IF 火神のバスケ (頭はクール心はホット)
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キセキならざるキセキ



黒子のバスケに再熱しての、今更ながらにもしもな小説。
原作第二の主人公と言われている火神が主人公となります。





 ツートンカラー、黒い影のある赤い髪を持つ長身の男の子は、視線の先で行われるバスケットボールの試合に…いや、蹂躙劇に眉をひそめていた。

「あれが"キセキの世代"か」

 その少年はこよなくバスケットボールを愛する少年だった。中学2年の時まで5年以上の期間アメリカで生活を送り、本場の地でバスケットボールを覚えたのである。日本に戻ってきたその男の子はもちろんバスケ部に入った。しかし、そのバスケ部のレベルの低さと遊び半分な部員達の態度に愕然とし、その男の子は部活内で孤立してしまうこととなった。実力があるのに試合にも出してもらえずに…。
 しかし、その男の子は練習だけは決して怠ることはなかった。それはやはり、バスケットボールを何よりも愛しているからだろう。
 そんなある日、その男の子は部員達がたまたま話しているのを聞いたのである。

  ── いくら火神が才能あるからって、"キセキの世代"には勝てるわけないよな。

 その男の子…火神大我は"キセキの世代"と言われている10年に1人の天才達のことをまったく知らなかった。だが、彼はその言葉に胸を踊らせたのである。自分よりも強い存在がいるのであれば、ぜひ戦ってみたい…と。火神はバスケ部を辞めていたこともあり全中の都大会予選、"キセキの世代"がいる帝光中の試合を見る時間があった。
 そして今日、火神は初めて見た。"キセキの世代"の5人の天才達を。

「ふざけた奴らだ……バスケをいったい何だと思ってやがるんだ」

 唯一、真面目に淡々とプレーしていた赤色と緑色の髪の選手だけは別だったが、他の選手達は火神の目にあまりにも不誠実に映っていた。
 だが、"キセキの世代"が他とはかけ離れた力を持っていたのは事実だと火神は知った。
 本気でやり合ったとして、勝てるかどうか…。

「"キセキの世代"……俺が、お前らに敗北を教えてやるぜ」

 バスケを愛する少年…火神大我は沸々と闘志を沸き上がらせる。
 勝負は1年後。
 1年後、日本は戦慄することとなる。誰もが"キセキの世代"を10年に1人の天才達と持て囃し、勝つことを諦めるなか、その天才達に敗北の悔しさを味あわせるべく強くなった同等…いや、それ以上の才能と可能性を秘めた男の子がいたことを。




 *****




 翌年、4月。
 東京都内にある去年設立されたばかりの新設校である誠凛高校に火神大我は入学していた。
 彼がどうしてその高校を選んだのか…それはただ単純に、その高校のバスケ部でバスケをしたら楽しそうだと思ったからである。
 全中の都予選で"キセキの世代"を目の当たりにした火神は、5人の天才達に勝つことを心に誓った。部活を辞めてしまった彼にキセキの世代達と戦う術はなかったのだが、1年後…高校生になってからはその機会があるはず。そう考えた彼は、どの高校に行くかをバスケ部がどんなところであるかを調べてからにしようと思い至り、インターハイの都予選を見に行ってから決定したのである。
 そして見つけたのが、新設校で創部されたばかりの誠凛高校バスケットボール部だったのだ。
 創部されたばかりでありながらも都内ベスト4までいったそのバスケ部は火神の心を奪った。

 そして本日…

「っと、ひーふー……今10人目か。
 もうちょっと欲しいかな」
「バスケ部ってここか?」
「え、う、うん……って、デカっ!!」

 誠凛高校にて部活勧誘が行われるなか、火神はその体格の良さから様々な部活から勧誘を受けるも、その全てを無視してバスケ部のブースまでやって来ていた。

「どうもっす、カントク」
「え、私のこと知ってるの!?」
「創部1年目にして誠凛高校バスケットボール部を都内ベスト4まで導いた可愛い女カントク……俺、都予選の誠凛の試合見てたんだ」
「か、かわいい!?そ、そうかなー、うふふ!
 って、試合見てたの!?」
「ああ。良いチームだと思った。俺、誠凛のバスケ見て、ここに入りたいって思ったんだ。
 だから予選トーナメントの決勝……霧崎第一との試合でのあの出来事(・・・・・)は残念で仕方なかったし、決勝トーナメントの敗戦は俺も自分のことのように悔しくて仕方なかった」
「ッ!」

 火神からカントクと呼ばれる女子高生…相田リコは、まさか自分達の試合を見てこの高校にやって来てくれた新入生がいるとは思いもせずに驚いていた。しかもそれだけでなく、誠凛バスケットボール部の抱える事情(・・)まで知っているなど、唖然とするしかなかったのである。

「俺、中学2年までアメリカにいたんだ。日本に帰って来てバスケ部に入ったけど、遊び半分な奴らと合わずに辞めて、それでも1人で練習はしてた。そんな時に"キセキの世代"を知って試合を見に行ったんだ。マジでふざけた連中だったぜ。真面目にプレーしてる奴もいるにはいたけど、バスケを馬鹿にしてやがる。だから俺は、そいつらを負かしてーって思った」

 きっかけは"キセキの世代"を知ったこと。大好きなバスケットボールを侮辱されたように感じたからだった。だが、1人で練習していた火神は、本人すらも気付かないうちに、チームでバスケができないことに寂しさを感じていたのかもしれない。
 だから、誠凛というチームを見て羨ましく思ったのだ。そして、その輪の中に自分も加わりたい…と。

「あんたら誠凛はバスケを楽しんでた。
 創部1年目で都内ベスト4……マグレって言ってる奴もいたけど、スッゲェ努力したんだろうなって俺は思った。ここでバスケしたいって思った」

 火神の話を聞いた相田リコは、気付くと涙を流していた。去年のあの悔しさと辛さを思い出し…だが、それと同時に嬉しさも感じて。
 自分達がやって来たことは決して無駄じゃなかったと、目の前にいる火神大我という男がその証明として現れたのだ。

「ありがとう。……えっと」
「火神大我だ」
「火神大我くん。知ってるみたいだけど、一応はちゃんと自己紹介させてね!
 誠凛高校バスケットボール部監督の相田リコよ、よろしく!」

 創部2年目。昨年度の成績は都内ベスト4。
 誠凛高校バスケットボール部が日本一になる為に必要な、絶対的エースを得た瞬間である。

「あ、火神くん、ちょっとここで服脱いでもらっていいかしら?」
「はあ!?なんでこんなとこで服脱がなきゃいけねーんだよ!変質者か俺は!?」
「大丈夫!変なことしないから!
 痛くなんてしないしちょっとだけ……ね?」
「変態かよ!?」

 相田リコ…さすがは創部1年目のバスケ部を都内ベスト4まで導いた女子高生監督。だが…彼女もまた、一癖も二癖もある変人なのである。

「ああ、服の上からでもその片鱗が垣間見れるわ!火神くんが脱いだら私、どうなっちゃうの!?」
「ヨダレ垂れてんぞ!!」

 案の定、その日の新入生も加わった練習前にて、彼女は火神の裸を見て悶絶したのである。
 そんな監督の変態的な様子を目の当たりにした火神大我は少しだけ後悔したようだ。

「入るとこ間違えたかも」
「カ、カントクのことは気にすんな!!」

 火神が辞めないようにと必死で止める先輩達がいたとかいなかったとか…。

「天賦の才……初めて……ステキ」

 男子高生の上半身裸の姿を見てヨダレを垂れ流す女子高生…なかなかに強烈だ。
 火神大我の受難は始まったばかりである。




 *****




 その日の帰り道、火神はストバスコートにやって来ていた。目の前にいる水色の髪の男の子…黒子テツヤに呼び出されたからである。
 非常に影の薄い…薄すぎるその男の子もまた、誠凛高校バスケットボール部の入部希望者だ。

「で、"幻の六人目(シックスマン)"が俺にいったい何の用なんだ?」
「!僕のことを知ってるんですか?」
「パス回しに特化した見えない選手……全中での帝光の試合は何試合か見させてもらったからな。お前のことも知ってる。まさか創部2年目の誠凛にいるなんて思いもしなかったけどな。創部1年目で都内ベスト4の誠凛もスゲーけど、もっとしっかりとした強豪校に行ってると思ってたぜ」

 つらつらと語られるそれに黒子は驚きながらもそれならば話は早いと、火神に1on1を申し込む。
 火神も黒子が凄い選手であることを知っている為に快くそれを受け入れ、いざ…と、バスケを始めたのである。しかし、火神はすぐに受け入れたことを後悔するのだった。

「く、黒子……お前これじゃあパス回しに特化した選手じゃなくて、パス回ししかできない(・・・・・・・・・・)選手じゃねーかよ!!」

 まさかパス回し以外が素人に毛が生えた程度だとは思いもしていなかった火神は、黒子のその実力の低さに驚愕する。
 全中3連覇を成し遂げた帝光バスケ部の一軍で試合にも出てた男が、ここまで極端な一点特化型だとは火神も思ってもいなかったのだ。
 一点特化型だからこその"幻の6人目(シックスマン)"だと納得もできるが…。

「そうです。僕は影だ。光がいないと何もすることのできない影……けど、光があれば」
「そりゃーそうだが、お前……それだけじゃ"キセキの世代"を倒すことなんてできねーぞ」
「え……?」
「まあ、"キセキの世代"を倒すってのはあくまで俺の目標なだけであって強要するつもりはねーけどさ、それでも……"キセキの世代"以外にも強い奴らはいる。中学では通用したかもしんねーけど、高校じゃそれだけじゃ無理があると思うぜ。
 パス回し以外にも何か武器を身に付けないと」

 火神からのアドバイスは適格で最も…だが、それよりも黒子は火神のある言葉(・・・・)に反応していた。

「火神くん、君は"キセキの世代"に勝つつもりなんですか?」
「ん?……ああ、まあな。俺、アイツらのこと嫌いだし」
「……!嫌い……なんですか?」
「ああ。って、元チームメートのお前に言うことでもなかったな。けど、嫌いなもんは嫌いだから仕方ねーか。嫌いつっても、赤司と緑間ってのは仲良くするつもりはねーけど、それなりに認めてたぞ。けど、他の3人……あれは駄目だ。バスケを馬鹿にしてやがる。確かに天才なんだろうがな」

 それはもう毛嫌いしている程。
 去年の全中の決勝、火神はあの試合を送ってもらったDVDで見て、"キセキの世代"への敵愾心をより一層に強くした。
 もしかしたら、"キセキの世代"の存在を知らなければ自分もあんな風になっていたのだろうか、そう思い火神はゾッとしたのだ。ある意味では同族嫌悪のようなものだが、それでも火神は大好きなバスケを汚されたような、そんな気分になったのである。

「とりあえず、"キセキの世代"に敗北を教えてやるつもりだ」

 そう言って立ち去る火神の背中を、黒子は見えなくなるまでただ眺めていた。








もしも火神が中学3年の時にバスケから離れていなかったら…"キセキの世代"の存在を知っていたなら…な、もしもな話となります。

部活は辞めたけど、高校には凄い選手がいるかもと期待してバスケの練習は怠らず、そんななかでキセキの世代を知った火神。
だけど、バスケに対する不誠実さ(特に青峰と黄瀬と紫原)に敵愾心を抱き、高校ではキセキの世代に敗北を教えてやると勝手に意気込む。

・IFな火神大我

夏休みや冬休み、春休みを利用してちょくちょくアメリカに戻り、アレックスに鍛えてもらう。
原作では海常との練習試合後の回想で、1年バスケから離れててこんなにも弱くなってたのか…と言ってたので原作の誠凛入学時よりも遥かに強い。
アレックスから、自身のオンリーワンな才能についても教わっており、足腰もしっかりと鍛えてあり、部活に入っていない時間をひたすら筋トレやらに費やした結果、肉体もしっかりと出来上がっている。
左手のボールハンドリングも完璧で左右ともに握力も同じくらい。
ストリートで技を磨いた期間も長い為に、青峰のようなスタイルも身に付けている。
野生も習得済。

趣味のサーフィンのおかげで、体幹もしっかりしており体力もある。

中3の夏休みにアメリカのストリートの賭けバスケ場にアレックスに連れていかれ武者修行中、初めてゾーンにも入り、夏休み期間中に何度か入り自由に入れるように…。

氷室さんとはアレックスの仲介ありで仲直り。
今ではライバルに。ただ、打倒キセキを意気込むのはいいけど受験は大丈夫かと言われ、火神の学校での成績を聞かされた氷室にしごかれてしまう。
おかげでバカではない。



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光と影



 翌日、降りしきる雨。
 さすがにこの大雨ではロードワークも出来ず、バスケ部はひたすらに体育館内で練習を行っていた。

「この雨じゃ仕方ないけど、ロード削った分練習時間あまるな。どうするよカントク」

 誠凛の監督である相田リコは少し思案し、5対5のミニゲームを提案する。
 それも、1年対2年のだ。
 まだ仮入部期間中の1年生達ではあるが、どれくらいの実力かを見定めたかったのである。
 特に…火神大我の実力を。

「せ、先輩と試合!?」
「先輩達って去年、1年だけで決勝リーグまで行ったんだろ!?」

 去年、創部したばかりのチームで都内ベスト4まで上り詰めたその実力に、多くの1年生達は始まる前から怖じ気づいてしまっている。
 そのなかでも、火神と黒子だけは別だ。
 ただ、黒子に関しては帝光中出身という王者故の経験からか…。
 一方の火神は、久しぶりのチーム戦に胸を踊らせているのである。

