真剣で鳴神に恋しなさい!S (玄猫)
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プロローグ


実は過去に私が書いていた作品のセルフアレンジ的なものになります!


 武の頂点。武を志す者であれば誰もが目指し、そして巨大な壁を前に屈していく。一部の才を持った者だけがその頂に手を伸ばすことが許される。

 

 過去から幾度となく繰り返される話。武の頂点……最強は誰か。ある者は武の総本山と呼ばれる川神院の頂点、川神鉄心を。ある者は天下の九鬼従者部隊の零番ヒューム・ヘルシングを。既にその二人は古い。鉄心の孫である武神、川神百代だ……と。

 

 だが、多くの武人が現れ消えていった中には確かにその者たちと並ぶ者がいた。その者を知るならば必ず名を上げるという。

 

 真の最強は鳴神(なるかみ)天膳(てんぜん)であると。

 

 

 時代は遡る。日本の某所で三人の男たちがぶつかっていた。

 

「ジェノサイド・チェーンソー!!」

顕現の壱(けんげんのいち)摩利支天(まりしてん)!!」

「鳴神流・(ぜつ)!!」

 

 若かりし頃の鉄心、ヒューム、そして天膳である。この戦いや、三人の関係を知るものは少ない。互いに武の頂点を目指していた際に友として、そして最大の敵として幾度となく果し合いを繰り返していた。

 

「ふん、俺の技を易々と受け止めるのは貴様らくらいだぞ」

「ワシの技とて同じことじゃよ」

「……鉄心、そのエセじじい言葉はやめないのですか」

 

 互いに憎まれ口を叩きながらも互いの隙を狙うことをやめない。一瞬でも隙を見せれば必殺の一撃が飛んでくることが分かっているからだ。とはいえ、既に三人は数時間に及ぶ戦いを繰り広げていたのだ。周囲の地形が変化してしまうほどの激戦を。

 

「……とはいえ、もう時間ですね」

 

 一番目に手を止めたのは天膳だ。とはいえ、二人からの攻撃が来ればすぐさま反撃に移れるものではあるが。

 

「ふむ、そうなのか」

「また決着はつかずか」

 

 鉄心とヒュームも軽くため息をつきながら手を止める。

 

「鉄心もヒュームも、早く子を作るといいですよ。本当に可愛いんですから」

「ワシの恋人は武じゃよ」

「俺も同じようなものだ。誰に仕えるわけでもないからな」

「ヒュームの場合は違うでしょう。初恋が……」

「おい、本気の殺し合いがしたいのであれば喜んで受けるぞ」

 

 天膳が何かを言おうとしたのを本気の殺気を放ちとめる。

 

「ふふ、子の成長を見ずに死ぬわけには行きませんからね。やめておきましょう」

 

 肩を竦めながら天膳はそういうと、歩き始める。

 

「行くのか?」

「えぇ。まだ現役を退く気はありませんが、子のため少しでも力を扱う方法を見つけなければいけませんからね」

「……ワシらも手伝うぞ」

「いいえ、これは私の一族の呪いであり、宿命です。貴方たちには迷惑はかけませんよ」

「ふん、つまらんな」

「ですが、もし私の力が暴走することがあれば……」

「ワシらに任せておくといいぞ」

「不本意ではあるがな。そのときは葬ってやろう」

「ありがとうございます。……では、またの機会に会うとしましょう」

 

 

 三人が同じ場所に立つのはこれが最期であった。

 

 

 時は流れ。

 

 

 ドイツ。

 

「本当に行くのかね」

 

 きっちりとした軍服に身を包んだ男性がそう尋ねる。つけられた勲章の数からも高い地位にあるであろうことが分かる。

 

「はい。これまで長い間お世話になりました、フランクさん」

 

 丁寧な礼をした少年は長い黒髪を首の後ろ辺りでまとめていた。

 

「君は私にとって息子も同然だ。いつでも帰ってきたまえ。君の為ならば猟犬部隊も喜んで動いてくれるだろう」

「はは、気持ちは受け取っておきます。……それと、あっちについたら手紙書きます」

「うむ、待っているよ。……さぁ、クリスたちも待っている。挨拶をしていきたまえ」

「はい」

 

 フランクに再度頭を下げると少年は振り返る。涙目で震えている金髪の少女と、それを慰めるように寄り添う紅の髪の女性へと足を進める。

 

「クリス」

 

 少年は金髪の少女……クリスへと近づくとやさしく頭を撫でる。

 

「ユウッ!」

 

 抱きついてきたクリスを受け止めると再び頭を撫でる。

 

「何で自分を置いて行ってしまうんだ……」

「ごめんな、クリス。でもこれは師匠……祖父さんの遺言でもあるんだ。それにクリスも行くんだろ、日本」

「……行く」

「なら、向こうできっと会えるだろう?だから泣くなって。騎士なんだろ?」

「……分かった」

 

 少し落ち着いたクリスに安心したユウと呼ばれた少年は次いで紅髪の女性へと向き直る。

 

「勝ち逃げは許さないと知りなさい」

「はは、勝ち逃げのつもりはないよ。俺だって誰にも負けるつもりはないしね」

「……必ず会いに行きます」

「待ってるよ。あとコジーとテルにはよろしく言っておいて。再会したときに怖そうだ」

「ふ、自分で言いなさい。そこまで私がしてやる道理はありません。……といいたいところですが、彼女たちも貴方のことは心配でしょうから伝えておきます。感謝しなさい」

「あぁ。ありがとう」

 

 そう言うと旅に出るには少ない荷物を背負いなおす。

 

「それじゃ、クリス、マルさん。行ってくるよ」

「あぁ!ユウも元気でな!」

 

 

 こうして旅立った少年。彼の名は鳴神勇介。最強の一角とされた鳴神天膳の孫に当たる少年である。

 

 

 少年が旅立って数年の月日が流れた。

 

「もうすぐ川神だよ、兄ちゃん」

「ありがとうございます、おじさん」

「はは、いいってことよ!しっかしびっくりしたよ。兄ちゃんみたいな可愛い子が一人旅とはねぇ」

「あはは、何度も言われましたよ」

 

 祖父やフランク曰く母親似の勇介は整った目鼻立ちをしていて、海外では幾度となく女と間違われていた。亡き祖父が髪を伸ばしていたということもあって、勇介自身は髪を切るつもりはないようだが。

 

「あそこを渡ったら川神だ。俺はあっちのほうが目的地だからこのあたりまでだが……大丈夫か?」

「はい、本当にありがとうございました」

「ははは、川神は変わった奴と武の志のある奴らの総本山さ。気をつけていきな!」

 

 トラックが走り去るのを見送った勇介は川神へと歩を進める。

 

「へぇ……やばい気が幾つもあるな」

 

 ようこそ、川神へ!と書かれた看板とそばにある白線を越えた勇介はふっ、と笑う。

 

「さて、試すか」

 

 隠していた気を解き放つ。抑え付けられていた気は目視できるほどの力となって勇介の身体から迸る。

 

 

「っ!?なんじゃこの気はっ!?」

「へぇ……面白そうな気だな」

「何者ネ。総代の元へいかねバ」

「ほぅ……面白い。俺を試すか」

「んだよ、こりゃ。化け物か?」

 

 マスタークラス……達人の中でも壁を越えた者たちが反応を示す。

 

「っと、離れるか」

 

 恐ろしい速度で迫り来る複数の気配を感じて気を抑えるとすぐさまその場を離れる。

 

 

「む、隠れおったか」

「鉄心。貴様もこの気配を感じたか」

「ヒュームの関係者でもないのか。九鬼関連でないとすると……ふむ」

「貴様も感じたか。何処か懐かしい気を」

 

 

「さて、何処に行くかな」

 

 気を放って試すようなことをしておきながらその場を離れた勇介は島のような場所へと迷い込んでいた。

 

「おいおい、何だこんなところに迷い込んだのか?今ここは立ち入り禁止だぜ?」

 

 メイド服を着た金髪の女性がそう言って勇介に向けて銃を向けてくる。

 

「……メイドさん?しかも見た感じ本物?」

「ファック!銃を向けられてることよりもそっちのほうが気になるのかよ。ロックだな」

「ステイシー。それどころではありません。……すみませんが、すぐにこの場を離れていただけますか?そうであれば、私たちから手を出すことはありません」

「なにやら手を煩わせたようですみません。すぐにここを離れますから。はは……」

「待て」

 

 静止の言葉とともに空から降りてきた男に勇介は身構える。感じていたやばい気のひとつ。自らが強者であるという自負と圧倒的なまでの暴力の気配を身にまとった男。ヒューム・ヘルシング。九鬼家従者部隊最強の男であった。

 

「ヒューム、ヘルシングさんですね?」

「……赤子、貴様は?」

「俺は……」

 

 ヒュームへと殺気を放つ。それと同時に目を細めたヒュームが常人には見えない速度の蹴りを放つ。パンッ!と空中で弾ける音。

 

「ほぅ……」

「とはいえ、名乗らないのは失礼にあたりますね。はじめまして、ヒュームさん。俺は勇介。鳴神勇介です。祖父の遺言に従いここに来ました」

 

 ヒュームの蹴りを同じく蹴りで相殺した勇介がそう自己紹介する。

 

 

 これが、後にもう一人の師として仰ぐことになるヒュームと勇介の出会いであった。



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1話 武士道プランの申し子たち 前編

ヒロインたちとの絡み以外は超駆け足で進みます(ぉぃ


 九鬼財閥極東本部。巨大なAの形をした建物である。そこの一角にあるヒュームの部屋に勇介は招かれていた。

 ヒューム手ずから入れた紅茶を飲みながら祖父のことを話す。

 

「……あいつは死んだか」

「はい。それでその後、祖父の友人にお世話になっていたんです」

「それで、俺を訪ねてきた理由を聞こうか」

「簡単なことですよ。……貴方を超えるためです」

「……ほう?力の差が分からん赤子だったか?」

「いえ、勿論今はまだ勝つのは難しいですよ。だから川神に来たんです」

 

 勇介の言葉に目を細めるヒューム。

 

「……これからどうするつもりだ」

「正直なところ、何も考えてなかったんですよ。最悪お金はあるからホテルでも泊まるかな~、くらいで」

「本当にあの天膳の孫か?……いや、あいつの孫らしいといえばらしいのか。少し待て」

 

 そう言って部屋を出るヒューム。残された勇介は周囲を見渡す。

 

「……おお、標本か。動物の剥製も標本の一種だっけ。……絶対これ自分でとってるよなぁ」

「何だ、俺のコレクションに興味が沸いたか?」

「いや、普通にすごいなぁって見てただけです」

「興味があるのならもっと見せてやっても構わんぞ」

「ヒューム、こちらの方が?」

「あぁ」

 

 ヒュームの後ろから入ってきた老紳士といった男性が勇介を見る。

 

「これはこれは……とてもよい気をお持ちのようですね」

 

 ヒュームとは違い、やさしい微笑みを浮かべる。

 

「ふん、まだ赤子だがな。それでクラウディオ、この赤子を帝さまに会わせても問題ないレベルまで育てる」

「既に、お会いしても問題ないレベルとは思いますが」

「俺が武を、クラウディオが礼儀作法を、マープルが智を叩き込む。そうすれば才があれば一月もあれば十分まともな赤子になるだろう」

「……はい?」

「……私は構いませんが、ヒュームは紋さまについていなければならないでしょう?」

「大丈夫だ。合間に見ることくらいできるだろう」

 

 進む話に首をかしげる勇介。

 

「それは決定事項みたいな?」

「住む場所の世話もしてやる。文句はないだろう?」

「うーん……ありがたい話ですけど」

 

マープルという聞いたことのない名前にも少し疑問が浮かんでいたりするのだが、ヒュームがそれに構うことはない。

 

「なら決定だな。移動するぞ」

「あ、はい。……って、何処に?」

「ついてくれば分かる」

 

 部屋を出て更に上の階へと進んでいく。

 

「……あのー、ヒュームさん」

「何だ」

「これ、ヘリですよね?しかも軍事用の」

「よく知っているな」

 

 気付くと勇介は九鬼財閥極東本部の屋上ヘリポートにつれてこられていた。

 

「今から何処に行くんです?」

「九鬼家の所有する島のひとつだ」

 

 

「甘いぞ!ジェノサイド・チェーンソー!!」

「くっ!!」

 

 朝5時。ヒュームと実戦形式での修行を行っていた。

 

「鳴神の技に頼らずに俺とやり合えるようになれ。お前の眼であればそれも可能だろう?」

「眼のことも知っているんだ。……まぁ、教えを請う身だし全力でやらせてもらう!」

 

 

「クラウディオさんの立ち居振る舞いは凄いと思います」

「簡単なことでございます。勇介も執事学校へ入り学べばこの程度であればすぐにできるようになるでしょう。現時点でもそのあたりの執事であれば負けないほどの作法は身についていますよ」

「はは、クラウディオさんにそういわれると嬉しいな」

 

 昼過ぎの13時頃。クラウディオから礼儀作法や執事としての作法などを。

 

 

「素質はあると思っていたが……いやはや、アンタには驚かされるねぇ」

「いえ、ミス・マープルの教え方がいいからですよ。ドイツにいた頃に勉強は教わっていたのも助かりました」

「あのフランクのところだったかい。猟犬の小娘どもは出来がいいとは聞いていたが……想像以上のようだねぇ」

 

 夜に差し掛かる頃にはミス・マープルから勉学や歴史、帝王学などを。

 

 

 そんな生活が幾月か流れて。

 

 

「どう思う、マープル」

「あたしゃ賛成だね。あの子であれば清楚たちにもいい影響を与えられるだろうて」

「私も賛成です。最近では与一様の様子がおかしいとも聞きますし、何かしらの結果をもたらしてくれるでしょう」

「決まりだな。明日早速連れて行くとしよう」

 

 ヒュームたちがそんな話を交わした翌日。

 

「ヒュームさん、ヘリで移動ってもしかして帰る感じです?」

「いや、お前には会ってほしい相手がいる」

「会ってほしい?」

「まだまだ赤子ではあるが、英雄の力を秘めた者たちだ。詳しいことは言わんが、お前の目で見て相手をしてやれ」

「え、それ流石に説明……」

「いけ」

 

 突如ヘリの扉を開けると勇介を突き落とす。

 

「……ちょ!」

 

 

「~♪」

 

 一人の少女が鼻歌を口ずさみながら花の手入れをしている。美しい黒髪を腰よりも長く伸ばしている。優しい微笑みを湛えたその姿は少女自身も可憐な花であるかのように感じさせていた。

 

「ふぅ、与一くんのこと、何とかしないと。悩んでいるなら相談してくれたらいいのに」

 

 そうつぶやきながらも、男の子の悩みだとしたら自分が相談に乗るのは難しいだろう、とも思う。

 

「こんなときに頼れる男の子とかいたら……」

 

 読書も好きな少女が好んで読む小説の中に出てくる登場人物を思い浮かべる。そんな人物はいないと思いながらも空想してしまうのは仕方のないことだ。

 

「えっ?」

 

 何かの違和感を感じて少女は空を見上げる。豆粒のような黒い影が少しずつ近づいてくる。恐ろしいほどの速度で。

 

「ええっ!?」

 

 常人よりは圧倒的にいい少女の目に映ったのは自分とそこまで年齢の変わらないであろう男の子が空から降ってくる姿だ。……普通の人間があの速度で落ちてくれば、地面はもう文字にできないほどの地獄絵図になるだろう。かといって、少女に受け止める手段はない。

 上空から降りるのではなく落下していた勇介の目にも少女が映る。力技で着地するつもりだったのだが、目の前にいる少女を巻き込んでしまう可能性がある以上、丁寧に着地しなければならない。しかも花壇のような場所も避けたほうがいいだろうと考える程度の余裕は勇介にはあった。

 身体を捻り、花壇から地点を少しずらし地面への衝撃を気で抑える。それでもかなりの風圧が周囲に巻き起こる。

 

「きゃっ!」

 

 それに巻き込まれた少女が少し体勢を崩す。

 

「危ない!」

 

 着地した勇介が少女の腕を引き寄せる。勢いのまま、少女が勇介の胸に納まる形になる。

 

「「あっ……」」

 

 こういう形になるのは二人とも予想していなかったのだろう、固まってしまう。

 

 

 葉桜清楚(はざくらせいそ)。九鬼が極秘裏に進めている武士道プランのメンバーの一人であり、まとめ役とされた少女との出会いはまるで物語のようなものであった。

 

 

 武士道プランで生み出された英雄たち。源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。名前もはっきりとしている三人とは違い、正体も名前も伏せられている葉桜清楚を含めた四人がこのプランの申し子たちである。生真面目で何事にも一直線で素直な義経、義経を敬愛―可愛がっているだけのようにも見えるが―しながらも、基本的には面倒くさがりでのんびり屋の弁慶、昔は素直だったらしいが、大人たちの陰口などで反抗期となってしまい、ニヒルなものにかぶれてしまった与一。そして本や花や動物を愛する名は体を表している清楚。

 そんな四人との日々は勇介にとっても心安らぐものであった。

 

「ユウ」

 

 背後からしなだれるように抱きついてきたのは弁慶だ。

 

「どうした、弁慶。まだ寝る時間には早いぞ」

「流石の私もまだ寝ないよ。でも動くのが面倒だから連れてって」

「何処に」

「二人で一緒にだらけられるところ」

「う~む……なかなかに魅力的な誘いではあるな」

「ふふ、そういうところ素直だよね、ユウって」

「自分から身体を押し付けておいてよく言うな」

 

 軽口をたたきながらも勇介は少しドキドキしていたりもする。異性との関わりは少なくはなかったが姉のような相手や妹のような相手ばかりだった(本人的には)から仕方がない話だ。

 

「おーい、勇介くーん、弁慶ー!」

 

 遠くから聞こえてくる義経が二人を探す声。

 

「ほら、弁慶。義経が探してる」

「う~……戻ったら畑仕事をさせられる。面倒だ。……あぁ、でも義経が呼んでいるから仕方ないか」

 

 なんだかんだ言って義経至上主義の弁慶だ。基本的にはちゃんとやるのだ。やる気があるかは別として。

 

「いた!勇介くんも弁慶も、義経と一緒に畑仕事に行こう!もうすぐ収穫だから、最後までちゃんと育てるぞ!」

「ああ、そうだな。義経はちゃんと育てて偉いな」

 

 勇介はそういいながら優しく頭を撫でる。

 

「う、うん!義経はちゃんと成長を記録もしているぞ!」

 

 頭を撫でられて嬉しそうにそういう。

 

「おや、義経嬉しそう」

「そ、そんなことはない!あ、頭を撫でられるのが嫌だというわけではなくて」

「はは、大丈夫だよ。で、与一は?」

「またどこかに行ってしまったんだ。義経が誘っても与一はなかなか一緒に来てくれない」

「へぇ、まだおしおきが足りないかな?」

 

 弁慶が目をすっと細めて少し殺気を放つ。

 

「弁慶、ちょっと落ち着け。一旦俺が探してくるから先行ってて」

「分かった。義経が情けない主ですまない、勇介くん」

「気にしなくていいよ。義経は立派にやってるから」

「ユウ、頼んだよ」

 

 

「あ、やっぱここにいたか」

「ん、兄貴か」

 

 与一が好んでいく場所は基本的に高いところだ。狙われてもすぐに分かる、とか風を感じる、とかよく言っているのを勇介は聞いていて知っていた。

 

「弁慶怒ってるぞ」

「う……姉御のことはうまく誤魔化してくれないか、頼む!」

「はは、既にやったよ」

「流石は兄貴!」

「それはいいから。まぁ、お前が今みたいになった原因はそれとなく聞いたけどさ」

「う……」

 

 あまり触れてほしくない話題だったのだろう、与一の顔が引きつる。

 

「正直言って、俺はお前でよかったと思ってるしむしろお前以外は知らんぞ」

「……は?」

「いや、四天王とかいたような気はするけど、やっぱり義経の従者として有名なのは弁慶と与一だろ。静御前とかは従者とかとは違うだろうしなぁ」

 

 真面目な顔でそういう勇介に一瞬きょとんとした顔になった与一が笑う。

 

「はっはっはっ!そんなことを言うのは兄貴くらいだろ」

「そうか?ま、今のお前しか俺は知らないからなんともいえないけど、義経を泣かせるようなことだけはするなよ。言うまでもないと思うけど」

「……分かってるさ」

「後は、弁慶を怒らせることもな」

「……善処する」

「さ、畑いじりにいくぞ。義経がせっせと育ててる野菜ももうすぐ収穫らしいからな」

「面倒だが、兄貴がいくんなら俺も行くとするか」




クローン組との出会い編はもう少し続きます!


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2話 武士道プランの申し子たち 後編

 義経たちの今住んでいる場所には大きな書庫がある。九鬼が武士道プランのメンバーのために集めたもので量も質も非常に高いものだ。そこを特に愛用しているのは清楚である。

 

「あ、勇介くん」

「やっぱり清楚はここだったんだな」

 

 清楚は勇介が来たのを見て読んでいた本を閉じる。

 

「いいのか?」

「うん、勇介くんが来るまでの時間つぶしだったから」

「んじゃ、今日は何から調べるかなぁ」

 

 清楚は自分が何の英雄なのかを知らない。恐らくはヒュームやマープルなどは知っているのだろうが、少なくとも25歳くらいまでは教えないといっていた。それでも、清楚はなんとか自分が何者なのかを知りたいと思い、勇介に相談していた。

 

「じゃ、何度も繰り返すけど清楚のことをもっと知らないとな。好きなものとかから書き出していこうか」

「う、うん」

 

 何故か少し頬を染める清楚だが、勇介がそれに気付くことはない。日の差し込む部屋で二人並んで座り勇介の質問に清楚が答え、それをノートに書いていく。

 

「う~ん……何かここにヒントがあるはずなんだけどなぁ」

「……」

「ん、俺の顔に何かついてる?」

「う、ううん!?大丈夫だよ!」

 

 あわあわと手を振って否定する清楚に軽く首を傾げながらも書き出した内容に目を通す。

 

「歴史的な偉人ねぇ……清楚だと本当に清少納言やらの文豪とかが似合うけど、何か違う気がするんだよなぁ」

「え、そう?私はぴったりだなって思うんだけど……」

「それは同意。ただ俺の勘だと違う気がするってだけだし。まぁ何にしても」

 

 清楚に向き直った勇介が笑顔で。

 

「清楚は清楚だ。それは清楚が誰のクローンであっても変わらないさ」

 

 

「はぁっ!!」

 

 裂ぱくの気迫と共に義経の鋭い一撃が放たれる。それを紙一重で避けた勇介はお返しとばかりに同じような斬撃を放つ。

 

「っ!」

「義経!」

 

 その一言と共に割り込むように弁慶が大振りの一撃を勇介に繰り出す。避けるのは困難なタイミングで繰り出された攻撃を勇介が刀で受け止める。

 

「うぉ!」

 

 予想以上の威力に勇介の身体がぐらつく。

 

「吹き飛ばすつもりだったんだけど、ねっ!!」

 

 弁慶は義経への一撃の仕返しとばかりにあえて隙を見せつつ攻撃を繰り返す。その隙を突こうものなら義経や、その更に後方からこちらを狙っている与一の弓による一撃が来るだろう。

 

「その連携力はやばいな」

「それはどう、もっ!」

 

 あえて弁慶の一撃を受け距離を取る。すかさず与一の弓による牽制が来るが最低限の動作でそれを避ける。

 

「ちっ……義経、兄貴に力をためる時間を与えちゃいけねぇ!」

「分かった!」

 

 勇介が気を高め始めたのに気付いた与一の一言で義経が疾風の如く駆け寄る。

 

「震脚って知ってるか?元は八極拳とかの拳法では踏み込みを技の威力に乗せるものだが」

 

 ぐっ、と地面を踏みしめる。ドンという音と共に義経の足元が揺れる。

 

「うわっ!?」

「義経っ!」

「弁慶、その動きは悪手だ」

 

 義経に駆け寄ろうとした弁慶へと勇介が一気に肉薄する。弁慶の武器である錫杖を振り回しづらい距離まで入られたことで弁慶は防戦へと追いやられる。

 

「ちっ、姉御ときれいに射線をあわせてやがる……流石は兄貴!」

 

 与一も位置取りを変えながら何とか援護をしようとするが、それにあわせて勇介も動くためなかなか射線に入らない。

 

「弁慶っ!」

「あ、義経!駄目……って、遅かったか」

 

 義経が弁慶の援護に近づいた瞬間、義経の喉元に勇介の刀が突きつけられていた。

 

「う……」

「義経、何度目だこのパターン」

「うう……義経は深く反省する……」

 

 ぽんぽんと義経の頭を叩くと弁慶へと向き直る。

 

「前までに比べるとかなりよくなってきてるけど、まだまだ義経を狙われたときの動きが悪いな。ヒュームさんあたりだと弁慶は一撃で吹き飛ばされて終わりとかあり得るぞ」

「……身に覚えがあるから否定できないのが悔しいね」

 

 そう言いながら手に瓢箪を持ち透明な液体をごくごくと飲みだす。弁慶が飲んでいるのは大好物の酒……ではなく川神水だ。ノンアルコールではあるが場で酔えるという便利な代物だ。

 

「ほどほどにな。で、与一だけど」

 

 先ほどまでの訓練の反省点などを挙げていく。

 

「でもいいのか?俺はまだ教わる立場だけど」

「義経は勇介くんに教えてほしい!」

「私も賛成」

「兄貴なら異論はないぜ」

「……まぁ、俺の本来使う鳴神の技は特殊だけど色々と生かせる部分はあるだろうしな。教えることで復習にもなるし」

「ふふ、皆お疲れ様」

 

 そう言って清楚がタオルを差し出してくる。

 

「清楚も護身用の技くらいは覚えておかないとな」

「うん、一応弁慶ちゃんと運動はしてるよ」

「清楚さんは意外と力があるんだよ、ユウ」

「ちょ、ちょっと弁慶ちゃん!?」

「へぇ、意外と武力タイプの偉人だったりして」

 

 

 そんな和やかな日々は約一年続いた。義経たちは本土の学校へと通うため、この地を離れるのだ。

 

「……よし、これで全員分そろったな」

 

 こつこつと四人にばれないように勇介がやっていたこと。それは手作りで贈り物を作るというものだった。材料や道具はクラウディオに頼むことで「容易いことです」と全てすぐに集めてくれた。

 

「でも一年も色々探したけど結局清楚の正体は分からなかったなぁ。……怪しいことといったら昔に何かの歌を詠んだときに意識が~とか言ってたくらいか」

 

 色々な辞世の句を集めては見たが、どれも反応するものはなかった。

 

「そうなると日本の偉人じゃないのか?……分からん」

 

 全員分のプレゼントを持って勇介は部屋を出る。

 

 

「勇介くん!皆を集めておいたぞ!」

「あぁ、ありがとな義経」

 

 いい子いい子と頭を撫でる。少しくすぐったそうにしながらも嬉しそうに頬を染める。

 

「で、ユウが私たちを集めたのは何?もしかして宴会でもする?」

「弁慶は相変わらず川神水のことばかりだな。……えっと、皆もうすぐ転校……であってるか分からんが本土の学校に通うって聞いた。つまり俺もここから離れることになる」

「勇介くんは一緒に行かないのか……?」

「はは、俺は武士道プランには無関係……とは言わないけど、一緒に行くのは違うだろ。元々俺も修行の途中で寄ったようなものだしな」

 

 そこまで言ってこほん、とひとつ咳払いをする。

 

「で、だ。とはいっても、俺からしたら四人とも大事な存在だしこのまま別れるのは俺自身が嫌だった。だから」

 

 勇介がそこまで言ったところでクラウディオが四つの箱を持ってくる。

 

「俺から贈り物だ。まず与一」

「おう」

「正直、何がいいか分からなかった。だから俺が注文した弓に俺が装飾した」

 

 流石に弓は作れなかったと笑う勇介。

 

「兄貴……!いいのか、こんないいもの貰ってしまって」

「むしろ貰ってもらわないと困る。弓も使えなくもないけど俺は素手と刀がメインだしな」

 

 弓に彫られた龍を見て与一が目を見開く。

 

「こ、これ、兄貴が彫ったのか?」

「あぁ。弓に変な癖がつかないようにバランス崩さないようにとかめちゃ気つかったぞ。大事にしてくれ」

「あぁ!!」

 

 満足気に引いてみたり確認している与一を見て勇介も満足そうだ。

 

「次に弁慶」

「ん」

「俺お手製の瓢箪だ」

「……まさかと思うけど、ユウ」

「ははは、それの加工は俺がやったよ。あとついでにその紐も俺が組んだ」

「組んだ、って……」

 

 驚いたような呆れたような反応の弁慶。

 

「一応、九鬼の加工部門に頼んで耐久性と衛生面を完璧に整えてもらった。そこは俺が適当にするわけにもいかないからな。ついでにほら」

 

 既に瓢箪の中に入れてある川神水を注いで弁慶に差し出す。

 

「こ、この香りは!」

「飲みたいって言ってた大吟醸。まぁ瓢箪のおまけな」

 

 瓢箪を弁慶に渡すと癖っ毛を優しく撫でる。

 

「義経を頼むな」

「言われずとも。……ふふ、いつも義経の頭ばかり撫でるからちょっとだけうらやましかったんだ」

「おいおい、人の膝でたまに寝てただろ。そのときよく撫でてたぞ」

「え、そうなのか。寝てて損したな」

 

 弁慶がそういうのを聞いて苦笑いを浮かべる。

 

「さ、義経」

「う、うん!」

「義経には刀飾り用の組紐と、新しい髪結いの紐だ。ごめんな、このくらいしか思い浮かばなくて。流石に刀は打てん」

「義経は嬉しいぞ、勇介くん!」

 

 目をキラキラとさせながら義経は喜ぶ。

 

「ほら、義経」

 

 勇介に手招きされ、更に一歩近づくと頭を出す。なれた手つきで義経の今つけているリボンを解くと新しいものをつける。

 

「ん、やっぱり似合うな」

 

 さらっと頭を撫でる。

 

「ありがとう、勇介くん!」

 

 満面の笑みの義経に勇介も微笑みかける。

 

「さ、最後に清楚」

「うん」

 

 すっと勇介の前に進み出る清楚。

 

「清楚に質問」

「何かな?」

「俺からのプレゼントと、清楚の正体の可能性。どっちがほしい?」

 

 勇介の言葉に驚いたような清楚だったが、すぐに微笑みを浮かべる。

 

「勇介くんからのプレゼント以外の選択肢はないよ?」

「はは、清楚ならそういうと思ってた。何があっても」

「私は私、でしょ?」

「そうそう。で、清楚には」

 

 綺麗な桐の箱を開けるとその中にはヒナゲシの髪留めが。

 

「あ……」

「ほら、清楚の好きなものでヒナゲシって言ってただろ。だから髪留めにしてみたんだ。これならいつでもつけていられるだろ?」

 

 はは、と笑いながら言う勇介の前に進み出る清楚。

 

「つけてくれる?」

「ん、勿論」

 

 清楚の髪に手を伸ばすと優しく髪留めをつける。

 

「おぉ、我ながら完璧だな」

「ふふ、勇介くんありがとう」

 

 

「もうよろしいのですか?」

「はい。ちゃんと四人に渡したいものも渡しましたし大丈夫です」

 

 翌日。予定通り義経たち四人は本土へと渡ることとなった。

 

「勇介くん!困ったことがあったら、すぐに言ってほしい。義経たちはいつでも勇介くんの力になるぞ!」

「あぁ、ありがとうな、義経」

「ユウは意外と無茶するからね。絶対にいつか会いに行くから」

「待ってるよ、弁慶」

「兄貴、メールするからな」

「ほどほどにな」

「勇介くん」

「ん?」

「また、会えるよね?」

「会えるさ。義経が何かあれば来てくれるって言ってたけど俺も何かあれば駆けつける。ヒュームさんとかクラウディオさんとか、そのあたりに言ってくれればいつでも会えるんじゃないかな」

「……そうだね」

「さぁ、行きましょう」

 

 従者の一人がそう言って義経たちは乗り物へと乗り込む。最後に清楚も乗ろうとするが、一瞬止まる。

 

「ん、清楚……」

 

 タッと勇介のほうへと駆け寄った清楚が顔を寄せる。頬に感じる柔らかな感触。

 

「……え?」

「またね!」

「おやおや……青春ですねぇ」

 

 状況が把握できていない勇介と真っ赤になって乗り物へと乗り込んだ清楚を見てクラウディオは優しい笑みを浮かべていた。




清楚ちゃんマジ清楚(ぉぃ

ヒロイン力高めですが、まだメインヒロイン確定ではありません!


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3話 九鬼と九鬼従者部隊 前編

まだまだ導入部ですね!よく考えてみたら。


 義経たちと別れ、勇介は再度九鬼極東本部へと連れて行かれていた。

 

「勇介、お前には今から俺の主の帝さまと会ってもらう。粗相のないようにな」

 

 九鬼帝。元々大きかった九鬼財閥が、世界最大とまで呼ばれるようになったのはこの男の手腕によるものだ。

 ヒュームが大きな扉をノックする。

 

「誰だ?」

「帝さま。以前にお伝えした者をお連れしました」

「おお、お前のライバルの孫とか言ってたやつか。入っていいぞ」

 

 何処か軽い感じで部屋への入室が許可される。通された部屋は九鬼家当主にふさわしい豪華な部屋だった。

 

「お前が鳴神勇介か」

 

 よう、と手をあげながら笑顔で声をかけてくる。

 

「貴方が九鬼帝さん、ですか」

「そうだ。普通のおっさんだろ?」

 

 普通のおっさんがこんな気を放ってたまるか、と内心で思いながらも勇介は愛想笑いで誤魔化す。

 

「しっかし、あのヒュームが紹介してくるとはな。しかもクラウディオとマープルにも師事してんだろ?面白いな、お前」

「はじめまして、鳴神勇介です。……祖父の跡を継いで何れはヒュームさんと川神鉄心さんを超える予定です」

「おお、ヒュームとあの川神院を超えるってか。いいねいいね、そういう若さ!俺はそういうの好きだぜ」

 

 嬉しそうに勇介に近づいてくると肩をポンポンと叩く。

 

「ヒュームたちの弟子っていうんなら俺からしたら信用に値するってもんだ」

「では帝さま」

「あぁ、住む場所とかないんだろ?好きなだけ泊まっていっていいぞ。どうせ部屋は余ってるんだ。あ、そうなるなら局と子供たちと会わせておいたほうがいいか」

「そう仰ると思いまして、既に手配しております」

「流石はクラウだな」

「簡単なことでございます」

「ちょうど英雄とは同じ年齢みたいだし仲良くできるだろ。んじゃ飯にするか」

 

 

「ってなわけで、一時ここに滞在することになると思うからよろしく頼むぜ」

「帝様は相変わらず突然ですね」

「はっはっはっ!そんな俺だからこそ惚れたんだろ?」

「……何を言わせようとしているんですか」

 

 突然イチャイチャし始める帝とその妻である局に少しだけ驚く勇介。

 

「ははは!相変わらず父上と母上は仲が良いな」

 

 そう言って笑うのは九鬼揚羽。帝の子の一人で、まだまだ若いが九鬼軍需鉄鋼部門の統括をしている才女だ。かつては川神百代などと並び四天王の一人として数えられていたらしい。そして、ヒュームに武を教わった数少ない人の一人でもある。

 

「しかし、ヒュームのライバルであった鳴神天膳殿の孫とは……話には聞いていたがよく気を隠しているようだな?」

「はは、隠す……というのとは別モノだったりするんですけどね。それにしても……ヒュームさんと同じで攻撃的な気ですね?」

「そうか?鍛錬は続けているとはいえ、どうしても腕が落ちている気がしてな。よかったら後で少し相手をしてもらえると嬉しいのだが」

「こちらこそ喜んで」

「ふははははは!姉上とも仲良くなっているようだな!」

 

 九鬼英雄。勇介とは同年代で学生をしながらも何れは九鬼の商業部門全てを統括して動く予定らしい。

 

「まだこれからだよ。それより、英雄は何か好きなこととかあるのか?」

「む、好きなものか?それは勿論九鬼財閥である!ふはははは!」

「ふはははは!兄上は相変わらずですな!」

 

 他の二人とは違い、まだ少し幼さの残る少女……九鬼紋白が笑いながら言う。

 

「紋白にとっては自慢の兄と姉ってところか?」

「うむ!自慢の兄上と姉上であるぞ!」

「ふはははは!我にとっても自慢の妹である!」

「それは我も同じである。ふはははは!」

 

 高笑いが響く。知らないものが見ればとても混沌とした場所であるが勇介は何処吹く風だ。あ、これおいしい、などと余裕の反応である。

 

「で、ヒューム。具体的に勇介をどうしたいか考えてるのか?」

「本人が望むのであれば従者部隊で働くことも可能かと。恐らくは現時点でも一桁は間違いありません」

「ほぉ、ヒュームがそこまで言うか。いつかは零番交代か?」

「ふっ……そう簡単に譲るつもりはありませんがね」

「従者部隊かぁ。面白そうだけど今は有名な武人と戦いたいかな」

「ふむ、そういうことならクラウ。何人か見繕ってやればいい」

「よろしいので?」

「勇介が嫌だってんなら無理にとは言わんがな。多分もらえるものは貰う派だろ」

 

 

「九鬼雷神金剛拳!」

 

 雷を纏った強烈な一撃。ヒュームの蹴りほどの鋭さはないが、匹敵する威力だ。

 

「鳴神流・明鏡(めいきょう)

 

 その一撃を勇介は片手で受け止める。受け止められた揚羽は目を見開き驚く。

 

「ほぅ……ヒュームから話は聞いていたが……想像以上であるな!」

 

 揚羽は笑みを浮かべると激しい拳のラッシュを繰り出す。

 

「ちょっ!?ヒュームさんと同じで加減のない……っ!」

 

 雨のように放たれる無数の拳を全て受け流していく勇介に揚羽の気が更に上昇していく。

 

「攻めてこないのであれば我が終わりまで攻め続けるぞ!?」

「攻めさせる気ないですよね!?」

 

 そんな言葉を勇介は言いながらも合間合間に鋭い一撃を放っている。ただし数は十に対して一といったところだろう。

 

「ふはは!そうはいいながらもいい一撃を当ててくるではないか!」

 

 実は、勇介がほぼ防戦なのには理由がある。揚羽のストレス解消である。とはいえ、武人として手加減をしているわけではないのだが。

 

「ふはは、本当にお前は強いな。我も全盛期に戦いたかったぞ」

「揚羽さんはまだまだ現役ですよ!」

「そういってもらえるのは嬉しいがな。どうしても以前のように鍛錬に時間を取れなくてな」

 

 会話しながらも互いの動きが止まることはない。むしろ先ほどまでよりも揚羽の攻撃が鋭くなっていく。

 

「ヒュームさんから教えを受けてるっていうのがよく分かりますよ。それじゃ、もう少しで時間ですね」

「少しは本気を出してみないのか?」

「ん~」

 

 チラッと視線をヒュームに向ける。軽くひとつ頷くのを見て揚羽に向き直る。

 

「最悪の場合はヒュームさんが止めてくれると思いますけど……耐えてくださいね」

「っ!?」

 

 その言葉と共に揚羽の身体に衝撃が走る。

 

「(一撃でこれほどの体力を削られ……いや、これは気をごっそりと持っていかれたのか!?)」

「かぁっ!!」

 

 先ほどまでとは打って変わって勇介の圧倒的な力に防戦一方になる。

 

「鳴神流龍技(りゅうぎ)

 

 普段の静の気とは違い、今は明らかな暴の気。荒れ狂う竜巻のような気を纏っている勇介の拳に気が集結する。

 

星喰(ほしばみ)!!」

 

 下から抉りあげるように突き出された掌を何とか避けた揚羽だったが、身体に違和感を感じると同時に崩れ落ちる。

 

「ぐっ!?」

「っと、すみません、揚羽さん!」

 

 暴力的なオーラは消え、いつもの静かな雰囲気に戻った勇介が倒れかけた揚羽を抱きとめる。

 

「今のが鳴神の真の技……というやつか?」

「まぁ、近いといえば近いです。詳しいことは秘密ですけど」

「はは、しかし完膚なきまでに負けたわ」

「揚羽さまぁっ!!」

 

 大声で揚羽を呼び、一人の従者がタオルを差し出してくる。

 

「鳴神さんもどうぞ!」

「あ、ありがとうございます。小十郎さん」

 

 揚羽の直属として仕えている従者、武田小十郎。正直なところ、武の才能もなく従者としてのスキルがあるわけでもないらしい。幼い頃から揚羽に仕えているというのは聞いているし、全員の直属は紹介されていたので知っている程度の関係だ。

 

「ふむ……小十郎。勇介に少し師事してみてはどうだ?」

「私が、ですか?」

「勇介が構わんのであれば、だが」

「俺は別に構いませんよ」

「小十郎は頑丈だから思い切りやって構わんぞ」

 

 

「ぐはぁっ!!」

「……」

 

 勇介は少し戸惑っていた。言われたとおり確かにかなり頑丈だ。一般的な人と比べれば強い。だが、それだけだ。小十郎の才能では壁どころかそれが見える位置にもたどり着けないだろう。

 

「ま、まだまだぁっ!!」

 

 この気迫。単純にこのやる気と気迫だけを見れば明らかにもっと強くなっていてもおかしくない。それができる環境にいるのだから。

 

「ふむ」

 

 本当の達人であるマスタークラスに到達するには常人では超えられない壁を突破しなくてはならない。そして、才能がなければそこを抜けることはできない。通常のやり方では。

 

「(でも、小十郎さんにアレを試すのはなぁ……ただアドバイスでもう少しは強くなれる……か?)」

「流石に師匠はお強い!」

「……は?」

「?お強い、と」

「いや、今俺のこと、師匠とか呼んでませんでした?」

「はい!教えを受ける以上師匠であると思ったのですが」

「いやいや、俺より年上ですよね?普通に名前でいいですって」

 

 ……そんな掛け合いがあり、師匠から勇介くんへと呼び方は変わったのだった。

 

 

 勇介は一応、九鬼帝とヒュームの客ということで賓客扱いにされている。そういうこともあって、従者部隊の中から付き人が選ばれていた。

 

「おーい、勇介。もう起きてるか~?」

「ステイシー、勇介は客人であると何度伝えれば理解するんですか」

 

 ヒュームの部下、というよりは拾ってきて従者にしたステイシー・コナー。クラウディオの部下である李 静初(ジンチュー)。共に問題児でもあるが、若手の中では評価の高い二人が勇介についていた。これはヒュームとクラウディオが推薦したようだが。

 

「いや、李さんいいんですって。俺が気軽にしてほしいってお願いしたんですし」

「ははは、ロックなやつは好きだぜ!しっかし、こんな雰囲気でヒュームのじじいの弟子とは思えないぜ」

「そうですか?クラウさまからも師事していると聞いているので逆に違和感はありませんが」

 

 雰囲気としては正反対の二人であるが、とても仲が良い。

 

「それで、今日は何処にいくんだ?」

「そうそう、李さんに聞いてみたくて。このあたりでおいしい中華とか食べられる場所ありません?」




感想などお待ちしております!


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4話 九鬼と九鬼従者部隊 後編

仕事も忙しいですが、出来る限り一日一話を続けます。
文字数は……今くらいで許してください(ぉぃ


 七浜にある中華街にある黄楼閣。知る人ぞ知る名店ではるが、その場所はかなり裏手に位置している為なかなか探しても見つからないという。

 

「うぉ……高そう」

「ハハハ!確かにちょーっといい値段はするけど今日は私たちが出してやるよ」

「勇介のおかげで今日貴方を案内するということで非番になりましたので」

 

 既に私服になったステイシーと李が勇介にそういう。

 

「とはいえ、俺もちゃんと持ち合わせあるんですけど」

「気にすんなって」

「そうです。お姉さんたちに任せておけばいいんですよ」

 

 なれた感じで店内へと足を踏み入れると、そのまま二階へあがり個室へと入る。

 

「しかも個室!」

「私と李が来るときは基本いつも個室だよな。李の知り合いの店だから色々と融通が利くんだよ」

「勇介は川神水で構いませんよね?」

「あ、はい。基本何でも食べるのでおススメでお願いします」

 

 次々に出される料理はそのどれもが絶品で勇介の箸が進む。他愛もない雑談や従者になった経緯などを話しながらステイシーと李は酒を、勇介は川神水を飲む。

 

 

 どれくらい時間が経っただろうか。ステイシーも李も酒が進みいい具合に出来上がってきている。

 

「しっかし、勇介の強さってどれくらいなんだ?ヒュームの弟子って聞いたけどいまいち見えてこねーんだよなぁ」

「それは私も思いました。気を隠す能力が高いことも強い証明なのでしょうが」

「俺はまだヒュームさんに勝てるほどは強くないですよ。あらゆる状況が整った状態で後のことを考えなくていいのであれば五分まで持ち込める可能性はありますけど」

「いやいやいや!ヒュームの野郎に五分まで持っていけるって自信があるのがまず異常だろ!」

「そうですね。あの方は九鬼最強ですからね」

「いえいえ、こちらは明日以降一切合切を賭けてようやくですからね?」

「普通は可能性すら感じねぇって!」

 

 がばっと勇介の肩を抱くステイシー。

 

「勇介が従者部隊に入ってヒュームのじじいをぶっとばしてくれればスカッとするのによぉ!」

「はは、無茶振りでしょ。何れは俺が勝ちますけど」

「ハハハ!そのビッグマウスはロックだぜ!」

「そういえば、クラウディオさんも強そうなんだよなぁ。あの人は本当に完璧そうだ」

「そうですね。私の襲撃を抑えたのはクラウ様ですし、従者部隊No3は伊達じゃないということです」

「クラウディオさんは糸使いだっけ?珍しいよなぁ。あまり戦ったことがないから今度手合わせをお願いしてみるかな」

「あまりってまさか戦ったことあんのかよ、糸使いとか!」

「まぁ、数度は。たぶんクラウディオさんほどの腕前はないですけど」

「それはそうでしょう。クラウ様はお強いですから」

 

 

「ご馳走様でした、お姉さま方」

「おう!いやー、今日は楽しい酒が飲めたぜ!」

「私も楽しませてもらいました」

 

 三人で少し日の沈み始めた中華街を歩く。並んで歩く美女二人というのはどうしても人の目を惹く。そして人の目を惹くということはある種の人間が集まってくるということだ。

 

「おう、姉ちゃんたち。暇してるならいい店知ってるぜ?どうだ?」

 

 そう声をかけてきたのはちゃらい感じの男たちだ。五人ほどでその中の一人は格闘技の経験があるのが勇介たちには一目で分かった。そして、明らかに視界に入っているにも関わらず見ぬ振りをしている。

 

「う~ん……確かにお二人は綺麗だからこういう輩が沸くかもと思ってはいたけど」

「お、私が綺麗だって?ロックな奴だな」

「ふふ、勇介に言われるのであれば嫌ではありませんね」

 

 周囲の男を完全に無視して勇介と話をするステイシーと李に周囲の男たちが少しいらだった様子を見せる。

 

「おいおい、調子乗ってくれちゃってるんじゃねぇよ?このガキ」

「俺か」

 

 睨まれてもまったく動じない勇介に対して更に怒りのボルテージを上げていく男たち。

 

「おい、こいつはボクシングで人を壊したことがあるんだぜ?早めに謝っておいたほうがいいと思うぜ?」

 

 身長は190cmくらいだろうか、なかなかの巨体で目の前に立たれるとかなりの威圧感を感じる。だが、それだけだ。対する勇介の身長は170cm程度。相手からすれば簡単に捻りつぶせる、そう考えているだろう。

 

「ボクシング、か。俺も格闘技してるんだ」

「あぁ!?喧嘩売ってるのか?」

「喧嘩っていうのは喧嘩になり得るからするものなんですよ?俺とじゃ喧嘩にならないでしょ」

「ははは!違いない!」

 

 周囲の男たちが笑う。……だが、一人だけ違う反応をするものがいた。勇介の眼前に立つ、巨体の男である。だらだらと汗をかき、がちがちと歯を鳴らす。身体も震え始めているが周囲の男たちは気付いていない。次にその様子に気付いたのはステイシーと李だ。何が起こっているのかに気付いて苦笑いを浮かべている。

 

「さ、早く帰りましょうステイシーさん、李さん」

「おい、てめぇ何……」

 

 勇介に手を伸ばしかけた男がびくりと固まる。見てしまった、いや見えてしまったのだ。見えるはずのない気が龍の形で渦巻いているのを。

 

 そして気付いてしまったのだ。自分が喧嘩を売ろうと思っていた相手が自分たちとは次元の違う存在であると。

 

「さっきのアレはマジで凄かったな、おい」

「さっきの殺気ですか」

「ファック、李それはわざとならひどい出来だぜ?」

「はは、俺は嫌いじゃないですけど」

 

 思いついても口には出さないだろうが、というのはご愛嬌だ。

 

「あいつらが見た光景がどんなものなのか見てみたいもんだけどな」

「やめておいたほうがいいでしょう。素人であれほどの恐怖を感じるということは……」

「ヒュームさんなら即座に必殺の蹴りが飛んでくるね」

 

 

「ふはははは!どうだ、鳴神!九鬼での生活は慣れたか?」

 

 そう声をかけてきたのは紋白である。そばにはヒュームが控えているようだ。

 

「ゆっくり楽しくさせてもらってるよ、紋白」

「ふはははは!そうかそうか!それならよかったぞ!」

 

 嬉しそうに笑う紋白に勇介も釣られて笑顔になっている。

 

「勇介の話もじっくりと聞きたい。我の用事が終わった後に少し時間をもらえるか?」

「勿論。修行以外は比較的暇してますので」

「若手の従者たちとも訓練をしていると聞いているぞ。礼を言う」

「いえいえ。俺にとってもいい経験になってますので気にしないでください」

「そうか。ではまた後で誰かに呼びに行かせるぞ」

 

 そんな紋白から再度呼ばれたのは夕方頃。本日の鍛錬や勉強を終わらせた後のようだった。通されたのは紋白たちが休憩するのに利用しているスペースで、一般家庭であればリビングやそういった雰囲気の場所だった。大きめのソファや大型のテレビなどもあり、勇介からすると親しみやすい雰囲気だった。

 

「さて、わざわざ時間を割いてもらってすまんな」

「気にしなくていいよ。俺も紋白のこと知りたいし」

「おぉ?我のことをか?ふはははは、我の魅力か?」

「ふふ、そうだな。紋白、何か飲むか?」

「む、淹れてくれるのか?誰か従者を呼んでも構わんのだぞ?」

「いいよ、これくらい。友人として話をしたいってことならわざわざそういうことをしなくても」

 

 そういいながらクラウディオ直伝のお茶を淹れる。

 

「……おお!クラウ爺の淹れるお茶と同じくらいおいしいぞ!」

「そういわれるとは光栄だな。実際クラウディオさんに習ったことだしね」

「ふふ、勇介は良い従者にもなれるな!なることがあれば是非とも我の専属を任せたいものだな!」

「光栄だな。でもそうなると今みたいな感じじゃ話せなくなるな」

「むぅ、それは困るな。今は友人であるから問題はないな!」

「だな」

 

 勇介は紋白の隣に腰をかける。

 

「で、どういうことが知りたいんだ?」

「うむ、勇介はこれまでどのような生活をしてきたのかなどだな。あのヒュームが認めるほどの腕と、クラウ爺が認める作法、マープルが認める知力を持つなど並大抵のことではないと思ってな」

「これまで、か。ん~、そこまで聞いても楽しくはないと思うけど」

 

 

「……そうか、では勇介には親が……」

「あぁ。でも物心ついたときからいなかったから、そこに関しては特になんとも思ってないよ。長い期間じゃなかったけど祖父さんはいたし、それに父のように優しい人と、姉のような人も妹のような子もいたしね」

「であるか。でも、これまでずっと頑張ってきたのだな、偉い偉い」

 

 そう言いながら紋白は勇介の頭を撫でる。一瞬驚いた勇介だったが、おとなしくそれを受け入れる。

 

「……ふむ、撫でる経験はあったけど撫でられたのはいつ振りだろう」

「嫌だったか?」

「悪くない、かな」

 

 少し照れるけど、といいながら勇介はお返しとばかりに紋白の頭を撫でる。

 

「おぉ!?な、何で我を撫でるのだ?」

「俺のこと、心配してくれたんだろ?ありがとな」

「うう、我は人の上に立つものだから、このようなことは……」

「さっきの俺と同じだよ。頑張ったり、いい子は撫でて問題ないだろ?」

「うう……」

「それに俺たちは友達だろ?対等なんだから、誰もいないところでなら問題ないよな?」

「そう、か?」

「そうだ。天下の九鬼に特別なところのない俺が対等っていうのもおかしいかもしれないけどな」

「お前も十分特別だとは思うが……そうだな、少しだけ甘えるとしよう」

 

