グランブルーから地上へ行くのは間違っているだろうか? (クウト)
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星晶獣の仕業って言えば解決じゃない?

見切り発車行くよー


目が覚めた。

知らないところだ。

 

「…………ん!?」

 

あっれぇ!?おかしくね!?

俺さっきまでグランサイファーの中に居たよね!?自分の部屋で寝て起きたら廃墟の中とかなにこれ!!

 

「教会か?いや、本当にどこだよ」

 

考えてみよう。

ここにくる前、つまりグランサイファーの中に居た時の事だ。外が騒がしかったのは覚えている。けど俺は依頼を片付けた後だったしベッドに吸い込まれるかのように寝たのだ。最後にジータとルリアが駆け込んで来たことは覚えているが……。

 

「ふーむ。身体も無事みたいだし、なんとかなるかな?外にでも出てみるか」

 

何故か落ち着いてるって?

そりゃ二度目ですから。高校生として生きていたら突然死んで生まれ変わったらグラブルの世界だったよ。グランって呼ばれた時とビィくん見た瞬間に確信した。でもジータが居たので混乱もした。

 

「姉がいたとは俺にも予想外」

 

そこから健やかにとは言えないが成長していきあれよあれよとザンクティンゼルを出ることになってストーリーを進んで行くんだが団長はジータで俺が副団長になってしまった。団員は課金勢の如く増えていき騎空艇が二隻なった時点でお察しである。

 

「外から見るとこの教会ボロボロだな」

 

とにかく情報収集だ。

適当に歩き回ってみよう。幸い武器もつけたまま寝たからか最低限の装備はあるし自衛ならできるだろう。回復アイテムとかは無いけど避ければいい。

 

「どこかわからないから移動のしようもないけど……。飛ぶか」

 

協会の屋根上からならある程度は見渡せる事が出来るだろう。トントンっと壁を蹴り上げ屋根に駆け上る。にしても本当にヒューマンとは思えない身体能力だよなぁ。なんて考えながら目の前に広がった景色は

 

「見事に町外れでした。てかでっかい塔があるんですけど……」

 

にしてもでかい。

まるで違う世界のようで。

…………。

 

「やっべぇ。一番ダメなパターンか?」

 

もしかして、異世界とか?

 

 

 

あれからとりあえず塔を目指して歩き出した。

路地をそのまま進むと迷ってしまうと思った俺は建物の上をピョンピョン跳びつつ移動中。

 

「とりあえず大通りでも見つけて手前で降りよう」

 

にしてもチラホラと人は見るけどいろんな人種ないるなぁ。ヒューマンにエルーンにハーヴィン?小さいけど丸みというか可愛い感じはないよな?けど暫定でハーヴィンでいいや。ドラフだけが今の所居ないよな?角生えてる奴いた!って思ったけど装備だったし。男なのに身長も大きくないし。

 

「そろそろ降りるか」

 

大通りが見えて来たので一旦降りる事にする。

そのまま歩いて大通りに向かう途中前から小さい人。おそらくハーヴィンが歩いてくる。

外装を着て顔を見せないようにしてるし見るからに怪しい。うーんここは乗っかるか。

少し体を揺らして財布の在り処を教えてあげる。まぁここが異世界なら使えないお金だと思うけど?お小遣い程度しか入ってないし。うちの団は俺だけお小遣い制にしてくるのはおかしいと思う。俺だってシェロの店で色々と買いたい。

それはそうと相手は思った通り俺の財布をかすめ取ってきた。

 

「おっと。返してもらうよ」

 

相手が俺の財布を懐に隠す前に取り返してみた。

 

「!!」

 

そこからハーヴィンの行動は早かった。

速攻走って逃げようとする。まぁただで逃げるのは許さないけど。

 

「待って待って」

 

「離してください!」

 

「まぁまぁ悪いようにはしないって。話したいだけだから」

 

「……なんですか?」

 

ハーヴィンの子は声からして女の子かな?

とりあえず話を聞いてくれるみたいだから何個か質問してみる。

 

「俺すごい田舎から旅してるんだけどさ。ここってなんて街かな?」

 

「オラリオを知らないんですか?」

 

フードで顔が見えないがすっごい呆れてるというか怪しい奴を見るような顔をしていると思う。どうやらこの街は知っていて当然なのだろう。

 

「なんでもすごい田舎だからね。何もなさすぎて森と空ぐらいしかない所なんだけど目的あって旅に出たけどちょっと迷ってね。気がついたらこの街に行き当たったって感じかな」

 

嘘はついてない。

ザンクティンゼルは田舎(たまにエゲツない強さのやつらが現れる)だし目的あって旅も出た。此処に来たのも迷ったと言えば迷ったのだろう。

 

「此処は迷宮都市オラリオです。誰でも知っている事ですけど……」

 

「あーオラリオね。うん、聞いたことはあるよ。興味ないから聞き流したような記憶がある」

 

「もう離してもらえます?」

 

「もう少しね?此処に行き当たったのも何かの縁だしもうちょっと詳しく教えてくれない?」

 

そこから聞いた話は想像もしてない事だらけだった。広大な地下迷宮ダンジョンを中心に栄えた街。人々は冒険者となる為にこの世界にいる神様の眷属となりその恩恵を得るのだとかなんとか。そしてファミリアという騎空団のようなのを運営してダンジョン攻略を目指す。まぁファミリアにも色々とあるみたいだから攻略だけが目標という訳ではないみたいだけど。

 

「まぁわかった。ありがとね」

 

「ならもう行きます」

 

「またねー」

 

ぴゅー!っと走っていくハーヴィンの子。

まぁ結構な時間拘束しちゃったしこんな所をジータ達に見られたら危なかった。犯罪者呼ばわりされたり心配されたりで大変な事になる所だったぜ。

にしてもだ。

 

「完全無欠に異世界だな!!!」

 

唯一変わらないのは青い空だけだった。

 

 

 

あ。

 

「……そうだよやっべぇ。一部の奴らに俺がいない事わかったら大変な事になるじゃん」

 

おそらく俺の顔も真っ青だ。




ここ違うやんけ!って思う人もいるだろうけどごめんな。謝っとくね


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何事も情報収集が大事だと思う

完全無欠に異世界だった。

路地裏で頭を抱え絶望に浸っていたがそれで解決するわけも無く、何もしないよりは動いてみようという精神でいく事にする。

だからという訳ではないがまず俺がした行動は

 

「ジャガ丸くん安いよー!」

 

アルバイトだ。

いやね?どうかと思ったよ?仮にも騎空団の副団長だったんだ。装備もあるし冒険だー!ってなるのが物語だと俺も思う。けどダンジョンに入るには神様の眷属にならないといけないとかなんとか。安易に行動しすぎていざ戻る時に問題山積み!とかになったらめんどくさいじゃん?

だからこそ!日々の糧を手に入れる為にアルバイトをするのだ。現実的に考えようぜ?な?

 

「坊主!なかなか大きな声で呼び込むじゃねぇか!」

 

「おっちゃんの店に悪い印象与える訳にはいきませんしね」

 

「にしてもいきなり働かせてくれって言われた時は驚いたが助かったよ。バイトが全然来なくてな」

 

「遅刻とかですか?それは良くないっすねぇ」

 

現在、気の良さそうなおっちゃんがやってた屋台で働いています。まぁただ働く訳ではない。情報収集も勿論兼ねてだ。

成果はちゃんとある。まず種族。ヒューマンは変わらないがそのほかにエルフ、ドワーフ、アマゾネス、獣人、パルゥムがいることがわかった

普通、綺麗系、筋肉ダルマ、褐色、ケモ耳、小さい。覚えたグラン君偉いからね。あとは神様は一目見れば気配が違うなってわかったしそこはすぐに判断できた。

 

「おっちゃん!遅れてごめんよ!」

 

「遅いぞヘスティアちゃんよぉ!いくら神様だからって仕事に遅れるのは良くねぇだろ!!」

 

「ごめんよぉ!あっちでおじいさんを助けてて遅れたんだよ」

 

「前もそんなこと言ってたじゃねぇか。はぁ、とにかく気をつけてくれよ?それより新しいバイトだ」

 

「どもー。グランって言います。短い期間だけですけどお世話になりまーす」

 

「君は……」

 

んー。神様とのエンカウントは初めてだからなぁ。どんな反応されることやら。ヤバそうなら速攻トンズラこくか。

 

「君!グラン君!僕のファミリアに入らないかい!?」

 

「……は?」

 

「実は僕のファミリアにはまだ一人しか居なくてね!その子が無茶をしないかとか一人でダンジョンに行かせるのが心配で心配で!!君も居てくれると本当に助かるんだよ!だからどうだい!?」

 

こ、この神マジか。

遅刻の後に速攻勧誘とかおっちゃんに怒られたばっかりなのによくやるな……。それに勧誘理由がもう一人の眷属が心配だからって。俺はなんとも思わないけど受け取り方によってはそいつの為だけには入れって言ってるようなのもじゃね?まぁその辺はどうでもいいけどさ。

 

「ヘスティアちゃん?」

 

笑顔なのに凄みがあるねおっちゃん。

 

「……は!?お、おっちゃん?これはなんというかそのぉ」

 

「今日の残りはグラン君にあげる事にするから」

 

「ごめんよぉおお!!!お願いだから僕にもちょうだいぃいい!」

 

「やりぃ」

 

まぁ貰えるもんは貰おう。

だがそれよりも今晩泊まる場所もなんとかしないといけないだろう。

そんなこんなで太陽が落ちていき辺りが暗くなった頃。店じまいもして給金と売れ残りを貰った後、俺はこの辺に安い宿は無いかと聞く。

 

「宿ねぇ。この通りをまっすぐ行けばあるよ。まあ今日の給金じゃ泊まるぐらいしかできないだろうがなぁ」

 

「飯はおっちゃんがくれたジャガ丸くんがあるし大丈夫」

 

「にしても坊主。何かの縁だしどっかファミリアを探せばいいんじゃないか?」

 

「んー。今の所その辺は考えてないかなぁ。しばらく日銭を稼いで適当に見回ってみるつもりだし」

 

その間に何か進展があればいいんだが。

おそらくだが俺が眠ってる間にグランサイファー内が騒々しかったのは襲撃とか予測できない何かがあったのかな?アルルメイヤとかマギサ辺りが気がついていても良さそうだが……。まぁ置いておこう。ジータとルリアが俺の部屋に駆け込んだのはそれを知らせにきたか俺自身に何かが起こるのを察知したからか?星晶獣が関わって迷い込んじゃったとか考えていいのかね?ルリアと契約してるのジータだから正直その辺わからん。

 

「おーい!グランくん!!」

 

「ん?神様?どうしました?」

 

「君、お金が必要なんだろう?ならボク達の家に来たらどうだい?」

 

「ありがたい話しなんですけど何も返せないですよ?そんな立場なのに泊めてもらうのは気が引けます」

 

無いとは思うが対価に眷属になれなんて言われても困るのだ。ちょっと目を逸らした目の前の神様に俺は結構警戒心を抱いている。

 

「そ、そんなことしないさ!困ってる人に手を差し伸べるのは神として当たり前だろ?」

 

目をそらすな目を。

まぁまぁいいじゃないか!と言いながら俺の背中を押し始めた神様。下手に抵抗して話がややこしくなるのも嫌だし一応従うか。いざとなれば逃げる。

 

「それにしても君は剣を持ってるみたいだけど戦えるのかい?」

 

「まぁそれなりには」

 

「なら君を泊める対価は僕の眷属に戦い方を教えてあげてくれないかい?冒険者になったばかりだしボクは心配なんだよ」

 

「なるほど。それなら俺も役に立てそうですね」

 

「なら決まりだ!ちなみにボクの眷属はベル君っていうんだけど短剣を使うんだよ。冒険者になった時にボクに装備を見せてくるのが可愛くてね!でも怪我をして帰ってくるのを見て毎回ボクは落ち着かなくてしょうがないんだよ」

 

神様の長い話を適当に聞き流しながら歩いているとそこには見たことある教会。

 

「ここがボク達の家だよ!ベールくーん!お客さんだよぉ〜!」

 

そう言って駆け出した神様は本棚の裏にある階段を駆け下りていった。

え?何それ男の子心くすぐる秘密の部屋への階段?

 

「ベル君まだ帰って来てないみたいだね。こんな時も心配なんだよ」

 

「んー。でももうそろそろ帰ってくると思いますよ?」

 

「え?」

 

上から足音が聞こえた。

歩幅はそれほど大きくない。子供だろう。

子供がわざわざこんな教会に来る予定もないだろうしおそらくベル君とやらなんだろう。

 

「神様、帰って来ましたー!ただいまー!」

 

「おぉ!おかえりベル君!今日はボクらのファミリアにお客さんだよ!!」

 

「え!?新しい人ですか!?」

 

「ふふん。その予定だよ!」

 

その予定いつ決まったんです?

ともかく現れたベル君。白髪にルベライトの瞳。

まだ身体も出来上がっていないように思え神様が言うように心配をしてしまいそう。悪く言えば少頼り無さげに見える。

 

「初めましてベル君。俺はグラン。旅の途中の何かの縁でここに来たけどまだファミリアに入るつもりはないから予定とやらは忘れてね?」

 

「え?あ、はい。ベル・クラネルです。よろしくお願いしますグランさん」

 

「えーいいじゃないかグラン君!グラン君も僕のファミリアに入ろうぜ!」

 

「はぁ。急だけどしばらく厄介になるよ。対価としては君に剣の稽古を付けることだ。よろしくね?」

 

「え!?稽古をしてくれるんですか!?よろしくお願いします!!」

 

「二人してボクを無視しないでおくれよぉ!!!」

 

その後は次の日からの予定を決めつつ今日は休むことにした。

さてさて、今日は無事とは言えないが終わるみたいだな。これからどうなることやら。最悪ダンジョンに行く事を視野に入れながら眠ることにしたのだった。



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ヘスティアファミリア

次の日。

特に何も変わることなく朝を迎えてしまった。

昨日はあれから三人で飯を食べて寝る準備。寝るまでの間ベル君を誘導しつつ情報収集をしてみた。あれだね……純粋な子を騙してるみたいでなかなか罪悪感があったね。今までの冒険の話とかでいっても問題ない部分だけ話してみたけど……。嘘は言ってないよ!でもほら?帝国と敵対して本拠地に殴り込みましたとか言ってみ?この世界に帝国があるかは知らないけど勘違いされて芋づる式に色々とややこしくなるだろ?仲間とかとの出会いとか、やたら強い奴に絡まれるとかその辺だけ話してみた。喜んでくれて何よりです。

そして今は何をしてるかと言うと。

 

「ほらほら。その程度かベル君」

 

「ま、まだ!!」

 

早朝からベル君の稽古をしている。さすがに俺の剣を使ったらベル君のナイフはすぐに使えなくなってしまう。その為俺はその辺で拾った少し長めの木を使用する。

しかし農具ぐらいしかまともに触ってないとのことだけあって隙も多いし扱いも雑だ。

少しづつだが腕を打ったりしながら最小限で最適な動きを体に覚えさせる。話を聞いているとダンジョンで生き残るには最も最適な行動を取り続けていくのがベスト。だがまだまだベル君にそれを求めるのは酷というものだ。だからこそまずは体の動きを覚えさせていく。不測の事態が起こっても逃げられるように、逃げれなくても助けが来るまで動き続けられるように。

 

「そうそう。大きな動きは隙になるから相手の攻撃を見極めて避けること。今は大ぶりの攻撃なんてせずに隙を見つけたらそこをつくこと」

 

「は、はい!!」

 

「体力なんて積み重ねる事についていくんだからいかに消耗せず相手を倒せるかだよ。ダンジョンに一人で入るなら必ず必要になることだからね」

 

「がぁ!」

 

バシンッ!とベル君の頭を叩く。

……ふむ。うまく入りすぎて気絶させてしまった。俺も熱が入りすぎたのかな?まだまだだよなぁ。

俺はベル君を担ぎ上げて教会に戻る事にした。

 

 

 

気絶から起き上がりダンジョンに向かうベル君を送り出して俺は街へ遊びもとい情報収集へ行く事にする。今日は昼から神様と交代で仕事をする事になってるしまだ時間はある。

 

「まぁ遊べるほどのお金もないし適当にぶらつくだけなんだがなぁ」

 

改めて街を見回ると本当に色々な人達がいる。冒険者に商人、子供に老人。活気もある街だし居心地は良さそうなんだよなぁ。

 

「おい兄ちゃん。ちょっといいか?」

 

「お、なんだあの果物。うまそう」

 

「おいおい無視か?お前だよお前」

 

肩を組んで来るのは見知らぬおっさん。

 

「この俺を無視するたぁいい度胸だ。ちょっとこっちに来いよ」

 

「嫌だけど?」

 

「口答えするんじゃねぇ。いいから来いよ」

 

スッと周りから目立たないように俺にナイフを突きつける。いや、ちょっと街歩いただけで絡まれるとか治安悪くね?

撃退はもちろんできるけどここでは目立つし何より他の人達の迷惑になるだろうな。しょうがないけどついて行くか。

おっさんと仲よさげに見えはしないだろうがそのまま俺は裏道に連れ込まれた。そこ先には二人の仲間がいる。

 

「金と装備置いていきな。怪我したくねぇだろ?」

 

ヒゲを生やしたヒューマン。

 

「早くしろよ?気が長い方じゃねぇからよ」

 

ずんぐりとしたヒューマン。

この二人はグハハ。と下品に笑いながらの要求をしてくる。

まぁ聞く気もないし断るけどね?

 

「嫌だと言ったら?」

 

「わかんねぇほどガキじゃねぇだろ?」

 

スッと首に移動したナイフがチクリと刺さる。

さて、始めるか。

俺は一瞬で闘気を発動する。

 

「ガハッ!」

 

俺を拘束しているおっさんの腹に肘を打つ。

それと同時にナイフを持っている腕を掴んで自分の身を屈めておっさんを背負い投げる。

 

「な、てめぇ!!」

 

「なにしてやがんだぁ!!」

 

「もちろん抵抗」

 

そのまま他の二人に追撃をかけ様とするが相手も一応は冒険者。自分の間合いを確保してくる。

 

「そいつは不意を突かれたが俺たちはレベル2の冒険者だぞ?」

 

「二人がかりで沈めてやるよぉ!!」

 

剣を振りかぶりながら突撃をしてくる太い方のおっさん。確かにベル君と比べると動きに無駄がない上に間合いを詰めるのも速い。

 

「けど遅いんだよなぁ」

 

こちとらある婆さんに戦い方を仕込まれたんだ。

この程度で傷をつけられたりしたらどうなる事やら……。

振り下ろされる剣を紙一重でかわし相手の腹をカウンターで殴りつける。そしてそのまま!

 

「よいしょお!!」

 

巨体と言うほどでもないが俺より大きい体を打ち上げてそのまま身体を回転させて蹴りつける。

そのままヒゲの生えたおっさんに向けてシュート!!

 

「この程度なら楽かなぁ」

 

「なんだよ……それ……」

 

その一言だけつぶやき気絶。

まともに人間一人をぶつけられたのだ。それも鎧やらで重くなっているし中々の衝撃だったろうな。

 

「まぁ斬らなかっただけマシと思っててくれよな」

 

さっさとこの場から離れる事にした。もう直ぐ昼になるだろうしその前に何か腹に入れておきたい。

 

「にしてもアレでレベル2か……。内功」

 

首の小さな傷を内功で治し適当な屋台を探す事にしたのだった。

 

 

 

あれから屋台を巡りひやかしたりしながら時間を潰しアルバイトに行く。

いやぁ、一人ってのが悲しいね。いつもならジータ達に連れ回されたりラカムと遊んだりするんだがなぁ。

 

「あ、おかえりグラン君!」

 

「ただいまヘスティアちゃん。いきなりだけどファミリアに入れてくんない?」

 

「いいよー!……って本当かい!?」

 

「まぁ条件付きだけど」

 

「条件かい?」

 

まぁ俺から頼んでるのに条件とかおかしな話だろう。だが俺には一応変えるべき世界がある。ここに永住する訳にはいかないのだよ。

 

「うん。今はちょうどベル君も居ないしね。俺の話を聞いてほしい」

 

そこから話したのは俺がこの世界の人間ではない事。俺には戻らないといけない理由がある事。ヘスティアちゃんは驚きながらも話を聞いてくれた。

 

「うーん。僕達は君たちの嘘が見抜けるからね。君の話が本当だというのはわかったよ」

 

「信じてもらえるならありがたい。まぁそんな訳でだ。このままじゃか丸くんを売り続けても俺が求めるものは掴めるはずもない。ならダンジョンにも何かないか調べたいんだよ」

 

「わかった。期間付きなのは残念だけど困ってる子供に手を差し伸べるのも僕達だ。歓迎するよグラン君」

 

「よっしゃ!なら早速」

 

「ひゃわ!」

 

上着をさっさと脱ぎ背中をヘスティアちゃんに向ける。どうだ!なかなか鍛えてるだろ?傷だらけなのは漢の勲章だってグラン知ってる。

 

「じゃあ行くよ?」

 

そう言ってヘスティアちゃんは俺の背中にステイタスとやらを刻む。刻むなんて言っても痛みとかはないけどさ。

 

「えぇ!?なにこれ!?」

 

「ん?何か問題でもあった?」

 

「い、いや!なんでもないよ!」

 

そう言ってステイタスを書き込んだ用紙を見せてくれる。

 

グラン

Lv.1

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

《魔法》

【蒼い空】

・召喚魔法

・縁をつなぐ

・詠唱式【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】

《スキル》

【ジョブチェンジ】

・自身のジョブ編成可能化。

【黒竜の加護】

・武器の形状変化

・ステイタスの超高補正

・成長速度の高補正

 

ふーむ。なんというかステイタス最初からスタートなのね。てか黒竜ってこの世界では三大クエストとかなんとか言われて忌み嫌われるモンスターだったんじゃね?ドンマイバハムート。

 

「グラン君。このステイタスは異常って考えおいてくれよ?この事が他の神に知れたらまずいからね?」

 

「面倒ごとはごめんだなぁ。てかこの背中の文字は消えたりしないの?服破れたら周りから丸見えになるけど?」

 

「え?……たしかプロテクトする事ができたようなできないような……」

 

「俺このファミリアに入ってよかったのだろうか……」

 

「す、すぐに神友に聞いておくよ!だから今日の所は我慢しておいておくれ!」

 

「果てしなく不安になってきた」

 

そんな俺の不安をよそに元気な声でベル君が帰宅したのだった。



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未知の力には相応の準備が必要

うちには水しかいねぇんだ……


あれから数日が過ぎた。

もちろんダンジョンアタックを開始した訳だがなんというかベル君からの視線が少しばかり気になる。ベル君からしたら戦闘経験もある俺の戦闘は勉強になるのだろうがそんなに見つめられても困ってしまう。昨日なんか注意散漫になったせいで湧き出たコボルトに後ろから攻撃されかけていた。

 

「そんな訳で今日は別行動ね?」

 

「そんな!一緒に行きましょうよ!」

 

「昨日の事覚えてるよね?あんまり言いたくはないけど俺と一緒にダンジョンに行って集中を乱して怪我をされると困るなぁ」

 

「うぐっ……」

 

「稽古ならダンジョン以外でつけてあげれる。今の君なら五層ぐらいまでなら問題もないだろう?」

 

「そうですけど……」

 

「今君が身につけるべきは実戦での経験だと思うんだ。その辺で出てくる奴等になら大勢で囲まれでもしない限りは大丈夫」

 

「わかりました。今日は一人で行ってきます」

 

「うん。危険だと思ったら直ぐに逃げる事。守れるね?」

 

「でも逃げるのってかっこ悪くないですか?それになんていうか……」

 

うーむ。英雄を目指すと言っていたベル君には恥ずかしい行為だと思っちゃうのかなぁ?でも駆け出しなんだし恥でも何でもない。むしろその選択が出来るだけ力量をしっかりと見極めているんだから強い証だと思うんだが。

 

「逃げは恥じゃないよ?自分で倒せない敵がいたら直ぐに適切な判断をする。逃げる、仲間に助けを求める、他にもあるだろうけど下手に特攻するのは馬鹿のする事だ」

 

「馬鹿のする事……。グランさんも逃げたりした事あるんですか?」

 

「そりゃもういっぱいあるよ?無理だって思ったら速攻逃げるし助けも求める。死にたくないからね」

 

色々な過去があったなぁ。一番記憶にあるのはジータに一人で行けと各マグナの前に放り投げられたことか……。その後何度ナルメアや他の団員に慰められた事か……。あの姉貴いつか仕返ししてやる。

 

「ともかく死なない程度に冒険をしたらいいよ。無茶をするのは経験をたくさん積んでからってね?」

 

「……はい!じゃあ先にダンジョンに行ってきます!」

 

何か思う事があったのか曇り顔から一気に晴れて走り出すベル君。そういう素直なところって美徳だよなぁ眩しいです。

さて、俺もそろそろ準備しますか。

今日は試したいこともある。それにゴブリンやコボルト程度では肩慣らしにもならなかった。スキルや魔法の確認もしたい。今日はちょっとばかり奥に潜ってみる事にしているのだ。

 

グラン

Lv.1

力:I 92

耐久:I 5

器用:I 96

敏捷:I 98

魔力:I 0

《魔法》

【蒼い空】

・召喚魔法

・縁をつなぐ

・詠唱式【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】

《スキル》

【ジョブチェンジ】

・自身のジョブ編成可能化。

【黒竜の加護】

・武器の形状変化

・ステイタスの超高補正

・成長速度の高補正

 

実はこの数日間。ベル君と一緒に、しかもベル君メインの探索だったせいもありモンスター10体も相手にしていないのだ。それでもステイタスの伸びは大きいそうだがこれでは目的達成までを考えれば遅すぎる。ベル君には悪いが先に走らせてもらう事にしよう。

 

 

 

所変わってダンジョン内。

魔法も試す予定だからマジックポーションもディアンケヒトファミリアで購入済み。アミッドちゃんが普通のポーションまでつけてくれた。零細ファミリア所属としてはありがたい。

 

「てか、もう十二層まで来てしまった」

 

ここまでシルバーバックやらオークやらポカポカ倒して来た訳だが手応えとかまるでない。これはあれか俺のレベルアップは遠いという事がわかったな……。

 

「とりあえず魔法試すか。ここら辺なら霧も濃いしわかんねぇだろ」

 

精神疲弊が少しばかり気になるからマジックポーションを一応手に持つ。さてとえーと何だっけ?

 

「たしか、【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

詠唱式を唱えた瞬間視界が歪む。これは、まずい。急いでマジックポーションを飲み込むがそれでも意識が遠くなっていく。これ選択ミスじゃねぇかよ。

 

「あれ?ここどこや?って副団長!?ホンマにグランなん!?って何で倒れんねん!!」

 

聞いたことある声を聞きながら俺の意識は遠くなって行った。

 

 

 

後頭部が柔らかいものに触れている。誰かが俺の髪を撫でている。というかそれよりも

 

「獣臭い……」

 

「ぶん殴るで?」

 

「……ユエル?」

 

目の前には少し涙目のユエルがいた。

あーって事は膝枕か。

 

「グランがグランサイファーから消えてウチらみんなで探し回って急に変な場所に来たかと思ったらグランがおって。見つけたと思ったら気絶して……。どんだけ心配かけんねや!!ジータやルリアから消えたって聞いた時ウチがどんな気持ちになったか!!」

 

「ごめん」

 

「謝らんといて!グランが悪くないのなんてわかってるんや。それでも、それでもよかったぁ。見つかって、よかったぁ……」

 

ポロポロと泣き出してしまうユエル。

騎空団のメンバーの中で古参のユエルだ。今まで色々と一緒にいたからこそ泣くほど心配してくれたのだろう。だったら俺は謝るよりもお礼を言うべきか。

 

「心配してくれてありがとうな?」

 

「ホンマに心配したんやで?……それやのに」

 

なんだ?あの、ユエルさん?そのガシッと俺の顔を掴んだ両手はなんですか?え?あ、あ、熱い!あの!熱いですユエルさん!!!

 

「散々寝る間も惜しんで色々探し回ったウチに対して獣臭いって言うのはこの口かぁああ!!!」

 

「あっつい!あづいです!!!ごめんなさいごめんなさい!!」

 

「ろくに水浴びもできんし着替えもできんほどに走り回ったのにぃいいい!!!」

 

「ごめんなさい!てかキャラ崩壊してますぅうう!」

 

「知らんわぁあああ!!!」

 

 

 

「いい加減お風呂に入りたい。いや、水浴びでもなんでもいい」

 

案内しやがれとばかりに睨んでくるユエル。

あ、はい。案内させていただきます。

 

「とりあえずここから出ようか。街にある浴場に行こう」

 

そして帰り道にこの世界の事を話しながら帰る。ユエルも向こうが今どうなっているのか教えてくれながらだから話が絶える事はなかった。

そうして六層まで来た時だった。

 

「何かくるな」

 

「せやな。複数の足音、それもちょっと大きいで」

 

自身の武器【バハムートソード・フツルス】に手をかける。

 

「きたでグラン!」

 

見えてきたのは複数のミノタウロスだった。

ユエルも双剣に手をかけいざすれ違いざまに抜き放つ!

……え?

 

『ブモォオオオオオ!!!』

 

俺らを無視して走り抜けるミノタウロス。

え?

 

「まさかの素通りかいな!!」

 

「逃げてるのかあいつら?」

 

だとしたら何に?まさかこれより強いやつらが上がってくる?見えてきたのは二人。一人は金髪の女ヒューマン。もう一人は男の獣人だ。

 

「どけぇ!そこの雑魚と獣臭い女ぁ!!」

 

「……ごめんなさい」

 

そうして走り抜けていく二人。

その時だった隣からブワッと吹き出る異様な気配。はっ!殺気!?

 

「グラン。あの犬っころ焼いてきてええかな?」

 

「お、落ち着いて?な?」

 

さっきの獣人のせいで不機嫌になったユエルを抑えつつ歩き出していた時。

 

ほわぁああああああ!!!

 

叫び声。しかもこれは

 

「ベル君!?」

 

思わず走り出してしまった。

 

「ちょっ!グランどないした!?」

 

「さっき話したベル君の悲鳴だ!」

 

そうだよ。あの子は今日もダンジョンにいるのだ。それも五層あたりにいる。ならばあのミノタウロスにかち合ってもおかしくない!!

慌てて追いかけてくるユエルと一緒に走り抜けた先で目にしたものは。

金髪の女剣士と爆笑している獣人。そして返り血にまみれながら逃げていくベル君だった。

え?何があったの?



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仲間の為なら怒りもする

あっぶねぇ!!手元狂ってログアウトしてしまった。
登録したアドレスもIDも思い出せず一瞬焦った。ユーザー検索に救われた。


走り去るベル君を呆然と見送った後俺は金髪と獣人の冒険者に話しかけてみることにした。

 

「あのーちょっといいですか?」

 

「……はい」

 

「なんだぁ?さっきの雑魚どもじゃねぇか」

 

なんだこいつ。

まぁいいか。相手にしてもきりがないタイプだ。

 

「うちの団員を助けてもらったみたいでありがとうございます」

 

「……うん。でも、逃げられちゃった。それにこっちが悪いから……」

 

「本当にすいません。多分お礼もできていないでしょう?また後ほどお礼させてください」

 

「けっ。雑魚どもからの礼なんていらねぇよ」

 

「なんやあいつぅ……!」

 

イラっときているユエルは放っておいて話を進める。

金髪の方はアイズ・ヴァレンシュタインと言うらしい。ほうほう、ベル君が言っていたロキファミリアのLv.5の人か。獣人の方はベート・ローガと言うそうだ。ちなみに今もユエルと言い合っていたりする。俺の方はアイズさんから今回のミノタウロスについて聞いているのだが。

 

「あんだけ震え上がるぐらいなら初めから冒険者になろうとしてんじゃねぇよ」

 

「あ、あんたなぁ!言ってええ事と悪い事があるやろ!?」

 

その発言は許せなかった。

 

「ベート・ローガさんでしたっけ?」

 

「あぁん?」

 

「貴方がベル君に対して何か思うのは別にいい。だがそれを喚き散らすな。程度が知れるぞ」

 

「んだとてめぇ」

 

「もう一度言ってやろうか?あまり吠えるな犬っころ」

 

「……殺す!」

 

勢いよく振り出される蹴り。

ジョブチェンジ発動。

オーガ。

くりだされた蹴りを素手で受け止め拳を振り上げる。武器まで変化させてしまったら手札を見せすぎてしまうからやめておいた。

 

「カウンターだこの野郎」

 

その拳をベート・ローガの頰にえぐり込んだ。

 

「がぁ!?」

 

「ベートさん!」

 

「グランキレとるやん」

 

闘気発動。

俺の纏う気が大きくなったせいでアイズさんがはじき出されるかのように飛び下がる。

 

「この程度か?犬」

 

「……さっきから犬犬言いやがって。俺はウェアウルフだ!」

 

「うるせぇ。一応ベル君の恩人の仲間だから今回限りは見逃してやるよ。行くぞユエル」

 

倒れたベート・ローガを放って歩き出す。

 

「待てよ……」

 

「グラン目冷たすぎて怖いわ」

 

「待てって言ってるだろうがぁ!!!」

 

俺を茶化しながら追いかけてくるユエルを追い抜き、ベート・ローガはこの場から去ろうとする俺にめがけて飛びかかってくる。

はぁ。20%だ。

ジョブチェンジ発動。

ファイター。

 

「レギンレイヴ」

 

殺すのは問題になる。だからできるだけの手加減をしてバハムートソード・フツルスを鞘に入れたまま打撃武器として使う事にした。ゲームと違って100%の力で殴るわけではない。威力自体の調整が可能だからこそこんな芸当で奥義の発動もできてしまう。

 

「かはっ!」

 

今度こそ気を失い倒れるベート・ローガ。

はぁ、ロキファミリアと戦争とかなったらシャレになんねぇなぁ。

 

「悪いなアイズさん。今回の事、追求するなら俺だけにしてくれないか?」

 

「……大丈夫。元々こっちが悪いから」

 

「そうか、それならたすか「それより」ん?」

 

「私と戦ってほしい」

 

どうしてこうなった?

いや、本気でなんでこうなったのかわからない。ベート・ローガの仇とかならわかるがそういう訳でも無さそうだし。聞いてみるのが早いか。

 

「なんで?」

 

「あなたはまだLv.1の筈。それなのにベートさんに勝てた。その強さの秘密を、私は知りたい」

 

「……」

 

「だから、私と戦って」

 

「それは、俺と戦う事で得るものじゃないだろ?」

 

「……どういう事?」

 

「それがわかったら戦おう。それまでお預けだ」

 

そろそろ血みどろのまま飛び出していったベル君が気になる。ここで時間を潰してても損なだけだ。それにユエルを風呂に放り込まなければいけない。だから俺はアイズさんを無視してダンジョンから抜け出した。

 

 

 

「それまで、お預けだ」

 

ぬぐぅ!!

 

「はっはっはこの副団長さんキメ顔で言ってるのめっちゃウケるわ」

 

あれからダンジョンから出て風呂に入り改めてギルドへ向かっている途中。ユエルはずっとこんな感じでいじってきている始末。

 

「なぁなぁどんな気持ち?お風呂入って落ち着いてよく考えてみたら最大派閥の幹部ぶん殴った重大さ感じて焦ってるのどんな気持ち?」

 

「う、うるさい!へへいいぞかかってきやがれ。全力全開で迎え撃ってやるよ。野郎どもぶっ殺してやる!」

 

「うはははは!!グラン焦りすぎでテンション安定しとらんし!それよりどない?うちの香りも良くなったやろ?ん?ん?嗅いでみてもええんやで?グランが落ち着くまで抱き締めたるわ。ほれほれ」

 

こ、この!