「先輩達が上手いのはわかってんだ。
 なら、こっちは自分達がどれだけやれるか……自分の実力を見せるだけだろ。ビビることなんて何一つねーよ。行こうぜ」

 火神の言葉に1年生達の緊張した心が解れていく。その様子を、リコや先輩達は感心した様子で見ているのである。
 1年チームでジャンプボールに飛ぶのはもちろん火神だ。その長身を買われてのことだが、いざ試合が始まってみると、その場にいた者達の全てが驚愕することとなる。

「た……高ぇぇ!!」
「どんなジャンプ力してんだよ!?」

 審判を務めるリコもそのジャンプ力に唖然とした。火神のオンリーワンな武器…それこそがこのジャンプ力と滞空時間だ。しかも、最高到達点に達するまでが異様に早い。それもこれも中学3年の時、バスケ部に所属せずにただ肉体を鍛えることに時間を費やし、長期休暇期間中は全てアメリカに行き、師匠であるアレックスに鍛えてもらったからだろう。
 ジャンプボールのたった1プレーだけで、2年生達の火神への認識が大きく変わった。

  ── 火神大我は"キセキの世代"に匹敵する

 ゲームが始まってから火神が放つその威圧感…それは明らかに常軌を逸している。
 だが、"キセキの世代"達のことを良く知る黒子にとっては、火神大我とキセキの5人達はまったくもって別物だった。火神の表情を見れば、それが明確だ。

  ── なんて…楽しそうなんだろう

 実力差がどれだけあろうとも、火神大我は真摯にバスケをプレーする。その姿が黒子には眩しく映っていた。

「行かせっかよ!なッパス!?」
「上手い!」

 火神は自分だけでも攻めきれるはずだが、自身を囮とし周囲を上手く使っていた。ゴール前まで攻め込み、シュートをすると思いきやパスをする。そして時には自身でもシュートを決める。
 スピード、技術、そして…高さ、火神は全てに於いて理想系であり、その全てが一級品。特にそのジャンプ力に関しては他の追随を許さない程のもの。

「ス、スゲェ!!ダブルチームもモノともしてねぇ!!」

 クロスオーバーから揺さぶりをかけ僅かに作った隙を見逃さず、空いたスペースを突破する火神に歓声が上がる。そのままドリブルで進み、今度はストバス仕込みのクロスオーバーからのビハインドザバックで軽やかに3人目を抜く。そして、そのドリブルテクニックに周囲が目を奪われているのも束の間、火神はシュートモーションへと入っていた。

「今度は何だ!?」

 明らかに普通のシュートモーションとは違うことに周囲が困惑するのも我関せずといった様子で、火神はボールをゴールに目掛けて遠投するかのようにぶん投げていた。
 そのボールはボードに当たり、そしてリングに当たり、リングの内側で激しく揺れ動きながらゴールネットへと吸い込まれてゆく。

「うっし!」

 静まり返った体育館内…しかし、次の瞬間にまたしても驚きの声が上がる

「火神スゴすぎッ!!」
「今の狙ってやったのか!?」

 周囲が驚くのは当然。だが、一番驚いていたのはやはり黒子だ。

「火神くん……今のは」
「ん?ああ、"キセキの世代"の色黒のヤツのシュート真似てみた。やろうと思えばできるもんだな」

 軽々と言ってのける火神に黒子は唖然とする。"キセキの世代"の技を模倣するなど、模倣が得意なキセキの一員でも無理だったことだ。
 それを、この火神大我はやって見せたのである。

  ── 僕はとんでもない天才と出会ったのかもしれません。

 黒子の胸の内を渦巻く思いは様々だ。
 嬉しさ、怖さ、期待、不安…火神大我となら、自身の目的(・・)を果たせるかもしれない。
 だけど、火神も彼ら(・・)のように変わってしまうのではないか…かつての辛い思い出が、黒子に大きな不安を抱かせていた。

「さぁて、黒子」
「え……?」
「俺のマークが厳しくなっから、ここからはお前にも頑張ってもらうぜ。
 "幻の6人目(シックスマン)"の力を見せてくれ」

 ただ、黒子は思う。
 火神大我はやはり…"キセキの世代"とは大きく違う(・・)のだと。
 火神ならば、たった1人でどうにかできる実力を持っている。だが、火神はチームで勝つことを第一に考え、自分の力もチームの力の一部だと考えてプレーするのだ。黒子のかつての相棒(・・)と火神は似ているようで違うのだと、黒子は理解するのである。
 そして、影として光に再びパスを出せる喜びを…その嬉しさを再び実感するのだ。

「火神くん、僕が他の人達にパスを繋ぎます」

  ── この感覚…懐かしい

「マークが緩んだ隙に君もどんどん攻めてください」
「おう。俺もパス出すから中継頼むぜ。
 フリーだったらパス回してくれ」
「もちろんです」

 火神だけでも厳しいなか、そこに黒子が加わり獰猛さは増すばかり。
 2年チームは手も足も出ないといった様子だ。

「しまっ!?」

 黒子がスティールを成功させる。
 勝敗はすでに決しているが、最後まで諦めない2年生達に火神も黒子も手を抜かない。
 ボールを奪った黒子はそのままレイアップシュートを…。が、どフリーであるにも関わらず、黒子はシュートを外してしまっていた。

「ったく、お前どんだけシュート下手なんだよ」

 リングに当たって跳ね返ったボールを、火神がそのままプッドバックダンクしてゲームセット。

「ハハ、コノヤロー」
「まあまあ、日向。味方なら頼もしい限りってことでいいんじゃないか?」
「ダァホ!俺らも負けてらんねーぞ!」

 1年対2年のミニゲームは1年の勝利にて幕を閉じた。だが、このミニゲームは誠凛バスケ部にとって、とても大きな収穫となったのである。




 *****




 その日の部活も終わり、雨上がりの帰り道、火神はマジバーガーを訪れていた。
 大量に注文したチーズバーガーをトレンチに乗せ席へと座る。…のだが

「ふう……うおおっっ!?」

 火神が座った席に突如姿を現した黒子テツヤ。いや、厳密には先に黒子が座っていた席に、火神が座ってしまったのである。
 黒子が座っていたことにまったく気付かず(・・・・・・・・)に…。

「どうも。育ち盛りですね」
「おまっ!いつから!?つか、存在感もう少し出せッ!!マジで心臓止まるかと思ったぞ!」
「またそんな無茶を……」

 存在感の薄さをそのままバスケのプレースタイルにしている為に存在感を出すわけにはいかないが、それでもやはり気を抜くと火神ですらコレである。
 コート場では味方として頼りになるが、普段からこれでは色々と不便で仕方ないだろう。

「黒子、腹減ってねーの?」
「僕は少食なんです」
「つか、シェイクだけって……お前そんなんだから、体力ねーんだぞ。もっと食え!」
「そんなこと言われましても少食はどうしようもないじゃないですか」
「量は食べれなくても、食事の内容を考えて栄養摂取をちゃんとしろ。じゃねーと、"キセキの世代"を倒すなんて夢のまた夢だぞ」

 まさにぐうの音も出ないとはこの事…。黒子は自分が少食すぎる自覚はあっても、これまで食べることに関しては必要最低限、生きる為にしか取ってこなかったのだ。だが、改めて他人から正論を述べられてしまうと…それが新たに見つけた"光"からならば尚のこと。
 体力のなさは黒子自身も自覚していた。だからこそ練習を怠ったこともなかった。しかし毎回練習の途中で倒れたり、吐いたりしてしまい、全てが裏目に出てしまっていたのである。

「そういえば、まだはっきりと聞いてなかったな。黒子はどうして誠凛に来たんだ?」
「僕のバスケを認めてもらう為……でしょうか」
「はあ?認めてもらう為って、もう認めてもらってんだろ?世間では"幻の6人目(シックスマン)"って異名もつけられてるくらいだし」
「………………」

 押し黙る黒子に火神は何を思うのか。だがすぐに、黒子が認めてもらいたい相手が誰なのか…火神は理解する。黒子は他の誰でもない、"キセキの世代"達に自身のバスケを見せつけたいのだと。

「なるほど、まだ全国に名の知れてない誠凛で結果を出して……ってところか」
「ええ」
「なら、俺はお前の光にはなれない」
「え……?」

 黒子テツヤにはかつて"キセキの世代"のエース、青峰大輝という(相棒)がいた。だが、2人は決別してしまい今に至る。しかし、黒子は出会った。その青峰以上の可能性を秘め、似ているようで似ていない…極上の光に。そんななか、光を見つけた矢先にその本人…火神から返ってきた言葉が拒絶の言葉とは…黒子は訳もわからずに唖然とする他なかった。

「確かに俺は"キセキの世代"を倒すって言ったけど、それはあくまで過程だからな。初めてアイツらを見た時は大好きなバスケを汚されたみたいで苛立って負かしてやるって思った……それは確かだ。
 けど、今の俺の第一の目標は誠凛で日本一になること。ただ、日本一になるには必ずアイツらが障壁になるってだけなんだ。誠凛のカントク、先輩達、1年の奴ら……このチームで日本一になりたい」

 大好きなバスケットボール。
 日本に戻ってきて、チームに恵まれずに一度は挫折してしまったが、それでもバスケを辞めずにストイックに己を鍛え続けてきた火神。
 その火神が求めたチームが誠凛なのだ。

「お前は元チームメートとの絆の為に誠凛を利用するのか?それとも、誠凛の選手としてチームを日本一に導く為に頑張るのか……どっちだ?」

 誠凛に入学してまだ日が浅い黒子にはまだその答えを出すことなどできない。だが、火神は既に答えを出して、誠凛でバスケをする為にやって来たのである。
 すぐには出せない答え…しかし、黒子はその答えを火神以外からも迫られることとなる。




 *****




「1ーB、5番!火神大我!!
 誠凛バスケ部を日本一にする!!」

 月曜日。誠凛高校の校庭に全校生徒が集うなか、火神は高らかと明確な目標を宣言する。
 去年創部されたバスケ部が入部時に行う全校生徒の前での意思表明。中途半端を何よりも嫌う相田リコにより告げられた本入部届けを受け取る条件こそがまさにコレだった。
 しかし、火神にとってはこんなもの朝飯前。

「コラー!またかバスケ部!!」
「あらー今年は早い!?」

 だが、朝礼に出席しないでのこの行動は当然ながら教師陣からのお叱りを受けることとなってしまい、火神の宣誓のみにて中断となるのである。
 他の1年生達からしたら、ホッと胸を撫で下ろす瞬間ではあったが、ただ1人…()の心を動かすには十分な出来事だった。

 ~ 翌日 ~

 謎の校庭文字に誠凛高校の生徒達の多くが騒ぎ立てているなか、火神はそれを見て笑みを浮かべるのである。

「ハッ!面白い奴じゃねーか」

 名前の書かれていない、誰が書いたのかもわからない…校庭にデカデカと刻まれた文字。

  ── 光と共に、日本一にします

 誠凛高校バスケ部の光と影…1年生コンビが誕生するのである。







原作のウィンターカップの桐皇戦で、火神はぶん投げシュートやってたからやろうと思えばできるのでしょう…ってことで、普通にやっちゃってます。


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1人目のキセキ



原作との違い。

火神→多少勉強できる。
アメリカと日本の英語の違いにも順応しており、国語は相変わらず苦手だが、赤点はギリギリ回避。
実はサーファーとしてもかなりの才能を秘めており…。
カントクのことを、バスケ部外ではリコ先輩と呼んでいる。

カントク→火神を超気に入ってる。
肉体美がドストライク。

黒子→火神により体力強化計画推進中。
まずは食事面から。
火神をかなり信頼している。






 無事、本入部届けを受理された火神と黒子は、ベンチの空きがあること以前にその実力の高さと特異性から即戦力としてレギュラーに迎え入れられた。
 黒子は帝光中時代と同様に6人目(シックスマン)として、そして火神は誠凛バスケ部のエース(PF)として、規格外の火神とある意味規格外の黒子をメンバーに加えた新星誠凛バスケ部が誕生したのである。

「あ、カントク……おかえりなさい」
「ただいまー!ゴメン、すぐに着替えてくるね!
 あ!あとね……うふふ」

 優れたカントクによって組まれた強豪校となんら遜色のない練習メニューをこなす部員達のもとに、上機嫌な監督…相田リコがスキップをしながら帰ってくる。その上機嫌さに、付き合いの長い主将(キャプテン)の日向順平とPG(ポイントガード)の伊月俊は顔を引き攣らせていた。
 まるで嵐の前触れかのように…

「"キセキの世代"いるトコと試合組んじゃった」
「な!?」
「マジで!?」
「ってことで、火神くん!さっそく頼むわよー。"キセキの世代"に匹敵……いえ、もしかしたら上を行くかもしれない君の存在を知らしめなさい!」
「うーす。リコ先輩……じゃねー、カントクの仰せのままに」

 "キセキの世代"が加わったチームは、まず間違いなく今年のインターハイの優勝候補に挙げられている。そんな強豪校との練習試合だというのに、この2人の軽さはいったいなんだろうか…周囲は唖然とし、当然ながらエースと監督にツッコミを入れるのである。

「「「「「軽いわーーーッ!!」」」」」
「おお、チームワーク抜群だな」
「火神くん……君、少しどころかかなりズレてますよ」

 "キセキの世代"擁する強豪校との練習試合に向け、誠凛バスケ部の練習は更に熱が入るのである。


 ~ その頃、誠凛高校校門付近 ~


「おおーここが誠凛高校っスか。
 さすが新設校、キレーっスね!」

 金髪長身の男子校生が誠凛高校内へと足を踏み入れていた。向かう先は誠凛バスケ部が練習を行う体育館…そして、"幻の6人目(シックスマン)"に会いに…。




 *****




 火神大我という規格外の新戦力の加入はあらゆる面で誠凛バスケ部にとってプラスとなっている。
 戦力面では当然のことながら、火神のバスケに対する誠実さ、努力を怠らない姿、そして他の部員達に対する的確なアドバイスなど…一見、威圧的に見えてしまうが、火神はバスケが下手な部員に対しても真剣に取り組んでいるなら優しく丁寧なアドバイスをしてくれる。
 火神への信頼度は入部して僅かながらも非常に厚いものがあった。
 先輩達に関してもそうだ。後輩に教わるのは抵抗はあるだろうが、それも最初だけで…火神のアドバイスを聞き入れていた。

