取れないのも嫌ですね」

 

「あの城は一種の秘密基地みたいな物だ。それに有事の際は侍従隊がいる。あいつらなら何とかしてくれるさ」

 

「そうですね。本当に助かってます」

 

「お世話になってるからな」

 

 wZERO部隊と薫たちの隙間も一ヶ月もの共同生活のお陰で完全に消え去り、今では毎夜。薫の日本での話を聞くのが日課と化していた。

 

「気分転換に市場でも行きますか」

 

「それもそうだな。ユーピア観光はまだしていなかった」

 

ーーーー

 

 レイラの提案で市場に来た一同はそれぞれの好みの商品を選び出して楽しくショッピングに興じる。

 

「薫もどうしますか?」

 

「そうだな。服は確かに欲しい、一ヶ月も同じパイロットスーツだからな。それに純白のお土産も買っておこう」

 

「そうだねぇ、毎日洗濯と風呂は欠かしてないけど気分がねぇ」

 

「遥も気にするんだね」

 

「まぁ…一応、女子だからねぇ」

 

 柏木とユキヤこの二人が仲良くなったのは意外だった。同じスナイパー機を使う身として通じるところがあったのか二人は軽口を叩く仲となっていた。

 

《可愛そうに…可愛そうに……》

 

「「っ!?」」

 

 頭に響くような変な声が耳に届く。それに反応したのはアキトと薫。二人は声の主を探すが人混みのせいでうまく見つけられない。お互いに目を合わせて同じ立場だと知った瞬間。その意識はアヤノの声によって遮られた。

 

「それ壊れてるんじゃないの?」

 

「んなことないよ。点検したばかりだぜこれ、ほらこれは使えないよ」

 

「そんな筈は…」

 

 トラブル発生にため息をつくと胸に仕舞っていたIDを取り出す薫。

 

「とにかく服は手に入れたい。俺が払う、お土産は諦めろ」

 

「分かったよ」

 

「すいません、助かります」

 

 レイラ程ではないが薫のIDにも20万ユーロほどの金が入ってる。それで払っておいてとりあえず、基地に戻る。

 

ーー

 

「コードエラー、登録情報がありませんね」

 

「そのIDでは入場できません」

 

「私たちが出ていくときには確認できたじゃありませんか!」

 

 どうやら基地にも入れない感じらしい。

 

「白蛇さま、まさか…」

 

「いや、スマイラスにしては稚拙すぎる。他の奴の嫌がらせだろう」

 

 レイラが必死に話をしていたのも虚しく。ついに追い返されてしまうのだった。

 

ーー

 

 薫のお陰で服こそ手に入れられたものの完全に立ち往生してしまった一同は市場の端で腰を降ろしていた。

 

「これからどうしましょう」

 

「自力で基地まで帰るしかないだろう」

 

「ワルシャワからあの城までか、無茶だろ?」

 

 一括りにユーロピアといっても日本の何倍もの面積を誇っている。それにあの城は自力で帰るには都市部からも離れすぎている。

 

「ユキヤ、どうにかならないのぉ?」

 

「流石の僕でも機械がないとダメだよ」

 

「そうだな、取り返すにしても場所と資金が…」

 

 薫は現状を打破するために思案を巡らせていると周囲の世界が止まっていることに気づく。

 

「なんだ?」

 

《やっと見つけたぞ…》

 

「なに?」

 

 謎の美女が一瞬だけ現れるとすぐに消える。それを見届け、慌てる薫の様子をジェシカは不思議そうに見つめる。

 

「どうされましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 先ほどの変な声といい変な事ばかりで思わずこめかみを押さえる。

 

(なんだったんだ?)

 

「可愛そうに…」

 

 そんな時に先ほど、市場で出会った老婆と再び再会するのだった。

 

 



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オリジナル 機体解説

最新話はこの前にあります。





ライオネル

 

形式番号 Z-01b

 

分類 第七世代KMF

 

所属 ブリタニア

 

製造 ロイド他 

 

生産形 態実験機

 

全高 4.49m

 

全備重量 7597kg

 

推進機関 ランドスピナー

 

 元の名前はランスロット・クラブであったがスザクのラウンズ加入に合わせて機体名が被るために変更された。

 

 基本色は藤色と黒。

 

 他のランスロットタイプとは対照的に遠距離武装を主に取り扱っている。各部に増加装甲を取り付けられ頭部はツインアイの上にバイザーが被されている。

 脚部には三連ミサイルポッド、大腿部には銃剣付きの小型銃。当然ながらMVSも装備している。

 主武装は大型のガトリングランス。

 大型のランスにマシンガンを仕込んだ武装で遠近ともに幅広く使える。

 

イメージはガンダムのペイルライダー

 

 

 

型式番号W0X H-01《清白》

 

分類 第八世代KMF相当

 

所属 白蛇隊

 

製造 クリミア

 

生産形態 専用機

 

全高 7m

 

全備重量 15.32t

 

推進機関 

 

 高機走駆動輪(ランドスピナー)

 内蔵式飛翔滑走翼(フロートユニット)

 腰部ハイブリットエンジン×2

 

武装

 

 VVC-01頭部迎撃砲×2

 前腕部内蔵式回転刃小刀×2

 踵釘打機×2

 ワイヤーカッター式スラッシュハーケン×10

                     等々

 

特殊装備

 

 ブレインレイドシステム

 

乗員人数 1人

 

 

 クリミアが得た知識全てを使って開発したナイトメア。機体色は白、肩には蛇のマークが施されている。

 基本設計はガウェインを踏襲しているが同じガウェイン系統のギャラハットとは正反対の進化をした機体と言える。

 

 他のナイトメアでは珍しいハイヒール型の脚部で背が高くスリム。頭部のブレードアンテナを含めると他の機体よりかなり高身長になっている。

 

 フロートシステム内蔵型でありフロートシステムが機体に外着けではなく内蔵されている。これにより被弾面積の減少を目指したが機体のサイズが大型化した為に意味をなさなくなった。しかし他のフロート機体とは違いフロートユニットを外すことなく補給が可能となった。

 ガウェインより大型になったこの機体だが機動力などは積極的に強化されガウェインとは比較にならない機動力を誇る。空中戦闘における機動力だけならばギャラハットすら凌駕する。

 

 隠し武装を多く持ち、無手であろうが十二分に戦闘が可能。指ハーケンを始め、頭部バルカン、踵にパイル、腕部にチェーンソーと多種多様。腕部のアタッチメント武装も装備可能。

 ブレインレイドシステムを搭載しており反応速度は他の機体を圧倒する。

 

機体イメージはマブラヴのビェールクト

 

 

 

型式番号 W0X H-02《白夜》

 

分類 第八世代KMF相当

 

所属 白蛇隊

 

製造 クリミア

 

生産形態 高級量産型

 

全高 5.46m

 

全備重量 8.32t

 

推進機関 

 

 高機走駆動輪(ランドスピナー)

 内蔵式飛翔滑走翼(フロートユニット)

 腰部ハイブリットエンジン×2

 

 

 白蛇隊の高級量産機。ヴァイスボルフ城の開発施設にて設計と製造が行われた。機体色は白、肩には箒に巻き付いた蛇のマークが施されている。機体は全て侍女隊と柏木に渡された。

 

 当初の設計では白夜叉の後継機として重装甲、高パワーを利用した高出力ナイトメアとして設計されていたが月下、紅蓮、ランスロット、ガウェインのデータを元に設計を大幅見直した機体。

 空間戦闘における継戦能力の向上を目指し、航空機にて採用された空力制御理論を参考にし、スリムかつ独特な形状の機体へと仕上がった。

 清白と同じフロートシステム内蔵型であるが機体の性能を抑え、内蔵兵器の数を減らした事で機体の小型化が可能となった。

(それでも通常機よりは大きい)

 

 全機で12機がロールアウトし、その全ての機体に専用のカスタマイズが施され全てが同じ機体が存在しない。

  パイロットそれぞれの好みと特性を加味したカスタマイズが施され同じ機体は存在しない。なので白夜の標準装備はあくまでもカスタマイズの母体でしかなくこの機体をベースに各パイロット専用のチューンが施されている。

 後の暁直参仕様よりかなり高性能に仕上がっている。

 

 基本武装は回収したヴァリスを踏襲した大型のマシンガンライフルを新規製造。ヴァリスより一撃の威力はヴァリスより劣るが大型のドラムマガジンを持つロングバレルマシンガン。《38式》

 設定変更で狙撃銃にもでき、威力は上がるが連射は不可能。着剣可能。

 

 腕部には月下と同規格のアタッチメント武装が装備可能。射撃兵器のみならず小型シールド。釘打機、ハドロン兵器、ブレイスルミナス、輻射兵器など様々な武装を装備できる。

 基本設計の時点である程度の余裕を待たせ拡張性の高い多種多様な装備や固定兵装を装備できるように設計された。

 

 

イメージはマブラヴのタイフーン

 

 2機種ともに操縦系統はブリタニア基準を採用。コックピットは紅蓮タイプの前傾姿勢ではなくブリタニアの後傾型シートを採用している。

 

 

腰部ハイブリットエンジン

 

 小型化したロケットエンジンとジェットエンジンを組み合わせたクリミア産機の最大の特徴。高い機動力の実現はこのエンジンのおかげである。他の類を見ない高い機動力を得たが推進材の補給が別に必要なのとエンジンが爆発すれば誘爆で巻き込まれる可能性があるためにかなり危険。

 エンジンの可動域を最大限にするためにはエンジンを剥き出しにするしかなかった。もし内蔵すればただでさえ大きい機体がさらに大型化してしまうため外付けされた。

 

 だがこのハイブリットエンジンは後にナイトメアとは別の用途でも使われることになるがそれは後の話。

 

 

 



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時空の管理者

 

 

 ユーロピア軍本部、地下倉庫。

 

「これが本当に田舎の基地にあったのか?」

 

「あぁ、だが操作系が過敏で動かせないんだよコイツら」

 

「整備班が手を焼いてるよ」

 

 地下に並べられた5機の新型ナイトメアが並べられていた。通常より巨大なこの機体たちが立ち並ぶ姿は実に圧巻とも言える。

 

「駄目です。主要なシステムは強固なブロックが掛けられています。無理に抉じ開ければOSが消える可能性が」

 

「くそっ、イレブン風情がこんなものを作りやがって」

 

 白夜そして清白はブリタニアの最強軍。コーネリア率いる軍と死線を交わした薫たち用にセッティングされた機体。ナイトメアの操縦どころか実戦馴れしていないユーロピア軍にはこの時には過ぎた代物であった。

 

ーー

 

「一仕事の後の酒は染みるねぇ」

 

「ぴちぴちの使用人も増えたしねぇ」

 

「……」

 

 ワルシャワ。基地から閉め出されてしまった薫たちは老婆たちにたかられ、捕まっていた。

 

「はく…」

 

「ここでは薫と呼べ。そっちの方がいい」

 

「はい」

 

 完全に使用人と化した薫たちは早速、雑務を渡されそれをこなしていく。

 

「スカートなんて久しぶりに履いた気がするな」

 

「薫は男みたいな格好しかしないもんね」

 

「まぁ、色々あるのさ…」

 

 一緒に机を拭いていたアヤノは笑みを浮かべながらこちらを見てくる。買った私服も洗濯に回されてしまい老婆たちのお古のドレスを着させられていた。

 

「それにしても薫って背、すごく高いよね」

 

「まぁな、それなりだと自負している」

 

 アヤノから見れば175の身長はかなり大きいだろう。

 

「あんた手際がいいねぇ」

 

「小さい頃から自分でやるしかなかったからね。まぁ、あれを見せられると困るけど…」

 

 料理を作っていたユキヤの視線の先。ジェシカが目にも止まらぬ速度で野菜やらなんやらを捌いていく。

 

「ジェシカは元々、屋敷のメイドだからね。向こうは本職だよ」

 

「それもありますが。私、僭越ながらシャングリヤのシェフをしていましたので」

 

「え!?あの高級ホテルの!」

 

「そりゃ勝てないわ」

 

「誰でも決して負けない物の1つあるものです」

 

「きゃあ!」

 

 ジェシカの話に感服する一同の後ろ。そこから悲鳴が上がると思えばなにかが割れた音がした。

 

「まさか…」

 

 そこにはサラダをぶちまけたレイラの姿が。

 

「やっちゃった…アヤノ?」

 

「いい!レイラは料理に触らないで!」

 

「典型的な箱入り娘ですね…」

 

ーー

 

「おまえ、それ2ケースももてるのか!」

 

「あぁ、持てるが?」

 

「マジかよ…」

 

 ワインは1ダース15kg、2つで30kg。それを軽々と持ち上げた薫に唖然とするリョウ。彼でも1ケースでやっとだと言うのにそれを二つ、軽々と持ち上げられた。

 

「つくづく、あんたは規格外だな」

 

「戦ってりゃ、嫌でもつくさ…」

 

ーーーー

 

 ひょんな事から始まった共同生活。一見、流されただけに見えた薫にもこの共同生活はメリットのあるものだった。

 

「白蛇さま…」

 

「ツァーリか?」

 

 みんなが寝静まった夜。薫は一人で月夜を眺めていると侍従隊、諜報班(第五班)の長であるツァーリが静かに現れる。

 

「基地に居られず焦りましたがむしろここの方がちょうどいいかもしれませんね」

 

「そうだな。それより、報告を…」

 

