がっこうぐらし!+(再編集中) (すぴてぁ)
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第1話 はじまり ღ

教室

 

「すぅ…すぅ…」

 

ピンク髪の少女、丈槍ゆきは授業中にも関わらず寝息をたてて机に突っ伏していた。

先生は黒板に授業の内容を書き留めている。

 

「ゆき……寝すぎだよ 起きないと……」

 

隣の席で同じ授業を受けている女生徒はゆきが居眠りをしていることに気付き彼女の肩を揺さぶり起こそうとするが一向に起きる気配がない。

 

「もしもし?」

 

遂に先生が気付きゆきの席まで向かいわざとらしく咳払いをしながらゆきに声を掛ける。

 

「丈槍さん?丈槍ゆきさん?」

 

 

中々起きないゆきに痺れを切らし先生は持っていた教科書の角でゆきの頭を2回ほど小突く。

するとゆきは目を覚ました。寝起きのせいか視界がぼやけており瞬きを繰り替えし目を覚醒させる。目を開けて最初に見えたのは教科書片手にゆきを見下ろす先生と呆れた顔でゆきを見ているクラスメイト達。

 

 

 

「ふぁ〜い ん?…おはようございます」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。それを聞いたゆきは荷物片手に教室を後にする。授業が終わった喜びからかゆきの表情は明るかった。ゆきは周りの目を気にせず廊下を駆けていく。

くるっと右折して目の前の階段を降りようとした所を誰かに声を掛けられる。

 

「ちょっとゆきちゃんどこ行くの?」

 

「わっ」

 

急に声を掛けられたことに驚き階段を踏み外しそうになるがギリギリのところで落ちずに済んだ。

 

「だ 大丈夫?」

 

「もう めぐねぇが急に呼ぶから」

 

声を掛けた人物はゆきにめぐねぇと呼ばれていた。ピンク色の長い髪を後ろで結っており、彼女の手元には教員が持っている授業で使うプリントや生徒の名簿。

ゆきからは友達のように話しかけられていたがれっきとした先生である。

 

「めぐねぇじゃなくて佐倉先生でしょ」

 

「はーい で何?」

 

「部活じゃなかったの?」

 

「あっそうだった」

 

ゆきはハッと気付いた。先程まで部活を忘れて帰路につこうとしていたのだ。それには流石のめぐねぇも呆れた顔をしていた。

 

「もう、そうだったじゃないですよ…」

 

 

「それじゃいってきま〜す。めぐねぇは?」

 

「あとで行くわ。みんなによろしくね」

 

「はーい」

 

 

 

そう言って、ゆきはめぐねぇと別れ目的地を部室に変更して再び足を進めた。

 

 

 

(最近学校が好きだ。そう言うと変だって言われそう。でも考えてみてほしい、学校ってすごいよ

 

物理実験室は変な機械がいっぱい。

 

音楽室。綺麗な楽器と怖い肖像画。放送室。学校中がステージ。

 

何でもあってまるで一つの国みたい。こんな変な建物他にない。

 

中でも私が好きなのは……)

 

そんなことを考えながらゆきはある教室へ入っていった。

 

 

学園生活部

 

「よう、ゆき」

 

「こんにちは、ゆきちゃん」

 

部室に入ってきたゆきに声を掛けてきたのは同じ部員である恵飛須沢胡桃。パイプ椅子に腰掛けカンパンを食していた。

くるみの隣には同じくパイプ椅子に腰掛け本を読む少女、如月犀良。

 

「やっほーくるみちゃん、せいらちゃんもやっほー」

 

 

「なぜここでシャベル……」

 

ゆきは、くるみの座るパイプ椅子に立て掛けてあるシャベルに目をやった。

 

「ふふーん知らないな?第一次大戦の塹壕戦で最も人を殺した武器は……」

 

くるみは自慢げそうに語るが、

 

「くるみちゃんはほんとシャベル好きだねぇ」

 

「聞けよ!!」

 

ゆきは全く聞かず、シャベルをブンブンと振り回している。

この光景を何度もみているせいらはまた始まったと呆れつつ2人の会話に聞き耳を立てる。

 

「うん聞いて!今日すっごく危なかったんだ」

 

「はあ?どうしたのさ」

 

「部活忘れてうっかり家に帰るとこだった」

 

ゆきは、てへっと照れながら言った。

 

「危ねえな!」

 

「うん。めぐねぇに言われて気づいた」

 

「めぐねぇ様々だな。学園生活部が家帰っちゃしょうがないだろ」

 

 

そう言ったくるみはカンパンを咥えた。

 

「あ、何食べてるの?」

 

「カンパン食う?」

 

「ちょうだい!」

 

くるみはゆきの方にカンパンの入った缶を差し出す。ゆきがカンパンを手に取ったことを確認して次は隣にいるせいらの方に缶を差し出す。せいらは読書に集中したままであるが片手で本を持ち、もう片方の手を差し出された缶へ。缶からカンパンを1つ取りそのまま自分の口に咥え、その手で次のページをめくる。

 

「カンパンってなんかさばいばる!って味するよね」

 

「わくわくするよな」

 

「りーさんは?」

 

ゆきはカンパンをもう一つ頬張りながら言った。

 

「部長は屋上。園芸部の手伝い」

 

「わたしたちもいってみよっか」

 

「いいぜ」

 

くるみは、シャベルを取り立ち上がった。

 

「せいらも行くか?」

 

「そうだね。園芸部の手伝い行こっか」

 

 

せいらも屋上に向かうため読んでいる本に栞を挟み、席を立つ。せいらは自分の座っていた席の隣にたてかけてある木刀の入ったケースを手に取り、肩にかけ2人の後を追うように部室を後にした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

屋上

 

「園芸部のみなさん、お世話になってます」

 

ゆきはビシッと手を挙げ言った。

 

「いつもどうもねーあとは任せていいかしら?」

 

園芸部の女生徒はゆき達にあと仕事を頼んだ。

 

「はい!学園生活部にお任せで!」

 

「うす。お世話になります」

 

「お世話になります」

 

個々が挨拶をし、

 

「それじゃよろしくねー」

 

女生徒とハイタッチをした。

 

「あら?きてたの?」

 

すると、ゆき達の後ろから声がした。園芸部員と一緒に畑で作業をしていた学園生活部部長の若狭悠里ことりーさん。首に巻いたタオルで頬の汗を拭いゆき達の方へ向かう。

 

「あっりーさんだ。やふう!」

 

ゆきは、りーさんに気付き抱きついた。

 

「ゆきちゃんいい子にしてた?」

 

りーさんは、ゆきの頭を撫でながら言った。

 

「またまたぁいい子て子供じゃないんだから」

 

「聞いてよりーさん。こいつさー」

 

「あっ言っちゃダメ…」

 

先程部室で話していた件をりーさんにチクろうとしているくるみにゆきは小声でそれを阻止しようとするがそれも虚しくくるみは気にせずりーさんに話を続ける。

 

「今日授業終わって家帰りそうになったって」

 

「え?そうなの?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「めっ」

 

ゆきのおでこにピンッとデコピンをした。

 

「合宿なんだからみんな揃ってないとね」

 

「だよねー」

 

りーさんの意見にゆきは、コクコクと頷き、せいらも一回頷いた。

 

「学園生活部心得第一条!」

 

りーさんがビシッと人差し指をだし言った。

 

「はいっ!第一条、学園生活部とはー学園での合宿生活によって授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しむとともに

えっと、じ…じしゅどくりつの精神を育み…」

 

ゆきの口がモゴモゴし始めた。

すると、

 

「学校の設備借りまくって寝泊まりしようっていう」

 

「もー…くるみちゃんそれ言っちゃおしまいだよ」

 

ゆきがぷーっと顔を膨らましながら言った。

その答えにくるみは軽く笑った。

ゆきの顔が面白かったのかせいらはゆきの顔を見て微笑んでいた

 

「はいはい。無駄口叩いてないで園芸部のお手伝い終わらせましょ」

 

 

「私あっちの畑から水撒いていきますね」

 

 

「えぇお願いするわ」

 

 

話し続ける2人を横目にりーさんとせいらは園芸部の手伝いを再開する。せいらは園芸部員から継いだ作業をするべくジョウロ片手に畑に向かう。熱心に作業をしてくれているせいらを見て笑みを浮かべたりーさんも再び作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

4人が作業をしていると、

 

「お!おー野球部頑張ってるのう。おーい」

 

ゆきは、校庭で練習をしている野球部部員にヒラヒラと手を振った。

ゆきに気付いたのか、野球部部員は手を振り返した。

 

「ねえくるみちゃん見て見て!手振ってくれた。」

 

ゆきは嬉しかったのか、未だに手を振っている。

そんなゆきにそーっとくるみが近づき、

 

「サボってんじゃ…ねえ!」

 

ゆきにシャベルを振るった。

 

「ちょっシャベルは反則反則!」

 

「峰打ちじゃ」

 

くるみはキラーンと目を輝かせた。

 

「もーそれなら…こうだよっ!」

 

「うわっ」

 

ゆきは、バケツに入っていた水を柄杓で掬い、くるみにバシャッとかけた。

 

「やったな〜」

 

くるみはバケツを掴み、ゆきとの水掛けを始めた。

 

「二人ともーお手伝いはー?」

 

りーさんはトマトを収穫しながら言った。

 

 

 

 

数分後…

 

「うー」

 

ゆきは、頭から足までびしょ濡れになっていた。

くるみはドヤ顔をしながらピースをしている。

 

すると、せいらがタオルを持ってゆきの頭を拭いた。

 

「せいらちゃん、くるみちゃんがひどいんだよ」

 

頭を拭いてくれているせいらにくるみの悪行を愚痴る。するとゆきは「へぶしっ」とくしゃみをした。

 

「ちょっ先やってきたのお前だろ!」

 

「まったく…くるみ、やりすぎだよ。ゆきちゃん、着替えておいで」

 

「はーい」

 

ゆきは走りながら屋上の出入り口に入っていった。

 

「一人で大丈夫かな」

 

「心配しすぎよ、めぐねぇもいることだし」

 

「あいつ危なっかしいんだよな…」

 

「まぁ…分からなくもないけど」

 

そんな会話をしていると、ゆきがぎいっ…っと扉を開けひょこっと顔を出していた。

 

「わあ!」

 

くるみは驚き、

 

「どうしたの?忘れ物?」

 

と、りーさんは問いかけた。

 

「あっそうじゃなくて…えーとね、みんな好きだよっていうか」

 

ゆきがモジモジしながら言った。

 

「なんじゃそりゃ」

 

それを聞いていた3人は思わずキョトンとした。

 

「ほら、合宿忘れて帰りそうになったけど、別にみんなのこと忘れたんじゃないよっていうか…」

 

ゆきはまだモジモジしている。

 

「わかってるわよ」

 

りーさんは、そう言って手を振った。

 

「うん。えーとそれだけ。じゃまた!」

 

そう言ってゆきはササッと扉を閉めた。

 

「ゆきはいっつも楽しそうだな……」

 

 

 

「いい事だと思うよ」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

(ー最近学校が好きだ。何でもあってまるで一つの国みたい)

 

そんなことを考えながらゆきは自分の教室の扉をガラッと開けた。

 

「お、丈槍どうした?」

 

教室にいた男子生徒が声をかけた…

 

でもそこにあった光景は、

 

「うん。忘れ物、宿題置きっぱなしだった」

 

ボロボロになった教室だった。

窓ガラスは割れ、黒板は崩れ落ち、机と椅子は散乱していた。電球も壊れ、壁や床もヒビが入っていた。

 

その教室にいるのは、一人で話しているゆき一人。

 

「これ?屋上で水遊びーえへーうんまだ部活」

 

教室をトタトタと歩きながら話している。

 

「うん。じゃーねー」

 

誰もいない扉の向こうに、ゆきは手を振る。

 

「うわっ寒っ窓開けっ放しだよ」

 

そう言ったゆきは、ほぼほぼ割れている窓を閉めた。

 

 

校庭に広がった光景はまるで、地獄のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





23 7/6 再編集済み

オリキャラの名前、性格等変わっているため編集前とは別物だと思ってください。
編集済みの話には分かりやすくマークを付けます。


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第2話 おもいで ღ

ー走るのは嫌いじゃない、でも部に入った動機はわりと不純だ

 

追いかけたい人がいたんだ。

 

ほら、マネージャーって柄じゃないしさー

 

(あれ……先輩?)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ん…」

 

くるみはぼ〜っとしながら目が覚めた。

 

「ふぁー」

 

伸びをしながら欠伸をし、ポリポリと頭を掻きながら隣で寝ているゆきへ目をやった。

よだれを垂らしながら寝ている。

そんなゆきに、にっと笑いながら

 

「ゆき、朝だぞ。遅刻するぞ」

 

寝ているゆきをゆさゆさと揺すり起こす。

 

「う〜ん。むにゃむにゃ…」

 

 

 

 

 

 

学園生活部

 

ゆき達は学園生活部の扉を開けた。

 

「あら、おはよう」

 

めぐねぇが、二人に挨拶した。

 

「あ、めぐねぇおはよう〜」

 

「おはよー」

 

ゆきは元気よく、くるみは欠伸をしながら言った。

 

「二人ともおはよう」

 

「おはよう」

 

台所で朝食を作っているりーさんと、それを手伝っているせいらが言った。

 

「今日はめぐねぇも一緒にごはん?」

 

「うん。おいしそうな匂いがしたから」

 

「こ、この匂いは…」

 

ゆきが匂いを嗅ぐとハッとした。

 

「カレーだっ!!」

 

「そうよ」

 

りーさんとせいらはカレーを机に運んだ。

 

「よっしゃいただきまーす!」

 

「「「「いっただきまーす!」」」」

 

 

個々がそういい朝食を食べ始めた。

 

「おいしかったーおかわりない?」

 

くるみはすでに完食していた。

 

「早っ!くるみちゃん太るよー」

 

ゆきがもぐっ…とスプーンをくわえながらいった。

なぜかしょぼんとしている。

 

「いいんだよ運動部なんだから!」

 

くるみはばんっと机を叩きながら言った。

 

「え、うちって運動部だっけ?」

 

ゆきは、くるみの言葉に困惑した。

それを見たりーさんとくるみはじっと黙った。

少しマズそうな顔をしている。

 

「一応文化部だけど力仕事はいっぱいするわね。運動部みたいなものかも」

 

フォローするかのようにめぐねぇが言った。

それを聞いたゆきは、

 

「あー水やりとか疲れるもんね」

 

「だろ?雑用ばっか」

 

くるみはそれに合わせるように言った。

 

「雑用じゃ…」

 

めぐねぇがむっとするが、

 

「くるみ、学園生活部心得第二条!」

 

りーさんがそれを阻むように言った。

 

「第二条、えーと学園生活部とは、施設を借りるにあたり必ずその恩に報いるべし」

 

ゆきが言った。

 

「よろしい。雑用とか言っちゃだめよ」

 

と、りーさんが優しく注意した。

 

「わっかりました部長!」

 

「私、一応顧問なんだけどなー」

 

めぐねぇはむーっとスプーンをくわえながら言った。

 

「それじゃあ先行くね」

 

「あ、先生も一緒に行くわ」

 

「「いってらっしゃーい」」

 

そう言って、ゆきとめぐねぇは学園生活部を後にした。

ゆきが部室を出ていったのを確認してせいらはため息をつき隣に座るくるみをジト目で見つめる。

 

「はぁ…危なかったね、今の」

 

「うん。口が滑った」

 

せいらの視線に気づいたのかくるみは気まずそうにそっぽを向いている。するとくるみは咳払いをして話題を変える。

 

 

「さて、じゃあ今日の見回り当番決めるか」

 

 

「はぁ…もうこの制度やめない?」

 

 

「なんかあった時こっちにも人がいた方がいいだろ?」

 

 

「…それはそうだけど」

 

 

食器を片した2人は両者見合って片手を差し出す。始めたのはジャンケン。学園生活部で汚れ仕事ができるのはくるみとせいらのみ。そのため朝の見回りも2人のどちらかがしている。主な仕事はバリケードの点検だが、何かあった時のためにこうしていつもジャンケンでどちらが見回りに行くかを決めていた。

 

 

今日のジャンケン、勝ったのはくるみ。勝者であるくるみはガッツポーズ、負けたせいらは自身の出した手を見て不貞腐れていた。

見回り当番に決まったくるみはシャベルを持ち戸を開ける。

 

「では恵飛須沢胡桃、心入れ替えて朝の見回り行ってきます」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

 

 

 

部屋を後にしたくるみは、すぅっと息を吸い、

 

「さ、行くか」

 

 

 

 

 

 

二人は階段を下りた。

そこには、バリケードがそびえ立っていた。

 

くるみはコンコンっとバリケードを叩き、

 

「異状なしっと」

 

そして、くるみはバリケードに飛び乗り奥を確認した。

すると『奴ら』が一匹ぬっと現れた。

 

「うわっ」

 

 

くるみは周りを確認し、バッと飛び、着地した。

それに気付き、ゆっくりくるみの方へ振り向く『奴ら』

 

くるみは、『奴ら』の足にシャベルを振った。

『奴ら』は、「ぐおっ」と転んだ。

 

くるみは『奴ら』を足で抑え、

 

「……おやすみなさい」

 

シャベルに力を込め、『奴ら』に刺した。

 

 

 

一方その頃ゆきは…

 

ボロボロになった教室で一人授業を受けていた。

 

「あっはい」

 

先生に指されたのか、黒板の前に行き、

 

と 時

き 雨

 

 

「えっと……こうかな?」

 

 

 

 

 

屋上

 

くるみは血のついたシャベルを洗っていた。

 

「またやってきたの?見回りだけでいいのに」

 

りーさんが後ろから言った。

 

「いい位置に一匹いたからさ」

 

「一人じゃ危ないわよ」

 

「心配しすぎだって」

 

「部長ですから」

 

りーさんはえっへんと胸を張って言った。

 

「はいはい」

 

りーさんは畑の方へ戻り、くるみはフェンスから校庭を見ている。

校庭には、『奴ら』が沢山ウロウロと徘徊していた。

 

「くるみ?」

 

せいらはくるみに言った。

 

「ほら、ゆきが野球部朝練してるって言ってたじゃん」

 

「うん…言ってたね」

 

「トラックも誰か走ってないかなって」

 

「……………うん」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

学園生活部

 

りーさん、くるみ、せいらの3人は晩御飯の支度をしていた。

すると、

 

「たっだいまーなにクレープ?」

 

ゆきが、授業から帰ってきた。

 

「お好み焼きよ。晩御飯にしましょ」

 

りーさんが、卵と小麦粉を混ぜながら言った。

 

「わーいお好み焼き大好き!」

 

ゆきの表情がぱぁっと明るくなった。

 

りーさんは、肉の代わりのスパムを加えホットプレートで焼いた。

 

「遅かったわね先生は?」

 

ゆきは椅子に座ると同時に「ぐるるるるる」とお腹が鳴った。

 

「一緒にほしゅーしてたー、そもそもさー数学とかって何か役に立つのかなぁ将来とか言われてもピンとこないしー」

 

ゆきは机にだらぁーっとしながら愚痴をもらした。

 

「……ダメ人間だ」

 

「じゃあ一緒に数学やりましょうか」

 

りーさんが言うと、

 

「えー」 「うんうん」

 

くるみはりーさんの意見に頷いたが、続けてせいらが言う。

 

「くるみも一緒にね」

 

「「ええー」」

 

ゆきと一緒になって駄々をこねはじめた。

 

 

くるみは余計なことを言いやがってと言わんばかりにせいらを見つめるが、せいらはそんなこと気にせず夕飯の準備を進める。

 

「みんなで一緒に卒業しましょ」

 

りーさんが言った。

 

「…そっか。そうだねやろう!」

 

ゆきはくるみの手を掴み言った。

 

「いいけどさ」

 

「みんな、焼けたよ」

 

せいらが言った。

 

「あらごめんなさい。ほとんど任せちゃったわ」

 

「いえ、好きな方なんで。料理」

 

「みんな食べよー」

 

ゆきが3人に言うと、

 

「「「「いっただっきまーす」」」」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

くるみの夢

 

(先輩?)

 

先輩はくるみに手を差し出した。

くるみは答えるように自分も手を出すが、

 

「くるみ!」 「恵飛須沢さん!」

 

屋上の扉を抑えているりーさんとめぐねぇが声を荒げて言った。

そう、これはあの日の出来事。

 

(あれ……せんぱい?)

 

くるみはもう一度先輩に目を向けた。

先輩はくるみに近づいてくる。

 

「ちがうの。よく見てくるみ」

 

りーさんが扉を抑えながら言った。

 

「りーさん何言ってるの、この人は……」

 

くるみは何かを言おうとするがそれより先に先輩?がくるみに飛び出した。

 

「うわっ!?……ツッ」

 

それに驚いたくるみは後ろに転んだ。

先輩?はくるみの方へ目をやりまた向かってくる。

 

「あ……」

 

くるみは逃げ場もなくただ迫ってくる先輩…『彼ら』に唖然としていた。

くるみは後ろに手をやると、その先にシャベルがあった。

 

「うわああああ!」

 

くるみはシャベルを『奴ら』の首元へ振るった。

「ズッ」っと鈍い音がした。

 

そして、首元から溢れ出た血がくるみの頬についた。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

くるみはハッと目を覚ました。

起き上がると、胸を抑えて息を荒げた。

 

「…くるみ?」

 

気付いたのか隣で寝ているせいらが言った。

 

「…悪い。起こした」

 

くるみはせいらに謝ると、せいらはくるみの手を握った。せいらは心配そうにくるみを見つめる。

 

 

「大丈夫?…また見たの?」

 

 

くるみが夜中に目を覚ますのはこれが初めててはなかった。学園生活部の活動が始まってから何度もあった。

最初の頃に比べたら回数は減ったがそれでもくるみは何度か目を覚ましてしまう。

 

 

「あぁ……せいらは大丈夫なのか?」

 

 

「うん……大丈夫だよ」

 

 

くるみは逆にせいらの心配をしていた。お互いに汚れ仕事を担うもの同士。同じせいらにだって夜中に目を覚ましてしまう時があるだろうと気になりせいらに問いかけたが、彼女はくるみに心配かけまいと笑みを浮かべてそれを否定した。

 

 

「やっぱすげぇなせいら」

 

 

「……そんなことないよ」

 

 

自分と違い悪夢を見ることが無いと分かりせいらを賞賛するくるみ。しかし等の彼女はその賞賛を心から受け止めることはできなかった、目を背ける。

 

 

「悪いんだけど、今日も頼むわ」

 

 

「もちろん」

 

 

2人は手を繋いだまま再び布団に潜り込む。

隣にいるせいらの顔と彼女と繋いでいる手から伝わる体温に安心したのかくるみは直ぐに眠りについた。

寝息が聞こえることを確認したせいらは先程までくるみに見せていた笑みを消し暗い表情をしていた。

 

 

 

 

「……私は、そんな凄い人じゃないよ」

 

 

 

誰にも聞こえないくらいの小声で呟く。誰にも気付かれないまませいらも再び目を瞑り眠りについた。

 

 

 

 



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第3話 らいねん ღ

2-B 教室

 

ー家計簿って頼もしい。つけているとなんと来週のことがわかるのだ!

 

この部活が始まった頃は明日のこともわからなかった。来月のことはまだよくわからない

 

来年、私たちはどうしているだろうー

 

りーさんは家計簿を書いていると、

 

「電気、足りてないわね」

 

「あー雨多かったもんな」

 

前の席で本を読んでいるくるみが言った。

最近は雨が多く困っていた。

 

「物資も減ってるし早めに取りに行った方がいいかも」

 

「わかった」

 

すると、教室の扉が開いガラッと勢いよく開き、

 

「学園生活部ちゅうもーく!」

 

 

「んー?」 「何かしら?」

 

くるみとりーさんはゆきの声に反応して何かと聞いた。

 

「肝試しやろ、肝試し!」

 

「はぁ?」

 

ゆきが机にだんっと手を出しいった。

 

「え、よくない?夜の学校でハラハラドキドキだよ!」

 

ゆきの目は輝いて見えた。そして周りも。

 

「いきなり何言いだすかと思えば…」

 

「あれ、くるみちゃんもしかしてお化け苦手?」

 

ゆきはくるみを指差しぷぷーと笑ってる。

 

「ちげーよ」

 

「大丈夫だよわたしと一緒に特訓すればお化けなんて!」

 

「おーまーえーなー」

 

くるみはゆきの襟元を掴んでいる。とてもお怒りのご様子。

しかしりーさんは、

 

「あらいいじゃない」

 

ゆきの意見に賛同した。

 

「!!」 「でしょ?」

 

くるみはりーさんの意見に驚いたが、ゆきは反対に喜んでいた。

 

「そうと決まったら準備ね」

 

「うん。手伝うよ」

 

「ゆきちゃんはめぐねぇに伝えてきてくれる?」

 

「わかったー」

 

そう言うとゆきは教室を後にした。

 

「…いいのか?」

 

「ゆきちゃん?気をつければ大丈夫よ」

 

そう言うとりーさんは再び家計簿に目をやった。

 

「いいならいいんだけどさ…」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「きっもだっめし、きっもだっめし」

 

るんるんと先頭を歩いているゆきと、その後ろをとぼとぼ歩く三人。

 

「ちょっとは緊張しろよ」

 

「ゆきちゃんは怖くないの?」

 

くるみとりーさんはゆきに問いかけた。

 

「うーん。本物のお化けに会ったら怖いかな。でも、学校でしょ何もでないって」

 

「うん」

 

せいらはピタッと立ち止まり言った。

 

「この時間学校は誰もいない」

 

せいらはボソッと言った。

 

「う……」

 

「だから、誰もいないはずだけどもしいたら……」

 

せいらはまるで悪巧みをしているかのような悪い笑みを浮かべていた

 

「い、いるわけないじゃん」

 

ゆきとくるみはせいらの声に怯えている。りーさんだけはニコニコしていた。

 

「そうだね」

 

せいらの顔がぱっと明るくなった。

 

「知ってる?幽霊ってすごく寂しがり屋で人の声に寄ってくるんだって」

 

せいらはそう言うと、「ほいっ」と小さく呟いてラジカセの電源をポチッと入れた。

 

「じゃ、つけちゃだめじゃん!」

 

ゆきが慌てた様子でせいらに言う。

 

「あれー幽霊なんていないんじゃなかったっけ?」

 

くるみがニヤニヤと笑いながら言った。

 

「も、もちろんだよ!でもさ、万が一ってことが…あるよね?」

 

ゆきが慌てた様子で言った。

 

「そうだね…だからこれはここにおいてあっちの階段から行こうか」

 

せいらはここよりもさらに奥を指した。

 

「せいらちゃん頭いい!」

 

 

 

 

「みんな揃ってるわね」

 

せいらの指した方へ向かうとめぐねぇがいた。

 

「はーい」

 

ゆきはボソッと小さい声で言った。

 

「肝試しもいいけど無茶しないでね」

 

「めぐねぇもっと静かに!」

 

ゆきは再びぼそぼそと言った。

 

「はいはい…で、組分けはどうするの?」

 

「せ、せっかくだからみんなでいかない?」

 

もじもじとしたゆきが、りーさんにしがみつきちらっと見ながら言った。

 

「そうね。そうしましょうか」

 

「わーい!」

 

ゆきはりーさんにぎゅーっと抱きついた。

 

「じゃあ五人一緒にいくわよ。はぐれないようにね!ええ〜と…まず最初は…」

 

「最初は購買部、次は図書室。みんなで何か証拠の品を取ってくるのよ。もしはぐれたら声を出さずにこの階段まで戻ることいい?」

 

「うん」

 

りーさんはめぐねぇの声を阻みながらみんなに言った。

めぐねぇはしょぼんとしている。

 

「じゃ、みんな……」

 

「行きましょ」

 

りーさんが再びめぐねぇの声を阻み先へ進んだ。

めぐねぇはまたしょぼんとしている。

 

「めぐねぇはやくー」

 

 

 

 

五人は最初に購買部へ向かった。

 

「幽霊……いないよね」

 

ゆきはりーさんにしがみついている。

めぐねぇはまだしょぼんとしている。

 

「油断は禁物よ」

 

りーさんがそう言うと、くるみは購買部の扉を開けた。

 

「えっと証拠の品だっけ」

 

「そうよ」

 

りーさんはそう言うと、制服やシャンプーなどをリュックへ詰めた。

 

「何取ってもいいの?」

 

「いいのいいの、ちゃんとお金は払うし」

 

りーさんはそう言うと、レジにお金を置いた。

 

「わーい」

 

ゆきは、走り棚を見て回った。

 

「チョコレートと〜ホテチと〜うまか棒と〜」

 

ゆきはパパパっといろんなお菓子を取っていった。

 

 

 

「くるみ…それ、どうするの?」

 

せいらがくるみにそう聞いた。

くるみが今持っているのは高枝切りハサミ。

 

「いや、武器にならないかなって」

 

「……使えんの?」

 

「だよな…」

 

そう言うとくるみは高枝切りハサミを元の場所に戻した。

すると、

 

「くるみちゃん〜せいらちゃん〜見て見て。これ20倍に膨らむんだって!!」

 

目が輝いているゆきがいた。

 

「おいおい何に使うんだよ」

 

「持って帰ろ。」

 

ゆきはリュックに風船を詰めた。

 

「みんな証拠の品は取った?」

 

「おう」

 

「じゃ次は図書室ね」

 

りーさんはリュックを背負うと次へ移動した。

 

 

 

 

 

図書室

 

りーさんは、図書室の扉を開けた。

図書室も、ガラスは割れ、本が散乱していた。

 

「く、暗いね。電気つかないかな」

 

ゆきが少し怯えた様子で言った。

 

「そしたら肝試しじゃないでしょ。あ、足元気をつけてね」

 

「うん」

 

ゆきは足元にあるガラスの破片を割った。

 

「あ、先行ってて。あたしらこのへん見てるから」

 

くるみはそう言うとせいらと共に扉の前で待機することにした。

ゆきとりーさんが奥へ向かったのを見届けるとくるみはせいらに問いかけた

 

 

「さっきのラジオ、アイツらを向こうに引きつけるためだろ?」

 

 

「そうだけど…それが?」

 

 

「ゆきが肝試しやりたいって言うから準備しといてくれたのか?」

 

 

隣にいるせいらの方を向いてそう問いかけた。するとせいらはバツが悪そうにくるみから視線をそらした。

 

 

「お前、だいぶ丸くなったな」

 

 

「そう?」

 

 

「最初に比べたら大分な」

 

 

せいらはそこから先は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「りーさんは、何の本持ってくの?」

 

ゆきはりーさんに問いかけた。

 

「教科書と、問題集…」

 

「うっ…りーさん勉強好きだもんね」

 

「いいえ。これはゆきちゃんの分よ。わからないところあるって言ってたでしょ」

 

りーさんは不吉な笑みを浮かべている。

するとゆきは慌てた様子で、

 

「あうーわ、わたしも本探してくる〜」

 

「あ、ゆきちゃん」

 

りーさんが呼んだ時には、すでにゆきはいなかった。

 

 

 

 

ゆきは、漫画の棚へ行き、ごそっと取っていった。

すると、

 

「いたいた」

 

「あ、めぐねぇ」

 

「だめでしょ走ったら」

 

めぐねぇはゆきに注意した。

 

「ごめんなさーい……あれ?」

 

「え…?」

 

ゆきは何かに気付いたのか奥に目をやった。

めぐねぇもそれに気付き目をやった。

すると、

 

「「!!」」

 

『奴ら』が一匹徘徊していた。

 

「だ、誰?」

 

「しっ!」

 

「……っ!」

 

めぐねぇは、ゆきの口を抑え、隣の棚を壁にし、『奴ら』が通り過ぎるのを待った。

『奴ら』が過ぎ去るのを確認し、

 

「ここでじっとしてて。絶対に声出しちゃだめよ」

 

めぐねぇはそう言うと、『奴ら』が向かった方へ行った。

ゆきはそわそわしながらもっと奥へ移動し、うずくまっていた。

 

すると、奥から「ゴスッ」と大きな音がした。

 

ゆきは泣きそうになるが、するとぬっと影が現れた。

そして、ゆきの目の前が明るくなった。

 

「おーいたいた」

 

「だめじゃない勝手にはぐれちゃ」

 

「大丈夫…?」

 

くるみ、りーさん、せいらがゆきに近づいた。

ゆきは安心したのかうるっとし、

 

「ご、ごめんなさーい」

 

がばっとゆきは泣きながらりーさんに抱きついた。

 

「あら、揃ってるわね」

 

めぐねぇが本棚の奥からひょこっときた。

 

「めぐねぇ!どこいってたの!?幽霊は?」

 

「幽霊?あぁ居残りしてた生徒ね。今送ってきたわ」

 

「でも声出しちゃだめよって…」

 

「だって、あなたたちがいると叱る時説明が面倒だし」

 

「ひどーい!」

 

りーさんは二人の会話を聞きながら微笑んでいた。

 

「で、肝試しは楽しかった?」

 

りーさんはゆきに問いかけた。

 

「楽しかったー来年もやろ?」

 

ゆきは微笑みながら言った。

 

「来年……そうね、約束よ」

 

「やくそくー!」

 

するとゆきはすっと手を出した。

 

四人はそれに答えるように、ゆきの手に自分の手を乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話 せんせい

雨が降り、しぃんと静まり返った教室に響く時計の音。

めぐねぇは一人、教卓に座っていた。

 

ーこれはたぶん遺書だ。私は罪を犯した。いつかこれを読む人にそのことを知ってほしい。

あの子のことだ。

丈槍由紀の時間が止まったのは、私のせいだー

 

「ふう」

 

めぐねぇは、ノートを閉じ、窓の景色を眺めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「くるみちゃん、しおりちゃん、雨だよ」

 

ゆきが、窓から外の景色を見て言った。

 

「ほんとか?」

 

「うん。運動部が雨宿りしてるもん」

 

外には、頭を手で隠しながら、校舎まで走る運動部の生徒たちがいた。

 

「また雨かよ……」

 

くるみは軽く舌打ちをし、しおりはカンパンを食べていた。

 

「ふたり、とも…何か…忘れてない?」

 

しおりは、カンパンを缶からつまみながら言った。

それを聞いたゆきとくるみは顔を合わせ、

 

「「…!」」

 

二人はハッと気付いた。

 

「「洗濯物!」」

 

 

 

 

 

 

屋上

 

りーさんは、屋上にある畑のうちの一つに刺さっている十字架に向けて、手を握り、祈りを捧げていた。

すると、りーさんの手にポツっと雫が落ちた。

 

「あら?困るわね……また雨。そろそろ節電しないと……」

 

すると屋上の扉が開き、

 

「りーさん、洗濯物大丈夫?」

 

ゆき達が来た。

 

「あ、よかった手伝って」

 

「はーい」「うす」「…うん」

 

 

学園生活部全員総出で、洗濯物を取り込んでいる。

すると、

 

「くるみちゃん〜見て見て」

 

「んー?」

 

ゆきの声がした方をくるみは振り向くと、

 

「ほらほら、ボイン!」

 

ゆきが、りーさんのブラをつけていた。

 

「小学生かおまえは」

 

くるみは冷静につっこんだ。

 

「もうっ遊ばないのっ!」

 

「あーん」

 

りーさんは、ゆきからブラを取り上げた。

ゆきはなぜか尚残しそうだ。

 

「早くしないと濡れちゃうわよ」

 

「はーい」

 

洗濯物が風でぱたぱたと靡いている。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『お昼になりました。午後の授業のためにもしっかり栄養をとりましょう』

 

チャイムがなり、お昼を知らせる放送が鳴った。

 

「「「「いっただきまーす」」」」

 

「……ます」

 

学園生活部の五人は、昼食にカンパンを食べていた。

 

「ううむ。ぱさぱさする」

 

くるみがカンパンをポリっと食べると、愚痴を漏らした。

 

「今日は、全校停電だから」

 

めぐねぇがおさめるように言った。

 

「わたし、停電好きだけどなー。なんかわくわくするよね」

 

ゆきは、カンパンをむしゃむしゃと頬張りながら言った。

 

「うちのシャワー、電熱式だぞー」

 

「え?」

 

「お湯が出ないのよね」

 

「はうっ」

 

ゆきは、めぐねぇの言葉にショックを受けた。

するとそのままゆきは、放心状態なのかピクリとも動かない。

 

「……」

 

「大丈夫かー」

 

くるみはゆきの肩を揺すると、ばっと立ち上がった。

 

「キャンプだよ!」

 

「「キャンプ?」」

 

りーさんとくるみはゆきに問いかけた。

 

「ほら、えーと、遠足でキャンプとかするでしょ?学園生活部だから学校でキャンプするの!」

 

ゆきは人差し指をくるくるさせながら説明した。

 

「なるほど、キャンプなら電気とかないもんな」

 

「そうねぇいいんじゃない?」

 

くるみとめぐねぇはゆきに賛成するように言った。

 

「キャンプか、テントあったかな」

 

「部室にあったはずよ。あれなら四人入れるわ」

 

「ちょっ私、私!」

 

めぐねぇは焦るように自分に指差した。

 

「だ、大丈夫だよ。詰めればめぐねぇも入れるよ!」

 

ゆきはめぐねぇをサポートするように言った。

りーさんは、それにハッと気付き、

 

「!すいません、そんなつもりじゃ」

 

「冗談よ。見回りもあるしね」

 

めぐねぇは、苦笑いをしながら言った。

すると、

 

「めぐねぇいつもおつかれさま」

 

ゆきがめぐねぇに言った。

するとゆきに続くように、

 

「めぐねぇおつかれさまー」

 

「……です」

 

くるみとしおりが言った。

 

するとめぐねぇは、

 

「もう、めぐねぇじゃなくて佐倉先生」

 

微笑みながら言った。

 

 

 

 

 

 

夜 学園生活部 寝室

 

四人は、寝室にテントを張り、中に布団を敷き円になり座っていた。

 

「雰囲気あるね!ね、何の話する?」

 

すると、

 

「怪談とかいいわよね」

 

りーさんがフフ…と笑いながら言った。

 

「え、雰囲気はあるけど……」

 

「やーだ!」

 

くるみは、りーさんに不満を漏らした。

しかしりーさんはそれを聞かず、

 

「知ってる?今日みたいな雨の日はね……」

 

怪談を話し始めた。

 

「〜〜〜チョップー!」

 

「いたーい」

 

くるみは耐えきれずりーさんにびたーんとチョップした。

 

「なんか明るい話しようぜ!コイバナとか!」

 

くるみは気を紛らわすために、話の内容を変えた。

しかし、

 

「あ、わたしすごく怖いこと思いついちゃった……」

 

ゆきが場の空気を変えるように言った。

それを聞いたくるみは、

 

「なにぃ?」

 

怒りに耐えきれずシャベルを構えた。

 

「ちょっタンマ!そういうのじゃなくて!じゃなくて!」

 

「ん?」

 

「うん、あのね。ほら、わたしたちそのうち卒業するよね?」

 

ゆきはくるみに聞いた。

 

「……まあな」

 

「でもさ……めぐねぇはずっと学校にいるんだよね」

 

ゆきの言葉に、周りは静まり返った。

 

「先生が卒業したらまずいだろ」

 

「そう思ったら、なんか悲しくって、ね」

 

ゆきが、くまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら言った。

 

「わかるわ、いい先生だものね」

 

「だよなーめぐねぇがいなきゃこの部もないし」

 

りーさんとくるみは、ゆきに同情するように言った。

 

「うん。優しいよね…授業眠いけど」

 

「宿題多いけどな」

 

「時々、板書間違えるのよね」

 

しかし三人は後ずけするようにめぐねぇの問題点を言い合った。

 

すると、奥から靴の音がした。

それに気付いたのはしおりだった。

しおりは、くるみのジャージの裾を摘んで、

 

「先生…来てる」

 

「「「えっ」」」

 

その言葉に三人は驚き、慌てて布団に潜った。

そして、ランプの灯りを消した。

 

めぐねぇは寝室の扉を開け、

 

「はーい。夜更かししてる悪い子はいないかな?」

 

懐中電灯で灯しながら言った。

四人はその言葉に反応せず、めぐねぇが立ち去るのを待った。

 

「いないわね。じゃ、おやすみなさい」

 

めぐねぇはそう言って部屋を後にした。

ゆきは、布団からもぞっと顔を出し、そっとテントを開け、めぐねぇがいなくなったのを確認した。

 

「もう大丈夫だよ」

 

ゆきがみんなに言った。

くるみ、りーさんは起き上がったが、しおりは布団に入ったまま。

 

くるみはふと、違和感を感じた。

ジャージの裾が引っ張られている。

しおりが被っている布団を少し剥ぐと、

 

「すぅ…すぅ…」

 

くるみのジャージの裾を摘んで寝息をたてているしおりがいた。

 

それを見たくるみは、

 

「ははっ」

 

笑った。ゆきも微笑み、りーさんもぷっと笑った。

 

 

 

 

 

ー時間の流れは止まらない。いつかもし、あの四人がこの学校から笑顔で出られるのなら、そのためなら私はどうなってもいい。

あの子たちを元気に送り出すこと、私はそのために生きているー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第5話 まぼろし

ゆきの夢

 

ゆきは何もない教室で一人泣いていた。

すると、めぐねぇそっと肩に手を乗せ、

 

「先生ね、悠里ちゃんと決めたの。」

 

「りーさんと?」

 

「そう。とっても楽しいことよ」

 

めぐねぇはゆきの耳元で囁いた。

 

「楽しいわけ…ないよ……」

 

ゆきは、めぐねぇの言葉を否定した。

しかしめぐねぇは話を続け、

 

「部活を始めるの!みんなで一緒に!」

 

ゆきはその言葉に反応したのか、めぐねぇの方を振り向き、

 

「ぶ…かつ…?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「むにゃ…」

 

ゆきは夜中にむくっと起き上がった。

 

 

学園生活部 部室

 

ゆきは、目を擦りながら部室の扉を開けた。

 

「どした?」

 

部室には、くるみと、くるみの膝で寝ているしおりがいた。

 

「めぐねぇは?「ん?職員室だろ?」そか……」

 

ゆきは寝ぼけながら、もじもじしていた。

 

「寝ぼけてんのか?」

 

「んっと、トイレ」

 

ゆきが起きた理由は、トイレだった。

 

「OKちょっと待ってな。しおりちょっと悪い」

 

「ん……」

 

くるみは、立ち上がるためにしおりを起こした。

 

「いいよ。一人で大丈夫だよーくるみちゃんの過保護っ!」

 

「うっせーな決まりだろ」

 

くるみは、手袋と、膝当てをつけて言った。

すると、扉が開き、

 

「学園生活部心得第三条!」

 

りーさんが言うと、

 

「「第三条夜間の行動は単独を慎み常に複数で連帯すべし」」

 

ゆきとくるみはビシッと手を挙げ、学園生活部心得を言った。

 

「よくできました」

 

「りーさんおはよー」

 

「夜中、一人でうろついてると顧問の責任問題になるそうよ」

 

「めぐねぇも大変だねぇ」

 

「他人事みたいに言うな!」

 

「すぅ…すぅ…」

 

しおりは、周りなど気にせずに再び寝た。

 

 

 

 

ゆきとくるみは部室の扉を閉め、トイレに向かった。

 

ー夜の学校は好きだ。しーんとしていてなんにも聞こえない。まるで、世界中の人がいなくなって私たちだけになったみたい……なんてねー

 

くるみは窓に目をやると、

 

「まだ降ってるなー、お」

 

「!」

 

二人は奥に誰かいるのに気付いた。

 

「……ね、誰か来るよ」

 

ゆきはくるみのうしろにささっと隠れながら言った。

 

「不良じゃねーの?」

 

くるみはぎゅっとシャベルを握った。

しかし不良なんてのは嘘で、本当は『奴ら』なのをくるみは分かっていた。

 

「ど、どうしよ」

 

「静かにして、目を合わせんな」

 

「う、うん」

 

「1、2の3でいくぞ」

 

くるみはゆきに伝え、じりっとシャベルを構えた。

 

「1、2の3!」

 

その掛け声とともに、二人は女子トイレに入った。

 

 

 

女子トイレ

 

「怖かったー。不良の人トイレまでは来ないよね」

 

ゆきは、洗面台に腰を下ろし、へとーっとため息をついた。

 

「あ、でも不良だから来るかな」

 

ゆきはビクッとした。

 

「誰か呼んでくるわ。ゆきはここで待ってな」

 

「え、危ないよ」

 

「平気平気、不良の一人くらい一撃だって」

 

くるみはシャベルを構えて言った。

 

「不良の人が危ないよ!いい不良かもしれないじゃん」

 

「いい不良ってなんだよ!」

 

くるみは、ゆきが言っていることの意味が分からず問いかけた。

 

「子犬とか拾う人?ほら、雨だし」

 

やっぱりゆきの言葉の意味が分からないくるみは一度沈黙したが、

 

「……わかったからとにかく鍵かけとけ」

 

「う、うん」

 

少し不安そうな顔をするゆきに、くるみはぽんっと肩に手を乗せ、

 

「大丈夫だって、すぐ戻ってくるから動くなよ」

 

「……ん」

 

ゆきはズキンと頭痛がした。すると、

 

 

ーー丈夫よ……

 

 

大丈夫よ すぐ戻ってくるから

 

 

くるみの言った言葉と似たようなことを言う誰かの声が頭に響いた。

しかし頭痛はスッと消えた。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

「あ、うん。なんでもない」

 

ゆきは、くるみに言われたように、トイレの個室に入った。

鍵をかける前に、ゆきはくるみの方を振り向き、

 

「くるみちゃん、ほんとにほんとに気をつけてね」

 

「心配すんなって!」

 

「うん……」

 

くるみの言葉に少し不安は残ったゆきだったが、ゆきはトイレの個室に入り、鍵を閉めた。

 

くるみは結っている髪をさらに結い、邪魔にならないようにした。

そして、勢いよくトイレの扉を開けた。

 

しかし、周りにはわらわらと『奴ら』が集まってきていた。

『奴ら』はギギギっと不気味な音を出しながらくるみに向かってくる。

 

「やっべ…」

 

危険だと思ったくるみはふと先日のゆきとの会話を思い出した。

 

ーうん。運動部が雨宿りしてるもんー

 

 

それを思い出したくるみは顔を引きつった。

 

「くそっ雨宿りってこれかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

一方ゆきは、トイレの個室にじっと座っていた。

すると、ぽちゃん…と蛇口から雫が一つ落ちた。

 

「んーおっそいなぁ……」

 

ゆきはそ〜っと扉の隙間から覗いた。

すると、

 

「丈槍ゆきさん」

 

ふと、後ろからゆきの名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、

 

「めぐねぇ!」

 

めぐねぇがいた。しかし普段の優しい顔とは異なり、真剣な顔のはずだがどこか悲しそうな顔をしていた。

 

「どうしたの?一人で外に出たらだめでしょ」

 

「で、でもくるみちゃんが……「恵飛須沢さん?」」

 

「わかったわ。先生が探してきます」

 

「う、うん」

 

めぐねぇはさっとゆきの横を通り過ぎ、扉を開けようとする。

すると、

 

「……あの」

 

ゆきがめぐねぇのワンピースの裾をぎゅっと掴み、

 

「なあに?」

 

「わたし、これでいいのかな?わたしみんなのお荷物になってないかな」

 

ゆきは少し焦り気味な顔でめぐねぇに問いかけた。

するとめぐねぇはすっとゆきに抱きつき、

 

「そんなことないわよ。ゆきちゃんが頑張ってるの先生はよく知ってるもの」

 

ゆきに優しくそう伝えた。

 

「うん……」

 

ゆきは、その言葉を聞き涙が出そうになった。

 

「じゃ、行ってくるわね」

 

そう言ってめぐねぇはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

あれからどれくらいの『奴ら』を倒したのかも分からず、くるみはシャベルを引きずり走る。

制服にも、手足にも、もちろんシャベルにも、『奴ら』の返り血がついていた。

 

「どんだけっ!」

 

くるみは、『奴ら』を蹴り飛ばした。

 

「なろっ!」

 

周りから近づいてくる『奴ら』をシャベルで振り払った。

すると、部室の扉が開く音がした。

くるみはそれに気付きその音がした方を見た。

 

りーさんが騒ぎに気付いたのか、隙間から顔を出していた。

 

「りーさん無理だ!」

 

「!」

 

くるみはこの状況を再確認し、打破するのは無理だと伝えた。

 

「〜〜ッ」

 

りーさんは一度行こうとしたが、すっと扉を閉めた。

 

くるみは、ドクンと鼓動がした。

腹部を抑えながらくるみは壁に寄り添い、

 

「ははっいいんだよなこれで」

 

 

 

 

 

 

 

一方ゆきは、未だに帰ってこないくるみ、そしてめぐねぇを心配した。

扉に耳を傾けると、ドンッガキンッと金属音がした。

 

「くるみちゃん……めぐねぇ……」

 

ゆきは、ずるずるとしゃがんだ。

 

 

 

 

 

 

 

くるみは息を荒げていた。

『奴ら』は未だに不気味な音をさせながらじりじりと近づいてくる。

 

それを見たくるみは、諦めていた。

 

 

すると、

 

『下校の時刻になりました。まだ残っている生徒は速やかに下校してください。下校の時刻になりました……』

 

下校を知らせる放送がなった。

『奴ら』はそれに反応するように移動を始めた。

 

それに驚いたくるみだったが、チャンスだと思いシャベルを構えたが、

その行動を塞ぐものが現れた。

 

薙刀を持ち、『奴ら』を何匹か切りつけ、階段付近にいた『奴ら』は下へ誘導した。

 

「しおり!?」

 

「くるみ…。りーさんが…放送、流した…」

 

「そか…」

 

くるみは、安心したのか体の力が抜けた。

りーさんも来て、くるみに肩を貸した。

 

「騒ぎに最初に気付いたの、しおりさんなのよ」

 

「あぁ…さんきゅ、助かったわ」

 

しおりは、その言葉に照れたのか、被っているフードをさらに深く被った。

 

「ゆきちゃんは?」

 

「トイレで待ってる」

 

その言葉を聞き、りーさんは「ほっ」と安心した。

 

 

 

 

トイレ

 

「おーいゆき」

 

くるみは、ゆきのいる個室の扉をノックすると、ゆきががばっとくるみに抱きついた。

 

「くるみちゃん!よかった、よかったよ〜」

 

「イタイイタイ」

 

ゆきは思いっきり抱きついたので、くるみはズキズキと首が痛んだ。

 

「言っただろ、心配すんなって」

 

「心配くらいさせてよ」

 

くるみはその言葉にハッとし、

 

「わりぃ……」

 

ゆきに謝った。

 

「はいっ!学園生活部心得第四条!」

 

「部員は…いかなる、時も…」

 

「互いに助けあい支えあい」

 

「楽しい学園生活を送るべし!」

 

三人はりーさんの掛け声とともに、学園生活部心得を言った。

 

「あ、それでめぐねぇは?」

 

ゆきはくるみに聞いた。

 

「めぐねぇ?」

 

「遅いから、くるみちゃん探しにいったよ?」

 

「そっか、わりぃ」

 

「もー早くしないとめぐねぇ………あれ?早くしないと…なんだっけ…」

 

するとゆきに大きな頭痛が響いた。

 

「痛っ」

 

すると、いつの日かの記憶がフラッシュバックした。

 

ー放してっまだめぐねぇが外に、早くしないと……ー

 

 

「あれ?」

 

(なんだろう。今、大切な、すごく、大切なこと……なんだっけ……)

 

次の瞬間、ゆきの目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第6話 おてがみ

これで一巻分終わりです!




まだ学園生活部ができて間もない頃…

 

ゆきは机を雑巾で掃除していた。

 

「う〜…もうだめー」

 

するとゆきはへなへなと机に寝そべった。

 

「あら」

 

近くでダンボールを運んでいるめぐねぇが、ゆきに気付いた。

 

「めぐねぇ力あるねー」

 

ゆきがめぐねぇの作業を見ながら言った。

 

「先生って結構肉体労働なのよ?」

 

めぐねぇは少し不満もあるような顔でゆきに言った。

 

「くるみちゃんも力あるし、りーさんは頭いいし、しおりちゃんもしっかりしてるしー」

 

「あらあらどうしたの?」

 

めぐねぇは机でうじうじしているゆきに聞いた。

 

「うーん。わたし、こんなのでいいのかなってさ」

 

うじうじしていたゆきが、急に不安そうな顔をした。

 

「ゆきちゃんにもいいとこあるわよ?」

 

めぐねぇは、ダンボールを机に置いた。

 

「どこどこ?」

 

ゆきは少し嬉しそうにめぐねぇに聞いた。

 

「その笑顔かな」

 

めぐねぇは自分の顔を指差してにこっと笑ってみせた。

しかしゆきは、

 

「……それ、あんまり嬉しくないかも」

 

そこまで嬉しそうではなかった。

 

「そんなことないわよ。笑顔があると元気が出るもの」

 

「そうなの?」

 

「そうよ」

 

するとめぐねぇは、ゆきにある質問をした。

 

「みんなどよーんとした顔してたら大変でしょ?」

 

それを聞いたゆきは、みんながどよーんとした顔をしている想像をした。

 

「う、そうかも……じゃわたしがんばる!すごくがんばる!」

 

最初は、どよーんとしていたゆきだったが、みんなのそんな顔を見たくないと思ったのか、元気を出した。

今はとてもキリッとしている。

 

「笑顔笑顔」

 

「おっと」

 

ゆきは、自分の顔をぐにぐにとほぐして、にへっとした顔をめぐねぇに見せた。

しかしめぐねぇは、「それは違う」と言いたげな顔をしていた。

 

「うーむずかしー」

 

「いつも通りでいいのよゆきちゃん……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ゆきはぱちっと瞼を開けた。

すると目の前には、

 

「ゆきちゃん」「ゆき……!」

 

ゆきの名前を呼ぶりーさんとくるみだった。

するとゆきはむくりと起き上がり、

 

「あ、おはよー!」

 

「よかった!」

 

「ど、どうしたの?」

 

心配そうな顔をするりーさんにゆきは驚いた。

理由を聞くと、

 

「ずっと寝てたんだぞ」

 

「そっかー」

 

ゆきは伸びをし、

 

「めぐねぇは?」

 

周りをキョロキョロ見始めた。

 

それを見た二人は、なんといえばいいのかわからなかった。

すると二人の後ろから、

 

「ゆき、さん…めぐねぇ…は」

 

しおりが伝えようとするが、

 

「あ、めぐねぇおはよー」

 

ゆきの言葉にかき消された。

しかしゆきが手を振っているところには誰もいない。

 

それを見た三人は、少し困惑したような顔をして、目を見合わせた。

するとゆきが、

 

「ね、ごはんある?すっごくお腹すいた。」

 

「もちろんよ。おうどんでいい?」

 

「うん。うどん好きー!」

 

りーさんは、その返事を聞くと台所へ向かった。

すると、一度振り向き、

 

「でも、食べ過ぎないようにね」

 

と、りーさんは優しく言った。

 

 

ー笑顔があると元気が出るものー

 

 

ゆきは、夢の中でめぐねぇと話した時に言われた言葉を思い出した。

 

「はーい」

 

ゆきは、めぐねぇに言われたように思いっきりの笑顔で返した。

 

 

 

 

 

部室で四人は、うどんを食べていた。

 

「おかわりー!」

 

ゆきは、丼ぶりをりーさんに渡すように前に出した。

 

「早すぎだ!病み上がりなんだからよく噛んで食べろよ」

 

くるみはゆきに注意した。

 

「ちゃんと噛んだよ〜」

 

ゆきはむーっとしながら言った。

 

「おかわりはないのよ。取りにいかないと」

 

りーさんはゆきに謝った。

 

「また肝試しか?」

 

くるみはりーさんに聞いた。

 

「ううん。購買部にはもうないから、外まで行かないと」

 

りーさんのその言葉にくるみは少し不安があった。

そして、ゆきの方をちらっと見た。

 

そして、不安そうな顔をしているのがもう一人いた。

しおりだった。

しかし、しおりはくるみとは違う不安だったのかもしれない。

 

だが、それに気付くものはいなかった。

 

「じゃあめぐねぇに聞かないとね」

 

「そうね。聞いてきてくれる?」

 

「うん!」

 

ゆきはりーさんに返事をすると、部室を後にし職員室へ向かった。

 

「外って……めぐねぇがいいって言ったらどうすんだ?」

 

くるみは、うどんをじゅるっと啜りながらりーさんに聞いた。

 

「いつかは出ないとね。足りなくなるのはうどんだけじゃないわ」

 

するとりーさんは、懐からチャリンと鍵を出した。

 

「そりゃそうか……しおり?なんかあったか」

 

「えっ……あ、どうして?」

 

「さっきから、元気がないけど…もしかして不味かったかしら?うどん」

 

りーさんは、心配そうに聞いた。

 

「いいえ…大丈夫、です。なんでも………です」

 

しおりは少し笑っていたが、まだ元気がないことにくるみは気付いていたが、何も聞かなかった。

 

「ただいまー」

 

ゆきが部室の扉を開けて帰ってきた。

 

「どうだった?」

 

「いいけど、ちゃんと文書にして提出しなさいだって。大げさだね」

 

「いやいや。めぐねぇだって職員会議とかあんだろ」

 

くるみがゆきの言葉を否定するように肩を竦めて言った。

 

「そっか。とりあえず今日は何やろ?」

 

「手紙とか出してみない?」

 

りーさんが三人に聞いた。

 

「え、お手紙?でも郵便局は外だよ?」

 

ゆきがりーさんに疑問を言った。

 

「だから、学校から」

 

りーさんは人差し指を出して言った。

 

 

 

 

 

 

 

「手紙といえば伝書鳩だな!」

 

くるみが目を輝かせながら言った。

 

「伝書鳩いないじゃん」

 

ゆきはしらっとした顔で言った。

 

「捕まえるんだよ」

 

くるみはシャベルをビシッと構えて言うが、ゆきはそれをスルーして、

 

「はいはい。お手紙といえばこれよね!」

 

ゆきがそう言ってリュックから出したのは、

 

「お、それあの時の」

 

「そ、この前の肝試し」

 

ゆきは出した風船を息でぷぅぅぅ〜っと膨らますが、

 

「いや、息で膨らませても飛ばないだろ」

 

「はっ!」

 

呆れたくるみが言った言葉に気付いたゆきは膨らますのをやめた。

 

「理科室にヘリウムガスがあったかも」

 

りーさんが言った

 

「んじゃ取りにいってくるぜ」

 

「私…も…」

 

そう言って2人は部室を後にした。

 

「私も……」

 

ゆきはそう言って立ち上がるが、

 

「ゆきちゃんはお手紙書いたら?」

 

りーさんにそう聞かれ、

 

「あ、そだね!」

 

再び席に着いた。

 

「書くよ、すごいの書く!」

 

ゆきはそう意気込みながら紙とペンを持った。

 

するとりーさんが地図帳をペラっと開いた。

目的のページを見つけ、それを見ながら何かを書き始めた。

ゆきはそれを見ると不思議そうに、

 

「何それ?」

 

そう聞いた。

 

「私たちはここにいますよってね」

 

そう言ったりーさんが持っている紙には暗号のようなものが書いてある。

 

「ふーん」

 

 

 

 

「うーん……」

 

あれから数分が経つとゆきが唸り始めた。

 

「どうしたの?」

 

りーさんがそう聞くと、

 

「改まって書くと恥ずかしいよね。わたし、字が汚いし…」

 

ゆきがそう言うとりーさんはこう答えた、

 

「ゆきちゃんが道ばたで風船拾ってお手紙がついてたらどう思う?」

 

「びっくりする!あと嬉しい!」

 

「この人字が下手だなぁとか思う?」

 

「ううん。手紙だけですごく嬉しいよ?」

 

「でしょ?」

 

「そっか!」

 

ゆきは納得したのかパァッと顔が明るくなった。

 

 

 

 

同時刻 廊下

 

「家庭科室から糸と籠はとったから、あとは理科室だけか………なぁ」

 

「えっ…な、に」

 

先程から何も言わないしおりにくるみは言った。

 

「行きたくなかったら、言えよ」

 

「うん……でも、学園…生活部だから…」

 

何かを我慢しているしおりにくるみは手を出した。

 

「…何かあったら、あたしがいるし…心配すんなよ」

 

しおりはそれに答えるように手を握り、微笑みながら、

 

「あ…がと…」

 

 

 

 

 

「ただいま!」

 

くるみとしおりがヘリウムガス等をキャスターに乗せて戻ってきた。

そこには伝書鳩を捕まえる罠もあった。

 

 

ゆきとりーさんが手紙を書いている間、くるみとしおりは伝書鳩を捕まえるため屋上に来ていた。

 

第1案

 

「背後に忍び寄ってシャベルで叩く!」

 

「……失敗、しそう」

 

しおりの予想は案の定、気づかれ鳩には逃げられてしまった。

 

第2案

 

「餌で釣って籠で捕まえる!」

 

「………(ちょっと、まともになった)」

 

くるみは即席の罠を仕掛け、鳩が来るのを待った。

すると、

 

「よしっうまく入った!しおり、ゲージ取ってこい!」

 

「………うん」

 

捕まえたことに喜んでいるくるみとは真逆に表情一つ変えずしおりは、ゲージを取りに行った。

 

捕まえた鳩を学園生活部の部室に連れて行くが…

 

怒った鳩がゲージから出てしまった。

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!」

 

「いよいよね」

 

「鳩子ちゃんもがんばってね」

 

ゆきが鳩にそう言いかけるが、鳩は首を傾げている。

 

「ちょっと待て。誰が鳩子ちゃんだ」

 

「その子だよ。鳩錦鳩子ちゃん」

 

ゆきは鳩を指差して言った。

 

「鳩子ちゃんじゃない!こいつはアルノーだ」

 

「ええーわたしも名前つけたいー」

 

「間をとってアルノー・鳩錦でどうかしら?」

 

「オッケー!」

 

三人が名前について話し合っているが、その本人である鳩は唖然としていた。

 

「なんかハーフっぽいな」

 

「アメリカとかまで行くかもしれないよ」

 

鳩の名は、アルノー・鳩錦で決まったようだ。

 

「よし。アルノー・鳩錦、飛んでくれよ!」

 

そう言うと、鳩はバサバサと羽を羽ばたかせて飛ぶ準備をしていた。

 

「じゃ、1、2の3でいくよ?」

 

「1…2の…さんっ」

 

ゆきたちは持っていた風船を空へと放った。

 

「届くかなー返事あるかなー」

 

「来るわよ」

 

「来なかったらまた出せばいいじゃん」

 

「だね!くるみちゃん賢い!」

 

「……きっと、来るよ…」

 

しおりは空を見上げながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 えんそく

事情により前の話を飛ばさして貰います。




-走るのはどこだってできる。練習だっていつだってできる

 

でも、この緊張感はかけがえがない。

 

スタートの合図を待ち受けるこの一瞬-

 

 

「くるみちゃん準備いい?」

 

「おう、いつでもいいぜ」

 

ボロボロの廊下、そこにいるのはタイマーを持ったゆきと屈伸しているくるみ、そしてゆきの隣にいるしおり。

 

「じゃあいくよ、よーい」

 

ゆきが手を上げるとくるみはぐっと助走準備をする。

 