「ゴールより遠い方の足に重心を移して、身体を下げながら打つ……そんなイメージだ……です」
「実物見せてもらったし、どうにかこうにかできそうではあるけど……つか、それでスリー成功させるってお前どんだけだよ。あと敬語苦手すぎ」
「す、すんません」

 誠凛の生命線と言っても過言ではないSG(シュティングガード)主将(キャプテン)日向は、3Pだけではなく得点力となる手札を増やす為に火神からシュートのコツを教えてもらっている。
 日向が中学時代にとある選手のシュートスタイルを参考にしていたと聞いた火神は、その選手を知っていたこともあり、一晩かけその選手の研究をして日向に習得できそうな技を思い至ったのだ。さすがにたった1日では無理だが、シューターとしてかなりのものを持っている日向ならすぐに習得し、立派な武器にしてくれるはずだと思ったのである。
 ただ、日曜日の練習試合(・・・・)には間に合わないだろう。

「海常高校と練習試合!?」
「っそ!相手にとって不足なしよ!」
「不足どころか遥か格上じゃねーか。
 それよりカントク、帰って来た時言ってたアレ(・・)……マジで?」
「そういえば海常って今年、アイツ(・・・)を獲得したんじゃなかったっけ?……ですか?」

 神奈川の誇る"青の精鋭"。毎年インターハイに出場している超強豪校だ。
 その海常バスケ部は、"キセキの世代"の1人を獲得することに成功した。それ故にインターハイ優勝候補の5校の1つとして数えられている。当然、その優勝候補の5校は"キセキの世代"がそれぞれ加入したチームだ。

「黄瀬涼太……つか、その本人がなんでこんな所(・・・・)にいるんだ?」

 一旦練習を中断させ、練習試合についての説明を行っているといつの間にやら体育館内は誠凛女子高生達のギャラリーでいっぱいに。その女子高生達からの熱烈な視線を浴びるのは、ちょうど話題に上がっていた"キセキの世代"の1人。

「アイツは!」
「どうしてここに」
「黄瀬涼太!!」
「お久しぶりです」
「久しぶり……あースイマセン、マジであの……てゆーか5分待ってもらっていいっスか?」

 女子高生達からサインを求められる黄瀬涼太に、誠凛バスケ部の一部男子は嫉妬する。
 しかし、そんななかで意外なことも起きたのである。

「あ、あの!」
「ん?」

 とりあえず、このギャラリーと事の発端である黄瀬涼太はここからどう追い出そうかと思案していた火神だが、そんな火神に話しかけてくる数人の女子がいた。その女子達の1人の手にはとある雑誌が握られており、火神にその雑誌を見せてきたのだ。

「サインください!!」
「は?」
「ええ!?な、何で火神まで!?」
「んー?って、火神くん!何よコレ!?」

 驚くバスケ部の面々。
 その雑誌を見たリコも驚きの声を上げて火神を問い詰めていた。
 とあるファッション雑誌には火神が載っており、その見出しにはこう記されているのだ。

  ── 今後期待の若手アマサーファー!!

 バスケ選手としてではなく、何故かアマのサーファーとして大きく取り上げられる火神がそこに載っていたのである。

「あ、コレ……数ヵ月前のやつだろ?」
「う、うん。まさか火神くんがこの学校にいて、バスケ部に所属してるなんて驚きました」

 まだ入学して僅かなのもあり、同じ学年であっても全てを把握している生徒はまずいないだろう。
 ただ、火神に関しては先日の朝礼の際の宣誓で大きく知られることとなっていた。
 その女子生徒もそれで知ったのだ。

「ほ、本当はもっと早く話しかけてみたかったんだけど、勇気がなくて……この機会を利用させてもらおうと思って」
「俺はたまたまその雑誌に載っただけで、有名人でもないんだけどな」

 そう言って苦笑いを浮かべる火神がどこか大人っぽく、数人の女子達は頬を染める。

「か、火神くんって、バスケ上手いんだね!
 練習見てたんだけど、ものすごくカッコイイと思いました!だ、だから練習頑張って!!」

 黄瀬涼太にサインを求めるミーハーな女子達とは違い、火神に声をかけてきた女子達はサインなど事のついで、話しかけるきっかけでしかなく、純粋に頑張る火神を応援する有難いファンであるようだ。
 誠凛バスケ部としても、エースの火神だけとはいえ応援してくれる生徒がいるのは有難いことである。羨ましさはあるだろうが、そこに妬みなどはない。

「あ、練習の邪魔してごめんなさい!」
「み、皆さんも頑張って下さい!」
「お、応援してます!!」

 女子達にそう言われては頑張るしかないだろう。

「これからも応援よろしくなー」
「インターハイの予選始まったら応援よろしく」
「調子に乗んないの!」

 監督としても、バスケ部が人気になるのは良いことである。やはり、絶対的なエースの存在は様々な方面でチームにとってプラスとなるようだ。

「火神くんってサーフィンやるんですか?」
「ああ。体幹鍛えるのにもってこいだからな。お前もやるか?体幹鍛えると、筋肉の持久力も上がって疲れにくい体になるぞ」
「……検討してみます」

 黒子が火神にちょっとした羨望と憧れの眼差しを向けるなか、黒子に迫りくる大きな影…。

「黒子っちーーー!会いたかったっスよ!」
「黄瀬くん、今は火神くんと話してるので邪魔しないでください。というか、部外者が何堂々とやって来てるんですか。警備員呼びますよ」
「ええッヒドッ!黒子っち、久しぶりの再会なのにちょっと酷いっスよ!!」
「当然の事を言ったまでです」

 人気モデルに対し些か雑な扱いではあるものの、ここは誠凛高校でバスケ部が練習を行っている場所。その扱いにも問題はないだろう。

「何しに来たんですか?」
「今度の練習試合の相手が誠凛だって聞いて、黒子っちが入ったの思い出したんスよ!そんなことよりも黒子っち!誠凛なんかよりも(・・・・・・・・)海常に来ないっスか?黒子っちなら監督も歓迎してくれるはずっスよ!」

 あまりの物言いに黒子本人だけではなく、火神、リコ達も眉をひそめていた。

「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ!こんなところじゃ宝の持ち腐れ(・・・・・・)だって。
 ね、どうスか?」

 その会話の内容に、黄瀬の一方的な言い方に火神達は不快感を覚えていく。
 "キセキの世代"の傲慢さはコート内だけではなかったのだと、リコや日向達は火神と黄瀬涼太の違いを痛感した。そしてホッと胸を撫で下ろすと同時に、火神に対して愛くるしさが芽生えたのである。

  ── ウチの後輩(火神)マジで最高ッ!

「黄瀬くん、正直に言って不愉快です。
 僕のことを誉めてくれてるみたいですけど、先輩達を……誠凛を侮辱してる時点で君の言葉は何一つ僕の胸には響かない」
「なっ!?黒子っちどうしたんスか!?勝つことが全てだったのにらしくねっスよ!どうしてもっと強いトコ(・・・・)行かないの!」

 黄瀬涼太は気付いているのだろうか。そもそもここまで堂々と本人達に向けて弱い(・・)と言っていることに対して、何も思わないのか…。
 いや、思うはずがない。何故なら、"キセキの世代"とはこういう人間の集まりなのだ。

「はあ……これだからキセキは」

 火神は盛大なため息を吐きながら、そう呟いていた。

「君……何か言いたいことあるんスか?」

 "キセキの世代"をバカにされたように感じたのか、火神の呟きが聞こえていた黄瀬は眉をひそめながら火神に視線を向ける。
 そもそも、先に喧嘩を売ってきたのは黄瀬の方だ。火神や誠凛からしたら当然の反撃だろう。

「黒子をモノみたいに言いやがって。
 それに、そんな簡単に転校とかできるわけねーだろうが。それとも何か?諸々の費用を黒子の親に代わってお前が払うのか?ここに通う為に支払った入学費用とかも全部お前が返してやんのか?」
「え、あー……それは」
「そもそもお前が勝手に決めて良いことじゃねーだろうが」
「まったくもってその通りです。
 丁重にお断りさせてもらいますし、黄瀬くん……さっさと帰ってください」

 火神はバスケでやり返すよりも、まずは正論を述べて黄瀬を手玉に取っていく。
 その様子にリコ達もどこか楽しそうだ。散々コケにしてくれたのだからこれくらいは許させるだろう。

「黄瀬くん、僕は火神くんと先輩達に誓いました。"キセキの世代"を倒して誠凛を日本一にすると」
「!やっぱ、らしくねースよ。黒子っちがそんなこと言うなんて……あんたが変えたんスか?」

 火神に向けられる怒りの眼差し。しかし、火神からしたらそんな視線を向けられる理由などない。

「黒子っち、とりあえずこれからゆっくり話そうよ。そうすれば俺の気持ちもわかってくれると思うからさ!ね、いいっスよね?」
「君は本当に……」

  ── 練習中だというのに…。

 しかし、なかなか引かなさそうな黄瀬に対し、黒子はどうしたものかと思案する。
 そこで、火神が助け舟を出すのである。

「普通、練習中のこっちがお前の用件聞いてやる必要はねーんだけど、お前しつこそーな奴だからな。俺に1on1で勝ったら、黒子と話す時間作ってやる。で、負けたら大人しく帰れ」
「あんた……本気で言ってんスか?」
「リコ先ぱ、カントクも黒子もそれでいいか?」
「ええ、ちゃちゃっとやっちゃって」
「僕も構いません」

 監督と呼ばれている女子高生と、かつての仲間である黒子の物言いに、黄瀬は更に眉をひそめていた。
 それに、"キセキの世代"を前にしてのこの余裕さはいったい…至極めんどくさそうな様子の火神が、得体の知れない不気味な存在に見えてならないはずだ。
 火神はバスケが好きだが、このような形でバスケをすることは好きではない。アメリカで賭けバスケ場に放り込まれた経験もあるが、できればもう行きたくないと思っている。強敵との戦いは胸が踊るが、賭けで戦うのは好きにはなれないのだ。

「お前が決めることが出来たらお前の勝ち。
 俺が防いだら俺の勝ち……1本勝負だ」

 黄瀬にボールを渡し、守備の構えを取る火神。その瞬間、黄瀬は戦慄することとなる。

「ッ!」

 自然体な構え。だが、一切の隙がなく、その瞳はまさに獲物を前にした虎。火神から放たれる途方もない威圧感に、黄瀬は冷や汗を禁じ得ない。
 帝光中時代、黄瀬にとって憧れとなったエース(・・・)を彷彿とさせる…いや、それ以上ではないかと思わせる存在(・・)がいる。

「いつでもいいぜ」
「………………」

 沈黙していた黄瀬が次の瞬間に動いた。
 アップはしていなくとも、"キセキの世代"の動きは常人を遥かに凌ぐ。その動きに辛うじてついていける選手は誠凛にいるかどうか…。ただそれは、もちろん火神を除いたとしての答えだ。

「は、速えぇ!!」
「そ、そこからフェイダウェイ!?」
「あれは……さっき、火神くんが主将(キャプテン)にレクチャーしてたのを見て模倣したみたいですね。
 さすがは黄瀬くんです。並の選手なら追いつけないレベルのドライブからのフェイダウェイ……ですが、今回ばかりは相手が悪い(・・・・・)
「黄瀬くんの模倣は厄介だけど、ウチのエース相手には通じないわよ」

 視線の先では、火神が黄瀬のフェイダウェイシュートを完全に防いでいた。
 黄瀬は一切手を抜いていない。今、出せる力を最大限に出して攻めた。しかし、それを防いだ火神に唖然とする。

「まあ、アップもちゃんとしてないんじゃこんなもんだろうな」
「……アンタ……何者なんスか?」
「俺か?俺は」
「誠凛のエースに決まってるでしょ!
 さっきは好き放題言ってくれたけど、日曜日は首を洗って待ってらっしゃい!」
「え、ちょ、カントク?」
「あなたにはもちろんウチのエースをぶつけてあげるわ!それまでしっかりと準備することね」

 言い切った監督…相田リコは非常に満足気な表情だ。
 この練習試合…荒れること間違いなし。








火神くん、サーファーとしても期待を寄せられていた!!という、オリジナル展開です。
砂浜の走り込みは効率良いみたいなので、火神はオフの日はよく海にも行ってます。


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誠凛 vs 海常



練習試合とはいえ、書く側からしたら試合は試合。上手く書けてるだろうか…。





 日曜日。誠凛バスケ部一同は海常高校へとやって来ていた。練習試合とはいえ、"キセキの世代"を擁する超強豪校との試合だ。気合いが入らないはずがなく、武者震いしている者ばかりである。

「ウチのエース様は冷静みたいね」
「楽しみだ……です」
「頼んだわよ、火神くん」

 リコにバシッと背中を叩かれた火神は、深呼吸し気合いを入れ直す。パッと見、分かりにくいが火神は静かに闘志を燃やしている。
 大好きなチームをバカにされて怒っているのは黒子だけではないのだ。
 初めて戦う"キセキの世代"…先日の1on1を火神はカウントしていない。今日が初対戦となる。

