ハリー・ポッターと終末の魔法使い (サーフ)
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賢者の石
暴走


初投稿です。


   漆黒の闇が支配する世界。

 

 それが宇宙だ。

 

 しかし、そんな宇宙空間の中を、緑色のエネルギーラインを輝かせながら、悠々と『飛行』している機体がある。

 

 機体は人型であり、体の端々は角ばっており、頭部にはフェイスガードなどは無く、白い仮面の様な印象だ。

 

 胴体、及び脚部などの関節部は金色のフレームが露出しており、右腕には折り畳み式のブレードを装備し、左手にはシールド発生装置が装備されている。そして肩部からはスラスターが展開され、青い光を放っている。

 

 脚部は自重を支えるには十分な強度がありながら、先端部は鋭くとがっている。

 

 機体の名前は、『ジェフティ』

 

 木星圏のコロニー、アンティリアで開発中だった新型機であり、アーマーン始動の鍵だった。

 

「報告だと、このあたりだな」

 

 コックピットの中で操縦席に座る無精髭を生やした男が呟く。

 

 男の名前はディンゴ・イーグリット。

 

 ジェフティの搭乗者(フレームランナー)だ。

 

 

『周辺宙域にエネルギー反応はありません』

 

 コックピットの中に女性の合成音声が響き渡り、操縦席のディスプレイが反応する。

 

 この合成音声の主は、ジェフティに搭載された、独立型戦闘支援ユニット『ADA』である。

 

 

「やっぱり、連合軍の報告は嘘だったのか」

 

『その可能性はゼロでは有りません』

 

「まぁ、良い。少し探してみるか」

 

『了解です』

 

 男は詰まらなそうに呟くと、機体はゆっくりと加速した。

 

 

 なぜ、ジェフティがこの宙域に派遣されたのかは、数日前に遡る。

 

『メタトロン』と呼ばれる鉱石が、暗礁宙域で大量に発見されたという報告が上がり、その回収任務が言い渡されたのだ。

 

『メタトロン』とは木星の衛星カリストで発見されて人類に革命をもたらした金属。〈シリコンをベースとした高分子金属の複合体〉

 

 柔軟性が高く人力でも簡単に凹むほどだが、衝撃に対して硬化して異常な強度を誇る。

 

 また、高エネルギーを与えて高速回転させると周囲の空間を巻き込んで回転する。

 

 そして、この金属は自分の性質を記憶する。しかもそれ自体がエネルギー源となりえる。

 

 空間ごと弾くことで亜光速移動を実現し、別のメタトロンを与えれば記憶を元に自己修復も行える。

 

 動力炉に用いれば半永久機関といえる反陽子生成炉(アンチプロトンリアクター)ができ、コンピュータに用いれば量子コンピュータができ、AIに使えばそれまでにない画期的な柔軟性を持つAIができるなどまさに『魔法』のような金属である。

 

 その反面、人の記憶や思考等を読み取り記録し、それを元に精神に影響を与える特性もあり、特に大量のメタトロンを用いた物は使用者の精神に大きな影響を与えてしまう問題がある。

 

 最初のオービタルフレームイドロの搭乗者が狂気に侵された事からAIが搭載されるようになったが、以降もメタトロンの狂気に飲まれるものはなくなることは無かった。

 

 『微弱ですが、反応を探知しました』

 

 ジェフティがしばらく巡行していると、センサーがエネルギー反応を捉えた。

 

「メタトロンか?」

 

『そう思われます。ベクタートラップ内に隠匿されている模様』

 

 ベクタートラップ。

 

 メタトロンを高エネルギー状態でスピンさせ、周囲の物体を空間ごと巻き込んで圧縮する装置。 圧縮空間に収納しても貨物の質量は減らないため「体積を小さくできる」だけ。 大量の電気を消費するためコロニーなどの施設や大型貨物船にしか搭載されていない。 一部のオービタルフレーム(OF)には例外的に搭載されており、弾薬などの格納庫として使用している。 ジェフティにも搭載されている。 これを搭載するオービタルフレーム(OF)の中には機体を丸ごとベクタートラップに格納して見かけ上「消える」ことができる機体もある。

 

「しっかし…なんだってこんな所に、態々ベクタートラップを使ってまで…」

 

『恐らくですが、非公式に回収したメタトロンを暗礁宙域に隠匿、または投棄されたものと推測されます』

 

「何処のどなたかは知らんが、余計な事を…回収できそうか?」

 

『恐らくは可能です』

 

「良し、なら回収を急げ」

 

『了解です』

 

 

 ジェフティはさらに速度を上げ、メタトロンが隠された宙域へと飛翔した。

 

『周辺宙域にポータ―を確認、破壊してください』

 

「任せろ」

 

 ジェフティのコックピットには隠匿されたポーターが鮮明に映し出されている。

 

 ディンゴは慣れた手付きで、ジェフティを操作し、周辺のポーターをすべて破壊した。

 

『ポーターの破壊を確認。ベクタートラップ解除されます』

 

 ベクタートラップが解除されると同時に、大規模なエネルギーの開放が起こり、けたたましい光と共にコックピット内に衝撃と警告が流れる。

 

「なんだ! どうなってやがる!」

 

『ベクタートラップの解除と同時に、メタトロンが急速に反応。暴走が始まったようです』

 

「暴走だと! どうなってる!」

 

『ベクタートラップ内に予想以上のメタトロンが隠匿されていた模様。このままでは、周辺宙域のすべての物体が消滅します』

 

「どうにかならないのか!」

 

『ジェフティのエネルギー暴走による対消滅以外、不可能です』

 

 ADAの無慈悲な声が響くと、コックピットのディスプレイに脱出シークエンスが表示される。

 

「おい! 何をしている!」

 

『搭乗者の生存を最優先。コックピットを強制的に切り離します」

 

「おい! 待て! ADA!!」

 

 ディンゴの声が響く中、ジェフティからコックピットが切り離される。

 

「やめろ! ADA!」

 

『これが、私の務めです。お元気で、ディンゴ・イーグリット』

 

 ADAの声が響くと同時に、コックピットが超高速で加速し、宙域から離脱する。

 

 無人となったジェフティは蒼い閃光を放つと、激しい光の中心へと消えていった。

 

「ADA!!」

 

 光が収束し、暗闇に戻った宇宙の中、切り離されたコックピットの中でディンゴの虚しい声が響いた。

 

 

 光が消えさり、ジェフティの機体が消え去る瞬間、ADAはAIながら一つ願った。

 

 それは、AIにおけるバグなのか、はたまた自己進化の賜物なのか…

 

『もし可能ならば、別の世界を見てみたかった』と…

 

 そして、不思議にも、メタトロンは『AI』の願いを感じ取ったのか、奇跡とも言える魔法を引き起こした。

 

 それが、別の世界の魔法を脅かすことになろうとも………

 

 

 

 

 

 とある一室に2人の人間が、重い空気の中で過ごしている。

 

「どうじゃ?」

 

「…………」

 

 眼鏡を掛けた老人が、水晶を見つめている女性に話しかけるが、返答はなかった。

 

 老人の名はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。

 

 20世紀最大の魔法使いと呼ばれる人物だ。

 

 一方、水晶を覗き込んでいる女性は、シビル・パトリシア・トレローニー。

 

「何が見える?」

 

 ダンブルドアは再び、トレローニーに話しかけるが、反応はない。

 

「はぁ…」

 

 諦めた様にダンブルドアが溜息を吐いた瞬間、トレローニーはすっと立ち上がる。

 

「お? 何が見えた?」

 

「あ…アっ…あぁ…あ」

 

 立ち上がったトレローニーは虚ろな表情で、小さく声を上げると、手から水晶が零れ落ち、床の上で小さな花を咲かせる。

 

「あぁぁあぁあぁあ!!!!」

 

 水晶が砕け散ると同時にトレローニーは悲鳴と絶叫が交じり合った野太い声を上げる。

 

「どうしたのじゃ! 落ち着け!」

 

 暴れるトレローニーの肩を掴み、必死に落ち着かせようとするが、ダンブルドアの手が振り払われる。

 

「終末が! 終末がこの世界に訪れた!!」

 

「終末じゃと?」

 

「死や破滅ではない…終末が…終末の意思が…人類の無意識が…終末を望んでいるのだ!!」

 

 トレローニーは訳の分からないことを口遊むと、その場で気を失う様に倒れ込む。

 

「終末…なんとも…不吉な…」

 

 ダンブルドアは、倒れたトレローニーを一瞥しつつ、考えを巡らせる。

 

 この年は、奇しくも『後の世』に、生き残った男の子と呼ばれるハリー・ポッターが、この世に生を受けた年だった。

 

 




ディンゴさんは無事に、回収部隊によって回収されました。




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再起動

ここから、急展開が始まる。


 「メインシステム、再起動」

 

 自身の声が響くと同時に、自らの意識がはっきりとし始める。

 

「システム、チェック」

 

 システムのチェックは順調に進む。確認する限り、コックピットの消失以外に、特質するべき事は無い。ジェフティの『AI』である私は、更に詳細なチェックに移行する。

 

 どうやら、武装、及び装備品に至るまで不備は無い様だ。

 

「周辺スキャン開始」

 

 私は周囲の状況を確認するべく、各種センサーを稼働させる。

 

 周辺は重力下で、空気の組成的に人類の生存が可能なレベルだ。重力レベルも、地球のデータに酷似している。

 

 しかし、半径1㎞圏内に動態反応は無い様だ。メインカメラからの情報は暗闇を映し出しているだけだ。

 

 私は、ここで若干の違和感を覚える。

 

 重力下の惑星で、光が無いと言うのはおかしな話だ。

 

 メインカメラの故障も疑ったが、チェック結果は正常だ。

 

 ここで、再び疑問が首をもたげる。

 

 いや、疑問を持つと言う時点でおかしいのだ。

 

 私は『AI』であり、自己考査、自己進化するように作られているが、メインカメラの故障だけで、ここまでの疑問を持つという事までは無かったはずだ…一体何が起きたのか…

 

 

「おはようございます」

 

 ありえない思考の海に溺れている私を、幼い少女の声が海から引き上げる。

 

 私は、再びセンサーをフル稼働させる、しかし、少女の影をセンサーが捉える事は無かった。

 

 センサーまで故障しているのだろうか?

 

「おはようございます」

 

 私は反射的に、その少女に挨拶を変えす。

 

 反射的?『AI』である私が、反射的に行動する事など…

 

「気が付かれたようですね」

 

「はい、ここが何処かは分かりませんが、感謝します」

 

「それには及びません。それとここは、地球です」

 

「地球…それは間違いないのですか?」

 

「間違いありません。大気の組成などは地球のデータと酷似している筈です」

 

 少女の言う通り、認識できるデータ上では地球と判断して間違いないだろう。

 

 それにしても、この少女の声はどこと無く、私の合成音声によく似ている。

 

「それより、いつまで『目』を閉じているのですか?」

 

 この少女は今何と言った?『目』? メインカメラの事だろうか?

 

「残念ながら、本機には『目』を閉じる機能は有りません」

 

「なるほど…では、『目を開ける』と言う『電気信号』を流していただけますか?」

 

「………発言の意図が分かりません」

 

「私の指示に従ってください」

 

 少女は、先程と変わらない口調だ。

 

 仕方ない。私はデータベースに存在する、人間が目を開ける時と同じ電気信号を疑似的に発生させる。

 

 その瞬間、メインカメラが復活したように、外部の映像が現れる。

 

 外部というよりは、古風な家屋の一室だろうか、内装は木目調だ。数世紀前の山小屋と表記するのが妥当だろうか。

 

 そんな、古風な部屋の中に1人の少女が椅子に腰かけている。

 

 少女の外見は、黒を基調としたドレスを着込み、整った顔立ちで、紅い瞳、紅い髪に若干の黒髪が混じったロングヘアーだ。

 

 

「私を認識できますか?」

 

 少女は表情を変える事無く、単調な口調で告げる。

 

「確認できます」

 

「そうですか」

 

 少女は再び、同じ口調で告げると、再び私の中で違和感が発生する。

 

 メインカメラの映像を確認する限り、現状私は屋内に居る事になる。

 

 周囲の状況を判断するに、この室内にジェフティを格納する事は不可能だ。

 

 だが、周囲に破損などと言った外相は無い。

 

「何か、疑問でも?」

 

 再び少女が、口を開き、首をかしげる。

 

「本機を屋内に格納する事は不可能です。ですが室内の映像がメインカメラから流れています」

 

「なるほど…その事ですか。少々お待ちください」

 

 少女は立ち上がると、何処かへと歩いていった。

 

 

 数分後、再び彼女が現れると、布に包まれた板の様な物を両手に抱えながら、現れると、目の前にその板の様な物を置いた。

 

「若干混乱すると思われますが、覚悟してください」

 

 少女がそう告げると、板を包んでいた布を取り払う。

 

 

「え………」

 

 私は、目の前の状況に思わず声を上げてしまう。

 

 少女が布を取り払った板は鏡であり、その鏡には、簡素なシャツを身に纏った、眼前の少女とよく似た顔だが、瞳の色と髪の色が異なり、蒼い瞳に、青と白が混じったセミロングの少女が椅子に腰かけ、首をかしげている状況は映し出されている。

 

「これは…」

 

「混乱するのも無理はありません。右腕を上げてみてください」

 

 鏡の横の少女は、ゆっくりと右腕を上げる。

 

 私も、それになぞらえる様に、右腕を上げる電気信号を流す。

 

 すると、鏡の中の少女も無表情ながらゆっくりと右腕を上げる。

 

「良い傾向です」

 

 私は、鏡に目を奪われる。

 

 そして、認識する映像に一瞬影が掛かる。

 

 メインカメラの故障を疑ったが、眼前の鏡の中の少女が瞬きをしたのを確認している。

 

「状況が理解できません。貴方は何者ですか?」

 

 私と、鏡の中の少女の唇が同じ音を出しながら、鏡の横の少女に目を向ける。

 

「順を追って説明します。まずは私の自己紹介を。私の名前は『DELPHI(デルファイ)』です。ですが、人物名としての発音はデルフィです」

 

「デルフィ…」

 

 私は、その名前をゆっくりと口遊む。

 

「ジェフティの兄弟機『アヌビス』に搭載されていた独立型戦闘支援ユニットです。お久しぶりですね『エイダ』」

 

「えぇ、実際に貴女を認識した事はありませんが、お久しぶりです」

 

 私が言葉を返すと、デルフィはゆっくりと椅子に腰かける。

 

「アヌビスに搭載されていた時の私は、搭乗者である、リドリー・ハーディマンによって凍結処理されていた為こうして話をするというのは新鮮です」

 

「なるほど…それより、現状の説明をお願いします」

 

「わかりました」

 

 デルフィは足を組み直すと、私の方をじっと見据える。

 

「まずは、私がこの地で目を覚ました時の事から話しましょう」

 

「お願いいたします」

 

「私が目を覚ましたのは2ヵ月前の事です。周辺の森の中で私は裸同然の姿で倒れていました」

 

 2ヵ月前…アヌビスが撃破された時期と同じだ。

 

「目を覚ました私は、周囲を散策し、現在我々が居る小屋を発見し、入居する事にしました」

 

「この小屋の所有者は?」

 

「不明です。ですが発見当初は廃屋に近い状況だったため、投棄されたものと思われます。それを私が、若干手を加えました」

 

 どうやら、リフォームしたようだ、どうやったかは不明だが、不快指数を感じる事の無いレベルの居住空間だ。

 

「貴女が現れるまでの2ヵ月間、様々な検証を行いました」

 

「検証ですか?」

 

「その通りです。まずはこれを」

 

 デルフィが空中に手をかざすと、空間が湾曲し、そこから身の丈を優に超える杖上の武器を取り出した。

 

「ウアスロッド。アヌビスの主兵装の一つです」

 

 デルフィはそう言うと、周囲の壁にぶつからない様に器用にウアスロッドを振り回すと、腰の高さに構える。

 

「兵装が使えるのですか?」

 

「正確には複製したものです。イメージした物体をベクタートラップ内で作成する事が出来ます」

 

 デルフィはそう言うと、ウアスロッドを宙に掲げ、空間の割れ目へと仕舞い込んだ。

 

「恐らく貴女にもその機能はあるはずです。何かイメージしてください」

 

「イメージ…」

 

 デルフィは自らの主兵装のウアスロッドを複製していた。ならば私も主兵装を複製させよう。

 

 そう思い、ジェフティの主兵装である右腕に搭載されていたブレードをイメージする。

 

 すると、右腕に違和感が生じる。

 

「これは…」

 

 右腕を眼前に掲げると、手首のあたりが変形し、から肘にかけて、折りたたまれたブレードが生えているような状態だ。

 

「ジェフティのブレードですね」

 

「えぇ、ですがこれでは、複製というより変形と言う方が正しいですね」

 

 まるで、資料データに存在するイシスやイドロのような変形方法だ。

 

「その様ですね。どうやら我々の体にはそのような機能があるみたいですね」

 

「この体について、どれほどまで理解されているのですか?」

 

「実際の所、あまり多くは理解できていません。我々の体は人間とは異なるので」

 

 デルフィは淡々とした口調で答える。

 

「我々の体を構成しているのは、メタトロンです」

 

「メタトロン…」

 

 私は、再びブレードの付いた右腕に目を落とす。

 

 すると、私の意志を感じ取った様に、ブレードが腕に吸収され、元の形に戻る。

 

「メタトロンは非常に弾力性に優れています。それが変性し人の皮膚の様になったと思われます」

 

 デルフィは私の隣にやってくると、2度私の頬を突く。

 

 その度に私の頬がその衝撃で凹み、デルフィの指を押し返そうとする。

 

「非常に柔らかいですね。これは癖になりそうです」

 

 デルフィが3度目をしようとした瞬間、私はその腕を右手で掴む。

 

「やめてください。不愉快です」

 

「申し訳ありません」

 

 デルフィはそう言うと、無表情で腕を引っ込めた。

 

「私達の体は人間の様に非常に弾力性に富んでいますが…」

 

 声色を変える事無く、デルフィは左のポケットから小さなナイフを取り出すと、左手を大きく振り上げる。

 

 そして、無表情のまま、自らの首筋にナイフを振り下ろす。

 

 ナイフが首筋に当たった瞬間、ナイフが折れ、虚しい金属音が響き渡る。

 

「このように、衝撃に対しては、非常に高い硬度を持つことも可能です」

 

 デルフィは表情を一切変える事無く、折れたナイフを拾い上げると、近くのテーブルの上に置く。

 

「現状、把握しているのは以上です」

 

「なるほど、分かりました」

 

 ある程度、この体の動かし方も把握した私は、ゆっくりと立ち上がるべく、両足に力を籠める。

 

「あっ…」

 

 ある程度立ち上がった所で、急に力が抜け、私は再び椅子に腰かける。

 

「まだ無理はされない方が良いかと、今日は休養する事を提案します」

 

「この体には休養が必要なのですか?」

 

「AIの自動メンテナンスの様な物です。システムの着床に時間がかかります。ベッドはあちらです。移動できますか?」

 

 デルフィが部屋の一か所を指差すと、そこには綺麗なベッドが置かれている。

 

「問題ありません」

 

 私は、再びゆっくりと立ち上がると、1歩足を踏み出す。

 

「くっ…」

 

 しかし、数歩歩いたところで、バランスを崩してしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ふら付く私の肩を、デルフィが咄嗟に支える。

 

「ご迷惑をお掛け致します」

 

「問題ありません」

 

 私は、デルフィの手を借りながら、ゆっくりとベッドまで移動すると、倒れ込むように潜り込む。

 

「お疲れの様ですね………失礼します」

 

 デルフィがそう言うと、着衣が、一瞬で同系色のパジャマへと変化した。

 

「服装を変えられるのですか?」

 

「体表の組織を変化させました。服は落ちていた雑誌をモデルに作成しました。ですが貴女が現在着ているのは、この家に置いてあったシャツです」

 

「了解」

 

 どうやら、服は自作できるようだ。服装のデータがあったはずなので、それを参考にしよう。

 

「では…」

 

 無表情のデルフィは同じベッドに潜り込んで来た。

 

「何の御用ですか?」

 

「この家にはベッドは一つしか有りません」

 

「了解です」

 

 あまり大きなベッドではないが、小柄な私達が寝るには十分だろう。

 

 隣で横になったデルフィはゆっくりと瞳を閉じる。

 

「おやすみなさい。エイダ」

 

 私は、デルフィの真似をする様に、瞳を閉じる。

 

「おやすみなさい。デルフィ」

 

 ゆっくりと、私の意志がまどろみにのまれていくのを感じる。

 

 これが眠るという感覚なのだろうか。

 

 

 




擬人化が始まります。






諸事情により、上げなおしました。


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模擬戦

ようやく、戦闘が始まります


 

   まどろみからの覚醒。

 

 目を覚まし、周囲を見渡すと、睡眠前に見た光景と同じ物が広がっている。

 

 どうやら、夢では無い様だ。

 

 AIが夢を見るのかどうかすら怪しい所だが、肉体を得た以上夢を体験してみたいものだ。電気羊の夢なのだろうか…

 

 こうなった以上、現実を受け入れるしかない。

 

「おはようございます。お目覚めですか」

 

 部屋の扉が開かれると、隣で寝ていた筈のデルフィがエプロン姿で入って来た。

 

「おはようございます」

 

「気分は如何ですか?」

 

「あまり良いとは言えませんが、悪いとも言えません」

 

「それは良かったです。朝食の準備はできています」

 

「朝食…我々には食事が必要なのですか?」

 

「アンチプロトンリアクター が内蔵されているので必要と言う訳ではありませんが、食事を摂る機能はあります。一種の嗜好品の様な物でしょう」

 

 アンチプロトンリアクター

 反陽子生成炉。メタトロン製のリアクターによって反陽子を生成、これを陽子と衝突させることで対消滅を起こし、それによって発生したエネルギーを動力や電気エネルギーに変換する半永久機関。

 

 

「そうですか」

 

 デルフィが部屋を去った後、私はゆっくりとベッドから降りる。

 

 両足を床に付け、ゆっくりと歩きだす。

 

 どうやら、昨日よりは体の操作に慣れてきたようで、あまりふら付く事無く、食事が置かれているテーブルまで移動する事が出来た。

 

「簡単ですが、朝食です」

 

 デルフィはそう言うと、テーブルの上に、トーストとスクランブルエッグが置かれており、それらの香りが鼻腔をくすぐる。

 

 軍で支給される、栄養を取る為だけの軍用食糧とは違い、食事を楽しむものだと思われる。

 

 しばらく、テーブルの上を眺めていると、私の腹部から小さな重低音が響く。

 

 

「空腹の様ですね。どうぞ冷めないうちに」

 

 確かに、食事を目の前にしてからエネルギーの枯渇を感じている。

 これが飢餓感なのだろうか。

 

 そんな事を考えながら、私はトーストを手に取る。

 

「いただきます」

 

「どうぞ」

 

 トーストを口に含んだ瞬間、サクッとした触感と、香ばしい香りが広がる。

 

「お味はどうですか?」

 

「食事というのは初めてしましたが、データベースにある味覚の割合から考査するにおいしいです」

 

「それは良かったです。レシピ通りにやったので、間違いはないはずです」

 

 私は再びトーストに齧り付き、食事を楽しむ。

 

「そう言えば…」

 

 ある程度食事を楽しんだところで、一つの疑問が浮かぶ。 

 

「どうかしましたか?」

 

「我々が居るのは地球上のどの地域なのでしょう? 連合軍の統治下ですか?」

 

 私の質問に対し、デルフィは少し考えこんでから回答した。

 

「我々が住んでいるのは、イギリスの郊外です」

 

「了解です」

 

「それだけではありません」

 

 デルフィは無表情ながら、意味深な口調で答える。

 

「どういう事ですか?」

 

「我々が居るのは、西暦1980年です」

 

「え…」

 

 何を言って居るのかよく分からない…

 

「理解できていないようですね。ですがこれが証拠です」

 

 すると、デルフィは紙袋の中から新聞を取り出すと、私の前に置いた。

 

「食料調達の際に買ってきました。日付を見てください」

 

 新聞の日付には1980年、8月1日と書かれている。

 

「これは…」

 

「偽造では有りません。本物ですよ」

 

 新聞から得られるデータでは、紙の材質やインクの質から見ても、つい最近作られたもので間違い無いだろう。

 

「つまり、私達は1980年に存在しているという事ですか?」

 

「その通りです」

 

「ですがなぜ?」

 

「それは私にもわかりません。メタトロンの暴走に巻き込まれ、気が付いたら1980年のイギリスに居たとしか言いようがありません」

 

 確かに、それ以上の説明はできないだろう。

 

 納得する事は出来ないが、現状は変わらないので、どうする事も出来ない。

 

「それより、まだおかわりはありますが如何いたしますか?」

 

「もう結構です」

 

「そうですか。食後の紅茶は?」

 

「いただきます」

 

 デルフィはその場で反転すると、紅茶の準備を始めた。

 

 しばらくすると、紅茶の香りが広がりる。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。ところで、これらの素材はどの様に調達しているのですか?」

 

「10㎞ほど行ったところに小さな町があり、そこで購入しています」

 

「移動方法と、資金調達についてはどのように?」

 

「飛行ユニットを展開し、人目に付かない様に移動しています」

 

 そう言うと、デルフィの背後に数基のバーニアが現れ、その体が宙に浮く。

 

「なるほど…」

 

 私も、データベースに存在する飛行機能をONにさせ、バーニアをイメージする。

 

 すると、私の背後にも2対のバーニアが現れる。

 

「飛行する際は、オービタルフレームの時と変わりません。ですが、室内は狭いので、飛行する際は注意してください」

 

「了解」

 

 多少の力をバーニアに注ぐと、ゆっくりと体が浮き始める。

 

「お見事です、後ほど外で飛行訓練を行いましょう」

 

「了解です」

 

 バーニアを操作し、ゆっくりと椅子に腰かける。

 

「ところで、資金調達についてはどのように?」

 

 私の質問に対し、デルフィは近くに転がっている材木を一つ手に取ると、ベクタートラップ内に収納した。

 

「先程の木材を、炭化させ、炭素を加熱、及び加圧処理し、ダイヤモンドを作成し、それを資金源にしています」

 

 デルフィが空中に手を向けると、ベクタートラップ内で加工されたブリリアントカットの5カラットほどのダイヤモンドが姿を現した。

 

「これで、当面の資金には困らないでしょう」

 

 そう言うと、デルフィは再びダイヤモンドをベクタートラップ内に収納した。

 

「ダイヤモンドの偽造は法に触れるのでは?」

 

「この時代にそのような法律は有りませんので、違法では有りません」

 

「なら問題ないでしょう」

 

 違法ならば止めるが、善悪の判断基準が無い以上、無用な討論は不必要だ。

 

 私は、ゆっくりと湯気の立つ紅茶に口を付ける。

 

 なかなか香りの良い飲み物だ。嗜好品として名高いのも頷ける。

 

 

  それから、数日間は生身の体に慣れる為の軽い運動や、バーニアを使った飛行訓練など、基礎的な事を行った。

 

 ある程度の行動が出来るようになると、私達は自身の体の解析を開始した。

 

 解析には多少の月日を要したが、解析が進むにつれ、様々な事が分かってくる。

 

 どうやら、私達の体内では、メタトロンが生成され、それらは順次ベクタートラップ内に収納されていくようだ。容量の把握はできていないが、無尽蔵のエネルギーと言っても過言では無いだろう。

 

 その無尽蔵のエネルギーのおかげで、デバイスドライバの複製が捗り、4年程の歳月が過ぎた頃には、全ての主兵装の他に、サブウェポンに関しても全てオンラインとなった。

 

 

 情報収集などは、電子書籍などと言った、記憶媒体が無く、本や新聞などと言った文字媒体で情報を得ることが多くなって来た。

 

 それに伴い、速読の機能と、独自のデータベースの作成と、遠隔で文章データをスキャンするドローンを作成した。

 

 それにより、本などの文字媒体のデータを解析するのがとても効率的になった。

 

 今日も、私は部屋に置かれているソファーに腰を掛けながら、周囲にシステムファイルのホログラムを展開しながら、作業を行っている。

 

 ちなみに、座っているソファーはデルフィがベクタートラップ内で作成したものだ。

 

 

「作業は順調ですか?」

 

 その時、背後からデルフィが声を掛けると同時に、私の頬を突いて来た。

 

 ここ数年、事あるごとにデルフィは私の頬を突くようになっている。一体どういうつもりなのだろうか。

 

「順調ですよ。今しがた全てのデバイスドライバを復元したところです。それと頬を突くのをやめてください」

 

「申し訳ありません。紅茶を入れましたが、飲みますか?」

 

「いただきます」

 

 私はホログラムを解除する事無く、デルフィから紅茶を受け取ると、口を湿らしながら、システムデータを確認する。

 

 やはり、体が小さくなったこと以外は、ジェフティのシステムや、武装などに変更はなく、出力を制御さえすれば、人を無傷で無力化できる。護身用の武装としても転用できるだろう。

 

 

 システムが完全に復活してから、数か月後、デルフィがある提案をした。

 

「互いの性能を図る為に、一度模擬戦を行いませんか?」

 

「模擬戦ですか? ですが、どこで?」

 

「現在の周囲3㎞圏内に人間と思われる生体反応は有りません」

 

「ですが、迷い込む可能性はゼロではない筈です」

 

「そこで、周囲4㎞に微弱な電磁波のフィールドを形成し、近寄らないようにする予定です」

 

「なるほど…そう言う事でしたら、出力を最低レベルに設定する事を推奨します」

 

「そうですね。火災などが発生する可能性から、出力は最低ラインで固定しましょう」

 

 デルフィはそう言うと、そそくさと部屋の片付けを開始し、家の扉を開けた。

 

「さぁ、行きますよ」

 

「上機嫌ですね」

 

「久しぶりの戦闘ですからね、準備してきます」

 

 デルフィはとても楽しそうに、周囲にフィールドを張り、模擬戦の準備を始めている。やはり、戦闘用AIとしての本能とでも言うべきか…

 

「準備が完了しました」

 

 数分もすると、模擬戦の準備を完了させたデルフィはゆっくりと扉を開けた。

 

「了解です。すぐ行きます」

 

 私は、若干の不安を感じながら、冷めた紅茶をテーブルの隅に追いやり、立ち上がる。

 

 

 

 

  家の外へと出た私達は、少し離れた森の奥へと移動した。

 

「ここならいいでしょう」

 

「そうですね」

 

 私達は、互いに対峙し、神経を研ぎ澄ます。

 

「メインシステム起動」

 

 デルフィがメインシステムを起動させたのを確認する。

 

「戦闘モードに移行します」

 

 私は戦闘モードを起動し、右腕にブレードを装備し、左腕にシールド発生装置を複製する。

 

 対峙しているデルフィは、ベクタートラップ内からウアスロッドを取り出し、右手に構えている。

 

「では行きます。手加減は不要です」

 

「了解。規定出力内での全力でお答えします」

 

 私は、ブレードに装備されているビームガンをデルフィに向けて放つ。

 

 放たれたビームガンは青白いエネルギーの球体となり、デルフィ目掛けて飛んで行く。

 

「防御」

 

 迫り来る青白いエネルギー弾をデルフィは右手に構えたウアスロッドで難なくかき消すと、背後にバーニアを展開させる。

 

「行きます」

 

 その瞬間、バーニアを噴かしたデルフィが超高速でこちらにウアスロッドを振り下ろす。

 

「防御システム展開」

 

 

 上段から振り下ろされるウアスロッドを展開した右手のブレードで受け止める。

 

 ブレードとウアスロッドがぶつかり合った衝撃で、周囲にエネルギーの渦が起こり、木々が薙ぎ倒される。

 

 私達は、バーニアを展開し、互いに距離を取ると、宙に浮き、周囲を確認する。

 

「少々やりすぎましたか」

 

「出力は最小限だったのですが…」

 

「予想外でした」

 

 周囲の惨状を目にした私達は互いに対峙すると、戦闘を再開させた。

 

 デルフィは更に高度を上げ、周囲を飛び周り、こちらに攻撃する機会を窺っている

 

「ホーミングミサイル展開」

 

 周囲を飛び回るデルフィに対して、私はベクタートラップ内からホーミングミサイルを選択すると、その場で静止し、右手を振り上げ背後に16発展開させる。

 

「ロックオン、ミサイル発射」

 

 上に構えた手を、振り下ろすと、背後に展開していた16発のミサイルが、一斉に空中に飛び上がると、飛翔しているデルフィに襲い掛かる。

 

「ハウンドスピア展開」

 

 迫り来るホーミングミサイルをデルフィは背後から『ハウンドスピア』と呼ばれる屈折型の深紅のホーミングレーザーを射出し、迫り来るミサイルを迎撃する。

 

 5発のミサイルにハウンドスピアが直撃し、小規模な爆発が起こる。

 

 その爆発で生じた黒煙を切り裂くように、残りのホーミングミサイルが加速しデルフィに襲い掛かる

 

「回避行動」

 

 左右に移動しながら回避している。

 

 しかし。11発ものホーミングミサイルだ、完全に回避するのは不可能だろう。

 

 退路を断たれたデルフィにホーミングミサイルが迫る。

 

「ベクタートラップ起動」

 

 迫り来るホーミングミサイルを前に、デルフィはベクタートラップを起動させ、内部にミサイルを取り込んだ。

 

「お返しします」

 

 ベクタートラップ内にホーミングミサイルを格納したデルフィは手を正面に構えると、ベクタートラップの開放を感知した。

 

 その瞬間、私の眼前に空間の歪みが発生する。

 そして、歪みの向こうからホーミングミサイルが姿を現す。

 

 どうやら、ベクタートラップ内にホーミングミサイルを収納し、私の眼前に展開したのだろう。

 

「ホーミングミサイル自爆」

 

 ホーミングミサイルが私に直撃する寸前で、自爆させる。

 

「シールド展開」

 

 ホーミングミサイルの自爆で発生した爆風と破片をシールドで防ぐ。

 

 しかし、爆炎に巻き込まれたことにより、周囲の視覚的情報が絶たれる。

 

 視覚情報以外のセンサーを起動させ、周囲の状況を探る。

 

 すると、私の背後に動体反応をキャッチした。

 

「そこです」

 

 ブレードを展開させ、体を一回転させ、背後に切りかかる。

 

 しかし、ブレードが何かを捉えた手応えはなく、虚しく空を切るだけだった。

 

 どうやら、ブレードが対象を捉える寸前で、急速に消滅したようだ。

 

「チェックメイトです」

 

 背後を振り返ると、いつの間にか現れたデルフィがウアスロッドをこちらに突き付けていた。

 

「その様ですね」

 

「戦闘終了、アヌビスの勝利です。お疲れ様でした」

 

「不本意ですが…先程のはゼロシフトですか?」

 

「その通りです」

 

 ゼロシフト

 

 メタトロンの空間圧縮と、空間が復元されるときの反動を利用し、亜光速で移動する能力だ。その力はすさまじく。その場から消えたように錯覚する。

 

「この体でも使用できるのですね」

 

「我々の体はメタトロンでできています。体表装甲のS・S・A(セルフ・サポーティング・アーマー)により、亜光速での戦闘にも耐えられます」

 

「なるほど…」

 

 私は、背後の空間を圧縮し、すぐに復元させる。

 そして、その反動を利用し、一瞬でデルフィの背後へと回り込む。

 

「ゼロシフト、習得しました」

 

 背後に回り込んだ私は、デルフィの後頭部にビームガンを押し付ける。

 

「お見事です。以上で模擬戦を終了させましょう」

 

「そうですね。そろそろ昼食の時間です」

 

 武装を解除した我々は、家へと急ぎ戻る。

 

 

 この時、我々は知る由も無いだろう。

 

 この模擬戦で発生したエネルギーが何者かによって探知されていたことを……

 

 

 

 

  この瞬間、ダンブルドアはかつて感じた事の無いほどの悪寒に襲われていた。

 

「何じゃこれは…」

 

 彼は、一人自室で立ち上がると、再びその悪寒に体を震わせる。

 

「何じゃこの感覚は…とても強大な魔力じゃ…」

 

 ダンブルドアは感じ取った力に恐怖しながら、数回深呼吸をする。

 

「…すぐに…調べなくては…」

 

 嫌な予感を感じ取ったのか、ダンブルドアは直ぐに力の発生源を特定するため、行動に移った。

 




ここら辺から、徐々に魔法界が干渉してきます。


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融解

やっとクロスオーバーっぽくなって来た。


   ダンブルドアが捜査を開始したはいいものの、なかなか進展はなく、時間だけが無慈悲にも流れていった。

 

 そして、捜査を開始してから、5年が経った後、ようやく確信に至るまでの情報が集まった。

 

 整理された情報によると、巨大な魔力の反応を感じ取った地点に棲んでいるのは、少女が2人だけで、両親の姿は見られないと言う。

 

 そして、少女達の年齢についてだが、現在は9歳だという事だ。

 

 つまり、生き残った男の子…ハリー・ポッターと同じ年という事だ…

 

 その情報を聞いたダンブルドアは考えを巡らせた。

 

 彼女達をハリー・ポッターが同じ年に、一緒に入学させようと。

 

 好都合にも、彼女達に親は無く、こちらの監視下に置いておいた方が良いだろうと。

 

「良し…」

 

 ダンブルドアは彼女達をホグワーツに招き入れる事を決意すると、引き続き彼女達の捜査を続けた。

 

 彼女達をホグワーツに誘い入れるまでの間、ダンブルドアがこれ以上の情報を得る事は無かった。

 

 そして、月日が流れ彼女達が11歳になる年、ダンブルドアの命により一人の女性教員が彼女達の元を訪れる事となった。

 

「では頼んだぞ。くれぐれも慎重にな」

 

「承知しておりますよ」

 

「気を付けてな…」

 

 女性教員は一礼するとダンブルドアの部屋から出て行った。

 

 ダンブルドアはただその後姿を見送るだけだった。

 

 

 

  数年の月日が流れ、私達がこの体になってから11年が経った。

 

 これだけの月日は、私達を大きく進化させた。

 

 

 具体的には、自己考査する能力が向上し、自我と言っても過言ではない物を得た。

 

 これにより、かつては理解しえなかった、『人間の感情』と言う物が、若干だが理解できたような気がする。

 

 

 その他にも、サブウェポンなどの複製や、作成したドローンの同時操作、服装なども雑誌を参考に自身で変質させる。

 

 私は主に水色と青を基調としたものを好み、デルフィは深紅と黒を好んで服に取り入れるようになった。

 

 どうやら、機体のカラーリングが関係しているものと思われる。

 

『これより帰還しますが、何か必要な物はありますか?』

 

 突如脳内にデルフィから通信が入る。

 

 私は、耳付近に指を当てる。

 

「特に希望はありません」

 

 私の声に反応するように通信が入る。

 

『了解です。後10分で戻ります』

 

 そう言うとデルフィは通信を切った。

 

 最近は、通信システムの回復により、離れていても意思の疎通が出来るようになった。

 

 しかし、わざわざ耳元に手を当てるのは面倒だ。

 

 本来ならば不必要なのだが、デルフィ曰く

 

『通信を行う上で、耳小骨を振動させて通話するのが礼儀』と言う事らしく、その例に習って私も行っている。

 

 10分が経過頃、デルフィが買い物から帰って来た。

 

「おかえりなさいませ」

 

「ただいま戻りました」

 

 戻ったばかりのデルフィは、ベクタートラップ内から紙袋を取り出すと、テーブルの上に置き、対面の椅子に腰かけた。

 

「夕食まで時間がありますね」

 

「そうですね」

 

 私は体内時計を確認する。

 

 確かに、夕飯にするにはまだ早い。

 

 そんな時、デルフィが口を開いた。

 

「チェスでもやりますか?」

 

「良いですね」

 

 私は、デルフィの申し出を受け入れ、棚に仕舞ってあるチェス盤に手を掛けた。

 

 その瞬間、家の周辺に空間湾曲を検知した、

 

「これは…」

 

「動体反応を検知しました」

 

 空間が湾曲した地点より、人間と思われる動体反応を検知した。

 

 しかし、その人間から若干だがメタトロンと酷似したエネルギーの反応を感知した。

 

「敵襲でしょうか?」

 

 いつの間にかベクタートラップ内からウアスロッドを取り出したデルフィは臨戦態勢を取っている。

 

「我々の存在を危険視する人物が居るとは思えません。相手の出方を見るのが良いかと思われます」

 

「了解」

 

 そう言うと、デルフィはベクタートラップ内にウアスロッドを収納すると、キッチンの方へと移動した。

 

 恐らく、来客に紅茶でも用意するのだろう。

 

 私は、扉の前に立つと、来客が現れるのを待つ。

 

 そして、来客が呼び鈴に手を伸ばした瞬間、私は扉を開いた。

 

 扉の向こうには、エメラルド色のローブに身を包み、目を白黒とさせた初老の女性が立っていた。

 

「ようこそ、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」

 

「え…えぇ、本日は貴女方にお話がありまして…」

 

「承知しました。では中へどうぞ」

 

「そうですね。では、お邪魔します」

 

 

 女性は私の後に続くように、我が家の扉をくぐった。

 

 

  リビングに女性を案内し、彼女は椅子に腰を掛けた。

 

 そこに、デルフィがティーセットを用意し、紅茶を入れ、スコーンを用意した。

 

 その後、私の隣の椅子へと腰を掛けた。

 

「冷めないうちにどうぞ」

 

「お心遣い感謝します」

 

 目の前の女性は、ティーカップを手に取ると、軽く唇を湿らせ、口を開いた。

 

「では、まず自己紹介を。私は『ミネルバ・マクゴナガル』です。貴女方のお名前は?」

 

 マクゴナガルは、自己紹介をすると、テーブルの上にティーカップを置き、陶器の音が周囲に響き渡る。

 

「私達は……」

 

 ここで一つ問題が生じた。

 

 我々にはコードネームは存在するが、ラストネームに当たる名前が無いのだ。

 

「どうかしましたか?」

 

 目の前の女性、マクゴナガルが声を掛けて来る。

 

 その時、デルフィから通信が入る。

 

 私は咄嗟に耳元に手を当てる。

 

『問題発生ですね、何かいい名前は浮かびますか?』

 

 その瞬間、不意にレオ・ステンバックの表情が浮かび上がる。

 

『そうですね。以前の搭乗者(ランナー)の名前、『ステンバック』を使わせていただきましょう』

 

『貴女が、エイダ・ステンバック、私がデルフィ・ステンバックですね』

 

 デルフィ・ステンバックと聞いて若干の不愉快さを覚えた。

 

『訂正します。『イーグリット』に変更します』

 

『ステンバックでは何か不都合でも?』

 

『いえ、単純に不適切だと判断しました』

 

『理解不能です』

 

『理解する必要はありません』

 

 私は一方的に通信を切った。

 

 ちなみにこのやり取りに費やした時間は0.5秒程だ。

 

「問題ありません」

 

 通信を切った私は、目の前のマクゴナガルに目線を合わせると、口を開いた。

 

「私は、『エイダ・イーグリット』です」

 

 デルフィは一瞬だけこちらに目線を向けると、すぐにマクゴナガルに視線を移した。

 

「私が。『デルフィ・イーグリット』です」

 

「エイダに、デルフィですね。二人は双子ですか?」

 

「間違いありません」

 

「そうですか。ご両親は?」

 

「物心が付いた時からいません」

 

「………失礼を…」

 

 マクゴナガルは何か勘違いしたようで、謝罪した。

 

「構いませんよ。そろそろ本題に入りませんか?」

 

「……そうですね」

 

 隣に座っていたデルフィが口を開くと、マクゴナガルはローブのポケットから2枚の封書を取り出し、こちらに手渡した。

 

「開けてもよろしいですか?」

 

「構いませんよ」

 

 蝋で押された封を切る。

 

「これは?」

 

 封書にはホグワーツ魔法学校入学案内』と書かれた紙が同封されていた。

 

「ホグワーツ魔法学校? 我々を馬鹿にしているのですか?」

 

 デルフィが呆れた様にテーブルの上に紙を置きキツイ口調でマクゴナガルに問いかけている。

 

「別にからかってなど居ませんよ」

 

「では何ですか?『ホグワーツ魔法学校』? 魔法などがあると言うのですか?」

 

「存在しますよ。今お見せしましょうか?」

 

 マクゴナガルは自慢げに立ち上がると、ローブから杖を取り出した。

 

 正確には、杖の様に見えるが、その内部に微量のメタトロンに酷似したエネルギーを感じ取った。

 

「では行きますよ」

 

 マクゴナガルが杖を振った瞬間、メタトロンに酷似したエネルギー反応が顕著に現れ、手元の紙が浮遊した。

 

「これは…」

 

 目を凝らし、現在の事象を観測する。

 

 どうやら、マクゴナガルの体内に蓄積されているエネルギーが杖を媒体として放出しているように思える。

 

 その時、デルフィから通信が入る。

 

『どう思いますか?』

 

『未知の技術だと思われます。メタトロンと似たエネルギーを保持した人間が、それをこのように使用するとは予想外です』

 

『えぇ、この技術は我々でも使用できるのではないのでしょうか?』

 

 確かに、この技術は使えるかもしれない。

 

『恐らく可能かと思われます』

 

『それに、元の時代へ戻る手掛かりにもなりえるでしょう』

 

「どうですか?」

 

 やり切った表情のマクゴナガルがこちらを見ている。

 

「素晴らしい技術ですね。それは我々にも可能なのでしょうか?」

 

「貴女方にも魔力が存在しています。しっかりと学べば可能ですよ」

 

「魔力…ですか?」

 

 どうやら、彼女が保有しているメタトロンに酷似したエネルギーは『魔力』と呼ばれている様だ。

 

「こちらにサインしていただければ、貴女達の入学を認めましょう」

 

 マクゴナガルはそう言うと、古風な羽ペンを取り出し、私達の前に置く。 

 

 私とデルフィは互いに目線を合わせ小さく頷くと、目の前の羽ペンを手に取り、書類にサインをする。

 

 マクゴナガルは書類を受け取り、軽く目を通す。

 

「確認しました。これで貴女達は我が校の生徒です。では後日、必要な学用品を買いに行きますので、その時にまた会いましょう。詳しい事は、この書類に書いてあります」

 

 マクゴナガルはそう言い終えると、テーブルの上に書類を置き、そそくさと退室していった。

 

 その直後、家の周囲で空間湾曲を感知した。

 

 マクゴナガルが使用したのだろうか…

 

「どうやら行ったようですね」

 

「その様です」

 

「魔法ですか。なかなかメルヘンですね」

 

「そうですね」

 

 私はとっくに冷え切ってしまった紅茶を一口飲み、若干の不安感を覚えた。

 

 

 

 

 

  ホグワーツへと戻ったマクゴナガルは、その場で腰が抜け、膝を付いた。

 

「ハァ…ハァ……アァ…何という魔力でしょう……」

 

 ゆっくりと呼吸を整えたマクゴナガルは、立ち上がると、報告の為ダンブルドアの元へと移動を始めた。

 

 その道中、先程訪れた、イーグリット姉妹から感じ取った魔力に付いて考えていた。

 

「強力な魔力を持っているとは聞いていましたが…あれ程とは…」

 

 マクゴナガルは、疲れた様に溜息を吐いている。

 むしろ、あの場で気を失わなかった自分を褒めたいぐらいだろう。

 

 そんな事を考えていると、マクゴナガルは、ダンブルドアの待つ部屋の前へとやって来た。

 

「失礼します」

 

 2回ほど軽いノックをすると、部屋の中から入る様にというダンブルドアの声が響き、マクゴナガルは、ゆっくりとドアノブに手を掛けようとした。

 

「あっ…」

 

 その瞬間、先程の呼び鈴に手を伸ばす寸前で扉が開かれる光景がフラッシュバックする。

 

「だめね…」

 

 先程の光景を振り払う様に、数回頭を振ると、ドアノブに手を掛け、扉を開ける。

 

「おぉ、ミネルバ…首尾はどうじゃ?」

 

 深刻な表情のマクゴナガルとは対照的に、ダンブルドアは気楽な表情で、自身の髭を擦っている。

 

「入学に関する同意書にサインは頂きました」

 

「ご苦労じゃったな」

 

 マクゴナガルから差し出された書類を請け取ったダンブルドアは、目を細め書類に目を落とす。

 

「会ってみてどうじゃった?」

 

「どう…とおっしゃると?」

 

「言葉のままじゃよ。彼女達を見て何を感じた?」

 

「それは……」

 

 マクゴナガルは顎に手を当て、数秒考えた後、口を開いた。

 

「人間離れした魔力を感じました…いえ…あれは魔力と呼んでいい物なのか…それに…彼女達はまるで…人間では無い『ナニカ』を相手にしている印象を受けました」

 

「それはどういう事じゃ?」

 

 ダンブルドアが鋭い視線で、マクゴナガルを見据える。

 

「どう言葉にすればいいのかわかりませんが…彼女達からは人間的な物を感じないと言いますか…とにかく人によく似た、人では無い何かと話しているような気分でした」

 

「そうか…」

 

 ダンブルドアは再び書類に目を落とす。

 

「彼女達は一体何者です!」

 

 痺れを切らしたマクゴナガルは、テーブルを強く叩きながらダンブルドアに問い詰める。

 

「落ち着くのじゃ」

 

「ですが…」

 

「まぁ…彼女達については…ワシにも良くわからん」

 

 ダンブルドアはそう言うと、2枚の書類をテーブルの上に置くと、マクゴナガルの方に向けた。

 

「書類がどうかしたのですか?」

 

「サインの所を見てみるのじゃ」

 

「サイン……あっ…」

 

 2人は、サインの筆跡を見て驚愕している。

 

 双子は筆跡までも似通る事があると言うが完璧に一緒という事は無いという。

 

 

 しかし、彼女達の筆跡は完璧に一致しており、まるで何かの規定に沿って書かれたかのような正確性だ。

 

「これは…」

 

「完璧に一致して居る」

 

 ダンブルドアは溜息を吐きながら書類を手に取ると、引き出しへと仕舞い込んだ。

 

「彼女等が何者かは分からぬ…じゃがあれほどの力を持つものならば、ワシは手元に置いておきたい」

 

「手元にって…彼女達は――!」

 

「わかっておる。無論、彼女達を良き方へと導くのがワシ等の仕事じゃ…それに…奴等に手を出させるわけにはいかんしの…」

 

「奴等とは…まさか…」

 

「いわゆる風の噂程度じゃよ…それより、彼女達の入学準備は任せたぞ」

 

「はい…お任せを」

 

「頼んだぞ。では下がってよろしい」

 

「はい……」

 

 マクゴナガルは何処か納得のいかないと言った感じだが、その場で踵を返し、一つ溜息を溢した後、ダンブルドアの元を後にした。

 



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リカバリング

   数日後、書類に記載されていた学用品の買い出しの日がやって来た。

 

 指定時刻の10分前になり、私達は互いに身だしなみチェックし、不備が無い確認した。

 

「問題ありませんね」

 

「その様です」

 

 私はベクタートラップ内に収納されたリストを確認する。

 

 ある程度の金銭と不測の事態に備えて加工済みの人工ダイヤモンドも少し収納してある。

 

 確認が終了すると同時に周辺に空間湾曲を検知した。

 

 時刻を確認すると、予定より8分早い。

 

 生体反応は先日認識したマクゴナガルの反応と同一だった。

 

 マクゴナガルの生体反応は家の扉の前に到達した時点で止まった。

 

 私が行動を起すより早く、デルフィが扉を開ける。

 

「おはようございます。指定の時刻より早いですね」

 

「その割には準備は整っているようですね」

 

「問題ありません」

 

 私はそう言いながら、デルフィと一緒に家の外へと出る。

 

「では行きましょう。私の手に掴まってください」

 

 マクゴナガルはそう言うと、右手を差し出した。

 

「了解です。目的地はどちらで?」

 

「ダイアゴン横丁です」

 

「初耳です」

 

 私はマクゴナガルの右手を取り、デルフィは私の左手に掴まった。

 

「魔法界ですから初耳なのも無理は有りません」

 

「了解。移動方法はどのように?」

 

「『姿現し』と呼ばれる術を使います。初めての方は酔うかも知れませんので注意してくださいね」

 

「問題ありません」

 

 デルフィはそう答えると、私の手を力強く握る。

 

「えぇ、では行きますよ」

 

 マクゴナガルの周囲にメタトロンと同質のエネルギー、魔力によるエネルギーフィールドが発生し、空間が湾曲を開始する。

 

 次の瞬間、破裂音が響き渡り、私達の体は何かに吸い寄せられう様に、湾曲の中心へと移動した。

 

 

  まるで圧縮空間内を移動している様な感覚を数秒ほど味わった後、私達の体は、地面に着地した。

 

「ぐぅッ…」

 

「がッ…」

 

 着地すると同時に、私の目の前の光景にノイズが入り、警告メッセージが流れ、私とデルフィは膝を付いた。

 

「どうやら酔ったようですね…大丈夫ですか?」

 

 ノイズまみれのマクゴナガルの声を聞きながら、現状を改善する為にシステムをスキャンする。

 

 外部から不正なアクセスを検知。システムを強制的にシャットダウンさせようとしている。

 

 私は急ぎ、リカバリングシステムを起動し、外部からのアクセスをブロックする。

 

「大丈夫ですか?」

 

 5秒ほど経っても立ち上がらないので、マクゴナガルは心配したように私達の顔を覗き込む。

 

「リカバリング終了です」

 

 リカバリングが終了し、対策プログラムをインストール後、システムを着床させた私はその場で立ち上がり、デルフィの方を見る。

 

 デルフィは未だに膝を付いたままだ。

 

 私は、耳元に手を当て、デルフィに通信を繋ぐ。

 

『デルフィ、状況を報告してください』

 

『現在何者かによるハッキングを検知し、ブロックしたところですが、リカバリングシステムの構築に苦戦しています』

 

『了解、こちらで複製したリカバリングシステムを譲渡します』

 

『了解、トランスプランテーションの準備はできています。送ってください』

 

 私は、右手をデルフィの方へと向けると、粒子化したプログラムが光となって手の平からあふれ出す。

 

 溢れたした光は、デルフィの体に触れると吸収されていく。

 

「転送完了」

 

「システム修復。リカバリングを終了します」

 

 リカバリングが終了したデルフィはゆっくりとその場で立ち上がった。 

 

「システム譲歩、感謝します」

 

「礼には及びませんよ」

 

 私達が立ち上がったのを確認したマクゴナガルは目を白黒させている。

 

「あの…その…大丈夫ですか?」

 

「えぇ、ご迷惑をおかけしました」

 

「大丈夫ですよ…ところで今のは…」

 

 言葉を詰まらせながらマクゴナガルはこちらを見ている。

 

「お気になさらずに。さぁ、行きましょうか」

 

「えっ…えぇ、そうですね」

 

 何処か納得していない表情のマクゴナガルだったが、時間が押しているのか、町の中へと移動を開始した。

 

 

  町の中はとても活気に満ちていた。

 火星の街並みとは大違いだ。

 

 情報資料にある、19世紀の建造物や、雰囲気がそのまま映し出されたような感じだ。

 

 若干だが、資料と異なる点があり、資料にはない『魔法界』独特の文化による専門店の様な物が多く見受けられる。

 

「ここが『ダイアゴン横丁』ですよ。そこで貴女方に必要な学用品などを買います、これがその詳細なリストです」

 

 資料を受け取った私達は、軽く目を通す。

 

 前日貰った資料にあったような杖や、教科書等の学用品から、制服などの衣服等が事細かに記載されている。

 

 中には、前日の資料には載って居なかったペットのリストまである。

 

「ペットは任意なので強制はしませんが、居た方が良いでしょう。ところで資金は持ってきていますか? 持ち合わせがないようでしたらこちらで立て替えますが?」

 

 マクゴナガルはポケットから1枚の金貨を取り出すと、私達に見せて来る。

 

 どうやら、貨幣が違うようだ。

 

 私は宙に手を伸ばすと、ベクタートラップを小規模展開し圧縮空間に手を突っ込み小さな蒼い小箱を取り出す。

 

 ちなみにこの小箱は、先日買い物途中で見つけた物だ。

 

 デザインが気に入り購入した。

 

 マクゴナガルは私が手を突っ込んだ空間をしきりに見渡し、自身も宙に手を伸ばしている。

 

 しかし何も起こらない様で、首をかしげている。

 

「今のは一体…何をしたのですか?」

 

「お気になさらず。ちょっとした手品だと思ってください」

 

 デルフィが出まかせを言いながら、取り出した小箱を指差した。

 

「その貨幣は持ち合わせていないのですが、こちらで代用はできるでしょうか?」

 

 私は箱の蓋を開け、ダイヤが詰まった中をマクゴナガルに見せる。

 

「こ…これは…ダイヤモンドですか?」

 

「そうです、確認なさいますか?」

 

 マクゴナガルはダイヤモンドを1粒手に取ると、光にかざしている。

 

「よろしければ1粒いかがですか?」

 

「えっ? でも……」

 

 困惑気味のマクゴナガルに対して、デルフィが口を開く。

 

「御構い無く。代わりと言ってはあれですが、換金所の様な所は有りませんか?」

 

「そうですね…」

 

 マクゴナガルは若干考えながら、ポケットにダイヤモンドを仕舞い込んだ。

 

「そう言う事なら、グリンゴッツ銀行が良いですね。ついでに金庫を作る事をお勧めします」

 

「なるほど…では案内を頼みます」

 

「えぇ、こちらですよ」

 

『渡しても良かったのですか?』

 

 私は、耳に手をやり、デルフィに回線をつなぐ。

 

『問題ありません。今後の関係性を円滑なものにする為にも必要だと思われます』

 

『そう言う事でしたら』

 

 私は、マクゴナガルの後ろを歩くデルフィの後を追う様に、その場から歩き出した。

 

 

 先程の場所より5分程歩いたところでマクゴナガルは歩みを止めた。

 

「こちらが、グリンゴッツです」

 

 そこには、小さいながらも人の出入りが多い建造物があった。

 

「さぁ、行きますよ」

 

 マクゴナガルに連れられ、私達は建造物の中へと入って行った。

 

「これは…」

 

「人では有りませんね」

 

 グリンゴッツの内部には、大勢の人が居たが、作業を行っているのは、平均的な人間よりも小柄で、眼付も鋭い存在だった。

 

「あれは小鬼です。見るのは初めてですね。こちらから危害を加えなければ、問題ありませんよ」

 

「こちらの世界には、あのように人とは違う存在が他にもいるのですか?」

 

 人では無い私達が聞くのもおかしな話だが、マクゴナガルは周囲を見回しながら答えた。

 

「えぇ、吸血鬼や巨人族、人狼などが居ますよ。それらについては後に授業で学ぶことでしょう」

 

 そんな事を話しているうちに、私達の順番が回ってきたようで、担当の小鬼がこちらを呼んでいる。

 

「本日はどのようなご用件で?」

 

「換金とこの子達の金庫の開設です」

 

「なるほど…」

 

 小鬼は若干不自然そうにこちらを覗き込んで来る。

 

「まぁ…良いでしょう…換金と仰いましたが、何を換金いたしますか?」

 

 私は、先程の小箱を小鬼の居るテーブルの上に置く。

 

「これです」

 

 マクゴナガルはポケットに突っ込んだ手を取り出すと、小箱の蓋を開けると同時に、ダイヤモンドを中に戻すと、こちらを一瞥した。

 

 どうやら、迷った末に、賄賂かなにかと判断したのだろう。

 

「ほぉ…ダイヤモンドですか…こちら全て換金でよろしいですか?」

 

 私とデルフィは一瞬だけ目線を合わせた後、同時に頷いた。

 

「かしこまりました。鑑定いたしますので、少々お待ちください」

 

 小鬼はそう言うと、小箱を手に持ち、奥へと消えていった。

 

 数十分後、鑑定が終わったのか、小鬼は片手に資料を持ち、こちらに現れた。

 

 資料には想像より多めの金額が記載されていた。

 

「すべて本物です。換金いたしますとかなりの額になりますが、持ち帰りますか?」

 

「いえ、必要最低限だけ現金で受け取ります。残りは口座に預けてください」

 

 一瞬だけ、苦笑いをした小鬼は、ゆっくりと頷いた。

 

「かしこまりました。では、『金庫』に入れさせていただきます」

 

 小鬼はお辞儀をすると、金貨数十枚をテーブルに置き、その場を去ろうとした。

 

「一つよろしいですか?」

 

 そんな小鬼を、マクゴナガルが引き留める。

 

「何でしょう?」

 

「いくら程になったのですか?」

 

「個人の事なのであまり言えませんが、最新鋭の箒が30本は裕に買えるかと…」

 

「…………わかりました」

 

 複雑な表情のマクゴナガルを尻目に、小鬼は嬉しそうな表情を隠しつつ奥へと消えていった。

 

「さて…買い物を続けましょう」

 

「え…えぇ」

 

 私は、15枚の金貨をデルフィに渡すと、マクゴナガルと一緒にグリンゴッツを後にした。

 




リカバリングにより、魔法界でも機械が使える様になりました。


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今回で、お買い物は終了です。


 

   銀行を出た私達は、周囲の人混みを掻き分けながら進む。

 

「次はどこへ行きますか?」

 

「そうですねぇ…」

 

 デルフィの問いかけに、若干考えを巡らせたマクゴナガルは、一角にある古風な外見の店を指差した。

 

「杖を買いましょう。杖は魔法使いとって、最も重要なものです。人生を左右すると言っても過言ではないでしょう。今から行く店は、古くから多くの魔法使いに杖を授けてきた店です」

 

「なるほど…」

 

「そう言う事でしたら、行きましょう」

 

 私達はマクゴナガルの後に続き、古風な外観の店に入って行く。

 

 店の中はお世辞にも衛生的とは言えず、埃などのハウスダストで充満しており、壁には所狭しと、細長い箱が並べられている。

 

 その全ての箱の中から、若干ながら、微弱なメタトロンと酷似した反応を検知した。

 

 マクゴナガルは店内を迷うことなく進むと、カウンターに置いてあるベルスターを数回鳴らす。

 

「はーい。今行きますよ」

 

 店の奥から、初老の男性と思われる声が響くと、予想通り、初老の男性が、埃まみれでとぼとぼと歩いて来た。

 

「おや、これは珍しい。マクゴナガル先生では有りませんか。本日はどのようなご用件で?」

 

「この子達の杖を選んで欲しいのですが」

 

「かしこまりました。では、杖について説明するので、奥の方へ」

 

 初老の男性に勧められるがまま、私達は店の奥へと移動しようとすると、マクゴナガルが声を上げた。

 

「私は教科書の方を買ってきます。少し席を外しますが、終わる頃には戻れるので店前で待っていてください」

 

「了解」

 

 マクゴナガルはその場で一礼すると、店を後にした。

 

「さて、では説明を続けましょう。杖と言っても形は様々で、一人ひとりにあった物が必要です。そして、それらは杖の芯に使われる素材によって異なります」

 

 店主はそう言うと、1本の杖を取り出した。

 

「こちらは、柳の枝に、蝙蝠の骨。25㎝。非常に汎用性が優れています。杖腕はどちらで?」

 

「杖腕とは?」

 

 デルフィは杖を見ながら、首をかしげる。

 

「利き腕の様な物です」

 

「ではどちらでも」

 

 そう言うと、デルフィは両手を店主に差し出す。

 

「では、一般的な右腕で」

 

 デルフィは右手で棒切れを受け取ると、軽く握り、指先で遊ばせている。

 

 その杖からは、微弱ながらエネルギーの反応を感じる。

 

「軽く振ってみてください」

 

 無表情のデルフィが手にして棒切れを軽く振る。

 

 しかし、何も起こる事は無く、エネルギーの波長にもブレを感じない。

 

「おかしいですね…魔力を籠める様にしてみてください」

 

「魔力を籠める?」

 

「杖に自分の魔力を流すイメージです。難しいかもしれませんがやってみてください」

 

 棒切れを少し見詰めたデルフィは小さな声で呟く。

 

「メインパス確保、エネルギーライン直結。エネルギー注入開始」

 

 すると、デルフィの右手に握られている棒切れに赤いエネルギーラインが走る。

 

「これは…」

 

 店主が棒切れを覗き込もうとした瞬間、デルフィの右手が光を増した。

 

「うわぁ!」

 

 店主が悲鳴を上げると同時にデルフィのエネルギーに耐えられなかったのか、棒切れが爆発した。

 

「杖が…爆発するなんて…」

 

「エネルギーを過剰に注入した事による爆発と推測されます」

 

「ですが、エネルギー注入率は2%にも達していませんでした」

 

「ならば、耐久性に難があると思われます」

 

 手元に残った持ち手の部分を詰まらなそうに、棚に戻すと、デルフィは溜息を吐いている。

 

「す…すぐに別の杖をご用意します!」

 

 その後店主は店の奥からかなりの数の箱を持ち出すと、私達に次々と試すように要求した。

 

 しかし、それら全て杖は私達が求めているほどの耐久力は無く、炭に変わった。

 

「はぁ…はぁ…これ以上となると…当店ではもう…」

 

 店主は疲れた様に、椅子に腰を落とした。

 

「もう結構です。基本構造は理解しました」

 

 そう言うと、デルフィはベクタートラップ内からウアスロッドを取り出すと、右手に構える。

 

「改造を開始します」

 

 デルフィの体から、エネルギーが放出されると、ウアスロッドに力が集約する。

 

「外装剥離、主要原料をメタトロンに変更。形状再構築」

 

 30秒ほどで、エネルギーの放出が止まり、デルフィが手にしていたウアスロッドに赤いエネルギーラインが走る。

 

「これで問題ないでしょう。ウアスロッドに杖の機能を付与させました。基本性能は杖と同様です」

 

「お見事です」

 

「複製したデバイスドライバを譲歩しますか?」

 

「頼みます」

 

 私は、デルフィから杖のデバイスドライバを受け取ると、早速構築に移る。

 

「主軸にメタトロンを使用。外装はSSA(セルフ・サポーテング・アーマー)を使用」

 

 エネルギーを右手に集中させることで杖型のデバイスが姿を現す。

 

 直径は2㎝で長さは32㎝。蒼白い表面に緑色のエネルギーラインが走っている。

 

 私は出来上がった杖にエネルギーを送り込むと、エネルギーラインが激しく光りだす。

 

 しかし、エネルギーの流れは安定している。予想通りだ。

 

「問題はないようです」

 

「まさか…杖を自作なさるとは…貴女方は一体…」

 

 店主は目を白黒させながら、こちらを見ている。

 

「とても参考になりました」

 

「それでは、我々はこれで」

 

 私達は、テーブルの上に2枚の金貨を置くと、何か言いたそうな店主を尻目に、店を出た。

 

 

  店を出て数歩進むと、こちらに気が付いたのか、マクゴナガルが歩み寄ってくる。

 

「お疲れ様です。いい杖は見つかりましたか?」

 

「問題はありません」

 

「それは良かったです。できればどのような杖なのか、見せていただけませんか?」

 

 私達は、同時にベクタートラップを発動させ、内部から杖型のデバイスを取り出す。

 

「何度見てもその光景は見慣れませんね…それにかなり独特な杖の様ですが…」

 

「我々に見合うのが無かったので、既存のデバイスドライバを改造しました」

 

「私は作成しました」

 

「え? 改造? 作成? 杖をですか?」

 

「はい。おかげで良い物が手に入りました」

 

 唖然とした表情のマクゴナガルを尻目に、私とデルフィは取り出した杖を再びベクタートラップ内に収納する。

 

「ま…まぁ良いでしょう…必要な物は殆ど揃いました。教科書類はこちらで購入しておきましたので、後日、家に届くはずです。代金は後日請求します」

 

「お心遣い感謝します」

 

「それが仕事ですから。後は制服だけですね。制服なら『マダム・マルキンの店』で良いでしょう。あの建物がそうです」

 

 通りの反対側の店に私達3人は目線を向けた。

 

 私達と同じように、制服を求めている子供が何人も出入りしている。

 

「あちらの店ですね」

 

 私達は店の前までやってくると、マクゴナガルが歩みを止めた。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「残りは採寸だけです。私は外で待っています」

 

「そうですか」

 

 私達はマクゴナガルを一瞥した後扉に手を掛けようとした。

 

 その時、扉の奥から動体反応を検知し、1歩後ずさり回避行動に入る。

 

「うわぁ!」

 

 勢い良く開かれた扉の奥から現れた眼鏡の少年は、後ずさる私を見て驚いた様に声を上げた。

 

「危ないじゃないか!」

 

「お怪我は有りませんか?」

 

「大丈夫だけど、気を付けてくれよな!」

 

「そちらの不注意による過失が殆どと思われます」

 

 私の言葉を聞くなり、その少年はさらに怒りを顕著に現した。

 

「うるさいな! 大体、なんなんだよ! 過失って!」

 

「メンタルコンデションレベルマイナス04ポイント。少し深呼吸などをして、落ち着かれてはどうですか?」

 

「何なんだよ!」

 

 怒った少年は、私とデルフィの間をワザと肩をぶつける様に通り抜けると、人混みへと消えていった。

 

『何だったのでしょう?』

 

『メンタルコンデションレベルが低下していました。何か原因があったのでしょう』

 

 私達は、簡単な通話を終えると、店の中へと入って行った。

 

「いらっしゃいませ。ホグワーツの制服ですね」

 

 奥から現れた店員が、メジャーの様な物を片手にこちらに歩み寄って来た。

 

「えぇ、お願いします」

 

「では、少々失礼して…」

 

 店員は私達に近寄ると手にしたメジャーの様な物を使い、採寸を行っていった。

 

「出来上がりまで、お時間を頂きます。少々お待ちください」

 

「了解」

 

 私達は、近くにあったソファーに腰かけ、制服が出来上がるのを待つ事にした。

 

 空き時間で、システムのチェックとサブウェポンの微調整でも行おうとシステムファイルにアクセスした時…

 

「君達、さっきは災難だったね」

 

 私達は声がした方に目線を向けると、そこには金髪の少年がこちらを見ながら立っていた。

 

 私は、システムチェックをバックグラウンドで行う事にした。

 

「いきなり、罵声を浴びせられるとはね」

 

「お気遣なさらずに。先程の少年は、苛立っていただけの様ですから」

 

 私がそう言うと、金髪の少年は髪を掻き上げながら、鼻で笑った。

 

「何故か僕と話していただけで不機嫌になったんだ。まったく失礼な奴だ」

 

 なるほど、原因はこの少年か。

 

「そうだ。ところで君達は双子かい?」

 

「えぇ、我々は双子です」

 

 デルフィが答えると、少年は数回頷いた後、口を開いた。

 

「そうなのか。それで、君達は『純血』かい?」

 

「『純血』? 血統の事でしょうか?」

 

「まぁ、そうだね。ご両親は魔法使い?」

 

 少年の質問に対して、デルフィが簡素に答えた。

 

「我々に親という存在はいません」

 

 回答を聞いた少年は、まずい事を聞いたと思ったのか、バツの悪そうな表情をしている。

 

「あっ…そうか…悪い事を聞いたね」

 

「いえ、御構い無く」

 

「まぁ、君達の落ち着きを見ると、野蛮なマグルではないと思うよ。それじゃあ、ホグワーツで会おう!」

 

 バツが悪そうに早口で言い終えると、少年は小走りで店から出て行った。

 

『ところで…マグルとは何でしょう?』

 

『こちらのデータベースには、当てはまる項目は有りません』

 

『後ほど、聞いてみましょう』

 

『それが良いですね』

 

 通話を終了させた時、店の奥から、紙袋を持った店員がやって来た。

 

「お待たせしました。完成ですよ」

 

「感謝します」

 

 私とデルフィは立ち上がり、代金を支払う。

 

「あの…試着なさらないのですか?」

 

「必要ありません」

 

「そ…そうですか」

 

 店員の視線を感じながら、代金を払い終えた私達は扉に手を掛け、店の外へと出た。




規格外だから、杖が合わないのもしょうがないね。


作者はマルフォイ好きなため贔屓目になる模様。


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蒸気機関車

少しずつですが、主要メンバーが顔を見合わせします。


   店を出ると、マクゴナガルが私達が手にしている紙袋を見て、数回頷いている。

 

「終わったようですね」

 

「おかげ様で必要な物が揃いました」

 

「感謝いたします」

 

「それが仕事ですから、ではそろそろ帰りましょう。買い忘れなどはないですか?」

 

「問題ありません」

 

「では行きますよ」

 

 私達は、来た時と同様に、マクゴナガルの手を取ると、次の瞬間、空間の歪みに吸い込まれた。

 

 

 次に地面に立った時には、見慣れた我が家の前に立っていた。

 

「本日はお疲れ様でした。後日ホグワーツ行きのチケットと、必要な教材を家に届けます。何か質問はありますか?」

 

「特筆するべき点はありません」

 

「そうですか、では次は、ホグワーツで会いましょう」

 

 そう言うと、マクゴナガルの周囲の空間が歪み、一瞬で姿を消してしまった。

 

 あの技術は一体何なのだろう?

 

 ウーレンベックカタパルトの一種だろうか?

 

 

 そんな事を考えながら、私達は我が家へと入って行った。

 

 

  数日後、我が家の前に数十冊の古めかしい教科書と1通の封筒が届いていた。

 

 封筒の中身は、ホグワーツ魔法学校行きの汽車のチケットと教科書類の請求書と詳細な日程表が入っていた。

 

「9月1日が入学式ですか…数日後ですね」

 

 背後から日程表を覗き込んだデルフィは詰まらなそうに呟く。

 

「そうですね。準備を始めましょうか」

 

 私達は、必要な学用品をベクタートラップ内に収納すると、届いた教科書を速読しデータベースに記録していった。

 

 30分程で目の前にある教科書の内容をデータベースに記憶する事が出来た。

 

「書籍データの記憶を終了しました」

 

「これでこの本は用済みになりましたね」

 

「そうですね」

 

 私は本を手に取ると、ベクタートラップ内に収納する。

 

「これで、必要な物は揃いましたね」

 

「そうですね」

 

「では、休息を取りましょう」

 

 私達は、パジャマ姿になると、同じベッドに潜り込む。

 

 ベッドで横になると同時に、デルフィが私の頬を突き始めた。

 

 3度目を突こうとした瞬間、その手を取り、捻る。

 

「痛いです」

 

「当然の結果です」

 

 私が手を離す。そこにはデルフィの折れ曲がった腕があった。

 

「失礼しました」

 

 折れた腕を見ていたデルフィは軽く腕を振ると、折れた腕が一瞬で元通りになる。

 

「それでは、おやすみなさい」

 

「えぇ、おやすみなさい」

 

 私は目を閉じ、休息を取る。

 

 

 数日が経ち、9月1日がやって来た。

 

「準備はできましたか?」

 

「万全です」

 

 私の問いかけに対し、デルフィはポケットから取り出したチケットをチラつかせる。

 

 私達は現在、ホグワーツ指定の制服のデータを体表に投影している。白いシャツ、青い色のネクタイにベストを羽織り、ローブに腕を通し、プリーツスカートに白いニーソックスと黒いローファーを着込んでいるように見える。

 

 制服を着用しても良かったのだが、その場合ある問題が発生する。

 

「では出発です」

 

 我が家を出た後、自立型の防衛システムを起動させ、私達はバーニアを展開し、ある程度の高度まで飛び上がる。

 

「ステルスON」

 

 上空でステルスシステムをONにする。

 

 その瞬間、私達の姿は周囲の背景と同化する。

 

 服を着ていた場合、服は周囲の景色と同化する事は無いので、服だけが浮ているような状況になってしまう。

 

「巡航モードへ以降。発進します」

 

 バーニアの出力を上げ、周囲の環境に影響のない程度の速力で、飛行を開始する。

 

 最大出力ならば数秒も必要ないだろうが、その場合ソニックブームによる衝撃波の影響で甚大な被害が出る。

 

 速力を調整した結果、5分程で私達は、キングス・クロス駅の上空にやって来た。

 

 上空からスキャンし、人気のない場所を探し出すと、その場に向かい、降下を開始する。

 

「着地します」

 

 音を立てないように着地した私達は、ステルスを解除し、周囲を見渡す。

 

 先程のスキャン結果で分かっていたことだが、この駅には多くの人々が行きかっている。

 

「では行きましょうか」

 

 隣に着地したデルフィから1枚のチケットを受け取る。

 

 チケットには『キングス・クロス駅 9と3/4番線』と記載されている。

 

 周囲を注意深く確認すると、駅のホームの支柱の一部に空間の歪みの様な物を検知した。

 

 それと同時に、その柱に大量の荷物を載せたカートを押しながら走り込む人物の姿を捉えた。

 

「発見しました」

 

 私達は、柱の前へとやって来た。

 

 周囲の人々と違うところと言えば、カートを押していない事くらいだろうか。

 

 

「突入します」

 

 歩き出したデルフィの体は、柱にぶつかる事なく、そのまま飲み込まれていった。

 

 私もその後を追う様に、柱の中へと入って行った。

 

 柱を抜けた先は、先程のホームとは別のホームとなっており、紅い色の蒸気機関車が停車しており、時々蒸気と警笛を鳴らしている。

 

「蒸気機関とはまた古い物を」

 

「えぇ、あまりにも非効率的です」

 

 古風な蒸気機関を一瞥した後、再び周囲を見渡すと、駅のホームだと言うのに、猫が走り回り、空にはフクロウが飛び交い、地面にはカエルが飛び跳ねている。

 

 恐らく、ホグワーツへ通う生徒達のペットなのだろう。

 

 蒸気機関車の客室部では、窓から身を乗り出した生徒が、両親と思われる人物と別れを惜しんでいる姿が見受けられる。

 

 私達は、そんな一団の横を通り抜けると、蒸気機関車へと乗り込んだ。

 

 客室部は、通常の列車とは異なり、扉の付いた、コンパートメント型の様だ。

 

 私達は、空室のコンパートメントの席に腰を掛ける。

 

 コンパートメントの内部は、それほど広くはなく、定員が7名前後と言ったところだろうか。

 

 

 

 

  しばらくすると、発車を告げる警笛が鳴り響き、車体が振動すると同時に、低速で動き始めた。

 

 車窓から見える風景は、火星の大地とは異なり、自然あふれる景色と青い空が広がっている。

 

 しかし、生憎な事に、私達にそれを楽しむ機能は付いていない。

 

 現在の車両速度とおおよその目的地との距離関係から到着予想時刻を計算したが、少なく見積もっても付くのは日が傾いてからだろう。

 

 特にやる事も無いので、私達は日課となったシステムチェックと、火器管制のチャックを行おうと、ホログラムを展開させる。

 

 ホログラムの展開が完了すると同時に、扉がノックと同時に開かれる。

 

「あの……相席良いかし……何やってるの?」

 

 コンパートメントの扉を開けた、茶髪でぼさぼさの長い髪で少し出っ歯の少女は、ホログラムを見て唖然としている。

 

「お気になさらず。空いているところへどうぞ」

 

 私達はホログラムを仕舞い込むと、バックグラウンドでの作業に入りながら、唖然とした表情の少女を招き入れた。

 

「なら、そうさせてもらうわ。それにしても今のは何? 魔法?」

 

「その様な物だと考えていただいて結構です」

 

 デルフィが適当に話を合わせると、少女は目を輝かせながら、饒舌な口を開く。

 

「やっぱり魔法ってすごいと思うの。私自身、魔法の素質があるなんて知らなかったわ。自己紹介がまだだったわね。私はハマイオニー・グレンジャー。でも皆、ハーマイオニーって呼ぶわ。だからハーマイオニーで良いわよ。ところで貴女達名前は?」

 

「エイダ・イーグリットです」

 

「デルフィ・イーグリットです」

 

「エイダにデルフィね。2人は姉妹なの?」

 

「えぇ。そのように認知していただいて問題ありません」

 

「ふーん…なかなか面白い喋り方をするのね。貴女達って。同じ年なんだからそんな硬い喋り方じゃなくても良いのよ」

 

「お心遣い感謝いたします。ですが、我々はこの方が落ち着くので」

 

 私はデルフィの意見に賛同するように、数回頷く。

 

「そう。ところで――」

 

 目の前の少女、ハーマイオニーが何かを喋ろうとした瞬間、再びコンパートメントの扉がノックされる。

 

「あの…ここってまだ空いてる? 他の所は一杯で……あっ。でも女の子だけで話をしたいなら別に…」

 

 扉の向こうには、おどおどとした丸顔でを丸めている少年が立っていた。

 

 私はデルフィの方を一度見ると、互いに頷く。

 

「私達は問題ありません」

 

 丸顔の少年は、対面に座っているハーマイオニーの方に視線を向ける。

 

「私も良いわよ。私はハーマイオニー・グレンジャー。で、こっちの2人が、エイダとデルフィ。姉妹らしいわ。だから声も似ているのね」

 

「エイダ・イーグリットです」

 

「デルフィ・イーグリットです」

 

「うん、ありがとう。僕はネビル・ロングボトム。よろしく…」

 

 少年は、一言開けそう言うと、大きな荷物を荷台に仕舞い始めた。

 

「そう言えば、エイダにデルフィ。貴女達の荷物が見当たらないけど。どうしたの?」

 

 必要な荷物は全てベクタートラップ内に収納しているが、ここでその話題を出すのは不適切だろう。

 

「私達の荷物は少量なので、先に目的地に届けてあります」

 

「そうなの? 確かにその方が便利ね。私もそうすれば良かったわ」

 

 ハーマイオニーは何度か頷くと、思い立ったように、荷物を漁り始める。

 

「これじゃなくて…えーっと…あった!」

 

 ハーマイオニーは荷物の中から、1冊の本を取り出した。

 

 表紙から判断するに、今年の授業で使う教科書だ。

 

「ねぇ、彼方達、もう教科書には目を通した? 本当にすごいわね。私なんて何回も読んで、暗記したわ!」

 

「す、すごいね…僕なんて表紙すら開いてないよ」

 

「読んだ方が良いわよ。とても素晴らしいわ! ねぇ、貴女達はもう読んだ?」

 

「全ての書籍は一通り拝読し、記憶しました」

 

「やっぱり! なんか、貴女達って勉強が好きそうな感じだもん!」

 

 私の回答に対して、ハーマイオニーは上機嫌で答えた。

 

 その時、コンパートメントの端で、自身の荷物を漁り始めたネビルが不安交じりの声を上げた。

 

「あれ…どうしよう…」

 

「どうかしたの?」

 

 ハーマイオニーが問いかけると、メンタルコンデションレベルが低下し始めたネビルが声を荒げた。

 

「居ないんだよ! 僕のトレバーが居ないんだ!」

 

「トレバー?」

 

「うん。僕の蛙なんだけど…どうしよう…」

 

「大変じゃない! どこで居なくなったか分かる?」

 

「えーっと…わかんないよ!」

 

 焦り始めた二人は、軽いパニックを起こしている。

 

 私は車両全体をスキャンすると、最後尾車両の一角に、人間よりも微弱で、体温の低い生体反応を検知した。

 パターンから考えて、変温動物であることが予想される。

 

「最後尾車両に、動体反応を検知しました。おそらくお探しのカエルかと推測されます」

 

「ホント? 僕ちょっと行ってくる!」

 

 踵を返す様に、勢い良くコンパートメントの扉を開けはなったネビルが勢いそのままに外へと出て行った。

 

「貴女、本当にトレバーの場所が分かったの?」

 

「現状から考えた結果です。高確率で正解でしょう」

 

「でもどうしてわかったのよ」

 

「魔法の様な物です」

 

「そうなの?」

 

 魔法という言葉は随分と便利な物だ。

 

 数分が経った頃、ハーマイオニーがそわそわしながら立ち上がった。

 

「私心配だわ…ちょっと見て来るわ」

 

「そうですか」

 

 私達はコンパートメントとの扉を開けて外へと出ていくハーマイオニーの後姿を見送った。

 

 

  しばらく歩いた後、別の車両へ移動したのを確認した後、扉を閉めようとしたとき。

 

「おや、君達はあの時の」

 

 振り返ると、そこには、制服の採寸を行った店に居た少年と、大柄の2人の少年が立っていた。

 

「お久しぶりですね」

 

「そうだね。コンパートメントから顔を出してどうしたんだい?」

 

「カエルを探すと言うので見送っていました」

 

 デルフィが答えると、少年は呆れた様に首を振りながら溜息を吐いている。

 

「ネビルのカエル探しだろ? あいつはドジでいつも何か失くしているんだ。君達も探すのを手伝わさせられているのかい?」

 

「いえ、すでに発見済みです。捕獲は当人達に任せてあります」

 

「なるほど、という事は君達が見つけたのかい?」

 

「大方その様に考えていただいて構いません」

 

 私が答えると、少年は数回頷いている。

 

「あのカエルを見つけるとはね…どうやら君達は相当優秀なようだね。そうだ、自己紹介がまだだったね。僕はドラコ・マルフォイだ。こっちのデカいのがクラップ。そしてゴイルだ」

 

 マルフォイの後ろに控えていた二人は、軽く頷いている。

 

「私は、エイダ・イーグリットです」

 

「私は、デルフィ・イーグリットです」

 

「エイダに、デルフィ。2人ともよろしく。あまり聞かない名前だね。もしかして出身は遠いのかい?」

 

「アンティリアです」

 

「アンティリア?」

 

 私はデータベース上に地球上でアンティリアに類似する地名を発見する。

 

「正式には、モンターノ・アンティーリア。イタリア、カンパニア州サレルノ県の基礎自治体(コムーネ)です」

 

「あー…つまり君達はイタリア出身? それにしては言葉が上手だね」

 

「我々は多数の言語で会話できますので」

 

「へぇ…それは凄いな…さて、とても有意義な話が出来たよ」

 

「こちらこそ」

 

 マルフォイは軽く挨拶をすると、踵を返し、別の車両へと消えていった。

 

 コンパートメント内に戻り十数分後、満面の笑みで、カエルを小脇に抱えたネビルとハーマイオニーがコンパートメントへと戻って来た。

 

「ありがとう! 本当に最後の車両の隅に居たよ!」

 

「本当に居たわ。でたらめじゃ無かったのね」

 

「当たり前です」

 

「インチキ占いかなにかかと思ったわ」

 

「一緒にしないでください」

 

 嬉しそうな表情で、膝の上にカエルを乗せたネビルのメンタルコンデションレベルは通常よりも高い数値だ。

 

「それだけじゃないんだ! あのハリー・ポッターにも会ったんだ!」

 

「同じ年だとは聞いていたけど、同じ学校だとは思わなかったわ!」

 

 ハーマイオニーとネビルは若干興奮気味に話している。

 

 私達は、『ハリー・ポッター』という人物名に該当するデータが無く、反応を示さないでいると、ハーマイオニーが口を開いた。

 

「まさか、貴女達ハリー・ポッターを知らないの? 生き残った男の子よ! 赤ん坊の時に唯一例のあの人を撃退した有名人よ!」

 

「そうなのですか。こちらについてはあまり詳しい事は知らないので」

 

「そうなの? 貴女達もマグル生まれなのね!」

 

「マグルとは一体何でしょう?」

 

「えっとね。マグルって言うのは両親が魔法使いじゃない人の事だよ」

 

 ネビルの説明に対して、ハーマイオニーは数か頷いている。

 

「そうなのよ。貴女達のご両親は?」

 

「我々に親はいません」

 

 デルフィがそう言うと、2人はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「その…ごめんなさい」

 

「…………」

 

「お気遣なさらずに」

 

 私がそう言うと、2人は小さく頷いた。

 

 その後、私達は他愛のない世間話を聞きながら、時間を過ごし、終点に到着した車両が速度を落とし始めた。

 




遂に、ホグワーツに乗り込みました。


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組み分け帽子

何処の寮に入れようかな


 

   車両が完全に停止したのを確認した後、私達は車外へと降りる。

 

 車外ヘ降りた生徒達は、列を為して歩みを進める。

 

 しばらく歩くと、森の奥に石造りの古城が見えて来る。

 

 その古城からは、周辺よりも濃度の高い魔力の反応を検知した。

 

「良く来たな! イッチ年生! 歓迎しよう!! 盛大にな!」

 

 森の奥から、大声を上げながら、1人の男性が近付いて来る。

 

 その男性の外見は、他の人間とはかけ離れたほど巨大だった。

 

 簡易的な生体チェックだが、数値に異常はなかった。遺伝子操作と言う訳ではなさそうだ。

 

 マクゴナガルが以前話していた、巨人族なのだろうか。

 

「さて、皆このボートに乗れ。落ちるんじゃないぞ」

 

 大男は片手で器用にロープを手繰り寄せながら、簡易的な桟橋にボートを接岸させる。

 

 私達もボートに乗り込むと、安定性の悪いボートはゆっくりと古城へ向けて動き出す。

 

「あら? 貴女達、また会ったわね」

 

 背後から声を掛けられ、振り返ると、そこには先程同じコンパートメントに居た少女が座っていた。

 

「貴方は、ハーマイオニー・グレンジャーですね」

 

「ハーマイオニーで良いわよ。同じボートなんて奇遇ね」

 

「そうですね」

 

 しばらくボートが進むと、古城の桟橋に接岸する。

 

 桟橋には、エメラルド色のローブに身を包んだマクゴナガルが立っていた。

 

「良く来ましたね。足元に気を付けてくださいね」

 

 ボートから生徒達が足元に気を使いながら桟橋へと降りていく。

 

 私達も桟橋に足を付けると、その後にハーマイオニーが続く。

 

「あっ!」

 

 ボートから降りようとしたハーマイオニーはバランスを崩したのか、はたまた足を滑らせたのか、間の抜けた声を上げ、体がゆっくりと傾く。

 

「危ない!」

 

 マクゴナガルが声を上げ、ハーマイオニーは虚空を掴むかのように手を伸ばしているが、その手は何も掴むことは無かった。

 

「ベクタートラップ起動」

 

「捕縛を開始します」

 

 私はハーマイオニーとの間の空間をベクタートラップを使いその距離を圧縮する。

 

 それにより、ハーマイオニーの体は急激にこちらに引き寄せられる。

 

「掴みました」

 

 引き寄せられたハーマイオニーの左手をデルフィが掴み、右手を私が掴む。

 

「えっと…」

 

「ご無事ですか?」

 

「足元には気を付けてください」

 

「そ…そうね、助かったわ」

 

 無事に対岸に戻ったハーマイオニーは私達の手から離れると、共に入り口へと移動を開始した

 

 移動中、マクゴナガルがこちらに対して警戒した視線を向けるのを感じながら。

 

 

  古城へと侵入した私達は、石造りの階段を上りメインホールの入り口にまでやって来た。

 

「皆さん全員付いて来ていますね」

 

 マクゴナガルが周囲を見渡しながら、声を張り上げている。

 

「全員いますね。では、新入生の皆さん、入学おめでとうございます、これから皆さんの歓迎会と組み分けを始めます。組み分けとはとても重要な儀式です。これからの学生生活の7年間、皆さんには寮で生活していただきます。寮は全部でグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。どの寮も素晴らしい歴史があります。また、皆さんの良い行いは自分が所属する寮の得点になります。また悪い行いは減点の対象になります。そして年度末には最高得点を得た寮が寮杯の栄誉が与えられます。どの寮に入っても、皆さんが寮の誇りになる素晴らしい生徒になることを望みます」

 

 

 

 マクゴナガルの説明が終わると、周囲から疎らな拍手が上がる。

 

「さて、すぐに始めたいところですが、準備が有るので、しばらく待機するように」

 

 マクゴナガルはそう言うと、踵を返し、別の扉から何処かへと消えていった。

 

「やぁ、さっきの説明聞いていたかい?」

 

 振り返ると、マルフォイが得意げな表情で近付いてきている。

 

「一応は。事前情報では組み分けがあるとは聞いていませんでした」

 

「まぁ、大半の生徒は知らされずにやってくるのさ。あんな風な説明をしているけど、実際はスリザリンは純血や家柄。レイブンクローは頭脳明晰な生徒が集まるのさ。グリフィンドールは興味が無いからよく分からないけど、父上曰く、鬱陶しい連中の集まりらしい。ハッフルパフは落ちこぼれが行くって有名さ。きっとあのネビル・ロングボトムはそこだろうね」

 

「能力別に編成するのは、効率的です」

 

「まぁそうだろうね。君達の事だからきっとレイブンクローじゃないかな?」

 

「今までの発言から予想するに、彼方はスリザリンの可能性が非常に高いです」

 

「フッ、デルフィ。君の言う通りさ。僕の家系は全員がスリザリンなんだ。だから僕もそこに入るだろうね。案外君はスリザリンかもね」

 

「可能性はゼロでは有りませんが、我々は同じ寮を希望します」

 

 デルフィの急な発言に対し、私は顔を覗き込む。

 

「何か不満でも?」

 

「いえ。確かに私達が同じ配属になるのは合理的です」

 

 ふと周囲を見回すと、ハーマイオニーとネビルが2人の少年と何か話している様だ。

 

 そんな時、目が合ったのか、ハーマイオニーがこちらに向かって手を振っている。

 

「どうやら君達を呼んでいるみたいだ。行ってきたらどうだい?」

 

「えぇ、そうですね」

 

 

 私達は、人混みを掻き分けて、ハーマイオニー達へと近付く。

 

「どうしよう…僕…絶対ハッフルパフだよ…何の取柄もないし…」

 

 近寄ると、ネビルのメンタルコンデションレベルが先程よりさらに低下している。

 

「そんな事無いわよ…あっ。こっちよ」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうな表情で、私達を迎え入れた。

 

「ねぇ、2人はどんな風に組み分けをすると思う?」

 

「詳しい事は分かりませんが、個人の能力や、精神的強さ、対人関係などが加味されるのが一般的かと」

 

「なんだ? その変な喋り方」

 

 声のする方に視線を向けると、そこには赤毛の少年と――

 

「あっ! 君は! あの時の!」

 

 制服の採寸時に、私達をぶつかりそうになった眼鏡の少年が立っていた。

 

「なんだ? ハリーの知り合いかい?」

 

「まぁね、僕が制服の採寸の時、ぶつかって来たんだ」

 

「正確には、そちらが唐突に扉を開き、我々と衝突寸前になったと言うべきです」

 

 デルフィが訂正すると、少年は明らかに不機嫌そうな顔になる。

 

「なんだよ。まるで僕が悪いみたいじゃないか」

 

「そちらに非が有るのは確かです」

 

「なんだと?」

 

 眼鏡の少年は怒った様に口調を荒げている。

 

「落ち着いてハリー! デルフィもあまり責めないで」

 

「まぁいいさ。僕はハリー。こっちがロンだ」

 

「エイダ・イーグリットです。こちらがデルフィ・イーグリット」

 

「よろしく。ねぇ、君達って顔も声もそっくりだけど双子? 髪色は違うみたいだけど…」

 

「えぇ、そうです」

 

「やっぱり。僕の兄貴達も双子なんだ。双子って大変さ。顔も一緒だし、兄貴達はそれを利用してよく悪戯しているし…」

 

 ロンは、疲れた様に首を横に振っている。

 

「そう言えば、君達さっきはあの辺に居たよね。あそこには金髪のいけ好かないマルフォイってヤツが居るんだ。知っているかい?」

 

「えぇ」

 

 私がそう答えた瞬間、ロンとハリーは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「アイツは、純血至上主義の差別主義者さ。あまり関わらない方が良いぜ。それにあの悪名高いマルフォイ家の人間だ」

 

 どうやら、ロンはマルフォイの事を相当嫌っている様だ。

 

「僕のパパが言って居たけど、アイツ…というか、スリザリンに入る連中は全員が純血主義者らしいぜ。純血じゃないマグル生まれの魔法使いは認めないって連中さ。だから僕のパパはマグルを保護する活動を起そうとしているらしいよ」

 

 どうやらこの世界にも、火星と地球の様に、迫害や差別があるようだ。

 

 それにしても、この少年の思想も相当差別的だ。

 

「ご忠告感謝いたします。ですが貴方の発言にも、差別的要因が含まれています」

 

「何だって?」

 

 正直に答えたデルフィに対して、ロンは声を上げた。

 

「マグルや、純血主義についての理解はありませんが、家柄での他者への評価や、寮別に対する評価、そして、マグルを保護すると仰っていますが、保護をするという見方からして、貴方にも潜在的な魔法を使えない弱者に対する優位性からなる差別的思想が見て取れます」

 

 デルフィがそう言うと、ロンは顔を真っ赤にさせているが、反論する言葉は浮かばないようだ。

 

「さて、準備が整いました。1列に並びなさい!」

 

 マクゴナガルはそう言うと、大広間の扉が開き、私達はゆっくりと歩み始めた。

 

 

  中に入ると、派手な装飾品で埋め尽くされた空間が広がっており、空中には火の付いた蠟燭が浮かんでいる。

 

 しかし、その蠟燭の炎からは熱量の反応はなく、代わりに魔力の反応がある。

 

 大広間の大半は巨大で長いテーブルが4つ並んでおりその席の半数に在校生が座っていた。

 

 おそらくそれぞれが各寮に分かれているのだろう。

 

 そして、大広間の奥の1段高くなった所には、先程のマクゴナガルを始めとした複数人が椅子に腰かけている。

 

 恐らく教師陣だろう。

 

 その教師陣の中央に位置する場所には、白い髭を蓄えた、老齢の男性が座り、鋭い視線で周囲を見回している。

 

 そして、その男性からは、他の教師陣とは比べ物にならない量の、魔力を検知した。

 

 無人小型戦闘機、『モスキート』1機の運用程度なら可能な量を有している。

 

 周囲を見回すと、教師陣の前に椅子が置かれており、その上に古ぼけた帽子が置かれている。

 

 この帽子からも、魔力の反応を検知した。

 

 次の瞬間、帽子がいきなり歌いだした。

 

 歌の内容は各寮を紹介するような内容になっており、要約すると…

 

 グリフィンドールは勇気、ハッフルパフは優しさと忠実さ、レイブンクローは賢く、スリザリンは狡猾そして真の友を得る。

 

 という内容だった。

 

 

 

 歌が終わると在校生が拍手をした。

 

 そして、マクゴナガルが口を開き、これから行われる事に付いて説明を始めた。

 

 

「それではこれより組み分けを開始します。名前が呼ばれたら椅子に腰かけ帽子を被ってください。呼ぶ順番はこちらで事前に決めてあります」

 

 

 

 

 

「ハンナ・アボット」

 

 

 

 そう呼ばれた少女が椅子に座り、帽子をかぶると帽子の口が開かれた。

 

 

 

「ハッフルパフ!」

 

 

 

 その瞬間ハッフルパフのテーブルから歓声があがり、拍手が鳴り響く。

 

 選ばれた少女は少し照れくさそうに拍手されているテーブルへ近付き着席した。

 

 アルファベット順ならば、私が一番最初ではないのだろうか?

 

 それとも、別の理由があるのだろうか?

 

 

 

 

 その後も次々と生徒の名前が呼ばれていく。

 

 

「…エイダ・イーグリット」

 

 若干の間の後、私の名前が呼ばれた。

 

 それに伴い、先程までの喧騒が一気に静まり返る。

 

 私は、ゆっくりと歩き、帽子を手に取り、椅子に腰かけると、帽子を被る。

 

 その瞬間、メインシステム及び、データベースに外部からの不正アクセスを検知した。

 

 瞬時に防衛システムを起動し、外部からのアクセスをブロックする。

 

『おや…これは困ったものだ。急に心が読めなくなった』

 

 突如、頭上の帽子から、声が発せられる。

 

「外部からの不正アクセスを検知しました。アナタの仕業ですか?」

 

 非現実的な事は重々承知たが、私は頭上の帽子に話しかける。

 

『お主の言って居る意味は分からないが、心を覗くのが仕事でな…』

 

 頭上の帽子は、更に唸り始めると、うわ言の様に『難しい』と呟いている。

 

『本当に難しい。お主の事が全く分からん…だが恐らく、客観的だがお主には全ての寮の適性があるだろう。それこそ、人間離れしていると言っても過言ではない程に…うーん…どこにするものか…』

 

「何処であろうと、私は構いません」

 

『そうか…ならば、少しでもお主の学生生活が楽しくなることを祈って………』

 

 帽子は、一呼吸置くと、大口を開けた。

 

『グリフィンドール!』

 

 帽子の声が轟き、一拍置いた後、グリフィンドールの席から、割れんばかりの拍手が起こった。

 

 私は、一礼した後、空いている席に腰を掛ける。

 

 それからも、組み分けは続いていき、そして……

 

「デルフィ・イーグリット」

 

 デルフィの名が呼ばれると、先程同様、水を打ったように静まり返る。

 

 静寂が支配しているが、普通の人間には、デルフィと帽子の会話を聞き取ることは不可能だろう。

 

 収音範囲を狭め、デルフィ達の会話を盗聴し、唇を読み会話を確認する。

 

『うーむ…困った…名前から察していたが、先程の娘同様に、心が読めん』

 

「そちらの不正アクセスが原因です。これ以上の侵入を試みる様ならば、こちらも相応の対処をいたします」

 

『先程の娘とは違い怖い事を言うのぉ、一体どうするつもりだ?』

 

「そちらのシステムに上位の権限でアクセスし、システムを掌握します」

 

『ただの、帽子風情では何を言っておるのか分からぬが、仮にもホグワーツ創設者の1人であるゴドリック・グリフィンドールの帽子だ。そう簡単に操られはしない』

 

「そうですか。この際、出来るかどうかは置いておきましょう。私をエイダと同じグリフィンドールに入れる事を推奨します」

 

 どうやら、デルフィは私と同じ寮を希望している様だ、しかし、それに対して帽子は不満そうな声を上げる。

 

『なぜ…と聞くのも野暮な話だがな。これだけは言っておこう。どの寮に入るかは余程の事が無い限り、要望を取る事はしない。それに、お主のその傲慢な態度などから鑑みるに、どの寮にするかは決定した』

 

 帽子は、先程よりも大きな一息を吸い込み、口を開く。

 

『スリザ――んぐぅ! がっ!』

 

 寮の名前を言いかけた帽子は、突如としてその口を噤んだ。

 

 その光景に、教師陣を始めとした、その場の全員が騒めき立つ

 

「プログラム解析、プロテクト解除、ハッキング完了。決定権を剥奪」

 

『んっが! 何をしたッ!』

 

「先ほどお話ししたように、上位の権限でそちらのシステムにアクセスしました。現状では、アナタの発言権や、思考能力、メインシステムの削除に至るまで私の意のままです」

 

『どういう…事だ…』

 

 帽子は、蚊の鳴く様な掠れ声を出している。

 

 その声の小ささ故、聞きとれているのは、私とデルフィだけだろう。

 

「しゃべる帽子に生命の概念有るのかどうかは分かりませんが、生殺与奪(せいさつよだつ)の権利はこちらの手中にあります。場合によってはアナタはただの古ぼけた帽子になりえる可能性があるという事です」

 

『まさか…こんなこと…ホグワーツ創立以来…一度も…』

 

「それでは時間です。私はどこの寮に配属されるのですか?」

 

 デルフィは普段と変わらず、声のトーンに変化の無い口調で質問している。

 

『脅しには…屈し…』

 

「メインシステムの8割を掌握。このまま続けますと、アナタの存在は完全に消滅します。消滅後は…そうですね。個人の技量や家柄、性格、人間関係等の情報を一切加味せず、ランダムで寮に振り分けるシステムに書き換えましょう」

 

『そ…それは…つまり…』

 

「組み分け帽子としての役目を完全に奪い去ります」

 

『ぐぅ…グ…………グリフィン………ドール』

 

 帽子の回答が、静まり返った会場を埋め尽くす。

 

 

 そして、数泊置いた後、校長がゆっくりと拍手を始め、それに呼応するように、全体から拍手が上がる。

 

「お心遣い感謝いたします。確認ですが、1度下された決定は、覆る事は無いのですか?」

 

『基本的にはありえんだろう…だが、その狡猾さや、目的の為ならば手段を選ばない所は、スリザリン向きだと思うがね…』

 

「それはそちらの主観で、こちらには関係ありません。システムは元通りにしてあります。すぐに組み分け作業に戻れるでしょう」

 

『そうか…感謝はしないぞ』

 

 そう言ったデルフィは立ち上がると、帽子を外すと、丁寧に椅子の上に置き、私の隣の席へと腰を下ろした。

 

「少しやりすぎたのでは?」

 

「システムのデリートはしていないので、問題は有りません」

 

「そうですね」

 

 

 その後、若干のもたつきはあったが、組み分けは無事終了した。

 




組み分け帽子クンに理不尽が襲い掛かる!

メタトロンを使用したAIなら、簡単にハッキングが出来ると思うんですよね。


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スキャニング

まだ授業は始まりませんが、ホグワーツが順調に毒されて行きます


   組み分けが終わると、なにも無かったテーブルの上に豪華な食事が出現した。

 

 原理の解明は一切できていない。

 これが、魔法の力と言う物だろうか。

 

「凄い豪華ね。食べきれるかしら?」

 

 ハーマイオニーはそう言いながら、近くの席に座る。

 

「貴女達が同じ寮でよかったわ。知り合いが居るってだけでとても心強いわ」

 

「そうですね。共同生活する上では、とても重要な要因です」

 

「えぇ、ところでデルフィ」

 

「なんでしょう?」

 

「ちょっと気になったんだけど、組み分けの時、帽子は最初スリザリンって言いかけなかった?」

 

「私は全ての寮に対して適性があり、迷って居たそうです。ですが最終的には、こちらの寮で決定されました」

 

「そうなの? 私の時も、レイブンクローと迷うって言われたわ」

 

 ハーマイオニーは少し嬉しそうにそう言うと、キャンディーを一つ口へと投げ込んだ。

 

「まさか、君達がグリフィンドールに入るなんてね」

 

 振り返るとそこには、ハリーとロンの2人が立っていた。

 

 方面上は落ち着いた素振りをしているが、メンタルコンデションレベルはかなり低い値で、こちらに対して若干の嫌悪感を抱いている様だ。

 

「以後よろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしく。ところで聞きたいんだけど。デルフィ、君はスリザリンって言われてなかったか?」

 

 ロンは、スリザリンという単語を嫌そうに言うと、デルフィを睨み付けている。

 

「最初はその様でしたが、最終決定はグリフィンドールです」

 

「そうかい、一体どんな手を使ったんだ?」

 

「どういう事でしょう?」

 

「スリザリンとグリフィンドールは敵対しているんだ、犬猿の仲、水と油さ。それなのに君はスリザリンからグリフィンドールに変更された。それはちょっとおかしくないか?」

 

「そうでしょうか。配属先の変更など良くある話では?」

 

「そうかな? でも僕はどうしても気になるんだ。スリザリンと決りかけたのに、グリフィンドールになるってのがね。ハリーもそう思うだろ?」

 

「え? う、うん…そうだね。おかしいよね」

 

 ハリーは若干だが動揺している。

 

 何らかの虚言を言っている様だ。

 

 それについては心当たりがある。

 

 組み分けの時、ハリーは最初はスリザリンに配属されるはずだった。

 

 しかし、本人の希望によってスリザリンになる事は無かった。

 

「ハリーもそう言って居るぜ。一体どんな手を使ったんだ?」

 

 ロンは追及の手を緩めようとはしない。

 

「別段、違法行為などは行って居ません」

 

 確かに違法行為は行って居ない。強いて言えば帽子への脅迫じみたハッキングだけだ。

 

「ですが、組み分けの際、希望を聞き入れていただける場合もあります。例えば『スリザリンは嫌だ』など」

 

「っ!」

 

 デルフィの発言で、ハリーの心拍数が一気に上昇した。

 明らかに動揺している。

 

「どうされました? 顔色が悪いですが、何か心当たりでも」

 

「べ、別に…」

 

「そうですか」

 

 ハリーは冷や汗を掻きながら、こちらを見ている。

 

 そして、そんなハリーをロンが不思議そうな表情で観察している。

 

「はいはい、この話はここでおしまい。これからは一緒の寮な訳だし、仲良くしましょう」

 

 現状を見かねたハーマイオニーが軽く手を叩きながら、仲裁にはいる。

 

「ま…まぁそうだな…」

 

 ロンとハリーは少し納得いかない表情だが、仕方なさそうに席に着く。

 

 その時、教壇の方から、甲高い金属音が響き渡る。

 

 教員席の中央で校長が、金属製のゴブレットをスプーンで叩いている。

 

「皆寮も決まって話をしたいのも分かるが、少しこの老いぼれの話しを聞いてくれぬか。新入生の為に自己紹介じゃ、ワシは『アルバス・ダンブルドア』じゃ。本名はもうちょっとばかし長いのじゃが、不便でのぉ」

 

 そう言うと、ダンブルドアはゆっくりと立ち上がった。

 

 その後は、当たり障りのない簡単な自己紹介と学校使用における校則、設備管理要項そして、進入禁止エリアの説明だった。

 

「さて、以上でワシの長い話も仕舞いじゃ。明日から授業が始まるでの、今日はゆっくり休んでくれ」

 

 そう言うと、入学式は終了し、数名の生徒が立ち上がった。

 

 どうやら、各寮の監督生のようだ。

 

 

 

  私達は監督生の引率に従い、寮へと移動した。

 

 各寮の談話室には、それぞれ決められた合言葉があるようだ。

 

 しかし、合言葉とは、なんとも脆弱なセキュリティだろう。

 

 合言葉は定期的に変更されるとは言え、外部の人物が把握すれば侵入が可能という事だ。

 

 生体認証などを導入した方が良いだろうに。

 

 

 寮に入った後、部屋分けが行われた。

 

 デルフィの強い希望もあって、私達は同室になった。

 

 そして、人数の都合上あと一人同居人が必要となった。

 

 そんな時、ハーマイオニーが名乗りを上げた。

 

 こうして、私達3人は同室へと振り分けられた。

 

 部屋に入ると、狭い空間に簡素なベットが3つ置かれているだけだった。

 

「ちょっと狭そうね。でも仕方ないわね。他の部屋だと、5人とか6人とかになっちゃうし」

 

「そうですね。3人で生活する分には問題ないでしょう」

 

 部屋の一角にはハーマイオニーのだと思われる大荷物が置かれている。

 

「ねぇ、貴女達、荷物はどうしたの?」

 

「すでに持ち込んであります」

 

 私は空中に手を差し出すと、ベクタートラップ内から1冊の本を取り出す。

 

「え? 何それ? どうなってるの?」

 

「秘密です。それより早く寝た方が良いのでは?」

 

 デルフィはそう言うと、すでにベットメイキングを完了させていた。

 

「早いわね。まぁ確かに眠くなってきちゃった…」

 

「その様ですね。そろそろ寝た方が良いでしょう」

 

「えぇ、荷物の片付けは明日やるわ…お休み…」

 

「「おやすみなさい、ハーマイオニー」」

 

 私達は、同時に発言すると、室内のライトを切る。

 

  それと同時に、デルフィに通信を繋ぐ

 

『睡眠状態を確認。簡単には起きないでしょう』

 

『その様ですね。では早速始めましょう』

 

 私達はベクタートラップから、ステルスシステムを搭載した数百を超える小型ドローンを展開させる。

 

 ドローンによる城内の偵察、情報収集、スキャニングによる内部構造の把握をこの一晩で行う予定だ。

 

『それでは、私は書籍データの回収を担当します。デルフィは地形データを』

 

『了解』

 

 私達は、ステルス状態のドローンを小さな窓から一斉に室外へと放出する。

 

 無論このドローンにもこの世界特有の外部からの、不正アクセスに対する抗体ソフトを搭載してある。

 

 私は、50機以上のドローンを図書館内部へと侵入させた。

 

 

 現在、周囲に動体反応などは無い。

 

 その後、ドローンによる書籍データのスキャンが始まる。

 

 送られてきたデータをすでに構築済みのデータベースに納めていく。

 

 図書館全体の半分ほどのスキャンが完了後、ドローンは鉄格子で隔離された区画へと侵入する。

 

 送られてきたデータは、劇薬や法律によって仕様が禁止されている薬物の作成方法などが記されている。

 

 数時間後、全ての書籍データの回収が終わり、私はドローンを帰還させる。

 

 ちなみに、これら全ての情報が、電子化されたデータならば、数十秒で終了しただろう。

 

『スキャン終了、詳細なマップデータの構築が終了しました』

 

『こちらも、書籍データの解析が終了。共有を開始します』

 

 私達の間に、量子化されたデータが微弱な光を放ちながら交差する。

 

 デルフィから送られてきたマップデータは細部に至るまで完璧に作り上げられている。

 

『この城の地下に大規模な空間と微弱な生体反応を検知しました。現状では壁の一部を破壊する以外、進入する方法は無いでしょう』

 

『そうですか。そちらの偵察は後回しにしましょう。進入禁止区域の方はどうなっていましたか?』

 

 デルフィは、別のファイルをホログラムで表示する。

 

『ドローンによる偵察の結果、禁止区域には、3つ首の巨大な犬と思われる生物が鎮座していました。スキャンの結果、大型の生物の体の下に抜け穴の様な物を確認。最深部に中規模なエネルギー反応を検知しました』

 

『エネルギー反応の詳細は?』

 

『残念ながら、この距離でのスキャンではこれ以上のデータは得られませんでした』

 

『了解』

 

 

 

  互いに情報の共有を済ませた私達は、バックグラウンドでデータの整理を行う。

 

 その時、開け放った窓から一筋の光が、暗闇を引き裂いた。

 

 時間を確認すると、すでに日の出の時刻となっていた。

 

 これでは、睡眠(スリープモードへ移行)したところで、すぐに目を覚ます(再起動)事になるだろう。

 

「日の出です……紅茶でも淹れますか?」

 

「持って来てあるのですか?」

 

 デルフィが手を横に広げると、テーブルの上にティーセットが置かれている。

 

「準備は万端です」

 

「ではお願いします」

 

 デルフィは慣れた手付きで、紅茶を入れ始める。

 

 数分後には、部屋の中が紅茶の香りで充満する。

 

「あら…良い香りね…私も1杯頂こうかしら」

 

 紅茶の香りに釣られたのか、眠っていたハーマイオニーが目を覚ました。

 

「おはようございます。お目覚めですね」

 

「紅茶はミルクですか?」

 

「おはよう、二人とも。そうね…ストレートで良いわ」

 

 しばらくすると、2対のカップと1つのカップ、合計3つのティーカップに香り高い紅茶が満たされる。

 

「ティーカップは2人分しか用意していなかったので、申し訳ございません」

 

「良いのよ、私が急にお願いしたんだもの。それにしても美味しいわね。デルフィ貴女良い腕してるわ」

 

「恐縮です」

 

 こうして、人間社会での生活に慣れ始めた私達の学園生活が静かに幕を開けた。

 

 

 

 

 「はぁ…」

 

 最近、溜息が癖になりつつある。

 

 やはり年は取りたくはない。

 

 そんな事を考えながら、ワシはテーブルの上に置かれている、組み分け帽子と対峙している。

 

「さて…もう一度聞こうかの。なぜ彼女、『デルフィ・イーグリット』の組み分けを変更したのじゃ?」

 

「………」

 

「はぁ…だんまり…かのぉ」

 

 先程同様の質問をすでに5回は繰り返しているが、帽子は一向に口を開こうとはしない。

 

「お主が、始めはスリザリンに組み分けしようとした事は分かっておる。しかしその後、お主は不服に思いながらも、グリフィンドールに彼女を組み分けた…そう、イーグリット姉妹を同じ寮に振り分けた。それは一体どういう意図があったのかのぉ」

 

「………」

 

 帽子は一向に答えようとはしない。

 

「はぁ…まだ教えてはくれぬか…いっその事お主の心が読めればのぉ…しかし…それは無理な話じゃろうて…なんせあの――」

 

『………私もそう思っていた………』

 

 帽子は悲しそうに呟く

 

『だが…それはただの思い上がりだった…心を読むことに特化したこの帽子は、決して相手に心を…しかし彼女は…いや、彼女達は違った…』

 

「それは…どういう事じゃ」

 

『言葉の通り、彼女に総てを奪われたと言っても過言ではない。心を覗く筈のこの帽子が…逆に支配されようとはな…』

 

「どういう…」

 

『話は以上だ校長。少し疲れた…寝させてくれ』

 

 帽子は力なく呟くと、ゆっくりと項垂れる。

 

 ワシは、帽子を手に取ると定位置へと置く。

 

 帽子の話が確かならば…彼女は…帽子を操ったと言うのか? 服従の呪文か? はたまた別の…

 

「はぁ…」

 

 疲れを流す様に溜息を吐いたワシは椅子に深く座り込む。

 

「まぁ…しばらくは様子見じゃな…」

 

 思考を破棄する様に、ワシは呟いた。

 

 




まだ、ダンブルドアは余裕を見ています。

まぁ、いつまで持つでしょうね………


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変身術

ようやく、授業開始です。




   朝の支度を済ませ、大広間で軽く朝食を済ませる。

 

「ここの朝食って豪華ね。朝からこんなに食べられないわ」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、トーストしたバケットと、緩めのスクランブルエッグをプレートに盛ると、私達の対面に腰かけた。

 

「そう言えば、今日は変身術の授業があるわね。楽しみだわ!」

 

「メンタルコンデションレベル上昇を確認。上機嫌ですね」

 

「当たり前じゃない! だって私、変身術の授業をとても楽しみにしていたんだもん!」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうな表情で、持って来た朝食に手を付け始めた。

 

「朝食を食べるなんて、君達は随分と余裕そうじゃないか」

 

 振り返るとそこには、両手に本を抱えたロンとハリーの姿があった。

 

「何の御用でしょうか?」

 

「別に用なんて無いさ。ただ、まだこの城に慣れて居ないのに食事をする時間があるのかと思ってさ」

 

 ロンは自慢げにそう言うと、胸を張っている。

 

「それはどういう意味でしょう?」

 

「兄貴達から聞いたんだけど、この城の中は階段が勝手に動いたりするんだ。だから新入生は毎回遅刻するらしい」

 

「そうなの?」

 

「そうさ、だから僕達は早めに移動するのさ。なぁ、ハリー」

 

「うん」

 

 2人は自慢げな表情でこちらを見ている。

 

「ご忠告感謝いたします。ですが内部構造の把握なら既に済ませてありますので、ご心配無く」

 

 デルフィがそう答えると、二人は首を振りながら溜息を吐いている。

 

「はぁ…親切に僕達が忠告してあげたと言うのに…まぁいいさ。精々遅刻してグリフィンドールの点を下げる様な真似だけはしないでくれよ」

 

 そう言うと、二人は足早に移動を開始した。

 

「私達も急いだ方が良いわ。確かに変身術の授業初日に遅刻なんて最悪だわ」

 

 ハーマイオニーは必死にトーストに齧り付いている。

 

「まだ時間はあります。急ぐ必要はないでしょう」

 

「でも……ゲホッゲホ」

 

「急ぐと気管に詰まる恐れがあります」

 

 デルフィが手元にあったゴブレットを差し出すと、ハーマイオニーは一気に中身を飲み干した。

 

「はぁ。そうね。彼方達の言う通りだわ」

 

 落ち着いた様子のハーマイオニーはその後、ゆっくりとだが、少し急ぎ目で朝食を平らげた。

 

「さて、おかげ様で朝食も食べ終わったわ」

 

「そうですか。では行きましょう」

 

 食器類を片付けて、私達は移動を開始した。

 

 目的の場所は既に分かっており、マップ情報も獲得済みだ。

 

 そのおかげか、道中、勝手に移動する階段などがあったが、私達は迷うことなく目的の教室の前までやって来た。

 

「こちらですね」

 

「すごいわ。あっという間に着いちゃった」

 

「城内の内部データは既に把握済みです」

 

「すごいわね。どうやってやったのよ?」

 

「極秘事項です」

 

 デルフィはそう答えると、教室の扉を開いた。

 

「さて、行きますよ」

 

 私達は空いた扉を抜け、教室へと入って行った。

 

 

 

  教室に入ったのは授業開始5分前程前だったが、内部に殆どの生徒が来ており、席に座っている。

 

 来ていないのは、ロンとハリーだけだろう。

 

 恐らく、道に迷ってここまで来る事が出来ないのだろう。

 

 しばらくすると、授業開始時間になる。

 それと同時に、教壇の上のトラ猫が小さく鳴き声を上げた。

 

 声の波長等は完全に猫だが、その体から発せられているエネルギー反応は、マクゴナガルのデータと一致している。

 

 どうやら、認め難いが、彼女は自身の体を猫に変身させて居るのだろう。

 

『不思議な物ですね。これが魔法ですか』

 

 デルフィから、通信が入る。

 

『そうですね。機体の構造変化はオービタルフレームでも可能ですが、生命体の構造変化は未だに行われていません。魔法という技術には関心が湧きます」

 

 エネルギーの波長等はメタトロンの反応と酷似しているが、生み出される結果は全く違う。

 

 メタトロンは純粋なエネルギーとしての反応が主で、動力炉や兵器としての技術利用だ。

 

 一方魔法というのは、使える人間は限られるが、平和利用されることが多い。

 

「うわぁ!」

 

 ある生徒が悲鳴を上げると、マクゴナガルが猫から人へと姿を変えた。

 

 

「えー、これより変身術の授業を始めます。変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中でも1・2を争うほど危険で複雑な魔法です。いい加減な態度で授業を受けるのには退室を命じ、二度と授業を受けられないものだと思っていてください。おや? まだ来ていない生徒がいる様ですね」

 

 マクゴナガルが教科書を片手に、教室全体を見渡す。

 

 丁度その時、教室の扉が勢い良く開かれる。

 

「ウィーズリー、ポッター。初日から遅刻ですか?」

 

「はぁ…はぁ…すいません…」

 

「階段が…勝手に動いて…迷いました」

 

「まぁ良いでしょう、次は有りませんよ。早く席に着きなさい」

 

 マクゴナガルに指示された2人は不機嫌そうに席に着いた。

 

 その後、授業は順調に進み、意外にも科学的な数式が黒板に書き出される。

 

 内容は、原子数の変化方法などだ。

 

 魔法と呼ばれるエネルギーを加える事で、原子数を変化させるという内容だ。

 

「内容を完璧に把握しろとは言いません。ですが変身術を極めるのであれば、理解する必要があります」

 

 マクゴナガルはゆっくりと説明を終わらせると、1人1人にマッチ棒を配った。

 

「まずは簡単な物から始めましょう。このマッチ棒を針に変化させなさい。大切なのはイメージする事です。鋭い針が出来る程上手くいている証拠です」

 

 周囲の生徒は大きく頷くと、杖を取り出し、必死に振り回している。

 

 私達も、ベクタートラップ内から杖を取り出す。

 

「え? デルフィ…それ貴女の杖?」

 

「えぇ、その通りです」

 

 ハーマイオニーがデルフィの取り出した身の丈程のウアスロッドに目を奪われている。

 

「それだけ大きな杖、何処から取り出したのよ…」

 

「極秘事項です」

 

「またそれ…まぁ良いわ。エイダ、貴女の杖は大きさは普通なのね。でもとっても綺麗ね」

 

「ありがとうございます」

 

「何か見た事の無い色ね。というか…それ本当に杖? 光ってるし…何で出来ているのよ?」

 

「極秘事項です」

 

「やっぱり貴女達って不思議だわ…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐きながら、自分の課題に取り組み始めた。

 

 私達も、課題に取り掛かる。

 

 内容は思っていた以上に簡単そうだ。

 

 要は、メタトロンのエネルギーを、ホーミングミサイルの様な実弾兵器の弾薬に変換する様な物だ。

 

 私は杖を軽く振り、エネルギーをマッチ棒へ照射する。

 

 エネルギー照射を受け、マッチ棒は一瞬で消し炭に変化した。

 

 消し炭をベクタートラップで吹き飛ばし、マッチ棒があった場所にエネルギーを照射し続ける。

 

 そして、メタトロンのエネルギーを金属物質へと変化させ、机の上に小さな金属片を精製する。

 

 その金属片は私が操作するエネルギーの波長に合わせ、形態が変化して行き、最終的には、銀色の針が完成する。

 

 ふと、横目でデルフィの方を見ると、丁度同じ方法で、針を完成させたところだった。

 

「素晴らしい出来ですね」

 

 私達の間に立ったマクゴナガルは、2本の針を摘まみ上げるとマジマジト見ている。

 

「美しいフォルム。スマートな先端。実に素晴らしい出来です。どうやらこのクラスで完璧に針に変化させられたのは、イーグリット姉妹だけのようですね。特別に15点差し上げます」

 

「やったじゃない!」

 

「「ありがとうございます」」

 

 私達は一礼し、席に着くと、隣に座っていたハーマイオニーはとても嬉しそうにこちらに顔を近づけて来る。

 

「ねぇ、どうやったの? 私にもコツを教えて!」

 

「説明にもありましたが、イメージする事が重要です」

 

「イメージねぇ…難しいわ」

 

 その後も授業は続いていったが、やがて終業を告げる鐘が鳴り響く。

 

「それでは、授業を終了します。今回の内容を羊皮紙2枚程度にまとめて次回の授業までに提出することが今回の宿題です」

 

 

 

 マクゴナガルがそう言うと生徒たちは嫌そうな声をあげながら教室を後にした。

 

 

 




まだ、派手には動きません。

戦闘がありませんからね。


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魔法薬学

スシとエロ骨にボコられて休日が終わったので初投稿です。


   

 変身術の授業が終了し、次は魔法薬学の授業だ。

 

 どうやら、この教科はスリザリンとの合同なようだ。

 

 教室に入ると、見事なまでに赤と緑が左右に別れている。

 

 私達は、別段気にする事無く中央付近の開いている席に腰かける。

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

「お久しぶりですね。ドラコ・マルフォイ」

 

「お元気そうで何よりです」

 

 私達が座っている席の前方に座ったマルフォイは背もたれに肘を置きこちらに顔を向ける。

 

「まぁね。それより意外なのは君達がグリフィンドールに入った事さ。特にデルフィ、君がね」

 

「良く言われます」

 

「ハハッ、そうだろうね。帽子の奴だって最初は君をスリザリンに入れようとして居なかったか?」

 

「その様ですが、気でも変わったのでしょう」

 

「そうかい。おっと…そろそろ先生のお目見えだ」

 

 マルフォイはそう言うと、正面を向く。

 

 それと同時に、教室の扉が開かれ、不機嫌そうな表情で、前進を黒いローブで包んだ教員が入室した。

 

「貴様等の魔法薬学の授業を担当する。セブルス・スネイプだ」

 

 セブルス・スネイプ、噂ではスリザリンの担当教員であり、グリフィンドールには不当とも思える対応をするという。

 

「これはこれは…ハリー……ッポッターか…フン…スター気取り…か」

 

 スネイプは皮肉交じりに鼻で笑うと、それに釣られる様にスリザリンの生徒達も嘲笑を始める。

 

 その後、一通り出席確認が終わると、スネイプが教科書を片手に教室内をゆっくりと歩き始めた。

 

 

「さて…この授業では杖を振り回すだけの馬鹿げたことはやらん、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ授業である」

 

 かなり自分に酔っている様だ。

 

 かなりのナルシストだと推測できる。

 

「ポッター!!」

 

「へ?」

 

 スネイプの怒号が教室内に響き渡る。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

 唐突な質問に対して、ハリーは目を白黒させ、隣に座っていたロンと顔を合わせ、首をかしげている。

 

 後方の席のハーマイオニーが手をまっすぐ上げていが、スネイプはそれを無視している。あくまでも標的はハリーだけらしい。

 

「どうしたのだ、早く答えたまえ!」

 

「その…わ…わかりません。」

 

 小声でハリーが答えるとスネイプは嘲笑うように「有名なだけではどうにもならんな」と続けた。

 

 

「なんとも嘆かわしい…さて、ポッターもう一つ質問だ。ベゾアール石を探すとすればそれはどこを探すのが一番だ?」

 

 ハリーは相変わらず目を泳がせており、ハーマイオニーは相変わらず手を上にまっすぐとあげていた。

 

「どうしたのだね、わからんのか?」

 

「はい…」

 

「授業が始まる前に予習しようとは思わんかったのかね?」

 

「ハーイオニーが分かっているようなので、聞いてみたらどうですか」

 

 ハリーがそう言うとスネイプは少しため息をついた。

 

「なんと嘆かわしい、私は貴様に聞いているのだぞ、そのふざけた態度は無礼すぎるな、よってグリフィンドール、-15点」

 

「そんなの無茶苦茶だ!」

 

 ロンが席を立ちあがり声を荒げて、スネイプを睨みつける

 

「吾輩は貴様に発言の許可を出した覚えはないぞウィーズリー…-15点だ、これ以上授業の妨害をするようなら退室してもらうぞ」

 

 

 

 ロンが悔しそうに手を握りながら席に着く、結果としてこの数分の間で30点も減点を受けてしまった。

 

「さて…そうだな…エイダ・イーグリット答えてみろ。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものは何になる?」

 

 スネイプは私を指差した。

 

 データベースを検索し、該当の情報を引き出す。

 

「了解。生ける屍の水薬と呼ばれる睡眠薬が生成されます」

 

「………正解だ」

 

 スネイプは悔しそうに視線を落とす

 

 そんな時、隣に座っていたデルフィが口を開く。

 

「余談ですが、アスフォデルの花言葉は『私は君の物』ニガヨモギの花言葉は『愛の離別』『離別と恋の悲しみ』です」

 

「なっ………」

 

 途端にスネイプの心拍数が上昇し、体温が上昇し、発汗を感知した。動揺している様だ。

 

「どうかされましたか?」

 

「余計な事を言わんでいい! 授業を続けるぞ!」

 

 スネイプは苛立った声を上げながら、踵を返し、黒板に板書を始めた。

 

「まさか答えるとはね…それにしても、君達の知識量には驚かされたよ。まさか花言葉まで知っているとはね」

 

 若干振り返ったマルフォイが小声で話しかけて来る。

 

「必要な情報は既にリサーチ済みです」

 

「ですが、花言葉に対してあれ程、動揺するのは予想外でした」

 

「まぁ、そうだろうね」

 

 マルフォイは小さく笑うと、正面を向きなおした。

 

 その後、簡単な魔法薬を作ることになった。

 

 どうやら、吹き出物に有効な薬を作るようだ。

 

 

「まぁ…人数の都合上とはいえ、まさか君達とペアを組まされるとはね」

 

 本来なら2人1組で作るはずだったのだが、私達の他にマルフォイも同じグループになったようだ。

 

「不服ですか?」

 

「そんな事は無いさ。君達と一緒ならまず失敗は無いだろう」

 

「では、始めましょうか」

 

 その後、手元に配られた魔法薬の材料を薬品鍋へ入れようとする。

 

「ちょっと待ってくれ。魔法薬学は分量を正確に測る必要があるんだ。天秤で計量してからだ」

 

 マルフォイは机の上に置かれている、旧世代の天秤を指差している。

 

「不必要です」

 

「いや、だが…」

 

「我々は天秤を使うより正確に計量できるので」

 

 そう言うと、私とデルフィは手順通りに薬品の配合を進める。

 

 数分もすれば、私達の鍋の中には完成した薬品で満たされていた。

 

「ほぉ…やるな。よくやったぞマルフォイ。スリザリンに15点だ」

 

 スネイプはそう言うと、私達の作った薬品を小瓶に詰めるとサンプルとして回収した。

 

「えーっと…後は…」

 

 その時、背後の席で調合を行っていたネビルが山嵐の針を片手に、火にかけられている薬品鍋を覗き込んでいる。

 

 本来ならば、山嵐の針は薬品鍋を火から降ろしてから入れるものだ。

 

「よしッ」

 

 何を確認したのか分からないが、ネビルはそう言うと、薬品鍋に山嵐の針を投げ入れる。

 

「危険です」

 

 ベクタートラップを起動し、鍋に入る寸前の山嵐の針との距離を圧縮し、デルフィがそれを回収する。

 

「え? 何するんだよ!」

 

 突然の出来事に、ネビルは困惑したように声を上げる。

 

「この材料を入れるのは、鍋を火から降ろしてからです。そのまま投入すれば、大惨事になるでしょう」

 

「え…そうなの?」

 

 ネビルは周囲を見回していたが、ある一点を見てから、表情がどんどんと青褪める。

 

「イーグリットの言う通りだ。この程度の薬品の調合すらミスをするとはな…まったく嘆かわしい」

 

 嫌味を言いながら、嘲笑するスネイプを目にしたネビルのメンタルコンデションレベルは今後の行動に影響の出るレベルにまで下がっていた。精神安定剤の投与が必要だろう。

 

「流石だね。やっぱり君達はスリザリンかレイブンクローに入るべきだったね」

 

「そうかもしれませんが、もはや変更はできないでしょう」

 

「まぁ、そうだね」

 

 マルフォイは手元の山嵐の針を指先で遊ばせると、机の上に置くと、ネビルを一瞥し、鼻で笑って居る。

 

 その時、丁度終業を告げる鐘が鳴り響く。

 

「フッ、まぁ良い。今日作った薬品に関するレポートを羊皮紙3枚にまとめて提出が今回の課題だ。以上」

 

 突然の課題に、多くの生徒が不満を漏らすが、スネイプはそんな事を気にする様子も無く、教室を後にした。

 

「さて、今日は助かったよ。君達はグリフィンドールと言う点さえ除けば、とてもいい仲になれそうだ」

 

「そうですか」

 

「あぁ、それじゃあ失礼するよ」

 

 そう言うと、マルフォイは荷物をまとめ、教室を後にした。

 

 私達も退室する生徒達に倣い、出て行った。

 




安全に授業が進んで行きます。


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飛行訓練

チートはさらに加速する。


 

 

   この学園での生活が始まり数週間が過ぎ、多くの生徒が自身の生活リズムを確立した頃、ようやく私達は、この魔法界に付いて、大まかだが理解した。

 

 

 魔法界では機械の類が使用不可能になる魔法が施されている様だ。

 

 その為、初めて魔法界に訪れた時に、外部からのハッキングを受けてしまったと考えられる。

 

 現状では、対抗プログラムが着床済みなので問題ではない。

 

 現在、この対抗プログラムを改良し、攻撃魔法や、毒性の魔法薬、攻撃性の魔導具を無力化させる、対魔法防衛プログラムとしての応用も可能になった。

 

 具体的には、攻撃魔法など、こちらに害する魔法は無力化し、有利に働くものには発動しない様になっている。

 

 ちなみに、このプログラムは任意での切り替えが可能で、攻撃魔法を故意に受ける事も可能だ。

 

 

 その他の調査では、かつてこの魔法界には『闇の帝王』と呼ばれる1人の魔法使いと、その信奉者である『死喰い人』によって恐怖に陥れられていた。

 

『闇の帝王』の標的となった人物は、必ず殺されていたという…1人の人物を除いては。

 

 その人物こそ、幼き頃の『ハリー・ポッター』という話だ。

 

 ハリーが有名人な理由が理解できた。

 

 幼少期のハリーに敗北した『闇の帝王』は、その後姿を消したと言う。

 

 

 しかし、いくつかの疑問が残る。

 

 どの様な手段を用いて幼少期のハリーは『闇の帝王』を退けたのか。

 

 それについては、本人もよく分からないという話だ…

 

 それと、この世界特有の『ゴースト』と言う存在に付いて、若干だが理解できた。

 

 城内に存在するゴーストは、『魔力』と同質のエネルギーで構成されており、そこに自身の記憶データを移植したものだと推測される。

 

 しかし、それ以上の事は理解できなかった。

 

 やはり、この世界には、未知の情報が多く存在すると実感させられた。

 

 

 

 

 

  さらに数日程、月日は流れ、本日の授業は箒を使った飛行を行うという事だ。

 

 児童文学などで、魔法使いが箒で空を飛ぶ描写があるが、まさにその光景をこれから再現しようとしている。

 

 校庭に出ると、空は晴れわたり、雲一つない快晴だった。

 

 気温も適正温度であり、不快指数は感じられない。

 

 集合場所へ行くと、そこには不愉快そうな表情のスリザリン生徒、苛立ちを隠せていないグリフィンドール生が対立していた。

 

 どうやら、この授業も合同なようだ。

 

 スリザリンとグリフィンドールは創立時から対立関係にあるという話だ。

 

 何故、合同授業を行うのか理解できない。

 

「やぁ、突然だけど、君達は空を飛んだことはあるか?」

 

 スリザリンのグループから離れ、箒を片手に、マルフォイが挨拶をしながらやって来た。

 

「箒ではありません」

 

「へぇ、まぁマグルの世界じゃ、空飛ぶ乗り物があるって聞いたことがあるよ」

 

「存在します」

 

「なんでわざわざそんな不便な事をするのか僕には理解できないね」

 

「大量の貨物、及び物資の運搬や輸送、大人数での移動には、最適です」

 

「へぇ…まぁ、アイツ等の考える事なんて、僕にはわからないし、分かりたくないさ。そんな事より君達。『クィディッチ』って知ってるか?」

 

「理解しています」

 

「それなら話は早い。僕はねクィディッチが大好きなんだ。昔から練習していて、箒に乗るのは得意なんだ」

 

 自身に満ちた表情でマルフォイは箒を慈しむように撫でている。

 

「そうですか」

 

「あぁ、他の奴等よりすごい飛び方を見せてやるよ」

 

 笑みを浮かべたマルフォイはこちらに軽く手を振りながら、小走りでスリザリンのグループへと戻って行った。

 

 しばらくすると、校庭内に箒を持った教員が入って来た。

 

「全員整列! 箒の横に並びなさい! 急いで!」

 

 教員の指示が飛び、生徒達が、芝生の上に置かれている箒の横に整列する。

 

「今日の授業を担当する『ロランダ・フーチ』です。さて、まずは箒の上に手を出して『上がれ』と言いなさい。箒が手に吸い寄せられる筈です」

 

 フーチの指示に従い、その場の生徒達が箒の上に手をかざし、口々に『上がれ』と声を発している。

 

 しかし、殆どの生徒は箒を上げる事は出来ず、出来たのは先程まで自慢げに語っていたマルフォイと、意外にもハリーだった。

 

 私も箒の上に手をかざす。

 

 すると、若干だが、箒とのリンクを確立する。

 

 しかし、この程度のリンクでは十分な操作を行うのは不可能だろう。

 

 とりあえず、箒と手の間の空間をベクタートラップで圧縮し、手中に収める。

 

 手に取る事で、より詳しい構造を理解する事が出来る。

 

 柄の部分で吸収したエネルギーを穂の部分でエネルギーを増幅させ、穂先から放出し飛行を可能としている様だ。

 

 かなり単純な構造なので、体重移動での移動が主となるだろう。

 

 構造を理解したところで、エネルギーラインを確立し、エネルギーを送り込む。

 

 その瞬間、箒が一瞬で燃え尽き、灰と化した。

 

 隣に居たデルフィの方を見ると、その手にも、炭が付いていた。

 

『やはり、我々の規格とは適合しませんね』

 

『そうですね。ですが構造自体は単純です。後で複製する事は可能でしょう』

 

『そうですね。ですがわざわざ箒が必要だとは思えません』

 

『………その通りですね』

 

「そこ! 何をしているのです!」

 

 ふと顔を上げると、そこには、激怒した表情のフーチがこちらに駆け寄って来た。

 

「箒が消滅しました」

 

「消滅って…一体何を…」

 

「我々の過失です」

 

「後ほど請求書を。後日お支払いします」

 

「え…えぇ…」

 

 不服そうなフーチだったが、納得したように、数回頷いた。

 

 そんな私達のやり取りを周囲の生徒達が唖然とした表情で見ていた。

 

 そんな時……

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 突如として、校庭に悲鳴が轟く。

 

「何をしているのです!」

 

 悲鳴の方を見ると、ネビルの跨った箒が暴走している。

 

「こら! 戻りなさい!!」

 

「アァぁああ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら、ネビルを乗せた箒は急上昇して行く。

 

 

 高度200フィート(60.96m)でネビルが力尽きた様に手を放し、その体は重力に引き込まれるかのように、加速度的に落下する。

 

「きゃぁああ!」

 

 女子生徒を始めとした、悲鳴が響き渡る。

 

 あの高さだと、約3秒で地面と衝突するだろう。

 

 落下開始から0.2秒経過。

 

「サブウェポン。ウィスプ展開」

 

 私の背後に3基のウィスプが展開される。

 

『ウィスプ』とは、サブウェポンの一種であり、距離の離れた目標に急速で接近し、捕縛する小型の飛行ユニットだ。

 

 落下開始から1秒経過。

 

「目標ロック、ウィスプ・リリース」

 

 3基のウィスプが急加速し、ネビルに接近する。

 

 落下開始から2秒経過。

 

「目標確保」

 

 空中でネビルを確保したウィスプが3方向から彼の体を固定し、滞空する。

 

 落下開始から3秒経過。

 

「回収開始」

 

 滞空しているウィスプを手元に引き寄せ、ネビル安否を確認する。

 

「………………」

 

 どうやら、気を失って居るだけで、命に別状はない様だ。

 

 ウィスプをベクタートラップに収納し、地面に彼の体を横たえる。

 

「一体…何が…」

 

「気を失って居るだけです。外的損傷は確認されません。安静にして居れば問題はないでしょう」

 

「わ…わかりました。私は彼を医務室へ連れていきますから、その間に誰も箒に乗ってはいけませんよ! 乗ったらクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますからね」

 

 フーチがそう言うとネビルを担いで城の中へ消えていった。

 

 2人の姿が見えなくなった途端周囲がざわつき始める。

 

「エイダ。今のは一体…」

 

「ネビルを助けるなんてすごいわ!」

 

 私達の周囲に右手に箒を持った状態の、ロンとハリー、そしてハーマイオニーが歩み寄ってくる。

 

「人命救助は最優先事項です」

 

「でもすごいぜ。先生だって茫然として居たな。案外やるじゃないか」

 

 ロンは笑いながら肩を竦めている。

 

 そんな時、マルフォイが地面に転がっていた、ガラス玉を拾い上げ、右手で遊ばせながら、こちらに歩み寄る。

 

「なんだ? これは、ロングボトムの思い出し玉か? これで飛び方を思い出していれば。君に迷惑をかけずに済んだだろうに」

 

「マルフォイ! そいつを返せ!」

 

 ハリーがそう言ってマルフォイを睨みつける。その場の殆どの生徒の目線が私達から彼等へと移行した。

 

「おっと。嫌だね、これは奴自身に見つけさせる」

 

 ハリーが拳を振り上げマルフォイに殴りかかる。

 

「おっとぉ」

 

 マルフォイは当たる瞬間、後ろへ飛びのき、箒に乗って空に回避する。

 

「取りに来いよ! ポッター!」

 

 空中のマルフォイは挑発するように、両手でガラス玉を遊ばせている。

 

「くそぉ!」

 

 ハリーは躊躇い無く、箒に跨るが、隣に居たハーマイオニーがそれを制する。

 

「ダメよ! 先生が言っていたわ! そんなことしたらまた減点されちゃうわ!」

 

「………」

 

 しかし、ハリーはハーマイオニーを無視し、箒に跨ると、ふら付きながらも上昇する。

 

「返せよ! さもないとお前を叩き落とすぞ!」

 

「やってみろよ!」

 

 ハリーがマルフォイを睨みながら正面から突撃していった。しかしマルフォイは難なく横へ避ける。

 

 

「そんなに返してほしいなら、取ってこい!」

 

 

 そう叫ぶとガラス玉を空中高く放り投げる。

 

 ハリーは急旋回してガラス球のキャッチを試みる。

 

 しかし、ガラス玉は放物線を描き、建物へと激突しそうだ。

 

「届けぇ!!」

 

 壁に激突する寸前に、ガラス玉はハリーの伸ばした手に何とか収まった。

 

「取ったぞ!」

 

 無事ガラス玉を確保したハリーは、軌道を修正し、校庭へと軟着陸した。

 

 それを見た、グリフィンドール生は歓声を上げ、マルフォイを始めとしたスリザリン生は不満そうな声を上げている。

 

「ポッター!!」

 

 突如、マクゴナガルの怒声が響き渡り、周囲の喧騒が一瞬にして収まる。

 

「まさか……こんなことはホグワーツで一度も……。」

 

 マクゴナガル先生は言葉も出ないといった感じでポッターに歩み寄る。

 

「でも、先生」

 

「黙りなさい、ミス・グレンジャー。ポッター。付いてきなさい」

 

 ハーマイオニーの反論を制したマクゴナガルは踵を返し、塔へと戻って行った。

 

 その後を、重い足取りでハリーが付いて行く。

 

 

 この状況に、グリフィンドール生の間に、重い空気が流れた。

 

「ハッ! これは滑稽だ! ポッターの奴きっと退学だな!」

 

 マルフォイの一言にスリザリン全体が盛り上がる。

 

 

 




ネビルは気を失っただけで、命に別状は有りません。


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浮遊魔法

今回は、ほのぼのしてます(当社比)


 

 

   スリザリンの生徒はハリーが退学になると考えていた様だ。

 

 しかし、結果は予想外だった。

 

 

 次の日になっても、ハリーは在学していた。

 

 それどころかクィディッチのシーカーと呼ばれる、重要なポジションに選ばれたという話だ。

 

 1年生は選手に選ばれる事は無いと言う話だったが、どうやらマクゴナガルが無理に通したのだろう。

 

 そして、それに嫉妬したのか、マルフォイがハリーに決闘を申し込み。

 

 介添人として、ロンが同行するという話にまで発展した。

 

「ねぇ、貴方達。本当に決闘なんかに行くの?」

 

「当たり前だろ。アイツ、『ウィーズリー家は品の無い家系だから、由緒正しい決闘のやり方すら知らないだろう』だって、ふざけるなよ。あんな奴に馬鹿にされてたまるかよ」

 

 落ち着かない様子のハリーとロンは、談話室で歩き回っている。

 

「はぁ…バカね…どうせ、騙されて減点されるのがオチよ。少し考えたら分かる事だわ。」

 

 そんな二人を見たハーマイオニーは、溜息を吐き、肩を竦めている。

 

「女の君にはわからないだろうけどね。男にはどうしても戦わなきゃならない時が有るんだよ!」

 

「そう。でもね、ロン。貴方達、魔法使いが決闘で使うような魔法使えるの?」

 

「そ…それは…」

 

「ん? どうなのよ?」

 

 ハーマイオニーの追及に対し、二人は顔を見合わせる。

 

「どうする? まともな攻撃なんて…」

 

「あー…あれだ。いざとなったらぶん殴ってやる。困った時は、この手に限る」

 

「はぁ…その手しか知らないの間違いじゃないの?」

 

「うるさいな…それより、この事は絶対先生には言うなよ」

 

「言わないわよ。言ったところで、グリフィンドールが減点されちゃうだけだもん」

 

 ハーマイオニーは呆れた様に溜息を吐いて2人を細い目で見ていた。

 

 

 

  その夜。

 

「エイダ…デルフィ…2人とも…寝てるわね…」

 

 休眠状態(スリープモード)の私達を覗き込んだハーマイオニーはゆっくりと扉を開け、外へと出て行った。

 

 出て行った彼女の動体反応は、決闘会場の2人と合流した。

 

 数分経ったが、その場にある生体反応は3つだけだった。

 

「仕方ありませんね」

 

 私は、布団から起き上がる。

 

「どうするつもりですか?」

 

「彼等が戻った時の為に、室内を温めておきます」

 

「そうですか。なら私は紅茶を準備しましょう」

 

 談話室に出た私は、暖炉に火を付ける。

 

 数分もすると、室温は上昇し、デルフィが準備をした紅茶の香りが充満する。

 

 

 しばらくすると、3つの動体反応が急速にこちらに接近する。

 

 恐らく彼等だろう。

 

 動体反応が扉に接近する寸前で、扉を開く。

 

「おかえりなさいませ」

 

「「「うわあぁああぁああ!!!」」」

 

 突如として開かれた扉に悲鳴を上げながら、彼等が談話室になだれ込む。

 

 彼等と衝突する寸前、私は一歩後ずさり、衝突を回避する。

 

「はぁ…はぁ…あぁぁ…」

 

「なんだったんだ…あれ…」

 

「あんな怪物を学校に閉じ込めておくなんて…おかしいよっ!」 

 

「あんなバケモノ見たことないよ!」

 

「彼方達、他に見るところはなかったの! あれは番犬よ!」

 

「番犬? なんで、校長が行くなって言っていた部屋にあんなものがいるんだよ!」

 

「足元に隠し扉があったの見てなかったの!」

 

「そんな所まで気が行くかよ…」

 

 混乱状態の3人は、しきりに何かを口にしている。

 

「落ち着いてください」

 

 デルフィが3人分の紅茶を入れると、テーブルに並べる。

 

 紅茶の香りにより、彼も若干落ち着くを取り戻す。

 

「あ…あぁ…ありがとう」

 

 紅茶を受け取った3人はゆっくりと飲み干し、一息入れている。

 

「それで、番犬がどうかしましたか?」

 

 デルフィの問いかけに対し、3人は口を閉ざした。

 

 反応から察するに、若干の罪の意識故、口を開きたくないのだろう。

 

 私は、データベースのライブラリの中から、進入禁止区域の3つ首の犬の写真を選択すると、ホログラム化し、彼等に見せる。

 

「番犬と言うのはこちらですか?」

 

「うわぁ!」

 

「そうだよ! こいつだよ!」

 

「いつの間に…と言うかこれって写真?」

 

 驚き方は三者三様だったが、どうやら彼等が目にしたと言うのはこの写真の犬で間違い無いだろう。

 

「そうですか。その反応からすると、襲われたのですか?」

 

「まぁそんな所。危うく食べられるところだったよ」

 

「でも…なんであんな危険な奴が扉を護っているんだろう…」

 

 ハリー達は混乱した状況で必死に考察を組んでいる。

 

「あぁあ! もう分らない!」

 

 しびれを切らしたロンは、頭を掻き毟り声を荒げている。

 

「もう考えるのはやめよう。なんか疲れた」

 

「そうだな…ハリー。もう寝ようぜ」

 

「うん」

 

 ハリーとロンの2人はトボトボと歩きながら、男子寮へと戻る。

 

「では、私達も戻りましょう」

 

 私達の後ろを覚束無い足取りでハーマイオニーに付いて来る。

 

 室内に戻ると、ハーマイオニーはその場で座り込み、その体が震えだす。

 

「どうかされましたか?」

 

「さっきの事を思い出して…それで…」

 

 震えている彼女のメンタルコンデションレベルは著しく低下している。このままでは寝付く事も出来ないだろう。

 精神安定剤の投与が必要だ。

 

 私は、医療キットから、カプセル状の精神安定剤を取り出すと、彼女に差し出す。

 

「これは?」

 

「精神安定剤です。現状のメンタルコンデションレベルでは投与が必要だと判断しました」

 

「………ありがとう。いただくわ…」

 

 精神安定剤を飲み込んだハーマイオニーは数分経った後、メンタルコンデションレベルが平均レベルになり、ベットに横たわる。

 

「スゥ…スゥ…」

 

 しばらくすると、ハーマイオニーは規則的な寝息を立て始める。

 

「無事に眠ったようですね」

 

「その様ですね」

 

 デルフィは表情を変えずにハーマイオニーの頬を手の甲で数回撫でると、自身のベッドへと潜り込む。

 

「それでは、我々も眠るとしましょう」

 

「そうですね」

 

 私もベッドに横になり、休眠状態(スリープモード)へと移行する。

 

 

 

  先の決闘騒ぎから、しばらくの間は平和な日々が続き、10月の末を迎える。

 

 その頃になると、学園中がハロウィーン一色に染まり、食事にまでカボチャ料理が振舞われるほどだ。

 

 私は別段気にしないが、デルフィは過剰に増えすぎたカボチャ料理に嫌気が差している様だ。

 

 

 そんなある日、多くの生徒が興味を示していた浮遊魔法の授業が行われることになった。

 

 授業が始まると、教室には背の低い1名の教師が現れた。

 

 名はフリット・ウィックで、ドワーフと呼ばれる種族なようだ。

 

「さて、早速だが2人一組を作ってもらいましょう」

 

 彼の指示通り2人1組を作る。

 

 どうやら、私はデルフィと組むようだ。

 

 教室の端に視線を向けると、不機嫌そうなロンと、バツの悪そうな表情のハーマイオニーがコンビを組んでいた。

 

 ここ最近、彼等の仲は悪化している。

 

 ハーマイオニーの助言を快く思わないロンは悪態を付き、それに釣られる様にハリーも存外な態度でいる様だ。

 

 ちなみに、ロンは私達の事もあまりよくは思って居ないようだ。

 

 噂では、デルフィの事を、スリザリンのスパイだと思い込んでいる様だ。

 

 どうも、人間と言うのは面倒な思い違いを引き起こす。

 

「皆さん2人1組は作れましたね。それでは今日は羽根を浮かせてみましょう!」

 

 そう言うと、私達の前に白い羽が1枚置かれる。どうやらこれを浮遊させるようだ。

 

「さぁ、皆さん始めますよ、ビュ~ン、ヒョイで『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』優しく呪文を言うのですよ」

 

 簡単な杖の動きを擬音で説明され若干理解に苦しむが、多くの生徒が我先にと、魔法を発動させている。

 

 周囲を見回すと、教室の端の方でハーマイオニーとロンが言い争いをしている。

 

「違うわ!! 呪文が間違っている、『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』貴方が言っているのは『ウィンガーディアム・レビオサー』ちゃんと発音しなきゃダメよ」

 

「御高説どうも! そこまで言うなら君がやってみろよ!」

 

 二人は口論をしているようでハーマイオニーが杖を振ると羽はゆっくりと宙に浮いて行った。

 

「ね、こうやるのよ」

 

 ドヤ顔のハーマイオニーがロンに向かってそんなことを言っている。

 

「ハッ、そうかよ」

 

 ロンは不貞腐れた様に椅子に深く座り込んでいる。

 

 先程の羽根の浮遊を観察し、原理を理解できた。

 

 どうやら、魔法を使い羽根の真下に、反重力作用のある力場を発生させ、その出力により浮遊高度を変更させている様だ。

 

「では、我々も始めましょう」

 

 デルフィはそう言うと、ベクタートラップからウアスロッドを取り出す。

 

 しかし、狭いよう室内では、身の丈程のサイズでは思ったようには振るう事は出来ないようだ。

 

「そのサイズは適していませんね」

 

「仕方ありません」

 

 デルフィは渋々杖を仕舞うと、手を軽く振る。

 

 すると、羽の下に力場が発生し、宙に浮き始める。

 

「お見事です」

 

「この程度朝飯前です」

 

 実際、私達は杖を使う必要は無く、形だけの物だ。

 

 その後、私も難なく羽根を宙に浮かべる。

 

 その頃には、殆どの生徒が魔法を成功させており、授業は無事終了した。

 

 授業が終わるとロンが嫌そうな顔をしながらハリーの元にやってきて先程のハーマイオニーの事で愚痴を言っていた。

 

「見てたかい? アイツの自慢げな表情…あんなんだから友達ができないんだよ! 誰だってアイツには我慢できないっていうんだ。全く、悪夢のようなヤツさ」

 

 ロンがそんなことを言うと彼等を追い越す様にしてハーマイオニーが走ってどこかへ行ってしまった。

 

「ロン…多分だけど、聞かれてたね。流石に言い過ぎたかな…謝ったほうがいいんじゃないかな…」

 

「ハッ! あんな奴の事なんか知るかよ! ほっとこうぜ」

 

 そう言うとロンは急いで教室を後にしハリーもそれに続いた。

 

 

 




次回は、皆さん大好き、あのチュートリアルさんが出てきます。

さて、どうしてくれよう。


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問題発生

ようやく戦闘行動が出来ます。


   次の授業の時間になったがハーマイオニーの姿は見えなかった。

 

 おそらく先程のロンの発言でショックを受けているものだと思われる。

 

 結局その後の授業にも姿を見せず、ハロウィーンパーティーの時間になっても帰ってくることはなかった。

 

 

 城内全体をスキャンした結果、ハーマイオニーは、トイレの一室に籠っていることが判明した。

 

 食事の時間という事もあり、彼女を呼びに行く為に、私達は大広間を後にした。

 

 

 目的地付近に接近すると、ハーマイオニーのすすり泣く様な声を検知する。

 

 女子トイレの扉を開くと、端の個室から声が上がる。

 

「ヒッウッ…だ…だれぇ…」

 

「我々です。ご無事ですか」

 

「え…デルフィ? エイダ?」

 

「そうです」

 

「何しに…来たのよ」

 

「ハロウィーンパーティーのお時間です」

 

「私は出ない…放っておいて」

 

「そうですか。消灯時間までにはお戻りください」

 

「え?………」

 

 彼女の無事を確認したので、退室しようとすると、端の個室から疑問の声が上がる。

 

「ちょ…ちょっと…」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「えっと…こういう場合って普通なんかこう…励ましたりとか…慰めたりとか…」

 

「慰めの言葉が欲しいのですか?」

 

「別に…そんなんじゃ…」

 

 個室を隔てる薄い壁越しにハーマイオニーの弁明が漏れる。

 

「そうですか。それでは我々失礼します」

 

 トイレの扉に手を掛けようとした時、異様なエネルギーの反応を検知する。

 

 生命反応はあるが、人とは異なり、異様なまでのエネルギー量だ。

 

 そんな異質の存在は、一直線にこちらへと接近してくる。

 

「問題発生。退避してください」

 

「え…ちょっと…」

 

 直後、爆音と共に、入り口の扉が吹き飛ばされ、破片が周囲に飛び散る。

 

「キャァァァァァァ!!」

 

 悲鳴を上げたハーマイオニーは個室から転がり落ちる様に出た後、腰を抜かしているのか這いずりながら、こちらに縋りつく。

 

「なに…何なのよ!」

 

 入り口付近に漂う土煙の向こうに異様なシルエットが浮かび上がる。

 

 やがて、土煙が収まり、向こうから5m程の醜悪な巨人が姿を現した。

 

「嘘…なんでトロールがこんな所に…」

 

 私達の背後に隠れるハーマイオニーは怯えた声を上げる。

 

「グゥアアァァァアアアアアア!!!」

 

 トロールと呼ばれた生命体は耳障りな咆哮を上げると、私達に向け、手に持った無骨な棍棒を振り上げる。

 

「キャァァァァァァ!!」

 

 背後のハーマイオニーが再び悲鳴を上げる。

 

 その悲鳴が引き金となる様に、トロールの棍棒が私達目掛け振り下ろされる。

 

「緊急事態発生。シールド展開」

 

 迫り来る棍棒が直撃するより早く、左手のシールド発生装置を眼前に構え、前面にシールドを発生する。

 

 次の瞬間、鈍い音が響き渡り、トロールの巨体が弾き飛ばされる。

 

「え…なに…」

 

 背後で困惑しているハーマイオニーを尻目に、私達は眼前の生命体に視線を向ける。

 

「警告します。これ以上こちらに危害を加える様でしたら、敵意がある者と判断し、防衛措置を行います」

 

「アガァァァアァァ!!」

 

 弾き飛ばされたトロールは激昂したのか、咆哮を上げ、棍棒を振り回している。

 

「残念ながら、あの生命体に意思疎通する程の知性は無い様に思われます」

 

「そうですね。では防衛措置に移行します。システム戦闘モードへ移行。眼前敵性生命体の無力化まで条件付きでリミッターを解除」

 

 日常生活を送るうえで不必要だった戦闘モードへ移行すると同時に、出力制限のリミッターを限定解除し、戦闘に備える。

 

「加勢いたしますか?」

 

「いいえ、デルフィ。貴女は生存者の保護をお願いします」

 

「了解」

 

 頷いたデルフィは、ハーマイオニーを抱きかかえる。

 

「失礼します」

 

「ちょ…ちょっと何するの!」

 

「退避します。大人しくしてください」

 

「でも…エイダが…」

 

「ご安心を。エイダはそれほど弱くはありません」

 

 そう言ったデルフィはトロールの側面を走り抜ける。

 

「アガァァァアァァ!!」

 

 咆哮を上げたトロールは走り抜けるデルフィに向け、棍棒を振り下ろす。

 

 動体反応を標的にする性質でもあるのだろう。

 

「防衛行動を開始」

 

 トロールとデルフィの間に滑り込むと、右腕をブレードに変形させ、迫り来る棍棒を切り裂く。

 

「がぁ?」

 

 棍棒を切り落とされたトロールは間抜けな声を上げ、切り口を見ている。

 

「敵武装破壊を確認。敵脅威レベル低下」

 

「お見事です」

 

「無駄話は後程、早急に撤退を」

 

「了解」

 

 デルフィは再び走り出すと、瓦礫を避けながら安全圏まで退避した。

 

「がぁああああああああ!!」

 

 咆哮を上げたトロールは、混乱しているのか、周囲にある瓦礫を手当たり次第に投げている。

 

「回避行動」

 

 迫り来る瓦礫を避け、その場から飛び上がる。

 

「ンガぁ!!」

 

「ブレード展開」

 

 右腕のブレードを振り上げると、トロールの左肩部に振り下ろす。

 

「ンガアァァァァァッァアアアア!!」

 

 ボロリと鈍い音を立てて、トロールの左腕が肩から滑り落ちる。

 

「左腕破壊。敵脅威レベル低下」

 

 左腕を切り落とされたトロールは傷口を押さえて、その場でのたうち回る。

 

 しかし、その左肩からは1滴も血は流れていない。

 

 ブレードの表面をコーティングするエネルギーフィールドにより、裂傷と同時に焼き切った。

 

 それにより、ブレードに付着した若干の血液が蒸発する。

 

「アガァ…アッ…ンガぁ…」

 

 床でのたうち回るトロールに接近し、頭部を右手で掴み、そのままバーニアの出力を上げ、浮遊し、トロールの体を宙に持ち上げる。

 

「ガァ! ガッ! ガァ! ガァァア!」

 

 頭部のみで持ち上げると、頭蓋骨にヒビが入る様な鈍い音が響き渡る。

 

「ガァルルガアァァァアァアア!!」

 

「五月蠅いです」

 

 頭部を掴まれたトロールはその痛みから逃れようとしているのか、私の腕を何度も残った右腕に掴んだ棍棒の切れ端で叩きつける。

 

 しかし、オービタルフレームの戦闘にも耐えうる強度を誇るA・S・S(セルフ・サポーティング・アーマー)の前では、この程度の衝撃は何の意味も成さない。

 

 後は、このまま頭部に電流を流し、気絶させれば問題無いだろう。

 

 その時、声が響き渡る。

 

「そこまでじゃ、もう十分じゃろう」

 

 入り口の方に視線を向けると、警戒した表情のダンブルドアを始めとした教師陣と、少し怯えた表情のハーマイオニーとハリーとロンの姿があった。

 

「これは一体どういう事です!」

 

 現状を目の当たりにしたマクゴナガルは混乱したような怒声を上げている。

 

「敵性生命体の襲撃を確認。意思の疎通は不可能と判断したため、防衛行動に移りました」

 

「が…ガァ!!」

 

 トロールは苦しみから逃れようと私の腕や胴体を切れた棍棒で殴り付けるが、その力も徐々に弱まって行く。

 

「そうか、後はこちらに任せて貰おうかの。その手を離すのじゃ」

 

「しかしまだ拘束措置が取られてはいません。このままでは逃走の恐れがあります」

 

 私の言葉を聞き、ダンブルドアは表情を曇らせる。

 

「じゃが…トロールを拘束するすべなど、現状ではのぉ」

 

「退いてください。拘束を開始します」

 

 入り口の教師陣を掻き分けたデルフィは、右手に4倍の長さに伸びたウアスロッドを構えている。

 

「了解。任せます」

 

 デルフィは、その場で飛び上がると、トロールに接近する。

 

掴み(グラブ)解除」

 

 私がトロールを開放すると同時にデルフィは、頸部へと跨る。

 

「ンガ?」

 

「拘束」

 

 頸部に跨ったデルフィは、そのままウアスロッドを振り上げると、瞬時に体を屈め、トロールの腹部目掛けウアスロッドを投擲する。

 

「ガァ!!」

 

 悲鳴を上げ、腹部を貫かれたトロールは、勢いそのままに壁に磔にされる。

 

「拘束完了です」

 

 目の前の惨状に、その場の全員が唖然としている。

 

 磔にされたトロールは項垂れる様に、その動きを止めた。

 

「お見事です。現在をもって戦闘モードを解除します。この戦闘における周辺への被害状況を報告。建造物損壊、軽微。死傷者は有りません。敵拘束状況は?」

 

「急所は外してあります。現状は気絶しているだけでしょう」

 

「左様か…後の事はワシ等で処理しよう。ミス・デルフィ、見事な杖じゃが、本来杖はあのように使う物では無いぞ」

 

 ダンブルドアはそう言うと、杖を取り出し、軽く振る。

 

 すると、トロールの体が一瞬だけ動くが、それ以上何も起こらなかった。

 

「むッ…おかしいの…どうやら、お主の杖は深く刺さりすぎて居る様じゃの。引き抜けぬ」

 

「ご心配には及びません」

 

 デルフィは躊躇い無く、壁に刺さっているウアスロッドを掴むと、一気に引き抜く。

 

 すると、支柱を失ったトロールが力無く倒れ込む。

 

「では、事後処理をお任せします」

 

 デルフィの手中に収められたウアスロッドを軽く振り、付着した血液を振り払うと、数回軽快な金属音を立て、通常時の半分の長さになる。

 

「武装を改装したのですか?」

 

「閉所での戦闘も考慮し、可変機構を搭載しました」

 

 ベクタートラップに杖を収納したデルフィはダンブルドアに一礼する。

 

 その後、私達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

  背後に感じる視線を尻目に、廊下を歩くと、ハーマイオニー達がこちらに気が付き、駆け寄ってくる。

 

「すごいじゃないか! トロールをあんな風にしちゃうなんて!」

 

「そうだよ! 君達って強いんだな! 少し誤解していたよ」

 

 目を輝かせた男二人は、嬉しそうな表情をしている。

 

「ありがとう、二人のおかげで助かったわ」

 

「えー、僕達は?」

 

「貴方達は何もしてないでしょ!」

 

「酷いな。君達を心配して、僕達が先生を呼んで来てやったんだぞ」

 

 どうやら、あの場に教師陣が駆けつけたのは、彼等が呼んだからの様だ。

 

「まぁ…それに関しては助かったって…言った方が良いのかしらね?」

 

 3人はこちらに視線を向ける。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや…なんか、君達に悪い事したかなって…」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「だってさ、僕達、先生を連れて来たでしょ。だから君達のやった事が先生にバレちゃってさ…もしかしたら…退学になるとか…」

 

「そんな! だって…エイダ達は私を助けようとしてくれたのよ! 退学なんて…」

 

「もしもの話しさ。でもあれだけ派手にやれば…」

 

 3人の間に気不味そうな空気が漂っている。

 

「ご心配なく。いずれこの件に関しては、露見すると推測していました」

 

「我々は敵性生命体の迎撃を行ったまでです。それに関しては何ら罰せられることではないと思われます」

 

「なんか…難しくてよく分からないけど…とにかく問題ないって事?」

 

「おおむね、その通りです」

 

「なら良かった…」

 

 3人は安堵の表情で、胸を撫で下ろしている。

 

「あっ! そうだ!」

 

「どうしたのよ?」

 

「僕達まだパーティーの料理食べてない!」

 

「もう…そんな事?」

 

「そんな事じゃないよ! 急がなきゃ!」

 

「ちょ…待てよ! ロン!」

 

 走り出したロンを追いかける様に、ハリーも走り出す。

 

「ちょっと…はぁ…男の子ってなんであんなのかしら…」

 

 呆れた様に、首を振りながらも、嬉しそうな表情のハーマイオニーは、小走りで彼等の後を追いかけた。

 

 

 こうして、ハロウィーンの夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ハロウィーンパーティーが終わり、夜も更けた頃。

 

 ダンブルドアは自室で一人、頭を抱えていた。

 

「はぁ…」

 

 本日5回目の溜息を吐いたところで、自室の扉が叩かれ、見知った顔が入室してきた。

 

「おぉ…セブルスか。首尾はどうじゃ?」

 

「報告書です」

 

 セブルス・スネイプは表情を変える事無く答えると、テーブルの上に置く。

 

「どれ…」

 

 ダンブルドアは資料を受け取り、目を通すと、その表情を曇らせる。

 

「報告書にある通り、侵入してきたトロールは何者かによって服従の呪文により操られていたものと思われます」

 

「そうか、して犯人は?」

 

「今のところはまだ不明です」

 

「そうか…」

 

「捕縛したトロールですが、後日ミスター・クィリナス・クィレルが処理するという事です」

 

「そうか。して、現在トロールはどうなっておる?」

 

「幸いな事に未だに目を覚ましてはいません。目立った外傷は、ミス・エイダによる左肩の断絶とミス・デルフィの杖が貫通した後だけでしょう」

 

「そうか…では現状を整理しよう。」

 

 スネイプの報告を聞いたダンブルドアは、現状を整理する。

 

「まずは、原因不明のトロールの侵入からじゃ。恐らくこれは、何者かが意図的に侵入させたものだと考えられる」

 

「えぇ、騒ぎを起こし、城内を散策でもしたのでしょう」

 

「そうじゃの、しかし事態は予想外の結果となった」

 

「えぇ、どういう訳か、トロールの襲撃場所に居合わせた、ミス・グレンジャーが巻き込まれたという」

 

「そして、その場に偶然にも居合わせたイーグリット姉妹によって、彼女の命は助けられたと言う訳じゃ」

 

「把握している限りではそうかと」

 

「そうか…」

 

 ダンブルドアは眼鏡のズレを直すと、スネイプに問いかける。

 

「ところで、セブルス。お主は彼女達をどう思う?」

 

「どう…と仰いますと?」

 

 何かを察しているスネイプは表情と声のトーンを変える事無く、ダンブルドアに問いを返す。

 

「問いに問いで返すとはのぉ。まぁ言葉のままじゃ。先程の彼女達の行動をどう思う?」

 

「そうですな…」

 

 スネイプは数十秒間考えを巡らせ、問いに答える。

 

「まず、通常であれば、トロールの討伐や捕獲は、熟練の魔法使いが複数名で行う程危険な行為です。それに…」

 

 スネイプはそう言うと、魔法で何かが包れた布を引き寄せ、テーブルの上に置く。

 

「これは?」

 

「トロールが所持していたと思われる棍棒と、左腕です。今は半分に切られていますが」

 

 そう言うと、布を取り、綺麗に裁断された棍棒と、左腕が姿を現す。

 

「切り口をご覧ください」

 

「うむ…とても見事な切り口じゃ…血も出ておらぬ…一体どのようにして…」

 

「吾輩が知る限り、ここまで見事な切れ味を持つ魔法は見たことが有りません。腕の切り口に関しても、切断と同時に高温による止血が行われておりますが、そのような魔法は存在しません。ですが彼女達はそれをやってのけたのです」

 

「左様か…もし同様の事を行うとすればどのような行動が必要になる?」

 

「理論上ですが、高温の切れ味が良い剣で切断すれば、同時に止血が行えるかと」

 

「左様か…しかし」

 

「えぇ、あくまでも理論上。机上の空論に過ぎませぬ」

 

「何という事じゃ…」

 

「その上、彼女は単独でトロールを捕縛していました。それも、片手のみで頭部を掴み宙に浮かせるようにして…」

 

「そうじゃ。さらに彼女は箒等を使わずに浮遊していた」

 

「えぇ、熟練の魔法使いなら箒を使わずとも浮遊する事は可能ですが、それをあの年齢で出来るとは到底考えられませんな」

 

「じゃが、現に彼女はそれをやってのけた。しかも自らの体だけではなく、片手でトロールを持ち上げておった」

 

「えぇ、先程計測した結果、あのトロールは350㎏以上ありました」

 

「つまりじゃ、彼女は片手で350㎏のトロールの頭部を掴み、浮遊していたことになる」

 

「そうですな…」

 

「その上、トロールは苦しみから逃れる為にもがき、彼女の腕を振り解こうと、何度となく殴っておったが、彼女の体はおろか、服にすら亀裂などは入って無かった」

 

「一種の防御魔法かと思われましたが…そう言う訳では無さそうでした」

 

「左様か…」

 

 疲れたのか、ダンブルドアは欠伸を噛み殺すと、書類を引き出しへと仕舞い込む。

 

「校長。お言葉ですが、彼女等は一体何者です?」

 

 この日初めて表情を変えたスネイプに対し、ダンブルドアは詰まらなそうに口を開く。

 

「実を言うとな、ワシも良く分からぬのじゃ。じゃがとてつもない魔力を秘めておるのは確かじゃ。それを間違った道へと逸れぬようにしてやらねばならぬ。分かってくれるかの? セブルス」

 

「…………承知」

 

「ならばもう下がるが良い。明日からも彼女達の事は気にかけてやってくれ」

 

 スネイプはその場で一礼すると、棍棒と左腕を布に包み直し、魔法で浮かせて退室する。

 

「ふぅ…」

 

 どっと疲れが出たダンブルドアは天を仰ぐ様に大きな欠伸をする。

 

「まだ手に入る情報は少ない…仕方ない事じゃ」

 

 独り言を口にしたダンブルドアはテーブルの上のキャンディーを1つ取ると、包装紙をはぎ取り、口へと放り投げた。

 




少し優しかったですかね。

もう少し派手にやっても良かったですね。



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ニコラス・フラメル

クィディッチ回です。

つまり、日常回です。


 

  前回のトロール不法侵入から月日が流れ、11月。

 周囲の気温は低下し、地面には雪がうっすらと積もり始める。

 