……はぁ、やめよう。これ以上続けても疲れるだけだ。とりあえず久しぶりにユエルと街を歩くのだ。異世界を含まなくても依頼とかで少し顔合わせる時が少なくなっていたし俺も楽しむべきだ。

 

「ん?なんやあれ?コロッケ?」

 

「ジャガ丸くんって食べ物。なんかいろんな味があるやつ」

 

「なんやこれ小倉クリームなんて誰が食べんねん」

 

「さぁ?まぁ色々な人がいるってこったな。何食う?」

 

「ソース」

 

「ソースと塩ください」

 

しれっと買い食いをしたり。

 

「異世界って言っても武器とかは同じ様なんいっぱいやなぁ」

 

「だなぁでもなんか絶対に壊れない武器があるとか聞いた」

 

「なにそれ欲しいわ」

 

「でも性能自体は少し下がるとか」

 

「なにそれいらんわ」

 

武器屋ひやかしたり。

 

「話には聞いてたけどいろんな種族がいるんやなぁ」

 

「まぁそれは向こうでも変わらんだろ?」

 

「星晶獣とか含めたらごった煮やな」

 

道行く人をジャガ丸くん食べながら見たり。

そうしているとギルドに着いたのはだいぶ遅くなってしまった。ユエルのベル君とやらはええの?という一言がなければダラダラとしたままだった。

そしてたどり着いたギルドではギルドの受付嬢エイナさんとベル君が話し合っている。あー無茶したとかなんとか言われてるんだろうなぁ。

 

「ヴァレンシュタイン氏も強くなったベル君に振り向いてくれるかもよ?」

 

「本当ですか!?」

 

全然違う話じゃん。

 

「なになに?ベル君は恋でもしたか?」

 

「うわぁ!?グ、グランさん!?」

 

俺がいきなり話に入ったせいでびっくりしてる。

可愛がりのある団長だなぁ。

 

「そんで?アイズさんに助けてもらって恋に落ちたか?」

 

「え!?いや、その!えっと」

 

「だがベル君。助けて貰ったのにお礼も言わず逃げちゃうのはどうかと思うなぁ」

 

「あ……」

 

ニヤニヤ。

 

「せやで?あんな可愛い子やのにな。もしかしたら怖がられたかもしれないとか考え込んじゃってるかも……」

 

ユエルもニヤニヤ。

 

「どうしたらいいですか!?ていうかあなた誰ですか!?」

 

「初めまして兎君。グランのハーレムメンバーの一人のユエルちゃんや。よろしゅうなぁ」

 

「おいこら純粋なベル君になに吹き込んでやがる」

 

「間違っとらんやろ?グランの周り見たら誰かしらいるんやし慕われてるのに間違いはないやろ?」

 

「おいやめて。ほら、ベル君がキラキラした目で見てくるから」

 

「まぁハーレム築いてる人って一歩間違えたらクズ野郎なんやけどな!!」

 

やめてあげて!!俺にも少しグサッとくるけどそれが目標の一つであるベル君にダメージ入るから!!

 

「と、とりあえず帰らない?」

 

「せやなぁ。なぁなぁ兎君!グランの話聞きたない?自分では言えない様な話もあるから」

 

「是非聞きたいです!」

 

「そろそろ俺弄りはやめてもらえませんかねぇ!!」

 

その後めちゃくちゃいじられた。



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ゆっくり話し合うのも悪くない

今回グラン君がアイテムを買ったりしますが値段設定とか適当なんで気にしないでほしい。


ユエルを連れてホームに戻る途中に、今日の稼ぎで食べ物やお酒を買い込んで帰宅。

もちろんベル君は何故こんなに稼げているのか不思議そうだったがそこはバイトの稼ぎも残っていたと言って誤魔化した。この子は素直な良い子だけどその分すぐに焦りそうだから。

 

「そんでここが家なん?」

 

「正確にはこの地下な訳だが」

 

「地下?はーなるほどグランが好きそうなやつやな」

 

鋭いなこいつ。

俺がこの隠し階段にワクワクしたのわかってやがる。そして階段を降りていくと元気にヘスティアちゃんが迎えてくれた。

 

「おっかえりぃー!ベル君!グラン君!……と、誰だい?」

 

まぁそうなるだろうなぁ。

そんなわけで説明。一緒に冒険をした仲間で偶然にも会ってしまった。ダンジョンで会った事はボカしつつ嘘もなく絶妙なラインを見極める。

 

「グラン君の友達なら大歓迎だぜ!」

 

……なんというかちょろいんだよなぁ。

この神騙されたりしないのかなぁ。俺達相手なら問題ないのだろうが神様相手だと騙されたり都合よく転がされそうだなぁ。罪悪感とかよりも心配になってきた。

ともかくそれからは色々と話したりご飯を食べたり、ユエルの服装をヘスティアちゃんがベル君に毒だと指摘したり、そして寝床をどこにするかで一悶着。まぁ結局はベル君とヘスティアちゃんをベッドに放り込み俺とユエルはソファで座って寝る事にした。

 

「この子らすぐ寝てもうたなぁ」

 

「まぁベル君はまだまだ経験不足の冒険だしヘスティアちゃんはバイト戦士だから疲れてるんだろ」

 

「でもなんか微笑ましいわ」

 

「だなぁ。最近フロンティア号を買ったのもあってお金集めに奔走してたからみんなバラバラに散って依頼してたし」

 

「ジータが急いで金策!なんて言い出したせいで一ヶ月目安で奔走とか疲れるわ。グランと遊ぶのもお預けやし」

 

我らが団長が率いるジータ組と、俺が率いる組で別れて行動だったからなぁ。俺とジータは得意なジョブも違うし編成上ユエルとはしばらく会ってなかった。ちなみにジータが魔法メイン、俺が物理メインって感じ?まぁ魔法職も普通にできるんだけどさ。どっちも使える様に婆さんに仕込まれたし。

 

「最近なんてジータがスライムを鬼の様に探し回ってた」

 

「あの姉は相変わらずですねー」

 

「まぁそんな時に嫌な予感するとか言い出して合流した時にグランが消えたんやけどな」

 

「あーだから最後ジータとルリアが来た気がしたのか」

 

色々と納得できた。てかそれだと俺が依頼受けてる間に合流が決まったのか?確かに依頼を終えてフロンティア号に乗り込んで着替えとかも後にしてフラフラのまま寝ようとしたら駆け込んで来たような……。

それからしばらく離れてる間の団員達の状況とか聞いていると少し眠くなってきた。そろそろ寝るかな?感覚的に日付が変わる頃だろう。

 

「なんやこれ!?」

 

ユエルの方を見る。

その身体は少し光って消えるかの様に薄くなっていく。その時不思議とユエルは元の世界に戻るのだと感じた。だがそれでも焦ってしまう。

 

「どうした!?」

 

「いや、わからんけど。でも戻るんやろなぁって」

 

「ユエル」

 

「そない心配そうな顔せんといてぇや。戻ってもまた呼んでくれるんやろ?それにもし戻れなかったとしても助け出してくれるって信じとるから」

 

当たり前だ。

大切な仲間なのだから。

 

「だからまた呼んでな?それに向う帰ったらみんなに話もしとくし安心し」

 

「……頼んだ」

 

「頼まれた。……こっちでも女引っ掛けたら許さんで?」

 

「しねぇよ!!」

 

今まで引っ掛けたつもりもねぇよ!!

ほなまたな。と軽い感じでユエルは光と共に消えていった。

この魔法、召喚してから日付が変わるまで有効なのか?そこから自動的に戻されると仮定しておこう。正直ユエルがどうなったか気になって仕方がないが今マジックポーションも持っていない。準備不足のまま使うのも怖いしまだわかってない部分が多すぎる。

朝にすぐアミッドちゃんの所でマジックポーション買ってこよう。

 

 

 

あれからぐっすり寝れるわけもなく気がついたらもう朝だった。まぁ早朝にはベル君の訓練があっから俺も身体を動かしながら待っていた。

 

「おはようございますグランさん。ってユエルさんは?」

 

「んー。昨日用事思い出したって言って帰ったよ」

 

まだ召喚の事は言わないでおこう。ヘスティアちゃんと相談の後に明かす事にする。まぁたぶん俺以外にベル君を支えれる仲間ができてからだな。

それからベル君と訓練を行っていく。ステイタスの更新をしたから成長が早い、しかし誤差レベルたがその成長について行けていないのかズレが出ている。そのズレをある程度だが調整をしていく。

 

「ベル君。ステイタスの伸びが良かったりしたかな?前より結構速くなってるけど」

 

「はい。ミノタウロスから逃げたからか敏捷が大幅に上がっていました」

 

それだけかな?

まぁ同じファミリアとはいえ人のステイタスを聞くのはマナー違反だろう。急激に伸びが良くなりズレが出るなら俺がそのぶん叩いて調整してあげればいいか。……いつの間にか追い抜かれてたらどうしよう。まぁその時はその時に考えればいいか。さてと。

 

「そろそろダンジョンに行こうか」

 

「はい!」

 

ダンジョンでは別行動だがそこに行くまでは一緒でもいいだろう。俺とベル君は仲間なのだから。

 

 

 

ベル君とオラリオの街を歩く。

その時たまに感じる視線。

 

「まただな」

 

「これ、やっぱり見られてますよね?」

 

「そうだねぇ。見られて死ぬわけじゃないし気にするだけ無駄だよ」

 

「あの……」

 

俺とベル君に声をかけてきたと思われる声。振り向くと何処かのウェイトレス風なヒューマンの少女。

……なるほどグラン君察した。

 

「じゃあベル君俺予定あるから先に行くね!」

 

一息に早口で言い切る。

 

「え!?ちょっとグランさん!!」

 

そしてそのまま走り去った。

ベル君の俺を呼ぶ叫び声が聞こえるが無視無視。ベル君、それは君の目標の第一歩だよ!頑張れ!!!

そしてそのままディアンケヒトファミリアに向かう。もうファミリアに向かう冒険者の人通りも多いし店も開いているだろう。

そうしてやってきたのはディアンケヒトファミリア。まだ朝だというのに治療や俺のように買い物客で賑わっている。

 

「あ、グランさん。ようこそディアンケヒトファミリアへ」

 

「あぁ、おはようアミッドちゃん」

 

「なにかお探しですか?」

 

こちらへどうぞとカウンターの方に案内される。

それについていき俺が欲しいアイテムをいくつか言っていく。

 

「マジックポーションが五個と初心者用に回復用のセットなんかあればそれを一つ。いくらぐらいになるかな?」

 

「マジックポーションをそんなに?グランさんはまだ新人では?」

 

「まぁ色々とね。備えがあったら安心でしょ?」

 

「それはそうですが。わかりましたでは全て含めて五万ヴァリスです」

 

五万?

えっとマジックポーション一つで8700ヴァリスで五つだけでも43500ヴァリス。そこにセットで15000ヴァリス。8500ヴァリスも低いんだが。

 

「低くない?」

 

「はい。ですがこの短期間の間でマジックポーションを五つも買う冒険者は少ないです。ですから今のうちに恩を売っておこうかと」

 

すっぱり言い切ったな。

うん。でもその隠し事をせずに言い切るのは気持ちいい。

 

「なるほど。そのうち何らかの依頼を受けるのが条件に入るって事でいいかな?」

 

「それと今後もディアンケヒトファミリアでのお買い物。あとは秘密とさせてもらいます」

 

秘密?まぁいいか。

俺も得する相手も得する。

そんな大きな買い物でもないし気にもしない。

 

「ところで、アミッドちゃんはいつもこんなに早くここに居るの?」

 

俺のアイテムを用意してくれて居る間、暇潰しがわりに世間話をしてみる。

 

「昨日ロキファミリアの方々がダンジョンから戻られたそうですから、お願いしていた依頼の報告を受ける為に待機していました」

 

「大手ファミリア相手だったら色々と考えてるんだなぁ」

 

「そうですね。他とは待遇の違いはあるかと、ただそれだけこちらからもお願いをするので」

 

商人って大変だなぁ。

いつ来るかもわからない相手だろうに待たせないように考えて朝から待機するのか。

シェロカルテも気がついたら居たりしたような……。

アミッドちゃんがアイテムの用意を終えたので俺も五万ヴァリスを支払う。

 

「手持ちのヴァリスは大丈夫ですか?」

 

「後一万ヴァリスあるし今日もダンジョンに行くから大丈夫だよ」

 

「そうですか。では、お気をつけて」

 

次はダンジョンだ。

また魔法を使うとしても誰を呼ぼうか。……あいつかなぁやっぱり。

久しぶりに会える仲間にワクワクしながら俺はダンジョンに向かうのだった。




考えていることが感想で言われたりするから次の話が出しにくくてって思ってしまった


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魔法って一歩間違えれば危険なんだよ

「このスキル結構使えるな」

 

現在俺はダンジョン内でスキルの確認中である。

前回ベート・ローガを相手に【ジョブチェンジ】のスキルは使ってみたが【黒竜の加護】の方は使っていないのだ。そんな訳で今は【黒竜の加護】の効果のひとつである武器変化を使ってみているのだが。

 

「やっべぇ。バハムートシリーズを網羅できるとは思わなかった」

 

ソードからダガー、スピア、アクス、スタッフ、マズル、ナックル、ボウ、ハープ、ブレイド。

各武器に変化可能なスキル。ちなみに今はソードに戻している。

このスキル、武器にまで影響与えてるけどこれはいいのか?ていうか便利すぎるんだが。

今まで依頼に合わせてジョブや武器を決めて編成していたのだ。それが状況に合わせてポンポン変えることができるようになるとは。

 

「ジータにバレたらどうなる事か……」

 

思い出すのは横暴な姉の記憶。

信じられるか?気がついたら武器が消えて新しくなっていたりした。なぜかと聞いてみると「いつまでクラスⅢでいるつもり?一週間後お婆さんの所に行くからそれまでにその武器を完成させなさい」とか言って来る始末である。英雄武器作成の為にシェロカルテの所に通い詰めた。それに俺は絶望する事になる。なぜならゲームじゃないから作るのは一本だけじゃないんだぜ?俺たちプレイヤーがどれだけのヌルゲーをしていたのか改めて実感した瞬間だった。その頃姉は黒猫導師になっていた。

 

「だいたいあの姉はおかしい。できる気がするとかそんな理由で新しいジョブを習得してしまうとか何者だよ」

 

もはや可能性の化け物である。

さらにルリアがすごいすごいと褒めてしまうものだから調子に乗るのだ。覚えたばかりのジョブを一時間ぐらいで十全に扱ってしまう。さらにそんな状況を見ていた俺に「グランも一緒にやりましょう!」なんて言ってしまうのだ。ジータのルリアの期待を裏切るのは許さないというプレッシャーの中、俺は新しいジョブを覚える為に奔走する事になるのだ。おそらくあの姉は運営と変な電波で繋がっている。

 

「ビィの奴どうしてるだろ?心配だなぁ」

 

思わず声に出てしまうぐらい心配である。

俺が幼い頃からジータに振り回された後、溜まった鬱憤を晴らす為に付き合ってくれるのはビィなのだ。一緒に遊びに出かけたり、美味しいもの食べたり、元気出せよと好物のリンゴまでくれるのだ。あいつ今も元気にリンゴ食ってるのだろうか?

 

「それはそれでムカついて来るな」

 

おっと。ブラックな面が出てしまった。

こんな事だからイケメン騎士連中に「やはり団長の弟だな」なんて言われるのだ。ラカムやオイゲンに引かれたことも数え切れないかもしれない。キレてる時のグランはカオスルーダーの時の目だ。なんて言われて引かれてしまう。こちとらいつもスキン使った時並みに目がキラキラしていると言うのに誠に遺憾である。

気がついたら目の前が大自然だった。

 

「え?あれ?もしかして18階層か?」

 

考え事を続けながらダンジョンを歩いていたらいつの間にか中層エリアも突破して18階層『迷宮の楽園』にたどり着いていたようだ。なんか取れる魔石も違うなぁなんて思ってたらこれだよ。ジータのせいにしよう。にしてもゴライアスとやらが17階層にいるらしいのだが……。

 

「復活していないって事か?」

 

だとしたら運が悪いとしか言えない。

レベルアップするかは微妙だが戦ってみたかった。それにしても

 

「迷宮の楽園。綺麗な景色は多くみてきたけど、確かに楽園だこれ」

 

俺は風景を楽しみながら魔法を使うのに最適な場所を探す事にした。

 

 

 

この階層は色々と興味深い。

リヴィラの街とか言うボッタクリの街があったり冒険者の墓場がひっそりとあったり。モンスターもこちらから不用意に接触しなければ襲っても来ない。そして俺は木が生い茂り人気が一切ない場所を見つけた。

 

「さて、今回はマギサを召喚するつもりな訳だが、うまくいってくれよ?【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

また視界が歪む。

急いで手に持っているマジックポーションを飲むがそれでも視界は歪んだままだ。だがギリギリ気絶はしない。まあしないだけで体力1で仲間全滅してる並みの絶望感あるぐらいキツイけど。

 

「なんだここ?ん?お前グランじゃねぇか」

 

……なんで、なんで。

 

「カリおっさん……」

 

「てめぇ、こんな美少女を呼んでおきながらよくそんなことが言えるなぁおい」

 

「マギサが良かった」

 

「言いたい事は山ほどあるがまずこれ飲め」

 

渡されたのはエリクシールハーフ。

ありがてぇありがてぇよぉカリおっさん。

幾度となく俺らの助けになってきた実績のある半汁。これで古戦場を駆け抜けるのだ。

 

「まずいもういっぱいいっぱい」

 

「お前の気持ちを言ってんじゃねぇよ」

 

いろんな意味でいっぱいいっぱいなんだよ!

色々な時に半汁ばっかり飲ませやがって!!こちとら薬物中毒者じゃねぇんだ!!!

 

「それでぇ。なんでグランはカリオストロじゃなくてマギサを呼びたかったのかなぁって聞きたいなぁ☆」

 

「魔法の事を話したかったんだよ」

 

「あーそれな。ユエルから色々と聞いたから推測は出来てるぞ」

 

「さすがカリオストロ。可愛いだけじゃなくて頭もいいね!頼りになるぅ!!」

 

「そういうところがジータの弟と言われんだよ。はぁ、まぁいい。話してやるから座れ」

 

まず話してくれたのはユエルの無事だった。

あれからグランサイファーに戻ったユエルはみんなを集めてここでの事を話したようだ。そしてその話し合いから団員達はいつ呼ばれてもいいように常時武装は手元に、そして俺がまた倒れる可能性があるからエリクシールハーフを持つ事。俺が頼りたかったマギサを始めカリオストロやアルルメイヤ等、魔法職の者達でユエルから聞いた俺の魔法に対しての推測を行う。

 

「まぁそんな感じか。他にも問題は色々とあるがその辺は気にするな。実害を受けるのはお前だ」

 

「え?実害?マインドダウンだけじゃなくて?」

 

「害ってのは言い過ぎか。とりあえずヒントだけやろう。ナルメア達」

 

「もうわかった察した何とかしてよカリおっさん」

 

「知るか。自分でなんとかしやがれ」

 

冷たい。

 

「まぁなんだ。ユエルから聞いてはいたが、お前が無事で良かったよグラン」

 

「カリオストロ……」

 

心配していてくれたのか……。

おっさんって言ってごめんな。

 

「ちなみにエリクシールハーフはお前の小遣いから出てるからな?ジータがマイナス分は働いて返せだとよ」

 

「あの姉は別の世界に飛ばされた弟を心配しやがらねぇのか!!!!」

 

「んなわけねぇだろ。ユエルからの報告があるまでグランサイファーとフロンティアの中探し回ったり近い島に手当たり次第探し回ったり大忙しだったぞ」

 

ジータ。

 

「まぁユエルが見当たらないのに気づいたソシエからの報告があってから本格的に探してた感あるけど。ん?聞いてねぇなこいつ」

 

ジータ。お前も姉らしいところがあるんだな。

荒れ狂ったティアマトの前にミスリルソード一本で放り投げた時は人には見えなかったけど。そうか、心配してくれているのか。

 

「おーいグラン」

 

帝国に乗り込んだ時一人だけはぐれさせて囮にさせたのも考えがあってなんだよな。決戦に間に合わないと殺されると思ったから帝国内を走り回ったのが懐かしく思えてしまう。

 

「聞いてないなら今言うか。ジータは今回のマイナス分はいつ払われるからわからないからってお前の私物売ってるからな?」

 

「くそやろう!!!!」

 

「金には敏感だなおい」

 

このままの方が金銭的には幸せなのかもしれない。

 

「って話が逸れた。お前の魔法についてだ」

 

「おぉそうだった」

 

「まず前回ユエルが呼び出された時って何も考えず魔法を使ったんだよね?」

 

可愛く喋りながらカリオストロは聞いてくる。

そうだな。確かにお試し感覚だった。

 

「効果がよくわかってない魔法をお試しで使うなんて、お馬鹿さん通り越して死にたがりとしか思えないけどぉ、結論から言ってグランの魔力不足だね☆」

 

「魔力不足?」

 

「おいおいマジでわかんねぇのか?異世界からの召喚ってだけでも異常なのに特定の望む人物を召喚なんて都合がよすぎるだろうが」

 

言われてみればそうである。

あれ?もしかしなくても俺って超危険な事してた?

 

「魔法覚えたばかりの子供かよお前。それか死にたがりだわな」

 

「ごめんなさい」

 

「でも使わないと効果がわからないし、カリオストロ達の方でもグランの無事を確認できなかったからしょうがないかなぁ☆それに次からはエリクシールハーフも持ってるしね☆」

 

「確かに」

 

「お前の小遣いからのだけどな!」

 

「クソ姉貴め!」

 

キャハハハッと笑うカリオストロが憎くてたまらないぃいい!!!まぁ冗談だが。

 

「これからお前がステイタスとやらを上げていけばこの魔法も十全に使える様になるだろうよ。まぁ研鑽あるのみだ。お前達の一族はそういうの得意だろ?」

 

「否定ができない!」

 

「魔法についてまとめてやるよ。現状の魔力量なら呼べる人物はランダムだ。向こうで相談した時はお前との絆が深い奴ほど呼ばれやすいんじゃないかと推測している。そしてこの魔法を今のまま使えば確実に魔力不足に陥る」

 

「上手い事回らないもんだなぁ」

 

「そうだな。同情してやるよ」

 

同情?

 

「言ったろ?呼べる人物はお前との絆が深い奴。そしてランダムだ。つまり一部の団員は今か今かと待ち望んでる訳だな」

 

「……つ、つまり」

 

「いつまでも呼ばれなかったら不満が爆発してもおかしくないよね☆」

 

……世界はいつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだ!!




火ソシエが当たりました


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酒場での騒ぎはもはや当たり前だと思う。

「とりあえず此処はダンジョンなんだろ?出ようぜ」

 

カリオストロの一言で俺たちはダンジョンから出る事にした。確かにもう外はいい時間だろうしこの辺で切り上げるのも悪くない。稼ぎは結構あるだろうし。

 

「外に出たらこの世界の魔法薬とか見てみたいなぁ☆」

 

「やっぱりこっちのアイテムとかは気になるものなのか?」

 

「天才美少女錬金術師としては気になるかなぁ☆それを抜きにしても異世界は興味深いしね☆」

 

まぁ確かにさっきから魔石やらドロップアイテムを貸せと俺から奪っているぐらいだ。カリオストロならこの世界というかダンジョンの真理も見てしまうんじゃないだろうか?

 

「そ、れ、にぃ。この世界でグランと二人でデートするのもいいかなぁって☆」

 

「おっさん……」

 

「てめぇ雰囲気ぶち壊すの得意だよなぁ。そろそろ俺も本気で殴るぞ」

 

「ごめんなさい」

 

「しょうがないなぁグラン君は。カリオストロとのデートとかそんなセリフを恥ずかしがってるだけってわかってるから許してあげるね☆」

 

「違うわい!」

 

「ククク。隠すなよ童貞」

 

「う、うるせぇし!こちとら健全なだけだしプラトニックとかいうやつだし!!!」

 

「なんなら相手してあげてもいいんだよ☆」

 

「いや、それはいいわ」

 

冷静になってしまった。

認めよう。カリオストロは可愛い。中身がおっさんであってもそれは過去のものと思える。可愛いからいいじゃないか。そう思える。

だが何故なのだろう。こう、直接的なことを言われると冷静になってしまうのだ。

 

「おいおい考えてもみろよ。この世界では向こうの奴らはいない、俺とお前だけだぞ?何をやっても秘密にすればバレる訳ないんだぞ?」

 

「いや、それでもねぇから」

 

「……そうかよ」

 

ん?なんか少しばかり威勢が悪くなったか?

 

「カリオストロが嫌とかじゃねぇよ。まぁなんだなんかよくわからないけど、こう、モヤモヤするんだ」

 

「……あーはいはい。お前はそんなやつだよ。わかってる」

 

「ん?ならいいんだけど」

 

「これだから異常に人気あるんだよお前ら姉弟は」

 

「え?どういう事?」

 

「一生わからないままでいいよお前は」

 

そう言いながら先に歩いて言ってしまうカリオストロを追いかけていくのだった。

 

 

 

そうして俺たちはダンジョンから出てきた訳だが陽が落ちてきたなぁぐらいの時間。まだ夕方な訳だ。

 

「ほぅ?これがオラリオとか言う都市な訳だな?興味深いのが山ほどありそうだ」

 

「あのぉお腹空いたんで程々でお願いできないでしょうか?」

 

「ならさっさと案内しやがれ」

 

「んー。ならディアンケヒトファミリアかな。てか、そこしか俺の知り合い居ないし」

 

「ほーう?また手が早い事で」

 

 

「どうせ女とみた。かけてもいいぜ?」

 

「当たってる」

 

「やったぁ☆夜ご飯はグランの奢りで決定だね☆それとぉ、この世界の魔法薬と各書籍と」

 

「いや待て程々にしてくれませんか!?せめて晩ご飯!それだけでお願いします!!」

 

そしてそのままディアンケヒトファミリアに行ってみた訳だが、まぁ、なんだ?天才美少女錬金術師というだけあってカリオストロはドンドン知識を吸収していった。そして最後に一言だけ残してディアンケヒトファミリアを去る訳だが

 

「なんだ、こんなもんか」

 

いや、これからここに顔出しづらいんですが……。

 

 

 

「だから悪かったって」

 

「カリオストロからしたらこんなもんかもしれないけどエリクサーを見た後で言わなくてもいいと思う」

 

「でもぉ、期待したぶん残念だったんだもん☆」

 

「だもんじゃない。次からどんな顔してあそこに行けばいいんだ」

 

「なら一日くれたら騎空団のみんなにカリオストロ製のポーション持たせておくから許して☆ね?」

 

……いや、アミッドちゃんには恩があるのだ。

釣られるな俺!カリオストロお手製のアイテムとか効力が大きいのは明らかだがそれを取ってしまえば俺は恩知らずのクソ野郎だ!!

 

「あ、あそこの酒場なんていいんじゃないかな?」

 

ん?『豊穣の女主人』?

この辺りでは一番大きそうな酒場だ。確かに外からでも賑わいがわかるし外れということはないだろう。

 

「働いてる人みんな女性だよ☆グラン大好きでしょ?」

 

「お前は俺をどうしたい訳?」

 

とりあえずふざけながらもそこに入っていく。

本日の収入は八万程。とんでもなくお高いところならわからないが、中の客を見る限り冒険者が多いようだし大丈夫だろう。猫耳の獣人にテーブル席へ案内されメニューを見てみる。一食五十ヴァリスあれば十分なのに対して、この店は少しばかり高い値段設定だが問題はなさそうだ。

 

「何食う?」

 

「美味いもの」

 

「オススメでいいか。すいませーん!」

 

オススメの料理とそれに合うお酒をエルフの子に注文。しばらくして出された料理は大きな肉や魚、パスタ等。普通なら二人で食べきれるのか不安になる量なのだが。

 

「余裕だわな」

 

「お前、こっちでも相変わらずの大食いか」

 

「ん?まぁ普通の量でも満足だけど美味しいものは多く食べたいでしょ?」

 

色々な島を回ったがそんなに長く滞在することも無いのだ。だからこそ短い間で多くを堪能する為にと食べ歩きをしているうちに大食いになってしまっていた。

 

「そんなんだからジータに小遣い減らされるんだよ」

 

「え?」

 

「当たり前だろ?あいつは俺たちの団長な訳だ。食費やらなんやらかかる金の管理は最終的にはあいつがする。だから無駄に使い過ぎないようにお前の金は小遣い制なんだよ」

 

ここでわかった新事実。

俺、あの姉は強制で小遣い制にしてると思ってたけどそんな事実があったとは……。

 

「まぁグランのぶんのお金は、限界まで切り詰めて他に回してるだけなんだけどね☆」

 

「返せ!少しでも感動したのを返せ!!」

 

「まぁそう怒るな。ほら、これでも食えよ」

 

差し出された揚げ物をパクリと一口。

その時だった。

 

「あれ?グランさん?」

 

不思議そうな顔をしたベル君。

ニヤニヤしたカリオストロと今朝の女の子。

……カリオストロのヤツ、ユエルからベル君の事聞いてやがったな!!

 

「そうやっていじると楽しいのも魅力の一つだぞ☆」

 

「うるせぇやい!!」

 

 

 

ベル君を無理やり相席させ改めて食事をする事にした。

また知り合いを連れている俺に疑問を感じながらもベル君は何も言わないでくれた。

 

「グランさん。今日はどれだけ稼いできてるんですか。こんなに食べて、ていうかよくそんなに入りますね?」

 

「今日の稼ぎ?これはカリオストロの奢りだから気にすんな食え食え」

 

テーブル下でカリオストロに財布を渡す。

相手も慣れたもので、目を合わせるとかの合図無しでも俺の求める行動をしてくれた。

 

「久しぶりに会った可愛いグランの為なんだからね☆……借りな?」

 

だが借りを作ってしまった。

まぁいい。今更作っても返しきれない程あるし。一生おっさんに恩を返して生きていくさ。

 

「グ、グランさん?なんか目が、その」

 

「死んでる目してますね」

 

「へへ。罵ってくれてもいいぜ。女の子に奢られるクソ野郎ってな」

 

「どうしたのグラン?ほら、せっかくの再会なんだからもっと元気にしてて欲しいなぁ☆」

 

そんなやりとりをしながらワイワイと飯を食っている時だった。酒場の入り口がから少し騒がしい声が聞こえてくる。ロキファミリア?あ、アイズさんに犬っころだ。まぁお互いオラリオの中に居るわけだからこんな風にバッタリと会ってしまう事もあるのだろう。だが、そこからが許せない。ファミリアの主神含めベル君を笑い者にしだしたのだ。

 

「それでトマト野郎にうちのお姫様逃げられてやんだよ!」

 

「アッハハハハ!そりゃ傑作やなぁ!」

 

ロキファミリアは笑いに包まれる。

ベル君は拳を握る。

 

「しかしあんな情けねぇ奴が冒険者になるなんざ恥晒しもいいとこだなぁおい!なぁアイズ?」

 

シルちゃんがベル君に声をかける。

だがそれすらも聞こえていない。

ギリリと歯を食い縛る音がする。

 

「ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。謝罪をすることはあれ、笑い者にするべきではない」

 

「さっすがエルフ様だな。だがアレが雑魚でゴミである事には変わりねぇ!」

 

ロキファミリアが盛り上がる。

ベル君の拳から赤い雫が落ちる。

 

「叫ぶなやベート。酒が不味くなるわ」

 

「うるせぇよロキ。誰がなんと言おうとアレが同じ冒険者であることを俺は認めねぇ。そうは思わねぇのかお前ら、どうなんだよアイズ」

 

大きく盛り上がりつつある犬に対してロキファミリアの仲間達がそろそろやめておけと茶化しながら楽しんでいる。それを見ながら俺はベル君の腰に今朝買ったアイテム入りのポーチを付ける。

それにも気がつかない。

ベル君の顔が大きく歪む。

 

「あんな雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣りあわねぇ」

 

ベル君が勢いよく立ち上がり外へ飛び出した。

 

「カリオストロ」

 

「あぁ、ケツは拭ってやるよ」

 

「え?」

 

今日の稼ぎ、約8万ヴァリスを調理場にいる女将にカリオストロが向かって投げる。

 

「おーおー。ミア母ちゃんの店で食い逃げとはようやるなぁ」

 

「……あれって」

 

ジョブチェンジ。

 

「あぁ?トマト野郎じゃねぇか!!あいつ、今まで聞いてやがったのかよ!!傑作だなぁ!!!」

 

ベルセルク。

 

「なに?ならあの子は今までこの話を」

 

「うん。なら悪いことをしてしまったようだ」

 

「これベート!だからやめろと言ったろうに!」

 

「はぁ!?お前らみんな笑っておいて今更なに言ってんだよ!だいたいこの話を聞いて逃げ出すほど根性無しが冒険者になれるわけねぇだろ?」

 

レイジⅣ。

 

「その口を閉じろやクソ野郎がぁああ!!!!」

 

俺はベート・ローガの頬を力の限りぶん殴った。




は?伸びすぎ怖い。


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どうしても合わない人間はいるもの

最初だけカリオストロサイド入れてみた


「「「ベート!!」」」

 

グランはベート・ローガとやらの頬を力の限りぶん殴った。

当たり前のように酒場の壁を突き破り外に飛び出していく。その時ベート・ローガの身体は少し発光していた。原因はオレ様のリーンフォースだ。

そのままベート・ローガを追いかけるグランに合わせてオレ様は錬金術を使い地面がせり上がらせグランとベート・ローガを囲む檻のように檻を作り上げ、他者の侵入を防ぐフィールドとする。

さて、オレ様はこいつらの足止めでもするか。

 

「おいおい落ち着けよロキファミリアとやら?オレ様がいる限りあいつはどれだけ殴られても死にはしないんだからよぉ?」

 

「君は誰だい?」

 

質問してきたのは背がちいせぇ男。

そいつの質問にオレ様は答えてやる事にした。

 

「あそこで怒り狂ってる奴の仲間だよ。実はオレ様達さっきまでお前らが馬鹿にしていた奴の仲間でな?ちょっとばかし頭にきてんだ」

 

「……それはすまない。だが、僕らも団員が殴られているのを見て黙ってはいられないんだ。ここはお互い謝罪して終わりにしないか?これ以上はロキファミリア団長として見逃せない」

 

「あぁん?よくそんな口が聞けるもんだなぁおい!アレがあそこまで怒り狂ってんだよ!ならそれをオレ様が黙って見てるわけねぇだろ!?」

 

「そうか。なら無理矢理でも通させてもらう」

 

「あぁやってみやがれ。この開闢の錬金術師であるオレ様を倒せるならなぁ!!」

 

ここはオレ様が受け持ってやるから思いっきりやってこい。オレ様はいつだってお前の味方をしてやるからよ。

 

 

 

目の前のクソ野郎が起き上がる。

そうだ。起きてこい。向かってこい。

お前が来なければ話にならない。

 

「お、お前はあの時の!!」

 

「あぁ、そうだよ。昨日ぶりだなぁおいクソ犬」

 

「お前は一度殴らなきゃ気がすまねぇ所だったんだ。犬犬言ってんじゃねぇぞクソがぁ!!」

 

さすがは第一級冒険者。

立ち上がりからこちらに向かってくる瞬発力が高い。そして無駄なく放たれる右足からの蹴り。

バシンッ!