「どもっス。今日は皆さんよろしくっス」
「黄瀬」
「広いんで迎えに来たっス。黒子っちと火神っち、ようこそ海常へ」
「どうも」
「おい、火神っちって何だ」

 結局、先日は名乗ることすらしていなかったのだが、黒子が呼んでいたのを覚えていたのだろう。
 黄瀬は認めた相手には決まった特有の呼び方をする。つまり、火神が黒子と同じ呼び方を黄瀬からされたということは、黄瀬から認められたということ。
 ギラリと鋭く輝くその眼差しの強さに火神は不敵な笑みを浮かべる。"キセキの世代"の1人が、全力で火神に挑もうとしているのだ。

「認めた相手に対する黄瀬くん特有の呼び方ですよ。良かったですね、火神くん」
「いや……別に嬉しくないんだけど」
「火神っちのことは認めたっス。その上で、今日は全力で相手させてもらうっスよ。監督にも初めから出させてくれってワガママ言ったんスからね」

 今回の練習試合、海常高校は…いや、厳密には海常の監督は黄瀬を出すつもりなどなかった。しかし、"キセキの世代"の1人である黄瀬から

  ── キセキならざるキセキがいる

 そう聞かされてしまっては、練習試合とはいえ出し惜しみなどできない。
 だが、海常の監督…武内は黄瀬の言っていることが本当かどうか疑心暗鬼だった。"キセキの世代"以外に同等の力を持つ者が存在することに。
 拍子抜けな結果なら、黄瀬は途中で下げればいい…最初から、誠凛など眼中にないといった様子なのである。

「ああ、来たか。今日はよろしく。
 それとなんだが、今日はこっちだけでやってもらえるかな」
「え……どういうことですか?」
「見たままだよ」

 海常からしたら、誠凛との練習試合など軽い調整。レギュラー陣達の調整にもなるのか疑問視した態度で、武内はそう告げる。出ない部員達は応援、見学するわけでもなく、隣のコートで淡々と練習を行っていた。
 年季の入った古いゴール…練習試合は片面で行われようとしていた。

「トリプルスコアになどならないように頼むよ。こちらは黄瀬も出すのだから、そちらは経験も積める厚待遇な歓迎だろう」

 完全に舐められている。
 だが、そんな空気を一変させたのは、やはり誠凛のエース(火神)であった。
 五感が研ぎ澄まされる"野生"。火神のそれは、試合中以外でも使うことができ、危険察知能力もずば抜けているのだ。

「ちょっと失礼」
「ちょ!火神くん!?」
「すまねーけど、こっちのコート危ないようなッ!」

 そう口にしながらボールを持って飛んだ火神は、何かを感じ取ったゴールへとダンクする。

「なっ!?」

 とても清々しい…お手本のようなダンク。
 そして驚くことに、着地した火神の手にはリングがしっかりと握られていた。

「おお、リングっていざこうして見ると大きいのな。つか、やっぱり……嫌な予感してたけど、ボルト錆びてんじゃねーか。反対側のゴールは……大丈夫そうな気がするけど、年季入ってるから本気でやったら壊しそうだな。ってことで、全面側のコートで練習試合やらせてくれ。……ださい」

 今の火神のダンク…本気ではなかったとはいえ、これだけでタダ者ではないということがわかる者にはわかる。黄瀬が言っていたことは本当なのだと。

「えぇーーー!?」
「ゴ、ゴールぶっ壊しやがった!?」
「火神くんよくやったわ!!」
「火神くん最高です」
「ボルト錆びてるからって普通ねぇよ!?」

 驚愕の声が上がるなか、火神に対し称賛の声が上がっている。主に、リコと黒子からで、日向達はそんな2人にツッコミを入れているが内心ではやってくれた火神を称えているだろう。

「やってくれたっスね」
「怪我したくねーからな」

  ── コイツ…やっぱり凄い

 黄瀬は改めて、純粋に火神に対してそう思っていた。自分も同じ事をできるだろうが、それをできる人物はやはり限られている。
 この試合、自分にとって何か大きなターニングポイントになるのではないかと…日常に退屈さを感じていた黄瀬は、そう感じずにはいられない。

「前回のようにはいかねースよ。
 練習試合だけど、公式試合……インハイの決勝だと思ってやるっス」
「そりゃ楽しみだ」

 両校のエースが試合開始前から火花を散らせる。
 火神は静かに闘志を燃やし、黄瀬は雪辱を果たすべく熱く闘志を燃やす。
 "キセキの世代"と、同等…それ以上の力を持つ者がぶつかったらどうなるか…この試合、予想などできるはずもない。

「それではこれから、誠凛高校 対 海常高校の練習試合を始めます」




 *****




「や……あの、試合始めるんで、誠凛、早く5人整列してください」
「あの……います5人」
「「「「「おわッ!?」」」」」

 それはお決まりか…。
 火神達誠凛チームと黄瀬以外が黒子の存在に驚くのは、もはや当然の流れ。
 その異質さに気付ける者はいるのか…。

「あらららーーーー!?」
「どうしたんスか、カントク?」

 リコの"読みとる眼(アナライザー・アイ)"が、黄瀬涼太含む海常レギュラー陣達の身体能力を瞬時に分析している。ユニフォームの上からでは完璧ではないが、やはり超強豪校なだけはあるというのがリコの見解だ。総合的に見て、フィジカルは誠凛側が不利…しかし、改めて驚いたこともあった。
 "キセキの世代"黄瀬涼太の数値はやはりバケモノと言える…だが、そんなバケモノにあの男(・・・)は負けていないどころか勝って(・・・)しまっていたのだ。

「やっば、ヨダレが」

 試合が終わったらユニフォームを脱がせてまた見せてもらおうかと、リコは良からぬことを企んでいる。どこのエロ親父だとツッコミたいところだが、火神が黄瀬を上回っていることを知ることができたのは大きいだろう。

「っし!」

 そうこうしているうちに試合は始まり、ジャンプボールは海常が制す形となった。火神が飛べば、間違いなく誠凛が制すことになるだろうが、まずは様子見…。それに、火神は黄瀬を相手にしないといけない。
 数値は上回っていても相手は"キセキの世代"、当然ながら油断などあり得ない。

「なっ!?」

 しかし、海常がボールを保持したのも一瞬、黒子が海常のPG笠松からボールを奪い、さっそく火神へとボールが渡る。
 初っぱなからのエース対決だ。

「いくぜ」
「ッ!」

 火神がさっそくドライブで抜きにかかる。
 そのスピードは明らかに常勤を逸しており、黄瀬でなければ反応もできなかっただろう。そして火神は、そこからロールで切り返して飛んだ。

「おお!!」
「決めろ火神ッ!!」
「い、いや、黄瀬も食らいついてる!」

 ダンクを決めようとしている火神を止めようと、黄瀬の腕が伸びてくる。しかし、火神は意にも介さない余裕な様子で、左手でダンクを叩き込んだ。
 それも、黄瀬を吹き飛ばして(・・・・・・)

「ぐっ!?」

  ── なんてパワーしてるんスか!?

 尻餅をつき火神を見上げる黄瀬。そんな黄瀬に、火神は笑顔で告げる。

「勝ち」

 その瞬間、会場内は歓声とどよめきで支配された。

「火神すげぇぇーーーーー!!」
「"キセキの世代"をブッ飛ばした!!」
「き、黄瀬が……負けた!?」
「う、嘘だろ!?」
「ま、まだ試合は始まったばかりだ!落ち着けお前らッ!!」

 そう、まだ試合は始まったばかり。
 しかし、海常バスケ部は調整などと余裕を見せている暇など一切ない。
 絶対的なエースとして獲得した黄瀬を負かした無名の選手…火神大我が現れたのだ。
 出鼻を挫かれ、アウェイの誠凛が勢いに乗る。

「こ、これは!」
「火神がさっきやった技の模倣ッ!!」

 火神によってもたらされた誠凛の流れを断とうと、今度は黄瀬が火神にやり返す…が、それも火神によって阻止されてしまう。
 黄瀬がロールで切り返した先には、すでに火神が回り込んでいたのである。

「黄瀬が止められた!?」

 驚愕する海常側。
 黄瀬の模倣は完璧どころではなく、オリジナル(火神の技)よりもキレていた。一目見ただけでその技を完璧に模倣するだけではなく、その相手の技よりも完成度の高い状態で再現できる…それなのに、黄瀬は火神に止められたのだ。
 その事実に、黄瀬本人すら困惑と驚愕を隠しきれないでいた。

「確かに"キセキの世代"は強い……けど、だからって止めれないわけじゃない。
 お前らの短所は、研究されたところで止められるはずがないって信じきってるとこだ」
「え……?」

 火神は大好きなバスケで手を抜くことを嫌う。ただ、それはあくまで不誠実にバスケを行うという意味でだ。体力を考えて力をセーブすることだってもちろんある。それは誠凛バスケ部で勝つ為の立派な戦術なのである。火神はさっきのオフェンスで得点を決めた際、黄瀬を打ち負かすことのできる力を発揮した。だが、それは火神の全力ではない。

「俺がさっきの技でやり返すのがわかってた(・・・・・)んスか?」

 誠凛の流れを維持する為に、火神は敢えて多少力をセーブしながらも黄瀬を打ち負かし、そして火神以上のキレでやり返してきた黄瀬を止めたのだ。
 勝つだけが全てではない。負けて学ぶことがあるのを火神は重々理解している。しかし、だからといって最初から負けるつもりもないのだ。
 バスケに関してのみかもしれないが、火神もなかなかの策士なのである。

「行かせねーっスよ!!」

 白熱するエース対決。
 火神がダンクに飛び、黄瀬がそれを止める為に飛ぶ。しかし火神は、空中で一回転して黄瀬のマークを振り切りダンクを決めていた。

「な、何ィーーーー!?」
360(スリーシックスティ)!!」
「こ、高校生でできる奴がいたのか!?」

 オンリーワンなそのジャンプ力と本場の地で習得した変幻自在さが可能とさせたダンクが炸裂した。
 手を抜くべきところでは絶妙に抜き、行くべきところでは全力で…火神は誠凛バスケ部のエースとして、自分のやるべきことを全力でこなす。

  ── 今のは…できない

 今の360(スリーシックスティ)は黄瀬でも模倣できない。

「まるで、青峰っちとやってるみたいっス」
「黄瀬くん、どうですか?誠凛のエースは」
「バスケでこんなにわくわくするの本当に久しぶりっス。けど、負けてらんねース!!」

  ── 負けたくない。

 黄瀬涼太の胸に芽生えたその思い。
 全力の黄瀬涼太擁する海常バスケ部が、格下であるはずの誠凛バスケ部に牙を剥く。








360(スリーシックスティ)はウィンターカップで青峰もやってましたよねぇ。

この火神にやらせたい技、ドライブで切り込んでボールをシュート気味に下から投げてボードに当て、跳ね返ったところを1人アリウープ。
これなら、犯則じゃないのかな?


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好敵手



いつの間にやらお気に入り800件超えてた。
ありがとうございます!!そしてお待たせしました。





 負けたくない…初めてそう思った。

 コイツ(・・・)は俺の憧れの存在に似ている…そう思った。けど、似ているようで全然違う。コイツはこんなにも強いのに、実力差に退屈することもなく全身全霊でバスケを楽しんでる。それに、自分1人(・・・・)だけでバスケをしてない。チームの一員としてバスケを楽しんでる。
 こんなにも強いのに…自分1人で何でもできるのに…コイツは誠凛の火神大我としてプレーしてる。
 ああ、だからか…だから黒子っちは火神っちのことを光として受け入れて、信頼してるのか。

「火神くん!」
「黒子、nice!!」

 こんなコンビネーション、今まで見たことがない。しかもこの2人…まだ組んでからそんなに月日が経ってないのにここまでの連携を見せるなんて…。

「こ、今度は5人抜きだッ!!」
「う、嘘だろ!?レギュラー陣をたった2人(・・)でごぼう抜きなんて!」

 黒子っちが火神っちという光にピッタリと付き添って影としての役割を果たしてる。火神っちが黒子っちにバウンズパスを出して黒子っちは"ミスディレクション"を活かしてバウンズパスでそれを返す。
 誰も反応できず…俺もあっさりと抜かれた。
 スゴく悔しい…けど、海常の皆も実力差に絶望なんてしてない。寧ろどこか楽しそうにしてる。
 実際、火神っちとのバスケは本当に楽しいんだ。負けるのはそりゃ悔しいけど、もっともっとってなる。まるでバスケを始めた時みたいに。

「もう終わりか?」
「冗談……まだまだこれからっスよ!!」
「そうこなくっちゃな!!」

 負けたくない…けど、とにかく楽しい。バスケを始めた時ともまた何かが違う。
 何だこれ…こんな気持ち、俺は知らない。でも、今はそんなことどうでもいい。
 とにかくバスケがしたい。

「黄瀬ェ!根性見せろ!シバくぞ!!」
「はいっス!!」

 俺はやっと、身も心も全て海常の黄瀬涼太になれたような…そんな気がする。




 *****



 誠凛は"キセキの世代"擁する強豪校にリードしている。この状況に驚いているのは相手(海常)側だけではなく、リコ達誠凛側も同様だ。

  ── 火神がここまで凄いなんて

 黄瀬を圧倒する火神に驚きを禁じ得ない。
 火神が黄瀬を抜き得点を決め、反撃とばかりにやり返してくる黄瀬を止める。
 技の模倣には成功しているが、火神以上の技を再現できないのだ。