「どん!」

 

合図と同時にくるみが走り出しゆきとしおりのいる所を通り過ぎた

 

通り過ぎた時にゆきはタイマーを止めた。

その先で息を整えているくるみ

 

「タイムは?」

 

くるみがゆきにそう聞くと、

 

ゆきは「ん」とタイマーを見せた。

 

「あちゃぁ」

 

「どしたの?」

 

「タイム、だだ落ちだ。練習さぼってたからなー」

 

「鍛え直さないとダメだなこりゃ」

 

落ちたタイムを見て落ち込むくるみ

それを見て疑問に思ったゆきは、

 

「あのさ、くるみちゃん……もしかして……」

 

「シャベルつけてるけどいいの?」

 

「あ、そうだった!」

 

「忘れてたの?ほんとに?」

 

ゆきに勘づかれたくるみは黙り込む

 

「…………」

 

それを見ているしおりはジト目で何も言わなかった

 

「くるみちゃんの愛には妬けちゃうよ。もうシャベルと結婚しちゃいなよ」

 

ゆきはニヤニヤしながら言った。

 

「いやほら、道具は体の一部になるまで使いこなすって言うだろ。奥義開眼ってやつ?」

 

くるみは慌てながら言った。

 

「どうする?シャベルなしの計る?」

 

「いや、いい。これならいける」

 

ぎこちなくくるみはそう言った。

するとシャベルを構え

 

「遠足でも何でもこい!」

 

そういうが、ゆきにはなんの事だかわからず見ていた。

さっきまで全く喋らなかったしおりは、

くるみの肩に手をのせ

 

「くるみって…嘘…下手」

 

「……うるせえ」

 

 

 

 

 

 

2日前

 

学園生活部の部室で朝食の準備をしているりーさんとしおり

 

「おはよー、あっごはんだ!」

 

「おはよ」

 

「おは…よう」

 

「ゆきちゃんどれにする?」

 

りーさんがゆきにそう聞いた。

机には缶詰が置かれていた

 

「あ、大和煮まだあったんだ」

 

ゆきはそれを手に取りぱかっと開けた。

 

「朝から牛!ぜ、贅沢」

 

ゆきは喜びのあまり震えている

 

「昭和かよっあ、鮭貰うぜ」

 

「はーい、それじゃ」

 

『いただきまーす』 「……ます」

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふふ〜ん、ふふふっふ〜、ふふんふ〜ん♪」

 

みんなが朝食を食べている中ゆきだけはとても機嫌が良かった

 

「ゆきちゃんは朝からご機嫌ね」

 

その姿をみたりーさんがゆきに言った。

 

「うん、すごいこと思いついたからね」

 

「何かしら?」

 

りーさんがそう聞くとゆきはごくんっと口に入ってたものを飲み込み

椅子の上に立ち、

 

「遠足いこう!遠足!」

 

「ん、遠足?」

 

「そろそろ遠足の季節じゃない?」

 

「そういやそうだな」

 

ゆきの言ったことにそこまで反応しなかった3人

 

「ふっふっふーわたし気づいたんだ」

 

「学校を出ないで暮らすのが学園生活部でも、学校行事なら出たことにならない!」

 

ゆきはどやっとキメ顔で言ったが3人はキョトンとしている

 

「よね?」りーさんに聞くがりーさんは何も言わない

 

「よね?」くるみに聞くと、くるみはそっぽを向いた

 

「よね?」しおりにも聞くがしおりは何も言わずご飯を食べている

 

「いやいやおかしいだろ。遠足って部でやるもんじゃないだろ」

 

くるみが呆れた顔でゆきに言うが、

 

「くるみちゃんは頭が固いね!わたしたちの後に道はできるんだよ!」

 

「ぬぅっ」

 

キリッと言ったゆきにくるみは何も言えなかった。

 

「それなら提出用の文書作りましょめぐねぇに見てもらわないと」

 

「んふふふ…」

 

ゆきはごそごそと何かを出した

 

「じゃーん!」

 

ピラッとゆきが出したのは提出用の紙だった。

 

「むぅ」

 

それを読んだくるみはぐうの音も出なかった

 

「そうね、これを見てもらったらいいんじゃないかしら?」

 

「うん、ごちそうさま!聞いてくる〜!」

 

ゆきはガタンと椅子から立ち上がりぴゅーっと部室を後にした。

 

 

[さて、どうしましょうか]

 

[めぐねえ待ちだなゆきに任せようぜ]

 

[あら、ずいぶん積極的になったわね]

 

[あぁゆきも調子いいみたいだしな]

 

 

 

「めぐねぇいるー?」

 

ゆきは職員室の扉をあけた

誰もいない職員室でゆきは笑った

 

 

 

「オッケーだって!」

 

ゆきは学園生活部の部室へ戻り、めぐねぇの答えをみんなに伝えた

 

「あら、よかったわね」

 

「よしじゃあいっちょやるか」

 

「ん…」

 

 

 

 

 

そして今日がその日、くるみは空き教室に避難用の梯子を垂らした

くるみは髪を結び、

 

「よし」

 

 

 

 

 

少し前、空き教室にて

 

「玄関からじゃ無理だな」

 

りーさんが黒板に駐車場までのマップを書いていた

 

「三階からまっすぐ降りれば駐車場まで150mだけど、シャベル背負って全力疾走よ?」

 

「いけるいけるさっきタイム計った」

 

「本当に一人でいいの?しおりさんも一緒に行った方がいいんじゃ」

 

「しおりはそっちにつかせるよ。なんかあった時に何とかなるだろ」

 

「そうだけど……気をつけてね」

 

少し心配しながらもくるみに鍵を渡すりーさん

 

「任せとけって」

 

 

 

 

 

 

 

くるみはそっと避難用の梯子を降り地上1歩手前で止まり、

 

「よーい」

 

そこから地面に飛び

 

「どん!」

 

走り出した。

 

『奴ら』を避けながらめぐねぇの車を目指した。

それを阻む一体の『奴ら』

 

くるみはシャベルを抜き取り、しゃがみシャベルを振り回した

 

駐車場へたどり着いたがめぐねぇの車がどこかわからず戸惑うくるみ

 

「くそっ落ち着けっ」

 

ガチャガチャと鍵を入れようとするが焦って上手く入らない

 

「入った!」

 

カチンと音がし、車のドアが開くようになったが後ろから『奴ら』が

 

「くっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃りーさん達は、

 

昇降口のバリケードを一部外し外へでる3人

 

外の柱に隠れくるみを待つ。

校門辺りには『奴ら』が徘徊していた

 

それを見て息を呑むりーさん、そんなりーさんの隣にいるゆきは全く動じない。

しおりは辺りを警戒しながらくるみを待つ。

 

「大丈夫だよ」

 

りーさんを心配したのか、ゆきはりーさんの手を握った。

すると、

 

「早く乗れっ!」

 

急ブレーキをして昇降口へたどり着いたくるみ。

 

「もう遅いよ!」

 

「行きましょ」

 

ゆき、りーさんが車に乗り込み、それを確認したしおりが助手席へ乗った。

 

「しっかりつかまってろよ」

 

「待って。し、シートベルト」

 

「そう言えばくるみ、運転は?」

 

ふと疑問に思ったりーさんがそう聞いた

 

「そうだよ。くるみちゃん運転出来るの?」

 

「まぁ任せろって、いつもと感覚が違うけど」

 

「違う?」

 

くるみの言葉に疑問に思ったゆき

 

「いつもはハンドルコントローラじゃなくてパット派だからな」

 

「ちょっとくるみ、それってゲームじゃ」

 

りーさんが言いかけたが、くるみはミラーを調整して目を輝かせた

 

『ひーっ!』

 

ゆきとりーさんが焦っている中、しおりだけは平常心だった

 

「しおり、テク鈍ってないだろ?」

 

「…まぁ、でも本物は…流石に…」

 

「大丈夫だって!しおりはあたしと違ってハンドルコントローラだろ?」

 

「そう…だけど、そうじゃ……ん、もういいや」

 

諦めたしおりは何も無かったかのように話を終わらせた。

 

「任せろって、あたしの華麗なスピンを見せてやる!」

 

「スピンは……流石に…ダメ」

 

 

 

 

『奴ら』を何体か引きながらも校門を目指す。

 

そして、学園生活部が乗る車は学校を抜けた。

 

 

 



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第8話 よりみち

 

–昔見た映画のエンディング

 

車に乗った二人、遥か地平線の彼方へ続く道

 

過去を捨てた二人は夕日の中へ旅立つ

 

そんなカンジのやつ−

 

 

 

学校を出た学園生活部の車は、ショッピングモールへと向かっていた

 

「ごーごー!もっととばしちゃえ!」

 

「だめよ、くるみ安全運転でね」

 

後部座席組は先程くるみはゲームでしか運転したことがないのに自信ありげだったことから少し不安は残るも助手席がしおりだから大丈夫だと言うことで納得した。

 

一方助手席に座っているしおりはマップを開いてくるみに道を教えていた。

 

「わーってるよ!」

 

りーさんの注意を聞きながらくるみは運転をする。

本人は最初は自信ありげだったが無免許なのは知っている。

周りに注意しながら運転をする

 

「………!くっ」

 

くるみは目の前が行き止まりなのに気付き急ブレーキをかける。

行き止まりのところにはボロボロの車の上に電柱が倒れていた。

 

「ゆき、後ろ見ててUターンする」

 

「また通行止め?」

 

「だな」

 

「今日、通行止め多いよね」

 

「そうねぇ」

 

「おーらーい」

 

Uターンをして別の道へ行こうとするがUターンの途中に『奴ら』を一体ぶつけてしまった。

そんなの御構い無しに進んで行く車。

 

「ドライブ楽しいねー」

 

ゆきが外の景色を見ながら言った。

 

「そうか?」

 

「運転……代わる?」

 

「頼む〜」

 

助手席に座るしおりは少し疲れている気がしたのかくるみにそう言った。

 

「わたしもやりたいなー」

 

「やめとけ、危ないぞ」

 

ゆきの言葉に軽く注意するくるみ

 

 

 

 

 

それからしばらくして、運転はしおりに変わりくるみはマップを持っていた。

 

「次は……どっち?」

 

くるみに次の道を聞くしおり

 

「あ、えーと…」

 

マップを慌ててみるも、道が分からず迷ったと思うくるみ

 

「えーと、ここじゃない?」

 

それを見たゆきが後部座席からひょこっと顔を出しマップに指差す。

 

「ん?あ、そうかな?」

 

それを聞いていたくるみだがあまり分かっていなかった。

 

「ゆきちゃんナビゲーター代わってあげて」

 

ゆきのとなりに座るりーさんがそう言った

 

「うん!」

 

 

 

「えーと、ここが三丁目だから…しばらくまっすぐ…」

 

「うん……」

 

 

前に座るゆきとその隣で運転するしおりはマップを見ながら先へ進む

りーさんは窓から外を眺め、くるみも外を眺めていたがぼーっとしていた

 

 

「!…ストップ!」

 

くるみは目を見開き車を止めるように言った。

それを聞いたしおりは即座にブレーキを踏んだ。

 

その反動でゆきは頭をぶつけてしまった。

 

「どうしたの?」

 

りーさんがそう聞くが、

 

「あ、いや何でもない…」

 

「そ、そう?」

 

くるみは少し間を置いて答えたが、りーさんはそれが気になったのか心配そうな目をしている。

 

ゆきは、窓から見える景色を見ると、そこにあったのは

 

「あれ……ここもしかしてくるみちゃんの家?」

 

ゆきはくるみの家であることに気付きそう聞くが、

 

「あ、ああ…」

 

くるみは少しぎこちなく答えた。

 

「くるみちゃんの家がここってことは…しおりちゃんの家も近いよね?」

 

急に話を振られたしおりは少し慌てながらも、

 

「あ………はい」

 

そう答えたが、くるみ同様少しぎこちなかった。

 

「顔出してきたら?ずいぶん帰ってないじゃない」

 

「でもほら、今日帰るって言ってないし」

 

くるみは手をぎゅっとしながら答えた。

 

「いーじゃない別に」

 

「そうだなちょっと顔出してくる」

 

くるみはゆきの言葉を聞き、一度固まるがパッと笑いながら言った

 

「一緒に行く?」

 

りーさんがそういうが、

 

「いや一人でいい」

 

くるみはそう答えた

 

「……りーさん、運転席……座っておいて、ください」

 

「えぇわかったわ」

 

運転席から降りるしおり、その手には薙刀が握られていた。

 

「しおり…大丈夫か?少し待ってれば一緒に行くけど」

 

「大丈夫……一人で、平気」

 

しおりはそういうと車のもうちょっと奥へ進んで行った。

 

くるみは玄関へと向かい、息を飲んでドアノブへ手をかけた。

ガチャっと音がした。

ドアを開けると真っ暗な世界が広がっていた。

 

「ただいま…」

 

小さくそう呟いた。

 

「ただいまー誰かいる?」

 

もう一度声を出すが何も聞こえない。

くるみは懐中電灯をつけ、ブーツを脱ぎ奥へ進んで行く

 

リビングへの扉を開け中に入る。

テーブルに手をあてると埃が溜まっていたのか指につく。

 

「……どこいったの?」

 

 

くるみは階段を登り、両親の寝室へ向かった。

扉を開けた先には、カーテンや枕、シーツがビリビリに千切れていた。

ガラスも割れ、壺も倒れベッドの近くには靴が片方だけ転がっていた。

 

それを見たくるみは何も言わずに扉を閉めた。

 

少し先に進むと自分の部屋があった。

扉を開けると、両親の寝室とは違い壊れているものはなく、漁られた痕跡もなかった。

 

くるみはベッドへ移動し、クッションを抱き寄せた。

 

 

 

 

くるみは玄関の扉を開け、家を後にした。

それを見たゆきが、

 

「おかえりー」

 

くるみにそう言う

 

「おうー」

 

それにくるみは軽く返した。

 

「あ、おかえりって変かな家からおかえりって」

 

「いんじゃね。ただいま」

 

くるみは笑って返した。

 

「しおりさん…遅いわね」

 

「おうちに誰かいたのかな〜?おはなししてるのかもね〜」

 

りーさんは未だに帰ってこないしおりを心配していた。

その隣にいるゆきは誰かいたんじゃないかとちょっと嬉しそうに言った。

 

「ちょっと見てくるわ…」

 

「えぇお願い」

 

くるみは車の先にある家を何件か通り過ぎて行く。

その住宅街でひときはめだつ和風な家。

 

その家の横には「柊」と書いてある表札があった。

 

しおりの家は五人暮らし。

 

しおりの両親と祖父と祖母と一緒に住んでいる。

祖父と祖母は体が弱いため二階を作らず一階建ての平屋だった。

その奥にあるの建物は、しおりの祖母が使用している道場

 

祖母は体が弱いが昔からやっている薙刀だけは欠かさずおこなっていた。

しおりは祖母の教えにより薙刀をやっていた。

 

「しおりーどこにいるんだ?」

 

くるみは玄関の扉を開け長い廊下を進んで行く。

しかし、しおりはどこにもいなかった。

 

「もしかして…道場か?」

 

そう思ったくるみは一度玄関へ戻りブーツを履き庭をぐるりと移動し、奥にある道場へ向かった

 

するとくるみは道場付近で立ち止まった。

その先にあったのは、

 

「なんだよ……これ」

 

庭に何体も倒れている『奴ら』だった。

ビクともしないので誰かがやったのだろうそう思った。

 

くるみは先へ進み道場の扉を開けた。

道場の入り口でブーツを再び脱ぎ奥へ行く

 

そこにあったのは地獄絵図だった。

壁一面に血が付いていて『奴ら』が何体も倒れていた。

その奥にいるのは血まみれの薙刀を持つしおりとその横で薙刀を持って倒れている『奴ら』

 

「くる…み」

 

しおりはくるみがいるのに気付いた

 

「これ…全部、やったのか?」

 

くるみは少しづつしおりに近付きながらそう言った。

 

「うん…私が、やった。『奴ら』もお婆ちゃんも…」

 

「えっ、そいつが…しおりの…」

 

くるみは目を見開いた。

 

「戻る前に……部屋に行かせて。持っていきたい…ものがある」

 

しおりはそういうとくるみの横を通り過ぎ道場を後にした。

 

 

 

 

二人はしおりの部屋へ入り、くるみは部屋にある椅子に座って、しおりは部屋にある戸棚を漁り、カバンに詰めて行く。

 

「なんだよそれ?」

 

「薙刀…手入れするのとか……あと、ショッピングモール…行くなら色々、何か使えそうなのが…あるかも」

 

しおりはいつも通りに答えるが内心は怯えているのだろうとくるみは思った。

そう思ったくるみは椅子から立ち上がりしおりを抱きしめた。

 

「くるみ……」

 

「言えよ…辛いなら、泣きたいなら言えよ。今は私しかいないからさ」

 

くるみはしおりの頭を撫でながら言った。

 

「…………………っ」

 

声は出さずに涙を流すしおり。それを何も言わずに受け止めるくるみ

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからしばらく経ち落ち着いたのかくるみから離れた

 

「ありがと……大丈夫」

 

「前にも言ったけどさ、なんかあったら言えよな」

 

「ありがと…」

 

しおりはリュックを背負い部屋を先に出た。

 

「それに……絶対、守る…もう、お前の涙は見たくない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、くるみちゃん〜しおりちゃん〜」

 

車で待機していたゆきとりーさんが戻ってきた二人に手を降っている。

 

「りーさん、しばらく運転頼むわ」

 

「えぇ、でもどうして……そういうことね」

 

後部座席に座る二人の方へ向いた。

するとりーさんはそれを見て納得したのかハンドルを握った。

 

「しおりちゃん疲れちゃったのかな?」

 

「色々あったんだろ、今は休ませてやろうぜ」

 

くるみの向いた先には、自分の肩に頭を乗せ寝息を立てているしおりだった。

 

 

 



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第9話 おかいもの

 

あれから一夜が明け、次の日。

学園生活部の車はショッピングモールへと近付いていた。

 

「見えた!見えたよ!」

 

「元気だなおまえ……」

 

ショッピングモールが車の窓から見えるようになった途端ゆきは、目を輝かせながら言った。

それを見たくるみは後部座席に腕を頭に組んで呆れながら見ていた。

 

今運転しているのはりーさん。

何も言わずに運転をしている

しおりは、くるみと一緒に後部座席に座っている。

自宅の件があってから、昨晩はあまり元気がなかったが今は落ち着いている様子だった。

 

「元気すぎよ。昨日ちゃんと寝た?」

 

「えへっあんまり」

 

りーさんが心配そうにゆきに聞いたが、ゆきは反省の色もなしにそう答えた。

 

「……おまえ遠足で熱出すタイプだろ」

 

「そそそ、そんなことないよ!」

 

くるみの一言にゆきは前科があったのか慌てながらそう答えた。

それを聞いたくるみはじーっとゆきを見つめてる。

 

「はいはい喧嘩しないの。さ、行きましょ」

 

りーさんが二人を静止させるように言った。

そして、ショッピングモールへ到着した。

 

「どうだろ。誰かいるかな?」

 

車から降り、ゆきはぱたぱたと走って行く。

それを見たくるみは、まだ生きている人がいるかどうかをりーさんに聞いた。

 

「避難するならここよね…でも……」

 

りーさんがそれ以上のことを言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「わ、暗い。休みかな?」

 

「ドアは開いてるな」

 

「閉め忘れかな?」

 

ゆきは中を覗きながら言った。

その後ろでりーさんは一枚のビラが落ちていることに気付いた。

それを拾い、

 

「[リバーシティ・トロン館内案内]今日はイベントみたいね」

 

りーさんはビラに書かれた内容を読み上げた。

 

「イベント?お祭りみたいなの?」

 

「へー入ってみようぜ」

 

「飛び込みで大丈夫かしら?」

 

「邪魔しなきゃ……大丈夫」

 

「じゃ、怪しまれないようにそーっとね」

 

するとゆきは、足音を立てないようにそーっと歩いて行く

 

「ええ。そーっと、そーっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

くるみはカチッと懐中電灯をつけ、あたりを見回した。

安全を確認し、

 

「いくぞ!」

 

と言い、ゆきとりーさんが続く。

それを確認した後しおりが後につく。

 

奥へ進み、音楽ショップへと入る。

シャッターを閉め、それぞれ探索をする

 

ゆきは、あるCDを手に取り、

 

「ね、これ買っていい?」

 

ペンライトを持っているりーさんに聞いた

 

「無駄遣いはダメよ?」

 

「無駄じゃないよ!みんなで音楽聴けるしー」

 

するとゆきはCDプレイヤーを起動させた。

急に音楽が鳴り出し、驚くくるみ。

 

「しー!」

 

「あっはーい!」

 

ゆきに注意をし、止めるように言った。

それに気付いたゆきは申し訳なさそうに電源を切る。

 

 

 

 

 

1F

 

りーさんは柱の影に隠れペンライトをシャカシャカと振り、光らせる。

それをぽーんっと奥へ投げ『奴ら』の近くに落ちる。

それに気付いた『奴ら』はペンライトが落ちた方へ歩いていく。

それを確認したくるみとしおりがりーさんとゆきがいる方へ戻る。

 

「これ、便利でしょ」

 

「学校でも使えそうだな」

 

「で、どうだった?」

 

「下はだめだ。臭いがひどいしあいつらで一杯」

 

「そっか生鮮食料だもんね」

 

くるみとりーさんが話している間、ゆきは先程買ったCDを聞いていた。

 

「そのへんで缶詰とか詰めてきたけどな」

 

くるみがリュックに手をぽんっと当て言った。

 

「あとは上の階ね。誰かいるかもしれないし」

 

「いると、いいよな……」

 

 

 

 

 

 

 

2F

 

くるみが警戒をしながら階段を登っていく。

それに続くようにゆきとりーさんが続く

しおりはその後ろで薙刀を構えながらあたりを見回す。

 

「人、少ないね」

 

「みんな地下行ってるみたいだな」

 

「イベント?」

 

「そうね」

 

ゆきの質問にりーさんは軽く返した。

 

 

 

3F

 

「かわいー!何これストラップ?」

 

ゆきがある店に目をつけ猫のようなキャラクターが付いているものに目を輝かせた。

 

「ちげーよ防犯ブザーだろ?」

 

「あ、これアルノー・鳩錦みたい」

 

ゆきは、くるみの言葉に耳を貸さずまた新しい防犯ブザーを手に取る。

 

「これとこれと、あとこれも…」

 

「つけすぎだろ!」

 

ゆきはいくつか防犯ブザーを手に取るが、流石に多いだろうとくるみがつっこむ。

 

「みんなの分だよ。これくるみちゃんの」

 

といい見せたのは、円型の顔に足がついた謎のキャラクターだった。

 

「いらねーよ!」

 

「も〜しょうがないなぁじゃーん!」

 

ゆきはごそごそとリュックをいじる。

そうして見せたのは、じゃらっとつけた防犯ブザーだった。

 

「あとね、これしおりちゃんにあげる!」

 

「?これ……」

 

ゆきがしおりに手渡したのは、うさぎが付いている防犯ブザーだった。

 

「これしおりちゃんのね!あと、昨日元気なかったからプレゼント!」

 

「!……ありがとう……ゆきちゃん」

 

しおりは嬉しそうに微笑み、防犯ブザーを大事そうに握りしめた。

 

「それ、ここじゃ絶対鳴らしちゃだめよ」

 

「ん?」

 

りーさんが棚の奥からひょこっと顔を出し、注意する

 

「警備員さん飛んでくるわよ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

それから学園生活部の四人は洋服店に入り、いろんな服を試着する。

水着や靴も見て回る。

ゆきはハイヒールに目を光らせ、履いてみるがうまく立てずぷるぷるしている。

そして歩こうとした途端コケてしまった。

 

 

 

 

5F

 

「さて、いるなら……ここだよな」

 

あれからしばらく経ち、5階へ向かう。

5階にあったのは大きな映画館だった。

 

「映画館だ〜」

 

「……ちょっと待ってて、中調べてくる」

 

「くるみ……待って、私がいく」

 

しおりはくるみを止めるように言った。

 

「でもよ……」

 

「たまには…頑張らせて…」

 

「気を付けろよ…」

 

くるみの声を聞いたしおりは走り出し、映画館の奥へと向かう。

 

 

 

暗い道が続いていそうだったので懐中電灯をつける。

少しづつ歩いて行き、慎重に奥へ進む。

 

すると、ごそごそと物音がした。

その先へ進むと、ソファーや植物で乱雑に作られたバリケードがあった。

それを外し、扉をそっと開ける。

 

中を覗いたしおりは目を見開いた。

そこにあった光景は…白く光る劇場の映像が流れている場内に数え切れないほどの『奴ら』が徘徊していた。

 

それを見たしおりは、一歩引きみんなのいる方へ走り出した。

その音に気付いた『奴ら』が扉のバリケードを押しのけて出てくる。

 

 

 

「りーさんりーさん、この映画面白そうだよ!」

 

「そうね」

 

映画館の入り口付近にてしおりを待つ三人は、映画のポスターやビラを見ていた。

 

「……逃げて!」

 

しおりの声に反応し、全員が声のした方を向く

 

「『奴ら』…が、いっぱい…すごい数!」

 

「?」

 

しおりの言っていることの意味が分からず疑問に思うゆき

 

「ゆき!いくぞ!」

 

しおりの言っていることが理解できたくるみは、急いで逃げるようにゆきに言う。

 

「うぅ……あぁ…」

 

すると一体の『奴ら』が姿を現した。

 

「ゆき!」

 

「うわっ!」

 

ゆきはくるみに引っ張られながら走る。

 

 

 

 

 

 

 

映画館の奥にある倉庫。

そこにいたのは一人の少女だった。

学園生活部の面々と同じ制服を着ている

 

するとガラガラっと物音がした。

少女はベッドから起きあがりドアに耳をあてる

 

するといくつかの足音が聞こえた。

それに感づき慌ててバリケードを固める。

ばっとベッドへ戻り震えながら布団に潜る

 

「あぶないっ!」

 

「くるみちゃん!」

 

微かに人の声がした。

それに気付きハッと起き上がる。

 

 

 

 

 

 



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第10話 であい

 

-後悔はしたくない

 

やれることは全部やる。常に前を見て進んでいたい

 

振り返るのが怖いから-

 

 

 

「ねぇ誰かいるの?」

 

ベッドに座り込み、ドア越しに呟く。

そして少女は立ち上がり、ドアに近付く

 

「誰か!」

 

もう一度、今度は先程より大きく叫んだ。

しかし帰ってきたのは『奴ら』がドアをガリガリと手で研ぎながら聞こえる呻き声だった。

 

 

 

「少し休みましょうか」

 

「そ、そうだね」

 

『奴ら』が追ってきていないことを確認し、一息入れることを進めるりーさん。

それに賛同したゆきは、息があがっていた。

 

くるみが扉を開け、『奴ら』が居ないことを確認しりーさんとゆきを中へ入れる。

 

部屋の中は小さな子供が遊べる位の広さがあるプレイルー厶だった。

りーさんはゆきを椅子に座らせて額に手を当てる。

 

「熱があるわね」

 

「平気だよ〜」

 

ゆきは大丈夫だと言うが、顔が先程よりも赤くなっていた。

 

「怪我は?」

 

「それは大丈夫」

 

くるみが2人にそう聞くと、りーさんが大丈夫だと答えた。

 

「やっぱり遠足で熱出すタイプだったかー」

 

「えへへ」

 

くるみが一息つくと、ゆきにそういう。

 

「ゆきちゃん、休んで」

 

りーさんがそう言いゆきの頭を膝にのせる。

ゆきは直ぐに目を瞑った。

 

「少し休ませておくか」

 

「えぇ…いなかったわね生きてる人」

 

「ん……くるみ、ちょっと」

 

「どした?」

 

しおりはくるみを呼び、りーさん達には届かない位の所に腰を下ろした。

 

「あの映画館…子供が、多かったの」

 

しおりは壁に描かれている子供の絵を見ながら呟いた。

 

「ずっと助けを待っていたのか」

 

「…違うの。扉の外に…バリケードがあったの、中にいた『奴ら』を閉じ込める…みたいに」

 

くるみは何も言わずしおりの話に耳を貸した。

 

「きっと外から…襲われたんじゃなくて…内側に、噛まれた人が…いたんだと思う」

 

くるみはそれを聞き目を下に伏せる

 

「私…そんなのやだ。…あそこには、きっと…大事な人を守ろうとして…逃げ込んだ人も、いたのに…その人を…守ろうとして。」

 

するとしおりはくるみの手に自分の手をのせ

 

「もし…私が感染したら…迷わないで、ほしい」

 

「!何言ってんだよ…」

 

「約束…して…」

 

くるみはしおりが言ったことに不満は残るも、言葉が出てこない。

 

「お婆ちゃんみたいに…手遅れに、なりたくないの…お婆ちゃんも、辛かった…と思う、から」

 

しおりは祖母を自分の手でやってしまったことに後悔が残っていた。

もう少し早く来ていれば間に合ったんじゃないかと…そう思った

 

「指切り…昔はよく、やってたでしょ…」

 

しおりはくるみに自分の小指を差し出す。

くるみはそれを見て昔の自分たちを思い出す。

 

それを思い出し、1度は止まるもその指に自分の小指を絡めた。

 

 

 

「どうしたの?ゆきちゃん」

 

2人はその声に反応し、りーさん達がいる方を向く。

すると、ゆきがむくっと起き上がり、

 

「お腹空いた…」

 

「ふふっそうね。帰ってご飯にしましょ」

 

「あぁ帰ろう…学校へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方1人の少女は『奴ら』がドアを叩く音が聞こえなくなったのを確認し、ドアをそっと開ける。

陳列棚から『奴ら』が居ないことを確認し、先へ進む。

その先でバリケードが崩れていることに驚きながらも先へ進む。

バリケードの近くに何かが落ちていることが分かった。

 

ペンライトだった。

 

少女はそれを手に取り、階段を降りていく。

 

 

4F

 

ここに来るまでに何本ものペンライトを拾った。

進む先にまた1本。

 

「そんな……」

 

すると『奴ら』の呻き声が聞こた。

もう戻ることはできない。

 

そう思った少女は走り出した。

 

-待って……-

 

「…待って!待って!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園生活部の4人は車のあるショッピングモールの入口に到達した。

りーさんはそっと後ろを振り向く。

 

「行こうぜ。次もあるだろ」

 

「そうね、行きましょ」

 

りーさんは入口に向かい歩き出す。

 

「ね、今何か聞こえなかった?」

 

「え?別に…」

 

「……ほら!」

 

「ありゃ……警備員が騒いでるだけだろ」

 

「違うよ声がしたもん!」

 

するとゆきは走り出した。

 

「おい、ちょっと待てよ!」

 

「ゆきちゃん!」

 

2人の静止も聞かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は1階にあるグランドピアノの上にいた。

そこから見渡せば、『奴ら』が大量にいた。

 

「誰か!誰か来て!」

 

 

 

「いた!あそこ!」

 

「あっ…!」

 

「おい、大丈夫か!」

 

少女は学園生活部の4人と目が合った。

 

「ほんとにいたんだ……」

 

すると少女はよろよろと歩き出した。

 

「大丈夫よ、すぐ行くから」

 

りーさんがそう言うが少女は歩くのを止めない。

 

「お、おい。待てよ!」

 

 

すると少女はグランドピアノから滑り落ちた。

そして周りにいた『奴ら』が一斉に少女に向かい歩き出す。

 

「早くしないと!」

 

「やめろ!もう無理だ」

 

ゆきが少女を助けようと走り出すが、くるみがそれを止める。

 

「でも……」

 

ゆきは、過去に起こした過ちを思い出し涙を滲ませる。

するとゆきはリュックを無理やり外し走り出す。

 

「あっ!ゆきっ!…なろっ!」

 

くるみはそれを止めようとするが聞かず、シャベルを片手にゆきのあとを追う。

しおりも同様、薙刀を持ち『奴ら』を倒していく。

 

りーさんは何か出来ないかと考える。

するとゆきのリュックに目を向ける

そこにあったのはゆきがぶら下げていた防犯ブザー。

 

「急いで耳ふさいで!」

 

「はっ!?」

 

りーさんは耳を塞げと言うが、くるみは何を言っているのか分からなかった。

しおりはりーさんの手元を見るとハッと理解し懐にしまっていた防犯ブザーを取り出す。

 

りーさんはぐっと防犯ブザーの紐部分を握り、一気に抜き取る。

しおりも同様に防犯ブザーを引っ張る。

 

すると辺りはけたたましい音が響く。

『奴ら』は、その音を聞き動きが鈍くなった。

 

「よっしゃ!」

 

くるみはその好機を逃さず『奴ら』を倒していく。

 

 

 

『奴ら』があらかたいなくなりゆきと少女がいる方へ向かう3人

そこにあった姿は、

 

制服や肌に血が付き倒れている2人の姿だった。

 

 

 

 

-常に前を見て進んでいたい

 

後悔はしたくないから、そう思っていた……-

 



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第11話 ただいま

 

あれからしばらくだった頃、くるみとりーさん、しおりはゆきと少女を車へ運んだ。

りーさんは救急箱を取り出し2人の手当をする。

くるみとしおりは、ショッピングモールから持ってきた食料や衣類などを車の後ろにあるトランクへ運ぶ。

 

りーさんに手当された2人は後部座席で眠っている。

 

「そっちはどう?」

 

「…噛み傷はないみたい」

 

「そっか、よかった」

 

「そのうち目を覚ますと思うわ……」

 

くるみが荷物を運び終わり、りーさんに2人の状態を確認する。

2人に噛み傷はなく、軽い擦り傷で済んだようだ。

 

「こんなんもあったぜ」

 

くるみがじゃらっと出したのはおもちゃの手錠だった。

 

「ほんと何でもあるわね。じゃ、念のためね」

 

りーさんはそう言ってくるみから手錠を受け取り2人の片手に付け車の椅子にある骨組みにもう片方を付けた。

 

 

 

 

 

 

「くるみ…ほんとに大丈夫?」

 

「心配すんなって。大丈夫大丈夫」

 

車がショッピングモールから出発して数分、しおりはくるみに心配そうに声をかけた。

今現在車を運転しているのはりーさん、そして助手席にくるみが座っている。

そしてそのくるみの膝の上にしおりが座っている状態であった。

 

「やっぱり…私後ろに…」

 

「ダメよしおりさん。2人に噛み傷がなくても、もしもの事があるでしょう。」

 

しおりが後ろへ行こうと提案するが、それを止めるりーさん。

りーさんの言っていることは一理ある。

なので何も言い返せないしおり

 

「2対1だから、このまま学校まで戻るぞー」

 

「…うん」

 

結局反対票の方が上回り、この状態で帰ることになった。

 

するとくるみはしおりに1冊の手帳の様なものを手渡した。

 

「これ…」

 

「こいつのポケットに入ってた。代わりに読んでくれないか?」

 

「でも…いいのかな?」

 

「緊急時だし、しゃーねーだろ」

 

「…うん」

 

しおりはそう言い、生徒手帳をパラッとめくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-あの日、授業が早めに終わって。でも空があんまり青くてきれいだったから、まっすぐ帰るのがもったいなくなってちょっとだけ寄り道をした-

 

少女…直樹美紀は、友人の祠堂圭と共にショッピングモールへ向かった。

しかし、

 

「……今の」

 

「な、何?」

 

圭が異変に気付いた。

 

「窓のほうだ!」

 

美紀は圭を連れて、窓から外の方を見る。

その先にあったのは普通だったら絶対にありえない光景だった。

 

「なにこれ……」

 

圭はそれを見てぞわっと寒気がした。

美紀はそんな圭の手を掴み走り出した。

 

2人は避難経路を探すが人混みができ、迷ってしまった。

 

「どっちだろ……」

 

「う、上!」

 

美紀はエレベーターを指さしそちらへ向かう。

上へ上がるボタンを何度か押し続け、美紀と圭のいる階へ到達する。

 

エレベーターの扉が開き、先程まで焦っていた表情が一気に和らいだ。

しかし、そのエレベーターの中血でべっとり赤く染まっており床には何人もの人が息絶えていた。

 

するとその中にいた一体が『奴ら』に変化し圭の右足をガシッと掴んだ。

 

「あ……」

 

美紀が困惑している中、圭は視点を足元に移した。

そして『奴ら』が足を掴んでいることに気付き、

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ」

 

「圭!」

 

恐怖のあまり叫びだし、無理やり足から『奴ら』の腕を外す。

 

 

美紀と圭はエレベーターから離れようと走り出した。

周りを見ると、『奴ら』に囲まれグチュグチュと異様な音を出しながら暴れる人がいた。

しかし2人は気にしている暇もなくその場を後にした。

 

 

あれからさらに離れ、2人は衣類の置いてある店に入っていた。

 

「わっ」

 

「停電!?」

 

すると急に辺り一面が真っ暗になった。

 

「痛っ」

 

美紀は足元が見えずコンセントに足を引っ掛けてしまった。

 

「大丈夫?」

 

「うん」

 

圭が心配そうに聞き、答えるが美紀は明らかに疲れ切っていた。

圭はそんな美紀を見て何かないかと辺りを見回した。

すぐ目の前にあったのは試着室だった。

 

「こっち!」

 

圭は美紀を連れて試着室の中に入り、誰も居ないことを確認してカーテンを閉めた。

 

2人は体を縮こませながら身を寄せあった。

すると、外から呻き声のような声が聞こえそっとカーテンを開け、隙間から覗く。

 

「ひ」

 

その視線の先にいたのは、『奴ら』に囲まれガリガリと骨を食らう音のようなものを出しながら助けを求める女性の姿があった。

 

そしてしばらく経たないうちに女性は事切れてしまった。

すると、みるみる肌の色が青く変色しまるで『奴ら』のようになってしまった女性がギギギと普通の人だと絶対に出さない音を出しながら起き上がった。

 

その姿を見た2人は一気に顔が青ざめてしまった。

 

-何が起きたのか本当に理解できたのはもう少し先だった。

ただ何か、取り返しのつかないことが始まったことだけはわかった-

 

 

 

 

あれからどれくらいの時間がたっただろうか、何者かがこちらに向かってくる足音が聞こえた。

それに気付いた美紀は足元にあったハンガーを手に取り構える。

 

「おい、誰かいるのか?」

 

男性の声が聞こえた。

それを聞いた美紀はそっとカーテンを開ける。

目の前にいたのは、懐中電灯を持った男性だった。

 

 

 

 

 

「ほらほら、疲れたでしょ座って座って」

 

男性は美紀と圭をある場所へ連れていった。

そこには、若者から老人…男女が数名いた

 

「よかったなぁほんとによかった」

 

1人の老婆が軽く会釈をしながら言った。

 

「今日の捜索はここまでにします」

 

リーダー格の男性が全員に聞こえる声で言った。

 

「あの……すいません。私たちまだよくわからないんですけど、何がどうしたんですか?」

 

美紀がリーダー格の男性に問いかけるが、男性は頭をボリボリ掻きながら何も答えなかった。

 

「誰か知ってる人は?」

 

辺りの人にそう聞くが、誰も知っている人はいなかった。

 

「バチがあたったんだよ。みんないい気になって…地獄があふれたんだよぉ……」

 

老婆が十字架を握りしめながら言った。

 

「まぁこんな具合だよ。悪いけどあとで身体検査させてくれるかな。あれは噛まれると感染るんだ」

 

「感染る……」

 

「とりあえずは安心していいよ。あいつらは階段が苦手だ」

 

「他の人は…」

 

「これで全部だ。たいていのやつは停電で下に降りたからな」

 

「そうですか……」

 

 

 

それからその日の夜が来た。

下から取ってきた寝具を部屋に人数分敷き、その日は眠ることになった。

 

「おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

 

-テレビで見たような避難生活。布団だけやたら高級なのが奇妙だった-

 

美紀は眠りにおちるが、ふと目を瞑ると先程見たあの光景を思い出し、眠れずにいた。

 

 

-避難できたのは十一人。みんなで協力して住みやすくしていった-

 

 

あの日から数日、最初は食料と布団しかなかった部屋がどんどん華やいでいった。

 

ベッドやタンス、新しい食料などもどんどん仕入れて行った。

さらに、それぞれの個室を作れるくらいの広さも確保出来るようになった。

 

そして圭や他のみんなにも笑顔が生まれるようになった。

 

-仕事は男女分業。男性は下の階への遠征、女性は家事を担当した-

 

 

 

 

 

「おーい。戻ったぞ」

 

男性陣が遠征から帰ってきた。

リーダーを先頭に、後ろから衣服や食料を入れたダンボールを運ぶ男性達。

 

「これはおまけだ」

 

と言いリーダーが手に取ったのは1本のワイン。

その後ろにもビールなどのダンボールがいくつもあった。

 

 

-リーダーはいつもおまけを持って帰る。役には立たないけど楽しい何か-

 

「今夜はパーティーだ!」

 

リーダーのおまけに喜ぶ大人達。

盛り上がっているうちにパーティーが企画された。

 

全員で着々とパーティーの支度を進める。

 

 

「それじゃ…」

 

「カンパーイ」

 

リーダーの掛け声に合わせみんなでグラスを手に取りパーティーを始める。

 

「お前らも飲む?」

 

もう既に酔っている男性が2人にワインを差し出す。

 

「わ、私は……」

 

「ワイン苦手だから」

 

美紀が困っている中圭はキッパリと断った。

 

「あれ、リーダー手どうしたの?」

 

酔っている女性が隣に座るリーダーの手に絆創膏が貼られているのを気にした。

 

「さっき、カナヅチでな」

 

リーダーはそう言うと絆創膏を貼られた左手をサッと隠した。

 

「あーんかわいそう」

 

女性はそう言うとリーダーにべたべたと抱きついた。

それを見た圭はムッと睨みつけている。

 

「もうほんと気になるよね。美紀ちゃんもそうおもうでしょ?」

 

男性はそう言って美紀の肩に手をのせる。

 

「そ、そうですね…」

 

「はいはーい美紀ちゃんちょっと」

 

「あ、ちょっとすいません」

 

圭は美紀から男性を引き剥がしずるずると引きずりながらその部屋を後にした。

 

「酔っぱらいって初めて?」

 

「うん」

 

「まともに相手しちゃだめだよ」

 

「わかった。ありがと」

 

 

 

 

 

それから数時間後、パーティーは終了して酔っている大人達はその場で睡眠し、美紀と圭は自室で就寝した。

 

すると泡を吹いて倒れているリーダーの左手がどんどん青く変色していった。

 

 

異変に気付いた美紀は目を覚まし圭を起こす。

 

「圭、圭起きて」

 

「ん、なに?」

 

圭は目を擦りながら目を覚ます。

 

「きゃああああ」

 

するとパーティーが行われていた部屋から悲鳴が聞こえた。

 

「待ってどこ行くの」

 

圭はパーティーの行われていた部屋へ走り出した。

しかしパーティーが行われていた部屋は既に火の手が周り、近くにいた人達の姿はなかった。

 

「圭……」

 

「…燃えてる」

 

圭はその光景を目の当たりにして涙を流した。

美紀は息を飲み、

 

「こっち!」

 

圭を連れて、先日作った避難所へ入った。

美紀は小型の懐中電灯を着け誰もいないことを確認した。

しかし、ドアの向こうからドアを叩く『奴ら』の音が聞こえた。

 

「圭手伝って」

 

「うん」

 

2人は部屋にあるものを使い、『奴ら』の進行を防いだ。

 

-こうして私たちは生き残った。あの日から圭は笑わない。

 

「生きていればそれでいいの?」

 

今日、圭が出ていった。私は止められなかった-

 

 

 

全てを読み終えたしおりは生徒手帳をパタンと閉じる。

 

「なんか書いてあったか?」

 

「ううん…何も」

 

「そっか」

 

しおりはくるみの問いかけに目を逸らしながら答えた。

するとしおりは後ろを向き寝息を立てているゆきと美紀をみる。

 

「わたしたち…結構、運良かったんだね」

 

「そりゃそうだろ…見ろ学校だ」

 

「…ただいま」

 

「おかえり」

 

 

 

 

 



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第12話 ようこそ

 

 

-たすけ……て……

 

だ…れか…-

 

「あ、おはよ」

 

美紀が目を覚ますと、そこにいたのは美紀をのぞき込むように見ていたゆきだった。

ゆきを見た美紀は、目を何度かぱちくりさせる。

 

「お水、飲む?」

 

「え……ありがとう」

 

ゆきの問いかけに答えながら美紀は、寝ていたソファから体を起こす。

 

「はいどーぞ」

 

ゆきは美紀に水を入れたコップを手渡した。

美紀はそれを受け取り、水を飲む。

 

「……誰?」

 

美紀先程から疑問に思っていたことをゆきに問いかける。

 

「巡々丘高校三年C組、丈槍由紀だよ」

 

「2Bの直樹美紀…です」

 

「じゃ、わたしが先輩だね」

 

ゆきは、胸を張りながら言った。

 

「…ここは、どこですか?」

 

美紀はキョロキョロと辺りを見渡しながらゆきに問いかけた。

 

「学園生活部の部室だよー。あ、めぐねぇおはよーこっちこっち」

 

ゆきは扉の方へ手を振る。

しかしそこには誰もおらず、美紀は疑問に思いながらも、

 

「がくえんせいかつ部ですか?」

 

美紀は、学園生活部のことについてゆきに問いかけた。

 

「うん、楽しいんだー新入部員絶賛募集中だよーね、めぐねぇ。はーい佐倉先生」

 

美紀は、またゆきが誰もいないのに話しかけたり答えたりしていることを不思議に思った。

 

「あ、もう授業始まっちゃう先行くね?みーくんまたねー」

 

「みーくん…?」

 

ゆきに呼ばれた名前に疑問を抱きながらも辺りを見渡したり、綺麗になっていた自分の制服の匂いを嗅いだ。

 

「石鹸の匂いだ」

 

美紀は教室から出て、近くにあった教室へ向かう。

 

「夢……だったのかな…」

 

そう呟いて扉を開ける。

しかし広がっていた光景は今までとは変わらず乱雑に倒れている机や椅子、ガラスは割れて飛び散り床や壁には血が染み込んでいた。

美紀は、その教室にの中を進み割れた窓から外の景色を眺める。

そこには、『奴ら』が校庭を徘徊する姿がみえた。

 

「そんなわけ……ないよね」

 

 

 

 

 

「こっちか!いた!」

 

すると美紀がいた教室の扉が勢いよく開いた。

美紀は驚き後ろを振り向くと、そっとシャベルを構えるくるみとりーさんがいた。

それを見た美紀は両手をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

 

「おかえりなさい」

 

「おかえり」

 

ゆきは授業が終わり学園生活部の部室へ戻るとほかの部員3人と美紀が集まっていた。

 

「あ、みーくんいた」

 

ゆきは、美紀がいることに嬉しく思いぱっと明るくなりながら言った

美紀はそれを見てぺこりと軽く頭を下げた。

 

「ね、何の話してたの?」

 

「何って」

 

ゆきの質問に答えが出てこなかったくるみ。

 

「部活の話よ」

 

しかしりーさんは部活の話だと言って、ゆきにわかりやすい答えを言った。

 

「学園生活部に興味あるんだ!」

 

「そうとも言えますね」

 

興味があることを喜ぶゆきに美紀は、お茶を飲みながら答えた

 

「うんうん。新入部員は超絶歓迎中だよ!行こ!」

 

「!どこへですか?」

 

ゆきはぐいっと美紀の腕を引っ張った。

 

「学園生活部の部活はね、学校全体が舞台なんだよ!」

 

「そうですか」

 

「そうだよ」

 

ゆきの言葉に素っ気なく返す美紀。

それを見たくるみとりーさんは呆れた顔をしていた。

 

 

 

「-でね、ここが音楽室」

 

ゆきは音楽室の壊れかけた扉を重く開けた。

 

「すごいでしょ」

 

「すごい、ですね」

 

音楽室の中も教室と同様に窓ガラスが割れ、机と椅子が倒れていた。

音楽室ならでわのピアノも1部分の色が剥げていた。

 

「学園生活部に入ったらここで放課後歌いたい放題だよ!」

 

ゆきはパタパタと走り出しコンセントを付け、CDプレイヤーの電源を入れる。すると音楽が鳴り出した。

 

「ね、どう?」

 

「電気の無駄使いですね」

 

「そんなぁせっかくベートーベンさんもバッハさんもモーツァルトさんも見ててくれるのに」

 

「どうでもいいです」

 

「えー」

 

「いいから早く行きましょうゆき先輩」

 

するとゆきはハッとその言葉が脳内に響く。

 

「い、今のもう一度言って」

 

ゆきは体をぷるぷると震わせながら美紀に言った。

 

「早く行きましょうゆき先輩」

 

美紀は呆れながら先程言ったことをゆきにもう一度言った。

ゆきは美紀に先輩と呼ばれて嬉しかったのかじぃーんと喜びに浸っていた。

 

「…気持ち悪いです」

 

それを見た美紀は少し顔を青ざめて言った。

 

「ほら、先輩っていい響きだなって」

 

「ならもう少し先輩らしくしてください」

 

「みーくんはきついなぁ」

 

「だからみーくんってなんですか」

 

「美紀だからみーくんダメ?」

 

「美紀でいいです」

 

ゆきが急に顔を近づけたことに少し恥ずかしながら言った。

 

「みーくんのほうが可愛くない?」

 

「可愛くなくていいです」

 

ゆきが美紀にべたべたと抱きつく。

2人はそのまま音楽室を後にしようとする。

 

「えーみーくん可愛いのに。ね、めぐねぇ」

 

「!……」

 

ゆきは再び誰もいない所に声をかける。

それを見た美紀は先程くるみとりーさん、しおりと話したことを思い出した。

 

 

 

 

 

「さっきは悪かったな」

 

くるみが、先程美紀にシャベルを構えたことを謝罪した。

3人は美紀を学園生活部のへ連れていきお茶を出す。

 

「美紀さんなかなか熱が下がらなかったから…もしかしたらって思って」

 

「別に気にしてません。当然の心配だと思います」

 

「何にせよ目が覚めてよかった」

 

くるみはそう言いながら机にあるライトをカチッとつけた。

 

「ほんとに電気来てるんですね」

 

「屋上に太陽電池があるからな」

 

くるみは美紀の質問に上を指しながら答えた。

 

「お湯のシャワーも出るのよ」

 

りーさんの言葉にピクっと反応した美紀。

 

「あの…それ…」

 

「ごめんなさい。ここのところ曇りが多くてまだ電気貯まってないの。明日には入れると思うわ」

 

美紀に謝罪をするりーさん。

 

「そっちは大変だっただろ」

 

「なんとかなりました」

 

「そっか……」

 

くるみの質問に下を向きながらも答える美紀。

しおりはそんな美紀を見て生徒手帳に書かれていたことを思い出し心配そうに美紀を見つめる。

 

「しおりさん以外の3人は屋上にいてそれで助かったの。しおりさんともあとで合流してね」

 

「上の階ほど安全ですものね」

 

「まあ色々あったけどな」

 

「それで学園生活部って何なんですか?」

 

「落ち着いた頃にめぐねぇとりーさんが考えたんだよな」

 

「そうね。毎日ただ暮らすのも疲れるからいっそ部活の合宿ってことにしましょうってね」

 

美紀の質問に淡々と答える2人。

 

「今はどこに?」

 

「…もういないの」

 

「さっきゆき先輩が…」

 

2人に質問するが、2人は言葉に詰まり沈黙する。

 

「ゆきにはめぐねぇが見えてるんだ」

 

「オカルト的な話ですか?」

 

「そうじゃなくて…」

 

「部活を始めてしばらくした頃かしら」

 

言葉に詰まったくるみにりーさんが付け足す。

 

「それまですげー落ち込んでたゆきが、元気になってさ安心してたんだ。そしたら……元気になりすぎたっていうか……」

 

「あの子の中では事件は起きてないの。学校は平和で先生も生徒もいっぱいいて」

 

「そうなんですか…」

 

ここまで話を聞いた美紀の表情は少し暗くなっていた。

 

「最初はたまにそんな風になる感じだったんだけど、めぐねぇがその、亡くなってから……ずっとなの」

 

りーさんは言葉に詰まりながらも美紀にそう伝えた。

 

「早く治るといいですね…そういえばゆき先輩授業受けるって言ってましたけど…」

 

「ああ、向こうの教室にいると思う。そのうち戻るよ」

 

「ね、お願い。ここにいる間、あの子に合わせてくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

ゆきと美紀は屋上へ来ていた。

 

「園芸部のみなさんどうもーほらみーくんも挨拶」

 

「ど、どうも」

 

ゆきは誰もいない屋上の園芸部が使う畑に挨拶した。

美紀もゆきに言われて挨拶した。

 

「ほら屋上菜園だよ。ひなたぼっこにも最適!景色もいいんだよー」

 

ゆきは腕を広げながら屋上の説明を始めた。

するとゆきは屋上から景色を眺めるためにフェンスの方へ近づいた。

美紀もそれに続いて歩き始めるが、畑のスペースの一部に十字架が刺さっているのが目に映った。

それを見た美紀は一礼した。

 

「ね、みーくんどう?入部したくなってきた?」

 

「すいません聞いてませんでした」

 

「えー」

 

2人の会話の片隅にある十字架。

その十字架に結ばれているリボンがぱたぱたと風に靡く。

 

 

 

 

 

「ね、考え直そ?今なら図書室でマンガ読み放題だよ?」

 

「それ、部活関係ないですよね?」

 

「そんなこと言わないでさー」

 

ゆきは歩きながら美紀に部に入ることを進める。

しかし美紀は足を止めることなく進んでいく。

 

「ささ、入って入って」

 

「はあ」

 

ゆきは美紀を部室に入るよう言い流す。

 

『ようこそ学園生活部へ!』

 

2人が部室に入ると、クラッカーがパンっと音を鳴らした。

何が起こったのか分からず唖然とする2人。

辺りを見渡すと、綺麗にデコレーションされた部室に食べ物が置かれた机があった。

 

「ちょ、何これ」

 

「お、驚かせようと思って」

 

「ずるーい三人だけ。わたしもやりたーい」

 

「みんなでやったらサプライズにならないだろ」

 

「そーだけどさー」

 

盛り上がる4人を見て黙り込む美紀。

 

「もしかして…はずした?」

 

何も言わない美紀に心配そうに声をかけるくるみ。

しかしそこからしばらく経たないうちにぷっと笑い出す美紀。

 

「ありがとうございます。うれしいです」

 

ここへ来て初めて見た美紀の笑顔を見て学園生活部の4人は喜んだ

 

「じゃさ、入部してくれる?」

 

「仮入部からでいいですか」

 

美紀は仕方なさそうな顔をしながらゆきの質問に返した。

その言葉を聞いた4人はパァっと明るくなった。

ゆきは美紀に抱きつきながら、

 

「いいよそれじゃ改めてーようこそ学園生活部へ!みーくん仮入部おめでとう!」

 

「みーくんじゃありません!」

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 うんどうかい

美紀が学園生活部へ仮入部してから数日たった頃、

学園生活部の面々はそれぞれのやることを行なっていた。

 

りーさんは家計簿を使って電気や食料などの消費量の整理を。

くるみとしおりは自分の相棒の手入れをしている。

ゆきはというと、お菓子をほうばりながらマンガを読んでいた。

 

美紀はその空間で1人何もしておらず椅子に座りながら気まずそうにしていた。

 

「あの……私は何をしたら?」

 

「みーくんはお客さんだからゆっくりしてていいんだよーあ、マンガ読む?」

 

「いえ、結構です」

 

美紀の問いかけに最初に答えたゆきは気にするなと言いながら美紀にマンガを進める。

しかし美紀はそっぽを向きながら断った。

 

「体はもういいのか?」

 

シャベルの手入れをしながらくるみは美紀に問いかける。

 

「ええ。何かしていたほうが落ち着きますから」

 

「あ、じゃこっち手伝ってくれる?」

 

「はい」

 

りーさんは美紀に家計簿の手伝いを頼んだ。

美紀はそれに答えりーさんの隣に座る。

 

「家計簿ですか」

 

「そうなの一人増えたからいろいろと見直しをね」

 

「手伝わせてください」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

 

 

 

「こっちが食料の欄でこっちが小物、太陽電池はこれね」

 

「はい」

 

りーさんは美紀に家計簿の説明を始める。

その説明を遠くから聞いていたゆきは何か考えながら椅子をぎしぎしさせて見ていた。

 

「数え直したほうがよさそうですね」

 

「そうね、後で倉庫に案内するわ」

 

「今でもいいですよ」

 

「そう、それじゃあ____」

 

りーさんが今から行こうと言おうとした時ゆきは読んでいたマンガをパンっと勢いよく閉じ、椅子から立ち上がった。

 

「体育祭!」

 

全員に聞こえるように大きな声で言った。

それを聞いたりーさんは少し嬉しそうに、美紀はよく分からず疑問に思っていた。

 

「……なんで体育祭?」

 

くるみが呆れた顔をしながらゆきに問いかけた。

 

「みんなで体動かすと楽しくなるよ!つらい悩みもすっきり!」

 

「……おまえ悩みないじゃん」

 

「それが……遠足から帰ってごはんがおいしくって……」

 

「ダイエットじゃねぇか!」

 

ゆきに取ってはダイエットも悩みのうちに入っているらしい。

ヨダレを垂らしながらはーっと息をつくゆき。

 

薙刀の手入れが終わったしおりはくるみに近づいた。

 

「ん?どした」

 

「ダイエットだったら…くるみしたら?最近……この辺りとか」

 

しおりはくるみの脇腹を指さした。

それを聞いてたゆきはニヤニヤと笑いだしくるみの脇腹を摘む。

 

「しおりちゃんが言ったことに間違えはないよ!だから運動しよっ」

 

「やめろこいつっ」

 

「へへへ〜♪」

 

「わかったから!」

 

じゃれついてる2人を黙って見つめる美紀。

 

「仕事が終わったら一緒に遊びましょう」

 

「遊びじゃないよ部活動!」

 

美紀の真面目な言葉にゆきは遊びじゃないと言い張った。

 

「部活動?」

 

「あ、そっかみーくんまだ仮入部だもんね」

 

美紀の問いかけにゆきはうーんと考えながら出した答えは、

 

「学園生活部心得第五条」

 

『部員は折々の学園の行事を大切にすべし』

 

ゆきの呼びかけに、部員の3人は続き息を合わせて言う。

 

「だ、か、ら体育祭!」

 

わかった?と美紀に再度確認するが美紀は全く分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくたった頃学園生活部の面々は体育祭の開催準備を始める。

くるみは紅組と書かれた鍋を電球に吊り下げる。

その反対側にいるしおりは白組と書かれた鍋を吊り下げる。

りーさんは掲示板に貼るためのビラを用意し、ゆきと美紀はテニスボールに紅と白のテープを貼っていた。

 

「いっぱい作ろうね!」

 

「もっと他にやることがある気がします」

 

美紀は不満を言いながらもテープ貼りの作業を進めた。

 

「やるべきことよりやりたいことだよ!」

 

「思い切り駄目人間のセリフですよね」

 

 

 

 

 

各々の作業が全て終わり体育祭を始めることになった。

 

「さ、体育祭はじめるよー」

 

ゆきの掛け声により体育祭が開催された。

 

「体育祭といえば徒競走だよ!」

 

「さっぱりわかりません」

 

廊下に引かれた白いテープの前に美紀を並ばせるゆき。

美紀の隣にはシャベルを背負ったくるみがいた。

 

「一勝負どうだい?」

 

準備運動をしながら美紀に問いかけるくるみ

しかし答える前に美紀はシャベルに目がいった。

 

「そのシャベルは?」

 

「ハンデ」

 

「なるほど」

 

それを聞いた美紀は少しやる気が出てきたのかにっと笑った。

 

「しおりも久しぶりに勝負しようぜー!」

 

くるみはゴールにてゆきの隣にいるしおりに聞いた。

 

「距離は?」

 

「うーん…ここの廊下の端から端まででどうよ」

 

「…いいよ。ハンデなしね」

 

くるみは先ほどよりもやる気が満ち溢れていた。

しおりも珍しくくるみの提案に乗った。

 

「いちについて。よーいどん!」

 

ゆきの合図と共に走り出す2人。

出だしはくるみのほうが1歩早かったがほぼ互角だった。

 

 

 

 

「一位くるみちゃん」

 

「結構やるじゃん」

 

「ハンデつきで負けるとは」

 

走り終えたあとの2人は息が切れていた。

互いに息を整えながら言う。

 

「よしっしおり!次はお前だー」

 

くるみはシャベルを外しながら言うが、

 

「待ってあげるから…休も」

 

しおりはまだ息が整ってないくるみの両肩にポンっと手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞー」

 

徒競走からしばらく経った頃次は空き教室に集まった。

くるみは足で先程テープを貼ったテニスボールの入った箱を傾ける。

 

「これで玉入れって無理がありませんか」

 

美紀が電球に吊り下げてある鍋を見上げながら言った。

 

ゆきは紅いテープが貼ってあるボールを手に取る。

 

「無理は承知の学園生活部っ!よっ」

 

ゆきは勢いよく紅組の鍋へボールを投げるが鍋に入ることわなくガコンと当たりゆきの頭に跳ね返ってきた。

 

「強すぎもっとそーっと」

 

涙目になりながら頭を抑えて悔しげなゆきにりーさんが優しくアドバイスをする。

美紀もそれを聞きそーっと白いテープが貼ってあるボールを白組の鍋に投げる。

すると上手くぽすっと入り、

 

「やった」

 

美紀は喜んだ。

 

「まっけないぞー」

 

と言いリベンジをしようとするゆきだが足元にあったボールに滑ってコケてしまった。

 

「あたっ」

 

「隙を見せましたね!」

 

「やるなみーくん」

 

「みーくんじゃないです!」

 

 

 

 

 

試合が終わり審判係のしおりがボールの数を数える。

 

「ろーく…なーな…はーち…あっ紅組もうない」

 

「やった!」

 

美紀は喜びのあまりガッツポーズをした。

 

「負けちゃったー…先輩の威厳が…」

 

「いや、元からあんまりないんじゃないかな」

 

ゆきはよろよろとくるみに近づくがくるみは先輩っぽさがないと言った。

 

「ひどいよー!そんなこと言ってわたしに負けて泣くんじゃないよ」

 

「よろしい受けて立つぜ!」

 

ゆきとくるみの会話を見ていた美紀はくすっと微笑みをもらした。

そんな顔を見たしおりは少し安心したような顔をした。

 

 

 

 

 

 

体育祭も終わり片付けにを始める五人。

今空き教室にいるのはゆき以外の四人、ゆきはごみ捨てに行ってもらっていた。

 

「少しは慣れた?」

 

黒板を掃除しているりーさんがボールを片付けている美紀に問いかけた。

 

「そうですね。慣れたかもしれません」

 

「な、面白いやつだろ?」

 

美紀と一緒にボールを片付けているくるみがボールを美紀にポンっと軽く投げながら聞いた。

 

「何がですか?」

 

そのボールを受け取る美紀はくるみに問いかけた。

 

「いや、ゆき。変なことばっか言うけどこういうのも楽しいっていうかさ」

 

「そうですね…ゆきちゃんこれからどうするんですか?」

 

「ん?ゴミ捨て行ってるけど?」

 

美紀の質問に答えるくるみだが、

 