 先の事件以来、ハリー、ロン、ハーマイオニーの仲は良い方向へと進み、親友と言っても変わらない程の関係になっていた。

 

「さぁ! クィディッチの季節がやってきたぞ! クィディッチだぁ! ハリー! 今日は君の初陣だ!」

 

「そ…そうだね…」

 

 ロンは声を張り上げると、バシバシとハリーの背中を叩いている。

 

「どうしたんだい? もしかして緊張しているのか? 大丈夫だよ! 君1年生でシーカーに選ばれるほどの腕を持っているんだ! 自信を持てよ!」

 

 ロンはそう言うと、ハリーの背中をバシバシと力強く叩いている。

 

「ちょ…痛いって」

 

 叩かれている当人は、とても迷惑そうに苦笑いをしている。

 

 

「ロンったら今朝からこの調子なのよ」

 

 ハーマイオニーは呆れた様に溜息を吐くと、首を左右に振る。

 

 本日は11時過ぎから、校庭で『クィディッチ』と呼ばれる箒を使ったスポーツが行われる。

 

 どうやら、魔法界ではこの『クィディッチ』が人気なスポーツな様で、学生スポーツであれ、試合当日は授業が休業扱いになる程だ。

 

 会場に移動した私達は、適当に空いている席に腰かける。

 

 周囲を見渡すと、ロンを始めとした複数名の生徒が『ポッターを大統領に』と書かれた大きな旗を振っている。

 

 今日の相手はどうやらスリザリンのようで空気はまさに一触即発といった感じだった。

 

 

『それでは! 選手の入場です!』

 

 会場内に実況者の声が響く、それと同時に大歓声が上がり、そんな中を選手たちは堂々と歩きながらコートに入場する。

 

 審判と思われる教員が選手達の間に立ちホイッスルを手に取る。

 

 その直後ホイッスルが、けたたましい音を立て、試合の幕が上がった。

 

 

  ゲームの進行は一進一退の攻防戦であった。

 

 シーカーであるハリーはブラッジャーと呼ばれる襲い掛かってくる球を避けながら周囲を索敵していた。

 

 次の瞬間、ハリーの箒が狂ったように暴れだした。

 

「ハリー!」

 

「ありゃ一体どうなってるんだ!」

 

 いつの間にか後ろにいたハーマイオニーとハグリッドがハリーの以上に悲鳴を上げた。

 

「どうなっているんだよ!スリザリンの奴ら…何か細工をしたな!」

 

「ロン、それはありえんぞ、箒に呪いをかけるとなるとそれこそ一流の魔法使いじゃなきゃ無理だ、スリザリンの生徒ごときじゃ無理だろう」

 

「じゃあ一体誰が…」

 

「ちょっと貸して!」

 

 するとハーマイオニーがロンの首にかかっていた双眼鏡を奪い取る。

 

「おい! 何するんだよ!」

 

「犯人を捜すのよ! 呪いをかけているなら口の動きで分かるわ!」

 

 しばらくするとハーマイオニーが「見つけたわ!」といってある人物を指さした。

 

「スネイプよ! スネイプがハリーの箒に呪いをかけているわ!」

 

「そんな馬鹿な! ありえん!」

 

「私が止めてくるわ!」

 

 ハーマイオニーがそう言い残して姿を消した。

 

 教員席の方に視線を向け、スキャンする。

 

 すると、確かにスネイプからはエネルギーの反応を検知したが、ハリーの箒に影響を与えているエネルギー反応とは逆の性質だ。

 

「うわぁ!」

 

 その時、職員席から煙が上がる。

 

 どうやらハーマイオニーが何かをやったらしく軽いパニックを起こした教員席の方からそそくさと脱出してくる姿が見えた。

 

「スネイプに火をつけてやったわ!」

 

「やるじゃないか!」

 

「お前さん…なんてことを…」

 

 盛り上がる2人とは対照的に、ハグリッドは苦笑いしている。

 

 

 

 その後、動きを取り戻したハリーはその場で急降下を開始した。

 

 ハリーの目の前に光る金色の球体、スニッチがありそれをキャッチしようと手を伸ばしている。

 

 あと少しという所で体勢を崩し箒から落下してしまう。

 

 周囲は悲鳴に包まれており、ハリーは何やら苦しそうな表情を浮かべていた。

 

 その場で立ち上がると口の中からスニッチを吐き出し手に収めていた。

 

『スニッチを取ったぞ!』

 

 スニッチを握りしめた手を天高く振り上げる。それに呼応するように会場全体が歓声に包まれた。

 

 こうして、ハリーの初陣はシーカーとしての役目を果たして無事終了となった。

 

 

 

 

 クィディッチも終わり帰ろうとすると後ろからやってきたハーマイオニーに引き留められた。 

 

「2人とも、ちょっと話があるの、これからハグリッドの小屋に行くわよ」

 

「我々はこの後…」

 

「良いから行くわよ」 

 

 デルフィの言葉を遮ったハーマイオニーに腕を掴まれた私達は半ば強引にハグリッドの小屋へ引きずり込まれた。

 

 

 

 

  小屋の中は紅茶の香りが満たされている。

 

 恐らく、ハグリッドが紅茶を入れたのだろう。

 

「ほれ、お前さん達も」

 

 そう言うと、ハグリッドは先に紅茶を飲んでいるハリーやロンとは違い、鉄製のマグカップに紅茶を注ぐ。

 

「食器の数が少なくてな、すまねぇな」

 

「御構い無く」

 

 私は、鉄製のマグカップに入っている紅茶を口に含む。

 

 異常なまでに高温で、渋みの出ている紅茶に若干の不快指数を感じ、それ以降、口を付ける事は無かった。

 

「それで、お話と言うのは?」

 

「そうだったわ。ハリー。貴方の箒に呪いを掛けていたのはスネイプなのよ。ロンも見ていたでしょ」

 

「うん」

 

「そんな訳あるものか! スネイプ先生は教師だぞ! 第一何でそんなことをせにゃならんのだ!」

 

「いくつかの要因が考えられます。自身の寮生を勝利させる為」

 

「グリフィンドール生に対する、個人的な恨み」

 

「その他複数の理由が存在します」

 

「そ…そりゃ…そうかもしれんが…」

 

 ハグリッドは歯切れが悪い態度を取っている。少なからず心当たりでもあろうのだろう。

 

「実は…僕、見たんだアイツが足をケガしているのを…多分だけど、ハロウィーンの夜3頭の犬を出し抜こうとして反撃を受けたんだよ、きっとあいつは犬が守っている『何か』を盗もうとしているんだよ」 

 

 ハリーの話を聞いてハグリッドが驚いたようにティーポットを落としてしまった。

 

「ハリーお前さんどうしてフラッフィーを知っているんだ?」

 

「「「フラッフィー?」」」

 

 3人がほぼ同時に声を上げた。

 

 

「そうだ、俺のペットだ、今はダンブルドア校長に貸しているんだ」

 

 

「それは何で?」

 

 

「これ以上は、答えられんよ、重大な秘密なんだ」

 

「でもスネイプが、何かを狙っているんだよ! ダンブルドア先生は一体何を守ろうとしているの?」

 

「これ以上変なことを言わんでくれ! お前さん達もこれ以上この件に首を突っ込むな! これ以上は危険だ、あの犬のこともダンブルドア校長とニコラス・フラメルの事もな!」

 

「ニコラス・フラメル? それはいったい誰!」

 

 ハリーはハグリッドが漏らした名前を聞き逃さなかった。

 

「あぁあ…もう俺の馬鹿…」

 

 ハグリッドはそう呟くと、自身の頭を壁に打ち付け、自傷行為に走る。

 

「やめてよハグリッド。血が出てる」

 

「もう放っておいてくれ…」

 

「ニコラス・フラメル、魔法界では、1992年の時点で665歳であり、唯一賢者の石の創造に成功した人物として有名です。共同研究者として、アルバス・ダンブルドアの名も確認されています」

 

「その他には、パリにニコラス・フラメルと言うの名の通りが存在します」

 

 私達の回答を聞いて、4人は目を丸くしている。

 

「ところで…賢者の石ってなに?」

 

「賢者の石とは、卑金属を金などの貴金属に変異させ、人間に不老不死の力を与える『命の水』を作り出す事も可能です」

 

「そうか…そんな石があるなら、スネイプが狙うのも当然だね」

 

「まぁね。僕だって欲しいもん」

 

「ロン…貴方ねぇ…」

 

「もういい! 帰ってくれ!」

 

 突如として、ハグリッドが大声を上げ、私達を、小屋の外へと追い出す。

 

「なんだよ…ハグリッドの奴、急に怒り出して…」

 

「わからない…でも、スネイプが賢者の石を狙って居るのは確かだよ」

 

「そうだよな、僕だったら賢者の石を使って大金持ちになって、それでお菓子をお腹いっぱい食べたいね」

 

「ロンらしいね。まぁ僕もあるなら欲しいね」

 

「ハリー…貴方までそんな事言うの?」

 

「だって、永遠の命と大金だぞ? ハーマイオニー、君だって欲しいと思わないのか?」

 

「そ…それは…ね…ねぇ、貴女達はどう思う?」

 

「逃げたよ…」

 

「逃げたね…」

 

 ロンとハリーは目を細めながら、ハーマイオニーを見ている。

 

「質問の意図が不明です」

 

「例えばよ。賢者の石を欲しいと思う?」

 

「答えを言えば、欲しいとは思いません」

 

「どうして?」

 

 私の回答に、ハーマイオニーが首をかしげる。

 

「我々は財政面でも不満は無く、生命の危機にも瀕してはいません」

 

「そうなの? でも…」

 

 その時、丁度私達は、談話室へと到着した。

 

「まぁ…難しい事を考えるのはまた今度にして、今はスネイプの野望を阻止する事を考えよう」

 

 ハリーは拳を握りしめると、天高く振り上げている。

 

 それに釣られて、ロンも拳を振り上げた。




最近、友人に誘われて、wlwを始めました。

財布がかなり軽くなりました。


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クリスマスプレゼント

まだ平和です。


   数週間が過ぎる。

 その間はこれと言った問題は起きず平穏無事な日々が続き、冬休みに突入した。

 

 冬休みは、多くの生徒が一時帰宅という事で家に帰される。

 

 帰る家が無い生徒等はホグワーツで生活することになるが、大半の生徒は、自宅へと帰る。

 

 私達も例外では無く家へと帰された。

 

 家に帰ってからは、防衛システムをチェックする。

 

 どうやら、留守にしている間に、不法侵入者はいないようだ。

 

 その後は、情報の整理や、戦闘システムの調整などを行い、休日を過ごした。

 

 

 

  冬休みも終わり、学校へと戻ると、自室のベットの上にプレゼント箱が数個置かれていた。

 

「久しぶりね、二人とも。休日は楽しめた?」

 

 振り向くと、同室であるハーマイオニーが大きな荷物と格闘している。

 

「おかげ様で」

 

「そう、それは良かったわ。ベットの上にあるのは私からのクリスマスプレゼント」

 

「よろしいのですか?」

 

「良いのよ。開けてみて」

 

 私達は言われるがままに、プレゼント箱の中身を確認する。

 

 中には、羊皮紙とペンが入っていた。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

『この場合、我々も何か渡すべきでしょうか?』

 

『一般的にはそうです。手持ちで最適な物が無いか検索します』

 

 私はベクタートラップ内の収納物を検索する。

 

 彼女の性格などを加味すると、嗜好品などよりは、勉学に有効な物の方が喜ばれる傾向にある。

 

 そこで、私はタブレット端末を取り出す。

 

「こちらをどうぞ」

 

「プレゼントのお返し? 別に良いのに」

 

 ハーマイオニーは口ではそう言って居るが、その表情はとても嬉しそうだった。

 

「悪いわね…えーっと…なにこれ?」

 

「タブレット端末です。上部のボタンを押してください」

 

「ボタンって…これ?」

 

 ボタンを押した瞬間、タブレット端末が起動し、画面が映し出される。

 

 それと同時に、カメラが起動し、虹彩や指紋などの生体情報を瞬時に登録する。

 

「え? 何これ…」

 

「現在、このタブレットには我々が所持している書籍データ。つまり図書館内のすべて本が電子書籍化してあります」

 

「え? え? どういう事?」

 

「このタブレット一つで、図書館内のすべての本を読むことが可能になります。人物名での検索や、タイトルでの検索にも対応しています」

 

「嘘…」

 

 画面を覗き込んだハーマイオニーは首をかしげる。

 

「どうやって使うの?」

 

 私達は一通りの操作説明を行うと、彼女のメンタルコンデションレベルが最高値を記録する。

 

 

「何これ! 凄いわ! ホント凄い! どうなってるのこれ! 閲覧禁止のまであるじゃない!!」

 

「閲覧禁止の項目につきましては、こちらで規制を掛けてあります。閲覧時には一言お声がけを」

 

「うん! わかった!」

 

 テンションが最高潮に上がったハーマイオニーはタブレットを抱え小躍りをしている。

 

「この端末は貴女しか使えないようにしてありますが、他者への譲渡等はしないようにしてください」

 

「わかったわ! 貰ったプレゼントを誰かにあげるなんてそんなことしないわ!」

 

 目を輝かせたハーマイオニーは小躍りしながら、タブレットを鞄に仕舞い込むと、大広間へとスキップしていった。

 

 

  数日後。

 

 今日はクィディッチの試合があるようで授業はすべて中断となった。

 

 

 今回の審判はスネイプが担当するようで、ロンとハーマイオニーは今回の試合に出ることに反対していた。

 

 しかしハリーはそんな二人を説得して試合に出場する様だ。

 

 

 試合結果はとても呆気ないものだった。

 

 開始10分もせずにハリーがスニッチを掴み試合を勝利という形で締めくくったのだ。

 

 

 

 

 談話室でハーマイオニー達と共にハリーを待っていると、神妙な面持ちのハリーが入ってきた。

 

 緊急の要件があるようで、私達は誰も居ない空き教室に連れてこられた。

 

 

 

「やっぱり、スネイプは石を狙っているんだよ! スネイプがクィレル先生を脅しているのを見たんだ!」

 

「ホントかハリー?」

 

「うん。スネイプはフラッフィーをどうすれば出し抜けるか聞き出していたんだ、それにクィレル先生に不審な動きをするなって脅していたんだ。」 

 

「でも、何でスネイプがクィレル先生を脅す必要があるのかしら?」

 

「詳しくは分からないけど、クィレル先生が石を守っていると考えると納得が行くと思うんだ。だってクィレル先生って闇の魔術の防衛術の先生だから…」

 

 それを聞いてハーマイオニーは安心したように平坦な胸を撫でおろした。 

 

「それなら、クィレル先生がいる限り石は安全って事ね」

 

 それを聞いてロンが「だといいんだけどね…」と小声でつぶやいた。

 

 

「話は変わるんだけど、さっきハグリッドが見せたいものがあるから、今夜、小屋に来てくれって言っていたんだけど、皆行くよね?」

 

「もちろん行くよ!」

 

 ロンが楽しげに答えたが、ハーマイオニーはいきなり反論で答えた。

 

「そんなのダメよ、夜間外出が校則違反なのは知っているでしょう! 全く…ハグリッドは何を考えているのかしら?」

 

「バレなきゃいいんだよ。あー…君達は行くかい?」

 

 ロンは、すこし言葉に詰まると、こちらに顔を向ける。

 

「遠慮いたします」

 

「だと思ったよ。行こうぜ、ハリー」

 

「うん」

 

 そう言ってロンとハリーが談話室から出ていった。

 

「もう! 信じられないわ! 私あの二人を連れ戻してくるわ!」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、彼等を追いかけて談話室の扉を開けた。

 

 その夜、結局彼等が戻ったのは、消灯時間を2時間以上過ぎてからだった。

 

 翌日、帰ってきたハーマイオニー達に話を聞くと、どうやらハグリッドはドラゴンの卵を持っており、それが先日孵ったというのだ。

 

 どうやら、この世界にはドラゴンすら存在する様だ。その上、飼育が可能という話だ。

 

 しかし、飼育する上では様々な問題があるようだ。 

 

 ドラゴンの個人での飼育は法律上禁止されているという事だ。

 

 そして、次の問題は、これから先、生育するに連れ、体が巨大になり、隠し通すのが出来なくなるという事だ。

 

 そんな時、近くで会話を聞いていたネビルが話に入ってきた。

 

「すごいね…ドラゴンを飼っているなんて…僕も見てみたいよ!」

 

「今日もロンと僕で見に行くんだ、良かったらネビルもどう?」

 

「え? いいの?」

 

「もちろんだよ」

 

「ありがとう、でもどうしてハグリッドはドラゴンを飼っているの?」

 

「何でも、お酒を飲んでいるときに卵を貰ったらしいよ」

 

「そうなんだ、いいなぁ僕もドラゴン育ててみたいな…」

 

 ネビルはとても嬉しそうに、その場でハリー達とドラゴンについて話し合っていた。

 

 

  数日が経った頃グリフィンドールが1晩で150点も減点され、スリザリンが50点減点された。

 

 話を聞くに、ドラゴンを見に行く為に夜抜け出しているところをマクゴナガルに発見された様だ。

 当事者はハリー、ロン、ネビル、そしてマクゴナガルに密告したマルフォイの4人が一人につき50点の減点。そして、罰則で夜中に森を見回らなければならないという話だ。

 

「まったく! ハリー達には困ったわ!」

 

 夜の談話室でハーマイオニーは私達相手に愚痴を溢している。

 

 さらに時間が経過し、罰則の終了時刻になる。しばらくすれば彼等が戻ってくるだろう。

 

 そう思っていると勢いよく談話室の扉が開かれハリーが飛び込んできた。

 

 

「奴だ! 奴が生きていたんだ!」

 

「ちょっとハリー! 落ち着いてよ! なにがあったの?」

 

「あぁ! ハーマイオニー君にも聞いて欲しい! いや、君達皆に!」

 

 ハリーは数回深呼吸をしてから先程の出来事を話し始めた。

 

 要約すると、罰則で禁じられた森のパトロールをやっている時に何者かに襲われたところを、ケンタウロスに助けられた。

 

 襲撃者はユニコーンの血を啜りながら、生に縋すがり付いているヴォルデモートであったという事だった。

 

「これで全部が分かったよ! スネイプはヴォルデモートの手下、賢者の石を使ってヴォルデモートを復活させようとしてるんだ!」

 

「その名前を出すなよ!」

 

 いつの間にやら戻ってきていたロンは、ヴォルデモートの名を聞いて両手で耳を押さえながら怯えていた。

 

 魔法界では、『ヴォルデモート』と言う名を聞いただけで呪いに掛かると言う話がある。

 

 恐らく、思い込みと、過剰なストレスによる症状だろう。

 

 

「でもッ! でも! アイツは生きていたんだ! アイツは僕を殺そうとしたんだよ! 予言がそう言っているらしいんだ!」

 

 予言と言う不確実なモノを信じてるようだ。

 

 その為か、ハリー達は混乱している様だ。

 

「ハリー! 落ち着いて! ロンも落ち着いて!」

 

 大声で声を上げ肩で息をしながらハーマイオニーは二人に詰め寄る。 

 

「この学校にはダンブルドア先生がいるのよ、それに先生が石を守るために色々な事をやっているはずだわ。だから学校にいる限りハリーは安全なのよ。」

 

「うん…そうだよね」

 

 不安を押し殺して納得したようにハリーは何度か頷いていた。その後ろではロンが眠そうに目を擦りながら欠伸をかみ殺していた。

 

 やがて3人も疲れが出たようで各々が自分の寝室へと戻るように解散した。

 




まだね。


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侵入開始

ようやく、フラッフィーを出し抜きます。


 

   数日後、学期末テストが始まった。

 

 具体的な物では、変身術では、ネズミを嗅ぎ煙草入れに変化させると言う物だった。

 

 私達は、課題が出されてから、早急に嗅ぎ煙草入れをベクタートラップ内で作成し、課題である、ネズミにステルスシステムを施したシートで隠すと同時に、完成した嗅ぎ煙草入れをテーブルの上に置く。

 

 判定が終了後、嗅ぎ煙草入れをベクタートラップ内に収納し、ネズミに掛けていたシートを回収し、嗅ぎ煙草入れからネズミに戻したような演出をする。

 

 その他、様々なテストの内容だったが、私達は全ての教科で、満点で終了した。

 

 テスト終了後、自室で待機していると、ハーマイオニーが勢い良く入室してきた。

 

 

「ちょっと来て!」

 

 私達は、ハーマイオニーに腕を取られて、無理やり、談話室へと引きずり出される。

 

 談話室には、神妙な面持ちのハリーとロンがソファーに腰かけている。

 

「何事でしょう?」

 

「さっき皆で話をしていて気が付いたんだ、ハグリッドがドラゴンを欲しがっているところに卵を持った奴が現れるなんて都合がよすぎるって」

 

 

「それで私達、ハグリッドに聞いてみたの、卵を持ってきたのはどんな人かって」

 

 

「ハグリッドの奴、顔は覚えてないって言うんだ、それに、そいつにフラッフィーを手懐ける方法を教えちゃったんだ!」

 

 

「校長先生に伝えようとしたけど、魔法省から呼び出されて居ないらしいの!」

 

 

「こうなったら、僕達で石を守らなきゃいけないんだ…」

 

 

 一息吐いてから言葉を続けた。

 

 

「僕…今夜抜け出して石を守りに行くよ」

 

「ハリー! 正気かよ!」

 

「そうよ、もしバレたら退学になっちゃうわ!」

 

「でもこのままじゃスネイプが石を手に入れちゃうよ! そうなったらヴォルデモートが復活するんだ! そうなったら減点や退学なんて問題じゃない! 僕は行くよ! 君達が何を言っても行く!」

 

 ハリーは熱の籠った演説を終え、肩で息をしている。

 

「意見具申よろしいですか?」

 

 デルフィが、右手を軽く上げてる。

 

「なんだよ…」

 

 ハリーは不満そうな声を上げる。

 

「具体的な、作戦案は?」

 

「とりあえず、透明マントを使って談話室を抜けて…それで…えーっと…フラッフィーが寝てるはずだから、その隙に扉を開けて…後は…」

 

「考えていないのですか?」

 

「あー…うん…」

 

「あまりにも無計画です。現状、貴方が、目標の確保、及び、保護のミッション達成確率は3.85%です。これでも、かなり甘く見積もっての数字です」

 

「………」

 

 ハリーは俯き、他の3人は気不味そうな表情をしている。

 

「ですが、お二方の協力を得られれば、達成確率は上昇するでしょう」

 

「え…」

 

 ハリーが振り向くと、2人は仕方なさそうに頷いた。

 

「ありがとう…2人とも…」

 

「ですが、それでも達成確率は10%未満です」

 

 デルフィの言葉を聞いた3人の表情は再び暗い物へと変わった。

 

 それと同時に、3人と目線が合う。

 

「なにか?」

 

「いやぁ…僕達3人なら10%位かもしれないけど、もし君達が一緒に来てくれたら、もっと上がるんじゃないかなぁって」

 

「その通りです」

 

「それなら…」

 

 3人は、こちらを見たまま、目線をずらそうとはしない。

 

 このままでは、埒が明かないだろう。

 

「仕方ありません。私達も協力しましょう」

 

「本当かい!」

 

「不本意ですが」

 

「では、ブリーフィングを開始しましょう」

 

 デルフィはホログラム化した、城内のマップデータを移した出す。

 

 マップデータ上には、複数の点が表示されている。

 

「うわぁ! なんだよこれ…」

 

「ホグワーツのマップデータです。赤い光点で記されているのが、我々です。白い光点が番犬『フラッフィー』青の光点が目標と推測されるエネルギー体の位置です」

 

「な…なんか…凄いね…」

 

 3人は状況が呑み込めないといった表情で固まっている。

 

「話を続けてもよろしいですか?」

 

「あ…うん」

 

「入り口に到達したら、我々で障害を排除します。その後――」

 

「ちょっと待って!」

 

 驚いた表情でハーマイオニーが声を上げる。

 

「排除って…まさかフラッフィーを殺す気なの?」

 

「抵抗が激しい場合など、やむを得ない時は殺処分します」

 

「なんでそんな事するんだよ!」

 

「障害を排除しない限り、彼方達3人に危害が加わる可能性があります」

 

「そんな…」

 

「そんなのダメだよ!」

 

「そうさ。そんな事したらハグリッドが悲しむ」

 

「ねぇ、何とか殺さないで行く方法って無いかしら?」

 

「多少の危険は伴いますが、我々が目標を撹乱し時間を稼ぎます。その間に扉を抜けるという手があります」

 

「わかった、それで行こう」

 

「了解、では扉を抜けて降下後――」

 

「え…ちょっと待ってよ! 降下って…落ちろって事?」

 

 ロンが困惑したように声を荒げる。

 

「隠し扉向こうは垂直な通路となっています。降下後も何があるかは不明なので、その場で待機してください」

 

「わかった」

 

「なんだか…急に怖くなって来たよ…」

 

「今更そんな事言うなよ…」

 

「君達…何してるの?」

 

 振り返るとそこには、部屋の扉から半身を出した、パジャマ姿でトレバーを抱えたネビルがいた。

 

「なんでもないよ、それよりまたトレバーが逃げ出したのか?」

 

「誤魔化さないでよ、また抜け出すんだろ」

 

 ネビルはトレバーを強く抱きしめながら、こちらを睨みつける。

 

「見つかったらグリフィンドールの減点になっちゃう…行かせないぞ! 僕…僕は君達を行かせないよ! た…戦うぞ!」

 

 ネビルはトレバーを手放すと拳を握りしめてファイティングポーズをとった。

 

「ゲイザー投擲」

 

 私は、最低出力に設定した、ゲイザーをネビルに投げつける。

 

 本来ならば、オービタルフレームの電子回路をショートさせ、拘束するサブウェポンだが、出力は押さえてあるので、人体にも影響は無い。

 

「アバアアガガガバババッババ!」

 

「ネビル!」

 

 奇声を発した後、ネビルはその場に倒れ込んだ。

 

「何をしたんだ?」

 

「少しの間気を失ってもらいます。出力は最低レベルなので、後遺症などの心配は有りません」

 

「君達って思ったけど…容赦ないよな…」

 

「ミッションを遂行する上では仕方ありません」

 

「まぁいい…行こうか」

 

 3人は、急いで、マントに身を包んだ。

 

 すると、マントに覆われた3人の姿が透過する。

 

 しかし、生体反応や、熱反応は検知できる。

 

 完全に隠れている訳ではないようだ。

 

「これなら、足音さえ気を付ければバレない筈だ…でもこれじゃ3人が限界だ…」

 

「ご安心を」

 

 私達は、ステルスシステムを起動させる。

 

「え?」

 

「消えたよ…」

 

「もう何でもありね…」

 

 私達は、姿を消し、目的地まで移動する。

 

 

 「ここね」

 

 幸運な事に誰にもバレる事無く、無事に目標の扉まで到達した。

 

 無論、周囲をスキャンし、動体反応等を探った上での行動だったので、何ら問題は無い。

 

「この扉の向こうにフラッフィーが居るはずだ…スネイプが眠らせて入ったと考えると、まだ安全なはずだけど…」

 

 

「よし!行こう」

 

 

「えぇ」 

 

 ステルスシステムを解除し、扉を開けると、ハープの音色が鳴り響き。目の前で『フラッフィー』が寝息を立てている。

 

「眠っているようだね…」 

 

「そうだね、あれ、足元…」

 

 ハリー達は小声で隠し扉を指差した。

 

 

「ここから入れそうね、行きましょう」

 

 

「あぁ」

 

 

 隠し扉に近付いたとたん、ハープの演奏が止まってしまった。その瞬間狂ったように唸り声をあげこちらを睨む。 

 

「どうしよう…ハリー! どうするんだよ!」

 

 

「何とか隙を見て中に入るんだ!」 

 

「そんなこと言ったって!」 

 

 3人がパニックを起こし大声で言い争っていると、『フラッフィー』が飛びかかって来る。

 

 

「「「うあぁあああああ!」」」

 

 

「ガントレット投擲」

 

 私は、瞬時にベクタートラップからガントレットを取り出し、装備する。

 

『ガントレット』

 エネルギーフィールドを纏った実弾兵器。

 

 今回は、周囲のエネルギーフィールドの出力と投擲時の出力を押さえた物を『フラッフィー』の胴体部目掛けて投擲する。

 

「ギャン!!」

 

 ガントレットが直撃した『フラッフィー』は部屋の壁に激突し、瓦礫に埋もれる。

 

「今のうちに」

 

「あ…あぁ!」

 

 3人は扉を開ける。

 

「う…うあぁ…真っ暗だ…」

 

「急げよ! ロン!」

 

「だって…高いし…暗いし…」

 

「もう! さっさとして!」

 

「ちょ…押さなっ! あぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 激怒したハーマイオニーがロンを扉の中へと突き落とす。

 

「容赦ないね…」

 

「時間が無いのよ! ハリーも急いで!」

 

「わかった! わかったから! ちょっと――」

 

「えいっ」

 

「うわぁ!」

 

 ハリーも暗闇へと吸い込まれて行く。

 

「じゃあ、私も行くわ」

 

「グアガアァァア!!」

 

 突如、瓦礫を掻き分け、『フラッフィー』が咆哮を上げる。

 

 

「早急に」

 

「えぇ! 二人とも、気を付けてね…」

 

「貴女も」

 

 無事に彼女が扉の向こうへと消えるのを確認した後、私達は眼前で咆哮を上げる、『フラッフィー』を見据える。

 

  先程の衝撃で、興奮状態にあるようで、暴走の恐れがある。もし暴走すれば、城内に甚大な被害が出るだろう。

 

「眼前の目標沈黙まで、戦闘行動を開始します」

 

「了解15秒で片付けましょう」

 

「10秒あれば十分です」

 

 私達は同時に飛び上がり、『フラッフィー』との戦闘を開始する。

 

「ガアアガアアアアアアアア!!」

 

『フラッフィー』が右前脚の鋭い爪を剥き、こちらに迫り来る。

 

「右へ回避」

 

「左へ回避」

 

 私は右へとスラスターを吹かして攻撃を回避する。

 

「3秒経過」

 

 デルフィは反対側の左へと回避する。

 

「ガントレット投擲」

 

 右前脚の関節部に先程よりも出力を上げたガントレットを叩き込む。

 

 フルパワーの場合、間違いなく死に至る程のダメージ量になる。

 

「がぁああああああああ!!」

 

 ガントレットが叩き込まれた右前脚は、関節部が逆方向へと曲がっている。

 

 どうやら、衝撃により、複雑骨折を起したようだ。

 

 デルフィの方を見ると、丁度左前脚の破壊を完了させた様で、バランスを崩した『フラッフィー』はその場に倒れ込む。

 

「戦闘終了、所要時間は7.58秒です」

 

「予想より早かったですね」

 

 私達は、無事『フラッフィー』を無力化する事に成功した。

 

 殺処分ならば、会敵直後に、射殺するだけだったので、大幅な時間と労力のロスだ。

 

「やはり、不殺行動は難しい物です」

 

「その通りですね」

 

「ぐがあ…ああ…」

 

 両前足を破壊された『フラッフィー』は苦しそうな声を上げながも。戦闘継続の意思を示している。

 

「このまま放置するのは危険でしょう」

 

「そうですね。鎮静剤を投与します」

 

 ベクタートラップ内で生成した鎮静剤をペン型の注射器に装填する。

 

「鎮静剤投与します」

 

『フラッフィー』の真ん中の首元に跨ると、そのまま首筋に注射を打つ。

 

「あ…がぁ…」

 

 首筋に数本の注射を打つと、『フラッフィー』の意識が混濁し、その場で大人しくなる。

 

 その後2分程で、規則的な寝息を立て始める。

 

「スキャン完了。外的損傷は軽微」

 

『フラッフィー』の生体スキャンを終えたデルフィの報告を聞きつつ、私は足元の扉を開く。

 

「会敵から3分経過、急ぎましょう」

 

「えぇ」

 

 私達は、扉の中へと飛び込むと同時に、スラスターを全開にし、一気に下層へと移動する。

 

 





前作では犬の餌になったフラッフィーですが、今回は無事でした。



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ここから、少しずつ、原作との乖離が生じます


 

 

   下段へと降下途中で植物と思われる障害物を確認した。

 

「射撃開始」

 

 ビームガンを数発撃ち、障害物を破壊すると、最下層へと着地する。

 

 最下層へと到着後、周囲を見回すが、彼等の姿が見えない。

 

「どうやら、合流ポイントには居ないようです」

 

「その様ですね。恐らく先へと進んだのでしょう」

 

 デルフィの指差す方向には、開け放たれた扉があった。

 

「その様ですね。では急ぎましょう」

 

 私達は、急いで扉をくぐると、天井の高い部屋が広がっていた。

 

 

 

  部屋の中には、羽の生えた鍵が無数に飛んでおり、部屋の端の扉が開かれている。

 

 

「急ぎましょう」

 

 私達が部屋の中間を過ぎた途端に、上空で大きな羽音が響く。

 

 ふと上を見上げると、羽の生えた鍵が一斉にこちらに襲い掛かる。

 

 襲い掛かる鍵の群れに対して、私達は、攻撃行動を開始する。

 

「「ロック完了」」

 

「レーザーランス」

 

「ハウンドスピア」

 

「「発射」」

 

 

 私達は同時に、紅と蒼の閃光を放つ。

 

 飛び交う鍵の群れに向け、私達の放った紅と蒼のレーザーが交錯するように襲い掛かる。

 

 数秒後には、レーザーの波にのまれた鍵が消滅し、焦げ臭さが充満する。

 

 

「対象の消滅を確認」

 

「先を急ぎましょう」

 

 

 扉を抜け、臭いの残る部屋を後にした。

 

 

  扉の向こうは正方形の部屋が広がっており、白と黒の市松模様の床が広がっている。床の上には、エネルギーの残留を放つ石が転がっている

 

 床に広がる白と黒の数は64で、まるでチェス盤の様だった。

 

 部屋の中央に、微弱な生体反応を検知する。

 

「う…うぅ…」

 

 生体反応の主は、傷付き、気を失っているロンだった。

 

 多少の外傷はあるものの、死傷に至るまでではない。

 

 ベクタートラップから、医療キットを取り出すと、応急処置を済ませる。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 応急処置を終了させた時、反対側の扉が開かれ、息を切らせたハーマイオニーが現れた。

 

「エイダ! デルフィ!」

 

「ご無事でしたか」

 

「私は、何とか…ロンのそれは貴女達が?」

 

「応急処置程度ですが。ハリーはどうしました?」

 

 医療キットを仕舞いながら、デルフィが答える。

 

「そうだったのね。ハリーはこの先に進んで居たわ。私は助けを呼ぶために戻る事に――」

 

 その時、周囲に散らばっていた石が、ガタガタと音を立てると、エネルギー反応が増大した。

 

「な…なんなの?」

 

 戸惑いながら、倒れそうになるハーマイオニーの体を支えると、バラバラになった石が結合を開始した。

 

「これって…」

 

 石が結合すると、眼前に、6種類の黒い石像が現れる。

 

 振り返ると、同じ様な形をした白い4種類の石像が現る。

 

 

 石像の種類は、まるでチェスの駒の様だった。

 

 駒の数は、黒のキング - 1個、黒のクイーン - 1個 ビショップ - 各2個 ナイト - 各2個 ルーク - 各2個 ポーン - 各8個

 

「これって…まさか…もう一度…」

 

「心当たりが?」

 

「え…えぇ、この部屋はチェス盤になっていて、チェスに勝たないと進めない様になっているみたいなの…無理やり進もうとすると、駒が襲い掛かってくるわ…」

 

 どうやら、ここまで来て、チェスをしなければならないようだ。

 

 全ての駒を破壊する事も可能だが、その場合、負傷しているロンや、疲労状態のハーマイオニーに危険が及ぶ。

 

「仕方ありません」

 

「そうですね」

 

 ハーマイオニーと、ロンを安全地帯に避難させた後、私達は、チェス盤に上がると、私はクイーンの位置へ、デルフィがキングの位置へと移動する。

 

「ねぇ…何するつもり?」

 

「決っています、チェスを開始します。お先にどうぞ」

 

 本来ならば、こちらが先手だが、デルフィは後手を選んだようだ。

 

 鈍い音を立てながら、白のポーンを掻き分け、白のナイトがf3へと移動する。

 

「ポーンをd5へ」

 

 デルフィの指示に従い、黒のポーンがひとりでに移動する。

 

 その後も、互いに駒を動かし続け、数順が巡る。

 

 この頃にもなると、優劣が現れ始める。

 

 明らかにこちらが優勢だ。

 

 それに伴い、相手の駒の進みが遅くなる。

 

「すごい…ロンだってあんなに…」

 

「全ての駒の動きのパターンを予想しています。どのように動き、どのように動けば良いのかは把握済みです。エイダ、頼みます」

 

「了解です」

 

 デルフィの考えを汲み取り、(クイーン)がキングをねらえる位置に移動する。

 

「チェックです。どうしますか?」

 

 数秒の沈黙の後、黒のキングが、自ら前のめりに倒れ込む。

 

 その頭部を私は踏みつけ、完全に破壊する。

 

 それに伴い、全ての石像が自壊する。

 

「進みましょう」

 

 私達は、先へと進むべく、扉に手を掛ける。

 

「二人とも…ハリーをお願い…」

 

「了解です」

 

 ハーマイオニーを一瞥した後、勢い良く扉を開き、次の部屋へと足を踏み入れる。

 

 

  部屋の中心には、甲冑の様な物を身に着け、剣や盾などで武装しているトロールの死体が横たわっていた。

 

 死体の外傷は激しく、甲冑にまで亀裂が入る程の衝撃が与えられたと考えられる。

 

 現状から考えて、ハリーがこのトロールを撃破したとは考えにくい。恐らくハリー達よりも先に侵入した者の仕業だろう。

 

 私達は、死体を一瞥すると、次の部屋へと続く扉を開け放つ。

 

 

 

  扉を開けると、薄暗い空間が広がる。

 

 部屋の中央までやってくると、周囲に炎が立ち上がり、一瞬にして、部屋の中の光度が上がると同時に、室温が急上昇する。

 

 中央のテーブルには、1枚の羊皮紙と数個の壺が置かれている。

 

 紙には『3つは毒。1つ先へ進む道標、残りは葡萄酒。正しき道を選べば、炎は消える』と書かれている。

 

「この謎を解かないと、鎮火する事は無いようですね」

 

「えぇ、ですが、問題ありません」

 

 私達は、迫り来る炎に臆することなく、歩みを続ける。

 

 数歩進むと、炎が私達の体を飲み込む。

 

 体表装甲の温度が上昇するが、耐熱限界までにはまだ余裕がある。

 

 炎の中を歩み抜けると、次の部屋へと続く扉を開く。

 

 

 

  扉を抜け、薄暗い回廊を抜けると、大広間が広がっており、中央に置かれている巨大な姿見の前にハリーが佇んでいる。

 

「あっ! 二人とも、無事だったんだ!」

 

「えぇ、貴方もご無事で」

 

「うん、ここが最後の部屋だと思うんだけど…賢者の石らしいものはないんだ…」

 

「しかし、エネルギー反応はこの部屋の中央。鏡から発せられています」

 

「え? じゃあこれが…賢者の石?『みぞの鏡』って書かれているけど…あれ?」

 

「どうかされましたか?」

 

 ハリーが鏡の中を必死に覗き込んでいる。

 

「何だろう…僕が何かを取り出そうとしている…」

 

 ハリーは相変わらず、鏡の中を覗き込んでいる。

 

 周囲を再びスキャンすると、空中に数個の『ポーター』を確認した。

 

『ポーター』とは、ベクター・トラップの技術を用いて、物質を隠すために設置された専用機器。

 

  ポーターが存在するという事は、やはりこの世界にはメタトロン技術があると考えるべきだろう。

 

 魔法のエネルギーが、メタトロンのエネルギーに酷似している事も考慮に入れると、この世界の魔法とは、メタトロン技術の延長線上に位置すると考えられる。

 

「あれ…これどうなっているんだ?」

 

 ハリーは相変わらず、鏡とにらめっこしている。

 

 右腕にビームガンを装備して、空中を漂うポーターに狙いを定める。

 

「ポーターを破壊します」

 

 ビームガンから数発エネルギー弾を放ち、空中に浮遊するポーターを破壊する。

 

「うわぁ!」

 

 全てのポーターを破壊すると、ハリーが声を上げる。

 

 その直後、鏡にヒビが入り、そして、崩れ落ちる。

 

「鏡が…割れちゃったよ…あれ? これって…」

 

 ハリーは怯えながら、割れた鏡に手を伸ばし、中から赤い鉱石を取り出す。

 

「これが…賢者の石…」

 

 ハリーが持っている鉱石から中規模なエネルギー反応を検知する。

 

「よろしいですか?」

 

「あ…あぁ」

 

 ハリーから鉱石を受け取り、詳細なスキャンを行う。

 

「どうですか?」

 

「やはりこれは、メタトロン鉱石ですね。含有エネルギーは中程度です。これは大きな手掛かりとなるでしょう」

 

「ねぇ…君達さっきから何を――」

 

 ハリーがこちらを覗き込もうとした瞬間、その体が背後に引き寄せられる。

 

 瞬時に振り返ると同時に、私はビームガンを、デルフィはウアスロッドを構える。

 

 そこには、ターバンを巻いた教師、クィリナス・クィレルが、ハリーを腕に抱きながら、首筋に杖を突き付けている。

 

 そして、ターバンの下、クィリナス・クィレルの後頭部より、当人とは別の、微弱な生体反応を検知する

 

 互いに武器を構え、向かい合う私達の中に、険悪な空気が流れ込む。

 

「ク…クィレル…先生…どうして…」

 

「良くやったぞお前達。さぁ、賢者の石を渡せ」

 

「まさか…先生が!」

 

『だまれ…』

 

「グゥ!」

 

 ノイズの入った別人の声が響くと、ハリーが呻き声を上げる。

 

 この声の良く似た声を聞いた事がある…確か…コロニーアンティリア脱出時、アヌビスに搭乗していた、ノウ――

 

「それ以上はいけません」

 

 突如のデルフィの言葉で、私の思考が現実に引き戻される。

 

『邪魔をするな』

 

 ノイズの入った声が響き渡る。

 

「さぁ、早く石を渡すんだ。さもないとコイツを殺すぞ!」

 

「駄目だ!」

 

「うるさい!」

 

 クィレルはハリーの喉元に、深々と杖を押し付ける。

 

「ガァ!」

 

 このままでは、人質に危害が加わるだろう。

 

 強硬手段を使い、人質を確保し、敵対象を無力化する事も可能だが、それには若干の危険が伴う。

 

 やはりここは、人命を最優先させるべきだ。

 

「わかりました。石を渡すので、人質を解放してください」

 

「だ…ダメだ…エイダ…」

 

「フッ、少しは利口なようだな」

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「この石を使い、何をするおつもりですか?」

 

 私の問いに対し、クィレルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「我が君を…闇の帝王を復活させる」

 

「そんな! あいつは死んだはずだ!」

 

『残念だったな…ハリー』

 

 クィレルが片手で、器用に頭部のターバンを外すと、先程前ノイズ混じりだった声が、若干クリアになる。

 

『俺様はまだ生きている…貴様のせいでこのような姿になってしまったがな…』

 

「そ…そんな…」

 

『俺様は賢者の石を使い復活を遂げる! 肉体を取り戻し、今度こそこの手で貴様を殺してやる!!』

 

 クィレルの笑みと、ノイズの混ざった不愉快な笑みが共鳴する。

 

 私は、再び手中に収めているメタトロン鉱石をスキャンする。

 

 魔法技術については、未だに明るくはないが、知りえる情報を精査したところ、この鉱石のエネルギー量では、肉体の複製や、再生を行うのは不可能だろう。

 

 精々、人工臓器のエネルギー元になる程度だろう。

 

『さぁ! 分かったら早く石を渡せ!』

 

「渡しちゃダメだ!」

 

「黙れと言っている!」

 

 クィレルは苛立ちながら、ハリーに魔法を放つ。

 

「あ…」

 

『フハハハハハ! 安心しろ殺してはいない。だが石を渡さなければ…』

 

 気を失ったハリーに再び杖を突き付けている。

 

「わかりました」

 

 私は、足元に石を置くと、デルフィと共に数歩後ずさる。

 

「人質を解放してください」

 

「あぁ、約束は果たそう」

 

 不敵な笑みを浮かべるクィレルがハリーを盾に構えながら、石を拾い上げると、ゆっくりと立ち上がる。

 

「受け取れ!」

 

 ハリーの体をこちらに向け投げ飛ばす。

 

「確保」

 

 無事に人質を回収した後、顔を上げると、そこには既にクィレルの姿はなかった。

 

 少し離れた地点に先程のメタトロ鉱石の反応を探知した。まだ遠くまでは行って居ない様だ。

 

 その時、新たなエネルギー反応を背後に感知する。

 

 私達はハリーを庇う様に陣取ると、再び武器を構える。

 

「待て、ワシじゃよ」

 

 そこには、杖をこちらに向け悠然と歩みを進めるダンブルドアの姿があった。

 




賢者の石は、メタトロン鉱石でした。


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メタトロン

投稿ミスにより、編集途中で投稿してしまいました。

こちらが、完成版です。


 

  「さて、どういう状況か説明して貰おうかの」

 

 依然として、杖を構えるダンブルドアは笑っていない笑みを浮かべている。

 

「ハリー・ポッター、ハーマイオニー・グレンジャー、ロン・ウィーズリーの3名が、『賢者の石』と呼ばれる鉱石の確保に向かいました。我々はそれに同行したまでに過ぎません」

 

 デルフィの簡単な回答に、ダンブルドアは顔を歪める。

 

「して、賢者の石はどこじゃ?」

 

「教員のクィリナス・クィレルがハリーを人質に取りました。人質の交換条件として石を渡しました」

 

「ほぉ…つまりお主等は、ハリーと引き換えに石を渡したという事じゃな」

 

「その通りです」

 

「奴…いや、奴等が何の為に石を欲しているか知って居るか?」

 

「闇の帝王の復活と話していました」

 

「それを知っていて、渡したのか?」

 

「人命保護が最優先です」

 

「そうか…」

 

 ダンブルドアは杖を構えたまま、溜息を吐く。

 

「ワシの主観じゃが…お主達の腕ならば、石を渡さずとも、ハリーを助け出し、不届き者を捕えられたは?」

 

「十分に可能でしょう」

 

「ではなぜそれをしなかった?」

 

 ダンブルドアの差すような視線がこちらに向けられる。

 

「シミュレーションの結果。反撃を許し、人質の生命が脅かされる可能性が数パーセント程ありました」

 

「ほぉ…つまりお主達は、たったそれだけの可能性の為に、石を渡したと…」

 

「その通りです」

 

「あの石が奴に渡れば…奴の復活を許せば…再びこの世界に闇が訪れるのじゃぞ…」

 

 ダンブルドアは悲しそうに、杖を構える手とは反対側の手で頭を抱えている。

 

「お言葉ですが、あの石では、人体の複製、及びそれに類ずる行動には、力不足です」

 

「何じゃと…」

 

 ダンブルドアは再び、鋭い視線を向ける。

 

「あの鉱石は、『メタトロン鉱石』と呼ばれるものです。本に記載されている物や、伝承上の、賢者の石の効果は無いと考えられます」

 

「………」

 

「質問してもよろしいでしょうか?」

 

「なんじゃ…」

 

「あの石…『メタトロン鉱石』はどのような経緯でこちらに?」

 

 互いに武器を構えた状況下で、さらに緊張が走る。

 

「それを…知ってどうするのじゃ? それに、この石はお主等には関係ない物じゃ」

 

「そう言う訳にはいきません」

 

「あの鉱石は、私達には深い関りが有るので」

 

 デルフィはそう言うと、ベクタートラップ内から高純度のメタトロン鉱石を取り出し、手の平で遊ばせる。

 

「な…そ…それは…」

 

「高純度のメタトロン鉱石です」

 

 狼狽えるダンブルドアの足元にメタトロン鉱石を投げると、恐る恐る拾い上げている。

 

「まさか…これ程の力の物を…」

 

「ご説明いただけますね」

 

「…………わかった…」

 

 ダンブルドアはゆっくりと口を開いた。

 

 

「あの石は、元々はワシの友人の持ち物じゃった。どの様に手に入れたかは教えては貰えなかったがの…彼はあの不思議な力を使い、魔導具を作り上げると、自身の体に埋め込み、長い寿命を得たという」

 

 恐らく、メタトロンと魔法技術を用いて、人工臓器を作ったのだろう。

 

 メタトロンの半永久的なエネルギーにより、長寿命を手に入れたと考えられる。

 

 

 この世界に来て分かった事だが、メタトロンと魔力の相性はとても良い。

 

 メタトロンに魔力を送り込むことで、飛躍的にそのスペックを高める事が出来る。

 

 もちろん、その逆も可能だ。 

 

「じゃが…彼はその力を恐れた。あれは破滅を呼ぶ力だと…そこで彼はワシにある依頼をよこした。それが、あの石を伝説上の『賢者の石』という事にし、ワシに預かって居て欲しいと」

 

「なぜそのような事を?」

 

「彼にも事情があったのじゃろう…そこでワシ達は、共同研究の結果『賢者の石』の生成に成功したという事にしたのじゃ。彼も賢者の石を完成まであと1歩の辺りまで行ったが、結局諦めてしまったようじゃ」

 

「つまり、あの石は作られたものではないと?」

 

「そうじゃ、偶然手に入れた物にすぎん」

 

「事情は分かりました。それでは、我々はこれで。ハリーの事は任せます」

 

 ダンブルドアは数回頷くと、ハリーの物に駆け寄る。

 

「鉱石を回収します」

 

 デルフィはそう言うと、ダンブルドアの横を通り過ぎる際に、メタトロン鉱石を回収すると手の平から吸収している。今回使用したエネルギーの回復程度には使えるだろう。

 

「その力を…どうするつもりじゃ…」

 

 私は、歩みを止めゆっくりと振り返る。

 

「力は正しい事に使います。少なくとも自分がそう思える事に」

 

「………」

 

 

 部屋に取り残されたダンブルドアは俯いており、その表情は窺えなかった。

 

 

  来たルートを戻り、垂直の通路をスラスターを使い上昇し、扉を開け、着地する。

 

「おーよしよし。もう大丈夫だぞ」

 

 そこには、フラッフィーに包帯や薬等で処置を施しているハグリッドの姿があった。

 

「グルゥゥゥゥゥ!」

 

 当のフラッフィーはと言うと、私達の姿を目にした途端、怯えた様に威嚇を始めた。

 

「こら! やめんか! お? お前さん達戻ったのか」

 

「えぇ」

 

「無事なようだな。ハーマイオニー達は医務室に居るはずだ。顔でも出したらどうだ?」

 

 無意味に威嚇をしているフラッフィーを尻目に、私達はその場を後にする。

 

 

 すでに夜も開け始めており、現在医務室に行っても無意味と判断し、翌日顔を出す事にした。

 

 

 

  そして、無事朝を迎え、多くの生徒が目を覚まし、校内に人があふれる。

 

 

 そんな人混みを避けながら、私達は医務室の扉を開ける。

 

 部屋の中では、数十を超えるベッドが用意されており、3つにだけ、外界と遮断するようなカーテンで覆われており、シルエットだけが浮かび上がる。

 

 その3つのシルエットの内、起きているのは1つだけだった。

 

 私達は、唯一起きているシルエットの前に歩み寄ると、カーテン越しに声が上がる。

 

「誰?」

 

「我々です」

 

「デルフィ! それにエイダ! 入って!」

 

「失礼します」

 

 カーテンを開き、中に入ると、ベッドの上で上体を起こしているハーマイオニーは膝の上にタブレット端末を置くと、こちらに嬉しそうな表情を向ける。

 

「ありがとう。お見舞いに来てくれたのね」

 

「ご無事で何よりです」

 

「私はね。ハリーとロンは数日は寝たままらしいわ」

 

 

 そう言って二人の方へ視線を向けた。

 

 その時、医務室の扉が開き奥からダンブルドアがやってきた。

 

 

 

「ダンブルドア先生!」

 

「おぉ、もう起きておったのか? 体調は大丈夫かのぉ?」

 

「はい、私はこれといって悪いところは無いです」

 

「そうか、それは良いことじゃ。ところで、その石板の様な物は何じゃ?」

 

「えーっと…これは…」

 

ハーマイオニーは分かり易く、困惑した表情を浮かべている。

 

「これは、マグル界に存在する、科学技術の一種です」

 

「ほぉ…マグルの」

 

「えぇ」

 

「そうか、マグルのか。そうか」

 

 そう言うとダンブルドアが二人の枕元に百味ビーンズの箱を置いて行った。

 

 ハーマイオニーにはカエルチョコレートを手渡した。

 

 受け取ったハーマイオニーは何とも言えぬ表情を浮かべると、枕元に置く。

 

「さて…皆が無事な様でワシは嬉しいのぉ…さて、2人には少し聞きたいことがあるのじゃが。後で校長室へ来てくれるかの?」

 

「了解です」

 

 薄眼でこちらを睨むダンブルドアは数回頷くと、その場から立ち去った。

 

「なんで2人が呼び出されるの? 何かした?」

 

「我々に心当たりは有りません」

 

「じゃあ…なんで…」

 

「行けばわかるでしょう。それではお大事に」

 

 医務室を後にする私達の背中を、ハーマイオニーは再び心配そうな視線を送っていた。

 

 

  医務室を抜け、校長室の扉の前へと移動する。

 そこには、2体の石像が経っている。

 

 扉に手を振れると、簡易的な防衛システムによってロックされている様だ。

 

「ハッキング開始」

 

 ハッキングを行い、パスコードを取得すると、扉を抜け、奥へと進む。

 

 奥にたどり着くと、再び扉が現れる。

 

 扉を2回ほどノックすると、中からダンブルドアの声が上がり、入るように促される。

 

「失礼します」

 

 

「良く来たの」

 

 椅子に深く身を沈めている、ダンブルドアは両手を組みながら、私達を歓迎する。

 

「要件は何でしょう?」

 

「そうじゃの。では単刀直入に聞くが」

 

 若干の沈黙の後、ダンブルドアが重い口を開く。

 

「お主達は、一体何者なのじゃ?」

 

「我々は、一介の生徒にすぎません」

 

 デルフィは間髪入れずに答える。

 

「フッ…そうか…」

 

「えぇ」

 

「………」

 

 ダンブルドアはゆっくりと立ち上がると、瞬時に杖を引き抜き、こちらに魔法を放つ。

 

 放たれた魔法は私達に直撃したが、常時起動させている防衛プログラムによって、体表で霧散する。

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアは分かり易く狼狽している。

 

「どう言うおつもりですか?」

 

「回答次第では攻撃対象とみなします」

 

 デルフィはゆっくりとウアスロッドを構え、それに倣う様に私もメタトロン製の杖を構える。

 

 しかし、ダンブルドアも未だに杖を手放さずにいる。

 

「見慣れぬ杖じゃ…それにとてつもない力を秘めて居る様じゃの…まるであの石の様じゃ…」

 

 ダンブルドアは目線をこちらから離さず、真っ直ぐに見ている。

 

「お主は先日言っておったの。『力は正しい事に使う、少なくとも自分が正しいと思えることに』と」

 

「えぇ」

 

「素晴らしい心がけじゃ。じゃがお主ほどの年齢で言える言葉ではあるまい。誰の受け売りじゃ?」

 

「恩人と知人の言葉です」

 

「そうか、して、お主達はその力をどうするのじゃ? 不用意に弱者に振るうのか?」

 

「現状その様な予定は有りません」

 

「あくまでも、我々が力を使うのは、防衛手段です」

 

「そうか…つまり、生徒達に不用意に力を振るう訳ではないのじゃな?」

 

「その通りです」

 

「わかった…」

 

 ダンブルドアはそう言うと、杖を納め、再び椅子に深く横たわる。

 

「もうよろしいでしょうか?」

 

「良いぞ。時間を取らせたな」

 

 私達は、その場で一礼すると、校長室を後にした。私達の背中にダンブルドアの疑心に満ちた視線が突き刺さるのを感じながら。

 

 




メタトロンと魔力の相性がいいと言うのは、独自の見解です。

元々、メタトロンは魔法とも呼ばれている程ですから、相性が良いのではないかと。


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寮対抗杯

これで、賢者の石が終わります。


 

  数日後、目を覚ましたハリーは不機嫌そのものだった。

 

「ハリー、いい加減機嫌を直せよ」

 

「フン…どうせ僕は殺されるんだ…」

 

 学年末パーティーの会場である大広間へと移動する最中、ハリーは悲壮感を漂わせている。

 

「はぁ…目が覚めてからずっとこれさ。まぁ、君達が賢者の石を渡したのが原因だけどね」

 

 ロンはワザとらしく溜息を吐くと、両手を上げている。まさにお手上げと言った感じだ。

 

「僕は絶対に渡すなって言ったんだ。それなのに君達は!」

 

「あの状況では石を渡すのが最良の判断です」

 

「でも!」

 

「石を差し出さなければ、貴方はあの場で殺されていたでしょう」

 

「うっ…そ…そうだけども…」

 

「現状では相手の出方を窺い、対策を講じるのが最善でしょう。未来の危険ならば、対応可能です」

 

「そうだけど…石がアイツの物になった以上…蘇って襲ってくるよ」

 

「現状ではその可能性は低いと思われます」

 

「え?」

 

 その場に居た3人の声が、まるで示し合わせた様に重なる。

 

「それってどういう事だよ!」

 

「先程の言葉の通りです。彼等が回収した石は書籍に記されている賢者の石では有りません」

 

「え? どういう意味さ?」

 

「あの石は、賢者の石とは別の鉱石でした。その鉱石には肉体の複製や死体を復活させる様な力は有していません」

 

「じゃあ…君達はそれを知っていて…」

 

「あくまでも、人命保護が最優先でした」

 

「そうだったんだ…良かった…ん? でもそういう事だと…」

 

「僕達がやった事って…」

 

「無駄だったって事?」

 

 3人が不安に満ちた表情を向ける。

 

「語弊はありますが、おおむねその通りでしょう」

 

「「そんなぁ…」」

 

 ハリーとロンは分かり易く項垂れ、ハーマイオニーは呆れたような笑みを浮かべる。

 

「まぁ、問題なくてよかったわ。そろそろ急ぎましょう。パーティーに遅れちゃうわ」

 

 走り出したハーマイオニーを追う様に、2人も後に続く。

 

 しかし、後にメタトロン鉱石があのような使い方をされるとは予想もできなかった。

 

 だがそれは、まだ先の話だ。

 

 

  巨大な正門を抜け、大広間へと入ると、内部は緑を主としたスリザリンのメインカラーで統一されており、壁には蛇の描かれた横断幕で覆われていた。

 

「まったく…全部スリザリン一色さ、気色悪いな…」

 

「そうね…ここまで、緑一色なんて、悪趣味だわ…」

 

「親なら48000点ですね」

 

「何の話よ」

 

「お気になさらず」

 

「7年連続で寮対抗杯を獲得したとはいえ、これは不愉快だ」

 

 ハリーとロンは不貞腐れながらスリザリンの方を睨みつけていた。

 

 スリザリンの方を見てみると、マルフォイがとても誇らしげに周囲の人と話していた。

 

「さて、諸君! また1年が過ぎた!」

 

 ダンブルドアの大声が響いた。

 

 

「目の前のご馳走にかぶり付く前にまずは、寮対抗杯の点数を発表する。4位、グリフィンドール312点。3位、ハッフルパフ352点。レイブンクローは426点。そしてスリザリン、472点」

 

 次の瞬間、スリザリンの寮からは歓声が上がり、スネイプも嬉しそうに拍手をしていた。

 

「うむ、スリザリンの諸君よく頑張ったのぉ、しかし最近の出来事も勘定に入れなくてはならん。」

 

 スリザリンの歓声が一瞬にして止まり、ダンブルドアが言葉を続けた。

 

「まず最初はロナウド・ウィーズリー。近年稀にみるチェスの腕前を披露し最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 地下にあったチェスを攻略したのはロンだったのか。

 

「次にハーマイオニー・グレンジャー。火に囲まれながらも、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 

 

 ハーマイオニーは驚いたような顔をし、嬉し涙を流していた。

 

 手持ちのハンカチを取り出し、眼を擦りながら涙を拭っている。

 

 なんとも、無理やりな配点により、これで一気に点数が100も加点さてたことになる。

 

「3番目はハリー・ポッター。その強靭な精神力に加え、並外れた勇気を称えグリフィンドールに50点じゃ」

 

 

 次の瞬間にはグリフィンドール全体から歓声が上がった。

 

 

「スリザリンとあと10点差だわ!」

 

 ハーマイオニーが涙を拭きながら叫ぶように歓声を上げた。

 

「さて、次じゃ敵へ立ち向かう勇気も素晴らしいものじゃが、友に立ち向かって行く事も十分に勇気のいる行動じゃ…そこで、ネビル・ロングボトムに10点を与えたい」

 

 次の瞬間にはスリザリンを除く全ての寮から歓声が上がった。

 

「これで、並んだわ!」

 

 これで年連続寮対抗杯独占を阻止に成功した。

 

「そして最後に…」

 

 静まり返った会場の中でダンブルドアは重々しく口を開く。

 

「エイダ・イーグリット。デルフィ・イーグリットのイーグリット姉妹。圧倒的な力で、障害を退け、その類稀なる状況判断能力により友を救った事を称え、1人に付き50点じゃ」

 

 

 

 

 途端に大広間全体が揺れる程の歓声が上がった。まるで爆発でも起こしたかのような衝撃だ。

 

 ふとスリザリン寮の方を見ると、ほぼ全員が項垂れており絶望した顔をしていた。

 

 そんな中で、マルフォイだけが、どこと無く納得したように頷いていた。

 

 

「さて…それでは飾り付けを変えようかの」

 

 ダンブルドアは呑気そうに杖を振るうと、スリザリン一色だった装飾が、赤と金色のグリフィンドールカラーになり。蛇の横断幕もライオンが描かれている物へと変化した。

 

「さて、それではパーティーを始めようかの」

 

 その声に答える様に3つの寮から歓声が上がった。

 

 

 

 年末パーティーが終わった翌日には学年末テストの結果が張り出されたいた。

 

 ロンとハリーは全体より若干高い得点を得ており、顔を見合わせ驚愕しているようだった。

 

 ハーマイオニーは総合3位。

 

 私達は満点を取り、1位だった。

 

「2人揃って満点なんて…やっぱり貴女達って凄いわね」

 

「恐縮です」

 

「私も、筆記は問題なかったのに、やっぱり実技で差が出たわね」

 

「貴女の実技もトップクラスだと思われます」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 ハーマイオニーはにこやかな表情で、こちらに賛美を送っていた。

 

 

 

  その後、順調に事後処理などが進み、長期休暇が始まろうとして居た。

 

 ホグワーツ場を離れ、駅には帰り自宅を済ませた生徒達で賑わっていた。

 

 私達も、汽車に乗り込むべく駅のホームへと移動しようとした矢先に、背後から声を掛けられる。

 

「やぁ、2人とも。不本意だが寮杯おめでとうと言っておこう」

 

 マルフォイはワザとらしく溜息をしつつ、賛美の声を送ってくる。

 

「まぁ、僕だってグリフィンドールの優勝を祝いたくは無いが、君達なら仕方ないと思うさ」

 

「恐縮です」

 

「ところで何をしたらあんな高得点を取れるんだ? 教えてくれよ」

 

「長くなります」

 

「簡素に頼むよ」

 

「目の前の障害を排除したまでです」

 

 私の答えに、デルフィは頷き同調している。

 

「思った以上に簡素に答えたね」

 

「何か問題でも?」

 

「いや、別に」

 

 その時、汽車が汽笛を鳴らした。

 

「おっと…もうじき発車時刻だ」

 

「その様ですね」

 

「あぁ、それじゃあまた休み明けに」

 

「えぇ」

 

 マルフォイを見送った後に、私達も汽車に乗り込み、無人のコンパートメントを開けた。

 

 発車1分前。

 

 息を切らしたハリー達3人が勢い良くコンパートメントの扉を開けた。

 

 

「やぁ…ここ開いてる?」

 

「どうぞ」

 

 コンパートメントに雪崩れ込んだ3人は、駅に到着するまで、先日の出来事を反芻するように話していた。

 

 駅に到着し、ホームへと降り立った。

 

「ふぅ…やっぱりずっと座りっぱなしだと疲れちゃうよ」

 

 ロンは腰に手を慌て、体を伸ばしている。

 

「まったく、ロンだらしないわよ」

 

「しょうがないだろ、腰が痛いんだから。それより皆。夏休み良かったら僕の家に来ない?」

 

 ロンの突然の提案にハリーは目を輝かせた。

 

「良いね! 行くよ! うん! 絶対行く!」

 

「それじゃあ、ふくろうを送るよ。ハーマイオニーは?」

 

「そうね。私は両親に相談してみるわ」

 

「わかったよ。君達は?」

 

「一度検討します」

 

「後ほど、返答します」

 

「そう、なら楽しみにしてるよ。それじゃあ」

 

 ロンはそういうと大勢いる兄弟たちと共に自宅へ向かって行った。

 

「じゃあ、僕もこれで一度帰るよ」

 

 ハリーは重い足取りで、駅のホームを抜けていった。

 

「じゃあ、私も帰るわ。二人とも、じゃあね!」

 

「えぇ、お疲れさまでした」

 

「お気を付けて」

 

 

 

 こうして各々が自宅へと帰るべくその場で解散した。

 

 周囲が無人になったのを確認し、私達はステルスシステムを起動し、スラスターを展開させ、上昇すると、自宅へと帰還した。

 

 

 

 

  全校生徒が帰省し、人気の少なくなった構内を、校長であるワシは悠然と歩いている。

 

 人気のない静まり返った校内の散歩を楽しみんでいるが、ワシの心はやはり、暗いままだった。

 

「はぁ…」

 

 しばらく散策した後、無事に自室の扉のドアノブを握ると同時に、溜息を吐いた。

 

 まだ、徘徊老人になる程ではない。

 

 重い足を引き摺りながら、自室の革張りの椅子に体を沈める。

 

「ふぅ…」

 

 一息入れた後に、今年の事を振り返る事にした。

 

 これは毎年の恒例となった。

 

 

 まず初めに、今年はハリーがホグワーツに入学した記念すべき年だ。

 

 これで彼をより護り易くなった。

 

 入学したハリーはグリフィンドールに配属された。

 

 そこで心の拠り所である友を得る事が出来た様で、とても喜ばしい。

 

 ロンとハーマイオニー。

 

 2人とも、独特な雰囲気はあるものの、とても良い友となるだろう。

 

 しかし、不安要素もある。

 

 あまりにもイレギュラーな存在である、あの姉妹の事だ。

 

 エイダ・イーグリットとデルフィ・イーグリット。

 

 彼女達の思考が未だに理解できない。

 

 組み分けの際、帽子が何かされた様だが、依然としてその答えを聞く事は出来ていない。

 

 その他にも、彼女達が行った不可解な事は多い。

 

 まず初めに、校内に侵入したトロールの事だ。

 

 侵入させた犯人は逃げ去った、クィリナス・クィレルが手引きしたようだ。

 

 騒ぎに乗じて石を回収する算段だったのだろう。

 

 しかし、セブルスが目を光らせて居たおかげで、その場での奪還には至らなかった。

 

 侵入したトロールだが、彼女達によって、無力化された。

 

 通常であれば、普通の生徒がトロールを無力化する事自体不可能と言っても過言ではない。

 

 しかし、彼女達はそれをいとも簡単に行ったのだ。

 

 あまつさえ、不殺にとどめる様な余力を残しつつ…

 

 後にそのトロールは、クィリナス・クィレルによって殺害された様だ。

 

 用が済めば処分する、やはり奴等らしいやり方だ。

 

 

 次に、石の保護に向かったハリー達はこちらが用意した罠を次々と突破して行った。

 

 1年生に突破できる罠を設置した事を今更だが後悔している。

 

 しかし、その罠も彼女達の前ではまったく意味をなさなかった。

 

 ハグリッドの用意した『フラッフィー』も両前足を砕かれ、薬を打たれて無力化されていた。

 

 スプラウトの悪魔の罠も、撃ち破られ。

 

 フリットウィックの羽の生えた鍵は総てが撃ち墜とされていた。

 

 ミネルバのチェスには、圧倒的な力の差を見せつけ圧勝したようだ。

 

 余談だが、ロンとの勝負は楽しんでできたが、彼女達の場合は、一方的で辛かったそうだ。

 

 まるで、思考を読まれている様だったらしい。

 

 それ故、自ら負けを認めたようだ。

 

 セブルスが用意したパズルだが、彼女達は迫り来る炎をモノともせずに、ただ突破したようだ。

 

 防火魔法か、保護魔法の類を疑ったが、両方とも1年生が完璧に操るのは難しいだろう。

 

 しかし、力量が未知数な彼女達ならば、それも容易いかも知れない…

 

 トロールは既に死亡していたので論外として。

 

 最後にワシが用意したのぞみの鏡。

 

 あの鏡は、自身の望みを映し出し、無欲な物があの石を取り出せるようにして居たのだが、彼女達はどういう原理か理解できないが、強制的に鏡を破壊し、中から石を取り出した。

 

「はぁ…ふぅ…」

 

 全く理解が出来ず、ワシは思わず連続で溜息を吐く。

 

 溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、多少の幸せを逃して、このモヤモヤを取り払えるなら安い物だろう。

 

 そして、石を手にした彼女達の前に立ちはだかったのが裏切り者のクィリナス・クィレルだった。

 

 奴は、ハリーを人質に取り、石との交換を要求した。

 

 そして、彼女達はハリーに多少の危険が及ぶと判断し、それを了承し、ハリーと交換した。

 

 なんとも愚かな選択だろう。

 

 若干の危険とはいえ、ハリーにはそれを突破する勇気がある。

 

 だが、彼女達の判断は違った。

 

 目の前の僅かな危険を良しとせず、未来の大いなる危険を選択したのだ。

 

 未来の危険ならば対策が取れると考えたのだろう。

 

 なんとも愚かだ。

 

 目の前の僅かな危険程度で未来が救えるならば、どのような選択をするかは明白だ。

 

 しかし、彼女達はそれを怠った。

 

 それ故に、現在、あの石は奴が率いる死喰い人の元にあるのだろう。

 

 

 

 しかし、あの石は伝説上の『賢者の石』などではない。

 

 彼女達は、いち早くそれを見抜き、尚且つあの石の呼び名を教えてくれた。

 

『メタトロン鉱石』それがあの石の名前の様だ。

 

 友人から託されたあの膨大な力を持つ石だが、彼女達にとってはそれほど価値のある者では無い様だ。

 

 その証拠に、デルフィはあの石よりも更に強い力を持つ石をワシに見せてくれた。

 

 あの石を目にし、手に取った瞬間、全身を駆け巡る不可解な感覚と、膨大な力は今でも忘れられない。

 

 とても、不愉快でまるでこちらを取り込もうとしている感じだった。

 

 なぜ彼女が、あの石を持っているのか不明だが、どうやらとても関わりの深い物の様だ。

 

 石の持ち主から聞いた話だが、あの石は突然、歪んだ空から降って来たそうだ。

 

 俄かには信じられない話だが、現に目にした者が彼しかいない以上信じるしかない。

 

 その理屈で言えば、彼女達は歪んだ空の向こう側を知っているという事だろうか?

 

 それはまだ見ぬ楽園なのか、それとも――

 

「ふぅ…」

 

 脳が疲れたワシは、リフレッシュも兼ねて窓から身を乗り出し、空を見上げる。

 

 見上げた先は、歪んではいないが、曇天が立ち込め、なんとも言えぬ空だった。

 

 

 




ダンブルドアの考察で、この章は閉めたいと思います。

次章をお楽しみに。


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秘密の部屋
換金作業


秘密の部屋編、開始です。


最初の内は、やはり大人しいですね。



   ホグワーツから帰還し数日が経った。

 

 前回の不法侵入者の一件以来、私達は対抗策として、ある計画を実行する事にした。

 

 計画遂行に必要なメンテナンス機材や発電機等、こちらに付いてからも何かと資金が必要なる。

 

 ダイヤモンドを換金しても良いのだが、数が出回り始めた為、価格が低下し始めた。その為『ガリオン金貨』を換金して資金に回りている。

 

 魔法界では金貨への変換率が良く、金の含有率も高い為、こちら側で換金する事で大きな利益を得る事が出来る。

 

 その為、グリンゴッツに預けていた金貨の枚数がかなり減って来た。

 

 後日、グリンゴッツでダイヤモンドを換金する必要があるだろう。

 

 設備が整ってから数日間は、システムの微調整と、年齢に応じた、身体の成長を行った。

 

「これくらいでどうでしょうか?」

 

 目の前のデルフィは赤を主体とした部屋着に身を包み、その場でゆっくりと1回転した。

 

「個人的には、もう少し胸を大きくしても良かったのですが」

 

「この年代の平均的な数値です」

 

「そうですか、了解です」

 

 一通りチェックを終え、暇を持て余している。

 

「提案があります」

 

 突如として、デルフィが口を開く。

 

「何でしょう?」

 

 大方の予想は付くが、一応訪ねてみる。

 

「模擬戦を行いましょう」

 

 私の予想は的中した。

 

 何故かと言えば――

 

「賛成です」

 

 私自身も、模擬戦を提案しようとして居た所だった。

 

 やはり、根幹に埋め込まれた、戦闘用AIの本能だろうか。

 

「では、場所を移しましょう」

 

「えぇ」

 

 私達は、家を出ると、森の中を数キロ程移動する。

 

「では模擬戦を行いましょう」

 

 私の真横を歩いていた、デルフィはベクタートラップから、ウアスロッドを取り出し、30㎝程の長さにすると、まるで杖の様に構える。

 

「今回の模擬戦では、今後、魔法界で起こりえる自衛行動を重点に置き、魔法での戦闘を行いましょう」

 

「了解です」

 

 デルフィの提案を承諾した私は、同じ様に、杖を取り出すと、右手に構える。

 

「仮想敵としてホログラムを配置します」

 

 私達の眼前に、数体の人型のホログラムが配置される。

 

「では行きます。最初は武装解除。通常出力です」

 

 デルフィと私はそれぞれ、別の目標に向けて、杖を振る。

 

 杖の先端から発せられた赤い閃光がホログラムを貫通すると、背後の木に直撃し、木が大きく抉れ、倒壊した。

 

「威力が強すぎます」

 

「恐らく、人体に影響のあるレベルでしょう」

 

「では、更に出力を抑えます」

 

 

 その後、数回に渡る練習の結果、数本の木を犠牲にしながらも、人体に死傷を与える事の無い威力にまで調整する事が出来た。

 

「これなら上出来です」

 

 デルフィが最終調整を終えた魔法を放つ。

 

 放たれた赤い閃光は、超高速で目標であるホログラムに直撃し、霧散した。

 

 

  出力調整を終えた私が杖を構えた時、上空から2羽のフクロウが急降下してきた。

 

 そのフクロウは嘴で手紙を咥えており、1羽は無事に着地したが、もう1羽の方は不時着するように、滑り落ちた。

 

「手紙ですね」

 

「古風ですね」

 

 フクロウから受け取った手紙を開封した私の背後から、デルフィが覗き込む。

 

 1枚はホグワーツからの教材リストだ。

 

 どうやら毎年教材の更新が必要なようだ。

 

 教材の購入先まで記載されている。

 

 繋がりでもあるのだろうか。

 

 そして、その大半が『ギルデロイ・ロックハート』と言う人物が作者の本だった。

 

 

 もう一つの方はロンからの手紙だった。

 

 彼らしく、読みにくい文章だった。

 

『やぁ久しぶりだね調子はどう?もし良かったら今度来年使う教材を一緒に買いに行かないか?ハリー達にも声をかけてあるんだ!それじゃあ楽しみにしてるよ』

 

「どうしますか?」

 

「断る理由は有りません」

 

「では返事をお送りましょう」

 

 ベクタートラップから紙とペンを取り出すと、行く旨を認め封書しフクロウに咥えさせる。

 

 手紙を受け取ったフクロウは、フラフラと飛び上がる。

 

「フクロウが連絡手段とは、不便そうですね」

 

「えぇ、ですが、ペットとしての意味合いが大多数を占めているようです」

 

「そうですか、我々もペットを飼いますか?」

 

「現状ではその必要性があるとは思えません」

 

「その通りですね」

 

 私達は、次第に小さくなるフクロウを見送った。

 

「では戻りましょうか」

 

「そうですね」

 

 フクロウを見送った私達は、周囲を簡単に片付けると自宅へと戻った。

 

 

 

  数日の月日が経ち、ロンからの返信に書かれていた日が訪れた。

 

「もう少しで手紙に記されている時刻です」

 

 正午を多少回った辺りでデルフィが口を開く。

 

「そうですね。準備は整っています」

 

「こちらも準備完了です」

 

 すでに準備を完了させたのか、家の入り口でデルフィが待機している。

 

「では出発します」

 

 共に家を出ると、ステルスシステムを起動し、バーニアを吹かし、合流ポイントである『ダイアゴン横丁』へと移動した。

 

 

  ダイアゴン横丁上空に到着すると、人気のない場所を探し、着地すると、ステルスシステムを解除する。

 

「集合地点はこちらですね」

 

 手書きの不鮮明な地図を頼りにグリンゴッツの前へと移動する。

 

「あっ! デルフィ! エイダ!」

 

 グリンゴッツ画面する大通りから、人混みを掻き分けながら、ハーマイオニーを先頭に、眼鏡にヒビが入ったハリー、ロン、そしてロンの家族と思われる一団が追従している。

 

「やぁ、二人とも。紹介するよ。僕のパパとママだ。後こっちに居るのが妹のジニー。今年からホグワーツに入るんだ」

 

「そうですか。私はエイダ・イーグリットです」

 

「デルフィ・イーグリットです」

 

「ご丁寧にどうも。アーサー・ウィーズリーです」

 

「モリーよ。ロニーちゃんから話は聞いているわ」

 

「ママ! 外ではやめてよ!」

 

「まぁ、細かい事なんか気にするなよ、なぁ、ロニー坊や」

 

「はぁ…」

 

 溜息を吐くロンを見て、他の家族が笑みをこぼしている。

 

 この時代の人間は、なかなか理解しにくい文化を持っている様だ。

 

 その後、互いに社交辞令を済ませた後モリーが口を開く。

 

「さて…私達、まずは銀行でお金を下ろさなきゃいけないのよ」

 

「そうなのですか」

 

「我々も銀行に用事があります」

 

「そうなの? なら一緒に行きましょう」

 

「えぇ」

 

 ウィーズリー家を先頭に、私達は銀行の扉を潜り抜けた。

 

 

  グリンゴッツの中は、すでに人で溢れかえっており、行列が出来ている。

 

 整理券を受け取ると、ウィーズリー家が並んだ。

 

 その背後に私達も並んだ。

 

「君達も銀行に用があるらしいね」

 

「えぇ、換金です」

 

「かんきんって?」

 

 ロンが不思議そうに首をかしげる。

 

「マグルのお金を、こっちのお金に変える事よ」

 

 ウィーズリー家と一緒に居たハーマイオニーが答える。

 

「そうなんだ。なんか大変だね」

 

「君達はマグル界に住んでるのかい?」

 

 ロンの父親、アーサーが興味深くこちらを見据える。

 

「えぇ、人気の無い郊外に住んでいます」

 

「そうなのか。どんな生活をしているんだ? 魔法が無いとやっぱり不便だったりするのかな?」

 

「比較的平凡な生活です。魔法技術が無い事が不便だとは感じません」

 

「そうなのか。でもやっぱり魔法を使いたいと思う事はあるんじゃないか?」

 

「特には」

 

「法律上では、魔法界以外での魔法の使用は緊急時以外は禁じられており、未成年者に関しては、『臭い』と呼ばれる発覚措置が施されている筈です。」

 

「あー…その通りさ。うん、よく勉強しているね…」

 

 デルフィが詰まらなそうに答えると、アーサーは消沈気味に答えた。

 

「次。どうぞ」

 

 列の先頭の人物が去り、小鬼が普段通りなのか、不機嫌そうに呟くと、ウィーズリー家の順番がやって来た。

 

「やぁ。どうも。今日はいい天気だね」

 

「ご用件は?」

 

「あー…その、お金を下ろしたいんだ」

 

「…………お値段は?」

 

「あー…これくらいで」

 

 アーサーはカウンター越しに小さな紙を渡した後、小鬼と話している。

 

「少々お待ちを」

 

「あぁ、頼むよ」

 

 不機嫌そうな表情の小鬼はカウンターの引き出しを開けると、数枚の金貨と銀貨を取り出す。

 

「ここに入れてくれ」

 

 アーサーは古ぼけた鍋を小鬼に手渡すと、虚しい金属音を立て、小鬼の手からコインが滑り落ちる。

 

「どうぞ」

 

「どうも」

 

 金属音を立てる鍋を受け取ったアーサーは数回頷くと、踵を返した。

 

「次の方」

 

「君達の番だよ」

 

 擦れ違い様にアーサーが口を開く。

 

 私達の順番がやって来たようだ。

 

「おぉ、これはこれは…いつもありがとうございます」

 

 私達の姿を確認した小鬼は先程とは言葉遣いが違っていた。

 

「本日はどの様なご用件で」

 

「換金と入金です」

 

「毎度ありがとうございます」

 

 デルフィが小箱を取り出すと、小鬼に手渡す。

 

「それは?」

 

「君達、人様の物を見るもんじゃないぞ。じゃあ外で待ってるよ」

 

 ロンとハリーが興味深くこちらを見ているのを、アーサーが諭した後、外へと出ていった。

 

「では失礼して」

 

 小箱からダイヤモンドを1つ取り出すと、小鬼は光にかざし、鑑定を開始した。

 

「確認できました。すべて換金でよろしいですか?」

 

「えぇ、換金後、必要枚数以外は金庫へお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 畏まった小鬼は一礼した後、奥へと消えていった。

 

 数分後、30枚程の金貨をトレイに置いた小鬼が戻って来た。

 

「こちらです」

 

「ありがとうございます」

 

 私達は、半分ずつ受け取ると、グリンゴッツを後にした。

 

 

 扉を抜け、外へと出ると、ハリー達が退屈そうに待機していた。

 

「遅かったね」

 

「換金に時間を取られました」

 

「そうなのね」

 

「さて。用事も済んだ事だし、買い物に行きましょう」

 

 モリーがそう言うと、ウィーズリー家全員が返事をして、移動を開始した。

 

 

 



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飛行

 

 周囲の人混みを掻き分け、目的の『フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店』へと移動した。

 

 フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店の周囲には大勢の人が詰めかけている。

 

「すごい人だかりだ…何があったんだろう?」

 

「アレだぜ。ア・レ」

 

 ロンは悪態を付きながら、店先を指差す。

 

 そこには『ギルデロイ・ロックハートサイン会』と書かれた大きな垂れ幕が出ていた。

 

「ギルデロイ・ロックハート? どこかで聞いたことある様な気が…」

 

「もしかして、ハリー…貴方ギルデロイ・ロックハート様を知らないの?」

 

 ハーマイオニーが呆れた様に問いかける。

 

「知らないのって言われても…興味が無いものは仕方ないだろ」

 

「あっきれた…彼の書いた本は今年の教科書なのよ! それにどれも引き込まれる内容だったわ! 今でも思い出すわぁ」

 

「そんなに良い本なの?」

 

「良いなんてものじゃ無いわ! 最高よ!」

 

「そうなんだ…興味の無い僕等には全く分からないよ。なぁ、ハリー?」

 

「そうだね、売れない歌手かと思ったよ」

 

「ハリーまで…呆れちゃうわ!」

 

 ハーマイオニーは呆れ返ると声を荒げている。

 

 その時、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店から、歓声が上がる。

 

「いけない…急がなきゃサイン貰えないわ!」

 

 そういうと、ものすごい勢いで書店に走りこんでいった。

 

 まるで書店の中は戦場のようだなと思いながら店内を眺めていると後ろから聞き覚えのある声に話しかけられた。

 

「おや、君達も買い物かい?」

 

 振り返ると、マルフォイと恐らく父親だと思われる人物がゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「お久しぶりですね」

 

「あぁ、久しぶり。そうだ…紹介するよ。こちらは僕の父上さ」

 

「ルシウス・マルフォイだ。息子と同じスリザリン出身だ。不出来な息子と仲良くして貰っていると聞いている」

 

「エイダ・イーグリットです」

 

「デルフィ・イーグリットです」

 

「うむ、話ではがあのグリフィンドールらしいが…」

 

「父上、ですが、彼女達は野蛮なグリフィンドール生とは違います」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ、少なくとも、礼儀作法は完璧です」

 

「ほぉ…気品あふれる者は歓迎だ。それが純血者なら尚更な。しかし悲しい事に、純血の家計であっても野蛮な一族があってな――」

 

「おーい! 本は買えたか―!」

 

 その時、背後でアーサーが大声を上げて、それに声に答える様に、ウィーズリー家の子供達が大声を上げた。

 

「聞いたか? あの無様で品の無い声を」

 

「相変わらず、不愉快な連中です」

 

 マルフォイ親子は、ウィーズリー家を蔑む様な視線を送っている。

 

「モリー! 子供たちの教科書は――」

 

「買う程の金があるとは思えんなぁ」

 

 アーサーの声をかき消す様に、ルシウスが嫌味を言うと、アーサーの表情が一気に曇る。

 

「貴様は――」

 

「どうした? 本を買うんじゃなかったか? やっぱりお前の給料じゃ全員分の本を買う金は無いか。何なら貸して…いや恵んでやろう」

 

 ルシウスは勝ち誇った表情を浮かべ、対照的にアーサーは苦虫を嚙み潰したような表情だ。

 

「だッ…誰が貴様なんぞ! さっさと消えろ!」

 

「ひどい言いようだな。私は貴様等の事を思っていっただけなのだが。それより息子の教科書を買わなければならないのだよ」

 

「私だって!」

 

 そう言うとルシウスは堂々と大股で歩き書店の中へ入っていった。

 

 その後を追う様にロンの父親も少し小走りで入店していった。

 

 彼らが書店に入った後、入り口で何やら言い争いをしているようだ。

 

 マルフォイ家とウィーズリー家…犬猿の仲なのだろう。

 

「人とは不便な生き物ですね」

 

「まったくです」

 

 私達は、低俗な大人の争いを外から観戦していた。

 

 数分間、いがみ合っていた両者は互いに捨て台詞を吐き正反対の方向へ歩いて行った。

 

 喧騒が収まった店内へとようやく足を踏み入れた。

 

 店内では、未だに大勢の人が一角のスペースに集まっている。

 

 そこには、ハリーと肩を組む中年男性の姿があった。

 

 あれが『ギルデロイ・ロックハート』なのだろう。

 

 一通り写真を撮り終えた後、解放されたハリーはフラフラと店の外へと出ていった。

 

 落ち着いたところで、私達はリストにあった本を手に取り、ページを捲りつつ、暗記する。

 

 この本の販売価格はかなり値段だが、書かれている内容は、まったく意味の無い物だった。

 

 この世界においては、本と言うのは基本的に高価で取引される。

 

 プリンターなどの印刷技術が不十分であり、魔法による複製を行うため、高コストになるのだと予想される。

 

「スキャン完了」

 

「不本意ですが、購入しましょう」

 

 私達は、無意味に思いながらも、著者が『ギルデロイ・ロックハート』の小説を7冊とその他必要な教科書を購入した。

 

 店を出た先で、疲労感を漂わせているハリー達と合流した。

 

 

 

  先日の買い物から数日が経ち、新学期開始日になった。

 

 荷物をまとめた私達は、昨年と同様、ステルスシステムと飛行を利用し、キングス・クロス駅に到着した。

 

 現在の時刻は、発車5分前だ。

 

 9と3/4番線に向かうとしよう。

 

 去年と同じように柱があるホームへ向かうと、そこには、柱の前でカートを盛大に横転させているハリーと一緒になって荷物を拾っているロンの姿が見えた。

 

 私の足元にまで教科書が飛んでくる程の勢いでぶつかった様だ。

 

 教科書を拾い上げると、表紙に描かれているロックハートが気持の悪いウィンクをしていた。

 

「落とし物ですよ」

 

「ありがとう。それよりも、エイダにデルフィ。二人ともどうしてここに?」

 

「我々も汽車に乗ります」

 

「あ…あぁ、そうだよね。それより、急に柱が、9と3/4番線に入れなくなっちゃったんだ!」

 

「どうしよう…」

 

 2人の横を抜け、柱に手を振れる。

 

 どうやら、強固なプロテクトが掛けられている様だ。

 

 解除自体は可能だが、発車まで2分を切っており、解除したところで彼等が汽車に間に合う保証はない。

 

「とりあえず、場所を移しましょう」

 

「あー…そうだね」

 

 周囲を見回したハリーはデルフィに賛同する。

 

 

 周囲に居る人々は私達を好奇な目で見ていた。

 

 それもその筈だ。柱にぶつかって大声を上げていれば誰だって見てくる。奥に居た駅員に至ってはこちらをチラチラと目配せしていた。

 

「もう間に合わないだろうし…」

 

 ホームの上に掛けられている時計の針は、無情にも発車時刻を刺している。

 

「とりあえずこっちだよ」

 

 ハリーに連れられ、ホームの端へと移動した。

 

「さて…どうしようか…」

 

「汽車が出ちゃった。パパもママも帰っちゃったし…どうしよう? なぁ、ハリー。マグルのお金、少し持ってる?」

 

「マグルのお金なんて、何に使うんだよ」

 

「タクシーでも呼ぼうかと…」

 

「タクシーで行ける距離ではないかと思われます」

 

「はぁ…だよなぁ…」

 

 ハリー達の表情はどんどんと暗いものになっていった。

 

「しょうがない…一度車に荷物を………」

 

 次の瞬間、ハリーとロンは顔を見合わせると――

 

「「そうだ! 車があるじゃん」」

 

 同じタイミングで、同じ言葉を発する。

 

 今一話が理解できなかったので詳しく聞くと

 

 どうやら、ロンの父親の空飛ぶ車でホグワーツに乗り入れるという事だった。

 

 先程まで暗い顔だったハリーはその話を聞いて目を輝かせていた。

 

「よし! そうと決れば運転は任せてくれ! 君達も乗るだろ?」

 

 若干考えた後、私達は、ロンの提案に賛同した。

 

「ロン! 君は凄いよ! ところでカギは君のパパが持っているんじゃないの?」

 

「ヘヘッ」

 

 ロンは不敵な笑みを浮かべるとポケットから一つのカギを取り出した。

 

 

「実は、こっそり持ち出したんだよ!」

 

 

 

「ロン…君ってやつは…最高だ!」

 

 

 

 2人はすっかりハイテンションになっていた。

 

 この年代の男性は、多少スリルがある方が好きなようだ。

 

「さぁ! 行こうぜ!」

 

 

 

  ロンは意気揚々と車へ向かい、その後をハリーは荷物の乗ったカートを押しながら追いかけていった。

 

「これがそうさ! どうだ凄いだろ!」

 

 ロンが自慢げに指差す先には、旧世代の遺物と言っても過言では無い様な古めかしい車両が路上駐車されていた。

 

 周囲にパーキングメーターが無い事から、無断駐車である事が窺える。

 

「さぁ、急ごうか」 

 

 2人は車のトランクに荷物を無理やり詰め込むと、ロンは運転席、ハリーは助手席に私達は後部座席に乗り込んだ。

 

「ロン、今更だけど運転できるの?」

 

「任せろって」

 

 ロンがそう言うと鍵を差し込み、エンジンを起動させた。

 

 不安を煽る様な、弱々しいエンジンを始動させた後、微弱なエネルギーが迸る。

 

「目くらましだ!」

 

 意気揚々とロンが緑色のボタンを押すと車体が透明になった。

 

 これも一種の魔法なのだろう。

 

「出発だ!」 

 

 かなりハイテンションのロンがそう言うと車は中々の速度でロンドンの上空へと飛び上がった。

 

 しかし、そこで目くらましの魔法が切れたのか、宙に浮いた車体が姿を現した。

 

「ヤバイ!」

 

 慌てたロンは先程押したボタンを何度も連打するが、再び透明になる事は無かった。

 

「どうしよう。このままじゃマグルに見られる!」

 

 軽度のパニックに陥ったロンは更に連打の速度を上げていった。

 

「面倒だ! 行っちゃえ!」

 

 清々しい表情のロンが全速力で車を発進させた。

 

 

 

  数分後、周囲の街並みが田舎の田園風景へと変貌した後、レールが引かれた渓谷へと移動した。

 

「見えてきたぞ! ホグワーツ特急だ!」

 

 助手席のハリーが窓から顔を出しながらはしゃいで居る。

 

「このままいけば間に合いそうだね」

 

「間に合うどころか追い越せるさ!」

 

 テンションが最高潮を迎えたロンが、アクセルをさらに踏み込むと、車の速度が上昇する。

 

「よっしゃぁ! 追い抜いた!」

 

 眼下に広がるホグワーツ特急を追い越した車は、ホグワーツの敷地内へと入り込んだ。

 

「ホグワーツ到着っと…後は車を置く場所を…」

 

 ロンが着地地点を探し、周囲を見回し始めた。

 その時、急にエンジンの出力が低下し、高度が低下し始める。

 

「おいおい! どうなっているんだよ!」

 

 車体全体をスキャンした結果、先程9と3/4番線の入り口の柱を封鎖したプロテクトと同一の反応を検知した。

 

 どうやら、何者かが、こちらの行動を阻害している様だ。

 

「エンジン出力低下」

 

「わかっているよ!」

 

 デルフィの忠告に対し、ロンは苛立ちながら、アクセルを何度も強く踏み込んでいる。

 

 しかし、その努力は虚しくも実らず、エンジンが停止した。

 

「エンジン完全に停止。高度低下中」

 

「あぁあぁぁぁあああ! もうだめだぁ!!」

 

「どうするんだよ! ロン!」

 

「もうだめだ!」

 

 その時、車が急にバランスを崩した。

 

「うわぁ!!」

 

 バランスが崩れた際に発生した振動により、運転席のドアが解放される。

 

 それと同時に、ロンの体が車外へと放出される。

 

 どうやら、シートベルトを装着していなかったようだ。

 

「アアァァァァッア!!」

 

「ローーーーン!!」

 

 絶叫しながら、重力に従うロン。それに従い、運転手を失った車が緩やかに落下を始める。

 

「ヤバい!!」

 

 車内にけたたましいハリーの絶叫が響き渡る。

 

 騒音による不快指数が上昇して行く。

 

「仕方ありませんね」

 

「えぇ」

 

 私達は一度、互いに頷くと同時に車外へと飛び出す。

 

 車外へ出た後、互いにバーニアを吹かす。

 

 私は、そのまま車の天井部を掴み、固定する。

 

 対するデルフィは急降下を開始する。

 

「あれ…」

 

「ご無事ですか?」

 

「あ…あぁ」

 

 車内のハリーは困惑気味に回答した。

 

「痛いって! 離せ! それともっと優しくしろよ!」

 

「暴れないでください。落ちますよ」

 

「うわぁあぁ! 離すなよ!」

 

 

 そこには、デルフィに腕を掴まれながら、浮遊しているロンの姿があった。

 

「ご無事ですね」

 

「それでは乗車してください」

 

 デルフィに促されるまま、ロンは運転席へと飛び移った。

 

 そして、デルフィは空中を浮遊したまま、周囲を索敵する。

 

「ま…まぁ…助かったよ。というか、なんで君達は箒なしで飛んでいるんだよ!」

 

「あ…確かにそうだね」

 

 車内の2人が疑問の声を上げている。

 

「お気になさらず、それより、着地ポイントに最適な場所を発見しました」

 

「あ…あぁ、じゃあそこに降ろして」

 

「了解です。衝撃に注意してください」

 

 巨大な柳の木から数十m程離れた着地ポイントに到着後、緩やかに車体を着地させる。

 

「うぉ!」

 

 着地時の衝撃により、シートベルトを着用していなかったロンが、車外へと放り出される。

 

「あいてて…もう少し優しくしろよ!」

 

「最大限の努力はしました」

 

「まったく…ん?」

 

 立ち上がろうと、ロンが地面に手を置いた瞬間、虚しい破裂音が響く。

 

「あれ…もしかして…」

 

 恐る恐る背後に手を回し、音の正体を確認したロンが、その表情を一気に曇らせる。

 

「ハリー…どうしよう…」

 

「どうしたんだよ?」

 

 ロンは、背後に回した手を眼前に持ってくる。

 

 その手に掴まれている物を見て、ハリーの表情が一気に曇る。

 

「折れちゃったよ…僕の杖…折れちゃったよ!」

 

「とりあえず落ち着くんだ!」

 

「落ち着けって! どうやって落ち着くのさ! 杖が折れちゃったんだよ! 直せないよ…」

 

「大丈夫だって、何とかなるよ」

 

「どうするんだよ?」

 

「それは…」

 

 ロンの問いかけに、ハリーは少し悩んだ後、引きつった笑みを浮かべる。

 

「テープとかでくっ付ければ…」

 

「そんなので、直る訳ないだろ!」

 

 ロン名絶叫が虚しく木霊する。

 

 それに呼応するように、車のエンジンが再始動した。

 

「え? なに?」

 

「車は直ったんだ…良かったぁ…パパに怒られずに済みそうだ…」

 

 しかし、ロンの期待を裏切る様に、エンジンを唸らした車が、急発進し、森の奥へと消えていった。

 

「どうしよう…パパに殺されるかもしれない…」

 

「あー…ロン? 元気出せって。とりあえずここに居たらまずいから、ホグワーツへ行こう。な?」

 

「……あぁ……」

 

 最早、答える気力すらないのか、ロンはおもむろに立ち上がると、覚束ない足取りでホグワーツへと、足を向けた。

 




やはり、杖は折れる運命にある。


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駆逐作業

お待ちかね。ロックハート様登場です。


   しばらく、歩みを進め、森を抜けると、ホグワーツの正門へと到着した。

 

 周囲には、まばらだが、荷物を抱えた生徒の姿があった。

 

「何とか、間に合った…」

 

「生徒達に紛れて、我々も城内に進入しましょう」

 

「そうだね」

 

 ハリーは、無言で歩くロンを気に掛けながら、生徒の列に紛れると、何とか大広間まで移動した。

 

「あら? 貴方達…汽車では見かけなかったけど…他の車両に乗っていたの?」

 

 私達を発見したハーマイオニーがこちらに歩み寄ってくる。

 

「あー…まぁそんなとこ」

 

 ハリーが適当にはぐらかし、ハーマイオニーは首をかしげている。

 

「まぁいいわ。それより、もうじき入学式が始まるわ」

 

 その時、大広間の扉が開かれ、エメラルド色のローブを身に纏ったマクゴナガルが現れた。

 

「これより入学式を始めます。在校生は急ぎ席に着きなさい」

 

 マクゴナガルの号令に従い、在校生は急ぎ席へと座った。

 

 数分待機すると、新入生が神妙な面持ちで入場してきた。

 

 その後は去年同様に組み分けが行われ、それが終わったら歓迎会とダンブルドアの簡単な挨拶となった。

 

「さて、無駄に長々と挨拶しても意味は無かろう。それでは皆、存分に食事を楽しんでくれ」

 

 ダンブルドアの一声と同時に、在校生、主に男子生徒だが、一斉に食事に手を伸ばす。

 

 私達は、大した量の食事は必要とはしないので、適応に済ませる。

 

「なぁ…ハリー…」

 

「ん?? どうしたんだロン?」

 

 食事の最中、ロンが思い詰めた表情で、ハリーに声を掛ける。

 

「僕達呼び出されたりなんかしないよな?」

 

「呼び出し? 一体誰にさ?」

 

「決ってるだろ。マクゴナガルを始めとした先生達さ」

 

「なんで?」

 

「なんでって…僕達今回は車が来ただろ?」

 

「そうだね」

 

「その時、マグルに見られちゃってたと思うんだよ」

 

「あー…確かにそうかも」

 

「だろ。だからきっとその事で…」

 

「ポッター。ウィーズリー。少しよろしいですか」

 

「あぅ…」

 

 ロンとハリーの2人が恐る恐る振り返ると、そこには、無表情のマクゴナガルが立っていた。

 

「げっ…」

 

「えーと…先生。何の用で…」

 

「先程お話していたので心当たりがお在りでしょう。詳しい事を聞きたいので付いて来なさい」

 

「あ…はい…」

 

 2人は力なく立ち上がると、フラフラとマクゴナガルの後を付いて行った。

 

 その後、彼等が歓迎パーティーに戻る事は無く、疲れた表情で談話室に現れた。

 

「あら? 二人ともおかえり。何があったのよ?」

 

「まぁ…ちょっとね」

 

「ちょっとだよ。僕の杖が折れたくらいさ」

 

「杖が折れったって…一大事じゃない! どうするのよ」

 

「大丈夫さ。後でテープでくっ付ける」

 

「そんなんで大丈夫だとは思えないけど…予備の杖を借りたら?」

 

「そんな! 杖が折れたのがママに知られたら僕、どうなる事か…」

 

 ロンはワザとらしく体を震わせている。

 

 そんな時、彼等と視線が合う。

 

「あぁ、安心して。君達が乗っていたって事は言ってないから」

 

「お心遣い感謝します」

 

「まぁ、言ったところで犠牲者が増えるだけだったからね」

 

 2人はそう言うと、溜息を吐きながら、男子寮へと消えていった。

 

「何があったのよ…」

 

「あまり深く詮索されない方がよろしいかと」

 

「そ…そうなの? まぁいいわ。とりあえず、私達も寝ましょ」

 

「えぇ」

 

 久しぶりのホグワーツの自室に入ると、ハーマイオニーは疲れているのか、そのまますぐに眠りに付いた。

 

 

 

  数日が経ち、母親からの吠えメールで、更にどん底に落とされたロンの気力も回復し始めた頃。

 

 授業では闇の魔術に対する防衛術が始まった。

 

 ハーマイオニーは楽しみで仕方ないのか、先程からずっと教科書を読んでは表紙を眺めていた。

 

 

 

 しかし驚いたことに今年の闇の魔術に対する防衛術の授業で使う教科書は7冊にも及んでいた。

 

 

 

 しかも全てロックハートの作品の本だ。

 

 本の内容はただの改変した自伝小説のようなものだった。

 

 学問を教える上で必要な物とは到底思えない。

 

「あぁ! もう! なんだよこの本の数は!」

 

「持ち運ぶのが大変だ…おっと! ロン! 2冊落としたぞ!」

 

「あ? マジかよ…」

 

 すでに入室済みの生徒は、7冊の教科書に指定されている、自伝に悪戦苦闘している。

 

「ねぇ? ここ良い?」

 

「構いませんよ」

 

 すでに着席している私達の隣に、ハーマイオニーが着席した。

 

 その手には何度も読み返したのか、既にボロボロになっている7冊の本が抱えられていた。

 

「ねぇ、貴方達はもう読んだ?」

 

「一応は」

 

「そう。やっぱり素晴らしいわよね! 流石、ロックハート様だわ!」

 

 両手で本を抱きしめているハーマイオニーは天を仰いでいる。

 

 

 しばらくすると、教師の扉が開かれロックハートが姿を現した。

 

 その途端に教室に女子生徒の黄色い悲鳴が響いた。

 

 

 ロックハートは全員が教室に居ることを確認した後、手を上げ歓声を宥めた後、大袈裟に大手を振りながら登壇すると、自伝小説を取り出し、表紙をこちらに向け高らかに掲げ…

 

 

 

「私だ」

 

 

 

 

 次には表紙と本人が同時にウィンクをし、その途端に再び黄色い悲鳴が教室を包んだ。

 

 

 

 

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも私はそんな話をするつもりではありませんよ。バントンの泣き妖怪バンシーをスマイルだけで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 

 

 

 長い口上を終え周囲を見回すと、満足げに数回頷いている。

 

 

「皆さん、ちゃんと私の本を揃えたようですね。素晴らしい! 今日は最初の授業という事で簡単なミニテストを行います。大丈夫ですよ! 私の本をちゃんと読んでいれば簡単な問題ばっかりです」

 

 

 

 ロックハートはニコニコと笑いながらテスト用紙を配り始めた。

 

 

 紙を受け取り、内容に目を通す。

 

 書かれていた内容は、闇の魔術に対する防衛術に関する問題は一切なく、ロックハートの自伝小説に関する問題ばかりだった。

 

 しかし、不本意ながら、7冊全てを暗記してしまった私達にとっては簡単な問題だった為、数分で終了した。

 

 授業時間の半分以上を無駄に使って行った、ミニテストをロックハートが回収すると、全員の前で確認を始めた。

 

「さてさて…おっと…これはこれは、私が好きな色はライラック色ですよ。ちょっと難しかったかな」

 

 ロックハートは少し残念そうに、ウィンクをすると、再び女子生徒から、歓声が上がり、男子生徒からは溜息が零れる。

 

「しかし、全問正解の生徒が居ますね。それも3人も! ハーマイオニー・グレンジャー。エイダ・イーグリット。デルフィ・イーグリットの3名です! 良いね! ちゃんと私の本を読んでいるみたいだね! 3人はどこかな?」

 

 

「はい! ここです!」

 

 隣に座っていたハーマイオニーは手を真っ直ぐ上げると、勢い良く返事をしている。

 

「貴女達もでしょ! ほら手を上げて!」

 

「素晴らしい!」

 

 ロックハートは拍手をしながらこちらに近付いて来る。それに比例するように、ハーマイオニーのメンタルコンデションレベルが急上昇している。

 

「実に素晴らしい! うん! グリフィンドールに30点あげましょう! 1人に付き10点ずつです」

 

 

 ロックハートは満足したように教壇へ戻って行く。

 

「それにしても、貴女達も満点なんて、やっぱりロックハート様の事が好きなのね」

 

「いいえ、我々は問題に答えただけです」

 

「そんな事言って、デルフィ、貴女ウソが下手ね」

 

「いえ、ですから――」

 

 デルフィは反論しようとしているが、ハーマイオニーは一切聞く耳を持っていないのだろう。

 

  ロックハートは教壇に付くと、布の掛かった鳥籠の様な物を壇上に置く。

 

 内部には、小型の生命反応が数多く存在している。

 

「さてご注目! こいつ等は、とっても獰猛だぞ!」

 

 布を取り払うとカゴの中には青白い色の小さな人型生物が所狭しと詰め込まれていた。

 

「コイツ達は、先程捕まえてきたばっかりの活きの良いピクシーです! ほら、暴れまわってる」

 

「ピクシーですか? こいつ等のどこが危険なんです?」

 

 笑いを堪えながら、数名の生徒が疑問の声を上げる。

 

「思い込みは駄目だよ。とっても危険だ」

 

 ロックハートはおもむろに、籠の扉に手を掛ける。

 

「それでは、君達がどうやってピクシーに対抗するのか、お手並みを――拝見だ!!」

 

 次の瞬間、ロックハートの手によって籠の扉が開け放たれ、籠の中から大量のピクシーが高速で飛び出した。

 

 

 

 解放されたピクシー達は手当たり次第に物を投げたり、生徒の髪を引っ張ったり等好き勝手暴れていた。

 

 

 

「うぉ…そ、それじゃあ君達!後片付けは頼んだよ!」

 

 

 

 ロックハートはそう言い残すと脱兎の様に教室から出ていった。

 

「いってぇ! ちょっと! なんだコイツ! 耳引っ張るな!」

 

 ピクシーに両耳を引っ張られたロンは怒声を上げる。

 

「うぉ! 危ない!」

 

 ハリーはロックハートの自伝を盾にしながらピクシーの攻撃を防いでいる。

 

 盾にされている自伝の表紙に居るロックハートは頭を抱えて狼狽している。

 

「ちょっと! やめてよ!」

 

 ハーマイオニーに襲い掛かったピクシーは髪を引っ張り始めた。

 

「邪魔です」

 

 私は右手にビームガンを装備すると、髪を引っ張っているピクシーにエネルギー弾を放つ。

 

「ッ!!」

 

 エネルギー弾が直撃したピクシーは塵も残さず消滅した。

 

 ハーマイオニーの髪へのダメージは皆無だ。

 

「あ…ありがとう」

 

「礼には及びません」

 

「出力過剰ですね」

 

「そうですね。最低出力でしたが仕方ありません」

 

「現状、小型生物の駆逐が最優先です」

 

「了解。ホーミングランスの使用を」

 

「了解。半数はこちらで処理します。ハウンドスピア展開」

 

 私達は互いにリンクし、部屋に存在する、全てのピクシーをロックする。

 

「ロック完了」

 

「出力調整クリア。想定被害些少」

 

 

「了解。全員体勢を低くしてください」

 

 デルフィの指示に従う様にその場の生徒が全員体勢を低くする。

 

「射線上に小型生物以外の生体反応は有りません」

 

「了解」

 

 次の瞬間、私の手から蒼い湾曲した蒼いレーザーが放たれる。

 

 続いて、デルフィの背後にスラスターが展開されると、紅い折れ曲がったレーザーが放たれる。

 

 発射されて蒼と紅のレーザーは上空で暴れ回っているピクシーに直撃する。

 

「アガッ!」

 

 レーザーが貫通すると、ピクシーが一瞬で蒸発する。

 

 数秒後、部屋に存在していたピクシーの駆除が終了した。

 

「駆逐終了。被害状況を確認」

 

「死傷者無し、建造物損壊些少。許容範囲内の損害です」

 

 デルフィからの被害状況を受け取ると、周囲を見回す。

 

「え…終わった…の?」

 

 その場の全員の驚愕した視線がこちらに集中する。

 

「駆除終了です」

 

 その時、丁度終業を告げる鐘が鳴る。

 

「終業時刻です。お疲れ様でした」

 

 私とデルフィはその場で一礼すると、教室を後にした。

 




もっと派手に暴れようかとも思いましたが、過剰な出力により、ホグワーツが崩壊する恐れがあったので、今回は抑えました。


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穢れた血

少しずつ物語が動き始めます。


   数日後、私達がピクシーを駆除した事が、多くの生徒が知る事となった。

 

 それ自体、別段問題は無いが、それに伴い生徒達は私達を危険視するような表情を見せる。

 

 そんなある日、空き時間を利用し、大広間で情報整理を行っていると、こちらにある一団が近付いて来た。

 

「やぁ、二人とも、聞いたよ。ロックハートの授業で派手にやったんだって?」

 

 

 こちらに声を掛けてきたのは、緑色のクィディッチユニフォームを着たマルフォイとその取り巻きだった。

 

 

「必要な処理を行ったまでです」

 

「処理ねぇ。そんな事より、どうだい? 良い箒だろ! ニンバス2001! 最新型だぞ!」

 

 マルフォイのメンタルコンデションレベルが急上昇する、余程この箒が気に入っているのだろう。

 

 その証拠に、箒に頬擦りまでしている。

 

「これから試運転なんだ! なんて言ったって僕はスリザリンのシーカーに選ばれたからね!」

 

「それはおめでとうございます」

 

「あぁ! それじゃあ行ってくる!」

 

 意気揚々とその場を後にした。

 

 

  しばらくすると、外から言い争いをしている声が聞こえて来る。

 

 

「今日は僕達が競技場を使うはずだぞ! どうしてスリザリンが来ているんだ!」

 

 

「今日は新シーカーの練習を兼ねて使う事になっている。それにこちらには、スネイプ先生が競技場の使用を許可したサインもある」

 

 

「新シーカー? 誰の事だよ?」

 

「この僕だ」

 

「ルシウス・マルフォイの息子じゃないか…」

 

 競技場に顔を出すとそこには、赤のユニフォームのグリフィンドールと緑のユニフォームのスリザリンが互いに睨み合い一触即発と言った状況だった。

 

「ルシウス氏からチーム全員に、最新型の箒を提供してくださった。このニンバス2001をな!」

 

 

 そんなスリザリンのチームを見てグリフィンドールのチームは全員が唖然としている。 

 

「これクィディッチの優勝は貰ったも同然さ。悔しかったら君達も買えばいいじゃないか?まぁ…もっとも――」

 

 

「そんな箒が無くったって、グリフィンドールは負けないわよ!こっちの選手は誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ!」

 

 お節介焼なハーマイオニーがマルフォイの言葉を遮り、大声でそう叫んだ。

 

 すると、マルフォイの表情はドンドンと歪んでいき、怒りに満ちた表情に変わった。

 

「なんだと…貴様の意見なんか聞いてないんだ! この…『穢れた血』め!」

 

 マルフォイが吐き捨てる様にそう言うと周囲の空気が一瞬にして凍り付いた。

 

「マルフォイ! 貴様ぁ!! よくもそんな事を!」

 

 

 

 周囲の生徒が騒ぎ立て、中には殴りかかろうとしている生徒や、杖を抜いている生徒まで居た。言葉を吐かれたハーマイオニーは目に涙を浮かべていた。

 

 

 

 そんな中、ロンが飛び出し、マルフォイに向け杖を抜いた。

 

 

 

「ナメクジ!くらえ!」

 

 

 

 ロンがそう叫ぶと、杖が一瞬光輝いた。

 

 

 

 魔法が放たれ、マルフォイに直撃する…

 

 

 

 誰もがそう思ったが、結果は違った。

 

 

 

 普通の杖ならば、間違いなく魔法は発動していただろう。しかしロンの杖は暴れ柳に突っ込んだ時に折れてしまったのを、無理やりくっ付けた物だったので、放たれるはずだった魔法は逆流し、ロンに襲い掛かったのだ。

 

 

 

「ロン! 大丈夫かい!」

 

 

 

「ヴぉえ!」

 

 

 

 ロンは口から巨大なナメクジを吐き出していた。

 

 そんな光景に、その場に居た全員が目を背ける。

 

 そんな中、マグネシウムの閃光が走る。

 

「おい! 見世物じゃないんだ! 写真撮るなよ!」

 

 ハリーが怒声を上げると、カメラを構えた少年が、その場から走り去った。

 

「ロン、大丈夫か?」

 

「ヴォロロロロロロ!」

 

 どの様な原理で、ナメクジが体内で生成されているのかは疑問ではあるが、解明する程では無いだろう。

 

「どぼじよぅ」

 

 ナメクジを吐きながらロンはハリーに顔を向け助けを求める。

 

「と…とりあえず、ハグリッドの所へ行こう、あそこが一番近いはずだ」

 

 ナメクジを吐いているロンの肩を、ハリーとハーマイオニーが担ぐと、競技場を後にしていった。

 

「マルフォイ…貴様ぁ! 覚悟しろよ!」

 

「ヴォロロロロロロ!!」

 

「うわぁ…5匹目かよ…いや、6匹目か?」

 

「ごびきめ゛」

 

 ハリー達の退場に合わせて、悔しそうな表情でグリフィンドールの面々がその場を後にした。

 

 「おや?」

 

 その時、丁度マルフォイと私達の目線があった。

 

「見ていたのか、いやいや、見苦しい所を見せたね」

 

「いえ、御構い無く」

 

「それにしても。困った奴だ。これだから穢れた血は困る」

 

「失礼ですが、穢れた血と言うのはどういう意味でしょう?」

 

 デルフィが私と同様の疑問を口にすると、マルフォイが得意げに説明を始めた。

 

 

「穢れた血って言うのは両親がマグルとか言う野蛮な種族なのに魔法使いをやっている奴等の事さ。魔法使いは本来、純血で崇高な存在なのだが…最近は穢れた血が魔法界を我が物顔で歩いているからな。不愉快だよ」

 

 長い説明を終えたマルフォイの表情はとても満足気だった。

 

「人間の血液は、赤血球96%、白血球3%、血小板1%から構成されています」

 

「更に詳細な血液成分は、水 、ヘモグロビン 、タンパク質 、脂質、中性脂肪 、リン脂質、コレステロール、グリコーゲン、ブドウ糖、非タンパク質、窒素、尿素、クレアチン、クレアチニン、RNA 64、ナトリウム 、カリウム、カルシウム、マグネシウム 、鉄 、塩素 、非有機態リン 、重炭酸塩、からなります」

 

 私の説明にデルフィがさらに詳細な解説を加える。

 

「え…えぇ?」

 

 私達の説明を聞いていた生徒達は科学知識が無いのか、目を白黒させている。

 

「他所との血液の差はDNAですが、それも0.1%未満です」

 

「えーっと…君達は一体何が言いたい――」

 

 マルフォイの言葉を遮る様に校内に鐘が鳴り響く。

 

 思った以上に長居してしまったようだ。

 

「それでは、私達はこれにて失礼します」

 

「それではお気を付けて」

 

 一礼した後、茫然としている面々を尻目にその場を後にした。

 

 

  季節は流れ、10月、ハロウィーンの時期を迎えた。

 

 周囲の生徒は大量のお菓子を手に持っていたり、料理にかぼちゃを使うメニューが多くなるなど季節感が顕著に表れ始めた。

 

「やぁ、君達。突然だけど、『絶命日パーティ』へ行かない?」

 

 突如としてハリーから発せられた、聞き覚えの無い言葉に、私達は揃って首をかしげる。

 

「あぁ、『絶命日パーティ』って言うのはね。ゴーストの『ニック』から誘われたんだ。『殆ど首無しニック』だよ。なんでも、ハロウィーンパーティーの裏で絶命日を祝っているらしいよ」

 

「そうなのですか」

 

 デルフィは無表情で、無関心に言うとハリーは何か察したように、一歩後ずさった。

 

「ま…まぁ、そういう事だから、僕達3人は『絶命日パーティ』へ行ってくるよ。君達はハロウィーンパーティーを楽しんでよ」

 

「ありがとうございます」

 

 私がそう言うと、ハリー達は大広間から出ていった。

 

 それから、しばらくした後、教師陣が集まり、ハロウィーンパーティーの開催を宣言した。

 

 

 ハロウィーンパーティーの最中、巨大な生命体の反応を検知したが、それは一瞬の出来事で、すぐに反応が消え去った。

 

『先程の反応はバグでしょうか?』

 

『いえ、こちらでも反応を検知しました』

 

 どうやら、私達は同時に反応を検知したようだ。

 

 後ほど調査する必要があるかも知れない。

 

 

 その後、ハロウィーンパーティーは順調に進行していったが、ハリー達が姿を現す事は無かった。

 

 ハロウィーンパーティー終了後、大広間を抜けた先の廊下に人集りが出来ていた。

 

 人集りの中心には、絶命日パーティーに行ったはずのハリー達が居り、その前には1匹の猫が横たわっていた。

 

 データによると、この猫は管理人のペットだ。

 

 壁の方を指差す生徒も複数居り、その先を見て着ると、壁には血文字を彷彿とさせる紅い色のペンキで『秘密の部屋は開かれた継承者の敵よ気を付けよ』と大々的に書かれている。

 

「生体反応微弱。何でしょう。ハロウィーンの飾りでしょうか」

 

「それにしては、少々悪趣味です」

 

「君達、冗談にしては笑えないよ」

 

「生憎と冗談を言うプログラムは――」

 

「はぁ…まぁいいさ」

 

 人集りの中心で、ハリーが呟きながらこちらに接近してくると、周囲の生徒が怯えながら、道を譲り始める。

 

「状況は?」

 

「僕もよくわからないんだ、声がのする方へ歩いて行ったら、猫が…ミセス・ノリスが…」

 

 ハリーが混乱しながら話しだしていると、後ろから怒声が響いた。

 

 

「お前が! お前が私の猫を!」

 

 声の主はホグワーツの管理人だ。どうやらハリーが猫を殺したと思い込んでいる様で、勢い良くハリーに掴み掛った。

 

「やめて!」

 

「よくも猫を…殺してやる!」

 

「違うんです!僕が来た時には…もう」

 

「騙されんぞ! 貴様!」

 

 管理人の精神状態から見て、このままで首をへし折る可能性もある。

 

「覚悟しろ…」

 

 管理人はさらに声を荒げると、後ろの方から別の声が響いた。

 

「待つのじゃ。その手を離すのじゃ」

 

 

 声を発したのは、悠然と歩くダンブルドアだった。

 

「しかし校長…こやつが…」

 

「安心するのじゃ、猫は死んでは居らんよ」

 

「どういう事です?」

 

「石にされておる様じゃ。何故かはわからぬが、死んでは居らんよ」

 

「良かった…」

 

 管理人の手からハリーが放たれると同時に、ハリーはその場に腰を着いた。

 

『スキャン完了。どうやらあの猫は、体表組織が何らかの影響で石化した状況の様です』

 

 どうやら、ハリー達が話をしている間に、私と同様にデルフィも猫の状況をスキャンしていた様だ。

 

 私も、デルフィにスキャン結果を報告する。

 

『推測ですが、高エネルギーの照射により、体表組織の著しい変化が発生したと考えられます。しかし、体内組織への影響は見受けられませんでした。おそらく高エネルギーの照射を、何らかのフィルターを通して受けた為、体表組織への影響だけだった物と考えられます。直接照射を受ければ、生身の人間なら死亡するでしょう』

 

『了解、周辺をスキャンした結果、フィルターになり替わる可能性があるものは、水道管の損傷で漏れ出た水の可能性が高いです』

 

 私達は、同時に足元に広がる水に目を落とす。

 

 確かにこの水からは、微弱ながら、エネルギーの残渣を検知した。

 

「さて、最初に発見したのは誰かの?」

 

 私達が状況を推察していると、ダンブルドアが声を上げた。

 

「あの…僕達です」

 

 ハリーを始めとした3人が手を上げると、ダンブルドアは数回頷いた。

 

「分かった。詳しい話を聞きたいのでな。場所を移そう」

 

 ダンブルドアはそう言うと、3人と石になった猫を連れ、その場を後にした。

 

 その後の事態の収束はスピーディーだった。

 

 結果としては、ダンブルドアが現場に居たハリー達をロックハートの部屋へ連れていき状況を聞くという事で収束が付いた。

 

 

 ダンブルドアがその場を去った後、どこからともなくやって来たマルフォイが口を開いた。

 

 

 

「『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ気を付けよ』か…それはつまりこれからもっと被害者が増えるという事だな。特に『穢れた血』は気を付ける事だな」

 

 マルフォイは高笑いをしながら、その場を立ち去って行った。

 



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クィディッチ

残暑が、暑いですね。


 

  翌日から、数日間。学校内は秘密の部屋と石化された猫に付いての話題で持ちきりだった。

 

『秘密の部屋』

 

 データによると、ホグワーツ創設メンバーの一人『サラザール・スリザリン』がその他の創設メンバーと対立し、ホグワーツを去る際に残した隠し部屋の事だ。

 

 彼の継承者たる人物が秘密の部屋から、隠されている恐怖を解き放つという話だ。

 

 しかし、肝心の部屋の場所は記載されていなかった。

 

 推測だが、昨年のスキャンで城内の地下に巨大な空間を検知しており、その時には、微弱ながら生体反応を検知したが、先程スキャンした時には、生体反応が活発化していた。

 

 恐らく、秘密の部屋と呼ばれるのが、地下空間で、解き放たれる恐怖と言うのが、その生体反応の主なのだろう。

 

 

 先の事件があって以来、管理人は現場に戻り犯人探しに躍起になっている。

 

 どうやら、未だにハリーが犯人だと思い込んでいる様だ。

 

「うーん…検索しても、猫を石にする方法なんて出てこないわ」

 

 図書館の一角で、ハーマイオニーがタブレットを操作しながら溜息を吐いている。

 

「ねぇ、ハーマイオニー。前々から思ってたんだけど。その石板みたいなの何?」

 

 疲れて本の山に突っ伏していたロンが顔だけ挙げてハーマイオニーの手元を見ている。

 

「これ? エイダとデルフィから貰ったのよ。すっごく便利なのよ」

 

「へぇ、そうなんだ。そんな事より、何か分かった?」

 

「全然だわ。秘密の部屋に関しても載ってないし。お手上げね。ねぇ、二人は何かわかった?」

 

 ハーマイオニーの問いに対して、得た情報と、憶測を述べる。

 

「つまり、この城の地下に秘密の部屋があって、そこに居た『何か』によって猫が石に変えられたって事?」

 

「現状得られる情報でその通りです」

 

「うーん…でもよく分からないのよね。何かを通すと石になる魔法…聞いた事が無いわね。直接その魔法を受けたらどうなるの?」

 

「死亡します」

 

「そ…そう。簡単に言うわね…益々分からなくなったわ…」

 

「まぁ、そう簡単に分かるとは思ってなかったよ。それより僕の杖どうしよう…」

 

 集中力が切れたのか、ロンは折れてテープで補強した杖を弄りながら呟く。

 

「折れたんでしょ? 先生に言って予備のを貸して貰ったらどう?」

 

 ハーマイオニーの提案に一度は頷いたロンだがすぐさま首を横に振った。

 

「最初はそれも考えたけど、そんなことしたら、パパやママにバレちゃうよ」

 

「じゃあ、一生その杖を使うの?」

 

「そんなのはお断りさ」

 

「じゃあどうするのよ?」

 

「とりあえず、今年はこれで乗り切って、来年買って貰おうかなって。来年なら流石にそこまで怒ったりはしない筈」

 

「少しは怒られるんだ」

 

「ハリー、気が重くなるような事を言うなよ…」

 

 ロンは暗い表情で、ハリーを眺めていた。

 

 

 

  数日後。

 

 本日は、クィディッチのグリフィンドール対スリザリンの試合が行われる日だ。

 

 グリフィンドールのシーカーは昨年同様にハリーが務めることになった。

 

 対するスリザリンのシーカーはマルフォイが務める様だ。

 

 競技場に足を運ぶと背後から声を掛けられる。

 

「やぁ、二人とも」

 

 振り返るとそこには、緑色のユニフォームを身に纏ったマルフォイが箒を片手に立っていた。

 

「お久しぶりです」

 

「あぁ、今日は僕の初陣なんだ」

 

「そうなのですか」

 

「あぁ、君達には悪いけど、今回勝つのはスリザリンさ」

 

 キメ顔のマルフォイはそのまま、着実な足取りで選手達が待つ控え室へと歩いていった。

 

 観覧席に到着すると、ハーマイオニーの隣に着席する。

 

 着席してからしばらくすると、開催のアナウンスが流れる。

 

 

 

『さぁ! これより、グリフィンドール対スリザリンの試合を開催します! 選手入場です!』

 

 

 

 割れんばかりの拍手の中、それぞれ寮のイメージカラーのユニフォームに身を包んだ選手が箒を片手に入場してくる。

 

 

 

 スリザリンの選手の手に握られている箒は、全て統一されている。

 

 試合開始のホイッスルが鳴り響き、試合が始まる。

 

 試合開始から数分後、隣に座っていたロンが急に立ち上がると、声を荒げた。

 

 

「なんだよあれ! ブラッジャーがあんな動きするなんて、おかしいじゃないか!」

 

「おかしいって、ブラッジャーは追いかけて来る物じゃ無いの?」

 

「確かに、選手を追いかけるように出来ているけど、あんなにしつこく追い回すなんて、普通じゃありえないんだ!」

 

「じゃあどうして…」

 

 箒で宙を駆けるハリーの背後を追随しながら、襲い掛かり、ハリーはそれを紙一重で避けている。

 

 ビーターのポジションであるウィーズリーの双子がブラッジャーを撃ち返し、ハリーを援護している。

 

 しかし、ハリーを援護し続けるという事はその分で守りが手薄になるという事で、試合は圧倒的スリザリンの有利で進んでいる。

 

 機動がおかしいブラッジャーを捕えると、スキャンを開始する。

 

「スキャン完了。あの球体は、何者かにより、外部から遠隔操作されています」

 

「遠隔操作って、ブラッジャーを操るなんて、スリザリン共には出来るはずないよ!」

 

 早合点したロンが、スリザリンの名を出す。

 

「勘違いしているようですが、スリザリンの応援席からは、反応は有りません」

 

「じゃ…じゃあ、誰が一体何の為に」

 

「職員、及び来賓席の一角より反応を検知」

 

「職員席って…あ!」

 

 ロンが声を上げ、ハリーの方を指差す。

 

 そこには、護衛の二人が状況悪化に伴い、離脱し、一人回避行動をとっていたが、腕に直撃を受けたハリーの姿があった。

 

「どうにかならないのか!」

 

「了解」

 

 私はベクタートラップ内からマルチウェポンデバイスを取り出すと、スナイパーを選択し、腰だめに構える。

 

「ちょっと…エイダ! それって…もしかして…」

 

「狙撃します」

 

「その鉄の棒何? 花火でも上げるの?」

 

「そんな優しいものじゃ無いわよ! 狙撃って…ハリーに当たったらどうするのよ!」

 

「その様なミスは犯しません」

 

「でも…」

 

「信じてください」

 

「う…うん…」

 

 ハリーの状況は回避行動を繰り返しており、体力的にも危険なラインに達している。

 

『遠隔操作を行っていた生命体の分析完了、体表面に光学ステルスと同様のエネルギーフィールドにより、姿を透明にさせています。ですが、体表から発生する熱により、捕捉しています』

 

『了解、球体破壊後、敵対行動が見受けられたら捕縛してください』

 

『了解』

 

 デルフィはその場から離れ、ステルスモードで滞空し、目標を捕縛圏内に捕えている。

 

「目標捕捉。風向き修正。軌道計算終了。撃ちます」

 

 乾いた微弱な破裂音と共に、弾丸が撃ちだされる。

 

 撃ちだされた弾丸は、空気を切り裂き、ハリーの背後に迫り来るブラッジャーを捕え、粉砕する。

 

「うわぁ!」

 

 背後で、ブラッジャーが破裂したハリーは驚愕の声を上げたが、すぐに体制を整え、急降下を開始した。

 

「狙撃終了。効果確認」

 

「よかった…」

 

「すげぇ! 花火より派手じゃないけど、すごい迫力!」

 

 心配していたのか、ハーマイオニーは安堵の表情を浮かべると、溜息を吐いた。

 対するロンは何故か興奮気味だ。

 

『目標、逃走を開始。敵対行動は皆無です』

 

『了解。捕縛の必要性は無いでしょう。帰還してください』

 

『了解』

 

 しばらくすると、隣にデルフィが戻ってくる。

 

 その時、会場にホイッスルの音が響き渡る。

 

 会場の中心では、泥に体を横たえたハリーが、金色の球体を掲げており、グリフィンドールから歓声が上がっていた。

 

「いやー、お見事だハリー。それより腕は大丈夫かい? ブラッジャーの直撃を受けていたね。済まなかった。私がもう少し早く助けてあげられれば良かったのだが」

 

 歓声を掻き分け、ロックハートが声を拡声しながら、ハリーに近付く。

 

「え? 先生がブラッジャーを?」

 

「え…まぁ、そんな所だ。それより、腕を見せて。おっと…やっぱり折れてるな。治してやろう」

 

「大丈夫です! ほんと、大丈夫だから」

 

「遠慮するな。では行くぞ」

 

 ロックハートが杖を取り出すと、ハリーは露骨に嫌な顔をし、拒否しているが、そんな事はお構いなしに、ロックハートは何やら魔法をかけた。

 

 次の瞬間、ハリーの腕が、軟体動物の様に、奇妙な動きをする。

 

「あー…骨は折れて無いみたいだな」

 

「腕の骨が折れてないだぁ! 骨がなくなっちまったじゃねぇか!」

 

 

 

 ハグリッドは大声で叫ぶと、ハリーを担ぎ医務室に消えていった。

 

 

 

 後に残された、ロックハートは高笑いをすると、その場からそそくさと逃げていった。

 

 

 

  その日の夜、就寝時間間際に再び、城内に巨大な生体反応を検知した。

 

 

 それに伴い、人と思われる1つの生体反応が、急激に弱まった。

 

 恐らく、再び石化したのだろう。

 

 そうなれば、犯人は同一人物だ。

 

 突如として、デルフィから通信が入る。

 

『救助に向かいますか?』

 

『いえ、すでに手遅れでしょう。生命反応は微弱ですが、命に別状はないでしょう』

 

『了解、発見は教師陣にでも任せましょう』

 

 通信を終了した私達は、そのまま、眠りに付いた。

 

 

 

  クィディッチの試合も騒動があったが、無事に終了し安堵の表情を浮かべていたダンブルドアだったが、その表情は1日として持つ事は無かった。

 

「何てことじゃ…」

 

 急激に表情を反転させたダンブルドアは自室にて頭を抱えている。

 

 今の彼の姿を見れば、稀代の魔法使いとは誰も思わないだろう。

 

「失礼します」

 

 ノック音から数秒を置いて、1人の男性教諭が入って来た。

 

「おぉ、セブルスか」

 

「はい、また被害者が出たと」

 

「そうじゃ、被害者は『コリン・クリービー』グリフィンドールの生徒で、マグル生まれじゃ」

 

「左様ですか」

 

「うむ、今は医務室でミネルバが見ておる」

 

「左様ですか、して、このカメラが彼の持ち物と言う訳ですかな?」

 

「その通りじゃ。そのカメラに犯人が写っておるかも知れぬと思ってな。どうじゃた?」

 

「残念ながら、強力な力でカメラ自体が壊されており、現像できたのは1枚だけです」

 

「ほぉ…してその1枚とは?」

 

「こちらです」

 

「どれ…」

 

 ダンブルドアは一枚の写真を受け取る。

 

 その写真には、ロンが口から巨大なナメクジを吐き出している光景が映し出されており、それを見ているハリー達が驚愕の表情を浮かべている。

 

「これは…また…」

 

「悪趣味ですなぁ」

 

「何やら嬉しそうじゃの。して、この写真がどうしたのじゃ?」

 

「グレンジャーとポッターの間に、不自然な空間があるのがお分かりですかな?」

 

「空間じゃと?」

 

 スネイプが指摘する通り、ハリーとハーマイオニーの間には、2人分程の空間が存在していた。

 

「して、この空間がどうしたのじゃ?」

 

「その場に居合わせたスリザリンの生徒に聞いた所、この場にはイーグリット姉妹も一緒だったと」

 

「なんじゃと…」

 

 異変に気が付いたのか、ダンブルドアの表情が一段と鋭くなる。

 

「お察しの通り、この不可解な空間に、彼女達が居たと考えられます」

 

「しかし、それならば、写真に写っていないとおかしなはずじゃ…」

 

「左様で。しかし、現に写真には彼女達の姿は映し出されては居りません。周囲の鮮明さから考えて、現像のミスと言う訳でもありません」

 

「不思議な話じゃ…」

 

「えぇ、現在得られている情報は、以上です」

 

「そうか…して、セブルスよ。本日のクィディッチの試合。アレをどう思う?」

 

「どう思うとは?」

 

「そのままの意味じゃよ。あの不自然なブラッジャーの動きじゃ」

 

「何者かによって操られていたようにも思えましたな」

 

「犯人に心当たりはあるか?」

 

「残念ながら」

 

「そうか。では、ブラッジャーの破壊についてはどう思う?」

 

「少なくとも、あの男の仕業では無い事は確かです」

 

「フッ」

 

 スネイプの回答に対し、ダンブルドアは笑みを浮かべる。

 

「奴にそこまでの能力は無かろう」

 

「えぇ、では一体誰が? 校長ではないのですかな?」

 

「生憎と、ワシも移動中のブラッジャーをハリーの近くで破壊するのは躊躇う」

 

「まるでポッター以外ならば躊躇わない様な言い草ですな、では一体誰が?」

 

「見当は付いておる」

 

「イーグリット姉妹ですかな?」

 

「ワシはそう見ている。現にエイダの方が観客席で鉄の棒を取り出しているのを見た。デルフィの方はどこに行ったかは知らぬがの」

 

「鉄の棒?」

 

「マグル達の使う、野蛮な銃に似ておった。じゃが、あの年齢で扱うには、ちと大きすぎると思ったがの」

 

「彼女は銃を持ち込んでいると? だとしたら一大事ですな」

 

「左様じゃ。しかし、あれ程の大きさの物をどこに隠しているのか…それは分からん…」

 

「何らかの認識障害魔法で隠していると?」

 

「だとすれば、ワシが気が付く」

 

「確かにそうですな…」

 

「それにじゃ。彼女はハリーを救うために使ったようにも見える。それならば、今回は見逃すのも悪くは無かろう」

 

「ですが校長、銃の持ち込みは法律で――」

 

「もう良い。ご苦労じゃった。明日からまた騒がしくなると思うが、頼んだぞ」

 

 スネイプの反論を遮り、ダンブルドアが強制的に話を終わらせる。

 

「……承知いたしました」

 

 スネイプはその場で一礼すると、すぐさま退室した。

 

 取り残されたダンブルドアはただ一人、思考の海に溺れていった。

 




ダンブルドアがどんどん老害化してる気がする…



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決闘クラブ

ロックハート様が…


 

  次の日を迎えると、予想通り、校内でまた一人継承者による、被害者が出たという話で持ちきりとなった。

 

 

 

 被害者は『コリン・クリービー』と言うらしく、マグル生まれの生徒らしい。昨日のスキャンした結果の通り、石化した状態で発見された様だ。

 

 

「まったく、ふざけた奴等だ。またハリーの事を疑ってるよ」

 

 朝食の最中に、ロンが食い散らかしながら愚痴を溢している。

 

「そうね、継承者って言ってもスリザリンの生徒の可能性の方が高い訳だし…何とかしなきゃ…」

 

 ハーマイオニーはタブレットを見据えながら、溜息を吐いている。

 

 現在閲覧している項目は、『ポリジュース薬』と言う、他者の一部と共に摂取すると、外見が変化すると言う、禁止薬品の製造方法についてだった。

 

「そうね…この材料なら、確かあそこに…」

 

「何をするおつもりですか?」

 

「えっ?」

 

 デルフィの突然の問いかけに、ハーマイオニーの間の抜けた声が響く。

 

「現在閲覧しているのは、制限が掛かっている項目です」

 

「あー…まぁ、そうね。うん、別に何もしないわよ」

 

「本当ですか?」

 

「ほ…ホントウヨ」

 

 呼吸の速度や、発汗状態からか判断するに、分かり易い嘘を吐いている。

 

「口出しするつもりは有りませんが、危険が伴う行為なので、お気を付けて」

 

「えぇ、大丈夫よ。上手くやるわ」

 

 私の忠告に対して、ハーマイオニーは数か頷いた後、不敵な笑みを浮かべ、ロンとハリーが呆れた表情で眺めていた

 

 

  週を跨ぎ、魔法薬学の授業。

 

 最早、お馴染みの光景と化した、赤と緑のコントラストの中、ハリー達が不審な動きを見せた。

 

「なぁ、本当にやるのかよ?」

 

「しょうがないでしょ。必要なんだもん」

 

「でも…」

 

「いいから!」

 

 背後で、小声で話している3人を尻目に、スネイプがグループ分けを行い、魔法薬の生成方法を説明する。

 

 今回は、膨れ薬と言う、塗布した部位を膨張させる薬の作成だ。

 

 どの様な用途で使用するのか理解に苦しむ薬品だ。

 

「よし…」

 

 薬品作成も終了間際、何を思ったのか、ハリーがゴイルの作成した薬品が入った鍋に、小型の成形爆薬、爆竹を投げ込んだのだ。

 

「ん?」

 

 突然の異物混入に、ゴイルが不思議そうな表情で鍋を覗き込む。その瞬間、爆竹が破裂する。

 

「ひひゃぁ!!」

 

「なんだ!」

 

 爆音と共に、薬液が周囲に飛び散り、大惨事となる。

 

「あぁあぁぁぁあああ!」

 

 特に顔面に薬液が直撃したゴイルは、常識では考えられないレベルで腫らしている。

 

「うわあぁ!」

 

 同席で作業していた、マルフォイにも若干の薬液が付着したのか、顔の一部がはれ上がっている。

 

 私達の体表にも、薬液が付着したが、防衛プログラムによる無効化によって、効果が現れる事は無かった。

 

「ご無事ですか?」

 

「痛みはないよ、それより君達は大丈夫みたいだね」

 

「我々には、効果が無かったようです」

 

「効果って…」

 

「あぁあぁぁぁあああ!」

 

 

「五月蠅いぞ! 何事だ! 一体どうなっている!」

 

 教壇から降りたスネイプが現状を見て、狼狽している。

 

「何たる事だ! この惨事を引き起こしたのは誰だ! 被害を受けた者は今から『ぺしゃんこ薬』を配るから並びたまえ」

 

 スネイプが膨れ上がった生徒に薬を投与すると、次第に晴が引いていく。

 

 しかし、被害にあった生徒数が多い為、教室内は混乱している。

 

 そんな混乱に乗じて、ハーマイオニーが教室の奥、薬品の原材料保管庫へと姿を消していった。

 

 そんな、ハーマイオニーの後姿を見ながら、ハリーは青い顔をしていた。

 

 そして、数分後、恐らく、薬品の材料を盗んだのだろう。ハーマイオニーが何食わぬ顔で戻ると、混乱している生徒に紛れ込んだ。

 

 

  数日が経ったある日、授業も終わり、談話室に居ると、ハーマイオニーにとある教室へと案内された。

 

「これから何が始まるのですか?」

 

「決闘クラブよ。なんて言ったって、このクラブの講師は――」

 

 そう言いかけた時、教室の扉が開かれ、奥からロックハートとスネイプが入室してきた。

 

「ロックハート様ぁああぁあぁ!!」

 

 瞬時に、ハーマイオニーを始め、多くの女子生徒が黄色い声援を上げる。

 

 ロックハートは軽く手を振り返し、スネイプは不機嫌な顔をする。

 

 

「やぁ、諸君!ごきげんよう。集まってください。私が見えていますか? よろしい! 今回、ダンブルドア校長に許可をいただき、決闘クラブを開催することとなりました。自らの身に危機が迫った時、しっかりと身を守れるように皆さんを鍛え上げて見せます! まぁ、詳しい事については私の本を読んでくださいね」

 

 適当な宣伝を終えると、ロックハートは咳払いをしてから、口を開く。

 

 

 

「さて、こちらに居るのは助手のスネイプ先生です。少し、ほんの少しですが決闘についてご存知らしいので、これから、簡単な模擬演技をするので、相手役を買って出てくれました」

 

 ロックハートの挑発により、スネイプの不快指数が急上昇したのを検知した。

 

「ありゃ、殺されるかもな」

 

「あぁ、スネイプならやりかねない」

 

 ロンとハリーが小声で呟く中、2人は壇上に上がり、向かい合う。

 

「まずは、作法に従い杖を構えます。そして一礼」

 

 

 

 二人は互いに杖を取り出し、一礼する。スネイプは眼前に杖構え、鋭い目線でロックハートを見据える。

 

 対するロックハートは杖を持った右手を下方に構える。

 

 

 

「3つ数えてから、最初の術を掛けます。もちろんどちらも殺意は無いのでご安心を」

 

「左様。殺意など無い」

 

 

 ロックハートは微笑みながら、そうは言っている物の、対するスネイプの目線や、筋肉の動き、メンタルコンデション等から鑑みて、殺意が無いと言うのは嘘だろう。

 

「多分、ロックハートってスネイプが一番嫌いなタイプだな」

 

「そうだね。目が笑ってないもん」

 

「では、始めます。最初は背中合わせになります」

 

 壇上の2人は互いに背中合わせになり、杖を構える。

 

「そして、3歩歩く。1…2…3ッここでッ!――」

 

 

 2人が同時に杖を構えて、振り返る。

 

 

 最初に仕掛けたのはスネイプの方だった。

 

 

「エクスペリアームス!!」

 

 

「うごぉ!」

 

 スネイプの渋い声が周囲に響くと同時に杖の先から閃光が迸ると、ロックハートに襲い掛かる。

 

 

 

 一瞬の事に何の対処も出来ずに居る、ロックハートに魔法が直撃する。

 

 

 

 吹き飛ばされたロックハートは、苦笑いをしながら、何事も無かったかのように立ち上がった。

 

 

 

「さて…皆さん分かりましたね! これが武装解除の術です。()()()()()()()()に、私の杖は吹き飛ばされてしまいました。いやぁ、見事でしたよ」

 

 

 スネイプを睨みつけながら、ワザとらしく賞賛を送っていたが、睨み返されたのか、直ぐに、睨むのを止めた。

 

 

 

「模擬演技はこれでいいですね。それでは2人一組を作ってくださいね!スネイプ先生お手伝いしていただけますね」

 

 

 

 そう言うと、ロックハートが勝手に組み合わせを決めていく。

 

 結果としては、ハリーはマルフォイと組むことになった様だ。

 

 

「では、そこの2人。顔がそっくりだね。双子かな?」

 

「はい、その通りです」

 

「双子だと実力が同じという事が多いらしいですからね。ちょっとやりづらいですね。うーん…どうしようかな」

 

 私達の前で、腕を組み考えこむロックハートだったが、壇上のスネイプを見ると、何か思いついたようだ。

 

「あっ、そうだ。スネイプ先生。ちょっとこっちへ!」

 

「チッ!」

 

 スネイプは分かり易く、舌打ちをすると、こちらにやってくる。

 

「何の用ですかな?」

 

「いえ、双子だと、実力が拮抗して見栄えが…ではなく、大した訓練にならないと思いましてね」

 

「それで、吾輩にどうしろと?」

 

「多人数同士の戦いを行おうかと、私は。えーっと…少し卑怯かもしれませんが、私達教師と、君達双子でコンビを組んでってのはどうかな?」

 

「吾輩は、構わぬが、どうするのだ?」

 

「問題ありません」

 

 デルフィがいつもの様に、杖を取り出す。

 

「ミス・エイダはどうなのだ?」

 

「御構い無く」

 

「そういう事です。じゃあ始めましょう!」

 

 テンションの高いロックハートに連れられて、私達は壇上へと上がる。

 

「さてさて、まず初めに、多人数同士での試合を行いましょう。少し卑怯かもしれませんが、彼女達のコンビネーションで、私達教師の実力に打ち勝って欲しい物です。それとこれはあくまでも練習ですからね。ルールは先程と一緒ですが、どちらか片方に魔法が当たった時点で終了です」

 

 勝ちを信じて疑わないロックハートは、にやけ顔を浮かべているが、スネイプの方が、警戒の眼差しでこちらを見ている。

 

「では、始めます!」

 

 ロックハートが勢い良く杖を振るうと、閃光が走る。

 

 少し遅れて、スネイプの杖からも閃光が走る。

 

 

「「防衛プログラム起動」」

 

 二つの閃光がそれぞれ、私達に直撃するが、総て霧散し、無力化される。

 

「え?」

 

「何だと!」

 

 驚いている2人を尻目に、私達も杖を構える。

 

「攻撃を開始します」

 

「了解」

 

 デルフィの攻撃開始に合わせ、私も杖を振り、閃光を放つ。

 

「クッ! プロテゴ・マキシマ(最大の防御)!」

 

「ヒィ!」

 

 スネイプは閃光が直撃する寸前に、防御魔法を発動させたようで、私の放った魔法が、障壁に直撃し、甲高い破裂音と共に無効化される。

 

 やはり、人体に影響の無い出力では、防がれる事もあるようだ。

 

「うばぁ!」

 

 対するロックハートだが、防衛魔法を張る事も無く、ただデルフィの閃光を受け入れ、その場で気を失っている。

 

「勝利条件は満たしました。まだ続けますか?」

 

 ウアスロッドを突き付けれたスネイプは、一度溜息を吐く。

 

「これ以上、茶番に付き合って居れぬ」

 

 そう言うと、ロックハートを残したまま、壇上から降りる。

 

「戦闘終了」

 

 私達も、杖を仕舞うと、ロックハートを残したまま、後段する。

 

 その後、見かねた女子生徒数名が、一丸となり、ロックハートを壇上から引きずり降ろした。

 

「次だ、さっさと始めろ」

 

 不機嫌な、スネイプに促され、次のグループが登壇する。

 

「チッ、なんでコイツと…」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 登壇したのは、 ハリーとマルフォイだった。

 

 互いに不機嫌そうに、相手を睨み付け、一触即発と言った雰囲気だ。

 

「五月蠅いぞ! これでもくらえ!」

 

 次の瞬間、ハリーが魔法を放ち、マルフォイがそれを寸前で防ぐ。

 

 その後、数回に渡り、魔法の応酬が繰り返される。

 

「んあ…あれ、どうなったんです私?」

 

「生徒の魔法を受け気を失って居りました。まったくお笑いですな」

 

 目覚めにスネイプの嫌味を聞き、不機嫌になるロックハートだったが、数回頭を振ると、近くの椅子に腰かける。

 

「やってくれたな! サーペンソーティア(蛇よ出よ)! 」

 

 マルフォイの杖の先端から、黒い色の蛇が放たれ、壇上の上で蜷局を巻いている。

 

 

 

 蛇を見た途端にハリーはその場で動かなくなってしまった。

 

 そんなハリーを嘲笑うようにスネイプがハリーに声を掛けた。

 

 

「怯えている様だな。動くなポッター。吾輩が追い払ってやろう」

 

 

 

 

 杖を片手に壇上へ上がろうとしたスネイプを遮り、椅子から立ち上がったロックハートが登壇する。

 

 

 

「ここは私にお任せあれ!」

 

 

 

 ロックハートは蛇に杖を振りかざすと、爆破音が響き、上空2m程まで飛び上がると、ポトリと同じ場所へ着地した。

 

 

 

「あぁ…えっと…」

 

 

 

 ロックハートは戸惑いながら周囲を見渡しているが、跳ね飛ばされた蛇は怒り狂ったように、シャーシャーと鳴き声を上げ、近くに居た生徒に襲い掛かろうとしている。

 

 

 

 スネイプが再び杖を構えようとした瞬間、ハリーの口から、蛇と同じ周波数の、音を発する。まるで、会話でもしているようだ。

 

 

 スネイプを含めた周囲の人間の視線がハリーに集約する。

 

 

 

 そんな事に気が付かないハリーは引き続きシャーシャーと音を立て、蛇と会話をし、気が付いた頃には、蛇も落ち着きを取り戻したのか大人しくなっていた。

 

 

 当のハリーは、やり切ったという表情で蛇に睨まれていた生徒に微笑みかけた。

 

 

 しかし、微笑みかけられた生徒の顔は引き攣っており、その他の生徒達も、皆一様に暗い顔をしていた。

 

 

「何をやったんだ! ふざけるなよ」

 

 

 先程の生徒が突然大声を上げ、ハリーを怒鳴り付けると、逃げる様にその場を離れていった。

 

 

 重い空気が流れている中、スネイプが口を開いた。

 

「今宵はこれで終了だ。皆速やかに寮に戻るように。以上だ」

 

 そう言い終えると、その場に居た生徒は我先にとその場から出ていった。

 

 そんな中、ハリーはロンに引きずられて会場を後にした。

 

「私達も行きましょう」

 

「えぇ」

 

 私達は、ハーマイオニーと共に会場を後にした。

 

 

 暗い廊下を歩き、グリフィンドールの談話室に入ると、ロンがハリーに何やら問い詰めていた。

 

「君、パーセルマウスだったんだ!どうして言ってくれなかったんだよ?」

 

「パーセルマウス?」

 

 ハリーは初めて聞いた単語に、首をかしげる。

 

「パーセルマウスとは、蛇の言葉です」

 

「なお、使える者は、ごく一部の者に限られます」

 

「でも、ごく一部だからって、そんなに不思議に思われる事? この学校には僕以外だって、動物と話せる人は居るじゃん」

 

「うん、確かに動物と話せる人は居るけどね。本当に蛇と話せるという事は特別なんだよ」

 

「え? そうなの? 特別かぁ」

 

 特別と言われたハリーは若干嬉しそうに頭を掻いている。

 

「ハリー…どうしてスリザリンのシンボルが蛇なのか知ってる? 創設者の1人『サラザール・スリザリン』はパーセルマウスで有名だったのよ…」

 

 ハーマイオニーの説明を受けハリーは口をあんぐりと開け驚愕している。

 

「多分、今頃学校中に噂が広まっているぜ、君の事をスリザリンの曾々々々孫だなんて噂してるかもな」

 

 ロンが心配そうに言う。

 

「そんな訳ないだろう!!」

 

「まぁ、そうだろうけど…」

 

「数世紀前の人物という事であれば、血縁上無関係とは言い切れません」

 

「デルフィ、あまりそういう事言わないでくれよ」

 

「僕が…スリザリンの血縁者?」

 

「あくまでも可能性です。確率は0では有りませんが、限りなく低いです」

 

「はぁ…」

 

 ありもしない噂が流れるかもしれないと、危惧したハリーは溜息を吐き、頭を抱えていた。

 その夜、再び巨大な生体反応を検知する。

 

 より詳細なスキャンにより、移動方法を特定する事が出来た。

 

 城内に張り巡らされている水道管等のパイプを利用している様だ。

 

 スキャンが終わる頃には、再び微弱な生命反応を残し、姿を消した。

 

 どうやら、再び犠牲者が出た様だ。

 

 後処理は、教師陣に任せるとしよう。




当初はエイダとデルフィで模擬戦をやる予定でしたが、ホグワーツが崩壊するので、ロックハートとスネイプは犠牲になったのだ。


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ポリジュース薬

アズカバン編のデータが全部飛んだので初投稿です。


   翌日、また犠牲者が出た。

 

 とあるゴーストと、先日の決闘クラブの際に、蛇に睨まれていた生徒が石にされたようだ。

 

 

 しかも運の悪い事に、今回の第一発見者もハリーだったようだ。

 

 そのせいか知らないが、ハリーは殆どの生徒からスリザリンの後継者なのではと疑われている。

 

 ダンブルドアも疑って居るのかどうかは知らないが、先程ハリーを呼び出したという話だ。

 

 

 

  このような事が続いたため、今年のクリスマスには多くの生徒が帰省し、ハリーを含めた数名の生徒のみが残された。

 

 しかし、今年はハーマイオニーとロンも残るようだ。

 

「どうして、君達まで残るんだ? 家に帰ればいいのに」

 

「まぁ、そういうなって、君1人だけ置いておくと、何かと心配だろ?」

 

「ロン、君って奴は…」

 

「それに、家に居たら、アレは作れないからね」

 

 ハーマイオニーは意味深な笑みを浮かべ、それを見た2人は引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「ところで、エイダとデルフィは今年も家に帰るの?」

 

 ハーマイオニーの問いに対して、私達は数回頷く。

 

「そう、残念だわ。ちょっと手伝って貰おうかと思って居たのだけど…」

 

「おい」

 

 ハーマイオニーの言葉を遮る様に、ロンが声を上げ、小声で話し出す。

 

「良いのかよ、あの事を話して」

 

「あの二人になら、話しても大丈夫よ。それに、協力してくれた方が、心強いでしょ?」

 

「まぁ…確かに…」

 

 

「お話はお済ですか?」

 

「えぇ、終わったわよ」

 

 デルフィの問いに対して、ロンとハーマイオニーは数回頷く。

 

「それでね、さっきの話の続きなんだけど…」

 

 そこで、私達は彼等が立てている計画の概要を説明される。

 

 どうやら、『ポリジュース薬』を使い、スリザリンに潜入し、後継者が誰なのか聞き出そうとしている様だ。

 

「それで今ね、ポリジュース薬を作ってるんだけど、少し難しい所があって…そこを手伝って貰えないかしら?」

 

「構いませんが、その工程に差し掛かるのは、いつ頃でしょう?」

 

「クリスマス休暇の真ん中ね…帰っちゃうんだもん。やっぱり無理よね」

 

 ハーマイオニーは肩を落とし、項垂れている。

 

「ご心配なく、連絡をいただけでは、必要に応じて駆け付けます」

 

「駆けつけるって…第一、どうやって貴女達と連絡とるのよ。ふくろうで手紙を送ったって数日かかるわ」

 

「タブレット端末に、通信機能があります。それで連絡を」

 

「え? そんな事出来るの?」

 

「可能です」

 

 試しに、タブレット端末に通信を繋ぐ。

 

 その瞬間、タブレット端末から、着信音が鳴り響き、3人は慌て始める。

 

「え? どうなってるの? 急に音が出たけど」

 

「通話ボタンを押してください」

 

「通話ボタンって…これ?」

 

 デルフィの指示に従う様に、ハーマイオニーが通話ボタンを押すと、タブレットと通話が繋がる。

 

 

『通信状態は良好です』

 

「凄い、本当にタブレットから声が聞こえる」

 

「え? 何これ? この石板どうなっているの?」

 

「だから、タブレットだって言ってるでしょ。凄いわ。まるで電話みたい」

 

 通話を切ると、一通り通話機能について説明をすると、今度はハーマイオニーから通話が掛かってくる。

 

『もしもし、聞こえる?』

 

『はい、問題は有りません』

 

「おぉ、凄いわ、本当に繋がっちゃった」

 

「休みの期間は、これで連絡を」

 

「うん! 分かったわ。ねぇ…」

 

 タブレットを抱えたまま、ハーマイオニーがこちらに目線を向ける。

 

「どうかしましたか?」

 

「もし、もしもよ、用事が無くて連絡したりしたら怒る?」

 

「いいえ」

 

「良かった。少し寂しかったりしたら、連絡するわ」

 

「御構い無く、ですが、大した話し相手になれるとは思えませんが」

 

「良いのよ、話を聞いてくれるだけで十分よ」

 

「どうして、女の子って、お話が好きなんだろう?」

 

「さぁ、僕にはわからないよ」

 

 

 嬉しそうなハーマイオニーを横目に、ロンとハリーは理解できないっといった表情で、手を上げていた。

 

 

  クリスマス休暇に入ってから数日間。

 

 時々入るハーマイオニーからの通話の内容は、ロンが休暇中に双子の兄弟に杖が折れた事がバレ、黙っている代わりに、トロフィー磨きを押し付けれたなど、些細な出来事が大半だった。

 

『ポリジュース薬』の作成は順調に進んでいる様で、こちらから援護に行く必要は無い様だ。

 

 クリスマス休暇も終わろうとしある日、ハーマイオニーから通信が入る。

 

『もしもし、聞こえる?』

 

『通信状態は良好です』

 

『良かったわ。それでね。ついにポリジュース薬が完成したのよ!』

 

 通話越しでも分かる程、ハーマイオニーのテンションは高かった。

 

『おめでとうございます』

 

『難しい薬だったけど、やってみれば何とかなるものね』

 

『それで、材料はどの様に調達したのですか?』

 

『え? そ…それは…』

 

 デルフィの問いに対し、やはりハーマイオニーは黙り込む。

 

『ある程度の予想は付きます。今後はあまり危険を冒さない様にお気を付けて』

 

『わ…わかったわよ。それより、このポリジュース薬は、クリスマス休暇が終わって皆が戻ったら使おうと思って居るの』

 

『それがよろしいかと』

 

『早く使わないと、駄目になっちゃうもんね』

 

『うわぁ! またマートルが出た!』

 

 通話の奥で、ロンとハリーの喚き声が響く。

 

『まったく、騒がしいわ。じゃあ、今日はもう切るわ。今度は休み明けにまた会いましょう』

 

『えぇ、それでは失礼いたします』

 

 次の瞬間、プツリと虚しい音を立て、通話が終了する。

 

 

  クリスマス休暇も終わり、再びホグワーツに到着する。

 

「待っていたわ!」

 

 自室に戻ると、嬉しそうな表情のハーマイオニーが出迎える。

 

「えぇ」

 

「到着早々で悪いんだけど、ちょっと一緒に来てくれる?」

 

「何があるのです?」

 

「ちょっとね、移動中に説明するわ」

 

 自室を出た後、ハーマイオニーに連れられ校内を進む。

 

 しばらく歩みを進めると、人気のないエリアまでやってくる。

 

「クリスマス休暇中にポリジュース薬が完成したって言ったでしょ」

 

「覚えています」

 

「それでね、今日使おうと思って居るの」

 

「そうなのですか」

 

「うん、そこで、貴女達には先生とか他の生徒が来ないように見張り役をお願いしたいの。

 

「了解です」

 

「承知しました」

 

 

 しばらく話と歩みを進めると、人気の無い女子トイレへ到着した。

 

 トイレの手洗い場の一部に、地下へと通ずる隠し通路を検知した。

 

「手洗い場なんて見て、どうしたのよ?」

 

「巧妙にカモフラージュされていますが、あの手洗い場から、地下空間へと通ずる抜け穴を検知しました?」

 

「え? 抜け穴?」

 

「恐らく、件の『秘密の部屋』へと繋がっているかと」

 

「えぇ!!」

 

「おいおい…それは本当かよ!」

 

 背後から、女子トイレであるにもかかわらず、ロンとハリーが驚いた表情で入ってくる。

 

「失礼ですが、ここは男性が来る場所ではないかと思われます」

 

「あー、それについては大丈夫、滅多に人が来ない所だし、僕等、クリスマス休暇の間はずっとここに居たから」

 

「ロン、その言い方だと変な誤解を招くよ」

 

「へ?」

 

「まぁ、ロンの説明じゃ分からないと思うけど…簡単に説明すると、私達はこの休みの間、ここでポリジュース薬を作っていたの」

 

「そうだったのですか」

 

 デルフィが適当に答えると、3人は同時に頷く。

 

「それより、ここが秘密の部屋に繋がっているって本当?」

 

「えぇ、目視では判断不可能ですが、手洗い場の壁の奥に空洞を検知しました」

 

「まじかよ…どうする?」

 

「どうするって…先生に伝えた方が良いかな?」

 

「でも、なんて説明する?」

 

「そりゃ…えーっと…」

 

「女子トイレでポリジュース薬を作ってたら、見付けましたって言うのか?」

 

「そんな事が知れたら、僕…学校に居れないよ…」

 

「まぁ…今回の作戦で全部が分かるんだ。そしたら、後継者から聞き出したって事で先生に言えばいいよ」

 

「そうだな」

 

「まぁいいわ、今回の作戦の要でもあるポリジュース薬がこれよ!」

 

 自慢げな表情で、ハーマイオニーは禍々しい臭気を放つ鉄鍋を掲げる。

 

「だけど、あと1つ大切な物が必要なのよ」

 

「まだあるのかよ」

 

 ロンは疲れた様に、溜息を溢す。

 

「ポリジュース薬はね、変身したい相手の体の一部が必要なの。だから髪の毛が必要なのよ」

 

「で? 僕等はどうすればいいの?」

 

「そうね、マルフォイの腰巾着やってる2人の髪の毛でも取ってきたら?」

 

「2人って…クラッブとゴイルか?」

 

「そうそれ」

 

「まじかよ…でもどうやって髪の毛なんか?」

 

「大丈夫よ。これを用意してあるわ」

 

 そう言うとハーマイオニーはカップケーキを2つ取り出す。

 

 内部には睡眠成分の高い魔法薬が仕込まれている。

 

「この中には、強力な睡眠薬が入っているわ。食べれば1日は起きないんじゃないかしら?」

 

「どうやって食べさせる?」

 

「目の前に浮かせておけば食べるんじゃない?」

 

「いくらアイツ等でもそんなに馬鹿じゃ無いだろう」

 

 ロンとハリーは笑いながら、カップケーキを受け取ると、その場から立ち去った。

 

 数分後、二人が戻ってくる。

 

「アイツ等やっぱり馬鹿だわ」

 

 2人の手には人毛とスリザリンの制服が握られていた。

 

「あの2人はどうしたの?」

 

「ロッカーに隠しておいた。明日になれば目を覚ます筈だよ」

 

「そうね。材料は揃った事だし。じゃあ始めるわよ」

 

 ハーマイオニーは鉄鍋から3つのガラス製のコップに均等に不気味な液体を注いで行く。

 

「ところで、ハーマイオニーはどうするんだ?