「はっ、敵の目が分からないので城内部には入れませんでしたが戦闘があったのは間違いありません。それと清白と白夜の計4機が運ばれていきました」

 

 諜報のためにユーロピア各地を点々としていたツァーリたちはユーロピアの襲撃を受けずにいた。だが肝心のヴァイスヴォルフ城には近づけずに二の足を踏んでいた。

 

「城自体は静かなものです。まるで戦闘がなかったのように基地要員たちも動いています。特に目立った動きや通信はありませんでした」

 

「襲撃はかなり前だ。レイラの耳に届いていないとなると」

 

「口止めされている可能性が高いですが。基地のメンバーたちの落ち着きも気になります」

 

「実戦馴れしている奴等じゃない。関係ない奴でも死体を見つければ騒ぎになる」

 

「我々も駆けつけるのが遅くなりましたから。騒ぎがあったかはわかりません」

 

 老婆たちのキャンプはユーロピアたちも知らない存在。当然ながら薫たちがここにいるとは向こうは思ってもないだろう。

 

「引き続き情報収集を行います」

 

「頼む」

 

 すると影に隠れて居なくなるツァーリ。

 

「ふぅ…」

 

 静かに息を吐く薫の顔は怒りに満ちていた。

 

「どうした?」

 

「いや…自分の無能を改めて痛感したところさ」

 

 真っ暗な森の中、薫の後ろに現れたのはリョウだった。彼は不思議そうにこちらに歩み寄ってきた。

 

「そうか…大変だなアンタも」

 

「そうさ、だが俺より苦労してるやつなんていくらでもいるさ。俺はそいつらに付いていくだけで……?」

 

 改めてリョウの方を見ると薫は言葉を失う。彼が時間が止まったかのように制止しているのだ。

 

「これは…あのときの!」

 

《そうだ。やっと見つけたぞ…パッシング》

 

「パッシング?」

 

 時間が止まった空間、そこの目の前には短髪の少女が見つめていた。

 

「この雰囲気…まさかC.Cと同類の!」

 

《否、アレと同じにされては困る。我々は時空を管理するもの…故にパッシング…お前を捜していた》

 

「パッシングは俺のことのようだな…」

 

《そうだ、時空をすり抜けし者。心当たりがあるだろう?》

 

「……」

 

 あるだろう?…心当たりしかありません。と言うより今の憑依状態のことだよね!ちょっと忘れてたけど完全に現在の状況の事だよね!

 

《我々がブライスガルの件で騒がしくしているうちにすり抜けてしまったイレギュラー。音沙汰もなく放置していたがこんなところで目を覚ますとはな…》

 

「なるほど、分かっていたけど俺はイレギュラーか」

 

《そうだ…だがお前が何をしようと何を成そうと我々は興味がない。故に我々がお前をどうするかなどはない》

 

「でも出てきたと言うことは何かあるんだろ?」

 

 踏んでいたとか完全にC.Cとかと思ってたけどアイツ以上にそこが見えない。これ本当にC.Cより遥かにヤバイやつなんじゃ…。

 

《そうだ、我々の依頼者は信用ならない。一度、やつは我々を謀った》

 

「謀った?」

 

《ジィーン・スマイラス。奴よりは見込みがあるだろう…》

 

「奴が…お前の依頼者?そして俺に何を求める?」

 

《この世界にはギアスが多すぎる…そしてこの世界に楔を打ち込もうとする奴等がいる。それを排除しろ》

 

「ギアスがユーザーの排除となんだ?」

 

《いずれお前は相対するだろう。必ず殺せ…しかし期限は決めん、無法なギアスは排除しなければならん。我々はシン・ヒュウガ・シャイングの抹殺を望む》

 

「シン・ヒュウガ・シャイング?」

 

 ヒュウガという言葉にひっかかりを覚える…まさかアキトの関係者。そういえば、柏木から報告のあった金色のナイトメアはアキトの兄が乗っていたとレイラが言っていた。

 

「確約はしないが意識はする。俺だってギアスユーザーが沢山居たらうざいからな。だが俺にメリットがあるのか?ただの使い捨てか?」

 

《我々はギアスの名に置いて契約を交わす。お前は何を望む?》

 

「……」

 

 正直なところ、報酬なんて最初から思い付いていた。この聞き方は向こうも承知の上で言ってきているんだろう。

 

「俺の全ての記憶を…生まれてから憑依するまでの記憶を取り戻したい」

 

《ここに契約は交わされた。これはサービスだ受けとれ…》

 

「なっ!?」

 

 そこで薫の意識が突然奪われたのだった。

 

 





 次回はついにコードギアスの世界の薫の過去編①です!




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薫の過去 1

 

 

 皇暦2000年11月5日に出生。血液型:B型 星座:蠍座。

 

 名前は佐脇薫。出身は静岡県、これが彼女のプロフィールである。

 

 彼女を産んだ家は桐原家の分家でありそれなりに箔がつく家柄とも言える。だが名字でお察しの通り彼女の親は分家の中でも末端に位置していた。

 桐原家の縁者であったのは母の方だった。父は全く関係のない人間、普通の恋愛結婚であった。

 母親の方は分家の中でも長女ではあったが兄が5人もいる男系家族であった。それに加えて母親の両親は完全に前時代的な人間であった。

 

 当時の桐原はすでに財閥の在り方に少々の危機感を覚えており、前時代的な思想は自分の代で終わるべきだと言う考えをしていた。そんな桐原に対して分家は彼が耄碌したと勘違い、本家の座を狙っていたのだ。

 

「薫…貴方は綺麗なシーツのような真っ白ね」

 

「あぁ、まさに私たちの可愛い天使だ!」

 

 彼女の誕生時、彼女はこの時点で肌が予想以上に白かったが両親は彼女の誕生を心から祝福した。この時点で彼女がアルビノであったことは二人とも知っていたのだ。

 彼女は祝福され親の愛を一心に受けてスクスクと育っていった。

 

「貴方…」

 

「うん…そうだな…」

 

 そして大きな転機が訪れたのが薫が4才の時であった。分家と縁を遠ざけていた母親に送られてきた召喚状であった。

 端的に言えば母親の祖父が生涯を全うしたのでその葬式を執り行う。それに出席しろと言うものだった。

 

 両親は暗かったが薫を連れて葬式に出席することになった。母から言われたのは一つだけ。

 

 

 

<xbig>決して離れないこと</xbig>

 

 

であった。

 

ーーーー

 

 その意味は幼い薫でもすぐに理解した。その葬式で薫を奇異の目で見つめる参列者や親戚。それが好ましくない視線だと言うのは4歳の彼女でも理解できたのだ。

 

 幼い薫は母親の服をしっかりと握り、母親は薫をしっかりと抱き締めた。

 

「子供が出来たと言うのに一度も顔を見せなかったのはそれが理由か…」

 

「薫の事をそれ呼ばわりは止めてください、お父様!」

 

「ふん、日本人とはかけ離れた容姿だ。西洋かぶれの童ではないか。我が家に西洋かぶれはいらん!目障りだ!」

 

「お父様が連れてこいとおっしゃったのではありませんか!」

 

「もういい。そんな奴捨てて、新しい子をこさえろ。今度は我が家に相応しい日本の子だ」

 

「この子は立派な日本人です!」

 

 幼い子に向けられる言葉ではなかった。この母親の親は子を道具としか扱わないような人間であった。

 

「どこが日本人だ!こんな奴が我が家の血を引いてるだけでも忌々しい!我が家の汚点だと分かっているだろう!」

 

「違います!」

 

「ならなぜ今まで見せんだ?我が家に相応しくないと分かっていたからであろう!」

 

「違います、お父様がそのような態度を取ることが目に見えていたからです!」

 

「それみろ!お前もわかっているのだ、それが我が家の汚点だと!」

 

「違います!」

 

 酷い話だ。こんな事が本当にあったと言うことすら考えたくない。だがこれはれっきとした彼女の過去であり最も古い記憶に刻まれたトラウマだった。

 

「ならば、ワシが預かる!」

 

「ふざけないで!」

 

「腐っても我が家の血を継ぐのなら厳しい教育が必要だ!見た目がこの様だからな!」

 

「絶対渡さない!薫は私が育てる!殺させない!」

 

「お前が逆らおうと無駄だ!取り上げろ!」

 

「やめて!!この畜生どもめ!絶対に渡さないわよ!」

 

「我が娘ながら醜い。地下に連れていけ!」

 

「いやぁぁぁぁぁ!薫、かおるぅ!!」

 

「おかぁさぁん!」

 

ーーーー

 

「っ!?」

 

「はく…薫さま!」

 

「おぉ、大丈夫か!?」

 

 森の中で気を失った薫が次に目を覚ましたのは馬車の中だった。突然、意識を失った薫をリョウが運び。レイラたちが看病をしていたのだった。

 

「……」

 

「薫さま?」

 

「いや、少し夢を見ていた…」

 

 あれは完全に薫の過去だった。おかしいな…両親はそんなに理想的な人物ではないと思っていたけど。

 

(さっきの回想は時空の管理者とやらの前金と言ったところか)

 

「シン・ヒュウガ・シャイングか…」

 

 そんな薫の呟きにアキトとレイラが反応する。その反応を見れば嫌でもアキトの関係者だというのが分かる。

 シン・ヒュウガ・シャイング。時空の管理者とやらが抹殺を命じるほどの人物。ギアスを持つ者。

 

(ラスボスなんて落ちはやめてよね!?)

 

ーー

 

 老婆たちとの共同生活は期間からすれば短いものだったが全員が思い思いに過ごし、楽しい日々を送った。期間にして見れば一週間にも満たない期間。ユーロピアを含めどこの記録にもない空白時間。

 

「ついに終わっちゃったね」

 

「でも皆さんと仲良くなれて良かったです」

 

「そうだな」

 

 本当にいろいろあったがそれに価するだけの価値ある時間であった。

 

「ではヴァイスヴォルフに帰りましょう…薫さん?」

 

「すまないが、ここで俺たちは別行動を取る」

 

「え?」

 

 みんな納得の大円満に水を差す気はなかったが仕方がない。

 

「レイラ、これは俺に直接繋がる通信機だ。持っていてくれ、状況は逐一教えてくれ」

 

「急になにを?」

 

「いいか、スマイラスには気を付けろ」

 

「スマイラス将軍を?」

 

「これは俺個人の心配だ。アイツは信用ならない人間だ…」

 

「待ってください!」

 

 状況が飲み込めない一同の目の前に空から現れたのは白夜叉を乗せたドダイ。

 

「詳しいことはあとで話す。お前たちは自分のことを考えろ!」

 

 そう言った薫はジェシカを伴ってドダイに乗り込む。完全に置いてきぼりなレイラを置いて薫は姿を消すのだった。

 

 





 詳しくは次話で…わりと薫ちゃん、ガチギレ中です。



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行動開始

 

 

「桐原公!」

 

「薫か…無事で何よりだ!」

 

 ヴァイスボルフ城から避難していた桐原は駆け付けてきた薫を見て笑みを浮かべる。

 二人が再会したのはユーロピア領内の崩壊した遺跡跡地であった。そこには侍従隊のメンバーが揃い、彼女の帰りを待っていた。

 

「バレット、状況は?」

 

「はい…重症4名、軽症12名。重傷者も命の危険はありません」

 

「よし!」

 

 あの時、侍従隊は確かに襲撃を受けて怪我を負った。純白が人質にあったと言うこともあり反撃できずにいた彼女たちは死んだフリを決行するしかなかったのだ。

 

「我々の服は全て防弾、防刃仕様ですからね」

 

「あぁ、備えあれば患いなしだな」

 

 侍従隊のメイド服は防弾、防刃仕様てあり中に着込んでいるのは対衝撃繊維を織り込んだ特注品だ。ついでに薫の服にも施されていたのだが特区の時は無防備な頭を狙われ意味を成さなかった。

 

「ツァーリは?」

 

「ここに」

 

「報告しろ」

 

「はっ!ヴァイスボルフ城の関係者とスマイラス周辺を精査しました。どうやら副司令のクラウス・ウォルリックを通して情報をブリタニアに売っていたようです」

 

 あの時の超長距離からの砲撃、やはり情報が漏れていたのだ。そして送り先はシン・ヒュウガ・シャイング。

 

「繋がってきたな!」

 

 どうやら時空の管理者との約束は果たせそうだ。

 

「純白の居場所は?」

 

「申し訳ありません。今だに掴めず…」

 

「あいつは周到な男だ。かならずアイツの近くにいるはずだ!探し出せ!最優先だ!」

 

「はっ!」

 

 薫が侍従隊の無事を知ったのはついさっき。ドダイに乗り込んだ時だ。それと同時に純白の誘拐を知った彼女はまさに怒髪衝天とばかりに怒り狂ったのだった。

 

ーー

 

 薫たちが潜伏を始めてしばらく経った頃。レイラとは極秘に定期的に連絡を取り合っていた。

 

「本当にいいのか、確実に黒だぞ?」

 

「えぇ、娘さんの為でしょう。仕方ありません」

 

「相手はスパイだ。やつはクズ以下だぞ…」

 

「それでも人は変われます。私はそう信じています…」

 

 通信越しだがレイラの言葉に息を詰まらせる薫。

 

「そうか…なら信じろ。困ったらいつでも呼んでくれ」

 

「分かりました、それとスマイラス将軍から連絡がありました。貴方の行方を探しているようです。それに関してはこちらも知らんふりをさせてもらいました」

 