「そうじゃなくてこのままじゃダメですよね」

 

「別にダメじゃないだろ」

 

「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ。楽しいこといっぱい思いついてくれるから私もくるみもしおりさんも助かってる。それじゃダメ?」

 

りーさんがくるみの言葉に付け足すように美紀に言う。

 

「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじゃないですか?」

 

りーさんの言葉に反対するように美紀がりーさんに言う。

 

「甘やかすとか治るとか、そういうものじゃないのよ」

 

「どう違うんですか?」

 

りーさんと美紀は互いに見つめ合うが、どこか落ち着かない空間が続く。

くるみは少し慌てながら2人を見ていた。

しおりはこの空気を不安に思い先程まで耳しか傾けてなかったが、作業をやめくるみの隣に立つ。

 

「あなたは、まだゆきのことをよく知らないから…ゆきのおかげでどれだけ私たちが助かってるか」

 

「そんなの……ただの共依存じゃないですか」

 

「あなたねっ…」

 

美紀の言葉に耐えきれず怒りを顕にするりーさん。

りーさんの表情を見て2人を止めようとするくるみ。

 

「二人とも落ち着けよ」

 

「私、間違ったこと言ってますか?」

 

くるみが止めようとするが止まることはなく睨み合う2人。

その表情を見て何も出来ずにいるくるみ。

 

「……!」

 

くるみが言葉に詰まっているとふと違和感を感じ後ろを向くと、くるみの制服のスカートをぎゅっと握りながら涙目になりそうなしおりがいた。

くるみはそんなしおりを見て落ち着かせようとスカートを握っていたしおりの手をぎゅっと握るくるみ。

それに気付いたしおりが手を握り返す。

 

しばらく沈黙が続く中、ガラっと勢いよく開く扉

 

「ただいまー」

 

ゴミ捨てに行っていたゆきが帰ってきた。

 

「あれ、どうかしたの?」

 

四人の険しい顔を見て疑問に思うゆき。

 

「いや、何でもない。ボール取ってくれ」

 

「?はいはーい」

 

くるみは誤魔化すようにゆきにボールを取るように言う。

 

「みーくんパス」

 

ゆきはボールを拾い美紀にポンっと投げる。

美紀は気まずそうな顔をしながらボールを受け取る。

 

「さっぱりわかりません…」

 

美紀はボールを見つめながらぼそっと呟いた。

 

 

 

 





ちなみにくるみとしおりの繋ぎ方は恋人つなぎです
(いつもです)(*´∀`*)


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第14話 といかけ

運動会の次の日、いつも通り学園生活部の部室にて朝食を食べる。

しかしいつもみたいにわいわいではなく、どことなく気まづかった

 

淡々と朝食を口にする美紀とりーさん。

その光景を見ながら気まづそうに食べるゆき。

くるみとしおりは今この場にいなかった。

 

「みーくん。ごはんはもっとおいしそうに食べないと」

 

隣で黙り込みながら朝食を食べる美紀に注意するゆき。

 

「失礼しました…先のことが気になるんです」

 

「先のこと?」

 

美紀はカチャッとスプーンを皿に置き考えていたことを口にする。

しかしゆきにはあまり理解出来ず美紀に問いかける。

 

「ずっと同じことをしてもしょうがありませんから、これから先どうするかを考えないと」

 

美紀は少し悲しそうな顔をしながらゆきの問いかけに答えた。

 

「そうね、せっかく人が増えたんだしやれることはあるわよね」

 

「むーこれから先かーうーん悩むよねー」

 

ゆきはスプーンを見つめながら首を傾げる。

 

「ね、みーくんは進学?就職?」

 

「え?」

 

「やっぱ進学かな?頭よさそうだもんね」

 

「ゆきちゃん就職にも試験はあるわよ」

 

「えっ」

 

ゆきは就職なら試験はないだろうと思っていたらしく慌てるゆき。

そんなゆきを笑いながら見つめるりーさん。

 

「お先に失礼します」

 

今の状況に耐えきれずガタンと勢いよく椅子から立ち上がる美紀。

周りの沈黙に気づき椅子を戻し、

 

「ごちそうさまでした」

 

小さくお辞儀をして部室を後にした。

そんな美紀を見てオロオロするりーさん。

 

「そ、そういえばりーさん。くるみちゃんとしおりちゃんは?」

 

ゆきが話を逸らすようにりーさんに問いかける。

 

「ええ、なんかしおりさんがいないって言ってくるみが探しに言ったわ。二人とも帰ってきたら朝ごはん食べるって」

 

「ふーん…くるみちゃん心配性だね」

 

「ふふっそうね」

 

 

 

 

 

 

 

美紀はイヤホンを付けながら階段を降り、CDプレイヤーをバリケード前に置いてその場を後にする。

その音に反応して、『奴ら』がバリケードの外側に集まる。

 

その隙をつき別のバリケードから奥へ進む美紀。

『奴ら』が居ないことを確認して図書室に入る美紀。

 

懐中電灯を付けて目的の本がある棚を探す。

たどり着いたのは心理学の棚

そこから目的の本を探すがその場所に隙間が空いており貸出されていた。

美紀は仕方なく別の本を探す。

目をつけた本があったがギリギリ手が届かず背伸びをするがバランスが崩れそうになって中々取れない。

すると横から美紀より少し背の高い誰かが美紀の取ろうとしていた本を取り出した。

 

「…これかな?」

 

隣にいたのは美紀は未だに会話をしていないしおりだった。

本を持っていない方の手には血が付いた薙刀が握られていた。

よく見るとしおりの着ているうさ耳パーカーにも所々血が着いていた。

美紀はそっとしおりから本を受け取りしおりを見つめると、

ほんわかと笑を浮かべるしおりがいた。

 

美紀はしおりにお礼を言おうとするが言葉に詰まりその場を去ってしまった。

しおりはそれを止めることなく見つめていた。

 

「いた!」

 

急に呼ばれて後ろを向こうとすると背中に重みを感じた。

後ろを向くとしおりの肩に腕を乗せ体重をかけるくるみがいた。

 

「ったく1人で行くなっていつも言ってるだろ!…どした?」

 

しおりに注意をするが少し悩んだような顔をしていたのでくるみは心配そうに問いかける。

 

「…うん。みきちゃんと、仲良くなれないかなって…」

 

「大丈夫だって。ほらりーさんが朝ごはん用意して待ってるから戻ろうぜ……その前に風呂だな」

 

くるみはしおりの手を握りながら歩き出すが1度止まり、血で染っていたしおりの髪を見て呆れながら言った。

 

「あっ…汚れないようにフード被ってたのに…」

 

「せっかく綺麗な髪なんだから痛まないように大事にしろよー」

 

くるみの言葉を聞いて嬉しかったのかしおりは微笑みながらくるみの手を繋ぎ部室へ戻る。

 

 

 

 

一方りーさんは廊下を歩いていた。

するとどこからか音楽が聞こえた

音が聞こえた方へ向かうとCDプレイヤーが置かれていた。

りーさんはバリケードの向こうを見つめながら、

 

「…美紀さん……」

 

CDプレイヤーを置いたと思われる人物に思いを寄せた。

 

 

 

 

 

しばらくすると学園生活部部室の扉が勢いよく開く。

美紀は何も言わずに椅子へ座りリュックを机に置き中から本を取り出す。

今この場にいるのはゆきとりーさん、そして美紀のみ。

くるみとしおりはシャワーを浴びに行ったらしい。

 

りーさんは淡々と本を読み進める美紀を見てむーっと頬を張る。

 

「みきちゃんもしかして下行った?」

 

「ええ」

 

りーさんの問いかけに本を読みながら返す美紀。

 

「だめじゃない一人で行っちゃ」

 

「問題ないですこっちはずっと一人で暮らしてたんです」

 

「部の規則は守ってよ」

 

「まだ部員になったは覚えはありません」

 

するとしばらくしないうちにまた昨日のような揉め合いが始まった。

ゆきはそれをじーっと見ているが何もわかって言わない。

 

「……あ、めぐねぇ」

 

するとゆきは誰もいない方を向いた。

きっとめぐねぇが隣にいるんだろう。

美紀はそれを見て険しい表情をした

 

「えー今日だっけー?今からー?……はーい」

 

「どうしました?」

 

会話が終わったタイミングを見計らって美紀は話の内容をゆきに問いかける。

 

「うう、補習あったの忘れてた…いってきまーす…」

 

「いってらっしゃい」

 

ゆきは顔が青ざめながらも部室を後にして教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、美紀は一人部室にて図書室から持ってきた本を読んでいた。

 

[多重人格の実態と伝説]

 

ー主人格は、自己を守るために人格交代時の記憶を持っていないことが多く、結果として無謀な行動をする場合があります。

 

救済人格とは、交代人格の一つであり、主人格をサポートする機能を持ちます。

主人格が無謀な行動をしようとした際、交代して現実的な対処をするわけです。

 

 

 

美紀は本をぱたんと閉じ、目をごしごし擦る。

するとギィ…と小さく部室の扉が開く。

 

「あ、みーくんまだ起きてたんだ~」

 

ゆきが目を擦りながら部室に入る。

右手にはぐーまちゃんのぬいぐるみが抱えられていた。

ゆきがふわーっと欠伸をすると再び扉が開き他の3人も入ってくる。

 

「みんな起きちゃったね」

 

「おまえの声がでけーんだよ」

 

と言いながらゆきの頭を軽く小突くくるみ。

 

「ごみん。みーくんは何してたの?」

 

「本を読んでました」

 

ゆきは美紀の肩に腕を乗せて体重をかける。

 

「お、何の本?」

 

「勉強の本です」

 

「こ、これが進学組の心がけか!」

 

勉学の本だと答えた美紀。

それを聞いたゆきはササッーっと後退りをする。

 

「別にそういうのじゃ…」

 

美紀はため息をしながら席を立つ。

 

「どこ行くの?」

 

「お手洗いです!」

 

「学園生活部心得第三条!」

 

「?」

 

ゆきは指で3を作り、美紀に指す。

 

「第三条、夜間の行動は単独を慎み常に複数で連帯すべし!」

 

「ですから部員じゃないんで…」

 

「いいからいいから一緒にいこ、ね?」

 

「なら……」

 

りーさんの言葉を遮るようにくるみが止める。

美紀はゆきをじっと見つめてしばらく考える

 

「…いいですよ」

 

と言いゆきと一緒に部室を後にした。

 

「…大丈夫かしら不安だわ」

 

「落ち着けよ大丈夫だよ。たぶん」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない廊下を歩く二人。

ゆきはちらっと美紀の方を見るがどこか悲しそうな顔をしていた。

 

「夜の廊下ってさなんかいいよね」

 

「いいですか?」

 

「うん。誰もいなくてなんかドキドキするっていうかゾクゾクするみたいな」

 

「じゃあ昼はいるんですか?」

 

美紀はゆきの方を向きながらゆきに問いかける。

 

「え?そりゃいるでしょ」

 

美紀の質問に当たり前のように答えるゆき。

 

「…そうですか」

 

ゆきの答えを聞きピタッと足を止める美紀。

 

「もう、そういうのやめませんか?」

 

「え?」

 

美紀の言葉に目を見開くゆき。

 

「めぐねぇとかみんな無事とか、全部嘘なんでしょう?いいんですよもう、隠さなくて」

 

 

 

 

 





あと今更ですがしおりはちょっとずつしっかり話すようになってきます。
最初と今を比べれば点が減ってると思います。


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第15話 おもいのたけ

美紀の言葉の後、しばらく沈黙が続く中

 

「えっと、何の話?」

 

ゆきは美紀の言葉を疑問に思い、笑いながら美紀に返す。

 

「この学校には誰もいないんです。もう終わってるんですよ」

 

と、真面目にゆきに返す。

 

「夜だからね」

 

「昼も夜もです」

 

「休日?」

 

話を理解していないゆきを見て険しい顔で見つめる美紀。しばし間が開き、美紀はため息をつく。

 

「本を読みました。ちゃんと確かめました、人の心ってすごく不思議なんです」

 

「え?う、うん」

 

美紀の話があまり理解が出来ておらず頷きながらも唖然としていた。

 

「でも自分の嫌なものだけ見えなくて、その矛盾に気づきもしない。そんな都合のいい病気なんてどこにも書いてませんでした。妄想で現実を遠ざけても長続きしません。すぐに破錠してもっと症状が悪くなるんです。」

 

「ふぅん?」

 

美紀の言葉がまだ理解が出来ておらず軽く返事をするゆき。

 

「最初はふりをしてただけ。そのうちあの三人が本気にしはじめて後に引けなくてずっと続けるようになって、そんな感じじゃないんですか?」

 

美紀はジリジリとゆきに近づく。

ゆきは後退りをしていたが背に壁がつく。

美紀はそのゆきの横に手をドンッと壁に付ける

ゆきはその音にビクッとする。

 

「だから、もういいんですよ」

 

美紀は先ほどよりも険しい顔をしながらゆきを見つめる。

 

「あのね……」

 

「はい」

 

「おトイレ行かなくてだいじょうぶ?」

 

ゆきは話を逸らすように話を振る。

 

「あなたって人は……」

 

「だってあの、おトイレに来たんだよ、ね?」

 

「まだそうやって…」

 

美紀はぎりっと歯ぎしりをする。

すると美紀はゆきの腕を握り歩き出す。

 

「ど、どこ行くの?」

 

「先輩の目を覚まします」

 

向かった先は下へ続く階段。

美紀は止まることなく階段を降り、二階へ向かう。

 

「どこ行くの?二階」

 

「そうですよ」

 

「でも二階は……」

 

「別にいいでしょう誰もいないんですから」

 

「そ、そうだけど……」

 

階段を降り二階の廊下へたどり着く。

少し進むと椅子や机で積み重ね、針金でグルグルと固定されたバリケードが立ちはだかった。

美紀はお構い無しにバリケードをよじ登る。

 

「さ、行きましょう」

 

「みーくん危ないよ」

 

バリケードを登る美紀に止めるように声をかけるゆき。

 

「何が危ないんですか?危ないものがあるって認めるんですか?」

 

「えっと…」

 

美紀の言葉にすぐに返す言葉が出てこないゆき。

 

「いいですよねこの学校。電気も水も生きててお風呂まで入れて、それなのにあなたたちは何をしてるんですか?」

 

「何って……」

 

「私と圭は……そうやって毎日遊んでて気が晴れるかもしれないけどそれでいいんですか?」

 

ゆきに問いかけるが言葉が出てこず慌てながら美紀を見つめるゆき。

 

「もういいです。ずっとそこにいてください先輩」

 

美紀はそっぽを向きふっとバリケードの奥へと消えてしまった。

それを止められなかったゆきはしゅんとしてしまった。

 

「めぐねぇあのね、みーくんが…」

 

すると階段の方を振り向き誰もいない所に話しかける。

しかし何を言っているのかはゆきにしか分からない。

 

「ううん。わたしが行く。わたしじゃないとダメだと思う。喧嘩しちゃったみたいだから仲直りしないと…うん、それにねみーくんわたしのこと先輩って言ってくれるんだよ…うん」

 

めぐねぇが何を言っているのかは分からないが納得してくれたようだった。

 

「あのねめぐねぇ………ううん何でもない、いってきます」

 

ゆきはそう言うとバリケードに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-私だってずっと戦ってたんだ。こいつらなんて目じゃない。静かに冷静に、立ち止まるくらいなら一人だって-

 

美紀は懐から百円玉を取り出し奥へ投げる。

百円玉が床につく時の音に反応して美紀から離れる。

その隙を見て先に進む美紀すると、

 

「みーくんいた!」

 

不意に名前を呼ばれ目を見開く美紀。

後ろを振り向くとゆきが手をふり美紀に向かってきた。

しかしゆきの後ろにはゾロゾロとこちらに寄ってくる『奴ら』

 

「何やってるんですか!」

 

ゆきに怒鳴りつける美紀。

しかし美紀の後ろにいた『奴ら』も反応してこちらに寄ってくる。

美紀はそれに気づき懐から2本のペンライトを投げつける。

そして美紀はゆきの手を掴み走り出す。

 

「先輩こっち」

 

「う、うん」

 

 

二人はバリケードに向かい走り出す。

バリケードに着くと美紀が先に登り下にいるゆきに手を差し伸べる。

ゆきも無事登りきり互いにバリケードの上で息を整える。

 

「あんまり心配かけないでください」

 

「え、でもみーくんが危ないって」

 

「そういうことじゃ……まぁいいです」

 

美紀はそっぽを向いた。

しかしどこか照れたような顔をしていた。

暫し沈黙が続き、

 

『あの……』

 

「……どうぞ」

 

「うん、あのねあやまりに来たんだ」

 

美紀がゆきに話すことを進める。ゆきは美紀の所に来た理由を話だす。

 

「先輩がですか?」

 

「うん…わたしね頭悪いからみーくんの言うことよくわからないんだけどさ、たぶんあれかなって思うんだ」

 

「あれ、ですか?」

 

「うん」

 

ゆきはどこか理解していたが、美紀には分からず話し出す。

 

「しおりちゃんがね、時々すっごく疲れた顔してるんだ。」

 

「くるみちゃんとりーさんも夜中こっそり喧嘩してたりね、だいじょぶ?って聞くとうんなんでもないよって言うんだよね」

 

「そうですか……悲しくないですか?」

 

美紀はゆきの話を聞いていると暫し考えてゆきに問いかける。

 

「え、何が?」

 

美紀の問いかけの理由が理解出来ず疑問に思うゆき。

 

「だって仲間外れじゃないですかそんなの」

 

「うーんわたしのことかばってるんだと思うよ」

 

「どうしてそう思うんですか」

 

ゆきの答えが理解出来ず理由を問いかける美紀。

 

「しおりちゃんはいつもわたしの話、笑顔で優しく聞いてくれるし、りーさんとくるみちゃんが理由もなくそんなことするわけないし。ほらわたし頭悪いからさ、難しい話されてもわからないから」

 

「そんなことないです」

 

美紀はそっぽを向きながらそんなことないとゆきに言った。

ゆきはその言葉をきいてぱぁっと明るくなる

 

「そうかな?」

 

「はい」

 

美紀は頬を赤らめながら言った。

 

「と、とにかくね。三人が疲れてるからわたしはその分元気でいようって思ったんだ」

 

「どういう計算ですか?」

 

「三人は頑張ってるけどわたしは何もしてないからせめて笑顔でいたいなって、そしたらちょっとは元気出るかもしれないし」

 

「そうですか…」

 

「でもみーくんには迷惑だったかなって」

 

ゆきの言葉をきいて美紀は疑問に思いゆきの方を向く。

 

「病気明けにテンション高すぎたかなって。だからごめんね」

 

ゆきは美紀に微笑みながら謝罪を述べる。

 

「確かに先輩のテンションには疲れますけど」

 

「ややや、やっぱり?」

 

美紀の言葉に慌てながら美紀の方を向くゆき。

 

「でもいいです。ゆき先輩がたださぼってるんじゃないってわかりましたから」

 

「そっか。みーくんもさなんかつらいことあるみたいだけど…」

 

「は い ?」

 

ゆきが胸を張りながら美紀に言おうとするが美紀の威圧で言葉が止まる。

 

「もしかしたらあるんじゃないかみたいな、ほら人生長いし!」

 

ゆきは慌てながら美紀に話を続ける。

 

「まぁありますけど…」

 

「そゆ時はね頼ってくれていいんだからね。なんたってほら先輩だし」

 

ゆきは美紀の言葉を聞き胸を張りながら自分を頼るように言い聞かす。なぜか先輩を強調して言った。

 

「ふっあんまり頼りになる気がしませんけど」

 

美紀はゆきの言葉にふっと笑いながら頼りないと言った。

 

「頼りになるよ!すっごくなるよ!」

 

ゆきはずいっと美紀に近づいた。

 

「話して楽になることってあるじゃない?」

 

ゆきはもう一度美紀に悩みを話すように言った。

美紀はしばらく黙り込むも話し始める

 

「……友達が……いるんです。クラスメートで調子が良くて元気で……」

 

「うん」

 

「しばらく会えてなくて」

 

「登校拒否?」

 

「そう、かもしれません」

 

美紀は出ていくことを止められなかった友人…祠堂圭のことについてゆきにはなす。

しかしゆきは登校拒否かと聞いた。

美紀はそれに合わせるように答える。

 

「そっか」

 

「もう一度あえたらなって」

 

「きっと会えるよ」

 

「気休めですか」

 

美紀はゆきの答えに気休めかと聞く。

 

「ううん。だってほらわたしたち学園生活部だし!」

 

「さっぱりわかりません」

 

ゆきがぐっと親指を出すが美紀は理解ができなかった。

 

「みーくんは学校嫌い?」

 

「いえ……」

 

「でしょ?みんな学校大好きなんだからきっとその子もまた来るよ。わたしたちはずっと学校いるからこりゃもう会うのは時間の問題だね!」

 

「来なかったらどうするんですか?」

 

ゆきの言葉に最悪の場合はどうするのかと問いかける美紀

するとゆきはバリケードから飛び降り

 

「そしたらさわたしたちでこの学校をもっともーっと楽しくすればいいんだよ。もういっそ遊園地にしちゃうとかさ、夜になったら電飾がきらきらって。こりゃー来るでしょ明かりに誘われて」

 

ゆきは学校を遊園地にしようと提案する。

ゆきの頭のかなかには遊園地になった学校が浮かんでいる。

 

「先輩。言ってることが無茶苦茶です」

 

「そ、そう?」

 

 

 

 

 

 

二人の会話を上の階からこっそり聞いていたくるみ、りーさん、しおりの三人はどこか嬉しそうな顔をしていた

 

 

 

 

 



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第16話 わんこ

ゆきと美紀の件があった次の日、学園生活部の部室にて全員集まっていた。各々のやることをしているため話し声は聞こえない。

すると、本を読んでいたゆきが隣に座っている美紀の肩を肘で小突く

それに気づいた美紀は頷いた。

 

「ちょっといいですか?」

 

美紀は手を挙げて全員に話を振る。

 

「あら、どうしたの?」

 

りーさんは家計簿を使っている作業をやめて美紀に問いかける。

くるみもシャベルの手入れを止めて美紀の方を向く。

 

「学園生活部に正式に入部したいと思います」

 

「へー」

 

「え?」

 

「いけませんか?」

 

「もちろん歓迎よ」

 

「よかったねみーくん」

 

りーさんは美紀の入部を歓迎した。

ゆきは美紀の背中にポンッと手を当てる。

 

「みーくんじゃありません」

 

「なんかあったのか?」

 

くるみは美紀の心変わりに興味を持ち、心境の変化の理由を問いかける。

 

「内緒です」「内緒だもん」

 

二人は息ぴったりに内緒だと答える。

 

「ねー」

 

ゆきは美紀の方を向いて笑顔で言った。

美紀もどこか嬉しそうだった。

 

「言ったろ。心配ないってさ」

 

くるみはりーさんにそう呟くと、りーさんはため息をして

 

「…いいけどね」

 

納得はしていたがどこか後味が悪そうな顔をしていた。

 

「あ、そろそろ昼休み終わるじゃん」

 

ゆきは時計を見て午後の授業が始まってしまうと慌てて椅子から立ち上がる。

 

「おう、先行っててくれ」

 

「うん。じゃまた放課後ね」

 

「またね」

 

ゆきはパタンと扉を閉じ、部室を後にした。

 

「それで、どういう風の吹き回しなの?」

 

りーさんは少し間をあけて美紀に理由を問いかける。

 

「どうってほどじゃありません。ゆき先輩と話して納得しただけです」

 

「納得って?」

 

「あの人も頑張ってました」

 

「…そうよね」

 

りーさんは美紀の話す心変わりの理由に納得する。

 

「あの人はあのままでいいって、そう思えたんです」

 

「人にやる気を出させるってのも才能だと思うぜ」

 

「癒し系ですか。わんこみたいな…」

 

美紀は首を傾げながら考える。

 

「そこまで言ってないけどな」

 

「わんこ……」

 

りーさんはぼそっと美紀の言ったことを言った。

 

「…ゆき先輩ってちょっと犬みたいですよね」

 

美紀は咳払いをして再び言った。

今度は[わんこ]ではなく[犬]と言った。

しかも犬の部分を強調して。

 

「わんこ」

 

りーさんはくすっと笑いながら言った。

美紀はむっと頬を張り、

 

「わんこかわいいじゃないですか。悠里先輩は…」

 

「りーさんでいいわよ」

 

「りーさんは嫌いですか、わんこ?」

 

美紀はむすーっとしながらりーさんに問いかける。

 

「そうね……好きだけど」

 

「ゆきの前では言わないほうがいいかもな」

 

「何かあったんですか?」

 

くるみの言葉を疑問に思い、理由を問いかける美紀。

 

「犬も感染するの。鳥は違うみたいだけど哺乳類はまずいみたいね」

 

「あ……」

 

りーさんの言ったことに大体のことを察した美紀。

 

「ゆきちゃんが…昔、連れてきてね……」

 

「迷い犬だったよ。どこから来たんだろうなぁあいつは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園生活部が始まってしばらくした頃、ゆきが部室の扉を開けて入ってきた。

ゆきはどこから拾ってきたのかは分からないが子犬を両手で抱き抱えていた

 

「ね、この子飼お?飼っていいでしょ」

 

ゆきは部室にいる全員に問いかけた。

子犬は尻尾を振っている。

 

「おいっその犬どっから!」

 

一番最初に反応したのはくるみだった。

くるみは椅子から勢いよく立ち上がり、ゆきに近づく。

ゆきはなにかされるんじゃないかと思い子犬をくるみから遠ざける。

 

「丈槍さん、ちょっと見せて」

 

その様子を見ていためぐねぇが椅子から立ち上がり、ゆきに子犬を見せるように言う。

 

「めぐねぇいじめない?」

 

「ええ。ふーん…そうねえ」

 

めぐねぇはゆきから子犬を受け取る。

子犬の口元を抑えて体を確認する

めぐねぇの後ろにはシャベルを構えるくるみ。

 

めぐねぇは子犬の首元をみる。

そこには、噛み傷のような跡が着いていた。

噛み傷の近くには首輪の跡のようなものもあった

 

「この子、飼い犬ね。首輪の跡があるわ」

 

めぐねぇはゆきに噛み傷ではなく首輪の跡があることを伝えた。

 

「……ってことは……」

 

「飼い主がいるわね」

 

「なーんだ」

 

ゆきはがっくりと肩を落とす

 

「飼い主が見つかるまで……ダメ?」

 

「……そうね、いいけど」

 

「やった!」

 

めぐねぇはゆきに飼い主が見つかるまで学校に犬を預けるのを許可した。

 

「じゃ、おまえの名前は…」

 

「だめよ。飼い犬なんだから勝手に名前つけたら」

 

「そっか……」

 

子犬に名前を付けようとするゆきを止めるめぐねぇ。

 

「じゃあこの子は先生が預かります」

 

「ずーるーいーよー」

 

「手続きがいるのよ」

 

「頭撫でていい?」

 

ゆきはめぐねぇに子犬の頭を撫でていいかを問いかける。

めぐねぇの後ろで不安に思う三人

 

「いいわよ、優しくね」

 

めぐねぇに許可をもらいそっと手を近づけるゆき。

その様子を見て息を呑む三人

 

ゆきの手が子犬の頭をそっと撫でる。

子犬はそれが嬉しかったのかわんっと吠えた。

 

特に何も起こらなかったことに一安心する三人

くるみはシャベルを降ろす。

 

 

 

 

 

あれから数日、めぐねぇは空き教室である作業を行っていた。

プリントの様なものの一部の文字をペンで塗りつぶす。

すると教室の奥の音に反応するめぐねぇ

その先には、鎖で繋がれた子犬がギシギシと鎖を噛み砕こうとしている。

その姿は数日前とは異なり、とても凶暴になっていた。

噛み傷から体にウイルスが満映して感染してしまったようだ

 

「無理だったか…ごめんね、ゆきさん」

 

 

 

 

 

 

「え、もう?」

 

「ええ、昨日の晩飼い主が来て」

 

「そうなんだ…」

 

子犬の飼い主が引き取りに来たとゆきに伝えるめぐねぇ

ゆきはどこか寂しそうだった。

 

「太郎丸、元気でいろよー」

 

「……なんだそりゃ」

 

「わたしがつけた名前!もういないから言ってもいいよね?ね?」

 

ゆきは子犬につけた名前を今なら言ってもいいかとめぐねぇに問いかける。

 

「……いい名前ね」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでその犬、どうしたんですか?」

 

ここまでの話をきいて疑問に思ったことを問いかける美紀。

 

「めぐねぇが遠くに捨ててきたって言ってた」

 

「…仕方ないですね」

 

「それで…終わりだったら良かったんだけど…ね」

 

しおりはまだ続きがあるような話し方で言った。

 

「まだ、あるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから更に数日たった頃、学園生活部の面々は朝食をたべていた。

するとゆきが立ち上がり、

 

「ねぇ、なんか音しない?」

 

「聞こえないぞ」

 

「静かに…ほら」

 

ゆき以外の四人は言われた通りに静かにする。

すると扉の奥からカリカリと音が聞こえた

 

「ね?」

 

「ちょっと見てくる」

 

「何かな?」

 

「なんだろね」

 

くるみは扉を少し開ける。

そこに居たのは数日前よりも感染が進んでいた子犬がいた。

その子犬の辺りには血溜まりがあった。

 

その姿を見て硬直するくるみ。

その後ろから悲しそうな顔をして子犬を見つめるめぐねぇ

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたんですね」

 

「帰巣本能…ってのも違うな。とにかく戻ってきたんだ」

 

「心が、あるってことですか」

 

するとくるみは美紀の言葉を否定するように言った

 

「いや、ただの記憶だろ」

 

「思い出だけが残ってて、気になるところに戻ってくるのよ」

 

「わかるんですか?」

 

「なんとなくね。この学校にこれだけ学生がいるのもそういうことなんじゃないかな」

 

「気になる場所、ですか」

 

美紀は暫し黙り込む。

するとふと思ったことを問いかける

 

「そういえば私を連れてきた時怖くありませんでした?」

 

「正直警戒はしたな。ゆきもおまえもヤバそうだったし」

 

「手錠だけ、つけさせてもらったわ」

 

「…私たちが……ああなったら始末してました?」

 

美紀は沈黙しながらも恐る恐る問いかける。

 

「わからないな」

 

「私ね、悩んだ時はめぐねぇならどうするかなって思うの」

 

「はい」

 

「でも、めぐねぇでもどうするかは分からないわ。その時になってみないとね」

 

「そうですか。そうですよね……めぐねぇって方会ってみたかったですね」

 

美紀はめぐねぇがどんな人なのかを知らない。

なので会ってみたかったと呟くと同時にどんな人だったのかを想像する。

 

「そうね。きっと喜んだと思うわ…」

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経った頃、美紀は部室にある書類棚。

美紀はそれを開け、何冊かの冊子を手に取る。

 

「これかな?」

 

冊子をパラパラとめくる。

そして気になった冊子を四冊机におく。

 

 

 

 

「めぐねぇは先のことはどう考えてたんでしょうか?」

 

「あの頃はみんないっぱいいっぱいだったからなぁ」

 

くるみはぼーっと昔のことを思い出しながら言う。

 

「ノートに書いてあるかも」

 

「ノート、見ないんですか?」

 

りーさんはノートの存在自体は知っていたらしい。

しかし中身までは知らなかった。

 

「見ようと思ったんだけど…なんとなく、ね」

 

「あぁ……そうですか。私が見ても?」

 

「お願いするわ」

 

「頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀は数時間前の会話を思い出しながら、一冊ずつ確認していく。

すると一冊の本に目がいく。

それは、図書室にて美紀が借りようとしていた本だった。

 

次に美紀はめぐねぇのものだと思われるノートを手に取る。

パラッと開くと一冊の冊子が落ちた。

美紀はそれを拾おうとする。そして冊子の表紙に書いてあったことに唖然とする。

 

「これ……」

 

 

職員用緊急避難マニュアルと書いてあった。

 

 

 

 



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第17話 もういちど

[感染対策は初期の封じ込めが重要であるが、それに失敗し、感染が爆発的に増加した、いわゆるパンデミック状態が引き起こされた場合______]

 

 

「何、これ」

 

美紀はじっとマニュアルを読む。

その内容に美紀は目を見開く

 

[対応できる資源、人員ともに限定_____]

 

[_____厳密な選別と隔離を基本方針とすること。]

 

淡々とマニュアルを読み進める美紀。

 

「どういうこと……」

 

「みーくん!」

 

すると美紀の肩をポンッと叩くゆき。

美紀はそれに驚き椅子から転げ落ちる

それを見て驚き慌てるゆき

 

「お、脅かさないでください」

 

美紀は咳払いをしてゆきに言う。

 

「ゴ、ゴメンネ」

 

「す、すいません。ちょっとびっくりしました」

 

「何、読んでたの?」

 

「…怖い本です」

 

美紀はふーっとため息をつきながら答える。

 

「こ、こわい本?」

 

「すごーく怖い本です。読みますか?」

 

怖い本だと聞き震えながら聞く。

美紀はそんなゆきに近寄り威圧をかける

 

「えんりょしとくね。じゃまたね!」

 

ゆきは耐えきれず部屋を後にする。

 

「はい……どうしよこれ」

 

美紀は再び椅子に座り、マニュアルを見つめる

すると扉がノックされた。

扉が開くとゆきがいた。

 

「どうしました?」

 

「あのね。なんか悩み事があったら相談してね」

 

「え?」

 

ゆきの言葉に目を見開くゆき。

 

「わたしじゃ頼りなかったらりーさんでもくるみちゃんでもしおりちゃんでもいいし、とにかくみんなで考えよ?」

 

「…そうします」

 

「う、うん。ごめんね変なこと言って。まったねー」

 

ゆきはそう言って部室を後にする。

 

「…まいっちゃうなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってなんだこれ」

 

「これが……めぐねぇの荷物の中に?」

 

「はい、本に挟まってました」

 

美紀はりーさんとくるみ、しおりを呼び出しマニュアルを見せる

 

「めぐねぇが……最初から知ってたってことか?そんなわけないだろ」

 

くるみは歯ぎしりをする。

そして美紀の胸倉を掴む

 

「くるみ…落ち着いて」

 

しおりはくるみを落ち着かせる。

 

「そういう可能性もありますが、低いと思います」

 

「根拠は?」

 

「表紙を見てください」

 

そう言って美紀はマニュアルを指さす。

 

《以下の場合のみ開封すること》

 

・校長およびその代理よりの指示があった時

 

・A-1警報の発令時

 

・外部よりの連絡が途絶し十日以上が経過した場合

 

 

 

 

「渡されて持ってたけど、内容までは知らなかった…」

 

「そんなところでしょうね」

 

「こんなことになって思い立って、開けてみたらってことか…」

 

くるみの顔が険しくなる。

その度に汗が滲み出る

 

「言ってくれればよかったのに」

 

ぽつりと呟くくるみ。

 

「落ち着いたら言うつもりだったのでは」

 

美紀はそうくるみに言う。

するとくるみは美紀の胸倉を再び掴み、壁にぶつける

 

「さっきからわかったみたいに…!」

 

くるみは耐えきれず美紀を睨みつける。

 

「……くるみ!」

 

しおりは今までにないぐらいの大きな声で叫ぶ

それをきいてはっと我に返るくるみ。

美紀から手を離した。

一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。

くるみはしおりの声がした方を見て唖然とした。

しおりは口元を両手で抑えながら目元に涙を浮かべる

そんなしおりの姿を見て自分が何をしたのか理解した。

しおりとくるみは互いに黙り込む。

 

そんな二人の横で話を戻すりーさん

 

「よく見せてくれたわね」

 

りーさんは首元を直している美紀に言う。

 

「正直迷ったんですけど……私も学園生活部の部員ですから」

 

「そっか」

 

「はい」

 

美紀の言葉に軽く返事をするくるみ。

しかしまだ表情が暗かった

 

「で、だけど…」

 

「ここを見てください」

 

美紀はマニュアルに記載されている地図に指さした。

 

「地下二階?非常避難区域?」

 

「これ、まだ行ってませんよね?」

 

「すごいじゃない。いい物ありそう!」

 

「はい」

 

美紀の言葉にぱあっと表情が明るくなるりーさん。

 

「あれ、どこから入るのかしらこれ?」

 

ふと疑問に思ったことを美紀に問いかけるりーさん

 

「ここです。シャッターありますけど…」

 

「一階だな。ひとっ走り行って見てくるよ」

 

くるみはシャッターがあることが分かり椅子から立ち上がる。

シャベルを背負う。

 

「一人で大丈夫?」

 

「あの、私も行きます」

 

くるみを心配するりーさんと美紀だが

 

「偵察だからな、一人のほうが楽だよ」

 

と言い同行を断るくるみ。

そして部室の扉に手を掛ける

 

「…さっきは悪かったな。ちょっと頭に血がのぼった…」

 

「いえ…あの…気をつけてくださいね」

 

「ちょっと見てくるだけだよ」

 

くるみが微笑みながら美紀にそう言う。

そして部室を後にした。

 

 

 

 

[くるみさん…あんなに急がなくても]

 

[めぐねぇのことが気になるのよ。どうして隠してたのかって]

 

[りーさんはどう思いますか?]

 

[そうね…なんかわかる気がする]

 

[私がめぐねぇだったら……責任感じちゃうから]

 

[責任ですか?]

 

[知らなかったとはいえ自分もそっち側の人間だったってことだから]

 

[そんなの…めぐねぇのせいじゃないじゃないですか…]

 

 

 

 

 

「もちろんそうよ。そうだけど、でもあとからこんなの知ったら…」

 

「ショックでしょうね」

 

「うん……」

 

りーさんと美紀は机に寄りかかりながら話す。

 

「でもねめぐねぇ、いつも明るくて……元気で……私たちが不安にならないようにって」

 

するとりーさんはぽろっと涙を流す。

 

「めぐねぇ苦しかったよね。そんなことない、めぐねぇは何も悪くないって……言ってあげたかった」

 

りーさんは目を擦りながらめぐねぇへの思いを美紀に話す。

美紀はりーさんの肩に手を乗せて、

 

「気持ちはきっと…伝わってると思います」

 

 

すると先程まで黙っていたしおりが部室を出ようとする。

その手には薙刀が。

 

「しおりさん…もしかして…」

 

「くるみを追います…」

 

そう言って扉に手を掛けるしおり。

 

「しおり先輩…」

 

「大丈夫…危なくなったらくるみと一緒にちゃんと帰ってくる」

 

「しおりさん…でも」

 

りーさんはしおりを止めようと手を掴みぎゅっと握る。

 

「それに…くるみに、謝りたいから」

 

「そんな…しおり先輩が謝ることなんて、悪いのは私なんです」

 

「さっきりーさんも言ったけど、見せてくれて…ありがとね」

 

しおりはそう言って部室を後にする。

そして扉をそっと閉めて深呼吸をして一階へ向う

 

 

 

 

 

 

 

 

一方くるみは『奴ら』を一体倒し更に奥へ進もうとする。

すると背後から名前を呼ばれ振り向くと気まずそうな顔をしていたしおりがいた

 

「なんでいるんだよ…りーさん達と待ってろよ」

 

くるみはしおりに戻るよう言い聞かすがしおりは首をフルフルさせる

 

「くるみが心配だから…一緒にいく」

 

「おまえいつからそんなに言うやつになったんだ」

 

くるみは苦笑いをしながらしおりに問いかける

 

「言いたいことがあったら言う…そう言ったのはくるみ」

 

そんな答えを聞き「やっぱかなわねーな」と笑いながら言う。

そしてすっと手を出して

 

「行くぞ!早く安全確認して持ってけるもん持ってかないとな」

 

しおりは微笑みながらくるみの手を握る。

 

 

 

 

 

 

しばらく沈黙が続きながらも一階へ向う二人

最初に話を振ったのはくるみだった

 

「さっきは悪かったな…」

 

「ううん…私もくるみと同じ気持ちだから」

 

「泣かせないって決めたのにな…」ボソッ

 

「何か言った?」

 

「なんでもねーよ!にしても久しぶりに聞いたなーしおりのあんなにでっかい声出すの。小学校以来かな」

 

誤魔化すように話を逸らすくるみ。

しおりはその話を聞き顔を赤らめる

 

「うー///からかわないでよ…」

 

「ははっ悪い悪い…っと着いたな」

 

そう言ってくるみは視線を正面に向ける。

そこには地図通りにシャッターがあった。机でシャッターが閉まらないようにしてあった。

くるみは懐中電灯を付けて中を覗く。

何も居ないことを確認して繋いでいるしおりの手を引っ張る。

中は真っ暗で懐中電灯を灯しながら進んでいく。

階段を降り、地下へ向う二人。降りた先は水が溜まっており、歩くとピチャッと音がする。

柱に隠れながらペンライトを奥へ投げるしおり。

すると奥からぴちゃぴちゃと音がした。

その音に気づいた二人は懐中電灯を音がした方へ向ける。

向けた先には足がありそこからどんどん上へ光を向け、ついに顔を映した。

くるみとしおりはその顔を見て目を見開き唖然とする。

しおりは声が出ず、くるみは持っていた懐中電灯を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっひるーおっひるごはーん」

 

ゆきは昼になり学園生活部の部室に入る。

そこに居たのはハンカチで目元を拭くりーさんと美紀だった。

 

「あれ、りーさんどうしたの?」

 

「ううんなんでもないの」

 

「そうです何でもありません」

 

「ふーん?」

 

りーさんと美紀の答えに少し疑問に思いながらも納得するゆき

 

「そうねお昼にしましょ」

 

「くるみちゃんとしおりちゃんは?」

 

ゆきは今この場にいない二人に着いて問いかける。

 

「くるみさんとしおり先輩は…」

 

美紀が応えようとすると部室の扉の向こうから音が聞こえた。

三人はそれに反応して扉の方を向く

 

りーさんが扉をそっと開けるとそこにいたのは、

息を切らしながらしおりを横抱きしていたくるみだった。

くるみに抱かれているしおりの表情は険しかった。

しおりの右腕には『奴ら』のものと思われる噛み傷があった

 

「ミスった……」

 

くるみが息を整えて最初に言った言葉はそれだった。

その言葉を聞いて目を見開く三人。

 

 

 

-私たちがああなったら始末してました?

 

 

わからないわ。その時になってみないとね-

 

 

 



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第18話 きずあと

 

くるみはしおりを横抱きして息を整える。

 

「ミスった…」

 

走ってきたのだろうかまだ息切れをしている

背負ってきたシャベルと薙刀は落ちていた。しおりの呼吸も荒かった。

 

「______ッ」

 

美紀はそんなしおりの姿を見て言葉が出ない。

隣にいるゆきを見ると全身が震え青ざめているゆきがいた。

 

「ゆき先輩救急箱、放送室に!」

 

「う、うん」

 

ゆきはペちっと頬を叩き救急箱を取りに走り出す。

 

「気をつけて」

 

「だいじょうぶ!」

 

ゆきは走りながら美紀に手を振る。

美紀はくるみ達の方を再び向く

くるみはしおりを横抱きしながら立ち上がり放送室へ歩き出す。

りーさんはくるみに付き添うように隣を歩く。

美紀は廊下に置かれたシャベルと薙刀を抱えて後を追う

 

「……んだ」

 

くるみは顔を伏せながらボソッと呟く。

りーさんは全て聞き取れずくるみに聞き返す

 

「めぐねぇだったんだ」

 

くるみの言葉に目を見開くりーさん

するとくるみは何があったのかを話す

 

 

 

 

 

 

 

そっとくるみとしおりの方へ歩き出すめぐねぇ

歩くたびにピチャピチャと小さく音がする

 

「ちくしょっめぐねぇ……こんなとこにいたのかよ」

 

くるみは柱に隠れながら制服をぎゅっと握る。

しおりはその隣で目を見開きながら口元を抑えていた。

 

「なんでだよっどうしてだよっ」

 

くるみはシャベルを構えながら走り出す。

めぐねぇの目の前まで来てシャベルを振るおうとするがその手が止まる。

くるみはめぐねぇを思い出しシャベルを振るえなかった。

 

「あ…」

 

めぐねぇはぐぐぐと鈍い音を出しながら左手をくるみに振り落とす。

それに気付いたしおりは柱から飛び出しくるみの腕を握り後ろへと下がらせる。

しおりはめぐねぇの攻撃がくるみに当たらないよう盾になりそれをモロに食らう。

 

「しおりっ!」

 

その姿をみたくるみは目を見開き、しおりの名前を叫ぶ。

 

 

 

 

放送室にたどり着きソファにしおりを寝かせるくるみ。

りーさんは救急箱をつかい軽い手当をする

しおりは先ほどよりも呼吸が荒くなっていた

 

くるみは壁に寄りかかりながら床に座る。

未だに険しい顔をするくるみはパンフレットをもう一度見直す

 

「何かすることあるかな」

 

ゆきはそわそわしながらりーさんに問いかける。

 

「そうね……特に…」

 

「お湯を沸かしてきてください」

 

りーさんが何も無いと言おうとするが美紀が変わりに答える。

それを聞きゆきは部屋を後にする

すると立ちくらみを起こし倒れそうになるりーさん

 

「大丈夫ですか?」

 

それを支える美紀。

するとパンフレットを投げ捨て立ち上がるくるみ。

 

「くるみ…どこに行くつもり?」

 

りーさんは自分の前を通り過ぎるくるみを見て問いかける。

 

「避難区画には薬があるって書いてあった。取ってくる」

 

「待ってください。私が行きます」

 

美紀はくるみを止めるように言った。

しかしくるみは首を振り「お前じゃ無理だ」と呟く。

 

「数が多かったら戻る…」

 

「しおりさんだってそう言って…ッ!」

 

くるみの言葉に反応して部室を出ていく時に言ったしおりの言葉と重なる。目元には涙を浮かべていた。

 

「くるみ先輩がシャベルを振るえなかったのはめぐねぇだったからですよね?」

 

扉の前で立ち止まるくるみ。

美紀の問いかけに頷く

 

「私なら……大丈夫です」

 

美紀の言葉を聞き納得するりーさん。

しかし未だに答えを出さないくるみ。するとガラッと扉を開ける

その姿を見てダメだと言っているように感じ目を伏せる美紀

 

「しおりの薙刀…持っていけ」

 

振り向かず美紀にそう言うくるみ。

その言葉を聞き立てかけてある薙刀を手に取る。

 

「先輩、お借りします」

 

そう言って部室を後にしようとする美紀

既にくるみはいなかった

後を追いかけようとすると、りーさんが呼び止める

 

「美紀さん?ごめんなさい。こんな時なのに……あなたがあれを見つけなかったらってそればっかり思って」

 

「大丈夫です。私もそう思ってますから」

 

りーさんにそう言って扉を締める美紀

くるみを追いかけようと走り出す。

ふと横を向くと通り過ぎる間際に掲示板に貼られた体育祭のビラを見て微笑みをもらす。

 

-気がつくとたくさんのものをもらっていた。楽しいこと、暖かいこと、希望-

 

「負けられないよね」

 

そう言って薙刀をぎゅっと握る。

すると先にはくるみがいた待っていたようだ

 

「…なぁちょっといいか」

 

「どうしたんですか先輩?」

 

先程よりは落ち着いている顔をしたくるみが美紀に言う

 

「なんで庇ったと思う…」

 

そう呟く。

美紀はしおりのことを言っているのだと思った。

美紀はくるみの顔を見て答える

 

「大切だからじゃないですか…しおり先輩にとってのくるみ先輩は」

 

その言葉を聞き目尻に涙を浮かべるくるみ。

目元を隠すように手で抑えて上を向く

しかし隠しきれず涙が零れる

 

「なんでだよっ…くそっ、あたしが…守るって…」

 

「あの…先輩」

 

「ちょっとだけ…昔の話をさせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

これはまだくるみもしおりも小学生だったとき

 

二人の家の近所にある公園。

そこに居たのは泣いている小さな女の子

その近くには同い年位の男の子が二人いた。

 

「ふぇ……返して……」

 

「へっやーだよ!」「取り返してみろよ!」

 

男の子が持っているのは星がついたブレスレットだった。

女の子は取り返そうとするが力及ばず

涙が溢れ出す、

 

「こーらーっ!しおりをいじめるなー!」

 

「げっ!?恵飛須沢だ!」「ちっ逃げるぞ!」

 

くるみが遠くから走ってきたことに気づきその場から逃げざる男の子達

去り際にブレスレットを投げ捨てる

 

「大丈夫か!何もされてないか!」

 

「うぅ……うん…」

 

くるみはしおりの背中をさすってあげる。

くるみが来たことに安心して目を擦るしおり

するとくるみは落ちていたブレスレットを拾いしおりの腕に付ける

 

「大丈夫だ。あたしがずっと守ってやる」

 

「うん…!」

 

その言葉を聞き笑顔になるしおり。

二人の腕には星が輝くブレスレットが揺れる

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんですね」

 

「あいつは覚えてないかもしれない…けどな、あたしはこの約束だけは守ってきた…けど、その約束を今日破っちまった…情けない」

 

「そんなことないです!」

 

するとくるみの言葉を否定するように叫ぶ美紀。

それに驚き美紀の方を向く

 

「先程も言いましたが、くるみ先輩を大切な人だと思ったから庇ったんです!しおり先輩を助けて謝ればいいじゃないですか…」

 

美紀の言葉に目を見開きながらも笑いをもらすくるみ

 

「ははっ…まさか後輩にここまで言われるとはな…」

 

「行きましょう先輩。薬を取ってしおり先輩を助けましょう!」

 

そう言って走り出す美紀

くるみもそれに続き走る

ゆく道を阻む『奴ら』が二体

 

「あたしが先に行く!止まらず走れ!」

 

そう言ってくるみは走る速度を上げてシャベルを振るう。

『奴ら』はその場に倒れ動かない

その間を走り過ぎる美紀

急ぎ階段を降り息を整える

 

「はぁ…はぁ…」

 

「もう他の『奴ら』はいなかったぞ」

 

美紀の後を追いかけてきたくるみ。

二人はシャッターの中を覗く

先程と変わらず真っ暗な地下を進む。

そして懐中電灯を向けた先には…めぐねぇがいた

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が地下へ向かっている間、りーさんはお湯でタオルを濡らしてしおりの汗を拭く。

ゆきは一度しょんぼりとした顔をするが

 

「もーしおりちゃん、タイミング悪いよね。今日の晩ご飯カレーだよカレー!早くよくならないとわたしがしおりちゃんの分も食べちゃうよー。また遠足いこうよ、今度はおべんと持ってさーあとバレンタインみんなでチョコ作ろ!家庭科室借りてさ!」

 

「だからね…早くよくなってねしおりちゃん」

 

笑顔でこれからのことを話し出すゆき。

りーさんはそんなゆきをみて微笑む

 

「ゆきちゃん、しおりさんはきっと良くなるわ。ここは私が見てるから、廊下を見てきてくれる?」

 

「らじゃ」

 

ゆきは敬礼をして放送室を後にする。

そんなゆきを見て微笑みながらも懐からおもちゃの手錠をとる。

しかしりーさんは付けようか戸惑っている様子だった。

 

息を荒らげて呼吸するしおりを見て。

 

 

 

 

 

 

 

ゆきは扉に寄りかかりながら目元を擦る。

 

「しおりちゃん……」

 

 

 

 



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第19話 せんせい

 

ゆきが出ていってしばらくたった頃、しおりの病状は更に悪化していた。呼吸をするのも辛そうにしていた。

汗が止まらずその度にタオルで拭き取るりーさん

しおりに掛けている布をペラっと捲ると右手右足に手錠が付いていた。

りーさんは傍にある椅子に腰を下ろし、こんなことしか出来ない自分を悔やむ。

 

 

 

 

 

 

 

くるみと美紀はめぐねぇに向き合う。

そして持っている武器を構えるがやはりめぐねぇを見ると顔が険しくなる二人。

 

するとめぐねぇはギギギと不気味な音を出して二人の方へと歩き出す

その度にビシャビシャと水が跳ね上がる。

 

「ここだと足場が悪いな…シャッターのとこまで戻るぞ!」

 

くるみは美紀の肩を掴みシャッターの所まで戻るよう言う。

そしてその場から離れるように走り出す二人。

その後を追いかけるように歩くめぐねぇ

 

シャッターの空いている隙間から滑り出し外にでる。

息を整えながらシャッターの隙間を覗く。

そこには二人を追いかけてきためぐねぇがシャッターに当たり進めなくなっていた。

無理に進もうとする度にガンガンと音がする。

すると美紀は立ち上がる

 

「美紀……」

 

美紀は後ろにいるくるみを見て頷きめぐねぇに視線を戻す。

 

「佐倉めぐみ先生、ですよね。はじめまして直樹美紀学園生活部の新入部員です。めぐねぇのことはみんなから聞きました。優しくていつもみんなを支えてたって、みんなを傷つけたくなかったんですよね。会ったら……心が折れてしまうかもって」

 

美紀はそっとシャッターに手を当てる。

 

「でも、今は私たちみんな元気です。りーさんはみんなのお姉さんで、いつも先のことを見ています。ゆき先輩はいつも元気でみんなの支えになっています。くるみ先輩は困った時に頼りになる頼もしい先輩です。」

 

自分のことをそんな風に思っていた美紀の言葉を聞き頬を赤らめ恥ずかしくなるくるみ。

 

「しおり先輩は……」

 

今のしおりのことを思うと言葉が止まる美紀。

 

「しおり先輩は、みんなのことをいつも優しく支えてくれる尊敬できる先輩です。めぐねぇがいなかったら私もここにいません」

 

するとシャッターの奥からガシャーンっと音がした。

しかし話を止めない美紀。

 

「私たち、もう大丈夫です。だから…」

 

するとシャッターの隙間から手で美紀の左足を掴むめぐねぇ

 

「美紀っ!」

 

美紀は一度は怯えるように目を見開くも深呼吸をする

そしてしおりから借りた薙刀をぎゅっと握る

 

「ゆっくり…休んでください」

 

と、優しく呟き薙刀をめぐねぇに突き刺す。

返り血を浴び薙刀の刃の部分は血で紅く染まる

美紀はよたよたとシャッターの中へ入っていく。

その姿を見て後をついて行くくるみは美紀に肩を貸し、めぐねぇの方を向く。

 

(めぐねぇ…大丈夫だよ。しおりはあたしが…みんなが支えていくから)

 

 

 

 

 

 

まだ学園生活部ができたばかりの頃、見回りの帰りに廊下を歩いているくるみ。

するとめぐねぇが学園生活部の部室前に寄りかかっていた。

 

「恵飛須沢さん、おかえりなさい」

 

「めぐねぇただいま。入らないの?」

 

くるみに気づき声をかけるめぐねぇ。

しかしその顔はどこか悲しそうだった

 

「さっきまでいたんだけど…ちょっと居ずらくてね」

 

「ん?今いるのはしおりだけだろ?」

 

「そのね…ちょっと前にしおりさんに聞いたの「何か相談したいことはない?」って…でも断られちゃった」

 

髪をいじりながら何があったのかを話し出すめぐねぇ。

それを聞いて疑問に思うくるみ。

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「うん…しおりさんって私たちと違って体育館にいて、1番危なかったと思うし…1番辛かったと思うの。目の前でお友達や部員の子達を何人も失ったと思うから…何か聞けないかなって」

 

その言葉を聞いて目を伏せるくるみ。

 

「私、これでも顧問だからね…相談してくれないかなって」

 

めぐねぇは「失敗しちゃった」と言いながら苦笑いをする。

するとくるみの方を向いて話す

 

「もし、恵飛須沢さんや他のみんなに話す時が来たら私の分までしっかり支えてあげてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くるみはめぐねぇを見て昔した約束を思い出す。

そしてくるみは美紀に肩を貸しながら奥へ進む

 

そこから更に地下へ進む道を見つけた二人は階段を下り、地下二階へとたどり着く。

他の『奴ら』が居ないことを確認して奥で薙刀を構えている美紀に合図を出すくるみ。

美紀はその合図を見てすっと薙刀を下ろしてくるみのいる方へ向う

 

懐中電灯をつけながら奥へ進み薬を探す。

すると懐中電灯をあてた先にひとつの箱があった。

その箱には『医薬品』と書かれていた。

箱を開けるといくつもの薬などが置いてあった

しかし時間がないことに気付き、必要な分だけを非常時袋に詰めて放送室へと走る二人。その顔はどこか嬉しそうだった。

 

戻ってきた二人を見つけたゆき

 

「おかえり」

 

と、手を振るが二人はゆきに軽く会釈をすると放送室へと向う。

美紀は思いっきり扉を開ける。

 

「二人共!良かった…」

 

それに気付いたりーさんは椅子から立ち上がり安心したような顔をする。美紀は、袋から注射器を出す。

そして、しおりに掛けられている布をめくる

しおりの状態は出ていった時よりも酷く悪化していてガタガタと震えながら暴れていた。

そんなしおりを見て下唇を噛むくるみ。

 

「手伝ってください」

 

美紀の声を聞き、くるみはしおりの体を抑え、りーさんは右腕を抑えて注射を打てるようにする。

そして注射を打つ美紀。するとしおりの動きが徐々にゆっくりになりそして、すっと大人しくなるしおり

 

「大丈夫なの?」

 

「鎮静剤と抗生物質と実験薬だそうです。脈拍も体温もあります、あとは…待つだけです」

 

「そっか……」

 

美紀の言葉を聞きほっと安心するように胸をなで下ろすりーさん。

くるみはぼそっと呟きながらしおりに再び布を掛けてしおりの右手を握りしめる

 

「頑張れよ…しおり」

 

その時、しおりの手がくるみの手を握り返すようにピクっと動いたがくるみはそれに気付かずそのままでいた。

 

 

 



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第20話 おはよう

薬を打ってしばらく経った頃、しおりの呼吸も徐々に落ち着いているが顔は未だに辛そうだった。

しおりの手を握っているくるみは欠伸をして目を擦る。

 

「先輩、少し寝てください。疲れてるでしょう?」

 

その姿をみた美紀はくるみに毛布を渡す。

しかしくるみは首を振り断る。

 

「ダメよくるみ。少しでも寝て、しおりさんは私たちが見てるから」

 

くるみはさすがに限界だと思い美紀から毛布を受け取りしおりから手をゆっくり離す。

 

「んじゃ、ちょっと仮眠とるな…」

 

と言って壁に背中を預けて毛布に包まる。

そして直ぐに規則正しい寝息が聞こえた

 

そして地下にいたのはめぐねぇだったことを伝える美紀

 

「そう、やっぱり…めぐねぇだったんだ」

 

「……はい……」

 

「めぐねぇは……どうだった?」

 

りーさんの問いかけに目を逸らす美紀

 

「どうって……どうもしないわよね。変なこと聞いちゃった」

 

「いえ……」

 

「ずいぶん探したのよね…見つからないわけだ」

 

りーさんの言葉に黙り込む。

 

「隠れなくてもよかったのにな」

 

下唇を噛み涙を流すりーさん

そんなりーさんを抱く美紀

りーさんは一度は驚くも美紀を見つめる

 

「……待ってたんだと思います」

 

「え?」

 

美紀の言葉を聞き疑問に思うりーさん

 

「その……いなくなった時、皆さんきっと元気なかったですよね」

 

「うん」

 

「だから落ち着いて元気出すのを待ってたんだと思います」

 

「そうなのかな……」

 

美紀の言葉を聞きながらちょっとずつ返事をするりーさん

そして問いかけるように美紀に言う

 

「私たちのこと待ってたのかな。忘れてなかったのかな……」

 

「そんなわけないです」

 

その言葉を聞き安心したのか嬉しかったのか、涙を再び流すりーさん。美紀はそんなりーさんをぎゅっと抱き寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくした頃、美紀は学園生活部の寝室にそっと入る。

寝ているゆきを見てクスッと笑いゆきを起こさないように布団に潜る

そしてりーさんと話したことを思い出す

 

 

 

 

「私とくるみは今日このまましおりさんの傍に付くわ。ゆきちゃんのことは、みきさんお願いね?」

 

「分かりました。何かあったら呼んでください…りーさんもちゃんと休んでくださいね」

 

「えぇ大丈夫よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん………っ」

 

くるみはふと目を覚ます。

目を擦り窓から外を見ると、仮眠をとると言った時よりも真っ暗だった。毛布をたたみ、立ち上がる。

しおりの寝ているソファの側まで行き様子をうかがう。

顔を覗くと汗をかいていることに気付きタオルで拭き取る

薬が聞いているのか少しずつ寝息が聞こえ息も荒くないことに一安心をするくるみ。

手を握ろうとするとカシャンと手錠が動く。

このままだとりーさんを起こしてしまうと思い、りーさんが寝ている机の奥に手を入れて鍵をとる。

りーさんに自分の使っていた毛布をかける

その鍵を使い手足の手錠を外す

しおりの右手を握りながら寄り添うくるみ

 

(目が覚めたら…ちゃんと謝ろう…)

 

くるみはそのまま目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から日が差しその光で目を覚ますくるみ。

ふと目を覚ますとある違和感を覚えた

自分がソファで寝ていたのだった

そして、頭を乗せているところが毛布とは違う柔らかさがあった。

そして頭を撫でられていることに気付き上を見上げると、

優しく微笑みながらくるみの頭を撫でるしおりがいた

くるみは目を見開きバッと起き上がる。

 

「…おはよ。」

 

いつも通りに朝の挨拶をするしおり。

しかしくるみは言葉がでず固まったままだった

 

「まだりーさん寝てるから静かにね…」

 

と言い口元に人差し指を近づけるしおり

そして確実にしおりだと思ったくるみは涙が溢れてくる。

そして涙を堪えられなくなりしおりに抱きつくくるみ。

 

「…っ…っ!しおり…しおりっ!」

 

「うん…ごめんね。」

 

くるみを受け止めるように抱き寄せて背中をさするしおり。

しおりの制服のシャツを握りしめながらしおりの名前を何度も呼ぶくるみ。

 

するとガタッと音がした。

音がした方を向くと、椅子から立ち上がって唖然としているりーさん

 

「しおりさん……よかったっ」

 

しおりが目を覚ましたことに安心するかのように言うりーさん。

目元から涙が流れるもしおりに笑顔を向ける。

 

するとガラッと放送室の扉が開く。

しおりとりーさんは扉の方へ目を向けると走ってきたのか顔がほんのり赤くなり息を整えながらしおりをみるゆきがいた。

 

「しおりちゃんっ!……やふぅっ!」

 

ゆきはくるみとは反対の右側からしおりに抱きつく。

それを優しく受け止めるしおり。

ゆきの後を追いかけてきた美紀も放送室にたどり着き、今の状況を見て呆れた顔をしながらもクスッと笑うも全員を見つめながら

 

「おはようございます」

 

と言う。

それを聞いた四人は

 

『おはよう!』

 

と答える。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第21話 いつか

 

みんな大丈夫かな______

 

ゆきさん、くるみさん、ゆうりさん、しおりさん……先生悪いことしたよね……

 

あぁ……

 

 

 

 

 

 

 

「緊急避難マニュアル…ですか?」

 

「うん。確認してくれる?」

 

これはまだパンデミック化が起こるずっと前、めぐねぇは校長からあるパンフレットを受け取る。

確認するよう言われ包んでいる袋をめくろうとする。

 

