大日本帝国召喚 (ゼロ総統)
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世界各国 軍事情報
公開可能な兵器/日本編(仮)


現段階で載せられる日本の各兵器の一覧となっております。
作者はあまり詳しくないので、どうかご了承ください。


〈大日本帝国〉

※艦艇で10隻以上ある場合はネームシップのみ表示。

 

『陸軍』

 

・95式戦車

82式戦車を相手にしたとしても圧勝出来るほどの性能と超射程を持つ戦車。重量は多少増えてしまったが、その分強力な攻撃力を手に入れた。

 

・82式戦車

史実の90式戦車に酷似しているが、性能は90式戦車を上回る。現在最新鋭戦車と入れ替わるように退役中。

 

・97式装甲戦闘車

長砲身40mm機関砲を搭載した普通科支援戦闘車両。

 

・76式自走155mm榴弾砲

史実の99式自走155mm榴弾砲とほぼ同性能。

 

・10式対戦車攻撃ヘリコプター“大鷹”

史実のアパッチ・ロングボウやコブラのポジション。

最高速度540kmと超高機動性能と多数の武装を併せ持つ。

 

・89式汎用ヘリコプター“黒鷹”

史実のブラックホークと見た目は同じだが、より高い機動性を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

『海軍』

 

・大和型戦艦

【諸元】

排水量:基準98400t

全長:342.7m 全幅:42.9m

機関:B7N核融合式特型原子炉機関×5

乗員:4510名 最大速力:45.1kt

兵装:50口径48cm3連装電磁衝撃波砲×3基、70口径15.5cm単装速射砲×4基、多目的誘導弾垂直発射装置VLS×96セル、32.4cm3連装短魚雷発射菅×2基、高性能20mm近接機関砲CIWS×4基、遠隔型40mm4連装機関砲×10基、遠隔型40mm単装機関砲×4基、直接型40mm単装機関砲×2基

搭載機:無人偵察機“影虎”×3機

同型艦:「大和─やまと─」「武蔵─むさし─」

備考:2008年から国防の象徴として建造が開始された大日本帝国海軍最後の超弩級戦艦。一部政府関係者からは“金食い虫”と言われているが、性能の高さから国民からは絶大な信頼を得ている。

 

 

 

・紀伊型戦艦

【諸元】

排水量:基準64000t

全長:263.0m 全幅:38.9m

機関:B5N原子力融合炉機関×2

乗員:3200名 最大速力:42.1kt

兵装:45口径46cm3連装複合衝撃砲×3基、60口径15.5cm3連装速射砲×2基、多目的誘導弾垂直発射装置VLS×64セル、高性能20mm近接機関砲CIWS×4基、遠隔型40mm4連装機関砲×6基、直接型40mm単装機関砲×2基

搭載機:零式支援戦闘機×3機

無人偵察機“影虎”×3機

同型艦:「紀伊─きい─」「尾張─おわり─」「駿河─するが─」「近江─おうみ─」「長門─ながと─」「陸奥─むつ─」

備考:長門型戦艦の代役として建造された超弩級戦艦。自慢の46cm砲は朝鮮戦争、湾岸戦争等でその威力を発揮した。

 

・伊勢型支援航空戦艦

【諸元】

排水量:基準34700t

全長:243.9m 全幅:36.5m

機関:SB3N原子力融合炉機関×4

乗員:1540名 最大速力:40.5kt

兵装:50口径40.6cm連装砲×2基、62口径12.7cm単装速射砲×4基、多目的誘導弾垂直発射装置VLS×32セル、高性能20mm近接機関砲CIWS×2基、遠隔型40mm4連装機関砲×4基、遠隔型40mm単装機関砲×2基

搭載機:零式支援戦闘機×3機

99-Ⅱ式戦闘攻撃機“ファルコン”×21機

97式対潜哨戒ヘリコプター“海鳥”×5機

無人偵察機“影虎”×3機

同型艦:「伊勢─いせ─」「扶桑─ふそう─」

備考:大日本帝国海軍艦艇の中で最も古く、太平洋戦争時から数多の改装、近代化改修を経て現在もなお活躍している。退役の時も近いとか。

 

・飛龍型航空母艦

【諸元】

排水量:基準124000t

全長:395.7m 全幅:47.2m

機関:A6N原子力融合炉機関×2

乗員:6470名 最大速力:40.0kt

兵装:多目的誘導弾垂直発射装置VLS×32セル、高性能20mm近接機関砲CIWS×4基、遠隔型40mm4連装機関砲×8基、遠隔型40mm単装機関砲×4基、直接型40mm単装機関砲×2基

搭載機: 零式五二型艦上戦闘機“ゼロ”×6機+3機

99-Ⅱ式戦闘攻撃機“ファルコン”×45機+6機

89式艦上戦闘機“タイガー”×37機+12機

97式対潜哨戒ヘリコプター“海鳥”×15機

無人偵察機“影虎”×6機

同型艦:「飛龍─ひりゅう─」「蒼龍─そうりゅう─」「神龍─しんりゅう─」「国龍─こくりゅう─」「紅龍─こうりゅう─」「雷龍─らいりゅう─」

備考:1隻で小国の空軍力を上回る程の艦載量を誇る原子力航空母艦。六番艦「雷龍」は異世界転移後に就役。

 

・金剛型戦闘巡洋艦

【諸元】

排水量:基準22500t

全長:212.4m 全幅:34.1m

機関:零式ガスタービン機関×8

乗員:455名 最大速力:42.0kt

兵装:52口径30.5cm連装砲×3基、62口径12.7cm単装速射砲×4基、多目的誘導弾垂直発射装置VLS×64セル、高性能20mm近接機関砲CIWS×4基、遠隔型40mm4連装機関砲10基、遠隔型40mm単装機関砲×4基

搭載機:97式対潜哨戒ヘリコプター“海鳥”×1機

無人偵察機“影虎”×2機

同型艦:「金剛─こんごう─」…

備考:砲撃戦を重視した砲戦型巡洋艦。太平洋地域の監視、防衛を主任務としていたが、異世界転移後は多方面に展開している。

 

 

 

 

 

 

『空軍』

 

・99式戦闘攻撃機“隼”

宇宙戦艦ヤマト2199に登場する99式空間戦闘攻撃機コスモファルコンがモデル。20mmバルカン砲2門と40mm機関砲6門、各種ミサイルを主武装とし、空母運用目的や、旧世界での輸出用として幅広く存在する。

 

 

 

 

 

 



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異世界転移
第1話─接触─


─中央暦1639年1月24日午前8時─

 クワ・トイネ公国軍 第6飛竜隊

 

 

 その日は快晴な青空が広がっていた。クワ・トイネ公国軍の竜騎士マールパティマはワイバーンと呼ばれる飛竜を操り公国北東方面の警戒任務についていた。

 公国の東側に国などなく海が広がるばかりであり、特に興味を引くものはないはずだった。

 しかしここ最近ロウリア王国と緊張状態が続いており、軍船による奇襲を警戒するために、彼は相棒を北東方面へと飛ばしていた。

 

「ん?…!な、なんだ!?」

 

 彼は自分以外にいるはずのない空で何かを見つけた。始めは友軍騎かと思ったが、この時間帯に近くを飛行する友軍騎はいないことを思いだす。

 ロウリア王国のワイバーンでは航続距離が圧倒的に不足している。三大文明圏には竜母と呼ばれる飛竜母艦があるらしいが、文明圏外のこの地にいるはずがない。

 やがてそれが近付くにつれそれの正体がはっきりと見えるようになった。

 それは羽ばたくことなく、真っ直ぐこちらに迫っていた。

 

「我、未確認騎を発見。これより要撃し確認を行う。現在地は…」

 

 直ぐに通信用魔法具、通称魔力通信と呼ばれる通信方法を用いて司令部に報告する。

 幸いにも高度差は殆どない。彼は未確認騎と一度すれ違ってから距離を詰めるつもりでいた。

 すれ違い際に見えたその物体は羽ばたくことなく空を飛び、白色の胴体に赤丸が描かれていた。

 

「大きいな…」

 

 彼は反転してワイバーンの出せる最高速度である時速235kmの速度で未確認騎を追撃する。しかし、全く追い付けない。生物の中ではほぼ最強の速度を誇る空の覇者がである(文明圏や列強では品種改良を加えた上位種がいるらしいが)。

 

「くそっ!…司令部!司令部!!我、未確認騎を確認しようとするも速度が違いすぎる、追い付けない!未確認騎は本土マイハーク方面へ進行、繰り返す。マイハーク方面へ進行した!」

 

 その報告を受けた司令部では蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。未確認騎が経済の中枢都市であるマイハークに向かって飛んでくると言う。報告の通りだと既に本土領空に進入しているはずだ。

 

「待機している第6飛竜隊を全騎あげろ!万が一攻撃を受けたら、軍の威信にかかわるぞ!!」

 

 司令部の命令により直ぐ様陸上待機中の第6飛竜隊12騎が透き通るような青い空目掛けて羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 飛び立った第6飛竜隊は運良く未確認騎の正面に正対した。報告にあった通りかなりの速さでこちらに向かってきているのか、小さく見えた未確認騎はみるみるうちに大きくなる。

 

「あれは一体何だ!?」

 

「馬鹿みたいに速いぞ!」

 

 隊員たちは各々の感想を呟く。呆気にとられていた第6飛竜隊長は我に戻ると、魔信で各隊員に指示を飛ばす。

 恐らく攻撃のチャンスは一度きりだ。飛竜隊12騎が横一直線に並び、火炎弾を発射するため口を開ける。

 だが次の瞬間彼らの表情は驚愕の色に染まった。未確認騎が更に上昇を始めたのだ。既にワイバーンの最高高度4000mを飛んでいた彼らにとって想定外の事態であった。

 未確認騎はぐんぐん上昇していき、第6飛竜隊は射程に捉えることなく引き離されてしまった。

 

「我、未確認騎を発見、攻撃態勢に入るも未確認騎は更に高度を上げ、超高々度でマイハーク方面へ進行中、繰り返す…」

 

 

 

 

 

 マイハーク防衛騎士団団長イーネは、第6飛竜隊からの報告を受け、部下に指示を出す。彼女はマイハーク城の片隅にある棟の上から未確認騎が来るであろう方角を睨んだ。

 飛竜でも追い付けないものとは、一体何なのだろうか?その疑問はすぐに変わることとなる。

 

「来たぞー!!」

 

 東方向を監視していた騎士団員が大声で叫ぶ。

 粒のように見えていたそれは、白い騎体で大きく、そして羽ばたくことなく凄まじい速度と高度でマイハーク上空へとやって来た。翼には赤い正円が描かれている。

 

「速いな…」

 

 ワイバーンの最高速度と最高高度を既に超えている。そんな物体に対する攻撃手段は、現時点で存在しなかった。

 その後、未確認騎は何をするでもなく満足したのか北東方面へと飛び去っていった。

 

「歴史が動く…そんな気がする」

 

 そんな彼女の予想は当たることとなる。

 

 

 

 

 

 場所は変わってクワ・トイネ公国政治部会。

 

 

 国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。只でさえロウリア王国の件で大変だと言うのに、更に先日クワ・トイネ公国軍第6飛竜隊の防衛網を掻い潜り、マイハーク上空に進入し旋回してから去っていったとの報告が上がったからだ。

 空の覇者であるワイバーンが全く追いつけない程の速度と高度で進入してきたという。

 国籍は全く不明、機体に赤い丸が書いてあったとの事であったが、赤い丸だけの国旗を持つ国など、この世界には存在しない。

 カナタは発言する。

 

「皆の者、この報告についてどう思い、どう解釈する」

 

 情報分析部が手を挙げ発言する。

 

「情報分析部によれば、同物体は三大文明圏の一つ、西方第二文明圏の大国、ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350kmとの事で、今回の飛行物体は明らかに時速600kmを超えています」

 

 政治部会の誰もが信じられないといった表情を見せる。それではその物体がムーのでなかった場合はムー以上の力を持った国家と言うことになる。

 

「しかも、ムーまでの距離でさえ我が国から2万km以上離れています。極秘に造られていたとしても今回の物体がムーのものであることは考えにくいのです」

 

 会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。

 

 ただでさえロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は首脳部を更に悩ませた。

 

 その時、政治部会に外交部の若手幹部が息を切らして入り込んでくる。通常は考えられない明らかに緊急時であった。

 若手幹部が報告を始める。

 要約すると、つい先程クワ・トイネ公国の北方海域に全長200mクラスの超巨大船が現れたとのこと。

 付近を航行していた第2艦隊所属の軍船ピーマ船長ミドリが臨検を行ったところ、大日本帝国という国の特使が乗っており、敵対の意思は無いことを伝えてきた。

 捜査を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。

 

 

 …大日本帝国という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

 

 …元の世界との全てが断絶されたため、哨戒機により付近の偵察を行っていたところ、陸地があることを発見した。偵察活動の一環として貴国上空に進入しており、その際領空を侵犯したことについては深く謝罪する。

 

 …クワトイネ公国と会談を行いたい。

 

 突拍子もない話に政治部会の誰もが信じられない思いでいた。

 しかし、先日マイハーク上空にあっさり進入されたのは事実であり、200mクラスという考えられないほどの大きさの船も報告に上がってきている。

 国ごと転移などは神話には登場することはあるが、現実にはありえない。しかし、大日本帝国という国は礼節を弁えており、謝罪や会談の申し入れは筋が通っている。

 まずはその外交官とやらを官邸に招致することを決定した。

 

 

 



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第2話─すべてはこの日から─

 すべてはこの日から始まった。

 

 ─西暦1905年5月27日─

 日本海

 

 

 ロシア海軍バルチック艦隊が日本海を北上していると、付近に多数の水柱が上がった。

 指揮官のジノヴィー・ロジェストヴェンスキー中将は日本海軍による攻撃と判断し付近を捜索するよう命じたが、近くにはバルチック艦隊所属の軍艦しか見当たらなかった。

 

 敵の姿が見えたのは、艦隊の半数以上が沈められてからだった。

 その軍艦は目測で200mを超えており、今の時代では最大とされる戦艦の30.5cm砲を上回る巨大な連装砲を4基も搭載した化け物のような戦艦だった。

 史実の現代人が見たらそれは金剛型戦艦に酷似していると考えるだろう。

 

 日本海軍の戦艦の砲弾がロシア海軍戦艦インペラートル・アレクサンドル3世に突き刺さり、バイタルパートを貫通して大爆発を起こした。後方から続く巡洋艦も太平洋戦争時の重巡洋艦並みの性能で砲撃を行う。

 それだけでは終わらない。上空から轟音が聞こえ、見上げるとそこには空を埋め尽くすほどの航空機…戦闘機や爆撃機…低空からは攻撃機がバルチック艦隊へと殺到した。対空装備のないこの時代の軍艦に航空攻撃を防ぐすべはなかった。

 

 結果は巡洋艦数隻を残してバルチック艦隊は全滅、日本艦隊側には1隻の沈没もないと言う完勝であった。

 ここまででわかる通り、日本海軍は既に前弩級戦艦を上回る超弩級戦艦を建造し、更に航空母艦の実用化までしていた。それにはとある理由が存在した。

 

 

 

 

 

 日露戦争が始まる前、1903年に大日本帝国総理大臣である桂太郎の前に1人の少年(・・)が現れたのだ(少女のような顔立ちや背丈、髪型だったので初めは少女であると思ったが後に少年であることを知らされる)。

 

 少年は何処から取り出したかわからないがカレンダーと世界地図を広げとある日時と場所を指差した。

 

 

 6月10日 セルビア

 

 

 少年は話せないのか身ぶり手振りで桂に何かを伝えようとしていたが、桂に伝わることはなく少年は消えてしまった。

 目の前で消えたことにより夢だったかと思った桂であったが、その年の6月10日、セルビア王国で国王アレクサンダル1世・オブレノヴィチと王妃ドラガがクーデターにより暗殺される事件が発生した。

 

 この事件を知った桂は驚いたことだろう。

 そしてその少年は度々現れ、またしてもカレンダーの日時と世界地図のとある場所を指差した。少年の示した日時、場所では必ず大小様々な事件が起きていた。

 

 次第に範囲は狭まっていき、何時しか少年は世界地図でなく日本地図で各地で起こった事件や事故を正確に当てていった。

 

 1903年10月、少年は再び現れた。

 少年は1904年のカレンダーと、今回は世界地図を取り出した。桂が不思議そうに眺めていると、少年はカレンダーのとある日時と、そして二つの国を交互に指差した。

 

 

 2月8日 日本国とロシア

 

 

 桂は瞬時に察した。この日、この時に、日本とロシアの間で戦争が起こるのでは?

 

 桂はすぐさま閣僚を集め、資源の確保や軍備の拡張を行った。だが予言の期限は4ヶ月しかなく、間に合うとは思えない。

 するとまたしても少年が現れた。桂はまた何かを伝えてくれるのかと思い見ていると、少年はいくつかの本や紙を渡してくれた。

 桂がその本や紙に目を通すと、それに載っていたものに目を見開いた。

 

 これは軍艦の設計図(・・・・・・)ではないか!

 

 その日から少年は様々なものを持ってきてくれるようになった。軍事の設計図や工事の本、更に何故かわからないが料理のレシピまで、とにかく多彩なものを持ってきてくれた。

 更に外務省に対露交渉の延期を頼み込み、日露開戦を来年の2月まで伸ばすことに成功した。

 この時点で少年の予言?を大幅にずらしてしまったわけだが、少年はニコニコしていたので問題はないようだ。

 

 結果としては大日本帝国は日露戦争が始まる頃には文明水準を史実の太平洋戦争時並みにまでに引き上げることに成功した。

 これには流石の少年も苦笑していたのが印象的だった。いや、若干引いていたかもしれない。

 

 日本海海戦では最強と言われたバルチック艦隊相手に完勝し、旅順攻囲戦でも史実より被害を押さえることができた。

 日露戦争終結後も少年は何度も現れた。

 ある時は防災訓練や避難訓練関連の本等を持ってきてくれて、関東大震災では死者の数を大幅に減らすことに成功した。

 太平洋戦争でも少年にもたらされた様々な最新兵器や技術によって史実よりも圧倒的に少ない犠牲でアメリカを交渉の席につかせる等の活躍を見せた。

 

 何時しかその存在は国民にも知れわたり、少年は国民から太陽に導かれた奇跡の少年として慕われるようになり、名前がないと不便と天皇陛下自らイズル(・・・)という名前を少年に授けられることとなった。

 

 

 

 

 

 時は進み西暦2012年、内閣総理大臣である今村正義の前に少年…イズルが現れた。今村内閣では初なので今村も緊張した表情でイズルを見つめた。

 イズルはカレンダーを持っていたが地図のようなものは持っておらず、丸が2つ描かれた紙を持っていた。

 

 

 2015年1月20日

 

 

 イズルは日時を示した後に丸と丸を交互に指差した。よく見ると片方の丸には日章旗(・・・)らしきものが描かれていた。

 

「この日本が…何処かへいく?」

 

 今村総理の言葉を聞いてイズルはにっこりと微笑み首を縦に振った。

 それを知った今村総理はすぐさま閣僚会議を開き、資源等の確保に努め、全国各地にいる在日外国人の国外退去や国外に出ている日本人に帰国の指示を出した。

 初めは世界各国も非難を浴びせたが、事情を説明すると様々な面での支援を行ってくれた。

 

 そのお陰もあって2014年8月には国内にいるのは日本人か日本と共に生きたいと言う外国人のみとなり、各種資源も少ないものでも2年は持つほどは集めることができた。

 

 そして2015年1月20日、大日本帝国の空が一瞬明るく光り、そしてまた元の空へと戻った。

 各国と通信がとれず、そして衛星との通信もとれない。大日本帝国は異世界へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべてはこの日から始まったのだ。

 

 

 



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第3話─動乱─

─中央暦1639年3月22日午前─

 

 

 大日本帝国という国と国交を締結してから、1ヶ月が経とうとしていた。クワ・トイネ公国、そして同時に国交を結んだクイラ王国は、今までの歴史上最も変化した2ヶ月であった。

 

 大日本帝国から食糧年間約7500万tというとてつもない規模の受注であったが、大地の神に祝福された土地を有するクワ・トイネ公国は、家畜にさえうまい食料を提供することが出来る程で、種類によっては無理な部分があるも、なんとか大日本帝国側の受注に応えることができた。

 クイラ王国にあっても、作物が育たない不毛の土地だが、大日本帝国の調査によれば地下資源の宝庫であるようで、鉱物や原油といった大量の資源を、クワ・トイネ公国と結んだ通商条約とほぼ同じ条件で輸出することを決定し、更に日本の技術供与を受けて採掘を開始していた。

 

 一方、大日本帝国側はインフラ設備を輸出していた。

 大都市間を結ぶ道路や鉄道設備、これらによって各国の流通が活発となり、今までとは比喩にならないほどの発展を遂げるだろうとの報告も上がっていた。

 各種技術の提供も求めたが、大日本帝国には新たに、『新世界技術流出防止法』と呼ばれる法律が出来たため、中核的技術は貰えなかった。

 

 しかし、いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術(もともと水道技術はあったが、真水ではとても飲めたものではなかった)、夜でも昼のごとく明るくでき、更に各種動力となる電気技術、手元をひねるだけで火を起こせ、かつ一瞬で温かいお湯を出すことが出来るプロパンガス、これだけでも生活はとてつもなく楽になる。

 

 まだ1ヶ月しか経っていないので普及はしていないが、それらのサンプルを見た経済部の担当者は驚愕で放心状態になったという。

 

 国がとてつもなく豊かになる…と。

 

「すごいものだな、大日本帝国という国は…明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国も生活水準において、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 クワ・トイネ公国首相カナタは秘書に語りかける。まだ見ぬ国の劇的発展を、彼は見据えていた。

 

「生活水準のみでなく、恐らく国としても超えられるかも知れませんよ」

 

 秘書はカナタの手元に1つの報告書を置いた。表紙には『大日本帝国軍によるクワ・トイネ公国軍育成計画経過報告書』と書かれていた。

 

 大日本帝国政府はクワ・トイネ公国側の事情を汲み取り、日露戦争時の武器/兵器の輸出を行っていた。大日本帝国クワ・トイネ公国派遣隊指揮の下、クワ・トイネ公国軍は近代化を進めていた。