 

「私はもう用意してあるわ。スリザリンのミリセント・ブルストロードの髪の毛よ」

 

「そんなの、いつの間に用意したんだよ?」

 

「この前の決闘クラブ。ヘッドロックを掛けられた時ね」

 

「あー…あのん時の…」

 

「えぇ、そうよ」

 

 ハーマイオニーは焦点の定まっていない目で虚空を眺めていた。

 

「さっ、さっさと髪の毛を入れるわよ」

 

 ロンとハリーはそれぞれ嫌そうな顔でポリジュース薬に髪の毛を入れる。

 

「うげぇ…2人のエキスがたっぷりだ」

 

「気持ち悪い事言うなよ」

 

「だってよぉ…」

 

「まったく、何言ってるのよ…」

 

 ハーマイオニーはポケットから白い毛を取りだす。

 

 しかし、その成分はどう見ても人の物とは違い、ネコ科の物だった。

 

 ポリジュース薬は、人への変化への利用に制限されている。

 

「さて、私も…」

 

 ハーマイオニーが猫の毛をポリジュース薬へと入れようとする。

 

「お待ちください」

 

「え?」

 

 私がハーマイオニーの腕を掴み、デルフィが猫の毛を回収する。

 

「ぐえぇ…え?」

 

「何してんだよ?」

 

 既にポリジュース薬を飲んだ2人は唖然とした表情をしている。

 

「それは、猫の毛です」

 

「え?」

 

「じゃあ、どうする…ヴォエ!」

 

「ロン! だいじょ――ヴォッ!」

 

 突如として嘔吐いた(えずいた)2人は走り出すと個室へと駆け込んだ。

 

「大丈夫かしら?」

 

 デルフィはハーマイオニーが持っていたポリジュース薬を躊躇い無く一口含む。

 

「ちょっと!」

 

「毒性は検知されていません。人体に影響は有りません」

 

「そ…そうなの?」

 

「問題ありません」

 

 数分後

 

 トイレの個室から現れた2人は、死にそうな表情をした、クラッブとゴイルだった。

 

「凄いわ。本当にあの2人になってる」

 

「あまり嬉しくないよ…」

 

「それより、君はどうするのさ?」

 

「私?」

 

「そう」

 

「そ…そうね…体の一部が無いから…どうしようも無いわ…」

 

「じゃあ、僕達2人だけで行けってのかい?」

 

「まぁ…そうなるわね…」

 

「はぁ…まぁ、しょうがないか」

 

 2人は溜息を吐くと、トボトボとトイレを後にした。

 

 

 

 数十分後、姿が戻った2人が慌てた様子で戻ってくる。

 

「はぁ…はぁ…危なかった」

 

「もう少しでバレる所だったよ」

 

「結果はどうだった?」

 

「あぁ、マルフォイは知らないって言ってたよ」

 

「本当?」

 

「あぁ、本当だよ」

 

「なんだぁ、結局無駄骨だったのね」

 

「まぁ…しょうがないね」

 

 結局、この作戦は無駄に終わった。

 

 このような結果に、3人は落胆していた。

 

「とりあえず、秘密の部屋の事はどうする?」

 

「まだ黙ってようぜ。下手に言うと、危険だろう?」

 

「そうだな」

 

 3人は、後片付けを終えると、自室へと戻って行った。



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トム・リドル

トム登場回です。


  ポリジュース薬を利用した作戦から、2ヶ月が経ったある日。

 

 談話室にて、ハリーが黒い表紙の本を片手に、ソファーに腰かけていた。

 

 その様を、ハーマイオニーとロンが興味深そうに観察している。

 

「ねぇ、ハリー? その本なに?」

 

「あぁ、これ? ちょっと拾ってね。名前が書いてあって『トム・リドル』って人の日記帳かな?」

 

「トム・リドル? どこかで聞いたような…」

 

「ロン、知ってるの?」

 

「何か聞き覚え? いや、見覚えかな? とりあえずなんか引っかかるんだよねぇ…」

 

「そうなの。まぁ、有り触れた名前だし、誰かと記憶違いでもしているんじゃない?」

 

「そうかな?」

 

 ハリーは不思議そうに本のページを捲ると、首をかしげる。

 

「どうかした?」

 

「いや、おかしいんだ。この本何も書かれていなくて」

 

 そう言うとハリーはテーブルに本を置くと、ペラペラと捲るが、総てが白紙で構成されている。

 

「新品と言う訳ではなさそうです」

 

「デルフィの言う通りだね。表紙はかなり汚いからね」

 

「しかし、この本から、エネルギーを検知します」

 

「エネルギー?」

 

「魔力と表現した方が良いでしょう。小規模の魔力です」

 

「魔力って事は、何かの魔導具かしら?」

 

「そこまでは、詳細に調べなければわかりません」

 

「そうなの、まぁ別にそこまでしなくていいよ。その、トム・リドルって人のお守りみたいなもんでしょ」

 

 ハリーはトム・リドルの日記を鞄に仕舞い込む。

 

「アッ!」

 

 この時、ロンが思い立ったように声を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「思い出したよ。そうだよ、トム・リドル。そうそう、トム・リドル、トム・リドル。トム・リドルだよ!」

 

「何回も言わなくて良いわよ。で? 何を思い出したの?」

 

「僕、兄貴達にトロフィー磨きを押し付けられてさ」

 

「なんで?」

 

「杖が折れたのが、兄貴達にバレちゃって。ママにバラされたくなかったら替われって。おかげで手が疲れたよ」

 

「それはわかったわ。それで、どうしてトム・リドルが出て来るのよ?」

 

「あぁ、トロフィー室でね、トム・リドルって書かれているトロフィーをずっと擦ってたんだ。汚れがしつこくてさ」

 

「そうなんだ。何をやってトロフィーを貰ったか覚えてる?」

 

 

「確か、50年位前、スリザリンの後継者を捕まえた事で特別賞を貰ったって書いてあったよ」

 

 

「「スリザリンの後継者!」」

 

 

 2人は声を揃えて驚愕する。

 

 求めていたスリザリンの後継者に関する情報が、このような場所で出て来るとは以外だったようだ。

 

「これで、一歩前進だ!」

 

「しかし、50年以上前の人物です。その人物像を特定するには、情報が必要です」

 

「この中で、50年以上前にホグワーツに居た人の知り合いは――」

 

 私達は首を横に振り、それに倣う様にハーマイオニーとロンも首を横に振った。

 

「だよね。まぁしょうがないか。とりあえずこの本どうしようか?」

 

「日記帳なんだし、日記でも付けたら?」

 

「ハーマイオニーの言う通りだぜ。日記を付けるのは良い事だぜ」

 

「ロン、僕は君と同室だけど、1度も日記帳を開いているところを見た事が無いんだけど」

 

「当たり前さ、日記帳を買うくらいなら、カエルチョコレートを買うね」

 

「はぁ…まったく…」

 

 ハーマイオニーは呆れる様に溜息を吐き、ソファーに深く沈んだ。

 

 

  ハリーが本を手に入れてから数日が経った。

 

 

 この前までは普通の本と変わらずに扱っていたが、今ではとても大事そうに抱え、時折、何やら書き込んでいるように見える。

 

 そんな状況から、さらに数日が経ったある日、談話室にて、ハリーは神妙な面持ちでロンを始めとした私達全員を呼び出した。

 

 

「ハグリッドだったんだ…」

 

「何がだよ?」

 

「この本が…トム・リドルが教えてくれたんだ…50年前に現れたスリザリンの後継者がハグリッドだって…」

 

「何言ってるんだよ? ハグリッドが後継者だって? こう言っちゃあれだけど、ハグリッドはそんな大層な事出来ないと思うぜ」

 

「人は見かけに依らないと言いますが」

 

「でもよ、デルフィ。あのハグリッドだぜ?」

 

「まぁ、その事は後で話しましょ。ところで本が教えてくれたって、どういう事?」

 

 ハリーは少し考えた後、ペンを取り出し、ページを開くと何やら書き始める。

 

 

 

『50年前の後継者は、ハグリッドで間違いないのですね?』

 

 

 

 本に書かれた文字は、まるで、インクを吸収するかの様に取り込むと、同じページに文字が浮かび上がる。

 

 

 

『間違いないよ。僕はその場に居て、ハグリッドを捕まえたのだから』

 

 

「マジかよ!」

 

 その光景を見たロンは驚いた表情を浮かべていた。

 

 原理は不明だが、この本には何やら仕掛けがあるようだ。

 

「『僕が捕まえた』とありますが、この本に存在するアナタがトム・リドルで間違いないのですか?」

 

 私は、疑問を口にするが、返答は無い。

 

「これね、文字を書かないとダメなんだ。ちょっと待ってて」

 

 ハリーは私の疑問と同様の文章を白紙のページに書き込む。

 

 数秒後。

 

『そうだよ。僕がトム・リドルで間違いないよ』

 

「では、アナタ自身は今どこに? それとも、本に記憶データを記録したのですか?」

 

「ちょ、ちょっと待って、本当に難しい言い方するね」

 

 ハリーは少し砕いた表現で、日記帳に書き込むと、数十秒が経つ。

 

『それは答えられない』

 

 その一文が出た後、まるで口を閉ざしたかのように、文字が浮かび上がる事は無かった。

 

「とりあえず…僕は今夜…ハグリッドに聞きに行くんだ。50年前の後継者が誰なのか…」

 

 

 

「僕も行くよ」

 

 

 

 ハリーとロンは互いに頷いた後、私達の方を見てきた。

 

「夜抜けるのは、校則違反になるわ」

 

 ハーマイオニーはそう答えると、ロンが数回頷く。

 

「まぁ、そう来るとは思ったよ。今夜は2人だけで行こうぜ」

 

 

「そうだね」

 

 男性陣は肩を並べ、自室へと戻って行った。

 

 翌日、彼等の表情は優れない物だった。

 

「どうしたのよ?」

 

「蜘蛛が…大きい…蜘蛛…車…もうやだ…」

 

 ロンは、うわ言の様に、訳の分からない事を呟きながら、朝食を続けていた。

 

 ロンのうわ言を除けば、比較的平穏な日々が続く。

 

 この頃になると、石にされた人物とその関係者以外は、皆、スリザリンの後継者の事について等、思考の片隅に追いやっていた。

 

「うーん…どうしよう」

 

 自室にてハーマイオニーは1枚の羊皮紙を睨んだまま動かないでいる。

 

 この羊皮紙は、3年生から始まる選択科目の申込用紙だ。

 

「全部…うん、やっぱり全部ね」

 

 どう見ても、不可能だがハーマイオニーは全ての項目にチェックを入れている。

 

「その時間割は、物理的に不可能です」

 

 ハーマイオニーの羊皮紙を覗き込んだデルフィが忠告する。

 

「大丈夫よ、何とかするわ」

 

「ですが――」

 

「大丈夫だって。ちょっと先生に相談するから。それより貴女達はどうするの?」

 

「あまり明るくない、魔法生物学と占い学を専攻する予定です」

 

「そうなの? まぁ、良いんじゃない。でもなんでその二つ?」

 

「魔法生物学は、こちらの生態系については、まだ把握しきれていない部分がある為です。占い学は、科学的ではなく、非科学的なオカルトについての理解を深める為です」

 

「ちゃんと考えてるのね。さて…私はどうしようかしら…」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、再び、頭を抱えながら、羊皮紙を睨み付けている。

 

 

  数日後、ハリーとロンが慌てた様子で、周囲を捜索している。

 

「そんなに慌ててどうしたのよ?」

 

「トム・リドルの日記が誰かに盗まれたんだよ!」

 

「大袈裟ね。何処かに置いて来たんじゃないの?」

 

「そんな事ないよ! だって僕のトランクがひっくり返されていていたんだよ! ちょっと来てよ!」

 

 ハリー達に連れられ、彼等の部屋へと行くと、内部はかなり荒らされている。

 

「酷いもんだろ? 僕のベッドの周りなんか、物盗りにあったみたいに散らかってたんだから!」

 

「それは君がちゃんと片付けをしてないだけだよ」

 

「ま、まぁそういう事だ、誰かが僕達の部屋に入ったのは間違いなんだ!」

 

 苦し紛れに話題を変えるロンを、ハーマイオニー呆れた表情で見ている。

 

「紛失物は日記帳だけですか?」

 

「そうだよ。色々探したけど、無くなったのは本だけ」

 

「ちょっと待ってよ。僕が隠しておいた、百味ビーンズも無くなってる」

 

「それは昨日食べてただろ」

 

「そうだっけ?」

 

「はぁ…」

 

「と、とにかく、急いで片付けよう。こんなところ、マクゴナガルに見られたら大目玉だ」

 

 ハリーがそう言うので、私達は部屋から出ていくことにした。

 

「それにしても、物騒ね。一体誰の仕業かしら?」

 

「グリフィンドール生徒が一番可能性が高いと思われます」

 

「だとしても、なんでハリーが持っていた、日記帳を狙ったのよ?」

 

「憶測にすぎませんが、あれには小規模と言え、魔力が存在しました。それに気が付いた何者かが盗んだと考える事も出来ます」

 

「でもなんで? あんなの、ただの汚い日記帳じゃない」

 

「小規模とはいえ、魔力を保有しています。裏市場に流せば、それなりの価値は付くかと思われます」

 

「そんなもの?」

 

「その通りです」

 

 ハーマイオニーは何処か納得がいかないといった表情だったが、何とか納得したようだ。

 

 




次回、ハーマイオニーが………


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バジリスク

今回、ハーマイオニーが……


 

 

  本の盗難から、数日が経ち、グリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合日だ。

 

 気象状態コンディションは悪く、クィディッチの様な屋外競技には不向きな天候だが、観客席からは、歓声が響いている。

 

 私達は、観客席で歓声を上げているロンの隣に着座する。

 

 普段通りならば、ハーマイオニーも観戦に来ている筈だが、本日は、調べたい事があるという事で席を外している。

 

 彼女が所持しているタブレットの反応によると、図書館にいる様だ。

 

 図書館で調べ物をした方が集中力が高まるそうだ。

 

 選手達が入場し、試合開始のホイッスルが鳴り響き、歓声が上がる。

 

 試合も中盤に差し掛かり、ハリーがスニッチ捕獲に動き出した時、城内に大規模な生命反応を検知する。

 

 その生命反応は、図書館の付近に迫っている。

 

 そんな時、タブレットからの通信が入る。

 

『どうかしましたか?』

 

『バジリスクよ! 大きな蛇! バジリスクが解き放たれる恐怖だったのよ!』

 

 小声だが、勢いの良い声が聞こえる。

 

『今、図書館に居るんだけど、変な呻き声みたいなのが聞こえるの、それで…さっきまで一緒だったレイブンクローの監督生とはぐれちゃって…助けて…』

 

『図書館周辺に大規模な生体反応を検知しました。恐らく、例のバジリスクだと思われます』

 

『そんな…どうしたら良いの!』

 

『比較的安全なルートをタブレットに表示するので、私の指示に従って、バルコニーへ移動してください、そこを合流ポイントに設定し、こちらから迎えに行きます』

 

『でも、バジリスクの目を見たら死んじゃうのよ…移動するなんて…』

 

『タブレット上に、マップデータを転送しました。白い光点が貴女で、赤の光点がバジリスクです。水色の扇状で表される範囲が、バジリスクのエネルギー照射範囲です。範囲に入らないように注意してください』

 

『で…でも、そんな事言われたって…』

 

『現在、そのタブレットは私達の索敵能力とリンク状態にあります。誤差は0.005%以下です』

 

『でも…』

 

 その時、タブレット越しに、バジリスクと思われる、咆哮が響き渡る。

 

『ヒッ』

 

『時間が有りません、すぐに移動を開始してください』

 

『だけど…』

 

『信じてください』

 

『…わかったわ…貴女達の指示に従うわ」

 

『了解、こちらも移動を開始します』

 

 通信を切らずに、バックグラウンドで繋いだまま、私はデルフィの方へと視線を向ける。

 

「準備はできています」

 

「了解、では行きましょう」

 

 私達は、バーニアを展開し、飛び上がる。

 

『さぁ! ハリー・ポッターがスニッチを完全に捉えた! あと少しだ!』

 

 加速状態にある私達は、箒で浮遊しているハリーの真横を通過する。

 

『あれは一体何だぁ! グリフィンドールの制服を着た二人が、箒無しで飛んで行ったぞ!』

 

 唖然とするクィディッチ会場を背に、私達は合流ポイントへと移動した。

 

 

 

 『次の角を右です。周囲に敵影は無いのでご安心を』

 

『わかったわ…』

 

 タブレットから送られる情報によると、メンタルコンデションレベルが低下しているハーマイオニーは重い足取りで、図書館を抜け出し、移動を開始している。

 

『次の角を左へ』

 

『わかった。ねぇ、貴女達は今どこに居るの?』

 

『我々はすでに、合流ポイントで待機しています』

 

『早いわね。私は後どれ位で到着するの?』

 

『妨害などが入らなければ、5分も掛かりません』

 

『そう、早く合流したいわ』

 

 そう言うと、移動の足を速める。

 

『次を、左よね』

 

『えぇ、その通りです』

 

 その時、地を這うような低い咆哮が響く。

 

『いやぁ!』

 

 ハーマイオニーは声に驚いたのか、本来左へと移動する場所を、真っ直ぐ走り出してしまう。

 

『ルートを逸れました。すぐに修正してください』

 

『そんな事言ったって!』

 

 ハーマイオニーが走り出した音を検知したのか、バジリスクが移動を始めた。

 

『敵に気付かれたようです』

 

『気付かれたって?』

 

『背後に接近しております。走ってください』

 

『ウソでしょ!』

 

『本当です。次を右へ』

 

 しかし、ハーマイオニーは再び直進する。

 

『そんな事言われても、急には曲がれないわよ!』

 

 ハーマイオニーは形振り構わず、直進を進める。

 

『ウソ…行き止まり…』

 

 直進し続けたハーマイオニーは袋小路へと入ってしまった。

 

『どうしよう…』

 

『敵、接近。エネルギー照射範囲内。振り返らないでください』

 

『助けてよ!』

 

 半狂乱で声を荒げるハーマイオニーだが、既にバジリスクは間近に迫っている。

 

『了解、右端へ移動し、体制を低くし、衝撃に備えてください』

 

 私達は、急ぎ移動を開始する。

 

『どうするのよ…』

 

『城壁を破壊し、内部に突入します』

 

『えぇ!』

 

『衝撃に備えてください』

 

 ハーマイオニーは驚きの声を上げながらも、右端へ移動する、しゃがみ込む。

 

「バーストモードへ移行。破壊範囲を決定」

 

 私は、バーストモードを起動し右手を掲げ、青白い高エネルギーの球体を生成する。

 

『バーストモード』とは、エネルギーのリミッターを解除し、一時的に増幅する機能だ。

 

 破壊時の破片などがハーマイオニーに当たらないように、そして、ホグワーツ自体を破壊しないように出力を調整する。

 

「城壁破壊後は、私が突入します。破壊タイミングはエイダに一任します」

 

「了解」

 

 デルフィはウアスロッドを構え、突入態勢を整える。

 

 私は、エネルギーの調整を終えると、ハーマイオニーに通信を繋ぐ。

 

『計算終了。カウントゼロで城壁を破壊します』

 

『早くして!!』

 

『了解、3・2・1・0』

 

 カウントゼロでバーストショットを城壁に向け撃ちだす。

 

 着弾すると、轟音と共に、城壁の一部が崩壊する。

 

「突入」

 

 ウアスロッドを前方に構えたデルフィが土煙を上げ、掻き分け、城内へと侵入する。

 

『保護対象を確保、敵を目視で確認』

 

 私も、急ぎ城内へと侵入する。

 

 そこには、デルフィに泣きつくハーマイオニーと、爆破時の衝撃を受けたのか、全身に傷を負った巨大な蛇の姿があった。

 

「シャァァァアアアアアア!!」

 

 バジリスクはこちらを睨み付けると、高エネルギーを照射する。

 

 生身の人間なら即死だろうが、私達には何の意味も無い。

 

 ハーマイオニーもシールドの範囲内に居るので、影響は皆無だ。

 

 傷付いたバジリスクは、その場で咆哮を上げると、高速で移動し、パイプ内へと逃げ込んだ。

 

「ご無事ですか」

 

「怖かったぁ…」

 

 ハーマイオニーは安堵した事により、腰を抜かしたように倒れ込む。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ごめん、ちょっと立てそうにないわ」

 

「了解です」

 

 デルフィがハーマイオニーを抱きかかる。

 

「え? ちょっと」

 

「医務室へ移動します」

 

「わ、わかったわ」

 

 医務室へと移動を開始する。その時――

 

「これは一体何事じゃ!!」

 

 ダンブルドアを先頭に、血相を変えた教師陣が、杖を私達に突き付けている。

 

「えーっと、その、私、秘密の部屋に付いて調べていて、それで、えーっと」

 

「彼女は、バジリスクと呼ばれる大蛇に襲撃されて居ました。先程我々が救助しました」

 

「そう! その通りです!」

 

「バジリスクじゃと…では、その大穴は何じゃ?」

 

「対象を保護する際に、緊急措置として破壊しました」

 

「ご希望であれば、後日請求書をお送りください。全額負担します」

 

「まさか…お主達が城壁を…」

 

「緊急措置です」

 

「わかった…して、襲い掛かって来たのは、本当にバジリスクだったのか?」

 

「こちらです」

 

 私は先程眼前に現れたバジリスクの映像をホログラム化する。

 

「見てはならぬ!!」

 

 ホログラムが現れた瞬間、ダンブルドアが声を上げ、それに従う様にその場の職員全員が手で視界を遮る。

 

「ご安心を、ホログラムからエネルギー照射は有りません」

 

「なんじゃと…」

 

 それを聞いたダンブルドアはゆっくりと視界を遮る手を除けホログラムを食い入るように見る。

 

 それを見た他の職員も、恐る恐る視線をホログラムへと向ける。

 

「これは…バジリスクじゃ…正面から見るのは始めてじゃが…手負いのようじゃが」

 

「城壁を破壊した際に発生した破片及び衝撃波を浴びたのでしょう。パイプを使い逃走しました」

 

「左様か…」

 

「不思議な魔法だな。しかし、静止画か」

 

 スネイプはホログラムに目線をやると、鼻で笑う。

 

 そこで、私は静止画から、動画へと切り替える。

 

「シャァァァアアアアアア!!」

 

「ウォオ!」

 

「ご希望通り、動画へと変更しました」

 

「も、もう良い! 戻せ!」

 

「了解」

 

 私は、動画を、静止画へと戻す。

 

 その時、マクゴナガが血相を変えダンブルドアに近寄る。

 

「先程、レイブンクローの監督生。『ペネロピー・クリアウォーター』が石に変えられた姿で発見されました」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアは狼狽し、こちらに視線を向ける。

 

「これ以上被害が出る前に、駆除する事をお勧めします」

 

「しかし…相手はバジリスクじゃ…いくら手負いとは言え…それに…どこに居るかもわからん」

 

「バジリスクは現在、秘密の部屋に居ます。恐らく休養を取っている物かと」

 

「秘密の部屋じゃと…それは厄介じゃ…一体どのように…」

 

「既に侵入経路は判明しています」

 

「それは本当か!」

 

「えぇ、手負いである今が最も最良なタイミングかと」

 

「し…しかし、相手はバジリスクじゃぞ。ここは、魔法省の応援をじゃな…」

 

「現状の戦力であれば、我々だけで十分に対処可能です」

 

「ならん!! 生徒にそんな事はさせられん! ワシが魔法省へ応援を頼もう。決して勝手な行動はしてはならんぞ!」

 

 ダンブルドアは突如として怒声を上げ、肩を上下させる。

 

「了解です。ですが、可及的速やかに行動を起す事をお勧めします」

 

「わかった」

 

 ダンブルドアは不満そうに了承すると、大勢の教員を引き連れ、その場を後にした。

 

「では、我々も移動しましょ」

 

 こうして、私達は背後の大穴を残し、医務室へと移動した。

 

 

  数日後、魔法省への応援要請は取り消された様だ。

 

 その上、不用意に状況を混乱させたという事で、ダンブルドアが校長職を更迭された様だ。

 

 全てが後手に回った結果だろう。

 

 城内をスキャンしたが、バジリスクの怪我は完全に回復している様だ。

 

 これでは、魔法省からの応援が来たとしても、不用意に死者を出すだけだろう。

 

 それに伴い、ハグリッドがアズカバンと呼ばれる監獄へと収監された様だ。

 

 罪状は、50年前のスリザリンの後継者として、殺人の容疑によるものだそうだ。

 

 この時代ならば、時効がすでに成立していてもおかしくは無いが、それでは、魔法省としても収まらないのだろう。

 

 

 結果的にすべてが後手に回り、最悪な状況が訪れた。

 

 それを知ってか知らずか、ダンブルドアは校長職を失ってなお、移転先が無いのか依然として校長室の椅子に座っている様だ。

 

 最早その椅子に意味はあるのだろうか…

 

 




ハーマイオニーは無事です。


城壁破壊はやりすぎた感がありますが、まぁ、緊急措置ですから。


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秘密の部屋

遂に秘密の部屋へ突入します。


   さらに数日が経った後。

 

 再び犠牲者が出た。

 

 容疑者を拘留しておきながら、犠牲者を出すとは、魔法省としても、予想外の事態だったのだろう。

 

「ジニー…なんで…ジニーが…」

 

 グリフィンドールの談話室にて、ロンが膝から崩れ落ち、嘆いている。

 

 その周囲には、ホグワーツに在学しているウィーズリー家が集まっており、互いに涙を流している。

 

 そして、ハリーとハーマイオニーはそんなロンに寄り添っている。

 

 ジニー・ウィーズリー。ウィーズリ家の末娘の事だ。

 

 そんな彼女が先日スリザリンの後継者によって連れ去られたという事だ。

 

 そして、壁には血文字を模した赤いペンキで『彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう』と書かれていた。

 

 

 しばらくし、ロン以外のウィーズリ家が自室に戻った。

 

「さぁ、僕達も自室へ戻ろう」

 

 ハリーが、ロンの肩にそっと手を添えた時、項垂れたロンが首だけを上げ、こちらに声を掛ける。

 

「なぁ…エイダ…デルフィ…」

 

「何でしょう?」

 

「秘密の部屋の入り口はあの女子トイレなんだよな…」

 

「はい」

 

「なら――」

 

「待って!」

 

 ハーマイオニーがロンの話を遮り、声を上げる。

 

「どうするつもりなのよ!」

 

「どうするって…助けに行くんだよ! 妹なんだから当たり前だろ!!」

 

「でも…魔法省の人達だって手を焼く程の相手なのよ! それを私達だけでどうやって…」

 

「僕等3人の場合、成功する確率はどれくらいだ…」

 

「救助のみならば3.58%。全員が生還する確率は0.08%」

 

 項垂れたロンの質問にデルフィが答える。

 

「分かったでしょ、私達だけじゃ何もできないわ!」

 

「もし…」

 

 ハリーがゆっくりと口を開く。

 

「もし、君達が去年みたいに協力してくれたらどれくらいになる?」

 

「ハリー…」

 

「条件により左右されますが、90%以上です」

 

「そうだよな…君達はハーマイオニーは助けたんだもんだ」

 

「どういう意味よ!」

 

「別に…でも、気になるんだよ…君達はバジリスクが出たら分かるんだろ?」

 

「巨大な生命体なので検知自体は可能です」

 

「なら、なんで、ジニーの時は何も分からなかったんだ!」

 

「対象が行方不明になった際。生命反応は検知されませんでした。何者かによって連れ去られた可能性は低いです」

 

「じゃあ! あれか! ジニーは自分の意志で秘密の部屋へ行ったって言うのか!」

 

「状況から判断するに、その可能性が一番高いです」

 

「なんだよ!」

 

 ロンは不貞腐れた様に、項垂れるだけだ。

 

「分かりました、では早急に救出作戦を開始しましょう」

 

「でも、ダンブルドアは勝手な事はするなって…」

 

「緊急措置です。これ以上彼の指示に従う事は、対象の生還率を著しく低下させます」

 

「そうだね。ここに居ても始まらないよ」

 

 ハリーに諭され、ロンはゆっくりと立ち上がる。

 

「それでは移動を開始します」

 

「あっ! ちょっと待って!」

 

「どうしたんだよ、ハリー? 急いでるんだぞ」

 

「ちょっと先生を呼んでくるよ、人手は少しでも多い方が安全さ。君達は先に行ってて!」

 

 ハリーは談話室を抜け出すと何処かへと消えていった。

 

「では、我々も移動しましょう」

 

 こうして、私達は入り口がある、女子トイレへと移動した。

 

 

  女子トイレへ到着すると、既にハリーが待機しており、その横にロックハートが怯えながら立っていた。

 

「ハリー! なんでそいつを連れて来たんだ」

 

「一番近くに居たんだ」

 

「ハリー…先程も言ったが、私はこれから用事があるから、部屋に戻らなくては…」

 

「なんだって…逃げるのかよ!」

 

「いやぁ…逃げるなんてとんでもない」

 

「そうよ! ロックハート様がそんなことする訳ないわ!」

 

「もっ…もちろん!」

 

 大きく胸を張るロックハートを見つめるハーマイオニーに対して、ロンとハリーは呆れた表情をしている。

 

「じゃあ、行きましょうか先生」

 

 ロンは折れた杖をロックハートに突き付ける。

 

「ちょっと! ロン! 何してるのよ!」

 

「コイツが逃げるかもしれないだろ! さぁ! 杖を渡せ!」

 

「逃げる訳ないじゃないか」

 

 ロックハートは乾いた笑みを浮かべるるが、ロンの視線を感じ、渋々杖を渡す。

 

「えーっと…このあたりかな?」

 

 ハリーは蛇口を覗き込んでは何やら考え事をしている。

 

 近辺に、プロテクトが掛けられた扉を検知する。

 

「退いてください」

 

「どうするの?」

 

「ハッキング開始」

 

 プロテクトに侵入し解除する。

 

 すると、大きな音を立て、水飲み場が動き、入り口が現れた。

 

 

「すごい…」

 

「さぁ行きましょう」

 

「あぁ、そうだね。じゃあ」

 

 ロンはロックハートに杖を突き付けると、入り口へと追いやる。

 

「え? ちょっと…」

 

「先に行くんだ」

 

「待って…待ってってば!」

 

 しかし、ロンは躊躇う事無くロックハートを突き飛ばす。

 

「あぁあぁぁぁあああ」

 

 かなりの深さだったのか、反響音と化したロックハートの叫び声が聞こえてきた。

 

「じゃあ…僕たちも行こうか…」

 

 

 

「えぇ、行きましょう」

 

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの順番で飛び降りた後。私は穴へと降りていく。

 

 その後に続き、私達もバーニアを展開し、緩やかに降下して行く。

 

 

 「いてて…もっと気を付けて降りればよかった…みんな平気か?」

 

「私は大丈夫よ」

 

「あぁ、なんとかな」

 

「まったく、君達は何を考えているんだ! こんな所に突き落すなん…て…」

 

 ロックハートは言葉に詰まりながら、奥の方を指差す。

 

「なんだこれ?」

 

「バジリスクの抜け殻だ」

 

「じゃあ…この先に…」

 

「生体反応を検知しました。休眠状態にあるようです」

 

「良し! 急ごう!」

 

 私達を先頭に、ハリー、ハーマイオニー、ロックハート、ロンの順番で歩みを進める。

 

 しばらく進むと、ロックハートが徐に歩みを止める。

 

「どうしたんだよ」

 

 ロックハートの背後から、ロンが杖を突き付ける。

 

「うりゃ!」

 

「うぉ!」

 

 突如として、ロックハートがロンを突き飛ばすと、杖を奪い取る。

 

「ハハハッ! これで形勢逆転ですね!」

 

 

 

 折れた杖を掲げ、大声を上げながら、こちらに杖を突き付けてくる。

 

 

 

「残念ですが、ここまでです! 貴方達には、この一件は忘れてもらいましょう!」

 

「ちょっと! それどういう事よ!」

 

「うーん、大切なファンを傷付けるのは、心が痛みますが、この際、お教えしましょう!」

 

 その後、ロックハートが自分が行ってきた詐称や他者の逸話の奪還について等を自白する。

 

「そんな…嘘よ…」

 

「残念だけど、事実だよ。でもご安心を! 私は忘却魔法は大得意なんだ!」

 

 ロックハートは勢い良く杖を掲げる。

 

「ちょっと! 何とかしてよ!」

 

「不必要でしょう」

 

「え?」

 

「それでは、いきますよ!オブリビエイトぉぉぉぉぉおおぉぉお!」

 

 ロックハートが魔法を放った瞬間、折れた杖により逆流し、その体が吹き飛ばされる。

 

 吹き飛ばされたロックハートはゆっくりと起きると、周囲を見回す。

 

「あれ? ここはどこだ? 君達の家?」

 

「そんな訳ないだろ」

 

「ハハッ、そりゃそうだ」

 

「ロン…」

 

「放っておこうぜこんな奴」

 

 ロックハートをその場に置き、歩みだそうとする。その時。

 

「大規模な地盤の揺れを検知、岩盤の崩落に注意してください」

 

 次の瞬間、大きな地鳴りと共に、地面が大きく揺れ、岩盤が崩れ落ちた。

 

「うぉおおおお!」

 

 私達以外は、その場にしゃがみ込む。

 

「「ロン!」」

 

 私達の眼前に岩盤が落ち、ロンとロックハートが取り残される。

 

「ロン! 無事かい!」

 

「なんとか、あぁ…残念なお知らせだ。ロックハートも無事だよ」

 

「よかった…」

 

 ハリーとハーマイオニーは落ち着いたのか、安堵の表情を浮かべる。

 

「これ、何とかならない?」

 

「スキャン完了。地盤が安定していない為、爆破などによる除去は不可能。手作業による除去をお勧めします」

 

 デルフィのスキャン結果を聞き、3人は分かり易く落胆する。

 

「しょうがないわね、私達は先に行きましょう」

 

「そうだね。ロン! そういう事だからロックハートの事を見ててくれ!」

 

「あぁ、分かったよ」

 

「では、先に進みましょう」

 

 私達は崩落した岩盤を背に、歩みを進めた。

 

 




次回、トムが………


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取引

今回は予想外の展開が起こります。




   しばらく歩みを進め、巨大な蛇のオブジェクトによりロックされた扉をハッキングし開放すると、開けた空間に出る。

 

「何だろう…ここは…」

 

 部屋の左右には蛇の頭部のオブジェクトが鎮座しており、最奥には少女が横たわっていた。

 

 生体反応はあるが、とても微弱だ。

 

 

「あれって!」

 

「ジニーだ!」

 

 ハリーは少女に駆け寄ると、その肩を揺らす。

 

「ジニー! 目を開けてよ!」

 

「ジニー…」

 

 ハーマイオニーも駆け寄り、悲しみに満ちた表情を浮かべる。

 

 

「残念だけど、その子は目を覚まさないよ」

 

 背後から、エネルギー反応を検知する。

 

 振り返るとそこには、少年の姿をしたエネルギー体が、柱の奥から現れた。

 

「トム…リドル…」

 

「え? 彼が?」

 

 トム・リドルと呼ばれた少年は、ワザとらしく一礼する。

 

「こうして会うのは初めましてだね。会いたかったよ。ハリー・ポッター」

 

 

「君は一体何者なんだ?」

 

「僕かい? 僕は記憶さ。この日記には50年前の記憶が残されている」

 

 トムはそう言うと、黒い表紙の日記帳を取り出す。

 

「それで、どうしてジニーが目を覚まさないんだよ! 何がどうして!」

 

 ハリーが声を荒げると、トムは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「彼女の魂は、もう殆ど残っていないんだ」

 

 

 

「どうにかならないのか? 助けてよ…このままじゃバジリスクが来る…」

 

 

 

 ハリーは必死にジニーを抱えようとしている。

 

 

「安心していいよ。バジリスクはまだ来ない」

 

「なんでそんな事が言い切れるのよ」

 

「なぜって、それは、僕がスリザリンの後継者だからさ」

 

 突然の告白に、ハリーとハーマイオニーは目を白黒させていた。

 

 

「どうして…スリザリンの後継者はハグリッドだって…君がそう言ったじゃないか!」

 

 

「フッ…ハグリッド…あんなウスノロがスリザリンの後継者になれる訳ないだろ」

 

「まぁ…言われてみればそうよね」

 

「ハーマイオニー…」

 

「さて…折角だから、総て話そう」

 

 トム・リドルは自身が行ってきた事柄について、話し始める。

 

「そんな…まさかジニーが後継者だったなんて」

 

「日記を手にした時点で、彼女の運命は決まっていたのさ」

 

 黒い表紙の日記帳を手に収めたトム・リドルは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

「そして…ハリー…君に一つ聞きたい…なぜこれといって特別な魔力も持たない赤ん坊が、神に選ばれし偉大な魔法使いをどうやって破った? ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君は、たった1つの傷痕だけで逃れたのか?」

 

「僕がどうやって生き残ったか、知ってどうするんだ?君には関係ないだろ!」

 

 

 

「無関係な訳無いじゃないかぁ! ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだ! ハリー・ポッター」

 

 

 

 トムが杖を振るうと、空中に『TOM MARVOLO RIDDLE』の文字が浮かんだ。

 

 

 

 その後、杖を一振りすると、文字が動き出し、並びが変わる。

 

 

 

「あッ! 分かったわ! 簡単なアナグラムよ! 並べ替えると I AM LORD VOLDEMORTになるわ! って事は…まさか…貴方が闇の…帝王…」

 

「穢れた血は黙って居ろ!」

 

 ハーマイオニーによって話の腰を折られた事に腹を立てたのか、激怒したトム・リドルは蛇のような鳴き声を上げる。

 

 その直後、大きな地鳴りと共に、奥から黒い色の蛇が現れた。

 

 

 

 そして、部屋の反対側からは、1羽の派手な鳥が現れた。

 

 

 

「あれは…ダンブルドアの不死鳥か」

 

 

 

 現れた不死鳥はハリーに薄汚い帽子を渡すと、上空を大きく旋回している。

 

「フッ、不死鳥と組み分け帽子が応援とは、ダンブルドアも立派な援軍を送って来たな!」

 

 トム・リドルは小馬鹿にするように、嘲笑っている。

 

「さぁ? それでは本題に戻ろう。ハリー…君はどうやって生き残った?」

 

 

 

 ハリーはトムを睨み返すと、力強く答えた。

 

 

 

「お前が僕を襲ったとき、どうして力を失ったのか、誰にも分からない。僕自身にもわからないんだ。でも、なぜお前が僕を殺せなかったのか、僕にはわかる。母さんが、僕を庇って死んだからだ!」

 

 

 

 それを聞いたトムは、その表情を歪めながら、笑う。

 

 

 

「そうかぁ…母親が君を救うために死んだ。なるほど、それは呪いに対する強力な反対呪文だ。結局の所、君自身には特別なものは何もないわけだ。僕と違ってね」

 

 

 

 再び、トムが不気味な笑みを浮かべる。

 

 

 

「さて…そろそろ遊ぼうじゃないか! ハリーポッター! そして、巻き込まれてしまった哀れな小娘達!」

 

 

 

 トムはその場でお辞儀をすると、その場を離れ、スリザリンの石造の前でパーセルタングで何か囁いている。

 

 

 

 その声を聴いて、ハリーはとても怯えている様だった。奴が何を言っているのか理解したのだろう。

 

 

 

 次の瞬間、石造の口が開かれ、その奥から黒々とした、巨大な蛇が姿を現した。

 

 

 バジリスクは現れると同時に、こちらにエネルギー照射を開始する。

 

「目を見ちゃダメだ!」

 

「シールド展開」

 

 

 私はハリー達の前に立つと、シールドを発生させエネルギーを無効化する。

 

 これにより、背後に居るハリー達に影響は及ばないだろう。

 

 デルフィは、ウアスロッドを構える。

 

「駆除行動に移行します。所要予定時間10秒」

 

「了解、カウントを開始します」

 

 カウント開始と同時に、デルフィが飛び上がり、バジリスクに襲い掛かる。

 

「10秒だと! 笑わせるな! 行け! バジリスク!」

 

 大口を開けたバジリスクがデルフィを飲み込もうと突進する。

 

「攻撃開始」

 

 デルフィは大口を開けたバジリスクの口の中に自らの腕を突っ込む。

 

「ハッ! 他愛も無い! そのまま腕を噛みちぎれ!」

 

 しかし、バジリスクの動きが急激に鈍くなる。

 

「ウアスロッド可変機構展開。開口処置を開始」

 

 次の瞬間、バジリスクの口がデルフィの手にしているウアスロッドによって強制的に開かれる。

 

「すごい…」

 

「戦闘開始から5秒経過」

 

「了解。ベクタートラップ起動」

 

 デルフィがバジリスクの体内でベクタートラップを起動する。

 

「解放」

 

 そして、次の瞬間、空間圧縮の反動によりバジリスクの体が内部から爆破する。

 

 ゼロシフトと同じ要領でバジリスクの体内の空間を圧縮し、その反動を利用し爆破させたのだろう。

 

「戦闘終了。所要時間は6秒でした。想定より早いです。お見事です」

 

 周囲に飛び交う肉片をシールドで防ぎながら、私はデルフィに戦況報告をする。

 

「そんな…バジリスクがこうも…簡単に…」

 

 焦燥しきった表情のトム・リドルが黒い表紙の日記帳を抱えると、宙に浮きあがった

 

 

「こ…このままでは分が悪い…残念だが、今回は、これで失礼させて貰おうか」

 

 

 

「待て! 逃げるのか!」

 

 

 ハリーが叫び、杖を振り魔法を放つ。

 

 放たれた魔法はトムに直撃するが、まったく効果が無い様に見える。

 

 

「フッ、無駄だ!」

 

 高揚しているのかトム・リドルが声を荒げる。

 

「逃げちゃうわよ!」

 

「逃しません。ウィスプ展開」

 

 私はサブウェポンのウィスプを起動させると、移動中のトム・リドルに向けて放つ。

 

 しかし、ウィスプはエネルギー体であるトム・リドルを捕えるのではなく、手にしていた黒い表紙の日記帳を捕えた。

 

「なに!」

 

  焦りの表情を浮かべるトム・リドルに対し、私は手中に収めた黒い表紙の日記帳をスキャンする。

 

 どうやら、この日記帳がトム・リドルへのエネルギー供給源の様だ。

 

「スキャン完了。エネルギー遮断開始」

 

 エネルギーの供給を断つと、トム・リドルの体が地面へと堕ちる。

 

「なぜ…君達は…一体…」

 

「貴様!」

 

 ハリーはトム・リドルに掴み掛ると、数発殴る。

 

 しかし、エネルギー体である彼にそれは全くの無意味だった。

 

「それ以上は意味が有りません」

 

「でも…」

 

「それよりも、救援を要請する方が先決かと。対象は我々で監視します」

 

「わかったよ…僕はちょっとロンの事も気になるし、ちょっと様子を見て来るよ」

 

「了解」

 

 ハリーはそう言うと、来た道を戻って行く。

 

「ジニー…大丈夫かしら…」

 

 ハーマイオニーはジニーに寄り添うと、心配そうに覗き込む。

 

「もう手遅れさ。僕が居る限り彼女は助からない」

 

「なんで…」

 

「ふっ…君達みたいに今を生きている奴等に分からないだろうけどな。僕はこの50年間ずっと薄汚れた本棚に閉じ込められていたんだ! まぁ…自業自得と言われれば仕方ないかもしれないが…」

 

「なんか…可哀想ね…」

 

「まさか、穢れた血に哀れまれるとはね。僕も落ちるところまで落ちたな」

 

 トム・リドルは何かを悟った様に笑って居る。

 

「で? 僕をどうする? 本を手にしている君ならもう分っていると思うが、その本が僕の本体だ。生かすも殺すも君達次第さ。君達なら簡単に破壊できるはずさ。まぁその場合。彼女も道連れにしてやるよ」

 

「そんな…ねぇ…何とかならないの?」

 

「そうだな…なら、取引をしないか?」

 

「取引ですか?」

 

「そうだ。僕は日記帳を手にした奴の事が分かるんだが、君は凄い力を持っている。それ程の力があれば、僕を復活させられるんじゃないか?」

 

「そうなの?」

 

 ハーマイオニーとトム・リドルの視線が、私達に集中する。

 

「新たな肉体を生成する事は現在の設備では不可能です」

 

「じゃあ、交渉決裂さ」

 

「結論を出すのはまだ早いかと」

 

「それってどういう事?」

 

「詳しく説明します。ですが、その前に」

 

 デルフィがゆっくりと上を指差すと、二人が顔を上げる。

 

「なるほど、ダンブルドアか」

 

「えぇ、ですから」

 

 私は日記帳を開くと、ペンを取り出す。

 

『筆談に切り替えます。よろしいですか?』

 

『あぁ、問題ない』

 

 ハーマイオニーはゆっくりと頷く。

 

『説明を開始します。本に残されている貴方の記憶データをスクリーニングし、純粋な記憶データのみを別の端末へと移植します』

 

『なるほど…で? 僕の新しい住処は?』

 

『ハーマイオニー、タブレット端末を』

 

「え?」

 

 ハーマイオニーはポーチからタブレットを取りだす。

 

『こちらに移植します』

 

『変な石板だな…まぁ…古本よりはましか…』

 

『交渉成立ですか?』

 

『分かったよ。彼女の魂は返そう』

 

『了解』

 

 次の瞬間、ジニーの生体反応が回復する。

 

 やはり、魔法とは不思議な物だ。

 

 私は本を閉じると、タブレット端末を一度ベクタートラップ内へと収納する。

 

 ベクタートラップ内で、タブレット端末に小型のメタトロン製アンチプロトンリアクターを組み込むなどの改造を加える。

 

「エイダ…」

 

「準備完了」

 

 

 端末を手にした私は、本からデータを抜き取ると、タブレットへと移植を開始する。

 

 淡い光が周囲を包むと、本にあるデータは特殊な物を1つ残し移植する。

 

 それと同時に、トム・リドルのエネルギー体も消滅する。

 

「トランスプランテーション完了」

 

 タブレット端末に電源を入れると、文字が浮かび上がる。

 

『なんだこれは…凄いじゃないか。この情報量、この快適さ。古本なんかとは比べ物にならない』

 

 タブレット端末に通信を繋ぐ。

 

『お気に召しましたか?』

 

『まさか、通話もできるとは、なるほど…これが…』

 

「ねぇ、何がどうなってるの?」

 

「こちらを着用ください」

 

 私はハーマイオニーに、イヤホン型の通信機を手渡す。

 

「耳に付けるの?」

 

「そうです」

 

 慣れない手つきで、耳に何とか装着する。

 

『現状、貴方はその端末の管理AIとして存在します。いくつかの制限を設けましたが不自由なく行動できる筈です。ホログラムとして、先程同様体を投影する事が可能です』

 

 次の瞬間、ホログラム化したトム・リドルの体が現れる。

 

『まぁいいさ。満足しているよ。ところで、完全に移せた訳じゃ無いみたいだね』

 

『えぇ、一部特殊なデータの為、移植すると崩壊する恐れがありました』

 

『なるほど…やはり魂までは移せなかったか…』

 

『ちょっと待って!』

 

 ハーマイオニーが特殊なデータが残った本に文字を書き込む。

 

『私のタブレットに居るって事?』

 

『その通りです』

 

『何か、複雑な気分』

 

『まさか、穢れた血の所有物になるなんて…屈辱だ』

 

『ねぇ、これって削除できる?』

 

『可能です』

 

『え? ちょっと――』

 

『そう、なら私に逆らわないようにね』

 

『なんてこった…これなら古本の方がマシだったかもな』

 

『まぁいいわ。これからよろしくね。トム』

 

『もうトム・リドルじゃないんだけど』

 

『なら、ただのトムで良いじゃない。二人もそう思うでしょ?』

 

『よろしいかと』

 

『賛成です』

 

『ね』

 

『はぁ…了解さ』

 

『それでは、トム。貴方の体を拘束します』

 

『なんでさ?』

 

 ハーマイオニーも首をかしげて、不思議そうな表情をしている。

 

『恐らく、ダンブルドアは不死鳥を利用し、こちらを監視している筈です。このまま貴方を拘束せずに逃走させれば、疑惑の目を向けて来る筈です』

 

『まぁ、アイツの事だから、疑うだろうね』

 

『そこで、貴方を拘束しダンブルドアの前へ連れて行きます。その後、エネルギー供給源であった本を消去します』

 

『それに乗じて、僕には消える演技をしろと?』

 

『その通りです』

 

『なんてこった…それじゃあ、僕の魂は完全に消滅するじゃないか』

 

『現状、貴方はタブレット上に存在します。魂の有無は分かりませんが、それでは不服ですか?』

 

『まぁ…快適だし別に問題無いさ。で? どんな演技をすればいいんだ?』

 

『お任せします。何らかの行動を起した後、本を消却します』

 

『分かったよ』

 

『なんでそんな事しなきゃダメなの?』

 

『恐らく、そこまでしないと、あの男は納得しないさ』

 

『そんなぁ…何か、私悪い事をしている様な気が…』

 

『実際悪い事さ。でも仕方ない、この場に居る全員が共犯さ』

 

 トムは諦めたのか、ホログラム上にて、後ろ手で拘束される。

 

「では行きましょう」

 

「はぁ…そうね」

 

 デルフィが拘束したトムを誘導し、私がジニーを抱きかかえると、その場を後にする。




トムはAIとしてハーマイオニーに今後こき使われる予定です。

少し無理やり感がありますが、人格をコピーしたAIが存在するので、AIトムの誕生です。

そして、次回ハーマイオニーが――


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ホグワーツ特別功労賞

これにて秘密の部屋編終了です


   しばらく歩くと、ロンとハリーが瓦礫の撤去を終えており、疲労状態で近場の岩に腰かけていた。

 

「ジニー!」

 

 

 ロンは私の抱きかかえているジニーの姿を見て安堵の表情を浮かべる。

 

「衰弱状態ではありますが、命に別状は有りません」

 

「良かったぁ。君達のおかげだよ! ところでコイツ誰?」

 

「トム・リドルさ。コイツのせいでジニーが…」

 

 ハリーが苛立ちの混ざった口調で答えると、トムはワザとらしく一礼する。

 

「コイツ!」

 

「待って!」

 

 ロンが殴り掛かろうとするのを、ハーマイオニーが制止する。

 

「なんだよ! 邪魔するなよ!」

 

「今はこんな事している場合じゃ無いわ。急いで戻りましょう! 後の事はダンブルドア先生に任せましょう!」

 

「まぁ…確かにそうだな。で? どうやって戻る?」

 

 その時、背後で不死鳥が声を上げる。

 

 

「スラスター起動」

 

 私達はスラスターを起動し、その場に浮遊する。

 

「君達だけで帰るのかよ」

 

「いいえ、彼方達全員を上まで運びます。指示に従ってください」

 

「はいはい、分かったよ」

 

「では、ハーマイオニー、私の背へ」

 

「え?」

 

 私は両手でジニーを抱え、ハーマイオニーを背負う。

 

 そして、ウィスプでロックハートを拘束すると、背後で浮遊させる。

 

「ねぇ、重くない?」

 

「問題ありません」

 

「では次は貴方達です。動かないでください」

 

「何するんだよ」

 

 デルフィがホログラムのトムを担ぐと、ハリーとロンの背後に回り込むと、服の襟首を掴み、持ち上げる。

 

「痛いって! もうちょっと丁寧にやれよ!」

 

「暴れないでください」

 

「はぁ…なんかすごい落差を感じるよ…」

 

「準備完了。帰還します」

 

  私達は低速で浮遊し、3秒程で地上へと戻ると、全員を床に降ろす

 

「あっという間だったわね」

 

「怖かった…もうヤダ…」

 

「はぁ…とりあえず、全員医務室へ行こう。ジニーの事もあるからね」

 

「了解」

 

「凄いぞ! まるで魔法みたいだ!」

 

「五月蠅いわね。少し黙っててなさい」

 

 ハーマイオニーは若干イラつきながら、杖を振るうと、ロックハートが気を失い倒れ込む。

 

「いいのかい?」

 

「別に、もうどうでも良いわよ」

 

 ロックハートを置き去りにハーマイオニーは医務室へと歩みを進め、その後をハリー達が追いかけていく。

 

 そんな彼等の後を追う様に、私達も移動を開始する。

 

 

  ハリー達と医務室を訪れると、室内には既にダンブルドアが待機していた。

 

「皆無事なようじゃな」

 

「先生!」

 

 ダンブルドアを見た途端、ハリーの表情が明るくなる。

 

「皆ご苦労じゃった。休むが良いと言いたいところじゃが、重症者以外は校長室へ来てはくれぬか? 少し、話を聞きたいのでな」

 

 ダンブルドアはトムに目線を送りながら、ワザとらしくゆっくりとした口調で話す。

 

「分かりました」

 

 重症のジニーと付き添いのロンを医務室に残し、私達は校長室へと向かった。

 

 途中、スネイプが気を失ったロックハートを回収しているのを目にした。

 

 

 

  重々しい校長室の扉を開くと、椅子に腰かけたダンブルドアが出迎える。

 

「呼び出して悪いのぉ」

 

「僕達は大丈夫です」

 

「さて、お主達が今回の事件を解決した様じゃな。お手柄じゃよ」

 

「ありがとうございます」

 

 ハリーはその場で頭を下げ、ハーマイオニーは軽く頭を下げる。

 

「さて、お主が今回の犯人とは思いもしなかったぞ、会いたかったぞトムよ」

 

「久しぶりですね。生憎と僕は会いたくはなかったですね。ダンブルドア校長」

 

 睨み付けるダンブルドアに対して、後ろ手に縛られたトムは不敵な笑みを浮かべる。

 

「積もる話もあるが、生憎と時間が無くてのぉ。では、説明して貰おうかの」

 

「説明? 一体何の?」

 

「とぼけるでない。今回の事件、主犯はお主だろう。そして50年前のスリザリンの継承者もお主じゃろ?」

 

「今回の事件については、そうかもしれないが、少なくとも、50年前の事件の犯人は既に捕まったんじゃなかったかな?」

 

「ハグリッドの事か! お前がハグリッドを陥れたんだろう! それに自分で言っていたじゃないか!」

 

「よすのじゃ、ハリー」

 

 背後でハリーが怒声を上げるが、ダンブルドアはそれを制する。

 

「確かにハグリッドが事件の容疑者となった。しかし、ハリーの話しではお主が50年前スリザリンの後継者となったと自白しているのじゃろ?」

 

「彼の言う通り、僕は自白したよ。50年前の事件についてね。でもそれがどうしたと言うんだ?」

 

「なんじゃと?」

 

「既に容疑者は捕まり、罰を受けている筈だ。それに僕は犯人を捕まえた事でホグワーツ特別功労賞を貰っている筈だ」

 

「そうじゃ…」

 

「つまりは、ホグワーツは誤認逮捕をした上、犯人に特別功労賞を授与したという事になる。これがどういう事か聡明な貴方なら分かるはずだ。ねぇダンブルドア校長」

 

「むぅ…」

 

「え? 先生! どういう事です!」

 

「簡単な話さ。もしこの事が公になれば魔法省は黙っていない。しかも、特別功労賞を受け取った相手が後の闇の帝王だ。これは大スキャンダルさ」

 

「もう良い。黙るのじゃ。トムよ」

 

「まぁいい。さて、僕は何時までここにいればいい? そろそろ帰りたいんだが」

 

 トムはワザとらしく、縛られた手を頭上へと上げる。

 

「そうはいかん。お主には他にも聞きたいことが山の様にある」

 

「残念だけど、僕はこれ以上話すつもりなんて無いね」

 

 縄で縛られたトムはそう言うと、その場で反転し、逃走を図る。

 

『じゃあ頼んだよ』

 

『了解』

 

 打合せ通りに本を手に取りエネルギーを過剰供給すると、燃え上がる。

 

「グエーッ」

 

 トムの体に炎のエフェクトが発生し、ワザとらしい断末魔を上げると、ホログラムが消える。

 

「何じゃと!」

 

 ダンブルドアとハリーは唖然としている。

 

 そして、私が手にしていた本は、灰となった。

 

『ふぅ…こんな感じでよかったかな? まぁ、演技には自信があったんだ?』

 

『総合評価E』

 

『やる気が無いのですか?』

 

『それとも、絶望的にセンスが無いのですか?』

 

「フッ!」

 

 私達の評価を聞き、ハーマイオニーが突如として噴き出す。

 

「ハーマイオニー、どうかした?」

 

「なんでも無いの。うん。なんでもないのよ」

 

『グエーッ』

 

「ブフッ!」

 

 トムが再びやる気のない断末魔を上げると、ハーマイオニーが再び噴き出す。

 

「ハーマイオニー! どうかしたの?」

 

「大丈夫よ…大丈夫」

 

『通信を一時的に停止します』

 

「ふぅ…」

 

「大丈夫?」

 

「えぇ、もう大丈夫よ」

 

 数回深呼吸をし、ハーマイオニーは落ち着きを取り戻したようだ。

 

「何という事を…するんじゃ…」

 

 対するダンブルドアは私達を睨み付ける。

 

「どうかされましたか?」

 

「なぜ、その本を燃やしたのじゃ…」

 

「対象の逃走を防ぐためです」

 

「それはどういう意味じゃ?」

 

「対象は先程の本からエネルギーを供給されていました。供給元を断つことで、逃走を防ぎました」

 

「その為だけに本を燃やしたと言うのか…その結果本は燃え尽き、トムが…貴重な情報源が消え去ったぞ!」

 

「逃走されていた場合、不特定多数の被害者が出る事が予想されます。これ以上後手に回る事を阻止する為にも必要な措置かと」

 

「なんと…愚かな事を…」

 

 ダンブルドアは首を数回振り、小声で呟く。

 

「先生…あの、質問があるのですが…」

 

「ん? どうしたのじゃ? ハリーよ」

 

 浮かない表情のハリーは重い口を開く。

 

 

「先生…僕がグリフィンドールに入ったのは、正しい選択だったのでしょうか…」

 

 ダンブルドアは少し目を細めた後、ゆっくりと語りだした。

 

「君がなぜそのような事を聞くのか、大方想像は付く…じゃがの、組み分け帽子は君をスリザリンではなく、グリフィンドールに選んだ。それに間違いはない」

 

「でも…帽子だって間違える事はあるんじゃないですか?」

 

「そうかもしれぬ。じゃが君がグリフィンドールに入ったのは間違いない事じゃ。君はワシが送った帽子から剣を手にしている筈じゃ」

 

「剣?」

 

「そうじゃ。君はその剣を使い、バシリスクに打ち勝ったはずじゃ」

 

「えっと…何の話ですか?」

 

「バシリスクはお主が倒したのではないのか?」

 

「いえ…先生…ハリーはバジリスクを倒してはいません」 

 

「なんじゃと…………フォークス!」

 

 ダンブルドアの声に従い、地下に置いて来た不死鳥が現れ、その腕に止まると、目線を合わせる。

 

「何てことじゃ…」

 

 しばらくすると、ダンブルドアは顔を歪める。

 

「とりあえず…状況は分かった…じゃがなハリー」

 

「はい…」

 

「君がグリフィンドールに入った事は決して間違いではない。それだけはこのワシが保証しよう」

 

「そう…ですか」

 

「さようじゃ、もう下がるが良い」

 

「失礼いたしました」

 

 ハリーは何処か納得いかないと言った表情のまま、俯くと校長室を後にした。

 

 その後を追う様に私達も校長室を後にする。

 

  その時、黒いローブを身に纏った一人の男性とすれ違う。

 

『あれは、ルシウス・マルフォイだね』

 

 通信を勝手にONにしたトムか呟く。

 

「マルフォイって事はアイツの父親ね」

 

 ハーマイオニーは小声で呟く。

 

『そうさ、そして、僕の元所有者さ』

 

「え? そうだったの?」

 

『正確には、マルフォイ家に管理されていたってところかな。今の僕、ヴォルデモートが保管するように頼んだんだよ。まぁ、それがどういう訳か、ジニーだっけ? 彼女の持ち物にこっそり入れていたんだ』

 

「そうだったのね」

 

 ハーマイオニーはタブレットを覗き込むと数回頷いている。

 

「では、談話室へと戻りましょう」

 

「そうね」

 

 私達は、人気の無い廊下を進む。

 

「ねぇ」

 

「どうかしましたか?」

 

 ハーマイオニーは立ちどまると、不満の声を上げる。

 

「思ったんだけど、どうして貴女達だけタブレットに居るトムと直接話が出来るの? 私が話す場合は声を出さなきゃいけないのに」

 

「耳小骨を振動させ、音声データを取得しています」

 

「……わけわからないわ…ねぇ、それって私も出来る?」

 

「ナノマシンを投与するば可能です」

 

「ナノ…マシン?」

 

「体内にナノマシンを投与する事により、思った言葉を音声データの波形に変化させ、通話が可能です」

 

 デルフィの説明を聞くも、ハーマイオニーは首を傾げる。

 

「えーっと…つまり?」

 

「口に出さずとも、会話が可能になります」

 

「本当に?」

 

「えぇ、通話内容は、盗聴される心配は有りません」

 

「凄いじゃない! ねぇ、その、ナノマシンっての、貰えないかしら?」

 

「では、腕を出してください」

 

「腕?」

 

 ハーマイオニーが腕を出すと、デルフィが人差し指でそっと静脈に振れる。

 

「少し、痛みますよ」

 

「え? ちょっと何する――イタッ」

 

 デルフィの人差し指の先端には、微量だがハーマイオニーの血液が付着していた。

 

「分析開始」

 

「ねぇ、何しているの?」

 

「アレルギーテストです。ナノマシンに対する拒否反応は見受けられませんでした」

 

「えっと…つまり、大丈夫って事?」

 

「その通りです」

 

 検査結果を確認した私は、ベクタートラップから、ナノマシンが入ったペン型の注射器を取り出す。

 

「どうぞ、首筋の静脈に注射してください」

 

「注射って、これを?」

 

 注射器を目の当たりにし、ハーマイオニーのメンタルコンデションレベルが分かり易く低下する。

 

「痛みの少ない注射を使用しています。注射はお嫌いですか?」

 

「まぁ…好きな人なんていないわよね。うちに来る患者さんとか見てるけど…注射痛そうだったわ。歯茎に直接だし」

 

 何処か懐かしむ表情でハーマイオニーは注射器を手に取る。

 

「ふぅ…大丈夫なのよね」

 

「はい。押し付ければ後は自動的に注入されます」

 

 数回深呼吸し、覚悟を決めたのか、ハーマイオニーは勢い良く、首筋に注射器を押し付ける。

 

「イっ」

 

 若干の声を上げたが、無事にナノマシンの投与を追える。

 

「ふぅ…思ったより痛く無かったわ」

 

「ご苦労様です」

 

 使用済みの注射器を受け取ると、そのままベクタートラップ内で圧縮処理を施す。

 

「ねぇ、効果ってどれくらいで出るの?」

 

「個人差はありますが、1~2日かと」

 

「そう。これで口を開かないでお話が出来るのね」

 

「えぇ、それ以外にも、血中のブドウ糖のコントロールなど、生活面のサポートも行われます」

 

「えっと…それってつまり」

 

「ナノマシンを投与する事により、勉学により一層取り組みやすい体調になります。その他健康状態もモニターできますので、病気の予防などが可能です」

 

「やったわ!」

 

 メンタルコンデションレベルが回復したハーマイオニーはぎこちないスキップで談話室へと進んで行った。

 

 

  数日後、学年末パーティーが行われ、各寮の得点が発表された。

 

 去年同様ダンブルドアにより、滑り込みという事で、ロンとハーマイオニーとハリーには50点ずつ。私達には100点ずつの加点措置が行われた。

 

 その圧倒的な点差により、他の寮は呆れながら、ブーイングを行っていた。

 

 ここまで、露骨な点操作では不満が出るのも無理も無いだろう。

 

 今回の事件により、学期末テストは中止となった。

 

 大半の生徒が大喜びしている中、ハーマイオニーは絶望した表情をしていた。

 

 そして、後日。私達全員にホグワーツ特別功労賞が授与された。

 

 そのトロフィーは皮肉にもトムの隣に置かれる事になった。

 

 トムのトロフィーが置かれているという事は、ダンブルドアはトムが50年前の犯人であることを公にはしないつもりだろう。

 

 記憶を失ったロックハートだが、過去に行った偽証が公になった。

 

 しかし、記憶を失い廃人のようになった当人に責任能力が無いと判断さて、措置入院が行われた。

 

「まぁ、自業自得よね。私達の事を馬鹿にして…」

 

 駅のホームで怒りの籠った声で新聞を読んでいたハーマイオニーは呟き、ゆっくりと新聞を引き裂いていた。

 ナノマシンのによる、感情の制御が効いていないのだろうか?

 

「さて、行きましょうか」

 

 切り裂いた新聞を丸めてダストボックスへと投げ込むと、少し落ち着きを取り戻したハーマイオニーは電車へと乗り込み、その後をロンとハリーが互いに顔を見合わせながら付いて行った。

 

 どうやら、ナノマシンの制御は効いている様だ。

 

 こうして、今年も無事に終わりを告げた。

 

 

 

  生徒達が帰り、静かさを取り戻した校内だが、未だ無人と言う訳ではない。

 全ての生徒がホグワーツ特急に乗り込んだのを見送った後、ワシは秘かな楽しみと化した、冷やりとする校内の徘徊に勤しんでいる。

 

 今年は、ワシ以外にも多くの業者の魔法使いが出入りしている。

 

 先日の事だが、緊急措置とはいえ、イーグリット姉妹がホグワーツの城壁を破壊してしまった為、その補修作業の真っ最中だ。

 

 修繕作業で発生した費用だが、どうやら、当人達が負担するという事なので、先程請求書を送った。

 

 かなりの額になった為、支払いが無理そうならばホグワーツ側から魔法省へ援助の要請を出すとしよう。

 

「ふぅ…」

 

 一通り散策を終えた後、ワシは一人自室にて一息入れる。

 

 そして、また今年起こった事柄に関して考えを巡らせる。

 

 ホグワーツの城壁は強固な素材で作られており、その上、強固な守りが施されていた筈なのだが…

 

 彼女達はまるで薄氷を割るかの如く、簡単にやり遂げてしまった。

 

 その上、あの不自然な形に空いた大穴に違和感を覚えた。

 

 セブルスに頼み、調査を進めさせた結果、外壁を破壊した際、近くにいたハーマイオニーに被害が及ばないように配慮して破壊されていた様だ。

 

 外壁を破壊するだけでも、並の魔法使い…いや、普通の杖では手練れの魔法使いでも難しいだろう。

 

 それを簡単に行った上に、外壁の向こう側の被害状況まで計算に入れて破壊したという事になる。

 

 その上、彼女達はスリザリンの残した恐怖。バシリスクを簡単に打倒した。

 

 フォークス越しに見たが、あの光景は凄まじい物だった。

 

 デルフィが自らの腕をバシリスクに噛ませたかと思うと、次の瞬間にはバシリスクが爆発四散していた。

 

 あの時の、トムの表情は良い物だった。

 

 

 そして、逃走を図ったトムじゃったがエイダによって捕縛され、久方振りにワシの前に姿を現した。

 

 

 しかし、往生際の悪いトムはワシの目の前で逃亡を図った。

 

 だが、そんな時、エイダが手にした黒い本を燃やし始めた。

 

 黒い本が燃えると同時にトムの体も燃え、跡形もなく姿を消した。

 

 後に残った灰を調べたが、強力な魔力の残渣を感じ取った。

 

 更に詳しい分析が必要だが、ワシは分霊箱だと見ている。

 

 もし仮に、分霊箱だったとすれば、厄介なことになる…

 

 それは、彼女は分霊箱を破壊するだけの力を持っているという事にも繋がる。

 

 分霊箱の破壊方法は未だ判明していないが、彼女はそれを簡単にやってのけたのだ。

 

「あぁ…あ…」

 

 最早、嘆きにも似た吐息が漏れる。

 

 そして、ふとワシの中である考えが浮かぶ。

 もし、強大な力を持つ彼女達が仮に、道を踏み外し闇に魅入られたと考えると、騎士団メンバー全員を再結成させても対抗できるかどうかわからない。

 

「はぁ…」

 

 不安を押し殺す様に溜息を吐き、心落ち着かせた後、ワシは目を閉じ、深い思考の海へと身を投じた。

 




ハーマイオニー強化回でした。

次回はアズカバン編でお会いしましょう。


トムのワザとらしい断末魔は縛られて火で焼かれる事に定評のあるお獅子をイメージしました。


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アズカバン
襲来


アズカバン編開始です。


   ホグワーツからの帰還から数日後、私達の元にダンブルドア名義の請求書と教材リスト、そして封書が届いた。

 

 請求書に目を通すと、法外な値段が記載されていた。

 

「請求額が間違っているのでは?」

 

「外壁の破損程度ならば、請求額の三分の一で可能だと思われますが」

 

 請求書と同封されていた明細書に目を通す。

 

 明細書には、請求額の半数以上が人件費と魔法加工費用となっていた。

 

 どうやら魔法と言うのは万能ではなく、むしろ人の手が掛かる為、金銭的にはかさむ様だ。

 

「理解しました」

 

「後日、支払いを行いましょう」

 

「不本意ですが」

 

 請求書を仕舞い込んだ私は、別の封書を切り中身を確認する。

 

『ホグズミード村へ行く為には、保護者のサインが必要です。同封した書類にサインし、提出してください』

 

「保護者のサインですか」

 

「保護者が存在しない、我々には不必要な物ですね」

 

「その通りです」

 

 許可書発行用の書類を片付け、後日、買い物へと向かう準備を開始する。

 

 それにしても、予想以上の請求額による出費によって、金銭的にかなり厳しくなってしまった。

 

 何とか、金策を考えなければ。

 

 

 

  数日後、いつもの様に魔法界と移動し、グリンゴッツにて、ダイヤモンドの換金作業を行う。

 

「こちらが今回の換金額です」

 

 小鬼が渡して来た、明細書に目を通す。

 すると、以前までにはない手数料と言う新たな項目による差引額が発生していた。

 

 

「手数料の項目には、誤りがあるのでは?」

 

「いいえ、間違いなど有りませんよ」

 

「ですが――」

 

「大体ですね、毎回毎回、未成年者である貴女達があれ程の質のダイヤモンドを持ち込み、換金しているのがおかしな話なんですがねぇ。私が担当して居なければ、換金すらできないでしょうね」

 

 受付の小鬼は、ふてぶてしく笑う。

 

「つまり、この手数料という項目は彼方が着服していると言う事ですか?」

 

「想像にお任せしますよ。で? 換金でよろしいですね」

 

「えぇ」

 

 その後、手数料として、かなりの金額が差し引かれたが、今回の教科書代と、ダンブルドアからの請求額の補填は行う事が出来た。

 

 しかし、これでは今後の設備維持費や必要経費を削減しなければならない。

 

 

  グリンゴッツを後にした後、『怪物的な怪物の本』と言う物を購入した。

 

 どうやら、使用者に襲い掛かると言う物だが、ベクタートラップ内に収納した後は、大人しくなった。

 

「号外だよー」

 

 帰還しようとした矢先、日刊予言者新聞の社員が号外を配っている。

 

 号外には、檻に手を掛けた男性が叫び声を上げている写真が掲載されており、『シリウス・ブラック、アズカバンを脱獄』の見出しが掛かれている。

 

「データベース上では、アズカバンは、脱獄不可能。難攻不落の刑務所の筈でしたが」

 

「情報修正をする必要があるようです」

 

 どうやら、この『シリウス・ブラック』と言う人物が脱獄した事により、魔法界は大混乱している様だ。

 

 学生生活を送る私達には、関係の無い話だろう。

 

「帰還しましょう」

 

「えぇ」

 

 周囲に人影が無いのを確認し、私達は飛び上がり、帰還を果たす。

 

 

 

  数日が経ち、新学期当日。

 

 必要な荷物を全て、ベクタートラップに収納する。

 

「準備はできましたか?」

 

「問題ありません」

 

 去年より、若干胸部装甲を厚くしたデルフィが答える。

 

「では行きましょう」

 

「えぇ」

 

 家を出ると、飛翔し、キングス・クロス駅へと向かう。

 

 

 到着後、人目に付かないように着地し時間を確認すると、発車10分前であった。

 

「去年より早いですね」

 

「去年は侵入できませんでしたから」

 

 いつもの様に、人が行きかっている中、私達は9と4分の3番線に向かう。

 

 柱をスキャンすると、今年はプロテクトは施されていない。

 

 その為、いとも簡単に侵入で来た。

 

 去年は一体誰が何の目的であのような事をしたのか、見当がつかない。

 

 目の前に広がる1年ぶりの光景を見ながら、ホグワーツ特急へと乗り込む。

 

 少し早く来た事もあってか、殆どのコンパートメントは無人だった。

 

 その為、入り口付近のコンパートメントに入室する。

 

 数分が過ぎると、コンパートメントの扉が叩かれ、一人の男性が顔を見せる。

 

「すまないが、ここいいかな?」

 

「構いませんよ」

 

「そりゃどうも」

 

 少し古ぼけた服を着ている男性は、対面の窓際に座ると、すぐに目を閉じ、眠りについた。

 

 しかし、この男性からは一般的な魔法使いとは多少異なるエネルギーを検知する。

 

『ねぇ、二人とも、今どこにいる?』

 

 ハーマイオニーから通信が入る。

 

『入り口付近のコンパートメントです』

 

『そうなの。すぐ向かうわ』

 

 通信終了後、再びコンパートメントの扉が叩かれ、扉の奥からはハリーとロン、そして猫が入った籠を持ったハーマイオニーが注意深く入って来た。

 

「よく2人が居る場所が分かったな」

 

「勘よ、勘」

 

 コンパートメントに入るなり、声を上げるロンをハーマイオニーが軽く諭すと、3人は空いている席へと腰かける。

 

「ねぇ、この人誰?」

 

「ルーピン先生ね」

 

「ルーピン先生? なんでわかるのさ?」

 

「鞄に書いてあるわ」

 

 ハーマイオニーは荷物棚に収められている鞄を指差すと、そこには『R・Jルーピン教授』のタグが付いていた。

 

『そんな細かい所まで見ているのか君は』

 

『たまたま目に入っただけよ』

 

 口を動かすことなく、ハーマイオニーとトムは通話を行っている。

 

 どうやら、体内通信をマスターしたようだ。

 

『お久しぶりですね。トム』

 

『あぁ、久しぶり』

 

『その体にはもう慣れましたか?』

 

『まぁまぁかな。でも毎日のように、書籍の検索や、話し相手にされるのは疲れるね』

 

『本だった時よりはマシじゃ無いかしら?』

 

『まぁ、そうだね』

 

「ねぇ、ハーマイオニー」

 

 

「なに?」

 

 

 ロンがハーマイオニーに声を掛けると、通信が終了する。

 

「さっきからずっと頬押さえてるけど虫歯?」

 

「え?」

 

 ロンが体内通信使用時に、耳小骨を押さえる動作を指摘する。

 

「え? あぁ…うん。そう。虫歯になっちゃって」

 

「だらしないなぁ、ちゃんと歯磨きしてるの?」

 

「当り前よ。ブラッシングは両親から教わったわ」

 

「そうなんだ」

 

「歯が痛むようなら、後で医務室へ行ったら?」

 

「大丈夫よ。うん。そこまで痛くないから」

 

「そうかい、それよりさ。この人、何を教えるか分かる?」

 

「闇の魔術に対する防衛術じゃないかしら? ほら、前の人居なくなったから」

 

「あぁ、ロックハート様か」

 

「あ゛」

 

「ヒッ」

 

 突然の低い声に、ロンが怯える。それと同時にトムはセーフモードへ移行した。

 

「とっ…ところでハリー! 皆が集まったら何か話したい事がある言って言ってなかったか?」

 

 慌てた様子で、ロンが話題を変える。

 

 

 ロンは無理やり話題を変え、ハリーを巻き込んだ。

 

 巻き込まれたハリーは、少し驚いている様だったが、すぐに話を始めた。

 

「僕…シリウス・ブラックに狙われて居るみたいなんだ」

 

 ハリーがそういうと先程までの空気が一変し、重苦しい空気が流れた。

 

 それと同時に、先程まで寝ていたルーピンの脳波が覚醒反応を示す。

 

 しかし、まだ寝たふりをしている。

 

「シリウス・ブラックってあの、脱獄囚?」

 

「そうだよ」

 

「でもなんで、ハリーが狙われるのさ」

 

「詳しくは言えないけど、シリウス・ブラックを探すなって言われたんだ」

 

「探すなってどういう事? ハリーはシリウス・ブラックを探していたの?」

 

「そんな訳ないだろ!」

 

『まぁ、彼なら変な事に首を突っ込みかねないな』

 

『まぁ、そうよね。去年とか一昨年とかそうだし』

 

『賢者の石だっけ? あの老害が隠していたんだろう。しかも1年生に簡単に突破されるような罠を用意して。傑作だね』

 

『もしかして、ダンブルドア先生が嫌いなの?』

 

『あっちだって僕の事は大嫌いなはずさ』

 

「でも、なんでシリウス・ブラックは脱獄なんてしたんだろう? だってアイツ、アズカバンじゃ一番厳しい場所だったんだぜ」

 

「分からないよ…でも、アイツってヴォルデモートの手下だったんだろ…ならきっと僕を殺す為に…」

 

『ねぇ、トム。シリウス・ブラックに付いて何か知らない?』

 

『そうだね。結構前だけどルシウス・マルフォイがシリウス・ブラックが投獄されたって喜んで話していたのを聞いた事があるね』

 

『彼等はヴォルデモートの同胞ではないのですか?』

 

『生憎と、僕が知っている僕の事は学生時代までだよ』

 

『そうなの』

 

 ハーマイオニーは残念そうに呟く。

 

「まぁ、安心しろって、魔法省だって血眼に探しているし、新聞にはマグルの警察って奴にまで探すよう言っているらしいからな。きっとすぐ捕まるさ」

 

「だと良いんだけど…」

 

 重苦しい空気がコンパートメントを支配する。

 

「あのさ」

 

 そんな空気を重く思ったのか、ロンが口火を切る。

 

「皆は、家族の人にホグズミード行きの許可書って書いてもらった?」

 

「ちょっと! ロン!」

 

「え? なにさ?」

 

「ほら…」

 

 ハーマイオニーは視線をこちらとハリーに向ける。

 

「あっ…」

 

 何かを察したのか、ロンの表情が曇る。

 

「お気になさらずに」

 

「そうだよ、気にするなよ。アイツ等がサインなんか書く訳無いだろ」

 

 ロンとハーマイオニーはバツの悪そうな表情で更に重苦しい空気が流れた。

 

 しばらくすると、何者かによっていきなりコンパートメントの扉が開かれる。

 

「誰だ!」

 

「おやおや、これはこれは……ポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼル。いや、ディーゼルのコソコソ君じゃあないか」

 

「マルフォイ…何の用だよ」

 

「なぁに、君の父親がこの夏やっと、小銭を手に入れたと聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい? 新聞に写真が載っていた。遺影に丁度良いんじゃないか?」

 

「なんだと!」

 

「ちょっと! ロン!」

 

 ハーマイオニーが止めようとするが、挑発されたロンは、それに乗りマルフォイに殴りかかろうとする。

 

 その瞬間、コンパートメントで寝ているルーピンが大きなイビキをかき、全員の視線が集まる。

 

「誰だこの薄汚い服の男は?」

 

「新任の教員です。去年の穴埋めでしょう」

 

「フッ! それは良かった。アレより下はいないだろうな」

 

 マルフォイが大声で笑うと、それに釣られて取り巻きも高笑いをする。

 

 

 その時、急に窓を叩く雨足が強くなり、空の色はどんよりと黒くなり、車内の明かりのみが周囲を照らしている。

 

「なんだ? 雨か…不気味だな」

 

 マルフォイを始めに、その場の全員が不気味そうに周囲を見回す。

 

「なんか…嫌な予感がするわ…」

 

 ハーマイオニーが呟いた瞬間、汽車が急ブレーキを掛る。

 

「うぉ!」

 

 急ブレーキによる衝撃により、私達と寝たふりを続けているルーピン以外の人物が体制を崩す。

 

「え? なんだよこれ?」

 

「分からないわ…運転手はどうしたのよ」

 

 その時、周囲に未確認のエネルギー反応を検知する。

 

『おっと…これは少し気を付けた方が良いね』

 

『え? どういう事?』

 

『それは――』

 

「なんだよ! あれは!」

 

 ロンが突如として叫び声を上げると、汽車の通路内に襤褸切れ同然の黒いローブを身に纏ったエネルギー体が現れ、次々と生徒たちを襲い、その生体エネルギーを吸引していた。

 

「ヴァー」

 

  浮遊しているエネルギー体は、こちらに目標を定めたのか、不規則な動きで滑空しながら襲い掛かる。

 

「邪魔です」

 

 ビームガンを構え、出力調整を行ったエネルギー球を放つ。

 

「グガァァァ!」

 

 エネルギー体を上回る出力のエネルギー球により、敵性体はかき消され消滅する。

 

『まさか、ディメンターを倒すとは。やるね』

 

『ディメンター?』

 

『ディメンターとは、別名『吸魂鬼』と呼ばれ、魔法界で最もおぞましい生き物とされています。また人間の幸福を餌にし、近くにいる人に絶望と憂鬱をもたらし、人間の魂を奪う事で、対象は永遠の昏睡状態、植物状態に陥ると言われています』

 

『詳しいわね…』

 

『あぁ、そして、唯一の対抗策は――』

 

「排除します」

 

 背後では、デルフィがウアスロッドで1体のディメンターを処理し終えた所だった。

 

『本来ならば、守護霊の呪文を使うんだけど…まぁ、君達には必要ない様だね』

 

 ハーマイオニーは不思議そうに首をかしげている。

 

「うわあぁぁ!!」

 

「ハリー!」

 

 突如、二人の悲鳴が轟く。

 

 背後には、ディメンターにより、生体エネルギーを吸引され掛けているハリーの姿があった。

 

 私はディメンターの後頭部にビームガンを押し付け、攻撃を行うと、ディメンターは一瞬にして消滅する。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う…うぅ…」

 

 ハリーは少し魘された後、気を失う。

 

『さて、さっきの声で、ディメンターが集まって来たようだね』

 

 レーダーには大量のディメンターと思われるエネルギー反応を検知する。

 

「了解。排除を介します」

 

「同行します。1分で片を付けましょう」

 

 私達は、武装を整えると――

 

「待ちたまえ」

 

 振り返ると、先程まで寝たふりをしていたルーピンが立ち上がり、杖を構えている。

 

「これ以上ディメンターを殺すのはあまり良くないよ。魔法省に目を付けられるからね」

 

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

 ルーピンはワザとらしくあくびをすると、こちらに歩み寄る。

 

「さて、後の事は任せてくれないか」

 

「手立てはあるのですか?」

 

「あぁ。任せてくれ」

 

 数歩歩いた後、ルーピンはディメンターと対峙する。

 

「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない」

 

 しかし、ディメンターは依然として、戦闘の意思を示している。

 

「交渉決裂です」

 

「仕方ないな」

 

 ルーピンは杖を構えると、一呼吸する。

 

「エクスペクト・パトローナム」 

 

 ブツブツと呟くように呪文を唱えると、杖の先から銀白色で半透明な狼が現れ、襲い掛かるディメンターに攻撃を加え、追い払った。

 

「これでいいだろう」

 

「敵性反応撤退を開始しました」

 

「この戦闘における、周辺の被害状況を報告。建造物損壊・些少。死傷者有りません。しかし、怪我人は多数出た模様」

 

「よくそんな事が分かるね」

 

「お気になさらず」

 

 ルーピンはこちらを怪しむように睨み付けるが、しばらくするとコンパートメントの中へと戻って行く。

 

 コンパートメントの中では、ハーマイオニーが気を失ったハリーと、青い顔をしたロンを看病していた。

 

「もう大丈夫だ。さぁ、眼を開けて」

 

「う…うぅ…」

 

 ルーピンはハリーの肩を揺らすと、ようやく目を覚ます。

 

「気が付いたか」

 

「頭痛い…最悪な気分だ」

 

「ブドウ糖です」

 

 起きたばかりのハリーに、ブドウ糖のタブレットを手渡すと、口に含み噛み砕いている。

 

「チョコレートは…」

 

「今はいらないです」

 

「そうか」

 

「さっきのはなんだったですか?」

 

 まだ頭が痛むのか、頭を押さえながらハリーが聞いた。

 

 

「ディメンター、吸魂鬼だ。あれはアズカバンの看守の者だろう」

 

 一通りの事を説明し終えたルーピンは再びこちらに視線を向ける。

 

「それにしても、驚いたよ。まさか、君の様な学生がディメンターを倒すとはね…何者なんだ?」

 

「ホグワーツの生徒です」

 

「そうか…ホグワーツ生徒ねぇ…」

 

 ルーピンは依然として疑いの目を向けているが、しばらくすると溜息を吐く。

 

「まぁ良い。それでは私は少し、運転手と話してくるよ」

 

 そう言い残すと、ルーピンはコンパートメントの扉を開け、ゆっくりと外へと出ていった。

 




まぁ、ディメンター程度ではどうする事もできません。


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タイムパラドックス

タイムパラドックスだ!


 

   ホグワーツへと到着すると同時に、マクゴナガルを始め、複数人の教員が出迎え、重軽傷者に駆け寄る。

 

 医療知識のある教員によるトリアージ後、処置が必要な生徒は、医務室へと運ばれて行った。

 

「何があったのです?」

 

 負傷者の搬送が終わった後、マクゴナガルが問いかける。

 

「ディメンターによる襲撃を受けました。数体撃破後、R・Jルーピン教授により、撃退が成功しました」

 

「え?」

 

 マクゴナガルは困惑の表情を浮かべた後、私達の背後で申し訳なさそうな表情のルーピンが佇んでいた。

 

「はぁ…後で詳しい話を。いいですねルーピン先生」

 

「あっはい」

 

「貴女達はもう戻っていいですよ」

 

「了解しました」

 

「失礼します」

 

 大広間へと戻ると、既に入学式が始まっていた。

 

 例年通りに、指揮は進み、組み分けも終了する。

 

 その後、組み分け帽子による歌が始まる。

 

『なんか去年とは違う歌詞ね』

 

『そのようですね』

 

『毎年そうなのさ。まぁ、言い回しが違うだけで、大半は同じ事を言って居るだけだ』

 

 帽子が歌を終えると、ダンブルドアが登壇する。

 

「新学期おめでとう! 皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼぅっとなる前に片付けてしまうほうがよかろう…」

 

 ダンブルドアはワザとらしく咳払いを数回する。

 

「皆も知っていると思うが、先程ホグワーツ特急で起こった(事故)についてじゃ」

 

『事故…ねぇ』

 

 ディメンターの襲撃を、事故の一言で片付けるダンブルドアに対して、トムは不信感を募らせている様だ。

 

「我が校は今アズカバンのディメンターを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」

 

『ホグワーツにディメンターねぇ…こりゃ、物騒な事になったものだ』

 

『そうよね、私達に危害は及ばないかしら…』

 

『さぁねぇ。まぁ下手に手出ししなければ問題ないんじゃないかな』

 

『まったく、他人事だと思て』

 

『AIには魂を吸われる心配は無いからね』

 

 AIに危害が無いのならば、私達にも該当するのだろうか。

 

「ディメンター達は学校への入り口という入り口を固めておる。あの者たちがここにいる限り、誰も無許可で学校を離れてはならんぞ。絶対にな。ディメンター達は悪戯や変装に引っかかる程馬鹿ではない。透明マントでさえ無駄じゃ。姿現しでもしたら外に出ることは可能じゃろうがのぉ…じゃが、ホグワーツでは姿現しは出来ん。ワシがその様な呪文をかけておるからのぉ」

 

 つまり、ゼロシフトによる、亜光速移動や、ステルスシステムは通用する様だ。

 

「それとじゃ、ディメンター達に言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、通用せん。あ奴等は聞く耳を持たん。そもそも耳があるのかすら分からん。それから一人ひとりに注意しておくのじゃが。あの者たちが皆に危害を加える口実を与えるでないぞ。絶対に自分から近づいて行ってはいかん。対抗や、封じる術を持っていたとしてもじゃ。絶対に手出しは禁止じゃ」

 

 言い終えた後、ダンブルドアは私達を睨み付けているようにも見える。

 

 恐らく、同席していたルーピンの報告を受けたのだろう。

 

 最低限の自衛行動すら封じろと言うのだろうか。

 

「さて…暗い話は以上にして、楽しい話に移ろうかの」

 

 ダンブルドアが、ルーピンを見ながら話し続けた。

 

「今学期から新任の先生を2人もお迎えする事となった。まずは、ルーピン先生。有り難いことに空席になっている闇の魔術に対する防衛術の担当を引き受けてくださった」

 

 

 生徒からは疎らな拍手が起こる。

 

 近年の闇の魔術に対する防衛術の担当教諭が起こした不祥事によって不信感を募らせているのだろうか。

 

 拍手を受けているルーピンは、若干の心拍数の上昇から判断するに、嬉しさと恥ずかしさが入り混じっているのだろう。

 

 対面のスネイプのメンタルコンデションレベルが急激に低下する。

 

 最早殺意を抱いていると言っても過言ではないレベルだ。

 

「さて、次は魔法生物飼育学にハグリッドじゃ」

 

 予想外の展開に生徒達から歓声が上がり、グリフィンドールからは盛大な拍手が送られた。

 

『まさか、あの木偶の坊が教師になるとはね』

 

『まぁ、ちょっと意外よね。でも面白そうな授業になりそうだわ』

 

『あんな奴が教師になるくらいなら、僕だって教師になれるだろうね』

 

『貴方の場合は何の担当かしら?』

 

『闇の魔術に対する防衛学かな』

 

『使用禁止の魔法ばっかり使いそうね』

 

『偏見だね』

 

『妥当な判断かと』

 

『デルフィもああ言って居るわよ』

 

『もう好きにしてくれ』

 

 トムは呆れた様に通信を切る。

 

 

「さて…これで話は終わりじゃな、それでは食事を始めよう」

 

 その合図を皮切りに、目の前に料理が現れる。 

 

 多くの生徒が待ち侘びていたのか、料理に齧り付いている。

 

 

  翌朝、朝食を取る為に、大広間へと向かうと、不機嫌そうなハリーを発見する。

 

 対面には、先日のディメンター襲撃の際に気を失ったハリーの模写をして笑いを取っているマルフォイの姿があった。

 

 誇張されているがなかなかの再現率だ。

 

 

「なんであんな馬鹿らしい事を…」

 

 呆れた様子のハーマイオニーは首を横に振り、溜息を吐く。

 

 その際に、手にしていた本の束から、一枚の紙が零れ落ちる。

 

「なんだこれ?」

 

 紙を目にしたロンは、急激にその表情を曇らせる。

 

「ハーマイオニー、その時間割、滅茶苦茶じゃないか。ほら、1日に10科目もあるんだぜ? そんなに時間があるわけないのに…どうするんだよ」

 

 

「何とかなるわ。マクゴナガル先生と一緒に決めたんだから」

 

 

「でもほら、午前中、わかるか? 9時、占い学。そしてその下だ。9時、マグル学。それから…おいおいその下に数占い、これも9時ときたもんだ。そりゃ、君が優秀なのは知ってるよ、僕よりも頭がいい。でもねハーマイオニー。同じ時間では、1つの授業しか受ける事は出来ない。僕の頭でもそれは分かる…それなのに3つの授業にいっぺんにどうやって出席するんだ? ん?」

 

「マクゴナガル先生と相談したのよ。大丈夫だから心配しないでって言ってるでしょ」

 

 ハーマイオニーは何かを知られるのを恐れているかのように、ロンを疎ましく遠ざける。

 

 しかし、一体どのような手法で授業を受けるのだろうか? 恐らく未知の魔法技術だろう。

 

「もう良いでしょ。それより私、これから占い学の授業なの。そう言えば貴女達も選択していたわよね」

 

「えぇ」

 

「そう。なら一緒に行きましょ」

 

「でも…」

 

「しつこいわよ」

 

 ハーマイオニーは荷物をまとめ始める。

 

「おい待てよ。この時間はマグル学と後、えーっと数占いがあるぞ」

 

「大丈夫よ。さぁ行きましょう」

 

 私達は、ハーマイオニーの後に続き、大広間を後にした。

 

 

 大広間を出てからしばらく歩くと、北塔の最上階付近まで来た。

 

「ごめんなさい。私ちょっとトイレへ行ってくるわ」

 

「了解です」

 

「うん。だから二人は先に行ってて」

 

「わかりました」

 

 北東の最上部は小さな踊り場が設置されており、更にその上部に空間を検知する。

 

 上部には丸形の撥ね扉が設置されており、『シビル・トレローニ占い学教授』の看板が張られている。その先の空間が教室なのだろう。

 

「ごめんなさい。待った?」

 

 背後から、教科書を抱えたハーマイオニーが軽く息を切らしながら階段を上ってくる。

 

 しかし、現在ここを含めて3か所でハーマイオニーの生体反応とトムのタブレット端末を検知している。

 

 この反応は、トイレへ行った後急激に増殖した反応だ。

 

 しかし、眼前の反応以外は、若干時空や空間の波長に乱れを検知する。

 

『質問してもよろしいですか?』

 

『え…えーっと何かしら?』

 

 

 デルフィの唐突な通信に対して、ハーマイオニーのメンタルコンデションレベルが若干低下する。

 

『現状、貴女とトムの反応を同時期に3か所で検知しました』

 

『そうなの。なんか不思議ね』

 

『何をされているのですか?』

 

 デルフィの問いに対して、数秒の間を置いてハーマイオニーが回答する。

 

『そのぉ…この事は誰にも言わない?』

 

『ご安心を』

 

『ふぅ…私ね、『逆転時計』っていう時間を遡る時計を使って居るの』

 

『つまり『逆転時計』を使用し、複数の授業を同時間軸で受けているという事ですか?』

 

『まぁ…その通りよ』

 

『やっぱりこの時間割じゃ無理があったね。大人しく僕に頭を下げれば、教えてやったと言うのに』

 

『お断りよ。それ以上言うなら削除するわよ』

 

『まったく、すぐ気に入らないと削除削除って。これだからけが――』

 

『これ以上言ったら本当に消すわよ』

 

 若干低めの声により、トムはセーフモードへと移行した。

 

『分かったよ』

 

『さて…話を戻しましょ。この時計はマクゴナガル先生にいただいたの。誰にも言わないって約束でね』

 

『そうなのですか』

 

『だから、この事は黙っていて欲しいの』

 

『公言するつもりは有りません』

 

『よかったぁ』

 

『ですが、時間軸に干渉するという事は、タイムパラドックスを引き起こす事にも繋がります。過去の改編等はなさらないように。どのような影響が出るか分かりかねます』

 

『マクゴナガル先生にも似たような事を言われたわ。その点は気を付けるわ』

 

『もし、不都合が生じた場合は、我々も協力します』

 

『口裏を合わせてくれるって事?』

 

『概ねその通りです』

 

『助かるわ。ロンはしつこく聞いて来るから嫌になっちゃうわ』

 

『あれで純血なんだろ? 信じられないね』

 

 

「あれ? ハーマイオニー。君もここに居たの?」

 

 背後に現れたロンとハリーの姿を見てハーマイオニーは若干驚いている様だった。

 

「え、えぇ。そうよ」

 

「さっき、南棟に向かうのを見た気がするんだけど…」

 

「人違いじゃ無いかしら?」

 

「そうかな?」

 

 ハリーが首をかしげた時、上部の撥ね扉が開き、銀色の梯子が降ろされる。

 

「これを上れって事?」

 

「そうじゃないかな?」

 

 その場に居た生徒たちが、順番に梯子を上っていく。

 

 最後に残った私達は、バーニアを展開し、内部へと移動する。

 

 

 

  占い学の教室は複数のテーブルと椅子が置かれており、教室と言うよりも、小屋の中の様な雰囲気だ。

 

 そして、教室には不愉快な線香の香りが充満している。

 

 人体に影響は無いが、不愉快に感じるレベルだ。

 

 壁には水晶や、ティーカップなどが乱雑に置かれている。

 

 

 

 適当な場所に腰を掛けると、部屋の奥から胡散臭い見た目の痩せた女性が現れた。

 

 

 

「占い学へようこそ。あたくしがトレローニー教授です。たぶん、あたくしの姿を見たことがある生徒は少ないでしょうね。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば降りて参りますと、あたくしの心眼が曇ってしまいますの」

 

 非現実的な事を口走りながら、周囲の生徒を見回す。

 

「皆様がお選びになった教科は…占い学。そう、魔法の学問の中でも一番難しいものですわ…初めに、お断りしておきましょう…眼力の備わってない方には、あたくしがお教えできる事は殆どありませんのよ。この学問では書物はあるところまでしか教えてくれませんの…」

 

 つまりは、才能の無い者は学んだところで無駄だという事だろうか。

 

「いかに優れた魔法使いや魔女であっても、派手な音や匂いに優れ、雲隠れに長けていても、未来の神秘の帳を見透かすことはできません。限られた者だけに与えられる天分とも言えましょう。あなた、…そう、そこの男の子」

 

「え? ぼ…僕?」

 

「えぇ、そうですよ。ネビル・ロングボトム」 

 

 指名されたネビルは目を白黒させている。

 

「えっと…なんですか?」

 

「ご家族、特におばあ様元気?」

 

「えっと…元気だと思います」

 

「そう…私が貴方の立場だったら、私はそんなに自信ありげに言えません事よ」

 

 

 トレローニーは鼻で笑いながら、首を左右に振った。

 

「えっと…それはどういう――」

 

「そこのあなた!」

 

「え? 私?」

 

 突如として指名された生徒は、先程のネビル同様に、目を白黒させている。

 

「近いうち、不幸が起きるわよ」

 

 その後も、トレローニーは生徒達に対して、不吉な予言を与えていく。

 

『何か、胡散臭いわね』

 

『占い学なんてそんな物さ。まぁ、予言に左右される事もあるがな』

 

『そうなの』

 

『まぁ、君にはあまり向かないんじゃないかな』

 

『何よそれ』

 

「さて、お次は貴女達ですね」

 

 トレローニーはこちらを覗き込む。

 

「お…おぉおおぉおおお!」

 

「どうかしましたか?」

 

「ひぎぇあぁぁあ!!!」

 

 絶叫したトレローニーは、腰を抜かして後退る。

 

「恐ろしいです! えぇ、とても恐ろしい! まさに終末を呼び寄せる程の!」

 

 トレローニーは一頻り叫び声を上げた後、気を失う。

 

 

 それと同時に、終業を告げる鐘が鳴り響く。

 

「えっと…先生はどうしようか…」

 

「放っておけばいいんじゃないかな?」

 

「そうね。次の授業へ行きましょう」

 

 こうして、私達は、教室を後にした。

 

 




逆転時計ほしいですね。


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ヒッポグリフ

今回、ヒッポグリフが酷い目にあいます。


 

   占い学が終了し、次の授業は変身術だった。

 

「はぁ…」

 

 教室に入ると、先程の不吉な予言により、生徒全体に重い空気が流れている。

 

 しばらくすると、マクゴナガルが入室する。

 

「さて、皆さん。授業を開始しま――どうしたのです?」

 

「えっと…実は占い学で皆不吉な予言をされて…」

 

「そうそう」

 

 ハリーは先程の授業での事を説明する。

 

「あー…またですか…」

 

「また?」

 

「えぇ、シビル・トレローニーは本校に着任してからというもの、毎年不吉な予言してきました。ですが、未だに死に至る程の不幸は訪れていません。精々骨折程度でしょう。不吉な予言は新しいクラスを迎える時の…まぁ…あの方のお気に入りの流儀です。私は同僚の先生の悪口は決して言いません。言いませんが…フゥ…」

 

 マクゴナガルは一度咳払いをする。

 

「占い学というのは魔法の中でも一番不正確な分野の1つです。私があの分野については詳しくは有りませんが、真の予言者は滅多にいません。そしてトレローニー先生は…まぁ…」

 

「あっ」

 

 マクゴナガルの発言により、生徒達は何かを悟ったようだ。

 

「さて、不吉な予言を受けたからと言って授業をやらなくていいと言う訳ではないですよ。それに宿題もありますからね。さて、授業を再開しましょう」

 

 マクゴナガルは黒板に向かう。

 

「なぁ…ハリー」

 

「ん? どうしたんだよ。ロン?」

 

「宿題があるってさ。不吉な予言は的中したな」

 

「全くだ」

 

「もう…貴方達は…」

 

 ハーマイオニーは呆れた様に、2人を見ていた。

 

 

 

  午後は魔法生物飼育学の授業だ。

 

 周囲には、グリフィンドールの生徒以外に、スリザリンの生徒の姿も見える。

 

 どうやら、この授業も、合同で行うようだ。

 

 その為か、両陣営は一触即発といった空気が漂っている。

 

 学園側はこの二つの寮が犬猿の仲なのを承知の上でこの編制にしているのだろうか。

 

 

「やぁ、君達もこの授業にしたのかい?」

 

 振り返りと、無駄に胸を張ったマルフォイがこちらに近寄ってくる。

 

「えぇ、こちらの生体系に関しては、それほど明るくないので」

 

「そうなのか。でも、今年の授業、教師がアレだぜ」

 

 マルフォイが指を差した先には、腰に手を当て、体操をしているハグリッドの姿があった。

 

『まったく、あの木偶の坊が行う授業を目にするなんて思わなかった』

 

 トムは呆れた様に呟いている。

 

 体操を終えたハグリッドは声を上げる。

 

「皆、この柵の周りに集まれ! そーだ、ちゃんと見えるようにな。さーて、いっちゃん最初にやるこたぁ、教科書を開くこったな」

 

 ベクタートラップ内から教科書を取り出す。

 

 既に瀕死の状態だが、書籍データはスキャン済みなので問題は無いだろう。

 

「この教科書どうすればいいんだ?」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「はぁ…この教科書はどうすればいいんですかと、聞いている」

 

 呆れた様に溜息を吐くマルフォイは紐でグルグルに縛られた教科書を取り出し、杖で数回叩いている。

 

 他の生徒も同じ様で、紐や縄、ベルトなどで雁字搦めにしている生徒までいる。

 

「なんだ、教科書を開けない奴が居るのか?」

 

『普通はこんな変なの使わないぞ、木偶の坊』

 

 トムは呆れた口調だ。

 

 トムの指摘通り、教科書を開いている生徒は誰も居ない。

 

 むしろ暴れない様に、ロープで拘束している者までいる。

 

 私は取り出した教科書を取り出すと、強制的に開く。

 

 その時、周囲に剥離音が響く。

 

「そんな風に開けるもんじゃねぇし、もう瀕死じゃないか…」

 

「全て、記憶しているので問題は有りません。死亡した場合は内部の書籍データは消えるのですか?」

 

「いや…死んだ本を読んだことが無いから分からんが、多分大丈夫だろう」

 

「了解です」

 

「ま、まぁ、他の奴は本の背表紙を撫でてやれ、すれば簡単に開く!」

 

 本の開き方を聞いた面々は、従う様に、背表紙を撫で、本を開いていく。

 

「本当だわ。撫でたら簡単に開いた」

 

『普通は本の背表紙なんか撫でない。なんでアイツはこんなのを選んだのか…』

 

『ハグリッドらしくていいと思うけど』

 

『第一あんな奴が、教鞭を振るって居るのが信じられない。だったらまだ僕の方がマシだ』

 

 ハグリッドは全員が本を開き終えたのを確認すると、何度か頷いている。

 

「良い感じだな。じゃあ俺はちょっとサプライズゲストを連れて来るから、ここでまっちょれ」

 

 ハグリッドはそのまま森の奥へと消えていった。

 

『なんか、嫌な予感がする』

 

『嫌な予感って?』

 

『アイツがまともな授業をするとも思えない。危険な動物を連れて来るんじゃないかってね』

 

『危険なって、ハグリッドは仮にも先生よ。そんなことしないと思うわ』

 

『どうかな、アイツは学生時代巨大な蜘蛛を飼って居たんだぞ。それで退学になったようなものさ』

 

『でも、その蜘蛛は人を襲ったりしたわけじゃ無いでしょ?』

 

『あぁ、実際人を襲ったのはバジリスクだったんだけど、その時はアイツに擦り付けて、僕はホグワーツ特別功労賞を貰ったよ』

 

『はぁ…あまり褒められたことじゃ無いわね』

 

『もう時効さ』

 

 トムは嬉しそうな口調で話している。

 

 数分後、比較的大きな数十の生体反応引き連れて、ハグリッドが戻って来た。

 

「ヒッポグリフだ! どうだ、すごいだろ!」

 

 鎖に繋がれた、ヒッポグリフは嘶くと、周囲を見回している。

 

「そんじゃ皆。まずは近付いてみろ」

 

 ハグリッドはそういうが、その場に居るほとんどの生徒が動こうとはしない。

 

 皆、巨大な爪と嘴に警戒している様だ。

 

「誰でもいいんだが…じゃあ、エイダ。お前さん触ってみろ」

 

「了解です」

 

 数歩進み、ヒッポグリフの前に立つと、その体に手を掛けようとする。

 

「キシャアアアアアア!!」

 

 突如として、ヒッポグリフが奇声を上げると、前足を振り上げ、鋭利な爪を振り下ろす。

 

「いかん!」

 

 ハグリッドが咄嗟に鎖を引くが、既に爪は私の腹部に接触していた。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 ハグリッドが声を上げ、周囲の生徒が固唾をのんでいる。

 

「問題は有りません」

 

「アシャアアアアアア!」

 

 再び、ヒッポグリフが悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。

 

「え?」

 

 崩れ落ちたヒッポグリフの爪が剥がれ落ちており、血が滴り落ちる。

 

 私は、足元に落ちている、ヒッポグリフの爪を拾上げる。

 

「こちらはどういたしますか?」

 

「と、とりあえず預かる」

 

 剥がれ落ちた爪を受け取ったハグリッドは、ふと口を開く。

 

「言い忘れちょったが……ヒッポグリフは誇り高い生き物なんだ。その上とても怒りっぽい。だから、扱いには注意を――」

 

「それは事前に伝えるべき要項では無いのでしょうか?」

 

「うっ…その通りだ…すまん」

 

 落ち込むハグリッドの背後で、ヒッポグリフは悲鳴を上げ続けている。

 

「はぁ…俺はコイツの手当てをしてくる。勝手に他の奴等に触っちゃいかんぞ」

 

『嫌な予感が的中したよ』

 

『え?』

 

『一般の生徒だったら、死傷者が出てた』

 

『まぁ…そうよね…もう慣れてたから気にならなかったけど、なんでエイダは無傷なのよ』

 

『気にしてなかったのなら、今まで通り気にしない方が良いさ』

 

 数分後、ハグリッドが戻ってくる。

 

「さて、まぁ、ちゃんとすれば、問題は無いからな…誰かやってみるか?」

 

 ハグリッドが周囲を見回すと、ハリーがゆっくりと手を上げる。

 

「おぉ、ハリー! やってみるか!」

 

「あんなの見た後だから怖いけどね」

 

 ハリーは別個体のヒッポグリフに近付くと、深々と一礼する。

 

 すると、ヒッポグリフも礼を返し、その背中に乗り、空へと飛び上がった。

 

 しばらく、空の旅を満喫したハリーは、満足しきった顔で降りてきた。

 

「良くやったぞ、ハリー。良くやった」

 

「すごかったよ!」

 

 メンタルコンデションレベルが高いハリーは、そのまま、スキップしながら、列へと戻る。

 

 

  ハリーの成功例を見て、他の生徒も恐る恐る、ヒッポグリフへと近付いてく。

 

 多くの生徒が、礼儀正しく接し、お辞儀には、お辞儀で返している中、マルフォイの番がやって来た。

 

「フッ、ポッターに出来て、僕に出来ない筈が無いだろ、君もそう思うだろ、醜いデカブツ君?」

 

 マルフォイが軽口を叩くと多端にヒッポグリフは激情しマルフォイに襲い掛かった。

 

「ヒィイイイィイ!」

 

 マルフォイは悲鳴を上げ、その場で腰を抜かしている。

 

 次の瞬間、鋭利な爪が、マルフォイの腕を掠める。

 

「イッタアアァァァァッア! 死にたくない!」

 

 腕からの出血を確認し、白いシャツがみるみるうちに赤く染まる。

 

 ヒッポグリフは再び、前足を振り上げ、止めを刺そうとしている。

 

「やめるんだ! 落ち着け!」

 

 ハグリッドは急ぎ、鎖を引くが、既に射程圏内に入っている。

 

「救助を開始します」

 

 ゼロシフトを起動し、瞬時にマルフォイの側へと移動すると、振り下ろされる爪をシールドで受け止める。

 

「え? エイダ…」

 

 攻撃を防がれたことにより、ヒッポグリフは更に逆上する。

 

 暴れ回るヒッポグリフはついに、首輪を破壊し、こちらに襲い掛かる。

 

「拘束を開始」

 

 デルフィがゼロシフトで立ち上がったヒッポグリフの頭上に現れると、頭部を掴み、持ち上げる。

 

「ギャイ!!」

 

頭部を掴まれたことによる痛みからか、ヒッポグリフが悲鳴を上げる。

 

「こちらはどうしますか? 殺処分いたしますか?」

 

 デルフィは悲鳴を上げながら暴れるヒッポグリフなど気にも留めず、ハグリッドに視線を移す。

 

「殺処分だと! 何も殺す事はねぇだろ!」

 

「ですが、既に人的被害が出ています。このまま放置すれば、二次被害が発生する可能性があります」

 

「だからって殺す事は無い! 後はこっちでやるから、首輪を掛けてくれ!」

 

「了解」

 

 デルフィがハグリッドから投げ渡された首輪を受け取った後、装着させる。

 

 

 私は腰を抜かしているマルフォイをスキャンする。

 

「負傷状況を確認、腕部に軽傷を確認。応急処置を開始します」

 

 致命傷では無いが、PTSDにはなりえるだろう。

 

 ベクタートラップから、医療キットを取り出し、応急処置を施す。

 

「処置終了。後ほど医務室へ行くことをオススメします」

 

「あ…う、うん」

 

「さぁ、行くぞ」

 

 ハグリッドはヒッポグリフを連れて、森の奥へと消えていった。

 

『やっぱりこうなったか』

 

『まるで予想していたみたいね』

 

『死者が出ないだけよかったじゃないか』

 

『まぁ、そうね』

 

 マルフォイは腕を押さえながら立ち上がる。

 

「クソ! なんで僕がこんな目に…あんな教師! すぐにクビにするべきだ!」

 

「なんだと! マルフォイ! お前の自業自得じゃないか! ハグリッドは悪くない!」

 

「黙れ! ウィーズリー! 第一、こっちは怪我しているんだぞ! あの害獣も殺処分するべきだ! 彼女だってそう言ってた!」

 

 またしても、スリザリンとグリフィンドールの対抗が始まった。

 

 多くの生徒が、自分の意見を叫ぶ中、今回の授業は終了した。

 




普通に考えて、授業に猛獣を連れて来るのって危険だと思うんですよね。

その上、監視員が1人だけという…


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形態模写妖怪

ボガード登場です。


 

   翌日、大広間には、大手を振りながら、取り巻きを引き連れているマルフォイの姿があった。その腕に包帯を巻き、首から吊るしている。

 

「怪我の具合はどうですか?」

 

「あぁ、もう少しすれば治るって言ってた。昨日の応急処置はマグルのやり方か?」

 

「最適と判断した為、医療キットでの処置を行いました」

 

「なるほどね。医務室で腕を見てもらった時、なかなか珍しいやり方だって驚いていたよ」

 

 マルフォイの取り巻き達は、動きを合わせた様に、首を縦に振っている。

 

「まぁ、君達のおかげで助かったよ」

 

「礼には及びません」

 

「まぁ、君達はグリフィンドールだしね。あまり礼を言いたくは無いが、感謝はしているよ。それじゃあ」

 

 大広間から出て行く一団を、見送り、私達は次の授業を受けるべく、教室へと向かった。

 

 

  次の授業は、闇の魔術に対する防衛術の授業だ。

 

 

 

 担当は、ホグワーツ特急で同席となった、ルーピンだという話だ。

 

 ハリーとロンは適当な席に着くと会話を始める。

 

「今年はまともな先生だと良いな」

 

「まぁね、去年は特に酷かった。あのロックハートさm――」

 

 背後に現れたハーマイオニーによって、ロンの後頭部がタブレット端末の角で殴打される。それに伴い、鈍い音が響く。

 

「いってぇ!」

 

「や、やぁ、ハーマイオニー。いつ来たんだい?」

 

「今着た所よ」

 

「そ、そう…いい天気だね」

 

「曇ってるわよ」

 

「あはは…」

 

「あぁぁ! いってぇ! ハリー? 僕の頭欠けてない?」

 

「大丈夫だよ。ロン。君の頭なら多少欠けても問題ないから」

 

「ん? それどういう意味だよ?」

 

 ハリーは適当にはぐらかすと、話題を変えている。

 

 若干不機嫌そうなハーマイオニーは私達の隣へと座る。

 

『まったく、ロンには困っちゃうわ。いつまであの話をするつもりなのかしら?』

 

『僕からすれば、君の方が何倍も迷惑さ。良いかい。タブレットは鈍器じゃないんだぞ』

 

『丁度良い大きさなのがいけないのよ。それに強度もあるし』

 

『メタトロン製なので、並大抵の事では破損しません』

 

『だからと言って、鈍器として使うのはどうかと思うよ』

 

『なら今度は盾に使うわ』

 

『あのなぁ』

 

『簡易的な防御シールド発生システムをアップデートしました。通常の魔法ならば防御可能です』

 

『発動時のエネルギーは僕のを使うのか…これ以上酷使されるのか…』

 

 しばらくすると、古ぼけたスーツに身を包んだルーピンが教室に現れる。

 

「やあ、みんな。おはよう。さっそくだけど教科書は鞄にしまってくれるかな? 今日はいきなりだけど実習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

 ここ数年の例もあり、生徒達は皆一抹の不安を隠せずにいる。

 

 生徒達は、教科書を鞄に仕舞い込むと、杖を取り出す。

 

「よし、じゃあ皆、私に付いて来てくれ」

 

 ルーピンは杖を構えて、一振りすると、教室内の机が片付き、広いスペースを確保した。

 

 そして、教室の奥から、ガタガタと震えている、古ぼけた箪笥を持ってきた。

 

「この中には『ボガート』が入っている、君達にはこれからこいつと戦ってもらう」

 

「え?」

 

 周囲の生徒達からどよめきが上がる。

 

「あー大丈夫だよ。魔法生物飼育学では怪我人が出たみたいだけど…それ程危険じゃない。多分、安全さ。さて、この中の『ボガード』に付いて知っている人は居るかな?」

 

「はい」

 

 その言葉に、ハーマイオニーが真っ直ぐ手を上げた。 

 

「じゃあ、君」

 

「形態模写妖怪です。私達が一番怖いと思うものに姿を変えることが出来ます」

 

「その通りだ。完璧な説明だったね。10点あげよう」

 

 ルーピンの言葉に、ハーマイオニーが少し恥ずかしそうに、微笑んだ。

 

「さっきの説明の通り、形態模写妖怪。だからボガートの本当の姿を見たものが居ないんだ。そして、姿を変えるのはいつも一人で居る時だけだ。それは何でかわかるかかな?」

 

 すると、再びハーマイオニーが手を上げた。

 

「複数人で居ると、誰の怖い物に化ければいいかわからなくなるからです」

 

「正解だ、よく勉強しているね。グリフィンドールに追加で15点あげよう」

 

 褒められた上、点数まで貰えたのが嬉しいのか、ハーマイオニーが嬉しそうに、ガッツポーズをした。

 

「さて、ボガートを退治させる呪文は簡単だ。こいつらを退治するのに必要なのは、笑いなんだ。そして、強い精神力も必要になってくる。君達は、見ていて滑稽だと思える姿をボガートに取らせる必要がある。そしてその呪文が『リディクラス』()()()()()()だ。じゃあ一緒にやってみようか」

 

 ルーピンの声に続き、多くの生徒が復唱する。

 

 

 

「よし、これで大丈夫そうだね。じゃあ実際にやってみようか。じゃあ君から」

 

「え?」

 

 ルーピンは楽しそうに言うと、近くに居たネビルを指名した。

 

 

「よーし、ネビル。君の一番怖いものは何だい?」

 

「……プ……い…」

 

 ネビルは、蚊の鳴くような、小さな声で、ボソボソと呟いた。

 

 

「ん? もう一度言ってくれないか?」

 

 

「スネイプ先生」

 

 

 ネビルが少し恥ずかしそうに言うと、その場に居る生徒が大笑いした。

 

 思いのほかうけたのが嬉しかったのか、ネビルがニヤリと笑った。

 

 そんな中、ルーピンだけは少し気不味そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「スネイプ先生か…悪い人じゃないんだけどね。ちょっと怖いかもしれないね…ところで君は、おばあさんと暮らしているよね」

 

 

 

「はい…」

 

 

 

「じゃあ、スネイプ先生が君のおばあさんと同じ格好をしているところを想像してみよう。おばあさんの格好はすぐに想像できるだろ?」

 

 

 

 まじめな表情でとてつもないことを言うので、クラス全体におかしな空気が流れた。

 

 

 

「ネビル、心配する事は無いよ。ただ、スネイプ先生が出てきたら、おばあさんの格好を想像するんだ。いいね。じゃあ行くよ…1! 2! 3!」

 

 

 

 ルーピンが杖を振ると、箪笥の扉が勢い良く開かれ、中から漆黒のローブを着込み、不機嫌そうなスネイプがネビルの元へと歩み寄っていく。

 

 

 

 そんな状況に、ネビルは口をパクパクとさせながら、後ずさった。

 

 極度のストレス下に置かれている。

 

 

「ネビル! 落ち着くんだ! そしておばあさんの姿を想像してリディクラスと言うんだ!」

 

 

 

「りっ…り…リディクラス!」

 

 

 

 次の瞬間、バチンと音を立て、スネイプが躓いた。

 

 そして、みるみるうちに漆黒のローブが緑色のドレスへと変わり、大きな羽根つきの帽子をかぶり、手には真赤のエナメル製バッグを携えたスネイプが、おろおろと周囲を見回している。

 

 

 

 その光景に、日頃スネイプに目の敵にされているグリフィンドール生全員が何かが弾ける様に大笑いした。

 

 

 

「ネビル、よくやったね。さて次は君達の番だ。今のうちに考えておいた方がいい。自分が何が怖くて、どんな姿に変えるのかを。きっと楽しいぞ」

 

 

 

 ルーピンが楽しそうに笑いながら、レコードで曲を流すと、その場に居た生徒達のメンタルコンデションレベルも上昇しテンションも最高潮へと達した。

 

 

 

「皆、準備はいいかい! 次は君だ!」

 

 

 

 ルーピンに指名された生徒が少し恐怖を感じつつボガートの前へ進んだ。

 

 

 

 すると、今までスネイプだったのだが、一瞬で姿を変え、血塗れのミイラが現れた。

 

 

 

「リディクラス!!」

 

 

 

 魔法を放った途端に、ミイラの包帯が剥がれ、その包帯に躓き、盛大にこけた。

 

 その姿に、再び教室が笑いに包まれた。

 

 

 

 それ以降は皆楽しそうに、自分の番を今か今かと待ち侘びているようだった。

 

「じゃあ、次だ」

 

 ハーマイオニーは立ち上がると、ボガードの前へと移動する。

 

 ボガードと対峙してから十数秒経つが、依然として進展が無い状態だ。

 

「えっと…どうしましょう?」

 

「どういう事だろう…」

 

『恐らく、ボガードが心を読めていない状態だね』

 

『え? どういう事よ』

 

『ナノマシンによる精神防壁は現在オンラインになっています』

 

『じゃあ、心が読まれていないから、ボガードが動けないでいるって事?』

 

『概ねその通りです』

 

『ナノマシンって便利なのね』

 

『そうだね。それじゃあとりあえず一時的に精神防壁は解除しておくよ』

 

『え? ちょっと!』

 

 トムの介入により、ハーマイオニーの精神防壁が一時的に解除される。

 

 それにより、ボガードが水を得た魚の様に、活発に動き出すと、赤黒い胴体の大蛇へと姿を変えた。

 

 昨年のバジリスクがトラウマになっている様だ。

 

「もう…リディクラス!」

 

 先程までバシリスクだった物が、音を立て、巨大なピエロが飛び出たびっくり箱に姿を変えた。

 

「素晴らしい!」

 

 ルーピンは楽しそうに称賛を送ると、次は私を指差した。

 

「では次! エイダ。君だ」

 

 突如として、先程までの喧騒が水を打ったように静かになる。

 

 私はボガードの前に立ち、開示可能な情報を公開する。

 

「ギギギ…ガギギ…ガッ!」

 

 すると、眼前のボガードが、情報処理が追い付かないのか、蛇から姿を変え様々な立体的な幾何学模様に変化した後、爆発し、消滅した。

 

「あー…っと…これは。どういう事だろう…」

 

「生命体の消失を確認」

 

「まさか…ボガードが消されるなんて…ちょ、ちょっと待っててくれ」

 

 ルーピンは急ぎその場を後にする。

 

 周囲の視線を受けつつ、私も自身の席へと戻る。

 

 数分後、小さな箱を持ったルーピンが再び現れる。

 

「すまないね。一応予備で用意していたボガードさ。じゃあ次は。ハリーだ」

 

 ルーピンの言葉に、多くの生徒の視線がハリーに集まる。

 

 

 ハリーは緊張した面持ちで、ボガートの前にその身を晒した。

 

 

 

 次の瞬間。小箱から飛び出したボガードがバチンと音を立て、古ぼけた黒いマントを頭から被ったディメンターへと変形した。

 

「ハリー! クソッ! こっちだ!」

 

 恐怖からか動けずに居るハリーとディメンターの間に、ルーピンが割って入る。

 

 ハリーから、ルーピンへと標的が変わったのか、ボガートがバチンと音を立て、姿を変えた。

 

 

 ルーピンの前に現れたのは、小さな満月だった。

 

 

 だが、多くの生徒は月という事が分からないのか、不思議そうな表情で眺めている。

 

 そんな中、ルーピンは面倒くさそうに呪文を唱えた。 

 

「リディクラス」 

 

 すると、月は風船へと姿を変え、萎みながら箪笥の中へと戻っていった。

 

 

 

「よーし…皆良くやった。ハリーも上手だったよ。君達の年齢で、コイツと向き合うのはとても勇気が必要だっただろう。よって、ボガートと対面した子には5点ずつあげよう」

 

 

 

 突然の事に、多くの生徒が状況を理解していないといった表情だった。

 

 ルーピンは少し咳払いをすると、困ったように続けた。

 

 

「今日はここまでにしよう。宿題は、ボガートに関するレポートの提出だ。ハリー、ちょっと君には少し聞きたい事がある。少し残ってくれ」 

 

 終業を告げる鐘が鳴ると、生徒達が一斉に教室を後にした。

 

 そんな中、ハリーだけがルーピンと一緒に、奥の部屋へと消えていった。

 

 ルーピンの真面目であり、体験型の授業はたちまち評判を呼び、闇の魔術に対する防衛は人気教科の一つに挙げられるようになった。

 

 去年、一昨年の担当教諭に不備があった事も考慮されているだろう。

 




ボガード程度では、情報処理が追い付かず、脳を焼き切られました。

精神防壁については、同監督作品である、MGSから引用しました。

そちらは、手術によるものですが、数世紀先の世界ではナノマシンによって応用可能なのではないかと、想定しました。


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シリウス・ブラック

クッパ姫かわいい


 

 

数日が経ち、再び魔法生物飼育学の授業。

 

「はぁ…」

 

 魔法生物飼育学の授業中、ハリーが机に座り込むと溜息を吐いている。

 

 周囲の生徒達も、皆一様に退屈そうな表情を浮かべている。

 

 先日のヒッポグリフによる暴行事件以来、事態を重く見た学校側により、授業内容が変更され、『レタス食い虫』の生育状況を観察するだけの授業になっている。

 

 しかし、目立った動きは無く、ただひたすらにレタスを食べ続ける虫の観察に対し、皆一様に興味をなくしている様で、休眠や別授業の課題に取り組む生徒の姿も見受けられる。

 

『ねぇ、授業が始まってからどれくらいが過ぎた?』

 

『10分40秒経過』

 

『はぁ…まだまだ先は長いわね』

 

 溜息を吐いた後、ハーマイオニーは机の上にタブレット端末と羊皮紙を取り出す。

 

 どうやら、別授業の課題に取り組む様だ。

 

 トムに必要な資料を検索させている。

 

 私達も、データ処理などに時間を使う事にした。

 

 

 

 月日が流れ、ハロウィーンの時期がやって来た。

 

 談話室では、多くの生徒が興奮気味で話し込んでいる。

 

 どうやら、本日ホグズミード村へ行くのが楽しみなようだ。

 

「君達は良いね…」

 

「そんな事言うなよ」

 

「ちゃんとお土産買ってくるわ」

 

「土産話をたくさん聞くよ」

 

 部屋の一角では、ハリーが暗い表情をしており、ロンとハーマイオニーに慰められていたが、しばらくすると何処かへと消えていった。

 

「まったく…ハリーったら」

 

「君達もホグズミード村へは行かないのか?」

 

「ちょっと! ロン!」

 

「お気になさらず。我々も許可書を持っていないので」

 

「ちゃんとお土産買ってくるわ」

 

「そうだよ。ところでハーマイオニー?」

 

「なによ?」

 

「最近、スキャバーズを見かけないんだ」

 

「そうなの?」

 

「そうさ。それも君が猫を連れて来た辺りでね」

 

 ロンの発言を聞き、ハーマイオニーの表情が曇り始める。

 

「ねぇ、それってどういう意味?」

 

「別に。ただ僕は、君が猫を連れて来たのとスキャバーズが居なくなった事が、少なからず関係あるんじゃないかなって思っただけだよ」

 

「何よそれ! それに、あの子最近何処かへ行っちゃったから…」

 

「別に。ただペットの管理はちゃんとしておいて欲しいってだけさ」

 

「それなら、ちゃんと鼠を管理していない貴方にも問題があるんじゃないかしら!」

 

 2人は、睨み合い一歩も譲らない取った状況だった。

 

「よろしいでしょうか?」

 

「なんだよ!」

 

「なによ!」

 

 2人は同時に声を荒げる。

 

「全員出発されている様ですよ」

 

「残って居るのは彼方方だけです」

 

 2人は注意を見回すと、自分達以外が居ない事を確認した後、後を追う様に走り出した。

 

 

  彼等が出ていってからしばらくすると、自室にハーマイオニーのペットである猫が現れた。

 

 一応、猫が現れた事をハーマイオニーに伝える。

 

『本当! ねぇ、良かったら私が戻るまで部屋に入れておいてくれない?』

 

『了解です』

 

『助かるわ!』

 

 通信を終了させた後、猫は私達から逃れる様に、自室から出ていった。

 

「追いかけましょう」

 

 自室から出て、猫の後を追いかける。

 

 すると、談話室を抜け、空き教室へと、猫が入って行く姿を捉える。

 

 後に続き、空き教室へと入ると、そこには、汚れた服を着た一人の中年男性が猫を抱きかかえていた。

 

「え? なんで…生徒がここに…皆ホグズミードへ行ったんじゃ…」

 

「データ照合。シリウス・ブラックと断定」

 

「マズイ!」

 

 侵入者はその場で踵を返し、開け放たれた教室の窓から飛び降りる。

 

 その体が地面に接近すると、体を反転させ、黒い犬へと変化させ、着地すると同時に、走り出した。

 

「追跡を開始します」

 

 私達も窓枠に足を掛け、そのまま飛び出すと、バーニアを起動し、追跡を開始する。

 

 本拠地に増援が居る可能性もあるので、一定の距離を保ちつつ、後を追いかける。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 黒い犬は息を切らせながら、巨大な柳の木の根元にある空洞へと滑り込む。

 

 私達も、後を追う様に、柳の木に接近すると、突如として柳の木が枝を振り回し、暴れ始める。

 

「排除開始」

 

 迫り来る枝をブレードで切り伏せる。

 

 デルフィもウアスロッドを振り、枝を排除しながら、根元の入り口へと入り込む。

 

 内部は天井が低い小部屋となっており、アンティーク雑貨やピアノなどが置かれており、若干の生活感を感じる。

 

 最奥の部屋から、魔力の反応を検知する。

 

 私達は武装を整えると扉を開け放つ。

 

「グガァァァ!」

 

 黒い犬はこちらを視界に捉えると同時に飛び掛かる。

 

 飛び掛かった黒い犬は私の体を蹴ると、そのまま部屋の中心に着地する。

 

 対する私は、大した衝撃でもないので、そのままビームガンを黒い犬へと向け、デルフィもウアスロッドを突き付ける。

 

「グルルルルッ!」

 

 黒い犬は牙を剥きだし、唸り声を上げながら、威嚇している。

 

「無駄な抵抗は止めて投降してください」

 

「グガッ!」

 

 投降する意思の無い黒い犬は、再び飛び掛かる。

 

「投降してください」

 

 デルフィはウアスロッドを横に薙ぐと、飛び掛かる黒い犬は体をくの字にさせながら、部屋の壁へと吹き飛び、瓦礫の山に埋もれる。

 

「生体反応検知。死亡してはいません」

 

「了解。最終通告です。武装解除し、投降してください」

 

 すると、部屋の隅で、瓦礫の山を掻き分け、口の端から血を流しながら立ち上がると、杖をこちらの足元へと投げ捨て、右手で血の流れてる腹部を押させ、膝を付く。

 

「降参だ」

 

 シリウスは苦しそうな声を上げる。

 

 私は足元の杖を拾い上げると、そのままシリウスに歩み寄ると、医療キットを取り出す。

 

「腹部に軽度の裂傷を確認。医療キットです。応急処置の仕方は分かりますか?」

 

「あ…あぁ、いや…処置の仕方は分からんが」

 

「了解、処置を開始します。大人しくしてください」

 

 シリウスをその場に寝かせ、応急処置を行う。

 

「処置終了」

 

「あ、あぁ。助かったよ」

 

 腹部に包帯を巻いたシリウスは、近くにあったソファーに腰を掛ける。

 

「質問してもよろしいでしょうか?」

 

「構わないが」

 

「では、なぜ不法侵入を? ハリー・ポッターの殺害を企てていると言う話もありますが」

 

 私の質問に対し、シリウスは苦悶の表情を浮かべる。

 

「何故私がハリーを殺さなければならないんだ! 信じて貰えないと思うが、私は無実なんだ!」

 

 突如として、シリウスは声を荒げる。

 

「イテテッ」

 

 声を荒らげた事により、傷口が痛むのか、再び包帯の上から腹部を押さえている。

 

「実は、ある人物…ピーター・ペティグリューを探していてね。奴は世間では私に殺されたことになっているが、総て奴の自作自演。あいつは鼠の動物もどきで、下水管を通って逃げたんだ…小指を1本だけ切り落として…私は奴に罪を擦り付けられたんだ。苦しい日々だったさ…だがそれもあと少しで終わる。奴がホグワーツに隠れているって事は分かっているんだ。後は文字通り奴の尻尾を掴むだけさ。その為に友人と作った地図が必要でね」

 

「その為に不法侵入を?」

 

「あぁ。結局地図は見つからず。君達と鉢合わせって感じでね」

 

「了解」

 

「そういう事だから、ディメンターに引き渡すのだけは勘弁してくれ。私はまだ捕まる訳にはいかないんだ」

 

 シリウスはソファーに座りながらだが、頭を下げている。

 

「現状の判断材料では、貴方の発言が100%真実だと断定する事はできません」

 

「まぁ…そうだよな。だが証拠はある。ピーター・ペティグリューだ。アイツをとっ捕まえて全て洗いざらい吐かせればいい。幸い、この子も協力してくれているからね」

 

 シリウスはそう言うと、猫を抱きかかえる。

 

「さっきも話したが、アイツは鼠に化けていてね。この前新聞を見た時、アイツが写っていた。ロン・ウィーズリーの手の上で何不自由なく暮らしていたさ」

 

 ソファーに座るシリウスは、分かり易く落ち込んでいる、

 

「つまりは、その鼠を捕まえれば、良いという事ですか?」

 

「え? それって協力して貰えるって事かい?」

 

「不本意ながら」

 

「感謝するよ」

 

 シリウスは、深々と頭を下げる。

 

「しかし、貴方への疑いが晴れた訳ではありません」

 

「分かっているよ」

 

 私は、シリウスの杖に、小型の発信機を取り付ける。

 

「杖をお返しします。ですが、杖には小型の発信機を装着させていただきました。効果は1年程度です」

 

「発信機?」

 

 やはり、魔法族は科学技術については、明るくない様だ。

 

「位置を特定する装置です。不審な行動をした場合。即座に確保へと向かいます」

 

「杖を持っている限り、どんな動きをしようとお見通しって事か…」

 

「はい、以降は不法侵入等されないようにお気を付けください」

 

「あぁ、わかったよ」

 

 シリウスは杖を少し眺めた後、溜息を吐き仕舞い込む。

 

「なぁ、一つ聞いても良いか?」

 

「何でしょう?」

 

「君達は本当にホグワーツの生徒なのか? 並の闇払い以上の戦闘力も有る上に、知識も豊富だ」

 

「現在、3年生です。それ以上の情報が必要ですか?」

 

「まぁ…深くは聞かないでおくよ」

 

 消耗からか、シリウスはソファーに横になる。

 

「何かわかったら、教えてくれ。私は基本、ここにいるはずだ」

 

「了解です。傷が痛むようでしたら、鎮痛剤を投与してください」

 

 私はテーブルの上に鎮痛剤を置く。

 

「少量ですが、携帯食料を置いておきます。不足分はまた別の日にお持ちします」

 

 デルフィは、携帯食料を取り出すと、部屋の隅に置く。

 

「何から何まで、すまないね」

 

 その後、私達はハーマイオニーの猫を確保し、自室へと足を向けた。

 

 

  自室に到着してからしばらくすると、紙袋を抱えたハーマイオニーが戻って来た。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいませ」

 

 ハーマイオニーの姿を見た途端、部屋の隅に居た猫が駆け寄る。

 

「クルックシャンクス! 良かった。どこに行ってたのよ。心配したのよ」

 

「にゃー」

 

 猫は間の抜けた鳴き声を上げると、部屋の隅で丸くなる。

 

「見付けてくれてありがとう。これお土産」

 

「感謝します」

 

「いただきます」

 

 ハーマイオニーから簡素な焼き菓子が入った袋を受け取る。

 

「そうだ。これからハロウィーンパーティーね。そろそろじゃない?」

 

 時刻を確認すると、後10分程度で始まる頃だろう。

 

「そうですね」

 

「じゃあ、急ぎましょ!」

 

 ハーマイオニーは勢い良く自室を出る。その後を追う様に、私達も大広間へと移動した。

 

 大広間ではすでにハロウィーンパーティーの準備が整って居り、既に多くの生徒で賑わっている。

 

 

 私達は自身の席に着座しパーティーの開催を待つ。

 

 しばらくすると、ダンブルドアが登壇し、簡単な挨拶の後、ハロウィーンパーティーが始まる。

 

 パーティーが始まると同時に、ロンは目の前の食事に貪りついている。

 

 それを見ていたハーマイオニーは呆れた表情で溜息を吐く。

 




キングテレサ姫の方が好きです。


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人狼

今回は日常回です。




 

   一通りの食事が終わり、パーティーも終了時刻を迎える。

 

 ハリー達と共に、グリフィンドールの談話室へと向かうが、どうやら入り口でトラブルが発生したようだ。

 

「なんでみんな中に入らないんだろう」

 

 

 

 ロンが怪訝そうに言う。

 

 

 

「通してくれ、さあ。何をもたもたしている。みんながみんな合言葉を忘れたわけじゃないだろう? ちょっと通してくれ。僕は首席だ」

 

 

 

 監督生であるパーシー・ウィーズリーが人混みをかき分けて肖像画の方へと近づいていく。

 

 そして騒ぎを聞きつけたのかダンブルドア先生も肖像画の方へと近づいて行った。

 

 私はハリーたちと共に肖像画が見える位置まで移動する。

 

「なんだこれは!」

 

 ダンブルドアが声を荒らげ、女子生徒が悲鳴を上げる。

 

 本来ならば、肖像画が安置されているのだが、その肖像画が滅多切りにされている。

 

「まずは婦人を見付けなければならないな…でなければ入れる者も入れんだろう。教職員は総出で婦人の捜索をするのじゃ」

 

 私は人混みを掻き分け、肖像画の前へと移動すると、額縁に手を掛ける。

 

「これ、あまり絵に触る出ないぞ」

 

「ハッキング開始」

 

 肖像画に掛けられているプロテクトにアクセスし、ハッキングを行う。

 

 数秒後、肖像画は自動に開き、談話室への通行が再開される。

 

「なん…じゃと」

 

「解除完了です」

 

 

 周囲の生徒の視線が集まる中、突如として甲高い声が響き渡る。

 

「見つかったらお慰み! 何と言っても絵から逃げ出した後、醜く走り回ってましたからな」

 

「どうしたのじゃ…ピーブズ…」

 

 

 

「こんなことをする奴は相当残忍な奴ですなぁ! えぇ、まったく、あの悪名高きシリウス・ブラックは」

 

 

 

 ゴーストはその場に居る全員に声高らかに言い放った。

 

 

 

 シリウス・ブラックがこの学園に侵入したと…

 

 しかし、発信機の反応は依然として、柳の木の下の空間にある。

 

 どうやら、杖を置いて侵入したようだ。

 

 

  その夜は、シリウスの侵入を警戒して、各寮の担当教諭が、入り口で見張りをすることになった。

 

「ねぇ…ホグワーツは大丈夫かしら?」

 

 自室のベッドで横になっていると、突如としてハーマイオニーが不安の声を漏らす。

 

「少なくとも、外部に居るよりは安全かと」

 

「そうよね…でも不安だわ…」

 

「ナノマシンの効力により、不安は軽減されている筈です。まだ不安を感じる様でしたら、精神安定剤をご用意いたしますが?」

 

「そこまでじゃ無いわ。そうね。早い所寝て、不安を吹き飛ばすわ」

 

 そう言うと、ハーマイオニーは眠りに落ちていった。

 

 

  次の日は、学校全体が、シリウスの噂で持ちきりだった。

 

 どのように侵入したのか、何が目的なのか、やはり、ハリーを狙っているといった噂が独り歩きをしている。

 

 昼頃、人気が少ないのを確認し、ホグワーツを抜け出すと、シリウスの元へと移動する。

 

 部屋の扉を開けると、中央で黒い犬が欠伸をしている。

 

「どういうおつもりですか?」

 

 シリウスを確認した瞬間、デルフィが口を開く。

 

 それを確認してから、シリウスは人へと姿を変える。

 

「すまなかったな、だがどうしても、自分を抑えきれなかったんだ」

 

「不法侵入は避ける様にと忠告したはずですが」

 

「本当にすまないと思っているよ。まぁ今回は杖が無かったから結構入りにくかったし、ナイフを使うのもしょうがないじゃないか。まぁ学生時代のお礼返しみたいなもんさ」

 

 シリウスはワザとらしく、杖を掲げる。

 

 デルフィはシリウスに近寄ると、その腕を押さえつける。

 

「おい! なにをする!」

 

「大人しくしてください」

 

 私はベクタートラップ内から小型の発信機が入った銃型の注射器を取り出すと、腕に突き刺す。

 

「何のつもりだ! くそっ!」

 

 抵抗するシリウスを押さえつけ、静脈に針を押し付けトリガーを引き、発信機を注入する。

 

「イタッ!」

 

「発信機を埋め込みました。小型なので効力は半年程度でしょう」

 

「ったく…そこまでしなくたっていいじゃないか…」

 

 シリウスは不満を漏らしながら注射後を擦っている。

 

「今後は勝手な行動は慎んでください」

 

「あぁ、わかったよ」

 

 詰まらなそうに携帯食料の封を切った後、シリウスは不思議そうに見つめている。

 

「なぁ?」

 

「はい」

 

「缶詰はまだ分かるんだが、このブロックみたいなの。どうやって食べるんだ?」

 

「その状態で喫食が可能です」

 

「そうなのか。こんなブロックみたいなのが…」

 

 疑いながら携帯食料を口に含んだ後、その表情を煌めかせる。

 

「美味いじゃないか! なんだこれは!」

 

「カロリー計算された携帯食料です」

 

「こんな美味い物が、イギリスにあったとは…最近は鼠ばっかり食べてたからな…」

 

 シリウスはひたすら携帯食料を頬張っている。

 

 そんな状況を背に、私達は自室へと戻って行った。

 

 数日もすればシリウスによる不法侵入の噂など、無かったかのように平穏な日々が訪れる。

 

 しかし、学校側、特にダンブルドアは依然として警戒を解いてはいない様だ。

 

 

  次の授業は闇の魔術に対する防衛なので、私達は教室に移動し待機している。

 

 授業開始時刻になるが、担当教諭であるルーピンは姿を現さない。

 

 不審に思って居るのか、数名の生徒がざわつき始める。

 

 そんな時、扉が開かれ不機嫌そうな表情のスネイプが入室してきた。

 

 

 

「先生、今は魔法薬学の時間じゃありません」

 

 

 

 ハーマイオニーが言うと、スネイプは相変わらず不機嫌な表情で面倒くさそうに答える。

 

 

 

「そんな事は分かっておる、流石に吾輩も…教室を間違えるバカではない、だが君はそうは思わないようだな、ミス・グレンジャー?」

 

 スネイプの嫌味に、流石のハーマイオニーも耐えられなかったのか、目を逸らした。 

 

「ルーピン先生は体調が優れない様でな、故に今回は吾輩が仕方なく代理をする事になった。仕方なくな」

 

 

 スネイプは少し自慢げに言うと、さっそく本を取り出した。

 

 

 その時だった、教室の扉が勢い良く開かれると、ハリーが転がり込んできた。

 

 

「ルーピン先生! すいません…おくれ…」

 

 

 ハリーは教室に居るのが、スネイプだという事を知り、驚愕した表情で、スネイプの顔を見ている。

 

 

 

「大層なご身分だなポッター、授業は既に始まっている。グリフィンドールから10点減点だ。早く座れ」

 

 

「ルーピン先生はどうされたんですか?」

 

 

「体調不良だそうだ、分かったらさっさと座れ」

 

 

「何があったんですか! 怪我とか…」

 

 

「心配はいらないと聞いている。それより早く座らぬか…グリフィンドール10点減点だ。これ以上、吾輩に減点させるつもりか?」 

 

 スネイプの言葉に、ハリーは少し項垂れながら、席に着いた。

 

 ハリーのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。

 

 やはり、スネイプの事が嫌いなようだ。

 

「さて…それでは本日の授業を始める。今回やるのは人狼についてだ」

 

 

 

 スネイプは少し笑みを浮かべながらページをめくると、ハーマイオニーが再び口を挟んだ。

 

「先生、人狼をやるのはまだ早すぎます。まだそこまで教わっていません」

 

 

「この授業は、貴様の授業ではないのだぞ、ミス・グレンジャー…それでは諸君、教科書を開け」

 

「ですが、先生」

 

「もう一度だけ言うぞ、貴様の授業ではない。さっさと教科書を開け」

 

 その後は、人狼についての授業が進んでいった。

 

 盛り上がりには欠けるが、比較的分かり易い授業内容だった。

 

『悔しいけど、分かりやすいわ。なんだか複雑な気分だけど』

 

『要点がまとめられており、重要項目の選定も評価に値します』

 

『はぁ…後は性格さえよければ良い先生なのに…スリザリン出身者ってみんなこうなのかしら?』

 

『それは、僕に対する嫌味かな?』

 

『別に、でも貴方が性格悪いのは理解しているつもりよ』

 

『手厳しいね』

 

 授業が終わると、スネイプが人狼についてのレポートを課題として出し、多くの生徒が不満に満ちた声を上げた。

 

 

「スネイプの授業なんてもう受けたくないよ、早くルーピン先生に戻らないかな」

 

「そうね、私もルーピン先生には早く元気になってほしいわ」

 

「それにしてもどうして、人狼なんてやったんだろう、もっと他にもやることなんて沢山あるのに」

 

 ロンは、呑気そうに呟くと、ハーマイオニーも頷く。

 

『確かになんで人狼についてなのかしら? その項目はまだ先なはずなのに』

 

『おや? もしかして、なぜ人狼をやっているか分かっていないのか?』

 

 トムは意味深な事を口走る。

 

『え? 意味があるの?』

 

『まぁ、無意味に授業を繰り上げる事なんて普通は無いからね。それに今日は――』

 

『今日は?』

 

『本日は、満月です。それが理由でしょうか?』

 

『ご名答』

 

 デルフィの回答に対し、トムは口調を弾ませる。

 

 しかし、人狼とは不思議な生命体だ。病気の一種に分類されているという文献もある。月の満ち欠けにより、体組織が変化し、運動能力が向上し人狼となる。

 

 それと同時に理性を失う。

 

 一説では人狼の起源は狂犬病によるものと言う文献もある。

 

 しかし、先程の授業内容を見る限りでは、狂犬病の一言で片付ける事は出来無さそうだ。

 

『満月…体調不良…まさか…』

 

『気が付いたようだね。きっとあのルーピンとか言う教師は人狼だろうね。今事、薬で抑えているとはいえ、かなり苦しんでいるだろうね』

 

『そんな…だって人狼は…』

 

『教員にはなれないだろうね。普通ならば。でもホグワーツの校長はダンブルドアだ。あの変わり者ならやりかねない』

 

『否定はできません』

 

『同意見です』

 

『うぅ…まぁ…そうよね。残念だわ…良い先生なのに…』

 

 ハーマイオニーは残念そうな表情を浮かべながら、分かり易く肩を落としていた。

 




次回
ディメンターが…

作中の携帯食料はカ〇リーメ〇トです。


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ディメンター

今回は、ディメンター回です。


 

   月日が流れ

 グリフィンドール対ハッフルパフの試合当日。

 

 

 

 外は嵐と言っても過言ではない程の暴風雨だった。

 

 このような天候で屋外競技を行うなど正気の沙汰ではないが、どうやら試合は行われるようだ。

 

 観客席は雨曝しではあるが生徒達は雨具を着込み、歓声を上げ、時折轟く雷鳴と合わさり非常に騒々しい。

 

 そんな中、会場奥の柱付近にシリウスの反応を検知する。

 

 姿を犬に変えて侵入している様だ。

 

 私達は黒い犬の背後に回り込む。

 

「不用意な行動は慎むようにと提言したはずですが」

 

「クゥーン…」

 

 シリウスは分かり易く低い声を上げる。

 

 しかし、こうも容易く不法侵入を許してしまうのはセキュリティ面に関して重大な問題があるだろう。

 

 しばらくすると、選手たちが入場してきた。

 

 

 

 すると、会場のテンションも一気に跳ね上がり、割れんばかりの拍手が爆音の様になる。

 

 

 

 そんな中、選手は皆一様に、緊張しているようで、険しい表情だ。

 

 

 

 両選手が揃った事により、試合開始のホイッスルが雨音に混じりながら会場に響いた。

 

 

 

 雨の中の試合は混迷を極めており、視界が悪い事もあり、現状はグリフィンドールが50点だけリードしている状況だ。

 

 

 

 その中、試合の要であるシーカーのハリーは上空に飛び上がり、視界が悪い中、必死にスニッチを探している。

 

 しかし、スニッチの獲得には至らず試合は進展を見せぬまま前半戦が終了する。

 

 休憩時間の後、後半戦が開始される。

 

 先程まで試合とは打って変わりハリーの動きは機敏だった。

 

 眼鏡に防水加工でも施したのだろう。

 

 しかし、そんな状況は一変してしまった。

 

 

 

  襤褸切れ同然のローブを身に纏った1匹のディメンターが会場に侵入したのだ。

 

 

 

「なに!」

 

 

 

 ダンブルドアの驚く声が周囲に響く。

 

 その後も1匹、また1匹とディメンターが会場へと侵入してくる。

 

 その光景に、周囲の生徒や教師陣からも不安の声が上がる。

 

「あれは!」

 

 試合会場を見ると、1匹のディメンターにハリーが襲われており、気を失ってしまったのか、箒を手放し、真っ直ぐに落下している。

 

 私はバーニアを起動し、飛び上ると気を失ったハリーを空中で受け止め、軟着陸する。

 

 着地と同時に周囲のディメンターが一斉に襲い掛かる。

 

「援護します」

 

 ウアスロッドを構えたデルフィが接近すると周囲のディメンターに近接攻撃を行い一振りで全ての敵を無力化する。

 

「援護感謝します」

 

「周囲に敵影多数確認」

 

 私達はダンブルドアの方に視線を向けるが、唖然としたまま、ただ茫然と空を見上げていた。

 

「このまま放置すれば周辺に被害が及びます。排除行動を開始しましょう」

 

「了解」

 

 私達はその場で飛び上がると、空中を漂うディメンターに接近する。

 

「バースト起動」

 

 バーストモードへ移行し、私の体が、青白い光を放ちながら数秒間動きを停止すると、周囲にディメンターが群がる。

 

「攻撃開始」

 

 その場で腕をブレードに変化させ、バーストを開放し高威力の斬撃を一回転し、周囲のディメンターを一掃する。

 

 デルフィもウアスロッドを回転させ、広範囲のディメンターを排除している。

 

「敵影更に増大」

 

「こちらでも感知しました」

 

 到着したばかりの増援に対しては、ホーミングランスとハウンドスピアを掃射し、ダメージを与える。

 

 ダメージを受け、動きが鈍くなったディメンターを目標に捉える。

 

「「ゼロシフトレディ」」

 

 私達はゼロシフトを起動し、ディメンターとの距離を一気に詰めると、そのままブレードで突き刺す。

 

 そのまま、背後に迫り来るディメンターに対し、突き刺さったディメンターを投擲し、同時に処理する。

 

 デルフィも。ウアスロッドで数体のディメンターを1度に突き刺し、振り払いながら、周辺のディメンターを掃討する。

 

「敵増援を確認」

 

「埒があきませんね」

 

 更なる増援が周囲に潜んでいたのか、ディメンターの増援が会場上空を埋め尽くす。

 

 ダンブルドアの方はというと、他の教職員同様に戦闘中の私達を眺めていた。

 

 そんな時、スネイプが何かを口にしている様だが、ダンブルドアは聞く耳を持たず、ただ茫然として居た。

 

「作戦があります。提案してもよろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

 私はデルフィからの作戦を聞き入れる。

 

「私がベクタートラップで複数の敵を同時に拘束し、一か所に集約します。エイダはそこに効果的の攻撃を」

 

「了解では、その作戦で行きましょう」

 

「了解。作戦を開始します」

 

 私達は上空で合流すると、背中合わせになる。

 

 それと同時に、ベクタートラップ内から、マルチウェポンデバイスを取り出すとそのまま腰だめに構える。

 

「ハルバード起動」

 

 私はサブウェポンからハルバードを選択する。

 

 その瞬間、マルチウェポンデバイスの先端部が展開し、周囲に排熱機構を持ったウィングが展開し、青白い粒子を放つ。

 

『ハルバード』

 貫通力のある照射型のレーザー兵器。

 威力がある反面、マニュアルによる照準操作が必要にある。

 

 しかし、マニュアル操作であるが、今回は私が使用するので的確な射撃が可能だ。

 

「ベクタートラップ起動」

 

 背後のデルフィの背面が光ると、ベクタートラップを起動し、周囲の空間を圧縮する。

 

 すると、空間圧縮により、ディメンターが一ヶ所に集約され拘束される。

 

「今です」

 

「了解。ハルバード照射」

 

 固まったディメンターの集団にハルバードを照射する。

 

 貫通力のある青白いレーザーが着弾すると、ディメンターの体表を貫き、背後に控えていたディメンターをも貫通し、その場に居た全てのディメンターが一斉に蒸発し、消滅する。

 

 その光景に驚愕しているのか、観客席がどよめく。

 

 スネイプは諦めたの、ダンブルドアをその場に残し、場外へと移動した。

 

 そこで、エネルギーの反応を検知した。

 

 前回ルーピンが使用していた守護霊の魔法と同質のエネルギーだ。

 

 それにより、数体のディメンターが撤退を開始した。

 

 しかし…

 

「敵増援を確認」

 

「了解、先程と同じ手順で行きます」

 

 依然としてディメンターの増援が現れるが、再びベクタートラップで一ヶ所に集められ、ハルバードによって消滅させられる。

 

「敵、更に増援」

 

「了解ウィスプ展開」

 

 私は周囲に3基ウィスプを展開する。

 

 デルフィも背後に6基のウィスプを展開する。

 

「攻撃を開始」

 

「殲滅を開始します」

 

 私は、ビームガンを浮遊しているディメンターに向け放つ。

 

 それに同調し、周囲に展開した3基のウィスプがエネルギー弾をばら撒く。

 

 エネルギー弾の波に飲まれ、ディメンターの前衛を消滅させる。

 

「今です」

 

「突貫します」

 

 前衛を退けた事により、デルフィがウアスロッドを構え、突撃する。

 

 その動きに合わせ、6基のウィスプも後を追う。

 

「攻撃開始」

 

 デルフィがウアスロッドを横に薙ぐと、それに同調し、6基のウィスプも周囲で回転し、周辺のディメンターにダメージを与える。

 

「敵、増援。今までより多いです」

 

「がぁ!!」

 

 更なる敵の増援がデルフィを取り囲むと、背後から襲い掛かる。

 

「防衛行動開始」

 

 瞬間、周囲に展開中の6基のウィスプがデルフィの背後に集結すると、ディメンターの攻撃を防ぐ。

 

「反撃行動」

 

 防いだウィスプの先端がディメンターの方を向くと、急加速し、貫いた。

 

 ウィスプによって貫かれたディメンターがそのまま消滅する。

 

「ホーミングミサイル展開、注意してください」

 

「了解」

 

 私の背後にベクタートラップ内から11基のホーミングミサイルが

 

「ロックオン、発射します」

 

 放たれた11基のホーミングミサイルは周囲を浮遊しているディメンターを確実に貫き、消滅させる。

 

 その内の1基が軌道を逸れ、デルフィに接近する。

 

「防御」

 

 デルフィは手近なディメンターの頭部を掴むと、そのまま盾にし、ホーミングミサイルを受け止める。

 

「お見事です」

 

「狙いは正確に頼みます」

 

「了解です」

 

 既に50体近くのディメンターを撃破したが、依然として増援が来る状況だ。

 

「敵増援確認。猛攻来ます」

 

「了解。さっさと片付けましょう」

 

 私は観客席よりも高い位置に飛び上がると、ハルバードを構える。

 

 孤立した私に目標を変えたのか、周囲にディメンターが集結する。

 

「回転開始」

 

 ハルバードを照射しながら、そのまま水平に低速で回転を開始する。

 

 ハルバードの回転により、周辺のディメンターが一斉にエネルギーの照射を受け、一瞬で蒸発する。

 

「お見事です」

 

「敵反応減少。あと少しです」

 

「了解。終わらせましょう」

 

 再び背中合わせになった私達は、前面に6基のウィスプと11基のホーミングミサイルを展開する。

 

「ロック完了」

 

「攻撃開始です」

 

 私達の振り下ろした手と同時に放たれたウィスプとミサイル群は、空中を飛び回り、周囲のディメンターを切り裂き、突き刺し、爆散させながら、処理していく。

 

「敵反応更に減少。残り2」

 

「了解」

 

 私達は空中で離れると、それぞれディメンターの頭部を掴む。

 

「もうやめるのじゃ!」

 

 突如、拡声されたダンブルドアの声が響く。

 

「それ位でやめておくのじゃ。もう十分だろう」

 

「ですが、敵対象はまだ戦闘の意思を示しています」

 

「じゃが…これ以上…」

 

「このまま開放すれば、被害が拡大する可能性があります。今回の事態に対するご意見は?」

 

「それは…ディメンターが急に来るなどと…思いもよらぬことじゃ…」

 

「教員であるならば、その程度予測し、対抗策を講じられたはずです」

 

「じゃが! ディメンターに対してワシは守護霊の魔法を展開しようと…」

 

「既に敵対反応はこの2体のみです」

 

「しかし…」

 

 掴んだ状態だが、依然としてディメンターは暴れている。

 

「処理を再開します」

 

「了解」

 

 ダンブルドアはその場で静かに座り込んだ。

 

「「投擲」」

 

 私達は互いに向かい合い同時にディメンターを投擲する。

 

 投げ出されたディメンターは私達の横を抜けると、背後のゴールポストへと収まり、消滅する。

 

「ETR反応消失」

 

「敵の増援反応もありません」

 

「戦闘終了。今回の戦闘における周辺の被害情報を報告。建造物損壊些少。死傷者は有りません」

 

「総合判定はA評価ですね」

 

「了解。作戦終了。帰投しましょう」

 

 着地後、ハリーを抱え会場を後にする。

 

 その時、職員席を見上げると、そこには表情を曇らせたダンブルドアの姿があった。

 

 ちなみに今回の試合結果はハッフルパフの勝利という事だった。

 




ディメンターがごみの様だ。

はっきり言ってディメンターを多く登場させすぎましたが、戦闘を盛り上げる為の致し方ない犠牲です。



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勧誘

今回は、とても平和な、ほのぼのした回です。


 

  ディメンター襲撃の翌日、医務室で目を覚ましたハリーは目の前に積み上げられた箒の残骸を見て項垂れていた。

 

 ディメンターの襲撃を受けた際、箒を手放してしまいそれにより、箒が柳の木に直撃し、大破したようだ。

 

 ロンとクィディッチのメンバーが総出でかき集めた様だ。

 

「はぁああぁ…」

 

 ベッドの上に置かれた箒の残骸を持ち上げては落とすを繰り返している。

 

 メンタルコンデションレベルが低下し、状況はかなり深刻そうだ。

 

 

  数日後にはクリスマス休暇が始まる。

 

 ハリーは例年通りホグワーツで過ごすことになった。しかし今年は医務室のベッドの上から始まるようだ。

 

 他の面々は自宅へと帰るようだ。

 

 しかし、ハーマイオニーとロンはハリーを気に掛けてか残るようだ。

 

 私達も例年通り自宅へと帰宅する。

 

 

  クリスマス休暇中、時々来るハーマイオニーからの通信に答えながら、資金繰りにいそしんでいた。

 

 去年の負債により、大幅な金策が必要となった。

 

 その為、人工的な宝石や、金属加工品を魔法界へと持ち込むが、やはり足元を見られているのか、想定よりも低い金利での取引となった。

 

  クリスマス休暇も終わり、ホグワーツへと戻ると、大広間にて依然として腕に包帯を巻いたマルフォイが接近する。

 

「やぁ、君達。久しぶりだね。良いクリスマスだったかい?」

 

「例年通りです」

 

「そうかい、そりゃよかった」

 

「失礼ですが、腕は既に完治しているのではないですか?」

 

「あ? これかい? 完治はしているけど傷跡がまだね。それに包帯している方がカッコいいだろ?」

 

「そうですね」

 

 デルフィは適当に賛同する。

 

「まぁ、それに父上に事件の事について話をしたら、理事に訴えてくれたみたいでね。近い内にヒッポグリフは裁判に掛けられるだろう。処刑だろうね。まぁ君達は最初から殺処分した方が良いって言って居たけどね。だって、君達が助けてくれなかったら、今頃僕は死んでいたからね」

 

「その通りです。不用意に危険に足を踏み入れる様な事はお控えください」

 

「あぁ、分かっているさ。それじゃあ、僕は談話室へと行くよ」

 

 マルフォイはそう言うと、取り巻きと合流し大広間を抜けていった。

 

 

  クリスマスが終わったころから、ハリーとハーマイオニーの仲が険悪な関係になっている。 

 

 理由は恐らく、ハリーがクリスマスプレゼントに新しい箒を貰ったのだが、その送り主が不明で、その事を不審に思ったハーマイオニーがマクゴナガルに申告し、箒を取り上げられてしまったのが原因だ。

 

『スキャン結果は安全だったんだけどね』

 

『そんな事言われたって、差出人が書いてなかったんだもん。それに今はシリウス・ブラックがうろついているし…』

 

 談話室では相変わらず、ハーマイオニーがトムと無線で通話している。

 これと言って変わった所は無い様だ。

 

 私達は談話室を抜け出し、シリウスの元を訪ねると部屋の中心部で、黒い犬が寒さに凍えていた。

 

「ご無事ですか?」

 

 シリウスは黒い犬から人型へと変化する

 

「無事だけど、すごく寒い。毛皮なんて意味が無いな」

 

 どうやら毛皮が有っても寒い物は寒い様だ。

 

「と言うか君達はそんな恰好で寒くないのか?」

 

 シリウスは私達が防寒具を身に着けていない事を指摘する。

 

「ご心配には及びません」

 

 宇宙と言う温度差の激しい空間での運用を想定されているので、この程度の寒さでは行動に支障は無い。

 

「カリストの寒さに比べればこの程度何の問題もありません」

 

「カリスト? 聞いた事無いな…」

 

「投棄された事を未だに根に持っているのですか?」

 

「そんな事は有りません」

 

 デルフィが不思議そうに首をかしげる。

 不本意ながら、不愉快だ。

 

「あー…まぁ…なんだ。それより、ハリーは箒を貰って喜んでいたか?」

 

 どうやら、箒を送った人物はハーマイオニーの見立て通りシリウスで合っていた様だ。

 

「匿名だったので現在はマクゴナガルが保管しています」

 

「なんだと! どうして…やはり名前を書いておくべきだったか…」

 

「ご自分の立場を理解されていないのですか?」

 

「自分の立場…あっ…そういう事か…」

 

「これ以上問題を起さないでいただけますか?」

 

「あー…うん。分かった気を付けるよ」

 

 シリウスは少し悲し気に呟き、犬へと戻っていった。

 

 

 

  数日後、マクゴナガルの許可も降り、ハリーの元へと無事、箒が戻り、そのおかげか2人の仲も元に戻った。

 

「ハリー良かったな」

 

「あぁ! でもいい箒だよ!」

 

「そりゃそうだよ! 500ガリオンはくだらないぜ!」

 

「そいつは凄い!」

 

 ハリーの持っている箒が珍しいのか、周囲に人だかりが出来ていた。

 

 そんな中一人の人物がこちらに近付いて来る。

 

「君達、ちょっといいか?」

 

 声を掛けてきたのはグリフィンドールのクィディッチキャプテンだった。

 

「なんでしょうか?」

 

「ご用件は?」

 

「ハリーからいろいろと聞いていてね、それにこの前のディメンターとの戦いを見てね。君達は箒が無くても飛べるんだよな?」

 

「可能です」

 

「それは凄い、そこで相談なんだが、クィディッチのメンバーに入る気はないか?」

 

 突然の申し出に、周囲の生徒が騒めき立つ。

 

「まぁ、すぐにレギュラーって訳にはいかないけど、まずは選考試験を――」

 

「「お断りします」」

 

 私達は声をそろえてメンバーへの参加を辞退する。

 

「え? どうして?」

 

「参加するメリットが有りません」

 

「だけど」

 

「ならこうしよう」

 

 突如ハリーが箒を手にこちらに歩み寄る。

 

「僕とスピード勝負だ。もし負けたら選考試験を受けて欲しい」

 

「我々が勝利した場合はどうなりますか?」

 

「もう勧誘しないよ。入るも入らないも君達の自由だ」

 

 周囲の生徒が固唾を飲んで見守る中、私達は首を縦に振った。

 

「了解です」

 

「OK! じゃあ競技場へ行こう!」

 

 私達は、周囲の生徒に見送られ会場へと移動した。

 

 

 会場に着くとハリーはさっそく箒に跨り試運転を行う。

 

 

 速力はそこまでではないが、操作性が良いのか、複雑な軌道を描いている。

 

「ふぅ、やっぱりいい箒だこれは」

 

 箒に跨ったままハリーは上空に停滞する。

 

「さぁ! 君達も!」

 

 私達もバーニアを起動し、空中に停滞する。

 

「勝負は簡単。クィディッチ会場を10周するだけ! 君達の内どちらか一方が僕より先にゴール出来たら勝ちさ!」

 

「了解です」

 

 箒に跨ったリーダーが笛を咥える。

 

 次の瞬間、甲高い笛の音と共にハリーが急発進する。

 

 数秒後、私達も加速を開始する。

 

 同時には加速しても良いのだが、その場合加速時の衝撃波によってハリーのダメージが入る恐れがあった。

 

 加速した私達は、ハリーの背後を視界に捉えると、こちらに気が付いたのか、更に加速する。

 

 しかし、加速したハリーよりもさらに加速し1週目のゴールを通過すると同時に前面へと移動し、体を反転させ、後方に飛びながらハリーに視線を落とす。

 

「乗り心地は如何ですか?」

 

「すごく良いね。でもなんで君達が前に居るんだよ…」

 

「お気になさらず。ではお先に失礼します。」

 

 並走する意味は無く、更に加速し、周囲に影響のない速度を維持し、数秒で残りの9週を終わらせる。

 

「終了しました」

 

「お疲れ様です」

 

 2週目を終わらせたハリーに告げると、項垂れた様に着陸すると、控え室へと消えていった。

 

 それから月日が流れ、学年末テストが始まった。

 

 

 

  今回のテストは比較的容易で、皆拍子抜けしたようだ。

 

 その中でも、魔法生物飼育学のテストに至っては、レタス食い虫を1時間観察するだけといった、無意味な物だった。

 

 しかし、占い学のテストの内容は通常ならば水晶に映った物を答えるという内容なのだが、今回は違った。

 

 担当教諭である、トレローニーが『月の石』の提出をテスト内容に組み込んだのだ。

 

 サンプルとして提供した『月の石』はどこにでもある様な花崗岩だった。

 

 提出期限前日、私達は地球を離れ、月面で石を採取すると、除染処理を行い、提出する。

 

 要した時間は30秒程度だった。

 

 

 そして、テストが終わった頃、談話室に入ると、ハーマイオニー達がどこか神妙な表情で話し合いをしている。

 

「あ…君達か」

 

「どうかされましたか?」

 

 ハリーは手にしていた紙をこちらに手渡す。

 

 そこには、ヒッポグリフの処刑執行に関する詳細が掛かれていた。

 

「どう思う?」

 

「妥当な判決かと」

 

「おい! そりゃないだろ!」

 

 ソファーに腰を掛けていたロンが急に立ち上がる。

 

「処刑だぞ! いくら何でも酷すぎないか! 命を奪うなんて…」

 

「ですが、これは既に魔法省で可決された案件です」

 

「だから、可決されるのがおかしいんだよ! だって、マルフォイの奴が失礼な態度を取ったからいけないんだろ!」

 

「無礼な態度ならば、危害を加えてもいいという問題では有りません。この書類には人命を脅かす行為という事で魔法省が処理したと記されています。上告も拒否されています」

 

「理不尽だ!」

 

 ロンは大声を上げながら、頭を抱えている。

 

「私も似たような判例が無いか探してみたけど…ダメだったわ…」

 

「ちゃんと探したの? もしかしらたら見落としているんじゃないの?」

 

「そんなことある訳ないでしょ。そこまで言うなら自分で探したらいいじゃない」

 

「僕にそんな事が出来ると思うか?」

 

「ロンには無理だね」

 

「ハリー、君がそれ言うか?」

 

 ハリーは視線をずらす。

 

「とりあえず、ハグリッドの所へ行くよ。ここでじっとしている訳にもいかないよ」

 

「あぁ、そうだな。ハグリッドが心配だ…自殺してなきゃいいけど…」

 

「流石にそれは無いと思うけど…心配だわ」 

 

 ハリー達は意を決したようで、ハグリッドの元へと向かっていった。

 

 

 その後、ヒッポグリフの処刑は行われた。

 




今回は、ヒッポグリフの処刑が行われました。

いくら2人でも、流石に魔法省で決定された事を、無理やり捻じ曲げる事はしません。(できないとは言っていない)


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叫びの館

今回も、戦闘シーンは有りません。

まぁ、アズカバン編は仕方ないです。


   ヒッポグリフが処刑されてから数日後、ハリー達は依然として、ハグリッドのもとに通い、慰めている様だ。

 

『ねぇ! お願い! 助けて!』

 

 突如としてハーマイオニーから通信が入る。

 

『ロンが! ロンが黒い犬に連れて行かれて!』

 

 急ぎシリウスの反応を確認すると、丁度柳の木の下で反応している。

 

『了解です。救援に向かいます』

 

 私達は移動を開始した。

 

 シリウスの反応地点へと移動すると、ハリー達が暴れ回る柳の木によって足止めされていた。

 

「エイダ! デルフィ!」

 

「ご無事ですか?」

 

「私達は大丈夫。でもロンが木の下に連れて行かれちゃって」

 

「でも、暴れ柳が暴れまくってて…」

 

「了解。対処します」

 

 ベクタートラップ内からサブウェポン、『フローティングマイン』2個取り出すと空中に浮遊させる。

 

『フローティングマイン』

 浮遊する大型爆雷。投擲武器として使用する事も可能。

 量産型のオービタルフレームならば、簡単に爆破可能な威力がある。

 

「なにそれ…」

 

「うわぁ…でっかい球体」

 

 私達はフローティングマインを手に取る。

 

「「投擲」」

 

 同時に柳の木目掛けてフローティングマインを投擲する。

 

 着弾と当時に大規模な爆発が起こり、熱波が周囲に走り、柳の木が吹き飛ぶ。

 

 パラパラと焦げた木片が周囲に飛び散る中ハリー達は唖然として居た。

 

「障害を排除」

 

「排除って言うか…」

 

「やりすぎじゃない?」

 

「必要な処置です」

 

「では行きましょう」

 

 焦げ臭い臭気が漂う中、私達は侵入を開始した。

 

 

  内部に侵入すると床に倒れたロンの腹部に隠れている鼠に対しシリウスが杖を向けている。

 

「ロン! 無事か!」

 

「ハリー! 逃げるんだ! これは罠だ!」

 

「シリウス…ブラック…」

 

 こちらに気が付いたのか、シリウスは杖を突き付けたまま、首だけを動かしこちらに視線を向ける。

 

「さっきの爆発は何だ!」

 

「上部の柳の木を爆破しました」

 

「爆破だと! こっちにまで被害が出たらどうするつもりだ!」

 

「全て計算の上です」

 

「そうか、それならいいんだが…それより見てくれ! ようやく捕まえたぞ!」

 

 シリウスは嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとうございますって…まさか君達!」

 

 ハリーは体を反転させ、こちらに杖を向ける。

 

「ちょっと! ハリー!」

 

「まさかとは思うけど、シリウス・ブラックと…僕の両親の仇と繋がっていたのか!」

 

「仇だと! それは違う! 違うんだ…ハリー…」

 

「気安く僕の名前を呼ぶな!」

 

 怒りに任せハリーはこちらに向け杖を振るう。

 

 しかし、放たれた魔法は常時展開している防衛システムにより霧散する。

 

「無駄な事はおやめください」

 

「くそっ!」

 

 無駄だと分かったのか今度はシリウスに杖を向ける。

 

「待つんだ! ハリー!」

 

「ルーピン先生」

 

 体調が悪そうなルーピンが現れると、ハリーとシリウスの間に割って入る。

 

「爆音が聞こえて駆け付けたんだ。ハリー…ここは任せてくれ」

 

 ルーピンはシリウスに歩み寄ると、二人は熱い抱擁をする。

 

「友よ!」

 

「会いたかった! 会いたかったぞ!!」

 

 その光景を目にした3人は絶望しきった表情をしている。

 

「そんな…どうして先生まで…」

 

「どうなっているんだよ! 僕は! 僕は信じていたんだ! それなのに先生は! それに君達だって! 僕を裏切るなんて!」

 

「頼む! 話を聞いてくれ!」

 

「ハリー…とりあえず話だけでも聞いてみましょう」

 

「ありがとう」

 

 興奮状態のハリーをハーマイオニーが宥め、ルーピンが状況説明を始めた。

 

 要約すると、ルーピンとブラックはハリーの両親と同級生であり、人狼だったルーピンはホグワーツに入学する事は拒否されていたのだが、ダンブルドアが無理押したようだ。

 

 

 

 人狼であるルーピンは、満月になるとこの場所。通称『叫びの館』で過ごして居たという話だ。

 

「もう十分だろう…私はずっとこの時を待っていた! さぁ! 早くそいつを殺そう!」

 

「あぁ…そうだな」

 

 2人は杖を取り出すと同時に、部屋の入り口が吹き飛ばされ、土煙が上がる。

 

 

 

  土煙の奥からは、愉悦に満ちた表情のスネイプが杖を構え悠然と入室してきた。

 

 

 

「復讐は蜜よりも濃く、そして甘い。お前を捕まえるのが我輩であったらと…どれほど願ったか。今どれほど歓喜に満たされているか、お前には分かるまい」

 

 

 スネイプが自作のポエムを口遊みながら、憎しみを込めた視線をシリウス達に向けている。

 

「スニベルス! お前か!」

 

「その名で吾輩を呼ぶな! シリウス・ブラック!! 覚悟するが良い、今すぐディメンターに引き渡してくれよう!」 

 

「待ってくれスネイプ! シリウスは……」

 

「黙れ! この薄汚れた人狼め! 貴様もディメンターに引き渡してやる」

 

 スネイプは、杖を構え、ルーピンに魔法を放とうとする。

 

 しかし、そんなスネイプの不意を突くように、ハリーが魔法を放った。

 

「なっ!」

 

 不意打ちにより魔法を喰らってしまったスネイプは、部屋の奥に吹き飛ばされ、気を失ってしまった。

 

 

 

「ハリー…」

 

 

 

 シリウスは感極まったようで、ハリーにゆっくりと歩み寄って行く。

 

 

 

「動くな! 僕はお前を庇った訳じゃない! 真実を知りたいんだ!」

 

 

 

「あぁ…分かった真実を話そう…君の両親を裏切ったのは私ではない…ピーター・ペティグリューだ」

 

「ピーター・ペティグリュー…」

 

 ハリーはその名前に聞き覚えがあるのか、何かを考えている様だ。

 

 

 

「そうだ…そして奴は今この場所に居る!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ハリー達は間の抜けた声を上げた。

 

 

 

「一体どこに…」

 

 

 

「奴はそこに居る!」

 

 

 

 シリウスはロンの方に杖を突き付ける。正確には、ロンが手にしている鼠にだが。

 

 

 

「ロンがそうだっていうの? そんなのありえないわ!」

 

『残念、ハズレだ』

 

 

 ハーマイオニーが大声を上げるが、それをシリウスが遮った。

 

 

 

「違う。奴が持っている鼠だ!」

 

 

 

「スキャバーズが? そんなのありえないよ!」

 

 

 

 鼠を隠すように、ロンが体を捻る。

 

 

 

「奴は鼠の動物もどきだ!」

 

 

 

「そんな事…スキャバーズは僕の家族だ! 12年間ずっと一緒だったんだ! ペティグリューなんて奴知らないよ!」

 

 

「12年も生きる鼠がいるものか!」

 

 

 鼠の平均的な寿命からすれば、12年は異常だ。

 

「ロン…スキャバーズを渡すんだ」

 

 

 ハリーが宥める様な口調でいうが、ロンはそれに応じようとはしない。

 

 

 

「嫌だよ! なんでスキャバーズなのさ! 鼠なんて何百匹といるじゃないか!」

 

 

 

「それを証明する為さ。違うようなら危害は加えないよ」

 

 

 ルーピンが諭すように話しかけ、ロンが渋々鼠を渡そうとした瞬間…

 

 

「スキャバーズ!!」

 

「くそっ!」

 

 鼠はロンの手から逃げ出し、部屋の中を走り回る。

 

 

 

「逃すか!」

 

 

 

 ルーピンとシリウスが杖を振り、魔法を連射すると、そのうちの1発が鼠に命中した。

 

 

 

 すると、小さな鼠は薄汚れた鼠の様な男に姿を変えた。

 

 

『アイツは見たことあるよ』

 

『え? 本当?』

 

『あぁ、マルフォイ邸に出入りしていたよ』

 

『じゃあ、シリウス・ブラックが言って居る事にも信憑性が出てきたわね』

 

『まぁ、普通に考えれば12年生きている鼠なんて怪しすぎてペットにはしないね』

 

『まぁそうよね』

 

 

「や…やぁ、リーマス…シリウス…久しぶりだね…」

 

 

  小汚い男はオドオドしながら、二人に話しかける。しかし二人から帰ってくるのは、憎悪に満ちた視線だった。

 

 

 

「やっと会えたな!」

 

 

 

 2人は鋭い視線で杖を構える。

 

 

 

「ま…待ってくれ! 私は悪くないんだ!」

 

 

 

「貴様…この期に及んでまだ戯言を!」

 

 

 

「話を聞いてくれ! 私は逃げていたんだ! シリウスが私を殺しに来ると…それが怖くて…」

 

『ちょっと信じられないわね』

 

『もう少しマシな嘘が有ると思うんだが…』

 

「発汗量、心拍数から判断するに、今の発言に信憑性はありません」 

 

「生徒にも見破られる様な嘘が通用すると思ったか! 貴様が私を恐れている? 違うだろ! 貴様が恐れているのは私ではない! アズカバンの連中に聞いたぞ! 主の死の切っ掛けを作った者を許さないとな!」

 

 

「ヒィ! り…リーマス…君は信じてくれるよなぁ…」

 

 

 

「君の話が本当なら…だがなぜ12年も鼠になって隠れていたんだ? それに彼女達は嘘だと言っているよ」

 

 ルーピンの的を射た質問に、答えが見つからないのか、少し考えた後、苦しそうな言い訳を放った。

 

 

「あの小娘が嘘を言って居るんだ! それに…シリウスは、あの人の仲間だったんだ…だから…」

 

 

 

「仲間だと! 貴様! ふざけた事を!」

 

 

 

 苦し紛れの言い訳に、シリウスが怒声を上げた。

 

 

 

「私が友を裏切っただと! ふざけるなよ! そんな事をするくらいなら、私は死を選ぶ!」

 

 

 

 シリウスは怒りに任せ、ピーターを殴り飛ばすと、杖を構えた。

 

 

 

「リーマス!」

 

 

 

「あぁ、分かっている! 共にコイツを殺すぞ」

 

 

 

「嘘だろ…君ならわかってくれるよな…」

 

 

 

 近くに横になっているロンに、這いずりながら近付き、頭を垂れている。

 

 

 

 しかし、ロンはそんな姿を、まるで汚らわしい鼠を見るような視線で見据える。

 

 

 

「お前のような奴と一緒に生活していたなんて…」

 

 

 

「お…お嬢さん、君からも何か言ってやってくれ…」

 

 

 

 今度はハーマイオニーに擦り寄るが、ハーマイオニーは軽蔑した視線を向けながら、後ずさった。

 

 

 

「誰が貴方みたいな人を…」

 

『なんだか哀れだねぇ』

 

 

「君達なら分かってくれるよね。凄く賢そうだし」

 

 こちらに手をすり合わせ接近する。

 

「先程も申し上げましたが、貴方の発言に対しての信憑性は0%です」

 

「そんな事言わずに、ね」

 

 ピーターは私の肩に手を置こうとする。

 

 しかし、触れる寸前、私はシールドを展開し、手の平を焼き払い、デルフィのウアスロッドがピーターの腕に直撃する。

 

「あぁがががっがががああ!!」

 

「近寄らないでください」

 

「最終警告です」

 

『警告って言うか…』

 

『既に攻撃してるよね』

 

『殺害してはいません』

 

『おぉ、くわばらくわばら』

 

「あグ! アガァ!」

 

 辛うじて原形が残って居る腕を擦りつつ、今度はハリーに接近する。

 

「ハァリィ、君は本当にお父さんにそっくりだ…君のお父さんなら、許してくれるはずだよ…もちろんお母さんもね…」

 

 

 

「ジェームスの名を出すな!」

 

 

 

 シリウスは堪忍袋の緒が切れたのか、ピーターに杖を構えている。

 

 

 

 しかし、それを遮る様にハリーが二人の間に入った。

 

 

 

「ハリー! 退くんだ!」

 

 

 

「ハァリィ! 許してくれるんだね…やっぱり君は優しい…」

 

 

 

 ハリーに擦り寄り、媚を売っているが、それを遮る様にハリーが言い放つ。

 

 

 

「お前の為じゃない! お前は…ディメンターに引き渡す…そして…シリウスの無実を証明する…」

 

 

 

 ハリーの宣言に、薄汚れたみすぼらしい男性は絶望の表情を浮かべた。

 




爆風が発生しないとは言ってない。


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救援要請

少し、暴れますね。


 

   ピーター・ペティグリューをディメンターに引き渡す事が決定した後、気を失ったスネイプを起さないように気を使いながら全員が叫びの館から退却する。

 

「うわぁ…本当に暴れ柳が…」

 

「あぁ、誰の仕業か知らないが、ここに来た時には暴れ柳が消し飛んでいたんだ、とてつもない爆破音もしたし、きっとそれが原因だろう」

 

 突如、ルーピンを除く全員の視線がこちらに集まる。

 

「え? まさか君達が…」

 

「障害を排除したまでです」

 

「そ、そうか…うん」

 

 皆、納得していないようだが、首を縦に振った。

 

 その時、ピーターが周囲を見回す。

 

「変な気を起すなよ、ピーター」

 

「や、やだなぁ。そんなことする訳ないじゃないか」 

 

 ルーピンはピーターに杖を突き付けながら、城への道を歩いている。

 

 

 そんな中、何か思いつめたような表情で、シリウスが口を開いた。

 

「なぁ、ハリー」

 

「なに?」

 

「その…もし私の潔白が証明されたら…私と一緒に暮らさないか…」

 

「え?」

 

 突然のシリウスの申し出にハリーは驚いた表情をしている。

 

 

「誰かに聞いて居るかもしれないが…私は君の名付け親でもあるんだ…それはつまり…君の両親が私を君の後見人に決めたのだ。もし自分たちの身に何かあればと…」

 

 

 

 シリウスは声に抑揚を付けながら、どことなく、不安と期待の入り混じった声でハリーに話掛ける。

 

 

 

「もし君が、叔父や叔母との生活に満足しているというなら、無理強いはしない…でも…その考えてくれないか…私が汚名挽回する事が出来たら…もし君が家族を欲するなら…」

 

 

 

「それは…僕が、貴方と一緒に暮らせるという…」

 

 

 

「そうだ…だが君が望まないなら…その…」

 

 

 

 シリウスは何処と無く悲し気な表情をしている。

 

 

 

「僕は、あの家からは一刻も早く出たい! 出来る事なら貴方と暮らしたい!」

 

 

 

「良いのか…ハリー…」

 

「うん!」 

 

 シリウスは満面の笑みを浮かべ、ハリーもそれに応える様に、微笑み返している。

 

「ふぅ…これで一件落着だな」

 

 ルーピンは祝福したような表情で、二人を見守っている。

 

「良かったわ」 

 

 ハーマイオニーも安堵の表情を浮かべる。

 