「!?エルボーパス!!」

 本場のストリートで磨き抜いた技のどれもが黄瀬涼太を驚愕させる。
 火神からのパスを受け取った日向が、スリーポイントを決めたところで

  82 対 66

 第4Q、誠凛の16点リード。残り時間は4分を過ぎたところである。
 火神大我。"キセキの世代"と遜色ない…下手したらそれ以上の器が存在していたなど誰が想像しただろうか。火神を相手にしている黄瀬は限界に近く、肩で息をしている。だというのに、火神はまだまだ余力を残しているのが明白だ。この光景が意味するものは、全てにおいて火神大我が黄瀬涼太を上回っていたということ。
 その状況状況において最適のプレーをする火神に翻弄され、黄瀬は成す術なく圧倒されたのだ。
 火神の技を模倣してもそれは防がれ、時には黄瀬が模倣できない技を見せてくる。しかも、黄瀬の憧れの存在、"キセキの世代"のエースであった青峰大輝を彷彿させる変幻自在のシュートまでも…。

「ハ、ハハ」

  ── 情けねーッスね

 黄瀬は限界ギリギリの己の姿に失笑する。自分に勝てる存在など、今までも、そしてこれからも"キセキの世代"以外には存在しないと信じて疑ってなどいなかった。
 それがどうだろうか。"キセキの世代"以外に存在したのだ…それも同じ歳に。今まで、自分達がどれだけ小さな世界で生きてきたのかを痛感させられた。
 火神や黄瀬達レベルの存在は日本の同年代では他にいないかもしれない。もしかしたら、バスケ部に所属していないだけで存在しているかもしれない。だが、火神という存在が現れた今では、もっと広い視野を持つべきだったのではないかと…黄瀬は今更ながらに思い知らされてしまったのである。

  ── ホント…まだまだガキっスね、俺も。

 知ろうともせず、勝手に失望し、退屈だと感じて…中学生だった頃の自分が恥ずかしくて仕方ない。と、黄瀬は感じていた。
 けど、その過去があったからこそ、今があるのも事実。ならば、これからどうするのか…黄瀬は自問し、笑みを浮かべるのである。

  ── わかってるんだ…本当は。
 どうして俺が、"キセキの世代"の技を模倣できないのか。

「火神っち、俺……アンタと出会えて良かったっス。けど、勝負は別っスよ」

 ハーフコートラインで黄瀬がシュートモーションに入っていた。
 その黄瀬の行動に火神は一瞬だけ目を見開くも、すぐに深い笑みを浮かべるのである。
 放たれたシュートがリングに掠ることもなくゴールネットを潜り抜けた。

「!あれは……緑間くんの」

 黄瀬のシュートに、黒子は驚きを隠せずにいる。それもそのはず。なぜなら…

  ── "キセキの世代"の模倣はできなかったはず

 だがそれは、黒子が知っている中学時代の黄瀬だ。この試合で…火神と戦ったことがきっかけとなり、黄瀬涼太は更なる飛躍…その片鱗を今見せるのだ。

「今でも憧れてる。けど、これからは俺も……"キセキの世代"を全て倒すっス」
「敵ながら感心したぜ。
 いいシュートだ、黄瀬。で、まだバスケは退屈に感じるかよ?」
「まさか……楽しくて仕方ねーッスよ!!」
「だろうな!ラスト3分……派手にやりあおうぜ、黄瀬涼太!!」
「上等ッスよ、火神っち!!」

 点差は13点、誠凛リード。
 この点差は決して縮まることはないだろう。だが、大きく開くこともない。
 海常バスケ部のエース、黄瀬涼太が真のエースとして覚醒した瞬間だ。

 負けて人は学ぶ。それはどんな天才も同じ…。




 *****




「先輩達が諦めてねーのに……俺だけ諦めるなんてありえねーッス。
 だって俺は、海常バスケ部の黄瀬涼太だから」
「楽しかったぜ、黄瀬」

 火神のダンクが、黄瀬を押し退けゴールに叩きつけられる。

「うおぉおおお!!
 せ、誠凛が勝った!?」
「黄瀬が負けるなんて!!」
「マジで何者だよ、あの誠凛の10番は!?」

  100 対 87

 13点差のまま、縮まることのなかった点差。
 しかし、ラスト3分の白熱した試合に多くの者達が胸を打たれた。火神大我と黄瀬涼太、2人の天才が見せるその攻防は明らかに次元が違うなか、それでも誰もが手に汗握ったのである。
 火神が相棒である黒子からのパスを受け取りアリウープを決めれば、黄瀬は先輩である笠松からのパスでアリウープを決め返す。火神がフェイダウェイスリーポイントシュートを決めれば、黄瀬はスクリーンを利用してハーフコートラインからのスリーポイントシュートを再び決める。火神が自身の力をチームの一部としてプレイするように、黄瀬も周りを頼り、任せることを僅かな時間で学んでいったのだ。
 限界を迎えコートに膝をつく黄瀬が見上げる先にいる火神。初めて味わった完膚なきまでの敗北。悔しくて流れる一筋の涙。しかし、黄瀬の心は実に晴れやかなものだったのである。

「ほらよ」
「火神っち」

 差し出された手。しかし、その手から感じるのはどこまでも温かく、今までに感じたことがないもの。

「今度はインハイでやろうぜ」
「……!と、当然ッスよ!
 次は絶対に負けないッスからね!!」

 その光景を周囲は温かい目で見守っている。
 そして黒子は、誰にも気付かれることなく嬉し涙を人知れず流していた。

「火神くん、君はやっぱり凄い」

 誠凛の選手達も張り詰めた空気から解放され、ホッとする。それはベンチ側も同様だ。

「火神くん、よくやった!!」
「うっす」

 誠凛と海常の選手達が整列する。
 そして周囲からは、その白熱した試合を称えての称賛の拍手の音が鳴り響いていた。
 たかだか練習試合…だが、戦った選手達にとってはそうではない。この試合で、何かを得たのは何も黄瀬涼太だけではないのである。
 "青の精鋭"もまた、間違いなく更なる飛躍を遂げてインターハイの舞台に姿を現すだろう。

「整列!100 対 87で誠凛高校の勝ち!」

  ── ありがとうございました!!

 全てを出しきり、勝敗に関係なく晴れやかな表情をした選手達がそこに並んでいた。

「今日はありがとうございました!!」
「う、うむ、こちらこそ……な」

 だがしかし、試合が始まる前、誠凛に対して舐めきった態度をとっていた海常バスケ部監督、武内は盛大に顔を引き攣らせている。
 反面、誠凛バスケ部監督の相田リコは至極ご満悦だ。
 人知れず繰り広げられていた場外戦。相田リコもまた、誠凛が海常に勝ったと同時に勝利した人物なのである。しかし、長年強豪校の監督を務める武内は図太いというかなんというか…。

「火神……だったな。
 今からでも遅くはない。ウチ(海常)に来るつもりはないか?」
「ちょっと待ったァーーーーー!
 いきなりウチのエースをスカウトするなんてどういうつもりですか!?」
「まさかこれほどの器がまだいたとは……俺としたことが」
「火神くんは絶対に渡しませんよ!!」

 そう言って火神に抱きつくリコ。その瞬間、誠凛メンバーはたった1人(・・)以外凍りつく。

「おーおー、どこへでも好きに行けダアホ」
「へ?」

 火神に抱きついたまま口論しているリコを他所に、日向はクラッチモードに入り本音…いや、嫉妬が駄々漏れである。リコと日向は幼なじみ。そして言わずもがな、日向の気持ちはご察し頂けるだろう。

「日向、常日頃からヘタレだからこうなるんだ」
「だ、誰がヘタレだ!?」
「今の日向は、火神に嫉妬して"shit"って言ってるようなもんだ。やべぇ、きたコレ」
「黙れ伊月」

 そんな騒がしさの中心にいる火神は、この騒ぎにゲンナリしている様子であるが、ふと何か違和感を感じ、リコとは反対側に視線を向ける。

「うおぉおお!?く、黒子!?」

 するとそこには、火神のジャージを引っ張りこちらもまた嫉妬を露にする人物(黒子)がいた。

「火神くん、まさか海常に行くなんて言いませんよね?そうですよね?」
「い、言うわけねーだろ」

 その必死さ…黒いオーラが見え隠れしているようにすら錯覚する禍々しさに、火神は恐怖を感じ後退る。だが、ガッチリと両側を固められていることもあって、迂闊には動けない状況だ。
 その上、背後にはクラッチモードの日向、前方には何故か尻尾と犬の耳が生えてるように見えるような見えないような黄瀬が…火神に逃げ場はない。

「海が近くてサーフィンにも行きやすいからやっぱり海常の方が良いなんて言いませんよね?」
「ハッ!海常に行けばそんな利点があるのか!?そこには気付いてなかったぜ!」
「あ、今の忘れてください」
「火神っち、リベンジしたいっスけどウチに来るなら大歓迎っスよ。ってことで、火神っちください。ついでに黒子っちも」
「黒子はついでかよ!?」

 初対面の時、あれだけ黒子を欲しがっていたのに、黄瀬のその豹変っぷりにツッコミを入れた火神は決しておかしくはない。

「つか、腹減ったな」
「帰りどっかで食べてこうぜ!」
「よし!ならガッツリ肉行くわよ!!」

 インターハイ予選に向け順調な仕上がりを見せる新星誠凛バスケ部は、その勢いを止めぬ為に更なる飛躍を目指すのである。
 だが、腹が減っては戦ができぬ。そのことわざのとおり、腹が減っては良い働きはできないのだ。そして疲れた体にはスタミナが必要不可欠。

 ~ 超ボリューム4kgスーパー盛盛ステーキ
 30分以内に食べきれたら無料(タダ)
 失敗したら全額自腹、一万円 ~

「遠慮せずいっちゃって!」

 誠凛バスケ部の試練は続く。




 *****




 ~ 時は少し遡り ~

 誠凛 vs 海常の練習試合も終盤、ラスト3分。
 "キセキの世代"黄瀬涼太を獲得した海常と"幻の6人目(シックスマン)"が加わった誠凛の試合を見にやって来たキセキの1人がいた。

「お、おいおい、今のって真ちゃんのシュートじゃねーの!?」
「俺のシュートよりも溜めの時間が長い」
「ああ、うん、そうだね。真ちゃんの方がスゴいね。あっちが劣ってるね」
「その棒読みは何なのだよ」

 眼鏡をかけた長身に学ランのその男子高生こそ、"キセキの世代"No.1シューター、緑間真太郎である。
 しかし、その緑間は視線の先で繰り広げられる白熱した試合を不愉快そうに眺めていた。

「つか、見に来て正解だったかもな。
 真ちゃんの言ってたマネッ子と影の薄い子も確かに凄いけどさ」
「…………」

 中からも外からも決め、試合を優位に進める誠凛の起点となっている黒い影のある赤い髪の男…火神大我に緑間の鋭い視線が向けられている。

「あんな奴が真ちゃん達以外にいるなんて……黄瀬涼太が圧倒されてんじゃねーか」
「人事を尽くさぬからこんなことになるのだよ」
「つってもよ……マジでヤバくね?
 黄瀬はギリギリっぽいけど、あの誠凛の10番……まだまだ余裕っぽい」

 東京地区には"キセキの世代"を獲得した高校が2つ。そして、同等…それ以上の力を秘めた火神大我がいる。大混戦となること間違いなしだ。

「監督と大坪さん達に報告しねーとな。
 間違いなく真ちゃんがマッチアップすることになるだろうけど……大丈夫か?」
「ふん、いらぬ心配なのだよ。
 俺は人事を尽くしている。そして"おは朝"占いのラッキーアイテムは必ず身に付けている。
 俺達(秀徳)が誠凛に負けるという運命はありえないのだよ」

 カエルのオモチャをテーピングを巻いた左手に持ち宣言する緑間。

「ごめん真ちゃん……今一つ安心できねーわ」

 東京都予選まで残りあと僅か。







ワールドカップが予想外の盛り上げりみたいですねぇ。


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予選開始



最近、暑すぎます。
これでまだ6月終わったばっかで、これからさらに暑くなる日もあって、この暑さが2ヶ月以上も続くと思うとマジで滅入るっス。







「ちょっとパン買ってきて」
「は?」

 コンビニに?それとも…




 *****




 誠凛高校の売店では、毎月27日に数量限定で特別なパンが売られる。それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束された幻のパン(噂)。

「イベリコ豚カツサンドパン三大珍味乗せ!
 2800円!!」
「高っけぇし!逆に品がないっつか、そんなもん高校の売店で売んなよ!!」

 練習試合では海常に勝っただけではなく火神が黄瀬を圧倒。チーム状態も良好で、何より今年は火神と黒子という即戦力が加わるサプライズも起きた。
 そこで、誠凛バスケ部は更なる弾みをつける為…謂わばこれは験担ぎのようなものだ。

「何か、嫌な予感(・・・・)しかしねぇ」
「何言ってんだよ、火神」
「ただパンを買ってくるだけだろ?」

 誠凛バスケ部の監督である相田リコがどんな人物なのかそれなりに理解してきた火神は、ただパンを買いに行くだけではないことを薄々感じ取っていた。
 "野生"の勘か、リコを理解してのことか…。

「失敗したら筋トレとフットワーク3倍だから」
「え!?」

 火神同様に何かしら感じるものがある黒子は何としてもパンを獲得する為に気合いを入れるが、他の1年達はそんな高いパンを買う高校生がいるのかと思っている様子である。しかし、買えなかったら筋トレとフットワークが3倍なのだから失敗は許されない。

「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。
 大丈夫、去年俺らも買えたし……辛うじて(・・・・)

 伊月の言葉…特に最後の部分を、火神と黒子は聞き逃してはいなかった。

「「「「「行ってきます」」」」」

 そして、売店に到着した一同だが…火神と黒子は案の定の展開に苦笑いを禁じ得ない。

「なんとなく予想はしてました」
「ったく……何が、ちょっとパン買ってきてだよ。こんな戦場(・・)に行かせるなんて、リコ先輩お茶目すぎだろ!!」
「え、これ(・・)お茶目ですか?」