 

「なっ!?」

 

その蹴りを片手で受け止める。

 

「あぁ、お前は強いよ認めてやるよ。ベル君なんてお前にとったら雑魚でゴミだろうよ」

 

「ちっ!オラァ!!」

 

連続で蹴りが放たれる。

それを全て受け止め、弾き、受け流す。

 

「ただそれを」

 

「死ねやぁ!!!!!」

 

「お前が喚き散らす必要はねぇだろうが!!!」

 

左の蹴りを弾き、それと同時にベート・ローガの右足を踏みつけ振り上げた拳を振り下ろす。

後ろに倒れかけるベート・ローガに手を伸ばし胸倉を掴み引っ張り頭突き。

 

「がぁ!!」

 

ベート・ローガの身体が発光し傷がふさがる。

胸倉を掴んだまま身体を回転させベート・ローガを地面に叩きつける。舗装された地面に蜘蛛の巣状のヒビが入るがそれも一瞬で蠢き直る。

 

「ガハッ!」

 

「まだあの子は冒険者になりたてなんだよ。お前だってそんな頃があったんじゃないのか?」

 

「……うるせぇよ!!」

 

腕を振り下ろす。

身体が発光する。

 

「あぁ、悪い。期待した返事じゃないから殴っちまった」

 

「……せよ」

 

「あ?」

 

「……いい加減!離しやがれ!!!」

 

ベート・ローガも俺の様に俺の胸ぐらを掴んで勢いよく引き寄せながら頭突きを行う。

 

「……その程度か?」

 

「なん、だと?」

 

「こうやんだよ!!!」

 

頭を振りかぶり叩きつける。

勢いよくベート・ローガの頭が地面に叩きつけられる。周りにいる一部の人達から悲鳴が聞こえる。

あ?起き上がらねぇ。

ベート・ローガの傷は発光して回復するが起き上がらない。

 

「グラン、もうその辺にしておけ」

 

「カリオストロ?」

 

ロキファミリアの相手をしていたカリオストロが話しかけてくる。そちらを見てみればロキファミリアの面々が地面から生えた金属の様なものに縛られていた。

 

「もう十分殴ったろ?そろそろ終わりにしようぜ?」

 

「……あぁ。そうだな」

 

だが、最後に言うべき事がある。

これはベル君にとったら大きなお世話なのはわかっている。だが、それでも言わずにはいられなかった。

気絶したこいつには聞こえていないかもしれないが……。

 

「今に見ていろ?ベル君はすぐにお前がいる所まで駆け上がる。俺が、あの子を、認めたんだ」

 

「見る目は確かだからな」

 

「行くぞカリオストロ」

 

バキバキと音を鳴らしながら街並みが元に戻って行く。それを見ながら俺はこの場から移動するつもりだったのだが。

 

「黙って見逃すはずはないって言わなかったかな?」

 

立ち塞がるのはロキファミリアの団長。そして幹部メンバー達。

 

「なんだ?謝罪でもいるのか?」

 

「いや、元々は僕らが招いた事件だ。ロキは怒ってはいるがこればかりは事実だからね。それにベートも一応無事みたいだしね」

 

「で?立ち塞がる理由はなんだ?」

 

「君は何者だ?」

 

……あぁ、そうくるわけか。

どう説明したもんか……。

 

「姉弟で十天衆を総べし者?」

 

「……なんだいそれ?」

 

「いや、忘れてくれ。ただのLv.1冒険者だよ」

 

そう言ってカリオストロを抱えてメーテラ、ソーン直伝の飛翔術でロキファミリアの上空を飛んで行く。逃げたわけじゃないからね!!

 

 

 

ダンジョンの入り口。

それを眺めながら俺とカリオストロは佇んでいる。

 

「そろそろ日付が変わるんじゃないか?」

 

「とりあえず向こうに戻ったら自慢しとくね☆」

 

自慢?

 

「グランがあそこまでキレるのは最近なくなったから知らないだろうけど一部団員にあの姿は人気あるんだよ☆」

 

そんな人気はいらない。

 

「普段いじられ弟キャラが仲間の為にキレてくれたりするんだぜ?それもなりふり構わず力の限りを尽くしてさ?それに助けられた奴もいるんだ。人気が出るのも仕方ねぇさ」

 

てかうちの団員やっぱり色々とやばいのがいるだろ。マジギレベルセルクとかカオスルーダーの目とか好きな奴多すぎワロエナイ。

 

「このまま待ってるつもりか?」

 

「……初めての冒険なんだ。迎えてやらないといけないだろ?」

 

「お優しい事だな。アレはお前が放っておいても勝手に伸びて行くだろ?」

 

「……それでも、だ」

 

俺はいつだって、多くの仲間が支えてくれた。

それは確かに俺の中で凄く大きな柱なのだ。

ベル君がどう思うかはわからない。だけど、それでもあの子に多くの仲間ができるまでは俺がその柱を作ってあげたいのだ。

 

「っと、そろそろか」

 

「またなカリオストロ」

 

「向こうは任せてね☆カリオストロがなんとかしておいてあげる☆」

 

頼んだ!本当に頼んだ!!ジータ関連マジで頼んだ!!!

ナルメア筆頭組はなんとかするから私物の処理だけは阻止してください!!!! 帰った時お前の部屋ねぇから!状態はマジで心がやられる。

光に包まれたカリオストロが消えて一人になる。

周りにはもう冒険者もいない時間帯だ。荒くれ者のイメージがあったがあいつらあれが仕事だから結構規則正しい生活をしているのだ。この時間帯にいるのは少数だろう。

そのまま一人で待ち続け空が薄く明るくなってきた頃。ダンジョンの入り口に人影が見えてきた。

やっぱり傷だらけだ。

 

「グラン、さん?」

 

「お疲れ様」

 

「あ、あの、僕途中で抜けて、その」

 

「頑張ったな」

 

クシャッと汚れている白髪を撫でる。

 

「はい……!」

 

「ヘスティアちゃんが待ちぼうけてるだろうから帰るか」

 

「あ、神様!うぐっ!」

 

焦ったベル君は勢いよく背筋を伸ばす。だがまだ傷が痛むのかうずくまってしまった。

 

「ほらほら焦るな」

 

ベル君に背中を向けてしゃがみこむ。

 

「ほら、乗れ」

 

「い、いいんですか?」

 

「早く早く」

 

遠慮がちながらもベル君は俺の背中に身体を預けてくれた。さて、とりあえず風呂入って傷の治療して帰るとするか。

 

「グランさん」

 

「ん?」

 

「なんか……お兄さん、みたい……です」

 

思わず立ち止まってしまった。

兄か……。あぁ、なんか嬉しいな。

疲れ切って寝てしまったベル君を抱え直しとりあえず風呂屋に向かう事にした。

まったくぅ!手のかかる弟だなぁ!お兄ちゃん世話焼いちゃうぞぉ!!

少し、寒気がしたような気がした。

 

 

 

「ベル君!グラン君!!」

 

案の定、心配をして待っていた俺たちの神様。

全速力で走ってきたのをベル君を盾にしてかわしわちゃわちゃしながらホームに戻る。

そしてお互いステイタスの更新を行う事になった。

 

「なんなんだ!!僕の眷属達はなんでこんなに!こんなに!!」

 

グラン

Lv.1

力:I 92→A 863

耐久:I 5→S 921

器用:I 96→S 957

敏捷:I 98→A 891

魔力:I 0→S 994

《魔法》

【蒼い空】

・召喚魔法

・縁をつなぐ

・詠唱式【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】

《スキル》

【ジョブチェンジ】

・自身のジョブ編成可能化。

【黒竜の加護】

・武器の形状変化

・ステイタスの超高補正

・成長速度の高補正

 

なかなかの伸びだった。まぁ犬っころ一応は強いし、俺のスキルもあるし、妥当といった所だろうか?

ベル君の方も中々異常な伸び方をしているようで、うちの神様はやりようのない感情をぶつける所を探し出し、ベル君はそれを落ち着かせ、俺はそれを見て笑う。あぁ、やっぱり楽しいなぁ。

その後、騒ぎが嘘のようにめちゃくちゃ寝てた。

ヘスティアちゃんはバイトに遅刻した。




伸びすぎ怖いとか思ってたらランキング載ってたのか。
ならしゃーない。
2日ぐらいだけたぶん更新途絶えるような気がしなくもないです。


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その頃、空の世界では

番外と言うかなんと言うか。ランキング一位になってて驚いた。
感謝を込めて書きなぐってみた。誤字脱字あったらごめんね?


愚弟が消えた。

理由なんてものはわからない。だがまた何かに巻き込まれている事は確かなのだ。

それを少し振り返ってみようと思う。

まず、私達は私の思いつきでフロンティア号を購入し、それのローンを返済するためにクエストを手当たり次第に受け続けて奔走してした。愚弟はグランサイファーで、私はフロンティア号の試運転も兼ねてそっちへ。仲間達に愚弟を預けて私達は別々に行動をしていたのだ。ある時、嫌な予感が私へ警鐘を鳴らしまくっていた。

その予感を信じ私は別れて行動していたグランサイファーと合流することにしたのだ。そしてグランサイファーが見えてきた時、何か黒い靄の様な物がグランサイファーの近くに飛んでいたのだ。

そこからは早かった。ルリアをお姫様抱っこし飛翔術で全速力で駆け抜けグランサイファーに飛び乗った。その際、その靄はある部屋の近くにすり抜ける様に入って行ったのだ。それが、愚弟の部屋。

甲板に着地した時ルリアは星晶獣の気配を感じたそうだ。だが、ここまで接近しないと気がつけなかった程に気配が無かったようでとても驚いていた。そして驚く団員達を無視してそのまま愚弟の部屋に駆け込むと。寝ようとしていた愚弟が一瞬にして消えたのだ。

 

 

 

「『犠牲の貯金』が消えた瞬間だったよ」

 

「ジータよぉ。いくらなんでも、グランに対して酷いと思うぜ?」

 

そうラカムは言ってきた。

そうだろうか?昔からこんな感じだから、今更言われても正直わからない。

 

「ラカム。ジータは昔からこうなんだって、オイラ何回も言ったじゃねぇかよ」

 

ドラゴンなのにリンゴが大好きトカゲ。もうどっちかわからない。

 

「まぁ愚弟に関してはそのうち出てくるよ。……たぶん」

 

「あはは。そんな忘れた頃に出てくるみたいな……。ないですよね?」

 

私の天使。

 

「大丈夫ルリア。ルリアは私が守る」

 

「いやいやジータ。話が繋がっておらんぞ?」

 

カタリナが話を戻そうとしてくる。

いや、でもアレは私が叩いてきたから生き残ってるよ?これで死んだりしてたらそこまで追いかけて連れ戻して引き摺り回す。

 

「それで?探すったってどこを探すのよ?」

 

ツッコミ担当。可愛いイオ。

 

「手がかりがまるでないわね」

 

「とりあえず近くの島でも寄って、手当たり次第に探してみるか?」

 

JKとダンディ。

私の頼れる仲間達。ただし愚弟は除くが。

とりあえず適当にグランサイファーの中でも探せば出てくるよ。この間、適当に探してたら私のペンが出てきたみたいに。

 

「団長ちゃん。グランちゃんの事、知らないかな?さっきから見当たらないけど……」

 

「そんな物より私をかまって!」

 

「え?お姉さん、グランちゃんを探しているのだけど……。それに物なんて言ったら、お姉さん怒るよ?」

 

「そこをなんとか!!」

 

「この後ならいいよ?じゃあまた後でね、団長ちゃん」

 

「……」

 

グランちゃーんどこー?

なんて言いながら去っていくナルメア。

 

「愚弟が…!憎くて…!たまらない……!!」

 

「オイラ、これが団長でいいのかって、今でも疑問だぜ」

 

「言うなビィ。悲しくなる」

 

とまぁ、冗談は置いておこう。

 

「ジータ、ギリギリと歯ぎしりしてるわよ?」

 

イオが何を言ってるかわからない。歯ぎしりなんてしていない。誰だこの耳障りな音を出しているやつは!ギリギリ。

 

「とり、あえず!近くの!島に、止まって!捜索!!」

 

ジータ強い子だもん!こんな事で泣いたりしないもん!

 

「はぁ、オメェには騎士連中がいるだろう?」

 

「ラカムに別腹ってものを教えてあげるよ」

 

イケメンは見てて満たさせるけど過剰摂取は毒なの!!それをお姉さんで中和する事で私は真に満たされるの!!」

 

「心の声が漏れてますね」

 

「行こうぜルリア。オイラ、グランが心配だ」

 

最近団員が私のあしらい方をマスターした感がある件について話し合うべき。

 

 

 

愚弟が消えて一日の時間が過ぎた。

愚弟はその辺の島を捜索しても出てこない。

……はぁ、昔から心配ばっかりかけさせるんだから。その時

 

「だ、団長!ユエルちゃんが、ユエルちゃんが」

 

「ソシエ!?いったいどうしたの!?」

 

誰だぁ!!私のソシエを虐めてる奴はぁ!!!

今すぐ出てこい!!今ならブラックヘイズからのエーテルブラストⅢと奥義で許してやるからよぉ!!!!

 

「ユエルちゃんも消えて、消えてしまった!!」

 

……ユエルが、消えた?

……消えた。消えた?愚弟は?消えた?ユエルも?消えた?……ユ、エ、ルが、グランの、毒牙に。

 

「捜せぇ!!!大捜索だぁ!!地面引っぺがしてでも見つけ出せぇ!!!」

 

私は捜索の鬼となることを決めた。

それから暴走する私をラカムやオイゲンが止めて緊急会議が開かれた。

議題ユエル消失。ついでに愚弟。

 

「靄が現れて、グランちゃんが……消えた?」

 

ナルメアがそう言った途端、ブワッと会議室が黒い何かで覆われた気がした。

 

「それがグランはんと、ユエルちゃんを……!」

 

「グラン。貴方は、化け物になろうとした私を助けてくれた。今度は、私が助けるから」

 

「あぁ、グランのおかげで、今の私達がある。私も手伝おう」

 

「オレ様から、あいつを奪おうとするとはなぁ。いい度胸じゃねぇかよ」

 

これでも一部である。

他にもブツブツと何かをつぶやく声がしたり、自分の武器の状態を確かめたり。え?うちの団っていつからこんな過激派武装集団になったの?てか男達も一部怒ってるよね?

その会議が終わり本格的に探し回ってみることにした私達だが、深夜に帰ってきたユエルからの情報で愚弟の無事を確認できた。

今後どうなるかわからないが、奴は変な魔法を使って気を失うとかなんとか。お姉ちゃん、愚弟のお金でエリクシールハーフ買ってあげるね?優しいでしょ?行き場のない気持ちの当たりどころとかじゃないよ?

 

「魔法?絆?……グランちゃん」

 

……。

さすがに私でも、少しは心配してあげることにした。




今度こそ少し休むね。
俺にもイベント回らせてくれ。
あと前の話とかでおかしな所あったから少し修正しました。ごめんね。


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どこの世界でも祭があるらしい

「じゃあ神様!グランさん!行ってきます!!」

 

「気をつけるんだよベル君!!」

 

ダンジョンに向かってかけていくベル君を手を振って見送る。

あの後、みんなすぐに寝て休んだかと思えばベル君は夏休みの子供みたいに飛び出して行った。まぁステイタスも上がったし試したい気持ちもあるのだろう。さて、俺も今日は予定を終わらせよう。昨日迷惑をかけてしまった豊穣の女主人に謝りにいくつもりなのだ。

街の中を歩き見えてきた豊穣の女主人。

夜の為の仕込みなのか、今もウェイトレス達がバタバタと準備をしている。

 

「すいませーん」

 

ドスッ!

髪の毛がハラハラと舞った。

顔の横を包丁が飛んで行ったのだ。

完全に油断していたとはいえ……。

 

「来たね。迷惑冒険者」

 

「……本当に、ご迷惑をおかけしました」

 

「あぁ、本当に迷惑をかけてくれたもんだよ。まぁ店の損傷自体は、あのお嬢ちゃんが直してくれたみたいだけどね?」

 

完璧ご立腹である。

いくらカリオストロのおかげで店が直ったとはいえ、店の壁壊され騒ぎを起こされ被った迷惑は消えないのだ。

 

「俺にできる事なら、責任を取らせてください」

 

「なら、あれを片付けるんだね」

 

指を刺された先には山盛りのお皿。

皿洗いをしろということか。定番である。

 

「店自体は無事なんだ。細かいことはもういいけれどね、どうしても責任を取りたいなら、取らせてやるよ」

 

その後めちゃくちゃ皿洗いした。

 

 

 

皿洗いだけだと思ってた。そんな時期も俺にはありました。いつの間にか料理の仕込みもやらされて解放された頃。

オラリオは夕日に包まれていた。

 

「あぁ、この感覚は覚えがあるぞ。アウギュステの海に遊びに行った時、リーシャに秩序を乱したとか言われた時だ……」

 

一日中あいつの部屋に軟禁されて監視された。

俺が何を乱したというのか……。乱していたのは他の奴らだと思う。俺の心は乱されかけただけだというのに……。

 

「それにしても、この開放感……!自由って大事だよね!」

 

今の俺のこの気持ち!わかってくれる人はいるのだろうか?……あれ?俺って、ジータ以外にも結構不遇をしいられている?

 

「き、気のせいさ」

 

さて、もう日も沈みかけている。

今から誰かを呼ぶのもなぁ。たまには一人でぶらついてみるか。

 

「お金も帰ってきたし」

 

豊穣の女主人の女将であるミアさん。あの方が言うには店が無事である事、喧嘩なんてものは冒険者なら何度かはある事、これからはあの店に迷惑をかけない事などなど。色々と話しと約束をした上で昨日投げた8万ヴァリスの半額、4万ヴァリスが帰ってきたのだ。これがジータなら帰ってこない。それどころか更に迷惑料を付けられる。

 

「さてさて!どっかしらで食べ飲みとしようか」

 

流石に一日を豊穣の女主人で過ごす気はなく、適当に入った酒場で食欲を満たす事にした。

 

「この蜂蜜酒、結構美味しいな」

 

真っ赤に染まった蜂蜜酒がオススメとの事だったが、それがとても美味しくもうすでに三杯目だったりする。

お酒の味、教えてもらっててよかった。

団員の飲兵衛に連れ回されたりしたが、今はいい思い出の一つである。

それにしても、一人で静かに飲んでいるからか周りからの話し声がよく聞こえてきてしまう。今まで誰かしら一緒だったからなかなか新鮮だな。

 

「見たか?ダンジョンから、モンスターが運び出されてるの」

 

「あぁそういえばいたね。もうそんな時期か」

 

「怪物祭。ガネーシャファミリアもよくするぜ」

 

「まぁ僕たちからしたら、一日中飲む祭りだけどね!」

 

「「違いねぇ!」」

 

あいつら楽しそうだな。

てか怪物祭?なんだそれ?

 

「おっちゃん達、さっきの話なんだけど、聞いてもいいかな?」

 

俺は3人で飲んでいたおっさん冒険者達に話を聞いてみる事にした。俺の質問に一人の厳つい冒険者が答えてくれた。

 

「なんだ坊主?」

 

「怪物祭とかなんとか?言ってたろ?」

 

「あぁ怪物祭な。お前さん外から来たばかりか?」

 

お次はひょろっとした感じだが隙がない斥候タイプの冒険者が、俺は外から来たのかと質問を返してくる。

まぁ外というか上からです。

 

「数日前に到着したばかりなんだ。だからその怪物祭ってのも知らなくてさ」

 

「怪物祭は大手ファミリアの一つ、ガネーシャファミリアが主催の祭だ」

 

雰囲気が落ち着いた感じの冒険者がまた一つ情報を教えてくれた。

 

「ガネーシャファミリア?」

 

「君も見た事ないかい?像の頭を持つ建造物。アレが神ガネーシャ誇るファミリア。アイアム・ガネーシャだ」

 

「あぁ、あの股間が入り口の建物か」

 

「がはは!言ってやるなよ坊主!アレには所属している奴らも泣いたらしいからな!」

 

「そんで今日そこで、神達が宴を開いてるんだぜ?」

 

「「笑うしかねぇわな!!」」

 

おぉう……。がはは、ぎゃはは、クスクスと笑いだし俺は少し引いてしまった。

いや、まぁ、アレが本拠地とか嫌だわな。

 

「まぁとにかく。あと数日もすれば、街並みも祭の雰囲気に変わってくるさ。楽しみにするといいよ」

 

ふむ。祭か。

それはなかなか楽しみだ。ついついドラムマスターにジョブチェンジしたくなる。まぁ衣装関係全部あっちなんだけど。

 

「祭の内容はだな。ダンジョンから引きずって来たモンスターを調教するんだ。あのデケェ闘技場、見たことあるだろ?」

 

「凶暴なモンスターが、ガネーシャファミリアの団員に大人しく捩伏せられる!市民達にゃ痛快の見世物だわな」

 

確かにそうかもしれない。

モンスターと言えば怖いとかのマイナスイメージが強い。それを俺たち人が調教し、言う事を聞かせてしまうんだから見世物としては楽しめる。

 

「なんというか。モンスターに慣れさせるような祭だな」

 

「慣れされる?」

 

「いや、モンスターって、冒険者には馴染みがありすぎるけど、それ以外の人はあんまり見ないだろ?オラリオなら特に」

 

「なるほど。そういう見方もできるのか。外から来たからこその意見かもしれないね」

 

なんか考え込んでしまった。

せっかく良くしてくれていたのに、場を白けさせてしまったか?

 

「あぁ!小難しいことは良いんだよ!それよか坊主」

 

ニヤリと笑った厳つい冒険者。いや、顔が怖いわ。

 

「ん?金ならねぇぞ?」

 

「ハッ!この街に来たばかりの貧乏冒険者になんか、たかりゃしねぇよ」

 

「そうだぜ?オラァ!お前もこっちで飲みやがれ!!」

 

「君さえ良ければ、少しだけどこの街の事を教えてあげるよ。先輩としてね」

 

めちゃくちゃいい人達だった。

そのあとワイワイどんちゃん騒ぎで飲みあった。

彼らはベテラン風を出してはいたがデメテルファミリアという商業系ファミリアの人達らしい。なんでも女神に惚れ込んだとかなんとか顔を赤くしながら教えてくれた。……厳つい顔赤くされても困るからね?

 

 

 

あれから三日が過ぎ怪物祭が始まった。

ヘスティアちゃんは宴に参加してから帰って来ていないとベル君は言っていた。まぁ友達もいるだろうし仲良く遊んでいるのだろう。

街並みもすっかり祭の雰囲気に変わって多くの人達が祭を楽しむようだ。俺はベル君に怪物祭の話をして、歳上のメンツを保つ為にと五千ヴァリスと少しばかりだがお小遣いを渡した。

 

「え!?だ、ダメです。悪いですよ!!」

 

なんて言って断ろうとしてきたが。

 

「年に一度の祭だ。今日ぐらいは、冒険は休んで楽しんでおいで」

 

と無理矢理だが教会から放り出した。

 

「さて、せっかくだし俺も楽しまなきゃな。【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

まだ意識を持っていかれそうになるが、そろそろ慣れてきた。状況に慣れただけで怠さは変わらないが。

 

「あ!グランさんじゃねぇですか!会いたかったです!」

 

「クムユ!俺も会いたかったぞぉ!!」

 

脇にガシッと手を入れて持ち上げクルクルと回る。

 

「ぴゃ!!な、何しやがんでぃコノヤロー!」

 

「あっはっはっは!!いつもより三倍ぐらい回るぞぉ!!」

 

「わーいです!って!こんな事してる場合じゃねぇですよ!グランさん魔力が!!」

 

魔力?

……かはっ!

 

「ぴゃあああ!!グ、ググググランさん!?しっかりしやがれです!」

 

「お、お兄、ちゃんは、ここまでだ。ククル姉ちゃんと、シルヴァ姉に、よろしく、な……」

 

「あわわわわ!!!早くこれ飲みやがれですよ!!」

 

口の中にエリクシールハーフの味。

そして振りかぶって勢いよく入れられた時にぶつかったのか少し血の味。

 

「あぁ、魔力が、漲る」

 

「はぁ。よかったですよ」

 

「そんな事よりお兄ちゃんと遊びに行こうぜ!!」

 

魔力が回復した俺は飛び起きてクムユを脇にガシッと抱え教会を飛び出した。

 

「あいさっ!」

 

この状況に平然と返せるあたりクムユもうちの騎空団に毒されていると再確認した瞬間だった。

目指すは怪物祭!さぁ!今日の俺はお兄ちゃん力全開だこの野郎!!!




新たなグラブルキャラが出る度に性癖暴露してるとか言われる。
けどそれをわかってしまう君達。同志だからね?


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ロキファミリアのベル君?

楽しくなってきた。


クムユを連れて祭を楽しむ。

ジャガ丸くんを始め、クレープやアクセサリーを売っている店。他にも色々と見回ってクムユが銃が見当たらないと、ちょっと落ち込んだりもしたが楽しそうにしてくれている。

 

「お兄ちゃんでよかった」

 

「グランさん?」

 

「なんでもねぇ。なんでもねぇんだよ」

 

クレープ食うか?と差し出しパクつくクムユ。

飲み物飲むか?と差し出し喉を潤すクムユ。

前世では一人っ子だった俺。兄弟というものがたまらなく欲しかった。だが今世ではあのジータの弟。絶望したよね。姉怖過ぎワロタとか言ってられないぐらい怖い。だが、そんな中、旅の途中で出会ったのがクムユ。妹とはこういう事かと理解した瞬間、俺は兄になった。

ちなみにビィにこの話をした時は。

 

『やっぱおめぇも、ジータの弟なんだな』

 

なんて言われた。奴と同列にするとはいくらビィでも許せん。奴のリンゴ食ってやったもんね。まぁもちろん後で少し高めのリンゴを買ってきて謝ったが……。

 

「あ!そういえば、ジータさんから伝言があったんでした!!」

 

え?伝言?

嫌な予感しかしない。

 

「なんでも、グランさんが魔法を自由に使いこなす事が出来たら、報告させるようにとか」

 

「何するつもりだ?あの姉は……!」

 

なんだ?つまりアレか?オイコラそっちに私とルリア呼べや。異世界とか面白そうなところ行ってんじゃねぇよ。とかそんなアレか?てかだいたいその指示こんな感じで出されてるだろ?

 

『愚弟がその魔法を使えるようになったら報告させるように言っておいて。これでもし報告しなかったら締め上げる』

 

こんな感じだろ?クムユが言ったせいで美化されたように聞こえてしまったぜ。危ない危ない。グランくんおちついてる。クールになるんだ。

 

「グランさん?グランさん!」

 

「おぉう!どうした?」

 

「次はあっちに行ってみたいです!何やら騒がしい感じがしやがります!」

 

グイグイと手を引っ張って急かしてくる。

ははは。焦らなくても祭はまだまだ終わらんよ?

だけどね?闘技場の方はいいの?

 

「魔物の調教なんてのは、やろうと思えば向こうでも出来やがります!今はお祭りの方を、楽しむんです!」

 

「そっか。んじゃあ行くか」

 

さっきから騒ぎが起こっている方向に歩いて行く事にした。まぁそこから祭りは祭りでも大騒ぎ祭りになるとは思っていませんでした。なんて言ったらフラグとか立つのかな?……え?調教できるって何?お兄ちゃん、ククル姉ちゃんとシルヴァ姉混ぜて詳しく話し合いたいんだけど?

 

 

 

騒ぎの中心。

そこには巨人型モンスターとそれを相手取ろうとしていた冒険者。そしてそれをたおして去って行くアイズ・ヴァレンシュタイン。その金の疾風はモンスターを斬殺しながら街中を駆け抜けて行った。

 

「うぴゃあああ!!ま、魔獣がこんな街中に!?それにあの人すっごく強いです!!」

 

こっちではモンスターな?

てか、なんで街中に?トラブルの匂いしかしません。

 

「クムユ。武器はちゃんと持ってるね?」

 

「え?はい!ジータさん率いる騎空団の、騎空士としての義務ですから!」

 

なら、行くか。

俺はまた、脇にガシッとクムユを抱える。

 

「ぴぅ!?」

 

「飛ぶよ!」

 

「え?ぴゃあああ!!!!!」

 

いきなり飛翔術を使用してアイズ・ヴァレンシュタインを追いかける。そうして飛び上がった先に見えたのは膨大な土煙が立ち込めている場所。

朧げだが長い蛇のような影が見えた。

 

「あそこか!!」

 

「ぴゃあああ!!速い!速すぎるのですよ!!」

 

クムユの叫び声を聞いたのかアイズ・ヴァレンシュタインがチラリと振り返る。

 

「手を貸す」

 

「……ありがとうございます」

 

アイズ・ヴァレンシュタインは風、俺は飛翔術の出力を上げて土煙が立ち込める場所に全速力で向かう。

 

「!?レフィーヤ!!」

 

その戦場では蛇のようだった植物型モンスター、アマゾネスが二人、エルフの少女が一人が戦っていた。そしてその中のエルフの少女がモンスターに弾き飛ばされ今にもトドメを刺されそうになっている。

 

「クムユ」

 

「ガッテンです!!食らいやがれです!ディスチャージ・ショット!!」

 

パァン!という音が三回鳴り響くと同時に、クムユの銃から三発の銃弾が撃ち出された。この世界ではまだ見た事がない銃で放たれた弾は、アイズ・ヴァレンシュタインを抜きモンスターの横っ面にぶち当たる。クムユが火薬を調合して作った弾は爆発しモンスターを怯ませる。その隙に俺とアイズ・ヴァレンシュタインはモンスターへと接近し。

 

「いくぞ!」

 

「……はい!」

 

銀と青の剣線が閃き、モンスターを斬り倒した。

 

「アイズ!」

 

「ああ!!ベートをボコボコにした冒険者!!」

 

その節はご迷惑をおかけしました。

反省も後悔もありません。

 

「まだ、くるか」

 

地面が揺れ、それはドンドン大きくなっていく。

そして

 

『『『『『キシャアアアア!!』』』』』

 

先ほどの植物型モンスターが五体現れる。

ふむ。やるしかないな。

 

「ええ!?五体とか嘘でしょ!?」

 

「もう来なくていいわよ!」

 

アマゾネスの二人が叫ぶ。

まぁ叫んでもやるしかないんだけど。

 

「クムユ。そいつを守りながら援護、できるな?」

 

俺は倒れているエルフの子をクムユに任せることにした。

 

「ま、任せろです!やってやるですよ!!」

 

「頼もしいよ」

 

俺はバハムートソード・フツルスを構える。

 

「ロキファミリア。三体任せていいか?二体は俺が持とう」

 

ロキファミリアの連中にもモンスターを受け持ってもらう。魔獣、モンスターは馬鹿だが間抜けではない。だからこそ狩りは充分な準備をして挑まないといけない。そう教わった。

 

「なんであんたが、仕切るのかわからないけど、武器もないし任せるわ」

 

「そうだね。あいつ、硬いから気をつけてね」

 

「……お願いします」

 

「任せろ。さて、やるぞ」

 

 

 

さすが大手ファミリアの高レベル達だ。

俺がいなくてもなんとかここを抑える事ができる程の実力はあるのだろう。だがこいつらが出してくる触手が少しばかり多い、対処に面倒だから人は多いに越した事ないんだが。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン!その風でこいつらを撹乱できるか!?」

 

「……やってみる」

 

魔法を使用しているアイズ・ヴァレンシュタインにターゲットが集中している。そのまま敵対心をもたせて隙を突くのが一番楽だろう。アイズ・ヴァレンシュタインには避けてもらっていればそれでいい。そう思って指示を出した時だった。

 

ピキッ!

 

とても小さな音。だがそれはこの場ではなぜか響いて聞こえた。アイズ・ヴァレンシュタインの剣が砕けた。使い手の力量に耐えかねたのだろう。

 

「……あ、怒られちゃう」

 

今はそんなこと気にしている場合じゃねぇ!!!

五体のモンスターは魔法を使っているアイズ・ヴァレンシュタインに集中しているのだ。このままでは攻撃されダメージを負うのは免れない。

俺は素早く飛翔しアイズ・ヴァレンシュタインの首根っこを掴み離脱。こいつ!戦闘で少し破けたとはいえ、服の布面積小さくねぇか!?

 

「……あ!」

 

たが助けたというのに、急に俺の手を振り払おうとする。

この馬鹿が!一体なんだって……!

視線の先に頭が見えた。露店の裏で怯えて蹲っている人がいる。

 

「投げるぞ!」

 

「……うん!」

 

そのまま露店めがけてアイズ・ヴァレンシュタインを投げつける。あの頭の主はなんとか助かるだろう。だが

 

「グランさん!!!」

 

目の前には五つのモンスターの頭。

普段、ファイターでいる俺にはこれは少しまずい。一級冒険者が硬いと怯む相手が五体。それも目の前に迫っていた。

俺に残されたのは一瞬。

ジョブチェンジ。

スパルタ。

 

「ファランクスⅢ」

 

本来なら盾を持っておきたい所だがここにそんなものはない。オーラのように自分の中から気を練り上げ耐久を上げる。腕、足、身体。様々なところを噛まれ、捕まる。

 

「離しやがれってんですよ!コノヤロー!!!クムユ謹製!炸裂弾です!!」

 

クムユはモンスターの根っこにめがけて炸裂弾を撃ち放つ。炸裂弾の衝撃のおかげか俺はすぐに拘束から抜け出す事ができた。……あぁ、それにしても、何で俺は戦っているのだろうか?今日は祭りでクムユまで居るのに傷を作って……。

 

「あぁくそ、イッテェな。センチュリオンⅡ使えばよかったか?面倒だ。さっさと終わらせる」

 

ジョブチェンジ。

ベルセルク。

 

「ウェポンバー「待ってください!」あぁ?」

 

後ろから声が聞こえた。

さっきまで倒れ伏していたエルフが、クムユに心配されながらもおきあがっていた。

 

「私に、私にやらせてください」

 

「レフィーヤ!動いて大丈夫なの!?」

 

無乳。

 

「レフィーヤは休んでなさい!」

 

巨乳。

格差が激しい。今思えばなんだ?この凸凹アマゾネス。ダメだ、思考が乱れた。

 

「わ、私は!私も!ロキファミリアの一員です!このオラリオで最も強く、誇り高い、ファミリアの一員、逃げ出すわけには行かない!」

 

「ほぉ?だが、残念だけど、俺はもう終わらせたいんだ。どっちが速いか競争としようか?」

 

「覚えててください。私は、レフィーヤ・ウィリディス!ウィーシェの森のエルフにして、ロキファミリアの一員です!」

 

あぁ、そういうことか。

こいつは、アイズ・ヴァレンシュタイン達の足枷になって居るのが嫌なのか。だからこそ今ここで立ち上がろうとしている。

 

【ウィーシェの名のもとに願う!森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】

 

始められたのは詠唱。

 

【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか、力を貸し与えてほしい】

 

ロキファミリアの面々はモンスターを引き付け始める。

 

【エルフ・リング】

 

魔力を感知して、俺を含めて突撃してくるモンスター。

 

「この一回だけ、かばってやるよ。センチュリオンⅡ」

 

モンスターの攻撃をセンチュリオンⅡで無効化しながら後ろの二人をかばう。

って!一体一体がデカイから手も足も身体も全部使ってまで止めてるんですけどこっちは!!センチュリオンⅡのおかげで、痛くも痒くも無いけどさ!!!

