神のヒーローアカデミア (鮫田鎮元斎)
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映画編 二人の天才
二人の天才


映画の内容は完全にうろ覚えなので悪しからず。

そしてエグゼイドでなくビルドのストーリーが中心となる可能性があります。あしからず。


――――――

――――

――

 

 

 ――――10年前。

 

 

 

 

 

 

「――ネビュラガスの濃度は……よし。メリッサの体調も、よし」

「ん! んん!」

 

 水槽のような装置に無理やり押し込まれ、7歳の少女、メリッサ・シールドは声にならない悲鳴を上げる。口にはチューブが押し込められ、何も言うことができないのだ。

 

「安心しな……パパが個性よりも強い力をあげるからな」

 

 体を縛り付けられ、怯えている娘にデヴィット・シールドは優しく声を掛ける。

 

 ネビュラガスはとある遺物から放出された成分を気化したもの。投与した人間を人ならざる姿に変える、危険な物質なのである。

 

「出力は、まず1%から行こうか」

 

 装置のレバーをあげて注入を開始する。

 

「んんんんっっ!?」

 

 幼い体には刺激が強く、メリッサは苦しみもがいている。

 

「仮説通り、個性強度が低いほどガスとの親和性が高い♪ この調子で出力を10%……うん、20%」

「~~~ッッ!!!」

 

 自分の娘が苦しんでいるというのに、仮説が証明された喜びの方が強いようだ。デヴィットは喜々として実験を強行している。

 

「――大変だデイブ! ガスが漏洩して」

 

 実験室の扉を開けたのは同僚の葛城 タクミだった。

 

「お前……いったい何を!?」

 

 呆然としているタクミに、デヴィットは銃を撃つことで応える。黒いハンドガンで、なぜか持ち手のほかにグリップパーツが存在していた。

 

「がはっ……」

「実験の邪魔だよ、そこで大人しく見ていてくれ」

 

 冷たく言い放つデヴィットの瞳が赤く輝く。

 

 そしてガスの出力を一気に100%に引き上げた。

 

 

「――――――ァァァッッ!!」

 

 チューブ越しでもわかる悲鳴。

 

 装置の中にガスが充満していく。

 

『はは、やはり無個性ならばそこまで行けるよなぁ』

 

 急に声質の変わった彼は手の平に赤い炎を充填させ、メリッサに向けて放つ。

 

「いいぞ! 実験は成功だ!」

 

 再び元の声に戻っていた。喜び方は、彼を知るものからすればごく自然な物だった。

 

 姿を変えずに気を失っているメリッサの姿は、まさに求める実験成果そのものだったのだろう。

 

 その喜びを遮ったのは撃たれて蹲っていたタクミだった。

 

「おまえ、デイヴじゃないな……?」

「何を言ってるんだ。ボクはデヴィット・シールドさ」

「いや違う。俺はデイヴに“トランスチーム”システムの事は教えていない! ごほっ……お前は一体、何者なんだ!?」

 

 タクミもまた黒い銃を構え、紫色のボトルを取り出す。

 

()はデヴィットさ。今はな」

 

 そしてデヴィットもまた、銃とボトルを構える。

 

\バット/

 

\コブラ/

 

「じょう、けつ」

「蒸血♪」

 

\\ミスト・マッチ//

 

 

 二人の姿が霧で覆い隠される。

 

\バット…バ・バット……Fire!!/

 

\コ・コブラ…コブラ……Fire!!/

 

 タクミの姿は蝙蝠を模したナイトローグに、デヴィットはコブラを模したブラッドスタークに変身する。

 

「やれやれ、そんな瀕死の姿で何をするって言うんだ?」

「だまれ……! 俺は研究を悪用する奴を、許しはしない!」

 

 バルブの付いた短剣――スチームブレードを打ち合わせた瞬間、ナイトローグが吹き飛び変身が解けてしまう。

 

「く……そ……」

『おいおい、興ざめだなぁ』

 

 ブラッドスタークは呆れて笑いながらタクミの傷を踏みつけた。

 

「ぐぅぅっ!?」

「そんなにすぐには殺さないさ。お前には聞きたいことがある」

 

 声には苛立ちが紛れていた。

 

『俺のベルトをどこに隠した!?』

 

 だがスタークの暴挙を許さぬ平和の象徴がいた。

 

 

 

「――SMAAAAAASH!!!!」

 

 拳圧で壁が吹き飛び、スタークも余波で飛ばされる。

 

『なにっ!?』

「――済まないッ! 来るのが遅くなった……だがもう安心してくれッ!」

 

 狭い室内では窮屈そうなその巨体はNo.1にふさわしいと言えるだろう。

 

「私が来た……!」

 

 すぐさまオールマイトは機材を破壊しメリッサを救出する。

 

「どうしたトシ? そんなに殺気立って」

「……私は君の事を友だと思っていた。かけがえのない親友だと……!」

「今は違うのかい?」

 

 一陣の風が吹く。次の瞬間にはメリッサが静かに横たえられ、スタークの眼前に巨体が現れる。

 

『!? おいマジかよ――ッ!!』

 

 平和の象徴たる所以はその拳にある。長年、平和を願ってきた人々の力がその拳には宿っている。

 

「DETROIT SMASH!!!!」

 

 強化された肉体ですらその一撃に耐えることができなかった。

 

 一瞬で変身を解除されてしまう。

 

『この状態じゃさすがに分が悪い……また会おう、トシ。チャオ♪」

 

 技の余波で出来た穴からデイブは逃げていく。

 

「くっ待て――!?」

 

 咄嗟に追おうとするも、もう一人の友が瀕死な状態であることに気付く。今から病院へ運べばきっと命を助けることができる。

 

 だがここで個人的な感情を優先しヴィランを逃がすことは許されない。

 

「……トシ…………いって、くれ」

「タクミ……!」

 

 その葛藤を見抜いたタクミは友に激励を投げかける。

 

「……ラブ、あんど、ピース、だ」

「すまない……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――それが友との最後の別れとなった。

 

 そしてデヴィット・シールド――ヴィラン名:ブラッドスタークは、逃走に成功してしまい、国際指名手配されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 ――そして現在。

 

 

『西の第八地区でスマッシュの反応! 職員が襲われてるッ!』

「うん、分かった!」

 

 あの事件を経てメリッサの父デヴィットは“悪魔の科学者”と呼ばれるようになった。

 

 そして密かに持ち出されていたガスの成分を悪用されていた。

 

 ネビュラガスを注入された人間はその姿を異形系の個性のように変化させる。理性は完全に失われて暴走するのだ。

 

「っあそこね」

 

 メリッサは路地でベルトを装着し、飛来したドラゴン型のメカを手に取る。

 

 青くドラゴン型のボトルを振り、それにセットする。

 

\ウェイクアップ!!/

 

 それを変形させベルトに挿入する。

 

\クローズドラゴン!!/

 

 レバーを回転させると、プラモデルのランナー状のパーツが形成される。

 

\Are you ready?/

 

「変身っ!」

 

 挟み込まれるようにアーマーが形成される。その姿は青の一色で統一され、ドラゴンを思わせる姿だった。

 

\Wake up burning! Get Cross-z Dragon!! yeah!!/

 

「よしっ」

 

 これこそがメリッサの裏の姿。父の研究を悪用する人間を討伐する。

 

 例えそれが、父であっても。

 

 

 

 

 





なぜメリッサがクローズになっているか? だってヒロインだもの。


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二人の天才2

メリッサをクローズにしたら思ってたより反響があったぞい。

設定上この世界線の彼女は殆ど眼鏡をかけていません。


なぜかって? そっちの方が好きなんだもん(私情)


――――

――

 

 時は7月から8月の辺り。雄英高校では夏の林間合宿(という名の強化合宿)を控えていた。

 

 そんな折、I・アイランドでは博覧会(エキスポ)が開催されることになったのである。

 

「楽しみだなぁ……マイトおじさまに会える」

 

 彼に会いたい一心でプレオープンの招待状を渡していた。もうすぐ到着する時間のはずだ。

 

 特殊なスマートフォンにボトルをセットした。それは瞬く間にバイクへと変形する。ようやくバイクの免許を取れたから自分で運転できる。

 

 もうあの(自称)天才物理学者の後ろに乗る必要はない。そう思うと少しだけ寂しい気分になる。

 

 溜め息を吐きつつヘルメットを被る――と、モニターにスマッシュの出現情報が表示された。

 

「んもう! タイミング悪いんだからっ!」

 

 場所は入場ゲートの付近。どうかすぐに片づけられますように、彼女は祈りながらアクセルを捻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 

 

「……まさか、ここまで足止めされてしまうとはね」

 

 到着するや否やファンに取り囲まれてもみくちゃにされたオールマイトは、体中にキスマークが着けられてしまっていた。冷汗をかきながらそれを拭っていた。

 

 さすがのNo.1ヒーローである。

 

「やれやれ、危うく間に合わなくなるところだった」

「オールマイトの娘さんみたいな人、ですよね?」

「ああ、今は亡き親友の忘れ形見さ……」

 

 普段の明るい笑顔に陰りが見えた。

 

「もしかして、その親友って――」

 

 

 

 

 

 ――――きゃぁぁぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴が上がった。

 

「っ! まさかこんなところヴィランに遭遇するとはね!」

 

 すぐさま仕事モードになったオールマイトはその方向へ跳んだ。

 

 上半身だけが異様に膨れ上がり、全身が怪物の様に変化した何者かが暴れていた。

 

 彼に遅れて緑谷も後に続く。手助けというよりは一介のヒーローオタクとして事件解決を目撃しようとしたためである。

 

「――悪いけど今日はオフの日なんだけどね!」

 

 

\DETROIT SMASH!!/

 

 

 天候を変えるともいわれる必殺の右ストレート。それは怪物には殆ど有効にならなかった。

 

「な、なにっ!?」

 

 オールマイト――ひいてはワン・フォー・オールの一撃を防げた者は少ない。

 

 十全に対策のなされた脳無、個性の特性上物理攻撃を無効化できるラブリカ、そして宿命の相手オール・フォー・ワン。それを除けば確実に終わらせることのできる相手なのだ。

 

「――そこまでよッ!」

 

 バイクのエンジン音、そしてすれ違いざまに怪物が斬りつけられる。

 

 ブレーキ痕を残しつつそれは止まり、運転手はヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

「なっ……! メリッサ!?」

「うそっ聞いてた時間より早いなんて!」

 

 予期せぬ再会となってしまいオールマイトもメリッサもテンパっていた。

 

「――ってよそ見している場合じゃないですよッ!」

 

 緑谷の声ではっと我に返った時にはもう遅く、怪物の拳が目前に迫っていた。

 

 

\ギャオオオン/

 

 

 間一髪、ドラゴン型のメカがそれを防いだ。

 

「っとにかく話は後! 少しだけ待ってて、マイトおじさま」

 

 メリッサはバイクを降り、ベルトを装着した。レバーの付いた特徴的なデザインだ。

 

「まさか、それは」

「いいから見てて!」

 

 そして青のボトルを振り、栓を開ける。それを察知したドラゴン型のメカ――クローズドラゴンはベルトのスロット部分に降り立つ。

 

\Wake up! クローズドラゴン!!/

 

 ボトルごとそれを挿入し、すぐさまレバーを回転させる。

 

 彼女の周囲にプラモデルのランナーのようなものが形成される。

 

「おっと」

 

 たまたまいた位置が悪くオールマイトは慌てて後退する。

 

\Are you ready?/

 

「変身!」

 

\Wake up burning! Get Cross-Z Dragon!! yeah!!/

 

 プレスされアーマーが形成される。ドラゴンのような姿だった。

 

 その姿にオールマイトと出久は驚く。

 

「メリッサ……そのす」

「凄いパワードスーツ型のヒーロー!? さすがは最先端科学の集まるI・アイランドだ。そもそも個性が一般的な社会においてわざわざメカで武装するなんて手間をかけずに戦えるのにそれをするヒーローはかなり特殊な存在で――あ、壇君は例外だけど確かに戦闘向きでない個性の人でも戦うためにはこういった装備が必要なんだ。ともすると無個性や弱個性の人がヒーローになれないなんて先入観は近い将来なくなる? でもこういったスーツを開発して普及させるにはまだまだコスト面での不安が」ブツブツブツブツブツ

 

 

 オタク特有の早口を無視してメリッサ――クローズは戦闘を開始していた。

 

「はっ!」

 

 ドラゴンの炎に似たエフェクトが発生し、怪物は吹き飛ぶ。

 

 攻撃の手を緩めず何度もパンチを繰り出す。

 

 オールマイトのスマッシュにすら耐えきったそのボディはあっけなく吹き飛ばされる。

 

「ビートクローザー!!」

 

 声に応じて武器が生成される。それにボトルを挿入し必殺技を放つ。

 

\スペシャルチューン!!/

 

「せやああぁぁっ!」

 

 怪物が爆散する。その輪郭は揺らいで溶けるようにも見えた。

 

 怪物を構成していた成分を抜き取ると、元はただの人間だった。

 

「……しばらく見ないうちに、随分と立派になったじゃないか」

「おじさまこそ、年取ったんじゃない?」

 

 変身を解除し、メリッサは微笑んだ。

 

「HAHAHA! 年の事は考えたくないな!」

「はいはい、お小言は私の役目じゃないもの。セントが待ってるから早く行きましょ」

 

 和やかに談笑している二人から緑谷はすっかりとおいて行かれてしまっていた。

 

「あ、あの……その人が」

「おっと、そうだった。紹介しよう緑谷少年。彼女はメリッサ、さっき説明した忘れ形見さ。メリッサ、彼は緑谷 出久、私の教え子さ!」

 

 緑谷はその紹介に違和感を覚えつつ、お辞儀をした。

 

「初めまして、出久くん。私はメリッサ・シールド」

「!」

 

 オールマイトが気を使ってごまかしたところを彼女は躊躇うことなく言った。

 

「み、緑谷 出久ですっ! よ、よよろしくお願いしま……す?」

 

 残念ながら、オタクな彼はその情報だけで閃いてしまう。彼女の苗字から連想される人物が。

 

「シールドって、まさか……!」

 

 もはや全世界で知らない者はいない。

 

 自分の娘に人体実験を行い、世界各地でその科学力を悪用し続けた科学者。

 

「“悪魔の科学者”デヴィット・シールドの――」

 

 

 





初っ端から不穏な空気が流れだす。

次回からコントあらすじでも考えようかしら。


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二人の天才3

「悪魔の科学者、デヴィット・シールドの……?」

 

 緑谷は驚愕に目を見開いている。

 

「科学の発展の為ならいかなる手段も用い、彼が居なくなったことで世界の科学は50年の遅れを余儀なくされたと言われている」

「詳しいのね。その通り、私はデヴィット・シールドの娘よ」

 

 メリッサは少しだけ悲しそうな顔をしていた。

 

「ごめんなさい。なんか聞いちゃいけないことを」

「言ったのは私よ。隠すのも良くないもの」

 

 子供のころから哀れみの目を向けられていた。悪魔の娘となじられたこともある。

 

 だとしても隠すことはできない。

 

 この繋がりは断つことができないのだ。

 

 親子であるという事だけは。

 

「私はパパの研究を悪用する人間を捕まえる。例えそれがパパ自身であってもね」

「あの、僕……」

「暗い話はここまでよっ! 君に紹介したい人がいるの、乗って!」

 

 早業だった。素早く緑谷にスペアのヘルメットを被せ、バイクの後ろにまたがらせる。そして自分も前に乗せてエンジンをかける。

 

「え、ちょっ」

 

 初心な彼は腰に手を回すことにとても躊躇っていた。

 

「どうしたの? 振り落とされちゃうよ?」

「は、はぃぃ」

 

 恐る恐るしがみつく。彼の鼻が心地よい香りを感じ取る。

 

 そしてとても心地よかった。

 

「うーん! 一度やってみたかったのよね!」

「え、えっと……メリッサ、私は」

「マイトおじさまはその足があるでしょ」

「ええっ!?」

 

 まさかの無茶ぶりである。とはいえ、脚力的には何の問題もない。全盛期ならば。

 

 もう一度言おう、全盛期ならば。

 

 すでに衰えているオールマイトの体力ではいささか厳しい物があるだろう。

 

「じゃ、あそこで待ってるわ!」

「おいてかないでメリッサァッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 

 葛城 セントはI・アイランドにある共同墓地にいた。

 

 今日で丁度10年。

 

 花束を供えて手を合わせる。父の研究は今でも重宝されている。

 

 ラブ&ピースの精神は多くの科学者に受け継がれているのだ。

 

『――セント』

「っ父さん!?」

 

 声が聞こえた気がしたが、そこには誰もいなかった。

 

「……はぁ、最悪だ」

 

 風を切る音が聞こえた。

 

「わーたーしーがー花束を持って、来たッ!」

「うるさい」

「あっ……ごめん」

 

 見事に着地を決めるもセントに指摘されてシュンとしてしまうオールマイト。これでもNo.1ヒーローなのである。

 

「あれ? メリッサと緑谷少年は」

「俺に聞かれても――」

 

 噂をすればなんとやら、二人が掛けてくるのが見えた。

 

 なぜか緑谷はグロッキーな状態だったが。

 

「HAHAHA!! どうやら私の方が先に着いちゃったみたいだね!」

「あはは……やっぱりおじさまは早いわね」

「初心者丸出しの人間が二ケツしちゃだめでしょうが。彼、ものすごく気分悪そうだけど」

 

 セントに言われて初めて緑谷の状態に気づく。

 

「わ、ごめん! 酔っちゃった?」

「い、いえ……そんな、ことは」

 

 運転が荒すぎたせい、などと口が裂けても言わなかった。

 

「君が緑谷 出久くんか。俺は葛城 セント、戦うウサギと書いて、戦兎(セント)だ。よろしくな」

「は、はい……あの、葛城さんはオールマイトとはどういう」

「腐れ縁、ってやつかな。俺の父親とあそこの筋肉ダルマが友人関係で、息子の俺にまで干渉してきているってわけ」

 

 辛辣な物言いにオールマイトは静かに傷つく。

 

 緑谷はネットのアンチ掲示板を思い出した。いくら人気なヒーローとはいえ嫌う人間はかなりいる。オールマイトとて例外ではない。

 

 きっと何かの理由で嫌いなのだろう。

 

「はは……葛城少年、もう少しオブラートに包んでくれてもいいんじゃ(ごふ……)」

 

 嫌な咳の音がした。

 

「……これでも十分加減してるんだけど――そういや緑谷くん。パンドラボックスはもう見学したのかい?」

「え、いえこれからですけど」

「んなっ!? まだ見ていない!? このてぇんっさい物理学者の研究の集大成たるパンドラボックスの展示をまだ見ていないっ!? こうしちゃいられない! メリッサ、早く案内して差し上げなさい!」

 

 ハイテンションになったセントは今にものけ反って焼肉に誘ってきそうだった。

 

「え、でも」

「そんなだから彼氏できないんだぞ? 一日中研究室に籠ってる引きこもり系女子なんか今日日モテないぞ」

「失礼ね! こう見えてもモテるんです! 変人研究バカにだけは何も言われたくないですッ!」

「バカって言うなよバカ!」

「そっちから言ってきたんでしょうが!」

 

 急に息ぴったりの漫才のようになった。

 

「あの、喧嘩は……」

「っご、ごめん……そうね、案内してあげるわ」

「で、できれば安全運転で」

 

 

 

 

 二人がいなくなった途端、オールマイトがせき込みながらしぼむ。

 

「ごふっ……助かったよ、葛城少年」

「あんたの衰えを見せちゃいけないからな。にしても、随分しぼんだもんだ」

 

 周囲に誰もいないことを確認しつつ、セントは彼に手を貸す。

 

「ね、ねえこれ見られても大丈夫かな……私コスチューム着たままなんだけど」

「安心してくれ。どう見てもオールマイトのコスプレしたガリガリのおっさんにしか見えないから」

 

 

 少しだけ心が傷ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

「――デク? 随分変わったニックネームね。私の事はメリッサでいいわよ」

 

 翌日に控えた博覧会のせいか、多くの人がごった返していた。

 

 それこそ普通に歩いていれば、ここが人工島の上であることを忘れてしまいそうだった。

 

「凄い賑わいですね」

「そうね。科学者だけじゃなくてその家族も住んでいるから、商業施設は普通の街と同じくらい発展してるわ。勿論、今がエキスポのプレオープン中だからって言うのもあるけど」

 

 話していると、夏だというのに首にストールを巻き、大きな本を携えて歩いている人を見かける。

 

(あの人もヒーローっぽい。くっ、僕としたことがマイナーヒーローの調査がおろそかだった!)

 

 などと考えていると、今度は同じ顔立ちだがベレー帽をかぶり、近未来的なタブレットを持ち歩いている人物を見かける。

 

「デジャヴ……」

「どうかした?」

「いえ、すごくそっくりな人を見かけたもので」

「マズいわね」

 

 一瞬メリッサが険しい顔になる。

 

「デジャヴはI・アイランドが変わった証拠よ。何も起こらなければいいけど」

「ええ!?」

 

(こんなに人がいるってのにトラブルでも起こったら……!)

 

「って、冗談よ。これだけいれば、そっくりさんの一人や二人いるわよ」

「な、なんだ……」

 

 どうやらこの人は見た目よりもお茶目な人なのかもしれない。

 

 なおこのやり取りのせいで“怪獣ヒーロー”ゴジロを見逃してしまったことに気付き、緑谷は後でものすごく落ち込んでしまうのだった。

 

 

 

 そんなこんなで展示室に到着し、メリッサによる解説を伴いながら見学していると本命のパンドラボックスの前にたどり着く。

 

「これが噂の……!」

「ええ。記録が正しければ火星から持ち帰られた物だそうよ」

 

 超常黎明期、人類は宇宙探査に力を入れていた。その一環として日本は火星の有人探査を成功させる。だが、このニュースは歴史の合間に埋もれてしまうのである。

 

 火星探査の報告セレモニーの一週間前、中国で光る赤子が生まれたというニュースが報道されたからである。

 

 これにより日本でも急遽調査が行われ、結果後の個性と思われる能力が次々と発見され、宇宙開発の事など隅に追いやられてしまったのである。

 

 その後、パンドラボックスは国のしかるべき機関が保管していたようだが、異能解放軍の起こしたテロによりすべてが紛失。十数年前に発掘されるまで行方不明だったのである。

 

「そっか、超常が起こらなければ今頃僕たちは宇宙旅行を楽しめているはずだったって言いますよね」

「もしかすると、個性は宇宙人が持ってきたものだったりして」

「もう! 今度は引っかかりませんよ?」

 

 和やかに談笑していると、ふと殺気を感じた。

 

「――デクくん楽しそうやね?」

 

 振り返るとヒーローコスチューム姿の麗日がにこやかに立っていた。

 

「う、麗日さん!?」

「デクくん楽しそうやね(二回目)」

 

 耳郎、八百万も一緒であることから女子組で一緒に来ていたようだった。

 

「え、い、いやこれには訳があって――うわぁっ!?」

 

 緑谷はテンパって展示台にぶつかってしまう。これはパンドラボックスと一緒に発見された黄金のブレスレットであった。

 

「ってて……んん!?」

 

 気が付くとそれは彼の右手首に装着されてしまっていた。

 

「え!? 何でいつの間に!?」

 

 気のせいか、それが独りでにに輝いたように見えた。

 




 デクくんがフルガントレットではなくベル様ブレスレットを身に着けることになりましたとさ、まる。

 なお白黒のウォズさんらしき人が出ていましたが、我が魔王も我が救世主も出る予定は一切ありません。


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二人の天才4

~前回までのあらすじ~

セ「てぇんさい物理学者の葛城セントがいるI・アイランドでは、このてぇんさいの研究の集大成を発表する博覧会が開かれていた!」

メ「て、その言い方他の研究者に失礼でしょ!?」

セ「そういうこの少女は研究一筋、彼氏いない歴=年齢の非モテ女子高生メリッサ・シールド」

メ「自称天才の変人研究者に言われたくないんですけど!? 時々奇声あげて走り回るやめてくれないかしら!?」

セ「――そう言ってワンワン泣いてすがるもんだから? この心優しき天才は出会いをあげるために招待状を送るのだった」

メ「送ったの私なんですけど!?」

セ「パンドラボックスを見学していたメリッサの愛しの君に謎のブレスレットが装着されてしまう! さあどうなるチャプター2!?」

メ「今までチャプター1だったの!? ていうか色々訂正したいんだけど!」




――――

――

 

 

「――へえ! みんなヒーローの事務所に!」

「い、いやーそんな大した事は」

「ウチも避難誘導くらいしか」

 

 あの後、ブレスレットについては専門家(セント)が来てから処理することになったため、近くのカフェでお茶をすることになったのだ。

 

 最初は険悪なムードだった麗日とメリッサも、いつの間にやら仲良くなっていた。

 

「わ、私は気が付いたらCM出演することに」

 

 数日前にテレビデビューしてしまった八百万は頭を抱えていた。

 

「すごいなぁ……ま、私もI・アイランドじゃ有名だけど」

 

 

 にぎやかな女子トークを遠目に見つつ、緑谷はブレスレットを外そうとしてみる。

 

 留め具がどこにあるのかわからず、手をすぼめてみても、それに合わせて縮むので抜けない。

 

「なにしょげた顔してんだ、緑谷?」

「いや、それが――って峰田君っ!? に上鳴君も!?」

 

 どうやら二人はアルバイトとして来ていたようだった。

 

 空き時間にエキスポを巡り、そして素敵な出会いを求め(こっちが本命)

 

 そうこうしていたら飯田がこちらへ駆けて来てお説教が始まる。

 

(せ、世界って狭いんだなぁ……)

 

 この辺は大人の事情である。

 

 いつもの喧騒が戻ってきた辺りで、爆発音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『――撃破タイム1分2秒! 現在1位です!』

 

 そこでは南場重工の警備システム『ハードガーディアン』を撃破するイベントが行われていた。

 

「ふん……他愛ない」

 

 たった今最高記録を塗り替えたのは竜ヶ峰 サキ。クラスメイトがここにもいたのである。

 

「えっ!? サキ姉までいるの!?」

「――ほう、君も来ていたのか、緑谷 出久」

「壇君も!?」

 

 ジャケット姿のクロトも戦いを観戦していた。

 

「ゲンムコーポレーション宛に招待状が届いていてね。多忙な父の代わりに私が参加することになったのさァ!」

 

 本当に世界は狭かった。

 

『――おおっと! 撃破タイム46秒! 新記録更新です!』

「シャァッ!」

 

 と、状況説明している間に爆豪が新記録を打ち立てた。案の定、彼も来ていた。

 

「あ”ァ!? どうしてデクがいるんだッ!?」

 

 勝ち誇っていた爆豪は目ざとく緑谷を発見して飛んできた。

 

「か、かっちゃん!?」

「へっ! 丁度いい、お前も挑戦しろや。どっちが上か白黒つけようぜ!」

「え、いやでも」

「ああ!? 怖気づいたか!」

「そ、そう言うわけじゃ」

 

 因縁の二人がいがみ合っていると会場が氷漬けになる。

 

『またもや新記録! タイムは42秒』

 

 涼しい顔で記録を出したのは轟だった。

 

「なぁにしれっと記録更新してんだ半分野郎!」

「……ん? みんな来てたのか」

「スルーすんな!!」

 

 行ったり来たりする爆豪を見てメリッサの目は点になっていた。

 

「なに、あれ」

「いやー男の因縁、的な?」

「いつもの事ですわ……」

 

 そんないがみ合いを終わらせたのは意外にもクロトだった。

 

「まあ君たち、そのような醜い争いはやめたまえ」

「んだと!?」

「いや争っては」

 

 余裕の笑みでクロトはゲーマドライバーを装着した。

 

「君たちに最高神の御業を見せてあげよう」

 

『なんと! 次の挑戦者は、雄英高校体育祭の異端児!』

 

「試験のデータを試させてもらおうかァ!」

 

\カメンライダービルド! デンジャラス・ゾンビィ……/

 

「グレードX-2・変身!」

 

『ガーディアンチャレンジ――スタート!』

 

\ラビットタンク! ウサギトセンシャ! ベストベストマッチ! イェァ! アガッチャ! デンジャラス・ゾンビィ……!/

 

 その姿はかつて爆豪をボコボコにしたデンジャラスゾンビの形態に近かった。違いがあるとすればベルトがゲーマドライバーであるということか。

 

「フゥ!」

 

 ガシャコンブレイカーでガーディアンを滅多打ちにしていく。

 

「ブゥヘヘヘ!!」

 

 順調にダメージを与えていたが、突如として変身が解除されてしまった。

 

「……」

「…………(駆動音)」

「……フゥゥゥウゥ!!」

 

 そこからはヤケになったのか、クロトは壊れた人形のようにハンマーを振り下ろしてスクラップに変えた。

 

『撃破タイム47秒! 残念ながら記録更新とはなりませんでした……!』

「くっ……変身時間は30秒程度か」

 

 冷汗をかきながらクロトふんぞり返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――てめえら、俺抜きで何楽しんでんだ、コラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、この声はぁッ!?』

 

 ゲートから堂々とやってきたのは、少しガラの悪そうな男だった。

 

「あれは――“ノースヒーロー”グリス!!」

 

 ヒーローオタクの緑谷は超絶な早口で解説し始めた。

 

 

 グリスは日本の北部を中心に活動しており、副業に農業をしている異色のヒーローだ。彼の人気はオタク界隈では特に高く、もし首都圏で活動すればオールマイト以上の人気を得られるとも言われている人気ヒーローなのだ。(緑谷談)

 

『日本の北国で人気急上昇のヒーロー、グリスだぁッ!』

 

 その紹介に気をよくしたのか、彼はベルトを装着し、ドヤ顔でポーズを決めた。

 

「ノースヒーロー:グリス、見参」

 

 続けてポケットから出したゼリー飲料のようなアイテムの栓を開いてベルトにセットした。

 

\ロボットゼリー/

 

 工場の作業音のようなものが鳴り響く。

 

「変身!」

 

 挑発するように新規のガーディアンを指さし、反対の手でベルトのレンチを下した。

 

\潰れる! 流れる! 溢れ出るゥッ!/

 

 グリスはビーカーのようなもので薬漬けにされ、その後に搾り上げられる。そしてあふれ出たゼリー成分によって装甲が形成される。

 

\ロボット・イン・グリス!! ブラァッ!!/

 

『ガーディアンチャレンジ――スタート!』

 

「心火を燃やして、ぶっ潰す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






※尺の都合上三羽ガラスは出せません


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二人の天才5

前回投稿設定ミスって正しい最新話が表示されなくなる事態になってしまいました……だが私は謝ら

観れてない人は前話からどうぞ


――――

――

 

「――個性強度の急激な下落、明らかに無理をし過ぎだな」

「ああ、そうだね」

 

 去年の春ごろ、個性を譲渡した結果である。だがオールマイトはそれは言うまいと口を閉ざす。

 

「で、でも今でも1,2時間なら活動が」

「前に会った時は3時間って言ってたよな?」

 

 指摘に声を詰まらせる。

 

「全部ひとりで背負ってきたツケが回ってきたんだ。自業自得だろ」

「葛城少年……私はやらねばならんのだよ。平和の象徴として」

「そういうとこだ」

 

 セントの冷たい視線にオールマイトは身を強張らせる。

 

「あんたは全部自分でやろうとする。何から何まで全部、人に頼るってことをしない」

「それは」

「分かってるさ。あんたの実力は頭一つどころか十個ぐらい抜けている。そのおかげで日本のヴィラン犯罪の発生率は一桁台で収まっている」

 

 通常、他の国では20%前後あるのだが、日本だけは群を抜いて低いのである。

 

「でも10年後、いや20年でもいい。もっとその先、あんたが――オールマイトが引退した後は?」

「私だってそれを考えているさ……」

「いいや、考えていなかった。その証拠が――緑谷 出久だろ?」

「ッッ!?」

 

 相変わらず恐ろしい観察眼だ。この葛城 セントという男に隠し事はできない。天然物の思考力、考察力はまさに天才と呼んでもバチは当たらないだろう。

 

「見てりゃ気付くさ。彼が体育祭で見せた超パワー、体と共に発展していくはずの個性が自分の体を傷つけることはない。無茶をすれば別だが、あれは単純にコントロールができてなかっただけ」

「ま、まぁ彼の個性は独特だからね……」

「それに、あんたみたいな善意の塊が特定の生徒をえこひいきすることは、普通だったらない」

「……ッ!」

 

 自分の弟子だからと連れてきた結果がこれか。同伴者を安易に選んではいけないということか。

 

「全部、自分の蒔いた種だ。八木さん」

 

 ここにきてセントは彼の名を呼んだ。

 

「あんたが見込んでいるくらいだから、相当立派な心の持ち主なんだろうさ。でもあんたは彼の善意に甘えて何もしていない。彼の手、もう無茶を出来ない状態なんじゃないか?」

 

 緑谷が傷つくたびにリカバリーガールからお小言をもらっていた。

 

 彼が限界を超えて無茶をしてしまう、それを止めるのが師匠の役目ではないのかと。

 

「5年前、宿敵との戦いであんたは傷を負った。その時点から後継者を探したんじゃ遅かったんだよ」

「そうは言ってもね、葛城少年。私はオール……宿敵と戦っていた。その時点から探していれば私の戦いに巻き込んでしまったかもしれないんだ」

「八木さん、それはあんたの都合だよ! 世界の脅威は――あんたの宿敵だけじゃないはずだ!」

 

 10年前。

 

 セントの父葛城 タクミはヴィランによって命を奪われた。

 

 その犯人をオールマイトは逃がしてしまった。以来、ヴィラン――ブラッドスタークは世界中を逃げ回っているのだ。

 

「ブラッドスタークはまだ世界のどこかで悪事を働いている! メリッサの様に人体実験をさせられた人間は数え切れないほどいる! あんたは平和の象徴(オールマイト)を自分だけが背負ったせいで苦しむ人を増やしているんだッ!」

 

 もし、オールマイトに優秀なサイドキックが居れば。

 

 もし、同じくらい優秀な強さのヒーローが居れば。

 

 もし、平和の象徴なんかじゃなかったら。

 

「葛城少年……やはり、君は」

「……科学は未来に継承できなきゃ意味がない。俺は俺のやり方で平和を継承してみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

\スクラップフィニッシュ!!!!/

 

 ゼリーのようなエネルギーが噴出し、グリスを押し出す。

 

 基盤がむき出しになったガーディアンに強力な蹴りが命中した。

 

 

『撃破タイム36秒! プロのプライドを見せてきましたァッ!』

 

 拳を突き上げてグリスは雄たけびを上げる。

 

 その様子は飢えた獣のように荒々しかった。

 

『さあ次は――え? なになに……ここで残念なお知らせです。競技用ガーディアンのストックがあと一体しか残っていないそうです! つまり挑戦できるのはあと一人!』

 

 アナウンスに反応した爆豪は思い切り緑谷の背中を蹴り飛ばした。

 

「え――かっちゃん!?」

「挑戦してこいや!!」

 

 どうしても白黒つけたかったのか、無理やりにでも参加させるようだ。

 

 ステージの上に無様な着地を決めた緑谷は、どうやら参加者認定されてしまった。

 

『ラストチャレンジ! 盛り上がっていきましょう!』

 

「っやるしか……!」

 

 注目される中、全身に力を込めて個性を発動する。

 

(ワン・フォー・オール・フルカウル!)

 

 その刹那、背筋を悪寒が襲った。

 

 何かが体の中に滑り込んだようなもどかしい感覚になる。

 

「な……んだ、これ?」

 

 右手のブレスレットが光り輝いた。

 

 ひとりでに右手が上がる。

 

『――スタート!!』

 

 号令と共にガーディアンの背後に紋章が浮かび上がる。

 

 それはブレスレットにある文様と同じだった。

 

 ガーディアンは一瞬で押しつぶされてしまう。

 

「んな……?」

 

 そして出久の意識が遠のいていく。

 

 

 

『――我が名はベルナージュ』

 

 頭の中で声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

「――ありがとう、物資は無事届いた」

 

 I・アイランドのどこかにある倉庫。

 

 ブラッドスターク――デヴィット・シールドは誰かに電話を掛けていた。

 

 周囲には武装した人間が数人。腕にボトルのセットされた腕章をつけている者もいる。腰には濃い紫色の銃が装備されていた。

 

「さて、懐かしき場所はかなり変わっているなぁ……メリッサは、元気にしてるかな」

 

 デヴィットの瞳が赤く輝く。

 

『お前ら、計画通りに行こうか――蒸血!』

 

\ミスト・マッチ……/

 

 闇の中でコブラの紋章が光り輝く。

 

 ヴィランたちが静かに動き出す。




戦闘シーンはおあずけですぞ


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二人の天才6

エボルトの外道感を感じ取ってもらえたら幸いです。


――――

――

 

(どこだ、ここ……)

 

 赤茶けた砂漠が辺りに広がっている。

 

 空はぼんやりと赤く、それを黒雲がくまなく覆っている。

 

 地平線の先にはバベルの塔を思わせる建造物が建っていた。

 

 緑谷は自分の体に違和感を覚え、両手を見てみる。

 

 もやがかかったように何もなかった。それどころか全身が殆どない状態。

 

 

 

\ブラックホール!! ブラックホール!! ……レボリューション!!!!/

 

 

 

 突如として周りの風景が闇に飲まれていく。人々が穴に吸い込まれる。

 

「ファッハハハハハ!」

 

 それは禍々しい怪物だった。

 

 白と黒の対比で構成された鎧を身にまとっており、腰には特徴的なベルトがあった。

 

 

「――もうこれ以上、私の民を傷つけるなッ!」

 

 怪物に向かって果敢に立ち向かう女性がいた。

 

 顔は見えなかった。凛とした後姿からは、オールマイトに似た雰囲気を感じ取った。

 

「何言ってるんだ。これはお前らが望んだことだろう? 誰よりも力が欲しい、もっと優れた存在になりたい! その望みがこの状況を招いたのさ!」

 

\レディー・ゴー!!/

 

「ありがとよ、お前らのおかげで俺はもっと強くなれる」

 

 緑谷は助けようとした。だが体が存在しないせいで動くことができない。

 

\ブラックホール・フィニッシュ!!!! チャオ♪/

 

 一瞬で闇に飲まれる。竜巻のようなものが発生し、女性の体も一瞬で消滅してしまう。

 

「これ以上貴様の好きにさせぬ!」

 

 闇に緑色の光が浮かび上がる。

 

 突如として振るわれた剣が怪物のベルトを破壊する。

 

「ぅ!?」

「我が星と共に滅びよ――エボルト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――んん……?」

 

 目が覚めると、見慣れぬ天井が。

 

「よかった、目が覚めたのね」

 

 メリッサの声が聞こえた。

 

 起き上がると、研究室のような所で眠っていたことに気付く。

 

「大丈夫? どこか痛いところはない?」

「あ、はい……変な夢を見たくらいで」

 

 

 突如として何かの出来上がる音が聞こえる。

 

 

 

 

「――――ヒャッ(⤴)ホホイ!!」

 

 

 

 

 

 奥の方からとんでもない奇声が響いてきた。

 

「うわっ!?」

「気にしないで――いつもの事だから」

 

 案内されるままに中へ入っていくと、巨大な機械の前で歓喜しているセントの姿があった。

 

「デクくん、最初に会った時の怪物覚えてる?」

「オールマイトの攻撃が効かなかったあの……」

「そ、あれはスマッシュと言ってパンドラボックスから発生するガスの影響で生み出されるの」

 

 ウキウキしているセントが装置からボトルを出した途端、急にテンションが下がった。

 

「なんだ、ハズレかよ」

「私たちはそのガスを回収して浄化する。このボトルみたいにね」

 

 彼女が取り出したのはドラゴンのボトルだった。

 

「じゃ、じゃあパンドラボックスって」

「――危険かもしれないな」

「わっ!」

 

 素の状態に戻っていたセントのギャップに緑谷は驚いて飛び上がった。

 

「危険だけど、上手く扱えば平和のための力になる。科学の善悪を決めるのは、あくまで周囲の思惑だ」

「……でも、昔は科学は戦争の道具として使われたって」

「ああ、悲しいことにそれは事実だ。かつて科学は争いの道具だった」

 

 彼はスーツの裾を正しながら言った。

 

「だとしても――人々が“ラブ&ピース”の心を忘れなければ、きっと大丈夫だ」

「ラブ……愛と平和」

「天才の言葉だ、ありがたく胸に刻んでおきな」

 

 

『――誰よりも力が欲しい、もっと優れた存在になりたい! その望みがこの状況を招いたのさ!』

 

 

 夢で怪物が叫んでいた言葉が脳裏で鳴り響く。

 

「良いことしか言わなければ完璧なイケメンなのに」

 

 メリッサがぼそりと呟く。

 

「じゃ、パーティで会おう」

「スルー!?」

「おいおい、時間に遅れそうになってるのにふざけたりするかよバカ」

「え――わっあと30分!?」

 

 緑谷が気絶している間にそれだけの時間が経ってしまっていたようだ。

 

「じゃ、またあおう! See you!」

 

(あれ、結局腕輪はずれてないし……)

 

 緑谷の胸に得も言われぬ不安感が生まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

「――ム、体調は大丈夫なのか?」

「うん、ごめん心配かけちゃって」

 

 スマホを見たところみんなで集合してから行くことになっていたようで、緑谷も飯田たちと合流したのだ。

 

 まだ来ていないのはクロトと爆豪だけだった。

 

 彼らより先に、ドレスに着替えた女性陣も遅れながらやってくる。

 

「オフッ!?」

 

 峰田が突如として鼻血を噴き出した。

 

 それだけでなく野郎どもは軒並み顔を真っ赤にした。あの轟でさえ顔を背けていた。

 

「……似合わない?」

 

 恥ずかしがっているのはサキだった。

 

 ひざ丈の真っ赤なオフショルダーのドレス。髪はドラゴンのような髪飾りで纏めてあった。

 

 普段と違うのは、その豊満な胸を一切隠さず、むしろ強調しているところだろう。

 

「い、いや……そうじゃなくて」

「――ごめんおまた、せ……?」

 

 別行動だったメリッサがやってきて固まった。

 

「……サキちゃん、だよね?」

「? うん」

 

 質問の意図が分からずサキは困惑していた。

 

「昼間はそんなに胸無かったわよね? もしかしてそういう個性?」

「ち、違いますっ!」

 

 彼女の胸が普段はちんまりとした大きさまで縮んでいるのは確かに驚くべきことだろう(本編第七話参照)

 

「まーそう思う気持ちはわかる」

「サキ姉のスタイルは不思議なくらい変わるんよね……」

 

 耳郎、麗日はいつもの事なので納得するようにうなずいていた。八百万は真っ赤になる野郎どもを白い目で見ていた。

 

「みなさん……私たちは雄英高校の代表ですのよ? もう少し、こう品格というものを」

 

 このフリーズ状態はクロトがやってくるまで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 

 パーティが始まった瞬間だった。

 

 オールマイトがゲストとして登壇し、乾杯の音頭をとろうとしたところで会場の照明が落ちる。

 

「ン――!?」

 

 参加していたヒーローはヴィランの出現を警戒するも、警備システムの不調で捕らえられてしまう。

 

『紳士淑女の諸君! ご機嫌うるわしゅう!』

 

 ガーディアンを従え入ってきたのはブラッドスターク。ライフルモードのスチームガンで照明器具を破壊し、参加者の悲鳴を嬉しそうに聞きながらステージに上る。

 

『たった今、この瞬間からI・アイランドは俺たちが占拠した』

 

 スタークは蹲るオールマイトに銃口を向けて腰を下ろす。

 

『人質はお前らだ。無駄な抵抗はおすすめしないぜ?』

「――そう言って大人しくすると思ったか?」

 

\マックス・ハザードオン/

 

 セントはガーディアンを蹴散らしながらベルトを装着しハザードトリガーを起動する。

 

『誰かと思えば、随分立派になったじゃないか――セントくん」

 

 最後は変声を解除して情に訴えかける。

 

「そっちから出向いてくれるのはありがたいよ――スターク!!」

 

 小細工など彼には通用しない。黒く細長いボトルを振り、半分に折る。

 

\ラビット!/

 

 ベルトに挿入しレバーを回転させる。

 

\ラビット&ラビット――ビルドアーップ!! ガタガタゴトゴットンズッタンズッタン――Are you ready?/

 

「変身」

 

 二つの鉄板にプレスされセントの体が変化する。そして彼が指を鳴らすとウサギのアーマーが装着されていく。

 

\オーバーフロー! 紅のスピーディジャンパー! ラビット・ラビット! ヤッベーイ――ハエーイ!/

 

『随分威勢がいいがな――人質がいることを』

「悪いけど俺の一番嫌いな人でね!」

『んぐっ!?』

 

 ハエーイと言われた通り、ビルドは高速のパンチでスタークをモニターにめり込ませる。

 

『くっ――普通は躊躇うとこだろうよ!』

 

 スタークは二匹の大蛇を召喚しビルドを襲わせる。

 

「フルボトルバスター」

 

 対するビルドは巨大な剣を召喚しそれを迎え撃つ。

 

 同時にガーディアンも次々と始末していく。

 

『やるなぁ!』

 

 次の号令で黒いスマッシュが出現する。

 

 かなりの強敵なようで、さすがのビルドも苦戦している。単純にパワー負けしているのだ。

 

 彼は攻撃を躱しながらボトルを引き抜き、もう一度伸ばす――同時にそれを投げ上げスマッシュとのつばぜり合いを挑む。

 

 ボトルは宙を舞いながらシェイクされ、モードが切り替わる。

 

\タンク!/

 

 押し負けると見せかけてボトルをキャッチし、折ってベルトに装填。

 

\タンク&タンク/

 

「ビルドアップ」

 

 無数の青い戦車がやってきてスマッシュを迎撃する。

 

\鋼鉄のブルーウォーリアー! タンク・タンク! ヤッベーイ――ツエーイ!!/

 

 強烈なパンチがスマッシュに命中する。

 

 先程まで劣勢だったのが一気に逆転する。

 

『ほう……使い分けか、大したもんだが――これならどうかな!?』

 

\フルボトル! スチームアタック!!/

 

 狙われたのは、恐怖で蹲っている女性だった。

 

「!」

 

 ビルドは戦闘を中断し、女性を庇う。

 

「へ……?」

『当然、お前ならそうするよなぁ』

 

 ダメージを負いすぎて変身が解除されてしまう。

 

 崩れ落ちるセントをスタークはネコ掴みする。

 

『さて、人質のヒーロー諸君。これの様になりたくなかったら大人しくしてな』

「くそっ……!」

『じゃ、案内してもらおうか――最上階の保管室にな』



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二人の天才7

遂に映画編が本編の進度を越えてしまった。

でもこっちの方が続きが書きたいのです。


――――

――

 

 

 

―――― 一方その頃

 

 

 

「……クソッこっちで本当に合ってるんだろうな?」

「どうだろうな」

 

 爆豪はもう一人の迷子、ノースヒーローグリスともにどこかを彷徨っていた。

 

「チッ……迷子じゃねえか」

「ンだと、コラ」

 

 二人は道なき道を行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――何か俺たちにできることはねえのか?」

 

 電源の落ちたエレベーターホール。

 

 轟のつぶやきにメリッサは応える。

 

「警備システムを取り戻せば、少なくともこの状況は改善できるわ」

「……決まりだね」

 

 ヴィジランテ時代の血が騒ぐのか、サキは放っておいても勝手に動き始めそうだった。

 

「オイオイ無茶だろ!? 助けが来るまで大人しく待とうぜ……」

 

 峰田は臆病がな性格のせいか、いつも通り及び腰だった。

 

「今動けるのは私たちだけだよ。ならやらなきゃダメでしょ?」

「だが俺たちはまだ仮免すら持っていない学生の身だ。残念だが」

「免許、あればいいんでしょ?」

 

 メリッサは何処からか取り出したヒーロー免許を掲げる。

 

「I・アイランドの中限定だけど、私はプロヒーローとして動くことができるわ」

「ここまでおぜん立てされちゃ、やるっきゃないっしょ?」

 

 上鳴の一言がきっかけで皆が賛同する。

 

「くそっ! やりゃいいんだろやりゃぁ!」

 

 同調圧力というものは恐ろしい物で、峰田は意見を翻さざるを得なかった。

 

「悪いが私はここで待たせてもらおう」

 

 だがクロトは同調しなかった。

 

 さすがは神である。

 

「らしいっちゃらしいけど、そこは乗っとこうよ」

 

 耳郎のツッコミが入るも、それを気にする神ではなかった。

 

「――目標は、管制室のある200階。なるべく戦闘は避ける、いいわね?」

 

 

 ヒーローの卵による抵抗が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 階段を上ること80階。

 

 そこで気づかれてしまったのか、エレベーターで追っ手が迫ることとなる。

 

 

 二人組だった。

 

 どちらもボトルのセットされた腕章を身に着けており、腰には紫色の銃を携帯している。

 

 皆茂みに隠れるも、くまなく捜索されているため見つかるのは時間の問題かもしれない。

 

(くっ……気付かれる)

 

 一か八か、緑谷は奇襲を仕掛けようとたくらむ。

 

「――貴様らが侵入者か?」

「ンだと!?」

 

 一瞬バレたかと肝を冷やしたが、なじみのある声が聞こえて別の意味で冷汗が流れる。

 

「おい……刺激すんな。こいつら――ヴィランだ」

 

 もう一人の聞きなれぬ声――おそらくはグリスの物だろう。

 

「なんだ、警告を無視したバカか」

「それならば話が早いですね」

 

 しかしこれはチャンスともいえる。

 

「全ては南場重工の為!」

「反抗する者は始末する!」

 

\ギア・エンジン/\ギア・リモコン/

 

 二人組のヴィランは腕章のボトルを銃に装填し、引き金を引く。

 

「「潤動!」」

 

\ファンキー!!/

 

 丸坊主の方は右半分が白い歯車で覆われたアーマーを、左半分は青い歯車で覆われたアーマーをそれぞれまとう。

 

\Engine running gear/\Remote control gear/

 

「ハッ! 良いじゃねえか。下がってな」

 

 グリスは闘技場で使用していた物とは別のベルトを装着する。

 

「さーてと、新装備の肩慣らしでもさせてもらうぜ」

 

 彼は水色のジャケットのボタンを外し、懐からナックルのようなアイテムを取り出す。

 

\レ・デ・ィ/

 

 それを起動させ、ベルトにセットする。

 

「変身!」

 

\フ・ィ・ス・ト・オ・ン/

 

 ベルトから十字架が出現し、それが白のアーマーを形成する。

 

「ッシェァァァ!!」

 

 威勢よく飛びかかるも、白い方――エンジンブロスのパンチを喰らった瞬間、鎧が四散し、グリスは背後の壁にめり込んだ。

 

「……」

「…………」

 

 シリアスな雰囲気が台無しであった。

 

「つ、次はあなたですッ!」

 

 青い方――リモコンブロスは今の出来事を無かったことにしたいのか、爆豪に勝負を挑む。

 

 爆豪は応戦の構えを見せるも、突如として出現した氷塊がそれを防ぐ。

 

「ここは俺が引き受ける。お前らは先に行け!」

 

 轟は氷塊をさらに生み出し、皆を連絡橋まで押し上げる。

 

 

「残るのは自分だけでいい、中々勇敢ですね」

「お前、知ってるか? こういうの、世間じゃ死亡フラグって言うんだぜ?」

 

 爆豪はネクタイを緩め、轟は霜の降りた右半身を温める。

 

「うるせえな。初っ端の敵は三下って相場が決まってんだよ!」

「悪いが死ぬつもりはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――リモコンブロス&エンジンブロスV.S.爆豪&轟、開戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

『ふん、大した足止めにならねえか……』

 

 スタークは最上階で映像を眺めていた。傍らのセントは保管庫の鍵を解除する作業をやらされている。

 

『ウーツーミ』

 

 呼ばれると、機械のようなぎこちない動きで男が現れる。

 

『お前が行ってこい』

 

 スタークから赤のドライバーを渡されると、男は静かに任務へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――なんか100階過ぎてから足止め喰らわなくなってないか?」

 

 調子に乗りやすい性格の峰田は何故だか楽勝そうな表情をしていた。

 

「油断しちゃダメ。罠の可能性もある」

 

 サキの言葉通り、フロアを抜けた先には大量のガーディアンが待ち受けていた。

 

「……迂回できる道は?」

 

 メリッサは首を振って否定した。

 

「ならば私たちで足止めですわね」

 

 八百万を筆頭に上鳴、峰田、飯田が戦闘態勢に入る。

 

「緑谷君はメリッサさんを連れて先に!」

 

 サキも得物を創造してもらい、裂撃をチャージする。

 

「ごめん!」

 

 

 

 ――――ガーディアン(多数)V.S.ヒーロー科1-A(緑谷、麗日を除く)。防衛開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 風力発電の施設。

 

 内側が駄目なら外側から。

 

「――あそこの非常口までたどり着ければ一気に上層階よ」

「っそうか! あのドラゴンの力で」

「いや飛べないわよ。お茶子さんの個性を使えば――!」

 

 彼女の考えを読んでいたのか、眼鏡にスーツ姿の男性が待ち構えていた。

 

「え、飯田くん?」

「麗日さん、似てるけど違うよ」

 

 男性は赤のベルトを装着し、ぎこちない動きでボトルを振っている。

 

\蝙蝠! 発動機! ――エボルマッチ!!/

 

 ベルトのラバーが回転し、いくつものチューブが周囲に放出される。

 

「ヘンシィン」

 

\……バット・エンジン!・・・ヌゥハハハハハハハハ・・・/

 

 真っ白な蝙蝠を思わせる装甲を身にまとう。

 

 その動きはどこまでもぎこちなく、まるでロボットのようだった。

 

「――っ! 二人とも先にッ!」

 

 麗日は咄嗟に個性を発動し、緑谷とメリッサを先に行かせる。

 

「っ駄目だ麗日さん! 個性を解除してッ!!」

「――できひん! そんなことしたら、ここまで来た意味、無くなってまうもん!」

 

 二人を安心させるため、彼女は笑顔でヴィランを待ち構える。

 

 内心は恐怖でいっぱいだったが、それでも踏ん張った。

 

「――――フェーズ1」

 

 目にもとまらぬ速さで迫るヴィラン――マッドローグの拳は、麗日にぶつかることは無かった。

 

「――戦う気のない相手にゲームしかけるとか、ちょー白けるんですけど」

「っ……?」

 

 巨体が現れる。

 

「私は待たせてもらうと言った――だが助けに行かないとは言っていなァい」

「「壇君!?」」

 

 クロトともう一人、エグゼイドが救援にやってきていたのだ。

 

「やれやれ、“ハイパームテキ”の力があれば事態解決などすぐなのだがなァ」

「だから、クロトは私たちを呼んだってワケ」

 

 現状その力を扱える人物は一人しかいない。

 

「なんなん、私聞いてないわぁ……」

「よく見ていたまえ――最高神の最高傑作をォ!!」

「戦うのは私たちなんだけどね」

 

 エグゼイドはハイパームテキガシャットを受け取り、起動させた。

 

\ハイパームテキ!!!!/

 

 荘厳な起動音が鳴り響く。

 

「天才ゲーマー“m”の力、見せてあげるッ!」

 

\ドッキーング!/

 

 待機音も壮大だった。

 

「ハイパー―――大変身!」

 

\パッカーン!! ムーーテーーキーー!!!!!!/

 

 その直後、エグゼイドは巨大なロボから射出され、黄金の光を身にまとう。

 

\輝け! 流星の如く!! 黄金の最強ゲーマー!! ハイパー・ムテキ・エグゼイーイド!!!!!!!!/

 

 着地すると、黄金の輝きを纏ったエグゼイドが姿を表す。

 

 

「ノ―コンティニューで、クリアしてやるぜッ!」

 

 

 

 

 ――――マッドローグV.S.エグゼイドムテキゲーマー(withクロト&麗日)、約束された勝利の試合と化す。

 

 

 

 

 




カズミン=おとやんのネタは公式じゃ絶対やってくれないじゃん、だから自分でやるしかない。


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二人の天才8

~前回までのあらすじ~

セ「科学者たちの住む人工島、I・アイランドがヴィランたちによって占拠された。天才物理学者であり、プロヒーローの葛城 セントは果敢に立ち向かうも、ブラッドスタークの卑劣な作戦により敗北を喫してしまう」

メ「あれ、意外に普通なあらすじね」

セ「原作だって戦争編はシリアスモードだったろ? こっちもちゃんとシリアスにいかなきゃ苦情が来るんだよ」

メ「いや原作ってどういう意味よ?」

セ「おっと、ここから先はお子ちゃまのメリッサにはまだ早かったな」

メ「ちょっと子ども扱いしないでよ! 精神年齢5才のくせに!」

セ「はいはい」

メ「ぅ……なんかムカつく対応」

セ「シリアスモードだからお前と漫才する余裕はないの――水面下で動くヒーローの卵たちは次々と困難に遭遇する! 果たして彼らはこの試練を乗り越えられるのか!? さあど」

メ「どうなるチャプター3!?」

セ「……やっぱそういうとこガキだよな」


――――

――

 

 

 爆音が響き渡る。

 

 エンジンブロスは紙一重で攻撃を躱してブレードを振るう。

 

 切っ先が僅かに腹を掠め、爆豪は大きく距離を取る。

 

 

 

 すかさずリモコンブロスがそれを追撃しようとするも、轟の氷結で妨害される。

 

「目障りですね!」

「そりゃこっちのセリフだ」

 

 二人のブロスの連携は下を巻く程優れていた。まるで歯車がかみ合っているかのような流れる動きだ。

 

 たった一つのブレードを共有して使うため次の攻撃が全く読めない。

 

「っ!」

 

 加えて個性の反動がじわじわと体を蝕んでいく。

 

 爆豪の方もきっと同じはずだ。

 

 せめてコスチュームだったら五分の戦いができたかもしれない。

 

「私たちは幼いころから戦う訓練を受けてきた。あなた方とは年季が違う!!」

 

 轟は顔のやけど跡が疼くのを感じる。

 

 幼いころから訓練を受けてきた――それは自分にも言えることだ。もう立ち上がれなくなるくらいの辛い特訓を受けさせられてきたのだ。

 

「奇遇だな――」

 

 炎が巻き上がる。

 

 轟が左側の個性を発動し、火炎放射を放った。

 

「個性二つ持ちだとッ!?」

 

 

 アーマーに不調が出たのか、リモコンブロスの動きがおかしくなる。

 

「英才教育は俺もだッ!」

 

 氷結による温度の低下に加え、炎による急激な加熱で大爆発が起きた。

 

「ぐっ――!?」

 

 エンジンブロスはそれをもろに喰らい変身を解かれてしまう。

 

「これで二対一だ」

「調子に乗るなクソガキッ! 兄貴――」

 

 ただで転ぶつもりは無く、白のボトルをリモコンブロスにパスする。

 

\ギア・エンジン――ファンキーマッチ!!/

 

 それを銃に装填し、引き金を引いた。

 

\フィーバー!!!!/

 

 

 青と白の歯車がぶつかり合い、アーマーが進化する。二人のブロスが合体したヘルブロスへと進化する。

 

\Perfect!!/

 

「言ったでしょう。年季が違うって」

「丁度いい――俺も温まってきたとこだ!」

 

 すかさず爆豪が攻撃を仕掛けるも、防御力が格段に上がっているせいか有効にならない。

 

「クソッ! 見た目の変化は伊達じゃねえってか」

「……これは私たち兄弟の切り札――もし負けるようなことがあれば、私たちは“処分”されてしまうでしょうね」

 

 処分。

 

 その言葉が暗示していることを、爆豪も轟も推察してしまう。

 

「負けたら殺される、ってことか……?」

「だとしたら、大人しくしてくれませんか」

 

 いつもは「死ね」だの「殺す」だの言っている爆豪も、実際に相手が死ぬとあっては怖気づいてしまう。

 

「うん、良い子で助かりますよ」

 

\ファンキーフィニッシュ!!!!/

 

 ヘルブロスの必殺技は、突如としてカウンターを受けて失敗する。

 

 

「――ナニ手ェ休めてんだ、コラ」

 

 ボロボロのグリスはその拳から血を流しつつ立つ。

 

 擦り切れたシャツを脱ぎ捨てると、引き締まった肉体があらわになる。

 

「おいそんなことしたら」

「知らねぇよンなこと」

 

 グリスはベルトを装着し、ギラついた笑みを浮かべる。

 

「第一、ヴィランの言ってることが本当とは限らねえだろ」

 

 その言葉にヘルブロスが動揺する。

 

「ホラな、図星だ」

 

\ロボットゼリー!/

 

 彼は挑発するように指を向け、こちらへ曲げる。

 

「変身」

 

\(中略)ロボット・イン・グリス!! ブラァッ!!/

 

「やっぱ慣れねえもん使うもんじゃねえな……こっちの方がしっくりくる」

 

 黄金のアーマーを身にまとい、グリスは仮面の下で笑みを浮かべる。

 

「心火を燃やして、ぶっ潰す!」

 

 

 “ノースヒーロー”グリス(本名:沢渡 カズミ)

 

 個性:狂戦士(バーサーカー)

 

 興奮すると異常なアドレナリンを放出。戦えば戦うほど強くなるしハイになっていくぞ! ヤッちゃえバーサーカー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――――くっエンストか!」

 

 飯田の技、レシプロバーストは高火力を出せる反面、エンストして行動不能になるという欠点が存在していた。

 

「ぁっ……!」

 

 サキの個性、裂撃もまた、使えば使うほどダメージがある。

 

「ヤオモモ、弾を!」

「っ……」

 

 八百万も疲労が蓄積され弾を創造できなくなる。

 

「おいらの頭皮がァ……」

「うぇーい……」

 

 峰田、上鳴のコンビも個性の限界が来ていた。

 

「……(駆動音)」

 

 ガーディアン達に包囲される。もう抵抗する余地は無かった。

 

 

「――真打登場ってな!!」

 

\マザルアップ!!/

 

 突如として変身音が聞こえた。

 

\赤の拳(強さ!) 青いパズル(連鎖!) 赤と青の交差! パーフェクトノックア――ウト!!!!/

 

「パラドクス・レベル99(ナインティナイン)

「え、何で?」

「話は後だ!」

 

\ガシャコン・パラブレイガン!! ――回復!/

 

 助っ人に現れたパラドクスは自身の武器に回復効果を付与し、疲労した面々に向けて照射する。

 

「超協力プレーで、クリアするぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「せやぁっ!!」

 

 轟音が響き渡る。

 

 マッドローグは地面に叩きつけられて痙攣する。

 

「――フェーズ4」

 

 すぐさま起き上がり、クロトや麗日に標的を変更する。が、超高速の動きはいとも簡単に見切られてエグゼイドに捕獲される。

 

 強烈なアッパーが入り、ローグの体が浮かび上がる。攻撃の当たり判定が調整されて多段ヒットとなった。

 

「ハイパームテキは、ありとあらゆる攻撃が効かない主人公最強の無双ゲームゥ! その力をもってすれば、この世のヴィランなどすべてがザコキャラ同然なのさァ!」

「壇くん何もしてへんのに威張りすぎてへん?」

 

 ドヤ顔で解説したクロトに麗日がツッコんだ。

 

 そう言っている間にも、エグゼイドは次々と攻撃を命中させマッドローグを追い詰めていく。

 

「フィニッシュは必殺技で決まりよ!」

 

\キメワザ!!/

 

 エグゼイドの全身にエネルギーが再装填される。

 

\HYPER CRITICAL SPARKING!!!!/

 

 それは一瞬だった。

 

 ライダーキックが命中した瞬間、外れたように見えたものの、数秒遅れて攻撃が無限にヒットし、大爆発起きた。

 

「――スベテハ、ナンバジュウコウノ、タメニ」

 

 変身が解除されたマッドローグは、およそ人間とは思えない音をあげて倒れ伏す。ベルトは粉々に砕け、ボトルが転がった。

 

「なに、もしかして人間じゃなかったの?」

 

 その体から煙が上がり、時折火花が散る。

 

「――このロゴは……南場重工か」

「? なんなんそれ?」

「世界を股にかける軍需会社だ。主に兵器開発を中心に事業を展開している」

 

 立場上会社に詳しいクロトは険しい顔をしていた。

 

「南場重工は立場上ヴィランに兵器を売ることは無い……何より最新兵器など国家予算レベルの資金力が必要だ――と、なると考えられることはただ一つ」

 

 アンドロイド(?)の首筋にはU-23のナンバー、恐らくは製品番号なのだろう。

 

「急ぐぞ麗日 お茶子。ヴィランのバックには南場重工が付いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――あのベルト、自分で作ったのか?」

『うん? もちろんそうだ。この頭には並の科学者をはるかに凌ぐ知能が入っていてな。あの程度なら材料さえあればすぐ作れたさ』

 

 セントは少しでも時間を稼ごうと話を振った。

 

『が、駄目だ! 俺のベルトの10%程度の性能しか発揮できないんでな。やはり本物が欲しいんだよ――分かったら早くしろ』

 

 が、その目論見はすぐに見破られ銃口を頭に押し付けられる。

 

(くそっ……せめてボトルがあれば)

 

 一本でもフルボトルを持っていれば、奪われたベルトを取り返してこの状況を打破できる。

 

 が、一つ残さず奪われてしまっているのだ。

 

『しかし、お前も天才を自負するだけはあるなァ……父親が成しえなかったことをこうもたやすくやってのけた』

 

 挑発するようにビルドドライバーを見せつける。

 

『“会長”も随分関心があったようだぜ……これさえあれば戦争に革命が起きるってな』

「戦争に使わせるつもりはない」

『お前なら、そうだろうな。だがこうして現物が作られてしまった以上、そうはいかない。この貴重な一本を国は喉から手が出る程欲しがる』

 

 フルボトルは全部で30セットある。単純計算で30本のドライバーを作成すれば30人の“ビルド”が誕生する。

 

「違う! 俺はそんなことの為に“プロジェクト・ビルド”を進めたんじゃない!」

「いいや違わないさ。これは“無個性”のお前が戦うための“兵器”だ」

 

 デヴィットの声で言われてセントの体が凍り付く。

 

『天才ならわかるだろう? ビルドドライバーを具現化することの危険性が。プロジェクト・ビルドが明るみに出ることの重大さが。いい加減認めちまえよ! お前は(ブラッドスターク)をダシにして兵器を生み出したってな!』

 

 

「黙れッッ!!」

 

 

 

 セントの悲痛な叫びが響き渡る。

 

『ククク……ありがたいぜぇ。一時はどうなるかと思ったが、これで心置きなく地球を滅ぼせる。この地球人に取り付いて正解だったな』

 

「――どういう、こと?」

 

 愉悦に浸っていたスタークの耳に、懐かしい声が聞こえた。

 

『おお! 誰かと思えば、我が愛しの娘よ!』

 

 窮地を切り抜けてきたのか、メリッサの体はボロボロだった。

 

「取り付いたって、まさか、パパは」

 

 

 

 

 ――――Piiii!