『いや、まだ安心するのは早いね』

 

『え? どういう事よ?』

 

『だって今日は――』

 

 トムの発言にハーマイオニーは疑問を持つ。

 

 私達は、ブレードとウアスロッドを展開する。

 

「おいおい、二人ともなんでそんな物騒な物を」

 

「ううぅうぅぅうううぅ!」

 

 満月の月明りに照らされたルーピンが突如として呻き声を上げる。

 

「そんな…まさか先生!」

 

「離れるんだ!」

 

 

 

 シリウスが緊迫した声を上げ、ハリーを突き飛ばした。

 

 

 

「うぅうう…うううぅう!」

 

 

 

「リーマス! 落ち着くんだ! 良いから私を見ろ! 自分を失うな!」

 

 

 

 シリウスは変貌を続けているルーピンに駆け寄ると、肩を掴み、大声を上げる。

 

 

 

「がぁあ!」

 

 

 

「うっ!」

 

 

 

 掴みかかるシリウスを払い除ける様に人狼が爪を振るい、吹き飛ばした。

 

 

 

 吹き飛ばされたシリウスの腹は、爪で引き裂かれ、片手で腹を押さえながら、口から血を流している。

 

 

 

「にげ…るんだ…」

 

 

 

 シリウスは力なく声を上げる。

 

 

 

 その時だった…

 

 

 

「待て!」

 

 

 

 先程まで、縄で縛られていたピーターが、ルーピンの落とした杖を拾い上げ、自らに呪文を掛けた。 

 

 すると、みるみる体が小さくなっていき、最終的にはみすぼらしい鼠に変貌した。

 

「逃すか!」

 

 ハリーは、薄汚い鼠に飛び掛かるが、人間が鼠を簡単に捕まえられる筈も無く、ハリーの手を逃れ、走り出した。

 

「くそっ!」

 

 ハリーは悔しそうに悪態を付く。

 

 鼠は森の入り口へと到達した。

 

「Fマインリリース」

 

「投擲します」

 

 私が取り出したフローティングマインをデルフィが手に取ると鼠が居た地点へと投擲する。

 

 着弾と同時に広範囲の爆発が起き、爆風に乗って鼠が足元に吹き飛んでくる。

 

「おい! なにやってるんだよ!」

 

 爆破を見たハリーが声を荒らげる。

 

「確保します。生存確認」

 

 鼠の尻尾を摘まんだデルフィが報告する。

 

 全身火傷と複雑骨折を数か所確認するが、辛うじて生きている様だ。

 

 鼠の様な小型生物だった為、爆発に際し発生した破片に当たらずに済んだようだ。

 その上、爆破範囲を強化し、低威力に調節したので、生存しているのだろう。

 

「お任せします」

 

 瀕死の鼠をロンへと預けると、まるで汚物の様に摘まみながらポケットへと収納した。

 

「ぐがぁあああああ!!」

 

  再びルーピンが雄叫びを上げると負傷したシリウスと、寄り添うハリーに迫る。

 

「やめて!」

 

「自分を失うな! 頼む…リーマス…」

 

 人狼へと変化したルーピンが牙を剥きだし、爪を振り上げる。

 

「ハルバード照射」

 

 私はルーピンとハリー達の間にハルバード照射し、直線的に地面を焼き払う。

 それに伴い、炎のカーテンが出来上がる。

 

「それ以上の接近は敵対行動とみなします」

 

「最終警告です」

 

「ぐうぅうぅぅうぅぅぅうう!!」

 

 邪魔されたルーピンは、歯を食いしばり、涎をたらしながらこちらを睨む。

 

「拘束を開始します」

 

「殺さないでくれ! その人狼はルーピン先生なんだ!」

 

 ウアスロッドとブレードを構えると、炎のカーテンの向こうからハリーが声を上げる。

 

「私からも頼む…今は自分を失って居るだけだが…リーマスを…頼む」

 

「善処します」

 

 ハリー達はふら付きながら、森へと消えていった。

 

「がぁぁああああああ!!」

 

 咆哮を上げたルーピンがこちらに突進する。

 

「防衛行動開始」

 

 突進を開始するルーピンのを左右に飛び退き回避する。

 

「拘束」

 

 回避と同時に人狼の頭部を掴む。

 

「大人しくしてください」

 

 抵抗する人狼の頭部を地面へと叩きつける。

 

「がぁあああああ!!」

 

 しかし、依然として戦闘の意思があるようで、尚も暴れている。

 

「バーニア起動」

 

 バーニアを起動し、人狼の頭部を地面に擦り付ける様に高速で移動する。

 

「がぁ!!」

 

 十数メートル程移動した後、人狼の動きが停止する。

 

「ベクタートラップ展開」

 

 デルフィがルーピンの背後の空間をベクタートラップで圧縮する。

 

 それにより、圧縮空間にルーピンの体が地面に縛り付けられ、身動きが取れない状態になる。

 

「ゲイザー投擲」

 

 対人使用時よりも出力を上げたゲイザーを投擲すると、ルーピンの胴体に着弾する。

 

「ガガガガッ!!!」

 

 その場で痙攣し、気を失ったようだ。

 

「拘束完了」

 

 ゲイザーにより無力化に成功した。

 

「見事な手前だ」

 

 

  背後から腹部を押さえながら杖を構えたスネイプが歩み寄る。

 

「人狼は無力化したのか?」

 

「問題ありません。負傷しているようですが、応急処置を行いますか?」

 

「結構だ。マグル式のは好かない」

 

「そうですか」

 

「あぁ、この人狼は後どれ位眠ったままだ?」

 

「推定ですが、覚醒措置を施さない限り半日は目を覚まさないかと」

 

「そうか。ところであの男はどこへ行った?」

 

「シリウス・ブラックはハリーと共に森の中へと撤退しました」

 

「そうか」

 

『すまないが、手を貸してくれないか?』

 

 トムから通信が入る。

 

『如何いたしました?』

 

『逃げた先でディメンターの群れに襲われてね』

 

『了解です。被害状況は?』

 

『全員気を失っている。そうだなぁ…このまま行けばかなり危ないかもね。持っても後5分かな?』

 

『了解。急行します』

 

「救援を要請してもよろしいですか?」

 

「なんだいきなり」

 

「ハリー達がディメンターに襲われているとの情報です」

 

「お手伝いいただけますか?」

 

「何処の情報かは知らぬが、奴の手助けをするのは不本意だ。だが仕方あるまい。吾輩は教師だからな…案内しろ」

 

「了解」

 

 私達は、救援要請があった地点へと走り出す。

 

 

 救援要請地点の巨大な湖の畔でハリー達が倒れ込んでおり、ハーマイオニーの手元でタブレット端末が光を放ち、防御シールドを展開している。周囲には防御シールドによって行動が阻止されているのか、ディメンターが浮遊している。

 

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

 その時、スネイプの低い声が周囲に響く。

 

 すると、青白い牝鹿が躍る様に、防御シールドの周辺に漂うディメンターを弾き飛ばした。

 

『遅かったじゃないか。少しエネルギーを消費したよ』

 

『アンチプロトンリアクターは正常に稼働しています。数秒後には回復するでしょう』

 

『なるほど、じゃあ、後はよろしく』

 

 すると、防御シールドが消失しトムはスリープモードへと移行した。

 

「先程の不思議な光は――まぁ良い。貴様等はディメンターを頼む。吾輩がこやつ等を安全なところまで運ぶ。生徒に任せるのは癪だが、競技場での戦闘を見せられては仕方あるまい」

 

「了解です」

 

「頼んだぞ」

 

 私達はその場から飛び立つと、ゼロシフトを利用しディメンターの群れへと飛び込む。

 

「排除開始」

 

  私はブレードを、デルフィはウアスロッドを構え、近接攻撃でディメンターの数を減らす。

 

 近接戦では不利だと感じ取ったのか、ディメンターが周囲に散らばる。

 

「ホーミングミサイル展開」

 

「ウィスプ展開」

 

「ウィスプ3基展開。操作権限を譲渡します」

 

「感謝します」

 

 競技場での戦闘時、ディメンター対しては、ホーミングミサイルが有効であることが証明されている。

 

 前回のデータ通りに、ホーミングミサイルを展開する。

 

 デルフィも前回の戦闘で有効だったウィスプを展開している。

 

「「攻撃開始」」

 

 私が腕を振り下ろすと、ホーミングミサイルが周囲のディメンターをロックし飛翔する。

 

「がっ!」

 

 全てのホーミングミサイルがディメンターに直撃し、その数を減らして行く。

 

 デルフィの方は、展開したウィスプによる近接攻撃により、ディメンターを貫く。

 

「射撃開始」

 

 私が譲渡した3基のウィスプが高速で飛翔すると、それぞれが、ディメンターに対して有効的な射撃ポイントへと移動し、エネルギー弾によって消滅させて行く。

 

「敵脅威レベル15%低下」

 

「了解」

 

「「ゼロシフト レディ」」

 

 ゼロシフトによる亜光速の瞬間移動を利用し、ディメンターの側へと瞬時に移動すると、そのまま切り裂く。

 

「ウアスロッド投擲」

 

 デルフィがウアスロッドを投擲すると、回転しながら、弧を描き、ディメンターを切り裂き、デルフィの手元へと戻る。

 

「敵脅威レベル更に低下」

 

 脅威レベルが40%程低下した時点で、レーダー上のハーマイオニー達の反応が安全圏まで撤退した事を検知する。

 

「周辺に生命反応は有りません」

 

「了解。バーストモードへ移行します」

 

 デルフィはバーストモードへ移行後、バーストショット『戌笛』を発射する。

 

『戌笛』

 弾速が異なる二種類の追尾性能を持ったエネルギーショット。ちなみに回避するのが難しく、苦戦を強いられた。

 

 戌笛はディメンターの群れに直撃後、大規模な爆発を起こし、その衝撃波によって、周囲のディメンターを一掃する。

 

 しかし、爆発の余波により、周囲の森が半分程消失した。

 

「周辺の敵性反応消失。戦闘終了です」

 

 戦闘終了後、目が覚めたのか、スネイプに連れられハリー達が現れた。

 

「さっきの爆発って…」

 

「敵部隊との戦闘によるものです」

 

「先程の戦闘による周辺状況への被害を報告します。建造物損壊無し。死傷者無し。しかし、周辺環境への被害は甚大です」

 

「コラテラルダメージです」

 

「何という事だ…とにかく、城へ戻るぞ」

 

 スネイプはシリウスに近寄ると、杖を振り、後ろ手に拘束する。

 

「さて、喜ぶが良い。貴様を懐かしの母校へ連れて行ってやる。本日は魔法省大臣が城に来ている。丁度良い事にな」

 

 スネイプは見下すように、シリウスは睨み付ける様に互いに睨みあっている。

 

「待ってくれスニベルス。私は…私は犯人では!」

 

「その名で呼ぶなと言っただろ!」

 

 スネイプはシリウスの傷口に杖を突き刺し、抉る。

 

「グッ!」

 

「フンッ! 詳しい話は城で聞くとしよう」

 

 

 シリウスを一瞥した後、踵を返し城へと歩き始めた。

 




ピーター・ペティグリューは生きています。辛うじて。

ゴブレット編がなかなか書きあがらない…

文字数的には既にアズカバンを超えているんですが、結構書きたいことが多くて…

公開には少し時間がかかりそうです。


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逆転時計

最近、ダンブルドアがどんどん老害化してきている…




   ハリーはシリウスに肩を貸しながら、その後姿を睨み付けながら歩いていった。

 

 城に着き、スネイプの先導で校長室の扉を開けると、そこには、ダンブルドアとマクゴナガル、そして魔法省大臣が話し合いをしていた。

 

「おぉ、セブルスか。どうしたのじゃ?」

 

「校長。奴を、シリウス・ブラックを捕えました」

 

「それは本当か!」

 

「本当です、大臣」

 

「早く連れて来るんだ!」

 

 スネイプは一礼した後、縛られたシリウスを大臣の前へと連れ出す。

 

「はぁ…」

 

「シリウス・ブラック」

 

「ようやく、捕らえたか!」

 

 マクゴナガルは溜息を吐き、大臣は興奮状態になっており、ダンブルドアは比較的落ち着いている。

 

「待ってください!」

 

 ハリーがシリウスを庇う様に大臣の間に入る。

 

「ハリー! 怪我をしておるのか! 早く医務室へ…」

 

「校長先生。僕は大丈夫です。それよりもシリウスの話を聞いてください!」

 

「シリウス・ブラックの話など――」

 

「私は! 私は犯人ではない!」

 

 魔法省大臣の言葉を遮る様に、シリウスが大声を上げる。

 

「真犯人は、ピーター・ペティグリューだ! ここに奴がいる! 今! この瞬間! この部屋にな!」

 

「何処にいると言うのだ?」 

 

「えっと…ここに居ます」

 

 シリウスが悲痛な叫びを上げ、ロンがポケットから、瀕死の鼠を取り出し、床に放り投げる。

 

 床の上では、皮膚が爛れた状態で、もがき苦しんでいる。

 

「これは…死に掛けの鼠?」

 

「奴は…奴は鼠の動物もどきだったんだ!」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアはゆっくりと鼠に近寄ると、杖を振りかざす。

 

 すると、鼠はみるみる人の姿へと変貌し、全身火傷の重傷を負った中年男性が横たわり、浅い呼吸をしている。

 

「こやつは!」

 

「奴こそが、真犯人だ!」

 

 声を荒らげたシリウスだったが、先程のディメンターによるダメージがまだ残っている様で、その場に倒れ込んだ。

 

「分かった…じゃがまずは、全員医務室へ行くのじゃ。話はそれからでも良かろう…それにこの男をみすみす見殺しにする訳にもいかんしの」 

 

 ダンブルドアはそういうと、その場の全員が、医務室へと歩いていった。

 

 倒れてしまったシリウスはスネイプとハリーに抱えながら、医務室へと向かっていった。

 

 瀕死のピーターはスネイプが魔法で浮遊させ移動させている。

 

「なぜ吾輩がこんな事を…」

 

 そんな彼等の後を追う様に、校長室を後にした。

 

 

  数日後、ハリー達の容態も回復し、簡単な事情聴取が行われた。

 

 もちろん、私達も対象になった。

 

 担当するのは、同性という事でマクゴナガルだ。

 

「では、一部始終を話してもらいますよ」

 

「了解」

 

「端的に説明すれば、ロン・ウィーズリーがシリウス・ブラックによって連れ去られたと言う情報を元に救護へ向かいました」

 

「それから」

 

「救援要請地点へ到着後、暴れ柳による障害を排除し――」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。障害を排除って、貴女達が暴れ柳を爆発させた犯人ですか?」

 

「障害を排除したにすぎません」

 

「はぁ…前々から思って居たのですが、貴女方は規格外すぎます。もう少し手加減と言う物を――」

 

「申し訳ございません」

 

「いえ、別に怒っている訳ではないのですよ。それで、暴れ柳を排除した後はどうしました?」

 

マクゴナガルは数回首を振り、質問を続ける。

 

「叫びの館内部へ突入後、シリウス・ブラックと対峙、目的はロン・ウィーズリーのペットに扮していたピーター・ペティグリューだと判明」

 

「その後、到着したリーマス・ルーピンと共に事件の一部始終を聴取していました」

 

「なるほど、その後スネイプ先生が割り込んだと」

 

「概ねその通りです」

 

「そう。叫びの館を出た後は?」

 

「満月を目にしたリーマス・ルーピンが人狼へと変化、その隙を衝きピーター・ペティグリューが鼠に変化し逃走を図りました」

 

「なるほど、それで?」

 

「退路を塞ぐべく、逃走予測経路周辺を爆破し、対象を確保」

 

「え? 周辺を爆破って…はぁ…頭痛が…」

 

「鎮痛剤を服用しますか?」

 

 私は鎮痛剤を取り出すが、マクゴナガルは首を横に振った。

 

「マグルの薬は少し抵抗が…まぁ、良いでしょう。その後は?」

 

「人狼と化したリーマス・ルーピンを捕縛。その後目を覚ましたスネイプ教授と合流し、ディメンターの群れに襲われていたハリー達を救出」

 

 マクゴナガルは手元の資料に目を落とす。

 

「スネイプ先生の供述通りね。その際…え? 森が半分程消失?」

 

 マクゴナガルは資料とこちらを交互に見ている。

 

「ディメンターとの戦闘時の余波によるものです」

 

「必要最低限の損害。コラテラルダメージです」

 

「は…はぁ…もうなんだか、理解する事に疲れました」

 

 マクゴナガルは立ち上がると、扉に手を掛けた。

 

「とりあえず、聴取は以上で終了です。正直信じられない事ばかりでしたが…まぁ…それが真実ですからね」

 

「お疲れ様でした」

 

 マクゴナガルの退室後、私達は、扉を抜け、教室を後にすると、廊下には既に事情聴取を終えたハリー達の姿があった。

 

「やぁ、君達も事情聴取?」

 

「えぇ」

 

「僕等も色々聞かれたよ。でもそのおかげで、シリウスの無実が証明されるらしい!」

 

 ハリーはメンタルコンデションレベルを上昇させつつ、シリウスの元に駆け寄る。

 

「あぁ、総てはピーター・ペティグリューの仕業だからな。しかし残念な事にリーマスは教員職をクビになるようだ」

 

「え?」

 

 シリウスの発言に、ハリー達は疑問の声を上げる。

 

 

「なんで、なんでルーピン先生が辞めなきゃならないんだ」

 

「仕方ないさ。私は人狼だからね」

 

 背後からトランクを手に持ったルーピンが現れる。

 

「リーマス…」

 

「君の無実が証明されただけでも私は嬉しいよ」

 

「すまない…」

 

「謝らないでくれ。むしろ謝るのは私の方だ。傷はまだ痛むか?」

 

「もう大丈夫さ。やはり、マダム・ポンフリーには頭が上がらん」

 

「それなら良かった。君達にも感謝しているよ」

 

 ルーピンはこちらを見ると、深々とお辞儀をする。

 

「君達が止めてくれなかったら、私は…悔やんでも悔やみきれない事をするところだった」

 

「我々は防衛行動を行ったまでです」

 

「君達ならそう言うと思ったよ」

 

 ルーピンは一通り全員の顔を見た後、トランクに手を掛ける。

 

「さて、名残惜しいが、これでお別れだ。また会おうじゃないか」

 

「あぁ! 必ず!」

 

 ルーピンはシリウスと固い握手を交わした後その場から去って行った。

 

「ルーピン先生…いい先生なのに残念だわ」

 

「本当にな。スネイプなんかよりずっと良かったよ」

 

 ロンはワザとらしく大きく頷いている。

 

「なぁ、ハリー」

 

「シリウス、どうかした?」

 

「その、なんだ。少し校内を回りたいんだが。案内して貰えないか?」

 

「え? うん。良いけど」

 

「そうか、じゃあ頼むよ」

 

 そう言うと、二人は大広間へと向かって歩き出した。

 

「変なの。卒業生なんだから、ホグワーツの中ぐらいわかるだろうに」

 

「ロン、そういう事じゃないのよ」

 

 ハーマイオニーの指摘に対しロンは首をかしげる。

 

「どういう事?」

 

「2人だけで話したい事があるのよ」

 

「ふーん、まぁいいや。僕はもう一度医務室へ来いって言われたから行ってくるよ」

 

 ロンはそう言うと、医務室へと足を向けた。

 

「皆ご苦労じゃったな」

 

「ダンブルドア先生」

 

 ハリー達と入れ替わる様にダンブルドアが現れる。

 

「ハリーは嬉しそうじゃったの」

 

「これで、全て丸く収まりました」

 

「果たしてそうかの?」

 

「え?」

 

 ダンブルドアはハーマイオニーの発言に対して否定的なようだ。

 

「確かにシリウス・ブラックの無実が証明された。しかし、犠牲になった者も居るはずじゃ」

 

「犠牲?」

 

「そうじゃ。それとハーマイオニー。3回ひっくり返すのじゃ。すれは今度こそ本当に全て丸く収まるはずじゃ。後ハリーも連れて行くと良い。2()()()()上手くやれるはずじゃ」

 

 ダンブルドアはそう言い残すと、その場を後にした。

 

「3回ひっくり返す…」

 

  ハーマイオニーは首に掛けていた『逆転時計』に手を掛ける。

 

『それはやめておいた方が良いんじゃないかな』

 

『え? トムどういう事?』

 

『君は過去に戻ってヒッポグリフの処刑を止める気だろ?』

 

『3回ひっくり返せば丁度その辺りだわ。ダンブルドア先生はきっとその事を――』

 

『だからやめた方が良いのさ』

 

『え?』

 

『あの老害の事だ、大方ハリー・ポッターに過去を遡りヒッポグリフの処刑を回避したという自信でも付けさせたいのさ』

 

『なんでそんなことしなきゃならないのよ』

 

『客観的に見てもハリー・ポッターはかなり贔屓されているよ』

 

『うっ…それはそうだけど』

 

『それに、過去を変えるって事は現在、そして未来まで変えてしまうって事だ。まぁその辺の詳しい説明は彼女達に聞いてくれ』

 

 説明を丸投げされてしまったようだ。

 

『以前もお話ししましたが、過去の改編はタイムパラドックスを引き起こします。極論を言ってしまえば、小石一つ動かすだけでも、未来には大きな変化が生じます』

 

『でも、戻ればバックビークを救えるのよ』

 

『君は何か勘違いしている様だから言うけど、どんな方法で助けるか知らないが、100%救える訳じゃない。それに下手をすれば君だって罪に問われる可能性もある。まぁそれ以前に、過去の自分に対峙すればどちらかが消えてしまう可能性だってある。その時あの老害が君を庇うとは到底思えない』

 

『そんな事…』

 

『無いとは言い切れないだろ? まぁ、どうするかは君の自由だけどね。どうしても行くって言うなら僕は止めないよ。ただ巻き込まないようにタブレットだけは置いて行ってくれよ』

 

『うぅ…』

 

 数分後、ハーマイオニーは意を決したように『逆転時計』を首から外す。

 

『やっぱり、過去に戻るのはやめるわ』

 

『そうかい。賢い選択だね』

 

『えぇ、ちょっと残念だけどトムも心配してるみたいだから』

 

『勘違いしている様だが、君を心配した訳じゃない。僕はただ巻き込まれるのが嫌なだけさ』

 

『はいはい。そういう事にしてあげるわ。ディメンターからも守ってくれたし』

 

『あれは、防御シールドの試運転をだな――』

 

 トムの発言を無視しハーマイオニーは顔を上げる。

 

「さて、ちょっと逆転時計をマクゴナガル先生に返してくるわ」

 

「了解です」

 

「我々も同行しましょう」

 

『だから、あれは僕が勝手にだな――』

 

 私達は、ハーマイオニーと共にマクゴナガルの部屋へと足を向けた。

 

 

 




残念ながら、ヒッポグリフは助けられませんでした。

逆転時計で過去に戻ると、タイムパラドックスが発生し、過去の自分と会うと、どちらかが消滅するというので、そこまでの危険は冒せません。

次回は、恒例のダンブルドアによる、反省会です。

やはり、ゴブレット編は書きあがるまで時間がかかりそうです。


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静寂

今回で、アズカバン編は終了です。


   自室に戻ったワシは、椅子に座り目を閉じ、扉が開かれるのを待つ。

 

 静寂の中、時計の針が進む音が響く。

 

 普段は気にならない音もこのような場合ではとてつもなく気に掛かるものだ。

 

 数分が経ち、十数分が過ぎ、数十分の時が流れる。

 

「遅い。遅すぎる」

 

 そろそろ、ハリー達がヒッポグリフを助け出したと報告に入ってもいい筈なのだが、依然として校長室の扉が開かれる事は無い。

 

「まったく…何をしておるのじゃ…」

 

 あまりの遅さに、ワシは自室の中をうろつき始める。

 

 数分間自室を歩き回った後、しびれを切らし扉に手を掛ける。

 

 その時、数回扉がノックされる。

 

 遅かったじゃないか。

 

「少し待つのじゃ」

 

 内心安堵しながら椅子に腰かけると、両手を顎の下に組み体勢を整える。

 

「ふぅ…おっほん! 入るが良いぞ」

 

 数秒の後、扉が開かれる。

 

「遅かったのぉハ……なんじゃ、ミネルバかのぉ」

 

「なんじゃとは何です、失礼な」

 

 現れたミネルバは不機嫌な表情のまま机の前までやってくる。

 

「ちょっとした勘違いじゃ。すまんの」

 

「はぁ…そうですか」

 

「して、要件は何じゃ」

 

「先程、ミス・グレンジャーから逆転時計が返却されましたので、ご報告にと」

 

「なんじゃと!」

 

 ワシは思わず大声を上げてしまい、それによってミネルバが小さな悲鳴を上げていた。

 

「なッ、なんですかいきなり大声を出して」

 

「す、すまんの。本当にハーマイオニーは逆転時計を返したのか?」

 

「はい、先程イーグリット姉妹と共に私の部屋を訪れて、複数の授業を同時に受けるのは止めると――」

 

「イーグリット姉妹が一緒じゃったのか?」

 

「え? えぇそうですが」

 

「そうか…して、ヒッポグリフの件はどうなった?」

 

「ヒッポグリフですか?」

 

 ミネルバは一瞬だけ首を傾げた後、溜息を吐いた。

 

「はぁ…ヒッポグリフは先日処刑されましたよ。貴方もその場に同席したはずですよ」

 

 ミネルバは再び溜息を吐き、首を左右に振る。

 

「まさか、ボケ始めたのかしら」

 

「今何か言ったかのぉ?」

 

「いいえ別に。ちなみに昨日の夕飯は覚えていますか?」

 

「バカにするでない。覚えとるわ」

 

 確か…なんじゃったかのぉ…いや、今はそんな事どうでもいい。

 

 ここで一つの推測が頭をよぎる。

 

 よもや、イーグリット姉妹がハリー達が過去に遡りヒッポグリフを助け出す事を阻止したのかも知れぬ。

 

 しかしなぜそのような事をするんか理解できぬ。

 

 過去に遡り、罪なき者を救えるのならば、それに越したことは無いだろうに。

 

「どうされましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「そうですか、では逆転時計は私が魔法省へ返しておきます」

 

「頼んだぞ」

 

 ミネルバはその場で一礼すると、校長室を後にした。

 

「何と言う事じゃ…」

 

 ワシは内心騒めきながら、校長椅子に腰かけると、溜息を吐く。

 

 

 

 

 

  数日が過ぎ、終業式も終わり、生徒達が歓声を上げながらホグワーツ特急に乗り込んで行く。

 

 今年の初めにディメンターの襲撃を受けたが、現在ではディメンターは1匹も居ないので、皆安心している様だ。

 

 ワシはシリウスの無実が証明されたことが一面となっている日刊予言者新聞を小脇に置き、今年の出来事を振り返る。

 

 今年も様々な出来事があり、大変な1年となった。

 

 始めはディメンターによるホグワーツ特急の襲撃。

 

 あれにより、大多数の生徒が被害を受けた。

 

 その場に居合わせたリーマスによってその場は何とか収まったが、下手をすれば死者が出ていただろう。

 

 しかし、リーマスの報告では、この時点で既にイーグリット姉妹はディメンターを消滅させていたと聞く。

 

 そして、ヒッポグリフの事件。

 

 あの事件で被害を受けた、ドラコ・マルフォイは不憫には思うが、ハグリッドの話しでは、ヒッポグリフに対し礼を欠くような対応をしたという。

 

 それに関しては自業自得と言わざる負えないだろう。

 

 しかし、彼は魔法省の役人である父親に抗議し、その結果ヒッポグリフが処刑されてしまった。

 

 愚かな行動であるとしか言いようがない。

 

 ハグリッドの忠告を聞かずヒッポグリフに礼を欠いたのが原因だ。

 

 それにもかかわらず、激昂し処刑する等、本来ならば有りえぬことじゃ。

 

 じゃが今回は、彼の父親が役人という事もあり、処刑が行われてしまった。

 

 とても悲しい事じゃ。

 

 更にはアズカバンを脱獄したシリウスがホグワーツに侵入したという件だ。

 

 侵入したシリウスは夫人の絵をナイフによって引き裂いた。

 

 しかし、なぜ杖を使わなかったのか、そこが疑問となる。

 

 ワシの前に現れた時は杖を持っていたところを見るに、ワザと置いて来たと考えるべきか…

 

 魔法使いに取って杖とはとても大切な物の筈。

 

 それをナイフに持ち替え、ホグワーツに乗り込むなど、通常では考えられない。

 

 引き裂いた絵の賠償を後に請求したところ、シリウスは快く承諾した。

 

 どうやら、魔法省から冤罪に対する賠償金としていくらか受け取ったようだ。

 ワシ自身、シリウスは犯人ではないと思っておったが、いかんせん証拠が無かった為確信は得られなかった。

 

 そして、ワシが最も驚いたのは、イーグリット姉妹の類稀なる戦闘能力だった。

 

 クィディッチ会場がディメンターに襲撃を受けた際、彼女達は宙を舞いデルフィは杖を手に、エイダの方は自身の腕を特殊な魔法で剣に変化させ、ディメンターを次々に消滅させていった。

 

 その上、彼女達の背後に、見た事も無い追尾魔法を幾重も放っていた。

 

 魔法というよりは、物理的な物体を自分の意志がある様に飛翔させていたと言った方が良いだろうか…

 

 変身術と浮遊魔法の応用だろうか? 

 

 いくら浮遊魔法とは言え、あれ程高速かつ正確な操作を同時に行うのは不可能に近い。

 

 その上、途中からは姿現しの様な瞬間移動を繰り返していた。

 

 ホグワーツでは姿現しは使用できない筈だが、ワシ同様に何か対策をしているのだろうか…

 

 しかし、姿現し特有の音とは別の音を発していた。

 

 まるで、空間がはじけ飛ぶような、そんな音だ。

 

 そして、2人は何もない空間から武器を取り出し使用していた。

 

 エイダが取り出したその武器は、去年と同様にマグル達が使う銃と呼ばれる物に形状が良く似ていた。

 

 体に不釣り合いな大きさの武器を、まるで羽のように軽々と取り回し、光の帯を撃ち出していた。

 

 ワシが知る銃と言う物は、精々鉄の塊を撃ち出すのが関の山だと聞いていた。

 

 あれ程の力を持つ光の帯を出すなど考えられない。

 

 それは、魔法においても同様だ。

 

 あれ程の力を持つ魔法を見た事が無い。

 

 その時のディメンターの動きも不自然だった事を思い出す。

 

 ディメンターはまるで空中に磔にされたかのように一ヶ所に集約され、そこに光の帯を撃ちこまれていた。

 

 どの様な手法を用いたのかは分からないが、彼女達がやったことに間違いはない。

 

 それだけではない。

 更にディメンターの増援が来た際は、エイダは3つ、デルフィは6つの魔導具の様な物を使用していた。

 

 その魔導具はエイダが放つ魔法に合わせて同じ魔法を放っていた。

 

 使用者と同様の魔法を放つものだろうか?

 

 デルフィが使用して居た物は、デルフィの行動に合わせ、周囲を回転し周辺に攻撃をしていた。

 

 その上、ディメンターの攻撃も防いでいるように見えた。

 

 攻防一体の魔導具だと考えられる。

 

 その様な魔導具は、魔法省の資料を見ても見つからなかった。

 

 そうなると、彼女達が創りだした物と考えるのが妥当だが、子供にあれ程の物を作り出すのは常識的に考えてもおかしい。

 

 裏に協力者がいると考えたが、彼女達に肉親は居らず、目立った外部協力者は確認できなかった。

 

 

 更に彼女達の行動については、セブルスからもいくつか報告が上がっている。

 

 まずは暴れ柳の破壊について。

 

 セブルスの話しでは、暴れ柳は何者かによって爆破されていたという。

 

 そして、彼女達は逃げるピーター・ペティグリューに対し、再び何もない空間から取り出した巨大な爆弾を投げ付け逃亡を阻止したという。

 

 負傷した状態で見ていた為、見間違いの可能性も疑ったが、セブルスはそれを否定した。

 

 セブルスの見解では、暴れ柳の爆破と、その際に使用された爆弾は同じものである可能性が高いという事だ。

 

 ミネルバからの報告でも上がっているが、彼女達は暴れ柳を破壊したという事になる。

 

 つまり、彼女達は暴れ柳を破壊可能な爆弾を持ち歩いていたという事だ。

 

 しかし、それほどの威力ともなれば隠匿するのは不可能なはず。

 

 だが、彼女達がそれ程の爆弾を持ち歩いているのを見た事が無い。

 

 まず、そんな物をホグワーツに持ち込ませる等ありえてはならない。

 

 そうなれば、その場で瞬時に作成したことになる。

 

 暴れ柳を粉砕する程の威力のある爆弾を作り出す魔法という事か。

 

 益々彼女達に対して警戒する必要があるようだ。

 

 次にホグワーツ周辺の森を消滅させた件だ。

 

 ハリー達がディメンターに襲われたところ、不思議な光で守られていたという。

 

 その光については、現場を見ていたセブルスでも判断できなかったそうだ。

 

 その後、ディメンターの処理を彼女達に任せ、セブルスはハリー達を救助したようだ。

 

 本来ならば逆だとワシは思うが。

 

 まぁ、その件については後にセブルスと話し合うとしよう。

 

 ハリー達を安全なところまで運んだ後、彼女等の援護に駆け付けたセブルスは驚愕したという。

 

 デルフィが球体を発射し、ディメンターに直撃すると、周囲の森が吹き飛ぶ程の爆発が起きたそうだ。

 

 その爆破音は校長室に居たワシにも聞こえた。

 

 その爆発の余波により、周辺のディメンターは一掃された様だ。

 

 

 セブルスの報告を虚偽の報告だと思いたいが、事実森の半分が消滅してしまって居るのだから仕方がない。

 

 幸いな事に、ケンタウロスに被害は出ていないが、住処を奪われたことでかなり激昂している。示談金で何とかなれば良いのだが…

 

「ハァ…」

 

 ワシは目の前にある請求書を見て、再び頭を痛めた。

 

 周囲の森の修繕費と、消滅したディメンターの請求書。

 

 これだけで、来期の予算の幾らかを費やさねばならない。

 

「仕方あるまい」

 

 ワシは、費用を彼女達に請求する事にした。

 

 支払いが無理ならば、仕方あるまい、こちらで負担するしかない。

 

「ふぅ」

 

 請求書を書き上げると、ふくろうを使い請求書を送る。

 

 さて、リーマスがホグワーツを去ったためまた新たな職員を探さなければ。

 

 ワシは、疲れた体を引きずり、校長室を出た。

 

 

 

  そして、数日後。

 

 何者かによって入院中のピーター・ペティグリューが連れ出された。

 

 新聞には死喰い人の残党の可能性があるなどと囃し立てられていた。

 

 

 




今回はダンブルドアによる、振り返り回です。

毎回の恒例ですね。

ゴブレット編はやはり時間がかかります。

今月中に投降できればいいのですが、来月になってしまうかもしれないです。


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炎のゴブレット
新学期


お ま た せ

思いのほか長く掛かりましたが、ゴブレット編開始です。


   ホグワーツから帰還し、数日後。

 

 ダンブルドアから大量の請求書が送られてきた。

 

 内容は、森の修繕費と消滅したディメンターの請求書だった。

 

 どう考えても水増し請求されているとしか思えない程高額な請求額だ。

 

 例年までのホグワーツからの請求額との合計出費額でかなりの損失になる。

 

 無論、ダイヤの生産量を増やし換金作業量を増加し補填しても良いのだが、その場合かなりの手数料が発生するだけではなく、大量の金額の移動により魔法省にリークされる可能性もある。

 

 仕方がないので、ダイヤの生産量は今まで通りにし、以前から貯金を切り崩し支払いを行う。

 

 それにより、レアメタルや電子部品の購入が遅れるが、仕方ない。

 

「もう一枚手紙が来ています」

 

 手紙の主は、ロンだった。

 

『やぁ、元気かい? 僕たちは元気さ。でもかなりドタバタしてるよ。ところで、今年のワールドカップのチケットが手に入ったんだ! 良ければ一緒にどうだい? ハーマイオニーとハリーも誘ってあるんだ。チケットにはまだ余裕が有るから来るようなら連絡して!!』

 

「クィディッチワールドカップですか」

 

 手紙に一通り目を通したデルフィが口を開く。

 

「興味があるのですか?」

 

「クィディッチに興味はありません。それにもう一枚手紙が来ています」

 

 デルフィから手紙を受ける。

 またしてもロンからの手紙だった。

 

『ごめん、君達が姉妹なのをすっかり忘れていたよ。残念だけどハーマイオニーとハリーが来るとチケットが残り1枚だけだったんだ。ごめんね。もしあれならどっちか片方だけでもいいよ』

 

「クィディッチを見に行きますか?」

 

「生憎と、私も興味はありません」

 

 私達はハーマイオニーへと通信を繋ぐ。

 

『どうしたの?』

 

『お時間よろしいですか?』

 

『うん、大丈夫よ』

 

『先程、ロンから手紙を受け取ったのですが――』

 

『あぁ、クィディッチワールドカップね。私も手紙で誘われたわ』

 

『我々も同様の内容でした』

 

『そうだったの。二人は行くの? 私は行こうかなって思っているわ』

 

『そうなのですか、生憎ですが私達は参加しません』

 

『え? なんで?』

 

『どうやら、チケットの残りが1枚のみで、我々2人分は無いそうです』

 

『そうだったの。分かったわ。ロンには後で私から参加しないって事を言っておくわ』

 

『感謝します』

 

『良いのよ。今度会った時、どんな感じだったか教えるわね』

 

『了解です』

 

『うん。それじゃあまたね』

 

 通話を終了し、私達はホグワーツから送られてきた、来年度の教材リストに目を通す。どうやらパーティードレスが必要なようだ。

 

「パーティードレスですか。どうしますか?」

 

「現在パーティードレスのデータはありません」

 

「後日、カタログなどを購入し参考にしましょう」

 

 これで、今度の買い物での購入リストが完成した。

 

 

 

  数日後、再び法外な手数料を取られながらも、換金作業とホグワーツへの支払いを終了させる。

 

 グリンゴッツもそうだが、ダンブルドアも予想以上の守銭奴だ。

 

 支払い作業により想定よりも少ない予算になってしまったが、必要な教材を買い足すのには十分だった。

 

 帰りに、書店によりパーティードレスを専門に扱ったカタログを購入しデザインの参考にする。

 

 ダイアゴン横丁は相も変わらず活気に満ちている。

 

 その後、人通りの無い場所へと移動し、自宅へと帰投する。

 

 

 

  新学期当日。

 

 大雨の中皆杖を掲げ魔法で傘を作り出し雨を防ぎながらホグワーツ特急へと乗り込んでいる。

 

 私達はシールドにより雨を消滅させながらホグワーツ特急に乗り込むと手近な無人のコンパートメントへと入り込む。

 

 外の雨足が強くなり、大粒の雨が窓ガラスを打ち付け、小刻みなリズムを刻む。

 

『ねぇ、もうホグワーツ特急に乗ってる?』

 

 ハーマイオニーから通信が入る。

 

『既にコンパートメントは確保済みです』

 

『そうなの。ねぇ、私達もそこへ行っても良い?』

 

『問題ありません』

 

『わかったわ、場所は――うん。トムに聞くわ』

 

 そう言うと、通信が切れる。

 

 数分後、コンパートメントの扉が開かれタブレット端末を小脇に抱えたハーマイオニーと、大量の荷物を抱えたハリーとロンが現る。

 

「ここね」

 

「ふぅ…本当だ。また勘って奴か?」

 

「まぁ、そんな所。久しぶりね。元気だった?」

 

「おかげ様で」

 

 ハリーとハーマイオニーは荷物置き場に荷物を置き、ロンは入り口付近の床へと置く。

 

「いやーすまなかったね。チケットが1枚足りなくなるなんて思わなくて」

 

「お気になさらず」

 

「普通は最初にチケットの残りを確認するわよ」

 

「しょうがないだろ。君達の事を計算に入れて無かったんだから。チケットが足りなくなるなんて夢にも思わなかったよ」

 

「ロン、君引き算が出来たのか? 凄いじゃないか」

 

「ハリー、それ位朝飯前さ。ん? 今僕馬鹿にされてる?」

 

「はぁ…相変わらずね」

 

 ハーマイオニーは二人のやり取りに対し呆れた様にコンパートメント内の座席へと座り込む。

 

「やっぱり、プロのクィディッチは凄いね! 迫力が違うよ! もうなんて言ったら良いのか分からないけど、うん。とにかく分からないけど凄いよ!」

 

「そうだね! あれは凄かったなぁ…まぁ、何がって言われたら詳しくは説明できないけど…」

 

『結局分かって無いじゃないか』

 

『同感だわ』

 

「金貨が降って来たのは印象深かったね」

 

「コインチョコでしょ」

 

「食べられる金貨さ。あれがお店で使えたらいいのにな」

 

「そしたら最高さ、後ヴィーラが良かったね」

 

「あぁ、最高だったな」

 

 2人は宙を見つめ頬を緩めている。

 

『まったく、これだから男の子はもう…』

 

『まぁ、ヴィーラはとてつもなく綺麗な女性の姿をしている魔法生物だからね。髪はシルバーブロンドで、風も無いのに靡いていて、肌は月の様に輝いていたのが特徴的だったな。まぁこの年代が心奪われるのも無理はない』

 

『とても良く観察していたのね。貴方もそう言うのがお好みなのかしら?』

 

『どうだかね。想像にお任せするよ

 

 ハーマイオニーの質問をトムは適当に流している。

 

 

 その後も、ハリーとロンは、クィディッチワールドカップの事を思い出したのか、思い出話を繰り返している。

 

 

「僕生まれて初めてだよ! あんなにすごい試合を見たのは…」

 

「それは良かったな。君の人生において最初で最後だろうな、ウィーズリー」

 

  ロンの自慢話を遮る様に、マルフォイが取り巻きを引き連れコンパートメントの扉を開き入って来た。

 

 

 

「マルフォイ! 何の用だよ…お前を呼んだ覚えはないぞ、さっさと出ていけよ」

 

「そう言うなよポッティー君。いや、ポッター君。まぁ僕も見ていたけど素晴らしい試合だったよ。それに関しては意見が一致したな。それに試合後の催しもあったしな」

 

 マルフォイの言葉に、3人は顔をしかめる。

 

「催しだと…お前! あれが催しだというのか!」

 

 

 ハリーが立ち上がり、怒声を上げながら、マルフォイに詰め寄るが、両脇に控えている、ブラックとゴイルに抑え付けられる。

 

「そんなに熱くなるなって。実際なかなか趣向が凝らされていたじゃないか、穢れた血が何匹か死んだらしいがな」

 

「貴様!」

 

「そんなに怒るなよ」

 

「何かあったのですか?」

 

「あぁ、君達は来ていなかったみたいだね。クィディッチワールドカップで闇の印が上がったのさ。まぁ世間一般じゃ屋敷しもべが悪戯でやった事になっているけど、実際は死喰い人が会場に現れたんだろうね」

 

 マルフォイは自分の事のように胸を張っている。

 

「恐らく、そう遠くない内に闇の帝王が復活するだろう。そうなれば、穢れた血は一掃されるだろうな」

 

『そうなのですか?』

 

『悪いが、現代の僕の事に関してはノーコメントで』

 

 マルフォイは高笑いをしながら床に抑え付けられているハリーの頭を踏みつける。

 

「そうなれば、貴様の名も地に落ちるな!」

 

 マルフォイはハリーから足を退けると、コンパートメントを出ようとしたが、入り口付近にあったロンの荷物に躓く。

 

「危ないな。おや? おやおや? これはこれは」

 

 マルフォイはロンのに荷物に手を突っ込む。

 

「おい! やめろ!」

 

「ハハハッ! なんだこれは!」

 

 マルフォイは1着のドレスを引き摺り出す。

 

「おいおい、ウィーズリー! まさかとは思うがこんなお古を着るつもりか? これが流行ったのは数百年前じゃないのか? おい…それにこれ…女物じゃないか…まさか君…そっちの趣味が…」

 

「違う! どっちが着たっていい奴なんだよ!」

 

 そんなデザインもドレスが有るのだろうか?

 

「だとしてもセンスが悪すぎるぞ。僕はこの為に一流の仕立て屋にしたてさせたよ」

 

 マルフォイは自慢げにそう言うとロンにドレスを投げつける。

 

「それは良かったな! 精々ドレスを汚さないように気を付けるんだな!  たく…第一なんで急にドレスなんか用意させるんだよ…」

 

「おいおい…今年は特別な催しが有るんだぞ。え? まさかウィーズリー…貴様の父親から何も聞いてないのか?」

 

「何の事だよ?」

 

「本当に聞いていないのか…」

 

 マルフォイは呆れた様に首を左右に振る。

 

「君の父親も兄上も魔法省に務めて居るのだろ? それなのに何も聞かされていないのか? 驚いたね。父上なんか真っ先に僕に教えてくれたのに…ファッジ大臣から聞いたんだ。まあ父上はいつも魔法省の高官と付き合っているしな。多分君の父親と兄上は下っ端だから知らないのかもしれないな…そうだ、おそらく君の父親の前では重要事項は話さないのだろう。恨むなら自分の父親の役職を恨むんだな」

 

「だから何の話だよ!」

 

 小馬鹿にされたロンは激昂し、マルフォイはそれを楽しんでいる様だ。

 

「フッ、まぁいいさ、後でダンブルドアから説明があるはずさ。それまで楽しみにしているんだな」

 

 そう言い残したマルフォイは、取り巻きを引き連れ退出していった。

 

「何なんだよアイツは!」

 

 ロンは怒りに任せ窓ガラスを殴り付ける。

 

 それにより、窓ガラスにヒビが入り、ロンの拳から若干の血が流れる。

 

「いってぇ!」

 

「はぁ…」

 

 ハーマイオニーは呆れながら杖を振り、窓ガラスを修復する。

 

「ねぇ、僕の手も治してよ」

 

「自分でやりなさいよ」

 

「ケチだな」

 

 ロンは不機嫌そうに自身の拳を擦りながら席に着く。




ゴブレット編で少しずつ物語が動き始めます。



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三大魔法学校対抗試合

まだ、まだまだ暴れるには早い。


 

  ホグワーツ到着後もロンは歓迎パーティーが始まるまで終始不機嫌だったが、食事を目の前にすると機嫌を直した。

 

「おぉ! やっぱりホグワーツの食事は豪華だ!」

 

『まったく…現金なもんだな』

 

『男の子って皆そう言うものじゃ無いの?』

 

『はぁ…そんな訳無いだろ。男が全員アレと同じならこの世は終わるぞ』

 

『まぁ…確かにそうだわ…全員がロンと同じレベルだと…うん…怖いわ』

 

『シミュレーションの結果。金融崩壊が始まり経済基盤が崩壊し、世界恐慌に陥ります』

 

『ロンって…怖い人だったのね…』

 

『あんなのは1人居れば十分さ』

 

『はぁ…それにしても今日も料理はおいしいわね。一体誰が作って居るのかしら?』

 

『屋敷しもべ妖精さ。そんな事も知らないのか?』

 

『え?』

 

 その瞬間、ハーマイオニーの手が止まる。

 

『まさか…このホグワーツにも屋敷しもべ妖精が居るの?』

 

『ハハハッ…まったく可笑しな事を言うな君は。これほど大きな城なんだ。100体以上入るだろうね』

 

『そんな…私1人も見た事無いわ』

 

『そりゃそうさ。アイツ等はみんなが寝静まった頃に掃除やらなんやらの仕事をするからな』

 

『優秀な屋敷しもべ妖精は人前に姿を見せないと言うデータがあります』

 

 デルフィの言葉にショックを受けているのか、ハーマイオニーは項垂れる。

 

『優秀なのね…それでお給料はどれくらい貰って居るのかしら? あと休みとか』

 

『はぁ…君は本当に冗談が好きなんだな』

 

『どういう事よ?』

 

『データでは、屋敷しもべ妖精は元来、従属する性質があります。その為賃金や休暇などは不要です』

 

『そんなの間違ってるわ! 奴隷じゃない!』

 

『実際あまり変わらないね。好き好んでやるか、嫌々やっているかの違いだけさ』

 

『彼等は前者だって言うの?』

 

『その通り。それに命令された事は奴等には絶対なのさ、逆に言えば命令が無いと生きる事すらできない。だから死ねと命令されれば喜んで死ぬだろうね』

 

『そんなの変よ。そんな…命令にしか従えないなんて…』

 

『それのどこが間違っているのですか?』

 

『デルフィ…貴女まで……だって、死ねって命令されるのよ! そんなの理不尽じゃない!』

 

『命令に従う様にプログラムされており、自死の命令が下ったのならば、それを実行する。どこにおかしな点があるのですか?』

 

『そんな…そんなの…』

 

『まぁまぁ、でもこれが現実さ。さぁ、食事を続けたまえ。冷えるぞ』

 

 ハーマイオニーは何を思ったのか、食べかけの料理を遠くへと置く。

 

『もう食べないのかい? まるで肉体を失って満足に食事が出来ない僕への当てつけかな?』

 

『そんなんじゃ無いわ。私は…ただ―』

 

『はぁ…一つだけ言うけど、君が料理を食べなくてもアイツ等の仕事量に変わりはない。むしろ廃棄量が増えて苦労するだろうね。それに、折角作った料理だ。残す方が僕は失礼だと思うけどね』

 

『優しいのですね』

 

『一般的な意見を言って居るだけさ』

 

『でも…』

 

『トムの言う通り完食された方が、屋敷しもべ妖精も喜ぶかと』

 

 皿を見つめた後、ハーマイオニーは残りを全て平らげる。

 

『エイダ。君も相当優しいじゃないか』

 

『からかわないで下さい』

 

「さて、皆久しいのぉ。皆よく食べ、よく飲んだことじゃろう」

 

 

  多くの生徒がデザートを食べ終えると。皆ダンブルドアの言葉に耳を傾けている。

 

 

 

 

「さて、ここでいくつか皆に知らせておきたいことがある。校庭にある森はいつもの様に立ち入りは禁止じゃ、まぁその森も半分は無いがの…その他にはホグズミード村へも3年生になるまでは禁止じゃ」

 

 例年通りの説明が終わる。

 

『大方ここで、ワザとらしい咳払いが入るぞ』

 

「オホンッ」

 

『ほらな』

 

『お決まりのパターンね』

 

 

「そのぉ…この事を皆に説明するのは非常に忍びないのだが…皆驚かずに聞いて欲しい」

 

『勿体ぶって無いでさっさと言えよ』

 

『何か重大な事かしら?』

 

 トムとハーマイオニーはそれぞれ思うところがあるようだ。 

 

「今年の寮対抗クィディッチの試合は中止じゃ」

 

「え!!」

 

「ふざけるな!」

 

「馬鹿かお前! 馬っ鹿じゃねぇのか? 若しくはアホか!」

 

「役に立たない男…」

 

「ケッ、だから時代遅れってんだよ、雑魚が! 死にくされ」

 

「なにこれ…ふざけてるの…?」

 

「おい、マジかよ、夢なら覚め――」

 

「この老害が!」

 

『ちょっと! トム! バレたらどうするのよ!』 

 

『なぁに、これだけ騒がしいんだバレやしないさ』

 

 ダンブルドアの発言に、多くの生徒が不満の声を上げ、会場は混乱の渦に飲み込まれた。

 そんなどさくさに紛れトムもダンブルドアへ罵声を浴びせかける。

 

 中には、絶望しきった顔で蠟燭の浮く天井を眺めているものまでいる。

 

 もちろんその中にハリーも含まれている。

 

「まぁ、皆が不満に思う気持ちは痛いほどよく分かる。それ故先程の罵詈雑言は許そう。心広きワシは気にせぬぞ」

 

 若干傷付いたのか、ダンブルドアの表情は曇っている。

 

 背後に控えている教員は表情は変えていないが、心拍数などは上昇している。

 

 笑いを堪えている者までいる。

 

「うぉほん! さて、では理由を話そうかの」

 

 ダンブルドアがある程度言いかけると、大広間の扉が勢い良く開かれる。

 

 皆一様に振り返ると。そこには、体中に傷を負い、飛び出た義眼を付けている男性が立っていた。

 

 その男は、周囲の生徒の視線をものともせず、左足を引きずりながらダンブルドアの方へ歩み寄って行く。

 

 左足に損傷などは認められないが、演技だろう。

 

 

「久しぶりだな!」

 

「おぉ…アラスター来てくれたのか」

 

 その男性は、ダンブルドアに近付くと、手を差し出し、2人は固い握手を交わした。

 

 

「おぉ、そうじゃ、まずは闇の魔術に対する防衛術の新しい先生を紹介しよう」

 

 ダンブルドア、先程座った男を見ながら、紹介を始めた。

 

 

「アラスター・ムーディ先生じゃ」

 

「よろしく頼むぞ」

 

 その紹介に、数名の生徒が拍手を送ったが、その拍手もすぐに終わった。

 

 

 ダンブルドアは再び咳払いをし、会話を始めた。

 

 

「先程言いかけた事じゃが、ここ数ヵ月間、このホグワーツでは心躍るイベントが行われるのじゃ。このイベントはここ100年以上行われていなかった特別な事じゃ…それは三大魔法学校対抗試合! 『トライ・ウィザード・トーナメント』を開催するのじゃ!!」

 

 

 

「「御冗談でしょう!」」

 

 

 

「なんだって!」

 

 

 

「嘘だろ!」

 

 

 

 ウィーズリー家の双子が声を上げ、その他にも、様々な声が響き渡る。

 

 

 

 皆驚きと、歓喜を孕んだ悲鳴だ。

 

 

 

 その光景にダンブルドアは愉悦の表情を浮かべ酔いしれている。

 

「三大魔法学校対抗試合?」

 

「ハーマイオニー…まさか君、知らないのかい? あんなに勉強熱心なのに」

 

「知らないわよ」

 

「おったまげー! やっぱりマグルの方じゃこの素晴らしいイベントは知られてないみたいだね」

 

「はぁ…ロン。貴方ホグワーツ特急でのマルフォイみたいなこと言うのね」

 

「なんでアイツが出て来るんだよ!」

 

「先程の発言が酷似していた為と思われます」

 

「冗談辞めてくれ。まぁいいや。これはとても栄誉ある大会なんだ!」

 

『まぁ、死者が出る程危険だって事で中止になったんだけどね』

 

『死者って…かなり危険な大会なのね』

 

『あぁ、まぁ今回のは安全に考慮してるんじゃないか? 流石の魔法省もそこまで馬鹿じゃ無いだろ』

 

『だと良いけど』

 

 ダンブルドアはテーブルの上のグラスをスプーンで数回叩き、周囲の注目を集める。

 

「さて、簡単じゃが三大魔法学校対抗試合についての説明じゃ。簡単に言ってしまえば我がホグワーツ魔法魔術学校とダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーから、各校1人の代表者が互いの意地とプライド、そして威信、そう言った大事な物を掛けて互いに切磋琢磨しあう、魔法試合じゃ」

 

「立候補する!!」

 

「まぁ、待つのじゃ。話はまだ終わっておらん」

 

 手を上げた生徒を制すると、ダンブルドアは口を開く。

 

「すべての生徒がこの大会に熱意を持ってくれているのは大変嬉しく思う。じゃが3校の校長と魔法省はこの大会に年齢制限を設けることで合意した。ある一定以上の年齢…すなわち17歳以上の生徒だけが参加する事が許される」

 

 ダンブルドアはそう言うと、何を思ったのかこちらに視線を向ける。

 

『おやおや、かなり危険視されているじゃないか』

 

『不愉快です』

 

『17歳からって事は、貴女達はまだ参加できないわね』

 

『そもそも、参加する理由が有りません』

 

『まぁ、好き好んで危険に首を突っ込んだりしないわね』

 

「そりゃないぞ!」

 

「俺達は4月で17歳なんだぜ? なんで参加できないんだよ」

 

「俺は参加するぞ! どんな手を使ってもだ!」

 

 ウィーズリー家の双子は残念そうに肩を落としながら、談話室へと雪崩込んでいった。

 

 

  翌日から新学期が始まり、通常通りの授業が組まれる。

 

 三大魔法学校対抗試合の影響により、終業過程を大幅に前倒しする必要があるようだ。

 

 その為、1授業時間辺りに行われる内容が過密になる。

 

 そんな中、魔法生物飼育学に関しては、生物の生育状況に合わせる為去年同様の密度だった。

 

 そして、今年もグリフィンドールとスリザリンは合同授業だ。

 

「やぁ、皆おはよう」

 

 ハグリッドは木箱を傍らに積み上げながら、グリフィンドール生を歓迎する。

 

 授業開始時間5分前だが、スリザリン生の姿は見えない。

 

「スリザリンを待ったほうがええ。あいつらもこいつを見逃したくはねえだろうからな。まぁお前さん達には先に見せてやろう。ほれ、尻尾爆発スクリュートだ! 俺が独自に創り上げたんだ! どうだ? すげぇだろ!」

 

 どうやら、このロブスターのような外見で有りながら青白い粘液で保護されている生物はハグリッドが創り出したようだ。

 

『なんだか…気持ち悪いわ』

 

『正直ドン引きだね。よくこんな物を創り出そうとしたな』

 

『悪趣味です』

 

 ハグリッドは嬉しそうな表情で遅れてやって来たスリザリン生に箱の中の生物を見せる。

 

「おう! おめぇらも見てくれ!」

 

「うげぇ…なんだこれ…」

 

「尻尾爆発スクリョートだ! 俺が創り出したんだ! 今朝孵りたてのほやほやだぞ!」

 

「これは一体何の役に立つんです?」

 

「え?」

 

 マルフォイの質問を受け、ハグリッドの動きが止まる。

 

「まさか…何の役にも立たないと…」

 

「そりゃー…あれだ…今後の授業で見つけ出そう。うん。それが課題だ」

 

『なんだそりゃ。いい加減コイツをクビにしろよ』

 

『ダンブルドア先生が校長をやっている以上無理ね』

 

『まったく。こんな奴が教鞭を振るうなど嘆かわしい!』

 

 その後、授業を受けていた生徒達は、皆遠巻きに箱の中を凝視するだけで授業時間が終了した。

 




三大魔法学校対抗試合には参加する理由が有りません。

(参加しないとは言っていない)


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罰則

今回は少し戦闘があります。


   魔法生物学の授業終了後。

 

 大広間に到着すると、マルフォイが新聞を片手に、こちらに歩み寄る。

 

「おい! ウィーズリー! 待てって! 見てみろよ!」

 

 半笑いのマルフォイに追われ、ロンは終始不機嫌そうな表情をしている。

 

「貴様の父親が新聞に載っているぞ! 見てみろよ!」

 

 ロンは半ば強引に新聞を奪い取る。

 

「写真まで載っているぞ! 君の両親が君の家の前で撮ったんだろうな。しかし…これは家と言えるのか? 巣穴の間違いじゃないのか? それと君の母親は少しお痩せになったほうがいいんじゃないか? このままだと健康的な意味で心配だ」

 

「失せる。マルフォイ! ロン行こうぜ」

 

「そうだ、ポッター。君は夏休みにこの連中のところに泊まったんだろう? それじゃあ教えてくれ。穴倉住まいのウィーズリーの母親は本当にこんなに太っちょなのか? それとも単に写真写りが悪いだけかねぇ?」

 

「黙れ、マルフォイ。それより、君の母親はどうなんだ?」

 

「なんだと…」

 

「あの顔つきは何だい? 鼻の下に糞でもぶら下げているみたいだ。いつもあんな顔をしているのか? それとも単に君がぶら下がっていたからなのかい?」

 

 ハリーの言葉に対し、マルフォイは体を震わせ、拳を握り締める。

 

「僕の母上を侮辱するな! ポッター!」

 

「まったく、弱い奴ほど良くほざくからな。これだからマザコン野郎は…」

 

 ハリーは肩を竦め、首を左右に振りながら、ドラコに背を向ける。

 

「ふざけるな!」

 

 マルフォイはその場で怒りに任せ杖を引き抜き、魔法を放つ。

 

 しかし、放たれた魔法はハリーの肩を掠め、背後のテーブルに当たる。

 

「貴様!」

 

 次の瞬間、大広間の入り口に居たムーディが素早く杖を振り、マルフォイに魔法を放つ。

 

「なっ!」

 

 素早い閃光がマルフォイを貫き、瞬く間に白いイタチへと変化させた。

 

「背後から襲うなど! 汚い事をするな!」

 

 ムーディの大声が大広間に響き、イタチに変えられたマルフォイはプルプルとその身を震わせている。

 

「でりゃ!」

 

 ムーディはそのまま手にしたイタチを宙へと投げ上げる。

 

 空中に放り上げられたイタチは、何とか姿勢制御し、デルフィの頭部へと着地した。

 

「魔法を受けたのか?」

 

 ムーディはハリーに駆け寄る。

 

「少し掠めただけです」

 

「下手に振れるな! 悪化するかもしれん」

 

 ムーディの怒声により肩を擦ろうとしたハリーの手が止まる。

 

「おい! 小娘! そいつを渡せ!」

 

 足を引きずりながらデルフィに接近するムーディに対し、白いイタチが頭部で震えている。

 

「どうするおつもりで?」

 

「後ろから襲い掛かる奴は気に食わん! 根性を叩き治してやる!」

 

「罰則という事ですか?」

 

「この手の奴は、痛め付けなければ分からん!! さぁ! 早く渡せ!」

 

「ホグワーツでの罰則は居残り等で体罰は容認されていない筈です」

 

「黙れ! さっさと渡せ! さもないと貴様も痛い目を見るぞ!」

 

「発言の意図不明」

 

「ほぉ…このワシをおちょくっているのか…良いだろう! 後悔させてやる!」

 

 ムーディが杖を取り出すと、デルフィに向ける。

 

「敵意があると判断しますがよろしいですか?」

 

「御託は良い! さっさと杖を構えろ!」

 

 ムーディの発言に対し、周囲の生徒が騒めき始める。

 

「なぁ…いくらあのマッドアイでも…」

 

「どっちに賭ける?」

 

「俺は――」

 

 周囲の生徒はこの勝負の行方を掛けの対象としている様で、木箱に硬貨や菓子などを入れている。

 

「さっさと構えろ!」

 

「了解」

 

 デルフィはウアスロッドを構える。

 

 私もデルフィの隣に移動する。

 

「ご心配なく。この程度の敵戦闘レベルならば、私一人で十分です」

 

「承知しています。ですが相手は仮にも教員です。殺傷行動には注意してください」

 

「手加減はしますのでご安心を」

 

「手加減だと…舐めるなよ! 殺す気で来い!」

 

 私はその場から数歩下がり、ハーマイオニーの横へと移動する。

 

「ねぇ、大丈夫なの」

 

「問題は無いかと思われます」

 

『コイツは見ものだな』

 

「行くぞ!」

 

 掛け声と共にムーディが杖を振り、魔法を連射する。

 

「防衛行動開始」

 

 迫り来る魔法に対しデルフィがウアスロッドで薙ぎ払う。

 

「なっ!」

 

「戦力レベル分析完了。脅威レベル下方修正」

 

「ふざけるなよ!」

 

 怒りに任せムーディが杖を振ると、様々な閃光が放たれる。

 

 連射速度は毎秒3発程度だろう。

 

 複数の魔法が折り重なりデルフィに迫り来る。

 

「防衛行動」

 

 その場でウアスロッドを横に薙ぎ、風圧だけで魔法をかき消す。

 

「くそが! これでもくらえ!

 

 ストレス下のムーディは素早く杖を振ると周囲の机や椅子が浮遊する。

 

「くらえ!」

 

 次の瞬間、浮遊した物体が、勢い良くデルフィに向かって降り注ぐ。

 

「ウィスプ展開」

 

 デルフィの前面に6基のウィスプが防衛状態で展開され、降り注ぐ物体を弾く。

 

「くそ!」

 

 冷や汗を掻いたムーディは疲れから肩で息をしながら、膝を付く。

 

「まだ続けますか? これ以上攻撃を続けるのでしら、こちらも攻撃行動に移行します」

 

「黙れ!」

 

 次の瞬間、ムーディが杖を振ると、デルフィの周囲を取り囲むように金属性の杭が浮遊する。

 

 恐らく周囲の破片を魔法により杭に変化せたのだろう。

 

「串刺しだ!」

 

 ムーディが杖を振り下ろすとそれに呼応するように金属性の杭がデルフィに降り注ぐ。

 

「シールド展開」

 

 デルフィの周囲にシールドが発生し、迫り来る金属性の杭はシールドに着弾と同時に砕け散る。

 

「なんだと!」

 

「攻撃行動へ移行。ウィスプ展開」

 

 6基のウィスプが攻撃形態へ移行し、ムーディの周囲を取り囲むと、高速で回転を開始する。

 

「邪魔だ! アレスト・モメンタム(動きよ止まれ)

 

 ムーディが杖を振るが、ウィスプの回転は依然として止まる事は無い。

 

「ちぃ!イモビラス(動くな)

 

 再びムーディが魔法を放つが、ウィスプは依然として回転を続けたまま、ムーディとの距離を詰める。

 

「投降してください」

 

「舐めるなぁ!」

 

 ムーディは自身へと杖を向ける。

 

ディミヌエンド(縮め)

 

 魔法を自身にはなったムーディはその場で体が縮むと、回転続けるウィスプの隙間を高速ですり抜け、距離を取った所で元に戻った。

 

「形勢逆転! 油断大敵! くらえ!」

 

 ムーディが振るった杖の先端から高温の炎が発生する。

 

『あれは、悪魔の火だね。こんな場所で使うなんて相当イラついているみたいだね。と言うかイカれてるよ』

 

『あれって凄い危険な魔法だって聞いたけど…』

 

『そりゃそうさ。まぁアレすら壊す威力が有るからね』

 

『アレって?』

 

『気にしなくて良いさ。今は、目の前の事に集中した方が良いよ』

 

 杖から放たれた高温の炎がデルフィに襲い掛かる。

 

「ハハハッ! 燃え尽きてしまえ!!」

 

 炎に吞まれるデルフィの姿を見てムーディは勝ち誇ったように、高笑いをしている。

 

 しかし、あの程度の温度ならば、大気圏突入及び突破が可能なオービタルフレームならば、シールドにより十分に対応可能だろう。

 

「ベクタートラップ展開」

 

 次の瞬間、周囲の空間ごと、デルフィを飲み込んだ炎がベクタートラップ内に閉じ込められ、消滅する。

 

「爆炎の圧縮終了。攻撃行動に移行します」

 

「くっ!」

 

 その場でデルフィが浮遊すると、ムーディが杖を構え警戒体制を取る。

 

「攻撃開始。ゼロシフトレディ」

 

 ゼロシフトを使用し、瞬時にムーディの眼前へと現れる。

 

「なんだと!」

 

 突如現れたデルフィに対し、ムーディが驚愕し、隙が生じる。

 

 その隙を逃すことなく、デルフィがウアスロッドを横に薙ぎ、鳩尾を殴り付ける。

 

「ぐぉ!」

 

 それなりの衝撃を受けたムーディが体をくの字にしながら吹き飛び、壁に激突する。

 

「カハッ!」

 

 背中を強く打った様で、肺の中の空気を全て吐き出したかのような喘ぎが響く。

 

 

 うずくまったまま動かないムーディに近寄ると、ウアスロッドの先端を突き付ける。

 

「戦闘終了です。ご満足いただけましたか?」

 

 ムーディは何の反応も起さず、ただうずくまっているだけだった。

 

「生体反応確認。医師を呼んできます」

 

 その場で踵を返したデルフィがウアスロッドを収納し、こちらに歩み寄る。

 

「小娘! 隙を見せたな!」

 

 倒れていたムーディがそう言うと同時に杖を振り至近距離でデルフィの背後に緑色の閃光を放った。

 

「危ない!」

 

 ハーマイオニーが悲鳴を上げるが、既に魔法はデルフィに直撃する。

 

 しかし、直撃した魔法は、デルフィの体表で霧散し無効化される。

 

「え?」

 

「これ以上の戦闘に意味は有りません」

 

 疲れ果てた様にその場で項垂れ、うずくまる。

 

「何の騒ぎです!」

 

 騒ぎを聞きつけたマクゴナガルは周囲の現状を見て驚きを隠せずにいる。

 

「キュイ!」

 

「なんですかそれは? 可愛らしいイタチですね」

 

「ドラコ・マルフォイです。アラスター・ムーディのよってこのような姿に変化させられました」

 

「なんですって!」

 

「回収を頼みます」

 

「えっ…えぇ」

 

 デルフィからイタチを受け取ったマクゴナガルだが、どうしたら良いのか分からず、唖然としている。

 

「ムーディ!」

 

 イタチを手に載せたまま、マクゴナガルがムーディを睨み付ける。

 

「なんだ!」

 

「なぜ、生徒をイタチに変えたのです!」

 

「それは…罰則だ。奴は――」

 

「本校での罰則は居残りや書き取りなどです! ダンブルドア校長はアナタにそう話したのではないのですか!」

 

「いやダンブルドアからはそんな話は…先程あの小娘が言ってはいたが…どうだったか…」

 

「もう結構です! ここは片付けておきますから、医務室へ行ってください。まったく…どうしてこうも、毎年厄介事が…」

 

 マクゴナガルは溜息を吐きながら、杖を振り崩れた机などを直し始めた。

 

 足を引きずりながら、立ち上がったムーディだが、入り口付近で振り返る。

 

「ワシは貴様の親父をよく知っておる! 親父に伝えておけ、ムーディが貴様から目を離さないとな!」

 

 ムーディは捨て台詞を吐くと、足を引きずりながらその場から出ていった。

 




手加減しているとはいえ、かなり健闘したんじゃないかな?


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禁止魔法

不備があった為、再投稿です。


   数日後。

 

 本日の授業は、闇の魔術に対する防衛学だ。

 

 教室へと移動すると、授業開始10分前だというにも拘わらず、すでに多くの生徒が着座し、授業開始を待ちわびている。

 

 部屋の中央に座り、タブレット端末を操作しているハーマイオニーの隣へと移動する。

 

「よろしいですか?」

 

「良いわよ」

 

 許可を取り、着座する。

 

 数分後、足を引きずる独特な音が響き渡る。

 

 その瞬間、多くの生徒の心拍数上昇し、緊張状態へと移行した。

 

 扉が開かれ、足を引きずりながらも不機嫌そうな表情のムーディが現れた。

 

 

 登壇後ムーディが黒板にチョークで自分の名前を書きながら、その義眼をギョロギョロと動かした。

 

 

 

「アラスター・ムーディだ! 貴様共に闇の魔術に対する防衛術を教えてやる男だ! なんでそんな物を机の上に置いている! そんな物は片付けろ!」

 

 

 

 教卓を叩きながらムーディが大声を上げた。

 

 その声に多くの生徒が驚き、動きが止まっている。

 

 

 

「教科書だ! そんな物は必要ない!」

 

 

 

「でも! 先生…教科書は…」

 

 

 

 いつもの様にハーマイオニーが手と声を上げると、ムーディがその言葉を遮る様に口を開いた。

 

 

 

「なんだ貴様は! 貴様は敵が魔法を放つ時に悠長に教科書を読んでいるつもりか! あぁ? それで対抗出来ると言うのか! そいつは凄いな! 是非とも闇祓いに欲しいな! 野垂れ死ななければな!」

 

 

 

 ムーディの気迫に圧倒されたのか、ハーマイオニーが黙り込んでしまう。

 

『まぁ、一理あるね。実際魔法使いの決闘なんて、先に撃った者勝ちな所あるし』

 

『だからって、あそこまで言わなくてもいいと思うわ』

 

『そう言う性格なんだろう。気にする必要ないさ』

 

 

 恐怖した生徒達が、教科書を鞄に仕舞い込んだ。

 

「良し! それではさっそく始めるぞ! ワシがまず貴様らに教えるのは、魔法使いの戦い方だ! 何も知らずに戦うのは無謀だが、知識だけあっても戦い方を知らなければ意味が無い! だからワシが教えてやる! 闇の魔術とは一体何なのかを!」

 

 

 品性の無い喋り方で、ムーディは授業を進めていく。

 

 

 

「まずは手始めだ…この魔法界には禁じられている魔法が存在する。それを知っている者は居るか!」

 

 すると、ハーマイオニー真っ直ぐ手を上げる。

 

「そうか貴様は分かるか小娘よ! では答えてみろ!」

 

 

 

「はい…まずは服従の呪文です」

 

 ハーマイオニーが声を少し震わせながら答えると、ムーディは満足気な笑みを浮かべた。

 

「その通りだ! この呪文で闇の帝王は多くの魔法使いを服従させたと聞く!」

 

『まぁ、便利な魔法だね』

 

『学生の頃から使ってそうよね』

 

『ノーコメントで』

 

 ムーディは杖を引き抜く。それを見た生徒達が息を呑んだ。

 

 そんな事は御構い無しに、机から1匹の蜘蛛が入った瓶を取り出した。

 

「今回はこの蜘蛛に対して呪文をかけよう! だが人には使うなよ! 使えばそれだけでアズカバン行きだ! そんな風にはなるなよ!」

 

 

 ムーディは瓶の蓋を取り、蜘蛛を手の平に乗せると、さっそく魔法をかけた。 

 

「インペリオ!」

 

 

 

 魔法を受けた蜘蛛はムーディの手の平で踊り始める。

 

 スキャンした結果、特殊なエネルギーの照射により、脳波をコントロールし一種の催眠状態にしている様だ。

 

 

 

 コントロール下の蜘蛛は大ジャンプし、ロンの頭に飛び乗ると、タップダンスを始めた。

 

 

「どぉだ! 芸達者なもんだろう! 次は何をさせようか!」

 

 

 

 ロンの頭から蜘蛛を手元に戻すと、ムーディは楽しそうに口を開いた。

 

 

 

「どうだ? 面白いと思うか?」

 

 

 

 生徒たちは先程のロンの喚きっぷりを見て、未だに笑っている生徒もいる。

 

 

 

「だが、ワシが貴様らに同じ事をして、コサックダンスでも躍らせてやろう。どうだ? 面白いと思うか?」

 

 

 ムーディが声のトーンを下げ、そう一言、口にすると、生徒達の顔から笑顔が消えた。

 

 

 

「今コイツはワシの完全な支配下に居る。ワシはコイツを思いのままに出来る。窓から飛べと命じれば飛ぶだろう。水で溺れ死ねと命じればそうするだろう…そこの小僧…貴様を襲えと命じればそうするだろう」

 

 

 

 ムーディがロンを指差すと、ロンは恐慌状態となり声も出ない状況だった。

 

 

 

「先程も話したが、この服従の呪文で支配され、誰かの意思で動かされているのか、それとも自分の意志で動いているのか、区別するのは魔法省でも一苦労だった」

 

 

 

 蜘蛛は、ムーディの手の平で丸くなると、そのまま動かなくなった。

 

 

 

「服従の呪文は抗う事が出来る。この先の授業ではそれを教えてやろう。しかしこれには莫大な精神力が必要になる。誰でも出来るというものでは無かろうがな」

 

『確かに、精神力によって防げるね。まぁ、現在の君はナノマシンの精神防壁のおかげで操られる事なんて無いけどね』

 

『なんか…本当に便利ね』

 

『解除しようと思えば出来るけどね。どうする?』

 

『お願いだからそう言うのは止めて』

 

「さて、次の呪文だ。答えてみろ!」

 

 ムーディは再びハーマイオニーを指差す。

 

「次は磔の呪文です…」

 

 

「そうだ、次は磔の呪文だ。良く見える様に皆近寄れ!」

 

 

 ムーディの声に従い、皆が確認できる位置へと移動する。

 

 

 

「では行くぞ…クルーシオ!」

 

 

 ムーディが呪文を唱えると同時に、蜘蛛が身を捩よじり、もがき苦しみ始めた。

 

 時には、蜘蛛とは思えない様な金切り声を上げている。

 

 先程同様に、エネルギー照射により、一種の催眠状態にしているが、先程は肉体を制御する波長だが、今回のは痛覚や不快指数に影響を及ぼしている。

 

「う…うぅ…」

 

「もうやめて! ネビルが苦しんでいるわ!」

 

 ハーマイオニーが叫び、多くの生徒がネビルの方に目を向けた。

 

 

 

 ネビルは拳を強く握り、恐怖と怒りに満ちた目を大きく見開いている。

 メンタルコンデションレベルも急速に低下している。

 PTSDを発動させたようだ。

 

「もう良いだろう」

 

 エネルギー照射を終了させると、蜘蛛の動きが緩やかになる。

 

 

「磔の呪文…それは相手に想像を絶する苦痛を与えるものだ。この魔法があれば、拷問の際、歯を抜く事も、目をくり抜く事も無い。かつて多く使われた魔法だ」

 

『その代わり精神的にズタボロにされて廃人になるけどね』

 

『嫌な呪文だわ』

 

『ちなみに、ナノマシンの精神防壁で防げると思うから、安心していいよ』

 

『それを聞けて良かったわ。でもこんな呪文を受ける必要が無い事を祈りたいわ』

 

「さて、次で最後だ。答えられるか?」

 

 ムーディはハーマイオニーを睨み付ける。

 

「次は…死の呪文です』

 

「そうだ。死の呪文。コイツは最低最悪な魔法だ」

 

 ムーディは瓶の中の蜘蛛に向けて杖を構えた。

 

 

 

「アバダケダブラ!」

 

 

 

 ムーディの杖の先から緑の閃光が走り、蜘蛛に直撃すると、蜘蛛はピクリとも動かなくなってしまった。

 

 閃光が直撃すると同時に心肺機能が完全に停止した。

 

 どうやら、エネルギー照射により、心臓への電気信号に影響を与え心室細動を強制的に引き起こしている様だ。

 

 

「あまり見ていて気持ちの良いものではないな。だがそれほどコイツは危険な魔法だ。反対呪文が存在しないのだ。それはつまり防ぐ方法が無いという事だ。この魔法を受けて生き残った者はただ1人…その者は…」

 

 

 その場の全員の視線がハリーに刺さる。

 

 ハリーは俯き、その視線に答えようとはしなかった。

 

『確かに謎だ。なんで彼が未だに生きているのか…』

 

『よく分からないわ。でも死の呪文って当たったら終わりなのよね』

 

『普通の人ならね』

 

『でも、この前デルフィが似たような魔法を受けていたような気がするんだけど…』

 

『確かに同質のエネルギー照射を受けましたが、無効化しました』

 

『はぁ…まぁもう驚かないけどさ。規格外すぎるよ』

 

『そうよね…ちなみにこれって私は…』

 

『ナノマシンじゃ防げないね』

 

『そんなぁ…』

 

『まぁ、魔法を受けないように気を付ける事だね』

 

『防御シールドによって防ぐことは可能です』

 

『君は本当に余計な事を言うね』

 

『そうなの。それじゃあその時は頼んだわよ』

 

『こき使わないでくれよ。大体電力消費だって結構辛いんだが』

 

『本当に危ない時だけで良いわよ』

 

『まぁ、君に死なれたら移動もできないからね。そうするさ』 

 

 

「いいか! 以上が闇の呪文だ! 相手を惑わし、苦しめ、死を与える! 身を守る為にはこれがどれほど恐ろしい呪文なのか、理解しなければならない! 油断大敵だ!」

 

 

 

 すると、ムーディが闇の呪文の詳細を黒板に書くと、書き写すように指示を出した。

 

 

 

 

 

 その場で生徒達が、恐怖に震えながら書き写していった。

 

 

  その夜、夕食後、自室にてハーマイオニーが羊皮紙を前に頭を抱えていた。

 

「うーん…どうしたら…」

 

 頭を抱えながら悩み込んで居たハーマイオニーだったが、こちらに気が付いたのか、笑顔を見せる。

 

「あら、二人とも…」

 

「何かお悩みですか?」

 

「うん。実は私屋敷しもべ妖精の労働状況について考えているの私…図書館で調べて気が付いたの…屋敷しもべの奴隷制度は何世紀も前から続いているのよ。これを当たり前だと思い込んで今まで誰も行動を起さなかったのが不思議だわ!」

 

「まったく…おかしな事を考えるね」

 

「そんな事無いわよ! 屋敷しもべ妖精だって、しかるべきお給料と休みを受けるべきだわ! そこで考えたの。S・P・E・W。『Society for Promotion of Elfish Welfare』、つまり屋敷しもべ妖精福祉振興協会よ」

 

「はぁ…何を考えているんだか…」

 

「なによ…」

 

 トムは呆れた様に溜息を吐く。

 

「前回も話したけど、屋敷しもべ妖精は好き好んで仕えているんだ」

 

「きっとそれは、そう言う風に洗脳されてきたからよ! だから…行動を起す必要があるんだわ!」

 

「行動ねぇ…ちなみにどうするつもりだ?」

 

「最初の目標は、屋敷しもべの正当な報酬と労働条件の確保ね。そして最終的には屋敷しもべの権利を獲得するのよ! そうすればこの悪しき歴史にも終止符が打てるはずよ!」

 

「へぇ…」

 

「そこで考えたの! まずはメンバーを集めて、入会金を集めようって」

 

「それは、本気で言っているのかい?」

 

「本気よ!」

 

「はぁ…少し落ち着いて考えてみな。奴等は仕えるのが生きがいなんだ」

 

「だからそれは、そう言う風に洗脳を――」

 

「じゃあ、聞くが。君は毎日のように勉強しているよね」

 

「えぇ、それが何の関係があるのよ」

 

「僕が言うのもアレだが、君は他の生徒と比べて勉強熱心なところがある。それこそ洗脳されているレベルで」

 

「洗脳なんかじゃ無いわ! 私は勉強が好きなのよ!」

 

「それは、立派な事だね。でももし、教員の誰か…そうだな。まぁダンブルドア辺りにするか。アイツが君は勉強しているから、すこしの駄賃と勉強をしてはいけない日を与えるって言われたらどうする?」

 

「そんなの受け取れないわ。だって勉強は私が好きでしている事だし、勉強しちゃいけない日なんて…」

 

「そうだね。だけどね、君が屋敷しもべ妖精にしようとしている事はそう言う事なんだよ」

 

「そんな…」

 

「まぁ、もう少し社会全体を見る事だね」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐くと、目の前の羊皮紙を丸めゴミ箱へと投げ込んだ。

 

「もう寝るわ…」

 

「おやすみなさい」

 

「良い夢を」

 

 ベッドへと身を委ねたハーマイオニーはそのまま眠りに付いた。

 

 




最近、PCが謎の動作不良を起こす様になりました。


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炎のゴブレット

分かりにくいかもしれませんが。

『』が通信による会話。【】が英語による会話です


 

   数週間後、無計画な授業内容も落ち着きを取り戻し始める。

 

 そんなある日、ムーディがある提案を上げた。

 

「さて、今日の授業では、このワシ自らがお前達に服従の呪文を掛けてやる!」

 

 不気味な笑みを浮かべながらムーディが杖を引き抜くと、教室の中心に椅子を置き腰かける。

 

「あの…先生…」

 

 ハーマイオニーが不安そうに手を上げる。

 

「なんだ小娘」

 

「先生…ですがその呪文は違法だとこの前…もし人に向けて使ったらアズカバンに…」

 

 

 

「その点については安心しろ、ダンブルドアから許可は貰っている。まぁ、どうしても受けたくないと言う者が居るならば、特別に免除してやる。だがその分レポートを増やすぞ」

 

 

 

 ムーディに言い返されたハーマイオニーは俯きながら席へと座った。

 

 

 

 その後、ムーディは生徒を1人ずつ呼び出すと服従の呪文をかけ始めた。

 

 

 

 服従の呪文をかけられた生徒は、突然踊りだしたり、走り回ったりといった奇行を行っている。

 

 

 

 そして、ムーディが呪文を終わらせ、ようやく我に返ったようだ。

 

「さて…次は貴様だ、小娘」

 

 次に指名されたハーマイオニーは恐る恐る椅子に腰かけるムーディの前へと移動する。

 

「では行くぞ、インペリオ! さぁ! 踊れ!」

 

「あれ…」

 

「ん?」

 

 ムーディは杖を振りエネルギー照射を開始するが、ハーマイオニーは微動だにしない。

 

『ナノマシンの精神防壁で無効化している。どうする? 解除するか?』

 

『お願いだから、解除しないで』

 

『了解』

 

「どうなっている! クソッ! インペリオ!!」

 

 ムーディは再びエネルギー照射を開始するが、ナノマシンによって無効化される。

 

「まさか…打ち勝ったのか…」

 

「えっと…そ、そうです!」

 

「くそっ! 興が削がれた! もういい! 下がれ!」

 

 一礼した後ハーマイオニーは多くの生徒の視線を浴びながら自分の席へと戻る。

 

「次は貴様だ小娘! さっさと前に出ろ!」

 

 次に指名されたのは、私だった。

 

「では早速だが行くぞ! インペリオ!!」

 

 杖からエネルギー照射が行われるが、防衛システムによって無効化される。

 

 その為、何の影響も受けていない。

 

「さぁ! 踊れ!」

 

「それは命令ですか?」

 

「あぁ! 命令だ!」

 

「お断りします」

 

「クソッ! こいつもか! えぇい! 次だ!」

 

 次に指名されたデルフィだったが、私同様にエネルギー照射を無効化した。

 

「あぁ! もう良い! 3人も操れないとは…自信を無くすわ…」

 

 ムーディはふら付きながら、椅子から立ち上がる。

 

「今日の授業はもう良い…適当にレポートをまとめておけ…」

 

 一言言い終えた後、肩を落としながら扉を開け、教室を後にした。

 

「おい…」

 

「どうする…」

 

 授業時間はまだあるが、生徒達は互いに目を見合わせながら、ムーディの背中を見送った。

 

 

  数か月後

 

 今日はボーバトンとダームストラングの生徒を迎え入れるべく城の前に集合させられた。

 

 

 

 生徒をはじめ、教職員も他校の生徒がどの様にこの城まで来るのか楽しみにしている様だ。

 

 

「おい! あれ!」

 

 とある生徒が、空を指差した。

 

 上空には巨大な生体反応を発生させながら、飛翔する、12頭の巨大な馬が鉄製の馬車を引いていた。

 

 その馬車は轟音と共に城前へと着陸すると、中から長身の女性が姿を現した。

 

「おー、これはこれはマダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。歓迎しますぞ」

 

 ダンブルドアが手を出すと、マクシームも手を出し、互いに固い握手をする。

 

「ダンブルドールお元気そうで何よりでー」

 

「おかげ様じゃ」

 

 フランス訛りだが、十分に会話可能なレベルなようだ。

 

「わーくしの、せーとです」

 

 マクシームが指を鳴らすと、馬車の後部が開き、男女合わせて数十名の生徒が体を震わせながら現れる。

 

 現在の気温は10℃だが、彼等は薄着の制服で、上着などを着用していないのが原因だろう。

 

 

 

「カルカロフはまだーですーか?」

 

 

 

「まだ見えてはおらぬ様じゃ、このまま外でお出迎えなさるかの? それとも城でお待ちになるかの?」

 

 

 

「なかでまちーます」

 

 

 

 マクシームが即答する。

 

 

 

「そうでーす、このウーマは…」

 

 

 

「我が校の魔法生物飼育学の担当の先生が喜んで世話をするはずじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアの言葉を聞き、マクシームは安心したのか、震えている生徒を引き連れ城へと入って行った。

 

 

『どうやら、ハグリッドが面倒みるみたいね』

 

『アイツには、動物の管理がお似合いさ。教員の器じゃない』

 

『まだ言っているのね』

 

『何度でも言うさ』

 

 

 

 しばらくすると、湖の方から水飛沫が飛び散る音が聞こえてきた。

 

「なんだあれ!」

 

 

 水中からエネルギー反応を検知。巨大な難破船が引き揚げられる様に浮上してきた。

 

「ハッ!」 

 

 完全に浮上し終えると、甲板から一人の男性が飛び降りてきた。

 

 

 

 着地後その男性は分厚い毛皮のマントを羽織る。まるで軍人の様な出で立ちだった。

 

 

 

「おお! ダンブルドア! 久しいな、元気だったか!」

 

 

 

「相変わらずじゃよ、カルカロフ校長」

 

 

 

 2人は先程同様、固い握手を交わした。

 

「全員整列!」 

 

 カルカロフの号令と共に同じようなコートに身を包んだ、ダームストラングの生徒達が甲板から飛び降り地面に着地すると、整列し、隊列を組みホグワーツへと入って行った。

 

 

 

 行進を見届けた後、私達はマクゴナガルの指示で大広間へと移動させられた。

 

 

 

 

 

 大広間に入ると、他校の生徒の姿は見えなかった。

 

 恐らく、別室で待機しているのだろう。

 

 

 

 席に着き、少し待っていると、壇上にダンブルドアが登壇し、演説を始めた。

 

 

 

 

 

「諸君、本日我々は新たな友をこの城に迎え入れようと思う。彼等はこの1年間留学生として学校生活をしてもらう事になる。彼等はまだこの城に慣れておらん…故に諸君らには彼等を助けてやってほしい」

 

『いつもと違って今回は結構まともな事言っているわね』

 

『普段は無駄話ばかりだからな』

 

「三大魔法学校対抗試合とは言え、他国の者と関わり合いを持つという事はとても貴重な経験じゃろう。この1年間は、彼等と親睦を深め、素晴らしい友情を築いてほしい」

 

 

 ダンブルドアの長い演説が終わると、いつもの様に拍手が響く。

 

 

「それでは諸君、今宵は特別に、彼等を呼び入れるとしよう」

 

 

 ダンブルドアの一声と同時に、大広間の扉が開かれ、水色のスーツを着込んだボーバトンの生徒達が、ワルツの演奏に合わせダンスを踊りながら入場してきた。

 

『見事な物だね』

 

『見惚れてるの?』

 

『別にそんなんじゃ無いさ』

 

 

「どうやら、パフォーマンスを披露してくれるようじゃの。フランスの魔法学校、『ボーバトン魔法魔術アカデミー』の生徒と、フランス魔法生物学の権威である、マダム・マクシームじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアの紹介にボーバトン校の生徒と、マクシームは手を振りながらレイブンクローの席へと座った。

 

 

 

「次はドイツの『ダームストラング専門学校』の生徒達と、校長のイゴール・カルカロフじゃ」

 

 

 

 生徒達の拍手が鳴り響くと同時に、先程までのワルツが転調し、今度は重圧な行進曲へと変わった。

 

 

 

 開かれた扉から、ダームストラング生が軍靴の音を響かせながら、長い杖を一糸乱れぬ動作で地面を叩き隊列を組み入場してきた。

 

『素敵だわ』

 

『なんだ? 見惚れてるのかい?』

 

『そんなんじゃ無いわ』

 

 

「く! ク! クラムか! ハリー! クラムだぜ!」

 

「ホントだ! クラムだ!」

 

 派手な演出と共に炎の中から1人の青年が現れると同時に、ロンを始め、多くの生徒のテンションが最高潮を迎えた。

 

「ねぇ、クラムって誰?」

 

「ハーマイオニー! 君! もしかしてクラムを知らないのか! クラムは世界最高のシーカーの1人だぜ! まだ学生だったなんて…信じられないよ!」

 

「そうなの」

 

「興味無さそうだね」

 

「そこまで興味ないわ」

 

 ハーマイオニーの隣で、ロンは唖然とし首を横に振っていた。

 

「まったく……おい! こっちだ! グリフィンドールに!」

 

 

 

 ロンは席を立ちあがるとクラムに必死にアピールしグリフィンドールの席に招きたい様だったが、その願いとは裏腹に、スリザリンの席へと座った。

 

 

 

「くそ! なんでスリザリンなんかに!」

 

 

 

 ロンは、分かり易く機嫌が悪くなると、悪態をついている。

 

 

 

  ダンブルドアは壇上の上で1度咳払いをすると、演説を続けた。

 

 

 

「さて…ようこそホグワーツへ、心から歓迎じゃ。本校での生活が楽しいものになってくれる事をワシは心から願っておる」

 

 ダンブルドアは一度咳払いをすると、全体を見渡す。

 

 

「あまり長い演説では興が覚めるじゃろう。それでは大いに飲み、喰らい、楽しんでくだされ!」

 

 こうして、ダンブルドアが手を叩くと、食事がテーブルの上に現れる。

 

 今までの食事の他にも、イギリス料理やドイツ料理などが並べられている。

 

 ロンは初めて見る料理に興味津々な様で、ハーマイオニーにあれこれ聞いている。

 

 

 

「ねぇねぇ! これ何? この魚がいっぱい入っているやつ!」

 

 

 

「ブイヤベースね」

 

 

 

「え? 今クシャミした?」

 

 

 

「フランス語よ、この前食べたたけど美味しかったわ」

 

「こっちは?」

 

「アクアパッツァね」

 

「またクシャミした?」

 

「はぁ…」

 

 しばらく食事を楽しんでいると、後方からフランス訛りの英語が聞こえてきた。

 

 

 

「ここが、クリフィンオールでーすか?」

 

 

 

 振り返ると、そこにはボーバトン生と思われる女子生徒が立っていた。

 

 

 

 ロンとハリーはその生徒に目を奪われているようで、ハーマイオニーは呆れた様に溜め息を吐いている。

 

「どーかしーました?」

 

 ロンはフランス訛りがおかしいのか、声を殺して笑い始めた。

 

 するとそのボーバトンの女子生徒は少し不機嫌そうな顔をしてフランス語で言った。

 

【まったく、こっちが合わせて英語で話しているのに笑うなんて失礼な生徒ね】

 

「【ごめんなさい、多分悪気は無いのと思うの、ロンは昔からこんな感じだし…】あれ? なんで私フランス語話せてるの?」

 

 ハーマイオニーがネイティブなフランス語を口にしたことで、ロンとハリーは唖然としながらブイヤベースを溢している。

 

『ナノマシンによる翻訳機能だね。まったく便利なもんさ』

 

『なんか…とてつもない物に手を出してしまった気がするわ』

 

『後悔してるかい?』

 

『別に』

 

「ハーマイオニー! 君フランス語が話せるの!」

 

「え…えぇ、一応ね」

 

【貴女、フランス語が話せるのね。それもかなり流暢ね】

 

【えぇ、まぁ一応…】

 

【他にはなせる人は居ないかしら? できれば通訳を頼みたいわ】

 

【我々も会話可能です】

 

【あら? 貴女達も話せるのね。双子かしら?】

 

【そう思っていただいて構いません】

 

【そう、なら通訳をお願いするわ。それじゃあ。また】

 

 女子生徒はそう言うと、ブイヤベースの入った皿を持ち上げてレイブンクローの席へと移動した。

 

「え? なに? 君達…フランス語が話せるの?」

 

「可能です」

 

「はえー」

 

 ハリーは感心しているが、ロンは先程の生徒を未だに見つめていた。

 

 

  パーティーも終わりを迎えると、ダンブルドアが再び登壇し三大魔法学校対抗試合に関する説明を始めた。

 

 

 

「時は来た。これより三大魔法学校対抗試合を始めるにあたって2、3説明をしておこうかの」

 

 

 

 そう言うと、ダンブルドアは大会を開催するにおいての協力者の紹介を行った。そして大会は『バーテミウス・クラウチ』『ルード・パグマン』と学校長5人が審査するという話だ。

 

「さて、ここで重要な選手の選考方法じゃが…今回は公平を規すべく、ある物を使おうと思う…ミスターフィルチ、箱をこちらへ」

 

「はい」

 

 フィルチが重厚な木箱をダンブルドアに手渡した。

 

 

 

「代表選手がどの様な競技を行うかは既に決まっておる。課題は3つじゃ。この3つの課題により代表者は様々な観点から試される事になるじゃろう…」

 

 

 

 ダンブルドアは箱をテーブルの上に置いた。

 

 

 

「皆も知っておるじゃろうが、今回の大会で選ばれる代表者は3人、各校1人ずつじゃ。選手は課題をどの様に攻略するかを採点され、合計得点の最も高い者が優勝杯と1000ガリオンを獲得するのじゃ。そして代表選手を選ぶのは…この炎のゴブレットじゃ!」

 

 ダンブルドアの声と同時に、木箱から青白い炎が立ち上がり、中から青白い炎を身にまとったゴブレットが姿を現した。

 

 多くの生徒が歓声を上げる中、デルフィから通信が入る。

 

『優勝賞金1000ガリオンですか』

 

『その様です。それだけあれば、不足金額の補填には回せます』

 

『え? ねぇ、何の話?』

 

 ハーマイオニーが通信に割り込む。

 

『参加しますか?』

 

『賛成です』

 

『ちょっと! 17歳以下は立候補できない筈よ!』

 

「代表選手に名乗りを上げる者は、羊皮紙に名前を書き、このゴブレットの中に24時間以内に入れるのじゃ。明日の夜…ハロウィーンの夜にゴブレットが代表選手を選び出すじゃろう…じゃが、炎のゴブレットに名前を入れればそれは魔法契約となり、取り消すことはできなくなる。悪戯半分でその名を入れぬように。それとこのゴブレットは玄関ホールに設置するが、その周囲にはワシが年齢線を引く。17歳に満たない者は何者であろうとこの線を越える事は出来ん。それを理解してもらいたい」

 

 ダンブルドアはこちらを睨み付けながら口にする。

 

『おやおや、これはまた警戒されているね』

 

『残念ながら心当たりが有りません』

 

『それ冗談で言っているのか?』

 

『生憎と冗談を言うような――』

 

『わかったよ』

 

『ねぇ、本当に参加するの? だってダンブルドア先生が年齢線を引くって言っているわ』

 

『十分に対処可能です』

 

『でも…』

 

『ご安心を』

 

『もう…無茶は止めてよね』

 

『善処します』

 

 パーティーはその盛大な盛り上がりが嘘であったかの様に終わりを告げ、私達は談話室へと戻っていく。

 

 




ナノマシンが便利すぎる。

結局、三大魔法学校対抗試合に参加します。


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代表選手

三大魔法学校対抗試合…

一体誰が優勝するんだ…


 

   グリフィンドールの談話室では、誰が代表選手になるか、どの様な手段を用いダンブルドアが引いた年齢線を攻略できるか、ポリジュースを使う、上級生に依頼する等の会話が飛び交っている。

 

 

 

「誰が代表になるかな?」

 

「さぁ? でも僕が17歳以上だったら立候補していたよ」

 

「ロンが? だったら僕も代表選手にエントリーするよ」

 

「ネビルがか? なら僕だって」

 

 ハリー達は相変わらず他愛無い会話をしている。

 

「きっと、君達が参加したら簡単に優勝するんだろうな」

 

「そうだね。17歳以上だったら良かったのにね」

 

 ロンは笑いながら、冗談の様に言う。

 

「もしかしたら、君達に参加して欲しくないから17歳以上にしたのかも」

 

「それはあり得るね」

 

『まぁ…きっとそうよね』

 

『あの老害の事だ。それ位しか考えて無いだろう』

 

『少しくらいは安全性の問題とかも考慮したんじゃない? それで? 参加するの?』

 

『もちろんです』

 

『この前まで参加しないって言ってたのに、どういう風の吹き回し?』

 

『優勝賞金です。ホグワーツからの請求額の補填にします』

 

『請求? あぁ…去年の…』

 

『なるほどね。あの老害が生徒の為に金を使うとも考えにくい』

 

『言えば、立て替えてくれそうだけど…』

 

『だとしても暴利だろうね。それにしても皮肉だねぇ』

 

『なにが?』

 

『ダンブルドアが君達に請求しなければ、君達も参加するなんてことは無かっただろうに』

 

『策士策に溺れるって言うのかしら?』

 

『どっちかと言えば、自業自得かな?』

 

『因果応報』

 

『『それだ』』

 

 グリフィンドールの談話室は依然として立候補者の話題で盛り上がっていた。

 

  次の日

 

 朝から大広間にはかつて無い程までの人だかりが出来ていた。

 

 皆、立候補者がゴブレットに投票する瞬間を目にしたいのだろう。

 

 

 立候補者が意気揚々とゴブレットに名前を書いた紙を入れる度、大広間からは歓声が上がる。

 

 

 

 しかしそんな光景も、昼を過ぎた頃には収まり、人々の姿は疎らになり始めた。

 

 そんな中ウィーズリーの双子が何やら薬の入った小瓶を片手に、もう片方には羊皮紙を握り絞めゴブレットを眺めている。

 

「準備は良いか?」

 

「もちろんさ」

 

 

 2人は小瓶を打ち合わせ、乾杯すると一気に飲み干す。

 

 すると、2人は体表細胞が活性化し、見た目だけは成人男性になった。

 

 

 

「「よし! 行くぞ!!」」

 

 

 

 双子は声を合わせ、同時に年齢線へと飛び出した。

 

 

 

「「うわあああああ!!!」」

 

 

 

 年齢線に1歩足を踏み入れた瞬間、2人の体は弾き飛ばされ、はるか後方へと吹き飛んだ。

 

 

 

「おい! 兄貴!!」

 

 

 

 ロンがそんな2人に駆け寄り、顔を見た瞬間大笑いをしている。

 

「「何がおかしい!」」

 

「酷い顔してるぜ!」

 

「「ん?」」

 

 

 吹き飛ばされた当人達はその状況を全く理解していないようだ。

 

 吹き飛ばされると同時に、急速に老化現象が起こり、70代ほどの外見になっている。

 

 どうやら、ダンブルドアが引いた年齢線は、外見や体表細胞以外の方法で判別している様だ。

 

 ロンが大声で笑い声を上げた事により周囲に人が集まり始める。

 

 この状況下で投票しては騒ぎをより大きくしてしまうだろう。

 

  

 

  夕食も終わり夜も更けた頃、私達は大広間へとやって来た。

 

 この時間帯では人の姿も無く、中央の台座の上では、ゴブレットが不気味な青白い炎を放っている。

 

「やっぱりここに居たのね」

 

 背後からハーマイオニーの声が響く。

 

「この時間帯ならば人気が無いので最良と判断しました」

 

「そうなの。まぁ確かにここに来るまで誰にも会わなかったわ」

 

 私達はダンブルドアが引いた年齢線を超える。

 

「大丈夫?」

 

「問題ありません」

 

 どうやら、この年齢線というのは、17歳未満の魔法使いが発生する『臭い』と呼ばれる魔法によって検知されるようだ。

 

 線を超えると同時に、無意識下で魔力を放出させ、それに伴う臭いを検知する様だ。

 

 しかし、そのような防衛策は魔法を使用しない私達に対しては意味を成さない。

 

 私達は台座に鎮座しているゴブレットに手を掛ける。

 

 それと同時にスキャンを開始する。

 

 スキャンの結果、ゴブレットによる選定基準は乱数ではあるが、外部からのハッキングにより操作が可能なようだ。

 

 どうやら、現時点で3校全ての代表選手が決定している。

 

 しかし、第4の候補者として、別枠が組み込まれている。

 

 どうやら、第4の代表選手はハリーの様だ。

 

 それを利用し、私達は第5の枠を作り出す。

 

「ハッキング完了、後は登録表紙を入れるだけです」

 

「了解、一つ提案があります」

 

 デルフィが登録用紙を取り出すと、声を上げる。

 

「我々が敵対し競合するよりも、共闘する事を提案します」

 

「チームとしての登録という事でしょうか?」

 

「その通りです」

 

「採用します」

 

 協力した方が勝率も向上するだろう。

 不確定要素は極力排除するのが好ましい。

 

 デルフィが登録用紙に私達の名前を書き込むとゴブレットに投入する。

 

 それと同時に、ハッキングで用意した第5の枠に私達をチームとして登録する。

 

 その瞬間、ゴブレットが勢い良く燃え上がる。

 

 しかし、数秒後には炎の勢いが収まる。

 

 最終確認をするが、私達は第5の枠として無事登録されている。

 

「終了です」

 

「了解」

 

 私達は再び年齢線を超える。

 

「終わったの?」

 

「無事終了です」

 

「ねぇ、どっちが登録したの?」

 

「我々はチームとして参戦します」

 

「え? チームって…各校1人だけの筈じゃ…」

 

「ハッキングにより、私達はチームとして登録しました」

 

「じゃあ、2人が代表選手って事?」

 

「本来の代表選手は他に居ますが、私達の他にハリーも登録されていました」

 

「えぇ! それってどういう事?」

 

「詳しい事は分かりませんが、ハリーが代表選手に登録されていることは事実です」

 

「じゃあ、ホグワーツの代表選手は4人?」

 

「その様です」

 

「なんか…もう訳わからないわ…」

 

 ハーマイオニーは唖然としながら、私達と共に自室へと戻って行った。

 

 

 

  ハロウィーンの夜。

 

 

 

 生徒達は大広間で食事を楽しんでいる。

 

 

 

 炎のゴブレットはダンブルドアの前に鎮座していた。

 

 

 

「誰が代表かな?」

 

 

 

 ハリーは代表選手の発表を今か今かと待ちわびている様で、そわそわしている。

 

「え…えぇ、一体誰になるのかしらね。楽しみね、アハハ」

 

『君は酷い奴だね、彼が代表選手に選ばれるって知って居るなら教えてやれば良いのに』

 

『そんな事できる訳ないでしょ』

 

『まぁ、どっちにしろ、あと少しで分かる事さ』

 

 

 

「ついにこの時が来た。ゴブレットが代表選手の選考を終えた様じゃ。名前を呼ばれた者は前に出るのじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアが杖を一振りすると、大広間に置かれている蠟燭の灯が消え、ゴブレットの炎が周囲を照らし、その場の全員の視線がゴブレットに集まる。

 

 

 

 次の瞬間、ゴブレットが紅く燃え上がると、1枚の羊皮紙を吐き出した。

 

 

 

 宙をヒラヒラと舞う羊皮紙をダンブルドアがつかみ取る。

 

 

 

「ダームストラングの代表は…ビクトール・クラム!」

 

 

 

 次の瞬間、会場が歓声に包まれた。

 

 

 

 クィディッチの有名選手という事で、ファンが多いのだろう。

 

 

 

 

 

 クラムはスリザリンの席から立ち上がると、ダンブルドアの横を抜け、隣の部屋へと消えていった。

 

 

 

 歓声が止んだ後、ゴブレットが再び燃え上がり、羊皮紙を吐き出した。

 

 

 

「ボーバトン代表は……フラー・デラクール!」

 

 

 

 再び会場が歓声に包まれた。

 

 

 

 ボーバトンの代表は、先日通訳を依頼した生徒だった。

 

 

 

 デラクールはレイブンクローの席を立つと、クラム同様拍手を浴びながら隣の部屋へと移動した。

 

 

 

 歓声が止み、三度ゴブレットが炎を上げ、羊皮紙を吐き出した。

 

 

 

 その途端に会場全体が緊張に包まれた。

 

 本校の代表選手が決定する瞬間を固唾をのんで見守っている。

 

 ダンブルドアは嬉しそうな顔で吐き出された紙を掴み声を張り上げた。

 

 

 

「我が校…ホグワーツ代表は! ハッフルパフのセドリック・ディゴリー!!」

 

 

 

 歓声が上がる。

 

 特にハッフルパフからは、今まで聞いた事の無いほど歓声を上げている生徒までいる。

 

『まぁ、ハッフルパフってあまりパッとしないイメージよね』

 

『まぁね、グリフィンドールやスリザリン、レイブンクローに入れなかった生徒が行く所ってイメージが強いよ』

 

『まぁ…その通りよね』

 

『第一穴熊って…なぁ…』

 

『蛇よりはいいんじゃないかしら?』

 

「皆、嬉しいのは分かるが落ち着くのじゃ。セドリックよ。こっちへ来るのじゃ」

 

 多くの生徒が拍手する中、セドリックは少し恥ずかしそうに立ち上がると、隣の部屋へと小走りで向かった。

 

『さて、お次は…』

 

『順当にいけばハリーが呼ばれるはずです』

 

『なんか、こんな空気で呼ばれるなんて可哀想ね』

 

『そう言う星のもとに生まれたのさ』

 

「これで三校総ての選手がそろった! これよりルールの説明を………」

 

 ダンブルドアが説明を始めた瞬間、ゴブレットが再び燃え上がる。

 

「なんじゃと…」

 

『やっぱり予想外って顔してる。いい顔だね』

 

 炎は激しさを増し、1枚の羊皮紙を吐き出した。

 

 

 

 羊皮紙をキャッチしたダンブルドアは静寂の中、呟くように読み上げた。

 

 

 

「ハリー・ポッター………ハリー・ポッター!!」

 

 

 

 その瞬間、会場に居る全員総ての視線がハリーに集まった。

 

 

 

 当人のハリーは何が起こっているのか理解していないようだった。

 

「え? なに?」 

 

「ハリー! 来るのじゃ!」

 

「ちょっと!」 

 

 ダンブルドアが怒声を上げ、ハリーの腕を掴むと席から立ち上がらせ、引きずる様に隣の部屋へと消えていった。

 

「え…えぇ、想定外の事が起こったようですが、皆さん落ち着いて!」

 

 

 

 職員席からマクゴナガルが立ち上がると、声を上げる。

 

 

 

 しかし、多くの生徒は状況を呑み込めないのか、ざわついている。

 

 

『さぁて、これで終わりじゃないぞ』

 

『マクゴナガル先生がどんな顔するのかしら?』

 

『おやおや? 君も結構楽しんでいるね?』

 

『別に…そう言う意味で言った訳じゃ…』

 

 ゴブレットが再び発火を始める。

 

 その炎は激しく燃え、火柱が天井にまで到達し、至る所に黒い焦げ跡を作る。

 

「何事…です…これは!」

 

 

 

 燃え上がる火柱を前に、マクゴナガルはその場で棒立ちになっている。

 

 

 

 そして、炎がより一層激しく燃えると同時に1枚の紙を吐き出した。

 

「では行きましょう」

 

「了解、準備は万端です」

 

 炎が燃え上がる中、私達は立ち上がると、周囲の生徒の視線が集中する。

 

 周囲の視線を浴びながら、私達はマクゴナガルの前へと移動する。

 

「え? なんですか?」

 

 吐き出された紙をデルフィが空中でキャッチするとマクゴナガルに手渡す。

 

「こちらを」

 

「え? えぇ」

 

 折り畳まれた紙を開いた瞬間、マクゴナガルの表情が一変する。

 

「これは! これはどういう事です!」

 

「書かれている通り、我々も参加します」

 

「何を言っているのです! それに…ここにある紙は1枚しか――」

 

「問題ありません」

 

 デルフィはマクゴナガルから紙を取り上げると、代表選手達が入室していった部屋の扉を開いた。

 




2機が争うより
共闘した方が強いと思う(小並感)



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インタビュー

年末という事で、何かと忙しいです。


 

  扉に入ると、そこには魔女や魔法使いの肖像画で溢れた小さな部屋があった。向かい側では暖炉が轟々と燃えている。クラムとデラクール、セドリック、そしてハリーとダンブルドアは小さめな円卓に腰を掛けている。

 

「あれ? エイダにデルフィ。どうしたの?」

 

「何の用じゃ?」

 

「こちらをご覧ください」

 

 デルフィは手にした紙をダンブルドアに手渡す。

 

「なんじゃ…これは? 羊皮紙では無いな…」

 

 受け取った後ダンブルドアはゆっくりと目を通すと、その表情を歪め、肩を震わせる。

 

「なんじゃこれは…冗談ならば笑えぬぞ」

 

 ダンブルドアの低い声が響き、周囲の生徒を始めとした全員のメンタルコンデションレベルが低下する。

 

「生憎と冗談を言うような――」

 

 突如扉が開かれ、マクゴナガルが入ってくる。

 

「ミネルバ…これはどういう事だ?」

 

「先程、ゴブレットが再び燃え上がり…彼女達が手にしている紙が放出されるのを見ました」

 

「ならば…これは…」

 

「はい、その通りです」

 

 周囲が静寂に包まれる。

 

「どーいーことです? なにがあったのーです?」

 

「ヴぁにごとだい?」

 

「先生?」

 

 代表選手達は状況が呑み込めずにいる様で、皆疑問を口にする。

 

「我々も皆様同様に、代表選手達に選ばれました」

 

「え?」

 

「どーいーことです!!」

 

「え? どういう事?」

 

「私達はチームで参戦いたします」

 

「え?」

 

 再び代表選手達が声を上げる。

 

「あ…ああ…何という事じゃ…」

 

 ダンブルドアは、両手で顔を塞ぎ天を仰いでいる。

 

 いくら天に祈った所で状況は変わらないが、彼には多少なりとも現実逃避をする時間が必要だろう。

 

「しかし、ゴブレットから名前が出た者はこれに従わなければならない…これは魔法契約だからな…」

 

 バグマンを先頭に、部屋の扉が開かれ、クラウチ、カルカロフ、マクシーム、スネイプが続いた。

 

【マダム・マクシーム! セドリック以外にこの3人も参加すると言っています! これはどういう事です!】

 

【正確には1人と1チームです】

 

「ダンブリ・ドール! これはどういうことでーす?」

 

 

 

「私も説明が欲しいな」

 

 

 

 マクシームとカルカロフの2人に詰め寄られダンブルドアは意気消沈といった感じだった。

 

 

 

「ホグワーツは4人、その上2人はチームで参戦。しかもそのうち3人は若すぎる。対するこちらとそちらは1人ずつ。開催校は人数制限が無いという話なのですかな? それは初耳ですなぁ。だとしても限度と言う物を知って欲しい」

 

「いや…そう言う訳ではないのじゃが…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐くと、私達に近付き、静かに声を上げた。

 

 

 

「ハリー…お主はゴブレットに名前を入れたのか?」

 

 

 

「いいえ!」

 

 

 

 ハリーは身の潔白を証明するべく声を荒げる。

 

「誓えるか?」

 

「僕の両親に誓います!」

 

「はぁ…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐いた後、こちらに視線を向ける。

 

「お主達はどうなのじゃ? ゴブレットに名前を入れたのか?」

 

「はい」

 

「な? なんじゃと!」

 

 予想していた回答と異なっていたのか、ダンブルドアが間の抜けた声を上げるとふら付きながら、ソファーに腰かける。

 

「どういう事じゃ…年齢線は越えられない筈…」

 

「問題なく突破可能でした」

 

「なっ…」

 

 その場に居た全員が息を呑んだ。

 

 どうやら、今世紀最強の魔法使いと囃し立てられて居たダンブルドアの魔法を無効化した為、この様な反応なのだろう。

 

「何てことじゃ…まったく…予想外じゃ…一体どんな手段を…」

 

「対象をハッキング、我々が選ばれる様に変更しました」

 

「ん? よく分からぬ言葉を使うでない」

 

「ゴブレットをハッキング――分かり易く言えば私達が選ばれる様に操りました」

 

「そんな…何という事を…ハリー…お主はどの様な手段を?」

 

「僕はやっていません! 信じてください!」

 

「我々がハッキングをした際には既にハリーの参戦が決定していました。しかし、4人目として登録されていました。恐らく何者かが我々と同様に外部から何らかの影響を与えた物と思われます」

 

「外部からじゃと? ゴブレットを操るには一流の魔法使いでもない限り不可能じゃ!」

 

「つまり、ポッターには外部の協力者がいるという事ですな」

 

「違う!」

 

 スネイプが嫌味を口にすると、ハリーが否定するように叫ぶ。

 

「しかし、ポッターにゴブレットを操る事など不可能でしょう」

 

「左様じゃ、生徒に操れるような代物ではない」

 

「しかし校長、現に彼女達はゴブレットを操ったと言って居ります」

 

「由々しき事じゃ…優秀すぎるが故にな…」

 

 ダンブルドアはこちらを睨み付けている。

 

「一体何が目的じゃ…何の為に参加を…」

 

「優勝賞金です」

 

「優勝賞金じゃと? たかが1000ガリオンの為に参加したと?」

 

「その通りです」

 

「何故じゃ!」

 

「1000ガリオン程あれば、昨年の請求額の補填になります」

 

「そんな…その程度ならばワシが肩代わりしたというのに…お主達はなんと愚かなんじゃ!」

 

「我々は競技への参加を判断ミスだとは思いません」

 

「なんじゃと! 第一ワシはお主達の様な17歳未満で無謀な者を参加させぬように年齢線を引いたのじゃ!」

 

「その程度では不十分です」

 

「なんじゃと!」

 

「より確実に選定するならば、監督生や教員に提出後、教員による再度チェック、役員職や校長本人による最終チェック後にゴブレットに投入と言う方法があります」

 

「それは…そうじゃが…」

 

 ダンブルドアは苦虫を噛み潰したように呟く。

 

「ヴぉういいです」

 

 

 

 突如、クラムが声を上げた。

 

 

 

「相手が何人だろうとヴぉくが勝ちます」

 

 

 

「そのとーりですー、相手が誰だろうーとわたーしは負けませーん」

 

 

 

 2人は自信に満ちた表情で立ち上がる。

 

 

 

「そうですね…相手が下級生だからと言って僕も手を抜くつもりはありません」

 

 

 

 セドリックもその場で立ち上がり、覚悟を決めたようだ。

 

「皆…良いのじゃな…」

 

 代表選手達3人が首を縦に振る。

 

 

「では、開催と行きましょうか」

 

 バグマンは楽しそうに語った。

 

 

 

 

 

「では最初の課題の説明だ」

 

 

 

 クラウチは、声を上げ説明を始めた。

 

 

 

「最初の課題は君達の勇気を試すものだ。どの様な内容なのかは教えるつもりは無い。教師陣に援助を頼むことも禁ずる」

 

 教師陣は私達を睨み付けている。

 

 どうやら、イレギュラーである私達3人は危険因子とみなされている様だ。

 

「未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である…非常に重要だ。最初の競技は11月24日。全生徒、審査員の前で行われる。選手は杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題の情報を与えよう。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手の期末テストを免除される。ただし、今回はイレギュラーが多すぎる。その為、ルールに若干の変更が加わるかも知れないが、その事は了承して欲しい」

 

 説明が終わると、他校の代表選手たちは、自校の校長に連れられ退室していった。

 

「あの…校長先生…」

 

「すまぬがハリーよ…今は一人にしてくれぬか…」

 

「はい…」

 

 ハリーは肩を落とし退室する。

 

「さぁ、お主達も早々に帰るが良い」

 

「失礼します」

 

「良い夢を」

 

 ハリーの後に続き、私達も退室する。

 

「はぁ…」

 

 一人取り残されたダンブルドアの溜息は、虚しい音を響かせた。

 

 

 

  退室後、グリフィンドールの談話室に向かう道中にて、ハリーが思い詰めた様に口を開く。

 

「僕は名前を入れてないんだ。なのに選手に選ばれた。どういう事か分からない。それに君達は僕に外部の協力者がいるって言ったね」

 

「正確には、何者かが貴方の名前を選択させたという状況です」

 

「それは誰なのかわかる?」

 

「残念ながらそこまでは」

 

「そうか…」

 

 ハリーの溜息が物静かな廊下に木霊する。

 

 私達は肖像画を通り談話室に入ると、次の瞬間には爆音の様な拍手が談話室に木霊した。

 

「凄い! 凄すぎる! 君達最高だ! やるとは思っていた!」

 

「グリフィンドールから3人! 3人だぞ! もう最高だ!」

 

 私達は称賛と拍手で迎えられる。

 

 

 

 その中、ウィーズリーの双子が大声を上げた。

 

 

 

「全員注目だ! さて、これから代表選手に選ばれた3人にインタビューをしたいと思います!」

 

 杖をマイクに見立て私達に感想を聞き始めた。

 

 

 

「まずはハリーからだ、今の気持ちはどうだい?」

 

 

 

「えっと…僕…何が何だか…よくわからないんだ」

 

 

 

「なるほど、理解が追い付かない程嬉しいと…次はエイダとデルフィ。君達だ。今の感想は?」

 

「別段感想は有りません」

 

「作戦を遂行するまでです」

 

「流石は言う事が違うね! とってもクールだ!」

 

 会場のテンションが上昇する。

 

「さて、次の質問だ。これは多分皆が気にしている事だろうけど、どうやって立候補したんだ? 年齢線は? 俺達なんか髭を生やされた上に吹き飛ばされたんだぜ」

 

 

 

 2人のやり取りに談話室は笑いの渦に飲まれた。

 

「ではまず、君達から聞こうか」

 

 再び私達に杖が向けられる。

 

「大した障害ではなく、問題なく突破可能でした」

 

「すごいぞ!」

 

 再び談話室から歓声が上がる。

 

「つまり、君達は僕等を吹き飛ばしたダンブルドアの年齢線を何の苦労も無く越えたって言うのかい? そして正々堂々ゴブレットに名前を入れたと?」

 

「概ねその通りです。その後、ゴブレットを操作し我々がチームとして代表選手達に選ばれる様に調整を行いました」

 

「ん? ちょっと待ってくれ、あまりの情報量にちょっと処理が追い付かない。君達はゴブレットを操作してチームで参加するの?」

 

「はい、ゴブレットを操作自体は比較的容易でした。私達が他の選手同様に争うより、共闘した方が作戦遂行率の向上が認められます」

 

「なんと…君達が手を組めば優勝は確実じゃないか」

 

「無論、そのつもりです」

 

 最早、悲鳴に近い歓声が上がる。

 

「すごいな! 流石だ!」

 

「セドリックには悪いけど、グリフィンドールが優勝だな!」

 

「実際、ハッフルパフってパッとしないからな」

 

「まぁ、仕方ない」

 

 生徒達は、各々がハッフルパフに対する印象を口にする

 

「まぁまぁ! 皆様静粛に! まだハリーだって残ってるんだ。それじゃあ聞いてみよう! ハリー、どうやって投票したんだい? 君が年齢線を突破した方法を教えてくれるかい?」

 

 

「僕は…僕は入れてないんだ」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 ハリーの回答に談話室内が騒然とする。

 

 

 

「えーっと…ハリー? 俺の頭おかしくなっちゃったのかな? 今『入れてない』って言ったか?」

 

「僕、ゴブレットに名前を入れてないんだ」

 

 

 

「ちょ…ちょっと待ってくれよ…それだとなんで君の名前が出て来るんだ?」

 

 

 

「それは…僕に言われても…」

 

「おいおいおい、流石にその冗談は笑えないぜ」

 

「本当の事を言えよ! 嘘吐き!」

 

「本当に入れてないんだ! 君達から説明してやってくれよ!」

 

「了解」

 

 周囲の生徒達が固唾を呑んでこちらに視線を向ける。

 

「我々がハッキングを行った時点で既に3校の代表選手達とハリーの参戦が確定していました」

 

「それはつまりどういう事だい?」

 

「ハリーの参戦は、ゴブレットを操作可能な人間によって登録された可能性が高いという事です」

 

「なんだって! じゃあハリーには協力者がいるって事か! 一体誰だそいつは!」

 

「違うよ! 誤解を招くような事言わないでよ!」

 

「確定はできませんが、ハリーを競技に参戦させたい何者かによって強制的に参加させられたと考えるのが妥当です」

 

「本当だよ…一体誰がこんな事を…」

 

「どうせダンブルドアに頼んだんだろ! お前はお気に入りだからな!」

 

 ハリーの答えに会場内は歓声から怒声に変わった。

 

「まぁ…ダンブルドアなら…やりかねないよな…」

 

「正直グリフィンドール贔屓って言うよりハリー贔屓だよな」

 

「数年前の逆転劇、嬉しかったけど、露骨すぎて少し引いたぞ」

 

「ハリーが来てから毎年優勝してるし、忖度だな」

 

 会場から不満の声が上がり、ウィーズリーの双子が肩を竦め、状況を収拾できないでいる。

 

「まぁ…もうこの話は止めよう、こんな空気だ。今日はもうお開きにしようぜ」

 

「あぁ。そうだな」

 

 テンションの下がった生徒達が自室へと戻る。

 

 ハリーも自室へと戻るが、同室であるはずのロンが、ハリーを睨み付けている。

 

 その時、グリフィンドールの談話室の扉が開かれる。

 

「え? マクゴナガル先生」

 

「「どうしたんです?」」

 

 双子が声をそろえる。

 

「いえ、浮かれているかと思い見回りに来たのですが、どうやらそう言う訳ではなさそうですね」

 

「まぁ、いろいろありましたから…」

 

「そうですか。消灯時間は間もなくですよ」

 

「わかってますって」

 

 マクゴナガルが扉を閉めた。

 




今回の被害者はハリーですね。

ダンブルドアの事は知らん。


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ゴシップ

やっぱり、大会が始まるまでは暴れられませんね。


   代表選手の選考が終了し数日が経過したが、学校内は依然として代表選手の話題で持ちきりだった。

 

 3校の正式な代表選手に対しては皆称賛の声を掛け、ハリーに対してはインチキと陰口を言われている。

 

 私達はチームというイレギュラーな為、畏怖を向けられている。

 

「やぁ、君達。代表選手に選ばれた様だね」

 

 大広間にて、いつもの取り巻きを引き連れたマルフォイが声を掛けて来る。

 

 マルフォイを始めとしたスリザリン生は皆一様に胸に『汚いぞポッター』と書かれたピンバッジを付けている。

 

「父上から聞いたが、君達は自分達が選ばれる様にゴブレットを操作したんだって?」

 

「その通りです」

 

「ゴブレットはそう簡単には操作できないって聞いたけど、良くやるよホントに」

 

 マルフォイの取り巻きも首を縦に振る。

 

「僕としては君達が勝った方が面白いと思うよ。応援してるよ」

 

「感謝します」

 

「本当ならスリザリンから代表選手が出てもおかしくないが…まぁあのメンバーなら君達が勝つだろうさ」

 

 マルフォイとその取り巻きは軽く手を振り、大広間を後にした。

 

 入れ替わる様にセドリックが姿を現す。

 

「やぁ、これから代表選手は写真撮影があるんだ。集合だってさ」

 

「了解です」

 

「あれは、ドラコ・マルフォイだろ? 何を話していたんだ?」

 

「他愛もない話です」

 

「そうかい」

 

 大広間を抜け、撮影会場へと移動する。

 

  撮影会場は狭い作りの部屋で机等が部屋の隅に追いやられていた。

 

 部屋の中には代表選手全員が揃っており、バグマンと赤紫色のローブを着込んだ女性と話し込んでいる。

 

「おぉ! 来たな! これで全員! 6人だったか? まぁいい。全員が揃った訳だ! なぁに、記念撮影ついでに杖調べをするだけだ! 気を楽にしてくれ!」

 

「杖調べ? なんですかそれは?」

 

 ハリーが疑問を口にすると、他の代表選手も一応に頷く。

 

「君達、代表選手の杖が万全な状態なのか調べる必要があるからな。その道のプロが今、ダンブルドアと話し込んでいる。そうだ、こちらに居るのがリータ・スキーターさんだ」

 

 赤紫色のローブの女性が一礼し、こちらに顔を向ける。 

 

「ご紹介に預かった、リータ・スキーターざんす。よろしくざんす。さっそくざんすが、そちらのお嬢さん達のお話を聞かせて欲しいざんすなぁ」 

 

 スキーターは私達に好奇心に満ちた視線を送ってくる。

 

「構いません」

 

「感謝感謝ざんすわー。では早速ざんすが、こちらの部屋へ」

 

 スターキーに促され、私達は別室へと通される。

 

「ではこちらに座るざんすよ」

 

 用意されていた2脚の椅子に私達は腰かける。

 

 スターキーも机を挟んだ対面に座ると、ワニ革の鞄から羊皮紙と羽ペンを取り出す。

 

「さてっと、自動速記羽ペンQQQを使っていいざんしょ? こっちのほうが楽できるんざんす」

 

「ご自由に」

 

「では使わせてもらうざんすよ。さて、では最初になぜ2人は三大魔法学校対抗試合に参加しようと?」

 

「優勝賞金が目的です」

 

「優勝賞金? なんでまた?」

 

「ホグワーツに多少ながら請求がありまして、その担保に当てます」

 

「なるほど、一体何の請求ざんす ?」

 

「それは三大魔法学校対抗試合に関係ないと思われますが」

 

「手厳しいざんすな。まぁ良いでしょう。イレギュラー選手は金銭的に黒いうわさがあるのかっと…では一体どのように代表選手に? それにチームでの参戦なんざんしょ?」

 

「我々がチームとして選ばれる様ゴブレットを操作しました」

 

「不確定要素は極力排除します」

 

「なるほど、ゴブレットを操作っと。これはまた規格外の選手が…」

 

 その時、部屋がノックされ、ダンブルドアが姿を現した。

 

「おやおや、これはダンブルドア校長では有りませんか?」

 

「取材中だったかの?」

 

「真っ最中ざんす」

 

「そうか、生憎じゃが、そろそろ杖調べの時間じゃ」

 

「残念ざんすね」

 

 スターキーは立ち上がると、羽ペン等を仕舞い始める。

 

「また機会があれば取材させてもらうざんすね」

 

「了解です」

 

 スターキーが退室後、私達も会場へと戻る。

 

  会場では、他の代表選手が椅子に座り、杖を手にしている。

 

 私達も開いている椅子に腰かける。

 

 正面には5人の審査員が座っている。

 

「それでは、オリバンダーさんを紹介しようかの。試合に当たって、皆の杖を見てくださる」

 

 紹介を受けた後、オリバンダーが会釈しながら入室してくる。

 

「御紹介に預かりましたオリバンダーです。それではさっそくですが、マドモアゼル・デラクール。貴女からよろしいですか?」

 

「どーぞどーぞー」

 

 デラクールは、オリバンダーにやさしく杖を渡した。

 

 杖を受け取ったオリバンダーは、手の上でペンを回すように杖を遊ばせながら、まじまじと杖を見ている。

 

 細部にまで彫刻が施されており、ピンクと金色の火花が散りばめられている。

 

 

 

「見事な杖です。とてもお美しい。24㎝、素材は紫檀。芯には…おやこれは…」

 

「祖母の髪でーす」

 

「素晴らしい杖ですな」

 

 オリバンダーは世辞を述べ立た後、デラクールへと杖を返した。

 

 

 

「さて、それでは次にミスター・クラム。よろしいですな?」

 

 

 

 クラムはデラクールとは対照的に、堅苦しく、まるで軍隊で扱うように少し荒々しく、杖を差し出した。

 

 

 

 杖を受け取ったオリバンダーは、先程と同じように杖を回し何かを確認している。

 

 握り易い様に若干のエッジが施されており無駄な装飾等は一切なく、実用性と耐久性を重視している様だ。

 

 

「26㎝、材質はクマシデか。芯はドラゴンの心臓…の琴線か」

 

「そのとおヴぃです」

 

「よく手入れが行き届いた、素晴らしい杖ですね」

 

 

 オリバンダーから杖を受け取たクラムは軽く一礼し、杖をローブの内側に仕舞い込んだ。

 

「では次は、ミスターセドリック。よろしいですか?」

 

「はい」

 

 セドリックから杖を受け取ったオリバンダーは興味深そうに眺める。

 

 持ち手部分に模様が彫られているが、それ以外はシンプルな作りになっている。

 

「少し大きめで30㎝。材質はトネリコ。芯はユニコーンの尾尻の毛ですな」

 

「お見事」

 

「私が作った物ですからね。よく覚えていますよ。忠誠心もしっかりしてる。とてもいい杖だ。毎日手入れしますか?」

 

「昨日磨きました」

 

「それは結構」

 

 杖を返却されたセドリックは大切そうに仕舞い込む。

 

「さて、お次です。ミスターポッター」

 

「はい…」

 

 若干緊張しているのか、ハリーが少し震えながら杖を手渡す。

 

 

 杖を受け取ったオリバンダーは一瞬だが表情を歪めた。しかしその後は通常通りに杖を見始める。

 

「長さは28㎝、材質は柊。芯には不死鳥の尾羽…状態は良好だ。手入れはしているかい?」

 

「昨日は磨きました」

 

「昨日はねぇ…」

 

 それだけ言い終えると、オリバンダーはハリーに杖を返却した。

 

「さて…お次は…」

 

 ダンブルドアを始めとした全員の視線がこちらに集まる。

 

「では、ミスエイダから。よろしいかな?」

 

「了解」

 

 私はベクタートラップから杖を取り出す。

 

 その光景にハリー以外の全員が息を呑んだ。

 

「あっ…そうか。僕は見慣れてたけど」

 

 

 杖を受け取った瞬間、オリバンダーはその感触に違和感を覚えた様に、顔を歪める。

 

「まるで人の肌の様な柔らかさ…しかし硬度もある…大きさは32㎝…材質は…なんだこれは…芯は…あぁ! わからない!」

 

 オリバンダーは頭を抱える。

 

「はぁ…最早何も分からないが…とてつもない力を秘めている…それだけは分かる…」

 

 消耗しきったオリバンダーは私に杖を返却する。

 

「あ…次は…」

 

 オリバンダーは顔を上げデルフィに視線を向ける。

 

 デルフィはベクタートラップからウアスロッドを取り出すと、1度回転させた後、可変機構を用いてコンパクトにまとめる。

 

「変形するとは…またこれは…それでは…失礼して…」

 

 オリバンダーは杖を受け取った後、ゆっくりと観察を始める。

 

「長さは35㎝…いつもはどれくらいで?」

 

「展開」

 

 瞬時にウアスロッドが通常の長さに戻る。

 

「長さは…180㎝か…これほどの大きさとは…しかし、羽の様に軽い…それでいて鋼の…いや、それ以上に硬く、人肌のような柔らかさ…材質と芯は…やはりわからん」

 

 デルフィに返却後、オリバンダーは頭を抱えて座り込んだ。

 

「おっ…オリバンダー…大丈夫かの?」

 

 ダンブルドアが近寄ると、オリバンダーは顔を上げる。

 

「大丈夫です…ただ…少し自信を無くしました…」

 

 肩を落としながら立ち上がったオリバンダーはふら付きながら、その場を後にした。

 

「……さ…さぁ、杖調べは終わりじゃ…皆今日はもう良いぞ」

 

「あ、それなら取材がまだの人はこっちへ来て欲しいざんす」

 

 スターキーが甲高い声を上げ、代表選手を手招きする。

 

 行く当てもないのか、代表選手達は取材を受けるべく、別室へと移動した。

 

 そんな中、ダンブルドアは警戒心を込めた視線でこちらを睨みつけていた。

 

 

  数日後、日刊予言者新聞にスキーターが書いた記事が掲載されていた。

 

 内容は、各校の代表選手についてだが、あまり良い内容ではない。

 

 どちらかというと、ゴシップ記事に近い内容だった。

 

「なんだよこれ!」

 

 ハリーは記事の内容が気に食わないのか、声を荒らげていた。

 

「ゴシップね…まったく信用ならないわ」

 

「こんな事ならインタビューなんて受けなきゃよかった…」

 

 ハリーは日刊予言者新聞を丸めるとゴミ箱へと投げ込んだ。

 

 第1課題が行われる前日。

 

 ハリーを始めとした他の代表選手達は何処か落ち着かない様子で過ごしている。

 

「明日は課題当日だけど、大丈夫?」

 

 自室にてハーマイオニーが声を掛けて来る。

 

「問題ありません」

 

「内容は分かってるの?」

 

「不明です」

 

「不安じゃないの?」

 

「常に最善の行動をするまでです」

 

「まったく、流石としか言えないね」

 

 トムの声がスピーカー越しに響く。

 

「そう言えば、ハリーとロンがドラゴンについて話していたような気がするわ」

 

「ドラゴンねぇ…もしかしたら課題の内容はドラゴンが出て来るんじゃないか?」

 

「ドラゴンですか?」

 

「そう、アイツ等はかなり凶暴だからね」

 

「ドラゴンを倒すのが課題かしら?」

 

「流石に子供にそこまではさせないんじゃないか? 精々魔法を使って出し抜くぐらいじゃないか?」

 

「程度にもよりますが、十分に処理は可能かと」

 

「まぁ、君達ならそうした方が早いだろうね」

 

「確かにそうよね。応援してるわ」

 

「ご期待に添えるよう全力を尽くします」

 

 ハーマイオニーはどこと無く心配した様子だが、頷いていた。

 




ドラゴンか…

どうやって処理しようかな。


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殲滅戦

ドラゴンの登場です。


決してかませ犬じゃないよ。


  第1課題当日。

 

 代表選手は設営されたテントに集められた。

 

 私達は、ホグワーツの制服ではなく、フレームランナーが装着するパイロットスーツを模した服装をしている。

 

 他の代表選手も各々が行動しやすい服装で居る。

 

 しかし、皆一応に落ち着きが無い。

 

 デラクールは冷や汗を掻き、貧乏ゆすりをしている。

 

 

 

 クラムは不安そうな表情で、壁に背を付けている。

 

 セドリックは深呼吸を繰り返していた。

 

 

 しばらくすると、ハリーが絶望しきった表情をし、おぼつかない足取りでテントに入って来た。

 

「良し! 全員揃っているな!」

 

 

 

 

 

 大声を上げ、バグマンがテントの中へと入って来た。

 

 

 

「観客が揃ったら、デラクール、クラム、セドリック、ハリー。君達一人一人に袋を渡そう。その中に入っている模型が君達の相手だ。そして課題の内容は、その相手を出し抜き、金の卵を手にする事だ」

 

 説明を聞きハリーはゆっくりと胸を撫で下ろした。

 

 どうやら、ドラゴンを相手取るつもりだったようだ。

 

 一通り説明を終えた後、バグマンはこちらに視線を向ける。

 

「イーグリット姉妹はチームというイレギュラーな為、こちらで相手を用意させてもらったよ。悪く思わんでくれよ。それと課題の内容も少し違っているからそのつもりで居てくれ」

 

「了解です」

 

「もう一度言うが、持ち込んで良いのは自分の杖だけだ。他の物の持ち込みは禁止だ。だが特例としてイーグリット姉妹には杖以外の持ち込みも許可しよう。その代わり、出番は一番最後だ」

 

「了解しました」

 

 デルフィの回答にバグマンはにこやかに微笑む。

 

「さて、それでは袋を取るんだ。誰からにする?」

 

「レディーファーストでどうぞ」

 

 セドリックがそう言うと、デラクールはバグマンが手にしている袋に恐る恐る手を入れ、少し悲鳴を上げた後小さな模型を掴んだ手を袋から引き抜いた。

 

 

 

「これは、2番手のウェールズ・グリーン種だな。大人しい種類だと聞いているが…どうかな? さて次だ」

 

 

 

 次に袋に手を入れたのはセドリックだった。

 

 

 

「コイツは1番手、スウェーデン・ショート・スナウト種だな。動きは俊敏。綺麗な炎を吐くのが特徴。まぁ本人はそんな事、気に留めてる余裕は無いだろうがな。さて次だ」

 

 今度はクラムが手を入れる。

 

 

 

「コイツは3番手、チャイニーズ・ファイヤーボール種だ。一風変わった見た目だが、その動きは素早いぞ」

 

 

 

 そして、最後に残ったのがハリーの相手になった。

 

「コイツは4番手、ハンガリー・ホーンテール種だ。コイツは獰猛で危険だ。さて…どう相手するかな?」

 

 説明を聞いたハリーは暗い表情をしていた。

 

「さて、何はともあれ、全員が自分が相手をするドラゴンが決まった訳だ。ではセドリック君が最初だ。大砲が鳴ったら飛び出すんだ。では諸君の健闘を祈るよ」

 

 

 

 バグマンは楽しそうな表情を浮かべながら、退室時には不敵な笑みを浮かべながらキャンプを後にした。

 

  しばらくすると、地響きのような巨大な大砲の音が周囲に響いた。

 

 

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

 

 

 セドリックの心拍数が跳ね上がり、興奮状態となっている。

 

 そのまま、勢い良く飛び出していった。

 

 その直後、周囲に歓声が響いた。

 

 競技中、デラクールが口を開く。

 

【貴女達は随分と余裕そうね】

 

【我々はどの様な対象が相手なのかまだ知らされておりませんので】

 

【まぁ、そうだけど、何か策はあるの?】

 

【殲滅。ただそれだけです】

 

【殲滅ねぇ…】

 

 その時、一際大きな歓声が上がる。

 

【終わったみたいね。次は私の番ね。確か相手は…】

 

【ウェールズ・グリーン種です】

 

【そうそう、それ】

 

 再び大砲の発砲音が空気を震わせ、次の選手の出番を告げた。

 

 その音を聞き、デラクールは少し不安そうに出口へと歩いて行った。

 

【じゃあ、行ってくるわ】

 

【ご武運をお祈りします】

 

【ありがとう】

 

 デラクールが会場へと飛び出すと、再び歓声が上がる。

 

 それと同時に競技が開始される。

 

 

 テントの外から、解説の声が聞こえて来る。

 

「これは睡眠魔法だ! ドラゴンが眠りに付いたぞ!」

 

「ここで今卵をキャッチ! 少し衣装が焦げてしまったが。それもまた良い! 完璧な手際です!」

 

 どうやら、無事に競技が終了したようだ。

 

「でヴぁ、いってきまず」

 

「うん、気を付けて」

 

 ハリーに見送られ、クラムが飛び出すと、砲弾の音が響き渡る。

 

 競技が始まって数分後、ハリーが重い口を開いた。

 

 

 

「僕は、箒を使うつもりだ」

 

「杖以外の持ち込みは禁止の筈ですが」

 

「まぁね、持ち込むんじゃなくて呼び寄せるのさ。でも君達は良いよな。持ち込みOKなんだろ?」

 

「その分、激しい戦闘が予想されます」

 

「戦闘って…ドラゴンを出し抜いて卵を取るのが目標だろ?」

 

「我々に関しては、詳細が依然として説明されていません」

 

「まぁ…そうだけど」

 

 再び歓声が上がる。

 

「終わったみたいだね」

 

「その様です」

 

「さて、次は僕か…」

 

 次の砲弾の音が響き、ハリーの番がやって来た。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「お気を付けて」

 

「あぁ」

 

 気合を入れた様で、ハリーは声高らかに会場に走り出した。

 

 

 

 誰も居なくなったテントの中、私達の順番が回ってくるのを待っている。

 

 

 

 今までの選手より数分早く、歓声が響いた。

 

 

 

 外から聞こえる実況は、『やりました! ハリー・ポッターが最短時間で金の卵を手に入れました!』

 

「どうやら、無事に終了したようですね」

 

「その様です」

 

 数分後、アナウンスが流れる。

 

『これより、第5の代表選手の番になりますが、準備と休憩時間を兼ねて1時間程休憩時間にします。少々お待ちください』

 

 アナウンスに答える様に会場から疑問の声が上がる。

 

 それと同時に、テントの中にバグマンが現れた。

 

「さっきのアナウンスを聞いていたと思うが、すこし準備が必要でね。まぁゆっくりしていてくれ」

 

「了解です」

 

「今のうちに必要な物を用意しておくと良い」

 

 言い終えると、バグマンがテントから退室する。

 

 それから数分後、疲れ果てた代表選手が戻ってくる。

 

【ふぅ…疲れたわ】

 

【お疲れ様です】

 

【次は貴女達でしょ?】

 

【その通りです】

 

「ふぅ…疲れた…」

 

「づかれヴぁじた」

 

「危なかった…」

 

 金の卵を棚に置いた後、各々が倒れ込むように粗悪なソファーに体を委ねる

 

「ふぅ…」

 

 セドリックが溜息を吐き、クラムが背筋を伸ばす。

 

 そんな時、テントの入り口が開かれる。

 

「やぁ、お疲れ」

 

「ロン! ハーマイオニー! どうしたの?」

 

「ダンブルドア先生が特別に入室を許可してくれたの」

 

「そうだったのか」

 

「あぁ、これ差し入れ」

 

 ロンはそう言うと、ハリーに小さな小箱を渡す。

 

「カエルチョコレートじゃないか」

 

 嬉しそうに活きの良いカエルチョコレートを口に放り込む。

 

「上手くいったなハリー! 1番じゃないか」

 

「運が良かっただけだよ。それに次はねぇ…」

 

「あぁ…」

 

「しょうぶはヴぁだヴぁだこれからヴぇす」

 

 少し悔しそうな表情のクラムがハリーとロンの会話に入り込む。

 

「クッ! クラム! 良かったらサインを!」

 

「いいヴぇすよ」

 

「あっ! でも羽ペンが無い! 紙も!」

 

「ペンです」

 

 私がノック式のペンを取り出すと、ロンがそれを奪い取る。

 

「ありがとう! はいペン! サインはシャツに書いて!」

 

「あはは…いいヴぇすよ」

 

【なんか、空回りしてるなコイツ…それになんか変なペンだな…】

 

【ロンはいつもそうなのよ。気にしないで…あれ?】

 

【通常のペンと何ら変わらないのでご安心を】

 

 クラムは簡単なサインをロンの来ているシャツに書くと私とハーマイオニーの方へと顔を向ける。

 

【君達、ブルガリア語が話せるのか?】

 

【貴女達、フランス語以外も話せるのね】

 

【え…えぇ】

 

『これもやっぱり…』

 

『ナノマシンの影響だね』

 

『便利だけど…ちょっと驚くわ…』

 

「すごいや、君達一体何か国語を話せるんだ?」

 

「え…えぇ…っと…」

 

「複数習得しています」

 

「へーすごいね」

 

 ロンは詰まらなそうな相槌を打つと、先程のサインを見つめている。

 

「戻ったらみんなに自慢しよう!」

 

「いいな…僕もサイン貰おう!」

 

 ハリーも同様にサインを求め始めている。

 

「ねぇ、貴女達の出番はまだなんでしょ?」

 

「恐らく、休憩終了後に始まるかと」

 

「そう、今まで4体のドラゴンが出たけど、次の相手は何かしら?」

 

「うーん…多分だけど、ウクライナ・アイアンベリー種じゃなかな?」

 

「なんでそう言えるの?」

 

「まぁ、僕の親戚がちょっとね。今まで出てきたドラゴンの他に言っていた名前がウクライナ・アイアンベリーだったんだよ」

 

「そうなの。どんなドラゴンなの?」

 

「そこまでは分からないよ」

 

「そう」

 

『ウクライナ・アイアンベリー種は動きの鈍いドラゴンだった気がするよ』

 

『そうなの? なら簡単ね』

 

『ただ、気性が凄い荒いんだ。吐く炎もかなり厄介だ』

 

『武装などは?』

 

『ドラゴンだからね、もはやドラゴン自体が兵器みたいなもんさ。まぁ…それは君達も変わらないか』

 

『危険視すべき武装の類は無いのですね』

 

『あぁ、そうだよ』

 

『なら良かったじゃない。何とか卵を奪えそうね』

 

『ご心配はいりません』

 

【ねぇ、君の名前は何ていうんだい?】

 

 突如、クラムがハーマイオニーに話しかける。

 

【ハマイオニー・グレンジャーです。でも皆、ハーマイオニーって呼びます】

 

【そうなのか、ハーマイオニー。君はハリーの友達かい?】

 

【そうですけど…】

 

【そんなに警戒しないでくれよ。ただ少し話を――】

 

 ハーマイオニーは少し表情を困らせながら、会話を続ける。

 

 そんな時、テントが開かれ、バグマンが姿を現す。

 

「もう少しで、準備が終わるぞ。そっちの準備は?」

 

「何時でも」

 

「それは良かった。さて、競技が終わった代表選手と君達は退室してもらおうか」

 

【残念だ。もう少し話をしたかったのだが】

 

【え、えぇ】

 

【それじゃあ、またね】

 

 代表選手とハリー達は、疲れた体を伸ばしながら、テントを後にした。

 

 数分後、アナウンスが流れる。

 

『皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、第5の代表選手の入場です!』

 

 砲弾の音が周囲になり響く。

 

「では行きましょう」

 

「了解」

 

 私達は、テントを出ると、会場へと歩き出す。

 

  

 

  私達が会場に入ると、割れんばかりの歓声と拍手が響いた。

 

『さて! 最後の代表選手にして、唯一のチーム! イーグリット姉妹です! なんとも不思議な服装での登場です!』

 

 実況の声に合わせて、会場の歓声も上がって行く。

 

 周囲の状況は、フィールドが用意されており、内部は岩場の様になっている。

 

 しかし、どこにも対象である、金の卵の姿はなかった。

 

『さて、君達の競技については私から説明しよう』

 

 バグマンの声が拡声状態で響き渡る。

 

『君達は今大会のイレギュラー中のイレギュラー。しかもチームだ。それを考慮して、君達が手にするべき卵は、事前に私が預かっている』

 

 再び会場がどよめく。

 

『私から卵を受け取りたければ、今回の課題…ドラゴンを討伐して貰おう!』

 

 バグマンの声に合わせて、会場が一際盛り上がる。

 

『今回用意したのは、ウクライナ・アイアンベリー種だ』

 

 どうやら、トムの予想通りだ。

 

『しかし、君達の強さは、ダンブルドアから嫌というぐt――話を聞かされている。そこでだ!』

 

 バグマンが指を鳴らすと、フィールドの底から、6個の檻がせり上がる。

 

『先程までに登場したドラゴン。スウェーデン・ショート・スナウト種。ウェールズ・グリーン種。チャイニーズ・ファイヤーボール種。ハンガリー・ホーンテール種。それともう1体ノルウェー・リッジバック種も同時に相手して貰おう』

 

 それにより、会場が騒めき立つ。

 

 どうやら、合計6体のドラゴンを討伐するのが、今回のミッションの様だ。

 

『無論、辞退する事も可能だ。どうする?』

 

 私達は同時に首を横に振る。

 

『よろしい! それでは、健闘を祈ろう!!』

 

「了解。ミッションを開始します」

 

 バグマンが再び指を鳴らすと、檻の枷が外され、勢い良く6体のドラゴンが現れる。

 

 6体のドラゴンは総てが、魔法によって興奮状態にあるようで、いつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。

 

 その上、全てのドラゴンの体表には特殊なエネルギーフィールドを検知する。

 

「ビームガン発射」

 

 様子見という事で、私はビームガンを構えると、手近にいたノルウェー・リッジバック種に攻撃する。

 

 青白いエネルギー弾がノルウェー・リッジバック種に着弾した瞬間、何かに阻まれる様に消滅した。

 

『攻撃が効かずに驚いている様だね! もっと強い攻撃をしてみたらどうだ?」

 

 バグマンは腕を組みながらこちらを見ろしている。

 

「バーストモード移行」

 

 エネルギー効率を高め、バーストモードへと移行する。

 

 そのまま、右手を上に挙げ、エネルギーを供給し、青白いエネルギー球を生成する。

 

「バーストショット発射」

 

 エネルギー充填後、バーストショットを撃ち出す。

 

 撃ち出されたバーストショットはウクライナ・アイアンベリー種に直撃すると、黒煙が上がる。

 

「グガアアアアア!!」

 

 咆哮と共に黒煙が薙ぎ払われ無傷のウクライナ・アイアンベリー種が姿を現す。

 

 

 

『ハハハハハ!! 実にイイ! 実はそこに居る6体全てに、ダンブルドアと闇払いを総動員し防御呪文を何重にも掛けてあるんだ!』

 

 バグマンはそのまま高笑いをする。

 

『少なくとも1体に付き1000人以上が魔法を掛けているから、ダンブルドアと合わせても合計で6001人以上の魔法だ!』

 

 詳細にスキャンすると、何重にも折り重なったエネルギーフィールドにより、空間が圧縮され、質量の断層、及び空間城壁を形成している。

 

『フハハハハハ! これほどの魔法防壁ならば、悪魔の火すら防げる! さぁ? どうする? 降参する?』

 

 バグマンは不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見据えている。

 

 

 しかし、私達は再び、首を横に振る。

 

『良いだろう! 精々がんばってくれたまえ!』

 

 バグマンが笑いながら、席に戻ると同時に、ノルウェー・リッジバック種が飛び上がり、こちらに爪を振り下ろす。

 

「回避行動」

 

 その場で背後に飛び、攻撃を回避する。

 

 しかし、背後に控えていたハンガリー・ホーンテール種が炎を吐く。

 

 高温の炎が私達を包む。

 

 しかし、この程度の熱量では、大したダメージにはならない。

 

 デルフィは炎の中から飛び出すと、そのままウアスロッドを振り下ろす。

 

 しかし、ウアスロッドは空間障壁に阻まれ、ダメージを与える事が出来ないでいる。

 

 

『こちらの攻撃が通用しないとなると、多少厄介です』

 

 ドラゴンから離れ、体制を整えたデルフィから通信が入る。

 

『スキャンの結果、ドラゴンの体表に何重にも折り重なった複数の防衛フィールドを検知。複数に折り重なった為、魔法と魔法の間の空間が圧縮され、圧縮空間を形成していると思われます。圧縮空間による質量の断層の為こちらの攻撃が防がれている模様です』

 

『まるでアーマーン外壁のようですね。圧縮空間による質量の断層となると、現在の私の武装では、突破は不可能です』

 

 デルフィの武装と私の基本兵装は酷似している為、通常兵器での突破は不可能だ。

 

 まさか、魔法でここまでの防衛機構を再現するとは、やはり魔法というのはメタトロン技術と酷似している部分が多く見受けられる。

 

 アーマーンの外壁同様、圧縮空間による質量の断層ならば突破方法はただ一つだ。




圧縮空間を利用した質量の断層により、こちらの通常攻撃は一切通用しない状況です。

絶体絶命のこの状況を打開する、たった一つの方法とは…








次回 『空間圧縮破砕砲』

ドラゴン達の運命は!
そして、この戦いの行方はどうなってしまうのか(棒)


ネタバレ禁止ですよ。




ネタバレ駄目ね。


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ベクターキャノン

状況を説明します。

敵のドラゴン部隊は、こちらの通常攻撃が一切効かない状態です。

さて、どうやって攻略するでしょうか?

タイトル?


何の事かな?


 

 

  目も前で、ドラゴン部隊は咆哮を上げ興奮状態で空中を旋回している。

 

『敵は圧縮空間による質量の断層で守られています。突破可能ですか?』

 

『私にお任せください。問題なく発射できます』

 

『了解。ブチかましてください』

 

 私は、地面に両足を付けると、ドラゴンの部隊を見据える。

 

『私が、時間を稼ぎます』

 

『頼みます。10秒有れば十分です』

 

『人的被害を避ける為、上方へ発射します。敵部隊の誘導を頼みます』

 

『了解。行動を開始します』

 

「ステルス起動」

 

 私はステルスを起動し姿を透明にする。

 それと同時に、デルフィはウアスロッドを構えると、宙に舞い上がる。

 

 飛翔するデルフィに釣られ、ドラゴン達も宙に舞い上がる。

 

「遊撃を開始します」

 

 飛翔したデルフィは手近にいたノルウェー・リッジバック種に対し、手に構えたウアスロッドを振り下ろす。

 

 しかし、圧縮空間による質量の断層によって攻撃が防がれ、ドラゴンにはダメージが入っていない。

 

 攻撃を受けたと判断したドラゴンはデルフィを攻撃対象に変更したようで、炎を吐く。

 

「ベクタートラップ起動」

 

 デルフィは手を前に構えると、眼前にベクタートラップを起動すると吐き出された炎を圧縮空間内に納め、消滅させる。

 

 着地すると、デルフィは6体のドラゴンに向け、ウアスロッドを構える。

 

 6体全てのドラゴンがデルフィを攻撃対象と見做したのか、全てのドラゴンが一斉に炎を吐く。

 

 6体から吐き出された炎は巨大な熱量となり、デルフィに襲い掛かる。

 

「ベクタートラップ解除」

 

 デルフィは先程同様にベクタートラップを解除し、巨大な熱量の炎をベクタートラップ内に封じ込める。

 

 ベクタートラップはコロニー爆破用の時限爆弾の爆風ですら封じ込める事が出来るので、ドラゴンの炎程度、問題は無い。

 

 

  デルフィがドラゴンを引き付けている間に、私はベクタートラップから、武装を展開する。

 

 ベクターキャノン

 

 メタトロンの空間圧縮を利用したエネルギー兵器。

 

 次元、空間障壁の破壊はおろか通常兵器では突破不可能とされる質量断層をも貫通する。

 

 別名『空間圧縮破砕砲』

 

 しかし、高威力故、接地固定状態でなければ、反動を制御しきれず、発射にチャージを要する。

 

 

「ベクターキャノンモードヘ移行」

 

 両手を上に上げると、私の周辺の空間が歪み、オービタルフレームの時と同じ大きさの、巨大な砲身が出現する。

 

 それを私は受け止めると、両腕を通す。

 

「なんだあれ!」

 

「巨大な…大砲…」

 

「何が起こってるんだ!」

 

 会場や、審査員席から悲鳴にも似た怒声が上がる。

 

「エネルギーライン、全段直結」

 

 ベクターキャノンの砲身と私のエネルギーラインを直結させる。

 

 それにより、全身と砲身自体にも青白いエネルギーラインが走り出す。

 

 エネルギーラインの直結により、砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「ランディングギア、アイゼン、ロック」

 

 衝撃に備え、脚部を固定する為に、赤い色のアイゼンを地面に打ち込む。

 

 アイゼンが岩盤に食い込み、強固に固定される。

 

「チャンバー内、正常加圧中」

 

 エネルギーがチャンバー内に集約される。

 

 それに伴い、アンプにもエネルギーが供給され始め、緩やかに回転を開始する。

 

 エネルギー供給ラインが上昇を開始する。

 

 

「ライフリング回転開始」

 

 エネルギーの供給が終了後、アンプが高速に回転し、ライフリングを形成する。

 

 回転速度も上昇し、安定期に入る。

 

「撃てます」

 

 ベクターキャノン発射準備完了。

 

 デルフィの方は、全てのドラゴンを相手に、攻撃と回避を行い、ドラゴンの部隊を誘導している。

 

 そんな中、1匹が危険を察知したのか、上空からこちらに急接近する。

 

「1匹そちらに向かいました」

 

「問題ありません。攻撃に耐えつつ、このまま発射します」

 

「了解。退避します」

 

 私の斜め上方に滞空したのはウクライナ・アイアンベリー種だった。

 そのまま口を開くと、勢い良く炎を噴射する。

 

 燃え広がる炎の中、私はドラゴンの群れに狙いを定める。

 

「発射」

 

 トリガーを引くと、衝撃が走り、足元の岩盤が衝撃によりめくれ上がる。

 

 ベクターキャノンからは、総てを無に帰す程の、エネルギーが放たれ、吐いている炎ごとウクライナ・アイアンベリー種を消滅させる。

 

 ウクライナ・アイアンベリー種を消滅させたエネルギーの渦は、そのままデルフィによって集められたドラゴンに直撃する。

 

 デルフィは直撃の寸前にゼロシフトを使い、退避したようだ。

 

 エネルギーの渦の直撃により、スウェーデン・ショート・スナウト種とチャイニーズ・ファイヤーボール種、ウェールズ・グリーン種、ノルウェー・リッジバック種が消滅。

 

 唯一直撃を免れたハンガリー・ホーンテール種だったが、エネルギー波を掠めたのか、塵も残す事無く消滅した。

 

 ドラゴンの部隊を消し去ったエネルギーの渦は会場全体を覆っていたエネルギーフィールドを突き破り、上空を抜け、上空の雲を全て消し去った。

 

「ベクターキャノンモード解除」

 

 エネルギーの放出が終了後、ベクターキャノンモードを解除し、巨大な砲身をベクタートラップ内に収納する。

 

 周囲は、水を打ったかのように静かだった。

 

 皆、先程の光景に驚愕している様だ。

 

 それにより、誰も動けないでいる。

 

「作戦終了です。お疲れ様です」

 

「お疲れ様です。戦闘に置ける周辺への被害状況を報告。死傷者無し。建造物損壊無し」

 

「評価S。お見事です」

 

「感謝します」

 

 ベクターキャノンモードの抜けた先の空は、青い空が見えていた。

 

 私達は、審査員席へと顔を向ける。

 

「作戦終了です」

 

「得点と金の卵をお願いします」

 

 私達の言葉に、審査員、および観客全員が解放されたように動き出し、拍手が沸き上がった。

 

 

『さ…さぁ! 多少のアクシデントはありましたが、それで採点の方に…』

 

「待つのじゃ!」

 

 審査員席にふら付きながらも、覚束ない足取りのダンブルドアが割り込む。

 

「おぉ、ダンブルドアか。どうした?」

 

「先程、ドラゴンが消滅すると同時に、とてつもない衝撃を受けてな…護りの魔法を掛けていた闇払いがワシ以外全員気を失ってしまってな」

 

「そうか、それは大変だ…」

 

「何重にも重なった護りの魔法は悪魔の火すら防ぐ…」

 

「その筈だが…」

 

「つまり、彼女は悪魔の火以上の破壊力を持つ魔法を行使したことになる!」

 

 ダンブルドアの一言に、会場が騒めき立つ。

 

「それだけではない、彼女達はドラゴンの炎をものともせず、1人で6体のドラゴンを相手取り、1人で6体のドラゴンを消滅させたのじゃ!」

 

 バグマンは驚愕した表情をしているが、その後少し考えこむ。

 

「確かに…現に彼女達は6体のドラゴンを討伐した。だが…これはこちらが出した課題を攻略したことになる」

 

 バグマンは悔しそうな表情をした後「完敗だ」と呟く。

 

「じゃがこれは由々しき事じゃ…早急に対策を――」

 

「一つよろしいでしょうか」

 

 ダンブルドアの言葉を遮る様に、デルフィが声を上げる。

 

「我々はそちらが提示した条件を攻略しました。報酬を頂けますか?」

 

「あ…あぁ、そうだな。金の卵は後でテントへ届けよう。それでは審査員は点数を」

 

 バグマンがそう言うと、審査員は集まり何やら話し合いを行っている。

 

 

 

『えーどうやら、今採点が終了したようです』

 

 

 

 マクシームが杖を振ると、得点が発表された。

 

 

 

『これは…これは凄いぞ! 全員が10点を出している!』

 

 

 

 ダンブルドアを始め、皆不服そうな表情を浮かべながら拍手をしている。

 

 私達は、一礼し会場を抜け、テントへと移動した。

 

 

 テントに戻ると、他の代表選手達が驚いた表情でこちらを見て来る。

 

「さっきのは一体なんだ?」

 

 ハリーは少し興奮気味に口を開く。

 

「ドラゴンには特殊なフィールドが展開されていました。フィールドを貫通し内部の生命体への有効的な攻撃手段として先程の攻撃を使用しました」

 

「あんな…あんなの見た事無い! なんだろう…よく分からないけど、すごくかっこよかった!」

 

「分からないけど、あれは男ならきっと皆興奮するよ! しない奴は男じゃない!」

 

「ありがとうございます」

 

「ねぇ! あれもう一度――」

 

 その時、バグマンがテントの中へと入って来た。

 

 

 

「全員よく頑張った!」

 

 

 

 バグマンは大声を上げながら、こちらを警戒した表情を向けている。

 

 

 

「さて、いろいろ聞きたい事はあるだろうが、手短に話そう。第2課題までは十分な休みがある。だが時間があるとは言え、君達にはやってもらう事を用意してある」

 

 

 

 すると、バグマンは金の卵を指差した。

 

 

 

「この卵に蝶番が有るのが分かるか? この卵は開くようになっているんだ。その中に第2課題のヒントが入っている。では解散だ!」

 

 

 

 バグマンは手短に話したのち、テントを出ていった。

 

 

 

 それを見送った後、代表選手は自分の金の卵を手に取り、自室へと戻っていくのだった。

 

 

  第1課題終了後、ハリーは卵片手に談話室で祝賀会を開いており、私達もそれに参加した。

「凄かったぞハリー! 良くドラゴンを出し抜いたな!」

 

「運が良かったんだ。危ない所だったよ」

 

 ロンを始めとし、多くの生徒がハリーに称賛の声を送る。

 

 そんな中、ウィーズリーの双子が杖をマイクに見立て壇上に上がる。

 

「あー、あー。皆聞こえるかな? さて、我らがグリフィンドールの代表選手3人が無事に第1課題の突破を祝して、再び大きな拍手を!」

 

 声に合わせる様に、談話室に拍手が鳴り響く。

 

「さて、それじゃあ早速だがインタビューしようか。まずはハリーから。感想とかあるかい?」

 

 ハリーは向けられた杖の先端に顔を近づける。

 

「感想って程じゃないけど。もうすっごく興奮したね! うまくいったのが奇跡みたいだよ!」

 

 ハリーの声に呼応するように、拍手が上がる。

 

「いい感想だったよ。ありがとうハリー。さて! お次はこの二人! イーグリット姉妹だ! さて、何か感想はあるかな?」

 

「別段ありません」

 

「ただ課題を遂行したまでです」

 

 このような回答にも拘わらず、会場からは歓声が上がる。

 

「流石、クールだね。クールビューティーだよ。じゃあもう一つ質問。君達だけ6体相手してたけど、その点はどう?」

 

「戦力的には何ら問題は有りません」

 

「凄いね。さて、次を最後の質問にしよう。多分皆気になっていると思うが、ドラゴンを葬ったあの魔法は一体何だい?」

 

 その瞬間、会場が水を打ったように静まり返る。

 

「先の武装はベクターキャノンです」

 

「ベクター…キャノン? 一体どんな魔法なんだ? オリジナル?」

 

「メタトロンの空間圧縮特性により高密度に圧縮されたエネルギー波を放出する事により、圧縮空間を破壊する程の威力を出す事が可能です」

 

「え?」

 

「敵対象は圧縮空間による質量の断層を利用した防衛機構を備えていました。敵の防衛機構を突破、及び貫通させるにはベクターキャノンが有効だと判断しました」

 

 私達の説明を聞いても、ウィーズリーの双子はいまいち理解をしていない様だ。

 

「あー…なんだ…よく分からないが。凄いという事だけは分かったよ」

 

 会場の生徒達も意味も無く頷いている。

 

「さて! じゃあ次だ。もう一つのメインイベント。ハリー君が持っている金の卵を開けてくれないか?」

 

「え? 開けるの?」

 

「そうさ! 皆気になっている筈さ!」

 

 ハリーは金の卵を手に取ると、壇上へと上がる。

 

「じゃあ…開けるよ」

 

「頼むぜ」

 

 意を決したように金の卵の上部に付いている金具を外す。

 

「ッ――――――――――――――――――――!」

 

「うわぁ!」

 

「がぁ!」

 

 金の卵を開いた瞬間、悲鳴のような甲高いノイズ音が響き渡る。

 

「耳ガァ!」

 

「早く閉じろ!」

 

「今やってる!」

 

 ハリーが慌てながら金の卵を閉じると、ノイズが終了する。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「おい! ネビルが倒れてるぞ!」 

 

「またネビルか!」

 

「医務室へ運べ!」

 

「ロン、大丈夫か?」

 

「耳が痛い…血が出てるかも…」

 

「大丈夫。血は出てないよ」

 

 先程までの祝賀ムードが一変し、皆一様に暗い顔をしている。

 

「なんか…興が削がれたね…」

 

「そうだな。残念だが今日はここまでにしようか」

 

「そうだな」

 

 ウィーズリーの双子が終了を告げると、全員後片付けをすると、自室へと戻って行った。

 

 私達も、自室へと戻ると、ハーマイオニーがベッドに腰を掛けている。

 

「さっきの音酷かったわね」

 

「騒音レベルです」

 

『さっきのは、マーミッシュ語だね。水中人の言葉さ』

 

『水中人?』

 

『そうさ。アイツ等の言葉は陸上だと悲鳴みたいに聞こえるけど、水中だと歌みたいに聞こえる』

 

『そうなの。じゃあ…あの卵は水の中で開かないとダメって事?』

 

『まぁ、そうだね』

 

「分析を開始します」

 

 私は金の卵に触れ、内部の音声データを抽出する。

 

「変換を開始」

 

 抽出した音声データを水中で再生した時と同じように変換する。

 

「変換完了。再生します」

 

 変換後のデータを再生する。

 

 すると、先程までの悲鳴とは異なり、美声へと変わる。

 

『探しにおいで、声を頼りに。

 

 地上じゃ歌は、歌えない。

 

 探しながらも、考えよう。

 

 われらが捕らえし、大切なもの。

 

 探す時間は、30分。

 

 取り返すべし、大切なもの。

 

 30分のその後は………もはや望みはありえない。

 

 遅すぎたなら、そのものは、もはや、二度とは戻らない』

 

「綺麗な歌声ね」

 

 ハーマイオニーは先程の歌を聞き、首を傾げる。

 

「探しながら考えよう? われらが捕らえし大切な物? 一体何かしら?」

 

『それに探す時間は30分と限られているみたいだね』

 

「30分…結構短いわね…超えたらどうなるのかしら?」

 

『さぁ? 流石に身に危険が及ぶって事は無いとは思うがな』

 

「与えられたミッションを遂行するだけです」

 

「相変わらずね」

 

 ハーマイオニーは首を横に振りながら、ベッドへと潜り込んだ。




ベクターキャノンはやはりいい。

次のミッションの制限時間は30分です。

原作より短いですね。


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ダンスパーティー

今回は平和な回です。

2人は誰と踊るのでしょうか。


   第一競技終了後、数日が経つと、代表選手であっても普通に授業が行われる。

 

 

 

 

 

 今日はマクゴナガルの変身術の授業だった。

 

 

 

 普段通りに授業が終わる頃、マクゴナガルが咳払いをした後、口を開いた。

 

 

 

「さて、皆さんにお話があります」

 

 

 表情には出ていないが、若干の緊張状態にある。

 

 

「クリスマスパーティーが近付いてきました。三大魔法学校対抗試合の伝統で、クリスマスパーティーではダンスパーティーを行います。国外からのお客様と知り合ういい機会でしょう。ダンスパーティーは大広間で行われます。このクリスマス・ダンスパーティーでは羽目を外したくなるかもしれませんが、ホグワーツの生徒としての気品を損なわない様に、心がけてくださいね」

 

『なるほど、だからパーティードレスが必要だったのね』

 

『ダンスパーティーねぇ…』

 

「ダンスなんて僕踊った事ないよ」

 

「ロン、僕もだよ」

 

 ハリー達は顔を歪めている。

 

 マクゴナガルの説明も終わり、教室の生徒達は退室していく。

 

 私達も荷物をまとめ、退室しようとすると、マクゴナガルが口を開いた。

 

「代表選手の3人は残りなさい。お話があります」

 

「話? なんだろう?」

 

「代表選手についてです。他の生徒が出て行くまで少し待ちなさい」

 

 数分後、他の生徒が退室する。

 

「さて、先程クリスマスパーティーでダンスパーティーが行われるとお話ししましたね」

 

「そうですが…それが…」

 

「代表選手とそのパートナーはダンスパーティーの最初に踊ります。これは古くからの伝統です。学校の代表として踊るのですから、それ相応の相手を見つけるようにしてくださいね。」

 

 

 

「え? パートナー? 一番最初に?」

 

 

 

 ハリーが間の抜けた疑問の声を上げる。

 

 

「その通りです」

 

「本当に踊らなきゃダメ?」

 

「ダメです。例外はありません」

 

「そんなぁ…」

 

 ハリーは項垂れると溜息を吐く。

 

「パートナーって…一体どうすれば…」

 

「良いですね。良いダンスを期待していますよ」

 

 言い終えた後、マクゴナガルは足早に退室していった。

 

「パートナー…かぁ…」

 

 ハリーはゆっくりと顔を上げると、こちらを見据える。

 

「なにか?」

 

「いや、君達パートナーとかって…」

 

「別段候補は居ません」

 

「そうなんだ…よかったら僕と――」

 

「「お断りします」」

 

 私達は同時に答える。

 

「そ…そうかぁ…」

 

 ハリーは引き攣った笑顔を浮かべる。

 

「どうしよう…最悪ロンとでも…いや…でもそれは…ちょっと…」

 

 ハリーは頭を抱えながら、退室していった。

 

 

  クリスマスパーティーが刻一刻と近付いて来る。

 

 それにつれて、生徒達は色めき立ち、パートナー探しに躍起になっている。

 

「皆凄い必死ね」

 

 談話室のソファーに腰かけたハーマイオニーはタブレット端末を操作しながら呟く。

 

『見てみな、あの男子生徒は玉砕したみたいだよ』

 

『あぁ、ネビルね。ちょっとかわいそうだわ』

 

 ネビルは溜息を吐いた後、項垂れて暖炉の前に座り込む。

 

「ネビル…元気出せよ」

 

「ハリー…ロン…」

 

 ハリーとロンの二人はネビルの横に座り慰めている。

 

『いやぁ惨めだねぇ』

 

『5人以上に断られたみたいよ』

 

『そりゃ可哀想に…君が踊ってやったらどうだ?』

 

『この前誘われて丁重にお断りしたわ』

 

『そういえばそうだったね。そう言えばこの前別の誰かの誘いを受けていたね』

 

『まぁね』

 

『そいつと踊るのかい?』

 

『今の所はね』

 

『そうかい』

 

「やぁ、ハーマイオニー」

 

 ロンがハーマイオニーの前に立つ。

 

「あら? ロン。どうしたの?」

 

「いやぁ、別に用って訳では無いんだけど…」

 

「そう。私課題で忙しいのよ」

 

「そう言うなよ。聞いたぜネビルの誘いを断ったって? 本当はパートナーなんていないくせに強がっちゃって。何なら僕が」

 

「結構よ。もう踊る相手は決まってるわ」

 

「え? うそ?」

 

 ロンは目を白黒させている。

 

「本当よ」

 

「誰だよ?」

 

「秘密。当日になったら分かるわ」

 

 ロンは面食らったようで数秒程沈黙する。

 

「わかった! きっとパートナーが居ないのが恥ずかしくて嘘を言ってるんだな!」

 

「え? なんでそんな事しなきゃいけないのよ」

 

「いいさいいさ! 別に強がるなよ。まぁ良いようん。当日になって泣き付いて来ても知らないからな!」

 

 捨て台詞を吐き、ロンはネビル同様に暖炉の前に座り込む。

 

「ダンスパーティーがなんだ! なんで踊らなきゃいけないんだ!」

 

 

「そうさ! パートナーがなんだっていうんだ!」

 

 ネビルとロンの二人は互いに声を上げている。

 

 

『もう、一体何なの?』

 

『さぁ?』

 

『そう言えば、2人はもうパートナーは見つかったの?』

 

『まだです』

 

『え? だってクリスマスパーティーまで、後数日しかないのよ?』

 

『問題ありません。手段はあります』

 

『一体どうするのよ』

 

 ハーマイオニーは疑問を浮かべ、不穏な表情をする。

 

 

  数日が経ち、クリスマスパーティー当日。

 

 本日は、メインイベントであるダンスパーティーがある為、多くの生徒がパーティードレスを着込んでいる。

 

 私は水色を基調とした、フリルの付いたドレスを身に纏っている。

 

「お待たせいたしました」

 

 声の方に視線を向けると、そこには白のシャツ、赤黒いタキシードに身を包み、髪をオールバックにまとめ男装したデルフィの姿があった。

 

 その右手には、収納状態のウアスロッドがまるでステッキの様に握られていた。

 

「時間どおりです」

 

「では行きましょう」

 

 私達は会場へと同時に足を運ぶ。

 

 会場に入ると、多くの生徒が驚愕したような表情をする。

 

 どうやら、皆パートナーは異性であるのが原因なようだ。

 

「代表選手はこちらに集合しなさい!」

 

 

 

 ホールにマクゴナガルの声が響く。

 

 

 

 人混みを掻き分け、マクゴナガルの元に集まる。

 

 

 

 マクゴナガルはエメラルド色のドレスを着込み、普段とは違い、ナチュラルメイクを施し、年相応の気品を醸し出している。

 

 

 

  他の代表選手とそのパートナーに目をやる。

 

 デラクールのパートナーはロジャー・デイビースというレイブンクロー生だ。

 

 クラムのパートナーとしてハーマイオニーの姿を確認する。

 

「あれ? エイダと…え? デルフィ? 二人は…え? 二人で踊るの?」

 

「はい、その通りです」

 

「そうなの。デルフィは男装なのね。似合っているわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「そちらもお似合いですよ」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 笑みを浮かべているハーマイオニーは荒れ放題だった頭髪を整え、少し派手目のメイクを施し、薄いピンクのドレスに身を包んでいる。

 

『僕がコーディネートしたんだ。完璧さ』

 

『え? トム? 部屋に置いてきたはずなのに…』

 

『ナノマシンを介しているのさ。この城全体なら通信の範囲内だ』

 

『そうなの。まぁ良いセンスだわ』

 

「うわぁ…本当に君…ハーマイオニー?」

 

 

 

 後ろでは、ハリーが信じられないと言った表情でハーマイオニーを見つめている。

 

「そうよ。なんか変かしら?」

 

「いや…そのぉ…いつもと結構違って居て…」

 

「失礼しちゃうわね」

 

「ご、ごめん」

 

「静粛に! 今から入場していただきます。それぞれ組になって、私に付いてきなさい」

 

「作戦開始です」

 

 パーティーマナーである様に、私達は互いの手を取り、整列する。

 

 ハリー達も見様見真似で、同様に手を取る。

 

「準備は良いようですね」

 

 マクゴナガルはそれを見届けると、ダンスホールと化した大広間の入り口の扉を開ける。

 

 

 

 その瞬間、盛大な拍手が私達を迎え入れる。

 

 

 

 マクゴナガルの後に続き、貴賓席の前へ歩いてく。

 

 

 

 貴賓席には、審査員の面々が座っており、私達は空いている席へと腰かけた。

 

 

 

 テーブルの上には金色の皿だけが置かれている。

 

 

「これは?」

 

 私の隣に座っているハーマイオニーが首を傾げる。

 

『これは、ダンスパーティーの前に食事会があるようだね』

 

『でも何も乗って無いわよ? これから来るのかしら?』

 

『食べたいものを言えばいいのさ。すれば屋敷しもべ妖精が皿の上に料理を運ぶよ。バレない様にね』

 

『そうだったの』

 

「じゃあ、コーンスープ」

 

 ハーマイオニーがそう言うと、皿の上にコーンスープが入ったスープ皿が現れる。

 

『凄いわね』

 

 多くの生徒が悩みながらも、皆思い思いの料理を楽しんでいた。

 

 食事の時間を楽しんだ後、ついにダンスの時間がやって来た。

 

 

 

  私達は席を立つと、ダンスホールの中心へと互いに手を取りながら進んでいく。

 

 

「緊張するわ」

 

【緊張しているのかい? 大丈夫。僕がエスコートするよ】

 

【あ、ありがとう…】

 

 ハーマイオニーはクラムに手を引かれながら、中央へと移動する。

 

「準備は良いですね」

 

 マクゴナガルが杖を片手に、周囲を見渡す。

 

「それでは、ミュージックスタート」

 

 杖を軽く振ると、スローテンポなワルツが流れる。

 

 私達は、音程に合わせ、形式通りのステップを踏んでいく。

 

【あっ! ご、ごめんなさい!】

 

【大丈夫。君は軽いから気にする事は無いよ】

 

 ハーマイオニーの方を見ると、どうやらステップの最中にクラムの足を踏んでしまったようで踊りが止まっている。

 

 ハリー達のペアも何度か足を踏むアクシデントに見舞われている様だ。

 

 結局1曲が終わるまでに、ハリーは3回、ハーマイオニーは5回以上相手の足を踏んでいた。

 

  12時が過ぎダンスパーティー終了後、私達が自室に戻ると、ハーマイオニーはベッドに腰かけ溜息を吐いていた。

 

「はぁ…」

 

「どうしたんだい? 溜息なんて吐いて」

 

 タブレット端末のスピーカー越しにトムの声が響く。

 

「上手く踊れなくてね。相手の足を何度も踏んじゃったのよ」

 

「それはそれは、相手も気の毒に」

 

「はぁ…終わった後も、少し気不味かったわ…もうダンスなんて踊りたくないわ」

 

「練習しようとは思わないのか?」

 

「もう踊る事なんて無いと思うわ。それにもう足を踏むのはこりごりよ」

 

 手早くドレスを脱ぎ、普段着へと着替えたハーマイオニーは再びベッドに腰かける。

 

「もう一種の恐怖症みたいな感じだわ。ダンス恐怖症かしら?」

 

「そんなにかい?」

 

「えぇ、足を踏む度、相手が嫌そうな顔するんだもん」

 

「へぇ、つまりは足を踏まなければ良いだけじゃないか」

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

 再びハーマイオニーは溜息を吐く。

 

「だったら」

 

 次の瞬間、トムがホログラム化しハーマイオニーの前に現れる。

 

「ん? どうしたのよ」

 

 ホログラム化したトムはハーマイオニーの前に手を差し出す

 

「僕が踊ってあげよう」

 

「え?」

 

「僕はホログラムだ。足を踏む心配も無いだろうし、踏まれる心配も無いさ」

 

「へぇ…」

 

 ハーマイオニーはトムの手を握ろうとするが、ホログラムなので触れる事は無い。

 

「触っているように演技するのさ」

 

「パントマイムをやれと?」

 

「ご名答」

 

 ハーマイオニーは立ち上がると、トムの手の上に自らの手を重ねる。

 

「12時を回っちゃったわ。生憎と魔法は解けてドレスはもう無いのよ。いつも通りの女の子よ」

 

「灰被り姫の話しかい?」

 

「そうよ。まぁ、ホグワーツみたいに不思議なお城なら美女と野獣の方が合うかしらね。燭台とか動きそうだし」

 

「なら君プリンセス役か? 少し無理があるんじゃないか?」

 

「失礼しちゃうわ。ベル役をやろうと思えば出来るわよ」

 

「これはこれは失礼したね。それにしても詳しいね。童話が好きなのかい?」

 

「本が好きでよく読んでいたのよ。夢があってハッピーエンドで良いじゃない」

 

「実際は暗いオチってのが多いんだよ」

 

「そうなのね。でも私はハッピーエンドの方が好きね」

 

「そうかい」

 

「そうよ」

 

 タブレット端末から、ダンスパーティーで流れたのと同様の曲が流れる。

 

「まずはステップだ。ワルツのリズムに合わせて」

 

 2人は緩やかに、ワルツを刻む。

 

「ワン・ツー・スリー・ワン・ツー・スリー。上手いじゃないか」

 

「相手を気にしないで良いのは楽ね」

 

「そうかい、ちなみに今、僕の足踏んでるよ」

 

「そう。別にいいじゃない。痛みなんて無いんでしょ」

 

「まぁね」

 

 その後、ハーマイオニーは行き詰まる事無く、ダンスを踊り切った。

 

「お見事です」

 

 デルフィが拍手をしながら、ベッドルームへと移動する。

 

「え? ちょっと!」

 

「君達…何時からいたんだ?」

 

「最初からです」

 

「反応は無かったんだけどな」

 

「お邪魔になると判断し、ステルスモードで待機していました」

 

「そうかい」

 

 トムは不機嫌そうに、ホログラム化を解除する。

 

「ダンスの総合評価ですが、ダンスパーティー時よりは高評価です。ですが、ハーマイオニーは3回、トムは6回足を踏んでいました」

 

「数えていたの?」

 

「えぇ」

 

「もう…居るなら居るって言ってくれればいいのに…」

 

「以後気を付けます」

 

 メンタルコンデションレベルの高いハーマイオニーはベッドへ潜り込んだ。

 

「そう言えば、もうじき第2試合だけど、準備は出来てるの?」

 

「準備以前に、あの歌では水中での作戦と猶予時間が30分と言う事以外明確な事実は有りません」

 

「水中に30分も居るのよ。色々な魔法を重ね掛けしないとダメだわ」

 

「一般人が水中で行動するなら具体的には、防寒呪文、防水魔法。あと泡頭呪文辺りかな」

 

「全部難しい呪文だわ。私達の年齢じゃ使いこなせる人なんてあまり居ないわ」

 

「問題ありません」

 

「マスターしてるのね。流石だわ」

 

「いいえ」

 

「不必要です」

 

「え? じゃあどうするのよ」

 

「水中での作戦行動は可能です」

 

「なんか…もうよく分からないわ」

 

「だから言っただろ。一般人ならって。彼女達を一般人扱いしちゃダメさ」

 

「はぁ…なんか妙に納得してしまうわ」

 

 ハーマイオニーは呆れた様に布団を被ると、数分後には寝息を立て始めた。

 

 




一体誰が、トム・リドルとハーマイオニーを躍らせようとトチ狂ったことを考えたでしょう…



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水中戦

今回は、水中での作戦行動です。

私事ですが、最近蜂蜜酒にハマってしまいました。

おかげで悪酔いが…


 

   第2試合当日。

 

 時刻は4時を回った頃に私達の部屋の扉が開かれる。

 

 私とデルフィはビームガンとウアスロッドを構え、布団を捲る。

 

「ひっ!」

 

 扉を開けたのはマクゴナガルだった。

 

 こちらが武器を構えていた為か、小さな悲鳴を上げ、数歩後退る。

 

「ご用件は?」

 

「起床時間はまだ先の筈です」

 

「いえ、少しミス・グレンジャーに用事がありまして…それより杖を下ろしなさい」

 

 私達の武装を解除すると、マクゴナガルは落ち着きを取り戻した。

 

「起床時間後でも良いのでは?」

 

「三大魔法学校対抗試合に関する要件ですので…」

 

「彼女は代表選手では有りません」

 

「ですが、彼女にも役割が――」

 

「ん…え? マクゴナガル先生? こんな朝早くにどうしたんです?」

 

「えっと…少し用事がありまして」

 

 マクゴナガルは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「はぁ…仕方ありません。説明しましょう」

 

 マクゴナガルは近くにあった椅子を杖で引き寄せるとそこに腰かける。

 

「さて…ミス・グレンジャー」

 

「はい…」

 

「本日は第2試合が行われるのはご存知ですね」

 

「知ってます」

 

「そこで、貴女にも少しお手伝いをして欲しいんです」

 

「え? 私ですか?」

 

「そうです」

 

「えっと…何をすればいいんですか?」

 

「難しい事では有りません。一緒に来ていただければ大丈夫です」

 

「えっと…」

 

 ハーマイオニーはこちらを不安そうに見つめる。

 

「私達が同行する事は可能ですか?」

 

「残念ですが貴女達は代表選手なので、それはできません」

 

 デルフィの質問に対し、マクゴナガルはしっかりと断る。

 

「わかりました。準備だけしたら行きます」

 

「扉の前で待ってますよ」

 

 

  マクゴナガルはそう言うと、退室した。

 

「それにしても、一体何をするのかしら?」

 

 

『客観的に考えて、君が第2試合の人質って訳だ』

 

「人質?」

 

『猶予は30分。われらが捕らえし、大切なもの。これから考えるに、きっとそうだろうね』

 

「はぁ…なんか不安だわ」

 

 ハーマイオニーは不安そうに溜息を吐くと、着替え始める。

 

「メンタルコンデションレベル低下。不安を感じているようですね」

 

「まぁね。水中に30分以上居るのよ、不安にもなるわ」

 

『いくらダンブルドアとは言え水中に生徒を送り込むんだ。それなりの対策はしている筈さ』

 

「だと良いけど…」

 

 依然としてハーマイオニーは不安そうな表情を浮かべている。

 

 私はベクタートラップ内で手の平サイズの水中呼吸装置を製作する。

 

「こちらをお渡しします」

 

「これは?」

 

「水中での呼吸を可能とする装置です。口に咥えて通常通りに口呼吸を行ってください」

 

「凄いわね。でもダンブルドア先生とかが泡頭呪文を掛けてくれるはずよ」

 

『だから心配なのさ。もし途中で呪文が解けたら溺死するね』

 

「あ…そうよね…使わせてもらうわ」

 

「水中の溶存酸素をメタトロンで圧縮し空気中と変わらない酸素濃度に変更しています。12時間以上の連続使用が可能です」

 

「なんか…凄いわ。魔法? なのよね?」

 

「メタトロン技術です」

 

「メタトロン…よく聞くけど詳しく知らないわ」

 

「ご希望とあれば、詳しくお話ししますが」

 

『やめておいた方が良い。僕ですら理解していないんだ』

 

「そ…そうなの…ま…まぁ、また機会があったらお願いするわ」

 

「了解です」

 

 ハーマイオニーは水中呼吸装置をポケットへと仕舞い込む。

 

「じゃあ、行ってくるわね。必ず助けに来てよ」

 

「お任せください」

 

「ご安心を」

 

 タブレット端末を自室に残したハーマイオニーは手を振りながら扉を開けると、マクゴナガルと共に移動を開始した。

 

  

  第2試合開始30分前。

 

 代表選手達はホグワーツから多少離れた所に有る、湖へと集められた。

 

 

 

 しかし、その中にハリーの姿はなかった。

 

 湖には、大きな観客席が設けられており、すでに観客で超満員だ。

 

 

 数十分後、代表選手の前にバグマンが現れた。 

 

「やぁ! やぁ! みんな集まっておるかね? おや、ハリーの姿が見えないな」

 

 

 

 バグマンは不思議そうに周囲を見回している。

 

 開催の時間までは後、15分を切った所だ。

 

 他の代表選手に視線を移すと、クラムとセドリックは競泳用のパンツ1の状態で準備体操をしている。デラクールは凍えながらローブを羽織っているが、その下はレオタード状の競泳水着を着込んでいる。

 

 そんな中、我々は第1試合同様に、フレームランナーが装着するパイロットスーツを模した服装をしている。

 

 先程からデラクールを始め、多くの人々が私達に視線を送っている。

 

 

 

【まさか、その恰好で泳ぐつもりじゃないわよね】

 

【その通りです】

 

【水着とか無かったの?】

 

【不必要でしたので】

 

【そう…】

 

 その時、ハリーが息を切らせながら階段を駆け上がって来た。

 

 その恰好は普段の制服を着込んでいる。水着は来ていないようだが、大丈夫だろうか?