 一度立ち上がった紋白が勇介の膝へとダイブする。

 

「おお、思い切りがいいな」

「ふはは!一度決めたからにはな!」

 

 なにやら楽しそうに足をぶらぶらさせる紋白に微笑む勇介。

 

「困ったことがあったら俺に相談してくれていいからな?まぁ、ヒュームさんを倒せ!とかじゃなければ出来る限り受けるから」

「ふふ、何かあれば頼らせてもらうぞ?とはいえ、何れはヒュームを超えるのだろう?それも楽しみであるなー!」

 

 まったりとした紋白との時間は過ぎていく……。




感想、評価等お待ちしております♪


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5話 剣豪、時々娘たち

フラグ、建設中(ぉぃ


 勇介の使う武術、鳴神流は素手と剣術を中心に受け継がれている。厳密には歴代の流派の当主が新たに違う形を取り入れたりしているため、総合格闘技のような様相をしているというのも特徴のひとつだ。

 

「……」

 

 早朝。日が昇り始める頃。九鬼極東本部の屋上に勇介はいた。静かに風をその身に感じ、刀を目前に構えている。鳴神流では武術として以上に、気の鍛錬において他の武術とは一線を画している。あのヒュームですら鳴神の気の技を認めていることからもそれは分かるだろう。川神流も鳴神流と同じく気の扱いに長けてはいるのだが。

 朝の冷たい空気に溶け込むように勇介の気は希薄になっていく。風に身を委ね、世界に溶け込む。自らの存在を周囲と同化することで、気の純度を高めていく。

 

「っ!」

 

 呼吸をも止めた勇介が刀を振るう。一閃、また一閃。繰り出される一振りはひとつひとつが必殺の一撃であるのだが、それ以上にまるで舞のような美しさを合わせ持っていた。

 

「ふぅ」

 

 一通り満足のいくところまで来たのだろう、勇介は深く息をつくと、刀を鞘へと収めた。それを待っていたかのようにパチパチパチと手を叩く音。

 

「素晴らしいものを見せてもらったぞ」

「揚羽さん」

 

 拍手をしながら現れたのは九鬼揚羽だった。

 

「朝から屋上でなにやら綺麗な気配を感じたのでな。つい見に来てしまったわ」

「綺麗、ですか。それはきっと見ている揚羽さん自身がそうだからだと思いますよ」

「ふはははは、そうか!」

「はい。さっきまでの俺の気は相手を反映するものでした。悪意を持って俺を見れば凶悪に、善意を持ってみればそのように感じるんです」

「ほぅ、面白い気の扱い方であるな」

「とはいえ、俺はまだまだですよ。刀の扱いに関してはまだまだ勉強するべきところがありますし。義経たちと会わせて貰ったおかげで少しは成長したと思いますけど」

「ふむ……剣術ということか……」

 

 勇介の言葉に頤に手を当てた揚羽がぽんと手を打つ。

 

「であれば、実際に現代の剣聖に会いに行くというのはどうだ」

「現代の剣聖……というとまさか」

「うむ、(まゆずみ)十一段だ」

 

 

 人間国宝、黛大成(たいせい)。剣の道に生きる者であれば彼の名を知らない人はいないだろう。安土桃山の時代より黛の剣を受け継ぎ、現代でも完全に再現できることから剣聖と呼ばれているのだ。

 

「でも、よかったんですか?揚羽さん忙しいんじゃ」

「ふはははは、ここまで来るくらいであれば構わぬ。ちょうど我もこちらに用があったからな」

 

 北陸、加賀。朝の鍛錬からそこまで時間の経たないうちに黛十一段を尋ねに揚羽と勇介は一気に移動していた。九鬼のヘリは恐ろしい速度だった。

 

「あそこ、ですか」

 

 勇介がすっと眼を細めて一軒の家を指差す。

 

「うむ、流石に分かるか」

「はい。大きな気が……二つ。片方は澄んだ気だけど、恐ろしく腕が立つ。もうひとつは……うん、今はまだ育ちきれてない感じだけど、強い才能を感じる」

「ほう、お前がそこまで言うということはかなりの者がいるのだろうな。たのもう!」

 

 揚羽の声に反応したように、一人の男性が家より出てくる。現代には数少ない帯剣許可を貰っているからこその腰に刀を佩いた剣豪、黛大成である。

 

「これはこれは。お久しぶりですな、揚羽殿」

「うむ、早い時間からすまぬな、大成殿。こちらが電話で伝えておいた」

「鳴神勇介です」

「おお、君があの天膳殿のお孫さんか」

「祖父をご存知なんですね」

「武人として、そして剣の道に生きた者として尊敬しているよ」

 

 

 刀を構えて対峙した勇介と大成。ごくりと息を飲む勇介。直接的な戦いであればヒュームのほうが上だろう。だが、今同じように刀を向け合っている状態で勇介は感じる。強い、と。

 

「来ないのかね?」

「いえ、いけないんですけどね」

 

 どのような攻撃を繰り出しても簡単に返されてしまう。そんなビジョンしか見えてこないのだ。これほどの相手と対峙した記憶はこと剣に限れば初めてに近い。そう、幼い頃に修行をしていた祖父、天膳を除いては。

 

「ならばこちらから」

 

 すっと無音で進み出る大成。勇介もじりじりと前へと進み出る。互いの距離が近づき刀の射程範囲が重なる。

 

「っ!」

「ふっ!」

 

 常人では何があったか分からないだろう、刀のぶつかる音だけが周囲に響き勇介が一歩下がる。

 

「ほぅ……」

 

 感嘆の声を上げたのは大成だ。目の前の少年が才能に恵まれていることはすぐに分かった。並々ならぬ訓練を重ねてきたのであろうことも。だが、大成の放った一撃は刀を吹き飛ばすつもりで放ったのだ。それをほぼ同等の力で打ち返されたのだから驚くのも無理はない。

 逆に勇介も驚いていた。相手と同じだけの力をぶつける。勇介の最も得意とすることだ。にも関わらず、計算よりも大成の攻撃に押し負けた。ほぼ全力の一撃を合わせたのに。

 

「はぁっ!」

 

 朝の鍛錬で見せた剣舞よりも更にスピードの乗った一撃を連続で叩き込む。それを大成は悉くをいなしていく。

 

「ふむ、まだ本気ではないね?私でよければ君の全力を受け止めてあげよう」

「!……では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 ドクン、と周囲の気が波打つ。揚羽にはこの空気に覚えがあった。

 

「これは、あのときの」

「しゅっ!!」

 

 鋭い呼気と共に振るわれた一撃は先ほどまで以上に殺気を纏ったものだ。それもいなすと反撃の一撃が放たれる。最小限の動きで回避した勇介が刀を構えなおす。

 

「鳴神流・一刀」

 

 リィィンと、周囲に鈴のような音が響く。

 

鈴蟲(すずむし)

 

 中空に円を描くように斬りつける勇介。それに対してこれまでとは違い、全力で大成も技を放つ。その気になれば山をも斬れるとされる大成の一撃は勇介の技とぶつかり、二人を中心に風圧が嵐のように吹き荒れる。

 

「……ここまでですね」

 

 勇介がそう言うと礼をして刀を収める。

 

「いや、私の想像以上だったよ。世界は広いと改めて身にしみた」

「いえ、それは俺のほうです。黛の技、本当にすばらしいです」

「ははは、我もよいものを見せてもらったぞ」

 

 揚羽も満足そうに言う。

 

「とはいえ、我はそろそろ行かねばならん。勇介はどうする?」

「そうですね……」

「ふむ、君さえよければ、少しうちで剣を学んでいかないかね?私の弟子でもあり、何れは私を超えるであろう娘とも会って是非とも切磋琢磨してもらいたい」

「いいんですか?」

「刀を交えれば、君がどのような人と為りをしているかは分かるとも。勿論、妻にも相談した上でになるがよければ泊まって行きたまえ」

 

 

 黛大成の娘である黛由紀江は、大成が認めるほどの天才である。何れは彼をも超える剣の達人になることは間違いないといわれているのだ。だが、そんな彼女にも欠点があった。

 

 

 勇介が黛の家に厄介になり始めて既に一月ほどの日々が流れていた。毎日大成との鍛錬や、由紀江との模擬戦、更には由紀江の妹の沙也佳(さやか)を交えての訓練や遊びなどで仲良くなっていた。そんなある日。

 

「それで、由紀江は友達がほしい、と」

『そうなんだよ、勇介ボウヤ。まゆっちはすげー頑張ってるんだけどなかなか出来ないんだよ』

 

 そう言ってくる?のは由紀江の持つキーホルダー……松風という名前の馬である。大成が誕生日のプレゼントとして彫ったらしいが、神が宿ったらしくしばしば由紀江の代わりに毒舌を吐くのだ。……まぁ腹話術といえば腹話術なのだが、勇介はあっさりとそれを受け入れた。それは幼い頃からクリスのぬいぐるみ遊びにマルギッテと共に興じていたことも大きいのかもしれない。

 

「ん~、まぁ確かに普通は刀を持ち歩かないしなぁ」

「う、やっぱりそうですか……?」

 

 少し落ち込んだ様子で上目遣いに尋ねてくる由紀江。

 

「嘘を言うわけにもいかないしなぁ。それと、このあたりだとどうしても大成さんの娘ってことで神格化されてる部分もあるんじゃない?」

「ですが、沙也佳は友達がたくさんです」

『対してまゆっちのアドレス帳は真っ白だぜ……』

 

 自虐にも走る由紀江である。

 

「沙也佳はそういうところ要領いいしな。遠くの学校に行くっていうのも選択肢の一つかもしれないなぁ。心機一転っていうか、なんたらデビューみたいにな」

「……確かにいいかも知れません」

『おお、まゆっち頑張れ~。やるんならオラは応援するぜ』

「俺も応援するよ。由紀江は頭いいから特に俺が出来ることはないと思うけど何でも相談してくれ」

「は、はい!ありがとうございます、勇介さん!」

『勇介の優しさに全米が涙するぜぇ……』

「あ、そうだ。由紀江、よかったら俺とアドレスとか交換しないか?」

「わわわ、私でいいんですかっ!?」

「まぁ、俺も正直このあたりはあまり詳しくないんだけどな。ほら、赤外線」

「ち、ちょっと待ってください!えっと、こうやって……」

 

 おっかなびっくりな由紀江とアドレスの交換をする。

 

「俺も人のこと言えないけど、これくらいはスムーズに出来るように練習したほうがいいかもな」

「は、はい!やっと家族以外のアドレスが登録されました……!」

『まゆっち、よかったなー。オラも嬉しい』

「あれ、お姉ちゃんと勇介さん。どうしたの?」

「聞いてください沙也佳!私、勇介さんとアドレス交換したんです!」

『まゆっちは毎日成長してるんやで……』

「また変な腹話術しちゃって……だから友達できないのよ」

「うぐ……で、でも勇介さんと交換しましたから、一歩踏み出したんです!」

「はは、そうだな。でもまぁ、松風は知らない人はびっくりするかもしれないな」

『世知辛い世の中だぜ……神は敬えってんだ』

「まぁ、お姉ちゃんがそれでいいならいいけど。勇介さんも、あまりお姉ちゃんを甘やかさないでくださいね?」

「気をつけるよ。由紀江は不器用だけどいい子だし、きっといい出会いがあるよ」

 

 勇介の言葉に少し涙をためながら由紀江は笑顔で頷く。

 

「はいっ!」

「あ、そういえば勇介さんっていつまでうちにいるんでしたっけ」

「あまり長い時間世話になるのも~、って既に一月もお世話になってる俺が言うのもおかしいか?」

「いえ、私としては全然構わないんですけど。お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなー、とも思いましたし」

「俺みたいな兄貴でいいのか?」

「私からすれば理想のお兄ちゃんといいますか、同世代の男の子たちと違う大人な感じとかがとてもいいというか……」

 

 小声でよく聞こえないが、嫌がられているわけではなさそうなのでいいか、と勇介は思う。ただ、確かにいつまでもここに逗留しているわけにも行かない。

 

 とはいえ、それからまた少しの期間世話になり、勇介は剣聖の元を後にする。

 

 由紀江や沙也佳と必ずまた会おうと約束を交わして。




活動報告にヒロインの希望をかける場所を設けておきました。
直接メッセージで下さっている方もいらっしゃいますので、どちらでも構いません!

感想や評価はやる気につながってます!
どんなことでもお気軽にどうぞ!


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6話 幼き頃の記憶

ヒロイン希望の内容を集計して少し間に挟みこみます!
流れが少し変わってますが気にしないでください……。


 幼い頃の一日というのは、大人のそれよりも濃く長く感じるものである。幼い頃の勇介は、祖父である天膳に連れられて修行の旅を続けていた。その最中、実はある場所へと立ち寄っていた。

 

 川神。成長した彼はこの地を過去に訪れたことがあるということを今はまだ思い出してはいない。そしてそのときに、運命の出会いを重ねていたということも。

 

 

「やーい、椎名菌!悔しかったらやり返してみろよー!」

「……」

 

 複数の男の子にいじめられている少女。少女といってもガリガリに痩せていて着ている服もボロボロだ。

 

「おい、石投げてやろうぜ」

「そうしよう!」

 

 幾つかの石を何とか避けていた少女だったが、ひとつの石が頭に当たる。

 

「あぅ!」

「はは!命中!!」

「おー!おれたちも続けー!」

 

 怯んだ隙に投げつけられる石。次に来る衝撃に少女が目を瞑る。……だが、来ると思った衝撃がいつまで経っても来ない。

 

「……?」

「おい、抵抗する気のない一人に対して複数でとか、卑怯だな」

「な、なんだよ!お前何処の学校だー!?」

「お前も椎名と同じばい菌かー!」

「ばい菌?」

 

 言われた言葉に首をかしげて少女を見る。俯いた状態でよく分からないが、怯えていることだけは勇介には分かった。

 

「何処に菌があるんだ?あぁ、自分たちがばい菌だって言ってるのか。確かにそうだよなぁ、卑怯で馬鹿だし」

「何だと!」

 

 怒った少年の一人が勇介へと殴りかかる。

 

「素人のガキ相手に本気出したら怒られるから手加減してやるよ」

「皆やっちまえ!」

 

 繰り出される駄々っ子のようなパンチを右手一本で弾く。しかも結構な威力のようで弾かれた子たちは腕を押さえて蹲る。

 

「な、何だよこいつ!?」

「い、石投げろ!」

 

 離れて石を勇介に向かって投げつける。だが、勇介にあたるはずの石はそのままの流れで全て投げた本人へと返って行く。

 

「ぎゃ!」

「痛いっ!!」

 

 石にあたって更に蹲る子たちが増える。中には泣き出す子もいた。

 

「で?まだやるのか?」

 

 そう言って一歩踏み出した勇介に怯む子供たち。

 

「に、にげろー!」

「ばけものだー!」

「ふん、しょーもない」

 

 勇介はそうつぶやくと、少女に向き直って手を差し出す。

 

「立てるか?」

「う、うん」

 

 そう言って勇介の手を取ろうとした少女だったが、何かに気付いたように手を止める。

 

「どうした?」

「わ、私、汚いから……」

「……汚くないよ」

 

 引っ込めようとしていた手を強引につかんで立たせる。

 

「ほら、大丈夫?」

「う、うん。あ、あの……」

 

 モジモジしながら上目遣いで勇介を見る少女。

 

「あ、ありがと……」

「ん。気にしないでいいよ。俺があんなしょーもないことしてるのが嫌だっただけだから」

「しょーもない?」

「うん。君がばい菌なわけないじゃん。変な奴らだな」

「……ふふ」

「何で笑うんだよ」

「だって、私のこと嫌がらない人、いないから……」

 

 川原で二人で話をする。ぽつぽつと語られる話は勇介にとっては驚きのものばかりだった。

 

「うーん……そんな奴らと一緒の学校、行きたくないな」

「でも、ちゃんと勉強しないと立派な大人になれないよ?」

「そうかなぁ?勉強しててもそんな大人には俺はなりたくないな。でも、その仲良くなりたい子たちとちゃんと話せるようになったら、仲間にいれてもらえるんじゃない?」

「そうかな……」

「そうだって!俺、いつまでここにいるか分からないけど、また仲間になれなかったら俺が一緒にお願いしてあげるからさ」

「う、うん!」

 

 それからも幾度か、勇介と少女は放課後に話をしていた。あくる日、放課後にある少年と話をしている姿を見て勇介はほっとする。

 

「なんだ、ちゃんと話かけられたみたいだな」

 

 勇介に対して浮かべていたのと同じ笑顔で少年と話しているのを見てほっとした勇介はその場を後にする。互いに名前を知らないまま分かれた少女と勇介が会うのは、はるか先の話となる。

 

 

 同じ頃、もう一人勇介とであった少女がいた。あっちへフラフラ、こっちへフラフラと少しおぼつかない歩き方の少女だ。

 

「どうしたの?」

「あ……」

 

 同じ年くらいだろう、真っ白な肌と同じく真っ白な髪。真っ赤な目が特に目を惹く少女だった。

 

「もしかして、お腹すいてる?」

「う、うん」

 

 倒れそうな少女の身体からうっすらと見える気で勇介が尋ねると静かに頷く。

 

「今持ってるの、お菓子しかないけどあげるよ」

「いいの?」

「うん。普通のマシュマロだけど」

 

 差し出されたマシュマロを口に入れた少女が目を輝かせる。どうやら気に入ってもらえたようだ。

 

「おいしい?」

「うん!僕、こんなにおいしいの初めて食べたよ!」

 

 お腹はふくれていないだろうに凄く元気になった少女に勇介も笑顔になる。

 

「はは、それならよかった。今度会うことがあったらおにぎりくらい準備してあげるよ」

「ありがと!」

 

 

 それから、何度か少女とあった。いつも勇介に会うまでは元気がなく、食事もまともに食べていないような状態だったが、勇介が昼に食べる予定だった握り飯などをあげたり、気に入ったようだったマシュマロを上げたりしているうちに少し元気が出てきたようだ。

 

「ねぇ、僕お母さんに好きになってもらえるかなぁ?」

「……」

 

 それとなく、少女から家のことを話で聞いていた勇介は口を噤む。子供でも分かるほどに少女の母親は不安定だ。下手をすれば最悪の事態が待っているのではないかと思ってしまうほどに。

 

「ユキはさ、どうしてもお母さんと一緒に居たい?」

「うん……きっと、お母さんが僕に冷たいのは僕が何か悪いことをしたからなんだ」

 

 どうしても母親に愛してほしいユキはそういう。

 

「そっか。俺も子供だし、何かしてあげられることは少ないと思う。でもそうだな……うん、大好きなお菓子とかあげて誰かと仲良くなるとかいいんじゃないか?」

「マシュマロを?」

「そうそう。皆でおいしいお菓子食べたら仲良くなれるんじゃないかな」

「僕とユウみたいに?」

「そうだね。同じ学校が難しいなら、違う学校でもいいんじゃないかな。そのあたりで遊んでる子とか」

「うぅ……大丈夫かなぁ?」

「大丈夫だよ」

 

 そう言って勇介は優しくユキの頭を撫でる。

 

「こんなに綺麗な髪と目をしてるんだから、きっと仲良くなれるさ」

「う、うん!頑張ってみる!……でも、ユウは?」

「俺はもうすぐ次の修行の旅に出ると思う。いつ帰ってこられるか分からないから……だから、仲間に入れたら教えて」

「うん!僕、頑張ってみるよ!」

 

 後日ユキは、無事にあるグループへと入ることになる。それを見届けある日少女の前から勇介は姿を消す。またいつか会いたいな、とユキの心に幾ばくかの寂しさを与えて。

 

 

「っ!」

 

 椎名京は昔の夢を見て飛び起きる。隣ですぅすぅと寝息を立てているのは直江大和。京が絶賛片思い中の相手だ。あらゆる手段を講じて京の侵入を阻止しようとしているが全てが空振りなのもいつものことだ。

 

「小さい頃の夢、久々に見たかも」

 

 ぼそりとつぶやく。幼い頃の夢を見ると、汗でぐっしょりとなり正直気持ちのいいものではないことが多いのだが、今回の夢は違った。最近では忘れてしまっていた、懐かしい思い出。

 

「……どうしてるのかな、あの子」

 

 名前も知らない少年だったが、京にとっては大きな影響を受けたことは否定できない。もしずっと傍にいてくれたなら、今とは違う自分がいたかもしれないと思えるくらいには。

 

「……しょーもない」

 

 ぼそりとつぶやいた言葉は、京の覚えている少年の言葉だ。悩んでいたことをたった一言で斬り捨てた言葉。今では京の口癖とまではいかないにしても、よく使う言葉となっていた。

 

「どんな子だったっけ。とりあえずすっごく強かったことは覚えているけど。……モモ先輩には勝てないだろうけど」

 

 そんなことを考えながら大和の布団へと再度もぐりこむ。……とはいえ、大和が望まない以上、添い寝でやめているのは褒めていいのかは分からないが。

 

「ふふ、きっと元気にしてるよね」

 

 

 時を同じくして、もう一人の少女……ユキと呼ばれていた少女も無事に成長を遂げていた。あの後、母親による虐待が明るみに出て別の少年たちによって救われた少女は、優しい義理の父母を得て幸せな生活を送ることができた。

 

「久々に昔の夢を見たのだ」

 

 独り言、というには少し大きな声でユキはつぶやく。

 

「ユウ、元気にしてるかな~」

 

 ユキ……榊原小雪はそう呟きながら、ベッドの傍においてあるマシュマロの袋を見る。

 

「また会えたら、今度は僕がマシュマロをあげるんだ」

 

 その袋は、初めて会ったときに勇介から貰ったものだ。綺麗に洗ってこれまでずっと大切に保管していたのだ。

 

「でもよく考えたら僕、ユウって呼び方だけで苗字とか聞いてないなぁ。うーん」

 

 困ったように腕を組んで首を傾げるが、考えても答えが出ることはないだろう。話の中で聞いていない……聞いていたとしても、実際に呼んだりしていない以上記憶には残っていないのだから。

 

「う~ん、わかんないや。明日トーマと準にきこーっと」

 

 答えは出ない、という答えが出た小雪はそう言うと再度ベッドに横になる。

 

「僕がこんなに元気になったって知ったらびっくりするかな?トーマと準を守るために強くなったって聞いたら褒めてくれるかな~?」

 

 再会したわけでも、再会できると決まったわけでもないのに楽しそうに、嬉しそうに独り言を言う小雪の表情は、昔と違い満面の笑みだ。

 

「よーし!明日また新しい紙芝居を書くのだ。それでそれで……」

 

 そんなことを言いながらすぐに眠りへと落ちていく。

 

 

 二人の少女と、勇介。

 

 再会の日は、刻一刻と迫っていた。




状況としてはSの幼少期分岐で、大和が受け入れることを許したルートになります。
ですが、そちらのルートほど大和に懐いている状態ではありませんので、大きな違和感はないと思います。
賛否両論あるかもしれませんが、ヒロイン希望も視野に入れたお話だと思っていただけると幸いです。
とりあえずは、二人の幼い頃に勇介が影響を与えているルートと思ってください!
(ちなみに本来マシュマロを小雪に上げたのは名も知らないおばさんです)

感想、評価やヒロイン希望等お待ちしております!希望は活動報告かメッセージで!


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7話 はじまり

――月日は流れ――

 

「中将、日本よりエアメールが届いております」

「ご苦労。クリスか、それとも……」

 

 ドイツ。通常のメールではなく、エアメールでの手紙が届いたということでフランクは部下から受け取った手紙の差出人を確認する。

 

「……おぉ!ふふふ、やはり無事でいたか!」

 

 長い期間、音信を絶っていた勇介からの手紙に笑みを浮かべるフランク。

 

「何々……ほぅ、これは……!」

 

 

「これでいいか」

 

 勇介は九鬼極東本部で割り当てられた部屋で、新たに渡された服に袖を通していた。

 

「似合っていると思いますよ」

 

 そう声をかけたのは、勇介の担当になっている李である。普段のクールな表情よりは少しばかり優しく見える。

 

「ありがとうございます、李さん」

「それで、今日から通うんですか?」

「いや、今日は編入試験を受けに行くんだ」

「ふはははは!我、顕現である!」

 

 笑いながらやってきたのは紋白だ。傍にはヒュームがついている。

 

「紋白。どうだ、似合ってる?」

「うむ!とても似合っておるぞ!ただ、寄付金を納めれば自由な服装を出来るはずだぞ?」

「まぁ、そこまでこだわりがあるわけでもないしな」

「そうか。……で、何処の学園に編入するのだ?」

「あぁ、それは勿論」

 

 

 川神学園。個を重んじる、自由な校風が魅力の学園である。学園を治めているのは天下の川神流の総代でもある川神鉄心であることも有名だ。

 

「総代、このタイミングでの編入、デスカ。珍しいですネ」

「うむ、だが断るわけにもいくまい。何せあの九鬼からの推薦があるからのぉ」

「九鬼ですカ。厄介ごとでなければいいですガ……」

 

 総代……鉄心と話をしているのは川神流の師範代であり、学園の教員でもあるルーだ。

 

「まぁ、大丈夫じゃろ。試験で合格できる点数を取ることが出来れば問題なしで編入じゃよ」

「どのような子が来るのでしょうネ……」

 

 

「ここが川神学園かー」

 

 学園の門のところまで李に案内してもらった勇介がおぉ、と感嘆の声を上げる。既に李はこの場を離れており、帰るときに再度呼ぶように言われていた。

 

「やばい、ちょっと緊張してきた。っていうか何処に行けばいいんだろ」

 

 きょろきょろと周囲を見渡す。実は勇介は何処にいけばいいのかすらわかっていなかったりする。

 

「ん、どうかした?」

 

 そう言って一人の少年が声をかけてくる。身長は同じくらいだろうか、若干ではあるが身体を鍛えているのが見て取れる。

 

「あぁ、編入試験を受けに来たんだけど、何処に行けばいいのかなと思って」

「編入?……珍しいな、こんな時期に。なら職員室かな、案内するよ」

「おお、助かる」

「困ってるときはお互い様だよ」

 

 二人で学園の中へと足を踏み入れる。少年は勇介に来客用とかかれたスリッパを準備してくれる。

 

「ほら、こっちだよ」

 

 連れられていく間にもすれ違う人々から少年は友好的な挨拶をされる。

 

「友達、多いんだな」

「ん、まぁね。人脈って大事だと思うんだよ、俺」

 

 笑いながら職員室の扉を開ける。

 

「おーい、ヒゲ先生。編入試験受けに来たって子連れてきたけど」

「ん、直江か。それと……」

「鳴神。鳴神勇介です」

「鳴神、鳴神……あぁ、これか。ちょっと待ってな。ルーと学園長案件らしい」

「え、川神院関係?」

「いんや、また別だと思うぞ。……っと、直江はありがとな、助かった」

「ありがとう、直江、でいいのかな?」

「そういや、自己紹介してなかったな。俺、直江大和って言うんだ」

「直江、大和……よし、覚えた。よろしくな、直江」

「あぁ、鳴神勇介でいいんだよな?俺も鳴神って呼び捨てにさせてもらうよ。たぶん同じ年だよな?」

「多分」

 

 そんな会話をしていると、職員室に一人の老人とジャージ姿の男……鉄心とルーが姿を現す。勇介はすっと一瞬だけ目を細め二人を見る。

 

「……へぇ」

「ん、どうかしたか?」

「いや、何でも。それじゃ、もし合格したらよろしく」

「はは、楽しみにしてるよ」

 

 ひらひらと手を振りながら立ち去る大和を見送って鉄心たちへと向き直る。

 

「ほっほっほっ、早くも友達が出来たようじゃな。これは是非とも合格せねばな」

「はい。少しだけ勉強もしてきてますから、全力を出したいと思います」

「うむ、そうするといいぞい。せっかく九鬼からの推薦をもらっておるのじゃからな」

「推薦に恥じない成績を目指しますよ」

「ウン、いい気合ネ。それじゃ、あっちの会議室で試験をするヨ!」

 

 

「大和、何処行ってたの?」

「あぁ、なんか編入試験受けに来たって子を職員室に案内してた」

 

 直江大和が自分の教室……2-Fへと帰ったところで京が声をかけてきた。

 

「まさか、新しい女のフラグを立てにいってたんじゃ」

「ないない。というか、まず男だし」

「何々大和ー。編入試験ってことは、新しいクラスメイト?」

 

 目を輝かせながら尋ねてくるのは川神一子。名前からも分かるとおり鉄心の孫娘であり、ワンコと呼ばれ可愛がられているマスコットのような子だ。

 

「まだウチのクラスに入るとは限らないからなんともだけど」

「何だ何だ。大和、そいつはまさか俺よりも筋肉があったりしねーだろうな?」

 

 マッスルポーズをとりながらそう言ってくるのは島津岳人。身長が188cmほどもあり、かなりの筋肉質な男である。

 

「いや、ガクトのほうが圧倒的だと思う」

「まぁ、ガクトレベルはそうそういないよね」

 

 ガクトとは反対にほっそりとした少年、師岡卓也が笑いながら言う。

 

「なおっち。その人イケメンだった?」

 

 興味津々で尋ねてきたのは小笠原千花である。

 

「まぁ、イケメンだったな。ワイルド系よりは綺麗系……綺麗系?」

 

 自分で言いながらうーんと首を傾げる大和。

 

「クリスは興味ないの?」

 

 京が近くに居た金髪の少女、クリスに尋ねる。

 

「自分も転入してきた身だから、転入の先輩として困っていたら助けてやらないとな、と思っていたところだ!」

「まぁ、どちらにしても今日試験って言ってたからそれが終わらないと会えるかどうかも分からないけどな」

「でも、落ちるようなら編入試験なんて受けないと思う」

「ま、そうだよな」

 

 京の言葉に納得したように頷く大和。

 

「……あれ、そういえばキャップは?」

「キャップならまた海の幸が食べたいって旅に出たよ」

「またか」

 

 

「ふー、終わった終わった」

 

 全ての試験を終え、帰り支度を整える勇介。来たときとは違い、特に迷うこともなくすいすいと下駄箱へと進んでいく。そのときだった。

 

 

 目の前から歩いてくる少女とすれ違う。

 

「「……ん?」」

 

 同時にすれ違った相手のことを見直す。勇介よりも若干高い身長の少女は黒髪を靡かせながら自信に満ち溢れた瞳で勇介を見ている。

 一瞬合った視線を勇介は解くとそのまま歩き出す。

 

「……気のせい、か?」

 

 少女……百代は首をかしげながら先ほどの謎の感覚を思い出す。

 

「一瞬、私と同レベルの力かと思ったが……気のせいだよな」

 

 さっきの男、勇介から強者の雰囲気はしなかった。一般人にしては隙が少ない程度の腕前にしか見えないということはそれほどまでに偽装がうまいか、はたまた自身の腕前が低下しているのかのどちらかだ。

 

「あ、お姉さま!」

「おお、妹。どうした、そんなに急いで」

 

 駆け寄ってきた一子を優しく抱きとめると頭を撫でる。

 

「一緒に帰ろうと思って!もうすぐ大和たちも来ると思うわ!」

「そうか、なら一緒に帰るとしよう。……大和に何かおごらせよう」

 

 そんな話をしながら先ほどのことは頭から抜け落ちていく。

 

 今の感覚を思い出すのは遠い未来の話ではないのだが。

 

 

 その日の夜。エアメールを受け取ったフランクから直接テレビ電話が届いていた。

 

「連絡が遅くなってすみませんでした、フランクさん」

『いや、君のことだ。無事だろうと思っていたから大丈夫だ。心配はしていたがね。それよりもクリスやマルギッテのほうがよほど心配していたよ』

「……ですよね。すみません、ちょっとだけ中国で色々あったりもしたので」

『ははは、それは是非聞かせてもらいたいものだね。……それで、今は九鬼の世話になり、川神学園に通うことになる、ということで間違いはないかね?』

「はい。その予定です。まぁテストに合格していたらの話ですけど」

『安心したまえ。君が通らないのであれば、誰も通らないことだろう』

 

 そんな話をフランクと続ける。

 

『しかし、川神学園か……ふふ、やはり運命というものは存在してるということだろうね』

「はい?何か川神学園にあるんですか?」

『いや、それは君自身が確かめるといい。学園のほうには私もツテがあるからね、少し声をかけておくとしよう』

「ありがとうございます」

 

 

「総代、次はドイツからも鳴神勇介に対しての推薦がきてますヨ」

「一体何者なんじゃ、あの子は」

「試験は全く問題ありませんネ。むしろ満点に近いくらいデス」

「ふむ……九鬼とドイツの中将の推薦がある生徒、のぅ……。やれやれ、何か大事になりそうな気がするわい」

「そういえば、総代。彼は何か武術をやっていたのですかネ?」

「何故そう思う」

「歩き方ですヨ。全く隙がなくて正直私でもきついと感じたのでね」

「確かに、逆に不安になるくらい静かな気じゃったからのぉ。とはいえ、合格は合格じゃし、その連絡を頼んでおくぞい」

「分かりましタ。……」

 

 鉄心の指示に返事をして、ルーは準備を進めていく。

 

 

 多くの出会いから生まれた可能性。

 

 誰かと誰かが恋をして。

 

 誰かと誰かは武を競う。

 

 若者たちには無数の可能性が存在している。

 

 

 鳴神勇介の物語はここから大きく動いていく。




勇介編入は時期としては無印よりもS開始寄りの頃と思ってください。

つまり、既にクリスとまゆっちは風間ファミリー入りを果たしています!
ようやく?本編らしくなっていきますのでこれからもよろしくお願いします♪


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8話 変態橋とひそかな再会

今回、切る場所悩んでちょっと長めです(ぉぃ


「おい、勇介。鉄心はお前に気づいていたか?」

 

 翌日、鍛錬所で汗を流しながら試験結果を待っていた勇介にヒュームが声をかけてくる。

 

「ヒュームさん。どうだろ、特に何かを聞かれたりはしなかったけど。気も抑えてたしばれてないかも?」

「ふん、気づかんとはあいつも耄碌したか」

 

 不機嫌そうにそう呟くヒュームに苦笑いの勇介。

 

「だが、お前が本気で気を隠していたのなら確かに天膳の血族には思えんな」

「まぁ、これが俺の……鳴神流の強さでもありますしね」

「……それで、俺の技は『盗めた』か?」

 

 ニヤリと挑発するように笑うヒューム。

 

「一応は。ただ、流石にヒュームさんと全く同じにはならないですね」

「当たり前だ。俺がどれだけの間、この技を磨いてきたと思っている」

「分かってますって。……それで、ヒュームさん」

「何だ」

「今、俺たちの世代で最強と言われている武神・川神百代について教えてください」

「……ほぅ?まさかと思うが川神百代に挑むつもりか?」

「まぁ、すぐにというつもりはないですけどね。ただ、ヒュームさんも鉄心さんも倒すつもりなんですから、きっと戦うことになりますよね」

「ハハハ!流石は天膳の孫ということか。だが、川神百代はマシな赤子だ。今のお前では難しいかも知れんぞ」

「それほどか……」

「あぁ。最近会得したという瞬間回復を攻略しなければまず倒すことは不可能だろう」

「瞬間回復、ね」

 

 そう呟いて何かを考える勇介。

 

「……対策を思いついたか?」

「まぁ、可能性だけは。ひとつ質問いいです?」

「何だ」

「ヒュームさんなら勝てますよね?」

「当たり前だ。まだまだ赤子どもには負けんよ。お前も含めてな」

「ははは、ありがとうございます。ただ瞬間回復を使える、ですか。アレって実践向きじゃないんですけどね」

「おい、お前まさか」

「出来ますよ。ただ、戦闘中に使うとかは無理です。そんなことが出来れば自爆技とかも使いたい放題じゃないですか」

 

 

「ん~?」

「どうしたの、姉さん」

 

 武神・川神百代は何かに違和感を感じたように空を見上げる。そんな彼女に声をかけたのは昨日勇介と知り合った直江大和だ。

 

「いや、誰かが私の噂をしているような気がしてな。どうだ弟、美人の姉を持って幸せだろ~?」

「はいはい、姉さんは美人ですよー」

「何だ弟。そんな空返事でいいと思ってるのかー?生意気だぞー」

「姉さん重い!」

「誰が重いだ、誰がー」

 

 百代に背中に抱きつかれて重そうに引きずる大和。

 

「くっそー。う・ら・や・ま・し・い・ぞ!」

 

 力強く叫ぶのはガクトだ。なぜか涙を流してる。

 

「ガクト、いつものことじゃない」

 

 モロがそう言う。

 

「羨ましいもんは羨ましいんだよ!だって見てみろよモロ。あのモモ先輩の身体がぴったりとくっついてるんだぜ!?」

「わ、分かったから揺さぶるのやめてよ!」

「……しょーもない」

「どうしたんだ、京。いつもみたいに大和にくっつかないのか?」

「クリス、別に私はいつも大和にくっついてるわけじゃないよ?」

「そうなのか?」

「うん。効果的なタイミングでくっつくの。それは今じゃない」

「???よくわからん」

『まぁ、クリ吉。京姉さんの考えはオラたちにはわかんないから諦めな』

 

 首を傾げるクリスに松風が言う。

 

「ねーねー、そういえば、かなり前に謎の巨大な気を感じたーって話覚えてる?」

 

 一子が皆に話を振る。

 

「あぁ、あのときの奴か。でも、すぐに掻き消えたんだよな。そういえばなんだったんだろうな、アレ」

「もしかして、お姉さまと戦いにきたけど誰かに負けちゃったとか?」

「ん~、どうかな。あれだけの気ならうちのジジイレベルじゃないと止められないと思う」

 

 

「フハハハ!我、降臨である」

「揚羽さん」

「元気にしておるようだな。ちょうど今しがた鉄心どのから連絡があってな。我直々に合格を伝えに来たのだ」

「合格ですか、よかったです!推薦してくれた九鬼の皆さんに恥をかかせなくてすみました」

「お前であれば余裕であったろう?マープルも余裕だといっておったぞ」

「マープルさんから見たらそうでしょうね」

「あのマープルがここまで評価しているのはお前と桐山くらいのものだ。誇っていいと思うぞ」

 

 笑いながら揚羽は言う。

 

「ま、そういうことだ。お前の合否については紋も気にしていたからな。我から後で伝えておこう」

「ありがとうございます」

「気にするな。我もお前には興味が沸いてきているからな」

「……え?」

「フハハハハ!また暇があれば我とも遊んでくれよ?」

「ええ、いつでもかまいませんよ」

「約束だぞ?ではな、学園でも楽しくやるのだぞ」

 

 

 多馬大橋。地元の住人からは変態橋と呼ばれるこの場所を一人の女学生が渡っていた。小笠原千花、直江大和のクラスメイトである。ポチポチと携帯を触りながら歩いていると、目の前を塞ぐように人影が飛び出してくる。

 

「へへへ……姉ちゃん……スケベしようやぁ……」

 

 舌なめずりをしながら怪しいコートを着た男が千花へと接近していく。あからさまに嫌そうな表情を浮かべる千花。

 

「うわ……もぅ、これだから変態橋は嫌なのよ……!」

 

 愚痴をこぼしながらもどう逃げるか考える。千花は別に武の心得や護身の心得があるわけではない。だが、そんなことは変質者には何の関係もない。それどころか嬉々として襲ってくるだろう。一瞬の隙をついて変質者は千花の腕をつかむ。

 

「ちょ、離してよ!」

「へへへ、いいじゃねぇか、ちょっとくらい……」

「ちょっと失礼」

 

 すっと千花の横から伸びてきた腕が男の手を軽くはずす。

 

「なっ!?」

「嫌がっている女の子に何やっている、おじさん」

「き、き、き、貴様には関係ないだろう!?」

「関係はないけど、そういうの目障りなんだ」

 

 千花を庇うように前に進み出たのは勇介だ。

 

「邪魔をするっていうなら!」

 

 変質者はポケットからナイフを取り出す。

 

「向けたな?」

「あ?」

「こういう普通の場で突然武器を出すっていうのは相手に対して殺意を見せるのと同義だ。つまり」

 

 ぞっとするほどの殺気。周囲の温度が数度下がって感じるほどのそれを受けた男はガタガタと震えだす。

 

「俺と本気で殺し合う気があるって判断するぞ?」

「ひ、ひぃ!?」

 

 さっきまでとは一転、全速力で逃げ出す変質者にため息をつく勇介。

 

「ま、後は李さんあたりがうまくやってくれるかな」

 

 誰にでもなく呟くと、助けた千花へと向き直る。

 

「大丈夫だったか?」

「……」

 

 ぽーっと勇介を見ていた千花はその言葉に何も返さない。

 

「……おーい、大丈夫か?」

 

 顔を覗き込む勇介。一気に距離が近づいたことで千花もはっと気づくと同時に頬を染める。

 

「だ、大丈夫ですっ!」

 

 叫ぶようにそういった千花はそわそわと髪を撫で始める。

 

「そうか?それならいいけど。怪我とかしてないか?結構強く腕つかまれてたみたいだけど」

「は、はい!ちょっと痛かったけど、怪我ほどじゃ……」

「良かったよ。ちょうど通りかかって」

 

 少しだけ微笑んだ勇介に染まっていた頬は更に赤みを増す。

 

「ん、本当に大丈夫?真っ赤だけど」

「ひゃい!?」

 

 声が裏返った千花。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「時間があればよかったらお礼にお茶でも……」

「いや、別にお礼欲しさに助けたわけじゃないから気にしないでいい……」

「いえっ!是非お礼させてください!あ、和菓子とか好きですか?ウチ和菓子屋やってて……」

「和菓子、か……」

 

 和菓子という言葉に反応した勇介に脈ありと感じた千花は全力で誘う。

 

 

「うまい!」

 

 そして勇介は結果、和菓子に釣られて千花の実家である和菓子屋に来ていた。そこでは店の前で飲食も出来るスペースが設けられていた。

 

「ふふ、よかったです」

 

 そう言ったのは先ほどまでの学園制服ではなく、店の制服に着替えた千花だ。

 

「この久寿餅(くずもち)、本当にうまいよ」

「ありがとうございます!ウチの名物で本当におすすめなんですよ!」

 

 店の商品である久寿餅が褒められたことで嬉しそうな千花。満面の笑みを浮かべているのを、通行中の男子生徒がぽーっと眺めて通り過ぎたりしている。

 

「でも、本当にご馳走になっていいのか?」

「はい!というより、手伝いをしながらですみません……」

「いいって。こんなにおいしいもの食べさせてもらってるんだから」

「あれ、チカリンじゃん。既に手伝いしてる系?」

 

 声をかけてきたのは羽黒(はぐろ)黒子(くろこ)。やはり直江大和と同じクラスメイトの女子だ。ガン黒の化粧をしており、素の顔は全く分からないそんな彼女が勇介を見るなり固まる。

 

「……」

「ん?」

「ヤバッ!」

「イケメンみっけっ!ポッコ……」

「羽黒だめ!!」

 

 勇介と羽黒の間に入り込む千花。勇介に対して何かをしようとしていた羽黒が動きを止める。

 

「あれ、もしかしてチカリンのアレ系?」

「ち、違うけど……違うけどダメなの!」

「そういうことなら仕方ない系。他のイケメンでも食ってくる系……おい、そこのイケメン!」

「……」

「アンタだよアンタ!」

「俺?」

「チカリン泣かせたら許さない系でジャーマンすっからな!覚悟しとけ!」

「?よく分からんが分かった」

 

 好き勝手言ってそのまま羽黒はどこかへと立ち去る。

 

「あ、あの、すみません」

「友達か?」

「はい、一応クラスメイトで」

「いい子じゃないか。内容はよく分からなかったけど君のことをかなり心配してたみたいだし」

「そんな……」

 

 比較的偏見の目で見られやすい千花や羽黒(羽黒の場合は偏見だけではなかったりするのだが)に対しても全くそう言った感じを見せない勇介に千花の好感度は上がっていく。……本人は全くそんなつもりも気もないのだが。

 

「さて、ご馳走様。おいしかったよ」

「あれ、小笠原さんと……鳴神?」

「ん、おお、直江じゃないか。奇遇だな」

「え!?なおっち知り合い!?」

「うん、この前学園でね。ここにいるってことはもしかして?」

「あぁ、無事合格したよ。直江が案内してくれたおかげだな」

「はは、大げさな。俺が居なかったら別の誰かが案内しただけだよ」

「とはいえ、実際に案内してくれたのはお前だからな。そうそう、ここの久寿餅うまいぞ!」

「知ってるよ。俺地元だし」

「そりゃそうか」

 

 突然雑談に花を咲かせた大和と勇介に驚く千花。

 

「……」

 

 そんな様子をじーっと見つめてる少女がもう一人いた。椎名京である。

 

「ん?そっちはデート中?」

「!!」

「違う違う。えっと……」

 

 基本、ファミリー以外とは会話をしない京をどう紹介したものか、と考えてた大和だったが。

 

「直江京。妻です」

「おお、彼女どころか妻だったか。最近は進んでるんだな」

「違うって!椎名京!直江じゃない!」

 

 あわてて否定する大和に笑う勇介。

 

「でも、そうなるのも遠くない未来……クククッ」

「椎名京、ね。……椎名?……ん~」

 

 何か引っかかった勇介だったが、思い出せなかったようでスルーする。

 

「俺は鳴神勇介だ。よろしく頼むよ椎名」

「……ども」

 

 無愛想な感じの挨拶に大和はチラッと勇介を見るが、特に気分を害した様子もなくて安心する。

 

「こら京。ちゃんと挨拶しないとダメだろ」

「大和が付き合ってくれるなら考える」

「お友達で。しかも考えただけで何もやらないつもりだろ」

「バレてた」

「ははは、仲がいいんだな。……って、そうだった。えーっと」

 

 勇介が千花へと視線を戻す。

 

「あ、私、小笠原千花っていいます!」

「自己紹介してなかったけど、俺は鳴神勇介。もうすぐ川神学園に入ることが決まったからよろしく頼むよ」




椎名という名前に引っかかったのは、椎名菌という響きが薄らと記憶に残っていたからです。
ただし、勇介は現状で気づけません、豊満ボディに成長しましたからね(ぉぃ

ヒロイン希望ですが、一通り現時点での分は確認して一人ひとり流れを作ってます。
本編的な流れのヒロインと、ゲームのルート分岐のようなヒロインを作っていく予定ですのでヒロイン希望以外にも案などあれば受け付けます!

感想、評価等お待ちしております!


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9話 学園への道

 川神学園への編入試験を無事突破した勇介。編入するクラスはFクラスと決定した。

 

「フハハハハ!勇介よ!無事編入を果たしたようだな!」

 

 声をかけてきたのは英雄である。傍には専属従者である忍足(おしたり)あずみが控えている。あずみは従者部隊のNo1であり、名実共に若手従者のトップでもある。

 

「英雄。お蔭様で無事合格したよ。学園でもよろしく頼む」

「おう!紋のお気に入りでもあるからな。何か困ったことがあれば我に言うがいい!あずみ、お前も気にかけてやれ」

「かしこまりましたっ!英雄さまぁっ☆」

「うむ!ではな、鳴神。学園でもよろしく頼むぞ!フハハハハ!」

 

 高笑いを響かせながら英雄は立ち去る。

 

「いい奴だな、英雄」

「はい、立派なお方ですよ」

 

 そう言うのは完璧執事クラウディオだ。普段はステイシーと李が付くのだが、なぜか今日はクラウディオが直々についていた。

 

「クラウディオさん、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。李に別の仕事を任せておりますので、代わりに上司である私がついているだけですので」

 

 微笑みながら言うクラウディオに雄介も笑う。

 

「ありがとうございます。というか、俺こんなVIPな待遇でいいんですかね?」

「いまさらですね。帝さまが気に入っておられますし、何れ九鬼にとって有益な存在となる可能性が高いということも理由のひとつですからお気になさらず」

「はは、そこまで評価されると少しプレッシャーですけど」

「たやすいことでしょう、貴方であれば」

 

 そんな話をしながらクラウディオと本部内を歩く。

 

「それで、明日から学園行くんですけど何か準備しておいたほうがいいものってありますかね?」

「一通りこちらで準備しておりますので大丈夫だと思いますよ」

 

 流石は完璧執事、と勇介は内心で感心する。

 

「そういえば、クラウディオさん。一度お手合わせ願いたいと思っていたんです」

「私とですか?私ごときで勇介の手合わせ相手が務まるのであれば喜んで」

「はは、ご謙遜を。クラウディオさんなら大丈夫ですよ。強い糸使いと一度手合わせしておきたくて」

「かしこまりました」

 

 勇介からの頼みで呼び捨てにしてはいるものの、慇懃な態度は崩さないクラウディオ。二人はその後みっちりと手合わせをした。

 

 

「本当に強い糸使いはヤバイな……あれは結界って言われるレベルだな」

 

 クラウディオとの訓練の後、勇介は一人で考えていた。単純な強さでもクラウディオはかなりのものだろうが、糸を使った戦いの強さは勇介の想像を超えていた。

 

「あの相手の動きを先読みするのは流石といったところだろうな……あのレベルの糸使いと実戦を経験できたのは大きいな」

 

 攻撃、防御、拘束……汎用性も高く、扱いづらいことを除けば確かにクラウディオのような存在にはうってつけだろう。

 

「ああ見えて李さんよりも強いんだもんなぁ。李さんも決して弱くはないのに」

 

 元暗殺者である李を捕らえたのはクラウディオだと聞いた。つまり、少なくとも過去においては李よりも格上ということだ。

 

「本当に死角がない」

 

 ふぅ、とため息をついて目を閉じる。脳裏をよぎったのは学園ですれ違った少女のことを思い出す。戦いに飢えた瞳。自信に満ち溢れ、肉体から漏れ出るほどの莫大な気。恐らくは、いや確実にあの少女が川神百代だろう。気の雰囲気は何処か川神鉄心に似ていた。だが、身に秘めた力は暴力的なオーラを放っていた。

 

「あの気の量は反則だよなぁ。単純な力技だと押し負けるかもしれない」

 

 同年代であそこまでの強者がいるというのは驚きだった。単純な才能だけで見れば鉄心をも上回っているだろう。

 

「……」

 

 相手をどう倒すか。対策を立てなければならないことはたくさんある。その最たるものが瞬間回復だろう。

 

「まぁ、なんとなく対策は思いつくんだけどな」

 

 勇介は目を閉じ、気を高める。身体を青白いオーラが纏う。川神百代と同じ瞬間回復だ。

 

「っ!やっぱり実戦向きじゃないよなぁ」

 

 単純に使うことなら出来る。莫大な気を消費するが、数回程度なら現時点での勇介でも可能だ。だが、これを戦いの最中に使うとなれば話は違う。

 

「瞬間回復を防ぐことは出来ても、最後は単純な力での勝負か。直接、戦う姿を見れば対策も立つかな?ま、今は修行あるのみだな」

 

 

「……今日の修行は終わり、と」

 

 川神院。川神百代は今日の鍛錬を終え、軽く息をつく。特別疲れたような様子は見えないが、常人には不可能なレベルの鍛錬をしていたのだ。

 

「珍しく気合が入っとるのぉ、モモ」

「ジジイか。……なぁ、ジジイ。昔話してた鳴神流について教えてくれ」

「むぅ?何じゃ藪から棒に。……まさかとは思うが、何か感じたのかの?」

「いや、なんとなくな。私の勘……ちょっと気になっただけだから」

「ふむ……まぁいいじゃろ。実はワシも気になることがあったんじゃ」

 

 鉄心は語る。自身が天膳から聞いた、鳴神流とその宿命について。

 

 

 鳴神流の起源は古く、平安時代まで遡る。元は陰陽師を生業をする一族で、かの阿部晴明と同じく陰陽道で有名だったという。だが、あるとき鳴神の一族は力を得るために儀式にて血の呪いを受けることとなる。

 

「龍。天膳は、自身の肉体には龍が宿っていると言っておった。事実、本気になったときの天膳の目は黄金に輝き、暴力的な気を纏う。気をワシらの中で最も扱うのが得意であったにもかかわらず、持て余すほどのな」

「……ただ気が多いだけじゃないんだよな?それだとあまりにリスクが少なすぎる」

「うむ。龍の力は自らを喰らうと言っておった。故に鳴神流は一子相伝に近い形で進化を続けておった。自らの気を扱う術や、龍を抑えるだけの力を得るためにな」

「それでか。私もジジイから聞いただけで知らなかったのは。で、天膳っていう奴はまだ生きてるのか?」

「わからぬ。じゃが生きてはおらぬじゃろう。生きておるとしたら子か、孫か……」

「孫、ね。もし孫がいるとすれば私と同じくらいってことになるのか?」

「あ奴はワシより先に子を成しておったからの。もしかすると上かもしれんが」

「居るものなら是非会って見たいものだな」

 

 ニヤリと笑う百代。

 

「……(やはり危険な兆候が見えておるの。何処かで発散……もしくは精神鍛錬を増やすかせねばの)」

 

 武の世界において、百代は孤独だ。鉄心にはヒュームや天膳が居たが、百代にはそのような存在はいない。最もソレに近かった九鬼揚羽は既に現役を引退してしまったこともあり、尚更だろう。更には敗北を知らない。そのこともまた、彼女を孤独にしていた。

 

「(直江たちの存在で少しは抑えが効いとるようじゃが……それも限界かもしれんのぉ)」

 

 軽く頭を振りながら鉄心は悩む。本気でやり合っても百代を倒すことは難しい。鉄心自身も負けることはないだろうが。

 

 なんだかんだで可愛い孫娘なのだ。出来ることなら何とかしてやりたいのだが……。

 

「本当に、天膳に孫がおればのぉ……」

 

 学園に試験を受けに来た鳴神勇介。名前にもしや、と思ったが雰囲気は天膳とは違った。何かしらの武術はやっている身のこなしではあったが。

 

「一応聞いてみるかの」

 

 

 翌日。勇介は英雄の誘いを断り一人で通学していた。流石に人力車で運んでもらうのは遠慮した形だ。

 

「もうすぐあの橋か」

 

 千花が襲われていた変態橋、多馬大橋である。そこへと差し掛かったときに勇介の視界に人だかりが見える。

 

「ん?」

 

 周囲の人の視線の先。そこでは先日すれ違った少女が不敵な笑みを浮かべてなにやら格闘家のような男と対峙していた。

 

「我が名は……」

「御託はいいからかかってこい!通学中なんだ」

「!……参るっ!」

 

 なかなかにいい動きで少女との距離をつめる。だが。

 

「……悪手……いや、相手が悪すぎるな」

 

 目にも留まらぬ正拳突き。川神流無双正拳突きで男は吹き飛び、川へと落ちる。それと同時に周囲から歓声が沸きあがる。特に女生徒のものが多いような気がする。

 

「モモ先輩ー!素敵ですー!」

 

 そんな声に微笑んで手を振り返す百代。更に歓声は黄色くなる。

 

「……あれが、川神百代」

 

 無双正拳突きとは言っていたが、突き詰めれば鍛え上げたただのパンチだ。にも関わらずソレすらも必殺の一撃としてしまっているのだ。

 

「相手にとって不足はなし、ってことか」

 

 そんなことを考えながら見ていると、百代と視線が交差する。何処か一瞬驚いたような表情を浮かべた百代と勇介だったが、次の瞬間勇介は視線をはずすことになる。

 

「あれ、鳴神?」

「ん?」

 

 背後からかけられた声。直江大和である。

 

「おお、直江……」

 

 そこまで口に出して勇介が固まる。それは、大和の背後に居る人、いや人たちを見たからだ。

 

「クリスに、由紀江?」

「あれ?クリスとまゆっち知り合いなの?」

 

 一子が首を傾げてそう尋ねると同時にクリスが駆け出す。

 

「っと」

 

 飛びついてきたクリスを優しく抱きとめる勇介。

 

「「えっ!?」」

「ユウ!!会いたかったぞ!!」

「久しぶりだな、クリス。まさか川神学園に通ってたのか」

「む、日本に行くと約束したじゃないか!いつまで経っても連絡がないから自分、心配したんだぞ!?」

「はは、ごめんごめん」

「……えっと、鳴神?」

「あぁ、すまん。直江おはよう」

「うん、おはよう。……じゃなくて、もしかしなくてもクリスの友達?」

「そうだぞ!自分とユウは家族みたいなものだ!」

「何だ、じゃあ俺たちと一緒か!」

 

 そう言って現れたバンダナの少年。彼ら風間ファミリーのリーダーでもある風間翔一である。仲間うちではキャップと呼ばれている。

 

「マルさんもこっちに来てるんだ!早く学園に行って伝えないと!」

「何だ何だ。面白そうなことになってるじゃないか」

 

 こちらの様子を見て百代が一瞬で近寄ってくる。

 

「姉さん。……っていうか、まゆっち大丈夫か?」

『まゆっちは今衝撃を受けてるんだぜ』

「松風も相変わらずのようだな」

「は、はい!勇介さんもお元気そうで!」

「あ、もしかしてまゆっちが言ってた家族以外の唯一の人って言ってたの」

「そうなんです!こちらの勇介さんです!」

「クリ吉とまゆっちの知り合いなのか。なら俺も自己紹介だ!俺は風間翔一だ!」

「知ってるかもしれないが、私は川神百代だ」

「私は川神一子よ」

「島津岳人だ!」

「師岡卓也です」

「で、直江京と」

「そのとおり」

 

 GOOD!と書かれたプレートをどこかからか取り出すと立てる京。

 

「そのとおり、じゃない!っていうか鳴神もそういう冗談やめてくれ……冗談じゃなくなってしまう」

「ククク、いつかは本当になる」

「はは、本当に仲がいいな」

「……いや、クリスに抱きつかれてる状態で言われても、な?」

 

 嬉しさのあまり飛びついたクリスはいまだに勇介から離れていなかった。

 

「あぁ、そうだった。クリス、俺も学園に通うことになったから落ち着け」

 

 そう言って易しくクリスの頭を撫でる。少し落ち着いたのか、嬉しそうな顔になったクリスが離れる。

 

「あー、俺も自己紹介を。俺は鳴神勇介。今日から川神学園に転入することになった。よろしく頼む」




ここからルート分岐のような状態になります。
一発目はどういうルートにいくでしょうか?