 視線の先に群がる生徒達。長蛇の列…それを遥かに凌駕するであろう数の生徒達が売店に殺到していた。これを見て思うのは、寧ろよくこんな混み具合のなか日向達は買えたなという感心だ。

「ほとんど全校生徒いるじゃねーか!!」

 験担ぎしたいと思っているのは、何もバスケ部だけではない。
 しかし、それでも買わないといけない。

「よし、まずは俺が行く。
 火神ほどじゃねーが、パワーには自信がある!
 うおおおおお!!」

 誠凛バスケ部1年、河原浩一。ポジションSF(スモールフォワード)
 火神には劣ると自覚しながらも、それでもそれなりにパワーがあると自負する坊主頭の1年生。海常との練習試合では応援するだけだったが、ようやく訪れた見せ場だと言わんばかりに突撃する。が…

「歯ァ立たなすぎだろッ!!」

 結果は瞬殺。

「……!強いのがいんな」
「え……?」
「あ!お、おい、よく見たらコレ……半端なパワーじゃ無理だぞ」

 視線の先に立ち並ぶのは、高校生にしてはやたらと体格の良い存在達。
 火神が"野生"の勘で強者を嗅ぎ分けれるのは、何もバスケット選手に限ってのことではない。

「ラグビー部のフォワード、アメフトのライン組、相撲にウェイトリフティングまで!」
「ま、マジかよ……奴らのブロックを掻い潜らないといけないのかよ」

 パワー勝負にて勝てるはずのない相手に、他の1年、降旗、河原、福田は、半ば諦め気味に、ヤケを起こしながら大勢の群れのなかに無謀にもただ突っ込んでいく。
 そんななか火神は静かな様子で…いや、静かに闘志を燃え上がらせながら、集中力を極限にまで高めていた。瞳を閉じ、深呼吸を何度か行い、そして目を見開いた火神はあろうことかパワーで勝る連中(ラグビー、アメフト部等)が集中している場所から攻め入るのである。

「おおお!!」

 極限にまで高められたその集中力は、火神の力を100%…いや、120%にまで引き出していた。

「があ!?」
「ぬぅ!!」
「だ、誰だコイツは!?」
「な、なんというパワーでごわす!!」

 怪物達を次々と押し退け、火神は僅かに空いた隙間を決して逃すことなく先へと進む。
 怪物の巣窟を掻い潜った火神。ゴールまで(パン獲得)あと僅か…だが、強敵達を押し退けた極限集中状態の火神でも日本の混雑(ラッシュ)を圧倒することは難しい。
 あともう少し時間があれば…数量限定、残りもあと僅か。だが、火神にはとっておきの切り札(・・・・・・・・・)がある。そんな絶望的な状況を打破してくれる"幻の6人目(シックスマン)"が。

「黒子ッ!」

 相棒の名を叫び、火神は代金を持った手を前へと伸ばす。すると、その相棒が火神から代金を受け取り中継役となってパンをとって代金をレジトレーへと置いたのである。それも人知れず(・・・・)

「僕は影だ」

 黒子は人ごみに流され、いつの間にやら先頭の位置まで出てきていたのだ。そこに居合わせた黒子の(火神)。最後は光と影の力でパンをゲットというわけである。

「つか火神、あの筋肉ムキムキ集団のとこを掻い潜るなんてありえねーよ!!」
「ありゃー強かったな」
「少しもそう感じさせないけどな!」
「黒子なんて人ごみに流されて先頭に出るなんてなんなんだよ!」
「そう言われましても……」
「こんなとこで光と影コンビの力見せなくていいから!!どんだけ相性良いんだよ!?」

 そうは言ってもそのおかげでパンを獲得できたのだから、それ以上文句は言えない。
 ただ、黒子はパンを獲得したことよりも火神との相性の良さをチームメートから言われたことの方が嬉しかったようで、至極ご満悦にパンをかじっていた。


  ~ その日の午後 ~


 火神達1年が無事にイベリコ豚カツサンドパン争奪戦を乗り越え、インターハイ予選に向け練習に熱が入るなか、リコは1回戦の相手の偵察にやって来ていた。
 誠凛の初戦の相手は新協学園。去年までは中堅校といったところだったが、今年はセネガル人の留学生をチームに加え、打倒"キセキの世代"を目論んでいるとのこと。
 身長200cm。特徴は背だけではなく手足も長く、とにかく高いの一言に尽きる黒人選手だ。

「火神くんはどう対応するかしら?」

 少し前までのリコなら、その留学生の存在を脅威に思っていただろう。しかし、今は違う。

「油断は禁物だけど慣れって恐ろしいわね」

 マッチアップは火神。だが、火神がセネガル人の留学生に負けるなど想像できないのだ。
 リコが見る限りでも、新協学園は"キセキの世代"の実力を計り違えている。そしてそのキセキと並ぶ…それ以上の力を有した火神の情報を得ていない。

「とは言え、一度負けたら終わりのトーナメント。私達(誠凛)が気を抜ける要素なんて一つもないわ」

 予選まで残りあと約3週間。




 *****




 5月16日土曜日。インターハイ都予選1回戦。

「せ、誠凛って、去年創部1年目にして決勝トーナメントまで行った新星だったよな?」
「あ、ああ。けど、決勝トーナメントでは三大王者全てにトリプルスコアで負けてた」
「決勝トーナメントに行ったのも創部1年目のマグレの快進撃……って言われてた。
 な、なのに何なんだよアレ(・・)

  誠凛高校 対 新協学園

  ── あの誠凛の10番(・・)は何者なんだ!?

 打倒"キセキの世代"を目論み、身長200cmのセネガル人の留学生を加えた新協学園。
 しかし、いざ試合が始まってみれば、普通なら圧倒的有利のはずの身長差などまったくもって意味を為していなかった。
 試合開始時のジャンプボールと第1Qの僅か数分間こそ、留学生パパこと通称"お父さん(黒子命名)"がその身長差が如何に有利であるのかを見せつけているように思えていたが、たった数分…ほんのたった数分でお父さんの実力を把握した誠凛のエースが、身長差など関係なしに圧倒し始めたのである。
 ボールを受け取って高さを利用したシュートを打とうとするも、シュートモーションに入った瞬間にボールを奪われ、マークを振り切ろうとしてもまったく振り切れず、その結果飛べず。
 そして、辛うじて飛べたとしても…。

「ま、まさかそんなッ!?
 ()はいったい何者なんだ!身長差も10cmはあるというのに、パパが高さで負けるなんて!」

 新協学園の監督は戦慄していた。
 だが、監督以上に驚いているのは本人だ。自分よりも小さい相手にジャンプ力で負け、シュートを叩き落とされるその屈辱はとてつもないものだろう。その上、高さだけでなく全てで負けている。
 そもそも、火神は中学3年の時に夏期休暇などをアメリカのストリートで鍛え上げる時間に費やしており、自分よりも大きい相手と戦うことにも慣れている。戦績は4勝6敗。その戦績だけ見れば負け越してるように思えるが、6連敗してからの4連勝と、その6連敗で自分よりも大きい相手との戦いに慣れ、戦う術を学び、習得したというのが明白だ。
 大きいだけでなく、高くて上手い本場アメリカの相手に比べたら、パパ(お父さん)はただ大きいだけ。
 火神からしたら相手になるわけもない。

「うわぁぁぁーーーーー!」
「こ、今度はアリウープ!?」
「さっきはスティールしたボールをそのままダンクしてたしいったいどうなってんだよ!?」
「まだ予選1回戦だぞ!?つか、今のパスもいったいどうなってんだよ!?」

 お父さん(パパ)に子供扱いされたことを根に持っている黒子は、相手側(新協学園)の秘密兵器であるパパを、火神が圧倒する蹂躙劇に便乗し、初戦から全開だ。
 その上、火神達誠凛は数週間前の海常との練習試合のことに触れられ、誠凛ごときが勝てるなら"キセキの世代"は大したことない存在なのだろうと、そのようなことを試合開始前に言われたのである。
 海常は強い、黄瀬涼太も強かった。その試合を見てもいない、噂だけで判断する相手になど負けるわけにはいかなかったのだ。

  44 対 14

「ス、スゲェ……第2Q残り1分切ったとこだけど、もう30点差なんて」
「あんなデカい外国人いて相手にならないなんて……今年の誠凛マジでヤバいぞ」
「2年の選手達も去年より上手くなってっけど、あの10番が特にスゲェ。
 まるで"キセキの世代"みたいだ」

 確かに、火神という存在は誠凛にとって大きな武器だ。しかし、それを抜きにしても誠凛はしっかりとしたチーム作りがされている。こんな試合を見せられては、もうマグレだとは決して言えないだろう。

「他の"キセキの世代"は知らねーけど、海常と黄瀬にガッカリってのは訂正させてもらうわ。
 アイツら(海常)の方がお前ら(新協学園)より遥かに強ぇよ。
 出直してくんだな」

 火神のダンクが火を吹く。

「うおぉぉ!!マ、マジかよ!?」
「あ、あの外国人を吹き飛ばしてダンク決めやがった!!」

 128 対 32

「試合終了。誠凛高校の勝ち」

 昨年度都内ベスト4の誠凛バスケ部、初戦をクアドラプルスコアにて突破。
 この試合にて、誠凛への注目度は一気に上がることとなった。その中でも、特に火神に対する注目度は大きい。直に、"キセキの世代"にもまったく引けを取らないほどのものとなるだろう。
 この試合でも、火神は余力をかなり残している。真の力はまだ隠されているのだ。
 そんななか、誠凛 対 海常の練習試合を見たことで、火神を要注意人物として偵察に訪れていた存在が2人(・・)いた。その2人はシード校のレギュラーである為に初戦はまだ少し先…秀徳高校1年で"キセキの世代"の1人…No.1シューターの緑間真太郎。そして同じく1年にして、三大王者の一角である秀徳高校でレギュラー入りを果たし、PG(ポイントガード)を務める高尾和成。

「おーおー、あの外国人相手にクアドラプルスコアとか海常戦はマグレじゃねーな。
 真ちゃんが見に来たがるのも納得だわ」
「違うのだよ。ただ、外国人留学生がどんなものか興味あっただけだ。が……取るに足らん存在で、無駄足だったのだよ。
 それよりも高尾……練習試合とはいえ海常はマグレで勝てるような相手ではない。甘く見すぎだ」
「なんだかんだで誠凛のこと評価してんだな」
「……言ってる意味がわからないのだよ」

 留学生に興味があると言いつつ、緑間が視線を向けていたのは火神と黒子要する誠凛側だった。自分の方が所々で矛盾していることに気付いていないはずがないのだが、嘘が下手なのか…いや、これぞまさにツンデレといったところだろう。
 取るに足らない、興味がないと言いつつ、チームメートの高尾が誠凛に対して舐めた発言をしていたらそれを嗜めているのだ。
 火神とは接点がないが、かつてのチームメートであり、黒子のことを評価している緑間からしたら、悪く言われて良い気分ではないのは当然。
 ただ、本人は決してそれを認めないだろう。

「こりゃ、予選決勝はウチと誠凛になるだろうな」
「バカめ。誠凛がこのまま勝ち進んだとしても準決勝の相手はあの正邦(・・)だ。決勝には上がってこれまい」

 北と西の制圧を目論む、"キセキの世代"緑間真太郎擁する東の王者秀徳か。
 それとも、"キセキならざるキセキ"火神大我と"幻の6人目(シックスマン)"黒子テツヤ擁する新星誠凛が王者達相手に下克上を果たすのか…。
 今年のAブロックはまさしく"死の組"。







イベリコ豚カツサンドパン争奪戦時の火神…、目から光る線のようなのが迸ってたとか…。



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"死の組"Aブロック、勝者は…。 前編



イベリコ豚カツサンドパン三大珍味乗せ…わたくしも食べてみたいです。





 本日はインターハイ都予選4回戦。
 本日行われる4回戦に勝てば、その数時間後には5回戦となる。そしてそれに勝つことができれば、誠凛は予選準決勝へと駒を進めるのだ。

「やっぱ誠凛か」
「つか明常学院の奴ら、誠凛の10番に脅えて(・・・)なかったか?」

 監督である相田リコもびっくりするくらいの順調さで2回戦、3回戦を突破。
 初戦のクアドラプルスコアを皮切りに、2回戦でも初戦に近い大差でトリプルスコア、3回戦では火神を第4Q丸々引っ込めても尚ダブルスコアと、Aブロックの"台風の目"として圧倒的な力を見せつけていた。
 そして4回戦、対 明常学院。試合開始前、日向達の辛い思い出である昨年の決勝トーナメントでの大敗を嘲笑いながら会場入りした明常のレギュラー陣。しかし、いざ会場入りしたその者達は、自分達にとっての辛い思い出(火神と黒子)に遭遇してしまったのである。誠凛 対 海常の練習試合の帰り道、黒子がストバスコートで暴力を振るっていた者達にケンカを売り、そこに黒子を探していた火神とたまたま居合わせた黄瀬が仕方なく加わり、3 on 5のゲームで瞬殺。ここまで言えばわかると思うが、その暴力を振るっていた者達こそが明常のレギュラー陣達なのである。
 まさかその時の火神と黒子が誠凛のレギュラーだったとは思ってもいなかったようだ。

「またクアドラプルスコア……か」

 143 対 35

 5回戦に向け、体力もかなり温存した様子で誠凛が終始試合を支配した。

「消化不良だな。まさかまたアイツらと出会すとは思ってなかったし」
「まさかの……でしたね。
 けど、今日はもう1試合ありますし、それに何より……」
「だな。……と、噂をすれば(・・・・・)だ」