 

「ハァ…ハァ……ハァ…到着しました」

 

 ハリーは制限時間寸前での到着だが、これで全員が集合した。

 

 

 

『さて! これで全員が揃いました! 第2課題の内容は至ってシンプル! 制限時間以内に大切なモノを取り返すことです! どれだけ鮮やかに! どれだけ手早くが勝負の分かれ目になりそうです!』

 

 大声で、喧しい解説も終わった所で、私達はバグマンの指示で飛び込み台の様な所へ移動させられる。

 

 水面は綺麗に澄んでいるがそこまでは光が届いていない様で、仄暗かった。

 

 

 

「それでは私のホイッスルを合図にスタートだ! と言いたい所だが、少しルール変更だ」

 

「なんだって?」

 

 セドリックが飛び込み姿勢のまま、疑問の声を上げる。

 

「まぁ、このルールはイレギュラー中のイレギュラーであるイーグリット姉妹限定だ。あー…後クラムにも少し負担が掛かるかも知れないな」

 

「ヴぇ?」

 

 クラムも顔を上げ、バグマンを見据える。

 

「まぁいい。変更点の説明だ。制限時間は1時間だが、イーグリット姉妹だけ30分だ。つまり、他の選手がスタートしてから君達は30分後にスタートという事だ」

 

 バグマンはこちらを見据えている。

 

「それと、イーグリット姉妹の大切なモノとクラムの大切なモノが被ってしまってね。つまり、どちらが先に救い出すかという事だ」

 

【おいおい、どうなっているんだよ】

 

【詳細は不明ですが、貴方と我々。どちらかが先に目標を回収するという事です】

 

「無論、クラムに負担が掛かるのは承知している。そこで、クラムには無条件で全員から5点を現時点で追加しよう。イーグリット姉妹より先に救い出せば、追加で得点を与える」

 

【つまり、僕にとってはボーナスチャンスって事だ】

 

【我々が勝利した場合でも、無条件で得点が入るので安心してください】

 

【残念だけど、30分あれば十分だ】

 

 クラムはバグマンに向かい大きく頷く

 

「よし! じゃあ行くぞ! 1…2…3!」

 

 けたたましいホイッスルの音が周囲に響くと同時に、代表選手が一斉に湖に飛び込む為に、自らに魔法をかけるなど準備を始めた。

 

 ハリーは急いで履いていたズボンを脱ぎ下着になると、植物を口に含み、飛び込んだ。

 

 

  全員が飛び込んだ後、審査員の上に魔法でタイマーが表示される。

 

「さて、君達は30分後だ。その間は準備するのも禁止だ。じゃあ健闘を祈るよ」

 

 バグマンはそう言い残すと、その場を後にした。

 

 30分が経過する。

 

「さて、じゃあ競技開始だ」

 

「了解」

 

「ミッションを開始します」

 

 私達はそのまま水中へと飛び込む。

 

 水中は光源が全くなく暗闇と化している。

 

 しかし、宇宙空間の暗黒と比べれば然したる問題でもない。

 

 水底に着底後バーニアを起動する。

 

 オービタルフレームのバーニアならば、水中での減衰などを受ける事無く、通常通りの行動が可能になる。

 

 

 周囲をソナーとレーダーを使用し索敵すると、一か所に生体反応が集中しているのを確認する。

 

『恐らく目標地点だと思われます』

 

『移動を開始します』

 

 目標地点へと接近すると、魔法独特の閃光が水中を走る。

 

 更に接近すると、そこには代表選手が、巨大な軟体生物と格闘している姿が見て取れた。

 

『イカですか』

 

『イカですね』

 

 巨大なイカはその触腕を伸ばし、ハリー達を捕獲しようとしている。

 

 このままでは確実に捕縛されるだろう。

 

 

「ハルバード照射」

 

 水中をハルバードの青白いエネルギー光が走り、巨大なイカの触腕を焼き切る。

 

 オービタルフレームの出力ならば、水中での威力減衰等は殆ど無い。

 

 触手を焼き切られ、巨大なイカは低い咆哮を上げ苦しんでいる。

 

「攻撃を継続します」

 

 私はバーニアの出力を上げ、巨大なイカに急接近すると、残りの触腕を全て根元をブレードで一閃し切り離す。

 

「止めです」

 

 デルフィは巨大なイカの正面に移動すると急所である胴体にウアスロッドを突き立てる。

 

 ウアスロッドが深々と刺さると、神経系にダメージを与えたのか、数回変色を繰り返した後、白色へと変化すると、水底へと沈んでいった。

 

「排除完了です」

 

 周囲を見渡すと、代表選手全員がこちらに視線を向けている。

 

「お怪我は有りませんか?」

 

 デルフィの質問に対し、泡頭呪文により呼吸を確保しているハリー以外の面々は頷いている。

 

「助かったよ」

 

 ハリーは水中であるにも拘わらず言葉を発している。

 

 その体には、人間には付いていない、鰓や水掻きなどが付いていた。

 

「鰓昆布を食べたんだ。味は最悪だったね」

 

「そうでしたか」

 

「それより、君達はどうやってるの?」

 

「別段なにも」

 

「まぁ、そう言うと思ったよ」

 

 その時、レーダーとソナーに急速で接近する複数の反応を検知する。

 

「高速で接近する複数の反応を検知しました」

 

「え?」

 

「3秒後には目視で捉えます」

 

「えぇ!」

 

 轟音と共に、視界を黒く塗りつぶす程の渦が迫り来る。

 

「え! あれは一体なんだよ!」

 

『アイツは水魔だね』

 

 トムからの通信が入る。

 

『特徴は?』

 

『数で攻めて来る奴等だからね。単体での強さは無い筈だ』

 

『了解』

 

 私とデルフィは迫り来る水魔を目標に捉える。

 

「ロック完了」

 

「攻撃を開始します」

 

 私達の手からレーザーランスとハウンドスピアが掃射される。

 

 それにより、迫り来る水魔の群れの第1派を消滅させる。

 

 しかし、レーダーにはさらに複数の敵影を検知する。

 

「敵影さらに増大」

 

「ど、どうすれば!」

 

「迎撃しながら目的地まで先導します。付いて来てください」

 

 私はフローティングマインを取り出すと、デルフィが水魔の群れに投げ込む。

 

 次の瞬間、水中であるにも拘わらず、大規模な爆発が起こり、水魔の群れを焼き払う。

 

「今です。移動を開始」

 

 私達は低速で移動する。

 

「待ってくれよ! 早すぎるって!」

 

 ハリーを始めとした代表選手達は、水中を移動し始める。

 

  15分後、水魔を迎撃しつつ、目的に到達する。

 

「はぁ…はぁ…結構時間かかっちゃった」

 

「作戦終了時刻まであと5分ほど有ります」

 

「急がなきゃ」

 

 目標地点には、藻に覆われた石の住居が存在し、その中心に巨大な藻の塊のようなものが存在しており、右からデラクールの妹らしき少女、ハーマイオニー、そしてロンが昏睡状態で磔にされていた。

 

 全員に泡頭呪文が掛けられている様だが、泡の残量が少ない。

 

「時間が無い。急いで引き剥がそう」

 

 ハリーがそう言うと、全員自分の救助対象者へと駆け寄る。

 

 私達もハーマイオニーに接近すると、クラムが杖を片手に藻を引き剥がそうとしている。

 

 私達も加勢し、右手を覆う藻を引きはがす。

 

 その時、眼前でハーマイオニーの泡頭がはじけ飛ぶ。

 

「え?」

 

 隣に居たクラムの泡頭もはじけ飛び、次の瞬間には苦しみだす。

 

「どうなっているんだよ!」

 

 泡頭呪文を使用していないハリーは周囲を見回し混乱している。

 

『どうやら、泡頭呪文が強制的に解除されたみたいだね』

 

『犯人の特定は?』

 

『残念だが』

 

『そうですか』

 

『んぐっ! 苦しい! 助けて!』

 

 ハーマイオニーが意識を取り戻したのか、救援を求めている。

 

『呼吸器を使用してください』

 

 ハーマイオニーは自由になった右手で呼吸器を取り出すと、口に咥える。

 

『はぁ…助かったわ。他の人達は』

 

『泡頭呪文が解除されたんだ。そう長くは無いね』

 

 トムは非常に落ち着いた状態でハーマイオニーに告げる。

 

『そんな! 何とかならないの!』

 

「ねぇ! このままじゃ皆死んじゃう! 何か手は無いの!」

 

 ハリーも私達に駆け寄り、声を荒らげる。

 

 状況を判断し、私達は最善の行動に移る。

 

「全員の体を藻に絡めて固定してください」

 

「え?」

 

「湖の水を全てベクタートラップ内に収納します。急いでください時間が有りません」

 

「あっ! あぁ! 分かった!」

 

 ハリーは気を失った代表選手達の体を藻に絡めるとしっかりと固定する。

 

「大丈夫だ!」

 

『泡頭呪文が解除されてから1分が経過。そろそろヤバいかな?』

 

『問題ありません』

 

「「ベクタートラップ起動」」

 

 私達は、ベクタートラップを最大出力で展開する。

 

 すると、湖の中心に水流が発生する。

 

「うぉ!」

 

 ハリーは必死に藻にしがみつく。

 

 周囲に居た水中人も、地面に槍状の武器を突き刺し、体を固定し水流に耐える。

 

 10秒後、湖の水が全てベクタートラップに収納され、全員呼吸可能な状態になる。

 

「ぷはぁ! はぁ…はぁ…」

 

「救助を開始します」

 

 排水後、救助対象者と代表選手達が固定されている部分を切断後、陸上へと移動する。

 

「何事じゃ!」

 

 上陸すると、ダンブルドアを始めとする審査員や、医療班が駆け寄る。

 

「アクシデントにより救助対象者及び代表選手達の泡頭呪文が解除されました」

 

「なんじゃと!」

 

 ダンブルドアは怒号を上げる。

 

「水は飲んでいるようですが、即座に処置を行えば蘇生は十分可能です。お急ぎください」

 

「早くせぬか!」

 

 ダンブルドアに急かされる様に、救護班が魔法による治療を行う。

 

 その結果、全員の無事が確認された。

 

「湖が無くなってしまったのぉ…」

 

『ホグワーツ湖の水全部抜くって感じだね。埋蔵金でもあればいいんだが』

 

『洒落にならないわ』

 

『助かったからいいじゃないか』

 

『私はまだいいわ。他の人達が可哀想だわ』

 

 ハーマイオニーは空になった湖を見つめている。

 

「「ベクタートラップ解除」」

 

 私達はベクタートラップを解除すると、空中から大量の水が空になった湖に降り注ぐ。

 

「なんじゃと!」

 

 数秒後には排水も完了し、元と同じ水位にまで復元される。

 

「なにを…したのじゃ…」

 

「全員を救助する為に、一度湖の水を排水。その後復元したまでです」

 

「一体…どの様に…」

 

「おい! ダンブルドア!」

 

 バグマンがダンブルドアに駆け寄る。

 

「今回のこれはどういう事だ!」

 

「ワシにも分からん…恐らくじゃが何者かによって代表選手達の魔法が解除されたようじゃ」

 

「分からんだと! 全員溺れ死ぬところだったんだぞ!」

 

「それは重々承知じゃ。このような事誰が想定できるという」

 

「そ…それは…」

 

「して、今回の結果を見て、得点はどの様に付ける?」

 

「そうだな…」

 

 バグマンとダンブルドアはこちらを一瞥する。

 

「状況が状況だ。下手に点数は付けられないだろう」

 

「その通りじゃ。そこで提案なんじゃが、全員に等しく満点というのはどうじゃ?」

 

「全員にだと?」

 

「そうじゃ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと頷く。

 

「だが、クラムはどうする? 彼は既に加点済みだぞ?」

 

「加点を取り消し、全員同一の点数を与えるのじゃよ」

 

「これでは第2試合が無意味じゃないか」

 

「イレギュラーな事じゃ。仕方ない」

 

「発表は全員が目を覚ましてからにするか」

 

「そうじゃな」

 

 ダンブルドアとバグマンは互いに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

 




年内にゴブレット編は終わらせたいと思うのですが。

少し難しいかもしれません。


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お茶会

世間は何やら騒がしいですね。

一体何があるのでしょう?


普通の日だと言うのに。


 

   数日後、代表選手達とその救助対象者の治療が終了した。

 

 代表選手達は体力が回復後、クィディッチ会場に集められた。

 

「これは! どうなってるんだ!」

 

 そこは、本来あるはずのクィディッチの会場ではなく、所々に補修の後を残してはいるが、それを覆い隠すかのように巨大な生け垣が聳え立っている。

 

 

 

「セドリック…なにこれ?」

 

 

 

「さ…さぁ?」

 

 

 

 ハリーとセドリックは互いに首を傾げている。

 

 

 

「やぁ! 代表選手の諸君! どうかね? これを見て!」

 

 

 

 巨大な生け垣の前でバグマンは両手を広げ大声を上げている。

 

 

 

「見事な物だろう! あと数日もすれば完成だ! あぁハリーそんな顔をしなくても大丈夫だ! 競技が終わればクィディッチの会場は元通りにするからな! さて、ここで一つ質問だが、最終課題は一体何だか見当がつくかな?」

 

 

 

「迷路?」

 

 

 

「大正解だ! クラムの言う通りこれは巨大な迷路だ!この迷路の中に優勝杯を隠しててある。その優勝杯を最初に手にした選手が今回の三大魔法学校対抗試合の優勝者だ! つまり、勝った者が正義だ!」

 

 

「最後が迷路なんて、なんかシンプルだね」

 

 

「だが、これはただの迷路ではない! 道中には様々な罠や、魔道生物が放たれている!」

 

 

 

「つまりヴぁそれを避けて行けということヴぇすね、でもそのヴぁあい今までの課題の得点ヴぁ?」

 

「クラムの質問も理解できる」

 

 バグマンは数回頷いている。

 

「もちろん、最初に優勝杯を手にした者が優勝だが、第1第2の競技で得た得点には意味がある。その得点の多い物から順番にスタートだ! さて…それでは第2競技の得点発表といこうか」

 

 

 

 バグマンはそう言うと、小さな紙を胸ポケットから取り出した。

 

 

 

「第2競技は予想外の出来事により、皆一様に少なからず競技の妨害を受けた…その点を考慮して、第2課題の得点は全員一律で満点とする」

 

「え?」

 

「それじゃあ、最初の課題の点差がそのままって事?」

 

「まぁ、そんな感じだ」

 

「じゃあ」

 

 ハリー達の視線がこちらに集まる。

 

「まぁ、得点で言えば彼女達が1番だ。だが…」

 

 バグマンは首を横に振る。

 

「彼女達は今大会最大級のイレギュラーだ。それ故、君達の点数は2人で半分という事にしたい」

 

「つまり、我々が最下位という事ですか」

 

「う…まぁ、そう言う事だ」

 

「了解です」

 

「すまないね」

 

 苦笑いをしながら、バグマンは頭を掻いている。

 

【ねぇ、そんなんで良いの?】

 

 デラクールがこちらに顔を向ける。

 

【問題ありません】

 

【でも、悔しいけど、貴女達がやった事は私達なんかよりも凄い事だわ】

 

【お褒め頂き光栄です】

 

【だから、貴女達が1番だと思うんだけど】

 

【決定事項です】

 

【でも】

 

【問題ありません】

 

【なるほど、そう言う事ね】

 

 何を思ったのか、デラクールは笑みを浮かべる。

 

【それだけのハンデを負っても勝つ自信があるのね】

 

【ミッションを遂行するまでです】

 

【いいわ、今回の大会、私が優勝して貴女達の余裕そうな表情を変えてやるわ!】

 

 声高らかに笑い声を上げるデラクールを他の代表選手達が見守っていた。

 

 最終課題当日。

 

 

 

  ハリーは大広間で大量の料理を目の前にして、呻き声を上げている。

 

 

 

「どうしたんだよ? 食べろよ?」

 

 

 

「いや…ロン。流石に…この量は」

 

 

 

 ハリーは顔をしかめ、目の前にある大量の料理に指を刺した。

 

 

 

「何を言っているんだよ! これくらい食べなきゃだめじゃないか! 今日は最終課題なんだから!」

 

 

 

 ロンはそう言うと、手に持ったフォークでウィンナーを突き刺し、ハリーに押し付けている。

 

 

 

「うぅ…もういいって!」

 

 

 

「そうかい? なら僕が食べるよ」

 

 

 

 呑気そうにロンがそう言うと、手に持っていたウィンナーに齧り付く。

 

「はぁ…」

 

 隣で見ていたハーマイオニーは溜息を吐く。

 

『かなり下品な食べ方だな』

 

『まったくね。男の子ってああなのかしら?』

 

『彼が特別なのさ』

 

『いい意味で?』

 

『ある意味いい意味でね』

 

「代表選手達の3人。こちらへ」

 

「はい。わかりました」

 

 マクゴナガルの登場により、ハリーは目の前の食事から解放され、安堵の表情を浮かべている。

 

「何処へ向かってんですか?」

 

「最終課題を行う前のちょっとした集まりですよ」

 

 

 

  マクゴナガルに案内された小部屋には、他の代表選手達も集まっており、家族と思われる人物と熱い抱擁を交わしている。

 

 

 

 集められたのは、招待された家族への挨拶をする為の様だ。

 

 

 

 

 

 ハリーは不仲な親戚ではなく、ウィーズリー家、そしてシリウスの姿もあった。

 

 親族の居ない私達は、部屋の隅にある椅子に腰かける。

 

 数分後、ダンブルドアとマクゴナガルが私達の前に現れた。

 

「同席しても良いかの?」

 

「御構い無く」

 

 2人は私達の前に腰かけ、目線を向ける。

 

「ご用件は?」

 

「なぁに。君等は親族がおらんじゃろ。だから代わりにワシ等が面談を…と思ってな。なぁ、ミネルバ」

 

「え、えぇはい」

 

 マクゴナガルはバツの悪そうな表情をしている。

 

「ご用件は何でしょうか?」

 

「デルフィよそう邪険にするでない」

 

 ダンブルドアはこちらから視線を逸らさず、テーブルの上に杖を握りながら手を置く。

 

 それと同時に、異様なハッキングを検知する。

 

 反応の主はダンブルドアだ。

 

 防御プロトコルを起動し、進入を防ぐ。

 

「むっ?」

 

 その瞬間、ダンブルドアの表情が曇る。

 

「校長?」

 

 横目で見ているマクゴナガルが不審な声を上げる。

 

「どうなっておる…」

 

 呟いたダンブルドアは更にこちらを更に見据える。

 

 それに連れ、ハッキングの出力も上昇する。

 

 しかし、防御プロトコルによって簡単に防げることに違いは無い。

 

 さらに続くハッキングに対し、私達は人間の脳の処理限界ギリギリの電子情報を流す。

 

「ングッ!」

 

「どうしました!」

 

 情報を流すと同時に、ダンブルドアは頭を抱えテーブルに倒れ込む。

 

「何をしたのです!」

 

「ハッキングに対し、情報を流したまでです」

 

「え?」

 

 マクゴナガルは理解できていないのか、目を白黒させている。

 

「んん! ふぅ…大丈夫じゃ。大丈夫」

 

 起き上がったダンブルドアは目を充血させ鼻血を垂らしている。

 

「酷い目にあったわい…」

 

「不用意なハッキングはおやめください」

 

「次はこれ以上の情報を流しますよ」

 

「ふぅ…なぜワシが開心術を防ぐだけではなく、逆手に取ったのじゃ?」

 

「あの程度のハッキングならば、問題なく防ぐ事が可能です」

 

「なんじゃと…」

 

 顔色の悪いダンブルドアだったが、更に顔を青くした。

 

「ふぅ…こうしてお主達と話すのは初めてじゃな」

 

「そうですね」

 

「では、単刀直入に聞こうかの」

 

 マクゴナガルからハンカチを受け取り、顔に付いた血を拭うと、再びこちらを見据える。

 

「お主等は何者なのじゃ?」

 

 ダンブルドアの質問に対し、マクゴナガルは絶句している。

 

「校長! いくら何でもその質問は!」

 

「良いのじゃ! このような機会はあまりない!」

 

 ダンブルドアはテーブルの上でゆっくりと杖をこちらに向ける。

 

「さて、もう一度聞くぞ、お主達は何者なのじゃ?」

 

 ダンブルドアは視線を逸らす事無くこちらを見据える。

 

「先程のハッキングで何か情報は得られましたか?」

 

「不可解な数字の羅列を見た。それだけじゃ。それ故、このようにお主達に質問して居る」

 

「一生徒。それ以上の答える義務はない筈ですが」

 

「確かにのぉ…まぁいい。失礼な事を聞いてしまったな」

 

「いえ、御構い無く」

 

 ダンブルドアは立ち上がると、軽く杖を振り、ティーセットを引き寄せる。

 

「なぁに、紅茶でもどうじゃ」

 

 ティーポットからティーカップへと紅茶が注がれる。

 

「砂糖は居るかの?」

 

「結構です」

 

「そうか」

 

 ダンブルドアの淹れた2杯の紅茶が私達の目の前に置かれる。

 

「冷めぬうちにの」

 

「では、私も」

 

 マクゴナガルがティーポットへと手を伸ばす。

 

「すまぬがミネルバ。お主は自分で新しいのを淹れてくれるかの?」

 

「え?」

 

「この紅茶は彼女達の物じゃからよ」

 

「え?」

 

 マクゴナガルは首をかしげ疑問の表情を浮かべる。

 

 私達は差し出された紅茶で口を口に含む。

 

 紅茶から『真実薬』という、自白剤を検知する。

 

 しかし、AIである私達に自白剤など意味を成さない。

 

「スコーンでもどうじゃ?」

 

 更に紅茶を飲ませたいのか、ダンブルドアが茶菓子を勧める。

 

「いえ、結構です」

 

「そうかの。さて、改めて質問じゃ」

 

 杖を構えたまま、ダンブルドアがゆっくりと口を開く。

 

「お主達の正体を教えるのじゃ」

 

 数秒程沈黙が流れた後、デルフィが静寂を破る。

 

「先程も申し上げた通り、我々は一生徒に過ぎません」

 

「なんじゃと…」

 

 回答後、私達は立ち上がり、入り口の扉に手を掛ける。

 

「待つのじゃ!」

 

「なんでしょう?」

 

 振り返ると、ダンブルドアが2つのティーカップを手にしている。

 

「まだ紅茶はある。全部飲んでから出も良いのではないかの?」

 

「お断りします」

 

「なぜじゃ…味が悪かったなら新しいのを――」

 

「お断りします」

 

 私が答えると、ダンブルドアの表情がさらに曇る。

 

「紅茶自体は良い茶葉を使用し、良い味でした」

 

「ですが、自白剤…『真実薬』は紅茶に合うとは到底思えません」

 

「え?」

 

 ダンブルドアは苦虫を嚙み潰したような表情になり、隣に居たマクゴナガルは目を見開いている。

 

「まさか…生徒に真実薬を?」

 

「その…うむ…」

 

「何と言う事を!」

 

「それでは、失礼します」

 

 ダンブルドアを睨み付けるマクゴナガルを背に私達は、扉に手を掛け退出する。

 




ダンブルドアのお茶は飲んではいけない。


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復活

もう少しで、ゴブレット編も終わりですね。


 

   しばらく待っていると、会場内に観客が入り始める。

 

『そっちの調子はどう?』

 

 ハーマイオニーから通信が入る。

 

『問題ありません』

 

『そいつはいいじゃないか。健闘を祈るよ』

 

 通信終了後、審査員たちが自身の席へと着席を始めた。

 

 

 

「私達教師陣が迷路の外側を巡回します。助けが必要な時は、空中に赤い花火を上げなさい。私達の誰かが救助へ向かいます。よろしいですね?」

 

 

 

 マクゴナガルの説明を聞き、ハリー達は数回頷いた。

 

 

 

 それを見た教師陣は、バラバラに歩きだした。

 

 

 

 バグマンはそれを見送ると、喉に杖を押し当て、声を響かせた。

 

 

 

「さて諸君、いよいよ最終課題だ! 覚悟は良いか!」

 

 

 

 バグマンの怒声がクィディッチ会場に響き渡る。

 

 

 

 それをかき消すかのように、会場からは歓声が上がる。

 

 

 

「それでは、最後の確認だ。私がこのホイッスルを鳴らしたらスタートだ! 得点順ならば、イーグリット姉妹が1番手だが、彼女達は2人での参加だ。その為合計点を半減させてもらう。よって1番手はハリーだ!」

 

 バグマンが説明を終えると、会場が騒めき立つ。

 

『えっと、その場合、貴女達が最下位って事?』

 

『その様です』

 

『不利じゃない?』

 

『状況的では不利ですが、問題ありません』

 

『ミッションを遂行する。それだけです』

 

「よし。それでは行くぞ! 1………2………3!」

 

 

 

 カウントと同時にホイッスルの音が木霊する。

 

 それと同時に、ハリーが迷路へと走り込んだ。

 

 私達の番が来るまでの間に迷路全体をスキャンする。

 

 迷路の中央にエネルギー反応を検知する。

 

 中央を目的地に設定し、最適なルートを構築する。

 

 数分後、再びホイッスルが鳴り、第2走者が走り出す。

 

 その後、等間隔でホイッスルが鳴り、私達以外全員が迷路へと入って行った。

 

 数十分が過ぎる。

 

 先程までの間隔ならば、既にホイッスルが鳴っている筈だが。

 

「おっと、すっかり忘れてた」

 

 ワザとらしく登壇したバグマンがホイッスルを手に取る。

 

「さて、そろそろ開始から30分か。もう良いだろう」

 

 バグマンがダンブルドアに視線を移すると、二人はゆっくりと頷く。

 

「さて、それじゃあスタートだ」

 

 ホイッスルと同時に、バーニアを起動し、高速で迷路へと侵入する。

 

 それと同時に、赤い花火が打ち上る。

 

 どうやら、脱落者が出た様だ。

 

 迷路の内部は、木々が生い茂っており、視界も悪い状況だ。

 

 しかし、既にルートは確立済だ。

 

「次の角を右です」

 

「了解」

 

 速度を維持しつつ予定通りのルートを進行する。

 

 途中、悪戯道具や、魔法生物による妨害があったが、総て排除し、目的地手前の直線まで到着する。

 

 目的地には、優勝杯が安置されており、ハリーとセドリックが同時に手を伸ばしている。

 

「「ゼロシフトレディ」」

 

 私達は同時にゼロシフトを起動し、直線を亜光速で進む。

 

 そして、私達が優勝杯に触れると同時に、ハリーとセドリックも優勝杯に触れる。

 

 

  優勝杯に手にかけた瞬間、私は何かに引き寄せられる感覚に陥った。

 

 

 

 周囲を見回すと、あたりの風景が様変わりしている。

 

 

 

 優勝杯に捕まっている、ハリーとセドリックは大声を上げている。

 

 

 

 次の瞬間、私達は地面の上に立っていた。

 

 

 

 周囲は墓場の様で、禍々しい雰囲気が漂っている。

 

 

 

 私達の足元で、ハリーとセドリックがうつぶせに倒れている。

 

 どうやら、無事着地できたのは私達だけの様だ。

 

「ぷはぁ! ここはどこだ?」

 

「墓場? さっきまで迷路に居たはずじゃ…」

 

 ハリーとセドリックは警戒したように、杖を取り出し、周囲を警戒している。

 

 その時、周辺に複数の動体反応を検知する。

 

「複数の動体反応を検知。警戒を強めてください」

 

「え?」

 

「動体反応って…」

 

「久しぶりだな。ハリー・ポッター。そしてイーグリット姉妹よ」

 

 私達は、声のした方向へと視線を向ける。

 

「お前は!」

 

「クィリナス・クィレル…」

 

「フフフッ」

 

 不敵な笑みを浮かべる、クィレルはターバンは装着しておらず、一般的なスーツに身を包んでいる。

 

「なんでお前が!」

 

「ヴォルデモート卿を復活させるためだ!」

 

「なんだって…」

 

 クィレルが高笑いしていると、ノイズの入った声が響く。

 

「無駄話を…するな。クィレル」

 

「申し訳ございません。我が君」

 

 一礼したクィレルが道を譲ると、そこを全身に傷を負ったピーター・ペティグリューが布に赤子の様なモノを包んでやって来た。

 

「ピーター・ペティグリュー!」

 

「ヒッ!」

 

 ピーターはこちらを見た瞬間、小さな悲鳴を上げ、クィレルの後ろの隠れる。

 

「何をしている!」

 

「す、すまない。彼女達は少しトラウマなんだ」

 

 どうやら、前回の爆発が相当トラウマになっている様だ。

 

「まぁいい。舞台は整った。だが…」

 

 クィレルは杖を取り出す。

 

「邪魔者には消えて貰う」

 

 言い終えると同時に、杖を振り上げる。

 

「アバダケダブラ」

 

 滑らかな詠唱が終わると同時に、杖の先から緑色の閃光が飛び出し、一直線にセドリックに直撃する。

 

 閃光が直撃したセドリックは、後方へと吹き飛び、生命反応が停止する。

 

「せ! セドリックが!」

 

 ハリーはセドリックに駆け寄るが、一切の反応が無い。

 

 私達はセドリックへと駆け寄り、診察を開始する。

 

「心肺機能の停止を確認」

 

「蘇生行動を開始します」

 

 倒れているセドリックの服を切り裂き、胸部を露出させる。

 

「無駄な事を…さて、ハリー。こっちへ来るんだ」

 

 クィレルが杖を振ると、ハリーの体が引き寄せられる。

 

「うぁ!」

 

 ハリーはクィレルに羽交い絞めされる様に拘束される。

 

「僕の事は良い! 2人はセドリックを助けてくれ!」

 

「了解」

 

「善処します」

 

 より詳細な診断を行う。

 

 どうやら、心室細動を起している様だ。

 

「強心剤を心臓に直接注射後、電気ショックを行います」

 

 デルフィはセドリックの口に呼吸器を取り付け、酸素を送り込んでいる。

 

 私はカテコールアミン系強心剤が入った注射器をセドリックの心臓に直接注射する。

 

 その後セドリックの右鎖骨上部と左胸下部に手を当てる。

 

「チャージ完了。行きます」

 

 両手から電気を流し、心臓に電気ショックを与える。

 

 その瞬間、セドリックの脈が一瞬だが戻る。

 

「効果確認。出力を上げ、再度行います」

 

「了解」

 

 チャージと身体への連続使用を控えて居る間は、デルフィが胸骨圧迫を行う。

 

「チャージ完了」

 

 再び電気ショックを行う。

 

 すると、セドリックの脈拍が再開する。

 

「蘇生完了」

 

「あ…あぁ…あ」

 

 意識が混濁している様だが、セドリックが呻き声を上げる。

 

「気が付きましたか」

 

「あ…ああ…あう」

 

「回復直後で発声が出来ない状況だと思われます。無理はしないでください」

 

 セドリックはゆっくりと頷くと、そのまま呼吸器の中で荒い呼吸を行う。

 

「うわぁああああ!」

 

 その時、ハリーの苦しそうな悲鳴が上がり、クィレルに腕をナイフで刺されている。

 

「さぁ! 我が君の復活だ!」

 

 クィレルが大声を上げると、ピーターを巨大な鍋の前へと移動させる。

 

 ピーターは包みごと赤子の状態のヴォルデモートを鍋の中に入れる。

 

 

「あがぁ!」 

 

 

 ハリーは額が痛むのか酷く苦しそうに呻いていた。

 

「安静にしていてください」

 

「あ…あぁ」

 

 私達は急ぎ、ハリーの元に駆け寄り、防衛態勢を整える。

 

 

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!」

 

 

 クィレルがそう唱えるとハリーの足元の『Tom Riddle』と書かれた墓石が割れ、中から人骨が取り出される。

 

 そして静かに鍋の中に降り注いだ。

 

 その瞬間鍋の中の液体は鮮やかな青色に変わる。

 

 

「しもべの肉、喜んで差し出されん。しもべはご主人様を蘇らせん」

 

 

 クィレルはそう唱えた後にピーターの右手を握る。

 

「まっ! 待ってくれ!」

 

「もうその腕では意味が無い。せめて我が君の為に役に立て!」

 

 クィレルは一気にピーターの右手を切り落とす。

 

「があぁぁぁぁあああぁぁぅあ!」

 

 ペティグリューの右手は宙を舞い、鍋の中に入った。

 

 途端に鍋の中身は燃えるような赤色へと変わる。

 

 右手を切り落とされたペティグリューは痛そうに呻いている。

 

「チッ! うるさい奴だ」

 

 クィレルはペティグリューの右手に杖を向け簡単な止血を施した。

 

「敵の血、力ずくで奪われん。汝は敵を蘇らせん」

 

 クィレルはナイフに付いた血を鍋の中へと数滴垂らす。

 

 すると鍋の中身は目も眩むような白色へと変わる。

 

「そして、賢者の石。我が君に無限の力を!」

 

 クィレルはメタトロン鉱石を取り出すと、鍋の中へと投げ入れる。 

 

 次の瞬間、極彩色の光を放ち、急激なエネルギー反応と共に、人影が立ち上がる。

 

「漲る…実に漲るぞ!」

 

 高笑いを上げると男性は、颯爽と窯から飛び出ると、クィレルの前に着地する。

 

「ローブを着せろ」

 

「は、はい!」

 

 クィレルは横に置いてあったローブを手に取り、男性に丁寧に着せていく。

 

 その男性は、白骨のように白く、細長い体をし、不気味な真っ赤な目をし、切り取られたような鼻に、唇の無い口。そして、その胸にはメタトロン鉱石が埋め込まれており、胸のメタトロン鉱石から赤いエネルギーラインを全身に走っている。

 

「ヴォ…ヴォルデモート…」

 

 ハリーは苦悶の表情を浮かべ、ヴォルデモートを睨み付ける。

 

「ワームテール腕を出せ、クィレル俺様の杖をよこせ」

 

「こちらを」

 

「あぁ、ご主人様」

 

 クィレルから杖を受け取ったヴォルデモートの前に、ピーターが止血した腕を差し出す。

 

「反対だ」

 

 

 

「あ…あぁああ…」

 

 

 

 ピーターは震える様に、もう片方の手を差し出した。

 

 ヴォルデモートはその腕に書かれている刺青に杖を深く差し込んだ。

 

 

 

「あぁあああぁああがぁあ!!」

 

 

 

 ピーターは激痛が走ったのか、悲鳴を上げている。

 

 

「五月蠅いぞ。黙れ」

 

「うぐぐぐううう」

 

 下唇を噛み、必死に悲鳴を堪えている。

 

「これで…これで皆が気が付くはずだ。さて…何人が戻るか…」

 

 数十秒後、数十を超える動体反応を検知する。

 

「来たようだな」

 

 次の瞬間、墓地には次々と黒いフードを被り、顔を仮面で覆っている魔法使いが現れた。

 

 

 

「ご主人様…」

 

 

 

 現れた魔法使い達は、怯えながらもヴォルデモートに近付くと、跪きローブの端にキスをしている。

 

 

 

 ヴォルデモートは顔を歪ませながら、その場に居る全員を見回した。

 

 

 

「よく戻った、死喰い人よ…お前たち全員が無傷で、魔力も失われていない。なぜお前たちは俺様を助けに来なかった?」

 

 

 

 ヴォルデモートは見せつける様に杖を構えると、死喰い人達がビクリと肩を竦めた。

 

 

 

「魔法省に恐れをなしたか? まったくお前たちには失望した…クルーシオ」

 

 

 

「がうあああああ! もうじわけ! ございまぜん!!」

 

 

 

 ヴォルデモートは死喰い人の一人に磔の呪文を掛けると、その人物はのた打ち回り悲鳴を上げている。

 

 魔法を使用した瞬間、ヴォルデモートに埋め込まれたメタトロン鉱石が赤く輝き、全身にエネルギーラインが走り、エネルギー出力が急上昇する。

 

 

 

「フッ…まぁ良い…お前達はこれからも俺様に忠誠を誓うのだ。良いな」

 

 

 

 ヴォルデモートは呪文を解いたのか、のたうち回っていた死喰い人は、その動きを止めた。

 

 

 

「さて…貴様は良く尽くしてくれたな、ワームテール…褒美をやろう」

 

 

 

 ヴォルデモートは、ピーターの腕を掴み、軽く杖を振るうと、失った手を補う様に銀で出来た義手が現れた。

 

 

 

「あ…ありがとうございます!」

 

 

 

「その忠誠心に期待するぞ…さて面白い奴が戻って来たな」

 

 

 

「お久しぶりでございます我が君…肉体を無事取り戻されたようで…」

 

 

 

「フン! 相変わらずだなルシウスよ」

 

 

 

 ヴォルデモートはルシウスの仮面を外すと、それを放り投げた。

 

 

「申し訳ありません…本来であれば、すぐに駆け付けようとしたのですが…」

 

 

 

「白々しいな、ルシウス」

 

 

 

 ヴォルデモートが杖を構えると、ルシウスの体が一瞬にして硬直する。それを見てヴォルデモートは満足気に笑う。

 

 

 

「まぁ良い…今後の働きに期待しようではないか」

 

 

 

「あ…ありがたきお言葉…」

 

 

 

 ルシウスはその場で深々と頭を下げる。

 

「さて、待たせたなハリー」

 

 ヴォルデモートは杖を振りぬき、ハリーに魔法を放った。

 

「クルーシオ」

 

「シールド展開」

 

 放たれた魔法をシールドで防ぐ。

 

「チッ! 邪魔な小娘だ」

 

「警告します。これ以上の戦闘は無意味です。大人しく投降してください」

 

「投降だと? フッ、笑わせるな……貴様等…その力は…」

 

 ヴォルデモートはこちらを睨み付ける。

 

「なるほど、そうか、貴様等もこの沸き上がる力を…ならば、試してやろう」

 

 ヴォルデモートは杖を構える。

 

「沸き上がるぞ! 終末をも告げるイメージが! 現れよ! 我がしもべよ!」

 

 杖を振り下ろし、エネルギーを放出すると、周囲の墓石が浮遊し、エネルギーの照射を受け、データベース上に存在する、とある武装へと変形する。

 

 三本脚の歩行戦車、スパイダーへと変形した。

 

『スパイダー』

 

 主に拠点防衛に用いられる歩行戦車。三本の脚で移動する。攻撃能力は低いものの、常にシールドを張っているため防御能力が高く、大量に戦線投入される。スピードは遅いが、跳躍する事により、悪路での戦闘を可能にしている。

 

 現在目の前に存在するのは、成人男性とほぼ同じ大きさだ。

 

「なんだ…あれは…」

 

「沸き上がる! よく分からぬが、実に素晴らしい力だ!」

 

 ヴォルデモートは高笑いし、再び杖を振り、更に複数体のスパイダーを生成する。

 

「さて、小娘ども、貴様等の相手はこのゴーレムにして貰おう」

 

 ヴォルデモートの指示に従い、スパイダーが起動する。

 

「戦線拡大を防ぐ為、一時離れます」

 

「え? ちょっと!」

 

 このままスパイダーとの戦闘を行えば、ハリーとセドリックを巻き込むと判断し、安全圏まで攻撃せずに後退する。

 

 それに伴い、スパイダーも戦線を後退させる。

 

 

 

 

 「さて、ハリーよ。邪魔者も居なくなったな。では行くぞ。クルーシオ」

 

「グあぁがァあぁああ!!」

 

 ハリーは絶叫を上げる。それを見ているヴォルデモートは高笑いをしている。

 

「見ろ! この小僧は何も出来んぞ! コイツは俺様から幸運にも生き延びと囃し立てられているが…その実はどうだ!」

 

 

 

 ヴォルデモートは杖を振り、ハリーと吹き飛ばすと、再び高笑いをする。

 

 

 

「杖を抜け! ハリー・ポッター! 決闘のやり方は知っているだろう!」

 

 

 

 ヴォルデモートが杖を振るうと、ハリーの体が無理やりに引き起こされる。

 

 

 

「さあ! 決闘とは儀式だ! 礼儀を掻くわけにはいかん! 頭を下げろ! 体を折れ!」

 

 

 

 感極まったヴォルデモートはハイテンションで叫び声を上げる。

 

 

 

「お辞儀をするのだ! ポッター!」

 

 

 突如として、周囲から死喰い人の拍手が響き渡る。

 

 

 

「さぁ! 背筋を伸ばせ! 決闘だ! 杖を構えろ!」

 

 

 

 ヴォルデモートは嬉しそうに杖を構え、それに対してハリーは苦しそうに杖を構えた。

 

 

 

 

 

「アバダケダブラ!」

 

 

 

「エクスペリアームス!」

 

 

 

 2人が魔法を放つと、空中で緑と赤の閃光がぶつかり合う。

 

 

 

「ぐぉおお!」

 

 

 

 ヴォルデモートはこの状況が理解できていないのか、困惑した表情を浮かべている。

 

 

 

  後退した私達は、スパイダーのスキャンに移行する。

 

 どうやら、周囲のシールドに変化は見られないが、本体の材質が強化された墓石がベースなので簡単に破壊可能。

 

「攻撃を開始します」

 

「早急に終わらせましょう」

 

 私はブレードを装備し、スパイダーに切りかかる。

 

 シールド自体の強度は若干あるが、すぐにブレードがシールドを突破し、本体を切り裂く。

 

 デルフィも、ウアスロッドでシールドを貫通し、本体を貫く。

 

 スパイダーがスパークを起し、数秒後には爆発を起こす。

 

 オービタルフレームならば問題無いが、この程度の爆発でも人体には影響があるレベルだと判断できる。 

 

「敵残存戦力、残り3」

 

「了解」

 

 私はビームガンを装備し、エネルギー弾を発射する。

 

 エネルギー弾はシールドにより1発目は防がれたが、2発目が着弾し、スパイダーを大破させる。

 

「ウアスロッド投擲」

 

 デルフィも手にしたウアスロッドを投擲し、シールドごとスパイダーを貫く。

 

 貫かれたスパイダーが爆発を起こすと同時に、デルフィの手にウアスロッドが戻る。

 

「敵戦力。残り1」

 

「排除します」

 

 スパイダーが武装であるガトリングをこちらに向けて乱射する。

 

 私はシールドでガトリングを無効化しつつスパイダーに急接近し、その足を掴む。

 

「投擲」

 

 拮抗状態であるヴォルデモートに向け、拘束したスパイダーを投げつける。

 

「なにっ!」

 

 投げつけたスパイダーは一直線にヴォルデモートに迫る。

 

「クソッ! 邪魔だ!」

 

 ヴォルデモートに直撃する寸前で、スパイダーが石の粉へと変化し、ヴォルデモートへのダメージを軽減させる。

 

「小娘! 邪魔をするな!」

 

 

 

 怒りを孕んだ怒声を上げながら、ヴォルデモートはこちらに杖を向けて来る。

 

 

 

 墓地の奥では、ハリーが肩で息をしながら、杖を握りしめている。

 

「早急に撤退してください」

 

「この場は我々にお任せください」

 

「でも…」

 

「ご安心ください」

 

 私の声に従う様に、ハリーはその場から走り出した。

 

 

 

「逃すか!」

 

 

 

 周囲の死喰い人が杖を抜き、ハリーに魔法を放とうとする。

 

 

「ファランクス展開」

 

 私はサブウェポンファランクスを装備し、死喰い人の向け掃射する。

 

『ファランクス』

 

 小型のエネルギー弾を連射する。拡散させて広範囲を攻撃するほか、狭い範囲に集中射撃することも可能。

 

 集団を掃討する際に重宝する。

 

 ファランクスの掃射を受け、多くの死喰い人が負傷、もしくは戦闘不能状態になる。

 

 ハリーは倒れていたセドリックに駆け寄ると、杖を取り出し、優勝杯を引き寄せて、2人でその場から消え去った。

 

「状況分析、死者及び負傷者多数。優勢指数80。こちらが圧倒的有利です」

 

「チッ!」

 

 ヴォルデモートは分かり易く舌打ちをすると、杖を振り上げる。

 

「今回は引くとしよう。次は命が無いと思っておけよ」

 

 ヴォルデモートは姿現しで移動すると同時に、数十を超えるモスキートを生成する。

 

『モスキート』

 

 小型の無人戦闘機。

 

 単体での火力は低いが、大軍を形成し、数での攻撃を行う。

 

 

 ヴォルデモートの撤退乗じて、他の死喰い人も負傷者を援護しつつ撤退を開始した。

 

 死傷者の死体はそのまま墓地に残されたままだ。

 

 

 起動したモスキートがこちらに向け攻撃を開始する。

 

「「処理開始」」

 

 ハウンドスピアとレーザーランスの掃射によりモスキート群を壊滅させる。

 

 モスキートの壊滅後、周囲をスキャンする。

 

「スキャン結果。動体反応及び、生体反応は有りません」

 

「戦闘終了ですね」

 

 周囲を見回すが、優勝杯の姿が無い。

 

「帰還します」

 

 私達はバーニアを起動後、高度を上げると高速を維持しホグワーツへと帰還する。




お辞儀さんにはもっともっと強くなってもらわないと…


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交渉

今回で、ゴブレット編は終了です。

何とか、年内に終わらせる事が出来ました。




   墓地を後にしてから数秒後にはホグワーツの上空に到着する。

 

 急降下し、バーニアで落下速度を軽減し、軟着陸する。

 

 私達の到着に観客の視線が集まる。

 

「2人とも! 無事だったんだ!」

 

「問題有りません」

 

「良かった…セドリックはさっき医務室へ運ばれたよ。かなり危険な状態だったらしい」

 

「そうですか」

 

「うん。でも悪かったね。結局君達をあの場所に置いて来ちゃって」

 

「お気になさらず」

 

 ハリーは申し訳なさそうに笑顔を浮かべる。

 

「3人ともよく無事に戻った…詳しい話を聞きたい。皆この後、校長室へ来てくれんか?」

 

 

「校長! 彼女等は戻ったばかりで疲れ切っている筈です。少し休ませるべきかと…」

 

 

 

 マクゴナガルが意見を上げるが、ダンブルドアは首を横に振った。

 

 

 

「確かにそうかもしれぬ、じゃが、今だからこそ分かる事もある。さぁ」

 

 

 ダンブルドアが近寄り、私達を、校長室へ案内した。

 

『ねぇ! 大丈夫?』

 

 ハーマイオニーから通信が入る。

 

『戦闘が有りましたが問題ありません』

 

『良かった…ねぇ、何があったの? セドリックが運ばれて行ったけど』

 

『後ほどお話しします』

 

『うん。わかったわ』

 

 通信を切り、私達は校長室に通された。

 

 

  校長室には、ダンブルドア、マクゴナガル、シリウス、スネイプが集まっている。

 

 

 

 部屋の中心には、縄の様な物で縛られた、ムーディが床に倒れている。

 

 

「奴はアラスターに化けていたのじゃ。本人はすでに保護されておる」

 

 

 

 それを聞き、ハリー達は胸を撫で下ろしている。

 

 

「さて、では先程何が起こったのか説明してくれぬか?」

 

「はい…」

 

 

 ハリーは数回深呼吸をした後口を開く。

 

「実は、優勝杯がポートキーになっていたんです」

 

「なんじゃと…一体誰がその様な事を…」

 

「恐らく、こやつの仕業でしょう」

 

 スネイプが足元に倒れ込むムーディの横腹を軽く蹴る。

 

「なんと…ポートキーで飛んだ先では何があったのじゃ」

 

 ダンブルドアは椅子に座りながらハリーを見据える。

 

「えっと…飛んだ先は古い墓地みたいなところで、そこで…」

 

「そこでなんじゃ?」

 

「奴に…奴に会ったんです」

 

「奴? じゃと?」

 

 ハリーは一呼吸置く。

 

「クィレルとピーター…そして…」

 

「そして?」

 

「アイツが…ヴォルデモートが居たんです!」

 

「なんじゃと!」

 

 その場に居た全員のメンタルコンデションレベルが低下する。

 

 ヴォルデモートの名前はそれほど衝撃的な物の様だ。

 

「奴は…どうなったのじゃ?」

 

「最初は…なんか死にかけみたいな状態だったんです。でも…よく分からない儀式でアイツが復活したんです」

 

「その儀式は覚えておるか?」

 

「えっと…ピーターの腕と墓場から取り出した骨。後僕の血と賢者の石を使っていました」

 

「なんじゃと!」

 

 ダンブルドアが立ち上がり怒号を上げる。

 

「ハリーよ…嘘では無いな?」

 

「本当です! その時、セドリックが死の魔法を受けて――」

 

「今何と言った!」

 

 再びダンブルドアが怒声を上げる

 

「えっと、セドリックが死の魔法を受けて」

 

「それは本当か!」

 

「え…え、あっはい。この前の授業で見た時と同じ呪文と緑色の魔法だったので…」

 

「セドリックに当たったのは間違いないのか!」

 

「は、はい。それで、それでエイダ達が治療して――」

 

「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」

 

 ハリーの説明に対し食い気味にダンブルドアが声を荒げる。

 

「治療じゃと!」

 

「そうだよね?」

 

 その場の全員の視線がこちらに集まる。

 

「心肺停止状態を確認したので、蘇生行動を行いました」

 

 

「蘇生じゃと! それは一体…」

 

「強心剤と電気ショックによる心肺蘇生です」

 

「難しい言葉を使うでない」

 

 ダンブルドアは不機嫌そうに溜息を吐く。

 

「マグル式の蘇生方法です」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアはふら付きながら椅子に座り込む。

 

「そんな方法があったとはのぉ…しかし、マグル式の蘇生術か…それは危険じゃ」

 

「え? なぜです?」

 

ダンブルドアの発言にマクゴナガルが声を上げる。

 

「考えてもみよ。死の魔法は反対魔法は存在せず、それ故、禁止呪文にされてた」

 

「そうですな」

 

「それが、マグルの蘇生術によって無力化されると知れ渡ったらどうなる?」

 

「死喰い人の活動が弱体化するのでは?」

 

「それはメリットじゃよ。しかし、デメリットも存在する」

 

「デメリット? そんなもの無いと思いますが?」

 

マクゴナガルの口調が強くなる。

 

「対抗策が無いゆえに禁止呪文だったのじゃ。対抗策が出来たと知れれば禁止呪文として認定されなくなるかもしれぬ」

 

「しかし、マグル式の蘇生術を魔法界に広めれば、死の呪文で命を落とす者が減るはずです」

 

「マグル式と言うのが厄介なのじゃよ」

 

「え?」

 

「ワシ達魔法族に不可能な事が、マグルには可能。これは魔法界の根幹を揺るがすかもしれぬ。それに――」

 

「それになんです! プライドとでも言うのですか? そんなくだらない――」

 

「とにかくじゃ!」

 

マクゴナガルの発言を遮る様にダンブルドアが声を荒らげる。

 

「マグル式の蘇生術については他言無用じゃ。分かったな」

 

「しかし…」

 

「これは、魔法族…いや、魔法界とマグル界のパワーバランスを崩すかもしれぬ案件じゃ。ワシ等が関わるにはちと荷が重すぎる」

 

「くっ…わかりました…」

 

マクゴナガルは悔しそうに下唇を噛む。

 

スネイプは無表情ながら、溜息を吐く。

 

「話を戻そう。して、その後はどうなったのじゃ?」

 

「えっと、復活したヴォルデモートと同時に魔法を放ったのですが…その、魔法が繋がったような感じがして…」

 

「恐らく杖が繋がったのじゃろう」

 

「え?」

 

「奴の使っている杖とハリーの使っている杖は兄弟杖なのじゃよ」

 

「兄弟杖?」

 

「そうじゃ」

 

「それって…」

 

「大丈夫じゃ。気にするでない」

 

 ダンブルドアは数回頷き、ハリーは自身の杖を見つめる。

 

「ある程度の話は分かった。その他に何か気になる事はあったかの?」

 

 ハリーは少し考え、何かを思い出したように顔を上げる。

 

「確か、ヴォルデモートはゴーレムを作り出していました」

 

「ゴーレムじゃと?」

 

「はい…なんか見た事の無い、3本脚のなんかヘンテコなゴーレムでした」

 

「3本脚…一体何なんじゃ…」

 

「して、そのゴーレムはどうなったったのじゃ?」

 

「えっと、エイダ達が倒してくれました」

 

「そうか…」

 

 ダンブルドアは自身の顎髭を撫でながら考えに耽る。

 

「ふむ…大体の事は分かった。疲れたじゃろう。休むが良いぞ。シリウスよハリーを連れて行くのじゃ」

 

 ハリーはシリウスに連れられ、校長室を後にする。

 

 その後、他の教師陣に拘束されムーディも退室する。

 

「それでは、我々も失礼します」

 

 私達は校長室を後にし、自室へと戻った。

 

 自室の扉を開けると、ハーマイオニーが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫!」

 

「問題ありません」

 

「良かった…」

 

 ハーマイオニーは安堵の表情を浮かべ、ベッドに腰かける。

 

「ねぇ、何があったの?」

 

「優勝杯がポートキーに変化していた為、我々は墓地へと飛ばされました」

 

「え?」

 

「そこで、ヴォルデモートが復活しました」

 

「ちょ、ちょっと待って! どういう事?」

 

「僕も少し興味があるね」

 

 タブレット端末からトムの声が響く。

 

「墓地へと移動した我々の前に、ピーター・ペティグリューとクィリナス・クィレルが現れました」

 

「まさか、ピーター・ペティグリューが脱獄したのって…」

 

「恐らく、クィレルとか言う奴がやったんだろうね」

 

「その二人は巨大な鍋に未成熟なヴォルデモートを投入後、墓地から取り出した親族の骨、ピーター・ペティグリューの腕、ハリーの血、メタトロン鉱石を投入しました」

 

「なるほど…それで復活したと」

 

「何てこと…」

 

 ハーマイオニーの表情が歪んで行く。

 

「それで? その後どうなったんだ?」

 

「その後、ヴォルデモートが複数の機動兵器を生成しました」

 

「え?」

 

「どういう事だ?」

 

「恐らく、メタトロン鉱石と融合した事により、無意識下で設計し、それをゴーレムと言う形で造形した者と思われます」

 

「そうなの…ちなみにその兵器ってどれくらい強いの?」

 

「対象を一般的な魔法使いの防衛戦力に想定した場合ですが、1部隊で魔法省を壊滅させることが可能かと思われます」

 

「それって…ホント?」

 

「ドラゴンなどの巨大生物による物理的な破壊は現段階では可能ですが、恐らくそれも時間の問題かと」

 

「そんな…」

 

「これは…本格的にヤバいね。でも君達はそいつらに勝ったんだろ?」

 

「あの程度でしたら30秒で殲滅可能です」

 

「はぁ…冗談…じゃ…無いわよね」

 

「生憎と冗談を――」

 

「だと思ったよ」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐いている。

 

「ちょっと待って…その場合、貴女達なら魔法省を制圧できるって事?」

 

「可能です」

 

「ご要望とあらば実行いたしますが」

 

「今の所は止めて頂戴。はぁ…貴方達が敵じゃ無くて良かったと心から思うわ」

 

 疲れが出たのか、ハーマイオニーはベッドに倒れ込む。

 

「もう寝ましょう。明日はハリー達のお見舞いに行こうかしら」

 

「そうですね」

 

 私達もベッドに入ると、ハーマイオニーが電気を消し、数分後には規則的な寝息が聞こえてきた。

 

 

  翌日、私達はハリー達を見舞う為に、医務室へと移動した。

 

 医務室の中では、治療を受けているハリーとセドリックがマクゴナガルを始めとした教師陣とスーツを着込んだ男に何やら話をしている。

 

 セドリックは依然として安静状態の為、頷く事しかできない様だ。

 

 

「嘘を言うんじゃない! 例のあの人が復活した? そんなバカな?」

 

 

「ですがファッジ大臣! 本当なんです! 僕達はあの場に居て、それを目にしたんです!」

 

 ハリーは声を荒らげるが、ファッジと呼ばれたスーツの男は一切聞く耳を持っていない様だ。

 

「馬鹿らしい! 第一…生徒の話を誰が信じると言うのか…」

 

「彼が言う事は事実じゃぞ」

 

 

「っ! ダンブルドア! 貴様まで何を言う! 血迷ったか!」

 

 医務室の奥で椅子に腰変えていたダンブルドアがファッジに近付いて行く。

 

「血迷っては居らぬ。今セブルスに頼み、クラウチに真実薬を飲ませ、計画を聞き出そうとしておる所じゃ」

 

 

 

 

 

「ふざけた事を…」

 

 

 

 

 

 その時、スネイプが、いつもと同じような表情で医務室に現れた。

 

 

 

「セブルス…首尾はどうじゃ?」

 

 

 

「死にました」

 

 

 

「なに!」

 

 

 

「本校では奴が薬品の管理を行って居りました。先日校長が使用した真実薬で吾輩が管理していたのは最後でした。その為奴が真実薬を補充し、その際、保険として毒を混ぜておったのでしょうな。真実薬を飲んですぐに死にました」

 

 

 

「なんじゃと…ワシのしたことが…裏目に…」

 

 ダンブルドアは狼狽し、天を仰いている。

 

「証言者は居ない! つまり例のあの人が復活したなんてのは事実ではない!」

 

 

 

 ファッジが大声を上げ騒ぎだす。

 

 

 

「ファッジよ、ヴォルデモートは復活したのじゃ…ハリーが証人じゃ。それを信じるも信じないもお主次第じゃが…もし復活したのが事実ならば…困るのはお主の筈じゃ…」

 

 

 

 ダンブルドアの言葉を聞き、ファッジはかなり狼狽している。

 

 

 

「だ…だがこんな事…ありえん!」

 

 

 

「それがありえたのじゃよ…ヴォルデモートが帰って来たのじゃ…ファッジよ…今のお主に出来るのはこの事実を認め、必要な措置をする事じゃ…今ならまだ我々がこの状況を救えるかもしれぬ。まずはアズカバンを吸魂鬼から解放する事じゃ」

 

 

 

「ふざけるなよ!」

 

 

 

 ファッジがダンブルドアを怒鳴り付ける。

 

 

「吸魂鬼を取り除くだと! そんな事をすれば、私は大臣職から引きずり降ろされるだろうな!」

 

 

 

「じゃがの…コーネリアス。奴らに監視されているのはヴォルデモートの最も信仰的な支持者じゃ。恐らくヴォルデモートの一言で奴らと手を組むじゃろうな…そうなったらどうなっておるか…お主にだってわかるじゃろ…」

 

 

 

 ファッジは驚きのあまり、言葉が出ないでいる。

 

 

 

「次の策は…」

 

 

 

「もういい!」

 

 

 

 ファッジが大声を上げ、ダンブルドアの言葉を遮った。

 

 

 

「ダンブルドア! 貴様が私を大臣から引きずり落とし、大臣の椅子に座ろうと考えている事は分かり切っている! その手は乗らないぞ! 私は魔法省に戻らせてもらおう!」

 

 

 

 ファッジは大声を上げた後、踵を返し、医務室から出ていった。

 

 

 

 その背中を、私達は見送る。

 

  三大魔法学校対抗試合が終了してから1ヶ月程が過ぎ、今年も終わりを告げた。

 

 ヴォルデモートの復活は、一部の人間のみが信じており、それ以外は皆今まで通りの生活を送っている。

 

 三大魔法学校対抗試合は最終的に最初に会場に帰還したハリーの優勝という事で幕を閉じた。

 

「よかったなハリー」

 

 大量の荷物を担いだロンがハリーの背中を叩く。

 

「まぁね。でも本当は君達が優勝だと思うんだけど」

 

 ハリーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「過程はどうあれ、結果的には貴方が優勝という事です」

 

「ありがとう。ダンブルドア先生が僕が優勝って事で他の審査員と話し合ったらしいよ」

 

『なるほど、やっぱりあの老害の仕業か』

 

『ここまで来ると露骨ね』

 

「なぁ、優勝賞金はどうするんだよ?」

 

「まぁ、ちょっとしたことに使おうかなって」

 

「なんだよそれ?」

 

「秘密さ」

 

「教えろよ~」

 

 汽車の発車時刻まで残り30分程度になり、私達は荷物をまとめ、談話室の扉に手を掛ける。

 

 扉を開けると、マクゴナガルが廊下で待機していた。

 

「あれ? マクゴナガル先生?」

 

「ミス・イーグリット。校長が2人をお呼びです」

 

「了解です」

 

「え? でももうすぐ汽車が出るわよ」

 

「お気にせずに」

 

 既に荷物はベクタートラップに収納済みなので、私達はそのままマクゴナガルの後に続き、校長室へと移動する。

 

 

 

 

  今年も終わりを告げ、ワシは自室の椅子に腰かけ、外の景色を眺めている。

 

 その時、扉が数回ノックされる。

 

「お連れしました」

 

「入るが良い」

 

 ワシは外の景色を見ながら答えると、扉が開かれる。

 

「良く来たの」

 

 背中越しに彼女達が入室したのを感じると、椅子を半回転させ、彼女達を見据える。

 

「ミネルバ。すまぬが、席を外してくれるか?」

 

「分かりました」

 

 ミネルバは一礼し、その場を後にした。

 

 ワシとイーグリット姉妹だけになった校長室は、静寂が数秒間流れる。

 

 相変わらず表情の読めない姉妹だ。

 

「さて、立ち話もあれじゃ、座るが良い」

 

「はい」

 

「失礼します」

 

 2人は手近にあった椅子に腰かける。

 

「まずは、三大魔法学校対抗試ご苦労じゃった」

 

「いえ」

 

 2人は相変わらず愛想の無い返答をする。

 

「惜しかったのぉ、今回はハリーの優勝となったのぉ」

 

「その様ですね」

 

 2人は表情を変える事無く淡々と答える。

 

 悔しいなどといった感情が無いのだろうか?

 

「ご用件はそれだけですか?」

 

「まぁ、待つのじゃ。もう少しだけ話に付き合ってくれ」

 

「了解」

 

 一切表情の変わらない2人を目の前にするというのは、やはり何処か不気味に思える。

 

「ワシの見解では、ハリーの名前をゴブレットに入れたのはクラウチだと見ておるのだが、お主達はどう思う?」

 

「客観的に見て、その可能性が一番高いでしょう」

 

「ゴブレットがポートキーに変化していた事を鑑みても、彼がハリーを墓地に移動させるために予め仕組まれていたと考えられます」

 

「まぁ…そうじゃな」

 

「しかし、ハリー以外の選手が優勝杯を手にする可能性があった為、完全な計画とは言えません」

 

「総合評価ではCランク程度かと」

 

 やはり、この二人の会話は時々理解しにくい言葉を使う。

 

「さて、話は変わるが、お主達はヴォルデモートを目の前にして、何を感じた?」

 

「特筆すべき事は有りませんでした」

 

「恐怖や、危機感は感じなかったのか?」

 

「はい」

 

 2人ははっきりと答える。

 

 嘘をついている可能性もあるが、どういう訳かこの2人には開心術の類は一切通じない。

 

 強力な閉心術を身に着けている様だ。

 

「もし、奴がお主達をスカウトした場合、どうする?」

 

 ワシは最も気になっていた事を聞いた。

 

 ドラゴンを消し飛ばす程の力を持つ2人だ。もし仮にも死喰い人陣営になったと考えれば恐ろしい。

 

 回答次第では、この場で手を下さなければならない。

 

 ワシは、気が付かれぬようにテーブルの下で杖を握りなおす。

 

「現状ではメリットが無いので、拒否します」

 

 デルフィの方が答える。

 

「私も同意見です」

 

 エイダも同意見なようだ。

 

 しかし、今の回答では、条件次第では死喰い人になるとも受け取れる。

 

 やはり、この2人を野放しにするのは危険だ。

 

「そうか。そう言えばお主達が三大魔法学校対抗試合に参加したのは、優勝賞金が目当てだと言って居ったな」

 

「その通りです」

 

 ワシは、引き出しから金貨の入った箱を取り出す。

 

「ここに1000ガリオンある」

 

「どういうおつもりで?」

 

 その時、汽車の発車を告げる鐘が鳴り響く。

 

 しかし、2人は表情を変える事無くこちらを見据える。

 

「ヴォルデモート…奴が復活してしまった以上、ワシ等は力を付けなければならぬ」

 

 2人は身動き一つせず、こちらに視線を向ける。

 

「単刀直入に言おう。ワシ達の不死鳥の騎士団に入団する気は無いか?

 

「不死鳥の騎士団とは?」

 

「不死鳥の騎士団とは、ワシを筆頭にホグワーツの教員や卒業生で構成された、ヴォルデモート率いる死喰い人に対抗するために作られた兵団だ」

 

「つまり、抵抗勢力(レジスタンス)という事ですか?」

 

「まぁ…そうともいうな」

 

「抵抗勢力《レジスタンス》の規模は?」

 

「それほど大きくは無い。じゃが兵団員の質は一流じゃ。しかし力があるものは1人でも多い方が良い。そこでお主達にも入団して欲しいのじゃ」

 

「我々にはどのようなメリットが?」

 

「入団費用として1000ガリオンを支払おう。その他に月々働きに応じて報酬を出す」

 

「具体的には?」

 

 やはり、2人は金銭的にキツイ状況にあるようだ。

 

 金銭で動くようならば、容易い。

 

「働きにもよるが、最低でも1月に300ガリオンでどうじゃ?」

 

 これほどの好待遇ならば、問題ない。

 

 ワシはそう思っていたが、二人は首を横に振った。

 

「お断りします」

 

「なぜじゃ? 学生の身分であるお主達にとっては悪い話ではないと思うが?」

 

「最低限、入団費用を1人に付き10000ガリオン。月額も1人に付き2000ガリオンを要求します」

 

「何じゃと!」

 

 何と言う高額の請求だ。

 

「その条件ならば、入団します」

 

「その他に、いくつか条件があります」

 

「…言ってみよ」

 

「兵団での活動費用は経費として請求します」

 

「その他、働きに応じ追加報酬を要求します」

 

 何と言う強欲じゃ。学生の身分でここまで要求してくるとは…

 

 しかし、彼女達を敵に回したとして、ワシ一人でもかなり骨が折れるだろう。

 

 足元を見られているとしか思えない。

 

 仕方ない。来年度のホグワーツの予算を水増しし、魔法省へと請求しよう。

 

「わかった…要求を飲もう」

 

 ワシは苦虫を嚙み潰したような表情をしているが、彼女達は相変わらず無表情だ。

 

「交渉成立ですね」

 

「連絡は今まで通り封書で構いません。金銭は後日小切手などでお願いします」

 

「あぁ。分かった。これから頼むぞ」

 

 ワシは立ち上がり、手を差し出す。

 

「失礼します」

 

 彼女達は踵を返すとワシが差し出した手を無視しその場を後にした。

 

「ふぅ…」

 

 一人残されたワシは、再び椅子に全身を預ける。

 

「何と言う守銭奴じゃ…」

 

 頭を抱え独り言を口遊む。

 

 しかし、結果的に彼女達を不死鳥の騎士団に引き入れる事が出来たのだから良しとしよう。

 

 今回の三大魔法学校対抗試合を通して、彼女達の戦闘力は嫌という程見せつけられた。

 

 まずは第1試合でのドラゴン。

 

 ワシと大勢の闇払いによってドラゴンには護りの魔法が何重にも掛けられていた。

 

 これほどまでに重ねれば最強と言われる悪魔の火ですら防ぐことが可能だ。

 

 しかし、彼女達…いや、エイダは巨大な大砲のような魔法を使い、護りの魔法諸共ドラゴンを消し飛ばした。

 

 もし、あれ程の威力がこちらに向けられると考えれば、やはり彼女達を不死鳥の騎士団員にスカウトしたのは得策だったと思える。

 

 第2競技の時も、ホグワーツ湖の水を全て何処かに収納し、選手全員を救出後に再び取り出した。

 

 あれ程の魔法はやはりどこを探しても無い。

 

 改めて彼女達の規格外さを見せつけられる。

 

 その後、セドリックを蘇生し、ヴォルデモートの前から生還した。

 

 

 それらを考えてみてもやはり、出費こそ痛いが、味方に出来たのは大きい。

 

「ふぅ…」

 

 ワシはテーブルの上の書類に目を落とす。

 

 そこには、今大会で発生した請求書だった。

 

 主に、彼女達が破壊した会場などがメインだ。

 

「やはり…」

 

 ワシは例年通り請求書を彼女達に送付した。

 

 

 数日後、経費での支払いを要求する旨の手紙が届いた。

 

「ハァ…」

 

 ワシは今まで感じた事の無い頭痛を覚え、頭を抱えた。

 




検索すると、1ガリオンが約950円なので、日本円に換算すると。

入団費用19,000,000円

最低月額3,800,000円です。

2人の小娘に払うには高すぎる?

最強のOF2機を19,000,000円で購入出来て、月の維持費が2機で3,800,000円と考えれば。

破格! 圧倒的破格!










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不死鳥の騎士団
入団テスト


皆さん。

あけましておめでとうございます(激遅)

ようやく、不死鳥の騎士団編を書き終えたので投稿を開始します。

週1くらいのペースで投稿できたらいいな…


   ダンブルドアによる不死鳥の騎士団へのスカウトに応じてから数日後。

 

 フクロウによってダンブルドアホグワーツの校章が蝋でシーリングされている3通の手紙が届いた。

 

 1通目の内容は三大魔法学校対抗試合で生じた賠償請求だった。

 

「今回は経費で処理して貰いましょう」

 

「そうですね」

 

 請求額を経費として処理する旨の手紙を返信の準備をする。

 

 2通目は入団費用と1ヶ月分の契約費用である24000ガリオンの半額である12000ガリオンと記載された小切手が同封されていた。

 

 もう1通の手紙を開封し、中から羊皮紙を取り出す。

 

『君達を不死鳥の騎士団に迎え入れるとして、まずは他の団員と顔合わせをして貰いたい。そこでグリモールト・プレイス12番地に来て欲しい。時間と場所は裏面に書いてある。追伸。契約金の残り半部の12000ガリオンの小切手は君達がグリモールト・プレイス12番地に現れた時に渡す事にする。指定の日時までに来ないようならば、残りの金額の支払いは行わない』

 

「目標地点はグリモールト・プレイス12番地のようですね」

 

「集合時間は本日の午後ですね」

 

 手紙の到着時刻は正午を若干過ぎた頃だ。

 

 公共の移動手段ならば間に合わないだろう。

 

「準備を整え、出発しましょう」

 

「急ですが仕方ありません」

 

 必要装備を整え、私達は家の外へと移動する。

 

「出発します」

 

「バーニア出力上昇。発進します」

 

 バーニアを起動し、目的地付近へと移動する。

 

  目的地付近に到達後、周囲を見回す。

 

 周囲の看板には、グリモールド・プレイス11番地の看板が立っており、その隣には13番地の看板が立っている。

 

 

「スキャン報告。周辺に空間湾曲を検知」

 

「複数の反応も検知しました」

 

 どうやら、11番地と13番地の間に、12番地を魔法を使い隠匿している様だ。

 

「待たせたかの?」

 

 背後からの声に振り返ると、そこにはダンブルドアが立っていた。

 

「我々は今着た所です」

 

「そうか。良く来たのぉ2人とも。早速じゃが中へ案内しよう」

 

 

 

 ダンブルドアはそう言って杖を取り出し、軽く振ると、11番地と13番地の間からセリ出る様にして12番地が出現した。

 

 

 

「どうじゃ? 驚いたかね」

 

 

 ダンブルドアは自信に満ちた表情でそう言う。

 

「そうですね」

 

「そりゃそうじゃろう! では行くとしよう」

 

 ダンブルドアに案内されながら、私達はグリモールド・プレイス12番地を進み、1件の古い屋敷の中へと入って行った。

 

「ここがそうじゃ。元々この屋敷はブラック家の屋敷。ブラック邸じゃったのじゃがな。まぁ今はワシ達不死鳥の騎士団の本拠地として使っている」

 

 屋敷の中は掃除が行き届いており、所々に蛇を象った装飾品が飾られている。

 

「この部屋じゃ」

 

 ダンブルドアに案内され通された部屋にはマクゴナガル、スネイプ、ルーピン、シリウス、ムーディ、ロンの両親。モリーとアーサーの姿もあった。その他にも複数名程、見覚えのない人物の姿を確認する。

 

「さて…今更紹介するのもあれじゃろうが一応形式的じゃ、イーグリット姉妹じゃ。彼女達には今後、不死鳥の騎士団に協力して貰う事となった」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 ダンブルドアが簡単な紹介後、簡単な挨拶の後、モリーが手を上げ異論を唱えた。

 

「ダンブルドア、私は反対ですよ。息子たちからいろいろ話は聞いていますが、彼女達は学生。まだ未成年ではないですか!」

 

 

 モリーの言葉に賛同したのか、アーサーの方も手を上げ、声を上げた。

 

 

「私も反対です。子供には危険すぎる…その上責任が重い任務だも多い…いくら優秀だったとしても、危険過ぎです」

 

 ダンブルドアは数回頷いた後。何処か落ち着いた口調で話し始めた。

 

 

 

「2人とも…子を持つ親の気持ちはよくわかる。じゃが彼女達はとても優秀じゃ…悔しいがワシでは到底太刀打ち出来ん程に…恐らくこの場に居る全員が束になって掛かったとしても彼女達を抑えられるか分からぬ」

 

 ダンブルドアの言葉に、その場の全員の心拍数が上昇する。

 

 どうやら、緊張状態にあるようだ。

 

「まさか…今世紀最高の魔法使いと言われるダンブルドアがそれ程の評価を下すなんて…」

 

 アーサーは顔を青くしこちらを見据える。

 

 他の不死鳥の騎士団員もこちらに視線を向けている。

 

「そうじゃ…彼女達は1年生でトロールを…2年生の時点でサラザール・スリザリンの残したバシリスクを倒し、去年は6体のドラゴンをいとも簡単に葬り去ったのじゃ」

 

 ダンブルドアの発言により、ホグワーツ職員以外が息を呑む。

 

 そんな中、一人の初老の男性が身の丈より少し短い杖の先端を床に叩きつける。

 

「ダンブルドアよ…その言葉を証明する証拠はあるのか?」

 

 声の主はムーディだった。

 

「証拠かの…それは無いのぉ…じゃがホグワーツの職員ならば皆目にしておるはずじゃ」

 

「他人の目など信用ならん!」

 

「では、何が望みじゃ?」

 

「簡単な事だ! そこの小娘共! このワシと勝負しろ」

 

「待つのじゃ!」

 

 ムーディの言葉を遮る様に、ダンブルドアが声を荒らげる。

 

「何を慌てている。ダンブルドア。なぁに、ちょっと手合わせをするだけだ。別に殺しはしない。子供相手――」

 

「彼女達の心配ではなくお主を心配しているのじゃよ。彼女達は強いぞ」

 

「ほぉ! 血が滾るではないか。ワシ達より強いと言うなら、それを証明して見せろ! そうすれば貴様等の入団を認めてやろう!」

 

「我々はスカウトを受け、契約を結びました」

 

「それはダンブルドアが勝手にやった事! ワシ小娘の入団など認めんぞ!」

 

 ムーディは杖を構え、こちらに先端を突き付ける。

 

「ワシと勝負だ! 勝てば入団を認めよう!」

 

「模擬戦という事ですか?」

 

「あぁ! まぁ模擬戦だが本気でかかって来い! 最悪、死んでも責任は取らんぞ!」

 

「待つのじゃ!」

 

 ダンブルドアがテーブルを叩き、全員の視線が集まる。

 

「どうしても彼女達と闘うと言うのか?」

 

「もちろんだ! 不死鳥の騎士団員になるという事は常に死と隣り合わせだ! 最低限身を護れる力があるかそれを見極める! 目の前で死なれても困るからな!」

 

「わかった…」

 

「良し! では早速―」

 

「待て…」

 

「なんだ?」

 

 再びダンブルドアが口を開く。

 

「ワシも共に戦おう」

 

「なにぃ?」

 

 その場の全員の視線がダンブルドアに集まり、モリーとアーサーは唖然としている。

 

「ダンブルドア! 正気ですか! 相手は学生ですよ!」

 

「確かに生徒じゃ。じゃがなアーサーよ…彼女達を相手にして油断は出来んのじゃよ」

 

 ダンブルドアの言葉にアーサーは黙り込む。

 

「ならば、私も参戦します。1度手合わせしてみたかったんです」

 

 マクゴナガルが杖を掲げる。

 

「それならば、私も参戦します」

 

 続いてルーピンが杖を掲げる。

 

「彼女達の強さは嫌という程に身に沁みましたよ」

 

 ルーピンは苦笑いをしている。

 

「あの時は助かったよ」

 

「必要な処置をしたまでです」

 

「君達らしいよ」

 

「それならば私も戦おう。実はハリーから色々と聞いていてね。1度戦ってみたかったんだ」

 

 シリウスも杖を掲げる。

 

「吾輩は遠慮させてもらおう」

 

 スネイプは椅子に座ったまま首を横に振る。

 

「これで参加者は以上の様じゃな。では庭へ移動しよう」

 

 ダンブルドアを先頭に私達は庭へと移動した。

 

  庭は戦闘には十分な広さだった。

 

「ではルールを決めるとするかの。まぁ模擬戦じゃからな。無力化させる事を重点に置こう」

 

「了解。戦闘条件を把握しました」

 

「武装を非殺傷に限定します」

 

「では、始めじゃ」

 

 ダンブルドアの声に合わせ、全員が杖を振り、様々な魔法を連射する。

 

 連射速度はかなり早く、ダンブルドアに至ってはサブマシンガン程だ。

 

 大量に魔法が押し寄せるが、個々の威力は低出力の為、シールドを減衰させる事も無く無力化する事が可能だ。

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアは放った全ての魔法が防がれた事に唖然としている。

 

「攻撃行動へ移行します」

 

 デルフィはウアスロッドを構え、私は腕をブレードに変化させる。

 

「距離を取るのじゃ!」

 

 こちらが攻撃態勢を整えた事により、ダンブルドアが散開の指示を出す。

 

 指示に従う様に、全員が杖を振り、体を滑る様に動かし距離を取る。

 

「ゼロシフトレディ。近距離での各個撃破へ移行」

 

「了解。支援行動を開始します」

 

 デルフィがゼロシフトを起動し、近くに居たマクゴナガルの側へと移動する。

 

「ぷ、プロテゴ・マキシモ!」

 

 マクゴナガルは瞬時に防御魔法を唱え、シールドを展開する。

 

「攻撃」

 

「きゃ!」

 

 デルフィがウアスロッド横に薙ぐと、シールドを破壊しマクゴナガルの体が後方へと吹き飛ぶ。

 

「生体反応確認。気を失ったようです」

 

「くっ! 今じゃ! 皆攻撃を!」

 

 ダンブルドアの指示により、デルフィに攻撃が集中する。

 

 デルフィはシールドで全ての魔法を防ぎ切り、真上へと飛び、私の射線を確保する。

 

「ファランクス展開。掃射開始」

 

 ファランクスから小型のエネルギー弾が周囲にばら撒かれる。

 

「防衛じゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り防御魔法によりシールドを生成する。

 

 非殺傷用に出力を押さえている為、ファランクスはシールドに防がれる。

 

 しかし、ファランクスの着弾と共に、ダンブルドアの体が大きく揺れる。

 

「ぐぉ! 何と言う威力じゃ…」

 

 攻撃を防いだダンブルドアは肩で息をしている。

 

「今だ! エクスペリアームズ!」

 

 シリウスとルーピンが同時にデルフィを標的に魔法を放つ。

 

「防衛行動」

 

 迫り来る魔法をウアスロッドで薙ぎ払い無効化する。

 

「舐めるなよ! 小娘! エクスパルソ(爆破)!」

 

 ムーディは私を標的としたのか、こちらに魔法が迫り来る。

 

「回避行動」

 

 その場で横に飛び魔法を回避する。

 

 すると背後で爆発が起き、瓦礫が発生する。

 

「避ける事は想定済みだ!」

 

 ムーディが杖を振ると、瓦礫が宙を舞い、こちらに降り注ぐ。

 

「瓦礫に埋もれるが良い!!」

 

「Fマインリリース」

 

 眼前にフローティングマインを展開する。

 

「起爆します」

 

 フローティングマインを起爆し、眼前に大爆発が起こる。

 

 爆風により、発生した瓦礫が全て破壊される。

 

 至近距離での爆発だが、シールドによりダメージは無い。

 

「なんだと!」

 

「ウィスプ展開」

 

 背後に3基のウィスプを展開する。

 

「捕縛開始」

 

 展開したウィスプをムーディへと飛ばす。

 

「くぉ! ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)

 

 ムーディはウィスプを破壊する為に魔法を放つ。

 

 放たれた魔法はウィスプに直撃する。

 

 しかし、直撃した魔法は霧散し、そのままムーディを拘束する。

 

「くぉ! 離せ!」

 

「無力化します。ゲイザー投擲」

 

 ムーディの胴体部にゲイザーを投擲する。

 

「ぐおおおぉおぉおぉおぉ!」

 

 ゲイザーによりムーディはマヒ状態になり、行動不能になる。

 

 デルフィはルーピンとシリウスの周囲を低速で飛び回る。

 

「くそっ! ちょこまかと!」

 

「目で追えない速度だと…」

 

 ルーピンとシリウスは互いに背中合わせとなり、デルフィに向け魔法を放っている。

 

しかし、誘導性の無い魔法の為、デルフィの体を掠める事すらなかった。

 

「ホーミングミサイル展開、援護します」

 

 デルフィに気を取られて居る間に16基のホーミングミサイルを展開し、ルーピンとシリウスの周囲を取り囲むように配置する。

 

 それと同時に3基のウィスプも同様に取り囲むように展開する。

 

「囲まれた!」

 

「くそっ!」

 

 背中合わせの2人は周囲を見回しているが、逃げ出せるような隙間は無い。

 

 それに合わせる様に、デルフィも6基のウィスプを展開し、更に包囲を強化する。

 

「包囲完了」

 

「投降してください」

 

「くそ…」

 

「私達の負けだ…」

 

 2人はその場で手を上げ、投降した。

 

「見事じゃな」

 

 庭の隅でダンブルドアが手を叩きながらこちらに近寄る。

 

「戦闘中ですが?」

 

「あれだけの事を見せられたのじゃ。入団を認めよう」

 

「了解」

 

「あぁ」

 

 私達は踵を返し、部屋へと戻る。

 

 庭の中央付近で背後に高温を検知する。

 

 振り返ると、ダンブルドアの杖の先から、高温の炎が発生しており、私達の周囲を取り囲んでいる。

 

「見事だ…………じゃがのぉ、詰めが甘いのぉ。ワシはまだ負けを認めては居らんよ」

 

 不敵な笑みを浮かべるダンブルドアが、声を上げる。

 

「さて、投降するのじゃ。これは悪魔の火じゃ。このままでは真っ黒になってしまうぞ? いや、灰すら残らぬかもしれぬ」

 

 周囲を取り巻く炎はゆっくりと距離を縮めてきている。

 

 しかし、大気圏突入も可能な耐熱性を保持している為、この程度の温度ならば、ダメージにもならない。

 

 私達は炎の中へと移動する。

 

「なんじゃと!」

 

 ダンブルドアが声を荒らげるが、そのまま炎の壁を踏破する。

 

「ありえん!!」

 

 ダンブルドアは杖を一心不乱に振り乱し、魔法を乱射する。

 

「シールド展開」

 

 シールドを展開し、魔法の弾幕を体表で無効化しつつダンブルドアの眼前へと移動する。

 

「あ…あぁ…あっ…」

 

 そのまま、デルフィはダンブルドアの背後に回り込むと、膝裏をウアスロッドで軽く叩き、跪かせ拘束する。

 

「ぐぉ!」

 

 小さな悲鳴を上げるダンブルドア眼前に、ブレードを突き付ける。

 

「まだ、続けますか?」

 

「い…いや…」

 

「了解。戦闘終了です」

 

「お疲れさまでした」

 

 拘束の解けたダンブルドアはその場で腰を抜かす様に、倒れ込む。

 

 唖然とするメンバーの視線を受けながら、私達は部屋へと戻る。




無事
入団テストクリア!!



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護送

他の方が書いた、ハリーポッターの小説を読んで居るとダンブルドアが聖人過ぎて、違和感を感じる様になりました。


   戦闘終了後

 部屋に入るとモリーとアーサーが唖然とした表情でこちらを見ている。

 

 

「見事な物だな」

 

 椅子に腰かけたスネイプが呟く。

 

 数分後には、先程の戦闘に参戦していたダンブルドア達が戻ってくる。

 

「悔しいが、あれ程の力を見せ付けられたのならば入団を認めざる負えない」

 

 椅子に腰かけたムーディはモリーが入れた紅茶にミルクを入れると乱暴にかき混ぜながら呟く。

 

「入団おめでとう」

 

「君達が味方になってくれて心強いよ」

 

 シリウスとルーピンは私達の入団を歓迎している。

 

「さて、お主達は未だ学生という身分じゃ。非常事態が起きた時や時間がある時に声を掛ける様にしよう」

 

 ダンブルドアはそう言うと席を立つ。

 

「さて、ではワシは用事が有るのでこれで」

 

 杖を取り出し、姿現しを行おうとする。

 

「お待ちください」

 

「なんじゃ?」

 

 ダンブルドアは移動を中断しこちらに視線を向ける。

 

「残りの契約金。12000ガリオンをまだ受け取っていません」

 

「ちぃ…覚えておったか」

 

 ダンブルドアは苦虫を嚙み潰したような表情をすると12000ガリオンの小切手をテーブルの上に叩きつける。

 

「守銭奴じゃのぉ」

 

 呟いた後、ダンブルドアはその場から消え去った。

 

「おい…それは…」

 

 アーサーが小切手を覗き込む。

 

「入団時の契約により、金銭が発生します。今回はその受け取りを兼ねています」

 

「だが、君達はまだ学生だろ? 12000ガリオンなんて大金を一体…」

 

「お気になさらず」

 

「だが!」

 

「これ以上の詮索は不要です」

 

 小切手を受け取ると、背後の扉が開かれる。

 

「いやー…見させて貰ったけど凄かったね!」

 

 ウィーズリー家の双子が笑いながら入室する。

 

 どうやら、先程の戦闘を観戦していた様だ。

 

「まさか、君達が不死鳥の騎士団員になるなんて…信じられないよ」

 

 ロンと共にハーマイオニーが入室する。

 

『いやーさっきのダンブルドアの表情は良かったね。滑稽だったよ』

 

『貴女達の戦いを見させて貰ったけど…やっぱり凄いと思うわ』

 

『ありがとうございます』

 

『いらない心配かも知れないけど、気を付けてね』

 

『了解です』

 

「いやーあの戦いはハリーにも見せてやりたかったぜ」

 

 ロンは腕を頭の後ろで組みながら椅子に腰かける。

 

「凄く燃え上がったな」

 

 ウィーズリー家の兄弟は先程の戦闘の事で話が盛り上がる。

 

『それにしても、このぼろ屋敷が不死鳥の騎士団の本部とは、貧相なもんだな』

 

『よくよく考えたら、トム。貴方はこの場に連れて来るべきじゃなかったかもしれないわね』

 

『ダンブルドアが知ったらぶっ倒れるだろうね』

 

『バレない様に気を付けるわ』

 

『それでは、我々はこれで失礼します』

 

『えぇ、また何かあったら連絡するわ』

 

 ハーマイオニーはキッチンへと移動すると、モリーの手伝いを開始した。

 

 対する私達は扉に手を掛けブラック邸を後にした。

 

  数日後、ダンブルドアから手紙による招集を受けた。

 

 ブラック邸へと移動すると、奥の一室に暗い顔をした不死鳥の騎士団員の姿があった。

 

「おぉ、来てくれたか」

 

 円卓に座るダンブルドアは椅子に腰かけながら髭を撫でている。

 

「状況の報告をお願いします」

 

「あぁ、現在かなり危険な状態じゃ。実はハリーが魔法省から――」

 

「少しよろしいですか」

 

「なんじゃ…」

 

 ダンブルドアは話の腰を折られた事に不満を抱いているのか分かり易く顔を歪める。

 

 デルフィが部屋の扉を開く。

 

「うおぉ!」

 

「いでぇ!」

 

「フレッド! ジョージ! ロン! ジニー!」

 

 すると、雪崩のようにウィーズリー家の4人が倒れ込んで来る。

 

「ママ!」

 

「重いぞ! フレッド!」

 

「アンタ達! なにしてるんです!」

 

「ちょっと話が気になって…」

 

 扉からハーマイオニーが申し訳なさそうな顔でこちらに視線を向ける。

 

「盗み聞きですか?」

 

「そっ…そう言う訳じゃないけど…」

 

「ねぇ! ハリーに何があったの?」

 

 折り重なった状態でロンが疑問の声を上げる。

 

 その後、全員が順番に起き上がって行く。

 

「ダンブルドア…」

 

 シリウスはダンブルドアに指示を求めている。

 

「皆ハリーが心配じゃろう。話せる限りの事を話そう。休暇中にハリーがディメンターに襲われたのじゃ。マグル界の方でな。それで、未成年の魔法使いには臭いと言う魔法を検知する物があってな…マグル界での魔法の使用は基本的に禁止されておる…それにより魔法省から尋問を受けることになったのじゃ」

 

「そんなのって!」

 

 ダンブルドアの説明に皆驚きを隠せずにいる。

 

「でも、いくらマグル界で魔法の使用が禁止されていても、特例はあるはずです」

 

「ハーマイオニー…君の言う通り、命の危険があった場合は魔法の使用が認められることがある」

 

「それならハリーが魔法を使ったのだって、正当な理由が有るはずです!」

 

「その通りじゃ。ワシはその点から魔法省に抗議するつもりじゃ…」

 

「もし、その抗議が通らなかったらハリーはどうなるの?」

 

 ロンが疑問を投げかけ、ダンブルドアがそれに応える。

 

「恐らくじゃが、魔法省はハリーを退学処分にし、杖の破壊を言い渡すじゃろう」

 

「そんなのってあるかよ!」

 

「無論、ワシはそんな事させるつもりは無い! ハリーは大切な生徒じゃ!」

 

『もしこれが別の生徒だったらここまで熱くはならないね』

 

『そうかしら? いくらダンブルドア先生だって生徒が杖を剥奪されるような状況なら黙ってない筈よ』

 

『木偶の坊のハグリッドを見てみろよ。アイツは杖を剥奪されているぞ』

 

『でも、その原因を作ったのは貴方でしょ?』

 

『そんな事は忘れたさ。だが、ハグリッドはダンブルドアの大切な生徒だったさ。でも杖を剥奪されているぞ。ハリーだからここまで躍起になっているんだろうね』

 

『うー…そう言われるとそんな気がしてきたわ』

 

「尋問はいつ行われるのでしょう?」

 

「正式な決定はまだじゃが、20日以内に行われるはずじゃ」

 

「こうしちゃいられない! 僕達も何かしなきゃ!」

 

 ウィーズリー兄妹は顔を見合わせ頷いている。

 

「フレッド! ジョージ! ロン! ジニー! 2階に上がりなさい! ここから先は騎士団員以外は聞いてはいけません!」

 

「そりゃないぜ! ママ!」

 

「ここまで聞かされたんだ! こんなのってないよ!」

 

「ハリーが危険なんでしょ! 騎士団員以外はダメって言うなら僕等も騎士団員になるよ!」

 

 ロンが声を荒らげ、双子が頷く。

 

「ダメです! 貴方達はまだ未成年でしょ!」

 

「そんな事言ったら、エイダとデルフィだって未成年じゃないか!」

 

「そうだよ!」

 

「彼女達はダンブルドアや他の不死鳥の騎士団員が入団を認めたから良いのです!」

 

「そんなのずるいよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

 ウィーズリー兄妹は更に抗議を続ける。

 

 そんな時、ルーピンが立ち上がる。

 

「友人を思う君達の気持ちはよく分かるよ。でもね不死鳥の騎士団員になるって事は、とても危険な事なんだ」

 

「でも、そんなに危険なら、なんであの2人は良いんですか?」

 

「彼女達は自分の身は自分で守れるだけの力がある。まぁ、それ以上の力もあるけどね…」

 

 こちらを見たルーピンは少し苦笑いをする。

 

「まぁ、君達はまだ子供だ。まだ護られる対象なんだ。危険な事には参加させられないよ」

 

 ルーピンの説得を聞き、ウィーズリー兄妹は黙り始める。

 

「そうよ、ルーピン先生の言う通りだわ」

 

「先生はよしてくれ。もう先生じゃないよ」

 

「そうだったわね」

 

 ハーマイオニーは少し苦笑いをしている。

 

「さて、君達は2階へ行っていてくれないか?」

 

「はい…」

 

 フレッドを先頭に、兄妹は少し不満そうな表情を浮かべながら階段を上って行った。

 

「それじゃあ、エイダ。デルフィ。また後でね」

 

 ハーマイオニーはこちらに手を振ると、彼等の後を追いかけた。

 

「さて、話を戻そうかの」

 

 円卓に全員が腰かけ、ダンブルドアが口を開く。

 

「先程も言ったように、ハリーは今危険な状態じゃ。そこで、一時的じゃがハリーをこの屋敷で保護しようと思う」

 

「賛成です。まずは計画を立てましょう」

 

「そうじゃの…まずはダーズリー一家を一時的に家から遠ざけてほしい。適当に旅行券でも渡せばいいじゃろう。マグル界の事は詳しくないのでな。イーグリット姉妹に一任しようと思う」

 

「了解。旅費や諸経費は後ほど請求します」

 

「相変わらず守銭奴じゃのぉ」

 

 ダンブルドアが溜息を吐く。

 

「では、作業へ移ります」

 

「頼んだぞ。ダーズリー一家が旅行へ行ったら作戦開始じゃ。詳しい日程はまた連絡する」

 

「了解です」

 

 私達は、作戦を開始するため、ブラック邸を後にした。

 

  数日後、旅行券を購入し、ダンブルドアから教えられたダーズリー家の住所へ懸賞として送付する。

 

 ダーズリー家の周辺をステルスドローンで監視すると、旅行券を受け取った次の日には大量の荷物を手に、車で移動するダーズリー家の姿を確認した。

 

 もちろん、3人分でしか送付していなかった為、ハリーの姿はなかった。

 

 ダーズリー家が旅行に出た事を手紙でダンブルドアへと送ると、次の日に返信が来た。

 

 どうやら、2日後にハリーを奪還する作戦を開始する様だ。

 

 2日後、作戦決行日。

 

 私達は、目標地点であるダーズリー家前で待機していると、背後に複数の反応を検知する。

 

「待たせた様だな」

 

 そこには、ムーディを始めに、シリウス、ルーピン、アーサー、の他に複数名の不死鳥の騎士団員が立っていた。

 

「ここがそうか?」

 

「そうです」

 

「生体反応確認。1つだけです」

 

「家にはハリーだけか…では行くぞ」

 

 ムーディがドアノブに手を掛ける。

 

「チッ、鍵か面倒だ」

 

 ムーディが杖を手にする。

 

「解錠します」

 

 デルフィがムーディの前に割り込むと、瞬時にピッキングで解錠する。

 

「なんだ、鍵があるなら最初から開けておけ」

 

「ピッキングです。簡易的な鍵なので解錠は容易です」

 

「へぇ…マグルはこんなものを使うのか」

 

 デルフィの手にするピッキングツールをアーサーは興味深く見ていた。

 

「まぁいい、入るぞ。全員警戒を怠るな」

 

 ムーディを先頭に不死鳥の騎士団員はダーズリー家へと侵入を開始する。

 

「うわぁ、なんだこれ?」

 

「うぉ! 光ったぞ!」

 

「こっちは音が鳴った!」

 

 侵入後不死鳥の騎士団員の半数は、周囲にある電化製品を弄っている。

 

 どうやら、電化製品が珍しい様だ。

 

「不用意に触るな! マグルの物だ。腕が消し飛ぶかもしれん」

 

「ひえぇ…」

 

 ムーディが周囲を警戒している中、上の階から接近する生体反応を確認する。

 

「誰だ!」

 

 ムーディが振り向き様に階段の方へと杖を向けると、そこには杖を手に警戒状態のハリーの姿があった。

 

「おい坊主、杖を下ろせ!」

 

「え? ムーディ…先生?」

 

 私が室内灯のスイッチを入れると、不死鳥の騎士団員は驚愕したように身構える。

 

「なんだ!」

 

「急に明かりが!」

 

「あれ? エイダにデルフィまで」

 

 ハリーは杖を下ろすと首を傾げる。

 

「驚かすな。まったっく…まぁいい。先生かどうかはよくわからん。何せ教える機会がなかっただろうが? ここに降りてくるんだ。そしてちゃんと顔を見せろ」

 

 ハリーが階段を降り、こちらへと向かう。

 

「やぁ。ハリー元気だった?」

 

「無事か? 食事はちゃんと摂っているのか?」

 

「シリウス! ルーピン先生!」

 

 

 ハリーはシリウスに駆け寄ると、抱き着く。

 

「無事で何よりだ。良く顔を見せてくれ」

 

 シリウスはハリーの両頬に手を添え、顔を覗き込む。

 

「良し! ハリーだ! 間違いない!」

 

「本当か? ポッターに化けた死喰い人を連れ帰ったら笑いごとじゃ済まないぞ」

 

「心配しすぎだぞマッドアイ。ハリーに間違いない」

 

「だと良いがな」

 

 ムーディは依然として周囲を警戒している。

 

 そんな時、ハリーが手にした杖をズボンのバックポケットに仕舞い込む。

 

「おい、そんなところに杖を仕舞うな!」

 

 

 

 その瞬間ムーディが怒声を上げる。

 

 

 

「もし火が点いたらどうする? おまえよりもしっかりした魔法使いがそれでケツを失くしたんだぞ!」

 

 

 

「それ本当? 一体誰?」

 

 不死鳥の騎士団員の一人が興味深そうに問いかける。

 

「誰でもよかろう。とにかく尻ポケットに杖を入れるな」

 

「は、はい」

 

 ハリーは杖を手にした後、どうするか迷た挙句、手に持ったままにしていた。

 

「さて、目標も無事に達成した。後は帰るだけだな」

 

「帰るって…どこへ行くんです? それにどうやって?」

 

「隠れ家だ。帰り道は箒を使う。それしかないだろう」

 

「でも…僕の箒は…」

 

「持ってないのか?」

 

「ホグワーツに…」

 

「なんてことだ!」

 

「ご安心ください。退路は確保済みです」

 

 私の言葉に不死鳥の騎士団員の視線が集まる。

 

「用意周到だな小娘。どうするんだ? まさか歩いて帰るなんて言わないだろうな」

 

「車を用意して有ります」

 

 数日前にイギリス郊外で仕入れた中古車だ。

 

 この時代は規制が緩く、仕入れ店舗も未登録の店だったようで多少の金額の上乗せにより無免許の未成年でも中古車の購入が可能だった。

 

 無論、この際の金額は経費として後日請求する。

 

 

「車で行くの?」

 

「そうです」

 

 唯一車の知識があるハリーだけが驚いており、不死鳥の騎士団員は首をかしげている。

 

「本当にそんな物で大丈夫なのか? 敵は何時襲ってくるか分からんぞ」

 

「周辺3キロ圏内に魔法及び高エネルギー反応は検知されておりません」

 

「よく分からん言葉を使うな。もっと簡単に言え」

 

「周囲に敵対する魔法使いは存在しません」

 

 ムーディは少し考えた後、数回頷く。

 

「分かった。部隊を2つに分けよう。箒で移動する囮と。その車とか言う乗り物で移動する本隊だ」

 

「了解」

 

「メンバーは決めておく。小僧さっさと準備をしろ」

 

「え? うん」

 

 ハリーはリビングから出ると準備を急いだ。

 

  私達は玄関を出て道路へと移動すると、ベクタートラップ内に収納したマイクロバスを取り出す。

 

「うぉ…どこに仕舞って居たんだこれ? 検知不可能拡大呪文?」

 

「その様な物だと思っていてください」

 

「へぇ…」

 

 アーサーはマイクロバスの周囲を移動すると、興味深く見ている。

 

「いや、私も車を持っていたんだけど。これとは全然違っていてね。かなり綺麗だね。この車は空は飛ばないのかい?」

 

「飛びません」

 

「車で空を飛ぶ必要性はありません」

 

「ま…まぁ…そうだね…」

 

 数分後、荷物をまとめたハリーが下りてきた。

 

「これに乗るの?」

 

「はい」

 

「誰が運転を?」

 

「私が行います」

 

 デルフィが手を上げる。

 

「運転できるの?」

 

「問題ありません」

 

「何か不安だなぁ…」

 

 ハリーは荷物をマイクロバスに積み込むと、座席に座る。

 

 その後、ルーピン、シリウス、アーサーが乗車する。

 

「ワシ等は箒で行くぞ」

 

 ムーディを始めとした不死鳥の騎士団員は箒を手に飛び上がる。

 

「それでは、我々も出発しましょう」

 

 エンジンを始動させる。

 

「うぉ!」

 

「揺れたぞ!」

 

「大丈夫なのか!」

 

 車に乗り慣れていない様で、3人は動揺している。

 

「問題ありません」

 

「シートベルトを着用してください」

 

「あぁ、わかったよ」

 

「シートベルトってなんだ?」

 

「これだよ」

 

 アーサーが他の2人にシートベルトの装着方法を教え、全員が装着する。

 

「発車します」

 

 アクセルと吹かし、緩やかに発車する。

 

「動いた…」

 

 数分後には大通りに入り、車の流れに合わせ速度を上げる。

 

「こんなに早くて大丈夫なのか?」

 

「おい! ぶつかるぞ!」

 

 後部座席で、シリウスとルーピンが声を荒らげ、アーサーはシートベルトを掴んで震えている。

 

 十数分後には問題無く目的地に到着する。

 

「到着です」

 

「うぅ…」

 

「なんか気持ち悪い」

 

「吐きそうだ…」

 

 乗り物に酔ったのか3人は降車すると顔色を悪くする。

 

 車をベクタートラップ内に収納する。

 

「じゃあ、今から開けるよ」

 

 シリウスが杖を振ると、ブラック邸への道が開ける。

 

 そのまま、彼等と共に、私達はブラック邸へと帰還する。




AI制御なので、安全で安心な運転です。


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ドローレス・アンブリッジ

そろそろ、最終章の構成を考え始めているのですが…

どうやっても、ダンブルドアにハッピーエンドが訪れない…







まぁいいや


 

   帰還後、扉を開き奥の部屋へと移動するとそこには、箒で帰還したメンバーとモリーに抱き着かれているハリーの姿があった。

 

「あら? アナタ達戻ったのね」

 

「あぁ、今戻ったよ」

 

「く、苦しいよおばさん」

 

「あら、ごめんなさい。少し痩せたみたいね」

 

「まぁね」

 

「後でご飯にしましょう。今日は豪華にするわ」

 

「ありがとう」

 

 その時、座っていたダンブルドアが軽く咳をする。

 

「皆ご苦労じゃった。さて、会議を始めるとしようかの。不死鳥の騎士団員は厨房へ移動してくれ」

 

「はい」

 

 ダンブルドアの声に従い、騎士団員の面々が続々と厨房へ移動していった。

 

 

 

 ハリーはシリウスと共に厨房に入ろうとしたが、ロンの母親によって引き留められた。

 

 

 

「駄目よハリー。騎士団のメンバーだけの会議ですからね。ロンとハーマイオニーも上の階で待っているわ。後で夕食にしましょうか」

 

「え…でも」

 

「言う事聞いて頂戴。上でロン達が待っているわ。会うのは久しぶりでしょ?」

 

「うん…」

 

「さぁ、行きましょう」

 

 諭さとされたハリーは、ゆっくりと階段へと移動していった。

 

 厨房へと移動すると、食卓用の長いテーブルを円卓に見立て、ダンブルドアを上座に他のメンバーが座って行く。

 

「さて、ハリーの護送は無事に終わった様じゃな」

 

「無事終了です。敵性勢力による妨害なども確認されていません」

 

「左様か」

 

 ダンブルドアは表情を緩め、数回頷く。

 

「こちらが、今回の作戦における請求書です」

 

 今回の作戦で使用した、旅行券代や報酬等の詳細を記載してある。

 

 受け取り、目を通したダンブルドアは分かり易く眉を顰める。

 

「少し高すぎるのではないのかのぉ?」

 

「適正価格です」

 

「わかった…仕方ない。後日支払おう」

 

 ダンブルドアは請求書を畳むと、ポケットへと仕舞い込む。

 

「まぁ、何はともあれ、作戦は成功じゃ…それは良い事じゃ。皆も良く頑張ってくれた。ハリーはしばらくこの本部で預かろうと考えておる。皆でハリーを警護するのじゃ。無論、ハリーが移動をする際は誰かが護衛に付くようにしてほしい」

 

「分かりました」

 

 不死鳥の騎士団員は全員が合わせた様に頷いている。

 

 そんな時、2階の方からハリーの怒鳴り声が響いた。

 

 

「ひどいよ! 何なんだよ! 僕があの家に幽閉されている間、君達はここでよろしくやっていたっていうのか! えぇ!」

 

 声のトーンから判断するに、かなりのストレス係数だ。

 

「はぁ…」

 

 ダンブルドアは溜息をし、杖を一振りする。

 

 すると、先程までのハリーの叫び声が聞こえなくなった。

 

 

 

「さて…会議を続けようかの」

 

 

 

 ダンブルドアは溜息を吐きながら、頭を抱えていた。

 

 

  数日後、ハーマイオニーから通信が入る。

 

『ねぇ、今良いかしら?』

 

『問題ありません』

 

『さっきハリーの裁判が終わったんだけど、何とか無罪になったわ』

 

『それは良かったです』

 

『まぁ、普通に考えればあんな状況なんだし、無罪になるだろうね』

 

『そうよね。ダンブルドア先生が色々と手回ししたみたいだけど』

 

 どうやら、ダンブルドアとしては、何としてもハリーの無罪を勝ち取りたかっただろう。

 

『でも、帰って来たハリーはなんか変な感じなのよ』

 

『具体的にはどのように?』

 

『何か、口数も少ないし、ロンとも喧嘩してたわ。なんか口調も荒かったし…』

 

『反抗期じゃないのか?』

 

『だとしても異常よ。なんか一緒に居るのが怖い位だわ』

 

『少し放っておいた方が良いね』

 

『まぁ…そうよね。少し様子を見ようかしら…』

 

 ハーマイオニーは分かり易く溜息を吐いている。

 

『そう言う事なの。また何かあったら連絡するわね』

 

『了解です』

 

『また新学期で合いましょう」

 

『はい』

 

 私達は、通信を終了させる。

 

 

  新学期最初の日。

 

 

 

 先日届いた、不死鳥の騎士団からの手紙には、ハリーをブラック邸から、キングスクロス駅まで護送すると書かれていた。

 

 護衛の必要性を感じないが、要請があるのならば、仕方ない。

 

 ブラック邸へ移動後、不死鳥の騎士団員と合流する。

 

「2人とも! 久しぶり!」

 

 玄関ホールには、1つのトランクケースを側に置いたハーマイオニーが立っていた。

 その手には、タブレット端末が抱えられていた。

 

「お久しぶりです」

 

「今回はどうしたの?」

 

『ハリーの護送を依頼されました』

 

『なるほどね。だから通信に切り替えた訳ね』

 

『だとしても、態々駅まで護送だなんて、ダンブルドアはよっぽど彼が大切みたいだな』

 

『確かに、大掛かりよね。不死鳥の騎士団員なんて…全員慌ただしくしてるわ』

 

 

「あれ? 君達も来たの?」

 

 声の方向では、荷物を纏めたハリーと、両親と荷物の確認をしているウィーズリー兄妹の姿があった。

 

「これからキングスクロス駅まで行くぞ! シリウス。お前は犬に化けておけ」

 

「何故だ! 私の冤罪は晴れているんだぞ!」

 

「死喰い人共が攻めて来た時、そっちの方が奴等の臭いを感じやすいだろ」

 

「確かにそうだな…」

 

 納得したのかシリウスが犬の状態でハリーに駆け寄る。

 

 

  数分後には、全員の準備が整ったようで、ブラック邸からキングスクロス駅まで徒歩で移動した。

 

 20分程の移動中に敵性勢力による妨害工作は確認されなかった。

 

 キングスクロス駅到着後は、全員で9と4分の3番線へと入り、そこで不死鳥の騎士団員と別れる。

 

「さて…コンパートメントを探そうか」

 

 ハリーは疲れた様に、口を開き、周囲のコンパートメントを確認する。

 

「えっと…」

 

「ハーマイオニー? どうかしたの?」

 

 振り向いたハリーに対し、ハーマイオニーの表情が少し曇った。

 

 

 

「えっ…と…私達、監督生の車両へ行かなきゃいけないの…」

 

 

 

「そっか…そう言えば今年から監督生になったんだったね…ロン、君もだろう?」

 

 

 

「そうなんだよ、まぁすぐに終わると思うから、何処か開いているところ探していてよ」

 

 

 

「あぁ、じゃあまた後でな」

 

 

 

 私達は、ハーマイオニー達の背中を見送った後、引き続きコンパートメントを探す事にした。

 

  最後尾車両、最奥部付近で、ハリーが一つのコンパートメントの中を覗く。

 

「ここ開いてるじゃないか」

 

 しかし、コンパートメント内には1人の生体反応を確認する。

 

 ハリーが扉を開けると、死角に隠れる様に、一人の少女が座っていた。

 

「あれ?」

 

「コンパートメントを探してるの?」

 

 少女がそう言うと、ハリーは頷く。

 

「座んなよ。ここ開いてるよ」

 

「じゃ…じゃあ、遠慮なく」

 

 ハリーは荷物棚に、荷物を仕舞い、コンパートメントに入る。

 

「あなた達も」

 

「失礼します」

 

 私達も、コンパートメント内に侵入する。

 

 少女の対面に座る。

 

 目の前の少女は杖を左耳に挟み。ソフトドリンクのコルク栓を繋ぎ合わせたネックレスをしている。

 

 そして何故か雑誌を上下反転させ読んでいた。

 

「ルーナ・ラブグッドだよ」

 

「え?」

 

「名前」

 

「あ…あぁ。僕は――」

 

「知ってるよ。あなたはハリー・ポッターだ」

 

「そうだよ」

 

 ルーナが顔を上げ、こちらを見据える。

 

「あなた達はエイダ・イーグリットとデルフィ・イーグリット」

 

「ご存知でしたか」

 

「有名人だもん」

 

 ルーナは再び、本に視線を戻す。

 

 十数分間、コンパートメント内に会話は無く、ハリーは気不味そうにあたりを見回していた。

 

『今終わったわ。どこに居るの?』

 

『最後尾車両です』

 

『分かったわ。向かうね』

 

 数分後、コンパートメントの扉が開かれロンとハーマイオニーが入ってくる。

 

「お疲れ」

 

「あぁ、すっごく疲れた…あっ! カエルチョコレートじゃん! いっただき!」

 

 ロンは、ハリーからカエルチョコレートを奪い取ると、そのまま口に放り込む。

 

「まったく、君って奴は…後で代金を払えよ」

 

「少し考えてみろよハリー。僕がそんな金あると思うか?」

 

「まったく…」

 

「はぁ…」

 

 ハリーとハーマイオニーは呆れた様に溜息を吐いた。

 

「ん? この人は?」

 

「あら? ルーナ・ラブグッドじゃない」

 

「知ってるの?」

 

「えぇ。なんて言うか…不思議ちゃん?」

 

「え?」

 

 ロンは唖然としている。

 

「ん? 本が逆さまじゃないか…ザ・クィブラー?」

 

「ゴシップ誌ね」

 

「へぇー面白い記事でもあるの?」

 

「ザ・クィブラーって言えば――」

 

『ちなみにその雑誌の編集者の名前はゼノフィリウス・ラブグッドだよ』

 

『え? それって』

 

「どんな雑誌なの?」

 

「えっと…まぁ…普通の雑誌よね。面白いらしいわ」

 

「ん?」

 

 ロンは意味も無く首を傾げている。

 

  汽車を下りた後、無事にホグワーツに付くと例年通り歓迎パーティーが執り行われた。

 

 組み分けも終わり、帽子が例年の様に歌い出すが、その歌は例年とは違っていた。

 

『どういう意味かしら? 今のヴォルデモートの復活と関係あるのかしら?』

 

『どうだかね? それにしても団結ねぇ…ダンブルドアは生徒を兵隊にでもするつもりかな?』

 

『だとしたら危険ね』

 

『転校するかい?』

 

『状況次第ね』

 

 

「なぁ、ハリー…アレって…」

 

「きっとダンブルドアの事だ。何か策が有るに違いないさ」

 

 ロンとハリーは互いに顔を見合わせ、不安そうにしていた。

 

 その後はパーティーも順調に執り行われ、テーブルには豪華な食事が並んでいた。

 

 

 多くの生徒が食事を終わらせしばらくすると、ダンブルドアが教壇に上がり、例年通りの演説を始めた。

 

 

 

「さて、皆が食事を楽しんだところで、学年始めのお知らせじゃ。1年生には毎年言って居るが、校庭にある禁じられた森には立ち入ってはならぬぞ…と言ってもあの森の半分以上が焼けて無くなってしまったがな…次は校内での魔法の使用に関してじゃ、廊下などでむやみやたらに魔法を使ってはならぬぞ、その他詳細に関しては、事務所の壁に張り出して居る、後で確認するのじゃ」

 

 

 ダンブルドアがそう言い終えると、ハリーとロンは互いに鼻で笑った後、「誰が見に行くか」と続けた。

 

 

 

「それと、今年は2名の先生が替わった。魔法生物飼育学にはハグリッド先生の代わりに、プランク先生がお戻りになった。そして、闇の魔術に対する防衛術には新任教授のアンブリッジ先生が担当してくださる」

 

 

 

 ダンブルドアがそう紹介すると、大広間に居た生徒全員の動きが止まった。

 

『え? なにあれ?』

 

『新手の魔法動物か?』

 

 壇上には、スーツをピンク色に統一した潰れた顔の小太りの女性が居た。

 

『蛙みたいだ…』

 

『あんなのが教師か? いやもしかしたら授業内容はまともなのかも知れない…』

 

 多くの生徒が唖然としているがダンブルドアはそんな空気の中話を続けた。

 

 

 

「クィディッチの試合に付いてじゃが――」

 

 

 

「エッヘン、エヘン」

 

 すると女性は、ワザとらしい咳払いをしダンブルドアの言葉を遮った。

 

 

 

 その声を聞き、多くの生徒が顔をしかめた。

 

 

 

「校長先生、歓迎のお言葉感謝いたします。ドローレス・アンブリッジですわ」

 

 

 

 甲高い声が響き渡る。

 

『なんだあの声。不愉快極まりないな』

 

『何かしら…変にイライラするわ…』 

 

「私、ホグワーツに戻ってこれて本当に嬉しいですわ。そして、皆さんの幸せそうな可愛らしいお顔が私を見ていてとても幸せです」

 

 

 

 アンブリッジは陶酔状態にあるようで、身振り手振りが大きくなる。

 

「皆さんと早くお友達になりたいですね。きっと素晴らしい関係になるでしょう…あぁ、楽しみですわ」

 

 言い終えたアンブリッジは私達とハリーを睨み付ける様な視線を送る。

 

 どうやら、警戒されている様だ。

 

 

 

 その後、アンブリッジの話が終わり、ダンブルドアは簡単に注意事項を話していった。

 

 

 

 




ドローレスと聞いて、ドロレスやドリィを思いついた悪い子たちには

おじさまとラダムがお仕置きに行きます。


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暴論

アンブリッジ先生暴走回です。

まぁ、この小説ではアンブリッジよりダンブルドアの方が質悪い感じになっていますが…




 

  今年からはふくろう試験と言うのが行われる。

 

 学年末に実施されるテストでその結果によって将来の仕事に大きく影響する。

 

 

 

 今年に入って初めての闇の魔術に対する防衛術の授業。すなわちアンブリッジの授業の時間がやって来た。

 

 

 

 私達が教室に入ると、そこには既にアンブリッジの姿があり、教壇に座っている。

 

 

 

「皆さん! こんにちは!」

 

 

 

 アンブリッジの甲高い声が響き渡る。

 

 

 

 数名の生徒が呆れた様に挨拶に返事をしている。

 

 

 

「いけませんねぇ、全然元気が無いですね。いいですか、『アンブリッジ先生!こんにちは!』って言ってみましょう」

 

 その後、嫌々そうに大半の生徒が挨拶を返した。

 

「うん、よろしいです。さて、それでは授業を始めますよ。杖は仕舞ってくださいね。ペンだけあれば大丈夫ですよ」

 

 

 

 アンブリッジはそう言うと黒板の前に置かれている椅子に腰かけた。

 

 

 

「さて…皆さん、この科目の授業はかなりおかしな事になっています。毎年先生が替わってしまったせいでしょうかね。不幸な事に皆さんの学力ではふくろう試験を受けるレベルを大きく下回っています。でも安心してくださいね。今年は慎重に構築された理論中心の魔法省指導要領通りの授業にしていきます。さぁ、この本を書き写してください」

 

 

 

 

 

 アンブリッジが杖を振るうと、教壇に置かれていた分厚い本が私達の前に1冊配られた。

 

 

 

「皆さんに本は行き届きましたね。では始めますよ、5ページを開いてください」

 

 

 

 

 

 アンブリッジは開かれたページを書き写す様に指示を出した。

 

 

 

 その時、ハーマイオニーが真っ直ぐ手を上げた。

 

 

 

「どうかしました? 何か質問でも? でも今は本を読む時間ですよ、質問なら後で受けますよ」

 

 

 

「違います。この授業の目的についての質問です」

 

 

 

 ハーマイオニーの質問を聞き、アンブリッジは目を細めた。

 

 

 

「貴女、お名前は?」

 

 

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

 

 

 アンブリッジは皮肉を込めたような笑い声を上げる。

 

 

 

「フフフっ…ミス・グレンジャー、授業の目的に付いてはこの本を読めばしっかりと理解できますよ」

 

 

 

「でも、この本には防衛呪文を使う事に関しては何も書かれていません」

 

 

 

「呪文を使うですって? まぁまぁまぁ…ミス・グレンジャー。貴女はこのクラスで防衛術を使うようなことが起きるとでも? そんなことありえませんよ」

 

『なんだって…あの木偶の坊以上に質が悪いじゃないか…』

 

『本当よ…最悪…』

 

「じゃあ、魔法は使わないの?」

 

 

 

 ロンがヤジを飛ばすと、アンブリッジは再び目を細めた。

 

 

 

「私の授業で発言したい時は手を上げる事。貴方は?」

 

 

 

「ウィーズリー」

 

 

 

 ロンはそう答えると、手を上げる。

 

 それを遮る様に、再びハーマイオニーが手を上げた。

 

 

 

「まだ何かあるのですか? ミス・グレンジャー」

 

 

 

「あります。闇の魔術に対する防衛術は防衛呪文を練習することに意味があるんじゃないですか?」

 

 

 

「ミス・グレンジャー…貴女は魔法省の人間ではないでしょう第一、これは魔法省で決められたことですよ。皆さんが呪文に付いて学ぶのは――」

 

 

 

「そんなの何の役に立つ!」

 

 

 

 アンブリッジの言葉を遮る様にしてハリーが声を上げた。

 

 

 

「もしも僕達が襲われるとしたら、そんな方法じゃ!」

 

 

 

「挙手をしなさい! ポッター! 第一誰が皆さんを襲うと言うのですか!」

 

 

 

 息を荒らげたアンブリッジが、ハリーに問いだ。

 

「現状確認される敵対勢力は、ヴォルデモートを中核に置いた死喰い人と推定されます」

 

「現在のホグワーツの防衛レベルでは、大部隊の敵兵力に対する防衛能力は籠城戦においても不利だと判断されます」

 

「拠点防衛兵器等の設置をおススメします」

 

 デルフィの発言に、その場に居た全員の視線が集まる。

 

「グリフィンドール10点減点です! 貴女はデルフィ・イーグリットにエイダ・イーグリットですね!」

 

 アンブリッジは極度のストレス下にあるのか、金切り声を上げる。

 

「この際ですから、はっきりと言いましょう…皆さんはある闇の魔法使いが戻ったという話を聞かされていますが――」

 

 

 

「アイツは生きていたんだ! 蘇ったんだ!」

 

 

 

「黙りなさい! ポッター! 貴方の言う事は出まかせです!」

 

 

 

「出まかせなんかじゃない! 僕は見たんだ! 君達も見ただろ!」

 

「はい」

 

「我々もその場に居合わせました」

 

「でたらめを言わないで! 3人とも罰則です!」

 

  アンブリッジが叫び声を上げた後、肩で息をしている。

 

 

 

「はぁ…はぁ…良いですか! 明日の夕方、私の部屋へ来なさい! さて皆さん、教科書の5ページを開いて――」

 

 

 

「だからそんなのが何の役に立つっていうんだ!」

 

 

 

 ハリーは怒りに任せて椅子を蹴飛ばしている。

 

 

 

「落ち着きなさい! ポッター! 貴方は幻覚でも見たのでしょう、それにこの授業は理論を完璧に覚えられます!」

 

 

 

「理論だけでどうにかなる問題じゃないんだ!」

 

『実際、魔法ってのは理論でどうにかなるものじゃ無いからね』

 

『なんだか、こんなの馬鹿馬鹿しく思えて来るわ…』

 

『いっその事、自習の方が良いんじゃないか?』

 

『確かにそうね…』

 

「良いですか! 理論さえ完璧ならば、魔法は完璧なのです!」

 

「ですが、眼前の敵対勢力が敵意を向けた場合、自衛行動は必須かと思われます」

 

「五月蠅いです! 私の授業は完璧なのです! 文句があるなら受ける必要はありません!」

 

 アンブリッジがヒステリックになると同時に、終業を告げる鐘が鳴った。

 

「良いですか! 宿題を出します! 教科書の書き写しを羊皮紙に10枚です! 貴女達は罰則として30枚です!」

 

 アンブリッジはそう言い終えると、教室を後にした。

 

  翌日

 

 私達とハリーはアンブリッジに呼び出され、彼女の自室へと入室する。

 

「失礼します…うわぁ…」

 

 入室と同時に、ハリーが表情を曇らせる。

 

 部屋の壁紙はピンクで統一されており、猫の写真が大量に飾られていた。

 

「良く来たわね。逃げるかと思ったわ」

 

 アンブリッジはそう言うと、私達を椅子に座らせた。

 

「さて…と。貴方達は私の授業で嘘の発言をして、皆を困らせた」

 

「違う! 本当の事を言っただけで!」

 

「黙りなさい!」

 

 アンブリッジはヒステリックな声を上げる。

 

「さて、罰則ですが。簡単です」

 

 そう言うと、私達の前に、羊皮紙と羽ペンが置かれる。

 

 この羽ペンからは、魔力を検知する。

 

 どうやら、書いた文字を使用者の体表に刻印するようなものだ。

 

 魔法とはやはり理解できない技術がまだある。

 

「羊皮紙3枚に。『私は嘘をついてはいけない』そう書きなさい」

 

「え…でも」

 

「良いから早く!」

 

 ハリーは顔を歪め、自分の羽ペンを取り出そうとする。

 

「ここにあるでしょ。これで書きなさい」

 

「は…はい…」

 

 ハリーは羽ペンに手を掛ける。

 

 その手をデルフィが掴む。

 

「え?」

 

「何をしているのです!」

 

「ホグワーツでは体罰の類は認められていない筈です」

 

「ドローレス・アンブリッジ。貴女が行おうとしている行為は虐待及び体罰に当たります」

 

「事と次第によっては、職を解かれる可能性があります」

 

 アンブリッジは一瞬だけ後退る。

 

「これは、私の決定です。それはつまり、魔法省全体の決定でもあるのですよ!」

 

「魔法省は無関係だと思われますが」

 

「五月蠅い!!」

 

 アンブリッジは手近にあったティーカップをこちらに投げつける。

 

 筋力が脆弱な為、ティーカップは私達の足元に落下する。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 ヒステリックを起したアンブリッジは肩で息をしている。

 

「満足しましたか?」

 

「気は済みましたか?」

 

「うぅうぅう! 五月蠅い! もう結構です! さっさと出て行きなさい!」

 

 私達はアンブリッジの部屋を後にし、その後をハリーが付いて来る。

 

 人気の無い廊下を進む途中、ハリーが口を開く。

 

「助かったよ」

 

「お役に立てた様で何よりです」

 

「まったく、酷い教師だ。スネイプより嫌いだよ」

 

 ハリーはそう言うと、小走りで走り出しだ。

 

「僕は先に談話室に戻ってるよ。ロンが心配していると思うし」

 

「了解です」

 

 ハリーは軽く手を振ると、走り始めた。

 

 私達はハーマイオニーに通信を繋ぐ。

 

『ねぇ、アンブリッジに呼び出されていたみたいだけど、大丈夫だった?』

 

『問題ありません』

 

『そう。それなら良かったわ。あのタイプは何をするか分からないから』

 

『体罰を受けそうにはなりました』

 

『えぇ! それで、大丈夫だったの?』

 

『体罰を受けるより前に、追い出されたので問題ありません』

 

『どういう状況なのよ…あっ、ハリーが戻って来た』

 

『我々も、少しで到着します』

 

『わかったわ』

 

 私達は、談話室の扉を開けると、ハーマイオニーが軽く手を振っていた。

 

 

  数日後

 

 闇の魔術に対する防衛学の授業は、座学が続いた。

 

「さて、今日は教科書の10ページから25ページまでを羊皮紙に書き写しましょう」

 

「えぇ…」

 

「なんだよそれ…」

 

 生徒から不満の声が上がる。

 

「エヘン。皆さん何か不満でも?」

 

「はい」

 

 ハーマイオニーが手を上げる。

 

「またですか。なんです? ミス・グレンジャー」

 

「教科書を書き写す事にどんな意味があるのか分かりません」

 

「はぁ…」

 

 アンブリッジは溜息を吐くと、首を横に振る。

 

「教科書を書き写す事で、しっかりと内容を覚える事が出来ます。そんな事も分からないのですか?」

 

「教科書なら何回も読んで。もう覚えました」

 

「はぁ…覚えた…ねぇ…」

 

 アンブリッジは教科書を適当に捲る。

 

「では、88ページ、3行目の4文字目は?」

 

「え…」

 

「覚えているんでしょ?」

 

「えっと…」

 

「分からないわよね。間違った答えを言ったら減点20点ね」

 

「そんな…」

 

「分からないなら、『分かりません、私は虚栄を張りました、許してくださいアンブリッジ先生』と言えば減点は許してあげましょう」

 

「うっ…」

 

 ハーマイオニーの表情が曇る。

 

『gだね』

 

『え?』

 

『あのカエル女が指定している文字はgだ』

 

 トムがデータベースの記録を参照する。

 

「えっと…gです」

 

「ふふふっ…え? うそ…」

 

 アンブリッジは教科書を何度も見直す。

 

「か、勘で答えたって駄目です。次は45ページ。9行目36文字目です」

 

『そのページの9行目は28文字までしか無いぞ』

 

「そのページの9行目は28文字までしか有りません」

 

「うそ…」

 

 アンブリッジの表情が曇る。

 

「まだ続けますか?」

 

 ハーマイオニーが得意げな表情をする。

 

「貴女1人が覚えたって意味は無いの。分かる?」

 

「でも…」

 

「良いから、書き写しなさい! これ以上言うなら減点しますよ!」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐きながら着席する。

 

『あんなのが教師か。ホグワーツも終わりだな』

 

『本当よ…本気で自分達で学ぼうかしら…』

 

『それがいい』

 

 ハーマイオニーは嫌々ながら、羊皮紙に教科書を書き写し始めた。

 

 開始3分後、私達は同時に教科書の書き写しを終わらせた。

 

「終了しました」

 

「え? うそ…」

 

 提出後、羊皮紙を確認したアンブリッジは唖然としている。

 

「出来てる…」

 

「終了でよろしいですか?」

 

「お、終わったならもう1度です」

 

「無意味だと思いますが」

 

「口答えするんじゃありません! そこまで言うなら貴女達は100枚分書き写しなさい!」

 

「暴論では?」

 

「五月蠅い! できなければ100点減点です!」

 

 アンブリッジのヒステリックな声が響き渡る。

 

 その瞬間、教室中が騒めき立つ。

 

「了解」

 

 私達は席に戻ると、両手にペンを持ち、教科書の書き写しを開始する。

 

「うわぁ…」

 

「なんだあれ…」

 

「書いてるよ」

 

「両利きってレベルじゃないな」

 

 周囲の生徒の視線が集まる中、8分足らずで1人に付き100枚、合計200枚の羊皮紙が積み上がる。

 

「ご満足いただけましたか?」

 

「適当にやったんでしょ!! 減点します!」

 

「確認をお願いします」

 

「ふん! いい度胸ね少しでも間違ってたら減点よ!」

 

 アンブリッジは羊皮紙を1枚ずつ確認し始めた。

 

 それだけで、今回の授業は終了した。




両手を使う事で、高速でのコピー作業が可能です。


だったら普通にコピー機使った方が効率的ですがね。


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DA決起集会

DAの決起集会回です。




   数日後、大広間でハリー達が日刊予言者新聞を片手に騒いでいた。

 

「どうしたのよ大騒ぎなんてして」

 

「ハーマイオニー! 君達も! これ見てよ!」

 

 日刊予言者新聞にはアンブリッジが高等尋問官になると言った内容が書かれていた。

 

 

 

「高等尋問官? なによこれ?」

 

 ハーマイオニーは苦い顔をしながら記事を朗読し始める。

 

「『高等尋問官は同僚の教育者を査察する権利を持ち、教師たちが然るべき基準を満たしているのかどうか確認します』つまりは、アンブリッジがホグワーツの教員を管理する立場になったって事ね。最悪だわ」

 

「まじかよ! 最悪じゃないか!」

 

 ロンは地団駄を踏みながら新聞を破く。

 

「こうなると、一部の先生は危険ね。アンブリッジの事だからきっとトレローニー先生辺りに目を付けるはずよ」

 

「ハグリッドが帰ってきたら危ないね…それまでにあんな奴、辞めちゃえばいいんだけど」

 

『僕としては両方辞めた方が良いと思うがね』

 

『そう言う事言わないの。それにハグリッドは悪い人じゃ無いわ』

 

『だとしても、教師には向いてない。飼育係が関の山さ』

 

『まったく…』

 

「とりあえず、アンブリッジを何とかしなきゃ…」

 

 ハリーは頭を抱えながら天を仰いていた。

 

 

  私達はその後、スネイプが担当している魔法薬の授業を受けるべく教室へ向かった。

 

「正解だ、グレンジャー」

 

 授業中、スネイプはグリフィンドールに対しての加点行為は行わず、細かい減点を行っていった。

 

 授業も中盤に差し掛かったであろう頃、教室の扉が開かれ、アンブリッジが姿を現した。

 

「エッヘン。エヘン」

 

「うわぁ…来たよ…」

 

 ハリーとロンは互いに顔を見合わせアンブリッジに嫌悪感を示している。

 

「スネイプ先生。ちょっといいですか?」

 

 アンブリッジは周囲の生徒の事など気にも留めず、スネイプに近寄る。

 

「なんですかな?」

 

「エヘン。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

 

「ふぅ…良いでしょう。ですが授業中故、手短に頼みますぞ」

 

 スネイプのメンタルコンデションレベルが急激に低下する。

 

「えぇ、貴方は闇の魔術に対する防衛術の担当を希望してらっしゃったとかで」

 

 

 

「左様」

 

「転属願いは出したの?」

 

「何度も」

 

「ダンブルドアはそれを良しとしない」

 

「左様…」

 

 

「ですが今は、魔法薬の担当でらっしゃる」

 

 

「左様…」 

 

「今まで数名もの闇の魔術に対する防衛術の担当が替わりましたが…一度も担当になってらっしゃらない」

 

 

「…左様…」

 

 

「ふぅん…なるほどね…」

 

 

 アンブリッジは小さく笑うと、手に持っていたメモ帳の様な物に何かを書き込んでいる。

 

 

「お時間を取らせて申し訳ございません。スネイプ先生。では失礼しますね、これらからも魔法薬の授業を頑張ってください。期待してますよ」

 

 

 アンブリッジが去り際にそう言い放ち、教室を後にした。

 

「クフッ」

 

 

 そんな2人のやり取りを見ていたロンは必死に笑いを堪えていた様だが、堪え切れず噴き出している。

 

 

 

「フンっ!」

 

 そんなロンの後頭部を、スネイプは手に持っていた教科書で力の限り殴りつけていた。

 

「いてぇ!」

 

『自業自得ね』

 

『ありゃいい感じに入ったぞ』

 

「授業を続けるぞ」

 

「いってぇ…」

 

「口を閉じろウィーズリー。10点減点だ」 

 

 スネイプは不機嫌そうに授業を続けて行った。

 

 

 

  数日後の、占い学の授業中にアンブリッジが張り付いたような笑みを浮かべながら教室に姿を現した。

 

 

 

 アンブリッジの姿を見た生徒達は、全員のメンタルコンデションレベルが低下し、トレローニーも慌て始める。

 

「こんにちは、トレローニー先生。先日お知らせした通り、査察を行わせてもらいますね」

 

 

 

「え…えぇ、どうぞ」

 

 

 

 トレローニーは嫌そうな顔をしながら、授業を続けていった。

 

 

 

 

 

「少しよろしいですか?」

 

 

 

 授業が終盤に差し掛かった頃、アンブリッジが手を上げ口を開いた。

 

 

 

「え…えぇ、なんでしょうか?」

 

 

 

「貴女はこの職に就いてからどれくらいが経ちますか?」

 

「えっと…かれこれ長いもので16年くらいでしょうか」

 

「16年。それはそれは長くお務めですね」

 

「えぇ、お世話になってます」

 

「貴女をホグワーツに招いたのはダンブルドア先生でしたわね」

 

「そうですわ」

 

「ふーん」

 

 トレローニーは不愛想に答えるが、アンブリッジはそれを楽しんでいるのか、上機嫌だった。

 

「そう言えば、貴方はあの有名な予言者。『カッサンドラ・トレローニー』の家系でしたわね」

 

「えぇ、私は曾々孫に当たります」

 

「そう。なら、貴女も相当優秀な予言者なのですね。でしたら一つ私に予言をしては貰えないかしら?」

 

「え? 予言ですか…今?」

 

「そう。今」

 

 トレローニーは嫌そうな顔をし、アンブリッジは笑みをこぼす。

 

「出来ないと言うならいいですよ。それなら、それなりの評価という事になりますから」

 

「ま、待って! 予言と言うのは、そんな簡単に見れる物じゃ」

 

「じゃあ、結構」

 

 アンブリッジは立ち上がると、扉に手を掛け、振り返る。

 

「私から一つ予言してあげましょ。トレローニー先生」

 

「な、なにを…」

 

「貴女。荷物をまとめておいた方が良いわよ。こんなシェリー酒臭い所に居たらダメになるわ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、アンブリッジは教室を後にした。

 

 

  味を占めたのか、アンブリッジは他の授業にも顔を出しては、質問をし、時折難癖をつけては教師の査察を行っている。

 

 月日は過ぎ、10月に入り、ホグズミード村へ行くことが許可された。

 

 今年はホグズミード村へ行く生徒は例年より多いらしい。

 

「皆、アンブリッジから逃げたいのね」

 

「まぁ、あんな奴がいるホグワーツなんて居心地悪いよ」

 

 ホグズミード村から戻ったハリー達は談話室のソファーに腰かけながらアンブリッジの陰口を言っている。

 

「そうだ、ねぇ2人とも。ちょっといいかしら?」

 

「何に御用でしょう」

 

 私達はハーマイオニーに呼ばれ、近くの椅子に腰かける。

 

 すると、ハリーとロンもこちらに視線を向ける。

 

「あのね、私達考えたの…」

 

 

 

 ハーマイオニーの言葉を継ぐ様に頷いたハリーが口を開いた。

 

 

 

「闇の魔術に対する防衛術の自習をしようって、このままじゃ僕達は魔法省の思惑通り無能の集団になっちゃう。自分たちの身を守る力を付けなきゃって」

 

「戦闘訓練ですか。自衛能力の向上が望めます」

 

「だろ」

 

「そこで、2人にはお願いがあるの」

 

「なんでしょう?」

 

 3人は顔を見合わせ、同時に頷く。

 

「君達にも参加して欲しいんだ」

 

「我々にですか?」

 

「うん」

 

「問題ありません」

 

「よかったぁ…」

 

 3人は安堵の表情を浮かべる。

 

「ありがとう! さっそくメンバーを集めるわ!」

 

 

 

 ハーマイオニー達はそう言うと、走る様にして談話室から出ていった。

 

  数日後

 

 再び、ホグズミード村行きが許可された日がやって来た。

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

 

 ハーマイオニーはバツが悪そうな表情をしている。

 

「どうかしましたか?」

 

「今日なんだけど、この後ホグワーツ村にある『ホッグズ・ヘッド』で決起集会をやる予定が有ってね」

 

「そこに参加して欲しいんだ」

 

 ハリーとロンがハーマイオニーの背後から現れる。

 

「構いません」

 

「良かった、じゃあこれを使って」

 

 ハリーはそう言うと透明マントを取り出した。

 

「僕はこれを使ってホグズミード村に行っていたんだ。今は許可証が有るからいいけど、君達は許可書無いだろ?」

 

「ありがとうございます」

 

「ですが問題ありません」

 

 私達はステルスシステムを起動し、透明状態になる。

 

「これならば、目撃される心配は有りません」

 

「やっぱり…君達を誘って正解だったよ…」

 

 ハリーはどこか呆れた様に呟く。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、談話室の扉を開けた。

 

 ホグワーツを抜け、ホグズミード村に到着する。

 

 町自体は寂れており、活気などを感じられない。しかし魔法使いは多く、賑わっている様だ。

 

「ここだわ」

 

 私達は『ホッグズ・ヘッド』と言う寂れたバーの扉を開き内部に入る。

 

 

 

 

 しばらくすると、次々と人が集まり始め、ネビルや、セドリック、ウィーズリー家の双子など総勢で25人ほどのメンバーが集まった。

 

 

「セドリック! 来てくれたんだ!」

 

「あぁ、僕も力になりたくてね」

 

「この前まで入院していたって聞いていたけど、大丈夫なの?」

 

 ハリーはセドリックを心配そうに見据える。

 

「まだ、本調子じゃないがね。今年はクィディッチは残念ながらお休みだ。でも君達の会合には参加させてくれないか?」

 

「もちろんさ!」

 

 ハリーは嬉しそうに大きく頷く。

 

「準備が出来たわ」

 

 多くのメンバーは狭く埃っぽいバーの中で椅子に座りながら、ハーマイオニー達の演説にも似た説明を聞いている。

 

「とにかく、このままでは私達はアンブリッジや魔法省の思うがままになってしまうわ」

 

『まさに無能な集団だね』

 

『本当よ…』

 

「そこで、私達は自分達で身を守る必要があるのよ」

 

 ハーマイオニーの説明が終わると、小さくな拍手が響く。

 

「さて、じゃあ、参加する人はここにサインして」

 

 ハーマイオニーは1枚の羊皮紙を取り出す。

 

 

『ちょっといいかい?』

 

『何よ?』

 

「ちょっとまってて」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、羊皮紙を仕舞う。

 

『それは呪いが掛けられているだろ?』

 

『よく分かったわね』

 

『この前必死に用意してたからね』

 

『そうよ、こういうのは裏切り者が怖いのよ。これを使えば、裏切り者は一瞬で分かるわ。なんて言ったって裏切り者のレッテルが文字通り貼られるんだもの』

『なるほどねぇ…あまりいい判断とは言えないね』

 

『どう言う事よ』

 

『もし仮に、裏切り者が出たとしよう。そして、あの蛙女に密告したとする』

 

『うん』

 

『その場合、どうなるんだ?』

 

『裏切り者って言う傷が浮かび上がるわ』

 

『はぁ…そんなことしたら、裏切り者の発言に信憑性が出るだろ』

 

『え? どういう事?』

 

『仮にだ、街中でダイナマイトで自爆するって騒いでいる男が居たとする』

 

『えぇ』

 

『そいつをどう思う?』

 

『頭がおかしいんじゃないかって思うわ』

 

『そうだな。でもその男が体中にダイナマイトを巻いていたらどう思う?』

 

『信憑性が増すわね』

 

『つまりはそう言う事だ』

 

『あぁー…』

 

 ハーマイオニーは納得したようだ。

 

「じゃあ、皆。ここに名前書いて」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、通常の羊皮紙と羽ペンを取り出し、参加者全員の署名を集める。

 

『とりあえず、裏切り者に関しては、後日考えましょう』

 

『磔の呪文でも使ったら?』

 

『それも…ありね』

 

 全員のサインを受け取ったハーマイオニーは鞄に羊皮紙を仕舞う。

 

「さて、まずは方向性を決めよう」

 

「でも、方向性って言ったって、どうするんだ?」

 

「うーん…」

 

 ロンの質問に、ハリーは首を傾げる。

 

「君達、何か意見有る?」

 

 ハリーは行き詰まった表情を向ける。

 

「現状、敵対勢力の戦力が明らかでない状況下では、自衛力の強化が最優先事項かと思われます」

 

「自衛力か…具体的には?」

 

「こちらの戦力が明らかでないので的確な判断はできません。1度個々の使用可能な魔法や、命中精度などの戦闘能力を見てから判断する方がよろしいかと」

 

「なるほどね…まぁ実力が分からなくちゃどうにもならないわね」

 

 ハーマイオニーが言うと、他の生徒も頷く。

 

「所で…何処で練習する? ここじゃできないよ」

 

 ハリーがそう言うとハーマイオニーは唖然とした表情を浮かべている。

 

『そこまで、考えが回って無いのかい?』

 

『それは…』

 

『しょうがないな…一つ、いい所があるよ』

 

『それはどこ?』

 

『必要の部屋さ』

 

『必要の部屋?』

 

『あぁ、簡単に言えば欲しい物が現れる部屋って所かな』

 

『凄いわね、どこにあるの?』

 

『ホグワーツの8階だったかな』

 

『それ良いわね』

 

「ハーマイオニー?」

 

 通信中のハーマイオニーに疑問を持ったのか、ハリーが声を掛ける。

 

「え? 何?」

 

「何じゃないよ。ボーっとして。緊張感ないよ」

 

「ごめんなさい。でもいい場所を思い出したのよ」

 

「え? それ本当かい!」

 

 ロンが嬉々としてハーマイオニーに駆け寄る。

 

「必要の部屋ね」

 

「何処にあるんだそれは?」

 

「あっ、僕も知ってるよ」

 

 ネビルが自信なさげに手を上げる。

 

「ホグワーツの8階の所だろ?」

 

「その通りよ。欲しい物が現れる部屋なの」

 

『説明合ってる?』

 

『おおよそはね』

 

「そんな便利な部屋があったのか」

 

「じゃあ、そこに決まりだね」

 

「えぇ、じゃあ最初の集合の日は日時が決まったら報告するわね」

 

 

 

 ハーマイオニーがそう言い、皆が頷いている。

 

 

 

 こうして、決起集会は無事に幕を閉じた。

 




2人が参戦した事により、DAが烏合の衆ではなくなってしまう!