 

 

 

 ロックの解除された音が響く。

 

『おお! 待ちかねたぞ』

 

 壁に並んだロッカーが一つ開き、スタークは触手を使って中身を取り出した。

 

『冥土の土産に教えてやろう。俺はデヴィット・シールドではない。本当の名は』

「地球外生命体、エボルト!」

 

 護衛のガーディアンを破壊し終えた緑谷が叫ぶ。

 

『どこのだれかと思えば、火星の死にぞこないか……まぁいい』

 

 スターク――改めエボルトは変身を解除し、挑発的に笑って見せた。

 

『もう一度“ショー”を見せてやるよ』

 

 そしてケースを開き、お目当てのブツを取り出そうとして、気付く。

 

 中身は一枚の紙きれだったのだ。

 

『――“悪いけど地球は破壊させない”だと……一体どういうことだッ!』

 

 もはや必要のなくなったケースを乱暴に投げ捨て、エボルトは感情をあらわにした。

 

『俺のベルトをどこへ隠しやがった! 葛城 タクミィッ!』

 

 




~どうでもいい解説のコーナー~

・U-23

 南場重工製のアンドロイドの機体名。七三分けの髪型にシャープな眼鏡(伊達)をかけた姿が特徴。スーツだったりどこかの制服だったりコートを着ていたりと差異はあるものの、基本スペックはすべて同じ。超頑丈な会長の杖を膝蹴りで折れるくらいのパワーを兼ね備えている。動きがぎこちなかったり滑舌が悪いのはご愛敬。
 名前の由来はU()-2()3()、つまり原作のあの人である。


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二人の天才9


何で本編を更新しないのかって?

こっちがクライマックスだからだ!


――――

――

 

 

 これは、まだデヴィット・シールドがエボルトに支配されていなかったときの話。

 

「――発掘品の調査依頼だって?」

「ああ、父さんが言うには火星から持ち帰られた物らしい」

 

 友人のタクミが大真面目に言うのでデヴィットは思わず吹き出しそうになった。

 

「いや、笑い事じゃないさ。事実、超常黎明期は宇宙開発が盛んだったからね」

「だとしてもそれが今頃になって発掘はおかしくないか?」

「異能解放軍のせいらしい。記録が確かならな」

 

 真剣な友の瞳に、いつしか彼も本当なのではないかという思いが生まれた。

 

「もしそれが本物だとしたら、科学が大きく進歩しそうだな」

「ああ、よろしく頼むよ。デイブ」

 

 

 

 彼の娘、メリッサが無個性だと診断されたのはその次の日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「これがパンドラボックスか……!」

 

 タクミの父シノブが発見した“パンドラボックス”

 

 白い手袋をはめたデヴィットはそれに手を触れる。

 

「見たところ地球の素材と何も変わらないが……まがい物なんじゃないか」

 

 だがどこを探しても楔や釘などのパーツは見つからず、どのようにして箱の形状を保っているのか不明だった。

 

「僅かだかガスを放出してる。デイブが来る前に採取は済ませてあるんだが……凄いぞ」

 

 と、タクミは実験動画を見せる。

 

 ガラスケースにガスを注入すると、中のラットに異変が起きた。

 

 突然痙攣し、消滅する個体。凶暴性をあらわにする個体。体を変化させる個体。

 

 仮説など鼻で笑うような結果が現れた。

 

「な――っ」

 

 デヴィットは思わずボックスを落としそうになった。

 

 これのガスが生物に異変をもたらしている。その事実に悪寒が走る。

 

 幸いにもガスマスクをしていたためすぐに危険とはならないが。

 

「これをもし……人体に投与したら」

「ああ、等身大の――怪物、異形型の個性に似た力を発現させるだろうな」

 

 個性。

 

 それは先天的に得るものだ。どんな手を使おうとも後天的に個性を与えることなどできない。

 

「――ブ? デイブどうかしたのか?」

「い、いや……原理が少し気になってな」

 

 もしこれの研究を進めたら、メリッサにも個性を与えることができるのではないか。

 

 そんなことは、とても言えそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 研究を続けること一カ月。

 

 デヴィットの体に異変が現れる。

 

『やっちまえよ、人体実験』

 

 気が付くと、見知らぬ場所にいることが増えた。明らかに自分の個性以上にできないことをやってのけることが多々あった。

 

 そして頭に声が響く、幻聴が聞こえるようになった。

 

「駄目だ……そんなことをしたら」

『いいじゃねえか、メリッサの為だろ?』

 

 何の個性も持っていない。子供たちの世代ではかなり珍しく、ほとんどないと言ってもいい。

 

 学校から帰ってくるといつも笑顔だが、内心では悩みを抱えているに違いない。

 

『お前の研究は無個性で悩む人の救いになるはずだ! 初めは非難を受けるかもしれないが、きっと科学の発展に貢献するとも』

 

 頭の声は甘い言葉で心を惑わせてくる。

 

『それに、お前の親友は研究を進めているぞ』

 

 決め手となったのは、その言葉だったのかもしれない。

 

 パンドラボックスから放出されるガス――ネビュラガスと名付けられたそれを、人体に投与した。

 

 正確にはガスを摂取してしまうように仕向けた。機器の不調を理由とした事故に見せかけたのだ。

 

 

 その日から次第にデヴィットの心は蝕まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 唐突だが、俺――エボルトの話をしようか。

 

 俺は星狩り族と呼ばれる生命体、お前らの言う地球外生命体ってやつだ。

 

 数多の惑星を滅ぼし、そのエネルギーを吸収する。滅亡させた数は、言うならステータスみたいなもんさ。より強大な文明を滅ぼせばそれだけ箔が付くのさ。

 

 なに? 外道だって? よく言われるぜ。

 

 いろんな惑星の、いろんな言語でそう罵られたッけか。

 

 ま、俺にいわせりゃお前らも同じ穴の貉だ。同じ星に住む生き物を喰らって、彼らの生活なんかお構いなしに争い、環境を壊す。一人な分俺の方がマシじゃねえか?

 

 ともかく、俺は火星を滅ぼすことに成功したが、手痛い反撃を喰らっちまったんだ。

 

 仕方がないから復活の方策をあれこれ考えていたら、よその星の奴がご都合よくやってきてくれた。

 

 俺は一族の中でも頭の回転が速い方だからすぐにピンと来たぜ。これは大チャンスだってな。

 

 で、その生物に憑依したら面白いことが分かった。

 

 

 そいつの故郷――地球ってのは争いのオンパレード! 何もしなくとも勝手に滅びていきそうだったんだ。

 

 計画が出来上がるのはすぐだった。もっとも愉快で醜く、屈辱的に滅ぼす、それが今回俺が立てた目標だ。意外と大事だぜ、こういう細かな設定はな。

 

 ――が、すぐに台無しになっちまった。

 

 

 なぜかって? 例の光る赤子だよ。超常ってのが起きてニンゲンは急に進化をはじめちまった。

 

 俺が憑依したイスルギってやつも検査の標的になった。

 

 ここでバレたらすべてがおじゃんだ。すぐさま俺はボックスに避難した。

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ待ったか。結構長かったが、埋められちまったパンドラボックスを掘り返してくれた奴がいた。危うく俺の意識が消滅する寸前だった。

 

 後は――お前らの考えている通りさ。

 

 デヴィット・シールドに憑依し、力の復活を求めた。

 

 計画は大幅に修正せざるを得なかったが、おおむね順調だ。

 

 後はベルトを取り戻すだけでよかったんだがな――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

『――俺のベルトをどこへ隠しやがった! 葛城 タクミィッ!』

 

 エボルトの叫びが響く。

 

 彼の問いに答えることのできる人物は、心を完全に折られて機能していない。

 

『クソッ! また計画が狂いやがった――どこまで俺をコケにしたら気が済む……地球人!』

 

 感情のないはずのエボルトも、はらわたが煮えくり返る思いだった。

 

「――パパを返せッ!」

 

\Wake up burning! Get Cross-Z Dragon!! yeah!!/

 

 変身したメリッサは生身のエボルトに殴りかかる。

 

 が、それはすぐに見切られて止められる。

 

『チッ……まあいい。この島を破壊すれば見つかるはずだ』

 

 そして反撃に赤い炎を照射した。

 

「っ!?」

「メリッサさん! ――ワン・フォー・オール・フルカウル!!」

 

 緑谷がすぐさま動き、炙られていたクローズを救出する。

 

『下らねえ策を見せてくれた礼をしてやる……お代は要らねえぜ』

 

 エボルトが取り出したのは二本目の赤いドライバー。

 

 自分自身で模倣した劣化品だ。

 

『ま、手前らなんざ10%でも十分滅ぼせるさ』

 

\コブラ! ライダーシステム!――エボリューション!!/

 

 ベルトを装着し二本のボトルを装填する。

 

 ビルドドライバーの様にレバーを回転させると、これまたビルド達と同じようにアーマーが形成される。

 

\アーユーレディ?/

 

『変身』

 

\コブラ! コブラ! エボルコブラ!! ファッハッハッハ!!!!/

 

 コブラと天球儀を組み合わせたようなアーマーの姿となる。

 

 これこそがエボルトの本来の姿。

 

「なんで、私たちと同じアイテムを」

『逆だよ』

 

 お返しと言わんばかりにエボルトの拳がクローズのみぞおちに命中する。

 

「かは……っ!?」

『お前らが俺の真似をしたんだよ』

 

 その一撃は強力で、クローズを即座に変身解除に追い込む。

 

 緑谷も個性で対抗しようとするも、超スピードを発揮するエボルトについて行くのが精いっぱいであった。

 

「スマァァァッシュ!!」

 

 裏を読んだその拳も、いとも簡単に躱されてしまう。

 

『やっぱり本領発揮とは行かねえなぁ……』

「ぐっ!?」

 

 片手間にあしらわれ、緑谷は無様に地面を転がっていく。

 

『さて、手始めにこの塔をぶっ壊すか』

「――まだよッ!」

 

 メリッサは這いつくばりながらコンピューターまで行き、自分のヒーローライセンスをカードリーダーに通した。

 

 すると全ての電源が落ち、再起動した。

 

「私たちのライセンスには、緊急時に、I・アイランドの警備システムを再起動させる機能が付いてる……!」

『だからなんだ?』

「ゥッ!?」

 

 エボルトの触手が彼女の体を貫く。

 

 毒素が注入され、彼女は苦しみだす。

 

『お前のハザードレベルは4.2……随分上げたみてえだが、こうしてしまえば何の問題もない』

「わたしじゃ、ないわ」

 

 階下から破砕音が聞こえてくる。

 

 それもどんどん近づいて来ているのだ。

 

『あん?』

「世界で、一番強いヒーローが、助けに来てくれる」

 

 

 床が吹き飛んだ。

 

 

 

「――もう安心してくれッ! なぜかって?」

 

 煙と共に巨体が姿を見せる。

 

 

 

「 私 が 来 た ッ! 」

 

 

 

 

 

 平和の象徴が立ち上がる。

 



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二人の天才10

――――

――

 

 

「おらどうしたどうしたァッ!」

 

 グリスの猛攻を受けてヘルブロスは大きく体をのけぞらせる。

 

「バカなっ……! 能力値は我々の方が高いはず!」

「ンだよそれ。オレに聞くんじゃねえよ!」

 

 葛城親子の開発したシステムはハザードレベルと呼ばれる指標で強さが変化していく。

 

 確かに、ヘルブロスの言うようにスペック上は確実にグリスに勝っている。

 

 しかしグリスはハザードレベルを異常上昇させることで限界を超えているのである。

 

「ノースヒーローグリス……あなたは人体実験を受けていないのに何故」

「だから――オレに質問すンじゃねえよっ!」

 

 更に、彼の個性は特異的にシステムとマッチしていた。個性因子がネビュラガスと奇妙なまでに一致しており、本来必要な適合実験を行わずとも様々なバックアップが受けれているのだ。

 

「さっきから聞いてりゃ何だ? シラケることばっかり言いやがってよ――戦い(マツリ)を楽しもうぜェッ!」

 

 黒いゼリーで急加速し、ブロスを蹴り上げる。

 

「最大ッ!」

 

 アッパーの後に回し蹴りを放つ。

 

「無限ッッ!!」

 

 反撃をあえて受け、そこから頭突きを放ち、ふらついた所をさらに右ストレートで追い打ちをかける。

 

「極地ィィッッ!!」

 

 まさに狂戦士(バーサーカー)の名にふさわしい暴れっぷりだった。

 

「もっとオレを満たしてくれよォッッ!!」

 

\スクラップフィニッシュ!!/

 

 一際高く飛び上がり、急激な推進力で懐に入り込み、バタ足のような連続キックを放つ。

 

 初撃と二撃目はガードされるも、その次は崩されて何度も攻撃が命中する。

 

「ぐあぁッ!」

 

 ヘルブロスの変身が解除され、無様に転がされる。

 

「――兄貴ッ!」

「一旦退くぞッ!」

 

 銃から煙を放ってブロスたちは姿をくらませてしまった。

 

 

「……すげぇ」

「これがプロの実力ッ」

 

 自分たちが敵わなかった相手に圧勝して見せたグリスを前に、轟も爆豪も対抗心を募らせる。

 

「――足りねえなぁ……追うぞ、ゴラ」

 

 グリスは気持ちを昂ぶらせ過ぎたのか、次なる相手を求めて上層階を目指していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

『オールマイトォ……そういや手前がいたな』

「拘束されていたヒーローたちもいずれこの場にやってくるだろう。貴様の負けだ! ブラッドスタークッ!!」

 

 その構図は10年前の再現だった。

 

 違う点は二つ。

 

 オールマイトが力を失いつつあること。スタークは力を取り戻し、エボルトとして活動していること。

 

『負け……? 俺が? 調子に乗るのも大概にしやがれ!』

 

 先程までとは打って変わり、超高速の動きでオールマイトに迫る。

 

 だがオールマイトも動きの速さなら負けては無い。その速度に対応し見事に反撃を加えている。

 

(!? 十年前よりも強くなっている)

 

 彼の驚きと共に口から血反吐があふれる。

 

「ゴフッ……!」

『隙あり、だ』

 

 強烈なキックを喰らい、壁を貫通して外へと放り出される。

 

『さぞ戦いにくいだろう? その腹に風穴があいた後じゃァな』

「――ぐっなぜ、それを」

 

 勝利のピースサインを示す彼の髪は、情けなくしおれる寸前だった。

 

『生意気にも、この俺を配下にしようとした不届き物が居てね。少し灸をすえてやった――ちょうど5年前の話さ』

「!? まさか」

「随分戦いやすかったろ、トシ?」

 

 親友だった男の声で言われ、愕然とする。

 

 宿敵オール・フォー・ワンがこの男の手で弱体化されていた事実、それでもなお自分の体を再起不能まで追い込んだ実力。

 

 不意に、昼間セントから指摘されていたことに思い当り、寒気がした。

 

 もしこの偶然が起きなければ――自分は負け、ワン・フォー・オールは永遠に失われていたかもしれない。

 

『俺への感謝の気持ちを胸に――消えろ』

 

\レディー・ゴー!!/

 

 エボルトが再びベルトのレバーを回転させると、彼の右足を中心に星座図が現れ力が充填される。

 

\エボルテック・フィニッシュ!! ――チャオ!!/

 

 エネルギーは右脚に集中し、緩やかな弧を描いてオールマイトに命中した。

 

 200kgはあるその巨体はいとも簡単に吹きとばされ、屋上から落ちる寸前となるも、指をめり込ませて踏ん張った。

 

「……平和は継承できなければ意味がない、か。言ってくれるじゃないか葛城少年……!」

 

 オールマイトの体から煙が上がっている。

 

 活動限界が訪れ、個性が解除されつつあるのだ。

 

「ブラッドスターク! 私は貴様を斃し、次へと平和を継承するッ!」

 

 拳の風圧で急加速する。彼は相性不利さえも筋肉で解決できる究極のパワータイプ。

 

 故に、どのような強い装甲も拳で粉砕するのみだった。

 

「TEXAS――」

 

 それにエボルトは手の平ほどの大きさの装置を掲げることで対応する。

 

 

「――SMAAAAAAASH!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

――

 

「メリッサさん!」

 

 緑谷は毒を受けたメリッサへと駆け寄り、その体を抱き起す。

 

「へいきよ……おおげさ、ね……っ!」

 

 彼女の顔は驚くほど青ざめていて、呼吸も普段より荒い物だった。

 

「え、ええと毒物を摂取してしまった時はまず――いや待て僕が習ったのはあくまで普通の毒物を摂取してしまった時の場合でこういった特殊なケースの時は何を」ブツブツブツブツブツ

「――気道確保だ」

 

 追いついてきたクロトが彼女の顎を押し上げる。

 

「そして吐瀉物による窒息を防ぐ」

「え、でも」

「対処法が分からない以上こうするしかあるまい」

 

 慣れた手つきで介抱しようとするも、メリッサはそれを拒む。

 

「いらないわ……それよりも、やることが」

 

 立ち上がろうとしてふらつく。だがそれを麗日が脇で支える。

 

「お茶子、さん」

「私じゃあんま役に立たんけど、せめて支えにはなるよ」

「……あり、がとう」

 

 何とか操作盤の前までたどり着き、セントを押しのけてロックの解除作業に入る。

 

…………何やってるんだ、メリッサ

 

 声に覇気が籠っておらず、呼吸と共に吐き出されたかのようだった。

 

「前に、言ってたでしょ――対スタークの、とっておきがあるって」

 

…………無駄だよ

 

 

 指が止まる。それは決して毒の影響によるものではなかった。

 

「……ビルドシステムは平和のために作ったつもりだった……でも、本質は奴の言う通り兵器だ…………」

「だったら、なによ?」

「ここに保管されているアイテムは全部世に出回ってはいけないと判断された物――俺はスタークを口実に自分の為の兵器を作っていたッ! 力が欲しくて暴れまわる――ヴィランと同じだったんだよッ!」

 

 セントの頬が叩かれた。

 

 毒のせいか殆ど力は籠っていなかったが。

 

「……自分で作った? 己惚れんじゃ、ないわよ」

 

 彼女の頬を涙が伝う。

 

「あなたのパパが計画して、私たちが作ったんでしょ? この力は、セントの為の、ものかもしれないけど――私たちが作った物を、勝手に兵器にしないでよ……ッ!」

 

 システムが解除パスワードを要求してくる。

 

 それはセントが自ら設定したものであり、メリッサには教えていなかった。

 

 それでも迷うことなく、彼女はキーボードをたたく。

 

愛と平和のために(ラブ・アンド・ピース)……」

 

“LOVE AND PEACE”

 

 ロック解除の状態に入ったことがモニターに表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラブ&ピースだ、セント』

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の脳裏に、亡き父の言葉が響く。

 

 

 

 

 

『昔、科学は戦争の道具だった。その事実は変えることはできないさ。でもラブ&ピースの心を胸に抱いていれば、きっと科学は明るい未来をもたらしてくれる』

 

 

 

 

 

 その言葉は、今でも心に残り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパたちの研究を、悪用する人はいっぱいいる……っでもそれだけじゃないでしょ? 私たちが目指したビルドは、きっと兵器なんかじゃないよ」

 

 限界を迎えたのか、メリッサはその場で崩れ落ちる。

 

「セントのヒーローネーム、ビルドは――“平和を作る”“愛で溢れる世界を形成する”……って意味のビルド」

 

 保管庫のロックが解除され、扉が開く。

 

「そのための力は、ヴィランなんかと一緒じゃないわ……」

 

 身動きの取れない彼女の代わりに、クロトが中身を取りに行く(流石に空気を読んだ)

 

「……最悪だ」

 

 セントは僅かに生気の戻った声でつぶやいた。

 

「メリッサに慰められる日が来るなんてな……!」

「これが、君の作った品だろう?」

 

 クロトからケースを受け取る。

 

 中には巨大なフルボトルが収められていた。

 

「ああ、間違いない――が、これだけじゃ足りない。少し足止めしてきてもらえるかな? 壇 クロト君?」

「ふん私の才能に不可能などない」

 

 頼られるのが大好きなクロトは満面の笑みを浮かべていた。

 

「足止めとはいっても――別に斃してしまっても構わないのだろう?」

「それ、死亡フラグだけど、任せたぞ!」

 

 セントは三度のロック解除を行う。

 

 対エボルト用の秘密兵器を取り出すために。



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二人の天才11

戦闘シーンが上手く決められなかった。

臨場感ゼロですまない。


――――

――

 

「TEXAS SMAAAAAASH!!」

 

 オールマイトの全力の一撃を、エボルトは小さな装置で受け止める。

 

 爆風が巻き起こる。

 

 一足先に救援へと向かっていたエグゼイド――エミは思わず身構えた(無敵であるにもかかわらず)

 

「なに……これ」

 

 天候を変えるともいわれるその一撃は、エボルトを一ミリも動かすことなく、エネルギーの全てが装置に吸収された。

 

「ぐっ……ガハッ」

 

 余力の全てを吸われ、オールマイトはガリガリに痩せた姿――トゥルーフォームに戻ってしまっていた。

 

『うぅん……いいエネルギーだ。さすがは長年の力の結晶だ』

 

 石化していたその装置はいつの間にか変化しており、黒と白を基調としたトリガーとなっていた。

 

『おつかれさん♪ 平和を維持する必要はもうない』

 

\オーバー・ザ・エボリューション!/

 

 トリガーをベルトに装填し、再びレバーを回転させる。

 

『さあ地球よ――終焉の時だ』

 

\ブラックホール!! ブラックホール!! ブラックホール!! レボリューション!!!!/

 

 

 エボルトが一瞬だけ消滅するも、白くなった姿で再登場する。そのそばには不要となったデヴィットの体が投げ出されていた。

 

 

「――なに、あれ……」

『おお、どうやら観客がいたみたいだなァ』

 

 静かにエボルトが歩みを進める。

 

 何気ない動きなのに威圧感があった。

 

 ショートワープでエグゼイドが攻撃を仕掛ける。目にもとまらぬラッシュを繰り出したが、そのすべてがエボルトに防がれる。

 

『ん!? さすがに無敵を名乗るだけある』

「……!」

 

 激しい攻防が繰り広げられるが、方や攻撃の効かないムテキ、方や百戦錬磨の破壊者。

 

 完全に膠着状態だった。

 

『厄介だな……こうなりゃ』

 

 小型のブラックホールを発射する。

 

 エグゼイドはワープし回避しようとするも、強力な引力に引きずられて逃げ出せない。

 

「くっ!?」

『クク……ブラックホールからは光さえ逃げられない』

 

\レディー・ゴー!!/

 

 再びレバーが回転されると、エボルトの両手にブラックホールが出現する。

 

\ブラックホール・フィニッシュ!!!!/

 

 エグゼイドがブロックホールに飲み込まれ、爆発が起こる。

 

「うわっ」

 

 大きくノックバックしたものの、さすがはムテキ、変身を解除されることは無かった。

 

『チッ……効いてねえのかよ』

 

 エボルトも弱いわけではない。だがムテキの強さが規格外であったため攻撃が通らないのだ。

 

 そうなれば、強くない部分を攻めればいい。

 

『だったら――こんなのはどうだ?』

 

 力尽き蹲っているオールマイトにスチームガンの銃口を向ける。

 

 人質を取られれば、ヒーローの選択は一つ。

 

 エグゼイドは彼の盾になろうと間に割って入る。

 

 すべてはエボルトの思惑通りだった。引き金を引く気など元からなく、ベルトのハイパームテキガシャットに向けてスチームブレードを振り下ろす。

 

 ……ジジッヅッ

 

 システムの不具合で変身が解除される。

 

 完全にガシャットが破壊されてしまっていた。

 

「くっ!」

『大変だよなぁ……ヒーローってのはよ。守るものが多すぎる!』

 

 タワーから見下ろされる景色が黒一色に染まっていく。

 

 電源が落ち、照明を維持することができなくなったのだろう。ぼんやりと闇にエボルトの姿が浮かび上がる。

 

『こいつを見捨てれば、地球を救えたかもしれないのになぁ!』

「――安心したまえ」

 

\ゴッドマーキシマーム・エーックス!!!!/

 

 ゲンムが急襲を仕掛ける。

 

 攻撃を受け止めたエボルトだったが、大きく退けられた。

 

「この私がいる限り――貴様の勝利などヌァいのさァッ!」

『やれやれ……そういうの、往生際が悪いって言うらしいが、知ってるか?』

「ああ――この私の才能に、不可能は無いという意味だ! ブェハハハハハッ」

 

 やかましく感じたのか、エボルトはブラックホールを形成しゲンムを拘束する。

 

「ング!? 無駄なことをッ!」

 

 空中にレンズが出現し、レーザー光線が発射されるも、すべてがブラックホールへと吸い込まれる。

 

 ホールの幅が小さくなり、ゲーマドライバーが音をあげて軋みだす。

 

「くそっ――どういうことだ!?」

『どうやら見掛け倒しだったみたいだな』

 

 ゲンムの変身が解ける。

 

 ひしゃげたベルトが彼の足下に落ちた。

 

「まだだぁっ!」

 

 今度はバグヴァイザーを取り出すも、次の手を打たせるつもりは無いようだった。

 

 触手がそれを貫き、クロトの胸元に突き刺さった。

 

「ウグッ……」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 即死し、消滅するもすぐさま土管から復活する。

 

 変身できなくなったクロトはガシャコンブレイカーを直接召喚し、立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――よし、これさえあれば」

 

 新たに保管庫から取り出されたのは水色のナックルパーツ。

 

 その名もブリザードナックル。

 

 エボルトリガーの機能を抑制し、弱体化させるためのアイテムだ。

 

「緑谷君、メリッサの容体は?」

「かなり消耗してます……さっきよりも息が荒いし」

 

 緑谷の胸には漠然とした不安があった。

 

 ワン・フォー・オールの――個性の力ではどうしようもない事態。無個性であっても知識さえあれば何とかなったかもしれないこの状況に、彼は自責の念で押しつぶされそうだった。

 

 麗日が救命キットを探しに行ったが、それを待っている余裕はなさそうだ。

 

「ッ一刻も早く――」

「――手前はその娘を治療してやれや」

 

 オールマイトがあけた穴をよじ登ってきたグリス――カズミはセントからブリザードナックルを強奪する。

 

「あ、おい!」

「悪ぃが俺は戦うしか能がねえんだよ……しっかり救助してやん――!?」

 

 カズミがちらりとメリッサを見た瞬間、彼の凛々しい顔が崩壊した。

 

 目を見開き、興奮したように胸を抑える姿はさながらドルオタだった。

 

「な、なんだこの美しさ――あり得ねぇミータン一筋のこの俺がここまで惹かれてしまうだと!? 侮れん、侮れませんねぇぜひともお近づきになってあーんなことやこーんなことを、っていいのか!? いいのか沢渡 カズミミ28歳(独身)!? ここでミータンを裏切ったら、そうだやむを得ぬ事情なら、やむを得ぬ事情なら触れ合うしかないですよねぇ!?」ブツブツブツブツブツ

「させねえぞ?」

 

 シリアスな雰囲気が台無しである。

 

「……何で俺の考えてることが」

「全部口に出てた」

「……チッ、俺はヴィランをぶっ潰す。お前はその娘を助けてやんな」

 

 ドルオタの顔からヒーローの顔になったカズミは、戦闘で出来た穴から外へ向かっていった。

 

「ノースヒーローグリス……彼にあんな側面があったなんて」

「お前も何言ってんだ」

 

 セントは呆れながらボトルを取り出す。

 

「可能性があるとすればフルボトル(これ)だけだ。片っ端から試していく」

 

 

 

 

 ――――無駄なことを……。

 

 

 

 

 緑谷の頭に不思議な声が響いた。

 

 

 ――エボルトがよみがえった以上、貴様らの星はもう終わりだ。

 

「まだオールマイトがいますッ!」

「どうした急に」

「い、いえ……」

 

 どうやらこの声は彼にしか聞こえないようなだった。

 

(だとすると、この腕輪)

 

 火星から持ち帰られた品であるブレスレット。とすれば、夢で見た光景は実際に火星で起こった出来事なのだろう。

 

 ――我らの種族は貴様らのような個性に似た力を持っていた。奴の扇動にのせられ、争い、そして滅びた。

 

(……でも僕達には、ヒーローがいる)

 

 ――無駄だ。奴は人の本質をむき出しにする。人は理性を取り払えば闘争本能をむき出しにする。

 

(名のあるヒーローはデビュー前から逸話があるんです。ほとんどの話はこんな言葉で締めくくられています)

 

 

 

『――気が付いたら体が勝手に動いていた』

 

 

 

「――確かに僕達の心には闘争心とか、誰かを傷つけようとか、そういった心があるかもしれません。でもそれだけじゃないッ!」

「……」

 

 セントは一人で叫んでいる緑谷を静かに見守る。

 

「この世界にヒーローがいる限り、僕達は絶対に負けない!」

 

 ――――そうか……。

 

 腕輪が輝く。

 

 緑谷の瞳が緑色に輝き、その手がメリッサに触れる。

 

 

「“もしお前が、私の星で生まれていたら……結末は違っていたのかもしれないな”」

 

 彼の口からは女性の声が出ていた。口調も別人のようであった。

 

「“そこの男。エボルトを斃すことはできるのか?”」

「あっああ、約束する」

 

 その変化にセントは戸惑うも、笑顔でそれに応えた。

 

「“……そうか。ならば火星の民の無念を、晴らしてくれ”」

 

 腕輪が一際輝く。メリッサの顔色が少しずつ良くなっていき、荒かった呼吸も落ち着いてきていた。

 

「解毒しているのか……!?」

 

 輝きが収まると、緑谷は意識を失って倒れる。

 

「しかも今の声……緑谷君の口調でもなかった。しかも未知の毒物をいとも簡単に除去するなんていったいどういう物理法則の下に成り立っているんだ?」

「――やっぱ、励ますんじゃなかった」

 

 弱弱しい声が聞こえた。

 

 薄目を開けたメリッサは、普段の彼のような言動を見て苦笑いをしていた。

 

「憎まれ口叩くんだったら、戦ってもらおうかな? 俺はベルトを奪われていて戦えないんだ」

「ちょ……まだ万全じゃないんだけど」

 

 困惑している彼女からドライバーを取り上げ、セントはにやりと笑った。

 

「冗談だ。このてぇんっさいが、華麗に勝利を決めてみせるさ」

 

 







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二人の天才12

~前回までのあらすじ~

セ「科学者の住む人工島、i・アイランドがヴィランによって占拠された。プロヒーロー、ビルドの葛城 セントは、ヴィランのリーダーエボルトを斃すべくとっておきのアイテムを保管庫から取り出すのだった」

メ「はぁ、心配だわ」

セ「俺はお前の説得で完全復活したからエボルトなんてちょちょいのチョイよ」

メ「別にセントの事なんてどうだっていいのよ。問題は下の階で戦ってる響香さんたちのほうよ。まったく音沙汰がないから」

セ「……」

メ「パパも解放されたけどそれっきりどうなったかわからないし」

セ「…………(冷汗)」

メ「ねえ、そろそろ説明があっても」

セ「戦いは激化しいよいよ最終決戦へ! セントたちの命運やいかに!? さあどうなるチャプター4!」

メ「さらっと誤魔化した!?」


――――

――

 

 沢渡 カズミはヒーローになるつもりは無かった。

 

 地元の秩序を正しかっただけで、世界だとか平和だとかには興味がなかった。

 

 それ以前に、地元を荒らしていた“三羽ガラス”という集団を討伐してからは、実家の農業を手伝うだけの地味な男だった。

 

 

 ――葛城 タクミと言う男に出会うまでは。

 

 

 

 

 

 

(おやっさん……今こそ約束を果たす時だ)

 

 彼はポケットの中の水色のボトルを握り締める。

 

 外へ出ると、そこではクロトとエボルトの戦闘が繰り広げられていた。

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 クロトが死亡し、間をおかずに復活した。

 

 

「……ハァ残り、ライフ……49」

『まだ続ける気か? いい加減飽きてきたぜ……』

 

 紫の土管から這い出てくるも、クロトも限界に近いようだった。

 

「――いい加減休んでな。後は俺一人でやる」

「よ、ようやく私を助ける者が来たかァ」

 

 さすがの神も限界だったようで、そのまま気絶した。

 

『選手交代か? 俺もそろそろ余興に飽きてきたところなんだがなァ』

 

 カズミはベルトを装着し、ゼリーの栓を締める。

 

「だったら――マツリの本番と行こうじゃねえか」

 

\ロボットゼリー!!/

 

「変身!」

 

\(中略)ロボット・イン・グリス!!/

 

 グリスは ナックルに水色のボトルを挿して起動させる。

 

\ボトル・キーン!!/

 

「心火を燃やして、ぶっ潰す!」

『いいぜ! かかってきな』

 

 グリスの右ストレートが炸裂する。氷のようなエフェクトが発生した。

 

 打ち合わせたエボルトの拳が凍り付く。

 

『ん!?』

 

 そして自分の力が減衰したのを感じた。

 

 ブリザードナックルは対エボルト用の武器だ。エボルトリガーの出力を抑制し、最終的には機能停止させるアイテムだ。

 

 即座にそれを悟ったエボルトは距離を取ってスチームガンで対抗する。

 

「チッ……詰まんねえ真似すンじゃねえよ!!」

 

\ツインブレイカー!!/

 

 グリスも反対の手に武器を生成し、遠距離の撃ち合いに応じる。

 

 やがてこらえきれなくて彼は銃撃を受けながら接近する。そして再びブリザードナックルでの攻撃を命中させた。

 

「至高!」

 

 離れられればツインブレイカー、距離を詰めればナックル。

 

「覇道!」

 

 次第にエボルトの動きが鈍っていく。

 

「激情ッ!!」

 

\スクラップフィニッシュ!!/

 

\グレイシャルナックル!!/

 

 二つの必殺技を受け、エボルトのベルトが砕け散った。

 

『グゥゥ……!』

 

 その姿はデヴィットとは異なる男の姿だった。

 

 グリスの足下に、セントが変身に使っていたアイテムが落ちる。

 

『くそ……結構やるじゃねえかよ』

 

 それはエボルトが地球に来る際に憑依した宇宙飛行士、イスルギの姿だ。

 

 苦しむ彼の隣に煙が出現し、逃げてきていたブロスたちが転移してきた。

 

「なっ!」

「早すぎる……!」

 

 狼狽える二人を見て、エボルトは全てを理解する。

 

『ああ、しくじったって訳か――』

 

 その瞬間彼は自身の力を使い丸坊主の方に毒を注入した。

 

「ッ!?」

 

 高濃度のそれは一瞬で体を消滅させた。

 

「ライッ!?」

『次はお前だ』

 

 弟を消されたブロス(兄)は動揺し、エボルトを睨み付ける。

 

 だが次は自分と言う宣告を受け、覚悟を決めていた。

 

\ギア・エンジン――ギア・リモコン!! ファンキーマッチ!!/

 

「潤動っ!」

 

 ヘルブロスへと変身した。

 

「同情するつもりはねえが……怒りのはけ口にはなってやらぁ!」

 

 グリスは変わらず戦いを仕掛けるも、怒りによってハザードレベルが上昇したヘルブロスには敵わなかった。

 

 だが彼も負けずに拳を打ち合わせる。

 

 

「っ!」

 

 打ち合いに負け、グリスの変身が解除される。

 

『おお、やればできるじゃねえか』

 

 エボルトは満面の笑みで立ち上がり、手の平に炎を纏う。

 

『それじゃあとどめを――!?』

 

 銃撃され、炎を防御に使う。

 

 暗闇の中から、セントが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「よお、随分姿が変わったみたいだな」

 

 セントは友達と会う時のような気軽さで声を掛ける。

 

『随分余裕そうじゃないか……さては、開き直ったか』

 

 エボルトは再び揺さぶりをかけるも、今度は動じなかった。

 

「そうだな、俺は確かに兵器を作った。それは否定しようのない事実だ」

 

 彼が取り出したのは――メリッサのドライバーだった。

 

「俺が作った物が兵器だったとしても――メリッサが作ったのはそうじゃない!」

 

 そして巨大なボトルを取り出して起動させる。

 

\グレイト!! オール・イェイ!!/

 

「俺たちは平和な世界を作り出すッ! それが“プロジェクト・ビルド”の集大成だ!」

 

\ジーニアス!!/

 

 ベルトにボトルが挿入され、変身シーケンスが起動する。

 

『おためごかしを……』

「悪いけど俺は――」

 

 レバーを回転させると、近未来的な工場が――子供が想像する明るい未来の姿が現れる。

 

自分大好き(ナルシスト)で自意識過剰な、正義の味方だッ!」

 

\イエィ!/\イエーイ!/\イェイ!/\イエーイ!/

 

 無数のボトルがセントの背後に出現し、彼の体に向けて挿入する。

 

「変身!」

 

 白いスーツがその体を覆い、ボトルが次々と突き刺さる。

 

\完全無欠のボトルヤロー!! ビルド・ジーニアス!!!! スゲーイ!! モノスゲーイ!!/

 

『クク……遊んでやるぜ』

 

\ミスト・マッチ!/

 

 エボルトもブラッドスタークに変身し、蒸気を放つ。

 

 ビルドと共に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 グリスはせき込みながら起き上がる。

 

 血反吐を吐き出し、落ちていたセントのドライバーとブリザードナックルを拾い上げた。

 

「! ……まだ起き上がりますか」

 

 ヘルブロスは苛立つように肩を震わせる。

 

「ここで俺が倒れりゃ、誰があいつらを護ンだよ」

 

 と、気絶しているクロトやそれを庇うようにしゃがんでいるエミ、体を棄てられてしまったデヴィット博士や活動限界を迎えたオールマイトを顎で示す。

 

(誰だあのコスプレのおっさん……?)

 

 もっとも、オールマイトであることには気づいていなかったが。

 

「おやっさんに誓ったんだ――例えこの心火が燃え尽きようとも、人々を護るってな」

 

 地元のチンピラたち――三羽ガラスの元メンバーを自分の農園で働かせて、それで平和なんだと思っていた。もう二度と悪さをせず、自分の事をカシラと呼んで慕ってくれる。それで十分だと思っていた。

 

 葛城 タクミはそんな腑抜けた自分に喝を入れてくれた。

 

 一歩間違えばヴィラン認定されてしまう個性を恐れて、ヒーローを目指すことを諦めていた自分の目を覚まさせてくれた。

 

 愛と平和を胸に抱き続けていれば、きっといいヒーローになれると。

 

 燻っていた心火(こころ)を燃え上がらせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――いつか俺の息子が次世代のライダーシステムを創り上げる』

 

 若い日のカズミは水色のボトルを受け取った。

 

『もし世界の危機が訪れたら、それを使って一緒に戦ってくれないか?』

『悪ィけど、俺はおやっさんの息子だからって従うつもりはねえよ』

 

 自嘲気味にそう返すと、タクミはくしゃっとした笑顔になった。

 

『よかった。やっぱり君を選んでよかったよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セントのベルトを装着し、ブリザードナックルを装填した。

 

\グリスブリザード!!/

 

「今こそ誓いを果たす時だ」

 

 彼の周囲に凍気が充満し、足元を凍り付かせる。

 

\Are you ready?/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できてるよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 人々を護るため、ヴィランを斃す。

 

 例え相手の命を奪うことになったとしても。

 

 覚悟はとうの昔にできていた。

 

 

\激凍心火! グリスブリザード!! ガキガキガキガキガキーン!!!!/

 

 

 

 氷が砕け散り、凍り付いたロボットのようなアーマーに変化する。

 

「心の火――“心火”だ」

 

 

 その体とは裏腹に、彼の心は燃え盛るような熱を持っていた。

 

 

「心火を燃やして、世界を救うッ!」

 

 




~あらすじ没ネタ~

デヴィット「うーん……変な夢を見ていたよ。僕が時計屋の店主をしていて――なぜか時計以外の修理ばかりしていたけど――メリッサと同じ年頃の甥っ子と暮らしていたんだ。確か名前はソウゴくんと」

セント「待った! それ以上いうと本編に“我が魔王”とか言ってくる奴出てきちゃうからそこまで!」






普通に話の筋と合わないからやめました。

え、耳郎さんたち? わ、忘れているわけないじゃないか!(冷汗)


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二人の天才13



最終決戦、開幕。


「心火を燃やして、世界を救うッ!」

 

 ロボットのアームのような腕でパンチを繰り出す。

 

 さっきは圧倒していたヘルブロスも、再び押し負ける。間髪入れずに足払いを掛け体勢を崩させる。

 

「どうしたどうしたァッ!?」

 

 ヘルブロスも必死に抵抗するが、そもそもの動きが連携を前提としているため今一つ動きにキレがない。

 

 対してグリスは個性のおかげでエンジンがかかり始める。

 

 アドレナリンが過剰放出され、もはや戦うことしか考えていなかった。

 

 

\シングルアイス!!/

 

 レバーを一回転させ、技を放つ。

 

 巨大化した氷のアームで相手を挟み込み、錐もみのように吹き飛ばす。

 

\グレイシャルアタック!!/

 

 攻撃の度に氷結が発生する。

 

 それは轟 焦凍の攻撃にもよく似ていた。

 

 やがてヘルブロスの歯車に霜が降り、動きが停止する。

 

「ここ、までか……?」

 

 

\シングルアイス――ツインアイス!! グレイシャルフィニッシュ!!!!/

 

「これがゼロ度の炎――俺の心火だァァァッッ!!」

 

 炎のような氷が発生し、それを纏ったグリスは渾身のキックをヘルブロスに向けて放つ。

 

 かみ合わなくなった歯車は、その形を保てずにバラバラに砕け散った。

 

 

 

 

 変身を解除され、霜焼けで赤くなったブロス(兄)――フウは呆然と、目の前に立ちふさがるヒーローを見つめた。

 

 南場重工の傭兵として戦った彼の半生はこの男の足元にも及ばないだろう。

 

「――ちったぁ身に染みたかよ」

「……十分です。私には兵器としても生きる価値がない」

 

 彼は迷うことなくネビュラスチームガンの銃口を自分の頭に向けた。

 

「あなたのような素晴らしい男に出会えたこと、向こうで弟にも教えてあげよう」

 

 引き金を引く直前で腕を蹴り飛ばされた。あまりにも強い蹴りで腕の骨が折れ、スチームガンを落としてしまった。

 

 胸ぐらをつかまれグリスの無機質な複眼で見つめられる。

 

「ナニ勝手に死のうとしてンだ、コラ」

「使えなくなった兵器は廃棄されるものでしょう?」

「手前は人間だろうが……! 死んだ弟の分まで生きて見せろ!」

 

 急に手放されしりもちをついた。折れた腕が鈍く痛んだ。

 

「ムショ出て行くとこなかったらうちに来い。面倒見てやっからよ」

 

 グリスは変身を解除した。

 

 その後ろ姿は、どんなヒーローよりも輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 煙が晴れると、そこはパンドラボックスの展示会場だった。

 

「ここは」

『見事なもんだ! こんな短期間でパンドラボックスの謎を解き明かした――そして破壊兵器を無数に生み出した』

 

 サポートアイテムと言えば聞こえはいいが、その本質はいかにしてヒーローを手助けし、ヴィランを無力化するか。ヒーローの暴力を手助けするアイテムだ。

 

『これこそお前らが信仰する科学ってやつだ! すべては破壊に行きつく! 愛だの平和だの言っても、結局は破壊に行きつくんだよッ!』

「ああ、お前に言われなくても知っているさ」

『ならば何故!?』

 

 セントはその問いに答える。

 

「――信じているからだ」

 

 彼は科学の負の側面を知っている。

 

 誰よりも科学を愛し、誰よりも科学を憎んだ。

 

 科学があったから彼の父は命を落とすことになった。科学があったから誰かを助けることができた。

 

「そもそも、物事には必ず“良い面”と“悪い面”がある。特定の面だけを見るってのが間違ってるんだよ」

 

\ワンサイド!/

 

 ボトルが輝く。

 

 スタークはそれを阻止しようと動くも、ビルドの周囲に出現した虹色の数式によって動きを阻まれる。

 

「俺は科学の全てを受け入れる。そして未来へとつないで見せる!」

 

\ギャクサイド!/

 

 やがてそれはスタークを拘束し、がんじがらめにする。

 

『愚かな……人間風情がッ!』

「人間は愚かな生き物だ! だから――だからいつも、愛と平和(ラブ&ピース)の世界を望んでいるんだッ!」

 

\オールサイド!!/

 

 そしてキックの予測線が生まれる。

 

 ビルドは大きく跳躍し、その予測線に乗った。

 

\ジーニアス・フィニッシュ!!!!/

 

 虹の輝きが、スタークを――エボルトを浄化し、消滅させる。

 

 爆発は起きず、残されていたのは彼の使っていたトランスチームガン。

 

 

 

 

 

 ――そして真っ黒に染まった、不思議なボトルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

―――― 一か月後

 

 騒動が原因で、iエキスポは中止となってしまっていた。

 

 同時に、セントとメリッサはブラッドスタークの残した実験施設を破壊する仕事を任命されていた。

 

\Dragoninc finish!/

 

 クローズのキックで護衛のガーディアンが破壊される。

 

 背後ではビルドが実験機器を破壊している。

 

「――これで、最後?」

「ああ、今把握できてる分は、な」

 

 変身を解除し、メリッサは大きく胸をなでおろした。

 

 さすがに働きづめで疲労がたまっていたのだ。気のせいか、ドラゴンのボトルが銀色に変化しているようにも見える。

 

「やっと……終わったんだ」

 

 ビルドも変身を解き、手を挙げている。

 

 彼女は笑みを浮かべ、豪快にハイタッチをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

「雄英の林間合宿、ヴィランに襲われたって……デクくん達、大丈夫なのかな?」

「さぁ?」

 

 セントは先日届いた荷物を開封していた。

 

 それは緑谷の腕から外すことに成功した例の腕輪だった。

 

「……随分冷たいわね」

「バカ、信頼の証拠だよ。俺たちが心配しなくたって、あいつらは乗り越えられるさ」

 

 これが緑谷に力を与え、数々の奇跡を実現した。

 

 そしてエボルトが遺した謎のボトル。これも浄化不能で、何に使用できるのかよくわからなかった。

 

「その心は?」

「当分ヒーロー活動せずに引きこもって研究を――ッて皆まで言わせるな」

 

 と、彼はそれらをアタッシュケースに収納した。

 

 これはi・アイランドの上層部が危険と判断し、封印するように指示を受けたのだ。

 

「さて――あとはエボルトのベルトを回収すれば」

「でも、どこにあるかわからないんでしょ?」

「……心当たりなら、あるさ」

 

 

 

 

 

 

 二人はセントの父、タクミが眠る墓の前へやってきた。

 

「まさか……ここにヒントが隠されてるって言うの?」

 

 セントは徐に納骨部の蓋を外し、骨壺を取り出した。

 

「え、ちょいくらお父さんのお墓だからって」

「おかしいと思ったんだ。父さんがわざわざ命日には墓参りに来るようにって、映像の中で言ってたの」

 

 死後の世界など微塵も信じていないセントが毎年欠かさずに墓参りに来ているのは、ひとえに父の指示に従っていたからである。

 

「俺の仮説が正しければ――」

 

 骨壺を開け、中身を出した。

 

 遺骨が散らばると思われたが、出てきたのは赤いベルトだった。

 

「父さんは分かってたんだ。きっとこれの持ち主が地球に害をなす存在だってこと。だからフェイクの隠し場所を用意したんだ――決して盗まれない場所を」

 

 他人の墓を――ましてや骨壺の中を見る無作法な人間はいない。どんな悪人だったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ククク……この時を待っていたァッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケースが破裂し、中からスライム状の物体が飛び出す。

 

「まさか――あのボトル」

 

 それはベルトに取り付き、男の姿となった。

 

『信じてたぜぇセント。お前ならきっとあのボトルを破壊せずに保管してくれるってな!』

 

 復活したエボルトは作戦の成功に歓喜し、高笑いをしていた。

 

「何で……斃したはずじゃ」

『俺がそう簡単にくたばるかよ』

 

\オーバー・ザ・エボリューション!/

 

 最後の最後で、ミスをしてしまった。

 

 未知の物質への好奇心が世界の破滅を導いてしまったのだ。

 

『お前らの大切な物から順番に破壊してやるさ! 自分の愚かさを呪いながら――破滅を待つんだな!』

 

\コブラ! ライダーシステム! ――レボリューション!!!!/

 

『変身っ!』

 

\ブラックホール!! ブラックホール!! ブラックホール!! ブラックホール!! ――レボリューション!!!! ファッハッハッハ!!!!/

 

 巨大なブラックホールが集団墓地の一部を壊滅状態にする。

 

 スペアのドライバーは出力が10%と言っていたのは、あながち嘘ではなかったようだ。

 

 エボルトは姿を消した。きっとどこかを破壊しに行ったのだろう。

 

 

 

「セント!」

「ああ、分かってるッ!」

 

 セントとメリッサがボトルを取り出す。

 

 だがその直後に不思議な結界が出現した。

 

『――待っていたのは奴だけではない』

 

 腕輪が一際大きく輝き、光線を放つ。

 

『エボルトを斃すには、奴の持っているドライバーごとでなくてはならない。あれが残り続ける限り奴は際限なく復活する』

 

 セントの持つ金色に変色したラビットボトル、メリッサの持つ銀色のドラゴンボトル。

 

 それらがジーニアスボトルを軸に融合し、一つのアイテムへと変化した。

 

『佳き組み合わせだ……ああ、そうか。そういう“力のあり方”もあるのだな』

 

 女性の姿が浮かび上がった。

 

 優しい顔をした、争いを好まなさそうな人に見えた。

 

 腕輪は砕け散り、同時に女性も姿を消す。

 

 

「メリッサ――行くぞ」

「ええ、これで最後ね」

 

 セントが腕輪の力で生まれたアイテム――クローズビルド缶を振った。

 

 二人の周囲に数式が出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、最後の実験を始めようか」













次回、セントとメリッサが合体(意味深)する!


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二人の天才14

普通にモチベがなかったでござる。

ようやく映画編も終わりが見えてきました。


\\クローズビルド!!!!//

 

 

 ボトルを装填し、レバーを回転させる。

 

 ランナーが形成される中、メリッサは避けようとしたが運悪く巻き込まれてしまう。

 

「え、え? ちょ何で私まで!?」

 

 アーマーが形成され、変身の準備が完了する。

 

「待ってセント! 巻き込まれてるから!」

 

\Are you ready?/

 

「駄目よ!」

「変身!」

「わ――!?」

 

 そして彼女を巻き込んでアーマーがプレスされた。

 

\ラビット! ドラゴン! Be the one!! クローズビルド!!!! イェイ!! イェイ!!/

 

「……ん?」

『…………う、そ?』

 

 完全に一人のライダーに変身した。

 

 二人で一人、物理法則を超越したライダーだ。

 

 

 

 

「『合体してる――ッ!?』」

 

 

 ビルドは右往左往する。

 

『どういう事よ!? ビルドにこんな機能無かったわよね!?』

「あ、ああそうだ。しかもこれは物理法則を完全に超越して」

『ていうかなんか臭くない? ちゃんとお風呂入ってるの?』

「失礼だな! 全身くまなく洗ってるぞ!」

 

 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、はたから見れば滑稽な姿であった。

 

「ってかそんなこと言ってる場合じゃなかった、急いで奴を追うぞ!」

『ええ!』

 

 両足を同時に出そうとして思い切りつんのめった。

 

「馬鹿……なんで左足も出そうとすんだよ」

『歩くときって左足からじゃないの?』

「……よし、ならせーの、で行くぞ。せーの」

 

 いち、に、いち、に、と掛け声をしながら二人は走る。

 

 どう見ても世界を救いに行くようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――やはり葛城くんの研究は凍結すべきか」

『うむ、彼の研究は世界中のパワーバランスを崩壊させかねないからね』

 

 ホログラムによる会議で世界の重鎮たちが唸り声を上げた。

 

 樋室 タイザンはデータを見てため息をつく。

 

 提出されたデータは確かに兵器利用されたものだ。しかし応用すれば人々の平和に貢献できるかもしれない。

 

『惜しいが、これも各国の平和のため』

『しかないか――!?』

 

 映像が一ヶ所途切れる。

 

 それを皮切りに次々と映像が消えていく。

 

「な、何事だッ!?」

 

 

 彼が困惑していると、空間に穴が開き真っ白な鎧をまとった人物――エボルトが出現した。

 

『よお……ヒーロー連盟の会長さんよ。俺はエボルト――ブラッドスタークと名乗った方が通りがいいか?』

「きっ貴様が葛城親子の研究を悪用していた」

『おいおい。俺は正当に使っていただけさ』

 

 愉快そうに笑いながら、エボルトは触手を垂らす。

 

『さて、まずはヒーロー連盟を潰して、絶望の淵に叩き落としてやろうか』

 

 それを胸に突き刺し、毒を注入しようとするも、窓ガラスが割れてビルドが侵入した。

 

『何っ!?』

「そこまでだ!」

『もうこれ以上あなたの好きにはさせないッ!』

 

 エボルトは殴り飛ばされ、窓の外の空へと放り出された。

 

「き、君は……」

「樋室さん、あとは任せてください」

「あ、ああ!」

 

 そのままビルドも追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 空中で姿勢を制御する。

 

 エボルトは攻撃の主を睨み付けた。

 

『調子に乗りやがって……!』

 

 ビルドはドラゴンに乗りながらこちらへと向かってくる。

 

「『ここで終わりだ! エボルトッ!』」

 

 空中で激突した。両者とも絶妙なバランス感覚で姿勢を保ちつつ、攻撃を繰り出していく。

 

 激しいぶつかり合い、それは次第に激化していき、ドラゴンが足場となってそれをサポートする。

 

『クソッ! 何故だッ!? 俺は全力を取り戻したはずなのにッ!』

「俺たちは負けられないッ!」

『ここで全てを終わらせるわッ!』

『ッ二対一とは卑怯じゃねえか!』

 

 卑怯さで言えばエボルトも負けず劣らずと言ったところだ。

 

 ビルドはウサギに蹴り飛ばされて加速し、エボルトに強力なライダーキックをお見舞いした。

 

 

 そして日本の神野区へと吹き飛ばされていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 オールマイトとオール・フォー・ワンとの戦いに決着がつく。

 

 激闘の後はすさまじく、町の大部分が瓦礫と化してしまっている状態だ。

 

 それでも平和の象徴(オールマイト)は勝利し、カメラに向かって宣言をした。

 

「次は、君だ……」

 

 それは弟子に向けたメッセージ。

 

 “自分はすべて出し切ってしまった”という意図を込めた言葉だった。

 

 

 

 

 

 カメラマンはそこで映像を切ろうとし、彼の背後に落ちてきたものに気付く。

 

「なんだ……あれ?」

 

 もはやマッスルフォームを維持できないオールマイトは内心で舌打ちをしていた。

 

(shit! このままでは――)

 

 だがどうすることもできず、降ってきた脅威に対してにらみを利かせることしかできなかった。

 

 

 

『くそ……思ったより、やるじゃねえかよ』

 

 それは地球外生命体エボルトの真の姿、ブラックホールフォーム。

 

『なんだ? 見世物じゃねえぞッ!』

 

 無様な姿をさらされ憤っていた彼は手の平から炎のようなエネルギー波を放って野次馬もろともすべてを焼き払おうとした。

 

 オールマイトは消耗した体に鞭を打って人々を助けようとするも、どうにも間に合わずに火に包まれる――かに思われた。

 

 

 カメラマンは自分たちを護るドラゴンの姿をカメラに捕らえた。

 

「『人々に手出しはさせない……!』」

 

 地上に降り立ったビルドはベルトのレバーを回転させる。

 

 金と銀、二色で構成された数式が周囲に展開される。

 

『調子に乗るなよ――下等種族がッ!』

 

 エボルトも負けじとレバーを回転させブラックホールを生成した。

 

 

\Ready go!/

\レディー・ゴー!/

 

 

 巨大なブラックホールを金と銀の螺旋のグラフが貫いて破壊した。

 

『なッ!?』

 

 ビルドはウサギのアシストで螺旋の式に飛び乗り、ドラゴンのブレスで加速する。

 

『パパの研究は――あなたが破壊の限りを尽くすためのものじゃないわ!』

「愛と平和で溢れる世界を願い、それを実現するためのものだッ!」

 

 キックを片腕で受け止めるエボルト。

 

 だがそれだけでこらえきれなくなったのか、両腕を交差させて耐える。

 

『私たちは証明して見せるッ』

「俺たちで作り上げたこの“ビルド”を平和の象徴にするッ!」

 

 徐々に、エボルトの両腕が消滅していく。

 

 その体を保つことができなくなってきているのだ。

 

「『勝利の法則は――決まった!』」

 

 ビルドは更にレバーを回転させ、クローズビルド缶のエネルギーを引き出していく。

 

\Ready go!/

 

 眩い光が発生し、エボルトのドライバー、トリガー、ボトル、そのすべてに亀裂が走る。

 

 

 

 

 

 

「『ラブ・アンド・ピース・フィニッシュッッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 曇りがかっていた空が一気に晴れる。

 

 夜空には星が煌き、僅かな月明かりが人々を照らす。

 

 

 こんな状況にもかかわらず、カメラマンは根性でカメラを回して一部始終を全国へと知らしめていた。

 

 

 

 

 

 

「今度こそ、終わったのね」

 

 エネルギーを使い果たし、変身が解除されてしまっていた。

 

 クローズビルド缶は元のボトルへと姿を戻し、二度とあの形態に変身できないようになってしまった。

 

「ああ、多分そうだろうな」

 

 エボルトが変身に使っていたアイテムは、もう原型が分からないほどに粉々だった。

 

「……カメラ、回ってるみたいよ。早く行ったら?」

「ああ、そうだな。このてぇんっさいの晴れ舞台には、十二分すぎたからな」

 

 くしゃっとした笑顔のセントは、果たしてどのような心境なのだろうか?

 

 きっと、人々を助けることができてうれしいに違いない。メリッサは心の中でそう思っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

『――あ、やってきました! 恐らくあの人物が空から降ってきたヒーローだと思われます』

 

 オールマイトの弱体化に加えた一大ニュースに、レポーターは興奮した状態だった。

 

『あの、お話を伺っても!?』

 

 歩いてきた男にカメラがズームインした。

 

『あなたのお名前は!?』

 

 彼は照れるように頭を掻いていた。

 

 そして穏やかな笑みを浮かべてこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺のヒーローネームはビルド。“作る・形成する”って意味の、ビルドだ――以後、お見知りおきを』
































































これで終わると思った?

まだ伏線というかお残しがありますぞ!


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二人の天才 エピローグ

伏線回収に大失敗したのである。

なのでし損ねた奴はあとがきで解説。



――――

――

 

 

 神野の悪夢、それはオールマイトの引退を決定づけた事件。

 

 同時に一人のヒーローの存在を世界へ知らしめた出来事であった。

 

 

「今期のビルボードチャート、荒れてるわね」

 

 オールマイトの喪失により繰り上げされるようにエンデヴァーが一位になった。

 

 そしてランキング外から一気にトップ10に食い込んだヒーローがいた。

 

 

 雑誌ではそれを大々的に報道しており、i・アイランド出身の若手ヒーローの見出しが大きく出されている。

 

 メリッサは父の入院する病室でその記事を読んでいた。

 

 

 デヴィット・シールドはエボルトから解放された後も意識が戻らず、ずっと寝たきりの状態だった。医者の話では、少しずつ快方に向かっているらしかった。

 

「ねえパパ……そろそろ、目を覚ましてよ」

 

 

 ――その願いが届いたのか、彼が僅かにうめく。 

 

「ぇ……?」

「ぅ――ん……ここ、は」

 

 永い眠りの果てに、デヴィットが目を覚ました。

 

 ぼんやりとしているようで、まだ何も把握していないようだった。

 

「パパ……!」

「メリッサ、か――」

 

 彼は零れ落ちる娘の涙をゆっくりと拭ってやる。

 

「はは……しばらく、見ないうちに、大きくなったな」

「――っ……よかった」

 

 十年、長い間断たれていた親子の交流が再開した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 場所は変わって南場重工のオフィス。

 

 会長は運ばれて来たたい焼きを齧り、愉快そうに笑った。

 

「は、は、は……ついにスタークの研究を回収できたか」

 

 南場重工が裏で手を貸していたのはビルドのシステムを奪うため。そして更なる兵器を生産するためだった。

 

「おい、もう一個持ってこい」

「はい――」

 

 秘書の女性がドアを開ける。

 

 次の瞬間にスーツを着た強面の男、樋室 ゲントクが令状を携えて侵入してきた。

 

「な、なんだ貴様!?」

「南場重工会長、南場 ジュウザブロウ。貴様をヴィラン犯罪幇助の容疑で逮捕する」

「ん!? どういうことだッ!? 何のために政治家への献金を行ったと」

 

 会長はデスクの非常ボタンを押し、護衛のガーディアンを呼び出す。

 

「チッ……公務執行妨害も追加しておくか」

 

\……デンジャー――クロコダイル!/

 

「下がってろ……変身」

 

 ゲントクはベルトにボトルを挿入し、レンチを下す。

 

\(中略)クロコダイル・イン・ローグ! オォォラァァァッッ!!/

 

 ローグは次々とガーディアンを破壊し、スクラップを築き上げる。

 

 とっておきを潰され、会長は怯えたように後ずさる。

 

「わ、ワシの計画は完璧だったはず――まさかッ!?」

 

 秘書の女性はいたずらっ子の様に微笑み、懐から名刺を投げつけた。

 

「南場重工会長秘書、改め、国際ヒーロー連盟潜入捜査官の多喜川 サワです!」

 

 その女性はヒーロー連盟から派遣される捜査官。ヴィランに手を貸していそうなグレーな組織を暴くための専門の捜査官である。

 

「な、なにぃ……?」

「そして――」

 

 彼女はローグに抱き着いた。

 

「この人の、妻で」

「違う……!」

 

 少し食い気味だった。

 

 いじけているサワを放置し、ローグは会長を連行していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

―――――数年後

 

 

「やれやれ、修理屋を開いたはいいが、時計の修理ばっかりだな」

 

 デヴィットはすっかりと回復し、今ではサポートアイテムの修理を行う店を経営していた。

 

 研究職に戻ろうにも、10年近くのブランクはかなり大きく、町の片隅でこういった店を開くぐらいしかできることが無かったのだ。

 

 そしてなんでも修理できると触れ込んだ結果、どういうわけか時計の修理ばっかり依頼されるのである。

 

「メリッサも独り立ちして部屋余ってるし、下宿でも始めようかな……はは」

 

 店のドアが開いた。

 

 暖かくなってきたというのに首にストールを巻き、百科事典のような本を携えている男性だった。

 

「失礼、ここではなんでも修理ができると窺ったのですが」

「ああ、できますよ。何を直しますか?」

 

 男が出したのは、デジタル時計のようなベルトのバックルだった。

 

「ほぉ……これは珍しい。サポートアイテムですか?」

「ええ。我が魔王に献上する品物です」

 

 変わった人だ、思いつつデビットは久々のアイテム修理に心を躍らせていた。

 

「これくらいなら一週間もあれば直せますよ」

「感謝します」

 

 男が出ていったあとでデヴィットはふと気づく。

 

「……どこかであった気がするなぁ」

 

 恐らくは異世界の事だろうが、それは彼らのあずかり知らないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――うわぁぁっ!」

 

 青年はヴィランに追いかけられていた。

 

 近くのヒーローは自業自得だと、内心関わりたくなくて見て見ぬふりをしていた。

 

「くそっ! 何で!? 俺が何したってんだよ!?」

 

 彼の視界が涙で滲む。

 

 それでも必死に走り続けた。

 

 ――コートの男とすれ違う。

 

 どこかで見た顔だったが、気が動転していて思い出せなかった。

 

「よくここまで逃げれたもんだ――あとは俺に任せとけ」

 

 男が取り出したものを見て、ヴィランたちは後ずさる。

 

「お、おい……あいつまさか」

 

 更に続けて出された二本のボトルを見て、その正体に気付く。

 

「っ間違いねえ! ビルドだッ!」

 

\ラビット! タンク! ――ベストマッチ!!/

 

 男がレバーを回転させるとアーマーが形成され、その真の姿を見せる。

 

\Are you ready?/

 

「変身っ!」

 

 赤と青、二色のアーマーを纏ったヒーロー。

 

 その名前は、かつてのオールマイトように、平和の象徴と言えるものとなっていた。

 

\鋼のムーンサルトォ! ラビット・タンク! イェイ!/

 

 

 現在、ヒーローランキング一位。“二代目の象徴”ビルド。

 

 彼は誰も見すてない。

 

 どんな人物であれ、必ず助けてみせる。

 

 ラブ・アンド・ピースの世界を実現させるために。

 

 

 

「さあ、実験を始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――二人の天才編・完――――








~折角だからこれが伏線だったのコーナー~

・ベル様の「そういう力のあり方もあるのか」発言

 どこかのタイミングでセントとメリッサは無個性ではなかったんやで的なことを書こうと思っていた(by一カ月前の自分) 二人で一つの個性。それぞれの相性が抜群にいい場合人間の限界を超えた性能を引き出すことができる――という個性:ベストマッチを付与したかった。でも無理だった。





と、言うわけで映画編はめでたく完結しました。本編の続き、トゥルーエンディング編はそのうち投稿します。そのときにまたお会いしましょう!