 本日、この会場では2会場分試合が行われる。そして、試合を行うのはシード校だ。そのシード校にとっては初戦となる。
 東京都三大王者の一角、東の王者秀徳高校のお出ましだ。

「黒子、挨拶しなくていいのか?」
「そうですね。少し過激な挨拶(宣戦布告)といきましょうか。火神くんもご一緒に」
「仕方ねーな。主将(キャプテン)、ちょっと1年(ルーキー)同士の挨拶に行ってくるっすわ」
「ああ……あ!?ってオイ!黒子まで!?」

 これも火神に毒されつつあるのか…。黒子もまた、なかなかに血気盛んな選手になったものだ。
 黒子の中学時代を知る人物からしたら、到底想像もできなかっただろう。

「お久しぶりです、緑間くん。
 予選決勝(・・)が今から楽しみで仕方がありません」

 まさか黒子が、このような過激発言をするなど。
 決して、次の相手を舐めているわけではない。しかし、インターハイに出場するには、誠凛はこの予選で三大王者の内の2校に勝たなければならないのだ。相手を甘く見ているのではない。どの試合でも、勝つ気満々なだけなのである。

「!……ふっ、決勝で俺達と戦うつもりのようだが、準決勝で負けるとは思わなかったか?」
「ええ。どの道、遅かれ早かれ倒さないといけない相手ですから」
「口では何とでも言えるのだよ」
「そんなこと言ってるわりに、随分と誠凛を警戒(・・)してるみたいだな」

 黒子と緑間の間に割って入った火神が意味深な発言をする。黒子ですら、その言葉の意味をちゃんと理解できてはいない。

「海常との練習試合はどんな目的あってかは知らねーけど、お前……初戦(新協戦)も見に来てたろ」
「え……そうだったんですか?」
「……何のことだ?」

 海常との練習試合中に火神が緑間の存在に気付いたのは本当にたまたま偶然だった。
 しかし、新協学園との初戦では、あれだけ鋭い視線を向けられては火神の"野生"が反応しないはずがないのである。

「トリプルスコアで勝った試合中にウチらの存在に気付くとかやっぱスゲェーな」
「先輩達の雪辱戦(リベンジ)の相手だからな。緑間とお前がいたのには気付いてた」
「っかー、マジで半端ねーな。
 あ、俺は高尾ね。けどさ」
「フン、雪辱戦(リベンジ)
 また随分と無謀なことを言ってくれるものだな」
「あ?」

 誠凛が秀徳に勝つことなど万に一つもないと言いたげなその様子に火神は眉を寄せる。
 それは三大王者としての自信か…それとも誇りか…はたまた慢心か。

「先輩から何も聞いてないの?
 誠凛は去年、決勝トーナメントで三大王者全てにトリプルスコアで負けてんだぜ?」
「息巻くのは勝手だが彼我の差は圧倒的だ。
 仮に正邦を倒し決勝に上がってきたとしても結果は一緒、歴史が繰り返されるだけなのだよ」

 まるで、未来でも見えているかのような決めつけられたその言葉に、リコや日向達の表情が険しいものとなる。しかし、誠凛の光と影はその程度のことで動じるほど弱くはない。寧ろ図太すぎるくらいだ。

「落ちましたよ」

 緑間が常に持ち歩くラッキーアイテムを拾い、それを手渡しながら黒子は告げる。

「過去の結果でできるのは予想までです。
 勝負はやってみなければわからないですよ」
「つか、去年の結果なんて知ってっし。
 去年の予選、それと決勝トーナメント、誠凛の試合はほぼ全部見てんだよ」
「それでよく誠凛に行こうと思ったものだ」

 火神のことは、黄瀬に勝ったこと、初戦での活躍からそれなりに評価していた緑間だが、間違った進学先を選んだと…買い被りすぎだったかとため息を吐く。しかし、火神の言葉に驚きを隠せないのは緑間よりも日向達であった。
 緑間達が去った後、日向達が火神に詰め寄って来たのである。

「ど、どういうことだよ、火神。
 去年の試合見てたって」
「ああ、そのことっスか。
 最初は、進学先選びの為に予選を見に行っただけだったんだ。……です。そんななかで、一際輝いて俺の目に映ったチームがあった……それが誠凛。
 見れる限り予選は見て、霧崎第一(・・・・)との予選決勝も見て、決勝トーナメントも全部見に行った。
 俺、先輩達と一緒にプレーしてみたいと思って誠凛にやって来たんだ。……です」
「そ、そうだったのか」

 まさかの火神からの告白に日向達は驚愕し、そして胸を熱くする。実力では遥かに勝る火神が自分達を認めた上で、誠凛でバスケがしたいからやって来たと聞かされたのだ…嬉しくないはずがない。

「つか、リコ先輩には言ったはずだけど」
「え、ええ。けど、てっきり日向くん達にも言ってるものだと思ってたから」
「わざわざこんなことを自分から言うか?」
「……言わないわね。ま、まあ、言う機会ができて良かったじゃない!」

 去年の雪辱戦(リベンジ)に向けて、誠凛バスケ部の士気は思いがけない形で上がっていた。




 *****




 都予選5回戦を難なく突破した誠凛は、来るべく三大王者の2校との準決勝、決勝の為の準備を入念に行い、そして当日を迎えた。
 試合が行われる会場も学校体育館から一変し、多くの観客席が設備された広い会場となる。
 大方の予想では、予選決勝は秀徳 対 正邦だろう。だが、"死の組"Aブロックの台風の目である誠凛が奇跡を起こすのではないかと期待する観客も少なからず存在し、Aブロックの優勝校はいったいどこになるのかと例年以上の盛り上がりを見せていた。
 可哀想な話ではあるが、秀徳と対戦する銀望高校は明らかに1校だけ劣っている3強1弱。観客達からも同情の眼差しを向けられている様子である。
 観客が見守るなか、各校は決勝トーナメント進出を心に誓い、入念にアップをこなしていた。

「あー君が火神くんでしょ?
 うっわマジで髪赤ぇーこぇぇー!」
「………………」

 淡々と練習をこなす誠凛と王者2校。しかし、そんななか空気を読まない不粋な輩がいた。

主将ーーー(キャプテーーン)
 コイツですよね!」

 こんな輩は相手にするだけ無駄だと静観を貫こうとする火神。しかし、次の一言が火神の逆鱗に触れてしまった。

「誠凛超弱い(・・・)けど1年で1人だけ凄いのが入ったって!」

 王者正邦の1年レギュラー津川智紀。ポジションはSG(シューティングガード)だが、密着型のしつこい守備を得意とする選手で、かつては黄瀬涼太を苦しめた選手である。とはいえ、それは黄瀬がバスケを始めたばかりの頃であるが…。
 そんな津川の空気を読まない調子に乗った発言に、リコは怒りを露にしているが、日向達他の誠凛メンバーは顔を引き攣らせていた。
 何故なら、よりにもよって誠凛大好きな火神に対して誠凛を侮辱する舐めた発言をしたのだから…。
 この試合、誠凛メンバーも公式戦で初めての火神の本気を見れる可能性ができてしまった。それは運が良いのか悪いのか。

「チョロチョロすんなバカタレ」
「あいて!」
「すまんな。コイツは空気読めないから本音(・・)が常にただ漏れなんだ」

 正邦の主将(キャプテン)の岩村が津川に鉄拳制裁を食らわせ黙らせるが、その岩村も誠凛は眼中にないといった様子だ。
 だが、ここまで言われて黙っておく誠凛ではない。日向も主将(キャプテン)として、しっかりと宣戦布告をするのである。

「謝んなくていっスよ。
 今年は勝たせてもらうんで、惨めな思いすることになる後輩をしっかりと慰めて、今後の為に躾てやってくださいっす」
「惨めな思い?俺が?
 ないない!ありえねぇーから!」

 試合開始前から白熱する両校。

「王者と呼ばれるのも今日で最後だ」

 いつになく、火神が熱く闘志を燃やしていた。


 ~ 誠凛高校控え室 ~


 アップも終了した誠凛メンバーは、控え室で静かにその時を待つ。
 ただ、リコが少し懸念するのは去年の大敗を味わった上級生組だ。見るからに少しカタい。

「みんな気負いすぎよ」

 これから王者と2連戦なのだから、そうなるのは当然だろう。
 火神に関しては気負いなどまったくなく、寧ろ闘志を迸らせすぎているが…。
 そんな選手達の緊張を和らげる為に、リコがとっておき(・・・・・)を繰り出すのである。

「次の試合に勝ったら、みんなのほっぺにチューしてあげるわ!ウフッ、やる気出しなさい!」
「ウフッ!ってなんだよ」
「カントクに色仕掛けは無理あるって」
「んなっ!?」

 付き合いの長い上級生達からのダメ出しがリコにクリティカルヒットを与える。

「バカヤロー!義理でもそこは喜んでやる気出しやがれ!」

 そして幼なじみの日向によるトドメ。

「うっしゃ、めっちゃやる気出てきた。
 約束破んなよ、リコ先輩」
「へ……?」
「お前ら火神を見習え!
 本気で喜んで……って、え?」

 火神大我、15歳。
 彼は意外にも、誠凛バスケ部監督にして1学年上の先輩である相田リコのことを気に入っていた。
 今はバスケが最優先な為に、恋愛事にかまけるつもりはない為に、それが恋愛的好意かは謎だ。

「リコ先……カントク、正邦との試合なんすけど、ちょっとワガママいいか?……ですか?」

 いつになく真剣な表情の火神からのワガママ…それはいったい…。

『それではこれより、Aブロック準決勝第1試合…
 誠凛高校 対 正邦高校 の試合を始めます』

 会場内に静かに響くアナウンス。
 誠凛にとってはまさに死に物狂い。対王者2連戦が幕を開ける。




 *****




「ったく、テメーが飲み物とかちんたら買ってっから試合始まってんだろうが!」
「いてっ!い、いつものが見当たらなかったんすよー」
「高校生が水買うとか何様だ!気取ってんじゃねーよ!モデルにでもなったつもりかッあぁ!?」
「い、一応モデルっス!」
「水道水でも飲んどけ!!」

 もちろん、この試合に注目している他県の選手達もいる。約1ヶ月前、練習試合にて誠凛に敗北を喫した海常バスケ部も同様だ。
 インターハイ本選にての雪辱戦(リベンジ)を誓った黄瀬涼太は、ライバル認定した火神とかつてのチームメートである黒子の勇姿をその目に焼き付ける為に、主将(キャプテン)の笠松を伴い観客として会場入りするのである。
 誠凛 対 正邦の試合はすでに始まっており、黄瀬と笠松はその点差(・・)を見て驚愕する。

「マ、マジっスか。誠凛の相手の正邦って東京都三大王者の一角っスよね?」
「おいおい、嘘だろ……試合開始から5分、相手は毎年インターハイに出てる強豪校だぞ!?」

 その目に映るスコアボード。

  14 対 2

 そして、黄瀬が視線を向けた先にいるライバルはというと。

  ── バスケットカウントワンスロー

 リードは誠凛。しかも、火神がファールをもらいながらスリーポイントを見事決めたのである。
 火神にはフリースローが与えられる。つまり、4点プレーということだ。

「あの状態でスリー決めやがったぞ!?
 これで点差は15点ッ!!」
「し、しかも誠凛のあの10番、さっきも"バスカン"で決めてたよな!狙ってやったのか!?」
「正邦側の10番、この短時間でもう2つ目だぞ!しかも誠凛の10番が狙ってバスカンできるんじゃ集中して守備なんてできるはずもねーよ!!」

 難なく火神がフリースローを決め、点差は

 18 対 2

 第1Qも5分切ったところで、誠凛の圧倒的優位で試合が運ばれている。

「火神っち……今日はプレースタイル(・・・・・・・)変えてやってるっスね」
「ああ、あのトリッキーな動き……ドリブル、シュート、パス、全てが予測不可能、おまけに速いときた。ありゃー本場仕込みのスタイルか」
「うおっ!?
 あの坊主頭(津川)(センター)のダブルチームをぶち抜くんスか!?」

 守備力に定評のある正邦。その中でも特に守備が上手い津川と岩村をあっさりと抜き去り、火神が(日向)へとパスを出す。日向にボールが渡ったとなれば、当然ながら誠凛は3点を獲得する。
 これで、点差は19点差だ。
 誠凛優位だが、決してハイペースに試合を運んでいるわけではない。しかし、誠凛が王者相手に蹂躙しているのである。

「く、くそッ!誠凛なんて弱小なのに!!」

 試合はまだ始まったばかり…しかし、今日の火神はとにかく凄い。








恋愛要素はそこまで入れるつもりないけど、火リコが意外とお気に入りかも?