 

 陸軍は新たに三七式半自動歩兵銃や六四式中戦車といった兵器を運用する歩兵銃連隊や戦車大隊を設立、弾薬等を製造するための工房の建設を急ピッチで進めていた。

 

 海軍は旧式の帆船を順次標的船とし、大日本帝国側から青葉型重巡洋艦1隻、睦月型駆逐艦4隻、丁型海防艦6隻を輸出してもらい、艦を建造するための施設の建設も急ピッチで進められていた。

 

 空の覇者とされていたワイバーンは今後は対地支援用に育成されることとなり、大日本帝国から輸出された一式戦闘機がクワ・トイネ公国空軍として運用されることとなった。

 

 しかしこれらがすぐに戦力化できる訳ではない。輸出できているのはモスボール状態で保存されていたものであり、数が圧倒的に足りない。更に日本側も今では使わなくなった武器兵器の運用方法の教育に苦戦していたりする。

 だがそれもあと数ヵ月もすれば軌道に乗ると予測される。クイラ王国も同様である。

 

「蛮地と蔑まれた辺境国家が文明圏内国、敷いては列強すら凌駕する国に生まれ変わる…なんとも面白いじゃないか。私は年甲斐もなくワクワクしてしまったよ」

 

「えぇ、それに彼らは平和を愛する民族のようですから助かります…彼らの技術、国力で覇を唱えられたらと思うと、ぞっとします。彼ら相手では神聖ミリシアル帝国でも相手になりませんから」

 

 美しい夕日が、穀倉地帯の広がる地平線に落ちる。その向こうにはロウリア王国があった。

 

「公国の未来を守るためにも、速く公国軍の近代化を進めないとな…それまでロウリア王国が待ってくれるといいんだが」

 

 カナタは夕日を見ながらそう嘆いた。

 

 

 

 

 

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

 

 

 ロデニウス大陸の西側半分を占め、人口3800万人にも達する大国、ロウリア王国。

 人間至上主義を唱え、純粋な人間種のみが住まうことを許されている。エルフやドワーフ、獣人族を亜人と蔑み、迫害してきた。

 

 ロウリア王国の首都である王都ジン・ハークの、松明の焚かれる薄暗い城の一室、この部屋で国の行く末を決める重要な会議が行われていた。

 王の御前会議である。

 

 ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世を筆頭に、宰相のマオス、王国防衛騎士団将軍パタジン、三大将軍のパンドール、ミミネル、スマーク、そして王宮首席魔導師のヤミレイ。その他国の主要な幹部達も勢揃いしていた。

 

 パタジンは自信に満ちた口調で作戦の説明を行う。

 

「説明致します。今回の作戦用総兵力は50万人、本作戦では、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は40万、残りは本土防衛用兵力となります。

 クワ・トイネについては、国境から近い人口10万人の都市、ギムを強襲制圧します。兵站についてですが、あの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯をたべておりますので現地調達いたします。

 ギム制圧後、その東方250kmの位置にある首都クワ・トイネを物量をもって一気に制圧します。

 彼らの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です。

 それと平行して、海からは艦船4400隻の大艦隊にてマイハーク港に強襲上陸し、経済都市マイハークを制圧します。

 クイラ王国はクワ・トイネ公国を制圧してからでも遅くはありません」

 

 パタジンの説明を聞いたロウリア王は満足そうにうなずく。

 

「その両国と関係を持った大日本帝国とやらはどうする」

 

「はっ!情報はあまりありませんが、ワイバーンのいない蛮国だと思われます。気が向いたときにでも攻め滅ぼしてやります」

 

「そうか…今宵は我が人生で一番良い日だ!世は、クワ・トイネ公国、クイラ王国に対する戦争を許可する!!亜人共とそれを匿う愚か者共を根絶やしにしてやれ!!!」

 

「オオォオオーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 クワ・トイネ公国日本大使館

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 クワ・トイネ公国側の外交官ヤゴウの喜びを含んだ声が響き渡った。

 本来ヤゴウはロウリア王国が公国に侵略してくることがほぼ確実となり、食料の輸出が困難になることと、可能であれば援軍を送ってほしいことを伝えにやって来たのだが、田中大使の口から彼の望んだ答えが帰ってきたのだ。

 

「はい。我が大日本帝国政府は友好国であるクワ・トイネ公国とクイラ王国が侵略の危機に瀕していることを知り、友人を守るべく、クワ・トイネ公国派遣隊やクイラ王国派遣隊の他、陸軍から第7師団約7000人が、海軍から1個任務艦隊14隻が、空軍からも2個飛行隊16機が軍事支援のためにそちらに向かう予定です」

 

 数だけ見れば少ないが、ヤゴウは大日本帝国に使節団として派遣されたときに日本軍の強さを見ているため、これ数でも公国は救われると安堵の笑みが零れる。

 

「その為にもクワ・トイネ公国派遣隊駐屯地の拡張工事を行いたいのです。お手数をお掛けしますが、お伝え願えますか?」

 

「勿論です!必ずお伝えします!!」

 

 この事はすぐさま公国政府に伝えられ、首相カナタは拡張工事を許可し、クワ・トイネ公国軍全軍に大日本帝国軍を全力で支援するよう指示を出すのだった。

 

 

 



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第4話─鋼鉄の艦隊─

─中央歴1639年4月25日─

 マイハーク港

 

 

 遂にロウリア王国が4000隻以上の大艦隊を出向したという情報を受け、マイハーク港を母港とする帆船を主力としたクワ・トイネ公国海軍第2艦隊と大日本帝国から譲り受けた艦艇で編成された新生第1艦隊が出向の準備を行っていた。

 だが新生第1艦隊は習熟訓練が終わっておらず、艦船の数はおよそ55隻と、4000隻を超える圧倒的物量を前に心もともない。だが彼らにも希望は残されていた。

 彼らが見つめる先、マイハーク港沖合いには大日本帝国海軍派遣任務艦隊が停泊していた。

 

 大日本帝国海軍派遣任務艦隊

伊勢型戦艦:伊勢

飛龍型航空母艦:飛龍/旗艦

金剛型戦闘巡洋艦:榛名、霧島

村雨型巡洋艦:村雨、阿武隈、夕霧、鞍馬

磯風型駆逐艦:磯風、島風、浜風、雪風、晴風、旗風

…計14隻

 

 これが今回の派遣艦隊である。14隻と数で言えば少ないが性能は圧倒的である。

 

 

 伊勢型戦艦は大日本帝国で古参に入る戦艦で、正式名称は伊勢型支援航空戦艦。基準排水量3万4700t、全長にして243mの巨艦である。50口径40.6cm連装砲2基を主砲とし、後部甲板には支援戦闘機やヘリコプターが運用できるよう装甲が施されている、要は航空戦艦である。何故このような設計にしたのか担当者に問い合わせたところ…「こうしなくてはいけない気がした」…と意味不明な回答が帰ってきた伝説がある。

 

 

 飛龍型航空母艦は所謂原子力空母であり、その性能はアメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級を遥かに上回る。基準排水量12万4000t、全長395m、艦載機はヘリを含めて約130機と単艦で1国の空軍力を上回りかねない航空戦力を保有している。

 今回の派遣では戦闘機の数を最低限とし、格納庫に大量の10式対戦車攻撃ヘリコプター“大鷹”を搭載していた。

 

 

 金剛型戦闘巡洋艦はミサイル戦より砲撃戦を強く想定した艦艇である。基準排水量2万2500t、全長212mと大型で主砲も52口径30.5cm連装砲を3基搭載しており、ミサイルの搭載量は少ないが、ある程度対空装備は充実している。戦艦よりも低燃費で重宝されている。

 

 

 村雨型巡洋艦はミサイル戦を想定したミサイル巡洋艦であり、イージスシステムの発展型である天之川システムを搭載した戦闘艦である(大日本帝国海軍の巡洋艦/駆逐艦は全て天之川システム搭載艦である)。基準排水量1万4000t、全長184mと大型なのは天之川システムが大規模だからである。

 

 

 磯風型駆逐艦は他の艦種の最高速度が40~42ktなのに対し、最大で54ktもの速度で航行することができる高速艦である。基準排水量8500t、全長170mと大型で、旧世界の艦艇が対等に相手をするなら2~3隻は必要とまで言わしめている。

 

 

 この通り性能差は圧倒的であり、僅か14隻でも十分であると結果が出ていた。

 この前今村総理がイズルにこの話をしたところ、全力でドン引きされたと落ち込んでいる映像が全国に流れ、なんとも言えない空気が流れたのは記憶に新しい。

 

 そんな艦隊はクワ・トイネ公国海軍に先駆け出向した。

 

 

 

 

 

 ロウリア王国海軍艦隊4400隻は、クワ・トイネ公国に向かって航行していた。

 

「いい景色だ。美しい」

 

 ロウリア王国東方討伐海軍 海将シャークンが呟いた。

 大海原を美しい帆船が風をいっぱいに受け進む。その数4400隻、大量の水夫と揚陸部隊を乗せ、彼らはクワ・トイネ公国の経済都市マイハークに向かっていた。

 

 6年間パーパルディア皇国からの軍事援助を受けてようやく完成した大艦隊、更には旧式とはいえ戦列艦を入手することができた。

 

 クワ・トイネ公国とクイラ王国にこの大艦隊は止められない!!

 彼は東の海を見据えた…そして何かを発見した。飛竜ではないそれは異様な音をたててこちらに近付いてきた。

 

「こちらは大日本帝国海軍だ。お前達はクワ・トイネ公国の町ギムで残虐な虐殺行為を行った。これ以上の虐殺行為は認められない。速やかに祖国へと引き返せ!繰り返す…」

 

 飛竜でないそれには人が乗って話をしているら

しい。大日本帝国と呼ばれる国の外交官を宰相が門前払いした話はシャークンも聞いていた。だが本当に政治部のいった通りの蛮族なのだろうか。

 やがてそれに弓矢が放たれるとそれは東の空へと飛び去っていった。

 

 しばらくすると海の向こうから小島が見えてきた…いや、あれは動いている、まさか船なのか。

 

「最後の警告だ、直ちに引き返せ!繰り返す、直ちに引き返せ!!」

 

 それに答えたのは右側先頭を航行していた戦列艦の砲撃だった。

 80門級戦列艦の放った40発は殆どが外れたが奇跡的に3発が駆逐艦浜風に命中した。

 砲弾は全て浜風の装甲に弾かれ全く影響はなかったが、すぐさま戦列艦の射程距離から離脱した。

 

「砲撃が通じないだと!?しかもデカいくせに風を受けずにあれほどの速度が出せるのか…」

 

 シャークンの胸中に不安がよぎる。

 そんなことを知らない水夫達は浜風が逃げたと思い馬鹿にし野次を飛ばすが、それは直ぐに終わることとなる。

 

「攻撃を受けた!これより攻撃を開始する。目標、右舷前方の水上船、主砲─撃ち方、はじめ!」

 

 浜風の甲板前方に設置された主砲が目標の戦列艦を捉え、12.7cm速射砲が火を吹いた。

 

 海戦の火種は切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

「速射砲撃ち続けろ!あと数分で他の艦艇が射程距離に入る!それまでに出来るだけ多く撃破せよ!!」

 

 浜風艦長の口から過激な言葉が連発されるが、慣れているのか乗員もそれにのっかる。

 浜風の主砲が火を吹く度に戦列艦、軍船が大爆発を起こす。中には戦列戦の砲弾等が保管されていた場所に砲弾が打ち込まれ、木っ端微塵に吹き飛ぶ船もあった。

 

「こちらCIC、未確認機が多数接近中!数は350!敵の増援のワイバーンと思われます!」

 

「そら獲物だ!対空戦闘よーい!!」

 

 艦長の指示により浜風のVLSハッチが開放され、発展型シースパローが発射される。

 後方からも駆逐艦や巡洋艦から発展型シースパローとSM-6が発射される。

 次々に放たれた対空ミサイルによってワイバーンは瞬く間に数を減らしていき、一通りの嵐が去ると、ワイバーンは数を350騎から40騎まで減らしていた。

 ワイバーンが突撃しようとしたとき、艦の主砲がワイバーン目掛けて発射された。1発で1騎が落とされていく。最後の1騎も浜風の主砲によって落とされていった。

 ワイバーンを片付けたら残るは脅威にならない帆船だけだった。

 

 駆逐艦や巡洋艦から放たれる12.7cm砲弾と15.5cm砲弾が木造の帆船を次々に撃破していく。戦艦伊勢と戦闘巡洋艦の主砲からは対空主砲弾が放たれ、帆船の上空で無数の子弾となって降り注いだ。

 更に空母飛龍と戦艦伊勢から10式対戦車攻撃ヘリ“大鷹”が飛び立ち、バルカン砲やロケット弾で1隻づつ破壊していく。

 

 ようやくロウリア王国海軍艦隊が撤退した頃には、4400隻もいた艦隊は今や1100隻にまで減らされ、海将シャークンは乗船していた旗艦に砲弾が直撃し、爆発の衝撃で海に投げ出され、その後日本海軍に救助されたのだった。大日本帝国海軍の大勝利である。

 

 

 これが後に『ロデニウス沖大海戦』と呼ばれるのだった。

 

 

 



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第5話─2カ国共同戦線─

 城塞都市エジェイ

 

 

 城塞都市エジェイにはクワ・トイネ公国軍西部方面師団約30000人が駐屯しており、クワ・トイネ公国の主力と言ってもよかった。

 その為ここエジェイには優先的に輸入した兵器等が配備されていた。

内訳は、ワイバーン50騎、騎兵3000人、弓兵6500人、銃装歩兵350人、砲兵100人、戦車兵50人、歩兵2万人という大部隊である。

 本来対空用に訓練されたワイバーンは、対地支援用に訓練されたワイバーンと入れ替わり、後方で対地支援用へと再訓練されることとなっている。

 今回はこれに大日本帝国陸軍第7師団約7000人が援軍で加わることとなった。

 

「大日本帝国陸軍、第7師団長の大内田です」

 

「クワ・トイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。此度の援軍、誠に感謝いたします」

 

 お互いに握手を交わし、今後についての作戦会議を始めた。

 日本軍の幹部が説明を始める。

 

「現在城塞都市エジェイの西側約5kmの地点にロウリア王国軍約2万が布陣しており、幸いにもこちらの砲の射程圏内にあります。今回我々は特科連隊と公国軍砲兵隊による先制砲撃で敵軍を撹乱、砲撃後に戦車大隊と公国軍戦車隊で敵陣に突撃、その際に対戦車攻撃ヘリ中隊とワイバーン部隊で対地支援を行います。必要に応じて普通科部隊と公国軍歩兵部隊を投入していきます」

 

 日本軍幹部の説明に公国軍側の将兵が訪ねた。

 

「ロウリア王国軍のワイバーン部隊が出てきた場合はどうする?」

 

「問題ありません。敵のワイバーン部隊が出てきた場合に備えて空軍の戦闘攻撃機隊が直掩任務に付く予定です」

 

 それを聞いて満足したように将兵はお礼を言って下がった。

 

「ギムの町で無惨に虐殺された者達の弔合戦だ!これ以上奴等の好きにさせては断じてならない!諸君、奴等に我々の底力を見せつけてやれ!!」

 

 その後、両軍は僅か3時間という異例の早さで全ての準備を完了し、ロウリア王国軍と衝突するのだった。

 

 

 

 

 

 ロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万の兵は、特に敵勢力と遭遇することなく城塞都市エジェイの西側約5kmの位置まで進軍した。

 指令ではあと2km先の地点まで進める必要があったが、嫌な予感がしたため、ジューンフィルアは深入りを避けて野営をすることにした。だがそれでも彼の嫌な予感が無くなることはなかった。

 

「こんなことは初めてだ…やはりもう2,3km離れた位置で野営をするべきだったか」

 

 ジューンフィルアは部隊の移動を伝えに行こうとしてふと立ち止まった。頭が冴え渡る。

 波のない湖に一滴の水滴が落ち、波紋がすぅっと広がっていくかのような不思議な感覚がジューンフィルアの脳に痺れをもたらした。

 その直後、野営陣地の真ん中が大きく爆発し土煙が上がる。

 猛烈な爆発は1度だけでなく何度も立て続けに起こり、その場にあった土と、不運にもそこにいた人間だったものを空へ放り上げる。

 

「な、何が…何が起きている!!?」

 

 現実離れしたその光景を前にジューンフィルアは叫ぶも、答える者は誰もいない。

 しばらくすると、永遠に続くかと思われた爆発はパタリと止んでいた。

 自分の手には負えないと判断したジューンフィルアは、本隊と合流しようと生き残った兵士に指示を出そうとした時、東から低い唸りを上げて、角ばった体に角を生やしたものや、上半分が丸まった、これもまた角を生やしたものがこちらにやって来るのが見えた。

 

「馬鹿な!あんな魔獣見たことないぞ!!」

 

 ジューンフィルアが魔獣と称した物体は、公国陸軍に提供された六四式中戦車と日本陸軍の82式戦車である。

 

 

 六四式中戦車は史実のT-34-85に見た目が酷似しているが、性能はそれを軽く上回り、2015年現在でも朝鮮連邦が未だに主力として運用していたりする。

 

 

 82式戦車は1982年に正式採用された国産戦車で、見た目は史実の90式戦車とほぼ同じで、性能は90式を上回るが、現在日本陸軍の保有/運用する3種類の中で一番古く、順次退役する中この世界に召喚され一時延期、現在34台が未だに運用されている。

 

 

 その2種類の戦車は、砲撃を免れた天幕や人の密集している場所に砲撃を行っていく。

 砲撃を受ける度に何十人もの兵士が一瞬のうちに絶命する。

 それだけには留まらず、上空からは10式対戦車攻撃ヘリ“大鷹”の編隊と公国軍ワイバーン部隊がロケット弾と火炎弾で地上の敵兵を殲滅していく。

 砲撃を免れて飛び立ったワイバーンも、直掩任務に着いていた99式戦闘攻撃機の20mmバルカン砲の攻撃を受けて、肉片となり落ちていく。

 

「こんなのは戦争なんかじゃない!只の虐殺ではないか!!こんなものが…こんなものが戦争であってたまるかぁぁ!!!」

 

 そう叫んだジューンフィルアは、押されたような衝撃の直後に浮遊感を味わう。自分の手足がバラバラに吹き飛んでいく光景を最後に、彼の人生は120mm砲弾によって幕を閉じた。

 

 この戦闘によりロウリア王国軍東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万人は、2カ国の連合軍の攻撃によって全滅した。

 

 

 

 

 

 丁度その頃、ロウリア王国東方征伐軍本隊は日本空軍第503爆撃飛行隊による広域爆撃を受けていた。

 日本空軍の保有する77式重爆撃機は250kg爆弾を最大で28発搭載可能な重爆撃機であるが、5年後には全機退役予定である旧式機だ。

 

 77式重爆撃機から投下された250kg爆弾はロウリア王国東方征伐軍本隊を容赦なく破壊していく。

 ワイバーンが迎撃のために飛び立つも、高度1万mを飛行する77式に追い付けるはずもなく、護衛の99式戦闘攻撃機によって撃墜されていった。

 

「こんなもの…勝てるわけないではないか」

 

 将軍パンドールは絶望の表情を浮かべ、空を我が物顔で飛び回る爆撃機を眺めていた。

 既に軍の7割は消滅、こちらから防ぐ術は残されていなかった。

 

 だが死神は彼だけを見逃すようなことはなかった。

 ゆっくりと自分の人生の終わりを告げる片道切符が、あの世が近づく。

 そして次の瞬間には灼熱の業火が彼を襲う。

 それは一瞬の出来事だった。

 将軍パンドールは光と共にこの世を去った。

 

 将軍パンドールは戦死、ロウリア王国東方征伐軍本隊は壊滅し、生存者は偵察任務に付いていたため爆撃を免れた竜騎士ムーラ他数名の竜騎士のみであった。

 

 

 



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第6話─ジン・ハーク攻略戦─

─中央暦1639年5月10日─

 クワ・トイネ公国政治部会

 

 軍務卿から要請を受けて、首相カナタの権限のもと、緊急政治部会が開かれることになった。

 もちろん、対ロウリア王国の防衛戦争についてが議題である。

 

「日本が参戦してからは連戦連勝、特に陸軍に関しましては城塞都市エジェイで日本軍と共同戦線を張り、見事ロウリア王国軍を撃退することに成功しています」

 

 陸軍幹部の報告を聞いて会場が色めき立つ。自国軍が活躍したことが嬉しいのだ。

 首相カナタが手を挙げて会場を静まらせる。

 

「手元の資料を見てほしい」

 

 議員達のもとに資料が配布される。

 

『ロウリア王国首都攻略作戦案』

 

 資料にはそう書かれていた。

 

「日本は我々とクイラ王国との多国籍軍を結成、ロウリア王国王都ジン・ハークを強襲、ロウリア王を捕らえてこの戦争を終わらせるつもりです。多国籍軍の結成については我々の練度向上が目的であると考えられます」

 

 会場がざわつき始める。

 

「我々にも華を持たせてくれると言うのか」

 

「思いやりの精神…なのだろうな」

 

「良いのではないか?こちらからしては得しかないのだし」

 

 その後、政治部会は全会一致で日本の提案に参加することを決定した。

 クワ・トイネ公国は戦車隊を中心とした機甲部隊を、クイラ王国は重迫撃砲を主装備とした砲兵機動団を派遣したのだった。

 

 

 

 

 

─中央暦1639年5月20日─

 

 その日、ロウリア王国王都ジン・ハークは混乱の極みに堕ちていた。

 王都の北側第1城壁から約4kmの地点の平野部に大規模な軍勢が展開していたのだ。

 もちろんそれは大日本帝国、クワ・トイネ公国、クイラ王国の多国籍軍である。

 

「全軍、配置に着きました。いけます」

 

「よし…全軍、作戦開始!!」

 

 本作戦指揮官の大内田陸将の合図で特科連隊の76式自走155mm榴弾砲と、クイラ王国軍砲兵機動団の重迫撃砲が轟音とともに射出される。

 砲弾は城門に食い込むと、内部でその威力を解放した。北側の第1城門は重迫撃砲が完全に破壊し、第2城門も155mm榴弾の直撃を受けて瓦礫となる。

 破壊した城門から戦車大隊所属の82式戦車とクワ・トイネ公国軍戦車隊が突撃する。

 侵入者を排除しようと近づいたロウリア兵を車載7.62mm機関銃で薙ぎ払っていく。

 

「第1城壁内北側を制圧、現在そこを拠点に防衛線を設置し、時間を稼ぎます」

 

「よし!後は空挺連中の仕事だ。俺達は1秒でも多くの時間を稼ぐぞ!!」

 

 大内田が活を入れた丁度その頃、第1空挺団と警視庁警備部警備第1課の特殊部隊SATを乗せた89式汎用ヘリコプター“黒鷹”が、ハーク城上空に侵入していた。

 あらかじめ作戦で定められていた場所まで移動し、ヘリから空挺隊員とSATが速やかに降下する。

 近衛隊は空からの奇襲に度肝を抜かれ、対応が遅れてしまい、次々と各個撃破されていく。

 

 途中、側面から奇襲されたり、大型の金属盾を持った兵士が立ち塞がったが、銃を装備する空挺隊員達の前には無力だった。

 

 精鋭精強、最大最高、それが大日本帝国陸軍の誇る第1空挺団である。

 

 

 

 

 

 第零近衛隊長ランドは日本軍の進軍速度に驚きつつも部下に柱の裏に隠れるよう指示を出す。

 

「念には念を…か。おい!」

 

 ランドは王の控え室前に待機していたメイド2人を呼びつけ、謁見の間と王の間を繋ぐ扉から5mほど離れた位置に、並んで立つよう指示した。

 メイド2人が扉の前に立ったのと同時に、勢いよく扉が開かれ、空挺隊員が雪崩れ込んできた。

 

「やぁ皆さん、よくぞいらっしゃいました。近衛隊大隊長のランドともうします。…私と少しお話をしませんか?」

 

「残念ながら、あなたとゆっくりと話している時間はない。敵意がないのであればすぐさま武器を捨て、地面に伏せろ。でないと、その額に風穴が開くことになるぞ?」

 

 第1空挺団の中野中隊長が銃を構えたまま警告する。

 時間稼ぎは無理そうだと悟ったランドは、メイド2人に伏せるよう指示を出してから剣を捨て、その場に伏せた。

 

「柱の後ろにも人がいるな?」

 

「さすがに鋭いな…アルファ小隊!剣を捨て彼らの言う通りにしろ!」

 

 柱の裏から12人ほどが出てくる。彼らは中野の命令に従い、武器を捨てて、大の字でうつ伏せになる。

 

「王はこの先だな?」

 

「そうだ。しかし、王は我々の光なのだ…行かないでほしいと頼んでも、無理なのか?」

 

「…残念だが、それはできない」

 

「では仕方がない」

 

 ランドは手の内に隠していた煙幕用の魔法陣を発動させた。王の間を真っ白な煙が覆い尽くす。

 

「アルファ小隊!ベータ小隊!突撃せよ!!」

 

 近衛隊員達は煙に紛れて、第1空挺団に襲いかかった。

 ランドも立ち上がり、剣を手に取って中野に斬りかかった。

 

「イイいやぁぁぁーッッ!!!」

 

 気合の籠った声とともに剣が振り下ろされる。

 取った!ランドはそう思った。だが相手が悪かった。

 

ーーカキィン!