「すまないな…今、俺が奴に見つかれば身動きが取れなくなる。すまないが暫くそうしてくれ」

 

「分かりました」

 

「白蛇さま、北海の海上発電所が!」

 

「なんだ?」

 

 薫の部屋に飛び込んで来るバレット。それを見た彼女は緩ませていた表情を引き締めるのだった。

 

ーー

 

「我らは世界解放戦線《方舟の船団》だ。愚かしき為政者たちの圧政に苦しむ市民たちの真の解放を…」

 

「これは…」

 

「白蛇さま?」

 

 ユーロピアでテロを起こした一団の犯行声明…この声ややり方は見に覚えがある。多少は加工されているが聞き覚えのある声だ、それにこのやり口は完全に…。

 

「る…ゼロか」

 

「え!?」

 

(ルルーシュが生きている…)

 

 スザクに捕まり、殺されたと報道されていたがやはり生きていた。だがなぜまたテロリストなんかに…。

 

(いや、違う)

 

 捕まったのは本当だろう、スザクの昇進がその証拠。ならこうして暴れているのがルルーシュだと仮定すると。ブリタニアの手先になっていると言う可能性が高い。

 

(でもあいつのプライドが許さない。ならギアスか…記憶操作系のギアスなら)

 

 それだと厄介なギアス持ちがブリタニアの中枢部に存在することになる。

 

「ややこしくなってきたな…」

 

「はい、ですが好機です」

 

「あぁ…全員を集めろ」

 

ーー

 

 全員を集めた薫はルルーシュの手口を解析して今後の展開を考える。あいつならどうするか、紙にまとめてそれを必死に考える。

 

1、混乱を作る

 

 これはルルーシュの常套手段だ。これは統率の取れた部隊ほど効果を発揮する。ユーロピア軍は士気が低いが巨大な組織だ。混乱による前線の崩壊は致命的だ。

 

2、その混乱を突いての攻撃

 

 混乱している軍など烏合の衆。それを利用した攻撃はルルーシュの常套手段だ。

 

「ユーロブリタニアに動きは?」

 

「確認されていません」

 

「確か、ユーロブリタニアのトップはベランスと言ったな?」

 

「はい、かなり人道的な立場の聖人であると」

 

「なるほど…」

 

 この混乱でユーロブリタニアが攻め込めばユーロピアの住民まで被害が及ぶと考えて渋っているのかもしれない。ならこの進軍の遅さは納得だ。

 

「ルルーシュが付け込まない訳がないだろうに…」

 

 そんな事をすれば…ルルーシュの事だ。ベランスとやらもただでは済まないだろう。あいつは作戦の邪魔になるなら徹底的に排除する奴だ。

 

(それで俺も死にかけたしな…)

 

 ナリタの事を思い出すと身震いがする。アイツは本当に容赦がないから困る。

 

「ちっ、問題ばかり駆け込んできやがって!」

 

 スマイラスの対応やシン・ヒュウガ・シャイングの事もよく分かってないのに。ルルーシュまで首を突っ込んでくるとは思わなかった。

 

「スザクまでユーロブリタニアに居るなんて…ありえないよな!」

 

 そう、そうに違いない。こんなに俺を居ってくるようにスザクまで来ている訳がない。アイツはブリタニア本土にいるはずだ。

 

「しかしこの状況は有利だ。ツァーリに連絡しろ!オペレーションハーメルン発動だ!」

 

「了解!」

 

 

 






 薫、そろそろ胃が痛くなってきた頃



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白夜の初陣

 

「これより部隊を三つに分ける!」

 

 1、ヴァイスボルフ城に残してきた避難民の救出とレイラたちへの増援部隊。

 2、イレブン隔離地域への救出隊

 3、純白及び清白、白夜の奪還部隊

 

 この三隊に分けて行動を開始する。

 

「純白の奪還部隊は俺とバレット、弥生、零子の四人で行う。ジェシカは他部隊の指揮統括にあたれ!」

 

「「了解!」」

 

 レイラたちは独自で方舟突入作戦を敢行すると言う連絡が届いていた。動くならユーロピアが混乱している今しかない。

 

「各員、奮闘を期待する!」

 

「白蛇さま、こちらを…」

 

「これは…」

 

 ジェシカが差し出したのは白蛇の衣装と仮面。完全に元通りとなったものを見て驚く。

 

「時間がありましたのでバレットたちが直しておりました」

 

「やっぱり、白蛇さまはその格好じゃないと!」

 

「すまん」

 

 半年ぶりに袖を通す衣装は驚くぐらいに違和感なく着れた。やっぱりこの仮面と衣装を着ると落ち着く。悲しいな…これに落ち着きを覚えてしまうとは。

 

「さぁ、白蛇の出陣だ!」

 

「「「おおぉぉぉ!」」」

 

ーーーー

 

「と言って出てきた割りにはすぐに着替えたのは恥ずかしい…」

 

「仕方ないっすよ。場のノリってのも大切ですからね」

 

 ユーロピア正規軍の軍服に身を包んだ白蛇を含む四人は公用車に乗って本部施設の敷地に侵入していた。

 

「本当はもっと上のを取りたかった…」

 

「あぁ、階級ね。大尉でも十分ではないか?」

 

「せめて佐官クラス…」

 

「うむ…気持ちはわからんでないが」

 

 何やら弥生が不満そうだがそこらへんまでこっちを持ち上げなくても良い気がするんだが。それだけ慕ってくれるのは嬉しい。

 

(大尉で潜入ミッションなんてガトーみたいでいいけどな!)

 

 そんな呑気な話をしているが全員が全身に武装を隠し持っている臨戦態勢だ。

 

「弥生は俺と純白の捜索だ。バレットと零子は機体を探してくれ、余裕があればスマイラスの場所もだ。定時連絡を忘れるなよ」

 

「「「了解です」」」

 

 燃えるパリを背景にそれぞれの任務を確認すると社外に出る。

 

「なんだ貴様ら。ここから先は現在…」

 

「黙れ…」

 

「うっ!」

 

 スマイラスの命令でクーデター以外の人員を締め出していたようだが、弥生のナイフ投擲で喉を貫かれた若い兵士は言葉を発せずに絶命する。

 

「あまり殺すなよ。騒ぎになると困る」

 

「了解…」

 

ーーーー

 

「急げ!いつ気づかれるか分からないぞ!」

 

「誘導に従って順番に降りてください!」

 

 地下の下水道をルートに隔離地区から賛同する日本人たちを救出する部隊。救出と言っても賛同者の多い地区に限定している。流石に全ての日本人を脱出させるほどの手駒もないし時間もない。

 

 その選定をユーロピア入国からずっとツァーリたちの情報担当侍従隊が行っていたのだ。

 

「でかい顔しやがって何様のつもりだ!」

 

「てめぇらの指図は受けねぇぞ!」

 

「随分と荒んでいるな」

 

「本当に白蛇さまと同じ日本人なんですかね?」

 

 隔離地区の主に若者は随分とガラが悪く、命令口調の侍従隊などに噛みつき、絡んできていた。

 

「気に入らないなら勝手に残ってろ!」

 

「なんだとてめぇ!」

 

 ついに白蛇隊の一般兵たちと衝突が発生。一般兵といっても元は小さなレジスタンス所属の者たちだ。これでも我慢した方だろう。

 

「おい、エスト!」

 

 すると侍従隊のエストが拳銃を持って反発組の一人を撃ち殺す。

 

「てめぇ!」

 

「避難の邪魔だよ!」

 

「殺しやがったな!」

 

「僕たちは助けてやってるんだ!ボランティアじゃない!歯向かったら殺す!」

 

 金属バットを持って襲いかかる若者の首を掴んで引き倒すとコンバットナイフを喉に突き立てる。

 

「ガキのワガママに付き合ってる時間はない!」

 

 エストの動きに習ってそれぞれが拳銃などの武器を取り出す。そんな出来事もあってなんとか迅速に避難活動が行われたのだった。

 

ーー

 

「ジェシカ、待ってたわよ!」

 

「お待たせしました。白夜はどうなりましたか?」

 

「それは安心よ!」

 

 ヴァイスボルフ城の地下工廠。そこにジェシカを筆頭とする侍従隊の実働部隊員たちが乗り込むとそこにはすでにロールアウトされた白夜たちの姿があった。

 

「総勢10機、盗まれた機体合わせて13機の白夜は揃ってるわ。弾薬も武装も全部、注文通りに揃えた。あとは貴方たち次第よ」

 

「助かります。マルカル司令は?」

 

「今、指令室で演説中よ」

 

 クリミアの言葉と同時に工廠に備え付けられたテレビが起動する。するとレイラがユーロピアの民衆に語りかけている姿が映し出された。

 

《なぜ傷つけあうのでしょうか。人間とはこんなにも悲しい者なのでしょうか?憎しみに支配されてはいけません!私たちは何者からも自由であるべきなのです》

 

「人々を導く乙女…まさにジャンヌ・ダルクですね」

 

「エンジンに火を入れて!全機起動するのよ!」

 

 演説を耳にするジェシカの後ろでは白蛇グループが集まり戦闘準備を始めていた。

 

ーー

 

《しかし、自由には責任が伴うものなのです。この世界をより良きものにするため。それがユーロピアの掲げる自由だと私の父、ブラドー・フォン・ブライスガウは信じていました》

 

「アイツ…本当にお人好しだな…」

 

 無線をラジオに繋げて演説を聞いていた薫はレイラの声を聞いて顔をしかめる。自分が利用されていると分かっている。それを承知でユーロピアの混乱が収まればと言葉を発している。

 

「人に奉仕しすぎる…」

 

「だめみたいです。スマイラスはもう行政府の席に着いているようですね」

 

「ここにはいない…」

 

「機体も運び出されているようですね」

 

 軍本部に乗り込んでみたものの機体も純白も姿がない。動き出すのが遅かった。だが向こうも暴動を予測して人質も機体も運び出されるとは思わなかった。

 

「一歩遅かったか…」

 

「どうしますか?」

 

「俺たちはこのまま潜入を続ける。戦闘指揮はジェシカに一任、アイツらを死なすんじゃないぞ」

 

「連絡します」

 

 ー ーー

 ー ー ーー ー 

 ー ー ー

 ーー ー ーー ー

 ー ーー

 ー ー ーー ー

 ーー ー ーー ー

 ー ーー ー ーー ー

 

「どうやら、見つけられなかったようですね」

 

「純白ちゃんが向こうに居る以上。我々は手出しが出来ません」

 

 薫たちからの通信を受け取ったジェシカたちは少し不安そうにするがすぐに切り替える。

 

「白蛇さまたち居なくとも我々の成すべき事は変わりません」

 

 するとヴァイスボルフ城のいたるところから警報が鳴り響く。

 

「これは敵襲?」

 

「司令室にお繋ぎを…」

 

「はい!」

 

ーー

 

「立て…敵が来た。指示を出せ」

 

「私は…私には出来ません…」

 

「甘ったれるな!早く立て…あんたにはここでの役割があるはずだ」

 

 心を通わせていたアキトたちのMIAに放心状態となったレイラにクラウスはそのキャラに似合わないキツい怒声を彼女に浴びせる。

 

「ここの連中の命はアンタが守る必要がある。司令官としての責任がな。アンタが守れ…」

 

「そうか…薫。貴女はこんな苦しみにずっと耐えてきたんですね…」

 

 ある時、リョウから聞いた出撃前の話。レイラは彼女の背負っているものをこの瞬間、少しだけ理解できた気がした。

 

「敵の位置を報告!」

 

「敵の位置。北東、距離25」

 

「時速140㎞で近づいてきます!」

 

「140㎞、森の中を!?」

 

 時速140㎞と言う速度は端的に言えば陸戦ナイトメアが出せる速度ではない。フロートユニット装備のナイトメアならあり得なくはないが、それも瞬発的な速度に過ぎず、長距離を断続的にと言うのはエネルギー的にも負荷のかかる行動だ。

 

「クレマン大尉の考察は?」

 

 それを陸戦ナイトメア。しかも森の中という悪路を突き進むのは異端と言えるだろう。だがナイトメアの本来の用途は戦車も装甲車も通れないような悪路を突き進み、高い火力で敵地を制圧すると言うのが本来の用途だ。

 

「動物のような四脚歩行が出来るナイトメアなら悪路でもスピードを出せるわ」

 

 その点から見ればアレクサンダやヴェルキンゲトリクスと言った路面環境、状況を問わずフル稼働出来る機体はナイトメア本来の目的の究極型とも言える。

 

「四脚のナイトメア…っ!」

 

「レイラさん…」

 

「ジェシカさん!」

 

 心当たりのあるナイトメアに戦慄していると工廠から通信が入る。

 

「新型ナイトメア《白夜》10機はいつでも行けます」

 

「ありがとうございます!白蛇隊はただちに迎撃!全ての防衛システム起動までの時間を稼いでください!」

 

ーー

 

「全機、指定ポイントまで移動、敵を迎え撃ちます」

 

 地下格納庫から出撃する白夜たち。あくまでフロートシステムは使わずに陸路で迎撃に向かう。

 

「地雷原反応確認」

 

「敵機、速度落ちません!」

 

「地雷が爆発するより前に走ってるのかよ」

 

「まもなく白蛇隊と接敵します!」

 

 グラックスの援護射撃を掻い潜り、ヴェルキンゲトリクスに近づいたジェシカは森の死角から改転刃刀を振り抜く。

 

「なに?」

 