当分FGOの方書きます。あしからず。


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第一章 神の降臨
神のヒーローアカデミア


 ふざけて書いた。後悔はしていない。


 壇 クロトは無個性である。

 

 無論,彼自身の“個性”は強烈である。

 

 しかし,全人口の8割が持っている身体能力としての個性は持ち合わせていないのである。

 

 

 

 父親は『認識範囲の時を止める程度』の個性。

 

 母親は『一瞬で見た目を変化させる程度』の個性。

 

 周囲からはさぞや素晴らしい個性を発現させるのだろうと期待されていた。

 

 

 

 

 

「残念ながら……クロトくんは個性がありません」

 

 それを聞いたとき,彼は耳を疑った。

 

「僕に個性がない……? 嘘だ。僕を騙そうとしている!」

 

 彼の頭の中は疑問符でいっぱいだった。

 

 個性がない? だとしたらこの頭に思い浮かぶ無数のゲームのアイデアは何なのだ?

 

 それを医者に言ったら,こういわれた。

 

「そうか……それは,君自身が持つ才能だ。個性にも負けない,立派な武器だ」

 

 医者の言ったことは,至極真っ当だ。

 

 個性を持っているのが当たり前な世の中に,何の個性も持ち合わせていないのだから,その子供を励まそうと言葉をかけるのは当然だ。

 

 そう,かけた言葉は間違っていなかった。

 

 解釈の仕方が間違っていたのだ。

 

「僕の……才能……つまり僕は――誰も持ってない,特別な能力の持ち主なんだ!」

 

 純粋な少年はこう思った。

 

 この才能を生かせば,きっと神になれる,と。

 

 ――『この世界は生まれながらにして平等ではない』

 

 彼は齢4にして知った現実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

――――

――

 

 雄英高校体育祭。

 

 それはかつてのオリンピックの代わりになった日本のビッグイベントである。

 

 メインのヒーロー科のみならず,サポート科や経営科も自らを売り込もうと頑張るチャンスの場でもある。

 

 将来の部下を見定めに来たプロヒーロー,純粋に競技を楽しみにしてきた観客,あるいは生徒の保護者。

 

 それはそれは,楽しいイベントになる…………はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーっと! また死んだぞッ!? これで何回目だよッ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一種目。障害物競走。

 

 初っ端から氷結攻撃を喰らって大半の生徒が脱落した。

 

 その中で頭一つ抜けたのは,攻撃を仕掛けた当の本人ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブェヘヘヘッ! 時間差コンテニューだ」

 

 

 崖の下に落っこちてあっけなく脱落――かと思われた,生徒が復活した。

 

 『Continue』と書かれた紫色の土管から,あたかもゲームキャラのリスポーンのように。

 

 

「残りライフ95か……まぁいい」

 

 

 黒く逆立つような髪のような仮面に真っ黒なスーツ。胸のライダーゲージと黄緑色のゴツいベルトが特徴だ。

 

 彼の名は――壇 クロト。

 

 雄英高校サポート科を史上最高得点で通過したくせに,ヒーローのサポートアイテムを作る気は無く,あくまで自分の作ったゲームを宣伝したいだけとかいうナメ切った生徒だ。

 

 しかし,彼には彼なりの言い分があった。

 

 

 

「死ねッ! クソモブッ!!」

 

 爆発頭で,両手の爆風で加速する少年――爆豪 勝己は一位を独走するクロトに向かっていった。

 

「神に向かってなんだその言い草ッ! 口を慎みたまヴェッ!?」

 

 

 彼の言い分,それは――『君たちの,その水晶のような輝きこそが……この私の神の才能を刺激するっ! 神の役に立てることを――光栄に思うがいいッッ!(原文のまま)』

 

 つまり,お前ら捨て石の分際でごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ,と。

 

 

 

 まーその態度,ヒーロー科一自尊心の高い爆豪くんはお許しにならず。

 

 爆破によってクロトは再び死んだ。

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

\ウイーンウイーンウイーン! テッテレテッテッテー/

 

 

「フゥッ! ……残りライフ94……私の貴重なライフをよくもォッ!」

 

 

 だが再び紫の土管から復活した。

 

 

 なんだかんだあって彼は障害物走で一位となった。

 

 ついでに次の騎馬戦では,ずっと空中に浮いているというチート戦術で再び一位となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが,教師陣の間で競技種目の内容を変更する議論があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 体育祭トーナメント,決勝。

 

 対戦カードは壇 クロトVS爆豪 勝己。

 

「これでようやくテメーをぶち殺せる」

「……神であるこの私に対する数々の暴言。もはや許す気もない」

 

 彼の腰にはゲーマドライバー。

 

 右手には二本分の厚みのあるガシャット。

 

「君はもはや用済みだァ……」

 

 

 

\ゴッドマキシマムマイティX/

 

 

 

 神を名乗るにふさわしい神々しい音声が鳴った。

 

 

 

「グレード10億(ビリオン)――――」

 

 

 

『試合――開始ッ!』

 

 

 

「変身!」

「死ねぇっ!」

 

 

 

\マキシマムガッシャット! ガッチャーン! フーメーツー!/

 

 

 

\最上級の神の才能――クロトダーン! クロトダーン!/

 

 

 

 とんでもない自画自賛である。

 

 爆風を受ける直前,変身に成功していたクロトはご都合主義(ふしぎなちから)で防御される。

 

 

 

\ゴッドマキシマム――エーックス!/

 

 

 

 背後の巨大オブジェに飲み込まれ,その身を巨大ロボのように変形させた。

 

 

 

 

「私のレベルは――10億」

「知るかッ!」

 

 浴びせられる爆破をものともしない。

 

 なぜなら――神だから。

 

 

 ……なわけはない。

 

 

 

「コズミッククロニクル・起動」

 

 

 突如出現したレンズが太陽光を集約しレーザーを放つ。

 

 連続爆破で爆豪は躱していくが,攻撃がかすり始める。

 

「ぐっ――このっ!」

 

 爆豪はニトロのような汗を分泌できる個性。

 

 それゆえ長期戦になればなるほど有利なスロースターター。

 

 まぁ神の方が強いのだが。

 

 

「無駄だ……私は宇宙にコミットした」

 

 

 突如隕石が飛来した。

 

 爆破でそれをやり過ごしたところで意味もない。

 

「な……に?」

「ヒーロー諸君……私たちは世界の歴史に革命がおこる瞬間に立ち会おうとしている」

 

 

 

 

\ガッチョーン カミワザ‼/

 

 

 

 

 

 

「括目するがいい……」

 

 

 

 

 

 

\ガッチャーン!/

 

 

 

 

 

「限界を知らない……私自身の神の才能に」

 

 

 

 

 

\GOD MAXIMUM CRITICAL BLESSING/

 

 

 

 

 

 

 その瞬間,会場のヒーロー,観客,生徒,テレビを見ていた者は目撃した。

 

 

 生死の境界を曖昧にし,宇宙の力さえも取り込むサポートアイテムの存在を。

 

 

 世界を救うも滅ぼすも自由自在な,その究極の力の片鱗を。

 

 

 

 

 

 

 

「しょ,勝者……壇,クロト……! よって優勝は――」

 

 

 

 

 

 

 それを優勝と言っていいのかは不明だ。

 

 

 しかし,神が降臨したのは事実である。

 

 

 

 

 

「ああ……恐ろしいっ! 私自身の神の才能がっ!!」

 

 

 

 

 



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神のヒーローアカデミア2

続きが気になると言われましたので書いてみました。

クロト神様のキャラクターってすごい。


――――

――

 

 雄英高校,日本一のヒーロー育成学校であり,ヒーロー科は倍率300に迫る超難関高校である。

 

 

 それゆえヒーロー科を早々に諦め,堅実に普通科を受験,体育祭でワンチャン狙いの生徒も数多くいる。

 

 

 だが神は,そんなセコイことはしない。

 

 

「――お前らも知っているとは思うが,体育祭の成績優秀者はヒーロー科に編入できる。で,あの結果から編入してきたのが」

 

 壇 クロトである。

 

 前の入り口から超ドヤ顔で入ってきた瞬間。

 

 

\Booooooooo!!/

 

 

 超絶ブーイングが巻き起こった。

 

 

「な,何であいつがっ!?」

「まじかよっ!?」

「そ,そんな……ヴィランに近そうなのに」

「てかあの個性なんだよっ!?」

 

 

 しかし,相澤の眼力で静まった。

 

 

「当然,壇の行った行為は褒められたことではない。だがこの高校の1年では頭一つ抜けた実力がある。その証拠に――」

 

 

 黒板に表示されたのはヒーローからのスカウト数。

 

 一番は――お察しの通りのである。

 

 

「指名数は一番多い。というわけだ。諦めろ」

「ふっ……神であるこの私と共に学べることを,光栄に思うがいいッ!」

 

 彼の手により半殺しにされ,三日三晩リカバリーガールの治療を受けていた爆豪は,怒りと驚きで体を硬直させていた。

 

「そういうのいいから早く座れ」

 

 ふんぞり返って高笑いしていたクロトはしぶしぶ自分の席に戻り,ゲームの開発を始めた。

 

「時間が押しているが――お前らにはヒーローネームを決めてもらう」

 

 

 歓声が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――あとは,再考の爆豪君に,ヒーロー科に来たっばかりの壇君」

 

 審査役のミッドナイトに指名され,クロトはドヤ顔で前に立つ。

 

「失礼,私の神々しさに見合う名前を選定するのに少々手間取りまして」

 

 “ゴッドヒーロー”

 

「私のヒーロー名は――壇,クロト神!」

「却下」

 

 悦に浸っていた彼は一瞬で没にされた。

 

「却下ですか……ならば,私の真のヒーロー名を,教えましょう」

 

 

\ピロリロリロロアガッタビリー……/

 

「なぜ神の才能を持つ私が,サポート科を受験したのか」

 

\アドワナノー/

 

「あ,そういう前ふり要らないから,時間ないし」

「…………私のヒーロー名は――“無個性ヒーロー”ゲンム」

 

 

 真っ白だったボードの裏には,ヒーロー名が書かれていた。

 

 それも,無個性という自分自身の最大のコンプレックスをそこに記していた。

 

「え……無個性……???」

「それに,ゲンムっていや,あの日本一のゲーム会社の名前じゃ」

 

 株式会社ゲンムコーポレーション。

 

 日本一のゲーム会社である。

 

 世界的大ヒットを巻き起こした“マイティアクションX”を始め,数々のRPGファンを魅了した“タドルクエスト”シリーズ,人々がハマりすぎて販売中止となった“バンバンシューティング”など多数のヒットゲームを生み出した大企業である。

 

 クソを下水で煮込んだような性格の爆豪ですらゲンムコーポレーションのゲームをプレイしたことがあるのだ。

 

「まさか,壇君って」

「そう,私こそがゲンムコーポレーションのクリエイターにして,人々が熱狂するゲームの生みの親――壇,クロトだッ!」

 

 

 

\ええええええええっ!?/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間ごとにクロトは質問攻めにあっていた。勿論,注目されることが大好きな彼はドヤ顔で質問に答えていた。

 

 それを気に入らないように見ていたのは,爆豪。

 

 無個性のくせにちやほやされるのが気に入らないのだろう。

 

 とても素晴らしい個性を持ち,常に輪の中心だった彼は,無個性という路傍の石と同じ程度のモブキャラが,もてはやされている上に,体育祭では半殺しにしてきやがったのがムカついて堪らないのだ。

 

 

 

 

 

「よークソモブ」

 

 放課後,教室で一人ゲーム開発を行っていたクロトに爆豪は挑戦しに行った。

 

 端末に突き刺さっていた『ゴッドマキシマムマイティX』ガシャットを奪い取り,爆破するという,最大限の侮辱を行いつつ。

 

「こんな小細工で人気取って楽しかったか?」

「……そのガシャットは試作品のα版でね。まだまだ改良の余地があったが……私の貴重なガシャットをォ!」

 

 直後に爆発付きのビンタを喰らって黒板に激突する。

 

 もちろんけがをさせない程度の威力で。その辺がみみっちい。

 

「ブェッ」

 

 だが撃たれ弱いクロトはそのまま死んだ。

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 しばらくして紫の土管から生えてきた彼は,いつになく冷酷な表情であった。

 

「君は体育祭で私を3度も殺した。そして今も,私の貴重なライフを減らした」

 

 

 

\ガッチョーン……/

 

 

 

「残りライフ89……私のライフをここまで減らしたことに敬意を表し,新作ゲームのテストプレイヤーに任命してあげよう」

 

 

 

\デンジャラスゾンビィ/

 

 

 

「へぇんしぃん……」

 

 

 白いガシャットを腰のバグヴァイザーに挿入し,起動させた。

 

 

 

\バグル・アップ/

 

 

 

「な,んなんだよ,お前」

 

 

 

 

\DANGER! DANGER! DEATH THE CRISIS! デンジャラス・ゾンビ  WoOoooOOO!/

 

 

 

 

 

 その姿は,体育祭のゲンムとは色が異なっていた。

 

 真っ白で,死神のような姿。

 

 時折痙攣し,ゾンビのようにうごめいている。

 

 

「ゲンム,レベルX(テン)

「レベルなんてテメェのさじ加減一つだろうが!」

 

 

 今度は本気の爆破を喰らって,クロトは教室のドアを崩しながら吹き飛んでいる。

 

 だが煙の中で,逆再生のように復活する。

 

 体育祭のゴッドマキシマムが神なら,デンジャラスゾンビはその名の通りゾンビである。

 

 ライダーゲージは初っ端からゼロ。

 

 常に死に続けている。

 

 

「ハァ……私に攻撃は無意味ダァ」

「ざけんな! 死ねッ!」

「私はもう死んでいる」

 

 

 

\ガシャコンスパロー/

 

 

 

 

 咄嗟に窓から校庭に飛び降りる爆豪。

 

 それを追う弓矢の攻撃。

 

 

「デンジャラスゾンビは,不死身のゾンビから逃げ回るホラーゲーム」

 

 

 クロトも追って飛び降りたが,着地に失敗して再び蘇生する。

 

 

「うるっせぇ! そんなクソゲーじゃ赤字だな!」

 

 

 攻撃してもだめなら逃げるしかない。

 

 

 頭ではわかっていても彼のプライドが許さない。

 

 神はそれを知って攻撃を――

 

 

 

「――やめろ。それ以上やるなら除籍にするぞ」

 

 

 喧嘩を止めるのは教師の務め。

 

 相澤は捕縛布でクロトを縛り付ける。

 

「神に気安く触れるなァッ!」

 

 すぐさま分裂した。

 

 

「何っ?」

「ゾンビと言えば,増殖能力がつきものでしょう……?」

 

 

 ガシャコンスパローを放り捨て,ベルトのABボタンを同時押しした。

 

 

「爆豪 勝己……君に神からの判決を言い渡そう」

 

 

\CRITICAL END/

 

 

「つまらない自尊心と共に,闇に消えるがいいっグッ?」

 

 

 異変が起きた。

 

 増殖したゲンムとクロトが苦しみだし,消滅してしまったのだ。

 

 

 

\ゲームオーバーウィンウィンゥィン/

 

 

「フォゥッ! ……やはり増殖機能と不死機能の並立は難しいか……だが私の才能に――不可能はなぁいっ!」

 

 

 壇 クロトは神の才能の持ち主である。

 

 それゆえ,どんなに素晴らしい個性を持った人間にもなしえなかったことが可能なのである。

 

 

 人は,彼の事を神と――呼ばなかった。

 

 だが,彼は自分自身が神であると確信していた。

 

「世界よ……私の恵みを受け取るがいいッ! グエッ」

「お前ら,とりあえず職員室に来い」

 

 そんな神も,教師には逆らえないのだった。

 

 

 




続く……のか?


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第二章 堕落したヒーローとヴィジランテ
神のヒーローアカデミア3


クロト神の威光でお気に入り登録がうなぎ上り。

続きを書くしかないよね。

オリキャラも出すしかないよね。


――――――

――――

――

 

 “便乗ヒーロー”フリーライダー。

 

 常に他人の手柄を横取りし続け,その成果を盾に出世を続けているどうしようもない腐れヒーローである。

 

 だが彼には悩みがあった。

 

 

「おいゲンム! お前パトロール行けって言ったろうが!」

「うるさーいッ! 私に指図するなァッ!」

 

 職場体験にやってきた雄英生,ヒーロー名はゲンム。

 

 体育祭での活躍から,ワンチャン来てくれたら楽できそうだなと期待していた。

 

 そして来てくれた。

 

 

 初日は,自分の為にこき使える奴が来てくれてうれしかった。

 

 だがその日のうちに,後悔した。

 

 ずっと事務所でパソコンをいじっているうえに,注意されてもなんも気にしていない。

 

 

 それどころか逆ギレしてふんぞり返る始末。

 

 頭が痛かった。

 

「お前な,そんなんじゃヒーローになれないぞ」

 

 自分の事を棚に上げているが,そんなことは神の関心を惹きつけなかった。

 

「私のクリエイティブな時間の邪魔をするなッ! ヒーロー科のカリキュラムの都合上仕方なくお前のところに来てやったんだ……光栄に思うがいい」

 

 仕方なく,彼は自分でパトロールに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「ったく……楽できると思ったのによ」

 

 フリーライダーとは,集団の中において他人の利益に便乗する人間の事を言う。

 

 面倒くさがりで,何もする気のない彼の性格をよく示しているだろう。

 

 

 そんなヒーロー崩れを成敗するヴィランがいた。

 

 正確には――ヴィジランテだが。

 

「ぐっ!?」

『貴様が噂の偽物か』

 

 ドラゴンの仮面をかぶり,ライダースーツを身にまとった人物に襲われた。

 

 ドラゴンの牙のような武器から放たれた斬撃を,彼は寸でのところで“個性”を発動して躱した。

 

 

 

 

 ヒーロー『フリーライダー』

 

 個性:第六感

 

 めっちゃすごい直感。カン。めっちゃすごいよ

 

 

 

 

 

 

「な,なんなんだよぉ……」

『わたっ,俺は貴様のようなヒーローとも呼べない,ただの馬鹿を刈り取るのが仕事だ』

「お前――噂のヒーロー殺し」

『違うッ! わっ……俺をあんな陰キャと一緒にするなッ! 我が名は“竜戦士”グラファイト。真のヒーローとなる者だ!』

 

 

 

 

 

 

 ヴィジランテ『グラファイト』

 

 個性:裂撃(れつげき)

 

 なんでも引き裂く強力なエネルギー波を放つ! チャージすればするほど威力は上がるっ! ちなみにドラゴナイトハンターZの竜戦士じゃないぞ。

 

 

 

 

 彼は武器にエネルギーを蓄え,再び攻撃を放つ。

 

『激怒龍牙!』

「うぐおっ!」

 

 フリーライダーの拠点は保須市にほど近いところだ。

 

 変に逃げれば本物のヒーロー殺しと出くわしてしまう。

 

 個性が告げるままに逃げるも,常識はずれな動きをするヴィランに追い詰められてしまう。

 

 

 

『さらばだ――偽りのヒーローッ! “ドドド黒竜剣”!!』

 

 なお,ネーミングセンスはパラレルワールドのグラファイトさんと同じようであった。

 

「や,やだっ! 死にたくねぇっ!」

 

 

 ただ楽をして,みんなにちやほやされて,楽に金を稼ぎたかっただけなのに。

 

 黒いエネルギー波が飛んでくるのを呆然と眺め――寸でのところで避けた。

 

 本能的にもっとやばい奴が来たことを察知したからだ。

 

 

『な,なんだ……? この脳みそ男』

 

 

 ヴィラン連合が生み出した改人・脳無。

 

 奇しくもこの日は,ヴィラン連合とヒーロー殺しステインが手を組み,行動を開始した日であった。

 

 保須市周辺に,連合が攪乱のための兵を放ったのだ。

 

「じょ,冗談じゃねぇっ!」

『おい待――』

 

 ヒーローのくせに真っ先に,いち早くフリーライダーは逃げ出した。

 

 取り残されたグラファイトは,持ち前の正義感で踏みとどまった。

 

 

「…………?」

 

 脳無は思考できない。

 

 命令されたことを行うのみ。

 

『おい脳みそ男! お前何者だ?』

「?」

 

 だが,本能的に敵意を察知し,戦うことはできた。

 

 この個体には,強化再生,筋力増強,分裂再生の個性が付与されていた。

 

『!』

 

 衝撃でグラファイトの仮面にひびが入る。

 

 反射的に彼(?)は武器にエネルギーをチャージし,裂撃を放った。

 

『激怒龍牙!』

「!?」

 

 脳無の腕がもげかけたが,ひっついて再生する。

 

 再び激怒龍牙が放たれたが,今度はびくともしなかった。

 

『そうか,一度はなった攻撃は通用しないということだな――ならば』

 

 再びエネルギーをチャージする。

 

 『ドドド黒竜剣』は発動まで30秒かかる。

 

 コンマ1秒を争う戦闘時には,致命的なタイムロスだ。

 

『あぐっ! ――っ!?』

 

 強烈な腹パンを喰らい,気を失いそうになるが気合でこらえる。しかし,仮面が砕け散り,素顔があらわになってしまう。

 

 どこかあどけなさを残した,少女の顔だ。

 

 柔らかそうな栗色のロングヘアは,個性の影響で緑と黒に染まりつつある。

 

 早い話,グラファイトは少女だったのである。

 

 彼女の髪の毛が真っ黒に染まり,漆黒のオーラを放った。

 

「奥義――ド・ドドド黒竜剣ッッ!!」

 

 

 過度な裂撃のチャージは自傷行為である。

 

 エネルギーの余波は自分自身を傷つける。

 

 

 漆黒のエネルギー波は,脳無の上半身を真っ二つに裂いた。

 

 普通の人間なら死ぬ攻撃である。

 

 それでも改人は死なない。

 

 わずかによろめいて踏ん張り,強化再生された。

 

 

「はぁ……っ……な,んで――!?」

 

 改人に善悪の判断も倫理観もない。

 

 故に男女平等に殴るし殺す。

 

 グラファイトは横っ面を殴られ地面を転がる。

 

 

 気を失いそうな痛みの中,逃げ遅れた人々の,恐怖に染まった顔が目に入った。

 

 

“限界だーって思ったら,思い出すんだ。自分自身の原点――オリジンを”

 

 

 

 昔読んだヒーローの伝記。その中で心惹かれた一つのワード。

 

 どんなに辛くても,ヒーロー科を不合格になっても,ヴィジランテになってでも心を動かし続けた一つの信念。

 

“誰かを助けられる人でありたい。人々の笑顔を守れる人になりたい”

 

 それが彼女のオリジン。

 

 

 

 

「わ,私は――竜戦士,グラファイト」

 

 ふらつきながら,武器を杖にしながら立ち上がる。

 

「私が戦う理由は,今この瞬間――人々を守るためにあるッ!」

 

 裂撃をチャージする。

 

 究極奥義を放つために必要な時間は――1分。

 

 その間,この改人の攻撃を耐え続ける。

 

 倒れてはならない。

 

 避けてもならない。

 

 死ぬ気で耐えるのだ。

 

「!!」

 

 脳無のラッシュを喰らい,意識が飛びそうになる。

 

 このまま逃げ出したくなる。

 

 それでも心に信念を――オリジンを思い浮かべて耐える。

 

 

 

 彼女の心の震えに応じて髪が緑から黒に,稲妻を纏い,そして少しずつ,赤へと変化する。

 

「究極奥義――っ」

 

 殴られつつも,意識が飛ぶ寸前でも,人々を守りたいというその一心で,キメ技を放つ。

 

 

「究極奥義――“ドドドドド・紅蓮爆竜剣”!!」

 

 

 赤い竜が脳無に襲い掛かる。

 

 すべてを引き裂くエネルギー波は,脳無の全身を粉みじんに引き裂いた。

 

 

「やっ……た――」

 

 

 すべてを成し遂げ,グラファイトは地に臥せった。

 

 影から様子をうかがっていたフリーライダーは,すべて終わったのを見て現場に舞い戻る。

 

「えーっと,今何時? ま,いいや。なんかよくわかんないヴィラン討伐に,ヴィジランテのグラファイト逮捕―」

 

 

 何もしていない癖に,手柄を横取りしたうえ,守ってくれたグラファイトの手に手錠をかけたのだ。

 

 個性の反動と度重なる攻撃でボロボロな,その体を縛り上げたのだ。

 

 

 

「おい……あいつなんだよ」

「ヒーロー……?」

「で,でも真っ先に逃げてたじゃん」

 

 

 町の人々は困惑と,非難の目を向けた。

 

「うるっせーな。いいか? こいつは無資格のくせに個性を使用した犯罪者,そして俺は資格を持っている正規の“ヒーロー”。この手柄をもらうのは,当然俺っしょ?」

 

 発言は正当だが,行為的にはドクズだった。

 

 未知の化け物におびえていたくせに,逃げていたくせに手柄だけはちゃっかり攫って行く。まさにフリーライダーの名にふさわしい外道行為だった。

 

「ッひょー! これだけの手柄。今期のビルボードチャート爆上がり確定! もう今夜は焼肉しかないッしょーっ! ヒャッホホイ!」

 

 

 その高笑いは,神の跳び蹴りが止めた。

 

「うぶぇっ!?」

「……素晴らしい出来だ」

 

 突如現れたクロトは,落ちていたグラファイトの仮面を手に取り,とても嬉しそうに笑っていた。

 

「我ながら良いデザインだ――あのグラフィックをもとにここまでのファングッズを作ってもらえるのは――クリエイター冥利に尽きる」

「い,いへ……なにふんだよ!」

 

 フリーライダーは蹴られた鼻っ面を押さえて蹲っていた。

 

「私のゲームのファンを守ったのさ」

「は,はぁ……?」

 

 彼は仮面をグラファイトの傷ついた顔にかぶせてやる。

 

 神は激怒した。

 

 己のゲームのファンをここまで傷つけたヒーロー崩れに裁きの鉄槌を下さんと奮起した。

 

 なお彼は脳無の存在に気づいてはいない。

 

 

「ファンを守ることも,神の役目の一つだ」

 

 腰にはゲーマドライバー。右手には新しいゴッドマキシマムマイティXガシャット。

 

「彼女は逮捕させない――彼女は私のゲームの,大ファンなのだからッ!」

 

 

 

 

 

 

\ゴッドマキシマムマイティX!/

 

 

 

 

 

 ガシャットを起動し,合掌するようにそれを挟む。

 

 彼の目が紫に輝いた。

 

 

「グレードビリオン。変身!」

 

 

 

 

 

 

 

\マキシマムガッシャット! ガッチャーン! フーメーツー! (中略) ゴッドマキシマーム! エーックス!!/

 

 

 

 

 

 

 

「体育祭でのデータをもとにアップグレードしたβ版。喜べ。君は栄えあるテストプレーヤーに選ばれた」

 

 

 

 

 神の才能は,留まるところを知らない。

 

 

 

「へへっ! 知ってんだよ! ビームとか隕石とか,俺の第・六・感! で全部躱せんだよ!」

 

 フリーライダーは,虚勢をはって威嚇する。

 

「チッチッチッ……私のゲームは常に進化を続ける――ゾンビクロニクル,起動」

 

 

 突如として,白いゲンムが大量発生した。

 

 右を見ればゲンム,左を見てもゲンム。四方八方がゾンビゲンムに囲まれてしまっている。

 

「え,え……?」

「ゾンビクロニクルは,迫りくるゾンビを討伐し,仲間を助けるゲーム。ヒーローの君にぴったりだろう?」

 

 

 

 映画のゾンビは,基本死なず,主人公サイド全滅エンドも間々ある。

 

 戦闘訓練など碌にしていないフリーライダーに斃せる相手ではない。

 

 

 

「安心したまえ。爆豪 勝己(テストプレーヤー)の強い希望で,ゾンビは不死身ではなくなっている」

「じょ,冗談じゃねぇょっ! 俺はヒーロー資格を持った,れっきとしたヒーローなんだぞッ! これ以上やるならお前も逮捕――」

「不要なヒーローは削除あるのみ」

 

 

 

 

 

\ガッチョーン カミワザ!!/

 

 

 

 

 

 神の理想に,腐れヒーローは必要ない。

 

 

 

 

 

 

 

\GOD MAXIMUM CRITICAL BLESSING!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ――便乗ヒーロー“フリーライダー”」

「ゥワ"ァァァッ! マ"マ"ァッーッ!」

 

 

 

 

 ゾンビゲンムたちが発光し,大爆発を引き起こす。

 

 神の信者に仇名す者(とばっちり)は,粛清される運命にある。

 

 

 

 

「私の作り出す世界に,名ばかりヒーローは不要だァ」







続く……しかない?


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神のヒーローアカデミア4 『グラファイト:オリジン』


保須市編はなかなか終わらない。

というか地味に続けちゃってる。




――――

――

 

 ヴィジランテ,グラファイト。本名:竜ヶ峰 裂姫(さき)

 

 個性は裂撃。何でも引き裂くエネルギー波を放出できる。

 

 普通に考えて,ヴィランに向いている個性なのは確かである。

 

 

 それでも彼女はヒーローに憧れた。

 

 

「むこせー(無個性)のデクがチョーシのってんじゃブェッ!」

 

 昔から正義感が強く,近所の悪がきをよく成敗していた。

 

 なおその悪ガキの名は爆豪という。

 

 

 小学校,中学校共に皆から信頼され,将来はきっといいヒーローになると信じられていた。

 

 もちろん,彼女自身も雄英高校のヒーロー科を受験しようと思っていた。

 

 

 そして,受験当日。

 

 筆記試験は危なげなく突破した。しかし実技試験では――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――僅か2ポイントの差。

 

 当時,雄英の試験に救助ポイントという概念は無かった。

 

 人助けをし過ぎて彼女は結果的に不合格となった。無論,この結果は物議をかもしたのだが,結果が覆ることは無かった。

 

 彼女は絶望したが,こう言い聞かせた。

 

「私よりもっとすごい人がいた……日本一の高校だもん……仕方ないか」

 

 

 日本一,の高校。方や自分は地域の中で一番。

 

 もっとヒーローにふさわしい人がいたから,合格できなかったのだ,と。

 

 

 

 

 そして運命の日。

 

 雄英高校体育祭。彼女も,自分よりすごい人たちの活躍を見れるのが楽しみだった。

 

 しかし,待てど暮らせど,一年生の――同世代の紹介がなされない。

 

 不思議に思って,ヒーローをやっている叔父に聞いてみた。

 

『……詳しくは知らないが,どうやら,全員見込みなしで除籍されたらしい』

「じょ,せき……?」

 

 

 見込みなし。

 

 そう,彼らは身体測定,戦闘訓練,救助訓練を経て――全員見込みがないと除籍されたのだ。

 

 

 あの入試,ロボットヴィランを効率よく倒すだけだった。

 

 自分を犠牲にして他を助けるというヒーローの本質を一切測れていなかった。

 

 彼女のように,ヒーローらしい行動をとったものが不合格となり,アンチヒーローな行動をしてでもポイントを稼いだものが合格となった。

 

 後で彼女はそんな話を聞いた。

 

 

 そして,彼女がヴィジランテになるきっかけが起こる。

 

“ヘドロ事件”

 

 爆豪君がヴィランに捕まった有名事件である。

 

 

 苦しんでいる一般人を『不利だから』という理由だけで遠巻きにして見ているだけのヒーローに絶望した。

 

 ヒーローなど当てにできない。

 

 彼らを資格を持っているだけの偽物なのだ。

 

 

 

 ならば,資格を持っていなくとも,ヒーローになれる。

 

 

 彼女は“ドラゴナイトハンターZ”の敵キャラ『グラファイト』の名を借り,活動を始めた。

 

 すべては,真のヒーローとなるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「ハァ……我ながら素晴らしい出来だァ……」

 

 しかし,フリーライダーは死んでいなかった。

 

 個性で爆発の瞬間を察知し,辛うじて逃げることに成功していたのだ。

 

 

 

「ち,チクショォ……ん?」

 

 

 ぐにょ。

 

 彼の足が肉片を踏んだ。

 

 僅か数百グラム。だが,確実に姿を取り戻しつつある脳無。

 

 

「ひっ……!」

「ほう……悪運だけは強いようだなァ」

 

 

 

 

 

\ガシャコンキースラッシャー/

 

 

 

 

 

「思えば,君は私に数々の暴言を吐いていた。神に対する冒瀆をあの程度で済ませてあげるという,私の慈悲を君は踏みにじった――」

 

 神の言葉を聞く余裕など,フリーライダーには無かった。

 

 彼の足下で再生する脳無に足を絡め取られ,動けない。

 

 前門の脳無,後門のゲンム。

 

「や,やらぁ……し,死にたくねぇよぉ」

「後悔と共に――闇に消えるがいい」

 

 

 

 

 

\マキシマムガッシャット! キメワザ!!/

 

 

 

 

 

「グエッ!?」

 

 しかし,神のキメ技は発動されなかった。

 

 未知の乱入者に妨害されたのだ。

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

「こんな時に仲間割れをしている場合かッ!」

 

 プロヒーロー“ブレイブ”

 

 多数の脳無出現に要請されたヒーローの一人だった。

 

 

「――――フゥッ! ……残りライフ88。たかが1プレーヤーが,ゲームマスターである私に盾突くとはいい度胸だなァ」

「貴様の講釈はノーセンキューだ。今は脳無討伐に協力しろ」

「私に指図ウグェッ!」 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

「これは個人的なお願いではなく,命令だ。逆らうならばお前をまず切除するぞ」

「ぐっ……」

 

 

 ブレイブは脳無を警戒しつつ,気を失っているグラファイトに対して個性を発動する。

 

 

 

 

 

 

 ドクターヒーロー『ブレイブ』

 

 個性:英雄(ヒーロー)

 

 ヒーローっぽいことなら何でもできる! 死にかけても生き残れる! 仲間のライフも回復できる! てかマジスゲェ,マジ最強。

 

 

 

 

 

 傷を全回復されたグラファイト――サキは目を覚ます。

 

「サキ,これ以上活動するなと言ったはずだぞ!」

 

 そう,ヒーローの叔父とはこの男であった。

 

「――私は悪くないッ! 私は……みんなを,助けたかった」

「お前も知ってるだろ!? 資格なしにヒーロー活動をすることは」

「資格を持っていることがヒーローなの!? あの男は――」

 

 と,気絶しているフリーライダーを指して言う。

 

「あの男は,自分の身が可愛くて,真っ先に逃げ出した……ヘドロ事件の時もそうよ。苦しんでいる人を見捨てておいて,何がヒーローよ! こういうときばかりヒーロー面しないでッ!!?」

 

 

 正論のように聞こえる彼女の言い分を,頬をはたくことで黙らせる。

 

 

「……お前の言い分は間違っては無い。あの男のように,ヒーローらしからぬプロは一定数居る。下手をすれば,ヴィランのような人間もいる。だがヴィランとは悪人の事じゃない。ルールを守れない,社会の腫瘍の事を言うんだ。それを切除し,社会を健全にするのがヒーローの務め」

「何よ……私もヴィランと同じだってことなの!?」

「ああ,それが社会のルールだからだ」

「……っ!」

 

 彼女は言葉を失った。

 

 大好きな叔父から,ヴィランだと罵られた。

 

 それは,彼女の心のに傷をつけた。

 

 

「――と,いうのがプロヒーロー,ブレイブとしての意見だ。俺は――加賀美 ヒイロは,お前の事を誇りに思う」

「へ……?」

「ヴィランの攻撃をずっと受け続けるなんて,そう簡単にできることじゃない。お前はこの場で,誰よりもヒーローだった」

 

 子供のころから誰かを助けることが大好きだった。

 

 見返りを欲しいと思ったことは無い。

 

 ただ,みんなに笑顔でいてほしかった。

 

 みんなの笑顔を,身勝手に奪う悪人が,許せなかった。

 

 それが,彼女の原点(オリジン)

 

「見返りを求めたら,それは正義と言わない。サキ,今からやることに,一切の見返りは無い。それでも,やってくれるな?」

「う,うん……っ!」

 

 

 ブレイブはヒーロースーツの中から(個性の力です)取り出したケースを差し出す。

 

 それは,ヒーローを目指している姪っ子の,入学祝に作らせた特性のヒーロースーツ。

 

 

「オイィィ……私をこれ以上焦らすァ」

 

 律儀に待っていたクロトも,もう我慢の限界だった。

 

「ふん,研修生(インターン)は黙ってろ」

「ヌァンだと!?」

「もう喧嘩しないで!」

 

 喧嘩しそうな二人をサキが止める。

 

 ファンを大事にするクロトはすぐに大人しくなった。

 

「ふん……神と共に戦えることを光栄に思うがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\マイティアクションX!!/

 

 

 

 

 

 

 

「足を引っ張るなよ研修生。サキ,行くぞ!」

「っん!」

 

 

 赤い,ドレスのようなヒーロースーツ。

 

 白い骨のような,竜の仮面。

 

 個性によるダメージを軽減する烈火のガントレット。

 

 竜の牙のような武器。

 

 

 それが,ヴィジランテではない,ヒーロー,グラファイトの戦闘装束。

 

 

 

 

 

「グレードゼロ。変身!」

 

 

 

 

\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティーアクョーンX/

 

 

 

 

 

 神々しさは無い。

 

 だが神の処女作にして最高傑作。

 

 マイティアクションXのプロトタイプのプロトタイプ。オリジンだ。

 

 

 これこそ,“無個性ヒーロー”ゲンムの,基本形態。

 

 

 

「――――グラファイト,そしてゲンム! プロヒーロー“ブレイブ”の名において,戦闘を許可する!」

 

 





多分続く。


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神のヒーローアカデミア5 

 サブタイトル思いつかなかった。

 お気に入り登録&感想のおかげでモチベが上がってます。あざますっ!

※変身音間違ってたので修正


――――

――

 

『激怒龍牙!』

「ひゃん!」

 

 強化再生された脳無は容易に傷つけることはできない。

 

 だが神は違う。

 

「フハハハハ! アンチ個性エリアではすべての個性が抑制される。お前がどんなに強い個性でもォ――私には無意味だァ!」

 

 まとわりつくことによって脳無の個性を封じていく。

 

 ご丁寧にステータスウィンドを表示し,1秒ごとに1パーセント減っていることが分かる。

 

「グェッ」

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 だが体力がミジンコ程度では意味がない.

 

 

 しかし再び土管から復活する。

 

「ハァ……残りライフ86……だが――コンテニューしてでも,クゥリアするッ!」

 

 再びまとわりつき,脳無の能力をデバフしていく。

 

 そこを裂撃のエネルギー波が襲う。

 

「!!?」

 

 脳無の腕が千切れ落ちる。

 

 

 

 

 唐突だが,あなたはプラナリアという生物を知っているだろうか?

 

 切ってもそれぞれ足りない部分を補うように再生する生物である。

 

 何が言いたいのかというと,この脳無も似たような能力を持っている。

 

 

 本体は失った腕を,腕は足りない本体を,それぞれ再生させた。

 

 

「な……に?」

『分裂したのか?』

「再生能力には限界がある。奴も生物である以上,限界は存在する」

 

 ブレイブは個性を発動し,聖なる一撃的なあれを放つ。

 

 増殖した方の脳無は形状を維持できずに崩壊する。

 

 

「そうか……ヌァラバ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ジェットコンバット!/

 

 

 

 

 

 

「グレードエクストラ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアップ!! マイティーアクョーン! アガッチャ! ぶっ飛びジェット! トゥ・ザ・スカイ! フライ! ハイ! スカイ! ジェットコーンバット!!/

 

 

 

 

 

 

 

 ゲンムの背中に飛行ユニット,両手にはガトリング砲が装備される。

 

 

『まさか……体育祭の!』

「フハハハハハ!! いくら再生できてもォ……それ以上に攻撃を食らえば戻れまいッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 バリバリバリバリバリ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中から銃弾が浴びせられる。

 

 脳無の身をミンチにしてしまう威力。

 

 だが改造されているので原型は保てている。

 

 

 

 

 

「ブェハハハハハハ!!」

「!」

「んな、なにッィ!?」

 

 

 

 

 

 強化再生により皮膚を強化し, 銃弾の無効化に成功した脳無はゲンムのガトリングユニットを鷲掴みにし, 地面に引き落とす。

 

 

「ゥッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……余計な手出しはするなっ! 下手に攻撃すれば――討伐は困難になる」

「ホゥ……私の高尚な意図を理解できないのは, なんと悲しいことか!!」

『どういう意味だっ!?』

 

 脳無の肉片は飛び散っているも,再生には至ってはいない。

 

「見たまえェ……ある程度の大きさで,かつ丁寧に切断しなければ,あの厄介な増殖は行えないィ!」

 

 

 

 

 

 

 プラナリアの話をもう一度しよう。

 

 プラナリアは確かに驚異的な再生能力がある。

 

 しかし,切断方法や,切断処理が悪ければ再生に失敗することもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

「そうか……粉微塵に切り刻んでしまえばいいということか!」

「ようやく理解できたようだなァ」

 

 現在,脳無の能力は抑制されてしまっている。

 

 再生速度も,再生の質も悪い。

 

「グラファイト,お前に任せる――俺たちが奴を食い止めるッ!」

『ああッ!』

「私に指図するナァッ‼」

 

 

 ブレイブは個性を発動しゲンムの体力を増強する。

 

 だがミジンコほどしかない体力には意味もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 グラファイトの裂撃はチャージに時間がかかる。

 

 それは威力が高すぎると自分の体を傷つけてしまうからだ。

 

 ゲンムのコンティニューが完了するまで,一人で戦線を維持しなくてはならない。

 

 

 

 

「が,がんばれー!」

「あんな化け物に負けるなー!」

「サイドキックも頑張ってくれッ!」

 

 

 

 

 野次馬の声援。

 

 ヒーローは応援によって力を増すこともある。

 

 

「ッ俺に――斬れないものは,ないッ!」

 

 

 脳無の体を切断せぬように,衝撃波で吹きとばす。

 

 高質化した皮膚は剣を食い込ませたまま耐える。

 

「!!」

 

 だがそこで,脳無足元に紫の土管が出現する。ちょうど,片足を突っ込ませるような形で。

 

「ドゥダ‼? コンティニューする位置は自在に選べるのさァ!!」

 

 土管から上半身だけ露出させたゲンムにしがみつかれ,個性が少しずつ抑制される。

 

 衝撃波を発生させる抵抗があるも,ミジンコ体力を削れない。

 

「シカァモ! コンティニュー完了まで私はムテキ状態ッ!」

「よくやったッ!」

 

 ブレイブは剣でもう片方の足を固定する。

 

「行けッ! グラファイトッ!」

 

 

 

 彼女は紅蓮のオーラを纏っていた。

 

 髪は燃えるように赤く,武器も焼けるように赤い。

 

 

『――ッ! 究極奥義ッ!! ドドドドドッ! 紅蓮ッ爆竜剣ッッ!!!!』

 

 

 

 

 赤きドラゴン。

 

 うねるように彼女の周りを取り巻き,刃の向く方向に射出される。

 

 脳無の個性は,完全に抑制されている。

 

 身を守ろうと,腕を交差させるも,赤きドラゴンに飲み込まれる。

 

 引き裂くエネルギーは,個性を封じられた脳無の身を,バラバラに引きちぎっていく。

 

 だがそれでも,再生されることもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最も厄介なヴィランは討伐された。

 

 しばらく,攻撃の余韻が残っていた。

 

 ヒリヒリと痛む右手と,人々の歓声。

 

 彼女は,初めて合法的に人を守れた。プロヒーローの,戦闘許可を受けるという形で。

 

「はぁっ……よか,った」

 

 

 

 ヴィジランテのグラファイトは,この瞬間は皆のヒーローだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「う,うぐっ……ハァ,貴様ら,俺に近づくなッ!」

 

 ヒーロー殺し,ステイン。

 

 激戦の末に無力化されていたが……。

 

 

「なんだ,ありゃ」

 

 轟 焦凍は反射的に凍気を放出させた。

 

「よくわからないけど……ステインもあの状態を望んでいないんだと思う」

 

 ステインの状態を,緑谷 出久はそのように考察する。

 

「グッ……俺はッ! 正しきヒーローのためにッ!」

 

 

 ステインは強いストレスを感じていた。

 

 己の理想のため,間違ったヒーローを粛清したまで。それを将来有望なヒーローに阻まれた。だが彼はオールマイト以外に止められることを良しとしなかったのだ。

 

 ストレスによって,体内の“ウイルス”が活性化する。

 

「っ轟くん氷結をッ!」

「ああっ!」

 

 

 轟の右足から氷が発生する。

 

 苦しむステインの体を包み込む直前,その体が突如ドラム缶と入れ替わった。

 

 

 

「――――イベント妨害とか,白ける真似すんなよ……」

 

 彼を組み敷く謎の影。

 

 新たな敵の出現に,ヒーローの卵は戦慄し,プロは己のふがいなさを恥じる。

 

「こっからが楽しいところなのにさ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

\ギリギリチャンバラ!/

 

 

 

 

 

 

「あれは壇くんのサポートアイテム!?」

 

 謎の影は,それをステインの体に突き刺した。

 

 

 

 

 

「さぁ! ゲームスタートだ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステインの体に潜んでいたウイルスが,ガシャットのデータに反応して活性化する。

 

 『ギリギリチャンバラ』のラスボス,カイデンのデータを認識したウイルスが,彼の体をカイデンのように変化させた。

 

 

 

「ハァ……“我ガ名ハかいでん。位ハ50段ナリ”」

 

 

 

 狂気をにじませていた声は,武士のような仰々しさを感じさせるものとなっている。

 

 

「何者なんだ,君はッ!?」

 

 飯田 天哉は兄の仇敵の姿を変化させた者に問いかけるも,ステインの刀に当てられ気を失う。

 

「あーあ,もうゲームオーバーだ♪」

 

 影は楽しそうに笑っている。

 

「い,飯田くん!?」

「あいつ……カイデンって――!?」

 

 迫る刃を咄嗟に凍らせる。

 

 

 

「まさか……ギリギリチャンバラのルールが……でもゲームの中じゃあるまいし,まさかあいつの個性? でもゲーム空間を現実化する個性なんて未だかつて(ブツブツ)」

「分析している場合か!? 来るぞっ!」

 

 だが二の太刀は届かなかった。

 

 

 

 神の降臨である。

 

 

 

 

「随分と手間取ってしまったが,報告に間違いはなかったようだ」

 

 

 

 クロトは激怒していた。

 

 己のゲームの開発データを盗まれ,それを許可なく使用しているのだ。

 

 

 

「人体に直接ガシャットを使用するとは,中々いいアイデアだな」

「そりゃどーも♪」

 

 彼の眼は笑っていなかった。

 

「――違うんだよ。ガシャットはそうやって使うもんじゃないんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゴッドマキシマムマイティX/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに追加で,開発途中であるガシャットを起動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ハイパームテキ/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つの荘厳なメロディが合わさる。

 

 

 

「私が,お手本を見せてあげよう」

 

 

 いつものようにガシャットをスロットに挿入し,レバーを開く。

 

 そしてすぐさま二つ目のガシャットを接続させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

\ドッキーング!/

 

 

 

 

 

 

 

 

「――グレード(アンリミテッド),変身!」




次回,最高神が降臨する。


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神のヒーローアカデミア6 『最高神:降臨』

ちょいと短いですが保須市編終了。


 

 

\パッカーン!! ムーテーキー!!!!/

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャットから,星のような輝きが放出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ララララー! ンラララララーラーラー! ランラーラララララーラ!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が歌うのか」

 

 轟は突っ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\絶対・フメツ! 壇 クーロートー……神だァ/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴッドマキシマムの巨体から,スリムな姿に。

 

 全身に星を纏っているかのような神々しさだ。

 

 

「“ム? ヤルカァ!”」

 

 

 ステインの刃はゲンムには届かない。

 

 いとも簡単にすり抜けカウンターの一撃をお見舞いされる。

 

 

 

 

「ハイパームテキは,ありとあらゆる攻撃が効かない,主人公最強の無双ゲームゥ!」

 

 

 

 そう,まさに無敵。

 

 マ○オで言うなら常時スター状態なのと同義である。

 

 これこそが最高神の絶対的な力。

 

 

「お前のような1ゲームキャラが,神である私に触れることなんて――――できるはずがないのさァ! ハーッハッハッハァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガッシューン……/

 

 

 

 

 

 

 

 

 独りでに,変身が解けた。

 

 

 

 

 

 

 ぽかんとしているクロトに,ステインの刃が到達する。

 

 

「ゥッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「10秒しか持たないのか」

「ちょ冷静に言ってる場合じゃないよ轟くん!?」

 

 

 すぐさま神が復活する。

 

 

「くっ……残りライフ83……さすがは私の作ったキャラクターだ。一筋縄ではいかないか」

「いやお前が能力解説してたせいだろ」

 

 冷静な指摘が入る。

 

「まぁいい。そのガシャットは回収する」

 

 

 二の太刀を躱し,体に刺さっていたガシャットを引き抜いた。

 

 その直後,凍結でステインの体が氷漬けになる。

 

「貴様の手駒はもういない……サァ諦めろ」

 

 

 

 クロトは影の背後にショートワープし,退路を塞ぐ。

 

 反対側には緑谷と轟。

 

 

「……心が滾るぜ」

 

 

 氷結攻撃が仕掛けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間だった

 

 

 突如,影のいた場所にクロトが出現する。

 

 氷漬けにされ,クロトの体力が尽きる。

 

 その後,氷塊が爆ぜ,弾丸のように欠片が飛んでいく。

 

 

 反応できたのは緑谷。振り向いた刹那,みぞおちに炎を纏った拳がクリティカルヒットする。

 

「ぅんむ……!?」

 

 轟は本能的に左の炎を全開で放出するも,一瞬の真空で鎮火され,左ほおを殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいな,お前ら。また遊ぼうぜ♪」

 

 

 

 

 勝負は一瞬でついた。

 

 完膚なきまでの敗北だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

※以下『』は英語で会話してます。

 

 

 

 

『――ジョニー社長,これはどういうことですか?』

『オーMr.マサムネ! どういう意味だい』

『とぼけないでください。我が社のメインサーバーにハッキングしたでしょう?』

『Oh! それは“パラドクス”がやったことだ。私とは無関係さ!』

 

 マキナビジョン。

 

 それは外資系ゲーム会社であり,ゲンムコーポレーションのライバル企業でもある。

 

 つい最近,ゲームの共同開発の企画が持ち上がっており,比較的関係は良好であった。

 

『パラドクス……?』

『うちのテストプレーヤーの一人さ! 優秀なのだが,どうにも考えていることが分からな――』

「とぼけるなッ!」

『なに?』

 

 

 日本語で怒鳴りつけたため,内容が理解されなかった。

 

『失礼……だが,これ以上我が社の機密情報を奪われるようなら,こちらにも考えがあります』

『Oh! わかった。彼にはきつく言っておくよ』

 

 

 壇 マサムネは電話を切ると,社内サーバーの最重要機密にアクセスする。

 

 

 

 

「これだけは渡すものか……我が息子の最高傑作にして,我が社の切り札」

 

 

 

 

“仮面ライダークロニクル”

 

 

 

 

 

「期待しているぞ……クロト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――運命ってのは,パズルだ」

 

 

 一つのガシャットに,二つのゲーム。

 

 

「全てのピースは,意味を持ってつながる」

 

 

 

 表面はパズルゲーム。

 

 

 

「さぁ! ゲームの始まりだ」

 

 

 

 

 裏面は格闘ゲーム。

 

 

 

 

 

 二つの矛盾するゲームが一つに搭載されている。

 

 あたかも,彼自身の性質を示すように。

 

 

 

 女性のように線が細く,だが男性のように筋肉質。

 

 中性的な顔に,腰まで伸びる長い髪の毛。

 

 すべてが矛盾している。

 

 

「さいっこうにスリリングで,エキサイティングなゲームの始まりだッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラドクス。

 

 個性:???

 

 すべてが謎に包まれている。





面白かったら評価おなしゃす。

続く……?

たぶん次回,峰田君が動きますよ。ろくでもない理由で。


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第三章 無個性の希望
神のヒーローアカデミア7 『転校生,来る!』


サブタイがリボーンっぽい。

ひとまず閑話。死ぬ気でふざけた。

短編から連載に切り替えました,わーい。


――――――

――――

――

 

 

「頼むッ! オイラの頼みを聞いてくれっ!」

 

 

 雄英高校で一番,煩悩が大きい男,峰田 実。

 

 モテたいという煩悩にまみれた理由でヒーローを志すろくでもない奴である。

 

 

「私の才能が必要になったか……どういった悩みだい?」

「オイラの為に――エロゲーを作ってくれっ!」

 

 

 やはり彼の煩悩は尽きない。

 

 

「下衆な頼みだってのわかってる! だが――オイラはまだ18禁のアイテムを買えねぇっ! だから,お前に頼むしかねぇんだ! この通りだッ!」

 

 

 額を床にこすりつけ,土下座をしてきた。

 

 エロもここまで来ればむしろかっこよささえにじませる。

 

 

 これを見守るのは女子陣。

 

 

 そして登校してきたばかりで事情の飲み込めていないグループ。

 

 見た目だけはイケメンなクロトが,この下衆な願いを受け止めるのか。

 

 

「よしてくれ,峰田くん。私はそんなにひどい人間ではないよ」

 

 どの口が言うか。

 

 クラスの心は一つになった。

 

 

「だが――すまない。私は低俗なゲームは作らない主義なんだ」

 

 

 女子陣は,ほっと胸をなでおろした。

 

 野郎どもは,内心がっかりとしていた。

 

「な,なんでなんだよッ! お前だって男だろッ!? “ゲーム病”になる前までに大人の階段上りたいだろッ!?」

 

 

 バグスターウイルス感染症。通称『ゲーム病』

 

 ヒーロー殺しステインの体を蝕んでいた病の名前だ。

 

 本来ならば,さして注目されないはずの病が,一躍社会に知れ渡ることとなった。

 

 それは――ヒーロー殺しという人間が持つ知名度が原因だった。

 

 

 感染症に対する処理を請け負う衛生省は,この病が個性によって発生されたウイルスが原因であること,ゲンムコーポレーションと共にワクチン開発を行っていることを公表した。

 

 同時に,この病は最終的に死に至る場合があることも公表した。

 

 

 その日以来,TVの話題はゲーム病一色。

 

 オールマイトの威光で低下していた犯罪発生率は軒並み増加。

 

 ゲーム病を秘匿していたゲンムコーポレーションの株価は大暴落。

 

 さらに――ウイルスの発生元を探ろうと必死で調査が行われていた。

 

 

 話を戻そう。

 

「峰田君,誰にだってやりたくないことはあるんよ?」

「ならお前の胸触らせろようらら――ウヴェ!?」

 

 セクハラ発言をした峰田に麗日 お茶子のタイキックが命中した。

 

 ゲーム病で死ぬ前に女子たちの私刑にあって死にそうだ。

 

 

「クゥ……エロゲくらい作ってくれよ……神って言ってるくせにそんなものも作れないのかよ」

 

 その言葉が,クロトのプライドに火を点けた。

 

「口先だけの……大ぼら吹きめ……!」

「――君は私をほら吹きと言ったァ……ならばァ,そうでないことを,証明して見せようじゃないか」

 

 

 バッグの中からブランク状態のガシャットを取り出し端末に突き刺す。

 

 次の瞬間,彼の手が閃くっ!

 

「さぁ見るがいいッ!」

 

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・!

 

 

「限界を知らない――」

 

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・!

 

 

「私のォカァミの才能を――」

 

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・!

 

 

「私こそが――神だぁっ!!」

 

 

 力強くエンターキーを押す。

 

 ガシャットにゲームが記録される。

 

 

「さぁ峰田君,私からの神の恵みを受け取りたまえ――その名も“エロティック・パラダイス”」

「ォ……オオ!」

 

 

 峰田はそれこそ天から授かったかのように受け止める。

 

 背景に神々しい光と天使っぽい何かが幻視されるが,ただのエロゲーが中身なので下世話である。

 

 

「私に――不可能などなぁあぁぁいッ! ァゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

「「「ええっ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 ゲーム開発に死力を尽くし過ぎて,過労死してしまった。

 

「――おい,壇が死んだが何かあったのか?」

 

 その瞬間,相澤が教室に入ると,皆が一瞬で席に着く。

 

「あと峰田,それ没収な」

「そ,そんなっ!?」

 

 当たり前である。

 

 いつものように,クロトも土管から飛び出して,着席する。

 

「さて,ホームルームを始めるが……その前に伝えなければあならないことがある」

 

 

 

 全員が息を飲む。

 

 この教師が特別に何かを伝えるということは,きっと除籍に関わる何かがあるはずだ。

 

 

 

「――突然ではあるが,このクラスに編入生が来ることになった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「クソ胸が躍るイベントキタァァァァ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間,相澤の眼力ですべて静まった。

 

「じゃ,入れ」

「は,はいっ」

 

 

 真新しい制服のスカートが揺れる。

 

 その瞬間,男子の心が躍った。

 

 柔らかそうな栗色のロングヘアに,あどけなさの残る可愛らしい顔立ちに,男子のボルテージは最高潮となったが,つつましい胸を見てそれが半減した。とある女子は小さくガッツポーズした。

 

 

「初めまして,竜ヶ峰 サキです。よろしくお願いします」

 

「えっサキ姉!?」「ゲンコツ女っ!?」

 

 

 緑谷と爆豪の声がかぶる。

 

 

「若干,知り合いがいるようだな……ま,これで終わりにするから好きに質問するといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 緑谷 出久と爆豪 勝己は幼馴染である。

 

 そして彼らにとって竜ヶ峰 裂姫(サキ)は姉のような存在である。

 

 年齢が違うのにどうして同じ学年なのか。

 

 

 それは彼女の本来在籍すべき学年には生徒が一人もいないということ。彼女は前の学校を中退したため実質1年生と学力が変わらないということ,その他の事情が考慮されたのだ。

 

 

 それに,無資格でヒーロー活動をする独断性を危険視され,更生という意味でも強制編入させられたのだ。

 

 まぁ,ヒーローを目指す彼らがそんな些細(・・)な事を気にはしなかったが。

 

「――てことは,サキ先輩は緑谷と爆豪の幼馴染ってこと?」

「と言っても,小学校低学年までだけどね。あと,先輩ってのはよしてよ,同じ学年なんだし」

 

 幼馴染二人の反応は違った。

 

 緑谷は,大人びた彼女と話すのに緊張して近寄れず,爆豪は昔の嫌な思い出から近寄ろうとしなかった。

 

「ケロ,さっき爆豪ちゃんがあなたの事を“げんこつ女”って言っていたのはどうしてなのかしら?」

 

 思ったことを何でも言ってしまうカエル少女に,苦笑いして答える。

 

「はは,かっちゃんは昔から乱暴者で,すぐ弱い者いじめするからお仕置きを,ね」

「……昔から変わってないのね,爆豪ちゃん」

 

 いつもなら『うるせぇ! 死ねッ!』などと反抗してくる爆豪だが,必死にこらえていた。

 

「てことは今もそうなんだ……でも,根はやさしいんだよ? 私が風邪で寝込んだ時は学年違うのにノートとかプリントとか届けてくれたし,誕生日にはプレゼントくれたし,バレンタインの時に義理チョコあげたら手作りのお返しくれるし――」

 

「やめろっ! これ以上俺の過去を暴露すんじゃねぇッ!!」

 

 

 いつものように取り繕っても,クラスメイトから哀れみの視線を向けられる。

 

 さりげなく好意を示して,察しのいい人なら『あれ,こいつ私の事……』となるべき事案である。

 

 容姿端麗なので野郎どもが恋に落ちてもおかしくはない。

 

 

 

 だが――気付いてないのである。

 

 竜ヶ峰 サキという少女は,恋愛に対しては非常に鈍感なのである。

 

 たとえ面と向かって好きと言われても,恋愛対象としての好きと捉えないくらいには鈍感である。

 

 

 子供にしてはアピールしていた爆豪が可哀そうである。

 

「爆豪……今度,飯おごるわ」

「うるせぇクソが――切島」

 

 人の事をめったに名前で呼ばない彼が,この有様。どれだけ彼女の存在が重いのかが分かる。

 

 そして追い打ちのように,クロトから肩を叩かれる。

 

「安心したたまえ,爆豪君。現実に希望などなくても,私の作り出す世界にはある――神の恵みをありがたく受け取りたまえ」

 

 爽やかなクロトスマイルと共に,ゲームの引換券が差し出される。

 

 もう我慢の限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に同情すんじゃねぇッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ヒーロー基礎学の時間。

 

 実習の時はコスチュームに着替える必要がある。

 

 数少ない女子も,キャッキャウフフのお着換えタイムが繰り広げられるのである。

 

「――あれ? サキ姉って“さらし”巻いてるんだ」

 

 透明少女,葉隠 透が興味津々と言った風に(見えていないが)サキの胸元に触れる。

 

 本来女子は,ブラジャーなる下着を用い,豊かな胸を支えるのである。

 

 だが“さらし”は大きな胸を小さく見せるために巻くものである。

 

 

 

「ぁん!」

 

 

 触られた瞬間,さらしの下から豊かな胸が出現した。

 

 とんでもないマジックである。

 

 あの量が一体,どのようにして収まっていたのか。

 

「――っ!!!?」

 

 胸のつつましい仲間だと思っていた某少女は,劇的すぎるビフォーアフターに衝撃を受けた。

 

 

「ちょ……急に触らないで」

 

 サキは恥ずかしそうに胸を押さえている。

 

 だがそれでも隠しきれず,両腕の隙間から漏れ出していた。

 

 本当にどうやって収まっていたのか不思議である。

 

「すご……どうやって収まっとったん?」

 

 麗日は不思議そうにその胸に触れた。自分のそれに比べてとても柔らかい。

 

「私はどのようにして収まっていたのかが不思議でなりませんわ……その,私より大きいのに」

 

 クラスでも1,2を争う豊かさの八百万 百も触っている。押さえつけられていたにしては形が綺麗に整っている。

 

「ちょ,触らないで……ぁん♡」

「アタシも触ってみたーい!」

「ケロ,私も気になるわ」

 

 元気少女,芦戸 三奈も,カエル少女,蛙吹 梅雨もおさわりに加わる。

 

 それほどに怪奇な現象である。

 

 何故あの大きさが小ぢんまりとした形になるのか,雄英七不思議に加わりそうなほど不思議である。

 

「ご,ごめんサキ姉……」

 

 とかいって葉隠もその輪に混ざる。

 

 

 

 余談だが,誰かにくすぐられると,自分でやるよりくすぐったくなるものである。

 

 それは,予測不能なため,脳が身構えられないからであるという。

 

 

 つまり,透明な手に触られるとどうなるか。

 

 

「ひゃっ♡」

 

 

 サキは腰が砕けて力なく崩れ落ちる。頬は紅潮し,息は上ずっている。

 

「こ,これ以上やったら怒るよ……? 私だって好きでこんな大きさになったんじゃないんだからっ! 走るとき邪魔だし,男子から変な目で見られるしいいことなんて――ぁあん♡」

 

 

 

 プッツンしてしまったのは,クラス一お胸が慎ましい少女,耳郎 響香である。

 

 持つ者の,贅沢な悩みに,怒りが大爆発したのだ。

 

 

「要らないらッ! それもぎ取ってウチにちょうだいッ! でなきゃ半分でもいいから分けてっ!? ねぇ!? 何なのこの差!? 年齢ッ!? たった一年でこんな爆乳になれるんですかッ!? どうなったら一年でこの胸の大きさになるか説明してくださいよッ!?」

「ちょ,響香ちゃ――あっ,もうやめっ! んっ!? やっ♡」

 

 思い切り揉みくちゃにされ,次々と形を変えるサキの豊かなお胸。

 

 コンプレックスを大爆発させられた者の,怨念の籠ったマッサージ。

 

 さすがに,さすがに――引かれた。

 

 ドン引きだった。

 

「やっ♡ これいじょうは――――――ああぁぁんっ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 学校では聞こえていけない類の喘ぎ声が更衣室に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――男子更衣室。

 

 

 この時点では気付かれていなかったが,二つの更衣室間には,先人の残したのぞき穴があった。

 

 それゆえ,静かにしていればお隣の会話が駄々漏れなのである。

 

 

「お,おい峰田っ! 気をしっかり持てっ!」

 

 

 男子更衣室は阿鼻叫喚の騒ぎだった。

 

 先程記した痴態は全て聞こえており,煩悩の塊,峰田は鼻血を放出させた。真っ赤な滝が誕生したのである。

 

 彼らは健全な男子高校生。

 

 姿は見えずとも,イメージと声でも興奮してしまうことだってある。

 

 

 鼻血ぶーなのは峰田に限らず,チャラ男代表,上鳴 電気を筆頭とした健全な男子グループ,生真面目な飯田や天然の轟も,鼻血こそ出ていないものの,鼻の奥にこみ上げるものを感じる程度には興奮していた。

 

 

「か,かっちゃん――!?」

 

 

 そして,爆豪もまた,興奮していた一人だった。

 

 その昔,幼いころは一緒にお風呂に入ることもある。その脳裏に焼き付いていた姿が――どのように成長したのかを考え,静かに出血していた。

 

「う,るせぇ……あんなゲンコツ女,誰が好きにな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――ああぁぁんっ♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣から,アダルトコンテンツでしか聞くことのできない嬌声が聞こえてきた。

 

 もう我慢の限界だった。

 

 

「み,みんな――――ゥっ!!」

 

 

 

 とっとと着替えて出ていった者たち以外,全員が撃沈した。

 

 

 

 

 その日のヒーロー基礎学はクラス全員補習となった。




※読んでで鼻血ぶーになっても責任はとれません。あしからず


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神のヒーローアカデミア8 『やべー奴がきた』


 前回は真っ赤なお話でしたね。

 今回も真っ赤なお話です。


※グロ注意


――――

――

 

 無個性であること。

 

 それは,個性が当たり前なこの社会で,どれほどのディスアドバンテージがあるか想像できるだろうか?