次回をお楽しみに!(明日予定ですが。
分岐なので、ちゃんと?希望のあったヒロインで可能な子たちはプロット作成中です。
現時点では半数ほどは流れは完成してます!


感想、評価等励みになっております!
お待ちしております!


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Sクラスルート~共通~
10話 クラス編入と決闘と


比較的時間間隔が短めです!ご注意を!
(23日 21:26、24日 3:12)

ハーレムについての質問がちらほらとございます。
一応ですが、ルートの中にそういったものもあるので入れておりますが、基本は一人のヒロインを選択することが多いです。
詳しくはあとがきで!


 川神学園学園長室。

 

「で、では本当に天膳の孫じゃというのか?」

「はい。……騙すような形になってしまい申し訳ないです」

 

 深く頭を下げる勇介に鉄心が笑う。

 

「フォッフォッフォ、いいんじゃよ。……というよりは見抜けなかったワシが悪いんじゃ。ヒュームに笑われてしまうの。今度川神院に来るといい。天膳の話を聞かせてほしい」

「はい、喜んで」

「うむ。それでじゃ。おぬしの試験結果であれば、Sクラス入りも出来るのじゃが……どうしたい?当日ではあるが、自由に出来るぞい」

「……そうですね。では、是非Sクラスに入りたいですね。せっかくですから全てにおいて上を目指していきたいですので」

「よい心構えじゃな。よし、では担任を呼ぶから少し待っておるのじゃ」

 

 

「お前さんが鳴神勇介か。話は聞いてるよ。俺はSクラス担任の宇佐美巨人だ。担当は人間学」

「よろしくお願いします、宇佐美先生」

「礼儀正しそうでおじさんちょっと嬉しいよ。……ただSクラスは変わり者が多いから色々と気をつけろよ」

 

 そんな話をしながら教室へと向かっていく。

 

「ウチのクラスのお隣さんはFクラスなんだが……正直言って仲が悪い。まぁ、Sクラスは選民意識がちょっと高い奴らが多くてね。おじさんも手を焼いているんだよ。お前さんは……大丈夫そうだな」

 

 Fクラスの前を通りかかったときに勇介に気づいた数人が手を振っているのを見て少し驚く巨人。

 

「クリスティアーネに小笠原とかどう知り合ったわけ?直江は分からんでもないけど」

「色々と縁がありまして。クリスは家族……幼馴染みたいなもんです」

「あら、じゃあもしかしてマルギッテも知り合いか?」

「はい、姉のような存在です」

「意外と顔が広いのね。ここがSクラスの教室だ。心の準備は……大丈夫そうだな」

 

 ガラリと教室の扉を開ける。巨人に続いて勇介が入るといろいろな視線が飛んでくる。好意的な目、探るような目、敵対心を持っている目。そして。

 

「あー、今日は……」

「あーーーーっ!!!」

 

 椅子を吹き飛ばすような勢いで立ち上がったのは真っ白な少女。美しく成長してはいるが、勇介には少女のことに見覚えがあった。

 

「あれ、もしかして……」

「ユウなのだー!!」

 

 今にも勇介に向かって走り出しそうな小雪を隣に座るハゲ頭……井上準が止めている。

 

「あー、他にも知り合いがいるのか。ホント顔が広いのね。おじさん感心だわ。……で、色々聞きたいこととかあるかもしれないけど、一旦挨拶を先に頼む、鳴神」

「はい」

 

 教壇のところへと歩を進め、クラスを見渡す。九鬼英雄やあずみ、マルギッテなど知っている顔も幾らかあるが、ほとんどは知らない。当たり前ではあるが。

 

「鳴神勇介です。ドイツから武者修行の旅をして川神に来ました。武の心得がある人はいつでも受けてたちます。決闘ってシステムがあるんですよね?」

「あぁ、あるよ。……ってか、意外と好戦的なのね」

 

 勇介の言葉に明らかに敵意をむき出しにするものも少なくない。そんな視線を悠然と受け止める勇介。

 

「ふっ……相変わらずですね、ユウ」

「マルさん。久しぶりだね」

「えぇ、心配していましたよ。ですが、せっかく川神学園へ来たのですから」

 

 マルギッテが腕章を勇介に向けて叩きつける。

 

「歓迎の勝負と行きましょう」

「……やれやれ、やっぱりこうなるのね」

「ははは、すみません先生。受けてたちます」

 

 

 校庭へと場所を移した勇介とマルギッテは距離を取って対峙していた。

 

「まさか、学園長直々にジャッジをしていただけるとは……」

「フォフォフォ、ワシも気になってたからの」

 

 天膳の孫で、鉄心をも欺く気の抑え方が出来るとなれば只者ではない。相手がマルギッテであれば、力の片鱗を見せることだろう。

 

「ユウ、勿論腕は鈍っていませんね?」

「当たり前だよ。マルさんに負けるわけにはいかないからね。……でも、眼帯は流石にはずさないでしょ?」

「えぇ。今の私の全力を出すまでです」

「でははじめるぞい。……はじめっ!!」

 

 鉄心の合図と共に動き出したのはマルギッテだ。獰猛な笑みを浮かべたマルギッテが勇介へと一気に接近する。

 

「Hasen Jagd!」

 

 ドイツ語の言葉を言い放ったマルギッテがトンファーを回転させながら勇介へと連続で攻撃を繰り出す。

 

「うわ、マルギッテあれ本気じゃない?クリス、鳴神は大丈夫なのか?」

 

 クラスから校庭を覗いていた大和が少し心配したように尋ねてくる。

 

「ん、大丈夫だぞ!何せユウは」

 

 自信満々な表情で勇介とマルギッテの戦いを見るクリス。

 

 

「マルさんに対して無敗だからな!」

 

 

 ガードごと吹き飛ばすような激しい連打にも勇介は動じることなく全てを受け流していく。

 

「前より技の切れがあがったね!」

「当たり前だと知りなさい!」

 

 器用に回転させながら繰り出される攻撃を受け流しながら勇介が攻撃に転じる。針の穴を通すような隙に攻撃をねじ込む。

 

「っ!」

 

 トンファーで即座にガードしたマルギッテが後方へと吹き飛ばされる。

 

「流石……!」

 

 

 吹き飛んだマルギッテに追従するように勇介が次々と拳を繰り出す。先ほどまでと打って変わって防戦一方に追い込まれるマルギッテ。

 

「マルさーん!ユウー!頑張れー!」

 

 そう応援するのはクリスだ。マルギッテと勇介であれば、クリスにとってはどちらも大切な家族だからこその応援の仕方だろう。

 

「お嬢様!」

「はは、クリスらしい応援だな。さ、時間もなさそうだし、ギア上げるぞ!」

「いいでしょう!」

 

 

「そこまでっ!」

 

 鉄心の言葉と共に動きを止める勇介とマルギッテ。勇介の拳がマルギッテの鼻先に、マルギッテのトンファーが勇介の腹部に触れるかといった状態だった。

 

「ふっ……また勝てなかったか」

「いや、マルさんは確かに腕をあげてるよ」

「先ほどもいいましたが、当たり前です。……ユウ、歓迎しますよ」

 

 

「すごかったぞ!転校生!」

「マルギッテさんも凄かったですー!」

 

 そんな声になぜか自慢げなクリスを風間ファミリーがいじっている。

 

「もしかして、マルさんこれが狙いだった?」

「ふ……どうでしょうね」

 

 クラスへ戻ると先ほどまでの敵意むき出しの視線はかなり減っていた。

 

「ユウー!」

 

 朝のクリスのように飛びついてきた小雪を優しく受け止める。

 

「もしかしなくても、ユキ、だよな?」

「うん!僕のこと、覚えててくれたんだー!」

 

 心の底から嬉しそうに言って花の咲いたような笑顔を振りまく小雪の頭を自然と撫でる。

 

「えへへ~……」

「おやおや、ユキがこんなに懐いているとは……正直驚きです」

「ホントにな。軽く話は聞いていたが……」

 

 そう言って近寄ってきたのは葵冬馬と井上準だ。

 

「お前らは?」

「私は葵冬馬です。これから仲良くしてほしいものですね、色々と」

「むー!トーマダメなのだ!ユウは僕と仲良くするのー!」

「おやおや、怒られてしまいました」

「若の毒牙にかからずにすんだか、ラッキーボーイめ。俺は井上準だ、よろしくな、鳴神」

「ハゲなのだ」

「ヒドイ!」

 

 小雪の反応を見て、彼ら二人が小雪を守ってくれたんだと確信する。

 

「さっきも自己紹介したけど俺は鳴神勇介だ。好きに呼んでくれて構わない」

「私は冬馬で構いませんよ」

「俺も準で構わんよ」

「僕はねー、今は榊原小雪って名前になったの!」

「ははは、子供の頃、ユキって呼び方しか知らなかったからな。でも元気でよかったよ」

「うん!……そうだ!ユウ、マシュマロあげる!!」

 

 そう言って差し出されたマシュマロを見て勇介は少しだけ驚く。

 

「おお、マシュマロ」

「ふっふー!ユウの言ったとおり、仲良くなりたい人にはマシュマロを渡すようにしてるのだー!」

「そうかそうか」

「フハハハハ!我が友トーマよ!早速鳴神に目をつけたとは流石であるな!」

「英雄。私が目をつけた……まぁ、つけてはいますが。それ以上に過去にユキがお世話になったようですのでその感謝を伝える意味でもありますから」

「ほう?流石は鳴神だな」

「そんなことはないよ」

「ねぇねぇ、ユウは今何処に住んでるの~?」

「今は九鬼に世話になってる」

「フハハハハ!我が家であるな」

「おぉ~!トーマ、僕ユウのところに遊びに行きたい!」

「おやおや、困りましたね」

「我は構わんぞ!」

「ありがとう、英雄」

 

 冬馬と英雄の会話を聞きながら勇介は小雪の頭を撫でている。

 

「……しかし、本当にユキが懐いてるな。……ちなみにだが、鳴神。小さい子はどう思う?」

 

 準の唐突な質問に首を傾げる。

 

「小さい子?まぁ可愛いとは思うが……」

「そうだよな、心癒されるよな」

「ユウ、ダメなのだ。準はロリコンでハゲで人格破綻者なのだ」

「そこまでいうっ!?」

「全く、新しくSクラスに仲間が増えたと思えば……猟犬や榊原の友人とはの」

 

 少し古風な言葉遣いと共に近づいてきたのは不死川心。古くからの名門である不死川家のお嬢様だ。多額の寄付金をしていることで自由な服装を許可されている一人である。

 

「あ、心だ。マシュマロあげるー」

「別にいらんわ。それで鳴神とやら。此方は不死川心じゃ。もし、も・し!どーしてもというのなら、色々と教えてやっても構わんぞ?」

「いいよー、心が教えなくても僕が教えるからー」

「はは、ありがとなユキ。ってことだ、不死川ごめんな」

「ふ、ふん!別に此方は謝られる理由はないのじゃ!」

「まぁ、今度機会があったら何か聞くかも知れない。そのときは頼んでもいいか?」

「そこまで言われたら仕方ないのじゃ!」

 

 そんな勇介と心の会話を見て。

 

「ちょろいな」

「ちょろいですね」

「チョロインなのだー」

「誰がチョロインじゃー!!」

 

 冬馬、準、小雪が突っ込み、それに心が反応する。

 

 

 その後、数人と会話を重ねて授業へと突入していった。




と、いうわけでまずはSクラスルートになります。
というのも、投票で単純に多かったのが小雪やクローン勢などだったからです。
従者部隊もSクラス(というより英雄など)とかかわりが多いほうがいいと判断したのでこちらになります。
まだ、現時点ではSクラスルートというだけで、誰のルートへ進んでいくのかは発表しませんのでSクラス共通ルートとでも思っておいてください。
誰のルートに行くかの予想なども楽しいかもしれませんね(?

まだまだヒロイン募集なども受け付けますので感想、評価共によろしくお願いします!


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11話 学園と川神院

「ユウ~♪一緒に遊ぶのだー!」

 

 放課後になるや否や笑顔で小雪が駆け寄ってくる。

 

「いいぞ、何して遊ぶ?」

「ん~、ユウと一緒なら何でもいいよー」

 

 何でもいいといわれても勇介も困る。苦笑いでゆっくりと近づいてきている冬馬と準に視線を向ける。

 

「何がいいかな?」

「そうですね……川神か学園の案内が妥当でしょうか?」

「それとも俺と一緒に帰宅する女神を見守るか?」

「コラーハゲー!ユウを悪の道に引き込むなー!」

 

 勇介を守るように頭を抱きしめる小雪。

 

「……ユキ、あたってるあたってる」

「?何がー?」

「あー、ユキは基本的にそういうのに無頓着でな。こら、勇介困ってるから離しなさい」

「やだー!」

 

 柔らかく甘い香りに包まれた勇介は払うわけにもいかず少し困ったような様子だ。

 

「む!ユウ、何してるんだ!」

 

 そう言ったのはクラスへと入ってきていたクリスだ。

 

「あれ、大和ー」

「ユキも知り合いだったのか?」

「うんー!ほら、僕が話してたマシュマロくれたのがユウなんだー!」

「……それで、ユキは何で抱きしめてるの」

 

 京が不思議そうに質問する。

 

「ハゲがユウを悪の道に引き入れようとしているのだ!だから、ユウは僕が守るの!」

「でも、少し困ってない?」

 

 苦笑いで言うのは大和だ。小雪は少し首を傾げると勇介を解放する。

 

「苦しかった?」

「いや、大丈夫大丈夫。で、クリスは何拗ねてるんだ」

「拗ねてない!」

 

 明らかに拗ねている。周囲の全員がそう思っているがクリスは認めないだろう。

 

「マルさんとはやりあったけど、今度クリスともやらないとな。ちゃんと鍛えてたんだろ?」

「勿論だ!自分も立派な騎士として鍛えているんだからな!」

 

 一気に機嫌が戻るクリス。

 

「クリス、相変わらずチョロいね。大和付き合って」

「まぁ、ああいうところもクリスのいいところだよな、お友達で」

「お嬢様、ユウは今九鬼に世話になっているそうです」

 

 マルギッテがクリスに報告する。

 

「む、そうなのか?ユウも島津寮に来ればいいのに。あ、なんだったら自分の部屋に遊びに来てもいいぞ!京とまゆっちの許可があれば入れる!」

 

 そう言ってクリスは京を見る。

 

「……別に好きにするといい」

「あれ、京拒否しないんだ?」

 

 少し驚いたようにいったのはモロだ。

 

「私も成長しているの。大和のために。チラッ」

「そういう成長はいいことだな、お友達で」

「……直江はモテモテなんだな」

「ちょっと待て!」

 

 なぜか慌てる大和。そんなワイワイとした状況に飛び込んでくる人が一人。

 

「おお、弟もここにいたのか。ちょうどいい、鳴神。私とも手合わせしてくれ」

「俺じゃ一撃で吹き飛ばされて終わりそうですけど」

 

 笑いながらそう言う勇介に百代は拳を突き出す。それを避けることもせずに見つめる。

 

「ふ……今の拳を避けもしない時点でお前の力はある程度分かるぞ?」

「もしかしたら反応できていないだけかもしれないですよ?」

「冗談を。マルギッテとあれだけの戦いが出来て今の拳に全く反応できないなんてことはありえないだろう。ふふ、面白くなりそうだ!」

 

 心底嬉しそうにそう言う百代。

 

「……まぁ、正式なたち合いは後々として……一応鉄心さんに合同稽古なんかの話もしようと思っているからその程度なら」

「本当か!……それは楽しみだ!」

「おぉ、お姉さまが燃えてるわ……!」

 

 百代の闘気が高まるのを見て一子が目を輝かせる。

 

「俺様、近くにいるだけでもちょっと怖いんだが」

「鳴神、怪我には気をつけろよ?」

「おい弟、どういう意味だ」

 

 大和の言葉に反応して後ろから抱きつく百代。

 

「あははー!たのしそー!」

 

 百代の真似をするように小雪も勇介の後ろから抱きつく。

 

「む!ユウ、私も!」

「いやいや、どういう状況だよ」

「……絶対俺よりお前のほうがモテモテだよな」

「南無阿弥陀仏」

 

 そんな状況の大和を見て突然お経を上げる準。

 

「……何してるんだ?」

 

 疑問に思った勇介が尋ねる。

 

「武神にとりつかれた哀れな直江の菩提を弔っている」

「余計なことするな、このロリコン」

 

 手加減したパンチの風圧で吹き飛ばされる準。倒れ臥した彼に勇介から離れた小雪は近づくと、シャーペンでつつきだす。

 

「おーい、生きてるー?ハゲー」

「……」

「姉さん……」

「手加減してるからすぐに復活するだろ。それで鳴神。いつ来るんだ?」

「川神先輩は気が早いようで。まぁ、週末にでも顔を出そうと思っていたので、よかったら伝えておいて貰えます?」

「勿論だ!」

 

 

 そんな話の後、復活した準も含めて勇介、小雪、冬馬、準の四人で仲見世通りに来ていた。

 

「そうそう、あの店の久寿餅、めちゃくちゃうまいんだぞ!」

「知っています。Fクラスの小笠原さんのご実家ですね」

「そうそう。多馬大橋だっけ。あそこの橋で変態に絡まれてるのを助けて奢ってもらったんだけど気に入っちゃってさ」

「マシュマロもおいしいよ。はい!」

 

 勇介の口元にマシュマロを差し出す小雪。勇介が口をあけるとその中に放り込む。

 

「……ん、おいしいな。ありがとな、ユキ」

「えへへー」

「いや、しかし、本当にユキは懐いてるな。久々に会ったとは思えん」

「そうですね。ですが、勇介くんであれば私としては信頼して任せられると思いますよ」

「俺も、ユキを助けてくれたのが直江やお前たちでよかったって思ってるよ。特に、二人のことは家族のように大事に思ってるみたいだしな」

「そう、ですね」

 

 その言葉に少し悲しそうな表情を浮かべたのを勇介は見逃さない。

 

「何か心配事があるのか?」

「……いえ、まだ確定しているわけではありませんので。それに、勇介くんがいれば、ユキを守る手段は多数用意できそうですし」

「だな。もしものときはユキを頼めるか?」

 

 冬馬と準がそう言う。小雪を見るが良く分かっていないらしく首をかしげている。

 

「そうだな……断る!」

「は!?おいおい、今の流れは受けてくれるところだろ?」

「何があるのか、何が心配なのか俺にはわからないけど、お前たち二人をユキが見限ることはないと思うんだけどな」

「……」

「なら、俺に出来るのはただ一つだな」

「それは?」

「全員含めて俺が助ける。まぁ、俺にできるならだけどな」

 

 

「ユウ~!バイバーイ!」

 

 手を振る小雪に手を振り返しながら勇介は立ち去る。それを見送りながら。

 

「……準、どう思います?」

「どうもこうも、俺たちと同じようにユキのことを大切に思ってくれてるっていうのは間違いないんじゃないか?どうしてあそこまで気にしてくれてるのかは分からんが」

「ですね。ただまさか、私たちも含めて助けるなんて言ってくれるとは思いもしませんでしたね」

「だな。……で、どうするよ若」

「どうするもこうするも、私たちではどうにもなりませんよ。……ただ、少しは抗って見ますか」

「若がそうしたいなら俺は付き合うだけだ。……確かにユキを巻き込むのは俺たちも嫌だしな」

 

 

 週末。勇介はいつもと違う服装で川神院を訪れていた。

 

「おお、鳴神か。気合入ってるな」

 

 嬉しそうな声で話しかけてきたのは胴着を着た百代だ。傍には一子もいる。

 

「鳴神くん、いらっしゃい!」

「お邪魔します」

「ジジイに伝えてくる。ちょっと待ってろ」

 

 そう言うと百代はすぐに奥のほうへと歩いていく。その間は一子が相手をしてくれるようだ。

 

「ねぇねぇ、鳴神くんってお姉さまに勝てる?」

「どうだろうね。ただ、負けようと思って戦ったことはないよ。それは川神さんもそうでしょ?」

「その川神さんってやめない?お姉さまも川神さんだし。私のことは一子でいいわ」

「そう?なら俺も勇介でいいよ」

「分かったわ、よろしくね勇介くん!」

「改めてよろしく、一子」

 

 再度挨拶を交わした後に勇介は一子を見る。……しっかりと鍛錬を重ねてきているのが見て取れた。だが。

 

「……(才能はない、か。いや、努力も才能だからないわけではない。でも、壁を越えることは難しい、か)」

「ど、どうしたの?」

「ううん、一子は何を目的に鍛錬をしてるんだ?」

「私はいつか、お姉さまと並び立ちたいの!お姉さま、一緒に戦えるだけの相手がいなくて寂しそうだし、私が強くなってお姉さまと戦えるようになって……そして、ゆくゆくはお姉さまが総代に、私が師範代になるのが目標よ!」

 

 胸を張って言う一子を勇介は好ましく思う。ただ、その反面夢を叶える難易度の高さは異常なものだろう。……恐らくは一子自身も気づいた上で諦めないという選択をしたのだろうが。

 

「……そっか。それじゃ、少しだけ俺と組み手してみる?」

「いいの!?」

「うん。少しくらいなら怒られないでしょ」

 

 そう言って拳を構える勇介。それに対して一子は薙刀を構える。

 

「あ、でも勇介くん、素手で大丈夫なの?」

「はは、鳴神流は自分自身が武器なんだ。勿論、刀を使ったりもするけど、決して手を抜いてるわけでもないから気にしないで。それに」

 

 少しだけ闘気を放つ。

 

「これは軽い組み手だから。互いの弱点をアドバイスできるように、くらいの軽い気持ちで大丈夫だよ」

「……分かったわ!」

 

 言葉に反した勇介の闘気を見て何かを悟ったのか、一子も真剣な顔で向かい合う。止めるものも、開始を宣言するものもいない二人の間に動きが現れるまでに時間はかからなかった。

 

「っ!」

 

 器用に薙刀を振り回しながら勇介へと接近する一子。リーチを生かした連撃に触れることなく避けていく。守りに徹している勇介に一子は川神の技を繰り出す。

 

「山崩し!!」

 

 頭上で大きく旋回させた薙刀を斜めに振り下ろす。脛を狙った一撃は勇介が跳躍することで回避される。だが、跳躍によって見えた隙を見逃す一子ではない。

 

「たぁっ!!」

 

 宙にとんだ勇介を逃がさないように降ろした薙刀を返すように切り上げる。

 

「いい反応だ!」

 

 空中に居るにも関わらず、一子の一撃を勇介は次は手を使って受け流す。それに驚いたのは一子だ。受けるでもなく受け流すというのはかなりの高度な技が要求されるからだ。

 

「勇介くん、本当に強い……!」

「ありがとう。俺も鍛えてるからね」

 

 ゴクリと息を飲む一子。正直、底が見えない。ルー師範代などに鍛錬をつけてもらっているときと同じ、圧倒的格上を相手にしているような感じだ。それは、常にそういった修行を繰り返している一子だからこそ敏感に感じ取れたのだろう。

 

「うん、そろそろ鉄心さんたちも来そう出し、得意の一撃でも打ってくるといいよ」

「!分かったわ!!」

 

 クルクルと薙刀を勢いよくまわし始める一子。闘気と共に速度を増す薙刀。

 

「川神流・奥義!!」

 

 その言葉と共にタン、と地面を蹴る一子。合わせる様に勇介は一子の間合いへと進み出る。

 

「大車輪!!」

 

 スピードに乗った一子の薙刀は左右上下あらゆる方向から勇介を襲う。勇介は感心する、一子の才能でここまでの技を身につけるためにどれほどの苦労を重ねたのだろう、と。だが。

 

「ふっ!」

 

 勇介の右手が頭上から振り下ろされた一撃を抑え、左の拳が一子の面前へと突きつけられる。

 

「いい一撃だったよ」

 

 勇介の言葉に一瞬何が起こったのかわからなかった一子ははっとする。

 

「す、すごい!!」

 

 目を輝かせる一子がそこにいた。




たくさんの感想や評価などありがとうございます!

仕事の都合で更新が厳しくなるまでは出来る限り毎日更新を頑張ります!


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12話 もう一人の思い出の少女

 目を輝かせた一子が勇介のところへと駆け寄ってくる。

 

「初めて見てあんなに綺麗に技の間を突くなんてすごいわ!」

「はは、ありがとう。でも一子もよかったよ。これまで鍛えてきたっていうのはしっかり分かった」

「えへへ、そう?」

 

 勇介の言葉に照れる一子。

 

「私はお姉さまみたいな才能がないから鍛錬だけは欠かさずにやってるの!ゆ、勇介くんから見てどうだった?」

「そうだね……鍛錬の結果はしっかりと出てると思う。ただ、性格的なものなのか少し攻撃が荒くなる瞬間があるね。それがいい方向に動く人もいるけど、多分一子はそうじゃないから改善点かな?」

「ふむふむ……前にルー師範代からも同じことを言われたわ……」

「なら、精神鍛錬だな。後は……」

 

 一子とのたち合いで感じた点を細かく伝えていく。それを一子はしっかりとメモに書き込んでいく。

 

「鍛錬のメニュー教えてもらえる?」

「勿論!えっとね……」

「……ふむ、一部変更したほうがいいかもね。これはルー師範代と相談してから決めるといいと思うけど」

「うん!ありがとう!」

「ホッホッホッ、一子と仲良くなったようじゃの」

「何だ何だ。妹とばかり遊ばずに私とも遊んでくれよ」

「そんな闘気を漲らせながら言われても困りますよ」

 

 苦笑いの勇介と、言われても闘気を抑えることをしない百代。

 

「全く、すまんのぉ鳴神」

「いえ、構いませんよ。ですが、本気のたち合いは……」

「大丈夫じゃよ。鍛錬の延長戦としてしか認めぬ」

「くっ、何でだジジイ」

「鳴神の力をしっかりと確認していないのにそのような危険なことやらせるわけにはいかんじゃろ」

「むぅ……鳴神の力見抜けなかった癖に」

「……それは言い返せんが……」

「まぁ、とりあえず鍛錬としての組み手なら俺も構いませんよ。しっかりとしたたち合いなんかは川神院としても色々とルールがあるでしょう?」

「そういう気遣いはありがたいのぉ。合同稽古などもこちらで手配はしているのじゃが」

「お世話になります」

 

 丁寧に礼をする勇介に満足げな鉄心。

 

「ですが、今は一度川神先輩に胸をお借りします」

「ふふ、川神先輩じゃなくて下の名前でいいぞ。川神だとジジイやワン子と一緒だろう」

「では、皆と同じようにモモ先輩と呼ばせてもらいますね」

 

 

「では、今回の組み手は私が審判を務めさせてもらうヨ。百代、熱くなりすぎたらすぐに止めるからネ」

「分かってますって。……ふふ、マルギッテとの戦いを見て楽しみにしてたんだ」

「その期待に応えられるように頑張りますよ」

 

 闘気が高まる百代に合わせるように勇介の闘気も跳ね上がっていく。それにルーも驚きの表情を浮かべる。

 

「まさか、これほどとはネ……」

「ルー師範代、早く始めよう!」

 

 我慢できない、と言外に言う百代。ルーもやれやれと少し肩を竦めていたが諦めたようだ。

 

「それでハ、はじめるヨ。……はじめっ!」

 

 先に動いたのは勿論、百代だ。

 

「まずは小手調べだ」

 

 ニヤリと笑いながら拳を繰り出す。

 

「川神流・無双正拳突き!!」

 

 小手調べにして必殺の一撃。ほとんどの者はこの一撃を受けることも避けることも出来ずに敗れ去る。そんな可能性をわずかに感じていた百代は驚くことになる。

 

「川神流」

「「!?」」

「ホッホッホッ」

 

 鉄心以外は衝撃を受ける。

 

「無双正拳突き!!」

 

 パアンッ、とまるで何かが弾けたような音が周囲に響き渡る。完全に同じ威力の拳がぶつかり合い、互いに距離をあける。

 

「……お前……」

「終わりですか?」

「いや……いや!」

 

 獰猛な笑顔を浮かべた百代が再度拳を構える。

 

「まだまだ……本気じゃない!」

 

 再び勇介へと距離をつめる百代。

 

「いくぞ!!」

 

 猛打。拳の嵐が勇介を襲う。しかもその一撃一撃がかなりの威力で既に組み手などのレベルを超えてきている。だが、勇介は特に動揺することなく先ほどまでとは違い、全ての攻撃を受け流す。百代は内心驚きと動揺が隠せない。自分の技がここまで簡単に受け流されるというのは初めての経験だった。

 

「本当にお前は……楽しませてくれるようだな!!」

「(だんだんとギアがあがっていくタイプか!これがまだ全力じゃないってことか)」

 

 実際に戦ってみると分かる、百代の才能の恐ろしさ。切磋琢磨できる相手がいない状態でこの強さだ。百代自身が目標と出来るだけの存在が現れたとすれば……。ただし、百代ほどではないにしろ勇介も最強を目指すものである以上戦うことは嫌いではないのだ。

 

「……!」

「考え事をしている余裕はないぞ!」

 

 一瞬の隙も見逃さない百代の攻撃を受け流し続ける勇介。だが、流石に攻撃に転じるのは難しいようだ。

 

「なら」

 

 ドクン、と何かの鼓動で空気が震える。違和感と共に、野生的な勘で咄嗟に距離を取る百代。その目に映った勇介の瞳が黄金に輝いているのが見える。

 

「お前……その目っ!」

 

 鉄心の言葉を思い出す。

 

「龍……!」

「知っていたか。鳴神の龍の力のひとつ。この目は龍眼って言ってね。少しだけ力を見せるよ。鳴神の……俺の戦い方を」

 

 先ほどまでと違い、攻撃的な雰囲気を放つ勇介。それは、揚羽との戦いのときに見せたのと同じものだ。

 

「鳴神流龍技星喰(ほしばみ)!」

「川神流星殺し!!」

 

 互いに星を冠した技を放つ。百代に向かって掌を向けて突撃する勇介に対して、巨大な気のビームが放たれた。だが、それはまるで掻き消えるように勇介の手に触れた場所から消失していく。

 

「なっ!?」

「ぐっ!」

 

 驚愕に目を見開いた百代と、腕を押さえて動きを止める勇介。はっとしたようにルーが間に入る。

 

「そこまデ!」

「……」

 

 百代が不完全燃焼で文句を言うかと思いきや、むしろ満足したような笑顔で勇介へと手を差し出す。

 

「流石はジジイのライバルの孫だな。久々に楽しい戦いだった」

「はは……どんな気の量してるんですか」

「それを打ち消しておきながら言う台詞じゃないだろ。なんだアレは」

「秘密ですよ。俺の奥の手なんですから」

「そうか。それはそれで知りたくなるな。……ふふ、いつか教えてくれよ?」

「ええ、機会があれば」

「それに聞きたいことが他にも……」

「モモ、落ち着けぃ。鳴神、流石といってよいのかの?」

「ありがとうございます。祖父の跡をついで何れは最強を目指してますから」

「ホホ、若いのぉ。じゃが、その心意気やよし。ルーよ」

「ハイ、総代。鳴神、いつでも川神院に遊びにくるといいヨ。他の若者たちにもいい影響を与えられそうダ」

 

 ルーの言葉に勇介は再度頭を下げる。

 

「どうじゃ、ちょうどいい時間じゃし食事でもどうじゃ?」

 

 

「……それで、クリ吉のところで世話になってたのか」

「はい。とはいえ、そこを拠点にしつつ世界中につれていかれましたがね」

「その中で川神にも来たのか?」

「……多分。俺の記憶に川神に来たというものはないんですけど、ユキと出会ってたってことはそうだと思います」

「凄いわ……運命って奴ね!」

 

 目を輝かせながら一子が言う。

 

「確かに、再会できたしそうかもな。……同じ時期にもう一人会った子がいたんだけど、名前とかを聞いた記憶がなくてね」

「どういう子?」

「ん~……正直、ほとんど覚えてないんだけどな。確か、ユキと何処か似た雰囲気だった気がする。……友達がほしくて必死で頑張ってたよ」

「……どこかで聞いたような話だな」

「そうね、私もそんな気がするわ」

 

 うーんと首を傾げる川神姉妹。

 

「ユキもそうだったんだ、きっと元気にしてるだろとも思う。ただ、正直気になったりもする」

「……そうか。なら、さっきの戦いの礼だ。私たちが探すのを手伝ってやろう」

「そうね!私も協力するわ!」

「いいのか?」

「あぁ。これからもお前とは仲良くしたいしな。ちょうど明日も休みだからファミリーを全員集めよう」

 

 

「話は聞いたぜっ!!」

 

 そう切り出したのは翔一だ。

 

「いいなぁ、そう言うの!お母さん、見つかりました!とかやるんだろ!?」

「キャップ、それちょっと違う。でも、鳴神がこのあたりに来たことあったっていうのもびっくりではあるよな」

「だな。俺様とは会ったことないよな?」

「多分。正直小さいときだから自信はないけど、島津みたいな男なら覚えてるだろ」

「はっはっはー!俺様、イケメンだからな」

「……ガクトのその自信一体何処から来るのか知りたいよ」

 

 呆れたように呟くモロにガクトが近づいてなにやらいいながら肩を組む。

 

「じー……」

「ん、どうした椎名さん」

「……なんでもない。ガクトとモロのカップリング……アリだなって」

「いや、ナシだろ」

「……」

 

 京の言葉を否定する勇介と無言で二人を見るクリス。少しだけ頬を染めているのは気のせいだと思いたい。

 

「勇介先輩、特徴はほとんど覚えていないんですよね?」

『情報少なすぎて神様のオラでも梃子摺りそうだぜ……』

「ごめんな、由紀江、松風。凄く細かったことと、少しぼろぼろの服を着てた……気がするくらいしか覚えてない」

「流石に情報が少ないな……でも、俺たちと同年代の可能性は高いよな」

 

 うーんと唸りながら大和が言う。

 

「……」

 

 やはり京から視線を感じる。

 

「よーし!それじゃ、まずは出会った場所を探すところからスタートだぜ!」

「まぁ、川神案内の一部だと思ってくれたらいいと思う。にしても、キャップノリノリだな」

「まぁ、あいつこういうの好きだからな。弟、話で候補は決まってるのか?」

「まぁ、可能性として幾つかは。そのうちのひとつは俺たちもよく知ってる場所だよ」

「え、大和もうめぼしつけてるの!?流石は軍師ね!」

「ユウ、自分たちに任せてくれ!きっと見つけてやるからな!」

『クリ吉……自分はそこまで川神に詳しくない癖に自信だけ満々だぜ……』

「こら松風。私たちも同じなんですから」

 

 幾つかの場所を回った後、大和が最初に言っていた自分たちもよく知っている場所へと案内される。

 

「ここは……!」

「もしかして」

「ビンゴか!?」

 

 そこは少し変わった部分もあるが、勇介の記憶にある少女との思い出の場所だった。

 

「ここって……」

「俺様たちが遊んでたたまり場の近くじゃねーか」

「おぉ……大和、凄いわ」

「間違いない。俺はここでその女の子と会ったんだ。何か石を投げられていてな」

「……ごめんね」

 

 ボソリと京が呟くと勇介に対して石礫を飛ばしてくる。それに気づいた勇介は京に当たらないようにそれを子供の頃と同じように投げ返した。

 

「まさか」

「……そのまさかみたい」

「「え!?」」




更新時間がバラバラでごめんなさい!

感想、評価等ありがとうございます!励みになっております!
またお待ちしております!


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13話 風間ファミリー

「なるほど……それじゃ、京と会ったのは俺たちと仲良くなる前なのか」

 

 京の口から語られた内容を聞いた大和が言う。

 

「うん。大和に声をかける前にその切欠をくれたの」

「そんな大層なことじゃないさ」

 

 京の言葉に対して謙遜する勇介。

 

「いや、京の言うとおりだろう。結果としてお前の言葉のおかげで京は大和に声をかけて、そのおかげで私たちとファミリーになれたんだからな。それは間違いなくお前の手柄だ」

 

 そう言って百代が優しく京の頭を撫でる。

 

「お前、本当にすげーんだな!感心したぜ!……大和!」

「……あぁ、何が言いたいのかは分かったけど……」

「もしかしてキャップ、勇介くんをファミリーに加えるの?」

 

 一子が翔一と大和の会話で気づいたように尋ねる。

 

「おう!クリスの幼馴染でまゆっちの知り合い、そして京の恩人だろ!?文句なしファミリー入りの資格ありだろ!それに面白そうだ!」

「ふ……キャップはいつも通りだな。だが私も賛成だ。昨日手合わせもして悪い奴じゃないのは分かったからな」

「姉さん、それって拳で語ったからってことか?」

「あぁ、よく分かってるじゃないか」

「私も賛成!私も勇介くんのこと、信頼できるって思うから!」

 

 一子も百代に続いて賛成を表明する。

 

「俺様はどちらでも構わないぜ」

「僕は……正直全然知らないから今のところなんとも言えないかな」

 

 ガクトは賛成よりの保留、モロは保留。

 

「自分は反対する理由はないぞ!」

「わ、私も賛成です」

『オラもオラも!』

 

 クリスと由紀江は問答無用の賛成。勿論、松風も賛成である。

 

「……俺も一旦保留かな?まぁ、賛成寄りではあるけど」

 

 大和はそう言うとチラッと京を見る。

 

「……私は……」

 

 全員が固唾を呑んで見守る。

 

「……賛成」

「決まりだなっ!!」

 

 京の言葉に嬉しそうに翔一がいう。

 

 

 そして案内されたのは、廃ビルだった。

 

「おぉ……廃ビルか。いいな」

「だろ!?男のロマンだよな!」

 

 既に親友かのように勇介の肩を抱く翔一。

 

「私たちは普段は自由に集まる感じで、金曜日だけ全員揃うようにしているんだ」

「通称、金曜集会だな!」

「俺様の筋トレ道具とかモロの漫画とかあるぜ!」

「皆好き勝手に改造してるからな。鳴神も好きに使ってくれ」

「あぁ……とはいえ、俺あまり物とか持ってきてないからな。何か面白いもの探しておくよ」

 

 そんな話をしながら階段を昇った先にそこはあった。

 

「ここが……」

「俺たちのたまり場さ!ようこそ勇介!改めて俺のことはキャップと呼んでくれ!」

「あぁ、よろしく頼むよキャップ」

「ようこそ鳴神……いや、俺も下の名前で呼ばせてもらっていいか?」

「勿論、直江……じゃなくて大和」

「あぁ、改めてよろしく」

「……まぁ、座りなよ」

 

 そう勧めてきたのは京だ。

 

「おいおい、京が大和以外の男に優しくしてるぜ。俺様驚きだ」

「はは……京にとってはそれだけ特別だってことだろうね」

「……しょーもない」

 

 そう呟く京を大和が少し優しい笑みを浮かべてみている。

 

「どうした、大和?」

「いや、いい傾向だなって。京を助けてくれたのがお前でよかったよ」

「そうか?俺は切欠作っただけだからな。本当に助けたのは大和なんだろ、旦那さま」

「いや、冗談にならないからやめてくれ」

「……私はいつでもいいよ?」

「ふふふ、自分はユウがここに来てくれて嬉しいぞ!」

 

 ソファに座った勇介の隣にぴったりと寄り添うようにクリスが座っている。そんな彼女の頭を優しく撫でる勇介。

 

「わ、私も嬉しいです」

 

 流石に勇介の隣には座らなかったが傍に座っている由紀江だ。

 

『オラも歓迎するぜ、勇介ボウヤ』

「松風もありがとな」

「ねぇねぇ、勇介くんって京を助けたときから武術の心得があったの?」

「そうだね。既に祖父さんと修行の旅をしてたからね。その途中でここに立ち寄ったから」

「私とその時代に会っていてくれれば暇じゃなくて済んだんだけどな」

「ははは、今までがあったからこそモモ先輩に少しは認めてもらえるだけの力がつけられた、とも考えられるからね。……まぁ、京もユキも出来れば最後まで見てあげたかった、っていうのはあったけど」

「……ありがと」

 

 いつもと様子の違う京に首を傾げる一子やクリス。そして少し嬉しそうに見守るそのほか……のような構図。

 

「ユキも懐いてたけど、勇介って変わった子を懐かせる能力でも持ってるのか?」

「何だそれ。俺は普通にユキと話したりしてるだけだぞ。それにあの子もいい子だよ」

「はは、知ってるよ。だからこそ感謝してるんだよ」

「……お蔭様でこんなに元気に育ちました」

 

 普段は大和にだけ向けられているといっても過言ではない京の好意。それが明らかに本人が意識しているかは別として勇介に対しても向けられている。それに風間ファミリーの面々は喜んでいるのだ。

 

 

 翌日。

 

「あ、ユウなのだー!」

 

 通学中に勇介を見つけて吶喊してくる小雪を優しく受け止める。

 

「おはよう、小雪。ただそんな突撃したら危ないぞ?」

「ユウならちゃんと受け止めてくれるから大丈夫だよー」

「すごい信頼だな」

「まぁ、お前さんならその期待に応えられるだろ」

「なんでしたら私も受け止めてくれたら嬉しいのですが」

「それは全力でお断りするよ。男に抱きつかれても嬉しくないだろ」

「私は嬉しいですよ?」

「そりゃそうだろうけどな」

 

 俺はノーマルだよ、と笑いながら小雪の頭を軽く撫でる。

 

「そういえば、ユキは人気あるんだな」

「えー、何でー?」

「ほら、よくユキが抱きついてくると周囲から殺気やらの視線を感じるから」

「あー……ユキは見た目はいいからな」

「ハゲは見た目も犯罪者なのだ」

「誰が犯罪者顔だ!」

 

 わいわいと騒ぎながら多馬大橋へと差し掛かったあたりで大和たちと合流する。

 

「あ、大和ーはろー」

「ユキ、おはよう」

 

 大和に挨拶をした小雪が京をジーっとみる。

 

「……おはよ」

「京も思い出した?」

「……うん」

「僕のほうが先に思い出したんだよー!」

「むぅ……」

 

 よく分からないが何かを張り合う小雪。

 

「おぉ……なにやら京が押されてるわ……おはよ、勇介くん!」

「おはよう、一子」

「ユウ、おはよう!」

「クリスおはよう」

 

 すぐ目の前まで駆け寄ってきたクリスの頭を優しく撫でる。

 

「ん、ちょっと髪跳ねてるぞ」

「えっ!?ちゃんと自分で整えたのに!」

 

 勇介が鞄から櫛を取り出すとすっとクリスの髪を梳く。

 

「これでよし」

「ありがとう!」

『クリ吉甘やかされてんなー。もっと自立しろよー』

「こら、松風。いいすぎですよ、おはようございます、勇介先輩!」

「おはよう、由紀江」

「おっす!」

「おはよう」

「おはよう、ガクト、モロ……うん、何か違和感」

「ははは、なれるまでは仕方ないさ。おはよう」

「大和もおはよう」

「空から美少女参上!」

 

 空から降り立つ美少女こと百代である。

 

「おはよう、愉快な仲間たち」

「おはようモモ先輩」

「姉さんはまた変な登場して」

「何だとー。変とはなんだー。弟の癖に生意気だぞー」

「痛い痛い」

 

 大和の言葉に不満そうに頬をつつく百代。

 

「それにちゃんと下着が見えないように飛んできたんだぞ。えらいだろー」

「はいはい」

「ははは、モモ先輩は普段から規格外なんですね」

「何だよ、勇介ならこれくらい出来るだろ?」

「出来るのとやるのとではちょっと違いますからね」

「ねーねーユウ!僕空飛んでみたいのだ!」

「うーん……空を飛ぶのレベルによるけど……」

「……モロ、モモ先輩以外にも人外レベルが増えた気がするんだが、俺様」

「あはは……」

「おぅいガクト。今こんな美少女のことを人外とかいったか?」

「いぃ!?」

 

 そんな話をしていると橋に差し掛かったところで目の前に一人の男が立ちはだかる。

 

「武神・川神百代だな!」

「……ふむ」

 

 普通の武道家といったところだろうか。勇介の判断では百代どころか川神であればその辺りにいる人にすら負ける可能性がある程度の強さだろう。……まぁそのあたりにそういった人材がゴロゴロしている時点で川神がおかしいのだが。

 

「我が名は武王山下!武神と呼ばれ調子に乗っている川神百代に鉄槌を降ろすものだ!」

「武……王」

 

 勇介が頬を引きつらせる。

 

「はは、面白いことをいうな、お前」

「女子といえど手は抜かぬぞ!」

 

 そう言ってチラッと周囲にいるメンバーを見る。人の目を惹く美少女揃いなのだから少し気になるのは仕方がないだろう。

 

「ふふ、川神百代を倒しその女子どもを可愛がってやろう」

「うわ、三下の台詞だ」

「もう旬が終わってるのにな」

「いや、僕に同意を求めないでよ!?」

 

 モロの言葉に準が反応するが、その言葉に同意を返すことは出来ない。

 

「ユウ、なんかあの人変な目でこっち見てたのだ」

「……あぁ、そうだな」

 

 そんな勇介をチラッと見た百代が何か思いついたように勇介の肩にしなだれかかる。

 

「勇介、私こわーい」

 

 棒読みだ。

 

「え、何々~!僕もやるー!」

 

 そんな百代を見て遊んでると思ったのか、小雪が反対側の腕に抱きつく。

 

「何だ、ユウに近づいたらいいのか?」

 

 よく分かっていないクリスも勇介へと近づいていく。そんな感じで気がつくと女性陣が全員勇介の傍に集まっている状態になっていた。

 

「な、何だ貴様はっ!?決闘の邪魔をした挙句何をしている!?」

「……いや、俺は何もしてないけど」

「くそー!勇介、羨ましすぎるじゃねぇか!!」

 

 ガクトがモロの肩を掴んで揺らす。

 

「うわぁ!?揺らさないでよガクト!……というより、京があれに混ざってるのが僕は驚きなんだけどね」

 

 本人の意思というよりは小雪に腕を掴まれてという感じではあるが、特に嫌がっている様子がないのは驚きだ。

 

「さ、勇介。どうする?」

 

 ニヤニヤと何かを試すように百代が勇介を見る。

 

「いいんですか?俺がやっちゃって」

「あぁ。こんなのとやるよりお前とやってるほうが楽しいからな。それにこの間の楽しかった気持ちを消したくはない」

 

 そんな百代の言葉を聴いて勇介も苦笑いだ。

 

「それじゃ、一瞬で片付けますね」

「お前何を」

 

 腕を掴んでいた百代と小雪が腕を放す。それと同時に勇介が一礼する。

 

「すみませんが、武王さん。モモ先輩は俺が倒す予定ですので、お帰りください」

「お前のような雑魚が倒せる相手のわけがないだろう!」

「……おい、お前。悪いことは言わないから自分の分は弁えたほうがいいぞ」

 

 百代の忠告に耳を貸すような男ではない。怒ったような男は勇介に向かって突進する。

 

「ひとつ、相手との力の差がわかっていない」

 

 突進してきた男の肩を片手で軽く止める。

 

「なっ!?(び、びくともしない!?)」

「ひとつ、戦う相手への敬意を持って対峙していない。これはモモ先輩と向き合っていたときの話だな」

 

 膝がぶるぶると震え、強制的に膝を突いた状態に追いやられる。両手で腕をなんとかはずそうとするがその試みが成功することはない。

 

「最後に」

 

 一瞬だけ勇介の瞳が黄金に輝く。

 

「俺の仲間に手を出そうとするな。武人としてならいつでも対峙してやるよ。それはモモ先輩も同じだろ……って、聞いてないかな」

 

 手を離した勇介の前には気を失った武王が跪いていた。

 

「あ、あと。王やら神やらつけられる重さを知るべきだな。いくら何でもその程度で王は……軽すぎる」




後どれくらい毎日更新続けられるかなぁ?
出来る限りは頑張ります!