「あ、それ破っちゃダメ」

 

「え?」

 

それを止めるように言う校長

 

「ほらここ、ここ」

 

と言って開封する条件が書かれた表紙を指差しとんとん軽く叩く

 

「あ、すいません」

 

「あるってのだけ確認してくれればいいから」

 

「あ、はい。えっと、これ何なんですかね」

 

めぐねぇはパンフレットを指さして校長に問いかける。

 

「まぁ規則なんでねーみんなにお願いしてるんですよ。ごめんね」

 

「あ、いえいえ」

 

「なんかねーほらうち外資系だからその関係らしくって、向こうって契約にうるさいでしょ」

 

「はーそういうもんなんですね」

 

「そそ」

 

と軽く言う校長。

めぐねぇが持っているパンフレットをひょいっと取り上げる。

 

「じゃ、ここに入れとくから。非常事態になったら取りに来て。」

 

と言いながら奥にある書類だなの中の隙間にパンフレットを挟む

 

「わかりました。非常事態ですねー」

 

「そ、非常事態」

 

校長は「ははは」と笑いながら書類棚を閉める。

 

 

 

 

 

 

 

ーどうしてあの時私はー

 

めぐねぇは職員室にある書類棚を勢いよく開ける。

あの日校長と話したことを思い出し、棚からパンフレットを見つける

 

「非常事態……だよね」

 

と、自分に言い聞かせながらパンフレットを見つけ取り出そうとする

 

「めぐねぇなんかあった?」

 

後ろから聞こえたくるみの声に驚きパンフレットを隠すようにくるみの声がした方を向く。

そこに居たのはくるみだけではなくしおりもいた。

 

-ちゃんと確かめなかったのだろう_____-

 

「こ、こっちは何もないわよ。それとめぐねぇじゃないでしょ」

 

「はーい、佐倉先生」

 

くるみはめぐねぇの行動を不思議そうに見ていたが追求するようなことはしなかった。

 

「期末の問題とかないかな!」

 

くるみの後ろからひょこっと現れたゆきはどこか楽しそうにしていた

 

「それを先生の前で言うかなー」

 

りーさんはそう言ってゆきの頬を引っ張る。

 

「ここの復旧は後回しでいいと思うわ」

 

「はい。わかりました」

 

-ただの避難指示だ、関係ないはずだ、そう願った。そうでないという確信もあった-

 

 

 

めぐねぇはトイレの個室へ入り、職員室から取ってきたパンフレットを読み上げる。

 

《感染率が高いものは致死率が低く、致死率が低くいものは感染率が高い》

 

《研究途中の製品が漏洩した場合は、この限りではない》

 

めぐねぇは息を呑む。

書いてある事を知りくしゃっとマニュアルを握る。

 

 

-知らなかった、知らなかった、関係ない、私のせいじゃない_______違う。そうじゃない、あの子たちを巻き込んだのは私たちだ、私たち大人だ。誰かが私がちゃんとこれを見てれば、もう大人は誰もいない。私だけ、だから全部私 の せ い だ-

 

「めぐねぇ!大丈夫?お腹壊した?」

 

「平気今、行くわ」

 

ゆきがめぐねぇを心配してきたゆきの声を聞きはっとする

大丈夫だと言って個室から出ていく。

 

 

 

 

 

 

「よし、今のうち」

 

くるみが作り途中のバリケードの上から指示をだす。

机を持っためぐねぇとりーさんがバリケードの上へ運ぶ

 

「だいぶ進んだわね」

 

「もう少しで三階は完全に確保できます」

 

「そしたら二階だな」

 

バリケードの上に座っているくるみが言う。

 

「脱出路の確保もしたいけど…一階はまだ遠いわね」

 

「ええ。一階はまだしばらくかかりそうね」

 

 

-「地下一、地下二階を本校における非常避難区域とする」今、無理に一階を目指すのも危険だ。いつか一階に着いたらこの話をしよう。

その時までに話せるようになろう-

 

 

-ゆきさん……くるみさん……ゆうりさん……しおりさん……おなか……すい……あ……け……て……-

 

めぐねぇは他の『奴ら』と共にゆき達がいる部屋の扉をガリッガリッと爪で研ぐ。

 

-せんせい……みんな……すき……だからどうして……あけて……くれないの-

 

「めぐねぇ!」

 

ゆきの声にはっと我にかえる。

 

-ち が う。ちがうちがうここじゃだめだ。おなかすいた……けどおなかすいた……から-

 

めぐねぇは他の『奴ら』とは反対の方向へと歩き出す。

そして地下室にたどり着いた。

 

 

-開いてる、よかったここなら……ゆきさん、くるみさん、ゆうりさん、しおりさん……ごめんね……みんな、せんせい……ここまで……だから……また……あえるかな……-

 

 

 

 

 

 

屋上の畑に刺さっている十字架に向かい手を合わせる四人。

 

「遅くなってごめんなめぐねぇ」

 

「見守っていてください」

 

するとゆきが屋上の扉から入ってきた。

 

「おー…」

 

みんなを呼ぼうとするが邪魔しては行けないと思い口を抑える

ゆきに気付いた美紀がゆきを呼ぶように手招きをする。

そして美紀の隣にしゃがみ一緒に手を合わせる

 

(もう、めぐねぇじゃないでしょ)

 

めぐねぇがそんなことを言った気がした。

太陽の光で十字架が光り輝いていた

 

 



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第22話 しょうらい

学園生活部の寝室にてしおりはハサミ片手に鏡を見つめていた。

後ろ髪を切ろうとするが上手く切れずにいた。

すると扉が開く。外で待っていたくるみが入ってきた。

 

「なにしてんだ?」

 

「髪を切ろうとして…時間かかりそうだから先に行っててもいいよ」

 

と言い再び鏡を見るしおり。

そんなしおりを見てくるみは、シャベルを置いてしおりの手からハサミをとる。

しおりはそれに驚きながらもそのままでいる。

 

「どこまで切るんだ?」

 

くるみはしおりの後ろに座り左手でしおりの髪を触る。

 

「えっと…肩より少し下。切ってくれるの?」

 

と、くるみに問いかける。

しかしくるみは「ん…」と軽く答えてしおりの髪を切り始める。

しおりは少し気まづそうな顔をしながらじっと座る。

 

「別にもうどこも怪我してないから…そんなに心配しなくても」

 

「それでもまだ病み上がりだろ?しばらくは一人で行動すんなよ」

 

「くるみの過保護…」

 

しおりはプクッと頬を膨らましてくるみに言う

 

「なんとでも言え言え。にしても珍しいな、髪を切るなんて小学校の時が最後じゃないか?」

 

「そうかもね。ずっと伸ばしてたけど…くるみみたいに結ぶわけでもないから邪魔かなって」

 

「ふーん…これくらいでどうだ?」

 

と言いくるみは鏡に後ろ髪を写して、しおりに見えるようにする

 

「うん。あんまり短くしたくもないからね……どう?」

 

しおりは話しながら袋をゴソゴソ漁り、あるものを頭に付ける。

白いヘアバンドを付けていた。よく見ると服装も変わっていた。

前まで着ていたパーカーはボロボロになってしまった為しおりが遠足に行った時に買ったものだった。

 

「なんか…明るくなったよな」

 

「そうかな?さっみんな待たせてるし行こ!」

 

しおりは薙刀が入った袋を背負い部屋を後にする。

その姿をみたくるみは

 

(変に明るくなって…なんか隠してんじゃないよな…)

 

いつもとは違うしおりを見て不安に思った。

 

「あっそうだ…パーカー似合ってるよ!」

 

しおりがひょこっと顔を出して言い忘れていたことをくるみに伝える

そういった後また先に部室へ向う

 

(考えすぎか…)

 

そう自分の中で納得してしおりの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室へ入る二人。

 

「あら二人ともおはよう。しおりさん、何かあったらちゃんと言ってね」

 

「りーさんも心配しすぎですよ……あの、色々ありがとうございました。美紀ちゃんも薬ありがとう」

 

「いいえ。私は大したことはしてないわ。頑張ってくれたのは美紀さんよ」

 

りーさんにそう言われ急に話を振られたことに驚き読んでいた本から目を離しりーさんの方を向く。

 

「いえ…私は何も…」

 

そう言って美紀は本で顔を隠す。

 

「すっごーい、くるみちゃんアクション俳優になれるよ」

 

ゆきのそんな声を聞きそちらの方を向くと目をキラキラ輝かせるゆきと、それを聞いて嬉しそうに笑うくるみがいた

 

「うん、くるみちゃんの将来は決まったね!」

 

「いやいやいやならんから」

 

「じゃあ何になるの?」

 

ゆきの問いかけに少し考えるくるみ。

 

「そりゃー…可愛いお嫁さん……とか」

 

ぽっと顔を赤らめながら小さく呟くくるみ。

するとふと後ろを振り向くと、じーっとくるみを見つめるしおりがいた。

しばらく沈黙が続くも

 

「希望を持つのはいいことだと思うよ」

 

「そ、そうか」

 

しかしそのすぐあとにふふっと声が聞こえる。

よく見るとしおりが笑うのを堪えていた。

 

「おいしおりー!なんで笑うんだよっお前昔は笑わないで聞いてただろー」

 

しおりの肩を掴みながらしおりを揺らすくるみ。

 

「ごめんごめん、おかしいんじゃなくて今でもそうなんだなーって思ってただけだよ!」

 

揺らされながらくるみに謝罪をするしおり。

それを聞いていたゆきは

 

「そうだよ!確かにくるみちゃんは筋肉質で男前で無鉄砲だけど…」

 

「そーゆーことを言うのはこの口かー」

 

くるみはしおりから手を離し、ゆきの頬を引っ張る

 

「いたたた、だからわたしじゃなくてー」

 

「はいはい、そのへんでねー出かけるわよ」

 

「はーい、どこに?」

 

頬が赤く腫れているゆきがりーさんに問いかける。

 

「今日は倉庫の整理よ」

 

「倉庫?」

 

「地下一階の倉庫。広いぞー」

 

くるみは下を指さして言う。

それを聞いたゆきは「大変そう」と呟く。

 

「ちゃんとやったら備品にしていいって」

 

しかしりーさんの言葉にぴくっと反応してやる気に満ち溢れた顔で

 

「やるっ!ねっみーくん」

 

「現金ですね」

 

そう言うゆきだが、美紀はそんなゆきを見て呆れた顔をする

 

「ちがうよー」

 

「どこがですか?」

 

「先輩として後輩に残すものは多いほうがいいからねっ」

 

ゆきの言葉を聞き頬を赤らめる美紀

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

そして顔を隠すようにそっぽを向く。

 

「ひーどーいー」

 

「ひどくないです」

 

その会話を見ていたりーさんは昨日、ゆき以外の四人で話したことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宝の山?」

 

「はい。あの時は急いでたから救急箱しか持ち出せませんでしたが…」

 

「他にもいっぱいコンテナがあったな」

 

しおりの問いかけに、地下二階をみた美紀とくるみが答える。

 

「最初から準備してたってこと…」

 

「…怖いわね」

 

「手がかりもあるかもしれません」

 

しおりとりーさんの言葉の次に美紀が言う。

 

「こんな事態を作った人がいるなら、そこに続く手がかりです」

 

「確かにそうだね」

 

美紀の言葉に納得するようにしおりが言う。

そんなしおりを見て心配そうにしおりを見つめるくるみ。

すると顔をしおりに近づけ、

 

「無茶はだめだからな」

 

「んー」

 

くるみの言葉を聞きそっぽを向くしおり

するとさらに顔を近づけ

 

「分かってんのか?」

 

「わかったわかった」

 

「んじゃあたしと美紀が見てくるよ」

 

「そうですね」

 

くるみの言葉に納得するように答える美紀

 

「ううん。みんなで行こうよ、ゆきちゃんも」

 

「何があるかわからない。ここは慎重にいくぞ」

 

「うん、いつ何が起こるかわからない。だからさ、やれるうちに色々やろう」

 

笑顔でそう言うしおり。

くるみはそんなしおりの顔を見て少し顔を赤くしてはぁっとため息をつく。

 

「私も…そう思います。余裕があるうちに動かないと…後悔します」

 

美紀はショッピングモールで起こった出来事を思い出しパンフレットの上でぐっと手を握る。

 

「わかったわ。でもくれぐれも気をつけてね」

 

みんなの話を聞いていたりーさんが三人に注意するように言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ授業やってるクラスもあるから静かにね」

 

「はーい」

 

そしていま地下に続く道へ行くためのシャッターへたどり着いた。

りーさんはゆきに軽く注意をする。

くるみが最初に入り、次にしおりが入る。

しおりが入るのを手を繋いで支えるくるみ。

そして空いている片手で懐中電灯を付けるしおり

その後に続くように入っていく三人

 

「暗いねー電気ないの?」

 

「どうかしら」

 

ゆきが入って思ったことを口にするゆき。

 

「ああった。ぱちっとなー」

 

ゆきの言葉に驚くくるみ。

するとゆきの声と同時に電気がつき明るくなる

 

「電気、来てたんですね」

 

と美紀は呟く。

 

「なにがあるかなー」

 

と言い先に進み出すゆき。

それを追いかけるりーさんと美紀

しかしくるみとしおりだけはその場に残った

いや、進まなかった

 

「どうしたのくるみ…行かないの?」

 

「いや…こうやって考えると結構ミスしてたんだなって」

 

「そうだね…でも反省の前に地下の整理をしないとね」

 

と言いくるみを引っ張るように歩き出すしおり。

そんなしおりをみて笑いながらしおりの隣にたどり着き歩くくるみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下二階に到着して最初に見えたのは大量のコンテナだった。

 

「うえーこれ全部?」

 

と、想像してた以上に沢山あるコンテナに唖然とするゆき。

 

「後輩のためでしょ?」

 

「そうだね頑張るよー!」

 

りーさんの言葉を聞きやる気が出るゆき

ゆきは隣にいる美紀をきりっと見つめて言った

 

「頑張ろうね!」

 

ゆきは改めて美紀にそう言う。

 

「そうですね」

 

 

 

そして各々がコンテナの整理をはじめる。

しおりは少し奥を進んでいく。その先にあったのは血液だった。

床にこべりついていることから最近のものではないと推測する。

先に進むと一つの扉があった。

しおりはそっと重い扉を開く。隙間から覗くと″ある人物″が首をつっていた。

それをみたしおりは目を見開き急いで扉を閉める。

するとしゃがんで目をぎゅっと瞑って耳を手で塞ぐ。

 

 

しばらくそのままでいると音に気付いたくるみがしおりのいる方へ歩いてきた。

 

「なんか音したけどだいじょ_____っ!しおりどうした!」

 

しゃがみこむしおりを見て急いでしおりに寄るくるみ。

しおりは片手で震えながら扉を指差す。

くるみはそれに気付き扉を開け、しおりのみた光景を目のあたりにする。さすがのしおりも首吊りの光景を見るのは辛かったのだろうと思い、しおりを抱き寄せる。

くるみのパーカーをぎゅっと握るしおり

 

「いくじなし」

 

ぼそっと小さく呟くしおりだがくるみには聞こえていた。

 

 

「み、みんなこっち」

 

慌てた声でみんなを呼ぶゆきの声が聞こえた。

するとしおりはすくっと立ち上がる。

 

「大丈夫か?」

 

と、しおりを心配するように問いかけるくるみ。

しおりは何も言わなかったがこくっと頷いた

 

ゆきたちに合流した二人。

どこか暗い顔をするしおりに気付いた美紀はくるみに視線を移す

美紀が見ていることに気付き口元に人差し指を近づける

「みんなに言うなよ」と言っているかのように感じた美紀はとりあえず頷いておいた。

 

全員は[冷蔵室]と書かれた扉を見つめ息を呑む。

 

「どどど、どうしよ」

 

「まぁ待て落ち着こう」

 

オロオロと慌て出すゆきを見て落ち着くよう言うくるみ。

 

「中身があるとは限らないし」

 

「腐ってるかも」

 

全員が息を呑む中、しおりがぐっとノブを握りしめそっと開ける。

その隙間から徐々に見えてくる中身に目を輝かせる五人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いっただっきまーす』

 

冷蔵室から取ってきた肉を焼き昼食はステーキになった。

全員が元気よく手を合わせ肉に食いつく。

 

「うっめー!」

 

くるみが美味しさに感動していると隣で食べていたゆきが完食していた。

 

「っておい。もっと味わって食え!ほれみきを見てみろ」

 

と言い前に座っている美紀を指差す。

美紀はナイフとフォークを上手に使い小さく切った肉を口に入れる

 

「おいしい……」

 

肉の美味さに感動していた。

 

「ああやって食べるんだ」

 

「おお…!」

 

「本当に美味しいわね」

 

ゆきはしおりを見るとあまり手が進んでないことに気づく。

 

「しおりちゃんお肉嫌い?」

 

「えっどうして?」

 

「だって全然食べてないよ…」

 

と言い全員がしおりの方を見ると、米も肉も全く減っていなかった。

 

「もうお腹いっぱいで…」

 

「そうね、まだ病み上がりなんだし無理しなくていいわよ」

 

しおりの言葉に納得するようにりーさんが言う。

 

「じゃあ半分私が貰うよ。しおりちゃんもちょっとは食べて元気出そ!」

 

と、ゆきなりの気遣いにしおりは微笑んだ。

しかしくるみと美紀はしおりが何かを隠しているような気がしてどこか不安になっていたが追求することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったねー」

 

「そうですね」「だなー」

 

ゆきは満足したようにお腹をポンっと叩く。

 

「でも、こうやってみんなで楽しいのももうすぐ終わりなんだねぇ」

 

「ちょっとそれ、どういう意味ですか」

 

ゆきの言葉が理解出来ず問いかける美紀。

 

「え?ほらわたしたち卒業するし」

 

「あぁそうね」

 

「卒業…ですか」

 

「ねぇねぇみんな卒業したらどうするの?」

 

と、みんなに問いかける。

 

「卒業なぁ」「そうねぇちゃんと考えないといけないわね」

 

ゆきの問いかけに応えようとするが悩み出すりーさんとくるみ。

 

「…そうですね…でも」

 

美紀の言葉を聞き四人は美紀に視線を移す。

 

「もう少し先でも……いいと思います」

 

 

 

 

 

 

 





しおりのプロフィールちょっと変わった部分を書いておきます。
まぁ髪型しかないですね。

イメージとしては鬼斬のサクラですね。
てかほぼサクラですw

気になる人は調べてみてください。


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第23話 これから

 

とある実験室のような場所。

全身隠すような服とガスマスクを付けている人物が数名

 

[巡回発見物]と書かれた箱をスプレーで消毒し箱を開ける

中には、携帯や折れたナイフ、財布などが入っていた。

その場にいた人物が目に着いたのは、

 

いつぞやにゆき達が書いた手紙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の学園生活部。

くるみ、ゆき、美紀はパソコンに目を向ける。

すると『ジジッ』と音がした

 

「音してるよ!なんかカリカリ言ってる」

 

「落ち着けって大丈夫だから」

 

「ちゃんと動くみたいですね」

 

「動いてるの?すっごい!」

 

パソコンが動くことに興奮するゆき。

落ち着くようくるみが言うが美紀の一言でさらに盛り上がる。

 

「ねねっあれは?ほら?基本無料のやつ」

 

「スマホじゃねぇよ!あと、ゲームかよ!」

 

「ソリティアならあるんじゃないですか?」

 

「わーいやるやる」

 

ゆきにとってのパソコンはゲーム機だと思っているらしい。

しばらくそんな会話をしているとパソコンが起動した。

 

「はいはいあとでな」

 

するとくるみはとあるディスクをパソコンに入れる。

 

「とりあえずこいつからだ」

 

と言い見せたのは[サバイバル百科事典]と書いてあるパッケージだった。

パソコンが『ブゥン』と音がし、ディスクを読み込む。

すると英語で書かれた文字が映し出される

 

「えーと、うぃきぺでぃあ?」

 

「……ペディアしか合ってません」

 

「え?え?」

 

読めずに首を傾げるゆきに呆れながら解説する美紀

 

「百科事典がエンサイクロペディアです。ウィキペディアとは共同編集型サイトを指すウィキとの合成語で……」

 

美紀が淡々と話していくがゆきは全く理解が追いつかないでいた。

 

「で、これ何するの?どうすると勝ち?」

 

「だからゲームじゃねぇって」

 

「やだなぁそれくらいわかってるよ。冗談が通じないんだから」

 

と言いゆきはぷぷーっと笑い出す。

いつものくるみならこの辺りで怒っているだろう

 

「ゆき先輩は置いといて先へ行きましょう」

 

「そうだな。えーと」

 

美紀の言葉に同意してゆきを放っておいてパソコンを動かし始める

画面に映し出された『項目』の部分をクリックするといくつかの内容が出てくる。

 

「色々な辞典が入ってるな。家庭の医学に薬辞典、応急手当心得、野草時点に動物辞典」

 

「すごいですね。これがあれば……」

 

「あぁ百人力だな」

 

「まさしく人類の叡智の結晶ですね」

 

様々な辞典を見て感心するくるみと美紀。

そんな二人を見てワナワナしながらゆきは

 

「え、遠足!」

 

「ん?」

 

「その辞典持って遠足行ったらいいんじゃないかな!」

 

「お、そうだな」

 

二人に辞典を持って遠足へ行くことを提案する。

 

「電源が不安ですから、ノートに写して行きましょう」

 

「うん!第二次学園生活部遠足!」

 

遠足の話で盛り上がっているとダンッと音がした。

三人の見る先にいるのは、

 

「……の前に、やることがあるわよね♡」

 

笑顔で教科書や参考書をゆきとくるみに見せるりーさん

 

『は、はいぃ』

 

 

 

 

 

 

 

空き教室にて勉強をするゆきとくるみ。

二人に付き添うようにりーさんと美紀が近くに椅子を置きそこに座る。

その近くでしおりはパソコンをいじりながら先程の辞典をノートに写している。ゆきとくるみは勉強で忙しいということでしおりが代わりに任されたと言うことだった。

 

「はふー」

 

問題に一区切り着いたところでぐでーっと机に伏せるゆき。

 

「もうちょっとですよ″ゆき先輩″」

 

「そうだね!頑張る!」

 

美紀に先輩と言われやる気が出てきたゆき。

 

「じゃあ次の因数分解できるかな?」

 

「ほいさ!」

 

と言いカリカリと問題を解いていくが徐々に進みが悪くなりついには寝そべってうじうじし始めた。

 

「ねぇこういう勉強って本当に役に立つの?一生使わない気がする……」

 

急にマイナスなことを言い始めるかゆきになんて返せばいいのか分からなくなる美紀。

美紀は隣にいるしおりの方を向く。

その視線に気付きそちらを向くとなんとなく理解したらしく、書いている手を止めてゆきの方を向き、

 

「ゆきちゃん、この辞典もね勉強した人が作ったんだよ」

 

パソコンをゆきに見せながら勉強させようと試みるが、

 

「あれは役に立つけどさーでもこの数学が役に立つとこが見えないっ」

 

「ずっと勉強してれば見えてくるよ」

 

「そーゆーものなんかなー」

 

「基礎練みたいなもんだろ?」

 

話を隣から聞いていたくるみが付け足すように言った。

 

「きそれん?」

 

「体育の授業で走り込みやるだろ?別に将来スポーツ選手にならなくても体鍛えておくと役に立つだろ。それと同じ」

 

「頭使う練習ってことかーなるほどなーさっすが脳筋だね!」

 

「誰が脳筋だ!」

 

と言いゆきの机を足で蹴るくるみ。

 

「ゆきちゃん進学するんでしょ?入試は大変よ」

 

「さ、最近はやっぱ就職がいいかなーって」

 

「就職試験もあるわよ」

 

「就職氷河期大変らしいですね」

 

「進学と就職かぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょっと手がかりがあるかと思ったんだけどな」

 

「手がかり?」

 

「なんつーか組織?この薬とか準備してたやつらのさ」

 

「そうねぇ」

 

地下二階を整理し終えたあと、昼食を食べ終えたゆきはしおりを連れて午後の授業を受けに行った。

ゆきはしおりに任せて三人はもう一度パンフレットを見る。

 

「避難パンフの巻末に連絡先ありましたよ」

 

と言いパンフレットを最後の方までめくり、連絡先が書かれたページを指さす美紀。

 

「ランダル・コーポレーションってのが怪しいなぁ」

 

「この辺の地区開発の大元だった気がします。この前のモールとかアイオスグループとかも傘下だったはずです」

 

「あ、聞いたことあるな。悪そうじゃん」

 

連絡先の一部に書かれた名前に怪しさを感じる美紀とくるみ。

 

「そうですね。ネットがあれば調べられるんですけど」

 

「連絡先、大学もあるのね。ここみたいに誰か集まってるかも」

 

「そっちはそっちで気になるな」

 

美紀は二人の会話を聞いているとふとあることを呟く。

 

「進学と就職」

 

その言葉に反応するように二人が美紀の方を向く。

 

「あ、選択肢がそんな感じだなっておもって」

 

「言われてみればそうねぇ。私は進学かな」

 

「んー就職がいいな。みきは?」

 

「悩ましいですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわったー!」

 

「はい。お疲れさま」

 

りーさんに言われた課題を終わらせて腕を伸ばす。

 

「りーさんそれ何?」

 

ゆきはふとりーさんが持っているあるものに目がいく。

 

「これは…ラジオよ」

 

「あ、ラジオってスマホじゃなくても聞けたんだ」

 

「先輩、それはいくらなんでも…」

 

ゆきの言葉に呆れる美紀。

 

「物理でやっただろ電波だよ電波」

 

「原理が単純だから停電だったりネットが落ちたりしても聞けるのよ」

 

「ふーん便利なんだね。で、なんか聞こえる?」

 

「聞こえないわね。壊れてるのかも」

 

りーさんの持っているラジオはザーッと言う音しか聞こえなかった。

 

「あ、そうだ。うちでラジオ放送ってできないかな?」

 

「話が飛ぶなおい」

 

「だって原理簡単なんでしょ?工夫すればできるんじゃない?」

 

「……機材があれば意外とできるかもしれませんね。放送室の設備とか」

 

ゆきの言葉を聞き考える美紀。

 

「さっすがみーくん頼りになる」

 

「ま、まだわかりませんよ」

 

「で、何を放送するの?」

 

りーさんの問いかけにあたりがシーンっとする。

 

「え……音楽…とか…?」

 

「だから楽器できるやついねえだろ」

 

くるみにそう言われ盲点をつかれたゆきはうるうるした瞳をして美紀を見つめるがさすがの美紀も楽器は引けずフルフルと首を振る

 

「と、とにかく、みんなで歌えばいいよ!」

 

ゆきは椅子から立ち上がり大きな声で言うが、

 

「あの、研究発表とかどうでしょう?」

 

「それだ!ほら、もうすぐ学園祭だし!!」

 

「えっと、そ、そうですね」

 

美紀の提案に賛同し、それに付け足すように美紀に近づきながら言う

 

「模造紙を張るだけとかもう古い!電波で世界中に発信だよ!」

 

ゆきはガッツポーズをして言う。

 

「どんだけ強い電波だよ!」

 

「ご近所中に発信だよ!」

 

「現実的な線ではありますね」

 

「いいじゃない、やってみましょ」

 

あーだこーだ話て全員が納得したところで

 

「めぐねぇに聞いてくるね」

 

と言い教室をあとにするゆき。

 

「確かに放送はいいアイデアだな。」

 

「近くで受信した人が来てくれるかもしれません」

 

「そうね。こっちから行くことばかり考えてたけど、来てもらうのもありよね」

 

ゆきの提案に賛同するように言う三人。

 

「屋上菜園とかも目印になるよな。緑だし」

 

「それなら校庭にも何か描けたらいいですね」

 

「やることいっぱいね、頑張りましょ!」

 

『おお!』

 

りーさんの掛け声に賛同するように三人が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、学園生活部のみんなが寝静まった頃。教室に置かれたラジオが何か音をだす。

 

『……きこえ……すか……こち……れが……たら……じんる……ま……きこえ……すか』

 

しかしその音に気付くものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その同時刻、くるみとしおりは屋上にきていた。

 

「んーっ夜の学校ってのもいいよな」

 

「そうだね、それにしてもどうしたの?」

 

「ん?まぁ座ろうぜ」

 

と言って屋上のフェンスを背に座り込む二人。

 

「あのさ…ちゃんと謝っておきたいなって、さ」

 

くるみはそっぽを向いて言うがしおりはなんのことかわからず考え始める。

 

「うーん…別に怒るようなことされてないけど…」

 

「いや、あの時の…めぐねぇの時さ、庇ってくれたからさ」

 

「あー…別にあれは私がやったことなんだから気にしなくても…」

 

「それもだけどさ…約束破っちまっただろ?」

 

そう言われてもう一度考え始めるしおり。

すると「あっ」と声に出す。

 

「もしかして昔の約束…ずっと守ってたの?」

 

「なんだよ…悪いのかよ」

 

「ちがうちがう。ちょっとびっくりしただけ。くるみがそんなに律儀だったなんてね」

 

しおりの言葉を聞き、顔を赤らめながらそっぽを向くくるみ。

 

「うれしいな、まぁ私はそこまで気にしてなかったけどね。でもちょっとずるいなー」

 

「え?」

 

「私だって戦えるんだから、学園生活部のみんなのこと助けたいもん。もちろんくるみもね」

 

「いや、あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて…」

 

くるみが言いかけるとしおりは小指を出す。

 

「じゃあ今からもう1回約束。今度は口約束じゃなくて指切りでね」

 

と言い笑顔を見せるしおり。

くるみはそれに答えるように自分の小指を絡める。

 

「じゃ、これでいいよね。戻ろう」

 

しおりが立ち上がり歩きだそうとするがそれをくるみが止める

 

「これ、地下で落としただろ?」

 

くるみが懐から出したのは星が付いているブレスレットだった。

 

「あっそういえば…」

 

しおりはブレスレットが無くなっていることを思い出す。

くるみがしおりの腕にブレスレットを付けると懐からもうひとつのブレスレットをだした。

 

「遠足に行った時にさ、持ってきたんだ。まさかお前も持ってきてたんだな」

 

「うん……忘れちゃいけないものだからね。」

 

しおりはくるっと後ろを向き、

 

「大好きってちゃんと言えたらいいけど…もうちょっとあとでもいいかな」ボソッ

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもない。早く戻って寝よ」

 

二人は手を繋いで部室へと戻る。

繋いでいる手には二つの星が光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるヘリポートにて、ひとりの人物がヘリに乗り込む。

そしてそのヘリは直ぐに上空へと上がった。

ヘリを操縦しながらその人物はあるものを持っていた

 

[わたしたちは元気です]と書かれた手紙を持って



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第24話 おまつり

 

ゆきは機嫌よく廊下を歩く。

そして階段前で伸びをする。その手にはマイクがあった

耳にはインカムも付けていた。

ゆきの近くにはカメラを持ったしおりとくるみがいた。

 

 

「りーさん聞こえる?」

 

『聞こえるわよ。そっちは準備OK?』

 

インカムからりーさんの声が聞こえる。

 

「いつでもいいよ」

 

『じゃあ、いくわよ3.2.1…はい!』

 

「こんにちはー」

 

りーさんの合図と同時にゆきはしおりの持っているカメラの方にぱっと振り向く。

 

「聞こえてますかー聞こえたら返事くださいねーあれー声が小さいですよーもーっと元気に」

 

ゆきは耳に手を当てて傾ける。

 

「ゆきちゃん、これラジオだから」

 

りーさんの言葉でゆきの周りはしぃんと静まり返る。

 

「なーんちゃって、ラジオだから返事しても聞こえませーん。でも、みんなの気持ちは届いてますよ!」

 

しばらく間が空いたが、

ゆきはくるっと回りカメラ目線でウィンクをする。

 

「こちらGSH、学園・生活部・放送局。丈槍由紀です」

 

そしてやっと本題に入り、自分の自己紹介をするゆき

 

「今日は巡々丘学院高校より、学園生活部による文化祭をお送りします。チャンネルはそのまま最後まで聞いてくださいねっあ、学園生活部っていうのは部活です。学園内で合宿活動して行事もやっちゃうんですよ。とーっても楽しいんです」

 

ゆきはマイクを片手に放送局の紹介と一緒に学園生活部についても話し出す。

 

「ゆきちゃーん、こっちー」

 

「はーい」

 

しおりの呼びかけに答えてゆきはカメラの方を向く。

 

「チーズー」

 

カシャッとシャッターを押すしおり。

ゆきはしおりに近付き、写真が出てくるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、なんだこれ」

 

「あら」

 

このカメラを見つけたのは先日部室内にあった箱を整理していた時だった。ゆきは不思議そうにカメラを見つめる

 

「ポラロイドカメラですね」

 

「カメラ?写メ?」

 

「メールはできねぇだろ。ほらパス」

 

「はーい」

 

ゆきはくるみにカメラを渡す。

すると急にシャッターを押されびっくりするゆき。

 

「急にはひどいよー」

 

「ごめんごめん」

 

「で、どうなるの?」

 

「見てなって」

 

するとカメラから1枚の紙が出てくる。

ゆきはそれを取りじーっと見つめるが何も変わらない。

 

「紙じゃん!」

 

何も変わらない紙を机に叩きつける

 

「先輩、落ち着いてください。ほら」

 

美紀はゆきに落ち着くよう言い聞かせ、もう一度紙を見ているよう言い、ゆきに紙を手渡す。

すると紙からじわっと絵が浮き出る。

そして、先程撮られたゆきの顔が写りでる。

 

「お?おお!おおおお!これすごい、すごいよ!スゴイカメラと名付けよう!」

 

「ポラロイドカメラです」

 

写真が映し出されたことに興奮するゆき。

 

「これがあればさ、あれ作れるよね」

 

「あれ?」

 

「卒アル!」

 

「卒業アルバムですか?でも、卒業はまだ先ですよ」

 

「いやいや、卒業直前に撮っても間に合わないでしょ?みーくんも計画性ってものを身につけないと」

 

ゆきは指を左右に振って美紀に言う。

美紀はそれを聞き、ムッとした顔をする

 

「てか、卒アルは制作委員とかいるんじゃねーの?」

 

「うん。だから学園生活部のだよ」

 

「それはいいけど、学園祭やるってなかった?」

 

りーさんがぱたんと読んでいたノートを閉じてゆきに問いかける。

 

「そっか……んー…って学園祭やって写真撮ろうよ」

 

「お、それもありだな。やってみっか」

 

ゆきは学園祭にて卒業アルバム用の写真を撮ることを提案する。

 

「やろう!少年老いやすくだよ」

 

ゆきの言葉に驚いた美紀はゆきに問いかける

 

「先輩、その続きは……」

 

「え、続きなんかあったっけ」

 

「学成り難しっていってね」

 

ゆきに付け足すようにりーさん学園生活部呟く。

 

「う、うん」

 

「……終わったらちゃんと勉強するのよ?」

 

「りーさん、いいの?」

 

しおりがりーさんに問いかける。

 

「いつも私ばっかり水差す役って不公平じゃない?」

 

りーさんは不満そうな顔をして答える

 

「勉強はみんなの責任だものね」

 

と言いゆきとくるみをじーっと見つめるしおり

その視線に気付き固まる二人。

 

「終わったらちゃんと勉強します」「する」

 

先程のりーさんの問いかけに答えるように頷きながら答えるゆきとくるみ。

 

「…じゃあ、学園祭やりましょうか」

 

『おー!』

 

りーさんの呼びかけに答えるように四人は手を合わせる

するとふとゆきはあることを思った

 

「しおりちゃん、結構手、冷たいね」

 

「あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園生活部は学園に泊まる代わりにいろいろな部活や委員会のお手伝いをしてます。たとえばここ、放送部の皆さんおつかれさまですー放送部の皆さんはいつも放課後にナイスなミュージックを流したり、連続ドラマとかやってます。今日はその設備をお借りして放送しております」

 

ゆきが率いる三人は放送室へと入っていく。

そして放送部の説明や設備についての説明を初めていくゆき

 

「りーさんこんにちはー」

 

「こんにちは」

 

放送室にてヘッドフォンを付けて設備を操作しているりーさんに挨拶をするゆき。

そのままりーさんの紹介も始める

 

「あ、りーさんはわたしたちの部長です。電波の調子はどうですかー?」

 

「順調かな?」

 

「よかったです。じゃあまたー」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

ゆき達は放送室を後にして次の紹介へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「さて次は図書室です。学園生活部は図書委員会のお手伝いもしてるんですよー図書室だから小さい声でいきますねー」

 

次に来たのは図書室だった。

ここはバリケードの外のためにくるみはシャベルを構えて入っていく。

 

「ここが超人気スポットマンガコーナーです。新刊は……まだ来てませんね。次は……」

 

ゆきは自分の大好きなマンガが置いてある棚を紹介する。

新刊が出てないことを確認して次の紹介へ移る

 

「ここが勉強の本、こっちも勉強の本。勉強ばっかりですね、次行きましょう」

 

「おいおいそんなんでいいのかなよ」

 

ゆきは勉強ばかりだといい図書室を後にする。

くるみはゆきの雑な説明についつい声が出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁここが!学園生活部の部室です。皆さんこんにちはー」

 

ゆき達が次に来たのは学園生活部の部室だった。

勢いよく扉を開け、中に入る。

壁や棚には輪っかの飾り、ホワイトボードには[学園生活部活動内容]と書かれた紙が貼ってあった。

 

「あ、出店やってますねー文化祭といえば出店ですね。こんにちはー」

 

「……こんにちは」

 

ゆきは部室にて出店をしている美紀にマイクを向ける。

美紀は無表情で挨拶をする

 

「後輩のみーくんです」

 

「みーくんじゃありません」

 

美紀のことを名前ではなくあだ名で紹介するゆき

それを聞いていつもの様に否定する美紀

 

「調子はどうですか?売り切れ間近ですか?」

 

「そこそこですね」

 

ゆきは机に置かれた出店品のチョコクッキーの売上を問いかける

 

「一枚もらいますねーぱくっ」

 

ゆきはクッキーを一枚口に入れカメラ目線で「おいしー!」と答える

 

「では美紀さん。ここでリスナーの皆さんに何か一言」

 

するとゆきは美紀にマイクを近付ける。

 

「え?何かですか?」

 

「えっとそれじゃ……」

 

美紀は急に振られたことに困り、ゆきに問いかける

するとゆきは暫し考え始める

 

「なんで学園生活部にはいったんですか?」

 

「変な先輩に無理矢理誘われました」

 

ゆきはマイクをさらに美紀に近づける。

笑顔であるゆきとは反対に少し怒り気味の美紀は″変な先輩″当人の前でそう答える。

 

「いい先輩ですね!学園生活部に入ってどうでしたか?」

 

「悪くないです」

 

「いいってことですね。じゃあ最後に…美紀さんの未来の夢はなんですか?」

 

美紀はその答えが直ぐには出ず、学園祭準備でのゆきとの会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。卒業ってするんですか?」

 

「すすすするよ!勉強してるし!」

 

「すいませんそういう意味じゃなくて」

 

美紀の質問に慌てて答えるゆき。

質問の仕方を間違えた美紀は謝罪をして少し間を開けてもう一度問いかける。

 

「卒業、したいですか?」

 

「うーん。よくわからないや」

 

「そうですか」

 

ゆきは少し考えるが答えが見つからず分からないと答える。

 

「ずっと学生してるわけにもいかないから、いつかはって思うよね。きっと楽しいこともあるだろうし」

 

「そう…ですね」

 

「でももう少し後でもいいかな。みーくんだけ残して卒業とかイヤだし」

 

「つまり留年してくれるんですね」

 

「え、そ、それは……」

 

ゆきが熱心に話していると残して卒業がいやという言葉に反応するようにゆきに言う。

その顔はどこか嬉しそうだった。

ゆきはしばらく考え始める

 

「そうだ、みーくんが飛び級すればいいんだよ」

 

「してもいいですけど今年中には無理ですから」

 

「あれ?」

 

ゆきは我ながらいいアイデアだと思ったが無理だと言われてしまった

 

「やっぱり留年ですね」

 

「うーんじゃあさ、みーくんはわたしがさらに留年したらつきあってくれる?」

 

「もちろん先に卒業します」

 

ゆきは美紀に問いかけると当たり前のように返されてショックを受ける

 

「ひーどーいー」

 

「冗談ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「私の…私の未来の夢は……先のことはわかりませんけど、みんなで一緒に卒業して、ずっと一緒にいることです。大した夢じゃないですね、でもそれだけでいいんです」

 

美紀がそう言う。

すると『パシャ』というシャッター音が聞こえた

見た先にいたのはカメラを構えていたしおりだった

 

「いい笑顔だよ」

 

「別に……大した顔じゃありません」

 

「見せて見せて」

 

出来た写真に近寄るゆき。

 

 

そんな会話を放送室から聞いていたりーさんは微笑んだ。

するとヘッドフォンから謎の音が聞こえた。

りーさんは疑問に思い、機材をいじりはじめる。

 

『……い存者を捜索中。応答せよ応答せよ。こちら______』

 

そこから聞こえたのはここにいる人物の声ではない。

そう思ったりーさんはゆきに言う

 

「ゆきちゃん大変!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りーさんの言ったことを聞き屋上に入っていく四人。

くるみは勢いよく扉を開けて辺りを見回す。

 

「お、屋上は園芸部の菜園が……あって……」

 

階段を急いで登り切ったゆきは息切れをしながら屋上の説明を始める。

 

くるみはフェンスに手を乗せて辺りを見回すが『奴ら』意外何もいなかった。

 

「……上です!」

 

美紀が指した先には1台のヘリが飛んでいた。

くるみは目を見開き

 

「おーーーい!」

 

ヘリに向かって大声で声を出す。

 

「おーーーい!」「お、おーーーい!」

 

それに続くように美紀とゆきが声を出す。

 

「おーーーいこっちだぞーこっちーーー」

 

ゆきはヘリを見つめてどこか不安そうな顔をする

 

「なにあれ……こわい」

 

「こわいって……」

 

「怖くないよゆきちゃん」

 

しおりはゆきを安心させるようにぎゅっと抱きしめる。

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリに乗っている人物は外の光景を見ながらゆき達の手紙を見る。

その人物は手が震えていた。そして手紙をそのままぐしゃっと握りつぶす。しかしその人物の震えは止まらなかった

その人物は袋から一本の注射器を取り出すが、

 

それを握りつぶす行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第25話 そらからの

 

-いろんなことがあったよね。みんながいて、みーくんと出会って、

つらいこともあったけど、みんなと一緒に乗り越えた。だから

 

毎日がとても楽しい。うん、すごく楽しい

 

ああ、でも楽しい時間ってどうしてこんなに短いんだろう_____-

 

 

 

学園の上空に飛んでいるヘリへ叫ぶ五人。

しかし、ヘリはそちらに気付く様子がなかった。

 

「おーーーい」「こっちでーーーす」「こっちだーーー!」

 

それぞれがヘリに向かって叫び続ける。

すると美紀はヘリを見つめているうちに何かに気づいた。

 

「……あの……」

 

「ん?」

 

「揺れてませんか?」

 

美紀に言われて、くるみは目を細めてヘリを見つめる。

 

「どうだろ?」

 

「着陸……するんじゃないの?」

 

するとしばらくしないうちにヘリはフラフラと左右に動いたりする。

そしてどんどん下へと下がっていくがどこか様子がおかしかった

ゆきはそれを不思議そうに見つめている。

どんどん近付いてくるヘリは突如として勢いよく落下した。

五人は目を瞑り伏せる。

そして大きな爆発が起こった

全員がそれに驚き反対側のフェンスから様子を伺う。

そこにあったのはグラウンドに落下し、煙を出しているヘリだった

 

「行くぜ」

 

「私も」

 

「あの……」

 

くるみとしおりが飛び出すように屋上の扉に向かう。

それを追いかけるようについて行く美紀

美紀の隣で不安そうに声を掛けるゆき

 

「先輩は待っててください」

 

「でも……」

 

「歓迎の準備ね。わかったわ」

 

美紀が待っているよう言う。それを聞いてりーさんが付け加えるようにゆきの肩をつかみながら言う。

それを聞いてゆきは納得してすうっと息を吸って

 

「いってらっしゃい」

 

「おう」「うん」「いってきます!」

 

屋上を出ていく三人に笑顔で言う。

それに答えるように三人は笑顔でゆきに返す

三人が出ていくのを確認したゆきはどこか不安そうな顔をしていた

 

 

 

三人は廊下を急いで走る。

しかしバリケードの外である廊下ですらいつもと違って静かだった

 

「おい、少なくないか?」

 

「減るはずはないから、どこかへ集まってるんだよ」

 

くるみのふとした疑問に答えるしおり

 

「どこに?」

 

「……それはたぶん」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃ヘリは悲惨な状態になっていた。

窓ガラスも割れ、プロペラも壊れて再起不能の状態だった

辺りには爆発に巻き込まれた車が倒れていた

爆発の音に反応したのか学園内にいた『奴ら』はもちろんのこと、グラウンドを徘徊していた『奴ら』も学園近くにいた外にいた『奴ら』もヘリに集まっていた。

 

「うわっ」

 

「外からもだいぶ来てますね」

 

空き教室から外の様子を見る三人はその光景に驚いていた

 

 

 

 

 

その頃屋上では、りーさんが校庭に落下したヘリを不安そうに見つめていた。

 

「りーさん」

 

ゆきが呼びかけるがりーさんはそれに気づいていない。

 

「りーさん!」

 

もう一度、こんどは先ほどよりも大きな声で呼びかける。

するとりーさんはそれに気づいてビックリしている

 

「ごめんなさい、どうしたの?」

 

「あのね、準備だけど……お客さんお菓子好きかな?」

 

りーさんはゆきに謝罪をして問いかける。

するとゆきの言葉を聞き、一度目を見開き暫し考える。

 

「そうね、聞いてみないとね」

 

「お客様だもんね。お茶も入れないと、玉露とかってあったっけ?」

 

「ええ、ちゃんと準備しな_______」

 

りーさんがなにかを言おうとした瞬間、ヘリの方から先ほどよりも大きな爆発が起こった。

その爆発に目を見開くゆきとりーさん

 

 

 

 

 

 

 

爆発が起こる数分前、ヘリに向かっていた三人は昇降口のバリケードを外し、それぞれが戦闘体制をする。

 

「3.2.1でいきます」

 

と言い美紀の手には防犯ブザーが握られていた。

そして、防犯ブザーの紐を握る指に力を入れる

 

「3…2…1」

 

そして美紀の合図と共に走り出す。

美紀は防犯ブザーを外して音を出しながら走る。

戦闘を走るくるみが行く先を阻む奴らをシャベルで倒していく

 

「こっちですっ!」

 

「おう!」

 

美紀の指示通りのルートでヘリに向かい走り出すくるみとしおり

それを追いかける美紀だが二人の速さには追いつかない

すると一体の『奴ら』に道を阻まれる。

美紀はくるみ達の方を向くがすでに先に進んでいた

懐からペンライトを一本投げ捨てる。

『奴ら』はそれに気づくもそこから動くことはなく、ペンライトを投げた方を向いていた。

 

(明るすぎるかっ……)

 

まだ日が出ている時間ではペンライト一本の明かりでは小さすぎていた。美紀は『奴ら』の横を通り抜けて懐から三本ペンライトを投げ捨てる。

 

「これならっ」

 

光に気づいたのか、今度こそペンライトの方へ歩きだす『奴ら』

美紀はそれを確認して二人の向かった先へと急ぎ走りだす

しかし息切れが酷くよたよたと歩く美紀

その先にいたのはうずくまっている『奴ら』

美紀に気付きぬくっと立ちが上がる。

すると『奴ら』の後ろから薙刀が出てくる。そして『奴ら』の首をはねとばす。

 

「ごめんね、大丈夫?」

 

そこに居たのは、首がなくなった『奴ら』の背中を足で踏みつけているしおりだった。

美紀が追いついていないことに気づいて急いできたのか息切れをしていた。美紀はしおりの言葉に頷く。

 

「もうちょっとだよ!走って!」

 

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

三人はヘリまであと少しのところまで来ていたが、ヘリの近くには先ほどよりも沢山の『奴ら』が集まっていた。

その様子を車を壁にして伺うくるみ。

 

「くるみ、無理だよ」

 

ヘリの方へ向かおうとしているくるみを止めるようにしおりが言う。

しおりは息切れをしている美紀を抱き寄せるように支えていた

 

「で、でも……」

 

「あの中じゃ助からない。もしかしたら先に脱出してるかも」

 

「そうだな、よし探すぞ」「うん」

 

しおりの言葉に賛同して、くるみは中にいた人を探すことを提案する。しおりはそれに同意する。

そして車を盾にしつつ歩き出す三人。

しおりは美紀に肩を貸しながらゆっくり歩き出す。しおりはふと奥にある潰れた車を見つめる。そこにあったのは漏れたガソリンからどんどん引火する火だった。

それが徐々にヘリに近付き、大きな爆発が起こる。

 

 

 

 

 

「…なんでっなんでよっ」

 

爆発を見てフェンスをつかみながらうずくまるりーさん

それを見て何も出来ないゆき。

 

 

 

 

爆発の近くにいた三人は、

くるみはかすり傷を負ったがなんともなかった。

しかしくるみの隣にいたしおりは美紀に覆い被さるように倒れていた。しおりの肩を揺するとしおりは直ぐに目を覚ましたが、美紀は気を失っていた。しおりは頭から血を流していた。

美紀はしおりが庇っていたおかげで大した怪我はなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

-楽しい日々はもうおしまい。名残惜しいけど仕方がない。

 

思い出を力に変えて、気持ちを入れ替えて頑張ろう。

 

今日から始まるのは_______-

 

 

 

-予習復習はやるほうだ。すぐには見えなくても積み重ねが大事

 

そうでしょ?

 

一度に少しずつそれが大きなものになる。

 

そう思ったから頑張れた。学園生活部をみんなと一緒に

 

積み上げた。なのに……-

 

 

 



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第26話 ひなん

 

 

屋上のフェンスを片手で握り、もう片方で胸を抑えるりーさん。

 

「……りーさん?」

 

そんなりーさんを見て不安そうに声を掛けるゆき。

 

「……なに?」

 

少し間をおいてゆきの方を向くりーさん。

りーさんの顔がいつも通りなことに安心したような顔をするゆき

 

「えっと、みーくんとくるみちゃんとしおりちゃん、迎えにいったほうがいいんじゃないかな?」

 

「そうね」

 

ゆきの言葉に同意するりーさん。

りーさんは立ち上がろうとするが足ががくんっと下がる。

足元を見ると、りーさんの足が震えていた。

 

「先、行っててくれる?」

 

「う、うん……」

 

りーさんは胸を抑えて深呼吸をする。

ゆきに先に行くよう言うが、ゆきはそんなりーさんを見て不安そうにしていた。

ゆきは屋上の扉へと駆けていくが一度止まり、りーさんの方を向いて再び走り出す。扉を開けてりーさんに手を振り扉を閉めるゆき。

それに答えるように手を振り返すりーさん

 

ゆきが出て行ったのを確認して手を降ろす。

するとりーさんの目から涙が流れていた。

 

「どうしてっ!なんでこうなるのよっ!なんでっ!なんでっ!こんなのどうしようもっないじゃないっ!もう、やだよっ」

 

りーさんは辛そうに深呼吸をしてゆきの前で言えなかった本音を叫び出す。叫ぶ度にフェンスを叩く。

燃えるヘリを見つめて静かに涙を零す。

 

すると後ろから音がした。後ろを振り向くと、屋上の扉を勢いよく開けたゆきがりーさんの前に立っていた。

 

「ゆき……ちゃん……」

 

「よしっ!よかったりーさん元気出たんだね」

 

「え……?」

 

なぜゆきがいるのかと疑問に思うりーさん。

ゆきはそんなりーさんにずかずかと近寄る。ゆきの言っている事の意味が分からずゆきを見つめるりーさん。

 

「だってほら立ってる」

 

ゆきが指さした先にあったのは先程まで震えて立てなくなっていたりーさんの足が立ち上がっていた。

 

「一緒にいこ?」

 

ゆきはりーさんの手を包み込むように握る。

りーさんがゆきの手を見ると自分の手を包み込んでいる手は震えていた。

 

「…うん」

 

りーさんは目元を擦りゆきに答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきとりーさんは片手で口を抑えながら部室を目指していく。

階段を下り廊下を進んだ先にある部室の扉を開けて中へ入る

 

「はぁー」

 

「……煙、結構強かったわね」

 

「窓からは?避難梯子あったよね」

 

「……ちょっと難しそうね」

 

扉を勢いよく閉めて、吸っていた息を吐くゆき。

りーさんはリュックにありったけのペンライトを詰める。

ゆきの問いかけに答えるように窓から外の様子を見て、避難梯子がかけられるかの確認をする。しかし下の階の窓には爆発に反応して寄ってきた『奴ら』が大量に腕を伸ばしていた。

ここから脱出するのは無理だと答えるりーさんに少し残念そうに言うゆき。

 

「頑張っていきましょ?なんとかなるわよ」

 

「うん!りーさんがいれば安心だよ」

 

「…そう」

 

りーさんはペットボトルに入った水をハンカチに垂らす。

そのハンカチをゆきに渡してゆきを安心させるように言う

ゆきはハンカチを受け取り、りーさんとなら大丈夫だと言う

 

「……そうだ、校内放送」

 

「放送?」

 

「避難訓練。くんれんかさいですーってやつ。みーくんたちにも聞こえるかなって」

 

ゆきはふと呟くと、疑問に思っているりーさんに避難訓練の放送を流すことを提案する。ゆきの提案を聞いているとりーさんはなにかを思いついたようだった。そしてゆきの手を掴む。

 

「ゆきえらい!」「えへへー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人はハンカチで口を抑えながら今度は放送室を目指す。

放送室にたどり着き、放送器具を操作するりーさん

 

「タイマー7分くらいでいいかな?」

 

「タイマーとかってあったっけ?」

 

「ないか、ならこれなら」

 

と言いりーさんが出したのはスマートフォンだった。

りーさんはスマートフォンを操作して録音アプリを表示する

 

「さ、ゆきちゃんお願い」

 

「はーい」

 

ゆきにスマートフォンを向け、校内へ流すための声を録音する。

 

「あとは再生を7分後にセットして」

 

録音が完了してタイマーのセットをするりーさん。

スマートフォンをマイクの近くに置き、放送の電源を入れて静かに放送室を後にする。

 

 

 

 

 

 

ゆきとりーさんは階段を下り下へと向かう。

廊下には煙が広がっていて前がよく見えなかった。ゆきはりーさんのカーディガンの袖を掴みながら進む。

するとずるっと手を離してしまい咳き込むゆき。

そんなゆきを支えながら先へ進む

 

廊下の奥を覗くと『奴ら』が何体か徘徊していた。

廊下の奥にペンライトを投げ捨てる。

 

-早く……行かなきゃ……でもどこ……どこ……-

 

 

 

 

 

『訓練火災でーす。訓練火災でーす』

 

先程録音した放送用の声が学園中に響く。

 

「……いそがっ」

 

その放送を聞き急いで脱出しなくてはと急ぎ出すりーさん。

りーさんのカーディガンを掴み廊下の奥を指さすゆき

 

「あっち……」

 

ゆきの震えた指の先には誰かの人影があった。

 

『くるみちゃん、しおりちゃん、みーくん聞こえる?』

 

「え……誰……」

 

廊下の奥を目を細めて見るが誰かは分からなかったりーさん

 

『わたしたち先に避難してるね』

 

-待って……待って……あ……-

 

りーさんはゆきを支えながら人影を追いかけるように歩き出す

その人影に手を伸ばすが届かずその代わりに何かが指先に当たる

地下へ行くためのシャッターだった。

 

-ここって……-

 

りーさんとゆきはシャッターの隙間から這いつくばるように入り階段を下り地下へとたどり着く。

階段に腰を降ろして口を塞いでいたハンカチをゆきから外してあげるりーさん。ゆきは顔を真っ赤にしながら呼吸をする

 

「シャッター閉めないと煙が来るわね。すぐ戻るわ」

 

りーさんはゆきにそう伝えてシャッターを閉めに上へ上がっていく。

 

「ありがと、めぐねぇ……」

 

 

 

 

『安全な所に避難してまたあとで会おうね!』

 

 

 

 

 

 



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第27話 らくえん

-うん、よくやった、頑張った。

 

いいところまでいった。これって結構すごいんじゃないかな

 

ずっと待ってたのかもしれない。もういいよおわりだよ。

 

ねぇ私たち頑張ったよね。これでだめなら最初から無理だったんだ

 

精一杯やった何も残ってない。そういう時ってあるじゃん。

 

それでも…-

 

 

 

 

 

 

車を背に燃え上がるヘリとその近くで燃える『奴ら』を見る。

くるみは割れたドアガラスから手を入れて鍵を開ける。

カチンと音がし、気を失っている美紀を車の中に投げ入れる。

そしてドアを閉めて寄ってきた『奴ら』に構える二人

 

くるみは美紀のいる扉の近くにいる『奴ら』を、しおりはヘリ付近のまだ燃えてない『奴ら』を倒していく。

しおりは自分の近くに『奴ら』が全くいないことに気付きなにかを察したようにくるみのいる方を向く。

くるみのいる方にはこちらとは違い沢山の『奴ら』がいた。

 

しおりはそれをどうにかしようと、近くにある車がを思いっきり薙刀で叩く。

 

「こっちよ!こっちにきなさい!」

 

その音と声に気付いた『奴ら』がどんどんしおりの方へと向かう。

くるみはしおりの行動に唖然とするが、先に車の近くに残っている

『奴ら』を倒していく。

 

しおりはじりじりと寄ってくる『奴ら』を見て薙刀をぐっと握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方りーさんは、シャッターの前にて三人の帰りを待つ。

シャッターからはパチパチと音がし、下にある小さな隙間からはうっすらと煙が入る。

 

「熱っ」

 

りーさんはシャッターに触れようとしたが熱くて触ることが出来なかった。少し不安そうな顔をしたままりーさんはゆきのいる地下二階へと戻る。

熱さで汗をかきながら寝息を立てて眠るゆき。

りーさんはタオルで汗を拭きゆきの手を握りながら顔を埋める。

 

「もうっ!」

 

りーさんは鏡で見た自分の疲れ切った顔を見て勢いよく鏡を閉める。

タオルを水で濡らし目元に置き上を向く。

すると寝ていたゆきがモゾモゾと動く。それに気付き慌ててタオルを外すりーさん。

 

「おはよ、りーさん」

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

「すっきりした」

 

「そう、よかったわね」

 

ゆきは目を擦りながら言う。

 

「すごい訓練だったね」

 

「え……?」

 

「煙がばーっと出て」

 

「ええ、そうね」

 

ゆきの言葉を疑問に思うりーさん。

両手をばーっと広げて言うゆきにいつもとは違い笑顔を見せずに答えるりーさん。

ゆきはりーさんの隣に座るがどこか気まずそうだった。

 

「暇だね……」

 

「もう少し待ちましょ」

 

「こんなこともあろうかと!じゃーん!」

 

ゆきが暇そうにしているとゴソゴソとリュックの中を漁り始める。

その中から出してきたのはトランプだった。

 

「ね、何やる?ババ抜き?七並べ?大富豪?」

 

「すこし……」

 

「ん?」

 

トランプを開けてりーさんに何をして遊ぶのかを問いかけるゆき。

すると小さく聞こえたりーさんの言葉を聞き返す

 

「少し、静かにして」

 

「ご、ごめん」

 

りーさんはカーディガンの袖をぎゅっと握りながらゆきに言う。

それを聞いたゆきは慌ててトランプをしまう。

 

「……ねぇ」

 

「なに?」

 

「ごめんなさい、さっきの」

 

「……ううん」

 

しばらく間があき、りーさんが呟くとゆきはどこか気まづそうにふりむく。そしてりーさんの謝罪を優しく受け止めるゆき

 

「あの、りーさんだいじょうぶ?」

 

「うん。へいき……」

 

ゆきはどこか疲れているりーさんの顔をみて心配そうに問いかける。

りーさんは大丈夫だと答えるが目尻には涙が流れていた。

 

「ごめん……」

 

「うん……」

 

涙を隠そうと顔を埋めてゆきに謝罪をするりーさん。

ゆきはそんなりーさんを見て何が出来るかを考える

 

「そろそろいこっか?」

 

「どこへ?」

 

「くるみちゃんとしおりちゃんとみーくんを迎えに?」

 

りーさんはそんなゆきを見て、

 

「いやよ!いや!もういやなの!今から行ったってどうせもう!」

 

「りーさん……」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。私がこんなんじゃ、でももう無理動けない。」

 

りーさんは頭を抑えて涙を流しながら、今までゆきの前で言えなかった本音を叫ぶ。

そして泣き崩れながらゆきに謝罪をする。

 

ゆきはそんなりーさんをみて手をそーっと近づけりーさんの背中をさする。

 

「ごめん、なさい……」

 

「だいじょうぶだよ、だいじょうぶだから、ね」

 

りーさんを慰めるように優しく背中をさすり続ける。

 

 

 

 

しばらくするとりーさんは疲れていたのか眠りについた。

ゆきはりーさんの頭を膝に乗せて撫で続けていた。

するとゆきはりーさんの頭を近くにあったタオルに乗せて当たりを散策する。

 

「えーっと…」

 

コンテナをいくつか開けてりーさんの傍にコンテナから取り出した水の入ったペットボトルと板チョコ、そして

 

[ちょっと行ってきます。ゆっくり休んでね。ゆき]

 

と書かれた書き置きを置いていく。

 

ゆきはリュックを背負い、頭にはハチマキ。

そのハチマキにはペンライトをさしていた。

片手にバットを持ち階段を登る

するとゆきは後ろを見つめる

 

「うん。くるみちゃんとしおりちゃんとみーくん見てくる。大丈夫だよ、そりゃそうだけどさ、わたしねずっとりーさんとくるみちゃんとしおりちゃんに大変なこと任せてきた。だからたまには、ね?