 

 上野(かみの) 頼人(ライト)もまた,そんな無個性差別の被害者だった。

 

 ごく最近では,『個性因子』なるを調べるとどのような個性があるか診断できるのだが,彼の幼少期にはそのような高等技術は無かった。

 

 彼は当初,無個性と診断されていた。

 

 両親はともに異形型であるため,偶然に偶然が重なった結果であるともいえる。

 

 

 

 彼が小学校二年生の時,自分の個性の存在を知る。クラスメイトを殺害するという方法で。

 

 

 彼の個性は『神の右手』と名付けられた。

 

 右手で触れたありとあらゆる個性を封じ,もう一度触れると元に戻すという,とあるヒーローの個性の上位互換ともいえる強個性だったのだ。

 

 

 

 だが,その個性はあまりにも強すぎた。

 

 当時,彼をいじめていたガキ大将は異形型の個性で,偶然右手で殴ったら,ガキ大将は体を弾けさせて死んでしまったのだ。

 

 彼の個性は,単に個性を封じるだけではない。

 

 人間が本来持ちうる姿に戻す個性である。

 

 故に,発動型・変形型の個性は個性の使えないという本来あるべき姿の人間へ。

 

 異形型の個性は参照できる人間の姿が存在しないため,死に至ってしまうのだ。

 

 

 その事件は,事故ということで済まされた。

 

 しかし噂というものはとても恐ろしく,瞬く間に彼が殺したという噂が伝播した。

 

 もちろん,彼の個性は両親をも殺す危険があるので,直ちに政府の施設に隔離された。

 

 

 学校には異形型個性の生徒が少ないところへ通わされた。

 

 そこでも殺人鬼といじめられた。

 

 彼は生涯に渡り,いじめられ続けてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在,彼は不良街のような所にあるコンビニでアルバイトをし,生計を立てていた。

 

 シフト表にはほとんど彼の名前しかなく,ワンオペになることもざらにあった。

 

 時折,ヒーローが現れると,人が増えることもあったが,それは一時的な物であった。

 

 

 

 彼の持つ,異形型を殺す能力は,超常黎明期ならヒーローになれただろう。

 

 異常を受け入れた世界には,不要な存在でしかなかったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい兄ちゃん,いっつもあそこで働いてんだろ? だったら俺らに小遣いくれよ」

 

 退勤後,不良に絡まれた。

 

 どいつも異形型個性で,その容姿のせいで爪弾きにされたのだとわかる。

 

「俺らよぉ,こんな見た目だからどっこも雇ってくれないんだわ」

 

 鰐のような顔の男がライトの顔に煙草の煙を吹きかける。

 

 彼は煙たくて思わず目を細めた。

 

「ナニ睨んでんだよッ!」

「っ!?」

 

 腕が刃物のような男に叩かれた。傷口から血がにじだす。

 

 右手で触れれば。

 

 手袋を外して触るだけで,こいつらを殺せる。

 

 だがここで殺しをすれば――こんなゴミのような連中でも,殺せば,ヒーローとかいう偽善者によって成敗されてしまう。

 

 耐えるしかない。

 

 適当に金でも渡して,やり過ごすしかない。

 

「……あの,今,手持ちこれしか,なくて」

「おー物分かりがいいな……って小銭だけじゃねえかよッ!」

 

 コブラのような男に鉄パイプで殴られた。

 

 目から火花が出て,意識が朦朧とする。

 

 いっそのこと,ここで死んだ方が楽になれるか。

 

 彼は目を閉じ,なぶられるがままになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――戦う気のない相手にワンサイドゲームとか……白ける真似すんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声がした。

 

 男とも女ともとれる,中性的な声だ。

 

 

「あんだテメェ!?」

「じゃますんじゃねぇぞコラ!」

「あまり俺らをイラつかせるんじゃねぇッ!」

 

 

 

 意識が朦朧としているが,助けようとしてくれているらしい。

 

 

 

「ははっ……心が躍るなぁ♪ ――俺が遊び相手になってやるよ」

 

 

 

 

 

 ぐちゃり,と果物を握りつぶすような音が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

「は……?」

「こっちだ♪」

 

 

 

 

 

 骨の砕ける音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「な――」

「俺の勝ちだ♪」

 

 

 

 

 ぶちぶちと何かが引きちぎれるような音が聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

「――おい,大丈夫か?」

 

 

 頬を叩かれた。

 

 意識が朦朧としていて言葉を紡げない。

 

 

「て……ぶく,ろ」

「これか?」

 

 

 右手がすっとした。

 

 自分の体に触れ,自分の体があるべき状態に戻した。

 

 体を切られ,鉄パイプで殴られた傷もすべて無くなった。

 

 

 鮮明になった視界で,不良たちの末路を見た。

 

 心臓のようなものが無造作に落ちていて,体が前衛芸術のように歪んでいる奴がいて,上半身と下半身がおさらばしている奴がいた。

 

 

 

「あんた……ヒーローに捕まるぞ」

「運命ってのは,パズルだ」

 

 

 会話のキャッチボールが成り立たないようだ。

 

 

「様々なピースが組み合わさって,漸く一つの結果が分かる。俺とお前が組めば――ムテキ,だぜ」

 

 

 耳元でささやかれた。

 

 この遺体たちを,右手で触れれば,すべてがはじけ飛ぶ。

 

 穢れた路地に触れれば,元のきれいな状態に戻る。

 

 

 よくよく考えてみれば,自分ほどヴィランに向いている人間はいない。

 

 

「俺は――人殺しだぞ……」

「さっき言ったろ。運命はパズルだ。お前にとって不要な存在(ピース)は全て排除すればいい」

「排除……」

「お前にとって,不要なピースは何だ?」

 

 

 

 ヒーロー。

 

 個性を尊ぶクソみたいな社会。

 

 そして――平和の象徴とか言ってるくせに,爪弾きにされた自分を助けないNo.1ヒーロー(オールマイト)

 

 

 

「出来ることなら――俺の住みやすい世の中を作りたい」

「ハハァッ♪ 心が躍るぜ♪」

 

 

 

 上野 ライトはその瞬間,ヴィランとなった。

 

 

 このヒーロー社会を崩す存在に。

 

 

「俺はパラドクス。よろしくな♪」

「……上野 ライトだ」

 

 二人は左手で握手をした。

 

 自分のヒーローを,殺さぬように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――昨晩,田等院市に在住の上野(かみの) リキさんとその妻の天子(あまこ)さんが殺害されました。警察は息子のライトさんが事情を知っているものとみてヒーローと合同捜査を行う方針で――え? はいっ……速報です。先程,“ひねくれヒーロー”アマノジャク氏の事務所が襲撃され,アマノジャク氏とそのサイドキックが殺害されました。アマノジャク氏は強力な異形型個性で知られており,それを殺害した犯人はそれ以上の個性を持っているものと思われます』

 

 

 

 悪意は,静かに動き出す。






明日は更新しないかもしれないです。

お気に入りが自己ベスト更新したから頑張るかも。登録してくれた方々あざます。


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神のヒーローアカデミア9 『閑話休題』


 うーん,神が出てこれない。

 その代わりにオリキャラがどんどん出てくる。


――――――――

――――――

――――

――

 

 

 『エロティックパラダイス』

 

 それはクロトが瞬く間に作り上げたエロゲーである。

 

 

 一度は相澤に没収されるも,神の周到なる備えにより,今一度峰田の手に渡っていたのである。

 

 念願のエロゲー。

 

 峰田のテンションは最高潮になっていた。

 

 

 万が一に備え,ボックスティッシュは二箱用意してある。

 

 何のためって?

 

 おググりくださいませ。

 

 

 さて,気になるゲームの内容。

 

 もちろんここで全てを記したい。

 

 だが――それはできない。

 

 なぜなら――著作権があるから。

 

 ここで勝手にゲーム内容を記すことは許されないのである。

 

 

 

「ォォ……ホォォォォォォ」

 

 

 

 しかし,峰田の表情。

 

 恍惚として,目が虚ろだった。

 

 そこから感情を察してほしい。

 

 ゲームの内容,その全貌とエロティックさを。

 

 

 

「ホォォォオォオオォォ……」

 

 

 

 お教えしたい。だが,それはできない。

 

 レーティングにも引っかかるから。このお話は18歳に至っていない方も読めるようになっている。

 

 故に,詳細は記せない。

 

 

 

 だが峰田の様子。

 

 プレイしながら一心不乱に励んでいる。

 

 何かって? ナニだよ。

 

 

 

 

 その様子から,桃源郷を脳裏に思い描いてほしい。

 

 あなたの股間に響くような,エロティックなパラダイスを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その夜,峰田は脱水症状で病院に搬送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 その頃,繁華街では……。

 

 

「――きゃっ!」

「お嬢さん,そう怖がらずに――そこのホテルで朝まで語らいませんか?」

 

 

 (自称)ロマンティックヴィラン,名前をラヴリカという。

 

 死ぬほど濃ゆい風貌に,死ぬほどイケメンな声。

 

 ミスマッチも甚だしい男である。

 

 

 罪状は強制わいせつなど。

 

 美しい女性をかどわかしては,彼女たちの心に一生消えない傷を負わせるのが手口だった。

 

「や,やめて――」

「良いではありませんか。悪いようにはしませんよ?」

「い,いや……」

 

 

 ずい,と詰め寄る。

 

 手鏡に収まりきらないビッグフェイスに見つめられ,女性は恐れおののく。彼女の心には連れ添いたいと思う男がいた。

 

 それなのに,抗えない。

 

 濃ゆい風貌に鳥肌が立ちまくっているも,不思議と惹かれている自分が怖い。

 

 

「い,嫌なのに――どうして?」

「僕の魅力に気づいてくれたみたいだね♪」

 

 

 

 

 

 

 ヴィラン,ラヴリカ。

 

 個性:恋愛。

 

 否が応でも異性を虜としてしまうぞ! どんなに強引にいっても確実に落としてしまう! いよっ! 色男っ! しかも暴力は効かない。

 

 

 

 

 

 

「さあ,僕と熱いアヴァンチュールを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう大丈夫だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは,日本で一番安心させる声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!」

 

 

 

 突風に人々は目を細める。

 

 

「帰宅がてらー来たっ!」

 

 

 

 

 

\DELAWARE SMASH!!/

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトによる“死ぬほど強いデコピン”がラヴリカのおでこに命中したが。

 

 

「あ,あれ? なんで?」

 

 

 彼も困惑して苦笑いしている。

 

「無っ粋な! 僕らのアヴァンチュールを邪魔しないでくれたまえ!!」

「その女子は嫌がっているではないか! それをアヴァンチュールとは呼ばんぞ!」

 

 

 チョップでラヴリカの腕を殴打しても全く外れないし効いていない。

 

 

「僕に暴力は効かないよ♪ いくらNo.1と言えど,暴力だけじゃあいけないな」

 

 ムカつく顔で指を振る。

 

 濃ゆすぎて本当にイラっとくる。

 

「助けて……オールマイト」

「う,任せたまえ!」

 

 距離を取って拳を構える。

 

 この不利な状況でも決してあきらめない。

 

 それが平和の象徴(オールマイト)だから。

 

 暴力の利かない相手にどう立ち回れというのだ? 右腕一本で天候を変えられる男も,筋肉に頼れなければ無力なのだ。

 

 それに――

 

(Shit! 制限時間が)

 

 口の端から血がにじみだす。

 

 限られた時間で戦わねばならないのは,圧倒的なディスアドバンテージだ。

 

 

 

 

「さあ覚悟し――」

「きっしょ!」

 

 

 

 野次馬の心無い一言。

 

 それは小学校高学年ほどの少女の――純粋な子供の一声だった。

 

 

 

 

「はうっ!?」

 

 

 暴力で傷一つつかなかったラヴリカが吐血していた。

 

 そして思い切り膝をついていた。

 

「こ……子供には僕の魅力が――わからない,ようだね」

 

 拘束から解放された女性が離れ際に言った一言が,さらに彼を追い詰める。

 

「ごめんなさいッ! 魅力的だけど――タイプじゃないんですッ!」

 

 

 ラヴリカの個性はありとあらゆる暴力から身を守れる。

 

 その代償として,自分を否定する女性の声に弱かった。

 

 

 彼はその場に力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の処理は後輩たちに任せ,オールマイトはその場から帰ろうとした。

 

 

「ごふっ……無理がたたったな――ん?」

 

 

 先程,勝機を与えてくれた少女といる少年に見覚えがあった。

 

「もしや,君は放矢(はなや)少年ではないかっ!?」

「えっ……まさか,あなた,オール……マイト?」

 

 不思議そうにこちらを見つめる姿を疑問に感じ,オールマイトは己の手を見た。

 

「しまっ――もうマッスルフォームが」

 

 ガリガリにやせ細ってしぼんだ両手が目に入った。

 

 時間が来て自動的に元の姿に戻ってしまっていたのだ。

 

「う……見られてしまったからには仕方がない――そう,私こそがオールマイゴファ!!」

 

 無理して元の姿に戻ったら喀血してしまった。

 

「お久しぶりです……その,現実では」

 

 

 

 放矢(はなや) タイガ。

 

 幼少の頃,ヴィランから救ってもらったという過去を持つ。

 

 そして――誰よりも早く後継者に,宿敵(オールフォーワン)との決着がつく前から,候補に挙げられていたのも彼である。

 

 両親は殺されてしまい,残された幼い妹を助けるため単身ヴィランに立ち向かい,ヒーローが到着するまで戦い抜いたのだ。彼の髪が一部白くなっているのは,その影響だ。

 

「しばらく見ないうちに,随分と成長したね。放矢少年」

「あなたも――随分しぼんで……」

「うっ,かくかくしかじかあって――」

「――お兄ちゃん! 早く帰ろ!?」

 

 タイガは妹に飛びつかれてふらついた。

 

「ちょばっ! くっつくなッ!」

「HAHA! ニコちゃんもすっかり大きくなって――おじさんも年取ったもんだな」

「……誰?」

 

 

 放矢 ニコ。タイガの妹である。

 

 オールマイト,彼女がほんの赤ん坊であったころに一度だけ会ったことがあるのだが,気付かれてい無いようだ。というか覚えているはずもない。

 

 というか目の前のガイコツ男=オールマイトという図式は思いついてい無いようだ。

 

 

 

「んんっ! 夜も遅いし,積もる話はまた今度だな!」

「ええ,あまり,無理なさらないでください」

 

 内心,少しショックだったオールマイトはガイコツスマイルをキメた。

 

 

「……それと,放矢少年。雄英編入の話,断って本当に良かったのかい?」

 

 

 ヒーロー殺しの一件から,雄英は他校から有望な生徒の編入を進めていた。

 

 特に二年生世代の引き抜きを積極的に行った。

 

 入試制度の粗で落ちていた生徒を対象に。

 

 その一人がタイガだった。

 

 

「はい。俺には――これがありますから」

 

 

 彼はポケットからゲーム機を覗かせる。

 

 日本一のプロゲーマー“N”

 

 それこそが彼のもう一つの顔だった。

 

「ねーお兄ちゃん!」

「分かったって……それじゃぁ」

 

 

 

 去る前に,彼はニヒルな笑みと共に,銃の形にした指をオールマイトに向ける。

 

 

 

「……BANG!」

 

 

 

 

 放矢 タイガはみんなにとってのヒーローではない。

 

 だが,無個性(・・・)の妹にとっては最高のヒーローだった。

 

 

 オールマイト――八木 俊典は同僚の話していたことを思い出す。

 

 

 

『“無個性”ヒーロー,ゲンム?』

『ええ,あえて隠さずに,自分が個性のない人の希望になれるようにって』

 

 

 

 壇 クロト。

 

 自分を神と言ってきかない超傲慢な生徒。

 

「君も,誰かの希望となれるのだね……」

 

 オールマイトとしてでなく,八木 俊典は独りごちた。

 

 個性を受けっとった自分は,無個性だったころの思いはすでに無くなっているかもしれない。

 

 昔以上に無個性の立場がない今こそ,個性のない者達の希望となる存在が。

 

 平和の象徴とは違う,新たなシンボルが。

 

 

 

「彼にやらせるのはすっごい不安だなぁ……」

 

 

 





ラヴリカさんは見た目は恋社長,声は諏訪部ボイスでお楽しみください。



――次回,B組とノリノリなあの男が登場するっ! ……?




???「あっれぇ? 乗せられちゃった?」


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神のヒーローアカデミア10 『ノリノリな奴』

次辺りで神が無双します


――――――

――――

――

 

 

『1-A男子,全員生徒指導室に来い』

 

 

 

 

 急きょ全校放送が流れる。

 

 彼らには,痛いほど原因が分かっていた。

 

 

 

 

 葬式のような重い足取りで部屋に入ると,ご立腹の相澤と――無表情のオールマイト(マッスルフォーム)が待ち構えていた。

 

 

「――お前ら……なんで呼び出されたかわかってるか?」

 

 全員俯いた。

 

「俺は連帯責任みたいな非合理的なことは嫌いだ。だから正直に答えろ――壇から秘密裏にエロゲーを受けっとたものは素直に挙手しろ」

 

 

 ほとんど全員手をあげた。

 

 あげなかったのは,生真面目な飯田や初心な緑谷,硬派な切島と言った面々のみである。

 

 

「よし,なら受け取った者のみ残れ――もちろん,壇もだ」

「なぜ私が――」

 

 

 

 

 ゴキン! バキン!

 

 

 

 オールマイトの拳からものすごい音が鳴っている。

 

 

 

 

 さすがのクロトも,筋肉には勝てない。

 

 勝てるわけがない。

 

「おじさんも男だから気持ちはわかるけど――――大人の階段上るのはまだ早いぞ,有精卵共!」

 

 

 

 

 

 野郎どもの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 昼食。

 

 食堂には頭にたんこぶのある生徒がちらほらいた。

 

 なんだかんだで全校に浸透していたようだ。

 

 

「あっれれー? とっても優秀なA組も処罰をうけてるぞー!? おっかしいなー!? B組よりも優秀なはずのA組が罰せられてるなぁ!?」

 

 A組をライバル視している物間 寧人もまた,たんこぶのある一人だった。

 

 どんな神経で煽っているのだろうか?

 

 取り合うのも面倒なので彼らは黙ってやり過ごそうとしていると,さらに大きく煽ってくる。

 

「返す言葉もない!? そうだよねぇ!? 君たちが原因――んぐッ!?」

 

 彼の嫌味を止めたのは,耐えかねて拳骨を構えたサキではなかった。

 

 

「――悪ノリが過ぎるぜ物間ァ!」

 

 丸サングラスをかけた柄の悪そうな――しかも最近まで見かけたことのなかった生徒だった。

 

「おっと失礼……自分,B組編入生の“二条 キリヤ”っていいます。以後,お見知りおきを」

 

 サングラスを取ると,彼が大人びた風貌であることが分かる。

 

 気絶した物間を近くの椅子にもたれかけさせ,自分も隣にどっかりと座る。

 

「おいキリヤぁっ!」

 

 巨大な手の平をお盆代わりに二人分の食事を運ぶのは――B組委員長の拳藤 一佳。

 

 オレンジ色のサイドテールを思い切り揺らしながらやってくる。普段はフレンドリーに絡んでくれるので,彼女のこんなに荒ぶった姿をA組の面々は見たことが無かった。

 

「おっサンキュー,一佳」

「ん,ああ……ロコモコ丼の大盛だよなーって違うっ!」

 

 キリヤのペースに乗せられそうになったが,寸でのところでかわした。ポケットからはみ出ていた財布を抜き出して彼につき返す。

 

「これで払ってくれって――中身入ってないじゃんか!」

「あー悪い悪い。ほれ,釣りは要らねぇよ」

 

 と,キリヤは500円玉を渡した。

 

「はぁ――って足りてないって! お釣りなんて出ないからなッ!?」

「あっれー? 乗せられちゃった?」

 

 めっちゃいじられていたせいで,彼女の顔は真っ赤で,頬を思い切り膨らませていた。

 

「なに膨れてんだよ。可愛い顔が台無しだぜ?」

「え,かわいい……私が? 冗談だろ」

「ああ」

 

 それ以上に顔が赤くなり,頬も限界まで真っ赤になっている。

 

「ははッ! ノせられちゃった?」

 

 彼女の手刀が落ちてくる寸前。

 

「聞いたぜ,午後はヒーロー科合同授業だろ? 急いで食っちまおうぜ♪」

 

 彼女の攻撃の行き場がなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 ヒーロー基礎学の時間。

 

 規模の大きい実習は二クラス合同で行うこともある。

 

 今回はサバイバル訓練。先日,他校と合同で行われた時は,色々あって失敗したためにもう一度行われていた。

 

 それぞれランダムにヒーローとヴィランに分かれ,ヒーローサイドはゴール地点にたどり着くこと,ヴィラン側は戦闘不能,もしくは確保テープを巻きつけることが勝利条件だった。

 

 

 

 途中までは,ゴッドマキシマムを使っている神が勝利するかと思われていた。

 

 

「おーおーこれが噂のゲンムか」

「って言ってる場合か!? 逃げるぞ!」

 

 体育祭で直に脅威を見ていた拳藤は逃げることを勧めた。

 

 

『私を前に逃げ出すのはあまり得策とは言えないなァ』

「悪ノリが過ぎるぜ神」

 

 キリヤはコスチュームからゲーマドライバ―,そしてガシャットを出した。

 

「なにっ!?」

「それ……あいつの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

\爆走バイク!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「0速,変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアーップ! 爆走! 独走!! 激走!!! 暴走!!!! 爆走バイークッ!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分は“爆走ヒーロー”レーザー」

「なぜ君がガシャットを――説明しろッ!」

「そっちこそ,懺悔してもらおうか……お前のゲームで死んでしまった,すべての人に――ゲームの世界に捕らわれてしまった,自分の妹に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-B 二条 キリヤ。

 

 個性:リプログラミング

 

 ありとあらゆる個性を強化・弱体化できる! 効果は1週間ほど続くぞ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

「思ったより,雄英って脆いんだな。たった一人の内通者で,ここまで簡単に侵入できる」

 

 連続殺人犯・ヴィラン名はライト。

 

 雄英の訓練場に人知れず侵入してきていた。

 

「――っ芦戸! くってんめェッ!」

 

 切島は個性を発動し,殴りかかる。

 

「それに,個性にかまけてばっかの奴は――」

「ぐっ!?」

 

 硬化の個性は万能だ。地味だなんだと言われていても,絶対的な防御力は強い。

 

「――基本的に弱いよな,特に異形型は」

 

 

 右手で触れたすべての個性を封じる。

 

 それにより切島の皮膚は普通の人間のように柔くなり,身構えられなかったせいでもろにパンチを喰らった。

 

 

 幼少期から鍛えられていたライトの拳は,切島の体を浮かせ,いとも簡単に戦闘不能にさせた。

 

「なんでっ……個性が使えねぇ……?」

「俺が封じた。お前は異形型じゃないから殺さないでおいてやる」

 

 彼は必死に手を伸ばした。だが恐怖で竦んだ。

 

 個性を使えない,素の身体能力でどう戦えばいいというのだ?

 

 盾にも鉾にもなる力は――今は無い。

 

 

「まっ……て――」

 

 ヴィランに頭を蹴られ,彼は意識を手放した。





当分続く……。

お気に入り増加がとか感想とか評価の入りとかが穏やかになってきたので更新速度が低下するかも。


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神のヒーローアカデミア11 『嘘吐きの流儀』

――――

――

 

「はてさて……懺悔をするようなことなど……した覚えはないが?」

 

 神はそんなどうでもいいことよりも,相手がガシャットを持っていることの方が気になっている。

 

「っ! お前,そういう感じの奴か」

「そんなことはどうだっていい……なぜ貴様がァゲーマドライバーとガシャットを持っているッ!?」

「知りたきゃ自分をたおせ」

 

 あからさまな挑発。

 

 誘っているのは明らかだ。

 

 しかし神は小細工を気にしはしない。

 

「良いだろう……“コズミッククロニクル・起動”」

 

 

 レーザー光線が地面を焼き切る。

 

 ライダーの方のレーザーは咄嗟にそれを躱しつつ,ゲンムに肉薄する。

 

 レベルゼロのレーザーは起動性能に全部能力を振り切っている。

 

 細かい跳躍やダッシュで最接近し,ゲンムのガシャットホルダーから『プロトシャカリキスポーツ』と『プロトジェットコンバット』を奪い取った。

 

「ぐっ!? それは私の物だぞッ!」

「へへっ! 隙アリィ♪」

「返スェッ!」

 

 ゴム人間のように伸びてきたゲンムの腕を辛うじて躱すも,かすめた瞬間にライダーゲージが3つほ減った。

 

「げっ……かすっただけでこんな減るのかよ」

「私は神だぞ! 威力ぐらい自由に設定できる」

「チッ! 全力でやるしかねぇか。下がってろ一佳ぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\シャカリキスポーツ!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如としてモノクロのマウンテンバイクが出現する。

 

 

「自転車!?」

「爆速」

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガッチョーン……ガッシャット! ガッチャーン! レベルアーップ (中略)爆走バイークッ! アガッチャ! シャカリキメチャコギ! ホット! ホット! シャカシャカ! コギコギ! シャカリキスポーツ!!/

 

 

 

 

 

 

 レーザーの体にマウンテンバイクが装着される。

 

 

「随分とガシャットの使い方を知っているようだなァ……」

「古星 ツクルって技術者がお前の親父の会社にいるはずだ」

「それがどうしたァ!?」

「俺の親父だよ」

 

 

 自転車装甲の車輪を外す。

 

 

「何ィッ!? 嘘をつくなッ!」

「バレたか」

「――はぁっ!?」

 

 

 

 近くで見ていた一佳は流れるような嘘に驚く。

 

 

 

「離れてろって――マジで危ねぇからよ」

「ならば――気兼ねなく戦えるようにしてあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ステージ・セレクト/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市街地だったのが,急にどこかの採石場となった。

 

 

「は?」

「この機能は知らなかったようだな……“ジェットサバイバル・起動”」

 

 

 

 その掛け声で無数のジェット機が空に出現する。

 

「マジかよッ!」

 

 次々と空爆されるも,プロトシャカリキスポーツの能力で回避する。

 

 だが,辺り一面を焼け野原にされると弱い。どこへワープしようとも攻撃の圏内なのだ。

 

「ジェットサバイバルは迫りくる敵艦を撃ち落とし続け,最後まで生き残るゲームだ」

「しゃーねぇっ! 一気に決めるしか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\キメワザ! SHAKARIKI CRITICAL STRIKE!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速回転する車輪をゲンムに向けて投擲する。

 

 

 

「無駄なことを――ブゥゥゥッ!」

 

 

 

 だがそれはゲンムの吐き出した謎の煙を受けて腐敗した。

 

 

 

「私はゲームマスターだ……私のゲームでは私を斃せるわけがないのさァッ!」

「そっちじゃねぇよ――」

 

 

 レーザーはショートワープし,ゲンムのガシャットに手を触れた。

 

 

 

「リプログラミングッ!」

「!!?」

 

 

 個性が発動し,ガシャットが無力化される。

 

 ブランク状態となったゴッドマキシマムマイティXが抜き取られ,レーザーの手で弄ばれる。

 

「っ貴様ぁッ! 私のガシャットをォッ!!」

「もっとやってやってもいいぜ? 全部リセットしてやるからよ」

 

 

 その言葉に嘘は無いのだろう。

 

 ガシャットのエネルギー源を理解され,それを無効化する個性を使える。まず“彼女”の血縁とみて間違いはない。嘘ばかりつくこの男も,そればっかりは嘘では無いようだ。

 

 

「自分のしたことが分かっているのかッ!? 私の作品をこうも簡単に――!?」

 

 

 謎の採石場から元の場所に戻った瞬間,何者かによってレーザーが殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガッシューン……/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーサルダメージを喰らったことにより,レーザーの変身が自動で解除される。

 

 そのまま,地面を転がっていく。

 

 

「なんだきさ――ブッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロトも右ストレートで命を奪われる。

 

 

 

「一人……彼も異形型だったみたいだ」

「お前,なんなんだよ……?」

「不要なヒーローを消す者だ」

 

 

 キリヤは無理に体を起こす。

 

 

 結局その場に残っていた拳藤がボロボロな状態で倒れ伏している。

 

 

「おいおい……! ヴィランに襲撃されるのはA組の十八番だろうが……!」

「ああ,無駄に抵抗するとこの女みたいになるぞ――俺は右手で触れた個性を封じることができる。右手でお前を殴ったからもう個性は使えないぜ?」

 

 

 おしゃべりな奴だ,とキリヤは思った。

 

 すべての真実を告げることが,正解とも限らないだろうに。

 

 

「――自分,ヒーロー志望なんで,無抵抗は無いんですわ……それに,仲間傷つけられて――黙ってるやつがあるかよッ!」

 

 

 あえて,ガシャットを使うのが個性だと思わせておき,自慢の蹴り技で対処する。咄嗟に相手は右手に手袋をはめて応戦する。つまり,二度触ることにデメリットがある。イレイザーヘッドのように消しておける条件があるのだ。つまり,右手で二度触れられれば,個性は戻る。

 

「良いもんだな,ヒーローってのは……こうやって気に入らない奴殴っても――」

「ぐっ!?」

 

 

 個性にかまけただけではなかったようだ。回し蹴りを躱されボディーに左ストレートが命中する。

 

「咎められないどころか,褒められるんだもんな」

 

 体がわずかに浮かび上がり,地面に打ち付けられる。爆走バイクのガッシャットが落ちる。

 

「ちなみに,教師陣の期待はしない方がいい。俺の相棒が押さえてるからな」

 

 それを拾い上げ,ヴィランは見せびらかしてくる。

 

「俺の個性ってさ,異形型はもちろん,普通の人間も殺せるんだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィラン,ライト。

 

 個性:神の右手

 

 右手で触れた個性を全て封印する! 異形型個性には必殺の手! 二回触れればどんな人間でも消滅させることができるぞ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィランが再び右手の手袋を外し,迫ってくる。

 

 その瞬間,拳藤が足にしがみつき,動きを止める。

 

 個性を封じられていても,必死で仲間を守ろうとしているのだ。

 

 

「邪魔だよッ!」

「ァぐッ!?」

 

 

 ヴィランは容赦せず頭を蹴り飛ばす。

 

 体を振り払い,蹲るキリヤに迫る。

 

 右手で触れ,すべてをリセットしようと――

 

 

「――残念だったな」

 

 頭を掴まれた瞬間,キリヤは個性を発動した。

 

「は?」

「リプログラム・弱化!」

 

 

 

 ヴィランの個性が弱体化し,個性を封じる能力がなくなる。

 

 そしてその瞬間に,回し蹴りを放ってガシャットを奪い返した。

 

 

「なんで……個性は封じたはずじゃ」

「自分は一度も個性が使えなくなったって言ってないぜ――」

 

 

 彼はコスチュームについた砂埃を払いながら立ち上がり,言い返してやった。

 

 

 

「はぁ……あっれぇ? 乗せられちゃったぁ?」

「ふっざけるな――っ!?」

「よくやったぞッ! 二条 キリヤァッ!」

 

 

 時間差を開けてコンティニューをしていたクロトがヴィランに飛び蹴りを喰らわせる。

 

「残りライフ79……たかがヴィランの分際で,よくもまぁここまでやってくれたものだな」

 

 自分は何もしていないのに,超絶上から目線で戦線に加わる。

 

「随分上から目線だな,(自称)神」

「ほう,よくわかっているじゃないか……そんな君に,神の恵みを与えよう」

 

 そしてクロトは,もう一本あった――彼が最初から設計していたほうの爆走バイクをキリヤに渡す。

 

「あのヴィランは私のライフを減らした。討伐を手伝うといい」

「へっ……乗った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\マイティアクションX!/

\爆走バイク!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョコのブロック,優勝トロフィーがゲームエリア内に配置されていく。

 

「グレード2……変身!」

「二速,変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアーップ!!//

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇっ!?」

 

 本来の爆走バイクは,レースゲームである。

 

 戦闘用にチューンされたレベルゼロの物とは,レベル2の形態は異なったものである。

 

 

「どういうこった!? 何でバイクに!?」

 

 

 レーザーの体はバイクに変形していた。

 

 

「黙って私に乗られろ」

「ッ……良いぜ,ノリノリでいくぞッ!」

 

 

 ゲンムはバイクとなったレーザーにまたがり,ガシャコンブレイカーを構えた。

 

 

 

 

 

 

「さて――コンティニューしてでも,クリアして見せようかッ!」

 





次でこの章はおしまい――では?


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神のヒーローアカデミア12

――――

――

 

 

 

「運命ってのは,パズルゲームみたいだよね」

 

 

 パラドクスは,演習場のモニタールームの前に陣取る。能力でモニター映像を改ざんしつつ。

 

 

「お前らなんかより,俺の方がスマートに平和を作れるぜ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「あっけない最期だったなァ……」

 

 

 

 ヴィラン,ライトは二人のライダーになすすべなくやられた。

 

 

「結局,お前も個性頼みの一人だったってことだな……自分等の仲間を傷つけたこと,しっかり反省してもらおうか――っておい神。どうやったら戻れるんだ?」

 

 

 バイク形態となったレーザーはもうゲーマドライバーをいじれない。

 

 つまり自らの意志で人間の姿に戻れないのだ。

 

 

「私に質問するな……さて,どう始末してやろうか」

「……タダで済むと思うなよ。俺の相棒がお前を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ガシャコン・スパロー/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のライフ一つ分――自分の命でしはらヴッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乱入者が現れる。

 

「無様だな――ライト♪」

 

 

 パラドクスがゲンムを一撃でゲームオーバーにした。

 

 

 すぐさまレーザーの傍でクロトが復活し,彼を人間の姿に戻す。

 

「残りライフ78……これで二度目だ」

「ようやく人の姿に戻れた――なんだあいつは」

「私の敵だ」

 

 

 

 

 斃されたライトを助けると見せ――彼に強烈な腹パンを喰らわせる。

 

 

「ぐふっ……」

「ははっ♪ なに期待してんだ?」

 

 

 

 と,パラドクスが取り出したのは――ガシャットと,それを運用するガシャコンヴァグバイザー。

 

 

「敗者には敗者にふさわしい“エンディング”ってのがあるだろ♪」

 

 

 

 

 

 

 

\ガシャット……/

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャットに内包されていたバグスターウイルスがライトに向けて散布される。

 

 高濃度に圧縮されたウイルスが彼の体を急速に蝕む。

 

「うっ……あああッ!?」

「お疲れさん……間抜けなヴィラン♪」

 

 

 助けに動いたキリヤに向けウイルスが撒かれる。

 

 咄嗟に踏みとどまり一歩下がる。

 

「や,やだッ! 死にたくねぇえよ……っ!」

 

 バグスターウイルス感染症の末期症状は,体の消滅。そして消えるように死んでしまうのだ。

 

「助けてくれよっ! ヒーローなんだろッ!? 俺の事――助けてくれよっ!!」

「無駄だ……その段階まで症状が進めば,もはや助からないさ」

 

 

 ゲンムコーポレーションは,衛生省と共同でウイルスの研究を進めていた。

 

 クロトは憐れむような,笑うような視線を向ける。

 

「やだ……っ! 俺は――こんなところで,死にたくねぇよ…………ッ」

 

 

 

 

 映像が途切れるように,ライトの姿が消滅した。

 

 

「じゃ,また遊ぼうぜ――!?」

 

 

 ショートワープでパラドクスの逃走を阻止するクロト。

 

 ガシャットのみならず,一般公開すらしていないバグバイザーまで入手していた。

 

 もはや何事もなく帰すわけにはいかない。

 

 

「君の素性,能力――そしてどうやって我が社の最高機密を入手したのか,話してもらおうか」

「いいぜ……丁度物足りなかったんだ――遊ぼうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

\PERFECT PUZZLE/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームエリアが展開され,ライダーを強化するエナジーアイテムがばらまかれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 未知のガシャット。

 

 クロトが作ってすらいないアイテムがパラドクスによって使用される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\What's the next stage? What's the next stage?/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\DUAL UP!! ……Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーフェクトパズルのマスコットキャラクター(微妙に可愛くない)の姿を模したライダーに変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーパラドクス,レベル50」

「なんだそのガシャットは――グレードX,変身!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\バグル・アップ! デンジャラス・ゾンビィ……WooOOOooooOO!!/

 

 

 

 

 

 

「さあ……遊ぼうぜ!!」

「不正なガシャットは――削除するッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 白い死神,青い敵キャラ。

 

 

 二人のゲームが,今始まる。

 




続きが閃かなかったのでこの辺で未完にしておきます。

何か思いついたら続きを書きます。


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第四章 期末試験
神のヒーローアカデミア13



 括目するがいい……再び降臨した、神の活躍を!


 ――――第二次雄英高校襲撃事件。

 

 連続殺人犯が起こした事件。

 

 ヴィラン連合程の規模ではなかった上に、あっさりと制圧された――ということになっていた。

 

 情報が統制され、やけを起こした勘違いヴィランが起こしたと報道されていたのだ。

 

 実際には生徒複数名が負傷、無傷で解決というわけではなかった。

 

 

 なにより――この事件でヴィラン犯罪が激減した。

 

 オールマイトの登場で低下していたそれよりも、より低くなった。もはやゼロに近かった。

 

 

“バグスターウイルス感染症はヴィランだけがかかる病気”

 

 誰が流したのか、こんなバカげた噂が流れだした。

 

 バカげている、と一笑に付す者もいた。

 

 一般人だって感染している、と理性的に考える者もいた。

 

 だがしかし、衛生省がその噂を否定しない事。

 

 現にヒーロー殺し“ステイン”や異形殺人犯“ライト”も感染していた事。

 

 確証のない安心と、漠然とした不安感。

 

 力を持て余した有象無象はなりを潜めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

「――ふん……こんなことを信じるバカが本当にいるとは」

 

 クロトはニュース記事を見て、ため息をついた。

 

 悪人しか感染しない病気など、ありはしない。そのことに気付かない民衆にあきれ果てていた。

 

「だが……あのパラドクス、私に匹敵する才能を持っているとはなァ」

 

 

 

 戦闘の映像を再生する。

 

 

――――

 

『パーフェクトパズルは、エリア内のありとあらゆる物質を操り、ミッションを達成していくゲーム』

 

 パラドクスが手を動かすと、エリア内のチョコブロックやトロフィーが姿を変えていく。

 

『こんな風に、ばらばらだったエナジーアイテムも――』

 

 ランダム取得だったエナジーアイテムが選択的に取得できるようになる。

 

『統一できる』

 

 そして散らばっていたアイテムがパラドクスの眼前に配置される。あたかも、パズルの盤面の様に。

 

 何度か操作され、三つ選択される。

 

 

 

 

 

\高速化! マッスル化! 鋼鉄化!/

 

 

 

 

 

 プレイヤーを強化するエナジーアイテム。それは本来一つずつしか利用できない。

 

『組み合わせて使うこともね♪』

『えらくノリノリじゃないの……』

 

 

 レーザーはレベルゼロに変身し、対抗する構えを見せる。

 

 だが高速の動きに対応できず、あっさりと敗れてしまう。

 

『フィニッシュは必殺技で決まりだ!』

 

 

 

 

 

 

 

\KIME-WAZA!! DUAL GASHAT!/

 

 

 

 

 

 パラドクスはガシャットを再びホルダーに入れる。

 

 

 

 

\PERFECT CRITICAL COMBO!/

 

 

 

 蹂躙するかのように、レーザーが痛めつけられ、変身解除に追い込まれる。

 

 

『ぐッ……』

『なんだよ、もう終わりか』

『私を無視するなぁ!』

 

 

 

\KNOCK-OUT FIGHTER!/

 

 

 

 再び別のゲームが起動する。

 

 

 

\The strongest fist! “Round 1” Rock&Fire! /

 

 

 

『大変身』

 

 

 

\DUAL UP!! ……Explosion Hit! KNOCK-OUT FIGHTER!/

 

 

 肩の装甲がグローブに、顔の前後が入れ替わる。

 

 ゲームパッケージのファイターを思わせる姿にパラドクスは変身する。

 

 

『心が滾るぜ』

『1つのガシャットに二つのゲーム……悪くないアイデアだなァ』

 

 拳が振られると、その余波で炎のラインが生じる。

 

 不死身のゾンビゲーマーであるゲンムはそれを気にせずに突進するも、拳を喰らって吹き飛ばされる。

 

『ゥグ』

『ダメージ無効か……白けるなぁ』

 

 無効とはいえ、ノックバックを喰らって反撃ができない。

 

 炎のラッシュで確実に飛ばされていく。

 

『ノックアウトファイターは……相手をぶちのめすまで殴るゲーム』

 

 一際大きく吹き飛ばされるも、ゾンビのような動きで復活するゲンム。

 

『なぜ……私の防御が無効化されている?』

『教えてやんねーよ♪』

 

 

 

 

\KIME-WAZA!! DUAL GASHAT!/

 

 

 

 再び必殺技が発動される。

 

 

 

 

\KNOCK-OUT CRITICAL SMASH!/

 

 

 

 

 

 強力なスマッシュがゲンムにヒットする。

 

 

『ク……ぅ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 

 

 不死身のはずだが、致死量のダメージを喰らったことにより、ゲームオーバーとなってしまった。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「特殊能力無効化とは、なかなかやってくれるな」

 

 再調整したゴッドマキシマムを手にクロトは呟く。

 

「だが私の生み出す究極のゲームには、程遠いがなァ」

 

 更に、デスクの片隅にはアタッシュケースが置いてあった。

 

「仮面ライダークロニクル、まだβ版だが……使いこなせる奴が、はたしているかどうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

――――衛生省

 

 

 

「二条君、ご苦労だったね」

 

 キリヤは雄英高校の制服ではなく、アロハシャツ姿だった。

 

「どーも、陽向審議官」

 

 二条 キリヤ、所属は衛生省。

 

 実年齢は24、つまるところ、年齢を偽って雄英に潜入しているのだ。

 

「やっぱ、壇 クロトは――ゲンムコーポレーションはバグスターウイルスを実用段階にまで研究していますよ。自分が見る限り、では」

「うむ、そんなことだろうとは思っていた……ゲーム病治療と称して、そんなものを送り付けてくるんだからね」

 

 キリヤの持つゲーマドライバー、そして爆走バイクガシャット。さらに奪ってきた二本のプロトガシャット。

 

 それらからバグスターウイルスが検出されている。

 

「それと……」

「どうかしたかね?」

「いえ、何も」

 

 すべての事実は伝えるべきではない。彼の信条が口をつぐませた。

 

「さすがの君も、高校生を騙すのは気が引けるかな?」

「ははっそんなわけ」

 

 ちらりと、偽りのクラスメートの顔が浮かび上がった。

 

 特に、自分の嘘に振り回されてくれる彼女が。

 

「そんなわけ、ないでしょ。自分、嘘吐きですから」

 

 一つの嘘が、誰かを救うことがある。

 

 救うために、彼は嘘をつき続ける。

 

「期待しているよ、二条君」

「どーも……」

 

 部屋を出た直後、キリヤは呟いた。

 

「乗んないでくれよな……こんなくっだらねぇ嘘に」

 

 その手には、ゲンムコーポレーションのロゴが入ったケースがあった。

 

 

 

 

 



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神のヒーローアカデミア14

――――

――

 

 

 ヴィランに襲撃されようとも、学生にとって無くならないものがある。

 

「勉強してねー!!」

 

 期末試験である。

 

 誰とは言わないが、上鳴の絶叫が響いた。

 

 同じくフリーズしているのは中間テスト下位組の芦戸である。

 

「ヴィランに襲撃されたのに試験とかむりだろぉ……」

「そうだよ……勉強なんてできないよぉ」

 

 弱弱しく泣いて見せる芦戸だが、その通りなので誰も笑えない。彼女は割と被害を受けていたので何も言えない。

 

「なにより、今回は演習あるのがきついよなぁ」

 

 余裕の表情な峰田は、前回は9位と平凡な成績である。

 

 エロの権化は地味に頭がいい。

 

「チキショー! なんでオメーはそんなに頭良いんだよッ! ちょっと馬鹿じゃねぇと魅力ねぇだろうがよ!」

「はっはっはぁ何とでもいいたまえ」

 

 クラスメイトの悪い部分ばかり影響を受けていた。

 

「よく考えてみたまえよ、上鳴。二人の編入生よりオイラ達の方が長い期間勉強してるんだぜ?」

「そ、そうか……なら、ビリはねぇってことか!」

 

 無論、最下位でなくとも赤点があるということを、彼は考えていない。

 

「ふっ……馬鹿なことを言わないでくれたまえ」

「なっ! 壇……お前まさか!」

「私の才能に――不可能などなァいッ!」

 

 編入後、参考として受けた中間テストの得点――ヒーロー情報学だけが赤点だったが、それ以外はほぼ満点。

 

 成績表を印籠の様に突き付けられ、おバカ二人はフリーズした。

 

「って、情報学赤点じゃん」

「ちょそれどころじゃないよ上鳴。普通科目はヤオモモよりできてる」

 

 その言葉に、前回一位だった八百万が沈んだ。

 

「くっそ……希望はサキ姉しか――」

「うるさい黙れ」

 

 いつもなら優しく答えてくれるお姉様は一心不乱に勉学に励んでいた。

 

 彼女は年上だが、実質一年間は勉強をしていないため学力は殆ど彼らと変わらない。むしろ、編入時のテストではほとんど0点だったのである。

 

「こ、これって勉強しなきゃ……マズい系?」

「助けてヤオモモせんせ~!」

 

 二バカは秀才の八百万に泣きついていた。

 

「わ、私なんかがお力になれるとも思えませんわ……頼るなら他の方に」

「そんなこと言わずに助けてくれよぉ」

「もう他に頼れる人がいないのぉ……」

 

 わかりやすく彼女の顔が晴れる。

 

「ワリィ、俺も古文教えてくんねえかな?」

「俺もいいかな?」

 

 瀬呂、尾白も便乗した。

 

「ぅ……私なんかを頼っていただけて光栄ですわ! そうなりましたらまずお母様に頼んで講堂開けていただかないと!」プリプリプリ

 

 ナチュラルに生まれの違いを叩きつけた八百万だったが、可愛かったので許されていた。

 

 

 

「……なぜだァ――神の恵みを、受け取る者はいないのかァ!?」

 

 ひとえに、人徳の差である。

 

「ね、ねぇ壇くん……僕でよければヒーロー基礎学教えてあげようか?」

 

 緑谷がこっそり提案した。

 

あと今度オールマイトコラボある時真っ先に教えてほしいんだ

「いいだろう……神に仕えることを光栄に思うがいい」

 

 まさかの賄賂を条件に関係が成立してしまった。

 

「ぅ……ならウチもお願いしようかな。ドレミファビートの新譜、テストプレイさせててくれたら情報学も教えたげるし

 

 そう、神には新作ゲームという餌があった。

 

 

「クソが……なんで俺のとこには来ねえんだよ」

「人望の差だな」

「うるせえ! 教え殺すぞ!?」

「ああ、頼む」

 

 

 こうして、期末試験に備えていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

「やっぱさ、素のキャラが強くないと、パーティーってのは強くならないよな」

 

 パラドクスはゲームをやりながらつぶやく。

 

 ヴィラン連合の拠点。死柄木は手のマスクの向こうから睨み付けていた。

 

「どんなにザコキャラでも、パラメーターが良ければそれなりに活躍できるんだ」

「何が言いたい……てか誰だよお前」

「やだなぁ~俺はお前らの味方だぜ♪」

 

 ゲームクリア! の音声が聞こえ、パラドクスはゲーム機を投げ捨てる。

 

「ふざけた言い草ですね。君の行為で我々も迷惑しているんですよ」

「分かってないなぁ……厳選だよ。ほら、ポケモンでもやるだろ? 卵をいっぱい孵すみたいにさ」

「どういう意味です?」

「この程度の恐怖で動かなくなるのは所詮はザコさ。暴れたいだけの奴ってわけ」

 

 思想のある、真の悪はこの程度では諦めはしない。

 

 むしろこの時期にこそ動き出す。弱小勢力が消えた、この瞬間に。

 

「そこで募集をかければ――強い連中、本物が集まるぜ?」

「……理屈は通っていますが、我々の知名度は高くありません。ステインが所属したということもマイナスに働く可能性だってあります」

 

 ゲーム病に感染したステインが所属した組織。それはどんな悪人にとっても良くない。

 

「だったら――こんな噂を流してみようか」

 

 

 パラドクスの提案は、二人をとても驚かせた。

 

 どこから仕組んでいるのだろうか?

 

 ステインが感染したこと、妙な噂が流れ始めたこと、それらすべてが想定内だったのだろうか?

 

 

「君はなぜ、我々の味方をするんです?」

「遊びたいのさ! さいっこうにスリリングで、エキサイティングなゲームがしたい、それだけさ」

 

 さっき自分で投げ捨てたゲーム機を拾い、パラドクスは立ち上がった。

 

「あ、そうだ! パラドクスってのは、俺のプレーヤーネームだ。仲間になるんだし、ヴィランネームでも教えておこうか」

 

 

 彼は振り返り、指で文字を作った。

 

 

 

「俺の名は――M(エム)

 



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神のヒーローアカデミア15

カルデアのマスターとして世界を救っていたら年を越していた。
しかも類似品が登場しているので投稿した次第。


――――

――

 

 

 御伽話のお城のような豪邸。

 

 広大な庭の中心で、クロトはくつろいでいた。

 

 ワインレッドの派手なシャツ、真っ白なスラックス、サングラス。完全にオシャレをしていた。

 

「――ッカァ! 私にふさわしい味だァ」

 

 トロピカルジュースを飲み干し、満面の笑みを浮かべていた。

 

「クロト―! お友達、来たわよー!」

 

 母親の声に、庭から広間までショートワープする。

 

「来たかァ……神の力を――求める者がァ」

「こーら! 変なこと言わないの」

 

 叱られてクロトは縮こまる。並行世界の彼とは違い、しっかり者の母親に恵まれたため大きくひねくれずに成長することができている。

 

 無論、この世界でもしっかりひねくれているし、並行世界の母親もしっかりものであったことは間違いはない。

 

 ただ、時計の針が早く進んでいるのは、こちらの方である。

 

 

 

 

 

「な、なな……」

 

 驚きのあまりフリーズしていたのは、麗日 お茶子。誰とは言わないが、某男子につられてやってきた一人である。

 

「豪邸やないかーい……」

「う、麗日さん!?」

 

 あまりの格差に、彼女は静かに気を失った。

 

 え、彼女が来た理由? 恋だよ。

 

「ようこそ! 我が屋敷へ……」

「いや、あんたのじゃないでしょ」

                                                    的確なツッコミが入る。

 

 さすがはA組のツッコミ担当というべきか。

 

「何を言う。この屋敷は私の開発したゲームの印税で改装したもの……つまり――」

 

 両腕を大きく広げ、大見得を切った。

 

「これは私の屋敷なのさぁッ! ブゥェヘヘヘヘ!!」

 

 物につられてきたクラスメートたちは思い切り後悔した。

 

「……さて、時間もあまりない。早速始めるとしようか」

 

 いまだに意識を取り戻さない麗日を引きずりながら一行は応接室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――数時間後

 

「ふむ、こんなところか。ヒーロー情報学とやらも大したことはない」

 

 クロトは一息をつく。

 

 その隣には緑谷が全てをやり遂げた表情で息をついていた。

 

 始めの方こそ耳郎、麗日も教えられていたが、瞬く間に成長を遂げた神の習熟度について行けず、二人とも端の方で大人しく勉強をするという事態になっていた。

 

「は、初めてだ……僕とこんなにヒーローを語り合える人になってしまうなんて――さすがは壇君だよ」

「全ては究極のゲームを作るためさァ……あらゆる知識を手に入れなければただのヒット作しか出来上がらないものだ」

 

 男の友情みたいな物が芽生えているのを女子二人は冷たい目で見守っていた。

 

「すごいね……」

「本当にウチらと同い年なの……?」

 

 しれっとパソコンを起動しゲーム開発を再開しているクロトは、確かに高校生には見えなかった。

 

 そして長時間勉強したからか、耳郎は頭痛を感じた。

 

「ごめん、お手洗い借りてもいい?」

「部屋を出て右にでてすぐの所にある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全然すぐじゃないし」

 

 思っていた以上に歩かされ、耳郎は疲れ果てていた。

 

 部屋の電気スイッチ、装飾、その他諸々がゲームのようにデザインされていた。

 

 蛇口ではなくボタン式の水道だった。が、一回押しても水が出てこない。自動かと思って手を出すも反応しない。

 

「なんで……?」

 

 ボタンは横に四つ並んでいる。

 

 適当に押してみると水が出てきた。すかさず手を出すもすぐに止まる。

 

「うわ……組み合わせか。なんてもん作ってんの」

 

 何とか長時間水を出すことに成功し、顔を洗えた。

 

 すっきりしたところで鏡を見ると、背後に見知らぬ女の子が立っていた。

 

「(やば)ごめん、待ってた――!?」

 

 しかし、誰もいなかった。

 

 思わず目をこすった。やはり誰もいない。

 

「……気のせい、か」

 

 きっと勉強をしすぎて疲れているだけだ。彼女はそう自分に言い聞かせた。

 

 何事もなかったかのように廊下へ出ようとした瞬間。

 

『イベント発生無視とか……ちょー白けるんですけど』

「ひっ!」

 

 気のせいなわけがなかった。恐る恐る後ろを振り返ると、鏡に映っていた女の子がそこに立っていた。

 

 クロトとは似ても似つかない、可愛らしい女の子だ。もしかしなくても、血のつながりはなさそうだ。

 

「だ、だれ……?」

『そーそー、そうこなくっちゃ♪』

 

 少女は楽しそうにくるくると回り、耳郎の手を掴んだ。

 

『さ! 私と一緒に遊びましょう!』

「ええ? そんな急に言われても――わっ!?」

 

 あれよあれよという間に引っ張られていく。

 

「ってか、あんた誰なの!?」

 

 連れてこられたのは、ゲームセンターを思わせる一室。

 

 目の前に掲げられた大きなモニターには様々なランキング――名前からしてゲームだ――が所狭しと掲げられている。

 

 少女はそのうちの一つ、一番上の名前を指さす。

 

『私は――“m”』

 

 思わず鳥肌が立った。

 

 エム、といえば世界最強のプロゲーマー。存在が都市伝説そのものだったが、なるほど、ゲーム会社のテストプレーヤーだったとは。

 

 挑戦してみたい。

 

 一ゲームプレーヤーとして、戦いたい。

 

「正直乗り気じゃなかったけど――ここまで誘われてやらないの、ロックじゃないよね」

『やったっ! 心が躍るなぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

(あれ……キリヤ、か?)

 

 街中を歩いていた拳藤は、いつもと違った様子の同級生を見かけ歩みを止める。

 

 その後ろ姿に何かあやういものを感じ、声を掛けるのを思わず躊躇ってしまった。

 

 こっそり後をつけ――更なる偶然で物間とも遭遇したがうるさそうなので手刀で気絶させておいた――衛生省の管轄下にある建物までたどり着く。

 

(なんで衛生省に……?)

 

 追いかけるのに夢中だったせいか、背後から忍び寄る人物に気付くことができなかった。

 

「――ッ!?」

 

 首筋に強い衝撃を感じる。

 

 意識が朦朧として膝をつく。

 

『――いやぁ手刀って地味に痛いんだよね。今度から控えてくれないかなぁ?』

(なんでこんな時に物間の声が……?)

 

 脳裏に浮かんだ謎のイメージを最後に、彼女は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

――――衛生省

 

 

「すまないね、放矢 タイガくん」

 

 高そうなソファに座っているのは、先日ラヴリカというヴィランの起こした事件の場に居合わせた少年、放矢 タイガ。

 

「お偉いさんが、なんの用なんです?」

「君、両親は、いるのかね?」

 

 審議官の陽向はいたって穏やかに質問をする。

 

「……いません。俺が子供の時、ヴィランに襲われて」

「ああ、そう言えばそうだったね。資料を読んだんだけど、年のせいかどうも物忘れが激しくてね」

 

 その様子は親戚のオジサンのようで、とても政府の高官とは思えなかった。

 

「そうだそうだ、君の御両親は悲しいことに、殺害されてしまったんだったね――確か、そのヴィランは“個性増強薬”を使っていた」

 

 タイガの頬を冷汗が伝う。

 

「君は果敢に立ち向かい、妹を守り抜いた。ぜひとも後世に語り継ぎたい美談だ」

 

 子供の“個性”はまだまだ未熟だ。いくら初期の出力が世代を経るごとに増しているとはいえ、強化された個性の大人に対抗出来たのは奇跡に近い。

 

「実はね、衛生省ではあらゆる病院のデータを保有していてね。その中に例のヴィランのデータもあるんだ」

「何が言いたいんです?」

「実はね、増強薬の注入器に第三者の血液が付着していたんだ」

 

 本能的に、彼は個性を発動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放矢 タイガ。個性:銃弾(バレット)

 

 手の平に弾丸を作り出し発射できるぞ! 射程距離と威力はトレーニング次第!

 

 

 

 

 

 大きかった弾丸は、煙のように消えてしまっていた。

 

「なっ……」

「私の個性は認識範囲内の個性を抑制できる。暴力に訴えるのは良くないよ」

 

 と、審議官はデスクの上にあったモニターを反転させる。

 

「まずはこれを見てくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テスト、開始します。ベルトを装着し、ガシャットを起動してください』

 

 アナウンスに従い、アロハシャツを着た男がベルトを装着し、緑色のガシャットを起動する。

 

 

\カメンライダー・クロニクル・・・・・・/

 

 

『ゲームエリアの展開を確認、異常は確認されません。変身シークエンスに移行してください』

 

 ベルトのボタンがクリックされる。ゲームBGMのようなメロディが流れる。

 

 スロットにガシャットが挿入される。

 

『! バグスターウイルスの活性を確認、直ちに離脱してくださいッ!』

 

 画質が悪く、何が起こっているのかわからない。

 

 しかしマイクは僅かな音を拾っていた。

 

 

 べちゃり、と。

 

 そして倒れる音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、これ……バグスターウイルスって」

 

 映像が切り替わり、LIVEと表示されたものになる。

 

 オレンジのサイドテールの少女で、猿ぐつわをされながらもカメラを睨み付けていた。

 

 その腰には、先程の映像と同じベルトが装着されている。

 

「さて、放矢 タイガくん。君の過去を暴き立てようとは思わない。我々の提案を飲んでくれるのならね」

「彼女にも同じことをさせるつもりか!?」

 

 もはや目の前の相手に敬意を払うつもりもなく、胸倉を掴む。

 

「止めてくれないか。高いスーツなんだ」

 

 審議官は冷静にその手を払いのけ、しわを正す。

 

「検査の結果、君が一番適合しているみたいでね。ぜひとも被検体になってほしいんだ。人類の未来のために」

 

 自分か、見知らぬ少女か。

 

 タイガの答えはすでに決まっていた。

 

「約束しろ……妹に手を出さないって」

「安心したまえ。私は国民の健康と平和を祈っているのだよ」

 

 





~その頃の爆豪たち~

「なあバクゴーここどうやって解くんだ?」
「アァン!? んなもん公式使えば一発だろうが!!」

 ガリガリガリガリブクブクブクブク

「おお、そう言うことか」
「チッ進めらんねぇじゃねぇかよ……」

 ズココッココカリカリカリ

「――アアアァッ! さっきから汚らしいぞげんこつ女ぁッ! 勉強するか飲むかどっちかにしやがれっ!」

 
 サキは勉強の手を止める余裕などなかったのだった。


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神のヒーローアカデミア16 『試験開始』

家のうぃーふぃーが起動しなくて投稿できなかったでござる。


――――

――

 

 

 

 

 

――――期末試験当日

 

 

「皆、まずは筆記試験お疲れさま! ここからは実技試験の時間さ!」

 

 相澤の襟巻(拘束具)の中から校長が飛び出す。

 

 約一名が崩れ落ちそうになっていたものの、大半は消化試合に挑むかのようにリラックスしていた。

 

「入試みたいなロボ無双っしょ!?」

「サクッと終わらせちゃおっ!」

 

 一部の能天気な二人は終わってもいないのにはしゃいでいた。

 

「残念、今年から内容を変更しているのさ!」

 

 二人の時間が停止した。

 

「――お前らも知っての通り、最近じゃヴィラン犯罪も激化している。今まで通りじゃいけないって訳だ」

 

 こっちの方が合理的だからな、相澤はそう付け加える。

 

「というわけで、試験内容は――二人一組で教師と戦う、さ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

・砂藤&緑谷ペア(フィールド:デパート)

 

 

 

 

「まさかこうなるなんてなぁ……」

 

 砂藤はぼやきながらスタート地点に立っていた。

 

「きっとおもりはハンデだよ。じゃなきゃ、みんな逃げるしかないから」

 

 いつものテープとは違う確保証明のアイテム。

 

 緑谷はそれを握り締め、深く深呼吸する。事前説明では、自分たちの相手は外部講師が行う、とのことだった。

 

「作戦はさっきの通りでいいんだよな、緑谷」

「うん。きっと僕らが先制してくるとは思わないはず」

 

 照明がちかちかと明滅した。

 

「――試験会場はここであってるかな?」

 

 彼らと年の変わらない青年がふらりと現れる。首から入校許可証をぶら下げていた。

 

「まさか……あなたが?」

 

 緑谷は彼の正体をいち早く見抜き、戦慄した。

 

 完全に相性が悪い。

 

「うん、オレは天空寺 タケル。“不可思議現象研究所”ってところで、ヒーローの手助けをしている……探偵、かな?」

 

 

 

 

 

 天空寺 タケル。個性:呪術

 

 透けたり幽霊を呼んだり見えたり、オカルトっぽいことは何でもできるぞ!

 

 

 

 

 

 

「ヒーローじゃないって、なめられたもんだぜ」

 

 砂藤は闘志をあらわにするも、緑谷の言葉に凍りつくことになる。

 

「違う、相性最悪なんだ――あの人は物理攻撃無効化の個性を持ってるんだ!」

 

 

 

 

 砂糖・緑谷ペア――試験開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 

・壇&爆豪ペア(フィールド:建築途中のビル)

 

 

 

 

「やれやれ、よりによって君とペアを組むことになるとはね」

「うるせぇっ! こっちのセリフだ」

 

 爆発と共に爆豪が怒鳴る。

 

 他ならぬ彼が一番苛立っていたのだ。

 

「ふん……私の偉大さを、そろそろわかってもらいたいものだが」

「んだとゴラァッ!? 一撃で死ぬ貧弱ボディのくせによ!」

「こらこら、喧嘩しないの」

「「!?」」

 

 突如として割って入った声で、二人の動きが止まった。

 

「どういう事だァ……我々の試験官は、オールマイトだったはず」

 

 コートを羽織り、髪は寝癖の様にはねている。人相は逆光のせいでわからなかった。

 

「俺の名は葛城 セント。訳あって君たちの相手をすることになった」

 

 彼は黒いバックルを腰に当てる。黄色いベルトが出現し巻き付く。

 

 そして赤と青のボトルをシャカシャカと振る。

 

「さ、試験を始めようか♪」

 

 突如として周囲に謎の数式が出現する。

 

「ンだよ……この個性」

「データが少なすぎるな。ぜひとも尊い犠牲になってくれないか?」

「ざけんなッ!!」

 

 

 

\マイティアクションX!!/

 

 クロトはガシャットを挿入し、レバーを開く。

 

「グレードゼロ、変身!」

 

\ガッチャーン! レベルアーップ!! (中略)マイティアクショーンX!/

 

 

 

 対して青年はボトルのキャップを開け、ベルトに挿入した。

 

\ラビット! タンク! ――ベストマッチ!!/

 

 そしてベルトのレバーをグルグルと回転させる。すると前後にプラモデルのランナーの様にボディパーツが出現した。

 

\Are you ready?/

 

「変身♪」

 

 二つのボディパーツがプレスするように合わさり、スーツを形成した。

 

\鋼のムーンサルトォ! ラビット・タンク!! イエーイ!/

 

 

「これはビルド。“作る・形成する”って意味の、ビルドだ。以後、お見知りおきを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壇・爆豪ペア――イレギュラー発生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 

 

・切島&竜ヶ峰ペア(フィールド:市街地)

 

 

 

「サキ姉大丈夫か?」

『ああ、問題ない』

 

 グラファイトモードになったサキは気丈に応えるも、明らかに試験勉強の負荷がかかっているように見えた。

 

 彼らの試験官はセメントス、コンクリートを自在に操る能力の持ち主だ。

 

(っても、長期戦やったらきっと負担になる。俺がしっかりやらねぇと!)