 それを察知したシンは戦斧で受け止めると四脚の前足でジェシカを蹴り飛ばす。だがそれも分厚い盾に阻まれダメージを与えられなかった。

 

「まさか…まだ新型のナイトメアを隠し持っていたとはな」

 

「座標指定。援護射撃開始してください」

 

「了解!」

 

 すると城内から白夜の一機がキャノン砲を撃つ。ちょうどカウンター砲撃となり、その砲撃はジャンのグラックス周辺に着弾、彼女の援護を引き剥がす。

 

「バカな、もう弾道計算されたのか!?ヒュウガさま!」

 

 その頃、シンはジェシカとはげしくぶつかり合い。交戦を続けるすると他の白夜も援護に回り一斉放火が彼に襲いかかる。

 

「各機、援護射撃20秒…撃て!」

 

 総勢8門、高威力のリニアロングライフルの猛射がヴェルキンゲトリクスに襲いかかる。

 

「ちっ、流石に分が悪いか」

 

 シンが他ルートからの侵入を思案していた時、地面から巨大な壁が出現。ジェシカたちは急いでその中に入ると壁によって姿が隠れる。

 

「防御壁、展開確認!」

 

 

 



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対の演説

 

 

「レイラ・ブライスガウが死んだ…」

 

 ユーロピア臨時政府の代表。スマイラスの放ったこの言葉はユーロピアを震撼させた。

 

「レイラ・ブライスガウの居た。ヴァイスボルフ城基地がユーロ・ブリタニアの奇襲を受けて全滅したことが確認された。ヴァイスボルフ城はユーロ・ブリタニアとの国境から1000㎞離れた場所に存在したが敵は国境線を越えて襲ってきた。私はレイラ・ブライスガウの意思を引き継ぐ」

 

「どうだ?」

 

「ありました。足跡くっきり!」

 

 突然の放送を聞きながら作業を進めている薫はいつの間にか白蛇の格好に戻っていた。

 

「ユーロ・ブリタニアって言ってもまだまだですね。これならディートハルトさんの方が優秀ですよ」

 

「ディートハルトは優秀だからな。なに考えてるか分からんけど」

 

「全ての放送は無理ですけど半分以上はジャックできます!」

 

「よし、なら蜂の巣をつついてみるか。バレット、弥生…準備は良いか?」

 

「大丈夫ですよ!」

 

「はい…」

 

 行政府に潜入したバレットと弥生に連絡を取るとやや緊張した面持ちで後ろを振り返る。

 

「君たちは安心しろ。我々が占拠したのだ、いくらでも言い訳は効く」

 

「は、はい。しかし本当に何をされるのですか?」

 

「ちょっと真実をね…」

 

 薫たちが占拠したのはユーロピアのテレビ局。そこからユーロ・ブリタニアが使ったハッキングラインを見つけ出して再利用するためだった。

 

「エスト、任せたよ」

 

「了解です!まさか徴用した日本人をもう使うなんて思いませんでしたよ」

 

「悪い、世話をかける」

 

「いえ!」

 

 テレビ局を占領しているのは日本人の隔離地区から引っ張ってきた雑兵ばかり。ヴァイスボルフの戦力を動かせない故の判断だったがなんとかなったようだ。

 

「よし、テレビ局の諸君。君たちはユーロピアの英雄になるかも知れないぞ?」

 

「え?」

 

「回線繋げろ。各班、抜かるなよ」

 

ーーーー

 

「ユーロピアはスマイラス将軍の軍事政権が完全に掌握したそうです。スマイラス将軍はアンタをブリタニアに売ったんだよ」

 

「証拠があるんですか?」

 

「俺がここの情報をブリタニアに売った。将軍が本当に司令のことを考えていたんなら俺みたいなのを副司令にしないでしょうよ」

 

 ヴァイスボルフ城では完全に籠城状態となり。身動きの取れない所でのスマイラスの裏切り。そして副司令のクラウスはスパイ行為を自白した。それでやっと確信したレイラは口を紡ぐ。

 

「お嬢さんの医療費の為ですね。全て、聞いていましたよ。スマイラス将軍の動きは薫の部下が襲われた時点で疑っていました。」

 

「そこまで知っててあんな演説をしたっていうのか!」

 

「えぇ、どちらにせよ。ユーロピアの混乱は納めなければなりませんでした」

 

「利用されるのを分かって演説までして俺を泳がしていたのかよ…」

 

 薫はレイラにできる限りの情報を与えていた。クラウスの事もスマイラスの事も全て…。それを知っていた上でレイラはユーロピアの混乱を抑えるために言葉を放ったのだ。

 

「この城も秘密兵器も全部渡しちまいな。それがユーロ・ブリタニアの望みだ。」

 

「超長距離輸送機をユーロ・ブリタニアが手にすれば世界が戦火に包まれてしまいます」

 

「アンタがそんなに頑張っても変わらないよ。世界はそんなに優しくない」

 

 すでに世界中は戦火の火の海だ。超長距離輸送機が加わったぐらいでは大した差にはならないだろう。だがレイラはそれを許せるほど大人ではなかった。

 

「私は戦う、自由のために!」

 

「あぁやって焚き付ける奴は絶対に死なない。足元に屍を築き高き所の果実を掴み取る。確かに白蛇隊は強い、上手く使えば勝つ見込みもある。だがアイツらを上手く使える指揮官はここにはいない…」

 

 白蛇隊はあくまでも白蛇の部下だ。この城だけに命を賭けてくれるなんて思えない。彼女たちはあくまでも日本解放が目的なのだから。

 

「市民たちよ立ち上がれ!ブライスガウの護ろうとした明日のために戦え!」

 

「将軍はユーロピアの皇帝になろうとしてるんだよ。アンタは利用されたんだ…」

 

「……」

 

 クラウスの言葉に思わず涙を流すレイラ。

 

「泣くなレイラ…君に涙は似合わない…」

 

「え?」

 

 すると突然。見ていたテレビ画面が切り替わると仮面の女性が姿を表す。それはユーロピア全土においても同じであり、テレビを見ていた者たちは戸惑う。

 

「ユーロピアの諸君、お初にお目にかかる。俺は白蛇…真実をもたらす者である!」

 

「薫…」

 

「我々の英雄《レイラ・ブライスガウ》は生きている!」

 

 白蛇の言葉に思わずざわめく観衆。信用できないと言う声も上がるが本当なのかと信じたいと叫ぶ者たちもいた。

 

「現在、彼女はヴァイスボルフ城基地にてユーロ・ブリタニアと交戦。籠城戦にて必死の抵抗を見せている。だがスマイラスはこの事を隠そうとした。なぜか?それはスマイラスは彼女をジャンヌ・ダルクに仕立てようとしたからだ!」

 

「どこからの通信だ!どうなっている!」

 

「申し訳ありません、現在逆探知で追っています!」

 

「くそっ!」

 

 白蛇の演説に慌てるスマイラス。行政府は混乱しており彼は白蛇の演説を睨み付けることしかできない。

 

「救国の英雄を見捨て実権を握る。それがスマイラスの目的だ!騙されるな諸君、彼はブラドー・フォン・ブライスガウとクラウディア・ブライスガウ暗殺の首謀者だ!」

 

「なっ!」

 

 その内容に思わずレイラは言葉を失う。自身の両親を奪ったのがスマイラスだったとは思いもしなかった。

 

「騙されてはならない!確かに歴史とは英雄から始まるものだ。だがそれを紡ぎ、築き上げてきたのは我々のような民である!周囲との調和、共和。個ではなく郡としての力、歴史を積み上げてきたのは英雄ではない!英雄だけでは時代は作れない!踊らされるな!」

 

 あくまでも立派に話を進める白蛇の姿は多少なりともユーロピアの民に刺さる。それにわずかでも疑念が生まれれば独裁国家は誕生しない。

 

「為政者たちの言葉に騙され、踊らされてはならない!真の悪人はお前たちの目の前にいるのだ!スマイラスを許すな!」

 

 スマイラスの演説の時とは違い。静まり返る場、だがそれでいい。これでスマイラスの計画は潰れる。

 

「くそっ!奴等を見つけ出して始末しろ!」

 

「スマイラス将軍!」

 

「なんだ!」

 

「それが…」

 

「ジーン・スマイラス。監察官のバレットだ、40人委員会がお前を指名でお呼びだ。来てもらおう」

 

 特務の制服を羽織った軍団がスマイラスを取り囲む。先頭に立つ若い女性特務を睨み付けるが押さえ付けられ身動きが取れない。

 

「くっ…もう人質の必要はない!」

 

「はっ!」

 

 スマイラスはそう叫ぶと特務に連行されていく。それと同時に彼の副官がその場から立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

「了解、では始末する…」

 

 スマイラスの邸宅。豪邸の中の警備室にいた将校はヴァイスボルフ城襲撃の指揮官だった男だった。彼はその知らせを受けると部下に命じて人質である純白の抹殺に向かわせる。

 

「純白!」

 

「あぅ!」

 

 それと同時に薫もスマイラスの豪邸の中にいた純白の所まで辿り着いていた。薫の姿を見つけた純白は嬉しそうに声をあげると彼女も純白をしっかりと抱き締める。

 

「もう安心だからな!」

 

「きさっ!」

 

 抱き締めていると後ろからスマイラスの私兵が現れる…が影に潜んでいた弥生が喉を切り裂き絶命させる。

 

「て、敵…」

 

「おっと!」

 

 その後ろにいた私兵は零子が拳銃で黙らせると一息つく。

 

「おい、まだ純白にヘッドホンつけてないから気を付けろ」

 

「あ、すいません!」

 

「よしよし、ちょっとこれで音楽聞いててねぇ」

 

 ここから先は銃撃戦になる。耳栓がわりにヘッドホンを着けると音量を最大にする。

 

「大丈夫?」

 

「あう!」

 

 大丈夫そうなのでそのまま脱出する。

 

「三人、別れて行こう。一気に殺到されると動けなくなる」

 

「「分かりました」」

 

「では無事でな」

 

 豪邸の中でもルートは大きく分けて三つのルートがあるそこに一人ずつ対処していかねば要所を固められて動けなくなってしまう。三人はそれぞれのルートを突き進むのだった。

 

ーー

 

 左手に取手のついたチャイルドシートにしっかりと純白を乗せると拳銃を右手に進む薫。ある程度進むと慌ただしく足音が聞こえ始める。確実にこっちに詰めてきていた。

 

「行くぞ。純白…」

 

 ドアが開け放たれた瞬間。拳銃のストックで相手のでこを何度も殴り倒すとすぐ後ろに居た兵を拘束して盾にしながら物陰に隠れる。すでに二人は痛みで動けなくなった。更に後ろに居た兵たちに牽制射を浴びせると向こうも慌てて隠れる。

 

「大丈夫?」

 

「あう?」

 

「よし」

 

 うずくまる二人に止めを刺すとさらに二人が詰めてくる。薄い壁越しに銃撃を浴びせるとそのまま飛び出して相手の顎に蹴りを入れると窓を破壊しながら兵が落ちていく。

 

「ここ四階だぞ…」

 

 向こうもしっかりと防弾装備を整えてきているのでなかなか倒せない。広い食堂にたどり着くと高そうな椅子を蹴り飛ばし一人を椅子の足を使って動けなくさせると出口からくる兵に撃ちまくる。

 

「弾切れ!?」

 

「今だ、行け!!」

 

 一気に来る兵たち、すると腰に吊るしてあるリボルバーを抜くと純白を机の下に隠すと撃ちまくる。リボルバーには弾芯の鉄を使ったフルメタルジャケット弾を装填してあるのでその弾丸は防弾装備を貫く。

 

「がぁ!!」

 

 どちらも弾切れを起こすとリボルバーをしまい。拳銃の銃身を持つとそれを使って殴り合う。灰皿や皿などを使って襲ってきた敵を黙らせる。

 

「はぁ…なんとか…」

 

 正直、クタクタな薫は静かになった食堂を見渡すとゆっくりと机の下からチャイルドシートを取り出す。

 

「しねぇぇぇ!」

 

「っ!?」

 

 拳銃の弾を装填した瞬間、背後から奇襲を受けて銃撃を浴びる薫。純白を守るために身を挺して背中に無数の弾丸を受ける。コートが防弾仕様とはいえ着弾の衝撃により激痛が背中に走る。12発の弾丸を耐えしのぐと敵の足に2発撃ちこみ、黙らせる。

 

「なんでお前たちは平気で子供に銃口を向けられるんだ…」

 

「ぐ、ぐぅ…」

 

 ブリタニアもユーロピアも変わらない。

 

「人間のクズめ…」

 

 そうすると薫は純白から見えない位置でその兵士を殴り殺すのだった。

 

ーー

 

「くそ、たった三人に制圧されるとは!」

 

「無様だな」

 

「お前は!」

 

 警備室から慌てて逃げ出そうとする青年将校の前に現れたのは零子。彼女は青年将校に撃たれた借りを返しに来たのだった。

 

「死んだh……」

 

「いい顔だが性格はいまいちだな」

 

 青年将校の脳天をぶち抜いた零子は静かにつぶやくとその場を後にするのだった。

 

「残念だが時間がない。すぐにヴァイスボルフ城に飛ぶぞ」

 

「「了解!」」

 

 



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最終章だと思った?残念、決戦でした

 

 

「シン・ヒュウガ・シャイングは捕捉した。それにスマイラスもこちらの手の内だ」

 