 

 火花が散り、金属がぶつかる音がする。

 中野は第1空挺団の中隊長としての実力を発揮する。

 鞘から抜いた愛刀の軍刀でランドの剣劇の威力を斜め下方に受け流し、そのまま目にも止まらぬ早さでランドの首を討ち取った。

 

 周りでも空挺隊員は銃ではなく軍刀で応戦していたが、精鋭精強である第1空挺団は第零近衛隊を軽々と撃退した。

 

「ランド。中々の腕前だった…これより王の控室に突入する!」

 

 中野の指示により、彼らは王の控室の扉を開けた。

 

 

 

 

 王の控室

 

 そこでハーク・ロウリア34世は絶望していた。

 屈辱的な条件を飲んだ末に受けた列強の支援。旧式とはいえ戦列艦も何十隻と手に入れ、ワイバーンもかなりの数を揃えた。50万もの陸上戦力を揃えるのも苦労した。

 だが、それらはすべて壊滅的被害を受けた。4400隻の艦隊は先の海戦で7割以上が沈み、残りも港で日本の巨大軍船にすべて沈められた。

 ワイバーン部隊も全滅した。悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない。

 敵はもうそこまで来ている…もう…どうしようもない。

 

 扉を蹴破る音とともに、緑色の斑模様の奇妙な軍勢と、紺色の服を基調とした兵が雪崩れ込んできた。

 手には魔法の杖のようなものを持ち、変わった剣を帯剣している。

 王の脳に、古の魔法帝国、魔帝軍のお伽噺が浮かぶ。

 

「貴様等…まさか魔帝軍か!?」

 

 ハーク・ロウリア34世は恐怖に震えながら訪ねた。

 

「魔帝軍がなんなのかは存じませんが…日本国警視庁の青木といいます。あなたはクワ・トイネ公国のギムにおいて、大量虐殺を指示した罪で逮捕状が出ています」

 

 ロウリア王の両手に手錠がかけられた。

 こうして、ロウリア王国とクワ・トイネ公国、クイラ王国の戦争は終結した。

 

 ロウリア王が逮捕され、ロウリア王の一人娘であるローラが女王となり、今後王家は象徴として存続することとなった。

 ロウリア王国は日本主導のもと、民主主義へと移行していくのだった。

 

 

 



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閑話集①
閑話─もう1つの大帝国─


 グラ・バルカス帝国 通称『第八帝国』 情報局

 

 

 並べられた電気式受信機に、電子音が連続して鳴り響く。現代の者がその音を聴けば、信号形式は違えど、モールス信号と思うだろう。

 

「閣下、ロデニウス大陸の情報について、現地から報告が届きました。ロウリア王国のクワ・トイネ公国並びにクイラ王国への侵攻は、大日本帝国の介入により失敗。王家は象徴となり、ロウリア王国は民主主義に移行しつつあるとのことです」

 

「何!?」

 

 いつもは概要を聞くだけで納得し、仕事は部下に任せて責任は自分が取る、閣下と呼ばれた将軍の片眉が吊り上がる。

 

「本当か?その報告に嘘偽りはないか?」

 

「間違いありません、他の諜報員からも同様の報告が上がってきています」

 

 その言葉を聞いて、将軍は冷や汗を流す。

 

「まさか、そんな事が…アレナ様はこの世界でも的中させるのか」

 

 将軍は1人そう呟いた。

 

 将軍が言うアレナとは、数年前からグラ・バルカス帝国内に現れるようになった人物である。

 アレナは度々国政会議の場に現れては、信じられないような予言を残し、姿を消していた。信じられないことに、その予言は尽く的中し、グラ・バルカス帝国を救うほどの功績も残している。

 アレナという名前は、帝王グラルークスから直々に授けられた名前である。

 

 そして、今回の件に関しても、アレナは帝前会議の場で予言しており、その予言が今、的中したことが報告された。

 

「流石アレナ様ですね。おかげでレイフォル国の保護国であるパガンダ王国で皇族の御方を失わずに済んだのですから」

 

「あぁ、そうだな…しかしそうなると、あれすら本当なのかもしれんな」

 

 今回アレナの予言はこうであった。

 

 

『ここより遥か東、太陽の下に集いし国、大日本帝国。彼の国、我が方を凌駕せし力を持って、強大な闇を屠り去るだろう』

 

 

 予言を思いだし、将軍は速やかに上層部にこの事を伝えにいくのだった。

 

 

 

 

 

「この世界は我々に何を求める?」

 

 帝王グラルークスは、まるで自問自答するように呟いた。

 国ごと異世界に転移するなどという、バカげたことが現実となった。

 前世界『ユクド』と呼ばれた星で、最大の勢力を誇ったグラ・バルカス帝国。

 前世界では始世の国、エーシル神を祀りし『ケイン神王国』と世界を二分し、戦争を行っていた。

 資源力、生産力、そして軍事力。そのどれを比べても、グラ・バルカス帝国が勝利することは、誰の目にも明らかだった。

 

 そんな時、グラルークスの前に一人の少女が現れた。もしも、日本人がその少女を見たら、髪の色が違うイズルだと思うだろう。

 

 少女は語る。

 

 

『今より7日の時が経つとき、我らは小さき力を、そして多くの命を失うであろう』

 

 

 少女はそれだけ言うと、姿を消してしまった。

 グラルークスは戯れ言と判断し、簡単に侵入を許したとして、警備担当の者を処罰した。

 

 だが、それから丁度7日後、グラ・バルカス帝国海軍の哨戒任務中の駆逐艦隊がケイン神王国の主力艦隊と遭遇し、全滅させられる出来事が起きた。

 

 グラルークスはこの出来事を偶然と考えたが、その後も少女は何度も現れては、未来を予言して姿を消した。

 最近ではお茶なんかもしているが、前は本当にすぐ消えていたものだ。

 

 グラルークスは、少女の力が本物であることを認め、その存在を国民に公表した。

 

 最初は疑った国民も、すぐに少女の力を実感し、少女は国民に受け入れられていった。

 

 そしてある日、少女は現れた。

 

 

『星が太陽を1周するとき、我々は本土と共にこの星を離れ、未知なる星へ赴くだろう。いそげ、時は待ってくれぬぞ』

 

 

 それを聞いたグラルークスや政府は速やかに世界各地に展開していた軍を本土に帰国させ、食料や資源を根こそぎ本土へと運んだ。

 その結果、帝国は転移するまでに全ての準備を終えることができたのだ。

 

 帝王グラルークスは先日の予言について考える。

 

「日本…我らを凌駕する力を持つ国か…おい」

 

 近くにいた側近に指示を出す。

 

「直ちに大日本帝国に使節を送り、接触するのだ。予言の通りか、その力を確かめさせよ。結果によっては、日本との同盟も視野に入れてよい」

 

 側近は驚いたような表情を見せたが、すぐにこの事を伝えるべく動き出すのだった。

 

 数日後、グラ・バルカス帝国使節団は、ある程度の海上戦力を護衛につけて、大日本帝国に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯車は静かに、狂い始める。

 

 

 



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閑話─神話の調査─

今回はとても短いです。


 日本国首都 東京都

 

 

 夏も終わり、少し肌寒くなり始めた頃、首相官邸には今村総理以下閣僚、政府関係者が集められていた。

 そんな中にひっそりと紛れ込むかのように、考古学者である中村の姿があった。

 

「中村先生、お願いします」

 

 今村総理がそう言うと、中村は手元の資料を捲りながら話し始める。

 

「クワ・トイネ公国にあるリーンの森に、過去に魔王を打倒したと言われる太陽神の使いの船が保管してありました。我々調査団はそこで、信じられない物を発見しました。それがこれです」

 

 助手の寺坂はプロジェクターを操作し、1枚の写真を写し出した。

 

「な、なんだと!?」

 

「そんなことが!!」

 

 参加している関係者は驚きの声をあげた。

 写し出された写真は、70年以上前に日本海軍航空隊が運用していたレシプロ戦闘機、『零式艦上戦闘機21型』のそれに酷似していた。

 今村も興奮した状態で尋ねる。

 

「まさか過去に我が国の軍が、この世界に来ていたと言うのですか?」

 

「私も初めはそう考えたのですが、実はそうではないようなのです」

 

 中村の言葉に首を傾げる今村達に、調査団に同行した防衛省職員が説明する。

 

「この零式艦上戦闘機21型…これからは零戦と言いますが、調査の結果、我々が保有した零戦よりもかなり性能が悪いようで、最大速度も533と少しで、どちらかというと、第一次世界大戦時に我が国が保有した九七式艦上戦闘機と同レベルです」

 

「と、いいますと…」

 

「はい。この零戦は我々とは異なる日本、平行世界やパラレルワールド等と言われる日本の物ではないかと考えられます」

 

 ザワザワ…。

 会場がざわつきだす。

 自分達以外の日本が存在し、その軍が過去のこの世界に来ていたことは、政府関係者や軍事関係者に衝撃を与えるには充分だった。

 中村が話を続ける。

 

「他にも、この零戦のパイロットの所持品であろう物が、幾つか見つかっています」

 

 操縦席から日誌が見つかり、様々な情報が手に入った。パイロットの名前は、佐々木 尚文1飛曹。正規空母赤城航空隊に所属。家族構成は妻と息子が1人等…。

 そして中村は、驚くべき真実を告げる。

 

「こちらをご覧ください」

 

 プロジェクターに別の映像が写し出される。それは白黒写真を撮ったものであり、その写真にはパイロット姿の男、この男が佐々木1飛曹なのだろう。隣には妻らしき女性も写っていた。

 そして、その2人に挟まれるように立つ少年を見て、その場にいる全員は絶句した。

 

「こ…この子は…っ!?」

 

「はい、間違いないでしょう」

 

「そんな…バカな…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故、イズル君が写っているのだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本国東京都 靖国神社

 

 

 九段坂の坂上に東面して鎮座し、日本の軍人、軍属等が主な祭神として祀られている。境内は桜の名所として知られる他、大鳥居が東に向いている、数少ない神社の1つである。

 

 

 その靖国神社の前に、イズルは立っていた。

 

 

 イズルはただ目を閉じ、頬に当たる、優しく、そして力強い風を感じ取っていた。

 

(…もう二度と…失いたくない)

 

 少年イズルは固く心に決意し、何時ものように光の粒子となって、姿を消したのだった。

 

 

 



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激突、パーパルディア皇国
第7話─軍祭─


─中央暦1939年9月2日─

 フェン王国

 

 

 この国には魔法がない。

 国民全員が、必修教育として剣を学ぶ。

 剣に生き、剣に死ぬ。どんなに見下されるような出生でも、強い剣士は尊敬され、どんなに見た目が良くても、剣が使えない者、弱い者はバカにされる。

 

 その国の首都アマノキに大日本帝国の使節団は訪れていた。外交官の島田は、いつも以上に落ち着いた態度を心がける。

 

「なんというか…身が引き締まるな」

 

 国中の空気が張りつめているような、厳格な雰囲気が漂っている。まるで『武士の治める国』、というのが使節団職員の持った感想だった。生活水準は低く、国民は貧しい。しかし精神の発達は高く、誰もが礼儀正しい。日本の武士道のようなものが、そこにはあった。

 大日本帝国の使節団は、王城の一室に案内される。

 

「剣王が入られます」

 

 側近が声をあげ、襖を開いた。使節団の職員は立ち上がって礼をする。

 飾らない王、それが剣王シハンに対する最初の印象だった。

 

(ほぅ…)

 

 陸軍から派遣された護衛の小林は、剣王の身のこなしから、おそらく第1空挺団の大隊長クラスの実力者であることを見抜いた。

 

「そなた達が、日本国の使節か」

 

「はい…貴国と国交を締結したく、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」

 

 剣王と側近達の前には、様々な日本の物が並ぶ。

 日本刀、着物、お椀、扇、運動靴…。

 シハンは日本刀を手に取り、鞘から抜いた。

 

「ほぅ…見事な剣だ。貴国にも優秀な職人がおられるようですな」

 

 気をよくしたシハンは、大陸共通語で書かれた文書を確認し、日本からの通商条約締結における提示条件と、書類に間違いがないか、口頭でも確認していった。

 

「失礼ながら、私はあなた方の国、日本をよく知らない。しかも、国ごとの転移などは、とても信じられない気分だ」

 

「そ…それは我が国に使者を派遣していただければ」

 

「いや、我が目で確かめたいのだ。貴国には水軍があると聞いた」

 

「海軍でしたらありますが…」

 

「その中から艦隊をつくって親善訪問として我が国に派遣してくれぬか?今年は我が国の水軍から廃船が8隻出る。それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は力が見たいのだ」

 

 このことは直ぐに本国外務省にありのままを報告し、近日中に訓練を兼ねて、艦隊を派遣することが決定した。

 

 

 

 

 

─中央暦1639年9月25日午前─

 フェン王国首都アマノキ

 

 あれから時が経ち、軍祭の日がやって来た。

 剣王シハンは、王城から軍祭の会場を見下ろして呟く。

 

「あれが日本の戦船か…まるで城だな」

 

 剣王シハンの視線の先には大日本帝国海軍の艦隊6隻が浮かんでいた。

 

 

 大日本帝国海軍フェン王国親善訪問艦隊

伊勢型戦艦:扶桑/旗艦

村雨型巡洋艦:村雨

磯風型駆逐艦:山風、海風、空風、森風

 

 

 剣王シハンから見て、鋼鉄の船が浮かんでいるだけでも驚きなのに、伊勢型戦艦に関しては、その巨砲から目が離せない。

 

「剣王、そろそろ我が国の廃船に対して、日本の艦から攻撃をはじめてもらいます」

 

 剣王シハンが直々に日本の使節団に頼んだ『日本の力を見せてほしい』という依頼。その回答が今、示される。

 

 訪問艦隊のさらに沖合いに、フェン王国の廃船が8隻、標的船として浮かんでいた。

 距離は艦隊から4km離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗きこむ。今回はフソウ、ムラサメと呼ばれる船が、半分に分けて4隻に攻撃を行うらしい。

 

 日本海軍の巡洋艦村雨の前部甲板に搭載された、15.5cm単装速射砲が旋回を始める。

 レーダーで標的との距離を正確に計測し、砲の初速、弾道をコンピューターが正確に割り出す。砲安定システムにより、揺れる海上においても砲身を安定させ、主砲が寸分違わず標的をとらえる。

 

 ダンッ…ダンッ…ダンッ…ダンッ…。

 

 4回、振り分けられた目標の数と同じ数の音だけが鳴る。

 直後、標的船は木っ端微塵になり、海面から水しぶきを上げ、船の残骸が空を舞った。

 標的船4隻は原型を留めないほど爆散し、わずかな時間で轟沈した。

 

 次は戦艦扶桑の番である。

 戦艦扶桑の前部甲板に搭載された40.6cm連装砲が1基、ゆっくりと旋回し目標を捉える。

 そして…。

 

 ドオォォォンッッ!!!

 

 村雨の砲撃とは比べ物にならないほどの轟音とともに対空主砲弾が発射され、砲弾は標的船の上空で爆発し、無数の子弾がその威力を発揮する。

 標的船4隻は船体が跡形もなくなり、こちらもすぐに轟沈した。

 

「…凄まじいな、これは」

 

「そんなバカな!!」

 

「信じられん!!」

 

 剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分達の攻撃概念とかけ離れた威力を目の当たりにして、唖然としていた。

 

「如何でしたでしょうか。我が日本海軍の実力は」

 

「島田殿…すぐにでも貴国と国交を開設する準備に取りかかろう。不可侵条約はもちろん、安全保障条約も結ばせてもらいたい」

 

「わかりました。後日詳細をお伝えします」

 

「感謝する…因みに聞いてみるが、あの戦船の技術を、一部でもよいから我が国に輸出してもらうのは、無理だろうか」

 

 剣王シハンは訪問艦隊の方に目をやり、尋ねた。

 流石に無理だあろうとフェン王国の中枢達は考え、剣王シハン自身も、いい答えは聞けないと思っていた。

 

「中核的技術に関しましては、新世界技術流出防止法によって不可能ですが、一部の武器、兵器に限定しては輸出可能です。今はロデニウス大陸に殆どを輸出しているため、暫く時間は掛かってしまいますが」

 

「なんと!それはまことか!!?」

 

 剣王シハンは断られると思っていたため、素直に驚いた。日本の武器があれば、例えパーパルディア皇国に攻められたとしても、少なくとも負けることはなくなるだろう。日本と安全保障条約が結ばれれば、勝つことだってあり得る。

 

「…おや?あれは…」

 

 ふと島田が上空を見上げて呟いた。

 剣王シハンもつられて上空を見上げると、こちら…王城に向かって急降下を開始するワイバーンロードが目に入った。

 

「い、いかん!!」

 

 隣国ガハラ神国に風竜が住み着いているため、この付近にワイバーンは寄り付かない。軍祭に参加している各国がワイバーンを連れてきたと言う報告はない。

 間違いなく、パーパルディア皇国のものだ。

 次の瞬間、10騎のワイバーンロードが放った火球が王城の天守に着弾し、木造の王城が炎上する。

 

「…ッ!!本艦に向かいワイバーン10騎、急速接近中!!!」

 

 戦艦扶桑のCICで悲鳴に似た報告が上がった。

 

「なんだとっ!?正当防衛射撃!!対空戦闘、撃ち方始めっっ!!!」

 

 戦艦扶桑に搭載された127mm単装速射砲2基が、ワイバーンロード目掛けて発射する。

 

 ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…ダダンッ…。

 

 戦艦扶桑を襲ったワイバーンロード10騎は全て、瞬く間に撃ち落とされていった。

 王城を狙ったワイバーンロードが仇と言わんばかりに戦艦扶桑へと突撃するが、この世界では有効とされ、新たに搭載された40mm4連装機関砲+同単装機関砲が対空戦闘に加わり、全滅した。

 竜騎士レクマイアは、相棒が身を呈して守ってくれたために命あって着水し、海を漂っていたところを駆逐艦山風に救助されるのだった。

 

 

 



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第8話─衝突─

 パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊

 

 

 空は快晴。比較的乾いた潮風が気持ちいい。

 提督ポクトアールは、東の水平線を睨んでいた。

 ワイバーンロード部隊との通信が途絶したため、フェン王国はなにか新兵器を持っているのではと警戒していた。だが先程、フェン王国水軍と交戦したが、蛮族らしく沈んでいった。大砲を1発だけ撃ってきたが、それも皇国からすれば旧式のもので、当たることはなかった。

 ただの蛮族、そうともとれるが、それではワイバーンロード部隊との通信が途絶した理由がわからない。

 

「!?」

 

 水平線に何かが見え、彼は望遠鏡を構えた。

 同時に、頭上の見張員が声を上げる。

 

「艦影と思わしきものを発見!こちらに接近してきます!」

 

「大きいな…フェン王国のものとは思えない…まずいぞ。総員、戦闘配備!!」

 

 城のように大きい灰色の、おそらく船と思われる物体だが、常識から考えると規格外の大きさだ。

 

 正体不明の巨大船はパーパルディア皇国監査軍東洋艦隊に接近すると、艦首を反転させ、並走しながらなおも近づいてきた。それも、たった1隻のみで。

 