うん、気をつける、それじゃね?さぁ行くよ!」

 

ゆきはバットを掲げて階段を駆けていく。

 

 

 

 

 

シャッターの前までたどり着いたゆきはシャッターに触れようとする

 

「あちっ」

 

あまりの熱さに驚き後ずさりをする。

シャッターを触った手に息を吹きかけ、シャッターの隙間を見る。

ゆきはバットの持ち手をシャッターの空いている部分にあてそこから開けようとする。

するとシャッターの奥からガタガタと音がした。

ゆきはそれに驚き後ずさりをしてしまうが深呼吸をしてバットを構える。

シャッターが開くと同時にバットを上に上げ振ろうとするが、

奥から現れたのは血塗れのくるみ、しおり、美紀の3人だった。

美紀はくるみのパーカーを肩にかけ、その美紀を支えるくるみ。そして熱くて触ることすらできなかったシャッターを片手で開けるしおり。

そんな光景を見たゆきは唖然とし、ゆきの姿を見た3人も驚く。

ゆきは慌ててバットを隠しハチマキをとる。

慌てた様子で言い訳を言うゆき。そんなゆきを見て不思議と笑いだす三人。

するとゆきは走り出し、しおりに抱きつく。

しおりはゆきを受け止め優しく撫でる。

 

 

 

-つまづく日はある。ころぶ日もある。泣きたい日もある。いっぱい

 

泣いて、いっぱい寝て、いっぱい食べて、もう一度立てばいい。いつ

 

かこの息が止まる、その日まで___________-

 

 



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第28話 おわかれ

「それじゃ避難訓練の無事終了を祝いまして、かんぱーい」

 

『かんぱーい』

 

五人が合流してしばらくした頃、ヘリの方へ向かっていた三人の怪我の手当を終えて地下二階のコンテナから飲み物やお菓子を取り出しシャッター前で避難訓練後のパーティをはじめた。

ゆきの掛け声と共に飲み物が入ったコップを掲げる五人。

パーティがはじまりみんなが飲み食いをする。みんなの顔は自然と笑顔が戻った。

 

「ん?ポテチもうない?」

 

「ん?」

 

「取ってくるね」

 

ゆきはポテチを取ろうと袋に手を入れごそごそと漁るが何も無かった

袋を逆さにしてパサパサと中身を出そうとするが出てきたのはのこりかすだけだった。

地下二階のコンテナから新しいポテチを取りに行くため立ち上がり階段を駆けていく。

四人はそんなゆきの姿を見てほっと一安心する。

 

「それにしても…今度ばかりはもう……」

 

「わりぃわりぃ」

 

「ごめんね、りーさん」

 

「ご心配おかけしました」

 

りーさんが頭を抱えながら呆れて三人に言う。

くるみとしおりは笑いながら軽く謝罪をするが美紀は頭を下げて謝罪をする。

 

「無事だったからよかったけど、何があったの?」

 

「いやぁあれはヤバかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持っているシャベルと薙刀から零れる血。

それを持ちながら息を荒らげて呼吸をするくるみとしおり。

二人に向かい歩いてくる『奴ら』。その中にはヘリの近くにいたのか燃えている『奴ら』もいた。

倒しても先に進めないこの状況にどうしようかと悩みながら薙刀を構えるしおりと迫ってくる『奴ら』に舌打ちをするくるみは互いに背を合わせていた。

 

「ん?」

 

近くにあった放送用のメガホンのような柱から『ザザッ』っと音がした。それに気付き音がするほうを向く二人。

 

『訓練火災でーす』

 

『くるみちゃん、しおりちゃん、みーくん聞こえる?』

 

『わたしたち先に避難してるね。安全な所に避難して、またあとで会おうね!』

 

大音量で聞こえたゆきの声に驚く二人だが、よく見ると近くにいたほとんどの『奴ら』がゆきの声がする方を向いていた。

それを見てにっと笑い止まっている『奴ら』に向かい走り出す二人

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきの声だったからな、あんときゃびっくりした」

 

「それ、私も聞こえました」

 

「よかった、役に立ったのね」

 

「立った立った」

 

りーさんはここに来るまでの経緯を聞き、ゆきの提案した訓練放送が役に立ったと言われ安心したような顔をする。

くるみは役に立ったと言いながらぐびっと飲み物を飲む。

 

「今外はどうなってるの?」

 

「しばらくは安全だと思うよ」

 

「そそ、あいつら結構よく燃えるみたいでさ。だいたい燃え尽きたんでこっちに来れた」

 

「そう。よかった……」

 

しおりとくるみから外の状況を聞き、安全だと言われて安心したように一息つく。

 

「たっだいまー」

 

「大盤振る舞いだな」

 

「たまにはいいでしょ」

 

地下二階からゆきが帰ってきた。

その手にはポテチや他のお菓子が沢山抱えられていた。

 

「そうね。でも汚さないようにね」

 

「ゴミ袋取ってきますね」

 

「待った!」

 

美紀がゴミ袋を取りに行こうとその場から立ち上がろうとする所をゆきが止める。

 

「どうしました?」

 

「汚しちゃいけないのは、ここだけじゃないよね」

 

「はぁ?」

 

「そもそも!学園生活部にとって一番大切なのは何だかわかる?」

 

「えっと…学校かな?」

 

「そう!」

 

ゆきは指を振りながら四人に問いかけると、しおりが少し呆れながら答える。

 

「だから、感謝の気持ちを込めてみんなでお掃除するのどうかな?」

 

ゆきの言葉を聞き四人は黙り込みしばらく考える。

互いに顔を見合わせる。

 

「そうね、いいんじゃないかな」

 

「よし、ぴっかぴかにしてやるぜ」

 

「じゃ、手分けして掃除はじめよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした頃、学園生活部の五人はシャッターから出て一階を歩いている。五人の手には掃除道具があった。

しかしゆき以外の表情はどこか暗かった

 

「相当火が回ったなぁ」

 

「屋上、大丈夫かしら」

 

「使えるものをサルベージしていきましょう」

 

「まずは三階からだね!」

 

ゆきはぴょーんと走り出す。

 

「ちょっ先輩待ってください」

 

そんなゆきを慌てて追いかける美紀。

二人をみてどこか心配そうな顔をする三人

 

 

 

 

 

 

 

ゆきは三階の廊下を歩く。

歩く度に手を振っている。ゆきにとっては沢山のクラスメイトや友達がいるのであった。

自分の教室の扉を開けせっせと作業を始める。

黒板を掃除し、机を端に寄せ、モップがけをする。

 

「どんどんきれいにねー」

 

とても楽しそうに教室の掃除を進めるゆき。

すると机の方からガタッと音がした。

 

「ん?誰?」

 

ゆきは音に気付き机の方へと歩き出す。

そこに居たのは一体の『奴ら』。しかし爆発に巻き込まれたのか全身が黒く焦げていて片手片足が無かった。

「ヒューヒュー」と呼吸のようなことをしているがゆきを前にして動かなかった。

 

「…………うん。掃除してるの。当番じゃないけど、そそ部活動みたいな」

 

ゆきに取ってはクラスメイトに見えており、話しかける。

すると、ゆきが話している間に徐々に近づく『奴ら』

片手がゆきの足元まで近づくと、ゆきの中になにかが過ぎる。

それは、楽しく話をしているクラスメイト。

 

「うあぁぁぁあぁぁぁぁあぁーーーーつ!」

 

ゆきの中でなにかが壊れ足元にいる『奴ら』をモップで叩く。

なんども叩いていると『奴ら』は動かなくなった。

ゆきは端の方でしゃがみ、怯え教室から逃げるように走り出す。

 

-学校が好きだ。学校ってすごい。物理実験室は変な機械がいっぱ

 

い。音楽室、綺麗な楽器と怖い肖像画。放送室、学校中がステージ何

 

でもあってまるで一つの国みたい。こんな変な建物ほかにない。中で

 

も私が好きなのは__________-

 

 

ゆきが慌てて走り、息を荒らげてたどり着いた先にあったのは、学園生活部の部室だが、爆発のせいで貼られてある学園生活部の紙が半分以上燃えてしまっていた。

 

「あ……う…ぁ…うああああーーーーつ」

 

泣き出してしまったゆき。

 

「先輩、ゆき先輩!」

 

ゆきの声を聞き慌ててやってきた美紀。

 

「み、みーくん?」

 

美紀に泣いているところは見せられず下唇を噛みながら美紀に背を向け目元をごしごし擦るゆき。

 

「せんぱい……」

 

ゆきは近づく美紀に笑顔を見せようとするが涙が止まらなかった。

そんなゆきを見て涙を流す美紀。

 

「あーーーーんあぁぁぁーーーんっ」

 

ゆきは美紀に抱きつき再び泣き出す。

美紀はゆきを抱きしめながらその場に座り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方屋上の菜園の様子を見に来たりーさん。

しかし菜園にも火の手が回り育てていた植物のほとんどが燃えてしまっていた。

 

「あーあ、家計簿もういらないわね」

 

りーさんはフェンスに寄りかかり呟く。

 

 

 

 

 

 

 

ゆきと美紀はの二人は部室内の掃除をしていた。

二人とも目元が赤く腫れ上がっていた。

 

「あった」

 

「あ、運動会の」

 

「うん」

 

ゆきは足元に落ちていたものを拾う。それは運動会の時に使ったボールだった。

そのボールも黒く汚れていたためゆきが雑巾を使い汚れを拭き取る。

 

「いっぱいあったよね」

 

「……そうですね。あ、これ……」

 

美紀はダンボールを開ける。その中に入っていたのは製作途中の卒業アルバムとポラロイドカメラだった。

卒業アルバムは汚れはもちろん、燃えることも無かった。

 

「よかった……」

 

ゆきは、卒業アルバムが無事だったことを喜び卒業アルバムをぎゅっと抱きしめる。

すると『パシャッ』とシャッター音がした。

音がしたほうを向くとカメラを持った美紀がいた。

 

「ちょっ今のなしっ」

 

「いい写真ですよ」

 

「なーしー」

 

ゆきは写真を貼ることを止めるように美紀に言うが美紀はニヤニヤ笑いながらゆきを止める。

珍しく顔を赤らめるゆきを見てどこか楽しそうにしている美紀だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…こりゃ無理かな」

 

くるみとしおりはヘリ付近の駐車場を片付けにきていた。

しかし近くにあった車はほとんどが燃えてしまっていた。駐車場を区切るためのフェンスも焦げていて一部には穴が空いていた。

 

「そういやよーお前、なんでわざと『奴ら』がそっちに行くよう仕向けたんだよ」

 

くるみはタイヤを足で抑えながら外れた車の部品を拾い片付けるしおりに問いかける。

しおりはしばらく考え、いつのことか分かったのか「あー」と言う。

 

「だってくるみの所にいっぱいいたから手助けしてあげたの。だめだった?」

 

「いやだってよ、約束とか守ってやりたいとかいろいろ…」((ボソッ…

 

しおりに言おうとするが直接になると言えず、途中からぼそっと小さく呟き始める。

その顔は赤くなっていた。

 

「ん?ごめん、途中から聞き取れなかった。もう1回」

 

くるみの言葉が聞き取れずもう一度言うよう頼むしおり。

 

「っ…あーもーいいだろ!早く片付けて戻るぞ!」

 

慌てて話を終わらそうとするくるみ。

そしてしおりから離れるように別のところに向かう。

くるみが何を言いたかったのか分からずじまいで首を傾げながらも作業を続けるしおり。

くるみは進んだ先であるものを見つけた。それはヘリの搭乗員らしき人物の遺体だった。

 

「ん?」

 

くるみは搭乗員の下にあるものを見つけ、搭乗員の遺体をどかす。

それは白いケースだった。

 

「……んー」

 

ケースを開け、中を覗くとそこに入っていたのは地図と拳銃だった。

 

 

 

 



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第29話 そつぎょう

学園中の掃除件、火災後の片付けや後始末を終わらせてその日はシャッター内で寝ることにした。

 

「電気はもうダメ。食料と水はこの人数なら数ヵ月分は…」

 

「その時間使って準備したほうがいいね」

 

「車を改造して、詰め込めるだけ詰め込んで……忙しくなるな」

 

寝袋に包まりながら現状の確認するゆき以外の四人。

ゆきは四人の後ろで寝息を立てて眠っていた。

学園内の電気が使えなくなり、シャッター内も同様で電気がつかなかった。そのため空き缶にロウソクを立てて火を付けてそれを明かりに使っている。

 

「太陽電池パネル、どっかにありましたよね」

 

「車に載せられないかしら?」

 

「載せられると思います。問題は、どこへ行くかです」

 

「それなんだけど……ヘリのとこで拾ったんだ」

 

太陽電池パネルについて話しているりーさんと美紀にくるみは懐からあるものを取り出し見せる。

それは、ヘリの近くにあった白いケースに入っていた地図だった。

 

「この印の場所……確かパンフレットにあったわね」

 

「聖イシドロス大学とランダルコーポレーション」

 

「どっちがいいか……」

 

地図に書かれた印をみて、どちらに行くべきか悩む四人。

 

「大学にしない?人いるかもよ」

 

「ランダルってあの薬作ったとこだよな」

 

くるみの言葉に反応するようにしおりは自分の手を見つめる。

 

「進学か就職か、ですね」

 

「進学じゃないかなー」

 

美紀が選択肢を考えていると、ゆきが美紀とりーさんの間から顔を出して進学だと言う。

 

「ずっと一緒に勉強してきたんだから、進学かなーって思うんだ。社会に出る前にもう少し準備しておきたいみたいな?」

 

ゆきの意見を聞き、しばし考え始める四人。

最初に口を開いたのは美紀だった。

 

「…確かにそうかもしれませんね。就職するなら準備は必要です」

 

「基盤を整える必要があるわね」

 

美紀とりーさんの意見にうんうんと頷くゆき。

 

「それもいいかもね」

 

二人の意見に納得するように言うしおりだが、その顔はどこか悲しそうだった。

しおりの表情に気づく美紀とくるみだがその場では何も言わなかった。

 

「じゃあみんな、頑張ろうね!進学目指して頑張ろう!」

 

『おー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日、くるみは屋上のフェンスに寄りかかりながら座っていた。そしてその手には白いケースに入っていた拳銃があった。

 

「何してるんですか?」

 

拳銃を上にあげて眺めていると横から声がした。

そこに居たのはくるみを探しに来た美紀だった

 

「い、いや」

 

くるみは慌てて拳銃を懐に隠し、何も無いと答えながらそっぽを向くくるみ。そんなくるみをじーっと見つめる美紀。

 

「今、何隠したんです?」

 

「あぁっと………まぁ。実は地図と一緒にこんなん拾ってな、内緒だぞ」

 

「特にしおりには」と付け足して隠した拳銃を美紀に見せるくるみ。

 

「それ……借りていいですか?」

 

「?あぁ」

 

「結構重いですね……」

 

「そうだな」

 

くるみから拳銃を受け取り構える美紀。

 

「映画だと、役に立たないんですよね」

 

「そうなの?」

 

「正確に頭に当たらないと意味がないですから。素人じゃムリでしょう」

 

「てかみき、そういう映画とか見るんだ」

 

「べ、別にいっぱい見るわけじゃ」

 

慌てていっぱいではないと否定する美紀。

 

「じゃあなんで拳銃持ってたんだろうな」

 

「もしかしたら他に目的が……」

 

くるみの言葉を聞き、他の目的を考え出す美紀。

頭を過ぎったのはしおりのことだった。

感染しかけた所を薬のおかげで助かったが、最近のしおりはどこかおかしかった。その理由にあがる件はいくつかあった。

 

「ん?」

 

隣にいるくるみの方を向くと、くるみも何か考えている様子だった。

きっと同じことを考えているのだろうと思う美紀。

すると視線に気づいたのかくるみが美紀の方を向く。

美紀はくるみの顔を見てしばらく考える

 

「えいっ」

 

「ちょ、何すんだよ」

 

すると美紀は持っていた拳銃を思いっきり駐車場の方を目掛けて投げ捨てる。

美紀の行動に驚くくるみ。

 

「ああいうのって危ないですよ。その、暴発するかもしれませんし」

 

「そりゃそうだけどさ…………おまえ、だんだんゆきに似てきたな」

 

「え!?」

 

美紀は拳銃は危ないとくるみに言う。

くるみは納得しているが、どこか残念そうにしていた。すると、美紀を見てゆきに似ていたと言うくるみ。

すると美紀はガッカリしたような顔をして驚く。

 

「そ、そんなことはない。と思います」

 

「ははっ冗談だよ。ありがとな」

 

美紀は慌てて否定するが本人も確証はないようだった。

そんな美紀をみて笑いながら冗談だといい美紀の肩に手を乗せて感謝の言葉を言うくるみ。

その感謝の言葉にはしおりのことも入っていた。

 

「早く行きましょう。みんな待ってますよ」

 

 

 

 

 

 

 

二人は卒業式の会場である空き教室に入る。

教室に入ると先に掃除を始めていたゆきとりーさんとしおりがいた。

 

「あ、おかえりー早く手伝ってよ」

 

「わりぃよいしょっと」

 

ゆきは帰ってきた二人に気付き手伝うよう言う。

美紀は用具入れを開け掃除道具を出す。くるみはゆきに謝罪をして急いで机を運ぶ。

 

 

五人全員が揃い、作業が格段に早く進んでいた。

教卓や黒板を掃除し、床にモップがけをする。

 

「ふぅ……」

 

雑巾を絞り一息つく美紀。

向く先には綺麗になった黒板があった。

 

「だいぶ綺麗になりましたね」

 

「そろそろいいかしらね」

 

「じゃ、はっじめっるよー」

 

と言い、ゆきは黒板に近づく。そしてチョークを取りなにかを描き始める。

しばらく書いていると内容が分かったのか四人の顔がどんどん呆れてきていた。

 

「できた!」

 

ゆきが書いていたのは[そつぎょうしき]の文字だった。

しかし長さが足りず″しき″は小さく書かれていた。

 

「・・・・・ちょっと違ったかな」

 

「ちょっとじゃないです!」

 

さすがに気付いたのか問いかけるゆき。

すると、その文字をみて涙を流す美紀

 

「ずるいです。こんな下手なのに……」

 

美紀は手で涙を拭き取りながら言う。

 

「まだだよ」

 

ゆきは美紀の手をとりまだだと言う。

そんなゆきの顔も泣きそうになっていた。

 

「別に……わかってます」

 

「あとでみんなで描きましょうか」

 

「ていうかさ、まだまだやることあるぞ?」

 

「え?」

 

くるみの言葉を疑問に思うゆき。

 

「卒業証書も作ってないでしょ。卒業旅行の準備も」

 

「じゃなんで描いちゃうの?」

 

「おまえが始めたんだろうが!」

 

しおりの言葉を聞き、他人事のように問いかけるゆき。

そんなゆきにツッコミながらも黒板の文字を消そうとするくるみとそれを名を残しそうにするゆき。

そんな二人を見てどこか嬉しそうにする三人。

 

 

 

 

その後、卒業証書を作成し、めぐねぇの車に太陽電池パネルを貼り車を改造して衣類や食料などをトランクに詰めて大学へ向かう準備も完了した。

そして、卒業式

 

「それではこれより巡々丘学院高校の卒業証書授与式を執り行います。在校生、送辞」

 

りーさんの司会で始まった卒業式。

最初に行うのは在校生である美紀の送辞

美紀は教卓の前にたち、一礼をする。そして、事前に用意した送辞で話す内容を書いた紙を開く。

 

「月日の流れるのは本当に早いものです。先輩たちと会ったばかりと思ったらもう卒業の季節なのですね。私たちの学校の外には大きな未来が広がっています。社会の荒波の中に漕ぎだしていく自分を思うと誇らしさと同時に不安も感じます。そんな私に先輩たちは手を差しのべて学園生活部に誘ってくれました。そこで私は自分の力を信じて努力すること、苦難に立ち向かう勇気、どんな時にもくじけない明るい心を知りました。だから、もう不安はありません。先輩たちならそして私も学園生活で得たことを活かせばこれから何があっても立ち向かっていけると思うからです。ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。在校生代表兼卒業生直樹美紀」

 

美紀の送辞が終わり拍手をする四人。

一礼をして紙を閉じると美紀の目には涙が流れていた。

美紀の送辞を聞いている中、ゆきも涙を流していたがそれを止めようと急いで目元を擦る。

 

「続いて卒業生答辞」

 

「はい!」

 

ゆきは大きく返事をし教卓の前に立つ。

答辞で言うことを書いた紙を持ち一礼する。

 

「直樹美紀さん、心に迫る送辞をありがとう。わたしたちにとってもみーくん…美紀さん。美紀さんとの」

 

「みーくんでいいです」

 

言いなれない美紀の名前に言葉が止まるゆき。

そんなゆきをみていつも通りでいいと、目元を擦りながら言う美紀

 

「みーくんとの出会いは大切なものでした。あのね、わたしたちみーくんがいたから頑張れたんだよ。だから、一緒に卒業できてうれしいです…これからもずっと一緒にいま…しょう…」

 

ゆきの声が徐々に震えていた。

紙をぎゅっと握る。紙にはポタポタと涙が零れる。

それに気付いたしおりが立ち上がりゆきに寄り添う。それに続くように三人も近づく。

ゆきはずっと我慢していた涙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しおりは、一階のある一角にて手を合わせていた。

 

「これから学校を出るんだ……最後に話せてよかったよ…愛菜」

 

一人そう呟き、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後卒業証書を渡して[仰げば尊し]を歌い卒業式を終えた。

五人は外へ出て校舎を眺める。そして校舎に向かい一礼をする。

みんなが車へ乗る準備をしているとしおりは涙をながしながら校舎を眺めていた。しおりの手にはいつも持っている薙刀はなかった。

 

「しおり…」

 

くるみがしおりの手を握りながら心配そうに見つめる。

 

「…最後にちゃんとお別れが言えて良かったよ…薙刀は、ちょっとしたお供え物かな?」

 

しおりはそう言い、涙を拭いみんなのいる車の方へくるみと一緒に戻る。

そして運転席にしおりが助手席にくるみが乗りこみ出発する

 

「なんか忘れ物?」

 

「……いえ別に……」

 

後部座席に座っているゆきは右隣に座る美紀をみて言う。

美紀は窓から外を眺めていたが、その顔は悲しそうだった。

 

[みんな学校大好きなんだからその子も来るよ]

 

以前ゆきに言われた言葉と共に、友人である圭の姿が頭に過ぎる。

そんなことを考えながら外を眺めていると、車の横を歩く一体の『奴ら』。しかしその姿は、出ていってしまった友人、圭だった。

 

「今の……」

 

「どうしたの?」

 

その姿を見た美紀は声を漏らす。その声を聞き何があったのかと聞くしおり。

 

「……いえ。大丈夫です」

 

美紀は目元を擦りながら大丈夫だと言うがなにかを察したしおりはそれを問うこともなくそのまま運転を続けた。

 

「私たち、学校が好きなんだなって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式を終えた空き教室。

飾り付けされた教卓や黒板。その黒板には学園生活部の五人が書いた寄せ書きが書かれていた。

その端には美紀が書いたものらしき文字があった。

 

 

 

圭へ

 

私、生きてていいこと

あったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず高校編は終わりです!

大学編の前に短編をいくつか書きます!

短編はオリジナルなので毎日出せるかは分かりませんが、

頑張ります✿゚❀.(*´▽`*)❀.゚✿

ここまで来て、お気に入り登録してくれた方が20人もいてくれて

めちゃ嬉しいです«٩(*´ ꒳ `*)۶

(❁´ω`❁)アリガトウゴザイマス♪励みになりますので、これからも見てくれ
たらうれしいです♪


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オリキャラ設定

名前:大城 千鶴 (おおしろちづる)

 

見た目:赤髪のポニーテールで左肩に下ろし、花型のシュシュをつけている。

肩出しのTシャツの中にインナー、デニムのショートパンツに黒いレギンス、赤いスニーカー

 

外国語学部所属。

 

『サークル』の一員。いつも元気で天然ボケがたまにあるが中学時代は生徒会長だった。しかし指名された理由は単純で、元気で人脈が広いからだそうだ。勉強は全然だが運動はできる。

将来の夢は海外で仕事をすることで『サークル』に入っても外国語の勉強は欠かさずやる。

トーコと一緒にゲームをよくやっている。

武闘派にはいなかったが『サークル』の中でそれなりに戦える人物で、手作りの二刀の木刀を使う。

しおりとくるみと愛菜の中高の先輩で堅苦しいのは嫌いなため後輩である三人にタメで話すよう言っているかしおりは未だに敬語のままでいる。

そして三人を生徒会に勧誘した張本人であるにして、三人の中学生活を楽しくさせた人物でもある。

幼なじみの六花と漫才みたいな会話をしたり怒らせるようなことをして殴られたり蹴られたりなどされるが本人いわく「六花との会話はこうじゃないと」と満足そうにしている。

 

 

 

 

 

 

名前:鳴瀬 六花 (なるせろっか)

 

見た目:青髪でくしゅふわ風のロングで左肩に流している

 

シャツにカーディガン、ロングパンツにスニーカー

 

法学部所属。

 

『サークル』の一員。おっとりした見た目をしているが冷静な行動ができるしっかりもの。中学時代は生徒会副会長をしていたが本人が望んだわけではなく、千鶴からの頼まれごとで仕方なくやっているらしい。将来の夢は弁護士になること。理由は、六花の父が弁護士のため父に憧れてだそうだ。図書館棟に入り浸ることもしばし

千鶴と同じく三人の中高の先輩で三人いわく千鶴より六花の方が相談事がしやすいなどと評価が高い。

しおりにとってはお姉ちゃんのような存在で、大学でも夜こっそり誰にも相談できない悩み事を聞いてくれている。

六花自身も自分を頼ってきてくれることをうれしく思っている。

千鶴とは幼なじみで、小中高大一緒の学校に通っている。

よくボケてくる千鶴のツッコミ担当で、ボケがひどいほど攻撃的になるがそれが二人の普通の会話だと本人達は言っている。

六花は千鶴と違い戦闘は出来ないが、バリケードの修復をしたりなどをしてサポートにまわっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しおり、くるみ、愛菜が生徒会というオリジナル設定を追加しましたがそれに関する話はそのうち出す予定です。



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第30話 たびだち

-卒業と入学の間のこの時期、今の私たちは学生じゃない。どこにも

属さないなんでもない人だ。なんだか足下がふわふわする。

なーんてね、みんなで一緒に卒業旅行、これが楽しくないわけないよね!-

 

ゆきは窓から見える景色を眺めながら抱いているぐーまちゃんのぬいぐるみをさらに力を入れて抱きしめる。

現在座っている位置は、運転席にしおりが座り、助手席にくるみが座る。後部座席には、左から美紀、ゆき、りーさんの順番で座っていた。

 

「ゆきちゃん、道わかった?」

 

運転席に座っているしおりがゆきに問いかける。するとゆきは慌ててマップを開く。

 

「ん〜と…うん。三丁目五番地だから多分次の角を右」

 

「はーい」

 

ゆきの答えに返事をしながら運転を続けるしおり。

 

「…ね、しおりちゃん」

 

「何?」

 

「卒業旅行楽しいね」

 

「わわっ」

 

急に話を振られて答えようとするが、それと同時に前にいた『やつら』にぶつかりそうになり急ブレーキをする。

 

「先輩、運転してる人にあんまり話しかけちゃダメですよ」

 

「ごみん」

 

急ブレーキをした時にゆきは美紀の方へと倒れてしまった。

その反動ぐーまちゃんが落ち、窓とゆきに挟まれる美紀。

 

「ねね、りーさん。修学旅行って楽しいね!」

 

「……そうね」

 

ゆきは、右隣に座るりーさんに話を振る。

するとりーさんは何かを考えていた顔をやめ、笑顔でゆきに返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこの辺かな」

 

「おつかれさまー」

 

しおりは運転していた車をコンビニの駐車場に止める。

 

「やっぱり時間かかりますね…地図だと近いのに……」

 

「工事いっぱいやってたもんね」

 

「そうねぇ」

 

「んじゃちょっと見てくるわ」

 

助手席の扉を開け、シャベルを持ちながら中を見てくると言うくるみ。

すると反対側にある運転席の扉を開けて外へ出るしおり。

 

「着いてく位ならいいでしょ?」

 

「あんま離れんなよ」

 

首を傾げながら問いかけるしおりにくるみは少し呆れた顔をしながらついて行くのを了承する。

 

「わたしも行くー」

 

ゆきはマップを見ている美紀の前にずいっと向かい窓から一緒に行くと言う。

 

「くるみちゃんもしおりちゃんも疲れてるでしょ?一緒に行くよ」

 

うずうずとしながらやる気に満ち溢れた顔をするゆき。

そんなゆきを見てそーっと手をゆきの頬に当てる。

 

「ちょっ冷たっくすぐったいよ」

 

「ゆきちゃんに化けた宇宙人めー本物のゆきちゃんをどこへやった」

 

しおりは冷たい自分の手でゆきの頬をむにむにと弄り始める。

 

「手伝うって言ったのにこの仕打ちーひどいよー」

 

「本当のところは?」

 

「…コンビニでマンガ読みたいなって」

 

「ま、そんなところだな」

 

ゆきは美紀の問いかけに少し間を開けながらも本音を言う。

それを聞いて頭を掻きながら呆れた顔をするくるみ。

 

「ね、りーさんいいでしょ?」

 

「そうねぇ気をつけるならいいわよ」

 

「うん。気をつける」

 

ゆきは後ろを向き左に座っているりーさんに行っていいかの許可をとる。するとりーさんは一つの条件をつける。ゆきはそれを守ると言いそれを聞いたりーさんはついて行くことを許可した。

 

「行こっしおりちゃん」

 

ゆきはしおりの手を引きながらコンビニへと入っていく。それを見て微笑んだくるみがその後をついていく。

コンビニに入っていく三人を見てどこか心配そうな顔をする美紀。

 

「大丈夫かなって思ってる?」

 

「え、あ、その……」

 

そんな美紀をみて問いかけるりーさん。少し気まずそうにする美紀

 

「大丈夫よ。くるみとしおりさんがいるし、ゆきちゃんもああ見えて結構素早いから」

 

「そういえばそうですね」

 

「美紀さんを見つけた時もすごい勢いで走ってって、誰も捕まえられなかったのよ」

 

「ゆき先輩、すごいんですね」

 

「そう。あの子すごいのよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニの中に入ると、中は真っ暗で棚から商品が落ちていたり、レジなどが割れていた。

さすがに暗すぎるため少しでも明るくしようと懐中電灯をつけるしおり。

 

「だいぶ荒らされてるな」

 

「マンガ売り切れてるー」

 

中の状態が予想以上で驚いているくるみと違い目的だったマンガがないことに驚きながらショックをうけるゆき。

しおりは懐中電灯の明かりであちこちを照らす。すると奥に扉があった。その扉を照らしなが後ろにいるくるみの方を向き互いに頷き合う。

 

「ちょっと裏を見てくるからうごかないでね?」

 

「はーい。床、掃除しとくね」

 

雑誌を読んでいたゆきに動かないように言ってくるみと一緒に奥の扉に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

奥から戻るとゆきがほうきとちりとりを使ってせっせと掃除をしていた。そんなゆきを見て疑問に思ったくるみ。

 

「……なぁおまえ最近ちょっと…」

 

一度言葉が止まり、互いに見合うゆきとくるみ。

 

「美人になった?」

 

「はあ!?」

 

ゆきが照れながらくるみに問いかけるが予想外の言葉に驚くくるみ。

 

「クールビューティ?」

 

「クールでもビューティでもねぇ!」

 

「えーひどいよー!」

 

するとゆきは腰を振りながらもう一度聞くが今度は驚かず否定をするくるみ。

そう言われて近くにあった化粧品を手に取り「お化粧とかすれば…」と呟く。

 

「ま、いっけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、学園生活部の五人はコンビニの床に布団を敷きその場で寝ることにした。

 

「やっぱお布団いいねぇ」

 

「車中泊って結構きついですよね」

 

ゆきは自分の布団の中でごろごろと動きながら呟く。

 

「悪いわね、掃除までさせちゃって」

 

「ゆきがやったんだぜ」

 

「え、うそ」

 

ゆきが掃除をやったことに驚く美紀。

 

「ひ、ひどいよみーくん……」

 

「みーくんじゃありませんから」

 

美紀の驚きに体を震わせながらうるうると涙目になるゆき。

しかしそんなゆきの前にいつも通りの否定をする美紀。

 

「最近結構役に立つよな」

 

「普段は役立たずみたいな…」

 

「嘘だよ。昔っから役に立ってるよ」

 

「そ、そうかな」

 

最初はむすーっとしていたゆきだがくるみの言葉を聞き布団で口元を隠しながらもじっとする。

 

「それは間違いありません」

 

「ゆきちゃんはもう大丈夫ね」

 

「う、うん」

 

さらに美紀とりーさんからの言葉を聞いて顔が赤くなるゆき。

そんな会話をしている四人と違いすやすやと寝ているしおりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからしばらくすると寝息がいくつか聞こえてきた。

四人が寝ている中ゆきだけはまだ起きていた。

 

「ふわぁぁ」

 

ゆきは起き上がり欠伸をする。

左右をみてだれも起きていないことを確認して、懐中電灯を持ちながらその場を離れようとするゆき。

 

「……ゆきちゃん、どうしたの?」

 

「あのね、おさんぽーめぐねぇがね今日は星がぴかーっとしてきれいだって」

 

「だめでしょ。夜、一人で歩いちゃ」

 

ふと目を覚ましたりーさんに外へでる理由を言うがだめだと言われてしまう。

 

「えー」

 

「そこに座って」

 

「ぶー」

 

「座りなさい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえ目を覚ますくるみ。声がする方をみるとなぜかゆきがりーさんに説教されていた。

その光景を見ていたくるみが驚いていると、美紀としおりも目が覚める。

叱っているりーさんと反省しているゆきをみて微笑む三人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、全員が車に乗り込み発進する。

今回は運転席にくるみが座り、助手席にゆきが座る。

 

「……変なとこ触んなよ?」

 

隣でうずうずしているゆきに念を押すように言うくるみ。

 

「う、うん。あ、でも触っちゃいそう」

 

と言い手をぷるぷると震わせているゆき。

 

「わーったわーった。じゃあ音楽かけてくれよ」

 

「!はーい!」

 

ゆきはぱぁっと明るくなり一枚のCDディスクを入れる。

 

「これかな?」

 

と言いボタンを押す。

 

『……ねぇねぇ誰か聞いてる?こちら巡々丘ワンワンワン放送局』

 

その声を聞き急ブレーキをかけるくるみ。

 

『この世の終わりを生きてるみんな元気かーい!』

 

「おまえ今どれ入れた?」

 

「こ、これ……」

 

と言いゆきが見せたのは一枚のCDケースだった。

 

「うーん!?」

 

それを手に取りよく見るが、どう見てもこんなものが流れるような感じの表紙だった。その表紙をみて唸るくるみ。

 

『聞こえない人返事してーはーい…ってノリ悪いなぁ。まぁいいや、ワンワンワン放送局はっじまるよー!』

 

「くるみ、これラジオじゃ……」

 

「あ……」

 

しおりの言葉を聞いて息を呑むくるみ。

 

『それじゃ今日もゴキゲンなナンバーいってみよっ!』

 

「ほんとよ、AMだわ」

 

『まずはダスベスの『天より降り来るもの・第三』から『戦いは終わらない』いってみよっ!』

 

「てことは……」

 

「誰か……生きてる!」

 

音楽が流れる中学園生活部五人は一斉に喜び合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご静聴ありがとう!いや本当静かだよね、静かすぎ。もうちょっと騒いでもいいよ!こちらはワンワンワン放送局。どんなにつらい日々でも希望と音楽をお届けするよ!じゃまた明日!」

 

女性は放送用の機材をパチンといじり放送を終了させる。

そして、息を吐きながら付けていたヘッドフォンを外す

すると女性は「ケホッゴホッ」と咳き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31話 くるま

小さな小道のわきに車を止めて車中泊をした学園生活部の五人。

 

「おはよー」

 

最初に目を覚ましたのはゆきだった。

辺りを見ればまだ他のみんなは寝息を立てて寝ていた。

そしてゆきは車の窓に付けられたカーテンを開けて、晴れた青空を見て呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が起き、順番に歯を磨く。ゆきと美紀はうがいをして近くにある田んぼにぺっと出す。

 

「眠れた?」

 

「眠れましたけど……首が痛いです」

 

ふとゆきは隣にいる美紀に問いかける。すると美紀は手で首を抑えながら答える。

 

「あー車ちっちゃいよねぇ」

 

「ゆき先輩は眠れました?」

 

「わくわくして眠れなかった!」

 

「それにしては元気ですね」

 

ゆきはギラっと目を見開くがいつも通りの気がする美紀。

しかしゆきの目の下にはクマが出来ていた。

 

「おい、戻れ」

 

「はい」「はーい」

 

車で待機していたくるみが二人を呼び戻す。バックミラーに映るのは数体の『奴ら』だった。

二人は早足で車に戻る。

 

「今日はどうすんの?」

 

「ラジオの人に会いに行くんでしょ」

 

ゆきは後部座席に乗り込むとドアを閉めて、りーさんに今日の予定を問いかける。

 

「どこかな、ラジオ局?」

 

「どーだろうなぁ」

 

「電波の入る距離が短めですから、あまり大きい設備ではないと思います」

 

ラジオの人がどこにいるのかを話していると、美紀が欠伸をしながら言う。

 

「じゃあどっかの家かな」

 

「どうやって探したらいいかしら」

 

「アンテナが立ってるとか……」

 

すると、『ジジッ』と音がした。

『おはよう、いい朝だね。外は見てないけどきっといい朝なんじゃないかな。こちらワンワンワン放送局今日も一日よろしくぅ!リスナーのみんな、この放送が聞こえたならこっちに顔を出してくれないかな』

 

するとラジオの人は「コホッコホッ」と咳をする。

 

「もしもーしどこに住んでますか?」

 

『今ならお茶とお菓子をサービスするよ。住所はね……』

 

「うおっと!」

 

「通じた!?」

 

「いやいやいやいや」

 

ゆきはラジオの人に住所を問いかける。するとタイミングよく住所を教え始める。さすがのゆきもこれには驚いたようだ。

通じたのかと驚くりーさんに首を横に振って否定する美紀。

 

「うっし。これでわかったな。えっと……ここか」

 

「こっちでしょ」

 

くるみはマップを開きここかと指を指すがゆきが手を伸ばしてこっちだと言う。

 

「んん?んん……ゆき頼む」

 

「らじゃ!ちょっと回り道になるけど……これなら今日中に着けるかな」

 

「よし行くか!」

 

「行くわよ」

 

くるみは分からず結局ナビゲーションをゆきに任せ、マップを渡す。

そして車を発進させる。前にいた『奴ら』を引き飛ばしながら。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくゆきのナビゲーションで進んでいく車。

ゆきの指示で右に曲がる車。するとその先は電柱とトラックで道が塞がれていた。

 

「りーさんストップです!」

 

「ここも通行止めかー」

 

「この辺狭い道多いですものね」

 

りーさんは急ブレーキをして車をバックさせて別の道を通る。

ナビゲーションのためくるみと席をチェンジしたゆきは助手席に座りマップを広げていた。

そのマップには今通れなかった道にバツ印が書かれていた。

 

「かといってでかい道路は渋滞してるしな」

 

「何がいけないんだろうねー」

 

「政治かな」

 

「決めた!わたし二十歳になったら道路を広くしてくれる人に投票する!」

 

ゆき達が道路について話している中、りーさんはどこか疲れたような顔をしていた。

 

「少し休憩しましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車をコンビニに止め、車に寄りかかるりーさん。

するとコンビニの中を探索にいっていたくるみが帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

りーさんは欠伸をしながら呟く。

 

「おつかれ」

 

「最近疲れがとれなくて…」

 

「この車だとなぁどっかで二、三日泊まっていくか?」

 

くるみの提案に首を横に振るりーさん。

 

「お水がなくなっちゃう」

 

「まぁなぁ。別の車探すかぁ国道にいっぱい乗り捨ててあるだろ」

 

「そうね。めぐねぇに相談して……ほら、めぐねぇの車だし乗り換えるなら……」

 

りーさんの言葉を聞き疑問に思うくるみ。

そんなくるみをみてもう一度言おうとするが、言葉が止まる。

 

「ゆきちゃんにも相談しないとね」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

『お聞きの曲は群青の『フレンドシップタワー』でした。さぁて次の曲の前に、ワンワンワン放送局はリスナーのみんなのリクエストをいつでも受け付けてるよ』

 

「ゆき先輩…」

 

「なぁに?」

 

『メール、電話、郵便、伝書鳩、大声、何でもいいよ』

 

「どんな人なんでしょうね」

 

美紀はラジオの人がどんな人なのかを助手席に座るゆきに問いかける

 

「明るい人っぽいよね」

 

「……そうなんでしょうか」

 

「ん?」

 

『でも一番嬉しいのは顔を出してくれることかな。ゴホッゴホッ』

 

ラジオで話し続ける声を聞いてどこか不安そうな顔をする美紀。

するとラジオの人はまた咳き込む。

 

『……おっと風邪かな?一人暮らしのつらいのは病気の時だよね。リスナーのみんなもこの季節風邪には気をつけてね』

 

「私たち……五人ですよね。六人になっても……大丈夫なんでしょうか」

 

「新入部員ってこと?」

 

「はい。もし怖い人だったらとか、喧嘩になったらとか……」

 

美紀は今自分が考えていることをゆきに話し始める。

 

「わたしはね、みーくんが来てくれた時嬉しかったよ」

 

「そ、そうですか」

 

「そりゃぶつかる時もあるけど……結構何とかなるんじゃないかな」

 

急に言われたゆきの言葉に顔を赤くする美紀

 

「考えすぎなんでしょうか?」

 

「怖い人だっらさ、みんなで車で逃げちゃえばいいよ」

 

「それは……そうですね」

 

「あ……」

 

ドアを壁にして寝ていたしおりがふと目を覚ます。

目を擦りながら小さく呟く。

 

「先輩、どうしました?」

 

「来てるよ」

 

「わっと!」

 

美紀の問いかけにサイドミラーに映る『奴ら』を指さす。

それを聞いたゆきは慌てて窓から顔を出す。

 

「戻って!」

 

「今行く」

 

「ゆきちゃん…」

 

(すっかり頼れるようになったわね……)

 

ゆきは外にいるくるみとりーさんを急いでもどるよう言う。

それを聞いて慌てて戻るくるみと頼れるようになったゆきを見て感心するりーさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、目的地であるラジオの人がいるであろう建物に到着した学園生活部。

その建物は白くて四角い普通の家とは違う形の建物だった。

 

「多分これだろな」

 

「すごいわね」

 

「なんか強そう…」

 

それぞれ建物を見た感想を述べる。

りーさんは建物の大きさに驚くがゆきはなぜか強そうと呟く。

 

「……なんでこんな家を建てたんでしょう」

 

「……ん?」

 

「まるでわかってたみたいです」

 

「あー聞いてみればいいんじゃないかな」

 

美紀は建物を見ていくつかの疑問を感じた。

そんなことを考える美紀に聞いてみればいいと言うくるみ。

 

「そうね。でも……どこから入るのかしら」

 

「あれじゃねぇか」

 

くるみの意見に同意したりーさんは中へ入るための入口を探すがどこにも見当たらなかった。

するとくるみが指さした先にあったのは鉄ハシゴだった。

 

「行こっか」

 

「誰か車見てないと」

 

「私が残るわ。いってらっしゃい」

 

「あ、頼むわ」

 

ゆきは鉄ハシゴに向かうが車を誰が見るのだと美紀が言う。

するとりーさんが残るといい、四人で中に向かうことになった。

 

「んじゃいってきまーす!」

 

ゆきは元気よくりーさんに向かって手を振る。それを見ていたりーさんはゆきに手を振り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄ハシゴを登りきると、その先にあるのは一つのハンドル式の扉だった。その扉を開けようとくるみと美紀としおりはハンドルを回すがそのハンドルは思った以上に固く、ビクともしない。

 

「先輩、何してるんですか?」

 

「ほら、あしあと」

 

「いいから手伝ってください」

 

「はーい」

 

美紀は未だに鉄ハシゴの方にいるゆきに声をかける。

するとゆきは自分たちが通ってきた場所に足跡がついていることに気づく。しかし美紀はその前に扉を開けると言い、ゆきを呼び戻す

 

 

 

 

そしてやっと開いた扉を覗くと、下まで続く鉄ハシゴがあった。

鉄ハシゴを使い下まで降りる四人。

降りた先にあったのは大きな鉄扉だった。

 

「開けるよ?」

 

「おう」

 

しおりが扉の取手を握りくるみに確認をとる。くるみが頷くのを見て扉を開けるしおり。

その先にあったのは、放送の機材が置かれた机に椅子。そして倒れ入っていた中身が零れたマグカップ。

誰もいないことを確認し、机の近くによる。

放送機材の上に手紙と鍵が置かれていた。くるみはその手紙を手に取る。

すると奥の扉からガリガリと扉を研ぐ音や扉を叩く音が聞こえた。

 

[扉を開けるな!扉の先には私がいる。なるべく始末をつけるつもりだけど、うまくいくかわからない。音がしたらそういうことだと思ってくれ。この手紙を見つけた人にこの家とこのキーを預ける。

できれば、あなたと一緒にお茶を飲みたかった。できれば、あなたと一緒にここをでたかった。できれば_________]

 

最後まで何かを書き残そうとしたが途中で感染が進んだのか後半の文字はぐちゃぐちゃで、さいごに書かれたあとはあるが何を伝えたかったのまでは分からなかった。

その手紙を三人にも読ませる。するとそれを読んだ美紀は涙を流す。

くるみは音が聞こえる扉の取手に手をかける。

 

「くるみちゃん……」

 

「ん?あぁ送ってくるよ……そのほうがいいと思ってさ」

 

「……気をつけてね」

 

「おう」

 

そしてくるみは取手に力を入れて扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに奥に進み、電気を付けるとそこにあったのはたくさんのコンテナだった。

 

「うわーいっぱい」

 

「……そっくりですね」

 

「ん?」

 

「学園の地下とそっくりです。物資もコンテナも」

 

コンテナがいっぱいあることに喜ぶゆきと、そのコンテナをみて疑問に思う。

その見た目は学園の地下にあったコンテナに似ていた。

 

「ふぅん……ならここで暮らしてもいいかもな」

 

「だめだよ!みんなで大学へ行くって……」

 

「ええ行きましょう。できるだけ早く」

 

くるみの提案に大声で否定するゆき。ゆきの意見を聞き大学へ行こうと再び決意する三人。

 

 

 

しばらくコンテナを調べていると、しおりは小さなケースを見つける

ケースを開けるとその中にあったのは、ベルトキットだった。

ベルトキットを取り出す。既にもういくつか埋まっていた。その中には、武器となるマチェットが三本、取り付けが自由にできる救急キットだった。そしてベルトキットを腰に巻いてみるしおり。腰に付けるとベルト部分に付属していた別のベルト、それを両足に取り付ける。

これは便利だと思い、少し喜んでいるしおり。

 

「なんかみっけたか?」

 

「これ、便利だし使えないかなって」

 

「ふーん。まぁ土産のうちにはいるよな」

 

「そうだね」

 

こうしてらしおりは新しくベルトキットとマチェットを手に入れてみんなと一緒に外へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りーさんは四人が帰ってきたことに気づきドアを開ける。しかしりーさんは、制服に血がついているくるみをみてびっくりする。

 

「どうだった?誰かいた?」

 

「あー留守だったみたい」

 

くるみはラジオの人を送ったことはりーさんに言わなかった。

 

「そう残念ね」

 

「おみやげはあったけどな」

 

と言いキーとしおりのベルトキットを見せる。

すこし先を歩くと1台のキャンピングカーがあった。

学園生活部はめぐねぇの車からキャンピングカーに乗り換えて大学へ向かうことを決めた。

 

 

全員が乗り込みさいごに美紀が乗ろうとするが、建物を見つめる。

 

「みーくんどうしたの?」

 

「もう少しだけ、もう少しだけ早く来てたらなって思ったんです……」

 

「うん、そうだね。次はきっと会えるよ」

 

「そうですね。さようなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第32話 ひみつ

キャンピングカーの中で今後についてマップを広げながら話し合う四人。

すると中に設備されているトイレからゆきが扉を思いっきり開けて出てくる。

 

「水洗最高ーーー!」

 

「おまえなぁ」

 

「先輩、気持ちはわかりますが年頃の女性として……」

 

「足伸ばして寝られるし、いいことずくめだね」

 

ゆきの言葉に呆れるくるみと注意する美紀。

しかしゆきはそんなことに耳を貸さずキャンピングカーの良さを話し出す。

 

「いいものをお借りできましたね」

 

「ね」

 

「めぐねぇ、気にしてないといいけど」

 

りーさんの急な呟きに四人はりーさんを見つめながら気まずそうな顔をする。

 

「だ、大丈夫だよなゆき?」

 

「大丈夫だよね。めぐねぇ?」

 

くるみは慌ててゆきに確認をとる。ゆきは誰もいない隣に話しかけるが、ゆき自身も慌てていた。

 

「ていうかさこの車、お風呂ないのかな?」

 

「さすがに……ないみたいですね」

 

「年頃の女の子としてはお風呂入りたいよ!」

 

「まあ、ゆっくり体は洗いたいところではありますね」

 

ゆきは風呂がどこにあるのかと探し始める。

しかしどこにも設備されておらず残念そうに「お風呂に入りたい」と呟きながら美紀に寄りかかる。

美紀も自分の匂いを嗅ぎながらゆきの意見に賛同する。

 

「そろそろ洗濯しないと、着替えもないわよ」

 

「……よし!んじゃまひとついきますか」

 

りーさんが着替えのことについて考え始める。

するとくるみはマップを見てしばし考え、手を膝にパンッと当ててある場所に車を移動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お着替え完了!いっくよー!」

 

「おう!」

 

たどり着いたのは川だった。ゆき、くるみ、しおりの三人が着替えている間、りーさんと美紀はキャンピングカーの周りにポーンを立てる。そして水着着替え終えた三人が川に向かって思いっきり走り出す。

 

「三人とも元気ねぇ」

 

「しおり先輩まで……けど、今の季節だと…」

 

はしゃぐ三人を見て嬉しそうにするりーさんと、普段はあんなにノリノリじゃないしおりも今日はなぜか楽しそうにしているのを見て少し呆れている美紀。

すると川の方からあまりの冷たさに驚くゆきとくるみ。

 

 

 

 

 

 

「…さすがに川の水は冷たいわよね」

 

「そ、そ、そういうのはさ、さ、さきに……」

 

ゆきはジャージに着替えて焚き火の近くに座る。するとくしゃみをした。そんなゆきに毛布を掛けてあげる美紀。

りーさんは温かいお茶をゆきに差し出す。

 

「しおりは……平気なんだな」

 

「陸上部とは違うところも鍛えてるからね」

 

ゆきほどではないが、寒そうにしながら美紀からもらった毛布にくるまるくるみ。その状態のまま制服を洗濯する。

するとくるみは、隣にいるしおりに問いかける。しおりは川に入っても寒そうにせず、慣れた手つきで洗濯をする。

 

「どうしたの?」

 

「なんかこういうの久しぶりだなってさ」

 

「こういうの?」

 

くるみはふと笑いを漏らす。それを見たしおりはくるみに問いかける。

 

「ゆきが後先考えずに突っ走ってみんなで頭抱えてみたいなさ」

 

「そう言えばそうだね」

 

「最近ほら、ゆき……えっと……」

 

「頼れるようになったよね」

 

「そそ!」

 

なんて言えばいいのか分からず悩み始めるくるみ。するとしおりはくるみの言葉に付け足すように言った。

 

「頼れるゆきもいいけどさ…物足りないっていうか」

 

「ふふっわかるかも」

 

「大学もいいけどさ、もう少しこのままでもいいかなって」

 

「そうだね」

 

このままでいいかもと考えだすくるみ。

するとしおりは立ち上がり洗濯していた制服をぱんっと伸ばす。

 

「でも、そうも行かないんじゃないかな」

 

「え?」

 

しおりの呟きにきょとんとして立っているしおりを見つめるくるみ。

 

「えーっと。それにさ、こっちがこのままでいたいって思っててもさ、むこうから来たりするよね?」

 

「それは、そうかもな」

 

「じゃあ、準備しないとね」

 

いつものように心から笑っている笑顔ではなく、どこか悲しさがある笑顔を見せるしおりを見て言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜は川の近くにキャンピングカーを停めてそのまま寝ることになった。

みんなが寝ている間、くるみとらしおりは交代でキャンピングカーの見張りをすることになった。

今はしおりの番で、あと数分で交代するが、しおりはその間何かを考えながらキャンピングカーの上に座る。

すると、音を立てないようにキャンピングカーから飛び降りてポーン同士の間に付けられた紐を跨ぐ。

 

 

 

 

 

 

そろそろ交代だと思い目を覚まして体を起こそうとするが、まだ慣れていないのか頭を天井にぶつける。

すると前にあった窓から外の様子を見る。そこに居たのは、どんどん奥に歩いていくしおりだった。

 

「しおり……!?」

 

その姿をみて今朝の会話と笑顔を思い出し、慌ててあとを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルトキットの後ろに付いているマチェットを抜き取り進んでいく。

進んだ先にあったのは、ボロボロになった住宅街。

奥から歩いてくる数体の『奴ら』。その『奴ら』に向かうように歩くしおりだが『奴ら』はしおりを見向きもせずに先へと進んでいく。

 

「待って……待ちなさいよ!」

 

その声に反応したのかしおりの方を向く『奴ら』。しかし互いに見つめているだけで、襲っては来なかった。

しおりは下唇を噛む。

 

 

すると、突如として『奴ら』はしおりに襲いかかる。

 

「しおりっ」

 

「!?くるみっなんで…」

 

「お前こそ一人で!」

 

しおりの後ろからこちらに向かって走ってきたくるみ。

くるみを見て分かったことがあった。私ではなく、くるみがいたから襲ってきたんだとしおりは思った。

 

「とりあえず、あとっ!」

 

そして二人は『奴ら』を倒して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかく洗濯したのにね……」

 

しおりは血が付いてしまった制服を今朝と同様に洗濯する。

心配させたお詫びとしてくるみの制服も一緒に洗濯をするため、くるみは洗濯をしているしおりを隣に座りながら見つめていた。

互いに気まずそうにしている中、くるみはしおりの頬についた血を指でぬぐい取る。

しかし、そのしおりの肌はとても冷たかった。

そして、ゆきが最近までにしおりの体温が冷たいなどのことを呟いていた事を思い出し、目を見開く。

 

「くすり、効いてなかったのかよ……」

 

「効いたよ。だからここにいるんだよ」

 

しおりは、伸ばしたままのくるみの手に自分の手を合わせる。

 

「……どこにも、いかないでくれ」

 

「…いくつもりはないよ」

 

「つもりじゃだめだ!いくなよ…」

 

「……うん」

 

くるみはしおりの手をぎゅと握りながら言う。

するとしおりは″つもりは″と言うが、くるみはそれじゃだめだと言う。そんなくるみを見て微笑む。

そしてくるみの手を引っ張り、

 

「おかえし」

 

と言いくるみの唇に自分の唇を当てる。しおり曰くいつぞやのおかえしだそうだ。

 

「大好きな親友のためだもんね」

 

と言い、くるみの額にこつんっと自分の額を当てる。

しおりの行動に驚くも嬉しそうに微笑むくるみ。

すると後ろからガタンッと音がして少し距離離すしおり。本人は少し照れくさかったようだ。

 

「ちょっと二人とも、こんな夜中に何してるの!」

 

しかし音の正体はキャンピングカーを開けたりーさんだった。

真夜中にポーンの外で何をしているのかと二人に問いかける。しかし二人はそんなりーさんを見てくすくすと笑い出す。

 

「な、なんなの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきは外が騒がしくて目を覚ましてしまう。しかし寝室には誰もおらず、カーテンを開けて声がするほうを見る。

そこに居たのは、正座をしながらりーさんに説教されるくるみとしおりの姿だった。

 

(夢だね。おやすみなさーい)

 

と、夢だと思いカーテンを閉めて再び眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

美紀はりーさんが目を覚ます少し前から二人の会話をこっそり聞いていた。二人の話を聞いていた美紀は現在りーさんに説教される二人、特にしおりを見て不安そうな顔をして、バレないうちにキャンピングカーの中に戻るが、横になっていても考えがまとまらずにいた。

 

 



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第33話 いもうと

次の日、キャンピングカーが大学へ向かって走り出す。

現在の運転手はしおりで、助手席にはマップを持ったゆきが座っている。くるみは奥の席でシャベルの手入れをしていて、りーさんと美紀は窓際の席で外で血まみれ学生帽が転がっていくのを見つめるりーさん。美紀は窓に寄りかかりながら俯いた顔をしていた。

 

「美紀さん、どうかしたの?」

 

「ちょっと夜更かしです」

 

「…そう。無理しちゃだめよ」

 

そんな美紀を見て問いかけるりーさん。

美紀は夜更かしだと答えた。理由は昨夜のことだったが、りーさんにそのことは伝えなかった。

りーさんは美紀に注意するが欠伸をする美紀。

 

「きゃっ」「わっと」

 

するとキャンピングカーは急ブレーキをして止まる。

それに驚いて声をだす二人。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん大丈夫。大したことないよ」

 

「運転代わるか?」

 

「うん……」

 

運転席にいるしおりに声をかける美紀。しおりは大丈夫だと答える。そしてくるみは奥から運転席へと歩きながら運転を代わるかと問いかける。

しおりを見てどこか心配そうにする美紀。

 

「私、やります!運転、覚えたいんです」

 

美紀は手を上げて自分が運転をすると言う。

 

「……うん。じゃあお願い」

 

「はい!」

 

そんな美紀を見て微笑みながら運転を頼む。そして席を代わり運転の説明を始める。

それをみて大丈夫だと思い席へ戻るりーさん。しかしその顔は疲れ切っていた。

 

 

 

りーさんはキャンピングカーから出て、近くにある電柱に額を当てる。そして辺りを見回しボロボロになった街をみてため息をつく。キャンピングカーに戻ろうとするとその先の景色は先程までとは違い綺麗になっていて車や人も通る街になっていた。

 

「りーねー」

 

景色に目を見開いているりーさんの前から声が聞こえた。

そこにいたのは小さな人影だった。

 

「りーさん。危ないよりーさん」

 

「るーちゃん」

 

「え?」

 

ゆきの声にハッとしてよく見ると、前にいたのはゆきで、後ろを向けばボロボロになった街を徘徊する『奴ら』。

 

「あ……」

 

「いこ?」

 

「そ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

「ここからは私の運転です」

 

キャンピングカーに戻ると運転席に座る美紀とその横にはしおりがいた。どうやら説明は全て終わったようで運転は美紀に代わるらしい。

それを聞いたゆきは近くにあったクッションで頭を抑えて「わわっ」と言う。

 

「運転、期待してるわよ」

 

「任せてください」

 

「早く学校に帰りたいものね」

 

「え?」

 

「屋上の菜園、大丈夫かしら」

 

りーさんのふとした呟きを聞き不思議そうにりーさんを見つめる美紀。りーさんは菜園の話まで始める。

すると美紀の視線に気付き話を止めるりーさん。

 

「じょ、冗談よ」

 

「…りーさん何でもできるのに冗談は下手なんですね」

 

「はは…」

 

りーさんは慌てて冗談だと言い話を逸らす。くるみはそれを聞いて苦笑いをする。

 

「そうよ。冗談……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから昼食をとっている時もりーさんはみんなと楽しく食べていたが時々どこかを見つめている様子があった。

 

 

キャンピングカーから出て近くで腰を下ろすりーさん。その目に映るのは先程の小さな人影。顔を伏せるりーさん。

 

「りーさん」

 

「え!?」

 

「わっ!?」

 

急に声をかけられて驚くりーさん。しかしそんなりーさんの声を聞いてゆきも驚く。

 

「ご、ごめんなさい。びっくりしたから」

 

「ううん。あ、これ」

 

「ありがと」

 

ゆきはりーさんに水の入ったペットボトルを渡し、りーさんはそれを受け取り笑顔で答える。そんなりーさんをみて安心したような顔をするゆき。

 

「…私ね、妹がいたんだ」

 

「おお、リアルお姉さん!」

 

「?」

 

「えっと、りーさんお姉さんっぽいなって思ってたらほんとにお姉さんだったんだね」

 

りーさんの急な呟きに目を輝かせて答えるゆき。そんなゆきをみて疑問に思っているりーさんを見てどういう意味なのかを伝える。

 

「うんうん。やっぱ本物は違うね」

 

「……そうじゃないの。私、忘れてた……あの子のこと……今までずっと……」

 

そんな呟きを聞いたゆきは飲もうとしていたペットボトルを口の近くで止めてりーさんの方を見る。

 

「ひどいよね……お姉ちゃんなのに……ずるいよね、自分だけ助かって……ごめんね、るーちゃん……」

 

どんどん声が掠れていた。そして妹への謝罪の時に涙を流すりーさん。その姿を見て不安そうな顔をする。

 

「あの子ね、ちっちゃいのに元気で、一緒に散歩してもすぐに迷子になって……私、真っ青になって探すの。隣町まで迎えに行って聞いたらね、お気に入りの帽子が風に飛ばされたんだって。それでずっと走っていったんだって」

 

「うん」

 

「ゆきちゃんみたいだよね」

 

「わたし?」

 

りーさんは妹との思い出をゆきに話す。そしてふとゆきみたいと呟き、ゆきも不思議そうに問いかける。

 

「ずっと思ってた。ゆきちゃん妹みたいだなって。本当の妹のことは忘れてたのに。私、ずっとあなたをあの子の代わりにしてたのよ」

 

「りーさん」

 

「思い出したくなかったからゆきちゃんを身代わりにして!忘れて!汚いよねこんなの!」

 

「りーさんっりーさん!」

 

どんどん声を荒らげて話し出すりーさんは持っていたペットボトルを握りしめる。先程から呼びかけていたゆきはりーさんの頬を掴み、無理やりこちらを向かせる。

 

「え……」

 

「りーさんは頑張ったよ。りーさんがいなければわたしもみーくんもくるみちゃんもしおりちゃんもここにいないよ」

 

「……でも……」

 

ゆきはりーさんの頬をつかみながら、りーさんに伝えたいことを話す。しかしりーさんはそれを否定しようとする。

 

「りーさんがずるいならわたしだってずるいよ。ずるくたっていいじゃない」

 

「……でも……」

 

「るーちゃんのこともっと教えて」

 

「………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。ゆきとりーさんはすでに寝ており、くるみ、しおり、美紀の三人はマップを広げていた。

 

「…鞣河小学校」

 

「わりとすぐ近くですね」

 

「だから思い出したのかもな」

 

「でも……どうするのがいいんでしょうね」

 

りーさんが妹のことに思い出したのかを考える三人。マップにはここから近い小学校に目を向ける。

しかしそこからどうすればいいのかと呟く美紀。

するとしおりは立ち上がる。

 

「先に行って見てくるね」

 

「ならあたしも…」

 

ついて行こうと立ち上がるくるみだが、しおりは首を横に振る。反論ができず言葉がとまる。

 

「無理は禁物ですよ。先輩」

 

「大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンピングカーから出て紐を跨いで外に出る。

するとがさっと音が聞こえ、そちらを向くと人影があった。

人影をじっと見るとあるものが目に入る。

 

[なめかわ小学校にいます。たすけてください。ごはんとお水さがしてます。]

 

と書かれたスケッチブックを首から下げていた。

 

「あ、あの」

 

マチェットを構えながら声をかけるが、その人物はすでに『奴ら』になっており、不気味な声をあげる。

 

「そうだね……そうすれば帰れなくても助けを呼べるもんね。すごいよ」

 

すると『奴ら』はしおりに襲いかかる。しおりはマチェットをもう一本取り出し背後に周り、一本のマチェットで『奴ら』を押し倒し、動けないようにする。

もう一本で倒そうとするが動きがとまる。

あの文字をみたしおりは思った、この『奴ら』は子供だと。

所々平仮名が多く、身長も低かった。そんなことを考えて動きが止まっていると、音がする。

そこに居たのはりーさんだった。しかしりーさんの目に見えていたのはしおりでも『奴ら』でもなく。小さな人影だった。

 

 

 

 



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第34話 こえ

「……んんっ」

 

ゆきはふと目を覚ます。

そこにいたのはランプを持ったりーさんがゆきの目の前にいた。

 