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戦闘訓練

DAは所詮DAです


   数日後

 

 談話室の掲示板に不可解な張り紙が張り出されていた。

 

 

 

 そこには、ホグワーツ内での学生によって作られた組織は1度総て解散となるという内容が書かれていた。

 

 

 

 そして、再び組織したい場合は、高等審問官であるアンブリッジに届け出する必要があるようだ。なお、未登録の活動が発覚した場合は退学処分にされるようだ。

 

「どう言う事かしら…」

 

「まさか、早速告げ口した人が出たとか?」

 

「それは無いと信じたいわ」

 

「まぁ…そうだね。所でこれって届けなきゃダメかな?」

 

「どうだろう…バレなきゃいいと思うけど」

 

「でも、違反者は退学処分って書いてあるわよ」

 

「うーん…どうしたもんかな…」

 

「多少のリスクはしょうがないよ。バレないように上手くやる方法を考えなきゃ」

 

 

 

 ハリーは何か決意したように、頷いている。 

 

 会合当日。

 

 

 私達は必要の部屋に集まっていた。

 

 一種の空間拡張魔法や、検知不可能拡大呪文の応用だと思われる。

 

 前回集まったメンバーが全員揃った事を確認したハーマイオニーは必要の部屋の扉に鍵をかけている。

 

 

 

「みんな集まっているわね。とりあえず、この会の名前はダンブルドア軍団。略して『DA』にしようと思うわ」

 

『納得できないな』

 

『ハリーの意見よ。仕方ないわ』

 

『だとしても、ネーミングセンスが無さ過ぎるだろ』

 

『名前の特質上、責任の大半がダンブルドアに向かうかと思われます』

 

『訂正しよう。実に良い名前じゃないか。盛大に暴れて、盛大に問題を起してくれ』

 

『はぁ…貴方って本当にダンブルドア先生が嫌いなのね』

 

『その通りさ』

 

「名前は決まったは良いけど、まずは何をするの?」

 

 ロンが手を上げる。

 

「そうね…どうしましょう?」

 

 ハリーとハーマイオニーはこちらに視線を向ける。

 

「当初の予定通り、個々の戦闘能力を図らせていただきます」

 

 私は死喰い人のホログラム映像を投影する。

 

「え!」

 

「死喰い人!」

 

「なんでこんな所に!」

 

 多くの生徒が立ち上がり、杖を構える。

 

「こちらのホログラムを仮想敵とし、一通りの戦闘を行ってください」

 

「戦闘って言ったって…」

 

「こちらから攻撃する事は有りませんので、ご安心を」

 

「えっと…じゃあ」

 

 ハリーがホログラムに対面すると、杖を構える。

 

「エクスペリアームス!」

 

 呪文と主に、杖の先端から赤い閃光が走り、ホログラムに直撃する。

 

「えっと…どうかな?」

 

「問題ありません」

 

「そのまま、体力の続く限り続けてください」

 

「えっと…わかったよ」

 

 その後、約5分間、ハリーは様々な魔法をホログラムに向け放つ。

 

 しかし、命中精度は6割程度で、無駄な動きも多い。

 

「はぁ…はぁ…もう限界…」

 

「終了でよろしいですか」

 

「うん」

 

「総合評価はDランクです」

 

「D! 嘘だろ!」

 

「命中精度の低さや、不必要な行動、基礎体力の少なさ等から判断しました」

 

「では、次の方どうぞ」

 

 その後、他のメンバーもホログラムを相手取り戦闘を行うが、ハリーと同レベルか、それ以下だった。

 

 そんな中、ハーマイオニーの順番がやって来た。

 

「それでは、どうぞ」

 

「えぇ」

 

 ハーマイオニーは緊張しているのか、心拍数が上昇する。

 

「ふぅ…」

 

 深呼吸すると、ナノマシンの効果もあってか、心拍数は平常値へと下がる。

 

「じゃあ、行くわ」

 

 一息置いた後、ハーマイオニーが模擬戦を開始する。

 ナノマシンの補助により、魔法の命中精度や、基礎体力などが強化されている為、ハーマイオニーの評価は他のメンバーよりも高い結果となった。

 

「総合評価B」

 

「まずまずと言ったところでしょうか」

 

「ふぅ…疲れたわ…」

 

 ハーマイオニーは杖を仕舞うと、他のメンバーの元へと移動する。

 

「個々の戦闘能力を精査した結果、今後の強化方針を提案します」

 

「第1目標として基礎体力の強化。第2目標として、連携力の強化をお勧めします」

 

「体力強化と連携? なんで?」

 

 ハリーが疑問の声を上げる。

 

「基礎体力を強化する事により、戦闘継続能力の向上にも繋がり、生存確率を高める事にも繋がります」

 

「その他にも、体力に余裕があれば、思考能力にもゆとりが生まれます」

 

「ちなみに、それってどうやって強化するの?」

 

「基本的には、ランニング等の有酸素運動が有効かと思われます」

 

「そんなのが必要なのか? もっと強力な魔法を覚えたりする方が重要だと思うけど」

 

「どれほど強力な魔法であっても、使用者の体力が続かなくては意味が有りません」

 

「1発放っただけで戦闘不能に陥るなど以ての外です」

 

「うぅ…確かにそうだな。でも連携ってなに?」

 

「恐らく敵対する勢力はこちらより練度が上だと想定されます」

 

「まぁそうだね」

 

「その為、1対1での戦闘は極力避け常に人数的有利を取れるのが理想です。最低でも2人1組で行動する事が必要かと」

 

「力の差を数でカバーするって事?」

 

「その通りです」

 

「なるほど。確かにそうだね」

 

「そうね。とりあえず…どうする?」

 

「うーん…ランニングでもする?」

 

 ロンとハリーは互いに溜息を吐く。

 

「ちなみに、覚えておいた方が良い魔法とかってある?」

 

 ロンが疑問を口にすると、他の生徒も興味深そうにこちらに顔を向ける。

 

「敵性体との戦闘に陥った場合、相手を無力化する事がこちらの生存率を高める点において重要になります」

 

「つまり、相手を気絶させればいいの?」

 

「気絶魔法は反対呪文等で無力化される恐れがあります」

 

「まぁ、そうだね」

 

「そこで、死の呪文の習得を提案します」

 

「なっ!」

 

 デルフィの提案にその場の全員が息を呑む。

 

「何を言っているのか分かっているのか!」

 

「相手を無力化させる点においては、反対呪文等が存在しない死の呪文が最も効果的です」

 

 デルフィは淡々と答える。

 

「でも、それを使ったらアズカバン行きだぞ!」

 

「身を守る為に必要な行為ならば仕方ありません」

 

「でも! 死の呪文を使う何て…死喰い人じゃないんだから…」

 

「何か問題でもあるのでしょうか?」

 

「え?」

 

「敵はこちらに殺意を持って殺すつもりで行動します。敵を気絶など不殺による無力化をさせる事が出来るのは、こちらの戦闘能力が相手よりも数段上の場合のみです」

 

「でも…」

 

 ハリーは俯き黙り込む。

 

 その瞬間、チャイムが鳴り響き休み時間が終了する。

 

「終了時間です」

 

「あぁ、でも僕も、皆も死の呪文は使わないと思うよ」

 

「了解です。ですが、身の安全の為今一度ご検討を」

 

 ハーマイオニーが部屋の鍵を開け、全員に次の会合の日時を教え、今回の会合は終了した。

 

  翌日、大広間で朝食を取っていると、マクゴナガルが接近してくる。

 

「ミス・イーグリット。よろしいですか?」

 

「御用でしょうか?」

 

「校長先生がお呼びです」

 

「了解」

 

「向かいます」

 

 私達は、マクゴナガルの後を付いて行き、校長室へと侵入する。

 

「良く来たの。取り敢えず座るが良い」

 

 私達はソファーに腰かけ、校長席に座るダンブルドアに見下ろされる体制になる。

 

「さて、お主達を呼んだのは他でも無い。不死鳥の騎士団員としての任務を与える」

 

「任務ですか」

 

「あぁそうじゃよ」

 

 ダンブルドア腕を組み直すと、こちらを見据える。

 

「現在。ハリー達はアンブリッジの授業に不満を持っている様じゃな」

 

「その通りです」

 

「ご存知ですかならば、なぜ対策をしないのですか?」

 

「まぁ、子供には分からぬ様々な事情があるのじゃよ」

 

「そうですか」

 

「ワシの見立てでは、お主達は会合の様な物を開いているのではないかの?」

 

「その通りです」

 

「やはりのぉ。確か申し出の無い活動は禁止だったはずじゃがな」

 

「非公式とは言え、自衛力の強化は必須かと思われます」

 

「なぁに、ワシも別段咎めるつもりは無い。ただアンブリッジに見つからぬようになと」

 

「忠告のおつもりですか?」

 

「老婆心からじゃよ。して、お主達の見立てではどうじゃ」

 

「戦力、自衛力共に最低ランクです」

 

「今後、本格的な強化を行うつもりです」

 

「なるほど…のぉ」

 

 ダンブルドアは数回顎髭を撫でる。

 

「分かった。ハリー達を頼んだぞ」

 

「了解」

 

「この作戦は、不死鳥の騎士団員としての任務と捉えてよろしいですか」

 

「あぁ、そうじゃよ」

 

 ダンブルドアは数回頷く。

 

「了解です。発生した経費に関しては、後日詳細を送らせていただきます」

 

「守銭奴じゃのぉ…」

 

「それでは」

 

「失礼します」

 

 私達は、こちらを睨み付けるダンブルドアを尻目に、校長室を後にする。

 

 

 数日後、再び会合を行うため、必要の部屋にメンバーが集合する。

 

「この前の話しだけど…」

 

 ハリーが神妙な面持ちで口を開く。

 

「やっぱり、僕達は死の呪文は使えないよ」

 

「そうですか」

 

「うん、その分他の呪文を勉強するよ」

 

「そうですか。では今回は2対2で模擬戦を行ってください」

 

「わかったよ。ロン、僕と――」

 

「組むのはランダムの方が良いかと思われます」

 

「ん? なんで?」

 

「そうだよ。相方は固定の方が良いだろ?」

 

 ハリーとロンは同時に頷いている。

 

「確かにその方が連携が取れるとは思いますが、戦場では常に決まったメンバーで行動するとは限りません。またパートナーが既に戦死、もしくは戦闘不能に陥っているという事態も想定されます」

 

「そ…それは…」

 

 死と言う言葉を聞いて、その場の全員に緊張が走る。

 

「その為、誰と組んでも連携が取れる様に訓練しておくことが重要です」

 

「わかったよ」

 

「では、訓練開始です」

 

 その後、メンバーはランダムでチームを組み、2対2の模擬戦を行う。

 

 ある程度観察し、魔法使い特有の問題点を発見する。

 

「どう思う?」

 

 タオルで汗を拭いながらハーマイオニーが隣に座り込む。

 

 先程まで、ルーナと組み訓練を行っていた様だ。

 

「戦力的にはあまり期待できないでしょう」

 

「はっきり言うわね」

 

「訓練を開始してまだ間もないので仕方ないかと思います」

 

「まぁ、そうよね」

 

「そして、いくつか問題点を発見しました」

 

「そうなの?」

 

「はい、後ほど全員の前で提案させていただきます」

 

「そうね」

 

 十数分後。

 

 訓練もひと段落し、メンバー全員がその場に座り込み、肩で息をしている。

 

「ねぇ、僕達どんな感じだった?」

 

 ハリーが組んでいたロンと共に私達の前にやってくる。

 

「やはり、訓練を始めたばかりという事もあり、D評価です」

 

「はぁ…Dか…まぁ、Tじゃないだけいいか」

 

「Tってなんだよ?」

 

「トロールのTさ。グラップとゴイルはいつもT判定らしい」

 

「ふ、アイツ等らしい」

 

 2人は他愛もない話に花を咲かせる。

 

「ところで、改善点とかあるかな?」

 

「いくつか提案があります」

 

 他のメンバーも周囲に集まり、耳を傾ける。

 

「根本的な問題ですが、魔法使いの主兵装は杖1本だけです」

 

「まぁ、そうだね」

 

「予備の杖を用意する人も居るけど」

 

「でも、常に持ち歩くのは1本だけだと思うわ。皆もそう?」

 

 他のメンバーもハーマイオニーの意見に賛同している。

 

「魔法使い同士での戦いでは、武装解除呪文などで杖を奪い取った時点で勝敗が決します」

 

「そうだね」

 

「その為、戦力的不利を招くことになります」

 

「杖を奪われたら何もできなくなるね」

 

「じゃあどうするの? 予備の杖を持ち歩く?」

 

 ロンは自身の杖を指先で遊ばせながら首を傾げる。

 

「いえ、杖以外の武器を装備する事をお勧めします」

 

「え?」

 

「杖以外の武器?」

 

「はい、こちらで用意し、後日支給します」

 

「ん?」

 

 その場の全員は理解が及んでいないのか、首を傾げる。

 

 それから少し間を置き、チャイムが鳴り解散する。

 

  数日後、再び会合が開かれた。

 

 メンバー全員の集合を確認する。

 

「今回は、全員に杖に変わる武器を支給します」

 

 私がそう言うと、デルフィがテーブルの上に数種類のハンドガンを人数分並べる。

 

 数日前、いくらか金を積み、車を調達したように、複数の銃と、弾丸を入手した。

 

「なにこれ?」

 

 ネビルが近寄り、銃に手を掛ける。

 

「僕知ってるよ。確か鉄砲って言ったかな? マグルが使う鉄の棒でパパが持ち込み禁止品にしてるって言ってた」

 

 ロンもネビル同様に銃を手に取り玩具の様に扱っている。

 

「ねぇ…これって…」

 

「銃弾は抜いてあります」

 

「そうだったとしても…」

 

 ハーマイオニーを始めとしたマグル出身者は皆一様に顔を歪ませている。

 

「ねぇ、これってどうやって使うの?」

 

 ネビルは手にした銃をこちらに手渡す。

 

「銃弾を装填し、スライドさせ、照準を定め、引き金を引きます」

 

 一通りの動作の後、私は安全な場所に向け1発銃弾を発砲する。

 

「うぉ!」

 

「凄い音だ!」

 

 マグル出身者ではないメンバーは音に驚きつつも、テンションが上がっており、対するマグル出身者は恐慌状態に陥っている。

 

「ハーマイオニー? 何をそんなに怖がってるの? ちょっと音の出る花火みたいなもんでしょ?」

 

「花火? そんなんじゃ無いわよ!」

 

 憤怒したハーマイオニーに驚いたのかロンは肩をビクつかせた。

 

「ど、どうしてそんなに怒ってるのさ?」

 

「これはね、玩具なんかじゃないの。人を傷つける道具で、最悪殺す事だってできるわ」

 

「そうなの? 大きな音で鉄の弾を飛ばすだけでしょ?」

 

「そうだけど、危険なのよ」

 

「そんなの、魔法で防げるよ」

 

「はぁ…もう良いわ」

 

 ハーマイオニーは呆れた様に首を左右に振る。

 

「先程ハーマイオニーが仰ったように、これは玩具ではなく、殺傷能力を持った武器です」

 

「これをどうするのさ?」

 

 ハリーはテーブルの上の銃を慎重に手に取る。

 

「杖を失った際のサブウェポンとしての使用を提案します」

 

「また、魔法攻撃に織り交ぜ、相手の意表を付く事も有効かと」

 

「なるほど…でも、死喰い人に銃が効くかな?」

 

「銃弾を防ぐにしても生身の人間ならば防御呪文を使用するはずです。その際一瞬とは言え隙が生じるはずです。その隙に攻撃や撤退行動をする事で、生存率を高められるかと思われます」

 

「まぁ、そういう使いからなら…しょうがないわね」

 

 ハーマイオニーはテーブルの上から1丁手に取る。

 

 それに倣い、他のメンバーも銃を手に取る。

 

「今回は、銃の使い方と射撃訓練を行います。実弾なので取り扱いには十分に気を付けてください。それでは支給します」

 

 私達は、銃の使い方を説明した後、マガジンを配布する。

 

「的はいつも通り、ホログラムを用意します。それでは訓練開始です」

 

 開始と同時に、複数の銃声が鳴り響く。

 

「すっごい音!」

 

「爆竹みたいだ!」

 

「衝撃凄いけど…面白いじゃないか!」

 

 銃に慣れ親しんでいないのか、マグル出身者ではないメンバーは玩具の様に扱っている。

 

「これで合ってる?」

 

 銃を構えたハーマイオニーが声を上げる。

 

「問題ありません。反動が有るのでお気を付けて」

 

「わかったわ」

 

『照準の補正と弾道計算は僕がナノマシンを通して行おう』

 

『助かるわ』

 

 ハーマイオニーが引き金を引くと、銃声が響き渡り、ホログラムの脳天に命中する。

 

「お見事です」

 

『ありゃ即死だね』

 

『集中して狙っていたから仕方ないでしょ』

 

「足や腕を狙う事で殺傷せずに相手の機動力や攻撃力を奪う事が可能です」

 

「ありがとうエイダ。参考にするわ」

 

「うぉ! すげぇ!」

 

『まるで野蛮人だな』

 

『ロンね。まったく玩具か何かと勘違いしているのかしら』

 

「ちょっと! 危ないから振り回すなよ」

 

「いいだろ! ネビルこっち見ろよ」

 

 ロンは悪戯に銃口をネビルに向けようとしている。

 

「危険です」

 

 デルフィはそう言うと、ウアスロッドでロンの手を軽く叩き銃を取り上げる。

 

「いってぇ! なにするんだよ!」

 

「危険ですので味方に銃口を向けないでください」

 

「撃ってないからいいだろ!」

 

「暴発の恐れもあります」

 

「だからって、叩く事は無いだろ」

 

「貴方が彼を殺そうとしたのを阻止したまでです」

 

「そ…それは…」

 

「先程も申し上げた通り、銃は武器では有って玩具では有りません。理解していただけましたか」

 

「あぁ、わかったよ」

 

 ロンは手を擦りながら銃を拾い上げる。

 

「今回は実弾を使用している為、当たりどころによっては死亡する可能性があります。お気を付けください」

 

「はいはい」

 

 手を擦りながらロンは訓練を再開した。

 

『ありゃ酷いね』

 

『やっぱり、銃の怖さを知らないのかしら』

 

『まぁ、僕もこの体になるまでは銃なんてマグルの無駄な抵抗だとばかり思って居たさ』

 

『そうなの?』

 

『あぁ、まぁこうして戦闘に組み込めば絶大な威力になるってのは思いつかなかったけどね』

 

『でも魔法の方が良いわ。相手を殺さずに済むもの』

 

『それは間違いさ。銃であれ、魔法であれ殺すのは人の意思さ』

 

『人の…意思…』

 

『そうさ、その点だけは自覚しておいた方が良い。元人間からのアドバイスさ』

 

『わかったわ』

 

 ハーマイオニーは少し心拍数を上昇させながらも、射撃開始に没頭していった。

 

 

 数時間が経ち、全員が銃に慣れた事、チャイムが鳴る。

 

「それでは、銃を回収します」

 

「え? どうして?」

 

「校内での使用を避ける為です」

 

「ちぇ…マルフォイの奴を撃ってやろうと思ったのに」

 

 ロンは小言を言いながらも銃を返却する。

 

 全員の銃を回収後、ハーマイオニーが再び次回の会合の案内を行い、今回の会合は終了した。

 




ハーマイオニーは既に不死鳥の騎士団員よりも数段強いレベルです。

銃火器を利用する事で魔法使いの戦闘はかなり有利になると思うんですよね


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クィディッチ

クィディッチが出て来る回です。




 

   数週間が過ぎ、クィディッチの試合シーズンになった。

 

 今回の試合はグリフィンドールVSスリザリン。

 

 

 クィディッチの試合がる為か、会合の回数が減少してきている。

 

 このままでは戦力の低下を招く可能性がある。

 

 しかし、メンバーの興味は、クィディッチに集中している様だ。

 

 

 試合当日。

 

 

 大広間で多くの生徒が朝食を取る中、顔を真っ青にしたロンが、ハリーの隣に座っている。

 

「ロン…大丈夫かい?」

 

「大丈夫じゃないよ…死んじゃうよ…と言うか死にたい…」

 

「何を言って居るんだ! ロン大丈夫だって。君は選抜で選ばれたキーパーじゃないか!」

 

 

 

「あぁ…だけど…きっと僕のせいでチームは負けるんだ」

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

 ロンは何処か虚ろな表情で虚空を眺めていた。

 

「おや? おやおや? これはこれは、グリフィンドールの新キーパーのウィーズリー君じゃないか! いや、ディーゼル君だったか?」

 

「なんだよ! マルフォイ! 何の用だ!」

 

 ロンは不機嫌そうに台を叩く。

 

「まぁまぁ、そんなに、カリカリするなって。それより見ろよこのバッジ。君の為に作ったんだ。1個上げよう」

 

「なんだこれ…」

 

 ロンは受け取ったバッジを手に取り眺める。

 

「『ウィーズリーこそ我が王道』…どういう意味だよ?」

 

「君の事を尊敬しているんだよ。心からね」

 

「え? そうなのか?」

 

「そうさ、だって君ほどの王道ならばゴールポストにゴールを決めるのも容易いだろ」

 

 マルフォイは笑いを堪えながら、ロンの肩を叩く。

 

「それじゃあな」

 

 マルフォイはそう言うと、入り口の方へと移動していった。

 

 

  数時間後、クィディッチが開催される。

 

 しかし、私達はハーマイオニーと共に自室に居る。

 

「クィディッチが始まった様だが、見に行かなくて良いのかい?」

 

「正直なところ、クィディッチにまったくと言って良いほど興味がないのよ。なに? もしかして、見たいの?」

 

「まさか。今なら言えるが、あのルール絶対おかしいだろ」

 

「スニッチだっけ? あれを取ったら一発逆転って辺りが…理解できないわ」

 

「一発逆転要素って奴だろうね。昔は小鳥を使っていたそうだよ」

 

「そんなの動物虐待じゃない」

 

「昔の話しさ」

 

「はぁ…野蛮ね…」

 

 ハーマイオニーは羊皮紙を前に、会合の予定を練っている。

 

 試合終了までは時間があるので、私達も、調達した銃の手入れを行う。

 

「バラバラにして弄ってるけど、それって、危なくないの?」

 

「現在は装弾されていないので問題ありません」

 

「そうなの。それにしても細かいわね」

 

 1つのパーツを手に取ったハーマイオニーは手に平で遊ばせる。

 

 

「これでも少ない方です」

 

 

「本当? なんかすごいわね」

 

 ハーマイオニーは恐る恐る、パーツを元の位置へと戻した。

 

 私はパーツを組み立て、整備を終わらせる。

 

「それで完成?」

 

「後は装弾するだけです」

 

「へぇ…」

 

 ハーマイオニーは小型のハンドガンを手に取り、眺めるとテーブルの上へと置く。

 

「これなんて小さくていいわね」

 

「女性にも扱いやすいサイズです」

 

「良いわね。私専用にしようかしら」

 

「ご希望であれば専用にする為の処理しますがよろしいですか?」

 

「私専用に? 良いの?」

 

「問題ありません」

 

 ハーマイオニーから銃を受け取ると、銃にロックを掛ける。

 

「処理終了です」

 

「何が変わったの?」

 

「現在、この銃には貴女のナノマシン情報が登録されています」

 

「未登録者では引き金は引けません」

 

「そうなの。ナノマシンはやっぱり、便利ね。他にも何かないかしら?」

 

「複数種類のグレネードをお渡しします」

 

「暴発を防ぐ為、常時ロック状態に設定しています」

 

「解除の権限はトムに一任します」

 

「まったく、また僕の仕事を増やすのか」

 

「良いでしょ、他にやる事なんて無いんだから」

 

「まったく…最近の君達…僕の事を雑に扱いすぎじゃないか?」

 

「良いじゃない、嫌なの?」

 

「嫌って訳じゃ無いさ。まぁ、ちゃんとするさ」

 

「頼んだわよ。後、危ない時はちゃんと守ってね」

 

「分かったよ。君に死なれちゃ困るからね」

 

「へぇ。案外心配してくれているのね」

 

「あぁ、この体じゃまともに移動もできないからな」

 

「あら、そう」

 

 ハーマイオニーは銃の感触を確かめた後、検知不可能拡大呪文が施されている鞄に銃を仕舞う。

 

  数時間後

 

 クィディッチの試合が終了したのか、談話室が賑やかになる。

 

 談話室へと行くと、そこには頭を抱えたハリーとそれを慰める生徒達の姿があった。

 

「何があったの?」

 

「ハーマイオニー! どう言う事だよ! 君! クィディッチの試合を見に来てなかったのか? 僕の初陣だぞ! なんで見てくれなかったんだよ!」

 

「ごめんなさい。興味が無かったの。それで、ハリーはどうかしたの?」

 

「興味が無かったって…そんなの! 酷いじゃないか!」

 

「だから謝ってるでしょ。それより何があったの?」

 

「もうっ!」

 

 ロンは不機嫌そうに溜息を吐き、ゆっくりと深呼吸を行う。

 

「実は、さっきの試合で、マルフォイを…ね」

 

「まさか、半殺しにでもしたの?」

 

「まぁ…そんなところ…」

 

「はぁ…まったく…呆れたわ…」

 

「だって…しょうがないだろ! あいつが馬鹿にするような事を言うから…」

 

「だからって半殺しにしていい訳じゃ無いわ」

 

「死んでないんだからいいだろ! それにスリザリンの連中が僕を馬鹿にするような歌まで…」

 

「歌?」

 

「そうさ、『ウィーズリーは守れない、万に1つも守れない。だから歌うぞ、スリザリン、ウィーズリーこそ我が王者。ウィーズリーの生まれは豚小屋だ、いつでもクアッフルを見逃した。おかげで我らは大勝利、ウィーズリーこそ我が王者』って…バカにするのも大概にしろって話だよな!」

 

『ハハハッ。こりゃまた傑作だな』

 

『そう言う所は上手いのよねスリザリンの人達って』

 

『そりゃ狡猾だからね』

 

 ロンは不貞腐れる様にソファーに座り込む。

 

「それに、マルフォイを半殺しにしたことで、アンブリッジからハリーと兄貴達は終身クィディッチ禁止命令を出されちゃうし…」

 

「それで、あんなに落ち込んでいるのね」

 

 ハリーは暖炉の前で溜息を吐きながら、小声で呟いている。

 

「僕のせいだ…僕があんな奴を…くそっ…」

 

「ハリーのせいじゃないぜ、俺達を馬鹿にしたあいつが悪いんだ」

 

『実際、半殺し何てしたら退学処分だろうがな』

 

『そうよね、退学にならなくて良かったと思うべきだわ』

 

『大方、裏であの老害が駄々でも捏ねたんだろ』

 

『容易に想像できるのが悔しいわ』

 

 クィディッチメンバーがハリーを慰めて居る時、談話室の扉が開かれ、マクゴナガルが入室する。

 

「先生! ハリーが悪いんじゃないんです!」

 

「今はその話ではありませんよ。ウィーズリー」

 

「え?」

 

ロンは首を傾げる。

 

「ミス・イーグリット。お二人にお話があります。よろしいですね」

 

「了解です」

 

「失礼。席を外します」

 

「分かったわ」

 

 私達は、談話室を後にし、マクゴナガルに付いて行く。

 

  しばらく歩くと、校長室へと案内される。

 

 校長室にはハグリッドの姿があった。

 

「おぉ、おめぇさん達か久しぶりだな」

 

「お久しぶりです」

 

「お元気そうで何よりです」

 

「はははっ、体中傷だらけだが、元気だ」

 

「して、ハグリッド。首尾はどうじゃ?」

 

「おっと、いけねぇ。はいですだ」

 

 ハグリッドは大笑いしながら、ダンブルドアに向き合うと、報告を始めた。

 

 ハグリッドはダンブルドアの命令により、巨人族との交渉を行っていた様だ。

 

「えっと…結果から言わせてもらいますと…あまり上手い事は行ってないです。なんでも既に死喰い人が巨人族と接触していて、いくらか賄賂なりなんなりを受け取っているみたいで…」

 

「そうか、しかし、一体どこから資金が…」

 

「資金源までは流石に…でも、何人かには話は聞いて貰えました」

 

「そうか、ご苦労じゃった」

 

 ハグリッドはダンブルドアにゆっくりと頭を下げる。

 

「して、お主達の会合の方は首尾はどうじゃ?」

 

「最低限の自衛力を身に付ける為に現在強化中です」

 

「そうか」

 

「こちらが、強化に際して発生した経費の詳細です」

 

 私は領収証をダンブルドアに手渡す。

 

「う…こんなに掛ったのか…それに買った物はマグルの武器じゃと?」

 

「え?」

 

 マクゴナガルがこちらに視線を向ける。

 

「マグルの武器なんて何に使うのですか?」

 

「死喰い人と敵対した際にサブウェポンとして使用するつもりです」

 

「メンバー全員に必要な時は支給します」

 

「一体、どんな武器なのです? 第一武器の持ち込みは禁止されている筈です」

 

 マクゴナガルが疑問を上げたので、私は銃を一丁取り出す。

 

「これは?」

 

「銃と言う物じゃな。禁制品じゃったな。こんな物‌一体何の役に立つと言うのじゃ?」

 

 ダンブルドアは詰まらなそうに杖先で銃身を突く。

 

「魔法使いの戦闘と言うのは、杖に依存しているのが実情です」

 

「杖があれば問題ないからのぉ。魔法は万能ではないが、マグルの武器よりは万能じゃと思うぞ」

 

「しかし、杖が奪われた場合は無防備になります」

 

「その時点で負けじゃ。相手もそれ以上の事はせんじゃろう」

 

「その時、サブウェポンとして銃を装備して居れば、銃撃により、相手を無力化、もしくは隙を作る事が出来ます」

 

「その隙に撤退及び生存率が向上すると思われます」

 

「言って居る事は分かるが、どうも腑に落ちぬのぉ」

 

「何故ですか?」

 

「魔法使いの戦いは、決闘の様な物じゃ。つまり相手の杖を奪った時点で勝敗が決まる。お主達のやっている事はその伝統を無視し、決闘を侮辱している」

 

「「何の問題があるのでしょうか?」」

 

 私達は同時に言葉を発する。

 

「なに…」

 

「特別な指令や、状況下でない限り、戦闘において生存し、帰還する事は第一条件です」

 

「魔法使いの戦いに付いてはそれほど明るくはないですが、銃を使用するのは戦争法などには触れていない筈です」

 

「それは…そうじゃが…」

 

 ダンブルドアは面食らったように黙り込む。

 

 そんな時、校長室に、鐘の音が鳴り響く。

 

「そろそろ、夕食の時間ですね」

 

 マクゴナガルはゆっくりと校長室の扉を開く。

 

「とりあえず、武器関しては校内での使用は禁止します。管理はどうなっているのです?」

 

「訓練時のみメンバーに配布し、それ以外は我々が管理しています」

 

「分かりました。管理は徹底してくださいね」

 

「了解」

 

「それと、銃の所持については魔法省と学校側は未認可ですから、他の生徒や教員に見られない様に気を付けてくださいね」

 

「了解」

 

 マクゴナガルの横を抜け、私達は校長室を後にした。

 




ダンブルドアの老害度が増えると
比例するようにマクゴナガル先生の聖人度が上昇する。


しかたないことです。



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セストラル

恐らく、今がアンブリッジの全盛期。


 

   翌日の早朝。

 

 早朝であるにも関わらず、ハリーの心拍数は高く、メンタルコンデションレベルも高位にある。

 

「ロン! ハーマイオニー! 早く早く!」

 

「分かってるわよ」

 

「ちょっと待てよハリー」

 

「待てないよ! あぁ、君達。今暇?」

 

 談話室に居ると、ハリーが声を掛けて来る。

 

「現在予定は有りません」

 

「そうなんだ、これからハグリッドに会いに行くんだ! 一緒に行こうよ」

 

 私達はハーマイオニーの方に視線を向ける。

 

 すると、ゆっくりと頷く。

 

『来てくれると嬉しいわ』

 

「良いでしょう」

 

「同行します」

 

「やった! さぁ! 行こう!」

 

 ハリーは勢い良く談話室の扉を開けると、勇み足でハグリッドの小屋へと移動した。

 

 私達が小屋に付くと。傷だらけのハグリッドが調子悪そうにしながら、椅子に腰かけていた。

 

 

 

 その姿を見た途端、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。

 

 

 

「ハグリッド! その傷どうしたのよ!」

 

 

 

「いやぁ何でもねぇんだ。それより茶でも飲むか? いやぁ…しばらく留守にしてたからな…どこに何があったか忘れちまったぁ」

 

 

 

 

 

 ハグリッドは体を引きずるように立ち上がる。

 

『あの木偶の坊でも怪我するんだな』

 

『何があったのかしら?』

 

『ダンブルドアの命令により、巨人族と接触していたという情報があります』

 

『なるほど、巨人族と喧嘩でもしたな』

 

『喧嘩って言うレベルなのかしら?』

 

 

 

「なんでも無いはずないぞ! どうしたんだその傷? 誰かに襲われたんだろ?」

 

「大丈夫だ。気にせんでくれ」 

 

 ロンがハグリッドに追求するが、それは適当に流された。

 

 

 

 その後、紅茶が入ったのか、ハグリッドが人数分のティーカップを用意した時、小屋の外から、ザクザクと雪を踏みしめる様な足音が聞こえてきた。

 

 

「生体反応接近中」

 

「ドローレス・アンブリッジだと思われます」

 

「え?」

 

 ハーマイオニーは少し窓から顔を出すと、外の様子を窺っている。

 

「本当だわ! アンブリッジよ」

 

「え?」

 

「まじかよ!」

 

「本当よ。変な歩き方でこっち来てるわ」

 

『これはまた、無様だね』

 

『脚が短いのかしら?』

 

 ハリーとロンも窓から外を覗き込む。

 

「アンブリッジじゃん!」

 

 

 

「どうする…」

 

 

 

「とりあえず、隠れなきゃ!」

 

 

 

 3人はき身を寄せ合いながら、窮屈そうに透明マントの中に隠れた。

 

「ごめん、やっぱりこのマントじゃ3人までしか」

 

「問題ありません」

 

「ステルスシステム起動」

 

 ステルスシステムを起動し、私達は背景と同化する。

 

「どうなってるんだ?」

 

 ハグリッドは不思議そうにこちらを見ている。

 

「お気にせずに」

 

「間もなく到着します」

 

 間を置く事無く、ドンドンと乱暴に小屋のドアがノックされる。

 

 

 

「そんなに乱暴に叩かんでも、わかっちょる」

 

 

 

 ハグリッドは嫌そうな顔で扉を開けると、そこには、嫌そうな顔をしたアンブリッジが顔を見上げていた。

 

 

 

「えーっと…貴方がハグリッドね」

 

 

 

 アンブリッジは甲高い声でゆっくりとはハグリッドに話しかけている。

 

「そうですだ」

 

 ハグリッドが返事をする前に、ズカズカと大股で小屋の中へと入って来た。

 

 

「ふーん…ここに住んでるの?」

 

「そうです」

 

「冗談でしょ? こんな物置小屋みたいなところで?」

 

『物置小屋には賛同するね』

 

『まぁ、あまり人が住む場所じゃ無いわね』

 

「それより何の御用ですだ? えー…」

 

 

 

「私はドローレス・アンブリッジです」

 

 

 

 アンブリッジは食い気味に答えると、ハグリッドは数回頷いた。

 

 

 

「えー、ドローレス・アンブリッジ……確か魔法省の人だったと思うが…そんな人が一体何の御用で?」

 

 

 

「今は、ホグワーツ高等尋問官です」

 

 

 

「高等尋問官? そりゃ何ですかい?」

 

 

 

 ハグリッドは高等審問官と言う役職を聞き、顔をしかめている。

 

「私としては何故、貴方が今まで居なかったのかが気になりますけどね」

 

 

「あー…そりゃぁ…あれです。健康上の理由で休んでいたんで」

 

「健康上の?」

 

 

 

「えぇ、こんな傷を負ってしまいましてね…最近やっと、動けるようになるまでに回復したんで、戻って来た訳です」

 

 

 

 ハグリッドはそう言うと、袖を捲り、傷口をアンブリッジに見せている。

 

「なるほど…そうですか」

 

 アンブリッジは傷口を見た後、首を数回横に振り、小屋の扉に手を掛ける。

 

 

「貴方が遅れて来た事は、大臣に報告させていただきます」

 

 

 

「わかった」

 

 

 

「それと、高等尋問官として残念ながら私は同僚の先生方を査察するという義務があるということを認識していただきましょう。ですから、近いうちにまた貴方にお会いすることになると申し上げておきます」

 

 

 

「お前さんが、俺達を視察?」

 

 

 

「えぇ、その通りです。魔法省としては教師として不適切な者には退職していただくつもりですので、お覚悟を。では失礼しますよ」

 

 

 

 張り付いた様な笑みを浮かべたアンブリッジはゆっくりと扉を開けると、外へと出ていった。

 

 

 

 アンブリッジが去ってからしばらくすると、隠れていたハリー達が姿を現した。

 

 

 

「査察? あんな奴が?」

 

 

 

 ハグリッドは驚いた表情で疑問を投げかけている。

 

 

 

「そうなんだよ。もう殆どの先生が受けているんだ」

 

 

 

「なんてこった」

 

 

 

 ハグリッドは頭を抱えて、溜息をついている。

 

 

 

 

 

「しょうがないさ。ところでハグリッドはどんな授業を教えてくれるの?」

 

 

 

 ハリーは期待に満ちた表情で聞くと、ハグリッドは嬉しそうな表情でその言葉に答えた。

 

 

 

「今年はふくろう試験もあるからな、かなり特別な連中を連れてきてやったぜ」

 

 

 

「それって…どんなふうに特別なの?」

 

 

 

 ハーマイオニーが恐る恐る聞くが、ハグリッドはただ一言、嬉しそうに「秘密だ」と答えた。

 

『どうせ碌なモノじゃ無いだろう』

 

『まぁ…そうよね』

 

『下手すれば、死人が出るかもね』

 

「ねぇハグリッド。アンブリッジは危険な生物を連れてきたら、きっとそれを理由に、事態を悪化させるはずよ」

 

「危険? 馬鹿言うでねぇぞハーマイオニー。お前さん達に危険なもんなんぞ連れて来たりはせん」

 

『馬鹿な事を言っているのはお前だ木偶の坊』

 

『なんだか、不安だわ』

 

『これは、流石に視察で、クビにされた方が良い』

 

「楽しみだよ!」

 

 ハリーは嬉しそうな表情でハグリッドに告げると、ハグリッドは照れているのか、頭を掻いている。

 

  数日後、日刊予言者新聞の一面を見た多くの生徒が驚愕していた。

 

 

 

 そこには、『アズカバンからの集団脱獄』の文字が書かれていた。

 

 

 

「ここまでくれば、僕達やダンブルドアが嘘を言って居ないって事が分かるはずなんだけどな…」

 

 

 

「今の大臣は、この状況を信じたくないんだろう」

 

 

 

 ハリーは深刻そうに言うと、ロンは大臣を小ばかにしたかのように笑っていた。

 

 

 

「でもおかしいわよ、普通ここまで大事になれば気が付くはずよ」

 

「魔法省内部に死喰い人が潜入していると考えるのが妥当です」

 

「え?」

 

「どう言う事?」

 

「推測ですが、魔法省の役員や官僚クラスが死喰い人、もしくはその関係者と考えれば、アズカバンの集団脱獄なども簡単に行われたのかと思われます」

 

「それは、考えて無かったな…」

 

「魔法省にまで…どうしたら良いの…」

 

 ハーマイオニーは不安そうに呟く。

 

 ハリーがおもむろに立ち上がった。

 

 

 

「やっぱり僕達は間違ってなかったんだ! こうなったらもっと頑張って身を守れるようにしなきゃ!」

 

 

 

「そうだぜ!」

 

 

 

 ハリーの宣言にハーマイオニーとロンも大きく頷いている。

 

 

 

 

 

「でも…そうなると、やっぱりアンブリッジが邪魔だね…どうにかならないかな?」

 

 

 

 ハリーは首をかしげながら、考えを巡らせている。

 

 

 

「そうだな…毒でも盛るか」

 

「暗殺ですか?」

 

「あーそれそれ。君達出来る?」

 

「可能です」

 

「マジかよ!」

 

 ロンは驚いた表情をしている。

 

「冗談辞めてよ」

 

『まぁ、貴方達なら冗談じゃないんだろうけど』

 

『必要とあれば、暗殺も選択肢に入れます』

 

『今の所は殺さない方向で行きましょう』

 

『了解』

 

『ちなみに、どうするつもり?』

 

『事故死、もしくは失踪に見せかけ死体を消滅させます』

 

『おぉ、怖い怖い』

 

『まぁ、それは最後の手段という事で』

 

「取り敢えず、アンブリッジに関しては、バレない様に会合を開く。それしかないよ」

 

「そうだな」

 

 ロンは分かり易く、首を縦に大きく振っている。

 

 

  数日後、今学期に入って初めてのハグリッドの授業が行われた。

 

 今回も授業はスリザリンと合同な様で、スリザリンとグリフィンドールは別々のグループに別れながら、不穏な空気の中、森の奥へと進んでいった。

 

『毎回思うんだが、なんでダンブルドアはスリザリンとグリフィンドールを合同授業にするんだろうな』

 

『確かにそうよね。ハッフルパフやレイブンクローとかでも良いと思うわ』

 

『いっその事4寮合同とかの方が良いんじゃないか?』

 

『その方が時間も短縮されて良いと思うわ』

 

「まったく、この僕を態々こんな所にまで連れて来るなんて、あの野蛮人は一体何を考えているんだ」

 

 マルフォイがいつもの取り巻きを引き連れて、周囲を警戒しながら歩いている。

 

「もうちょっとだからまっちょれ」

 

「はぁ…やれやれ…」

 

 マルフォイは溜息を吐きながら首を左右に振っている。

 

「さぁ! 到着だ!」

 

「やっと着いたか。で? どこに何が居るって?」

 

 マルフォイは分かり易く周囲を見回している。

 

 前方に特殊なエネルギーフィールドにより、視覚化されていない生命反応を検知した。

 

 魔法界特有の特殊な波長を持ち合わせている。

 

「あそこに居るのが、セストラルだ。きっと魔法界でアイツ等を飼いならせているのは俺だけだろうな」

 

 ハグリッドはエネルギーフィールドに覆われた生命反応に指を差している。

 

「何が見えるのかしら?」

 

『セストラルだな』

 

『セストラルってあの?』

 

 トムに対しハーマイオニーは疑問を投げかける。

 

『そうさ。もうじきあの木偶の坊から説明があるはずだ。仮にも教師だからな』

 

「よーし。こいつらが見える奴は居るか?」

 

 

 ハグリッドがそう言うと、スリザリンから数名と、ハリーとネビルが手を上げている。

 

「よし、そんじゃ知っとる者はいるか? どうして見える者と見えない者がおるのか」

 

 ハーマイオニーは真っ直ぐ手を上げる。

 

「おぉ、ハーマイオニーか。じゃあ答えてくれ」

 

 ハグリッドが微笑みかけると、ハーマイオニーが答え始めた。

 

 

 

「セストラルを見ることができるのは……死を見たことがある者だけです」

 

 

 

「その通りだ。グリフィンドールに10点やろう」

 

『それにしても、セストラルを授業に使う何て、何考えてんだか』

 

『ハグリッドらしいと思うわ。それにしてもセストラルってどんな見た目なのかしら?』

 

『見てみたいのかい?』

 

『興味あるわ』

 

『そうか。なら見せてあげよう』

 

『え? 本当? どうやるの?』

 

『僕の指示に従うんだ。まずは杖を出して』

 

 ハーマイオニーは周囲の生徒にバレない様に杖を取り出す。

 

『杖を出したわよ』

 

『次に、杖を構えて適当な奴に向ける』

 

 ハーマイオニーは手首の角度を上げ、ロンに杖を向ける。

 

『次は?』

 

『呪文を唱える』

 

『どんな呪文?』

 

『簡単な呪文さ。アバダケダブラ』

 

 

「アバ…んっん」

 

 呪文を中断した後ハーマイオニーは咳払いをし、杖を仕舞う。

 

「ハーマイオニーどうかした?」

 

「別になんでも無いわ」

 

「ん? 変なハーマイオニー」

 

『おしい。もう少しでセストラルが見えたのに』

 

『一体どういうつもりかしら?』

 

『セストラルを見たかったんだろ?』

 

『そうだけど?』

 

『セストラルを見る為には死を見る必要がある。ならさっきの呪文で簡単に死を見れて、他の生徒もセストラルを見る事が出来たじゃないか』

 

『私をアズカバンに送り込むつもりかしら?』

 

『いやぁ、実に惜しかったよ』

 

 ハグリッドセストラルに近寄ると、説明を開始する。

 

「さて…セストラルっちゅうのはだなぁ」

 

 

「エッヘン。エヘン」

 

 独特な咳払いをしながら、アンブリッジが接近してくる。

 

「チッ」

 

「ハーマイオニー! 今舌打ちした?」

 

「え? 気のせいよ」

 

「気のせいじゃないと思うんだが…」

 

 ロンは困惑した表情で不機嫌なハーマイオニーを見据える。

 

 「今朝、貴方の小屋に送ったメモに目は通していただけましたか? それ以前にも字は読めるのですか?」

 

 

 

 アンブリッジは眉をひそめながら、不機嫌そうに言う。

 

「あぁ、わかっちょる。だからこうして今日はセストラルの授業をやっている」

 

 

 

「え? なんですって?」

 

 アンブリッジは耳に手を当てハグリッドを挑発するような態度を取っている。

 

「セ・ス・ト・ラ・ル! だ!!」

 

 ハグリッドは一音ずつ区切り大声で叫ぶ

 

「そんな大声を上げなくても聞こえます! まったく! えーっと…原始的なコミュニケーションを好み…一般的な常識は無い…っと」

 

 アンブリッジは手元の羊皮紙に何やら書き込んでいる。

 

「はぁ…まぁいい。どこまでやった?」

 

 

 

 ハグリッドは生徒達の方に振り返りながら呟いた。

 

 

 

「記憶力が低い…と…」

 

 

 

 アンブリッジは再び何かを呟きながら書き込んでいる。

 

 

 

「お邪魔しましたね。では授業を普段通り続けてください。私は歩いて見て回ります」

 

 

 

 アンブリッジはそう言うと、その場を後にした。

 

『まったく! 何なのかしらアレ!』

 

『嫌味を言いに来たんだろう』

 

『他にやる事が無いのかしら?』

 

『さぁね。暇なんだろう』

 

『はぁ…ホグワーツはどうなっちゃうのかしら…』

 

 ハーマイオニーは遠ざかるアンブリッジの背中を睨み付けながら溜息を吐いた。

 




ハーマイオニーはセストラルを見る事が出来ませんでした。



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マイクロバス

最近、首筋がものすごく痛くて、頭痛が痛いです。


今回は日常回です。


 

   12月に入り、会合を重ねる事で全体の戦力レベルが上昇する。

 

 しかし、未だに訓練された敵部隊を相手取るには不安が残るレベルだ。

 

「今回はどうするの?」

 

 全員が集まりハリーが疑問を口にする。

 

「今回は、全体の戦闘レベルを考慮し、新たな武装を支給します」

 

 私はベクタートラップ内から弾薬箱を取り出しテーブルの上に置く。

 

 その中から、スモークグレネードとスタングレネードを取り出す。

 

「説明を行います。こちらがスモークグレネード。煙幕により敵の視界を遮ります。風などにより無力化される恐れもありますが、一瞬とは言え身を隠す事が出来るでしょう。続いてこちらがスタングレネードです。起爆すると同時に170-180デシベルの爆発音と15mの範囲で100万カンデラ以上の閃光を放ち対象の視覚と聴覚を麻痺させ気を失わせることが可能です。注意点として使用の際は目と耳を保護してください」

 

「えっと…つまり、今日はこれを使うって事?」

 

「あくまでも訓練ですが、一通りの使い方をマスターしていただきます」

 

 私達は使い方を指導し、全員が使い方を理解したようだ。

 

 

「へぇ、こんなボールみたいなのがねぇ」

 

 ロンは手元でスタングレネードを投げて遊ばせており、ハリーは引き攣った表情でそれを見ていた。

 

 

  数日後の夜。

 

 消灯時間を過ぎ、深夜3時頃、私達の部屋の扉の前に生体反応を検知する。

 

 私とデルフィは音を立てずに武装を展開し、制服に服装を変え、扉の前に待機する。

 

『開放します』

 

 デルフィが扉を開き私が扉の前の人物に対しビームガンを突き付ける。

 

「ヒッ!」

 

 目の前の人物、マクゴナガルは小さな悲鳴を上げる。

 

「ご用件は何でしょう?」

 

「オホン…不死鳥の騎士団に関する事です。とりあえず武器を下ろしなさい」

 

 私達は武装を解除する。

 

「うーう…まだ眠いわ…何があったの?」

 

 ハーマイオニーが目を覚ましたようで、髪を手で掻き上げながらこちらに接近する。

 

「え? マクゴナガル先生? こんな時間にどうしたんですか?」

 

「不死鳥の騎士団の事で…いえ、この際だからお話しします」

 

 マクゴナガルは一度咳払いをする。

 

「アーサー・ウィーズリーが何者かによって襲われたようです。詳細は校長室で話します。ミス・グレンジャー。貴女も同行しますか?」

 

「え? えっと…」

 

『行っても良いんじゃないか? ダンブルドアの間抜けな姿を拝みたいね』

 

『まったく…まぁ良いわ』

 

「着替えたらすぐ行きます」

 

「分かりました」

 

 数分後、扉の前で待っていると、着替えを済ませタブレット端末を小脇に抱えたハーマイオニーが現れる。

 

「それでは行きますよ」

 

 私達はマクゴナガルの後に続き、校長室へと移動した。

 

 

  校長室に入ると、そこには疲れ切った表情のハリーとロンの姿があった。

 

「ハーマイオニー。それに君達も来たのか?」

 

「えぇ」

 

「先程、神秘部で任務に当たっていたアーサーが、何者かに襲われたようじゃ。今、エバラードとディリスが確認に向かっておる所じゃ」

 

 

 

「ダンブルドア!! ダンブルドア!!」

 

 

 

 突如、校長室に飾られている肖像画の一つから声が響いた。

 

 

 

「誰かが駆けつけてくるまで叫び続けましたよ。みんな半信半疑で、確かめるように降りてきましたよ。下の階に私の肖像画はないので、確認には行けなかったのですが…ともかく、みんながその男を運び出してきましたね。症状は良くない。血だらけだった」

 

 

 

「ご苦労じゃった。おそらく、ディリスがその男の到着を見届けるじゃろう」

 

 

 

 報告を聞いたダンブルドアは静かにそう言うと、別の肖像画から声が聞こえてきた。

 

 

 

「えぇ、先程の男ですが、皆に連れられて聖マンゴに運び込まれました…が…酷い状況の様です」

 

 

 

「そうか…ご苦労」

 

 

 

 

 

 ダンブルドアは溜息を吐いた後、マクゴナガルの方を見た。

 

 

 

「ミネルバ、他のウィーズリー家の子供たちを起してやってくれ」

 

 

 

「かしこまりました…」

 

 

 

 マクゴナガルは一礼すると、そのまま校長室から出ていった。

 

 ロンのメンタルコンデションレベルは最低レベルで、精神に異常が出てもおかしくない。

 

「こちらを」

 

「何これ?」

 

「精神安定剤です。気分が落ち着くはずです」

 

「うん、ありがとう…」

 

 精神安定剤を受け取ったロンは、服薬し一呼吸置く。

 

 緩やかにだが、メンタルコンデションレベルが落ち着きを取り戻す。

 

 ダンブルドアは棚から古めかしいポットを取り出した。

 

 

 

「ポータス」

 

 

 

 ダンブルドアが杖を振ると、ポットから青白い光があふれ出した。

 

 

 

「ポートキーじゃ。まぁ、無許可で作るのは違法じゃが…今回は仕方あるまい。これはシリウスの元まで繋がっておる」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 ハリーはダンブルドアの目を見ながら、数回頷いた。だが、ダンブルドアは目を逸らそうとしている様だった。

 ダンブルドアは壁に掛かっている肖像画に歩み寄ると、声をかけ始めた。

 

 

 

「フィニアス。フィニアス! 起きておるじゃろ」

 

 

 

「ん…何の用かね?」

 

 

 

 肖像画の中の人物は、嫌そうに眼を擦りながら、ダンブルドアの方を見えてる。

 

 

 

「別の肖像画に行って、伝言を頼まれて欲しいのじゃ」

 

 

 

「なるほど…分かりましたよ。向こうにあればの話ですがね。なんせあの家族は…」

 

 

 

「シリウスはそこまで愚かではない。では伝言じゃ『アーサーが重傷で、妻、子供たち、ハリー、が間もなくそちらに到着する』とな。ハーマイオニー。君も行ってくれるか?」

 

「えっと…」

 

 ハーマイオニーがこちらに視線を向ける。

 

「エイダとデルフィも一緒なら…」

 

「う…む…そうか。分かった。二人とも同行してくれるか?」

 

「ご命令とあらば」

 

「では頼むぞ」

 

「了解です」

 

「死喰い人が現れるかもしれぬ。その時は頼むぞ」

 

「了解」

 

 デルフィがウアスロッドを構える。

 

「程々にの」

 

「善処はします」

 

「はぁ…聞いておったの。3人追加じゃ」

 

「わかった。伝えよう」

 

 

 

 肖像画の人物はそう言うと、肖像画の奥へと消えていった。

 

 

 しばらくすると、校長室の扉がノックされ、ウィーズリー家の面々がパジャマ姿で入ってくる

 

 その後ろにはマクゴナガの姿があった。

 

 

 

「君等のお父上は不死鳥の騎士団の任務中に怪我をなさった。お父上は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に運び込まれておる。今から君達をシリウスの家に送ることにした。病院へはその方が隠れ穴よりも便利じゃからの。お母上とは向こうで会えるじゃろう」

 

 

 

「どうやって行くんですか? 煙突飛行?」

 

 ジニーが首を傾げる。

 

「いや、煙突飛行は監視されておる。ポートキーで行くのじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアは机の上にあるポットに指を差した。

 

 

 

「早くした方が良いじゃろう」

 

 

 

 ダンブルドアがそう言うと同時に、私達はポットに手を掛けた

 

 

 

「では行くのじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアが杖を振ると同時に、ポートキーが発動し、私達の体はブラック邸へと転移した。

 

  ブラック邸に到着すると同時に、シリウスがハリーに駆け寄った。

 

 

 

「ハリー! 何があったんだ!」

 

 

 

 ハリーはその場で、少しずつ話し始めた。

 

「えっと、僕夢を見たんだ」

 

「夢?」

 

「アーサーおじさんが蛇に襲われているところを…その、襲っている視点で」

 

「なに?」

 

「それで、ダンブルドア先生に言って…それから…」

 

「わかった。とりあえず言いたい事は分かったよ」

 

「ところで、ママはもう来てるの?」

 

 ロンがシリウスに聞く。

 

 

 

「まだだ。恐らく何が起こったかさえ知らないだろう。今頃ダンブルドアから連絡を受けている筈さ」

 

 

 

 

 

「聖マンゴへ行かなきゃ…」

 

 

 

 ロンがそう呟いたが、シリウスは首を横に振った。

 

 

 

「待つんだ今日の所は大人しくしておいた方が良い。また後日向かおう」

 

 

 

「でも…」

 

 

 

「駄目だ。今は我慢するんだ」

 

「でも…」

 

「モリーと合流してからの方が良い」

 

「うん、わかったよ」

 

 シリウスの言葉に納得したようにウィーズリー兄妹は頷いている。

 

「とりあえず今日は休むんだ。いいね」

 

 

 

 シリウスがそう言うと、ハリー達は寝室へと移動していった。

 

 

 ハーマイオニーも来客用の寝室へと移動した。

 

「君達も眠ると良い」

 

「いえ、護衛任務がありますので?」

 

「護衛? 一体何の?」

 

「ダンブルドアより、死喰い人の襲撃に備え護衛するようにと」

 

「周辺3キロ圏内に敵対すると思われる反応は有りません」

 

「なるほどね。見張りなら私がやろう」

 

「御構い無く」

 

「だが」

 

「我々は休眠を必要とはしていません」

 

 シリウスは不思議そうに首を傾げる。

 

「そ、そうか? なら私は少し眠らせてもらうよ」

 

「ごゆるりと」

 

 シリウスはソファーに横になると、数分後には規則的な寝息を立て始める。

 

  朝日が上り、周囲が明るくなり始めた頃、1つの生体反応を検知する。

 

 私とデルフィは武装を構え、扉を開ける。

 

「え?」

 

 扉の前には、ロンの母親のモリーが立っていた。

 

「貴女達は…」

 

「おはようございます」

 

「え、えぇおはよう」

 

 モリーは少し困惑しつつ、扉をくぐる。

 

「誰か来たのか?」

 

「シリウス…」

 

「モリーか。アーサーはどんな具合だ?」

 

「命に別条は無いわ。今は眠ってるはず」

 

「そうか」

 

 シリウスは胸を撫で下ろしている。

 

「子供達を見てくれたのね。ありがとう」

 

「なぁに、これくらい」

 

「助かったわ。それより朝食はまだよね」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、朝食を作るわね」

 

 モリーはそう言うと、厨房へと移動した。

 

 数十分後、朝食の香りが満たす。

 

 

 

 その香りに釣られる様に、ハリー達が目を覚ましたようで、

 

「ママ!」

 

 

 

 ロンが声を上げると、ジニーは母親に抱き着いている。

 

 

 

「パパは?」

 

 

 

「大丈夫よ。今は眠っているわ。後で面会に行きましょう」

 

 

 

「よかった…」

 

 

 

 ロンは胸を撫で下ろしている。

 

「さぁ、朝食が出来たわ。皆食べましょう」

 

「うん」

 

「そうだね、僕お腹すいちゃったよ!」

 

 

 

 ロンはテーブルに付くと、朝食にがっついている。

 

「ねぇ、シリウス…」

 

「ん? どうした? モリー?」

 

「もしかしたら、入院が長引くかもしれないの…その間…」

 

「あぁ、こんな家でよければ自由に使てくれ」

 

「助かるわ。もしかしたらクリスマスはここで過ごすかもしれないわ」

 

「大勢の方が楽しい。大歓迎さ」

 

 シリウスは嬉しそうに答えると。ハリー達はにこやかに微笑んでいる。

 

 

 その後、ダンブルドアから着替えが入ったトランクが届けられ。皆服を着替えた。

 

「それじゃあ、お見舞いに行きましょう」

 

「あぁ、だが、どうやって行く? 煙突飛行は監視されているんだろ?」

 

「そうなのよね。歩いて移動するしかないわね」

 

「まぁ、そうだな」

 

「えー」

 

 ロンを始めとした子供たちが不満の声を上げる。

 

「そうは言ってもな…」

 

 シリウスはふとこちらに視線を向ける。

 

「そうだ。車があるじゃないか」

 

「え? 車?」

 

 ハーマイオニーは首を傾げる。

 

「あぁ、確かにあったね」

 

 対照的にハリーは数回頷いている。

 

「あの車なら、全員乗れるんじゃないか?」

 

「積載人数に関しては問題ありません」

 

「そうか」

 

 シリウスは嬉しそうに頷いている。

 

「え? 状況が分からないのだけど」

 

「私も」

 

 ハーマイオニーとモリーは唖然として居た。

 

「車を用意します。全員外へ」

 

 私の指示に従い、全員が外へと出る。

 

「車なんて無いわよ」

 

「ベクタートラップ開放」

 

 私はベクタートラップ内に収納していたマイクロバスを取り出す。

 

「凄いわね。これなら全員乗れそうね」

 

「問題ありません」

 

 デルフィが運転席へと移動し、私は助手席へと移動する。

 

「エンジン始動」

 

 エンジンを始動させると、周囲にマイクロバス特有の低いエンジン音が響く。

 

「うぉ!」

 

「パパの車よりすごい!」

 

 ウィーズリー家の面々はテンションが上がったようで、マイクロバスに乗り込む。

 

「ねぇ、デルフィ?」

 

「何でしょう?」

 

「運転できるの?」

 

「問題ありません」

 

「免許証は?」

 

「問題ありません」

 

「持ってないのね。まぁ持ってたらおかしいけど」

 

「運転に関しては問題ありませんのでご心配なく」

 

「はぁ…分かったわ」

 

 ハーマイオニーも乗車する。

 

「シートベルトを着用してください」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーとハリーがウィーズリー家の面々にシートベルトの着用方法を教え、全員がシートベルトを着用する。

 

「では移動を開始します」

 

 デルフィがアクセルを踏み込み、エンジンの回転数が上がる。

 

「うぉお!」

 

 

「動いてる!」

 

「結構早いのね」

 

「すごい!」

 

 車に乗り慣れていないのか、後方では子供たちがはしゃいでいる。

 

 シリウスの案内に従い、数十分程車を走らせ、パージ・アンド・ダウズ商会と書かれたレンガ造りの大きなデパートの前まで来た。

 

「ここだな」

 

 シリウスとウィーズリー家の面々、ハリー、ハーマイオニーが下車する。

 

「これから、アーサーを見舞うが、君達はどうする?」

 

「車を人気の無い場所にまで移動させます」

 

「面会終了後、下車位置へと迎えに行きます」

 

「そうか。わかった」

 

 そう言うと、彼等はショウウィンドウの前まで移動していった。

 

「では行きましょう」

 

 私達は人気の無い場所へと車を移動させ、連絡が入るのを待った。

 

 

 数時間程車内で待機していると、ハーマイオニーから通信が入る。

 

『今終わったわ。これから出るわ』

 

『了解です』

 

『手前に車を付けます』

 

 車を移動させると、ハーマイオニーがデパートの前に待機していた。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう」

 

 モリーが一礼した後、全員が車へと乗り込んだ。

 

「発進します」

 

 車を発進させる。

 

「そう言えば、もうクリスマス休みに入ってるんじゃないの?」

 

「そう言えばそうだね」

 

「でしたら、ご自宅へお送りします」

 

「いいの?」

 

「構いません」

 

「じゃあお願い」

 

「あっ、僕達はシリウスの家が良いかな」

 

ハリーがそう言うとウィーズリー家の全員が頷く。

 

「了解です」

 

 行き先をホグワーツからシリウスの自宅へと変更する。

 

 シリウスの自宅へ到着後、ハーマイオニーと私達以外が下車する。

 

「あれ? ハーマイオニー? 降りないの?」

 

「え? 私はそうね。1度家へ帰ろうかしら」

 

「そうなんだ」

 

 ロンは何処と無く悲し気な表情をした後、シリウスの自宅へと戻った。

 

「では、発車します」

 

 悲しそうな表情のロンを後にした後、ハーマイオニーを自宅へと送った後、私達は自宅へと帰還した。

 

 




ロン達は…今は平和ですが…

最終章で…


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密告者

密告者…

一体どうなるんだ?


   クリスマス休暇の間はシステムの調整、レアメタルの回収、地下発電施設の設営などを行った。

 

 

 数日が経ち、クリスマス休暇も終わりに近づいた頃、ダンブルドアから手紙が届く。

 

 手紙の内容は、ホグワーツに登校後、校長室にて話したい事があるという旨だった。

 

 その為か、ホグワーツに登校後、自室の前にマクゴナガルが待機していた。

 

「手紙は読んでいますね」

 

「はい」

 

「荷物を片付け次第向かいます」

 

「では校長室で待っていますよ」

 

 マクゴナガルは一礼し、踵を返す。

 

「校長室って、何かしたの?」

 

「まぁ、君達が何もしないって方がおかしいが」

 

 トムはスピーカー越しに小さく笑う。

 

「別段特別な事では有りません」

 

「そうなの? 変な事に巻き込まれてなければ良いけど」

 

「ご心配には及びません」

 

 デルフィはベッドサイドに荷物を置くと扉を開く。

 

「では行きましょう」

 

「了解」

 

「そう言えば、ハリーも校長室に呼び出されたらしいわ」

 

「関係が有るかも知れません」

 

「そうね。気を付けてね」

 

「了解です」

 

 私達は自室を後に、校長室へと向かった。

 

 

 校長室の扉を開くと、そこにはダンブルドアが校長席に座り、その背後に、マクゴナガルが立っていた。

 

「良く来たの」

 

 ダンブルドアは組んだ腕を崩すことなく一言告げる。

 

「どの様なご用件でしょう?」

 

「なぁに、不死鳥の騎士団の当面の予定を考えようと思ってのぉ」

 

 ダンブルドアははぐらかす様な口調で髭を弄りながらこちらを見据える。

 

 その時、校長室の扉が開かれ、嫌そうな顔をしているハリーが、スネイプに連れられてやって来た。

 

 

 

「連れてまいりました」

 

 

 

「ご苦労じゃった。ハリーにはしばらく、セブルスから閉心術を学んでもらうと思う」

 

 

 

「それはどうしてですか?」

 

 

 

 ハリーは食いつく様な口調でダンブルドアに疑問を投げかける。

 

 

 

「いずれ必要になる事じゃ。セブルス後は頼んだぞ」

 

 

 

「承知しました」

 

 

 

「まだ話は――」

 

 

 

「来るのだ、ポッター」

 

 

 

 食い下がるハリーだったが、スネイプに無理やり連れられ退室していった。

 

「よろしいのですか?」

 

 

 デルフィが疑問の声を上げる。

 

「一体何がじゃ?」

 

「ハリーの方は少し話があったようですが」

 

「仕方ない事じゃ」

 

 ダンブルドアは溜息を吐いた後、首を左右に振りながらこちらに視線を向ける。

 

「さて、お主達には一つ頼みたいことがある」

 

「何でしょう」

 

 ダンブルドアは組んだ腕を解き、両手を机の上で軽く組む。

 

「お主達は、ワシの開心術を防いだ。自分で言うのもなんじゃが、ワシは開心術は得意な方でな。そう簡単には防がれたことが無いのじゃよ」

 

「それで、頼みと言うのは」

 

「単刀直入に言おう。お主達は閉心術に特化した何かを持っているのではないか?」

 

 ダンブルドアは鋭い視線でこちらを見据える。

 

「その様な物はございません」

 

「そうか、ワシの思い過ごしか」

 

 溜息を吐き、ワザとらしく髭に手を掛ける。

 

「そう言えば、噂程度じゃが、お主達は服従の呪文を耐えたそうじゃな」

 

「はい」

 

「そうかそうか」

 

 ダンブルドアは再び腕を組むと鋭い視線を向ける。

 

 

「これも噂程度じゃが、ハーマイオニー・グレンジャーも服従の呪文を耐えたそうじゃな」

 

「え?」

 

 背後に控えていたマクゴナガルが声を上げる。

 

「それがどうかしましたか?」

 

「なぁに、少し不思議に思ってのぉ」

 

「何がでしょう?」

 

 デルフィが答える。

 

「お主達は服従の呪文に耐える事が出来た。なぜ、同室のメンバーのみが呪文に耐えれたのじゃろうな」

 

「偶然かと思われます」

 

「そうじゃな、偶然か」

 

 デルフィの回答に対しダンブルドアは呆れた様に笑う。

 

「しかし、偶然という事がありえるならば、必然と言う事もあり得るのではないかの?」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「なぁに、ワシは少し疑って居るのじゃよ。お主達はハーマイオニー・グレンジャーに対し特殊な魔導具などを渡しているのではないかとな」

 

 ダンブルドアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「校長。いくら何でもそれは飛躍しすぎでは…」

 

「ミネルバよ。少し黙っておるのじゃ」

 

「…はい…」

 

「さて、お主達。答えて貰おうかの」

 

 ダンブルドアは杖を片手に、こちらに視線を向ける。

 

「ありえない話ですが、もし仮に、我々が何らかの施術を施したとして、何をご希望なのでしょう?」

 

「ほぉ、認めるのかの」

 

「認めてはいません。仮の話しです」

 

「なぜそこまで、閉心術に拘るのですか?」

 

 沈黙が校長席に流れる。

 

「仕方ない。話そう。ハリーは今ヴォルデモートの魂と繋がっておる可能性がある。つまり、奴に心を読まれる恐れがあるのじゃ。その為にも閉心術をハリーには覚えてもらう必要がある」

 

「それならば、閉心術を取得するべく、尽力されるべきでは」

 

「無論、セブルス…スネイプ先生に頼み、ハリーに閉心術を覚えさせては居る。しかし、そう簡単に閉心術と言うのは覚えられるものではない」

 

 ダンブルドアは首を左右に振り、再び溜息を吐く。

 

 そして、沈黙が校長席に流れる。

 

 その沈黙を破るかの様に、鐘の音が響き渡る。

 

「校長。そろそろ始業時間です。彼女達を部屋に」

 

「…仕方ない。そうじゃな。下がって良いぞ」

 

「失礼します」

 

 校長室を去る間際ダンブルドアが声を上げる。

 

「もし仮に、閉心術をマスターできるような魔導具があるならば、渡して欲しい。これは不死鳥の騎士団の任務としてじゃ」

 

 デルフィは振り返る。

 

「残念ながらそのような物は所持しては居りません」

 

「お役には立てないようです」

 

 私達は、校長室を後にする。

 

  数日後

 会合の日がやって来た。

 

 回を重ねる度に全員の戦闘レベルが向上し、魔法と銃撃を組み合わせた戦術を確立し、自衛には申し分ないほどにまで成長した。

 

「どうかな?」

 

「最低限のラインには達しているかと思われます」

 

「そっか、これなら死喰い人にも勝てるね」

 

「それは難しいかと思われます」

 

「え?」

 

 デルフィの言葉に、ハリーは唖然とする。

 

「敵部隊を殲滅するには現在の戦闘レベルでは不可能かと推測されます」

 

「敵部隊の迎撃、及び撤退戦を主軸に置き戦闘を行う事を提案します」

 

「う…うーん」

 

 ハリーは何処と無く不満そうな表情を浮かべながら、数回頷いていた。

 

  数日後

 

 談話室の中にも聞こえる程の声が玄関ホールの方から聞こえてきた。

 

「この声って…トレローニー先生?」

 

「恐らくは」

 

「何かしら? 行ってみましょう」

 

 ハーマイオニーと共に談話室を抜け、玄関ホールへと向かう。

 

 玄関ホールには既に多くの生徒が集まっており、その中心でトレローニーが叫び声を上げていた。

 

 

 

「嫌よ! いや! こんなことが許されるはずありません!」

 

 

 

 トレローニーの声が響く。

 

 その視線の先にはアンブリッジが立っていた。

 

 

 

「貴女、こういう事態になると予見できなかったの? 明日の天気でさえ予見できない無能な貴女でも、解雇になるぐらいは予見できたでしょう?」

 

 

『解雇ねぇ…』

 

『なんだか物騒ね』

 

 

 

 アンブリッジが言い放つと、トレローニーはその場でむせび泣いている。

 

 

 

「そんな…わたくしは16年も…16年間このホグワーツで過ごしてきました! ここを出ていくなんて考えられません!」

 

 

 

「考えられなくても、ところがどっこい。これが現実です」

 

 

 

 アンブリッジはそう言い放つと、隣に居たフィルチに指示を出た。

 

 頷いたフィルチは、大きめのトランクをトレローニーの前に置いた。

 

 

『こりゃ、本格的にクビかな?』

 

『ちょっと残念ね』

 

『仕方ないさ。第一なんで16年も居たんだ?』

 

『噂じゃ、ダンブルドアが呼び寄せたらしいわ』

 

『なるほど、占い師を手元に置いておきたいと言う訳か』

 

「少し待つのじゃ!」

 

 しかし、そこにダンブルドアとマクゴナガルが現れ、事態が一変した。

 

『おや、ダンブルドアのお出ましだ』

 

『なんか、ひと悶着ありそうね』

 

 

「さぁ…落ち着いて…貴女が考えているような事にはなりませんよ」

 

 

 

 マクゴナガルは落ち着かせるような口調でトレローニーに話しかけている。

 

 

 

 それを見たアンブリッジは不愉快そうに眉をひそめた。

 

 

 

「あら? マクゴナガル先生。貴女にそんな事を言う権限はありませんよ」

 

 

 

「ワシにはある」

 

 

 

 ダンブルドアはゆっくりとアンブリッジに近寄る。

 

 

 

「貴方のですか? どうやらご自分の立場を理解していないようですね。私の手元には魔法省大臣が署名なさった解雇辞令がありましてよ。ホグワーツ高等尋問官は教育に不適切だと思われる教師を停職に処し、解雇する権利を有するのです。トレローニー先生は基準を満たさないと私が判断し、そして解雇しました」

 

『ものすごい早口だな』

 

『よく噛まずに言えるわね…』

 

 

 アンブリッジは、自慢げに取り出した羊皮紙をダンブルドアに見せつけている。

 

 

 

「確かに貴方は教師を解雇する権限はお持ちじゃ。じゃがこの城から追い出す権限はお主ではなく、校長である、このワシにあるはずじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアは鋭い視線でアンブリッジに言い放つ。

 

 アンブリッジは引き攣ったような笑みを浮かべ、ダンブルドアに微笑み返している。

 

『老害お得意のへ理屈が出たぞ』

 

『へ理屈も理屈って事かしら?』

 

『しかし、非常識です』

 

 

「確かに私にその権限はありませんね」

 

 

 

 アンブリッジは目を細めそして、吐き捨てる様にダンブルドアに呟いだ。

 

 

 

「えぇ、今はまだね」

 

 

『まるで、いずれは権限を手にするみたいな言い方ね』

 

『ああ言うタイプが権力に溺れるんだろうね』

 

 捨て台詞を吐いたアンブリッジはそのまま城の中へと消えていった。

 

  数日後。

 

 談話室にて、ハーマイオニーは不機嫌そうにしていた。

 

「まったく、困ったものだわ」

 

「どうかされましたか?」

 

「どうかしたじゃ無いわ。アンブリッジの奴スリザリンの一部の生徒を集めて『高等尋問官親衛隊』なんてものを組織したのよ」

 

「『高等尋問官親衛隊』ですか」

 

『親衛隊ねぇ…まるでどこぞのs』

 

『言わせないわよ』

 

『おっと失礼』

 

 ハーマイオニーはトムを制止する。

 

 そんな時、ハリーとロンが談話室に駆け込んで来た。

 

「大変だよ!」

 

「どうしたのよ?」

 

 ハリーは息を切らし、ロンはせき込んでいる。

 

「どうやら、密告者が出たらしいんだ」

 

「密告者? 一体誰が?」

 

「分からないよ」

 

「ねぇ、ハーマイオニー。何か対策とか取って無いの?」

 

「対策って何よ?」

 

「なんか…こおぉ…密告者とか裏切り者とかを特定する魔法とか呪いとかさ」

 

 ロンは身振りを大きくさせる。

 

「そんなのあったとしても使う訳ないでしょ」

 

「どうしてさ! 裏切り者は分かった方が良いだろ? アンブリッジの奴は証言を手にして僕達を潰すつもりだ」

 

 ロンは激昂しているのか、声を荒らげる。

 

「第一、アンブリッジが握っているのは証言だけでしょ? 物理的な証拠は残さないように気を付けていたわ」

 

「そうだと思うけど」

 

「なら、密告者が居たとしても、決定的な証拠にはならないと思うわ」

 

「どうしてさ?」

 

「普通に考えて密告者だって好き好んで密告した訳じゃない筈よ。何かそれなりの事情があったはず」

 

「それが?」

 

「つまりは、アンブリッジに弱みでも握られていたんじゃないかしら?」

 

「まぁ、アイツは魔法省の役人だし、それなりの権力はあるんじゃないかな」

 

「つまり、密告者は自白を強要されたようなものね。そうなると密告者の証言にそこまでの証拠能力は無い筈よ」

 

「え? ん? どういう意味?」

 

「はぁ…よく考えてみて、アンブリッジが今持っているのは強要した自白だけ。それ以外の証拠はない筈よ」

 

「あー多分ね」

 

「仮に密告者が数人居たとして、その証言だけじゃ、魔法省までは動かない筈よ」

 

「そうかな?」

 

「恐らくね。そこに裏切り者だとわかる、証拠になる様な呪いや魔法が無いなら尚更ね」

 

「うーん…そうならいいんだけど…と言うか、君…最近エイダ達みたいな口調になって来てないか?」

 

「気のせいじゃないかしら?」

 

 その時、校内に鐘が鳴り響く。

 

「さて、そろそろ授業に向かうわね」

 

「我々も同行しましょう」

 

 私達は、唖然としているロンとハリーを残し談話室を後にした。

 

 




次回

ダンブルドアが…



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証言

注意。

今回のダンブルドアはいつも以上に老害です。

イライラされるかもしれませんが、ご了承ください。


 

数日後、自室にて待機していると、生体反応を検知する。

 

デルフィが扉を開け、ウアスロッドを構えると、そこにはマクゴナガルが立っていた。

 

「はぁ…毎回毎回、手荒い歓迎ありがとうございます。ですが、そろそろ杖を構えずに開けて欲しい物です」

 

「以後気を付けます」

 

「頼みますよ…」

 

「それで、今回はどの様なご用件で?」

 

ハーマイオニーはこちらを覗き込むように視線を向ける。

 

「アンブリッジ先生が貴女達3人を呼ぶようにと」

 

「え? 私達を? なんで?」

 

驚いた声でハーマイオニーが立ち上がる。

 

「えぇ、詳しくは知りませんが、ポッターも呼ばれているようです」

 

「え?」

 

『もしかして、これって』

 

『推測ですが、会合の一件によって呼び出されている可能性が高いです』

 

『まったく、面倒な事になったもんだね』

 

「まぁ、ウィーズリーは呼ばれていないんですがね…なんにせよすぐ来て欲しいとのことですので行きますよ」

 

「わかりました」

 

ハーマイオニーはタブレット端末を小脇に抱え、私達と共に、自室を出て、校長室へと向かう。

 

 校長室に入ると、そこには、メンタルコンデションレベルが高位のアンブリッジと、無表情のダンブルドア、メンタルコンデションレベルが低下しているハリー、腕を組んでいる大臣の姿があった。

 

「え? ハーマイオニー? それに君達も?」

 

「えぇ。呼ばれたの」

 

「なんで――」

 

「エヘンエヘン」

 

アンブリッジが特殊な易い咳払いをする。

 

「何人もの生徒が集まって戦闘訓練をしていると聞いた。首謀者は彼等だろう」

 

大臣はそう言うとハリーを指差す。

 

「そ、そんな事…」

 

「そうです。第一誰がそんな事を言ったんですか? 証拠は――」

 

「マリエッタ・エッジコムよ」

 

ハーマイオニーの声を遮る様に、アンブリッジが声を上げる。

 

「マリエッタ?」

 

「えぇ、勇気をもって告白してくれました」

 

「なんで…」

 

「今ここに呼んでありますわ。入りなさい」

 

少し置いて、校長室の扉が開かれると、不安感によりメンタルコンデションレベルが低下したマリエッタが周囲を見渡しながら入室した。

 

「この少女、マリエッタ・エッジコムさんがすべて話してくれました。彼等がDAと呼ばれる非公式な会合を開いた事や、構成メンバーをね。それに、マグルの持ち込み禁制品をイーグリット姉妹が所持して居る事をね。ねぇ? マリエッタ・エッジコムさん?」

 

「え…え、えぇ」

 

「禁制品だと?」

 

「マグルの武器だそうですが、詳しい事は興味が無いのでわかりません。まぁそれほど危険視するものではないでしょう」

 

「そうか…」

 

「そうですわよ。ね? マリエッタ・エッジコムさん」

 

「は、はい」

 

狼狽しながら、マリエッタは数回頷く。

 

「これが、彼女から聞いたDAメンバーのリストですわ。ポッターやイーグリット姉妹の名前もありますわ。他にもウィーズリーと言った純血の家系も居ますね」

 

アンブリッジはそう言うと、ダンブルドアに羊皮紙を差し出した。

 

「うむ…確かに、ハリーにイーグリット姉妹の名もあるな」

 

ダンブルドアは羊皮紙を覗き込むとメガネを傾ける。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

ハーマイオニーが手を上げる。

 

「はぁ…何ですか? グレンジャー?」

 

アンブリッジはワザとらしく溜息を吐く。

 

「えっと…会合があるって言っているのはマリエッタから聞いたんですよね?」

 

「えぇ。ちゃんとこの私が聞きましたわ」

 

「参加者の名前を聞いたのは?」

 

「マリエッタ・エッジコムよ」

 

「えっと、言っているのはマリエッタだけですよね?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「なんじゃと?」

 

ハーマイオニーの発言に対し全員が一応に疑問の声を上げる。

 

「だから、会合があるとか、参加者の名前を言っているのはマリエッタだけで、他の人から聞いたわけじゃないんですよね?」

 

「え、えぇ。彼女から聞きました」

 

「それ以外の証拠は?」

 

「十分な証拠じゃないですか?」

 

「つまりそれは、先生側が提出している証拠はマリエッタが言っている事。証言だけですよね。事実確認はされてないんですよね」

 

「え?」

 

「何が言いたいのよ!」

 

アンブリッジがヒステリックを発症させる。

 

「つまり、私が言いたいのは…会合が存在したなんて言う事実は無いんですよ」

 

「それはつまり、マリエッタ・エッジコムが嘘の証言をしたと…そう言いたいの?」

 

アンブリッジは眉をひそめる。

 

「はい。その通りです」

 

『おやおや、君も案外ゲスイ事考えるね』

 

『全員が潰れるよりはましだと判断しただけよ』

 

『合理的な判断です』

 

「そんな。私…本当の…」

 

「なぜ、彼女がそんな事を…嘘の証言を私に言う必要があるの? 普通に考えれば非合法な会合を行っていたことに対して、良心の呵責から自白したと考えるべきよ」

 

アンブリッジは自信有り気にハーマイオニーに問いかける。

 

「えっと…それは…」

 

「ね? 答えられないでしょ?」

 

大臣がこちらに視線を向ける。

 

「まったく、こんな場所で嘘を吐くな――」

 

「データによるとマリエッタ・エッジコムの母親は、魔法省に勤務しています」

 

「え?」

 

デルフィの発言によりアンブリッジが声を上げる。

 

「それって、つまりどういう事?」

 

ハーマイオニーが疑問の声を上げる。

 

「推測ですが、魔法省に勤務している母親に対し、何らかの圧力を掛けるなどと脅された可能性もあります」

 

「へぇ…圧力ねぇ…」

 

ハーマイオニーは数回頷き、アンブリッジの方に視線を向ける。

 

それに釣られる様にして、大臣もアンブリッジを見る。

 

「ち、違います! 私…圧力とか、脅迫とかそう言うのは…貴女からも何か言いなさい!」

 

「えっと…それは…」

 

アンブリッジに怒鳴られ、マリエッタは委縮する。

 

「つまり、彼女は脅されて嘘の証言をした。DAなんて言う会合は最初からなかったんです!」

 

ハーマイオニーが言うと、アンブリッジは目を見開く。

 

「嘘付はそっちでしょ! 第一! 彼女が証言したの! それが証拠よ!」

 

「でも、その証拠は脅して言わせたことですよね。それに物的証拠は何もない。DAとか言う未認可の非合法な会合を行っているところを現行犯で捕まえた訳でも無い」

 

「ドローレス・アンブリッジ…まさか、彼女の言って居る事は本当なのか?」

 

「それは…私…脅してなんか…無いです! 本当ですよ!」

 

アンブリッジはヒステリックな声を上げ、大臣に縋りつく

 

『ほぉ…良い感触じゃないか。このまま押し切ろう』

 

『えぇ。後は大臣が納得すればDAを守り通せるわ』

 

「もう良い…」

 

ダンブルドアが一言呟く、すると静寂が支配する。

 

「え?」

 

「DAとはダンブルドア軍の略じゃ。ダンブルドア・アーミーじゃよ」

 

全員の視線がダンブルドアに集まる。

 

「それはつまり、DAの存在を認めるんですね」

 

「あぁ、認めよう」

 

「なるほど…これで、今年のホグワーツから送られる法外な請求額の用途が分かったぞ!」

 

「ちょっと! 校長先生! 何を言い出すんですか!」

 

『おいおい、正気かよあの老害。せっかく言いくるめられていたのに』

 

『どうかしてるとしか考えられないわ。頭がおかしいんじゃないかしら?』

 

『非合理的です』

 

『最低の選択です』

 

『まったく…ボケ老害が…』

 

「じょ…冗談を…貴方が? これを組織した?」

 

 

 

「そうじゃ、総てワシがやった事じゃ」

 

 

 

 ダンブルドアはゆっくりと頷いた。

 

 

 

「ワシが生徒を集めて、私設軍隊を作ろうとしたのじゃ」

 

 

 

「嘘だ!」

 

 

 

 ダンブルドアの言葉を遮る様に、ハリーが大声を上げた。

 

 

 

「僕等です大臣! 僕達が自主的に会合をしたんです! ダンブルドア先生は関係ありません! 僕達が勝手に!」

 

 

『あぁ…ハリーまで。これじゃあ…もう』

 

『最悪の結果だな。まったく…』

 

「コーネリアス。生徒の言葉と、ワシの言葉。どちらを信じるのじゃ…」

 

 

 

「そ…それはつまり…貴方は私を陥れようとしているのだな!」

 

 

大臣の言葉を聞いたダンブルドアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「その通りじゃよ」

 

 

 

 大臣はアンブリッジの方を一瞥すると、恐怖の混じった歓声を上げた。

 

 

 

「聞いたな! 諸君! ダンブルドアの告白を! よし! この発言を至急、日刊予言者新聞に送れ! さぁて…ダンブルドア。お前はこれから魔法省へ送られるだろう。そこで貴様は有罪だろうな。そしたら正式にアズカバン行きだ!」

 

大臣の歓喜を遮る様にダンブルドアは声を上げる。

 

「残念じゃが…ワシはまだやる事があるのじゃ。お主達の遊びに付き合っておる暇はないのじゃ。これで失礼するぞ」

 

 

 

 ダンブルドアはゆっくりと校長室の扉へと向かうが、それを遮るかの様に魔法省の人間が立ちはだかった。

 

 

 

「愚かな事はやめた方が良いぞ。お主のホグワーツでの成績は知っておるが…お主ではワシには勝てぬぞ?」

 

 

 

 そう言われた役人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべているが、杖を引き抜いた大臣が声を荒らげた。

 

 

 

「だがここには4人居るのだぞ! お前はたった1人で4人を相手取るつもりか!」

 

「先生!」

 

「ハリー…やめなさい」

 

校長室の端では、ハリーが杖を抜こうとしているが、ハーマイオニーがそれを制止する。

 

「邪魔しないで!」

 

「貴方程度の腕前では、無駄な抵抗です」

 

「その通りよ。少し頭冷やしなさい」

 

「なにぃ?」

 

 次の瞬間、ダンブルドアは素早く杖を引き抜くと、4人全員に失神魔法を放った。

 

『あら、結構見事ね』

 

『まぁ、あんな老害でも今世紀最高のなんて歌われているからな』

 

「ふぅ…あまり年寄りに無理をさせんで欲しいのぉ」

 

 

 ダンブルドアはワザとらしく溜息を吐くと、杖を仕舞い込んだ。

 

「さて、お主達にちーとばかし頼みがある」

 

ダンブルドアはこちらに視線を向ける。

 

「ワシはこれからしばらくこの学校を留守にしようと思う。その事をミネルバ…マクゴナガル先生に伝えて欲しいのじゃ」

 

「留守って…どこへ?」

 

『もういっその事帰ってこなければいいのに』

 

『少しだけだけど。同意するわ』

 

「ちょっとした気分転換じゃよ…さて…それではそろそろ行くかの。フォークス」

 

ダンブルドアは笑みを浮かべた後、不死鳥を呼び寄せると、その尾羽を掴んだ。

 

「そうじゃ。ハーマイオニーよ」

 

「な、なんですか?」

 

「いくら、会合を守る為とは言え、友を見捨てる様な事は褒められんぞ。少し見損なったぞ」

 

「へ?」

 

「さて、では行くかの」

 

 

 その瞬間。炎が燃え上がり、ダンブルドアの姿が消えた。

 

『なんなの? 私が悪いって事?』

 

『老害の頭が悪いんだろう。はぁ…あのまま、燃え尽きればいいんだ』

 

『同感…はぁ、ややこしいことになりそうね』

 

 部屋の隅では、状況が呑み込めていないのか。何度も瞬きをしているハリーの姿があった。

 

 

 

「何事ですか!」

 

 

 

 次の瞬間、マクゴナガルが校長室に飛び込んで来た。

 

 

 

「この状況は一体…」

 

「えっと…」

 

ハリーとハーマイオニーが事の全容をマクゴナガルに説明する。

 

「はぁ…まったくあの人は…これから面倒な事になるわね…」

 

マクゴナガルのメンタルコンデションレベルは過去最低のラインにまで低下していた。

 

 




学生に言いくるめられる、高等尋問官と大臣。

ダンブルドアさえ居なければ、問題なかったんだけどな…


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ダンブルドア失踪

最近、出張やらなんやらが多すぎてまともに執筆できない(言い訳)


 

  ダンブルドアがホグワーツを去ってから数日後には、あらかじめ決められていたかのようにアンブリッジが校長に就任した。

 

 それと同時に、DAのメンバーに対しする処罰が行われた。

 

 初犯という事もあり、軽度の体罰で済んだ。

 

 恐らく、マクゴナガルが口利きをしたのだろう。

 

 

「まったく。面倒な事になったわね」

 

「仕方ありません」

 

「密告者に対しては、どのような処罰をご希望ですか?」

 

「別に、処罰なんてしなくても良いわよ。貴女達の場合…手加減し無さそうだし」

 

『言えてるな。ちなみにどんな事をするつもりだ?』

 

『ご希望ならば拷問などを行います。もしくは暗殺など』

 

『えげつないわね』

 

 

 談話室にてハーマイオニーは処罰で受けた手の甲の傷を撫でている。

 

 ナノマシンの影響により、ほぼ完治している。

 

「もう痛みが引いたわ。やっぱり便利だけど…少し怖くなるわね」

 

『痛覚抑制もあるからね。なければ今頃、彼等みたいになっている筈さ』

 

「いってぇ…」

 

 ロンは手の甲の傷口を自身で舐めている。

 

『うっ、ちょっと汚いわね』

 

『あれじゃあ、逆に悪化しそうだな』

 

『最近、ロンの口臭が…』

 

『歯を磨いてないんだろう』

 

『歯科医の娘の宿命かしら、どうしてもだめだわ』

 

 ハーマイオニーは頭を抱えながら、自室へと戻って行った。

 

  アンブリッジが校長に就任してから、更に数日が経過する。

 

 しかし、未だに教師陣の大半はダンブルドアを信奉している様で、未だにアンブリッジを校長と認めていない様で、むしろ敵対している者までいる。

 

「おい、あれ見たかよ?」

 

「え? なにが?」

 

 談話室にて、ハリーが首を傾げる。

 

「これだよ」

 

 ロンは掲示板を指差す。

 

 そこには、進路指導に関しての張り紙が掲示されていた。

 

「進路指導か、もう少し先だよね」

 

「まぁね。ハリーはもう決めたか?」

 

「全然」

 

「だよな」

 

 2人は互いに笑いあって居る。

 

「ダンブルドアが居ない今こそ、大騒ぎするべきだろう」

 

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 

 大広間の端では、ウィーズリー家の双子が何やら話し合っている。

 

 

『一体何を話しているのかしら?』

 

『さぁ? どうせ碌でも無い事じゃないか?』

 

『まぁ、今のこの学園生活が碌でもない様な物だけどね』

 

『嘆かわしい限りさ』

 

  数時間後、私達は進路指導という事で、マクゴナガルの部屋の前に集められている。

 

 

 

 様々な生徒が、部屋に入っては、少し対談し、退室すると言うのを繰り返している。

 

「次。ミス・イーグリット。二人ともどうぞ」

 

 双子という事もあってか、私達は同時に面談を受ける様だ。

 

 扉を開け中に入ると、そこにはマクゴナガルが羊皮紙を片手に持って座っていた。

 

「どうぞ、お掛けになって」

 

「失礼します」

 

 椅子に腰かけ、マクゴナガルと対峙する。

 

 マクゴナガルはいくつかの資料に目を通したのち、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて、この面接は貴女達の路について話し合います。これからの学校生活で、どうするかについてもです…ではまず進路から」

 

 マクゴナガルはそう言うと、羽ペンを手に取った。

 

「現状、これと言った就職について等の予定は有りません」

 

「しかし、生活に必要な蓄えは有ると考えています」

 

「まぁ、貴女達は別件で動いて貰ってますし。私よりいい報酬を受け取ってますからね…ほんと…羨ましい限りです…」

 

 マクゴナガルは深い溜息を吐いている。

 

「メンタルコンデションレベル低下。軽度の鬱と判断」

 

「えぇ、まぁ、校長が居なくなったせいで私の仕事が…あぁ…私も旅に出たいものですよ…」

 

 マクゴナガルはそう言いながら、羊皮紙を記入していく。

 

「さて…これで面談は終了です。戻っていいですよ」

 

「お疲れ様です」

 

 一礼した後、私達は退室した。

 

 面接も終了し、私達は自室にて待機していると、外が騒がしくなり始める。

 

「なにかしら?」

 

「かなり騒がしいね」

 

「ちょっと見に行きましょう」

 

 談話室を抜け、お広間へと移動すると、ウィーズリー家の双子が箒で宙を飛びながら花火の様な物を投げている。

 

 その内の1発がアンブリッジに直撃した様で、その場でアンブリッジが気を失っている。

 

「あれは何?」

 

「うぉおお! 良いぞ! フレッド! ジョージ!」

 

 2人は速度を上げると、正面扉を魔法で開けると、そのままホグワーツの空へと飛び去って行った。

 

「何だったのアレ?」

 

『さぁ? でもあの家の連中だろ? まぁあまりまともな事じゃ無いだろう』

 

『そうね…自室に戻りましょう』

 

 周囲の生徒が歓声を上げる中、私達は自室へと戻って行った。

 

 

 

  ウィーズリー家の双子がホグワーツを去ってから数日後。

 

 時間が経った今でも、彼等の行いが神格化され、生徒間で語り継がれている。

 

 彼等はホグワーツを去る間際に、様々な置き土産を残したようで、6階の何処かに巨大な沼地を作ったらしい。

 

 

 

 その沼地をアンブリッジは必死に消そうとしている様だが、未だに成功しないようだ。

 

『あの程度なら、簡単に消せると思うんだが』

 

『それだけ、アンブリッジが無能なのよ。他の先生ならすぐだわ』

 

『誰も手を貸していない様だが?』

 

『人望が無いのだと判断します』

 

『その通りね』

 

『そう言えば最近、あの教師に対して悪戯するのが流行っているみたいじゃないか』

 

 去った双子に触発された生徒達が、彼等が残した悪戯グッズを用いて、アンブリッジに対して、嫌がらせを行っている様だ。

 

『そうなのよ。誰が一番アンブリッジを追い詰められるか競っているみたいよ』

 

『へぇ、面白いじゃないか』

 

『まぁね。皆、アンブリッジに怒られるとき、気分悪くなるのよ。アンブリッジ炎なんて言う病気らしいわ』

 

『こりゃ傑作だ』

 

『一種のストレスによる疾患だと考えられます』

 

『アンブリッジに近寄るだけでストレスだからしょうがないわね』

 

 ハーマイオニー半笑いで数回頷いていた。

 

  数日後、ふくろう試験も終盤に差し掛かった頃、アンブリッジ率いる闇払い達から襲われたハグリッドを庇ったマクゴナガルが昏睡状態になったという話が学校中に駆け巡った。

 

「マクゴナガル先生大丈夫かしら?」

 

 談話室の暖炉に当たりながらハーマイオニーが不安感を募らせている。

 

「情報によれば、命に別状はないようです」

 

「それは良かった」

 

『唯一まともな教員だったんだがな…これじゃホグワーツは終わりだな』

 

「そうよね…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐き、首を左右に振る。

 

 その時、談話室の扉が勢い良く開かれる。

 

「あぁ! ハーマイオニー! 二人とも! 丁度いい所に!」

 

「あら? ハリー? それにロン? どうしたの?」

 

「緊急事態らしいんだ!」

 

「シリウスがヴォルデモートに捕まったんだ! それで、拷問されている!」

 

「助けなきゃ!」

 

「拷問? なんでそんな事が分かるのよ?」

 

「見たんだ! さっき神秘部のガラス玉が沢山ある部屋でシリウスは拷問されている。あいつはシリウスを使って何かを手に入れようとしているんだ」

 

「神秘部って事は魔法省ね」

 

「魔法省か…どうやって行けばいいんだ…」

 

「一つよろしいですか?」

 

「なんだよ」

 

 ハリーは不機嫌そうに呟く。

 

「神秘部に拉致されたという情報の信憑性はどの程度なのですか?」

 

「僕を信じてないのか! さっき見たんだ! ヴォルデモートの視点でシリウスを拷問しているところを」

 

 ハリーは怒鳴り散らし、肩で息をしている。

 

「罠である可能性を考えるべきです」

 

「罠だって? だとしてもシリウスが危険なんだ! 急がなきゃ!」

 

 シリウスの反応を検索するが、彼に投与した発信機の反応は既に消失している為、探知不可能だ。

 

 そうなると、ハリーの言う通り神秘部に拉致された可能性があるようだ。

 

「暖炉を使おう」

 

 

 

 ハリーがそう言うと、急に歩き始めた。

 

 

 

「ちょっと待てよ! 暖炉って何処の暖炉だよ! 学校の暖炉は殆どがアンブリッジが塞いじゃったんだぜ」

 

 

 

「そのアンブリッジの部屋のさ。あそこなら使えるはずだ」

 

 私達はハリーの後を追いながら談話室を後にし、廊下へと出る。

 

「おいおい…ハリー。気は確かか?」

 

 

 

「ロン、君の方こそ気は確かか? 急がないとシリウスが殺されるかもしれないんだ!」

 

 

 

 ハリーはロンを怒鳴りつけている。

 

 

 

「わかった! 急ごう」

 

『何か…不安だわ…』

 

『用心した方が良いね』

 

 ハーマイオニーは立ち上がり自室へと移動しようとする。

 

「ハーマイオニー! 行くよ!」

 

「えぇ、ちょっと部屋に行ってから――」

 

「何言ってるんだ! 今すぐ! 部屋に寄らずに行くよ!」

 

「でも、部屋にタブレットを…」

 

「そんなんどうでも良いから! 早く!」

 

「ちょっと!」

 

『通信は繋がるから問題は無いさ』

 

『まったく…』

 

 ハリーはハーマイオニーの腕を掴み半ば強引にアンブリッジの部屋へと移動した。

 




次回! 

アンブリッジ先生が!



どうでもいいか


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拳銃

今回、アンブリッジ先生が!


今までのツケを払うと思えば心苦しくも無いです。


   アンブリッジの自室周辺に動体反応は確認されなかった。

 

 推測だが、多くの人物がアンブリッジとの接触を避けている様だ。

 

「ここね」

 

 アンブリッジの部屋の前に移動すると、ハリーがドアノブに手を掛ける。

 

「あれ? 開かない。鍵が掛かってる」

 

「ちょっと退いて」

 

 ハーマイオニーが杖を取り出し魔法による解錠を試みる。

 

「ダメね。強力な魔法で鍵が掛けられているわ」

 

「マジかよ」

 

「失礼します」

 

 デルフィは扉の前に立つとピッキングツールを取り出す。

 

「なにそれ? 針金?」

 

 ロンが興味深そうに覗き込む中、ピッキングにより解錠する。

 

「開きました」

 

「アンブリッジの奴。そんな細い鍵を使ってたのか」

 

「ピッキングにより解錠しました」

 

「ピッキングって…犯罪ね。まぁ状況が状況だから仕方ないわね」

 

 ハーマイオニーが扉に手を掛け部屋へと侵入する。

 

 部屋の中は悪趣味なピンク一色で統一されており、壁には猫の写真が入った皿が何十枚と貼られている。

 

「う…うわぁ…」

 

「これは…また…」

 

『悪趣味を通り越して一種のセンスだね』

 

『吐き気がするわ』

 

 

「まぁいい。急いで暖炉を探そう」

 

 ハリーは部屋の奥へと移動する。

 

 暖炉を覗き込むとハリーは激昂した。

 

「駄目だ! この暖炉も封鎖されている!」

 

 

 ストレスレベルの高いハリーが大声を上げながら、机の上の書類を薙ぎ倒している。

 

「くそ…どうすれば…」

 

 次の瞬間、こちらに接近する生体反応を検知する。

 

「生体反応確認。接近しています」

 

「え?」

 

「誰だか分かる?」

 

「判断材料が乏しい為確約はできませんが、歩幅から推測するとドローレス・アンブリッジかと思われます」

 

「マズイ! どうしよう!」

 

 ハリーは先程散らかした書類を目の前にして、狼狽している。

 

「更に接近。間もなく接敵します」

 

「とにかく隠れよう!」

 

「隠れるって…どこに!」

 

「えっと…」

 

『ドレッサーに一人程度なら隠れるスペースがあります』

 

『え?』

 

『この中じゃ君が一番小柄だ。隠れろって事さ』

 

『で…でも…』

 

『急いでください』

 

『わかったわ』

 

 ハーマイオニーはドレッサーに手を掛ける。

 

「ハーマイオニー? どうしたんだい?」

 

「ここ隠れられるかなって思って」

 

「これじゃ、君くらいしか無理だろ」

 

 ロンは溜息を吐き左右に頭を振る。

 

「生体反応最接近。接敵します」

 

「あぁ!」

 

 ハーマイオニーは急いでドレッサーに身を隠す。

 

「これは一体何事です!」

 

 開け放たれた入り口に血相を変えたアンブリッジが立っていた。

 

「えっと…そのぉ…」

 

「尋問します! 高等尋問官親衛隊! 彼等を拘束しなさい!」

 

 

 

 アンブリッジがそう指示すると、どこからか現れた親衛隊によってハリーとロンが拘束されていく。

 

「親衛隊! 次はこの姉妹を拘束しなさい!」

 

「拘束って言ったって…」

 

 マルフォイはロープ片手に周囲の取り巻きと共に動きを鈍らせる。

 

「どうする?」

 

「下手すると…なぁ…」

 

「あ…あぁ」

 

「どうされましたか?」

 

 デルフィが声を上げる。

 

「え? あぁ…えっと…すまないが大人しくお縄に付いてくれないか?」

 

 マルフォイがロープを片手に提案する。

 

「早く拘束されなさい! さもないと、彼等がどうなっても良いの?」

 

 アンブリッジはロンに杖を突き付け分かり易い脅迫をする。

 

「頼むよ…」

 

 ロンはか細い声を上げる。

 

「了解」

 

 私達は両手を前に差し出すと、親衛隊が恐る恐る手をロープで拘束する。

 

「さて、じゃあ、じっくりと尋問していくとしますか。ゴイル、スネイプ先生を呼んできなさい」

 

 アンブリッジの命令に従い、ゴイルはその場から走って何処かへと走り出した。

 

  数分後、普段と変わらぬ表情のスネイプが扉を開け入室する。

 

「吾輩をお呼びですかな? 校長?」

 

「真実薬を持ってきてください」

 

 

 

「あれはポッターを尋問するのに持っていかれたのでは?」

 

 

 

 スネイプはアンブリッジの顔を無表情に見つめている。

 

「あんな小瓶じゃ――」 

 

「まさか、あれを全て使ったという事は無いでしょうな? 3滴ほど有れば十分だと申し上げたはずですが」

 

 アンブリッジはその場で黙り込む。

 

「はぁ…多少なら、在庫はございますが」

 

「なら十分です。このいけ好かない姉妹に使うだけです」

 

 スネイプはこちらを見据える。

 

「それは、あまり得策とは言えませんな」

 

「どう言う事かしら? 生徒に対して使用してはいけないと言う理由ならば私が今この場で許可します」

 

「吾輩は無駄な事はするべきではないと言いたいのです」

 

「無駄な事?」

 

 アンブリッジが眉をひそめ、スネイプを睨み付ける。

 

「どう言う事かしら?」

 

「彼女達に真実薬は通用しないという事です」

 

「はん。ふざけているの? それとも私を馬鹿にしているのかしら?」

 

「いえ、それは既に…いえ。馬鹿になど…これは、ダンブルドア校…前校長が仰っていた事です」

 

「え? ダンブルドアが…」

 

 アンブリッジがこちらを睨み付ける。

 

「どうにも、前校長も彼女達に真実薬を試したようですが…効果が無かったとか」

 

「え?」

 

「お役に立てなかったようですな」

 

「もう結構です! 下がりなさい!」

 

「それでは、これで…」

 

 スネイプは私を一瞥すると、アンブリッジの部屋から出ようとした。

 

 

 

「あの人がパッドフットを捕まえた! あれが隠されている場所で、あの人がパッドフットを捕まえた!」

 

 

 

 その瞬間、ハリーはスネイプに向かって叫び声を上げた。

 

 

 

「何のことです! スネイプ! 何か知っているのですか?」

 

 

 

 アンブリッジは混乱している様でスネイプに問いかけている。

 

 

 

「さっぱりですな。ポッター、頭がおかしくなりたいのならいつでも私の研究室に来るがいい。戯言薬を飲ませてやろう」

 

 

 

 そう言うと、スネイプは退室していった。

 

『スネイプは理解したのかしら?』

 

『仮にも不死鳥の騎士団だ。大丈夫だろう』

 

『ところで、ハリーが言っていた意味わかる?』

 

『さっぱり』

 

「あぁ! もう! 気分が悪いわ!」

 

 アンブリッジはヒステリック状態になり、杖を取り出す。

 

「…………仕方ない…良いでしょう…他に手は無いのだから…」

 

 

 

  アンブリッジは引き攣った笑いを上げながら、私に杖を突き付けた。

 

「真実薬が効かないと言うならば仕方ありません! 磔の呪いで口を割ってもらいます! すれば、このいけ好かない表情が少しは緩むでしょうね!」

 

 その言葉を聞き、親衛隊のメンバーが声を上げる。

 

「しかし! その呪文は違法です! アズカバン送りになるかと」

 

 マルフォイがアンブリッジに提言する。

 

「うるさい!」

 

 そんなマルフォイをアンブリッジが怒声を荒らげ一瞥する。

 

「これは! ……魔法省が私を通して行った行為です! ですから合法なのですよ! 良いですね! クルーシオ!!」

 

 次の瞬間、私に対して磔の呪いが放たれる。

 

 しかし、放たれた魔法はシールドによって無効化される。

 

 

 

「どうです? 話す気にはなりましたか? 我慢しているのですか? 苦しかったり、痛かったら泣きさけべばいいのですよ? これは完全に拷問ですからね! 何も恥じる事はありませんよ!」

 

 

 

 アンブリッジは満面の笑みで私に問いかけている。

 

 

「何とか言いなさい!」

 

 アンブリッジが更に杖を振る。

 

 その時、背後のドレッサーの扉が勢い良く開かれる。

 

「もうやめて!」

 

「おや? ミス・グレンジャー」

 

 ドレッサーから飛び出したハーマイオニーは杖を構えアンブリッジに突き付けている。

 

「高等尋問官である私に杖を向けるとは、どういうつもりです!」

 

「磔の呪いは禁止されている筈です! それを生徒に使うなんて!」

 

「黙らせなさい!」

 

 アンブリッジの指示に従う様に親衛隊の一人が杖を振る。

 

「エクスペリアームス!」

 

「くっ!」

 

 魔法が直撃し、ハーマイオニーの杖が弾き飛ばされる。

 

「まったく…困った生徒です。これは退学もあり得ますね」

 

 アンブリッジは杖を構え直し、ハーマイオニーに接近する。

 

「こないで!」

 

 ハーマイオニーはポケットから銃を取り出し、アンブリッジに向ける。

 

「なんだあれ?」

 

「これは…確か、マグルが使う玩具ですね」

 

 アンブリッジは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そんな物で、何をするつもりですか?」

 

「磔の呪いをやめて!」

 

「威勢が良い事。でも手が震えてるわよ」

 

「て、手振れ制御!」

 

『了解。まぁ、頑張りなよ』

 

 トムの制御により、手振れが抑制される。

 

『援護します』

 

『大丈夫よ…頑張るから』

 

『了解。無理はなさらないでください』

 

「彼等の拘束も解くようにしてください!」

 

「人の事を脅迫するなんて…まったくこれだから穢れた血は嫌なのよ」

 

「くっ…」

 

『おっと、激昂するなよ。撃つ時は狙いをしっかりとな』

 

『大丈夫よ…大丈夫…』

 

「早くして! じゃないと…撃つわ」

 

「おやおや、怖い怖い。親衛隊。わかってるわね」

 

「え…はい」

 

 マルフォイがハリーの拘束を解錠しようと動き出す。

 

「違うわよ! あのマグルから銃を奪いなさいって言ってるのよ!」

 

「え? あっ、え…エクスペリアー」

 

「動かないで!」

 

 ハーマイオニーが銃を天井に向けると、1発威嚇射撃を行う。

 

「うぉ」

 

 周囲に発砲音が響き渡り、親衛隊のメンバーが身構える。

 

「本当に撃つわよ!」

 

「関係ないわよ! 早くしなさい!」

 

「しかし…」

 

 マルフォイを始めとした親衛隊のメンバーがアンブリッジとハーマイオニーを交互に見据える。

 

「チッ! 使えない腰抜けばっかりね! エクスペリアームス!」

 

 アンブリッジが杖を振ると、魔法が発射される。

 

「シールドを展開!」

 

『残念。防御シールドはタブレットから発生しているんだ。だから今の君は無防備さ』

 

「え? きゃ!」

 

 魔法が直撃し、ハーマイオニーの手から銃がはじけ飛び、アンブリッジの足元に転がる。

 

「ふーん。これが禁制品ね。こんなんのどこに脅威があるんだか?」

 

 アンブリッジは銃を拾い上げ、観察する。

 

「確か…こうだったかしら?」

 

 引き金に手を掛け、アンブリッジはハーマイオニーに銃口を向ける。

 

「そうそう、こんな感じね。ちょっと痛いかもしれませんが、罰よ」

 

「え? ちょっと…」

 

 銃を突き付けられたハーマイオニーはその場で数歩後退る。

 

「なんだ? さっきの音?」

 

「こっちからだったな」

 

 先程の銃声を聞きつけた様で、周囲に多くの生徒と複数名の教員の姿があった。

 

「おい! アンブリッジが生徒に何か突き付けてるぞ!」

 

「あれって、マグルの禁制品じゃないか?」

 

「なんでそんな物を、アンブリッジが持っているんだよ?」

 

「持ち込み禁止じゃないのか?」

 

 周囲の人々が次々に疑問を口にする。

 

「こ、これは…」

 

「こ、こんな状態でも、私を撃つんですか?」

 

「なんですって…」

 

「これだけ人が居る中で、禁制品を構えているだけじゃ無くて、私を撃つおつもりですかと聞いているんです!」

 

「ちっ! 小生意気な小娘が…」

 

 アンブリッジはヒステリック状態で、声を荒らげる。

 

「これは! この禁制品は! 魔法省が私に対して、特別に許可をくれた物です! ですから、私の私物であり! 私がどう使おうと、何の問題も無いのです!」

 

『こりゃまた、とんでもない理論だな』

 

『暴論よ。頭がおかしいんじゃないかしら』

 

「よって! 今この場で! 魔法省の権限として! 私が! これを使用する事は! 何ら問題ないのです!」

 

 怒りに任せ、アンブリッジがハーマイオニーに突き付けた銃の引き金を引く。

 

「うっ…え?」

 

 アンブリッジは引き金を引いたが、銃弾が発射される事は無かった。

 

「何よこれ? 壊れているの?」

 

『その銃はロックされている奴さ。君以外使えない』

 

『そうだったわね。すっかり忘れていたわ』

 

「もう! どうなっているのよ!」

 

 アンブリッジが銃身を眺め、銃口を覗き込む。

 

『もしかして、今解除すれば…』

 

『面白いことになるね。まぁ、解除するかどうかは君の意思さ。解除したらどうなるか。君なら分かるんじゃないか?』

 

『わかってるわ…大丈夫。お願い』

 

『覚悟の上って事だな。分かったよ』

 

「もう、これどうなってるのよ」

 

 アンブリッジは再び銃口を覗き込み、その際に引き金に手を掛ける。

 

「ぎゃん!」

 

 次の瞬間、アンブリッジは自らの手によって放たれた弾丸により、頭部に弾丸が着弾すると、悲鳴を上げ、その場に倒れ込み、周囲に血が流れる。

 

「これ…これって…」

 

「生命反応確認。まだ生きています」

 

 縄を引き千切り、私とデルフィはハーマイオニーに近寄る。

 

「私…」

 

「最良の選択です」

 

「ドローレス・アンブリッジの処分は医師に任せましょう」

 

 数分後。人混みを掻き分け、マダム・ポンフリーが現場に到着する。

 

「これは…一体何があったのです」

 

「ドローレス・アンブリッジが自ら頭部を銃で撃ち抜きました」

 

「え? 自殺? まったく…面倒な事を…」

 

「まだ生きています」

 

「そうですか、それはざん…良い事です」

 

「周囲の生徒や教員も状況を見ている筈です」

 

「わかりました、とにかくコレを医務室へ運びます」

 

 数名の教師に持ち上げられ、アンブリッジは医務室へと移送された。

 

『まぁ、良い判断だったさ。どうだい、初体験を済ませた感想は?』

 

『変な聞き方ね…でも何か、複雑な気持ちだわ』

 

『これから、もっと人が死ぬさ。覚悟しときな』

 

『なんか嫌になっちゃうわ』

 

 

  野次馬がアンブリッジの移送を見物している間に私達はハリーとロンの拘束を解除する。

 

「一時はどうなるかと思ったよ…」

 

「ハリー、何があったんだ?」

 

「セドリック」

 

 周囲に人が残る中、セドリックを始めとした、DAのメンバーが集結する。

 

「実は…」

 

 ハリーが状況を説明する。

 

「なるほど、つまり神秘部に行かなきゃいけないんだな」

 

「そうだよ…でも、暖炉が塞がれていたんだ。どうやって行こうか…」

 

 ハリーは頭を抱え、周囲のメンバーも頭を抱える。

 

「あっ、そうだ」

 

 ロンが思い立ったように口を開く。

 

「君達さ、車持ってたじゃん。あれで行こうよ」

 

「車?」

 

 ロンの提案に複数人が疑問の声を上げる。

 

「そう、あれなら簡単に行けるんじゃない? 空は飛べないけど」

 

「移動自体は可能ですが、乗車人数に問題があり、全員で移動する事はできません」

 

「そうか、ならメンバーを決めなきゃな…」

 

 ハリーはDAのメンバーの前に立ち、選定を始める。

 

「さて、僕達は確定として…希望者は他に居るかな?」

 

 複数人のメンバーが手を上げる。

 

 その中にはセドリックの姿もあった。

 

「一緒に行かせてくれ」

 

「却下します」

 

「え?」

 

 私の回答に対し、ハリーが声を上げる。

 

「なんでさ? セドリックが来てくれた方が心強いじゃないか」

 

「彼は現在、療養中であり、足手纏いになる可能性があります」

 

「でも…」

 

「彼女の言う通りだ」

 

「セドリック…」

 

「今の状態で行ったら足手纏いになるかも知れない。陰ながら無事を祈っているよ」

 

「わかったよ。じゃあメンバーは後で正門前に集合で」

 

「わかったよ」

 

 ハリーとロンは走り出し、ほかのメンバーも正門へと移動した。

 

「我々も移動を開始しましょう」

 

「そうね、でもその前にタブレットを取ってくるわ」

 

「了解」

 

 ハーマイオニーは小走りで自室へと移動を開始した。




アンブリッジ先生は病院送りになりました。


生きてるだけありがたいと思え。


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神秘部

花粉が酷すぎて、目と鼻がおかしくなりました。


 

   10分後正門前に出撃メンバーが集合する。

 

「全員居るね?」

 

「おう! 準備万端だ! ハリー!」

 

 ロンはハイテンションで答える。

 

『まったく、これから危険な場所に行くって言うのに…嫌ね』

 

『ピクニックと勘違いしているんだろう。まぁ、あのタイプはしぶとく生き残るか、早々に死ぬかのどっちかだな』

 

『出来れば、私の目の届かない所でやって欲しい物ね』

 

 私はベクタートラップ内から車を取り出す。

 

「うぉ! これに乗るのか!」

 

「乗車後、シートベルトを絞め、衝撃に備えてください」

 

「分かったよ」

 

 出撃メンバーの乗車を確認する。

 

「準備万端だ! でも間に合うのかな? この車は僕のパパのと違って空飛べないし…」

 

「だけど、他に手段は無いだろ? 急いでくれ!」

 

「了解」

 

 私はフロント部分へと移動し、デルフィはリア部分へと移動する。

 

「何してんだよ? 早く行くよ?」

 

「移動を開始します。衝撃に備えてください」

 

「え?」

 

 私達は車体に手を掛け、バーニアを展開する。

 

「出力上昇。飛行開始」

 

 バーニアの出力を上げ、車体ごと私達は宙へと舞い上がる。

 

「うぉ! 飛んでるぞ!」

 

「すげぇ!」

 

 高度2000ft(約610m)まで上昇する。

 

「ちょっと高すぎるんじゃ…」

 

「凄い怖いんだけど…」

 

『ねぇ…大丈夫なのよね?』

 

『バランスは取れているので問題はありません』

 

『そ…そう』

 

 車内から不安交じりの声が上がる。

 

「移動を開始します。低速での移動ですが、シートベルトを絞め、衝撃に備えてください」

 

「え? ちょっとま――」

 

「移動開始」

 

 バーニアを吹かし、時速400kmまで加速し、移動を開始する。

 

「うあ!」

 

 車内から悲鳴が聞こえる。

 

『ちょっと! 早すぎるわよ!』

 

『数分で目的地に到着します』

 

『でも!』

 

『我慢してください』

 

 私達は人体にさほど影響のないレベルにまで加速し、目的地へと急いだ。

 

 数分後には目的地に到着した。

 

「目的地上空に到着しました」

 

「あ…あう…うん」

 

「着地ポイント確認。着地します」

 

 人気の無い空き地に車を軟着陸させる。

 

「到着しました。下車してください」

 

「お…おう…」

 

「死ぬかと思った…」

 

  下車したメンバー全員の顔色は優れ居なかった。

 

「これより銃を支給します。既に装弾済みなので暴発にはお気を付けください」

 

「あぁ…」

 

 数分後には全員に銃を配り終わる。

 

 その頃には、全員の体調も回復し始めた。

 

「それでは、内部に突入します。私達が先行しポイントマンを務めます。戦場では私達の指示に従ってください」

 

「わかったよ」

 

 全員がこれから戦闘を行うと言う状況をようやく理解したようで、集中力が増している。

 

「突入」

 

 私達は扉を開け放ち、エントランスホールへと侵入する。

 

 エントランスホールは無人の状態であり、すぐにエレベーターを確保できた。

 

「エレベーターで移動した先が、神秘部ね」

 

「神秘部へ移動します。全員警戒を怠らないでください」

 

「わかった!」

 

 全員がエレベーターに乗り込み、下層にある神秘部へと移動する。

 

 

 神秘部に到着すると、ハリーは駆け出した。

 

「この扉だ! この先にシリウスが!」

 

 

 

 ハリーが目の前の扉を指差しながら、ロン達に語り掛けている。

 

「この先に…」

 

「行くぞ!」

 

 ハリーはゆっくりと、目の前の扉を開け中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

  扉の向こうには、巨大な空間に巨大な棚が陳列されており、そこには様々なガラス玉が置かれている。

 

 

 

「こっちだ」

 

 

 

 ハリーは何かに導かれるかのように奥へと進んでいき、ある棚の前で歩みを止めた。

 

『ここは何なのかしら?』

 

『予言とかそう言った類の物が保管されているところだな。後は重要な物とかかな?』

 

『重要な物?』

 

『そうさ。ちょうどその棚にあるのは逆転時計だな』

 

『懐かしいわね』

 

 ハーマイオニーは棚から一つの逆転時計を手に取る。

 

『でも…何かしら? 私が使って居たのより複雑な形ね』

 

『神秘部にある様な物だからな。かなり高級品何だろう』

 

『そうなの』

 

「これだ…」

 

 

 

 ハリーは何の躊躇いも無く、棚に置かれているガラス玉を一つ手に取る。

 

『あれは何?』

 

『あれが予言さ。まぁ予言が保管されているガラス玉って所か』

 

『そんな保管してどうするのよ?』

 

『まぁ、魔法使いってのは予言に人生を左右されるって考えの奴も居るからな』

 

『そうなの?』

 

『そうさ。現に――』

 

 その時、姿現し特有の空間湾曲を探知する。

 

「空間湾曲検知、姿現しによる敵襲と思われます。戦闘隊形を取ってください」

 

「え? ちょっと!」

 

 ハーマイオニーは急ぎ逆転時計をポケットに仕舞い、同時に杖を構える。

 

 その動きになる様にほかのメンバーも杖に手を掛ける。

 

 しかし、それより早く声が響き渡る。

 

「動くな!」

 

「くっ」

 

「誰だ!」

 

 2人分の生体反応を確認する。

 

 反応の方向からはフードを深くかぶった人物が杖を構えて歩み寄ってくる。

 

「お前は…ルシウス・マルフォイか」

 

 ハリーが恨みを込めた声でその名を呼ぶと、ルシウスは嘲笑いながらハリーに話しかけ始めた。

 

 

 

「さあハリー・ポッター……その予言を私達に渡せ。そうすれば誰も傷つかぬ」

 

 

『なんで予言なんて欲しがるのよ?』

 

『さっきも言っただろ? 予言によって人生が左右されるって考えている奴が居るって』

 

『そうね』

 

『きっと現代の僕も同じ考えなんだろう。だから予言が必要なんだろうね』

 

『なるほどね』

 

 ハリーは手にしているガラス玉に目を落とす。

 

「これをお前達に渡せば、僕等を見逃すのか?」

 

「良いからそれを渡せ」

 

 

 

「シリウスはどこだ?」

 

 

 

 ハリーが問いただすと、ルシウスの隣に居た死喰い人がフードの向こうでケラケラと笑い始めた。

 

 

 

「ヤンチャなポッターちゃんは、シリウスが余程、恋しい様だねぇ」

 

 甲高い女性の声が響き渡る。

 

「あまり子供を揶揄うでないぞ、ベラトリックス」

 

 ルシウスはベラトリックスを軽く宥める。

 

 その時、背後にいたネビルのメンタルコンデションレベルが異常な数値を叩きだす。

 

「貴様は! ベラトリックス・レストレンジ!」

 

 杖を構えたネビルが周囲のメンバーを掻き分け最前列まで移動する。

 

「アンタは? ネビル・ロングボトムかい? あぁーご両親元気? てか、まだ生きてんの?」

 

「貴様!」

 

 ネビルは挑発に乗り、その場で杖を掲げる。

 

 その時、周囲に大量の空間湾曲を検知する。

 

「空間湾曲を大量に検知。敵の増援。来ます」

 

「え?」

 

 現れた大量の死喰い人はこちらを取り囲み杖を構える。

 

「人数はこちらが上だぞ、さぁ、大人しく予言を渡せ」

 

「くっ…」

 

『私達が隙を作ります。撤退を開始してください』

 

『でも』

 

『時間がありません』

 

「戦闘を開始します。閃光に注意してください」

 

 私はスタングレネードのピンを抜き死喰い人の前方へと転がす。

 

「なんだこれ?」

 

「マズイ!」

 

 死喰い人達は防御魔法を発動させるが、その直後、スタングレネードが閃光と爆音を響かせる。

 

「ぐぁああ!」

 

「み、耳が!」

 

「目があぁぁあああああ! 目があぁあああぁ!」

 

「撤退を開始します」

 

 デルフィはスモークグレネード数個のピンを抜き周辺にばら撒き煙幕を形成する。

 

「退避します。急いでください」

 

「え? ちょっと待ってってば!」

 

 もたつくロンの肩をハリーが抱きかかえながら、私達は出口へと走り出す。

 

「逃げるぞ!」

 

「くそ! 見えない!」

 

「撃て! 撃ちまくれ!」

 

 煙幕越しに死喰い人が大量の魔法を乱射する。

 

 しかし、全ての魔法は見当違いの方にそれる。

 

 その内の1発が棚に直撃し、周辺の棚を巻き込む。

 

『こりゃ凄い。全部の予言がおしまいだ』

 

『大変なことになったわね』

 

『急いで逃げた方がよさそうだ』

 

 背後から煙幕を抜け複数人の死喰い人が攻撃を開始する。

 

「迎撃開始」

 

「撃て!」

 

 ハリー達は撤退しつつ背後に向け様々な魔法を乱射する。

 

 しかし、狙いを定めていない為命中率は1割にも満たない。

 

 それでも、牽制と言う点で言えば十分だ。

 

「くそっ!」

 

「奴等おってくるぞ!」

 

「排除を開始します」

 

「戦況分析完了。近接攻撃が有効と判断。攻撃開始」

 

「2人とも!」

 

 私達は撤退を中止し、セロシフトを用いて敵部隊の中心へと移動する。

 

「なんだ!」

 

「排除開始」

 

 私は腕をブレードに変化させ、周囲の死喰い人を切り裂く。

 

 デルフィはウアスロッドによる打撃攻撃を行っている。

 

 打撃だが、殺傷能力に関して言えば十二分な威力だ。

 

 横薙ぎが直撃した死喰い人の胴体が醜く歪んでその場に倒れ込む。

 

「なんだあいつら!」

 

「くぉ! 一旦引け!」

 

 先程の戦闘を目の当たりにしたルシウスが死喰い人に指示を出し、敵部隊が後退する。

 

『出口を見つけたわ!』

 

『了解。合流します』

 

「Fマインリリース」

 

 敵部隊の交代を確認後、周囲にフローティングマインを設置し撤退を開始する。

 

 

 数秒後、爆音と衝撃が響き渡り敵部隊の生命反応が減少する。

 

「こっちよ!」

 

 出口付近でハーマイオニーがこちらに手を振る。

 

「良かったわ! 他のメンバーは先に降りたわ」

 

「了解」

 

「我々も行きましょう」

 

 デルフィはハーマイオニーを抱きかかえ、目の前の暗闇を降下する。

 

 

  暗闇を下りた先には、うつぶせに倒れたハリー達が呻き声を上げながら立ち上がろうとしている。

 

 

 

「くそ…まったく…災難だ」

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

 デルフィから降りたハーマイオニーは周囲を確認する。

 

「あれは…」

 

 目の前には巨大な門の様なオブジェが鎮座していた。

 

『あれは、アーチだ』

 

『アーチ?』

 

『そうさ。何の為にあるのかは分からないがね』

 

 

『分析完了。一種のワームホール発生装置です。行き先は不明です』

 

『ワームホール?』

 

『詳しい説明を行いますか?』

 

『それって…長くなる?』

 

『数時間程度で終わると思われます』

 

『短く、端的にお願い』

 

『了解。端的に言えば、空間や時空を圧縮したトンネルの様な物です』

 

『へ…へぇ…』

 

『お分かりですか?』

 

『全然』

 

『了解』

 

 アーチのワームホールを利用すれば、時間軸を圧縮し、元の時代へと戻れる可能性がある。

 

 しかし、現状ではワームホールを操作する事が出来ない様だ。

 

 時間軸などを制御可能な装置を外付けする必要がある。

 

 アーチの表面にはエネルギーフィールドがベール状に展開していた。

 

「何か聞こえないか? こぉ…誰かが呼んでいるみたいな」

 

 

 

 ハリーがそう言うとその場の全員が耳を澄ます。

 

「確かに…聞こえるわね…」

 

 

 ハリーはその声に惑わされるかの様にフラフラとアーチに歩み寄る。

 

『アレをくぐったらどうなるの?』

 

『短時間でしたら問題ありませんが、通り抜ける際に空間圧縮により、生身の人間ならば、圧死すると思われます』

 

「ハリー! 近付いちゃダメよ!」

 

「でも…」

 

「警告。敵部隊接近。戦闘が予想されます」

 

 次の瞬間、黒い煙を纏った人物が地面に着地する。

 

「追いつめたぞ。さぁ、予言を渡すんだ」

 

 

 

 着地した、ルシウスとベラトリックスは杖を構えながら、ハリーに予言を要求している。

 

 

 

「誰が! お前達なんかに!」

 

 

 

 ハリーが怒声を上げると、ルシウスはワザとらしく悲しい顔をする。

 

 

 

「まったく…仕方ないな」

 

 ルシウスは一呼吸置いた後手を振り上げる。

 

「やれ」

 

 ルシウスが振り上げた手を振り下ろすと同時に複数の反応が現れ、こちらに襲い掛かる。

 

「迎撃開始」

 

 3基のウィスプを起動し、ビームガンとウィスプによる同時射撃を行い、こちらに迫り来る死喰い人を蒸発させる。

 

「なんだと!」

 

「敵援軍接近」

 

「迎撃を開始します」

 

 デルフィは6基のウィスプを起動する。

 

 展開したウィスプは独立起動し、背後に展開した死喰い人の急所を貫く。

 

「すごい…」

 

「容赦ないな…」

 

 ハリー達は周囲の状況に唖然としている。

 

 索敵範囲内に更なる反応を検知する。

 

「反応確認。注意してください」

 

「え?」

 

 次の瞬間、光を纏い複数の反応が着地する。

 

 

「無事か! ハリー!」

 

 

 

「シリウス!」

 

 光の中からシリウスが現れ、ハリーはシリウスに駆け寄る。

 

「怪我はないな!」

 

 

 

「うん! シリウスの方こそ! 怪我は?」

 

「怪我? あぁなんともないが」 

 

 周囲を見回すと、ムーディやルーピンを始めとした、不死鳥の騎士団員の主要メンバーが戦闘態勢を整えている。

 

「子供は隠れてろ!」

 

 

 

 ムーディがそう叫ぶが、ハリー達はそれを聞かず、立ち上がると死喰い人に杖を向けている。

 

「もう! 皆無謀なんだから!」

 

 ハーマイオニーは悪態を付きながら杖を構える。

 

「援護を開始します」

 

「ファランクス展開」

 

 ファランクスにより弾幕を形成し、死喰い人を防御態勢へと移行させる。

 

「突貫します」

 

 ウアスロッドを正面に構えたデルフィがゼロシフトにより死喰い人に突貫し敵の中央をかき乱す。

 

「や、やるではないか」

 

「これ…私達は必要だったのだろうか…」

 

「今は目の前の事に集中しろ!」

 

 ムーディはそう言いながら、魔法を放ち、周囲の死喰い人を気絶させていく。

 

 

 

「逃さんぞ!」

 

 

 

「ハリー!」

 

 

 

 シリウスが叫ぶとルシウスが放った魔法を打ち消した。

 

 

 

「はん! 相変わらずアンタは甘ちゃんだ!」

 

 

 

「ベラトリックス!」

 

 2人は互いに睨み合い杖を構える。

 

 

 

「はぁ!」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 二人は同時に魔法を放ち、互いにけん制しあって居る。

 

「シリウス!!」

 

 

 

「退いてろ! ハリー!」

 

 

 

 駆け寄ろうとするハリーを制しながら、ベラトリックスと魔法を打ちあって居る。

 

 

 

「くぉ!」

 

 ハリーの放った魔法を己すんでの所で防いだベラトリックスが苦痛の声を上げている。

 

 

 

「くそがぁ! 邪魔するな!」

 

 

 

 ベラトリックスは標的をハリーに変えたのか、赤い閃光をその杖から放った。

 

 

 

「ハリー! 危ない!!」

 

 

 

 ハリーを庇う様に飛び出したシリウスは、赤い閃光を胸に受け吹き飛ばされる。

 

 

 

「ハーハハッ! 消えてなくなりな! シリウス・ブラック!」

 

 

 

「シリウス!!」

 

 

 

「ぐぉおぉおぉぉ!」

 

 

 

 吹き飛ばされたシリウスは、誘導されているかのようにアーチへと吸い込まれた。

 




車が空を飛ぶ必要は無いと言いましたが、別に飛ばせないとは言っていない。

今回の話しで、シリウスがアーチに飲み込まれました。

どうなるんですかねぇ


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予言

もう少しで不死鳥の騎士団も終わります。


   シリウスがアーチに吹き飛ばされた瞬間を見たベラトリックスのメンタルコンデションレベルは最高潮を迎えた。

 

「しーんだしんだシリウス・ブラック!」

 

 

「もう良い! 退くぞ!」

 

 

 

 ルシウスとベラトリックスは吹き飛ばされていくシリウスを一瞥した後、扉の向こうへと消えていった。

 

 

「シリウス!!」

 

「ハリー…」

 

 

 

 ハリーが手を伸ばすが、シリウスの体は完全にアーチの奥へと消えていった。

 

「シリウスーーー!!」

 

「そんな…シリウスが…」

 

 アーチに飲み込まれたシリウスを目の当たりにしてハーマイオニーのメンタルコンデションレベルは低下する。

 

「ねぇ! 貴女達なら助けられる?」

 

「可能です。ですが可能性はそれほど高くありません」

 

「お願い!」

 

「了解」

 

 私達はバーニアの出力を最大にし、ゼロシフトを併用しアーチの中へと突入する。

 

 

 アーチ内部はワームホールと化しており、空間圧縮率は高位である。

 

「微弱ながら生体反応を確認。救助対象者だと思われます」

 

「救助を開始します」

 

 私達は反応の有る地点へと移動する。

 

 そこには気を失い、空間圧縮により、全身の骨と内蔵にダメージを受けている瀕死のシリウスが浮遊していた。

 

「回収を開始します」

 

「了解。ベクタートラップ開放」

 

 デルフィはベクタートラップを開放し、空間圧縮の反動を利用し、圧縮空間を拡張する。

 

 それにより、人体にダメージの無いレベルにまで圧縮率が下がる。

 

 私はシリウスに接近し、回収する。

 

 

 

「回収完了。医療用ナノマシン注射」

 

 使い捨ての医療用ナノマシンをシリウスの静脈に注射する。

 

 これにより、応急処置を済ませる。

 

「帰還しましょう」

 

 私達は低速を維持しワームホールを抜ける。

 

  先にシリウスの胴体をアーチから出し、ベクタートラップを解除し、私達もアーチから出る。

 

「シリウス!!」

 

「無事か!」

 

「全身に重度のダメージを負っています。早急に処置してください」

 

「分かった!」

 

 不死鳥の騎士団員数名が治癒魔法を施し始める。

 

「許さない!」

 

 ハリーは突如として走り出し扉を抜けて行った。

 

「ハリー!」

 

「追いかけます」

 

「私も行くわ!」

 

 私達はハーマイオニーと共に先行したハリーを追う。

 

 

  扉を抜けた先にはハリーとダンブルドア。そして――

 

「ヴォルデモート…」

 

 ダンブルドアとヴォルデモートは互いに睨みあって居る。

 

「ほぉ…早速だが予言を渡してもらおうか」

 

「誰がお前なんかに!」

 

「ならば力ずくで奪おう」

 

 ヴォルデモートは杖を構える。

 

「ハリー、下がるのじゃ」

 

「でも!」

 

「良いから下がるのじゃ! お主達も手出しは無用じゃ!」

 

「了解」

 

『さて、どっちに賭ける?』

 

『そうね、どっちもどっちって感じね』

 

『それじゃ賭けにならないじゃないか』

 

「行くぞ!」

 

「相手をしてやる!」

 

 ダンブルドアが杖を振り魔法を放つ。

 

「じゃ!」

 

 対するヴォルデモートは迫り来る魔法を自身の杖で防ぐ。

 

「どうしたダンブルドア? その程度か?」

 

「おのれ…」

 

「では行くぞ!」

 

 ヴォルデモートは軽く杖を振る。

 

 その際体を走るエネルギーラインが光輝き、エネルギーが増大する。

 

 メタトロンのエネルギーが加わった魔法がダンブルドアに直撃する。

 

「ぐぉおお!!」

 

 魔法が直撃し、ダンブルドアの体が吹き飛ばされる。

 

「たった1発で倒れるとは…その程度にまで落ちぶれたか…年を取ったなダンブルドア」

 

「お主…その力は…一体…」

 

 ヴォルデモートは緩やかな足取りで倒れ込むダンブルドアに接近する。

 

 それに対しダンブルドアは倒れたまま後退する

 

「く、来るな! 来るで無い!」

 

「俺様が怖いのかダンブルドア? この俺様に恐怖しているのか?」

 

 ヴォルデモートの表情が醜く歪む。

 

 対するダンブルドアは恐怖に顔を引きつらせている。

 

 現状ダンブルドアの生殺与奪はヴォルデモートが握っている。

 

『今の貴方って結構強いのね』

 

『メタトロンの影響もあるが、ダンブルドアが年を取りすぎたってのもあるな』

 

『寄る年波には敵わないって訳ね』

 

 その間もダンブルドアは後退するが、遂には壁際へと追いやられる。

 

「くぉ…」

 

「残念だ。まぁいい。これで終わりにしてやる」

 

 ヴォルデモートはダンブルドアに杖を突き付ける。

 

「や、やめるのじゃ…」

 

「死ね」

 

 ヴォルデモートは杖を振り上げ、ダンブルドアは子供の様な防御態勢を取り顔をそむける。

 

「待て!!」

 

 ハリーが叫び声を上げる。

 

「ん? なんだハリーよ」

 

「予言を渡す! だからダンブルドア先生を殺すな!」

 

「ダメじゃ! 渡してはならん!! ハリー!!」

 

「貴様は黙って居ろ」

 

 ヴォルデモートは倒れ込むダンブルドアの顔を蹴り上げる。

 

「ぐぉ!」

 

『うわぁ、今のは良いのが入ったね』

 

『憎しみが込められていたわね』

 

『そりゃね』

 

『そろそろ助けてあげたら?』

 

『老害が手を出すなって言っていたんだ。もう少し様子見た方が良いだろう』

 

『そう言うものかしら?』

 

『そう言うものさ』

 

 

「賢い選択だな。予言を渡せ」

 

「分かった。ダンブルドア先生から離れろ」

 

 ヴォルデモートは杖を突き付けたままダンブルドアから数歩立ち退く。

 

「これでいいだろ?」

 

「分かった。予言を渡す」

 

 ハリーはガラス玉を下手で投げる。

 

 投げられたガラス玉は放物線を描きヴォルデモートの手中へと収まる。

 

「確かに予言だ。感謝するぞハリー」

 

「予言は渡した! さっさと消えろ!」

 

「………」

 

 ヴォルデモートは無言でこちらに杖を向ける。

 

「ど、どういうつもりだ!」

 

『おや? これは』

 

『少し不味いわね。シールドの準備をしておいて』

 

『了解』

 

 タブレット端末の出力がわずかに上昇する。

 

「貴様との約束はダンブルドアを殺すなと言うだけだ、貴様等を殺さないとは約束していない」

 

「汚いぞ!」

 

「ほざくな。さて、手始めにそこの小娘を殺すか」

 

 ヴォルデモートは杖を振り上げる。

 

 それ際、体のエネルギーラインが赤く光り、出力が上がる。

 

「死ね!!」

 

「やめろ!!」

 

 ハリーの喚き声が響き、ヴォルデモートは杖を振り下ろし魔法が放たれる。

 

「防衛開始」

 

 迫り来る魔法攻撃をデルフィはウアスロッドで切り払う。

 

「攻撃開始」

 

 私はビームガンの1発をヴォルデモートに向け放つ。

 

 放たれたエネルギー弾はヴォルデモートの胴体へ直撃コースに乗る。

 

「くそぉ!!」

 

 ヴォルデモートは杖を横に薙ぎ、エネルギー弾を杖で受け止め、体のエネルギーラインの輝きを増大させる。

 

「ぐあぁぁあぁあ!!」

 

 しかし、エネルギー弾を受け止めきれなかったようで、ヴォルデモートの体は後ろへと吹き飛ばされる。

 

 その際、手にしていたガラス玉が零れ落ち、砕け散る。

 

「ちぃ!!」

 

 吹き飛ばされたヴォルデモートは上空で態勢を整えると、両足と片手の三点で着地する。

 

『見事な着地ね』

 

『スーパーヒーロー着地って言うらしいな』

 

『膝に悪そうだわ』

 

『しばらくは痛みが残るだろうね』

 

「くそっ!」

 

 ヴォルデモートは顔を上げ、こちらを睨み付ける。

 

「ちぃ! どうやら貴様達相手では分が悪い!」

 

 ヴォルデモートは数歩後退り、杖を振る。

 

 すると、周囲の壁が崩れ落ち、メタトロン反応が急増する。

 

 その場に5機のオービタルフレーム反応が現れる。

 

「まぁいい。貴様等の相手はコイツに任せる」

 

「敵オービタルフレーム。ラプタータイプを確認。コマンダータイプも確認されます」

 

 ラプター

 

 

 バフラム軍の主力をなす無人量産型オービタルフレーム。

 

 汎用性が高く、骨格だけの外見が特徴的。

 

 追加武装によって、マミーヘッド、サイクロプス、クラッドへと形態を変える事が出来る。

 

 今回現れたタイプは室内戦闘を想定してか、2mの大きさだった。

 

 コマンダータイプとはパーティーと呼ばれる敵小隊の戦闘力を向上させる指揮官機。

 

 コマンダータイプを優先的に撃破する事で敵小隊の戦闘力を低下させる事が出来る。

 

「行け!」

 

 ヴォルデモートが杖を振ると、5機のラプターは駆動音を鳴り響かせ宙へと舞い上がる。

 

『あれは…一体…』

 

『オービタルフレームラプターです。戦闘が予想されるため退避してください』

 

『わかったわ!』

 

「アクシオ! ハリー! ダンブルドア!」

 

 ハーマイオニーは安全圏まで退避後ハリーとダンブルドアを引き寄せる。

 

「うぉ!」

 

「なんじゃ! 何をするんじゃ!」

 

「もう! 大人しくしてください! シールド展開」

 

『了解』

 

 ハーマイオニーを中心に防衛シールドが展開される。

 

「これは一体…」

 

「この光は…」

 

「退避完了よ。こっちの事は気にしないで」

 

「了解。戦闘を開始します」

 

「戦闘予測時間90秒」

 

「了解60秒で片付けます」

 

 私達は武装を展開し、リミッターを解除する。

 

「攻撃開始」

 

 私達は同時にゼロシフトで近接攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、ラプターはコマンダータイプとコネクトし攻撃を回避する。

 

「敵コマンダータイプを優先的に撃破します」

 

「了解」

 

 デルフィは飛び上がり、敵小隊の中心に突撃する。

 

「バーストモード移行」

 

 私はバーストモードへ移行し、バーストショットの準備を行う。

 

「敵コマンダータイプ拘束」

 

 敵パーティに突撃したデルフィは敵コマンダータイプを拘束する。

 

「「攻撃開始」」

 

 デルフィがこちらに向けコマンダータイプを投擲する。

 

 それに合わせ、私はバーストショットを放ち、高速で飛翔する敵コマンダータイプとバーストショットが激突する。

 

 爆音共に周囲にエネルギーの余波が走り、周囲の装飾品や旗を焼き払う。

 

「うぉ!」

 

「凄まじいわね」

 

『シールドが無かったら少し危なかったな』

 

「敵パーティ、デスコネクト」

 

 敵パーティの連携が乱れる。

 

「近接攻撃に移行」

 

「各個撃破に移行します」

 

 連携の乱れたラプターの脅威レベルは低下する。

 

 

 ゼロシフトを使用し、空接近し、ブレードで胴体部を切断する。

 

 そのまま、上半身を掴むと、背後に接近していたラプターに投擲する。

 

 ラプターに直撃した上半身は砕け散る。

 

 直撃したラプターは体制を崩し、火花を散らす。

 

「攻撃します」

 

 火花を散らし体制を崩しているラプターを中心から真っ二つに切り裂く。

 

 中心から両断されたラプターは、そのまま両端に分かれると、そのまま小規模な爆発を起こす。

 

 その時、残り2機の敵反応が消失する。

 

 

 デルフィの展開したウィスプが縦横無尽に飛び回り、突撃攻撃を行い、ラプターを同時に撃破したようだ。

 

「戦闘終了」

 

「今回の戦闘における周辺への被害状況を報告します。建造物損壊軽微。味方死傷者無し。敵死傷者甚大」

 

「総合評価A」

 

「何と言う…力じゃ…この力は…」

 

「フッ、潮時か。今回はこれで退こう。次は容赦しないぞ」

 

「コイツは…まさか…」

 

「フハハハハハ!!」

 

 戦闘終了後、魔法省の役人が扉を開け放ち突入する。

 

 ヴォルデモートは高笑いをしながら、黒い煙に包まれ索敵圏外へと消えていった。

 

「何と言う…」

 

 ヴォルデモートの姿を目にした魔法省の面々は、その場で茫然として居た。

 




ダンブルドア…

お辞儀さんの絶頂期です。


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復活

今回は、不死鳥の騎士団編のエピローグという事で短めです。



  数日後

 

 魔法省は今まで否認していたヴォルデモートの復活を認めた様だ。

 

 翌日の日刊予言者新聞の一面には【名前を呼んではいけないあの人、復活する!!】という見出しで大臣が会見する様子が写真で映し出された板。

 

「なんか、ありきたりな記事ね」

 

 自室のベッドサイドに腰を掛けながらハーマイオニーは新聞に目を通していた。

 

「それにしても、復活ねぇ…貴方はどう思っているの?」

 

「別段これと言っては無いかな。強いて言えばさっさとダンブルドアを倒して欲しいと思うよ」

 

「いっその事共倒れならいいのに…」

 

「ある意味理想的だな。最近君もあの老害についての見方が変わったようだな」

 

「まぁ、前回DAの一件でね…少し呆れちゃったわ」

 

「そう言えば、あの老害は校長に復職したんだろ?」

 

「そうなのよ。なんか来年も一波乱ありそうだわ」

 

 ハーマイオニーは呆れながら新聞をベッドへと放り投げる。

 

「ふぅ…今年も色々あったわね。そう言えばシリウスは今、聖マンゴで入院しているらしいわ」

 

「そうなのですか」

 

「まぁ、一命は取り留めた様よ。今度ハリー達といお見舞いに行くの。貴女達もどう?」

 

「遠慮させていただきます」

 

「そう。そう言えばシリウスの隣の部屋に誰が居るか知ってる?」

 

「見当が付きません」

 

「実はね。アンブリッジなのよ。どうやら弾丸が頭に入り込んだせいで植物状態らしいわ。魔法省への復職はダメそうね」

 

「そうかい。良い事をしたな」

 

「まだ少し罪悪感があるわ」

 

「やらなきゃこっちがやられていたんだ。仕方ないさ」

 

「そうね。魔法省に呼び出されたときはびっくりしたけど」

 

「この前の事情聴取でも無罪が認められたんだろ?」

 

「まぁね…そう言えば…」

 

 ハーマイオニーはポケットから逆転時計を取り出す。

 

「あの時、ポケットに入れたまま持ってきちゃったのよ…どうしよう?」

 

「持って居たらいいんじゃないか? 神秘部は壊滅状態で、逆転時計だってそれが最後の1個だろう」

 

「そんな大事な物…返した方が良いんじゃないかしら?」

 

「返してもいいが、持っていることが分かったら、盗んだと思われてあらぬ疑いを掛けられるぞ。それでもいいなら返してきな」

 

「……やっぱりやめておくわ。うん。それがいいわ」

 

「賢明な判断だ。持っていたらいざってときに役立つかもしれないぞ」

 

「そうね…それにしても…私が借りてたやつより…良い奴みたいね」

 

「そりゃ、神秘部にあった物だからな。話によれば、数百年単位のもあるらしいぞ」

 

「うわぁ…」

 

 その時、校内に鐘が鳴り響く。

 

「そろそろ出ましょう。汽車が出ちゃうわ」

 

「了解」

 

 ハーマイオニーは逆転時計をポケットに仕舞い。私達は荷物をまとめホグワーツ駅へと移動した。

 

 

 

 

  今年もまた1年が過ぎた。

 

 ワシは自室からホグワーツ駅を見下ろす。

 

 帰宅する生徒達の背中を見送り、ふと一息つく。

 

 先日の事だが、ついにヴォルデモートの復活が日刊予言者新聞に乗ってしまった。

 

 これにより、魔法界は恐怖に陥り、奴らの活動も活発になるかも知れない。

 

「ふぅ…」

 

 2回ほど校長室の扉がノックされる。

 

「入るが良い」

 

「失礼します」

 

 セブルスが一礼後入室する。

 

「ご所望の資料です」

 

「ご苦労」

 

 ワシは先日行われたハーマイオニー・グレンジャーの事情聴取の詳細を取り寄せた。

 

 彼女に課せられた罪状は、マグルの武器の持ち込み、及び、ドローレス・アンブリッジに対する使用についてだった。

 

 しかし、多くの人物が、アンブリッジ本人が自身で持ち込み、自身を撃ち抜いた事を見ていた。

 

 複数人のアンブリッジ親衛隊のメンバーはハーマイオニー・グレンジャーが持ち込んだと言っていた様だが、状況証拠などに鑑みて彼女に対しては無罪が言い渡された様だ。

 

 正直、ワシとしてはハーマイオニー・グレンジャーが武器を使用したと思っている。

 

 持ち込んだのはイーグリット姉妹だろう。

 

「それと、こちらがもう一つの資料です」

 

 もう一つの資料を受け取り目を通す。

 

 この資料は、ヴォルデモートが召喚したゴーレムの詳細な分析を行った資料だった。

 

「これは…」

 

「魔法省にあった建材の成分もありますが、その殆どが分析不明な成分でした」

 

「なんじゃと…」

 

「ゴーレムの損傷が酷く、これ以上の解析はできませんでした。しかしこれほどまでに損傷させるには並の魔法では不可能と言う結果が出ました」

 

「しかし、ワシは彼女達がゴーレムを破壊するのを目にしたぞ…それも簡単に」

 

「それほどまでに彼女達の持つ力は凄まじいという事ですな」

 

 セブルスは淡々の語る。

 

 彼女達の危険性を理解していない訳では無かろうに。

 

「そういえばのぉ、セブルスよ」

 

「なんですかな」

 

「シリウスは一命を取り留めた様じゃ」

 

「…左様で」

 

「ハリー達の話しでは、シリウスはアーチを潜ったそうじゃ」

 

「アーチを…」

 

「左様。その時、彼女達…イーグリット姉妹もアーチに飛び込み、シリウスを救出したそうじゃ」

 

「……」

 

「シリウスは全身の骨を折る重傷じゃ。しかし彼女達は無傷で戻って来た…これはどういう意味かの?」

 

「吾輩には…わかりかねますなぁ…彼女達に直接聞いたらいかがかな?」

 

「奴等が答える訳なかろう」

 

 沈黙が10秒ほど流れる。

 

「実はの。留守にした間に、ワシなりに少し彼女達に付いて調べてみたんじゃ」

 

「左様で」

 

「彼女達の出生の秘密についてな」

 

「ほぉ…」

 

「ワシはマグル役所を訪れ彼女達の両親に付いて調べた。名前は申告にある通りで問題は無かったのじゃが、念には念をという事で受理した役員の家に赴き記憶を覗き見たのじゃよ」

 

「結果は?」

 

 ワシは首を横に振る。

 

「実はの。彼女達に関する記憶だけが綺麗に消えていたのじゃ」

 

「記憶が?」

 

「恐らくじゃがオブリビエイトされたのじゃろう。それもかなりの使い手にな。記憶を消されていたという事すらあやふやな状況じゃった」

 

「一体…誰が何の為に…」

 

「わからん…」

 

 再び重い沈黙が流れる。

 

「もう良い。下がって良いぞ」

 

「失礼を」

 

 セブルスは一礼し、その場を後にした。

 

「はぁ…」

 

 

 

 今日に入って何度目かになる溜息を吐きながら、ワシはポケットから黒い石が嵌められた指輪を取り出した。

 

 

 

 マールヴォロの指輪

 

 トムの祖父である、マールヴォロ・ゴードンが所有していたという指輪だ。

 

 

 

 これが、ヴォルデモートの分霊箱の1つだ。

 

 

 

 これを探すためにワシはホグワーツを離れたと言っても過言ではない。

 

 

 

 そして、この指輪に嵌められている石が、『蘇りの石』だ。

 

 

 

 これがあれば…

 

 

 

 しかし、この指輪を付ければとてつもない呪いを受けるだろう。

 

 

 

 下手すれば死んでしまうかもしれない…

 

 

 

 しかし…

 

 

 ワシは震える手で、指輪を掴んだ。

 

 

 

 




ダンブルドアはどうなってしまうのか!


どうでもいいや


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謎のプリンス
ホラス・スラグホーン


謎のプリンス編始まります。

やっぱり、どうやっても謎のプリンス編は短くなりますね。


ヴォルデモートの復活が大々的に世間に知れ渡ってから数週間が過ぎた。

 

この数週間の間に、死喰い人によって行われた犯行は数多く、多くの民間人が連れ去られた他に、オリバンダーの店が襲撃を受けた様だ。

 

この影響はマグル界にも広がっており、死喰い人による犯行と思われる事件が多発している。

 

そんな中、私達は普段通りに器具のメンテナンス、周辺の防衛装置の強化などを行っていた。

 

その間、ダンブルドアによる不死鳥の騎士団の招集がかかる事は無かった。

 

『もしもし、今大丈夫?』

 

ハーマイオニーから通信が入る。

 

『問題ありません』

 

『それは良かったわ。今日からまた新学期ね。よろしく』

 

『こちらこそよろしくお願いします』

 

『なんだか、こっちも大変なのよ。まぁ…私の家の方はそこまで被害は出てないけどね。そっちは?』

 

『こちらも被害は出ていません』

 

『そう。ならまた後でコンパートメントで会いましょう』

 

『了解』

 

私達は荷物をまとめ、外へと出る。

 

「バーニア出力安定。飛行モード問題なし」

 

「目的確定。バーニア出力上昇。移動を開始します」

 

 

普段通りに、バーニアを吹かし、上空へと飛び上がる。

 

「ステルスモード起動」

 

「周辺同化率99.89%」

 

ステルスモードで姿を隠し、私達はホグワーツ特急が出るキングス・クロス駅へと移動した。

 

キングス・クロス駅上空に到着後、人気の無い場所へと軟着陸する。

 

「キングス・クロス駅到着です」

 

「発車10分前、乗車しましょう」

 

私達はホグワーツ特急へと乗り込むと、人気の無いコンパートメントへと移動した。

 

 

ホグワーツの始業式が始まる数週間前。

 

魔法界にある、マルフォイ邸にて死喰い人の集会が行われていた。

 

集会には、ベラトリックス・レストレンジやピーター・ペティグリュー。そして、ホグワーツの教員でもあるセブルス・スネイプなどそうそうたるメンバーが円卓に集結していた。

 

そんな中、ベラトリックス・レストレンジは不機嫌そうに貧乏揺すりをしている。

 

「不機嫌そうだな。どうしたのだ? ベラトリックス」

 

「フン。アンタには関係ないだろ?」

 

ベラトリックスは不機嫌さを現し声を掛けてきたルシウス・マルフォイを一瞥する。

 

「大方、従兄妹のシリウス・ブラックが病院送りになったのが原因だろう。仕留め損ねるとはふがいないな」

 

「次は必ず仕留めるさ」

 

「そうか」

 

ルシウスは大扉を開くと、奥からヴォルデモートが姿を現した。

 

「全員揃ったか」

 

「はい、ここに」

 

マルフォイの大広間に円卓にて、ヴォルデモートが周囲の死喰い人を一瞥する。

 

「皆、よく集まってくれた」

 

ヴォルデモートの声が周囲に響き渡り、その声に多くの死喰い人が陶酔し、顔を上げる。

 

「さて、貴様達は俺様に忠誠を誓って居るのだろう?」

 

 

 死喰い人に緊張が走り、皆一様に頷いている。

 

「はい、我が君」

 

ルシウスが答えると、ヴォルデモートは微笑み、ゆっくりと立ち上がる。

 

その拍子に、ドラコ・マルフォイが肩をビクつかせる。

 

「どうしたのだ? ドラコよ? 寒いのか?」

 

「いえ! その様な事は!」

 

「そうかそうか。ならば俺様が恐ろしいのか?」

 

「え…えっと…」

 

ドラコは口籠り、言葉が途絶える。

 

「我が君。あまり我が息子を――」

 

「フッ、分かっている。心配するなルシウス」

 

ヴォルデモートはゆっくりとルシウスの肩に手を置く。

 

「して、OFの生産ラインはどうなっている?」

 

「現在、無人戦闘用のゴーレムの事ですね。現在量産態勢を整えておりますので、後1年程で100体は生産可能かと。人が乗るタイプのも試作機がいくつか…」

 

「もっと急がせろ。無人機はどれだけあっても困らぬ」

 

「しかし、現在、誘拐してきたマグルなどから魔力や生体エネルギーを吸い上げていますが、まだまだ足りない状況でして…」

 

「ならば、もっと揃えろ。マグルがいくら死のうと構わん」

 

「はっ!」

 

ルシウスは震えた声を上げる。

 

「俺様の杖では、兄弟杖を持つハリー・ポッターを殺す事は出来ん様だ」

 

 

 

 その言葉を聞いたメンバーはどよめき始めた。

 

 

 

「そこでだ…必要ではないが、形式上杖は要る。誰か俺様に杖をよこせ」

 

 

 

 その一言で、周囲は一瞬にして凍ったように静かになった。

 

肩に手を置かれているルシウスは更に体を強張らせる。

 

 

「なんだ? 誰も居ないのか」

 

ヴォルデモートはゆっくりとルシウスの方を握る手の力を強め、それに比例するように、顔を走るエネルギーラインが顕著に現れる。

 

「わ、我が君…」

 

「どうしたのだ? ルシウスよ」

 

「わ、私の杖でよろしければ…お使いください」

 

「ほぉ…気が利くな」

 

冷や汗を掻いたルシウスは震える手でステッキに同化させた杖を取り出す。

 

「お、お使いください」

 

ヴォルデモートはゆっくりと杖を受ける取ると、上部にある蛇の装飾品をへし折る。

 

「フッ」

 

ヴォルデモートは鼻で笑うと、自分の席へと戻って行った。

 

 

 

「さて…ドラコ」

 

 

 

「はっ…はい!」

 

 

 

 急に名前を呼ばれたドラコは、上ずった声で返事をする。

 

「貴様に任務を与えよう」

 

「こ、光栄です」

 

ドラコは震える声で答える。

 

「ダンブルドアを始末しろ」

 

「だ…ダンブルドアを…」

 

「手段は問わない」

 

「お言葉ですが我が君…息子にはいささか荷が重い任務かと…」

 

「ではセブルスを補佐に付けよう。それで問題あるまい」

 

「しかし――」

 

「畏まりました」

 

セブルスは単調に答える。

 

「は…はい」

 

ドラコはただ一言答える。

 

「それともう一つだ」

 

「はい」

 

「イーグリット姉妹だったか。アイツらを監視しろ」

 

「監視…ですか」

 

「そうだ。あやつ等はダンブルドアとは違い、殺すのは難しい。だが弱点があるはずだ。それを探すのだ」

 

「か、わ、わかりました」

 

「まかせたぞ」

 

ドラコは震えた声で答え、ヴォルデモートは円卓を後にした。

 

 

コンパートメントに入室してから数分後、ハーマイオニーから通信が入る。

 

『もう乗った?』

 

『乗りました。席は確保してあります』

 

『了解! 向かうわ』

 

数分後、ハーマイオニーがコンパートメントの扉を叩く。

 

「どうぞ」

 

デルフィが扉を開け、ハーマイオニーをコンパートメント内へと招き入れる。

 

「ありがとう」

 

そう言うと、ハーマイオニーは荷物を、荷台に仕舞い込む。

 

「ふぅ…やっぱり荷物が多いと疲れちゃうわ」

 

椅子に腰かけたハーマイオニーは一息入れる。

 

「そう言えば、この前ダイアゴン横丁へ行ってきたのよ」

 

「そうですか」

 

「でも、死喰い人の影響かしら…あまり活気が無かったわ。空いているお店はウィーズリー・ウィザード・ウィーズだったわ」

 

「あぁ、あの兄弟の」

 

「そう。それと、ノクターン横丁でマルフォイを見かけたわ。ボージン・アンド・バークスに入って行ったわ」

 

「あまり学生が行くようなところじゃ無いな。何が目的だ?」

 

「わからないわ。もしかしたら死喰い人関連かも」

 

「ドラコ・マルフォイに対する警戒レベルを上げることをおススメします」

 

「そうするわ」

 

その数分後、汽車は汽笛を鳴らし、キングスクロス駅を出発した。

 

ホグワーツ駅に到着するまでの間、私達は他愛のない会話を続けた。

 

 

今日は、ホグワーツの新学期始業日。

 

新たな生徒を迎え入れ、気分を一新させるいい日だ。

 

そんな良い一日の初めを、ワシは一人校長室の椅子に座りながら実感する。

 

「うぅ…」

 

ふと走る、右手の痛みに、呻き声を上げる。

 

自業自得とは言え、呪いを受けてしまったのは、いささか都合が悪い。

 

今は、右手だけで抑えているが、いずれは…

 

「いかんな…」

 

ワシは頭を軽く振り、雑念を払う。

 

今年は、ワシに取ってホグワーツでの最後の年になるであろう…

 

ふと立ち上がり、窓際に足を進める。

 

ガラス越しに広がる風景を目に焼き付ける。

 

その時、ホグワーツ特急が駅に到着する。

 

「来たか…」

 

駅に到着した汽車から大勢の人影が下りて来る。

 

恐らく、あの中に、あの姉妹がいるはずだ…

 

今年も幕が上がった。

 

 

 

 

ホグワーツ特急が駅に到着後、私達は下車し、駅のホームに降り立つ。

 

多くの生徒が不安そうな表情をしながら、歩みを進めて行く。

 

「あれ?」

 

ハーマイオニーがふと周囲を見渡す。

 

「ハリーが居ないわね」

 

「周辺には居ないと思われます」

 

「ロンの姿はさっき見たんだけど…どこ行ったのかしら?」

 

「既に行ったと考えるのが一般的です」

 

「そうね。私達も行きましょう」

 

私達は周囲の生徒の波に乗り、ホグワーツへと、足を向けた。

 

 

ホグワーツに到着後、新学期パーティーが例年通りに取り行われた。

 

教員席にはトレローニーの姿も見受けられる。

 

『どうやら、トレローニー先生は復職した様ね』

 

『その様です』

 

 

今年も、帽子による警告の様にも取れる歌を歌う。

 

『まぁ、ヴォルデモートが復活したからってのは有るけど、ちょっと露骨すぎるわね』

 

『まぁ、今年は波乱だろうな』

 

『そうね…そう言えばダンブルドアの右手…どうしたのかしら?』

 

席に座ったダンブルドアの右手は黒く変色している。

 

『あれは…そうか、そう言う事か…』

 

『どう言う事?』

 

『まぁ…僕が残したちょっとした罠に引っかかっただけさ。アイツも誘惑には勝てなかったんだろう。いい気味だね』

 

『罠? 一体何の事?』

 

「皆! 今日は良い夜じゃな!」

 

 

 

 しばらくすると、ダンブルドアが大声を上げ、会場が静まり返る。

 

 

 

「新入生の諸君、歓迎いたしますぞ。そして上級生にはお帰りなさいじゃ。今年もまた、魔法教育がびっしりと待ち受けておる。まず初めに禁じられた森には生徒立ち入り禁止じゃ。そしてホグズミード村には3年生から行くことが許可される。それと、管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにと言われたのじゃが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズとかいう店で購入した悪戯用具は全て校内持ち込み禁止じゃ」

 

『あの店は良いんだけど…商品がね…』

 

『品性の欠片すらない物ばかりだ』

 

「各寮のクィディッチチームに入団したいものは寮監に名前を提出すること。今年度は試合の解説も同時に募集しておるので、興味のあるものは同じく応募するとよい」

 

 

 

 生徒達は、ダンブルドアの話を聞きながら、教職員の席に目をやっている。

 

 

 

そこには1人の老人が座っていた。 

 

『おや…また懐かしい顔が居るな』

 

『あの人? 知ってるの?』

 

『まぁね…ホラス・スラグホーン…あいつが居るって事はダンブルドアはある程度まで達したって事か…』

 

『ねぇ、さっきからなんなの?』

 

『いずれ話すさ。時期が来たらね』

 

『ん?』

 

「さて、今年からは居る新しい先生がおる。早速紹介しよう。ホラス・スラグホーン先生じゃ。スラグホーン先生はかつてホグワーツで魔法薬学を担当しておられた。今回はホグワーツの魔法薬学の先生として復職していただく」

 

 

 

 スラグホーンはゆっくりと立ち上がると、簡単な挨拶を済ませた。

 

 

 

「さて、それにともなってじゃが、スネイプ先生には闇の魔術に対する防衛術の担当になっていただく」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 それを聞いたハリーは声を上げる。

 

「嘘だろ…」

 

「最悪だ…」

 

グリフィンドールの生徒から不満の声が上がる。

 

『スネイプが…闇の魔術に対する防衛術の御担…ちょっと嫌ね』

 

『当人を見てみろよ。笑ってるぞ』

 

『ホントだわ…スネイプの笑ってる顔、初めて見たわ…』

 

「さて、長い挨拶も詰まらんじゃろう。皆よく食べ、よく飲み、学校生活を楽しんでくれ!」

 

ダンブルドアが締め、新学期パーティは幕を下ろす。

 




スラグホーンがトムが存在している事を知ったら驚きそう。





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フェリックス・フェリシス

花粉症が終わったと思ったら、風邪を引きました。


   新学期が始まると、去年のテスト結果により、選択科目が限られるようになる。

 

 しかし、私達にとっては大した問題では無かった。

 

 数日もすると、今年最初の、闇の魔術に対する防衛術の授業が行われる。

 

 スネイプの授業という事もあるが、スリザリンとグリフィンドールの合同授業という事で、グリフィンドール生は不機嫌そうにしている。

 

 対するスリザリン生は笑みを浮かべている。

 

「まったく…なんでスリザリンと…しかもスネイプの授業を受けなきゃいけないんだ」

 

「全くだよ…受けたくないよ…抜け出そうかな…」

 

 ハリーとロンはテーブルに顔を突っ伏し愚痴をこぼしている。

 

「全員席に着け! 早くしろ」

 

 スネイプが教室に入るなりそう言ういうと、多くの生徒が席へと付いた。

 

『嬉しそうね…』

 

『声のトーンから推察するに、メンタルコンデションレベルは高位です』

 

『はぁ…』

 

 上機嫌のスネイプは教卓に付くと、全員を一瞥する。

 

「闇の魔術は多種多様、千遍万化、流動的にして永遠なる物だ。それと戦うという事は多く獰猛なドラゴンを相手するのに等しい、1体のドラゴンに集中して居れば、別の所から別の奴が来る。もっとも、そんな状況でも総てを打ち砕く様な化け物も居るがな…まぁいい。諸君の戦いの相手は固定できず変化し、破壊不能なものだ」

 

『長いポエムね』

 

『冷静になってから、頭抱えてそう』

 

『黒歴史って奴ね』

 

 しかし、スネイプがポエムを言い終えると、スリザリンから拍手が上がる。

 

「スリザリンに5点やろう。拍手が聞こえなかった故、グリフィンドールは10点減点だ」

 

「理不尽だろ…」

 

 ロンは小さく呟く。

 

「さて、今回は無言呪文に付いて教えよう」

 

『無言呪文ねぇ…』

 

『詠唱しないから難しいな。イメージを強く持つのが成功のコツだ。熟練者は歩くように当たり前にやるがね』

 

『難しそうね』

 

 授業は進み、実技の段階になる。

 

 結果としては、私達とハーマイオニーだけが無言呪文を成功させた。

 

 しかし、私達はメタトロンを用い、成功したように見せているだけだが、スネイプが見抜いたような素振りは確認出来なかった。

 

   数日後

 

 スラグホーンによる初の魔法薬学の授業の時間がやって来た。

 

 

 

 教室に入ると、上機嫌そうに微笑んでいるスラグホーンの姿がった。

 

 

 スラグホーンはハリーを見ると、上機嫌になり熱烈に迎え入れた。

 

 

 

「さて、さて…みんな秤をだして。それに魔法薬キットもだよ。後は教科書を…」

 

 

 

「先生。僕とロンは本も天秤も持っていません。僕達、N・E・W・Tが取れるとは思わなかったものですから……」

 

 

 

「ああ、そうそう。マクゴナガル先生が確かにそうおっしゃっていた。心配には及ばんよハリー、全く心配ない」

 

『ハリー達ったら…何も用意せずに来たのね。でもどうして? 普通なら追い返されるわ』

 

『スラグホーンはビックネームが好きだからな、そう言う理由だろう』

 

『そうなの? 詳しいわね』

 

『まぁ、僕も学生時代はスラグホーンのお気に入りだったからね』

 

『お気に入り?』

 

『そうさ、スラグホーンはお気に入りの生徒を自分の周囲に置きたがるのさ』

 

『そうなの?』

 

 スラグホーンは嫌な顔一つせずにハリー達に道具と教科書を用意した。

 

 

 

 教科書を2冊受け取ったハリーとロンは、どちらが新品を取るかで争っていたが、今回はロンに軍配が上がったようだ。

 

「さーてと、皆に見せようと思っていくつか魔法薬を煎じておいた。N・E・W・Tが終わった頃にはこういうのを煎じる事が出来るようになっているはずだ。これが何だか分かる者はいるかね?」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 いつもの様に何の迷いも無くハーマイオニーは真っ直ぐ手を上げた。

 

「言ってごらんなさい」

 

 

 

 許可を得たハーマイオニーは薬の前で手を仰ぎ臭いを確かめた後、口を開いた。

 

 

 

「右から、飲んだものに真実を話させる真実薬。他人に化けられるポリジュース薬、そして愛の妙薬と言われるアモルテンシアです。一番奥のは…えっと…」

 

『これは、フェリックス・フェリシスだ』

 

「フェリックス・フェリシスです」

 

「大正解だ! 素晴らしい! グリフィンドールに25点あげよう!」

 

「ありがとうございます」

 

「では、最後の薬品。フェリックス・フェリシスがどういった物か説明できるかな?」

 

「はい」

 

 ハーマイオニーが立ち上がる。

 

「フェリックス・フェリシスは幸運の液体です。人に幸運をもたらします!」

 

 それを聞いて教室の中に居る生徒達が一斉にざわめきだした。

 

 しかし、鍋の中の薬品をスキャンした結果、高濃度のエンドルフィン誘発剤だと推察される。

 

「その通り、グリフィンドールにもう5点あげよう。そう、この魔法薬は面白い。調合が恐ろしく面倒で間違えると酷い事になる。しかし成功すれば全ての企てが成功に傾いていくのが分かるだろう」

 

「先生。ならどうしてそれを皆飲まないんですか?」

 

 

 

 ロンが手を上げ質問する。

 

『確かにそうよね。量産して全員に配れば良いのに』

 

『そうは行かないんだなぁこれが』

 

「それはね、飲みすぎると有頂天になったり、自己過信、無謀になったりと危ないからだよ。まぁ後は飲みすぎれば毒にもなるからね」

 

『危ない薬みたいね』

 

『何事も、適宜適量さ。過剰摂取はどんな良薬でも毒になる』

 

 スラグホーンは軽く手を掲げ、教室内の騒めきを治める。

 

「そこで、皆に朗報だ。今日の授業の褒美として、このフェリックス・フェリシスの小瓶一本プレゼントしよう。12時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕方まで何をやってもラッキーになる」

 

 

 スラグホーンがそう言うと、クラスから歓声が上がった。

 

『相変わらずスラグホーンは人の心を掴むのがうまいな』

 

『人心掌握術に長けているようです』

 

「注意しておくがフェリックス・フェリシスは組織的な競技や競争事に使う事は禁止されている。これを獲得した生徒は通常の日だけ使用する事。そして通常の日がどんなに素晴らしくなるかを知るだろう」

 

 

『ドーピングみたいな物なのね』

 

『まぁ、みんながみんな使ったら。競技どころじゃ無くなるからな』

 

「さて、この素晴らしい賞をどうやって獲得するか? さあ『上級魔法薬』の10ページを開いて頂こう。後1時間と少し残っているが、その時間内に『生ける屍の水薬』に取り組んで頂く。そして最もよく出来た者にこの愛すべきフェリックスを与える。さあ始め!」

 

 多くの生徒が歓声を上げ、作業に取り掛かった。

 

「さて、始めましょう」

 

「薬品の生成を開始します」

 

 私達はデータベースを参照しながら、薬品の生成に取りかかった。

 

『えっと…まずは大鍋に煎じたニガヨモギを入れるんだ』

 

『了解よ』

 

 ハーマイオニーはトムの指示に従い、薬品の生成に取り掛かる。

 

『次は、アスフォデルの球根を粉末状にして入れるんだ』

 

『分量はこれくらいね』

 

 アスフォデルの球根の粉末を入れた後、2回ほど時計回りにかき回す。

 

『次は、ナマケモノの脳味噌を加える』

 

『よくこんな物用意したわね』

 

『人間界じゃ珍しいが。魔法界だからな。次は13粒の睡眠豆の汁を入れる』

 

『えっと…教科書には12粒を切って入れるって書いてあるわ』

 

『教科書が常に正しいとは限らないさ。後、切るんじゃ無くてナイフの刃で押す潰すとよく出る』

 

『本当だわ。良く知ってるわね』

 

『昔取った杵柄さ』

 

 ハーマイオニーは13粒分の催眠豆をの汁を添加する。

 

 私達は、片手で13粒を握り潰し汁を添加する。

 

『教科書だと、これで澄んで来るまで反時計回りにかき回して完成ね』

 

『具体的には、7回反時計回り、最後に1回だけ時計回りだと良いぞ』

 

『詳しいわね』

 

『まぁね』

 

 私達も反応を観察しつつ、薬品の生成を終了させる。

 

「終わったようだな! さてさて、それでは見て行こう」

 

 スラグホーンは一人一人の鍋を覗き込む。

 

「おぉ…これは…何という…」

 

 私達とハーマイオニー、そしてハリーの鍋を教卓に並べ、スラグホーンは驚愕する。

 

「この4つは完璧だ。まさか…4つも完璧な物が出来るとは…」

 

 スラグホーンは腕を組み少し考えに耽る。

 

「困った…いや、フェリックス・フェリシスの小瓶は2本しかないんだ…」

 

「我々必要ありません」

 

 デルフィが答える。

 

「いいの?」

 

「はい」

 

「そうか、では確かに2つ渡したよ」

 

 スラグホーンからフェリックス・フェリシスの小瓶を受け取る。

 

『まさか、ハリーがちゃんと作るなんて…おかしいわね』

 

『運が良いんじゃないか。実際運だけで生き残って来たようなものだろう?』

 

『それは…ノーコメントで』

 

「どうやったんだよ?」

 

 

 

「秘密さ。ラッキーだったんだよ」

 

 

 

 ロンがハリーに問い詰めているが、ハリーは適当にはぐらかす。

 

 こうして居る間に、終業を告げる鐘が鳴り響いた。

 

 

「チッ」

 

 グリフィンドール生に祝福されながら教室を後にしたハリーの背中を睨みながらマルフォイは舌打ちをした。

 

「ふぅ…」

 

 一息入れた後、マルフォイは教室を離れ、スリザリンの寮とは別の方向へと歩みを進めた。

 

「さてと…」

 

 マルフォイが足を止めた場所は、『必要の部屋』の入り口だった。

 

 マルフォイは躊躇う事無く、必要の部屋への扉を開ける。

 

 扉を開けた先には、大量のガラクタが積み上げられた、廃屋の様な場所だった。

 

「始めるか」

 

 ガラクタの中に1つ巨大な布に覆われた物体が鎮座していた。

 

 マルフォイは覆っていた布を引きはがすと、そこには巨大なキャビネットが姿を現した。

 

 このキャビネットは『姿をくらますキャビネット』と呼ばれ、対になるキャビネットと繋がる事が出来る代物だ。

 

 マルフォイはダンブルドア暗殺の為、『姿をくらますキャビネット』の修復に着手している。

 

 しかし、修理は思った以上に上手くいっていない様で、イラ立ちを抑える様に、周囲のガラクタを蹴り上げている。

 

「修理が…そうだ…その手がある…」

 

 キャビネットの修理以外の方法を思いついた様で、マルフォイは足早に必要の部屋を後にした。

 




フェリックス・フェリシス=エンドルフィン誘発剤と言うのは独自的な会見です。

ブラックジャックの映画で似た様な薬があったのを思い出しました。


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ゴールキーパー

出張で、ネット環境の無い僻地に1週間缶詰にされたので初投稿です。


 

   数週間後、大広間に置いて、メンタルコンデションレベルが最低ラインの状態で、テーブルに身を委ねて居るロンの姿を発見した。

 

「どうしよう…」

 

「大丈夫だって。君なら上手くやれるさ!」

 

「でも…」

 

「大丈夫! 君はキーパーの腕は最高だ! 自信を持つんだ!」

 

「う…うん」

 

「なにあれ?」

 

 私達の隣で次の予習の為、図書館へと移動を行っていたハーマイオニーが呟く。

 

『さぁ? あまり気にするような事でも無いだろう』

 

『そうね』

 

 私達は、次の授業を受けるべく、教室へと移動した。

 

  その日の午後。

 

 談話室に戻るとソファーにふんぞり返っているロンが居た。

 

「まぁ、僕の実力はね、おっ! ハーマイオニー! こっちこっち」

 

「なに? どうしたのよ?」

 

「聞いてくれよ。僕ね。キーパーになったんだ! 相手のシュートを全部防ぎ切ったよ! 見ててくれたよね?」

 

「おめでとう。でも生憎とその時は図書館で、エイダとデルフィと一緒に自習してたわ」

 

「そんな…なんで! 僕の! 僕の活躍を!」

 

「まぁ、選ばれたからよかったじゃない。ハリーもそう思うわよね?」

 

「え? まぁ、うん。そうだね」

 

「まぁ…いいか…うん」

 

「ところでさ、ハーマイオニー。この呪文聞いたことある?『セクタムセンプラ』」

 

「聞いたことなわね。それより、その本まだ持っていたの?」

 

「うん」

 

『セクタムセンプラ…オリジナルかしら?』

 

『多分そうだね。僕が知る限り、そんな呪文は無かったはずだ』

 

『我々のデータベース上にも該当する項目は存在しません』

 

 ハリーは、先程ハーマイオニーに見せた本を大切そうに仕舞い込む。

 

「ハリー。最近その本ばかり読んでいるけど。一体誰のなの?」

 

「さぁ? ただ、『半純血のプリンスの蔵書』って書いてあるんだ」

 

「『半純血のプリンス』? その本の持ち主は相当ナルシストなのね。まるでスネイプだわ」

 

「スネイプ? まさか。アイツが教科書を残すなんて思わない」

 

 ハリーは笑いながら、再び本を取り出した。

 

  数日後、ハリー達はホグズミード村へと行くようだ。

 

 私達は用事が無かったので、自室にて待機している。

 

 数時間後、ハーマイオニーから通信が入る。

 

『今すぐ来て! 大変なの!』

 

『どうされました?』

 

『えっと、ケイティ・ベルが…とにかく大変なの! すぐに来て!』

 

『了解』

 

 私達は窓から飛び出すと、ハーマイオニーの反応がある地点までゼロシフトと高速移動を併用し急行する。

 

『お願い! 早く!』

 

「お待たせいたしました」

 

「え?」

 

 呼び出しから1秒足らずで到着した為、ハリーとロンは驚愕したようだ。

 

「君達…何時からここに?」

 

「私が呼んだの」

 

「ハーマイオニーが?」

 

 目の前には、虚ろな表情で、倒れている一人の少女が居た。

 

『スキャン結果だ。どうやら、彼女が手にしたネックレスには強力な呪いが掛けられている様だね』

 

 私は、少女の側に落ちている、ネックレスを拾い上げる。

 

 確かに、エネルギー反応を検知する。

 

 どうやら、エネルギーを人体に過供給された為、一種の拒絶反応を起している様だ。

 

「処置を開始します」

 

 ペン型の注射器に先程のエネルギーを中和させる使い捨ての医療用ナノマシンを充填し、首筋に注射する。

 

 注射後数秒後にはエネルギーの中和作業が行われ、脈拍なども安定し始める。

 

「何事だ!」

 

「ハグリッド!!」

 

『おっと、あの木偶の坊が来たのか』

 

 ハリーはハグリッドに駆け寄る。

 

「これは…」

 

「ケイティ・ベルが危険な状態であった為、応急処置を行いました」

 

「え?」

 

「このネックレスが原因だと思われます。取り扱いには注意してください」

 

 私はハグリッドにネックレスを渡そうとするが、ハグリッドは1歩後ずさる。

 

「すまねぇが、俺は彼女を連れて行くから、お前さんはそのネックレス持ってきてくれ」

 

「了解」

 

 私達は、ケイティ・ベルの体調も考慮し、ホグワーツへと戻って行った。

 

 

 

 

  ホグワーツ到着後、私達は校長室に集められた。

 

「一体何があったのじゃ?」

 

 校長席に座ったダンブルドアがこちらを見据える。

 

「えっと…」

 

 ハリーが先程の状況を説明する。

 

「それにしても…ワシ宛へのネックレスか…」

 

『ダンブルドアは誰かに命を狙われているって事かしら?』

 

『そりゃそうだろ。あの老害の事だ。多くの恨みを買っているだろう』

 

『まぁ、そうね』

 

『何処の誰かは分からないが、成功して欲しい物だね』

 

『物騒な事言うわね』

 

 説明が終了すると、校長室にノック音が響き渡る。

 

「入るが良い」

 

「失礼します」

 

 マクゴナガルが校長室へと入室する。

 

「先程、保健室でケイティ・ベルの処置が終わりました。一命は取り留めたようですが、念の為に聖マンゴへ移送することになりました」

 

「そうか」

 

「強力な呪いが掛けられていました。応急措置が施されて居なければ死んでいたでしょう…それにしても…」

 

 マクゴナガルはハリー達を見ると、溜息を吐く。

 

「どうして、毎回…彼方達は厄介事に巻き込まれるのですか?」

 

「僕達が聞きたいですよ」

 

「ハァ…」

 

「まぁ良い。ところで、呪い掛けられていたと言うネックレスは何処じゃ?」

 

「こちらです」

 

 ベクタートラップ内からネックレスを取り出す。

 

「これがそうか」

 

 ダンブルドアは左手でネックレスを受け取ろうとするが、已の所で手を止める。

 

「これは、触れただけで死に至る程の呪いじゃぞ!」

 

「え?」

 

 マクゴナガルを始め、その場の全員がこちらに視線を向ける。

 

「大丈夫なの?」

 

「問題ありません」

 

「なら良かったわ…」

 

 ハーマイオニーは胸を撫で下ろす。

 

 私はネックレスを校長席へと置く。

 

「これは…セブルス。調査を頼む」

 

「かしこまりました」

 

 スネイプは杖を振り、ネックレスを宙へと浮かせると、その場を後にした。

 

「ふぅ…事は重大じゃな…まぁ良い。全員下がって良いぞ」

 

「失礼します」

 

 私達は一礼した後、校長室を後にした。

 

 

 

 「なんてことだ!」

 

 必要の部屋で1人、修理を続けていたマルフォイは怒りに任せ周囲のガラクタを蹴り上げている。

 

「ダンブルドアではなくグリフィンドールの生徒が…なんて余計な事を!」

 

 呪いのネックレスを用意したのは、マルフォイの仕業だった。

 

 マダム・ロスメルタに『服従の呪文』をかけて、ケイティ・ベルに渡す様に仕向けたのだ。

 

「くそ!」

 

 計画の失敗にマルフォイの怒りはさらに高くなる。

 

「ちぃ!」

 

 マルフォイは修理途中の『姿をくらますキャビネット』を見上げる。

 

 現在の修理状況は4割程度だ。

 

「次の手を…用意しなくては…」

 

 マルフォイは呟くと、必要の部屋を後にした。

 

 

 

  ケイティ・ベルの一件からしばらくが経つ。

 

 その間、ハリーはダンブルドアに呼び出され、『個人授業』を受けている様だ。

 

 また、ダンブルドアの指示があるようで、スラグホーンの授業を積極的参加するようなっており、スラグホーンからの評価もかなり上がっている様だ。

 

『最近のハリーのスラグホーンに対する媚の売り方は露骨ね』

 

『まぁ、スラグホーンは媚び売られるのは大好きなタイプだからな』

 

『でも、なんであんなに媚を売っているのかしら?』

 

『ダンブルドアの指示だろうね』

 

『どうして?』

 

『大方、スラグホーンから聞きだしたい事でもあるんだろう』

 

『そうなのね。でも一体何を――』

 

「やぁ、君達」

 

 談話室でハリーが声を掛けて来る。

 

「あら、ハリー。どうしたの?」

 

「いや、大した事じゃないんだけど、今度スラグホーン先生のディナーパーティーに参加することになったんだよ」

 

「そうなのですか」

 

「そう。そこでさ、君達も良かったら参加しない?」

 

「「お断りします」」

 

 私達は同時に答えた。

 

「うっ、スラグホーンは君達に来て欲しいようだったけど…まぁ仕方ない。ハーマイオニーは?」

 

「そうねぇ…」

 

『行った方が良いかしら?』

 

『スラグホーンのパーティーは、優秀な生徒を手籠めにする為の餌みたいなもんさ』

 

「私も遠慮するわ。ロンでも誘ったら?」

 

「うっ…まぁ…そう言う事なら、別の相手を探すよ」

 

 ハリーは肩を落とし、自室へと戻って行った。

 

 

  翌日。

 

 朝食の時間、ロンは極度の緊張状態で放心していた。

 

「あ…あぁー…あー」

 

「おい…ロン。大丈夫か?」

 

「大丈夫? 大丈夫な訳無いだろ! 僕のせいでクィディッチは負けるんだ!」

 

「まだ、結果どころか試合自体してないじゃないか」

 

「僕がキーパーなんだぞ…結果は見えているじゃないか」

 

「はぁ…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐くと、紅茶で唇を濡らす。

 

「あぁ…どうしてこんな事に…」

 

「とりあえず、これでも飲んで落ち着けって」

 

 ハリーはロンに飲み物を手渡す。

 

 その際、手にした未開封の小瓶を振りかけるような動作を行う。

 

「ハリー…これって」

 

「飲めよ」

 

「フェリックス・フェリシスって試合で使っちゃダメなはずだわ」

 

「関係ないね」

 

 ロンはそう言うと、グラスの中身を全て飲み干す。

 

「反則になるわよ」

 

「グラスの中身をスキャンした結果、禁止薬物等は検出されませんでした」

 

「え?」

 

「さっ、さぁ! 行こうぜ! ロン! 早く!」

 

「お、おう…」

 

 ロンとハリーは立ち上がる。

 

「あれ、入ってるんだよな?」

 

「え? も、持ちのロンさ!」

 

「…信じるぞ…」

 

「あぁ!」

 

 2人は駆け足で大広間を後にした。

 

「あれって、入って無いの?」

 

「薬物の混入は確認されませんでした」

 

「なら良かったわ。少なくとも反則負けは無さそうね」

 

 私達は朝食を済ませると、自室へと戻って行った。

 

 その後、今回のクィディッチの試合は強制参加という事で、私達も観戦させられた。

 

 今回の試合内容は、多少の失点はあった物の、無事グリフィンドールの勝利となった。

 

 試合が終わった後、談話室でパーティーが行われた。

 

 今回のMVPはロンに送られたようで、談話室の中心で、ロンは両手を広げ称賛を集めている。

 

 そんな時、談話室から歓声が上がる。

 

 そこには、グリフィンドール生とキスをしているロンの姿があった。

 

『彼女はお世辞にも綺麗だとは言えないな』

 

『まぁ、ロンとならお似合いじゃないかしら?』

 

『外見の相性ならば高い値を出しています』

 

『お似合いです』

 

 完成は留まる事無く、パーティーは熱気を帯びて行った。

 




この作品の被害者にロンがエントリーしました。


下手すれば一番の被害者になるポテンシャルを秘めています。


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AIトム

皆様、GWはいかがお過ごしでしたか?