 

【週末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】

 

後ろから大きな魔力を感じる。

 

【閉ざされる光、凍てつく大地】

 

「手助けするよ!」

 

「あんたばっかり、いいカッコさせないわよ!!」

 

「ッッ!」

 

「もう一回、クムユ謹製炸裂弾!食らいやがれです!!」

 

ロキファミリアの三人が三体のモンスターを弾き飛ばす。それに続くように俺もモンスターを弾き追撃とばかりにクムユの炸裂弾が放たれる。

 

【吹雪け、三度の厳冬。我が名はアールヴ!】

 

ジョブチェンジ。

ファイター。

 

「ウェポンバースト」

 

認める。認めようレフィーヤ・ウィリディス。

お前もまた、ベル君と同類だ。

だから、今回は譲っておく。

 

【ウィン・フィンブルヴェトル!!】

 

「レギンレイヴ!!!」

 

大地が凍てつき、凍りついたモンスターが細切れになった。



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ベル・クラネル育成計画

やばい。ほんまに楽しくなってきた。


「すげーです!!」

 

「あぁ、すごい魔法だったな」

 

目の前が氷に包まれている。

中々な威力の魔法。イシュミール達にも追いつくかもしれない。

 

「レフィーヤ、ありがと!」

 

無乳の方のアマゾネスがレフィーヤに抱きつく。

あーあー。痛そうだなぁ……。

しゃあねぇか。あんまり得意じゃないから使いたくなかったんだが……。

 

「ありがとう、レフィーヤ。リヴェリアみたいだった……すごかったよ」

 

「アイズさん……!」

 

「すごいじゃないレフィーヤ。見直したわ」

 

ワイワイと喜び合っているところに悪いが、ちょっと混ぜてもらうとしよう。

 

「はいはい。その辺にしてやれ、痛そうだろ?」

 

ジョブチェンジ。

セージ。

 

「あんまり使いたくないし、見せたくもないんだがなぁ」

 

今回のこいつらを見た限りでは悪い奴らでもないのだろう。ベート・ローガがしたベル君の件で悪く見過ぎていたのだろうな。そこは反省点だ。だからこそ謝罪含めて今回だけだ。たぶん……。

 

「これから起こることの質問等は、一切!受け付けません」

 

『黒竜の加護』発動。

バハムートソード・フツルスをバハムートスタッフ・フツルスに変化。

 

「え!?武器が変わった!?」

 

「うるさい。ヒールオールⅢ」

 

レフィーヤ含めてこの場にいる全ての人に回復をかける。だが思わぬ効果を発揮してしまった。

 

「あれ?傷が治った?」

 

「それだけじゃないわよ?」

 

「……疲労感が、なくなった?」

 

「なんですかこの魔法は!!」

 

「相変わらずグランの魔法は、加減が効いちゃいねぇです」

 

だから使いたくなかったの!!!

あぁ、俺はジータと違って加減ができないのだ。だから高火力、高威力が出てしまう。逆にジータがベルセルクとかになったら加減が効かず周りの環境が破壊し尽くされる。依頼どころじゃねぇだろうが!!ってなってしまうのだ。

 

「とりあえず!俺はもう祭りに戻って楽しむ!あとは任せるけどいいな!?ほら、クムユ行くよ!!」

 

「は、はいです!!」

 

そう言ってクムユを抱え上げてその場を去ろうとした時。

 

「待ってください!」

 

レフィーヤに止められた。

 

「なんだ?」

 

「あなたの名前、教えてもらえませんか?」

 

「……グランだ。よろしくなレフィーヤ」

 

「はい!よろしくお願いしますグランさん!」

 

今度こそ俺はその場から去ることにする。

 

「ククル姉ちゃん達に報告です」

 

「え?」

 

「なんでもねぇです!おろしやがれです!」

 

なぜ急に不機嫌なんです!?

 

「早く来やがれですグランさん!」

 

「お、おう!」

 

 

 

疲れた。

あれから何故か不機嫌なクムユに連れ回されて姉ちゃん達のお土産を買ったりして、なんとかご機嫌をとったおかげか帰りには笑顔が戻っていた。お兄ちゃん失格になるところだったぜ。

 

「あら?ベル君、傷だらけだね?」

 

「あ、おかえりなさい!」

 

「おかえりグラン君。って!君も服とか穴空いてるじゃないか!!どうかしたのかい?」

 

「うん。ただいま。それとヘスティアちゃん。特になんでもなかったよ」

 

ロキファミリアと共闘したとかあったが、まぁ別にいいだろう。それよりその武器なんだ?特別な感じがするんだが。

 

「あ、これですか!神様が僕に、作って、くれた、みたいで……」

 

ん?ベル君の勢いが無くなったぞ?どうしたどうした?

 

「あの、神様。これ、僕だけなんでしょうか?」

 

「……ハッ!」

 

あぁ、そういう事か。

その武器はヘスティアちゃんがベル君の為に用意したのか。この間の宴の後、帰ってこなかったのはこれが理由か。大方ヘファイストスファミリアにお邪魔していたのだろうな。

 

「気にしなくていいよ?」

 

「え?で、でも」

 

「この際だ。教えておこうか」

 

そこからベル君に少し話をしてみた。

俺が前までいた所ではバハムートシリーズという武器を持っていた事。今はこのバハムートソード・フツルスだけだが、俺のスキルで武器が変化する事。

 

「まぁそんな訳で、俺の武器も特別製なんだ」

 

「それ、すごいじゃないですか!!」

 

「まぁ状況に応じての、使い分けはできるね。それよりベル君?」

 

「なんですか?」

 

「君のそのヘスティア・ナイフは、君と一緒に成長する。そうだね?」

 

「はい。神様がそう言ってました」

 

「大事に、するんだよ?君の成長の証は、その武器と共にあるんだから」

 

「……はい!!」

 

その日、ベル君はヘスティア・ナイフと一緒に寝た。ヘスティアちゃんは嬉しいのか悔しいのかよくわかんなくなったようで不貞寝していた。こいつら面白可愛い。

 

 

 

それから数日後。

この数日の間にベル君はダンジョンの7階層まで進み、更には装備を一新した。そして今日の訓練の時に教えてくれたのは。

 

「獣人のサポーター?」

 

「はい。リリルカ・アーデって子なんですけど」

 

「へぇ。まぁいいんじゃないかな?他のファミリアとのパイプを持つのも悪い事じゃないと思うよ?どこのファミリアの子?」

 

俺もリーシャとかモニカとかと知り合ったし。

てか仲間になったけどさ。

 

「ソーマファミリアです」

 

「あぁ、あの……。ベル君、あげていくよ」

 

「え!?」

 

ガキンッ!!

さっきより強く剣をぶつける。

最近はもう剣で訓練をしているのだ。剣速が上がった事でさっきより顔を歪めながら受け止める。

 

「ふむ。見えるか……」

 

「えっと、どうしたんですか?」

 

「ごめん、今日はここまでにしよう。急用を作った」

 

「作った!?」

 

「ベル君、今日は夕方には帰ってきてね?約束だから」

 

「はい。わかりました」

 

もうちょっとやりたかったとかブツブツと言いながらもベル君はダンジョンに向かう準備を始めたようだ。さて、ちょっと俺も準備をしよう。幸いまだ早朝でだ、時間はたっぷりとある。

 

 

 

お前達姉弟は感覚派だねぇ。

ある人に俺達はそう言われた事がある。今まで色々な人に教わってきて飲み込みは早い。だが、それを教えるとなったら同じ感覚派じゃなければ掴みにくいとも言われた。だから今回の俺は目的の為に本気である。

 

「頭に描き焼き付けろ。短剣を使える仲間達を……。【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

魔力切れはいつもの事だ。だが気にならない。何故なら。

 

「短剣。短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣短剣!!!」

 

「お、おい!どうした!魔力切れでおかしくなったか!?早くこれを飲め!」

 

そう言って半汁を差し出してきたのは

 

「ランちゃん!!」

 

ランスロットだった。

きた!これで我々の勝利だ!!

 

「ランちゃんお願いがあります!!」

 

「久しぶりの再会だというのに、頭など下げないでくれ。グランの頼みなら喜んで聞こう」

 

俺はランスロットに頭を下げる。

それを見てランスロットは焦りながらも顔を上げるように言ってくれた。さらには願いまで聞いてくれるという。俺には出せないイケメン力だ。

 

「実は……」

 

そこから話したのはベル君について。

ほぼ独学で短剣を使っている事。不用意に俺が教えてしまうと変な癖がつくかもしれない。そう思い訓練では無駄な動きをさせないように、身体に戦闘時の動きだけを覚えさせているに留めている事。

 

「なるほど。それで俺はその子に、短剣の使い方を教えればいいんだな?」

 

「頼めるか?」

 

「もちろんだ。俺で良ければ喜んで教えよう」

 

感動した!

これでベル君の教師が一人ついたぞ!!

 

「ランちゃん、ありがとう!ベル君は夕方に帰ってくるから、それまで時間を潰すとしよう」

 

「あぁ、俺も話したい事があったからな」

 

「話したい事?」

 

俺が聞き返すと苦虫を噛んだような顔をしながら切り出した。

 

「まぁ、なんだ。そろそろ頑張って、ナルメア達を呼んであげてくれ」

 

「……そんなに?」

 

「最近はよく、虚空にいるグランに向かって、話しかけている」

 

「……えぇ……」

 

幻覚って事ですか!?

いや、本当にそろそろやばいな。

明日あたり頑張ってみよう。今日はもうこの魔力切れの気持ち悪さを感じたくない。ジータなら後二、三回目は余裕なんだろうな。

ナルメア。俺も呼びたいんだよ?あんなに世話を焼いてくれて悪い気なんて全然起こらないし、むしろ嬉しいぐらいだ。だがこればっかりは今の俺にはどうにもならんし。いっその事ダンジョンで魔法ブッパしまくるか?いやいや、もし階層とかブチ抜いたりしちゃったらって考えると他の冒険者を巻き込むかもしれない。

 

「支援専門なら、魔法を使ってもいいかも、しれないんだけどなぁ」

 

「ステイタスとやらが問題か。しかし、自分の力量が目に見えるというのは、興味深いな」

 

「魔法を使えば、魔力が上がるんだけどね。俺の場合、魔法職になってアビリティ使えばそれでも上がるし。セージにでもなろうかとも思ったんだけど」

 

「グランの場合は、それでも過剰になるか。クムユも言っていたからな。……なら、ナルメア達に手紙でも、書いてみればどうだ?俺からグランの言葉を伝えるよりはいいだろう」

 

「それだぁ!!!ランちゃんどっかの店に便箋買いに行こうぞ!!」

 

ランちゃんはやっぱり頼りになった。

そうして便箋を購入し、適当な喫茶店に入り手紙になんて書こうか悩む俺を、ランスロットは優しくアドバイスしてくれたのだった。

 

 

 

ランスロットに手紙を複数預け教会に向かう。

もうそろそろベル君も帰ってくる事だろう。これから日付けが変わる寸前までなんとかベル君の底上げをする。何故俺がここまで急にベル君の訓練を急ぐのか。それはあの子が今、ソーマファミリアの団員と一緒にいるからだ。

ソーマファミリア。

あいつらを何回か見た事があるが、どいつもこいつも金に執着しているイメージ。この世界で最初に絡んできたゴロツキ共もソーマファミリアだった事がわかっている。あの子は良い意味でも悪い意味でも純粋だ。悪意に晒される時は必ずあるだろう。だからこそ、それに太刀打ちできる力をつけて上げる必要がある。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりベル君。紹介したい人がいるんだけど、良いかな?」

 

「え?はい。もちろんです。何時ものお仲間ですか?」

 

「そうそう。前からベル君の訓練をしているって話をしていてね。俺なんかより上手く教えてくれるから、今日だけ来てもらったんだ」

 

「え!?そんな!良いんですか!?」

 

驚くベル君。

だがそんな彼にランスロットが声をかける。

 

「君がベル・クラネル君だな?俺はランスロットという。君に少しだけだが、戦い方を教えてほしいと頼まれてな。君さえ良ければだが、どうだ?」

 

「是非!お願いします!!」

 

「あぁ、こちらこそよろしく。時間は有限だ。早速やろうか」

 

ふむ。これなら俺は邪魔だな。

あとはランスロットに任せておいても良いだろう。

 

「ランちゃん。あと頼んでもいい?」

 

「ああ、必ず期待に応えよう」

 

「ベル君も頑張ってね!じゃあまた後で」

 

「はい!ありがとうございますグランさん!」

 

さてと。装備はいいな。

 

「グラン!」

 

ランスロットが声をかけてくる。

 

「気をつけろよ」

 

わかってる。

俺は手を振ってそれに答え歩き出した。

向かう先はダンジョンだ。

 

 

 

ダンジョン12階層。

その中でも入り組んだ所にある広い空間。

探索をしている時に見つけた場所。何故かモンスターも出てこなく、そんな場所だからか冒険者も寄り付かない。

 

「一日中、着いて来やがって。誰だよ」

 

「……気がついていたか」

 

霧の向こうから現れたのは、大剣を背負った獣人。

 

「手合わせを願おうか?ヘスティアファミリアのグラン」



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オラリオ最強の漢

楽しくなりすぎて無理してるとかじゃねぇんだよなぁ


それは一瞬だった。

 

ガギンッ!!!

ドガン!

 

「かはっ!」

 

奴の踏み込みを甘くみてしまった俺は、思わぬ力に吹き飛ばされ壁に激突する。

一瞬のうちにここまで踏み込むか!!!

オラリオ最強Lv.7冒険者。猛者オッタル。

 

「ちょっと、甘く見過ぎた……。ゲホッ」

 

思えばベート・ローガはLv.5だったか?

レベルが少し上がるだけで、この力の違いかよ。

それにアレは不意打ち気味なところもあった。まぁ?何度戦っても?アレにだけは負けないけど?

 

「この程度か?ならば、拍子抜けもいいところだが?」

 

「ハッ。見とけよこの野郎」

 

ジョブチェンジ。

ベルセルク。

 

「お返しだオラァ!!!」

 

先程のオッタルのように俺は一瞬にして相手の懐に入り込む。剣を振り下ろしオッタルを飛ばす。

 

「ちと油断したけど、この程度、俺でもできる」

 

「……ぐぅ。なるほど、一筋縄ではいかんらしい」

 

「ほら、これからだぞ?」

 

「あぁ、そのようだ」

 

「ランページⅡ」

 

ランページⅡ。ゲームでは自身の連続攻撃率を上げるものだった。だがこの現実ではそんな確率などではない。自身の力を上げて瞬発力を大幅に上げ攻撃速度を上げる。そうする事でゲームで言う連続攻撃が可能なわけだが。

 

ガギンッ!ギギギン!!

 

対処されたら連続攻撃もあんまり意味ねぇわな。

 

「グ!!……ハァア!!」

 

ガギンッ!!

 

こいつ!身体が俺より大きい分、向かって来られたらこっちが弾かれる!!クッソ!ドラフを相手にしてる気になってきたぞ!!

大剣相手にこの剣じゃ軽い!!!

『黒竜の加護』発動。

バハムートソード・フツルスからバハムートアクス・フツルスに変化。

 

「何?」

 

これで武器を重くして!!

 

「飛べやぁ!!!!レイジぃいい!!」

 

さらに攻撃力上昇だゴラァああ!!!

 

ガギィイイン!!!!

 

「ぐぅううう!!!」

 

あの武器、不壊属性でも付いてやがんのかよ!!

折れねぇぞおい!!

 

「……グハッ!……なるほど、強い」

 

「とっとと、どっかに、行ってくれねぇ、かなぁ?」

 

「ふん。その強さ、いつまで続くのだろうな?」

 

「あ?」

 

「息が、上がっているぞ?」

 

……は?

いや、まて。少しだが息が上がっている。

猛者オッタル。確かにこいつは、今までの奴等とは強さが違いすぎている。だが、それだけで俺の息が上がる?

 

「貴様の、その技はいつまで、代償なしで使えているんだ?」

 

「……あぁ、納得した。ここで、ステイタスかよ」

 

思っていたより余裕がないみたいだ。

あーくそう。弱くなったとわかれば、嫌でもイラっとするなぁ。

 

「貴様が強いのは明らかだ。同じレベル。いや、それより下でも俺は負けていただろうな」

 

オッタルは薄く笑い続ける。

 

「だが、Lv.1の貴様にやられる程、俺は弱くないはつもりだ」

 

ガチャリとお互いに武器を構える。

 

「ハハッ。負かしてやるよ最強」

 

「負けるつもりはない。最弱よ」

 

ガギィイイン!!!!

 

そして、また、俺たちは激突した。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「ゼェ……ハァ……」

 

何度、武器をぶつけただろうか。

あぁくそ。嫌と、いうほどわかったよ。

ステイタス。これ、俺の足枷だわ。

こいつがマグナやバハムートより強い訳がないのはわかる。だが、それなら何故、俺がここまで苦戦して更に倒せないのか。

 

「レベル、上げねぇと、なぁ」

 

「安心、しろ、今回で上がる、だろう」

 

「あぁ?そりゃ、お前程度が、俺の壁だと、言ってんのか?」

 

「実際、倒せていない、だろう」

 

くっそ。あぁ、認めるよ。

ここまでやっても倒せねぇのは久しぶりだ。

あぁ、ちくしょう。

 

「楽しいなぁおい!!!」

 

ガギンッ!

 

「それには、同意だ!!」

 

ガギィイン!!

 

バハムートアクス・フツルスと奴の大剣がぶつかり合う。何度も、何度も何度も。

ダンジョンの壁は砕かれ、地面は抉れる。

それでも、俺達は止まらずに激突しあう。

そろそろ体力的にも、お互い限界に近い。

次が俺達の最後の衝突になるだろう。ここで相手にかけるアビリティを使えば確実に勝てる。

だが、てめぇにだけは、アーマーブレイクやミゼラブルミストとかの小手先技は使わねぇ!!!正面から!!殴って!!!倒してやる!!!!

 

「おおおおお!!!レギンレイヴぅううう!!!」

 

「はああああ!!!」

 

俺の奥義と奴の本気の剣がぶつかり合う。

 

ガギィイイン!!!!

……ガン!ガラン!!

 

俺はなんとか奴の剣を弾き飛ばすことに成功した。

 

「ハァ…………ハァ……。見たか、この、や、ろう……」

 

「……見事、だ」

 

だが、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

「クッソいてぇ……」

 

痛さで目が覚めた。何か大きくゴツゴツしたものが……。

 

「起きたか?」

 

「あ?……離せ猪野郎!!!」

 

最悪だ!!俺にそっちの趣味はねぇ!!!

ゴツゴツゴリマッチョにおぶられるとか!!せめてランスロットとかならまだいいのに!!!

 

「運んでやっていると、いうのにな」

 

「うるせぇ。あーくそ!最強が最弱に、手加減なしで思い切りやりやがって」

 

「だがその最弱は最強の剣を飛ばし、しばらく腕の感覚を無くさせた」

 

ジョブチェンジ。

セージ。

『黒竜の加護』

武器変化。

 

「ヒールオールⅢ」

 

「む?」

 

「認める、俺の負けだ。だが、今回だけだオッタル。次やる時は俺が完膚なきまでに潰す」

 

「フッ。楽しみにしておこう」

 

その時、ふと気になることがあった。

 

「……なぁ、今、時間とか分かるか?」

 

「時間?……朝になってるだろうな」

 

「ランちゃん!!!ベル君!!!……あぁ、やってしまった」

 

俺は思わずしゃがみこんでしまう。

嘘だろ?俺、あいつらの訓練を少しでも見てあげてないのか?なら、次から俺はベル君にどう教えてあげればいいんだ。

 

「何かあったのか?」

 

「大事な用だよ!!」

 

「なら行くがいい」

 

「終わってんだよもう!!!」

 

「そうか。残念だったな」

 

「こいつ!今から殺してもいいかな!?」

 

「受けて立とう」

 

……はぁ、馬鹿らしいやめだやめだ。

さっさと帰って寝る。またそのうち召喚すればいい。それにランスロットは期待に答えると言ったのだ。破られる事はないだろう。

 

「もういいや。帰る」

 

「あぁ、お前との戦いは、なかなか、楽しかったぞグラン」

 

「俺も久しぶりにヒリヒリした。次は潰すからなオッタル」

 

この世界での初めての敗北。

やる事は山積みだ。敗北してしまう相手がすぐそこに居たって事は他に何かがあってもおかしくはない。まず、ヘスティアちゃんにステイタスの更新をしてもらおう。

そして俺は一晩ぶりに教会へ戻ったのだ。

 

 

 

「あ!グランさん!?どうしたんですか!そんなボロボロで!!」

 

一人で訓練をしていたベル君が叫びながら走ってくる。まぁ今の俺は服は破けているし、泥だらけだし汗の匂いも酷いものだろう。拭う汗は美しいと言うがここまでボロボロなら汚いだけだ。

 

「まぁ、ちょっとね。それよりどうだった?」

 

「そうです!ランスロットさんです!訓練の途中、早口で課題だけ言ったら、急に何処かに行っちゃったんですけど」

 

「ほう。ほんで課題とは?」

 

「それが、あとは打ち込むだけだって」

 

「やればいいじゃん」

 

俺の言葉にベル君は不思議そうな顔を向ける。

 

「ランちゃんが、後は打ち込むだけだって言ったんだろ?なら恐れず教わった事を、そのまま出してみればいい」

 

「……けど、ランスロットさんみたいに凄い技は」

 

「出来なくて当たり前だ。アレはランスロットが努力してきた証。最初から完璧にできるはずがない」

 

「徐々にって事ですか?」

 

その通りだ。

 

「ひたすら繰り返して熟練して行く。そうする事で初めて、強者の領域に手をかける事ができる。ほら、打ち込んできてみな?」

 

「はい」

 

俺は剣を構え待ち、ベル君は気持ちを落ち着けて深呼吸を行う。

それからしばらくして

 

「いきます!!」

 

ベル君がヘスティア・ナイフを構え、技を打ち出す。

それは、今までのベル君では、考えられないほど速く。強い踏み込み。その瞬間、ベル君は風を纏った。

 

「ブレードインパルス!」

 

ギン!!

 

及第点どころじゃない。これは文句なしに合格だろう。Lv.1でこの速さの攻撃。並みの冒険者なら初見では確実に避けられない。この技は確実にベル君を助ける武器となったのだ。

 

「うん。合格だね、自信を持っていいよ」

 

クシャりとベル君の頭を撫でる。

そうしてやるとベル君は嬉しそうな顔で返事をしてくれた。

 

「……はい!」

 

これを持って第一回ベル君育成計画を終了とする。俺、何も出来てないけどね。



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レベルが上がっても実感はない

タイトルネタバレやってみた


あの後、ダンジョンに向かうベル君を見送り、俺はグースカ寝ているヘスティアちゃんを起こす。ステイタスの更新をしてもらう為だ。

 

「ステイタスの更新?僕まだ眠いんだけど……」

 

「目を覚ましてあげるから、やってくれない?」

 

「仕方ないなぁ。……グラン君Lv.2キタァああああ!!!!」

 

そう言ってヘスティアちゃんは飛び起きた。

その時、各パラメータもオールSSSとかいう規格外だったようだが、まぁこれはいいだろう。普通にレベルを上げてもらうようにステイタスを更新した。

それから騒ぐヘスティアちゃんを黙らして一日中寝た。それが昨日のお話。そして今日、レベルが上がった事もありナルメアを召喚できないか試してみる事にした。手紙にね、書いちゃったからね。すぐに呼ぶからってね。やるしかないね。

 

「さすがにこれ以上は、副団長としてと、俺自身としても見逃せないからなぁ。ただでさえジータに負担かけすぎてるし」

 

そう思いながら教会内で詠唱を開始。

だが。

 

「あ、あれ?前より魔力切れが、酷いような……」

 

「あれ?グ、グランちゃん?……あぁ!グランちゃん!!」

 

グランは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

目が覚めると目の前にナルメアの顔があった。

近くないですか????

あぁ、気絶したから教会の椅子の上で膝枕ですか?嬉しいです。

 

「起きた?グランちゃん。もう少し寝ててもいいよ?お姉さんグランちゃんの寝顔見てるの楽しいしそれに疲れたでしょ?ほら、ね?目を瞑って?」

 

一息で言い切りやがった……!

いや、寝てる間に何してんですかね?

驚くほどに顔が至近距離なんですが?

 

「起きるよ」

 

「そう?そっか、残念だけど、仕方ないね」

 

左手で肩を抑えられる。

右手で頭を撫でられる。

ナルメアの身体が少し前傾姿勢の為、このまま起き上がると顔にアレがアレする。……起こす気ないよね!?

膝に対して身体を横向きで膝枕をするとこんな風に固められるのか。グラン、一つ学んだ。

あ、そういえば。

 

「あれ?そういえば俺ってまた汁飲んだの?」

 

「うん。美味しかったね」

 

「美味しかったね?ありゃ飲み過ぎて、美味しさとか通り越して無条件に、不味い」

 

味を思い出してしまった。うーん不味い。

 

「あぁ、そうだね。うん、こっちの話だったかな」

 

「なにか、やった?」

 

「んーん。何もやってないよ?普通の事だけ、したかな?」

 

……なら、いいか。

とりあえず、このままここで寝てても仕方ない。

 

「ナルメア、どっか行かないか?」

 

「どこに、いくつもり、なのかな?」

 

アレェ?何でこんなに闇オーラが強いの?確かに貴女の属性は闇かも知れませんが強過ぎません?

 

「いや、せっかくナルメアが居るんだし、オラリオの中色々と回らない?」

 

「え?……それって。うん!行こうグランちゃん!あ、身体大丈夫?お姉さん、起こしてあげよっか?肩貸す?歩ける?」

 

「大丈夫。やわになったかも知れないけど、そこまで落ちたわけじゃないよ」

 

そんな訳で街へ繰り出す事にした。

もう上機嫌なナルメアが腕組んできたり、左手が幸せだったりなんか、なんかもう、もっと早く頑張ればよかった。そうして教会から出ようとした時。

 

「あ!忘れるところだった」

 

「ん?」

 

ナルメアは俺から離れてさっきの所まで戻る。

そして持ってきたのは大きな袋。

 

「グランちゃん手紙にね、すぐに呼ぶって書いてくれたよね?それって望んでお姉さんを呼べたって事でいいのかな?」

 

「え?まぁうん。そうだね」

 

「よかったぁ!なら団長ちゃんに、ちょっと無理矢理だったけどアレ、持たせてもらってよかったかなぁ」

 

アレ?

てか何その袋なに?すごい大きいな。

 

「はい。団長ちゃんからね」

 

そう言ってにこやかに差し出してくる袋。

え?受け取りにくいんだけど。

 

「えっと、中身って聞いていい?」

 

「え?グランちゃんの武器だよ?リディルとルナティック・ブルーム、無銘金重だけど」

 

何やてナルメア!!

俺はナルメアから袋を受け取り中身を確認。

確かに武器が揃っていた。ジータ、ありがとう。

 

「グランちゃんはこの武器じゃないと、Ex2ジョブはできないでしょ?団長ちゃんは使いこなしちゃうけど。だから団長ちゃんは、もしグランちゃんが魔法を自由に使えるようになったら、団員に持たせて渡そうとしてたみたい」

 

「それを今回は、ナルメアが強行で持ってた訳か」

 

「うん!グランちゃんが呼んでくれるって、お姉さん信じてたから!」

 

おぉう。その信頼が少し痛いような気がするのは何故なのか。

話を戻そう。そう、ナルメアが言う通りなのだ。俺はなぜか専用の英雄武器じゃないとEx2ジョブはなかなか上手くいかない。しっくりこないというか、大事な所でミスをしてしまうようになる。何というかマスターできていないといいますかはい。武器があれば別だけどさ。それにしても。

 

「何処に持とうか……」

 

「あ……」

 

「「…………」」

 

「お姉さんが持っててあげるね!ほら、貸して?」

 

「いやいや!いくらナルメアでも、この量は重いでしょ?」

 

「大丈夫だよ!ランスロットから手紙をもらった時から、ずっと肌身離さず持ってるから!!」

 

「それはそれでどうなのかな!?」

 

「お姉さん丈夫だから大丈夫だよ!?」

 

「そう言う問題じゃねぇ!!」

 

い、何時もよりしつこい!!

てかさぁ!

 

「ナルメアに持たせてたら、俺の格好がつかないでしょ!?」

 

「……あ」

 

パッと離してくれた。

はぁくっそぅ。いわせんな恥ずかしい。

 

「……そっかぁ。そうだよね。ごめんね?お姉さん察しが悪かったね」

 

「えっと、ナルメアに頼るのが嫌というわけじゃなくて、と、とにかく!俺が持つ!ありがとうね!!」

 

女の笑顔が漢のロマンって教わったからね!

それを守る為にも俺がここでナルメアに荷物持たせたら鉄拳制裁もあり得る。とにかく俺は武器を肩から斜めに背負って持つ。はぁ、やっぱりなかなか重いじゃんか。そう思いながらも俺達は今度こそ街に繰り出した。

 

 

 

そうして街に繰り出したわけだが。

 

「グラン。昨日ぶりだな」

 

「オメェがなんでいんだよ」

 

唐突なオッタル。

ナルメアは空気を読んでくれているのか黙ってくれている。だが俺が出している雰囲気で只ならぬ相手だというのはわかってくれているだろう。

 

「貴様に期待している御人がいてな。これを持たせて来いとの指示を受けた。受け取れ」

 

そう言って渡されるのは一つの本。

あん?なんだこれ?魔導書かなんか?ジータにやれジータに。

 

「これを読むだけで魔法を覚える事ができる。活用するといい」

 

「ありがたくもらうわ」

 

活用するする。貰えるもんはポケットティッシュでも貰うわ。

 

「次も、お前との勝負を楽しみにしている」

 

「ナルメア、こいつが俺をいじめる」

 

「……そうなんだ。なら、消さないと」

 

冗談です。

ちょっとふざけてみたらナルメアが蝶となり消え、オッタルの後ろに現れる。その時には既に刀を抜こうとしており。

 

「ストップ。こいつにお返しするのは俺だから」

 

「「!?」」

 

その状態のナルメアの刀を掴み止める。

こうなる事はわかっていた。だが、これでわかっただろう?

 

「オッタル。改めて言っておく、次は潰す」

 

「フフッ。ハハハハハ!!いいだろう。ならば俺も研鑽を積む事としよう」

 

そう言って去っていくオッタル。

その背中を見ながらナルメアが話しかけてくる。

 

「よかったの?」

 

「うん。あいつを潰すのは俺だから。それに、次が簡単に終わったら面白くないだろ?」

 

これは警告だ。

お前の事は聞いているからな。神フレイヤを守り側についている事が多いとか。……ふざけるな。それでさらに強くなれると思うなよ?ダンジョンに潜れ。さらなる強さを掴め。次、お前のその壁は俺には低く、脆すぎるぞ?

 

「ナルメアが武器持ってきてくれたし。次は斬り落とす」

 

「頑張ってねグランちゃん!」

 

任せろぉ!!!

やったるでぇええー!!

オッタルなんか開幕レギンレイヴブッパでワンパンや!




感想で指摘を受けました。
恩恵って自分の力+恩恵になるのね。なら、グランの弱体化はなんだよ?って事だそうで。
後々修正するね。ダンまちにわかでごめんね。
なんだこれは!クソかよ!って思うぐらいならブラウザバックの方がいいよ。
俺は俺で好きにやるから、それでもいいぞって人が楽しんでくれればありがたいです。


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今日の俺は少し運がいいらしい

更新速度元に戻すね。(亀更新)


あれからオッタルと別れ、ナルメアを連れてオラリオの中を歩きまわった。

ここに来てからというもの色々な場所を回って来たが未だに回り終わらない。まぁあっちこっち自由に回ってるから仕方ないか。このオラリオ散策中の間、ナルメアはと言うと。

茶店では。

 

「グランちゃん。そのコーヒー熱くない?大丈夫?火傷してない?お姉さんがふーふーしようか?」

 

服屋では。

 

「グランちゃんグランちゃん!これなんてどうかな?グランちゃんに似合うと、お姉さん思うんだけど!!」

 

屋台では。

 

「あ、グランちゃん。こっちも食べる?ならお姉さんも、グランちゃんの食べてみたいなぁ」

 

こんな感じでひたすら世話を焼かれている。

食べ物に比率が傾いているのは許してくれ。食べ歩きとか、とにかく美味しいもの巡りが趣味なんだ。服屋は最近服が破れるから新しいのを探しに行ったのだが着せ替え人形になってしまったな。

まぁそうしてると当たり前なのだが。

 

「お金がなくなる」

 

「お姉さんに任せて。大丈夫、その辺を歩けば悪い奴なんて」

 

「なにするつもり!?やめてね!?」

 

大人しくナルメアとダンジョンに向かった。

ちょっとまとまったお金が欲しいのだ。悪いがナルメアに手伝ってもらうことにしよう。

 

「お金がいるの?お姉さんグランちゃんになら、なんでも買ってあげるよ?」

 

「そこまでしてもらったら、漢としてクズい気がする」

 

「……そっか。わかったよ」

 

やけに理解が早いな。

 

「男の子のプライドもあったよね。お姉さん察しが悪くてごめんね?」

 

「そうだけど!そうやって言われるとなんか恥ずい!」

 

「フフッ。うん、わかってるから。それより、なんでお金が必要なの?」

 

「んー。防具の整備が必要だなぁって。傷だらけだしちょっと形も崩れたし」

 

オッタルとの勝負で結構傷ついてしまったのだ。まぁ、表面に少し凹凸ができたぐらいなのだが、ついつい気になってしまうのだ。

こいつの整備は必要だろうしな。

 

「なら、どこかのファミリア?に頼むの?」

 

「んー。そのつもりなんだけど、いくらぐらい金額がかかるのかは不明」

 

「ファイストスファミリアと、ゴブニュファミリアだったかな?新人さんなら安そうだけど」

 

「それはさすがにな。命を何度も救ってくれているこいつを、そこらの新人に見せたくはねぇなぁ」

 

向こうなら色々とツテもあるんだが。

この世界での友人は少ないから、中々難しい。

はぁ、ヘファイストス、ゴブニュ。このファミリアに防具の整備を頼んだら高そうなんだよなぁ。

 

「武器の方は?大丈夫なの?」

 

「んー。見る限り刃こぼれとかも無いし、斬れ味も鈍ってないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「たぶんスキルとかの、副次的な効果なんじゃ無いかな?武器変化させた時、状態を最高に保つとか?」

 

その辺、カリオストロに調べてもらったりするべきだったか?うーん。また召喚するか?まぁ、問題が起きる前になんとか決めよう。

そしてやって来たのはダンジョン。地味に最初からこうやってダンジョンの中に入るところから一緒なのはナルメアが初めてじゃね?思い返すと飯食ったり祭り楽しんだりしかしてねぇな。ランちゃんなんて仕事頼んだだけだぜ?酷すぎるわ。だがそれでも笑顔でやってくれたランちゃんはマジ聖人。イケメン力強すぎで直視できない。

 

「とりあえず嘆きの大壁にでも行って、できたらゴライアスと戦いたいかなぁ」

 

もし戦えたら魔石を手に入れて引き返そう。

無理なら先に進むかなぁ。ダンジョンに入った時間が少し遅めだからあんまり奥にはいけないんだが……。

 

「なるようになるか」

 

「お姉さん、全力で守るからね!グランちゃん!」

 

そうして、俺とナルメア二人でダンジョンアタックをする事に。

 

「グランちゃん!はい!お姉さんもっと頑張るからね!」

 

モンスターが現れても俺が出る暇ねぇなぁ……。

ナルメアが剣を抜けばモンスターが塵となり、そのまま空中にある魔石を掴む。そしてそれをすごい勢いで俺に持ってくる。

 

「現在、サポーターのグランです。一心不乱に魔石を集めまくるナルメアに困惑しております」

 

「グランちゃん何か言った?」

 

「いや、なんでも。ありがとうねナルメア」

 

「お姉さんもっと頑張るからね!期待しててね!」

 

また、ナルメア式縮地が速くなった。

いやもう十分っていうか、俺の経験値が貯まらないというか。要するにゴライアスが出たら戦うの俺だからね!?