感想、評価等ありがとうございます!励みになってます!


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14話 天神館との決闘準備

PCトラブルでリカバリーしました。
のでギリギリです!


 百代への挑戦者を軽く倒した勇介。それを見ていた通学中の生徒たちがざわつく。いつものように百代による圧倒的な勝利シーンが見れると思っていた彼らの前に広がった光景は、先日転入してきて即決闘で華々しい勝利を飾った男による勝利だった。しかも、百代と同じく圧倒的な力の差を百代とは違う形で示して見せたのだから仕方のないことだろう。

 

「……こんなものでどうですか、モモ先輩?」

「うん、いいぞ勇介。まぁあの程度じゃ楽勝だよな?」

「まぁ、相手を下に見るわけじゃないけどちゃんとした鍛錬を重ねてない相手にはね。武の頂を目指している相手なら多かれ少なかれ尊敬するべき点があったりするんだけど、今の人は……ちょっと違うかな」

「ふーん……ガクトみたいな感じか」

「はは、否定はできないね」

「おい!そこは否定してくれよ!」

 

 戦う相手よりも周囲の女性陣に目がいっていた時点で結果は見えていたということだ。

 

「それに最後の言葉、かっこよかったぞ。小さい頃の大和と似てるがちょっと違う感じがな」

「姉さん!?それは言わない約束だよな!?」

「何で大和はあせってんだ?」

「勇介、気にしなくていい。……ガクトも笑うな!!」

「クク……焦る大和も好き。付き合って」

「お前も鬼か!お友達で」

 

 そんないつもどおりの大和たちを見て勇介が笑う。

 

「はは、大和は一体何をしたらそんなに京に好かれるんだ」

「いや、特別なことをしてないから断ってるんだって」

「……大和は私を救ってくれたの」

「そっか。……大和、俺ができなかったことをやってくれてありがとな。付き合って」

「お友達で……って、おい!?」

「ははは、冗談に決まってるだろ」

「当たり前だろ!?怖すぎるわ!」

「うわぁ……京嬉しそう」

 

 どこから出したのか、10点と書かれた札を立てて口元を押さえている京を見てモロが言う。

 

「大和×勇介……ありなんだっ!!」

「み、京!自分もよくわからないがドキドキしてきたぞ!?」

「クク……ようこそクリス。……腐が嫌いな女子はいないんだっ!」

『まゆっちはノーマルなんだぜ、京の姉さん』

「まゆっちもすぐにこちら側に来ることになるよ……」

「おい、モロ。女性陣が怖いぞ!」

「はは……僕には何もできないね」

 

 

「勇介、お嬢様と通学したのですか?」

 

 教室に入るなり声をかけてきたのはマルギッテだ。

 

「あぁ、ユキたちと先に会って、その後にな」

「そうですか。お嬢様は喜ばれていたでしょう。……勇介、少し身嗜みが乱れていますよ……これでよし」

「ありがとう、マルさん」

「貴方はもっとしっかりするべきと知りなさい。……まったく、私がいるときはかまいませんが」

「ユウー!遊んでるなら僕も混ぜて混ぜてー!」

「榊原小雪。貴方が抱きつくことで勇介の服が乱れていることをしっかりと知りなさい」

「えー?大丈夫だよー。ユウはどんな格好でもかっこいいよ?」

「……それは……」

 

 否定せずにじっと勇介を見るマルギッテ。

 

「ん、何だ?」

「な、何でもありません。とにかく、すぐに抱きつくのはやめなさい」

「ぶーぶー。あ、そーだ!ならマルギッテも抱きつけばいいと思う!」

「はっ!?な、何をいっているのですか、貴女は!」

「いやいや、マルさん動揺しすぎだろ」

「っ!貴方という人は……。知ってはいましたが」

 

 

「九州の天神館がこちらに来た際に模擬戦を行いたいとのことじゃったから受けておいたぞい」

 

 ある日の朝礼で突然鉄心がそんなことを言う。

 

 天神館。東の川神、西の天神と言っても過言ではない特殊な学園である。東には竜鳴館などもあるのだが。

 そんな天神館の館長は元々鉄心の高弟の一人である鍋島正(なべしまただし)だ。川神学園に負けない子供たちを集め、育成しておりその目標は打倒川神学園。……とはいえ、自分の育てた生徒は強いだろう?といった感じのものであるので特にギスギスしたものは本人たちにはないのだが。

 

「フハハハハ!他校との決闘か。三年はまず間違いなく勝つだろうな!」

「まぁ、モモ先輩いるしな。モモ先輩を倒せる存在が敵にいたらもうそりゃ戦争レベルになるな」

「気をつけろ。武神は地獄耳だ。俺は何度それで痛い目を見たか……年増め。ぐはっ!?」

 

 そんなことを言っていた準が頭に何かが当たったように崩れ落ちる。勇介の目には見えていた。おそらくは百代が放ったであろう、指弾が綺麗に頭に直撃していたのを。

 

「確かに耳いいな」

「それで英雄。どのような形での戦いになると思いますか?」

「そうであるな……代表クラスを出し合って、というのがもっとも可能性が高いのではないか?同じ人数を出し合えば、三年のようなイレギュラーでもなければいい戦いができるであろう」

「大規模な戦いにしたいみたいだし、一クラスじゃなくて二クラスか?……ふむ、それなら戦力的にはSとFとかになるのかな?」

「可能性は高いでしょうね。ですが、Fクラスと私たちは少々仲が悪いのですよね」

 

 冬馬が困ったように言う。

 

「まぁ、三年と一年で学園としての勝ちが決まるってパターンもあり得るだろうけど」

 

 頭に由紀江のことを思い浮かべる。彼女の強さがあればそうそう遅れをとることはないだろうと勇介は思ったのだ。

 

「相手の戦力を確認しておきたいところだな。うちは有名どころはバレバレだろ?」

「であるな。川神百代を知らんやつなどおらんだろうしな!」

「天下の九鬼の英雄もだろ?」

「フハハハハ!我もであるか!」

「強みであり、弱点にもなり得るわけだからな」

「王である我が敗れることなどない!……だが、確かに川神百代ほどではないにしても、イレギュラーな強さの者がいればわからんな。……だが、相手からすればお前も十分にイレギュラーであろう、勇介よ!」

 

 英雄の言葉に苦笑いで返す。

 

「そうでありたいけどね。……Fクラスと仲が悪いのなら顔見知りも多いし、仲がいい……と思う相手もいるから俺が繋ぎを取るよ」

「うむ、任せよう!」

 

 

「ってな話になってるんだけど、どうだ軍師殿」

「……勇介に言われるとちょっと変な感じだな」

「はは、実際天神館の二年にめぼしい相手はいるのか?」

「結論から言うと、いる。……いるどころか、相手の主力は二年生と言っても過言じゃないな」

 

 西方十勇士。天神館の中でも武力などで秀でた存在が選ばれ、与えられる称号のようなものである。その十勇士がひとつの学年に揃ったことで「キセキの世代」とまで言われているのが現在の二年生である。

 

「……ふむ、単純に十人は強い相手がいるわけだな」

「あぁ。しかも、数人はかなりやばいらしい。いわゆる姉さんのような壁を超える可能性のある人間とかも……って」

「へぇ……」

「おぉ……勇介くん、やる気だわ……!」

「あぁ、ユウの身体から気があふれ出しているな」

 

 話を聞いた勇介を見て、一子とクリスがそういう。

 

「あ、ごめん」

「俺様、勇介が味方でよかったと心底思うぜ」

「ははは……敵にはしたくないよねぇ」

 

 ガクトとモロも笑いながらいう。

 

「それで大和。実際に作戦的なものとか考えるの?」

「一応は。SとF合同で、って形になりそうだってヒゲ先生にすでに聞いてるから。ただ、なぁ……」

「九鬼くんが言うこと聞いてくれるかわからない、ってこと?」

 

 一子が何かを察したようにそういう。

 

「まぁ、九鬼だけじゃないけどな。不死川とかほかにも言うこと聞かなさそうなのがいるからな……」

「そのあたりは任せてくれ。俺とマルさん、冬馬あたりで何とかしておくよ」

「それなら助かる。ただ、基本的にはFとSが協力しないと負けてしまう可能性が高いっていうのが現状だな」

「個人戦では勝てても、ってことだな?」

「そういうこと」

 

 どういった方式になるかはわからないが、連携がとれずに勝てるような戦いにはならないだろう。

 

「俺は念のために最初は大将につくよ。大将を討てば終わり、みたいな形ならな」

「それがいいかな。本当は遊軍として動いてもらいたいところではあるけど……」

「ま、時期を見て動くさ」

「相手にも京と同じ天下五弓がいるし、京には狙撃ポイントで狙ってもらわないと」

「大和のためなら。……勇介も助けてあげるよ?」

「はは、ありがとう。俺よりは大和のほうが支援いる気がするしそっち重視でかまわないぞ?」

「……うん」

「ありがとう、助かる。キャップやクリスも遊軍かな。ワン子なんかは先陣切ってもらって……」

 

 大和がぶつぶつと考え始める。

 

「本当に軍師みたいだな」

「弟はこういうの好きだからな」

「モモ先輩はどうするの?」

「私は相手の要求は何でも飲むつもりだ。参加するなー以外ならな」

「はは、千人くらい連れてきたりして」

「楽しませてくれるならそれでも私は一向に構わないぞ?」

「……本気だな、これ」

 

 苦笑いの勇介。

 

 

 いくつかの作戦を立て、あっという間にその日はやってくる。

 

 

 更なるにぎやかな日常を引き連れて。




毎日更新崩したくなかったのでいつもよりちょっと短めです!
ごめんなさい!

感想、評価等お待ちしております!


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15話 東西交流戦 前編

もうすぐみんな大好き(?)クローン組、合流です!


 天神館との決戦である、東西交流戦当日。なぜか冬馬は清々しい顔をしていた。

 

「ん、冬馬。何かいいことでもあったのか?」

「いえ、父が怪我をしてしまいましてね」

「いやいや、それにしては何というか……安心したような顔をしてるじゃないか」

 

 勇介が不思議そうに尋ねる。

 

「まぁ、俺の父親も含めてお前ら大丈夫なのかー、ってくらい仕事熱心だったからなぁ……色々と」

「ふふ、そういうことで怪我はしてしまいましたが二人とも療養する機会に恵まれましてね。それにホッとしているんですよ」

「そうか。よくわからんが色々あるんだな」

「えぇ。勇介くんとももっと仲良くできそうでうれしい限りですよ」

「はは、お友達で」

「あー!トーマがユウに抱きつこうとしてるのだー!僕も混ぜてー!」

 

 相変わらずの突進をしてきた小雪を抱きとめる。

 

「だから、急には危ないって」

「えへへー、ユウなら大丈夫でしょ?」

 

 信頼しきった目で見ながら言ってくる小雪に苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、基本的には大丈夫だと思うけど」

「ならいいのだー」

「いやぁ、ユキがあんな感じでなついているのを見ると娘を嫁に出す父親の気持ちになるな」

「では私はお母さんでしょうか」

「……いや、若?」

「冗談ですよ」

「ハゲが父親とかいやなのだ」

「ひどいわっ!?」

 

 いつもと変わらない感じの四人を見て英雄が笑う。

 

「フハハハハ!さすがは我が友トーマや父上も認めた鳴神であるな!大舞台を前にしても動じる様子が全くないわ!」

「いや、あれは何も考えておらんだけじゃろ」

 

 英雄の言葉に心が突っ込みを入れる。

 

「不死川さん、余計なことは言わないでもらえます?」

「にょわー!すぐに刃物を向けるでないわー!」

「うむ!皆元気があってよいな!」

「はは、英雄。それで受けてくれるんだよな?」

「うむ、お前や我が友トーマの願いであるからな。それに……」

 

 若干ぎこちない感じが残るSクラスとFクラスの面々を見て英雄が喝を入れる。

 

「今は、クラス同士で対立している場合ではないぞ!一年生たちの敗北を見ていたであろう。天神館をバラバラに戦って勝てる相手だと侮るなよ!」

 

 そう、英雄の言葉からわかるとおり勇介の予想では勝てると見ていた一年だったが、結果は敗北したのだ。しかも、かなりの余力を残して。

 

「あれは予想外だったな。……まぁ、由紀江一人では仕方ないか」

 

 一年の総大将に名乗り出た武蔵小杉があっという間に取り囲まれ敗退。あれではさすがに、由紀江が本陣強襲をかけるよりも早く決着してしまったのも仕方がないだろう。

 

「その次に行われた三年は、まぁ予想通りだったけどね」

 

 大和が勇介に声をかける。

 

「まぁ、モモ先輩らしい大技だったよな」

「うん。……まぁ、天神館も天神館でとんでもない技だったな。組み体操かよ」

「いや、あれは妙技だぞ。見た目以上に練習してたに違いない」

「……まぁあのサイズのパンチとか姉さんじゃないと受け止められないよなぁ。……あ、勇介も止められるか?」

「ん~まぁなんとかなるとは思うけど、モモ先輩みたいなビームはなぁ。練習してみるかな」

「……練習したらできるのかよ」

「たぶん?」

 

 三年の戦いは川神学園による一方的な制圧で決着を迎えることになった。勇介の言う妙技によって一塊となり、巨人のようになった天神館の生徒を一撃で百代が散らす。そして残った生徒たちを弓道部主将である矢場弓子を中心とした残敵掃討。完膚なきまでの敗北をたたき付けたのだ。その戦いが終わったときに百代が勇介を見てニヤリと笑ったのは挑発なのか、それとも激励なのか。

 

「学舎の名を高めるか!辱めるか!選べ、お前たち!!」

 

 英雄のそんな言葉によって集まった全員の目が変わる。

 

「ほほ、F組と手を組むのは嫌じゃが敗北はもーっと嫌なのじゃ」

「では、私たちは力と身体を合わせて、西と戦いましょう」

「身体は合わせないがわかったぜ!共同戦線だ!」

 

 心が言った言葉に冬馬が続き、一部を大和が否定する。これまでは敵対することしかなかった二年生の二クラス。それが奇跡的な団結をする。とはいえ、これはすでに勇介と冬馬と大和が計画していたことで、それに英雄が賛同したから実現したものであるのだが。

 

「しかし二百人ねぇ。うちとF以外に主力になり得る人はいるのか?」

「正直、きついかな。もちろん運動部のエースとか格闘系の部活とかいるからゼロとは言わないけど十勇士クラスをとめられるのは……」

「結果、ファミリーか。作戦はこの間話した感じでいくんだな?」

「あぁ。……悪い、本当は戦いたいだろうけど」

「いいって。俺も賛成しただろ?それに大丈夫そうになったら参戦するさ」

「一子殿が戦うのであれば、我が守るが道理!」

 

 話をしていた勇介と大和の後ろから英雄のそんな声が聞こえてくる。

 

「道理じゃねぇよ、いいから大将は奥にいろ!」

 

 英雄を止めたのは源忠勝。大和たちと同じ寮に住むクラスメイトでとても優しいお兄さんのような人だとクリスが言っていた。……口はかなり悪いが。

 

「大将に守られては戦士として物笑いだわ!先陣は任せて大将らしくデンと構えててね、九鬼くん!」

 

 一子の言葉に感動したように賛辞を述べるとそのまま近くにあずみが準備していた椅子に座る。

 

「いやぁ、英雄が言うことを聞いてくれるので助かりますよ」

「これも共同戦線だからこそだよな」

「そんじゃ、ご機嫌な指示を頼むぜ!」

 

 数日間姿を消していたはずの翔一は当たり前のように戦いに合わせて帰ってきていた。このような面白そうなイベントを逃す翔一ではないのだ。

 

「それじゃ、今から言う作戦を聞いてくれ」

 

 大和の口から語られる作戦に全員がうなずく。

 

「その作戦で行こう」

 

 勇介の言葉で各自が配置につく。まもなく法螺貝の音が響き、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

「開始ね!たっちゃん、いきましょ!」

「おう、無理すんじゃねぇぞ一子!」

 

 先陣を切ったのは予定通り一子と一子の補佐として動く忠勝だった。

 

「勿論!いくわよーっ!!」

 

 気合を入れた一子の一振りで数人の生徒が宙を飛ぶ。

 

「一番槍は2-F川神一子が貰ったわっ!」

 

 一子の声が両軍の動きを激しくさせていく。

 

 

「……うん、いい一撃だ」

 

 戦闘の始まったときの一子の一撃を高所から見ていた勇介が嬉しそうに声を上げる。

 

「一子は努力の天才か。武の才がないながらも悲観せずに努力を続けることができるのはすごいな。……よし、俺も自分の仕事をやらないとな」

 

 周囲を見渡す勇介。本来であれば英雄の傍にいるはずなのだが。

 

「……よかったの?私のところで」

「あぁ。腕のいい弓兵には腕のいいボディーガードが必要なんだとさ。それに俺ならあの距離ならすぐにいけるからな」

「まぁまぁ距離と高さあるよ?」

「鍛えてるからな」

 

 そういって笑う勇介に京が珍しく苦笑いを浮かべる。

 

「でも、こっちに誰か来るかな?」

「どうだろうな。でも京は俺が守ってやるよ」

「っ!……うん」

 

 少しだけ出会った頃を思い出した京が微笑む。

 

「そうそう、京は笑ってたほうがいいぞ」

 

 勇介にくしゃっと頭をなでられる。大和以外でこんなことをすればすぐさま反撃が飛ぶのだろうが、少し嬉しそうに京は下を向く。

 

「あ、すまん。クリスとかにやってた癖で」

「……いいよ。っていうか、クリスいつも撫でられてるのね」

「なんとなくわかるだろ?」

「まーね」

 

 そういった京が弓をつがえる。

 

「ワン子が強敵と接敵したよ!」

「あれは……大和の言っていた特徴だと……」

 

 

「軟弱な東の連中め!西国武士の気骨を見よ!」

 

 背中に巨大な大筒を背負った少女が仁王立ちで待ち構えていた。西方十勇士の一人、大友焔だ。背中の改造大筒を構えると川神学園の生徒たちに狙いを定める。

 

「大友家秘伝・国崩しぃ!!」

 

 大量の焼夷弾によって夜の工場は真っ赤に染まっていく。それと同時に吹き飛ぶ川神学園の生徒たち。

 

「うむ、大・火・力!これぞ西方十勇士の実力ぞ!」

 

 そう言いながら一瞬の間に次弾の装填を終えている。

 

「うわぁっと!なんて広範囲!何十人脱落したの?というか、ちょっとやりすぎじゃないの!?」

「東西交流戦とはいえ、あくまで戦。やけど程度でわめくな」

 

 そう言って笑う焔に一子が薙刀を頭上に掲げて攻めの姿勢をとる。

 

「まずはこの遠距離を詰めてみるがいい!!」

 

 一子が一呼吸の間に一気に距離を詰める。だが、焔もそれをただ見ているだけではない。

 

「国崩しでりゃあああ!!」

 

 再度放たれるシンプルにして最大の奥義。それに対して一子はすでに銃口の角度から弾道を想定し跳んでいた。

 

「あっぶなーい!」

 

 直撃は免れたものの、全くのノーダメージとはいかない。互いに身動きのとりづらい距離でにらみ合いになる。

 

「一子!俺は別のところに援護にいってくる!直江が誰か寄越すっていってたが……いけるな?」

「勿論!ここは私に任せて!」

「行かせると……」

「あなたの相手は私よっ!」

 

 

「どうする?」

「いや、撃たなくてもいい。すでにあっちに向かって一人動いてる。大和が指示を出してたみたいだな。……とはいえ、東の旗色が少し悪いな。西方十勇士は伊達じゃないってことか」

 

 残存兵力は敵が120ほどで、こちらは50程度。明らかに旗色は悪いが、こちらも強力な戦力は温存している状態だ。特に、大和が期待している最高のジョーカーである勇介は京とともに高所にいることで、時折強い人員の場所を連絡で伝えている。これにより無駄に戦力が削られるのを最低限まで抑えているのだ。

 

「アスレチックみたいな地形はキャップが大暴れ、高低差を活かした策略でゲンさんがかく乱を始めて、狭い通路をガクトが塞いでいる……悪くはないけど、このままじゃ手詰まりだな」

「でも、ワン子のところに誰かいってるんでしょ?」

「あぁ、いってるよ。俺の知る限りじゃ最高レベルの援軍が、ね。で、京。あっちを頼む」

 

 勇介が指したのは一子の戦場からさらに遠方。壁に隠れていた男が姿を現すところだった。

 

 

 場所は戻って一子対焔。焔の攻撃を一子がすべて紙一重で避け続けているのが現状だ。

 

「逃げるしか脳がないのか東の腰抜けはぁっ!」

「くっ……が、我慢っ!!」

 

 大和から受けていた指示を思い、なんとか反撃に出たい気持ちを抑える一子。だが、そんな一子を狙っている弓兵がいた。

 

「東の蛮族。美の化身、毛利の三連矢で仕留めてやろう」

 

 そう一人つぶやく。毛利元親。西方十勇士にして天下五弓であり、そして残念なレベルでのナルシストだ。彼の奥義でもある三連矢は一本の矢を避けたとしても続けて放たれる二本の矢を避けることは不可能……そういった理論のもとに生み出されたものだ。

 

「ましてそれが美しい国崩しを避けた後なら尚更だ」

 

 そんな彼の目に映ったのは焔の国崩しを避けた一子だった。

 

「今だ!エレガントな西方十勇士の技、馳走してやる!」

 

 回避直後の動けない一子に対して三つの魔弾が放たれた。




なんとかPCの復旧が完了しました。
よかったぁ……。

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16話 東西交流戦 中編

 放たれた三つの魔弾は一子を射抜くコースを綺麗に辿る。

 

「!」

 

 宙でそれに気づいた一子は驚きの表情を浮かべる。すでに回避は不可能な状況。だが、一子には勿論、優秀な仲間がついている。同じように飛来する三本の矢は魔弾をなぎ払う。

 

「弓兵なら、こっちにだって優秀なのがいるんだから!」

「……しょーもない」

 

 勇介が示した方向にいる毛利を目視した京が強弓を引き、毛利に狙いを定める。対する毛利もさすがは天下五弓。矢の射線から京の位置を特定し、すぐさま身を翻す。

 

「ふっ、この距離で華麗なる私を狙撃するつもりか。と、凡夫ならば油断するだろうが、妖艶な私は違うぞ」

 

 京の射線では狙えない物影に隠れた毛利。

 

「京、行けるな?」

「余裕」

「ならこっちは任せる。大和から各所の応援を頼まれた。アレさえ落とせばある程度の安全は確保できそうだしな。それに何かあればすぐに戻ってくるよ」

「うん、任せて」

 

 そう言って構えた京の矢の先端には爆薬がくくりつけられていた。

 

「椎名流弓術、爆矢。相手容赦ないからこっちもね。……必要ないかもだけど」

 

 結果を見ることなく京は勇介を見て。

 

「気をつけて、ね?」

「勿論」

 

 

 京の一撃で毛利を落とした後も、焔の攻撃の手は止まらない。それを避け続けている一子にも少しずつ疲れの色が見え始めていた。

 

「一言教えてやるぞ東の!この大友に弾切れはない!」

 

 回避を続けている一子の狙いは見破られており、新しい弾の束を担いだ兵士が焔の後方から現れる。

 

「ガーン!せっかく弾切れ狙ってたのに!」

「たわけが!補給線を築いておく。戦の初歩と知れい!」

 

 笑いながらそう言う焔。だが、その言葉をさえぎるものがいた。

 

「その兵站を破壊するのも、戦の初歩と知りなさい」

「クリスお嬢様の部隊がお前の後方を撹乱中だ。もう弾はそれが最後と知りなさい」

「笑止!こんなこともあろうかと、すでに各所に弾薬は隠して保管済みだ!」

 

 焔は地面をドンと叩きながらそう言う。

 

「……なるほど。だが、お前を倒せば同じこと!」

「!ふ……いきますよ!」

 

 何かに気づき、ニヤリと笑ったマルギッテが獣のように跳躍する。

 

「愚かな。対空……」

 

 言いながら筒をマルギッテへと向けていた焔の目に飛び込んできたのはマルギッテを掠めるように飛来したコインだった。

 

「なっ!?」

「隙を見せましたね!トンファーシュート!」

 

 マルギッテの手を離れたトンファーは大筒の銃口へと吸い込まれる。

 

「しまっ……」

 

 大筒は発射口にトンファーが詰まったことによって暴発してしまう。その爆発をもろに受けた焔。

 

「ふっ、トンファーを外せば私の負けだったかもしれませんが、こよなく愛する武器を外すわけがない」

 

 そう言ったマルギッテ。

 

「まだだ、マルさん!」

「危ない!」

 

 一子がマルギッテに飛びつき、押し倒す。その二人をかばうように飛び込んできたのは勇介だ。焼夷弾へ衝撃を与えずに後方へと受け流す。

 

「大友家、秘伝……国崩し……!」

「ほぅ……諦めない、か。見事だな」

「ユウ、合わせなさいっ!」

 

 マルギッテはそう言うと、迷うことなく一気に間合いを詰める。咄嗟のことに負傷した状態では焔も対応できずに素手でマルギッテの攻撃を防ぐ。

 

「卑怯と思うなよ!」

 

 マルギッテと逆の方向から何処から出したのか勇介の手にも同じ武器……トンファーが握られ焔へと攻撃を繰り出す。まるで何かを確認するかのように同じ動作で攻撃する二人についにはガードが崩される。

 

「マルさん!」

「トンファーアームストロング!」

 

 トンファーによる猛打で吹き飛ばされた焔は無念と叫びながら意識を刈り取られる。

 

「あはは……なんかすっかり相手を取られた気分だわ」

「大火力の足止めをしていただけで十分と思いなさい」

「一子の戦い、ずっと見てたけどよかったぞ。がんばったな」

 

 勇介が一子の頭を撫でる。

 

「えへへ、勇介くんって何かおにいちゃんみたいね」

「そうか?」

「うん」

「……コホン、私はお嬢様と合流する。お前も前線へ行きなさい。ユウは……」

「俺は本陣を確認してくる。なにやら隠れて近づいてる気配があるしな」

「望むところよ!敵将一人くらいは倒さないと!」

 

 

 本陣へと戻った勇介の視界に飛び込んできたのは負傷した生徒たちが治療を受けているところだった。そこで英雄が全員に対して激励を送っている。

 

「お前たちは、西の連中にやられたままでいいのか?雪辱を期す好機ぞ!行けるものは行き、武勲をあげよ!!」

 

 その言葉に負傷していた生徒たちが立ち上がる。

 

「よし、俺は行ってくるぞ!自分のために」

「武士の血を引いているんだもの……負けないわ!」

 

 次々に戦場へと戻っていく生徒たち。英雄の檄は大きな影響を与えていた。

 

「流石は英雄、って言っていいのかな」

「おぉ、鳴神!一子どのは無事であったか!?」

「勿論。俺とマルさんが獲物の横取りしちゃったけど奮戦してたよ。一番槍もそうだけどね」

「フハハハハ!ならば我も大将としての仕事をせねばな!」

「俺も同じく、なんだけど」

 

 ちらっとあずみを見る。頷く様子を見て勇介は動くのをやめる。

 

「あずみさんにお任せしますよ。……というか、英雄は気づいてるんだな」

「我は幼き頃より狙われることが多かったからな。こういった気配には敏感なのだよ」

 

 そう言いながらも全く動じない。

 

「あの気配……鉢屋か!一人で来るなんて西の乱破は頭が悪いのか?」

 

 急降下してくる影をあずみは迎撃して蹴り飛ばした。何かあずみと話した後、分身する鉢屋。

 

「おお、分身か」

「あずみ、さっさと片付けろよ」

「了解しました英雄さまぁぁぁ!!」

 

 英雄の言葉に答えるやいなや、五つの敵を一瞬で切り捨てる。だが、どうやら手ごたえがない残像らしく警戒するあずみ。そんなあずみの背後に回りこんでいた鉢屋は後ろから取り押さえると、地を蹴った。

 

「まさかあれって……飯綱!?」

 

 伝説の技と言ってもいいものが目の前で披露されて驚く勇介。実現しようとすればできるだろうが、今までにやってみるというところには行き着いていなかった。

 そんな技をかけられていたあずみだったが、落下中に突如爆発する。そしていつの間にやら鉢屋とあずみの位置は入れ替わっており。

 

「ぬぐわっ!!」

 

 叩きつけられた鉢屋が意識を失い、あずみが立ち上った土煙の中から現れる。

 

「へっ、爆発くらいで手を離すようじゃヌルいぜ」

 

 ボソリと素で呟くあずみだが、すぐさま切り替え。

 

「お騒がせしましたっ、英雄さま!!」

 

 平常運転のあずみである。

 

「ヤキ、いれたるーっ!!」

 

 そんな声とともに重量級の女生徒が突進して本陣へと入ってくる。

 

「宇喜多隊!敵本陣に一番乗りで報奨金アップやー!」

「ははは、まさか力押しで攻め込んでくるとはね」

「敵総大将に、一騎打ち申し込んだるわ!」

「たわけ。総大将として軽々しく相手はしてやれぬ」

 

 英雄が突っ込んできた女子……宇喜多秀美に言い放つ。

 

「だったら全員ぶちのめすまでや!」

「退屈していたところじゃ。此方が遊んでやろう」

 

 それとなく勇介が英雄と宇喜多の直線上に立ちはだかったところで心が進み出る。

 

「フハハ不死川か。好きにするがいい」

「英雄、大丈夫なのか?何かの武術の心得はあるみたいだけど」

「まぁ見ていろ。あの程度なら大丈夫であろう。それに本当に危険ならば」

「割って入れる距離、だな。わかった」

 

 巨大なハンマーを構えた宇喜多が突進してくる。それに対して心も駆け出す。突っ込んできた宇喜多の胸倉を器用につかむとそのまま内股で投げ飛ばす。

 

「おぉ、柔道か」

「うむ。あぁ見えて不死川は全国区レベルの使い手だ」

「いっぽーん!敵将、此方が討ち取ったのじゃー!!」

「あぁいう手合いは投げに弱い。相性がよかったな!」

「まぁそういう運も、実力に含まれてますからね」

 

 勝どきを上げた心に対して英雄とあずみが容赦ない一言を言い放つ。

 

「素直に此方を褒めぬかー!!」

「はは、でもすごいじゃないか、不死川さん。いい内股だったよ」

「ふ、ふふ!鳴神はよくわかっておるのじゃ。全く、ほかの者たちときたら……」

「大丈夫。英雄やあずみさんもわかってるって。それじゃ、俺は冬馬たちのほうへ行くよ。不死川さんにココは任せていいかな?」

「うむ!此方に任せるのじゃ!」

 

 機嫌がよくなった心に勇介は微笑みかけて姿を消す。

 

「うーむ、鳴神はなかなかの人心掌握術であるな」

「女性限定みたいですけどね」

 

 意外と見ているあずみであった。

 

 

「いきなり後ろから現れるとは」

「ぬははは!海を泳いで後ろから回り込んできたわ!」

 

 高笑いをしながら言ってきたのは長宗我部宗男。四国でも有名な一族であり、更には十勇士最高の攻撃力を誇るオイルレスラーである。

 

「念のために備えをしていてよかったです」

 

 そう言った冬馬の周囲に川神側の生徒たちが現れる。

 

「ほぉ、予想以上に敵が多いな……だが、すべて吹き飛ばす!」

 

 長宗我部は壷を取り出すと、中に入った油を自分の身体にかけた。

 

「ヌルヌルだ!最強のオイルレスリングを見せてやる!」

「あれはあまり触りたくはないな。正直」

「そうですか?私は戦いでなければかまいません」

「マジか」

 

 冬馬の後ろから現れた勇介が長宗我部を見てそう言うが、冬馬は平気そうな表情のままだ。

 

「ちゃんと、海に向けて飛び込んでくださいよ」

「ん?今なんて言った?優男」

「念のため、用意しておいて正解でした、ね」

 

 冬馬の手から放たれたのは着火したライター。長宗我部の身体についた油に着火し、火達磨になる。

 

「ぬぐああああ!?ノリ悪すぎだろ!!」

 

 そう叫びながらも勇介たちのほうへと突進してくる長宗我部。

 

「やっぱりこうなるか」

「ユウ、僕がやっつけるよ!」

「はは、じゃ一緒にやるか」

「うん!やるー!」

 

 突進してくる長宗我部とすれ違うように小雪が背後へと回り込む。勇介へと接近してきた長宗我部を強烈な蹴りが襲う。小雪に向かって一直線に吹き飛んだ長宗我部を次は斜め上空へと打ち上げる。勇介と小雪は視線を一瞬合わせるとともに跳躍する。まるでボールをパスするように互いに長宗我部を蹴り合う。

 

「ちょっ!?お前らっ!?」

「まだ余裕そうだ、なっ!」

「あはは!海側だよね?」

「勿論。いくぞ!」

 

 長宗我部を完全に飛び越えた二人がともに上空から蹴りを放つ。交差する二人の蹴りで海へと長宗我部は落下していった。

 

「ちゃんと海側に叩きつけておいたよ。えらいえらい?」

「えらいえらい」

 

 そう言って勇介に頭を撫でられ嬉しそうに笑う小雪。

 

「わはーい!もっともっとー♪」

「はは」

「しかし……躊躇なく焼いたな。凄い」

 

 驚きながら軽くひいてる大和。

 

「でないと、大和くんがヤキモチを妬いてしまうでしょう?私が敵の男と油まみれになってしまうなんて」

「絵的には嫌すぎる……絵的には。って電話か」

 

 電話に出た大和の表情が厳しいものになる。

 

「どうした?」

「クリスから。敵の最前線にいるけどどうも大将が姿を消したらしい」

 

 東西交流戦の決着は近い。




毎日更新、目標は一月です(ぉぃ

文章の長さは基本平均4000字程度で調整しております。
短すぎるかもしれませんがご了承ください。

感想、評価等お待ちしております!


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17話 東西交流戦 後編

中編が 30日23:24、後編は 1日4:41更新です。

中編を見ていない方は前話からどうぞ!


「姿を消した、ね。それでどうする?俺がまた高所から探そうか」

「……いや、やっと俺も役に立てそうだし出陣するよ」

「兵隊を連れて行かなくて大丈夫ですか?」

 

 大和に対して冬馬が声をかける。

 

「一人でいい。雑兵相手は回避に徹すれば何とかなるさ」

「ふむ、大和」

「ん?……ってあぶなっ!」

「はは、それなら大丈夫そうだな」

「試したのかよ」

「勿論。それじゃ、俺はまた京の護衛に戻るよ」

「頼む。……ちなみにだけど、勇介は京と同じ場所から何か援護とかできるのか?」

「ビームか?残念ながらビームは無理だ。コインとか石とかなら届くだろうけど」

「……いや、それも大概ヤバイ気がするけど。まぁ何かあったら支援頼む。状況次第で」

「任せろ」

「勇介くん、ユキを一緒に連れて行ってもらえますか?」

「別にかまわないけど……冬馬は大丈夫か?」

「残った十勇士の人数を考えるともう大丈夫でしょう。それに私が危なくても駆けつけてくれるでしょう?時間稼ぎくらいはしますよ」

 

 笑いながら言う冬馬に頷く。

 

「じゃ、ユキも行くか」

「うん!いってくるねー」

 

 

「よ、京。無事だったみたいでよかったよ」

「そんなこと言って。こっちもちゃんと気にしてたでしょ。何度か目合ったよ」

「バレてたか。さすが弓兵」

「はろはろー」

「や」

 

 勇介におぶさった状態で小雪が挨拶をする。それに京もこたえる。

 

「お前たち仲いいよな」

「そうかなー?そうかもー」

「ちょっとだけ似たもの同士……だからね」

「ねー」

 

 微笑みながら二人が言葉を交わす。

 

「ふむ……あ、京。大和が敵将探しにいったんだけど場所わかるか?」

「勿論」

「京は大和センサーついてるんだよー!」

「大和センサー?……大和専用の気の探索みたいなもんか?それは凄いな」

「そんなことはないよ。……いた、あそこだね」

 

 京が指をさした先を見る。

 

「……おお、本当にいる」

「ぶい」

 

 ブイサインを勇介に向けてする京。

 

「んで、どうやら見つけたみたいだな。……なんだこの音」

「え、なになにー?僕には何も聞こえないよー」

「……まさか勇介も犬笛聞こえるの?」

「まぁはっきりと、とは言わないけど。一子はこれを聞き分けてるのか」

「そうだよ。……そういえば勇介はまだ犬笛貰ってなかったね。私の上げてもいいんだけど」

「次の集まりのときに貰うよ」

 

 ポンと京の頭を優しくたたいて大和のほうへと視線を向ける勇介。小雪が京の耳元に顔を寄せる。

 

「京、大胆なのだ」

「え?」

「だって、自分の吹いてる笛をユウにあげようとしたんでしょー?」

「っ!?」

 

 言われるまで特に意識をしていなかったのだが、確かにそういうことになる。それに気づいた京が顔を真っ赤にする。

 

「京、顔真っ赤ー」

「……ユキ、今の話は」

「わかってるよー。ユウには内緒にしといたげる」

「……うん」

「どうした、二人とも。楽しそうだな」

「えへへー。僕と京の秘密なのだー」

「そう、秘密」

「?なんかわからんが楽しそうでよかったよ。とりあえず、一子が合流して槍使いを相手するみたいだな」

「大和の援護する」

 

 弓をつがえた京がそう言うと同時に矢が放たれる。刀を抜き放った天神館総大将の石田三郎に直撃する。

 

「ははは、さすが京。そして大和がなにやら挑発を……って、アレはやばいな」

 

 突如、石田の気が爆発的に上昇する。それを見た勇介が手すりに足をかけ、飛び降りようとするが。

 

「っ!この気……!」

 

 ばっと空を見上げる勇介。京は続けて石田に対して矢を放つが、一度目とは違い余裕を持って矢を打ち落としていく。

 

「っ!勇介!」

「そうか、来たか。京、この戦いは終わるから下に降りるぞ」

「え?どういうこと?」

「僕もわからない!教えてー」

「援軍が来るんだよ。まぁ流石に大和も予想外だろうけどな」

 

 勇介が指をさした先の壁を垂直に駆け下りていく人影。

 

「何あれ」

「俺の友達の一人さ」

 

 

「源義経!推参っ!!」

 

 凛とした声と共に石田へと接近した義経は強化状態の石田にすら反応させない速度で切り捨てる。

 

「ぐ……はっ!?その名前、お前も……俺や島と同じように武士の血を引く人間、か……!」

「違う。義経は武士道プランで生まれた者。血を受け継ぐものにあらず……そのものだ」

「よく、わからんが……理不尽なまでの強さ……惚れ……る……」

「義経は、同じ学舎の友としてお前に助太刀した」

 

 そう言いながらキョロキョロと周囲を見渡す義経。

 

「?どうした?」

「……いや、義経の友人がいると思ったんだが……」

「友人?誰だろう……」

 

 そんな会話をしている最中に一子と島右近の戦いも決着がつく。石田が敗れたことに気をとられた隙を見逃さなかった一子の一撃が島の意識を刈り取ったのだ。

 

「川神流・水穿ち!!」

 

 綺麗に入った一撃を見た義経がぱちぱちと拍手をする。

 

「見事な薙刀さばき。義経は感心した」

「あはは、どうも」

「これくらい感心した」

 

 手をバッと横に広げて表現する義経。そして。

 

「敵将!全て討ち取ったわーっ!!」

「勝ち鬨をあげろー!!」

 

 一子と義経の声で東西交流戦は終了する。

 

 

「フハハハハ!義経、もう来たのだな!」

「うん。義経は武士だ。戦と聞いては黙っていられない。あ、あと……英雄くん、えっと……」

「義経、久しぶりだな」

 

 義経の背後から声をかける勇介。ぱぁっと花が咲いたような笑顔になった義経が振り返った先には求めていた存在がいた。

 

「勇介くんっ!」

 

 抱きつくような勢いで駆け寄る義経。

 

「いい太刀筋だったぞ。ちゃんと鍛錬は続けてるみたいだな」

「うん!義経は義経だから、ちゃんと立派にならないといけないからな!」

「そうだな。……って、すまん。話中だったか?」

「いや、構わぬ。義経も鳴神に会いたかったのだろうよ」

「そうなのか?」

「う、うん……よかったら義経たちが泊まってるところにこないか?今日は一旦ホテルなんだが……」

 

 上目遣いにちらちらと見る義経。

 

「そんな怖がらなくてもいいぞ。勿論行かせて貰うよ。……まぁ俺も九鬼で世話になってるんだけどな。……構わないか、英雄?」

「あぁ、あずみ。そのように手配しておけ」

「かしこまりました、英雄さまぁっ!!」

「ユウどこいくの~?」

「今日はちょっと義経たちと話をしてくるよ。ごめんな、ユキ」

 

 そう言って近くまで来ていた冬馬と準を見る。

 

「頼むな」

「言われるまでもありませんよ」

「ユキ、俺たちと帰るぞ」

「京はこっちな」

「大和、さっきの戦いかっこよかったよ、結婚して」

「お友達で」

 

 

「~♪」

 

 勇介と義経は徒歩でホテルへと向かっていた。そんな中、鼻歌交じりで歩いている義経。

 

「ご機嫌だな」

「あぁ!久々に勇介くんと会えたからな!義経は嬉しい」

「みんな元気か?」

「勿論だ!でも、義経から聞かなくてもすぐに会えるぞ?」

「俺は義経から聞きたいんだよ。駄目か?」

「いや!そんなことはないぞ!えっと……」

 

 最近の弁慶は川神水を飲みすぎだ。与一は以前よりもさらにネットにのめり込んでいる。清楚さんは変わらず義経たちを見守ってくれている。……色々な話が次々と出てきて、身振り手振りを交えながら楽しそうに義経が話す。

 

「本当によく見ているな、義経。やっぱりお前は立派だよ」

 

 

 到着したホテルのロビーではすでに弁慶、与一、清楚が待っていた。

 

「や、ユウひさしぶり」

 

 ひらひらと手を振りながら川神水を飲んでいる弁慶が一番に声を上げる。

 

「弁慶、義経から聞いたぞ。川神水飲みすぎだって」

「だって、ユウがくれた瓢箪使わないともったいないでしょ?」

「こら、弁慶!勇介くんのせいにするのは駄目だ!」

「ふふ、ごめんね義経、ユウ」

 

 謝罪をしながら勇介にしなだれかかる弁慶。

 

「弁慶、色々当たってる」

「ふふ。役得でしょ」

「こら、弁慶ちゃん。勇介くん困ってるでしょ」

「う……なんでだろう、清楚さんに言われると抵抗できない」

 

 困ったように勇介から離れる弁慶。

 

「清楚」

「勇介くん……」

 

 目が合うなり黙ったまま見つめあう二人。

 

「?清楚さん、どうしたんだ?」

「う、ううん!なんでもないよ!……久しぶり、勇介くん」

「あぁ、久しぶり。また綺麗になったな」

「っ!?」

 

 社交辞令的なものだとはわかっていても、清楚は顔を真っ赤にする。

 

「おや……?」

 

 何かに気づいたように弁慶が切れ長の目をさらに細めてニヤニヤする。

 

「ちょ、ちょっと弁慶ちゃん?」

「いやぁ、清楚さん。どうかしたんです?」

「い、いいから。弁慶ちゃんは川神水飲んでて、ね?」

「清楚?さっきの困った状態は川神水飲んでたからじゃないのか?」

 

 冷静に勇介が質問する。

 

「い、いいの!勇介くんも気にしないで!ほ、ほら、与一くんも待ってるよ!?」

「え、俺かっ!?」

 

 突然話を振られて驚く与一。

 

「っていうか、与一も来てくれたんだな」

「当たり前だろ、兄貴」

 

 そう言って二人は拳をぶつける。

 

「ネットにはまってるんだってな?」

「この醜くも美しい世界の真実を教えてくれるからな。兄貴もよかったら色々教えてやるぜ?」

「はは、頼むよ。俺はそっち系はあまり得意じゃなくてな」

「こら、与一。ユウを闇の世界に引き込むんじゃない」

「何を言う姉御!インターネットを馬鹿にするな!」

「ほぉ?私に口答えする気か、与一?」

「う……」

「ほらほら、喧嘩するな」

 

 ポンと弁慶の頭を叩いて優しく癖っ毛を撫でる。

 

「色々と話をしたいし、部屋に連れて行ってくれないか?ここホテルのロビーだぞ?」

 

 

「で、義経が」

「ちょ、ちょっと待て弁慶!その話は内緒だって約束したじゃないか!」

「あ、ごめん。忘れてた」

「弁慶ー!!」

 

 通された部屋は大部屋のような場所だった。すでに与一は自分の部屋へと戻っており、女性陣と勇介だけになっている。

 

「はは、楽しそうで何よりだな。さ、明日から学園に通うんだよな?そろそろ寝るか?」

「あら、もうそんな時間。ユウとあまり話できなかったね」

「明日からいくらでもできるだろ?さ、じゃあまた明日かな?」

「ユウ、何処にいくつもり?」

「え、部屋ってほかに取ってないのか?」

「うん。いやー、つい忘れちゃってねー」

 

 棒読みで弁慶が言う。義経と清楚は頬を染めている。

 

「義経は駄目だって言ったんだぞ?ホントだぞ?」

「あれ、義経はユウと一緒は嫌だった?」

「嫌じゃない!……でも……」

「恥ずかしいよ……弁慶ちゃん」

「ちょっとちょっと。私だって恥ずかしくないわけじゃないんだけど」

「……待て待て。流石にヤバイだろ、それは」

「ん、ユウは私たちに何かする気なの?」

「いや、そういう意味じゃなく」

 

 

 寝巻きへと着替えた三人。義経はお気に入りの紫色のパジャマ、弁慶は勇介が昔着ていたワイシャツを身に着けている。

 

「弁慶……まだそれ使ってたのか」

「ほら、人が使い込んだやつって程よくやわらかくっていいでしょ」

「……だからって俺のやつ使わんでも」

「ほら、私ばっかり見てないで清楚さんもいるんだから」

 

 そういって弁慶の指さした先にいる清楚はライムグリーンのパジャマに身を包んでいた。

 

「清楚も似合ってるよ」

「ユウは和服なの?」

「いや、緊急だったからな。備え付けのやつだけど寝巻きを借りたんだよ」

「勇介くん、似合ってるぞ!」

「ありがとな、義経。それじゃ、俺の布団はあっちのほうで」

「いや、ユウはこ・こ」

 

 ポンポンと叩くのは弁慶の隣だ。その反対側には清楚が、義経は弁慶の反対隣だ。

 

「……一応最終確認だが、本当にいいんだな?」

「私は構わないよ?襲っちゃう?」

「襲わない。どうすんだよ、そんなに煽って」

「あはは、ごめんごめん。再会が嬉しすぎたの。許してくれる?」

「怒ってはないよ。……ただ、そういう煽り方は危ないから気をつけろよ?」

「やらないよ、ユウ以外にはね。ね、義経」

「えぇ!?そこで私かっ!?」

「じゃあ清楚さん?」

「わ、私も……そんなこと聞かれても困るな」

「まぁ、寝るだけだからな」

「あれ、意外と落ち着いてる系?」

「まぁ、昔からクリス……幼馴染の子な。それと猟犬部隊の子たちと一緒に寝たりすることが多かったからな」

「……意外とライバル多いな……」

 

 ボソリと弁慶が呟く。

 

 結局、弁慶の最初に言った配置のままで眠りについた。……ただし、しっかりと眠れていたのは勇介だけだったようなのだが。




ギリギリのところで毎日更新してます(白目
仕事がもっと余裕あれば……。

お気に入りが824件もあって驚きと感謝の気持ちでいっぱいです!
1000件いったらお礼の単発SSを書く予定です(ぉぃ
誰にしようかなぁ……。

感想と評価など励みになってます!


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18話 武士道プラン

日間で5位になりました!
皆様の応援のおかげです!