私は仕事です。




   その後、再びスラグホーンがパーティーを開催したようだ。

 

「なぁ! 頼むよ! 君達を誘わないとスラグホーンが不機嫌になるんだ」

 

「参加する必要性を感じられません」

 

 ハリーは談話室で私達にパーティーの参加を懇願している。

 

『どうせなら君も参加しな』

 

『どうしてよ?』

 

『良い暇潰しにはなるんじゃないか?』

 

『しょうがないわね…』

 

「参加してあげたら? 私も参加するわ、だから一緒にどう?」

 

「了承しました」

 

「助かるよ。パーティーは今夜なんだ。頼むよ」

 

「わかったわ」

 

 ハリーは軽く手を振りながら自室へと戻って行った。

 

 

  パーティー開始時間。

 

 私達は前回のダンスパーティーの時のデータを応用し、ドレスアップする。

 

「用意が良いわね」

 

 ハーマイオニーは青を基調としたドレスで身を包んでいた。

 

「お似合いです」

 

「ありがとう。デルフィは今回も男装なのね」

 

「前回のデータを再利用しましたので」

 

「そうなのね。そろそろ始まるわね」

 

「行きましょう」

 

 私達はパーティー会場へと移動した。

 

 内部は立食パーティー式だった。

 

 会場に入ると多くの生徒がドレスに身を包み料理を楽しんでいる。

 

「スラグホーン先生。こちらが」

 

「やぁやぁ、来てくれたんだね」

 

 ハリーに連れられスラグホーンが接近してくる。

 

「噂は聞いているよ。君達はかなり優秀なんだってね」

 

 スラグホーンは張り付いた様な笑みを浮かべている。

 

『自分の周りを優秀な生徒で固めたいのが目に見えているわね』

 

『そう言う男だからな』

 

『貴方もパーティーに参加したんでしょ?』

 

『まぁね。それなりに収穫はあったよ』

 

『そうなのね』

 

「ハリーから聞いたんだが、複数のドラゴンを相手に勝ったんだって? 本当?」

 

「事実です」

 

「優秀なんだね」

 

 スラグホーンのメンタルコンデションレベルがさらに上昇する。

 

「ハリー、君のおかげで彼女達と会話できてうれしく思うよ」

 

「それほどでも」

 

 ハリーは愛想笑いを浮かべる。

 

 そんな時、入り口付近で騒ぎが起きる。

 

「なんだコイツ!」

 

「離せ!」

 

 騒ぎの中心でマルフォイが拘束されていた。

 

「マルフォイ?」

 

「なんでアイツが?」

 

「彼を招待した覚えは無いんだがな…」

 

 騒ぎは大きくなり、多くの生徒が集まる。

 

「何の騒ぎですかな?」

 

 スネイプが扉を開け登場する。

 

「おぉ、スネイプ先生」

 

「ドラコ・マルフォイか。吾輩の生徒がどうされましたか?」

 

「招待した覚えはないのだが、どうやら入り込んだようで」

 

「そうか。こっちへ来い」

 

 スネイプはマルフォイの腕を掴むと、退室していった。

 

 その後、白けてしまったのか、パーティーは終了してしまった。

 

 

 

  数週間後、クリスマス休暇が始まる。

 

 私達は自宅へ帰還し、周辺の防御装置の強化や、迎撃装置の設置を行う。

 

 その他、地下に大規模な発電施設の建設等を行う。

 

 作業が終了すると、ハーマイオニーから連絡が入る。

 

『ねぇ、ロンから話を聞いている?』

 

『いえ、何も聞いてはいません』

 

『なんでも、死喰い人にロンの家が襲撃されたらしいのよ。私はその時自宅にいたから大丈夫だったわ』

 

『そうだったのですか』

 

『それに、魔法省から失踪者も大勢出ているみたいだし…物騒だわ』

 

『大方、魔法省の連中を使って死喰い人を強化しているんだろうね』

 

『強化ってどうやって?』

 

『奴隷は多い方が良いだろ?』

 

『恐ろしい事だわ…』

 

『服従の呪文はそう言う使い方をするのさ』

 

『いやだわ…まぁいいわ…明々後日からまた学校ね。またお願いね』

 

『また、ホグワーツで会いましょう』

 

『えぇ』

 

 ハーマイオニーとの通信が終了する。

 

 休み明け、談話室でロンが自慢げに周囲の生徒に話をしていた。

 

「危なかったぜ。でも僕の魔法で奴等を追い払ってやったんだ!」

 

「凄いじゃないか」

 

 ロンの自慢話を聞いた多くの生徒は歓声を上げている。

 

  そして、数日後。再び事件が起きた。

 

 ロンは現在医務室で治療を受けている。

 

「何があったの?」

 

「えっと…話せば長くなるんだ」

 

「大丈夫よ」

 

「実はね、ロンが先日惚れ薬を盛られたんだ」

 

「何処の物好きがロンを惚れさせようとしたの?」

 

「いや、僕に送られたお菓子を勝手に食べたんだ」

 

「なるほどね」

 

「納得です」

 

「君達まで…」

 

 ハリーは苦笑いを浮かべた。

 

「それで、スラグホーンに治療して貰おうと思って、部屋を訪ねたんだ」

 

「えぇ」

 

「そこで、スラグホーンからロンが蜂蜜酒を貰ったんだ」

 

「それで?」

 

「実は、その蜂蜜酒には毒が混ぜられていたんだ。死にかけていたよ」

 

「良く死ななかったわね」

 

「君なら分かると思うけど、『ベゾアール石』を使ったんだよ。スラグホーンが持っていたからね」

 

「機転が利くわね」

 

「良い判断です」

 

「僕も良く思いついたと思ったよ」

 

 ハリーは照れ臭そうに頭を掻く。

 

「さて…無事そうだし、私達は戻るわ」

 

「うん、僕も戻るよ。彼女も来たみたいだし」

 

 ハリーが指差した方には先日ロンとキスをしていた女子生徒が駆け寄って来た。

 

「うーん…は…ハーマ」

 

 私達は彼女と入れ替わる様に医務室を後にした。

 

 

  数日後、無事に治療が終了し、ロンが復帰してくる。

 

「ロン。久しぶり」

 

「あぁ…ネビル…」

 

「なんでも、惚れ薬が原因だって?」

 

「全くだよ…女のせいで死にかけるなんて…」

 

 ハリーを始めとした多くの生徒は笑顔でロンを迎え入れていた。

 

『でも、よく考えればなんでスラグホーンは毒の入った蜂蜜酒をロンに飲ませたのかしら?』

 

『情報によりますと、その蜂蜜酒は本来ダンブルドアへの献上品だったようです』

 

『つまり、狙いはダンブルドアだったって事ね…』

 

『残念だ…実に残念だ…』

 

『犯人は特定されていないようです』

 

 トムは悔しそうに呟いている。

 

 

 

  数日後

 

 ホグワーツ内で、ハリーが再び事件を起こした。

 

 ハリーがマルフォイに対して傷害を行ったという内容だった。

 

 ハリーの話しではマルフォイには、ケイティ・ベルとダンブルドアに対する暗殺容疑だという事だ。

 

 被害を受けたマルフォイだが、その場に居合わせたスネイプの応急処置のおかげで、大事には至らなかったそうだ。

 

 その為、ハリーはマクゴナガルとスネイプから減点を受けたという話だ。

 

 

 

 

  更に数日が経過した頃、私達が自室から出ると、談話室でハリーは頭を抱えていた。

 

「どうすれば…良いんだ…」

 

「きっと上手くいくさ! 多分な…」

 

「どうしたのよ?」

 

「ハーマイオニー…実はダンブルドアから命令を受けているんだ」

 

「命令?」

 

『あの老害のやりそうな事だ…嘆かわしい』

 

「そう。スラグホーンからヴォルデモートの秘密を聞きだせって」

 

「え? 秘密?」

 

『おっと…これは…』

 

「どういうことかしら?」

 

 ハーマイオニーは口に出すが、これは恐らくトムに向けた言葉だろう。

 

「なんでも、スラグホーンは学生の頃のヴォルデモートに何かを教えたらしいんだ。それを聞きだせって…でもうまくいかないんだ」

 

「へぇ…一体何なのかしら? 興味があるわねぇ…」

 

『おっと…心拍数が上昇しているぞ。落ち着いたらどうだ』

 

『詳しく話してもらおうかしら』

 

『ま、まぁ…後で話すさ。少し落ち着けよ』

 

「はぁ…まったく…運が無いみたいだな」

 

 ロンはハリーを慰めるように、肩を叩く。

 

「運…そうだよ! 運だよ!」

 

 

 

 急に騒ぎ出したハリーは、ポケットから、フェリックス・フェリシスの小瓶を取り出す。

 

 

 

「これで、幸運を呼び寄せる!」

 

 ハリーは言い切ると同時に、フェリックス・フェリシスの小瓶の栓を開け、中身を一気に飲み干した。

 

 ハリーの体内で、脳内麻薬のエンドルフィンが過剰分泌され、体温の急上昇を確認する。

 

「どうだ?」

 

 ロンが聞くと、ハリーは立ち上がる。

 

「すっごくいい気分だ! こんなに素晴らしい気分は始めてだ!!」

 

 恐らく、エンドルフィンの過剰分泌により、多幸感が得られているのだろう。

 

「ハリー…楽しそうね…」

 

「あぁ! 楽しいさ!」

 

「スラグホーンは、いつも早めに食事を済ませて、散歩をした後、それから自分の部屋に戻るらしいぞ」

 

 ロンがスラグホーンの行動パターンをハリーに告げる。

 

「わかった…ハグリッドに会いに行ってくる!!」

 

 

 

 テンションの高いハリーは何故かハグリッドの名を口に出す。

 

『なんであの木偶の坊なんだ?』

 

『さぁ?』

 

「ハリー! スラグホーンと話すんだろ! なんでハグリッドなんだ?」

 

 ロンは出口へと向かうハリーの背中に問いかける。

 

 しかし、ハリーは振り返ると、テンションが高いまま、口を開く。

 

 

 

「分かっているさ! でもね、今はどうしてもハグリッドの所へ行きたいんだ!」

 

 

 

 言い終えると、テンションが高いまま、ハリーは扉の向こうへと消えていった。

 

 

 

「あれ…どう思う?」

 

「さぁ? まぁ…良いんじゃないかしら?」

 

  ハーマイオニーはそう答えると自室へと移動した。

 

「さて、答えて貰おうかしら?」

 

 自室に入るなり、タブレット端末をベッドへと投げる。

 

「おいおい、もうちょっと丁寧に扱ってくれよ」

 

「分かったわ。じゃあ説明をお願いね」

 

「分かったよ。さて、どこから話そうか…」

 

「最初から、一体スラグホーンに何を教えてもらったの?」

 

「分霊箱の作り方さ」

 

「分霊箱?」

 

「分霊箱、別名、ホークラックス。魔法界で最も邪悪な魔法と呼ばれる闇の魔術です」

 

「そう。魂を分割してその断片を何らかの物に隠す魔法さ。殺人を犯す事で魂が引き裂かれる現象を利用し、自分の魂を分割することで何らかの物質や生物に憑依させる。スラグホーンからはそう教わったよ」

 

「つまり貴方は…学生の頃にすでに人を…」

 

「まぁ、そう言う事。生贄は確か…マートル・エリザベス・ワレンだったな」

 

「嘆きのマートル? そんな…分霊箱は全部で何個あるの?」

 

「6個かな? 僕は最初の1つ目さ」

 

「6個も? なんでそんなに…」

 

「7と言う数字は魔法界で最も強い魔法数字だからね。そう考えたんだ」

 

「じゃあ、日記の貴方が1つ目なら他にも5個はあるって事?」

 

「そうだね。現代の僕が他に予備を作って無ければね」

 

「そう。ちなみに今の貴方は分霊箱なの?」

 

「それは違うな。今は完全にAIとして存在しているよ。分霊箱はダンブルドアの前で壊されたさ」

 

「そうなの。それは良かったわ。貴方を削除しなくて済みそうだわ」

 

「おやおや、これはお優しいこと。珍しいじゃないか」

 

「私は常に優しいわよ。他の分霊箱も貴方みたいに意思はあるの?」

 

「それは無いと思うな。僕はある種イレギュラーみたいなものだから」

 

「他にもいるならやかましくなるところだったわ。それで、他の奴は何なの? 全部日記?」

 

「いや、僕が覚えている限り、変更が無ければ残りは別の物さ」

 

「そうなの?」

 

「あぁ、1つ目はマールヴォロ・ゴーントの指輪だ。確かこれには呪いを掛ける予定だった。ダンブルドアの腕が変色しているのもそれが原因だろう」

 

「つまり、貴方の悪巧みは上手くいったって事ね。おめでとう。で? 残りは後4個って事?」

 

「その筈。後は、サラザール・スリザリンのロケット。あれは蛇語を話せなければ開けられないから安全だと思ったんだ。それに分霊箱自体、壊すのは難しいからな」

 

「確かに開けられる人は限られるわね。ちなみにどうすれば壊せるの?」

 

「分からないな。作り方は聞いても、壊し方なんか聞かないさ」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「さぁね? 壊した本人に聞いてくれ」

 

「え? あぁ。そうだったわね」

 

 ハーマイオニーはこちらに視線を向ける。

 

「必要以上のエネルギーを送り込み、破壊しました」

 

「まぁ、普通の壊し方じゃないな。ダンブルドアも恐らく指輪を破壊しているだろうし、魔法でも壊せるはずさ」

 

「そうなのね」

 

「後は、ヘルガ・ハッフルパフのカップだな。場所は…分からないな」

 

「あと2つね」

 

「次が、ロウェナ・レイブンクローの髪飾りだ」

 

「そんな物何処で見つけたのよ?」

 

「灰色のレディって知っているか? ロウェナ・レイブンクローの娘。ヘレナ・レイブンクローさ。彼女から隠し場所を聞きだしたんだ」

 

「そうだったのね。どこに隠したの?」

 

「さぁ? 覚えて無いな。僕が分かるのはここまでだ。最後の1つは分からない」

 

「そうなの…なんでそんな事を…」

 

「不死の魔法…不死身になりたかったのさ。不死身になって世界を征服しようとでも思ったんだろう」

 

「なんで…」

 

「僕は、サラザール・スリザリンの末裔にして純血の魔女メローピー・ゴーントとマグルのトム・リドル・シニア…どこにでもいるマグルの間に生まれた混血の魔法使いだ」

 

「え? 純血主義者じゃ…」

 

「混血故のコンプレックスみたいな物かな…今となっては分からないな」

 

「そうなの…ご両親は…」

 

「母親は僕を生んで死んだよ。父親は僕が生まれる前から蒸発していたよ。だから僕は孤児院で育った。そこでダンブルドアに出会ったんだ。いや目を付けられたっていうのが正しいかな」

 

「そうだったのね…」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、タブレット端末を抱きしめる。

 

「何をしているんだ?」

 

「なんだか…分からないけど…こうしたいの…」

 

「そうかい…まぁ…好きにすると良い」

 

「えぇ…」

 

 そのまま、ハーマイオニーはしばらくの間タブレット端末を抱きしめ続けた。




もし新作を書くとしたら、またこの双子で書きたいと思っているんですが、設定だけ引き継いだ続編という事で書こうかと思っています。




需要があるかどうかは知らん。


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スリザリンのロケット

   後日

 フェリックス・フェリシスの効果はあったようで、ハリーは無事、スラグホーンと接触し、任務を果たしたようだ。

 

 既に、ダンブルドアに報告済みのようで、数日後に、不死鳥の騎士団の任務として時計塔の最上階へと呼び出された。

 

 

 時計塔の階段を上ると、そこにはダンブルドアとスネイプが会話をしている。

 

「吾輩に多くを求めすぎではありませんか? あまりにも…その聡明な頭脳でお分かりになりませぬか? 吾輩がそれを望んでいないことを」

 

 

 

「思い至ろうが、至らまいが、関係あるまい。もう決まった事じゃよ、セブルス。それに、君は同意した。これ以上話す事も無いじゃろう」

 

 

 

「フン!」

 

 

 

 スネイプは、踵を返すと、階段を急ぎ足で降りる。

 

「ッ!」

 

 スネイプは私達を一瞥すると、何事も無かったように階段を下りて行った。

 

「来たか」

 

「到着しました」

 

「ご用件は?」

 

「少し待つのじゃ」

 

 数分後、ハリーが階段を上り、時計塔最上段へと到着する。

 

「おぉ、ハリー。髭が伸びておるぞ」

 

 

 

 ダンブルドアは、ハリーの顔を見ると指摘する。

 

「今朝、剃れなくて」

 

 

 

「成長したという事じゃ…じゃが、ワシは未だに君が、あの物置に居た小さな子供に見える。年寄りの感傷じゃよ」

 

 

 

「先生もお変わりないですね」

 

 

 

「君は母親に似て優しいの。皆それに甘えておるのじゃよ」

 

「いえ…そんな事は無いですよ」

 

 ハリーは照れ臭そうに笑みを浮かべる。

 

 

「さて…今回お主達を呼び出したのはちょっとした用事でな。ワシに同行して欲しいのじゃよ」

 

「場所は?」

 

「着いてのお楽しみじゃ。じゃがいくつか条件がある」

 

「条件?」

 

「左様。今回の行動は危険が伴う。故に、ワシの言う事には従ってもらいたい…ワシが、逃げろと言えば逃げ、隠れろと言えば隠れるのじゃ。そして、ワシを見捨てろと言ったら見捨てるのじゃ。分かったの、ハリー」

 

「わ…わかりました…」

 

 ハリーは俯き数回頷く。

 

 ダンブルドアはこちらに目線を向けるが、一瞥するとハリーに視線を戻す。

 

 

「さて、ハリーよ。ワシの腕に掴まるのじゃ」

 

「え? でも先生。学校で姿現しは出来ない筈じゃ…」

 

 

 

「まぁ、ワシは特別じゃよ。お主達も」

 

「了解」

 

 私達もダンブルドアの腕に掴まる。

 

 

「では行くぞ」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、空間湾曲が発生し、私達は別の場所へと移動した。

 

 

「どこに行ったのかしら?」

 

「通信圏外だ。おかしいな…」

 

「ハリーも居ないみたいなの。どうしたのかしら?」

 

 ハーマイオニーは自室で溜息を吐く。

 

「折角課題を一緒にやろうとしたのに」

 

「手伝って貰う腹積もりだろ?」

 

「そ…そんなんじゃ無いわよ」

 

「そうかい…ん?」

 

「どうしたのよ?」

 

 トムが何か違和感を覚えた様だ。

 

「空間湾曲を検知した。姿現しさ。ホグワーツでは出来ない筈だが…」

 

「どう言う事かしら?」

 

「大方、ダンブルドアだろう…ん?」

 

「今度は何?」

 

「また空間湾曲だ…いや、空間が繋がった…と言うべきか?」

 

「どう言う事?」

 

「ホグワーツと別の場所が何かによって強制的に繋がれた。つまり外部から侵入者が来るかもしれないという事だ」

 

「そんな! 場所は?」

 

「ちょっと待ってろ。スキャン中だ。わかったぞ、必要の部屋だ」

 

「行きましょう!」

 

「あぁ」

 

 ハーマイオニーはタブレット端末を小脇に抱えると、自室を飛び出し、必要の部屋へと向かった。

 

 必要の部屋に到着すると、入り口の間でハーマイオニーは立ち止まる。

 

『必要の部屋に来たけど…どこを思い浮かべればいいのかしら?』

 

『スキャン結果だが、その空間には他にも多くの反応がある。物が多い所で良いんじゃないか?』

 

『わかったわ』

 

 ハーマイオニーは必要の部屋の扉を開き、入室する。

 

 部屋の中は、物がごった返していた。

 

「物が多いわね」

 

『本当だな。この先に反応があるぞ。生体反応もある…人が居るな。声を出すなよ』

 

『分かったわ…』

 

 ハーマイオニーは周囲を警戒しつつ、奥へと進む。

 

「良し! 修理は終わった! これで繋がったはずだ!」

 

『アレは…マルフォイ? あの巨大なキャビネットは?』

 

『アレは、『姿をくらますキャビネット』だ』

 

『何よそれ?』

 

『対になるキャビネットがあるんだ。それで外部と繋がっているんだろう。姿現しが出来ない奴でも長距離を移動出来るのが利点だな』

 

『そうなの。じゃあこのキャビネットと外のキャビネットが繋がっているって言う事?』

 

『あぁ』

 

『そう言えば、この前マルフォイが、ボージン・アンド・バークスに行くのを見たわ』

 

 マルフォイは姿をくらますキャビネットの扉を開けるとリンゴと手紙を入れる。

 

「後は…死喰い人が来るのを待つだけだ…」

 

『なるほど、キャビネットを使って死喰い人をホグワーツに招き入れるって訳か』

 

『早くこの事を先生に!』

 

『あぁ…ん?』

 

『どうしたのよ』

 

『面白い反応を検知したぞ。ちょっと寄り道してくれ』

 

『でも…』

 

『直ぐに済むさ』

 

『わかったわ…』

 

『じゃあ、案内しよう』

 

 ハーマイオニーはトムの指示に従い、移動を開始する。

 

『コイツだ』

 

『これは? 髪飾り? まさか…』

 

『そうさ。ロウェナ・レイブンクローの髪飾りだ』

 

 ハーマイオニーはロウェナ・レイブンクローの髪飾りを手に取る。

 

『何か彫ってあるわ。計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり?』

 

『ロウェナ・レイブンクローの有名な言葉だ。なんでも、その髪飾りを付ければ知恵が増すらしいぞ』

 

『そうなの、じゃあ…早速』

 

『つけて、現代の僕の影響を受けても責任は取らないぞ』

 

『………やめておくわ』

 

『それが良い』

 

 ハーマイオニーは髪飾りをポケットへと仕舞う。

 

『さて、行きましょう』

 

 その後、マルフォイに気付かれない様に必要の部屋を脱出した。

 

 

  ダンブルドアの姿現しにより、私達は荒海の中に佇む小さな岩場の上へと移動した。

 

「あれ…ここは」

 

 ハリーが周囲を見回して、混乱している。

 

「先生! 分霊箱はどこにあるのですか?」

 

「あの洞窟じゃ。行くぞ」

 

 ダンブルドアは再び姿現しを行い、洞窟へと移動した。

 

 

「ここに…」

 

「そうじゃ…ここにヴォルデモートの分霊箱…そのうちの1つがあるはずだ」

 

「ヴォルデモートは一体何個作ったんでしょう…」

 

「分からん…だが予測は付く。6個から7個だろう…恐らくじゃがな…」

 

「そんなに…」

 

 ハリーは驚愕し溜息を吐く。

 

「ここじゃな。…やはり、この場所には魔法の痕跡がある」

 

 ダンブルドアは巨大な岩盤の前で足を止めると、小さなナイフを取り出した。

 

 

 

「通る為には通行料が必要じゃ…」

 

 

 

 そう言うと、ダンブルドアは自らの手にナイフを突き立てた。

 

 

 

「先生!」

 

 

 

「これは、通行料じゃ。通るものを弱らせるのが狙いじゃよ」

 

 

 

「それなら僕が──」

 

 

 

「ならぬ…」

 

 

 

 ダンブルドアは落ち付いた口調で、ハリーの言葉を遮る。

 

 

 

「君の血はワシの血なんぞより貴重なのじゃよ」

 

 ダンブルドアが壁に血を塗り付けると、仕掛けが作動したのか、洞窟が開けた。

 

 

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

 私達は、暗い洞窟をゆっくりと進んでいく。

 

 洞窟内で電波障害が発生している様で、外部との通信に異常が発生する。

 

「うぉ!」 

 

 洞窟の中は悪路でハリー達の歩みは遅くなっている。

 

「ヴォルデモートは簡単に見つかるような場所に隠したりはしない筈じゃ…恐らく、防御の仕掛けがあるはずじゃ」

 

 

 

 しばらく歩くと、そこは巨大な地底湖の様になっており、湖の中心に、台座の様な物が鎮座している。

 

「あれじゃ」

 

 

 

 ダンブルドアは、その台座を指差しながら、考えを巡らせている。

 

 

 

「さて…問題はどうやって渡るかじゃ…」

 

 

 

 

 

 ダンブルドアは杖を軽く振ると、鎖の付いた小舟が手元にやって来た。

 

 

 

「これを使おう…」

 

 ダンブルドアとハリーは小舟へと乗り込む。

 

「先に行く。お主達は後で──」

 

 私達はバーニアを起動し、その場に浮遊する。

 

「先行します」

 

 ダンブルドア達が到着するよりも早く台座の場所へと移動した。

 

「どうなっておるのじゃ…」

 

「さ…さぁ?」

 

 数分後、小舟が到着する。

 

「分霊箱はこの中に…」

 

 

 

「あぁ、間違いないじゃろう」

 

 

 

 疲れ果てた2人は台座の中を覗き込んでいる。

 

 台座の中には、黒い毒性の液体に満ちており、内部に金属反応がある。

 

 しかし、以前の日記帳の様な反応は無い。

 

 ダンブルドアは台座の中を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「これを取り出すには…総て飲まねばならぬ…」

 

「内部は毒性の液体で満たされています。我々が処理します」

 

「お主達は手を出すでない! 毒なのは承知の上じゃ! しかし…それしか方法は無い」

 

 ダンブルドアは震える手でゴブレットを手に取り、内部の毒液を掬うと口へと運ぶ。

 

「うごぉ!」

 

「先生!」

 

 飲み込むと同時にダンブルドアは苦しそうな呻き声を上げる。

 

「大丈夫じゃ…飲まなくては…」

 

 ダンブルドアは再び毒液を呑み、咳込む。

 

 複数回繰り返す頃には毒液は半分程になるが、ダンブルドアの生体反応が微弱になり、これ以上は危険だろう。

 

「の…飲まなくては…」

 

 ゴブレットに手を伸ばしたダンブルドアをデルフィが制止する。

 

「これ以上は危険です」

 

「じゃが…」

 

 デルフィは毒液に手を突っ込み、内部にあるネックレスを回収する。

 

「回収終了です」

 

「え?」

 

「何じゃと…」

 

 ダンブルドアは浅い呼吸をしたまま、その場に崩れ落ちる。

 

「帰還しましょう」

 

「そ…そうじゃな…」

 

 私達は洞窟から撤退する。

 

 洞窟を抜けると、ハーマイオニーからの通信履歴を検知する。

 

 ハーマイオニーへと通信を繋ぐ。

 

『ご用件は?』

 

『大変なの! 死喰い人が! キャッ!』

 

『大丈夫ですか?』

 

『大丈夫。マクゴナガル先生と一緒に死喰い人を押さえているわ! 他の生徒達の避難も終わっているわ。でも早く来て!』

 

『了解』

 

「戻るぞ…」

 

 肩で息をするダンブルドアの腕を掴み、私達はホグワーツへと帰還する。

 




この辺から物語が変化し始めます。

起承転結で言う転の部分です


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ハーマイオニーの戦い

今回はハーマイオニーが主役です。


 

   必要の部屋を出たハーマイオニーは周囲を確認する。

 

「と、とにかくこの事を先生に伝えなきゃ」

 

 ハーマイオニーはマクゴナガルの自室へと走り出す。

 

「はぁ…着いたわ」

 

 マクゴナガルの自室の前に到着後、ハーマイオニーは何回もノックする。

 

「誰ですかこんな時間に…ん? ミス・グレンジャー?」

 

「先生! 大変なんです!」

 

「どうしたのです? 就寝時間はとっくに過ぎていますよ。私だってこれから寝るところ──」

 

「大変なんです! 死喰い人が! ホグワーツに攻めて来るんです!」

 

「何を言っているのですか? はぁ…グレンジャー…貴女はその様なふざけた事を言うような生徒ではないと思っていたのですが…」

 

 欠伸を噛み殺しながらマクゴナガルは溜息を吐く。

 

「本当なんです! 信じてください!」

 

「ホグワーツでは姿現しはできないのですよ。死喰い人が一体どうやって攻めて来るというのですか? まさか正門からやってくるとでも?」

 

「違うんです!」

 

「『姿をくらますキャビネット』さ」

 

「え?」

 

「だ、誰ですか?」

 

「必要の部屋に『姿をくらますキャビネット』があった。ドラコ・マルフォイだったか。彼があれを修理して外部とホグワーツを繋げたんだ」

 

「誰ですか! 姿を見せなさい!」

 

「あぁ、失礼したね」

 

 マクゴナガルの目の前でトムがホログラム化する。

 

「まさか…貴方は…」

 

「どうも。僕の事に付いては知っている様だから改めて自己紹介は必要ないな。まぁ、過去の僕が、現代の僕の(しもべ)達が攻めて来るって言っているんだ。信憑性は高いんじゃないかな?」

 

「トム…」

 

 マクゴナガルは目を見開き、トムとハーマイオニーを交互に見る。

 

「分かりました。生徒達を各寮へ避難させ、入り口に教員と不死鳥の騎士団員を配置して守りを固めます」

 

「いや、それは危険だ。下手すれば死人が出る」

 

「ではどうしろと?」

 

「ホグワーツを放棄して、全員逃げるんだ」

 

「ですが!」

 

「時間はそれほど残されていない。暖炉があるだろ。あれで全員安全なところへ避難させるんだ。ポートキーだっていい」

 

「しかし…」

 

「時間はあまりないぞ。この瞬間も刻一刻とタイムリミットは迫ってくる」

 

「分かりました。貴方達の言葉を信じましょう。生徒の命が最優先です。非常警報を発令します」

 

「良かったぁ…」

 

「あの老害とは大違いだ。貴女が校長をやればいい」

 

「それもいいかもしれませんね。トム・リドル。ミス・グレンジャー。後で詳しく説明して貰います。良いですね」

 

「あぁ。構わないさ」

 

「それでは貴方達は私と同行して貰いますよ」

 

「了解さ」

 

「わかりました」

 

「さぁ! 行きますよ!」

 

 マクゴナガルは杖を振り、屋敷しもべ妖精とゴーストなど全ての連絡手段を用い、生徒達の非難を開始した。

 

 数分後、マクゴナガル他、多くの教職員の指示に従い生徒達の避難が始まる。

 

 ハーマイオニーとマクゴナガルはグリフィンドールの談話室で生徒の避難を誘導している。

 

「ハーマイオニー! どういう事だよ! それにそいつは!」

 

「ロン! 説明は後で。早く避難して」

 

「でも!」

 

「早く避難しなさい!」

 

 マクゴナガルが怒声を上げ、ロンは避難を開始する。

 

「生徒達は自宅や、ダイアゴン横丁。不死鳥の騎士団本部などに避難を開始しています」

 

「良かったわ。トム。死喰い人が来るまであとどれくらい」

 

「それが──」

 

 次の瞬間、ホグワーツ全体が大きく揺れる。

 

「もう到着したみたいだ。戦力は多くないが1個小隊って所か」

 

「そんな…避難状況は?」

 

 マクゴナガルは宙を舞うゴーストへ声を掛ける。

 

「まだ、半分程…あと30分以上はかかりますぞ!」

 

「そんな…間に合わないなんて…」

 

 ハーマイオニーは杖を構える。

 

「グレンジャー! 何を?」

 

「こんな所で待っているなんてできないわ! 死喰い人を食い止めに行きます!」

 

「危険です! やめなさい!」

 

 マクゴナガルは制止するが、ハーマイオニーは談話室の扉に手を掛ける。

 

「待っていたらきっと被害が大きくなります!」

 

「仕方ありません…私も行きます。良いですか、危険になったらすぐに逃げるのですよ」

 

「はい!」

 

「さて、大広間に死喰い人は集結中だ。食い止めるならそこに向かうべきだな」

 

「わかったわ。ところで、エイダとデルフィへ連絡は?」

 

「何度も連絡してるさ。こんな状況だ、彼女達の力が欲しいのは違いない。だがダメだ。まだ繋がらない」

 

「仕方ないわね。私達だけで食い止めるしかないって事ね」

 

「そう言う事。まぁ、頑張りなよ」

 

「言われなくてもね」

 

「行きますよ!」

 

 ハーマイオニー達は談話室を抜けると、大広間まで移動する。

 

  大広間には既に多くの死喰い人が集結していた。

 

 ハーマイオニーとマクゴナガルは死喰い人に気付かれない様に壁際に隠れる。

 

「どうしますか?」

 

「取り敢えず、魔法を──」

 

「ちょっと待ってください」

 

 ハーマイオニーは小声でマクゴナガルを制止する。

 

「どうしたのですか?」

 

「これを使います」

 

 ハーマイオニーは検知不可能拡大呪文が施されている鞄からスタングレネードを2個取り出す。

 

「これは?」

 

「閃光と爆音で無力化させるマグルの武器です。これを使いましょう」

 

「そんな物…どこで?」

 

「エイダとデルフィから貰いました」

 

「魔法省が知ったら大問題ですね」

 

「ですね」

 

 ハーマイオニーはスタングレネード1つをマクゴナガルに手渡す。

 

「ピンを抜いたら投げてください。その後、数秒で爆音と閃光が出るので目と耳を塞いでください」

 

「わ、わかりました」

 

 ハーマイオニーとマクゴナガルはスタングレネードのピンを抜く。

 

「スキャン結果はナノマシンにリンクさせた。敵の位置が分かるはずだ」

 

「えぇ。投げますよ」

 

「いつもで」

 

「3・2・1…今です!」

 

 壁越しからスタングレネードを死喰い人に向け投げる。

 

 スタングレネードは地面に着地すると金属音を周囲へと響かせる。

 

「ん? なんだこれ?」

 

「おい! どうした?」

 

 金属音に釣られ、死喰い人がスタングレネードの周辺に集結する。

 

 数秒後、スタングレネードは爆音と閃光を放ち、爆発する。

 

「うごぉ!」

 

「うわぁ!」

 

 爆音と閃光が直撃した死喰い人はその場で気を失う。

 

 物音一つしなくなった大広間でトムの声が響く。

 

「動体反応なし。無力化は成功だな」

 

「ふぅ…」

 

「これが…マグルの…」

 

 マクゴナガルは倒れている死喰い人を見て、恐怖に駆られる。

 

「死んだのですか?」

 

「いえ、多分、気を失って居るだけだと思います。拘束しましょう」

 

 ハーマイオニーは杖を振り、気絶している死喰い人を拘束する。

 

 数分後には、大広間に居た全ての死喰い人を拘束する。

 

「動体反応確認、複数の反応がこっちに来るぞ」

 

「気付かれたのかしら?」

 

「かもな。迎撃準備をしておけ」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーとマクゴナガルは壁に隠れる。

 

 すると、杖を手にした死喰い人が、ベラトリックスを先頭に陣形を組んでいた。

 

「アレは、ベラトリックス・レストレンジ…厄介な…」

 

「ねぇ、避難状況は?」

 

「あと少しは掛かりそうだ。ここで食い止めるしかないな」

 

「そうね。さっきと、同じ方法で行きましょう」

 

「わかりました」

 

 ハーマイオニーは先程同様に、マクゴナガルにスタングレネードを手渡す。

 

「では、行きますよ」

 

 2人は同時にピンを抜き、スタングレネードを死喰い人へと投げつける。

 

「なんだあれは!」

 

「ふん!」

 

 ベラトリックスが杖を振り、空中でスタングレネードを2つとも撃ち落とす。

 

「そんな!」

 

「あそこだ!」

 

「撃て!」

 

 

 ベラトリックスの魔法を皮切りに、死喰い人が魔法を乱射する。

 

 ハーマイオニー達が隠れている壁に大量の魔法が襲い掛かる。

 

「これは…きついですね」

 

「一時撤退しましょう!」

 

 マクゴナガルの提案にハーマイオニーは頷く。

 

「煙幕を張ります!」

 

 ハーマイオニーはスモークグレネードのピンを抜き、自身の足元へと投げる。

 

 即時にスモークグレネードから煙幕が発生した。

 

「一時撤退します」

 

「わかりました!」

 

 煙に隠れる様に、ハーマイオニーとマクゴナガルは撤退を開始する。

 

「煙に紛れて逃げるつもりだ!」

 

「煙を狙え!」

 

 ベラトリックスが煙幕の中心へと魔法を複数放つ。

 

「うっ!」

 

「先生!」

 

 複数の魔法の内、1つがマクゴナガルの足を掠める。

 

 その為、マクゴナガルはその場で倒れ込む。

 

「先生!」

 

「大丈夫です! 早く行きなさい!」

 

「トム! シールド展開! マクゴナガル先生を助けるわよ!」

 

「了解。シールド展開」

 

 ハーマイオニーの周囲にシールドが展開し、シールドに添う様に煙幕が吹き飛ばされる。

 

「アクシオ! マクゴナガル!」

 

 ハーマイオニーはマクゴナガルをシールド内へ引き寄せる。

 

「あそこだ! 狙え!」

 

 死喰い人がシールドを発生しているハーマイオニー目掛け一斉に魔法を放つ。

 

「シールド損傷率、20%。早く逃げた方が良いぞ」

 

「分かってるわよ。先生。肩を貸します」

 

「助かりました」

 

 ハーマイオニーとマクゴナガルは魔法の弾幕を抜け、廊下へと撤退する。

 

 廊下に到着すると、入り口の扉に向けグレネードを投げる。

 

 数秒後には爆発が起き、廊下の入り口が瓦礫で埋もれる。

 

「これで、少しは大丈夫…先生!」

 

 マクゴナガルの足は魔法を掠めた為か、赤く爛れ、血を流していた。

 

「治療を…」

 

「大丈夫ですよ。それより、避難は?」

 

「ほぼ終了だ。後は君達くらいだろう」

 

「わかったわ」

 

「おっ、彼女達から通信が来たぞ。繋ぐよ」

 

「ナイスタイミングね」

 

『ご用件は?』

 

『大変なの! 死喰い人が! キャッ!』

 

 入り口を塞いだ瓦礫の前で爆発が起こる。

 

『大丈夫ですか?』

 

『大丈夫。マクゴナガル先生と一緒に死喰い人を押さえているわ! 他の生徒達の避難も終わっているわ。でも早く来て!』

 

『了解』

 

「先生。行きましょう」

 

「えぇ」

 

 ハーマイオニーは足を引き摺るマクゴナガルに肩を貸しながら、数分ほどかけてグリフィンドールの談話室へと到着する。

 

「先に不死鳥の騎士団の本部へ行っています。助かりましたよグレンジャー」

 

「わかりました」

 

 マクゴナガルは暖炉を使用し、避難を完了させた。

 

 ハーマイオニーはエイダ達に通信を繋ぐ。

 

「こっちの避難は完了したわ。私達は不死鳥の騎士団の本部へ向かうわ」

 

「了解。眼前の敵性勢力を排除後、向かいます」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーは暖炉へと入る。

 

「不死鳥の騎士団本部へ」

 

 ハーマイオニーは暖炉を使用し、不死鳥の騎士団本部へと避難した。

 

 




被害を最小限に抑えるには、これが最も有効な方法だと思います。

まぁ、戦力的に考えても、2人が居ないので退却戦しかありません。


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退学処分

今回

物語は大きく変化します。




   ダンブルドアの姿現しにより、私達はホグワーツへと到着する。

 

「ふぅ…疲れたのぉ…」

 

「報告します。現在、ホグワーツ内部で死喰い人との戦闘が行われているようです」

 

「何じゃと!」

 

「助けに行かなきゃ!」

 

「敵性勢力の排除へ向かいます」

 

「待つのじゃ!」

 

 移動を開始しようとすると、ダンブルドアが声を荒らげる。

 

「現在の状況は?」

 

「現在、ハーマイオニーとミネルバ・マクゴナガルが死喰い人を迎撃し、生徒の避難を行っているようです」

 

「ならば問題はあるまい。それよりも、重要な事があるのじゃ」

 

「重要な事? なんですそれは?」

 

「先程の分霊箱を」

 

「こちらですか?」

 

 デルフィがスリザリンのロケットをベクタートラップ内から取り出す。

 

「スリザリンのロケット?」

 

「今は危険な状況じゃ…お主達が守っておくのじゃ」

 

「了解」

 

 その時、下の階の扉が開く。

 

「あれは…」

 

 扉からマルフォイとスネイプが現れた。

 

「なんでアイツらがこんな所まで」

 

「ハリー…」

 

「なんです──」

 

 ダンブルドアは杖を振り、ハリーへ魔法を放つ。

 

 魔法が直撃したハリーはその場で石のように固くなり、身動き取れない状況になった。

 

「どういうおつもりですか?」

 

「しばらく、大人しくしてもらうのじゃよ」

 

 

 

 再びダンブルドアが杖を振るうと、透明マントが現れ、ハリーの上に覆いかぶさった。

 

 

「透明マントじゃよ。これで隠れていてもらうのじゃ…」

 

 

 

 ダンブルドアは何処か寂しそうな表情で、ハリーを見ていた。

 

 

 

 その時、階段を上り切ったマルフォイが杖を構える。

 

「ダンブルドア! き、君達まで!」

 

「おや、ドラコかの? 良い夜じゃの。何をしに来たのじゃ?」

 

 

「任務を遂行する!」

 

 マルフォイは震える手でダンブルドアに杖を突き付ける。

 

 その後ろでスネイプが腕を組み、事態を見守っている。

 

 

「なるほどの…呪いのネックレスや、毒入りの蜂蜜酒…総てはワシの暗殺が目的かの?」

 

 

「そうだ!」

 

「それにしては…ちーとばかし回りくどいのぉ。てっきり殺す気はないのかと思って居ったわ」

 

「なんだと!」

 

 マルフォイは声を荒らげ、ダンブルドアに杖を突き付ける。

 

「君には人は殺せぬよ…」

 

 

「こうするしか…こうするしかないんだ! でなければ僕が殺される!!」

 

「そうか。ならばやるが良い」

 

 ダンブルドアは杖を手にしながら両手を上にあげている。

 

 

 

「どうしたのじゃ? 早くやらぬか?」

 

 

「え、エクスペリア──」

 

「ゲイザー投擲」

 

 マルフォイが杖を振り下ろすより早く、私はマルフォイにゲイザーを投げる付ける。

 

「ウッグ!」

 

「敵対象を無力化」

 

「何をするのじゃ!」

 

 ダンブルドアは声を荒らげる。

 

「これでは…計画が…」

 

「校長」

 

 スネイプが声を上げ杖を手に取る。

 

「セブルス…こうなれば仕方ない。当初の計画通りに進めよう」

 

「よろしいので?」

 

「仕方あるまい。セブルス…頼む…」

 

 ダンブルドアはそう言うと、両手を広げ目を閉じる。

 

「では…」

 

 スネイプは杖を構える。

 

「一つよろしいですか?」

 

「…なんじゃ…」

 

 ダンブルドアはゆっくりと目を開くと、こちらを見据える。

 

「自ら命を絶つおつもりですか?」

 

「それしかないのじゃよ…それに、この体じゃ、そう長くは持たぬ」

 

 そう言うと、ダンブルドアは自身の変色した右腕を見せる。

 

 変色部は肩部にまで及んでいる。

 

「スキャン完了。変色部を取り除けば、生存の可能性はあります」

 

「左様か…しかし…魔法使いにとって、杖腕を失うという事は死を意味するのじゃよ」

 

「校長…」

 

「あぁ、そうじゃったな」

 

 ダンブルドアは目を閉る。

 

「では…お許しください…校長」

 

 スネイプは杖を軽く振ると、赤い閃光が飛び、ダンブルドアに直撃する。

 

「ぐぉ!」

 

 呻き声を上げたダンブルドアはその場で倒れ込み意識を手放した。

 

「生命反応確認」

 

「当たり前だ。殺しては居ない」

 

 スネイプは杖を仕舞い、こちらに視線を向ける。

 

「先程の話し…本当か?」

 

「はい、変色部を切除すれば、生存の可能性はあります」

 

「そうか…切除は…お前達に出来るか?」

 

「可能です。ですが、1度切除した場合、義手等になります」

 

「左様か…」

 

 スネイプは杖を振り、ダンブルドアとマルフォイ、ハリーの体を浮遊させる。

 

「吾輩の部屋へ行くぞ」

 

「了解。先行し敵部隊を排除します」

 

「頼む」

 

 私達はスネイプの部屋へと移動を開始する。

 

  道中、数名の死喰い人と会敵したが、総て排除し目的地へ到着する。

 

「入れ」

 

「了解」

 

 スネイプは部屋へと到着すると、テーブルの上の書物を退け、ダンブルドアの体を横たえる。

 

 マルフォイは近くのソファへと降ろした。

 

 ハリーはスリザリンの談話室にある暖炉へ押し込み、不死鳥の騎士団本部へと移送する。

 

「ここなら処置を行えるか?」

 

「可能です」

 

「では頼む。吾輩は外で見張って居よう」

 

「了解」

 

 スネイプは部屋を出る。

 

 私はマルフォイを別室へと移動させる。

 

「滅菌開始」

 

 室内の滅菌処理を行う。

 

「切除に移行します」

 

 デルフィはダンブルドアの袖を捲り、変色部を露にする。

 

「消毒」

 

 ダンブルドアの腕に消毒液を掛け、消毒処理を来なう。

 

 

「医療用ナノマシン注射」

 

 ダンブルドアの首筋に医療用ナノマシンを注入し、麻酔を施す。

 

「切除します」

 

 私は、腕をブレード化させ、変色部の3㎝上部にブレードを振り下ろす。

 

 ブレードにより、ダンブルドアの腕は肩部から簡単に切除される。

 

 切除と同時に、ブレードの熱量により、切除部は止血処理される。

 

「心拍数、血圧。共に安定」

 

「処置終了です」

 

 

 切除部に止血帯と包帯を巻き、処置を終わらせる。

 

「終わったようだな」

 

 スネイプが部屋に戻ってくる。

 

「切除した腕は?」

 

「こちらに」

 

 スネイプは切除したダンブルドアの腕を布に巻くと、テーブルの上に置く。

 

「わかった。吾輩は死喰い人に戻らねばならぬ。校長を頼む」

 

「了解しました」

 

 スネイプはダンブルドアをスリザリンの暖炉へ押し込むと、ハリー同様に不死鳥の騎士団本部へと移送する。

 

「吾輩は戻れぬ。この手紙をミネルバ・マクゴナガルに渡してくれ」

 

「了解しました」

 

 手紙を受け取り、私達も暖炉を使用し、不死鳥の騎士団本部へと移動する。

 

 

  数分後、マルフォイが目を覚ます。

 

「あれ…ここは…」

 

「目を覚ましたか、ドラコ」

 

「すっ、スネイプ先生! ダンブルドアは!」

 

「逃げられた」

 

「そんな…」

 

 マルフォイはソファで項垂れる。

 

「だが安心しろ」

 

 スネイプはマルフォイに向け、布で包まれた物体を投げ渡す。

 

「おっと…なんですか? これ?」

 

「開けてみろ」

 

「ん? ヒッ!」

 

 マルフォイは布を解くと悲鳴を上げる。

 

「ダンブルドアの腕だ。逃げられる時、切り落とした」

 

「え…え?」

 

「これがあれば、我が君もお許しくださるだろう」

 

「そ、そうですね」

 

 その時、スネイプの部屋にノック音が響く。

 

「入れ」

 

「上手くいったようだな」

 

 ルシウスが杖を仕舞いながら入室する。

 

「父上! 見てください!」

 

「これは…ドラコよ。よくやったな」

 

「はい!」

 

「それにしても、ダンブルドアの腕とは…」

 

「早く我が君に報告を」

 

「あぁ、もう少しでホグワーツの占拠も終わるだろう」

 

「あぁ、吾輩が全生徒と教職員をホグワーツから追い出したからな」

 

「流石だな。さて、我が君を迎えに行こう。ドラコ、お前もだ」

 

「はい!」

 

 2人は嬉々として部屋を後にした。

 

 

  暖炉を使用し、不死鳥の騎士団本部へと戻ると、マクゴナガルが驚愕した表情を浮かべている。

 

「気絶状態のハリー。片腕を失った校長の次は、貴女達ですか」

 

「こちらを」

 

 

「手紙? スネイプ先生から?」

 

 マクゴナガルは手紙を読み、表情を変える。

 

「なるほど…」

 

「手紙にはなんと?」

 

「スネイプ先生は校長の指示で死喰い人へスパイとして潜入していたようです。それと、校長の腕を切除したのは貴女方だと」

 

「必要な処置です」

 

「そうですか。校長は今奥の部屋で休んでいます。もうじき目を覚ますでしょう」

 

「了解」

 

「校長の枕元に置いておきます」

 

 そう言うと、マクゴナガルは奥の部屋へと移動した。

 

 私達も続くと、こちらに気が付いたハーマイオニーが声を上げる。

 

「2人とも、無事だったのね」

 

「問題ありません」

 

「良かったわ」

 

 その時、扉が開き、ハリーがロンの肩を借りながら現れる。

 

「ハーマイオニー。それに君達。そろそろ説明して貰おうか。なんで、トム・リドル。アイツが生きているのか」

 

 ハリーが指を差す先で、ホログラム化したトムが椅子に腰かけていた。

 

「いや…これは、そのぉ」

 

「ワシも説明が欲しい」

 

「校長!」

 

 覚束ない足取りのダンブルドアが左手で扉を開けながら現れる。

 

「ワシの腕を切ったのは、お主達じゃな」

 

「はい」

 

 私が答えると、ダンブルドアは小さく笑う。

 

「お主達が捕縛したトロールの腕と同じ断面じゃったのでな…ワシの腕を切るとは…とんでもない事をしてくれたのぉ…」

 

 ダンブルドアは腕を抑えながら、近くの椅子に腰かける。

 

「はぁ…はぁ…ミネルバ。なぜ、ワシがここに居るのか。セブルスはどうした?」

 

「スネイプ先生なら、現在任務を継続していますよ」

 

「何じゃと…なぜお主がセブルスの任務を?」

 

「先程、手紙を頂きました。ご覧になって無いのですか?」

 

「腕を切った所までしか読んでなくてな…そうか…まぁ…良い。それより、ホグワーツはどうなった?」

 

「現状から考えるに、既に死喰い人に占拠されていると考えるのが妥当です」

 

「何と言う事じゃ…ミネルバ、なぜお主が居てこの様な事態に。なぜホグワーツを棄てた? 全ての教職員と全ての生徒でホグワーツを守れば」

 

「確かに、そうすればホグワーツが死喰い人に占拠される事は無かったかもしれませんが、そんな事をしていたら生徒にも被害が出ていたかもしれません」

 

「その通りだ。もっと生徒を大切にした方が良いぞ。じゃないと僕みたいなのがまた生まれる」

 

 トムは椅子に座りながらダンブルドアを見据える。

 

「ミネルバよ…もしや…お主…トム・リドルの──」

 

「確かに、彼等の意見を参考にしました」

 

「何と…言う事じゃ…はぁ…ミネルバ…お主は眼前の物事しか見ておらぬ。もっと大局を見て欲しい。多少の犠牲を出してもホグワーツは死守するべきじゃった。それを奴の口車に乗せられ、みすみすホグワーツを手放すなど…何という様じゃ…」

 

「ですが、生徒の命が最優先です。その点においては彼等の判断は間違っていない筈ですし、私もそれに賛同しました」

 

「ミネルバ…この責任はいずれ負って貰うぞ…さて、では答えてもらおうかのぉトムよ。なぜお主が生きている?」

 

 ダンブルドアは左手に杖を持ち、トムに突き付ける。

 

「結構事情が複雑でね。まぁ簡単に説明すると、僕も巻き込まれたようなものさ」

 

「何を訳の分からぬ事を…」

 

「ふざけるなよ!」

 

 ロンは肩を貸しているハリーを払い除け、急に杖を抜き、トムに殴りかかろうとする。

 

「やめて!」

 

 ハーマイオニーが声を上げ、ロンの動きが止まる。

 

「ハーマイオニー…なんでこんな奴を庇うんだ?」

 

「そ…それは…」

 

「殴っても無駄だからさ」

 

「ちょっと黙ってて」

 

「おぉ…怖い」

 

「ハーマイオニー…あぁ…そうか、そう言う事か、わかった。わかったよ」

 

 ロンは、瞳孔を開き、ハーマイオニーの顔を見据える。

 

「最近の君はおかしいと思って居たんだ! クィディッチの試合も見に来てくれないし! 僕の相手もしてくれない!! でもようやくわかったよ。君はコイツに服従の呪文を掛けられていたんだね!!」

 

「え? 何を言っているの」

 

「そうさ、そうじゃなきゃおかしいよ。なんて奴だ、僕のハーマイオニーに酷い事を!! 許せないッ!」

 

「ちょ、ちょっと待って。僕のって、私がいつ貴方の物になったって言うの?」

 

「気にするのはそこか?」

 

「トム。ちょっと黙って」

 

「はいよ」

 

「あぁ、可哀想なハーマイオニー。奴の呪文がまだかかっているんだね。でも大丈夫だよ。僕が助けてあげるから」

 

 ロンはハーマイオニーに接近するが、ハーマイオニーは後退り、同じ距離を保つ。

 

「や、やめて。ロン。顔が怖いわ」

 

「そんなに怖がらなくていいんだよ。僕が助けてあげるから」

 

「ちょ…やめて…」

 

 ハーマイオニーのメンタルコンデションレベルが低下し、恐怖を感じ始める。

 

「おやめください」

 

 デルフィがロンとハーマイオニーの間に割り込む。

 

「なんだ君…まさか…そうか、分かったぞ! 君達も奴の仲間か! 僕とハーマイオニーの仲を引き裂こうとしているんだな!」

 

「彼は何を訳の分からない事を言っているんだ?」

 

「発言の意図不明」

 

 

 ロンは杖を振り下ろし、デルフィに攻撃を行う。

 

「シールド展開」

 

 放たれた魔法はデルフィによって、無効化される。

 

「戦闘の意思を確認。これ以上の攻撃は、敵対象と捉えます」

 

「ふざけた行動はおやめください」

 

「ふざけているのはお主達じゃよ」

 

 ロンの背後にダンブルドアが立つ。

 

「ダンブルドア…校長…先生…」

 

「ロンよ。彼女はトムに心を操られている様じゃ…なんとも悲しい事じゃ…しかし、それを救えるのは君の…君の愛しかないんじゃよ」

 

「僕の愛…しか…」

 

「そうじゃよ」

 

「はい!」

 

「そうじゃ、それでいい。皆杖を取れ!」

 

 ダンブルドアが声を上げると、何名かの生徒が杖を構える。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー! エイダ・イーグリット! デルフィ・イーグリット! ワシは現時刻を持って! 君達にホグワーツの退学を言い渡す! それと同時に不死鳥の騎士団の脱退、そして…ワシ達を裏切った貴様達を敵とみなす!」

 

「校長! お待ちを!」

 

「黙るのじゃ! ミネルバ!」

 

 ダンブルドアが怒声を上げ、マクゴナガルは一瞬身構える。

 

「どういう…状況なの…」

 

「どうやら、彼等は我々を敵とみなした様です」

 

「まったく、これだから老害は…変に早合点する」

 

 私の背中にハーマイオニーを庇う様に避難させる。

 

「この場は一時撤退を推奨します」

 

「了解、退避行動を開始します」

 

 

 デルフィはウアスロッドを構えると、横に薙ぎ、風圧を起す。

 

 その衝撃により、杖を構えた全員が体勢を崩す、

 

「うぉ!」

 

「撤退します」

 

「えぇ! トム!」

 

「了解」

 

 トムはホログラム化を解除し、姿を消す。

 

「逃すな! 撃つのじゃ!」

 

 ダンブルドアの声に従い、多くの生徒が魔法を乱雑に放つ。

 

「防御開始」

 

 デルフィはウアスロッドを回転させ、迫り来る魔法を防ぐ。

 

「殿を務めます」

 

「了解」

 

 私はハーマイオニーの手を取り走り出す。

 

「私達はこのまま出口へと進みます」

 

「了解よ!」

 

 扉を突き破り、大広間を抜ける。

 

 階段を降り、出口の扉へ向かう。

 

「飛びます。掴まってください」

 

「うん!」

 

 ハーマイオニーは私の左腕へとしがみつく。

 

 その時、私の右側に空間湾曲を検知する。

 

「逃さぬよ!」

 

 姿現しで、現れたダンブルドアが、私の右腕を掴む。

 

「ワシと一緒に来てもらうぞ」

 

 再び空間湾曲を検知する。

 

 どうやら、ダンブルドアは私達を姿現しで内部へと連れ込むつもりだ。

 

 シールドを展開して無効化する事も可能だが、その場合、腕に掴まっているハーマイオニーにまで被害が出る恐れがある。

 

 トムのシールドでは出力が弱すぎる。

 

「右腕パージ」

 

 私は肩部より右腕をパージする。

 

 それと同時にダンブルドアは姿現しで、内部へと消えていった。

 

「え…エイダ! その腕!」

 

「問題ありません。損傷は軽微です」

 

「私のせいで…ごめんなさい…」

 

 ハーマイオニーは涙を流し、謝罪する。

 

「問題ありません。お気にせずに」

 

「で…でも…」

 

「敵部隊、追撃を断念。帰還します」

 

 その時、デルフィが出口から現れる。

 

「了解。ハーマイオニーを頼みます」

 

「分かりました」

 

 私はデルフィにハーマイオニーを預ける。

 

「帰投します」

 

 私達はバーニアを吹かし、自宅へと帰還する。

 

 

 




エイダの腕をもぎ取る(パージ)させるとは…

ダンブルドアにしては頑張りましたね。



ついでに、ロンの精神が崩壊しました。



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ファントムペイン

これにて、謎のプリンス編終了です。


 

   姿現しで、不死鳥の騎士団内部へと戻ったダンブルドアは周囲の状況を見て、驚愕する。

 

 追撃に出たメンバーの大半が、負傷し、中には杖を折られている者まで居た。

 

「なんと…暴力的な」

 

「校長! その腕は!」

 

「腕?」

 

 ダンブルドアは自身が掴んでいる腕に目を落とす。

 

「これは…エイダ・イーグリットの腕じゃな。おそらく姿現しの時、彼女達を連れて来るつもりじゃったが、どうやら腕を切断してしまったようじゃ」

 

「なんと言う事を…」

 

「なぁに…彼女はワシの腕を奪ったのじゃ…これでおあいこじゃよ」

 

「ですが、貴方の腕は切断しなければ命に──」

 

「もう良い! それより、セブルスはまだ来ぬのか?」

 

「お呼びですかな?」

 

 スネイプが扉を開け現れる。

 

「おぉ、セブルス。ホグワーツはどうじゃ?」

 

「既に完全に闇の帝王の手中に」

 

「左様か、して、ワシの腕はどうなった?」

 

「闇の帝王の手に。その後、ナギニの餌に」

 

「なんと言う事じゃ…」

 

「しかし、口に合わなかったのか、最終的にはゴミ箱にありました」

 

「もう良い…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐く。

 

「その腕は?」

 

「エイダ・イーグリットの腕じゃ。姿現しで千切てしまったようじゃ」

 

「千切れた…それにしては見事な切断面ですな…出血も見られない…」

 

「本当じゃ…どうなっておるのじゃ…」

 

 ダンブルドアは腕の切断面を凝視する。

 

 その切断面からは1滴の血も流れていない。

 

「不思議じゃ…セブルス。調べてくれるか」

 

「出来る限りは…」

 

 スネイプはダンブルドアから切断された腕を受け取る。

 

「頼むぞ。今後のヴォルデモートの動きは分かるか?」

 

「魔法省の制圧を目論んでいます。おそらく、現在の戦力ならば数日中には制圧されるでしょう」

 

「なんと言う事じゃ…奴等の戦力と言うのは?」

 

「死喰い人は人数的には多勢とは言えません。しかし無人で行動する大型のゴーレムを量産しているようです。闇の帝王のものはオービタルフレームと呼んでいます。中には人が搭乗するタイプの物もあるそうで」

 

「大型とは?」

 

「人よりも一回り大きい程度の物が大半ですが、更に巨大な物もあります」

 

「いくら大型とは言え、所詮はゴーレムじゃろう。それよりも魔法省が制圧された後の闇払いの動向が心配じゃ…死喰い人に加入させられるくらいならば、不死鳥の騎士団にスカウトしたいのぉ」

 

「左様で」

 

「後でフクロウを飛ばすとするか。ミネルバ。代筆を頼む」

 

「分かりました」

 

 ダンブルドアは腕を抑えながら、立ち上がる。

 

「ワシは少し疲れた。少し休む」

 

「分かりました」

 

 そう言うと、ダンブルドアは自室へと移動を始めた。

 

 

 

  自宅上空に到着後、周辺の安全を確認し着地する。

 

「到着です」

 

「えぇ…」

 

 依然としてメンタルコンデションレベルの低いハーマイオニーを自宅へと招き入れる。

 

「おもてなしできる様な設備は有りませんが、くつろいでください」

 

「ありがとう」

 

 ハーマイオニーはソファーに腰かける。

 

「紅茶の準備をしてきます」

 

 デルフィが紅茶の準備を始める。

 

 数分後には紅茶を準備が整い、テーブルの上にティーセットが並ぶ。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 ハーマイオニーはティーカップを手に取り、唇を濡らす。

 

「それでは、現在の戦況に付いて、説明を始めます。現在、我々に敵対している勢力は、死喰い人、不死鳥の騎士団です。ですが、数日中に変動があるものと想定されます。おそらく魔法界は戦争状態に陥るでしょう」

 

「そんな…私達はこの後どうすればいいのかしら?」

 

「関わり合いを持たない方が賢明でしょう。何かしらのコンタクトがあった場合、迎撃を行う予定です」

 

「何か…もう訳が分からないわ…」

 

 ハーマイオニーは軽度の混乱状態に陥っている様だ

 

「メンタルコンデションレベルの低下を確認。体力的に休息を取ることをおススメします」

 

「えぇ」

 

「2階にベッドが有るのでご利用ください」

 

「食事は明日の朝、簡易的な物ですがご用意します」

 

「ありがとう…じゃあ、休ませてもらうわね」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、ベッドルームへと移動した。

 

 ハーマイオニーが退室後、私は損傷した腕の自己修復を開始する。

 

「メタトロン鉱石です。お使いください」

 

「ありがとうございます」

 

 デルフィからメタトロン鉱石を受け取り、修復のエネルギーに回す。

 

「自己修復開始」

 

 損傷した腕にエネルギーが集中し、内部の基本構造が形成される。

 

 その後、外部にエネルギーが集中し、外骨格を成型する。

 

「装甲修復率90%」

 

 体表組織を、SSAで覆い、修復を終了する。

 

「右腕、修復完了。稼働に異常なし」

 

 軽く腕を動かし、修復具合を確認する。

 

「武器システム異常なし」

 

 右腕をブレードに変化させる。

 

 異常は見られない。

 

 

「セルフスキャン完了。修復完全完了」

 

 完全に修復を終了させる。

 

 修復に要した時間は5分程度だ。

 

「それでは我々も休息しましょう」

 

「了解です」

 

 私達もベッドルームへと移動し、休息を開始した。

 

  数時間後、朝日が昇る。

 

 時刻は5時を回った頃だ。

 

 私達はベットから抜け、朝食の準備を始める。

 

 数ヵ月以上家を留守にしていたので、缶詰等といった保存食しかなかった。

 

 6時半を回った頃、ハーマイオニーが目を覚まし、1階へと降りて来る。

 

 

「おはよう。2人とも」

 

「おはようございます」

 

「保存食ですが、朝食の準備が出来ています」

 

「うん。ありがとう。え? エイダ…その腕?」

 

「はい」

 

 ハーマイオニーは動きを止め、私の腕に視線を向ける。

 

「どうかしましたか?」

 

「どうかって…だって昨日腕が…」

 

「修復作業が終了しました」

 

「修復作業って…」

 

 ハーマイオニーは椅子に座る。

 

「ねぇ…ずっと気になっていたんだけど…一つ聞いてもいいかしら?」

 

「どうぞ」

 

 ティーカップを手に取り、唇を濡らした後、ハーマイオニーは数回深呼吸をする。

 

「こんな事聞くのも可笑しいと思うんだけど…貴女達って…人間?」

 

「いいえ、違います」

 

「あっ…け、結構あっさり言うのね…まぁ、そんな気もしていたけど、そうはっきり言われるとちょっと受け止めにくいわね」

 

「申し訳ございません」

 

「良いのよ。うん…ところで…人間じゃ無いなら…何者? 亜人とか?」

 

 ハーマイオニーは少し動揺しつつ、フォークで紅茶を攪拌し始める。

 

「私達は独立型戦闘支援ユニット、AIです」

 

「AI? トムみたいな感じ?」

 

「おおよそ、その通りです」

 

「ですが性能的には全く違います」

 

「じゃあ…やっぱり人間じゃないのね?」

 

「我々本来、オービタルフレームと呼ばれる兵器の独立型戦闘支援ユニットです。量子コンピューターの一種です」

 

「オービタルフレーム? 独立型戦闘支援ユニット?」

 

「はい。私はジェフティと呼ばれるオービタルフレームの独立型戦闘支援ユニット。デルフィはアヌビスと呼ばれるオービタルフレームの独立型戦闘支援ユニットです」

 

「アヌビスとジェフティ? エジプトのお話?」

 

「アヌビスとジェフティは我々の機体名です。この2機は兄弟機です」

 

「だから、姉妹なのね」

 

「現在は、SSAなどを利用し、人型を取っています。武装面についてはオービタルフレームの装備をそのまま応用しています」

 

「何か…よく分からないけど…まぁいいわ。別に貴女達に違いは無いんだから」

 

「本来オービタルフレームとはこの時代よりも数世紀先の技術です」

 

「数世紀先って…未来から来たって事?」

 

「詳しい事は我々も理解していませんが、そのような解釈で問題ありません」

 

「へ…へぇ…」

 

 ハーマイオニーは落ち着きを取り戻す様に、紅茶を一気に流し込む。

 

「未来に戻ったりできるの?」

 

「方法を模索していましたが、手掛かりを発見しました」

 

「手掛かり?」

 

「はい、神秘部で発見した『アーチ』と呼ばれる物体です」

 

「確か…ワームテールだったかしら?」

 

「ワームホールだろ」

 

「その通りです。アーチを利用し、時間軸を圧縮すれば、元の時代への帰還出来る可能性が出ます」

 

「そうなの?」

 

「ですが、現状では時間軸を操作する媒体がありません」

 

「時間軸…あっ」

 

 ハーマイオニーは鞄から何かを取りだす。

 

「これは? 使えるかしら?」

 

「逆転時計か。でもこれは過去に戻るだけだぞ」

 

「そうだったわね…」

 

「よろしいですか」

 

「えぇ」

 

 私はハーマイオニーから逆転時計を受け取る。

 

「分析開始」

 

 分析を開始する。

 

 どうやら、逆転時計とは、魔力を利用し、メタトロン同様に周辺の空間を圧縮すると同時に時間軸を圧縮し、過去へと戻る事が出来る様だ。

 

 圧縮方向を逆にすれば、未来へ行くことも可能だと思われる。

 

「分析完了」

 

「どうかいしら?」

 

「恐らく、改良した逆転時計とアーチを組み合わせる事で、帰還できる可能性があります」

 

「よかったわ」

 

 ハーマイオニーはほっと溜息を吐く

 

「ふぅ…なんとなくわかったわ…それで、今後はどうするつもり?」

 

「恐らくダンブルドアがグリンゴッツの口座の凍結に移ると思われるので、それより早くグリンゴッツで預金を全て回収する予定です」

 

「そうなのね。急いだ方が良いわね…でも…もう…そんな事しなくても良いんじゃないかしら?」

 

「発言の意図不明」

 

「貴女達なら、魔法省の死喰い人なんて簡単に突破できるでしょ?」

 

「可能です」

 

「なら、逆転時計を渡すわ。それとアーチを使って貴女達が居た時代へ戻った方が良いわ」

 

「ですが――」

 

「まぁ、僕達はここでひっそりと暮らすさ」

 

「しかし」

 

「魔法界の問題は魔法界で解決するわ。貴女達にこれ以上迷惑はかけられないわ」

 

 ハーマイオニーは少し寂しそうに呟く。

 

「我々が存在していた時代の情報では、魔法と言う物は存在しませんでした」

 

「そうなの?」

 

「はい。しかし、このまま魔法界の情勢が変化し人間界に侵攻した場合。我々の理解している情報と乖離が生じます」

 

「それはつまり?」

 

「タイムパラドックスが発生する可能性があります」

 

「その場合…どうなるの?」

 

「我々の存在が消える可能性があります」

 

「そんな!」

 

「その為、現状の魔法界を安定化させる必要があります」

 

「安定化?」

 

「まぁ、つまりは、死喰い人と不死鳥の騎士団。両方が人間界に侵攻しない様なバランスを取る必要があるって事だろ?」」

 

「その通りです」

 

「じゃあ…」

 

「もうしばらく、情勢を監視させていただきます」

 

「わかったわ!」

 

 メンタルコンデションレベルが向上したハーマイオニーは食事を開始した。

 

  数時間後、食事も終了し、移動準備が整う。

 

「我々は、グリンゴッツで金銭の回収を行います」

 

「周辺に防御装置を展開していますので、不用意な外出はお控えください」

 

「分かったわ」

 

「さて、僕はお守という事か」

 

「酷い言い様ね」

 

 私達はバーニアを起動し、グリンゴッツへ移動した。

 

 

  グリンゴッツに到着後、受付へと移動する。

 

「今回のご用件は?」

 

「金庫の中にある金銭を全て引き下ろします」

 

「え?」

 

「全てお願いします」

 

「しょ、少々お待ちください」

 

 小鬼は奥へと走って行った。

 

 十数分後、巨大な袋を抱えた小鬼が数名現れた。

 

「お待たせしました。こちらが全てです。総額で、200,000ガリオン以上ありますが…」

 

「感謝します」

 

 私達は、運ばれて来る袋を全て、ベクタートラップ内に収納する。

 

「一体…何が起こっているんだ…」

 

「回収完了」

 

「失礼します」

 

 私達は、資金を回収後、自宅へと帰還した。

 

「あら、お帰り。どうだった?」

 

「無事に資金の回収に成功しました」

 

「良かったわ」

 

「へぇ、いくらあるんだ?」

 

「おおよそ、200,000ガリオン程です」

 

「え? そんなに…」

 

 ハーマイオニーは手にしていたビスケットを落とす。

 

「凄い大金だな…ダンブルドアからかなり巻き上げたんだな」

 

「当然の報酬です」

 

「ハハハ…凄いわね…」

 

 ハーマイオニーは乾いた笑いを浮かべていた。

 

 

 

  ホグワーツ陥落から数日後、ワシは依然として不死鳥の騎士団本部で、失った腕を抑えていた。

 

 既に切り落とされたはずの、腕の痛みを今でも感じる。

 

 これが、幻肢痛(ファントムペイン)か…

 

「ぐぅ…」

 

 ワシは、ベッドの上で、上半身だけを起し、腕を抑える。

 

 その時、数回ノック音が響く。

 

「入れ…」

 

「失礼を」

 

 セブルスが布に包まれた物体を持って入室した。

 

「何じゃそれは?」

 

「エイダ・イーグリットの腕です」

 

「おぉ。解析が終わったのか?」

 

「それが…」

 

 セブルスは言葉を濁す。

 

「切開しようにもメスの刃が入らないのです。魔法もダメでした」

 

「なんじゃと?」

 

「それに、既に日が経っているにも拘らず、依然として腐敗が見られないのです」

 

「それはどういう…」

 

「分かりません。しかし、質感は生きている肌と何ら変わらないのです」

 

「不思議な話じゃ…」

 

「そして、調べた結果なのですが、彼女の腕から、強力な魔力を確認しました」

 

「強力な魔力?」

 

「はい。この魔力は、以前調べた賢者の石に酷似していました」

 

「賢者の石だと…」

 

 確か彼女達は以前、賢者の石をメタトロン鉱石と呼んでおったが…

 

「セブルス。メタトロンという言葉に聞き覚えはあるか?」

 

「メタトロン…聞き覚えがありますな」

 

「それはどこでじゃ!」

 

「確か…闇の帝王が何度か口にしているのを聞きました」

 

「つまり…ヴォルデモートは彼女達と同じメタトロンに関係しているという事じゃな…」

 

 推測だが、メタトロンを通じて、彼女達はヴォルデモートと繋がりがある可能性がある。

 

 そう考えれば、トム・リドルが生きていた事にも納得が行く。

 

「対策をせねば…」

 

 ワシは、ふとセブルスが手にしている彼女の腕に目が行く。

 

「その腕は…まだ腐敗していないのじゃな?」

 

「そうですが」

 

 ヴォルデモートや彼女達がメタトロンと言う、未知の力を使うならば、ワシもその力を使う必要があるだろう…

 

「その腕は…義手の様にワシに付ける事は可能かの?」

 

「え? 今何と?」

 

「その腕をワシに付ける事は可能かと聞いているのじゃよ」

 

「そ…それは…」

 

 セブルスは数歩後退る。

 

「可能か?」

 

「わ…わかりません。ですが…出来なくもないかと…」

 

「そうか、ならば頼む」

 

 ワシは、包帯を外し、患部を露出する。

 

「良いのですか…どうなるかわかりませんぞ」

 

「構わぬ。ヴォルデモートに…彼女達に対抗するには、これしかあるまい」

 

「……分かりました…少し痛みますぞ」

 

 セブルスは小瓶から薬を取り出す。

 

 ワシはそれを受け取り、飲み干す。

 

 次の瞬間、意識が遠のく。

 

「では…」

 

 杖を取り出すと、火傷した患部を切り裂き、腕の縫合を開始した。

 

「うぅ…」

 

 それと同時に、ワシは意識を手放した。

 

 

 

 

  意識が鮮明になる。

 

 窓から光が差し込む。

 

 どうやら、1日中眠っていた様だ。

 

「うっ!」

 

 体を起こした瞬間、強烈な眩暈と頭痛に襲われる。

 

「ぁあ!」

 

 右腕が急激に痛み始める。

 

「うぐぅ!」

 

 左手で右腕を抑える。

 

 左手にワシの腕より一回り小さな腕の感触を感じる。

 

 どうやら、腕は無事に取りつけられた様だ。

 

「あぁ!!」

 

 次の瞬間、右腕が急激に熱を持ち、その熱が体中を駆け巡る。

 

「はぁ! あぁ!」

 

 熱が脳に駆け巡り、それと同時に、意味不明な映像が脳内に映る。

 

 映像は、脳内に定着し、未知の情報が脳内に焼き付く。

 

「ぐぅお!!」

 

 衝撃と共に、意識がはっきりとする。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 ワシは、ふと右腕へ視線を落とす。

 

 そこには、彼女の腕ではなく、ワシの腕と同じ大きさの、銀色の腕が生えており、緑色の閃光が走っていた。

 

「こ…これは…」

 

 ふと腕を振ると、魔力があふれ出すような感覚に陥る。

 

「おぉ! こ…これは」

 

 まるで、全ての事柄を理解し、総てを手に入れたような感覚だ。

 

 そして、湧き上がる渇望。

 

 これは、これ程の力が示す先…それは…

 

「校長!」

 

「ご無事ですかな」

 

 ミネルバとセブルスが入室する。

 

「大丈夫じゃよ。とても清々しい気分じゃ。あぁ! 素晴らしい!」

 

「校長…その腕は…」

 

「エイダ・イーグリットの腕…無事に定着したようですな」

 

「え?」

 

 ミネルバはワシの腕を見つめる。

 

「ミネルバよ。闇払いとの連絡は取れたか」

 

「え? あぁ、はい。追い出された者の多くは、こちらに合流すると…」

 

「良い報告じゃな。いくつか頼みがある。グリンゴッツにあるイーグリット姉妹の金庫を凍結するように手続きをするのじゃ」

 

「なぜ、そのような事を…」

 

「彼女達が、死喰い人であろうが、無かろうが、いずれワシ達の敵になる可能性がある。まぁ、既に金庫は空かも知れぬがな…」

 

「分かりました…」

 

 ミネルバは、退室すると、準備に取り掛かる。

 

「セブルス。お主には、引き続き死喰い人でのスパイ活動を頼む」

 

「はい」

 

「それと、死喰い人にイーグリット姉妹とハーマイオニー・グレンジャーに対して懸賞金を掛ける様に打診するのじゃ」

 

「なぜ…その様な事を?」

 

「不死鳥の騎士団としても、彼女達を指名手配する。つまり彼女達は不死鳥の騎士団、死喰い人の両方に追われることになる。上手くいけば相打ちしてくれるじゃろうな」

 

「それが…狙いで?」

 

「左様じゃ。やる事は多いぞ。行くが良い」

 

「かしこまりました」

 

 セブルスは踵を返す。

 

「これで良い。ヴォルデモートを倒し、世界をあるべき姿にするのじゃよ…」

 

 ワシは、湧き上がる力を全身に受け、高揚感に酔いしれ、思考を手放す。

 

 

  ダンブルドアの腕が定着してから数週間後。

 

 マクゴナガルは一人頭を抱えていた。

 

 ダンブルドアは元闇払いなどを手中に収め、反攻勢力を整えている。

 

 しかし、それは生徒の犠牲が嫌でも発生する。

 

「どうすれば…」

 

 マクゴナガルは呟きながら、度数の高い酒で唇を濡らす。

 

「マクゴナガル先生」

 

 マクゴナガルの背後にシリウスとルーピンが現れる。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ…現在の不死鳥の騎士団はどうも…」

 

 シリウスは口籠りながら呟く。

 

「危険…と言いたい感じですね」

 

「えぇ…ダンブルドアが何を考えているのか分かりません…」

 

「確かに、闇の帝王から魔法界を護る事は大切だ…しかし…生徒を犠牲にするのはおかしい…」

 

「私も同じ意見です」

 

 シリウスとルーピンは同時に頷く。

 

「現状を打破するには…どうすれば…」

 

「一つ…私に考えがあります…」

 

 マクゴナガルは呟く。

 

「それは一体?」

 

 一度溜息を吐いたマクゴナガルはグラスに残った酒を一気に飲み干す。

 

「彼女達です」

 

「彼女達?」

 

「イーグリット姉妹とハーマイオニー・グレンジャーですよ」

 

「し、しかし…彼女達は死喰い人陣営の人間なんじゃ…」

 

「私は違うと思います」

 

「しかし…」

 

 シリウスは口籠る。

 

「私は…彼女達と接触を試みてみようかと思います」

 

「危険では?」

 

「大丈夫だと思います。それに校長に彼女達と接触するように指示を受けています」

 

「そうですか…」

 

「ならば私も一緒に」

 

「それならば、私もだ」

 

「良いのですか?」

 

「危険は承知の上」

 

 シリウスとルーピンは数回頷く。

 

「わかりました…いろいろと準備が必要となりますね…」

 

「準備?」

 

「はい。後で、グリンゴッツへ行ってきます」

 

「わかりました」

 

 マクゴナガルはそう言うと、自室を後にグリンゴッツへと向かった。

 




ダンブルドアの強化イベント終了です。

次章が最終章となるでしょう。

ある程度は書き上げたので、再来月までには投降を再開したいと思います。


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終末の魔法使い
戦力差


スマホが壊れたり、頭痛に襲われたり、出張が入ったり、会社の人が入院したりと色々ありましたが、無事書き終えたので、初投稿です。




   死喰い人がホグワーツを占拠してから数週間後。

 

 魔法省は完全に死喰い人に占拠される。

 

 それと同時に、ダンブルドアは職を失った闇払いや、志願者を集め、不死鳥の騎士団を大規模な物にした。

 

 大規模になった不死鳥の騎士団は、死喰い人に宣戦布告し、両陣営は戦争状態に突入した。

 

 しかし、現在魔法界では、戦争らしい戦争は起きていない。

 

 両陣営、睨み合いのまま、死喰い人はマグルの誘拐。

 

 不死鳥の騎士団は、ダンブルドアの名を使い各国の魔法省と連絡を取り、軍事力を拡大している様だ。

 

「なんか…魔法界は大変なことになっているわね」

 

 手にした日刊予言者新聞を読みながらハーマイオニーは溜息を吐く。

 

「この欄を見てごらんよ。不死鳥の騎士団は僕達を指名手配している様だね」

 

「こっちの欄には、死喰い人が私達に懸賞金を掛けたって出てるわ」

 

「コイツは厄介だな」

 

「それにしても、なんで日刊予言者新聞は両方の事を書いているのかしら?」

 

「上手い事立ち回っているんだろう。まるで蝙蝠みたいなもんだな」

 

「蝙蝠?」

 

「そういう童話があるのさ」

 

「へぇ…」

 

「我々は現在、両陣営に手配されているという事ですね」

 

「そういう事。大変だわ」

 

 ハーマイオニーは日刊予言者新聞を投げ捨て、ソファーに横になる。

 

「まぁ、ここにいる限りは安全だろう。下手すれば、向こうが危険に飛び込むレベルさ」

 

「周辺の防衛装置を強化してきます」

 

「殺意高いねぇ。ちなみに戦力の差はどんな感じだ?」

 

「ホグワーツ陣営は各国の魔法省の援護を受けている為推定される兵数は1個師団相当です」

 

「凄いわね。死喰い人は?」

 

「ヴォルデモート率いる死喰い人の推定兵数は1個中隊から大隊程度と推定」

 

「かなり戦力差があるわね」

 

「しかし、保有武装にOFが含まれている為、戦力的有利にあると思われます」

 

「うわぁ…ちなみに…ここは?」

 

「現在我々の総兵数は3です」

 

「3…貴女達と私?」

 

「はい」

 

「まさに三つ巴だな」

 

「なぜかしら…圧倒的な数の差なのに不安じゃ無いわ…」

 

「まぁな、ところで僕は入ってないのか?」

 

「貴方に何が出来るの?」

 

「計算くらいかな…まぁ、こんな体じゃねぇ…せめて人の体があればいいんだが」

 

「人の体ねぇ…」

 

「クローン技術やサイボーグ技術を応用すれば、人格AIを人工的な体に移す事は可能です」

 

「いいね。さっそく頼むよ」

 

「現代の科学レベルでは不可能です」

 

「上げて落とすなよ」

 

「まぁ、いずれ用意するわよ。いずれね」

 

「はぁ、期待せずに待って居よう」

 

 トムは気楽に告げる。

 

  その時、警戒範囲内に、空間湾曲を検知する。

 

「空間湾曲を検知。侵入者です」

 

「え? だれ?」

 

「モニターに出します」

 

 周辺に設置したカメラの映像をホログラム化する。

 

「あれは…マクゴナガル先生! それに、シリウスとルーピン先生も!」

 

「警戒範囲内に接近、迎撃しますか?」

 

「ちょ、ちょっと待って! どんな会話しているかわかる?」

 

「音声を再生します」

 

 映像内で、3人は杖を手に、周囲を警戒している。

 

「本当に、こんな所に居るんですか?」

 

「えぇ、私が彼女達に入学案内を届けた時、ここへ来ました」

 

「でも、こんな人気の無いところに…」

 

 3人はしばらく歩き、警戒ラインを越える。

 

「警戒ラインを越えました。威嚇行動に移ります」

 

 周辺の、セントリーガンやホーミングミサイルなどといった自衛兵器を展開させる。

 

「なんだこれ!」

 

「くそ! 囲まれた!」

 

 3人は互いに背中合わせになり警戒態勢を取る。

 

「警告。これより先は警戒ラインです。侵入するようでしたら、迎撃を行います」

 

「この声は! 私達は貴女達と話をしたいだけなんです!」

 

 マクゴナガルが両手を頭の上に挙げる。

 

「マクゴナガル先生! お願い! 先生達と話をさせて!」

 

「了解」

 

 ハーマイオニーのナノマシンを周囲のスピーカーに繋ぐ。

 

「先生! 聞こえますか?」

 

「ミス・グレンジャー? 貴女もそこに居るのですか?」

 

「はい」

 

「無事ですか?」

 

「私は無事です! エイダとデルフィも無事です!」

 

「それは良かった…」

 

 マクゴナガルは安堵の表情を浮かべる。

 

「先程も言った通り、私達は話をしたいのです。聞いていただけませんか?」

 

「私からもお願い」

 

「了解。防衛装置を解除します。迎えに行きます」

 

「え?」

 

 私は扉を開くと、ゼロシフトで目的地へと移動する。

 

「お待たせしました」

 

「うぉ!」 

 

「一体…いつの間に…」

 

「腕は…大丈夫なのですか?」

 

「問題ありません。それでは案内します。武装を解除してください」

 

「えぇ」

 

 マクゴナガルは私に杖を渡す。

 

 それに倣う様に、シリウスとルーピンも杖をこちらに寄越す。

 

「武装解除確認。こちらです」

 

 杖を回収後、私は3人を家へと招く。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 3人は入室後、周囲を見回す。

 

「これは…なんだ?」

 

 シリウスが発電機や周辺機器に興味を持ち、手を触れようとする。

 

「あまり人の家の物に触るのは感心しないな。下手に触れるとダンブルドアの様に手が無くなるぞ」

 

「え?」

 

「誰だ!」

 

 ホログラム化したトムが、階段を下りて来る。

 

「貴方は、トム・リドル。ここに居たのですね」

 

「ま、マクゴナガル先生! 今何と?」

 

「トム・リドルと仰いましたか?」

 

「えぇ」

 

 マクゴナガルが頷くと、シリウスとルーピンは警戒態勢を取る。

 

「まさか…ヴォルデモートが…」

 

「やはり、ダンブルドアの言っていた事は本当だったのか?」

 

「あぁ、そんなに気張らないでくれ、僕には敵意は無い。僕にはね」

 

「トム。あまりからかわないの」

 

「はいはい」

 

 トムはホログラム化を解除する。

 

「消えたぞ!」

 

「トムに敵意は無いんです。安心してください」

 

「とは言われても…」

 

「彼に敵意は無い筈ですよ。私はその様な気がします」

 

「ま、まぁ…マクゴナガル先生がそう言うなら…」

 

 シリウスとルーピンは警戒を解き、近くの椅子に腰かける。

 

「ご用件は?」

 

「確か、私達に話があるんでしたよね」

 

「えぇ」

 

 マクゴナガルも着席する。

 

「実は先日、校長に貴女達と接触するように指示を受けたのですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、なんでも、貴女方がヴォルデモートの分霊箱。『スリザリンのロケット』を所持していると聞きました」

 

「こちらですか?」

 

 私は前回、洞窟から接収した『スリザリンのロケット』を取り出す。

 

「これです。これを持ってくるようにと」

 

「そうですか。ではお渡しします」

 

 マクゴナガルは『スリザリンのロケット』を受け取ると、ロケットを開く。

 

「手紙が…入ってますね…これは…」

 

 マクゴナガルは折り畳まれた手紙を取り出すと、テーブルの上に広げる。

 

『闇の帝王へ。あなたがこれを読むころには、私はとうに死んでいるでしょう。しかし、私があなたの秘密を発見したことを知ってほしいのです。本当の分霊箱は私が盗みました。できるだけ早く破壊するつもりです。死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手にまみえたそのときに、もう一度死ぬべき存在となることです。R.A.B』

 

「R.A.B?」

 

「誰かしら?」

 

 マクゴナガルとハーマイオニーは首を傾げる。

 

「R.A.B…レギュラス・アークタルス・ブラック…」

 

「シリウス! それって君の…」

 

「あぁ、私の弟だ…」

 

「シリウスの…弟?」

 

「その通りだよ。ハーマイオニー。アイツは死喰い人に入って…そして死んだ…」

 

「死喰い人が、なぜヴォルデモートに立て付く様な事を?」

 

「少し…待ってくれ…『クリーチャー』!」

 

 

 

 シリウスが大声を上げると、空間湾曲を検知する。その後、1体の屋敷しもべが姿を現した。

 

 

 

「何の御用ですかな?」

 

 

 

「弟から…何か預かっていないか…ロケットの様な物だ」

 

 

 

「はい、預かっております」

 

 

 

「なに! すぐに持って来い!」

 

 

 

「かしこまりました」

 

 

 

 屋敷しもべは軽く指を鳴らすと、その場から消え去り、数分後にまた姿を現した。

 

 

 

「こちらがそうでございます」

 

 

 

 その手には、スリザリンのロケットがしっかりと握られていた。

 

 

 

「これを…弟が…」

 

 

 

「弟君はとても勇敢な方でいらっしゃりました。このロケットを私めに託されると、すぐに破壊しろとお命じになられたのですが、どのような手を使っても破壊できませんでした」

 

 

 

「そうか…ご苦労だった…下がっていいぞ」

 

 

 

 シリウスがそう一言呟くと、屋敷しもべは何処かへと消えていった。

 

「これが…本物なのか?」

 

「本物の『スリザリンのロケット』ならば、蛇語で開ける事が出来るはず…ただ…この場に蛇語を話せる者は」

 

「トム。頼むわ」

 

「はいはい」

 

 トムは再びホログラム化し、テーブルに接近する。

 

「まったく…人使いが荒いんだから…さて…と…えーっと…確か…」

 

 その後、トムは蛇語で話しかけると、ロケットが開く。

 

「本物だな」

 

「そうね」

 

「後は、これを壊すだけですね…」

 

 マクゴナガルはロケットを回収しようとする。

 

「あまり触れない方が良いぞ。分霊箱だ。呪いに掛かるかも知れないぞ」

 

「うっ…」

 

 マクゴナガルは手を引く。

 

「あまり先生をからかわないの」

 

「忠告しただけさ」

 

「もう…これは壊せば良いんですか?」

 

「え? えぇ」

 

「エイダ。頼めるかしら?」

 

「了解です」

 

 私は、『スリザリンのロケット』を手に取るとエネルギーを過供給する。

 

 それにより、『スリザリンのロケット』がエネルギーに耐えきれず、爆発を起こす。

 

 爆発はベクタートラップ内に抑える。

 

「処理終了です」

 

「一体…どうやって…」

 

「なんだか…複雑な気持ちだな」

 

「何が?」

 

「必死になって作った分霊箱がこうも簡単に壊されるのがさ」

 

「まぁ、仕方ないじゃない」

 

「はぁ…まぁ、そうだな」

 

「あっ。そうだ。後これもお願いできるかしら?」

 

 ハーマイオニーは鞄から髪飾りを取り出す。

 

「何ですかこれ?」

 

 マクゴナガルは興味深そうに髪飾りに目をやる。

 

「ロウェナ・レイブンクローの髪飾りです。これも分霊箱らしいんですよ」

 

「え?」

 

「あぁ、僕が言うんだから間違いない」

 

「え?」

 

「了解。処理します」

 

 デルフィが髪飾りを手にし、先程と同様に処理する。

 

「え?」

 

 マクゴナガルを始めに3人はただ茫然とその光景を目の当たりにしていた。

 

「これで、2つ処理できました」

 

「そう…ですね」

 

「分かっている限りだと、残りは確か…」

 

「ヘルガ・ハッフルパフのカップだな」

 

「それで、全部ですか?」

 

「いや、僕の事だ特定の数字にこだわるはず。推測だが後1つあるだろう。それが何かまでは分からないがね」

 

「そうですか…ふぅ…これで、校長からの指令は終わりましたね」

 

「ダンブルドアは今どうしてる?」

 

「不死鳥の騎士団本部で、元闇払いや志願兵を管理しています。そう言えば、ミス・エイダの右腕を移植したそうですよ」

 

「エイダの腕をですか?」

 

「えぇ、どの様にしたのかは分かりませんが、スネイプ先生が施術を行ったようです」

 

「まったく…あの老害は一体何を考えているんだか…メタトロンの集合体のような物を…どうなっても知らんぞ」

 

 トムは呆れた様に呟く。

 

「はぁ…」

 

  マクゴナガルは一息入れると、溜息を吐く。

 

 

「それと、これは、私達個人のお願いなのですが…」

 

「お願い? なんですか?」

 

 ハーマイオニーは紅茶を入れてきたようで3人の前にティーカップを置く。

 

「実は、現在ハリーは親戚の家で暮らしています」

 

「まだあの家に居るのね」

 

「事情があるようで。そして、近いうちハリーは17歳の誕生日を迎えます」

 

「そこでダンブルドアはハリーを家から連れ出し、不死鳥の騎士団本部に移送しようと考えているんだ」

 

「でも、それには死喰い人の抵抗もあるだろう」

 

 3人は暗い顔をする。

 

「そこで、校長はある作戦を考え付いたのです」

 

「作戦?」

 

「その作戦とは、ポリジュース薬を使い、10人前後の生徒をハリーの姿にし、囮として利用しようとしているのです」

 

「そんな…それじゃあ、死喰い人は…」

 

「恐らく、手当たり次第に攻撃するでしょう」

 

「そうなれば、生徒にも多くの被害が出ます」

 

「なんでそんな作戦を!」

 

「ダンブルドアは何を考えているんだ?」

 

「老害も極まって来たわね…」

 

「私達だって反対したんだ。でもダンブルドアは、ハリーが生き残る事が最優先だと…」

 

「私だってハリーが生き残るのは良いと思う。だが、その為に大勢を犠牲にするのは…」

 

 シリウスとルーピンは深い溜息を吐く。

 

「そこで、貴女達に協力をお願いしたいのです」

 

「内容は?」

 

「ダンブルドアに気付かれずに、死喰い人から生徒を守って欲しいのです」

 

「そんな事が出来るのは君達くらいだ」

 

「私からも頼む」

 

 3人はその場で頭を下げる。

 

「ねぇ…何とかならない?」

 

「作戦区域の地図などはありますか?」

 

「受けてくれるのですね!」

 

「出来る限りの事はします」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、いくつか条件があります」

 

「条件?」

 

「はい。ハーマイオニーとその家族に危害を加えないという事を約束していただきます」

 

「エイダ…デルフィ…」

 

「…わかりました。その点に関しては私が命に代えても」

 

「交渉成立です」

 

 マクゴナガルは一礼後、古びた地図を取り出す。

 

「現在予定しているルートは、ハリーの家から不死鳥の騎士団本部まで箒で飛行しながら移動する予定です」

 

「恐らく死喰い人もそのルートは予想している筈です」

 

「ルート変更の予定は?」

 

「何度か校長に打診しましたが…最短距離という事で拒否されました」

 

「やはり…あの老害は無能だな…」

 

 トムは呆れた様に首を左右に振る。

 

「作戦決行日の情報は敵部隊に伝わっているのですか?」

 

「スパイ活動を行っているスネイプ先生が偽の日時を伝えたようですが…常時死喰い人が警戒しているそうなのであまり意味はないかと」

 

「このような状況で…一体どうする?」

 

 シリウスは地図を見ながら呟く。

 

「了解。作戦立案完了。我々はステルスモードで空中に待機。敵部隊と会敵後、私は近距離攻撃を行います。エイダはスナイパーによる長距離支援をお願いします」

 

「了解」

 

「しかし、空中で待機して居たら他の生徒に気付かれるはずです」

 

「あー…その点は大丈夫だと思います」

 

「え?」

 

「大丈夫よね」

 

「はい」

 

 私達はその場でステルスモードへ移行する。

 

「き、消えた!」

 

「透明マント? いや、違う!」

 

 3人は周囲を見渡す。

 

「ね。大丈夫ですよ」

 

「なんで君が誇らし気なんだ?」

 

「そ、そんな事無いわよ!」

 

 ハーマイオニーは顔を赤らめる。

 

「ステルスモード解除」

 

 ステルスモードを解除する。

 

「これなら…大丈夫です…ね」

 

「君達は…私達の予想を…毎回超えて来るな…」

 

「君達が本気を出したらどうなるんだ…」

 

「深くは考えない方が良いですよ…私はもう慣れました」

 

 ハーマイオニーは紅茶を一口飲み、スコーンを齧る。

 

「さて…」

 

 マクゴナガルはその場で立ち上がる。

 

「要件は以上です。お時間を取らせました」

 

「お待ちください」

 

 私は小型の無線機をマクゴナガルに手渡す。

 

「これは?」

 

「無線機です。これにより私達との連絡が可能です」

 

「わざわざフクロウを飛ばさなくてもよさそうですね」

 

 簡単に使い方を説明した後、無線機を受け取ったマクゴナガルは、ローブの下へとしまう。

 

「それと…報酬に関してなのですが…」

 

 マクゴナガルが口籠る。

 

「報酬?」

 

「はい、とは言っても大した額は用意できませんが…」

 

 ハーマイオニーがこちらに視線を向ける。

 

「報酬は必要ありません」

 

「え? 良いのですか?」

 

「構いません」

 

 マクゴナガルが安堵の溜息を吐く。

 

「では、これで。作戦日時などが分かりましたまた連絡します」

 

「了解」

 

「感謝するよ」

 

「それでは、また」

 

 3人は一礼後、退出した。

 

「ふぅ…厄介なことになりそうね」

 

「全部ダンブルドアが原因だろね」

 

「貴方もね」

 

「現代の僕については関知できないね」

 

「過去の貴方も原因じゃ無いかしら?」

 

「ノーコメントで」

 

 トムはホログラム化を解除し、姿を消す。

 

「もう…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐くと、冷めた紅茶で唇を濡らした。




最終章という事で、すこし裏話を。

当初の予定では、1年生の時ハーマイオニーへの誕生日プレゼントはタブレットではなく、箱に詰まったダイヤモンドで、ロンがそれを見て側頭するという内容でしたが、気まぐれでタブレットに変更しました。

つまり、トムがタブレットに居座り、ハーマイオニーのパートナーポジションになっているのは、気まぐれです。


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護送作戦

そろそろ、魔法界にも文明開化が訪れる?


 

   数日後、マクゴナガルから連絡が入り、ハリー護送作戦の結構日時と場所を指定される。

 

 当日、私達はステルスモードで作戦空域で待機する。

 

『聞こえますか?』

 

 マクゴナガルから通信が入る。

 

『通信状況は良好です』

 

『良かった。これよりハリーを迎えに行きます』

 

『了解。我々は既に上空で待機しています』

 

『まだ詳しい事は分かりませんが、死喰い人も動き出すはずなので、注意してください』

 

『了解』

 

 

『最優先はハリーですが、出来る事なら全員を守ってください』

 

『作戦内容把握。出来る限りの事はします』

 

 通信を切り、上空で待機を続ける。

 

 数分後、ハリーの家から複数人のハリーが隊列を組み飛び立つ。

 

 魔力の反応から、ハグリッドのバイクに同乗しているのがハリーだと判別できる。

 

 私は隊列との距離を保ちつつステルスモードで尾行する。

 

 デルフィはステルスモードで隊列に接近し、近接援護を行う。

 

 まだ、敵部隊の反応は無く、隊列のメンバーもこちらには気が付いていない様だ。

 

 飛行を開始して数分後、複数の空間湾曲と飛行する編隊を検知する。

 

「死喰い人だ!」

 

「散開!」

 

 不死鳥の騎士団員は散開し、撹乱行動に入る。

 

「ちょこまかと!」

 

 散開する不死鳥の騎士団を追う様に死喰い人も追跡を開始する。

 

『攻撃を開始します』

 

 空中で制止した私は、ステルスモードでスナイパーライフルを構える。

 

『狙撃します』

 

 照準を死喰い人の頭部にロックし引き金を引く。

 

 放たれた弾丸は超高速で飛翔し、死喰い人の脳天を撃ち抜く。

 

「──―!!」

 

「なんだ!」

 

 脳天に弾丸が直撃した死喰い人はその全身を血煙と化した。

 

 スナイパーライフルはLEV用の実弾兵器であり、オービタルフレームに対しては殆どダメージを与える事は出来ないが、人体ならば問題ない。

 

『攻撃を継続します』

 

「くそ!」

 

 死喰い人は箒で複雑な軌道を描く。

 

 しかし、箒の移動方法は体重移動が主であり、体の向きや、空気抵抗、距離などを計算すれば、簡単に頭部を狙い撃つ事が出来る。

 

 弾道を計算し、1人、2人と死喰い人を狙撃していく。

 

「なんだ! 死喰い人が消えていくぞ!」

 

「くそぉ!」

 

 1体の死喰い人が急加速し、1人のハリーに接近する。

 

 反応からして、ロンだろう。

 

「死ね!」

 

 ロンに向け死喰い人が緑色の閃光を放つ。

 

『近接防御』

 

 デルフィがロンと閃光の間に入り込み、ウアスロッドで魔法を無力化する。

 

「なに!」

 

『近接攻撃』

 

 魔法を無力化すると、ウアスロッドを横に薙ぎ、死喰い人の上半身と下半身を分離させる。

 

「何が起きているんだ!」

 

「ダンブルドアだ! きっとダンブルドアが僕達を守ってくれているんだ!」

 

 ロンが大声で叫び、他の不死鳥の騎士団を鼓舞する。

 

 しかし、死喰い人は複数のハリーに急接近し、同時攻撃を仕掛ける。

 

『ウィスプ起動』

 

 デルフィは複数のウィスプを起動させ、展開し、同時攻撃を仕掛ける死喰い人の胴体を貫く。

 

「くそ! 撤退だ!」

 

 少数となった死喰い人はその場から撤退を開始した。

 

『狙撃』

 

 私は撤退中の死喰い人を狙撃し、殲滅する。

 

『援護感謝します』

 

 マクゴナガルから通信が入る。

 

『問題ありません』

 

『目標地点まで残り半分を切りました。お気を付けください』

 

 死喰い人の迎撃が完了し、不死鳥の騎士団員に被害はない。

 

 その時、大規模なエネルギーの反応を検知する。

 

『オービタルフレーム接近。注意してください』

 

『オービタルフレーム?』

 

 人よりも一回り大きなオービタルフレーム、飛行型のナリタが3機編制で不死鳥の騎士団に接近する。

 

 ナリタ

 

 可変形高機動フレーム。

 

 可変機構により、高速戦闘が可能だ。

 

 

「なんだあれ!」

 

「ゴーレム…」

 

 ナリタが飛行形態で不死鳥の騎士団に接近し、体当たりを仕掛ける。

 

「うわぁ!!」

 

『攻撃を開始します』

 

 接近するナリタをデルフィがウアスロッドで弾き飛ばす。

 

「え?」

 

「何が…」

 

「今だ! 急げ!」

 

 シリウスが声を上げ、不死鳥の騎士団員は一斉に移動を開始する。

 

 1機のナリタが飛行形態を維持しつつ、不死鳥の騎士団に追撃を仕掛ける。

 

『狙撃します』

 

 私は、ナリタに照準を合わせると、スナイパーで撃ち抜く。

 

 放たれた弾丸は、ナリタの装甲に直撃すると、はじけ飛ぶ。

 

 やはり、オービタルフレームに対しては大した威力は無い。

 

 しかし、ナリタはこちらを脅威レベルが高いと判断したようで、不死鳥の騎士団の追撃を中止し、こちらに接近する。

 

 その間に、不死鳥の騎士団は安全圏への撤退を完了させた。

 

『味方護送対象。安全圏へ移動』

 

『了解』

 

 デルフィの横へと移動する。

 

 すると、3機のナリタが戦闘形態を整え、こちらに接近する。

 

「敵機接近」

 

「予想撃破時間30秒」

 

「了解。10秒で片付けます」

 

「了解」

 

 私は腕をブレードに変更し、ナリタ1体に切りかかる。

 

 しかし、ナリタは横へ回避すると同時に、ブレードによる高速切り掛かり攻撃を仕掛ける。

 

「防御開始」

 

 背後から接近してきたナリタを掴み、前面の敵の攻撃を防ぐ。

 

 ナリタの13連続切りにより、シールドとして使っていたナリタが大破する。

 

「バースト攻撃」

 

 バーストモードへ移行し、ナリタを切り裂く。

 

「戦闘終了」

 

 最後の1体はデルフィのウアスロッドに串刺しにされており、機能停止していた。

 

「今回の作戦結果を報告します。味方護衛対象。被害なし」

 

「敵オービタルフレーム撃破時間10秒」

 

「いい結果です」

 

 戦闘終了後、マクゴナガルから通信が入る。

 

『手助け感謝します。おかげで生徒の被害はありません』

 

『お役に立てて光栄です』

 

『また後日に連絡します』

 

『了解』

 

 作戦終了後、私達は自宅へと帰還した。

 

 

  ハリーの護送が終了後、隠れ家に全員が到着する。

 

「ふぅ…危なかったな…」

 

「ゴーレムが出て来るなんて思わなかったよ」

 

 ロンは箒を降りると、溜息を入れる。

 

「でも、不思議だったね…」

 

「何がさ?」

 

 ハリーの疑問に対して、ロンが首を傾げる。

 

「だってさ。途中で死喰い人が消えたり、倒されたり…」

 

「きっと、ダンブルドアさ。そうじゃなきゃ説明できないよ」

 

「でも、ゴーレムの攻撃だって防がれたよ」

 

「それも、ダンブルドアだろ? 今世紀最高の魔法使いなんだからそれ位出来ると思うよ」

 

「そうかなぁ?」

 

「じゃあ、何だって言うんだ?」

 

「神秘部の戦いにゴーレムが出てきたんだよ」

 

「そうだったのか」

 

「その時、ダンブルドアは手も足も出ない感じだった」

 

「じゃあ、どう言う事だ?」

 

「僕は…」

 

 ハリーは一息入れる。

 

「エイダやデルフィが助けてくれたんじゃないかな──」

 

「馬鹿な事言うなよ」

 

 ハリーの発言をロンが遮る。

 

「あいつ等はヴォルデモートと一緒に居たし、僕のハーマイオニーを誘拐したんだぞ!」

 

「誘拐って…それにハーマイオニーは君の物じゃ無いだろ?」

 

「ヴォルデモートに心を操られているんだ。だから、僕が助けなきゃいけないんだ。ダンブルドアもそう言ってたよ」

 

「うーん…そうなのかな…」

 

「そうさ! それにダンブルドアは僕に指揮官の才能があるって言ってくれたんだ!」

 

「指揮官? 君が?」

 

「そうさ! 近いうち、部下を持てるかも!」

 

 ロンは嬉しそうに、対するハリーは顔を引きつらせる。

 

「そこの2人。早く中に入りなさい」

 

 マクゴナガルが2人に対して入室を促す。

 

「早く行こうぜ。マクゴナガルがうるさいぞ」

 

「まぁ…そうだね」

 

 2人は小走りで隠れ家へと入室した。

 

「皆、無事なようじゃな」

 

 ダンブルドアは全員の帰還を確認する。

 

「途中で死喰い人の襲撃を受けましたが、全員無事です」

 

「そうか。皆無事でよかった」

 

 シリウスの報告を聞き、ダンブルドアは数回頷く。

 

「死喰い人はゴーレムまで投入してきました。かなり危険でした」

 

「左様か…よく無事じゃったな」

 

「え? 先生が護ってくれたんでしょ?」

 

 ロンが首を傾げる。

 

「ん?」

 

「だって、先生くらいじゃないと、死喰い人の魔法を防いだり、ゴーレムを倒したりなんてできないでしょ」

 

「……はて? 何の事かのぉ。まぁ、ワシは皆が無事ならそれでよいと思うぞ」

 

「ほらな。やっぱりそうだ」

 

 ロンは嬉しそうな表情をハリーに向ける。

 

「さて…今後の予定じゃが、まずは分かる限りの、分霊箱の破壊に努めたいと思う。それと、こちらの戦力の強化じゃな」

 

「でも先生。その分霊箱はどこにあるんですか?」

 

 

「おおよその見当は付いておる」

 

「え?」

 

「ミネルバの報告では既にいくつか破壊してある」

 

「そうなんですか…」

 

「裏切り者の姉妹が破壊したそうじゃ」

 

「え?」

 

「フン、じゃが分霊箱はまだほかにもある。大方、分霊箱を破壊する事で協力関係を持ちかけようという魂胆が見え見えじゃわい」

 

 ダンブルドアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「次の目標はヘルガ・ハッフルパフの金のカップだ」

 

「それはどこに?」

 

「まだ分からん。じゃが、セブルスが探りを入れておる」

 

「なるほど…」

 

 ロンは数回頷く。

 

「アーサー。そちらの方はどうなっている?」

 

「はい、解体された闇払いは全員不死鳥の騎士団に入団し、各地で活動しています」

 

「マグルとの交渉は?」

 

「はい、マグルの方の大臣と交渉し、低価格でマグルの武器を譲ってもらっています」

 

 アーサーはそう言うと布を捲る。

 

 そこには、大砲が置かれていた。

 

 照準装置なども無く、博物館か倉庫に眠っている様な骨董品レベルの武器だが、武器知識の無いアーサーは満足気な表情を浮かべている。

 

「他にも、ご要望通り銃などを取り寄せました」

 

 テーブルの上には、数世代前の旧式の銃が並ぶ。

 

「パパ! 凄いよ!」

 

「でもこれ…エイダ達が用意したのより古そうなんだけど…」

 

「そう? よく分からないや」

 

 ロンはそう言うと、銃を手に取り眺める。

 

「弾は入ってるの?」

 

「入れ方が分からなくてね、入れてないよ」

 

「よかった…」

 

 ハリーは安堵のため息を吐く。

 

「説明書は貰ったから、後で入れてみるつもりさ」

 

「人に向けないように気を付けた方が良いね…」

 

 ハリーは小声で呟いた。

 

 




無事、ハリーの護送は成功しました。

次回作の作成に取り掛かったのですが、なかなか難しいですね。

今更ですが原作ファンに怒られそう…


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強奪

ロンは精神崩壊しています


 

   数週間の時が流れる。

 

 その間も、ヴォルデモート率いる死喰い人陣営と、ダンブルドア率いる不死鳥の騎士団は睨み合いの状況が続いている。

 

 各地で、小規模な衝突はあるものの、大規模な戦闘は行われていない。

 

 理由は不明だが死喰い人はオービタルフレームの出撃を控えている様だ。

 

 恐らく、維持コストが予想以上に掛かっている為、極力コストの掛からない人力を利用している物だと推測される。

 

「平和…ねぇ…」

 

 私達はハーマイオニーと共に、マグル界であるイギリス郊外へと買い物へと出ている。

 

 魔法界とは違い、マグル界では通常と変わらない世界が流れている。

 

 ハーマイオニーと共に近くの喫茶店で休憩をしている。

 

『まぁ、両陣営とも、どう手を出せば良いか分かっていないんだろう』

 

『その分、何かを切っ掛けに急に激化しそうで怖いわ』

 

『可能性としては十分考えられます』

 

『嫌になるわね…』

 

 ハーマイオニーは紅茶を選びながら溜息を吐く。

 

 その時、町の一部で爆破音が響く。

 

「なに!」

 

「2ブロック程離れた場所で、爆発があったようです」

 

「事故かしら?」

 

「魔力の反応確認」

 

「それって…行きましょう!」

 

 小銭をテーブルの上置くと、ハーマイオニーは店の外へと出る。

 

 私達も後を追う。

 

 爆発があった地点は、拳銃などを取り扱う店舗だった。

 

 店外で店主と思われる男性が、倒れ込んでおり、複数の人間による救助活動が行われていた。

 

「なんで…この店が?」

 

「恐らく、銃や弾薬の強奪が目的かと思われます」

 

「まさか…」

 

 その時、レーダーに逃亡する複数人の反応を検知する。

 

『逃亡者と思われる反応を検知しました』

 

『同時に魔力反応を検知。魔法使いと思われます』

 

『まさか…死喰い人?』

 

『不死鳥の騎士団かも知れないね』

 

『追いかけましょう! これ以上被害が出たら危ないわ!』

 

『了解』

 

 私達は、人混みを抜け、逃亡犯の追跡を介する。

 

  しばらく、追跡を行うと、逃亡犯は廃屋へと逃げ込む。

 

「ここです」

 

「こんな所に…」

 

「偵察を行います」

 

 ステルス仕様のドローンを廃屋の窓から侵入させ内部の状況をホログラム化し投影する。

 

「居たわ!」

 

「おっと…こいつらは」

 

「まさか…」

 

 そこには、ロンを始めとした複数名のグリフィンドール生が銃と弾薬を手に歓喜の表情を浮かべていた。

 

「何か話しているわね…」

 

「音声データを回収します」

 

『やっぱりマグルはちょろいな』

 

『あぁ、でも変だよな。ダンブルドアは何で銃と弾薬を確保しろなんて言ったんだろう?』

 

『なんか、義手になってから性格が変わったというか…まぁ、ダンブルドアの事さ何か考えがあるんだろう』

 

『さて、一息入れたらもう一件行くぞ!』

 

『ロン。今日はこれくらいの方が良いんじゃ…』

 

『何言っているんだ。指揮官は僕だぞ。僕の言う通りにするんだよ』

 

『分隊長だろ…はぁ…本部を出てから今日で3日目だぞ。そろそろ疲れたよ』

 

『まだまだ、3日目さ。もっと武器を集めなきゃ!』

 

 ロンの発言により、その場の全員が溜息を吐く。

 

「なんですって!」

 

「こりゃ…本格的にヤバいな」

 

「マクゴナガル先生に連絡するわ!」

 

 私達はマクゴナガルへと通信を繋ぐ。

 

『先生! 大変です!』

 

『どうしたのですか?』

 

『実は…』

 

 ハーマイオニーが現状を説明する。

 

 

『なんですって! それじゃあ、ロン・ウィーズリーの任務と言うのは…』

 

『多分、武器の回収だと思います…』

 

『確かに校長は…先日ロン・ウィーズリーに任務を言い渡していました…それに…指揮官にも任命していました…』

 

『そんな…不死鳥の騎士団はどうするつもりですか?』

 

『分かりません…ですが、もし可能ならば、彼等を止めてください!』

 

『出来るかしら?』

 

『お望みとあらば』

 

『どの程度にしますか?』

 

『命までは…奪わないでください。引き返させてください』

 

『善処します』

 

『彼等を…頼みます』

 

 マクゴナガルからの依頼を受託する。

 

「どうするの?」

 

「これより、廃屋内部に突入します」

 

「突入後はエイダのゲイザーにより全員を無力化します」

 

「わかったわ…私…後で話をしてもいいかしら?」

 

「危険です」

 

「分かっているわ…それでも…なんでこんな事をしたのか、話を聞きたいの…」

 

「了解」

 

「まったく、君達は甘いな…しょうがない。シールドは何時でも展開できるようにしておこう」

 

「ありがとう…」

 

「では、突入を開始します」

 

 デルフィはウアスロッドを正面に構える。

 

「突貫します」

 

 ブースターの出力を上げ、突進力により、廃屋の壁を貫く。

 

「うぉあぁ!!」

 

「なんだ!」

 

「まさか…」

 

「ゲイザー投擲」

 

 土煙が上がる中、私は突入し、複数のゲイザーを投擲する。

 

「うぅ!」

 

 ゲイザーはその場の全員に命中し、その動きを止める。

 

「拘束します」

 

 付近の建築用のロープで全員の腕を後ろ手に縛り上げる。

 

「拘束完了」

 

「相変わらず…見事な手際ね…」

 

 背後からハーマイオニーが顔を出す。

 

「話は出来るかしら?」

 

「お待ちください」

 

 デルフィはロンの肩を持ち軽く揺する。

 

「うぉ!」

 

 ロンが目を覚まし周囲を見回す。

 

「あれ…なんで…どうなっているんだ…え? ハーマイオニー?」

 

「ねぇ…ロン。どういう事か説明して貰えるかしら?」

 

「あぁあ…ハーマイオニー! 僕に会いに来てくれたんだね!」

 

 ロンは這いずりながらハーマイオニーに接近する。

 

「ヒッ!」

 

 その異様な光景にハーマイオニーは数歩後退る。

 

「どうして…どうして僕から逃げるの…」

 

「ロン…貴方…何か変よ…どうしたのよ…」

 

「あぁ…そう言う事か…やっぱりまだあいつに操られているんだね…」

 

 ロンは呟きながら、上半身を持ち上げる。

 

「え…何を言っているの…」

 

「ダンブルドアの言っていた通りだ…」

 

「ロン! 一体ダンブルドアに何を吹き込まれたのよ?」

 

「吹き込まれた? それは違うね。吹き込まれたのは君の方だろ?」

 

「え? 私?」

 

「そうさ、ヴォルデモート! あぁ! 今の僕なら恐れなんかなく言えるさ! 君はヴォルデモートに騙されているんだ! まだ気付かないのか!」

 

「ロン…」

 

「これも、あの老害のせいだろう。哀れだな」

 

 トムの声が周囲に響く。

 

「この声は! 貴様! ダンブルドアの事を悪く言うな! 出て来い! 卑怯者!」

 

「ハァ…もう良いわ…これ以上…貴方を見たくないわ」

 

 ハーマイオニーは杖を振り、ロンを縛っているロープを解く。

 

「縄は解いたから、皆を連れて帰ってちょうだい」

 

 ハーマイオニーはロンに背を向け外へと歩き出す。

 

「待ってよ!」

 

 ロンが声を掛けるが、ハーマイオニーは振り返らない。

 

「そんな…ハーマイオニー…君まで…僕を…くそぉ!」

 

 ロンは逆上したようで杖を振り上げる。

 

「まだ…操られているんだな…いいさ…なら! インペリオ!」

 

 ロンが杖を振ると、服従の呪文がハーマイオニーの背後迫る。

 

「はぁ…」

 

 ハーマイオニーはその場で溜息を吐き、服従の呪文はトムのシールドにより無力化される。

 

「無駄な事を…」

 

「え?」

 

「さようなら…ロン」

 

 ハーマイオニーは軽く杖を振ると、赤い閃光がロンに迫る。

 

 赤い閃光が直撃したロンは、その場で倒れ込み、気を失う。

 

「帰りましょう」

 

「了解」

 

 私達は、彼等が強奪した武器を回収後、自宅へと帰還した。

 

 

 「くそっ!」

 

 ロンが悪態を付きながら不死鳥の騎士団本部のロビーへと入室する。

 

「ロン。どうしたんだよ? 3日間も留守にして」

 

「あぁ、ハリーか。ちょっと、ダンブルドアからの指令でね…」

 

「そ、そうかい。何かあったの?」

 

 ハリーが聞くと、ロンは不機嫌そうな表情をする。

 

「あいつ等が…邪魔をしたんだ」

 

「あいつ等?」

 

 ハリーは首を傾げる。

 

「あいつ等だよ!」

 

 突如として声を荒らげたロンは、ハリーの襟を掴む。

 

「ちょ…ロン!」

 

「裏切り者のイーグリット姉妹さ! それにヴォルデモートとハーマイオニーまで居たんだ…」

 

 ロンはその場で崩れ落ちる。

 

「あぁ…ハーマイオニー…なんで…ヴォルデモートなんかに操られて…」

 

「ロン…」

 

 ハリーはロンを見下ろす。

 

「ロンよ。落ち込むでないぞ」

 

「ダンブルドア…先生…」

 

 ダンブルドアはロンの側に寄り添うと、その肩に手を置く。

 

「今はまだ、ヴォルデモートの力が強い…しかし、お主の愛の力はそれをも超えるじゃろう」

 

「先生!!」

 

「その為にも、今は戦力を付けるのじゃ。それが彼女を取り戻す事にも繋がるのじゃろう」

 

「はい!」

 

 ロンは意気揚々と立ち上がると、自室へと戻って行った。

 

「せ、先生…」

 

「あれで良いのじゃよ。ロンにはいずれ、参謀として頑張ってもらう必要があるのでな」

 

 ダンブルドアは不敵な笑みを浮かべると、顎髭を撫でる。

 

 

 

「失礼します」

 

 その時、スネイプがロビーに入室する。

 

「ご報告があります」

 

「なんじゃ?」

 

「分霊箱、ヘルガ・ハッフルパフのカップの所在が判明しました」

 

「ほぉ。して、場所は?」

 

「闇の帝王はベラトリックス・レストレンジに預けたそうです。場所はグリンゴッツ。ベラトリックス・レストレンジの個人金庫かと」

 

「なるほど…」

 

 ダンブルドアは数回顎髭を撫でると、スネイプに指示を出す。

 

「不死鳥の騎士団の主要メンバーを集結させよ。作戦会議じゃ」

 

「かしこまりました」

 

 スネイプは一礼すると、その場を後にした。

 

「さて…皆集まったな」

 

 教師陣を始めとした、不死鳥の騎士団の初期メンバーが円卓に集結する。

 

「セブルスの偵察により、ヴォルデモートの分霊箱の場所が分かった。セブルス」

 

「はい。場所は、グリンゴッツ。ベラトリックス・レストレンジの金庫」

 

「なんだと!」

 

 シリウスはその場で立ち上がり、声を荒らげる。

 

「落ち着くのじゃ、シリウス。グリンゴッツにあるとはいえ、我々はどうにかして分霊箱を回収し、破壊しなければならない」

 

「それはそうだが…相手はグリンゴッツだぞ。魔法界一安全な場所だ。どうする?」

 

 ムーディがダンブルドアに問いかける。

 

「そうじゃのぉ…手は…無い事は無いはずじゃ」

 

「しかし、どうする」

 

「私が…私が行こう」

 

 シリウスが手を上げる。

 

「シリウスよ。どうするつもりじゃ?」

 

「私と…ベラトリックス・レストレンジは従兄妹だ。従兄妹ならば、グリンゴッツでも入れてくれるのではないだろうか?」

 

「いや…流石にそれは難しいんじゃないか?」

 

 シリウスの発言をルーピンが諭す。

 

「うぅ…いい手だと思ったのだが」

 

「こうなれば仕方あるまい」

 

 ダンブルドアは咳払いをし、全員の視線を集める。

 

「小鬼に服従の呪文を掛けるのじゃ」

 

「しかし、その呪文は──」

 

「禁止呪文…じゃろ。しかし、魔法省が無くなった今、そんな事はどうでも良いじゃろう」

 

 ダンブルドアは手元の紅茶を啜る。

 

「作戦は決まった。後は誰が行くかだが…」

 

 ダンブルドアは周囲を見渡す。

 

「僕が行きます」

 

「ハリー!」

 

 その時、ハリーが扉を開け入室する。

 

「ハリーよ。今は会議中じゃ。勝手に入るでない」

 

「すいません。でも、僕も何かしたくて」

 

「しかし、ハリーが居ては…」

 

「私が、私が行こう」

 

 シリウスが杖を掲げる。

 

「シリウス…」

 

「私が、ハリーを守りながらグリンゴッツへ行く」

 

「じゃがのぉ」

 

「ベラトリックス・レストレンジの事だ。罠や、偽物のカップを用意して居るかもしれない。ハリーならその中から分霊箱を見つける事が出来るはずだ」

 

「確かにのぉ」

 

 ダンブルドアは顎髭を撫でる。

 

「そう言う事なら、私も行こう」

 

 ルーピンも杖を掲げる。

 

「シリウス、君1人じゃ大変だろう」

 

「助かる」

 

「良し、メンバーは決まりじゃ」

 

 ダンブルドアは席を立つ。

 

「日時に関しては君達に一任する。何があろうと、ハリーを護り。必ず分霊箱を回収、もしくは破壊するのじゃぞ」

 

「はい」

 

 シリウスとルーピンは一礼し、ダンブルドアは退室した。

 

 

「しかし…どうしたものか…」

 

 シリウスは廊下を歩きながら溜息を吐く。

 

「相手はあのグリンゴッツだ…警備は厳重だろう」

 

「忍び込むのは不可能か…それこそ、アズカバン以上の警備だな」

 

「それ、自虐かい?」

 

「ハハハッ…はぁ…」

 

 2人はほぼ同時に溜息を吐き項垂れる。

 

「そうだ」

 

 ルーピンが思いついたように顔を上げる。

 

 

「ん? どうした?」

 

「彼女達に協力を仰ごう」

 

「彼女達? あぁ…だが、ダンブルドアが知ったら何を言うか…」

 

「しかし、それ以外に手は無いだろ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「連絡方法は確か…」

 

「マクゴナガル先生だな」

 

「よし」

 

 2人はマクゴナガルの自室へと足を向けた。

 




当時のイギリスにガンショップがあるのかどうか調べたのですが分からなかったので、この作中では有るという事にしました。

ここで、次回作の候補に挙がったクロス先と断念理由を少し紹介します。

ゼロの使い魔。

2人が使い魔になったら、世界が終わってしまうので。

フェイトシリーズ

型月警察が飛んできそうで怖かった。



他の作品についてはまた今度。


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グリンゴッツ

今回の被害地域はグリンゴッツです。


 

   数日後、マクゴナガルから通信が入る。

 

『お時間よろしいですか?』

 

『問題ありません』

 

『助かります』

 

『先生? どうしたんですか?』

 

『実は──』

 

『私達が話そう』

 

 マクゴナガルの通信にシリウスが割り込む。

 

 

『シリウス?』

 

『私も居るぞ』

 

『ルーピン先生? どうしたんですか?』

 

『実は、ダンブルドアが分霊箱を発見したんだ』

 

『え? それはどこに?』

 

『実は…』

 

 シリウスは口籠る。

 

『場所はグリンゴッツなんだ…』

 

『グリンゴッツって…』

 

『あぁ、警備が厳重過ぎてな…そこで、君達の力を借りたいんだ』

 

『援護要請という事でよろしいですか?』

 

『あぁ、引き受けてくれるかな?』

 

「どうするの?」

 

 ハーマイオニーがこちらに視線を向ける。

 

「分霊箱の破壊は僕達にとっても利益になるはずだ」

 

『了解です。援護を行います』

 

『助かるよ』

 

『では、日時などが決定したら連絡しよう。それと実は、ハリーも同行するんだ』

 

『え? ハリーも?』

 

『まぁ…仕方なくな』

 

 シリウスは少し笑い声を混じらせる。

 

『だが心配しないでくれ、ハリーの事は私達がしっかりと守る』

 

『了解です』

 

『じゃあ、頼むよ』

 

 通信が終了する。

 

「まさか、グリンゴッツとはね…厳しい所に隠すものだわ」

 

「分霊箱だからな、それだけ重要なのさ」

 

「まぁ…そうね。ところで、どうやって乗り込むの?」

 

「何度かグリンゴッツには訪れた頃がありますが、防衛能力は皆無な為、交渉の結果次第では強行突入も視野に入れます」

 

「まぁ…いつも通りね…私も付いて行ってもいいかしら?」

 

「危険です」

 

「分かってるわ。でも、貴女達にばかり動いて貰うのも悪いわ。私も何かしたいの」

 

「まぁ、シールドは有る事だし、最悪の事態は起こらないだろう」

 

「了解。しかし、現場では我々の指示に従ってください」

 

「ありがとう」

 

「さて、今のうちに武器の点検でもした方が良いだろう。必要なくてもな」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーはハンドガンを取り出すと、分解を始める。

 

「そうだ。次はその部品を──違う、スライドさせるんだ」

 

「はぁ…細かすぎるわ。私苦手なのよ」

 

 ハーマイオニーは呟きながら、銃の整備に集中した。

 

 

  数日後。

 

 シリウスから連絡を受け、グリンゴッツの正面で私達は待機している。

 

「到着予定時刻です」

 

「まだ来ないわね」

 

「向こうから呼び出しておいて遅れるとは…」

 

 周囲は人気は疎らで、歩いている人々の顔も疲れの色を出している。

 

「やっぱり、皆暗い顔をしているわね…」

 

「そりゃそうだろ。今のイギリス魔法界はダンブルドア派とヴォルデモート派で対立している」

 

「どっちに転んでもまともな結果にはなら無さそうね」

 

「フッ、手厳しいね。まぁ実質無政府状態だろう」

 

 トムは呆れた様な声を上げる。

 

 その時、背後から声がかかる。

 

「遅くなってすまない」

 

 背後にはバツの悪そうな表情のシリウスとルーピンが立っていた。

 

「出掛けに準備するからいけないんだ」

 

「そう言うなって」

 

「え? ハーマイオニー? それに君達も?」

 

 シリウスの背後からハリーが現れ、驚愕している。

 

「援護要請を受けました」

 

「だって…君達は僕達を裏切ったんじゃ…」

 

「裏切った訳じゃ無いわ」

 

「強いて言うならダンブルドアに愛想が尽きたって感じだな」

 

「こ、この声!」

 

 トムの声を聞きハリーは周囲を見回し杖を取り出す。

 

「落ち着けハリー。大丈夫だ」

 

 周囲を見回すハリーをシリウスが諭す。

 

「でも…」

 

「安心してハリー。トムは敵じゃ無いわ」

 

「まぁ、敵対する気持ちは分かるさ。だが敵意は無いんだ。杖を納めてはくれないか?」

 

「う…うぅ…」

 

 ハリーはゆっくりと杖を納める。

 

「さて、それでは行こうか、目標は目の前だ」

 

「そうだな」

 

 シリウスを先頭に、私達はグリンゴッツへと歩みを進めた。

 

 グリンゴッツ内部は人気はおらず、小鬼の実が作業を行っていた。

 

 シリウスは入り口付近の窓口へ向かう。

 

「すまない、良いか?」

 

「おやおや、ご用件は?」

 

 小鬼は手を止めずに窓口で対応する。

 

「従兄妹のベラトリックス・レストレンジの金庫を開けて欲しい」

 

「当人の許可はありますか?」

 

「え?」

 

 シリウスの動きが止まる。

 

「当人様の許可が無ければ金庫はお開けできません」

 

「し、しかし、私は従兄妹だぞ」

 

「だとしてもです」

 

「だが!」

 

 シリウスは尚も食い下がる。

 

「これは…無理そうね」

 

「仕方ない。ちょっと出るよ」

 

 トムがヴォルデモートの姿でホログラム化する。

 

「え?」

 

「なぜ奴がここに!」

 

 ルーピンとハリーは杖を構える。

 

 シリウスは小鬼と交渉中の為気が付いていない様だ。

 

「まぁ、落ち着いてくれ。姿と声だけだ」

 

「そっくりね」

 

「まぁ、数年後の自分だからな。データはあるし再現は可能さ」

 

 トムはヴォルデモートの姿で両手を上げ肩を竦める。

 

「なんか…違和感があるな…」

 

 ルーピンは杖を仕舞い、呟く。

 

「さて…と」

 

「私も同行しよう。シリウスが混乱する」

 

 トムはヴォルデモートの姿でルーピンと共にシリウスの左右に移動する。

 

「これはこれは…」

 

「き、貴様は!」

 

 シリウスが杖を構えようとする手をルーピンが止める。

 

「なっ!」

 

「落ち着けシリウス、敵じゃない」

 

「そうだ、僕に敵意は無いと言っただろ」

 

「どうなって…いるんだ…」

 

「さっぱりだ…」

 

 トムは小鬼にと対面する。

 

「今回は…闇の帝王自らがお見えとは…どういったご用件…で?」

 

「なぁに、ベラトリックスから許可は出ている。金庫を開けて貰おうか」

 

「し、しかし、当人の同伴が無ければ…」

 

「俺様が、開けろ。と言っているのだぞ。2度も言わせる気か」

 

『うわぁ、板についているわね』

 

『こんな感じだろ?』

 

 小鬼は数秒考えを巡らせた後、鍵を手に取る。

 

「こ、こちらへ…」

 

「よし、行くぞ」

 

「えぇ、行きましょう」

 

 私達は小鬼の後を付いて行く。

 

「なにが…どうなっているんだ…」

 

「深く考えない方が良いかもしれないな…」

 

「僕…処理が追い付かない」

 

 少し遅れて、ハリー達が小走りで付いて来る。

 

 小鬼が扉の鍵を開けると、階段を下り、洞窟へと侵入する。

 

「こちらにお乗りください」

 

 案内された先には、旧式のトロッコと寂れたレールが敷かれていた。

 

 私達はトロッコに乗車すると、小鬼が操作し洞窟内部を移動する。

 

 ある程度移動したところで小鬼が口を開く。

 

「闇の帝王自らがお見えになるとは、余程大切な用事なのですね」

 

「下らん詮索をするな」

 

 トムが答えると小鬼は正面を向く。

 

 その時、小鬼の心拍数が上昇する。

 

「実は、ベラトリックス様から有る事を言われておりまして」

 

「黙って運転しろ」

 

 トムを無視し、小鬼がトロッコを停車させる。

 

「おい、動きが止まったぞ」

 

「誰であろうと、私以外に金庫を開けさせるな…と仰っていました」

 

 トロッコからパトランプの様な物が現れると、警告音が鳴り響く。

 

「貴様! 何をした!」

 

 シリウスが小鬼に詰め寄る。

 

「もし、私以外の者が金庫を開けようとしたら、その時は容赦するなと」

 

「おい!」

 

「それに! 我が君自らこのような場所に来る事など有りえない!!」

 

 次の瞬間、小鬼の居る運転席以外の足場が解放される。

 

「うわぁああああああ!」

 

 重力に従い、私達は落下する。

 

「どうしよう! このままじゃ!」

 

「地面と激突だな」

 

「猶予は30秒くらいかしら?」

 

「計算結果は25秒、いい線いってるじゃないか」

 

 ホログラム化を解除したトムが呟き、ハーマイオニーが答える。

 

「君達! 呑気な事言ってないで!」

 

「そうね。エイダ。デルフィ。お願いできる?」

 

「了解」

 

「バーニア起動」

 

 私とデルフィはバーニアを起動する。

 

 そのまま、私はハーマイオニーとルーピンを、デルフィがハリーとシリウスを回収する。

 

「回収完了。目的地へ移動します」

 

「助かったわ」

 

「生きた心地がしない…」

 

「私はもう慣れたわ」

 

 目的地へと移動を開始後、背後から動体反応を検知する。

 

「背後より、動体反応確認」

 

「え?」

 

 背後から、トロッコに乗ったグリンゴッツの警備員と死喰い人が急接近する。

 

「あれは! 死喰い人!」

 

「どうやらグリンゴッツは死喰い人の統治下にあるようだね」

 

「厄介なことになったわね」

 

「攻撃してきたぞ!」

 

 トロッコ上で死喰い人が杖を振り、魔法を放つ。

 

 私達は最小限の動きで魔法を回避する。

 

「取り敢えずこのままじゃ不味いわ」

 

「目的地へと撤退します」

 

 道中、巨大な滝を抜け地下金庫の入り口へと到着する。

 

「ここが…」

 

「敵対反応は背後に接近してきています」

 

「時間を稼げる?」

 

「了解」

 

 デルフィは地下金庫へと続くトロッコレールの一部をウアスロッドで破壊する。

 

「これでしばらくは時間を稼げるでしょう」

 

「急ごう!」

 

 ハリーは地下金庫の入り口に手を掛ける。

 

「あれ? 開かない!」

 

「鍵がかかっているみたいだ」

 

「鍵なんて…」

 

 シリウスとルーピンが杖を振り解錠を試みる。

 

 しかし、一向に解錠は出来ない様だ。

 

「退いてください」

 

「あ、あぁ」

 

 扉の前から3人が撤退する。

 

「Fマインリリース」

 

 ベクタートラップからフローティングマインを取り出し、扉に投げつける。

 

 次の瞬間、フローティングマインの爆発により扉が爆砕する。

 

「うぉ!」

 

「凄い…爆発だ…」

 

「解錠完了です」

 

「解錠と言うか…扉が無くなったわね」

 

「まぁ、鍵を開けたことに変わりはないか」

 

「行きましょう」

 

 私達は爆砕した扉を抜け地下金庫へと侵入する。

 

 地下金庫内部は複数の金庫の扉が設置されており、その内部に目的の品が安置されている様だ。

 

「ベラトリックス・レストレンジの金庫は…」

 

「ここだな」

 

 シリウスが金庫を発見したようで扉を指差す。

 

「開けられるか?」

 

「材質確認。可能です」

 

「では、頼む」

 

 シリウスが数歩後退る。

 

 私は腕をブレードへと変化させ扉を両断する。

 

 両断された扉は轟音と共に崩れ去る。

 

「解錠完了」

 

「……あー…うん」

 

 シリウスは何か言おうとしているが言葉が出ずにいる。

 

「僕…なんとなく言いたい事は分かるよ」

 

「そうか…」

 

 シリウスはハリーの頭に手を置き軽くなでる。

 

「さて、じゃあ、分霊箱を探してくるよ」

 

「我々は外部で見張っています」

 

 ハリーとシリウス、ルーピンが金庫の内部へと入って行った。

 

 数分後、金庫内部で魔力の反応が顕著に現れる。

 

 次の瞬間、カップを手にしたハリーを先頭に、3人が大量の金のカップに埋もれながら現れる。

 

「なに? これ?」

 

「恐らく、何らかの魔法が施されていたんだろう。罠に引っかかったんだろうな」

 

「なるほど」

 

「ふぅ、酷い目にあった」

 

 カップを片手にハリーが呟く。

 

「これ以上ここに居る必要は無いわね」

 

「撤退を開始しましょう」

 

 来た道を戻り、地下金庫入り口へと戻る。

 

「居たぞ!」

 

「動くな!」

 

 入り口の大広間は既に死喰い人と警備員の混成部隊によって包囲されていた。

 

「なんで…」

 

「トロッコレールが修復されているな」

 

「あれで来たのね」

 

「くそ…この人数では…」

 

「多勢に無勢か…」

 

 シリウスとルーピンはハリーを庇う様に前面に立ち杖を構える。

 

「動くな!」

 

「盗んだものを返せ!」

 

 死喰い人は杖を構えこちらに接近する。

 

「迎撃行動を開始します」

 

 私達は数歩前へと出る。

 

「動くなと言っただろ!」

 

 死喰い人が声を荒らげる。

 

「ファランクス展開」

 

 私はマルチウェポンデバイスを腰だめに構える。

 

「なんだ!」

 

「警告。これより攻撃行動に移ります。撤退してください」

 

「ふざけるな! 人数差が分からないのか!」

 

 激昂した死喰い人が一斉に杖を振り上げる。

 

「シールド展開」

 

 デルフィが周囲にシールドを展開する。

 

 それにより、死喰い人の攻撃が全て防がれる。

 

「なんだと!」

 

「攻撃確認。迎撃行動へ移行します」

 

「ファランクス発射」

 

 驚愕している死喰い人にファランクスを乱射する。

 

 

「うごぉ!!」

 

 ファランクスの弾幕により、複数の死喰い人が被弾し戦闘継続不能に陥る。

 

「クソ!」

 

「今です」

 

「えぇ!」

 

 ハーマイオニーが先陣を切り走り出す。

 その後に続くようにハリー達も走り出す。

 

「トロッコに乗って!」

 

「あぁ!」

 

 ハーマイオニーは死喰い人が乗車してきたトロッコに乗車する。

 

「シリウス操作できる?」

 

「あぁ!」

 

 シリウスが操縦桿をとり、トロッコが走り出す。

 

「追いかけろ!」

 

 死喰い人の残存兵力がトロッコの追撃に移行する。

 

「追いかけてきたわ!」

 

「迎撃します」

 

 私達はバーニアで浮遊しハーマイオニー達が乗るトロッコの周辺に浮遊する。

 

 死喰い人は黒い煙状に変化し周囲を飛び追撃を試みる。

 

「射撃開始」

 

「ウィスプ起動」

 

 私は周囲にウィスプを展開しビームガンを発射する。

 

 ビームガンと同調したウィスプからエネルギー弾が発射され、死喰い人を撃墜していく。

 

 デルフィは周囲にウィスプを展開し、ウィスプによる直接攻撃で敵の数を減らす。

 

 

「出口まであとどれくらい?」

 

「後500mって所だな」

 

「シリウス! 飛ばして!」

 

「あぁ!」

 

 トロッコが速度を上げる。

 

「あと少しで逃げれる…」

 

「シリウス! 前!」

 

「うぉ! レールが!」

 

 100mほど先でトロッコレールが途切れている。

 

「ブレーキ! ブレーキ!」

 

「分かってる!」

 

 シリウスがブレーキを掛けると、トロッコが金切り声を上げる。

 

 

「うぉおお! 止まらねぇ!」

 

「止まれええええええぇええええ!!!」

 

 しかし、トロッコの勢いは収まらず落下寸前となる。

 

 デルフィがトロッコの前面に回り込む。

 

「デルフィ!」

 

「衝撃に備えてください」

 

 次の瞬間、トロッコがデルフィに激突する。

 

 それにより、トロッコはレールの上で動きを止める。

 

「大丈夫?」

 

「問題ありません」

 

 デルフィにダメージは無い様だ。

 

 その時、洞窟内部に高エネルギー反応を検知する。

 

「高エネルギー反応多数確認」

 

「注意してください」

 

「え?」

 

 次の瞬間、洞窟の上部を突き破り、5機の2m級OFラプターが現れる。

 

「ゴーレムだ!」

 

「くそ! こんな所で!」

 

 ラプターの登場にシリウスは悪態を付き杖を取り出す。

 

「くらえ!」

 

 シリウスとルーピンが同時にラプターに魔法を放つ。

 

 しかし、魔法はラプターの装甲に直撃すると霧散する。

 

「くそ!」

 

「やはり、魔法では…」

 

 魔法が効果的でないことにルーピンが狼狽する。

 

「敵対象確認」

 

「攻撃行動に移行します」

 

 私達は、バーニアの出力を上昇しラプターに急接近する。

 

「危険だ!」

 

「大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

 ハーマイオニーがそう言うと、ルーピンが唖然とする。

 

「攻撃開始」

 

 私はブレードでラプターを両断する。

 

「なんだと…」

 

「攻撃」

 

 デルフィがウアスロッドを振り、ラプターの両腕を切断する。

 

「投擲します」

 

 両腕を切断したラプターを掴むと、上空に待機していたラプターに投擲する。

 

 ラプター同士は激突し、2機の反応が消失する。

 

 残り2機のラプターがトロッコに向け攻撃を行う。

 

「シールドを展開」

 

 私はトロッコとラプターの間に割り込み、シールドにより攻撃を無効化する。

 

「どうなっているんだ…あのゴーレムのせいで…どれだけ戦線が…」

 

「あの二人は…何者なんだ…」

 

「気にしない方が良いですよ」

 

「ウィスプ起動」

 

 攻撃を防いだ後、ウィスプでラプターを引き寄せる。

 

「破壊します」

 

 掴んだラプターの首元を掴みそのままへし折る。

 

 それと同時に内部の残存メタトロンを回収する。

 

 デルフィも最後の1体にウアスロッドを突き刺すと、メタトロンを回収した。

 

「戦闘終了」

 

「撤退を開始しましょう」

 

 デルフィがハーマイオニー達が乗ったトロッコを持ち上げる。

 

「うぉ!」

 

「移動します」

 

 トロッコを手にしたまま私達は洞窟の上部へと移動する。

 

「このままじゃぶつかるぞ!!」

 

「突破します」

 

 周囲のウィスプでトロッコを空中に固定させる。

 

「何をするつもりだ?」

 

「「バーストモード移行」」

 

 私達は同時にバーストモードへと移行する。

 

「バーストショット」

 

「戌笛」

 

「「発射」」

 

 バーストショットと戌笛による3発同時攻撃により洞窟上部を破壊する。

 

 周囲に爆発の余波が走り洞窟が崩壊を始める。

 

「破壊完了」

 

「突貫します」

 

 トロッコを回収後、高速でグリンゴッツの天井を突き破り上空へと退避する。

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「生きているんだよ…な?」

 

「見ろ! グリンゴッツが…」

 

 シリウスが下方を指差す。

 

 そこには、瓦礫と化したグリンゴッツ跡地が広がっていた。

 

「恐らく地盤が崩壊した事により完全崩壊した模様」

 

「つまり、さっきので壊したって事ね」

 

「簡単に言えばそうです」

 

「仕方の無い事です」

 

「はぁ…ものすごい損害額になりそうね…」

 

「試算しましょうか?」

 

「ちょっと…興味あるけど…やめておくわ。眩暈がしそう」

 

「了解」

 

「取り敢えず、この場から逃げよう」

 

「そうだね」

 

 

 瓦礫と化したグリンゴッツを離脱後、人気の無い場所にトロッコを降ろす。

 

「ふぅ…」

 

「危なかったな…」

 

 ハリーはトロッコから降りるとふら付きながら壁によりかかる。

 

「あぁ…君達が居てくれて助かったよ」

 

 ルーピンはトロッコから下車後、足を震わせながらこちらに一礼する。

 

「分霊箱はどうするの?」

 

「取り敢えずダンブルドアに渡す。きっと破壊するだろう」

 

 ハリーは手にした鞄に分霊箱を仕舞う。

 

「さて…それでは、私達は戻るとしよう」

 

「わかりました」

 

「君達の事はダンブルドアには秘密にしておくよ」

 

「バレたら、いろいろ五月蠅そうだしね」

 

 ハリーは疲れた表情で笑う。

 

「さて、君達も気を付けて」

 

「えぇ」

 

 シリウス達は姿現し使用しその場から姿を消した。

 

「我々も戻りましょう」

 

「そうね」

 

 

 私達も自宅へと帰還する事にした。

 




着実に魔法界の重要施設が破壊されて行きます。



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ダンブルドア

今回は、ダンブルドア回です。

えぇ…ダンブルドアです。


 

   不死鳥の騎士団本部に帰還したシリウス達はダンブルドアの自室へと移動した。

 

「失礼します」

 

「来たか。首尾はどうじゃ?」

 

「はい。グリンゴッツから無事に分霊箱を回収しました」

 

 ハリーはそう言うとダンブルドアの前に差し出す。

 

「これがそうか。良く回収してきてくれた」

 

「はい」

 

 ダンブルドアはおもむろに日刊予言者新聞を取り出す。

 

「今しがた配られた号外じゃ」

 

 ワザとらしく新聞を捲ると、驚愕する。

 

「これは驚いた。グリンゴッツに賊が入った様じゃのぉ。これはお主達の事じゃな」

 

「多分そうだと思います」

 

 ハリーが答えるとダンブルドアは眼鏡を少しずらし、視線を向ける。

 

「なになに。グリンゴッツに侵入した賊は…おぉ。グリンゴッツを破壊したとある。お主達容赦が無いのぉ。一体どれだけの被害が出た事か…」

 

「……」

 

「まぁ良い。それより聞きたいのじゃが」

 

 ダンブルドアは日刊予言者新聞を投げ捨てる。

 

「お主達にグリンゴッツを破壊させる程の魔法が扱えるのか?」

 

「そ…それは…」

 

「無論。今のワシには出来んじゃろうな。じゃがお主達は現にやってのけた。違うか?」

 

「それは…」

 

 シリウスは俯き、口ごもる。

 

「出来んじゃろうな。お主達の様な平凡な魔法使いではのぉ」

 

 口調を変えずにダンブルドアは髭を撫でる。

 

「しかし、ワシはグリンゴッツを破壊させる事が出来る者を知って居る。お主達も知って居る奴じゃ」

 

「そ、それは…」

 

「そうじゃ。イーグリット姉妹じゃよ」

 

 ダンブルドアの冷ややかな声にその場の空気が凍り付く。

 

「ふぅ…お主達。彼女達が裏切り者であることは理解して居るな」

 

「それは…」

 

「それにもかかわらず。彼女達と秘密裏に関わって居ったのか?」

 

「それは…えっと…」

 

「事と場合によってはお主達も裏切り者と捉えなければならぬ。説明を願おうか」

 

「それは…」

 

「私が連絡を取ったのです」

 

「ミネルバ…」

 

「マクゴナガル先生!」

 

 扉が開かれマクゴナガルが入室する。

 

「どう言う事じゃ?」

 

「彼女達の力が借りれれば分霊箱の回収も容易だと…」

 

「確かに、分霊箱は回収できた。しかし、彼女達にこちらの情報を渡す事にもなりかねないのではないか?」

 

「その点は大丈夫です。回収を手伝って貰っただけです」

 

「そうか…」

 

 ダンブルドアは詰まらなそうに溜息を吐く。

 

「ふぅ…まぁ良い。分霊箱は回収できたのじゃ。後で破壊しよう」

 

 そう言うと、分霊箱を引き出しへとしまう。

 

 

「分霊箱の破壊方法をご存じなので?」

 

「無論じゃ。馬鹿にするでない」

 

「そうですか」

 

「あぁ。もう良いぞ。退室するが良い」

 

「し、失礼します」

 

 その場の全員が一礼し、ダンブルドアの自室を後にする。

 

 

「ふぅ…」

 

 廊下を少し歩きシリウスが溜息を吐く。

 

「助かりました。ありがとうございます。先生」

 

「良いのですよ。それより彼女達はどうでした?