 

 実はこの試験、各々の相性を基準にペアが組まれている。

 

 主に、弱点を補強できないような形で。

 

 

『切島・竜ヶ峰チーム。期末試験――Ready Go!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――数日前

 

「……次に壇と爆豪ですが、オールマイトさんに頼みます。この二人は能力や成績で組んでいません。ひとえに中の悪さ――」

 

 授業中だろうが口喧嘩になっているのを見ている教師陣は大きくうなずいた。

 

「それと、爆豪は“無個性”の人間を軽視している節があります」

「なるほど、つまり彼一人じゃ太刀打ちできなくなったとき、自分から助けを求めることができるか」

「珍しく理解が早いですね」

 

 辛辣な一言にオールマイトの心が傷ついた。

 

「壇は自ら誰かに手を差し伸べることはないでしょう。あなただって気にしていたことだ。頼みますよ」

「うん……私にも考えがあるんだ――」

 

 その提案に教師陣がざわつく。

 

「騙し討ちとは考えたな」

「だがこいつら並のヒーローじゃ脅威にならねぇぜ!?」

「そうよねぇ……それこそ、ランキングトップにせまる実力がなくちゃ」

 

 懸念しているのは全員同じだった。

 

 二人とも体育祭のトップに名を連ねる実力を持っている。特にクロトは出鱈目な力を発揮するためそこいらの二流ヒーローではあっさり負けうる可能性があるのだ。

 

「その点は安心してほしい――推薦する人物の実力は保証――して、あれこれどうやって再生するんだっけ?」

 

 ノートパソコンを立ち上げ、“とあるヒーロー”の戦闘映像を見せる。

 

「彼なら、きっといい試練になるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 ――そして現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 場所は変わって衛生省。

 

『シミュレーション、開始します。ベルトを装着し』

「うるせぇ……」

 

 タイガは目の前の台に載っているベルトとガシャット睨み付ける。

 

 “バンバンシューティング”と言えばゲンムコーポレーション、幻の第一作と呼ばれるシューティングゲームだ。発売前に数々の問題が発覚したためお蔵入りとなった伝説のゲーム。

 

 先週までの彼なら、そんなゲームをプレイできるとなったらうれしくて仕方がなかっただろう。

 

 だが今はそんな余裕などなかった。

 

 見知らぬ女の子と自分の過去を人質に取られ、こうして衛生省の手先に成り下がったのだから。

 

 ベルトを腰に当て、ガシャットを銃の様に構える。

 

 カメラに向けて、引き金を引くように。

 

 

\バン・バン・シュティング/

 

 

『ガシャットの正常な起動、及びゲームエリアの展開を確認。続いて変身シークエンスに移行してください』

「変身」

 

\ガッシャット! レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! What's your name? ……I'm a カメンライダー/

 

 部屋に無数のモブキャラが現れる。

 

 七面鳥のような頭部で、特殊部隊のような武装をしている。

 

『レベル1への変身完了。患者の体からバグスターウイルスを分離してください』

 

 ザコキャラたちをヘッドショットで沈めていく。シューティングゲームは彼の得意なジャンルだ。

 

 数十体を討伐し終えたころ、無数のウイルスたちが集結し、大きなクリーチャーに変化する。

 

「……フィニッシュは必殺技だ」

 

 三頭身の体を回転させ、銃弾のような形状に変化する。レベル1必殺技の一つだ。

 

『ギャオオオオオオオ』

 

 クリーチャーが爆散し、やがて本命の“ボスキャラ”が姿を現した。

 

『分離成功。レベルアップし、切除してください』

「ふん――第弐戦術」

 

\ガッチャーン! レベルアーップ!! ババンバン! バンババン! バン・バン・シューティング!!/

 

\ガシャコン・マグナム/

 

「散開シロ!」

 

 ボスキャラ、リボルの指示でモブキャラたちが戦術的に動き始める。

 

 ありがたい。セオリー通りに動いてくれるなら非常に読みやすいのだ。

 

\ズ・キューン!/

 

 モード変形し、高威力の弾丸を牽制で振っていく。

 

 弾幕で煙る視界を突っ切り、敵の懐に潜り込む。

 

\キメワザ! バンバン・クリティカルフィニーッシュ!!!!/

 

「喰らいな……」

 

 ゼロ距離で引き金を引く。

 

「――BANG!」

 

 

 

 

 勝利の余韻に浸る間もなく、シミュレーションが強制終了となる。

 

 こんなにつまらない“ゲーム”は初めてだった。




~選考基準~

・砂藤&緑谷
 二人とも増強系なので物理技しかない。なので幽霊に勝てないと推測。
 というより追加二人分の余り 


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神のヒーローアカデミア17 『試験① 砂藤・緑谷編』


タケル殿って変身してない方が強い気がする。


――――

――

 

 

 

 

「――君が先に仕掛けていいよ」

「んだと!?」

「だって、ボクの方が早いからさ――ファイヤッ!」

 

 謎の人物に早打ち勝負を仕掛けられていた砂藤を咄嗟に救出する。

 

「すまん、助かった」

「マズいよ、どこの出口もあれに似たのが押さえてる。脱出はかなり絶望的かもしれない」

 

 パーカーを来たマネキンのような何かに二人は脱出を阻まれ続けていた。

 

 どれも一筋縄ではいかなく、むしろその辺のヒーローの数倍は強かった。

 

「緑谷、あの人の個性って何なんだよ?」

「ごめん、よくわからない。でも噂が本当なら――あの世とこの世を行き来できる、って」

「幽霊かよ!?」

 

 二人は逃走の末、服飾品売り場(偽)に隠れる。

 

 物理攻撃はほとんど効かず、逃走しようにも謎の存在に阻まれる。いくらハンデがあっても分が悪すぎるのだ。

 

「どうする? 何なら俺が囮になって」

「駄目だ。相手の数が分からない以上それは悪手だよ」

 

 緑谷は冷静に状況を分析する。このまま正面突破を図ったとしても、相手がそこに集中してしまったら到底勝ち目はない。こんな時に索敵に秀でた障子が居れば、デコイを作れる八百万が居れば。

 

 二人とも増強系ではこういった状況で取れる行動が正面突破(物理)しかない。

 

 そこで彼はこの試験の構造に気付く。

 

「そういうことか……各個人の苦手分野をどう対処するかがポイントなのか。だとすると僕たちに不利な個性を持っている試験官が担当するのも納得できる。これが期末試験である以上どこかに突破する鍵があるはず」ブツブツブツ

「おぉ……ついにその状態になったか」

 

 こんな状況でも考察が止まらないことにドン引きする砂藤。

 

「ッ砂藤くん……君の個性って、確か糖分を取るとパワーが上がる、だったよね?」

「あ、ああ。大体10gで5倍の感覚だな」

「それ、上限ってある?」

 

 質問の意図が分からず砂藤は首をかしげる。

 

「一応ないと思うが……前に限界に挑戦したことがあって――」

 

 その話を聞いて、緑谷は作戦を組み立てる。

 

 恐らくこれで勝てるはずだ。

 

「うん、これでいける……砂藤くん、地下に行って砂糖をかき集めてきてほしいんだ」

「おう――ってまさか」

「そのまさか、だよ。限界まで増強して、暴れまわる」

「――うんうん、それで?」

「「っ!?」」

 

 驚くべきことに、天空寺 タケルが上半身だけ透明化した状態で壁をすり抜けてきたのだ。

 

「っ後は任せて!」

「応ッ!」

 

 緑谷は拳を構え、個性を発動する。

 

「ワン・フォー・オール・フルカウル――5%」

「おっ、いいね♪」

 

 タケルはとびきりの笑顔でそれを待ち構えている。

 

「SMAAAASHッ!!」

 

 しかしその拳はいとも簡単にすり抜けてしまった。

 

「くそっ!」

 

 こちらの攻撃が当たらない間は向こうも攻撃することはできないはずだ。手数を増やして反撃する隙を与えない戦法を取る。

 

「もしかして、オレが霊体化している間は何もできないって思ってる?」

「!?」

 

 考えを読まれたか、それともいつもの事なのだろうか。その笑顔のせいで考えが読めない。

 

「残念だけど――はっ!」

 

 タケルが宙に目玉の紋章を描くと、衝撃波が発生する。

 

「っ!?」

 

 緑谷は咄嗟に躱すも、陳列された商品たちがなぎ倒されていく。

 

「っずるい……」

「よく言われるよ」

 

 このままでは負けると判断した緑谷は下の階へ逃げつつ、砂藤の方へ行かないように誘導していく。

 

「言っておくけど、オレの相棒たちがこのデパートを巡回してるんだ。君たちの作戦、上手くいくかな?」

 

 もちろん想定済みだった。緑谷はそれでもなおクラスメートを信じる道を選んだ。

 

 きっと彼なら突破してくれる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――地響きがした。

 

 

 

『――その時は、気が付くと意識が無くてよ。病院でこっぴどく叱られたっけな』

 

 黒いマネキンもどきの足を掴んで引きずりながら砂藤が下の階から上がってきた。

 

 口やコスチュームには砂糖やシロップが付着しており、目は虚ろで口は半開きだった。

 

「た、タケル殿……もうしわけ」

「ugaaaAAAaaaAAAAaaaa!!!!」

 

 

 雄たけびを上げた砂藤によってそれが振り回され、投擲された。

 

「くっベンケイ!」

 

 タケルは難なくそれを躱すも、続けて飛んできた拳を反射的に避けてしまう。

 

「やっぱり――霊体化にも限度があるんだ……!」

 

 拳の一発一発が床をえぐっていく。揺れのせいで緑谷は身動きが取れなかった。

 

「個性だって身体能力の一つ。あなたはポーカーフェイスで常時自分が無敵であると錯覚させてるだけ……!」

 

 建物が揺れる程の攻撃にタケルも全力で防御をしている。

 

 本来は全力で暴れて消耗させ、確保するつもりだったが――これは想定外すぎた。ここまで高威力で、ここまで理性を失ってしまうとは。

 

「くっ!」

「GuooooOOOOOoooooOO!!!!!!!!!!」

 

 砂藤の振り下ろした瓦礫が命中する。霊体化の上限がきたのか、タケルは紋章術で防御に徹していた。

 

 一度、二度、三度――ぶつかるたびにシールドが削れていく。一撃一撃がオールマイトのスマッシュに匹敵する威力を持っていた。

 

 右手で天候を変えると言われている威力に近いそれを防いでいるのは、ひとえに彼の技量があるかもしれない。

 

「OOoooOOOOOooooo!!!!」

 

 大きく振りかぶった渾身の一撃がタケルの体を大きく吹き飛ばす。

 

 偶然にも、脱出ゲートへ向かっていた緑谷の方に向けて。危うくぶつかるところであった。

 

「さ、砂藤くん!?」

「gAaaaaAAAA!!」

 

 続けて標的にされたのは緑谷だった。

 

「見境なしかよっ!」

 

 その攻撃を躱したところ、背後のタケルに攻撃が命中してしまう。

 

「うっ!」

 

\カイガン! オレ!/

 

 土煙の中からぼんやりと輝くシルエットが浮かぶ。

 

\レッツゴー! カクゴ! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!/

 

 パーカーを纏い、額から角の生えた仮面を纏った姿。全体的に無機質な印象を受けるスーツだった。

 

「……まさか、本気を出させられるとはね」

「まじでか……っ!」

 

 前門の暴走砂藤、後門の試験官。

 

 絶望的な状況だが、自然と笑みが浮かぶ。ヒーローは窮地でも笑うものだ。

 

「フルカウル――6,7……10%ぉ!!」

 

 全身が軋んでいるが、我慢できるレベルだ。

 

 限界を超える。

 

 今の状況を突破するにはもっと速く、素早く動かなくてはいけない。

 

「GOoooooOOOO!!」

「はっ!」

 

(もう少し――)

 

 二人が同時に接近してくる。

 

 ギリギリまで引きつけて――

 

「そこだっ!」

 

 攻撃がぶつかる刹那、避けた。

 

(相討ちにして――ダウンしたところで)

 

「確っ保ぉっ!」

 

 砂藤の個性の限界は3分。

 

 丁度、時間切れだ。

 

 

 

 

 

 

『砂藤・緑谷チーム。条件達成!』

 

 

 




しれっと原作キャラを強化したのである。

シュガードープ(過剰摂取(オーバードーズ))とか出ないかな。


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神のヒーローアカデミア18 『試験② 壇・爆豪編(前編)プラスα』

?『超常黎明期、火星で発見されたパンドラボックスは歴史の闇に埋もれ、その存在を忘れ去られていた。
てぇんっさい物理学者の葛城 セントは、発掘されたパンドラボックスの謎を解き明かし、人々の平和を守るヒーロー、仮面ライダーとなる』
?「なんだよこのナレーション」
?『本編で謎の存在にされているからあらすじで自己紹介してるんだよ。俺たちの長きにわたる研究の成果を限られた文字数で』

\ポーズ/

?【――おっと。ここから先は、皆さんにとってはまだ未来のお話】


――――

――

 

「これはビルド。“作る・形成する”って意味の、ビルドだ。以後、お見知りおきを」

 

 赤と青の二色の敵――ビルドはベルトから武器を出現させる。

 

「ほう――ではビルドとやら、オールマイトはどうした?」

「知りたかったら力づくで聞くといい」

「言われなくてもそのつもりサァ!」

 

\ガシャコン・ブレイカー!/

 

「フゥウ!」

「よっ、と」

「死ねオラぁッ!」

 

 味方もろとも巻き込んで吹っ飛ばそうとする爆豪の攻撃。

 

「おーおー怖い怖い」

 

\ゲーム・オーバー/

 

 いつもの様にゲームオーバーとなるも、中々復活してこない。

 

「何で復活しねえんだよ……!」

「悪いね、君たちに協力されたら厄介だから――細工を、ね♪」

 

 ゆっくりとビルドが歩を進める。

 

「誰があんな奴と協力するか!」

「あれ……当然この場の最適解だと俺は考えてたんだけど――ひょっとして君バカ?」

 

 爆豪の額に青筋が浮かぶ。

 

 あからさまな挑発に乗ってしまっていた。

 

「寝言は寝て死ねぇッ!」

「うわ、意味不明」

 

 いつも通りの右の大振りをあっさりと見切られカウンターで攻撃を入れられる。

 

「体育祭の映像を分析して、君のくせは全て調べ上げたよ。毎回必ず右の大振りから攻撃に入る。当然、俺はそれを刈り取る」

「デクみたいなマネしやがって」

「――でも、その対策を君はちゃんとしている」

 

 空中で方向転換し、爆撃を喰らわせようとしていた爆豪は思わず身を強張らせる。

 

 目の前に銃口があったからだ。

 

「言ったろ。君のくせは調べ上げた。そうすることは予測済みだよ」

 

 咄嗟に下方に移動して難を逃れる。

 

 蹴りが命中して転がされる。

 

「そして君の個性。どんどん威力が上がっていくから、ただ手の平を爆破させてるだけじゃない――むしろ爆発する物質を生成していると考えるのが妥当だ」

 

 ビルドは別のボトル――紫と黄色の物を振る。

 

\ニンジャ! コミック! ――ベストマッチ!!/

 

 再びベルトのレバーを回転させる。

 

\Are you ready?/

 

「ビルドアップ」

 

 今度は紫と黄色のボディに変化する。

 

\忍びのエンターテイナー! ニン・ニン・コミック!! イェィ!/

 

「だとすると選択肢は少ない――たとえば、ニトログリセリンとかね」

 

 新たに手にした武器のトリガーを二回引く。

 

\火遁の術/

 

「っ!?」

 

 咄嗟に爆撃を放って逃れようとするも、炎の渦に囲まれてしまう。

 

 彼の個性で生成されるニトログリセリンは非常に外部からの圧力に弱い。熱を受けて暴発してしまう。

 

「くそっ! 舐めやがって! 正々堂々と勝負しろやっ!」

「心外だな。これが俺の戦闘スタイルだよ」

 

 これで心を折るほど爆豪は心が弱くない。

 

 むしろ反抗心をより募らせる。

 

「――てめぇは俺がぶっ殺す!」

「うん、やっぱり思った通りだ」

 

 変則的な攻撃を全ていなし、ビルドは再びレバーを回転させる。

 

\Ready go!/

 

 周囲に再び謎の数式が出現する。どうやら実体を持っているらしく、それらは全て爆豪を妨害していく。

 

「ぐっ――クソッ!」

 

「君は、ヒーローにはなれない」

 

 

\ボルテック・フィニッシュ!!!! イェィ!!!!/

 

 

 煙幕で視界が塞がる。爆豪がせき込んでいると、背後から手裏剣と擬音(?)が飛んでくる。

 

 持ち前のセンスで避けるも、その先にはビルド。

 

「所詮、君はその程度ということだ」

「うるせえ……! なれるか、なれないかを決めるのは――俺だッ!」

「違うね」

 

 爆豪が小手の引き金を引くよりも早くビルドが手を踏みつける。

 

「が……っ!」

「ヒーローかどうかを決めるのは君自身じゃない。第一、君は手段が目的化している。本来ヒーローの本質は奉仕活動、ヴィラン退治はあくまで人助けの手段に過ぎない」

 

 頭を掴まれ、彼のマスクが落ちる。

 

 そのまま持ち上げられ、無機質な仮面に覗かれる。

 

「君はこの先、仮免試験を受けても不合格になる。本試験まではたどり着けない……一番になる、だっけ? せいぜいがお山の大将止まりさ」

 

 突き放される。

 

\タカ!/

 

 爆豪は距離を置き、今度こそ必殺技を放とうとする。

 

\ガトリング! ――ベストマッチ!!/

 

 ビルドは新たにボトルを入れ替え、フォームチェンジする。

 

「ハウザー……」

 

\Are you ready?/

 

「インパクトッ!」

「ビルドアップ」

 

 大爆発が起こる。かつての演習試験でビルを半壊させた威力、建築資材や足場が吹き飛んでいく。

 

\天空の暴れん坊! ホーク・ガトリング! イェーイ!!/

 

 ビルドは空を飛んでいた。

 

 

 

「見返りを求めたら、それは正義とは言わない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

『まーだーでーすーかー!!!?』

 

 

 プレゼントマイクの大声が森林フィールドに響き渡る。耳郎も口田も音に関係する個性の為、圧倒的に不利な状況であった。

 

「っそうだ!」

 

 耳郎は近くにあった岩を砕いてその下の虫を露出させる。

 

「!?」ビクッ

「ねえ口田、あんた虫操れない!?」

 

 答えを言う間もなく彼は遠ざかっていった。

 

「……虫、駄目なんだ」

「……!」コクコク

 

『はーやーくー!! しーてーくーれ―!!!!』

 

 

 爆音を打ち消そうとするも、彼女の個性では焼け石に水だ。

 

(っどうすれば――)

 

 脳裏に数日前、mとゲームをした時のことが思い浮かぶ。

 

 

 

 

『お姉さんワンパなんだよね~』

 

 ゲキトツロボッツでぼろ負けしていた耳郎に彼女はそう言った。

 

『もう少し、工夫しなくちゃ♪』

『ったって、ウチこういうゲーム得意じゃないし』

『そんなの、簡単だよ。相手のくせを読めばいいの』

 

 

 

 

 

 

(マイク先生の、癖ッ)

 

 爆音が響き渡るのは一定間隔、つまり待ちきれなくなって声を荒げているということだ。

 

「口田、ごめん! 虫苦手かもしれないけど、操れるかどうかだけでも教えて!」

「…………」グッ

 

 可能。ならばあとは――

 

「ウチが先生を消耗させる。だから虫を操って襲わせてッ!」

「……」ブルブル

 

『ボエェェェェェェェェ!!!!』

 

 ナメられている。だからこそ不意を突ける。

 

「おねがいっ! もうこれしか――方法がないのっ!」

 

 不意に、彼女の体が疼いた。

 

(な、に……?)

 

 もしかすると風邪の罹り始めなのかもしれない。でも辞退するわけにはいかない。

 

 耳のイヤホンジャックをスピーカーに接続して心音を発生させる。

 

「ッ!?」

 

 いつにないくらい激しい痛みを感じた。体の疼きが最高潮になる。

 

 

 

 ――――爆音が響き渡る。

 

 

 

 設計上限を超える音量でスピーカーが破損した。

 

 そして彼女の耳たぶ――イヤホン部分からは夥しい量の出血。

 

 体にはノイズが走るように揺れる。

 

 

 

「……じ、耳郎さん?」

 

 普段は無口な口田でも声をあげてしまうほどの異常事態だった。





遂にクラスメートがゲーム病に!?

次回、期末試験編完結!!


※なお内容は変更となる場合があります


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神のヒーローアカデミア19 『試験③ 壇・爆豪編(後編)』

前回までのあらすじ

・クロトがコンテニューに失敗
・爆豪がめちゃくちゃ煽られる
・耳郎さんに危機が迫る





――――

――

 

 

「見返りを求めたら、それは正義とは言わない」

 

 ガトリング砲が火を噴く。

 

 爆豪は咄嗟に躱すも、足に傷を負ってしまう。

 

「くそっ」

 

 わざと追い詰めるように足下を狙う。

 

「じゃあな――」

 

\(中略)ゴッドマキシマームX!/

 

「繧医¥繧ゅd縺」縺ヲ縺上l縺溘↑繧。繝?シ」

 

 クロトがようやく復活したものの、バグっていた。

 

 ゴッドマキシマムに変身し、確実に相手を始末するつもりなのだろう。

 

「おわッ!」

「繧ゅ?繧?ィア縺吶▽繧ゅj繧ゅ↑縺?ャ? 窶補?輔だ繝ウ繝薙け繝ュ繝九け繝ォ繝サ襍キ蜍」

 

 何を言っているのかよくわからなかったが、周囲に大量のゾンビゲンムが出現する。

 

 ビルドはそれらを躱して新たなアイテムを手にする。巨大な缶のようだった。そのプルタブを開けると接続部が露出する。

 

\ラビットタンク・スパークリング!!/

 

 炭酸の様にはじける成分がランナーを形成し、赤・青・白のボディとなった。

 

「ビルドアップ」

 

\シュワッと弾ける! ラビットタンク・スパークリング!! イェイイエーイ!!!!/

 

 先程の赤と青、ラビットタンクよりもトゲがありかつ白い泡のようなデザインが組み込まれている。

 

 泡のようなエフェクトと共に瞬間的に跳躍し、ゾンビを蹴散らしていく。攻撃を繰り出すたびに泡がはじける。

 

 さらにガトリング砲と刀を構え、炎や煙幕に弾をばらまいていく。

 

「?ク?橸スエ?ッ――――ッッッフゥッ!」

 

 ようやくバグが治ったのか、ゲンムの言語能力が復活する。

 

「……ここまで私のゲームに干渉してきたのは君が初めてだ」

「てぇんっさいの手にかかれば、ちょちょいのチョイよ♪」

 

 刹那のにらみ合い、キースラッシャーとガトリングの撃ちあいが起こる。

 

\ズ・パ・パ・パーン!/

 

 飛ぶ斬撃をビルドは剣で受け止める。その隙を見逃さずゲンムは自らの体を射出してとびかかる。

 

「うん、良い攻撃だ」

 

\Ready Go! スパークリングフィニッシュ!!!!/

 

 ワームホールのようなオブジェクトに吸い込まれ、ゲンムはビルドのキックをまともにくらってしまった。

 

 

 

\ゲーム・オーバー/

 

 

 その拍子にいくつかのガシャットが爆豪の目の前に落ちた。

 

「……ッ!」

 

 ドラゴナイトハンターZだった。それは彼の好きな人が好きなゲーム。通常のガシャットとは違う、ドラゴンの意匠がなされた形状、ゴールドの特別感のある色合い。

 

「見返りを求めたら……正義じゃねぇ、だと?」

「うん?」

 

 再びゲンムをバグステージ送りにしたビルドはそのつぶやきに疑問符を浮かべる。

 

「てめえなんざに言われなくても――知ってんだよ」

 

\ドラゴナイトハンター・ゼェーット!!/

 

「――同じ手を二度も喰らうかぁっ!」

 

 即座に復活して見せたゲンムは爆豪の行為を見て驚愕する。

 

「ぐ……っ」

「やめたまえ! 君にガシャットは扱えない!」

 

 その警告が象徴するように、爆豪の体にノイズが走る。

 

「ッ! 俺は見返りが欲しくてヒーローになンだよ……!」

 

 歯を食いしばり、彼はガシャットを自らの体に挿入する。

 

「よせッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

(やれやれ、なんであんな奴に目を掛けるんだ……八木さん)

 

 ビルド――葛城 セントは仮面の下でため息をつく。

 

 

 

 

 それは数日前、I・アイランドで研究をしていた時の事。

 

『久しぶりだね、葛城少年!』

 

 かかってきてほしくない相手からの電話だった。

 

『最っ悪だ……よりによってあんたかよ』

 

 もう少年と呼べる年齢でもなかったが、ハイテンションな世界一嫌いなヒーローの声に辟易する。

 

『HAHAHA! いつに増して辛辣だね!』

『こっちはトラブル続きなんだ。くっだらない雑談がしたかったなら別の相手を――』

『君に頼みがある』

 

 それは日本の雄英高校で期末試験の試験官をやってほしい、とのことだった。

 

『体育祭の決勝コンビね。よく除籍されずに残ってたもんだ』

『……どういう意味だい?』

『あの爆豪とかいうやつ、あれはヒーローの器じゃないってこと』

 

 暴言、乱暴な行為、本気でヒーローを目指しているのかわからないようなアンチヒーローなふるまい。

 

『あんたは、性格はともかく技量はNo.1だ。でもあの爆豪は技量もなければ、かといって性格も最悪。間違いなくヒーローにはなれない』

『そうかもしれないね』

 

 時間の無駄だと判断し、セントは電話を切ろうとした。

 

『――でもね、葛城少年。爆豪少年は、とある女子が来てから随分と丸くなった。私は――こちらの方が本当の性格なのではないかと思ってね』

『人を見る目がないヒーローNo.1のあんたが何を言ってるのやら』

『う――っ! それはおいておいて、だ。私は彼の事を信じてやりたい。どうか頼むよ』

 

 思い切りため息をついた。

 

 これで研究が遅れると思うと嫌な気分でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最っ悪だ……)

「やっぱり君は力に飲まれる、ヒーローにはなれないよ」

 

 ガシャットのデータを読み込んだウイルスが爆豪の体を覆い、ラスボスのグラファイトへ姿を変貌させる。

 

「“俺ハ龍剣士ぐらふぁいと”――っるせえ!」

「?」

「まさか……!」

 

 だが彼の姿は安定せず、半分爆豪、半分グラファイトの状態だった。

 

「っがぁ……“俺ノ全テヲココニ”――勝ちてぇんだよッ!」

 

 歯を食いしばってウイルスの浸食に耐えていた。

 

「俺はどんな状況でも――笑って勝っちまうヒーローになるッ!」

 

 彼が腕を振り払うと、ウイルスが一つの形――牙を模した剣状で収束する。コスチュームが変化し、ドラゴンの意匠がところどころにちりばめられている。ガシャットを挿した左胸には、ラベル部分が露出している。

 

「……そして惚れた女を振り向かせるんだよ」

 

 彼の汗が床に落ち、小さな爆発を起こす。

 

「おい()()()……力ぁ貸せ」

「良いだろう。君に神からの恵みを授けようじゃないカァ」

 

 なにがどう転ぶかわからないものだ。ビルドは仮面の下で微笑む。

 

「……最っ高だ。八木さんの言っていたことはあながち間違いじゃなかった、ってわけか」

「さんざん人の事を煽ってくれたなぁ……死ぬまで殺すッ!」

「私の貴重なライフを二つも削った報い、受けるがいい――ドラゴナイトキングダム・起動」

 

 挟み込むようにゲンムと爆豪が構える。

 

「みっちりしごいてやるから、覚悟しとけ♪」

 

\ハザード・オン/

 

 ビルドは赤いトリガーを起動し、ベルトへセットする。缶のアイテムを取り外し、再び赤と青のボトルを振り始める。

 

「さぁ、実験を始めようか」

 

\ラビット! タンク! ――スーパーベストマッチ!!!!/

 

 ベルトのレバーを回転させ、黒い鉄板のようなものが出現する。

 

\ガタガタガタゴットンズッタンズッタン! ガタガタガタゴットンズッタンズッタン! ――Are you ready?/

 

「ああ、できてるよ♪」

 

 鉄板にプレスされ、ビルドのボディを強制的に変形させる。

 

\アンコントロールスイッチ! ブラック・ハザード!! ヤッベーイ!!!!/

 

 最初の形態、ラビットタンクが黒く染まった姿へと変貌する。複眼以外は完全な黒。

 

「勝利の法則は、決まってるか?」

 

 その言葉を最後に黒いビルドは襲い掛かる。

 

 大量の眷属を召喚したゲンムに拳を繰り出す。背後から爆豪に殴打されるも気にも留めずに攻撃を続ける。

 

「グゥッ! 少しは」

「――――」

 

 頭を掴まれてもがくゲンム。黒ビルドはトリガーのスイッチを再び押し、レバーを回す。

 

\マックス・ハザードオン! ガタガタガタゴットンズッタンズッタン! ガタガタガタゴットンズッタンズッタン! ――Ready Go!/

 

「グァァッ!!!?」

 

\オーバーフロー!! ヤッベーイ!/

 

 電流が走り、ゲンムが硬直する。そんなことに構うことなく爆豪は攻撃を止めない。

 

「ゥ! 少しは加減をしろっ!」

「どうせすぐに蘇るだろうがっ!」

 

\ハザードフィニーッシュ!!!!/

 

 邪魔を続ける爆豪へ放たれるキックをゲンムが代わりに受け止める。

 

「グッ!」

 

\ゲーム・オーバー/

 

「クソがっ……俺で何とか出来たわ」

 

 爆豪は手の平から滴る汗を武器にまとわせる。

 

「――フゥッ! 勘違いするなァ! 私のゲームを守るためだ!」

 

\ガッチョーンガッチャーン! カミワザ!!/

 

「ハウザー……」

 

\GOD MAXIMUM CRITICAL BLESSING/

 

「ブーメランッ!!」

 

 二つの必殺技を喰らい、黒ビルドは大きくのけぞり、ベルトのトリガーがはじけ飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――試験終了!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 規定時間が過ぎ、機械的にアナウンスが入る。

 

 

「お前ら、ほんと最っ高だよ」

 

 変身を強制的に解除させられたビルドはコートのポケットから入校許可証を出す。

 

「は?」

「ふむ、そう言うことか」

 

\ガッチョーン…ガッシューン…/

 

 二人は何やら察することがあったようで、顔を引きつらせる。

 

「改めて自己紹介しよう。俺の名は葛城 セント、戦うウサギと書いて、“戦兎(セント)”だ。所属はI・アイランドの――プロヒーローだ」

「……チッ騙し討ちかよ」

「そう受け取ってもらって構わないよ。ともあれ、君たちは合格だ」

 

 まるでいたずらっ子のような笑顔だった。

 

「条件を達成したら合格と、言われていなかったなァ」

「少なくとも、俺はそう伝えるつもりだ」

 

 そこからセントは険しい顔になる。

 

「爆豪、忘れるなよ。俺はお前の事を危険だと思っている。何かがあれば――本気でお前を斃しに行く」

「ハッ! 返り討ちにしてやる」

 

 爆豪の挑発に、セントは困ったように髪を掻きむしる。

 

「……近いうちに博覧会(エキスポ)がある。てぇんっさい物理学者の研究成果も発表予定だ――See you!」

 

 彼は動けない二人に向かって手を振り、颯爽と去っていくのだった。




これで終わりといったな、あれはウソだ!(某キャット風)

次回はプロローグ的な話、合宿編へぬるりと移行するぞい。

え、映画の内容……? やるわけないじゃないか……!

やらないぞ!(前フリ)


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神のヒーローアカデミア20

エピローグとプロローグを兼ねてみました。

そして前振りしすぎたせいで映画の内容をやらねばいけない雰囲気に……


――――

――

 

 

 空を覆わんばかりのコンクリート。

 

 殴っても殴ってもすぐに元通りになる。

 

 このままでは絶対に勝てない――切島の心は折れかかっていた。

 

『――っしゃんとしろ!』

「いてっ!」

 

 硬化していない背中をサキ――グラファイトに叩かれて悲鳴を上げる。

 

『ここでお前が諦めれば、多くの民が傷つくことになるぞッ! 私たちしかここにはいないのだッ!』

「でも先生の個性には勝てねえんだぞッ!?」

『敵は必ずしも弱いとは限らないッ! この程度で諦めることは許されないぞッ!』

 

 自分よりもはるかに辛い彼女の喝に気合が入る。

 

 切島は思い切りコンクリートに頭突きをかました。額から一筋の血が垂れる。

 

「ああ――そうだな!」

 

 再び硬化した拳でコンクリートを削る。すぐに再生するのも構わずに次々と拳を繰り出していく。

 

「こんなところでうじうじしてんのは――男らしくねえからなッ!」

『そうだ! その意気だッ!』

 

 背後からグラファイトの裂撃が援護する。

 

 削るよりも早くにコンクリートが生成される。生成されるよりも早く削る、砕く。

 

(――っ! 見えた!)

 

 果てしない壁が割れ、光が差し込む。

 

『させませんよ』

 

 二人の努力を笑うかのようにその隙間が塞がっていく。

 

「クソッ! ここまでか……!」

『歯を食いしばれッッ!』

 

 背中に強い衝撃を感じた。咄嗟に硬化した両腕をクロスする。脆い部分から崩れ、セメントスの姿が目に入る。

 

「これでも――喰らえッ!」

 

 拳を叩きつけるも、硬化は途切れてしまっていた。

 

「っ息が」

「……君たちは消耗戦に弱い。戦闘ってのは、自分の得意を押し付けるんだよ」

 

 その後ろからグラファイトが飛び出す。赤いドレスを翻し、右腕と武器には漆黒の裂撃を纏っていた。

 

『言われずとも、知っている! ――奥義・ドドド黒龍剣!!』

 

 うねる黒竜がセメントスに襲い掛かる。

 

「! まずい……」

 

 咄嗟に防壁を生み出すも、それを呼んでいたグラファイトに背後を取られ、確保証明のカフスを付けられてしまった。

 

 

『切島・竜ヶ峰チーム、条件達成!』

 

 

「はふぅ……」

 

 マスクを外したサキは切島に微笑む。いくら特注のコスチュームとはいえ、何度も裂撃を使用したせいかビリビリニ引き裂けていた。

 

 二人が勝利のハイタッチを交わした瞬間だった。

 

 

 ――――ぼよん!

 

 

 サキの見事な双丘が抑えられずに弾けた。同時に、耐え切れなくなったコスチュームが完全にはじけ飛んでしまった。

 

「きゃっ!?」

「ぉうわっ! みてねえ! みてねえぞ!?」

 

 髪のごとく真っ赤に染まった切島は慌てて目を逸らす。半裸のコスチュームのせいで、上着を差し出すという漢気満点な行為はできなかった。

 

 

 

「……締まらないですね」

 

 セメントスは即座に監督役のリカバリーガールを呼んでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――巨乳、貧乳、ロリ、熟女。オイラはあらゆる快楽を見つけ出したっ!」

 

 追い詰められた峰田は頭のもぎもぎを無差別に投げつける。

 

「もう一度あのパラダイスを手に入れるんだッ!」

 

 

 

 ―――――グレープ・ラッシュ!!

 

 

 

 

 

 

 条件は達成したものの、峰田は無事に生徒指導室へ送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

――――数日後

 

 

 

 期末試験は終わった。だが1-Aの面々は穏やかではなかった。

 

「……お前ら席に着け」

 

 相澤の声も、いつになく深刻な物だった。

 

「知っているとは思うが、耳郎がバグスターウイルスに感染し、ゲーム病となった。幸い、その場にいた口田とマイクは無事だった」

 

 いち早く彼女を医務室に連れていっていた口田は若干俯いていた。

 

「感染時期が特定できない以上、ここ一、二週間――学校だけでなくプライベートでの接触があった者は挙手しろ」

 

 一緒にテスト勉強をしていた緑谷、麗日が手を挙げる。丁度この日はクロトがまだ来ていなかったのである。

 

「よし、今すぐ検査を受けてこい。すでに衛生省の医者が応接室にいる」

「「は、はいっ!」」

 

 今更ではあるが、二人とも口を手で押さえ感染を防止しようとしている。

 

「――おや、何やら雰囲気が重いようだな」

 

 そのタイミングでクロトが遅刻してくる。敵意のある視線が集中した。

 

 彼は呆れたようにため息をついた。

 

「ふん、クラスメイトがゲーム病に感染して気が立っていると見た」

「てめ――」

「よせ切島」

 

 怒りを受けてもなおクロトは気にせず自分の席に座る。

 

「おい壇、俺はお前のプライベートに干渉するつもりはない。だがこうなったら話は別だ。お前の知っていることを全て教えろ」

「……もはや正体を隠す意味も、ない」

 

 ショートワープしたクロトは相澤を押しのけた。

 

「そもそも君たちは私が無個性だと教えたのになぜ不思議に思わなかったのかァ……不思議でならないな」

 

 死んでも蘇る、このようにショートワープするのも、どちらも無個性なら本来はできない芸当だ。個性が当たり前の社会では多少の超常は当たり前すぎて誰も気にしていなかったのだ。

 

「い、言われてみれば……」

「確かに個性がないなら説明ができねえな」

 

 クラスメイト達も今更ながらそれに気が付いた。

 

「なぜ私が無個性なのにコンティニュー出来るのか、なぜ自由自在にガシャットを生み出せるのか、なぜ変身して戦うことができるのか。その答えはただ一つ」

 

 

 

 

 

 ――――私が人間ではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 場所は変わって衛生省。

 

 ゲーム病の治療はここで秘密裏に行われていたのである。

 

「――では加賀美先生、オペの準備を」

「ああ……」

 

 医者であり、プロヒーロー“ブレイブ”である加賀美 ヒイロは衛生省でゲーム病治療に携わることとなった。

 

 あのゲンムが使用していたベルトとガシャット、まさか治療器具となるとは思ってもいなかった。

 

「よし、始めるぞ――ゲーマドライバー」

「はい」

 

 助手が彼の腰にベルトを装着させる。

 

「ライダーガシャット」

「はい」

 

 ヒイロはピンク色のガシャット――マイティアクションXを受け取る。

 

 患者は姪っ子のクラスメイトだ。何としてでもオペを成功させねばならない。

 

「――これより、バグスターウイルス切除手術を開始する」

 

 彼の親指がガシャットの起動スイッチを押す寸前。

 

「まって!」

 

 治療室に乱入者が現れる。

 

 天才ゲーマー“m”

 

 クロトの屋敷にいた少女である。

 

「な、どうやってここに――」

「それ貸してっ!」

 

 彼女はショートワープでベルトとガシャットを奪い取り、病室へ飛び込む。

 

 職員たちは直ちに捕まえようとするも、いとも簡単に逃げられる。

 

「これは私のせいだから――」

 

 ベルトを装着し、ガシャットを起動させる。

 

 

 

 

\マイティアクションX/

 

 

 

 

 

 

 

『あー楽しかった、また遊んでくれるよね? えっと……』

『そういや、自己紹介してなかったっけ。ウチは耳郎 響香、よろしく』

 

 初めてできた友達だった。

 

『私は天才ゲーマー"m"――本名は、二条 エミ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームエリアが展開し、耳郎の体内に潜むウイルスが活性化する。

 

「うぅっ!?」

「響香の運命は――私が変えるッ!! 変身!」

 

 

 

\ガッシャット! レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! What's your name? ……I'm a カメンライダー/

 

 

 

「……ピンク色の、ゲンム?」

 

 耳郎はそのつぶやきを最後に意識を失う。

 

 mの変身した姿は、ゲンムをピンク色に変更した姿だったのである。

 

 バグスターウイルスが多数出現し、結合体(ユニオン)を生み出す。

 

「もうコンティニューせずに、クリアしてやるッ!」

 

 

 

 二条 エミ(天才ゲーマー“m”)

 個性:ウイルス

 

 未知のウイルスを生み出す! これはマジでヤッベーイ!

 

 

 

 




ようやく研修医のリイマジキャラに到達できたぞい


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第五章 衛生省VSプロヒーロー
神のヒーローアカデミア21



新章突入。衛生省の闇が描かれたりする。


――――

――

 

 

「人間じゃないって……」

「私はバグスターウイルス感染症――君たちがゲーム病と呼ぶものによって死んだ。そして高次の生命体として蘇った」

 

 急に難しい用語が出現し、バカ二人組がはてなマークを浮かべる。

 

「コージノセーメータイ?」

「あれか……子供の頃遊んだ」

 

 どんなにバカなことを言っても、気の利いたツッコミを入れてくれるクラスメイトは今はいない。

 

「厳密にいえば私は壇 クロトではない。そのデータをもとに復元されたコピーだ」

「だったら何で復活できる?」

 

 轟の質問にクロトはガシャットを見せることで応える。

 

「私がコンティニュー出来るのはこのα版ガシャットの特性さァ。この私の才能をむざむざと失わせるわけには行けないからなァッ!」

 

 冷たい視線を感じるもそれで怯む神ではない。

 

「だから安心したまえ。君たちはゲーム病で死んだとしても蘇ることができる」

「――それは違うと思う」

 

 真っ向から対立したのは緑谷だった。

 

「君もさっき言ってたじゃないか。自分はデータをもとに復元されたコピーだって」

「だから何だ? 神の才能がこの世に残る、それだけで十分」

「良くないよ! 本当の君はもう死んでるんだぞ!?」

「だが私は私だ――それに人間だった時よりも十分満たされているからね」

 

 必死に差し伸べられた手もはねのける。

 

 クロトに生半可な同情は気にしない。むしろ鬱陶しく感じる。

 

「君たちにはわかるまい……個性がないというだけで、どれほどの差別を受けるのか」

 

 その言葉で緑谷がハッとする。自分自身も個性が無かった過去がある、それ故彼の気持ちもわかるからだ。

 

「たったそれだけで、連中は私の才能をないがしろにするッ! 私は――ッ命さえ自由自在に生み出す。()()()炎を出す、とてつもないパワーを持っている、特殊な部位を持っている? その程度、私の才能の足元にも及ばないのさ! ブゥハハハハハッハハ!!」

 

 最近はいい人感を出していたから忘れていたが、こいつはこんな性格だった。クラスの心は一つとなった。

 

「だったら何でお前はヒーロー科に転科した? 俺たちはお前に強制した覚えは一切ない」

 

 相澤からの指摘にクロトは押し黙る。

 

「……今それを話すわけにはいかない――なぜなら」

 

\マイティアクションX/

 

 クロトは突如としてガシャットを起動、ベルトを装着する。

 

 教室の出入り口には衛生省のエージェントが待ち構えていたのだ。

 

「壇 クロト! 貴様を拘束させてもらう!」

 

\カメンライダー・クロニクル/

 

 次々と緑色のガシャットを起動していく。

 

「くそっ!」

 

 プロヒーローとして、1-Aの担任として、相澤は捕縛布を展開する。

 

「邪魔をするなイレイザーヘッド、公務執行妨害で逮捕するぞ」

「ぬかせ! 手前らに逮捕権なんざねえだろうが!」

 

 個性の抹消を発動し、役人の個性を封じる。

 

「無駄だ、この装備はあなた対策である」

 

\Enter the game! Riding the end!!/

 

 役人たちは次々と茶色の――マ○オのクロボーのようだ――パワードスーツに身を包む。

 

「そうかい!」

 

 抹消の個性は異形型に通用しない。それゆえ相澤は肉弾戦もある程度心得ている。

 

「おい、お前たちは後ろからだ」

 

 教室には二ヶ所の出入り口、後ろからも同じ軍勢が押し寄せる。

 

「しまっ」

「させっかよ!」

 

 真っ先に飛び出したのは意外にも爆豪だった。

 

「あいつは俺の獲物なんだよ! てめえらなんざにやらせっか!」

 

 他の面々も個性を発動し、戦闘態勢に入っていく。

 

「ぐっ……貴様ら自分が何をしてるのかわかって」

「流石だな――お前ら、見込みあるよ」

 

 皆はクロトを庇うように戦陣を組む。

 

「つい最近、うちの生徒が衛生省付近で行方不明になっている。にもかかわらずお前たちは情報を開示していない。てことは、だ。お前らがそれに一枚かんでんだろ」

 

 生じた隙を相澤は見逃さない、捕縛布で振り回して気絶させる。その後瀬呂がテープの個性で無力化した。

 

「俺たちがそれに気づかない――ましてや生徒に注意喚起しないとでも思ったか」

「貴様はその男を庇うというのか!? 我々には貴様のヒーロー資格をはくだブェ」

 

 問答無用で薙ぎ払い、黙らせる。

 

「目標地点はUSJだ! 今の時間なら、13号が待機しているはずだ」

「「「はいっ!」」」

「なぜテーマパークに」

「説明は後! 行くよ壇君!」

 

 麗日の個性で無重力化されたクロトは窓から放り投げられる。即座にもぎもぎで階下に降りていた峰田によってキャッチされた。

 

 轟は氷で壁を作りつつ、窓の外へ滑り台の様に氷塊を生み出す。

 

「……少なくとも、壇は悪人ではない。もしそうなら俺はすぐに除籍処分にしてるさ……まあ、性格は少々アレだが」

 

 衛生省の役人も愚かではない。即座に無線を使用し外部の者に増援を要請している。

 

「もしあいつを拘束したいってんなら理由を説明しろッ!」

「そ、それは」

「ま、そうなるわな――お前ら、俺らを(プロヒーロー)なめんなよ。これは完全な越権行為だ」

 

 警報が鳴り響く。衛生省の役人たちが侵入者認定されたのだ。

 

「これは国民を守るための非常措置である!」

 

 こじつけのような意見に相澤は鼻で笑う。

 

 

 

 

 

 

「“生徒の如何は担任の自由”――俺は侵入者から、自分の生徒を守るだけの事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

\ステージ・セレクト/

 

 

 病室からどこかの採石場に場所が変化する。

 

『ギャオオオオオン』

「はっ!」

 

 ピンク色のゲンム――エグゼイドはガシャコンブレイカーでバグスターを叩いていく。

 

 付近のチョコブロックを破壊する。“混乱”のエナジーアイテムが出現した。

 

「いらない!」

 

\混乱/

 

 デバフ状態を付与し、バグスターがふらふらと混乱している。

 

「えいやっ!」

 

 その隙に猛攻を仕掛ける。ダメージが限界値に達し、爆散した。

 

「っっしクリア!」

 

 だがそのウイルスが再集合し、DJのようなバグスターへと変化する。

 

『Uhhhh! アガって来たァァ!』

「あれはドレミファビートの……っ大変身!」

 

\ガッチャーン! レベルアーップ!! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!!/

 

 三頭身のレベル1から八頭身のレベル2へ変身した。

 

『オレとお前で最高のビートを奏でようぜッ!』

 

 BGMと共に音符のエフェクトが生じる。

 

「そっか、音ゲーだから……クロトが言ってた通りだ!」

 

 エグゼイドはリズムに乗って体を動かす。

 

 ドレミファビートは互いにリズムに乗ってアクションを行い、ヒロインである“ポッピーピポパポ”をメロメロにした方が勝利できるゲーム。

 

 単純な判定ゲーじゃないところが奥の深いところである。

 

『noooo! 最高にアガるビートだったゼ……』

 

 バグスターはキメ顔で四散していった。

 

 

 

\ゲーム・クリア!!!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームを終了し、元の場所へ戻ると、謎の集団に取り囲まれる。

 

「え……?」

「二条 エミ、貴様をバグスターウイルス散布の容疑で拘束させてもらおう」

 

 謎のスーツを纏い、エージェントたちは次々に襲い掛かってくる。

 

「――くっよせ!」

 

 それをブレイブが懸命に抑える。

 

 この少女の正体が不明とはいえ、オペで患者を救ったことから事情を考慮しているのだろう。

 

「貴様何を!?」

「俺はドクターである以前に――ヒーローだッ!」

 

 眩い光に包まれ、ヒイロは姿を変える。プロヒーローブレイブとしての姿だ。

 

「このまま患者を連れて逃げろ!」

「わ、分かった」

 

 エミは耳郎を連れて別の出口から逃げ出していく。

 

「貴様ウイルスの抗原を」

「彼女がヴィランであるという情報は入っていない。罪のない少女を犯罪者扱いするお前らの方が間違っている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――ようやく、ゲームが始まったか」

 

 連合のアジトでパラドクスは呟く。

 

「なんの話だよ」

 

 死柄木は先程までいた未来の仲間たちのせいでストレスが溜まっていた。

 

「さいっこうにスリリングで、エキサイティングなゲームが始まったのさ!」

 

 パラドクスの目が赤く輝く。

 

「――ようやくお前と遊べるな、エミ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラドクス(本名:二条 エム)

 個性:ウイルス

 

 あれ、俺この個性説明しなかったッけか?(by解説役)



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神のヒーローアカデミア22

CCCコラボやっと終わったー!

キアラさん強すぎ! 当カルデアの最強幼女ジャックちゃんの女性特攻が無ければ負けていたぜ!

その後は、うん。余裕過ぎた。


――――

――

 

「おら死ねっ!」

 

 爆豪の個性が発動せず、相手の体を叩くだけにとどまった。

 

「っ!? 氷結が」

「くそっみんな個性が使えなくなってんのか!?」

 

 USJにたどり着く寸前、大きな足止めを喰らう。戦える個性の者が残り、半数はクロトを逃がすことに専念した。

 

「うん、みんないい個性を持っている……私の前では意味がないがね」

 

 その男の名は陽向 キョウタロウ。衛生省のトップである。

 

「相澤先生みたいな個性が他にもあったのか」

 

 どうやら異形型の個性も無効にされるようで、各々の個性が発動できなくなっている。

 

「残念だが私の個性はそのような物ではないんだがね……君たちには壇 クロトを差し出してもらわなくてはならないんだ」

 

 陽向が懐から取り出したのはバグヴァイザー、その色違いだった。

 

「大人しく差し出せば見逃してあげよう」

「ざっけんじゃねえよっ!」

 

 血気盛んな爆豪は喧嘩殺法で飛びかかるも、いとも簡単に避けられた。

 

「やはり君たちは卵だ。個性の伸びはあったとしても、身体的な身のこなしはまだまだだね」

 

 \ガッチョーン……/

 

 あらかじめ装着されていたバックルにそれがセットされる。

 

「お仕置きの時間だ」

 

\カメンライダー・クロニクル……/

 

 彼の手から緑色のガシャットが手放される。その直後にベルトのAボタンをクリックする。

 

 それが時計回りに滞空したのちにスロットに収まる。

 

\ガシャット……/

 

「変・身」

 

\バグルアップ……!/

 

 背後に時計のようなオブジェクトが出現し、それが左右に割れる。

 

\天を掴めライダー! 刻めクロニクル! 今こそ時は、キワマレリィィィッ!!/

 

 雷鳴と共に変身が完了した。

 

 メタルグリーン、全身にとげのような意匠のある戦士、仮面ライダークロノスの姿だった。

 

「あいつも変身できるのか……!」

 

 轟は力んだ瞬間に個性が発動できることに気付いた。

 

「その姿じゃ個性封じできねえみたいだな!」

 

 切島は硬化した両こぶしを打ち合わせる。

 

「ははは、元気があっていいことだ」

 

 氷結、電撃、近接、爆破、SF映画を思わせる派手なエフェクトが出現する。

 

 すぐさまクロノスはABボタンを同時押しする。

 

\ポーズ……/

 

「止まれ!」

 

 その瞬間、すべてが制止した。空を動く雲、優雅に飛んでいた鳥、そして時計の針――時間そのものが止まってしまった。

 

 空中で止まったままの爆豪や切島を押しのけた。水中を動くように平行移動する。

 

「治療の時間と行こうか」

 

\ガッチョーン…キメワザ/

 

 バックルが武器に変化し、銃口が光る。

 

\クリティカル・ジャッジメント……!!/

 

 もれなく全員に被弾し、一瞬だけ動くも再び固まった。

 

\リ・スタート……/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

「……はぁっはぁっ!」

「ってなんかノリで逃げてきたけど何が起こってるの!?」

 

 入院した時のままの服装であったため、耳郎は人の目を引いていた。

 

「あいつら、私の個性を狙ってるの。バグスターウイルスを生み出す、私の個性を」

「まさか――病気の根絶をするため?」

「それだけじゃないの……バグスターウイルスは個性をコピーできる」

 

 裏路地に隠れ込み、追っ手の存在を確認する。

 

 誰もいないようなので胸をなでおろす。

 

「感染した宿主の命と引き換えに進化するウイルスを生み出す、それが私の個性なの」

「もしかして、ウチがゲーム病になったのって」

 

 エミはうなずいた。

 

「ごめん……私と遊んだせいで…………初めてクロトが友達を連れてきたからっ……遊びたく、なって」

「いいよ。だって、助けてくれたじゃん」

 

 今にも泣きそうだったエミを耳郎は抱きしめる。

 

「ありがとう、一緒に遊んでくれて」

「……うん、私も、楽しかった、から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ステージ・セレクト/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として周囲の景色が切り替わる。

 

 どこかの採石場のようだった。

 

「――よぉバグスター」

 

 ここに呼び寄せたのはスナイプ――放矢 タイガだ。

 

「てめえをぶっ潰せば、全部終わるんだ――大人しくしな」

「嫌だッ!」

 

 エミもドライバーを装着しガシャットを起動させた。

 

 

\マイティアクション・エーックス!!/

 

「あと少しなの……! あと少しで、クロトがっ!」

「知ったことか。早くガシャットを寄越せ」

「――変身!」

 

 スナイプの降伏勧告を跳ね除け、変身する。

 

\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアーップ!! (中略)マイティマイティアクション・X!!/

 

「チッ……ミッション開始」

「ノーコンティニューでクリアしてやるっ!」

 

 奇しくも二人の裏の顔は天才ゲーマー。

 

 真っ先にアイテムを取りに動く。

 

「ふん!」

 

 スナイプは的確な射撃でエグゼイドを牽制しつつ、エナジーアイテムの入ったドラム缶を壊す。

 

 一方でエグゼイドは、チョコブロックの足場を生み出しつつ高所のアイテムを狙いに行く。

 

\分身/

 

\伸縮化/

 

 ドラム缶から分身、チョコブロックから伸縮化のエナジーアイテムが出現する。

 

 スナイプは迷わず取得し、三人に数を増やす。

 

「はっ!」

 

 弾幕が増えたせいか、エグゼイドはアイテムに近づけないでいる。

 

「俺はここで負けるわけにはいかねえんだよッ!」

 

 スナイプは新たに出現したアイテムを付近のチョコブロックに使用する。

 

「!?」

 

 足場にしようとしていたエグゼイドは完全に体勢を崩され、空中で身動きが取れなくなってしまっている。

 

\バンバン・クリティカルフィニッシュ!!!! ズ・キューン!!/

 

 必殺技の発動と同時にライフルモードに変更、確実に狙撃しようとする。

 

「バン!」

 

 

 

 弾丸が命中するかに思われた。

 

\挑発! 鋼鉄化!/

 

 それは大きく方向を逸らし、第三者の方向へ向かっていく。

 

「ははっ! 乱入はゲームでのお約束だろ?」

 

 青いライダー、パラドクスが攻撃を妨害していた。

 

「な、なんだてめえは!?」

「俺はパラドクス、レベルは50だ」

 

 乱入者の攻撃でスナイプは変身を強制解除させられてしまった。

 

\ガッシューン……/

 

 そしてプレーヤーでなくなったためタイガはゲーム空間を強制離脱させられてしまった。

 

 残されたパラドクスは残されたゲーマドライバーを手に取ると変身を解除する。

 

「ようやく二人きりだな……エミ」

「生きてたんだ……エム」

 

 同じくエグゼイドも変身を解除する。二人の姿は鏡写しの様にそっくりだった。

 

「退屈してんだろ? 俺と遊ぼうぜ!」

 

 パラドクス――エムは銀色のブランクガシャットを放り投げる。

 

「エム……私はまだあんたの事、許してないから!」

 

 エミはそれをベルトに挿入してレバーを開く。彼女の瞳が赤く輝く。

 

 ガシャットに膨大な量の情報が書き込まれていく。

 

\ガッシューン……/

 

 そしてブランクガシャットにゲームデータが上書きされる。マキシマムマイティX――不死身のゾンビを斃すためにマイティがロボットに乗って戦うゲームである。

 

「ああ……心が躍るなぁ!」

 

 それに応えるようにエムもゲーマドライバーを装着し、ガシャットギアを挿入した。

 

\デュアル・ガッシャット! ――The strongest fist――What's the next stage?――/

 

 二つの待機音が交互に響く。

 

\マキシマム・ガッシャット! ガッチャーン! レベルマーックス!!!! 最大級のパワフルボディ! ダリラガン! ダゴスバーン!/

 

 エミも同じようにガシャットを挿入しレバーを開く。

 

 

「「マックス大変身!!」」

 

 二人の声がシンクロする。

 

\ガッチャーン! マザルアップ!! ――悪の拳(強さ!) 闇のパズル(連鎖!) 悪しき闇の王座! パーフェクトノックアーウト!!/

 

\マキシームパワー・エーックス!!!!/

 

「コンティニューなんて、もうさせない!」

「いいぜ、何度リセットしたってクリアするさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

「――ぐっ」

 

 衛生省のエージェントによって耳郎は捕らわれる寸前だった。個性を使っての抵抗も多勢に無勢、という状況だった。

 

「エミに手出しは――」

「黙れ」

「っ!?」

 

 威嚇しようとするも手を捻られる。

 

 絶体絶命の状況だったが、そこに予期せぬ救世主が現れる。

 

 強面で革ジャンを着ていた。濃いひげが特徴的で、誰かからヒゲとあだ名をつけられていそうだった。

 

「ぐおっ!?」

 

 エージェントは思い切り殴り飛ばされて尻餅をつく。

 

「こ、公務執行妨害だ!」

 

\Enter the game! Riding the end!!/

 

 強硬手段に出られたためエージェントはガシャットを使って変身する。

 

「あ、あなたは……?」

「……」

 

 男は無言のまま革ジャンを半分はだけさせる。その下に着ていたTシャツには“任せろ”と大きく書かれていた。正直ダサかった。

 

 してやったという顔で男は懐から紫色のボトルを取り出し栓をしめる。

 

\……デンジャー/

 

 続けて青のドライバーを腰に装着する。サイドにはレンチのようなパーツが付いていた。

 

\クロコダイル!/

 

 ボトルをベルトに挿入すると不気味で危険そうな待機音が響きだす。

 

「……変身」

 

 男はベルトのレンチを下した。

 

\割れる!! 喰われる!! 砕け散るッ!!!!/

 

 ビーカーのような容器で薬品付けにされるも、直後にそれを両脇からワニの顎を模したパーツが砕く。

 

\クロコダイル・イン・ローグ!! オォォラァァァッッ!!!!/

 

 薬品が吹き飛ぶと、紫と黒を基調としたアーマーが形成され、仮面をワニの顎が砕くことで完成する。

 

 全体的にカッコいい見た目だったが、後頭部にはワレモノ注意のシールがあった。

 

「……ダサ」

 

 悪気は無かったがつい耳郎は呟いてしまった。

 

 

 

 

「――――大義の為の、犠牲となれ」

 

 謎の戦士は冷酷に告げるのだった。




物語は佳境に入ってきましたがここでお知らせです。

次回から作者の気分により映画編――“二人の天才”をお送りします。ごめんあそばせ。


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神のヒーローアカデミア23


ところどころめんどくさくて端折ったZE☆

クロトはどうやってポーズを攻略するのかな?


――――

――

 

 

 衛生省の地下。拳藤はそこで拘束されていた。

 

「――起きろ一佳」

「ん……? っキリヤ!?」

「ばっ! 静かにしろッ!」

 

 忍び込んできているのか、彼は周囲を気にしていた。

 

「(どうなってるの? なんか急に眠らされたんだけど)」

「審議官殿には後ろ暗い事情ってやつがあんのさ」

 

 キリヤは全てを知っているがゆえに話すかを迷った。

 

 一つの嘘が人を救うことがある、彼の信条が口を閉じさせた。

 

「……キリヤ、お前またウソつくのか?」

「っなんだよ藪から棒に」

「それなりの付き合いだし、多少は分かるよ」

 

 ずっと座らされていたせいか、拳藤は少しふらついている。

 

「嘘はいいから、本当のことを言ってくれよ。私だって、知る権利はあるはずだ」

「自分は」

 

 何も知らない、そう続けようとして口をつぐむ。

 

 隠したらまた彼女は秘密を探ろうとするかもしれない。今度は命の危険もあるかもしれない。

 

 そうだとしたら、教えてしまった方が――

 

「衛生省のトップ、陽向 キョウタロウは全人類をバグスター化しようとしている。ゲーム病のパンデミックを起こすことでな」

「なっ!? 衛生省はゲーム病を治療するんじゃなかったのか!?」

「自分の知る限り、そうじゃない。バグスター化した後に何をするつもりなのか、そこまでは想像ができない」

 

 彼は静かにため息をつく。

 

 こんなことなら関わるんじゃなかった。中途半端に関わったせいで何も知らないでいいヒーローの卵を陰謀に巻き込んでしまった。

 

「キリヤ、私は――まだヒーロー資格持ってないけど、黙ってらんないよ」

「んなこと言ったって仕方ないだろ」

「だからさ、許可を出して欲しいんだ。私が無事に脱出できるように」

 

 心臓を鷲掴みにされたように感じた。

 

 どうしてそんなことを言い出すのだろうか?