「わっ!?ど、どうしたの?」

 

「大切な話があるの」

 

「大切……?」

 

りーさんが近くにいることに驚くゆき。問いかけると大切な話があるとゆきに伝える。

 

「……ゆきちゃんにはどう言ったらいいのかしら。ちょっと難しい話かもしれないけど……大丈夫?」

 

「むずかしい話?」

 

するとりーさんはゆきの左手に自分の手を乗せる。

 

「寝ててもいいのよ?」

 

「大丈夫。すぐ行くよ!」

 

「わかったわ。頑張りましょ」

 

ゆきはりーさんの言葉に大丈夫だと答える。そんなゆきを見て頑張ろうと言いゆきの左手を握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園生活部の五人はテーブルのに置かれたあるものを囲んで座る。

それは先程しおりが見つけた『奴ら』が首から下げていたたすけてと書かれたスケッチブックだった。

 

「これ……」

 

「散歩してて……その…見つけたの」

 

美紀はスケッチブックを指さして見つけた本人であるしおりにどこで拾ったのかと問いかける。

しおりはなんと答えればいいのか悩み、頬を指で掻きながら答える。

 

「……見つけたってどこから…………あ、そういう手もあったんですね。気付きませんでした……」

 

「そうね。でも、今相談したいのはそれじゃないわ」

 

「はい」

 

美紀はしばらく考えるとどういう事なのかを自分で理解した。しかしりーさんは相談したいことは違うといい、りーさんの言葉に四人が頷く。

 

「生きてる人がいるのならやることは一つでしょ、今すぐ助けに行きましょう」

 

「今からか?夜は危ないぞ?」

 

「それはこの子たちも同じよ」

 

「この子たち……」

 

りーさんは今すぐ助けに行こうと言うがくるみは危険だと言う。しかしりーさんはこの子たちも同じだといい反論する。

くるみはスケッチブックに書かれた″小学校″の文字に目がいく。

 

「いこうよ!」

 

ゆきがせきから立ち上がり、りーさんに賛同するように言う。それを聞いたりーさんは嬉しそうにするが、くるみ、しおり、美紀の三人は不安そうな顔をしてゆきを見る。

 

「……何とかなるよ」

 

「そだな」

 

「ゆきちゃん、地図お願いね」

 

「らじゃ!」

 

不安は残るも大丈夫だと思い行くことにする三人。りーさんとゆきは運転席の方へと移動する。

 

「どうくるみ、行けそう?」

 

「ライトつけるとあいつら寄ってくるからな、逃げて袋小路に入るとまずい」

 

「ここの街道、確か前に通りましたよね」

 

「あぁそこ通って…うん、いけるな」

 

りーさんは運転をするくるみに行けそうかと問いかける。

するとくるみは地図を広げて道を確認する。美紀は地図のある部分を指さし、ここなら行けるんじゃないかとくるみに言う。

そこを確認すると行けると答える。

 

「よかった。お願いね?」

 

「ちょっとでもマズかったら止めるぞ?」

 

「わかってるわ。その時は朝まで待ちましょ」

 

くるみは椅子から立ち上がり運転席へ向かう。

 

「安全運転でお願いね」

 

「へいへい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてキャンピングカーは小学校の校門前に止まる。

 

「留守は美紀さんお願い。運転わかるわよね」

 

「大丈夫だよ。今回はわたしも残りますから」

 

するとしおりは美紀の方に寄るように近づき一緒に残ると言う。

それを隣で聞いていた美紀は驚く。

 

「そう、わかったわ。じゃ行くわよ」

 

「おー!」

 

「んじゃ先、偵察行ってくるな」

 

りーさんはしおりが残ることをすぐに了承して、ゆきとくるみに言う。しかしくるみは先に偵察に行ってくると言う。

 

「え?でも……」

 

「いつもやってるだろ。偵察は一人のほうが安全だし」

 

「だめよ。救出に人手がいるでしょ、みんなで行きましょ」

 

一人で先に小学校に入ろうとするくるみを止めるりーさん。

 

「くるみちゃんばっかりずるいよ!」

 

「へ?」

 

「くるみちゃんが一人で行って見つけたらヒーローじゃない?モテモテだよ!モテみちゃんだよ!」

 

「いや、あっと」

 

ゆきは急にくわっとくるみに顔を近づけてずるいと言う。すると次々とくるみに向けての不満を持って洩らす。

それを聞いていたくるみはついには耳を抑える。

 

「楽しいことはみんなで分けようよ、ね?」

 

「……まぁわかったけどさ、それなんだ?」

 

ゆきの言葉に納得したくるみは先程から気になっていたゆきの抱いているぬいぐるみが気になった。

 

「これはね、ぬいぐるみのグーマちゃん!子供はぬいぐるみが大好きだからね!この子でモテモテになるのだ!」

 

「おまえのほうがずりぃじゃないか!」

 

するとゆきはぬいぐるみをくるみの方に押し付けるように近づけてグーマちゃんの説明を始める。

それを聞いたくるみはゆきの方がずるいとツッコむ。

 

「んじゃ行くか」

 

「いってきまーす!」

 

「いってらっしゃい…」

 

元気よくゆき達は小学校へと入っていく。美紀は小さく呟き、しおりは手を振り三人を見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くるみを先頭に小学校の中を進んでいく三人。ゆきとりーさんは口元を手で抑えながら歩いていく。

曲がり角の手前でゆきとりーさんを止めて先に進むくるみ。

しばらくするとくるみが戻ってきて頷く。その後をついて行く途中、階段の奥に倒れている『奴ら』がいた。

 

「明かりくれ」

 

「はい」

 

くるみの指示で懐中電灯で奥を照らす。そこにあったのはいくつかの足跡だった。埃が溜まっているせいか足跡がくっきり見えている。

 

「足跡だ」

 

「あいつらのじゃなくって?」

 

「いや、ちゃんと歩いてる」

 

「………待っててね。今、行くわ」

 

りーさんはぎゅっと胸元を抑えながら言う。後ろでその姿を見ていたゆきは心配そうにりーさんを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

2F

 

曲がってすぐの教室の窓に板が貼り付けてあった。

 

「ここだな…」

 

「ど、どうしよ」

 

「焦ったらダメよ。慎重にいきましょう」

 

「だな……」

 

くるみはシャベルを使って教室のドアを開ける。そこにあったのは自分たちの学校と同じバリケードだった。

 

「バリケードか…下からくぐれそうだな……わっと」

 

「くるみちゃん!」

 

バリケードを下からくぐろうとすると、奥から『奴ら』の手がバリケードから伸びてきた。それに驚き後ずさりをするくるみ。ゆきは急いで教室のドアを閉める。

 

「ダメだっ戻るぞっ」

 

「待って、もしかしたら……」

 

「一匹じゃない、いっぱいいた!」

 

「中に隠れてるかもしれないじゃない!」

 

戻ろうとするくるみだがりーさんは中に誰かいるんじゃないかと思いドアを開けようとする。

くるみはりーさんに危険だと言うように叫ぶがりーさんも中で隠れてるかもと言い口論になる。

 

「そんなこと言ってる場合じゃ……」

 

「おーい!誰かいないの?助けに来たよ!いたら返事して!」

 

「ばっおまえっ」

 

「しぃっ」

 

りーさんを引っ張って戻ろうとするくるみの横でゆきは大声で教室に向かって声をかける。くるみは慌ててゆきを止めようとするがゆきは静かにと言っているように指で口元を抑える。

 

「今の聞こえた?ゆきちゃんなら聞こえるわよね?ほら、美紀さんの時も……」

 

「ううん」

 

「そんなはずないわ!ちゃんと聞いて!」

 

「うっ、ん……」

 

何も聞こえない中、りーさんが問いかける。ゆきなら聞こえると言いゆきに聞こえるかと問いかける。

しかしゆきはふるふると首を横に振る。りーさんはそれを見て下唇を噛み、ゆきにもう一度聞くよう肩を揺すりながら言う。ゆきは目を瞑ってもう一度耳をすますが、ドアを研ぐ音や『奴ら』のうめき声しか聞こえなかった。

 

「聞こえない。聞こえないよ…」

 

「でもほら、聞こえるでしょ。ね、くるみ?」

 

「……下からあがってくる。急がないと袋小路だ」

 

りーさんはくるみにも問いかけるが、下からくる『奴ら』に会わないよう急いで帰るよう行って来た道を戻る。

 

「ごめんなさいね。行きましょう」

 

「うん……」

 

階段を降りようとする手前でゆきは教室へと駆けていく。そして持っていたグーマちゃんのぬいぐるみを廊下に置いて手を合わせる。

 

「急ぐぞ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃キャンピングカーに残っているしおりと美紀は窓際の席に座りながら三人の帰りを待っていた。

しかし会話はなく窓で外を眺めているだけだった。

 

「あの…先輩…どうして残るなんて…」

 

「うーん…みきちゃんに聞きたいことがあったからさ」

 

美紀がしおりの方を向いて問いかける。するとしおりはしばらく考えて答えるが美紀はそれを聞いて首を傾げる。

 

「どうして運転を教えて欲しいなんて言ったのか気になってね」

 

「あ…実は、くるみ先輩との会話…聞いてたんです」

 

しおりの問いかけに気まずそうに答える美紀。しかし、しおりは驚きもせずに美紀をみて微笑んでいた。

 

「驚かないんですか?」

 

「なんで?みきちゃんなりの優しさ、嬉しいなー」

 

不意に言われた褒め言葉に顔を赤くしてそっぽを向く美紀。すると何かを思い出したような顔をして言う。

 

「…がんばってくださいね」

 

しおりはそれを聞いてしばらく考える。すると急に顔を赤くして驚いた顔をして美紀に問いかける。

 

「み…みてたの!?」

 

「はい。それと…私にも頼ってください…わたしだって先輩の役にたちたいです」

 

「……ありがとう……あっ、みんな戻ってきたみたい」

 

別の窓に映る三人を見つけて指を指すしおり。二人はドアの近くまで行き三人を迎える。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい…」

 

しかし帰ってきた3人の顔は疲れ切っていた。そんな三人を見て不安そうに見つめる。

 

「……どうだった?」

 

「わからないわ、まだ全部探したわけじゃないから。朝になったら…もう一度確かめないと」

 

「ま、寝てから考えようぜ。疲れすぎてる」

 

「そうね、ゆっくり寝ましょ」

 

「それがいいと思います」

 

小学校の中がどうだったかを三人に聞くがまだ分からないと答えるりーさん。結局その日は寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中、りーさんはキャンピングカーを抜け出して小学校へと向かう。

 

「いるわ。いるのよ。だって聞こえたもの……どうしてみんな聞こえないなんて言うの……待っててね、おねえちゃんが今行くから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、目が覚めたくるみはりーさんの寝ているベッドへと向かう。

 

「おーいだいじょぶ……………くそっ!」

 

しかしそこにはりーさんは居らず、ベッドの横にある窓が空いていることに気づいた。

それをみたくるみは目を見開き胸元を抑える。

 

「おい起きろ!」

 

「何ですか?」

 

「え、どしたの?」

 

急いでゆき達を起こしてりーさんがいないことを伝える。そしてゆき以外の三人はキャンピングカーを降りて小学校へと向かう。

 

「甘かった…!」

 

「落ち着いてください。まだ中に入ったと決まったわけじゃありません」

 

「そうだけどさっ」

 

険しい顔をしながら歩いていくくるみを追いかけている美紀は落ち着くよう言うがくるみは下唇を噛む。

 

「手分けして探そ、十分後に一階で集合ね」

 

「……わかった」

 

しおりはくるみを落ち着かせようと手を握りながら手分けしてりーさんを探そうと伝える。

くるみはそれに納得し、美紀の方を向けば美紀も納得したのか頷く。

すると小学校から音がした。

そこにいたのは行方をくらましていたりーさんだった。しかしそこにいたのはりーさんだけではなく小さな女の子もいた。

 

「りーさん……」

 

「それ…」

 

「大丈夫、友達よ」

 

三人が女の子を見て唖然とする中りーさんは女の子を落ち着かせるように伝えると、女の子は小さく頷く。

 

「ね、いたでしょ……ちゃんと生きてたよ。私、間に合ったよ」

 

「あぁそうだな」

 

「勝手に出て……心配したんですよ?」

 

まだ少し不思議そうにしている三人はとりあえずりーさんに声をかける。するとゆきがキャンピングカーから出てきた。

 

「りーさんおかえり。あれ、その子どしたの?」

 

「ずっと隠れてたんだって。危ないところだったの」

 

「そっか、大変だったね。もう大丈夫だからね、ずっとみんな一緒だからね」

 

ゆきは女の子に近づき頭を撫でてあげる。

 

「そろそろ行こうぜ。あんまりいると集まってくる」

 

「うん。と、その前に。おかえりなさい!」

 

『ただいま!』

 

 

 

 




やっぱり再開します!

大学編が終わったら一旦停止しますのでそれまでをよろしくお願いします!

11巻発売おめでとう✿゚❀.(*´▽`*)❀.゚✿


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第35話 はじめまして

それからしばらく経って落ち着いた頃、りーさんは外で女の子に話しかける。

 

「おなまえわかる?」

 

りーさんは優しく問いかけるが、女の子は何も喋らない。

 

「私はね、ゆうりっていうの。りーでいいわよ」

 

りーさんは自分の名前を女の子に教える。女の子は喋ろうとすれがすぐに下を向いて口を閉じる。

 

「うん、少しずつね。でも名前がわからないと困るわね…じゃあ、るーちゃんって呼んでいい?」

 

女の子の名前が分からず、とりあえず″るーちゃん″と呼ぶことにした。すると女の子は小さく頷く。

 

「うん。じゃあるーちゃん、よろしくね」

 

「おっはよ~~~!元気~~~~?」

 

するとゆきがふにゃふにゃーっとした動きでるーちゃんに問いかける。しかしるーちゃんはりーさんの影に隠れる。

 

「るーちゃん、大丈夫よ。この人はゆきさん」

 

するとるーちゃんは「ゆき」と口パクで言う。

 

「元気で面白いお姉さんよ」

 

「るーちゃんっていうんだ。よろしくね」

 

ゆきはるーちゃんに近づき挨拶をするがるーちゃんはさらに隠れてしまう。そんなるーちゃんに顔をびよーんっと伸ばして変顔をすると、るーちゃんはにへ…と笑う。

 

 

 

 

 

 

その姿をキャンピングカーの窓から座って見ていた美紀は、どこか不安そうな顔をしていた。

 

「どうしたの?こーんな顔してるよ」

 

「心配にもなりますよ。ただでさえ………」

 

すると美紀に近寄り前の席に座って今の美紀と同じような顔をする。

美紀は、しおりの腕に巻かれている包帯に目がいく。

しかし目を逸らすようにそっぽを向く。

 

「子供は苦手?」

 

「苦手っていうか、どう声かけたらいいかわからなくて……」

 

「ゆきちゃんだと思えばいいんだよ」

 

「ゆき先輩は子供っぽいのであって、子供じゃないです」

 

美紀は気まずそうにしおりに言う。しおりはゆきだと思えばいいと言うが、ゆきは子供っぽいだけだと答える美紀。

 

「似たようなもんだよ。それにほら、元気そうだろ」

 

「ですね。りーさん最近少し元気なかったですから」

 

しおりは外で楽しそうに話しているゆきとりーさんを見て言う。それを見てほっと一息つく美紀。

 

「そうそう。元気が一番、食べ物二番」

 

「私が心配しすぎてたんでしょうか……」

 

「心配役はいるよ。みんながゆきちゃんみたいだったら困っちゃう」

 

美紀はしおりにそう言われて頭の中でもしゆきだけだったらという想像をする。

 

《そろそろご飯がなくなってきたよ》

 

《マンガがあるから大丈夫!》

 

《大丈夫じゃないよ!もっとマンガを探さなきゃ》

 

《よし。今日はマンガ探しの日!》

 

《おー!》

 

 

「先輩、それちょっとひどい……」

 

「どんな想像してるの?」

 

美紀は自分で想像したゆきしかいない学園生活部を考えるだけで笑いが止まらなくなった。

その姿を見てどんな想像をしているのか問いかけるしおり。

しかし美紀の笑った顔を見て、

 

「……うん、いい顔」

 

と言い美紀の頬をぷにっと摘む。

 

「もうすぐ大学に着くから、そっちでゆっくり考えよ」

 

「そういうのずるいですよ、先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いっただっきまーす』

 

時刻はお昼。学園生活部の五人とるーちゃんはお昼を食べていた。

 

「うん、おいしい。るーちゃんも食べる?」

 

りーさんはそう言ってるーちゃんの口元にシリアルが乗ったスプーンを近づける。

その様子を見ていたくるみ、しおり、美紀の三人は気まずそうにシリアルを食べる。

 

「ぶくー」

 

するとるーちゃんの隣に座っていたゆきが変顔をする。それをみた美紀はぶっと食べていたシリアルを吹き出してしまう。

美紀の隣に座っていたしおりは咳き込んでいる美紀の背中をさする。

 

「こーら、ゆきちゃん何してるの?」

 

「食事は楽しくだよ!」

 

ゆきはもぐもぐとシリアルを食べながら言う。そんなゆきをジト目で見つめるるーちゃん。

 

「先輩は楽しさの基準が幼すぎます」

 

「いやあれがやつの精一杯だ」

 

「そうそうそうなんだよってなんかひどいこと言われてる!」

 

「悪いお姉ちゃんですねー。るーちゃんは真似したらだめよ」

 

美紀は落ち着いたのかゆきに向かって言う。くるみはあれがゆきの精一杯と言って、ゆきはそれを聞いてノリツッコミをする。

りーさんはるーちゃんに真似したらだめだと注意するが、

 

「だから真似しちゃだめよ!?」

 

すでにゆきのように変顔をしていたるーちゃん。るーちゃんの顔をみて頷くゆき。

 

「子供って悪いことはすぐ真似するよな」

 

「へっへーん」

 

「そこは自慢するところではないでしょう…」

 

楽しそうに食べたり話したりしているのを見たり、ゆきとるーちゃんが一緒に遊んでいるのを見てりーさんは微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、りーさんとるーちゃんは同じベッドで寝ていた。すると急にるーちゃんが大声で泣き出した。

その声を聞いて目を覚ましるーちゃんに目を向けるりーさん。

すると泣き止ませるようにるーちゃんを抱き寄せる。

 

「だいじょうぶだから、だいじょうぶだからね。こわかったのね、でもほら私がいるからね。ずっと一緒だからね…」

 

りーさんのベッドの隣で寝ていたゆきは何かを考えながらりーさんの声に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、大学前に到着した学園生活部。くるみとしおりが双眼鏡を使って校門の周辺を見る。『奴ら』がいないことを確認する。

 

「…うっし、いけるな」

 

そしてキャンピングカーの後ろに隠れている四人を手招きで呼び、校門まで歩いていく。

校門の横にある塀を先に登るしおり。

 

「うん。大丈夫だよ」

 

しおりの言葉を聞いて下にいる五人が登る。

りーさんは背中にるーちゃんを背負いながら塀を登ろうとするが手が届かない。するとくるみが手を握りりーさんを引っ張る。

 

「るーちゃんえらいわね。こわくなかった?」

 

塀の上から下を覗くるーちゃんにりーさんは問いかけるが、るーちゃんは首を横に振る。

そして、中から立て掛けてあったハシゴを使って中へと入る。

 

「やっと……入学だね」

 

「まだ試験受けてないわよ」

 

目を輝かせて大学を見るゆき。そんなゆきに試験を受けてないとりーさんが言うと、ゆきはガクッと肩を落とす。

 

「えー試験とかいいじゃん。わたしたち頑張ったよね?ね?」

 

「入学っていうか見学ですね」

 

「そだな」

 

 

 

 

『全員持ってるものを捨てて手をあげろ!』

 

拡声器越しに聞こえる男性の声。それを聞いてリュックや武器を地面に置いて指示通り手を上げる。

 

「全員だ。早くしろ」

 

今度は隠れていた茂みから出てきて叫ぶ。それを聞いてりーさんは困惑するが、男性は持っていたボウガンをりーさん目掛けて放った。

 

 



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第36話 にゅうがく

矢を放たれりーさんは逃げることも出来ずるーちゃんを抱き寄せ庇う。くるみはシャベルを手に取り矢を弾こうとする。しかし、矢は弾くことができたがシャベルから手が離れてしまう。

そのシャベルはりーさんの足に当たり、りーさんは膝をつく。

隣でその姿をみたるーちゃんは心配そうにりーさんを見つめる。

 

「りーさん!」

 

「ちっ何やってんだよ!」

 

しおりはベルトキットを腰に巻き、マチェットを持ちながらボウガンを持った男性へと近づく。

 

「りーさん大丈夫?」

 

「早く手当てしないと…」

 

三人がりーさんを心配する中、しおりはボウガンを持った男性と話をする。

 

「これでわかりましたよね。あいつらじゃないって」

 

「……」

 

「なら、通してください」

 

しかしボウガンを持った男性は答えず下唇を噛む。そして新しい矢をボウガンに装填する。

 

「来るな!」

 

徐々に近づくしおりに叫ぶ。

 

「どうしてですか!」

 

「あいつらじゃなくても、なりかけかもしれないだろっ」

 

″なりかけ″の言葉に反応するように下唇を噛むしおり。そして持っているマチェットを強く握りしめる。

 

「もう行こっいじめ、かっこわるい」

 

いつのまに来たのかゆきはしおりの隣に立ち、ボウガンを持った男性を指さして言う。

ゆきの言葉に驚いていると美紀はくすっと笑った。

 

「そうですね…行きましょう」

 

そのことばを聞いてしおりは不満そうな顔をするが、くるみがしおりの肩に手を乗せて頷く。帰ろうと言っているようなきがしたのか納得したような顔をするしおり。

 

「そうだね。戻るのはいいですよね?」

 

「早く出てけ」

 

ボウガンを構えながらそう言った。

学園生活部の五人はハシゴを使って大学を出ていく。

 

 

 

「ありゃぁ」

 

大学の校舎から双眼鏡を使って見ていた赤髪の女性はそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンピングカーに戻り、りーさんの手当をする美紀。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ありがとう。大したことないわ」

 

「まったくひどいよね!」

 

美紀の隣で先程の行動に怒るゆき。

 

「るーちゃん平気?怖くなかった?」

 

りーさんの問いかけにじーっとりーさんを見つめるるーちゃん。するとるーちゃんはりーさんに抱きつく。

 

「そうだよね。りーさんがいたもんね」

 

「私なら大丈夫よ。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃くるみとしおりは運転席と助手席に座って互いを見合って話していた。

しかし、しおりの表情は暗かった。するとくるみはしおりを自分の胸元に抱き寄せる。

 

「怖かった…自分に言われてるみたいで…」

 

「大丈夫だ…頑張ったな…」

 

涙目になりながらくるみに言うしおり。そんなしおりの頭を優しく撫でてあげるくるみ。

 

「この大学に…いるんだよね?千鶴先輩と六花先輩」

 

「あぁ…あの二人なら大丈夫だよ」

 

「それもだけど……愛菜のこと…」

 

その言葉にハッと息を呑むくるみ。愛菜を送ったのはしおりだった。正直ずっと落ち込んで立ち直れないんじゃないかと思ってたくるみだったがそんなことにはならなかった。でも時々誰もいないところで泣いているのを見たことがあった。しかしいつも声をかけることが出来なかった、傷つけてしまうんじゃないかと…でも今日は違った。

 

「あたしは絶対いなくなったりしない…だから、しおりもあたしの前からいなくならないでくれ…約束だ」

 

しおりを離して自分の小指を出す。それを見たしおりは涙を拭い頷き、自分の小指をくるみの小指に絡める。

 

「よし!んじゃこの話は一旦終わりだ!みんなのとこ戻ろうぜ」

 

くるみはシャベルを持って運転席から立ち上がり、みんなの所へ戻ろうと歩きだす。しかし、しおりはその場を動かなかった。

 

「…しばらく休んでろよ。疲れてるだろ?」

 

「うん…ありがと、奥で休むよ」

 

そう言ってしおりは助手席から立ち上がる。くるみは頷き、奥に続く道にあるカーテンを開ける。

 

「それでどうする?」

 

くるみは三人に今後どうするかを問いかける。

 

「正直先が思いやられますね」

 

「せっかく来てみたけどあれじゃなぁ」

 

「悪い人ばかりじゃないかも」

 

「それはそうですけど…」

 

三人が話している間、るーちゃんはりーさんの隣でうとうとし始めた。しおりは奥にある椅子に座り肩を落とす。

 

「話くらい聞いてみるか……」

 

「私は反対よ。どういう理由があってもこの子を撃つような人達よ」

 

「そうだね。るーちゃんが危ないのはよくないよね。だからるーちゃんはお留守番だね」

 

「え……?」

 

ゆきの言葉に目を見開くりーさん。

 

「ああ、別に全員で行かなくてもいいもんな」

 

「それなら……いいけど、危ないことしないでね」

 

りーさんはスカートの裾をぎゅっと握る。

 

「ヤバかったらすぐ戻ってくるよ」

 

「私も行きます」

 

「じゃ、わたしお留守番するよ。るーちゃんよろしくね」

 

ゆきは屈んでるーちゃんの顔をみて言うと、るーちゃんはその声に反応するように目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くるみと美紀が外へ出てからしばらく経った頃、りーさんは窓際の席に座って外を眺める。横を見ればゆきとるーちゃんが手遊びをして遊んでいた。しおりも落ち着いたのかいつも通りに見えていた。

すると外から声がした。

窓から見れば奥からこちらに走ってくるくるみと美紀。その先にはヘルメットを被った二人組がいた。

 

「ゆきちゃん!」

 

「え?あっうんっ」

 

ゆきはキャンピングカーのドアを開けて二人を中に入れる。二人の表情は疲れ切っていた。

 

「りーさん出して!」

 

「わかった」

 

キャンピングカーはヘルメットの二人組を置いて出発する。

 

「待てっ!」

 

ヘルメットの一人が叫ぶがそれに耳を貸すことはなかった。

 

「はい、るーちゃん。ベルトしめるよ」

 

くるみと美紀は壁や椅子に寄りかかりながら息を整える。

 

「…………ごめん」

 

「気にすんな、無事だったし」

 

「くるみ、運転代わってもらえる?」

 

「あぁ今行く」

 

りーさんの呼びかけに応じ、運転席へと向かうくるみだがどこからかクラクションが鳴り響く。

 

「うしろ!」

 

美紀の声を聞き後ろを向けば、先程のヘルメットの二人組が車に乗ってキャンピングカーをおってきていた。

 

「ど、どうすればいいの?」

 

「待ってろ!」

 

「なんか聞こえない?」

 

「聞こえてるよ!」

 

ゆきはふと呟くがくるみはクラクションのことだと思い、そう答えながら徐々にに座る。

するとしおりはくるみの肩を叩き言う。

 

「ラジオッ!音量上げてっ」

 

くるみは指示通り音量をカチカチといじり、音量を上げる。

 

『おーい。キャンピングカーの人聞こえてるー?危なくなったら裏門に来て、待ってるよ!』

 

「!この声…」

 

聞こえたこの声に聞き覚えがあるしおりは目を見開く。

 

「ど、どうすればいい?」

 

「行くしかないだろ。次の角右!その次左!」

 

「代わってよ!」

 

「今代わるとぶつけられる!」

 

サイドミラーを見ればヘルメットの二人組が乗っている車はもうすぐそこまで来ていた。

 

「もう!どうなっても知らないから!」

 

りーさんは思いっきりハンドルを回して左折する。その先には裏門を開けてこちらに手を振る五人の女性。

キャンピングカーは裏門から中に入り、それを確認すると裏門を閉じる。

それを見て車はブレーキをして、Uターンをして帰っていく。

りーさんはキャンピングカーのドアを開ける。

 

「お疲れ様。大変だったっしょ」

 

「あの……あなたがたは?」

 

「えっと…生き残り?」

 

りーさんの問いかけに眼鏡を掛けた銀髪の女性は疑問風に答える。

 

「違いますよ」

 

「そーそー。わたしたちはさっきの車の連中とは別グループ」

 

「あぁそうそう。武闘派の人とはどうも合わないんだよねー」

 

青髪の女性と赤髪の女性は付け足すように呟く。

くるみとしおりはその二人に見覚えがあり目を見開くが、今は確かめることも出来ずただ見ているだけだった。

 

「そんなわけでまぁ、聖イシドロス大学へようこそ!」

 

銀髪の女性はりーさんにそっと手を出す。りーさんはその手をぎゅっと握りしめた。

 

「お世話になります」

 

「学園生活部、再スタートだよ!」

 

ゆきがその手の上に自分の手を乗せる。すると全員がそこに手を乗せる。

 

「え?え?」

 

『おー』

 

「な、何!?」

 

学園生活部の全員が手を上げている中、銀髪の女性は驚いて見ている中、青髪の女性と茶髪の女性は互いを見てクスクスと笑い、黒髪の女性はそれをただ見ているだけで何も言わず、赤髪の女性は銀髪の女性の驚きようをみて笑っていた。

 

 

 



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第37話 かんげい

「へーいままで高校にいたんだ。スゴイね」

 

あれからキャンピングカーを駐車して大学の中へと案内される。

 

「うん、学園生活部っていうんだよ!」

 

「おいゆき……」

 

ゆきの先輩への話し方に呆れたくるみはゆきの肩を掴み注意をしようとするが、

 

「あ、敬語とかいいよ。そういうの面倒でしょ。学園生活部ね、うちも似たような感じかな」

 

「そう!ボクたちのサークルへようこそ!」

 

すると銀髪の女性は扉の前でくるっとみんなの方を向いてそう言う。

 

「サークルですか?」

 

「そそ。名前で色々もめたんだけどさ、自堕落同好会とか!くっちゃね友の会とかねー」

 

「は、はぁ……」

 

赤髪の女性は今までのサークル名を紹介し始める。それを聞いていたりーさんはどう返したらいいのか分からなかった。

 

「さすがに……ないよね……」

 

黒髪の女性はジト目でそう呟いた。

 

「ま、そんなこんなで最終的にサークルでいっかってことになって。まま、難しいことはあとにして入って入って」

 

銀髪の女性はドアノブに手をかけて扉を開ける。

扉の先にはテレビや大きいクッション、DVDがずっしり入った棚や様々なゲーム機が置いてあった。

 

「おーーーー!こ、これ遊べるんですか?」

 

「もっちろん!」

 

沢山のゲーム機に興奮するくるみ。すると銀髪の女性はクッションに座りテレビを付けてゲーム画面にする。そして二人揃ってクッションに座りゲームをし始める。

 

「自堕落同好会……」

 

美紀はその姿をみて呆れる。するとDVDが並べられた棚を見て目を輝かせる美紀。見たかった映画が何本もあったようだ。

 

「はいはいそこまで」

 

『わー!』

 

茶髪の女性にテレビを消されて騒ぐ二人。

 

「わーじゃないっしょ。お客さん呼んどいて」

 

「まったく…くるみ?」

 

「悪ぃゲームできるなんて思ってなかったからさ」

 

「そう!ボクの言いたかったのはそこさ!ここはね、電気が生きてるんだ!」

 

くるみがしおりに叱られている中、銀髪の女性は眼鏡を上げて電気が生きていることを自慢そうに言う。

 

「あの…私たちの学校にも電気はありました」

 

「へ、へーでもね、それだけじゃないんだ。ここには何と…温水施設があるんだ!」

 

「あの、それも……ありました」

 

美紀に電気はあると言われ驚くがもう一度眼鏡を上げて今度は温水施設があることを言うが、それもあると美紀に言われてしまいショックを受ける。

 

「でもでも、しばらくシャワー浴びてないからすっごくうれしいです」

 

「そっか!」

 

ゆきの言葉を聞いて立ち直り表情がパァっと明るくなり話が盛り上がる中、黒髪の女性は扉に寄りかかりながら呟く。

 

「ここだけじゃ……なかったんだ」

 

「ね、アンタたちの高校ってどこの高校?」

 

「それなんですけど……」

 

「あ、てか座ったら?」

 

「はい」

 

りーさんは高校について話そうとするが、茶髪の女性は座ることをすすめ、それに頷き全員がクッションに寄りかかりだらーっとしてしまう。

 

「……部屋、変えましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして別の部屋へと移動した。

 

「えーと、自己紹介からかな。ほら″代表″」

 

「え?」

 

学園生活部はそれを聞いてふと疑問に思う。すると銀髪の女性は自己紹介を始める。

 

「サークル代表の出口桐子だよ。代表の仕事は楽しいことを企画することかな」

 

「楽しいこと?」

 

「そう!24時間耐久ゲーム会とか!24時間耐久映画鑑賞とか!24時間耐久アイスクリームとか!」

 

「すごいすごい!」

 

ゆきが楽しいことの内容を聞いて喜んでいる中、くるみは苦笑いをする。

 

「それって全員参加なんですか?」

 

「まっさか、うちはゆるいから強制とかないよ」

 

「んで、アタシは光里晶。アキでいいや。こっちが喜来比嘉子、ヒカだね。工作とか修理てかが得意」

 

アキは自分の自己紹介と共にヒカの自己紹介を始める。

すると、赤髪の女性は「はいはーい」と手を上げて自己紹介を始める

 

「私は大城千鶴。タメでいいよーちなみに私は君たちの高校の卒業生なんだよ。これは私の愛刀達、よろしくね」

 

千鶴は自分の腰に付けていた木刀を持ちながら言った。学園生活部の全員は卒業生だということに驚いていた。

 

「私は鳴瀬六花です。この千鶴とは幼なじみで、私もあなた達の高校の卒業生です。よろしくお願いします」

 

「六花〜″この″って私はものじゃないんだから〜」

 

千鶴同様卒業生である六花。千鶴と幼なじみと言う時だけ何故かジト目だった。

 

「アンタたちが学園生活部だよね」

 

「はーい!ゆきとりーさんとみーくんとくるみちゃんとしおりちゃん!それにるーちゃんです」

 

ゆきは手を挙げて自分の名前と共に他の学園生活部の名前とるーちゃんを紹介する。

 

「元気いいね!そっちは何があったの?」

 

「それなんですけど……」

 

りーさんは何があったのかを話すため、学校から持ってきたパンフレットを見せる。

 

「うわっ大変だったんだねぇアンタたち」

 

「設備が良すぎると思いました……」

 

「それでうちの大学にねー」

 

アキと六花はパンフレットをパラパラとめくりながら設備がいい理由が分かったように呟く。

 

「ランダルコーポレーションというのと迷ったんですけど…」

 

「そのうち行ってみよ?」

 

「うう、ボクはインドア派だし」

 

「アンタねぇこの子たち見てそれ言えんの?」

 

トーコのインドア派発言に呆れるアキ。それを不思議そうに見つめるゆきとるーちゃん。

 

「が、がんばる」

 

「あの、先輩がたはこれまでどうしてたんですか?」

 

「武闘派ってのがいるんですよね?」

 

″武闘派″の言葉にピクッと反応するヒカ。

 

「あぁ。あいつらも悪いやつじゃないんだけど……最初に騒ぎが起きた時はさ、まだ電気とかなかったんだ。だからみんな必死だった。ぶっちゃけ人がどんどん減ってったし、あのままだとヤバかった。だからあいつらは規律第一でしきり始めたんだ。」

 

「それが武闘派…ですか」

 

「うん。戦える人間を優遇して、でもちょっとでも怪我したら危ないからって……わかるだろ?」

 

「はい……」

 

トーコの言葉にしおりの腕を見て不安そうな顔をして答える。

 

「でもボクたちはそういうの苦手でさ、文句言ったら勝手にしろって言われて…それで勝手にしてるんだ」

 

「はしょりすぎ。ヒカのおかげでしょ」

 

「別に……」

 

「そーそー。ほっとかれてさ、水もゴハンもなくなってそろそろまずいかなって思ってたらヒカがね、非常用電源を見つけてくれたんだー。地下の食料庫も」

 

千鶴はヒカの手を掴み、手を挙げさせてはしょった部分を説明する。

 

「電源って太陽電池ですか?」

 

「うん。屋上にあったから……どこかつながってると思って調べた……」

 

「とにかくそれで、水と食料と電気がなんとかなって、ゲームする余裕もできたんです」

 

六花はここまで話したことを簡単にまとめるように呟く。

 

「よかったねぇ…でもそれならさぁ、その武闘派って人もまったりすればいいんじゃないかな?」

 

「そうよね。でも、一度始めちゃったやりかたって変えるのがすっごく難しいのよ……」

 

ゆきのふとした疑問にアキは答えるが、その表情はとても悲しそうだった。

 

「ま、いろんなやつがいるさ。大学だからね」

 

「おおー」

 

トーコは黄昏たような雰囲気でかっこよく言う。ゆきとるーちゃんだけはとても感心したような顔をしてトーコの話を聞く。

 

「それ今考えたでしょ」

 

「言うなよー」

 

 

 

 

 

 

 

「個室だよみーくん」

 

「はい」

 

「すごいよね、さすが大学!キャンパスライフは大人の香り!」

 

「先輩は個室があると大人なんですね……」

 

ゆきは自分の個室のドアに名前を書いた板を貼りつけて、隣にいる美紀に上機嫌で大学はすごいと言うが、美紀はゆきを見て呆れている様子だった。

 

「君、後輩なんだ」

 

「はい。私が二年で、ゆき先輩が三年……」

 

後ろで会話を聞いていたヒカが美紀に問いかけると、美紀はゆきを指さして学年が違うことを言う。

 

「違うよ。二人で卒業したでしょ」

 

「じゃあゆき先輩、先輩じゃないですね」

 

「ええ〜」

 

「余ってる部屋……好きに使って。私たちもそうしてるから」

 

ヒカは二人の会話を見ていてクスっと微笑みその場を後にしながら二人にそう伝える。

 

「ありがとうございます」

 

「うれしいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃおやすみなさい」

 

その日の夜。学園生活部は好きに使っていいと言われた個室を使って寝ることにした。

くるみとしおりは陽があると言っていまはいない。

ゆきは布団を敷いて横になるが、なかなか寝付けず落ち着かない様子だった。

するとゆきはそっと音を立てないようにドアを開けるが、ふと隣を見れば美紀もドアを開けていた。

 

「みーくん?」

 

「先輩もですか?なんか寝つけなくて……」

 

よく見ればりーさんもドアを開けていた。

 

「ちょっと部屋、広いわよね」

 

「そうだよね。狭くてぎゅーぎゅーがいいな」

 

「じゃ今日はゆきちゃんの部屋にお邪魔する?るーちゃんいいかしら?」

 

部屋が広すぎるためみんなで一緒に寝ようということでゆきの部屋で寝ることになり、りーさんはるーちゃんにそれでいいかと問いかける。するとるーちゃんは何も言わず頷く。

 

「ありがと、りーさん、るーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、トーコは自分の部屋にあるクッションに寄りかかりぼーっと何かを考えていた。

するとノック音が聞こえドアが開く。そこにはお酒やつまみを持ったアキとヒカが入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱさー先輩らしくしないとって思ったんだよねー」

 

それからしばらくすれば三人の顔は酔っているのか真っ赤になる。

 

「あの子たち苦労してたもんね」

 

「そうだよ!なのにボクたちはただゲームしてましたってのはちょっと……なんか……」

 

「自堕落同好会は返上?」

 

アキは代表であるトーコに問いかけると、トーコは持っていた紙コップに入ったお酒をぐびっと一気飲みする。

 

「うん。明日から頑張る!」

 

「ま、そんなとこよね」

 

「……乾杯」

 

『乾杯!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに同時刻。くるみとしおりは千鶴と六花に呼ばれて千鶴の部屋に来ていた。

千鶴と六花はいつも通りにしながら持ってきたお菓子やらを食べる中、くるみとしおりは気まずそうにしていた。

 

「遠慮せず食いなよー」

 

「いや、話し合って呼んだんじゃないのかよ」

 

「そうよ千鶴。ごめんね二人とも、そうねお話しなくちゃね。お菓子でも食べながらね」

 

ボリボリとお菓子を頬張る千鶴をみて呆れるくるみ。六花は二人に謝罪をして話を始める。

 

「早速でごめんなさいね……愛菜ちゃんは?」

 

愛菜の名前を聞いたとたんしおりは下を向き顔を伏せる。

 

「しおりが…送りました」

 

「そっか…ごめんね。急に重くなって」

 

「いいえ…」

 

くるみと六花は未だに下を向くしおりに寄り添うように話すが、千鶴は違うことを考えていた。

 

「んあーーー!湿っぽい話終わり!ゲームして気持ち切り替えよ!」

 

「まったく…でもそうね。遊びましょうか」

 

二人の提案を聞いて互いを見ながらどうするか考えるくるみとしおり。

二人は微笑み、ゲームに参加することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなに付き合わされるとは…」

 

くるみは欠伸をしながら自分の部屋へと戻る。隣を歩くしおりも眠そうにしていた。

あれから数時間、ゲームをやる手が止まらずそのまま続けていれば千鶴は寝落ちしてしまいそのまま解散になった。

 

「ん?どした?」

 

ふとジャージの裾を摘まれ、振り向けばしおりが摘んでいた。

 

「個室なれてなくて……同室でも、いい?」

 

しおりは少し恥ずかしそうにそう言った。くるみはしばらく考えると、しおりは家に自室があるとはいえ寝るのは家族一緒だったことを思い出す。

 

「別にいいけど…」

 

同じ部屋ということに少し恥ずかしさがあったが、その反面嬉しい気持ちもあったくるみは頬を指で掻きながら同室を許可する。

それを聞いたしおりは嬉しそうにくるみの腕に抱きつく。

 

「どうしたんだよ。上機嫌じゃねえか」

 

「先輩達と話せてちょっと元気でたなーって。良かった…二人が武闘派じゃなくて」

 

最初は嬉しそうに言うがあとから徐々に声が小さくなる。

するとくるみはしおりを抱き寄せる。

 

「約束しただろ?それにみんなもいるんだからさ」

 

「うん。ねぇくるみ、もし寝てる時に私が魘されてたりしたらギュッてしてくれる?」

 

「お安い御用…」

 

くるみは抱き寄せる力を少し強めてそう言った。

 

 

 

 



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第38話 ほん

「ふーんふふーんふーんふーんふーん」

 

りーさんは一つの空き教室の掃除をしていた。カーテンをハタキで綺麗にし、椅子と机、ホワイトボードを準備する。

そんなりーさんを見てるーちゃんは不思議そうにしていた。

 

「きょう、しつ?」

 

「そうよ。大学っていうのはね、みんなでお勉強するところなの」

 

空き教室から出て、ドアに[学園生活部 教室]と書かれた紙を貼る。

するとゆきが歩いてきた。しかしりーさんに気づきさっと隠れる。

 

「?ゆきちゃんおはよう」

 

「……お、おはようりーさん。何してるの?」

 

「空き教室を改装して教室にしたの。大学生なんだから勉強もちゃんとね」

 

「は、はいっ」

 

りーさんはどうしてゆきが隠れたのか分からないが声をかける。ゆきはそーっとりーさんに近づき挨拶する。

結局断りきれず、りーさんの指導のもと勉強が始まった。

その間るーちゃんは絵本を読んでいる。

するとゲーム機を持ったままくるみが教室に入ってくる。すぐにりーさん達が何をしているのかを察し、ドアを締めようとするがりーさんに止められ、結局りーさんに無理やり連れていかれゆきの隣で勉強することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあー……」

 

「つ、つかれた…」

 

あれから数時間、ぶっとうしで勉強をしたゆきとくるみ。机や椅子にぐでーっと寄りかかる二人。

 

「二人ともだいぶ忘れてるわね…もっと時間かけないと…」

 

「はい!」

 

「なぁに?」

 

りーさんが勉強をもっとやらないとと行った時、ゆきは慌てて意見を言おうと手を挙げる。

 

「だ、大学の勉強ってあの、高校と違ってほら、言われるまま勉強するってのは何か違うっていうか」

 

「そうそう。自主性っていうか、何を勉強するか自分で考えるみたいな?」

 

「……確かにそうね」

 

ゆきとくるみの意見を聞いて納得したりーさんを見て二人の表情はパーっと明るくなる。

 

「じゃ、二人とも何を勉強したいのか、まずそれを決めてレポート提出ね」

 

「おぉ、レポート!大学生っぽい」

 

「えー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レポートですか?」

 

「そうなんだよーみーくんも一緒にやろっ」

 

ゆきはレポートのことを話に美紀の部屋に来ていた。ゆきは美紀にレポート用のノートを見せて一緒にやろうと誘う。

 

「だめですよ。自分で決めないと」

 

「でもでも、急に言われても……やりたいことってそんなないよね」

 

「じゃあ先のことを考えてみたらどうですか?」

 

美紀はパラパラとノートをめくり終え、自分でやらないとだめだと言いゆきにノートを返す。

しかしゆきは最初は乗り気だったが今思えば何をすればいいのかと考える。

 

「先のこと?」

 

「将来何をしたいのか、何になりたいのか、そのためには何がいるのか……」

 

「将来かー……」

 

美紀の提案を聞いてしばらく考えるゆき。

 

「あった!」

 

「な、何ですか?」

 

「あのね」

 

するとゆきは横を向き急に叫ぶ。それに驚く美紀にこそこそと耳打ちをする。それを聞いた美紀は目の前にいるゆきをみつめる。

 

「いいんじゃないですか。先輩ならきっとなれますよ」

 

「うん!」

 

「いっぱい勉強しないとですね」

 

「は、そうか」

 

美紀の言葉に笑顔で答えるゆきだが、勉強の一言で盲点をつかれたような顔をする。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「え?」

 

「レポート書くんでしょう?」

 

すると美紀はその場から立ち上がる。どこへ行くのかと疑問に思う。

そして二人はある場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「図書館?無事ですよ」

 

「おおおお図書館でレポート!大学生っぽい!」

 

「別に高校生でもできます」

 

ゆきと美紀の二人は六花の部屋に来ていた。六花に図書館が無事かと問いかけると、問題ないと答える。そしてゆきは図書館でレポートを書くと聞いて目を輝かせる。

 

「もーみーくんはわかってないなぁ大学図書館だよ?」

 

「うちにもありましたよ」

 

「あれは図書室ー」

 

「あ…行くのでしたらヌシに気をつけてくださいね」

 

六花は少し呆れた顔をして言うが、二人にはどういう意味なのかが分からなかった。

 

「ぬ、ぬし?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は図書館にたどり着き、扉を開ける。

図書館の中もボロボロにはなっているが、他と比べるとそうでもなかった。血痕もなくただ本や筆記用具が散乱して荒れているだけ。

 

「マンガあるかなー」

 

「違うでしょ…えーと、300番台だからあっちですかね」

 

ゆきはマンガを探そうとうろうろするが、そんなゆきを止めて目的の本がある棚を探す美紀。

すると奥に何かがいた気がしてそちらを振り向き懐中電灯を向けるが誰もいなかった。

 

「どうしたの?みーくん」

 

「いえ、気のせいだったみたいです。行きましょう」

 

何もないと言い先を進むがそんな二人を追いかけるように歩き出す人影があった。

 

「やぁ何してるの?」

 

するとある人物がゆきと美紀の肩にぽんっと手を置き問いかけるが、二人は急なことだったので大きな叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、トーコたちとはもう会ったんだね」

 

「はい。先輩……」

 

「リセでいいよ」

 

「リセ先輩はこちらで暮らしてるんですか?」

 

いろいろと落ち着いたところで二人と一緒に目的の本がある棚を目指すピンク髪の女性、リセ。

 

「うん。食事の事とかは戻るけどこっちで寝泊まりしてるよ」

 

「すごーい!本が大好きなんですね」

 

「ああ、この図書館の本を全部読むのが夢なんだ」

 

リセの生活や夢を聞いて感心したような顔をするゆきと美紀。

 

「私はね、世の中の素晴らしい本はすべて読み通したいんだ。世の中に自分が読んでない素晴らしい本があると思うと胸が苦しくなる。でもね、困ったことにどれだけ本を読んでもすぐ新しい本が出てしまうんだ。たからね、私はこうなって少しだけ安心してるのさ、だってもう新しく本が増えることはないだろ?」

 

リセはそっと本棚に手を添えて語り出す。最初は感心して聞いていた二人も、リセの話している内容が進む事に表情が変わってくる。

そして最後の言葉の時点で二人は、天に恵まれているような顔をするリセを前にして呆れたような顔をする。

 

「本好きにとってはいい時代だよね。さ、探してる本ならここだよ」

 

そう言ってゆきの目的である[教育学]の本棚へたどり着いた。

 

「用があったらまた呼んでね」

 

「ど、どうも…」

 

リセは美紀の肩にぽんっと手を置きその場を後にする。

 

「なんか変わった人だね。みーくん?」

 

「いえ……」

 

ゆきはリセを変わった人だと言うが美紀は何かを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたの?」

 

「わたしってさーあんまり本好きじゃないのかも」

 

ゆきは図書館から必要な分だけ本を持っていき、学園生活部の教室へと戻るが、ノートとにらめっこをしていた。

隣でるーちゃんと絵本を読んでいるりーさんがゆきに問いかけると、ゆきは自分は本好きじゃないと呟く。

 

「ゆきちゃんはどっちかっていうと漫画よね」

 

「そうだけど!そうじゃなくてあのね、さっき図書館で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ってことがあったの」

 

「すごい先輩ね…」

 

ゆきは図書館で起こったことをりーさんに話すとりーさんもリセのことをすごい先輩だと言う。

 

「でね、わたしダリオマンの続き読みたいんだけど、それって本が好きじゃないってことになるのかなーって。だってさ、最新刊ではダリオマンが目玉壊すマンと戦うところで終わったんだよ!続き気になるよね!」

 

「そ、そうねぇ。昔の本も読みたいけど新しい本もないと寂しいわよね」

 

「だよね!やっぱ新しい本をどんどん作らないと」

 

ゆきの話を聞いていたりーさんはよく分からなそうな顔をするがゆきの意見に賛成するような呟きをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀はもう一度図書館を訪れた。そこにある一角にはリセの生活スペースがあり、ソファや布団、机と椅子があった。

ソファに座り本を読んでいるリセの所に気まずそうに来る美紀。

 

「また来てくれたんだね。どうしたんだい?」

 

「……これ、どうぞ……」

 

美紀がリセに手渡したのは自分たちで制作した卒業アルバムをコピーしたものだった。

 

「これは君たちが?」

 

「はい。コピー機使わせていただきました」

 

「卒業アルバムか。915日本文学 日記 書簡 紀行あたりかな。うんありがとう、読ませてもらうよ」

 

「あの私、本が好きですけど。やっぱり新しい本も読みたいです。本がもっともっと増えるといいなと思うんです」

 

美紀は先程リセが言った意見とは反対の意見をリセに伝えると、リセはそんな美紀を見つめ、卒業アルバムをめくる。

 

「そうだね。私も続きを読みたくなったよ」

 

「まだ一冊ですけど……もっとたくさん読めるようにしたいですよね」

 

「そのためには……うーんと、まず書く人が増えないとダメだね。つまり人工増大だ。そのためには食料の安定供給と衛生と教育…文明復興だね。結構大変だよ?」

 

「はい。でも、そのための本ですよね」

 

リセの正しい意見に納得している美紀だが、ふと周りにある本棚を見つめてそう呟く。

 

「あ、すいません。偉そうなこと言って」

 

「いやいや楽しかったよ」

 

「失礼します」

 

「気をつけてね」

 

美紀は少し照れくさそうにリセに謝罪すると、一礼をして図書館を後にする。

リセはそれを見送ると、片手に持つ卒業アルバムを見つめる。

 

「そのための本…か」

 

 

 

 

 

 



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第39話 それぞれ

ある日、ゆきはとある空き教室に[トーコゼミ]と書かれた紙をペタっとドアに貼り付ける。

 

「お、本格的だな」

 

「うん。ゼミだよゼミ!ミンミンだよ!」

 

「そりゃセミだ!」

 

ゆきのいる所に他の学園生活部の四人とるーちゃんがやってきた。ゼミをセミだというゆきにくるみが呆れたような顔でつっこむ。

 

「ゼミナールはセミナーだしセミでも合ってるかも……」

 

「もうりーさんまで……」

 

「諸君おつかれ!」

 

りーさんの呟きに美紀が呆れていると、サークルの五人がやってきた。千鶴は寝足りないのか欠伸をしている。

 

「トーコ先生、よろしくお願いします!」

 

「うむ。ささっ入って入って」

 

ゆきの言葉にトーコは頷き、全員を中に招き入れる。みんなが入っていく中、アキはヒカに小声で問いかける。

 

「いつからトーコゼミになったの?」

 

「さぁ…」

 

二人は不思議に思いながらもトーコゼミの中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけで、第一回あいつらの正体を探ろうの会議~!」

 

「わーどんどんぱふぱふ」

 

「あの、第一回なんですか?」

 

トーコ以外の全員は椅子に座り、前にはコピーしたパンフレットが置かれている。トーコはホワイトボードに会議の議題を書く。ソレをみたゆきは笑顔で拍手をする。くるみ、りーさん、しおりの三人がそんなゆきを見て心配そうにしている中、美紀は挙手してトーコに問いかける。

 

「うむ。考えてもしょうがないことは考えないことにしてるんで」

 

「それは……トーコだけ……」

 

「考える意味ができたってことですね」

 

「うん。君たちのおかげでね」

 

トーコの言葉を聞いてヒカがジト目で呟くと、その言葉を聞いた全員が呆れたような顔をする。そんな中しおりはトーコに問いかけると、トーコはパンフレットを見せる。

 

「生物兵器か……情報科学部だからわからないや。誰か生物学部いたっけ?」

 

「アタシ文系。ヒカは?」

 

「工学部……生物は苦手」

 

生物学部はいないかと他のサークルメンバーに問いかけるが、アキは無理だと言い、ヒカは苦手と言って首を振る。

 

「私、外国語学部だから生物は論外〜」

 

「私も法学部なので難しいですね…」

 

「稜河原先輩は?」

 

「リセは……文化人類学部だったと思います」

 

千鶴も六花も自分の得意分野ではなく、美紀はリセはどうかと聞くが六花は違うと答えて全員ダメだっと言うことでどうすることもできず沈黙が続く。

 

「とにかく…ウイルスが原因なら、このランダルコーポレーションってところに行くしかないね」

 

「ウイルスなのかな……」

 

「何がですか?」

 

「だってあいつら……食べてないのに……動いてる」

 

トーコは咳払いをして改めて話を進めランダルコーポレーションへ行くと言うが、ヒカがウイルスなのかと呟く。りーさんの問いかけにヒカは、『奴ら』は食べていないのに動いていると言う。

それを聞いていたしおりは顔を伏せる中、話は進んでいく。

 

「そうよねー待っていれば腐りきって止まるかと思ったら、全然そんな様子ないし」

 

「ただのウイルスでは説明がつかない?」

 

「じゃ、すごいウイルスなんだよ!」

 

「ゆき先輩は黙っててください」

 

アキと美紀が推測をするとヒカはそれを聞いて頷く。ゆきがすごいウイルスと言うと美紀は呆れた顔をしてゆきに黙っているよう言う。

 

「すごいウイルスか…まぁそうかも」

 

「エネルギー保存則が……」

 

「ウイルスでなかったとするとやっぱりオカルトかな?」

 

呆れながらもゆきの言葉に納得するくるみだが、ヒカは一人ぶつぶつと独り言のように小声で呟く。

トーコはウイルス以外だとオカルトだと推測する。

 

「えーアタシ怖いの嫌いー」

 

「わたしもー」

 

「ふふふ…地獄の底からあふれた……」

 

『きゃー』

 

怖いのが苦手というアキとゆきを見てトーコは両手をわきわきと動かして不気味に笑いながら囁くと、アキとゆきは互いに抱き合い悲鳴をあげる。

 

「それ映画の話ですよね?」

 

「まぁ現実がこうなっちゃうとね」

 

「いい加減だね」

 

「いい加減大好きー」

 

『大好きー!』

 

美紀の問いかけにいい加減な返しをするトーコを見てアキがため息をつくといい加減大好きと言うと、それに同意するようにゆきと千鶴が言う。

 

「オカルトだとすると……どうすればいいんでしょう?」

 

「映画だとね、そうだね…悪と戦う?」

 

「あく?」

 

「世界を恨む悪の化身みたいなのがいて、それと戦うとか救うとか……」

 

オカルトだったらどうなるのかとトーコに問いかけるりーさん。トーコは、映画の場合の内容を簡単に話す。

 

「悪を救う、ですか」

 

「悪とは悲しいものだからね」

 

「目玉壊すマンみたいだね!」

 

「その通り!」

 

悪を救うと言う言葉にすこし驚いたような顔をするりーさん。ゆきが目玉壊すマン見たいだと言うと、トーコはゆきを指さしてその通りだと言う。

 

「目玉壊すマンはね、目玉壊すんだよ。だけどやつには悲しい過去があるんだ」

 

「ダリオマン気づくかな……」

 

「アーシアガールが間に合えば!」

 

急に目玉壊すマンとダリオマンの話を始めるゆきとトーコの二人。話を続けていく中ゆきは涙目になる。

 

「あー目玉なんとかマンの話はもういいから。ほんっとごめんね」

 

「いえ、私たちこそ…」

 

「んじゃさ、その悪ってのはどこにいるのかな」

 

アキとりーさんが二人の会話を無理やり止めて謝罪をし合う中、くるみは話に出てきた悪がどこにいるのかを考える。

 

「高層ビルとか?」

 

「研究所?」

 

「わたしボードにまとめるよー」

 

みんなでどこにいるのか考えを出す中、ゆきはボードにまとめると言って席を立ち上がる。

 

「水割りとか飲んでそう」

 

「悪の計画をたててるのよ」

 

「猫なでてる」

 

意見を聞いてそれを全部絵にしてボードにまとめる。

 

「これだね!」

 

「違うと思います…」

 

確かに言われた通りに水割りも書いたし、悪の計画書も持っている。そして膝には猫。しかしゆきの絵がゆるすぎるせいか美紀は違うと言って首を振る。

 

「と、とにかくランダルを目指すということでいいんでしょうか?」

 

「急がなくてもいいけどね」

 

「そう。ここも……ランダルね避難所なら……」

 

「探せば何かあるかもって?」

 

りーさんは話を戻すようにトーコにランダルに行くことを再確認する。ヒカも自分の考えを言うと、それに続くように言ったアキに頷く。

 

「しばらくお世話になってもいいんでしょうか?」

 

「もっちろんさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わり、トーコは自室でテレビゲームをしていた。そんな中扉越しにノック音が聞こえた。

扉が開くとそこに居たのはくるみだった。

 

「なーにー」

 

「…あの、トーコさんは…」

 

「タメでいいよ」

 

敬語で話すくるみにタメでいいと言ってテレビゲームのコントローラーを渡す。

くるみはそれを受け取り隣のクッションに腰を下ろしテレビゲームをする。

 

「……今日あいつらとさ、話したんだ」

 

「あいつら?」

 

「武闘派」

 

「えっ!?」

 

ゲームを黙々とやっている中、トーコは武闘派のやつらと話をしたことをくるみに話す。くるみは、武闘派のやつらと話したことに驚く。

 

「べ、別に戦争してるわけじゃないからさ、話くらいするよ」

 

「あ、うん」

 

「武闘派とボクたちの縄張りが接する共有部分にある会議室があってね、そこに呼び出されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーコはアキと千鶴を連れて会議室へと入る。そこに居たのは、革ジャンを着た男性タカヒト、黒髪の女性アヤカ、茶髪のサイドテールでおどおどした雰囲気の女性シノウがいた。

 

「それで、今回は何の用かな?」

 

「そっちに女が行っただろう」

 

「全部独占するのはずるいんじゃない?」

 

トーコが話の内容を問いかけると、タカヒトは女が行っただろうと言う。タカヒトの言う女は学園生活部のことだろう。

アヤカは独占はずるいと言う。

 

「知りませんよーアンタらがボウガン撃って追い回したんでしょ?」

 

「威嚇のはずだ」

 

「当たるとこだったよ」

 

「高上には罰を与えよう」

 

あの日、ボウガンの男性高上が襲ったところを双眼鏡を使って見ていた千鶴は当たるところだったとタカヒトに言うが、タカヒトは高上に罰を与えると言ってため息をつく。

しばらくの間沈黙が続く中、タカヒトが口を開く。

 

「こちらの不手際があったのならすまなかった。だが、新しい発見物は分かち合う約束だ。身柄はともかく物資や情報はどうだ?」

 

「あの子たちの物資はあの子たちのだよ」

 

「面白い話が聞けたらそっちにも伝えるよ」

 

タカヒトは身柄はいいと言ってその代わりに物資や情報の提供を求めるタカヒトにアキはあの子たちのものだと言って教える気はなかった。トーコは面白い話が聞けたら教えると言って今は伝えるような内容はないと言う。

 

「わかった。お願いしよう」

 

「話はそれだけよ」

 

「あの…お茶どうぞ」

 

すると先程まで何も話さなかったシノウがお盆にお茶が入った湯のみをのせてトーコとアキに渡す。

 

「ありがとう。シノウ元気?」

 

「あ……」

 

「勧誘はやめてね。シノウちゃんは大切な人材なんだから」

 

「勧誘とかって別に……」

 

アキはシノウに元気かと問いかけるが、シノウはお盆で口元を隠して黙り込む。

アヤカは勧誘はやめてというが、ただ話しかけただけのアキはむっとした顔でアヤカを見つめる。

 

「うん。話はわかったからまた連絡するよ。いか、アキ、千鶴」

 

「う、うん……」

 

トーコはお茶をグビっと一気に飲んで会議室をあとにする。アキはシノウを見つめながらもトーコについて行き会議室を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やなやつらだなー」

 

「まぁねー。でもさ、あっちに行ってもいいんだよ?」

 

「あたしら…邪魔?」

 

武闘派との会議の内容を聞いていたくるみは武闘派をやならつらと言う。それに納得するトーコだが、くるみに向こうに行ってもいいよと少しすすめ気味に言うが、くるみはそれを聞いて自分たちは邪魔かと問いかける。

 

「ちかうちがう。ボクらはわりとゆるいからさー身体検査とかしてないし」

 

「身体検査?」

 

「武闘派は外から帰ってきたら毎回検査するんだって。アキが言ってた」

 

「……ふーん」

 

身体検査をすることを聞いてしおりのことを思い出すくるみ。もしもしおりのことがバレたらどうなるんだろうと思いながらもトーコの言葉につまんなそうに返す。

 

「だからまぁ向こうのほうが安心っちゃ安心かな」

 

「トーコさんは…」

 

「トーコで」

 

「トーコは怖くないの?」

 

くるみはトーコに怖くないのかと問いかける。

 

「そりゃ怖いけどさ、毎日ギスギスするのも嫌じゃん?」

 

「……うん。あたしはやっぱりこっちがいいかな」

 

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りーさんとるーちゃんが廊下を歩いていると、トーコの部屋からゲーム音と盛り上がるくるみとトーコの声。

 

「もう。ご飯の時間なのに」

 

「ゆ…り…」

 

りーさんが二人に呆れていると、りーさんの名前を呼ぼうとするるーちゃんの声。りーさんは目を見開き、膝をついてるーちゃんの目線に合わせて抱きしめる。

 

「ゆう…り?」

 