 翌日。テレビなどでも武士道プランについての話題で持ちきりだった。

 

「すごいな、義経たち有名人か」

 

 先に学園へと着いていた勇介が呟く。義経たちの転入はまさかの全校集会を行って公表されることになった。

 

「武士道プランについての説明は新聞でも見るんじゃ。重要なのは学友が増えるということ。仲良くするんじゃよ。……競争相手としても最高級じゃぞい。なにせ英雄」

「煽るな、学園長」

 

 鉄心の説明に勇介は苦笑いを浮かべる。周囲を見れば闘気を漲らせてる人などもいる。……百代中心に。

 

「武士道プランの申し子たちは全部で四人じゃ。残り二人は関係者。まず三年、3-Sに入るぞい。……それでは葉桜清楚、挨拶せい」

 

 鉄心の声と共に現れた清楚に校庭がざわめく。

 

「これはこれは……なんという清楚な立ち振る舞い」

 

 冬馬がそう呟く。そう感じたのは冬馬だけではないようで、男子たちから見惚れたため息が毀れていた。

 

「こんにちは、はじめまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを楽しみにしていました。これから、よろしくお願いします」

 

 模範のような挨拶。柔らかな声でありながら、心の奥底まで届く強さを持った不思議な声での挨拶をしてペコリと頭を下げる。それと同時に男子たちから歓声が巻き起こった。

 

「やべっ!名前からして清楚すぎるんですけどっ!?」

「なんか文学少女ってイメージだね!いい感じ!」

 

 ガクトとモロがハイテンションで話すのが聞こえてくる。

 

「なんだよカワユイのにSクラスとか……Fにきてくれー」

 

 百代は逆に残念そうな声を上げる。

 

「あーあ、皆色めきたっちまって……まぁ無理もねぇか」

「ハイハーイ!気持ちはわかるけど静かにネ!」

 

 苦笑いの巨人と宥めるルー。そんな言葉にも静まるような生徒はほとんどいない。

 

「が、学長、質問がありまーす!」

 

 手を上げたのは2-Fの福本育郎だ。

 

「全校の前で大胆な奴じゃのう。言うてみぃ」

「是非、スリーサイズと彼氏の有無を……!」

 

 勇介は誰の偉人かを聞くかと思っていただけに軽く驚く。

 

「まぁ、男なら気になっても仕方ないか。……ただ、こういう場で聞けるっていうのは」

 

 凄いような、そうでもないような。そんな育郎は担任の小島梅子によって制裁されていた。

 

「アホかい!……まぁ確かにスリーサイズは気になるが」

「えぇっ!?」

 

 鉄心のお茶目(?)な言葉に驚く清楚。チラッと勇介を見る清楚。二人の視線が一瞬だけ交差して。

 

「……皆さんのご想像にお任せします」

 

 ちょっと恥ずかしそうに言う清楚の反応に再び色めき立つ。

 

「やれやれ、若までおおはしゃぎだこと」

「テンション低いねーこの男は」

「三年ってさ……言うたら、女としてもう腐ってるじゃん。やっぱり女は小学生までだろ、変な意味じゃなくて。それ以上はなんていうか……さようならだよね」

「同意を求めるな。俺は清楚かわいいと思うけどな」

「お前も年上の呪いにかかったのか……」

「腐ってるのは準の頭だよーん!この不毛地帯ー!」

「ひどいわっ!」

 

 準は平常運転だった。

 

 

「それでは次に二年に入る三人を紹介じゃ。全員が、2-Sとなる」

「お、義経たちは同じクラスになったんだな。まぁ、あの三人なら当たり前か」

「ほー。此方たちのクラスとは命知らずな奴」

 

 少しだけざわっとしたSクラス。これはプライドの高いSだからこその反応だろう。嬉しいというよりも敵が増える、といった感じなのは。

 

「まず源義経。武蔵坊弁慶。両方女性じゃ」

「うげぇ、マジで弁慶女バージョンかよ」

「誰が得すんだよ。ノーサンキューもいいトコだろ」

 

 ガクトと育郎が不満の声を上げる。

 

「……あれは見たら絶対手のひら返すよな。クルクルと」

「そういえばユウって知り合いなんだっけー?」

「あぁ、昨日久しぶりに会ってきたんだよ」

「ゴリラみたいなのー?」

「ははは、皆そんなイメージなんだな。ぜんぜん違うよ。ほら」

 

 勇介が視線を向けた先。一人は東西交流戦の最後に現れた少女……義経。そしてもう一人が。

 

「こんにちは。一応、弁慶らしいです。よろしく」

 

 女性としては長身の弁慶だ。先ほどまで不平をもらしていた男性陣が固まる。清楚と比較しても女性としてのスタイルは圧倒的だ。

 

「結婚してくれーっ!!」

「死に様を知ったときから愛してましたー!」

 

 勇介の予想通り手のひらを返したガクトと育郎が叫ぶ。

 

「あんたら、アホの極みだわ……」

 

 義経と弁慶は勇介に気づくと義経はそっと、弁慶はしゅたっと手をあげて合図をする。

 

「おい!今弁慶さん俺に手を上げたぜ!?」

「いや、俺だって!お前ら自意識過剰すぎるだろ!」

 

 一部の男子生徒たちがさらに騒ぐ。自分に向けたものだとわかった勇介は苦笑いだ。

 

「……ん、ごほん、ごほん」

「義経ちゃん、落ち着いて……大丈夫」

「ん。義経はやれば出来る」

 

 緊張している義経を清楚と弁慶が応援する。

 

「……よし!源義経だ。性別は気にしないでくれ。武士道プランにかかわる人間として恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む!」

 

 義経が挨拶を終え、元気に頭を下げる。

 

「うおおお!こちらこそよろしくー!」

「女なのは気にしない!俺たちにとってはご褒美だぜ!!」

「うん、気持ちのいい挨拶だな!話が合いそうだ」

 

 クリスは義経の挨拶を聞いて嬉しそうに言う。

 

「挨拶できたぞ、弁慶!あとで勇介くんにもどうだったか聞かないと!」

「義経、まだマイク入ってる」

「おい!?誰だゆうすけっていうのは!?」

 

 義経の言葉を聴いて突如殺気立つ男たち。一部の気づいた者たちはバツが悪そうに顔をそらす。……マルギッテとの決闘を見ていた者たちだろう。

 

「女子諸君。次は武士道プラン、唯一の男子じゃぞ」

 

 

 ……結果として、与一はこなかった。厳密には学園にはいる。勇介が気配を探ると屋上にそれらしき存在がいて、更には傍に李とステイシー、そしてクラウディオがいるようなので雄介は一旦任せることにした。その後に弁慶が前振りもなく川神水を飲み始め、いつでも飲む許可を貰う代わりに成績が学年5位以下であれば即退学という念書を交わしているという驚愕の事実も判明する。それにSクラスの面子が殺気だったのは仕方のないことだろう。

 

「後は、武士道プランの関係者じゃな。ともに一年生」

「ユウ、誰が来るか知ってるのー?」

「いや、関係者ってことは九鬼の人だろうけど……誰だろう」

「二人とも1-Sじゃ!さぁ、入って来るが良い!」

 

 鉄心の言葉と共に全く同じ服装と髪型をした男たち……おそらくは番号の振られていない従者たちだろう、それと高名な交響楽団が現れ演奏を始める。

 

「……九鬼だな」

「ですねぇ。英雄にそこまで歳の近い兄弟がいた記憶はありませんが」

「フッフッフッ!フッハッハッハッ!」

 

 高笑いをあげながら歩いてくる紋白に流石の勇介も驚く。

 

「紋白!?」

「我、顕現である!」

「フハハハ!何を隠そう、我の妹である!」

「分かっとるわー!それ以外じゃったら逆に困るわ!」

 

 心の突っ込みが入る。

 

「九鬼が二人も揃うとは……カオス過ぎる」

 

 マルギッテの呟きが全員の心の代弁だ。

 

「見た瞬間に心が震えたっ!……圧倒的カリスマッ……!」

「あーあー、お前にとってはそうじゃろうな」

 

 呆れたように心が言う。

 

「……自分が、恋に落ちる瞬間を認識してしまった」

 

 準の危険な言葉をスルーして勇介は意識を紋白に戻す。紋白は悠々と壇上へとあがっていた。

 

「我の名前は九鬼紋白。紋様と呼ぶがいい!!我は飛び級することになってな。武士道プランの受け皿になっている川神学園を進学先に決めたのだ。そっちのほうが護衛どもの手が分散せんからな」

 

 一理ある、と勇介は思った。いくら義経たち本人が強いとは言え武士道プランほどの大きなプロジェクトの対象を護衛なしで放置するわけにはいかないだろう。そうなると、従者部隊でも上位の者たちも動かねばならない。とはいえ、世界各地に護衛対象や拠点などがあり、更には世界を飛び回る帝の護衛もつけなければならない。敵が現れればそれの殲滅のために動くこともあるだろう。ならば、紋白の言うとおりひとつの場所に固まることは悪いことではないだろう。……紋白の背後にいるヒュームを見て勇介は納得と同時にいやな予感を覚える。

 

「……いや、まさか」

「新しく1年S組に入ることになりました。ヒューム・ヘルシングです。皆さんよろしく」

 

 どうやら百代は鉄心から話を聞いていたのだろうか、ヒュームのことを知っていたようだが、その強さの全てを見抜くことは出来なかったようで一瞬で背後に回りこんだヒュームになにやら声をかけられていた。

 

 

 ほかにも大きな出来事として、武道の世界でも有名なカラカル兄弟が教師として川神学園に赴任してきていた。どうも京都で敗北したらしく、修行をかねてとのことらしい。

 

「……京都で、ね」

 

 以前に仲良くなった人のことを思い出す。ひとつの技を鍛え続け、ヒュームと同じように必殺技へと昇華させた女性……松永ミサゴ。ヒュームから修行の一環として任されたボディーガードの仕事の際に知り合ったのだ。

 京都で思い浮かんだのは彼女の娘である松永燕だ。株に手を出して失敗した夫に呆れて家を出た母と違い、父親を支えるべく副業として納豆を売り始めたのだがそれがまさかの大ヒット。西では納豆小町として有名になっているのだ。そんな彼女も武士娘……かなりの凄腕だ。

 

「私なんて器用貧乏なだけだよん」

 

 そう言う燕だが、公式戦では無敗。そんな長い期間かかわったわけではないが印象深い相手だった。

 

「そういえば、元気にしてるかな、ミサゴさんと燕。久々に連絡してみるかな」




そういえば、ヒロイン希望にミサゴさんが入ってましたね。
確かに美人で好みなんですが(ぉぃ

人妻だから略奪愛に……!?
さ、流石にそれは……。


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19話 クローン組、合流

日間1位に輝きました!
いつも応援ありがとうございます!


「勇介くん!」

 

 教室に帰るなり、義経が駆け寄ってきた。

 

「義経はちゃんと出来ていただろうか?」

「あぁ、よかったぞ」

 

 勇介が褒めて義経の頭を撫でる。くすぐったそうに目を細めながらも義経は嬉しそうだ。

 

「や、ユウ」

「弁慶。大丈夫か、学年で5位とか大変だぞ」

「私の頭の良さは知ってるでしょ。……ただ、ちゃんと安全策を打って5位だからね」

「はじめは弁慶、4位以内って言ってたんだが、勇介くんがいることを知って変えたんだ」

「ほぅ……?私たちは敵にならない、と?」

 

 マルギッテが威嚇するように言う。ただし、口に出さないだけで同じように考えている人も少なくはない。

 

「そういうわけじゃないよ。ただ私たちも武士道プランの人として示さないといけない威があるからね」

「ふ……そういうことなら」

 

 マルギッテが腕章を出すと弁慶の前へと叩きつける。

 

「歓迎といきましょう。受けなさい、弁慶」

 

 川神学園らしい歓迎……つまりは決闘だ。やる気なのはマルギッテで、弁慶は面倒そうな様子を崩さない。

 

「弁慶、受けてやらないとマルさんは納得しないぞ」

「うーん……面倒だけどユウが言うなら仕方ないか。……それじゃ、私が軽く錫杖で叩くから。それで吹き飛ばされなければ私の負けでいいよ。戦うのは面倒くさい」

「……ものぐさですね、宇佐美先生を見ているようだ」

「オジサンと弁慶は余裕を持った人間同士、気が合うんだ」

 

 ものぐさ=宇佐美という発言をマルギッテがしたのに対して巨人がそう言う。

 

「決め付けないでください。年上は好みじゃありません。ね、ユウ?」

「いや、そこで俺に振られても。っていうか、やるなら早く始めよう」

 

 勇介の言葉にマルギッテが構える。

 

「来なさい。トンファーでガードをした私はまさに堅牢。その防御力は古の城塞にすら匹敵する……」

「そぉい」

 

 ブン、と見た目だけならば大して力の入っていないような一撃。それは綺麗にガードをしているトンファーへと吸い込まれる。ただし、見た目以上の力をこめてある一撃が、だ。

 

「なっ!?」

 

 驚くマルギッテはその一撃で廊下まで押し出される。

 

「一撃で、廊下まで押し出すとは……トンファーがなければ危なかった、ということですか」

 

 この結果は流石に予想していなかったのだろうか、一気にざわつく教室。

 

「つうか普通にすっげぇ強いな、オイ!」

 

 そう声をあげたのは準だ。確かに背は高いが見た目は普通の女性である以上そう感じてしまうのは仕方がないことだろう。……川神百代などの規格外な存在が多い川神であっても。

 

「この腕の痺れ……今ので軽くか……フフ、面白い」

 

 マルギッテは 弁慶を気に入ったようで勇介はうんうんとうなずく。

 

「では次は、義経が威を示す番だな!」

 

 そう言って取り出したのはなにやら色々と書き記された大学ノート。

 

「実は皆に認めてもらうために自由研究をしていたのだ。多馬川に来る野鳥の数の推移を一ヶ月単位でまとめたものだ!これを見ながら、義経と地球環境についても考えていこう!」

 

 笑顔でいった義経に静まり返る教室。

 

「……あれ?なんだこの反応は、皆さめてるぞ?」

「だから言っただろ、義経。そんなことしてもウケが悪いって」

「は、はじめて聞いたぞ!?」

「あれ?そうだっけ、ごめんね」

「弁慶ぇ……」

 

 少し涙目になりながら小声で弁慶を呼ぶ義経を見て満足そうに川神水を一口飲む弁慶。

 

「……その顔がいい……とか思ってんだろうな、アレ」

「で、では……気を取り直して。まずカルガモが……」

「あー義経。それ長くなりそうだからまた今度な」

「……カルガモ……」

「義経、後で俺が聞くから。もうすぐHR終わっちゃうし」

「う、うん!」

 

 嬉しそうに頷く義経と、そっと勇介に目配せして手を上げる巨人。

 

「ところで、一年も二年もS組に人数が増えた分、Sクラスの最大人数も増えたのであろう?」

「おう、そのとおりだな」

「ぬるいのぅ。此方は嫌じゃぞ、席が余分に増えるなど」

 

 心が言う。

 

「確かに。少数精鋭クラスであるなら、徹底すべきです」

 

 ドイツの猟犬部隊という少数精鋭の部隊を率いているマルギッテだからこそ特にそう感じるのであろう。

 

「ということで、三人入った……いえ、鳴神くんも含めると四人ですね。その分四人落とすべきだと思います」

 

 あずみも提案する。

 

「勿論、この三人とユウが落ちるかもってこと~?」

「うむ。対等な真剣勝負……これが我らなりの歓迎だ」

「俺は構わないよ。っていうより、俺も突然編入された側だからな。拒否権はないだろうけど」

「ううむ、なんだか申し訳ないな。義経たちのせいで……」

「そんな心持ちだと、落ちるのは本当に義経になるよ」

「……む。それでは武士道プランが物笑いの種だな」

「万が一落ちたらユウとも離れちゃうしね。罰としてリアル勧進帳ごっこだね」

「あれは、弁慶が義経を叩くだけで義経は痛い……」

「……フフ、それがいい。義経のそういう顔が見たい」

「弁慶、義経をあまりいじめるなよ?」

「分かってるって。フフフ……」

 

 

 その日の放課後。

 

「おお、義経たちがいたぞ……スキがないな」

「弁慶も凄く強いわね。間近で見るとよく分かるわ」

 

 クリスと一子がSクラスに入ってきてそんなことを話す。

 

「あれ?確か勇介くんの……?」

「やぁ源さん。東西交流戦ではどうも」

「ん、大和か」

「わざわざ挨拶にきてくれたのか!ありがとう!」

 

 嬉しそうに笑顔になった義経が大和たちへと駆け寄る。

 

「弁慶ー、与一ー、お前たちも来てくれ」

「はーい」

 

 なぜか弁慶に手を引かれた勇介も一緒に向かう。

 

「機関からの刺客かもしれねぇ。俺は会わないぞ、絶対にな」

「わけの分からないことを」

「弁慶、落ち着け。与一、俺の友達だから大丈夫だって。来い」

「兄貴が言うなら仕方ないな」

 

 しぶしぶ、といった感じではあるが与一も来る。そして始まる自己紹介。一通り挨拶が終わり、挨拶の中で義経に恥をかかせた、と弁慶に判断された与一がプールへと投げ捨てられるなどあったのだが。

 

「よーしつーねちゃん、たったかおー☆」

 

 そんな遊びに誘いに来た友達のような感じで現れる武神。

 

「あ、お姉さま!」

「おー、妹に弟に愉快な仲間たちも一緒か」

 

 百代は一子と大和の頭を軽く撫でながら周囲を見る。

 

「……来たか、やっぱり」

 

 呟くのは弁慶だ。予想していたのだろう、というよりは予想しないほうがおかしい。

 

「私にお任せください弁慶さま。この場を収めます」

 

 何処からともなく現れる完璧執事クラウディオ。

 

「クラウ爺……いつの間に後ろに現れたんだ」

 

 少し驚く弁慶。

 

「武神は義経さまたちに勝負を挑みたいとお見受けしました」

「ワクワクしすぎて先生に注意されたくらいですよ」

「しかし今はお断り致します」

 

 きっぱりと百代に対して言い放つクラウディオ。

 

「そうですか、じゃあ仕方がないですね。……なーんて引っ込むような性分じゃないんですよ!戦わせてくださいよ、ウズウズしているんです!」

 

 

 結果としては百代は義経たちとの決闘を挑もうとする川神学園外部の挑戦者たちの選別をすることで手を打った。勿論、いずれは義経たちとも戦いの場を設けるというおまけつきで。

 

「あ、勇介はちゃんと私と手合わせするんだぞ?」

「まぁそれで我慢してくれるならいいかな?」

 

 勇介自身にとってもマイナスの少ない話だ。いずれは最強を目指す身である以上、百代は同年代では最高クラスの壁なのは間違いない。

 

「義経、俺もその決闘予約したほうがいいか?」

 

 ふと思いついたように勇介が尋ねる。

 

「えぇっ!?ゆ、勇介くんも義経に挑むのか!?挑んでくるなら受ける、けど……」

「ユウなら別に決闘なんて場使わなくてもいいでしょ。私たちとは一つ屋根の下になるんだから」

「弁慶、言い方」

「はーい」

 

 勇介にこたえた弁慶と百代がなぜか見つめあう。

 

「……」

「……」

「先輩と弁慶……二人はちょっと似ている感じだね」

 

 京がそう言う。

 

「そうか?背は少しモモ先輩のほうが高いけど、あまり雰囲気は似てないと思うけど」

「というか、間近で見ると本当に可愛いねーちゃんだ」

 

 何を思ったのか、百代が無造作に弁慶の胸を揉む。

 

「!?」

 

 固まる男性陣。

 

「ン……先輩も」

 

 弁慶も負けじと揉み返す。

 

「くぁっ……返してくるとは……。なかなかやるな、武蔵坊弁慶」

「初対面で舐められるわけにもいかないもので」

 

 じっと百代を見た弁慶が。

 

「……90?」

「91になってしまった。んー、お前は89かな」

「負けた……」

「ふふ、武蔵坊弁慶に勝ったぞ。お前たち!」

 

 何の勝負をしているのかは分からないが勝ち誇った百代がファミリーに声をかける。

 

「ど、どんな勝負だっつーの、くっだらねぇ!」

「モ、モモ先輩にも困ったものだね」

 

 悲しいかな、前かがみになりながら言うガクトとモロの言葉に説得力はない。

 

「……しょーもない」

「ユウ、慰めてくれ。ベン・ケーは負けた……」

「そう言いながらしなだれかかるな。皆見てるぞ」

「私のだって、マーキングしておかないと」

「何々ー!僕も混ぜてー!」

 

 弁慶と逆側から小雪も抱きついてくる。

 

「ユキ、遊びじゃないって」

「弁慶がいいんだから僕もいいでしょ?ダメ?」

「ダメじゃないけど」

「くそー!!大和、何でアイツばっかりもてるんだ!?」

「……俺からはなんともいえないけど」

「う・ら・や・ま・し・い・ぞぉぉぉぉ!!!」

 

 ガクトが魂の叫びを上げる。

 

「アレもユウの友達なの?」

「あぁ、さっき自己紹介してただろ、ガクト」

「名前は覚えてるよ。でもユウと仲良くなりそうなタイプじゃないだろ?」

「そうか?……っていうか、俺そこまで交友関係多くないな、そういえば」

「ユウって女の子ばっかりだよねー」

「あぁ、それ分かる」

「ちょっと待て。それは聞き捨てならんぞ」

 

 小雪と弁慶の言葉を否定しようとする。

 

「じゃ、交友関係思い出してみて」

「……」

 

 ……言われて記憶を辿り、友人と言っても過言ではない相手を思い浮かべる。

 

「……あまり否定できないな」

 

 結果、勇介の友人には女が多いというのは事実だと自覚することになる。

 

 

 それを聞いたガクトが血の涙を流しながら紹介してくれ、といったのはまた別の話。




お気に入り1000越えたらお礼の単発SSを書くと言った二日後に達成するとは思いませんでした(動揺

一旦ヒロイン希望の中で実現が難しそうな人を描こうかと思います。
誰が書かれるかご期待ください!なんとなく分かるでしょうけど!

感想、評価等いつもありがとうございます!


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20話 板垣姉弟

「勇介、今から出る。支度をしろ」

 

 ある日の朝、部屋に突然やってきたヒュームにそう言われる勇介。何事かは分からないが、修行の一環なのだろうと思った勇介はすぐさま出かける準備を整える。

 

「行くぞ」

 

 若手の従者が運転する車に乗ったヒュームと勇介は走り出した車の外を見る。

 

「それで、急に何処に行くんです?」

「くれば分かる。……俺が才能があると認めても、腐ってしまえばどうなるのか。それをお前にも見せてやろうと思ってな」

 

 車が止まったのは多馬川のやや上流の辺りの河原だった。そこでは飯の準備をしている一団がいた。

 

「あれは……」

 

 その中の一人……いや、二人を見て勇介が目を細める。

 

「フ……あのうちの一人は元は川神院の師範代だ。にもかかわらず、才能を腐らせてしまい、武士道プランへの妨げになる可能性があると判断された」

「師範代ってことは、ルー師範代と同じ立場ってことか」

「今のアイツであればお前にも敗れるだろうな。だが今回は俺がやる、お前は見ていろ」

 

 勇介の返答を聞くよりも早く動き始めるヒューム。その姿に気づいた男……釈迦堂刑部やその場にいる面々……板垣三姉妹の長女である亜巳、次女の辰子、末妹の天使(エンジェル)、そして長男の竜兵……が、威嚇するようにヒュームと勇介をにらみつける。

 

「もし邪魔をしてくるようならお前が相手になってやれ。俺が手を出すよりはいい躾になるだろう」

「ヒュームさんの一撃よりはそっちのほうがいいか」

「フン……嘆かわしいな。なぜ貴様はそんなことをしている」

 

 ヒュームに対して攻撃を仕掛けようと動こうとした天使との間に勇介が割り込む。だが、勇介を見た亜巳がとめる。

 

「やめな、天!そいつ強いぞ!」

「そっちが何もしなかったら俺は何もしないよ」

「てめぇ……確か、昔川神院で見たヒュームとか言う……」

 

 ヒュームのほうへと進み出てくる釈迦堂と勇介の視線が一瞬だけ交差する。釈迦堂の目には色々な感情が入り混じっているようであった。

 

「……」

「そうだ。お前は才能の塊だったのに……腐ってしまったとは鉄心は何をしているのだ」

 

 呆れと少しの怒りがこめられたヒュームの言葉。

 

「何の用だ?これから楽しい朝飯なんだけどよ」

 

 ヒュームを警戒するように釈迦堂が尋ねる。

 

「この街は九鬼財閥にとって重要な人間が多く住むようになった。だから街を少しだけ掃除している。そして、その中でお前のような野獣が野放しになっているのは危険だろう。そこでだ。俺が就職口を斡旋してやる。カタギになるんだな」

「はっ、それが用件かよ?俺に就職しろと?」

「九鬼財閥なぞどうだ?優良企業だぞ」

 

 本気か冗談か分からない口調でヒュームが言う。

 

「その窮屈そうな服着て朝9時に出社しろってか、けっ」

「では川神らしく腕ずくだ。俺が勝ったら就職しろ」

「俺が勝ったら俺やこいつらには干渉するなよ」

「ほぅ、お前の弟子か」

 

 釈迦堂が守ろうとしているのはこの四人であることは間違いないだろう。……次女の辰子だけは悠々と寝ているのだが。

 

「くそっ、俺良いこと言ってるのに寝てるし」

「お前は俺を見て、実力が分からんのか?」

「分かるさ。強ぇよ。だが……昔感じたほどじゃねぇわな!」

 

 そう言った釈迦堂が暴力的な気を開放しヒュームを殴りつける。

 

「やったー!さすが師匠だぜー!」

 

 喜びの声を上げる天使だったが、勇介は動じることはなかった。それは当たり前だ。ヒュームはわざと(・・・)一撃を受けたのだから。

 

 

「ハンデで一発打たせてやってもこの程度か」

「ぐぅ……実際は昔より強くなってるじゃねぇか……ごほっ」

 

 地に倒れ力が入らないのだろう、立ち上がろうと腕に力を入れるが崩れ落ちる。

 

「長期戦は苦手になったがな。瞬間の鋭さは増すばかり。俺から見れば今のお前なんぞ、赤子のような存在だ」

「師匠が全く歯が立たないなんて……こいつ……!」

 

 亜巳が警戒し、妹たちを庇うように前に立つ。

 

「……なんだか騒がしいなぁ……」

 

 まだウトウトしている辰子が呟くのを聞いて亜巳がなにやら考える。

 

「そこの寝ている女は相当強そうだが……悪いことは言わん、やめておけ」

「!」

「鍛えていないのであれば、勇介には勝てん。ただの赤子ではな」

 

 ヒュームの言葉に竜兵が三姉妹を庇うように前に出た。

 

「それで。てめぇらは次にどうする気だ」

「フ。別に何も。……だが、お前らもそれで気がすまないのであれば勇介、相手をしてやれ」

「ほぅ……?」

 

 竜兵が好色な笑みを浮かべる。

 

「……相手をするのは構わないんですけど、どうするんです」

「言ったはずだ、職業を斡旋してやるとな」

「げ、ウチまで働くのは簡便だって。リュウやっちまえ!」

「言われるまでも!」

 

 先ほどまでと変わって攻撃的な笑みを浮かべた竜兵がつかみかかってくる。スクラムを組むように真正面からつかみ合う。

 

「ぐっ!?」

 

 気の使い方もしっかりとしていない相手だ。余力を残した状態で竜兵を圧倒的な力で地面に膝をつかせる。

 

「何だ、お前っ!?そんなナリして……俺よりっ!」

「鍛えているんだよ。最強を目指しているからな」

「チッ!リュウ!!」

 

 天使がゴルフクラブを掴むと勇介へと殴りかかってくる。

 

「天っ!」

 

 亜巳がとめるよりもクラブが勇介へと振り下ろされるほうが早い。振り下ろされたクラブは勇介の脚が跳ね上げる。

 

「っ!」

「動かないで。下手に動くと怪我するよ」

 

 いつの間にか片手で竜兵を、もう片方で天使を地面に押し倒した状態になっている。

 

「ぐ!離せ!」

「暴れないなら離すよ」

「リュウ、天!抵抗するんじゃないよ!」

「だがよ……」

「いつ、アンタたちは私にはむかえるようになったんだい?」

「……」

 

 二人が静かになったのを見て勇介が手を離す。

 

「どうだ、勇介」

「どう、とは?」

「こいつらはおまけだ。放置するか、川神院に預けるか、それともお前が面倒を見るか。好きにしろ」

「……」

 

 三姉妹は別としても、竜兵は確実に暴れるだろう。それを放置するわけにはいかない。とはいえ、抑えてまで面倒を見る必要があるのだろうかとも思う。

 

「うーん……あれー?アミ姉、この子だれー?」

 

 間延びした声をあげながら辰子が勇介を見ている。

 

「タツ、やっと起きたのかい」

「キミ誰~?可愛いねー」

 

 マイペースというよりはまるで周囲の状況が分かっていなさそうな辰子に勇介は笑いが隠せなかった。

 

「ふふ、面白いと思いますよ、ヒュームさん。川神院に預かってもらって、俺が定期的に面倒を見る……とか駄目ですかね」

「お前が決めるのなら俺は構わん。鉄心に話は通してやる」

 

 

 帰りの車の中。

 

「あれが、お前と同じように俺が才能があると認めた男の末路だ。己の鍛錬をやめ、力に溺れた……そのような、な」

「……俺は何があったか知らないですけど、きっと理由はあったんだと思う。ただ、あの人……釈迦堂さんだっけ?一度戦ってみたくはあったよ」

「……そうか。好きにすればいい。何かしら学ぶことはあるかもしれんからな」

 

 二人の言葉が途切れ、車内を沈黙が包む。

 

「……勇介。お前は俺を失望させるなよ」

「勿論。俺は、貴方を越えるんですから」

 

 

 数日後。

 

「あっ!テメーは!」

「こら、天。口の利き方は直せっていってるだろ」

「ウルセー!何でウチが言うこと聞かないといかねーんだよ!」

「ほう?小遣いはいらないと」

「じゃあ辰子と一緒に使ってくるか」

「ま、待てっ!待ってください!」

 

 勇介の言葉に焦る天使。

 

「なんだ、アンタまたきたのかい。意外とマメだねぇ」

「お前たちのことは俺が世話するって言ったからな」

 

 川神院の鍛錬を受けた後なのだろう、亜巳も寄ってくる。

 

「やぁ、勇介。調子はどうだイ?」

「いつも通り良い感じですよ。それで、皆はどんな感じです?」

「そうだネ。亜巳は基本的には筋がいい。このまま鍛えていけばある程度のところまではいけるかもしれないネ。天使は……」

「天使言うなっ!」

「……天は何より体力不足だネ。薬はもう使わせないヨ」

「うぅ……アレがねぇと力でねぇのに」

「まぁ、一番の問題は辰子だガ……勇介が来てくれるのであれば大丈夫かナ」

「あー、勇介くんだー」

 

 ゆらりと近づいてきた辰子が勇介へと抱きつく。

 

「辰子、修行はどんな感じ?」

「大変だよ~。ルー師匠、手加減してくれないしお昼寝の時間も短くなって」

「お昼寝はほどほどにね。休みで暇だったらまた一緒にのんびりしてあげるから」

「分かったー。楽しみだなぁ」

「おい!ウチの金は!」

「天」

「……わ・た・し・の!お・こ・づ・か・い!」

「ふふ、はい」

「やりぃ!もう貰ったかんな!返さないぜ!」

「渡したものを返せとは言わないさ。ただあまりにひどい場合はこれ以降の小遣いなくなるけど」

「ちょ、待てやぁっ!金を人質にするのは……人質?金質?」

 

 どうでもいいところで首をかしげる天使。

 

「天!……私らがとりあえずのところ無事だったのはこいつのおかげでもあるんだ。恩を仇で返すのは許さないよ」

「……わぁったよ」

「良い子にしてればいいんだ」

 

 ポンポンと頭を撫でる勇介。

 

「ガキ扱いすんじゃねぇ!」

 

 口ではそう言いながらもなぜか手を払わない天使。

 

「はいはい。……で、辰子も」

「撫でてくれるの~?」

「違う違う。そっちじゃなくてはい」

「何これ~?」

「お小遣い。と、生活費の一部と思ってくれていいよ。ほら、服とか買うのにもお金かかるだろ?まぁ、俺の金じゃなくて九鬼からのでもあるから気にしないで受け取ってくれ」

「うん、わかったー。ありがとー」

 

 そう言いながら辰子は勇介の頭を撫でる。

 

「……人から撫でられるってこんな感じなのか」

「あれ、嫌だったー?」

「いや、くすぐったいというか少し恥ずかしいというか」

「ウチの気持ちわかったか」

「まぁ、嫌ではないけどな」

「えへへー、勇介くんの頭撫でてるだけで元気がでてくるよー」

「タツは本当に勇介のことが気に入ったみたいだね」

「あ、亜巳さんにも一応受け取ってるから渡しておくな」

「私もあるのかい。……ま、感謝しておくよ」

 

 

「……」

「どうしたのじゃ、モモ」

「ジジイ、最近勇介が相手にしてくれないんだ」

「まさかモモ……」

「うぅ~、勇介と戦いたい……」

「……やっぱりそうなんじゃな、おぬしは」




お仕事も忙しくなっているのですが、もう少しは毎日更新頑張りたいです……!

お気に入り1000件記念はすこしずつ書き上げていってますのでお待ちください♪

感想等お待ちしております!


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21話 だらけ部

 あくる日の昼休み。二年の廊下に声が響き渡る。

 

「ひかえい、ひかえい、ひかえおろーう!」

「紋さまの、おなーりー!」

 

 どこぞの時代劇で聞いたことのあるような台詞に何事かと二年の教室が騒がしくなる。

 

「紋さま、こちらが二年生の廊下になります」

 

 準が紋白に言う。

 

「お前たち、そこまでへりくだらんでもいいのだぞ」

「そんなことを言わずに紋さま……俺を思う存分使ってください!貴方のカリスマは圧倒的だ。自然と頭が下がる」

 

 準を知る者が聞けばさもありなん、と思うだろう。だが、それを知らぬ紋白は素直に受け取る。

 

「フハハ!嬉しいことを言ってくれるわ!」

「いやぁ、紋さまの偉大さは昨日よーく分かりましたので」

 

 そう言っているのは武蔵小杉だ。紋白のクラスメイトであり、一年の覇権を握ろうと紋白に挑み、ヒュームに軽く撃退され隙を狙っているような状態だ。バレていないと思っているのは本人だけであるが。

 

「この武蔵小杉、紋さまの懐刀として誠心誠意頑張ります!」

「懐刀か!だが、我にはすでに候補として一人目をつけているからそのポジションはやれんな」

 

 そんな話をしながらSクラスの教室へと差し掛かる。

 

「紋さま、ここが俺のハウス、2-S組です。着物姿の変なのとか、眼帯姿のおっかないのとかがいますが……悪者ではないので、ご心配なく」

 

 教室の外での会話ではあるが、勇介や勿論、眼帯姿のおっかない人にはしっかりと丸聞こえである。

 

「井上準……後で折檻ですね」

「まぁまぁ。マルさん許してあげて」

 

 静かに怒っているマルギッテを宥める勇介。

 

「フハハハ!紋!学校でも会えて嬉しいぞ!」

「フハハハ!兄上、我も同じ気持ちです!」

 

 並ぶとさらに威圧感のようなものが増す二人。流石は天下の九鬼の跡取りたちということだろうか。圧倒的なカリスマがそこにあった。

 

「学校内で挨拶をしていないと思い、参りました兄上」

「うむ。分からないことがあれば何でも兄に聞け」

「お義兄さん、安心してください。俺がしっかりとサポートします」

「タコを弟に持った覚えはないわ、あずみ!!」

「はーい☆お任せください英雄さまぁっ!」

 

 あずみによる準への折檻が始まる。

 

「おぉ、勇介もここにいたのだったな!フハハ!」

「紋白がここに来るとは思ってもみなかったからびっくりしたよ」

「であるか!だが勇介よ、前にもいったが紋でよいのだぞ?何しろお前と我の仲であるからなー!フハハハ!」

 

 そこまで言って、近くに来た義経たちへと視線を向ける紋白。

 

「義経、弁慶。クラスでうまくやっているか?」

「あぁ、まだまだこれからだが……」

「少なくとも私が飲んでても誰も突っ込まなくなった」

「そりゃ、そうだろ。許可も貰ってて弁慶だしな」

「ユウ、冷たいね。川神水飲む?」

「後でな」

「フハハ、まぁ兄上や勇介のいるクラスだし、心配は無用か!」

「問題は那須与一ぐらいであろうよ。鳴神には懐いているようだが……」

「清楚も図書室か温室だろうしな」

 

 

「しかし与一か……」

 

 考え事をしながら散策をしている勇介。ふと、空き教室のひとつが目に入る。

 

「ん、ここにいるのは……」

 

 覚えのある気配に教室の扉を開ける。そこでは大和と巨人が将棋を打っていた。

 

「げ、オジサンたちの聖地が見つかったぞ」

「って、勇介?」

「やっぱり大和か。あと先生」

「ここは優等生は立ち入り禁止だぞ」

 

 しっしっと手を追い払うように振る巨人に苦笑いを浮かべる勇介と大和。

 

「まぁまぁ。こういうところ融通は利きそうだし一旦お試しってことでいいんじゃない?」

「そう?オジサンの邪魔をしないならいいけどさ」

「あ、先生。そこ悪手」

「何……?」

 

 チラと将棋の盤面を見て勇介が言い、巨人が首を傾げて唸る。

 

「五手先。その駒死ぬよ」

「……ちょっと勇介。それ以上は……」

「はいはい、じゃあのんびり見せてもらうよ」

 

 和室へと入ると盤面が見やすい位置に陣取って座る。パチパチと駒を置く音が響き、巨人が小さくあっ、と声を漏らす。

 

「……オジサン、やっちゃった?」

「だから言ったでしょ」

「ぬぅ……」

 

 それから話題が与一のことになり、武士道プラン組の話になる。

 

「まぁ、あいつらと知り合いみたいな鳴神のいる前で話していいのかはわかんないけど、直江は結構弁慶とか好きそうなタイプだな」

 

 巨人の言葉に大和が少し考える。そしてチラッと勇介を見て。

 

「結構性的だよね、そりゃあ仲良くしたいね」

「っふふ」

 

 大和の言葉に勇介が噴出し、巨人も笑う。

 

「あれだけ美人に囲まれてるのに贅沢者め」

「いやいや、俺なんてまだまだだって。勇介とかもっとやばいから」

「おい、やばいって何だやばいって」

 

 そんな話をしているとスタスタと足音が近づいてくる。

 

「ん、これ」

「おや、誰かくるよヒゲ先生」

「通りすぎるでしょ。こんな空き教室に鳴神に続いてくる奴なんか……」

「ところがどっこい、来ちゃうんだなぁ」

 

 入ってきたのは先ほど話題に上がった弁慶だった。

 

「弁慶、お前決闘あるんじゃなかったっけ?」

 

 勇介が首をかしげながら聞く。

 

「いやー、私は決闘とかだるいから逃げてきた」

 

 ペロッと舌を出して言う弁慶。

 

「で、どこかで落ち着ける場所がないものかと探してたら」

「ここにたどり着いたってわけ。いていいよね?」

「ここはオジサンと直江の聖域だから」

「なんて薄汚ねぇサンクチュアリなんだ……」

「でもユウもいるじゃない」

「まー冗談だって。好きにしろや弁慶」

「好きにするよ」

「……待て待て。何で俺の膝に頭乗っけてる」

「役得でしょ。ほら撫でて撫でて」

 

 催促してくる弁慶の頭を撫でる。

 

「……直江、突然イチャイチャしはじめたんだけど、こいつら」

「はは……ノーコメントで」

「イチャイチャだって、ユウ?」

「で、満足か?その状態だと川神水飲めないだろ?」

「うーん……それは困るよね。飲ませて?」

「清楚呼ぶぞ」

「う、自分で飲めばいいんでしょ」

 

 起き上がって川神水を飲み始める弁慶。

 

「って、将棋しているのか……ふーん直江大和が優勢だな」

「大和でいいよ弁慶」

「ん。……飲む?」

「川神水はノンアルコールだ、頂きます」

 

 まるで誰かに説明するように言った大和が川神水を一気に飲み干す。

 

「いい飲みっぷりだね」

「いいぞ、もっと飲んで頭フラフラになりやがれ」

「もう諦めなって。今回の対局は俺の勝ちだろ」

「まぁ、勝ち筋は見えないな。大和強いみたいだし」

「いや、たぶん勇介よりは弱いと思うぞ。たぶんだけど」

「軍師には勝てないよ。俺は武将タイプだし」

「ところで二人はいつもここでダラッとしているの?」

 

 弁慶が尋ねる。

 

「俺は仕事だけどね。学生とふれあい」

「物はいい様だな」

「ふむ。居心地がよさそうだ……私も時々来よう。どうだ二人とも。だらけ仲間が増えるぞ」

「お前たちに質問。雪山に友達と旅行に行きました。さて何をする」

 

 巨人が勇介と弁慶に質問する。

 

「んー。温泉につかって、おいしい食事をして。そしてまた温泉に入って寝たい……」

「俺は誰と行くかによるな。一人なら修行だろうけど」

「相変わらずユウは修行好きだよね」

「好き……嫌いではないな」

「直江、弁慶は完全にこっち側だけど、鳴神はどうしてここに来たのか分からないんだけど」

「はは、勇介って修行の息抜きとかはしないのか?」

「いや、普通にするぞ。本読むのも好きだし、誰かとただ喋ってるだけっていうのも嫌いじゃない。それにクリスとはよくぬいぐるみで遊んでたぞ」

「ぬ、ぬいぐるみ……!?」

「あぁ。クリスは昔から可愛いものが好きだからな。よく一緒に遊んでた」

 

 恥ずかしげもなく堂々と言い切る勇介。

 

「オジサンの中の鳴神のイメージとぬいぐるみ遊びが繋がらないんだけど」

「それは皆そうでしょ。……勇介と仲のいい弁慶さん、感想をどうぞ」

「妹と遊んであげる優しいお兄ちゃんみたいだね」

「チクショー。やっぱり鳴神は勝ち組か。この場所は相応しくないな。オジサンも小島先生とイチャイチャしてー」

「先生は小島先生が好きなのか。まぁ綺麗な人だよな」

「あれ、ユウってああいう系が好みだっけ?」

「好みかどうかは知らないけど美人だと思うぞ。あの人かなり強いと思う」

「……ちょーっと見てる場所が違うよね、ユウって」

「あ、弁慶。仲間の作法その1。連絡先は教えあいましょう」

「ん……まぁ大和ならいいか。ユウの友達だし節度もありそうだ」

 

 ピッ、と番号を赤外線で交換しあう。

 

「やっぱり簡単には教えちゃいけない決まり?」

「私たちは事情が特殊だからね。まぁ、禁止ってわけじゃないから大丈夫。何かあったらユウが何とかしてくれる」

「信頼なのか、投げっぱなしなのか判断に困るな」

「もぐもぐ……あー、ちくわ美味しい。川神水に合う」

 

 そう言った弁慶を嫌そうな顔で勇介が見る。

 

「……」

「え、勇介もしかして」

「そうなの。ユウってばちくわとかの練り物が本気で苦手なんだよね。こんなにおいしいのに」

「いや、練り物は人の食べ物ではない……食べ物では」

「そんなこと言いながら、おでんとか作ってくれるとき絶対入れるよね」

「入れないと味が変わるんだよ……」

「意外な弱点だな」

「ユウを倒したかったら大量の練り物持ってくるといいよ」

「べ、別に食べられないわけじゃないぞ。頑張れば食べれる」

「ほらほら、川神水に合うよ?」

「つまみ作ってやるから食べさせようとするのはやめろ」

 

 とてつもない速度で勇介の口にちくわをねじ込もうとする弁慶とそれを避ける勇介。最終的には弁慶からちくわを奪い取った勇介が逆に弁慶の口にねじ込むことで勝負は終わった。

 

「もぐもぐ……う~ん、やっぱり美味しい」

「……俺にはたぶん一生わからん」

 

 

「あれ、じゃあ勇介と弁慶たちって一緒に住んでるわけか」

「そうだよ。門限もゆるいし、更にはユウの部屋には行きたい放題」

「放題じゃない。勝手に来て川神水飲んで寝てるだけだろ」

「いつも部屋まで運んでくれるんだよね」

「義経が頑張って運ぼうとするんだけど。最終的には俺が運ぶことが多いな」

「……本当に仲がいいな、勇介と弁慶」

「……お?靴箱に手紙が入ってたなう」

「俺もだ」

「マジか。ラブレターか決闘状か……どっちもありうるね」

「ラブのほうだ。三年生から……年上に興味ないんだよねー」

「俺のは……決闘状か。いや、ある意味ラブレターか」

「プラス思考だな」

「ユウはベース武人みたいな感じのところもあるからねぇ」

 

 そんな話をしながら校庭へと出る。そこでは義経が決闘をしている最中であった。

 

「義経、頑張ってるな」

「って、ワン子か」

 

 竜巻のような勢いで一子の薙刀が義経に繰り出されていく。それを義経が受け、キラキラと火花が飛び散る。

 

「一子、調子がいいな」

「義経も楽しそうだね」

 

 二人の攻防は見ているものを魅了するに足るものだ。周囲もかなり盛り上がっている。

 

「これでっ!」

 

 一子が大振りの一撃を放とうとする。

 

「焦ったか」

 

 勇介がぼそりと呟く。一子の必殺の一撃は大きく空を切り。そしてその隙を逃す義経ではない。振り下ろされると同時に義経は勢いをつけて一子へと突撃した。

 

「うわぁっ!」

 

 完全に隙をつかれた一子にその一撃を避ける手段は今はない。義経の勝利が決まり、ギャラリーから大歓声が沸き起こる。

 義経と一子は互いの健闘を称え合い、友情を確かめ合っていた。




もうちょっと……一月は毎日更新を途切れさせたくないのです……!

感想、評価、誤字報告いつもありがとうございます!


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22話 今の全力

 帰り道。義経たちと風間ファミリーが一緒に多馬大橋へと向かう。そこでは挑戦者を選別していた百代が満足そうにしているところだった。

 

「お、弟たちじゃないか」

「姉さん、満足そうだね」

「全国から集まった挑戦者だからな」

「これ全員と戦ってたら義経身体持たなかったわねぇ……」

「よ、義経はがんばるぞ?」

「無理しなくていいって」

 

 義経の言葉に勇介が優しく頭をなでる。

 

「そういう意味ではモモ先輩に対処を任せて正解だね」

 

 京がGOODと書かれた札を上げながら言う。

 

「どう姉さん。挑戦者で目にかなったのはいる?」

「何人かスジがいいのがいたが……しばらく動けないかな。なんせあいつら本気も本気。こっちも失礼な真似はできないから手を抜かずにいくと……」

「まぁ、モモ先輩だとダメージでかすぎるよな」

「九鬼が仕切っている以上、よほどのことはないか」

 

 そんな話をしていると、ふっと一人の男が姿を現す。

 

「遠くから見ていたぞ。嬉しそうに戦うんだなお前は」

「実に満足です。……ヒュームさんとも戦ってみたいなぁ」

 

 挑発的な目で百代がそう言う。

 

「ぐはっはっは!笑わせるなよ小娘」

「む」

 

 ヒュームの物言いに不満そうな表情になる百代。

 

「予言をしておいてやる。いずれお前は負ける。九鬼が用意したある対戦相手によってな」

「私の対戦相手……?」

 

 ちらと百代が勇介を見る。

 

「冬までにお前が無敗だったら喜んで相手をしてやろう。それと、ひとつ忠告だ。お前の強さを支える瞬間回復だがな……俺の先祖初代ヘルシングは不死身の怪物を倒したことで名を挙げているが」

 

 そこで言葉を切る。

 

「不死身の怪物の正体は瞬間回復を使う武道家のことだ。つまり倒し方を受け継ぐ俺に、お前の頼みの綱はまるっきり通じんよ。それとおそらく、勇介にもな。頼りすぎるなよ」

「今日の決闘で一度も使ってませんけど?」

「戦い方を見ていればわかる。回復があるから大丈夫とな。それがどれだけ危険なことか、いつか理解するだろう」

 

 それだけ言うとヒュームは颯爽と立ち去っていった。

 

「聞いてたか弟。対戦相手だってさ。誰だと思う?」

「義経か弁慶……勇介って線も捨てがたいな」

「はは、俺たちじゃないよ。たぶん」

「義経は何も聞いていない」

「同じく」

 

 勇介たちは全員否定する。

 

「それじゃわかんないなぁ……九鬼絡みだし世界規模だろうから想像もつかないよ」

「面白い展開じゃないか。どんな相手が来ても負けん!」

「さすがお姉さまね!アタシももっと強くなる!」

 

 一子も百代と同じようにやる気を出す。

 

「あのじーさんと意地でも戦いたくなってきたしな……!それで勇介、私の回復を攻略できるのか?」

「どうだろうね。そのときになってみないと分からないよ」

「ふふ、そうか。なら私ももっと強くならないとな!」

 

 そう言ってポンと勇介の肩を叩く百代。

 

「よし、早速帰ってトレーニングするかワン子!」

「押忍!じゃあねー皆ー!」

「俺たちも帰るか、義経、弁慶」

「あぁ!それじゃあまた明日!」

「じゃねー」

 

 

「それでユウ、本当のところはどうなの?」

「どうって?」

「川神百代の瞬間回復対策」

 

 弁慶が勇介に尋ねる。

 

「弁慶は、瞬間回復って何だと思う?」

「ん……反則技?」

「まぁ、間違いじゃないけどさ。……ただ、単純に使うだけなら」

 

 勇介の身体が青白く光る。

 

「難しくはない……わけじゃないけど不可能ではないんだよ」

「……大丈夫なの、それ」

「勇介くん?無理はいけないぞ?」

「このくらいなら大丈夫。1,2回ならね」

「……でもさ、ユウいってたでしょ」

 

 弁慶が少し真剣な顔になる。

 

「ユウの気の総量は下手をすれば私たちよりも少ないって」

 

 

「……」

 

 夜、九鬼極東本部の屋上に勇介はいた。一人静かに瞑想していた。立ち上る気は空気へと溶け込み、勇介は自己とそれ以外との境界線をなくしていく。感じるのは、川神にいる強者たちの息吹。ヒュームや鉄心、百代の圧倒的なまでの気、由紀江や義経の刀のように研ぎ澄まされた気。その全ては違うようで、本質は同じものだ。

 自らの身体に気が満ちていく。それは自身の気だけでなく周囲に存在している無数の気だ。そして、勇介はゆっくりと目を開く。

 

「でかくなってきたな」

 

 ドクン、と自らの中で波打つ暴力的な気。目を閉じれば見えてくるイメージ。暴れ狂う龍を捕らえる鎖。さらにそれを包み込む気。鳴神の一族の力であり、業だ。

 勇介の気の限界を百とすれば、八割ほどを龍を抑え付けることに使ってしまうのだ。

 

「後どれくらい持つのか」

 

 鳴神の龍は全ての者に宿るわけではない。同じ時代に存在する龍は一匹だけ。

 

「……祖父さん」

 

 龍が移るとき、宿主の寿命の終わりが見える。気を喰らう龍は総量の多いものや質の高いものへと移る。だからこそ、勇介が幼い頃に龍が顕現し死期を悟った天膳による修行があったのだろう。あるとき言っていた。私にもっと才能と力があれば、お前にもう少し普通の生き方を与えてあげられたのにと。

 

「……言えなかったけど、感謝してるよ。こんなに強い力を持ったから沢山の友人に恵まれた」

 

 天膳から言われた勇介の圧倒的な才能は、気の細かい操作、外部の気を取り込む技術、歴代では初代と並ぶほどの龍を操る技術。

 

「だから俺は……」

 

 ふっ、と息を吐くと『龍』を解放する。まず、目が黄金に輝く。これが第一段階。ここまでは問題なく使用できる。ただし、攻撃的な意識を持ってしまうのを抑え付ければだが。

 

「次……」

 

 大気が波打つ。勇介の鼓動が激しくなり、それと同じように周囲を荒れ狂う気が嵐のように巻き上がる。

 

「ほぅ、これは……」

「やれやれ……ワシまで何かあればと呼ばれた理由が分かったわい。……それにしても、本気で天膳の孫じゃな」

 

 ヒュームと鉄心、かつての天膳の友でありライバルの二人である。念のためにと勇介が龍抑えのために呼んでいたのだ。

 

「だが、単純な才だけであればすでに天膳を超えるだろうな。技のキレも決して俺たちの知る天膳に劣るものじゃない」

「近くで見ておるおぬしにそこまで言わせるとは……本当にモモをとめることが出来るかもしれんの」

 

 二人の見守る中、勇介の気が膨れ上がっていく。

 

「天神館の石田も似たようなものを使っておったが……種類は違うようじゃの」

「あれは天膳の技を模したものだ。何処で知ったのかは知らんがな」

「ここまでは、抑えられる……!」

 

 黄金の気を勇介は身に纏う。

 

「勇介、その状態で動けるか?」

「はい、何とか」

「なら、一撃を放ってみろ。全力でだ」

「……分かりました」

 

 拳を握った勇介がヒュームと対峙する。高まった気を拳へ集中し、一瞬のうちにヒュームに接近する。

 

「鳴神流……」

 

 見たことのある動きにヒュームがニヤリと笑う。

 

「来い」

「絶っ!!」

 

 ヒュームの纏った気をかき消しながら突き出される拳を片手でヒュームが受け止める。

 

「ぬぅっ!?」

 

 ズザザッ、とヒュームがその場から押し出される。踏みしめた床に罅が走り、二人の動きが止まった。

 

「はは……かなわないな」

「フン……まだまだ赤子だな。だが、確実に成長している。前にも言ったが、失望させるなよ?」

「勿論です。……限界だ」

「無理せずに今日は休んだほうがいいぞい」

「そうですね、そうさせてもらいます」

 

 ペコリと礼をして勇介が立ち去る。

 

「……大丈夫かの」

「当たり前だ。だが……」

 

 普段からつけている白手袋がぼろぼろになっていた。

 

「フ……想像以上に楽しませてくれそうだな」

 

 まだ痺れの残る手を軽く振りいつものように襟元を直すヒュームは、満足げに笑いながらそう呟いた。

 

 

「やばい……本気で気が足りない……」

 

 いつもと違いフラフラとした足取りで自室を目指す勇介だったが、先ほどの一撃を放ったときに気が軽い欠乏状態になってしまったようで、足元がおぼつかない。

 

「あれ、勇介くん?大丈夫なの?」

 

 そう心配して寄ってきたのは清楚だった。

 

「清楚……?大丈夫、って言いたいところだけどちょっときつい」

「ほら、肩かしてあげるからこっちに。ね?あぁ、でも私じゃ低いかな?」

「いや、助かるよ……」

 

 通されたのは清楚の部屋だった。

 

「ごめんね、勇介くんの部屋より私の部屋のほうが近かったから。ほら、ベッドに座って」

 

 ゆっくりと勇介をベッドに座らせるとぱたぱたと備え付けられたキッチンで飲み物を入れる。

 

「でも、珍しいね勇介くんがそんなに弱っちゃうなんて。……やっぱりさっきの外でやってたのが原因、かな?」

「ごめん。まだまだヒュームさんは遠いよ」

「ヒュームさんは強いからね。私が知ってる限りじゃ最強なんじゃないかな?」

「モモ先輩より?」

「モモちゃんより。やっぱり積み重ねてきた経験とか、技とか。そういうのって馬鹿に出来ないと思うの。まぁ、モモちゃんの場合、それすら突破できちゃうくらい強いんだけどね」

 

 苦笑いを浮かべながら清楚は言う。

 

「清楚はさ」

「何?」

「清楚はもし、自分の命があと一年、とか分かってたらどうする?」

「それは今からってことだよね?」

「仮定の話だからね。それでいいよ」

「うーん……全力で毎日を楽しむ、かな?勇介くんが何を思ってそういう質問したのかは私には分からないけど、私なら一年が終わるとき、死んじゃう時になるのかな。そのときに後悔したくないな、って思う」

 

 清楚はまっすぐに勇介を見るとそう言う。

 

「あ、でもそうなっちゃうなら私が誰のクローンだったのかは知りたいかな?マープルさん、教えてくれるかな」

「ふふ、そうだな。そんなことになったら俺も一緒にお願いしに行くよ」

「それなら教えてくれるかな?」

 