《流石は仕事が早いな…やはりギアスの縁を持つものは違うと言うことか…》

 

「スマイラスの処置はレイラに任せているがお前としては殺しておいた方が良いのか…時空の管理者?」

 

《我々を謀った男の末路は決まっている…》

 

「そうか…」

 

 時空の管理者と名乗る謎の女性。その存在と再びの会合を果たした薫は報告を済ませるとその場を後にする。時間が止まったかのような不思議な空間から抜け出すとホッと息をついた。

 

「結果的にだけど…これで俺の過去が知れる…」

 

 完全にひょうたんから駒状態だったが結果オーライとしておこう。

 

ーー

 

「れ、レイラ…」

 

 完全に拘束されたスマイラスは司令室で座っていたレイラの前に引きずり出された。

 

「スマイラス将軍…残念です。このような形で再会することになるなんて…」

 

「………」

 

 薫と二名の侍従隊の護衛の元。レイラはその表情にどの感情も乗せることなく言葉を放つ。

 

「ですが私は貴方を裁くつもりも断罪するつもりもありません。残念ながら父も母も過去であり。今、復讐しても帰ってこない」

 

「レイラ…」

 

「ただ全てが有耶無耶になる前にこうして会えたのは良かった」

 

「……」

 

 どんな罵声や拳が飛んでくるのではと警戒していたスマイラスはレイラのことを直視できずに目を背ける。彼女に対しての言い訳も償いの言葉ももはや意味を成さない。

 

「成長したなレイラ」

 

「えぇ、そうあれと貴方に育てられました」

 

「私は今でも私の理想を間違いとは思っていない。ユーロピアは変わらねば滅びる。かつての日本のようにユーロピア国民たちも番号で呼ばれてしまう時が来る」

 

 そう言うとスマイラスは薫を睨み付ける。

 

「私は単に地位が欲しかったわけではない!」

 

「悪いがユーロピアの事なんて俺たちはどうでもいい。体制が変わろうが滅びようがな…」

 

「ならなぜ邪魔をした!」

 

「喧嘩を売ったのはそっちだ」

 

 子供の理屈だと理解はしているつもりだ。一時の感情に突き動かされたのも否定できない。だがそれでは周囲が許してくれなかった。

 

(俺だってこんなに派手に動きたくなかったさ…)

 

 子供を奪われ部下を撃たれて黙っているのは白蛇ではない。そんな白蛇ではいけないのだ。ゼロを失った今、ゼロに変わる求心力が必要とされる。残念ながらそれが現時点ではその存在が自分しかいないという事実を知らないわけじゃない。

 

(例え…中身が伴っていなかろうと。お飾りの象徴でもルルーシュが積み上げてきた物を壊すわけにはいかない)

 

 薫としての感情や面子はいらない。白蛇としての教示とプライドを少しでも保たなければ組織が崩壊する。

 

 白蛇隊の主要戦力である侍従隊は薫にも忠誠を誓っている。だがその他は白蛇という名で繋がっている。それは白蛇隊でも全体の八割強に相当する。

 

「そちらの顔は立てた。だが俺の面子を潰されたのだ、当然の報いだ」(まぁ、ジェシカたちが、怒ったのはそっちの責任でもあるから…)

 

「貴様…ユーロピアが滅べばどうなるか分かっているのか!」

 

「知ったことかと言った!大丈夫だよ、ブリタニアは俺たちが滅ぼしてやる…それで文句ないだろ?」(い、いいよね?)

 

 笑みを浮かべながらそう言葉を発した彼女。それを見たスマイラスとレイラは息を飲む。まぁ、薫からしてみれば愛想笑い程度で考えていたのだが。彼女の表情筋は基本的に正常ではない。

 

「す、スマイラス将軍…取り合えず部屋を用意します。ミカエル騎士団との戦闘が終わるまでそこで待っていてください」

 

「あぁ…」

 

「では白蛇。行きましょう」

 

「そうだな」

 

 こほんと仕切り直したレイラはそう言うと部屋を後にする。

 

「本当に良かったのか?」

 

「えぇ、スマイラス将軍の理想は私も共感していました。それに人は変われますから…」

 

「そうか…」

 

ーー

 

 スマイラスとレイラの会合を済ませた薫は白蛇隊が集結している部屋に向かい部屋に入る。すると白蛇隊の主要メンバーたちが揃い彼女の到着を待っていた。

 

「遅くなった。すまない」

 

「いえ…大丈夫です」

 

 白蛇隊のみの作戦会議室、レイラたちと共同で行わなかった理由。それは行われる作戦内容が全く違い、そしてレイラたちとは関係ないからであった。

 

「ユーロ・ブリタニアの全権は敵の総大将であるシン・ヒュウガ・シャイングが握っているらしい。つまり現在ユーロ・ブリタニアは内政、軍事的にシン・ヒュウガ・シャイングに依存しているということだ」

 

 ユーロピアもそうだが現時点においてはユーロ・ブリタニアも内政を含め混乱。つまりどちらの国もすでに国としての力を著しく失っている状態である。

 

「シン・ヒュウガ・シャイングがこちらにいることはレイラたちにより確認された。つまり現在、ユーロ・ブリタニアは指導者不在状態だ。ならばその混乱している隙をつき我々、白蛇隊は作戦に移行する」

 

 もちろん、レイラたちを助けたい気持ちはある。だが本音はもっと先、自分達にはやらねばならないことがある。

 

「我々はブリタニアに囚われたゼロの奪還作戦を敢行する!」

 

「ゼロ?」

 

「まさかユーロ・ブリタニアに?」

 

 薫の言葉に騒然とするバレットたち。ブリタニアのスパイとして働いていたクラウスによるとブリタニア本国から来た軍師がユーロピアに対してあの作戦を展開したらしい。

 

(アイツは間違いなくルルーシュだ…)

 

 あの作戦の内容に加えて顔も出されれば嫌でも分かる。それにあの眼帯はギアスの暴走を抑えるために使っているのだとしたら100%確定だ。

 

(なんであいつがブリタニアに加担してるかしらんけど…)

 

「目標はユーロ・ブリタニアの首都サンクトペテルブルクだ!」

 

 アポロンの馬車の爆破作業は完了している。現在はシャトルの発射ボタンが起爆ボタンが連動するようにプログラミングされているために安全だ。

 

(ユーロ・ブリタニアの混乱で本国が介入してくるのは目に見えてる…その前に迅速に遂行しなければ…)

 

「ユーロピア軍は内政の混乱を突かれないためににユーロ・ブリタニアとの国境付近に大部隊を派遣している。それに応じてユーロ・ブリタニアも大部隊を国境に展開中だ」

 

 お互いが戦闘が始まるのを恐れて牽制のために大部隊を展開している。つまりそれさえ越えれば中はがら空きと言うことになる。

 つまりフロートユニット装備のナイトメア部隊による強襲作戦は可能だ。

 

「ユーロピア全てを囮にして我々はゼロ奪還に向かう。総員、こころしてかかれ!」

 

「「了解!」」

 

ーーーー

 

「殿下、枢木卿との定時連絡が来ません。おそらくユーロ・ブリタニアに拘束されたのではないかと」

 

「うむ、彼の護衛対象はインペリアルセクターを持っているんだったかな、カノン?」

 

「はい、間違いありません」

 

 ハワイ、ブリタニアの太平洋艦隊が駐屯している基地には航空浮遊艦である《アヴァロン》とグリンダ騎士団旗艦《グランベリー》を含むカールレオン級浮遊航空艦4隻が発進体勢で待機していた。

 

「悪いねロイド。また連れ出してしまって」

 

「良いんですよ殿下~。ランスロットのことも気になるしね!」

 

 インペリアルセクターは皇帝であるシャルルの代理という証。その護衛であるナイトオブラウンジとの連絡途絶。これは明確な本国への反逆行為だ。

 

「うん、頃合いだね。これよりユーロ・ブリタニア首都のサンクトペテルブルクに対して強制査察を行う。全艦発進」

 

 アヴァロンに座乗していたシュナイゼルの号令と共に航空浮遊艦隊が飛び立つのだった。

 

 

 



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サンクトペテルブルク奇襲作戦

 

「この地下通路を通れば出られるはずです。出口は爆破しないといけませんがナイトメアがあるなら大丈夫でしょう」

 

「すまないな、本当に世話になる」

 

「いえ、奇襲部隊以外の部隊がこちらの戦力になるだけでも大助かりですよ」

 

 サンクトペテルブルク奇襲作戦。その作戦前夜、白夜たちが立ち並ぶ地下通路ではレイラと薫が立っていた。

 

「すまない。本当は最後まで戦いたかったが…」

 

「いえ、そちらこそ気を付けてください」

 

 シン・ヒュウガ・シャイングが死ぬ前にサンクトペテルブルクを襲撃しなければならない。奴が生きているからこそのチャンスを無駄にしたくないのだ。

 

「再会できることを祈ります」

 

「あぁ、すまん」

 

 二人は静かに握手を交わすのだった。

 

ーーーー

 

「失態だね。これほどの事態となれば流石に隠しきれないよ」

 

「すべては私の不徳がなすところ。申し訳ありません宰相閣下」

 

 ユーロ・ブリタニア首都、サンクトペテルブルクの中枢。そこにはユーロ・ブリタニア宗主オーガスタ・ヘンリ・ハイランド、通称ヴェランス大公が目の前に座るシュナイゼルに対して頭を下げていた。

 

「責任は取って貰う。でもそれはこのユーロ・ブリタニアを建て直してからだよ」

 

「は?」

 

 本国による強制介入。それによってヴェランス大公も幽閉され本国に身を移されると思っていたが。

 

「ここを建て直すには君がいないと成立しないからね。ここはヴェランス大公…貴方の国なのだから」

 

「シュナイゼル殿下…分かりました。建て直しに全力で取り掛からせて頂きます」

 

「シュナイゼル殿下!」

 

 改めて深く頭を下げるヴェランス。それと同時に部屋に兵が慌てて入ってくる。

 

「何事です!」

 

「申し訳ありません!敵の奇襲です!」

 

「なに!?」

 

 シュナイゼルのそばに控えていたカノンはその言葉を危機思わず狼狽する。サンクトペテルブルク、ユーロ・ブリタニアの中枢に攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかったからだ。

 

ーー

 

「本国の艦隊に全部持っていかれるぞ」

 

「仕方ないだろ…こっちの騎士団はミカエル騎士団以外は壊滅。騎士団長のナイトメアは本国送りさ…」

 

 聖ガブリエル騎士団長のゴドフロア・ド・ヴィヨンと聖ウリエル騎士団長レーモンド・ド・サン・ジルはシンの聖ミカエル騎士団によって壊滅。その専用ナイトメアとして配属されていたナイトメアは本国に回収の運びとなっていた。

 

「まさかブリタニアの一角を担うサンクトペテルブルクがクーデターでここまでに堕ちるとは…」

 

「マリーベル様、10時方向より飛来する無数の物体あり!」

 

「っ!ブレイズルミナスを緊急展開!」

 

「イエス・ユア・ハイネス!」

 

 マリーベルが黄昏ていたその時、空港に停泊していたグランベリーたちにミサイルの雨が降り注ぐ。対応しきれなかったカールレオン級二隻が爆炎を上げながら滑走路に横転する。

 

「《クラウム》《ベイカー》大破横転。炎上中!」

 

「《ラディウム》中破。しかしエンジンをやられました!」

 

「警戒中の部隊が《ベイカー》の下敷きに!」

 

 被害報告を上げるオペレーターたちを見て歯噛みするマリーベル。

 

「姫様!」

 

「すぐにオズたちを出して!」

 

ーー

 

「敵の奇襲です。まさかこんなところで…」

 

「ランスロットはまだ来ないの?」

 

「現在、拘束を解除中。まだ時間がかかります」

 

 突然の奇襲に混乱しているのはアヴァロンも同じであった。最低限の物しか積み込んでいなかったアヴァロンは敵に攻撃されれば成す術もなくやられてしまう。

 

「ここはマリーベル殿下に任せるしかないようだね…セシル君?」

 

「私も出ます。ナイトメアは積み込んでありますから!」

 

「セシル君、無茶はしないようにね」

 

「分かっています」

 

ーー

 

「くそっ、半分しか潰せなかった!」

 

「アヴァロンと赤い船が残ってる。あれは本国の部隊だ」

 

 奇襲部隊の第一派。零子をリーダーとする白夜5機は両肩に積まれていた空のミサイルポッドを破棄すると爆煙で混乱する空港を通りすぎる。

 

「私と2機の3機でここのナイトメアを抑える。二人は市街地の陽動を!」

 

「「了解!」」

 

「フロートシステムが無い敵なんて鴨撃ちだけどね!」

 

 緊急出動するサザーランドたちだが遥か上空にから狙撃してくる白夜たちに対して一方的にやられてしまう。そんなサザーランドの爆発を目隠しにしてこちらに高速で迫ってくるナイトメア。

 

「これ以上はやらせない!」

 

「赤いナイトメア、フロートシステムを!?」

 

 迫ってくるブラッドフォードのデュアルアームズを背部武装ラックに納めていた刀を抜刀しながら応戦。白夜の刀とブラッドフォードのタングステン鋼ブレードがぶつかり合う。

 

「厄介な!」

 

「まさかテロリストがフロートシステムを持っているなんて!」

 

「零子!…っ!」

 

「いかせないよ」

 

 援護に向かおうとした白夜を遮ったのはゼットランドのハドロンランチャー。

 