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"死の組"Aブロック、勝者は…。 中編



お気に入り1000件超えてた!!
火神大好きなわたくしの願望丸出しのような作品にお付き合い頂きありがとうございます!!(ノ´∀`*)





 誰が呟いたのかはわからない。だが、会場内の観客達の心の内は同じだろう。

「ス、スゲェよ、今年の誠凛」

 Aブロック準決勝、誠凛 対 正邦。
 第3Qも残り1分を切ったところで、火神が"バスケットカウントワンスロー"をまたしても獲得。しかもスリーポイントを決めての4点プレーだ。火神がフリースローを外すことは決してない。

「正邦の10番(津川)はファウルトラブルか」

 正邦の津川は外し辛いマークで相手を挑発してファウルを誘う器用さを持つ守備の名手だ。あの黄瀬すらもかつては苦しめ、正邦に入りその守備力にはさらに研きがかかっている。しかし、それでも火神には劣るのだ。自分の得意とするプレーを火神に倍返しされてしまっているのである。
 そもそも、試合開始前に津川が誠凛を見下した発言をしなければ火神がプレースタイルを試合開始直前に変えると言い出すことはなかったはずだ。
 トリッキーな動きで相手を翻弄し、時にはファウルをもらいながら加点する…悲しいことに、王者正邦が新戦力として加えた津川のその一言が、正邦のこの事態を招いてしまったのである。それがなくとも、誠凛の勝利は揺らぎないものだったかもしれないが…。

「あの10番(火神)マジでスゲェ。
 アウトサイドシュートもまったく外してない。あの4番(日向)も今日1本も外してねーし、誠凛のシュート技術半端ねーな。それに10番には(インサイド)もある」
「去年もアイツ(日向)は凄かったからな」
「え、お前あの4番知ってんの?」

 観客の中には、もちろんながら去年の誠凛(・・・・・)のことを知っている者がいる。それは、決勝トーナメントで三大王者全てにトリプルスコアで敗れたことではなく、決勝トーナメントまで進出した創部1年目の新進気鋭の誠凛についてのことだ。

「今年はあの10番(火神)が加わって、攻撃力だけで言えば去年以上のチームに仕上がってるけど、去年はアイツ(・・・)がいたんだ」
「アイツ?」
「誠凛は決勝トーナメントでは本当に運が悪かったんだと思う」
「はあ?運が悪いって、東京3強はここ10年は常に三大王者が競い合ってるのが常なんだから、運が悪いとかじゃないだろ」
「まあ、たらればの話をしても仕方ねーんだけどさ、ソイツがいたら、誠凛のトリプルスコアでの敗退はなかったと思うぜ。今みたいになってたかも」

 火神に近しい存在が誠凛にはいた。
 しかも創部された年の選手だったということは創設者のうちの1人で、誠凛バスケ部にはとても馴染んでいたはずだ。下手したらチームワークは今年以上に良かったのかもしれない。

  95 対 55

 火神がフリースローを難なく決め、程なくして第3Qが終わりを告げ誠凛リード。誠凛が王者正邦相手に40点リードという番狂わせな結果だ。
 残すは第4Qのみである。

「お、第4Qはあの10番を丸々温存するつもりのようだぜ」
「王者相手に……か。けど、次は"キセキの世代"緑間真太郎擁する秀徳が相手だからな。
 けどまさか、去年のあの敗戦を経験してからのこの試合は驚きだわ。どんなメンタルしてんだよ」

 去年、予選決勝でエース(・・・)を怪我で欠いてしまった誠凛バスケ部は決勝トーナメントで三大王者にトリプルスコアで大敗。
 もしそのエースがいたら…そんなことを考えてしまっていた時もあっただろう。だが、いくらエースと言えども、メンバーを1人欠いてしまっただけで手も足もでなくなってしまったのは自分達の力不足であると日向達はわかっていた。
 悔しくないはずがない。バスケを嫌いにもなりかけ、やめたいとすら思ったはずだ。
 けど、それでも今こうしてコートに立ち続けている。バスケが好きで、このチームで勝ちたいから。

「王者を舐めるなァ!!」

 正邦の岩村が豪快なダンクを叩き込む…が、しかし、誠凛との差は縮まることがない。
 点を取られてもすぐに取り返すのだ。

「おおー、火神っちと黒子っち引っ込めて心配したっスけど、思いの外食らいついてるっスね」
「つかむしろ、今の誠凛のスタイルの方がしっくりきてるけどな」

 火神と黒子を加えた超攻撃型スタイルは春からのもの。まだまだ改良の余地もあるし、発展途上もいいところだ。チームに合わせて火神が力を抑えてもいる。
 日向のアウトサイドシュートに、水戸部のフックシュート、全範囲(オールレンジ)からシュートが打てる小金井、それを軸にして点を取るスタイルこそが、去年の大敗から誠凛が作り上げてきたもの。

「ったぁ!?」
「いって!?くっ、逆サイドの俺をスクリーン代わりに使いやがった!!」

 PG(ポイントガード)伊月の鷲の目(イーグルアイ)を活かした誠凛は火神と黒子を温存してなお、王者正邦相手に対等に渡り合っていた。
 マッチアップした海常の笠松も、伊月のその目の厄介さを知っている。

「やられたぜ。
 ここまでウチを研究し尽くしてきたとこは誠凛が初めてだぜ」

 そして、誠凛が光と影(火神と黒子)を温存しながらも王者正邦と互角に戦えているのは、何よりも正邦の動きを完全に捉えているからだ。
 古武術をバスケに応用した特殊なスタイル。それが、正邦が今まで王者として君臨し続けてこれた理由。

「けど、特殊ってことはクセがあるってことなのよ。火神くんはそんなのお構い無しで圧倒してたけどね」
「そりゃどうも」
「先輩達もここに来て対応できてますね」

 パスカットからの連続ゴール。
 試合残り時間1分を切り、点差は少しも縮まってはいない。
 もう、勝負の結果は見えている。だが、日向は手を緩めることなく、去年の悔しさを断ち切るかのように、この試合で最高の手応えを感じるスリーポイントシュートを決めた。
 王者が陥落した瞬間だ。

 114 対 71

 王者正邦相手に、第4Q丸々エース(火神)を温存しながら、誠凛は40点以上の差をつけての勝利を収めたのである。

「試合終了!!」

 同じく試合終了し、どよめきを見せる隣コートとは違い、こちら側は観客からの大歓声が響く。
 誠凛バスケ部が、まずは1つ目の下克上を果たしたのだ。

  ── 114 対 71で誠凛高校の勝ち!!

 2年連続で予選決勝へと駒を進めた誠凛バスケ部。

「なに泣きそうになってんだよ。……ですか。
 まだあと1試合ある。寧ろ本番はこれからだ。泣くなんてリコ先輩の柄じゃねーし、仮に泣くとしても次の試合が終わってからにしろ。……です」
「……ッ、柄じゃないって失礼ね。
 私だって感傷に浸るわよ!」
「なら、せめて嬉し涙にしてくれ。……ださい。
 それに、試合前の約束……忘れたとは言わせねーッすよ」

  ── 次の試合に勝ったら、みんなのほっぺにチューしてあげるわ!

 今の今まで本人もすっかりと忘れていた。
 しかし、火神は決して忘れていなかった。

「あ、あれは、そ、その盛り上げる為に」
「なら、次の試合で緑間に勝ったら、皆じゃなくて俺だけにってのはどうっすか?」
「はあ!?」
「次は、約束破んなよ……カントク」

 余裕な様子で試合を終えた日向達のもとへ向かう火神。その足取りは軽やかで、すでに秀徳戦に向けて準備万端。

「うう、火神くんのバカ、バ火神」

 3時間後、決勝トーナメント行きを賭けたAブロック決勝戦が始まる。




 *****




 インターハイ都予選、今年の都予選は"キセキの世代"が2人出場していることもあり例年以上の盛り上がりを見せている。
 しかし、そんな盛り上がりの中でもAブロックの盛り上がり具合は別格だ。
 "キセキの世代"の1人、緑間真太郎擁する三大王者秀徳の他、今年は同じ三大王者の正邦まで同じAブロックに組み込まれ、さらにそこに新進気鋭の誠凛が食い込んできたこもあって、Aブロックの勝者がどこになるのかもはや誰にも予測できない状況となっていた。
 そしていよいよAブロック決勝戦…。

 誠凛 対 秀徳

 順当に勝ち進んできた王者秀徳。
 その相手は、先の準決勝にて正邦相手に大差で下克上を果たした誠凛だ。
 やはり王者か…それとも本日2度目の下克上か。
 多くの観客達の視線が全て、その試合に向けられていた。

「おおお!両チーム出てきたぞ!!」

 試合開始前、入場しただけでこの盛り上がり具合。如何にこの試合に対して、観客達が期待しているのかが明白だ。
 入場した両チームが自陣のベンチ前で円陣を組み、意識を集中し始めている。
 秀徳が見せるのは王者らしい貫禄。

「正直、ここまで誠凛が勝ち上がってくると予想していた者は少ないはずだ。誠凛の大型新人…10番(火神)の存在があったとしてもだ。
 北の王者正邦の大差での敗退は番狂わせと言う他ない。だが、それだけのことだ。ウチにとっては何一つ変わることはない。
 相手が虎であろうと兎であろうと獅子のやるべきことは決まっている。それ以外にない。
 全力で叩き潰すのみだ!」

 昨年、秀徳をインターハイベスト8に導いた立役者の1人である主将(キャプテン)の大坪の風格はさすがと言えよう。
 あの緑間真太郎を従えるだけのことはある。

「いつも通り勝つのみ!!」
「「「「おう!!」」」」

 一方の誠凛は新進気鋭らしく…だが、焦りも緊張も一切見受けられない。
 寧ろ、かなりリラックスした様子だ。

「いやー疲れた」
「同感っす」
「嘘つけ!お前第4Q丸々引っ込んでただろうが!それなくても体力余ってたの知ってんだかんな!」
「アレは先輩達が自分達の意地見せたいって言って俺と黒子を勝手に引っ込めたからだろ?」

 正邦戦第4Q。火神と黒子を引っ込めたのは、秀徳戦を考えてのことでもあったが、日向達が去年の悔しさを晴らしたかったというのもあった。
 あの大敗から立ち直り日向達はここまでやって来た。火神と黒子からのお膳立ても受けた。だから最後は、誠凛バスケ部を作った自分達で勝利を噛み締めたかったのだろう。

「おかげで心は晴れやかだよ!!」
「そりゃ良かった。……です」

 もう、去年を振り返ることは決してない。
 ここからは新しい道を歩んで行くのだから。

「ぶっ倒れるまで全部出しきれッ!!」
「「「「「おお!!」」」」」

 コートに入る選手達。
 そして、相対するかつてのチームメート(黒子と緑間)

「まさか本当に勝ち上がってくるとは思ってもいなかったのだよ」
「僕は冗談が苦手です。
 緑間くんも知っているでしょう?」
「ふん……だが、お前達(誠凛)の快進撃とやらもここまでだ。どんな弱小校や無名校でも皆で努力して力を合わせれば戦える……そんなものは幻想でしかないのだよ。
 来い、お前の選択がどれだけ愚かなことか教えてやろう」

  ── 運命は決まっている

 緑間の言葉が黒子を奮い立たせる。人間、誰しもが運命に抗う術を持っているのだ。

「緑間くん、誠凛は弱くないですよ。
 覚悟しておいてくださいね」

 もう1人のかつてのチームメート(黄瀬涼太)が見守るなか、ついに始まる。
 泣いても笑っても、これで決勝トーナメント進出校が決まるのだ。

「誠凛が連続王者撃破の奇跡の下克上を果たすか。それとも順当に秀徳が王者のイスを死守するか」

 誠凛 対 秀徳 ティップオフ。




 *****




 ジャンプボールには火神が飛び、まずは誠凛ボール。だが、速攻で1本取るつもりだった誠凛は秀徳の戻りの速さに足踏みする。
 誠凛が先の試合で正邦を降したとはいえ、秀徳が格上の存在であることはこれまでの戦績から見ても揺るぎない。手堅く1本大事に…そんな攻め方ではダメだ。誠凛の目的はまず第1Qを獲ること。

「まずは挨拶がてらに強襲ゴー!」

 リコの宣言。
 すると、伊月からのパスがマークを振り切ってフリーとなった黒子へと渡り、さらにそこから火神へのパス…もはや誠凛の伝家の宝刀となりつつある光と影(火神と黒子)の強襲攻撃だ。
 黒子からのパスを空中で受け取った火神がそのままアリウープにて先取点獲得…誰もがそう思っていた。

「これに本当に(・・・)対応してくるんだから嫌になっちゃうわね"キセキの世代"は!」

 仮に、この相手が去年の秀徳(・・・・・)だったならば間違いなく誠凛は先取点を奪っていたことだろう。リコもそう確信していた。しかし、今年の秀徳は全てに於いて去年と違う。
 この強襲が防がれるなど、まさか…と、そう言ってきた火神にも反論したくらいだ。

「緑間ッ!?」

 だが、火神の予想通り"キセキの世代"はこの程度(・・・・)…と、簡単に対応するのである。

「よっ……と」
「なッ!?」

 しかし、緑間がブロックに飛んでくるのを予想していた火神がただ防がれるだけなど決してありえない。

「ウチの強襲は二段構えよ!
 さすがよ、火神くんッ!!」

 半時計回りに空中で回転した火神はゴールに背を向け、そのまま背面シュートで難なく先取点をもぎ取ったのだ。

「な、何だ今のは!?
 空中で急に半回転してそのまま背面シュート!?」
「ど、どんなボディーバランスしてんだ!?
 ほ、本当に人間かよ!!」
「つか、どんな滞空時間だよ!?」

 開始早々の火神のスーパープレーに観客達の熱が一気に上がる。
 流れは誠凛…だが、"キセキの世代"緑間真太郎擁する王者秀徳は正邦のように甘くはない。
 この試合、このまま楽に進むはずがないのだ。

「このまま大人しく流れはやらん」

 伊月のシュートが外れ、リバウンドを取った大坪からの速攻。秀徳PG(ポイントガード)高尾に渡ったボールが、緑間へと渡る。
 高く放たれたシュートがゴールネットに吸い込まれ、すぐに秀徳が流れを逆に取り返す。しかし、やられたらすぐにやり返すのが今の誠凛だ。
 緑間がゴールが決まるのを見ることもなく守備に下がっている最中の一瞬の隙を突き、黒子がネットに吸い込まれ落下したボールをキャッチし、すぐに遠心力を利用したパスを最前線(火神)へと出す。

  ── 回転長距離パス(サイクロンパス)

 パスを受け取った火神がダンクを叩き込む。

「勝負はこれからだぜ」




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