 冗談めかした清楚の言葉に勇介が乗り、場の空気が和む。いつの間にか自然とベッドで隣に清楚が座っていることに勇介は気づいていない。

 

「……大丈夫?」

 

 少しうつらうつらとしている勇介に清楚が問いかける。しかしその言葉に返事は返ってこない。返ってきたのは、船をこいでいた頭がぽすっと清楚の膝に収まるという結果だった。

 

「っ……!」

 

 驚いた清楚だったが、疲れている様子の勇介を気遣って声を何とか抑えると優しく頭をなでる。

 

「……ふふ、いつもはあんなに頼りになるのに寝てると子供みたい」

 

 慈愛に満ちた笑顔の清楚は、その後勇介が目を覚ますまで優しく頭をなでていたのだった。



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23話 休みの日

今回は私用が重なっているので短くなっています。


 休日の朝。九鬼財閥極東本部廊下。

 

「んー、今日も清々しい朝であるな!」

「おはよう、紋白」

「おお、勇介!昨日はなにやら凄い気を放っておったな!」

「ごめん、迷惑かけたな」

「フハハ!あの程度で我は動じんわ!」

「ありがとな」

 

 くしゃっと頭を撫でる勇介。

 

「こ、こら!誰かに見られるかも知れぬ場所ではやめいといったであろう」

 

 そう言いながらも嫌そうなそぶりは見せない。

 

「それで紋白は今からご飯か?」

「うむ。よければ共にどうだ?」

「いただこう。そういえば、クラウディオさんが明日くらいに揚羽さんと局さんがこっちに来るって言ってたぞ」

「おおっ!姉上と母上が!予定が早まったのだな」

「はい。取り掛かっていた仕事が速く片付いたそうで、私も手伝っていた甲斐がありました」

 

 突然現れたクラウディオがそう会話に入ってくる。

 

「さすが母上姉上。そしてクラウ爺の手際のよさよ!」

「簡単なことでございます」

 

 いつものように微笑みを浮かべてクラウディオは言う。

 

「楽しみだなぁ……そわそわしてしまう」

「はは、本当に紋白は揚羽さんと局さんのことが好きだな」

「うむ!自慢の姉上と母上であるからなー」

「いいことだな。……しかし、揚羽さんと局さんか。紋白も成長したら美人に育ちそうだな」

「フハハ!今の我は違うと?」

「そうだなぁ。美人よりは可愛い感じだろ?」

「むぅ、それはなにやら威厳が足りぬ気がするが」

「可愛くても美人でも、大切なのは人を惹きつけるカリスマ性とかだろ?」

「むぅ」

 

 そんな話をしながら食堂へと向かうのであった。

 

 

 食後にクラウディオが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、勇介の携帯に小雪から電話がかかってきた。

 

「小雪、どうした?」

『ユウー、僕たち遊びに行ってもいい?』

 

 電話で突然小雪が尋ねてきた。

 

「唐突だな。俺は別に構わないけど、九鬼の本部だからちゃんと許可取らないといけない相手がいるんじゃないか?」

『その点は大丈夫ですよ、勇介くん。英雄には前もって許可を貰っていますし、私たちであれば顔パスでいけるんですよ』

『悪いな、勇介。ユキがどうしてもお前と遊びたいんだと』

 

 スピーカーホン状態だろうか、冬馬や準の声も聞こえてくる。

 

「おぉ?勇介の友人か?」

『今の神々しいお声は紋さまっ!?勇介お前……』

「紋白、俺の友達であり兄の英雄が認める数少ない……友人の葵冬馬だよ」

「あの男か!ということは榊原と井上も来るということだな」

「流石、よく覚えてるな」

『おい勇介!?お前紋さまとまさかとは思うが一緒に食事を……』

『むー!ハゲー!僕とユウが話すの邪魔するなー!』

「まぁまぁ。ユキは遊びに来るならそこでいくらでも話が出来るだろ?」

『うん!まっててねー』

 

 電話を切る。

 

「フハハ、相変わらずにぎやかな奴らであるな」

「否定は出来ないな。それでクラウディオさん」

「大丈夫ですよ。葵さまや井上さま、榊原さまは優先してお通しするように英雄さまからもお伺いしておりますので」

「それなら安心ですね」

 

 

「ユウー!」

 

 いつものように勇介を見るなり抱きつく小雪。

 

「おぉ!?勇介の奴がなにやら抱きつかれてるぜ?」

「あれは榊原小雪さまですね。確か勇介にかなり懐いていると記憶しています」

「ははっ!ロックな話だな」

「おや、勇介くんはあのお二人のような大人の女性がお好みですか?」

「違うぜ、若。勇介は俺と同じロリコニアへの入国を希望しているんだ」

「ちょっと待て」

「ユウ、ロリコンだったの?」

「違うって。何で急にそうなった」

「え、だって紋さまと一緒にご飯食べてただろ」

「その程度で可能性でるのかよ、怖いな。……で、こんなところで話すのもなんだし俺の部屋でいいかな?」

 

 

「そ、それで、どうして義経の部屋に来ているんだ!?」

「あー……流れ?」

「そうそう流れ流れ。義経もクラスメイトともっと仲良くなるためにこのようなことを考えてはいたんだろう?」

「……うん。でも義経は弁慶が川神水を飲みながら楽しそうに見ているのが不思議でならない」

「不思議なんてないよ。そこに川神水とつまみがあるから飲むんだ、ね勇介」

「作れってか。まぁいいけどさ」

「ユウってご飯作れるのー?」

「普通には。準ほどじゃないと思うけどな」

「俺もそこまで得意ってわけじゃないんだぞ?若とユキの分を作ってるうちに出来るようになっただけでな」

「そういうところは似てるな。俺もクリスとマルさんの分を作ってたらな。マルさんとか料理できなくもないんだけど、普通に任せると丸焼きやらワイルドな奴がよく出てくるからな」

「……軍人って怖いな」

「全員じゃないぞ。猟犬部隊じゃちゃんと料理できる人いたし。まぁ、行軍なんかで味気ない食事が多いのも事実だけど」

 

 さらっと作ったつまみを持ってくる。

 

「あ、義経。冷蔵庫の中のもの借りたぞ」

「あ、ユウ。義経の秘蔵の漬物だして」

「お前鬼か」

「だ、ダメだぞ、弁慶!?アレは義経が大事に食べているものなんだから!」

「ケチ」

「け、ケチじゃない!前に少しだけだぞってあげたら全部食べちゃったじゃないか!」

「いやぁ、ごめんね。おいしくて」

 

 そんなまったりとしている義経たち。

 

「準、どうしたんです?」

「いや、今一つ屋根の下に紋さまもいると思うと、感無量というか」

「一つ屋根って……むちゃくちゃ人いるし、学園でもそうだろ」

「いやいや!勇介、お前は分かっていない。神に等しい存在である紋さまだぞ!?」

「?確かに紋白は凄い。義経は沢山学ぶべき場所はあるといつも思っている」

「間違いじゃないんだけど、義経少し間違ってるよ」

 

 まじめに反応した義経に弁慶が返す。

 

「ユウ、僕も食べていい?」

「大丈夫だよ。ちょっと多めに作ったから。ほらなんかジュースとかほしいなら言ってくれたらすぐに準備するぞ。……従者の人が」

 

 

「それじゃ、榊原さんは勇介くんに助けられたのか」

「うん!そのときのユウすっごく優しかったんだー。僕にマシュマロもくれたしね!」

「そういえば義経も榊原さんからマシュマロ貰った。あの時はありがとう」

「いいよー。ユウの友達なら僕も友達なのだー」

「あぁ!」

「あれ、なにやら意気投合してる?」

「それなら私と意気投合しませんか、弁慶さん?」

「んー……好みじゃないからやめておくよ。ユウとなら喜んで意気投合したいところだけど」

「結構話あってると思うんだけどな。おーい、準。帰って来い」

「っは!危うく意識がロリコニアに飛ぶところだった」

「準はいつも飛んでるよーん。頭が」

「ひどいわっ!?」

「そういえば、与一くんはどちらに?」

「与一なら今頃ネットサーフィンでもしてるんじゃないか?」

「それは残念です。ぜひともお近づきになりたかったのですが」

 

 本気で残念そうに呟く冬馬に苦笑いを浮かべる一同。

 

「まぁほどほどにな。それでユキ、今から何する?このまま話をしてるだけでも構わないけど」

「僕はユウとお話がしたかっただけだから何でもいいよ」

「私もたまにはのんびりとしたかっただけだから」

「弁慶はいつものことだろう」

「義経がいじめるー」

「私は九鬼の執事やメイドというのも気になりはしますが……色々とレベルが高いですからね、やめておきましょう」

「俺は紋さまとお会いできないか手段を考える」

 

 真顔で言う準の肩を勇介がポンポンと叩く。

 

「今日は一日予定がぎっしりだから邪魔をするほうが失礼なんじゃないか?」

「くっ、こんなに近くにいるのにお会いできないとは……あーんまーりだー!」

「おやおや、本当に準は英雄の妹に惚れてるのですね」

「ま、準の意見はスルーするとして、たまにはこんな風にのんびりするのも悪くないか」

 

 途中で勇介の顔を見に来た紋白と遭遇し舞い上がった準。準が暴走して色々な賛辞を述べるが、それに舞い上がるのではなく普通に受け入れているのは器のなせる技か。

 飲み物を運んでで来た李やステイシーを交えて突然女子トークが始まったり。

 

 

 のんびりとした休日はこうして終わっていくのであった。




仕事終わってから次の仕事までの間が8時間ほどしかないのであまり書けませんでした……。
しかも次は日を跨ぎそうなのですみませんが短めで更新となっています。


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24話 西から来る納豆小町

『およ?勇介くんから電話くれるなんて珍しいね。お姉さんの声が聞きたくなちゃった?』

「相変わらずだね。久しぶり燕」

『お久しぶり勇介くん!それでホントにどうしたの』

「いや、久々に燕の声が聞きたくてね」

『あれま。もしかしてお姉さんのこと口説こうと思ってる?』

 

 そんな他愛のない話をする勇介と燕。

 

『あ、そうそう。そういえば私もうすぐ川神に転校するんだけどさ、勇介くん、川神にいるよね?』

「よく知ってるな。もしかしてモモ先輩を倒すのが目標とか?」

『可愛いツバメちゃんには武神の相手は務まらないよ』

 

 無理無理と笑いながら言う燕。

 

「ん~、燕ならいい勝負できると思うけどな。それでいつ来るんだ?」

『もうすぐだよん。それでさ!よかったら迎えに来てくれないかな?』

 

 

 川神駅前。こちらにもうすぐ来るという燕との待ち合わせの場所だ。

 

「ありゃ、私遅れちゃった?」

「いや、そんなに待ってないよ。それに予定の時間よりは早い」

「ならよかったよ。おはよ、勇介くん」

「おはよう、燕。久しぶり。部屋着とは違って可愛い服だな」

「アレ一応お気になんだけど?」

「あはは、俺はアレもアレで好きだけどな」

「アレっていわないの。でもごめんね、わざわざ休みの日に」

「いいって。修行終わったらやることは特にないしな。それじゃいこうか」

「うん。……勇介くんって休み何してるの?」

「修行して、読書して……あと修行だな」

「あれま。相変わらずストイックな生活してるのね」

「そんなことはないさ。友達と遊びに行ったりもしてるし」

「お友達できたんだ、うんうん。よかったよかった」

「……完全に馬鹿にしてるだろ」

「してないしてない。お姉さん的には心配してたのよ。あ、後おかんも心配してたからまた電話かメールでもしてあげてね」

「そういえば、久信さんとはまだ仲直りしてないの?」

「もうちょっとだとは思うんだけどね。おとんったら、いいところでお酒飲んでたりしてさー……」

 

 二人で歩きながらそんな話をする。すれ違う人々の視線がちらちらと勇介と燕に向けられる。

 

「流石は納豆小町。皆が振り返るな」

「ふふ~ん。って言いたいところだけど、私関東じゃまだ無名なのよね……」

「そういえばこっちじゃポスター見なかったな」

 

 携帯を操作して待ち受けの画面に燕のポスターを表示する。

 

「あはは、勇介くんがそういう画面出すのって凄く違和感があるよ」

「……否定はしないけど」

 

 何故勇介の携帯に燕のポスター画像が入っているかというと、以前に会ったときに燕がいたずらで入れたからだ。それを勇介は大事に……というわけではないがそのまま保存していたようだった。

 

「じゃあ燕が可愛いから見てるってことか」

「……勇介くんって時々そう言うキラーパス飛ばしてくるよね。私びっくりだ」

「ん?」

「いやいや、何でもないよ」

 

 

「え、それじゃ、勇介くんもう武神と立合いしたの?」

「組み手程度だけどな」

「どうだった?」

「強いな。明らかに俺たちの年代じゃ最強だろうな」

「へぇ……でも、勇介くんなら勝てる?」

「どうだろうな。最近同じ質問よくされるんだけど、対策はいくつか考えてるよ」

「なんだろ、私も気になるなぁ」

「燕は頭いいんだからすぐに思いつくと思うぞ。得意技だろ?」

「うわ、ひどい。私がまるで悪女みたいに!」

「悪女……」

 

 じっと顔を見つめる勇介。

 

「な、何?」

「悪女って感じじゃないな。……小悪魔?」

「小悪魔って……一気に可愛いイメージに」

「燕だしそのくらいでいいんじゃないか。っとついたぞ。ここが噂の大扇島だよ」

「へぇ、今勇介くんがすんでるんだよね」

「あぁ。そろそろちゃんと家探さないとなんだけどな。鍛錬するにしても何をするにしても便利でなぁ」

「九鬼の施設使わせてもらってるんでしょ?それなら確かに納得かも」

「ヘイ!こっから先は……って、なんだ勇介か」

「ステイシーさん。あれ、今日って立ち入り禁止?」

「いや、お前なら構わねぇんだけどさ。……ん、お前どっかで……」

「ステイシー仕事をサボって何をしているんです」

「待て待て!私がサボってるとか冗談でも言うんじゃねぇ!……ヒュームのジジイが何処から聞いてるかわかんねぇんだから……」

「全く……勇介と」

「松永燕です!これ、ウチの商品の試供品です!よかったらどうぞ!」

 

 何処からともなく納豆の試供品を指し出す燕。

 

「燕、相変わらず商魂たくましいな」

「あ、勇介くんも食べる?食べるなら食べさせてあげるよん」

「こらこら、パック出さない。そしてあけようとしない」

「おいしいのに」

「おいしいのは知ってる。でもご飯と食べるのが一番だろ」

「ファック!こいつら私たちのことを完全に忘れてやがるぜ」

「あ、ステイシーさん、李さん。今日俺、燕のところによってくるので帰り遅くなると思う」

「分かりました。私から伝えておきます。迎えなどがいる場合にはすぐに呼んでください」

「勇介くん、もう九鬼従者部隊のメイドさんを口説き落としたの?」

「人聞き悪いな。俺がいつそんなことをしたよ」

「えぇ……勇介くんって自分に対する評価と好意に対して感心薄いよね」

「……そうか?」

 

 

「おとんー、ただいまー」

「おかえり燕ちゃん!……って、もしかして勇介くん!?」

「お久しぶりです久信さん」

「いやぁ、本当に久しぶりだねー!元気してた?」

「勿論です。久信さんも元気そうで」

 

 燕の父親であり、ミサゴの夫でもある松永久信はニコニコと笑いながら声をかけてくる。

 

「元気だよ!今日こっちの知り合いと会ってくるって燕ちゃん言ってたから誰かと思ったら勇介くんだったんだねぇ」

「一応おとんも知ってる人って言ったでしょ」

「普通女の子だと思うじゃない。デートだって言ってくれれば僕だって気を使って出かけてたのに」

「……そんなこと言って、お酒のみに行くつもりだったんでしょ」

「ギクッ!そそそ、そんなことはないよ!ねぇ勇介くん!」

「ミサゴさんから久信さんのダメなところはいっぱい聞いてるのでノーコメントで」

「えぇ?!唯一の仲間候補が……」

「おとん、本気でお酒飲みに行ったりしたら……分かってるよね?」

 

 先ほどまでより数度、温度が下がったような空気を纏った燕の言葉にぶんぶんと首を縦に振る久信。

 

「それにしても……久信さん、本気でミサゴさんと仲直りするつもりあります?」

「勿論!」

「勇介くん、それに関しては私も保証するよん。おとんはおとんなりに認められるように頑張ってるの」

 

 松永の家名を高めるために必死で色々な発明をしていたことや、その中で資金繰りのために株に手を出して失敗。それに呆れたミサゴが家を出るという家庭事情を知っている勇介としてはそこは心配していないのだが。

 

「それで、燕がここに俺を連れてきたのは」

「お願い!おかんに電話してうまいこと言ってくれないかな?」

「俺は構わないけど、たぶんそれミサゴさん気づくよな」

「……だね。それでも、一歩でも進むにはなりふり構ってられないの。ね、おとん!」

「う、うん!そうだね!」

「ほら、私がご飯作ってあげるから!ね?」

「まぁ、いいんだけどさ。俺もミサゴさんに連絡するつもりだったし」

 

 

『はいはい、お久しぶりね勇介クン』

「お久しぶりですミサゴさん。今時間大丈夫です?」

『勿論。キミからの連絡だったらいつだって受けてあげるわよ』

 

 そんな会話を聞いて驚くのは燕と久信である。

 

「……おとん、おかんがホントに勇介くんのこと気に入ってるみたいだよ」

「う、うん。あんな優しいミサゴの声、久々に聞いた気がする」

「……それはおとんが悪い」

 

『それで、もしかして燕ちゃんと付き合いはじめましたーって報告?』

「いやいや、それはないです……いたっ!?」

 

 隣に座っていた燕がわき腹のあたりをつねる。

 

『どうしたの?』

「い、いえ何でも。あー、それでミサゴさん今何処に?」

『今は仕事で中国よん。勇介くんはまだ九鬼にいるのかしら?』

「えぇ。ヒュームさんたちに修行をつけてもらうのにも便利ですし。倒すのにも一番いいと思いません?」

『フフ、そういうことを本気で言える若さっていいと思うわ』

 

「盛り上がってるね。おとん、もっと話術磨いたほうがいいんじゃない?」

「ちょ、ちょっと燕ちゃん。父親に対してきつすぎないかな?」

「……いや、だって私勇介くんがおとんになるとか嫌だよ?」

「生々しい想像やめてっ!?」

 

『で、この仕事終わったら日本に戻る予定だからそしたらどこか食事くらい行きましょうか。燕ちゃんと三人水入らずで』

「すごい自然な流れで久信さん抜かないでくださいって。泣きますよ久信さん」

『自業自得でしょうに。……で、電話をこっそり聞いてる久信クンはちゃんと節制して生活できているのかな?』

 

 聞こえてきたミサゴの言葉に久信の背筋がぴんと伸びる。

 

「ちゃんと自分を律して生活しています!」

「おとん、なんでそんなに緊張してるのさ……」

『ならばよろしい。燕ちゃんに今度迷惑をかけたら別居じゃなくて離婚だから。覚悟しておくように』

「は、はいぃ!」

『全く……勇介クンもごめんなさいね、ウチの家庭問題にまで巻き込んでるみたいで』

「いいですよ。俺が勝手に入り込んでるようなものですし」

『燕ちゃん、前にも話したけど逃がさないようにしたほうがいいわよ?』

「おかん!?」

『優良物件だよ、確実に』

「もういいから!」

『それじゃ、また暇なときにでも連絡してくれていいのよ?日本に帰るときにまた燕ちゃんと勇介クンに連絡するから』

「ちょっと僕は!?」

『それじゃーねー』

 

 言いたいことを言って電話を切るミサゴ。

 

「ゆ、勇介くん。いや、師匠!」

「「師匠!?」」

 

 勇介と燕の声がシンクロする。

 

「ミサゴの心を掴む方法を教えてください!」

「いやいやいや!ミサゴさんの心を掴んだのは俺じゃなくて久信さんでしょ!?じゃないと燕は生まれてないわけで!」

「勇介くん、なかなか大胆なことを言ってるよ?」

 

 そんな賑やかな松永家が川神にやってきたことで、またひとつ大きな出来事へとつながっていくのだが、それはまた後の話。




燕ちゃん可愛いですよね。
ミサゴさんも綺麗ですよね。

ミサゴさんが投票される理由はよく分かる(ぉぃ


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25話 納豆小町と武神と納豆と

『勇介、今大丈夫か?』

 

 放課後、すでに学園から帰っていた勇介に大和から電話がかかってくる。

 

「あぁ、大丈夫だ。どうした?」

『実は頼みたいことがあって。今度の6月12日なんだけど』

「義経たちの誕生日か?」

『流石だな。そうそう、その日に誕生日会プラス歓迎会を開こうと思うんだ』

「へぇ、いいじゃないか。それで、俺が何か手伝える感じなんだよな?」

『うん。クリスからマルギッテにも頼んでもらうんだけど、Sクラスをなんとか纏めておいてくれないかな』

「あぁ……そうか。Fとはあまり仲がよくないんだったな」

『そう言うわけだから、頼めるか?』

「いいよ。冬馬とかにも声かけておくよ。……それってお前の提案?」

『いや、紋さまの提案。困ってたから俺が手伝うって言ったんだ』

「そうか。ありがとうな、紋白のために。まぁ俺には大和みたいなツテがないから助かるよ」

『任せろ。そう言うわけだからSクラスの纏めは頼むな』

 

 大和と通話をきった勇介はすぐさま冬馬へと連絡する。

 

『おや、勇介くんから電話をくれるなんて、私の愛を受け止めてくれる気になったということですか?』

 

 ワンコールのうちに電話に出た冬馬はすぐさまそんなことを言い始める。

 

「そんなわけないだろう。ユキに言いつけるぞ」

『それは困ります。またユキに怒られてしまいますからね。それでどうしました?』

「実は……」

 

 大和からの電話の内容を伝える。

 

『そういうことなら私も喜んで手伝いましょう。ほかならぬ勇介くんと大和くん、そして英雄の妹のためにもなるのですから。それに私個人としても与一くんには興味があります』

「……ほどほどに頼む」

『勿論です。勇介くんの弟分なのですから』

「弟分……まぁ、そんなところか。それじゃ頼むぞ」

 

 

 翌日の川神学園。クラスで朝のHRを受けてる最中のことだった。

 

「おい!三年の川神先輩と転校生が決闘するらしいぞ!」

「マジかよ!?あの武神に挑むとか……どんなアホな男だよ!」

「いや、聞いたところによるとかなりの美少女だとか……」

 

 ざわざわと廊下や隣の教室から声が聞こえてくる。

 

「おいおい、武神に挑むような転校生とか……鳴神以外にもいたのね」

「先生、俺はモモ先輩と決闘してないですけど。それに、決闘じゃなくて多分稽古だと思いますよ」

 

 校庭に視線を向けるとそこには予想通り百代と燕が対峙しているところだった。同じクラスの矢場弓子が大量の武器のレプリカを持ってきていた。なにやら燕がそれに対していうと周囲に乱雑に置かれる。

 

「ふふ、燕、腕落としてないか確認だな」

「ユウ、知り合いなのー?」

「あぁ。前にちょっとな。この間も川神案内したし」

「もしかして西の納豆小町ですか?」

「流石は冬馬だな。正解」

「まさか勇介くんが知り合いとは思っても見ませんでしたが」

「それで、強いのか?」

 

 準がたずねてくる。

 

「強いよ。少なくとも」

 

 百代が拳を握る。放たれるのは挑戦者のほぼ全てをコレで倒していることでも有名な技……無双正拳突きである。

 

「普通ならあれで終わるだろうけど」

 

 まるで戦艦の主砲の一撃。それを燕は冷静に捌くと百代の身体に蹴りを当てる。それにざわつく校内と校庭。学内であの一撃を避けられる人間がどれだけいるか。嬉しそうに闘気を漲らせた百代が再度突撃していく。燕はまるで舞うように攻撃を避けながら果敢に攻撃を当てていく。

 

「とんでもないぞ!川神さん相手に一秒以上もっている!」

「嘘でしょ!?モモ先輩ー!」

 

 審判をしているルーも驚きを隠せていない。百代と稽古であれば出来るだけの力があることだけは見抜いていたようだが。

 

「ここからが燕の本領だぞ」

「ふむ……なかなかに強そうですが。ユウ、まだ力を隠しているのですか、あの転校生は」

「隠してはいないよ。手加減してるわけでもないしな。ただ、燕の本領は」

 

 近くにおいてあったヌンチャクを手に取る。

 

「誰にも負けない器用さだからな」

 

 器用にヌンチャクを使いこなし、百代を翻弄する。だがすぐさま手を離すと次は薙刀を手に取る。先ほどまでとは違うリズムの攻撃を連続で繰り出していく。

 

「単純にその武器ひとつを使っている相手には勿論、劣る部分も多い。だけど」

 

 弓矢に槍と変幻自在なその技に体勢を崩される百代だったがすぐさま見切ると力任せのとび蹴りを燕に放つ。ガードごと吹き飛ばされた燕が地面を滑るように止まる。そして次にあった武器は刀だった。

 

「あの動き……ユウ?」

 

 一緒に外を見ていた弁慶が呟く。

 

「はは、少し見せただけなんだけどな。あの器用さはやっぱり尋常じゃないな」

「勇介くんも人のことは言えないと思う。義経の技も使えるじゃないか」

「まぁ、俺のは色々な理由があってだけど、燕のは俺以上に天性のものだからな」

「ヌンチャク三節棍ときて、太刀に鞭、ハンマーに薙刀、あげくに弓矢に槍にスラッシュアックスときたもんだ。よくあれだけ武器が扱えるよな」

 

 準が感心したように言う。

 

「面白い戦いだね。見ててたーのしー!」

「豊富な技を前に、川神百代も攻めあぐねているようじゃ」

「確かにあの技術は見事ですが……」

「器用貧乏ですねっ。決定力がないと勝てません☆」

 

 そう断じたのはマルギッテとあずみの二人だ。戦場などの激戦を越えてきた彼女たちだからこそ特にそう感じたのだろう。

 

「確かにな。まぁ、ただこれは稽古だ。家名を賭けた戦いとは違うし、そろそろ終わりだろ」

 

 勇介がそう言うのとほぼ同時に燕は手に持っていたレイピアをおろす。

 

「いいぞー!松永燕ー!戦いぬいたな!」

「俺たちは、川神学園は……君を歓迎するぜー!!」

「ワンダフル!」

 

 学園から響く燕を歓迎する声に笑顔で手を振り返す燕がルーからマイクを受け取る。

 

『皆さん、暖かい温かいご声援、ありがとうございますっ!京都から来た松永燕ですっ!これからよろしくっ!』

 

 笑顔を振りまきながら燕が言う。その姿を見て勇介が、あっといった表情を浮かべる。

 

「来るな」

「え?」

『何故私が川神さん相手に粘れたかといいますと!!』

 

 そう言うと腰につけていたポーチからカップ型の納豆を取り出す。

 

『バーン!秘訣はこれです松永納豆っ!!……勿論、これを食べれば強くなれるわけではありません。しかーしっ!ここぞというときに粘りが出ます!皆さんも、栄養満点の納豆を食べて、エンジョイ青春!試食したい人は私が持っていまーす!』

 

 すっ、と息を吸う。

 

『皆さんも一日一食、納豆、トウッ!以上、松永燕でした!ご清聴感謝します!』

 

 一瞬あっけにとられた川神学園生徒だったが。

 

「すげぇ露骨な宣伝だ!惚れそうだ!」

「松永納豆食べてみてー!」

 

 クラスでもなかなかの反応だった。

 

「さすが西では有名な納豆小町……見事な宣伝です」

 

 

「んー、ここは涼しくていいねいいねー。勇介くん、休憩中?珍しいね」

 

 屋上で空を見ながら涼んでいた勇介の隣に燕が現れて座る。

 

「結構こういうときもあるぞ。いつも俺が修行してると思ってたのか」

「間違いじゃないでしょ」

「朝見たよ。実際にやり合ってみてどうだった?」

「いやー、強いねぇ。何とか弱点見つけないとか弱いスワローちゃんには倒せそうにないよ」

「大丈夫。もうこの学園で燕がか弱いスワローだなんて思ってる奴はいないから」

「あらま。そんなことないのに」

 

 起き上がった勇介の前に自然な形で納豆を差し出す。

 

「一杯どう?」

「まるで酒に誘うみたいに。別にいいよ」

「ほら、今ならお姉さんが食べさせてあげるから」

 

 パックをあけるとなれた手つきでかき混ぜると口元に箸を持ってくる。

 

「……ん、やっぱりおいしいな」

「ふふ、餌付けしてるみたいで面白いね、これ」

「何が餌付けだ何が。ほら、燕も食べろって」

 

 箸を奪い取った勇介が燕の口元へ納豆を運ぶ。

 

「えっ!?ちょ、ちょっと勇介くん?」

「一方的にはずるいだろ?お返しだ」

「いやっ!?そうじゃなくて」

「……あ、すまん。そういえば俺が使ったんだったな」

 

 すっと箸を引く勇介。

 

「……ホントにびっくりしたよ。もしかして、私と間接キスしたかった?」

 

 悪戯っぽく笑いながら燕が聞いてくる。

 

「どうだろうな。とはいえ、燕は嫌だったろ。ごめんな」

「嫌ってわけじゃないけど……コホン、食べさせてくれるなら、はい!」

 

 新しい箸を差し出してくる。

 

「……やるのか?」

「やってくれるんでしょ?それとも恥ずかしくなったのかな?」

「ほら、あーん」

 

 燕の言葉に勇介がすぐさま納豆を口元に運んだ。パクリと食べる燕。

 

「ん~、やっぱりおいしいね」

「それは認める。ただ納豆の食べさせあいってなんなんだ」

「あはは、見た目はシュールかもね。……それで、勇介くんは直江くんとも仲がいいのかな?」

「そうだな。一応ファミリーに入れてもらってるよ」

「風間ファミリー、だっけ?なかなかに面白そうなメンバーだよね」

「単純な武力ならかなり高いグループだな。女子が強すぎるから目立たないけど、男性陣もなかなかに」

「そうなんだ……勇介くんはモモちゃんに挑むつもりかな?」

「時が来れば。……燕、もしかしてヒュームさんが言っていたモモ先輩の対戦相手って……」

「ん?」

「いや、なんでもないよ。お互いに後悔しないように頑張らないとな」

「そうだね。私としては、勇介くんも撃破目標だよ」

「俺もか?簡単には負けてやらないぞ」

「あはは……知ってるよん」

 

 

「……勇介くん、怒らないよね」

 

 勇介と別れた後、燕がぼそりと呟く。

 

「うー、でもどんな形でモモちゃんと戦うことになるか分からないけど……条件次第じゃ勇介くんも障害になっちゃうのよね」

 

 なんとかそれだけは避けたいが、クライアントの依頼は『川神百代に敗北を与えること』。

 

「覚悟は決めてるけど……いやいや、こんなことじゃダメだ、燕!家名を高めておかんを連れ戻すんだから!」

 

 パンと自分の頬を軽く叩くと歩き出す。

 

「……まずは外堀から攻めていくしかないね。モモちゃんの弱点と、必殺技を崩す手段を見つけるためにも」



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番外編 可能性の未来編
番外編 ミサゴとの未来


お気に入り1000件感謝+日間一位記念のSSです。

本編中では少し実現が難しい方との出会い、そして……。


 彼と初めて出会ったのは九鬼からの依頼で受けた護衛の任務のとき。ほかのボディガードとの共同戦線ということもあって、いつも以上に気合を入れていた。

 

「そうそうたる顔ぶれじゃない。有名どころばっかり」

 

 護衛などを生業にしていれば、必ずといっていいほど名前くらいは聞いたことがある相手ばかりが集められているのだ。自分が決して彼らよりも劣っているとは思わないが、それでも緊張感が漂うのは仕方がないことだろう。

 

「あれ、あの子は……」

 

 自分の娘と大して年齢の差がなさそうな、まだ少年と男の間といった雰囲気を放つ存在が目に留まる。不思議と目を離せなくなる感覚。こんなものを抱いたのはいつ以来だろうか。

 

 

 鳴神勇介と、松永ミサゴ。

 

 

 二人にとってこの出会いが運命の出会いと呼べるものになるとは、このときはまだ誰も考えてはいなかった。

 

 

「それでは、今から皆様方にはまず試験を受けていただきます」

 

 九鬼側の執事でも有名なクラウディオが微笑みを浮かべてそう言う。本来であれば依頼を受けてそのようなことを言われればその場で辞退するものも出るだろう。だが、この依頼は天下の九鬼からのものだ。

 

「もし、ここでお帰りになられるのであれば引き止めは致しません。最低限の依頼料はそれでも支払わせていただきます」

 

 ここまで言われて引き下がるわけにはいかない。しかも、試験を合格すれば更なる報酬も約束してくれるというのだから。

 

「それでは、この中で信頼に足る実力者と思う方とペアを組んでください。制限時間は五分です」

 

 元よりペアで行動している者以外も名前を知る者へと声をかけていく。そんな周囲の様子をキョロキョロと見ている少年がミサゴには気になって仕方がなかった。何人かが声をかけてくるが、それには応えずミサゴは少年の元に向かう。

 

「やぁ、少年。ここにいるということは参加者ってことで間違いないよね?」

「えぇ。お姉さんは?」

「あら、お姉さんだなんて。多分キミのお母さんくらいよ、私」

「そうなんですか?全くそうは見えないですね」

「ありがと。それで、物は相談なんだけどよかったら私と組んでみない?」

「……どうして俺に?」

「直感ね。私コレでも自分の勘には自信があるのよ」

「そうですか。お姉さん強そうですしこちらからもお願いします」

 

 

「それじゃ、タッグを組むわけだしお互いに見せられる力は見せ合いましょうか」

 

 そう提案してきたのはミサゴだ。ミサゴ自身、ひとつの技を奥義まで昇華させているだけに、あまり手の内を見せることを是としないのだが今回はそうするべきだと感じたのだ。

 

「分かりました。っと、その前に自己紹介ですね。俺は鳴神勇介っていいます。年齢は……」

「私は松永ミサゴ。キミの一個上の娘がいるわ」

「……え、本当にお母さん世代だったのか」

「あら、信じてなかったの?」

「信じてないというか信じられないというか」

 

 まじまじと見られるミサゴ。

 

「こーら。女性をそんな風に見るのはマナー違反よん」

「すみません。それで、俺の力ですけど……そうですね、多分ですけどここにいる中で五本の指には入るかと」

 

 周囲に聞こえるような声で堂々と勇介が言い放つ。ざわつく周囲などお構いなしだ。

 

「あらあら、自信家なのかそれとも本物なのか。多分後者だとは思うけど……」

 

 

 その後、クラウディオから出されるいくつかの課題をクリアしているうちに残っているのは数組まで減ってしまっていた。

 

「それでは、最後は純粋な戦闘力を確認させていただきます」

 

 クラウディオの言葉で現れたのは一人の従者。武力に関してはヒュームと並び称されるほどの男……ゾズマ・ベルフェゴールだった。

 

「まさか四位が出てくるとは……」

「キミ、詳しいのね。私も噂だけは聞いているけど……」

 

 対峙してみると分かる恐ろしいほどの戦闘力を持っていると分かる。実際に対峙したほかのタッグは一瞬で敗北していた。

 

「悪くはない。だが私たちの求める水準には達していないと言わざるを得ない」

 

 そう断じたゾズマが最後に勇介たちへと向き直る。

 

「最後は君たちだ。是非とも楽しませてくれたまえ」

「ミサゴさん、俺が前に出ます。……得意な距離で本気をぶつけてください」

「気づいてたのね。……分かったわ」

 

 二人が瞬時に陣形を整えるとゾズマは拳を構える。

 

「きたまえ。君たちに先手は譲ろう」

「ならお言葉に甘えてっ!」

 

 ダン、と地面を離れた勇介がゾズマからすれば見覚えのある軌道での蹴りを繰り出す。

 

「ジェノサイド!」

「む!」

「チェーンソー!」

 

 ヒュームのそれと比べれば明らかに質は落ちるが、それでも先ほどまでの者たちと比較すればかなりの威力の一撃だ。それをゾズマは片手で受け止め、脚を掴み取る。

 

「終わりかな?ならば……」

「まだまだ!」

 

 勇介が掴まれた脚を軸に回転するようにゾズマの後頭部を蹴り上げる。衝撃に脚を離したゾズマにミサゴの一撃が飛んでくる。

 

「ふっ!」

「ぬ!?」

 

 パァン、と弾けるような音とともにゾズマの体勢をさらに崩す。

 

「鳴神流!」

 

 勇介の気が激しく波打つと同時に瞳が黄金に輝く。

 

「龍技・星喰!!」

 

 放たれた掌を受け止めようとしたゾズマが咄嗟に動きを変える。無理やり身体を捻り、その一撃をギリギリのところで避ける。

 

「そこっ!」

 

 その隙を見逃すミサゴではない。回避が難しいその状態で流石のゾズマも避けることは出来ずにミサゴの遠当てが直撃し地面を転がる。

 

「ふ……クラウディオ」

「はい。そこまで!松永ミサゴ様、鳴神勇介様、合格です」

 

 

「「乾杯!」」

 

 勇介とミサゴのグラスがカン、と綺麗な音を立てる。

 

「勇介クンは未成年だから川神水だけど」

「好きなんで大丈夫ですよ」

 

 クイッとグラスの中の川神水を一気に飲み干す。

 

「いい飲みっぷりね。飲めるようになったら一緒に飲みたいわね」

「是非。まぁ、本物のアルコールが飲めるかどうかわからないけど」

「勇介クンなら大丈夫でしょ。……はぁ」

 

 小さくため息をついたミサゴ。

 

「どうしたの?」

「いえ、勇介クンを見てると何で一時はあんな奴を好きになったんだか、って思ってね」

「それは分からないですけど、それだけ魅力があったんでしょ?」

「魅力、ねぇ。……発明をしているときの真面目な横顔は確かにいいとは思うけど」

「はは、なんだかんだでまだ好きなんでしょ?久信さん、だっけ?」

「どうかしらねぇ。次に同じことをしたら別れるって言ってるけど」

「そういうはっきりしたところはミサゴさんらしいね。まだ会ったばかりだけど」

「そうね。ふふ、キミはオスとして優秀みたいだから女には困らないでしょうね」

「えぇ!?そんなことはないですよ。姉的な人とか妹的な子とかはいますけど」

「そういうのは自分で自覚しづらいものよ。……でも本当にキミは凄いわね。ゾズマさんに放った最後の技、見事だったわ」

「ミサゴさんの遠当ても凄かったですよ。気を使わない技であそこまで鍛え上げたのは凄いと思います」

「そう?ふふ、自分の鍛えた技を褒められるのは嫌じゃないわね。ただキミの年齢であれほどの腕前っていうのは凄いと思うわ」

「いずれは最強を目指してますから。……それで、ひとつ伝えておきたいんですけど」

 

 

「へぇ、つまりキミは元々修行の一環で参加していたと。九鬼の関係者?」

「関係者……でしょうか。ヒューム・ヘルシングって知ってますよね?あの人の一応は弟子にもなります」

「あの零番の……でもあの人の技とは違ったわよね?」

「元は俺の使っている技は鳴神流……家系に伝わる武術です」

 

 それから自分のことを勇介はミサゴにぽつぽつと語った。

 

「それじゃ、キミはお母さんのことは……」

「知らないですね。物心ついたときには祖父しかいませんでしたし、その後にお世話になった場所でも」

「キミも大変だったのね。どう、私のことをお母さんって呼んでみる?」

「いや、流石にお母さんとはいえないですよ。まず見えないですし、若いんですから」

「ホントに上手ね。娘いなかったら本気になってたかも」

「光栄です」

 

 笑いながらそんな話をしていた二人だった。

 

 

 その後も二人の関係は続いていく。九鬼を経由した依頼だけでなく、あるときは娘である燕を紹介され。

 またあるときは燕を交えた三人で食事をしたり。

 

 

 そして。数年の月日が流れた。

 

 

「はぁ……」

「どうしたんだ、ミサゴさん」

「勇介クンか。……実は、久信クン、次は株じゃなくてFXに手を出してね」

「……マジすか」

「うん。それで、叩きつけてきたの」

「何を?」

「離婚届け」

 

 あっさりと言うミサゴに苦笑いの勇介。

 

「そうですか……」

「自分で叩きつけて置いてなんなんだけど、燕ちゃんには悪いことしたなって思ってね」

「必死に久信さんとよりを戻させようとしてたからなぁ」

「燕ちゃんともこれからどうしていくか話さないといけないし。とはいえ、燕ちゃんも流石にかなり怒ってたのよね」

「そりゃそうでしょ。……で、これからどうするんです?」

「どうしようかしらね。いつまでこの仕事、続けていられるか分からないし。勇介クンが相棒として仕事を始めたときは正直助かったし驚いたけどね」

「ははは、俺もまさかこの仕事に就くとは思わなかったですよ。でも……」

 

 以前とは違い、煽るグラスの中には酒が注がれている。それを以前の川神水と同じようにクイッと飲み干すと。

 

「ミサゴさんがいたから、だと思います」

「私?」

「えぇ。俺は……」

 

 互いに酒が入っており、少し顔が赤く染まっている。勇介がまっすぐにミサゴの目を見ながら。

 

「ミサゴさんのことが好きですから」

「……っ!?わ、私も勿論勇介クンのことは好きよ?」

「相棒として、じゃないです。一人の女性としてです」

 

 真っ直ぐな勇介からの告白に動揺するミサゴ。

 

「私の年齢、知ってるわよね?」

「関係ありません。俺が好きになったんですから」

「私にはキミと同じくらいの歳の娘もいるのよ?」

「知ってます。燕も魅力的だと思いますけど、ミサゴさんには敵いません」

「……本気みたいね」

「はい。久信さんには悪いですけど譲る気はありません」

 

 見詰め合う二人。

 

「……少し時間を置きましょう。お酒が入った勢いではないでしょうけど、私も考える時間が欲しいから」

「いつまでも待ちます。その覚悟は出来てましたから」

 

 

 さらに一年後。

 

「勇介くん……じゃなくておとんって呼んだほうがいいのかな」

「戸籍上はそうなるのか……?」

「あら、勇介クンは燕ちゃんとばかり仲良くしてるんじゃない?」

 

 エプロンをしたミサゴが声をかけてくる。

 

「そんなことはないよ。燕とも仲がいいのは否定しないけど」

「もぅ……妬けるわね」

「おかん、年甲斐もなく……」

「燕ちゃん?何か言った?」

「いえいえ。新婚さんの邪魔をするつもりはありません、って言っただけ。それじゃ、おかんと勇介くん、ごゆっくり~」

「全く、何をしにきたんだか。あの子は」

「心配なんだよ、ミサゴのことが」

「二回目の結婚だから心配することなんてないでしょうに」

 

 キラリと光る指元。勇介が贈った結婚指輪だ。あの後、勇介の告白を受け入れたミサゴはすぐさま現役を引退。それと同時に勇介も以前から打診のあった九鬼従者部隊への就職を決めた。

 

 久信も一時は荒れたようだが、燕がついてサポートを続け今では見返すことを目標に邁進しているようだ。

 

「ま、俺はまたヒュームさんを超えるために修行の日々だよ」

「勇介クンならすぐに超えられるわ」

「ミサゴがサポートしてくれるしな。零番は必ず譲り受けるよ」

 

 二人の影が重なっていく。

 

 

 鳴神勇介とその妻、ミサゴ。その後、二人は雀と雲雀という双子の男女を授かり、幸せな家庭を築いたという。

 

これもまた、ひとつの可能性の話。




賛否両論でしょうが、ミサゴさんをヒロインにするのはこれ以外思い浮かびませんでした(ぉぃ

それか過去にさかのぼって久信さんと奪い合いさせるか……?

こ、これも可能性のひとつとして納得していただけると幸いです……。


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出張LOVEかわかみ ヒロイン投票編

投票の現時点での発表をこめた息抜き回です。

嫌いな方はスルーしてください。(ほぼノリ)


『ハァイブリバディ!今がいったいいつでこの場所が何処なのか~なーんてノリの悪いことを言うんじゃないよ?今週もラジオ番組LOVEかわかみが始まるぜ!パーソナリティーはこの俺、世界中の幼女は俺が守る、井上準と!』

『お前は明らかに守る側じゃないよな、川神百代だ』

 

 

「……何だこれ」

「あぁ、うちの学校の昼休みの名物だよ」

 

 一緒に食事をとっていた大和が言う。

 

「それに何で大和が一緒に飯食ってるんだっけ」

「ここは別の可能性の世界だからな」

「よく分からん」

 

『さぁ、今日いただいたのは……何々、鳴神勇介のヒロイン候補ランキング発表?何だコレ』

『へぇ、それ面白そうじゃないか。採用』

『いやいや、誰得だよそれってなるぞ?』

『そうか?意外と興味ある奴多いと思うぞ。どうせこの世界は一過性のものなんだし気にせず発表しろ、ハゲ』

『ストレートな暴言ありがとうございます。……ってか何で俺が発表すんだよ』

 

 

「……」

「……」

「大和」

「知らん。俺に聞かれても困る」

「おい、勇介!どういうことだよテメェのヒロインって!!」

 

 ガクトが勇介の肩を掴んで揺らす。

 

「俺も知らないって!ってかここ何処だよ!学園ってのは分かってるぞ!?」

「勇介落ち着いて。かなり混乱してるねぇ」

「まぁまぁ、パラレルワールドなんですから落ち着いてください」

「葵、お前は落ち着きすぎだ」

 

 

『それじゃ発表していくぞ。まずは発表するのは四位までだ』

『これは、同率がかなりの人数いたから仕方なくの処置だ。許してくれ』

『では第四位からいくぞ。第四位は何と三人だ!』

 

 

第四位(5票)

マルギッテ・エーベルバッハ

 

『ドイツの猟犬にして、勇介にとっての姉的な存在2-Sマルギッテ・エーベルバッハだぁ!』

『へぇ、あの猟犬がね』

『えー、ウチのクラスのとしm……コホン、英雄の専属従者Aさんからの情報では多分Mとのことだ』

『井上準、その情報は必要ないと知りなさい』

『げ!何でここに!』

『お前が余計なことを言う気がしたので来たまでです。覚悟は出来ていますね?』

『待て、まずは話し合おう。争いは何も生まないぞ!』

『遺言はそれでいいのですね。トンファー・アームストローング!』

『あー……ハゲが殉職したが放送は続けていくぞ。マルさんヒロイン候補三位だそうだ』

『……別に、嫌ではないと知りなさい。とはいえ、私がお嬢様を差し置いてそのような立場になることはないでしょう』

『そうか?勇介自身がマルさんのことを好きだと言ったらどうするんだ』

『そ、そのようなこと……ありえないと知りなさい』

 

 

「どうなんだ、勇介」

「大和、ニヤニヤしながら質問するな。ガクトが血の涙を流してるから」

 

 

『とはいえ、ポジションとしては私と大和みたいなものだろう?幼馴染で姉貴分』

『関係は少し違いますが似たところはあるかもしれませんね』

『ということはメインヒロインだな。間違いない』

『……何を言っているのか理解に苦しみます』

『だがまんざらでもないんだろう?』

『……ノーコメントで』

『ちなみにだが、グループとしての投票では猟犬部隊が8票とかなりの人気みたいだ』

 

 

第四位(5票)

黛由紀江

 

『俺、復活。ということで、第三位二人目は風間ファミリーの後輩、松風の中の人こと黛由紀江だ』

『ヘイヘイ!オラに中の人なんていねー!』

『ご、ご紹介に預かりました、松風の中の人こと黛由紀江です!』

『おーい、まゆっち落ち着け。言ってること滅茶苦茶だぞ』

『俺には既に売れ残りにしか見えないんだが、何が人気なんだろうな。真面目な感じか?』

『お前、もう一回死んどくか?……私が思うに、やっぱり』

『やっぱり?』

『尻だな』

『ちょいちょいちょい!百代の姐さん……そりゃないゼ』

『冗談はともかく、大和撫子な雰囲気、良妻賢母になりそうな感じとか、ヒロイン要素は強いよな』

『勇介側からすると妹ポジに近いのか?……でもそこにはクリスがいるだろ?』

『まぁ、強くて奥ゆかしくて、家事やら完璧で、でもコミュ障……伊予ちゃんとの絡みなんかも人気なんじゃないか?クリは妹ポジだがアホの子だしな』

『モモ先輩も大概ひどいこといってるぜ』

『で、まゆっちはどうなんだ?』

『しょ、正直恐れ多いといいますかっ!私なんかじゃつりあわないといいますかっ!』

『そうか?まゆっちと勇介なら和風な雰囲気同士だし、武器も同じだろ?いい感じだと私は思うが』

『私が皆さんを差し置いて勇介先輩と……』

『おーい、まゆっちー、かえってこーい』

『……はい、どうやら別世界に行ってしまったようなので次だ!』

 

 

第四位(5票)

林冲

 

『誰だコイツ!?本編に出てないのにランキング発表に出てきていいのか!?梁山泊からの刺客、守りたいマニアの林冲だ!』

『ま、守りたいマニアとは一体なんだ?』

『いいなぁ、私好みのねーちゃんだ』

『えー、資料によると梁山泊の天雄星を継ぐ者で最強の槍使いとのことだ』

『?!何故梁山泊の情報を!』

『そりゃ、作者が全部覚えてるからに決まってるだろ』

『はい、モモ先輩黙ってて!……コホン、まー俺にはわからないけど人気の出そうな雰囲気はあるな』

『やはり黒髪ロングはメインヒロインなんだな(チラッ)』

『いやいや、モモ先輩は既にぐはぁっ!?』

『不敬な発言をしそうだったハゲは退席してもらったぞ』

『こ、これが武神の力……!』

『確かお前のルートがAであったよな』

『る、ルート?』

『守りたいあまりにー……みたいな話だったな。重いなお前』

『重いっ!?』

『ヤンデレポジションのヒロインいないしちょうどいいかもしれないな』

『武神が何を言っているのか分からない……』

『こんなことを言ったが私はかなり好みだぞ』

 

 

『さぁ、気を取り直して第三位!本当はここから紹介にしようと思ったが間違えて四位から書いてしまったというのは内緒だぞ。武神との約束にゃん』

『いやいや、何を言っているか分からないしモモ先輩のにゃんとか萌えなぐはぁっ!?』

『さー、またハゲがいなくなったから私一人で続けていくぞ』

 

 

第三位(6票)

椎名京

 

『へぇ、順当な感じのところに入ってきたな、京』

『いえい』

『某マシュマロ娘と同じくヒロインにしづらいヒロインだけどかなり人気じゃないか』

『やっぱり私の一途さが伝わった結果かと』

『ただ、相手が弟じゃないんだよな』

『そだね。でもきっと私のヒロイン力の高さは変わらないはず』

『ほぅ、私に挑む気か?』

『いやいや、モモ先輩は私よりヒロインランキング低いから』

『お前、ネタバレするなよ……後で殴るぞ、ハゲを』

『どうぞどうぞ』

『後いつもより饒舌だな』

『私が勇介のヒロインになるかもしれないと思った大和がきっと私を本気で口説きに来る……くくっ、もてる女はつらい』

『言ってろ。とはいえ、この物語だと京は大和よりも先に勇介に助けてもらってるんだよな』

『そだね。ちなみに私の口癖のしょーもない、も勇介から影響を受けたって設定だよ』

『メタいな。とはいえ、モロロの恋は成就しない運命にあるんだな。大和じゃなくても勇介に奪われると』

 

 

「余計なお世話だよっ!?っていうか何バラしてるのさモモ先輩!」

「あー……まぁファミリーは全員知ってるから」

「何ぃ!?モロそうだったのか!」

「キャップ気づいてなかったのかよ!」

 

 

『とはいえ、三位は凄いな。上位陣はちゃんとエンディング準備済みだそうだからルート確定ってことだよな』

『ぶい。これこそ、勝った!まじこい完っ!ってやつだね』

 

 

第三位(6票)

(リー)静初(ジンチュー)

 

『三位は九鬼のところのメイドさんか。元暗殺者で完璧執事クラウディオの部下、と』

『はい。得意技は死んだふりとギャグです』

『へぇ、ギャグとかも出来るんですか。是非見せてもらえませんか?』

『ステイシーが……捨石になる』

『……死んだふりっていうのも暗殺者時代に身につけたんですか?』

『あれ?何も反応を返してくれない?』

『とはいえ、元暗殺者なのにかなりの母性を感じるところがポイント高いな』

『勇介はなぜか放って置けない感じがするんです。弟がいたらこんな感じなのかな、って』

『家族に近い感覚を持つと恋愛には遠いようで近い。そういうことだろうな。李さん、勇介から告白されたらどうします?』

『どうでしょう。正直、そのときになってみないと分かりませんが……嫌ではありません』

『おぉ……今までの中で一番ヒロイン力高いんじゃないか。こら京こっちに入ってこようとするな。お前の出番は終わってるから』

 

 

「……」

「あー……なんだ。この世界線の勇介は死ぬ運命にあるかもしれないな」

「やばい、怨嗟のオーラが凄いぞ」

「殺気立ってるなんてレベルじゃないね……」

「その中心にガクトがいるのもやめて欲しいところだけどな」

 

 

『さぁ、ここからは復活した俺が案内するぜ第二位!』

『お前、意外と耐久力高いよな』

 

 

第二位(7票)

松永燕

 

『やっぱり来たぜ納豆小町!前作ヒロインは伊達じゃない!』

『どうもどうも~。皆、7月10日は納豆の日!ちゃんと食べたかな?松永燕です!』

『相変わらずの納豆アピールだな。でも燕、いいのか?お前の母さん……』

『モモちゃん、それ以上はいけないよ。あれは別の世界線の話なんだから』

『母親クラスとかただのババぐはぁっ!?』

『学習しないな、このハゲ。まぁ、そういうことにしておこう。この世界だと燕はミサゴさんを通じて勇介と知り合ってる感じなんだよな』

『そだよ。おとんには私が紹介した感じ』

『とはいえ、燕が二位か……お前、人気投票で一位もとってたよな』

『いやぁ、人気者はつらいねぇ。わ、モモちゃん怒らないで』

『むぅ……弟は取られるし、好敵手も取られるのか?』

『でも、モモちゃんが勇介くんルート進んだら私が気に入ってる子とられる形になるんだよ。お相子だよ』

『……そうか?そうでもない気がするけど』

『それにおかんが勇介くんと……とか、そんなこと想像してみて』

『……すまん、燕。私が悪かった』

『おかん美人だから仕方ないけどさ……』

『とはいえこの作品でもヒロイン連覇ってことになるな』

『応援ありがとー!で、いいのかな』

『いいんじゃないか?』

 

 

『いい加減に死んでしまう気がしてきたが栄えある第一位!前作時投票一位の松永燕を抑えてダントツの一位!』

『これは正直予想外だったな。緊急で過去話を導入するくらいには』

 

 

第一位(13票)

榊原小雪

 

『第一位は榊原小雪ーっ!ってユキ!?』

『いや、ハゲなんでそんなに驚いてるんだよ』

『いやぁ、娘を嫁に出す気分になって』

『誰が娘だー!』

『ぐはぁっ!?』

『最後までこれなんだな』

『いえーい!僕だよー!ユウ聞いてる~?』

『多分弟たちと聞いてるだろ』

『僕ね、ユウのこと好きだよ!』

『そうだろうな。好意が溢れんばかりに表現できてるぞ』

『えへへ~、ユウはね、僕にマシュマロくれたんだよー』

『京といいお前といい……アイツは小さい頃からどれだけフラグ立ててるんだ』

『あははー。ユウは凄いのだ』

『人気投票一位っていうのは予想外だったな』

『僕もー。でも、ユウのヒロインになれるのは嬉しいのだ。僕がユウを守ってあげられるってことでしょ?』

『そうだな。アイツは強いけど、精神的には脆い部分もあったりするかもしれないからな』

『うん!僕がユウを守ってあげる!』

『しかし京にユキに……なかなか凄い面子だな。もうまとめて面倒を見ればいいんじゃないか』

『ユウがそれを望んでるなら僕は構わないよ』

『私は面白ければそれで。ただそうなったら私は独占欲強いぞ、勇介』

 

 

「何か姉さんにもロックオンされてない?」

「……俺が何をした」

「まぁ、姉さんは対抗できる相手がいなかったからな。きっと嬉しかったんだろ。……弟としては複雑だなぁ」

「ニヤニヤしながら言うな!」

 

 

『そんなこんなで一位はユキだったわけだが。勿論、今回ランクインしてない奴らの分の未来も存在している、らしいぞ!ちなみに最後にほかの投票結果も発表しておくぞ』

 

 

4票

川神百代

板垣辰子

九鬼紋白

九鬼揚羽

葉桜清楚

ステイシー・コナー

 

3票

松永ミサゴ

最上旭

橘天衣

忍足あずみ

 

2票

源義経

武蔵坊弁慶

クリスティアーネ・フリードリヒ

シェイラ・コロンボ

史文恭

 

1票

大友焔

クッキー4IS

大和田伊予

黛沙也佳

川神一子

武松

 

※グループ投票

1位 猟犬部隊(8票)

2位 クローン組(7票)

3位 梁山泊(4票)

4位 風間ファミリー(1票)




あれ、いつもより長い(ぉぃ

感想等お待ちしております!