そんな感じで、ナルメアがやる気全開お姉さんになっている為、なんの苦労もなくやって来れた第17階層。

その大広間にある、嘆きの大壁と呼ばれるその場所には、今回は運が良かったのかゴライアスと言う巨人型モンスターが現れる。

 

「でっけぇなぁ」

 

壁を破壊し叫びながら出てくるモンスター。

こりゃ本能的な恐怖とか感じてもおかしく無いんだろうなぁ。でも、何故なのか。こういう大型って……。

 

「よく見るからなぁ」

 

「頑張ってねグランちゃん!」

 

「おーう。さてと」

 

とりあえずファイターのままで行こう。

俺はジータからの贈り物である武器をナルメアに渡し、ゴライアスが破壊し崩落している壁の破片を避けながら一気に接近する。

 

「お手手もーらい!」

 

「ゴアアァアアア!!!」

 

バハムートソード・フツルスはなんの抵抗もなくスルリとゴライアスの手を切り落とす。なんだ、こんなもんなのか?なら、別に小手調べなんてしなくともいいか。面倒だし。俺はナルメアの下まで駆け戻る。

 

「ナルメア!無銘金重!」

 

「はい!」

 

バハムートソード・フツルスを外して、ナルメアから受け取った無銘金重と入れ替え構える。

ジョブチェンジ。

剣豪。

 

「この力は仲間の為に。さぁ、一刀を持って、斬り伏せん」

 

五輪剣。

キィイイン……!

甲高い金属音の後、ゴライアスの首が落ちた。

 

 

 

ゴトリと落ちた魔石。

ふむ。また荷物が増えた。ナルメアがさっと取り出した風呂敷で包んで持ったが、なんで風呂敷なんてあったのだろうか……。

 

「なんかまたご機嫌になってない?」

 

「え?ふふふ。そんな事ないよ?ふふふふ」

 

「何があったというのか……」

 

「ふふふふ。秘密かなぁ」

 

思わず声に出てしまったが秘密らしい。

なんでや。俺そんな変なことしてないと思うんだが……。グラン君これでも周りの目とか超気にするタイプの子だからね?

 

 

 

そのまま18階層に向かい今日は一日ここで過ごすことにした。それぐらいここの雰囲気が少し好きな俺なのだが。

 

「あれ?リヴィラがなんかボロボロのような気がする」

 

「そうなの?」

 

「うん。もうちょっとしっかり作ってあったような気がするけど。行ってみようか?」

 

そうして向かったリヴィラはやはり壊れた跡が目立つ。何かあったのだろうか?街中を探索しつつ色々と見てまわる。

 

「あぁくそ!あのモンスターのせいでまただ!」

 

荒れているおっさんが出てきた。

うーん。関わるか?関わっても何もできないがその暴れたモンスターは気になる。

 

「おーい。おっさん、この街なんで壊れてるの?」

 

「あぁ?なんだこのガキ」

 

俺が聞きたいのはこの状況だけだから相手の質問は無視でいいか。ガキという言葉に反応したのか後ろにいるナルメアからのプレッシャーが凄いのは気にしないでおこう。

 

「前この階層に来た時、壊れてなかったと思うんだけど?」

 

「……変な植物型モンスターが出て来やがったんだよ。てかなんだ?お前が連れてるおっかない嬢ちゃんは。それにその角は?」

 

「この子の事?世界は広いって事。このオラリオに初めて来た人かもね。それより情報ありがとうね」

 

クムユはフード被ってたし角は見えていないだろう。ナルメアの場合直で見えるからなぁ。疑問に思われても仕方ないだろう。

それにしても植物型モンスターがまた出てたのか。地上に続きリヴィラでも出た。これは、なんと言いますか。陰謀の匂いってやつですかなぁ。誰かが狙われているのか、それとももっと大きな目的があるのかは知らないけど、ダンジョンなんてとんでも無いものに何も無いのはおかしいんだよなぁ。

さてと、とりあえず今日、泊まる場所どうしようか。




前回の話について。
ナルメアの登場。そして俺からのお知らせ?
その二つがあったからか、ジータ姉ちゃんがグラン君の為に武器を届けさしたのガンスルーされててクッソ笑った。
クソ鬼畜改悪ジータにしようと思ってたけど感想で少しは姉感があったほうが良さそうやったからつけてみたけど。ジータは泣いていい。


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驚愕の事実とは後からわかる

「前から思ってたけど暴利すぎな?」

 

この街、リヴィラに泊まることを決めたのだが宿の店主が言った一言。

 

『その中身は魔石か?ならその魔石で二人だ』

 

なんて言いながらゴライアスの魔石を指差す。

カウンター破壊してやろうかと思ったわ。

その時、宿屋の主人がナルメアの事をカウズ?とか言ってたから角は珍しく無いのかもしれない。それは良かった。今度から外装とかいるかな?とか思ってたけど手間がはぶける。まぁ、大きすぎる角は珍しくないのか不安だが。あとドラフの特徴的な耳。

まぁそんな訳で、ナルメアには悪いがこのまま外で野宿をする事になったのだが、久しぶりだわなぁこんなの。

水場近くに場所を決めたらすぐ、止める暇もなくナルメアは食べ物を取りに走って行った。

 

「グランちゃん。木の実とか取ってきたよ」

 

ナルメアが帰ってきて手には沢山の食べ物を持っているが俺はそれどころではない。

 

「イメージはマッチ。マッチだ。ポッと着く感じでいいんだ。い、いくぞ?やるぞ?……ファイア」

 

ゴォオウ!!

炭が出来上がった。

もうやだ!ウィザードですらこれだ!!

あ、ナルメアが居たんだった。

 

「あ、おかえりナルメア。ごめんねこっちまだかかる。ごめんね。もうすでに四回目だけど、魔法火力馬鹿でごめんね」

 

結局ナルメアが持ってた道具で火を用意してくれた。いやもう、何から何まで世話になりっぱなしですね。

それから話をしているうちに時間も過ぎ、あたりもすっかり暗くなっている。

このダンジョンでも昼と夜?があるのだから不思議だよなぁ。感覚的にはもう日付も越えそうだ。ならそろそろナルメアとも一時的にお別れという事だ。

 

「静かだね」

 

そんな時間を惜しむかのように膝枕状態で頭を撫でられる。少し恥ずかしいが、ここは好きにさせてあげるべきだろう。向こうに帰った時少しでもジータに負担がいくのはちょっと、うんちょっと悪い気もするようなしないような。しないわ。

 

「このまま寝てもいいか?」

 

「お姉さんが消えたら地面に頭うっちゃうよ?」

 

クスクスと笑いながらそう言ってくる。

けどまぁそれでも構わん。

目を瞑って寝ようとする。俺の特技は幾つかあり、その一つはどこでもすぐに寝れるようになったというものだ。だからこの後寝てしまって何が起きようと俺にはわからん。

 

「いいよ。おやすみ」

 

「うん。おやすみグランちゃん」

 

 

 

「ん……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

ナルメアが居た。

アレェ?あたりは少し明るくなっているんだがどういう事だ?日付を越えるまでしか召喚できないはずじゃ……。

 

「……アレのせいか?」

 

原因を一つ挙げるとするならレベルが上がったというのに、ナルメアを召喚した時、前よりも魔力切れが酷かった。一回の召喚が一日だったのが二日間召喚し続けれる様に伸びたって事?

 

「……わからん。向こうの奴らに頼むか」

 

「……ん?……グランちゃん?」

 

「あ、起こしたか?一晩中膝枕は辛かったろ?変わろうか?」

 

「……じゃあ、お願いしようかなぁ」

 

起き上がりナルメアと交代。俺ががっつり寝ちゃってたからその分寝かせてあげよう。座ったまま寝て一晩は結構キツイし。

ナルメアの頭を撫でながら思い出す。

 

「あ、オッタルから貰った魔導書があったな。タイトルは『蒼穹を行くもの』?中身どんな感じかな」

 

本を開くと、視界が蒼に包まれた。

 

『始めようか』

 

声が頭に響く。

 

『俺にとって欲しいものは?』

 

絆だ。

誰にも砕けないぐらい強い絆。

 

『俺にとって、その絆を守るには?』

 

力。

だからこそ俺は死にものぐるいで修行をした。

前世一般人だった俺には、姉、ビィ、そして仲間との絆が唯一、心の拠り所にできるものだから。

だから力を求めた。全部、全部含めて守る為に。

 

『俺にとってその力の象徴とは?』

 

武器。

守る為に、新たな力、ジョブを覚えた。

その為に様々な武器を使いこなしてみせた。

 

『でも武器は一つしか持てないよね?』

 

だからこそ寄越せ。

お前には俺の求めるものを、寄越す力があるのだろう?

この問答も飽きた。いいから俺の望みを叶えろ。

 

『俺はいつまでも強欲だなぁ』

 

それが俺だ。

強欲に仲間との絆を求め続ける。そしてその全てを守ってみせる。

 

『だな、それが俺だ』

 

ふと気がつくと元の風景が目に入ってくる。

今の、なんだったんだ?

魔導書を見つめるがさっきの様な事は起きない。

一度きりの使い捨てアイテムか?そう、使ったら後戻りができないダマスカスとかヒヒイロカネとか?……やっべぇこれ、ホイホイ貰う様なものじゃないんじゃ……。

……ジョブチェンジ。

ウィザード。

 

「そーい!ファイア!」

 

ポーイっと魔導書を放り投げファイアで燃やす。

よし。これで証拠隠滅だな。オッタルに後から返せとか言われても、そんなもん無いと言ってやろう。

 

「ふぁー、よく寝た。ありがとうグランちゃん」

 

欠伸をしながらナルメアが起き出す。

さて、またあのクソ甘い実でも食べてダンジョンから出るか。

 

 

 

ダンジョンから出て魔石を換金する。その際一悶着あったりもしたが倒したと言い続けヴァリスを受け取り、その足でダンジョンの上にある摩天楼に向かいヘファイストスファミリアの店を見に行く事にした。

 

「ん?んん!?そ、その剣を見せてはもらえんか!?」

 

誰だこいつ。

この世界で極東と呼ばれる場所の着物を彷彿させる服装をした女が現れた。

 

「誰だ?」

 

「ん?手前か?手前は椿・コルブランドという。それでその剣を見せてはもらえんか!?」

 

いや、名前言われただけでホイホイと俺のバハムートソード・フツルスを渡すと思ってるのか?昨日までつけていた無名金重はまた袋の中に入れててよかった。それもあったらなんか余計絡まれてる予感がする。

 

「グランちゃんが嫌がってるの、わからないかな?だからね?お姉さん、ちょっと離れて欲しいかなぁって思ってるのだけど?」

 

ググググとナルメアが椿・コルブランドを俺から離す。

 

「む!?その刀、それも見せてはもらえんか!?」

 

やっべぇ。こいつ明らかにめんどくさいやつだ。

 

「あれ?グラン君がなんでここに!?」

 

「あーもう。訳わかんなくなってきたぞ」

 

とりあえずナルメアに絡んできた椿・コルブランドを任せて俺はヘスティアちゃんに話を聞く事に。

 

「なんでここでそんな格好してるの?」

 

「え?えっとぉ新しいアルバイトと言うかなんというか」

 

まぁいいか。

問題は理由である。

俺もベル君も生活には十分なヴァリスを稼いでいる。神様であるヘスティアちゃんが働くことなんてないのに、それこそ俺らがダンジョンで稼いでも足りないぐらいのヴァリス……が、必要な場合だ、け?

 

「ベル君の、ヘスティアナイフいくらだヘスティア」

 

「グ、グラン君?いつもの君じゃ、僕が知っているグラン君じゃない様な気がするんだけど」

 

「いくらだ?」

 

「い、言えません」

 

俺はガシッとヘスティアちゃんの頭を掴み人気がないところまで連れて行く事にした。

 

 

 

「二億ヴァリスゥウウウ!!!!」

 

思わず絶叫。

ヘスティアナイフ。アレは二億もするらしい。

まぁ、神が作って自分と同じ様に成長する武器。高いのも納得できる。だが、だがなぁ!!!

 

「団員に黙って買うもんじゃねぇ!!!!」

 

「で、でもベル君の助けになりたかったんだよ!!」

 

「それとこれとは話がちげぇよ!!!いいか!?確かに俺たちには武器が必要だ!あの子の助けになりたいという気持ちで作ったのも理解できる!!けどなぁ!それでかかったお金を団員に告げず一人で三十五年ローンの四百二十回払い!?貰う方の気持ちも考えやがれや!!」

 

「うぅ……。ごめんよグラン君」

 

「あーいや、怒鳴って悪かった。とりあえず神ヘファイストスの所に案内してくれないか?」

 

「え?う、うん」

 

そうして俺はナルメア達と合流して神ヘファイストスのもとに行く事にした。ついでにナルメアから聞いたらさっきの椿・コルブランドはこのヘファイストスファミリアの団長らしい。

 




今のイベントひと段落したから更新しますね


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借金は早めに返さないと気になるのだ

明日からイベント。


「それで、君がコレの眷属の、グラン君ね?」

 

うちの駄女神を指差しながら神ヘファイストスはそう言った。

 

「はい。この度はうちの主神が迷惑をおかけしました」

 

「別にいいわよ。これでも神友だから見捨てるのも気がひけるしね。払うものは払ってもらうし」

 

「ここに三百万ヴァリスがありますので、これをローン返済の足しにしてください」

 

ナルメアには悪いが今回は事情が事情だ。

ゴライアスの魔石、その他魔石の換金したお金。自分の必要な分だけは残して、残りを全部神ヘファイストスの机に置いた。防具の修理はまた今度だなぁ。

 

「さ、三百万ヴァリス!?グラン君一体どうやったのさ!!」

 

ヘスティアちゃんが驚きのあまり大声をあげる。

 

「ステイタスの更新してくれますか?」

 

「それはいいけど、なんか他人行儀じゃないかい?」

 

「怒ってるとかそんなんじゃありませんので、気にしないでください」

 

「怒ってるじゃないか!!」

 

それからヘスティアちゃんをガン無視しステイタスの更新を行う。

 

グラン

Lv.2

力:B 769

耐久:D 549

器用:C 666

敏捷:A 821

魔力:A 894

《魔法》

【蒼い空】

・召喚魔法

・縁をつなぐ

・詠唱式【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】

【アイテムボックス】

・収納魔法

・望む事で発動

・無詠唱

《スキル》

【ジョブチェンジ】

・自身のジョブ編成可能化。

【黒竜の加護】

・武器の形状変化

・ステイタスの超高補正

・成長速度の高補正

 

「なんで君はそんなにステイタスの伸びが早いんだ!それに新しい魔法!?無詠唱って何さ!!」

 

ほう。アイテムボックスか。

俺は袋の中からリディル、無名金重、ルナティック・ブルームを取り出しバハムートソード・フツルスと一緒に収納したいと望む。するとスッと武器が消えた。

 

「あら?消えちゃった」

 

ナルメアが少し驚く。

 

「うん。でもこうすれば」

 

次は取り出したいと望む。

そうだな。リディルでいいか。

スッと手にリディルが現れる。

 

「なるほどなぁ。これは便利だ」

 

肩から背負う必要がなくなったな。

周りを見るとポカンとした目が複数。まぁうちの主神と神ヘファイストス、椿・コルブランドである。

 

「なにか?」

 

「はぁ、私の部屋でそんなとんでも魔法を見せつけられる身にもなってほしいわね」

 

そう言われればそうだ。

 

「その武器はなんだ!?それも見たいのだが!!」

 

「さっきからお前はそれしか言わねぇな!!」

 

なんなんだこいつは!!

そろそろ本気でめんどくさくなってきた。

迫ってくる椿・コルブランド。それを遠ざけるナルメア。騒ぐヘスティアちゃんに頭を抱える神ヘファイストス。もはやカオスである。

 

「はいはい!それで、貴方がここにきた理由はそれだけ?私としてはお金が入ってくれてありがたいのだけど」

 

「あー本当はそのお金で防具を修理するつもりだったんですけど」

 

「む?そうなのか?……ふむ、確かに少しだが修理する所はあるな。……その剣を見せてくれるなら手前が無償で引き受けよう」

 

そう言ってリディルを指差す。

うーむ。まぁ確かにお金がかからないのは魅力的だ。二億も借金があるうちのとしてはありがたい。……見るだけだしいいかなぁ。

 

「溶かしたり壊したり弄ったりしたら、怒るからな?」

 

具体的には斬る。

 

「そんなことはせん。ただ普通に見たいだけだ」

 

そう言った椿・コルブランドにリディルを渡す。

 

「ふむ。これは……」

 

集中しだしたのか俺の武器を眺めたまま黙ってしまった。……まぁどうやら鍛治師の様だし英雄武器であるこいつに興味が出たのは理解できた。本当に見るだけでしばらくしたら返してくれた。

 

「その剣、どこで手に入れたのだ?」

 

「色々旅をしているうちに巡り合ったんだよ」

 

「そうか……。できればそれを作った人に会いたかったのだが」

 

「そうね。確かにその剣を作った子は只者ではないわね」

 

そうなのか。

素材と剣をシェロカルテのところに持って行って放り投げただけだからその辺知らなかった。まぁ確かに要求素材はとんでもないものばかりだったけどな。まぁそんなことは置いといて。

 

「ヘスティアちゃん。俺、しばらくダンジョンにこもるから」

 

「え?」

 

「都合がいい魔法も手に入ったし、ダンジョンでお金稼ぎして来る。帰ってきた時とか一気に魔石交換するつもりだから騒ぎとか起きそうだけど、その時はよろしく」

 

「えぇ!?いいんだよ!?僕が働いて返していくから!」

 

はぁ……。

いや、それでもいいんだけどね?

もし、二億の借金があるファミリアと世間に知れたら俺は外歩くの嫌だよ?それに、誰も寄り付かなくなるファミリアになるだろうし。ベル君もかわいそうじゃないか。

 

「気にしなくていいよ。なぁ、椿さん。今度、他の武器も見せてあげるからまた装備の整備頼んでもいいか?」

 

「ほう?あのレベルの武器が見れるのなら、喜んで受けよう」

 

「それは良かった」

 

「なら、もう行くのかい?」

 

「準備をしてから行くよ。整備を頼んだし、その間に食料アイテム諸々買ってくる」

 

「僕も手伝おうか?」

 

ヘスティアちゃんが少し気にしているのか控えめに言ってくる。だがまぁ仕事中でもあるだろうし、途中で抜けさせるわけにはいかないだろう。

 

「大丈夫。ナルメアもいるから手伝ってもらうし」

 

「うん。だから安心してていいよ?お姉さんが手伝うから」

 

リディルを含めた装備を椿・コルブランドに渡し俺とナルメアは摩天楼から出る。さて、ナルメアには悪いがもう少し手伝ってもらおう。

 

 

 

それから、俺たちは食料やアイテムを購入しまたダンジョンに向かった。アイテム購入の際、アミッドとナルメアが一悶着起こしたりと色々あって時間を多く消費したがそれのおかげで預けた防具も受け取れた。

 

「さて、ゴライアスも居ないし一気に進むぞ」

 

「うん。お姉さん援護するね」

 

ここでいきなりだが俺のアイテムボックスについてだ。あの中に武器やらなんやらを入れる際、物に触っていないと収納できないことに気づけた。

そんなわけで

ジョブチェンジ。

オーガ。

 

「殴ってそのまま魔石回収で行こう」

 

俺とナルメアは駆け抜けた。

出てくるゴブリン等の雑魚を殴り殺し、時には瀕死状態のキラーアント複数縄で繋ぎ持ってダンジョンを歩き回る。酷い……これが人間のやる事かよ。そんな言葉が聞こえてきそうだが多くの借金の前に人は変わってしまうのだ。

 

「ジータがサラーサを連れ回した時のようにな」

 

「あれは、酷かったね……」

 

逃げ惑うスライムたち。

それを汁片手にスライムを追いかけ回すジータ。

逃げることを許されず引き摺られるサラーサ。

全てが終わった後に残ったのは、グラウンドゼロの所為で天変地異でも起こったかと思われる大地。金を担ぐジータ、表情が無くなったサラーサだった。

 

「俺と他数人でサラーサを元に戻すのは大変でした」

 

「団長ちゃんを見るだけで震え上がってたもんね……」

 

十天衆ですら恐れる姉って……。

しばらくの間サラーサは俺の側を離れることはなかった。なんか、小型犬でも飼ってる感じになってきてた様な。

 

「それを見て団長ちゃん歯ぎしりしてたんだよ?」

 

「え?今地味に思考読まなかった?」

 

「気のせいじゃないかな?」

 

二億を前にして疲れたんだろうか?

まぁいいか。

そうしているうちに18階層に着く。まだまだ進むつもりでもあったんだが。

 

「グランちゃん。もう時間も遅いし今日は休まない?」

 

「もうそんな時間?」

 

「お姉さんの感覚だとそろそろ日付けを超えちゃうかな?」

 

「そうか」

 

ナルメアの言った通り休むことにした。

ナルメアは野営の準備をしながら言ってくれたのだが、向こうに帰った後みんなに俺の状況を伝えてくれるらしい。だからまた朝にでも誰かを呼んで一緒に進む事を約束させられた。ナルメアは俺がここから先に行った事がない事も知っていたみたいで心配してくれたのだ。

 

「あ、そろそろみたいだね」

 

ナルメアの身体が少し発光しだした。

 

「うん。こっちでも色々お世話してくれてありがとな」

 

「うん!お姉さんグランちゃんといれて楽しかったから。また、呼んで欲しいな」

 

「もちろん。またなナルメア」

 

「体には気をつけてね?あと、食べ物もちゃんと食べるんだよ?それにダンジョンには危険がいっぱいだから気を」

 

あ、途中で消えてしまった。




誤字などについて。
俺はいつも気が向いた時に一気に書きなぐります。
軽く見直したりはしますが、後から誤字や変な所を見つけたりします。
もちろん見つけられないものもありまして、その辺は放置状態です。
何が言いたいかと言うと。
誤字報告をしてくれるのはありがたいですが多分直すことはありません。


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一人でダンジョンを進む時もある

おひさ。今回は息抜き回。


第18層で朝を迎える。

食料節約のために、ナルメアが取っておいてくれた木の実を食べて装備の準備。バハムートソード・フツルスもつけた、防具もつけた、ポーチに念のためのアイテムもいれた。アイテムボックスがあるとはいえ、普通の冒険者と同じ様にしていなければ目立ってしまうだろうからその防止の為に、このスタイルは変えないままのつもりだ。

 

「さて、まだ向こうも早朝だろうし召喚はもう少し先でいいな」

 

こっちからいきなり呼ぶ為、トラブル防止は必要なのだ。グースカ寝てる所に召喚されたら怒るし、依頼帰りでシャワーを浴びている時に召喚なんてしたら俺は殺される。誰にとは言わんが。

一人で行けるところまで行ってそれから召喚しよう。次は誰を呼ぶかとか考えられるし。

 

 

 

「じゃあランちゃん。またよろしくね」

 

「あぁ、ベルは筋がいい。俺も教え甲斐があるし、また頼まれよう」

 

悩んだ挙句、俺はまだランスロットを呼ぶ事にした。何故なら俺が数日間ダンジョンに潜り、ベル君との訓練ができなくなるからだ。その為、ランスロットを呼び、二日間ベル君の修行に付き合ってもらう事にした。

 

「ダンジョンから出る時は目立たない様にね?」

 

「そこは心配ないだろう。ここに入ろうとする一般人は居ないだろうし、普通にしていれば呼び止められることもない」

 

「まぁ今までなんとかなってるからいいのか?」

 

「相変わらずグランは心配性だな」

 

苦笑をするランスロット。

いや、ちょっと待ってくれない?なんか恥ずかしいんですけど?

 

「向こうにいる時もそうだっただろう?なんだかんだでジータの心配は絶対にしていたしな」

 

「な!?おま、ランちゃん!?俺がアレの心配とか何言ってるんでしょうか!?」

 

「いや、そうだな。色々あったとはいえお前が怒って大暴れしたなんてことはなかったな」

 

わかってると言いながらクスクスと笑うランスロット。はーん!?そんな事ありませんけどぉ!?

体調不良だったジータが周りに気付かせない様に無理した挙句、怪我をしてそれに怒った俺が大暴れとか全然ないですけどぉ!?

 

「いいから!ランちゃんはベル君をよろしく!!今大事な時期なんだからね!急成長中に変な癖でもついたら命取りになるかもしれないからね!!」

 

「あぁ、わかってるからそんなに押すなよ」

 

クスクスと笑いやがってぇ!!!

ダンジョンのモンスターに不満をぶちまける為に俺は18階層を後にした。待ってろやクソモンスター!!!不満の捌け口にしてやらぁ!!!

 

 

 

モンスターをひたすらに斬り、殴り、吹き飛ばす。ランスロットと別れてから一日が経ち、俺は無心にダンジョンの奥深くに潜り続けている。森林の様な場所を通り抜け、モンスターの餌場の様な場所を見つけ襲撃し、そこの主の様な強さのモンスターも倒す。魔石やドロップアイテムもかつてないほど溜まってきているのだが。

 

「アイテムボックス。こまめに使うから地味に魔力消費していくな」

 

塵も積もれば山となる。そう言ってもいいのだろうか?倒すたびに使っていたらマジックポーションを使う頻度が少し多い。その為ある程度溜まり次第使うほうが良さそうだ。

 

「まぁ調子こいてカバンなんてのは、持ってきてないんだけどね……」

 

詰めが甘いにも程があるなぁ。

こればっかりは、覚えた魔法に浮かれてしまったのだろうか?はは……こんな事だから依頼のたびにジータや他の奴らに忘れ物はないか確認されてたのだろうか?あれ?最近ジータが地味にいい姉の様な気がしてきたような……。

 

「気のせい気のせい。っとおっとと」

 

スパンッ!とモンスターを切り裂く。

この階層、たまにえげつい速さの燕のようなモンスターが襲ってくる。気配でわかるのだが普通は厄介なモンスターだ。

 

「にしても、此処は絶景だなぁ」

 

目の前に広がる大瀑布。

飛翔術を使って移動しているのだが飛べるモンスター達がわんさかと襲ってくる。それを切ったりして対処しながら景色を楽しみつつ階層を降りている。

 

「ソーンとかメーテラ姉ちゃんとか居たら楽しそうだなぁ」

 

弓でモンスターが穿たれ、ポロポロ落ちていく魔石をキャッチするゲームとなりそう。……あ、これ俺が拾う係になるパターンだ。あとソーンとメーテラが意地を張り合うかもしれん。

 

「この間なんて、一緒に依頼に行ったら競うように魔物達を倒すんだもんなぁ。俺が戦う暇ないのなんのって」

 

くだらない事を考えながら底までたどり着き、地上に降りる。やっぱりこの滝でっけぇなぁおい。まぁそんな事はいいか、とりあえず先に進み続けよう。

それからも階層を進み続けたのだが。

 

「回復系アイテムがなくなってきた」

 

戻るかもう少し粘るか。

どうするか考えていた時。

 

「ん?君は……」

 

「あ、グラン……さん」

 

……奇遇というかなんというか、世間は狭い。

ロキファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインと、副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴとばったり会ってしまった。

……色々と気まずい人達なのだが、出会ってしまったなら仕方ない。

 

「久しぶりだなアイズ・ヴァレンシュタイン。それと、自己紹介がまだだったか。初めましてリヴェリア・リヨス・アールヴ。ヘスティアファミリアのグランだ」

 

「初めまして。と言うのはおかしいかもしれないが……。ベートを殴った以来だなグラン」

 

「その節は迷惑をかけたな」

 

「いや、元は我々が君の所の仲間を笑い者にしたせいだ。謝罪をするべきは私たちだろう」

 

ベル君に言ってあげてくれ。

まぁ言われても困るどころか迷惑ではあるのだが。

 

「とはいえ、グラン。君もあの時はやりすぎだ。だからお互い様という事でいいか?」

 

「あぁ、そうだな。そうしててくれ」

 

ふむ。やっぱりムカついたのはあの犬だけで、他の団員達はそれほどでも無さそうだ。て言うかこっちがやりやすいぐらいだ。これは本格的にロキファミリアに対してのイメージを改める必要があるだろう。

 

「ねぇ」

 

「なんだ?」

 

「どうして、こんな所に居る程強いの?」

 

なんて答えたらいいのだろうか。

実はー、騎空士ってのをしててー、そこで色々と強敵と戦ったりしてたからー、強いんですー。なんて言っても信じられないだろう。てか話し方がウザイ。

 

「まぁ、色々と強くなる機会はあったからな。ていうか、成らざるおえなかったというか」

 

「?」

 

いや、つまりどういう事?みたいに見られても困る。こういうタイプって脳筋思考だから察してほしくても察してくれないのだ。ほら、あんたの副団長見てみろよ。察して必要以上には聞こうとしてないだろ?……いや、これはアイズ・ヴァレンシュタインが無理矢理にでも聞き出すのを待ってるパターンだな。

 

「強い奴と戦い続ければそれだけ強くなるんだよ」

 

「なら、私と戦って」

 

「嫌だけど?」

 

「え?」

 

「え?」

 

え?戦う様な空気でもないでしょ?俺にリターン無いし。でもそれでは納得し無さそうなんだよなぁ。うーむ。副団長さーん!助け……てくれなさそうなんだけど!?なんで無言で頭抱えてるんですかねぇ!?

 

「はぁ、なら交換条件だ」

 

「……わかった」

 

「条件を聞いていないのに承諾しない」

 

「あうっ」

 

ペシッとデコピンをする。

それを見た副団長の目が光る。え?なんかしちゃった?

 

「うちのベル君。いつかでいいから訓練をしてあげてくれないか?」

 

「……リヴェリア」

 

「……はぁ、同じファミリアではない以上、軽々しく許可できることでは無い」

 

「……そんな」

 

「ずっとついててあげてくれって訳じゃない。ほんの数日だ」

 

「……なら、いいかな?」

 

また頭を抱える副団長さん。

脳筋思考タイプの戦闘狂を抱えると苦労するよね。今度一緒にご飯でもどうですか?同じ副団長として話が合いそうな気がしてきた……。

……はぁ、助け舟でも出すべきか?俺にもメリットがあるなら戦うぐらいするのは構わない。

 

「ならこうしよう」

 

「なに?」

 

反応が早いな。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。君に依頼したい。内容は数日間、ベル君の修行をする事。もちろん君の都合に合わせるし気が向いた時でもいい」

 

信用という訳ではないが、アイズ・ヴァレンシュタインは守ってくれそうな気がした。

 

「報酬は君が望む俺との戦闘だ。依頼という形ならそちらも動きやすいと思うが?」

 

「グラン」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴが声をかけてくる。

 

「うちのファミリアに来ないか?是非、アイズの手綱を握ってもらいたい」

 

「なに言ってんだこいつ」

 

思わず口に出してしまった。

 

「普段なら、こんな事はしないのだが、何故か君とは気が合いそうな気がしてな」

 

「……それ、主に苦労関係とか言う?」

 

「……あぁ」

 

「なんと言うか。あんたの事は信用していい気がしてきたよ」

 

「そうか。それは、よかった」

 

本当にこの人とはいい酒が飲めそうだった。

ちなみにこの時、アイズ・ヴァレンシュタインはポカンと気が抜けてそうな顔をしながら、俺とリヴェリアの顔を見ていた。




息抜き回だったろ?主に俺の。
すまんな。なんも動きがない回で。
仕事あるし、グラブルのイベントで忙しいし、ポケモンGOしに行くし、とにかく書く暇がなかったんや。
古戦場終わったら更新速度上がるかも、『かも』しれんけど今は許してや。(かもやで、絶対ちゃうで)
次回はアイズと戦います。あとついでに言いますが、グラン君がアイズとかをフルネームで読んでいる理由も次回でわかります。どうでもいいか


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思わぬ展開は続くのだ

明日から古戦場。
つまり、わかるな?


あの後、アイズ・ヴァレンシュタイン達に連れられてやって来たのがダンジョンの中にある広い空間。どうやらこういう行き止まりのような空間はいくつもあるらしい。

まぁ俺も見つけたしな。

その空間の壁をアイズ・ヴァレンシュタインが傷つけ始めた。リヴェリアが言うにはこうする事で一時的にモンスターが出て来なくなるそうだ。

一仕事を終えてアイズ・ヴァレンシュタインが戻ってくる。

 

「ねぇ、なんでリヴェリアだけ名前で呼ぶの?」

 

「ん?」

 

しばらく話していたのを聞かれていたのか?

 

「……私の事、ずっとアイズ・ヴァレンシュタインって呼ぶから」

 

「あー。上から目線で申し訳ないけど俺、認めた奴ぐらいしか名前で呼ばないんだ。今はベル君にヘスティアちゃん。アミッドちゃんにレフィーヤにリヴェリアさん。これぐらいかな?」

 

「……私も、呼んでほしい」

 

「なら、剣で認めさせてみな」

 

「そうする」

 

お互い構える。

 

「ッ!!」

 

キィン!

 

アイズ・ヴァレンシュタインの踏み込みはやはり速く、振りぬかれた剣も鋭い。いいな、真っ直ぐな剣だからかカタリナさんを思い出してしまった。……ビィ……。

 

「そうだな。今回はこれで行こうか」

 

ジョブチェンジ。

侍。

俺はバハムートソード・フツルスからブレイドに変える。

 

「……武器が!?」

 

「武器の変化だと!?」

 

アイズ・ヴァレンシュタインとリヴェリアさんが驚いている。だが、そんな暇ねぇからな?

 

「驚いてる暇なんてねぇぞ!画竜点睛!!」

 

攻撃速度を上げ、連撃を増やす。

武器通しがぶつかる頻度が上がり、アイズ・ヴァレンシュタインにも俺の剣が当たる様になる。

 

「クッ!」

 

「速いが!軽い!!」

 

「なら、目覚めよ(テンペスト)!!」

 

魔法か!!

風を纏い攻撃が重くなる。

カマイタチの様に風が俺の肌や服を裂く。

そのせいで画竜点睛が解けたのか、先程までより俺の動きにキレが無くなる。

 

「なるほどな。攻撃力が上がって風で範囲も広がるのか。なら、これはどうだ?」

 

ある事を確かめるために地面の土を蹴り上げる。

 

「……無駄!」

 

「だよなぁ!!」

 

怪物祭の時、風を纏いながら飛んでいたのを思い出し、風を纏う事で防御にも使えるのかと思いしてみたのだが、予想通り蹴り上げた土は風に弾かれる。

 

「なんとも使い勝手が良さそうな魔法だなぁ!」

 

ヤバイなぁ。楽しくなってきたぞ?