「提督、どうしますか?」

 

 副官に問われたポクトアールは、冷や汗を流していた。

 少なくとも、あの船はパーパルディア皇国の同盟国の艦ではないだろう。民間船でないことも確実だ。

 

 おそらく敵と思われる艦は1隻のみ、いずれにせよ、フェン王国方面から来たのだ。フェンの関係国所属艦に違いない。列強パーパルディア皇国の意思を示すため、ポクトアールは攻撃を決意した。

 

「砲撃用意!あれとの距離1.5kmで砲撃を開始せよ!!」

 

 ポクトアールの指示を受けて、魔導砲の砲撃準備が行われる。列強の魔導砲は2kmの長射程を誇る。1.5kmまで近付けば、それなりに当たる距離だ。

 

 敵の船と思われる巨大な艦1隻は、並走しながら距離を1.5kmまで詰めてきた。

 敵の巨大砲は前を向いたままである。

 

「阿呆め。魔導砲、撃てぇぇぇ!!」

 

 フェン王国王宮直轄水軍を、赤子の手を捻るが如くあっさりと葬り去った、列強パーパルディア皇国監査軍東洋艦隊戦列艦22隻は、大日本帝国海軍軽巡洋艦村雨に牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国監査軍東洋艦隊戦列艦が放った砲弾は、その殆どが海面に着弾したが、奇跡的に2発が巡洋艦村雨の艦首と艦中央部に着弾した。

 

「ッ!…大丈夫か!?」

 

「っ…異常なし!全て装甲が弾き飛ばしました!!」

 

 報告を聞いて安堵した村雨艦長の島大悟は、すぐさま指示を飛ばす。

 

「最大戦速!主砲発射用意!目標は、敵戦列艦の動力であるマストを狙え!」

 

「了解!!」

 

 村雨の前部甲板に搭載された15.5cm単装速射砲が動き出す。砲安定システムで砲を安定させ、戦列艦のマストに照準を合わせた。

 

「目標捕捉!照準よし!!」

 

「撃ち方始めっ!!」

 

 射撃指示と同時に、主砲から砲弾が発射される。

 発射された砲弾は正確に戦列艦のマストに命中し、折れたマストが海面へと落下していく。

 

 巡洋艦村雨は更に砲撃を続ける。1隻、また1隻とマストを破壊していき、僅か数分で敵艦隊の半数である11隻を航行不能にした。

 

「頼む、これで退いてくれ!」

 

 島の願いが届いたのか、敵艦隊は航行不能になった戦列艦を曳航して、来た方向へと戻っていった。

 

「…ふぅ、退いてくれたか」

 

 島の言葉に、乗員達も安堵の表情を見せる。

 

「これで一安心ですな」

 

「あぁ…これより艦隊と合流する」

 

 村雨は親善訪問艦隊と合流すべく、進路を来た方向へと戻した。

 

 大日本帝国とパーパルディア皇国の初の海戦は、日本の圧勝で終わった。パーパルディアの艦隊に重傷者は出たものの、当世界の歴史上唯一『死者を出さずに勝敗を決した海戦』となり、有名となった。

 この海戦は『フェン沖海戦』と呼ばれ、後世に語り継がれることとなる。

 

 

 

 

 

 フェン王国 首都アマノキ

 

 

 話は同日昼まで遡る。

 パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊を軽々と片付けた、大日本帝国海軍。その力を見て、軍祭に参加した文明圏外各国の武官は、放心状態となっていた。

 

「な…なんだ!あの凄まじい魔導船は!!」

 

「列強のワイバーンロードが、まるで相手にならなかったぞ!!」

 

 自分達の常識とかけ離れた力を持つ、灰色の巨大船に恐怖を覚えると共に、味方に引き入れることはできないかと皮算用を始める。

 フェン王国がパーパルディア皇国の領土租借案を蹴ったと聞いたときは、フェンが焼き尽くされるのではないかと誰しもが思ったが、あの船の国と友好関係にあるのであれば、フェンが強気に出るのも理解できた。

 

 パーパルディア皇国以上の国が現れたかもしれない。その認識のもと、各国の武官は魔信で本国に報告するのだった。

 

 『フェン沖海戦』の後、日本にやってくる時代がかかった船が増えた。国交締結を求める文明圏に属さない国々の大使たちを乗せて日本まで来訪したのである。そのせいで海上保安庁は海軍に協力を要請して、2ヶ月ほどは日夜問わずに巡視する羽目になった。

 今までは日本側から各国まで出向き、現地を調査してから国交を申し込んでいたが、今回は大使たちが詳細な資料を携えていたために手間が省け、次々に国交を結んでいくことができた。どうやら各国間で情報共有がなされているそうだ。

 彼らは友好的で礼儀正しく、概ね国交締結に支障はなかった。

 

 その後、第三文明圏外国家群(ロデニウス大陸国家、フェン王国、トーパ王国等)では、日本を中心に第三文明圏外国家群の共存共栄が掲げられ、それは後に大東亜共栄圏と呼ばれることとなったという。

 

 

 



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第9話─列強ムー─

─中央暦1639年10月6日午前─

 ムー アイナンク空港

 

 

 晴天。

 雲はまばらに浮かんでいるだけで、視界は極めて良好である。

 

 技術士官マイラスは、軍を通したムー外務省からの急な呼び出しに困惑していた。

 呼び出し先は、空軍基地が併設されている民間空港、アイナンク空港だった。

 列強国のムーには、民間空港が存在する。飛行機はまだ富裕層が使用するのみで、しかも晴天の昼間しか飛ぶことができない。

 民間の航空輸送はマイラスが知る限り、神聖ミリシアル帝国とムーのみが成り立たせている。これは事実上、列強上位国の証である。

 

(しかし、わざわざ空軍基地に呼び出すとは、一体何の用だろうか…?)

 

 控え室に通され、外務省から呼び出された意味を考える。

 情報通信部という諜報機関所属の人物に用があると言うことは、普通に考えれば諜報活動に類するものだろう。

 マイラスが窓辺に立ってぼんやりと考えていると、控え室の扉が開いた。

 軍服を着た人間種の男…情報通信部長、マイラスの上司と、外交礼服を着た人間族の男2人が部屋に入ってくる。

 

「待たせたね、マイラス君…彼が、技術士官のマイラス君です。我が軍1の技術士官で、この若さにして第1種総合技将の資格を持っています」

 

「技術士官のマイラスです」

 

 マイラスは慣れない笑顔を作って、2人の外交官と握手した。

 

「かけたまえ」

 

 一同はそこそこ上等そうなソファに腰掛け、上役らしき外交官が切り出す。 

 

「何と説明しようか…今回君を呼び出した用だが、端的に言うと、とある国の技術水準を探ってほしいのだよ」

 

「とある国…グラ・バルカス帝国のことですか?」

 

 直感で懸念となりそうな存在は、通称『第八帝国』─正式にはグラ・バルカス帝国─だとマイラスは考えた。

 

「いや、違う。彼らは自分達の国を、『大日本帝国』と名乗っていた。心当たりは?」

 

 そう聞かれて、マイラスは先日のことを思い出す。

 ロデニウス大陸に派遣された諜報員からの報告書に、日本に関する情報が含まれていた。

 報告書には、とても信じられないような事ばかり書かれていたが、彼の国の軍艦『イセ』を撮った写真を見て、考えが変わった。

 

 前部甲板に 2基の巨大な主砲に、後部甲板に設置された飛行甲板は、ムーの技術士官マイラスから見て異質な存在だった。

 だが、少なくとも日本は戦艦を保有し、空母すらも保有しているかもしれない、間違いなく大国だ。

 

 外交官の話によると、日本は機械動力船でやって来て、さらには飛行機械まで実用化しているらしい。その飛行機械の速度は450kmの速さで飛び、先導した空軍機に、空戦したら勝てるか聞いたところ、『負けはしないだろうが、勝てるとも思えない』と答えたらしい。

 

 しかも、日本の飛行機械はムーのものとは全く異なり、未知の飛行機械だと言う。

 それの分析をマイラスに頼みたいようだ。

 

「わかりました、やってみます」

 

 マイラスは逸る気持ちを押さえて、空港東側へと速足で向かった。

 

 

 

 

 

「なんという技術だ…!!」

 

 マイラスは先程見た日本の飛行機械、82式ヘリコプター“あきたか1号”を思いだし、冷や汗を流した。

 あの飛行機械はかなり高度な科学技術が求められるものだ、おそらくムーで作るのは困難だろう。

 

 空軍詰所の応接室へ向かうマイラスの足取りは重い。

 

「どうなることやら…」

 

 マイラスは内心不安を抱えたまま、日本国の使節が待つ応接室の扉をノックした。

 

──コンコン

 

「どうぞ」

 

 扉をゆっくり開けると、2人の人間種の男性が、ソファから立ち上がって出迎えた。

 

「初めまして。会議までの1週間、ムーをご紹介させていただきます。マイラスと申します」

 

「日本国外務省の御園です。今回ムー国をご紹介いただけるとのことで、大変嬉しく思います。こちらは警備科より派遣された護衛の前原です」

 

 文明圏外の国の者とは思えないほど、落ち着いた態度で、丁重な言葉遣いだ。マイラスは少しだけ安堵する。

 

「それでは、長旅でお疲れでしょうから、本格的にご案内するのは明日からとします。本日はこのアイナンク空港をご案内したあと、首都内のホテルにご案内します」

 

 そう言うとマイラスは御園たちをつれて、アイナンク空港を案内するのだった。

 

 

 

 

 

「昨日今日で、既に一生分は驚いた気がする」

 

 マイラスは深い溜め息をついていた。

 先日、日本の使節団にムーの誇る最新鋭戦闘機“マリン”を見せたところ、日本では100年以上昔の骨董品らしく、現在第三文明圏外国家群に輸出している戦闘機よりも古いらしい。

 参考として写真を見せてもらったが、日本の戦闘機にはプロペラがついておらず、しかも音速の速さで飛行するらしい。

 輸出しているという戦闘機の写真も、複翼機ではなく単翼機で、性能もマリンを凌駕するらしい。

 自動車も見せてみたが、日本では特別珍しいわけではなく、下層の人間ですら持っているとのこと。

 

 今日もムーの歴史資料館と海軍基地を案内する予定であり、先程歴史資料館を案内してきたところ、なんと日本はムーが転移する前の世界からきた、それもヤムート、友好国であったことがわかったのだ。

 この事はすぐさま上層部に伝えるよう部下に指示した。

 この後はムーの最新鋭戦艦を見せる予定だ。

 

「ご覧ください、こちらが我が国の戦艦ラ・カサミとその同型である戦艦ラ・エルドです」

 

 かつて日露戦争が起きる少し前まで主力戦艦として、日本が保有していた戦艦三笠に似ている戦艦が2隻、そこに停泊していた。

 一行はさらに進む。

 

「そしてこちらが、我が国の最新鋭戦艦ルナ・バルコです!」

 

 マイラスが自信を持って紹介した戦艦は、ラ・カサミ級よりも一回り大きく、砲の数も多い。日本側はそれが弩級戦艦であることを見抜いた。

 

 50口径30.5cm連装砲を6基搭載し、20mm機銃をハリネズミのように設置されたその戦艦は、史実の日本海軍が保有した河内型戦艦の強化版のようだが、この世界の日本海軍は弩級戦艦を保有することがなかったために、日本側からは「ほぉ…」と声が漏れた。

 

 余談だが、この世界の日本海軍にも河内型戦艦は存在した。日本海海戦で戦艦インペラートル・アレクサンドル3世を撃沈したのが戦艦河内だったりする。

 

「やっぱり戦艦はいいですねぇ…ロマンが詰まってますよ」

 

「やはり日本人にもわかりますか。戦艦は男のロマンです…」

 

 マイラスと前原は興奮しながら戦艦ルナ・バルコを見つめた。

 ふと、マイラスが思い出したように尋ねた。

 

「束のことをお聞きしますが、確か日本にも戦艦があると第3国経由でお聞きしたのですが」

 

 これは嘘だ。実際はムーの諜報員が手に入れた情報である。

 

「はい、詳しくは言えませんが、少なくとも我が国には伊勢型戦艦と紀伊型戦艦等複数の戦艦が存在します。こちらがその写真になります」

 

 御園は鞄から数枚の資料を取りだし、マイラスへと手渡した。

 マイラスは受け取った資料に目を通し、絶句した。

 

(な…なんだこの化け物戦艦は!?)

 

 資料に載っていた写真はカラーであり、ムーが独自に入手した伊勢型戦艦も写っていた。

 大陸共通語で書かれた資料には両戦艦のある程度の詳細が載ってあり、自国の戦艦との性能差は歴然だった。

 

(この資料が本当なら、ムーの最新鋭戦艦ルナ・バルコでは伊勢型戦艦にすら勝てないのか!!しかもこの紀伊型戦艦はグラ・バルカス帝国のグレード・アトラスターに似ているな…)

 

「マイラスさん?」

 

 1人深く考え込むマイラスに、御園は声をかけた。

 

「っ!!…失礼しました…今日はもう遅いのでホテルに戻りましょう」

 

 マイラスの提案により、一行は宿泊先のホテルへと帰っていった。

 後日、マイラスの報告を受けムー政府は混乱状態に陥ったが、日本の使節団は非常に礼節を弁えており、かつ前世界の友好国であったこともあって、ムー政府は大日本帝国と友好的に国交を締結することを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 ロデニウス大陸 近海

 

 

 何時もなら穏やかな波と暖かい風の吹く海域で、ロデニウス大陸国家3カ国(ロウリア王国、クワ・トイネ公国、クイラ王国)の連合艦隊が、合同演習を行っていた。

 

 大日本帝国の支援を受けた各国は、自国の最新鋭艦艇を参加させ、総勢21隻の艦隊が航行していた。

 

 ロデニウス連合艦隊総司令官の海将シャークンは、眩しそうに空を見上げていた。

 

「今日はいい天気だ。こんな晴天の中演習を行うのは気持ちがいいな…しかし、クワ・トイネ公国海軍の戦艦は、やはり大きいな」

 

 シャークンの視線の先には、先日就役したばかりの戦艦、イナサク級戦艦イナサクがいた。

 戦艦イナサクは史実の金剛型戦艦と同等の45口径35.6cm連装砲を4基搭載した超弩級戦艦である。

 現在第三文明圏外国家の装備一式は、いざという時に共有できるようにとネジの1本までを、可能な限り統一化していた。もし、クワ・トイネ公国の戦艦イナサクが有力と判断されれば、その他各国にその技術の殆どが伝えられ、各国戦力の均一化が図られる。

 要は、戦艦イナサクは実験艦でもあるわけだ。

 

「…ん?」

 

 シャークンは水平線の向こうから、こちらに向かってくる船団を確認した。その事はすぐさま先頭を航行していた駆逐艦ランスから各艦に伝えられる。

 

『前方に、多数の所属不明艦を発見!!』

 

「全艦、第1種戦闘配備!!」

 

 シャークンの指示を受け、すぐさま艦隊は戦闘準備を始める。

 その間にも所属不明艦はこちらに近付いてくる。近付いてくるにつれて、その全貌が明らかとなる。

 

 クワ・トイネ公国海軍の最新鋭戦艦イナサク、だが相手はそれ以上の巨大な砲を搭載した巨大戦艦だ。後方には巡洋艦や駆逐艦、更には空母まで引き連れてきている。乗員にも緊張が走る。

 

「司令!所属不明艦から通信が入りました!」

 

「なんだと!?どこの国の艦隊だ!?」

 

「はっ!それが…」

 

 通信担当者が告げた国に、シャークンを始め、全員が驚愕した。

 

「グラ・バルカス帝国の艦隊とのことです」

 

 

 



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第10話─突然の来訪─

 大日本帝国 東京都

 

 

 その日、大日本帝国政府は大混乱に陥っていた。

 西方の列強レイフォルを、戦艦1隻で滅ぼした強国、グラ・バルカス帝国。

 その国の艦隊が、どういう訳か我が国と会談するためにわざわざ長い月日をかけて、先日ロデニウス大陸近海でロデニウス連合艦隊と遭遇したらしい。

 現在はマイハーク港で待機し、我が国の駆逐艦2隻が迎えに向かっている。

 今村総理は唸る。

 

「まさかこの距離を航行してくるとは…これは盛大に歓迎する他ありませんね」

 

「いや総理そこじゃないでしょ」

 

 高野防衛大臣の突っ込みに笑いが起こる。

 

「冗談だよ…しかし、なぜ遠路はるばる我が国へやって来たのだろうか」

 

 今村の発言に、閣僚は唸る。

 

「我々と同盟を結びたいとか?」

 

「わざわざこんなところに来てまでか?」

 

 その後も幾つか考えが挙げられたが、結局は分からず仕舞いだった。

 

「…仕方がない、直接彼らに聞こう」

 

 そうして議題は別のものへと移っていった。

 

 

 

 

 

 横須賀基地より約200km 海上

 

 日本に向けて航行する2隻の駆逐艦、雪風と晴風。

 その2隻の後方を、グラ・バルカス帝国訪問艦隊が続いていた。

 日本からしてみれば旧式の艦隊であるが、この世界の国相手なら負けることはないであろう。そんな艦隊の中には、一際目立つ戦艦の姿があった。

 

 彼女の名は、グレードアトラスター。

 

 この世界に存在する列強の1つである、レイフォル国の艦隊と、そして首都を単艦で撃破した伝説の戦艦グレードアトラスター。

 彼女に乗艦する若手の幹部が、他の幹部と共に日本の駆逐艦2隻を眺めていた。

 

「たかが1門の砲で、何が出来ると言うのでしょうか」

 

 若手幹部の蔑みを含んだ言葉に、熟練幹部が首を横に振った。

 

「そうとも言い切れん。見たことの無い装備が複数見受けられる。おそらくは、砲以外の何かがあると見て間違いないと思うぞ」

 

 熟練幹部の言葉に、若手幹部が息を飲んだ。

 艦長のラクスタル大佐は、少女アレナの予言を思い出していた。彼女の予言が正しければ、日本はグラ・バルカス帝国を超えた大国、だが今目の前にいる日本の艦艇は、自国の艦艇に比べて劣って見える。

 本当に我々を超えた国なのだろうか?

 

「艦長!前方より艦影多数!おそらく日本の艦隊だと思われます!」

 

 見張員の報告を受け、前方へ視線を向ける。確かに前方から煙をあげて艦隊が向かって来るのが見えた。

 やがて、向かってくる艦隊の全貌が明らかとなる。

 我々を迎えに来た巡洋艦(雪風と晴風は、その大きさからグラ・バルカス側からは巡洋艦と見られていた)と同型の巡洋艦が8隻、砲が1門、口径も130mmから160mmと小口径だ。

 だがその中央を航行する2隻の巨大戦艦を見て、絶句した。

 

「バカな!!グレードアトラスター級の戦艦だと!!?」

 

 若手幹部が叫び、熟練幹部や艦長のラクスタルは言葉を発せずにいた。

 グラ・バルカス帝国訪問艦隊を出迎えたのは、日本海軍が長門型戦艦の代艦として建造した超弩級戦艦、紀伊型戦艦である。

 

 旧世界基準の1個艦隊規模を単艦で相手出来る程の性能を保有する紀伊型戦艦は、長門型戦艦の面影を残し、最大級の巨砲である46cm複合衝撃砲を搭載し、VLSや対空火器も充実している。

 

 横須賀基地を母港とする1番艦紀伊と6番艦陸奥は、万が一に備えてグラ・バルカス帝国訪問艦隊の出迎えに出てきていた。

 

「大日本帝国…やはり侮れん国だったようだな」

 

 艦長ラクスタルは、日本の艦艇を見て気を引き絞めるのだった。

 

 一方、駆逐艦雪風の艦橋では、艦長の古代守が乗員にこんなことを言っていたとか。

 

「俺たちは日本までの案内役だが、日本の近海まで紀伊型戦艦2隻が出迎えに来るらしい。更に弟からの情報なんだが、横須賀基地では、横須賀の守護神が待機中とのことだ」

 

 

 

 

 

 神奈川県 横須賀基地

 

「…なるほど、そういうことか」

 

 ラクスタル大佐は目の前の光景に顔をひきつらせていた。

 横須賀基地に入港したグラ・バルカス帝国訪問艦隊を出迎えたのは、60隻以上の巡洋艦と数隻の大型空母、そしてとある1隻の戦艦だった。

 

 その戦艦は、先程迎えに出向いた日本の紀伊型戦艦…我が国最大最強の戦艦グレードアトラスターが、まるで重巡洋艦に思えてしまうほどに大きく、そしてそれ以上に目を引く超巨大な三連装砲塔は、46cm砲以上の破壊力を持つだろう。

 

「大日本帝国…予言は正しかったと言うことですか」

 

 若手幹部が膝をついて、停泊中の戦艦…大和型戦艦1番艦大和を見つめ、熟練幹部ですら、戦艦大和から目を離せずにいた。

 

「そのようだな…さて、我々の仕事は帰りまでもうないな。後は彼女達に任せよう」

 

 ラクスタルはタラップを降りていく外交官を見送り、そしてまた戦艦大和を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 大日本帝国 外務省 応接室

 

 グラ・バルカス帝国外交官のシエリアは、この後行われる会談に向け気を引き締めていた。

 日本の横須賀基地という海軍基地で見たグレードアトラスター級や超グレードアトラスター級の戦艦を見ているため、彼女は予言通り、大日本帝国を自国より軍事力が高い国だと考えていた。

 

 その他にも、神奈川県から首都東京都に来るまでに乗った新幹線や、大量のビル群が立ち並ぶ東京都の町並み、専門家ではないが、そのどれもが自国の技術を超えていると直感で感じていた。

 

 ガチャ。

 

 応接室の扉が開かれた。

 

「お待たせしました。外務省の室井と申します。遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」

 

「お初にお目にかかります。外交官のシエリアと申します」

 

 まずはお互い挨拶から始まる。

 

「今回は一体どのようなご用件で我が国を訪れられたのですか?」

 

 室井は政府が知りたがっていた情報を聞き出すことから始めた。

 

「今回我々が訪れた理由は、日本の国力、軍事力等を確かめ、場合によっては同盟を結ぶことを目的とした、云わば1種の砲艦外交です」

 