「りーねーでいいわよ。ご飯一緒に食べましょ」

 

「うんっりーねー!」

 

るーちゃんは今までで一番の笑顔で答えた。

 

 



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短編3話 おや

 

「勉強したいこと…か」

 

しおりはあるノートを見つめながら呟く。それは少し前にくるみに渡されたものだった。

りーさんにレポートを書くと言われノートを貰ったらしい。りーさんの授業に参加していなかったしおりの分はくるみが預かった。しかしくるみも何を書くのかは決まっておらず、考えをまとめるため散歩に行くと言って出ていった。

 

「考えたこともないな………聞いてみよっかな」

 

しおりは自室を出てある人の部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで私のところへ来たんですね」

 

「ごめんなさい…いつも相談に乗ってもらって」

 

「いつも言ってるでしょ?うれしいですよ」

 

しおりは六花を訪ねて部屋へと向かった。六花は快くしおりを部屋へと入れて座布団に座らせお茶を出す。

話の内容を聞いてしおりが何に悩んでいるのかがだいたい分かった様子だった。

 

「私はね、お父さんに憧れて法学部に入って弁護士を目指すようになったんです」

 

「憧れ…ですか?」

 

「はい。お父さんが弁護士として仕事をしている所をよく見せてもらったこともあります」

 

父親の話を聞いているうちに自分の父親の顔が浮かんでくるが、しおりは首を横に振って浮かんできた父親の顔を忘れようとする。

 

「しおりさんも、ご両親の職業などを参考にしてはいかがですか?」

 

「……はい。もう少し自分で考えてみます。失礼します」

 

しおりは座布団から立ち上がり、ドアノブに手をかける前に一礼して部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親の職業…か…」

 

「何呟いてるんですか?」

 

外の空気を吸うため屋上に向かい、フェンスに寄りかかり先程六花に言われた事を呟く。

その声が聞こえていたのか問いかけるものがいた。

 

「みきちゃん…」

 

「どうしたんですか?表情暗いですよ」

 

「うん。ちょっとね……でもだいじょうぶだからさ」

 

「嘘です。先輩がそういう顔をしている時は何か隠してます」

 

図星をつかれたしおりは何も言い返せず、両手を上げて降参する。

 

「実はね…レポート、悩んでるんだ」

 

「何を勉強したいかってやつですよね?」

 

「うん…何を書けばいいのか分かんなくってね、六花先輩は自分の両親の職業を参考にしたらって言われたんだけど…」

 

しおりは美紀に先程六花に言われたことを話すが、その続きを言う前にしおりはうずくまってしまう。

 

「よく分からないの…わたし両親、特にお父様とは家族らしい会話したのちょっとだけだから…さ」

 

「先輩…」

 

「ごめんね。今の話なかったことにして…」

 

しおりは立ち上がり急いでその場を後にしようとするが、美紀はしおりの腕を掴み止める。

 

「話してください。話して楽になることもあります」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはまだしおりが現在の平屋に住む前、実家に住んでいた時の話。小学二年生、くるみとも出会っておらず友達がいなかった。毎日毎日習い事で忙しかったしおりは自分の一番好きなことがなく、親がいない所では一人で本を読んでいるだけだった。

 

そしてこの日もいつも通りの日を過ごすのだろうと思いながら、今日読む本を探しに書庫を訪れる。

 

「しおり、ちょっといいかしら?」

 

「なんですか?お母様」

 

声をかけられ振り向く。そこにいたのはしおりの母親だった。

 

「今からお父さんの仕事場に届けものをするの。一緒にこないかしら?」

 

「でも、お父様が危ないから近寄るなって…」

 

「お母さんも一緒だから大丈夫よ。行きましょう」

 

警察官である母親は今日は仕事が休みで家にいた。父親の仕事場に行こうと言う母親の手をとり、車庫にある車に乗り父親の仕事場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たどり着いた先は軍基地。しおりの父親は自衛官であった。普段はこんなに近くで見たこと無かった基地に目を輝かせるしおり。母親と一緒に父親のいる場所まで向かう。たどり着いたのは射撃場、自衛官が訓練する場所だと父親に聞いたことがあったしおりは始めてみる銃、初めて聞く銃声に驚く。

 

「お父さん、かっこいいでしょ?」

 

「自衛官は、世のためになる仕事ですか?」

 

「よくそんな難しい言葉知ってるわね…まぁ人助けにはなると思うわよ。」

 

父親が銃を構える姿を見てその日初めて憧れを抱いたしおりは母親に問いかける。二年生とは思えない言葉を使うしおりに驚きながらもしおりの質問に答える。

 

「お母様…私自衛官になります。」

 

「いい夢を持ったわね。お父さんも喜ぶわ」

 

その日をきっかけにしおりは自衛官になるための勉強を始めた。母親の言う通り嬉しかったのか、父親自らの指導もあった。表情を表に出さない父親と二人の時は緊張もするが、こうして父親といられる時間ができて嬉しく思ったしおりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれから二年半たった頃事件が起こった。一緒に住んでいた祖母が急に倒れた。医師からは持病の悪化だと言われしおりは学校から帰ればずっと祖母に付きっきりだった。そのため父親との時間もだが、自衛官の勉強も止まってしまった。祖母は大丈夫だと言って勉学に励むよう言うがそれすらも振り切りそばにいた。

 

それからしばらくした頃、祖母もだが祖父も今後心配なため引っ越すことになった。二人に負担のかからない平屋にだった。引越し準備をしている間、しおりは父親にある話をしていた。

 

「お父様、私は自衛官になることを諦めることにします。将来はお婆ちゃんとお爺ちゃんの生活の支えしたいと思っています」

 

「良いだろう…お前が決めたのなら何も言わん。そしてこれからもだ。行く学校も、仕事場も何も言わない。好きなところに行きなさい」

 

 

きっとその日が最後だったのだろう。二人で話したのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「厳しい方なんですね、先輩のお父さん」

 

「うん…学校から帰ってもおかえりって言うだけで必要な挨拶だけするの…前の私ってさ、今と全然違うでしよ?多分あれ、お父様と話さないうちに周りとの会話も減っていってね…無口になっちゃったの」

 

ここまでの話を聞いて、しおりの家族のことを聞いて前までのしおりの姿を思い出しだいたい分かってきた美紀。

 

「でも、今はなんて言うか…明るくなりましたよね?」

 

「うん…学園生活部が始まった頃はゆきちゃんとりーさんのことよく知らなかったからね。でも、色んなことしていくうちに楽しくなって、みんなとならなんでもできるって思えたの」

 

みきは今の言葉を聞いて何かを考え始める。

 

「もう一度、自衛官目指してみませんか?みんなもきっと支えてくれますよ!」

 

「でも…」

 

「やってみましょう!やれるところまでやって足掻きましょ!無理は承知の学園生活部ですよ?」

 

美紀はしおりの手を握り自分の気持ちを伝える。[無理は承知の学園生活部]これはゆきが運動会の時に言っていた言葉。それを聞いて驚きながらも微笑む。

 

「ふふっ…可愛い後輩にそこまで言われたら、頑張るしかないよね」

 

しおりは美紀に抱きつき、もう一度自衛官を目指すと言った。美紀は抱きつかれたことに照れながらももう一度頑張ると言った言葉に嬉しく思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、しおりは美紀の案内の元図書館に向かった。

この日初めてきた大学の図書館に少しドキドキしながらも中へ入る。

 

「おや、美紀くんじゃないか。そっちにいるのは別の先輩かな?」

 

「は、はい。柊汐莉です…あの、」

 

「この間、言っていた図書館のヌシであるリセさんです」

 

少し歩いているとリセに出会った。初めて会ったしおりは一礼して自己紹介をする。美紀からリセのことを聞いてなんとなくこの間ゆきが図書館について話しているのを思い出す。

 

「それで、しおりくんはなんの本を探しに来たんだい?」

 

「あの、軍事学などの本を探しに…」

 

「……なるほどね、こっちだよ」

 

しおりはリセに自分が求めている本の場所はどこかと問いかける。リセは何かを察したのか微笑んで本棚の場所まで案内する。

 

「ここだよ。色々あるから好きなだけ持って行っていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

本棚へと到着してしおりはリセに一礼して必要な文だけ本を探す。しおりが本に夢中になっている中、リセは美紀の耳元で話す。

 

「将来は軍事か…立派な先輩だね」

 

「はい。尊敬する大切な先輩です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして二人は校舎に戻った。

 

「私、りーさんとゆき先輩に聞いて見ますね」

 

「うん。でもやっぱりみんなに手伝ってもらうのは…」

 

「だめですよ。みんなで一緒に頑張りましょう」

 

美紀は昨日話したみんなと一緒に頑張るという結論に至ったため、ゆきとりーさんにしおりのことについて話に行くと言うが、しおりはやっぱりいいと言う。美紀はダメと言ったあとに笑顔で言う。しおりはその笑顔に負け頷いた。

 

 

 

 

 

 

「くるみーちょっと開けてくれない?」

 

しおりは本を沢山持っているためドアノブに手をかけることが出来ず、中にいるであろう同じ部屋にいるくるみに声をかける。しばらく経たないうちにドアが開く。

 

「あーおかえ……なんだこれっ全部本かよ…よっと」

 

ドアを開けて目の前に本を抱えたしおりをみて驚く。そして、そこから半分ほど本をとる。表紙を見れば軍事学の本だと気付いた。

 

「軍事学って…しおり…」

 

「もう一度足掻くことにしたの。みきちゃんに言われてね…あの、みんなに支えて貰えば頑張れると思うからさ、手伝ってくれないかな?」

 

しおりの言葉を聞いてきょとんとした顔をするくるみ。すると急に笑いだした。

 

「な、なんで笑うの!?」

 

「ははっ…だって今更すぎるだろ。あたしがそういうこと断ったことあったか?答えはYESだよ。足掻いてやろうぜ」

 

「うん!」

 

くるみの答えを聞いて満面の笑みで答える。いつか父親のようになるために。

 

 



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第40話 うんどう

 

ある日、大学周囲の散歩道。草木が植えてあり普通だったら綺麗な道だがこんな状態では綺麗とは程遠かった。

そんな道を歩くヘルメットを被り、バイクスーツを着て腰には数本のアイスピック。

近づいてくる『奴ら』が一体。それをみてアイスピックを抜き取り首元を刺す。

先を進めば新たに三体の『奴ら』がこちらに寄ってくる。

『奴ら』の後ろに周り首元刺す。2体目も前から刺し倒す。あと一体のところでその『奴ら』が襲いかかる。

左腕をわざと『奴ら』に噛ませて右手に握ったアイスピックで首元を刺す。力尽きた『奴ら』、その拍子に噛んでいた左腕を放す。

傷になっていないことを確認してヘルメットをとる。バイクスーツの人物は、武闘派の一人であるシノウだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学に戻り、ある部屋の中でシノウはバイクスーツを脱ぎ外から中を覗くアヤカに傷がないことを確認させる。

 

「傷はないわね。お疲れ様、何かあった?」

 

アヤカは中に入り、近くからも体を確認しながら外はどうだったかと問いかける。

 

「いつも通り…異常なしでした」

 

「……それ、危ないわよ」

 

「はい、すいません…」

 

シノウはその場にしゃがみこんでアイスピックをくるくるといじる。アヤカはその行動を注意してその部屋をあとにする。シノウはアイスピックを隠して謝罪をして、普段着ているジャージに着替える。

 

「おつかれ」

 

廊下に出ると声をかけられる。そこにいたのは同じ武闘派の高上だった。

 

「うん。今日もいっぱいやったよ」

 

「無理しなくてもいいんだよ。僕が代わるよ」

 

「大丈夫だよ。私のほうが上手いから」

 

「でもさ……」

 

シノウに心配そうに変わるという高上だが、シノウはそれを断る。高上が何か言おうとするが、シノウは高上の耳元で呟く。

 

「大丈夫だって。私、絶対負けないから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀は、トーコの部屋へと向かっていた。ドアノブに手をかけ開けようとするが、中からトーコとくるみの声が聞こえた。

耳をすませばゲーム音も聞こえる。またゲームかと思い呆れながらも扉を開ける。

 

「…失礼します」

 

「ま、負けた……」

 

「じゃ、約束通りトーコ特選ホラーDVDマラソン。付き合ってもらおうかなー!」

 

何か賭け事でもしていたのか、負けたと震えながら落ち込むくるみと、勝って嬉しいのかくるみの背中を叩きながら笑うトーコ。そんな二人をみて呆れてため息をつく美紀。

 

「あ、みーくん。どしたの?」

 

美紀が入ってきたことに気付いたトーコが美紀に問いかける。

 

「あの、みーくんじゃなくて…いえ、グラウンドってどれくらい安全ですか?」

 

「何?遊びに行くの?」

 

「はい。ゆきさんたちが」

 

「そっかーんじゃ、ちょっと説明しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所をトーコゼミに移動して、学園生活部全員を呼び出す。トーコはホワイトボードに大学の中の地図を簡単に書き始める。

 

「うちのガッコはざっとこんな感じ。塀は高いし校門の所のバリケードは毎日チェックしてるから、外からは入ってこれないと思う」

 

トーコは地図の校門の辺りをペンで叩きながらバリケードのことなどを説明する。

 

「じゃ、校内は大体安全ですか」

 

「ん~ここと、ここには絶対近づかないで」

 

美紀は挙手してトーコに聞くと、トーコは地図にある理学棟と武闘派との共有部分の近くにばってん印を付け足す。

 

「そこは……何があるんですか?」

 

「理学棟のほうは中を掃除できてないんだ。出口をふさいでるだけ」

 

「はーい。もう一つのほうは?」

 

理学棟の方の説明は聞いたが、共有部分の方はどうなのかと思いゆきは、トーコに問いかける。

 

「えっとほら……お墓かな……ま、とにかく近寄らないで」

 

『はーい』

 

トーコはぎこちなくお墓だと答え、沈黙してしまう室内。話を終わらせようともう一度注意をして解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉぉし、れっつごおおおお!」

 

解散した後、ゆきとりーさんと美紀とるーちゃんはグラウンドに遊びに行った。くるみはトーコの特選ホラーDVDマラソンというゲームで負けた罰ゲームをするためトーコの部屋に戻り、しおりは図書館でリセと一緒に勉強をすると言って誘いを断った。

ゆきはるーちゃんを肩車してグラウンドを走り回る。

 

「ゆき、あっち!」

 

「いっくよー」

 

「そっちちがうー」

 

るーちゃんはゆきの頭をペシペシ叩いて行く場所を指さして指示をする。そんな二人をベンチから見ているりーさんと美紀。

 

「るーちゃん、すっかり元気になったわね」

 

「!…そうですね。よかったですね」

 

りーさんのふとした呟きに美紀は驚くが、安心したような顔をして答える。

 

「でもね、ちょっと心配なの」

 

「え?」

 

「あの子が元気になって……どこでも行けるようになったら……」

 

「さびしいですか?」

 

視線の先でゆきがるーちゃんと手を繋いで走り回っているのをみてりーさんはるーちゃんのことが心配だと言う。隣で聞いていた美紀はさびしいかとりーさんに問いかける。

 

「それもあるけど……怖いの……目が覚めて、もしあの子がいなかったらって思うと」

 

「……怖かったのは私たちです」

 

りーさんは膝の上で両手をぎゅっと拳にして、るーちゃんがいなくなったらと話すが、りーさんの話を聞いて美紀はりーさんの手に自分の手をそっと乗せて、小学校の時にりーさんが朝起きたらいなくなっていた時のことを言う。

 

「あ……そうね、ごめんなさい」

 

「無事だったからよかったですけど……本当に……無事でよかった」

 

りーさんは美紀の言葉を聞いて謝罪をする。その言葉を聞いた美紀は無事でよかったと言ってりーさんの手を握りしめる。

 

「もう無茶は駄目ですよ」

 

「ええ、約束するわ」

 

するとりーさんはすくっとベンチから立ち上がった。

 

「私、体を鍛えるわ」

 

「ええっ!?やっぱり無茶する気じゃないですか!」

 

「ううん、もう一人で勝手に動かないし無茶もしないわ」

 

「じゃあなんで体を鍛えるんですか?」

 

急に体を鍛えると言うりーさんの言葉に驚き無茶する気だと思いりーさんの言葉に反論するように言う。

しかしりーさんは首を横に振り無茶はしないと言う。美紀はどうして鍛えるのかと疑問に思い問いかける。

 

「あの子がね、もし遠くに行ったら私が迎えに行ってあげたいと思ったの」

 

「私も、しおりさんもくるみさんもいます…」

 

「声はかけるわ。でも手は多いほうがいいでしょう?」

 

「それはそうですけど…」

 

美紀は自分たちもいるとりーさんを心配そうに見つめながら言うが、りーさんの言葉に反論出来ずにいた。

 

「足手まといにはなりたくないから、もっと強くならないと」

 

「体を鍛えるっていうか、体力をつけたほうがいいですよ。本当は戦わないほうがいいんです。足も止まるし体力も使うし、あいつら足遅いし走ってさえいれば捕まりませんから」

 

「確かに、くるみとしおりさんは運動部だものね。私頑張るわ!」

 

美紀の意見を聞いて納得したりーさんはその場から走り出し、ゆきとるーちゃんが遊んでいる場所へ向かう。

美紀はその姿を見てすっと立ち上がりある場所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

向かった先は先程トーコが近づかないでと言った共有部分の近くにある[お墓]と言われた場所だった。

立ち入り禁止と書かれた立て札の先にはコンテナで囲われた不思議な場所だった。

 

「何だろ……」

 

美紀は不思議そうに見ているとふと視線を上に向ける。そこには武闘派の一人であるシノウがいた。シノウは窓を開けて手に握っていたあるものをコンテナの奥にすっと落とす。よく見るとそれは花だった。

美紀がいることに気付いたシノウはその場から急いで離れるが、美紀はその姿を不思議そうに見つめていた。

コンテナの奥から声が聞こえ耳を澄ますと、聞き覚えのあるうめき声だった。

 

(お墓…………そっか、あそこから……)

 

何故あそこから花を落としていたのかが分かり、その場でしゃがみ手を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀はグラウンドに戻ろうと歩いていると、一つの扉に目がいく。その横には理学棟と書かれていた。

 

《理学棟のほうは中を掃除できてないんだ。出口をふさいでるだけ》

 

「……開けないほうがいいよね」

 

美紀はトーコの話を思い出し扉に手をかけようとするが、開けないほうがいいと思いその場を後にしようとする。

すると『ザザッ』と音がして美紀は後ろを振り向く。

 

『動かないで!』

 

 

 

 

 

 

理学棟の中、実験道具などがありところどころ血がついていた。奥には手錠をかけられた『奴ら』が二体いた。

理学棟の中にあるパソコンには、扉の前にいる美紀が映っている。

女性はマイクを使って話す。

 

「そこから動かないで。話があるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話 きれつ

「外の世界だ。あの五人は外の世界からやってきた」

 

「俺たち以外にも生き残ってたやつがいたってことだな。別に意外じゃねぇだろ」

 

武闘派の五人は普段話し合うために使う部屋に集まり、先日やってきた学園生活部の五人について話していた。

タカヒトは、窓から外を眺めながら言う。それを聞いていた他の武闘派メンバーであるタカシゲが吸っていたタバコを灰皿でクシャッと潰しながら言う。

 

「問題はそこじゃない。俺たちの目的はなんだ?高上」

 

「安全を保ちながら救助を待つ、だよね」

 

「だがいつまでも待つわけにはいかない。食料にも限界はある」

 

急に話を振られた高上は、頬を指で掻きながら答える。しかしタカヒトは、それに付け足すように言う。

 

「こっちから探しに行きゃいいだろ」

 

「闇雲に行ってもしかたないわ。行ったけど無駄でしたなんて余裕はないのよ」

 

「必要なのは情報だ。あの五人がどこから来たか、何を見たか、それを調べる」

 

タカヒトは再び窓から景色を見ながら今後必要なことを全員に話す。それを聞いてシノウ、高上、タカシゲはタカヒトをみて頷く。

 

「高上君がミスらなきゃよかったのにね」

 

アヤカはジト目で斜め右の席に座る高上をみて呟く。そんなアヤカをみて高上はしょんぼりとしながら顔を伏せる。

 

「穏健派に遊ばせておく段階ではなくなった。リソースは一元化しないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外の世界だよ!外の世界に行く!」

 

同時刻、穏健派及びサークルのメンバー五人と学園生活部の五人、そしてるーちゃんはトーコゼミに集まっていた。

そんな中トーコはふと外を見つめながら外へ行くと全員に向かって言う。

 

「遠足だね!」

 

「大学生になって遠足はないだろ……」

 

「そうだね、えーと……サークル合宿!」

 

「いいね…合宿…」

 

トーコの宣言を聞いてゆきは挙手をして遠足だと言う。くるみに指摘されてサークル合宿と言い直すと、それを聞いてヒカはくすっと笑いながら賛成する。

 

「今までは…外に出なかったんですか?」

 

「だいたいは学内でまかなえたんだよねー」

 

「ぶっちゃけ怖かったんだよねぇ。大学いる間はさ、ほら……もうすぐ救助が来るかもって思えたけど……外に出て誰もいなかったらって思って」

 

話を聞いていると、りーさんの膝の上に座っているるーちゃんがりーさんの服の袖をぎゅっと握りしめる。

 

「大丈夫よ」

 

りーさんはそれに気づくと、るーちゃんの頭を優しく撫でる。それを見ていたトーコはしばらく黙り込むが咳払いをして話を戻す。

 

「救助隊はいなかったけど君たちがいた。ほかにも生存者はいるよ」

 

「……そうですよね」

 

トーコの言葉を聞いた美紀は先日、理学棟でのことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『動かないで、話があるの』

 

「誰ですか、そこにいるんですか」

 

『入っちゃだめ』

 

「え?」

 

理学棟の扉の隣にあるインターホンのようなものから女性の声が聞こえる。美紀は息を飲み扉に手をかけようとするが止められた。

 

『ここのことは誰にも知られたくないの』

 

「…あの、じゃあなんで私に声をかけたんですか?」

 

美紀の問いかけに黙り込む女性。

 

 

 

 

「……なんでかしらね。あの日から私はここでかれらを研究してるわ」

 

『かれらがそこにいるんですか?』

 

「サンプルがないと研究できないでしょう?あなたは外から来たのよね?」

 

『はい』

 

小型のマイクで画面に映る美紀に問いかけると女性は傍にあったタバコを手に取り、ライターで火をつけて口に咥えふーっと煙をだす。

 

「ここの生存者は安全管理に厳しいわ。かれらを保管してることが知れたらただじゃ済まない」

 

『……それは武闘派だけです。それ以外の人達は大丈夫と思います』

 

「そうなの。でも私のことは秘密にしてほしいわ」

 

女性はもう一度煙をふーっと吐きながら美紀に自分のことは秘密にしてほしいと頼む。

 

『…わかりました。それであの……研究して何かわかりましたか?』

 

「いくつかあるわ。でも、本当に知りたい?」

 

 

 

 

 

 

 

「みーくんだいじょうぶ?」

 

「だ、大丈夫です」

 

ゆきは心配そうに美紀を見つめながら問いかける。美紀はそれを聞いて我に返り、慌てて大丈夫だと答える。

そんな会話をしている間にトーコはホワイトボードにあるものを書いていた。それはトーコお手製のサークル合宿計画である。

 

「はいっまずはランダルの本社を目指す。そのために準備してあと情報を集める。何か質問はあるかい?はい、くるみ君」

 

「遠征には何人で行くの?全員でいくなら車がもう一台いるけど」

 

「んー」

 

「サークル合宿だから全員じゃないかな!」

 

くるみは遠征にいく人数をトーコに問いかける。学園生活部が持ってきたキャンピングカーでは、ここにいる全員は乗れない。

どうするかを考えていると、ゆきは全員で行くべきだと言う。

 

「学校行事じゃないから強制じゃないですね」

 

「えー」

 

「全員はやめたほうがいいっしょ」

 

美紀の意見にふまんそうにしているゆき。美紀に賛成するようにアキは全員はやめた方がいいと言う。

 

「ここも…維持しないと」

 

「んじゃ二手に分かれるか…」

 

誰が残るかを考えているサークルメンバー。そんな中りーさんはるーちゃんをみたあと挙手をする。

 

「じゃあ私は残ります」

 

「え!?な、なんで、りーさん?」

 

「危なくなるかもしれないでしょ。この子は連れていけないわ」

 

りーさんはるーちゃんの頭にポンっと手を乗せて、どうして残るのかをゆきに伝える。

そんなりーさんをみて不思議そうにしていたり、険しい顔をするサークルメンバーの五人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いを終えたあと、りーさんはグラウンドにて走っていた。グラウンドに書かれている線通りに走るりーさんをベンチ近くで応援するゆき。

 

「がんばって、あと一周!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

タオルを振り回しながら応援するゆきの声を聞いて最後の一周を走るりーさん。

ゴール付近にはタオルを持ったゆき。

りーさんはゴールと同時にゆきが持っていたタオルに顔を埋める。

 

「はいっゴール!りーさんすごいよ、記録更新だよ!」

 

ゆきは笑顔で水の入ったペットボトルをりーさんに渡す。りーさんはそんなゆきをみて笑顔でペットボトルを受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴び終え、りーさんは更衣室にて着替える。すると美紀がやってきた。

 

「美紀さんありがとう。いい子にしてた?」

 

りーさんの問いかけを聞いて美紀は抱えていたるーちゃんをりーさんに渡す。るーちゃんは疲れたのかすやすやと寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「私は合宿に行こうと思います。大学の人たちはかれらと戦った経験がほとんどなくて不安ですから」

 

「そうね」

 

「先輩は本当に残るんですか」

 

「合宿は大切だと思うけど、この子は連れていけないわ」

 

二人は部屋に戻るため歩きながら合宿をどうするかを話していた。合宿に行くという美紀とは違いりーさんはるーちゃんを連れて行けないと言う理由で大学に残るという。

 

「そうですよね」

 

美紀はりーさんの背中をみて何かを言おうとするが何も言えずにそのまま各自の部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、うん。そうだよね」

 

「私……学園生活部がばらばらになるって信じられなくて……」

 

その日の夜、今朝あったことをしおりに相談するために二人は屋上に来ていた。

 

「そういうものだよ」

 

「何がですか?」

 

するとしおりは美紀の背後に周り両腕を美紀の肩からまわし抱きしめるような形になる。

 

「出会いがあれば別れもあるんだよ」

 

「先輩までそんなこと言うんですかっ」

 

「別にすぐじゃないよ。準備してる間にりーさんも落ち着くよ」

 

しおりの言葉に不満そうに言う美紀。そんな美紀の頭を右手で撫でながら付け足すように言うしおり。

 

「そうだといいんですけど……ずっとここで暮らしてもいいかもしれませんね。みんなでずっと」

 

「そうだね」

 

「外の世界なんて……」

 

 

 

 

 

 

 

『外の世界は…………もうない。国が生き残っていれば、救助は遅れても放送くらいはするはずだ。でもラジオから衛星携帯まで色々試したけど大規模な放送はどこもやってない。日本全土と周辺国……たぶん世界の全域で国家に準ずる組織は既に消滅したと考えたほうがいい』

 

 

理学棟の女性に言われた言葉を思い出すと、美紀は上をみて見上げるようにしおりを見つめる。

[国家に準ずる組織]もし、しおりの父親が関わっていたら、もしかしたらしおりの父親はもう…と、考えてしまう。伝えたい気もするが理学棟の女性から秘密だと言われ言えないし、もし言えたとしても本人に伝えてもいいのかと考えてしまう美紀。

 

「どうしたの?」

 

美紀が見つめていることに気づき問いかけるしおり。

 

「いえ…しおり先輩はこうやって見ていても綺麗だなと…」

 

「?」

 

ふとした美紀の答えの意味をよく分かっていないしおり。結局意味は分からずそのまま解散し、部屋に戻り同じ部屋にいるくるみに相談してみたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武闘派がつかうスペースにて、夜の廊下をそっと歩くシノウ。辺りを見回しながら高上の部屋へ向かう。

 

「れん君起きてる……?」

 

ノックをして中へ入ると、既に寝ている高上がいた。シノウは高上が被っている布団にてを乗せて、

 

「おやすみなさい…」

 

と呟き部屋を後にする。

 

「外の世界かぁ……」

 

シノウは夜空に浮かぶ満月を見つめ、腹部を左手で撫でながら呟く。

 

 

 

 

 

その頃高上は先程までとは違い辛そうな呼吸をしていた。

 

 

 

 

 

 



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第42話 ついとう

 

翌朝、ペタペタと足音を鳴らしながら歩く高上だった『奴ら』。昨夜の辛そうな呼吸はめぐねぇに噛まれたしおりと同様で、薬で一命を取り留めたしおりとは違い、薬どころか武闘派のだれもが高上の発症に気づかず『奴ら』になってしまった。

一体どこをめざしているのか先へと歩いていく高上だった『奴ら』。すると階段下から音楽が聞こえる。音が聞こえる方へ曲がると後ろから階段下まで蹴落とされる。蹴落としたのは武闘派の一人であるタカシゲ。高上だった『奴ら』はそれよりも音楽を優先して先へと歩いていく。音を出していたのは、ある部屋の窓からぶら下げてあるCDプレイヤーだった。CDプレイヤーを手に取ろうとするが、あと少しのところでCDプレイヤーが上がり、高上だった『奴ら』は窓から下へと落下する。落ちた先は墓地として使っているコンテナで囲われた場所。高上が最後に見たのは、CDプレイヤーを回収してその場から離れるシノウだった。

 

「なにしてるの、行くわよ」

 

CDプレイヤーを抱きしめながらその場に蹲るシノウを見てアヤカが言う。シノウは先へと進むアヤカのあとを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした頃、普段話し合うために使う部屋に集まった武闘派の四人。しかしその表情は普段と違い暗かった。

 

「高上が逝った。隔離体制は完璧だった」

 

「高上が最後に外に出たのはいつ?」

 

「ええと………6日前です。身体検査もしてます」

 

アヤカはシノウに高上が最後に出たのはいつかと問いかける。シノウは慌ててパトロール当番記録を挟んだバインダーを手に取り、高上が最後に出た日を調べ、アヤカの問いかけに答える。

 

「ありえん」

 

「起きたんだからしょうがねぇだろ」

 

シノウの発言にありえないと呟くタカヒト。タバコを吸いながら仕方ないと呟くタカシゲ。

 

「自殺とか」

 

「自殺ぅ?」

 

「そんなのありえないです」

 

「あなたがそう言うならそうなんでしょうね」

 

アヤカは自殺じゃないかと推測する。しかしシノウは持っていたバインダーを握る力を強めてありえないと言う。

そんなシノウをみてしばし考えると、納得したような顔をするアヤカ

 

「自殺じゃないなら……他殺?」

 

「他殺ってどうやって?」

 

「あいつらの血を使えばいいんじゃない?針で刺せば傷も残らないわ」

 

自殺では無いならどうやって高上を感染させたのかを考え始めるシノウ以外の三人。するとアヤカは他殺だと言ってあいつらの血を使うなどという知的な考えを言う。

 

「お、俺じゃねぇぞ」

 

「あなたなんて言ってないわよ」

 

「やめろ。俺たちは……仲間だ。校舎内での接触、あるいは他殺。犯人ははっきりしている」

 

「おう」

 

自分が疑われているんじゃないかと思い焦りながら自分じゃないと否定するタカシゲ。

そんな二人の会話を止めるように割り込む。タカヒトは犯人はハッキリしていると話す。

 

「あいつらを野放しにしていたのが間違いだった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃穏健派の領域である校舎。そのうちのくるみとしおりが使う部屋にて、しおりは自分の右腕にある噛まれた傷跡を見つめる。最近みんなの前では見せない悲しそうな顔をしている。

すると扉からノック音が聞こえて、我に返るしおり。

 

「しーおーりー!手伝ってー」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

ノックをしたのは千鶴であり、しおりは慌てて包帯を巻き直す。制服の上にジャージ、これが最近のしおりの服装。サークルメンバーに包帯が見えないようにしているらしい。

そして扉を開けると、ダンボールを抱えた千鶴がいた。

 

「合宿の荷造りしないとだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ平和な時だったら、沢山の学生が集まるような場所にてサークルメンバーと学園生活部の全員は、合宿のための荷造りをしていた。

 

「ごめんねーアタシら整理って苦手で」

 

「任せてください、得意ですから。整理整頓は基本です。まずは目録です。何があってなにがないのかを調べて、管理のためには家計簿をつけましょう」

 

「あ、そ、そうね」

 

りーさんの整理整頓についての説明を聞いているアキだが、途中からは全然理解が追いついていなかった。

りーさんはふと右を向くと、奥でるーちゃんを膝に乗せてみんなが荷造りをしている様子を見ている美紀。りーさんに気付き手を振ると、りーさんはそれに返す。

 

「ん、何だこれ」

 

ダンボールの下に挟まっているノートに目がいくくるみ。それを抜き取るとそのノートの表紙には、[サークルノート]と書かれていた。

 

「ありゃそんなとこにあったんだ。見つからないわけだ」

 

「それはサークルのノートです。みんなで適当に回し書きするの」

 

「はい!わたしたちも書いていいですか!」

 

「もちろんいいよ」

 

くるみがノートを見つけたことに気付いたアキはノートを久しぶりにみて驚く。

六花はサークルノートを開いてこんなふうに書くんだよと言っているように指を指して説明する。

ゆきは手を挙げて書いてもいいかと問いかけると、トーコは喜んで許可をした。

 

「はい」

 

「ははー」

 

「何だそりゃ」

 

「どんなこと書いてあるのかなー」

 

まるで授賞式のようにトーコからノートを貰うゆき。そんな二人をみてくるみは呆れる。

 

「[今日も透き通るような夜空、我らは文明を失って本当の星々らを取り戻した]えーと、スミコさんって誰?」

 

「ずいぶん前に出ていったきりまだ戻ってないんだ」

 

ゆきはペラペラとノートをめくっていると今この場にいない[スミコ]と言う名前に目がいく。

サークルメンバーに誰かと問いかけるが、五人はしばらく黙り込む。トーコの言葉を聞いて心配そうに下を向くゆき。

 

「ゆきちゃん、手が止まってるわよ」

 

「ら、らじゃー」

 

「アタシたちも作業に戻ろ」

 

「そうですね」

 

りーさんに声をかけられ慌てて作業に戻るゆき。そんなゆきをみて無理やり作業に切り替えようとアキがサークルメンバーに言う全員頷いて作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……」

 

「ん、何?」

 

「スミコさんってどんな方でしたか?」

 

美紀とトーコはまとめた荷物の一部をキャンピングカーに運ぶために下に向かっていた。

ふと美紀はトーコにスミコさんってはどんな人だったのかと問いかける。

 

「スミコかぁ……ゴスロリで……」

 

「ゴスロリ…」

 

「酒豪だったなぁ」

 

「酒豪ですか」

 

「酒飲むとよく歌うんだよな」

 

「はぁ…」

 

トーコは自分のわかる範囲でスミコがどんな人なのかを美紀に説明するが、全然想像がつかなかった。

 

「懐かしいな、あの六甲おろしっていってもわかんないか」

 

「す、すいません」

 

「今度じっくり話すよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきはくるみとしおりが使う部屋の扉をノックする。

 

「どうしたの?」

 

「はい!」

 

しばらく経たないうちに栞が扉を開ける。見た感じ部屋にはくるみは居ないようだった。

するとゆきはしおりにサークルノートを押し渡す。

 

「もう書いたの?早いね…えーっと…」

 

「わー見ちゃダメ!!」

 

しおりがサークルノートを開き中を確認しようとするが、その行動をがっちりと抱きしめてとめる。

 

「えーどうして?」

 

「いいから、しおりちゃんもちゃんと書いてね」

 

しおりは意地悪そうな笑顔をしながらゆきに問いかけるが、ゆきは無理やりしおりを部屋に戻して扉を閉じる。

 

「えーっと……」

 

机にサークルノートを置き、椅子に座ってサークルノートをめくってゆきの書いたページを探す。

見つけてそれをみれば、[学園生活部は不滅です!ゆき]と大きく書いた下には学園生活部五人の似顔絵が書かれていた。

 

「ふふっゆきちゃんは本当に面白いな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、武闘派メンバーであるシノウは自室で高上の被っていたニット帽を抱きしめながら蹲る。

 

「涙、出ないな…」

 

悲しいはずなのに出ない涙。そんなことには気にならずに、高上のニット帽をぎゅっと右手で握る。左手は腹部をさすっていた。

 

 

 



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第43話 あした

 

遠征準備が終わり、全員でお疲れ様パーティの準備をしていた。

この日は珍しく校舎にいるリセに、黒ひげ危機一髪を遊んでいるトーコ、アキ、ヒカの三人。どうやらヒカが負けたようで罰ゲームをうけている。

 

「えー合宿準備が無事完了したということで…おつかれー」

 

『おつかれさまー!』

 

全員の準備が完了して席に座り、トーコが前に立つ。その手には飲み物が入った紙コップを持っていた。

トーコの掛け声を聞いて全員が紙コップをかかげて乾杯する。

そんな中しおりは飲み物を口に含むが、一口だけ飲んで紙コップの中身をみつめる。

 

「大丈夫……?」

 

「だ、大丈夫ですよ?」

 

「賞味期限とか…微妙だから…」

 

「あ…ペットボトルなら大丈夫です」

 

しおりの右隣の席に座るヒカがしおりの様子を伺うように問いかけるが、しおりは大丈夫だと答える。

ヒカは飲み物の賞味期限を心配するが、しおりが気にしていたのはその事ではなかったようだがそのことを言うことはなかった。

 

「よかった。じゃ、乾杯」

 

「……その眼鏡、どうしたんですか?」

 

「聞かないで…」

 

しおりはヒカと乾杯をするが、それよりもヒカが付けているヒゲ付き眼鏡が気になっていたが、ヒカは聞かないでという。

先程トーコとアキとやっていた黒ひげ危機一髪の罰ゲームで付けられたものだった。

 

「いよいよ明日だね!」

 

「おみやげ期待してるわよ」

 

「もっちろん。るーちゃんはおみやげ何がいい?」

 

しおり達とは別で、ゆきとりーさん、るーちゃんは合宿のお土産について話していた。

ゆきは、りーさんの膝の上にいるるーちゃんにお土産は何がいいかと問いかける。

ふたりが会話している様子を別の席から不安そうに見つめる美紀。

ゆきとるーちゃんの会話を聞いて笑っているりーさん、お酒を勧めてくる千鶴を叱るくるみに二人をみて笑顔を見せるしおり。

そんな様子を見ている美紀は何かを考えていた。

 

「どしたの?」

 

「あ、いえ……」

 

「トーコと千鶴をよろしくね」

 

「わかりました。先輩は来られないんですね」

 

美紀に心配そうに声をかけるアキ。その声を聞いて我に返る美紀はなんでもないと答える。

するとアキは一緒に合宿にいくトーコと千鶴をよろしくと美紀に言う。

 

「アタシも行くとヒカと六花だけになっちゃうからね。あ、リセもいるか。三人ともすぐご飯食べ忘れて徹夜するのよね」

 

「リセ先ぱ……リセさんはわかりますけどヒカさんと六花さんもですか?」

 

「ヒカはゲームとあと修理かな。壊れ物を見つけて徹夜で直したり。六花は、まぁリセと変わらず朝まで読みふけっちゃうからさ」

 

「それは……ほっとけませんね」

 

アキから残る三人が夜更かしする理由を聞いて大体の想像が着いてしまいほっとけないと言う。

 

「アタシが面倒みとくから、安心して行ってきてよ」

 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を武闘派の校舎の屋上から双眼鏡を使って見ているシノウ。そこで手に入れた情報を他の武闘派メンバーに伝えるために全員が待つ部屋に戻る。

 

「明日だと?」

 

「あぁ明日出発するらしい」

 

「決まったわね。あいつらの仕業だわ」

 

「悠長なやつらだ」

 

シノウからの報告を聞いて高上の件の犯人は学園生活部だと言う。しかしシノウだけは表情が暗かった。

 

「本来なら明日くらいに発症するはずだったのかもしれんな…」

 

「どっちにせよ、許しちゃおけないわね」

 

「その通りだ。居場所は?」

 

タカヒトは全員の居場所をシノウに問いかける。しかしシノウは先程から下を向いており、タカヒトの言葉を聞いていなかった。

 

「おい、シノウ!」

 

「は、はい。図書館に一人、ほかはいつもの校舎です」

 

「よし、では計画通りに」

 

「おう」

 

シノウは慌てて返事をしてタカヒトに全員がいる場所を伝える。タカヒトの言葉に返事をするタカシゲ。アヤカは先程から下を向いているシノウに問いかける。

 

「どうしたの?嬉しくないの?」

 

「……え?」

 

「高上君の仇を討てるのよ」

 

「……はい」

 

アヤカの問いかけを不思議そうに聞くシノウ。険しい顔をしながら左手で右手首を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、美紀はトイレから出て手をハンカチで拭いていると、廊下の窓際でタバコを吸っているアキを目にした。

アキは美紀に気づいて吸っていたタバコを携帯灰皿にしまう。

 

「内緒ね」

 

「あ、はい」

 

「もうずっと前にやめたんだけどさ、たまーにね」

 

「それって……おいしいんですか?」

 

美紀はハンカチをポケットにしまいながらアキの方へ向かい、タバコは美味しいのかと問いかける。

 

「おいしくは…ないかな。健康にも良くないし、この世界で長生き・健康志向ってのもばかばかしいけどね」

 

「あ……」

 

「ん?」

 

「明かりついてますね」

 

美紀の指さす先にあるのは、武闘派の使う校舎であった。指さした窓からは明かりが見えていた。

 

「そうね、消灯時間厳しいのに。何かあったのかな」

 

「アキさんは……その、向こうにいたんですよね」

 

「うん」

 

「どう、でした?」

 

「どうって?」

 

アキが窓から明かりのついている場所を見ていると、美紀はアキに武闘派達のところはどうだったのかと問いかける。

 

「私、向こうの人よく知らないんです。あんまりいい印象ないんですけど、もしかしたら出会い方が悪かったのかなって」

 

「気を許さないほうがいいね」

 

「怖い人たちなんですか?」

 

美紀は自分の武闘派に対する考えをアキに話すが、アキは気を許さない方がいいと美紀に言う。

 

「アヤカってやつがいてさ……」

 

「女性の方ですか?」

 

「あ、会ってないか。うん、いっつもつまんなそうな顔してるのよね。近くにいると息が詰まるっていうか、でも嫌いにはなれなくてさ、なんかしてやんなきゃって気になるの。同じほっとけないならトーコのほうがいいわよ、ほんとに」

 

武闘派の人が怖い人なのかと問いかける美紀に、武闘派にいるアヤカについて話し始めるアキ。

 

「そのアヤカさんが苦手でこっちに来たんですか?」

 

「あぁ、それはちょっと違って……あいつが……笑ったのを見たの。うちらの……お墓があるところでくすって笑ってたんだ。アタシの見間違いかもしれない、なんか理由があったのかもしれない。でもあんなの見たら一緒にいられないよって変な話しちゃったね」

 

「いえ、参考になります」

 

「ま、こっちから近づかなきゃ大丈夫かな」

 

アキと美紀が話している中、近くを歩いていたしおりはそんなふたりの会話が聞こえた。

制服にジャージを羽織り、腰から太ももに掛けてベルトキットを装着している。

会話に割り込むのも悪いと思い壁に寄りかかりながら会話を聞く。

 

「不安はなかったんですか?」

 

「不安?」

 

「ずっと一緒だった人から離れるって……怖くないですか?」

 

美紀はアキからの話を聞いて思ったことをアキに問いかける。

 

「怖くて……しばらく考えたわ」

 

「じゃあどうして…」

 

「一緒にいるとダメになるって思ったわけ。アヤカは本当にヤバかったけど、いいやつもいたわ」

 

[一緒にいるとダメになる]この言葉が自分のことを言っているように聞こえ、胸がチクリと痛むしおり。ブレスレットを付けた左手で胸元のリボンを握りしめる。

 

「でもあれ以上あそこにいるとダメになるって思った。アタシも……あいつらも、そういうのってあるのよ」

 

そっと二人のいる方を覗くが二人を見続けるだけでしおりの見えている世界は何かに蝕まれていく。

しおりは耐えきれずその場から急いで去る。

走り去る足音と、靡いた茶髪の髪が見えた美紀はしおりだと気付きその場をじっと見つめる

 

「どうかした?」

 

「……いえちょっと、何でもないです……」

 

アキの問いかけになんでもないと答える美紀だが、その場からしばらく目を離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走りたどり着いた先はグラウンド。

しおりはグラウンドの真ん中に寝そべり、ブレスレットを付けた左手を空に掲げる。

右手はポケットに入れ、そこから出すのはおもちゃの手錠

 

「もう…駄目かな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所代わり、りーさんとるーちゃんの部屋。二人は同じ布団にくるまり横になる。

 

「りーねー……」

 

「大丈夫よ。何もかもきっとよくなるわ」

 

不安そうにりーさんの名前を呼ぶるーちゃん。りーさんはそんなるーちゃんを安心させるように呟いた。

 

 

 

 

 





実写版がっこうぐらし!見てきました( *˙ω˙*)و グッ!
個人的な感想なんですが、これはこれでありだと思います!
皆さんも時間があれば、気が向いたら、見に行ってみてはいかがですか?
まぁ私は役を演じているラストアイドルに関しては今回初めて知りました( ´•ω•` )
でもこの子達が歌う主題歌、[愛しか武器がない]とWi-Fi-5が歌うエンディングテーマ[マイクロコスモス]はかっこよかったです♪


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第44話 たたかい

 

-私の大切な友達の一人である愛菜。あの時の私にとっては、彼女の笑顔が太陽のように眩しかった。

どうしてそんなに明るく振る舞えるのかずっと思ってた。中学入学式で緊張してた私に話しかけてきたのも愛菜、私が元気じゃない時に笑わしてくれたのも愛菜……でも、愛菜が噛まれたのは私のせい。愛菜を苦しませてしまったのも私のせい……悲しかったけど送ってあけた……あれ?どうやってだっけ……薙刀で刺して…そのあとは、食べたんだっけ……ううん違う。そんなことしてない…じゃあどうやって……なんか ちがう…わたし…は…-

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

しおりは目を覚ました。しかし目覚めは最悪だった。汗を流し、シーツを掴むように握っていた。起き上がり辛そうに呼吸をする。左腕のブレスレットを握ろうとするが、カシャっと音がした。両手を見てみればおもちゃの手錠、両足にもそれと同様の手錠を付けていた。

 

(寝てた……いつぶりだろう?)

 

しおりは鍵を使って手足の手錠を外す。今いる場所はキャンピングカー。あの後校舎に戻りたくても戻ろうとすることが出来ずここで仮眠をとっていた。

すると外からカサッと草を掻き分けるような音が聞こえた。急いでベルトキットを腰に巻き、カーテンをそっと開けて外の様子を伺う。

その先にいたのは、バールを持ち、帽子を被った男性、タカシゲだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方穏健派校舎にて、トーコの部屋に集まるトーコ、アキ、ヒカの三人。いつもの様にお酒とつまみを持って飲んでいたが、ある所だけいつもと違っていた。

 

「えっと…」

 

「大丈夫だって。トーコ、すぐ帰ってくるって言ってるじゃん」

 

三人が寄ってきている中、ヒカはぎゅっとトーコに抱きつく。そんなヒカをみているアキはヒカを安心させるように言う。

合宿にいくトーコを心配していた。

するとヒカは紙コップをアキの方に向け「ん」と呟く。もう一杯と言っているようだった。

 

「ヒカ、もちょっと控えたほうがいんじゃない?」

 

「″ヒカ″だから…控えめ?」

 

「はぁ…あんたもう飲みすぎ」

 

「あ……」

 

ヒカはくくく…っと笑いながらダジャレを言う。そんなヒカを見ていたアキは呆れて、無理やりヒカから紙コップを没収した。

ヒカは不満そうな顔をしながら再びトーコに抱きつく。トーコとアキの二人はそんなヒカをみてどうしたらいいのか困っていた。

 

「どしたのヒカ?言ってくれないとわかんないよ?」

 

「……トーコ、ちゃんと戻ってくる?」

 

「戻るよ、大丈夫。おみやげ何がいい?」

 

「……スミコ……」

 

トーコを心配するヒカに合宿のおみやげは何がいいかと問いかけると、しばらく間を空けて[スミコ]と答える。

 

「わかった、探してくるよ」

 

「何か足りないと思ったわ」

 

二人の会話を聞いていたアキは安心したような顔をする。

 

「スミコの歌?」

 

「泣き上戸なのよね」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、図書館にてリセはいつも通り本を立って読んでいた。パラパラとページをめくっていると、誰かが入ってきたことに気付いた。

 

「やぁどうしたんだい?やっと図書館の魅力に気づいたのかな?遅すぎるってことはないよ。私は知的好奇心というのは人類の根本を成す概念だと思うからね。全て国民は知る権利を持ち、図書館は資料の収拾提供を以ってその権利を満たすべく活動する。君たちの目的が何であれ、書物を傷めたり盗んだりしないものであればここに歓迎しよう」

 

そう呟くリセの後ろには、釘バットを持ったタカヒト、アイスピックを握るシノウ、高上のボウガンを持つアヤカの武闘派メンバー三人ごいた。

 

「……この状況でよくも無駄口が叩けるな」

 

「君たちとは共存できると思ったけど、私の知らない間に状況が変わったということかな、武闘派の諸君……ん?二人足りないね。確か背の大きい男と…あとメガネの子。同時多面展開ってことかな?さすが武闘派だね」

 

「そうやって煙に巻くつもりか?」

 

リセの言葉に呆れているタカヒトとアヤカ。するとリセはタカシゲと高上がいないことに気づき、その言葉を聞いてシノウはピクッと反応する。

武闘派に対して感心するような顔をして話すリセにタカヒトは釘バットを向ける。

 

「ずっとここに籠もってるから下界のことはうとくてね。何かあったのかい?」

 

「…そうやって現実逃避しかできないんでしょ」

 

「現実逃避か……そう言われても仕方ないね。でもね、現実を変えられるとしたらここからじゃないかな。そう教えてくれた人がいる」

 

「それだ。そいつらについて話を聞きたい。ついてきてもらおうか」

 

アヤカの現実逃避の言葉を聞いて納得するリセ。そんなリセの頭の中には、本について話した美紀との会話を思い出す。

タカヒトはそいつについて話を聞きたいと言い、同行するよう言う。

 

「あの子たちの話はあの子たちに聞けばいいんじゃないかな。紹介ならするよ」

 

「……話にならんな」

 

「……わかってないのよ。愛するものを失う痛みってのが」

 

リセは学園生活部を紹介するというがだめだと言うように下唇を噛むタカヒト。

アヤカは失う痛みを分かってないとリセに言う。その言葉を隣で聞いていたシノウは持っていたアイスピックを強く握りしめる。

 

「愛する…………もの?」

 

アヤカの言葉を聞いてリセはフ不思議そうにアヤカを見る。するとアヤカはタバコを口に咥えライターで火をつける。

その行動に目を見開くリセ。そしてアヤカはそのタバコを横に放り投げる。

 

「……ちょっ!危ないな…館内は禁煙だって張り紙してるだ…ろ…」

 

リセは慌ててタバコが投げられた場所へ向かい足でタバコを踏み潰す。捨てたアヤカに注意していると背後からボウガンを向けられる。

 

「これでわかったでしょ。確保完了」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃タカシゲはキャンピングカーに近づいていた。バールをしっかり構えてしゃがみキャンピングカーのドアを無理やりこじ開けようとする。

 

「うわっ!?」

 

しかしその前にキャンピングカーのドアが勢いよく開いた。それに驚き後ずさるタカシゲ。

 

(ちっ中にいたのか。捕まえるか?)

 

タカシゲの前にはゆらっと動く人影。それをじっと見ていると、『奴ら』のようなうめき声のように聞こえた。

 

 



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第45話 ぎせい

 

「誰……」

 

キャンピングカーから降りたしおりはバールを構えるタカシゲに問いかける。タカシゲと会ったのは初めてだが、武闘派なのはわかった。タカシゲは『奴ら』じゃないことに安心してしおりに近づく。

 

「新入りの一人だな。悪りぃがちょっと一緒に来てもらうぜ」

 

「…何ですかそれ」

 

「そう言うなって……っ!冷てぇ」

 

タカシゲがもつバールを見て不思議そうにするしおり。そんな中タカシゲはしおりの腕を掴むが、しおりの体温が冷たいことに気づく。しおりをみれば、自分が冷たいことに気づかれその場から後ずさりしていた。

 

「てめぇ…やっぱ…」

 

タカシゲはバールを握る力を強くして、バールをしおりに向かって振るう。しおりはそれをかわし、動いた拍子にタカシゲが被っていた帽子が落ちる。

 

「足は生きてんのか…最悪だろそれ」

 

しおりはタカシゲが自分に敵意を向けていることが分かりその場から走り去る。

 

「もったいねぇなぁったく」

 

タカシゲは帽子を被り直して、しおりのあとを追うように走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、ゆき先輩」

 

同時刻、穏健派の校舎。美紀はゆきの部屋の扉をノックする。

 

「なーにー?」

 

「……しおり先輩がいないんです」

 

目元を擦り、眠そうにしながら扉を開けるゆき。そんなゆきに美紀はしおりがいないことを知らせる。

その表情は暗かった。

 

「トイレじゃないの?」

 

「いえ、いませんでした」

 

「六花さんのところとかは?」

 

「いえ」

 

「じゃあ……またお散歩かな?」

 

ゆきは自分が知る中でしおりがよく行きそうな場所を美紀に言うが、トイレも六花の部屋もすでに探しており、いなかったと答える。

するとゆきは最後に散歩かと問いかける。

 

「お散歩…ですか?」

 

「うん。キャンプで見回りしてた時の癖で、夜になると目が冴えちゃうんだって」

 

「……そうなんですか」

 

散歩と言われ不思議そうに問いかける美紀。ゆきは目を大きくしてキャンプのときの癖だと教える。

それを聞いて息をつく美紀。

 

「くるみ先輩と探してるんですけど、まだ見つからなくて…心配で」

 

「みーくんはやさしいねぇ」

 

「ゆき先輩はいつも元気そうですよね」

 

「そうかな?」

 

しおりのことを心配する美紀をみてムフフと笑いながら美紀の頭を撫でるゆき。

頭を撫でられて顔を赤くする美紀だが、ふとゆきはいつも元気だと呟くが、本人はよく分かっていなかった。

 

「とにかくそういうことなら…」

 

「うん…」

 

「夜中にすみませんでした」

 

美紀は微笑みながらその場を後にしようとする。するとゆきに、夜中に来たことを謝罪する。

 

「いーよいーよ。可愛い後輩のためなら…」

 

ゆきは軽く答えると、大きく欠伸をする。

 

「じゃ、おやすみなさい」

 

「うん。くるみちゃんならしおりちゃんが行きそうなところ一番知ってると思うし、もしかしたらもう帰ってきてるかもしれないよ。また明日」

 

「…はい。また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきは部屋に戻り、布団の上で座り込む。

 

「みーくんも気づいちゃったかな。しおりちゃん……ずっと夜起きてるよ。今日だけじゃなくて……たぶんもう眠れないんだ。しおりちゃんどうなっちゃうの」

 

《だから合宿に行くんでしょう?もっといいお薬があるかもしれないわ》

 

 

「でも……間に合うのかな。そうだよね、きっと大丈夫だよね。ずっと一緒だよね、もうお別れはないよね。こわいよ、こわいよめぐねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃しおりは、タカシゲから離れようと走るが、大学内を囲う塀に道を阻まれ止まる。

 

「なぁおい」

 

しおりを追いかけてきたタカシゲは息切れをしながらしおりに話しかける。

 

「まだ意識はあんだろ?悪ぃようにはしねぇから降参してくれよ」

 

タカシゲは手をヒラヒラと動かしながらしおりに降参しろと提案するが、しおりは何も答えずタカシゲから視線をそらす。

 

「おいっ!痛い目にはあいたくねぇだろ?それとも……もう痛みなんかねぇのか?試してやっても…いいんだぜ?」

 

タカシゲは近くにあった木をバールでたたきつける。バールが刺さった部分からは欠けた幹がぱらぱらと落ちる。

バールを木から外して再びしおりに近づく。

しおりは返事をせず塀に足を掛けて塀の上に飛び乗る。

 

「おい待てコラ」

 

タカシゲはしおりに向かって叫ぶが、しおりは目をかさずにその場からフッと消える。タカシゲが塀を登れば、しおりはすでに先の方へと走っていた。

 

「…体育会系なめんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走っていると、しおりは茂みの奥へと姿を消す。タカシゲは一度止まり、懐中電灯を付けて茂みの奥を照らす。

 

(…一旦戻るか?)

 

タカシゲは一度タカヒト達のところへ戻ろうか考える。しかし奥から『奴ら』の呻き声が聞こえた。

 

(ガキの一匹…どうとでもなっか)

 

そしてタカシゲは茂みの奥へと進んでいく。

茂みを出たところには一体の『奴ら』がこちらに向かって動いてくる。

タカシゲは慌てることなく、近づく『奴ら』の足元に自分の足をかけて転ばせる。そしてバールを振るう。

『奴ら』から出た返り血が近くに止まっていた車のサイドミラーに付く。

 

(どこ行きやがった?)