 

「もっと上げて行くぞ!」

 

「……うん!」

 

「アイテムボックス!!」

 

ジョブチェンジ。

剣豪。

ジョブチェンジと同時に武器を無銘金重に変える。

 

「また、違う武器に!」

 

「驚く暇なんてねぇって言っただろう!?」

 

また馬鹿みたいに驚いているアイズ・ヴァレンシュタインの懐に『ダンッ!』と勢いよく踏み込む。

 

「烈刀一閃!!!」

 

「なっ!?クゥゥ!!!」

 

一閃で四本の剣閃が疾る。

……防ぐか。だがアイズ・ヴァレンシュタインの剣を持つ手は震え先程までのように振ることはできない。

 

「まだやるか?」

 

「……もちろん」

 

「いいな。気に入ったぞアイズ」

 

「……やっと、呼んでくれたね」

 

楽しませてくれてるからな。

望まれた名前呼びぐらいはしないと、こっちの気が済まなくなってしまっているのだ。

 

「ほら、魔法の出力を上げろよ?さっきまでとは段違いだからな」

 

「……わかった。絶対に止めてみせる」

 

いいな。本当にいいぞ!

戦っていてワクワクしてくる。あぁ、この世界は予想外に俺を楽しませてくれる物がゴロゴロとありそうだ。

 

「さぁ、刮目して我が技をご覧あれ」

 

ガチャリと震える手を握りしめて構えるアイズ。

さぁ、音を超えるぞ?

 

「無明斬」

 

アイズの風を切り払い。

アイズの武器を弾き飛ばし。

アイズの身体を斬り裂いた。

 

 

 

「アイズ!!!」

 

リヴェリアさんがアイズに駆け寄る。

まぁ斬り裂いたってのは気持ち的な話で峰打ちですけどね?斬り裂いちゃったらベル君の修行とかどうなるかわからんし。まぁ、魔法やらエリクサーやらあるから死なない限り大丈夫だろうけど。ちなみに余談だが俺のリヴァイヴは成功するか運次第だが、生き返ったのち若返るという謎の効果が出たことがある。

故郷の婆さんにジョブを教えてもらっている時、勢い余って婆さんを斬ったジータ。ジータも俺も慌てたが、なんとか正気を取り戻した俺がリヴァイヴを使ったら、少し婆さんが若返ったのだ。

腰痛が治ったとか言い出して修行が五割り増しでキツくなったのは言うまでもない。ジータが鬼の様に俺に向けてエーテルブラストを連発してきたのは今でも根に持って恨んでます。アレもう爆撃じゃねぇか!ふざけんな!!

 

「峰打ちだから死んでないからね?ほら、回復させるから」

 

そうしてジョブチェンジをした後、あの時の俺達のように慌てているリヴェリアごとヒールオールをかける。

 

「な、なんだこの魔法は」

 

「回復魔法。詳細は秘密で」

 

「……そうだな。あの時の子が使っていた魔法も含めて色々聞きたくはあるが、君には世話になってしまったから聞かないでおこう」

 

あの時の子?

あー。カリオストロか。

アレ、子っていう年齢でもないし、なんなら中身おっさんだからね?

まぁそれは置いておいて深く聞かないのはありがたいし軽く礼でもしておこう。

 

「ありがたい」

 

さてと、じきに目が覚めるとは思うがもう疲れたし、さっさと戻るとしよう。

 

「背中に乗せてくれるか?」

 

「いいのか?」

 

「俺はいいぞ。まぁ本人の意思確認ができなくて悪いがな。俺はさっさと地上に戻りたいんだ」

 

「なら、お願いしよう」

 

リヴェリアがアイズを俺の背中に乗せる。

いいか?この時、お尻なんて触ってみろ?何かを察した何か達が襲いにくる。向こうでの話だが、一度不可抗力で足をくじいた依頼者をおぶる為に担ぎ上げた時、ついお尻を触ってしまったことがあった。俺と依頼者だけだったのに何故かナルメア含める一部にはバレていた。何故だ……!

 

「さぁ、アイズを背負ってもらって悪いが行くとしようか」

 

「はいよ。お任せあれ」

 

 

 

俺はリヴェリアさんと眠り姫のアイズを背負いダンジョンを進んでいく。ダンジョンには二日間いた事になるなぁ。軽々しく遠征なんてするもんじゃないなぁ、向こうでは数日かかる依頼なんて最近は特になかったし、あっても町とかに泊まったりも出来たから勝手が少し違う。

 

「もうだいぶ上がってきたな」

 

「あぁ、疲れはないか?」

 

「大丈夫。てかさっきから起きてるだろ?」

 

「……グゥ」

 

落としてやろうか。

 

「起きてるなら降りろよ」

 

「もう少し、ダメ?」

 

ダメではないが理由がわからんのだが。

アレか?リヴェリアさんと同じ苦労人感が出ててそれで接しやすかったのか?知らんが。

……放っておくか。

 

「今頃、外は夜だろうな」

 

ふと出た独り言にリヴェリアさんが返事をしてくれる。

 

「そうだろうな。今は6階層だからもう一踏ん張りだ」

 

「ベル君どうしてるかなぁ」

 

「あぁ、あの子か。グランから見てどう思う?成長しているのか?」

 

「そりゃもうグングン伸びてるよ。師匠もつけたし会うのが楽しみだ」

 

男子三日会わざれば刮目してみよ。

ランちゃんがどう育ててるか、そしてどう育ったか見るのが楽しみである。

 

「師匠?まさかとは思うが、あの時の少女のような存在か?」

 

「まぁ、そんな感じ?」

 

白竜騎士団を率いていて、多くの仲間に信頼されている。そして我らが騎空団の団長のストッパー役の一人でもある頼れる騎士だ。

なんて言ってもわからんだろうしなぁ。

 

「ふむ。気になるな」

 

「……その人も、強い?」

 

「起きたなら降りなさい」

 

スッとアイズの足を支えていた腕を解く。

首にプラーンとぶら下がった状態になったが、リヴェリアさんが睨んだ事でサッと離れた。

さすが噂に名高いオカンである。教育がされているのを感じた。

そうして順調にダンジョンを進んでいた時である。アイズが声を漏らした。

 

「あ」

 

ダンジョンにヘスティアファミリア団長が転がっていた。

 

「ベル君!!!」

 

外傷はない。

だがなぜ倒れている?……まさか。

 

「精神疲弊だろうな」

 

「やっぱりか」

 

そうか、魔法を覚えたのか。

本当に、目を離すとドンドン育っていくなぁ。




古戦場から逃げるな


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作戦がうまく行く事を願う

何故こうなったのだろうか?

あれよあれよと物事が進み、ベル君が起きるまでアイズが膝枕をする事に。ベル君起きたら驚いて逃げるんだろうなぁ。お礼ぐらい言えたら十分だろうか?……無理なんだろうな。純粋恥ずかしがり屋だからなぁ。

 

「そしてなんで俺はリヴェリアさんと歩いているのだろうか?」

 

「二人の邪魔をするわけにはいかないだろう?」

 

ふむ。それはあれか?

 

「後はお若い二人でという事ですか?」

 

「……なにが、言いたい?」

 

あ、あかんやつや。

 

「いえ、なんでもございませんです!」

 

そうして引き摺られて来たのは摩天楼に向かう通りにある喫茶店。

一応摩天楼でシャワーを浴びたがまずこんな所に連れて来られるとは……。適当に注文をして腹を満たしたら始まった不満の溜まった話。主神はどうとか幹部の子達はどうとかもう話が止まらない。

ていうか、そんなに内部の事話していいのか?

 

「リ、リヴェリアさん?」

 

「ん?あぁ、話しすぎたなすまない」

 

「いや、慣れてるからいいけどさ」

 

うん。慣れてるから。イルザさんとか凄いもん。

優しい人だからこそ心を鬼にするし、その不満が溜まっていくのは仕方ないのだろう。だからこそこうして不満を吐き出す場所は絶対に必要なのだ。

溜まりに溜まりすぎたイルザさんは酷いものだった。二人で酒を飲みながら不満を聞いていたら酔った勢いで襲われかけた。既成事実とかなんとか言っていたがナルメアが駆けつけてくれたのでセーフ。連行されたイルザさんは『エルーンだから仕方なかった』と主張していたとかなんとか言っていたとユエルが言っていた。一体なんだというのか。察したくないものがそこにはあるような気がした為、追求はやめておいた。

ん?今思えばナルメアが来るの異常に早かったんだが。なんで?

 

「そうか、慣れているのか」

 

「えぇ。たぶんそのうち会うでしょうし、機会があれば紹介します」

 

「楽しみにしていよう」

 

そうして緩やかな時間と共に世間話を再開。

ふむ。紅茶もいいが珈琲が飲みたい。

そんな時だった。

 

「うわあぁあああああああああ!!!!!」

 

叫び声といっしょに『白』が駆け抜けた。

 

「ん?まだ夜中だというのに叫びながら走るとは」

 

「うん。ごめんなさい」

 

「何故グランが謝るんだ?」

 

「いや、うん。なんとなくね……」

 

不思議な顔をするリヴェリアさん。

まぁ叫び声だけで判別はつかないだろう。

というか……ベル君。やっぱり逃げたんだね。

 

 

 

リヴェリアさんと別れてホームに戻る。

はぁ、なんだかんだで色々とあったせいか疲れたな。帰ってすぐに寝て、起きたらギルドにでも行ってアイテムとか換金しないとな。主とかも倒しただろうし結構な額にはなると思うけど。

 

「ただいま」

 

「グ、グググググランくん!!!大変だ!!」

 

「え?なに?どうしたの?」

 

話を聞いてみるとベル君は魔法を覚えたらしい。だがその覚えた方法が誰のかわからない借り物の魔導書を使用した事だ。

 

「おやすみ」

 

俺は寝ることにした。

 

「ちょっと待ってくれないかな!!」

 

「そうです!起きてくださいグランさぁん!!」

 

うるせぇ!!!

これ以上金の面倒なんて見られるかぁ!!!

無理矢理にでも俺は寝た。

 

 

 

そして翌朝、ベル君と訓練。

動きは見違えるものだった。

実践が少ない為、完全とは言えないが感心できる程ブレードインパルスを使いこなし、立ち回りも上手くなっている。

 

「うん。目立つ隙がなくなってきたね」

 

「本当ですか!?」

 

「ランちゃんには、結構厳しく指導されたみたいだね」

 

「はい。一日は訓練で!過ごしました」

 

おぉ!話の途中でも剣を振ってみたが反応できたぞ!?なるほどなぁ。ランちゃんも限られた時間の中でみっちりと育ててくれたみたい。

 

「今度、二本目の剣でも見に行こうか」

 

「え?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「あ、いえその。ランスロットさんが言った通りだなって思いまして」

 

話を聞いてみるとランちゃんはベル君にこんなことを言っていたらしい。

 

『グランが君の成長を見たら褒めてくれるだろう。剣でも見に行く事になるだろうから今からでもどんな物にするか考えているといい』

 

その通りでした。

師匠がランちゃんだからな。ベル君の動きに隙は少なくなったのだが、動きにくそうなところが少しだけある。師匠が二刀流だからだろうな。相手の動きを見て、防いだり攻めたりするのに剣がもう一本あったら良さそうだなって箇所があるのは確かだ。

 

「まぁランちゃんとは付き合いが長いからね。それはそうとどんなのを買うか決めたの?」

 

「そうですね。この新調した防具の、製作者が作る武器とか気になってます」

 

「そうか。うん、いいんじゃないかな」

 

さて、話しながら続けていた訓練も、これぐらいにしておこう。今回は少し早い切り上げ。なぜかと言うと。

 

「そろそろ、逃げてないで現実を見ようか?」

 

「うぅ……。豊穣の女主人に行くのが、こんなに嫌になるなんて」

 

「やってしまったものは、仕方ないんだからさ。腹くくって謝ってこい。大丈夫、また、会えるよ」

 

「え?それ、どう言う意味ですか?嘘ですよね」

 

「俺は俺でやる事があるからさ。頑張ろうねベル君」

 

俺はベル君が引き止める声を無視して走ってその場から逃げた。ベル君の声も聞こえなくなった頃、俺は路地裏を歩き回る。さてさて、適当にぶらついてベル君をまいたしそろそろ本題に行こう。

ギルドに向かい早速換金。目立つのを覚悟でアイテムボックスを開き、だいたい五十万ヴァリス程の魔石やアイテムを換金する事にした。

 

「こ、こんなにですか?」

 

「うん!お願いね!」

 

勢いがよく。大きな声で返事しよう!

 

「少々時間がかかってしまいますが」

 

「ぜんっぜん!構わないよ!ゆっくり待っておくからさ!」

 

そして査定員は一度奥に入っていった。

さてさて、上手く連れてくれよな。わざわざ魔法を使ったり、大きな声で目立ってやったんだ。

 

「かかってくれよな。ソーマファミリア」

 

手持ち無沙汰を装って道具入れを弄り、自然な感じを装って周りを観察。軽く観察をしただけでも此方をジロジロと見てくるのがいる。もちろん少し目立ったんだから、見てくる奴らは多い。だが、それでも多くの人はすぐに興味をなくす。

……五人か。

このギルド内にいる男、五人が今も見てくる。

だが、おそらくこいつらは偵察要員だろう。儲けているやつを品定めしてマークする。後から大人数で囲んでハイ終わりって事か?そんな事をすれば目立つか。高レベル持ちを使い、因縁ふっかけて狩る方が楽か。

 

「まぁ、なんでもいいけど。めんどくさいから上手くいってくれよな」

 

作戦がうまく行く事を願いながら俺を呼ぶギルドの人の所まで歩いて行った。




仕事もあるし古戦場もあるから止まるね


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仲間が恋しくなる時もある

古戦場始まったね。


アイテムをちょっと多く渡し過ぎてしまったのか六十万ヴァリス程になった。ギルド員には怪しまれたが数日間ダンジョンに潜っていた事を話しなんとか見逃してもらう。

さて、ヴァリスが入った袋を手に抱えながらギルドから出る。ついてくるのは、三人か?残った二人は他に儲けてるやつがいないか探す、もしくは他の団員でも呼びに行くのかな。

スッと大通りから外れて路地に入って行く。

 

「さすがだな」

 

相手は追跡が一人になり、残り二人が素早く別れた。おそらく先回りしているのかな。

……あ、上手い事釣れてくれたから楽なのだが、口止めとかどうしようか。

 

「やっべぇ。これ、話回られたら厄介なパターンか?」

 

考えなしにも程があった。

い、今から誰か呼ぶか!?いやいやいやいや!!それは無理だろ?相手は俺のことを見張ってるわけだし!……これは、切り抜けるしかねぇ。大丈夫、いざとなれば最終手段を使うから。

 

「そろそろか」

 

目の前の路地から二人の男達が現れる。そして後ろにいた一人も距離を詰めてきた。

 

「よう。ちょっといいか?」

 

「な、なんですか?」

 

どうだ?

この三人の男に囲まれてビビる気弱な感じ。

結構いい所をついてるんじゃないか?

 

「いやぁ、さっきえらく儲けてたみたいみたいじゃねぇか」

 

「それを俺達に少し恵んで欲しくてなぁ。俺たちの神様である、ソーマ様に持っていかないと行けないんだ」

 

「とりあえずその袋置いてけよ。装備は勘弁してやるからよぉ」

 

ギャハギャハ笑いながらそう言ってきた。

はぁ……。どの世界にもこんな奴は現れるんだもんなぁ。リーシャ!リーシャはおらぬか!!!おらんな!知ってた!

 

「これは俺が自分の力で取ってきたものなので」

 

「知らねぇよ。いいから早くよこせ」

 

「怪我したくねぇだろ?」

 

「早くしてくんねぇかなぁ!」

 

後ろの一人が俺に掴みかかろうとしてくる。

拘束してそのままさらに脅すつもりなのだろう。

だがもうここまで行ったら正当防衛でもいいか。

 

「グハッ!」

 

腰に下げていたバハムートソード・フツルスを少し上げて、相手の鳩尾辺りに当たるようにする。ギリギリで上げて、更に俺が一歩下がったからドンピシャだな!

 

「てめぇ!!」

 

「大人しくしないなら痛い目見てもらおうか!!」

 

「あーもうめんどい。全員まとめて潰してやるからこいよ」

 

そうして俺の挑発に乗った男達は襲いかかって来たのだった。

 

 

 

「ずみまぜんでじた」

 

「なんて?泣きすぎでよく聞こえんかった」

 

五分かからずフルボッコ状態である。

最初の奴は思いの外いい所に入ったのか倒れたまま動かず昏倒。次の奴は足を払って横向きで倒れた所に、腹に向かってガンダゴウザ直伝正拳突き尚威力抑えめ。驚いた最後の一人は逃げようとしたが、正拳突きをした奴を投げつけぶつけた。

今は転がったそいつを捕まえて、何発か殴り話を聞いている。なんだか俺の方が厄介なゴロツキな気がしてした。最近思考回路がバイオレンスじみてる癒しが必要だなぁ。

 

「癒しが欲しい」

 

「か、歓楽街とかどうでしょうか?」

 

そういう事じゃねぇよ。

てか、泣き止んだのか。

 

「で?お前らが所属しているソーマファミリアとリリルカ・アーデについて聞きたいんだけど?」

 

「へ、へい!うちのファミリアの奴等は主神が作る酒を飲む為にノルマを稼ぐんです。だから俺達は貴方が稼いだ金が欲しくて……」

 

「で、襲ったと?」

 

「へい……」

 

「よくやるなぁ。極端だが自分より稼いでる、つまり自分より強い奴とか考えないもんかねぇ」

 

実際返り討ちにされたわけだし。

にしても酒に溺れた団員ねぇ。まぁ集めた情報通りではあるが、本当に金を稼いだ奴に絡んで行くんだなぁ。ユイシスが知ったら怒りそうな案件だわ。

 

「んで、リリルカ・アーデについては?」

 

「あ、あいつはうちのサポーターです」

 

「ふーん。で、いいように使ってるわけだ」

 

「へへっ。事実サポーターなんて俺たち冒険者に貢献だけしてればいいんですよ。荷物持ちぐらいしか役にたたねぇくせに、金だけは貰おうなんて考えしやがって」

 

「……お前が、言うのか?」

 

「ひぃ!!」

 

思わず威圧的になった。

言い方は悪いが、そいつが戦闘の役にたたないのは仕方ないだろう。人なんてそれぞれ能力が違うんだ。戦闘に特化する奴もいれば、他の分野に特化する奴もいる。それなのにその相手のいい所を見ずに劣っている部分ばかり見る。

 

「反吐がでるよなぁ」

 

「な、なにが、ですか?」

 

「お前みたいな奴にだよ」

 

それとこんなにも簡単に怒ってしまう自分自身に。はぁ、俺もまだまだ精神面の修行が足りてのか、オイゲン達に相談してみるかなぁ。褌しめてソイヤ祭りになりそうな予感。

 

「とにかく、そのリリルカ・アーデについて聞きたいんだわ。今、そいつが標的にしてるのがちょっと知り合いでなぁ」

 

「あ、あぁ、そういう事ですかい。今は白髪のガキにしてるとか聞きやした。カヌゥって獣人の奴がいるんですが、そいつがアーデを金づるにしてましてね」

 

もう少し詳しく聞いてみた限り、そのカヌゥってやつは、最近リリルカ・アーデが儲けているのに気づいたらしい。それで調べていると白髪のガキ、つまりベル君と行動しているのを知った。

そしてリリルカ・アーデがいつもの手口を使って多く儲けを出した時点で掻っ攫うつもりだとか。

 

「クソ外道もいたもんだな。で?いつそれを実行するんだ?」

 

「そ、それはわかりません」

 

「は?」

 

「で、でも、何時もならそろそろだと思います!カヌゥの奴も用意があるとか言ってやしたから!!」

 

「……わかった。ありがとな、今回だけは見逃してやるからさっさと目の前から消えやがれ」

 

「へ、へい!!」

 

そうして聞ける限りを話してくれたそいつは、仲間を担いで走って逃げていった。

にしても……。主神や仲間との絆で繋がらず、酒で繋がるファミリアか。

 

「あーあ。気分が悪くなるな」

 

本当に、最低な気分だ。

 

 

 

ホームへ戻る帰り道。

俺は神ソーマが作る酒を求めて道具屋を転々としていた。道具屋はファミリアが出している商品を多く取り扱っているらしい。まぁ【ソーマ】はなかなか見つからないのだが。

 

「あ、あった」

 

五軒目のリーテイルという道具屋で【ソーマ】を見つけた。六万ヴァリスか、まぁ酒は高い奴は普通に桁が上がるし不思議ではないか。シェロから勧められた酒なんて十万超えてたし。買った後大事に飲む為に保管していたらラムレッダに飲まれていたのは今でも悔しまれる。お仕置きはしっかりとしました。

 

「む?君までソーマを買いに来たのか?」

 

「ん?あれ?リヴェリアさん?」

 

「君みたいな成長期の子が酒を飲むな。身体に悪影響が出るぞ?」

 

「む!俺でも酒は飲んだ事あるけど?てか、子供扱いすんな」

 

「そう怒るな、言ってみただけだ」

 

クスクスと笑いながらそう言って来た。

え?遊ばれただけですか?……精神面ガキンチョでした。

 

「て、俺までって?」

 

「なに、知り合いのギルド職員もソーマを購入してな。今は会計に行っているが、もうすぐ戻ってくる」

 

「ふーん。じゃあ邪魔したら悪いし俺はこの辺で」

 

「そうか?なら、いつか紹介しよう。ではまた会おうグラン」

 

「またね」

 

そう言ってリヴェリアさんと別れて会計に向かう。途中ですれ違ったギルドの制服を着ているエルフの子がそうなのだろうか?そんな事を考えながらソーマを買って店を出る。適当につまみになりそうな肉を買い、街から離れた静かな場所で飲んでみることにした。

 

「さて、この辺でいいか」

 

酒が入っている壺の栓を抜く。

甘い香りが広がり美味い酒だとすぐにわかった。

 

「期待は、できるかな」

 

壺に入ったまま、じかに飲む。

舌が痺れるような甘み、滑らかな口溶け。確かに美味い酒で病みつきになる。

 

「美味い」

 

だがこのソーマは本物ではない。

ソーマファミリアの奴の話では市販されているものは、主神が作った物の失敗作らしい。完成品を求めて団員はノルマをこなす。その為にどんな手段でも使う。人の欲望が絡みあう劇物。それがどんなに美味いのかなんて知らない。失敗作でこの美味しさなのだから、人が狂ってしまうほどなのかもしれない。

 

「だけど」

 

俺には足りなかった。

どんなに美味い酒でも、仲間と飲む安くて味もそこそこな酒の方が何倍も美味い。

そう、感じた。

俺は残ったソーマを全て地面に捨てて、ホームに戻る事にした。




一戦目は敗北でした。残念。


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色々とこじらせると大変な事になる

二戦目勝ちました。
今回の話はなんと言うか。
グラン君暴走しますが温かい目で見てやってください。


「それじゃあ行ってきますね!」

 

翌日。

俺はダンジョンに向かうベル君を見送っている。

まぁこのまま放って置くわけないんだけどな。

 

「さて、俺も行きますか」

 

準備は昨日の夜の間に終えている。

向こうとは素材が違うが、ダンジョンで同じ様なドロップアイテム等を使い作った暗器。

ジョブチェンジ。

アサシン。

 

「必要なら、躊躇なんてしない」

 

ふとみた鏡には冷たい顔が写っていた。

あぁ、こんな顔を見られたら、団員達に心配されるんだろうな。ラカム達を中心に、アサシンにはなるなって言われてたけど。

 

「ごめんな」

 

カヌゥとか言う獣人。

こいつが死ぬ事で少しは静かな日常になるのなら、殺す事も視野に入れる。

 

「……うだうだ考えるの、やめるか」

 

用意した外装を被り、暗い路地に溶け込んでいく。

目指す先は、ダンジョンだ。

 

 

 

ベル君はリリルカ・アーデと合流してダンジョンに潜っていく。その際、ベル君がリリルカ・アーデから剣を受け取っていたが、なんでだ?まぁ、気にしなくてもいいか。変な細工とかも無さそうだし。

とりあえず剣について考えるのは後回しにしておく。

ベル君達はダンジョンに入り、どんどん階層を進めて行き着いたのは10階層。

 

「ここまで、来れたのか」

 

訓練をつけてあげるばかりで、ダンジョンでの話をしていない事に気がついた。俺も資金集めに奔走していたのはあるが良くないな。もっとベル君と話す時間が必要だと改めて感じれたね。

 

「そろそろ一緒に、ダンジョンに行くのも悪くないかもな」

 

うん。悪くない。

ランちゃんも連れて三人でワイワイとしながら進むのもありかもしれない。なんなら他の団員とも交流させて、みんなの生き様を見せてあげるのも勉強になるだろうか?誰がいいだろうか?しばらく考えてみるとするかな。っと。

 

「何してるんだ?」

 

さっきからリリルカ・アーデの様子が少し変だ。

オークをうまく相手取っているベル君から距離を取りだした。自然な動きで手馴れているのがわかる。って!

ベル君のレッグホルスターが矢で弾き飛ばされる。リリルカ・アーデが撃ち放った矢だ。

この隙をモンスター達が見逃すはずもなく、ベル君に向けて一斉に襲いかかってくる。

 

「あぁ、そう言うことか」

 

やっぱり最初からそれが目的だったのか。ベル君のヘスティアナイフを奪いここでベル君を消す。そうすればリリルカ・アーデには金も手に入って邪魔者も消える訳だ。

 

「だけど、お前も消される覚悟が、あるんだろうな?」

 

適当に買ったナイフを掴み飛び出そうとする。

その時だった。

 

「ッ!!」

 

ギン!ベキッ!

急に背後からの斬撃。

体を捻りそれを弾く。

 

「チッ!!」

 

ナイフが折れた。

それに斬りつけてきたやつのせいで、俺は弾き飛ばされてベル君の視界に入ってしまった。

 

「誰ッ!?」

 

ベル君もこっちに気がついたのか警戒してくる。

はぁ、とりあえずやるか。

姿勢を倒し低くして素早く動く。そのままベル君に近づき周りに残っていたオークに向かって麻酔針を撃ち込む。

 

「行け」

 

「え?」

 

呆然とするベル君。だが、俺は悪いと思いながら蹴り飛ばした。

 

「な!なにを!!」

 

「行けと言った」

 

「……ありがとうございます!」

 

少しばかり考えた様だがそう言って走って行った。はぁ、何者かもわからないのにお礼なんか言うなっての。まぁ、それもあの子の美点の一つかな。

にしてもだ。

 

「邪魔してくれたなアイズ」

 

乱れた服装を整えながらそう言った。

フードが少しずれたせいで、アイズから俺は見えてしまっただろう。

 

「……やっぱり、グランだったね。何をしてるの?」

 

何をしてるの?か。

まぁ見るからに怪しい雰囲気だしな。疑問に思うのも仕方ないだろう。

 

「お前には関係ないよ。大人しく見逃してもらえないか?」

 

「……それは、嫌」

 

「?なんでだ?」

 

「……今のグランはなんか変。それに、その目は嫌だから」

 

「……」

 

「だから、止める」

 

「……やってみろ」

 

俺はアイズに向けて麻痺針を投げる。

勿論弾かれるが俺はアイズに向けて一瞬で近づく。

 

「速い!?」

 

「悪りぃけど、通らせてもらうぞ」

 

「させ、ない!!」

 

まだ持っていたナイフで斬りつける。だが、それも受けられてナイフが折れる。

チッ!武器の性能が違いすぎる。この事態は想定していなかったからナイフは人を殺せるぐらいの物しか無く、アイズとやるには役不足すぎる。それにまともにアイズと戦うなら、ジョブチェンジをしてもっとまともな戦闘ジョブでやるのがいいんだが。

 

「どうしても、退かないか?」

 

「退いてほしいなら、理由を話して」

 

「はぁ、俺もそれなりの覚悟の元、ここに居るんだけどな?」

 

「それでも」

 

「違うファミリアが入り込んでくるな」

 

アイズが話している途中に、割り込む様に言って突き離す。アイズの表情が若干歪む。

 

「……それでも、そんなグランは見たくないから」

 

『お前がそんなに苦しそうなのは、見てられねぇんだよ』

 

「……あ」

 

あの時と重なって、しまった。

団も大きくなった頃の事だ。名声が大きくなる毎に羨望の眼差しを受けるだけでなく、暗い欲望も受けてしまう事態になったことがある。

若い団長が率いる騎空団だ。プライドがある騎空士達からのやっかみだけじゃなく、闇と言っていい奴らから命も狙われた。だが団長であるジータは呑気なもので、かかってくる奴らは全員ブチのめせばいいとか言っていただけ。でもそんな事をすれば更に狙われる事になる。だからと言って泣き寝入りするわけにもいかない。

だからこそ俺は、団員達には秘密であるアサシンと関わりを持って技術を学んだ。

何度も狙う奴らを暗殺し続けた時、ラカムやビィ。オイゲンにロゼッタ。他にもゼタとかもなんか居たっけか。何故かある日を境に、そいつらが俺の周りから離れなくなった。

だがそれでも、隙をついて深夜に暗殺に向かおうとした時、ラカムが現れて俺にこう言った。

 

『お前だけが泥を被る必要なんざねぇだろ?俺達は、仲間じゃねぇかよ』

 

そう言って止めてくれた。

そんな時と今のアイズが被ってしまったのだ。

 

「はぁ、わかった。もういいやめた」

 

「……そう。なら、帰ろう?」

 

『そうか。なら、このまま帰って男だけで酒でもどうだ?』

 

……あぁ、そうか。

俺、ただ仲間に会いたかっただけなのか。

だから、狙われたベル君を、あいつらの代わりの様にして過保護に守ろうとして……。

 

『んな事誰も望んじゃいねぇよ。お前が影で傷ついていくのを黙って見てる方が、辛いに決まってるだろ?』

 

「……あぁ、そうだった」

 

「どうかした?」

 

「いや、帰るとするよ」

 

「……うん」

 

俺の手を引くアイズ。

あの時はラカムが肩を組んでくれたな。

アイズの手から伝わる暖かさが、少しありがたかった。

 

 

 

外装を脱ぎ、アイズに手を引かれる。

……いや、待て。ベル君のことすっかり忘れてるじゃねぇか!!

 

「アイズ。寄りたいところがあるんだけど」

 

「あの子のところ?」

 

「あぁ、もう大丈夫だからさ。遠くからでも見たいんだ」

 

「……うん。行こう」

 

二人して一気に走り出す。

今から行って間に合うかはわからない。だけどそれでも走る。

9階層も走り抜けて8階層でそれを見た。

 

「ブレードインパルス!!!」

 

風の様にキラーアント切り裂く。

 

「ファイアボルト!!!」

 

炎の稲光が疾る。

速く、鋭い。その攻撃を繰り出すベル君はまるで嵐の様で。

 

「……すごい」

 

「ハハッ。本当にすごいな」

 

やっぱり過保護過ぎたな。

まだまだ頼りない男の子のままだと思っていたけど、しっかり漢してるじゃんか。

 

「もう大丈夫だな」

 

「いいの?」

 

「あぁ、もう安心した。だから次だ」

 

その言葉に対して不安そうにこちらを見るアイズ。クシャッと髪を撫で付け安心しろと伝える。

さて、あのキラーアントの大群を見る限りカヌゥとやらの仕業だろう。たぶんあいつはここより先に居るはずだ。

 

 

 

「へへっ。アーデのやつノームの貸し金庫なんて使ってやがったとはな」

 

あいつか。

 

「さっさと取り出しにいかねぇとな」

 

「おい」

 

「あぁ?なんだガキ」

 

「それ、返してくれない?知り合いのやつでさ」

 

「はぁ!?ふざけてんのか?」

 

俺の言い出した事に過剰に反応し出す。

まぁこうなるわな。

 

「ふざけてなんかいねぇよ。知り合いのパルゥムがお世話になったんだ。そのぶんのお礼ぐらいさせろや」

 

ジョブチェンジ。

カオスルーダー。

 

「あんまりふざけた事言ってると、痛い目見てもらうぞ!」

 

そう言ってこちらに駆け出してくるカヌゥ。

 

「ディレイⅢ」

 

「……な、んだ……これ」

 

スロウがかかりカヌゥの動きが遅くなる。

 

「アンプレディクト」

 

「な、なん……だ!?み、見え、ねぇ!!!」

 

アンプレディクトで相手の攻撃力、耐久を下げる。ランダム効果は暗闇で視界を奪ったか。

 

「まぁなんだ。色々と不満のはけ口になってくれや」

 

「ひぃ!!」

 

「殺さない様に手加減はしてやるよ!レギンレイヴ!!!」

 

俺の放った剣線がカヌゥに直撃した。

血を流しながらも壁にぶち当たり気絶したカヌゥにポーションをかける。そのままノームの貸し金庫の鍵とやらを探しアイズに確かめてもらって回収し俺とアイズはダンジョンから出る事にした。

カヌゥは放って来たが、運が良ければ生きているだろ。




この小説は作者がなんの考えもなく書きなぐっているだけです。
ここが苦手だな!とかあると思われます。
読んでて気分が害されるなら、読まないほうがいいかなぁって思っています。時間は有限だからね。気分よく過ごしたいじゃん?
そんなわけでもう一度言いますが『それでもいいよ』って人だけに読んでもらえるとありがたいです。


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自分の全てを知ってる仲間は必要なんだ

古戦場三戦目。勝ちました。
なんとか巻き返せました。いい勝負をありがとう。


目の前には三人の人物がいる。

ベル君、ヘスティアちゃん。そして。

 

「リ、リリルカ・アーデです。は、初めまして」

 

そう言ってリリルカ・アーデは挨拶をした。

色々あったもののベル君はこの子をうちに保護する事に決めたらしい。保護って言うと犬猫みたいだな。まぁ魔法で獣人にもなれるみたいだしそんなもんか?ていうかこいつ、前も思ったけど。

 

「俺がオラリオに来た時、会ったよな?」

 

「え?……あ!?」

 

「え?グランさん知り合いなんですか?」

 

「そうだぞグラン君!君という奴はそうやっていつも何かを」

 

「いやぁこの子俺が街に来た時にさぁ」

 

「ちょっ!待ってください!!」

 

「僕の話を聞けぇ!!」

 

「リリ!?神様!?」

 

「ハッハッハ!!」

 

「グランさんもなんで笑っているんですか!?」

 

リリルカ・アーデはオラリオに初めて来た時、俺の財布をするつもりだったはずが俺に絡まれた奴だった。それを茶化そうとしたらもうこのカオス状態よ。笑うしかねぇよな。

 

「ともかくベル君が拾ってきたんでしょ?面倒見なよ?」

 

「リリは動物じゃないですよ!?」

 

「冗談だって」

 

わちゃわちゃしたが、とりあえずまとめにかかろう。

 

「リリルカ。ベル君をよろしくな?」

 

「は、はい!」

 

「うん。いい返事だ」

 

急に俺と話を深めようとしても、やりづらいだろうからこの辺にしておいて、もう一つの用も済ませるとしようか。

 

「リリルカはこの辺に住んでいる人達に詳しかったりする?」

 

「どういう事ですか?」

 

「これの落とし主を探してるんだよね。俺って知り合い少ないしこんなのを預けれる人とか居なくてさ」

 

ノームの貸し金庫の鍵を取り出す。

 

「そ、それ!リリのです!!どうしてグラン様がこれを!?」

 

「ダンジョンの中で偶然拾ったんだけど。リリルカのなら渡そうかな」

 

「い、いいのですか?……もし、リリが嘘をついていたら」

 

「ちょっ!リリ!?グランさん!リリは嘘をつく様な子じゃ」

 

「わかってるよ。……リリルカ。正直に言って君の事を信用しきってるわけじゃない。でもこれは君に渡すよ」

 

「どうして、ですか?」

 

「ベル君が、君の事を信用してるから」

 

「……ベル様が」

 

「グランさん」

 

「裏切らないでくれると、嬉しいかな」

 

「……はい!!!」

 

晴々としたその笑顔は信用できると確信できた。

 

 

 

さてさて、リリルカとヘスティアちゃんがベル君を取り合うバトルを始めてしまった為、俺とベル君はさっさとその場から逃げ出した。

 

「んで、エイナさんとやらに今回の事を伝えるんだな?」

 

「はい。ソーマファミリアの事、僕達だけじゃ手に余ると思ったので」

 

「自分だけでできない事を、周りに頼るのは正解。抱え込んで潰れちゃったら元も子もないからね」

 

「はい。だからグランさんの事も、頼りにしてますからね?」

 

そう話しながらギルドへ足を踏み込む。

ベル君はすぐに辺りを見回して顔を明るくさせる。どうやらエイナさんを見つけたようだな。

 

「エイナさッ!……」

 

エイナさんとはあの人か。この間ソーマを買った店ですれ違った人だ。ん?てかアイズまでいる。

てか、なんだこの場は。なぜか目を見開くエイナさん。俺たちに振り返りベル君を見つめるアイズ。顔が赤くなって行くベル君。その様子を後ろから見る俺。

 

「何これ」

 

「……!?」

 

ダッ!ガシッ!