 あっさりと砲艦外交と認めたシエリアに、室井は目を見開く。

 

「簡単に認めるのですね」

 

「私から見ても、貴国は我々グラ・バルカス帝国以上の力を持った超大国です。今後の為にも、ここで隠し事は悪印象にしかなりませんから」

 

 シエリアの言葉に室井は「ほぅ」と意外そうな顔を見せ、自身の中でシエリアの株を上げていった。

 

 その後、大日本帝国とグラ・バルカス帝国は不可侵条約は勿論、修好通商条約、安全保障条約等を結び、更に日本はグラ・バルカス帝国に一部通信技術を提供、両国間の連絡を容易化し、双方の繋がりを強くしていった。

 

 その後、グラ・バルカス帝国は大東亜共栄圏加盟国やムー国に並び、大日本帝国の友好国として、この世界で歩んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、第三文明圏の列強は、それを黙って見逃すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話─パーパルディア皇国─

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇城

 

 

 この日、パーパルディア皇国皇帝ルディアスが出席する最高会議が行われようとしていた。

 

「これより、御前会議を始めます」

 

 議長が開始の挨拶をし、その後皇帝ルディアスが話し始める。

 

「状況はどうなっている」

 

 皇帝ルディアスの問いに、軍の最高司令官アルデが説明する。

 

「はい、現在海軍第6艦隊361隻をアルタラス王国王都ル・ブリアスへ向かわせており、海軍第4艦隊328隻をフェン王国西の街ニシノミヤコへ向かわせる予定です。最近何かと蛮族共が生意気なので、皇国本軍の力を思い知らせてやります。第4艦隊は現在皇国最新鋭戦列艦である超F級戦列艦の調整が完了次第向かわせます」

 

「して、我が国に泥をつけた大日本帝国とやらはどうする?」

 

「フェン王国を滅ぼし次第、そこを中継地点にしてから第3艦隊400隻と陸軍40万を持って殲滅します」

 

 アルデの説明を聞いて、ルディアスは満足そうにうなずいた。

 

「よろしい…ではまず手始めに、皇帝ルディアスの名において、アルタラス王国並びにフェン王国に対する戦争を許可する!!」

 

 皇帝ルディアスの宣言により、パーパルディア皇国本軍は行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 アルタラス王国

 

 

 フィルアデス大陸の西側に位置する文明圏から少し外れた王国、アルタラス。人口1500万人を抱え、文明圏外の国としては、国力も人口も大国である。

 温暖な気候であり、王都にある建設物は円を基調としており、建物が全般的に丸い。

 魔石鉱山のあるこの国は、資源輸出国であり、国は富み、人口50万人を抱える王都ル・ブリアスは人々の活気にあふれている。

 

 その為、他の文明圏外国家に誘われた大東亜共栄圏への加盟を見送ってしまった。

 日本はロデニウス大陸やフィルアデス大陸、フェン王国等の周辺国との共栄を優先してしまったゆえに、アルタラス王国との接触が遅れてしまっていた。

 

 要はついていないのである。

 

 国王ターラ14世は、海岸線より5kmの地点に立てた陣地で、娘である王女ルミエスのことを考えていた。

 妻の遺した大切な娘。パーパルディア皇国との戦争に敗れれば、間違いなくこの世の地獄を味わうこととなるだろう。だから、信頼のできる家臣にルミエスを逃がしてもらった。少なくとも、これでルミエスが地獄を見ることは、限りなく低くなった。

 運が良ければ、今ごろはロデニウス大陸に到着しているだろう。

 

 考え事をやめて陣地の外を見ると、遠目にパーパルディア皇国の艦隊が見える。既に海軍は全滅してしまったようだ。

 そこに、1人の王国騎士が血相を変えて入ってきた。

 

「報告します!パーパルディア皇国本軍が、北の海岸線に上陸を開始しました!!」

 

「来たか…全軍に突撃命令!奴等の伸びきった鼻をへし折ってやれ!!」

 

「「「ウォォォォーー!!!」」」

 

(ルミエス…すまない)

 

 その後、アルタラス王国軍はパーパルディア皇国軍の猛攻を前に全滅した。国王ターラ14世は戦死、わずか3日で、アルタラス王国はパーパルディア皇国の属領となるのだった。

 そして、次の戦場はフェン王国へと移る。

 

 

 

 

 

 フェン王国 首都アマノキ

 

 

「何故なのですか!?」

 

 フェン王国水軍第1艦隊司令官のククリは、大日本帝国フェン王国派遣隊指揮官の水谷に詰め寄っていた。

 

「我々は既に!パーパルディア皇国よりも強力な軍艦が8隻もいるのですよ!?おねがいします、行かせてください!!」

 

「駄目です!!敵は帆船とはいえ、約300隻もの艦隊です。たった8隻…それも殆どが駆逐艦では焼け石に水、包囲殲滅されるだけです!現在こちらに、本国から増援が送られることが決定しています!!今はただ…耐えてください!」

 

 水谷の説得に、フェン王国側は渋々といった形で引き下がる。それでも、泣きながら悲願する者もいた。

 水谷も、彼らの気持ちがわからないでもない。彼等の中には、ニシノミヤコ出身だったり、そこの家族が住んでいたりするのだろう。

 

 増援の到着はどんなに早くても後1日は掛かる。だが、敵艦隊はこの後直ぐにでもニシノミヤコに対して攻撃を行うだろう。

 フェン王国派遣隊の輸送ヘリや車両を動員して、ニシノミヤコから住民や観光客の避難活動を支援してきたが、まだニシノミヤコには大量の避難民が取り残されている。

 しかし、今となってはもう我々が支援することができない。

 

「水谷司令!パーパルディア皇国軍がフェン王国本土に上陸、ニシノミヤコに攻撃を開始しました!!」

 

 部下の報告を受けて、場が凍りつく。

 遂にこの時が来てしまった。

 

「現状はどうなっている!?」

 

「住民の避難は、85%が完了していました。日本人観光客も1300人程が避難しましたが…いまだに、50人ほどがニシノミヤコに取り残されています」

 

「そんな…っ!!」

 

 水谷は血が滲むほど手を握りしめた。

 戦力を温存させる為に、フェン王国派遣隊は首都アマノキにある駐屯地に集結している。今から向かっても、間に合わないだろう。

 

「クソッ!…クソッ!!」

 

 水谷は、ニシノミヤコにいる人達の無事を祈ることしかできなかった。

 

 その頃、観光名所として栄えていた西の街ニシノミヤコ。

 ここは今、パーパルディア皇国軍の攻撃によって、瓦礫の山へと変わり果てていた。

 

 人が持ち運び出来るほど小型化された魔導砲が火を吹き、民家や城壁を粉砕し、ワイバーンロードが上空から火炎弾を吐き出し、避難が遅れた民間人を火だるまにする。

 

 武士団が応戦するも、パーパルディア皇国軍に配備されたマスケット銃で撃ち抜かれ、被害が増える一方だった。

 

 その日、フェン王国ニシノミヤコは、パーパルディア皇国軍によって陥落した。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 

「この国はイカれている!こんなのが列強だと言うのか!?」

 

 外交官の朝田は、先程の出来事を思い返す。

 外交の担当が第1外務局に移り、そして皇宮に来るよう言われたので、朝田は補佐の篠原と共に皇宮に向かった。

 だがそこで行われたのは、捕虜となった日本人観光客を処刑する生中継だった。

 

「恐らく…いえ、これは絶対に戦争になりますよ」

 

「だろうな。全く…どっちが蛮族だってんだ」

 

 朝田と補佐の篠原は、深い溜め息を吐いた。この世界ではムーのような国が特殊だったのだと思い知らされたのだ。

 この事は本国へと伝えられ、日本政府は国家非常事態宣言を発令。大日本帝国はパーパルディア皇国との戦争を決断するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大日本帝国 東京都 首相官邸

 

 

「やれやれ、また戦争か…君の予言通りだったよ」

 

 今村総理はソファーに座り、隣に座ってお菓子を頬張っている少年イズルに話しかけた。少し前までは予言したらすぐおさらばだったが、甘いお菓子を与えてみたところ、予言後に軽くお茶していくのが日課になっていた。

 

「犠牲者を減らすことはできたが、所詮は減らせただけ。0には出来なかった」

 

 今村はそっとイズルの頭に手をおき、優しく撫でた。イズルは首をかしげながらも、それを気持ち良さそうに受け入れる。

 イズルと視線が合う。

 

「ふっ…大丈夫だ。もうこれ以上犠牲者は出させない」

 

 そう言うとイズルは微笑み、立ち上がった。

 どうやら今日はここまでのようだ。

 

「またおいで。次はシュークリームを用意しておくよ」

 

 イズルは再び微笑んでから、光の粒子となって消えていった。

 

「さて、パーパルディア皇国か…精々列強の名を汚さないよう、足掻いてくれよ」

 

 

 

 



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第12話─衝突する列強─

 フェン王国 首都アマノキ 東海岸

 

 

 まだフェン王国に残されている日本人観光客を救出するため、戦時編成された大日本帝国陸軍第13旅団が、荷揚げ作業を行っていた。

 今回の派遣には、82式戦車の他、10式対戦車攻撃ヘリや97式装甲戦闘車といった戦闘車両、航空機が持ち込まれていた。

 積み荷を下ろした民間の輸送船は、日本に戻る際に出来るだけ多くの日本人をのせていく。

 

「旅団長、揚陸作業が終わりました。作戦開始まで、後3時間です」

 

「わかった…部隊には順次食事をさせて休ませておけ。これからは何時何が起こるかわからんからな」

 

 日本陸軍が揚陸作業を終えた頃、フェン王国沖合では大日本帝国海軍第3艦隊とフェン王国水軍第1艦隊が終結していた。

 

 

 大日本帝国海軍第3艦隊

紀伊型戦艦:駿河、長門

飛龍型航空母艦:紅龍、雷龍/旗艦

金剛型戦闘巡洋艦:愛宕、足柄、妙高、鳥海

村雨型巡洋艦:阿賀野、矢矧、時雨、夕雲、木曾、龍田、神通、叢雲

磯風型駆逐艦:天津風、熊風、松風、砂風、春風、波風、舞風、花風、梅風、桜風、空風、荒風、潮風、咲風、村風、弓風

 

 フェン王国水軍第1艦隊

剣使型軽巡洋艦:剣使/旗艦

炎剣型駆逐艦:炎剣、氷剣、雷剣、水剣、光剣

 

 

 既に朝田外交官を通して宣戦布告を行っているため、海軍は第3艦隊の全力出撃を決定した。その他にも、別任務についた第4艦隊も全力出撃をしている。

 

「山本司令、ニシノミヤコ沖合いに展開するパーパルディア皇国艦隊が、こちらに向かってくるのを衛星が捉えました」

 

「うむ、ちょうどいい時間だ…全艦出撃!フェン王国艦隊と合同で、敵パーパルディア皇国艦隊を攻撃する!」

 

 山本司令長官の命令を受けて、日本海軍第3艦隊とフェン王国水軍第1艦隊が、パーパルディア皇国艦隊に向けて出撃した。

 

 

 

 

 

 パーパルディア皇国竜母艦隊は隊列を組み、主力である戦列艦隊の後方を航行し、フェン王国の首都アマノキを目指して向かっていた。

 艦隊副司令アルモスは、隊列を乱すことなく航行する艦隊を見て、満足そうに頷く。

 

「いつ見ても素晴らしいな…この竜母艦隊がいる限り、皇国は覇道の道を突き進むだろう!」

 

 アルモスが艦隊に魅入っていた、そのとき。

 

 ウゥゥゥゥゥーーーーッッ!!!

 

 前方の戦列艦隊から、ムーで発明されたサイレンがけたましく響き、アルモスを現実に引き戻す。

 

「何事だ!!」

 

 アルモスが前方を注視すると、火を吹く沢山の大きな矢が、超高速で竜母艦隊に向かって飛来した。

 大日本帝国海軍航空隊が放った空対艦ミサイルは、外れることなく目標に突き刺さり、その威力を解き放った。

 ある船は船体が真っ二つに折れ曲がり、またある船はワイバーンロードを乗せたまま冷たい海へと沈んでいった。

 アルモスの乗船する竜母も、空対艦ミサイルの攻撃を受け、爆沈した。

 

 その様子を見ていた艦隊司令の将軍シウスは、あまりの光景に驚愕していた。

 

「なんて威力だ!敵はいったい何をしたと言うのだ!!?」

 

「シウス将軍!!前方に艦影多数!!大日本帝国とフェン王国の艦隊です!!!」

 

 部下の報告で前方に視線を向けると、そこには神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦に酷似した軍艦が、こちらに向かっていた。

 

「バカな!奴等の後ろには神聖ミリシアル帝国がついているのか!?」

 

 将軍シウスの疑問が解かれる前に、その戦艦の砲が火を吹いた。

 戦艦駿河の放った46cm対空砲弾は、戦列艦隊の上空に到達すると、時限信管が作動して無数の子弾となって降りかかった。

 餌食となった戦列艦は燃え盛り、弾薬庫の弾薬に誘爆して爆沈する船も少なくなかった。

 

 更に戦艦長門や他の艦艇からも砲撃が開始され、パーパルディア皇国第4艦隊は瞬く間にその数を減らしていく。

 

「こんな…こんな現実があってたまるかぁぁぁ!!!」

 

 その直後、シウスの乗船する120門級戦列艦パールは、フェン王国水軍軽巡洋艦剣使の15.5cm連装砲が放った砲弾を喰らい転覆、装甲の重みでゆっくりと沈んでいった。

 

 数時間後、パーパルディア皇国第4艦隊所属の揚陸艦隊や補給艦隊を含めた全艦隊が、大日本帝国海軍第3艦隊及びフェン王国水軍第1艦隊の攻撃を受け、全滅した。

 

 その頃フェン王国ゴトク平野では、パーパルディア皇国陸戦隊と、大日本帝国陸軍第13旅団が激突していた。

 

 82式戦車の120mm滑腔砲から発車された徹甲弾がリントヴルムに命中する。リントヴルムの内部を衝撃波で破壊しながら貫通し、その後方にいた歩兵密集地に着弾、兵士を衝撃波でなぎ倒す。

 負けじと牽引式魔導砲や、リントヴルムの導力火炎放射で応戦するが、82式戦車は命中しても何事もなかったかのように動き回り、砲撃を続ける。

 上空には10式対戦車攻撃ヘリが飛び回り、地上の皇国軍兵士を機関砲でなぎ払っていく。

 

 陸将ベルトランはこれ以上の戦闘続行は不可能と判断し、降伏の合図を出すよう指示をした直後に、10式対戦車攻撃ヘリが放ったロケット弾の直撃を受け、絶命した。

 

 この日、フェン王国に侵攻したパーパルディア皇国皇軍のその全ては、大日本帝国とフェン王国の連合軍を前に全滅した。

 

 

 

 

 

 同時刻 アルタラス島沖合

 

 

 大日本帝国海軍第4艦隊は、アルタラス島沖合に停泊するパーパルディア皇国第6艦隊を滅するべく航行していた。

 亡国となったアルタラス王国の王女ルミエスの要請もあるが、実際はアルタラス王国内にあるムーの空港を利用するためでもあった。

 

「艦長!敵艦隊を射程に捉えました!全艦砲撃準備完了!!」

 

「よしきた!全艦撃ち方始め!!」

 

 戦艦尾張の主砲から対空砲弾が放たれ、停泊中の皇国軍艦隊を一気に数十隻単位で沈めていく。

 戦闘は終わり、もう仕事はないと思い込んでいたパーパルディア皇国軍はこの攻撃に驚き、対応が遅れてしまっていた。

 

 僅か1時間でパーパルディア皇国艦隊が全滅し、アルタラス島沖の制海権は日本が勝ち取り、次の戦場はアルタラス本土へと移っていった。

 

 揚陸艦や輸送艦から出撃したエアクッション艇がアルタラス島北側の海岸に乗り上がり、そこから大日本帝国陸軍兵士や82式戦車等が上陸する。

 

「こちらアルタラス島守備隊!現在敵の攻撃を受けている!敵は大日本帝国軍!!繰り返す!…」

 

 皇国軍の兵士が魔信で本国に報告する中、日本陸軍第15旅団は、首都ル・ブリアス目掛けて前進する。

 

「進めぇぇ!!鬼畜パ皇に鉄槌をーっっ!!!」

 

 普通科中隊の中隊長が軍刀を片手に先導する。時折敵側から銃弾が飛んできて、数名が負傷するが、彼らは止まらない。

 

「くそっ!何なんだこいつらは!」

 

 皇国軍の兵士がマスケット銃を捨てて腰の剣を抜き、迎え撃つ。

 

「セイヤァァァァ!!!」

 

 日本陸軍兵士の軍刀とパーパルディア皇国兵士の剣がぶつかり合う。近年剣より銃をと教育されてきた皇国軍に対し、銃と同等、或いはそれ以上に刀術を鍛え上げられてきた日本軍では、実力差が浮き出ていた。

 

「こいつら手強いぞ!!」

 

「大和魂を思い知れぇぇ!!!」

 

 その後、この戦いは5時間後に終結、日本陸軍は数十人の死傷者を出したが、パーパルディア皇国皇軍とアルタラス守備隊は全滅、フェン王国方面、そしてアルタラス王国方面に展開したパーパルディア皇国皇軍は殲滅されたのだった。

 

 

 




なんか…すみません。


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第13話─崩壊─

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇城

 

 

「…以上のことから…第4艦隊と第6艦隊は全滅…アルタラスは独立し…フェン王国侵攻も失敗しました」

 

 震える声でアルデが報告を終える。会議室に集まっていた皇帝や皇族、各外務局局長その他補佐官等も、今回の被害に絶句していた。

 

「アルデ!相手の戦力を分析し損ねるとは、何たる失態かッ!!貴様それでも指揮官かッ!!」

 

「も、申し訳ありませんっ!!直ぐに戦力を整え万全を期します!もう皇国が負けることはございません!!すぐに準備に入ります!!」

 

 アルデはそう言って逃げるように退室しようとしたとき、バンッ!と会議室の扉が開かれた。

 

「何事か!今は会議中であるぞ!!」

 

「申し訳ございません!!ですが、緊急の報告があり、参りました!!!」

 

 入ってきた職員が手に抱えていた複数資料を急ぎ足で各人の手元に配る。その資料にはこう書かれていた。

 

 

『工業都市デュロ陥落についての告書』

 

『各属領の反乱/独立状況』

 

『文明圏外国家連合による宣戦布告』

 

 

「な…なんなんだこれはぁぁぁッッ!!!」

 

 レミールが声をあげる。他も声には出さなかったが、レミールと同じ気持ちであった。

 

「はっ!!工業都市デュロは、日本軍の攻撃により、陥落しました!!デュロ防衛艦隊の一部は被害を免れましたが、工業都市デュロは日本軍の手に落ち、現在皇都エストシラント、つまりここを目指して進軍中とのことです!!その勢いにのせられ、日本の支援のもと、各属領が次々に反乱を起こし、独立しています!!更に、独立した国々と、ロデニウス大陸国家を始めとした文明圏外国家が連合を組み宣戦を布告、現在皇国は北と東と南の3方向から侵攻を受けています!!!」

 

 その報告で、会議室内は更に重苦しい空気となり、あまりの事態にアルデは泡を吹いて気を失っていた。

 

 皇国は今、破滅の道を歩んでいた。

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、工業都市デュロ。

 

 パーパルディア皇国の工業の中心であり、皇国軍の武器、兵器はその殆どがここで製造されている。皇国内に3つある大規模陸軍基地の1つや、105隻のデュロ防衛艦隊があることから、ここの重要性がわかる。

 

 現在は42隻が北東海域で演習中のため、残った63隻全てが厳戒体制に移行し、ワイバーンオーバーロードも常に20騎が警戒任務についていた。

 

 デュロ防衛基地司令ストリームは、沖合に展開する戦列艦を見て呟く。

 

「第6艦隊の司令は私の良き友であり、ライバルであった…奴はもう、死んでしまったのだな」

 

 ストリームの呟きに、副官は声をかけることができなかった。第6艦隊司令とデュロ防衛基地司令の仲の良さは、皇国軍内部では密かに有名であった。一緒に飲みあっている姿も度々目撃されていた。

 

「…いかんな。こんなのでは奴に笑われてしまう」

 

 気持ちを持ち直したストリームの姿に副官は安堵したが、それはすぐに崩れることとなった。

 

「警戒任務中の第5飛竜中隊より魔信!「我、謎の攻撃を受け半数が撃墜された。これより迎撃する」とのことです!!ですが、直後に魔信が途絶、撃墜されたと思われます!!」

 

 通信担当者の報告を受けて、司令部は一気に慌ただしく動き始めた。

 

「デュロ防衛竜騎士団全部隊に出撃命令!敵はムー以上の敵だ…神聖ミリシアル帝国を相手にしている気でかかれ!!」

 

 ストリームの命令で風神の涙が組み込まれた滑走路からワイバーンオーバーロードが次々に飛び立っていく。力強く羽ばたいて飛び立つワイバーンオーバーロードは上空で編隊を組むと、一途乱れずに敵がいると思われる方角へと飛んでいく。が…。

 

「…ッ!?報告!つい今しがた飛び立ったワイバーンオーバーロード12騎がレーダーからロスト、撃墜された模様!!」

 

「バカなっ!第5飛竜中隊はここからそこそこ離れてたんだぞ!?そんなに早くここまで来れるはずかない!!」

 

 レーダーを覗き込むが、レーダーにワイバーンオーバーロードの姿は認められなかった。まだそんなに時間はたっていないし、レーダーから消えるのはまだ早すぎる。

 

「司令!あちらを!!」

 

 司令部要員の1人が水平線を指差して叫んだ。ストリームもその方角を見ると、ストリームが目にしたのは、沈んでいく味方戦列艦と、そして日本の旗を掲げた艦隊だった。

 63隻もいた戦列艦は、この時点で既に半数以上が撃沈されており、上空に上がった筈のワイバーンオーバーロードの姿は無く、代わりに神聖ミリシアル帝国の天の浮舟に酷似した飛行機械が飛び回り、離陸しようとしたワイバーンオーバーロードを撃ち落としていく。

 その直後、敵の巨大戦艦が火を吹き、港で巨大な爆炎があがった。

 