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オリジナルルート~共通編~
26話 ファントム・サン


※感想でのアドバイスもあったので一部改訂しております。

仕事が忙しく、また短いです……ごめんなさい!


「そういえば勇介、ファントム・サンって知ってるか?」

「ファントム・サン?」

「あぁ。川神に来た武芸者たちを次々に破ってるらしい」

 

 昼休み、食堂で合流した大和から説明された勇介は少し驚く。

 

「何で川神に来た武芸者なんだ?川神にはかなりの人数、質のいい武芸者いると思うけど。モモ先輩とかみたいな規格外な人もいるけど」

「おい、勇介。誰が規格外だって?」

 

 勇介の言葉に不満の声をあげながら何処からともなく現れた百代が勇介の背にまとわりつく。

 

「モモ先輩が。まさかとは思うけど自分が普通だとか思ってないよな?」

「むぅ。弟ー、勇介がいじわるだー」

 

 拗ねたように言った百代が大和の背に移る。ある意味で慣れている大和は少し苦笑いを浮かべただけである。

 

「はは……でもそれじゃ、俺やモモ先輩には関係ないんじゃないか?たぶんだけど襲ってこないってことになるよな?」

「だな。でもちょっと気にならないか?」

「興味は沸くな。まぁ相手がこっちを避けるならどうしようもないけどな。……ただ、かなりの実力者ってことなら俺やモモ先輩が気付くはずだ。ヒュームさんも把握してるなら教えてくれるだろうし……」

 

 勇介が考え込むのを見て大和もなにやら考える。

 

「おーい、弟、勇介ー。ダメだ、こいつら私のこと無視してる」

 

 

 川神学園廊下。勇介が歩いていると目の前から来た女性とすれ違うときに何か違和感のようなものを感じた。

 

「ん……?」

 

 振り返った勇介の視界に飛び込んできたのは長い黒髪を揺らして歩き去る女性。

 

「……なんだ今の感覚」

 

 気が抑え込まれているような、そんな感覚。一瞬ではあったが間違いなく力を抑えている。

 

「……考え過ぎか?っていうか今の誰だ」

「あれ、勇介くんどうしたの?」

「清楚。あの人、多分先輩なんだけど知らないかな……ってもういないか」

「どんな人?」

 

 勇介が説明するのを聞いて清楚が何かに気付いたように。

 

「あ、それ多分アキちゃんじゃないかな」

「アキ?」

「そうそう。評議会議長の最上旭ちゃん。ずっと試験で一位をとってる子だよ」

「そりゃすごいな。で、強いの?」

「うーん……弱くはないかもしれないけど……でも大人しくて優しい子だよ?」

 

 清楚の知る限りの情報を聞いて勇介は唸る。

 

「実際に会って話をしてみないと分からないか」

「……勇介くん、気になるの?」

「少しだけ。まぁそんな重要な話題でもないから気にしないでいいぞ」

 

 少し不満そうな清楚に首をかしげながら勇介が言う。

 

「ただあまり印象に残らなかったんだよな。不思議と」

「そう?アキちゃん可愛いし頭いいし存在感あると思うけどな」

「……」

 

 清楚がそこまで言う相手があまり意識に残らないというのはやはりおかしな話だ。とはいえ、現時点で何かが出来るわけでもないのだ。とりあえずは少しだけ機嫌が悪くなっている清楚の機嫌を戻すことを先にしようと判断した勇介なのだった。

 

 

 その日のうちにアキちゃんとやらに会う機会はなく、清楚と一緒に九鬼極東本部へと帰っていった。夜になって大和から電話がかかってきた。

 

「え、モモ先輩とファントム・サンが対峙したのか!?」

『あぁ。でも姉さんが掴みかかった攻撃は避けられるし、イメージの中で攻撃されたりもしたらしい。正直、そのレベルになってくると俺にはさっぱり分からないんだけどさ』

「……モモ先輩の攻撃を避けるだけなら燕にも可能かもしれないけど、聞いた話の感じだと、少なくとも一芸で燕を上回っているのは確実か。……かなりの腕前かもしれないな」

 

 勇介が来たときに行った気による索敵では見つからなかった相手……驚きは正直隠せない。誰よりも気の扱いには長けている自負もあったから。

 

「それで、何か正体つかめたのか?」

『いや、結局のところ全く。姉さんも美少女の香りがする、みたいなことしか言ってない』

「それが分かるのもかなり恐ろしい話だけどな」

 

 百代の一撃を避けるどころか、軽い牽制までして立ち去るなど不意を打ったとしても簡単に出来ることではない。

 

『……勇介?』

「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、大和。何かあるようなら俺のほうでも動くよ」

『お前も無理するなよ』

 

 大和の心配した一言にあぁ、と返事をして勇介は早めに会えるように画策するのだった。

 

 

 翌日、川神学園の廊下で勇介は最上旭へとコンタクトを取っていた。

 

「はじめまして、最上先輩」

「あら、貴方は」

 

 微笑みを浮かべた状態の最上(あき)を見て勇介は疑念を深める。

 

「……やっぱりおかしい。認識阻害みたいな……?」

「確か、転校生の鳴神勇介ね。はじめまして、私は最上旭よ」

「よろしくお願いします、最上先輩」

 

 勇介は挨拶を交わした後に旭をじっと見つめる。

 

「どうしたの?初対面の女性の顔をそんなにマジマジと見て。恥ずかしいわ」

「それならもう少し恥ずかしそうにしてください。……うん、やっぱりか」

「何が?」

「どうして力を隠しているのかは知らないですけど、是非いつか手合わせをお願いしたいですね」

 

 ニコリと微笑みを返す勇介がそう言うと、旭はすっと目を細める。

 

「……何のことかしら?」

「大丈夫です、たぶん俺以外には分からないですよ。……こんな至近距離まで近寄ってようやく見えてきたくらいなんですからね」

「勇介は面白いわね。……フフ、まさか私の奥義を看破できる人がいるなんて。学園長先生ですら見抜けなかったのに」

「俺は特殊だからね。まぁ皆に危害を加えようってわけじゃないみたいだし俺からは何も言わないよ。それで最上先輩」

「そんな他人行儀な言い方じゃなくていいわ」

「お言葉に甘えて旭先輩。色々な武芸者と戦ってたのは自分の力を保つため?」

「そんなところね」

「それなら、俺がその相手をしよう。ある程度の準備は整ってるっぽかったからもう腕試しはやめるつもりかもしれないけど」

「いいえ、貴方もかなりの実力者のようだし、私にとってはとてもありがたい話よ。……ただ、父にも確認を取らないといけないわ」

 

 ピッと携帯をいじり始めた旭を勇介は制することはしなかった。

 

 

「アキ、よかったね。君の奥義を破られたということは試練ということだ」

 

 旭の父親である幽斎は説明を受けるなりすぐさま学園へと姿を現した。幽斎は、旭にそう言うと人懐っこい笑顔を浮かべて勇介へと手を差し出す。

 

「はじめまして、鳴神くん。娘がこれからお世話になるね」

「いえ、俺としても利のある話なので」

「君は確かヒューム卿に勝負を挑むのだったね」

「はい」

「君もまた、かなり厳しい試練を自分で課すのだね」

 

 ふふ、と微笑みながら言う幽斎に勇介は少し驚く。

 

「試練、ですか。否定はしませんよ」

「しかし、本当に娘が何者なのかは知らなくてもいいのかい?」

「構いません。何を隠しているのかは知らないから反応のし様もありませんが」

「貴方もかなり変わっているわね」

「旭先輩こそ」

 

 全員が笑顔であるが、知らない人が見れば何か恐ろしさを感じるものだろう。三人の出会いは何処か歪なものだった。

 

 

 日は変わって九鬼極東本部内。

 

「おはよう、勇介くん!」

「おはよう、義経、弁慶……あれ、与一は?」

「電話で大和と話してたよ。後から来るってさ」

「アイツ大和と仲いいなぁ。……まぁ、いずれは追いつくだろ。先に行こう」

「そうそう、勇介くん、最近評議会の最上先輩……だったかな?仲良くしてるって聞いた。義経は感心している」

「仲良くしてもらってるのは俺の方だよ。タイミングがあえば義経たちにも紹介するよ」

「ユウ、そんなことより私を運んで運んで」

 

 甘えるように勇介にしがみつく弁慶。それを背中に背負ったままずんずんと進んでいく。

 

「ただ、たまに学園にいても気配を感じなくなるんだよな、旭先輩」

「それは凄いね、ユウでも見落とすとか」

「一応俺も人間だからな。……ただ自信がある部分だったから結構悔しかったりもするんだけどな」

 

 

 夕方、勇介と旭は軽い組み手を行っていた。互いの拳を受け流しあい、かなりの激戦になっている。

 

「……旭先輩、刀使うのが本気ですよね?」

「どうしてそう思うの?」

「立ち方、動き方。おれ自身も刀を使うから、分かるっていうのが一番の理由だよ。足捌きが違う」

「ふふ、勇介は本当に面白い。……是非、私の正体がわかっても仲良くして欲しいわ」

「自分の正体って……まるで清楚みたいなクローンなのか?」

 

 笑いながら言う勇介。

 

「どうかしらね?ご想像にお任せするわ」

「面白い。……とはいえ旭先輩、今は目の前の俺との組み手に意識を向けて」

「勿論」

 

 完璧なまでに隠された旭の力の一部は組み手で引き出すことが出来ている。だが、まだまだ旭も本気ではない。

 

 互いにまだまだ底が見えない状態なのだ。

 

「ふふ、本当に面白いわ」

 

 拳を交えながら旭は呟く。心底楽しそうな笑顔を浮かべて。




半分寝ぼけて書いてました(ぉぃ
後ほど修正などの手直しが入るかもしれません!

あまりいじりすぎるのもアレなので追記と修正程度に抑えてます。


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27話 猟犬部隊、襲来 前編

前話は少しだけ修正しております。


 直江大和は人とのつながりを重視している。それは彼の携帯に入っている人数を見れば一目瞭然だろう。しかも、連絡を取らない相手を除いてもかなりの人数で埋まっているのだ。

 

「あ、大友さん?久しぶり。元気にしてた?」

 

 川神の駅前を歩きながら以前にあった東西交流戦で知り合った大友焔と連絡を取り合っていた。

 

「うん、それで前に約束した件なんだけど……」

 

 そんな話をしながら駅へと差し掛かる。そのとき、目に飛び込んできたのは何処かで見覚えのある軍服を着た美女と女の子だった。

 

「おいでましたよ、ニッポンポーン!」

「やーきてみたかったんだ、生まれた時から」

 

 見た目は明らかに外国人であるのに流暢な日本語で喋る姿もある意味では大和にとっては見慣れたものだ。とはいえ、このような状況になるとは思っても見なかったため唖然としてしまっていた。

 

「……」

『どうしたんだ?』

「あ、ごめん。ちょっと急用。また連絡するよ」

『うん、待ってる』

 

 大和は電話を切って二人に近づいていく。

 

「それにしても、やたらめったら目立つな俺たち」

「しょうがない。コジマ、そういう光ってるところあるから。リザは巻き添え食らわせてすまないな」

「お、おう」

 

 何やらコントのような掛け合いをしている二人。

 

「おぉ?コジマの魅力にひかれて男が釣れてしまったぞ」

「……ある意味すげーな、お前」

「えっと、間違ってたら悪いんですけど……もしかしてクリス……マルギッテの関係者の人かな?」

「おぉ!?リザ、捜す手間が省けたぞ!」

「あぁ。まぁ部隊のメンバーから情報はきてるから会わなくても何とかなるんだけど」

「それは、いってはいけない」

「それで、会いたいのはどっちかな?」

「コジマは、クリスたんとユウたんに会いたいぞ!」

「クリスと……勇介か。そっか、あの二人と幼馴染なんだからそりゃ知ってるか」

「うん。コジマとユウたんは親友なんだ」

 

 うんうん、と腕を組みながら頷くコジマ・ロルバッハ。猟犬部隊の中でも主力に分類される存在の一人である。小柄で部隊のマスコット的な感じであり、末っ子のような可愛がり方をされているという話をクリスから聞いていた。

 

「ユウ……たん……っ」

 

 笑いを堪える大和を見て苦笑いを浮かべるリザ・ブリンカー。彼女は貧困街の出身であり、一時期はマルギッテとは犬猿の仲に近いときもあったという。美人を見慣れている(?)大和でも美人と感じるほどだ、男からの引く手は数多だろうが残念ながら男嫌いとの話だった。

 

「許してやってくれ。コジマはお嬢様とユウのことが本気で好きなんだよ」

「それは分かります。ただ、あの勇介がそんな呼ばれ方してると思うと……」

「本人の前で笑っても特に気にしないとは思うけどな」

「っと、とりあえずクリスのいる島津寮に案内するよ。勇介にもそこに来るように伝えておくから」

 

 

「コジー!」

「クリスたん!」

「本物のコジーだ!」

「クリスたんも本物だー!」

 

 何やら楽しそうに手を取り合ってくるくると回るクリスとコジマ。

 

「お久しぶりです、お嬢様」

「リザさんも元気そうだな!」

「はい、フィーネやテル、ジークもこっちに来る予定です」

「そうなのか!?楽しみだなぁ」

「あ、クリスたん!お土産!」

 

 コジマが差し出したのはドイツで有名な店のお菓子である。

 

「おお!ここのクッキーは絶品なんだ!ありがとうコジー!」

「後で一緒に食べよーな」

「コジマも食べるのかよ……で、ユウは?」

「あぁ、もう少しで来ると……」

 

 そんな話をしていると寮の玄関のほうで寮母であり、ガクトの母でもある島津麗子と勇介が話す声が聞こえてくる。

 

「お邪魔します、麗子さん。これつまらないものですけど」

「あら、そんなに気にしないでいいんだよ。馬鹿息子も世話になってるんだしね!でも礼儀正しい子はアタシは好きだよ!ドイツからのお客さんはあっちに皆といるから早くいってやんな」

 

 部屋へと入ってきた勇介を見たコジマがさらにぱぁっと笑顔を咲かせる。

 

「ユウたん!」

 

 抱きつく……というには勢いが強く、もし大和が受け止めようとすれば……待つのは大惨事だろう突進を勇介は軽く受け止める。

 

「コジー、いつも言ってるけど勢い強すぎるって」

「コジマな、ユウたんなら大丈夫だと思うんだ」

「いや、大丈夫だけど」

 

 苦笑いを浮かべ、コジマの頭を優しく撫でる。

 

「えへへ、久しぶりだなー」

「そうだなぁ」

「むぅ、ユウ、自分のことを忘れてないか?」

「いや、クリスはほとんど毎日のように会ってるだろ。……で、リザさんも久しぶり」

「や。元気そうで何よりだ。それにまた強くなってるんじゃない?」

 

 勇介を見てリザがそう言うと身体を触り始める。

 

「うん、やっぱり前より身体つきが更によくなってるね。やるじゃん」

「はは、ありがと。そういえばあずみさんと会ったよ」

「おぉ!本物のニンジャか!俺にも紹介してくれよ!」

「いいよ」

「あずみってあのあずみさん?」

 

 勇介とリザの会話に大和が興味を持ったのか混ざってくる。

 

「あぁ。あずみさんって昔女王蜂っていう通り名の傭兵だったのは知ってるよな?」

「うん、前に聞いた」

「で、そのあずみさんは元を辿ると風魔の流れを継ぐ凄腕の忍者なんだよ。それが有名で、リザさんは忍者に憧れてるから会ってみたいって話だ」

「忍者ってやっぱり分身とか?」

「あぁ。ホラ!」

 

 しゅっ、とリザが四人に分身する。

 

「自己流だけどな」

「リザさんは自己流で出来るっていうのが凄いことだって分かるべきだと思うがな」

「リザは私の友であると知りなさい。直江大和」

「マルさん!」

「隊長!」

「マル、急に悪いな」

「別に構いません。休暇という形で来たのでしょう。ならばゆっくりしていくといい」

「なーなー、ユウたん、勝負しよう!」

 

 突然、コジマが勇介にそういい始める。

 

「勝負……手合わせか?少しなら構わないけど」

「コジマもちゃんと修行していてなー、でも力の勝負は誰もできないからなー」

「テルマは?」

「ユウたんが勝手にどっか行ってから機嫌悪くてなー、相手頼んでないんだ」

「……なんかすまん」

「コジマは構わない!でも、今度いなくなるならちゃんと言ってからいくように!」

「あぁ、分かったよ。それじゃ庭に出るか」

 

 

 場所は変わって島津寮の庭。そんなに広いわけではないが、普通の寮についているものにしては広い部類だろう。

 

「コジー、ルールをいくつかつけるぞ。周囲を壊さないこと、あまり大きな音を立てないこと、あと時間は三分まで」

「わかった!」

 

 向かい合って構えを取る二人。それを見て大和は疑問に思う。

 

「コジマさんって勿論強いんだとは思うけど、どれくらいのものなんだ?」

「コジーは強いぞ。単純な力の勝負なら猟犬部隊でも一番じゃないか?」

「力だけであれば弁慶などと同格であると知りなさい。彼女も猟犬です。ドイツ屈指の部隊は伊達じゃありません」

 

 先手はコジマ。勇介と再会したときの突進よりも更に加速して突撃する。普段であれば回避しそうな攻撃も、周囲への被害を減らすために勇介は真っ向から受けとめざるを得ない。コジマの攻撃は見た目だけであれば単純なパンチだ。だがその一撃の威力は百代の正拳突きにも匹敵するのではないかと大和は感じた。

 

「コジマはあれでほとんど気を使っていません。彼女のような異質な能力を持った者が猟犬部隊には多くいます。そしてその全ては」

 

 マルギッテが自慢げな様子で言う。

 

「ユウによって更なる高みへと進んでいるのです。ドイツが誇る猟犬の調教師。一部の軍関係者はユウのことをそう呼んでいるのです」

 

 

 右、左と次々に繰り出される拳を勇介が受け流す。それも周囲に被害の出ない攻撃のみである。明らかに周囲へとダメージを与えないようにしているのはコジマではなく勇介なのだが、これは仕方のないことである。単純にコジマは手加減が苦手なのだ。

 

「むー、やっぱりユウたん、当たらない」

「そう簡単に負けてはやらないよ。……さ、俺からも行くぞ」

 

 コジマの拳を掻い潜って勇介の拳がコジマに襲い掛かる。

 

「ふん!」

 

 拳に対して頭突きをするコジマ。

 

「むー、ユウたんの拳は硬いと思う」

「いや、これを普通に頭突きでとめるのも大概だと思うぞ」

「まだまだ行くぞー!」

 

 次は拳と拳がぶつかり合う。

 

「あはははは!」

「前より威力上がったな。後は加減ができるようになれば文句なしだ」

 

 最後に大きく二人の拳がぶつかり合い止まる。

 

「時間だ」

「やっぱりユウたんは強いなー」

「いや、コジーもよかったぞ」

 

 単純な力だけでは勇介は負けるかもしれない。だからこそ気を纏って通常以上の力を引き出して戦っているのだ。それにほとんど気を使っていないコジマが対抗してるのだから、力の面での異常さは誰にでも分かるだろう。

 

「うんうん、ユウもコジーも相変わらず凄かったぞ!自分ももっと頑張らないと!」

「そうだな、クリスは立派な騎士になるんだからな」

「あぁ!」

「ふふ、お嬢様は既に立派な騎士ですよ」

「マルさんに言われると照れるな」

 

 相変わらずクリスに甘いマルギッテである。

 

「俺も後で相手してくれよ、ユウ」

「勿論。とりあえず俺はテルの機嫌をとらないと」

「ユウ、おそらくですがフィーネも内心では怒っていると知りなさい。彼女もユウのことをかなり心配していました」

「……何かビールに合うつまみでも考えとくよ」

「それがいい」

 

 マルギッテはそう言うと頷く。



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28話 猟犬部隊、襲来 後編

PCが壊れたので更新が遅れました!

あぁ……毎日更新の目標が……。


 突如やってきたコジマとリザとは違い、フィーネたちは前もって来る日を連絡していた。

 

「そろそろつく頃かな」

 

 そう呟いた勇介の視界に見覚えのある女性が飛び込んでくる。男性と比べても長身で、時折男性もぎょっとして彼女を見ている。ジークルーン・コールシュライバー。身長180cmを超える長身ではあるが、戦闘よりも医療を特に得意とする。彼女の特殊な能力はその治療にあるのだ。

 

「ジークさん!」

「あ、勇介ちゃん!おひさしぶり~!」

 

 ぱっと顔を輝かせると勇介のところへと駆け寄ってきたジークはそのまま勇介を抱きしめる。体格差があるため、ジークの胸に顔を埋める形になってしまった。

 

「うぷっ、ジークさん、急には驚くだろ」

「あ、ごめんね。嬉しくて」

 

 えへへ、と笑いながらペロッと舌を出す。

 

「全く。それでフィーネさんは?」

「副長なら電車の中で痴漢を捕まえて駅員さんに引渡しにいったよ」

「すまないな、勇介。遅れてしまった」

 

 フィーネ・ベルクマン。猟犬部隊の副長でもあり、天才と謳われたマルギッテと学校で競い合っていた才女である。特殊な能力ではなく、状況把握や物の分析などに長けている点が特に秀でているがオールマイティに何事もこなすことが出来る。

 

「大丈夫だよ。フィーネさんもお久しぶり」

「ちゃんと勉強はしていますか?」

「欠かしてはいないと思うよ。それに、あの星の図書館に色々と教えを請う機会にも恵まれたしね」

「あの九鬼従者部隊第二位のマープル殿ですか。流石と言っておくべきでしょうか」

 

 修行に明け暮れていたころの勇介に勉強を教えていたのはマルギッテとフィーネの二人。つまりは勇介にとっての姉代わりであり教師代わりでもあるということだ。

 

「フィーネさんのおかげでこっちでも恥ずかしい思いをしなくてすんだよ。俺一人だったら間違いなく勉強なんてそっちのけだっただろうからね」

「ふふ、貴方ならきっと大丈夫でしたよ」

 

 優しく頬を撫でるフィーネ。

 

「テルは来てるのか?」

「テルは空輸できています。あの鎧のままこちらまでは来ようと思っていたようです」

「あー……まだ男嫌いは治ってないのか」

「アレはそう簡単には治らないでしょう。ただ、勇介には会いたいといってましたよ」

「それは嬉しいけど何処に来るかは分かってる感じ?」

「お嬢様のところへ直接行くといっていたからきっとそこでしょう。隊長もそこにいると聞いています」

「コジマとリザさんもね。案内するよ」

 

 

 島津寮に着くとちょうど寮の目の前に空から巨大な鉄の塊が振ってくるところだった。その鉄の塊……鎧は勇介を見ると中から一人の女性が飛び出してくる。

 

「ちょっ!?それはしゃれになってないだろ!?」

 

 中から出てきたのがテルマ・ミュラー。元々生まれは有名な鉄鋼業を営む一族であり、そこで育ったテルマは機械などを自在に操る技術に長けていた。その技術を利用して作り上げたのが今テルマの着ていた(乗っていた?)鎧なのだ。彼女自身は通常の人間と大差ない程度の能力しか持っていないこともあり、勇介は焦ったのだ。

 テルマに向かって跳躍すると勢いを殺してテルマを抱きとめる。

 

「テル、流石に危ないって!」

「ユウなら簡単に助けてくれるって信じてたから、大丈夫よ」

 

 着地した勇介がテルマを静かに地面へと降ろす。その後ろでは鎧が自動で静かに着地しているところだった。

 

「な、何だ何だぁ!?ロボが降りてきた!?」

「いや、ロボってクッキーがうちにはいるだろ」

 

 外での音を聞いてだろうか、寮の中から翔一と大和が出てくる。

 

「って、やっぱり勇介の関係者……いや、クリスの関係者って言ったほうが正しいのか?」

「まぁ、どっちもでいいよ。なんとなく分かってるだろうけど、コジマとリザさんの同僚でもあるフィーネさんとテルマだ」

 

 そう言って二人を紹介しようとしたが、テルマはささっと勇介の後ろに隠れていた。

 

「……テル?」

「ふん、男には興味ないわ」

「全く。私の部下が失礼した。フィーネ・ベルクマンだ。よろしく頼む。こっちがテルマ・ミュラーだ」

「おう!俺は風間翔一だ!よろしく!」

「直江大和です。よろしくお願いします」

「直江……お嬢様から話は聞いています」

「ど、どんな話してるのかちょっと気になるな」

 

 そんな形で挨拶を交わした後、寮の中へと入る。

 

「お邪魔します」

「はは、お前ならただいまでも違和感ないけどな。とりあえずいらっしゃい」

「おかえりなー」

 

 もぐもぐと何かを食べながらコジマが歓迎する。

 

「コジー、なじんでるな……」

「麗子さんがすっごく気に入ってさ。色々な和菓子とかを差し入れてくれるんだよ」

 

 大和がそう言って苦笑いを浮かべる。コジマはどうやらくず餅を食べているようだった。

 

「お、それもしかして千花のところのくず餅か?あれうまいよなぁ」

「え、勇介いつの間に小笠原さんを呼び捨てに?」

「ん、前に学園で呼び捨てにしてくれって言われてな。別に問題はないと思ったから呼び捨てで呼んでる」

「……お前も大概コミュ力高いよなぁ」

 

 コジマから差し出されたくず餅を食べる勇介を見て大和が呟く。

 

「よー!」

 

 リザも奥から私服で現れる。知らない人が見れば下着に近いものに見えるだろうが。

 

「くつろいでいるな、二人とも。ここの住人に迷惑をかけていないか?」

 

 フィーネが二人に向かってたずねる。

 

「ぜんっぜん!コジマしっかりしてるから」

「品行方正がモットーなので」

 

 そんなことをコジマとリザが言っていると二階からクリスが降りてくる。

 

「おお、三人とも!はるばるようこそ!」

「川神に来たらまずはお嬢様に挨拶をと思いまして」

「何はともあれ、駆けつけました」

「お嬢様、お元気そうで何よりです」

 

 フィーネ、ジーク、テルマの順にクリスへ声をかけていく。歓談する猟犬部隊とクリスを見て風間ファミリー(寮組)も集まってくる。

 

「いやぁ、ああやってみるとクリスがお姫様みてぇだな!」

「猟犬部隊の誰もがクリスに敬意を払ってるもん。凄いよ」

「まぁ、フランクさんが凄い上に、クリスもああいう子だろ?皆に可愛がられてるんだよ。俺とかコジーとかテルは年代がほかより近い分、遊び相手になったりもしてたけどな」

『でもアレやね、まゆっち。お友達を狙うには難易度高そうだね』

「おおっと、そんなことはないぞ赤兎馬くん」

『松風ですぅ。ちょっとアレとは間違えんといて』

「はは、松風、まゆっち。ジークさんと後で話してみたらどうだ?ジークさんもどっちかというと友達欲しい組だからさ」

「が、頑張ってみます!」

 

 そんな話をしている間にクリスたちの歓談は一旦終わったようで。

 

「お嬢様、私たちはホテルに戻ります」

「いやいや、せっかく来たんだから茶ぐらい飲んでくれ」

「そうそう、たいしたお構いもしませんが」

「お前は少しは遠慮しろ」

 

 何故か答えたコジマにフィーネが軽く頭を叩く。

 

「あれ、どつかれた」

「コジちゃん、その服いつも着ている奴の日本版?」

 

 胸元に犬の絵が描かれていてその上に「INU」とローマ字で書かれた服だ。しかも載っている絵は別に日本犬というわけではないというオマケつきだ。

 

「お気付きになられましたか、見つけたので買い占めた」

「めっちゃ可愛いね~」

 

 目を輝かせて言うジーク。そのとき、寮の外から新たな人が入ってくる。

 

「おお……寮が国際色豊かになってるわ」

「強い気が集まってると思えば猟犬部隊の皆さんと勇介か。はじめまして。心に誠を掲げる美少女、川神百代です」

 

 現れるなりそう言った百代。

 

「自分の欲望に正直という意味です」

 

 更に後ろからマルギッテもやってきた。

 

「(これが武神か……なるほど凄まじい威圧感だ。闘気計算)」

「(とか、してるんだろうな)」

 

 フィーネのほうをチラと見て勇介はそう考える。

 

「あ、武神!良かったら後でサインくれない?」

「いいですけど、ただというわけにはいかないですね。ベタベタしませんか?」

「モモ先輩?俺の姉代わりの人たちに何をしようとしてるんですか」

「おおぅ……勇介がちょっと怖いぞ」

 

 じゃれ付く勇介たちを見ながら測定を終えたフィーネが少し驚く。

 

「(数値が設定された上限を超えてエラー……機械では計れないということか。破天荒だな。計れなかった相手はこれで勇介に続いて二人目か)」

 

 正確にはフィーネの装置で計れなかったのは龍を使った状態の勇介だが。

 

「同じく川神院、川神一子です!」

 

 丁寧な挨拶をする一子を見てコジマがうんうんと頷く。

 

「お前犬っぽいな。近しいものを感じる」

「っていうかコジマちゃんその犬Tいけてるな」

「武神のリスTも超クールだ」

「分かるか!」

 

 何故か意気投合する二人。

 

「……なんだかここにいる人たち、みんな達人な気がするよ」

「俺と大和は普通……って言い切るのは何かいやだな」

 

 翔一が言う。確かにこの場所の戦闘力は明らかに高い。もし害意を持って近づいてくるものがいれば逆に可哀想に思ってしまうほどに。

 

「さぁさぁ、話をするなら居間に行こう!」

 

 クリスがみんなを案内する。

 

「交流会といきますか。ほらまゆっち、準備&アピールだ!」

「は、はい!」

「知らない人がたくさん……それじゃ私はこれで」

 

 ボソッとつぶやいて京がその場を離れようとするのを勇介が腕を掴む。

 

「京、せっかくだから一緒に話をしよう。俺の家族みたいな人たちなんだから大丈夫だって」

「……わかった。勇介がそこまでいうなら」

「……ユウ、その子誰?」

「ん?あぁ、俺が小さいときに知り合ってて再会した子だよ。ほら、後で紹介するからまずは居間に行こう。クリスが怒るぞ」

「そうね。お嬢様をお待たせするわけにはいかないわ」

 

 勇介の言葉に素直に従うテルマ。若干大和と翔一から離れるように行動しているが、一緒に移動していることから少しは成長しているということだろう。

 

 

 こうして、ドイツよりやってきた猟犬部隊も川神にて休暇、ここにいるメンバー以外の猟犬部隊は一旦帰国し、軍の任務に就くこととなった。




テルマは勇介にべったり設定です(ぉぃ
よくある私がお姉ちゃん的な感じと家族以外で唯一心を許している男性としてですね。

PCは一旦復旧しましたが、いつ壊れるか分からない状態で戦々恐々です……。
なんとか一年くらい持ってほしいものです。

感想、評価等お待ちしております。モチベーションにつながってます!


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29話 曹一族と梁山泊 前編

まだまだ続くよヒロイン候補参戦用のお話。
これでまだヒロインルート始まってないなんて恐ろしい。


 場所は中国、深山幽谷。ここには、恐るべき一族がいた。

 

 曹一族。中国では伝説的な傭兵集団である梁山泊のライバルとして有名な一族である。

 

 

史文恭(しぶんきょう)、この手紙の客人連れて来いや。興味が沸いたわい」

「了解だ、当主」

 

 曹一族の現当主の手に握られた手紙。そこには梁山泊が欲する人材であり、なおかつ曹一族にとっても必要な男がいる、という情報だった。

 

「しかし、同じ時代に二人、可能性を秘めた男がおるとはな。……これだから長生きはしてみるものだな」

 

 ボソリと呟いた当主の言葉に誰も答えるわけでもない。だが、任務を言い渡された史文恭も当主と同じように興味を持っていた。

 

「私と同じ、『龍の眼』を持つ男か。興味が沸く」

 

 彼女の名は史文恭。曹一族の中でも最高レベルの武術を使いこなし、武術師範もしている女性である。彼女の眼もまた、勇介が力を解放したときと同じように黄金に輝いていた。

 

 

 ところ変わって梁山泊。世界最高の傭兵集団であり、今では伝説となっている英雄たちの集う場所である。ここに属する者たちは必ず普通の者にはない特異体質を持っている。ある者は炎を自在に操り、またある者は少し先の未来を見ることが出来る。

 

「皆、集まってもらってすまない。今回の任務について確認しておきたい」

 

 そう切り出したのは長い黒髪を持った女性、林冲だ。実力者揃いの梁山泊においても一目置かれており、今集まっているメンバーの中ではリーダー的な存在でもある。槍の名手で、その腕前は大陸一とも世界一とも謳われている。

 

「今回の任務は護衛だ。難易度は天」

「無駄に高すぎなーい?最高難易度だよ。せいぜい特とか」

 

 会議の場であるにも関わらず面倒くさそうな様子を隠さない少女、公孫勝(こうそんしょう)である。日ごろから働きたくないとゲームをしながら引きこもっているが、彼女の持つ特殊な力は『憑依』というものでかなり強い異能である。

 

「川神院と武神、そして九鬼……聞くところによるとドイツの猟犬部隊まで集まっている場所だぞ。そして、私たちの護衛対象は……勇介だ。それと、直江大和。こちらは曹一族が何故か狙っているらしい」

「なるー。もしかして何かの星の継承者かな?でも勇介は優しいから好き」

「お前は何もしなくてもやってくれる奴が好きなだけだろ。ってゆうかリン。わっちらより護衛対象のほうが強いってどうよ?」

 

 そう言ったのは史進(ししん)だ。小柄ではあるがかなり攻撃的でいわゆる猪武者である。槍の名手でもある林冲は棒術もかなりの腕前なのだが、棒術一位の座は彼女に譲られている。潜在能力ではいずれ梁山泊を背負ってたつ者だと期待されていたりもする。そして、彼女の能力は相手の異能を一時的に使えなくすることが出来る『消失』。彼女と戦う際には自身の武力を持って戦わなくてはいけなくなるということだ。ただし、本人がこの能力をほとんど使うことがないのだが。

 

「勇介もそうだが、直江大和にも蘆俊義(ろしゅんぎ)の資質があるという話だ」

 

 蘆俊義とは梁山泊において、第二位の位を与えられる者の称号のようなものである。求められる資質は多く存在するが、特に大きなものとして武士娘たちの管理能力というものが挙げられる。梁山泊にはそういった特殊な資質を持った者たちを見抜く専門の者たちもいるのだ。

 

「曹一族も、私たちと同じ理由で彼を狙っているわけだな」

 

 武松(ぶしょう)がそう言う。彼女は炎を操る異能を持ち、武器を使わず自らの体術で戦う梁山泊では珍しい少女である。口数が少なく、クールな印象を与えているが彼女自身は異能と同じくかなりの熱血である。

 

「うん。だから彼らを曹一族にとられないよう護衛しつつ、蘆俊義の才能が本当にあるか見極める」

「でもさ、リン。勇介は分かるけどこっちの男、そんな強そうに見えねーんだけど」

「蘆俊義の才は私たちを管理することに特に秀でている。武力だけでは分からないだろう?」

「護衛とかめんどくさいから、勇介残して直江大和っての、デストロイしたら?」

「もしくは強引にこっちへ連れ去っちまうとか!」

 

 過激なことを公孫勝と史進が言う。

 

「直江大和だが、彼は蘆俊義の資格者と言われるだけあり、武神や川神院とも懇意という。知ってのとおり勇介は私たちと同じように異能を持ち、楊志(ようし)がコピーしきれないほどの多彩な技を使う。しかも今は九鬼財閥の元に身を寄せているという。……そんな人間を強引にさらえば……」

「あんな連中、任務でもないのに敵に回したくないね。川神院に、九鬼財閥。勇介はドイツの猟犬部隊とも懇意なんだよね?」

 

 そう言ったのは楊志だ。一度見た技をコピーすることの出来る能力『模倣』を持ち、あらゆる武器に精通した器用な女性である。欠点をあげるとすれば、その趣味が美人のパンツを集めるという異常なものであることだろうか。ちなみにお気に入りは林冲のものらしい。

 

「そっか、それこそメンドイか」

「難易度が天というのも分かる話になってきたな。だからこそやりがいがあるというものだが」

 

 武松がやる気を漲らせる。それを見た史進が何か思いついたような表情を浮かべる。

 

「あ、パッドが何か思いついた顔だ」

「おい今パッドって言ったか、まさる?」

「命賭けても言ってないよ」

 

 さらりと嘘をつく公孫勝。

 

「ったく。わざと曹一族に大和を誘拐させるのはどうだ?そうすりゃ、武神が曹一族潰しにいくんじゃない」

「だから、そうならない手筈が整ったからこそ曹一族もいよいよ動き出したんじゃないの?」

 

 史進の言葉に楊志が反論する。

 

「うぬぅ……ナイス計略、わっち天才と思ったんだけどな」

「それでだ。今回の任務のために」

 

 林冲が一度言葉を切り、全員を見渡す。

 

「川神学園に転入する」

 

 

「はるー、えぶりばでぃ!今週はまたまた転入生を紹介しちゃうぞい。今回は大陸からの留学生五人じゃ」

「またそのパターンか。猟犬とやりあった鳴神に続いてクローンの後じゃ。動物やロボが転入してきても驚かぬわ」

 

 学園長の言葉に心が呟く。

 

「はは、ただ昨日の夜に覚えのある気が複数川神に入ったんだよな」

「ユウ、あなたの知り合いですか」

 

 マルギッテが勇介に聞いてくる。

 

「知り合い……まぁそうだな。川神に来るまでの途中で立ち寄ったんだよ。行ったのは偶然だけど」

「ほぅ……?そのあたりのことはまた詳しく聞くとしましょう」

 

 Sクラスでもわいわいと話が続いている。それはほかのクラスでも同じ事だった。

 

「フム……嫌な予感がする」

 

 そう言ったのは京だ。

 

「ということは留学生は女性ということか」

「おっ、クリも色々と分かってきたわね!」

 

 クリス、一子と言葉を続ける。

 

「あぁ、自分は成長しているからな!」

 

 えっへんと胸を張るクリスを温かい目で見る京。壇上に上がった五人の少女を見て武を志した者たちはその気配に少し驚く。

 

「強いわね……」

 

 そう呟いたのは一子だ。少なくとも川神院の師範代候補クラス以上はあるだろうか、もしかするとルー師範代と同等かそれ以上もあり得る強い気。

 

「学長最高!学長最高!!学長最高ッ!!」

 

 反して盛り上がるのは男たちだ。壇上に上がった五人が五人とも種類は違えど美人なのだから仕方ないことだろう。しかも、全員がチャイナ服を身に着けているからなおのことだろう。

 

「まったく……いちいち騒いで落ち着きがない奴らだぜ」

「気持ち悪いのうこのハゲは」

「あぁ、そっか。準は公孫勝みたいな子が好みなんだっけ」

「……待て、勇介。いや勇介さま。お前、もしかして」

「知り合いだぞ」

「お前、交友関係どうなってんだよ!?」

 

 

 壇上の林冲たちもまた、少し驚いていた。男子には馬鹿ウケだったが、武士娘たちからの強い闘気に当てられているのだ。しかも、それに混じって九鬼従者部隊、更にはヒュームまでがいるのだ。

 

「すげぇな。ガンガン闘気ぶつけてくるじゃねぇか」

「大河の濁流のような荒々しい気だ。乗せられるなよ」

 

 史進と武松の会話である。おそらくは百代とヒュームから発される気と威圧感だろう。百代は戦いたいという気持ちが、ヒュームは余計な動きをすればすぐにでも、というものが彼女たちに叩きつけられているのだ。

 

「(これが川神。何人か壁超え。または近い者がいる。武神と川神院の関係者以外では……)」

 

 すっと林冲が視線をめぐらせる。

 

「(勇介に噂のクローンと九鬼の従者部隊か。さらには欧州の猟犬に松永の娘……ほかにもいるな。さすが難易度天の任務。気を引き締めねば)」

「彼女たちは梁山泊からの留学希望者じゃよ」

 

 鉄心が説明を始める。

 

「梁山泊!これはこれは生臭い連中がでてきたねん」

 

 燕が驚き。

 

「報告にあった中国の傭兵集団か。いい面構えだ」

「紋さま、名刺のご用意をなされていますが、彼女たちを引き抜くのは骨が折れるかと」

「フハハ。いい瞳を見るとついクセでなぁ」

 

 紋白がスカウトしようかと動くのをヒュームが止める。

 

 鉄心の説明が続き、全員が一言自己紹介を始める。

 

「天雄星。豹子頭の林冲だ。宜しく」

 

 林冲はそう言うと勇介のほうをチラッと見て後に大和へと視線を流す。

 

「……ん?今のリンの動き……」

 

 勇介はその動きに違和感を感じて視線の先へと同じように向く。そこはFクラスの付近で更に違和感を強める。

 

「わっちは天微星の史進。九紋龍史進。よろしくぅ!」

「天暗星、青面獣の楊志。宜しくお願いするよ」

「天傷星、武松」

「天間星の入雲龍、公孫勝。天才だからよろしくしろ」

 

 全員が同じような視線を動きをしたのを勇介は確認する。

 

「……これは大和あたりに何かあるか?……後で確認するか。任務だと教えてくれないかもしれないが」

 

 

「改めて宜しく」

 

 Sクラスに配置されたのは武松。ほかの三人はFクラスらしい。公孫勝は学年違いだ。

 

「フハハハ!我がクラスも国際色豊かになってきたわ!」

「おじさんそろそろキャパシティオーバーだから、頼むから仲良くしてくれよ」

「ヒュホホ、ならば川神式歓迎会といくかのう」

「つまり……決闘ということか」

 

 心の言葉に義経が反応する。

 

「義経もわかってきたのだ」

「……私か、ユウか。どちらかが相手をするのが妥当でしょう」

「そうなるよな。俺はあっちの手の内を知ってるけどな。それはあっちも同じだけど」

 

 決闘の準備をしようかとSクラスが動き始めたとき、校庭にFクラスが出てきている。どうやら決闘を行うことになったようだ。

 

 進み出たのは京と史進。勇介がすっと目を細める。




はい、やっと人気投票のヒロインがほぼ全員出揃いました。

もうひとつ話を挟んだら個別ヒロインルートへと突撃していきます。
ルートによって登場する子や、全く関わってこない子などいますがご了承ください。

感想、評価等いつも励みになってます!