「くそっ!」

 

「二人は砲撃機を!こいつは私が仕止める!」

 

「わかった!」

 

 二手に別れる三人。零子はブラッドフォードに他の2機はゼットランドに迫る。

 

「ハドロン砲を知っている?」

 

 ゼットランドのパイロットのティンクはハドロン砲を悠々と避ける2機に対して焦りを感じていた。

 

「懐に入れば!」

 

「させないわよ!」

 

「ら、ランスロット!?」

 

 ゼットランドに迫る白夜を抑えるのは赤いランスロット。ランスロット・グレイルはソードブレイザーで斬りかかり一機を押し止める。

 

「奇襲を防がれた!?こいつが隊長クラスか!」

 

ーーーー

 

「サンクトペテルブルクの防衛基地に襲撃です」

 

「グリンダ騎士団も迎撃に出ています」

 

「一部地域では強力なジャミングも確認されています」

 

 カエサル大宮殿の作戦司令室。そこには各所からの報告が上がりそれをシュナイゼルは静かに吟味していた。

 

「不自然だね」

 

「はい、このサンクトペテルブルクを襲うには数が少なすぎます」

 

「効率よく少数で要所を抑えてるが…なにが目的かな?」

 

 それが既に陽動だと分かっていたが理解しがたい。向こうの目的が皆目、検討がつかないのだ。

 

「騎士団長のナイトメアかと思ったのですがそんな気配はありません」

 

「だとすると…私の命かな?」

 

「可能性は十分かと」

 

 そんな会話をしている足元。サンクトペテルブルク郊外にある聖ミカエル騎士団の基地に薫たちは忍び込んでいた。

 

「本当にここでしょうか?」

 

「分からない。俺がシンならまず行動を移す前に…ゼロを潰す。ならこの基地に捕まっている可能性は高い」

 

 真っ先にこの基地の通信設備を潰してサンクトペテルブルク都市部を無線で溢れさせる。そうなればこちらから目を離しやすいと思ったのだが。

 

「思ったより人が多い!」

 

「ですね!」

 

 予想以上に基地内に人が多いのだ。しかも本国の制服を着た人間が。

 

(なにかあるな…)

 

「白蛇さま!」

 

「なんだ…っ!」

 

 先行していたエストの言葉に閉ざされた格納庫を見るとそこには拘束されたランスロットの姿があった。

 

(本物じゃねぇか!)

 

 正真正銘。本物のランスロット、スザクが乗っていた白と金色のナイトメア。

 

(これは早くしないとえらいことになるな…)

 

「薫!」

 

「っ!?」

 

 暗い格納庫。そこに響き渡る声、それと同時に回転しながら蹴りを放ってくるスザクがいた。その蹴りは見事に当たり薫を蹴り飛ばす。

 

「スザク!?」

 

「なぜここにいる!?」

 

「お前こそ、ルルーシュになにをしたんだ!ナナリーにも!」

 

 ナナリー。その言葉を聞いたスザクが動揺する、その隙を見て薫は思いっきり彼の顔を殴り飛ばす。

 

「白蛇さま!?」

 

「ルルーシュを売って、ナナリーを傀儡にして楽しいか!」

 

「アイツはユフィを殺した!」

 

「アイツは日本人を虐殺した!」

 

 もみくちゃになって殴りあう二人を見て慌てるジェシカやエストたち。それでも二人は殴りあいをやめない。というより一方的に薫がスザクを殴っていた。

 

「薫だって分かっている筈だ。あの事件の真実を!」

 

「だからなんだ!そんな権限があのピンクにあったのか!」

 

「きっかけを作ったのはルルーシュだ!」

 

「殺ったのはブリタニアそのものだ!あいつらは俺たちを人間なんて思ってないんだ!だからあんなことが出来るんだ!」

 

「それは…」

 

「お前がナイトオブワンになれるわけないだろ!」

 

 大かぶりの一撃、それをスザクはまともに顔面に受けて倒れる。途中から殴らなくなったのは分かっていたがそう言うところが逆に腹が立つ。

 

(お前ならなれる実力があるさ…)

 

 でもナイトオブワンはそんなものじゃない。今のブリタニアの体制を変えない限りスザクは永遠にナイトオブワンになることはない。

 

「行くぞ…」

 

「は、はい!」

 

 地面に伏せているスザクを横目にさらに奥へと進む。

 

「居た…」

 

 近未来のような真っ暗な空間に納められた人物。その素顔は間違いなくルルーシュであった。

 

「ルルーシュ…」

 

 よく分からない感情が押し寄せ薫は静かに手を伸ばすのだった。

 

 

 



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再会


この話の後は他キャラの話を二、三話書いてアンケートの外伝を書いて二期に突入します。
外伝はとりあえずC.C編を書きます。






「それ以上は許しませんよ…」

 

「っ!お前は…」

 

「お久しぶりですね。神根島以来といえば良いでしょうか?」

 

 ミカエル騎士団の地下牢に待ち構えたのは黒い神官のような人間二人と童顔の少年。中央に立つ少年とは薫は面識があった。

 

「あぁ…あのギアス使いか」

 

 腰にあるリボルバーを手にする薫。すると少年の脇に立っていた神官たちも拳銃を構える。

 

「驚きましたよ。まさかギアスが効かない人間がいるなんて…"あの人"も大変興味を持っていましたよ」

 

「出来れば放っておいて欲しいがな」

 

「貴方はCCと同等。いや、それ以上の価値があると言われていましたから。殺しはしません」

 

「生け捕りか…それは嫌だね」

 

 なんかやばそうな人間に目をつけられたっぽいけど現在、世界指名手配中のテロリストだ。日の当たる生活が出来るなんてもう思ってない。

 

「では早速…」

 

ウー!ウー!

 

「ちっ…」

 

 少年がギアスを発動させようとした瞬間。基地内に警報が鳴り響く。流石に長居をしすぎてしまった。こうなったらブリタニア軍が大勢迫ってくる。

 

「ルルーシュ!」

 

「それはさせません」

 

 檻に近づこうとすれば少年が邪魔してくる。だが向こうも正規兵にあまり見られたくない様子だった。お互いにここにはいられない状況、檻の中のルルーシュは座ったまま動かない。

 

「くそっ!」

 

 お互いに退くしかない。ここまで派手にやっておいて成果無しなのはキツいが全滅するよりマシだ。

 

「くそがぁ!」

 

ーーーー

 

「この!」

 

「これは…エリア11の!?」

 

 ゼットランドに迫った零子は左手をハドロンランチャーに添えると内蔵兵器を起動させる。巨大なハドロンランチャーは熱膨張で膨れ上がり爆発する。

 

「どうだ、内蔵型輻射波動の威力は!」

 

 輻射波動を放った左腕からは蒸気が吹き出しカートリッジが吐き出される。

 

《左腕オーバーヒート。強制冷却開始、再起動まで300秒》

 

「このバカ!奥の手使ってどうするの!?」

 

「おかげで左手が動かなくなってしまった」

 

「あれほどクリミアさんに注意されてたでしょ!」

 

 武器を失ったゼットランドは不利を悟って退避するが左足の間接を狙撃されてその場でひれ伏す。

 

「まったく~とどめはちゃんと刺さないと」

 

 空港の倉庫を陣取っていた柏木のサザーランドによる狙撃。それによりゼットランドは行動不能にされる。

 

「他の部隊も空港に集結しつつあるから気を抜かないでね」

 

 グリンダ騎士団、フロート搭載ナイトメアに長距離射程のナイトメア。奇襲攻撃の撤退時に障害となり得る部隊、だからこそ迅速に仕止めるために部隊が集まりつつある。

 それに対してブリタニア軍も部隊の統制がとれつつある。長居は無用だ。

 

「柏木、二時の方向!」

 

「え?」

 

 長距離からの攻撃により持っていたヴァリスと左腕を破壊されるサザーランド。その先には真っ白な機体、先行試作型のヴィンセントがヴァリスを構えていた。

 

「アヴァロンのナイトメア!」

 

 柏木は機体のハッチを開いてそのままサザーランドから飛び出す。その瞬間、サザーランドが撃ち抜かれ爆発する。

 

「柏木!」

 

「またランスロットタイプか!?」

 

「いや、頭部の形状が違う!」

 

 ヴィンセントはサザーランドを撃破するとそのまま猛スピードで零子たち白夜に突っ込んでくる。

 

「早い!」

 

「気圧されてる…それでは死ぬ…」

 

「や、弥生…」

 

 全身にナイフを装備した白夜はヴィンセントのSMVSを受け止めると蹴りを入れる。

 

「…防がれた」

 

「危なかった、間髪入れずに蹴りなんて」

 

 弥生の蹴りをブレイズルミナスを展開した左腕で受け止めたセシルは襲ってきた衝撃に顔を歪める。即座にヴァリスを撃つが射線から弥生は退避しており、弾は空を切る。

 

「速めに殺る…」

 

 すると弥生の白夜の腕から三連ガトリングがせり出し掃射を開始する。それをブレイズルミナスで防ぐセシル。だが毎分1000を超える弾丸をバラ撒くガトリングの集中攻撃を受けて動きを押さえられる。

 

「やらせないわよ!」

 

 そんな弥生に迫るランスロット・グレイルだが他の白夜に阻まれて動きを制限される。

 

「くっ!」

 

ーーーー

 

「くそっ!ジェシカ、撤退信号だ」

 

「了解しました」

 

 なんとか清白に乗り込んだ薫は頭部のバルカン砲でブリタニアの歩兵をミンチに変えると飛び立つ。同時にジェシカの放った信号弾が空に輝く。

 

「合流ポイントに集結急げ。ドダイで脱出するぞ」

 

「待ってくれ!」

 

 脱出しようとした瞬間。基地から飛び出して来たランスロットがMVSを構えながら突っ込んでくる。

 

「邪魔するな、スザク!」

 

「もう一度、話を!」

 

 薫は両腕のチェーンソーを起動させランスロットのMVSを受け止める。すると力任せに押し返してランスロットを地面に叩きつける。

 

「なんてパワーだ!」

 

「雑魚は引っ込んでろ!」

 

 ランスロットに追随してきたサザーランドに向けて指ハーケンを射出。コックピットを潰したサザーランドごと他のサザーランドを壁にぶつけて潰す。

 

「僕はナナリーを売ったつもりはない!」

 

「じゃあ、なんでブリタニアにいるんだ!」

 

 ランスロットが起き上がった瞬間、蹴り上げられる清白。倍はあるであろう清白を蹴り上げたランスロットは回し蹴りで追撃。清白の巨体は地面に倒れる。

 

「それは…っ!」

 

 清白は倒れた直後に頭部バルカン砲を撃ちスラスターを吹かし間合いを取るとそのまま飛び立つ。

 

「お前の相手をしてられるほど強くないんでね!」

 

「白蛇様を援護!」

 

 空から降り注ぐ攻撃にランスロットは足を止めて防御に徹する。フロートシステムを持たないランスロットにとってこの攻撃の中では追撃は不可能だった。

 

ーー

 

「弥生、そいつを振りきれるか?」

 

「可能、念には念を…」

 

 弥生は白夜の巨体を生かしたタックルでセシルを吹き飛ばすとそのままナイフを投擲。左足を破壊するとそのまま離脱行動に入る。

 

「零子、柏木を回収しろ」

 

「了解!」

 

「チャフスモーク弾、発射!」

 

 物理的、電子的な視界を奪うチャフスモークをバラ撒いて撤退する白蛇隊。

 

「レオン、合体よ」

 

「待ちなさいオズ」

 

「なぜ、フロートシステムを保有しているテロリストをほっておけって言うの?」

 

「味方の被害が大きい。オルドリン、貴様もレオンの機体もエナジーが少ない。諦めろ」

 

「…シュバルツァー将軍」

 

 本国から連れてきた部隊が壊滅したブリタニア本国隊。いまだにユーロ・ブリタニアと情報を共有していない現在。保有戦力で敵の追撃は極めて困難であった。

 

 

 

 

 




執筆中の小説が何故か消えるバグ?に襲われること4、5回。ツギハギだらけなので誤字などあるかもしれません。(こっちでも確認しておりますが)すいません。
いったい、なんなんでしょうね?