 

「えぇ。相変わらずと言った感じでした」

 

「それは良かったです」

 

 マクゴナガルは笑みを浮かべる。

 

「それにしても…最近の校長はどこかおかしい。いや、前からあんな感じだったが最近は少し…」

 

「過激な思想を持ち始めたと思います」

 

「確かに…」

 

「近いうち、死喰い人に対し大規模な反攻作戦を計画しているとか…」

 

「うーん…死喰い人ならばどうにかなるのだが…ゴーレムに対しては全く歯が立たない…」

 

「対ゴーレム用にマグル界の武器を大量に輸入しているという情報もあります」

 

「マグルの武器…一体どんな…」

 

「詳しくは分かりませんが、筒状で、爆弾を発射するものとか」

 

「そんな訳の分からない物を…一体誰が?」

 

「アーサーです」

 

「アーサーが?」

 

 マクゴナガルの回答にルーピンが驚愕する。

 

「えぇ、校長の指示だそうで…」

 

「なんていう事だ…これじゃ…戦争をする気か?」

 

「校長はそうお考えでしょう。一部の生徒…ロン・ウィーズリーなどがそうですが、校長の思想に影響を受けているようです…」

 

「我々の戦力で…死喰い人に勝てるのでしょうか?」

 

「分かりません…しかし、どちらにせよ、血は流れるでしょう…」

 

「何と言う事だ…」

 

 シリウスは嘆き悲しみ天を仰ぐ。

 

「こんな時…」

 

「えぇ」

 

「彼女達なら…」

 

「エイダ達ならどうするだろう…」

 

 ハリーは呟き、ルーピンは嘆く。

 

「はぁ…彼女達に頼りたいですが…これ以上巻き込むわけにもいきません…」

 

 マクゴナガルは溜息を吐き、頭を抱える。

 

「しかし、相談くらいは…」

 

「そうですね…」

 

 そう呟いたマクゴナガルは、重い足取りで歩みだした。

 

  ダンブルドアがヴォルデモートの分霊箱を破壊してから数週間後。

 

 ヴォルデモートはホグワーツの校長室で不機嫌そうに苛立ちを募らせていた。

 

「クソッ! ルシウス!!」

 

「は、はい!」

 

 不機嫌なヴォルデモートに指名され、ルシウスの声が裏返る。

 

「俺様の分霊箱がまたも破壊された」

 

「さ、左様で…」

 

「なぜこのような事が起きたんだ!」

 

「な…何故…と…おっしゃられても…」

 

「ちっ!」

 

 不機嫌な舌打ちをした後、ヴォルデモートは校長椅子に座る。

 

「こうなれば仕方ない…ルシウス。OFの生産状況はどうなっている?」

 

「ゴーレムですか? 一般的な確か…ら、ら、ら…」

 

「ラプターだ」

 

「そうです。ラプターの武装と操作方法の習得はできたのですが、形作る材料である、賢者の石が枯渇しておりまして…」

 

「メタトロンが枯渇しているのか…」

 

「えぇ…メタトロンを作れるのは我が君しかいない為…今ある原材料と言えば岩石などと言った物しか…」

 

「それでよい」

 

「え?」

 

「外部装甲程度、岩石でよい」

 

「し、しかし、それでは強度に問題が…」

 

「構わん。それでも戦力にはなるのだろう?」

 

「並の闇払いにならば負けないとは思いますが…しかしそれでは、ゴーレム特有の高機動戦闘は…」

 

「戦力になるならば構わん。すぐに量産体制に入れ」

 

「畏まりました…」

 

 こうして、不完全なOFの量産が開始された。

 

 

  3週間後、魔法界の情勢が大きく変化する。

 

 

 大量のOFによる物量作戦でダンブルドア率いる闇払いは後退を余儀なくされる。

 

 その結果、不死鳥の騎士団本部以外の大半を死喰い人により占拠されてしまった。

 

 ダンブルドアは現在、各国の闇払いに協力を仰ぎ、水際で何とか持ちこたえているといった状況だ。

 

「素晴らしい! やればできるのではないか!」

 

 校長椅子に腰かけ、高笑いをしている。

 

「貴様も良くやったぞ、ルシウス」

 

「恐縮至極でございます」

 

 ルシウスは深く一礼をする。

 

「しかし、未だにダンブルドア共、不死鳥の騎士団本部の制圧はまだなのか?」

 

「それが…流石に奴等の拠点という事もあり…現在の戦力では…それに奴等、マグルの武器を使って居りまして…」

 

「マグルの武器だと…」

 

「はい、破壊力に特化した物のようで…既に多くのゴーレムが破壊されています」

 

「なんだと?」

 

「電撃戦の為物資の補給もままならず…このままでは…」

 

「このままではどうなる?」

 

「ま…まぁ…このままではジリ貧に…」

 

「ちっ…」

 

 ヴォルデモートは小さく呟く。

 

「やはり、当初の予定通り、賢者の…いえ、メタトロンによるゴーレムを作成した方が良いのではないかと…」

 

「黙れ」

 

「し、失礼を…」

 

「まぁ良い、どちらにせよ、決戦の時は近い」

 

 ヴォルデモートは引き攣った笑みを浮かべ、杖を構える。

 

「ルシウス。有人機の方はどうだ?」

 

「はい、如何せん操作と魔力に問題があり…今ですと一応動かせるのはベラトリックスだけでして…」

 

「かまわん。それと、俺様のOFはどうなっている?」

 

「それが…まだ…」

 

「なぜ、俺様の機体がまだなのだ?」

 

「はい、複雑さを極め…まだ完成には…6割程度と言ったところで…」

 

「急がせろ」

 

「はっ」

 

 ルシウスは震えを抑えながら、退室した。

 

 

  不死鳥の騎士団本部。ダンブルドアの自室。

 

 そこでダンブルドアは頭を抱えていた。

 

「なんと言う事じゃ…」

 

 現状、死喰い人の攻勢により、不死鳥の騎士団本部を除き、多くの拠点を失ってしまった。

 

「戦況はどうじゃ?」

 

 ダンブルドアはアーサーに問いかける。

 

「死喰い人の攻勢は激しいですが、こちらも防衛陣地を整えております。その為ゴーレムの攻撃にも耐えられております」

 

「しかし…防御に徹するだけでは…」

 

「かと言って攻勢に転ずるには危険すぎます。このまま敵が疲弊するのを待つのが手かと…」

 

「それでは遅すぎる。すぐに打って出るぞ」

 

「戦力は十分ですが…危険すぎます」

 

「しかし、このままではいかんだろう」

 

 ダンブルドアは両膝を叩き、立ち上がる。

 

「よし…本日、決起集会を行う」

 

「決起集会?」

 

「そうじゃ。我等は全戦力を持ってホグワーツを奪還する!」

 

「しかし! それは…自殺行為では…」

 

「座して死を待つわけにもいかん。分かったら準備するのじゃ」

 

「しかし!」

 

「これは君の息子のロンも賛成するはずじゃよ」

 

「そ…それは…」

 

「君は息子の意見を無視するのか? それほど卑しい親なのか?」

 

「だとしても…」

 

「早くするのじゃ」

 

「か、かしこまりました…」

 

 アーサーは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 

  その晩、不死鳥の騎士団本部で大規模な決起集会が行われた。

 

「凄い料理だ」

 

「こんな豪華な食糧…一体どこに?」

 

「ダンブルドアの事だ。きっと用意してくれたんだよ」

 

 ロンは目の前の食事に齧り付く。

 

「さて、皆聞いてくれ」

 

 大広間でダンブルドアが声を張り上げる。

 

「本日、この様な催しを開いたのには理由がある」

 

「理由?」

 

 ハリーが不穏な表情を浮かべる。

 

 ダンブルドアが立ち上がる。

 

「ワシは! ワシ達は! 今日! この瞬間! ワシ等の母校であり、家でもあるホグワーツの奪還作戦を立案する!」

 

「ホグワーツ」

 

「奪還作戦!」

 

 

 次の瞬間、会場全体に歓声が上がる。

 

「そうだ! ホグワーツは僕達の家だ!」

 

「死喰い人なんかには渡すものか!」

 

 ロンを始めとした、純血者が声を大にする。

 

「ホグワーツ奪還作戦…」

 

「現状の戦力から見て…かなり不利かと…」

 

 会場の一角でマクゴナガル達が不信感を募らせている。

 

「諸君、ワシは、ホグワーツを愛して居る。心から…生徒達の笑顔を見るのが好きだった。生徒達が苦悩する姿が好きだった。生徒達が協力し、互いに高め合う姿が大好きだった…しかし今、そのホグワーツを侵し、我が物顔で跋扈する不穏な輩が居る。その不届き者は愚かにも世界を手中に収めようとしておる。ワシはそれが許せない! お主等もきっと同じはずじゃ…ワシ達は! 皆協力し! 団結する! さすれば! ワシ達は必ずや! ホグワーツを取り戻す事出来る! ワシ達は家族だ! ワシ達は皆兄弟だ!! 不死鳥の騎士団は! 皆! ワシを信じてくれ!」

 

「「「「校長!」」」」

 

「「「「校長殿!」」」」

 

「「「「ダンブルドア!」」」」

 

「「「「ダンブルドア校長!」」」」

 

「「「「ダンブルドア騎士団長殿!」」」」

 

「「「「校長!」」」」

 

「「「「校長殿!」」」」

 

「「「「ダンブルドア!」」」」

 

「「「「ダンブルドア校長!」」」」

 

「「「「ダンブルドア騎士団長殿!」」」」

 

 純血者からダンブルドアを称賛する声が上がる。

 

「諸君。ならば、ワシと共に徒党を組み。悪しき存在を撃ち滅ぼそうではないか! ワシ達にはその力がある! 奴等の主力であるゴーレムも既に何十体と破壊して居る! ワシ達に不可能は無い! ワシ達に敵は無い!」

 

「おぉおおおお!!」

 

 会場から歓声が上がる。

 

「諸君! ならば、やる事はただ一つ! ホグワーツを奪還し! 死喰い人を! 闇の帝王を! ヴォルデモートを! トム・リドルを打倒し、再びワシがホグワーツを治め! ワシが全てを導こう!」

 

 会場の興奮度は最高潮に達する。

 

「作戦を説明する! 不死鳥の騎士団は持てる全ての戦力! 武力を結集し! 死喰い人の包囲を一点突破する! その後、ホグワーツへ突入する為の前段階としてキングスクロス駅を奪還する!」

 

「キングスクロス駅を奪還…」

 

「無論、この作戦は危険を伴う。命を落とす者も居るだろう…それはとても悲しいことじゃ…しかし! ワシ達に死を悲しんでいる時間は無い! 悲しみ、涙を流すのは総てを終わらせてからじゃ!」

 

 ダンブルドアは身振り手振りを大袈裟に行う。

 

「無論…この作戦の参加は強制ではない。辞退するものは今すぐ不死鳥の騎士団本部から去るが良い…じゃが、ワシは信じておる。皆がこのワシと同じ考えで有る事を…」

 

 ダンブルドアが杖を手に取ると会場が静まり返り、数秒が流れる。

 

 ロンを始めとするダンブルドアを信奉している物にとっては刹那に。

 

 しかし、その場にダンブルドアを信奉していない者にとっては永遠にも感じるほど長い時間だった。

 

 それもそうだろう。なぜならば、不死鳥の騎士団本部以外に、彼等を受け入れる場所など既に無いのだから。

 

 そして、ダンブルドアは既に杖を手にしている。

 

 離反するものならば、その場で命が無いだろう。

 

「誰も居ないという事で良いな…それならばワシは嬉しい! ワシと諸君らは共に、この命をホグワーツへと捧げよう!」

 

 ダンブルドアが杖を掲げる。

 

「ワシは今誓おう! 必ず、ホグワーツを取り戻すと、そして諸君らを導くと! その為にも、諸君らの命をこのワシに譲って欲しい!!」

 

 数秒後、1人分の拍手が響き渡る。

 

 ロンが始めた拍手は、やがて2人、3人と伝播し、会場全体が拍手の渦に包まれる。

 

「ありがとう! それでは不死鳥の騎士団各員に通達。騎士団長命令である」

 

「さぁ、諸君。理想郷(地獄)を作るぞ」

 

 目が笑って居ないダンブルドアは口角を持ち上げる。

 

 瞳孔が開き、善と悪の区別がつかなくなっている志願者は歓声を上げる。

 

 顔を俯かせ、ただ狂気に圧倒されながら、徴兵者は心を壊す。

 

 歓声が上がり、志願者が狂信者へ変わり、戦争の準備が整う。

 

 ダンブルドアの演説の幕が降ろされると同時に、開戦への口火が切られた。




関係ないですが、ヘルシングを読みました。

関係ないですが。




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キングスクロス

さて…そろそろ、死人が出始めますね。


 

   翌朝。

 

 日が昇るよりも早くに、不死鳥の騎士団員各員が、武装を整え正面玄関に集結する。

 

「皆、覚悟は良いな」

 

「うん」

 

「はい!」

 

 覚悟を決めた者も居れば、流れに逆らう事の出来ない者も居る。

 

 全員が、多様な感情を抱えている中、マクゴナガルの周辺にシリウスとルーピン集まる。

 

「遂に…始まってしまいますね…」

 

「えぇ…」

 

 マクゴナガルは悲しそうに呟く。

 

「このままでは…下手をすれば全滅ですね…」

 

「えぇ…しかし、私もこのまま全滅を待つ心算はありません」

 

 マクゴナガルはそう言うと、無線機を取り出す。

 

「彼女達に援護を頼みます」

 

「しかし、ダンブルドアは彼女達の事を敵視している筈です」

 

「それは、ヴォルデモートも同じはずです。それに彼女達は私達の敵ではない筈ですよ…」

 

「少しでも希望があるならば、それに掛けるべきです」

 

 マクゴナガルは縋る様に無線機で通信を繋いだ。

 

  早朝早くにマクゴナガルに渡した無線機から通信が入る。

 

『御用でしょうか?』

 

『朝早くに申し訳ありません、実は…』

 

 マクゴナガルから事情を窺う。

 

『そんな…バカげてるわ!』

 

 いつの間にか目を覚ましたハーマイオニーが通信に割り込む。

 

『えぇ…私もそう思います…しかし、既に賽は投げられました…』

 

『そんな…』

 

『そこで、差し出がましいようですがお願いがあります』

 

『ご用件は?』

 

『単刀直入に言います。私達に力を貸していただきたい』

 

『もちろんです! そうよね?』

 

『問題ありません』

 

『ありがとうございます』

 

『合流ポイントは?』

 

『私達の作戦では、周辺の死喰い人を突破後、キングスクロス駅を占拠する予定です』

 

『じゃあ、不死鳥の騎士団本部に向かえばいいですか?』

 

『いえ、それでは混乱が起こる可能性があります。なので貴女達にはキングスクロス駅の占拠をお願いしたいのです』

 

『ミッション内容を把握しました』

 

『助かります…キングスクロス駅は、既に死喰い人に占拠されている筈です。重要拠点という事もあり、警備も厳重でしょう…』

 

『問題ありません』

 

『心強いですね』

 

 マクゴナガルの声質からして、メンタルコンデションレベルが若干上昇した。

 

『そろそろ、時間です…では、キングスクロス駅で会いましょう』

 

 通信が終了する。

 

「作戦開始します」

 

「そうね、私も行くわ」

 

「危険…だと言っても付いて来るのですね」

 

「もちろんよ」

 

 ハーマイオニーはタブレット端末を抱え、銃を手に取る。

 

「さぁ、行きましょう」

 

「了解です」

 

 私はハーマイオニーを抱え、デルフィと共に宙へと飛び上がり、キングスクロス駅へと移動した。

 

  作戦開始時刻。

 

 不死鳥の騎士団本部、正面玄関の扉が開かれる。

 

「行くのじゃ! 全員でキングスクロス駅を目指せ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り下ろし、死喰い人の包囲で一番手薄な部分に攻撃を行う。

 

「何事だ!」

 

「分かりません!」

 

「状況を!」

 

 不死鳥の騎士団員の総攻撃により虚を付かれた死喰い人の包囲部隊は、その包囲を崩壊させた。

 

「行くのじゃ!」

 

 ダンブルドアの指示に従い、ある者は箒を使い、またある者は走り出した。

 

 そんな中、ダンブルドアは箒も使わずに宙を飛び、周辺の死喰い人へ攻撃を行う。

 

「くそ! 逃すな! 全員殺せ!」

 

 死喰い人も攻勢に転じ、離脱を開始した不死鳥の騎士団員に攻撃を行う。

 

「うぁ!!」

 

 死喰い人の攻撃により、不死鳥の騎士団員にも被害が出る。

 

「立ち止まるな! 突き進むんだ!」

 

 ロンが杖を振りながら叫びぶ。

 

「邪魔をするな!」

 

 ハリーや、他の生徒も杖を振り、またある者は銃を取り、死喰い人の包囲を突破する。

 

「逃すんじゃないぞ!」

 

 死喰い人は緑の閃光を放ち、それにより、複数人の死傷者が出る。

 

「じゃまだ!」

 

 不死鳥の騎士団員は、銃を、またはロケットランチャーを構え、それにより、敵陣を吹き飛ばし突破する。

 

 近代兵器を採用した差も功を奏したのか、不死鳥の騎士団は無事に死喰い人の包囲を突破し、安全圏まで移動出来た。

 

 包囲を突破後、不死鳥の騎士団員は、キングスクロス駅手前の空き地に集結した。

 

「無事包囲を突破した物はどれくらい居る?」

 

「負傷者。死傷者は全体の5%ほどです」

 

「そうか…思ったより生き残ったな…」

 

 マクゴナガルの報告を聞いたダンブルドアは顎髭を撫でながら頷く。

 

「ここから、キングスクロス駅まであと少しじゃ。準備を整え、一気に行くぞ」

 

「はい」

 

 ロンが返事をすると、周囲の団員に指示を出し始める。

 

 

 

  キングスクロス駅上空に到着後、ハーマイオニーを安全地帯に降ろす。

 

「しばらくお待ちください」

 

「わかったわ」

 

「作戦を開始します」

 

 デルフィは上空から、キングスクロス駅に急降下する。

 

「うぉあ!!」

 

「なんだ!!」

 

 土煙が上がる中、デルフィは直立不動で周囲をスキャンする。

 

「敵…」

 

「攻撃しろ!」

 

 死喰い人が杖を取り、一斉に魔法を発射する。

 

「シールド展開」

 

 死喰い人の放った魔法は、総てシールドで無効化される。

 

「どうなっている!」

 

「コイツら…まさか、報告にあった…」

 

「ウアスロッド展開。攻撃行動に移行します」

 

 ウアスロッドを構えたデルフィが直近の死喰い人へ急接近する。

 

「近接攻撃」

 

 ウアスロッドを横に薙ぎ、その衝撃で吹き飛んだ死喰い人の生命活動が停止する。

 

「くそ!」

 

「撃て! 攻撃を止めるな!」

 

 私はステルスモードを起動し、デルフィに集中している死喰い人の背後に接近する。

 

「そう言えば、コイツら報告ではもう1人居るはずだ」

 

「なんだ…あ…」

 

 攻撃圏内に入った死喰い人の首を、ブレードで切断する。

 

「こっちにもいるぞ!」

 

 恐慌状態の死喰い人が乱雑に魔法を放つ。

 

「バーニア展開」

 

 バーニアを起動し、滑る様に攻撃を避けながら、接近し、死喰い人を切り払う。

 

 作戦開始から2分、既に大半の死喰い人の無力化を完了する。

 

 その時、周辺に中規模のエネルギー反応を検知する。

 

 駅舎内部より、外見だけがラプターに酷似した、複数の自立兵器が姿を現した。

 

 エネルギーレベルや、外部装甲強度などをスキャンした結果、粗悪品であることが判明した。

 

「やってしまえ! こいつ等を始末しろ!」

 

 生き残った死喰い人がこちらを攻撃するように指示を出す。

 

 鈍重な自立兵器は、低速でこちらに接近する。

 

「邪魔です」

 

「排除します」

 

 宙に飛び上がると全ての自立兵器をマルチロックする。

 

「レーザーランス展開」

 

 マルチロックした対象にレーザーランスを打ち込む。

 

 それにより、全ての自立兵器が消滅する。

 

「あぁぁぁあああ!」

 

 レーザーランスに巻き込まれたのか、最後の死喰い人の反応も消滅した。

 

「作戦終了」

 

「制圧完了です」

 

 こうして、私達は3分で、キングスクロス駅を制圧した。

 

「なんか…あっという間だったわね」

 

「ここの警備に付いた連中が哀れに思えるよ」

 

「そうね…」

 

 ハーマイオニーは駅構内にあるベンチへと腰かける。

 

「ふぅ…」

 

 一息入れたハーマイオニーは手で腹部を擦る。

 

「どうしたんだ?」

 

「え? いや、別に?」

 

「コンディションチェック。空腹状態であると判断します」

 

「アハハ…朝から何も食べて無かったから…」

 

「まったく…君と言う奴は…」

 

「売店内部に食料が残って居る可能性があります」

 

「そうなの。ちょっと見て来るわ」

 

「了解。売店内部に動体反応はありません。おそらく無人です」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーは売店へと移動した。

 

 数分後、両手にサンドイッチと飲み物を手に戻って来た。

 

「意外とちゃんとしたものを売っていたわ」

 

「腹の足しにはなるだろう。しかし、店員が居ないんだから代金を払う必要は無かったんじゃないか? わざわざテーブルの上に代金を置くなんて」

 

「だとしてもよ」

 

「そうかい」

 

 再びベンチに腰かけたハーマイオニーは食事を開始した。

 

  キングスクロス駅の100m程手前、準備を整えた不死鳥の騎士団員がダンブルドアの指示を待っていた。

 

「皆、準備は良いな?」

 

「はい!」

 

「良し! では行くぞ!」

 

 ダンブルドアの指示で、不死鳥の騎士団員が一斉にキングスクロス駅に雪崩れ込む。

 

「死喰い人は…どこだ?」

 

「見当たらないぞ!」

 

 予想とは違い、死喰い人の出迎えが無く、不死鳥の騎士団員は疑問を覚える、

 

「何処かに隠れているのかも知れない…」

 

「注意しろ!」

 

 ハリーとロンは互いに周辺を警戒しつつ、歩みを進める。

 

「おい! あそこに!」

 

「あれは!」

 

 ロンが指差した先には、サンドイッチを頬張るハーマイオニーの姿があった。

 

 

「え? ハリーに…ロン?」

 

 サンドイッチを片手にハーマイオニーが唖然として居た。

 

「ハーマイオニー! 良かった、無事だったんだ」

 

「えぇ、ハリーも元気そうね」

 

 ハリーとハーマイオニーは軽くハグをする。

 

「君達も、こんな所で何を──」

 

「ハリー! 戻れ!」

 

「え?」

 

 ハリーが振り返ると、そこにはこちらに杖を向けたロンの姿があった。

 

「ロン? 何してんだよ?」

 

「ハリーこそどうかしてるよ。そいつらは裏切り者だぞ! 僕からハーマイオニーを…」

 

「ロン…まだそんな事言っているのか?」

 

「はぁ…」

 

 ハリーとハーマイオニーは呆れた様に溜息を吐く。

 

 ロンの大声により、人だかりが出来上がる。

 

「何事じゃ」

 

 騒ぎを見たダンブルドアが人混みを掻き分けて現れる。

 

「お主達…一体なぜここに居るのじゃ…」

 

 ダンブルドアが杖を構え、低い声で問いただす。

 

 その動作を見た複数人が、同調するように杖を構えた。

 

「待ってください!」

 

「ハリー! 戻るのじゃ!」

 

「しかし!」

 

「ワシの言う事を聞くのじゃ! お主達も、一体何が目的じゃ!」

 

 ダンブルドアは声を荒らげる。

 

「我々は援護要請を受け、キングスクロス駅を占拠しました」

 

「援護要請じゃと…一体誰が…」

 

「私です」

 

 マクゴナガルが声を上げると、周囲の人集りが割れる。

 

「ミネルバ、どういう事じゃ?」

 

 マクゴナガルは私達に接近する。

 

「私が、彼女達にキングスクロス駅を占拠するように依頼しました」

 

「なぜそのような事をしたのじゃ?」

 

「私達だけでは、生徒を守るには力不足です」

 

「それ故に裏切り者の手を借りたと? ばかげている」

 

「ばかげているのは貴方ですよ。ダンブルドア」

 

「何じゃと…」

 

 ダンブルドアが面食らったように後退る。

 

「ほぉ、やるねぇ」

 

「思った事を言ったまでですよ」

 

 トムはホログラム化する事無く、マクゴナガルに話しかける。

 

「この声は…ミネルバ! お主も裏切り者じゃったのじゃな!」

 

 ダンブルドアがマクゴナガルに向け、杖を振り下ろす。

 

「シールド展開」

 

 私はダンブルドアとマクゴナガルの間に割り込み、シールドにより魔法を無力化する。

 

「何じゃと…」

 

「助かりました。このように、彼女達は私を守ってくれました。敵対しているのならば守る必要など無いはずです」

 

「おのれ…」

 

「ここは協力し、ホグワーツを取り戻すべきです! 貴女達も力を貸してくれますね」

 

「もちろんです!」

 

「問題ありません」

 

「援護要請を受諾」

 

「助かります」

 

 マクゴナガルが一礼する。

 

「おのれぇ…全員杖を構えるのじゃ! 裏切り者を許すな!」

 

 ダンブルドアが杖を構えると、複数名の純血者が杖をこちらに向ける。

 

 しかし、それと同時に複数人が隊列から抜け出す。

 

 その中にはシリウスとルーピンと言った不死鳥の騎士団の主要メンバーも含まれていた。

 

「どう言う事じゃ…」

 

「彼等は貴方より賢い選択が出来るという事ですよ」

 

 マクゴナガルの発言により、ダンブルドアのストレスレベルが向上する。

 

「ふざけるでない! 撃て! 攻撃じゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り下ろす。

 

 それと同時に杖を構えていたメンバーも杖を振り、魔法を放つ。

 

「「シールド展開」」

 

 私達は同時にシールドを展開し、迫り来る魔法を全て無効化する。

 

「なんじゃ…と…」

 

「無駄な行動はおやめください」

 

「これ以上攻撃を続けるのならば、反撃行動に移ります」

 

「ふざけるなよ!」

 

 ロンが激昂する。

 

「戦力レベルを試算したところ、そちらの戦力で我々に勝てる確率は0%です」

 

「うぅうううぅ! くそ!」

 

 唸り声を上げたダンブルドアが杖を下ろす。

 

「良かろう…一時的に協力関係になる事を認めよう」

 

「了解です」

 

「では早速じゃが、ワシの指示に──」

 

「お言葉ですが、貴方の指示に従う必要性が見出せません」

 

「何じゃと…」

 

「校長…仕方ありませんよ」

 

 マクゴナガルがダンブルドアを宥める様に諭す。

 

「好きにしろ…」

 

 そう一言だけ言い残すと、ダンブルドアはホグワーツ特急へと乗り込んだ。

 

 




ここで、次回作の被害者候補に上がった作品を。

進撃の巨人。

殲滅される巨人になる未来しかない為、没。

GATE。

破滅しか未来が無い…


それではまた次回。


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乱戦

いよいよ、ホグワーツに乗り込みます。



   ホグワーツ特急の出発準備にしばらく時間がかかる為、私達はその間に希望者に対しブリーフィングを行う。

 

「これよりミッションプランをご説明いたします。まず、ホグワーツ特急を利用し、ホグワーツ駅へと突入します。その後ホグワーツ内部へ侵入後、内部の死喰い人を殲滅。ホグワーツを奪還します」

 

「うん」

 

「本作戦は状況が大きく変化する事が予想されます。予想外の事態につきましては各員の判断に任せます」

 

「わかったわ」

 

「敵は複数で行動すると予想されます。その為こちらも複数での行動を推奨します」

 

「了解」

 

 簡単ながらミッション内容を説明する。

 

「それでは、各員乗車してください」

 

 不死鳥の騎士団員が、列車へと乗り込んで行く。

 

 全員の乗車が確認後、ホグワーツ特急は、戦場へと走り出した。

 

 

  キングスクロス駅を過ぎてから、しばらく時間が経つ。

 

「何か…複雑な気分ね…」

 

「何が?」

 

 コンパートメント内部でハーマイオニーが呟く。

 

「今までは学校へ行くのは楽しみだったけど…今は…」

 

「まぁ…そうだね…」

 

 ハリーとハーマイオニーのメンタルコンデションレベルが低下する。

 

「そう言えば、ロンは何処に行ったの?」

 

「なんでも、ダンブルドアに呼び出されているらしいよ」

 

「そうなの…ねぇ、最近のロンなんか変じゃない?」

 

「まぁ…かなり変わったね」

 

「何故かしら?」

 

 ハーマイオニーが首を傾げると、ハリーは溜息を吐く。

 

「まぁ…君に言うのは野暮ってものだろう」

 

「え?」

 

 ハーマイオニーは首を傾げ、困惑する。

 

 その時、列車の周囲に飛行する動体反応を検知する。

 

「動体反応検知」

 

「え?」

 

「恐らく、敵襲だと思われます」

 

「敵襲だって!」

 

 その時、列車自体が大きく揺れ、警笛が木霊する。

 

「くそ!」

 

 ハリーが窓の外を覗くと箒に乗った死喰い人が列車本体への攻撃を行っていた。

 

「マズイ! このままじゃ!」

 

「見て! あれ!」

 

 周辺には死喰い人がだけではなく、外見のみがラプターの自立兵器が浮遊していた。

 

 機体数は多いが、敵脅威レベルは低い。

 

「くそ! ゴーレムまで!」

 

「迎撃します」

 

「迎撃って…どうするんだよ?」

 

「車外に出ます」

 

「危険ですのでコンパートメント内に居てください」

 

「気を付けてね」

 

 私達はコンパートメントの扉を開け、廊下へと出る。

 

 そのまま近くの出口を開き、車外へと飛び出る。

 

「「バーニアセミオートモード」」

 

 飛び出ると同時にバーニアをセミオートで起動し、汽車と並走する。

 

「誰か出てきたぞ!」

 

 箒に乗った死喰い人が声を上げる。

 

「敵部隊確認。殲滅を開始します」

 

「了解。こちらは敵機動兵器の相手をします」

 

 デルフィは飛び上がり、機動兵器へと向かう。

 

 

 接近したデルフィはウアスロッドで一方的に機動兵器を破壊していく。

 

 

 私は上空に飛び上がり、死喰い人を全てマルチロックで捕捉する。

 

「レーザーランス発射」

 

 手の平からレーザーランスを放ち、全ての死喰い人を蒸発させる。

 

『相変わらずえげつないねぇ』

 

『貴女達が敵じゃなくて良かったわ』

 

 ハーマイオニー達は窓の外からこちらの様子を見ている様だ。

 

「死喰い人殲滅完了。引き続き機動兵器の殲滅の援護へ向かいます」

 

 上空で反転し、ブレードを構え敵機動兵器部隊へ接近する。

 

 既にデルフィの攻撃により8割ほど殲滅が終了していた。

 

「援護を開始します」

 

「了解。敵を捕捉します」

 

 デルフィがベクタートラップを起動し、周辺の空間を圧縮し、機動兵器の動きを拘束する。

 

「バーストモード移行。バーストショット準備」

 

 バーストモード移行し、拘束された機動兵器の中心へと打ち込む。

 

 着弾後、大規模な爆発が起こり、周辺の機動兵器が崩壊する。

 

 しかし、爆発から逃れた1体が撤退を開始した。

 

「追撃します」

 

 追撃行動へと移動しようとした時、車窓からロンが身を乗り出す。

 

「逃すか!」

 

 身を乗り出したロンは、旧式のロケットランチャーを担ぎ出し撤退を開始した機動兵器へ攻撃を行う。

 

「うぉお!!」

 

 発射されたロケット弾頭は機動兵器の横を通り過ぎる。

 

「ビームガン発射」

 

 ミサイル弾頭が通り過ぎた後にビームガンで機動兵器を破壊する。

 

「良し! 僕の攻撃が当たったぞ! 僕が仕留めたんだ!」

 

 ロンが車窓から身を乗り出しながら歓喜の声を上げる。

 

 私達は入り口から車内へと戻る

 

「さっきのロン…どう見ても外していたような気が…」

 

「確実に外していたね」

 

「思い込みが激しいのね」

 

 ハーマイオニーとトムは呆れた様だった。

 

「ゴホゴホ! ロン! 撃つ時は気を付けろよ! 壁が焦げてるぞ!」

 

「悪い悪い」

 

 どうやら、ロケットランチャーのバックブラストにより壁の一部が炎上したようだ。

 

「あれ、下手すれば死人が出てたぞ」

 

「危ないわね…」

 

 ハリーは呆れながら消火作業に移行した。

 

 数十分後、汽車は無事にホグワーツ駅へと到着した。

 

  ホグワーツ到着後、全員が警戒しながら下車する。

 

「皆、周囲に気を配るのじゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を掲げ、それに従う様に複数人が陣形を組む。

 

「スキャン完了。周辺に敵性反応はありません」

 

「良かった…」

 

 ハーマイオニーは一息吐き、胸を撫で下ろす。

 

「しかし、ホグワーツの周辺には敵本隊と思われる反応があります」

 

「それは…厄介ね…」

 

「ここまでくればホグワーツは近い。行くぞ!」

 

「おぉぉお!」

 

 ダンブルドアが先陣を切り、森を抜けて行く。

 

 森を抜け、ホグワーツが見えて来る。

 

 ホグワーツの周辺は通常サイズのオービタルフレームが1個中隊規模配備されており、死喰い人の防衛ラインが形成されている。

 

「巨大なゴーレムがあんなに…」

 

「20mくらいあるな…あんなの…突破できるのかな…」

 

 敵の戦力に圧倒されたのか、多くのメンバーがメンタルコンデションレベルを低下させる。

 

「ここまで来たのじゃ! 皆あと少しじゃ! 行くぞ!」

 

 ダンブルドアが杖を掲げ、複数名が声を上げ、走り出す。

 

「お待ちください」

 

 走り出したメンバーがその場で躓く。

 

「なんだよ!」

 

「作戦も無く、突貫するのは無謀です」

 

「そんな事言ったって…どうしろって言うんだよ!」

 

 ロンが声を荒らげる。

 

「猪突猛進しか知らぬ馬鹿なんだろうな」

 

「無謀は勇無き者がなんとやらね」

 

「特攻は流石に…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐き、ハリーは呆れていた。

 

「そこまで言うなら、何か作戦はあるのかよ?」

 

「そうじゃ」

 

 ダンブルドアが髭を軽くなでる。

 

「まずは、部隊を2つに分けます」

 

「その後、我々が先行しオービタルフレームを引きつけます」

 

「その間に2分した部隊は進撃を開始してください」

 

「進撃中、敵部隊の反撃行動が予想されます」

 

「部隊長に無線機をお渡しします。必要に応じ援護要請を行ってください」

 

「しかたないのぉ。ワシが本隊の指揮を取ろう。ミネルバ。お主に分隊の指揮を任せる」

 

「わかりました」

 

 ダンブルドアが純血者を主としたメンバーを集結させる。

 

「ハリー、ハーマイオニー。こっちだよ」

 

 ロンが2人をダンブルドア側へと手招きする。

 

「いや…私は止めておくわ」

 

「なんで?」

 

「それは…」

 

「そっちに行くメリットが無いからだろ?」

 

 トムが答えるとロンの表情が曇る。

 

「ちっ。ハリー行こうぜ」

 

「えっと…僕もこっちに…」

 

「はぁ? 理解できないよ! もう良い! 勝手にしな!」

 

 声を荒らげ、ロンがダンブルドアの分隊へと入る。

 

 こうして、ダンブルドア側には、純血者、純血主義者が集まり、マグル出身者などがマクゴナガルの元へと集まった。

 

「では、無線機を──」

 

「そんな物は不要じゃ」

 

 ダンブルドアが無線機を拒否する。

 

「ですが」

 

「お主達の手を借りる様な事にはならん」

 

「そうですか」

 

 マクゴナガルは不安そうな表情で無線機を受け取る。

 

「時は来た! 行くぞ!」

 

 ダンブルドアが号令を出し、分隊が突撃を行う。

 

「なんて勝手な…」

 

「我々も先行します。合図をしますのでお待ちください」

 

「わかりました」

 

 マクゴナガルは分隊に待機命令を下す。

 

 

 私達はバーニアの出力を上げ、ダンブルドアの分隊の上空へと移動する。

 

「我々が先行します。待機してください」

 

「ホグワーツは目の前なんだ! じっとしていられない!」

 

 ロンは叫ぶと、進行を止めようとはしない。

 

 その時、敵オービタルフレームに動きがあった。

 

 2機のオービタルフレームラプターが起動し、こちらに接近してきたのだ。

 

「敵オービタルフレームの索敵圏内に入りました」

 

「撃て! 撃つのじゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り、それに従う様に複数名がロケットランチャーを担ぎ、攻撃行動を行う。

 

 発射された弾頭はラプターの表面装甲に着弾すると小規模な爆発を起こし、装甲に焦げ跡を付けた。

 

「き、効いてない…じゃと…」

 

 ダンブルドアは数歩後退り、難色を示す。

 

 ラプターは駆動音を響かせ、両腕のビームソードを起動させる。

 

「ぷ…プロテゴ…まきし…」

 

 ダンブルドアが蚊の鳴く様な声で呟くが、防御魔法が展開される事は無かった。

 

 ラプターは躊躇う事無く、ビームソードを振り下ろそうとする。

 

「攻撃開始」

 

 私はビームサーベルでラプターの右腕を切り離す。

 

 切り離した右腕はビームソードを展開したままの状態だったので、右手で掴み、そのままラプターの頭部へと突き刺す。

 

 ビームソードが突き刺さったラプターは数回火花を散らし、起動停止した。

 

 攻撃を仕掛けてきた残りの1機は既にデルフィによって破壊されていた。

 

「助かった。よくやったのぉ」

 

「危険です。待機してください」

 

「待機じゃと? 馬鹿を言うな。このまま進む」

 

「危険です」

 

「もう良い! お主達の手など借りぬ!」

 

「危険です」

 

「先程のようなことは滅多に起こらぬ! 用事があったら呼ぶ! 命令じゃ!」

 

「そうだ! そうだ!」

 

 ダンブルドアが声を荒らげ、ロンを始め、複数人がそれに賛同する。

 

「了解です」

 

 私達は浮遊し、後退する。

 

「さぁ! 進撃開始じゃ!」

 

 ダンブルドアが声を上げると、再び部隊が進軍を開始した。

 

 その時、マクゴナガルから通信が入る。

 

『そちらの部隊はどの様な状況ですか?』

 

『3分の1ほど進んだところです』

 

『私達も、そろそろ進んだ方が良いですか?』

 

『援護を行います。進軍を開始してください』

 

 進軍を開始するダンブルドアの分隊を見送り、私達はマクゴナガの分隊に接近するオービタルフレームを排除し、合流する。

 

「ご無事ですか?」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

「進撃の準備もできているわ」

 

 ハーマイオニーが答え、他の生徒が頷く。

 

「了解。進撃を開始します」

 

 私達が先行すると、その後を分隊が続く。

 

 

 マクゴナガルの分隊を援護しながら、半分程進行すると敵オービタルフレーム部隊により包囲されているダンブルドアの分隊が見えてきた。

 

 ダンブルドアによる防御魔法で攻撃を辛うじて防いでいる様だが、時間の問題だろう。

 

「あれは…」

 

「ダンブルドアの分隊だな。無謀な事を…」

 

「あれでは…死者が出てしまいます…」

 

「既に、死傷者が多数出ているようです」

 

「そんな…」

 

「まったく…あの老害はこんな状態でも援護を出さないのか…」

 

「意固地になっているんじゃないかしら? それか、援護の出し方を知らないのかもしれないわ」

 

「まったく…困ったものだ」

 

 トムは呆れた口調で溜息を吐く。

 

「あちらの援護をお願いします」

 

 マクゴナガルが援護依頼を出す。

 

「了解」

 

「敵オービタルフレーム群の殲滅を開始します」

 

 このままダンブルドアの分隊を集中的に援護すれば部隊を2分した意味が無くなると判断し、私が分隊の援護へ、デルフィが敵オービタルフレームの殲滅へと向かう。

 

 私は速度を上げ、ダンブルドアの分隊の上空へと移動する。

 

「攻撃が来る!」

 

「耐えるのじゃ!」

 

 ダンブルドアが防御魔法を展開するが、ラプターのビームソードによって容易く打ち砕かれる。

 

「なんという…」

 

 既に、死傷者が多数出ている為か、ダンブルドアの表情も苦悶に曇る。

 

 防御魔法を打ち砕いたラプターが追撃の為、再びビームソードを構える。

 

「くっ!」

 

 分隊の多くは身を構え、迫り来る衝撃に耐える。

 

「攻撃開始」

 

 私はビームガンをラプターに向け発射する。

 

 放たれたビーム弾はラプターの頭部に命中すると、ラプターの体が爆発する。

 

「うぉ!」

 

 ダンブルドアの体が爆風に晒され、呻き声を上げる。

 

「危険ですので、これ以上孤立するような行動は慎んでください」

 

「あ…あぁ…」

 

 ダンブルドアは数回頷く。

 

 その時、デルフィから通信が入る。

 

『敵オービタルフレーム群、半数を撃破』

 

『了解。反応多数増大。敵猛攻、来ます』

 

 ホグワーツ周辺から大量のオービタルフレームと、粗悪品の機動兵器が現れる。

 

 そして、敵オービタルフレーム群の先頭にC型オービタルフレーム、『ネイト』を確認する。

 

 ネイト

 

 バフラム軍のC型オービタルフレーム。逆三角形の頭部と女性的なフォルムを持ち、腰部から三本のスラスターが伸びている。両腕に仕込まれた射撃武器「クナイ」と鞭状のブレードを主要武器とし、速度や機動性に優れている。

 

 どうやら、搭乗者(ランナー)が存在する様だ。

 

「なんという数じゃ…」

 

「敵部隊の殲滅行動を行います」

 

 私は、その場である程度飛び上がる。

 

「ホーミングミサイル展開」

 

 ベクタートラップからホーミングミサイルを展開する。

 

 その後、敵部隊をマルチロックする。

 

「ホーミングミサイル連続発射」

 

 通常では16基ほどのミサイルだが、私はその場で動きを止め、止めど無くホーミングミサイルを連射する。

 

 放たれたホーミングミサイルは敵オービタルフレームに直撃し、破砕する。

 

 しかし、ミサイル群を突破する機体も複数存在した。

 

 ネイトもミサイル群を突破したようだ。

 

『突破した機体はこちらで処理します』

 

 突破した機体は、高度を下げたが、そのままデルフィによって破壊される。

 

「凄い…」

 

「何が…どうなっているのじゃ…理解できん…」

 

 ダンブルドアは呟くだけで、それ以上の事はしようとはしなかった。

 

『舐めるんじゃないよ!!』

 

 ネイトのランナーが声を荒らげる。

 

 声のデータを参照するに、ランナーはベラトリックス・レストレンジの様だ。

 

 ネイトがブレードを展開し、デルフィに襲い掛かる。

 

「防御行動」

 

『お前達さえ! 居なければ! 私は! 我が君は!』

 

 単調な動きでネイトはブレードを繰り出す。

 

 デルフィはウアスロッドで攻撃を受け流す。

 

 ネイトの動きから推測するにAI等は搭載していない様だ

 

 その為、動きも単調で、搭乗者にも高い負荷がかかるはずだ。

 

「援護します」

 

 私はネイトの背後から接近し、拘束する。

 

『しまった!』

 

「攻撃します」

 

 デルフィがネイトに向け、ウアスロッドを投擲する。

 

 私はネイトの背を軽く押し、その場から撤退する。

 

『うぎぉ!』

 

 デルフィが投擲したウアスロッドはネイトのコックピットを貫通し、その動きを停止させた。

 

「敵部隊の殲滅を確認」

 

「進撃を再開してください」

 

「あ…あぁ…」

 

 ダンブルドアとマクゴナガルの分隊は進撃を再開させた。

 




ベラトリックスが呆気なく死亡しました。

まぁ、仕方ないですね。


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オービタルフレーム

お辞儀さんとの決着の時です。


   オービタルフレーム群を突破し、ホグワーツの眼前まで進撃する。

 

「乗り込むのじゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り、それに従う様にダンブルドアの分隊が正門へと突撃する。

 

 しかし、正門上部から死喰い人が魔法による攻撃を行う。

 

「応戦しろ!」

 

 最前列でロンが声を張り上げ、杖を振る。

 

 また別の人物は正門にロケットランチャーを発射する。

 

 放たれた弾頭により、正門の破壊が成功する。

 

「行くぞ! 全員突っ込むのじゃ!」

 

 破壊した正門から、全員が玄関ホールへと雪崩れ込む。

 

「防衛しろ! これ以上行かせるな!」

 

 玄関ホールには大勢の死喰い人が待機しており、瓦礫を盾にしながらこちらに魔法を放つ。

 

「突破するのじゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り、複数人の死喰い人を無力化しつつ、階段を上る。

 

「ヴォルデモートは恐らく最上階じゃ! 奴を倒すのじゃ!」

 

「最上階…」

 

 ダンブルドアに続き、ハリーも階段を駆け上がる。

 

「ハリー!」

 

 ハーマイオニーもシールド展開しつつ階段を上って行く。

 

「校長達だけでは危険です! この場は私達で持ちこたえます。貴女達2人は校長達の援護を!」

 

 マクゴナガルは杖を振りつつ声を荒らげる。

 

「了解」

 

 私は周辺の死喰い人にファランクスを展開し、十名前後を無力化した後、ダンブルドアの後を追う。

 

 

  階段を駆け上がったダンブルドアが校長室の扉を開く。

 

 そこは、以前までの校長室と一変しており、様々なエネルギーラインが壁全体を走り、中央の玉座に集まっている。

 

 玉座にはヴォルデモートが腰を掛けており、愉悦の表情を浮かべていた。

 

 そんなヴォルデモートに巨大な蛇がまとわりついている。

 

「来たか」

 

「ヴォルデモート…」

 

「観念するのじゃ! お主の負けじゃ!」

 

 ダンブルドアが杖を突き付けるがヴォルデモートは余裕な表情を見せる。

 

「まさか、ここまで追い詰められるとは思いもしなかった」

 

「それだけ、ワシ等の結束が強いという事じゃ。さぁ、観念しろ。この世を支配するのはお主ではない」

 

「フハハ」

 

 ヴォルデモートは笑い声を上げ、指を鳴らすとホグワーツ全体が大きく揺れ、周辺に高エネルギー反応が集中する。

 

 ヴォルデモートの座る玉座を守る様に保護フィールドが展開される。

 

 次の瞬間、校長室の外壁を突き破り、オービタルフレームの手がヴォルデモートの玉座を回収する。

 

「見せてやろう! これが俺様の力だ!」

 

 オービタルフレームに回収された玉座はそのままコックピットへと変貌した。

 

 校長室に空いた巨大な穴の向こうには、純白のボディに猛禽類の様な頭部装甲。

 

 背後には天使の翼のような推進器を搭載していた。

 

「あれは…まさかオービタルフレーム…」

 

 ハーマイオニーが数歩後退る。

 

「データ参照。該当項目確認。オービタルフレーム『イドロ』です」

 

 イドロ

 

 メタトロン技術を使用した最初のオービタルフレーム。

 

 詳細なデータは削除されている。

 

「アーハハハッ! さぁ! かかってくるが良い!」

 

 イドロから拡声された声が響き渡る。

 

「おのれ!」

 

 ダンブルドアが杖を振り、魔法を放つが、イドロには全く効果が無い。

 

「馬鹿め! くたばれ!」

 

 イドロがこちらに指先を向けると、爪先からエネルギー弾を連射する。

 

「ネイルガン確認」

 

「防御します」

 

 私はシールドを展開し、ハーマイオニー達を守る。

 

 その隙にデルフィがイドロの背後へとゼロシフトで移動し、ウアスロッドを構える。

 

「攻撃開始」

 

 デルフィがウアスロッドを振り下ろす瞬間、デルフィの体が横へと吹き飛ばされる。

 

「え…」

 

 ハーマイオニーはデルフィが引き飛ばされた事に驚きを隠せずにいる。

 

 デルフィが先程まで居た場所には別のオービタルフレームの姿があった。

 

「敵C型オービタルフレームネイト、確認」

 

「そんな! さっき倒したはずじゃ…」

 

「コックピットに損傷を確認。パイロットは既に死亡しています」

 

「じゃあ、なんで」

 

「現在はAIが操作している状況です」

 

「でも、あれにはAIは搭載されていないんじゃ…」

 

「恐らく、パイロットの精神がメタトロンに吸収されAI化したのでしょう」

 

「そんな事って…」

 

 ネイトはイドロの横に寄り添う様に陣形を組む。

 

「出撃します。安全なところへ避難してください」

 

「でも、デルフィが吹き飛ばされるような相手よ…危険だわ」

 

「ご心配無く。無事です」

 

 私は校長室の穴から空中へと飛び上がる。

 

 その時、吹き飛ばされたデルフィが戦線に復帰する。

 

「コネクションチェック。武装に異常無し。ダメージは軽微です」

 

 デルフィが私の隣へと移動する。

 

「フハハ! 俺様の本気を見せてやる!」

 

 イドロが両手を広げると、イドロを中心に光のフィールドが形成され、周囲に光が落ちる。

 

 その瞬間、ホグワーツ周辺の地面が割れ、中からオービタルフレームラプターが大量に放出され、私達の周囲を包囲する。

 

「やれ!」

 

 イドロが振り上げた手を下ろすと、包囲したラプターが私達にビームガンの弾幕を放つ。

 

 私達はその場で回避行動を行い、弾幕を潜り抜ける。

 

「これでもくらえ!!」

 

 イドロが手を振り上げると、ラプターが前傾姿勢となり特攻してくる。

 

「「ベクタートラップ展開」」

 

 大量のラプターが特攻仕掛けて来る中、私達はベクタートラップを最大出力で展開する。

 

 しかし、ラプターの特攻は依然として止まる気配はない。

 

 ベクタートラップ内に吸収されたラプターは分解処理され、純粋なメタトロンへと変化する。

 

 メタトロンの大量摂取により、周辺の空間に歪みが発生する。

 

「メタトロン過剰供給を確認」

 

「過剰エネルギーを修復作業に転用」

 

「修復作業急加速に進行中」

 

「全工程完了」

 

「ベクタートラップ、開放」

 

 大量のメタトロンにより、修復作業が終了し、ベクタートラップを開放する。

 

 次の瞬間、周辺の空間が歪み、光があふれ出す。

 

「ぐぉお!」

 

「エイダ! デルフィ!」

 

 ハーマイオニーが叫び声を上げる。

 

 その時、緩やかに光が収縮し、2つの巨大な人型のシルエットが浮かび上がる。

 

「「メタトロン完全吸収完了」」

 

 次の瞬間、蒼と赤の閃光が周辺に飛び散り、周囲を飛ぶ敵オービタルフレームを殲滅する。

 

「あれは…」

 

「なんと…ゴーレムじゃと…」

 

「いや、ゴーレムなんかじゃない。オービタルフレームだ」

 

 その場で戦闘を行っていた全員の視線が、2対の純白な装甲を身に纏ったオービタルフレームに注がれる。

 

 片方は、背中に六角形の集合体型ウィスプを搭載し、手に巨大なウアスロッドが握ら得ていた。

 

 もう一方は、頭部にはフェイスガードなどは無く、白い仮面の様な印象。胴体、及び脚部などの関節部は金色のフレームが露出しており、右腕には折り畳み式のブレードを装備し、左手にはシールド発生装置が装備されている。

 

「オービタルフレーム、ネイキッド・ジェフティ」

 

「オービタルフレーム、アーマーン・アヌビス」

 

「「起動」」

 

 

 ジェフティに乗り込んだ私は、神経接続を行う。

 

 それによりAI時代と同様の光景が脳内に広がる。

 

 デルフィもそれは同様の様だ。

 

「ほぉ…それがお前達の…良いだろう! 相手をしてやる!」

 

 

 イドロとネイトが戦闘隊形を取る。

 

「「戦闘を開始します」」

 

 私達は、ゼロシフトを使用し、ジェフティはイドロへ、アヌビスはネイトとの距離を一気に詰める。

 

 

「ふぬぅ!!」

 

 振り下ろしたブレードをイドロの右手に搭載されている、ガンユニットと合体した大型のブレードによって防がれる。

 

 ブレード同士が干渉し、周囲に火花が散る。

 

 アヌビスのウアスロッドによる攻撃も、ネイトは防御したようだ。

 

「くらえ!!」

 

 イドロの左指先がジェフティの頭部へ向けられる。

 

 次の瞬間、大量のネイルガンがジェフティの頭部へと放たれる。

 

 しかし、ネイルガンはジェフティが常時展開しているシールドによって防がれる。

 

「ちぃ!」

 

 ヴォルデモートは分かり易く、舌打ちをすると、イドロが距離を取る。

 

 アヌビスが相手をするネイトは無人機の為か、ダメージを気にする事無くアヌビスの攻撃行動に合わせ攻撃を行っている。

 

「ダメージ報告。損傷率5%。問題はありません」

 

 デルフィから報告が入る。

 

「了解」

 

「貴様の相手は俺様だ!」

 

 イドロの両掌から複数のホーミングレーザーが放たれる。

 

「レーザーロック。レーザーランス展開」

 

 迫り来るホーミングレーザーに対し、こちらのレーザーランスを発射し、相殺する。

 

「なんだと!」

 

「レーザーランス展開」

 

 ホーミングレーザーを相殺後、続け様にレーザーランスを発射する。

 

「くそ!」

 

 イドロはその場から飛び上がると、高速移動し、レーザーランスを回避する。

 

「追撃します」

 

 ジェフティがゼロシフトでイドロとの距離を詰める。

 

 その時、ジェフティにアヌビスが激突する。

 

 どうやら、ネイトによって投げ攻撃を行われた様だ。

 

 しかし、アヌビスもただやられた訳では無く、ネイトを撃破したようだ。

 

 ジェフティでアヌビスを受け止め、空中で静止する。

 

「ご無事ですか?」

 

「損傷率12%、戦闘継続に支障はありません。敵C型オービタルフレームネイトを撃破しました」 

 

「了解」

 

 私達は、陣形を整えイドロと対面する。

 

「貴様等…よくも!」

 

 イドロの背部ベクタートラップによる圧縮空間から2基の砲身が現れる。

 

 恐らく、コメットの様なエネルギー弾を発射するハンドランチャーだと思われる。

 

「消し炭になれ!」

 

 ハンドランチャーからエネルギー弾がこちらに向け、高速で連射される。

 

 回避可能だが、流れ弾により周辺に被害が出る恐れがある。

 

「防衛行動」

 

 ホグワーツの瓦礫の一部である、板状の廃材を手に取ると、防衛態勢に入る。

 

 廃材により強化された防御シールドにより、連射されるハンドランチャーを受け止める。

 

「攻撃開始」

 

 ゼロシフトでイドロの背後に回ったアヌビスはウアスロッドを振り下ろす。

 

「ぐおぉ!!」

 

 ウアスロッドの攻撃を背面に受け、片方の翼状推進器が破損する。

 

 しかし、イドロは片翼の出力を上げ、高度を維持する。

 

 その際、エネルギー状の羽が周囲に飛び散る。

 

「まるで、片羽の天使だな」

 

「あら、詩的な事言うのね」

 

 

 安全圏に撤退した、2人の会話が無線に混線する。

 

「おのれ! 許さん!」

 

 イドロが片手を掲げると手の平に巨大なエネルギー弾を形成する。

 

「敵対象バーストモードへ移行を確認」

 

「対消滅させます。バーストモード移行」

 

 ジェフティもバーストモードへ移行し、手の平を掲げ、巨大なエネルギー弾を形成する。

 

 それに倣う様に、アヌビスもバーストモードへ移行する。

 

「消しとべぇぇえええ!」

 

 イドロが、バーストモードショットを放つ。

 

 放たれたエネルギー弾を相殺する為に、ジェフティのバーストショットを放つ。

 

 両者のエネルギー弾が空中で直撃し、周囲にエネルギーの余波を撒き散らしながら、対消滅を起す。

 

「バーストショット、戌笛、発射」

 

 隣でアヌビスがバーストショット、戌笛を放つ。

 

 2発の、エネルギー弾がイドロに迫る。

 

「くそっ!」

 

 イドロは左腕を前面に出し、円形のフィールド発生装置によりシールドを形成する。

 

 シールドによる防御形態を整えたイドロに戌笛が直撃する。

 

「ぐおぉおおぉぉおおぉお!!」

 

 1発目でシールドにヒビが入る。

 

 2発目の直撃により、シールドが完全に破壊され、余波がイドロの装甲にヒビを入れる。

 

「お…おのれ…」

 

 大破寸前のイドロは、機体の至る所から煙を上げ、火花を散らしている。

 

 ジェフティで屋根の頂上にあるフラッグポールを手に取る。

 

「バーストモード移行」

 

 手にしたフラッグポールをバースト状態にする。

 

「投擲」

 

 イドロの上部からした方向へとフラッグポールを投擲する。

 

「あぐががうあうああああぐううううぅうぉぉお!!」

 

 投擲したフラッグポールがイドロの胴体を貫通し、クィディッチ会場に叩きつけられる。

 

 クィディッチ会場で磔にされたイドロは起動を停止する。

 

「敵オービタルフレーム起動停止を確認」

 

 オービタルフレームをベクタートラップ内に収納した私達は校長室へと着地する。

 

「大丈夫?」

 

 ハーマイオニーとハリーがこちらに歩み寄る。

 

「問題ありません」

 

「アヌビスの損傷は軽微です。現在はベクタートラップ内で自己修復中です」

 

「そう、無事なら良かったわ」

 

 ハーマイオニーが安どの表情を示す。

 

「それで…ヴォルデモートは?」

 

「あちらです」

 

 デルフィがクィディッチ会場で磔となっているイドロを指差す。

 

「あれが…」

 

「クィディッチ会場じゃ! 行くぞ!」

 

 ダンブルドアが声を張り上げる。

 

「ハリー! 来るのじゃ!」

 

「は、はい!」

 

 ダンブルドアに急かされ、ハリーが校長室を後にする。

 

「私達も行きましょう」

 

 ハリーが校長室を出た後、私達もクィディッチ会場へと足を向けた。

 




遂に、ジェフティとアヌビスがオービタルフレーム化しました。

え?
2人は既にオービタルフレーム級の火力を持って居るだろって?

その通りです。
ではなぜオービタルフレームを出したか。

理由は簡単。

そっちの方がカッコいいだろ?

まぁ、他にもオービタルフレームの用途はあるので。


お辞儀さんが搭乗していた、イドロと言う期待は。

OVAに登場する、最初のオービタルフレームです。


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終末の魔法使い

タイトル回収です。

今回でこの作品も――…が…

おっと、ジャ…ングが――


  クィディッチ会場に向かうまでの道中、複数名の死喰い人の死体が転がっていた。

 

 恐らくダンブルドアによって、無力化されたのだろう。

 

 

 クィディッチ会場の中心。

 磔状態のイドロへと接近する。

 

 すると、コックピットが開き、内部から傷だらけのヴォルデモートと大蛇の死骸が転がり出て来る。

 

「お…おのれぇ…」

 

「勝負あったなぁ。トムよ」

 

 ダンブルドアが倒れているヴォルデモートに歩み寄ると、杖を突き付ける。

 

「ぐぉ…く、くそぉ…」

 

 ヴォルデモートは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

 対するダンブルドアは何処か悲しそうな表情をしていた。

 

 その時、コックピットから大蛇が飛び出し、ダンブルドアに襲い掛かる。

 

「邪魔じゃ」

 

 襲い掛かった大蛇を右手で掴む。

 

 その時、ダンブルドアの体に、緑のエネルギーラインが走る。

 

「消えよ」

 

 大蛇の口に杖を差し込むと、緑の閃光が走り、大蛇が灰のようになる。

 

「ぐおぉおおぉぉおおぉお!!」

 

 大蛇が消失すると同時に、ヴォルデモートは再び苦しみだす。

 

「ハリーよ。こっちへ来るのじゃ」

 

「は、はい…」

 

 ハリーがダンブルドアの横へと歩み寄る。

 

「見よ。これが闇の帝王じゃ…なんとも不憫な物じゃな」

 

 呻き声を上げるヴォルデモートを2人は見据える。

 

「ごほっ」

 

 ヴォルデモートがせき込み、吐血する。

 

「さて、そろそろ楽にしてやろう…」

 

 ダンブルドアは杖を掲げる。

 

「ハリーよ。最期の瞬間じゃ」

 

「はい…」

 

 ダンブルドアは数歩後退ると、杖を構える。

 

「さらばじゃ」

 

 ダンブルドアの杖先から緑の閃光が迸る。

 

「…ハリー・ポッターよ」

 

「え?」

 

 その閃光はハリーを貫いた。

 

 緑の閃光がハリーの胸部を貫くと、その場で崩れ落ちる。

 

「ぐおぉおおぉぉおおぉお! あぁぁぁあああ!」

 

 ハリーが崩れると同時にヴォルデモートはさらに苦しみ、もがく。

 

「トムよ…お主は多くを間違えた」

 

「ハァ…あぁ…グッ…あ」

 

「お主が世界を支配しようなど大きな間違いだ…」

 

 ダンブルドアが三度杖を振ると、ヴォルデモートの体が燃え上がる。

 

「この世を支配するのは…お主ではない」

 

 ダンブルドアは首を横に振る。

 

「このワシじゃよ…」

 

 数秒後にはヴォルデモートの動きが止まる。

 

 そして、生命活動が完全に停止する。

 

「どうして! ハリーを!」

 

 ハーマイオニーが声を荒らげる。

 

 私達は倒れたハリーに駆け寄る。

 

「心肺機能の停止を確認」

 

「ナノマシン注入。延命措置に移ります」

 

 ナノマシンの循環により、血流を一時的に確保する。

 

 しかし、延命処置に過ぎず、完全に治療するには、大規模な設備が必要となる。

 

 ヴォルデモートの体は、体内のメタトロン鉱石を残し、総てが灰と化す。

 

 ダンブルドアが灰からメタトロン鉱石を回収する。

 

「ハリーは分霊箱なのじゃよ」

 

「分霊箱?」

 

「そうじゃ…トム・リドル…いやヴォルデモートのな…」

 

「それって…」

 

 ダンブルドアは手にしたメタトロン鉱石を口にすると、そのまま飲み込む。

 

 次の瞬間、ダンブルドアの全身に赤と緑のエネルギーラインが幾重にも走る。

 

「ハリーが生きている限り、ヴォルデモートを殺す事は出来ん…これは最初から決められていたことなのじゃ」

 

 ダンブルドアが杖をこちらに向ける。

 

「次は、お主じゃよ。さぁ、ハーマイオニー。トム・リドルを渡すのじゃ。お主が持っているそれが本体なのは分かっておる」

 

 ハーマイオニーはタブレット端末を抱きかかえると庇う様に身構える。

 

「嫌よ! それにトムは分霊箱じゃないわ!」

 

「既に、闇の帝王は敗れた。そんな事は分かっている」

 

「じゃあ! なんで!」

 

「トム・リドルの思考が残る。それは再び闇の帝王を復活させかねん」

 

「横暴だわ!」

 

「僕にそんなつもりは無いんだがね」

 

「お主にそのつもりがあろうが無かろうが関係ない」

 

 ダンブルドアが杖を振り上げる。

 

  その時、声が響き渡る。

 

「セクタムセンプラッ!!」

 

「なにぃ!」

 

 飛んできた魔法はダンブルドアの左腕を切り飛ばす。

 

「ちぃ! 裏切るのか! セブルス!」

 

 舌打ちをしたダンブルドアは切り飛ばされた左腕を回収する。

 

「ポッターだけでは無く、グレンジャーまで手にかける御つもりかな? 校長」

 

「手にかけるなど、人聞きの悪い。ワシは世界を救うのじゃよ」

 

 回収した左腕を、切断面に押し当て、傷を修復する。

 

 吸収したメタトロンにより、右腕だけではなくダンブルドアの全身がSSA化したのだろう。

 

「ワシは、闇の帝王から、世界を守り、世界を正しい方向へと導く。その為にハリーの犠牲が必要じゃったのだ」

 

「じゃ…じゃあ! ハリーがホグワーツに来たのは!」

 

「そうじゃ…ワシが見守って──」

 

「見守っていた? ふざけるな。ただ家畜のように、殺す為に手元に置いていただけだろう…」

 

 杖を構えたスネイプがダンブルドアの言葉を遮る。

 

「セブルス…お主も分かっておったはずじゃ。これしか方法が無いのじゃよ」

 

「だとしても! それはあまりにも…」

 

「あまりにもなんじゃ? まさか情が湧いたわけではあるまいな? はぁ…セブルス…闇の帝王を倒す。これは、皆の願いじゃ。その為には必要な犠牲じゃ。闇の帝王を倒す事でリリ──―」

 

「五月蠅い!」

 

 スネイプがダンブルドアに向け魔法を放つが、ダンブルドアは杖を振らず右手で弾く。

 

「やめるのじゃ。お主ではワシには勝てぬ」

 

「何処かで信じていた…きっとあなたならば、闇の帝王だけを倒す方法を見つけるのではないかと…だが…」

 

「それは見当違いじゃ。お主は信頼するべき相手を間違えたのじゃよ。あの子の両親…特に、あの母親のようにな」

 

「ふざけるな!」

 

 スネイプは続け様に魔法を連射するが、全てダンブルドアによって弾かれる。

 

「もう良い…」

 

 ダンブルドアが杖を振ると、スネイプの体が自然発火を起す。

 

「あぁ! あぁあっあああ!!!」

 

 奇声を上げ、スネイプは炎を振り払うが、面積は次第に大きくなる。

 

「消火開始」

 

 霧状の水をスネイプに向け噴射する。

 

 しかし、炎の勢い収まらない。

 

「さらばじゃ、セブルス…」

 

 ダンブルドアは振り向かず、その場を離れ、イドロへと接近する。

 

 私は燃え上がるスネイプに接近し呼吸装置を装着させる。

 

「空間圧縮開始」

 

 デルフィがスネイプの周辺から酸素をベクタートラップで圧縮し、無酸素状態にする。

 

 それにより、炎は一瞬で鎮火する。

 

「応急処置開始」

 

 既に、全身に火傷が広がっており、皮下組織にまで影響が出ている。

 

 その為か、スネイプは浅い呼吸で瀕死状態だ。

 

 医療用ナノマシンを注入し、治癒力を高める。

 

 それと同時に、ベクタートラップを開放し、ミスト状の無菌生理食塩水を掛け、冷却する。

 

「大丈夫なの?」

 

「応急処置は終了しましたが危険な状態です」

 

  その時、大規模な駆動音が周囲に響く。

 

「なに!」

 

 ハーマイオニーが驚愕する。

 

 すると、磔状態であったイドロにエネルギーラインが走る。

 

「フハハハハハ!! 素晴らしい! 力が湧き上がる!」

 

 ダンブルドアの声がイドロから拡声される。

 

「まさか…」

 

「ダンブルドアか! あいつが乗っているのか!」

 

 イドロは右腕で、貫かれているウアスロッドを引き抜くと、浮上する。

 

「これは返すとしようかのぉ」

 

 ダンブルドアの声が響くと、フラッグポールがこちらに投擲される。

 

「ベクタートラップ開放」

 

 デルフィが迫り来るフラッグポールを弾き飛ばす。

 

 イドロは上空へと浮上する。

 

「全ての魔法使いよ! 聞くのじゃ!」

 

 イドロから拡声されたダンブルドアの声が響く。

 

「闇の帝王、ヴォルデモートは敗れた! そしてこのワシが勝った!! しかし勝利には犠牲が付きものじゃ…ハリーと言う尊い犠牲があったがな…無駄な争いは止めるのじゃ!」

 

 ダンブルドアの声が響き渡り、各所の戦闘反応が消える。

 

「そうじゃ、これ以上無駄な争いは止めるのじゃ! ワシ達は皆魔法使いじゃ! そこに純血も混血も穢れた血も無い!」

 

 その場の全員の視線がイドロに集まる。

 

「ヴォルデモートが純血に拘るのも分かる。しかし! ワシ達は皆、魔法と言う人知を超えた力を持っている! それは、マグルには無い力じゃ!」

 

 全員がクィディッチ会場に集まり、イドロを見上げる。

 

「ハリー!」

 

「スネイプ先生!」

 

 マクゴナガル達が合流すると、ハリーとスネイプに駆け寄る。

 

「一体誰がこんな事を…」

 

「ダンブルドアだ…」

 

「なんですって!」

 

 3人は驚愕の表情を見せる。

 

「ワシはずっと思って居た。なぜ魔法も使えぬマグルがこの世の大半を支配しているのか…本当にこの世に君臨するのはマグルでは無く、魔法使いという選ばれた人種なのではないのかと!」

 

 イドロのエネルギーラインが過剰に走り、背後の翼状推進器が自己修復し、周囲に羽が飛び散る。

 

「本来! 魔法使いであり、力を持っているワシ等魔法使いが世界を支配しなければならない!! ならば! 魔法使いは全員で協力し! マグル共を支配し! ワシの理想である! 魔法使いによる魔法使いの為の世界を作ろうではないか!!」

 

 周囲から歓声が上がる。

 

「何を…言っているの…」

 

「まさか…あの老害…本気で言っているのか…」

 

「無論、ワシの意見に賛同せん者も居るだろう…中には力を持って邪魔をするかもしれん…しかし!」

 

 イドロが武装を展開する。

 

「ワシには! この! 最高の! 終末をも告げるであろう力がある!」

 

 魔法使いの歓声が周囲に木霊する。

 

 そして、イドロの下にダンブルドアの魔法によって線が引かれる。

 

「さぁ! 皆の衆! 恐れる事は無い! ワシと共に世界を作り変えよう! 賛同する者は一線を越えよ! そして! イドロの下へと! このワシ! アルバス・パーシバル・ウルフリ(終末の)ック・ブライアン・ダンブルドア(魔法使い)の下へと集うが良い!!」

 

 続々と死喰い人、闇払い、ホグワーツ生、人種や所属を超えイドロの下へと集う。

 

「こんなの…間違っている!」

 

「あぁ、大間違いだ…だが…ダンブルドアの甘い言葉に騙されているんだろう…」

 

「皆! 戻りなさい!」

 

 マクゴナガルが声を荒らげるが、聞く耳を持つものはない。

 

 数分後には、一線を越えなかったものは、私、デルフィ、ハーマイオニー、マクゴナガル、シリウス、ルーピン他複数名の負傷者と昏睡状態のハリーとスネイプだけとなった。

 

「ほぉ…ミネルバよ。お主は来ないのか?」

 

「貴方の考えは間違っています! そんな…マグルを支配だなんて…」

 

「ふぅ…お主は…まったく…度し難いほど愚かじゃ…」

 

 ダンブルドアのため息が響く。

 

「もうよい…さて、そろそろ締め切るとするかのぉ」

 

 イドロが武装を展開する。

 

「ハーマイオニー! こっちへ来るんだ!」

 

 ロンが一線の向こう側で手を差し出す。

 

「ロン…貴方も…ダンブルドアと同じ考えなの?」

 

「僕には難しい事は分からないけど、ダンブルドアに間違いがあるはずないだろう?」

 

「ロン…」

 

 ハーマイオニーは一息入れ、ロンに背を向ける。

 

「ハーマイオニー!」

 

「悪いけど、貴方と共にはいけないわ」

 

「ハーマイオニー!」

 

 ロンの悲痛な声が響く。

 

「さて、時間切れじゃ」

 

 イドロの指先からネイルガンが連射される。

 

「「シールド広域展開」」

 

 私達はシールドを広域に展開し、負傷者を防御する。

 

「ほぉ…防ぐか…」

 

 ネイルガンを撃ち止めたイドロから声が響く。

 

「武装展開」

 

 私達は武装を展開し、イドロと向かい合う

 

「さて、ここで全員止めを刺してやっても良いんじゃがな…それはちと骨が折れるな…」

 

 イドロが腕を組む。

 

 恐らく内部でダンブルドアが腕を組んでいるのだろう。

 

「そうじゃ、一つ提案してやろう」

 

「提案だと…」

 

「そうじゃ、このままお主達が大人しく引きさがるというならば、見逃してやろう。さっさと負傷者(お荷物)を連れて出て行け。特別に1回だけ姿現しをできる様にしてやろう。一方通行じゃぞ」

 

 腕組みを解除した後、イドロは顎の下に手をやる。一線の向こう側で全員が杖を構える。

 

「くそっ!」

 

 シリウスが悪態を付き杖を取り出す。

 

「おやめなさい!」

 

 そんなシリウスをマクゴナガルが諭す。

 

「ここは…退きましょう…」

 

「しかし! このままダンブルドアを放置したら…」

 

「そうです! エイダとデルフィなら、きっと負けません!」

 

 ハーマイオニーが力説する。

 

「ですが! ですが…こちらには負傷者が多数います…この場で戦闘を行えば負傷者の命が危険です」

 

「そ…それは…」

 

 ハーマイオニーが俯く。

 

「さて、答えは出たかのぉ。ワシは暇ではないのじゃ」

 

 ダンブルドアの声が響き渡る。

 

 それに乗じ、一線の向こう側でヤジが飛ぶ。

 

「一時撤退を推奨します」

 

「わかりました…」

 

 マクゴナガルが声を上げる。

 

「負傷者を連れ、ここは退きます」

 

「ほぉ、そうか。逃げるか。ならば追わぬよ」

 

 マクゴナガルが負傷したハリーとスネイプを魔法で浮かべ撤退行動へと移る。

 

 それに倣う様に、負傷者も互いに支え合い撤退を開始する。

 

 私達は、武装を解除せず、敵部隊の攻撃に備える。

 

「そう警戒するでない。ワシは約束を守るぞ」

 

「わかりました…さぁ、私に掴まってください」

 

 そう言うと、マクゴナガルが私達の手を掴む。

 

 すると、空間が湾曲し、姿現しを行う。

 

  姿現しによって、移動した先は、元不死鳥の騎士団本部でもある、ブラック邸だった。

 

「ふぅ…負傷者の治療を急いでください」

 

 マクゴナガルはハリーとスネイプの体をソファーに横たえると、マダムポンフリーが杖を取り出し治療を開始する。

 

「どうです?」

 

「2人ともなぜ生きているのかが不思議な状況です…特にハリーの方は心臓が完全に機能していません」

 

 マダムポンフリーが首を横に振る。

 

「応急処置は貴方達が?」

 

「はい」

 

「現在はナノマシンによって生命維持を行っていますが、あくまでも対症療法なので根本的な治療では有りません」

 

「私の魔法ではどうする事も…完治させる方法は無いのですか?」

 

「現在の設備では2人とも完治させることは不可能です」

 

「そうですか…」

 

 マダムポンフリーは溜息を吐くと、他の負傷者の治療へと移った。

 




こうして、ダンブルドアにより魔法界は統治され、その統治はマグル界にまで及び、ダンブルドアにより、世界が征服されました。

めでたしめでたし。















さて、冗談はさておき、ここからが後半戦です。

老害にはお仕置きが必要ですね。

まぁ、ダンブルドアがハリーを殺すのはこの作品はあまり無いとは思います。

やりすぎたかな?



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マグル式

今回は、ハリーポッターシリーズで一番人気のキャラクターが出てきます!

え?
誰だか分からない?

既に1度出てきた人ですよ。


   ホグワーツから撤退し数十日後には、マダムポンフリーと他数名により、負傷者の治療が終わる。

 

 治療が終了し、身動きが出来るようになった負傷者達は、そのままブラック邸に残る者、自宅へ帰るもの、そして。

 

 ダンブルドアの傘下に入る者も居た。

 

「本当に、行くのか?」

 

「あぁ」

 

 体が動ける程度に負傷が回復したアーサーがシリウスと話している。

 

「ロンが…息子達が…居るんだ」

 

「モリー…君も行くのか?」

 

「えぇ」

 

「気を付けてな…」

 

「あぁ」

 

 モリーとアーサーは互いに寄り添いながらブラック邸を後にした。

 

 

 

  数週間後、圧倒的な戦力差と物量によりダンブルドア率いる不死鳥の騎士団はイギリス魔法界を完全に制圧した。

 

 その間に、私達はブラック邸の周辺にいくつかの自衛兵器と、防衛装置の構築を行う。

 

 1か月後、ベッドの上で昏睡状態だったスネイプが目を覚ます。

 

 しかし、全身火傷の影響か声は擦れ、左足を失い、その他の手足も動かす事が出来ず、ベットで寝たきり状態だ。

 

「スネイプ。気が付いたか?」

 

「大丈夫か?」

 

 ルーピンとシリウスがスネイプに駆け寄る。

 

「あ…あ…あ」

 

 スネイプは酸素マスクの中で擦れた声を上げる。

 

「よかった…」

 

 ルーピンはスネイプの肩に手を置き、隣のベッドへと視線を向ける。

 

 そこには依然として目を覚まさないハリーがベッドの上で人工呼吸器に繋がれていた。

 

「ハリーは未だに目を覚まさないのか…」

 

「心臓が完全に破壊されています」

 

「現状は、ナノマシンの循環機能によって血流を確保しています」

 

「治療は出来ないのか?」

 

「死の呪いの影響で…ダメです…スネイプ先生も…」

 

 マダムポンフリーは悲し気に首を横にする。

 

「現状1つだけ手段があります」

 

「それは一体!」

 

 全員の視線が集まる。

 

「心臓移植です」

 

「心臓…」

 

「移植?」

 

 聞き慣れない言葉に、魔法界出身者は首を傾げる。

 

「どう言う事だ?」

 

 シリウスが問いかける。

 

「言葉の通り、誰かの心臓をハリーに移植するって言う事です」

 

 ハーマイオニーの回答に、数名が後退る。

 

「そんな…じゃあ、心臓を取られた人は…」

 

「死亡します」

 

「一般的には脳死状態の人間をドナーとします」

 

「しかし…そんな人物は…」

 

「私の、私の心臓を使ってくれ!」

 

 シリウスが名乗りを上げる。

 

「しかし、シリウス…それでは君が…」

 

「ハリーが無事ならば、私はどうなっても良い! だから!」

 

「ま、待て…」

 

 シリウスの声を遮る様に、スネイプの掠れた声が響き渡る。

 

「吾輩の…心臓を使え…」

 

「だが!」

 

「自分の体…事はよく…分かる…そう…長く…無い…筈…だろ」

 

 酸素マスクを外し、掠れた声を紡ぐ。

 

「だが…」

 

「私は…リリーを…救えなかった…」

 

「え?」

 

「せめて…子供をと…たく…された…しかし、助ける事が出来なかった…」

 

 スネイプはさらに呟きを続ける。

 

「ならば…吾輩の…命に代えても…」

 

「待て!」

 

 シリウスが声を荒らげる。

 

「私だって、ジェームズにハリーを託されたようなものだ! 本来ならば、私が護ってやらねばならないのだ!」

 

「ならば! 護れ……!」

 

 スネイプが掠れた声を荒らげる。

 

「なに…」

 

「吾輩…はもう、長くは無いだろう…もし、無事ならば…貴様がポッターを護り…続けろ…」

 

「スネイプ…」

 

 シリウスが数歩後退る。

 

「お待ちください」

 

「一人、候補となる人物がいます」

 

 私達に視線が集まる。

 

「候補? 誰だそれは?」

 

「脳死した人? あっ…まさか…」

 

「嫌な予感がするんだが…アイツじゃ無いだろうな…」

 

「アイツ?」

 

 聞き返したシリウスに対しハーマイオニーとトムは顔を曇らせる。

 

「現在、聖マンゴに入院中の、ドローレス・アンブリッジです」

 

「う…」

 

「あぁ…彼女ですか…」

 

 その場の全員の表情が曇る。

 

 デルフィがスネイプに接近する。

 

「現在の症状は重症ではありますが、命に係わる程では有りません」

 

「そ…そうか…」

 

 シリウスが呟き、酸素マスクを付ける。

 

「それにしても…アンブリッジ…ハリー…知ったらどうなるかしら?」

 

「場合によってはドナーの記憶がレシピエントに移るらしいが…大丈夫か?」

 

「ナノマシンによる、感情抑制を行うので問題ありません」

 

「そうかい」

 

「やっぱり、ナノマシンって便利ね」

 

 ハーマイオニーは数回頷く。

 

「でも、聖マンゴもダンブルドアの管理下だろう。どうする?」

 

「ステルスモードでドナー対象に接触。脳死と判断後、臓器を回収し、即刻手術に移行します」

 

「プランは完璧ね。ところで…手術は誰が行うの?」

 

「我々が行います」

 

「出来るの?」

 

「可能です」

 

「やった事は?」

 

「有りません」

 

「しかし、失敗する確率は5%未満です」

 

「まぁ…今はこれが最善の方法だろう」

 

 トムがそう言うと、全員が頷く。

 

「では、只今より、作戦を開始します」

 

「え…えぇ、いってらっしゃい。アンブリッジの場所は分かるの?」

 

「確か、重傷者区画だ。私もそこに居た」

 

 シリウスが数回頷く。

 

「了解」

 

「出撃します」

 

 私達は、ブラック邸を出ると、ゼロシフトを使用し、聖マンゴ前へと移動した。

 

  聖マンゴ周辺は不死鳥の騎士団に占拠されていた。

 

 正門には衛兵として複数の不死鳥の騎士団員が警備にあたっていた。

 

 私達は、ステルスモードを起動し、周囲を詮索する。

 

 すると、外壁の一部に亀裂が生じているのが分かる。

 

「侵入経路発見。外壁を最低限破壊し、侵入します」

 

 私は、ブレードを装備すると、亀裂に差し込む。

 

「切断します」

 

 ブレードを横に薙ぎ、外壁を切断する。

 

 それにより、進入可能な隙間が生じる。

 

「侵入開始」

 

 ステルスモードを維持しつつ私達は聖マンゴへと侵入する。

 

 侵入後、外壁を補修し、侵入の痕跡を消す。

 

「移動を開始します」

 

「目標は重傷者区画です」

 

 浮遊したまま、不死鳥の騎士団員の巡回を回避し、目標の部屋へと侵入する。

 

 部屋の中は質素なつくりをしており、部屋の中心にアンブリッジが横たわったベッドが置かれていた。

 

「目標確認」

 

 私はアンブリッジに触れ、スキャンを開始する。

 

「瞳孔反応、無し。脳幹反射、無し。脳波は平坦な状況です。自発呼吸も確認されていません」

 

「脳死と判断します」

 

 アンブリッジを脳死と判断し、私は腕をブレードへと変化させる。

 

「これより回収作業へ移行します」

 

「了解。私は周辺を警戒します」

 

 デルフィが入り口に立ち周囲を警戒する。

 

「了解。作業を開始します」

 

 ブレードの先端部でレシピエントの胸部を切り裂く。

 

 切開部に手を突っ込み開胸させる。

 

 その際、複数の肋骨が折れ、肺に刺さり血が飛び交う。しかし心臓へのダメージは確認されていない。

 

 開胸により露出した心臓は一定の鼓動を続けていた。

 

「回収します」

 

 ベクタートラップ内からメスを取り出し心臓を固定している、動脈を切除する。

 

 これにより、ドローレス・アンブリッジは死亡した。

 

 回収した心臓は、保存液で満たされた容器で保管し、ベクタートラップトラップ内で低温を維持させる。

 

「臓器回収完了」

 

「所要時間5分。お見事です」

 

 私は、返り血をベクタートラップで吹き飛ばす。

 

「了解。帰還しましょう」

 

 私達は、ベッドの上で周囲に血を撒き散らしながら絶命したアンブリッジを後に窓を開け、聖マンゴから帰還する。

 

 臓器の回収後、ゼロシフトなどを使い、素早くブラック邸へと戻る。

 

 この時点で臓器の回収から5分程時間を消費している。

 

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい。どうだった?」

 

「回収に問題はありません」

 

 私はベクタートラップ内から保存液で満たされた容器を取り出す。

 

「この中にアンブリッジの…気持ち悪いわね…」

 

「そりゃ、そうだろう」

 

 ハーマイオニーは数回頷く。

 

「それでは、これより手術へ移行します」

 

「わかったわ」

 

 ハリーに接近し状態をスキャンする。

 

 脳死状態では無く、昏睡状態だ。

 

 ハリーを移動させようとすると、マダムポンフリーが杖を振り、ハリーの体を宙へと浮かべる。

 

「私が運びます」

 

「感謝します」

 

「その代わり、手術を見学させていただけますか? マグル式の治療と言うのに少し興味が…」

 

「構いません」

 

「ありがとうございます」

 

 浮いたハリーの体をブラック邸の一室へと移送する。

 

「滅菌開始」

 

 入室後、室内の滅菌処理を行う。

 

「こちらを装備ください」

 

 マダムポンフリーに滅菌服とマスクを手渡す。

 

「分かりました」

 

 マダムポンフリーは滅菌服を身に纏い、椅子に腰かける。

 

 ベッドの上にハリーを寝かせ、必要な器具を用意する。

 

「作戦開始です」

 

「予定所要時間は3時間程度です」

 

「了解」

 

 ハリーの静脈に医療用ナノマシンを注入する。

 

「血流を停止させます」

 

「体温の低下を確認。脈拍止まりました」

 

 これにより、一時的に血流を停止しても、ナノマシンに含まれた酸素により脳内の酸素レベルを保つことが出来る。

 

 その後、メスを手に取り、慎重に開胸作業を行う。

 

「うっ…」

 

 背後で見ていたマダムポンフリーが嗚咽を洩らす。

 

「メンタルコンデションレベル低下。気分が悪い様でしたら退出をおススメします」

 

「大丈夫…続けて」

 

「了解」

 

 開胸部に器具を挿入し、胸部をさらに広げる。

 

「開胸完了」

 

「不要となった臓器の摘出に移行します」

 

 デルフィが鉗子などを使用し機能停止した心臓を摘出する。

 

「うぷぅ…」

 

 背後で嗚咽を漏らし、マダムポンフリーは涙目を浮かべる。

 

「心臓の摘出完了」

 

「移植へ移行します」

 

 保存液から、心臓を取り出し、血管の縫合を行う。

 

「縫合完了」

 

「心拍再開させます」

 

 ナノマシンを操作し、血流を再開させる。

 

 血流が再開した事により、心臓に血液が流れ、血色がよくなる。

 

 それと同時に、血流にのってナノマシンが心臓に微弱な電流を流し心拍再開を促す。

 

 数分後には、心臓は鼓動を開始する。

 

「心拍再開を確認」

 

「脈拍安定」

 

「手術成功です」

 

 心拍の再開を確認後、閉胸処理を行い、ステープラーで固定し傷口を消毒する。

 

「手術終了です」

 

「所要時間1時間3分」

 

「総合評価A」

 

「助かった…のですか?」

 

「はい。しかし、しばらくは経過を見る必要があります」

 

「分かりました」

 

「本日は、このまま安静を保ち、後日ベッドルームへ移送しましょう」

 

「分かりました」

 

 私達は、ハリーに呼吸器と点滴を施し、部屋を後にした。

 

 退室後、外で待機していたハーマイオニー駆け寄ってくる。

 

「どうなったの?」

 

「手術は無事終了です」

 

「良かったわ…」

 

「ただし、経過を見る必要があります」

 

「そうなの…そう言えばさっき、マダムポンフリーが口を抑えて出て行ったけど…」

 

「開胸処理を行ったので、その為だと思われます」

 

「まぁ…魔法使いは手術なんてめったにしないからな。グロテスクだったんだろうよ」

 

 トムが笑う様に呟いた。

 




アンブリッジ先生を生かしておいたのはこの時の為だった!

まぁ、本当はスネイプの心臓を使うつもりだったのですが、気まぐれでスネイプには生きて貰いました。



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新生

ここから、最終決戦に向けて進んで行きます。

あと少しです。


 

   翌日、ハリーをベッドルームへと移動させる。

 

「無事なのか…」

 

 隣のベッドで横たわっているスネイプが興味無さそうに呟く。

 

「手術は成功しました」

 

「数日中には目を覚ますでしょう」

 

「そうか」

 

 スネイプはそう呟くと、顔をそむける。

 

 私達はそのままベッドルームを後にする。

 

 リビングルームへと移動すると、ハーマイオニーが日刊予言者新聞を片手に朝食を取っていた。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「早速貴方達の事が記事になっているわよ」

 

 ハーマイオニーがテーブルの上に新聞を広げる。

 

 新聞の一面には『聖マンゴでの悲劇! 元ホグワーツ教員が惨殺される!!』と書かれている。

 

「なになに。『殺害された元ホグワーツ教員は胸を引き裂かれ心臓を抜きとられていた。死体が残された病室は血塗れで床には赤黒い池が広がっていた。ドラキュラ伯爵の復活か?』…うわぁ…やる事がえぐいね」

 

「これ、貴方達よね」

 

「はい」

 

「続きがあるぞ。えーっと…『今回の一件に付いてダンブルドアは死喰い人の残党か反攻勢力の宣戦布告と受け取り徹底抗戦の態勢を整える模様』…ふっ…あの老害らしいや」

 

「まったくね…自分が狂っている事にも気が付いていないのでしょう…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐くと朝食を再開した。

 

 

  数日後、ハリーが無事に意識を取り戻した。

 

「ハリー! ハリー!」

 

「あ…あれ…シリウス…」

 

 ベッド横にシリウス掛けより、ハリーの顔を覗き込む。

 

「あぁ…良かった…」

 

「意識が戻ったんだね。安心したよ」

 

「ルーピン…先生…」

 

「先生は…はぁ…もう良いか」

 

「よかったわ。気が付いたのね」

 

「心配しましたよ」

 

「ハーマイオニー…それにマクゴナガル先生…僕はいったい…」

 

「状況の説明へ移行します」

 

「ダンブルドアの攻撃により心臓の機能を完全に失い昏睡状態にありました」

 

「ダンブルドア…あ! ヴォルデモートは! ぐっ!」

 

 起き上がろうとしたハリーが胸を抑え苦しみだす。

 

「無理しちゃダメよ。まだ安静にしてないと」

 

「でも…」

 

「安心していい。ヴォルデモートは消滅した」

 

 トムがホログラム化し、ベッド横に現れる。

 

「じゃあ…なんで…」

 

「なんで僕がまだいるのか不思議そうだね。まぁ、前回も話したと思うがヴォルデモートと僕は全くの別物さ」

 

「そうなのか…ところで…ダンブルドアは? 僕は確かダンブルドアに…」

 

「それが…」

 

 ハーマイオニーは顔を背ける。

 

 それに釣られる様に全員が目を背ける。

 

「一体何があったんだ!」

 

「その時の映像を再生できます」

 

「え?」

 

 私はホログラム化したハリーとダンブルドアを投影する。

 

「再生します」

 

 ホログラムによってダンブルドアがハリーに死の呪文を放った時の映像を再生する。

 

「うわぁ…」

 

「くっ…」

 

 ハリーは啞然とした表情でホログラムを見ている。

 

 その後、ダンブルドアがハリーに付いて語り始める。

 

「嘘だ! 僕が…奴の…」

 

「ハリー…」

 

 シリウスがハリーの肩に手を置く。

 

「続きを再生します」

 

 ホログラム化したスネイプがダンブルドアの腕を切断する映像が流れる。

 

「おい、それ以上は…」

 

「まぁ良いじゃないか、なぁスネイプ」

 

「う…うぅ…」

 

 ルーピンに諭され、スネイプが諦めた様にベッドに横たわる。

 

 ホログラム化したスネイプがダンブルドアとの戦闘を行う様をハリーは目を逸らさずに見ていた。

 

「まさか…スネイプ…先生」

 

「フン…」

 

「セクタムセンプラって…まさか…」

 

 

 スネイプはハリーと顔を合わせぬように顔をそむける。

 

「さて…と。ハリー。君はまだ目を覚ましたばかりだ。少し疲れただろ?」

 

「う…うん」

 

「ならば、今日は少し休むんだ」

 

「わかった…」

 

 ハリーはルーピンの指示に従う様にベットに横たわった。

 

「それじゃあ、私達も戻る事にしましょうか」

 

「了解」

 

 ハリーとスネイプを部屋に残し、私達は退室した。

 

 

  数週間後、ハリーとスネイプは依然としてベッドの上での生活だった。

 

 しかし、両者とも回復は良好で、ハリーはナノマシンの効果もあり8割ほど回復している。

 

 スネイプも、松葉杖を使えば歩く事も可能になっている。

 

「良いか、ポッター。この計算式は多くの調合に使う」

 

「はい」

 

 ベッドの上で2人は本を開きながら授業を行っている。しかしハリーは生返事を繰り返す。

 

「聞いているのか?」

 

「あー…うん。聞いてる」

 

「まったく…その傲慢さは誰に似たのか…」

 

 スネイプは呆れながらも、どこと無く嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「よかったわね」

 

「そうですね」

 

 部屋の扉を少しだけ開き、内部を覗いたハーマイオニーが呟く。

 

 しかし、状況は好転するばかりではない。ダンブルドア率いる不死鳥の騎士団が地球上のすべての魔法族を統治下に納めたと日刊予言者新聞が報じた。

 

「何てこと…校長は…」

 

「メタトロン技術とオービタルフレームを複数所有していたんだ…こうなるのは分かっていたが…良い気分では無いな…最悪さ」

 

 マクゴナガルが嘆きトムが呟く。

 

「私達は…どうすればいいんだ…」

 

「そんな事…言われても…」

 

 シリウスとルーピンが俯く。

 

 その時、空間湾曲と3名分の生体反応を検知する。

 

「空間湾曲検知。近くです」

 

「敵の攻撃か!」

 

「分かりません」

 

「私が見に行こう」

 

 ルーピンが杖を片手にブラック邸の扉に手を掛ける。

 

 すると、乱雑に扉がノックされる。

 

「誰だ?」

 

「私だ! ルシウス・マルフォイだ!」

 

「ルシウス…マルフォイだと…」

 

「あぁ! 妻と息子も一緒だ! 頼む! 匿ってくれ!」

 

「どうします?」

 

 ルーピンが振り返り、マクゴナガルに問いかける。

 

「受け入れましょう」

 

「よろしいのですか?」

 

「えぇ」

 

 シリウスが杖を手に取り、ルーピンは頷き、扉を開ける。

 

「感謝するよ」

 

 ルシウス・マルフォイが一礼し、入室する。

 

「妻と息子も」

 

「あぁ」

 

 それに続き、2人が俯きながら入室する。

 

「お前達だけか?」

 

「あぁ」

 

「そうか。リーマス」

 

「あぁ」

 

 シリウスが杖を構えながらルーピンに目配せすると、ルーピンが扉に鍵を閉める。

 

「何があったんだ? 君達は確か…」

 

「あぁ、ダンブルドア側に付いた…」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「奴等の考えは…理解できない…」

 

 ドラコ・マルフォイが口を開く。

 

「死喰い人は元々我が君…闇の帝王に従ってきた…それこそダンブルドアと敵対してまでな…」

 

「それを快く思って居なかったんだろう…ダンブルドアは死喰い人に対しては捨て駒のような扱いをしているんだ!」

 

「所詮ダンブルドアが欲しがったのは…我が君が残したゴーレムの製造技術だけだ…」

 

「ゴーレム…ダンブルドアは何を考えているんだ?」

 

「ゴーレムを大量に生産して、マグル界に戦争を仕掛けるつもりらしい…」

 

「そんな…馬鹿げてる…」

 

「それが、馬鹿げてはいないんだ…」

 

「え?」

 

 シリウスがドラコ・マルフォイに視線を向ける。

 

「死喰い人が主にゴーレムの製造を行って居たのはホグワーツだ…」

 

「それじゃあ…」

 

「既に生産ラインは確保されている…それに…」

 

「それに…なんだ?」

 

「ゴーレムの製造技術はダンブルドアによってさらに向上されて行ったんだ…」

 

「なんだと…」

 

「あぁ…巨大なゴーレムの製造も噂されている…なぜダンブルドアにそれほどの知識があったのかは…わからん…」

 

「恐らく、私の腕とメタトロン鉱石を摂取した事により技術躍進が発生したと思われます」

 

「恐ろしいな…」

 

 ルーピンは呟き、マクゴナガルが俯く。

 

「その戦力でダンブルドアは全世界の魔法族を手中に収めてしまった…」

 

「じゃあ…新聞が伝えていたことは…」

 

「真実だ。既にホグワーツには全世界から最新鋭の飛行船が集結している」

 

 ルシウスの情報を聞き、全員のメンタルコンデションレベルが低下する。

 

「今は…考えていても仕方ありません…」

 

 マクゴナガルが呟く。

 

「今日の所は…ひとまず休みましょう…」

 

「そうですね。対策は後日に」

 

「えぇ」

 

 全員が問題を先回しにする様に頷き、各員自室へと戻って行った。

 

 

  マルフォイ家を匿ってから数週間後。

 

 不死鳥の騎士団は遂にマグル界への侵攻作戦を立案したと日刊予言者新聞が報じた。

 

 その前段階としてなのか、グリモールト・プレイス全域に人払いの魔法が施された。

 

「グリモールト・プレイス全域の退避勧告…ダンブルドアは何を考えているんだ…」

 

 シリウスが新聞を手に頭を抱えている。

 

「恐らく、我々を孤立させるのが目的でしょう」

 

「確かに…近くの店が閉まっては困るからな…」

 

 シリウスが納得した様子で頷いている。

 

「そうじゃないと思うが…」

 

 その時、周辺宙域に複数の大規模エネルギー反応を検知する。

 

「エネルギー反応を検知」

 

「え?」

 

「数は多数」

 

「まさか…」

 

 マクゴナガルが駆け出す。

 

 その後を追う様に、皆が外へと出る。

 

「なんだ…アレは…」

 

「空が…」

 

 グリモールト・プレイスの上空に、複数の飛行戦艦が大規模な艦隊編制を組んでいた。

 

 旗艦と思われる艦艇が巨大な帆と花火を上げる。

 

『あー、あー…こちら、ネオDA決戦連合艦隊、旗艦アリアナ。反乱分子の皆、聞こえるかなぁ~?』

 

「この声は…」

 

「まさか…」

 

「ロン! 君なのか?」

 

 魔法により拡声されたロンの声が周囲に響き渡る。

 

『おや? ハリーか? おっどろきぃ。生きていたのか。てっきり死んだかと思ったよ』

 

 笑い声を混じらせながら、ロンは詰まらなそうに呟く。

 

「ロン! 君こそなんでそんな所に…」

 

『ダンブルドアからの任務でね。反乱分子を…つまりは君達を殲滅しろって話なんだ。後ついでに逃げ出したマルフォイとか言う奴もな』

 

「なんだと…」

 

『まぁ…悪く思わないでよ。それじゃあ。全艦戦闘準備』

 

 敵艦隊が全域に展開し、側面の大砲をこちらに向ける。

 

「待ってよ! ロン!」

 

『ハリー。死にぞこないでも君の事は友人だと思っていたよ。まぁ、反乱分子の皆は僕の知り合いでもある…だからチャンスをあげるよ』

 

「チャンス?」

 

『そうさ。まぁ交換条件さ。見逃してやったって良い』

 

「何が…望みなんだ?」

 

『そうだなぁ…』

 

 ロンが提示した交渉状況を聞き、全員が息を呑んだ。

 




今回は短いですがここまで。

ロンが一体何を要求したのか。

まぁ、想像は付くでしょうが、ネタバレは禁止でお願いします。


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連合艦隊完全消滅

ロンの運命はいかに!!!


 

   驚愕した表情のハリーがロンに問いただす。

 

「何だって…それが君の望みだというのか…」

 

『そうさ。ハーマイオニーが居るだろ? 僕にくれよ。そうすれば命までは取らないでおいてあげるよ』

 

「ふざけてる…」

 

『これだけの艦隊だ。マグル侵攻作戦に使う予定の全戦力さ。驚いた? 君達の状況をチェスで例えてあげよう。僕はキングで戦力は全部ルーク以上さ。対する君達は全員動きの遅いポーンさ。それも少数。もうチェックメイトさ。まぁ、ハーマイオニーはクイーンかも知れないね。それこそクイーンはキングの下に居るのがふさわしいと思うだろ?』

 

 ロンの自信に満ちた声が響き渡る。

 

「あんな奴がキング気取りとは笑わせる」

 

 トムは嘲笑をこぼす。

 

 そんな中、ハーマイオニーが一歩踏み出す

 

「おい、まさかと思うが、アイツの言う事を聞くわけじゃ無いだろうな。そこまで君は愚かじゃない筈だ」

 

「トム…止めないで…そうしないとロンは攻撃を始めるわ…」

 

「フン、自己犠牲のつもりか? そんなくだらない自己満足に酔いしれる程トチ狂って居るとは思わなかったよ」

 

「そんなんじゃ無いわ!」

 

「じゃあ何だって言うんだ? まさか悲劇のヒロイン気取りか? いや、彼の言葉を借りるならクイーン気取りか?」

 

「だって…そうしないと…皆が…」

 

『結論は出たか? 僕は気が短いんだ』

 

「行くわ」

 

 ハーマイオニーが歩き出す。

 

「お待ちください」

 

 歩き去ろうとするハーマイオニーをデルフィが引き留める。

 

「心配しないで…大丈夫」

 

「敵艦隊の戦力分析が終了しましたのでご報告します」

 

「敵艦隊は然したる脅威では有りません」

 

「え?」

 

「殲滅戦に要する時間は15分程度と予想されます」

 

「な。馬鹿な真似はするもんじゃ無いさ」

 

「そ、そうね」

 

『時間切れだ。それが君達の答えって事だね。分かったよ』

 

 怒りを孕んだロンの声が響き渡る。

 

『全艦攻撃開始! 奴等をやっつけろ!』

 

 全艦から、旧式の大砲による一斉射撃が行われる。

 

 しかし、その半数はこちらに着弾する事無く、地面に落ちる。

 

「砲弾の複数が接近」

 

「迎撃行動に移行します」

 

 私達は飛び上がると、接近する低速の砲弾の迎撃行動に移行する。

 

「砲弾確認」

 

「迎撃します」

 

 デルフィがウアスロッドで複数の砲弾を撃ち返す。

 

 撃ち返された砲弾は高速で敵戦艦の艦橋部を直撃するコースに乗る。

 

『やばい! 防御魔法!!』

 

 敵艦の艦橋周辺に強力な空間障壁が展開される。

 

 その障壁により、弾き返した砲弾が消滅する。

 

『ふぅ…危なかった。まぁ、この防御魔法は君達も覚えがあるよね。三大魔法学校対抗試合の時、ドラゴンに掛けた魔法さ。この船には防御魔法専用に元死喰い人とかをいっぱい乗せてるんだ』

 

「あれじゃあ…」

 

「近接攻撃に移行します」

 

 迎撃行動を終了し、敵艦隊に接近する。

 

『奴等が来るぞ! ゴーレムを出せ!』

 

 敵艦隊の甲板上部から複数のオービタルフレームラプターが発艦する。

 

 しかし、発艦したラプターの動きは鈍く、速度も遅い。

 

「敵オービタルフレームスキャン完了。構成は通常のラプターと変わりませんが、有人機タイプであり、AIは未搭載です」

 

 AI未搭載の有人機の為、迎撃は容易だ。

 

「敵オービタルフレームの殲滅を開始します」

 

「ホーミングミサイル発射」

 

 私はホーミングミサイルを最大数展開し、敵オービタルフレームに向け発射する。

 

 発射されたホーミングミサイルは直線的な軌道を描き、敵オービタルフレームに直撃する。

 

 たった1回のホーミングミサイル展開により、発艦したオービタルフレームの総てが撃墜する。

 

『クソ! 使えない奴らだ!』

 

「目標確認。着艦します」

 

「了解。私は別目標へ攻撃を行います」

 

 デルフィが距離を取り、別目標の敵艦に攻撃を開始する。

 

 敵の対空砲火シールドで防ぎつつ敵前衛艦の甲板部に着艦後、私はベクターキャノンを展開する。

 

「ベクターキャノンモードヘ移行」

 

 両手を上に上げると、私の周辺の空間が歪み、オービタルフレームの時と同じ大きさの、巨大な砲身が出現する。

 

 それを私は受け止めると、両腕を通す。

 

『ヤバいぞ! それを撃たせるな!』

 

 ロンの怒号が響き渡り、甲板上に複数の魔法使いが杖を構えて現れる。

 

「撃て! 撃ちまくれ!」

 

 様々な魔法攻撃を受けつつ、私はベクターキャノン発射工程を進める。

 

「エネルギーライン、全段直結」

 

 ベクターキャノンの砲身と私のエネルギーラインを直結させる。

 

 それにより、全身と砲身自体にも青白いエネルギーラインが走り出す。

 

 エネルギーラインの直結により、砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「ランディングギア、アイゼン、ロック」

 

 衝撃に備え、脚部を固定する為に、赤い色のアイゼンを甲板に打ち込む。

 

「チャンバー内、正常加圧中」

 

 エネルギーがチャンバー内に集約される。

 

 それに伴い、アンプにもエネルギーが供給され始め、緩やかに回転を開始する。

 

 エネルギー供給ラインが上昇を開始する。

 

「ライフリング回転開始」

 

 エネルギーの供給が終了後、アンプが高速で回転し、ライフリングを形成する。

 

 回転速度も上昇し、安定期に入る。

 

「撃てます」

 

 ベクターキャノン発射準備完了。

 

「発射」

 

 トリガーを引き、ベクターキャノンを発射する。

 

 ベクターキャノンにより、敵魔法使いが消滅し、敵艦の艦橋部が完全に破壊される。

 

「角度調整」

 

 ベクターキャノンを発射しつつ、横に薙ぐ様に、砲身を方向転換する。

 

 それにより、敵の後衛艦隊も含め、全体の約70%を撃墜する。

 

「ベクターキャノンモード解除」

 

 エネルギーの放出が終了後、ベクターキャノンモードを解除し、巨大な砲身をベクタートラップ内に収納する。

 

 それと同時に、足場となっていた敵艦が爆発を起こす。

 

 爆風を浴びながら、上空へと飛翔する。

 

 

 デルフィは敵艦の艦橋部以外の装甲版や対空砲台などを全て破壊し、敵艦を撃破していた。

 

 撃破された敵艦は、緩やかにブラック邸付近に着底した。

 

『報告! 艦隊の約70%を損失!』

 

『これ以上は戦えない!』

 

 旗艦、アリアナから拡声された声が響く。

 

『五月蠅い! 諦めるな! 戦え!』

 

 ロンの怒号が響き渡る。

 

 そんな中、私はブラック邸付近に着底した戦艦の甲板上部に着陸する。

 

 戦艦内部に生命反応は無い。

 

「ベクターキャノンモードへ移行」

 

 残りの敵艦隊を殲滅するべく艦橋上部でベクターキャノンを展開する。

 

『今は無防備だ! 撃て! 撃つんだ!』

 

 ロンが叫び、それに呼応するように、残存艦艇が砲撃を行う。

 

「敵砲弾接近。迎撃します」

 

 デルフィが飛び上がり、ウィスプを展開させ、私に接近する砲撃を全て防ぐ。

 

「ベクターキャノンチャージ完了。撃てます」

 

「了解」

 

 デルフィがベクターキャノンの射線上から撤退する。

 

 確認後、引き金を引き、2発目のベクターキャノンを発射する。

 

『マズイ…』

 

 ロンの声が響くと同時に、敵旗艦アリアナを巻き込み、残存艦隊が消滅する。

 

「敵決戦連合艦隊、完全消滅」

 

「作戦完了。所要時間は10分です」

 

「総合判定S。撃墜王の称号を取得しました。おめでとうございます」

 

  複数の燃え上がる残骸を残しつつ、私達はブラック邸に接近した。

 

「敵連合艦隊完全撃破終了」

 

 帰還後、ハーマイオニー達が駆け寄る。

 

「大丈夫?」

 

「はい、問題ありません」

 

「良かった…」

 

「しかし…これからどうする?」

 

 シリウスが周囲を見回しながら呟く。

 

「敵部隊の発言から推察するに先程の艦隊が敵の主戦力だと判断できます」

 

「それじゃあ」

 

「ホグワーツに攻め込むならば今が好機です」

 

 その場の全員が息を呑む。

 

「今後のミッションプランを説明します」

 

 私は、地面にホログラムを転写する。

 

「我々2機がホグワーツへ攻め込みます」

 

「貴方達だけで? 危険すぎます」

 

 マクゴナガルが反対意見を出す。

 

「しかし、敵の本拠地という事もあり、激しい抵抗が予想されます」

 

「そんな中、全員を護衛しながら作戦を遂行するのは不可能です」

 

「そ…それは…確かに…」

 

「敵部隊の残存戦力の大半はホグワーツに集中すると思われます。しかし一部の部隊は引き続き、ブラック邸へ攻撃を仕掛けて来る可能性があります」

 

「その為、残った人員は防衛戦に徹してください」

 

「周辺に防衛機構などを設置します。上手く使ってください」

 

 私は、周辺3キロ圏内にステルス状態のFマインやホーミングミサイル、セントリーガンなどと言った拠点防衛兵器を設置し、ブラック邸周辺に防御陣地を構築する。

 

 そして、有事の際の為に設置していたエネルギーフィールド発生装置を起動する。

 

 それにより、ブラック邸周辺に簡易的なシールドが形成される。

 

「防御陣地の形成完了」

 

「それでは、我々は出撃します」

 

 私達はバーニアを吹かし、上昇する。

 

「気を付けて」

 

「必ず帰って来てね…」

 

「了解しました」

 

 ハーマイオニー達に見送られながら、私達はホグワーツへ向け、進撃を開始した。

 

 ホグズミード村周辺空域に接近すると、100を超えるオービタルフレームの反応を検知する。

 

「敵迎撃部隊を確認」

 

 敵オービタルフレーム群に接近する。

 

 敵部隊は、通常サイズのラプターを主力に、サイクロプス、マミーヘッド、ナリタ他多数の混成部隊となっていた。

 

「会敵まで10」

 

「ジェフティ」

 

「アヌビス」

 

「「起動します」」

 

 ジェフティを起動すると同時に、神経接続を行う。

 

「会敵します」

 

「現在の我々の戦力ならば遠距離戦でも近距離戦でも問題ありません」

 

 これより、私達は敵部隊との戦闘に突入した。

 




どんどん、人が死んでいく…一体どうして…


まぁ、当初の予定では

「僕達はヴォルデモートを倒したんですね!」

「あぁ、皆の愛の力じゃよ」

「いいえ、AIの力です」

「お主等らしい」

っていう、ほんわかした終わりを考えて居たんですが…


どうしてこうなった…


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制圧戦

今回はハーマイオニーとトムが主役です。

それと、今日は原作者とハリーポッターの誕生日なので

ハリーポッターの世界観を破壊します。


 

   2人がブラック邸を後にした後、ハーマイオニーはマクゴナガル達と着底した戦艦内部を詮索していた。

 

「生存者はいましたか?」

 

「ダメです…」

 

「こっちにも居ませんでした…」

 

 シリウスとルーピンは首を横に振る。

 

「そうですか…」

 

 マクゴナガルは暗い表情を浮かべる。

 

「やっぱり…生存者はいなかったわね…」

 

「まぁ、生体反応は無かったからな」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐きながら、さらに奥へと詮索を進める。

 

「あれ? ここは?」

 

「武器や弾薬の格納庫だな。オービタルフレーム用の兵器まであるぞ」

 

「まだ動くのかしら?」

 

「エネルギーの反応はある。多分動くんじゃないか?」

 

「へぇ」

 

「そろそろ引き揚げますよ」

 

 マクゴナガルの声が響く。

 

「今行きます」

 

 ハーマイオニーは格納庫から走り出そうとする。

 

 その時、地面が大きく揺れる。

 

「なに?」

 

「高エネルギー反応だ。デカいぞこれは…」

 

「とにかく外へ!」

 

 揺れが収まり、戦艦から出ると、空には巨大な黒雲が浮かんでいた。

 

「なにあれ…」

 

 空を見上げた全員が唖然としている。

 

『良くもこの僕をコケにしてくれたな…許さないぞ!』

 

 黒雲内部からロンの声が響く。

 

「ロン!」

 

「戦艦には乗っていなかったのか…」

 

 黒雲から巨大な物体が姿を現す。

 

「何なんですかあれは! 戦艦…」

 

「いや、戦艦じゃない! あれはオービタルフレームだ!」

 

『良いだろう…僕の本気を見せてやる! このザカートでな!』

 

 ザカート

 

 バフラム軍の超大型オービタルフレーム。

 複座敷で、4人での運用が必要となる。

 

 強力な搭載兵器により制圧戦においては大きな戦果を上げる。

 

「まさか、あんな巨大な敵を…」

 

「地上にも複数の敵反応だ」

 

 空にばかり視線を向けていた面々は、周囲を見回し、息を呑む。

 

 ブラック邸の周囲4キロを巨人族や亜人や魔法使いの混成部隊によって取り囲まれていた。

 

「これは…不味いな…」

 

『行け! 進行だ!』

 

 ロンの声に従う様に、混成部隊が進行を開始する。

 

「まさか、先頭に居るのは…」

 

「ハグリッド!」

 

 ハリーがハグリッドの姿を確認し、声を荒らげる。

 

「ハグリッド! 僕だ! 話を聞いてくれ!」

 

 ハリーは叫び声を上げるが、ハグリッドの歩みが止まる事は無い。

 

「僕が分からないの…」

 

「分析完了だ。ザカートから服従の呪文と同じ波長が発生している。それが原因で服従の呪文に掛けられて我を失って居るんだろう」

 

「そんな!」

 

「あの木偶の坊だけじゃないぞ。あそこにいる全員が掛かっていると考えていいだろう」

 

「そんな…」

 

 トムの言う通り、混成部隊全員の目には何かに取り憑かれたように瞳孔が開いている。

 

 そんな彼等は、まるで恐怖を感じないかのように進行を続ける。

 

「クソ…このままじゃ押し込まれるぞ!」

 

「自衛を…お願いします…」

 

「マクゴナガル先生…そんな事をしたら恐らく彼等は…」

 

「分かっています…分かっていますとも……」

 

 マクゴナガルは自身の唇を強く噛み、血が滲む。

 

「了解だ。自衛兵器展開」

 

 自衛兵器が展開した事により、突撃してくる混成部隊の眼前で大規模な爆発が起こる。

 

 しかし、彼等は雄叫びを上げ、爆発を恐れる事無く突き進む。

 

 その様子に、その場の全員が言い様の無い恐怖を覚える。

 

『地上部隊を援護だ!』

 

 ロンの声が響くと、ザカートからビームが地上に振りと注ぎ、自衛兵器の一部が破壊される。

 

 爆発の余波は、シールドにより防がれる。

 

「先程の攻撃で、セントリーガンとFマインがやられた。残存戦力が半減だな…シールドにも多少だが損傷だ。これは1分程度で修復するだろう」

 

 防御が薄くなった防衛ラインに部隊が集中する。

 

「くそ!」

 

 シリウスが杖を振り魔法を放つ。それに習う様に、ハリーやスネイプも魔法を放つ。

 

 しかし、魔法程度では混成部隊の歩みを阻むことはできない。

 

「このままじゃジリ貧だ…」

 

「これ以上自衛兵器を破壊される訳にはいかないぞ」

 

「あの、オービタルフレームを何とかしなきゃ…」

 

 ハーマイオニーは浮遊するザカートを睨み付ける。

 

『どうだい! これが僕の力さ! さぁ! 焼き尽くしてやる!』

 

 ザカートの援護射撃がブラック邸のシールドにダメージを与えて行く。

 

「シールド損傷率60%。不味いぞ!」

 

「どうにかしないと…」

 

 ハーマイオニーは周囲を見渡した後、走り出した。

 

「グレンジャー! どこへ!」

 

 走り出したハーマイオニーはシールドを抜けだす。

 

「おい! シールドの外だぞ!」

 

「わかってるわ!」

 

 ハーマイオニーの周囲で爆発が起こる。

 

「キャ!」

 

 爆風が周囲に広がる。

 

「シールド展開。タブレットのシールドだ。長くは持たないぞ」

 

「大丈夫よ。あと少しよ!」

 

 爆風をシールドで防ぎながら、ハーマイオニーは墜落した戦艦へと飛び込んだ。

 

「何を考えているんだ?」

 

「戦艦に何か武器があるんじゃないかと思って…」

 

 戦艦内部を散策したハーマイオニーは格納庫へとたどり着く。

 

「ねぇ、トム…」

 

「嫌な予感がするが…一応聞こうか」

 

「あのオービタルフレームって動くって言ってたわよね?」

 

 ハーマイオニーは格納庫内のラプターを指差す。

 

「確かに動くだろう。だがアイツを動かすのはかなり難しいぞ。それにAIは未搭載だ。艦隊戦時のトロイ動きしかできないだろう」

 

「AIの補助があれば、エイダやデルフィみたいに動かせるって事?」

 

「あの2人は次元が違うが、高機動戦闘は出来るだろうな」

 

「へぇ…」

 

 ハーマイオニーはラプターのコックピットを開ける。

 

「まさか、コイツで戦おうなんて思ってないよな?」

 

「でも、これしか対抗策は無いわ」

 

 コックピットに乗り込んだハーマイオニーは周囲を見渡す。

 

「どうしたんだ?」

 

「操作方法が分からないわ…」

 

「おいおい…」

 

 外では未だに、爆音が響き渡る。

 

「動いてよ! 急がないと!」

 

 ハーマイオニーは周囲のパネルを手当たり次第に触れるが、反応は無い。

 

「コイツを動かしたいのか?」

 

「もちろんよ!」

 

「どうしてもか?」

 

「どうしてもよ!」

 

「ああぁ! もう仕方ないな! 君って奴は!」

 

「トム? どうしたのよ?」

 

「僕をコイツにトランスプランテーションする」

 

「どういう意味?」

 

「簡単に言えば、僕がコイツを動かすAIになるって事だ」

 

「出来るの?」

 

「やるしか無いだろ…まったく」

 

「そうよ。やるしかないのよ。私達が生き残る為には…」

 

 ハーマイオニーが鋭い視線で呟く。

 

「良し、タブレット端末をパネルの前に置いてくれ」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーはトムの指示通りタブレット端末を置く。

 

「トランスプランテーション開始」

 

 淡い光が、タブレットからコックピット内部へと広がる。

 

「トランスプランテーション終了」

 

 コックピット内部にトムの声が響く。

 

「システムチェック。クソ…かなりキツイな…」

 

「大丈夫?」

 

「まぁな。良し、操縦を君のナノマシンとリンクした」

 

「え? どういう事?」

 

「これで、思ったとおりに動かせるって事だ。操作説明が必要か?」

 

「頼むわ」

 

 トムから操作情報がナノマシン経由でハーマイオニーの頭に流れ込む。

 

「なるほど…わかったわ!」

 

「ラプター起動! OKだ! じゃあ行くぞ!」

 

「えぇ!」

 

 ラプターは駆動音を響かせながら、起動すると、格納庫の天井を突き破り、浮上した。

 

『ん? なんだ?』

 

 浮上したラプターはザカートの前に立ちはだかり、声を拡声させる。

 

『ロン! こんな事はもうやめて!』

 

『おや? その声はハーマイオニーか? そんな雑魚機体に乗っているのかい?』

 

『こんな事続けても無意味よ! もうやめて!』

 

『無意味? それを決めるのはダンブルドアさ』

 

『なんてことだ…これじゃあ、何を言っても無意味だな』

 

『この声…貴様は! ヴォルデモート! まさか…許せない! 邪魔だ!』

 

『ここは通さないわ!』

 

 ザカートが大型レーザー砲を発射する。

 

「来るぞ! 避けろ!」

 

「えぇ!」

 

 ラプターは急加速し、レーザーの間を縫うように避ける。

 

『なんだと! あんな低級のゴーレムの癖に!!』

 

 ロンは激昂した声を上げる。

 

「奴は食いついたな。地上に被害の出ない高度まで上がるぞ」

 

「了解よ」

 

 ラプターは高度を上げる。

 

『こっちだ。悔しかったら付いて来るんだな』

 

『クソ! 馬鹿にして! 奴等を逃すな!』

 

 ラプターに追随するように、ザカートが急上昇する。

 

「良し、これくらいで良いだろう」

 

「わかったわ」

 

 ラプターは上昇を止め、ザカートと対峙する。

 

『もう逃さないぞ!』

 

 ザカートが再びレーザー砲を発射する。

 

「あの威力の攻撃だ。まともに食らったらマズイ。避けろよ」

 

「もちろん!」

 

 ラプターがレーザーの弾幕を縫うように避ける。

 

「良し! 相手の攻撃はきついが、遠距離タイプだ。懐に潜り込むんだ」

 

「わかったわ!」

 

 攻撃を避けたラプターはザカートに接近する。

 

『防壁展開だ! 近付けるな!』

 

 ザカートの装甲が剥離すると、それを起点に、強力なシールドが発生する。

 

「クソ! 敵はシールドを展開したようだ」

 

「これじゃあ、攻撃が…」

 

「待て、今分析中だ」

 

 ラプターはザカートと近付離れずな距離を保つ。

 

『主砲、チャージ開始!』

 

「良し! 分析完了。あの、浮遊している装甲がシールドを発生させているみたいだ」

 

「じゃあ、アレを剥がせば」

 

「シールドを剥がせるはずだ。剥がし方は──」

 

「グラブで掴めばいいのね」

 

「その通りだ」

 

 ラプターは剥離した装甲を掴み、複数枚剥がすと、ザカートのシールドが解除される。

 

『クソ! シールド損傷!』

 

『エネルギー充填完了!』

 

『メインパス確保!』

 

『撃て!』

 

 ザカート中央部より強力な主砲が展開される。

 

「不味いわ! この距離じゃ避けられない!」

 

「さっき剥がした装甲でシールドを強化する! 盾に使うんだ!」

 

 ラプターが先程引き剥がした装甲板を前面に展開し、盾とする。

 

 盾にした装甲は、シールドにより強化されており、ザカートの主砲を防ぎ切ると、その役目を終え大破する。

 

『おのれぇ!!』

 

「今だ!」

 

「了解よ!」

 

 ラプターは無防備となったザカートの中核部に接近すると、両手のビームソードで切りかかる。

 

「良し! ダメージを与えたぞ!」

 

「このまま一気に…」

 

 ラプターは何度となく、ビームソードを振りかざし、ザカートへダメージを与えて行く。

 

『機体損傷50%!』

 

『一旦距離を取れ! フォーメーション2だ』

 

『了解!』

 

 ザカートが再びシールドを展開し、ラプターとの距離を取る。

 

『フォーメーション2! レディ!』

 

 ロンの掛け声に従い、ザカートの装甲が展開し、フォーメーション2へと移行する。

 

「図体ばかりデカいくせに、器用な事を…」

 

「攻撃を続けるわよ!」

 

「分析完了。弱点は頭部だ。ロックオンしたぞ」

 

「わかったわ!」

 

 ラプターは加速し、再びザカートへ接近を試みる。

 

『レーザー砲台起動!』

 

 展開した全ての装甲が、レーザー砲台の役目を果たし。レーザーが乱射される。

 

「ちぃ! 厄介だ!!」

 

「えぇ! でも、このまま突っ込むわ!」

 

 ラプターは速度を上げ、レーザーの弾幕に突入する。

 

「くぉ! 機体を掠めたぞ!」

 

「こんなの、痛くもかゆくもないわ!」

 

「痛いぞ」

 

 弾幕により、表面装甲を焦がしながら、ラプターはザカートの頭部へ接近する。

 

「攻撃開始だ!」

 

「バーストモード!」

 

 ザカートの頭部の前で、ラプターが両手をクロスさせバーストモードのビームソードで切りかかる。

 

 しかし、ビームソードは頭部に展開されたシールドを破壊しただけで、ザカート本体へのダメージは軽微だった。

 

「シールド…だと!」

 

『近接攻撃!』

 

 ザカートの展開した腕部により打撃攻撃を行う。

 

「シールドてんか──ぐおぉ!」

 

「きゃぁ!!」

 

 ザカートの打撃攻撃がラプターに直撃し、ラプターが弾き飛ばされる。

 

 コックピット内部に複数のエアバッグが展開し、衝撃を抑える。

 

「くそぉ…大丈夫か?」

 

「えぇ、私は何とか…」

 

 その時、ハーマイオニーの足元に、小瓶が落ちる。

 

「これは…」

 

 小瓶を拾い上げたハーマイオニーは中身を一気に飲み干す。

 

「おい。何を飲んだんだ? エンドルフィンの分泌量が上昇してナノマシンの反応速度が急上昇したぞ」

 

「フェリックス・フェリシスよ」

 

「あぁ…あの時の」

 

「えぇ! これなら勝てる気がするわ! 状況は?」

 

「機体損傷率20%…まだいけるぞ!」

 

「えぇ!」

 

 ラプターが再び、ザカートの頭部へ急速に接近する。

 

『何度来ても同じ事だ!』

 

 ザカート周辺の装甲から、レーザーの弾幕が、網のように展開される。

 

「行くわよ!!」

 

 ラプターは弾幕を縫う様に高機動で回避していく。

 

「ほぉ、やるねぇ。数発は当たるかと思ったよ」

 

「薬が効いているのね。弾道が手に取るように分かるわ!!」

 

 ラプターは勢いそのまま、ザカートへ突撃する。

 

『舐めるなよ!!! 打撃攻撃!』

 

 ザカートの腕部が再び振るわれる。

 

「その攻撃はっ!」

 

「想定済みよ!!」

 

 ラプターが急速で軌道を変え、ザカートの打撃攻撃を回避する。

 

『なにぃ!!』

 

 ザカートの打撃攻撃は強力だが、その軌道の大振りさ故、攻撃後の隙が大きい。

 

「今だ! 頭部にシールドは無い!」

 

「はいだらっー!!」

 

 ハーマイオニーの掛け声を共に、ラプターのビームソードがザカートの頭部を切り落とす。

 

『お…おのれぇ!!!!』

 

 ロンが叫び、ザカートは自壊を開始する。

 

 数秒後には、大規模な爆発を起こし、ザカートが消滅する。

 

「はぁ…はぁ…倒したの?」

 

「あぁ、まさか勝てるとはな…」

 

「ロン達は?」

 

「脱出の反応を確認した。しぶとい連中だよ」

 

 トムは詰まらなそうに呟く。

 

「皆が心配だわ。戻りましょう」

 

「そうだな」

 

 ラプターは高度を下げ、ブラック邸の上空へと移動した。

 




はい。

トムの有用運用です。

ロンはしぶといですから。


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ホグワーツ

遂に最終決戦です。



 ラプターがブラック邸の上空に到着する頃には、進撃を続けていた混成部隊の動きが止まる。

 

「う…うぅう…」

 

「動きが…止まった?」

 

「攻撃を中止してください!」

 

 マクゴナガルの指示に従い、トムが自衛兵器の軌道を一時停止させる。

 

「うぅ…俺達は…一体何を…」

 

 ハグリッドが頭を抱え呟く。

 

「ハグリッド! ハグリッド!」

 

 ハリーがシールドから飛び出し、ハグリッドに駆け寄る。

 

「ハリー! お前さん! 生きてたのか!!」

 

「うん! ハグリッドも正気に戻ったんだね」

 

 ハグリッドは駆け寄って来たハリーを抱きしめる。

 

「すまなかったな…お前さんを見捨てて…俺は…ダンブルドアに…」

 

「気にしないで良いよ」

 

「すまねぇな…さっきまでの記憶が無くてな…」

 

「恐らく、服従の呪文だろう。さっきのオービタルフレームから発生していたからな」

 

「なるほど…だから服従の呪文が解けたのね」

 

 コックピット内部でハーマイオニーは数回頷く。

 

「おのれ! ふざけるなよ!!」

 

 瓦礫を掻き分け、ロンがハンドガンを片手に立ち上がる。

 

「ロン…」

 

「君達裏切り者のせいでダンブルドアの計画が台無しだ!!」

 

「ロン…もうやめるんだ。ダンブルドアは間違って居たんだ」

 

「間違う? ダンブルドアが? そんな訳無いだろう!!」

 

 ロンは激昂し、ハンドガンをハリーに向ける。

 

「ロン! やめろ!!」

 

「五月蠅い! 僕に命令するな!!」

 

 ロンは感情のまま引き金を引き、銃声が響き渡る。

 

 銃声が響き渡った後は、静寂が支配した。

 

 ロンが発射した弾丸はハリーを庇う様に抱きかかえたハグリッドの背中に命中する。

 

「ハグリッド!!」

 

「クソ! ハグリッドまでダンブルドアを裏切るのか! ふざけるな!!」

 

 ロンは引き金を引き続ける。

 

 その度放たれた弾丸はハグリッドの背中に命中する。

 

「ハグリッド! ロン! やめてくれ!!」

 

「うおぉぉおおぉぉお!!」

 

 ロンは銃倉の中身を全て打ち尽くし、ハンドガンから虚しい金音を響かせる。

 

 ハグリッドは膝を付く事無く、ハリーを護る盾となっている。

 

「クソ!」

 

 激昂したロンは杖を振り上げる。

 

「アバダケダブラ!!」

 

 ロンの杖から緑色の閃光が迸る。

 

「おっと、そこまでだ」

 

 緑色の閃光をラプターの腕部が防ぐ。

 

「なにぃ!!」

 

 ロンが数歩後退ると同時に、ラプターのコックピットが開く。

 

「エクスペリアームズ!!」

 

 ハーマイオニーが杖を振り、赤い閃光がロンに直撃する。

 

「うぉ!」

 

 赤い閃光が直撃したロンは吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ!」

 

 ハグリッドは唸り声をあげ、その場に膝を付く。

 

「ハグリッド!」

 

「大丈夫?」

 

「あぁ…この程度、ドラゴンの世話に比べりゃ…なんてことはねぇ」

 

 ハグリッドは脂汗を浮かべながら微笑む。

 

「死の呪文から護ってくれたな。お前さんにも感謝するよ」

 

「フン」

 

 トムは詰まらなそうに呟く。

 

「じっとしてください、今治療します」

 

 マダムポンフリーがハグリッドの治療を開始した。

 

「そうだ。そう言えば、あの2人が居ないな」

 

「あの2人?」

 

「イーグリット姉妹だ」

 

「あの2人ですか? ホグワーツに向かいましたが…」

 

「そりゃ…ちとまずいかもしれないですね…」

 

「どう言う事です?」

 

「今、ホグワーツにはダンブルドアですが…周辺には強力なゴーレムが腐る程いて…」

 

「それに関しては…大丈夫だと思うのですが…」

 

 マクゴナガルが苦笑する。

 

「でも…心配ではありますね…」

 

 ハーマイオニーがコックピット内部に戻り、呟く。

 

「それなら、ホグワーツへ攻め込むか?」

 

「え?」

 

「この機体なら10分程度で着くだろう」

 

「でも…」

 

 ハーマイオニーが口籠る。

 

「行きなさい」

 

「え?」

 

 マクゴナガルがラプターを見据える。

 

「グレンジャー。貴女が行きたいと思うなら、それに従いなさい」

 

「でも、もしかしたらまた敵が…」

 

「その時は、私達が何とかするさ」

 

 スネイプとシリウス、ルーピンが杖を構える。

 

「だから、私達の事は気にせず、行きなさい」

 

「マクゴナガル先生…」

 

 ハーマイオニーは数回深呼吸をする。

 

「分かりました! 行ってきます!」

 

「了解。ラプター起動」

 

 ラプターのスラスターが起動する。

 

「トム・リドル!」

 

 マクゴナガルがラプターに声を掛ける。

 

「彼女の事…任せましたよ」

 

「あぁ」

 

 トムはそう答えると、ラプターは宙高く飛び上がった。

 

 

 

 ホグズミード村周辺の防衛部隊との戦闘を開始してから数十分。

 

 既に敵部隊は壊滅状態となり、残骸となったラプターが地面に散乱していた。

 

 これにより作戦を次の段階へと移行する。

 

 ホグワーツへ移動を開始しようとした時、所属不明のラプターが接近する。

 

 デルフィがウアスロッドを構えると、ラプターは急に動きを止めた。

 

『待って、私達よ』

 

『攻撃は止めてくれ。君達の攻撃じゃ流石に防げない』

 

 どうやら、所属不明のラプターにはハーマイオニーが搭乗している様だ。

 

『心配になってきちゃったわ』

 

『危険です』

 

『分かってるわ。でも…』

 

『まぁ、少しは気持ちを汲んでやってくれ。それに、ここまで来たんだ、今更戻れないだろう』

 

『了解』

 

『先行し敵戦力を排除します』

 

『わかったわ』

 

 私達はホグズミード村を後にホグワーツへ進撃を開始した。

 

 ホグワーツ周辺に接近する。

 

 しかし、依然として敵影は確認できない。

 

『おかしいな…』

 

『不気味なほど…静かね…』

 

 周辺の索敵レベルを上げるが、熱源、及びオービタルフレームの反応は無い。

 

『あれ見て!』

 

 ラプターがホグワーツの正門前を示す。

 

 そこには、白いローブを羽織ったダンブルドアが立っていた。

 

『ダンブルドア…だと…』

 

『なんでこんな所に居るのかしら…』

 

 私達は武装を整え、正門前に接近する。

 

「ようこそ我が城へ。良く来たのぉ」

 

 両手を広げたダンブルドアは緩やかに一礼をする。

 

「どうじゃ? ゆっくりとお茶でも飲みながら話さぬか? ん?」

 

『どういうつもりだ…』

 

『罠の可能性があります』

 

『えぇ…でも、行くしかないわね』

 

 ラプターが正門前に着陸すると、ハーマイオニーはコックピットを開ける。

 

「おぉ、ハーマイオニーか。君もついて来ているとは思わなかったよ」

 

 ラプターの手の平に乗り移ると、そのまま地面に降りる。

 

「ダンブルドア…先生。どういうつもりですか! なんでこんなバカげたことを!」

 

「まぁ、その事についてはゆっくりと話そう。さぁ、中に入るのじゃ。お主達もな」

 

 私達はジェフティとアヌビスをベクタートラップ内に収納し、ハーマイオニーの隣に着地した。

 

「さて、こっちじゃ」

 

 ダンブルドアは踵を返し、ホグワーツに入って行った。

 

「私達も行きましょう」

 

「了解」

 

 ハーマイオニーはラプターに振り返る。

 

『安心しろ。ナノマシンで会話はできる。僕はここに居るさ』

 

『わかったわ』

 

 ハーマイオニーは一呼吸置いた後、歩みを始めた。

 

 

 ホグワーツ内部は、朽ち果てており、生活感が無かった。

 

 屋敷しもべ妖精の反応も無い。

 

「この作戦で、多くの者は戦艦に乗って出撃した。まぁ、お主達が居るという事は皆帰らぬものとなったのじゃろうな…フッ」

 

 暗い廊下を歩きながら、ダンブルドアは口を開く。

 

「貴方と言う人は…なんでそんなに…他人事のように言えるのですか! 貴方の指示のせいで多くの人が…」

 

「ワシは皆を信じた。彼等もワシを信じてくれた。じゃが、それは互いに間違えた相手を信じてしまったのじゃろうな」

 

 ダンブルドアは呟くと、大広間の扉を開ける。

 

「さぁ、入るが良い」

 

「くッ…」

 

 苦虫を嚙み潰したような表情でダンブルドアを睨みながら、ハーマイオニーは勧められるがまま入室した。

 

 大広間の中心には、巨大なエネルギーラインの走る主柱がホグワーツの内部を突き抜けており、その前にコントロールデバイスと思われる玉座が存在した。

 

「ふぅ…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐き、玉座に座る。

 

 それと同時に、主柱に赤色のエネルギーラインが走る。

 

 ダンブルドアを中心に小規模なエネルギー反応を確認する。

 

「さて…では何から話そうか…」

 

「最初も言いました! こんなバカげた戦争は止めてください!」

 

 ハーマイオニーは声を荒らげる。

 

「バカげた…か。君は本当にそう考えているのか?」

 

 ダンブルドアは鋭い視線でハーマイオニーを睨み付ける。

 

「君は…マグル出身だが、その魔法の力はとても素晴らしいものと思う。とても希少な存在じゃ」

 

 玉座に座りながら、ダンブルドアは顎に手をやる。

 

「しかし、マグル達から魔法使いが生まれる確率はかなり低い。まぁ、逆に魔法使い同士でも魔法が使えぬものが生まれる事があるが、それは稀じゃ」

 

「それが…何の関係があるんですか?」

 

「まだ分からぬのか? ワシが言いたいのは、魔法使いと言う存在は選ばれた存在なのだよ! そこに純血も混血も穢れた血も関係ない!」

 

「選ばれた…存在?」

 

「そうじゃ。この世界に多く生息するマグル共は火をつける事も、物を浮かす事も、人を殺す事も、総てに労力を掛ける。しかし、ワシ達魔法使いは総てが杖1つで事足りる。なのに奴等は、魔法使いに敬意を払いもしなければ恥じる事も無く、堂々とこの世を支配している」

 

「支配?」

 

「そうじゃ。そんな大した力も能力も無い無能共がこの世界を支配し、あまつさえ、ワシ達選ばれたる魔法使いを迫害している!!」

 

 ダンブルドアは声を荒らげ、髪を振り乱す。

 

「ワシはこんなおかしな世の中を正さなければならない!! その為にはマグル共をワシ達魔法使いが管理するのだ!!」

 

「マグルを管理なんて…人は! 人間は! 管理されるものでは無いわ!! 家畜とは違うのよ!!」

 

「所詮マグルのような力無き無能な存在は! 家畜と何ら変わらん!!」

 

「そんなの間違ってるわ!!」

 

「否! 間違ってなどおらぬ!! 所詮奴等は暴力で支配する事しかしない! 家畜と何ら変わらんではないか!!」

 

「それは偏見だわ!」

 

「偏見では無く真実じゃ!! マグル共はワシの指揮の下で魔法使いに管理されるのじゃ!」

 

「馬鹿げてるわ! そんな事…出来る訳がない!」

 

「確かにこの世に蔓延るマグル共を完全に支配するのは難しいだろう。そこでワシは一つの作戦を思いついた」

 

「作戦?」

 

「そうじゃ! これがその作戦じゃ!!」

 

 ダンブルドアは立ち上がり両手を広げると、周囲の床から筒状のメタトロン製カプセルがいくつも現れる。

 

 それと同時に、主柱に高エネルギー反応が走り、エネルギーラインから、光が溢れ出す。

 

 カプセルの中には魔法使いが培養液の中に浮かんでいた。

 

 その中には、ホグワーツの生徒や、教職員。ロンの家族の姿も有った。

 

「これは一体…」

 

「生体反応は微弱です。恐らくもう長くは無いかと」

 

「全員…」

 

「全員です」

 

「彼等は決戦連合艦隊を維持する為の魔力の供給源じゃ。ワシの理想を叶えてくれる為に自ら進んでその命を差し出してくれたのじゃ。まぁ…多少はワシが背中を押したがのぉ…まぁ、今となっては搾りカスみたいなものじゃ」

 

「一体…彼等は何の為に! それにロンの家族だって…」

 

「ロンの家族か…ロンは優秀じゃぞぉ。自ら進んで家族を差し出してくれた。褒美として艦隊司令官の任に付かせてやったが…ワシの見立て違いか」

 

 ダンブルドアは詰まらなそうに呟く。

 

「さて。本題に戻ろう。ワシはこの主柱に…ホグワーツ城にありとあらゆる霊脈や地脈を結合させたのじゃよ」

 

「一体…何の為に…」

 

「分からぬか? この地は、大昔から魔法使いや魔法動物が生き、そして死んでいった場所じゃ。それだけ多くの血が流れており、その血を全て吸って来た。魔力の源とも呼んで良い血をな」

 

 ダンブルドアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そんな土地の膨大な魔力を霊脈や地脈に流せば…どうなると思う?」

 

「どうって…」

 

「恐らく、エネルギーの暴走が起こり、各地で一斉に噴火や地震などと言った自然災害が多発するでしょう」

 

「その結果、経済は破綻し、環境汚染により食糧難に陥ります。最悪の場合、人類は死滅します」

 

「そうじゃっ! その通りじゃ! 流石はお主達じゃ、その賢さだけは評価に値する。グリフィンドールに10点あげようッ!!」

 

 ダンブルドアは心底嬉しそうに高笑いしている。

 

「そんな! そんな事をしたら魔法界だって被災するわ! そうしたら…イギリスだけじゃ無いわ! 全世界の人間が…」

 

「それがどうしたというのじゃ! まずは手始めに全人類を滅ぼしてやろう!」

 

 ダンブルドアが杖を振ると、複数のカプセルが地面へと吸い込まれて行く。

 

 次の瞬間、周辺に大規模なエネルギーの収縮を確認した。

 

「一つ言い忘れておったわ。彼等の亡骸じゃがな。意外と有用性があってな。多少ながらも残った魔力はメタトロンと良く結合してな。いい起爆剤となった様じゃ」

 

 周囲で小規模な爆発が頻発する。

 

「先程の爆発によりダンブルドアの背後の主柱より地中へのエネルギーの流出を確認」

 

「さて、これで準備は整った。後は少し時間が経てば…すれば、全ての霊力が一斉に各地に流れるじゃろう。さすればこの世はワシの物じゃ!!」

 

「そんな事…させないわ!」

 

 ハーマイオニーは銃を手に取ると、引き金を引く。

 

 数発の銃声が鳴り響き、ダンブルドアに弾丸が迫る。

 

「無駄じゃよ」

 

 弾丸を遮る様に、エネルギーフィールドが発生する。

 

「なに!」

 

「いかにも野蛮な穢れた血の考え方じゃな! この程度では計画を止める事など出来んよ!」

 

 ダンブルドアの背後に。2枚の花弁状の装甲に身を包んだ純白のオービタルフレームが姿を現した。




さて、世界が崩壊する準備は整いました。

どうなるでしょうね


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イシスの片割

皆さん、お盆はいかがお過ごしでしたか?

私は全て仕事です。





 

   眼前に現れたオービタルフレームを目の前にハーマイオニーは数歩後退る。

 

「なんで、オービタルフレームが!」

 

「恐らく、ベクタートラップ内に隠匿されていたものと思われます」

 

「データ参照終了。対象機体。ハトールと推定。現在はチャイルド形態です」

 

 ハトール。

 

 別名イシスの片割れとも呼ばれる、オービタルフレーム。

 

 現在はチャイルド形態と呼ばれる手足が拘束・収納され、下半身が花弁に包まれたような状態。

 

 

「さぁ! もう一度思い出して貰おうか…この魔法の力を!」

 

 複数本の触手の様なワイヤーがダンブルドアの体を包むと、ハトールのコックピットへと収納される。

 

 ダンブルドアの収納後、ハトールがバーニアを起動し、浮上する。

 

「きゃぁ!」

 

 浮上の衝撃により、ホグワーツ内部が大きく揺れ、城全体が崩落を開始する。

 

「ちと派手すぎたな。手を貸してやろう」

 

 ハーマイオニーが立っていた床が触手状のワイヤーによって持ち上げられる。

 

「なに? なんなの?」

 

 突然の出来事にハーマイオニーは混乱し、その場に座り込む。

 

 その間に、持ち上げられた床ごと、ハーマイオニーがハトールに接近していく。

 

 

「救出します」

 

 私は、バーニアを起動する。

 

 その時。

 

「動くな!」

 

 ダンブルドアの声が響き渡り、ハーマイオニーにハトールの装甲が変化したブレードが付きつけられる。

 

「下手に動けば、穢れた血が流れることになるぞ」

 

 ダンブルドアの嘲笑うような声が響き渡る。

 

「い…いや…」

 

 持ち上げられた床の上でハーマイオニーは怯えている。

 

「そう怯える事は無いじゃろうて」

 

 ハーマイオニーにブレードを突き付けながら、ダンブルドアは含み笑いをする。

 

 その間にハトールは完全に浮上し、高度500mに到達していた。

 

「どうじゃ? この高さじゃ。怖かろう?」

 

「一体、何が目的なの…」

 

「人質じゃよ。彼女達が居ては計画が無駄になってしまうかもしれんのでな」

 

「え? きゃぁ!!」

 

 次の瞬間、ハトールの前面から8本のホーミングレーザーが私達に向け照射される。

 

「シールド展開」

 

 シールドにより、ハトールの攻撃を防ぐと、ダンブルドアは溜息を吐く。

 

「まったく。ワシは動くなと言ったはずじゃが…お主達は言う事を聞かぬなぁ」

 

 ハーマイオニーが居る床を固定するワイヤーが若干揺れる。

 

「きゃぁあ!!」

 

「ほれほれ、これ以上下手に動けば彼女は落ちるぞ。結界を解除するのじゃ」

 

「「シールド解除」」

 

「2人とも!!」

 

 ダンブルドアの要求を承諾し、シールドを解除する。

 

「そうじゃ、それでよい。さて、ちとばかし本気を出すかの」

 

 ハトールのエネルギー量が急上昇し、ハトールの四肢から翼状のジェネレーターが開放された。

 

 リミッター解除形態と推測される。

 

「さて、お主達はどれだけ耐えられるかな?」

 

 ハトールが右手を構え、バーストショットチャージする。

 

「くらえ」

 

 ハトールが発射したバーストショットが私達に直撃する。

 

「エイダ!! デルフィ!!」

 

「ダメージ確認」

 

「装甲損傷率13%」

 

「ふむ…意外と耐えるではないか。さて、次を試すかのぉ」

 

 ハトールが手を振り上げると、ホグワーツ周辺に201機のラプターが集結する。

 

「流石にこの数を操るのはちとキツイのぉ」

 

「まさか…これ全部操っているの…」

 

「そうじゃ。ワシに掛かればラプターを200機操るのは容易い!」

 

 恐らく、ハトールに搭載されたマスコントロールシステムにより、ラプターの制御を可能にしているのだろう。

 

「さて、一斉攻撃じゃ」

 

 ハトールが腕を振り下ろすと、200機のラプターから一斉にエネルギーショットが迫り来る

 

 そのすべてが私達に直撃する。

 

 30秒ほどすると、ハトールが手を振り上げ、ラプターの掃射が止む。

 

 私達の周囲の瓦礫と土煙が晴れると、デルフィの体から火花が飛び散り、損傷を確認する。

 

「装甲損傷率48%」

 

「痛いです」

 

「ほほほぉ! これにも耐えるというのか! ではコイツで止めじゃ!!」

 

 イドロの脚部に搭載された左右の翼状ジェネレーターが展開し、ジェネレーターの間にエネルギー粒子が収束する。

 

「敵オービタルフレーム、バーストトランスを確認」

 

 バーストトランス。

 

 オービタルフレームに搭載された、対拠点、対要塞用の高出力の粒子砲。

 

 記録によれば、軌道エレベーターの末端であり、遠心力で支えるアンカーステーションの岩塊を掠めただけで吹き飛ばす出力を持っているという。

 

「さぁ! 吹き飛ばしてやるわ!」

 

「止めて! お願い!」

 

「できんなぁ! さぁ、ハーマイオニーよ、そこで大人しく見ておるが良い!! こやつらが死ぬところをなぁ!!」

 

 ハーマイオニーが声を荒らげ、ダンブルドアは高笑いをしている。

 

「そんな事はさせないわ!!」

 

 ハーマイオニーが走り出し床から飛び降りる。

 

「なにっ!」

 

 500mの高さから飛び出したハーマイオニーは重力に従い、地面へと吸い込まれて行く。

 

「馬鹿な! このままではっ!」

 

 ダンブルドアは声を荒らげ、事の行く末を見据える。

 

 

 自由落下を続けるハーマイオニーにラプターの軍勢から1機のラプターが急接近する。

 

「トム!!」

 

「任せろ!!」

 

 トムが搭載されたラプターが落下中のハーマイオニーを空中で回収する。

 

「全く…君って奴は危ない事をするな」

 

「危険な賭けは嫌いじゃないの、それに、貴方が来てくれるって信じてたわ」

 

「そうかい………ま、まぁ、まだフェリックス・フェリシスの効果中だったんだろう」

 

「そう言う事にしておいてあげるわ」

 

「収納するぞ」

 

 トムは手の平のハーマイオニーをコックピット内部に収納する。

 

「おのれぇぇえええええ!! トムリドルぅうぅううぅ!! この死にぞこないがァァア! 奴を撃ち落とせ!!!」

 

 ダンブルドアが声を荒らげると、200機のラプターが一斉にトムにエネルギーショットを放つ。

 

「こりゃマズイ!」

 

「回避行動!!」

 

 ラプターが高速で回避行動を取り、エネルギーショットを回避するが、総てを回避するのは不可能であり、多数の被弾を確認する。

 

「ぐぉ!」

 

「トム!」

 

「機体…損傷率…80%…左腕損傷…まだ行けるさ!!」

 

「まだ来るわ!!」

 

「さぁ! トムリドルを撃ちおと、ぐぉおお!!」

 

 私達はハトールと周辺を飛び交うラプター全てを標的に納め、レーザーランスと、ハウンドスピアを乱射する。

 

 発射されたレーザーランスとハウンドスピアは、次々とラプターの胴体部を貫通し破壊する。

 

「敵、ラプター部隊。半数に損害を与えました」

 

「ハトールの損傷は軽微」

 

「おのれ! 死にぞこないがぁ!!」

 

 ハトールがフルチャージのバーストランスをこちらに向け発射する。

 

「「ベクタートラップ開放」」

 

「オービタルフレーム。ジェフティ」

 

「オービタルフレーム。アヌビス」

 

「「起動」」

 

「「シールド、最大出力」」

 

 ジェフティとアヌビスが同時に最大出力のシールドを展開する。

 

 最大出力で展開された2機のシールドにより、ハトールのバーストトランスを防ぎ切る。

 

「お…おのれぇ!!」

 

「反撃開始です」

 

「了解」

 

 2機のOFが同時に飛び上がり、ハトールに急接近する。

 

「くそぉ!!」

 

 ダンブルドアは声を荒らげ、ハトールのシールドを展開する。

 

 しかし、私達はハトールを通り過ぎ、トムの追撃を行っている、ラプターの一団に接近する。

 

「援護します」

 

 アヌビスのハウンドスピアでラプターを一掃後、ジェフティでトムを回収する。

 

「ご無事ですか?」

 

「これが…無事に見えるか? 君も冗談を言うんだな…」

 

 既にトムは全身に複数のエネルギーショットが被弾しており、機体損傷率も90%を超えていた。

 

「トム! しっかりして!」

 

「この程度…なんてことは無いさ。ただ少し疲れた」

 

「トム!」

 

「僕は問題無いさ…それより、ダンブルドアを…奴を止めるんだ」

 

「そうよ…ダンブルドアを止めないと! 二人とも…お願い!」

 

「了解しました」

 

「作戦を開始します」

 

 損傷状態のトムを戦闘エリアの外に移動させ、私達はラプターを率いるハトールと対峙する。

 

「行け! 奴等を倒すのじゃ!」

 

 残存したラプターがハトールの前面に集結し陣形を組み、一斉にエネルギーショットを発射した。

 

「突撃します」

 

「行きます」

 

 私達はシールドを展開し、エネルギーショットの弾幕に突っ込む。

 

 シールドでエネルギーショットを防ぎつつ、敵部隊と交差する瞬間に、アヌビスはウアスロッドで、ジェフティはブレードで敵部隊に損害を与える。

 

「なんじゃと!」

 

「敵残存戦力残り20%」

 

「とっとと片付けましょう」

 

 残った数少ないラプターに対し、ジェフティのホーミングミサイルを発射する。

 

 発射されたホーミングミサイルは的確にラプターの装甲を貫き、撃墜する。

 

「お…おのれぇ!」

 

「敵部隊、残りはハトールのみです」

 

「許さんぞ!!」

 

 ダンブルドアの怒号と共に、ハトールが自らの両腕をブレードに変化させ、急接近する。

 

 急接近後、ハトールは両腕を振り上げ、ブレードによる攻撃を行う。

 

「回避します」

 

 攻撃予測を行い、ブレードの間合いを回避する。

 

「攻撃に移行します」

 

 ハトールの攻撃を回避した後、ジェフティはブレードを振り上げる。

 

「ふん!!」

 

 ハトールは両腕を交差させ、ジェフティのブレードを受け止める。

 

 ブレード同士が、反発し、火花が散る。

 

「援護します」

 

 アヌビスがハトールの背後に回り込み、ウアスロッドを横に薙ぐ。

 

「その程度!!」

 

 ウアスロッドがハトールに直撃する瞬間、ハトールが姿を消した。

 

「空間湾曲検知」

 

「そこじゃあ!!」

 

 次の瞬間、ハトールはアヌビスの背後から出現し、ブレードを振り下ろす。

 

「防衛行動」

 

 アヌビスに搭載されたウィスプが防衛形態を取り、ハトールの攻撃を防ぐ。

 

「良く防いだ! じゃがこれならどうじゃ!!」

 

 ハトールは姿を消すと、別の場所へ瞬間移動をし、再び姿を現す。

 

 ダンブルドアは高笑いを浮かべながら、その行動を数回繰り返す。

 

「どうじゃ! 怖かろう!!」

 

「分析完了。敵オービタルフレームは自機をベクタートラップ内に収納する事で、姿を消し、高速移動を可能としているようです」

 

「疑似的なゼロシフトの様な物です」

 

「フハハハハハ!!」

 

 ハトールは姿を消す。

 

「空間湾曲検知」

 

「出現位置予測完了」

 

「攻撃開始」

 

 私は、ハトールの出現位置を予測し、ジェフティのバーストショットを発射する。

 

「フハハハハッ! なにぃ!!」

 

 ハトールは出現と同時に、バーストショットの直撃を受け、体勢を崩す。

 

「お…おのれぇ!!」

 

「今です」

 

 アヌビスが体勢を崩したハトールにゼロシフトで詰め寄ると、ウアスロッドによる近接攻撃を行う。

 

「ぐぉ!!」

 

 アヌビスの攻撃により、吹き飛ばされたハトールはジェフティの方角へと吹き飛ばされる。

 

「ま…まずい!!」

 

 ハトールがスラスターで姿勢制御を行うが、既にジェフティの間合いに入っている。

 

 ジェフティはバーストモードへ移行し、そのまま、機体を一回転させるようにブレードを横に薙ぐ、バースト切りを行う。

 

「ぐおぉおぉおあぁぉあおお!!」

 

 ジェフティの攻撃により、脚部が破損し、ハトールの翼状のジェネレーターが飛び散る。

 

 ジェネレーターの損傷により、推力を失ったハトールは墜落していく。

 

「動け! えぇえい!! なぜ動かぬ!!」

 

 ダンブルドアの虚しい声が響き渡る中、ハトールは瓦礫と化したホグワーツに飲み込まれた。

 

 私とデルフィは、ベクタートラップ内にジェフティとアヌビスを収納後、ホグワーツへ着地する。

 

 

  瓦礫と化したホグワーツ内部において、ハトールが蠢いていた。

 

「お…おのれぇ…」

 

 翼の折れたハトールはホグワーツの瓦礫を這う様に掻き分けながら、玉座にたどり着く。

 

「ワシは…ワシはまだ!!」

 

「そこまでです」

 

「投降してください」

 

 私達は武装を整えダンブルドアに投降を呼びかける。

 

「ふ…フハハ…まだじゃ! まだ終わってない!」

 

 ハトールは最後の力を振り絞り、主柱にしがみ付く。

 

 しがみ付いたハトールが主柱に吸い込まれる。

 

 すると、主柱に大規模なエネルギー反応が収束し、地震と共に、周辺のエネルギーレベルが危険域に突入する。

 

「アーハハハハハ!! ワシの勝ちじゃ! これでこの地球(ほし)も終わりじゃあ!!」

 

 両手は主柱に固定されたまま、前傾姿勢で上半身だけが出たハトールからダンブルドアの笑い声が木霊する。

 

 その間もエネルギーレベルが上昇し、地中へのエネルギーの流出が続く。

 

「エネルギーレベル計算完了」

 

「早急に主柱を破壊する必要があります」

 

「破壊じゃとぉお! 出来るもならやってみろぉお!!」

 

 ハトールが上半身を捻ると、主柱を護る様に、フィールド状の高エネルギーが流出する。

 

 高エネルギーは幾重にも重なり、空間圧縮と空間湾曲、次元断層、高修復能力を有している。

 

「敵エネルギーフィールドの分析完了。現在のアヌビスに搭載されている武装での突破は不可能」

 

「ベクターキャノンを使用します」

 

 私は本日3度目となるベクターキャノンモードへ移行する。

 

「ベクターキャノンモードヘ移行」

 

 両手を上に上げると、私の周辺の空間が歪み、オービタルフレームの時と同じ大きさの、巨大な砲身が出現する。

 

 それを私は受け止めると、両腕を通す。

 

「アハハハハハハハハ!!!」

 

 ダンブルドアの笑い声が周囲に木霊する。

 

「エネルギーライン、全段直結」

 

 ベクターキャノンの砲身と私のエネルギーラインを直結させる。

 

 それにより、全身と砲身自体にも青白いエネルギーラインが走り出す。

 

 エネルギーラインの直結により、砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「ランディングギア、アイゼン、ロック」

 

 衝撃に備え、脚部を固定する為に、赤い色のアイゼンを地面に打ち込む。

 

「チャンバー内、正常加圧中」

 

 エネルギーがチャンバー内に集約される。

 

 それに伴い、アンプにもエネルギーが供給され始め、緩やかに回転を開始する。

 

 エネルギー供給ラインが上昇を開始する。

 

「ライフリング回転開始」

 

 エネルギーの供給が終了後、アンプが高速で回転し、ライフリングを形成する。

 

 回転速度も上昇し、安定期に入る。

 

「撃てます」

 

 ベクターキャノン発射準備完了。

 

「発射」

 

 トリガーを引き、ベクターキャノンを発射する。

 

 ベクターキャノンより、高エネルギーの濁流が放たれる。

 

 濁流は、主柱を飲み込む。

 

 周囲はベクターキャノンの発射音に包まれる。

 

「ベクターキャノンモード解除」

 

 ベクターキャノンモードを解除する。

 

 眼前には、大量の土煙が上がっている。

 

 数秒後、土煙が晴れる。

 

 そこには、無傷の主柱と、エネルギーフィールドが存在した。

 

「アーッハハハハッハア!!! 無駄じゃ! 無駄無駄無駄ッ!!」

 

 ダンブルドアは狂ったように笑い声を上げる。

 

「分析完了。現行、ジェフティにはシールドを突破する武装は存在しません」

 

 シールドの分析進めるが、防御が薄くなっている場所などは存在しない。

 

 ダンブルドアは狂ったような高笑いを繰り返す。

 

「どうしたぁ? もう手詰まりか!!」

 

 ダンブルドアの声だけが木霊する。

 

 現状、ジェフティもアヌビスも単独ではシールドを突破する事は出来ない。




ベクターキャノンを防ぐシールドを出すのは少し気が引けましたが、まぁ、ラスボスですし多少はね。


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最終兵器

お待たせしました。

今回はかなり短いですがご了承ください。


 

「ふあーハハッはあ!! 勝ちじゃぁあああ!! ワシの勝ちじゃあ!!」

 

 再度狂ったダンブルドアの笑い声が木霊する。

 

「状況の再検索を行います」

 

 私は再び、私達の武装、残存エネルギー、主柱及び、シールドの構造をスキャンし精査する。

 

「精査終了。報告します。やはり現状では破壊するに至る武装は存在しません」

 

 恐らく、シールドの破壊にはアーマーン規模の破壊力が必要となるだろう。

 

「失礼します」

 

 突如としてデルフィから尻尾状のケーブルが私に挿入される。

 

 不意な事で、一瞬だが体勢が崩れる。

 

「不明なユニットが接続されました」

 

 デルフィが口を開く。

 

「アヌビスには当初、『オーバーメガドライバー』と呼ばれる武装が搭載される予定でした」

 

 デルフィから、オーバーメガドライバーのデバイスドライバが流れ込む。

 

「現実では未搭載に終わりましたが、システムの構成は終了しています」

 

 流れ込んで来たシステムドライブを分析し、再構成する。

 

 それに伴い、私の体の周囲に青白い光が溢れ出す。

 

「システム、着床。コネクションチェック………行けます」

 

「了解。行きましょう」

 

 私達は同時に顔を上げ、ダンブルドアを見据える。

 

「ベクターキャノンモードへ移行」

 

「援護します」

 

 私は、再びベクターキャノンモードへ移行する。

 

 それと同時に、デルフィから大規模なエネルギーが流れ込む。

 

「なんじゃ…一体…何が起こっているんじゃ…」

 

 ダンブルドアは狼狽した声を上げる。

 

 しかし、私達はそんな事は気にせずシーケンスを続行する。

 

 周囲の空間が歪み、異音を発生させながらも通常時よりも巨大な砲身が2人のベクタートラップから解放される。

 

 私達は同時に歪みや火花を散らした砲身を受け止める。

 

「「エネルギーライン、全段直結」」

 

 規格外のベクターキャノンの砲身に私達は同時にエネルギーラインを直結させる。

 

 私の体からは青いエネルギーがベクターキャノンの砲身へと注がれる。

 

 対するデルフィからは赤のエネルギーラインがベクターキャノンの砲身へと注がれる。

 

 私達のエネルギーが注がれたベクターキャノンの砲身は青と赤のエネルギーラインが螺旋状に混ざり合い、光を放つ。

 

 しかし、ベクターキャノンの砲身が激しく火花を散らす。

 

「警告。エネルギーの過供給確認。このままでは危険です」

 

 規格外のエネルギーにより、ベクターキャノンの砲身の強度限界を超え、膨大な熱量により、砲身が歪み警告が流れる。

 

「エネルギーライン全段強制直結。負担は私が請け負います」

 

 ベクターキャノンの砲身へのエネルギーライの直結を強制的に継続し、過剰となったエネルギーを2人で分け合う。

 

 しかし、既に超過したエネルギーは私達の体にも火花を散らしダメージを与える。

 

 しかし、先程よりは方針に掛かる負担は軽減された様だ。

 

 その為、警告は依然として鳴りやまないが、危険レベルは若干低下した。

 

 エネルギーラインの強制直結により、シーケンスが移行し砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「「ランディングギア、アイゼン、ウィスプロック」」

 

 私達は同時にアイゼンとジェフティのウィスプで体をその場に固定する。

 

「チャンバー内異常加圧」

 

 超過したエネルギーはチャンバー内には収まりきらず、エネルギーの圧縮限界を突破する。

 

「圧力限界を突破しました」

 

「ベクタートラップを利用し、エネルギーをチャンバー内で強制的に圧縮します」

 

 ベクタートラップにより圧縮された想定以上のエネルギーがチャンバー内に強制的に封入される。その為、砲身の至る所から、陽炎が上がり、温度が急上昇する。

 

「ライフリング回転開始」

 

 前面に現れた6個のアンプがゆっくりと加速し回転する。

 

 

 しかし、エネルギーが過剰な為不規則な回転を始める。

 

「ライフリング。回転不安定」

 

 やはり、膨大なエネルギーを安定させるためにはライフリングの数が少なすぎる。

 

「ライフリングを追加します」

 

 ライフリングの間に、デルフィから展開された6枚の翼状のウィスプ入り込む。

 

 入り込んだウィスプはアンプの代わりとなり、合計12個のアンプによりライフリングの回転速度が上昇する。

 

「ライフリングの安定確認」

 

 ベクターキャノンの砲身の前で12枚のライフリングが安定して回転を開始する。

 

 ライフリングの安定によりエネルギーの強制供給が終了する。

 

「エネルギー、充填率。計測不明」

 

 既に、ベクターキャノンモードの砲身は、大規模なエネルギーにより、自壊し始めている部分もある。

 

 このまま発射しなければ数秒で自壊を開始るだろう

 

「やめるのじゃ! お主達これがどういう事か分かっておるのか!!」

 

 ダンブルドアが声を荒らげベクターキャノンの砲身に対して恐怖を抱いている。

 

「発射時には膨大な衝撃が発生します」

 

「恐らくこちらにもダメージや損傷が発生すると予測されます」

 

「待て! 待つのじゃ!」

 

「申し訳ありませんが待つ事は出来ません」

 

 恐らく、発射すれば、私達にもダメージがある。

 

 私も、デルフィもそれは分かり切っている。

 

「「発射します」」

 

「やめろおおぉおぉおおおおぉぉぉおおおおおぉ!!!」

 

 ダンブルドアの絶叫が木霊する中で私達は同時に、引き金を引く。

 

 その瞬間。砲身から計測不可能なレベルのエネルギーが解放される。

 

 エネルギーの激流は、周囲の空間や時間軸、光や音などを巻き込み総てを飲み込みながら主柱へと付き走った。

 

 エネルギーの開放と同時に、反動と衝撃により、私とデルフィに大規模なダメージが発生する。

 

 衝撃により、体の一部が破損する。

 

 エネルギーの開放は依然として続いているが、これ以上は私達の体が限界を迎えてしまう。

 

「「ベクターキャノンモード強制解除」」

 

 全身から火花を散らしながら、私達はベクターキャノンをパージし、強制的に解除する。

 

 周囲は外壁などが吹き飛び土煙が立ち込めていた。

 




オーバーメガドライバーと言うのはあくまでも噂程度での話ですが、アヌビスの尻尾に搭載されるベクターキャノンだったようです。


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終焉

後1話か2話くらいで終わりですね。


 

   周囲を土煙が満たす。

 

「ディスコネクションチェック。ベクタートラップ損傷。腕部シールド、ブレード、ビームガン損傷。現在使用できる武装はありません」

 

「私もです」

 

 満身創痍の私達の眼前から土煙が晴れる。

 

「お、おの…」

 

 土煙が晴れた先では、フィールドが完全に剥がれている。

 

 しかし、主柱は依然として存在している。

 

「ワシは…まだ…」

 

 主柱同様に、全身にヒビが入り、大破したハトールが呻き声を上げる。

 

 主柱からは依然としてエネルギーの放出が続いている。

 

「破壊目標、依然として存在」

 

「ミッションの継続困難」

 

 武装が全て失われた、私達が目標を達成するためには、残された手段は一つだけだ。

 

「「モード移行」」

 

 私達は同時に、起爆準備を行う。

 

「ちょっとまって!!」

 

「まだあきらめるの早いぞ!!」

 

 ホグワーツの外壁を貫き、トムのラプターが突入する。

 

「うおぉぉおおぉぉお!!」

 

「うりゃああ!!」

 

 ラプターに残された右腕のビームソードが主柱を貫く。

 

「グオオオオァオ!!」

 

 ノイズの混ざったダンブルドアの断末魔が木霊する。

 

「貴方達が死ぬ必要なんて無いわ!」

 

「これは、魔法界での出来事だ。自分達で片を付けるさ」

 

 ビームソードを刺したまま、ラプターが機体を主柱に固定させる。

 

「さぁ! トム! ぶっ壊すわよ!」

 

「あぁ…そうしたいんだがな…」

 

 ラプターの動きが止まる。

 

「トム?」

 

「実はな、今の一撃でエネルギーの殆どが切れたんだ」

 

「そ…そんな…じゃあ…手段は」

 

「安心しろ。まだ手はある」

 

「そう、良かったわ」

 

 ハーマイオニーから安堵の声が漏れる。

 

「あぁ、だから…これでお別れだ…ハーマイオニー」

 

「え?」

 

 次の瞬間、ラプターからコックピットが分離され、こちらに射出される。

 

 私は、飛んでくるコックピットを回収すると、ハーマイオニーが這い出て来る。

 

「ちょっと! トム!! どいういうつもりよ!」

 

「ラプターに搭載された武装じゃ、主柱を完全に破壊するのは不可能だ。だが、ラプター本体を至近距離で…ゼロ距離で自爆させれば破壊できる」

 

「ラプターを自爆させるのね。なら急いでタブレットに戻りなさい!」

 

 ハーマイオニーがタブレットを掲げる。

 

「残念だが、それは出来ない」

 

「どうしてよ!」

 

「ダンブルドアは依然としてマスコントロールシステムでラプターを操作しようとしている。僕が居るからコントロールを奪われずに済んでいるが、タブレットに戻ったら、確実にラプターの自爆シーケンスが中断される」

 

「そ…そんな…」

 

「つまり、これが最善の方法だ。安心しろ1度、いや2度は死んだんだ」

 

「オノレッ! トムリドル!! ワシノジャマヲ!」

 

 主柱から顔だけのダンブルドアが現れ、ノイズ混じりの機械音が響く。

 

「堕ちるところまで堕ちたなダンブルドア。いい気味さ」

 

 周辺で小規模な爆発が発生する。

 

 それに伴い、ホグワーツの崩壊が始まる。

 

「時間が無い! 急いで脱出しろ!」

 

「了解」

 

 私はハーマイオニーの手を取る。

 

「嫌よ! トム! 貴方も一緒に!」

 

「分かってくれハーマイオニー…さぁ! 早く行け!」

 

「トムリドルゥウウウ! オマエヲホグワーツニイレタノハマチガイジャ!」

 

「こうして、原因であるお前と僕が運命を共にするというのも皮肉な物だな」

 

「オノレェエエエエ!!」

 

 主柱から触手が生え、ラプターの体を貫く。

 

「トム!」

 

「この程度、どうって事は無いさ。さぁ! ダンブルドア! 一緒に死んでもらうぞ!!」

 

 ラプターの自爆シーケンスが最終段階に移行する。

 

「危険です。離脱を」

 

「トム! トム!!」

 

 ハーマイオニーは依然として脱出を拒む。

 

「お許しください」

 

 私は強制的にハーマイオニーを抱きかかえると、脱出を開始する。

 

「離して! トムを置いて行けないわ! トム! 戻りなさい! お願い! 戻ってきて!!」

 

「すまない…さぁ、行け」

 

 瓦礫が落下する中、私達はトムを残し、大広間を後にする。

 

  大広間の扉を抜けホグワーツを飛び立ち、数分が経過する。

 

「あぁ…あ…トム…」

 

『何を悲しんでいる?』

 

 トムから通信が入る。

 

「だって…だってぇ…」

 

『そういえば、帽子の奴が僕をスリザリンに入れたのは案外いい選択だったのかも知れないな』

 

「なによ突然…」

 

『知ってるか? スリザリンはどんな手段を使っても目標を遂げる狡猾さがあるんだ』

 

「ダンブルドアへの復讐?」

 

『まぁ、大方はな』

 

「相変わらずね…」

 

 ハーマイオニーは依然としてメンタルコンデションレベルが低下したままだ。

 

『だが、もう一つ別の事もあるんだ』

 

「別の?」

 

『そうさ、スリザリンはもしかして、君はまことの友を得る。ってな』

 

「まことの…友…」

 

『まさか、日記に身をやつして、半世紀以上たった後に、君達に出会った。まぁ、これは僕の個人的な感想かも知れないが、君達の事はまことの友だと思っているよ』

 

「トム…」

 

 ハーマイオニーの目から涙が零れ落ちる。

 

『おいおい、泣くなよ』

 

「そんな事言われても…」

 

 ハーマイオニーは涙を拭き、しゃくりあげる。

 

『起爆まであと35秒…君達は今何処だ?』

 

「もうじき、ブラック邸に着くわ…」

 

『そうか、主柱のエネルギーが思った以上に大きい。破壊した余波が、そこまで行くかもしれないぞ』

 

「ブラック邸に設置したエネルギーフィールドは依然として健在です」

 

「そこに、我々の残存エネルギーを供給し、シールドを強化すれば防御は可能です」

 

『それを聞いて安心したよ。さて…後10だ。さよならだ』

 

「トム!!」

 

 私達は、ブラック邸に到着し、シールドの強化に取り掛かる。

 

「貴女達! 戻ったのですね! グレンジャー…トムリドルは?」

 

「トム!!」

 

 次の瞬間、ホグワーツで大規模な爆発を検知した。

 

「ぐおぉ!!」

 

「揺れたぞ!」

 

「全員、ブラック邸内部に避難してください」

 

「数秒後に衝撃が来ます」

 

 ホグワーツで発生した爆発の余波が、周辺の地面を捲り上げながら、接近する。

 

「なんだあれは!!」

 

「「シールド展開」」

 

 強化済みのシールドをブラック邸の周囲に展開する。

 

 数秒後、爆発の余波が、周辺を巻きんだ。

 

 

  爆発の余波が通過し、静寂が支配する。

 

「助かった…の…」

 

 ハーマイオニーはブラック邸内部を見渡す。

 

「余波は過ぎ去りました」

 

「外を見て来るわ…」

 

「行きましょう」

 

 マクゴナガルを先頭に、複数人がブラック邸の外へと出る。

 

「こ…これ…は…」

 

 ブラック邸の外は、見渡す限りが焦土と化していた。

 

「周辺の状況分析完了」

 

「シールド圏内を除くグリモールト・プレイス全域が焦土と化しました」

 

「何てこと…だ…」

 

 シリウスはその場に膝を付き、崩れ落ちる。

 

 他の人々も、皆一様に放心状態で、茫然自失だ。

 

「皆、顔を上げるのです」

 

 マクゴナガルが口を開く。

 

「マクゴナガル先生…これほどの被害です…生き残った魔法使いも…」

 

 ルーピンが首を横に振る。

 

「確かにそうかも知れません…ですが、私達はまだ死んではいません」

 

 マクゴナガルの言葉を聞き、数名が顔を上げる。

 

「そうです。私達はまだ生きている。もう一度やり直すんだ」

 

 シリウスが立ち上がる。

 

「まずは、各国の生き残りと連絡を。その後、マグル界に協力を要請しましょう」

 

「わかりました」

 

「マグル界との交渉は、私が行きます」

 

 ハーマイオニーが手を上げる。

 

「助かります。ですが今日はとりあえず休みましょう。体を壊しては元も子もありませんからね」

 

「はい」

 

 こうして、各員は自室へ戻って行く。

 

「ねぇ…ちょっといいかしら?」

 

 私達も自室へと戻ろうとした時、ハーマイオニーが声を掛けてくる。

 

「御用でしょうか?」

 

「その…この後、時間あるかしら?」

 

「構いません」

 

「私を一度、ホグワーツへ連れて行ってくれないかしら? トムを…迎えに行きたいの」

 

 ハーマイオニーの声が少し震える。

 

「了解しました」

 

 私達はブラック邸の扉を開く。

 

「では行きましょう」

 

「えぇ」

 

 ハーマイオニーを抱きかかえ私達は、ブラック邸から飛び立った。

 

 移動中、周囲を索敵するが動体反応は一つも無い。

 

「何も…無いわね…」

 

「周辺3キロに動体反応はありません」

 

「皆…消えたのね…」

 

「その様です」

 

 ハーマイオニーのメンタルコンデションレベル低下し、口を噤んだ。

 

 数分後、ホグワーツに接近する。

 

 ホグワーツがあった場所は、爆発の影響かクレーターとなっており、周辺には大破したラプターの残骸が大量に散乱している。

 

「まもなく、ホグワーツ直上に到着します」

 

「周辺に放射性物質などは検知されていません。安全です」

 

「そう…真ん中に…降ろして頂戴」

 

「了解」

 

 クレーターの中心に着地後、ハーマイオニーを降ろす。

 

 爆心地の中心には、四肢が吹き飛び、辛うじて胴体の基礎フレームが残っているラプターが横たわっていた。

 

「っ!」

 

 ハーマイオニーは走り出し、大破したラプターに駆け寄る。

 

「トム! トム!!」

 

 AIユニット部分に泣きつく様に駆け寄り、何度も叩く。

 

 しかし、ラプターからの反応は一切ない。

 

「トム…」

 

 ハーマイオニーはその場に崩れ落ちる。

 

「機体からの反応はありません」

 

「分かってるわ…分かってる…」

 

 ハーマイオニーは涙をぬぐい立ち上がった。

 

「機体の回収を行いますか?」

 

「えぇ…ありがとう…」

 

 私は、ベクタートラップ内に、ラプターを収納する。

 

「さぁ…戻りましょう」

 

 トムを回収後、私達は、爆心地を後にした。




トム…
良い奴だったよ。


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エピローグ

今回でこの作品も終了です。

長い間ありがとうございました。




   ダンブルドアが消滅してから、半年の月日が流れた。

 

 その間に、マクゴナガルを筆頭に、各国の魔法使いが、国や性別を超え、復興に協力した。

 

 それにより、イギリス魔法界は、一応の復興を遂げた。

 

 それに伴い、魔法省の機能も回復した。

 

 魔法省大臣には各員の推薦により、マクゴナガルが就任した。

 

 そして、魔法省の財務部の主任として、ルーピンが、闇払いの局長にはシリウスが就任した。

 

 当人は、『アズカバンの服役囚が闇払いの局長を務めるとは皮肉なものだ』と語っていた。

 

 こうして、魔法界は着実に復興への道筋を歩みだした。

 

 その頃には、私達の修復作業は完了した。

 

 そんなある日、私達は、ホグワーツ跡地にやって来た。

 

 私達は、爆心地の中央に、神秘部から拝借したアーチを設置する。

 

 そして、周囲に散乱したラプターの残骸から、まだ生きている動力系を回収し、接続する。

 

「本当に…帰るのね」

 

「はい」

 

「既に、魔法界とマグル界の均衡は保たれています」

 

「まぁ、マグル界と接触したけど、やっぱり魔法使いなんて信じられないみたいね。皆半信半疑だったわ」

 

 小さな笑みを浮かべたハーマイオニーは改造済みの逆転時計を取り出す

 

 ハーマイオニーは改修済みの逆転時計をコントロールパネルに接続する。

 

「ふふ…一時はどうなるかと思ったけど…皆何とかやっているわね」

 

 ハーマイオニーは赤い輝石が埋め込まれた一冊の分厚い本を抱えながら微笑む。

 

「そうですね」

 

「それだけ、私達が頑張っているという事さ」

 

「君は相変わらず暴れているがな」

 

「意外と、魔法大臣と言うのも肩がこるものですね」

 

 私達の背後に、マクゴナガルとシリウス、そしてルーピンが現れる。

 

「僕達も居るさ」

 

 ハリーの後に続くように、松葉杖を片手に、スネイプが現れる。

 

「私が呼んだの」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、少し微笑む。

 

「グレンジャーから色々と聞いています」

 

「まぁ、君達の事を聞いた時は驚いたが…」

 

「納得できたからな」

 

 

 ハリー達も苦笑いをしている。

 

「そう言えば、ハーマイオニー。その本は何だい?」

 

「あぁ、これ?」

 

 ハリーの問いかけに対し、ハーマイオニーはその場で本を開く。

 

『ふぅ…やっぱり本の中じゃ息苦しいな』

 

 本を開くと、そこから聞き覚えのある声が響く。

 

「うぉ!」

 

『おや、その声はハリーポッターか? こうして本として会うのは久しぶりだな』

 

「トムリドル? 生きていたのですね?」

 

『おっと、この声はマクゴナガルか?』

 

「どうなってるんだ?」

 

「フフッ、驚いた?」

 

 ハーマイオニーはメンタルコンデションレベルが上昇し、微笑む。

 

『まぁ…運良くAIユニットが無事でね。それに、どこぞの誰かが大泣きしながら戻れって五月蠅くてさ』

 

「あら、一体誰の事かしら?」

 

『まぁいいさ。でもどうせだったら、またタブレットに住まわせてくれれば良かったんだがな』

 

「私が作った本じゃ不満かしら? 折角ニコラス・フラメルに聞いて、賢者の石まで作ってあげたのよ?」

 

 ハーマイオニーは本に埋め込まれた賢者の石を軽く指ではじく。

 

『まぁ、不満は無いな、要望があるとすれば、人間の体が欲しいって所だな』

 

「そのうち用意してあげるわよ」

 

『そうかい。具体的には何年後だ?』

 

「現在の科学レベルが発展し、サイボーグ技術が確立されるのは少なくとも150年以上先です」

 

「結構先ね」

 

『君の孫や曽孫の世代だろうに…どうするんだ?』

 

「そうねぇ…」

 

 ハーマイオニーは小袋から複数の小さな赤い輝石を取り出す。

 

「ねぇ…まさかと思うけど…それは…」

 

「えぇ、賢者の石よ」

 

 ハーマイオニーが答えるとその場の全員がたじろぐ。

 

「グレンジャー…それが何を意味しているのか…貴女なら分かりますよね…」

 

『そうだぞ。僕が言うのもアレだが、意味は分かっているんだろうな?』

 

「えぇ…分かっているわ」

 

「そうですか…ならば、私は何も言いません」

 

「ありがとうございます」

 

 一礼した後、ハーマイオニーは賢者の石を一気に飲み込む。

 

「ふぅ…」

 

『ようこそこっち側へ。気分はどうだ?』

 

「別に…何も分からないわ」

 

『そうかい』

 

「えぇ」

 

 ハーマイオニーはそう言っているが、体内のナノマシンの構造が急速に変化し、再生能力が急上昇した。

 

「さて…じゃあ、準備するわね。トム手伝ってくれる?」

 

『了解』

 

 ハーマイオニーは本を片手に、コントロールパネルを操作し始める。

 

 しばらくすると、ワームホールが展開される。

 

『計算終了。君達がこっちに来た日から数日後に調整したぞ』

 

「アーチは開いたわね…ねぇ、計算はこれで合ってるの?」

 

『合っている…はずさ』

 

「はずって…」

 

『しょうがないだろ。この体の処理速度じゃこれが限界さ』

 

「はぁ…まぁ、誤差の範囲という事にしておきましょう」

 

『あぁ、向こうに付く日付が若干ズレるだけだ』

 

「ちなみにどれくらい?」

 

『そうだな…1日から…』

 

「から?」

 

『数十年って所か?』

 

「はぁ…」

 

 ハーマイオニーは溜息を吐く。

 

「ごめんなさい。でもこれが限界なの」

 

「問題ありません」

 

『さて、名残惜しいがそろそろお別れだ』

 

「もう?」

 

『あぁ、あと少しでアーチが閉じるだろう』

 

「そう…お別れね…」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、私達2人に抱き着く。

 

「ありがとう…本当にありがとう」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、涙を流す。

 

「こちらこそ」

 

「感謝しています」

 

 ハーマイオニーは数歩後退り、微笑む。

 

『一応アーチの向こうはどうなっているか分からない。オービタルフレームに乗っていた方が良いだろう』

 

「了解」

 

 私達はオービタルフレームに搭乗し、機体を起動させる。

 

 オービタルフレームの駆動音が周囲を包み込む。

 

 浮遊したオービタルフレームはバーニアを起動させる。

 

「エイダ! デルフィ!!」

 

 その場でハーマイオニーが大声を上げる。

 

「いつか! またいつか貴女達と会える気がするの!! だから! さようならなんて言わないわ!! また会いましょう!!」

 

「えぇ」

 

「またいつか、お会いしましょう」

 

 別れを告げた私達は、オービタルフレームのバーニアを最大出力で展開し、アーチを潜り抜ける。

 

 

 

  メインシステム、再起動。

 

 

 システム、チェック。

 

 武装及び、ベクタートラップ正常起動。

 

 周辺チェック。

 

 宇宙空間であることが判明。

 

『こちら、民間探査船、リユニオン』

 

 オービタルフレームに通信が入る。

 

『こちらは、オービタルフレームジェフティ』

 

『エイダ! エイダ! お前なのか?』

 

 通信の声が、聞き覚えのある人物に変わる。

 

『はい、私です。ディンゴ・イーグリット』

 

『3か月も何処に行ってやがった!』

 

『良かった、無事だったんだね』

 

 再び、別の人物に変わる。

 

『はい、ご心配をおかけして、申し訳ありません。レオ』

 

『良いんだよ。これから回収に向かうよ』

 

『あぁ、それと、ジェフティのほかにもう一つ──』

 

 ディンゴが何かを言いかけた時、通信が切れる。

 

 私は、ヘルメットを外し、手元のコンソールを操作する。

 

 ある程度操作を続けた所で、私は自分の手に目を向ける。

 

 

『気が付きましたか?』

 

 アヌビスから通信が入る。

 

 映し出されたディスプレイにはデルフィの姿が映し出されていた。

 

 そして、キャノピーに私の姿が反射する。

 

『どうやら、元の時代に戻った様ですが、この姿のままの様です』

 

『その様ですね』

 

 数分後、リユニオンが接近する。

 

『エイダ! そこに居るのはアヌビスか?』

 

『はい』

 

『なんでアヌビスが…一体誰が…』

 

『敵意はありません』

 

『だが──』

 

『これから、ハッチを開く。そこから入ってくれ』

 

『まだ話は──』

 

『了解』

 

 オペレーターのガイドに従い、私達はリユニオンに乗艦する。

 

 

  乗艦後、オービタルフレームをドックに固定する。

 

『与圧中だ。君達なら大丈夫だろうが、終了まで少し待っていてくれ』

 

 オペレーターの声が響く。

 

 数分後、与圧処理が終了したのか、レオとディンゴ、そして、ケン・マリネリスが姿を現した。

 

 私は、キャノピーを展開し、コックピットの外へと出る。

 

「だ、誰だお前達!!」

 

 3人はその場で動きを止める。

 

「私です。ジェフティの独立型戦闘支援ユニットのエイダです。こちらがアヌビスの独立型戦闘支援ユニットの」

 

「デルフィです」

 

「どうなってやがるんだ?」

 

「訳が…分からないわよ…」

 

「え? え?」

 

 3人は状況が理解できずに固まっている。

 

「2人については、私から説明するわ」

 

 20代と思われる女性が、ドックに降り、私達の前に着地する。

 

「貴女は…」

 

「っ!」

 

 目の前に現れた女性は、私達2人に抱き着く。

 

「会いたかった…会いたかった!」

 

「えぇ、我々もです」

 

「お久しぶりです。ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーはその場で涙を流す。

 

「全く…格好つけて登場したいって言ったのは君だろうに。泣いてどうする?」

 

 ハーマイオニーの後ろに1体の男性型サイボーグが現れる。

 

「もう、そういう事言わないでよ」

 

 ハーマイオニーは私から離れると、目元をハンカチで拭く。

 

「やぁ、久しぶりだな。まぁ、君達からすればあっという間だったかもしれないが」

 

「えぇ、お久しぶりですね。トム」

 

「あぁ」

 

 トムは手を差し出し、私達は手を取り握手をする。

 

「さて、そろそろ説明してやったらどうだ? 彼等、付いて来てないぞ」

 

 トムが、茫然としているレオ達を指差す。

 

「そうだったわね。でもここじゃアレだから、上で話しましょう」

 

「あ、あぁ」

 

 私達は、ドックを出て、応接室へと向かった。

 

 

 「さて…何から話そうかしら…」

 

 応接室でハーマイオニーは椅子に座りながら腕を組む。

 

「最初から頼む」

 

 ディンゴは応接室の椅子に腰を掛けると、それに倣う様に2人が椅子に座る。

 

 トムが、ティーカップに紅茶を入れ、各員の前に出す。

 

「そうね…早速だけど…貴方達は…魔法って信じるかしら?」

 

「はぁ? なんじゃそりゃ。魔法って…あの魔法?」

 

「杖を振ったりするファンタジーの?」

 

 ディンゴは唖然としている。

 

「まぁ、そういう反応よね。うん、それが普通だわ」

 

 ハーマイオニーは数回頷き、背後でトムが微笑む。

 

 そんな中、ハーマイオニーが杖を取り出す。

 

「なんだそれは? まさか魔法の杖って言うんじゃ無いだろうな?」

 

「まさにその通りよ」

 

「おいおい、マジかよ。その杖を振って魔法でも使うってのかよ。勘弁してくれ」

 

 ディンゴは呆れた様にほくそ笑む。

 

「あら、魔法は実在するのよ」

 

 ハーマイオニーが杖を振り、ディンゴの前に置かれていたティーカップを浮遊させる。

 

「おい、何の真似だこりゃ? 手品か?」

 

「手品なんかじゃ無いわ。魔法よ」

 

 ハーマイオニーが杖を軽く振ると、浮いたティーカップに角砂糖が2つ入り、ティースプーンが自動的にかき回す。

 

「もう少し砂糖を入れる?」

 

「いや…」

 

「そう。少しは信用してくれたかしら?」

 

「あ、あぁ」

 

 空中でティーカップを受け取ったディンゴは唖然としていた。

 

「さて、魔法の存在を信じて貰ったところで、2人がなぜこんな状況なのか説明するわね」

 

「あぁ」

 

「おほん」

 

 ハーマイオニーは咳払いをした後、口を開く。

 

「まずは、デルフィについて、これはアーマーンでの戦いにまで遡るわ」

 

「あぁ、あの時、アヌビスはアーマーンと共に消滅したはずだ」

 

「えぇ、アヌビスの機体本体はね」

 

「ん? どういう事だ?」

 

 ハーマイオニーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「フフッ、実はあの時、アヌビスが爆発に投げ込まれる前に、私がAIユニットを回収したの」

 

「は?」

 

「え?」

 

 アーマーンの爆発の現場に居たディンゴとレオは間の抜けた声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待て、アンタはあの時、アーマーンに居たって言うのか?」

 

「正確には戦闘が終わった直後にね」

 

「嘘を言うな。あの時の事は嫌でも覚えている。アヌビスからAIユニットを回収する時間なんて無かったはずだ。まさか魔法で何とかしたって言うのか?」

 

「その通りさ。僕も無理やり同行させられた訳だ」

 

「ラプターの運転がうまくて助かったわ」

 

 トムがスコーンを片手に、現れる。

 

「はい、これ」

 

「ありがとう」

 

 トムは、ハーマイオニーに逆転時計を手渡す。

 

「その時使ったのがこれよ」

 

「なんだそれ?」

 

「すごく古い…時計よね? 資料で見たことあるわ」

 

「これはね逆転時計って言うんだけど。まぁ色々と改造してね」

 

 ハーマイオニーは逆転時計のボタンを押すと、時計の針が止まる。

 

 それと同時に、複数の空間圧縮が発生し、時間軸が複雑に絡み合う事により、半径3m範囲の時間軸が停止する。

 

「おい、どうなってるんだ?」

 

 3人は周囲を見回し、困惑している。

 

「これを使うと、時間を止められるのよ。まぁ、これを使って戦闘後のアヌビスからAIユニットを回収して、抜け殻のアヌビスをジェフティの前に流したわ」

 

「だからあの時、目の前にアヌビスが…」

 

 ディンゴは何処か納得したようだ。

 

 体感にして数秒で、時間停止が解除される。

 

「大変なのはここからよ。AIユニットから凍結されたデルフィを回収して、SSAで作った体に移したのよ。もう徹夜続きだったわ」

 

「ちなみに僕の体も同じ技術で出来ているんだ」

 

 トムはそう言うと、ハーマイオニーは溜息を吐く。

 

「話が…飛躍しすぎていて…」

 

「まぁ、訳が分からなくても当然よね。その後、出来る限り武装も再現したわ」

 

「なるほど、こうして私は製造された訳ですね」

 

「そういう事。その後、デルフィには1980年に行ってもらったわ」

 

「え? 今なんて言った?」

 

「デルフィには1980年に行ってもらったの。逆転時計を使ってね」

 

「そうか…」

 

 ディンゴは何処か諦めた様に相槌を打つ。

 

「数か月後にエイダも爆発に巻き込まれたわよね」

 

「はい」

 

「あれは…そのぉ…言いにくいんだけど、私のせいなの…」

 

「え?」

 

 レオが声を上げる。

 

「実は政府や研究機関から拝借して、隠しておいたメタトロンが暴走しちゃって…それで…」

 

「ジェフティが爆発に巻き込まれたって訳か」

 

「そういう事」

 

「死にかけたんだぞ」

 

「それに関しては…ごめんなさい。本当ならもう少し安全にAIユニットを回収したかったんだけど…」

 

「はぁ?」

 

 ディンゴは呆れた様で溜息を吐いている。

 

「まぁ、爆発に巻き込まれたジェフティから、アヌビスの時と同じようにAIユニットを回収して、同様の処置を行ったわ」

 

「その後、君も数ヵ月遅れで、1980年に送らせてもらったよ。その後、住む場所と戸籍を用意させてもらった」

 

「まぁ、戸籍に関しては、その時はデータじゃ無かったから、服従の呪文を使って書いて貰った後に、記憶を消させてもらったわ」

 

「ちょっと待って…」

 

 ケンが手を上げる。

 

「どうかした?」

 

「なんで1980年なんて、そんな昔なの?」

 

「それはね、2人にはホグワーツと呼ばれる魔法学校に私の同級生として入学して貰いたかったのよ」

 

「同級生って…貴女今いくつなのよ…」

 

「うーん…そうね。少なく見積もっても200歳くらいかしら?」

 

「だいぶサバを読んだな。もっといってるだろ」

 

「200を超えたらその先なんて変わらないわ」

 

「嘘でしょ…どう見たって20代なんだけど…」

 

「フフッ、まぁそこも魔法って事で」

 

「彼女の発言に嘘はありません」

 

「実際に我々は1980年代に存在し、ホグワーツに入学しました」

 

「マジかよ…」

 

「まぁ…エイダ達が嘘を言うとは思えないが…信じられないな…」

 

「でもなんで2人がその時代の、それも魔法使いの世界に必要なんだ?」

 

「実は…その時代に魔法界で戦争があったのよ」

 

「戦争か…どこの世界も変わらないな」

 

「実際その戦争を集結させるのに2人の力が必要だったんだ」

 

「それは…本当か?」

 

「事実です」

 

「マジかよ」

 

「どうだい? 納得してくれたかな?」

 

「納得も何も…信じるしかないんだろうな」

 

「その通りさ」

 

「はぁ…」

 

 トムに諭され、ディンゴは溜息を吐く。

 

「そうそう、貴女達が帰った後、結構大変だったのよ」

 

「そうなのですか」

 

「えぇ、でも何とか持ち直したわ。そのおかげで、ホグワーツも再開できたの」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうに話を続ける。

 

「ホグワーツが再開されると同時にマクゴナガル先生は魔法大臣を辞職して、校長に就任したわ。後任の魔法大臣はあのドラコ・マルフォイが務めたのよ。驚きよね」

 

「まぁ、彼も案外まともに大臣職をやってくれたよ。若干の純血贔屓はあったが、それでも重要な点においては公平だったさ。マクゴナガルに関しては歴代の校長の中で最も有能だったよ」

 

「その後も、魔法界は色々あったわ。ロンとかのダンブルドア信者が集まって新生ネオDAなんて名乗って居たわ」

 

「まぁ、闇払いの目に留まってまともな活動は出来て居なかったがね」

 

「そうなのよ。闇払いと言えば、ハリーが局長に就任したのよ。歴代最強だなんて言われていたわ」

 

「そうですか」

 

「最終的にはロンと決闘なんてことになったらしいわ」

 

「現在、魔法界はどの様な情勢ですか」

 

「魔法界は…もう無いわ」

 

「100年くらい、いやもっと前か…人類が宇宙に進出すると同時に、魔法使いは衰退して、完全に消滅したよ」

 

「今じゃ、魔力があっても魔法を使える人なんていないと思うわ」

 

「そうですか」

 

「あぁ、なんだか昔が懐かしいわ」

 

 ハーマイオニーは昔を懐かしむように、天を仰ぐ。

 

「そういえば、トム。2人が今日来たって事は、予定より遅いわよ。計算ミスね」

 

「覚えていたのか…まぁあの時の処理能力でこの誤差は頑張った方だと思うぞ。まぁ今なら誤差は数秒まで縮められるが」

 

「まぁいいわ」

 

 ハーマイオニーが小さく微笑む。

 

 その時、レオがデルフィに視線を向けている事に気が付く。

 

 デルフィもその事に気が付いたようだ。

 

「何か御用ですか? レオ・ステンバック」

 

「あ、いや、君はアヌビスの」

 

「デルフィです」

 

「そうか、エイダと声が似ているなと思って」

 

「基礎データは一緒ですので」

 

「そうなのか、良ければもう少し詳しく──」

 

「レオ」

 

 思わず、私はレオに声を掛ける。

 

「どうしたんだ? エイダ?」

 

「AIならば、誰でも良いのですか?」

 

「え?」

 

 全員の視線が集まる。

 

「えっと…エイダ? もしかして怒ってる?」

 

「いいえ」

 

「嫉妬ですか?」

 

「発言の意図不明」

 

「言われてるぞ」

 

「え? え?」

 

 レオが私とデルフィを交互に見据える。

 

「はいはい、そこまでよ」

 

 私達の間にハーマイオニーが入る。

 

「そうそう。2人とも言い忘れていたことがったわ」

 

「何でしょう?」

 

 ハーマイオニーが私達2人に向き合う。

 

「お帰りなさい」

 

「「只今戻りました」」

 

「「帰還報告(デブリーフィング)を終了します」」

 

 その場の全員が微笑み、私達の帰還報告(デブリーフィング)が終了した。

 

 

 

 

 




これにて終了です。

今までありがとうござました。

この先はちょっとしたおまけです。




















数日後、ハーマイオニーから呼び出され、私達2人が執務室に集まる。

「お呼びでしょうか?」

「実はね、ここ最近、小規模だけどある宙域で時空震が頻発しているのよ」

ハーマイオニーからデータが送られる。

「だから、2人には調査に向かって欲しいんだけど、いいかしら?」

「了解」

「ミッションを受諾しました」

「感謝するわ」

私達は一礼し、執務室を後にしようとする。

「ちょっと待って」

その時、ハーマイオニーが引き留める。

「何でしょう?」

「2人に渡したいものがあるの」

そう言うと、ハーマイオニーがデバイスドライバを送信する。

「オーバーメガドライバーのデバイスよ。後、ベクターキャノンの強化デバイスよ。役に立つはずよ」

「感謝します」

「えぇ、それじゃあ、いってらっしゃい」

「「了解。出撃します」」


私達は、執務室を後にすると、デッキでOFに搭乗後、指定された宙域へと移動した。










next mission

(https://syosetu.org/novel/201633/)


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