 

「まさか、バレてないと思ったのか――って、気付いたの今なんだけど」

「んだよ……脅かしやがって。悪ノリが過ぎるぜ」

「私を巻き込んだ罰だよ。それで? さすがに個性がないとここから逃げられないんだけどな」

 

 自分の事を乗せようとしてくる拳藤に呆れてしまう。

 

「乗った。その提案、飲もうじゃないの」

 

 彼女の言い分に説得されたということにして、許可を出してあげるしかないか。

 

「雄英高校ヒーロー科、拳藤 一佳。プロヒーロー“レーザー”の名において戦闘を許可する。ただし、正当防衛の範囲内で、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を抜け出すと、廊下の真ん中で仁王立ちしている人物がいた。

 

 ピンク色のボブカットで、ファンシーな衣装の女性だった。ゲームキャラクターのポッピーピポパポにそっくりだった。

 

「コラー! 勝手に人質を解放するのはルール違反だよぅ!」

 

 キリヤは拳藤を下がらせる。この相手は危険だ。

 

「まさか、バグスター研究がここまで進んでいたとはな……」

「それにワクチンを盗むのも大違反!」

 

 ジャケットのふくらみを指摘され、彼は狼狽の色を見せた。これこそが衛生省に入った目的だからだ。

 

「やだなぁ……自分はそんなやましいことは考えちゃいませんよ」

 

 

 

「――ポパピプペナルティ、退場」

 

 

 一気にドスの利いた声になった。反論は一切受け付けていないようだった。

 

\ガッチョーン…/

 

 すぐさまベルトを装着しガシャットを起動させた。

 

\トキメキ☆クライシス/

 

 そのゲームはゲンムコーポレーション製ではなかった。

 

 マキナビジョン、ライバル会社の作った物だった。

 

「変身……」

 

\ガシャット☆ ――バグル・アップ! ドリーミグガール! 恋のシミュレーション☆ 乙女はいつもトキメキクライシス!!!!/

 

 女の子のような姿の戦士に変身した。

 

「ポッピー:レベルX、参上☆」

「えらく、ノリノリじゃないの……」

 

\爆走バイク!/

 

「二速、変身」

 

\バクソウバイーク!!/

 

 

「乗れ、一佳」

「え、乗れって言われても」

「話は後だ、自分が何とかするから」

「――逃がさないよ~っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

「大義の為の、犠牲となれ」

 

 男が変身した戦士、ローグは拳を握り締めライドプレーヤーを迎え撃つ。

 

「な、攻撃が」

「利かない!?」

 

 ローグには鉄壁ともいえる防御機構が搭載されている。

 

 有象無象の攻撃などかすり傷にすらならない。

 

「ふん!」

 

 ローグの拳が突き刺さり、ライドプレーヤーは大きく吹き飛ばされる。そして彼らの胸部パーツから警告音が鳴り響く。

 

 そんなことに構うことなく、ローグはベルトのレンチを再び下した。

 

\クラックアップフィニッシュ!!/

 

 ローグの足がライドプレーヤたちを挟み込み、そしてライダーガシャットを破壊する。

 

「「「ぐぁぁあっ!」」」

 

 変身が強制的に解除され黒服の姿に戻ってしまった。

 

「……大丈夫か?」

「は、はい」

 

 耳郎は変身を解除したローグに支えられて起き上がる。

 

「くそっ……衛生省をなめるな!」

「……そちらこそ、何の罪もない少女をかどわかそうとして大丈夫なわけはないだろう?」

「なん、だと?」

 

 革ジャンの懐から名刺を取り出して投げつけた。

 

 

「ん!? 国際ヒーロー連盟事務総長:樋室(ひむろ) ゲントク――ってなにいっ!?」

「この人が、あの」

 

 ノーベル平和賞を親子二代で受賞したことで有名な樋室 ゲントク、このひげ面の男がそうなのだという。

 

「貴様らの権力がどれほど強かろうと、俺には緊急時において国家と同等の権限を持つ。貴様らに問おう――その大義は何だ?」

「うっ……!」

 

 ただでさえ強面なのがさらに圧迫感を与え、エージェントたちは気絶する寸前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

「まさか仮面ライダークロニクルを使いこなす奴がいるとはなァ」

 

 ゆっくりと歩み寄ってきたクロノスを前にクロトは不敵な笑みを浮かべる。

 

 クラスメイト達はクロトの話を聞き、全面的な味方となっていた。

 

「聞き分けのない子供は嫌いだよ」

「う、うるせえ! お前なんかなぁ……お前なんか……」

 

 威勢の良かった峰田も、だんだん委縮して縮こまっていた。

 

「私は貴様らの魔の手からエミを護り――彼女を陽の当たる場所に戻すのみィ!!」

 

 クロトはゴッドマキシマムを構える。

 

「貴様など、完成したこのガシャットの錆にしてくれる」

 

\ゴッドマキシマムマイティ・エーックス!!!!/

 

「自分で作った装備の性能を忘れたのかね?」

 

 クロノスは焦らずにABボタンを同時押しする。

 

「みんな来るよッ!」

 

\ポーズ……/

 

 緑谷の号令で防御に動くも、直後に止まる。

 

 格闘術のモーションに入っている麗日、酸を放出している芦戸、腰に手を当てて砂糖を摂取している砂藤、右手に裂撃をチャージするサキ、そして自慢のもぎもぎを出鱈目に投げつける峰田。

 

 すべてがフィギュアの様に静止してしまう。

 

「ふん……邪魔なことだ」

 

 目の前に浮いているもぎもぎを払いのけようと触れる。

 

「ん!?」

 

 しかしくっついてしまって離れない。

 

 それもそのはず。クロノスのポーズはあくまで時を止めるだけ。物質の性質は変わらずに残っているままなのである。

 

 エネルギー弾の熱量は感じようともアーマーのおかげで何も感じない。

 

 だが粘着質な物は防ぐことはできないのである。

 

「くそっ! 離れろ!」

 

 もがいているうちに両手に張り付き、咄嗟にベルトのボタンに触れ、ポーズが解けてしまう。

 

\リ・スタート/

 

 

 止まっていた時が動き出す。

 

 酸や直接的な攻撃を躱すも、更なる拘束を喰らってしまう。

 

「ホウ……峰田君のもぎもぎ。その様子ではポーズとリスタートを繰り返すしかないなァ」

「! オイラの個性……へ、へへん! 今日は快便だったから一日はそのままだぜっ!」

 

\マキシマム・ガッシャット!!/

 

 何事もなかったかのようにクロトは変身を再開する。

 

「くっ!」

 

\ポーズ……リ・スタート/

 

 負けじとポーズをするも弾力のせいで同じコマンドをもう一度押してしまう。

 

「くそっ! くそぉっ!」

 

\ポーズリ・スタートポーズリ・スタートポーズリ・スタートポーズリ・スタートポーズリ・スタートポーズリ・スタートポーズリ・スタート/

 

 タイム連打の様にクロトが動き、変身が完了すると同時に滑らかな動きとなる。

 

\ゴッドマーキシマーム・エーックス!!!!/

 

「無駄なあがきはよせ。この私に、もはやポーズは通用しない……」

 

 その言葉はクロノスにとって死刑宣告に等しかった。

 

「私の新作ゲームのテストプレイにご招待しよう」

 

 





~解説コーナー~

・国際ヒーロー連盟

 この世界ではヒーロー免許の発行を認可する国際的団体。各国がここに所属しており、ヒーロー規則の多くを設定している。この組織に所属しているメンバーは各国のヒーローを裁く権限を与えられ、緊急時には国家に対する捜査権を所有しており、いかに国家組織と言えどそう簡単に逆らえない。なお国家捜査を行うと山のような始末書を書かねばならない。


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神のヒーローアカデミア24 『トゥルーエンディング(前編)』

久しぶりに本編を更新したぞい。



そして鬱展開注意。


――――

――

 

 

\ステージ・セレクト/

 

 

 

 

 

 ステージが切り替わり、崖の多い荒野のような場所になった。

 

\ガシャコン・パラブレイガン!!/

 

 パラドクスは銃と斧が合体したような武器を召喚し飛びかかる。

 

 エグゼイドはロボットから射出されることでそれを躱す。そしてエナジーアイテムを取得しつつキースラッシャーを召喚する。

 

\マッスル化!/

 

 攻撃力が格段に上昇し、一振りごとに爆発が生じる。

 

「ははっ! やるな!」

 

 攻撃を紙一重で躱しながら、パラドクスはパラブレイガンのBボタンを連打している。

 

\分身! 鋼鉄化!/

 

 前者を自分に、後者を武器に付与し引き金を引いた。

 

「ッ!?」

 

 多くの鋼鉄化した弾丸が降り注ぐ。

 

 完全に躱しきることができず、かなりの弾数を喰らってしまった。

 

\8連鎖!/

 

 エグゼイドのライダーゲージが半減する。一撃の威力が大きく変動するのがパラドクスの強さだった。

 

「……やるね」

「お前もな」

 

 パラドクスのゲージもまた、大きく減少していた。にも拘わらず彼は仮面の下で笑っていた。

 

「よく笑ってられるね……このゲージがゼロになれば、死ぬのに」

「死んでも蘇れる、それが俺たちバグスターだ」

「違う! 私は」

 

 否定しようとするも、その声に力は無かった。

 

「私は、人間だよ……」

「嘘つけ。お前は異形型の個性――人の形をしたウイルス。俺と同じでな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 二人は双子の兄妹(きょうだい)だった。医師の一家で、両親はともに優れた医者だった。

 

 元々超常以降、双子の類似性はあまりあてにならないことが多かった。二人とも異なる個性を発現させ、いかに似通った見た目であっても違う能力を発揮するからである。

 

 だがこの二人は全く同じ個性を発現させた。

 

 人間の姿をしたウイルス。

 

 両親の個性とも、二人の兄の個性とも似ていないそれは、ある種の突然変異であったともいえるだろう。

 

 

 

 

 とはいえ、異形型の個性など不自然なことでもない。それ以上に危険な性質を持つ能力などいくらでもあった。

 

 両親も安心して幼稚園、小学校と子供を送り出した。

 

 だが、噂とは恐ろしい物で、二人はウイルスの個性を持っていると知れ渡ってしまう。

 

 そして人類は病原体(ウイルス)には激しい嫌悪感を抱いている。

 

 いくら子供が純真だったとしても親の行動を見て、差別が起きた。

 

 

 瞬く間にそれはいじめへと発展してしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 悲劇は雨の日に起こった。

 

 双子の兄――エムは自動車に轢かれた。

 

 目撃者の証言では、自分から道路に飛び込んだのだという。

 

 すぐに救急搬送されたが、医者の努力も空しく命を落としてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「――お前と一緒にするなッ!」

「酷いな……俺たちは生まれたときから一緒だっただろ!? それは今も変わらない!」

 

\ズ・ゴーン!/

 

 パラドクスの攻撃を、エグゼイドはそのまま受け止めた。

 

 ゲージが急激に減少し、残りはわずかとなっていた。

 

「違う……! あなたはエムじゃない!」

「俺はエムさ! 俺は死んで生き返ったんだよ!」

 

 パラブレイガンが抑えられ、身動きが取れなくなる。エグゼイドは容赦なくキースラッシャーの引き金を引いた。

 

「生き返ってないよ! あの日、エムは死んだんだ! お前がどんなにエムに似ていても――死んだあの日のエムはもう二度と戻ってこないのッ!」

 

\マキシマム・ガッシャット!!/

 

 キースラッシャーにガシャットが装填され、エネルギーがチャージされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 それから半年たった。

 

 双子の兄が死んだことで妹は一人ぼっちになってしまった。

 

 誰もが彼女を腫物扱いで、どこにも居場所がなかった。

 

 そんな時、彼女はゲームに出会う。

 

 ゲンムコーポレーションが発売した“マイティアクションX”が世界的な大ヒットとなり、社会現象となったのだ。

 

 彼女の両親は、悲しみに暮れる娘にそれを買い与えた。

 

 

 

 

 

 

 生きる気力を無くしていた彼女は、ゲームに魅了された。

 

 現実ではどんなに迫害されていても、仮想空間の中ではヒーローだった。元から才能があったのか、気が付けば世界でもトップクラスのゲーマーになっていた。

 

 ゲンムコーポレーションのファンになっていた彼女は、ゲームの製作者に手紙を書いた。

 

 あなたのゲームのおかげで自分は楽しかったと。生きる希望を見つけられたと。そして次はこんなゲームを作ってほしい――双子のマイティが世界を救うために戦うゲーム――そこまで書いて、涙があふれてきた。

 

 結局死んだ兄の事を忘れられていなかった。

 

 ゲームをやっている間は忘れられていても、終わった瞬間にそれを思い出してしまう。

 

 結局ファンレターはぐしゃぐしゃに破り捨ててしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 彼女は学校の屋上から飛び降りようとしていた。

 

 もうこんな世界は嫌だった。ならば死んでしまえば楽になれるのではないか。

 

 

 

 屋上から身を投げ出した瞬間、腕が強く引っ張られた。

 

 見上げると、同じくらいの年の男の子が死なせまいと腕を掴んでいたのだ。

 

 

『早まっては駄目だ! 君の才能をこの世界から無くすわけにはいかないんだ!』

 

 なんだこの変な奴は。普通こういう場面では「命を粗末にしちゃだめだ~」と説得するものではないのか?

 

 これが壇 クロトとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

\MAXIMUM MIGHTY CRITICAL FINISH!!/

 

 

 光線が放たれる。

 

 まともにくらったパラドクスは大きくのけぞり、地面に倒れた。

 

 ゲージは殆ど削られ、エグゼイドと同じになった。

 

 

「……はは、楽しいな。ようやく俺の願いが叶う」

「何の、話?」

「死ぬ前に思った。もう一度だけ、エミと遊びたい。だから俺はこうして蘇った」

 

\ガッチョーン……ウラワザ!!/

 

 パラドクスはレバーを閉じ、必殺技の体勢に入る。

 

「邪魔できないようにヴィランをコントロールした、だからこれが最初で最後のチャンスなんだ! 奴らはもう抑えきれない!」

「エム……」

 

 エグゼイドは躊躇った。

 

 これでとどめを刺してしまえば、もう二度とエムは帰ってこない。

 

 勝手に死んだことは許せない。許すつもりもない。

 

 できることならもう二度とあんな思いはしたくない。

 

\ガッチョーン……キメワザ!!/

 

「ああ、それでいい。本気の勝負だ、エミ!」

「言っておくけど、負けるつもりはないからね、エム!」

 

\\ガッチャーン!!//

 

 同時にレバーが開かれ、必殺技が発動する。

 

\PERFECT-KNOCK OUT CRITICAL BOMBER!!/

 

\MAXIMUM CRITICAL BREAK!!/

 

 

 空中で交差した。

 

 激しいぶつかり合いの末、勝負は決する。

 

 

 

 

 

 

 ――――ウィウィウィン……ビビビビビビビ

 

 

 

 

 

 パラドクスのライフがゼロになる。

 

 変身が自動的に解除された。

 

「……楽しかったぜ、エミ」

「…………どうして?」

 

 変身を解除し、エミは問いかける。

 

「どうして?」

 

 これ以上に言葉は要らなかった。

 

「さあな、忘れたよ」

 

 緩やかに、エムは消滅していく。

 

 その表情は、もうすでに見えなくなっていた。

 

「でも、エミを護りたいって、思ってたかな」

 

 空中へと溶けていく。

 

 コンティニュー出来ない、それがクロトの決めたゲームの絶対的なルール(ただし、自分を除く)

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 

 エミの手がその欠片に触れた瞬間、消えてしまった。

 

 彼の身に着けていたベルトは持ち主を失くし、静かに地面へと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 エグゼイドとパラドクスが戦っていたゲームフィールド。

 

 主役の姿が消えた後、恰幅の良い男性がそこを訪れていた。

 

 

 

 

『パラドクスは消えたか』

 

 彼は“葱”と書かれた扇を広げ、自分を仰ぐ。

 

 傍らには忍者のような姿をした人物が控えていた。

 

『ハハハ! 実に愉快な“ゲーム”だったよ!』

 

 男は高らかに笑いながら、残されたベルトとガシャットを拾い上げた。

 

『ここからは真の(アナザー)エンディングへ――世界の終焉はすぐそこだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 謎の男――ジョニー=マキシマ

 

 個性:???

 

 生身なのにゲーム空間に侵入できる……ヤッベー個性だな!

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、最終回?

まだ書きたいことあるし終わらないと思うけど。


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神のヒーローアカデミア25 『トゥルーエンディング(後編)』

一旦未完としたこの作品も一応のエンディングを迎えられた。

読者の方には感謝しかないです。


――――

―― 

 

 

 

「フゥゥゥ!!」

 

 ゲンムのパンチがクロノスを吹き飛ばす。

 

 両手がベルトで固定されているせいか不格好な姿勢で飛ばされていく。

 

「何故だッ! 何故私の邪魔をするッ!?」

「決まっている……私の才能を、消そうとしたからさァッ」

 

 本当に狙っていたのはクロトではないのだが、そんなことはお構いなしだった。

 

 ゲンムの攻撃により、クロノスは宇宙空間へと放出される。

 

 ロケット噴射によりそれを追いかけ、月めがけて腕を伸ばした。

 

「私の才能はもはやこの星には収まりきらないィ!」

 

 それは月にめり込み、それごとパンチを繰り出した。

 

「うぐおッ!」

 

 地球の大気圏を突破し、そのまま雄英高校のUSJ付近に墜落した。

 

 施設は半壊し、大きなクレーターを作った。

 

 そのおかげでもぎもぎは焼却され、再びポーズのコマンドが使用できるようになる。

 

\ポーズ……/

 

 時が止まるも、ゲンムは止まらない。

 

「なにっ!?」

「無駄だァ……宇宙に時の概念は通用しなァい」

 

 クロノスはゲーム管理者としての強さはあるが、製作者としての強さは持ち合わせていない。

 

 故に、すべてを作り出す神には敵わないのである。

 

「これこそ、最高神たる私の才能なのさぁッ! ブァハハハハハ!!」

 

\ガッチョーン……カミワザ!!/

 

 負けじとクロノスもベルトのBボタンをクリックし必殺技の体勢に入る。

 

\キメワザ……/

 

「私は――不滅だァァァァッ!!」

 

\GOD MAXIMUM CRITICAL BLESSING!!/

 

\CRITICAL CREWS-AID/

 

 上から襲い掛かるゲンムのキック、下から押し上げるクロノスの蹴り。

 

 両者は大きくせめぎ合い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

『――続いてのニュースです。衛生省の雄英襲撃事件から一週間経過しましたが、昨日、衛生省の解体が閣議決定されました。さらに警視庁の調査ではバグスターウイルスの散布の容疑も』

 

 カフェの店内にあるテレビでは、衛生省の不祥事が報道するニュースが流されていた。

 

 キリヤはそれを聞き流しつつ、英字新聞を広げる。読むというよりは声を掛けられなくするための工夫なのだが。

 

 結局のところ、陽向 キョウタロウの事を悪く言う人間は多くは無い。陰謀説だったり、黒幕がいる説の方が指示されている。

 

 彼は俗にいう名医だったのである。

 

 すべての患者に対して真摯に向き合い、ただ病気を治すのではなくアフターケアまでが治療、と考える人であったらしい。

 

 だが彼の人生はある患者を救えなかったことで狂ってしまう。

 

 患者の名は二条 エム。交通事故の急患で運ばれてきて手術を行うも、彼が生きることを拒否するかのように失敗してしまったのだ。

 

 そのことが陽向の心に影を落としたのかもしれない。

 

 もしかすると、元々壊れる寸前だったのかもしれない。

 

 一つだけ、確実に言えることがあるとすれば、彼自身は全ての人間が健康で暮らせることを祈っていたことだ。

 

 全人類のバグスター化という手段は間違っていたが、病にかからず死ぬことのないバグスターという生命体は、まさに彼の望む永遠の健康という考え方だったのだろう。

 

「……真相は闇の中、かね」

 

 

 キリヤは衛生省から逃走に成功していた。

 

 追っ手のバグスターは途中から姿が見えなくなっていたのだ。

 

 拳藤を警察に保護させ、雄英高校に向かったがすべては終わっていた。

 

 壇 クロトの手で陽向 キョウタロウ暴走は止められ、ライダーシステムの副作用で消滅してしまっていた。

 

 

 

 すべてはキリヤの推測でしかない。

 

「――あ、いた」

 

 顔をあげると、外で拳藤が手を振って彼の事を呼んでいた。

 

 支払いを済ませ、彼女の下へ向かう。

 

「どうした、自分になんか用があるのか?」

「い、いや……渡したいものがあってさ」

 

 と、差し出されたのは紙袋だった。

 

 中をのぞいてみると、少しオシャレなサングラスが入っていた。

 

「いつもの奴じゃかっこ悪いだろ? 少しくらいオシャレなのでもいいか、って」

 

 恥ずかしそうに彼女が俯いているのを見て、少しだけ穏やかな気分になった。

 

 キリヤはずっとあっていない妹の事を思い出した。

 

 丁度、拳藤達と同じくらいの年代なのだ。

 

「……どうだ、似合うか?」

 

 早速それをかけてみる。

 

「う、うん……まぁまぁ、かな」

 

 やはり恥ずかしそうにしていた。

 

 少しだけ魔がさして、急に顔を近づけてみる。彼女は驚いたのか、ぎゅっと目を閉じてしまう。

 

 そういうこと、をするつもりは無かったので、耳元でささやく。

 

「ありがとな」

「っ!? え、ああ」

 

 何かを期待してたのか、拳藤はがっかりと肩を落としている。

 

「ははっ。あれ、ノせられちゃった?」

「ッ! からかうなよ!」

 

 どうやら怒ってしまったようで、叩かれた。

 

「――じゃ、自分はこれで」

 

 キリヤは彼女の頭に手を触れ、個性を発動させた。

 

「リプログラム:消去」

 

 彼の二つ名は“潜入ヒーロー”――普段名乗るときは“爆速ヒーロー”としている――ありとあらゆる組織に潜入し、その悪事を暴き立てる。

 

 どんなに仲の良い協力者を得ても、最後には記憶を消して一切の痕跡を抹消する。

 

 たとえ相手が自分の事を好いてくれていても、だ。

 

 

 彼女の記憶を置き換え、『二条 キリヤが編入してきてから今まで』をなかったことにした。

 

「…………?」

 

 きょとん、としている彼女に背を向けて歩き出す。

 

(……こんな嘘吐きに、引っかかるんじゃねえぞ)

 

 その姿は、瞬く間に人ごみに紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 キリヤは衛生省から入手したワクチンを手に、壇 クロトの屋敷へとやってきていた。

 

 そこに住む妹にこれを投与し、個性が生み出すウイルスを無毒化する。

 

 衛生省へ潜入した目的はこれだった。

 

 すべては妹を救うために。

 

 だがその考えは、クロトと妹のやり取りを見ていて変わった。

 

「……なんだ、えらくノリノリじゃないの」

 

 彼はワクチンの入ったガシャットを置き、静かに立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「どうしたの、またゲームのテストプレイ?」

「ああ、その通りさァ……私の才能が、また一つ具現化した」

 

 見られていることを知らず、二人は中庭にいた

 

「これこそはマイティアクションXの続編――その名も“マイティブラザーズXX”」

 

 エミは差し出されたガシャットのラベルを見て愕然とする。

 

 これはどう見ても――自分が昔書いたファンレターの中で思い描いたゲームだったのだから。

 

「なんで……」

「昔、一通のファンレターが私に届いた。それは引き裂かれていた物をつなぎ合わせていた物だったが、十分に思いは伝わってきた。そして新たなゲームのアイデアに、私の才能は大きく刺激を受けた――ぜひともこれを考えた人物に会いたい」

 

 だから、あの時。

 

 自殺しようとしていたエミを助けることができたのは、ファンレターを誰かが出したおかげだったのだろう。

 

「まさか、こんなにも才能の溢れる君が、屋上から飛び降りるとは思ってなかったが」

「っはは……」

 

 彼女は笑ってごまかした。

 

「ゲームの内容は、言うまでもあるまい。双子の君にふさわしいゲームだ……私の設計通りなら、いや、これ以上はネタバレはすまい」

 

 言いたいことが分かる気がした。

 

 このゲームを使えば、もしかすると。

 

\マイティブラザーズXX/

 

 ゲームエリアが展開されていく。

 

 彼女はゲーマドライバーを装着し、ガシャットを装填した。

 

「……変身」

 

\ダブル・ガッシャット!!/

 

 深呼吸し、レバーを開く。

 

\ガッチャーン! ダブルアーップ!!/

 

 不思議な感覚に襲われた。

 

 まるで自分の中にもう一人、誰かがいるかのような錯覚。

 

\俺がお前で! お前が俺で! (We are!) マイティ!(マイティ!)ブラザーズ・ダブルエーックス!!!/

 

 

 エミの姿はグリーンのヒーローだった。

 

 そしてそのヒーローには相棒がいた。

 

 まるで鏡写しのような、オレンジ色のヒーローが。

 

「……ここ、は?」

 

 オレンジの方は戸惑うように自分の姿を見つめている。

 

 

「これこそ神からの恵み……私は命でさえ創造する。君はそれを許したくはないだろうが、拾いなおすことのできる命があるなら、拾うべきだと思うがね」

 

 積もる話もあるだろう、とクロトは気を利かせて屋敷へと戻っていった。

 

「全く、私の才能は恐ろしいッ! ブゥヘヘヘヘヘヘ」

 

 ……最後の一言は余計だったが。

 

 

 

 

 しばらく二人は見つめ合っていた。

 

 かける言葉が見つからないのだろう。

 

 先に口を開いたのはエミの方だった。

 

「……おかえり、エム」

「ああ、ただいま、エミ」

 

 二人には、それで十分だった。

 

 お互いに変身を解き、静かに抱き合った。

 

 

 

 ……神の高笑いが、背後で響いていたが。



























































これで終わると思った?

残念、まだ真のエンディング(アナザーエンディング)があるのです!



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最終章 アナザーエンディング
アナザーエンディング1


結局こっちを更新したのだ!

そろそろ一話目の投稿から一年……え? マジ?

一発ネタがまさかの一年継続だとぅ!?


――――

――

 

 

 ――X年前

 

 

『速報です! 現在○○市に出現している謎の巨大ヴィランは未だに勢力を保ったまま――わッ!?』

 

 映像が乱れる。

 

 映像を記録していたヘリコプターのカメラが大きく揺れたのだ。

 

『だ、大丈夫ですか……ええ、はい……現場から入った情報です。現在巨大ヴィランの周囲10km以内からの退避命令が出されたとのことです。近隣の方は速やかに避難をしてください。繰り返します――』

 

 スタジオのアナウンサーがフリップを取り出しヴィランの解説をはじめる。

 

 巨大ヴィランの名前は“ゲムデウス”

 

 個性は不明。正体は不明。目的も不明。すべてが不明だった。

 

 体長は高層ビルと同等、戦闘力は並のヒーローでは太刀打ちできないほどであった。

 

 

『現在オールマイトは海外の式典に出席中の為、到着は遅れるものと思われます。くれぐれも戦闘区域には立ち入らないように願います』

 

 

 チャンネルを変えると、ドローンによってヒーローの戦闘風景を映し出している番組があった。

 

 たった一人で未知の敵と戦い続けている竜騎士。

 

 ヒーロー名は“ドラゴンナイト”

 

 誰も救援に来ず、相性など悪いことが分かっている。それでもなお戦い続けた。

 

 

 ――――人々の平和を護り抜くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……巨大(ヴィラン)ゲムデウス事件。

 

 推定被害世帯――2万。

 

 軽傷――多数。

 

 重傷――複数、ただしその後死亡した人はいない。

 

 死者――1名。

 

 

 一人の英雄(ヒーロー)によって被害は最小限に抑えられた。

 

 ……彼の命と引き換えに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「はぁ……進路希望:王様…………なあ、時和」

「え、何か問題でも?」

 

 進路指導室に呼び出された時和 ソウゴはあっけらかんとした様子で返事をした。

 

 教師は薄くなった頭髪を掻きむしりながら髪を叩きつける。

 

「問題も何も……お前、自分の進路の狭さが分かってるのか?」

「まあ、王様しか見てないんで狭いですよね」

「そういう意味じゃないッ!」

 

 時和 ソウゴには個性が無かった。

 

 俗にいう無個性であった。その時点で進路からヒーローが消滅する。

 

 そして成績――お世辞にもいいとは言えない。理系科目が壊滅的だった。この時点で理系の道は閉ざされているといっていい。

 

 つまり、相当努力しなければならない、ということだ。

 

「無個性で、やけになってるかもしれない! でもな、世の中には無個性と何ら変わらないような個性の人だって大勢いるんだ!」

 

 教師は自分の個性を発動させる。ちょっとだけ爪が伸びた。ほぼ無意味な個性だ。

 

「でも……俺、王様になるッて決めてるから」

 

 それでもソウゴの心には響かなかったようだ。

 

 

 

「……――時和ァッ!」

 

 お説教は数時間続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「……ん?」

 

 ソウゴは下駄箱に黒い時計のようなものが入っているのに気付く。

 

「誰のだろ、明日探そ」

 

 特に気に留めることなくそれを制服のポケットに入れ、家路につく。

 

 あと半年でこの道を通ることは無くなる。

 

 どこの高校へ行くかは決まっていないが、なるようになると思っていた。

 

 最悪中卒でも王様になれば関係ない、そう思っていた。

 

 

 

「――――今日は君にとって特別な一日となる」

 

 背後から声を掛けられた。

 

 驚いて後ろを向くと、辞典のような大きな本を携え、夏だというのにストールを巻いた青年が立っていた。

 

「あの……俺に、用ですか?」

「――この本によれば、君は今日運命的な出会いをする」

 

 青年は音読をするようにソウゴに話しかけた。

 

「でも“白い忍者”に気を付けて」

「…………(なんだこいつ)」

 

 ソウゴは気付かれぬように小声でつぶやき、逃げるようにその場を去っていった。

 

 

「――ご武運を、我が魔王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「時和 ソウゴくんだね?」

 

 本日二度目の不審者だった。

 

 今度は真夏だというのにコートを羽織り、目深に帽子をかぶっている人物だった。

 

「ひ、人違いです……」

 

 今度は見た目が妖しさMAXだったのですでに及び腰だった。

 

「いや、嘘は良くない。君は時和 ソウゴという名前のはずだ」

 

\ハリケ-ン・ニンジャ/

 

 男はコートのポケットからガシャットとゲーマドライバーを取り出し、装着する。

 

「ッ!」

「変身」

 

\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアーップ!! マキ・マキ・タツ・マキ! ハリケーンニンジャ!!!!/

 

 その姿が、白い忍者となる。

 

 

『――でも“白い忍者”に気を付けて』

 

 ソウゴは迷うことなく逃げ出した。

 

 地の利はこちらにある。

 

 上手く巻いてしまえば――――

 

 背中に何かが当たる。

 

 その直後に視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 どこからともなくジョニー・マキシマが姿を現し、白い忍者の隣に並び立つ。

 

「Great! やはりニンジャは素晴らしいね!」

 

 と、彼は“葱”と書かれた扇を広げる。

 

「もっともっと、無個性の少年少女を探していこう! 彼らに最高のentertainmentをプレゼントしようじゃないか!」

 

 忍者の影からさらに忍者が出現する。まるで分身の術を使ったかのように。

 

「すべての人間は私が満たしていくのサ! そのための個性を、天が私に授けたのだからネ!」

 

 忍者たちは散開していく。

 

 多くの人間をゲームの世界へ引き込むために。

 

 

 

 

 ジョニー・マキシマ。

 

 個性:VR

 

 仮想現実を作り出す能力。どうやらゲーム空間にも侵入できるらしい。あれ、思ってたよりショボい個性じゃね?(by解説役)

 

 





おい誰だよウォズさん呼んだやつ。

我が魔王出てきちゃったじゃんか。(超特大ブーメラン)


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アナザーエンディング2


オーズの配信でテンションが佐藤太郎状態。ふと思うけど、ガメルとメズールの失われていたメダルは当初誰が持っていたのだろう?

順当に考えればハピバおじさんだけど……作中最大の謎である。


――――

――

 

「…………」

 

 サキは机の前で呻っていた。

 

 原因は赤点補習のプリントだった。彼女は運悪く数学で赤点を取ってしまった結果、ペナルティとして課題を出されてしまったのだ。

 

「ええ、と……まず頂点を求めるには、平方完成」

 

 数式がすらすらと書き出されていく。

 

「で、ABCの面積を求める……」

 

 シャーペンの先がそれぞれの点を行ったり来たりする。

 

 彼女の額には冷汗が浮かんでいた。

 

「無理……」

 

 無意識のうちに個性が発動し、シャーペンが割れてしまった。

 

 助けを求めるためにスマホを取り出すも、ふと思いとどまる。

 

「これ、自力で出来なきゃまた……」

 

 補習課題すらまともにできないとあってはこの先が思いやられる。仕方なく頭を捻らせることにする。

 

 

 ――グゥウゥ

 

 

 だが腹の虫がそれを許さなかった。

 

「――――ああもう!」

 

 彼女は勉強を止め、着替えを始めた。

 

 部屋はきれいに掃除されており、クローゼットの中はきちんと整理整頓されていた。ヴィジランテ時代にまとっていたライダースーツもしっかりと残されている。

 

 それまで着ていた服を丁寧にたたみ、ベットの上へ置く。

 

 

 だが部屋の外は様子が違っていた。

 

 廊下には脱ぎ散らかされた服が散乱し、リビングの方はコンビニ弁当の容器が積み重なっていた。全体的に埃が溜まっており、まるで彼女の部屋だけ別の家から持ってきたかのような印象を受けた。

 

 

「……行ってきます」

 

 サキは玄関に置いてあった写真に向かって挨拶をした。

 

 昔撮った写真で、()()()()()()()()()()のまま映る父、何とかコスチュームの仮面を外そうとしている母、そして幼いころの自分。

 

 写真が嫌いだった、今は亡き父の映る唯一の写真だ。

 

 

 彼女の父のヒーロー名は――ドラゴンナイト。

 

 かつて巨大ヴィランと戦い、命を落としたヒーローだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 近くのバーガーショップ、そこはサキがよく利用する店だった。

 

「……よしっ!」

 

 彼女は気分転換に携帯ゲームを行っていた。いつしか熱中し、注文したハンバーガーは放置されたままだった。

 

 一段落し、それに手を伸ばすと空振りする。

 

「え……」

 

 改めてお盆の上を見ると、何もない。

 

「おいしいガァ~」

 

 代わりに、彼女のハンバーガーを勝手に食べている小男が一人。

 

「…………」

「ガァ?」

 

 

 

 

 

 

 ヴィラン:バガモン

 

 個性:バーガーメイク

 

 ハンバーガーの具材を生成できる! そしてハンバーガーが大好物だぞ。

 (犯罪歴:ハンバーガー食い逃げ、ハンバーガー窃盗etc...)

 

 

 

 

「――――ッ!! 貴様ぁッ!」

 

 仮面をかぶっていないにもかかわらずグラファイト化したサキは怒りのままに個性を振るった。

 

 テーブルが引き裂け、プラスティック片が飛び散る。

 

「ガァ!」

 

 バガモンは尻尾を巻いて逃げ出した。

 

「待てッ!」

 

 食べ物の恨みは何とやら、普段は優し気なオーラを纏っている彼女からは信じられないキレ具合だ。

 

 相手も歴戦の食い逃げ犯、足の速さでは勝ち目が薄い。

 

 サキが牽制に個性を発動しようとしたときだった。

 

 

 

\ガッチャーン! レベルアーップ!! (中略)バーガー⤴! バーガー⤵! ジュー・ジュー・バーガー!!!!/

 

 バーガー店員のような姿をしたピンク色のゲンム――エグゼイドがバガモンの進路を阻むように立ちはだかる。

 

「みーつけた!」

「が、ガガァッ!」

 

 エグゼイドは腕のケチャップ&マスタード銃を構える。

 

 次々に発射されるバーガーの具材たちを調味料で固定し、ローラーブレードで躱しながら接近していく。

 

「こ、こっち来るなガァッ!」

「そうはいきませんよッと!」

 

\キメワザ! ジュージュー・クリティカルストライク!!/

 

 エグゼイドの早業によって空中の具材たちが一瞬でハンバーガーにまとめ上げられる。

 

「――お待たせしました、お客様♪」

「ん、ガァ……ん、ンまいッ!」

 

\ゲーム・クリア!!/

 

 

 音声が鳴った瞬間、バガモンが硬直してしまう。

 

「――ジュージューバーガーは、我が儘な客の要望に応えながらハンバーガーを作り上げるゲームゥ……新たに、私の才能が具ゥ現化したぁッ! ブエェハハハハハハ!」

 

 呆然としていたサキは苦笑いを浮かべた。

 

 まさかこんなところでクラスメイトに出会うとは、思ってもいなかった。しかもプライベートでもあんなノリとは思ってもいなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「いただきまーす!」

 

 クロトの同伴者、エミは大きく口を開けてチーズバーガーにかぶりつく。空腹のサキには堪える光景だったが気合で耐えた。

 

 警察によって謎のヴィラン、バガモンは逮捕されあっという間に営業再開。その上ヴィラン出現によって野次馬などが客となり大繁盛だった。

 

「……しかし君がここにいるのは正直意外だったよ、竜ヶ峰 サキ。君のような人物がファストフードを嗜んでいるとはね」

「いや~……両親が共働きだから、ご飯は基本外食なんだよね」

 

 サキは視線を逸らしながら答えた。単純に理由はほかにもあったが説明する義理は無い。

 

「それはそうと、君は何も注文しないのか? 見たところ、さっきのヴィランに食事を奪われたようだが」

「ええ、と……」

 

 グゥ、と可愛らしく腹の虫が泣く。彼女は赤面しつつ質問に答える。

 

「もう手持ちがなくて……テーブル壊しちゃったから代わりの商品もらうのも申し訳なくて」

「ホゥ……ヌァラバ、私が神の恵みを与えてやろう」

 

 クロトはおもむろに立ち上がり、並んでいる客を押しのけて注文をしに行った。

 

「あ、待って壇君! 私の事はいいから」

「お言葉に甘えなよ、お姉さん」

 

 順番を無視したことで口論になっているクロトを止めようとするも、エミによって制止される。

 

「クロトは自分のゲームのファンには紳士なんだよ。前に“ドラゴナイトハンターZの大ファンがいたって”大喜びしながら帰ってきたことがあってね」

「――止せ、その先は最重要機密だ」

 

 いつの間にやら購入を済ませていたクロトがバーガーその他諸々をお盆に乗せて運んできていた。

 

「あ、ずるい! 私にはポテト買ってくれなかった!」

チーズバーガー(それ)はテストプレイの報酬さァ! 欲しければ自分で買うといい……サァ竜ヶ峰 サキ、神の恵みを受け取れエェッ!」

 

 断るのも申し訳ないのでサキは好意に甘えることにした。

 

「じゃ、じゃあ……いただきます」

 

 食べ損ねていたお昼御飯がようやく彼女の口に運び込まれる。

 

 いつもよりも少しだけ、ほんの少しだけ、美味しく感じた。

 

 

「お姉さん! ポテトちょうだい♪」

「うん、いいよ」

 

 もしかしたら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――???

 

 

 ソウゴはふかふかのベットの上で目を覚ます。

 

「あれ……俺、なんでこんなとこに」

 

 それは絵本の中に出てきそうな、()()の寝室のようだ。

 

「――お目覚めですか、王様」

「え、王様……? 俺が?」

 

 よく見ると、着ているのも高級そうなシルクの寝間着で、本当に王様になった気分であった。

 

「ここは現実ですよ。お食事の用意はもうできています、早くお支度を済ませてください」

 

 ふわふわと、現実感のない夢のようだった。

 

 でも――夢だった王様になっているのは、とても気分がいい。

 

「う、うん! わかった!」

(そっかぁ……俺、王様になれたんだ!)

 

 召使に着替えを手伝ってもらう最中、ソウゴは終始にやけていた。

 

 

 だが鏡に映る彼の表情は、なぜだが曇っているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 










サキちゃんに研修医要素が追加された! 

作者の“重いバックボーン与えたい病”がぐぐーんと悪化した!


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アナザーエンディング3

前歯が、痛い……虫歯かな?

それと活動報告に上げた通りいくつかの作品を凍結させ、リメイクか削除する予定です。あしからず。


――――

――

 

 雄英高校の林間合宿。

 

 普通の高校ならば目的地到着まで面倒を見てくれるものなのかもしれない。

 

 だが試練を与えることに定評がある雄英だ。親切設計になるはずもなく。

 

 

 全員バスを降りたところで千尋のへ落とされてしまった。

 

 

(オイラ耐えたッ! 耐えたぞッ!)

 

 途中休憩で用を足そうと思っていた峰田は、もうその辺での立ションを覚悟し少し離れた茂みに隠れる。

 

「はふぅ……(これぞ男の特権)」

 

 すっきりとした彼はふと足下を見る。

 

 何やら見覚えのある紫色の土管が存在していた。

 

 そう、貧弱なクロトはこの落下でライフを失っていたのだ。しかも復活地点を選ばなかった結果、最悪の場所で復活してしまったのだ。

 

「あ……」

「峰田 実ゥ……この私にッ! よくもォッ!!」

 

\ゴッドマキシマムマイティX/

 

 クロトは臭気の漂う液体を滴らせながら、ガシャットを起動させる。

 

「ご、ごめんッ! 本当に悪気は無かった――」

 

 峰田の言葉が止まる。クロトの背後に出現した魔獣が目に入ったからだ。

 

「だ、だだだん……後ろ」

「丁度いい――グレードビリオン・変身!」

 

\(省略)ゴッドマーキシマーム・エーックス!!!!/

 

 だがそれはゴッドマキシマムによって粉砕される。

 

 その奥にいる魔獣たちに意志は無かったが、どこか怯えているようにも見えた。

 

「丁度いい……今の私はァ……かなり、機嫌が悪ゥいッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

「三時間……あの分なら二時間ぐらいで着きそうね」

 

 爆発する森を眺めつつマンダレイはため息をついた。

 

「おっかしいな~もう少し魔獣の強さ上げとく?」

「ほどほどにしてくださいよ……全員が全員規格外なわけないでしょう」

 

 99回蘇ることができるクロト、元ヴィジランテのサキ、入試トップの爆豪、推薦組の中でも頭一つ抜けている轟、その他実戦経験のある面々。

 

(とはいえ、このままだとスケジュールが狂うな……)

 

 一般的なクリアは6時間程度を見込んでいる。ともすれば到着が夜中になる可能性まで想定していた。

 

「魔獣の数を増やす、そのくらいが妥当ですよ」

 

 森の方から悲鳴が響いてきた。

 

 試練を課すのが雄英、生ぬるい合宿になどなるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 結局、A組が森を抜け出たのは日のくれる時間帯だった。

 

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・残りライフ、21……」

 

 特に物量圧殺されかかっていたクロトはライフを大きく減らしながらの到着で、他の面々もボロボロであった。

 

「お、『お昼ごろには着く』って嘘じゃないすか……」

「それは私たちならってこと」

 

 瀬呂の絞り出した言葉にマンダレイが答える。途中で難易度修正があったことは秘密だ。

 

「ねこねこねこ! とはいえ優秀なのは事実、今のうちにツバ付けちゃおー!」

 

 ピクシーボブの(物理的な)ツバ着けにクロトが爆発した。

 

「これ以上――私に汚物をつけるヌァッ!」

 

 

 

 なおこの一件で峰田は反省文を書かされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

――――夜、入浴時間

 

 

「この壁を越えた先にオイラの求めた世界があるッ!」

 

 懲りない峰田は壁の向こうの女湯(りそうきょう)を目指してクライミングをするも、その願いはかなわなかった。

 

「……ヒーロー以前に、人のあれこれから学び直せ」

 

 マンダレイの甥っ子、洸太によって阻まれたのだ。

 

 

「チ、チクショォォォォォッッ!」

 

 地面に叩きつけられた峰田を助ける者はいない。

 

 

 そして女子勢の肢体を見て気絶した洸太が壁の向こう側に落ちてしまう。

 

「あっ!」

 

 緑谷が咄嗟に動こうとするも、壁の向こうで救出劇が起こったのか女子たちの安堵の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「サキ姉ナイスキャッチ!」

「はぁ……危なかった」

 

 咄嗟に動いたのはサキだった。俊敏な動きで洸太を抱き留め、滑りやすい石畳の床に着地した。

 

 その拍子に彼女の双丘が大きく揺れる。

 

 脱ぐと(本気(マジ)で)すごい彼女のそれが純粋な少年の頭に乗っかる。

 

「……ママ」

「へ?」

 

 気を失っている彼は消え入るような声でつぶやく。

 

 だがこれ以上追求する余裕は無かった。

 

「た、大変ッ! 耳郎さんが気絶してますわッ!」

「ゆ……ゆれ…………」

 

 峰田(くそやろう)のせいでとんだ騒ぎとなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 ……なおこの騒ぎを聞いた相澤は峰田の除籍を本気で検討していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

――――???

 

 

 

 ソウゴは王様として街を散策していた。

 

 普通そんなことをすれば臣下の者に止められるものだが、そこはなぜか都合よく許された。

 

 ただし、両脇には護衛が控えている。

 

 

「――貴様が、時和 ソウゴか?」

「え……? あんた誰」

 

 彼は道端に座っている、みすぼらしい格好の老人に声を掛けられる。

 

「貴様が、王の時和 ソウゴか?」

「う、うん……」

 

 老人はボロボロの服をまとい、伸ばし放題の髪は目元を隠し、伸びすぎたひげは口元を覆っていた。

 

「おい貴様! 不敬だぞ!」

 

 護衛が老人に向かって剣を突きつけるも、動揺した様子もなく続ける。

 

「貴様に、問うておかねばならないことがある」

 

 白髪の隙間から鋭い眼光が覗く。

 

 それはソウゴを怯ませるのに十分な威圧感だった。

 

「貴様は、何故王となった?」

「え……? なんでって、王様になりたかったから」

「王となり、何を成すつもりだ?」

「べ、別に……」

 

 いきなりの質問にソウゴはあせる。

 

 なにも説明できなかったからだ。

 

 確かに彼の夢は王様になることだった。でも王様になって何をしようか、王様としてどうするべきなのか、全くと言っていいほど考えていなかったのだ。

 

「そうか……貴様は所詮、その程度の器か」

「ぶ、無礼者ぉっ!」

 

 護衛が老人に向けて剣を振り下ろす。

 

 その瞬間、時が止まった。

 

 老人と、ソウゴ以外の世界がすべて制止した。

 

「と、時を止める個性……?」

「貴様には失望した」

 

 

 老人が立ち上がった瞬間、その姿が変化した。みすぼらしい姿は変装だったのだ。

 

 黒を基調にした和服風の装束、精悍な顔立ち、刻まれた皺は彼の人生の重さを感じさせた。

 

「し、失望したって……どういう意味だよッ!? 俺は王様になる夢をかなえたんだッ! あんたみたいな個性で人生成功した奴にどうこう言われる筋合いはないッ!」

「ふん……貴様が王? 笑わせるな……!」

 

 すさまじいプレッシャーを感じた。

 

 立っているだけでも腰を抜かしてしまいそうな、そんな気がしてきた。

 

「貴様など、他人の舞台で踊る道化にすぎん……!」

 

 一歩、老人が踏み込む。それだけでソウゴは腰を抜かしてしまった。

 

 歩いているだけなのに、命を脅かされているように思えてくる。

 

「本当の王になりたいなら、決断するがいい」

「な、なにを……?」

 

 老人の姿が変化する。

 

 黄金の鎧をまとった、魔王のような姿に。

 

「このまま下らぬ夢を見続けるか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「――王様、時間ですよ」

「……んぇ?」

 

 声を掛けられ、ソウゴは目を覚ます。

 

 気が付けば魔王のような老人は姿を消しており、例のふかふかなベットの上で眠っていたことに気付く。

 

(なんだ、夢か……)

「もう少し寝かせて」

「承知いたしました」

 

 彼は二度寝をすることにした。そんな堕落を咎めてくれる者はいない。

 

(にしては、なんかリアルだったけど)

 

 夢に出てきた老人。

 

 その魔王のようなプレッシャーが、頭にこびりついたまま離れない。

 

 

「俺は王になったんだ……王になったから、いいんだ」

 

 言い聞かせるように呟く。

 

「そうさ、俺は王様なんだから、いいんだ」

 

 窓の外から、その様子を何かが眺めていた。

 

 

 







この老人……誰だ?(すっとぼけ)


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アナザーエンディング4

――――

――

 

 

――――ゲンムコーポレーション社長室

 

 

「はい、もしもし……ああ、財団Bの会長さんですか。ご無沙汰しております」

 

 壇 マサムネは日本最大の財閥である財団Bの会長から電話を受け取る。

 

 特に新商品を発売した覚えもなく、世間話か次の提携の話かと思った。

 

「……え?」

 

 

 相手に言われ、ネットニュースのサイトにアクセスする。

 

 そこにはゲンムコーポレーションとマキナビジョンが共同開発した新作ゲーム『カメンライダークロニクル』が売り切れ続出の大ヒットを記録しているとあった。

 

(なっ……!)

『いやいや、サプライズとはニクい演出ですな』

「ええ、その方が、インパクトがあって……」

 

 そんなはずは無かった。

 

 まだカメンライダークロニクルは不具合が――それも致命的な不具合があってリリースは見送る予定だったのだ。

 

「で、では……どうやら記者が取材に来たようで、失礼します……」

 

 彼はゆっくりと通話を切り、マキナビジョンの電話番号にかける。

 

『…………プッ』

 

 しかし繋がらなかった。

 

 つまり、これは向こう側の策略ということだろう。

 

 

「――っくそ! やってくれたな……!」

 

 マサムネは拳を机に叩きつける。

 

 その直後、背中に何かが突き刺さる。

 

「――!?」

 

 彼の個性は認識範囲内の時間を止める、というもの。

 

 つまり認識できなければ止めることすらできない。

 

 この事態を解決できる人物は、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 街ではカメンライダークロニクルを購入できた幸運なゲーマーたちがプレイをはじめていた。

 

「っしゃぁ! レベルアップ!」

 

 ボスキャラを撃破したプレーヤーたちはハイタッチを交わし、戦利品を分け合っていた。

 

 そんな中、プレーヤーの一人がスマホを掲げた。

 

「お、おいっ! 早速イベント実施だって!」

「ま、マジかよッ!?」

「さすがはゲンムだぜ!」

 

 彼らは各々でその情報を探る。

 

 イベント内容は『アイテム捜索』

 

 マップ内に存在している多種多様なアイテムを探し、報酬と交換できる――ありがちな内容だった。

 

「場所は……神野区かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 街でそんなことが起こっているとはつゆ知らず、雄英高校の合宿は阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

 各々の個性を伸ばすべく、強大なムチが振るわれていたのだ。

 

 

 さて、この強化訓練は当然部外秘である。第一、死に物狂いで個性を発動している場面を見たいもの好きな方はそう多くはいないだろう。

 

 だがここに、一部始終を記録した資料がある。

 

 特別に、御覧に入れよう……。

 

 

 

 

 

――――

 

「フゥッ! フゥッ! フゥッ! フゥッ! フゥッ!」

 

 クロトは狂ったように緑色の甲羅を壁に蹴り当てていた。

 

 その間、彼の頭上に表示されるライフカウントが1ずつ増えていく。

 

「ブゥヘヘヘ……これで私の命は――無限だァッ!」

 

 元の状態――つまりライフが99になった時点で甲羅蹴りを止め、近くのパソコンの前に座る。

 

 今度は超高速人差し指タイプでゲームを開発していく。

 

「雄英も酷なことをしてくれるゥ……このッ私の才能の限界を突破させろとはナァッ!」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 開発に執念を燃やし過ぎてライフが尽きるも、即座にコンティニューし開発を続行する。

 

「私の敵は、まさにッ! 私自身の才能だったということデァッ! フェハハハハハハ!!」

 

 開発でライフが減る→ライフを増やすの無限ループにより、すでにクロトは数百回も命を落とし、その分だけコンティニューをしていた。

 

 

 

 

 強化内容:残りライフの増加+新装備の発明

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「――お前の全力を打ち込んでこォィッ!」

「20%デトロイトスマッシュッ!!」

 

 緑谷の拳から衝撃波が放たれる。

 

 そんな彼の両手両足にはおもりが着けられていた。

 

 

「す、すごい……20%でここまで」

「ホゥやるではないか――30kg追加ァ」

「う”!」

 

 重りのウェイトが加算される。更に負荷がかかるようになった。

 

「まだまだ筋繊維千切れてないだろ? もっとしようぜ、ウルトラァ……」

「い、イエッサァッ!」

 

 増強系個性の身体強化、我'sブートキャンプは他と違って軍隊じみたトレーニングだった。

 

 指導教官はプッシーキャッツの一員、虎。一人だけゴリゴリの武闘派と言った出で立ちだ。

 

 

 

 強化内容:身体強化、並びに許容上限の増加

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 皆が外で体を動かす中、サキは一人だけ室内にいた。

 

「――次に、ここの問題だが」

 

 ヴィジランテとして活動していた彼女は戦闘力、個性強度ともに一定の水準を超えていたのだ。

 

 つまり――足りていないのは学力だった。

 

 

 

 強化内容:学力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 その夜、サキは近くの洞穴に来ていた。

 

「っ!? 何でここが」

「ごめんごめん、君を探しに来たわけじゃないの」

 

 捜索されたわけでないと知ってホッとする洸太。

 

「一日中部屋に籠ってたら体がなまっちゃうし――!」

 

 と、彼女は近くの岩に向けて個性をぶつけた。それに大きな亀裂が走った。

 

「なんだよ……その個性」

「ヴィランみたい?」

 

 言おうと思っていたことを先取りされて洸太は言葉を詰まらせる。

 

「よく言われる。こんな個性じゃヒーローにはなれないって」

「じゃあ何でヒーロー目指すんだよっ!? 個性があるからってなんで」

 

 彼はその先を言うことができなかった。

 

「護るためだから」

 

 サキの目に宿る狂気が、少年を黙らせたのだ。

 

「護るって……何をだよッ! 結局死んでちゃ意味ないだろッ!?」

「そのうち君にもわかるよ――私だって昔は君みたいに思ってた時期があったから」

 

 が、そんな怖さは笑顔になった瞬間に消えた。

 

 洸太はすぐに調子を取り戻して不貞腐れる。

 

「ふん……そうやっていつも誤魔化すんだよ」

「あはは! それ言われちゃ困るんだけどね」

 

 

 上空では、一つの星が――しし座のレグルスが輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――少し未来

 

 

「時間がない……少し急がねば」

 

 ストールを巻いた青年はデヴィットが営むサポートアイテム店へと足を運ぶ

 

「いらっしゃい――ああ、この間の! もう仕上がってますよ」

 

 デヴィットは作業スペースから修復済みのドライバーを取ってくる。

 

「ええ、期待以上です――それはそうともう一つ修理をお願いしたい」

 

 青年は更にもう一つのドライバーを差し出した。








神に無限の体力を与えていいのかって?

もちろん無限なわけないじゃないですか(ゲス顔)


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アナザーエンディング5 『時和 ソウゴ:オリジン』

なぜか六月はモチベが異常に下がる。

無理して作ったからグダグダかも。


――――

――

 

 

 

 ――――二日目、夜

 

 

 

 

「ぐっ――くそっ!?」

 

 ヴィランの一人、荼毘は蒼炎を放出する。忍者兵が数体消滅するも、手裏剣攻撃が命中してしまう。

 

 最後まで抵抗していたヴィランが意識を失い、雄英生を襲撃するための部隊は全滅してしまった。

 

「ふむ、聞いていた人数と合わないネ。別行動でもしているのカ」

「…………」

 

 忍者のような戦士――フウマは無言で森を見つめている。

 

「一人二人いないくらいで、私の計画に支障はないのだがね」

 

 ジョニー・マキシマは“葱”と書かれた扇を広げる。

 

「では、彼らを素晴らしい夢の世界へ招待しようか」

 

 彼の目が赤く輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「カカカッ! 見たかよあの驚き方」

 

 B組の骨抜は爆豪と轟のリアクションを思い出す。

 

「『あっ』ってなんだよあって」

 

 彼が腹を抱えて笑っていると背中に手裏剣が突き刺さり、意識を失う。

 

「っ!? 後ろ――」

 

 拳藤が敵の存在に気付き小大を突き飛ばして攻撃を受ける。

 

 

「な、なんで……?」

 

 薄れる意識の中敵の姿を見た。

 

 白い単眼の忍者。

 

 それを従える男の姿だった。

 

(何で葱……?)

 

 男の持つ扇に書かれた文字に疑問を思いつつ、彼女は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 忍者兵の襲撃とは別に行動していたヴィランは洞穴――洸太の秘密基地の近くへ姿を現した。

 

「待ちきれずに散歩してたら……活きのいいガキが一匹いんじゃねえか!」

 

 その男は、フードで顔を隠していた。

 

 洸太は完全に腰を抜かしてしまう。

 

 彼の容姿は手配犯の特徴とあまりにも一致していた。決め手となったのは――左目の義眼。

 

「あっ……ああ…………っ!」

「逃げんなよッ!」

 

 逃げ出した洸太をヴィランが追う。

 

 ヴィランの腕を筋繊維が覆っていく。それにより筋力が増幅される。

 

「まず一発目――景気づけにやらせてくれよなァッ!」

 

 

 

 

 

『――ウォーターホースは素晴らしいヒーローでした』

 

 

『――犯人は現在も逃走しており』

 

 

『――目にはウォーターホースから受けた傷が』

 

 

 

 その姿は両親を殺したヴィランと同じだった。

 

(パパ……ママ……っ!)

 

 所詮は大人と子供、逃げ切れるはずもなくヴィランの拳が迫る。

 

 

 

「ッはアァッ!」

 

 筋肉質な腕を何者かが蹴り上げる。

 

 そして出来た隙を突いて洸太を安全圏へ退避させる。

 

「ヒュゥ……いい女だなァ」

 

 ヴィランは乱入者の容姿を見て嗤う。

 

「ごめん……気付いてたのに、来るのが遅くなった!」

 

 彼女は――サキは持ち出してきた武器を構え、ヴィランを睨み付ける。

 

「俺は乳臭ェガキは嫌いだが、威勢のいい奴を屈服させるのは大好きだぜッッ!」

「下がってて」

 

 風を切って振るわれる拳を受け止める。勢いを殺しきれず後ずさりする。

 

「……激怒龍牙っ!」

 

 裂撃の即チャージでカウンターを放つ。

 

 が、察されて避けられた。

 

「いいぜ、少しは楽しめそうだッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 サキVSヴィラン(マスキュラー)開戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――???

 

 

 楽しくない。

 

 つまらない。

 

 ソウゴは目の前の風景が急に味気なく感じた。

 

 いつも叔父さんが作ってくれる質素な料理なんかより目の前の豪華絢爛な料理の方が絶対に美味しいと思う。

 

「どうかしましたか、王様」

 

 家臣が笑顔で聞いてくるも、なんだかウザったく感じた。

 

「俺、王様辞めるよ」

「は?」

「よく考えたら、俺ってちやほやされたりしたいために王様目指してたわけじゃないからさ」

「……」

「じゃ、他の人を当たってよ」

 

 ソウゴが部屋を出ようとした瞬間、扉が消滅する。

 

「え……?」

「――いけませんよ」

 

 家臣の表情が固まる。

 

 まるでそれ以外の表情しか存在していないかのように。

 

「あなたは王になりたいと望んだ。故に()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその姿が崩れ落ち、機械人間の様に変化した。

 

『何が不満なのですか? 我々はあなたのしたいことをさせてあげていたでしょう?』

 

 

 

 

 ――――貴様は、何故王となった?

 

 

「違う……! 俺は――ッ!」

 

 幼いころ夢見たヒーロー。

 

 みんなを笑顔にし、世界に平和をもたらす存在。

 

 でも無個性だと言われ、無理だとあざ笑われ、諦めた。

 

 だから王様になりたいと思った。

 

 王様ほどの凄い存在になればヒーローと同じくらいの事を出来ると思ったから。

 

「世界を平和にしたい、みんなには幸せでいてほしいッ! でも――無個性の俺がそんなことするには、王様にでもなるしかないじゃないかッ!!」

 

 彼の叫びは、彼の持つアイテムに働きかけた。

 

 急に思い出したように、ソウゴはポケットから時計のようなアイテムを取り出した。

 

 それは光り輝き――

 

『駄目ですよ』

 

 が、機械人形に腕を払いのけられた拍子にそれを取り落としてしまう。

 

無個性(できそこない)の貴方は()()()()()()()()()()()()()()。それが我が主の温情なのですから』

「――っ!」

 

 機械の腕で首を締めあげられ、意識が遠のく。

 

『安心なさい。貴方は永遠に王様でいられ』

 

 

「その穢れた手を離せ――不敬であるッ!」

 

 

 急に離されて体が地面に落ちる。見上げるとそこにはあの日の不審者がいた。

 

『何……貴様、どうやって』

「私の力だ」

 

 部屋の壁が砕け散り、どこかの広場になる。

 

 黒と金の和服を着た老人――ソウゴに警告した人物が手を振ると、機械人形が吹き飛ぶ。

 

『馬鹿な……! ここに入れるのは限られた人間のはず』

「造作なき事。なぜならば」

 

 

 更に風景が変化し、どこかの荒野へと変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は生まれながらの王であるからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして老人はソウゴの落とした時計型のアイテムを拾い上げる。

 

「我が魔王よ。貴方がお手を煩わせる必要はありません。ここは私が」

「よい」

 

 本を持った不審者(ソウゴ視点)が前に出ようとするも老人に制される。

 

「力を制限し、民を導くのも王の務め」

 

 

\ZI-O/

 

 時計型のアイテムが起動し、老人の腰に時計を思わせるベルトが出現する。

 

 彼は片方のスロットにそれを装填し、中央のボタンを押す。

 

 アナログ時計を思わせる待機音が鳴り響き、その背後に時計のようなシルエットが浮かぶ。

 

「変身」

 

 老人は左腕を反時計回りに大きく回し、ベルトのモニターを回転させた。

 

\RIDER-TIME/

 

 鐘のような音が鳴り響く。

 

\カメンライダー・ジオウ!!/

 

 

 時計をモチーフにし、顔にはご丁寧に“ライダー”と書かれたアーマーを装着した。

 

「さて、始めるとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械人形VS謎の老人、開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

\ゴッドマーキシマーム・エーックス!!!!/

 

 

 

 襲撃を甘んじて受ける程雄英生は甘くない。

 

 即座に変身し、忍者兵に反撃を繰り出す。

 

「ねえ! 勝手に個性使って大丈夫なわけ!?」

 

 クロトとペアを組んでいた耳郎は自身もイヤホンジャックを使って応戦している。

 

「正当防衛サァ……それに私の力は個性ではない」

「ッ……自分だけ言い逃れしようってなら道連れにするけど」

 

 宿舎へと退避しつつ、他のメンツと合流しようとするもなかなか出会えない。

 

「てかウチら結構最後の方だったよね?」

「言われずとも把握している。つまりは……」

「いや、言わなくてもいいよ」

 

 これだけ派手にドンパチしていて誰も来ないということは、すでに全員襲われた後ということだろう。

 

 

 

 二人は協力(というよりはクロトが一方的に斃しながら)しながら進むも、急に敵の動きが止まる。

 

「HAHAHA! 中々強い生徒がいるみたいだネ!」

「貴方は――」

 

 その人物は“葱”と書かれた扇を広げ、油断したように笑っていた。

 

「他人の空似……なわけないか」

「ふん! その通りだろうなァ」

「Oh! 私を知っているのカイ? うれしいね!」

 

 男は自分がメディア露出していることも忘れてはしゃいでいる。

 

「ゲーム会社の社長がヴィラン気取りですか――ジョニー・マキシマ!」

「……ドラ息子がヒーローの真似事カ? 壇 クロト」

 

 業務提携は建前、本来はライバルである企業の対立である。

 

「そうそう、私は君が嫌いだったんダ――!」

「ブェッ!?」

 

\ゲーム・オーバー/

 

 ジョニー・マキシマの手が変化し、それがゲンムの装甲を突き破る。

 

 が、即座にコンティニューし反撃を喰らわせる。

 

「おっと、復活は厄介だネ!」

「残りライフ94……この合宿でライフの縛りは無くなったァ!」

「I see……ではこうしよう」

 

 ゲンムを押し返し、ジョニー・マキシマは懐から取り出したタブレット端末を操作した。

 

「これには君の開発したガシャットのデータが入っていてネ!」

「まさか――!」

 

\デバックモード/

 

 急に変身が解除されクロトは膝をつく。

 

「っ!? なんで急に変身が」

 

 耳郎が驚いていると次の変化が起こる。

 

 クロトの頭上に表示されたライフカウントが見る見るうちに減少していくのだ。

 

「さすがに一人だけ無限のライフはバランスが悪い!」

 

 そして1になった所でそれが停止した。

 

「残りライフ……1」

()()()で抵抗されても困るからネ!」

「グェッ!?」

 

 呆然としている中、クロトに忍者兵の手裏剣が命中した。

 

「くっ!?」

 

 残るのは耳郎のみとなってしまった。

 

「お待たせしたねお嬢さん――!?」

 

 急にジョニーの表情が変化する。

 

「おっと、急用が入ったヨ! 今日はこの辺にしておこう!」

 

 そして踵を返して森の奥へと消えていく。忍者兵たちもそれにならう。

 

「……た、助かった?」

 

 彼女はしばらくの間動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ね、無限のライフなんてさせないでしょ?(ゲス顔)

当然ゲームテーマだからテストプレイ関係の能力でるかと思ったらそんなことなかった。大きなお友達にしかわからないからか?


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アナザーエンディング6 『竜ヶ峰 サキ:オリジン』

史上最大のボリューム(内容量)となってしまった。

適度に休憩しながら読んでくださいませ。


――――

――

 

 

 岩壁に亀裂が走る。

 

 裂撃によって拳を傷つけられたヴィラン――マスキュラーは堪らず跳び退く。

 

「チィ! 厄介な個性だな」

「ッ!?」

 

 振るわれた拳を防ぐとサキの武器に亀裂が走る。

 

 そして受けきれずに吹き飛ばされた。

 

「お前、リストにはねえが殺した方がよさそうだな」

(リスト……?)