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幻の外伝(C.C編)

 先に出来たのでC.C√です。一期の最後らへんをダイジェスト風です。

 C.C編の薫の設定

 顔の左側に大きな火傷の痕を残した少女。左目は失明し光を失っている。人工皮膚を移植しているが日ごとに張り替えなければならない、なので普段人工皮膚の有無に限らず顔の左側は普段は髪の毛で隠している。
 綺麗な黒髪を持っているがブリタニア人とのハーフ。

C.Cからギアスを貰ったが能力は《絶対遵守》ではなく《完全偽装》
 ギアス発動時、薫は他人に自分とは違う人間だと認識させる。(つまり変装)彼女のルルーシュの代わりとなると言う願いが発現した結果、発動したギアス。




「全く、お前はバカだな」

 

「返す言葉もございません」

 

 行政特区日本におけるゼロに対する襲撃事件。それを景気に日本はブリタニアの支配に対して完全に半期を翻し決起した。後の《ブラックリベリオン》である。

 その中心人物であるゼロこと佐脇薫は旗艦であるG-1ベースにて休養を取っていた。

 

 

「いくら防弾チョッキを来ていたとはいえあれだけ銃弾を浴びれば死んでいたぞ。よく死ななかったものだ」

 

「正直、あれだけ撃たれるなんて思ってもなかった」

 

「バカめ」

 

「はい…」

 

 指揮官であるゼロの部屋の中。そのソファでは膝枕をされた薫がC.Cに優しく撫でられていた。

 

「そう言う役目は私がすれば良いんだ。私は死なないからな」

 

「でも痛いだろ?そんなことさせられないよ」

 

「………」

 

「痛っ!?」

 

 静かに小突かれた薫は小さな悲鳴を上げる。

 

 行政特区日本政策。これはユーフェミアがスザクの事を思い立案した政策だったがそれは薫の作り上げた黒の騎士団を追い込む行為だった。

 

「ブリタニアの警備無線に偽装情報を流して混乱させゼロを民衆の前で撃たせる。これで日本は決起する…素晴らしく上手く行ったな」

 

「ユーフェミアがゼロに撃たれたなんて信じるからこうなるのさ。おかげでシナリオ通りに事を進められる」

 

 ルルーシュならどうしただろうと思うが今さら言っても仕方がない。もう黒の騎士団は俺の組織だ、C.Cもルルーシュとは接触していないしこれで完全にストーリーは変わっているはず。

 

「なぜお前はそこまでやる?お前個人はルルーシュたちとは関係ないだろう?」

 

「だろうな。最悪、他人さ…でもナナリーとルルーシュが自然に笑っていられるのって幸せじゃないかなっと思っただけさ」

 

 薫の事情をすべて知っているC.Cにとっては彼女の行動には疑問を覚えてしまう。赤の他人にこれほどまで命を賭けられるのはこいつぐらいだろう。

 

「私は他人のために全てを捧げるといった人間を信用しない…」

 

「普通しないさ。俺でも自分が理解できないからな」

 

「だがお前が言うと不思議と納得してしまうのは何故だろうな…」

 

「C.Cってそんなキャラだったけ…イテッ!」

 

ーー

 

「ゼロぉぉ!」

 

「スザク、ここまで来ても邪魔するか!」

 

 ブラックリベリオンも佳境に入ろうとした時。怒り狂ったスザクの刃が薫のガウェインに迫る。

 

「なぜユフィを殺した!」

 

「………」

 

「このぉぉ!」

 

 ブリタニアサイドの中でゼロの正体を唯一知っていたユーフェミアの存在は薫、いやその繋がりであるルルーシュに危害が及ぶ可能性がある。

 

(殺すしかなかったんだよ…)

 

 現状はランスロットとガウェインの一騎討ち。どちらもフロートシステムを装備している最新鋭機体だが実験的な意味合いが強いガウェインと実践的な意味合いが強いランスロット。両者の戦闘能力はパイロットの技量含めて薫が不利であった。

 

「C.C、12ストリートに出ろ!」

 

「お前、私の扱いが雑になってないか!」

 

「ランスロットのフロートさえ破壊できればカレンに任せられる!」

 

 現状、スザクに対抗できるのはカレンの紅蓮だけだ。

 

「ハドロン砲を囮にしてスラッシュハーケンで叩き落とす!」

 

 接近してくるランスロットを振り向き様のハドロンで牽制だがスザクはハドロンの隙間から接近してくる。

 さらに指ハーケンで狙うがMSVで叩き落とされる。

 

「逃げ道を塞いでも無理とかふざけるな!」

 

「回避するぞ!」

 

 スザクの攻撃をなんとか避けるが右のハドロン砲の砲身カバーが破壊される。

 

「砲は無事だ!」

 

 続けざまにハドロン砲を放つがそれは牽制、本命は倒れるビル。

 

「王手だ、スザク」

 

「くそっ、ゼロぉぉ!」

 

 降り注ぐ瓦礫は流石にスザクでも避けられずにフロートユニットに被弾、墜落する。

 

「よし、カレンを呼べ。俺たちはカレンの後方支援に徹する!」

 

「っ!しまった、ルルーシュとナナリーが」

 

「どうした?」

 

「連れていかれた…」

 

 スザクを落としたことでひと安心した薫だったがC.Cの言葉で頭が真っ白になる。

 

「どこに?」

 

「神根島だ」

 

「忌々しい場所に」

 

  どうする。ここでルルーシュとナナリーの救出に行かなければ二人がブリタニアに連れ去られる。だがゼロである俺がこの場を離れれば戦線が崩壊する。

 だからと言ってブリタニア人である二人を黒の騎士団たちに助けさせる訳にはいかない。

 

「C.C。コーネリアに俺が神根島に逃げたとリーク出来るか?」

 

「無線を流せば可能だろう。まさか」

 

「ユーフェミアを殺したゼロをコーネリアはなんとしても殺したい筈だ。必ず釣れる」

 

「無茶だ。ルルーシュたちを助けても囲まれるぞ」

 

「スピード勝負だな」

 

「全く…お前は言ったら聞かないのは直らないな!」

 

「すまん」

 

ーーーー

 

 神根島上空。そこではガウェインとフロートユニットを装着したコーネリアのグロースターが交戦していた。

 

「ユフィの仇いぃぃぃ!」

 

「まさかフロートユニットで来るとは!?」

 

「ハドロン砲もあと一発しか!」

 

 怒髪昇天と言わんばかりのコーネリアの気迫に追い詰められる。長距離移動とランスロットとの戦闘でのエナジー消費にガウェインのエナジーは底を尽きかけていた。

 

「俺が足止めする。お前はルルーシュを助けられるか?」

 

「私がか?」

 

「お前ぐらいにしか頼めない!」

 

 指ハーケンで牽制しつつも時間を稼ぐ。だがコーネリアは復讐の鬼と化していた。その動きは苛烈で殺意に満ちていた。

 

「……いや、私が相手をする」

 

「C.C!?」

 

「お前はもう少し私を上手く使う事を覚えるんだな」

 

「……」

 

「分かっているだろ?ここは私がガウェインを預かる」

 

「すまん…」

 

「…それでいいんだ」

 

 C.Cの呟きと共にガウェインのハドロンが海を蒸発させ周囲に水蒸気を発生させる。

 

「おのれ、卑怯者め!」

 

「勝てよ薫。ここまで来れたのはお前の力だ。それを自覚しろよ」

 

 C.Cに優しく抱きつかれそれを受け止める薫。二人は静かに離れるとガウェインを神根島に降ろす。

 

「キスはしてくれないんだな」

 

「帰ってきたらもっと先まで世話してやる」

 

「それは遠慮します」

 

「おや、お前は喜んでいたじゃないか♪」

 

「別れ際にする話じゃないよね!?」

 

 緊張があるのかないのか分からないがお互いに笑みを浮かべて向かい合う。そうしているうちにガウェインから薫が降り、仮面を着ける。

 

「じゃあ、またな」

 

「あぁ…」

 

ーー

 

「早く君を逮捕すべきだったよ」

 

「気づいていたのか?」

 

「最初はルルーシュじゃないかって思ってたけどね。君はこんな事をするなんてね薫。君は僕だけじゃない、ルルーシュやナナリーにも嘘をついたんだよ」

 

 仮面が砕かれ薫の悲壮な顔が露になる。顔の火傷の痕は醜くそして恐怖すら感じさせれるものだった。

 

「あぁ、だがその二人が拐われた。恐らく、ブリタニアによって」

 

「なに?」

 

「この際だ、手を貸してくれスザク。二人を助けられるのはもう俺たちしかいないんだ」

 

「甘えるな。その前に手を組むべきはユフィだった。あんな、騙し討ちみたいな事をして!」

 

「手を組んでなにになる?ブリタニアの支配であることは変わらない!今までさんざん虐殺しておいて何が和平だ!上から目線の慈悲なんていらない!」

 

「ユフィは本当に日本人の事を考えて!」

 

「知ったことか!どれだけ取り繕おうが所詮は上からの嘲笑でしかない。与えると言う発想自体が傲慢であると知れ!」

 

 ユーフェミアがどれだけの聖女であろうとこっちからしてみれば敵だ。

 

「どけスザク。邪魔するならお前を倒してでもルルーシュとナナリーを助ける!」

 

「お前には無理だ!力でしか道を作れないお前には!」

 

「スザク!」

 

「カオル!」

 

 



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ジルクスタン攻防戦 前編


かなり遅くなりました。申し訳ありません




 

「ジルクスタン王国か」

 

「えぇ、何度も傭兵として我が軍と衝突を繰り返しながらも異常な生還率を誇る傭兵国家」

 

「だが国土は砂漠と荒野に包まれた死の国。それに加えエリア11とは違って資源にも乏しい国家だ。大軍勢を使って落とすような国じゃないけどな」

 

 ジルクスタン王国の国境線付近。そこに展開していたジルクスタン王国進行軍。その旗艦である青いカールレオン級浮遊航空艦《グレイヴ》。それはナイトオブ13であるシュンに与えられた船であった。

 

「でもあの軍事力は驚異よ。増長する前に叩き潰さなければならないわ」

 

「相変わらず生真面目でよろしいこと」

 

「バカにしてるの!?」

 

「いや、そんなことはないけどな」

 

 プリプリするモニカの言葉を流しながらシュンは以前の事を思い出す。

 

ーー

 

「バトレーから聞いた話なんだけどね。我が国の侵攻計画が遺跡に沿って行われているのではないかと言う話だ」

 

「失礼ながらそれを俺にしてどうするんです?シュナイゼル殿下?」

 

 ペンドラゴン、そのシュナイゼルの執務室で紅茶を嗜んでいたシュンに話を振ったのはその部屋の主であった。

 

「いや、父君は最近になって内政や軍事はほとんど任せて籠りがちになっているから心配でね」

 

「皇帝陛下にはもう政治を行えるような状態ではないと?」

 

 声のトーンを落として質問を投げ掛けるシュン。それを聞いたカノンは冷や汗を流すがシュナイゼル本人は特に気にした様子もなく微笑みを浮かべる。

 

「そんな事はないさ、ただ心配しているだけだよ。息子としてね」

 

「えぇ、いかにナイトオブラウンズでも親子関係までは口出しできませんからね、その世間話はお答えしきれません」

 

「そうだね」

 

 シュナイゼルの逆心を唆せるような言葉を受け流したシュンは紅茶を飲み干して立ち上がると扉のノブに手を掛ける。

 

「シュナイゼル殿下」

 

「なんだい?」

 

「自分は個人に忠誠は誓っておりませんので…」

 

 そう言ってその場を後にするシュン。それを見届けたシュナイゼルは静かに微笑むだけだった。

 

ーー

 

(もしこの国にもギアスに関わる物があるとしたら…俺の原作知識が機能しない可能性もあるな)

 

 シュンの目的はあくまでも穏便だ。原作に携わりながらも原作の流れを変えさせないと言うのが彼の目的である。

 

(あれがベストの筈だしな…)

 

 残念ながらシュンの頭には死にそうな人間を助けながら原作の流れを変えさせない名案などは浮かばない。彼は意図せずに転生してしまったのだ。なにか目的があって来たわけではない。

 

「とにかく、これだけの大規模作戦の指揮を執るんだからしっかりしてよ!」

 

「分かったよ」

 

 モニカの声に意識を戻したシュンは目の前に広がる砂漠を眺めながら静かにするのだった。

 

ーー

 

《各隊、配置に着きました》

 

《よし、作戦開始!》

 

 モニカの号令と共に進撃するナイトメア隊。サンドボードを装備したサザーランドたちが国境線を越えて進撃を開始する。すでに宣戦布告を行っており迎撃のためのジルクスタン軍と早速戦闘を開始する。

 

「敵KMFのゲド・バッカを確認しました!」

 

「射程ではこちらが劣る。丘陵を利用して接近しなさい!」

 

 ジルクスタン王国のKMF《ゲド・バッカ》は砲撃に特化したタイプのKWFだ。故に射程ではサザーランドに勝るが総合的な性能ではサザーランドの方がやや有利であった。

 

「数ではこちらが勝る。確実に接近するんだ!」

 

 砂漠は遮蔽物がないが地の高低差が激しい自然環境だ。それは天然の塹壕と化し砲撃を妨げる。砂漠という自然環境において戦闘は中距離から近距離の接近戦にもつれ込むのだ。

 

「敵地点、確認!」

 

「詳細なデータを送れ!」

 

 頭部が肥大化した電子戦仕様のサザーランドアイが敵部隊を探知。後方部隊に座標を転送する。

 

「着弾………いま!」

 

 サザーランドアイの報告と同時に前面に展開していたゲド・バッカたちが巨大な爆発に巻き込まれ空を舞う。中心部にいた部隊は木っ端微塵になっただろう。

 

「弾着!」

 

 協力な支援砲撃で蹂躙した後にナイトメア隊で残存戦力を殲滅するのがブリタニアの基本戦法だ。ここからかなり後方には超長距離射程の列車砲が数両鎮座しており前線からの指示で砲撃を行っていた。

 

「各隊前進しろ!」

 

「「イエス・マイ・ロード!」」

 

 陣形を破壊されたゲド・バッカ隊は襲いかかるサザーランドたちになす術もなく破壊されていく。

 

「まず第一戦は完勝ね」

 

「あぁ…」

 

 流石に超長距離射程を誇る列車砲による攻撃は手の着けようがない。敵は一方的に蹂躙されるだろう。

 

「列車砲の最大射程はジルクスタン都市部のすぐ手前まである。都市部制圧まではどれだけ戦力を温存できるかが肝だな」

 

「そうね」

 

 前面に展開していた部隊を殲滅したブリタニア軍は戦線を押し上げさらに深く侵攻する。モニカはシャルル皇帝の親衛隊を預かるほどの実力者だ。指揮能力はビスマルクを除けば他のナイトオブラウンズにくらべ頭一つ飛び抜けていた。

 

ーー

 

 そしてブリタニア侵攻軍は順調に進軍を進めジルクシスタンの最終防衛ラインまで到達していた。

 

「嫌ね…戦力差を考えれば妥当な過程…でも怖いわ」

 

「あぁ、同感だ」

 

 ブリタニア軍の侵攻作戦は多少の苦戦はあったものの全て成し遂げてきた。もしものためにナイトオブラウンズが後方で控えている。何が起きても万全の態勢、それは誰が見ても明らかだった。

 

「最終弾着……いま!」

 

 観測機であるサザーランド・アイの言葉と共にジルクスタンの最終防衛線を粉砕するための超長距離砲撃が着弾する。

 

「な、なんだ!?」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 敵の最終防衛ラインを吹き飛ばすはずだった攻撃はブリタニア軍の本隊に襲いかかり密集していた部隊が根こそぎ吹き飛ばされた。

 

「なにが起きているの!?」

 

「分かりません、長距離砲撃部隊がこちらを攻撃して!?」

 

 モニカの怒号に慌てるオペレーター。

 

「グレイヴ上方にシールド展開。砲撃の直撃を避けろ!」

 

「砲弾、艦に向けて飛来しています!」

 

「展開急げ!」

 

 シュンの言葉と共にグレイヴに長距離砲弾が直撃するのだった。

 

 

 

 



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ジルクスタン攻防戦 後編


 あまりにも忙しくてかなり遅れてしまいました。申し訳ありません、今回ばかりはかなり短めで終わりますが次回からはついに、二期に突入します!