ベル君が勢いよく出口へ駆け出そうとしたのを、襟首を掴んで引き止める。……気持ちはわからなくないけど、そろそろ失礼だからね?

 

「グランさん!?」

 

ズルズルとベル君を引きずりながらアイズ達の元へ行く。

 

「うちの団長が失礼をして申し訳ない」

 

「…気にしなくても、いいよ」

 

「もうベル君!顔を見ていきなり逃げるなんて失礼でしょ!」

 

「あ、ベル君。俺、魔石とかの換金してくるから。ほら、アイズ。ベル君逃げちゃうから手掴んでてね?はい。じゃあね!!」

 

「わかった」

 

「ぐ、ググググググランさぁあん!?!?」

 

ベル君!頑張れよ!夢のハーレムはもっと大きくなんだぜ!!!

そんなわけでアイズにベル君を任せてニコニコしながら離れてみた。ハッハッハ見事にテンパってるなぁ。あ、魔石とか換金お願いしまーす。最後に見た光景は真っ赤に染まったウサギが気絶したところなんて面白すぎだった。

 

 

 

あの後、しれっとヘファイストスさんにお金を渡しに行ったり、じゃが丸くんを食べたりして時間を潰し、お金を受け取りアイテムボックスに入れてから三人の所に戻った。さすがにベル君も気絶から起きていてぎこちないながらも話ができていた。俺、ベル君のこと放任するって決めたからさ。これもその一環なんだぜ?この上なくゲス顔になってる気がする。

 

「話し終わった?」

 

「あ!グランさん!!」

 

ベルくんが突撃をかましてくる。

だがしかし、そう簡単にはさせません。

 

「そーれ!」

 

突撃してきたベルくんの腕を掴み、クルリと回転してアイズの方へ投げてみる。

 

「へ?うわぁあああ!!!」

 

投げられたベル君をかわしながら、ベル君の服をひょいと掴むアイズ。そして宙づりになるベル君。

 

「……大丈夫?」

 

「……なんか、ごめんね?」

 

「……ベル君」

 

「……も、もう、殺してください」

 

正直、調子に乗りすぎた。

とりあえず仕切り直す為に何の用だったのかとかを聞いてみた。どうやら俺がベル君を蹴飛ばした時にベル君の装備が落ちたらしい。それをアイズが届けてくれたとの事。アイズはうまく誤魔化して話してくれたみたいで、俺がベル君から話を聞いている時ずっとこっちをみていた。

何?何かしらの形で借りを返せとか?

戦闘の一回でも要求されそうな予感。

 

「……グラン。その子がそうなんだよね?」

 

「?……あぁ!そうそう!頼めるか?」

 

「なんの話ですか?」

 

「アイズがベル君に訓練をつけてくれるんだよ」

 

「へ?……本当ですか!?ていうかなんでそんな事に!?それに何でグランさんはヴァレンシュタインさんと仲が良さそうなんですか!?」

 

「……依頼を受けたから」

 

「依頼!?!?グランさん!どういう事ですか!?」

 

見事に混乱中である。

うーん。答えてあげてもいいんだけど何というか、めんどくせぇ。

さっさと終わらせるか。

 

「ベル君。君は強くなりたいんだろ?なら、訓練をつけてもらう一択だ。こんなチャンス、もうないかもしれないぞ?」

 

「え!?いや、でもそうじゃなくって!」

 

「この場でこれ以上喚くと俺から断る」

 

「えぇ!?」

 

こんな状況に見兼ねたのかアイズが話しかけてきた。

 

「君は、強くなりたいんだよね?」

 

「……はい!」

 

「なら、しばらくの間だけど。私と訓練しないかな?」

 

スッと差し出された手。

憧れの人からの手だ。ベル君の中では様々な葛藤が嵐のように巻き起こっているだろう。でも、君なら。

 

「ヴァレンシュタインさん。ご、ご教授をよろしくお願いします!!」

 

「……うん。よろしくお願いします」

 

その腕を取るよね。

 

 

 

ベル君とアイズの光景を見て、俺はまた向こうの仲間が恋しくなった。

今回は誰か呼んでみようか?会いたい奴らは複数人居るが……。一回何人か思い浮かべながらやってみるか?そう考えながら路地裏に入っていく。

 

「さて、一回試してみるか。【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

同じ虚脱感。思わず頭を抱えしまう。

だがマジックポーションを飲み干して何とか耐える。そして視線を上げた先には。

 

「ん?おぉ!?グランか!?」

 

頼りになる兄貴分のラカム。

 

「あれ?ラカムも一緒なの?って早くグランに、カリオストロの薬を飲ませないと!!」

 

俺たちの妹分の様なイオ。

 

「そうだった!おいグラン!しっかりしろ!」

 

「ちょっと!せっかくの再会なのに、気絶なんかしないでよ!?」

 

少し慌て気味の二人が、懐から取り出した薬を飲ませてくれる。カリオストロの特製だからか今までよりも気分がスッキリした。だけど。

 

「……頭いてぇ」

 

いつもの様に軽く冗談を言ってみる。

 

「ははっ!冗談を言えるってことは、結構元気そうじゃねぇか」

 

「あのね。カリオストロの薬を飲んだのよ?頭の痛さなんてなくなるに決まってるじゃない」

 

「……うん。そうだな、元気、だったよ」

 

あ、ヤバイ。

 

「え?ちょっと、どうしたのよ」

 

「グラン?おめぇ泣いて」

 

「ねぇから!!!」

 

慌てて袖で顔を拭く。

だが、何故なのか。視界はにじんだまま。

 

「気にすんな。今は俺らしかいねぇからよ」

 

ラカムがそっと肩を組んでくれる。

 

「そうよ?別にあたし達の前では、頼りになる副団長の姿じゃなくてもいいんだから」

 

背伸びをしたイオが頭を撫でてくれる。

 

「イオの言ったとおりだ。お前はもう少し肩の力を抜いてけ」

 

「また何かやらかしたんでしょ?聞いてあげるから落ち着きなさい?」

 

情けないなぁ。

でも、カッコ悪い姿を見せてしまったとかは、何故なのか気にもならなかった。

心を埋め尽くしたのは、慰めてくれる仲間の手が、ただひたすらに暖かい。

それだけだった。




グラン君。前世があるとはいえまだ10代です。
普段多くの仲間に囲まれているけど、それだけ張り詰めている部分もあるのではないか?
そう思って前回と今回の話を少し書いてみたかった。
そんなグランを団のみんなは知ってるけど。だからこそ、いつもは見ないフリをしていざという時は全力で支えてくれる。そんなところが書いてみたかっただけなんです。
ジータ?大丈夫だよあれは。


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仲間達と語る一晩は過ぎるのが早い

古戦場お疲れ様でした。
俺の入ってる団は三勝二敗でした。皆さんはどうだったでしょうか?
今回は息抜き回です。古戦場で疲れました。ソーンの水着に癒されます。
以上三点が俺の気持ちです。


「絶対に言うなよ!!!」

 

俺は必死だった。

今まで、副団長として積み上げてきたものがあるのだ。ラカムやイオが言いふらす様な奴らじゃ無いのはわかっている。だが!言わずにはいられない!!

 

「泣いたとか、そんなの言うなよ!?」

 

「はいはい。言わねぇから安心しろって」

 

「泣いたのは認めるのね……」

 

「俺は泣いてねぇ!!」

 

思わずそうは言ったが、もう泣いたのは認めるしかねぇ。

いやもうね。泣き終わると恥ずかしがるとか、慌てるとかよりも、逆に冷静になったよね。

俺が目指す副団長としての姿。

ラカムが教えてくれた『心に竜骨を持つ信念』

三羽烏が教えてくれた『魅せる漢の姿』

他にも団員から学んだ事は色々とあるが、最低限はこの二つだけは守っていたいのだ。

だというのに、なんたる情けなさ。

 

「仲間が恋しいだけで泣くとか、もう……」

 

だがそんな俺に構わず、ニコニコと笑いながら話し始める二人。

 

「んだよそりゃ。俺たちは嬉しいんだぜ?」

 

「ラカムの言うとおりだわ。あたし達だって、頼ってばかりより頼られたい時もあるんだから」

 

「それにグランは無理をしたら爆発するからなぁ」

 

「そうそう。ジータを見てみなさいよ。やるべき事はしてるけど、基本的には好き勝手してるでしょ?」

 

「あれを全部見習えとは言わんが、グランが少しぐらい好き勝手しても誰もなんも言わねぇよ」

 

「それどころかホイホイついて行く連中ばかりよね」

 

「なんだこいつら、好き勝手言いやがるんだけど」

 

思わず口に出してしまった。

いや、だって止まる予感がしないほどに、まくし立てるんだもん。

 

「ほぅ?この際だ、なんかうまいもん食いながらでも話そうぜ」

 

「そうね。普段のグランを見てあたし達がどんな思いかとか全部教えてあげるわ」

 

地雷だったかもしれない。

ラカムとイオの笑顔が怖い。

 

 

 

適当に近場の酒場に入り適当に注文をする。

豊穣の女主人は是非にオススメしたいんだが、あんまり多用していると知り合いに会う可能性もあるからなぁ。今はあんまり目立たない様に小さくても気配りは絶やさない様にせねば。

 

「ふぅん。飯は向こうとあんまり変わりはねぇんだな」

 

「そうね。でもあたしはナルメアが言ってたダンジョンの木の実とか気になるかも」

 

「じゃあそのうち取りに行ってみるか。というかそっちは今何してんの?」

 

ローン返済資金調達祭りの時にこっちに来てしまったから気になっていた。人数も多いしそれぞれ何かしらのスペシャリスト達だから資金は集まったんだろうけど。

 

「今か?アウギュステでバカンス中だな」

 

「ローンの返済も終わったしって、ジータが言い出したのよ」

 

「あの姉は騎士連中とか、美人達の水着が見たいだけだろ?」

 

定期的にアウギュステに行くジータだからなぁ。

欲望の為ならどんなことでもやってしまう姉だから怖い。ソーンを連れ出してまで団員を説得していくのだから断る奴なんてほとんど居なくなるし。

 

「またソーンを使ったりしてた?」

 

「まぁなぁ……。断るとソーンのやつすげぇ落ち込むしな」

 

やっぱりか!!!

まったくなんでそんな事をするのか。

 

「純粋な心を理解してて利用する辺り、俺の姉は鬼だよな」

 

「あれでも一応人望はあるんだから謎よね」

 

あぁ、そういえば。

 

「グランサイファー七不思議の一つとかなんとか。そんなのあったくない?」

 

「ジータのヤツの鬼畜ぶりを知ってるのになぜかうちに入ってしまうとかってやつか?」

 

「あと、副団長のグランはいつも誰かに監視されているとかもあったわよね?」

 

「七不思議の内、四つはお前ら姉弟で埋まってるのがなんとも言えないよな……」

 

え?そうなの?

七不思議とか言ってるが、こういう話はそれ以上出てくるものだ。つまり下手したら噂されてるのはそれ以上あるって事で……。やめようこれ以上はダメな気がする。

それからも食べ飲みしながら離れていた時間を埋める様にお互いの話をしていく。俺がラカム達の話を聞く分にはなんの問題もない。だが、俺からの話なんて今まで召喚された奴等から聞いているだろう。同じ話をされても、笑ってくれたり、真剣に聞いてくれたり。

やっぱ、こいつらが一番落ち着くんだよな。

別にこっちで出会った連中が嫌というわけじゃない。だが、どれだけ心を許せているかと言われれば、やっぱり向こうの騎空団の皆なのだとそう感じた。ドンドン運ばれてくる料理を食べながら改めてそう感じた。

 

 

 

「ラカムちょっと飲み過ぎ」

 

酒場から出て夜のオラリオを歩く。

どこに行くとか決めてはいないが、酔いを覚ますには適当にぶらつくのも悪くないだろう。

ラカムに肩を貸しながらイオと街を歩く。

 

「いいじゃねぇかよぉ。久々にお前に会えたと思うと楽しくてなぁ」

 

「グラン。別に怒ってもいいと思うわよ?」

 

いや、そんな事言われたら怒れないし。

それに俺だって少しばかりの責任はあるだろう。ついつい楽しくていつもより酒を多めに勧めてしまったのもあるんだから。

 

「ハァ……。ラカム、アウギュステでンニを山ほど食べてた」

 

「その辺に放っておくか」

 

「食い気味に反応したわね」

 

ンニを山ほど食うだとぉ!?

俺の大好物なのがわかってるのかってんだ!!

まったくラカムときたらよぉ〜。

 

「山ほどなんて食ってねぇって。焼いたやつとか、そのままとかそれだけだ……」

 

「食ってんじゃん!!」

 

「まぁまぁ、また次の召喚の時にでも食べたらいいじゃない?誰を呼ぶか考えておいたらどう?」

 

「次か。うーむ悩みどころなんだよなぁ」

 

「ならあたしが考えててあげるわ!」

 

そういうイオに全権を任せる事にして、その場にあったベンチに座る。イオは走って飲み物を売ってる屋台に行き、俺達の飲み物を買って来た。

 

「はい。なんかオススメされたの買ってきたわ」

 

「お、ありがと。ってあま!!」

 

「そう?おいしいじゃない」

 

買って来た飲み物を受け取りながら過去を思い出す。

にしてもンニかぁ……。ベンディク島では色々とあったよなぁ。カレンが大はしゃぎするのに便乗してジータが大はしゃぎしだし、ジータがオヤジ化するから女性陣は逃げ出すし大変だった。ソーンとイシュミールが協力して氷漬けにしても中から砕くし最終的には荒れる姉、止める弟で姉弟戦争勃発だった。まぁ本気じゃなかったしアーマさんの拳骨で収まったけど。

 

「誰がいいかしら?うーん。ベアトリクスとかはちゃんとした場所で水着を見せたかったとか言っていたけど」

 

「あいつの水着、お披露目は雪山だったからな」

 

最終的にあいつのエムブラスクの剣はパンツ一枚になった俺が取りに行った。冷たいのなんので、帰ってからゼタにアルベスの槍を使って温めてもらったっけ。

 

「あ、あとコルワも来たがってたわ。どうせ同じような服ばかり着てるだろうからデザインしなきゃって」

 

「時間かかる事になりそうだなぁ」

 

「一度呼んであげて気がすむまでさせてあげたらどう?その次に呼んだ時、服を受け取る事にして」

 

確かにそれもありか。

あ、イオと言えばあいつはどうしてんだろ?

 

「ロゼッタとかってどうしてんの?」

 

「うーん。ロゼッタも来たがってるんだけどね。カリオストロ達が言うには、種族的に力が強いしどうなるかわからないって先延ばしにしてるみたい。だからまだこっちに呼ばないようにね」

 

「さ、先に言っとけよそれ」

 

呼んでたらどうなってたんだ?

まさか呼ぶ奴の種族によって魔力が吸い取られていくとかねぇよな?

 

「みんなグランに会えたのを優先して忘れちゃうんじゃない?あたしも今、思い出したし」

 

怖いわ!!!

それ後から知った本人ガクブルものだからね!?

 

「どうなるかわからないものを試してグランが死んだら嫌だしロゼッタも今は諦めたみたい。だから早く強くなってあげてね?」

 

それから話を聞いてみると色々と待ち望んでる連中は多いらしい。ふむ、なら俺も早く強くならないといけないな。

修行相手として仲間を選ぶのも良さそうだ。カタリナさんとか結構いい感じで修行できるしいいかも?

 

「なら俺の修行相手として選んでみて」

 

「うん。……ラカムいつの間にか寝てたわね」

 

そういえばそうだ。

いつの間にか話さなくなってる。

 

「ラカムもグランがいなくなってから、忙しそうにしてたし仕方ないわよ」

 

「忙しそう?」

 

「寝る時間を削ってまでグランサイファーを操縦してたのよ。グランを消した星晶獣を探し出すって言って」

 

「ははっ。なら起こせねぇな」

 

「そうね。って時間みたいね。やっぱり二人召喚だと時間は早くなるみたい」

 

ラカムとイオが少しずつ発光しだした。

今は人通りがなくてよかった。

 

「日付が変わるまでって事か」

 

「まぁ話には聞いていたけど、元気そうでよかったわ」

 

「俺も、イオとラカムに久しぶりに会えて楽しかった」

 

「……グラン。もう大丈夫?」

 

イオがベンチから立って俺の頭を撫でだした。

 

「大丈夫。だから子供扱いするなよな?」

 

「ふふん。あたしはグランみたいに溜め込んで爆発なんてしないし、そんな所はグランの方が子供なのよ」

 

「……ありがとな」

 

その時、ラカムが寝言を言った。

 

「……しっかり、しろよ。弟分よぉ……」

 

「ああ、しっかりするよ。兄貴分」

 

寝言でエールを送るとか粋な真似するなぁ。

いよいよ発光も強くなり時間が近づく。

 

「あ、次呼ぶ人だけど」

 

「ンニ持たせてね?」

 

「わかってる、イシュミールに持たせるわ。他の海産物も取ってグランと食べたがってたし」

 

「了解」

 

そうして消えていった二人。

……今日は、心が休まった時間を過ごせたと思う。

うん!明日は海産物祭りができそうだし、向こうの仲間達みたいにリフレッシュするのもいいかもな!!




今回はジータ、グラン率いる騎空士達の名前が結構登場しましたね。
ちなみにイシュミールを選んだ理由はGRAPHIC ARCHIVE Ⅳで開いたページで決めました。
大変だったよ。
1回目ディアンサ水着バージョン。多いわ!
2回目カリオストロ。出たわ!!
3回目ユエル。だから出たわ!!!
4回目ニーナ・ドランゴ。待ってねぇ!!
5回目シャリオス17世。持ってねぇ!!
6回目適当に開きすぎてユグとかルシフェルとかの星晶獣ページ。いやだから!!!
7回目イシュミール水着バージョン。よし決まりな!!!
こんな状態でした。
好きなのばかり選んだら偏るからなぁなんて思ってこの方法にしたけど、イシュミールも好きです。発言えっちぃかわいい最高です。


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たまにはバカンスとかもしたいのだ。

お久しぶり。
最近忙しいのと、ポケモンクエストを始めてしまったのと、イベント回ってないのに気がついて大慌てで回ってたらこれだよ。
水着回だよ!


翌日。

ベル君は朝というか日の出前に出て行ったようだ。アイズとの訓練はこんな早くから行うらしい。

 

「自分の憧れと訓練なんて滅多にないんだからなぁ。運持ってるよなぁあの子」

 

付いて行こうとか思っていたが、今回はさすがに遠慮しておく。俺がしてあげるのは帰ってきたベル君に海産物を食べさせてあげる事ぐらいだ。

 

「よし!こんなもんかな?」

 

時刻は昼前。

こんな時間まで何をしていたのかというと、ボロ教会の横で瓦礫やらを使い竃を作ったり簡易バーベキューができるようにしてみた。

……なんだろう。最近まともな冒険をしてない気がする。まぁ向こうでもこんな感じで過ごしてたし違和感はないか……。戦う時は思わぬほどの激闘になるけど、というか常に死闘だけど。

まぁともかく召喚だな。

 

「さて、来いよ海産物。【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

イシュミールを頭に浮かべながら詠唱。

銀髪で綺麗な髪。磯の香りが漂うあの味。口に入れた途端爆発する旨さ。あ、途中から考えていたことがンニに変わってた。ンニ食べたい。

ってこんな事を考えてないで、しっかりと召喚をしていかないとな。

ンニのイメージの方が強い気もするが、それでもなんとかイシュミールを思い浮かべる。

魔力が抜ける虚脱感の中、イシュミールが現れた。

 

「久しぶりね、グラン」

 

目の前に広がる氷漬けの海産物。

カニに魚にそしてンニ。そしてその大きな氷を持ってきてくれたイシュミール。まぁ大きいといってもクーラーボックス一つ分ぐらいだが。

 

「ほら、これを飲んで?」

 

「んぐっ!ぷは!……久しぶりイシュミール」

 

「えぇ、そうね……。久しぶりに、グランに会えて嬉しいわ」

 

そういって微笑むイシュミール。

……なぜか、謎のプレッシャーを感じるような気がするが気のせいだろうか?イシュミールは教会の外に準備された空間を見ながら呟く。

 

「ここで、するの……?」

 

「え?あぁ、その準備をしてたんだけど」

 

外で料理をする準備は万端である。

 

「……ねぇグラン。私、ダンジョンの楽園に、行きたいわ」

 

「あそこに?なんで?」

 

「今、向こうではバカンス中なの……。だから、グランにもバカンスをしてほしくて……グランの、水着も、持ってきたわ」

 

あぁ、なるほど。

確かにあそこなら水辺もあるしバカンスを満喫できる場所のひとつなのかもしれない。

だが。

 

「イシュミールの格好は目立つからなぁ」

 

目立つ銀髪に、純白のドレス。そして美貌。

街を歩くだけで視線を集めてしまう事は明白である。だからこそこの場で満喫できるように場所を整えたのだが。

とういうかうちの団の奴ら、みんな顔面偏差値高すぎんだよ。顔面だけじゃなくてもうスタイルとかも高レベルすぎんだよなまったく。

そんな事を考えていると、少し落ち込んだ顔をしたイシュミールが話しかけてくる。

 

「ダメ、かしら……」

 

「うぅむ。その服を着ているイシュミールは好きなんだけどさ……。とりあえずイシュミールの服装を隠すために外装を用意しようか。そのあと何処か適当な所で服でも買って、できるだけここに溶け込めるようにしよう」

 

外装をかぶって適当な服屋でオラリオの住民に溶け込む作戦だ。てかここまで立派な純白のドレスなんて着てるやつはこっちでは見た事ねぇし、やっぱり綺麗だよなぁ。

 

「え?」

 

俺の発言を聞き返すイシュミール。

ここまで準備をしていたし断られるとでも思っていたのだろうか?

だが、舐めないでもらいたい。副団長として団員が望む事は出来るだけ叶えてあげたいのが俺だ。

だからこそ、ダンジョンに向かう事にした。

 

「せっかくこうして楽しむ為に呼んだんだからさ。あれもこれもダメダメ言いたくないじゃん?しばらく窮屈な思いをする事になると思うけどいいかな?」

 

「えぇ……!少しぐらい窮屈でもグランになら……私は身を委ねるわ」

 

よかった。

さっきの落ち込んだ顔が笑顔に変わってくれた。

 

「うん。なら早速行こうか!」

 

イシュミールから海産物や荷物を受け取ってアイテムボックスに入れる。さて、やる事は多いぞ!

 

 

 

あれからイシュミールの服を買って目立たないようにした後、ドレスはアイテムボックスにしまった。

そしてそのまま見つからないようにダンジョンに入っていったのだが。

 

「ここは、面白いところね」

 

イシュミールはダンジョンに出てくるモンスターを見ながらそう言った。

面白い?まぁ向こうの魔物と同じ様な奴も居るしその辺は不思議で面白いところだよなぁ。世界が違っても、産まれてくるやつは大体変わらないとかさ。でもどうして急にそんな事を?

とりあえず聞いてみるか。

 

「またどうしたよ……」

 

「壁から魔物が……出てくるなんて。壁を凍らせたら、もう出てこないのかしら……?興味深いわ」

 

「どうだろ?壁を壊したら出てこないみたいだけど、なんやらやってみるか?」

 

「……それはまた、今度にしましょう。今は、早くグランとの……短いバカンスを楽しみたいわ」

 

イシュミールはこんな風に、思っている事をそのまま言ってくれる。これが男としても副団長としても嬉しいんだよなぁ。慕ってくれてるというのがひしひしと感じられる。副団長頑張っててよかった。

 

「……そうね。グランの事は、副団長としても……好きよ」

 

「……え?今、心を読んだ?」

 

「……グランサイファーに居たら……みんなできる様になるわ。特に貴方の事だと……」

 

「団員が超人だった……」

 

なにそれエスパーかよ。

みんなどんな力に目覚めてるんですかねぇ!作品変わってくるわ!!

 

「……ユエルとかを、筆頭にして色々な人が……グランの事を分かってるわ」

 

「筆頭がユエルとか。他誰だよ」

 

「……秘密よ。ヒントをあげるなら……ジータがハンカチを噛み切るほどの、人達がいるわ」

 

なんだろ。寒気がした。

あの姉がハンカチを噛みちぎる?いやいや!一回見たことあるけど凄かったからね?鬼のような顔とか言うけど、本当に初めてそれを見ることになったのは姉のジータだった。

そう、あれは四騎士連れてお花見してきた帰り。

俺達だけでお花見をしている事を後から知ったジータは、グランサイファーに帰ってくる俺達を迎えてくれたのだ。俺とランちゃんとヴェインは肩を組み歩き、それを呆れるように見るパーシヴァル。そしてそんな俺達を包み込むように見守るジークフリート。

楽しみながら帰ってきた俺たちを迎える姉は無表情になった後、握っていた杖を握力でへし折り、顔が激変した後俺に殴りかかってきた。即座にスパルタにならなかったら死んでいたと思う。

 

「帰りたくなくなってきた」

 

「それは、悲しいわ……」

 

「え!?いやまって!ジータが俺に殴りかかって来なければ帰るから!」

 

「……そう。わかったわ……」

 

……ごめんジータ。

イシュミールはそっちに帰った途端、ジータに向かってレド・ブラストを撃ち放ちそうだ。

一瞬で氷剣を五本展開したイシュミールを見ながらそう思ってしまった。

 

 

 

所変わって目的地に到着。

相変わらず自然に溢れてて少し落ち着く。ザンクティンゼルは田舎だからこんな雰囲気の場所は好きな方だ。というか転生前から婆ちゃんの家の田舎とか大好きだった、川に足だけ入れて涼んだりしてたなぁ。

 

「ここが、ダンジョンの楽園……」

 

「うん。とりあえず水浴びができそうで、人もこなさそうな奥まで来たけど、本当にここでいいの?」

 

「えぇ、ここがいいわ。私とグランの二人きりで……楽しみましょう?」

 

まぁそう言うならいいか。

とりあえずアイテムボックスから持って来た野宿セットやら、イシュミールの荷物やら、海産物も取り出す。

適当に準備を始めようとした時だった。

 

「イシュミール!?」

 

「何、かしら?」

 

「なんでここで着替え始めてるんですかねぇ!?」

 

ふとイシュミールの方に視線を移すと、水着に着替えようと服を脱ぎかけている姿が目に映った。

いくら自然に囲まれているとは言え開放的になりすぎじゃないですかねぇ!?

 

「他に、着替えるところなんて……ないでしょう?」

 

「いや、茂みに隠れるとかあるじゃんか!俺がいるんだからここで着替えるのやめてください!」

 

「……グランになら、見られてもいいわ」

 

「なんでそんな事言い出すのさ!?」

 

グラン君大慌てである。

自分で言うのもあれだが経験がないわけではない。だがしかし、イシュミールの様な人が目の前で着替えだしたら慌てても仕方ないだろ?

 

「大丈夫よ。見られても恥ずかしい様な、身体にはしてないわ」

 

「せい!!!」

 

俺はイシュミールを茂みに投げ込んだ。

女の人に対して酷いとは思うが数々の戦闘をくぐり抜けて来たのだ。空中で体制を立て直し、茂みの向こうに着地しながらイシュミールはこう言った。

 

「……覗いても、いいのよ?」

 

「覗かねぇよ!!!!」

 

しばらくして水着に着替えて出て来たイシュミール。コルワが仕立てたその水着はイシュミールに似合っていて、イシュミールが居る場所だけ幻想的な空気を感じる。

 

「今回のバカンスは、他の子達も水着を欲しがっていたから……。私は前と同じ物なのだけど、どうかしら?」

 

「しっかり似合ってるよ。相変わらず綺麗だ」

 

「そう。なら、よかったわ」

 

コルワは今回も忙しいのか。

他の子達もって事は、イシュミールは水着を新調するのは遠慮したのだろう。コルワならそれでも作ってしまいそうなものだが、間に合わなかったのか?まぁなんにせよコルワさんお疲れ様です。ゆっくり休んでバカンスを楽しんでください。

 

「さぁ、グラン。……私達のバカンスを、始めましょう?」

 

「あぁ、楽しむとしようか!!」

 

俺たちのバカンスはまだ始まったばかりだ!!




とんでもなく打ち切り臭がする終わり方である。
しばらく忙しいから更新速度下がります。
後イシュミール難しい。イシュミール感出せてる気がしない。


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楽しいことの後はなにかしらイベントが起こる

お久しぶり。
ンナギ漁楽しかったね。


バカンス。

それは心と身体を休ませながら楽しむものである。だというのに、なんの魔法なのかどんなに疲れるようなことをしても楽しんでしまい、疲れを感じさせることがないのである。

 

「うぉおおおお!!!!!」

 

だから火起こしも楽しめるのだ。

 

「……煙が立って来たわね」

 

「よっしゃ!」

 

もぐさのような物を使って火を移す。

なんとか火を消さないように火種を大きくしていく。……いや、何やってんだろ?

 

「これは、意味があったのか?」

 

水着スタイルになって焚き火を作ろうとしたのだが、何故かイシュミールにお願いされて原始的な火起こしをしていた俺。無事に火起こしが終わったら冷静になってしまった。

いくら俺が魔法を使うのが苦手だからってこれはないんじゃ……。一応火打ち石とかあるぜ?

 

「ふふ……。頑張っているグランが、素敵だから……見たかったの」

 

「怒るに怒れないな」

 

何故なのだろうか。

イシュミールに対しては強く出れない所があるのだ。ユエルとならお互い揉みくちゃになりながらふざけ合うし、組織連中ならとりあえずベアトリクスを生贄にしておく。そんな風にイシュミールとはできないと言うかなんと言うか。

 

「イシュミールと居るとゆっくりしちゃうんだよな」

 

「私は……グランとゆっくり過ごすのは……好きよ?」

 

「あぁ、俺もそれだ」

 

「……そう。よかったわ」

 

そうだ。

イシュミールと居る時は基本的にゆっくりとするのだ。火起こしがゆっくりなのかはさておき、二人で居る時はお互い無言の時も多い。なんと言うか穏やかな空気感が好きと言うか。

 

「……グラン。私は料理をするけど、どうしたいかしら?」

 

座ったままでも調理ができる様に、まな板として良さげな石を持ってきている。それを自分の前に置き、包丁を持ちながらイシュミールは聞いてくる。

 

「んー。できれば見ておきたいかなぁ」

 

「えぇ。なら、私に任せて」

 

素早い手の動きでカニや魚を捌いていくイシュミール。……どこかの姫の様な容姿でこの手捌き、ギャップありすぎるなぁ……。

うちの団に入ると誰もが何かしら逞しくなる。

だからギャップが発生する事も普通にあるんだがイシュミールのコレはその中でも驚いた中の一つだ。

ジーッとイシュミールの料理姿を鑑賞していたからだろうか。

 

「どうかしたのかしら?」

 

顔を上げながらそう聞いて来た。

だから俺は。

 

「あーん」

 

口を開けてみる。

 

「ふふ。……あーん」

 

捌いたばかりの魚を口に運んでくれる。

おぉ、生でもいけるやつだったから頼んだがやっぱりうまいな。口の中で魚の脂がとろける。

 

「うんまいぞぉ!!!」

 

「それは、よかったわ」

 

「イシュミールも食う?」

 

「……ありがとう。けれど、調理が終わってからでいいわ」

 

何故か顔を赤くしながらそう言った。

ははーん。さては、恥ずかしいんだな?

俺はイシュミールが切っている魚をつまんで差し出す。

 

「ほらほらあーんあーん」

 

「……しつこい子は、嫌いよ」

 

魚を持っていた手が凍った。

 

 

 

悪い事はしないほうがいいと改めて感じました。

あの後直ぐに氷をかち割った。イシュミールの氷って溶けにくいとかあるのになんで俺は砕けたのか……。とっさの馬鹿力は凄い。

しばらく離れておけと言われて俺は水辺に足を突っ込んで寝転んでいる。やらかした後はいつもこんな感じでボッチになってしまうあたりどうしようもない。

 

「できたわよ」

 

そう言って俺を呼ぶイシュミールの元に行き、海鮮づくしの料理を堪能していた時だった。

 

「あ、グラン……」

 

「ん?アイズ達か」

 

そこにはアイズとリヴェリアさん、ティオナ・ヒュリテがいた。

 

「あれ?アイズいつの間に仲良くなってたの?」

 

「……うん。色々とあって」

 

「へぇー。それよりその食べ物何?それになんでそんな格好なの?」

 

海鮮づくしと服装に目が行くか。

まぁこんな所でこんな贅沢をしているやつはいないだろうし、ましてや水着なんて軽装は信じられ……いや、お前も水着みたいなもんじゃん。

 

「あなたが……言うのかしら?」

 

ほら、イシュミールも同じこと思ってた。

まぁまぁなんて言いながら俺たちの隣に座って物欲しそうな目をして来る。まぁいいかと思いエヴィを差し出すと喜んで食べ始める。

……いや、なんなの?

 

「と言うわけでリヴェリアさん。説明をお願いします」

 

「あ、あぁ。本当にすまないな……」

 

「いっぱいあるからいいけどさ」

 

やっぱり苦労してんだね。

それから海鮮を貪り始めたアイズとティオナを見ながらリヴェリアさんの説明を聞く。

どうもダンジョン内で未確認、または武装したモンスターが増えていて、それも上層でもそのモンスター達は確認されている。ロキファミリアは近々遠征があるので問題ならない程度か調べに来たらしい。

 

「武装モンスターねぇ」

 

「……そういえば、ここのモンスターは……武器を持っているのが、少なかったわね」

 

「うーむ。キチンとした武器を持ってても冒険者達の落し物とかか?」

 

「あぁ、その筈だが……。防具をつけているのも確認されている。モンスター達が本格的に武装をしだすとは考えにくいのだが」

 

防具も着込んで剣や盾で武装かぁ。

向こうの魔物も武装してるのがいたが、やっぱ色々とおかしいよなぁ。どれだけ武器盗られてるんだよ……。

まぁそれは置いとこう。ともかく問題は基本、本能的にしか動かなかったモンスター達だが一部は明らかに異彩を放ち始めたのだ。注意深く相対すればレベル1でも問題はないようだが、囲まれでもしたら待っているのは死。ハードモード突入でしょうか?