 

 マスキュラーはそこで思い出したように尋ねてくる。

 

「そういやお前――爆豪ってガキがどこにいるか知ってるか?」

「!」

 

 彼女は武器を構えることでそれに応える。

 

 知っていようとも教えはしない、その意思を示すために。

 

「ま、知ってても教えてくれるわけねえよな!」

 

 殺気を感じた。近くにいた洸太は堪らずに腰を抜かす。

 

 一陣の風。

 

 気が付くとサキは殴り飛ばされていた。反応ができたのは続けて放たれた蹴りの方だった。

 

「くッ!?」

 

 彼女の額から血が流れだす。体感では骨が数本折れているようだった。

 

 あの“脳無”というヴィランに襲われた時とは比にならないダメージを喰らっていた。

 

「……ぇっ」

 

 地面に血がにじむ。流れているのは彼女の物だけだった。

 

「いいねえ……まだ折れちゃいねえみたいだ――だからこそ潰し甲斐が」

 

 マスキュラーの後頭部に小石が命中した。

 

 大したダメージになっていないが、振り向かせるのには十分だった。

 

「う、ウォーターホースも……そ、そうやっていたぶって、楽しみながら――パパとママを殺したのか!?」

 

 恐怖心を感じながらも、洸太は小石を投げた。

 

 真意はどうであれそれがヴィランの足止めになったことは確かだ。

 

「あ? ああ――思い出した、俺の目を義眼にした奴らか! ははッ! 偶然でも面白れぇっ! まさか子供に出会えるなんてな!」

 

 マスキュラーは下衆な笑みを浮かべる。そこには純粋な喜びよりも、左目を奪われた怒りの方が浮かんでいた。

 

 ここにいるのは自らの体の一部を奪った連中の子供。

 

「お、お前のせいだッ! お前なんかのせいでこうなるんだよッ! 身勝手で、暴れて、人を殺すからッ! 全部前のせいだよッ!」

 

 両親を奪われた少年の魂の叫び。

 

 目の前の悪が成した身勝手な振る舞いによって大切な物を奪われた者の慟哭だった。

 

 しかし悪はそんな()()()感覚は持ち合わせていない。

 

「ククッ……!」

「な、なにがおかしいんだよッ!?」

 

 マスキュラーは笑っていた。

 

 少年の怒りを一笑に付した。

 

「おかしいのはお前だろ!? 殺されたからなんだってんだよ? 悪いのは俺か? 俺は力を使っただけなんだぜ?」

 

 理解ができない。

 

 人を殺したのに全く悪いと感じていないのだ。

 

「オイオイさっきまでの威勢はどうした!? 何か言ってみろよ。だからガキは嫌いなんだ――すぐに責任転嫁する。お前は勘違いしてるみたいだが、俺は左目の事は恨んじゃいねえぜ? 俺も奴らも、やりたいことを」

「――勝手なことを言うなッ!」

 

 正義感の塊であるサキは、そんな悪の戯言を聞いて黙っているはずもない。

 

「んっ!?」

「この子の両親は――なにもやりたかったことができてないッ!」

 

 マスキュラーがぐずぐずしている間にチャージは完了していた。

 

 真っ赤に染まった彼女の髪が波打つ。

 

「――紅蓮ッ爆竜剣!」

「ンンンッ!?」

 

 最大出力はマスキュラーの筋繊維を引き裂き、全身に傷を負わせた。

 

 攻撃を受け続けてきた武器は真っ二つに折れ地面に落ちる。

 

 

 

 

 

 同時にマスキュラーも崩れ落ち、彼女は勝利を確信した。

 

 

「大丈夫? ……っけがはない?」

「っ……あ」

 

 それがいけなかった。

 

 確実にとどめを刺しておけば、こうならずに済んだかもしれない。

 

「くそっ! 義眼が壊れちまった――いい加減ムカついてきたし、こっから本気で行くぞ」

 

 マスキュラーが新たな義眼を嵌めた瞬間、まるで今までがお遊びであったというように力が倍増した。

 

 一瞬でサキを壁にめり込ませ、何度も何度も殴りつける。崩れ落ちた体を無理やり起こし頭を地面に叩きつけた。

 

「ボウズ、これ見りゃわかるだろ? 悪いのは殺した俺じゃねえ! この程度で死んじまう――」

「~~~ッ!?」

 

 マスキュラーの拳が容赦なく彼女を押しつぶす。

 

 まるで洸太に見せつけるかのように。

 

「――弱え奴の方だってな!」

「か……っ」

 

 

 

 

 

 気が変わったのかマスキュラーはサキの体を持ち上げる。

 

 その嫌な笑い方は、悪事を閃いたかのようでもあった。

 

「折角だ……もう一つお前に教えてやるよ」

 

 血に染まったサキの服を、マスキュラーは盛大に引き裂く。

 

 それを見た洸太は訳も分からず怯えた。

 

「クク……その様子じゃ知らねえみたいだな――女ってやつの使い方をよ!」

 

 一思いに殺す前に、とことん辱める――欲望を満たすという宣言だった。

 

 中には死体でも構わないという変わり者もいるが、この男はその点で言えば健全であった。

 

 少年の無垢な知識ではわからなかったが、ろくなことをするつもりでないのは分かった。

 

「うっ!?」

 

 洸太は個性を使ってマスキラーの顔面に水を放った。

 

「そ、その手を離せッ!」

 

 両親の個性に比べたら水鉄砲のような威力だったが、その一瞬が命運を分けた。

 

「チッ……()る前に殺してっ!?」

 

 マスキュラーは痛みを感じてサキの体を手放した。

 

「させない」

 

 彼女の足が地面を踏みしめる。その個所から蜘蛛の巣のように引き裂けていく。

 

 全身に裂撃のエネルギーが行き渡り、その姿を竜の様に変化させる。

 

 振り向きざまに放った裏拳でマスキュラーの体が吹き飛んでいく。

 

「大丈夫……君の事は、私が護るから」

 

 サキは折れた武器を拾い、構える。

 

 その姿は竜戦士――グラファイトのようでもあった。

 

「テメエ……さっきまで死にかけてただろうが……! いったいどこからこんな力が」

 

 マスキュラーは思わず怯んだ。

 

 目の前の少女――さっきまで嬲り続けていた弱者の後ろに、強大な竜戦士の幻を見たから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローのやりたいことは、貴様らのような社会のゴミ(ヴィラン)を斃すことではないッ!」

 

 ヒーローの使命を全うした父親に憧れた少女がいた。

 

「人々の安全を保障し、変わらぬ明日が来ると約束する――」

 

 富も名声もいらない、強大な敵と死闘を繰り広げたいわけでもない。

 

 誰もが『変わらぬ明日』を送れる世界を護る。

 

 大切な人が待つ場所へ必ず帰ってこれる、そんな日常にしたい。

 

「それこそがヒーローのなすべき使命ッ! 本当にやりたいことだッ!」

 

 

 

 ――それは少女が涙と共に誓った原点(ねがい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「我が名は竜戦士(ドラゴンナイト)の娘、グラファイト――」

 

 こんなはずはない、マスキュラーはそう独りごちた。

 

 一ひねりで――いや、指先の一つでつぶせるような子供に。

 

「その胸にしかとこの名を刻んでおけッッ!」

「なぜだァッ!?」

 

 いつもなら止まることのない口もまともに動かない。

 

 恐怖で体が竦んでいる。

 

 これではまるで――

 

平和の(オール)象徴(マイト)……っ!」

 

 気が付いた時には懐に入り込まれていた。

 

 その刹那に目が合う。

 

 狂気に満ちた――平和を護るためなら何でもするという気迫のこもった目だった。

 

「奥義――」

 

 

 白 銀 蒼 炎 剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 獅子座の一等星(レグルス)が煌く。

 

 この戦いは歴史には残らない。

 

 結末は人々の運命に何一つ影響を与えることは無い。

 

 

 

 それでも一人の少年は決して忘れない。

 

 命を賭して戦った者がいたことを。

 

 

 

 

 

 

 










『かくして、一つの戦いに幕が下ろされた。

 彼らが乗り越えねばならない壁はあと3つ。

 次にに待ち受けているものは何か?

 鍵を握るのは「火星の――」おっと、少し先まで読んでしまいました。

 ここから先はまだ、皆さんにとっては未来の話……』


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アナザーエンディング7

前回の投稿でお気に入り登録がごっそりと減り申した。

丁度一周年なのでゴルフネタの話を投稿しようと思ったけど界隈の人に怒られそうなのでやめた。あらすじはあとがきに書こうかな。


――――

――

 

 

\カメンライダー・ジオウ!!/

 

 

 変身した老人は機械人形に相対する。

 

「さて、始めるとするか」

 

 そして“ケン”と書かれた剣を取り出し構えた瞬間、傍らの不審者が宣言した。

 

「――ひれ伏せ! このお方こそ、全てのヒーローを凌駕し、時空を超え過去と未来を」

「よい。聞き飽きた……」

 

 毎度このくだりをやっているらしく、老人は途中で口上を止めさせた。

 

「……では、存分に戦われよ」

 

 不審者が下がると、機械人形の姿が変化する。

 

 雄英体育祭で見た壇 クロトの変身姿を禍々しくしたようになる。

 

『貴様は排除するッ!』

 

 変化した機械人形――アナザーゲンムは剣に似た武器で斬りかかる。

 

 それを的確に捉え、老人は躱しつつ反撃する。時間を止める力を一切使わず、己の技量のみで勝負に出る。

 

 それはまるで達人のような動きであった。

 

「んぐっ!?」

 

 が、年のせいか避けきれずに手痛い一撃を喰らってしまう。

 

「……そうか、この力は――この程度であったか」

 

 驚くというより、むしろ彼は懐かしむように呟いた。

 

 そして腕に着けた時計アイテム――ライドウォッチを取り外し、起動させた。

 

\GENM/

 

 それを反対のスロットに挿入してロックを外す。

 

 アナザーゲンムの攻撃を紙一重で躱し、それを利用してベルトを回転させた。

 

\RIDER-TIME/

 

 目の前にゲンムのような装甲が出現する。

 

 それが即座に分解され装着せれていく。

 

\カメンライダー・ジオウ!! ARMOR-TIME!! レベルアップ! ゲンム/

 

 そして仮面の文字が上書きされ“ゲンム”になる。

 

 まるで相手がゲンムに似ていることの意趣返しのようであった。

 

「フフ……ゲンムにはゲンム、粋な計らいであろう?」

 

 だがそんなことはお構いなしにアナザーゲンムが攻撃を仕掛ける。

 

 しかし技量差はかなりあるようで、同じ力を持っていれば有利なのがどちらか明白であった。

 

「そろそろ仕舞にするとしよう」

 

\FINISH-TIME/

 

 高く飛び上がり、構える。

 

\ゲンム! クリティカル・タイムブレイク!!/

 

 そして蹴りがアナザーゲンムに命中した。

 

『くそっ! なに、を……』

 

 大爆発が起きると同時に空間が砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 真っ白な空間。

 

 そこで老人とソウゴは対峙していた。

 

「ふん……勘付かれたか」

「あんた、ヒーローなのか? それとも」

「私は王だ。生まれながらのな」

 

 確かに王のような貫禄がある、ソウゴはそう感じた。

 

「俺も、あんたみたいな王になれるかな?」

「それは私のあずかり知らぬことだ」

「はは……そりゃそうか」

 

 二人の姿が消えていく。

 

 老人はソウゴの方に向き直ると、柔和な表情になった。

 

「最後に言っておくことがある」

「何?」

「……あまり、叔父さんを困らせるなよ」

「え……」

 

 なぜこの老人は自分に叔父がいることを知っているのだろうか? というよりもなぜ叔父と住んでいることを知っているのだ?

 

 ソウゴが戸惑っているうちに二人の姿が消えていく。

 

「さらばだ――()()()()()よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 ソウゴと同じような境遇の患者が一つの病室に集められていた。

 

 彼の叔父、ジュンイチロウはそのお見舞いに来ていた。

 

「ごめんね、、ソウゴくん。おじさん、時計は治せるけど病気は治せないんだよねぇ……」

 

 隣に座り、トートバックからおにぎりの入ったタッパーを取り出す。

 

「代わりにおにぎり作ってきたから、目が覚めたら食べて――」

「――っ待って!」

 

 それを脇の台に置こうとしたところでソウゴが目を覚ました。

 

「っそ、ソウゴくん!? よかったぁ目が覚めたんだね」

「あ、あれ……?」

 

 寝ぼけているのか辺りを見回し、状況を理解したようだ。

 

「あ、お腹空いてない? おにぎりも――あ、おかず作るの忘れたなぁ」

「え、うん――ごめん後で!」

 

 そして慌てて靴を履くと外へ飛び出そうとする。

 

「ちょソウゴくん体は大丈夫なの!? 一体どこへ」

「うん、会いに行かなきゃいけない人がいるんだ!」

 

 病室を飛び出しかけ、慌てて戻っておにぎりを一つとる。

 

「いってきます!」

「……行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

――――???

 

 

 

「――おい、起きろ!」

「へぶっ!?」

 

 緑谷は頬を叩かれて目を覚ます。

 

 どうやら()()()()()()眠っていたようだ。いつものオールマイトグッズが目に入って一安心する。

 

「もう……今日は休みなんだから寝かせ」

「阿呆! お前は合宿に出ていたところだろう!?」

「げふっ!」

 

 オールマイトフィギュア(1/8スケール)が出久の腹に命中した。

 

「な、なんで――」

 

 意識を覚醒させ、目を開けると見知らぬ女性がいた。

 

「ってあなた誰ですか!?」

「もう忘れたか。しばらく一緒にいた仲だというのに」

 

 緑色の瞳、黒髪のショートボブ、顔立ちはどこか外国人のようにも見える。

 

「……?」

 

 緑谷が首をかしげていると、女性はため息をつきながら名乗る。

 

「はぁ……ベルナージュ、と言えばわかるか?」

「え、ええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「ジョニー・マキシマめ……厄介なことをしてくれたナァ」

 

 クロトは王のような派手な格好でふんぞり返っていた。

 

「合宿で完成させた“あのガシャット”さえあればッァ……だが私をこの程度で――抑えられると思うヌァッ!」

 

 神は静かに、力を蓄える。

 

 来る戦いに備え。

 

 

 

 





・没ネタ~ゴルフバグスター~

 クロトが新開発した“エキサイトゴルフ”のガシャットを瀬呂が(勝手に)使用してしまいゴルフバグスターに変身してしまう! ゴルフバグスターは特撮番組の撮影現場に現れては荒らして放送を中止させてしまう――



……みたいな話にする予定だった。マジでゴルフ許せん。早くグランドジオウのご活躍を拝見したいというのに。


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アナザーエンディング8

モチベが上がりませんでいた,まる。

今回都合により読点が「,」になってますがあまり気にしないでください。







~前回までのあらすじ~

?『普通の中学生,時和 ソウゴ。彼には最強のヒーローにして時の王者:“オーマジオウ”となる未来が待っていた』

神『チガァァゥ!! これは私が最高の神になるための物語ダァッ!』

?『自称神は空想の世界に捕らわれ,現実では最悪の事態が起ころうとしていた――』















――――

――

 

 

 

――――その頃,神野区

 

 

「うっひょーまたレベル上がっちまったぜ!」

 

 不要な外出を控えるよう通達が出されているのにも関わらず,カメンライダークロニクルのプレーヤーたちは初イベントを楽しんでいた。

 

 口コミでイベントの良さが広められ,プレイする人間は時間を追うごとに増えていっていた。

 

「あと探索してないのは……あの工場だな」

 

 一部のプレーヤーチームが未探索の場所に入っていくと,それにならってプレーヤーたちが押し寄せていく。

 

「おお……すげえ凝ってんな」

 

 中には脳みそむき出しの改造人間――脳無らしきものが格納された水槽が多く存在していたが,まさかそれが()()であるとは思っていないようだった。

 

「ッあったぞ!」

 

 一人の幸運なプレーヤーがアイテムボックスを発見し,駆け寄っていった時だった。

 

 

 

『――そこから先は立ち入り禁止だよ』

 

 腹の底に響くような不気味な声と共に,頭に生命維持装置を装着した男が姿を現す。

 

 

「うおッ! ここでボス戦かよっ!」

「や,やるっきゃねえ!」

 

 呑気な発言に男はため息をつく。

 

『どうやら,空想と現実の区別がついていないようだね』

 

 

 ――『空気を押し出す』+『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』

 

 男は個性を重ね掛けして発動する。分かりやすく言うと,空気砲である。

 

 それもビルを数個破壊する威力の一撃だった。

 

「「「うわぁぁっ!?」」」

 

 水槽もろとも吹き飛ばされ,プレーヤーたちの隠されたライフがゼロになってしまう。

 

 

 ――――ビビビッ!

 

 

「え……嘘だろ」

 

 ゲームオーバーの瞬間,彼らの体内に潜伏していたバグスターウイルスが急速に活性化する。そして行きつく先は――本当の死である。

 

「な,なんで――これ,ゲームのはずじゃ」

 

 

 ――――ゲーム・オーバー

 

 

 カメンライダークロニクルというゲームが抱えていた最大の不具合,それはゲームオーバー=死となってしまう点であった。

 

『おっと,やりすぎたかな』

 

 なくなってしまった工場の壁を眺めて男は呟いた。

 

 そしてそれは,宿命の対決の引き金となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 興奮した緑谷はベルナージュによって正座をさせられていた。彼の頭には大きなたんこぶがあった。

 

「え、と……少し思い出しました。肝試しの途中、僕らは忍者みたいなヴィランに襲われて」

「つまりこの世界はその忍者によってつくられた世界、だと?」

「は、はい……普通の世界に近い――それこそ仮想現実のような」

 

 彼は個性――ワン・フォー・オールを発動させようと試みる。

 

 しかしどんなに頑張っても何も起こらない。

 

「現に僕の個性は失われて」

「――ご飯できたわよ」

 

 急に扉が開いて緑谷の母、引子が姿を現す。その姿は彼の記憶にあるものとは大きく異なり、痩せていて子供の頃の物に近かった。

 

「ちょっ急に入ってこないでよ!?」

「呼んだってすぐ来ない癖に」

 

 どうやら同じ部屋にいるベルナージュには気づいていないようで、早く来るように言っていなくなった。

 

「……お前の母はもう少しふくよかな容姿ではなかったか?」

「恐らく、個人の願望が入っている、かも……」

 

 緑谷は苦笑しながら答えた。

 

(でも妙だな。僕の理想を現実にするならもっと強個性それこそオールマイトのような、いやそれはすでに持っているからそれを本当に使いこなせているはずなのに僕はこうして個性を失っているわけで」ブツブツブツ

「気色悪い」

 

 最後の方は声に出ていたせいか,ドン引きしているベルナージュに空手チョップを喰らっていた。

 

「ぶっ……こ,声でてました?」

「言いたいことがあるならはっきりと言え」

「……確証はないですけど,きっとここは“個性”が存在しない世界なんだと思います」

 

 緑谷の母は息子に個性が発言しない事を気に病み,それが原因で太っていったという。

 

 つまりストレスの原因がなくなれば――

 

「ならば外に出て確かめてみればいいだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 外出してみると,そこは彼の知っている世界とは別物だった。

 

 往来を歩く人は誰も彼も“普通”の人間で,尻尾が生えていたり異様に図体がでかかったり肌の色が独特な色をしているなどということは無かった。

 

(やっぱりここでは個性が存在しないんだ……!)

 

 個性がないのならばヴィランはいないし,それを取り締まるヒーローもまた存在するはずもない。

 

 いや,本来はそれが普通なのだ。

 

 ヒーローやヴィランは存在しないのが平和な世界というものなのだろう。

 

 生まれてからヒーロー文化に親しんできた緑谷にはそれが衝撃的で,到底認めることができなかった。

 

「こんな世界なんて……間違ってる」

「どこがだ? 平和で何がいけない」

「っ……いくら平和でも,現実じゃないから」

 

 緑谷は拳を握り締める。

 

“誰でも笑顔で助けることのできるヒーローになりたい”

 

 それが彼の願いだった。

 

「僕だってこんな平和な世界を望んでいます……! でもッ現実には個性があって,ここまで簡単にわかり合うことなんてできなくて――それが現実だから,戻らなくちゃいけないですッ!」

「…………そうか」

 

 ベルナージュは切なげに緑谷の方を見る。

 

「この世界から出るというなら,私も力を貸そう」

「っ出るって言っても」

「方法がないのならば探せばよい。幸いにも,お前は級友とともにこの世界に捕らわれたはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

――――関東のどこか

 

 

「お,おいっ! なんだありゃ」

 

 街の中心に突如として巨大な生物が出現する。

 

 その姿は,見る者が見れば震えあがる物だった。

 

 

「あれ……ゲムデウスじゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 場所は変わって九州地方。

 

「あれが噂のゲムデウスかっ!」

 

 若手のヒーロー,ホークスは突如として出現した巨大ヴィランと戦闘を行っていた。

 

 その姿は彼の脳裏にもしっかりとこびりついていた。

 

(討伐されたの,フェイクのニュースだったてのか……?)

 

 考察する余裕はすぐになくなり,全開の戦闘を余儀なくされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 東北地方。

 

 そこにもやはり巨大なヴィランが出現している。

 

「くそッ! どっから湧いてきやがったッ!?」

 

 帰国していたグリスは真っ先に鎮圧に向かっていた。

 

「カシラッ! 避難完了したぜッ!」

「オォ……んじゃま,全開で戦闘してくかァ」

 

\ロボットゼリー/

 

 グリスの戦闘スタイルは非常に荒々しく,iアイランドのような周囲に誰もいない環境でこそ持ち味を発揮する。故に,彼の戦闘の多くは記録に残っていない。

 

「変身!」

 

\ロボット・イン・グリス!! ブラァッ!!/

 

 サイドキックの“三羽ガラス”も個性を発動し戦闘態勢に入る。

 

 

「心火を燃やして,ぶっ潰す……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 関西地方でもまた,ゲムデウスらしき怪物が出現していた。

 

 ほとんど全ての地方で目撃情報が寄せられ,まさに異常な事態となっていた。

 

 

 

『さて,プロローグはここまで……』←英語だと思え!

 

 ジョニー・マキシマは“葱”と書かれた扇をひろげて仰ぐ。

 

 その目は赤く輝き,次々と現実世界にゲムデウスを投影していた。

 

 

『夢の舞台は用意した。現実では恐怖の怪人が大暴れしている――選ぶのは,決まっているだろうね』

 

 全ては黒幕の思うがままに進行する。

 

 

 

 





最近本誌でデクくん見かけてないな~

そういえばジオウ映画見てきました。

感想はただ一言――『もはや言葉は不要! ただその瞬間を味わうがいい!』

まあ,新ライダーめっちゃかっこよかったよ(ネタバレ)


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アナザーエンディング9

――――

――

 

 

「――お,落ち着いてくださっ! 当院は負傷者を優先的に」

 

 病院はパニック状態となっていた。

 

 突如として各地に発生したヴィラン,ゲムデウスの影響で人々は恐怖のどん底に叩き落とされる。

 

 ただでさえ一体でも甚大な甚大な肥大を与えた存在が同時多発的に出現している。

 

 破壊活動を行う中,なぜか病院だけは襲わない。

 

 ゆえに,助かりたい人々は理由をでっちあげて押しかけているのだ。

 

 

「「「――――!!」」」

 

 誰も彼もが叫んでいるせいで何が言われているのかすらわからない。ところどころ「病気が――」や「持病が悪化して――」など聞こえてくる。

 

 

『急患です! 道を開けてください!』

 

 救急車がやってきて道路にまで溢れ出ている人々に注意を行う。

 

 担架に乗っている少女は血の気が無く,応急処置が成されているものの焼け石に水と言った印象を受ける。付き添いの少年は今にも泣きそうで,必死に縋りついている。

 

「ちょっと私の方が先だったのよッ!」

 

 意地の悪そうな女性が叫んだ。それにならうようにざわめきが広がっていく。

 

 彼らは恐怖心で正常な判断ができていないようだった。

 

「ちょっ――早く道を開けっわ!」

 

 人々は担架を運ぼうとしている救命士を妨害し,自分が先に院内へ入ろうともがく。

 

「――道を開けろッッ! 治療の邪魔だッッ!!」

 

 病院の中から医師――加賀美 ヒイロが姿を現す。

 

「っ先生! 私の治療を」「いやオレを」「私を――」

 

 餌に飛びつく魚の様に人々が飛びつく。

 

 それを押しのけてヒイロは患者の下に向かう。

 

「っサキ……」

 

 患者の姿を見て彼は思わず表情をゆがめた。

 

 しかしすぐに冷静さを取り戻し,看護師たちに指示を出す。

 

「事態は一刻を争う。すぐに集中治療室へ」

「はいっ!」

 

 そして呆然としている群衆に向けて宣告する。

 

「深刻な病状の患者から治療を行っていく。先程の少女よりも深刻な病気を持っている奴がいるなら名乗り出ろ。すぐに手術(オペ)をしてやる」

 

 ヒイロの気迫に押されたのか,誰も反論する者はいなかった。

 

「……そうか。ならば静かに順番を待っていろ。余計な騒動は治療の妨げとなる」

 

 騒ぎ立てていた人々は静まり返る。

 

 そして諦めるように避難所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「――今の啖呵,さすがだな,ヒイロ」

「!?」

 

 手術着に着替えたヒイロを持ち構えていたのは,怪しげな男性だった。真夏なのにコートを羽織り,帽子を目深にかぶって人相を誤魔化していた。

 

 だが,彼にはその正体が分かった。

 

 声だけを聴けば十分だった。

 

「……ッ北城先生に連絡を,俺の代わりに手術(オペ)を」

「はいっ!」

 

 二人きりとなる。

 

 コートの男は帽子を取り,ゲーマドライバーを装着する。

 

「あの娘にオペは必要ない。このまま逝かせてやれ」

「ふざけるなッ!」

 

 ヒイロもまた,ゲーマドライバーを装着する。彼がゲーム病治療に関わることは無かったが,万が一に備えて支給されていたのだ。

 

「お前は一体何者だ? 俺の()の姿を騙るなら――容赦はしない」

「容赦はしない,か。やれるものならやってみろ」

 

\タドル・クエスト/

\ハリケーンニンジャ/

 

 二つのガシャットが起動され,ゲーム空間が展開される。

 

「未だかつて,お前が俺に勝ったことはあったか? ヒイロ」

「確かに兄に勝ったことは無いが――偽物に負けるつもりはない」

 

 個性が発動し,ヒイロの姿が騎士を思わせるヒーローコスチュームになる。

 

 

「「変身!」」

 

\\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアップ!//

 

\タドルメグル! タドルメグル! タドル・クエルト!/

\(中略)ハリケーンニンジャ!!/

 

 

\ステージ・セレクト/

 

 院内から突如としてどこかの荒野へと場所が変わる。

 

「これより,ヴィラン切除手術を開始する」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

――――???

 

 

「壇 クロトの名はもう捨てたァ……今の私は」

 

 クロトの背後に横断幕が広げられる。

 

 

 

「壇――クゥロォトォ王だ!」

 

 

 発射されたクラッカーに緑谷とベルナージュはぽかんとしていた。

 

「……来るのが遅かったな,緑谷 出久。待ちわびたぞ」

「い,いや……クラスの皆に会いに行ってたら時間かかっちゃって」

 

 王を思わせる煌びやかな装束を纏ったクロトにドン引きしつつ,緑谷はあったことを早口で説明した。

 

「ほう,全員正気を失っていたか」

「もうめちゃくちゃだよ! かっちゃんは無駄にイケメン風だし飯田くんはなんかロックだし峰田君は悟り開いてるし轟くんはものすごくファザコンだったし(あと壇君はどうして王様風なんだ……?)」

「想定の範囲内だろう……我々の力を奪わねば脱出されてしまうのだからなぁ」

「ね,ねえ! 壇君はどうにか――できない?」

「無理だ」

 

 クロトの言葉に緑谷は肩を落とす。

 

「今の私には,な」

「――でも現実世界にはあるさ」

「っあなたは」

 

 従者のような姿をしたエムが緑谷達の前に現れる。

 

「クロトが作ってたガシャットはこの世界に干渉できる――が」

 

 彼は悔しそうな表情になる。

 

「俺が使ったらこのザマさ」

「まだバグスター用に調整できていないせいだ」

 

 さすがの神ともいえど,そう易々と完璧な作品は作れないのだ。

 

「あれを扱える人間は……いや,一人だけいるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 マイティクリエイターVRX

 

 それがクロトの作り出していた対抗策だ。

 

「ウチがやる」

「駄目だ。お前はまだ」

「ほかにやれる人がいないんでしょ?」

 

 相澤が耳郎を止めようとするも,それで止まる彼女ではなかった。

 

「ウチは一回ゲーム病になってる。だからもう一度感染しても大丈夫じゃないの?」

「だが――」

「先生がプレイして感染したら誰が世界を護るの? それこそ合理的じゃない」

「っ!」

 

 その言葉を出されてしまったら相澤も黙るしかない。

 

「っ勝手にしろ」

 

 耳郎はガシャットを受け取り,モニターの前に立つ。

 

「響香ちゃん……大丈夫?」

 

 本来のプレーヤー,エミは不安そうに尋ねてくる。

 

「さあ……でも,エミがいるなら」

 

 と,彼女は手を差し出す。

 

「わかった,やろう!」

 

 エミもそれに応え,手を取る。すると体がバグスターウイルスに変換され,耳郎に取り込まれた。

 

 彼女の目が赤く輝く。

 

「ゲームなら,私たちに任せてっ!」

 

 VRゴーグルを装着し,ガシャットを起動させる。

 

\マイティクリエイター! V・R・X!!/

 

「変身っ!」









そろそろ神も活躍します(;´・ω・)


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アナザーエンディング10

――――

――

 

 

 

 

 ゲムデウスが暴れまわる。

 

 ビルは次々と倒壊し人々は悲鳴を上げて逃げ回る。

 

「ッ!」

 

 それはかつてソウゴが夢で見た光景そのものだった。

 

 ヒーローたちが対抗するも,オールマイト級でなければ戦うことすらできない。トップヒーローたちが分散している今では到底討伐などできないだろう。

 

 

『――お前には王の資格がある』

 

 顔を思い出せない男はそう言った。

 

『王となり,この世界を救うのだ』

 

 

(でもどうやって)

 

 ソウゴが迷っていると,チキンのような頭のヴィランに襲い掛かられる。それはゲムデウスの副産物として生まれたものであった。

 

「うっ」

 

 

 思わず身構えるも,ストールによる攻撃がヴィランを蹴散らす。

 

「っあんた!」

「ご無礼をお許しください,我が魔王」

 

 例の不審者が傍に現れ,“あのベルト”を献上してきた。

 

「ですが,今の貴方にはこれが必要――使い方はもうご存知のはず」

 

 それをソウゴは恐る恐る手に取る。

 

 時計を思わせるモニターに両サイドのスロット。脳内にあの老人の戦う様子が浮かんだ。

 

「俺は……」

 

 しかし同時に,無個性だとあざ笑われた記憶も蘇る。

 

 何もできない,何にも成れない。ヒーローにも,ヴィランにも――王にも。

 

 本当にあの老人はソウゴの未来の姿なのだろうか?

 

 あれは自分の事をよく知る第三者なのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

「キャァッ!」

 

 

 

 彼が躊躇っていると,小さな悲鳴が聞こえてきた。

 

 見れば,鳥頭のヴィランに親子が襲われていた。そしてそれをゲムデウスが押しつぶそうとしているのだ。

 

「っやめろ……!」

 

 気が付けば体が動いていた。

 

 無個性が何をしたって変わらない。それどころか足手まといになるのがオチだ。行ったところで無駄――それでも無我夢中で走った。

 

 理屈なんて関係ない。とにかくあの親子を助けたい。

 

 

 

「ヤメロォォッ!!」

 

 

 

 ソウゴの放った声が具現化し,ゲムデウスの体を阻む。

 

 彼が手を伸ばすと,それに応えるようにヴィランの時が止まる。

 

「へ……?」

 

 ヴィランが止まった隙を突いて親子は逃げ出した。その直後に止まった時が動き出す。

 

「――多くのヒーローはデビュー前より逸話を残す!」

 

 不審者はいつも携行していた本を広げて読み上げる。

 

「この本によれば,時和 ソウゴもまた,その覇道において多くの逸話を残してきた。これらすべてには共通してこんな言葉が添えられる」

 

 

 

 

“気が付いたら体が動いていた”

 

 

 

 

「……俺にも,できるのかな。王様になって――世界を救うこと」

「それは私にはわからない。ただ君の未来を導くだけだ」

 

 ソウゴの目つきが変わる。

 

 手にしていたベルトを装着し,ポケットから時計型のアイテム――ライドウォッチを取りだす。

 

\ZI-O/

 

 それを起動しベルトのスロットに装填,ロックを外して腕を大きく回す。

 

 特に意識をしたわけではなかったが,その姿はあの老人と奇妙なまでに一致していた。

 

「変身!」

 

 ベルトが回転し,鐘の音が鳴る。

 

\RIDER-TIME/

 

 その瞬間,世界の運命が大きく動き出す。

 

\カメンライダー! ZI-O/

 

 時計を思わせるアーマー,顔には丁寧に“ライダー”の文字。

 

 

 

「祝え!!」

 

 

 不審者は高らかに宣言した。

 

 

「全ヒーローを凌駕し,時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者! その名もジオウ,まさに生誕の瞬間である」

 

 

 

 吟遊詩人のような向上に,ソウゴは少しだけ引いていた。

 

「そういえば,君の名前を聞いていなかった」

「……私の名はウォズ,君を魔王となる未来へ導く家臣だ」

「魔王,か……なんか嫌だけど,世界を救うためならなってやるっ!」

 

 

 少年は覇道を歩み始める。

 

 それは,王となる道だ。

 

「これなら――できる気がするッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

\ガッシャット! ガッチャーン……レベル・アーップ/

 

 今までのガシャットとは違い,現実世界では何も起こらなかった。

 

 その代わりに仮想世界で変身する。

 

\天地創造の力! 未来のゲーマー! マイティクリエイター――V! R! X!/

 

 VRゴーグルを装着し,コートを纏った姿。それがエグゼイドクリエーターゲーマーだった。

 

「っ」

『響香ちゃん!?』

 

 ウイルスの負荷で耳郎は膝をつく。

 

「だ,大丈夫……ちょっと驚いただけだから」

 

 スタート地点はビルの屋上だった。どこからどう見ても日本のビル街の景色で,ここが仮想現実の世界であることが信じられなかった。

 

「すご……本当に,これがゲームの世界なの?」

『噂には聞いてたけど,想像以上だね』

 

 踏みしめた地面の感触は,プレイ用マットではなく本物のコンクリートのようであった。

 

「よしっ!」

 

 エグゼイドは一気に駆け出し,空へと身を投げ出した。

 

 体中がすくみ上るような臨場感に彼女はひそかに胸を高鳴らせた。

 

 空中でガシャットを取り出して足場を描く。

 

 それに乗った瞬間,トランポリンのようにたわんで飛び上がる。

 

『た,たーのーしー!』

「って楽しんじゃだめじゃん!?」

 

 エミははしゃぎまくっているが,本来は囚われた人々を助け出すミッションが待っているのだ。

 

 当然それは一筋縄でいくものでもなく。

 

「――――そこまでだヴィラン!」

 

 全身タイツのようなヒーロースーツに身を包んだ少年が攻撃を仕掛けてくる。エグゼイドは咄嗟に空中にバツ印を描いて防御する。

 

「この世界は破壊させないわよ♪」

 

 魔法少女のようなコスチュームのヒーロー(実年齢不明)が杖から魔法を放つ。炎のようなそれを“水”と書いて相殺する。

 

「ここは俺たちの楽園だ」

 

 バッタの異形型を思わせる人物がうなだれながら姿を現す。

 

「ここでハ! 俺たち,HERO!!」

 

 侍のなりそこないのような少年が片言で叫んだ。

 

 

『もしかして――』

「みんな自分からこの世界に捕らえられた……てこと?」

 

 ガシャットを構える。想定外の事態にエグゼイドは戸惑っていた。

 

「みんな! 行くぞッ!」

 

 大きな盾を構えたリーダー格の男が号令をかける。

 

「アベ(以下自主規制)」

「いやそれ別の作品だからッ!?」

 

 

 

 救出作戦は波乱の幕開けとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「やれやれ,この世界に俺の出る幕は無いか?」

 

 マゼンタのトイカメラを首からぶら下げた男がぼやく。

 

 彼はゲムデウスによって破壊される街並みを撮影し,オーロラのようなものを呼び出す。

 

「だがまあ,少しくらい手を貸してやるか」

 

 そこから現れたのは三人の男。

 

 忍者,クイズ番組の回答者,一昔前の青年。

 

「じゃ,あとは頼んだ」

 

 カメラの男がオーロラの向こうに消え,三人の男たちは破壊される街並みを見つめる。

 

 忍者は瓢箪を取り出し,その中身をベルトへと変える。

 

 クイズ回答者は胸元のペンダントを引っ張りベルトを呼び出す。

 

 青年がスパナを取り出すと自然とベルトが出現する。

 

「「「変身!」」」

 

 忍者はベルトの手裏剣を回転させ,回答者はクエスチョンマークのカードを装填し,青年はスパナとドライバーをベルトに装着する。

 

\ダレジャ? オレジャ! ニンジャ!! ――シノビ! 見参!/

 

\ファッション! パッション! クエスチョン!! ――クイズ!!/

 

\デカイ・ハカイ・ゴーカイ ――仮面ライダーキカイ/

 

 

 三人は各々の戦う姿へと変身を遂げる。

 

「“忍”と書いて“刃の心” 仮面ライダーシノビ,見参」

「救えよ世界,答えよ正解」

「鋼のボディに熱いハート,仮面ライダーキカイ!」

 

 



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アナザーエンディング11

はい、投稿をさぼっていたらゼロワンが始まって終わりそうです。
楽しみに待っていた読者の方々には申し訳なく思います。

だが私は謝ら(ry



社畜は忙しいのよ。


――――

――

 

――――X年前

 

 

 

「いってぇっ!」

 

 竹刀が脳天に直撃する。

 ヒイロは頭を押さえて蹲る。

 

「弱すぎる! そんなんじゃ強いヒーローになれないぞ!」

「だから俺はヒーローにならないって言ってるだろ!?」

 

 加賀美家は代々医者の家系である。超常が発生する前から名医を排出し続けており、彼らの両親はもちろん、祖父母、叔父叔母、親戚各所に優秀な医者として活躍する人がいる程だった。

 そんな中、ヒイロの兄龍牙――のちのヒーロードラゴンナイト――は医者になる道を選ばず、ヒーローを志していた。

 

「いや、なるんだ。お前の個性は俺よりもヒーローに向いている! だからヒーローにならなければならないッ!」

「俺の夢は“世界で一番のドクターになること”なんだッ!」

 

 二人の目指す道は異なるものの、龍牙はヒイロを巻き込んで組手を行っていたのだった。

 ……傍から見ればただの兄弟げんかである。

 

 打ちのめされるのはいつもヒイロの方であり、本気でやり返しても彼の実力は龍牙に及ばなかった。

 

 数年後、龍牙は士傑高校のヒーロー科に、ヒイロはとある進学校の普通科に進学した。

 そして前者はヒーロー免許を取得しヒーロー“ドラゴンナイト”に、後者は世界でも有数の外科医となった。

 

 ドクターヒーロー“ブレイブ”が誕生するのはまだまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

\ステージ・セレクト/

 

 小太刀と剣がぶつかり合う。

 

 両者の力が拮抗するも、僅かに忍者の方が押し勝つ。

 

「くっ……!」

 

 ヒイロが変身したブレイブはレベル2、それに対して忍者のレベルは50。

 

 技量でいくら勝っていてもスペックの差は歴然であった。

 

「やめておけ、お前は俺には勝てないさ」

「そう言われて引き下がるヒーローが――いると思うのかッ!?」

 

 忍者は仮面の裏で冷笑した。

 

「お前がヒーロー……か、変わったな」

「!? なん、だと?」

 

 ブレイブは僅かに体を強張らせる。

 

「昔からお前はずっとヒーローになることを拒み続けていた。それが今じゃヒーロー……どういう風の吹き回しだ?」

「なぜ……そのことを」

 

 動揺を見せた一瞬、その隙に小太刀が振り下ろされ、反応が遅れたせいで攻撃がブレイブの装甲を掠めた。

 ライダーゲージが一気に削れ、レッドゾーンに突入した。

 

「俺は偽物ではない。まぎれもないお前の兄、加賀美 龍牙だ」

「ッ……そんな、馬鹿な……」

 

 警告音がしきりに鳴り響く。

 それはブレイブ――ヒイロの動揺を示しているようにも感じられた。

 

「俺はあの日、確かに生死の境をさまよった。どのヒーローも俺を助けようとはしなかった」

 

\ガッシューン……/

 

 忍者はガシャットを腰のキメワザスロットに挿入した。

 

\ガッシャット! キメワザ!!/

 

「救ってくれたのはジョニー・マキシマだけだった。そして俺は――彼の思想に共鳴したのだ」

 

\HURRICANE CRITICAL STRIKE!!/

 

 両手に構えられた小太刀が高速で回転し竜巻を生み出す。竜巻はタドルクエストのガシャットを破損させ、変身を強制的に解除させた。

 

「見ろ。これが俺とお前の差だ。俺は子供のころからヒーローとして戦うことを想定して鍛錬してきた。非情な選択を強いられることは数え切れないほどあった」

「…………」

 

 そして忍者は新たにガシャットを取り出す。それは紅色で、ラベルにはタドルクエストに似た絵柄のキャラクターが描かれていた。

 

\タドル・ファンタジー/

 

 それを起動し、再びキメワザスロットに装填する。

 

\ガッシャット! キメワザ!!/

 

「さらばだ、ヒイロ――お前は進む道を間違えた」

 

\TADDL CRITICAL SLASH!!/

 

 表は炎、裏は氷の力を持つ剣、ガシャコンソードが魔王のようなキャラクターと共に召喚される。それを手にし、クロスするように二つの斬撃を繰り出す。

 爆発が起きる。

 

「……俺は、ドクターだ」

「! 何ッ?」

「俺は多くの命を救ってきた……そして救えなかった命も、数え切れないほどある……!」

 

 粉塵の奥から光があふれる。基盤の露出したタドルクエストのガシャットが光り輝いているのだ。

 

「人を救えるのはヒーローだけじゃないッ! 俺は人を救うためにドクターになったんだッ!」

 

 ガシャットが排出され、外装が変化する。

 大理石を思わせる白、グリップは黄金、しかし元が破損していたためか基盤はむき出しとなってしまっている。

 ヒイロはそのガシャットをつかみ取り、起動さた。

 

\タドル・レガシー/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 医師免許を取得し、ヒイロは数々の患者の命を救ってきた。その手腕は正に神業と言えるもので、いつしか天才外科医と呼ばれるようになっていた。

 

『初めまして、竜ヶ峰 (みちる)です』

 

 多忙な日々を送る中、兄が恋人を連れてきた。向こうはヒーローではなく警察官で、さらに結婚を前提とした付き合いらしい。

 

 物腰柔らかで、強引で頑固な兄とは正反対な人――だと感じていたのは初めのうちだけだった。

 

『差し入れ、持ってきたよ。疲れた頭には甘いものが一番だよヒイロ君』

『いえ、折角ですが俺は甘いものが苦手で』

『うるさい食え』

『むごぉっ!?』

 

 彼女はよくケーキを差し入れてくれた。しかし甘いものが苦手だと何度断っても、構わずに持ってくる。そして断ろうとすると問答無用でそれを口に押し込んでくる。

 彼女はおしとやかなゴリラだった。

 

 彼女の個性は“充填”――エネルギーを蓄えることで不眠不休でも構わず働くことができるという、社畜が欲しがりそうな性能を持っていた。

 その個性は警察の仕事に生かされ、犯人を逃がしたことは一度もないという。

 

『私だって、ヒーローになりたかった……でも、この個性じゃ難しかったんだよね』

 

 彼女の個性の成長は高校入学までで止まってしまったらしい。とある高校のヒーロー科に入学したものの、個性伸ばしの授業で成果が出ず、仮免も取ることができなかったそうだ。

 

『だから、ヒイロ君がうらやましいよ。そんなヒーロー向きの個性持ってて』

 

 彼女は度々ヒイロに愚痴を言っていた。

 

『それでいて頭がいい? 神様って不公平だよ。いっそ、医者とヒーローを両立してみてもいいんじゃない?』

 

 ドクターでヒーロー、悪くないかもしれない。少しだけそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――昔からヒーローが嫌いだった」

 

 ヒイロは変化したガシャットをゲーマドライバーに装填した。

 

\ガッシャット!/

 

「ヒーローは事件解決しかできない。傷ついた人を治せないし、時に自分が傷つくことさえある」

「仕方のないことだ。その身と引き換えに平和を維持できるのならばな」

「ならばそのヒーローは誰が守る!? 自分の命さえ守れない人間に、他人の命など救えはしないッ!」

 

\ガッチャーン!!/

 

 破損したガシャットでは本来変身できない。しかし、ヒイロの個性は奇跡を起こす。

 

「変身っ!」

 

\レベルアップ! 辿る歴史! 目覚める騎士! タドールレガシー!!!!/

 

 レベル2の姿から純白の鎧をまとった姿へ。

 素体となるスーツは錆びているかのように赤茶けていた。

 

「っ成程、お前の個性は衰えていないということか」

 

 忍者――風魔はクナイを構えなおす。

 

「たとえお前が俺の兄であったとしても、この社会を蝕む腫瘍(ガン)ならば――切除するのみだ」

「できるのか? お前に」

 

 ブレイブはガシャットをキメワザスロットに装填、必殺技を発動する。

 

\キメワザ!!/

 

「俺に――切れないものは、ないッ!」

 

\タドル・クリティカルストライク!!!!/

 

 ブレイブは翼を纏い、浮遊する。

 そして強力なキックを繰り出す。

 

 風魔はそれを両腕を交差させることで受け止める。

 

 まばゆい光が周囲を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 巨大(ヴィラン)ゲムデウス事件。

 メディアは命がけで人々を救ったヒーローを称賛……しなかった。

 

 話題となったのは一日二日のみ、それ以降は大きな話題となることもなかった。

 それどころかネットではオールマイトと比較し、無能なヒーロー扱いする風潮も生まれてしまっていた。

 

 夫を失った悲しみといわれのない誹謗中傷を受け満は心を壊し、幼かったサキの面倒はヒイロが見ざるを得ない状況となっった。

 サキは死んだ父の影を追うようにヒーローを目指した。

 未熟な体で無茶な鍛錬をし、個性を鍛えようとして毎日けがをしていた。

 

 

 ――(ヴィラン)がいる限り、ヒーローはいなくならない。

 ――敵によって奪われる命は、力ない一般市民だけとは限らない。

 

 ヒーローが死んだところで大きく取り上げる人間は少ない。なぜなら、ヒーローとは常に死と隣り合わせの仕事だからだ。

 

 ならば――誰がヒーローの命を守る?

 

 人の命を救うためにヒーローになるのならば、ヒーローの命を守ってもいいはずだ。

 

『――いっそ、医者とヒーローを両立してみてもいいんじゃない?』

 

 彼は決意した。

 人の命を守るヒーローになろうと。

 

 敵によって奪われる命が一つでも少なくなるように、この個性を使おう。医者としての腕をささげよう。

 

 それが――"ドクターヒーロー"ブレイブの原点(オリジン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風魔のライフがゼロになる。

 自動的に変身が解除された。

 

 

「……俺に切れないものはない、か。人の“決め台詞”を勝手に使いやがって」

 

 加賀美 龍牙の個性は"切断"

 物体に切断エネルギーを纏わせ、ありとあらゆるものを引き裂く。

 

「違う、俺が手術(オペ)をする自分を鼓舞するために言っていた言葉だ」

 

 次第に龍牙の体が粒子状に分解されていく。

 同時に、映像が乱れるようにその体にノイズが走る。

 

「な、に?」

「やはり、偽物だったか」

「どういう、意味だ?」

 

 ヒイロは変身を解く。

 二人のいる空間が、元の病院の廊下となる。

 

「お前の体は何らかの個性で再現されたものだった、ということだ。たとえその記憶が本物だとしても、な」

「なぜそんなことが分かるッ!?」

「……あんたを検死した医者が、俺だからだ」

 

 確認をしたのが自分であれば、間違えようがないだろう。

 

「……そうか、お前は――ドクターでもあったな――」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 ゲームオーバーと共にその体が消滅する。ゲーマドライバーと紅色のガシャットが床に落ちる。

 

 ガシャットのラベルに書かれているのは“タドルファンタジー”

 魔王が勇者を倒し、世界を征服するゲーム。

 

 彼はそれを白衣のポケットにしまうと、手術室へと急ぐのだった。

 

 

 






ゼロワン、終盤に向けてかなりしんどい展開ですね。
お仕事五番勝負がいらなかったと言われていますが、この展開に必要だった気はしますね。クソ長い気もしますが。

圧縮される前のストーリーが見たい……


……え、続き?
…………大丈夫、あと少しで完結できますって!


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アナザーエンディング12

前回の投稿から2年たってる……?
嘘だ、僕をだまそうとしてる


前回投稿日:2020年08月16日(日) 22:29

うわああああああああ!!!













……と、言うわけで2年ぶりの投稿になります。もしかすると「こいつエタって更新しない気だな」ってなっているかもしれませんが、どうかお付き合いいただけると幸いです。
頑張って完結はさせるつもりなので気長にお待ちいただければ……











――――

 

――

 

 

「「「ぐぁあああっ!」」」

 

 三人のライダーはゲムデウスによってなす術もなく斃されてしまう。

 

 変身が解除され、元の姿へ――忍者、クイズ番組の回答者、一昔前の青年へと戻っていく。

 

 そして彼らはオーロラの壁の向こうへと消えていく。

 

「――――!」

 

 ゲムデウスは勝利の雄叫びを上げ、次なる獲物を探しその眼を左右へ動かす。

 

 ――一台の車が停車する。

 

 ドアが独りでに開き、中から青年が出てくる。三つ揃えのスーツを身にまとい、髪はオールバックで丁寧にセットされている。

 

「――“イズ”次の予定は?」

「はい。“財団Bの会長”との会食が控えております。あと10分以内に再出発しない場合、予定の時間を大幅に過ぎてしまうことが予想されます」

 

 青年と共に降りた女性――イズは予定を淡々と告げる。近未来的な白いスーツに黒のボブカット、そして何よりその両の耳にはヘッドホンのようなモジュールを装着していた。

 

「ふむ――ならば、五分でケリをつけようか」

「承知いたしました――“アルト”様」

 

 イズは手持ちのアタッシュケースを開くと中身を主――アルトへと差し出す。

 

 アルトは中身のドライバーを受け取ると腰へ装着する。

 

\Zero-One DRIVER/

 

 ドライバーから近未来的な音声が響く。

 

 アルトはスーツの懐からバッタの描かれたアイテム――プログライズキーを取り出し、それを起動させた。

 

\JUMP!/

 

 それをすぐさまベルトの認証装置へかざす。

 

\AUTHORIZE/

 

 呑気に変身をしようとしている敵を見たゲムデウスは、その巨椀を振り下ろす。

 

「!?」

 

 しかし、それは突如として飛来したバッタのライダーモデルによって阻まれる。

 

 アルトは両手を目の前で交差、右手を顔の横へと持っていきつつキーを展開。

 

「変身」

 

\PROGRIZE!/

 

 キーをそのままドライバーへと挿入する。

 

\飛び上がライズ! ライジングホッパー! 

 ――A jump to the sky turns to a "RIDER KICK"

 

 アルトの姿はバッタを模した戦士、“ゼロワン”へと変化する。

 

「“ゼロワン”――それが俺の名だ」

 

 ゼロワンはイズからアタッシュケース状の武器を受け取るとそれを展開する。

 

「お前を止めるのは――この俺だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「トウマ先生~! どこですか~?」

 

 青年は自分を探す女性の姿を建物の陰から覗きつつ安堵のため息をつく。

 

「ふぅ~……今日も逃げ切ることができた」

 

 この男、小説家“上山 トウマ”。大ヒット小説を次々と生み出している大人気小説家だ。

 

 しかし彼には悪癖があった。

 

「ごめん、メイちゃん。締め切りは守れそうにない」

 

 そう、締め切りのブッチである。

 

 彼は数々のヒット小説を生み出せるが、その代償として締め切りを守ることができないのである。期限を守らない代わりにクオリティの高い作品を生み出す。そう自分に言い聞かせていた。

 

「――――!」

「――キャァァッ!」

 

 悲鳴が聞こえ、トウマは慌てて大通りへ身を乗り出す。

 

 巨大ヴィラン、ゲムデウスが街を破壊しようとしていたのだ。

 

 そんなゲムデウスの足元でへたり込んでいたのは自分を追いかけていた担当編集のメイ。

 

「ふぇぇぇ……トウマ先生は見つからないし、なんかやばそうなヴィランに出逢っちゃうし……」

 

 気が付けばトウマは駆けだしていた。締め切りを守れないクズ小説家だったが、女性の涙を見過ごすほど外道ではなかった。

 

 ゲムデウスが腕を振り下ろし、メイを押しつぶそうとする。トウマはそれを間一髪で救出する。

 

「!?」

「トッ! トウマ先生っ! 一体どこ行ってたんですかっ!?」

 

 トウマは自分をポカポカ殴ってくるメイの頭をなでて慰める。

 

「ごめんごめん。ちょっと用事があってね」

 

 トウマは適当な嘘で誤魔化すとゲムデウスへと向き直る。

 

「俺は締め切りは守らないが――約束は守る。メイちゃんを泣かせたお前を――俺は許さないッ!」

 

\ブレイブドラゴン!/

 

 トウマは懐から小さな本――ワンダーライドブックを取り出し、そのページを開く。

 

かつてすべてを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた……

 

 彼の腰に炎がまとわりつき、剣の鞘を模したベルトが出現する。

 

 ライドブックのページを閉じ、ベルトへ装填。

 

 炎のようなエンブレムの付いた剣の持ち手を握ると抜刀する。

 

\烈火抜刀!/

 

「――変身!」

 

\ブレイブドラゴン!/

 

 炎が吹き荒れ、トウマの姿を変える。炎を纏ったドラゴンの剣士――セイバーへ。

 

烈火一冊! 勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!

 

「物語の結末は――俺が決めるッ!」

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 ――関東のどこか。

 

 昔ながらの雰囲気を残した銭湯、幸せ湯。

 

 ここにもまた、ゲムデウスの脅威が襲い掛かろうとしていた。

 

「――――!」

 

 銭湯の前に立ちふさがるのは一人の青年。Tシャツにジャージのとてもラフな姿だ。彼の腰には服装とは不釣り合いなベルトが装着されていた。

 

「俺の家族に――手出しはさせないッ!」

『おいマジかよ! おい“イッキ”! あんなの倒せっこないって!』

 

 青年――イッキの体からは幽霊のようなものが飛び出していた。幽霊はまるで悪魔のような風貌をしており、ゲムデウスの姿をみてビビっていた。

 

「なんだ“バイス”。ビビってんのか?」

 

\レックス!/

 

 イッキはポケットから恐竜の書かれたスタンプ――バイスタンプを取り出し起動する。そして自分の体から飛び出す悪魔――バイスを挑発した。

 

『は、はぁ? こ、怖くねえし?』

「だったら――一気にいくぜっ!」

 

 バイスタンプをベルトへ押印。すると背後にL○NEを思わせるエフェクトが出現する。

 

\カモン! レ・レ・レ・レックス!!/

 

「変身!」

 

 そのままそれをベルトへ装填し、右へ倒す。

 

\バディ・アップ!/

 

『あらよっと』

 

 バイスはスタンプのような容器をイッキへとかぶせた。

 

\オーイング! ショーニング! ローリング! ゴーイング!/

 

 イッキの姿はT-レックスをモチーフにしたピンクのスーツ、バイスは実体化しその体にT-レックスのアーマーを装着する。

 

\カメンライダー! リバイ・バイス・リバイス!!/

 

 彼らこそ“一人で二人”の戦士。

 

「――こっちがリバイで、俺っちがバイス。ちゃんと覚えて帰れよ~!」

 

 バイスはゲムデウスを挑発するように指差す。

 

 対するリバイは手を波打たせるように動かす。

 

「沸いてきたぜっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 ――仮想世界。

 

「マジカルアターック!」

 

 魔法少女(年齢不詳)が杖の先から攻撃を放つ。エグゼイドはそれを躱す。

 

「せいっ!」

 

 その後、ガシャットを手に取ろうとするも盾が飛来したためそれを受け止める。

 

 マイティクリエイターはVR世界でゲームを作るゲーム。

 

 仮想の世界を遊び場に様々な遊戯を楽しめるゲームなのだ。

 

「ちょっ……数、多すぎっ!」

 

 ゲームの創造を行うにはガシャットを手に取る必要がある。しかし、敵は多人数だった。

 

「そらっ!」

 

 バッタの異形が飛び蹴りを仕掛ける。

 

「セイヤッ」

 

 侍のなりそこないが木刀を振り回す。

 

「っ……!」

 

 ガシャットを手に取ろうにもその隙を与えてはくれなかった。

 

「いいよな、お前。どうせいい個性持ってんだろ?」

 

 バッタの異形が吐き捨てるようにつぶやく。

 

「……そりゃ、個性ぐらいもってるっての!」

 

 エグゼイド――耳郎は攻撃を防ぎながら答える。

 

「羨ましいぜぇ……俺たちは全員無個性なんだよ」

「っ!」

 

 ヒーロー(偽)たちは攻撃の手を止め、エグゼイドを睨み付ける。

 

 大なり小なり、羨望と嫉妬の混じった憎しみのまなざしだった。

 

「……そうさ、僕たちは生まれながらにして“ヒーロー”になれない“負け組”だ」

 

 盾を装備した全身タイツのヒーローがつぶやく。

 

 現実の世界で何かあったのか、拳を強く握り締めていた。

 

「羨ましいわ。個性さえあれば、私だってこんな惨めな……」

 

 魔法少女(年齢不詳)は、華やかな風貌とはかけ離れた哀愁を漂わせる。

 

「異形で辛いぜ、っていうが……異形でいいから俺は個性が欲しかったよ」

 

 バッタのような異形は、自虐するように言う。異形型の個性よりも無個性で辛い目に遭ったことがあるのだろう。

 

「個性、アレバ! 俺モ“サムライ”に!」

 

 侍もどきだけは他のメンバーと違って暗い過去は無いようだった。

 

「個性個性って……」

 

\ガッシューン/

 

 エグゼイドはガシャットを引き抜き構える。

 

『言っとくけど、私は個性がなくたって努力している人を知ってる』

 

 エグゼイド――エミは怒ったような口調で言う。

 

「確かに、あいつ無個性だったよね」

 

 エグゼイド――耳郎もまた同意するように頷く。

 

『貴方たちがどんな目に遭ってきたのか知らないけど――』

「――罪のない人を巻き込むなっての!」

 

 エグゼイドはガシャットを用いて空中に剣を描く。

 

 ゲームを作るゲームの本領を発揮し始める。

 

「わからないわよ――個性に恵まれたお子ちゃまには!」

 

 魔法少女(年齢不詳)が杖を振るとヒーローたちが光り輝く。

 

「!?」

 

 次の瞬間、盾男が指を弾くと、エグゼイドが吹き飛ぶ。

 

「――こっちだ」

 

 バッタのような異形は目にも止まらない速度で移動し、高速で蹴りを仕掛け続ける。

 

「かはっ!」

「セイバイ!」

 

 侍もどきの袈裟切りを受け、エグゼイドの変身が解除されてしまう。

 

『響香っ!』

「あら、あなた雄英の」

 

 魔法少女(年齢不詳)は意味ありげに微笑み、倒れている耳郎へ歩み寄る。

 

「そうよねぇ……いくらヒーローの卵って言っても。こんな子供じゃ、ねぇ」

 

 耳郎は悔し気に顔を上げる。不正な方法で侵入したため、個性は失っていない。だが、相手は未知の力を持っているため抵抗して敵うかどうかは未知数だった。

 

「所詮あなたは個性を持って粋がっているだけの子供。同じ条件だったら――勝てるわけないんだよっ!」

「ッ!」

 

 魔法少女(年齢不詳)はヒールで耳郎の頭を踏みつける。その表情は何かの憂さを晴らすようにサディスティックで、正義の味方というよりは悪の組織の女幹部と言った風だった。

 

 他のヒーローたちもその行為を当然と言ったように傍観している。

 

「あーあ! ほんと最高ね! そうだわ……こんないい世界を壊そうとした不届きものには、相応のバツを与えなくっちゃ♪」

 

 魔法少女(年齢不詳)は下衆な笑みを浮かべると耳郎の頭を掴んで持ち上げる。

 

「こんな貧相な体でも、需要はあるものねぇ♪」

「……うっさい」

 

 コンプレックスを刺激されるも、やり返すだけの体力は残っていなかった。

 

「さて、まずは――きゃっ!」

 

 突如、狐火のようなものが魔法少女(年齢不詳)を襲う。

 

「――楽しそうだから、化けて出ちゃった♡」

 

 煙が晴れると、そこには狐のような個性の人物が立っていた。

 

 人の耳はなく代わりに頭頂部には狐の耳、腰からは狐のような尾、大きなフードの付いたジャケットを身にまとっている。まさに狐人間といったいでたちだった。

 

 そしてその容姿は中性的、男と思えば男に見えるし、女と言われれば女にも見える。声も高すぎず低すぎず、男性とも女性ともとれる姿だった。

 

「なに諦めて寝転がってるの? この世界を、変えるために来たんじゃないのか?」

「! いわれ、なくても」

 

 狐人間に挑発され、耳郎は奮起した。

 

 取り落としていたガシャットを手に再び立ち上がる。

 

「お前、何者だ!」

 

 盾男に問われると、狐人間はジャケットの懐からバックルを取り出す。

 

「――“ギーツ”」

 

\Desire driver/

 

 バックル――デザイアドライバーの中心には狐を模したアイコンのIDコア。

 

「終わらせようか――こんな世界」

 

 さらにリボルバー銃のようなバックルを取り出し、ベルトの右側へ装填する。

 

\Set/

 

 狐人間――ギーツは右手で狐の影絵を作り、前へ突き出す。

 

「変身」

 

 パチン、とスナップし、バックルのシリンダーを回し引き金を引く。

 

\MAGNUM/

 

 黒のボディスーツに狐の仮面、そこへ銃を装備した白いアーマーが装着される。

 

\Ready――Fight!/

 

「――さあ、ここからがハイライトさ」















実のところ、最近は一時創作で某新人賞に投稿する作品を書いていました。一本書き上げ、二本目の手が付かなかったので、とりあえず二次創作完結させようか、と思った次第です。
ま、まあセイバー、リバイスと続いて二次創作モチベマイナスになったのも原因ですけどね! リバイス、なぜおまえはそんな体たらくなのだ……
と、リバイスへの文句を書き始めたら止まらないのでこの辺で止めておきます。

次は遅くならないうちに更新する予定です。完結までもうしばらくお待ちいただけると……
なお、ミライダー達の扱いをどうするはずだったか忘れたので、雑に処理しました。



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アナザーエンディング13

投稿すると急増するアクセス数、増減するお気に入りの数……懐かしい感じ

感想が来ないのは……二年も放置してたし是非もないよネ



――――

~前回までのあらすじ~

なんかありそうに召喚されたミライダーが雑に処理された! この無責任!
令和ライダーなんか出して本当に風呂敷たたむ気あるのか!?