追伸:PCが一回壊れて復旧したのですが、怖いので新しいのを買いました。二、三日中に届く予定です(ぉぃ


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30話 曹一族と梁山泊 中編

 校庭で始まった史進と京の戦いは一方的なものであった。京は弓使いでありながらも、接近戦の腕前もかなりのものだ。だが、相手は梁山泊であり現役の傭兵である。

 

「まだまだ……!」

「弓兵が接近戦は無謀だったってことさ!」

 

 京が得意武器である弓を使わないことに合わせて史進もまた素手で戦っていた。それでも圧倒的なまでの差を見せ付けられていた。

 

「うりゃりゃりゃ!」

 

 史進の連撃の前に、京は押されっぱなしだった。だが、その目は何かを狙っている。そんな京に対して史進が思い切り拳を振り下ろす。

 

「っ!」

 

 京はその大ぶりを待っていたように。

 

「せいやっ!」

 

 拳を受け流しつつ、史進を投げ飛ばした。

 

「!?」

 

 もろに喰らった史進は空中でぐるりと回転して、地面に叩きつけられる。そのまま流れるように史進の関節を極めにかかる。

 

「……みょ~な技持ってるのな。大振りを狙ってたか。やるじゃん!素手勝負を選んだ理由が分かった」

 

 そう言うと史進は笑いながらむくりと起き上がる。しかも、腕を極めた京ごと強引にだ。驚いた京は危険を察知しすぐさま史進から離れる。

 

「でもやっぱ火力不足だわ。次は弓もってこい」

 

 ダン、と片足を前に出し、身体を半回転させる。

 

「ずあっ!」

 

 強烈な史進の体当たり。恐ろしいまでの速度の一撃を京は避けることが出来なかった。

 

「~っ!?」

 

 まるでトラックにでも跳ね飛ばされたかのように京の身体が宙を舞う。そのまま落下してくる京を抱きとめる者がいた。

 

「史進、少し……いや、かなりやりすぎじゃないか?」

「げっ!?勇介が出てきやがった!」

 

 抱えた京を見る。意識を失っているようだがおそらくは大きな問題はないだろう。あれだけの一撃だから骨は折れているだろうが。

 

「それまで!勝者史進!」

 

 梅子がそう宣言する。

 

「史進、前に言ったよな?やりすぎるなって」

「おい、鳴神。今はホームルーム中だぞ」

「こちらでも歓迎の決闘をする予定ですので。……史進」

「ユウ、待ってくれ」

 

 勇介を制したのはクリスだ。静かに闘気を漲らせている。

 

「史進、傷がいえたら自分とも戦ってほしい」

「はははっ、そんなクールなこと言うなよ」

 

 クリスの足元に向かって史進がワッペンを叩きつける。

 

「今やろうや」

「ユウ、自分にやらせてくれ」

「……わかったよ」

「そのほうがわっち的にもありがたい。勇介と川神院と九鬼絡みはわっちの担当じゃないから」

 

 

「おいおい、鳴神ってもっとクールな奴じゃなかったのか。おじさん、まさか急に飛び出していくとは思ってもいなかったんだけど。しかも窓から」

「ユウはいつでも優しいのだ」

「だね。それにユウって結構熱いところあるよね」

「兄貴らしいな」

「……まずいな。勇介が暴れると厄介だ」

 

 ボソリと武松が呟く。

 

 

 結果はクリスの惨敗。必殺の一撃を史進が歯で止めるという離れ技を見せ、そのまま敗れてしまった。京と同じく外傷はそうでもないものの、骨折はしていそうですぐさまマルギッテが現れ保健室へと連れて行った。

 

「……それで、史進。俺とやりあうつもりってことでいいよな?」

 

 珍しく闘気が漏れ出る勇介。

 

「だ・か・ら!わっちはお前担当じゃないっての。勇介の担当は……リーン!」

「……」

 

 ざっと勇介の前に立つ林冲。

 

「リン、お前がやるのか?」

「……あぁ。勇介を止めることが出来るのは私だけだ」

「……まぁ、あの戦いは本人たちの望んだものだからどうこうするつもりはないんだけどな」

 

 すっと闘気を消す。

 

「リン、放課後に詳しい話が聞きたい」

 

 林冲の傍まで近寄った勇介が耳元で囁く。一瞬ぴくっと反応した林冲が静かに頷くのを見て勇介は保健室に向かう。その後ろ姿をじっと見つめる林冲だった。

 

 

 京とクリスは病院に搬送、入院することになった。二人とも骨折であり精密検査を受けたりと大変だったようだ。マルギッテがクリスと京の面倒を見るといっていたので任せてしまっても大丈夫だろう。元々、病院である以上問題はないのだろうが。

 放課後の学園。勇介の前にいるのは林冲と武松だ。

 

「さて、説明してくれるよな?」

「勿論だ。その前に史進のことを許してやってほしい。私たちが梁山泊である以上、仕方のなかったことなんだ」

 

 真剣な顔で言う林冲の頭をポンと叩く。

 

「言っただろ、京たちが望んだことだから仕方ないって。やりすぎだろって言いたかっただけでな」

「言ったろう、リン。勇介ならそのあたりは理解してくれているだろうと」

「あぁ。……それで勇介。今回私が来た理由だが、これはお前と直江大和に直接関係している。そして、場合によっては周囲を巻き込んだ大きなテロになる可能性も秘めている」

 

 そこまで言われて勇介は可能性に気付く。

 

「まさか、曹一族か?」

 

 梁山泊と同じように歴史の裏に存在しながら、梁山泊以上に過激な行動を取ることで有名なのだ。

 

「そうだ。いくつもの状況が重なっていることもあって、この護衛任務の難易度は天……最高難易度に設定された。だから私たちが出てきたんだ」

「川神院、九鬼、猟犬部隊。そこに曹一族まで入ってくるから仕方がない」

 

 目を閉じながら武松が言う。

 

「俺は自衛できるからいい……ってわけにもいかないんだよな?」

「あぁ。確かに勇介は私たちと同等か、それ以上に強い。だが、だからと言って曹一族の刺客を確実に倒せるとは限らない。勿論、基本的な護衛対象は直江大和だ。だから、私が椎名京に挑まれる結果になった」

「……あー、もしかして大和に自然に近づくために興味があるーとかなんとか言ったのか?」

「あぁ。そんなところだ。よく分かったな」

 

 京ならば確かにそんなことを言われれば決闘を挑んでもおかしくはないだろう。

 

「まぁ、事情は分かった。俺は九鬼極東本部まで帰れば大丈夫、と見ているんだな?」

「あぁ。流石の曹一族も、あの場所へ入り込んで勇介を浚うなんて芸当は出来ないだろう」

「……確かに」

 

 仮に勇介を倒せるだけの相手であっても、アレだけの数の強者、しかもそこにヒュームが混ざるのだ。不可能と言っても過言ではないだろう。

 

「……よし、決めた」

「どうした?」

「俺も大和の護衛を手伝おう」

「……え?」

 

 

「おー、勇介も仕事手伝ってくれるのか?楽できそうでいいなー」

 

 林冲に案内されたのはホテルのある階層。どうやらこのホテルの一フロアを貸しきっているようだ。その中のひとつの大部屋に全員集まっている状態だった。ごろごろとしながら勇介に声をかけてきたのは公孫勝だ。

 

「お前は相変わらずだな」

「ふっふっふー。天才の私ならこれでも許される」

「許されねーって。ちゃんと働けまさる」

 

 何故か自慢げに言う公孫勝に史進が呆れ顔で言う。

 

「働いてるって。ほら、ちゃんと学園いったし?」

「まー、まさるならそれでも十分働いてる気がしなくもないねー」

 

 楊志もニヤニヤしながら言う。

 

「私が戦うよりも勇介が戦ったほうが強いだろー。あ、それか勇介が気絶してくれれば私が強くなれる!」

「いやいや、それはお前が強くなったとは言わないんじゃないか?」

 

 勇介が苦笑いを浮かべる。

 

「まー、冗談はさておき、勇介も手伝ってくれるっていうのは楽できそうでいいなー」

「それには同意するよ。勇介が美少女だったらなおよかったんだけど」

「俺が美少女とか……それ既に俺じゃないだろ」

「……あれ、意外と女装したら似合うんじゃない?リンと同じく長い黒髪なんだし」

「そうかぁ?……あれ、わっちも意外とイケる気がするぞ!?」

 

 何故か盛り上がる梁山泊。

 

「いやいや、待て。何で俺を女装させることになる!?必要はないだろ」

「ほら、梁山泊って全員女だし」

「楊志、今思いついただろ。事実とはいえ、俺や大和を護衛しようとしている以上その言葉は通らんぞ」

「わっちは面白そうだから女装に賛成するぜ」

「そんなことをしてる時間はないだろ。今この瞬間に大和が浚われたらどうする」

「大丈夫だ。曹一族は邪魔をしてこなければ基本的に一般人を巻き込まない」

 

 林冲がそう言う。

 

「交代で直江大和を護衛する。出来るだけこちらの……闇の世界を知られないように」

 

 

「なぁリン」

「なんだ、勇介」

 

 時間ごとに大和の監視をするメンバーを交代していたのだが、今は勇介と林冲の時間だった。今日に関しては勇介が全時間待機する予定だったから交代するのは梁山泊側だが。

 

「せっかく学園に通うんだから、任務以外にも楽しんでみたらどうだ?」

「楽しむ?……私たちは任務で来ているんだ。つまりは仕事だから、楽しむなど……」

「硬く考えすぎだ。任務かもしれないけど、今のリンは川神学園の生徒でもあるんだ。学生の本分は勉強と遊ぶことだ」

「そうなのか?学生の本分は勉学というのは知っているが……」

「遊ぶこともだよ。だから、今度武松を連れて甘いものでも食べに行こう」

「ふふ、きっと武松は喜ぶな。見た目では分からないだろうが」

 

 林冲が少し笑う。

 

「うん、お前は笑ってるほうがいいな」

「……」

 

 勇介の言葉に少し俯く林冲。勇介が何かに気付いたようにはっと寮を見る。

 

「侵入したな。強いな、こいつ」

 

 

 一分もしないうちにだらんと手足に力が入らない状態の大和を抱えた史文恭が出てくる。軽く壁を飛び越えて着地したところに林冲が声をかける。

 

「待て」

「豹子頭、林冲。ここで会うとは」

 

 スポーツバッグを放るような感じで大和をどさりと地面に落とす。

 

「その少年を置いていってもらうぞ、史文恭」

「へぇ、この人が史文恭か」

「もう一人の目標か。標的が勝手に来てくれるのは楽だが、状況が悪いな」

 

 史文恭はそういいながらも余裕の様子を崩さない。

 

「しかし、護衛の存在は想定済み。罠を仕掛けてある」

 

 ちょんと勇介と林冲の足元を指差す。

 

「右足を地面から離せば、特殊トラバサミがガチャリ」

 

 林冲が視線を足元へと向ける。その一瞬の隙を史文恭が逃すはずがない。

 

「嘘だよっ!」

「知っている!」

 

 史文恭の一撃を槍で受け流す林冲。始まる二人の攻防。激しい林冲の槍撃を人体の構造的にありえない角度に首を曲げ回避する。

 

「大和、大丈夫か?」

「……」

 

 喋ることも動くことも出来ないようだが無事そうで勇介は少しだけほっとする。

 

「ちょっとだけ待っててくれ」

 

 大和にそう言った勇介の目が黄金に輝く。

 

「ちょっとばかしオシオキがいるみたいだからな」

「ほう……それが私の目と同じ龍と呼ばれるものか」

 

 史文恭の持つ目……龍眼。筋肉の些細な動きなどから次の行動を予測する……圧倒的な動体視力と経験を持つ史文恭だからこそ使いこなせるものである。勇介のものとは種類は違うが圧倒的なものであることは間違いないだろう。

 

「俺の友達に手を出したんだ。覚悟は出来てるんだろうな?」

「ふ、素人の小僧にそのようなことを言われるとはな」

「勇介、気をつけろ。史文恭は私の知る限り曹一族最強だ」

「俺の師は……」

 

 睨むように史文恭を見る。

 

「世界最強だ。そして俺はそれを超えるんだから、簡単には負けてやらないぞ」



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31話 曹一族と梁山泊 後編

お待たせしました!
新しいPCですので誤字がいつもより増えそうで怖いですが……。


 史文恭と勇介の戦いはすでにはじまって数分経っていた。

 

「ふふふ……その若さでそれだけの腕を身に着けるとは……かなりの努力を重ねたのだろうな!」

 

 史文恭との攻防に勇介は刀を持ち出していた。いや、出さなければ間違いなく殺られる(・・・・)。巨大な金棒を振り回す強力な一撃一撃をいなしながら勇介も攻撃を放つがそれを軽々と史文恭は受け止める。

 

「しかも、私たちと違い日の光を浴びた世界でそれほどとはな!」

「俺も、あなたみたいな実力者が裏家業にいるのは逆に驚きですけど、ねっ!」

 

 一瞬史文恭が見せた隙。明らかに故意に作られたそれに勇介は敢えて攻撃を加えていく。

まるですべての攻撃が読まれているような回避や防御を繰り返される。

 

「まさか……動きが読まれてる?」

「勇介!史文恭の眼は全ての動作を読み取る!」

 

 究極の動体視力と、経験から生み出される史文恭の動きは裏の世界でも有名だ。

 

「それは俺も」

 

 勇介の龍眼は龍の力が溢れ出るもの。気の流れを読むことが出来るそれも史文恭のものと似通っている。ただし。

 

「気を使った戦いであれば、負けるつもりはない!」

 

 闘気を漲らせた勇介が先ほどまでよりさらに加速する。激しい連撃。それに応戦する史文恭の顔には笑みが浮かぶ。

 

「リン!援護に……って勇介がやりあってるのかよ!」

 

 史進たちが到着するなり驚きの声を上げる。

 

「うわぁ……アレやばいんじゃない。援護もできないよ」

 

 楊志も見るなり同じような反応をする。勇介の刀と史文恭の金棒、二つの攻撃がぶつかり衝撃や風圧が周囲に吹き荒れる。

 

「おいおい、勇介も住宅街ってこと忘れてるんじゃないのかー?」

「いや、あれはちゃんと意識して戦っている。ああ見えて周囲の建物などに傷一つつけていない」

 

 公孫勝の言葉に答えた武松。武松の言う通り、周囲の木々などが揺れたりはしているが地形などにはダメージはない。

 

「少しばかり時間をかけすぎたな」

 

 勇介の刀と金棒をぶつけ、距離をとった史文恭がつぶやく。その言葉を聞いた林冲がはっとする。

 

「史進、楊志!」

「おうよ!」

「あいよ」

 

 林冲の声にすぐさま意味を理解したのだろう、史進と楊志は動きだす。

 

「だが、遅い!」

 

 これまでより一際強く振るわれた金棒によって起きた風はもはや暴風。その風に紛れてあっという間に遠方へと逃げていく史文恭。

 

「待ちやがれっ!」

 

 史進と楊志が追いかけていく。勇介はそれを見送って大和に近づく。

 

「大丈夫か、大和」

「……」

 

 何も言わない大和を見て勇介は史文恭に何かやられたと気づく。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 大和に触れると乱れた気を整える。

 

「っは!?」

「治ったな」

「あ、あぁ。ありがと……っていうか、何が起こってるんだよ!?勇介もそうだけど、林冲まで……」

「事情はリンから説明がある。俺はちょっと武松と話がしたい」

「……私?」

 

 

 林冲が大和の部屋へと説明をするために離れている間に勇介と武松は寮の傍の公園の椅子に座っていた。

 

「ほら、これでいいか?」

 

 コンビニで買ってきたプリンを武松に渡す。そこまで表情には出ていないが、かなり喜んでいる武松に軽く微笑む勇介。

 

「さて、武松。聞きたいのは史文恭についてだ。あの人が曹一族からの刺客だっていうのは分かった。で、」

「史文恭。曹一族で武術師範している。私たちと幾度となくぶつかっているけど一度として勝ちを拾えたことはない」

「……とにかくヤバイってことはわかったよ。で、あの龍眼っていうのは相手の小さな予備動作なんかを見極めている……っていうのであってるか?」

「うん、おそらく。正確な情報は少ない相手だから」

 

 武松の言葉を聞いて勇介は少し考える。

 

「その能力に加えて歴戦の傭兵だと。出来れば味方にしておきたいな」

「……それは難しい。曹一族の長の命に従って動いているはずだから」

「とりあえず、俺は寮母の麗子さんにお願いして寮に一時住ませてもらえないか確認するよ」

「わかった。リンも多分その手段が取れないか確認すると思うけど」

 

 

「あぁ、いいよ」

 

 翌日、麗子さんに菓子折を持ってたずねて行ったところ、全くためらうこともなく許可が下りた。

 

「いいんですか?」

「勿論さ。あんたみたいな礼儀正しいイケメンなら大歓迎さ。それに、京ちゃんのことも聞いてるよ。いいことしたね」

 

 バンバンと勇介の背中を叩く麗子。

 

「……俺はそんな。結果として救ってあげたのは大和たちですし」

「でも、あんたもきっかけを作ったのは事実さ。自分のやったことで人が救われたんだ。胸を張りな!」

 

 そう優しい言葉をかけてくる麗子をじっと勇介が見つめる。

 

「なんだい?」

「いや……母親って、いたらこんな感じなのかなって」

「あっはっはっ!うれしいこと言ってくれるねぇ。あんたの母親は知らないけど、アタシみたいな感じじゃないと思うけどねぇ。でも、あんたが望むのなら母親と思ってくれてもかまわないよ!」

「ありがとうございます、麗子さん」

「ゆ、勇介先輩!もしかして島津寮に泊まるんですか!」

 

 そう言って台所のほうからこっそりと顔を出したのは由紀江だ。どうやら麗子が淹れてくれたお茶がなくなっていることを知ってお茶の準備をこっそりとしていたようだ。なぜこっそりなのかはわからないが。

 

「由紀江ちゃんもそういえば知り合いだったんだね。世間が狭いのか、勇介ちゃんが顔が広いのか……由紀江ちゃん、こういう縁は大事にするんだよ」

「えぇっ!?は、はいっ!もちろん私はそのつもりですが、その、勇介先輩がどう思われているのかが大事でして……」

 

 ちらちらと勇介を見ながらどんどん小声になっていく由紀江。

 

「ん、俺は由紀江のことを大事な友達と思ってるぞ。でもなぁ、最近由紀江は俺のことを先輩って呼んで他人行儀なんだよな」

「えぇ!?そ、その……学園の先輩に対してさん付けというのは失礼かと思って……」

「ほら、大和たちのこともさん付けだろ。ってことは俺との距離があるってことじゃないか?」

「そうだねぇ。由紀江ちゃん、恥ずかしいのはわかるけどちゃんと言いな!」

「は、はいっ!え、えっと……勇介……さん」

「これからもよろしくな、由紀江」

 

 微笑んだ勇介に顔を真っ赤にした由紀江がお茶を差し出して走り去る。

 

「あらあら。勇介ちゃんは罪作りな男だねぇ」

「?よくわかりませんが」

 

 

「勇介も島津寮に来てくれたんだな」

 

 林冲も無事麗子さんとクリス、京からの許可を貰ったらしく、部屋を間借りする形で島津寮にいることになったらしい。ただし、クリスは勇介が島津寮に寝泊まりすると聞いて帰ると騒いでちょっとした騒動になったという出来事があったのだが。

 

「一時は大和の傍についていたほうがいいだろう?説明はしたんだよな?」

「あぁ。その上で私たちが傍にいることを認めてもらった」

 

 林冲の言葉に勇介がうなずく。

 

「それならいい。それで、史文恭の対策とかはできるのか?」

「一対一で止めることが出来るのは私くらいだ。私以外が直江大和の護衛をするときにはある程度の距離で二人以上で行動することになる」

「……少し物々しい気もするけど仕方ないな。俺も朝一とかを除いてできるだけ傍にいることにするよ。だから、できるだけ大和に自由な時間を上げてくれ」

 

 勇介が言ったことに林冲も納得したようで、共有しておくという。

 

「何はともあれ、狙われないことが一番だな。史文恭か曹一族にコンタクトが取れれば可能性はあるか……?」

「それは危険だ!いくら勇介とはいえ、曹一族、特に史文恭は別格だ。実際に戦ったんだからわかるだろう?」

「わかる。だからこそ、俺としては味方にしたいんだよな。できればあの戦闘センスを俺のものにしたい」

「強さに貪欲なのはいいことだが、さすがにそれは……」

 

 林冲が苦言を呈するが、次の日に勇介の願いは成就されることになる。

 

 

 翌日、大和には林冲がついていた為、勇介は一人で散策していた。

 

「……ん、あれって」

 

 まさか、と思った光景。図書館の中で優雅に読書をしている女性が目に入る。忘れもしない、史文恭である。警戒を解かずに勇介は図書館へと入り史文恭に接近する。

 

「自分から私のところに来るとは、変わったやつだな」

 

 本から目をそらさずにそう言う史文恭。勇介は自然な形でそんな史文恭の隣に座る。

 

「それはお互い様……ってわけでもないか。まさかこんなところで堂々と本を読んでるとは思わなかったよ」

「私は本を読むのが好きなのでな。特に図書館のような場所は私にとって至高の場所だ」

「それは同意するよ。……それで、ちょっと話したいことがあるんだけど。依頼として」

 

 勇介の言葉にぴくりと少し反応した史文恭は、読んでいた本を閉じると勇介へと視線を向ける。

 

「ほう?冗談で言っているというわけではないようだな。それで?私たちは安くはないぞ?」

「それはわかってるよ。……大和から手を引け」

 

 勇介から純然たる殺気が史文恭にたたきつけられる。それを受けた史文恭はニヤリと笑う。

 

「直江大和か。ふふ、気づいているのかいないのか。お前自身も私の捕獲対象だぞ?」

「知ってる。そのうえで言ってる。更に言うなら、俺が武の道を生きていく中で、アンタの力は役に立ちそうだから雇いたいって言ってる」

 

 挑戦的な物言いを敢えてしていることに気付いているのか、史文恭は愉快そうな顔で勇介を見ている。

 

「それで?私を雇いたいということか?」

「あぁ。それに、俺や大和を狙ってるんなら上のやつとも話がしたい」

「……ふむ」

 

 少し考え込む史文恭。

 

「……いいだろう、少し待て」

 

 

 図書館から出て外。史文恭が自分のスマホで連絡を取る。

 

「……意外と現代的なんだな」

「私たちをなんだと思っている。これでも傭兵だぞ。……当主。話がある」

 

 勇介からの話を軽く掻い摘んで話した史文恭。電話越しに笑う老人の声が聞こえる。

 

「……当主が話をするとのことだ」

 

 そう言って史文恭がスマホを渡して来る。

 

『お前が鳴神勇介か』

「そうだ」

『史文恭から話は聞いたぞ。本来ならば直接連れてくるように史文恭に言っていたのだが、まさかそちらから話がしたいとは驚いたぞ』

「単刀直入に言う。直江大和から手を引け。話があるなら俺が相手になる。もし拒否するのなら」

『するのなら?』

「お前ら全員を完膚なきまでに叩き潰す。……俺の持てる全ての力と人を使って」

『……ははははは!!それは恐ろしいな。ドイツ軍に九鬼従者部隊あたりか?もしかすると川上院も動くかもしれんな。ククク……やはり面白いな』

 

 笑いがこらえきれないといった様子で曹一族の当主は笑う。

 

『いいだろう。直江大和からは手を引いても構わぬ。ただしお前は必ずワシの元に来るのだ。日時は問わん。ワシが生きている間に来るのであればな』

「約束しよう。それとお前たちを雇いたい。というか、史文恭だけだけど」

『そやつは曹一族の武術師範だぞ?史文恭と渡り合ったお前に護衛が必要だとは思えんが』

「俺が欲しいのは史文恭の腕前だ。俺の修行相手としてほしい」

 

 一瞬、スマホの向こうが固まる。

 

『はははは!本当に長く生きてみるものよな。まさかワシに対してそのようなことをいうやつがいるとはな!おい、史文恭にかわれ』

 

 そう言われて史文恭にスマホを返す。

 

「どうした当主。……あぁ。あぁ。……いいのか?わかった」

 

 ピッと電話を切った史文恭が勇介に視線を向ける。

 

「当主からの指示と許可が出た。お前を必ず連れ帰ること。ただし、その時期についてはお前の自由だそうだ。そして、それまで私はお前の護衛兼鍛錬相手として過ごすように、と。依頼料は私がこちらで過ごす場所だけで構わないそうだ」

「……破格だな。それで、お前どこに住んでるんだ?」

「適当なところで野宿か、その気になれば適当な山にでも籠るが」

「いやいやいや、普通にホテルくらいとれよ」

 

 あきれる勇介。

 

「仕方ない。猟犬部隊のみんなのホテル、確か空きがあったと思うからうまいことそこに入れるようにしてもらうか……フィーネさんに」

「ふふ、よろしく頼むぞ。主」

「……いや、別に俺はお前の主じゃないぞ」

「依頼主にあたるだろう?今だけはある意味主だ」

「……お前がそれでいいなら構わないけど」

 

 こうして川神に史文恭が滞在することになる。この話をしたことで梁山泊側と史文恭の間で衝突があったりしたのだが、それはまた別の話である。




PCも復活したので、できるだけ再び更新速度を上げていきます!
あとは天衣さんの登場シナリオで出会っていない


また感想、評価等お待ちしております!


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32話 元四天王の憂鬱

 生まれついて恐ろしいまでの幸運を持った者たちがいる。九鬼家当主の九鬼帝しかり、風間ファミリーのリーダーであるキャップこと風間翔一しかり。そういった者たちがいる以上、逆に恐ろしいまでの不運を纏った者もいる。

 元・武道四天王である橘天衣(たかえ)。彼女もまた、そういった不運を生まれ持った者である。

 

 

 ある日、勇介が朝の鍛錬を終え河原のあたりを走っていたところだった。川岸で釣りをしている女性から立ち上る禍々しい気。いや、彼女からというよりは彼女に纏わりつくように、と言ったほうが正確だろうか。あそこまで負の気を纏った人物を見たことがなかった勇介は驚き固まる。

 

「……あれ、すごいな。あんな状態だともはや不運なんてレベルじゃない気がする」

 

 ぼそりとつぶやいた勇介の目の前で女性が魚を釣り上げる。遠目に見たところ、どうやら川神ウナギと言われる変わった魚のようだ。

 うれしそうな表情を浮かべた女性は笑顔になりながら魚を手に取ろうとする。そのとき、女性が手に持った魚をめがけて鳥が急降下してくる。鳥の突撃を魚をかばうように回避した女性は足元に何故か落ちていたバナナの皮で滑る。

 

「危ないっ!」

 

 倒れそうになっていた女性を勇介が咄嗟に近づき抱きとめる。

 

「っ!?」

 

 驚いた女性が手に持っていたウナギを手放してしまい、川へと戻りそうになる。それを勇介がぱっと掴むと女性へと視線を戻す。

 

「余計な事だったかな?」

「いや、危うく今日一日のご飯を失うところだった……」

「……今日のご飯?」

 

 手に掴んだウナギを見る。確か高級食材ではあったと思うが、だからと言って一日のご飯というには少し、いや全く足りないだろう。

 

「あと、助けてもらって悪いんだが……私にあまり近寄らないほうがいい……」

「……それってもしかして、すごく運が悪い……とか?」

「!?わかるのか!」

 

 がばっと言う効果音が聞こえてきそうな勢いで女性が勇介の手を握る。

 

「ま、まぁ、直接言っていいのかわからないですけど……不運に見舞われそうな気を纏ってますし」

「やっぱりそうか……助けてくれてありがとう。ただ一緒にいると」

 

 先ほどの鳥が再度勇介の手元のウナギをめがけて飛来する。はっとした天衣が手を出そうとするのを勇介は制する。突撃してくる鳥を軽くさけると鳥に対して殺気を放つ。驚いた鳥はどこか遠くへと飛んで行った。

 

「大丈夫ですよ、俺なら。よかったら食事でもどうです?」

 

 

 二人でやってきたのは梅屋だ。ここではヒュームに敗北した釈迦堂が働いていた。

 

「しっかし、お前さんもなかなかに顔が広いな。とっかえひっかえか、うらやましいやつめ」

「いやいや、そんなんじゃないですって」

「っ!っ!」

 

 がつがつと牛丼を食べる天衣を見ながら勇介は釈迦堂に言う。

 

「でも、ちゃんと働いてるんですね。モモ先輩とかから聞いてた話だと……」

「俺がこんなところで働きそうにないってか?百代め、次にあったらバッテンを崩してやる」

「はは、ほどほどにしてやってください。でも、まさかこの人があの橘天衣だとは思ってもみなかったですけどね」

 

 牛丼を食べながら本当に幸せそうな表情を浮かべている女性が武道四天王に数えられていたとは思えない。勿論、強そうな気配は感じ取っていたのだが、それ以上に纏った負の気が強すぎた。

 

「ふぅ……御馳走様でした。すまない、ここまで食べておきながらなんなんだが、本当に御馳走になってもよかったのだろうか?」

「勿論ですよ。俺が誘ったんですから。それじゃ釈迦堂さん、また来ます」

「おう、今度は一子とかも連れてきてやれよ。まいど、ありがとうございましたー!」

 

 

「本当に礼がこんなことでいいのか?」

 

 先ほどの河原で勇介と対峙した天衣が尋ねてくる。

 

「えぇ。元とは言え武道四天王に数えられていた天衣さんなら俺の修行相手としても申し分はないですよ。なんでしたらそのまま定期的に相手してくれるなら食事くらいいくらでもおごりますよ」

「気持ちは受け取っておくよ。でも、さすがに年下に養われるのはちょっとな」

 

 はは、と笑いながら拳を握り構えを取る天衣。勇介も同じように構える。

 

「もし、隕石が落ちてきたりしたら私のことは気にせずすぐに逃げるんだぞ」

「隕石くらいなら吹き飛ばしますよ」

「ふふ、、まるで百代のようなことを言うんだな。……それじゃ、いくぞ」

 

 予備動作すら見せない加速。目の前にいた天衣の姿がかき消える。咄嗟に感じた気を流れに沿って勇介は防御を固める。その防御の上からくる衝撃。

 

「っ!この速さ!」

「ほら、まだまだ行くぞ!」

 

 黛流の神速の一撃と並ぶほどの速度を出す天衣の攻撃に勇介は驚きの声を上げる。百代の攻撃などと比較してしまえば、確かに決定力不足に見えなくもない。だが、圧倒的なまでのその攻撃速度と、回避速度は目を見張るものがある。

 

「鳴神流」

 

 勇介の気が爆発的に上昇するのを感じた天衣は一気に距離を取る。

 

龍哮(りゅうこう)

 

 まるで龍の咆哮のような轟音を立てて勇介の気が離れている天衣へと襲い掛かる。

 

「なっ!?」

 

 速度もそうだが、回避する隙間すら存在しないようなその攻撃に驚いた天衣はすぐさま防御の態勢を整える。

 

「ぐっ!」

 

 気の攻撃そのものは耐えた天衣だったが、ごっそりと気を削り取られる勇介の技に天衣は一瞬だけひるむ。その隙を狙っていた勇介が一気に天衣に接近する。

 

「鳴神流星喰(ほしばみ)!」

 

 撃ち込まれた拳がきれいに天衣に当たり、身体が崩れ落ちそうになるのを勇介が抱き留める。

 

「はは……強いな、君は」

「俺は最強を目指してますから。……天衣さんの動きも使わせてもらいますよ。それと、ちょっとだけ試したいことがあって技を当てたんですけど」

「それはもしかして、あの気をごっそりと削り取られた感じのやつか?君の奥の手かな?」

「一応は。……うん、負の気が少し和らいだかな。天衣さん、今日一日不運がいつもよりも緩和されていたり、改善されてたら俺とこれからも修行しませんか?」

 

 

「本当に私の不運が治っていたんだっ!!」

 

 勇介の手を握りキラキラと目を輝かせながら言う天衣。勇介は優しく微笑みながら話を聞いていた。

 

「まぁ、聞いた感じだといつもよりは明らかによくなってるみたいでよかったです。あ、あとヒュームさんからちょっとだけ昔のことを聞きました」

「う……あれは若さゆえの過ちといったものなんだ」

「その辺りのこともちょっとだけ。あとはモモ先輩が復帰してくるのを楽しみにしているって言ってたよ」

「百代らしいな」

 

 笑いながら河原に立ったテントの傍に座る。

 

「そういえば、勇介は以前の四天王を知っているか?」

「武道四天王ですか?……モモ先輩、川神百代は不動。引退したのが九鬼揚羽、橘天衣……それと鉄乙女、ですね」

「そうだ」

「実は、一通り手合わせしたことはあるんですよ。天衣さんともしたからコンプリートですね」

 

 勇介の言葉に驚く天衣。

 

「まさか、あの鉄とも面識があったのか」

「九鬼絡みの仕事でちょっと。絵に描いたような模範生って感じでした」

「はは、あの人も変わらないからな。それで、私の運気がよくなったのは間違いないが、勇介は大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。天衣さんに対して言うのはアレですけど、俺は運いいですしね」

「うらやましい限りだな」

 

 そんな話をしながら天衣の傍に勇介も腰を下ろす。

 

「あと、揚羽さんとヒュームさん二人からの提案だけど、よかったら九鬼で働かないかってさ。堅苦しいのが苦手なら、まずは以前と同じように揚羽さんの新技開発の相手とか、俺や義経たちの修行相手なんかでもいいぞ、って」

「……私なんかがそんな好待遇で……」

「少なくとも、揚羽さんや俺なんかはそれだけの価値がある存在だって思ってるからこその提案だと思うよ。それをどう受けるかは天衣さん次第ではあると思うけど」

 

 勇介の言葉に考え込む天衣。

 

「俺も今は九鬼に世話になってる。しかも特に何かをしてるわけでもないのに。それを考えたらちゃんと仕事として誘われてる天衣さんのほうが立派だと思うけどね」

「そうか……うん、そうだな。私自身も自分から動かないとダメだよな。せっかく勇介がくれた運気とチャンスだ。逃すのも失礼ってものだろうしな」

 

 自分を納得させるように頷く天衣。その表情は今までのようにマイナス思考なものではなく、明るく前を見たものだった。

 

 

「フハハハ!よく来たな、天衣」

「久しぶりだな、揚羽」

 

 久々に再会することになった二人。その場には勇介も立ち会っていた。

 

「それで、今回ここに来たということは我からの打診を受けてくれるということでよいのだな」

「あぁ。……勇介がくれた折角のチャンスを見逃すわけにはいかないからな」

「ふふ、さすがは勇介であるな」

「俺は特に何もしてないけど」

「謙遜するな。結果として天衣の運気を回復させて九鬼への勧誘までしたのだ。誇っていいことだと我は思うぞ」

 

 揚羽が勇介の頭を軽くなでる。

 

「天衣よ。お前には我のスパーリングの相手と、義経たちの修行の相手をやってほしい。お前の速さなどはいい経験になるはずだ。それでお前自身も武の道に生きたいと思うのであれば九鬼はそのサポートを喜んでするぞ」

 

 揚羽の言葉に天衣は頷く。

 

「わかった。……それとできればで、いいんだけど」

 

 ちらっと勇介を見る天衣。

 

「勇介にも、お礼がしたい。だから定期的に時間が欲しい」

「あ、それは俺からもお願いしたいかも。天衣さんと手合わせしたり、あとは定期的に運気を調整しないといけないかもしれないから」

「ふむ……いいだろう。それにしても先ほどの発言だけ聞けば、逢引きがしたいから時間をくれと言っているようにしか聞こえんな」

 

 笑う揚羽と動揺する天衣。そんな二人を見て勇介は笑うのだった。




個人的にはアニメ版の天衣さんは天衣さんで強そうでかっこいいと思います(サイボーグ感)


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小雪ルート
33話 ある休日のひととき


体調不良や仕事が忙しく更新が滞っておりまして申し訳ございません!
失踪はしませんのでお待ちください!

ここから個別ヒロインルートになります!


「ねーねー、ユウ。今度みんなで泊りがけで遊びにいこーよ!」

 

 授業が終わったところで小雪が遊びに誘ってくる。

 

「泊りがけ?別に構わないけど突然だな。他は冬馬と準か?」

「そうだよー。あとねー、大和たちも誘っておいたのだ。あとー、義経たちとマルギッテも」

 

 小雪にしてはいろいろと呼んだようで勇介は軽く驚く。

 

「そんなに誘って大丈夫なのか?」

「いいんですよ、勇介くん」

 

 そう言ってきたのは冬馬だ。

 

「九鬼が新たに運営することになる巨大テーマパークの先行入場のようなものですから。英雄からチケットはたくさん貰ってます」

「開店前ってことは俺が見守る対象がいないだろう?だからあまり乗り気じゃないんだけどな」

 

 準が相変わらずの発言をする。

 

「紋白が来たりしてな」

「何っ!?紋さまがっ!?」

 

 思った以上の……いや、予想通りの反応を返す準に苦笑いを浮かべる勇介。

 

「やらかしてヒュームさんとかあずみさんとかに狩られないようにな」

「何を言う。俺にとって紋さまは神にも近しい存在。仕えたい対象だ」

 

 キリッとした顔で言う準はスルーして小雪に向き直る。

 

「それじゃ、俺も行くのはいいけどいつ行くんだ?」

「予定では次の休みが三連休ですから、その日にしています。風間ファミリーと義経さんたちには許可は得ています」

「わかった。俺も準備しておくよ」

「わーい!ユウとお泊りなのだー!」

「ふふ、ユキは本当にうれしそうですね」

 

 大喜びの小雪を優しい目で見る冬馬と準。週末に向かうことになるプールがそんなに楽しみなのか、と思っていたのは勇介だけだろうが。

 

 

「はー……でかいな」

 

 九鬼レジャーランド。大扇島のように、人工で作られた島に建てられた総合施設である。そのサイズは大扇島と同じかそれ以上。そんな島が丸々レジャー施設となっているのだ。それを九鬼が準備してくれた自家用ジェットの中から見下ろす一行。

 

「しかも、入園……であってるのかな。特にお金は取らないらしいよ。その時点ですでにヤバイ気がするけど」

 

 大和がスマホをいじりながらそう言う。どうやら前情報などを確認していたようだ。

 

「アトラクションとか建物とかに入場料的なのがかかる感じかな。で、その入場とかのフリーパスが島の入り口とか建物の場所で販売されてるみたいだね」

 

 モロも情報を伝えてくる。

 

「でも開園前で人いないんじゃ俺様の魅力を伝える相手がいねーってことだよな」

 

 ガクトがそう呟くのを女性陣が冷たい目で見る。

 

「でもガクト、どうせ失敗するんでしょ」

 

 そう言ったのは京だ。ちゃっかりと大和の隣の席を確保していた京は本を読みながら視線を向けることなくそう言う。

 

「いやいや、今回はキャップに加えて葵冬馬、そして勇介もいるんだぞ。成功率はほぼ100%だろ!」

「……なぁ京。それってユウたちによって来るだけでガクトには関係なくないか?」

 

 首を傾げながらクリスが京に尋ねる。

 

「そだね。気づいてるけど気づいてないふりしてるんだから言っちゃダメだよ」

「ねーねー大和。ガクトってばいっつもあんなこと言ってるけど成功したことないの?」

「いや、成功もしてるけどがっつきすぎなんだよなぁ」

 

 一子の疑問に大和が答える。ガクト自身も決して不細工というわけではないのだ。むしろ自ら誇るだけはあり、いい身体をしている。年下から好意を寄せられても、本人は年上が好きで興味がない。非常に勿体ないところがあったりもするのだ。

 

「ガクト、俺はナンパとかしたことないぞ?」

「大丈夫だよ!俺様がアシストするから!」

「なんだよ、ナンパとかつまんねーな!俺と一緒に冒険しようぜガクト!」

「かーっ!キャップはお子様だからわかんねぇんだよ!」

 

 そんな話をしている風間ファミリーと勇介をじーっと見つめる小雪。

 

「どうした、ユキ?」

「……んーん。ユウも女の人ナンパするのかなぁって」

「したことないって言ってたししないんじゃないか?まぁ、俺からすれば賞味期限の切れた女の何がいいのかわからんが」

「ふふ、ユキは勇介くんがナンパするかどうか気になるんですか?」

 

 冬馬が優しい笑顔を浮かべて小雪に尋ねる。

 

「んー、分かんない。でも、そうするかもって思うとちょっともやもやするのだ。トーマ、これなんだろ?」

「そうですね……それはユキ自身が気付かないといけないことですから、私から何も言えません」

「あ、そういうことか」

 

 冬馬の言葉に納得したように準もぽんと手を打つ。

 

「えー!トーマも準も二人だけわかってずるいのだー!」

「何の話してるんだ?」

 

 風間ファミリーから離れて勇介が近づいてくる。

 

「ふふ、勇介くんともっと私たちも交流を深めないとと思いまして。どうです、一緒にお風呂でも」

「風呂は別に構わないけど、その場合は準も一緒にだぞ」

「おや、ふられてしまいました。まぁ私が勇介くんに手を出すことはありませんよ」

「……そう願いたい」

 

 

「ついたのだー!」

 

 自家用ジェットから降りた小雪がぴょんと地面に着地しながら叫ぶ。

 

「弁慶、与一!すごいぞ!」

 

 義経が目を輝かせながら周囲を見渡す。弁慶はそんな義経を見ながら川神水をくいっと飲んでいる。

 

「落ち着け義経。恥ずかしいだろうが!」

「与一、余計なことを言って主のテンションを下げるなよ」

「まぁ、たまには息抜きも大事だろ、与一」

 

 弁慶に続いて勇介も声をかけることで与一は頷く。

 

「……まぁ、ここであれば組織の連中からも狙われないだろうからな」

「?相変わらずよくわからんが、俺とかモモ先輩もいるんだから大丈夫だろ」

 

 独り言をぶつぶつと言いながらも義経に声をかけられたら返事をしている与一を横目に勇介は小雪の傍へと歩み寄る。

 

「ほら、ユキ。あまりはしゃぐと転ぶぞ」

「大丈夫だよー!転びそうになったらユウが助けてくれるでしょ?」

「まぁ、助けるけど。転ばないに越したことはないだろ?」

 

 そんな話をしている勇介たちを見ながら準が遠い目をしていた。

 

「どうしたんです、準?」

「いやぁ、ユキと勇介を見ていたらなんだかな。これが娘を嫁に出す父親の気持ちなのかね」

「それでは私が母親ですか」

「……若、冗談だとは思うがその例えはどうなんだ」

 

 肩を竦めてそう言った準に微笑みかける冬馬。

 

「トーマー!ハゲー!早くいくのだー!」

「やれやれ。行くか、若」

「そうしましょう」

 

 

「……ねぇねぇ大和」

「なんだ?」

 

 プールサイドのベンチで横になり、携帯をポチポチとしている大和の隣に座った京が勇介と小雪を見ながら声をかけてくる。

 

「ユキって、勇介のこと好きなのかな?」

「ん~、それは恋愛感情としてってことだよな?」

 

 よっと声を出しながら大和が起き上がる。京の視線を追うように勇介たちを見ると言葉を続ける。

 

「どうだろうな?ユキが恋愛感情持ってるのかは本人しかわからないだろうし。ただ、そうだな……葵や井上のことを慕っているように、勇介にも懐いてるっていうことは確かだな。これからどう変化していくか……あとは勇介がどう思っているかが大事なんじゃないかな」

「……そだね」

「それにしても珍しいな。京がユキや勇介のこと、そんなに気にするなんて」

「ユキは他人とは思えないところもあるからね。それに、私は大和に、ユキは勇介に助けられたんでしょ?ほら、私たちも先輩として結婚しないと」

「はは、お友達で。でも、何かきっかけがあれば一気にくっつきそうではあるよな」

「私と大和みたいに?」

「……そうだな」

「えっ?」

 

 

「勇介くん!」

 

 小雪たちと遊んでいた勇介に声をかけたのは義経だ。

 

「どうした、義経。お前も混ざるか?」

「う、うん。混ざらせてもらおうと思う」

 

 チラチラと上目遣いで勇介を見る義経に首を傾げる勇介。

 

「あ、義経。遅くなったがその水着にあってるぞ」

「!そうか!ふふ、それならよかった!」

「うんうん、今日も主で酒がうまい」

「酒じゃなくて川神水な」

 

 黒のビキニで堂々と川神水を飲む弁慶に勇介が突っ込みを入れる。遠目で見ているガクトが何やら騒いでいるのはいつものことなのでスルーする。

 

「義経たちも一緒ならビーチバレー?」

「それなら源氏チームと冬馬ファミリーか?」

「冬馬ファミリーですか。ふふ、初めて言われましたがなかなか悪くはありませんね。どうです、勇介くん。お父さんポジションなど」

「遠慮しとくよ。そこは準に任せる。最初は俺が審判するよ」

 

 そんな話をしていると混ざってくるのは勿論キャップだ。

 

「なんだなんだ!楽しそうな話してるじゃないか!俺たちも混ぜろ!」

「こう来ると思った。んじゃチームで別れて交代でやるか」

 

 

「ねぇねぇ、ユウ」

 

 夕方まで遊び続けた勇介たちがホテルへと向かっているときに小雪が勇介の羽織ったブラウスの裾をくいくいと引っ張る。

 

「どうした?」

「……あのね、僕たちずっと一緒にいられるよね?」

「ずっと、っていうのがどこまでのことをいっているか分からないけど……そうだな」

 

 ぽん、と小雪の頭を優しくなでる。

 

「小雪が一緒にいたいって言うならできる限りは一緒にいるよ。せっかく再会したんだしな」

「うん!……えへへ」

 

 はにかむように笑う小雪に一瞬どきっとする勇介。

 

「むむ……主、強敵だよ」

「えっ?なんだ弁慶」

 

 勇介と小雪の様子を見てそう言った弁慶の言葉を理解できていない義経が首を傾げて尋ねなおす。

 

「むぅ……うちの主にはまだ早かったか。無念」

 

 同じように勇介の様子を伺っていたクリスがむむむと唸る。

 

「どうしたの、クリス」

「いや、ユウと榊原小雪を見ていたらなんか……む~」

 

 自分の感覚がわからずに唸り続けるクリスに京が呆れた顔をする。

 

「クリスさん、お兄さんのような勇介さんがとられるみたいで寂しいんでしょうか」

「そういうまゆっちはいいの?」

「えぇっ!?わ、わ、私に勇介さんは勿体ないといいますか、いえ勿論求められて嫌というわけではありませんがっ!?」

「まゆっちてんぱってるよ」

 

 京がそう言ってため息をつく。そのあと、少しだけ口元に笑みを浮かべた京が静かにつぶやく。

 

「……頑張ってね、ユキ」




メッセージやらで色々言われたりもしますがまだまだ続けます!
数回に分けて書いたため誤字脱字などあったらごめんなさい!


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34話 力の暴走

お久しぶりです!

忙しいですが失踪はしてませんよ!


「ユウ、おはよ!」

「……」

 

 朝目を覚ました勇介にのしかかるようにして小雪が顔を覗き込んでいた。

 

「ユキ、何してるんだ?」

「えへへ、ユウが早く起きるの知ってたからそれよりも早くに起きて寝顔を見てたのだー」

 

 満面の笑みで言われては勇介も返す言葉がない。というよりは、薄いブランケット越しに感じる小雪の身体にどぎまぎしていたりするのだが。

 

「ねぇねぇユウ。今日はどこで遊ぶ~?」

「ユキはどこか行きたい場所あるのか?」

 

 勇介の言葉にうーんと首を傾げる。

 

「僕はユウと一緒ならどこでもいいかなぁ」

「そうか。……ユキ、そろそろどいてくれるか?」

「はーい」

 

 小雪の重さがなくなりホッとする勇介だったが、起き上がろうとしたときソレは起こった。

 

―――ドクン―――

 

「っ!」

 

 背筋が凍るような感覚。自分が何かに塗り替えられていく。

 

「ぐっ……」

「ユウ!?」

「ユキ、全員に逃げろと伝えてくれ……!」

「で、でも」

「早くっ!!」

 

 勇介の言葉に小雪が部屋から駆け出す。

 

「まさか……これが……っ!!」

『コワセ』

 

 次の瞬間、誰も感じたことがないほどの莫大な気がはじけた。

 

 

 九鬼極東本部。珍しく帰ってきていた帝の傍に立っていたヒュームが帝に一礼をする。

 

「帝様。申し訳ありませんが、有休をいただきたく」

「今さっきのなんかヤバイ感じのやつか?もしかしなくてもあの鳴神の力が関係してんだろ?いいぜ、いくらでも休み取るといいさ。それと、まだ開園前でよかったなぁ、あの施設。最悪更地にしてもあいつを九鬼に入れられるならおつりがくるだろ。好きにやりな」

 

 あっけらかんと言い放つ帝に再度礼をするヒューム。

 

「では、帝様。馬鹿弟子を止めて参ります」

 

 そう言って姿を消すヒューム。

 

「頼むぜ、ヒューム。あいつがいれば九鬼はもっとでかくなる。それに何より面白そうだしな!」

 

 

 ドーン、と響く爆音。立ち上がる土煙の中から吹き飛ばされるように飛び出してきたのは義経と弁慶。

 

「くっ……」

「やばいね、こりゃ」

 

 小雪が泣きそうな表情で駆け込んでくるよりも早く、異変を感じ取った二人は準備を終え、勇介の元へと向かっていた。二人の到着した場所にいたのは、勇介であり勇介ではない、異質なものだった。

 

「これが、勇介くんが抑えていた龍の力……!」

「話には聞いてたけど、いやぁ想像以上だね」

 

 軽口を叩くように言う弁慶の表情には余裕はない。それはそうだろう、今まで抑えていた気や喰らってきた気を放つ今の勇介は百代をも超えるほどの力を放っているのだ。

 

「弁慶、もう一度合わせてくれ!」

「あいよっ!」

「川神流」

 

 拳を力強く握りしめる勇介に向かって駆け出す義経と弁慶。

 

「はぁっ!!」

「そぉい!!」

「無双正拳突き」

 

 拳と錫杖、刀がぶつかる。押されているのは義経たちだった。

 

「義経、姉御!そのままで押し続けろ!」

 

 その声と同時に一本の矢が飛来する。片手で義経たちを、もう片手で邪魔だというように矢を弾き飛ばす。だが、意識が矢を放った与一へと向けられた瞬間の隙をついて義経と弁慶が少しだけ勇介を押し返すことに成功する。

 

「ちょっと、これは一体どういうことだっ!?」

「ユキに言われてきてみれば……ただ事じゃないようだね」

 

 駆けつけた風間ファミリー女性陣も雰囲気で状況をつかむとすぐさま戦闘態勢に入る。

 

「義経さん、弁慶さん、援護しますっ!!」

 

 一番目に駆け出したのは由紀江だ。二人の攻撃で少し押し返されていた勇介を吹き飛ばす。だが、すぐさま体制を整えた勇介を追撃する姿勢を整える。

 

「まゆっちに遅れたけど二番手、川神一子いきますっ!」

 

 その敏捷性を生かして瞬時に勇介へと飛び掛かる一子。

 

「川神流・破砕点穴(はさいてんけつ)!」

 

 軽快な動きで勇介を翻弄するように飛び回った一子が一点を狙った一撃を繰り出す。その一子に対して勇介が気を放とうとする。

 

「させない」

 

 針の穴を抜くような一矢が気をためていた腕を弾き、気弾の向きを変える。それによって勇介に直撃した薙刀。すぐさま、勇介の身体を淡い光が包む。

 

「まさか……瞬間回復!?」

 

 驚きの声を上げたのは遅れて駆け付けた大和だ。

 

「ちぃ、俺様も手伝いたいが、アレに混ざると無理な気がする」

「クリス!いけるか!?」

 

 大和の声に頷くクリス。

 

「……勿論だ。ユウの……友であり、自分の兄のような存在であるユウが困っているんだ。自分が……止めるっ!」

 

 裂帛の気迫と共にクリスが一陣の風となり駆ける。

 

「はああああああっ!!」

 

 迷いのないクリスの一撃に勇介はゆらりと手を翳すとくるりと回転させる。

 

「鳴神流・流転」

「っ!」

 

 放たれた一撃を全く同じ威力で跳ね返す技。クリスにとっては既知の技であったため、すぐさま受けの体制をとる。

 

「おいおい、大和!追い込まれてるんじゃないか!?ご機嫌な作戦はないのか!?」

「俺様たちも流石に見てるだけじゃやばいだろ!」

「……姉さんがいてくれれば……」

「大和くん、微力ながら手伝いましょう。準が」

 

 そう言って現れたのは冬馬と小雪だ。小雪が今にも勇介の元へと行こうとしているのを冬馬が抑えているようだ。

 

「ユキが勇介くんの元へ行こうとして聞かないので私もあまり動けません」

「うー!トーマ、ユウのところに行かせてよ!」

「ダメです。今の勇介くんは危険です」

「そんな危険なところに俺は送るんだよなぁ、若は」

 

 肩をぐるぐると回しながら勇介のほうへと歩いていく準。

 

「おいおい!井上のやつ大丈夫かよ!?」

 

 ガクトが驚いて言う。

 

「勿論、風間ファミリーの女性陣には勝てないでしょうが、それでも時間稼ぎくらいはしてくれるでしょう」

「よぉ、勇介。俺はな、お前にならユキを任せてもいいって思ってんだよ。だからな」

 

 ギン、と目つきの変わった準が勇介に接近すると大きくアッパーを放つ。

 

「芯竜拳!!」

 

 なぜか受けることも避けることもせずに直撃した勇介は大きく上空へと吹き飛ばされる。だが、空中で一瞬とまった勇介が全員に向けて莫大な気を放つ。再び、人工島を巨大な爆発が襲った。

 

 

 どれだけの時間が経っただろうか。戦うことのできるものは総力を挙げ、九鬼の従者も、風間ファミリーも戦いを続けていた。だがすでに全員が満身創痍といっても過言ではない状態に追い込まれていた。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

「義経、大丈夫?」

「ちっ、さすが兄貴だな」

 

 義経をかばうように立つ弁慶と与一。

 

「知ってたけど強いね」

「勇介さんの腕前ですと本気を出されては私たちは一瞬でやられてしまっているはずです。あれでもおそらく……勇介さんが抑えてくれているかと」

「ユウも戦っているってことだな。自分もまだまだ頑張れるぞ……!」

「そうね!いつもの鍛錬の成果を見せるときよ!」

 

 全員が武器を杖に立ち上がる。対する勇介の気は衰えるどころか更に勢いを増し、気を扱わないものも身体から立ち上るのが目視できるほどだ。

 再び勇介に向けて攻撃を仕掛けようと武器を構えたその時だった。

 

 

 恐ろしい速度で飛来するジェット機が遠方に見えてきたのだ。

 

 

「フハハハハ!恐ろしいまでの気であるな!」

「揚羽さん、結構喜んでません?」

「そういう百代も楽しそうではないか」

 

 笑いながら言葉を交わす百代と揚羽。まだ距離はあるというのに恐ろしいほどの気を感じていた。

 

「……私に勇介に恩を返すチャンスを与えてくれることを感謝する」

「天衣さんと共闘するのは初めてですね。それに……」

 

 もう一人。百代はこれまでに直接面識のなかった最後の旧四天王。

 

「レオの友人の為だと来てみれば……まさかこのような面子がそろっているとはな。予想外ではあるが、四天王になるかもしれない後輩の為でもあるからな」

「ご協力、感謝します。鉄さん」

「乙女でいい」

 

 鉄乙女。揚羽と時を同じくして四天王を退いた一人である。

 

「なんか、こんな豪華メンバーの中に入れられちゃうとスワローちゃんはちょっと肩身が狭いかも……」

「何言ってるんだ、燕。お前も立派な四天王候補だろ?」

「いやぁ、モモちゃん。四天王だとしても新入り候補程度の私にはすこーし荷が重いよ」

「でも、迷わず来るんだな」

「そりゃ、私にとっても勇介くんは大事な人だからね。おかんとおとんをくっつけるお手伝いしてもらわないと」

「燕らしいな」

 

 そんな会話を交わしているうちに目的地上空へと到着する。

 

「さぁ、勇介。ジジイたちが来るまで存分に楽しませてもらうぞ!」

 

 

「来たっ!」

 

 空を見上げてそう言ったのは大和だ。空から飛び降りた百代が拳を構えるのが見える。

 

「川神流・無双正拳突き!!」

「九鬼決戦奥義・九鬼雷神金剛拳!!」

「鉄流奥義・閻魔地獄!!」

「えぇっ!?なんかみんな必殺技撃ってる!えっと……スワローパンチ!」

「大丈夫だ、私も特にないっ!」

 

 新旧四天王の攻撃を受け止めた勇介だったが、地面に大きく罅が入りダメージを与える。

 

「よく耐えたな。ここからは私たちに任せて少し休憩してろ」

 

 百代はそう言って勇介に向かっていく。

 

「どうした、勇介。確かに面白い力だが……普段のお前のほうがもっと面白いぞ!」

 

 激しい百代の攻撃をさばきながら勇介が攻撃を繰り出そうとする。それを防ぐように揚羽と乙女が動き、簡単には反撃に移させない。更には燕と天衣の攻撃も隙を抜くように撃ち込まれ、じわじわと勇介は追い込まれていく。

 

『があああああっ!!』

 

 獣のような咆哮を上げ、勇介の身体から暴力的な気が吹き荒れる。かなり距離を置いている大和たちの場所まで感じるほどの風圧。

 

『鳴神流』

「っ!百代、離れろっ!」

 

 揚羽の言葉に反射的に飛びのく百代。

 

『星喰』

 

 放たれた気の直撃こそ免れた百代だったが、掠めるようなものであっても気が大きく削り取られるのを体感する。

 

「本当に……面白い力じゃないかっ!」

「待て百代!不用意に飛び出すな!」

「二人とも離れろ!」

 

 飛び掛かろうとする百代と制する揚羽。その二人を押しのけ防御の姿勢を取る乙女。

 

『鳴神流・龍哮』

 

 放たれた気が乙女を飲み込む。

 

「くっ……」

 

 大きく吹き飛ばされ、壁に激突する乙女。すぐに立ち上がろうとするが。

 

「力が……!?」

『ぐおおおおお!!』

 

 響く咆哮は何処か悲しさが混じったものだった。




あと1話はバトルがちょっとだけ続いてその後ちゃんと?ヒロインとの話になっていきます。


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