 どうぞ暖かい目で見守っていただけると幸いです。


 

「艦上方に直撃弾!」

 

「なんとか防げましたが機関出力低下!」

 

「されど航行には支障なし!」

 

「ですが流石に戦闘は!」

 

 各所から鳴り止まないアラートを背景にオペレーターの声を聞いたシュンはあくまでも冷静だった。

 

「全軍、ただちに撤退せよ」

 

「シュン!」

 

 素早すぎる撤退指示にモニカは声を荒げるがその顔は悔しさに満ちていた…彼女もこの状況は理解している。

 

「このまま撤退しても長距離砲の的だわ!」

 

「敵が攻勢に転じましたこちらに近づいてきます!」

 

「敵と交戦しつつ撤退。離れすぎないように注意しろ!」

 

「っ!」

 

「離れすぎなければ向こうは撃ってこれない」

 

 長距離砲といってもミリ単位の精密砲撃は不可能。交戦距離さえ間違えなければこちらも砲撃に怯えずに戦える。

 

「無理よ、敵のナイトメアは砲撃タイプ。距離を取っての砲撃がメインになる。撤退すれば正面と後方からの砲撃に挟まれる!なら敵部隊を強行突破して敵の都市部に侵入すれば砲撃は止む」

 

「敵地に入る備えを向こうがしてない筈がない。本隊が砲撃で蹴散らされた。そんな残存戦力では武力制圧は難しい、ゲリラ戦法でも取られたら敵地で消耗戦になる!」 

 

 どちらの意見も正しいが長距離砲撃部隊を制圧した部隊そして都市部の部隊の規模が分からない以上、下手な侵攻は危険すぎる。

 

「俺が正面の部隊を引きつける。モニカは指揮を頼むぞ」

 

「まだ話は!」

 

 モニカの制止を聞かずにシュンはマントを翻しながらブリッジを後にするのだった。

 

ーーーー

 

「予言はブリタニアすらも蹴散らすとはな…シャムナ様は恐ろしい方だ」

 

 正面の部隊を率いていたボルボナ・フォーグナーは自身の機体から撤退を始めるブリタニア軍を眺めていた。

 

「ん?」

 

 すると青い航空浮遊艦から青い機体が射出されるのが見える。その機体は空中を浮遊しながら背中のキャノン砲を構えて砲撃。遥か遠くにいた自分の横に控えていたゲド・バッカを吹き飛ばした。

 

「くっ、油断した!」

 

 不安定な空中であれだけの精密射撃。

 

「あれが噂の蒼き死の騎士か」

 

 一年前、隣国のトルア共和国防衛軍をたった一人で滅ぼした死の騎士。赤いバイザーの奥に光るツインアイが激しく光りこちらを睨み付けてくる。

 

「下がれ、あれはお前たちには分が悪すぎる」

 

「フォーグナー様!」

 

 部下の心配の声を危機ながらフォーグナーは機体を加速させながらシュンのライオネルに向けて突撃を慣行する。

 

「褐色の城壁、自ら相手とはな!」

 

 着地と同時にゲド・バッカをガトリングランスで串刺しにしたシュンは足でバッカを踏みつけてランスを抜く。それと同時にフォーグナーのゲド・バッカが接近戦を仕掛ける。

 

「やる!」

 

「なんたる反応速度だ」

 

 フォーグナーのゲド・バッカは素手だか接近戦用にカスタムされた強化腕だ。それをシュンのライオネルは素手で受け止めると蹴り上げる。

 

「フォーグナー様!ぐわっ!」

 

 それと同時にライオネルの各部に備えられたミサイルがジルクスタンのナイトメアを次々と吹き飛ばす。

 

「この死神がぁ!」

 

「遅い…」

 

 いつの間にか取り出していたランスタイプのMVSでゲド・バッカの大群の中を暴れまわるライオネル。 

 

「やっぱりゲルググのナギナタは一対多数を目的とした武器だったんだなぁ」

 

「やはり数で包んでも無駄か」

 

「ボルボナ・フォーグナー。ここでお前の首を晒せば少しは汚名を返上できるかな?」

 

「死の騎士の実力。計り損ねた…だが我々の勝ちだ」

 

「っ!」

 

 フォーグナーの機体を倒すために加速したライオネル。だがそれを見越したように砂漠の砂の中から無数のワイヤーが襲い掛かりシュンを拘束する。

 

「これは!」

 

「シャムナ様の予言がここまで当たるとは。予言のある限り我々の敗北はない!」

 

「くそっ!」

 

 ワイヤーを伝って高圧電流がライオネルに襲い掛かり。シュンの身すら焼く。

 

(このままじゃ殺される!)

 

「シュン!」

 

 シュンが死を覚悟した瞬間。モニカの声と共に周囲が爆撃される。フロート装備のモニカのグロースターとサザーランド数機がこちらに急速に迫っていた。

 モニカの精密射撃によってワイヤーを切断。解放されたライオネルは息吹を取り戻す。

 

「モニカ…」

 

「撤退するわよ!」

 

 サザーランドが牽制射撃を加え、フォーグナーたちを牽制するとモニカがライオネルを抱える。

 

「これは駄賃だ!」

 

 グロースターに抱えられながらキャノン砲を放ちフォーグナーの機体の右腕を吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

「フォーグナー様!?」

 

「追うな、これ以上は痛手になる」

 

(やはりブリタニアは手強い…)

 

 これは既に勝ち戦。これ以上の被害は避けなければならない。ブリタニアと違ってこちらは兵の数も限られている。フォーグナーの判断は実に賢明であった。

 

 ブラックリベリオンと言う大きな反乱を防げず、ジルクスタンと言う小国に敗北したブリタニアは世界からその武力による拡大政策の限界を知らしめる事となった。

 

 



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二期
魔王再誕


 R2の一話を書き直しました
 そしてやっと書けて良かったです…


 

 エリア11トウキョウ租界外縁に建設されたバベルタワーでは黒の騎士団残存軍によるゼロ奪還作戦が行われ結果として成功を納めた。

 エリア11を納めるカラレス総督を引きずり出し計画は順調に進んでいた。

 

「こちらB2、敵のナイトメアが一機で…」

 

「そんな、さっきまで…」

 

「B2?なんだ、敵はIFFを外しているのか。しかも単独行動」

 

「ゼロ、こちらP6敵が…敵が!」

 

「P6?」

 

 かつてのシンジュクゲットーにおけるランスロットを彷彿とさせる状況にルルーシュは僅かな焦燥を覚える。

 

「こちらR5、R1がやられて…」

 

「不味い、このままではこちらに」

 

「P2P3は物資搬入用エレベーターの警戒に回れ、敵機を確認したら即座に攻撃を」

 

「「了解!」」

 

 敵が最短で来ると仮定して即座に防衛網を構成するライの手腕にルルーシュは内心関心する。

 

(流石は薫の右腕だな。状況把握はずば抜けている)

 

「ゼロ、ひとまずアンタだけでも逃げてくれ。元々、我らが陽動、捨て石の作戦だならば」

 

「違うな、間違っているぞ卜部。切り捨てると言う発想だけではブリタニアには勝てない」

 

 卜部の言葉に対しルルーシュが放った言葉はその場にいた三人の心に刺さる。

 

(集中しろ)

 

 ライの蒼月はカレンの紅蓮に輻射波動を渡したお陰で卜部の月下と大差ない。

 右手の回転刃刀とサザーランドの腕を移植した左手にはアサルトライフルが握られている。

 カレンと違い輻射波動に頼らない戦いかたが出来るライは問題ないがいかんせん左のサザーランドの腕が調子が悪い。

 

「ライ、大丈夫?」

 

「うん、ありがとうカレン」

 

「確認しました。ランスロットを元にした量産用試作機かと」

 

 二人が話していると先行していた二機から通信が入る。

 

「……え?消えた!なんでこっちに!」

 

 攻撃を開始しようとした矢先、P2P3の悲鳴が聞こえると思えば無線が途絶する。

 

「CCそちらのフロアはまだ終わらないのか!」

 

「なにを慌てている。そっちにはカレンと卜部、ライまでいるだろ?」

 

 CCの返事とともに金色の塗装を施したランスロットに酷似した機体が現れる。

 

「こいつかイレギュラーは!?」

 

「近接戦闘ならこっちが上だ!」

 

 反応が遅れるルルーシュに対しカレンと卜部は接近戦を行うために突撃を慣行する。

 対してヴィンセントはSMVSを抜き接近戦に備える。

 対してライはカレンたちの突撃にあわせて掩護射撃を加える。

 カレンと卜部の一撃が当たろうとした瞬間、その機体は消えライとルルーシュの間に立っていた。

 

「なっ!」

 

「神速」

 

「これは!」

 

 その瞬間、ライは神根島にいた刺客をふと思い出す。

 ルルーシュはヴィンセントに向けて射撃するがまた消えたと思えば後ろに姿を現す。

 

「やっぱり!」

 

 だかその間にライが割って入りヴィンセントの一撃を回転刃刀で受け止めアサルトライフルで迎撃する。

 

「惑わされないで!奴は必ず死角から攻撃しようとするはず」

 

 そういいながらもライはたびたび消えるヴィンセントと対等に渡り合う。

 

「そこ!」

 

 ライは回転刃刀を空振ってしまい、大きな隙が出来る。

 

「っ!」

 

「ライ!」

 

 ライの背後に回るヴィンセントだがそこには輻射波動を構えた紅蓮の姿があった。

 

「助かった!」

 

「それは良かった!」

 

「準備が整ったぞ」

 

「三人とも、助かった」

 

 CCの言葉とともにルルーシュは手元のスイッチを押すとバベルタワーに仕掛けられた爆弾を起動。

 崩れ落ちるバベルタワーの下敷きになったカラレスを見届けながらルルーシュたちは脱出したのだった。

 

「私はゼロ」

 

 そして始まるゼロの演説。

 

「日本人よ!私は帰ってきた!」

 

「薫…」

 

 ゼロの演説を聞いていたミレイは愛しい彼女の名を呟く。

 

「聞け!ブリタニアよ、かつ目せよ!力を持つすべての者達よ!私は悲しい…。戦争と差別。振りかざされる強者の悪意。間違ったまま垂れ流される、悲劇と喜劇。世界は、何ひとつ、変わっていない。だから、私は復活せねばならなかった。強きものが弱きものを虐げ続ける限り、私は抗い続ける!まずは愚かなるカラレス総督にたった今、天誅を下した!」

 

「おやおや。いきなりやってくれるね、イレブンの王様は…なあ、スザク」

 

 ナイトオブラウンズが拠点とする施設に奇跡的に全員が揃ってその演説を聞く。

 飄々とするジノがスザクに構うのを横目にモニカはひどく冷静にテレビを見つめるシュンに視線を移す。

 

「なあ。死んだんだろ?ゼロは」

 

「ああ」

 

「じゃあ偽物か?どちらにしても、総領事館に突入すれば…」

 

「重大なルール違反だ。国際問題になるぞ」

 

「ゼロを名乗っている以上、皇族殺しだ。EUとの戦いも大事だけどさ」

 

「どっちもアリ地獄」

 

「私は戦う。間違った力を行使するすべての者たちと、故に!私は ここに合衆国日本の建国をふたたび宣言する!」

 

「白蛇様!」

 

「ゼロ…そうか日本で奪還したか」

 

 真白を抱っこしながら紅茶で一息ついていた薫は楽しそうにジェシカが持ってきたパソコンを見つめる。

 元気そうに演説をするゼロを見てふと疑問に思う。

 

「なんか身長低くね?」

 

「この瞬間より、この部屋が合衆国日本の最初の領土となる。人種も主義も宗教もとわない。国民たる資格はただ一つ。正義を行うことだ!」

 

 



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