「港守備隊全滅!!敵が上陸してきます!!」

 

「総力戦だ!デュロ防衛隊のみならず近隣の全守備隊を非常呼集!皇国本土に敵が上陸してくるぞ!急げ!!」

 

 過去例のない非常呼集に司令部要員は一瞬たじろぐも、すぐに各方面に向けて魔信を発信した。

 

 だが少し遅かった。その時既に日本軍はパーパルディア皇国本土に上陸をしていた。

 

「前方から敵騎馬兵多数接近!!」

 

「第3小隊迎撃するぞ!」

 

「まもなくこちらに戦車が来ます!」

 

「田辺がやられた!衛生兵!衛生兵!!」

 

 港では揚陸作業が進められ、港を奪還すべく迫り来る皇国軍を、第8旅団所属の普通科部隊と、揚陸された車両が迎撃する。

 装備の質では日本側が圧倒しているが、皇国軍は地の利を活かしたゲリラ戦術で日本軍の侵攻を食い止める。一進一退の攻防かと思われた時、海側から風を叩く音…ヘリコプターのローター音に混じって、音楽が聞こえてきた。

 その音楽を聴いた第8旅団長はズッコケ、揚陸作業中の隊員たちは憐れむように戦場と化した市街地を見つめた。

 

 空母から飛び立った10式対戦車攻撃ヘリと89式汎用ヘリの編隊は、大音量でワルキューレの騎行を流しながら、デュロ上空へと侵入していた。

 

「この音楽意味あるんですかね?」

 

「さぁな。副旅団長にでも聞いてくれ」

 

 その後、参戦した各種ヘリコプターの支援を受けた日本陸軍は市街地のゲリラ…皇国軍を排除、増援としてやって来た各地の守備隊は、揚陸作業が完了した特科部隊と戦車部隊の砲撃を受け壊滅、基地司令部は無力化され、この日工業都市デュロは日本軍によって占領されたのだった。

 

 

 



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第14話─北部戦線─

今回は少し短いです


 パーパルディア皇国 地方都市アルーニ

 

 

 属領を除いて皇国最大の穀倉地帯である地方都市アルーニ。

 属領が反乱を起こしたことで最前線となり、現在独立した元属領国家と、日本陸軍第11旅団を主力とした大東亜連合軍と対峙していた。

 

 アルーニから6km程離れた位置に陣地を展開した連合軍の会議用大天幕の中では、各国の指揮官が今後の作戦について会議を行っていた。

 

「比企谷将軍にお伺いしたい。貴方は…貴国は、この戦争をどこまで進めるおつもりですか?」

 

 第11旅団長の比企谷にトーパ王国から参戦した将軍が訪ねた。

 

「我々はパーパルディア皇国が降伏をしない限り、首都を除く全ての都市の占領を目的としています。全ての都市を占領したにも関わらず、降伏をしない場合は、首都を占領、事実上パーパルディア皇国を滅ぼします」

 

 比企谷の答えにその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた。それは大東亜連合の指揮官も同じだった。

 彼らとしても、パーパルディア皇国を滅ぼすまではいかないと心のどこかで思い込んでいた分、その衝撃は大きかった。

 

「そ…そんなことが出来るのですか!?」

 

「可能か不可能かで言えば、可能です」

 

 一同が絶句するなか、クーズ王国再建軍から参加したハキが声高らかに叫んだ。

 

「いいじゃないか!仮に滅んだとしても、それは皇国が日本の力を最後まで見抜けなかった、愚か者だったというだけだ!皇国が滅ぼうが、知ったことじゃない!!」

 

 ハキの言葉に、元属領国家から参加した者は殆どが賛同の声をあげる。これには大東亜連合側も彼らのことを思うと強く言えなかった。

 

「まぁ、それはあくまで最後の手段です。いくらなんでも、首都を包囲されれば、何かしらの動きを見せると思われます」

 

 大東亜連合が会議を行っているとき、地方都市アルーニ某所の会議室でも、アルーニ守備隊幹部等が会議を行っていた。

 

「敵は文明圏外国家の蛮族と日本軍約10000にワイバーンが30騎、対するこちらは陸軍約2000にリントヴルム45頭、そしてワイバーンロードが42騎…陸では劣りますが、空は完全にこちらが有利です。敵ワイバーンを排除した後、航空支援があれば負けることはないと思われます」

 

 幹部の説明にアルーニ守備隊将軍ランサーは不安そうに頷く。

 

(そううまくいくだろうか)

 

 ランサーの予感は的中する。

 耳を叩くようなサイレンが、アルーニ全体で鳴り響いた。

 

「ッもう動き出したか!総員戦闘準備!!」

 

 その場にいた全員が慌ただしく動き始めた。

 ランサーは建物を出て、ふと空を見上げると、ワイバーンロード42騎が敵を殲滅すべく飛び上がっていた。

 

「頼んだぞっ!」

 

 ランサーはワイバーンロードに期待の表情を見せる。だが、それはすぐさま絶望へと変わっていった。

 大東亜連合陣地から、さらに後方に構築された臨時飛行場から飛び立った、大東亜連合軍所属の戦闘機スピアー(一式戦闘機)15機の編隊が、ワイバーンロードに襲いかかった。

 

 スピアーの12.7mm機銃4門の攻撃を受けたワイバーンロードは、その体に穴を開けて落ちていく。

 

「戦果、ワイバーンロード1騎撃墜!!「ワレ、突撃ス、目標ワイバーンロード!目標ワイバーンロード!!」」

 

「ロウリア空軍301飛「竜喰隊」隊長、ターナケイン!」

 

 ロウリア王国空軍の精鋭戦闘機隊「竜喰隊」は、その後もワイバーンロードむけに機銃弾を浴びせていく。

 ちなみに、無線に流れるターナケインの言葉を聞いて、日本の軍人は「あの菅野に影響されたな」と呆れていた。

 

 暫くすると、上空にいるのはスピアーのみとなっていた。

 

「アルーニ上空敵騎なし!!」

 

「全軍突撃!今までの恨みだ!殲滅しろ!!!」

 

「「「ヤアァァァァァッッ!!!」」」

 

 太鼓の音をならし、連合軍は前進を開始した。

 先頭から、戦車、第11旅団普通科部隊、連合軍歩兵部隊+元属領国家軍の布陣で進んでいく。

 

「リントヴルムを前に出せ!魔導砲砲撃よーい!!」

 

 その指示を受けて、リントヴルムが前に出され、その後方では魔導砲の砲撃準備に取りかかる。

 無論、それに付き合う必要のない日本陸軍戦車が砲撃を行う。120mm徹甲弾はリントヴルムを貫通し、その後方の歩兵や魔導砲を吹き飛ばす。

 さらに上空からは連合軍のワイバーンが飛来し、リントヴルムや皇国軍歩兵を焼き殺していく。

 

「ここまで差があるとは…これ以上は無意味だ、降伏の合図を出せ!」

 

 ランサーが降伏の指示を出そうとしたその時、彼のいた場所にワイバーンが発射した火炎弾が命中、ランサーが死んだ。

 

 指揮官のいなくなったアルーニ守備隊は壊滅、その後、元属領国家の兵士が民間人を殺害しようとし、日本軍人や連合軍兵士がそれを止めるといった事件が発生したが、無事地方都市アルーニは連合軍に占領されたのだった。

 

 

 



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第15話─2つの海戦─

本日2話目の投稿です。


 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 南方海域

 

 

 海にひしめく大艦隊。現在この海域にはパーパルディア皇国海軍第1、第2、第3、第5艦隊、総勢1768隻が終結していた。

 残された皇国海軍主力の全てが集まり、ここに来るであろう敵艦隊を迎え撃つべく展開していた。

 

「皇国本土が侵略されるとは…まさか我々は古の魔法帝国を相手にしているのか?」

 

 第3艦隊提督アルカオンは不安そうに呟いた。

 今まで連戦連勝を重ねてきた皇国の圧倒的敗北。神聖ミリシアル帝国やムー国相手でも、ここまではならないだろう…その時。

 

 ドォォォンッ!!

 

 アルカオンの乗船する戦列艦ディオスの近くを航行していた戦列艦が、突如水柱に包まれる。

 水柱の引いた後には、戦列艦だったもののみが海に浮かんでいた。

 

「な…何が起きた!?」

 

「提督!前方より艦影!!とてつもなくデカイですッ!!!」

 

 見張りの部下から報告が上がる。部下の指差す方角から、確かに巨大な軍艦が多数、こちらに近付いてくるのが見えた。

 

「なっ…なんて艦隊だ!!」

 

 アルカオンは神聖ミリシアル帝国でも見たことの無いような艦隊に、驚愕の声をあげた。

 

 この艦隊こそ、大東亜共栄圏連合艦隊である。

 連合艦隊総旗艦であるイナサク型戦艦イナサクを始めとした戦艦4、空母2、重巡洋艦8、軽巡洋艦14、駆逐艦32と、文明圏外国家群の総力を挙げた大艦隊である。

 この艦隊に、日本海軍から戦闘巡洋艦霧島を旗艦とした8隻の護衛艦隊が参加していた。

 

「全艦撃ち方始め!!奴等に我々の底力を見せてやれッ!!」

 

 連合艦隊司令長官に任命された提督ミドリの命令を受け、各艦から砲撃が開始される。

 未だに射程圏内に入ることのできないパーパルディア皇国連合艦隊は、一方的に撃たれるしかなかった。

 

 上空では竜母から飛び立ったワイバーンロードと、皇国本土から飛び立ったワイバーンオーバーロードが、空母から飛び立った艦上戦闘機カイロスと激しい空戦を繰り広げる。

 史実の零式艦上戦闘機32型と同等の性能を持つカイロスを相手にするには、品種改良されたワイバーンオーバーロードですら力不足であった。

 

「艦長、本国より入電。間もなく第8旅団が皇都を包囲するので、可能であれば皇都内にある大規模陸軍基地を攻撃してほしいとのことです」

 

 戦闘巡洋艦霧島艦長山南修は少し考えてから、返答する。

 

「了解した。これより本艦は、皇都内部にある大規模基地に対し、艦砲射撃を実施する。護衛艦隊各艦は引き続き、大東亜共栄圏連合艦隊の支援に当たれ。今後の臨時指揮権は、駆逐艦晴風に一任する…全速全進!皇都内部の大規模陸軍基地を、殲滅する!!」

 

 戦闘巡洋艦霧島が速力をあげる。その姿を敬礼で見送った駆逐艦晴風艦長岬明乃は、すぐさま目の前の戦場に意識を戻した。

 

「右翼の駆逐艦が敵に近すぎる。砲戦用意!主砲、攻撃始め!」

 

「ういっ!」

 

 晴風の主砲12.7cm速射砲から砲弾が発射され、味方駆逐艦に砲撃を加えようとした敵戦列艦を撃沈する。

 

「駆逐艦ランスより発光信号。『貴艦の支援に感謝する』です!」

 

「よかった…引き続き他目標を攻撃する!」

 

 その後も海戦は続く。

 

 

 

 

 

 その頃、戦闘巡洋艦霧島は、目の前の敵のみを撃沈し、速力42ktの高速で皇都エストシラントに向かっていた。

 

「艦長!まもなく敵の大規模陸軍基地が主砲の有効射程圏内に入ります!」

 

「慌てるな。必中射程まで近付くんだ。流れ弾が基地外の民間人に当たるのは色々と不味い」

 

 着実に皇都に近付く霧島の進路を妨害しようと多数の戦列艦が進路上に飛び出すが、戦闘巡洋艦の前には無力であった。

 自慢の30.5cm砲の直撃を食らった戦列艦は、跡形もなく消し飛ばされる。

 

「捉えました!必中距離です!!」

 

「よし!主砲榴弾、撃ち方始め!!」

 

「撃てぇーッ!!」

 

 戦闘巡洋艦霧島の連装主砲3基から放たれた6発の榴弾は、全てがパーパルディア皇国大規模陸軍基地内へ着弾し、その威力を発揮する。

 ある砲弾は離陸中のワイバーンオーバーロードもろとも吹き飛ばし、またある砲弾は基地司令部を粉砕する。

 

 流石に大規模陸軍基地に1度の斉射では被害は少なかったが(但し基地司令部は壊滅)、その後も斉射は続く。

 戦列艦や湾岸砲が妨害しようとするも、副砲等の砲撃で沈黙。一時間後、大規模陸軍基地のあった場所は瓦礫の山と化し、皇国海軍連合艦隊は、大東亜共栄圏連合艦隊+護衛艦隊によって壊滅した。

 

 

 

 

 

─中央暦1640年5月30日─

 大日本帝国 旧日本海 海上

 

 

 演習に参加していた為に被害を免れたデュロ防衛艦隊42隻は、秘密裏に手に入れた地図を見ながら、日本の海軍基地がある舞鶴市を目指して航行していた。

 100門級戦列艦ムーライトの艦長サクシードは船に揺られ、艦隊の前方を眺めていた。

 ふと隣に立つ歴戦の猛者である副長が呟いた。

 

「敵は一体何なのでしょうか。デュロは占領され、海軍は壊滅。ムーが…いえ、例え神聖ミリシアル帝国相手でも、ここまでの被害はあり得ません」

 

 数々の激戦を潜り抜けてきた副長の言葉は重く、サクシードは嫌な汗を流す。

 彼の言う通りだ。これほどの被害を出す相手など一国しか思い付かない。古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国だけであった。

 

(いや、考えすぎか…もしそうなら、先進11カ国会議の場で議題に上がり、我々にも説明がなされるはずだ)

 

 サクシードは自分の悪い予想を振り払い、気を引き閉め直してから再び艦隊の前方を見た、その時だった。

 彼の乗艦する戦列艦ムーライトの横を、青白い光が通りすぎていった。

 

「……はっ!!?」

 

 サクシードは光が通りすぎた場所に視線を移す。そこにいた筈の戦列艦は、破片や残骸すら残さず、跡形もなく姿を消していた。

 42隻の半数、つまり21隻が、一瞬のうちに消滅したのだ。

 

「な…な……何が起きたのだ!?」

 

 その言葉が、サクシードの最後の言葉となった。

 戦列艦ムーライト以下21隻は、瞬く間に青白い光に包み込まれ、何が起きたのかもわからず消滅した。

 

 

 

 

 

 そこから離れた海域に、3隻の艦艇が航行していた。磯風型駆逐艦2隻に挟まれるように航行する巨大艦、それは大日本帝国海軍の誇る最新鋭戦艦である大和型戦艦…その2番艦武蔵だった。

 戦艦武蔵艦長知名もえかは、目の前で起きた光景に震えていた。戦艦武蔵の誇る48cm主砲から発射された青白い光は、たった2度の砲撃で42隻の艦隊を消滅させてしまった。

 

「これが…武蔵の力だと言うの」

 

 戦艦武蔵は大和型戦艦ではあるが、兵装や機関等の一部は異なっている。

 

 まず、この世界に転移してから技術本部で開発された新型機関、核融合式特型原子炉機関。この機関は、大気中からエネルギーを汲み上げることで莫大なエネルギーを無補給で産み出すことができる、少し前まではSFと思われていた夢の無限機関だ。試験的に本艦に搭載されたが、その性能はこの戦闘で証明された。

 

 その機関からエネルギー供給を受けて撃つことができる、技術本部が長年研究していた新型兵器、48cm3連装電磁衝撃波砲。その威力はすさまじく、小さいとはいえ、無人島を半壊させるほどの威力を発揮する。

 

 建造途中であった戦艦武蔵に詰め込まれた新型機関、新型兵器は、技術本部の想定した以上の結果を叩き出した。

 

「凄まじい…これなら戦艦もまだまだ現役で活躍できますよ!」

 

 興奮する副長の言葉に、知名は頷くだけだった。

 腕を抱えて震えるその姿は、新型兵器の威力を前に恐怖を感じているようにも見える。だが…。

 

(この力は戦艦大和に、更には今後建造される艦艇にも受け継がれる…素晴らしい!大日本帝国海軍は、栄光の道を突き進む!!間違いないッ!!)

 

 知名は歓喜を胸に、舞鶴基地へ撤収するよう指示を出すのだった。

 

 

 



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第16話─列強の最後─

思いきって本日3話の投稿です。
ついにパーパルディア皇国戦も終わり、次回からは本作品のオリジナルに入ろうと思います。




 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 郊外

 

 

 大日本帝国陸軍第8旅団は、皇都エストシラントを包囲するように展開していた。

 

 今回第8旅団は戦車隊を中心とした編成が成されており、本戦闘からは82式戦車ではなく、その次世代型の95式戦車が参加していた。

 

「団長、北部方面から侵攻した第11旅団と、大東亜連合軍が合流しました。北部の都市は、全て占領したそうです」

 

「わかった…東部と北部は全て占領下にあり、南は連合艦隊が常に警戒している。後は西部方面をアルタラスからくる第15旅団が占領して、首都を完全に包囲する…連中が大人しく降伏してくれればいいんだがな」

 

 第8旅団長の飯島は、皇都の方角を見て呟いた。飯島としても、この一方的な戦闘をさっさと終わらせたいと考えていた。

 

 第8旅団が待機する中、パーパルディア皇国行政大会議は重苦しい空気に支配されていた。

 皇国海軍はすでになく、工業都市デュロが陥落したため武器、弾薬の提供ができず、属領も全て失い、更に北と東全ての都市を占領されてしまった。そして敵は今、ここ皇都エストシラントを包囲している。いつ突撃してくるかも不明だ。

 

「徹底抗戦だ!!我々列強が!これ以上ナメられるわけには!いかんのだ!!」

 

「現実を見ろ馬鹿者が!!この状況で戦争が続けられるか!!すぐにでも降伏すべきだ!!」

 

「誰が馬鹿だこのハゲ!!」

 

「あっ!言ったな!?言っちゃいけないこと言ったな!!?」

 

 途中から話が逸れていき、それを眺めるエルトは目頭を押さえていた。

 なぜ一部を除いた彼らは、現実を見ようとしないのだろうか。北と東の都市は全て占領された。西方もいずれは同じ道を辿るだろう。

 その前に講話できればいいのだ。それがわからないのだろうか?わからないのだろう。

 

 エルトは深いため息をついて、周りを見渡す。するとそこに、見知った顔がないことに気が付いた。

 

(カイオスは一体どこに?)

 

 そう思った直後のことだった。

 大会議室の扉が勢いよく開かれ、そこから50人ほどのマスケット銃を装備した兵士が雪崩れ込んできた。

 

「な、なんだ貴様らは!ここをどこだと思っている!?」

 

「皇国を破滅へと導いている無能達の巣窟ですかな?」

 

 隊長らしき者がそう答えた。

 

「お前達が国のトップにいる限り、この戦争は終わらない」

 

「反乱ごっこか!?そんなことしたところで!現状がどう変わると言うのだ!!?」

 

「既にカイオス様が話をつけておられる、講話会談はやろうと思えばすぐにでもできるそうだ」

 

 その言葉を聞いて、エルトは胸を撫で下ろした。

 この戦争が終わる。彼がやってくれた。

 

「それまで、お前達にはここで待機してもらう。異議は受け付けない」

 

 ちょうどその頃、皇宮パラディス城ルディアスの私室では、カイオスがルディアスと対面していた。

 

「貴様が裏切るとはな、カイオス」

 

「貴方がこのまま国を治めていると、皇国が滅ぶもので」

 

 その後、レミールが逃げ出し、シルガイアに捕らえられる等のエピソードがあった翌日。

 

 

 

「重大発表ってなんだろうな」

 

「さぁ、まさか皇国が戦争に負けて、国民が奴隷になるとか…?」

 

「バカな!我が国は列強だぞ!!そんな簡単に負けるわけがない!!」

 

「現実見ろよ!どう考えても負けてるだろうが!!」

 

 様々な憶測が飛び交うなか、魔画通信機で発表が行われた。

 

『皇国臣民の皆さん、暫定国家元首のカイオスです。』

 

 画面の前の民衆がざわつく。てっきり宰相か、皇帝ルディアスの補佐官が出てくると思っていたからだ。

 

『このたびの戦争は多くの人が傷つき、家族を亡くし、そして途方に暮れた方も多いでしょう。

 前政府の失策により、皇国兵は傷つき、かつて属領と呼ばれた73ヵ国もすべて独立をいたしました。我々がこの戦争を続けたとしても、得るものは何もなく、むしろ失う物の方が多い。

 私は皇国臣民を守るため、そして皇国がこれ以上立ち直れないほどのダメージを受ける前に、大日本帝国と早期講和をする事を決断いたしました。』

 

「なんだと!これほど屈辱的な目にあわされて、講和だと!!!」

 

「そうだそうだ!!徹底抗戦するべきだ!!」

 

「いや、早期講和は正しい!!これ以上やられたら何も残らんぞ!!」

 

「独立が維持できるだけでも良いじゃないか。」

 

 画面の前では、様々な議論が行われる。

 

 

『今回の戦争により、パーパルディア皇国は、73箇所の属領を失い、74ヵ国に分裂いたしました。

 反パーパルディア皇国連合や文明圏外国家連合も我が国に宣戦を布告していましたが、今回はそのすべてとも講和を実現いたしました。

 本講和により、我が国は平和を手に入れました。私は、今回手に入れる事が出来た平和を永きにわたって維持しするためにも、大日本帝国が唱える大東亜共栄圏に加盟し、他国と共存し、そして繁栄していこうと思います』

 

 集まっていた各国の記者から様々な質問が行われ、放送は終了する。

 通信機の前では、民衆は一様にうなだれていた。

 愛する者、子供を失った者たちが通信機の前で泣き崩れ、皇国全体が悲しみに包まれる。

 皇国民にとって、大日本帝国は恐怖の対象となった。

 

 

 

 

 大日本帝国 東京都 首相官邸

 

 

「やれやれ、思ったよりも早く終わったな」

 

 今村は自身の執務室で書類作業を行いながら今後のことを考えていた。

 

「国連や赤十字のような組織がなく、国際法も列強間でしかないとは…やはり大東亜共栄圏のみならず、国際連合の設立も必要か…幸い、ムー国やグラ・バルカス帝国といった西方の国家も乗り気だし、音頭をとってもいいかもな」

 

 その後、今村は戦後の記者会見に向けて、執務室をあとにするのだった。

 

 

 