 

「とにかく武装モンスターを見つけ次第倒していくべきか」

 

「グランの言う通りだ。新人達には少し荷が重いだろうから、できるだけ私達で対処すべきだろう。倒したモンスターの特徴はギルドに報告すべきだろうな」

 

「グランも、大変なのね……」

 

「気になっていたのだが、貴女はどこのファミリア所属だ?」

 

「リヴェリアさん」

 

「なんだグラン」

 

「この暴食二人組を止めてくれない?」

 

ガツガツと止まる様子がないアイズ達をリヴェリアさんに任せる。

いやぁ危ない所だったね。イシュミールに所属なんてないしバレればめんどくさいところだった。うちの騎空団所属ですぅ。なんて言っても変人扱いだろうし。

 

 

 

リヴェリアさんが二人を引きずって去って行った後、無残に食い散らかされた殻やらなんやらを片付けて仕切り直した。ごめんよベル君。君の分無くなっちゃった……。まぁ、それは置いといて少し怒り気味のイシュミールを宥めて食事も済ましてゆっくりしたのだ。

 

「……安心、したわ」

 

「安心?」

 

「話では聞いていたけど……元気なグランを見たのは、久しぶりだから」

 

「心配してくれてありがとな。仲間もできたしそれなりに楽しくやってるよ」

 

「……そう」

 

イシュミールの心配に答えておく。

運良く仲間もできた、ヘスティアちゃんの問題を抜けば生活もある程度は安定している。無理もあったがそれはそれだろう。

 

「……ねぇ、グラン」

 

「なに?」

 

「……言いたく、ないのだけれど」

 

なんだ?

イシュミールが言い淀むなんてあんまりないのだが……。

 

「……いつか、帰る方法が分かった時……貴方はどうするの?」

 

「帰るよ」

 

「……え?」

 

キョトンとした顔。これはレアだな。

にしてもこんな事を聞いてくるとはなぁ。まぁ他の仲間達も思っていたのだろうが、今回イシュミールは覚悟を決めて聞いてくれたのだろう。

 

「俺が帰るべき場所は、お前らがいるあの場所だ。だから、こっちにいる理由がなくなったら帰る」

 

「いる理由?」

 

「うん。現状うちって零細ファミリアだからねぇ。ベル君がキチンと団長ができて、俺が抜けてもいいと判断したら戻るさ」

 

実はこの件はヘスティアちゃんとも話したことだ。ベル君は知らないがいつかもっと仲間も増えて、あの子を支える人が増えたら俺は抜ける。

 

「副団長だしね。あの姉に任せっきりも怖いし」

 

「……そうね。いつまでも……グランが居ないなんて、考えたくないわ」

 

「はは。そっか、頼りにしてくれてるんだ」

 

「えぇ、ジータだけじゃ不安よ。団長としては、文句がないのだけれど、人としては……」

 

言わないであげてほしいなぁ。

にしてもやっぱりそんな認識だったのね。

そんな風にゆっくりとした時間を楽しみ満足した帰り道。

モンスターを倒しながらダンジョンを進んでいく。そんな中、目にしたのは俺達二人が今までよく見てきた武装したゴブリンだった。




次回から話が少し動き出すと思います。
とは言ってもラブライブイベントやらゼノコキュやら古戦場やら……。
時間が足りねぇよ……。ラブライブイベントは出来るだけ早めに終わらせてしまいたい。
サンシャインは見てないからわからない人なんだ……。早く終わらせてこっちに時間取れるように頑張る。


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男の子が漢になる瞬間

ラブライブイベント。サンシャインはわからないんでストーリー飛ばしました。


イシュミールが戻ってから数日が経った。

あの時の帰り道に見た武装ゴブリン。あれは向こうではよく見ていた魔物だった。

んー。なんか胸騒ぎがするし、心配だよなぁ。

 

「でも冒険者達がゴブリンごときに、やられるとは考えにくいし」

 

倒したのだが、特に強い個体というわけではなかった。ただ普通にキチンと武装をしたゴブリンとしか言えないだろう。

……まさかとは思うが、俺と同じく迷いこまされた?

もし、向こうの魔物がこっちに迷い込んでモンスターとなっているとしたら。

 

「ちょっとまずいかなぁ……」

 

イシュミールには向こうに戻ったら説明をしてもらうように頼んでおいた。星晶獣のロゼッタ達や、カリオストロ達が色々と議論を交わしてくれているとは思うが憶測にしかならないだろう。

 

「考えても仕方ないか……」

 

俺の目が届くところならなんとかなるが……。いっその事ギルドに情報を流すか?だが不審者扱いされるだろうし、なんなら拘束されかねないか?

……これはやらないほうがいいか。

とにかくこっちでも調査が必要だな。

 

「調査が必要なのは、もう一つあるんだよなぁ」

 

ベル君が襲撃されたというのだ。

それも神であるヘスティアちゃんや第一級冒険者のアイズがいる時に。詳しく聞いてみると相手は第一級と名乗っていい程の腕の持ち主だったらしい。アイズ、ロキファミリアは闇討ちとかよくあるらしいからそっちが狙いとも思えるんだが……。

 

「ベル君が狙いの可能性があるよなぁ」

 

あの子の成長は、何でもかんでも上手い事転がって行ってる気がする。普通に考えてたまたま魔導書を手に入れて魔法を覚えるとかありえないだろう。裏で手を回してる奴らが居るとしか考えられないし、高価な魔導書をポンと渡せる奴らなんて限られてくる。

 

「集めた情報ではバベルの上にはフレイアとかいう神がいるんだよな」

 

前からあった視線はたぶんそいつだ。二大ファミリアという大派閥なら魔導書なんて頑張れば手に入れれるだろう。そしてフレイアファミリアの主神は気に入った奴は手に入れようとするとかなんとか。ベル君が標的となってると考えたのはそこなんだが……。

 

「……オッタルしばきにいくか?」

 

まぁ流石に冗談だが……。

考えても答えなんて出ないしそろそろ俺もダンジョンに行くか。こういう時は適度に暴れるに限る。

 

「とりあえずこんな所で、暇を潰してても仕方ねぇしなぁ」

 

「こんな所で悪かったなぁ。兄ちゃん」

 

「あ、ごめんなさい」

 

じゃが丸くん屋の店主に謝った。

しっかし朝っぱらからのじゃが丸くんは少し腹にくるなぁ。失敗したなこれ。

 

 

 

ダンジョンに向かってオラリオの街を歩く。

なんか人が多いなぁ。ってあれは、ロキファミリアか?

なんかあいつらとは縁があるなぁ。まぁ空と比べたら狭い街だし、大きな派閥だから目立つしよく目にしても不思議じゃないか。

 

「面倒だし、無視してさっさと行こう」

 

ジョブチェンジ。

忍者。

隠密行動ならこれかなぁなんて。

もはや気分でジョブチェンジしてる感あるよなぁ。

 

「あ、やべ。アイズに見られたか?」

 

スッと近くを歩いていた、鎧で身を固めた人の影に入ってやり過ごす。

朝だし普通に歩いてるだけだから隠密もできやしねぇのは当たり前だよなぁ。

 

「さっさと行くか」

 

整列しだしたロキファミリアをやり過ごしダンジョンに向かうことにした。

というかあんな大人数って事は遠征か?あれだけの人数が入ったら上層なんて窮屈で仕方ねぇだろ?……普通に考えて班分けするか。何考えてんだろ俺。

 

「お先に失礼しますねーっと」

 

ダンジョンに足を踏み入れる。

……なんだ?嫌な予感が酷いぐらいする。

背筋がゾワゾワする感じが一気にしてきた。背筋だから胃もたれとかではないよな?

 

「あー。こんな時は大体、厄介ごとが起こるか、ジータが厄介ごとを起こすかなんだよなぁ」

 

注意をしたほうがいいかもしれない。

ジョブをスパルタにでも変えようか?流石に大げさすぎるか?

とりあえず、進もう。

 

「っていきなりか」

 

武装したゴブリンが現れた。

まぁこの程度なら一瞬で首を落として終わる。

 

「今日もベル君は、ダンジョンにいるんだよなぁ」

 

少し探しながら進んで行くことにしよう。

俺は二階層、三階層とドンドン進んで行く。

武装したゴブリンだけじゃない。ウルフ系も何故かちらほらと見かける。

 

「こりゃ予想的中かなぁ。向こうで何かあったかな?」

 

ふむ。そろそろ誰かしら呼んで向こうでどんな話し合いになっているのかを聞くべきか?

もし呼ぶとしたらカリオストロとかマギサとかその辺なのかなぁ……。他に誰か待たせてる奴いたっけ?

 

「で?どうしてお前は、こんなところにいるんだよ」

 

俺の前に立ち塞がる大男。

 

「久しいなグラン」

 

「ちょうどいいや。お前に聞きたい事があったんだよ。オッタル」

 

「俺に話せる事なら、話そう」

 

やけにあっさりしてるな。

まぁそれならそれでいいか。

 

「お前らフレイアファミリアなんだけど。ベル君にちょっかい出してない?」

 

「なんの話だ?」

 

「いやさ。色々と考えたんだよ。お前らの主神はうちのベル君の事を、欲しがってんじゃないかって。よくバベルからの視線も感じてたし」

 

「……」

 

「話さないのか、話せないのか。どっちかは知らんが、手出しするのはやめてもらえないか?正直邪魔だ」

 

ここまで言っておいて、もし別のファミリアが手を出しているなら赤面どころじゃないよなぁ。

 

「とにかくさ。冒険ってのは、自由にやっていきたいものだって、俺は考えてるんだよ。それなのに裏から色々と画策されたりとかさ。正直、鬱陶しくてしかたないんだよね」

 

「そうか」

 

「その先に、ベル君がいるんだろ?」

 

ダンジョンの中でモンスターの声が反響する。

 

「だとしたら、どうする?」

 

「退けよオッタル。時間がねぇんだわ」

 

この空間に緊張した空気が流れる。

そんな時だった。オッタルの後ろから見覚えのある人影が現れる。

 

「ん?リリルカ!?」

 

「グラン……さん?グランさん!おねがしいます……!ベル様を!」

 

「わかった。今すぐなんとかしてやる。だから安心しろ」

 

「ありがとう、ございます……」

 

頭から血を流し、フラつきながらも急いで駆け寄ってくるリリルカに、俺は急いでポーションをかけてやりオッタルを睨む。

 

「退けよ」

 

「退いて欲しければ、俺を倒せばいいだろう」

 

「……んな時間、あると思ってるのか?」

 

それでもバハムートソード・フツルスを握るが、怒りと焦りでカタカタと手が震える。

 

「グラン!」

 

「剣姫か」

 

「アイズ。ちょっとこの場、頼んでもいいか?」

 

言いたい事は察してくれたのだろう。

剣を抜き構えるアイズはオッタルと対峙する。

 

「いいから、どけ!!」

 

アイズと一緒に走り出しす。

オッタルとアイズが剣をぶつけ合うのをすり抜けてその場を後にする。借りができてしまったが、まぁまた今度返す事にしよう。

 

 

 

リリルカが来た方向へ走って行くとモンスターの声が大きくなってくる。

そしてひらけた空間にはミノタウロスと戦うベル君の姿があった。

 

「ベル君!」

 

追い詰められているベル君を抱えてミノタウロスから距離を取る。ミノタウロスも急な乱入に警戒してるのかこちらを見つめたまま止まっている。

 

「グラン、さん?」

 

「あぁ、頑張ったな。もう俺に任せていいからな」

 

「……ダメです。それじゃあ、ダメなんです」

 

ベル君が俯きながら話しだす。

 

「ベル君?」

 

「ここで、助けられたら。僕は何の為に、グランさんに基礎を教えてもらったんですか?何の為に、ランスロットさんに技を教えてもらったんですか?何の為に、アイズさんに稽古をつけてもらったんですか?」

 

それは今までのこの子からは出なかった言葉。

 

「逃げたら、ダメなんです。僕は、ヘスティアファミリアの団長なんです。いつまでも、貴方達に支えられたままではいけないんです!!」

 

覚悟を決めた漢の言葉だ。

なら、俺が手を出すのは無粋だろう。

 

「……そうか。いつの間にかベル君も、心に竜骨を持っていたんだな」

 

「竜骨?」

 

「あぁ、決して折れない、信念って奴だよ」

 

「……はい」

 

力強い返事。

これなら、俺は信頼して送り出せる。

 

「ベル君。どんな困難な状況であっても、君だけは立ち上がれる。それでもと立ち上がれる漢になってこい!」

 

「はい!!!」

 

雄叫びをあげながらミノタウロスに向かって行くベル君。ロキファミリアの奴らが追いついたりもしたが、ベル君はミノタウロスを撃破した。




物語が動くとか言いながら動くの次回になったわ。
ベル君の戦闘全カットの理由は、もうみんな飽きたぐらい見てきたでしょ?
イベ周回めんどくせくなってきたや……。


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いつでも俺らは巻き込まれている

前回でダンまち三巻が終わったと思った?
残念。まだ終わらんよ。


ベル君が無事ミノタウロスを倒した後。

ロキファミリアの連中がすこし騒ぎ出す。

 

「何なんだ、あいつは。どうなってんだよ!!」

 

「ベートの言うとおりだ。聞いてもいいのかい?」

 

「それはどう言うことかわかって聞いてるのか?ロキファミリア団長」

 

自分達の手札を簡単に見せるわけねぇだろうが。

だがまぁ。

 

「前にベート・ローガには言っただろ?あの子は、ベル・クラネルはすぐにその高みに駆け上がるぞって」

 

さて、適当にロキファミリアをあしらいながら気絶したベル君を回収する。アイズとリヴェリアさんにベル君を任せておく。

嫌な予感が収まらない。それどころかどんどんと大きくなっていく。

 

「……来るか」

 

目の前の空間に歪みが出来上がり、そこから黒い靄が溢れ出す。その靄の中からズズズッと出て来るのは見覚えのあるモンスター。いや、魔獣。

 

「まさか、こんな所で出て来るところを見る事になるとはな」

 

出てきたのはサイズが小さくなっているベヒーモス。そして何匹かのゴツゴツとした二足歩行のドラゴン。確か、アリゲイディス?いや、同じようで名前が違うからわかんねぇけど。あ、色違いもいるの含めて五匹か。

魔獣達を出し終わると元に戻ろうとする空間と一緒に戻っていく黒い靄。飛び込もうか迷ったが得体が知れなさすぎる。無理は禁物だろう。

それより。

 

「なんだ。あのモンスター達は」

 

「新種か?……グラン。君は何か知っていそうだが、教えてはもらえないか?」

 

はぁ。これは言い逃れできないのかなぁ。

俺は質問してきているリヴェリアさんを無視しながら考える。

この数の相手はできるが、気絶したベル君に、警戒したロキファミリアの連中がいるのを気にしながらじゃめんどくさい。……仕方ないか。

俺の支援が出来て、敵の弱体もしてくれるとありがたく、とにかく味方で心強いのは。

 

「【蒼き空、彼方の絆。結びて繋げ。今ここに求める者との共闘を】」

 

遠くなる意識を歯を食いしばり耐えて、マジックポーションをガブ飲みする。

そして出てきた仲間は。

 

「お?久しぶりやなぁグラン!」

 

「え?ユエルちゃんも?って、あぁ!グランはん!し、しっかり!」

 

「ほらソシエ、これ飲ましたり。しっかし初めて呼ばれる人らは、グランが気絶しそうなのを見ると、絶対に心配するらしいのホンマやな」

 

ユエルの呟きを無視しながらカリオストロ特製半汁を飲み干す。

あー。無駄に味にも気を配って美味しいのがなんか腹立つ。後味スッキリでスポーツ飲料ですかね?

 

「グランはん。なんで、うちの事すぐに呼んでくれんかったん?……心配やったんやで?」

 

「ソシエにこんな風に言われるとか……グランちょい顔貸してくれん?いや、別に怒っとる訳ちゃうから」

 

「そんな場合じゃねぇから!!」

 

獣人が現れたやら、あいつはあの時の獣臭い奴とか、あの魔法はとかペチャクチャと煩い外野は放っておいて。現状の説明を軽くする。

 

「なるほどなぁ。なら、うちらはアレを倒せばええんやな?」

 

「おう。周りの雑魚は頼む。俺はベヒーモスをやるから」

 

ユエルが双剣を構え、ソシエが扇を開く。

さて、俺も準備しないとな。

ジョブチェンジ。

ベルセルク。

こちらの戦闘準備に反応してか、ベヒーモスが吼えて走って来る。

 

「私に任せて!陸之舞・雲龍!!」

 

扇を広げたソシエがベヒーモスの突進を受け止める。そして流れるように更にソシエは舞う。

 

「壱之舞・霜月!!」

 

ベヒーモスの顔を上に逸らし、ソシエは自分の身体を回転させてベヒーモスに強く扇を叩きつけカウンターを決めてベヒーモスを飛ばす。

 

「グランはん!」

 

「任せろ!レイジIII!!とっとと消えろぉ!!!」

 

ソシエの上を飛び越えて、打ち上げられたベヒーモスの目の前に飛ぶ。そしてバハムートソード・フツルスで切りつける。だが、相手も身体を捻り自分の角を犠牲にしながら致命傷を避けながら吹っ飛んでいく。

身体が小さくなった分、小回りが効くようになってるのか?あんな動き今までしてこなかったんだが、簡単には終わりそうにないか?

 

「よっしゃあ!じゃあ、いっくでぇ。燕返し!!からのぉ紅蓮!!」

 

ユエルがドラゴン達の前に突撃し、舞うように敵を倒し始める。ユエルもソシエも今は火属性で攻めているようだ。なんというか、仲良いなぁ。

 

「っと!あっぶねぇ!!」

 

ベヒーモスが地面に自分の足を叩きつけ、隆起した地面が俺の方に迫って来る。破片で少し肌を切るが、問題はない。

 

「グランなにしてんの?油断禁物やで!」

 

「グランはん。私に任せて、壱之舞・神楽」

 

ソシエの舞で俺の傷が癒える。

今更だが舞で傷が癒えるとか凄いな。

というかソシエ。すぐに属性を切り替える辺り歴戦の猛者感がすごいぞ?

 

「ありがとう。ちょっと油断した」

 

「うちらがベヒーモスの方やろか?」

 

「うん、そやね。うちはユエルちゃんがええなら、それでもええよ?」

 

ユエルが自身有り気に、ソシエは少し控えめにそう言ってくれるが。

 

「大丈夫。ありがとなユエル、ソシエ」

 

さすがにここで代わってもらったら恥だよなぁ。

さぁ、そろそろ決めに行こう。

いつでも奥義を放てるようにウェポンバーストⅢで力を溜めておく。

 

「お?グランが決めにかかるみたいやな。ソシエ!うちらも行くで」

 

「う、うん!ユエルちゃん」

 

「さぁ!魔獣供!覚悟しぃや!」

 

「か、覚悟しぃや!」

 

ユエル達がドラゴン達に向かい一斉に舞い踊りながら攻撃を仕掛ける。俺も負けてられないな。

 

「ミゼラブルミスト!」

 

「ガアアアア!!!」

 

ベヒーモスの攻撃力と防御力を下げる。

だがそれでも構わずに突進してくるベヒーモス。俺もベヒーモスに向けて走り出し、すれ違いざまに剣でベヒーモスを切りつける。

 

「次ぃ!アーマーブレイクⅡ!!」

 

切りつけながらアーマーブレイクⅡをする事で防御力を更に下げる。さて、そろそろ決めるか。

バハムートソード・フツルスを構えなおして奥義を撃つ準備をする。

 

「ユエルちゃん。私、舞えるよ!」

 

「よーし!ならうちも舞ったるで!」

 

それに反応したユエル達も向こうで奥義を放つ準備をするようだ。

なら、一気に決めますか。

 

「そろそろ倒れてもらうぞ。ベヒーモス」

 

「ガアアアア!!!」

 

ベヒーモスの身体が紫電に包まれ始め、カオスラインを放ってくる。そして、俺はカオスラインが向かってくるのを冷静に見ながら奥義を放つ。

 

「レギン……レイヴ!!!!」

 

剣線の奔流がカオスラインを呑み込み、ベヒーモスを切りつけながら、その身体を吹き飛ばしユエル達の方へ投げ出される。

そして、ユエル達の方では二人が一緒に水属性になり、奥義を放とうとしていた。

 

「九尾を滅ぼす冷たき炎、受けてみぃ!紅之舞・凛炎改!!」

 

「九尾様に捧げる舞が一つ、白之舞・天華!」

 

ドラゴン達がひと塊りになるようにユエル達は計算しながら相手を切りつけ弾き飛ばす。そこに俺が吹き飛ばしたベヒーモスが、ドラゴン達を巻き込むようにぶつかる。

 

「いくでぇ!ソシエ!」

 

「うん!ユエルちゃん!」

 

「「ブルーデトネーション!!」」

 

青の奔流に俺が飛ばしたベヒーモスも巻き込まれながら飲み込まれていく。そして、後には魔石だけが残ったのだった。

 

 

 

「よっし!終わったぁ!ソシエ手でも繋ごうや!」

 

「え?うん!グ、グランはんも一緒に」

 

いつの間にか離れた所から近くに来ていた二人が俺の手を取る。いや、間に挟んだらお前ら二人が手をつなげないでしょ?って!なんで輪っかになって、いや、クルクル回るな!恥ずかしいわ!!

なんとかその輪から抜け出して魔石を回収する。うーむ。なんで魔石なんかが出て来たんだ?向こうからこっちに来た時点で生成されるとか?

……わっかんねぇなぁもう!

 

「お疲れ様」

 

「ん?あ、ロキファミリア団長か」

 

「フィンでいいよ。そんな風に呼んでも長いだけだろう?」

 

「ならお言葉に甘えようか。よろしくフィン。俺はグランだ、前は色々と済まなかったな」

 

「いや、アレに関してはもういいよ。こっちも一部の団員が迷惑をかけていたみたいだしね。おあいこだ」

 

「なら、良かった」

 

ふーん。

これがロキファミリアの団長。フィン・ディムナか。こんだけ若いのによくあの連中を束ねるなぁ。……激しくブーメランな気がする。

 

「グラン」

 

「あ、リヴェリアさん」

 

「君に聞きたいことが山程あるのだが、まず教えておいてやろう」

 

なんだ?

 

「フィンの年齢は三十過ぎているぞ」

 

「はぁあ!?」

 

いや!そりゃねぇだろ!?

俺と同じぐらいだと思ってタメ口聞いてたんだけど!!……いや、冷静に考えればそうだよな。ていうか、向こうにも外見と年齢が合わないのは普通にいたよな。

 

「あーあー。だから敬語を普通に出せるようにしときやって話したのに」

 

「グランはん。またうちらと勉強する?」

 

ユエルはうるせぇ。

ソシエはともかくユエルに教わるのはなんかいやだからいいです。つまり、ユエル抜きでの勉強会ならウェルカムです。

 

「また横からちょっかいかけまくったるわな」

 

「あれ本当にイラつくからやめてもらえないかな!!」

 

話が逸れた。元に戻そう。

もう何が元なのかはわからないけど。

……。うん。とりあえずベル君を受け取るところから始めましょうか。

 

「リヴェリアさん。ベル君の事、ありがとう。もうこっちで引き取るよ」

 

「あぁ、わかった。だがまずは」

 

ベル君を受け取ろうとしたのだが、その前に何故か腕を掴まれる……。え?いや、この手はなんですか?離してもらえませんか?

何故かリヴェリアさんが俺の手を掴んで離してくれない。

 

「君には教えてもらいたい事が山ほどあると言っただろう?あぁ、安心しろこの子達は私達が責任を持って地上へ運ぼう。だからグランはフィン達と一緒に居てくれないか?」

 

「いや、なんでさ。ほら、ベル君をこっちに」

 

「フィン達と一緒に居てくれないか?」

 

……あかん!

これめんどいやつや!!

ユエル達に助けを求めようとしたが百合百合してる空間があっただけで助けを求められそうじゃなく、俺は仕方なく一時的にロキファミリアと行動を共にすることになった。




そんなわけでユエルとソシエに来ていただきました。
最近ずっと悩んでいたのが今回の話で出てくる敵。それと味方の仲間(仲間の方は決めてた)。
ツッコミどころはあるかもしれませんが許してくれると嬉しい。
それはそうと、俺のソードオラトリアはどこに行ったのだろうか。
もしかしなくてもこの前売った本の中に紛れてたか?


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新たな冒険の予感

おひさ


どうしてこうなったのか。

アイズとリヴェリアさんがベル君とリリルカを地上に運ぶことなり、俺とユエル、ソシエは何故なのか。そのままロキファミリアの遠征にしばらくついて行くことになった。

 

「絶対におかしい」

 

「まぁこんな事もあるんとちゃう?」

 

「そうかも。私らの旅って、そんな感じで巻き込まれる事多いから」

 

否定ができない。

あっちへ行けば事件が起こり、こっちへ行けば巻き込まれる。そんな状態だったからな。

 

「で?遠征組は何処までいくんですか?」

 

「59階層だよ」

 

フィンさんに改めて目標階層を聞いてみると、まさかの長旅になる予感。これはリヴェリアさん達がヘスティアちゃんに知らせておいてくれるのを期待するしかないか。

 

「さて、道中で気が休めるわけでもないが、君達のことを聞いてもいいかい?」

 

「だから……それ、わかって聞いてるんですか?」

 

「もちろん。だが、それでも見過ごせないんだよ。ベートを倒してしまう力、その未知の魔法。そして、あのモンスターの情報。あの時の小さいヒューマンの娘についても」

 

フィンさんは歩きながら俺の目をしっかりと見て言う。

 

「僕はロキファミリアの団長だ。団員達の命を預かる立場にいる。だからこそ、君の持っている情報が欲しいし、君とのパイプも持っておきたい」

 

「情報はともかく、パイプを持つのに俺の魔法やらの秘密、それに仲間の情報まで明かすのは違うんじゃないですか?」

 

「そこは僕の興味もあるね」

 

おいこら!!

あんたの興味のために、なんで俺の手札晒さないといけないんだよ!!いやまぁそれはいいとして。

 

「あんた、ずいぶん踏み込んでいくんやなぁ」

 

「あはは……私もユエルちゃんの言う通りやと思うな」

 

「ユエルー、ソシエー。ロキファミリア団長が俺をいじめるー」

 

おふざけ空間になるようにふざける。

 

「可哀想になぁ。ほら、うちらが慰めたるわ」

 

「あんまり、グランはんを虐めないでほしい、な」

 

こうやって乗ってくれる辺りありがたい。

正直ロキファミリアのメンツが多いからアウェー空間すぎるわ。

こんなおふざけをしたが、それほど和らいでもいない空気を感じながら俺はダンジョン内を歩かされたのだった。

 

 

 

のらりくらりと聞かれることについて、はぐらかしながらもうだいぶ歩いている。あれから時間が経ち過ぎたせいでユエルとソシエも向こうに戻ってしまった。

まぁここでもちょっと騒ぎになったが大丈夫ですの一点張りで流していると流石にフィンさんも今は諦めたのか聞いてくることはやめたようだ。

 

「ここが50階層ねぇ。遠くまで来ちまったなぁ」

 

拠点を作るロキファミリアの面々を見ながら呟く。巻き込んだのだから何もしないでもいいと言われているが……。なんか居心地は悪いよなぁ。

 

「ここにいたかグラン」

 

「ん?あぁ、リヴェリアさんか。あんまり近くにいたら居心地が悪いからね」

 

「それはすまない。だが、今夜みんなの前で突入隊に入る事を言うのだから、気にするだけ疲れるぞ?」

 

「ならここに残るでも良いんですけどね〜。もしくは帰る」

 

「今更文句を言いつづけても仕方ないだろう?そろそろ腹をくくったらどうだ?男の子だろう?」

 

なんだか最近、この人まで煽ってくるな。たぶんユエルあたりに入れ知恵されたか?

 

「あーはいはい。従いますよー。ついていけば良いんでしょー」

 

「あぁ、頼りにしているぞグラン」

 

そう言って去っていくリヴェリアさんを見送った。

 

 

 

夜。

ロキファミリアの面々が円を組み、作戦会議が行われた。突入メンバーが発表される中、フィンさんは俺の方に向き話を切り出す。

 

「なお、今回はヘスティアファミリアに所属しているグランも共について来てもらう。連携の問題などがあると思うが、基本的に遊撃として自由に行動してくれて良い」

 

本当にこいつを連れていくのか?といった視線が集まるが気にしない。団長であるフィンさんを始め、幹部メンバーたちも殆どが同意しているからだ。というか、開き直ることにした。

おう文句あんのか?こちとら巻き込まれただけだからな?帰ってもいいぞ!

 

「グラン。悪いが一言もらえるだろうか?」

 

……はぁ。ここで変な事を言っても士気を下げるだけか。

よし、やるか!

 

「ヘスティアファミリア所属グランだ。今回は急遽巻き込まれた形になってしまったが、足を引っ張るつもりは無い。よろくし頼む」

 

「ありがとう。彼の強さはみんな知っているだろう?だから安心してもらって大丈夫だ。会議は以上だ。各自明日に備えて休んでくれ」

 

「では、渡すものを渡しておこう」

 

そういって椿さんに連れて行く幹部メンバー達を見送りながら俺は俺の時間を過ごす事にする。

……俺にとっても未踏の地。久しぶりに緊張するが同時にワクワクもしている。

今、俺にも新たな冒険が始まろうとしている気がしたのだった。




遅れて申し訳ないから、番外?もあげとくね。


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英雄への小さな一歩

番外編。というかベル君冒険編?
この小説を読み返してみて、ベル君がミノタウロスと戦ってるシーンを全カットしたでしょ?
でもせっかくランちゃんとかに鍛えてもらったんだからね。
見せ場あげないとね。
読まなくても本編には問題ないよ。


「あぁ、頑張ったな。もう俺に任せていいからな」

 

そう、あの人は言ってくれた。

グランさん。神様が連れてきてくれた団員。

グランさんは僕なんかよりもずっと強くて、頼りにもなって、仲間に信頼されていて、まるで物語の主人公のような人だと思った。

その人は今も、危機に晒されている僕を助けようとしてくれている。

ダンジョンで急に現れたミノタウロス。僕が敵うはずもない強敵。グランさんに任せてしまうのも仕方ないだろう?

……そんなわけ、あるか!!

 

「ダメです。それじゃあ、ダメなんです」

 

「ベル君?」

 

グランさんの困惑したような声が聞こえる。

仕方ないだろう。グランさんにとったら僕はまだ、守る対象なのだから。

 

「ここで助けられたら、僕は何の為に、グランさんに基礎を教えてもらったんですか?」

 

一人でも戦えるように訓練をしてもらった。

 

「何の為に、ランスロットさんに技を教えてもらったんですか?」

 

生き残る為に技を伝授してもらった。

 

「何の為に、アイズさんに稽古をつけてもらったんですか?」

 

いつかあの人の隣に並ぶ為に、僕は強くなろうとしたんだ!!

 

「逃げたら、ダメなんです。僕は、ヘスティアファミリアの団長なんです。いつまでも、貴方達に支えられたままではいけないんです!!」

 

たとえグランさんでも!このちっぽけなプライドだけは触らせない!!助けられるばかりで何が英雄になりたいだ!!こんな所で、止まっていられないんだから!!!

 

「……そうか。いつの間にかベル君も、心に竜骨を持っていたんだな」

 

「竜骨?」

 

「あぁ、決して折れない、信念って奴だよ」

 

「……はい」

 

竜骨、信念。

あぁ、この人はこうやって仲間に信頼されていたのか。

 

「ベル君。どんな困難な状況であっても、君だけは立ち上がれる。それでもと立ち上がれる漢になってこい!」

 

「はい!!!」

 

まだまだこの人には敵わない。

そう思いながら僕はこの強敵と対峙する。

少しでもこの人達の場所に近づく為に。

 

 

 

改めてミノタウロスと対峙する。

……正直怖い。だけど!

 

「……はぁあああああ!!!」

 

駆け出す身体が軽い。

頭が冴えているのがわかる。

相手は体の大きさを利用した大振りが多い。

当たれば即死。だけど、僕の方が速い。

だから当たらなければ良い。

 

『ヴォオ!』

 

「グランさんの方が、もっと強い!」

 

ミノタウロスが振り下ろす大剣をヘスティアナイフで受け止め流し、その隙にバゼラードで斬りつける。

……くそ、硬い!

ヘスティアナイフなら斬れるだろうか?いや、相手の懐に入るには隙を作るしかない。今の僕にはヘスティアナイフで防御をする事でしか大きな隙は作れない。

 

『ヴゥオオオアア!!』

 

「ベル様!!」

 

ミノタウロスの強力な力で僕の身体が吹き飛ばされる。そこを見逃すはずもなくミノタウロスは追撃を仕掛ける。

 

「まだだ!!」

 

僕の速さを褒めてくれたランスロットさん。

僕の武器にである速さで、ミノタウロスの一閃をなんとか躱す。

……攻めきれない。なら。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

僕の魔法でミノタウロスが怯み叫ぶ。

その隙に離れ体制を立て直すか、それとも攻めてみるか。

……今の僕ならできる!!そのための技を教えてもらったのだから!!

 

「ブレードインパルス!!」

 

風のように駆け抜け飛び上がり、ヘスティアナイフでミノタウロスを斬る。一撃で仕留める為に首を狙ったその一閃。

 

『ヴゥッオオオオ!!』

 

ミノタウロスが犠牲にした右手で防がれる。

だけどそのせいで右手の手首を切り落とせた。

 

「まだだぁあああ!!!」

 

着地した瞬間に全速力でミノタウロスが落とした大剣を受け止めて斬り返す。

重い大剣を振り回す勢いにまかせて何度も斬りつける。たまらず距離を取ろうと暴れ出すミノタウロスに対して僕は落ち着いて距離を取る。

あのまま攻撃を続けていると捨て身の攻撃に出られた時、僕の身体なんて潰されるだろう。

僕も睨みながらミノタウロスは四つん這いになり地面を踏みしめる。おそらく切り札だろう。

ならば僕も、己の全力で相手をする。

 

「あああああああ!!!!」

 

『ヴヴォオオオオ!!!!」

 

お互いの突撃。

僕はミノタウロスの角に大剣を打ち付けるが、砕ける。角には傷もついていない。

ミノタウロスが勝利を確信したのかニヤリと笑った気がした。

だが、まだ僕には手札が残っている。

アイズさんとの訓練で培った経験。

僕はミノタウロスの懐に身体を入れ込みヘスティアナイフを突き刺す。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

ミノタウロスの身体から炎雷が吹き上がり、焼け焦げた身体が散らばった。

 

「……僕の、勝ちだ」

 

意識が朦朧とする。

気を抜けば意識を失うだろう。

だけど最後に、追いつきたい二人がしっかりとこちらを見ているのに気がついた。

グランさん、アイズさん。

僕は、必ず貴方達に追いつきます。

そして、視界が黒に染まった。




本編も番外も短くてすまんね。
フィンブル掘るわ。


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