 

倒したはいいが、目的であるしおりが見当たらず辺りをキョロキョロ見回す。すると奥に光が見えた。

そこには懐中電灯を持ってタカシゲの方を向くしおり。しかしそのすぐあとにさらに奥へと走っていく。

 

(ガキだな。怖気づきやがった)

 

 

 

 

 

 

しばらく走ると、鉄のフェンスの前で立ち止まるしおり。そして持っていた懐中電灯の明かりを消す。

 

「あの、ほんとにやるんですか」

 

「安全第一だからな。こっちも一人死んでる」

 

「え?」

 

ここまで来て初めて発したしおりの言葉。

タカシゲは安全第一と言ったあとに仲間の一人が死んだこともしおりに話すが、しおりはそれを聞いて疑問を浮かべる。

 

「もったいねぇよなほんと」

 

「これしか…ないんですか」

 

タカシゲはすたすたとしおりに近づく中、しおりは声を震わせながらブレスレットを握りしめる。

 

「ねぇよっ!そういうもんだ…ろっ」

 

タカシゲはバールをしおりの右肩に強く当てるが、しおりは痛がる素振りを見せることなく、悲しそうな表情をしていた。

そんなしおりをみて舌打ちをするタカシゲ。

するとしおりはその場から走り出し、持っていたマチェットで鉄のフェンスから音を出す。

その音に反応して、周りにいた『奴ら』が一斉にこっちに向かってきた。

 

「ばっテメっ何やってんだよ!!」

 

「…これしか、これしかっないんですかっ…!!」

 

『奴ら』の呻き声が響く中、しおりの突然の行動に焦りをみせるタカシゲ。しおりはさらに音を出しながら叫ぶ。

 

「くっ来るなっうわっおい!」

 

ぞろぞろとタカシゲに寄ってくる『奴ら』。タカシゲはしおりに向かって叫ぶが、しおりは返すこともなく『奴ら』の群れの中を通ってその場を離れる。そんなしおりとしおりに見向きもしない『奴ら』をみて目を見開くタカシゲ。

しかし『奴ら』は待ってくれる訳もなくタカシゲに襲いかかる。

 

「おい!待て!んにゃろっおらっくそっひぃっ」

 

最初はいつも通りに『奴ら』を倒していくタカシゲだが、『奴ら』の数が多すぎるせいか、徐々に声が震えていく。

タカシゲの震える声を聞いて歩く足を止めるしおり。

 

「ひっおっおい、俺が悪かった!悪かったから…っ助けてくれ!見捨てる気かよ!助けてください!お願いしますったすけ…がっあっ」

 

タカシゲの悲鳴を聞いてその場で崩れ落ち、涙を流し声にならない位の叫びを出す。

よろっと立ち上がり目元を擦り、穏健派の校舎を見つめる。

しかし、しおりは逆の方向を向いて歩きだし、『奴ら』の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 



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第46話 ほうしん

 

ドアノブを握る直前に手が止まるタカヒト。

ふと横を見れば、そこに浮かぶのはまだ平和だった頃の廊下。スマホを弄りながら歩く人や、友人と出会って手を振るものもいた。

 

 

 

その日タカヒトはパソコン室にて友人達と話していた。

スマホを弄りつつ友人と話すタカヒトは、外が騒がしいことに気づく。窓から覗けばまるで地獄絵図のような光景だった。

 

-俺は選ばれたのだ。生き残ることが全てだった、武器も食料も何もかもが足りなかった。決断が必要だった。誰かが上に立つ必要があって、俺しかいなかった-

 

今になって思い出す過去。こんな世界になったばかりの頃は今よりたくさんの大学生がいて、『奴ら』一匹でも三人係で確実に倒していた。大学内の食料が減れば車を使って近くのコンビニに取りに行く。しかし日に日に人が減り、コンビニの中にある食料も減ってしまう。それを考慮するために、逃げ遅れた学生は外へ取り残し内側からバリケードを貼り犠牲にしてきた。

 

 

 

 

 

もう一度見れば、誰もいない殺風景な廊下。今ここにいるのはタカヒトただ一人。目を瞑ってドアノブに手をかけ開く。

 

-俺は……選ばれたのだ-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋にいたのは椅子に座り本を読んでいるリセ。その部屋はまるで取調室のようだった。

 

「カツ丼がほしいところだね」

 

「……面倒なやつだ」

 

タカヒトが入ってきたことに気づき、カツ丼を要求するリセ。そんなリセに椅子に座りながら呆れるタカヒト。

 

「私はずっと図書館にいたよ。アリバイはないけど、私たちが君らを襲う理由はないよね」

 

「だとすればおまえたちは愚か者だ。食料は無限ではない、いつかは尽きる。仲間が増えた分俺たちを間引こうとしたのではないか?」

 

「なるほど、そう考えるんだね。でも、人手が増えた分食料の増産とかができる可能性もあるよね?」

 

リセの話す言葉を聞いたタカヒトは、机をダンっと叩きつけて愚か者だと言う。

疑問を浮かべているリセにさらに問いかけるタカヒト。

タカヒトの意見を聞いて一理あると言うように納得するリセ。

 

「現実から目をそらした楽観論だな」

 

「どうして?」

 

「確度の低い投資を行えば全滅の確率が上がる」

 

タカヒトの楽観論の言葉にどうしてかと問いかけるリセ。さらに呆れたような表情で答えるタカヒト。

 

「全滅しないことだけが目的ならいつかは負けるよ。だって私たちはいつかは死ぬし、人類だっていつかは滅びるんだからね。問題は何をするかじゃないかな」

 

「図書館にひきこもってるやつがよく言う」

 

「それを言われるとつらいね。生き残るために色々なやり方を試す…それでいいと私は思うんだけど」

 

「リソースが潤沢ならそれも一つの解だろう。だが今はそうではない。貴様らを遊ばせておく時間は終わった」

 

険しい顔をしながらそう呟くタカヒト。そして椅子から立ち上がり部屋を後にする。

 

「…………美紀くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「…あいつは何も知らん。出る前に縛っておけ」

 

「わかったわ」

 

外側から扉の鍵を二重に閉めるタカヒト。そんなタカヒトにリセはどうだったかと問いかけるアヤカ。

アヤカにリセは何も知らないことと、リセを縛って置くよう伝えてその場から離れるタカヒト。

 

「それと出発の準備だ。タカシゲが戻り次第行くぞ」

 

「…了解……難しい顔。なんで笑わないのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-学校が嫌いだった、ずっと嫌いだった。決まりきった毎日、先の見えた人生、窒息しそうな毎日、何がそんなに楽しいの?-

 

平和だった頃の世界、アヤカは今では掛けないメガネを付けて教室で淡々と勉強をする静かな毎日。周りにいる同年代の女子学生は、仲良く近くの席に座って楽しそうに話す。アヤカはそんな姿をみて何が楽しいのかと疑問に思う。

 

 

しかし世界が一変すればそんな考えは消えた。

血塗れの教室内でペタペタと足音を立てながら徘徊する『奴ら』。周りにいた自分とは違う毎日を楽しそうに過ごす人達は全員入ってきた『奴ら』に噛まれ、殺され、『奴ら』になった。

しかしアヤカだけがその教室内で生き残った。アヤカは『奴ら』を殺しながら、この世界が素晴らしいことを知る。

 

-なんて素晴らしい!あいつらは死んで、私は生き残った。私は自由だ。何をしてもいい、何をしても!-

 

世界が壊れてしばらくした頃、アヤカは窓から見えるお墓を眺めながらニヤッと笑う。

アキが見ていることに気づき問いかける。

 

「どうしたの、楽しくないの?」

 

「いや…ア、アタシ用があるから」

 

アヤカの問いかけに困るアキ。すると持っていた袋を机にだんっと置いてその場を後にする。

 

-こんなに素晴らしい世界なのに、あいつらはそれがわからない。そうだきっとこの世界は私のために、私だけのためにあるんだ。私は……選ばれた。私は死なない、私は無敵-

 

 

「あいつらはどうかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏健派校舎ヒカの部屋。

ヒカは壊れたオルゴールの修理をしていた。

 

-私は……選ばれなかった-

 

 

 

 

 

 

 

世界が壊れてすぐのこと、首をフェンスにつけた鎖で動きを封じられた『奴ら』。

そんな『奴ら』をまえに包丁を持ちながらもぞもぞと殺すのをためらってしまうヒカ。

そばにいたタカシゲに何かを言われても、包丁を持つ手は震えてしまう。無理だと言うように首を横に振ると、タカシゲはヒカから包丁を取り、足で蹴飛ばす。

そして髪を掴み包丁を『奴ら』に突き刺す。

『奴ら』から出る血飛沫をみてヒカはその場から動けなかった。そしてヒカは武闘派から不要とされた。

 

-彼らは有用な人材を求めていた。私は選ばれなかった、私は不要だった-

 

 

 

 

 

最後にきゅっとネジを閉めてしばらくオルゴールはカチカチと音を出し始める。

そしてそこからすぐに音楽が流れ始める。直ったことに喜ぶヒカ。

 

「無駄じゃない、よね」

 

ヒカはオルゴールの音を出しながら部屋を後にし、歩き出す。

上機嫌に歩くヒカに忍び寄るシノウ。

そしてシノウはスッとヒカの首元にアイスピックを突きつける。そして、廊下の奥から姿を現すタカヒトとアヤカ。

 

「声を出すな」

 

 

 

 



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第47話 いたみ

 

満月の明かりが真っ暗な校舎を照す。

りーさんは息を切らしながら廊下を走る。しかし隣で走るるーちゃんが疲れているのに気づき立ち止まる。

辺りを見回して[大教室]がある事が分かり、中へと入る。

なぜこんな状況になったのか、それは少し前に遡る____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ちょっと誰かいるかい?ねぇ?人間には生理的欲求というものがあってだね。頼むよ、誰かいないのかい?」

 

リセは先程の部屋にて一人呟く。

両手は縄で縛られ、パイプ椅子と繋がっている。リセはパイプ椅子を上げて扉の前までいき、扉についている窓で外の様子を確認する。

しかしそこには武闘派はだれもいなかった。

 

「…ふむ、トーコとヒカとアキ、千鶴と六花に新しい子たちを入れて十人。それだけ取り押さえるには人手がいるから…見張りを残す余裕はないかな」

 

リセはガシャガシャとパイプ椅子を鳴らしながら元いた場所へと戻ろうとするが、ふと窓に目がいく。

 

「ないといいんだけどね……うーん、いけるかな?」

 

そしてぐっ…と力を入れてリセはあることをする。

リセのいた部屋からは硝子が割れる音がしたが、それに気づくものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうこと?」

 

アキはヒカと同様にシノウにアイスピックを突きつけられていた。

二人の前にいるタカヒトに問いかけるアキ。

 

「騒ぐな」

 

「トーコを放して!」

 

アキはアヤカがすでに捕らえたトーコを放すよう言う。

トーコの口元はガムテープで封じられていた。

すると、アヤカがもう片方の手で持っているオルゴールがヒカのものだと気づく。

 

「そのオルゴール…ヒカの…!」

 

「騒ぎを起こせば喜来も殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃千鶴は六花の手を引っ張りながら廊下を走っていた。

今の状況が全く理解出来ていなかった六花は千鶴に問いかける。

 

「ねぇ千鶴?一体何なの、部屋に来たと思ったら走るなんて…」

 

「さっきヒカが捕まってるのを見た、武闘派のやつら動き出したんだよ!」

 

「だからって…なんで走ってるの?」

 

千鶴は六花の問いかけに答えるべく一度立ち止まる。

普段運動をしている千鶴とは違い、ずっと室内にいる六花は息切れをしていた。

 

「私さ、あの子たちが来た時から思ってたことがあったの…」

 

「…それって、しおりちゃんのことでしょ?それは前にも話したじゃない、本人がいいたくないことは無理に関わらない方がいいって」

 

六花の意見を聞いた千鶴は頷く。

そして、背負っていたリュックを前に持っていき中を探りながら六花に言う。

 

「でもそれはさ、私の性格じゃ無理なわけですよー…だからさ、私はしおりを探しに行く。六花は安全なところに隠れてて」

 

千鶴は軽く会釈をして六花を残しその場を後にしようとするが、六花は千鶴の手を掴み動きをとめる。

 

「私にとって…一番安全なところは千鶴の隣だから…一緒に行く」

 

「…わかった。でも私の側から離れちゃダメだからね」

 

「千鶴と違ってどこかに一人で行ったりしないわよ」

 

顔を赤くしながら自分の答えを千鶴に伝える六花。

千鶴は微笑んで六花の手を握る。

二人は手を繋ぎ、空いたもう片方の手で木刀を一本ずつ持ち歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきはトイレから出てきて、ハンカチで手を拭きながら自分の部屋に戻ろうと歩き出す。

すると向こうのほうからヒカが修理していたオルゴールの音が聞こえ、ゆきは音のする方へ向かう。

 

「先輩!」

 

ばっとそちらを向いていたのは、ヒカでもなく他の先輩たちでもなく、武闘派の三人だった。

その場にいた全員が驚いた。

 

「声を出すな!」

 

「これで四人目ね」

 

慌ててゆきに声を出すなと言うタカヒト。

アヤカは持っていたオルゴールをパタンと閉じ、くすっと笑いながら呟く。

声を出すなと言われたゆきだが、怯えながらもすうっと息を吸い、大声で悲鳴をあげる。

 

 

 

その声は自室で寝ていた美紀にも聞こえ、胸騒ぎを感じながら美紀は起き上がる。

 

「ゆき先輩っ……?」

 

 

 

 

 

 

 

「りーさん起きてください。様子が変です」

 

美紀は制服に着替えて、りーさんの部屋の扉を勢いよく開ける。

 

「起きてるわ。さっきの悲鳴…」

 

「はい、ゆき先輩の声でした。しおり先輩とくるみ先輩も…部屋にいないんです」

 

「…わかったわ」

 

美紀からゆきの声だったことと、しおりとくるみが部屋にいないことを聞いて、大体の状況が理解出来たりーさんだが、表情は焦っていた。そんなりーさんをみて不安そうな表情をみせるるーちゃん。

 

「トーコさんたちの部屋も確認したほうがいいでしょうか」

 

「…いえ、あまり無闇に動くと危ないわ。一旦ここから離れましょう」

 

「はい、でもどこに…」

 

「地下の倉庫…巡々丘高校のと同じなら籠城できそうだわ」

 

りーさんは前にトーコが話していた地下倉庫を思い出し、そちらに向かい籠城することを提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武闘派の人でしょうか……」

 

「音を立てないのは人間でしょうね」

 

「…何かの間違いだといいんですけど……」

 

階段を下りながら、この騒ぎの一件が武闘派の人達が起こしたことなのかと考える美紀。

りーさんは人間なのは確実だと言う。

美紀の呟きを聞いてりーさんは手を繋いでいるるーちゃんを見る。そしてりーさんはるーちゃんに微笑んでぎゅっとそばに寄らせる。

 

「そうね。そうだといいわね」

 

「はい……本当に……」

 

しかしそんな願いは叶わず、美紀の後ろには上からこちらへ飛び降りてきたシノウ。

シノウはそばにいた美紀の首に腕をまわして動かないようにする。

 

「美紀さん!?」

 

がっちりと抑えられ、アイスピックも突きつけられているために逃げることすら出来ない美紀は声を上げてりーさんに向かって叫ぶ。

 

「…りーさん!!走って!!!」

 

一度は拒んでしまうりーさんだったが、しばらく考えてるーちゃんの手をぐっと握って走り出す

 

「美紀さん…!ごめんなさい!」

 

床に頭を無理やり付けられアイスピックをシノウに突きつけられながらも、走っていくりーさんをみて微笑みを漏らす美紀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______そして今に至る

 

 

りーさんはるーちゃんを連れて大教室に入る。

机と机の間に隠れながら休む。

うとうととうたた寝をするるーちゃんをみて微笑みを漏らすりーさん。

寝息を立てているるーちゃんをみてぎゅっと抱きしめる。

 

「今度は……絶対に守るからね」

 

そうるーちゃんに呟くりーさんだが、扉の奥から足音が聞こえ、別の扉から逃げるため、るーちゃんを起こして上の方へと駆け上がる。

その姿を追わずただ見ていたシノウは不思議そうな表情をしていた。

 

ばっと扉を開けて廊下へ飛び出すりーさんだが、待ち伏せていたアヤカの足に引っかかり転ぶ。

その拍子にるーちゃんも飛ばされる。

シノウに抑えられるりーさんはるーちゃんの名前を叫ぶ。

 

「るーちゃん!」

 

床に倒れるるーちゃんに近づき頭に足を乗せるアヤカ。

 

「やめてっ!」

 

「……これ、そんなに大事なの?」

 

「りーねー」

 

アヤカの足がぐりっとるーちゃんの頭の上で動く。

涙目になりながらりーさんの名前を呼ぶるーちゃん。

 

「……っるーちゃん!」

 

「……ふーん」

 

つまらなそうに呟くアヤカだが、次の瞬間るーちゃんの体を足で蹴り始める。

苦しむるーちゃんをみてりーさんはるーちゃんの名前を呼び続ける。

 

「うるさいわねもう…シノウ、早く運んで」

 

「……さないっ絶対に許さないっ!」

 

りーさんは今までにないくらいの表情でアヤカを睨みつける。

抑えていたシノウでさえも驚くくらいに。

 

「行くわよ。大したことなかったわね」

 

微笑みを漏らしながら歩き出すアヤカに続くようにりーさんを抑えながら歩き出すシノウ。

シノウに抑えられながらもるーちゃんの名前を呼び続ける。

 

「るーちゃん!るーちゃん!るーちゃん!!」

 

しかしその場に残っていたのは、一人の女の子ではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼろぼろになったグーマちゃんのぬいぐるみだった_______

 

 

 

 

 

 



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第48話 せんたく

 

武闘派に捕まり、ある一室にて座り込むゆき、りーさん、美紀の三人。

扉には鍵がかかっており脱出口はどこにもない。

るーちゃんのことがあり表情はか伺えないが、落ち込んでいるりーさんと普段とは違い笑顔を見せないゆき。

そんな二人になんと声をかければいいのか分からずきまづい状況になる。

 

「…行かなきゃ。あの子が泣いてるの」

 

りーさんはその場から立ち上がりるーちゃんが泣いていると言う。そんなりーさんに何かを言おうとする美紀だが、先日と同様で、言葉に詰まってしまう。

無理にでも扉を開けようと試みるりーさん、美紀の隣に座るゆきはなにかをぶつぶつ呟いている。

耳をすませば小さく「めぐねぇ」と言っていた。

そんなゆきの姿をみて息を飲む。

 

「待ってください」

 

「なあに美紀さん」

 

美紀は扉を開けようとするりーさんの腕を掴む。

りーさんは美紀の方を向くが、その表情はとても疲れ切っていた。

 

「こ……ここを出ましょう。るーちゃんを探しましょう、でも…みんな一緒です。ひとりでいかないでください」

 

「……そうね。私が…しっかりしないと…」

 

すると外側から『ガチャン』と何かが開く音がした。そして、ゆき達のいる部屋の扉が開く。

そこにいたのは、武闘派の一人であるシノウだった。

 

「奥へ戻って、早く」

 

シノウはアイスピックを突きつけて、りーさんと美紀に戻るよう言う。二人が戻ったのを確認して扉を閉め、ゆき達に近づく。

 

「……静かにね……あなたたちのうち、誰が高上を殺したの?」

 

アイスピックを突きつけながら、三人に静かにするよう言う。高上を殺したのは誰なのかと問いかける。

三人はシノウの問いかけに驚く中、シノウの表情は険しかった。

 

「あの……その前に、あなたはだれなんですか?」

 

「シノウ。右原篠生よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高上は、あなたたちが来た時にボウガンで撃った人」

 

自己紹介をした後、シノウは高上が誰のことなのかを三人に話す。あの時のことを思い出したりーさんはその言葉の後からの表情が険しくなった。

 

「あの、殺されたってどういうことですか?」

 

「変わったのよ。かれらに……」

 

美紀の問いかけにシノウは高上が噛まれたわけでもないのに『奴ら』になった時のことを話す。

 

「外で噛まれたんじゃ…」

 

「外には出てなかった…あなたたちが来て事件が起きた。答えて、あなたたちが高上を殺したの?」

 

シノウはもう一度三人に問いかけた。

 

「いいえ」「殺してません」

 

りーさんと美紀はハッキリと答えて、ゆきは思いっきり首を横に振る。三人の答えを聞いたシノウはすっとアイスピックをしまう。

 

「やっぱりそうだよね。来た時撃ってごめんね」

 

シノウは高上に狙われたりーさんに頭を下げて謝罪する。シノウの行動に驚きを隠せないでいる三人。

 

「鍵は開けておくから、しばらくしたら逃げて」

 

「待って!るーちゃんはどこ!?」

 

「それ、誰?」

 

「私の妹です」

 

部屋から出ようとするシノウを止めるようにりーさんはるーちゃんの居場所を問いかける。

シノウは誰のことを言っているのか分からず、妹と言われても分からないでいた。

そんなシノウをみて美紀はシノウの近くに寄り、耳打ちをして事情を説明する。

 

「わかった。探しておくわ」

 

りーさんにとってあのグーマちゃんのぬいぐるみが妹と言っていることに驚くシノウだが、上手く話を合わせるように言って部屋から出ていく。

 

「いい人…だったのかしら」

 

「いろんな人がいるんですね」

 

「…逃げるの?」

 

「ええ、るーちゃんを探しに行かないと」

 

シノウについてりーさんと美紀が話していると、ゆきは逃げるのかと問いかける。

 

「でも、しおりちゃんとくるみちゃんは?トーコ先輩たちは?」

 

「!…そっか、捕まってるはずね」

 

「たぶんここには捕まってないと思います」

 

「そうなの?」

 

ゆきの言葉に思い出したようにりーさんは言う。

しかし美紀は、川沿いでのことや、先程アキと話している時に走り出すしおりや戻ってこないしおりを探すくるみを思い出して捕まっていないという推測を呟く。

すると、窓からひとつの手が見える。その手はガタガタと窓を揺らしている。

 

「ゆき先輩!こっち!」

 

「ひぃぃっ」

 

指先などに血がついているため、『奴ら』かもしれないと思い、一番窓の近くにいたゆきを扉側まで避難させる。

 

「おーい。鍵開けてくれー」

 

「だ、誰?」

 

「この声は…」

 

すると、手は窓をノックし始めて声を出す。

聞き覚えのない声に誰なのか分からず疑問を浮かべるりーさん。しかし美紀には聞き覚えがあり、窓を開ける。

 

「リセさん!?」

 

「はーつかれたつかれた」

 

窓にいたのは、左肩から血が出ているリセだった。

あの時窓ガラスを割った時、ガラスの破片が刺さってしまったようだ。りーさんにハンカチで止血してもらい一息つくリセ。

 

「大丈夫ですか…?こんなに血が…」

 

「美紀くん…心配してくれてるのかい…?」

 

「…大丈夫そうですね」

 

血が出ていることに心配する美紀をみてリセは自分を心配してくれているということに表情が明るくなる。

そんなリセをみて大丈夫そうだと呆れて言う。

 

「捕まったのはリセさんだけですか?」

 

「ほかの部屋でトーコたちも捕まっていたよ。千鶴と六花はまだ捕まってないみたい。君たちはできるだけ遠くへ逃げたほうがいい」

 

「先輩たちは?」

 

「ううん…私たちは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクたちは残ろう」

 

「え?なんで?逃げようよ?」

 

リセがトーコ、アキ、ヒカが捕まっている部屋へ行った時、トーコは逃げないと言った。

アキは逃げないと言ったトーコに逃げようと言う。

 

「ボクたちは時間に甘えすぎていた。もっと前からちゃんと話し合うべきだったんだよ。あの子たちを見てやっとわかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちはトーコに付き合うよ。話し合いは文明の基本だからね」

 

リセは、トーコが武闘派達と話し合うと言ったことに賛同したサークルメンバーは逃げずにトーコと一緒に話し合うと言った。

 

「危ないよ……」

 

「大丈夫だよ。本当に危ないことを考えてるならわざわざ閉じ込めたりはしないさ」

 

「う?うん……」

 

危ないと言うゆきに大丈夫だと微笑みながら答えるリセだが、あんまり理解出来ていなかいが納得するゆき。

 

「さ、君たちは急いで行ったほうがいい」

 

「はい。行きましょう」

 

「でも…どこへ?」

 

「まずは車です。あの時くるみ先輩としおり先輩は部屋にいませんでした。もし異変に気づいたのならまず車を確保すると思います。車があればいつでも逃げられますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人はキャンピングカーに向かうべく武闘派にバレないようにそっと移動していく。

 

「私たちを助けに来てるってことはないかしら?」

 

「だったら途中で合流してると思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンピングカーの前までたどり着いた三人は、誰もいないことを確認する。ゆきは運転席を窓から覗くが、だれもいなかった。

 

「……運転席にはいないよ?」

 

「こっちにもいないみたいです」

 

「くるみちゃんとしおりちゃんが…いない……どうしよう」

 

キャンピングカーにはくるみとしおりがどこにもいないと知り、涙が出てくるゆき。

 

「書き置きがないか探しましょう」

 

「ら、らじゃっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物を置いてキャンピングカーの中を捜索する三人。

ゆきはしおりの使っていたベッドにしわがついていることに気づく。

 

(しおりちゃん……こっちで寝てたのかな)

 

掛け布団をめくると、そこにあったのは二つの手錠だった。それをみて怯え後ずさるゆき。

 

(しおりちゃん捕まって…………逃げた?)

 

「……これしおりちゃんの?違うよ、そんなのってないよ!しおりちゃん毎晩……こんな……」

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着いたゆきは外で待つ二人と合流した。

 

「どうだった?」

 

「ううん何もなかった」

 

書き置きなどはあったかとりーさんに問いかけられるゆき。手錠のことは言わず、何もなかったと首を横に振る。

すると美紀は、ある部分だけ地面がくぼんでいることに気づく。

 

「地面がくぼんでる…これ前からあったでしょうか?」

 

「…なかったと思うわ」

 

「…これからのことを決めましょう」

 

前にはなかったくぼみをみてさらにしおりとくるみの行方が不安になるゆき。

すると美紀はこれからのことを決めようと言う。

 

「これから?」

 

「校舎に戻ってみんなを探すか」

 

「戻るの怖いな」

 

「このままここから出る手もあります」

 

校舎に戻るのは怖いといわれ、このままキャンピングカーを使って大学を出るという案を出す。

 

「ここを……出る?」

 

「くるみちゃんもしおりちゃんもるーちゃんも置いて?そんなのやだよ!」

 

「じゃあ……校舎に戻りますか?」

 

「……決めないといけないんです。私たちで」

 

見つからない三人を残して出たくないとゆきは言うが、校舎に戻るかと問いかけられるとなにも言い返せない。

 

「ねぇゆきちゃん。私たち大学生よね」

 

「うん。やっと入学したんだもん」

 

「大学生になったら自分のことは自分で決めないとね」

 

「自分のことは自分で?」

 

「そうよ」

 

りーさんにそう言われ、めぐねぇに相談しようとしているのか、横をむく。そしてなにかを決めたのか頷く。

 

「うんわかった」

 

「ゆき先輩はどうしたいですか?」

 

「わたし、くるみちゃんとしおりちゃんを探したい」

 

今度はハッキリと自分の考えを言ったゆき。

ゆきの言葉に納得して頷くりーさんと美紀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武闘派校舎。

タカヒトは自分の部屋の壁に寄りかかり座る。しかしその表情は疲れ切っていた。

すると扉をノックしてアヤカが入ってくる。

 

「……まだ起きてる。眠れないんでしょ」

 

タカヒトに近づき肌に触れようとするが、アヤカの手を退かすタカヒト。

 

「考えたいことがあるんだ。すまない」

 

「一緒に考えちゃダメなの?」

 

「ひとりで考えさせてくれ」

 

「そう」

 

タカヒトの考え事を一緒に考えるとアヤカは言うが一人にしてくれと断る。

アヤカは素直に部屋から出ていく。

 

 

アヤカが出ていった後にタカヒトは頭を抑えながら表情を暗くする。

 

 



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第49話 つたえる

 

別の部屋にて拘束されているサークルメンバー四人。

その部屋には武器を持った武闘派メンバー三人もいた。しばらく沈黙が続く中、アヤカが問いかける。

 

「どうして一緒に逃げなかったの?」

 

「何が?」

 

「新入りを逃がしたのに自分たちはまた捕まりにくるなんて、一緒に逃げなかったのはなぜ?」

 

アヤカの問いかけに黙り込むサークルメンバー。理由を言ったのは代表であるトーコだった。

 

「話し合うため…だよ。一緒の学校にいるんだからもっと話し合うべきだったんだよ、ボクらは」

 

「容疑者を逃がして話し合いの余地があると思うの?」

 

「容疑者?」

 

「高上が……発症した、外には出てない…タカシゲも帰ってこない、おまえたちの仕業だ」

 

アヤカの言う[容疑者]がどういう意味なのか分からず疑問を浮かべていると、タカヒトは高上が発症した事と、別行動してから帰ってこないタカシゲのことを伝えたあと、サークルメンバー達が犯したことだと言う。

 

「はぁ!?何それ」

 

「アキ。城下君のことは聞いてない、でも高上君が接触したのはうちの新入りたちだけだ。だから新入りに原因があると、そう思ったわけだね?」

 

タカヒトの言うことに反論しようとするアキを止めた後、トーコはタカヒトの言ったことを改めて確認するように言う。

 

「そういうことだな」

 

「高上君は何て言ってたの?怪我とかしたのかな?」

 

トーコの問いかけに黙り込むタカヒト。

シノウがなにかを言いかけたがそれに割り込むようにアヤカが答える。

 

「いえ、そうは言ってなかったわ。近づいて威嚇射撃した程度よ」

 

「ボクらもそう聞いている。だとすると接触なしで発症するのは難しくない?」

 

「難しいかもね」

 

トーコは改めて講義するように発症は難しいと言う。アヤカはそれに納得するような答えを言うが睨みつけるような目をしている。

 

「であっても、高上が発症した事実は変わらん…っ!」

 

「ちょっ…言いがかりじゃん!」

 

「ボクらはそんなことはできない。だけど新入りならできるかもしれないって考えるのは理解できるよ」

 

先程からタカヒトの言うことに反論するアキとは違い冷静に武闘派メンバーの意見に納得しながら話し合いをしようとするトーコ。

 

「あらずいぶん物わかりがいいのね。ならどうするつもりなの?」

 

「だから話し合うんだろ?知らない相手がそばにいれば不安になるし疑いたくもなるだろ、話し合うしかないんだ」

 

「口が回るな。夜逃げの準備を整えていたくせに」

 

「夜逃げ?」

 

アヤカの言う夜逃げがどういうことか分からず疑問を浮かべるアキ。

 

「車に食料運び込んでたでしょ」

 

「あれは夜逃げじゃなくて探検だよ、半分くらいはこっちに残る。そいう話を……もっと時間をかけてするべきだったんだよボクらは……」

 

「ひとまず筋は通ってるわね」

 

夜逃げではなく遠征に行くことや、全員ではなく何人か残ることを伝えると、一理あるとここまできてやっと納得するアヤカ。

しかしタカヒトだけはまだ疑っていた。

 

「くだらん、全部詭弁ばかりだ。貴様らがやったに決まっている!」

 

タカヒトは持っていた釘バットを床に叩きつけ、トーコの胸ぐらを掴む。

いままで無表情だったヒカでさえも驚くくらいの声で叫ぶ。

先程から様子がおかしいタカヒトを隣で見ていたアヤカはトーコの胸ぐらを掴むタカヒトをみて疑問を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はくるみ先輩としおり先輩、るーちゃんを探してきます。ゆき先輩は…りーさんをお願いします」

 

「うん。絶対見つけてきてね」

 

「すぐ戻りますから」

 

美紀はリュックを背負い、三人を探しに行くとゆきに伝える。

表情が暗いりーさんをゆきに任せ、懐中電灯片手に走り出した。

 

「りーさん…中入ろ」

 

ゆきはりーさんの手を取り、キャンピングカーの中に入る。

りーさんを席に座らせ、ゆきはその向かい側の席に腰を下ろす。

 

「大丈夫。るーちゃんもうすぐ見つかるよ」

 

近くにあった毛布をりーさんの膝に掛けてあげ、りーさんを安心させるように言う。

 

「わたしね、ずっと思ってたんだ。自分なんかがここにいていいのかって。わたしよりすごい人とか頑張ってる人とかもいたのに、どうしてわたしなのかなって思うよね。でもねみんなが、めぐねぇもくるみちゃんもしおりちゃんもみーくんもりーさんも、みんなのおかげでわたしはここにいるんだよね。それだけじゃなくて、平和な頃だってお父さんとかお母さんとかお医者さんとかいっぱいいっぱい色んな人に助けてもらってたから、もうちょっとだけ頑張ろうって思うんだ。だからりーさんも、ね」

 

ゆきはりーさんの膝に手を乗せるが、りーさんは寝息を立てて寝ていた。その姿をみて安心するゆき。

ふと窓の外を見ると、塀を飛び越えて大学内に入ってくる人影。その人影をよく見るとしおりなのがわかった。

追いかけたいがりーさんを置いていく訳には行かず悩んだ末に、

 

「…すぐに戻るからね」

 

そうりーさんに伝え、リュックを背負いキャンピングカーから出ていく。ドアが閉まる音が聞こえ、りーさんが目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人を探している美紀は、先日訪れた理学棟へとたどり着く。

息を飲み、インターホンを押す。

 

「……あの、青襲さんいますか?」

 

『…君か、久しぶりね。どうしたの?』

 

美紀の問いかけにすぐに答える理学棟の女性[青襲]

 

「私の…友人がこっちに来てませんか?たぶん同じ制服を着た」

 

『残念だけど誰も来ていないわ。君が来るように言ったのかな?』

 

「いえ…もしかしたらって思って…すいません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別にすまなくはないけど何かあったの?」

 

『はい…実は……』

 

コーヒーの入ったマグカップ片手に、画面に映る美紀に問いかける青襲。

美紀はここまでの経緯を青襲に話す。

 

 

 

 

 

「_____なるほどね。予想された事態ではあるかな」

 

『え?』

 

美紀からここまでの経緯を聞いて、予想された事態だと答える。それを聞いて驚いた反応をみせる美紀に″あること″を伝える。

それを聞いた美紀は目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、サークルメンバーと武闘派メンバーが揃う部屋では口論が始まっていた。

 

「おまえたちが毒を盛ったんだろう!」

 

「ちょっとやめてよ!」

 

「タカヒト?」

 

未だにトーコの胸ぐらをつかみながら叫び続けるタカヒト。それをやめるようタカヒトに言うアキ。

先程から様子がおかしいタカヒトに問いかけるアヤカ。

 

「水に入れたとか、そんなところだろう」

 

「そんなことしたらアタシたちも感染するじゃん!」

 

「だから!解毒剤を出せ!!」

 

アヤカの問いかけに答えもせず解毒剤を要求するタカヒト。

 

「ちょっとタカヒト、落ち着いたら?」

 

「触るな!!!」

 

落ち着くようタカヒトの肩に手をおこうとするアヤカの手をはたく。

そのときアヤカの目に映ったのは、汗を流しながら辛そうな呼吸をするタカヒト。

それをみて驚くシノウ。タカヒトからできる限り離れるサークルメンバー。

 

「解毒剤…タカヒト…あなた…」

 

「……黙れ!俺は!」

 

「あなたの決めたルールでしょ?」

 

アヤカの言葉の後に、アイスピックを構えながらじりじりとタカヒトとの距離を詰めていくシノウ。

タカヒトは釘バットを構えるが、全身の震えが止まらず部屋からでていってしまう。

廊下を走り抜けるタカヒトを険しい表情で見つめるシノウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀は理学棟で″あること″を聞いたあと、みんなにも伝えるために懐中電灯片手に走っていた。

 

(早く戻らないと。でもこんなこと…何て言えば…)

 

そんなことを考えながら走っていると、前に人影が見える。人影の正体は、シノウから逃げてきたタカヒトだった。

 

「…どこへ行く」

 

先ほどよりも状態が悪化しているような状態で、美紀に近づくタカヒト。

そんなタカヒトの姿をみて驚く美紀にもう一度言う。

 

「どこへ行く」

 

 

 

 

 

 



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第50話 せきにん

 

「どこって……どこへ行けばいいんですか!!どうして……私たちを……」

 

「ふざけるな、仕掛けたのはおまえらだろう!」

 

「高上さんなら……私たちじゃありません」

 

高上を殺したのは学園生活部の人間だと思っていたタカヒトにとって今の美紀の言葉は驚くものだった。

 

「なんだと……」

 

「理学棟の人に聞いたんです…」

 

そして美紀は先程理学棟の青襲に聞いた一説の話をタカヒトにも話すことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『________なるほどね、予想された事態ではあるかな』

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「……接触感染では遅すぎるわ。同時多発テロのようなものを想定したところで、世界全部が一度に沈黙するのは難しい。ならば少なくとも初期において空気感染、もしくはそれに準ずる広範囲の感染ルートがあったと考えるべきね」

 

 

 

 

 

 

 

「空気…感染…でも私たちは……」

 

『たまたま生き残っただけよ。おそらくは空気感染についてある種の免疫があったのでしょう。忠告しておくけど、血液感染に免疫があるかは試さないほうがいい』

 

「じゃ、じゃあ空気感染の心配はないってことですね」

 

ここまでの青襲の話を聞いた美紀は自分たちは空気感染の心配はないのかと問いかけるが、青襲はすぐには答えなかった。

 

『……美紀くんといったね。インフルエンザワクチンをなぜ毎年接種するか知ってる?』

 

「えと……」

 

そう美紀に問いかけるが、答える暇もなく青襲は答えを言う。

 

『ウイルスは変異する。免疫があるからといってそれがずっと続くとは限らない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変異ウイルスの空気感染……だと……」

 

「一つの推測ですが……」

 

「嘘を言うな、おまえたちが感染させたのはわかっている」

 

一説をすべてタカヒトに話した美紀。タカヒトは予想外の空気感染に唖然とする。

しかしすぐに嘘だと言い張る。

 

「私たちは何もしていません」

 

「いいから、解毒剤をよこせ!」

 

「解毒剤……?」

 

「おまえたちが使った毒だ、解毒剤くらい用意して…」

 

釘バットを持ち美紀に近づくタカヒトだが、急に口を抑えだし咳き込む。

咳をする度に痰を吐くタカヒト。それを見ている美紀は後退りをする。落ち着いたころに美紀の方を向くタカヒトだが、汗を流し、辛そうな呼吸をし、さらに悪化するのが分かるくらいに血管が頬まで来ていた。

その姿をみて驚く美紀だが、急いでその場から離れる。

 

「待……て……解毒剤を………っ」

 

タカヒトは美紀に向かって叫ぼうとするが上手く声が出ず、逃がしてしまう。

フラフラとしながら美紀の後を追いかけるタカヒト。

近くにあった気に背中を預けて座り込む。

 

(もう……だめなのか……)

 

するとタカヒトの目の前にはいままで見捨てていった仲間たちがいた。

 

「おまえらか……俺が憎いか……くそっ何のために俺は生き残った、何のために俺は殺した!生きるためだ!生き残るためだ!」

 

タカヒトは釘バットを振り回し、仲間たちの幻覚を消そうとする。

 

「俺は……絶対にあきらめん」

 

そしてタカヒトは釘バットを引きずりながらある場所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たどり着いた先は校門。壊されたりしないために置いた重りをどかしていく。

 

「解毒剤を隠すなら使わせてやるまでだ」

 

タカヒトは校門の門を音を出しながら開ける。

そのあとも釘バットを使って門を叩き音を出す。近くにいた『奴ら』はその音に反応して大学内に入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を屋上から双眼鏡を使って見ていたアヤカは、

 

「ここも面白かったけどそろそろ潮時かな……」

 

そう呟き屋上を後にする。

廊下を歩きあるところへ向かうアヤカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

武闘派の全員が離れ縄を解くことができたサークルメンバー。窓から外の様子をみて唖然とする。

 

「やつらが校内に入ってきてる…」

 

「ちょっとまずいことになったね。方角的に…校門が破られたのかな」

 

「こ、校舎の入口を固めないと」

 

こうして間近で『奴ら』をみたのが久しぶりのヒカは怯えながらも校舎の入口をバリケードで固めることを提案する。

 

「それだ!」

 

「防衛線を一階入口に設定、バリケードの強化、うん。いい作戦だ」

 

「そうね」

 

ヒカの提案に賛同する三人。

急いで一階に向かうサークルメンバーだが、アキはあることを思い出す。

 

「ん?ちょっと待った!あの子たちはどこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃シノウは徘徊する『奴ら』から身を隠していた。しかしその表情は暗く疲れ切っていた。

 

 

 

「変異ウイルスの空気感染……だと……」

 

「一つの推測ですが……」

 

「嘘を言うな、おまえたちが感染させたのはわかっている」

 

 

 

 

タカヒトを追ってきたシノウは、美紀との会話を聞いて、空気感染のことを知ってしまった。

 

「……れん君。もう無理だよ……」

 

シノウは腹部を摩りながら高上の名前を呟く。

ふと視線を横に向けると、そこにはリュックを背負い走るりーさん。

 

 

 

 

-走ってさえいれば捕まらない、立ち止まらずに動き続ける、いっぱい走ったから大丈夫-

 

りーさんは校舎に入り階段を登りるーちゃんを探す。

窓から外を見れば、夜明けが近づいていた。

 

「もう夜明けの時間…」

 

すると大音量で警報が鳴り響く。

外にある拡張器からなっている事が分かる。

その音はりーさんだけではなく、一階に向かっているサークルメンバーにも、外にいるシノウにも聞こえていた。

その音を鳴らした犯人は放送室にいるアヤカだった。火災が発生した際に鳴らす警報ボタンを押していた。

 

 

 

アヤカが鳴らした警報でさらに増えてくる『奴ら』

 

 

 

その様子を窓から見ていたりーさんは怖くなりながらもるーちゃんを探すために走りだす。

 

「待っててね。お姉ちゃんが今行くからね……」

 

 



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第51話 さいごまで

 

-どこ……ここ、そっか戻ってきたんだっけ……戻っちゃ…ダメなのに-

 

 

-ずっと一緒だよ-

 

-頑張って、しおりさん-

 

 

-ずっとここで暮らしてもいいかもしれませんね-

 

-いろんなやつがいるさ、大学だからね-

 

 

-一緒にいるとダメになるって思ったわけ-

 

 

 

-そう……だよね……もう……ダメだよね……-

 

 

 

-約束だからな-

 

 

-ごめんね……約束…また破っちゃうね…-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学内を走る美紀。

タカヒトから逃げるために一度ゆきとりーさんが待つキャンピングカーを目指していた。

 

-息が詰まる、胸が苦しい、空気感染、突然変異、知りたくなんてなかった。怖い怖い怖い、一人じゃ無理だ……一人じゃ……-

 

胸元を抑えながらキャンピングカーのドアを開けようとする美紀だが、その手前で中から音がしないことに気づいた。

ドアに耳を済ましても何も聞こえなかった。

 

「ゆき先輩?」

 

ドアを開けているであろうゆきの名前を呼ぶ。

しかし返事はなく、中は暗かった。懐中電灯を付けて車内を見回すが、奥の席にも運転席にも誰もいなかった。

 

「なんで……」

 

美紀は顔を青ざめながら席にふらっと腰を下ろす。

すると外から物音が聞こえ反応する。近くにあった箒を手に取り中に入ってきた人物に振るおうとする。

しかし近くで見てみれば、その人物が誰なのかがわかった。

 

「ア…アキ先輩!?」

 

それは、武闘派に捕まっていたはずのサークルメンバーの一人であるアキだった。

 

「あ、あのっ武闘派の人かと思って……」

 

「遅くに出歩いてると危ないよ」

 

慌てて言い訳をする美紀をみてアキはくすっと笑い、美紀の頭にポンっと手をのせる。

 

「……すみません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「門が開いちゃってさ、急にやつらが入ってきて…」

 

「そんな……」

 

二人は席にすわりアキはここまでの経緯を美紀に話す。門が開いたことを知らない美紀は唖然としていた。

 

「ほかのみんなは?」

 

「……わかりません」

 

ほかの学園生活部のメンバーはどこにいるのかと問いかけるアキ。しかし美紀は分からないと、顔を伏せながら答えた。

 

「外?中?」

 

「えっと……りーさんはたぶん校内だと思います。くるみ先輩としおり先輩は…校外かもしれません。ゆき先輩はわかりません」

 

「じゃ、ひとまず校舎に戻ろうか。外にいるにしても屋上から探したほうがいいっしょ」

 

「はい……」

 

美紀からほかのメンバーのいるであろう場所をアキに伝えた。一度校舎に戻ろうと提案するアキ。

それに賛成する美紀だが、その表情は暗かった。

 

「うわっもう近くまで来てるよ、戻れるかな」

 

「大丈夫だと思います。ケミカルライトと防犯ブザーの予備がまだあったはずです」

 

窓から外の様子をみてやつらが近くまで来ていることを確認するアキ。戻れるかと不安になるアキに大丈夫だと答え、リュックの中から使えそうなものを出す。

そんな美紀の肩にアキはてをのせる。

 

「アンタがいてよかったよ」

 

「はい……」

 

アキの言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべ、アキの手に自分の手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(サイレン…やんだか…)

 

しおりを探して走り回るくるみ。しかし急なサイレンの音に驚き足を止め耳を塞いでいた。

サイレンが止まったことを確認して先を進む。

しかしくるみの目にとまるものを見つけた。それは自分の右腕につけているものと同じブレスレットだった。

それをみてしおりのものだとすぐにわかった。

 

「……あいつ」

 

美紀が部屋にきてしおりがいないかと来た時はここには居ないといい他を探すよう軽くいった。

しかしそれからしばらくして美紀は戻ってきた。しおりが校舎のどこにもいないと言われたときは驚いた。

こんな夜遅くに外に行くなんて考えたこともなかったため驚きを隠せなかったくるみ。

美紀と手分けして探していたが校舎のどこにもしおりの姿はなく大学の外回りまでも探したが見つからなかった。

もう一度大学内にもどり今に至る。

 

大学内に戻ってみれば中にやつらが入ってきていた。

外を探していたくるみは一度は驚くが、しばし考えれば原因はだいたいわかった。

どこかのバリケードが壊されたと予想したくるみだった。

辺りからやつらの呻き声が聞こえ木の影に隠れる。

 

(できる限り戦闘は避けよう…中にどれくらい入ってきてるのか分からないしな…)

 

くるみはシャベルを構えながら周りのやつらが離れるのを待つ。

 

(そういや、一人でいるのも久しぶりだな。ずっとしおりといたからかな…なんか足りない気もする…)

 

《しょげてても仕方ないよ、そんなのくるみらしくない!》

 

ふと後ろから声がした。

知ってる声だったが振り向いても意味はないと思っていた。その声の正体は、もうこの世にいないはずの友人…愛菜だからだった。

しかし久しぶりに聞く彼女の声に安心感を感じた。

 

《いやーでも二人ともしばらくしないうちに変わったね。しおりは明るくなったし、くるみは余計に過保護になったね♪》

 

(うるせーなー…悪いけど今はおまえとゆっくり話してもいられねぇんだよ)

 

《知ってる。しおりを探してるんでしょ?だったら早く見つけなくちゃだね。しおりは私にとってお月様なんだから、頼んだよ?》

 

すると両肩に手を乗せられたような感じがしたくるみは少し驚くがすぐに肩の力を抜いた。

 

《私はもうしおりと話したりできないからさ、私の分までちゃんと守ってよね?》

 

(わーってるよ…任せとけ)

 

《よし!じゃあさっさっと行ってこーい!》

 

「うわっ!?」

 

その声と共に背中を思いっきり叩かれた気がして倒れそうになるくるみ。急だったからか思わず声を出してしまったくるみは慌てて口元を抑える。

周りを見回して気づかれてないかを確認する。

こちらに近づいてくるようすもなく一安心するくるみ。

 

(ありがとな…愛菜…)

 

自分を勇気づけてくれた愛菜に向けてお礼を言い気づかれないように先へと進んでいく。

 

 

しかし進んだ先にはやつらが徘徊していた。

やつらを倒しながら進むのも考えたが、今はやつらに構っているほどの時間はないと思うくるみだが、先へはどう進もうかと考える。

ふと塀の方を向くと、外へ行き来するためのハシゴを見つける。これを使って安全な塀の上から探そうと考えたくるみはハシゴを使って塀の上に登る。

塀の上をしばらく歩くと見覚えのある人影を見つけた。

それはずっと探していたしおりだった。

くるみは見つけた喜びとこのまま離れてしまうんじゃないかという焦りが頭をよぎる。落ち着く暇もなくくるみはしおりを呼びかけるように叫ぶ。

 

「しおり!待てよしおり、そこにいるんだよなしおり!」

 

くるみが叫ぶたびにやつらは動きを1度止めくるみの方を向き始める。そんなのお構い無しに呼びかけ続けるくるみ。

くるみの声に反応するかのように動きを止めるが振り向きはしない。

 

「大丈夫だ、どんなことがあってもずっと一緒だって……約束しただろ…しおり!」

 

さらにしおりの近くに行こうと塀の上を走る。

くるみはしおりに向けて手を伸ばす。しかし足元を注意していなかったくるみは足を滑らし塀から落ちてしまう。

くるみが落ちてきたことにより先程からそちらを見ていたやつらが一斉にくるみに襲いかかる。

それに気づいたしおりは朦朧としていた意識が戻り先程から聞こえていたくるみの声に気づいていたがいまの自分は戻っては行けないと思っていた。

しかし大好きな親友の危機は見過ごせず足が動いてしまった。

やつらよりも早くくるみの方へ駆けつけ庇うように覆い被さる。

 

「…バカっ」

 

初めて言われた言葉に少し驚くくるみ。

すると何事もなかったかのようにその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

二人は手を握りながら地べたに横になる。

久しぶりに握った手、久しぶりに見た顔、しかし二人は喜ぶことは無かった。

 

「くるみはバカだよ…こんなんじゃ……安心していけないじゃん」

 

「…どこいくんだよ」

 

「もう……意識があんまりないの。今だっていつまで保てかわからないし、だからこれでいいの……ごめんね……」

 

しおりはいまの自分の状況を伝え約束を守れないことを謝罪する。

 

「ごめんじゃねえよ!!それってつまり……自分が足手まといとか、いないほうがいいとか……そういうことだろ……そんなの…っ許すかよ」

 

「でも……」

 

「でもじゃねぇ!しおりのいない世界なんていやなんだよ!」

 

しおりの謝罪を聞いたくるみは起き上がり今しおりの言ったことを許さないと言う。

普段だったらここまで言わないくるみに驚くしおりだがくるみの言うわがままに反論する。

 

「聞き分けないこと言わないで……私だって…私だって好きでにげたいんじゃないもん!!今日は大丈夫だから明日も大丈夫だって思って、でもいつかはダメになるの。だから……ここから出ようとして……だけど出ていけなくてどうすればいいの!それにもうわたしは……」

 

「じゃ、逃げなきゃいいだろ!」

 

「無理だよ!」

 

「無理じゃねえ!」

 

「わかってないでしょ!!」

 

口論はエスカレートしていき普段とは違い怒鳴りつけるしおり。そんなしおりに驚きもせずくるみも叫ぶ。

 

「わかってる!ずっと同じ日は続かない、いつか別れだってある…けどな、知らないうちにいなくなって生きてるかどうかもわからないなんてそんなのずるい。ゆきもみきもりーさんもみんな心配してるぞ?…愛菜やめぐねぇだってな。それにいなくなったってあたしが絶対に見つけてやる!だから…だから絶対…最後まで一緒だ」

 

気づいた時にはくるみの目から涙が流れていた。

しおりはそれをみて何かを思い出し、泣き出す

 

「うっ……っごめん…泣かせたく…なかった……っ離れたくもなかった!……なのに…っ…」

 

目元を拭いながら話すしおりを見てくるみはしおりを抱きしめる。

 

「あたしだって…おまえが戻ってこなくて不安になった…もう帰ってこないんじゃないかって思った……もう絶対離さない…絶対守り切る…」

 

「くるみ……怒鳴ったりしてごめんね」

 

「あたしだって怒ったりして悪かったな……さ、やつらがいないうちにみんなの所に戻ろうぜ。あたしも何も言わずに出てったきりだからな」

 

くるみはしおりの手を握り立ち上がらせる。

「一緒に謝ろうな」と頭を掻きながら言う。そんな姿をみて自然と笑顔が戻る。

 

「どうやら解決したようだね?」

 

「千鶴…」

 

するとひょこっと現れた千鶴。

ニヤニヤと笑う千鶴を見て一体いつから見ていたのかと思う二人。

 

「んじゃま早速謝る子がいるんじゃない?」

 

千鶴の言葉の後に後ろから現れたのは六花と手を繋いでいるゆきだった。

するとゆきは六花の手を離し、しおりの方へと走り出す。

そしてしおりに抱きついた。

 

「しおりちゃん……っもう一人でどこかに行かない?」

 

「……うん、行かないよ」

 

「約束だよ!絶対だからね?」

 

しおりはゆきにも一人でどこかに行かないことを約束した。その言葉を聞いたゆきはいつも通りの笑顔で言った。

 

「くるみちゃんも、もうしおりちゃんと喧嘩しない?泣かせたりしない?くるみちゃんが……いふぁいよふるみちゃん~」

 

「なんであたしだけそんなに言われるんだよ!」

 

ゆきはくるみのダメなところをズカズカと言っているとくるみはゆきの両頬を引っ張る。

 

「さぁ合流したところで、みんなの所に戻りましょう」

 

『はーい!』

 

六花の的確な指示を聞いて、校舎のほうへと歩き出す一同。

 

「あーそうだ、しおりこれ落としただろ?」

 

「あっ…ごめん…」

 

くるみは懐から先程拾ったブレスレットを見せ、しおりの左腕にはめる。

はめた後三人のあとを追いかけるように歩きだそうとするが後ろから制服のシャツを引っ張られる。

何か言いたそうな顔をするが、発することはなかった。

ならこっちから当ててやろうと思い、その場でしゃがむ。

 

「ほら、疲れてんだろ?」

 

「当たり…でももう大学生だよ、さすがに…」

 

「陸上部なめんな…よっと…」

 

しおりは無理だと思いながらもくるみの背中に体重をかける。くるみは体重をかけたことを確認して、立ち上がりしおりをおんぶする。

 

「…おまえちゃんと食ってるか?」

 

「食べてるよ………」

 

「にしては軽すぎ………寝たのか?」

 

しおりの体重が思ったより軽かったことに笑っていると、後ろから寝息が聞こえた。

くるみは起こさないように歩く。

そんな中くるみは昔の自分たちを思い出す。

しおりが疲れたときや転んで怪我したときはいつもおぶって家まで帰っていた。

昔に戻ったように感じて笑みをこぼすくるみ。

出会ってから約十年近く、初めての喧嘩を通してしおりが隠していたことや抱えていたことがわかったきがしたくるみ。

中学の頃、千鶴にあることを問いかけた。

 

″いつも喧嘩してるのになんでそんなに一緒にいられるのか″

 

すると千鶴は笑って答えた。

 

″喧嘩した後って相手の新しい一面を見れるし、喧嘩すればさらに仲良くなれる″

 

今思えばどういう事なのかがよく分かる。

今日の喧嘩をきっかけにまたさらに仲良くなれる…そう思うと悪いことだけじゃないのかもしれないと、そう感じた。

 

 

 

 

 

 





遅くなってしまいすみません(;_;)
もう少し早く出せるように頑張りますd(˙꒳˙* )


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第52話 あがき

 

もうすぐ朝日が昇る頃、校舎の窓際に椅子を置きそこに座りアキの帰りを待つヒカ。

カーテンを繋げて作った縄を使って外に出た。

 

「誰かいた?」

 

下から戻ってきたトーコに外を誰かが通ったかと問いかけるが、首を振り誰も来ていないことを伝えるヒカ。

 

「玄関は?」

 

「大体終わった。あいつらもう入ってこれないよ」

 

トーコは机や縄などを使って正面玄関や、外からの出入りができる場所すべてを塞いだ。

 

「あの子たち……大丈夫かな」

 

「もし残ってたらアキが連れてきてくれるでしょ」

 

「そうだね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、外にて入ってきたやつらをアイスピックを使い倒していくシノウ。

何匹も倒して行ったせいか汗をかき、息を切らしていた。

すると後ろから近づく影に気づきアイスピックを振るう。しかし刺す寸前に動きが止まった。

その正体が同じ武闘派のアヤカだったからだ。

 

「…危ないわね」

 

「アヤカ…………さん?すみません…」

 

校舎にいると思っていたアヤカが今目の前にいることに驚くも、アイスピックを振るおうとしたことを謝罪する。

 

「こんな所でどうしたの?高上君の仇は見つけた?」

 

「それが……」

 

シノウは、先程のタカヒトと美紀の会話を聞き、高上を殺したのは学園生活部の子達ではないことと、空気感染のことをアヤカに話す。

 

 

 

 

 

 

「面白いじゃない。不景気面にはうんざりなの、せっかくこんな楽しい世界になったのに不平不満で目が死んでるやつばっかり。綺麗に片付くならいいじゃない」

 

シノウから空気感染の話を聞いたアヤカは不気味に笑い、面白いと答えた。その言葉を聞いて驚く訳ではなく笑うアヤカをみておかしいと感じた。

するとアヤカはシノウの顎を上げ語り始める。

 

「死ぬかもしれないんですよ…っ」

 

「あんたたちはね」

 

自分は死なないと言っているかのような笑みを浮かべシノウの顎を無理やり剥がし、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方るーちゃんを探しに校舎に戻ったりーさん。

宛もなく歩き続けていると、廊下の床に転がっているぬいぐるみを見つける。

 

「るーちゃんっ!ごめんね…ごめんね…っ早く……みんなの所へ戻ろうね…」

 

りーさんはぬいぐるみを思いっきり抱きしめ、みんなのいる車へ戻ろうとする。

しかし、こちらへ近づくやつら。階段は使えずすぐに下に戻ることは出来なかった。

隠れてやり過ごそうと部屋に入る。先程から声を発しないるーちゃんをみて呼びかけるが返ってこない。

 

「!るーちゃん……?るーちゃん?起きてっるーちゃん!どうしたのっ…?るーちゃん?るーちゃん!」

 

何度呼んでも声は聞こえない。

ドア越しでもりーさんの声が聞こえているからか外側からうめき声が沢山聞こえる。

たったひとりのこの空間に絶望を感じてしまうりーさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、外にいるシノウも疲れ切っていた。

アヤカと別れたあともやつらを倒し続けていた。すると木に背をあずけ、懐から高上の被っていたニット帽を出す。

 

「……もう疲れたな、ごめんね……」

 

するとシノウはニット帽を左手で握りしめ、右手に持っていたアイスピックを離し座り込む。

そんなシノウに近づくニット帽を被ったやつら。

 

「れん君……?れん君……なの…?……ちがう、ちがうちがう、この人は…こいつは…れん君じゃないっ」

 

高上なのかと問いかけるシノウ。しかし答える訳もなく近づくやつら。すると高上じゃないことに気づきアイスピックを持ち立ち上がる。やつらがシノウに手を伸ばそうとした瞬間、シノウは大きな叫び声を上げた。

 

アイスピックを投げ、そのアイスピックはやつらの顔に刺さり倒れた。

手を震わせながら投げた拍子に落としたニット帽を拾う。

 

「れん君……そうだよね……生きなきゃね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うめき声と扉を無理やり開けようとする音しか聞こえない空間に一人るーちゃんを抱きしめながら蹲るりーさん。

すると抱きしめていたるーちゃんが意識を取り戻した。

 

「るーちゃん!……よかった……ごめんね……怖いよね……ごめんね……大丈夫だからね、お姉ちゃんが絶対守るから」

 

(私しかいないんだ。私が守るんだ)

 

「……そと…お…そと……」

 

すると小さな声で外と言って窓のほうを指さするーちゃん。りーさんにはその窓には光が見えていた。

りーさんは立ち上がり窓から下の様子を伺う。

やつらもおらず、下は土なので大怪我することはないことを確認し息を呑む。

 

「……しっかりつかまっててね、いくよっいちにの…………っ」

 

りーさんはしっかりぬいぐるみを抱きしめ窓から飛び降りる。

下まで降りれたものの、足を滑らし痛めてしまったりーさん。その音に反応したのか少し距離の離れた所から近づいてくるやつら。

じりじりと迫ってくるのをみて目を瞑る。

しかし聞こえたのは何かがささる音と、やつらの小さなうめき声。

目の前にいたのは、やつらを倒し笑みを浮かべるシノウだった。

 

「妹さん……見つかったんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキの帰りを窓際で待つトーコ。すると美紀を連れてこちらに手を振っているアキを見つけた。

 

「リセ!ヒカ!」

 

二人に声をかけ、アキと美紀が登れるようにカーテンを抑えておく。

 

「これ大丈夫かな…試しに先に登ってみるね」

 

アキが登ろうとしていると、右の方からエンジン音が聞こえた。その先にいたのはこちらに迫ってくる一台の車。

 

「アキさんそのまま上がって!」

 

「えっ!?」

 

すると校舎に車体をぶつけて無理やり止まる車。

 

「何だあの車!」

 

車はバックしてもう一度つっこもうとするがそれを美紀が止める。

 

「やめてくださいタカヒトさん」

 

「タカヒト……!?」

 

するとつっこむのをやめ、車から出てくタカヒト。その手にはボウガンが握られていた。

 

「ちょっ…!アンタ何する気!?」

 

「……今度こそは……逃がさん」

 

持っていたボウガンを美紀に向けるタカヒト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、校舎に戻っていた五人。

ふとゆきはどこか遠くを見つめていた。そんなゆきに寝ているしおりをおぶりながら歩くくるみは足を止め問いかけた。

 

「どうしたゆき?」

 

しかしゆきは答える訳もなくただずっと遠くを見つめるだけだった。

 

 

 

 



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第53話 いのち

 

「……今度こそは……逃がさん。解毒剤を……よこせ……」

 

タカヒトはボウガンを美紀に向け、息を切らしながらも解毒剤をわたすように言う。

 

「アンタ……っまだそんなこと…」

 

「さっさと上がれ、上がらなければ撃つ」

 

アキはタカヒトの言葉に反論するように話そうとするが、上へ上がらなければ美紀を撃つと脅される。

不満は残りながらも上へ上がり始めるアキ。

 

「…解毒剤はどこだ。誰が持っている」

 

解毒剤を誰が持っているのかと問いかけるタカヒト。

しかし美紀は、渡さないと言うかのように首を横に振る。

 

「…おまえも感染させてやろうか、そうすればあいつらも解毒剤を持ってくるだろう。あるいは…切り捨てるか……確かめてみるか?」

 

「あなたは……切り捨ててきたんですか」

 

「無論だ。水も食料も有限だ、生き残る者は選ばれねばならない。おまえは違うというのか」

 

今まで仲間たちを切り捨てて来たのかと問いかける美紀に当然だと言うようにここまで自分がやってきたことを思い出しながら答える。

 

「そうかもしれません。でも……生きてればそれでいいんですか?」

 

「……っおまえに……何がわかるっ!」

 

かつて友人に言われた言葉を同じようにタカヒトに言う美紀。しかしタカヒトは叫びながらボウガンを構えた。

今度は確実に撃たれると思ったのか目を瞑る美紀。

だが、撃たれることはなかった。不思議に思い目を開けると、先程までタカヒトの手にあったボウガンは地面に落ちていた。

ボウガンを持っていたタカヒトの左腕から血が流れていた。シノウが背後をとりアイスピックでさしていたのだった。

 

「早くこっちへ!」

 

「りーさん!!」

 

すると美紀は後ろからぐいっと引っ張られ、茂みの奥へと連れていかれる。

美紀を引っ張ったのは、先程シノウと合流したりーさんだった。

二人は茂みの奥から対立するタカヒトとシノウを見つめる。

 

「ごめんなさい……でも、私もう嫌です」

 

「いまさら何を!おまえだって散々殺してきただろう!!高上はおまえが……」

 

「うるさいっ」

 

「何が違うっ!」

 

するとタカヒトはシノウを感染させてやろうと思ったのか、シノウの肩に触れようとする。

しかしシノウはそれよりも早くアイスピックをタカヒトへ突きつける

 

「違うとか違わないとか知らない。でももう生きるって決めたから……この子のために」

 

シノウは腹部を手で撫でるように触った。

その姿を見ていたりーさんはシノウのお腹に新しい命があることに気づく。

すると校舎の上からカーテンで作った縄が垂れ下がり、傘を持ったアキとリセが降りてくる。

 

「みーくん!」

 

「ゆき先輩!くるみ先輩!しおり先輩!」

 

遠くからこちらに向かって走ってくるゆき、くるみ、しおり、そして千鶴と六花が見えた。

キャンピングカーからいなくなった後から姿が見えなかったゆき達の姿を見て笑顔を浮かべる美紀とりーさん。

そして武器を持っている面々はタカヒトの周りを囲み武器を構える

 

「……ちっ」

 

この人数だとさすがに無理だと思ったのか、舌打ちをした後に刺された左肩を抑えながらその場を後にする。

 

「三人とも無事だったんですね」

 

タカヒトが去った後に再び再会を喜ぶ学園生活部の五人。

するとやつらが近づいてきていることを確認したアキは学園生活部の五人に言う。

 

「中へ行きましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの場を後にしたタカヒトはお墓があるコンテナの上に上り、中にいるやつらを見下ろす。

 

《感染者!》 《排除!》

 

 

《ルール!絶対!》 《感染者!》

 

 

 

《排除!》

 

 

《ルール!》 《絶対!》

 

 

 

 

「ひっ…」

 

やつらから聞こえるタカヒトを排除しようとする声。

タカヒトは後ずさりはいつ配りながらその場をあとにしようとする。

 

「違う、俺は……俺は……最後まで……!」

 

するとやつらとは反対方向からタカヒトに向かってくる一本の腕。

しかし襲われることは無かった。

その手はアヤカのものであり、タカヒトの頬にそっとあてる。

 

「なんだ……おまえか……驚かせるな…シノウが裏切った、だが俺たちはまだ終わらん。生き残ってみせる」

 

「それってつらくない?」

 

「誰かがやらねばならないことだ。そのために俺は選ばれたのだから」

 

「……冗談でしょ」

 

やつらのほうを向きながら自分は選ばれたんだと話すタカヒト。

しかしアヤカは表情をかえることはなかった。

そして次の瞬間アヤカはタカヒトの背中を押した。

 

「選ばれたのは私よ」

 

先程までの表情とは反対に笑顔を浮かべながらアヤカは言った。

そしてライターで燃やした紙をタカヒトが落下した所に落とし、焼死体を完成させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、仮眠を取っていた学園生活部。

自然と目が覚め、起き上がるとゆき、そして同じ布団で寝ているくるみとしおりはまだ寝息をたてていた。

しかしりーさんがいないことに気づきどこに行ったのかと疑問を浮かべる美紀。

 

(りーさん?)

 

 

 

 

 

 

 

その頃りーさんは、窓際に座り外を眺めているシノウに声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「さっきはありがとうございました。るーちゃんもお礼が言いたいって、ありがとうって」

 

「……どういたしまして」

 

シノウはりーさんが片手に持っているぐーまちゃんのぬいぐるみに目を向けそう言った。

 

「私たち……しばらくここを出ると思います」

 

「そうなんだ……」

 

「はい。あきらめなければまだできることがあるんだって、るーちゃんとシノウさんに教えてもらいました」

 

大学をでることをつたえた後にあの時勇気をだして窓から降りたから生きていることをるーちゃんとシノウから教わったと言った。

 

「うん、よかった。私は行けないけど……」

 

「あの…この子を……この子を…預かっていただけますか?」

 

りーさんはぐーまちゃんのぬいぐるみをシノウの前に差し出し、預かってもらうよう頼む。

 

「私が……?」

 

「危ない所には連れていけませんから。それに……お友達になってくれるかなって」

 

するとぐーまちゃんのぬいぐるみをシノウのお腹にあてる。お友達とは自分から生まれる新しい命のことを言っているんだと気づく。

 

「るーちゃん……」

 

シノウはぐーまちゃんのぬいぐるみを膝に乗せ、優しくなでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方アヤカは駐車場に向かい、キーがかかったままの車に乗り込む。

そしてエンジンをかけ、校門へ向かい大学から出る。

 

-こんなに素晴らしい世界なのにあいつらはそれがわからない。この世界は私のために、私だけのためにあるんだ。私は……選ばれた-

 

しかし大学を出てすぐにエンジンが止まってしまった。

キーをもう一度掛け直したりアクセルを何度も踏むがエンジンはかからなかった。

 

エンジンが止まった時の音に反応したのか、近くにいたやつらが車に近づいてくる。

 

-私は死なない。私は……-

 

外から車をゆさるやつら。

すると聞こえたのは、窓ガラスが割れた音だった。

 

 

 

 



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