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閑話集②
閑話─居酒屋にて─


さて、今日は何話投稿できるだろうか。


 大日本帝国 東京都 某居酒屋

 

 

「「かんぱーい!!」」

 

 東京都内にあるとある居酒屋で、岬明乃と知名もえかの二人が、久しぶりに再開していた。

 

「本当に久しぶりだね、ミケちゃん」

 

「うん!モカちゃんも元気そうでよかったよ!」

 

 横須賀女子海洋士官学校を卒業した2人は配属先が別れ、明乃は横須賀基地に残り、もえかは舞鶴基地に配属された。

 あれから約3年、2人はお互いの思い出話等で盛り上がっていた。

 

「それにしてもモカちゃんは凄いよね!まだ卒業してから3年も経ってないのにもう戦艦の、それも戦艦武蔵の艦長なんだもん」 

 

「ミケちゃんだって、晴風の艦長じゃない」

 

「そうだけど、晴風は数ある駆逐艦の1隻、なろうと思えば誰でもなれちゃいそうだよ」

 

「いや、その歳で艦長になれる奴は物凄く限られてくると思うぞ」

 

 隣の席から話しかけられそちらを向くと、そこには2人の男性が、明乃達と同じように飲んでいた。

 警戒しながらもえかが尋ねる。

 

「貴方達は?」

 

「これは失礼。自分は、横須賀基地第1艦隊戦艦大和戦術長の古代進と申します」

 

「同じく、横須賀基地第1艦隊戦艦大和航海長、島大介です」

 

「お、お疲れさまです!第1艦隊所属、駆逐艦晴風艦長の岬明乃です!」

 

「舞鶴基地第2艦隊戦艦武蔵艦長の知名もえかです。大和…貴方達も、若いのに随分重要な役職に就いてるんですね」

 

「まぁ、土方さんに鍛えられたお陰ですかね」

 

 大介が苦笑して答えた。

 もえかもその名前は知っていた。鬼竜の愛称がつけられた、教育の鬼だ。そして…。

 

「すっごーい!土方さんに教わったんだ!土方さん元気だった?」

 

「あの人はこの先10年はまだまだ元気だと思うよ。君は土方さんの知り合いなのか?」

 

「うん!私のお爺ちゃんと同級生なんだって」

 

「へぇ、不思議な縁があったもんだ」

 

 その後はお互い交えて飲むこととなった。

 

「しかし、日本がこの世界に来てから、すでに2回も戦争を行っているんだな」

 

「うん、私も武蔵で出撃して、日本海で敵艦隊と戦闘を行いました」

 

「私はロウリア王国戦もパーパルディア皇国戦もどっちも参加したよ」

 

「この先、この国はどうなっていくんだろうな」

 

「なんだ、お前達もそんなことを考えるんだな」

 

 突然かけられた声、だがその声を聞いた古代と島はビクッとし、明乃も「あっ!」と驚いた。

 そこには、先程の話題にも上がってきた、土方竜本人と、戦艦大和艦長の沖田十三の姿があった。

 

「沖田艦長、それに土方さんも。どうしてここに?」

 

「あぁ、たまにはこういう場所もいいだろうとこいつを誘ったんだ。明乃君も、大きくなったな」

 

「お久しぶりです!土方さん!」

 

 新たに2人を加え、この周囲に異様な空気が広がった。

 

「確かにお前達の言う通り、この世界に来てからは戦争続きだ。だがそれは野心あっての戦争でないのは理解してるな?」

 

「はい、ロウリアもパーパルディアも、相手が覇権国家であり、かつ日本や同盟国が危機に瀕していたから…と解釈しています」

 

「それでいい。それ以上、この国の闇をお前達が知る必要はない」

 

 その後、戦争問題に関する話題は終わり、親睦を深めていくのだった。

 

 

 

 

 

 大日本帝国 東京都 首相官邸

 

 

「新しい予言が出た」

 

 ザワッ…ザワッ…。

 今村のその言葉に、集められた者達はざわめいた。

 

「予言…今回は、一体どのようなものですか?」

 

 防衛大臣の高野が尋ねる。

 すると今村はテーブルに1枚の地図を広げ、横に日付の書かれて紙を置いた。

 

「この赤丸の数字がついた場所が予言の場所だ」

 

 

 中央暦1642年4月22日

 

 赤丸:①とある群島、②ムー国港湾都市マイカル、③神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

 

 

 これをみた戸部外務大臣はあることに気が付く。

 

「①と②はわかりませんが、この日付と③の場所ですと、確か先日接触した神聖ミリシアル帝国が我が国に参加要請してきた、先進11ヵ国会議の開催日です」

 

 それを聞いて、今村は考える。

 

「何が起きるかはわからないが、この会議の場で何かが起こる…それはわかったが、本題は何が起こるかだな」

 

「また、新しい戦争でも始まるんでしょうか」

 

「縁起でもないこと言わんといてください」

 

 結局、その日は答えが見つかることがなく、解散するのだった。

 それが、苦難の始まりだと気付くことなく…。

 

 

 



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閑話─追跡者─

本日2話目です。
次回から本編へ戻ります


 ???

 

 

 とある場所、とある時、とある世界。ここは地獄と化していた。

 

「くそっこの蛮族ども…がぁぁ!!」

 

「ライノがやられた!増援はまだなのか!?」

 

「増援ならさっき全部吹き飛んだよ!!っグラム!そこから離れろぉ!!」

 

 次の瞬間、彼らのいた場所を爆炎が襲いかかる。

 グラムは運よく逃れることができたが、他の仲間は今の爆発で吹き飛ばされ、絶命していた。

 

「くそっ!他は…他は誰がいる!?」

 

「私がいます!」

 

 グラムの視線の先にはまだ少女とも言える兵士が、息絶え絶えに、そこにいた。

 

「ッ!くそっ!俺たちにはもう、奴等は止められないのか!!」

 

 グラムが地面を強く叩いたとき、炎の向こう側に人影が見えた。

 

「お、おい!お前たちも無事だったか!?一旦引くぞ!ここは…この世界はも…う…」

 

 グラムは生き残りがいたと喜び近付いていくと、その顔から喜びが消え、驚愕の表情へと変わり、目を見開いた。

 顔付きや体格は自分達と同じ人間だが、肌の色が違う。緑色なのだ。

 緑色の肌を持つ人種など、奴等しかいない。

 

「いやあぁぁぁ!!!」

 

 先程の少女兵士の悲鳴が聞こえた。

 振り向くと、少女兵士は奴等に押し倒され、今まさに暴行を受けようとしていた。

 

「っ何してんだテメェェッッ!!!」

 

 グラムが剣を抜き斬りかかろうとした時、「ぱんっ」と乾いた音が聞こえたと同時に、グラムの腹から勢いよく血が噴き出した。

 

「かふっ」

 

 グラムは吐血し、その場に倒れ込んだ。

 薄れていく意識の中、少女兵士が暴行を受ける音が聞こえる。また、遠くからはまだ生き残っていた仲間が、命乞いをする声が聞こえた…だがそれはすぐに聞こえなくなった。

 

『こいつはどうする』

 

『ほっとけ、どうせすぐ死ぬ』

 

 奴等の話し声が聞こえるか、何をいっているのかわからない…もう…意識が…。

 

「ちくしょう…ちく…しょ…」

 

 グラムの意識は、不思議な浮遊感と共に、暗い闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 ラスト王国 サィーゴ城

 

 

 この世界に残された最後の王国、ラスト王国。今この場所で、最後の会議が行われようとしていた。

 

「ついに奴等はこの島にも手を出してきたか…すると、他の国は」

 

「はい、全て滅びたと思われます」

 

 宰相の言葉を受け国王は目頭を押さえ、貴族たちは嘆きみ、悲しんだ。

 我が国よりも文明が進んだ国、強大な軍事力を持った国、そのどれもが既に、彼の国に滅ぼされたのだ。そしてやつらは遂に、この王国にすら魔の手を伸ばしていた。

 

「近衛騎士団は壊滅、各地方は占領され、敵はまっすぐここを目指してきています」

 

「…よもやこれまでか」

 

 国王の一言が、この場にいる全員に重くのし掛かる。

 三百年の歴史を誇るラスト王国、王国の最後が、目の前まで迫っている。

 

「…これ以上は時間の無駄だ。皆のもの、最後の時くらい、家族と過ごすのもよかろうぞ」

 

 しばらく静まり返る会場だったが、1人が退室すると、他の者も続くように退室していき、最後は国王1人が残された。

 

 国王は立ち上がると会議室を出て、城の一角にある部屋へとやって来た。

 

 コンコン

 

 ノックをすると中から「どうぞ」と返事が帰ってきたので、国王は扉を明け中へと入っていく。

 

 その部屋は国王の一人娘の部屋であり、装飾品も随分と可愛らしいものが並べられていた。

 

「やはり私では無理だったよ、──。すまない、無能な私を許してくれ」

 

「お父様…」

 

 ──と呼ばれた少女は、自分に頭を下げる父を見て、心がいたくなる。

 

(もし転移してきたのがグラ・バルカス帝国(・・・・・・・・・)…いや、或いは大日本帝国(・・・・・)であったなら、また違ったのでしょうね)

 

 少女は涙を流しながら謝罪を口にする父親の背中をさすり、自分もまた、涙を流すのだった。

 

 その日、この世界最後の国家、ラスト王国が滅び、とある帝政国家によって支配されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閣下、この世界にも奴等は存在しませんでした。

 

 ご安心を、次の世界は98%の確率となります。

 

 大帝もご満足していただけるかと思われます。

 

 はい、それでは…我らが大帝と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我がアトランティス大帝国に、栄光をッ!!

 

 

 



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先進11ヵ国会議
第17話─各国の動向─


本日3話目です。
今回から本編に戻ります。


─中央暦1642年4月15日─

 ムー国 港湾都市マイカル

 

 

 空は快晴。暑すぎず寒すぎず、穏やかな風に潮が強く香っている。

 港近くにある公園で、設置されたベンチに一組の老夫婦が座っていた。紳士的な格好の男性が遠い目で港を眺め、隣の伴侶に聞こえるように呟く。

 

「マイカルもこの数年で随分と変わったなぁ」

 

 港には、日の丸が描かれた大型貨物船や、自動車運搬船が停泊している。

 半年ほど前に、日本主導の港湾改良工事が完了した。整備された港は水深30mと、これまでと比べ物にならないほど深くなり、大型タンカーも十分に停泊可能だった。

 陸地に視線をやると、円柱状の石油備蓄用大型タンクが大量に並べられている。

 空港も、ジャンボジェット旅客機の発着に耐えられるようにさらに改善し、延伸工事が急ピッチで進んでいた。

 

 他にも、ここマイカルには日本から派遣された、大日本帝国陸軍ムー国派遣隊の駐屯地があり、ムー国陸軍が戦車等の運用ノウハウを学んでいる。

 また、グラ・バルカス帝国からは、大日本帝国では難しい単翼戦闘機や爆撃機の運用ノウハウを学び、専用の大型空母の建造も進んでいた。

 

 軍港に停泊するムー国海軍の他、日本国海上保安庁の巡視船や、グラ・バルカス帝国海軍の駆逐艦が停泊している。どちらの国も、ムー国にとって最友好国だ。

 

「最近では、日本人やグラ・バルカスからの観光客も多く見られますね」

 

「あぁ、とても喜ばしいことだ」

 

 老夫婦が穏やかな日常を過ごす中、大日本帝国陸軍ムー国派遣隊司令部では、重苦しい空気に包まれていた。

 

「何か起こるとされている日まで、残り7日か」

 

 駐屯地司令の光永は、書類に目を通して頭を痛めていた。

 上層部から、22日にマイカルで何かが起こると言われ、詳しく詳細を聞き出そうとしたが、上もわからないとしか言えず、困難を極めていた。

 

「とりあえず、全部隊に20日以降の外出自粛と、即応体制を呼び掛けています」

 

「本国でも、第3師団がいつでも動けるよう待機中のようです」

 

「わかった。とりあえず、各自非常時に備えてくれ」

 

 大日本帝国陸軍ムー国派遣隊は、着実に準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府 大会議室

 

 

 グラ・バルカス帝国の国政会議では、国の今後を決定付ける、重大な会議が始まろうとしていた。

 

「これより、帝前会議を開始します」

 

 進行役が開祖を宣言する。

 

「日本との交流により、我が帝国は経済力や技術力が向上、軍事力も同様、先日ジェットエンジンを搭載した国産戦闘機が、試験段階に入りました。日本に比べればまだまだ遅れていますが、何れは追い付いて見せます」

 

「外国からの観光客も増え、国内事業も好景気を見せています」

 

 各担当者から報告が上がる。そのどれもが、グラ・バルカス帝国にとって良い報告であった。

 

「凄まじいな。日本とは今後とも友好的に交流を続けねばならんな」

 

 その後も会議は続き、会議も終わりへと向かっていた時、グラルークスが発言した。

 

「実は先日、再びアレナ様から御告げがあったのだ」

 

 会議室にいた全員はグラルークスに視線を移した。

 

「して、アレナ様はなんと」

 

 議員の質問に、グラルークスは答えた。

 

 

『世界の力集まりし時、世界は闇に包まれるだろう、彼の闇、呪い持たざる闇は、3つの光を埋め尽くさんと動き出す』

 

 

 予言を聞いた議員達は、必死に頭を働かせた。

 世界の力集まる時…これは先進11ヵ国会議を意味するのではないだろうか。

 世界は闇に包まれる…これはこの世界に伝わる、ラヴァーナル帝国の復活の可能性が高い。だが呪い持たざる闇とはなんだろうか。

 それと3つの光…これは国家を示すのだろうか。

 

(大日本帝国とグラ・バルカス帝国は確定として…後はどこだ?)

 

 ムーは未だ発展途上であり、神聖ミリシアル帝国は、兵器の性質上あり得ないと思われる。

 

「これはまたアレナ様も、難しい予言を残したものだ」

 

 この事は当議会では重く受け取られ、グラ・バルカス帝国は厳戒体制へと移行するのだった。

 

 

 

 

 

 大日本帝国 東京都 首相官邸

 

 

 現在ここには、各大臣から各軍の幕僚長が集められていた。

 

「総理、本当によろしかったのでしょうか」

 

 中田環境大臣が不安そうに総理に訪ねた。

 

「何がですか?」

 

「今回の派遣についてです。会議中の警備はこちらに任せろと神聖ミリシアル帝国側が言ってたのです。それなのにこの規模の艦隊を派遣してよかったのかと」

 

 中田は手元の資料に再び目をとおしながら、やはり不安そうに呟く。

 手元の資料には、今回派遣された艦隊の詳細か載せられていた。

 

 

 先進11ヵ国会議派遣艦隊

紀伊型戦艦:陸奥/旗艦

伊勢型戦艦:伊勢、扶桑

飛龍型航空母艦:飛龍、蒼龍

金剛型戦闘巡洋艦:青葉、那智

村雨型巡洋艦:村雨、阿武隈、最上、五十鈴

磯風型駆逐艦:磯風、雪風、島風、綾風、神風、旗風、浜風、山風

 

 

 戦艦を3隻含む合計19隻もの艦隊は、既にカルトアルパスへ向かっていた。

 

「些か過剰戦力ではないでしょうか」

 

「ですが、開催地のカルトアルパスで何かが起こると、イズル君が示したのです。何が起こるかわからない以上、最大限の警戒を持って、事に当たるべきです」

 

 今村の強気な発言に、中田は渋々と引き下がっていった。

 

「統合幕僚長、現在の状況を」

 

「はい、陸軍は現在全国各地の駐屯地に即応体制を維持させています。海軍も派遣艦隊を除いた全艦艇が各基地に帰投しています。空軍では、いつでも全力出撃ができるよう、全隊員に基地内待機が命令されています」

 

「わかった…せめて、穏やかに終わってくれるといいんだがなぁ」

 

 こうして、会議は次の議題へと移っていった。

 

 

 



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第18話─マグドラ群島海戦─

─中央暦1642年4月22日─

 神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港

 

 

 港町カルトアルパスは、第一から第二までの文明圏において有数の、広大な港湾施設を持つ。

 先進11ヵ国会議には各国大使を乗せた船だけでなく護衛の軍艦もやってくるため、そのすべてを収容できるよう、毎年この港町カルトアルパスが選ばれている。

 港湾管理者の元には、続々と到着する各国の軍艦の情報が集約されていた。

 

「第一文明圏トルキア王国軍到着!戦列艦7、使節船1、計8隻」

 

「了解、第一文明圏エリアへ誘導せよ」

 

「第一文明圏アガルタ法国到着。魔法船団6、民間船2」

 

「了解、トルキア王国軍の隣へ誘導せよ」

 

「…この辺りは代わり映えせんな」

 

 港湾管理責任者のブロンドは、カルトアルパス港管理局の窓から港湾の様子を眺めていた。

 彼は軍艦が好きであり、そのため、使節護衛の名目で連れてこられる各国の艦隊が見れるこの会議が好きだった。

 

「グ…グラ・バルカス帝国到着、戦艦1、空母2、重巡洋艦4、巡洋艦8、小型艦12、到着」

 

「了解、第二文明圏エリアに…は、入るのか?あれ」

 

 管理局の職員のざわめついた報告が入る。

 グラ・バルカス帝国の誇る、世界最大級の戦艦、グレードアトラスターを旗艦とした艦隊。

 だが港の関係上、グレードアトラスターのみが港へと停泊することとなった。

 ブロンドはグレードアトラスターの着岸作業に、茫然としながら見入っていた。

 

「…長!ブロンド局長!」

 

 部下からの問いかけで我に返った彼は、少し返事が荒くなる。

 

「あぁ、なんだ!?」

 

「大日本帝国が到着しました!戦艦5、空母2、重巡洋艦4、巡洋艦8、計19隻です!」

 

 派遣された日本艦隊は、艦体の大きさから駆逐艦が巡洋艦などと間違って報告されたが、それでもグラ・バルカス帝国並み、いや、それ以上の艦隊にブロンドは唖然としていた。

 

「なんと言うことだ…一体なぜこのような国が突如として現れたのだ」

 

 ブロンドは大日本帝国とグラ・バルカス帝国の艦隊に目が釘付けとなるのだった。

 結局、日本の艦隊も入りきることができず、戦艦陸奥のみが停泊することとなった。

 

 

 

 

 

 時は少し進み、神聖ミリシアル帝国 マグドラ群島

 

 

 ここでは現在、神聖ミリシアル帝国海軍所属の第零式魔導艦隊が、訓練を行っていた。

 魔導戦艦3、重巡洋装甲艦2、魔導船3、随伴艦8の計16隻。

 世界に敵なしと誉れ高い艦隊は、実践さながらの厳しい訓練を繰り返し、奢ることなく練度の維持、向上に努める。

 

「今日も平和だな…この時間だと、もう会議は始まってる頃か」

 

 艦隊司令バッティスタは、艦橋の窓から穏やかな海を眺めていた…その時だった。

 

 

『世界は闇に包まれるだろう』

 

 

 突然空が赤黒く染まったかと思うと、すぐさま元の青い空へと戻っていた。

 

 一瞬何が起きたかわからなかったバッティスタだったが、すぐさま言い伝えを思い出す。

 

「まさか…もう復活したのか!?古の魔法帝国(・・・・・・)が!?」

 

 艦長も騒然とし、艦内では乗組員等が慌ただしく騒いでいた。

 だが、状況は彼らが落ち着くのを待ってくれなかった。

 旗艦、ミスリル級魔導戦艦コールブラントの監視部で魔力探知レーダーを見ていた監視員の悲鳴に近い報告が上がる。

 

「レーダーに感あり!!機械動力式(・・・・・)の飛行機械らしき敵影が多数接近!!その数30…いえ!100…200…300…嘘だろ…500を超えましたが、まだまだ増えていきます!!!」

 

「なっ…なんだとぉ!!?」

 

 バッティスタ達が艦橋から空を見上げると、空を覆い尽くすほどの黒点がこちらに向かってくるのが見えた。

 

「対空戦闘用意!!全機撃ち落とせ!!!」

 

 神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊は、対空戦闘体勢に移行した。

 

 所属不明の飛行機械は、第零式魔導艦隊上空に到達すると、急降下を開始した。

 飛行機械から落とされた大量の爆弾は、半分近くは海面へと落下するが、半分ほどが艦隊に直撃した。

 

「戦艦クラレント被弾!火災発生!」

 

「巡洋艦ロンゴミアンド被弾!被害甚大!」

 

「マグドラ群島基地防空隊全滅!!同群島基地壊滅!!」

 

 次々に入ってくる被害報告に、バッティスタは目眩を覚えた。

 世界最強の第零式魔導艦隊、最強の艦隊が、たかが飛行機械ごときに破れるなど、考えられなかった。

 

「こんな…こんな、ことがぁ!!」

 

 直後、飛行機械の爆撃が戦艦コールブラントの艦橋に命中、バッティスタをはじめとした司令部要員は全員戦死し、指揮系統に混乱が生じた。

 

 その後、魚雷を搭載した雷撃機の雷撃を受けることとなった。戦艦コールブラントは右舷に17本、左舷に15本の直撃を受け、その自慢の主砲を使用することなく、海の底へと沈んでいった。

 こうして、第零式魔導艦隊は全滅した。

 

 

 

 

 

 時は少しだけ戻り、神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館 国際会議場

 

 

 大日本帝国外務省から派遣された外交官近藤は、これから始まる会議に気を引き締めていた。

 隣に指定されたグラ・バルカス帝国外交官のシエリアが声をかけた。

 

「あまり気負い過ぎない方がいいと思うぞ」

 

「ありがとうございます、やはり前世界の事を思い出すとどうも…」

 

 そんなことを話していると、会議が始まるアナウンスが流れた。

 

「これより、先進11ヵ国会議を開催します」

 

 今回の先進11ヵ国会議参加国は、以下の通りである。

 

・第一文明圏/中央世界

神聖ミリシアル帝国

エモール王国

トルキア王国

アガルタ法国

・第二文明圏

ムー国

マギカライヒ共同体

ニグラート連合

グラ・バルカス帝国(文明圏外)

・第三文明圏

パンドーラ大魔法公国

大日本帝国(文明圏外)

・南方世界

アニュンリール皇国(文明圏外)

 

 

 開始早々、議長席付近、つまり中心近くに座す青白い肌の人物が手を挙げた。頭には角が4本は得ている。目も髪も赤く、かなりの大柄で身長は2mに達していそうだ。

 議長が指名し、発言権を得て起立した。会話にはすべて、魔導通信器によるマイクが使用される。

 

「エモール王国のモーリアウルである。今回は何よりも先んじて、皆に伝えねばならないことがある。火急の件につき、心して聞いてもらいたい」

 

 竜人族が治める単一種族国家であるエモール王国。人口たったの100万ほどにも関わらず列強に名を連ねる強国で、多種族蔑視もあってかなり差別的な体質だ。

 その竜人族の代表が、今まで見せたこともない特殊な態度を取った。

 ただならぬ雰囲気に誰もが口を閉ざし、場が静まる。

 

「…先日、我が国は“空間の占い”を実施した。結果、古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国が、近いうちに復活すると判明した」

 

 モーリアウルの言葉を聞いた各国大使の表情が青ざめていくのがわかる。

 

「何てことだ…ッ!」

 

「古の魔法帝国が…そんな…」

 

「どうすればよいのだ」

 

 モーリアウルは構わずに続ける。

 

「神話や伝承がどこまで本当なのか分からぬ…時期や場所は、空間の位相に歪みが生じており判然としないが、我らの計算だと今から4年から25年までの間にこの世界の何処かに出現するだろう。奴らにどれほど抗する事が出来るのか、検証する必要がある。

 今後、不要な争いを避け、軍事力の強化を継続して行い、世界で協力して古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国復活に備えるべきである」

 

 モーリアウルが議長席に視線を向けると、議長たちも揃って頷いた。

 大日本帝国やグラ・バルカス帝国も、イズルやアレナといった事例が存在するため、どうこう言えるわけではないのだが、両国にはとある疑問が生じていた。

 

「1ついいか?」

 

 日本の隣、グラ・バルカス帝国外交官シエリアの手が挙がった。

 議長が指名して、発言権を得る。

 

「実は我が国にも、予言を行う御方がいる。その御方の御言葉では、本日中に何か良くないことが起ころうとしているらしいのだ」

 

 シエリアの言葉に、一部では失笑の声が挙がった。

 グラ・バルカス帝国と大日本帝国はムーと同じ科学文明国家であり、個人の魔力量は無いに等しいと知られているため、エモール王国の時とは違う反応となっていた。

 シエリアは構わずに続ける。

 

「その御方はこう仰れた。『世界の力集まりし時、世界は闇に包まれるだろう、彼の闇、呪い持たざる闇は、3つの光を埋め尽くさんと動き出す』…これは先進11ヵ国会議が行われる今日、何かが起こると思われるのだ」

 

 シエリアの言葉に反応したのは、近藤であった。

 イズル君の予言では4月22日、つまり今日、世界各地の3つの場所で、何かが起こるとされている。

 世界の力集まりし時、これは間違いなく先進11ヵ国会議を示している。3つの光、これはイズル君の示した、3つの地域のことと見て間違いないだろう…港湾都市マイカルや港町カルトアルパスは何となくだがわかる。だが、最後の群島の意味はなんだ?