――――

 

――

 

 

「これなら――できる気がするッ!」

 

 ソウゴ――ジオウはゲムデウスに向けゆっくりと歩を進める。

 

 ベルトからは『ケン』の文字が出現し、文字通り剣を生み出す。

 

「キシャアアアァァァッ!」

 

 ゲムデウスが雄叫びを上げると、足元にバグスターウイルスを元にした戦闘員――チキンのような頭のヴィランだ――が出現する。

 

「――我が魔王、微力ながらお力添えを」

 

\ウォズ!/

 

 傍らの不審者――ウォズは緑を基調としたドライバーを装着し、自分用のライドウォッチ――ミライドウォッチを起動する。

 

「変身」

 

 それをドライバーへ装填。本を閉じるかのようににレバーを閉じた。

 

\フューチャータイム! スゴイ・ジダイ・ミライ! カメンライダーウォズ! ウォズ!!/

 

「へー! 君も変身できるんだ!」

「我が魔王、前を」

 

 ジオウが呑気にはしゃいでいるのをウォズがたしなめる。

 

 戦闘員たちが一斉に襲い掛かってくる。二人はそれを流れるように捌いていく。ジオウはぎこちないながらも剣による攻撃で、ウォズは首元からストールを伸ばしたりしながら対処する。

 

 しかし、敵は戦闘員だけではない。

 

「ギャォォォォォ!!」

 

 ゲムデウスによる攻撃が二人のライダーを襲う。

 

「うわぁあぁっ!」

 

 攻撃をもろに喰らったジオウは無様に転がっていく。

 

「くっそ~……あいつ、強すぎ」

 

 ジオウ――ソウゴは自分の手のひらを見つめる。

 

 親子を助けた時のように、時を止める力を。それか、叫んだ瞬間に文字を具現化させた力を。

 

 しかし、躊躇ってばかりで動けない。さっきの力は偶然なのではないか、本当は自分が無個性のままで、夢の中に捕らわれたままなのではないか。

 

「――やれやれ、俺の出る幕はないかと思っていたが」

「えっ? 誰っ!?」

 

 気が付けば、マゼンタのトイカメラを首から下げた男に見下ろされている。

 

「……“通りすがりの仮面ライダー”だ」

「仮面、ライダー……? よくわかんないけど、危ないから下がっててよ!」

 

 ジオウは男に下がるよう忠告する。視線の先ではウォズが戦闘員と戦いつつ、ゲムデウスの攻撃をいなしている。

 

 男は深いため息をつき、手を振り上げる。

 

「“この世界”のジオウは、まだまだひよっこみたいだな」

「……はぁ?」

 

 不可解なことをいう男に、ジオウ――ソウゴは疑問符を浮かべる。

 

「だがまあ、大体わかった。俺の力が必要なほどではないな」

 

 男の背後からオーロラのようなカーテンが出現し、そこから一人の少年が姿を現す。雄英高校の制服を着ており、髪は短髪、童顔でどこかかわいらしさのある容姿だった。

 

 彼は食事中だったのか、パンを手に取り口を開いた状態で固まっていた。

 

「……なんだ、ここは?」

「こいつがいれば十分だろう。じゃあな」

 

 男は困惑する少年を置き去りにしてオーロラの向こうへと消えていった。

 

「え……君、雄英の人? でも、体育祭の映像にいなかったような……」

「なっジオウ……! クラスメイトの顔を忘れたのか!?」

 

 少年は驚いたようにパンを落とす。

 

「えっ嘘……俺まだ中学生……そっか、もしかして君未来から来たの!?」

 

 ジオウ――ソウゴは少ないやり取りから状況を即座に理解した。この柔軟さはまさしく王の資質と言えるかもしれない。

 

「……何を寝ぼけたことを言って――っゲムデウス、だと?」

 

 少年は目の前で暴れているゲムデウスを見て腰を抜かす。

 

「そうか、俺はゲムデウス事件の――仕方ない。手を貸してやる」

 

 状況を理解したのか、少年はベルトにドライバーを――ソウゴと同じジクウドライバーを装着しライドウォッチを取り出した。

 

「ねぇ君、名前は?」

「俺は妙光院 ケイトだ」

 

\ゲイツ/

 

「へーゲイツっていうんだ」

「おい何を聞いていた? もう一度言うぞ、俺は妙光院 ケイトだ」

 

 少年――ケイト(ゲイツ)はライドウォッチをベルトへ装填、ロックを解除しそれを両手で包み込む。

 

「うん、わかった。一緒に戦おう! ゲイツ!」

「だからケイトだと……もういい――変身!」

 

 正しい名前を覚えさせることに諦めたのか、ケイトはそのまま変身する。

 

\RIDER-TIME/

 

 彼こそ、未来のジオウ――ソウゴのライバルにして最高の友。

 

\カメンライダーゲイツ!/

 

 ジオウとは異なり赤と黒を基調とした時計のようなアーマー、仮面には“らいだー”の文字。

 

「よーし、今度こそ、いける気がするっ!」

「……ふん、過去のお前になど負ける気はない」

 

 ジオウとゲイツ、二人は並び立ってゲムデウスと向き合う。

 

 将来、時の王者と救世主と呼ばれる二人が、出会った瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

 ――仮想世界

 

 

「さあ、ここからがハイライトさ」

 

 白い狐のようなライダー、ギーツは手元の銃――マグナムシューターをヒーローたちへと向けながら投げキッスをする。

 

「俺たちの世界を邪魔するなら――排除するまでだっ! 行くぞみんな!」

「言われなくてもっ!」

 

 盾男の号令で魔法少女(年齢不詳)が杖を振る。すると、魔法少女の分身が現れる。

 

「わお! 雑魚は数が多いと相場が決まってるぜ?」

「っ個性がありゃあんたなんかに負けはしないのよっ!」

 

 ギーツの挑発に乗った魔法少女(年齢不詳)は再度杖を振る。すると分身たちが一斉に動き出した。

 

 ギーツは臆することなく分身の群れの中へ飛び込み、アクロバティックな動きでそれらと戦っていく。

 

「――ウチらも、戦わなきゃ」

 

 耳郎もまた戦おうとガシャットを構えるも、苦しそうに胸を押さえた。

 

『っ響香!? 大丈夫!?』

「うん……だい、じょうぶ」

 

 強がってみせるものの、戦闘のダメージとウィルスによる負荷が原因で立っているのが精いっぱいな状況だった。

 

 彼女の脳裏にクラスメイト達の顔が思い浮かぶ。

 合宿で襲撃を受けたメンバーの大半は昏睡状態となっており、普段は陽気で騒がしい彼らが静かに眠り続けていた。

 

「ウチが……やらなきゃっ!」

「――無理をする必要はない、耳郎 響香」

 

 聞き覚えのある声に振り向く。そこには王様のような装束のクロト、そして従者のように侍る緑谷とエミの兄、エム。

 

「耳郎さんっ! 大丈夫?」

 

 緑谷はボロボロなクラスメイトに駆け寄り方を貸す。

 

「緑谷……壇……なんで、ここに?」

「耳郎さんこそなんで正気で……っそういえば僕がみんなを探しに行ったときどこにもいなかった。そういえば補修で肝試しに参加していなかった人も。そうか、ここにいるのは襲われたメンバーだけで」ブツブツブツ

「……ごめん、考察あとにしてくんない?」

 

 平常運転な緑谷にツッコミを入れると、クロトの方を向く。

 

「決まっている。この世界から脱出するためさァ」

「お前の持っているそのガシャット、それを使えば俺たちはこの世界から脱出できるってワケさ♪」

 

 クロトの説明をエムが補足する。

 

 耳郎は手に持ったマイティクリエイターガシャットが急に重くなったように錯覚した。このガシャットにすべての命運がかかっている。そんな重大な役目を自分が負っているのだと改めて自覚する。

 

「安心したまえ。我々の妨害をするのはあのヒーローもどき。ヌァラバ……この場は私に――この壇、クゥロォトォ王に任せて休んでいるといい」

 

 クロトは自信満々に乱戦へと向かっていく。

 

「――ええい! 控えおろうっ!」

 

 そしてどこぞの黄門様の家来のように高らかに宣言する。

 

「この私を誰だと心得る!」

「いやあんたが言うんかい」

 

 耳郎はたまらずツッコんでしまう。

 

「私こそは王の中の王――壇、クゥロォトォ王であるぞォッ! 貴様ら頭が高ァいッ!」

 

 傍若無人なクロトのふるまいに戦闘が一時中断される。

 

「はは、これは失礼いたしました」

 

 クロトの口上にわざとらしく従ったのはギーツ。ノリがいいのかはたまた馬鹿にしているだけなのか。

 

「お前……雄英の」

「はァ……羨ましいなぁ……エリート様はここでも人助けってわけだ」

「王による支配ハ、過去のlegacy!」

「個性も使えないあんたなんか怖くもなんともないわよッ!」

 

 反対に、ヒーローたちは嫉妬交じりの怒りの視線をぶつけた。

 

「ほゥ……君は私に個性が使えない、そう言ったァ……だが、この世界は“無個性の願いが叶う”世界ィ」

 

 チッチッチッ、とクロトは指を振る。

 

 それは理解の足りていない子供を小馬鹿にするような仕草だった。

 

「ヌァラバ……無個性な私の願いも叶う――」

 

 クロトは恍惚とした表情で天を仰いだ。

 

 そしてその全身が輝きだす。

 

「な、無個性っ!? 馬鹿な!」

 

 ヒーローたちは無個性であることを信じられないのか、狼狽えている。

 

「……私は常々思っていた」

「――この頭には無数のゲームのアイデアが浮かんでいる」

 

 なぜか、光り輝いているクロトとは別の方向から声が響いてくる。

 

 ぬるり、と。スーツを着こなしたクロトが現れる。腰にはバグヴァイザーを装着している。

 

「――だが一度に作れるゲームは一本、とてももどかしい思いをしたものだ」

 

 再び、新たなクロトの声が。

 

 現れたのはジャケットにTシャツというラフな格好のクロト、腰にはゲーマドライバーを装着している。

 

「――どうにか、この頭の中のアイデアを一度に具現化できないものか。思い悩んだ日もあった」

 

 さらにクロトの声が。

 

 現れたのは髪をオールバックになでつけた上半身裸のクロト、腰にはゲーマドライバー。

 

「――だが、これらの問題は、実に簡単な方法で解決する」

 

 またもやクロトの声。

 

 現れたのは、ゲンムを思わせるボディースーツのクロト、腰にはゲーマドライバー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「そう、この私が増えればいいのさァッ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 クロトの発光が治まる。

 

 占めて五人のクロトが一堂に会していた。

 

「嘘……だろ? 壇君が……?」

 

 異様な光景に緑谷は絶句していた。

 

「マジ……? 一人でもキャラ濃すぎて手に負えないってのに」

 

 耳郎もまた、癖の強いクロトが増えたことにめまいを起こしていた。

 

『いや……クロトが増えたって仲間れするだけでしょ』

 

 耳郎の視界を通じてこの状況を見ていたエミは、これから起こるであろう未来を予知した。

 

「ははははっ! これは心が躍るなぁっ!」

 

 この状況を面白がっていたのはただ一人、エムだけだった。

 

「か、数が増えたって雑魚は雑魚でしょっ!?」

 

 魔法少女(年齢不詳)は、自分も分身を出しておきながらクロトの増殖を見せかけだと虚勢を張る。

 

「ホゥ……私が雑魚かどうか、その身で味わうといィ……」

 

 五人のクロトはそれぞれ変身アイテムを構えた。

 

「――私は壇 クロト!」

 

 スーツを着たクロトは白のガシャット――デンジャラスゾンビを持っていた。

 

\デンジャラス・ゾンビィ……/

 

「――私はァ新・壇 クロトォ!」

 

 ラフな格好のクロトは黒のガシャット――プロトマイティアクションXオリジンを持っていた。

 

\マイティアクションX!/

 

「――私は……壇、クゥロォトォ神!」

 

 上半身裸のクロトは分厚いガシャット――ゴッドマキシマムマイティXを持っていた。

 

\ゴッドマキシマムマイティX!/

 

「――私は、壇 クロト※※(ピー)

 

 ゲンムのようなボディスーツのクロトはグレーのガシャット――マイティノベルXを持っていた。

 

\マイティノベル・エックス!/

 

「そしてこの私こそ――壇、クゥロォトォ王だァッ」

 

 王のような装束のクロトは黒いライドウォッチ――アナザーウォッチを持っていた。

 

\オーズゥ……/

 

 

 

 

「「「「「変身!!」」」」」

 

 

\デンジャラス・ゾンビィ  WoOoooOOO!/

 

\マイティーアクショーンX/

 

\ゴッドマキシマム――エーックス!/

 

\(省略)マイティノベル! X!/

 

 

 

 

 

 五人のクロトは五者五様の姿へ変身。

 

 四人のゲンムとアナザーオーズへと姿を変えた。

 

 

「刮目するがいい――限界を超えた、私のクァミの、サァイノウをッ!!」








大変長らくお待たせいたしました。
次回、クロトが大暴れします!
それはもう大暴れです!


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アナザーエンディング14

はぁ‥‥はぁ……残りライフ……いくつだ?
完結できるまで毎日投稿、頑張ります。





――――

~前回までのあらすじ~

クロトが五人に分裂した!






「――さァ、行くぞ私ィ!」

 

 王のクロト――アナザーオーズが号令をかける。

 

「私に命令するなァ! 私ィ!」

「私と言えど、邪魔をするなら容赦はしないィ!」

「君に指図される謂れはない」

「私は私のやりたいようにやる」

 

 しかし――クロト軍団はそれに反発した。

 

 自分に対する号令にもかかわらず、誰も彼も(クロト一人だが)従わず、思い思いの動きでヒーローへ向かっていく。

 

「……私の分際で――生意気だぞォッ!」

 

 アナザーオーズもまたそれに追従する。

 

 

 

――――

 

「チッ! 数が増えたところで――」

 

 バッタ男のケリがゲンム(ゾンビゲーマー)に命中する。

 

 その威力は本物で、ゾンビゲーマーは地を滑るように飛んでいく。しかし、その体が靄につつまれ倒れた体がゆっくりと起き上がっていく。

 

「なっ」

「……デンジャラス・ゾンビはゾンビとなった街の人間から逃げ続けるホラーゲーム」

 

\ガシャコン・スパロー/

 

 ゾンビゲーマーは弓のような武器、ガシャコンスパローを召喚しそれを分離、鎌のような形態へと変化させる。

 

「君は最後まで逃げ切れるかな?」

 

 

 

 

 

――――

 

「セイヤッ!」

「ウグッ」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 侍もどきの太刀を受けたゲンム(レベル0)はがくりと膝をつき、消滅していく。

 

「サムライは、負けナイ!」

「はっはっはっはっ――フゥ!」

 

 格好よく残心している侍もどきの背後からレベル0が復活する。

 

「what?」

「――このガシャットはα版でね、コンティニュー機能が搭載されている」

 

 体育祭でも披露したクロトのコンティニュー。

 

 しかしその残りライフは1であったはずだった。

 

()()()の残りライフは98。そしてこのガシャットは“アンチ個性エリア”を展開する――長く戦うほどに、君は不利になる」

 

\デンジャラス・ゾンビィ……/

 

 レベル0はダメ押しとばかりにガシャットを追加で起動させた。

 

 侍もどきの顔はひどく青ざめていた。

 

 

 

 

 

――――

 

「この私を雑魚狩りに使うとは――」

「ナメんじゃないわよッ!」

 

 魔法少女(分身体)は杖を振り上げる。

 

「コズミック・クロニクル、起動」

 

 ゲンム(ゴッドマキシマム)は手を振り上げゲームを起動。上空から無数の隕石が降り注いでくる。

 

「は……?」

 

 分身体はそれぞれがあっけにとられたようにそれを見つめている。

 

「……コズミック・クロニクルは宇宙を冒険するRPG。時に、プレイヤーは宇宙の洗礼を受けることもある」

 

 ゴッドマキシマムは解説をよそに、分身体が次々と隕石に打ちぬかれていく。

 

「存分にゲームを楽しんでくれたまえ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「……残念ながら、“マイティノベルX”は試作品でね。戦闘能力は皆無に等しい」

 

 ゲンム(ノベルゲーマー)は後ろで手を組みながら残念そうに解説する。

 

「はんっ! だったら――とっととくたばんな!」

 

 分身体は杖を振り上げるとそこには大きな火球が生成される。

 

「『魔法少女は突如出現したブラックホールに飲み込まれ、命を落とした』」

「え?」

 

 ノベルゲーマーが言葉を紡ぐと、その通りにブラックホールが出現。分身体はそこへと吸い込まれていく。

 

 抗おうとその場で踏ん張るも、生み出した火球は既に吸い込まれ、特徴的なとんがり帽もホールへと飲み込まれる。

 

「マイティノベルXはプレイヤーが一つの物語を追体験できるノベルゲーム。()()()()皆無だが――現実を作り変える特殊能力を持っている」

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 分身体はブラックホールの奥へと飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「貴様は分身体ではないようだなァ」

「それがどうしたっていうの? 分身しただけの無個性が、私に勝てると思ったら――大間違いよッ!」

 

 魔法少女(本体)はアナザーオーズに向けて杖を振り下ろす。

 

 アナザーオーズは砕けたメダルをまき散らし、ミイラのような戦闘員を生み出す。

 

「行けッ! 屑ヤミー共!」

 

 無数の爆発が起こり、ミイラのような戦闘員――屑ヤミーは吹き飛ばされる。

 

 しかし、被害を免れた個体はゾンビのようにふらつきながら進軍、魔法少女へとまとわりつく。

 

「ッキショいんだよッ!」

 

 魔法少女は杖を鈍器のように振り下ろし屑ヤミーを振り払う。

 

「さっきから無個性無個性――貴様はどうやら“個性”に強いこだわりがあるようだな」

「はん! 当たり前でしょ? この世は所詮個性の優劣で全てが決まるのよッ! 個性がない人間は――それだけで社会の負け組ッ!」

 

 魔法少女は再び杖を構えなおす。

 

「私の美貌によってきた男どもは、私が無個性だって知って離れていった! 就職しようにも無個性ってだけで書類落ちッ! 個性さえあれば――私の人生はもっとマシだったのよッ!」

 

 一際大きな爆発が起きた。

 

 満足げな魔法少女は、煙の向こうに屑ヤミーの姿を認め表情を凍り付かせる。

 

「……笑止」

 

 アナザーオーズは盾に使った屑ヤミーを放り捨てると、静かに怒りをあらわにする。

 

「笑止笑止ィッ! 君はこの世界を勘違いしてイルゥ! この世界は個性があるかどうかなど()()()問題さァッ!」

「なん……ですって?」

 

 アナザーオーズは突如として変身を解除、空を仰ぎ見る。

 

「この世はには――二種類の人間しかいない」

 

 クロトは晴れやかな笑顔になる。

 

「神の才能を持つこの私か、それ以外の人間か」

 

 さわやかスマイルのクロトは魔法少女へ手を差し伸べる。

 

「安心したまえ、君はこの世にいる凡百な人間の一人にすぎない。個性で思い悩む必要はないんだよ?」

 

 傍から見れば最上級の侮辱である。

 

 しかしクロトは本気で慰めるつもりでその言葉を紡いでいた。

 

「――ふざけんじゃないわよッ!!」

 

 当然、魔法少女はこれ以上ないくらいに激昂した。

 

「……? なぜ君はそんなに怒っているんだ? 私は、何も起こられるようなことを言った覚えはないんだが」

「ああ、そう。なら――死んでこの世界から出て行けッ!」

 

 魔法少女は地面に杖を突き立て、呪文を唱え始めた。

 

 何か大技を狙っているのは間違いなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ヒーローとゲンム軍団+ギーツの戦いはし烈さを極めていた。

 

「ありがと、緑谷。ウチはもう、大丈夫だから」

「耳郎さん」

 

 肩を借りて立っていた耳郎はふらつきながらも自分の足で立つ。

 

「……こんな感じ、だったんだ」

「え?」

 

 緑谷は疑問符を浮かべる。

 

「あいつらにボコボコにされたとき――ううん、このガシャット使ったとき、緑谷を思い出した」

 

 耳郎は手元のマイティクリエイターガシャットを見つめた。

 

「正直、何とかなるって思ってた。サクッとみんな助け出して、事件解決できるって。所詮はゲームだったしさ」

 

 だが待ち受けていたのはガシャットの強い副作用。そして囚われているはずだった者達の反抗。

 

「でもさ、変身したら思った以上にキツかったし、あいつらにはボコボコにされたし。正直心折れそうだったよ」

 

\マイティクリエイター! V・R・X!!/

 

 再びガシャットを起動すると、耳郎の体内のバグスターウイルスが再び活性化する。

 

「ッゥ!」

『響香!』

「耳郎さん!」

 

 たまらず膝をついた耳郎に駆け寄る緑谷。

 

「でも、体育祭で……ボロボロになって轟と戦う緑谷思い出してさ。頑張ろうって思った」

「え?」

 

 耳郎は再び踏ん張るとガシャットを構える。

 

「すごいよ、緑谷は……だって普通あんな腕折れたら諦めるって」

「あっいや、あの時は必死で」

「だから――ウチも頑張ろうって思った。だって、まだウチの体は、動くしっ!」

 

\ガシャット!/

 

 それは明らかな強がりだった。

 

 緑谷は何もできない自分が不甲斐なさに唇を噛みしめ――

 

「『まあ待て、その体では長時間変身できないだろう?』」

 

 その瞳が緑に輝く。

 

 別人のような表情となった緑谷は耳郎の胸に手を当てる。

 

「えっちょっ」

「『案ずるな、この体に取り込まれた力はごくわずかだが、この程度なら造作もない』」

 

 緑谷――その体にとりついたベルナージュは耳郎の体を癒していく。

 

「――悠長に回復するのはいいが、どうやら敵は待ってはくれないみたいだぜ?」

 

 静かに状況を見守っていたエムは、こちらへやってくる分身体の方へ顎をしゃくる。

 

「っ! 一体どれだけの分身を」

「おい、イヤホンジャック」

「えっなんでその名前」

 

 突然ヒーロー名で呼ばれ、耳郎は動揺する。

 

「お前の個性、無くなってないよな? 外から侵入したら個性はそのまま使える、違うか?」

「え、ああ……多分そういうことだと思うけど」

 

 その言葉を聞いたエムは嬉しそうに笑う。

 

「ははっ! 心が躍るぜ。つまり――俺も変身できるってワケだ」

 

 そして懐から取り出したのはガシャットギアデュアル。

 

 バグスターウイルスそのものである彼は、その体内にあらゆるものをデータ化して格納できる。個性、としての能力が失われていない以上、それを自在に取り出せるのは明白だった。

 

「エミと遊ぶために、俺は悪事を働いた。だったら、それはキチンと償わないとな?」

 

\デュアル・ガッシャット!/

 

 エムはゲーマドライバーを装着し、ガシャットを装填。

 

「マックス大変身」

 

\ガッチャーン! マザルアップ!! (中略) パーフェクトノックアーウト!!/

 

 エムはパラドクス(レベル99)へ変身、武器であるガシャコンパラブレイガンを構えた。

 

「時間は俺が稼ぐ! こんな白ける世界、とっととおさらばしようぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 盾男はギーツの銃弾を防ぐ。

 

「くっ」

「ふーん、やるじゃん」

 

 ギーツは楽しそうにマグナムシューターを回転させている。

 

「当然だ――俺は、この理想の世界を守るんだッ!」

「そう、でも勝つのは――オレさ」

 

 ギーツは続けて左腕のアーマードガンを展開しに疑似的な二丁拳銃のスタイルとなる。

 

「くっ! なぜだっ!? 無個性の俺たちにとって、この世界は夢がかなった“理想の世界”なんだっ! 邪魔をせず放っておいてくれよッ!」

 

 盾男はギーツの猛攻を防ぎ、時に躱しながら距離を詰めていく。

 

「ここが、オレの望む世界じゃないからさ」

 

 しかしギーツもまた、間合いの内側に入ろうとする盾男をひらりひらりと躱す。

 

「それに、お前らのことが気に入らない。不幸アピールをするのは結構だが、所詮は世界を変えようって気概のない腰抜けだ」

「お前に何が分かるッ! 人を助けたいと願っても、“無個性”は出しゃばるなと除け者にされるッ!」

 

 盾男は、かつてヒーローになることを夢見ていた。

 

 ヒーローとなり、人々を助ける仕事をしたい。そのために幼少のころから必死にトレーニングしてきた。

 

 しかし現実は非情だった。

 

 無論、現実にも派手でない個性を持つヒーローはごまんといる。己の身一つで戦い、個性をただの道具のように扱う、そんな戦法を取るヒーローは少なくない。

 

 だが、盾男が直面した現実は“無個性”に対する差別だった。個性がないのなら足手まといだから現場へ出てくるな、いくら体を鍛えたところで個性持ちのヴィランには敵わないのだから潔くあきらめろ、と。

 

「だったら世界を変えればいい。個性のあるなしに関わらず、やりたいことのできる世界に」

「綺麗ごとはもううんざりだッ!」

 

 盾男はトレードマークの盾を放り捨て、指を構える。

 

「俺だって命を懸けて世界を変えようと思った。でも俺がどう頑張ったって世界は変わらないんだよッ!」

 

 パチン、と指が弾かれる。

 

 直後、ギーツの立つ地面が爆ぜる。

 

「“命を懸けても世界は変わらない”、ねぇ……」

 

 飛ばされながら、ギーツはバイクのスロットルのようなバックル――ブーストレイズバックルを取り出す。

 

\Set/

 

 それをベルトの左側へ装填。

 

 右側のマグナムのトリガーを引き、左側のスロットルを盛大に吹かす。

 

\Dual on/

 

 ギーツがきれいに着地すると、その下半身に赤のアーマー――バイクのエンジン、飯田の個性を思わせるアーマーが装着される。

 

\Get ready for BOOST & MAGNUM/

 

 上半身は白のアーマー、下半身は赤のアーマー、頭部は狐をモチーフにした仮面。

 

 マグナムブーストフォーム。ギーツの基本形態にして切り札の姿。

 

 

「――懸けてから言えよ」

 

\Ready ―― Fight!/

 










もうちょっと圧倒的に無双させてもよかったかな(無慈悲)
さーて、そろそろこの世界のクロトのオリジンが書けそうだぞ~


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アナザーエンディング15

予定があるとさすがに投稿できなかった・・・







 

――――

 

「――ありがと、もう大丈夫」

 

\ガッチャーン……レベル・アーップ/

 

 回復が完了、再び変身する。

 

\マイティクリエイター――V! R! X!/

 

「……じゃ、行ってくるよ」

 

 エグゼイドはガシャットを引き抜き、ジェットパックを描き生み出す。

 

 それを装着すると、上空で大きな円を描き始めた。

 

 

 

 

 

 

――――

 

「くそっ――やめろっ!」

 

 バッタ男は空で円を描くエグゼイドに向かって飛び上がる。

 

「ほぅ……よそ見とはいい度胸だな」

 

\ズ・ドーン/

 

 ゾンビゲーマーはガシャコンスパローを弓モードへ変形、バッタ男を狙撃する。

 

「ぐあっ……!」

 

 横っ腹を撃ち抜かれたバッタ男は無様に落下する。

 

「くそっ……くそっ! どうして俺たちの邪魔をする!」

「決まっている」

 

 ゾンビゲーマーはベルトのABボタンを同時押し、必殺技を放つ体勢に入る。

 

「この世界は、私が作ったものではないからだ」

 

\CRITICAL END/

 

 そして再びAボタンをクリック。黒い靄を纏いながら空中へと舞い上がる。

 

「そんな――そんな理由でッ!」

「人々に夢と希望を与えるのは、この私の才能でなければならないのさァッ!」

 

 ゾンビゲーマーのキックがバッタ男へと命中した。

 

 

 

 

――――

 

\レベルアーップ!! (中略)デンジャラス・ゾンビ  WoOoooOOO!/

 

 レベル0は追加でデンジャラスゾンビガシャットを装填、レベルX-0へと進化した。

 

「ヒィィィィッ! 降参! 降参ッ!」

 

 侍もどきは刀を収めて土下座をしていた。必死になって頭を地面にこすりつけ、許しを乞うていた。

 

「……私の偉大さに気づいたか。いいだろう、そこで大人しくしているといい」

 

 その様子にレベルX-0は油断し背中を向ける。

 

「! 隙アリ!」

「ぐっ!」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 侍もどきは不意討ち、背中から斬りかかりライフを奪う。

 

「――フゥ! 残りライフ97……不意討ちとは、侍らしくもない」

「サムライ、カッコいい! だから、オレ、サムライになりタイ」

 

 侍もどきは悪びれることもなく刀を構える。

 

「ホゥ……ならば君に、本物の侍を見せてあげようじゃないか」

 

\ガシャコン・ブレイカー!! ジャ・キーン!!/

 

 復活したレベルX-0はガシャコンブレイカーを召喚し、剣モードへ変更する。

 

\ギリギリ・チャンバラ――ガッシャット!/

 

 そして黒のガシャット――ギリギリチャンバラを装填。

 

\GIRIGIRI CRITICAL FINISH/

 

 侍もどきはそれを見て刀を構える。その構え方は野球のバットを構えるようで、素人目に見てもなってないのは明白だった。

 

「ブゥン!!!!」

「セイヤッ!」

 

 レベルX-0と侍もどきが交差する。

 

 両者共に残心したまま動かない。

 

「ウグッ!」

 

 レベルX-0のライダーゲージが急減少する。

 

「サムライは、必ず勝つ――ッ!」

 

\会心の一発!/

 

 ライダーゲージの減少は残り僅かな所で急停止、その代わりに侍もどきの体からHit!のエフェクトが発生。

 

 侍もどきは白目をむいて気絶する。

 

「……勝負は一瞬、ぎりぎりの駆け引きこそが侍――チャンバラの醍醐味だろう?」

 

 レベルX-0の仮面が、不敵に笑っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 魔法少女は不気味な呪文を唱える。

 

「吹きとべぇっ! エクス――プロ―ジョンッ!」

「!?」

 

 アナザーオーズの足元が吹き飛ぶ。特撮作品のような大爆発だった。

 

「はぁ……っはぁ……ざまぁ見ろっての」

 

 爆発の跡には砕け散ったアナザーライドウォッチ。

 

 しかし、それは逆再生のようによみがえり、再びアナザーオーズの体が復元される。

 

「はぁ?」

「……この世界のルールとはいえ、私にこの力を与えたのは間違いだったようだな――ジョニー・マキシマ」

 

 アナザーオーズはなぜか無事な自分の体をしみじみと眺める。

 

 そんなオーズの下へ分身体を撃破したゴッドマキシマム、ノベルゲーマーがやってくる。

 

「なん、なのよ……っ!」

 

 自らの理解を超えた現象に、魔法少女は絶望をあらわにする。

 

「どうした? 君たちはヒーローなのだろう? 聞いた話によれば、ヒーローは絶望的な状況でも――笑顔でいるんだろう?」

 

 アナザーオーズのセリフは、どこからどう見ても巨悪の物に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

「やめろーっ!」

 

 盾男は再び指を鳴らし、エグゼイドの妨害をしようと試みる。

 

「ふっ!」

 

 ギーツはその手を撃ち抜いて妨害する。

 

 盾男は指パッチンの妨害をされ手を押さえる。その隙にギーツはブーストの力を生かし接近する。

 

「くっ……そ! お前は、お前らは――また俺たちに絶望の日々に戻れっていうのかっ!?」

 

 特殊能力による妨害をあきらめた盾男は、格闘術による戦闘へ切り替える。

 

「そんなに戻りたくないなら、死ぬ気で戦えよ」

 

 盾男の右ストレートを受け止め、ギーツは冷酷に言い返す。

 

「戦国武将だって、己の命を懸け天下(せかい)を変えるために戦ってきた」

「いつの時代の話をしているんだ、君はッ!」

 

 超常以前、遥か昔の話を出したギーツに盾男は怒りを露にする。

 

「誰だって世界を変えるため、必死で戦っている――理想の世界を他人から与えられたなら、命をかけて守ってみせろ」

「何をっ」

「念願の“個性”を手に入れたんだろ? 今こそ夢をかなえるときなんじゃないのか?」

「ッ」

 

 盾男はヒーローになることを夢見ていた。その夢は個性がなかったことで諦めてしまった。

 

 しかしこの仮想世界で彼は個性を手に入れている。つまり、かつて諦めていた夢を取り戻せる――否、この状況こそ彼が望んでいた“世界を守るヒーロー”に他ならない。

 

「結局、お前はヒーローの精神を持っていなかった。命を懸ける覚悟がなかった。お前は個性がないことを理由にそのことから目を背けていただけに過ぎない」

「それ……は」

 

 トップヒーローはデビュー前から多くの逸話を残す。

 

 行動は様々であれ、その話はこう締めくくられる――「考えるより先に体が動いていた」

 

 盾男は己の行動を顧みる。ヒーローを目指して体を鍛え、私立のヒーロー科へ進学した。そして数々の訓練の中――彼は恐怖心で動けなかった。

 

 災害救助の訓練でも、対ヴィラン戦闘の訓練でも、あらゆる場面で、肝心な時に体が動かなかった。恐怖心に支配され立ちすくんでしまった。

 

「まずは自分の命を懸けて行動してみろ、そうすれば――何か変わるかもな」

 

 と、ギーツは傍らで戦う彼の仲間を顎で示す。

 

 その先では、二体のゲンムとアナザーオーズに蹂躙される魔法少女の姿。

 

 同じ無個性同士、この世界を守ろうと誓った仲間。いつも恐怖で竦んでいた盾男の体は――気が付けば仲間を助けるために動いていた。

 

 雄叫びを上げながら守ろうと必死に駆け寄っていた。その姿をギーツは満足そうに見つめる。

 

「そうさ、それでいい――」

 

\Score up!/

 

 ギーツの腰からスコア変動の通知が響く。

 

「おっと……これ以上遊んでる場合じゃない、かな?」

 

 端末に表示されるのはプレイヤーのスコアランキング。

 

 一位にはギーツの名が記されていたが、この更新でランキングが入れ替わる。

 

 新たな一位には仮面ライダータイクーン/()() ()()()の名が。

 

「じゃあな。気が向いたら――また化けて出てあげるよ」

 

 ギーツは手を振りながらどこかへ歩いていく。その姿が、狐火と共に揺らいで消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 エグゼイドは空中を飛び回り、仮想世界から外へと通じる“ゲート”を作り上げる。

 

「よし――」

 

 完成したゲートは掃除機のように世界の全てを吸い上げ始める。

 

 ゲートへ吸い込まれた人々は現実世界へと帰っていく。

 

「これで――」

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

「――っ!」

 

 耳郎はヘッドギアを外すとその場に倒れ込む。握りこんでいたガシャットは手から滑り落ち、プレイ用マットの上で音もなく跳ねる。

 

「響香っ!」

「耳郎っ!」

 

 体から抜け出したエミ、そして様子をずっと見守っていた相澤は彼女の下へ駆け寄る。

 

「――ご苦労」

 

 が、彼らよりも先にショートワープでやってきたクロトによって耳郎は抱き起される。

 

「っ……」

 

 耳郎は力なくクロトに抱えられる。耳のイヤホンジャックも、重力に逆らえずそのまま垂れ下がる。

 

「君はテストプレーヤーとして最高の仕事を成し遂げた。ゆっくりと休むといい」

「……あとは、よろしく」

 

 耳郎は力なく微笑むと、意識を失った。

 

 クロトは彼女の体をゆっくりと横たえ、地面に落ちているマイティクリエイターガシャットを拾い上げる。

 

「我ながら素晴らしい出来だ……このゲームは間違いなくゲーム史を塗り替えることだろう」

 

 普段ならば高笑いと共に自画自賛するところだが、クロトは静かにガシャットをポケットへしまい込む。

 

「ふっ……黒幕の目星はついた。後は攻略するのみ」

「――待て」

 

 相澤は個性を発動しクロトを止める。

 

「お前が行く必要はない。後は俺達(プロヒーロー)に任せろ」

 

 黒幕――ヴィランの討伐はヒーローの領分。

 

 一学生であるクロトは活動する資格を持っていない。故に、黒幕の存在に気付いたとて行動することは許されていない。

 

「私がするのはあくまで新作ゲームのテストプレイ。ヒーロー活動ではンナァィ」

 

 しかし、クロトは指を振ることでそれを否定する。

 

「これはゲンムコーポレーションのゲーム開発事業の一環にすぎません。イレイザーヘッド、貴方にそれを止める資格はありますか?」

「……ったく、お前らそろいもそろって」

 

 相澤は深くため息をつく。

 

「――クロト、本当に大丈夫なの?」

 

 エミがクロトに問いかけると、彼は懐からガシャットを取り出す。

 

「フッ……ゲームは、ラスボスを斃してクリアと相場が決まっているだろう?」

 

 ムテキガシャットと同じ形状。しかし、色は紫のメタリックだった。

 

「――私の才能に、限界はない」






【オリキャラ解説】

・???/仮面ライダーギーツ
 仮想世界に現れた謎のライダー。キツネのような仮面で銃をメイン武器として戦う。
 変身前は年齢、性別不詳。キツネの耳と尻尾が特徴で狐人間と呼ばれることが多い。
 “神のヒーローアカデミア”とは別の世界のライダー。

個性:化け狐
 化け狐っぽいことは何でもできる。狐火を出して攻撃したり、人を化かす幻覚を出したりすることができる。その気になれば短時間だけ別の世界へ転移することもできる。


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アナザーエンディング16 『壇 クロト:オリジン』

――――

――

 

 ――人は生まれながらにして平等ではない。

 

 それはこの世界の子供が、齢4つにして知る現実である。

 

 壇 クロトもまた、そのことを知った子供の一人であった。

 

「――マイティアクションX……これは、大ヒット間違いなしだッ!」

 

 初めて作ったゲームの企画書。拙いながらも己の才能すべてを注ぎ込んだそれを、父は手放しで喜んでくれた。

 

「すごいわね、クロト」

 

 母もまた、彼の事を褒めてくれた。

 

 数年後、ゲンムコーポレーションから発売されたマイティアクションXは空前の大ヒット。ゲーム史にその名を刻むゲームとなり、会社の業績もうなぎ上りだった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

「――ヒーローごっこしようぜ!」

 

 クロトの通う小学校では、例に漏れることなく“ヒーローごっこ”が一番人気の遊びだった。

 

 ヒーロー役はいつでも派手な個性を持った子が担当、ヴィラン役はその日によって変わるが、基本的に怖い見た目の個性の子、救助される役は所謂没個性の子。

 

 いつもそれぞれの配役はきまっていたようなものだった。

 

「あーあ、オレもたまにはヒーロー役やりたいなぁ」

 

 そうつぶやくのは、クロトの隣の席の生徒。拳が堅くなる“鉄拳”の個性を持っており、ヒーロー役として遊ぶには地味でいて、ヴィラン役を怪我させかねない個性だった。

 

 ――人は生まれながらにして平等ではない。

 

 すべての子供が知っているこの世界の現実。

 

「――なあ、一緒にゲームをしないか?」

「「「はぁ?」」」

 

 ある日、クロトはヒーローごっこに興じるクラスメイトに声をかけた。

 

「むこせーが何言ってんだよ。行こうぜ」

「まあ話だけでも聞いてくれよ」

 

 リーダー格の生徒はクロトを無視して遊びを続けようとするも、クロトはそれを手で制して止める。

 

「このゲームは――」

 

 クロトは自分の考えた“みんなが等しく楽しめるゲーム”のルールを説明する。

 

 初めはつまらなさそうに聞いていた彼らも、次第にそのゲームの世界観に引き込まれ、いつしかヒーローごっこを止めて一緒に遊んでいた。

 

「楽しかった! また遊ぼうぜ!」

 

 気が付けば日が暮れかけていた。

 

 皆が帰り道につく中、鉄拳の個性の生徒はその場に残っていた。

 

「ありがとう」

「いいんだ。僕もみんなに楽しんでもらえてよかったよ」

 

 鉄拳の個性の生徒とクロトは固く握手を交わす。

 

「オレさ、ヒーローごっこするとき、個性があるから思いっきり楽しめなかったんだ」

 

 彼の個性は拳を鉄の強度まで堅くするものだった。将来的に見れば、高い戦闘能力を持つ強個性と言えるが、ごっこ遊びの中で個性を発動すれば相手にけがをさせてしまう。

 

「でも、お前のゲームはそんなこと気にしなくてよくてさ、すっげー楽しかった」

 

 クロトの考えたゲームは個性を全く必要としなかった。

 

 誰もが知力と体力を駆使して攻略できるゲームだった。

 

「な、なあ……また明日も一緒に遊ばないか?」

「もちろん、また新しいゲームを考えてくるよ」

 

 それは、クロトに初めての友達ができた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 翌日、クロトは友と遊ぶためのゲームを考えてきていた。

 

 早く放課後、一緒に遊びたい。楽しみが抑えきれなかった。

 

 隣の席の友は、遅刻しているのかいつまでたってもやってくることは無かった。

 

「――みんな、席について」

 

 朝のHR、いつもは明るい担任は暗い表情で教室へとやってくる。

 

 誰もがよくないことが起きたと直感した。

 

「……悲しいお知らせがあるわ。昨日――」

 

 それは鉄拳の個性を持った生徒が亡くなったという知らせだった。

 

 昨日の夜、家族で食事に行っていた彼はヒーローとヴィランが戦闘をする現場に居合わせていた。

 

 ヒーローはヴィランを斃すため、わざと見栄えのある派手な技を放った。明らかなオーバーキル、死体蹴りに他ならない行為だった。

 

 攻撃の余波はやじ馬にも大きな被害を与えた。近くの建物は倒壊、それによって起きた二次災害によって多くのヒーローが救助に駆り出された。

 

 鉄拳の個性を持った生徒は、運悪く建物の崩壊に巻き込まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 そんな免許剥奪レベルの不祥事を起こしたにも関わらず、件のヒーローは謹慎処分を言い渡されただけだった。

 

 そのヒーローの親はとある有名な政治家だった。

 

 政治家は息子可愛さに事件の全てをもみ消し、ヒーロー免許を維持させていたのだ。

 

「あぁぁぁあぁぁぁっ!」

 

 全てを知ったクロトは怒り狂い、復讐のためのゲームを考案した。

 

「……ゲームオーバーすればプレイヤーの命は無くなることとしよう。そうだ、死んだプレイヤーの意識データを保存して、クリア者には復活させる権利を与えよう。そうすれば死んだプレイヤーをよみがえらせたい人間が次から次へとゲームに参加する……序盤の敵キャラはたおしやすく、ラスボスの攻略難易度は限界まで高める。そうすればクリアできる人間はいるがごくわずかに絞り込める……フェァハハハハ」ブツブツブツ

 

 クロトは目の下にクマを作りながら企画書を書きあげていた。

 

 そんな悪魔のゲームの企画書を見た両親は、息子の才能と執念に驚く。

 

「これは……完成すれば……」

 

 父親はゲームの持つポテンシャルに気づき、満面の笑みを浮かべた。

 

「――――ッ!」

 

 母親はその企画書を読んだ瞬間、鬼の形相となる。個性が暴発し、金棒の似合う袴姿となった。

 

「クロトッッ!!」

「ぐぁっ!」

 

 彼女はクロトの頭へ拳骨を振り下ろす。

 

「マサムネさんッッ!」

「うぐっ!」

 

 ついでと言わんばかりに夫――マサムネにも強烈な平手を食らわせ企画書を取り上げる。

 

 そして企画書をビリビリに引き裂き、シュレッダーへ投入した。

 

「ああっ! なんてことを……」

 

 マサムネは慌ててシュレッダーのボックスを開け、企画書を復元しようとして紙屑まみれになる。

 

「クロト、あなたの友達の命を奪ったヒーローの行いは、決して許されることではないわ。でもね、だからってあなたがあんな酷いゲームを作っていい理由にはならないわっ!」

 

 真剣なまなざしの母親に見つめられ、クロトは頭のコブを押さえる。

 

「かあさん……どうして? いつも、僕の作るゲームを、褒めてくれたのに……」

「それは、クロトの作るゲームが“みんなを笑顔にできる”からよ」

「笑顔……?」

 

 彼女は諭すように続ける。

 

「そうよ。クロト、あなたの才能は誰も持っていない、特別なものよ。それを誰かを傷つけたり、不幸にしたりするために使っちゃダメ!」

 

 クロトの脳裏に友の笑顔が浮かぶ。自分のゲームで楽しそうに遊んでいるクラスメイトの顔が思い浮かぶ。

 

「クロト、みんなを笑顔にできるゲームを作って。そうすれば……あなたの友達も、きっと喜ぶわ」

 

 母に抱きしめられ、クロトは友が亡くなってから初めて涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「どうやら……エンディングは近いようだネ」

 

 ジョニー・マキシマは葱と書かれた扇子を広げて仰いでいる。

 

 その手がピタリ、と止まる。

 

「残り一つしかないライフで何をするつもりかネ?」

「……ラスボスを斃し、ゲームをクリアする」

 

 静かに現れたのはクロト。

 

 腰には既にゲーマドライバーを装着している。

 

「ハッハッハッ! 君はジョークのセンスもあるようだネ! Game Clearは――永遠に訪れない」

 

 ジョニー・マキシマの目が赤く輝く。

 

「VRの世界から抜け出したようだが、君たちの行きつく先はBad Endサ! 一度世界に捕らわれたものはバグスターウイルスに冒され、じきにEndingを迎える!」

「だがその仕組みは、ゲンムコーポレーションから盗み出した技術によって成り立っている」

 

 図星だったのか、ジョニー・マキシマは扇子を勢いよく閉じた。

 

「つまり、ウイルスの発生源である貴方を斃してしまえば――すべての人間が完治する」

 

 バグスターウイルス感染症――ゲーム病は感染したウイルスと同型のバグスターを斃すことで完治する病。

 

 ジョニー・マキシマがウイルスの根本であるならば、斃すことで完治することは道理である。

 

「私を斃す? 君は自分でデザインした――ラスボスの力を忘れているようだネ」

 

 ジョニー・マキシマの体がバグスターウイルスに覆われていく。

 

 その姿は巨大ヴィラン、ゲムデウスを人の形へ圧縮したようで、クロトのデザインしていた最強のラスボス――“ゲムデウス”の姿と瓜二つだった。

 

「天は私に最強の力を授けた――この世界を支配するに足る、最強の個性を――」

 

 ゲムデウスが個性を発動し、VR空間が広がっていく。

 

「そしてその力は、ゲムデウスによって増幅し、現実世界をも侵食する!」

「なるほど、今世間を騒がせているゲムデウスは貴方の仕業でしたか」

 

 日本中で暴れまわっているゲムデウス。それらは全てジョニー・マキシマの個性によって現実世界へ引きずり出された仮想世界の存在。

 

 彼の個性はもはや仮想世界にとどまらず、現実世界へと侵食していたのだ。

 

「その通り! 現実では恐怖の存在、ゲムデウスが闊歩する。人々はかりそめの現実に救いを求め、私の生み出す仮想世界へと自らその身を捧げるのダ!」

 

 ゲムデウスは高らかに笑う。

 

「所詮はその程度の器。私の――神の才能には到底及ばない」

 

\ゴッドマキシマムマイティX――マキシマム・ガッシャット!!/

 

 クロトはそんなゲムデウスを嘲笑し、ガシャットを起動、装填する。

 

「what?」

「所詮貴方の計画は凡人の領域を出ない。世界の支配? そんなものに、何の価値もない」

 

 そしてクロトは懐からもう一つのガシャット――ムテキガシャットに似た紫色の物を取り出す。

 

「ゲームとは、それをプレイしてくれる人間がいることで初めて価値を発揮する」

 

 ゲームは作られるだけではただのプログラムに過ぎない。

 

 高度なグラフィック、気分を盛り上げるBGM、個性的な思考ルーチンを持つ魅力的なキャラクター、それらは全て、遊んでくれるプレーヤーを得て初めてこの世界に現れる。

 

「それに、貴方の作る世界では、誰も笑顔になれない」

 

\ハイパ――――クリエイション!!/

 

 クロトはもう一つのガシャットを起動する。

 

「今こそ――私の才能の集大成を見せる時サァ!」

 

\ドッキーング!!/

 

 荘厳な起動音の後、ゴッドマキシマムマイティガシャットへと連結する。

 

「グレード(アンリミテッド)――変身!」

 

\パッカーン!!!! クリィエィション!!!!/

 

 まばゆい光が放たれる。

 

\煌めけ! 綺羅星のごーとーく! 最強・ムテキのクリエイター!/

 

 光はクロトの体に定着し、アーマーを形成していく。

 

 その姿はハイパームテキの色違い、紫のメタリックの姿だった。

 

\絶対・フメツ! 壇 クーロートー……神だァ/

 

 ゲンム、ハイパークリエイションゲーマー。

 

 神を自称するクロトの才能の、集大成の姿だった。

 

「刮目するがいい……この私の、神の才能にッ!」












ギーツなど最新作ライダーを登場させたのは完全なアドリブですが、オリジナルガシャット自体は初めから構想していました。
これが出たからには物語はクライマックスです!
あと3,4話で終われると思うので、あと少しだけお付き合いください!


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アナザーエンディング17 『それぞれのエンディング(前編)』

\絶対・フメツ! 壇 クーロートー……神だァ/

 

「刮目するがいい……この私の、神の才能にッ!」

 

 一陣の風が吹く。

 

「君こそ思い知るがいい――“紅蓮爆竜剣”」

 

 ゲムデウスは剣を生み出し掲げる。

 

 放たんとしている技はドラゴナイトハンターZの敵キャラ、グラファイトの必殺技である『紅蓮爆竜剣』。

 

 クロトの生み出した最強のボスキャラ、ゲムデウスはあらゆるゲーム(といってもゲンムコーポレーションのゲームに限るが)の必殺技を自在に扱う。

 

 そしてその耐久力は無限に等しく、付与された様々なスキルも相まって斃すことは事実上不可能。まさしく最強のラスボスにふさわしい力を持っていた。

 

「ほう……」

 

 ゲムデウスの“紅蓮爆竜剣”をもろに喰らうゲンム。

 

 爆風が吹き荒れ、砂埃が舞い上がる。

 

「Game Overサ……っ!?」

「――さすがは私の生み出したラスボス。いい技を使う」

 

 粉塵が治まると、その奥からは無傷のゲンムが現れる。

 

「だが私には効かない。それが“ルール”だからだ」

「……小癪ナ――“クダケチール”!」

 

 続けて放たれるはタドルクエストのボス、アランブラの技『クダケチール』。

 

 ゲンムの頭上に魔法陣が出現、衝撃波が放たれる。

 

「無駄だ――」

 

 しかしその攻撃はゲンムを傷つけることは無かった。

 

「“ハイパークリエイション”は、プレイエリアを自由自在に作り変え、新たな遊びを生み出すゲーム。その自由度は――ゴッドマキシマムマイティをも上回る」

 

 クロトの作ったゴッドマキシマムマイティXもまた、ゲームを作るゲームだ。しかしながらそれはあらかじめ用意されたテンプレートを用い、制限された中での制作だ。

 

 対してハイパークリエイションは、その制限をすべて失くしている。グラフィック、BGM、キャラクターのステータス、そしてゲームのルール……それらを全てプレーヤーが一から創造し、各々が楽しめる最高のゲームを作ることができる。

 

「所詮、貴方は人の作ったもので遊んでいる消費者(コンシューマー)の一人にすぎない」

「……!」

 

 完全な図星だった。

 

 ジョニー・マキシマが使っているゲムデウスの力は元来クロトの開発した、ゲンムコーポレーションのゲームの一キャラに過ぎない。

 

 彼の作った『ハリケーンニンジャ』はオリジナルゲームだが、基本技術はゲンムコーポレーションとの合作。ゲームコンセプトは既存ゲームの焼き増しであり、新規性は無いに等しい。

 

「人の作ったもので世界を支配しようなど、笑止千万。この世界を変えることができるのはただ一人――私だァ!」

 

 ゲンムはジョニー・マキシマ――ゲムデウスを指差す。

 

「貴方にその姿はふさわしくない」

「グッ! か、体が……!」

 

 背中の翼、ドラゴンを思わせる鎧、一本の大きな角、それらがほどけるように消滅し、忍者装束のチキン頭――下級バグスターの姿へと変貌する。

 

「馬鹿な! 私の個性がっ!」

「まだ個性にこだわるとは……個性、無個性、ヒーロー、ヴィラン、すべては先人が生み出した過去の遺物。真のクリエイターは既存の枠組みを打ち破り、新たな世界を生み出す――!」

 

\キメワザ!!!!/

 

 ゲンムはガシャットのボタンを押し、キメワザを放つ。

 

\HYPER CRITICAL CHRONICLE/

 

 壇 クロトにとって、この世界も所詮はゲームエリアの一つに過ぎなかった。

 

 彼の才能はやがて現実世界を侵食し、この世を一つのゲームに変えてしまう……ことができるかどうかは定かではない。

 

 だがしかし、彼は既に個性だけでは語れない、一つ上のステージへと到達していた。

 

「馬鹿な……この、私の計画が……」

 

 ゲームに敗北し、ジョニー・マキシマはがくりと膝をつく。

 

 X年前に起きた“ゲムデウス事件”、彼の計画はこの時から既に始まっていた。

 

 最強最悪のヴィランを生み出し人々に恐怖の記憶を植え付け、ほとぼりが冷めてからその記憶を想起させるかのように暴れさせる。

 

 恐怖した人々は安寧を――ジョニー・マキシマの生み出すVR世界に救いを求めて自ら支配されることを欲する。

 

 しかしながら、彼の目論見は殆ど外れていた。

 

 ゲムデウスをどんなに暴れさせても、人々はVR世界に救いを求めることはしなかった。

 

「あまり、この世界のヒーローを舐めない方がいい」

「なん……だって?」

 

 ジョニー・マキシマの体は徐々に消滅し始めていた。

 

「ろくでもない連中が大半だが、中には人々に勇気と希望を与える者もいる」

 

 ゲンム――クロトの脳裏には雄英のプロヒーローやクラスメイトの顔が思い浮かぶ。

 

「まあ、この私の才能には及ばないがなァ! ブゥヘヘヘヘ!!」

 

 ジョニー・マキシマは懐から扇子を取り出し、大きく広げた。

 

「HAHAHA! 私の見通しが甘かった!」

 

 そして悔しそうに高笑いしていた。

 

「……ああ、そうそう。その文字、“忍”を書きたかったのだろうが――それは“葱”だ」

「What!? Oh my god!!!!」

 

\ゲーム・オーバー……/

 

 衝撃的な事実と共に、ジョニー・マキシマはゲームオーバーとなる。

 

 空は青く晴れ渡っていた。

 

「ゲーム……クリア……」

 

 変身を解除したクロトは、雲一つない空を仰ぎ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

\\フィニッュタイム!//

\ビヨンドザタイム!!/

 

 ジオウを含めた三人のライダーは一斉に必殺技を放つ。

 

「ギャォォォォォ……!」

 

 トリプルライダーキックを受けたゲムデウスは爆発四散する。

 

「やった……! やったよゲイツ! 俺達でたおしちゃった!」

「はしゃぐなっ!」

 

 ゲイツ――ケイトが変身を解除すると同時に、その姿がオーロラの壁の向こうへと消えていく。

 

「……え?」

「――この本によれば、時和 ソウゴには最高の親友にして最大の相棒がいたという。その名は」

 

 変身を解除したウォズは辞典のような大判の本を開き内容を読み上げる。

 

「――妙光院 ケイト、じゃない?」

「……その通り。だがどうやら、彼と出会うのはもう少し先の未来のようです」

 

 ソウゴは満足げに微笑んだ。

 

 共に戦った少年が、未来において最高の親友兼相棒として戦っている。

 

「俺さ、ヒーロー目指してみるよ」

「……よきご判断です」

 

 ウォズは膝まづいてそれを肯定する。

 

(俺は世界を平和にしたい、みんなには幸せでいてほしい。でも無個性の俺がそんなことをするためには、王様になるしかないって思ってた)

 

 思いがけず力を手に入れた。

 

 しかしそれはきっかけに過ぎない。

 

(漠然と、王様になれたらッて思うだけじゃダメなんだ。俺自身が目いっぱい努力して、個性がないなりに立ち向かっていかなきゃいけないんだっ……!)

 

 必要なのは――心だ。

 

 力を持っている人間がヒーローなのではない。誰かを助けたい、誰もが笑顔でいて欲しい、そう願い行動すること。それこそがヒーローの資格なのだ。

 

「……なんだか、いける気がする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 竜ヶ峰サキは瀕死の重傷を負い、一時は生死の境をさまよった。

 

 しかし最高の腕を持った外科医の尽力によって一命をとりとめていた。

 

「……ぅん」

 

 術後、数週間が経過していた。

 

 クラスメイト達は毎日代わる代わる見舞いに来ており、ベッドの脇にはその痕跡が見て取れた。

 

 サキは鈍い頭を必死で動かし、横を向く。

 

「サキ……! 目が、覚めたのね!」

 

 そこでは母が涙を流しながらサキの無事を喜んでいた。

 

 心無い非難を浴び、心を壊していた母だったが、娘の一大事にいてもたってもいられなかったのだ。

 

「ごめんなさいっ……! あなたがこんなになるまで放っておくなんて、母親失格ね」

「……かあ、さん」

 

 サキの声はかすれていた。

 

 涙を拭ってあげようと手を伸ばすも、その手はギプスと包帯で包まれており直接触れることは叶わなかった。

 

 そっと、包帯の上から母の手が包み込まれる。

 

「でも、これ以上無茶はしないでっ……! あなたまでいなくなったら、私っ!」

 

 命を捨てても悔いはないと思っていた。

 

 もう誰にも、自分と同じような思いはさせたくないと、そのためならば命を賭して戦うのだ、と。

 

「……うん」

 

 それは間違いだったことに、サキは気づいた。

 

 自分が死ねば、身を裂くような苦しみを母親に与えることになる。

 

 誰にも与えたくなかった苦しみを、他ならぬ自分が与えるところだったのだ。

 

(父さん、私、ドラゴンナイトを超えるヒーローに、なるよ)

 

 サキの父、ドラゴンナイトはヒーローとして致命的な過ちを犯してしまった。

 

 それは――自分の命を落としてしまったことだ。

 

(みんなを助けて、笑顔で「大丈夫」って言えるヒーローに)

 

 自分を含めたすべての人の命を守る。

 

 それが竜ヶ峰サキ――グラファイトの新たな原点(アナザーオリジン)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









次回、エピローグ。
もうちっとだけ続きます。


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アナザーエンディング18 『それぞれのエンディング(後編)』

遂に完結です!
長い間お付き合いいただきありがとうございました!
















――――

――

 

 

 

 第二次ゲムデウス事件。

 

 この事件を境に日本のヴィラン犯罪は沈静化の一途をたどっていた。

 

 勢力を拡大しつつあった敵連合、その思想に共鳴したヴィランたちは雄英高校の林間合宿を襲撃。その際にゲムデウス事件の首謀者、ジョニー・マキシマによってVR世界に捕らわれ昏睡状態に。

 

 救助に駆け付けたヒーロー、警察はこれ幸いにとヴィランたちを捕縛したのである。

 

 さらに、同時期にゲンムコーポレーションから発売されたカメンライダークロニクル。これによって引き起こされた事件――通称『神野の悪夢』。

 

 No.1ヒーロー、オールマイトと敵連合の首謀者であるオール・フォー・ワンの激突。地球外生命体エボルトとi・アイランド出身のヒーロービルドとの決戦。

 

 神野に住んでいた住人にとっては悪夢としか言いようのない事件であったが、日本国民にとっては新たな時代を予感させる事件であった。

 

 事件をきっかけにオールマイトは引退し後進の育成に専念することを表明、そしてオールマイトにも負けない強さを誇ったヒーロー、ビルドの登場。

 

 ――平和の象徴はオールマイトだけではない。

 

 その事実が人々に勇気を与え、悪に諦念を与えることなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 事件から五年の月日が経過していた。

 

 カメンライダークロニクルは巨悪の逮捕に貢献する結果になったとはいえ、少なくない犠牲者を出してしまっていた。

 

 その結果、ゲンムコーポレーションの社長だったクロトの父――マサムネは辞任、刑務所で服役することとなった。

 

 人の命を奪うゲームを発売してしまった上に敏腕社長のマサムネを失ったゲンムコーポレーションは一時、倒産の危機に陥っていた。

 

 そんな中、高校生ながら二代目社長に就任したクロトは、新たなゲームを発売することで窮地を乗り切ることとなる。

 

 

 

『――次のニュースです。ゲンムコーポレーションから発売されたゲーム、“ヒーローズ・クロニクル”が今、世界中で大ブームを巻き起こしています――』

 

 ニュース映像に映るのはゲンムコーポレーションの新ゲーム“ヒーローズ・クロニクル”。

 

 プレーヤーがヒーローとなって()()()()を救うゲーム。

 

 最大の特徴は――カセットごとにプレイできるシナリオが違うということ。

 

 既に一千万本近くのカセットが販売されているが、同じシナリオをプレイしたという報告はいまだに出ておらず、そのバリエーションの豊富さに世界中のゲーマーは魅了された。

 

 さらに、シナリオごとのボリュームもさることながら、ゲームオーバーとなれば二度とそのシナリオがプレイできない――コンティニュー不可の仕様もまた、ゲーマーたちの心を掴んだ。

 

 ヒーローズ・クロニクルはその販売本数に対してクリア報告が極端に少なく、さらに豊富なサブシナリオを全て踏破出来たものは世界中でも片手で数えられるほどしかいなかった。

 

 その奥深さと難易度からのめり込む人が続出、プレイしたいがために会社を辞めるという者も続出し社会問題となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 ゲンムコーポレーションの収録スタジオ。

 

 そこでは日々、新作ゲーム用の音楽が作成されていた。

 

「――ああ、もうっ!」

 

 雄叫びと共に企画書が放り投げられる。

 

 耳郎は次から次へとやってくる作曲依頼に頭を抱えていた。

 

「ウチ、本業はヒーローなんだけど!」

 

 雄英高校ヒーロー科、A組。彼らは一年の前半こそトラブルに見舞われたものの、それ以降は平和な青春を送り、全員が無事ヒーロー免許を取得し卒業した。

 

 同級生の大半はヒーロー事務所のサイドキックとして雇われることとなり、中にはいきなりヒーロー事務所を構えた爆豪(つわもの)もいた。

 

『――耳郎 響香。わが社で君の才能を生かさないか?』

 

 どのヒーローのサイドキックになるか、迷っている彼女に差し出しだされた悪魔の誘い。

 

『あー……音楽の仕事かぁ……』

 

 差し出されたのは契約書。

 

 ゲンムコーポレーションの専属アーティストとしてのスカウトだった。

 

『嬉しいっちゃ嬉しいけど……』

『悩む必要はない。我がゲンムコーポレーションも、来年度からヒーロー事業を始めることとなる』

 

 クロトの口から語られたのはゲンムコーポレーション参加のヒーロー事務所立ち上げ計画だった。

 

 社長であるクロト自身がヒーロー免許を取得したため、彼自身が所属するためのヒーロー事務所を立ち上げる。

 

 ヒーローとしての所属はゲンム直属の事務所、アーティストとしては本社の所属とする。

 

『つまり、君はヒーローとして活動しながら、ミュージシャンとしての活動もできる。悪くない話だろう?』

 

 普段のクロト節は鳴りを潜め、穏やかな口調で説明される。

 

 のちに耳郎は語る――『普段の調子じゃないってことは、何か企んでる。そのくらい気づくべきだったよね』と。

 

『はぁ……そこまで言うなら』

 

 

 現実は甘くなかった。

 

 デビュー当初こそ、ヒーローとしての活動がメインで音楽の仕事は副業だった。

 

『――次のPVについてなんだが――』

 

『――新作ゲームのサウンドが――』

 

『――この“ボーズ・オブ・テラ”、企画段階でわかる駄作だが……私としては手を抜きたくない、いいサウンドを頼むよ』

 

 次から次へと舞い込む作曲の依頼、演奏の依頼。

 

 気が付けばヒーロー活動はおまけで、ミュージシャンとしての活動が主となってしまっていた。

 

「――おつかれ! 差し入れとか、いろいろ持ってきたよ!」

 

 悶える耳郎の下へエミがやってくる。

 

 元々ウマが合っていたのか、二人はゲムデウス事件後も交流が続き、今では中の良い友人同士となっていた。

 

 彼女は兄のエムと共にゲンム所属のプロゲーマーとして活躍しており、天才兄妹ゲーマーとして一躍有名になっていた。

 

「……ありがと」

 

 耳郎は力なく返事をし、背もたれへ身を投げ出した。

 

「……こんなはずじゃ、なかったんだけどな」

 

 行き詰ってるときほど愚痴が出るもので、耳郎は愚痴りながら差し入れのドリンクを手に取る。

 

「あはは……しょうがないんじゃない? だってほら――」

 

 エミはスマホの画面を見せる。

 

 再生されているのは――五年前、1-A組の文化祭動画だった。

 

「響香が歌ってるこの動画、もう1億再生行きそうだし」

「……マジで?」

 

 そこでは、かつての自分が全力で歌っている姿が映っていた。

 

 懐かしさと共に、過去の自分の胸に宿っていた熱がよみがえってくる。

 

「ヒーローズ・クロニクルもさ、よくシナリオが褒められるけど、メインテーマも結構人気だよ? サントラだって結構売れてるしさ」

 

 今度はヒーローズ・クロニクルの主題歌を作っているときの、苦い思い出がよみがえる。

 

 完成した譜面にダメ出しをしまくるクロト。彼曰く――『ダメダダメダダメダッ!! この程度では――私のッ! ッ集大成である“ヒーローズ・クロニクル”の魅力を半分も引き出せていなァいッ! キョウカァ! 君の才能はこんなものだは無いハズだァッ!(原文のまま)』

 

 三日三晩かけ、完成したメインテーマは――今や世界中で聞かない者はいないほどの有名楽曲となっていた。

 

「これ、少ないけど響香へのファンレター。“音楽で人を助けるヒーロー”ってのも、私は悪くないと思うけど」

 

 エミから手紙を受け取る耳郎。

 

 ――個性のことで悩んでいたけど勇気をもらえた、聞いたら元気がでてきて立ち直れた……そこには様々は感謝の言葉がつづられていた。

 

「“音楽で人を助ける”、か」

 

 彼女は自然と笑みを浮かべていた。

 

 投げ捨てた企画書を拾うと、再び読むのを再開する。

 

「ま、ヒーローが飽和してる時代だし、そういう方向性もアリか」

 

 ヒアヒーロー――イヤホン=ジャック。

 

 その名がヒーローとしても有名になるのは、もう少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――ああ、今回も頼むよ」

 

 ヒーロー飽和社会。

 

 極端に減ったヴィラン犯罪に対し、ヒーローの数はまさに飽和している状態だった。

 

 近年では日本国内での活動を諦め、犯罪率の高い海外へ活躍の場を広げるヒーローが少なくなかった。

 

 しかし、そんな中卑劣な方法で活躍しているヒーローがいた。

 

 ヒーロー名:フェイカー。

 

 彼はヴィランと手を組み、犯罪を自作自演し活動しているヒーローだった。

 

「……これで、当面の活躍は間違いなし。今期のビルボードチャートもいいところまでいけるぞ♪」

 

 彼のように自作自演で活躍しているふりをするヒーローはじわじわと増えてきており、ヒーロー連盟も頭を悩ませていた。

 

「おーい、帳簿をまとめておいてくれよっ」

 

 フェイカーは鼻歌交じりに事務所へ戻り、サイドキックに呼びかけ、自分は高級そうなソファに腰かけスマホを眺める。

 

「……?」

 

 しかし、いつまでたっても返事がないことに疑問を覚えたフェイカーは作業スペースの方を見る。

 

「なっ! お前、ゲンムか?」

「……初めまして、かな?」

 

 普段、サイドキックが仕事をしているはずのそこにはクロトが一人座っていた。

 

 腰には既にゲーマドライバーを装着しており、後はガシャットを装填するだけで変身できる状態だ。

 

「お前っ! いくら同業だからってアポなし訪問するやつがあるかっ! 俺のサイドキックはどうした!?」

「彼なら既に、“ゲンムヒーロー事務所”に転職済みさァ……随分と心を痛めていたよ、君の悪行に、ね」

「!」

 

 フェイカーはその言葉を聞くや否や個性を発動、戦闘態勢になる。

 

 

 ヒーロー『フェイカー』

 

 個性:悪意

 

 自身の悪意を力に変える! 悪い奴にもってこいな個性だ!

 

 

 

「学生時代じゃ注目株だったみたいだが、お前に世間の厳しさって奴を教えてやるよ」

「ほぅ……並々ならぬ力を感じるな」

 

 フェイカーの力に臆することなく、クロトは仁王立ちとなってガシャットを構える。

 

 二本分の厚さで、“幻夢無双”のロゴが刻まれていた。

 

「当然だ! 俺は悪意を力に変える――その気になれば、かつてのオールマイトに勝るとも劣らない個性を持っている!」

「それは好都合――新ゲームのテストプレイにもってこいだ」

 

 彼の創作(クリエイション)に終わりが訪れることは無い。

 

 そこにゲームを楽しみにしている人がいる限り、彼のゲーム製作は終わることは無い。

 

 そしてゲームのファンを傷つける不届きものがいる限り、彼のヒーローとしての戦いが終わることは無いのだ。

 

「この私の自信作だ。存分に楽しんでくれたまえ……」

 

 クロトはガシャットのロゴを回転させガシャットを起動した。

 

 

\幻夢無双/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――神のヒーローアカデミア・完――――



















これにて『神のヒーローアカデミア』完結です! 本当は他のキャラの顛末も書こうと思いましたが、だらだら書いててもダレるので割愛しました。
長い間お付き合いいただき(半分近く放置してましたが・・・)ありがとうございました!
また機会がありましたらお会いしましょう!


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