 

 暫くすると、シエリアが席に着いた。彼女の表情から見て、殆ど信じてもらえなかったようだ。

 

「よろしいでしょうか」

 

 今度は近藤が手を挙げた。

 

「発言を許可します」

 

「ありがとうございます…実を申し上げますと、我が国にも未来を予言する御方がいます。その御方の予言の的中率は、現時点で100%と言えます」

 

 近藤の発言に周囲がざわつく。

 グラ・バルカス帝国と同じく、個人の魔力保持量が微弱な大日本帝国が100%的中の予言と断言したのだ。これには周囲の反応も変わってくる。

 

「その御方の予言でも4月22日、つまり今日、3つの地域で何かが起こるとされていました。そのことで、議長のリアージュ殿にお尋ねしたい」

 

「私ですか?」

 

 突然指名されたリアージュは驚きながらも対応する。

 

「予言では、ここより西500kmの場所に存在する群島で、何かが起こるとされているのですが、そこには何かあるのですか?」

 

 リアージュは他の議員と短いやり取りをした後に答えた。

 

「その群島はマグドラ群島といいまして、陸軍離島防衛隊基地や海軍飛行隊基地がある程度です。他には、この時期に我が国の艦隊が同海域で訓練を行っています」

 

 答えを聞いた近藤とシエリアは、瞬時に察した。

 その艦隊は神聖ミリシアル帝国で有名、あるいは主力級の艦隊であり、その艦隊に何かあると見て間違いないと。

 

 その時、国際会議場の扉が勢いよく開かれ、1人の職員が飛び込んできた。その絶望した表情から、何か重大な事件が起きたことがわかる。

 

「申し上げます!たった今、世界各地の空が赤黒く染まったとの報告が上がり、自分も確認しました!恐らく、古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国が復活したと思われます!!」

 

「バカな!?いくらなんでも早すぎる!!」

 

「どんなに早くとも、4年はあるのではなかったのか!?」

 

 各大使達の表情が驚愕、恐怖、焦り等に変わっていく。

 そんな中、数人の人物が職員の隣を通って会議場内に入ってきた。その人物は神聖ミリシアル帝国の職員であったり、ムーや大日本帝国、グラ・バルカス帝国の軍人や関係者であったりと様々だ。

 それぞれが自国の外交官の近くまで進み、各々の報告をあげる。

 

 リアージュの隣まで来た職員は群島で起きた悲劇を報告し、リアージュの表情を青ざめさせる。

 だがそれ以上に、ムーや日本の近くまで来た軍人達の報告は、彼らの表情を驚愕の色に染めた。

 

「えっ?マイカルが!?」

 

 

 



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第19話─マイカルの悲劇①─

本日2話目!
思い付いたら即投稿の精神でやって参ります!!


…それはそうと、最近暑いですね。
作者も、頭痛との同居生活を始めました。
皆さんも、熱中症等には十分気を付けてください!


 ムー国 港湾都市マイカル

 

 

 平和な時を謳歌していた港湾都市マイカルは今、地獄へと変貌していた。

 

 始まりは1時間程前のことだった。

 大日本帝国ムー国派遣隊所属のレーダーが、ムー国に向かう大量の航空機を探知したのだ。

 

 直ぐ様空軍の99式戦闘攻撃機“隼”2機がスクランブル発進し、他の戦闘機が有事に備え行動を開始した。

 出撃した2機の隼…ライナー1及びライナー2は、発進して少ししてから、所属不明の航空集団と接触した。

 

「なんて数だ…明らかに1000機は超えてるんじゃないか?」

 

「あぁそうだな。これより国籍を確認する」

 

 ライナー1が国籍を確認するために機体を航空集団へと近付けていく。

 翼に描かれた国籍は、現時点でレシプロ式航空機の保有が確認されているグラ・バルカス帝国やムー、第三文明圏国家のいずれとも適合しない、全く不明の国籍だった。

 

「警告する。貴機等はムー国領空に侵入しようとしている。直ちに引き返せ。繰りk……」

 

 ライナー1の警告は、所属不明航空集団からの攻撃で強制的に終了される。

 航空集団から飛び出してきた数十機を超える戦闘機の20mm機銃がライナー1に直撃、コクピットを赤く染めた隼は炎を巻き上げながら高度を下げ、海面に墜落した後に爆発した。

 

「こちらライナー2!ライナー1が攻撃を受け撃墜された!!繰り返す!ライナー1が撃墜された!!」

 

「司令部よりライナー2、現時点を持って所属不明航空集団を敵と認識、迎撃は可能か?」

 

「無理だ!敵は明らかに1000機を超えている!絶対に不可能だ!!」

 

「了解した。ライナー2はマイカルへの被害を可能な限り減らすためにも、空対空ミサイル全弾を使用して敵機を1機でも多く撃墜せよ。なお、格闘戦は禁ずる」

 

「ライナー2了解!エンゲージ!!」

 

 通信後直ぐにライナー2こと隼は反転し、装備された空対空ミサイルを敵航空集団に向けて発射した。

 この攻撃で何機もの航空機が爆散して墜ちていくが、効果があるようには思えなかった。

 

「ライナー2、ミサイル残弾なし。これより帰投する」

 

 ライナー2は機首をムー国へ向け、帰投した。

 その間にも、大日本帝国ムー国派遣隊駐屯地飛行場では続々と隼が飛び立ち、編隊を組んで敵のいる空域へと向かっていった。

 

「グラ・バルカス帝国ムー国派遣基地に繋がりました!あちらも現在、迎撃機の出撃準備中とのことです!」

 

「わかった。航空隊の状況は?」

 

「全機が空対空ミサイルを使用した長距離攻撃に徹しているため、被害は最初の1機のみに留まっていますが、これほどの戦闘を考慮していないため、空対空ミサイルの備蓄がすぐに底をつきます」

 

「本国に応援を要請、総員第1種戦闘配置、港湾都市マイカル全域に避難勧告。ここはもうじき、戦場となる」

 

 担当者の言葉通り、港湾都市マイカルは戦場…地獄へと変貌した、

 日本空軍航空隊の防空網を潜り抜けてきた敵航空集団は、港に停泊していた軍艦や巡視船、民間船といった艦船を始め、市街地や高層ビル群等の民間施設や、ムー国陸軍基地等へ向けて攻撃を開始した。

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

「助けて!たすk…がっ!!」

 

「ままぁぁ!!ぱぱぁぁ!!」

 

 マイカルが爆撃を受ける間も、大日本帝国空軍やグラ・バルカス帝国航空隊、ムー国空軍が迎撃に上がるが、1000を超える敵機に苦戦を強いられていた。

 

 港でも、民間船が多数撃沈される中、大日本帝国海上保安庁ムー国支部所属の巡視船や、グラ・バルカス帝国海軍ムー国駐屯艦隊が対空射撃を行い、敵機を落としていく。

 

「クソッ!キリがねぇぞ!!」

 

「ぼやくな!とっとと弾薬を運べ!!」

 

「巡視船かえで被弾!大破炎上!!」

 

「こっちにもきたぞ!!弾幕薄いぞなにやってんだ!!」

 

 数の暴力を前に、対空能力に優れた巡視船や駆逐艦が、弾幕の間を潜り抜けられ攻撃を受ける。

 

「ムー国海軍戦艦ラ・サヒア轟沈!!」

 

「敵機直上!まっすぐ突っ込んでくる!!」

 

「巡視船なのは船長総員退船を指示!」

 

 増え続ける被害、巡視船や駆逐艦の対空砲火も弱まり、それを待ってましたと言わんばかりに雷撃機が魚雷攻撃を仕掛ける。

 

「巡視船まつ轟沈!!」

 

「グ帝海軍駆逐艦バルセロナ轟沈!!」

 

「ムー国海軍…全滅しました…」

 

 その後も敵の攻撃は続き、マイカル港に停泊していた3ヵ国の艦隊(船団)は、壊滅した。

 

 その事を確認した光永は、速やかに指示を出す。

 

「全航空隊は攻撃終了後、直ちにグラ・バルカス帝国レイフォル地区レイフォリア飛行場まで退避、陸上部隊は防空壕又は地下施設へと避難せよ。敵航空集団の攻撃が終わると同時に、敵部隊が上陸してくると思われる。我がムー国派遣隊は、増援が到着するまでの間、ここで敵を食い止める。各員…覚悟を決めよ」

 

 光永の言葉を聞いたムー国派遣隊陸上部隊は、各々の武器の手入れを始める。

 ある者は家族の写真を見つめ、またある者は家族にボイスレコーダーを残すなど、最後の準備を進めた。

 

 だが敵は、彼らが終わるのを待ってはくれなかった。

 戦艦4隻を含む艦隊がマイカル沖合に展開し、その支援の下、上陸部隊が上陸を開始したのだ。

 上空には敵航空機が無数に飛び回り、制空権は完全に失われている。

 

「全航空隊、現空域からの離脱を確認。未帰還はライナー1を含め、全部で3機です」

 

「わかった…グラ・バルカス帝国派遣軍とムー国軍に通達。コレヨリ突撃ス、我ニ続ケ」

 

「了解!コレヨリ突撃ス、我ニ続ケ!!」

 

「さて…仕事の時間だ!!!」

 

 光永の吠えに賛同するように、各地の防空壕、地下施設から大日本帝国軍が飛び出した。

 獲物を見つけたと言わんばかりに敵航空機が降下を開始するも、同時に飛び出した99式自走高射機関砲の40mm機関砲の攻撃を受け、炎を纏いながら墜落していく。

 

「敵は鬼畜ぞ!恐るる事なか!!」

 

「大和魂見せてやれぇ!!」

 

 次々に飛び出していく大日本帝国軍の後を追うように、グラ・バルカス帝国派遣軍とムー国陸軍が前進を開始する。

 今ここに、マイカル攻防戦の幕が切って落とされたのだ。

 

 

 



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第20話─マイカルの悲劇②─

 ムー国 港湾都市マイカル

 

 

 日本、ムー、グラ・バルカス3ヵ国混成軍が敵上陸部隊と交戦してから1時間が経過した。

 

 敵上陸部隊の装備の質や性能から、グラ・バルカス帝国軍と同等の装備を保有していることがわかった。だが航空支援が無い3ヵ国混成軍…主に日本軍は、技術的優勢にあるにも関わらず、苦戦を強いられていた。

 

 グラ・バルカス帝国軍も、自国と同等の技術力を持つ敵を相手にしているためか、その被害を拡大していく。

 

 ムー国陸軍に関しては、そもそも技術的に劣っている部分が多く、日本軍やグラ・バルカス帝国軍に指導を受けた部隊も未だ練度が低く、両国の部隊と混成して何とか持ちこたえている状態だった。

 

 数を生かした戦術で侵攻してくる敵軍相手に、3ヵ国混成軍は防衛線を少しずつ後退させていき、一部では敵の突破を許してしまう部隊が出始めていた。

 

 

「あれがムー国人か…いい女が揃ってるじゃねぇか」

 

「あぁ、なかなか楽しめそうだ」

 

 ニヤリと歪めた笑みを浮かべながら、敵上陸部隊は避難が遅れている民間人や、ムー国陸軍護衛部隊へと殺到した。

 

「来たぞー!!」

 

「民間人に近寄らせるな!各員攻撃開始!!」

 

 ムー国陸軍兵士が手に持つ小銃や機関銃で迎え撃つ。今までムー国軍が使用していた小銃はボトルアクション式で、見た目は史実の三八式歩兵銃に似ている。だが最近では、大日本帝国が輸出している三七式半自動歩兵銃を輸入し、ライセンス権を取得して国内で生産を行っている。そのため、今までの小銃ではあり得ないほどの弾幕が張られていた。

 

 しかし、それでも敵は突き進む。護衛部隊の3個小隊90人に対し、防衛線を突破した敵は優に500を上回る。

 数の暴力を前に、ムー国陸軍護衛部隊は劣性に立たされ、遂に敵の一部が民間人に襲い掛かった。

 

「やめて!娘だけはッ!!」

 

「お母さん!お母さんッ!!」

 

 敵に捕まった親子が組み伏せられ、衣服を剥ぎ取られる。ムーの護衛部隊が救出しようとするも、敵の数に押され身動きがとれないでいた。

 中等学院に通い始めたばかりの娘も、周りや母親の反応を見て、これから起きる悲劇に絶望し、全てを諦めようとした…その時だった。

 

「この鬼畜野郎がァァァ!!!」

 

 ぞんっ!!!!

 

 逃げ出す民間人の合間をすり抜け、幾つもの人影が敵部隊に向かって飛び出した。

 飛び出した人影はその手に持った刀を、親子を組み伏せていた敵の首めがけて振り下ろした。

 仲間の首を切り落とされ、突然のことに立ち止まってしまった敵目掛けて、建物の屋上や窓から幾つもの銃口が突き出され、火を吹いた。

 先程以上の弾幕に晒され、10分後、突破した敵上陸部隊は壊滅した。

 その光景を見た護衛部隊の1人が歓喜の声をあげた。

 

「日本軍だ!日本軍が来てくれた!」

 

「敵は何処じゃぁぁァァ!!!」

 

「ぶっ殺すッ!!!」

 

「敵の主力ってのは何処だァァァァァ!!!!」

 

 ムー国派遣隊陸軍第46班は、マイカルの西側地域を担当する部隊のため敵との遭遇がなく、今回が初めてのためかテンションがおかしくなっていた。

 周りが若干動揺するなか、先程歓喜の声をあげた兵士が答えた。

 

「港街は完全に占領されましたが、その先の工場区域は死守の構えです!現在3ヵ国混成軍が敵の侵攻を阻止していますが、少しずつ突破されている状態です!」

 

「そうか!ありがとう!じゃ!…第46班、俺に続けぇぇぇ!!!」

 

 ウォォォォォォォ!!!!!

 

 第46班は雄叫びをあげながら、工場地区へと向かい駆けていった。

 取り残された人々はその後ろ姿を見送りながら、避難を再開するのだった。

 

 第46班が本隊と合流すべく再び動き出した丁度その頃、マイカルで行われている戦闘は、遠く離れた大日本帝国にも伝えられていた。

 

「総理、ここは直ちに、増援を派遣すべき事態であると思われます!」

 

「わかってる!高野防衛大臣、ムー国に近くて、すぐに動かせる部隊はどこだ!?」

 

「レイフォル地区のグラ・バルカス帝国派遣隊がすぐに動かせますが、すぐに動けるのは1個大隊規模がやっとです!後は、先進11ヵ国会議に同行した派遣艦隊の航空隊なら動かせます!!」

 

「ですが総理、派遣艦隊の航空隊を向かわせてしまうと、カルトアルパスの事態に対処できなくなる恐れがあります!」

 

「総理、ご決断を!」

 

「…わかった!」

 

 会議の結果、大日本帝国政府は国家非常事態宣言を発令、第3艦隊護衛の下、出撃待機中の第3師団をムー国へ派遣し、その後第6師団と戦時編成第15旅団をムー国へ派遣することを決定した。

 

 また、先進11ヵ国会議には各国の護衛艦隊がいることから、派遣された艦隊から戦艦伊勢、扶桑、空母飛龍、蒼龍、巡洋艦阿武隈、五十鈴、駆逐艦磯風、雪風、島風、神風の10隻が派遣されることとなった。

 

 また、グラ・バルカス帝国海軍の戦艦グレードアトラスターが、重巡2、軽巡4を引き連れ、日本艦隊と共にムー国へ派遣されることが決定した。

 

 

 

 

 

 ムー国 港湾都市マイカル 上空

 

 

 ムー国襲撃の報を受け、グラ・バルカス帝国派遣隊所属の隼21機は、港湾都市マイカルへと急行した。

 

「…なぁ、ここはマイカルの工場地区上空のはずだよな?」

 

「あぁ、俺の計器もここはマイカル工場地区上空だと示している」

 

「ははっ、そうか。そんじゃ、おかしくなってんのは俺の目ってことか」

 

 パイロットの1人がそう呟く。その表情は絶望ともとれる。

 彼らの視線の先にマイカル工場地区は見当たらず、多数のクレーターによって、跡形もなく粉砕されていた。

 

「沖合いからの艦砲射撃か…これじゃあ3ヵ国混成軍は壊滅かな」

 

「いや、まだ交戦している部隊がいるようだ。だが、状況は劣性だな」

 

 地上に目を向けると、幾つかの場所で小さな爆発が起きている。手榴弾か、あるいは対戦車ロケットか…。

 

「ッ前方に敵機確認!!数不明!!」

 

「全機攻撃を開始せよ!!」

 

 隼1機につき8発搭載された03式長距離空対空誘導弾合計168発は、狙った獲物に向かって突き進み、寸分違わず目標を撃破した…のだが。

 

「…減った気がしないのは気のせいでしょうか?」

 

「同感です。目視できるだけでも、まだ300はいるんじゃないでしょうか?」

 

「もしくはそれ以上かもな…ッ全機ブレイク!ブレイクだ!!」

 

 隊長機が叫んだ直後、真下から大量の弾丸が航空隊に襲いかかった。

 大半は回避することに成功したが、3機ほどが機体に穴を開け、炎に包まれながら墜落していった。

 

「チクショウッ!奴等、超低空を…いや、地面スレスレを飛んできやがった!」

 

「なんて練度だッ!」

 

「タイタス09よりタイタスリーダー、迎え撃ちましょう!」

 

「駄目だ!!タイタスリーダーより各機、深追いはよせ!いくら機体性能が勝っているとはいえ、数に押し潰されるだけだ!…増援の到着を待つんだ」

 

 隊長の言葉に、何人かが悔しそうに敵航空集団へと視線を向けた。

 

「俺たちは戻ってくる…必ずだ!!」

 

 そう言い残し、残存機18機はグラ・バルカス帝国領レイフォル地区へ帰投していった。

 

 そして、地上でも戦闘に終止符が打たれようとしていた。

 

「白井班長!民間人の避難が完了したと、友軍から報告が上がりました!!」

 

「わかったぁ!!第46班!これ以上の深追いは不要!直ちに後方部隊と合流し、態勢を立て直すぞ!!」

 

「「「了解ッ!!!」」」

 

 その後ムー国派遣隊陸軍第46班は、味方残存部隊と合流し、港湾都市マイカルから撤退していった。

 その日、ムー国港湾都市マイカルは、所属不明の敵勢力による奇襲を受け、陥落した。

 

 

 




某細胞アニメから、好中球の方々が参戦しました。


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第21話─カルトアルパス襲来①─

 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館 国際会議場

 

 

 港湾都市マイカル陥落の報が届いたのは、会議開始から2日後のことだった。

 初めは殆どの国が信じようとしなかったが、ムー国にある大使館からも報告が上がり、真実であると判明するとすぐさま会議の内容が変更され、今後の対策についての会議が行われることとなった。

 

「何か敵の情報はわからないのですか?」

 

「残念ながら、現在調査中としか…」

 

 アガルタ法国の大使が説明を求めるが、ムー国の外交官も情報が無いため、答えることができなかった。

 

「シエリアさん、本当にグレードアトラスターを派遣してよかったのですか?」

 

「問題ないと思う。何せここには、グレードアトラスターをも上回る戦艦がいるのだからな」

 

 シエリアが苦笑を浮かべながら答えた。やはり彼女としても、色々と複雑なのだろう。

 

 会議が進まないことに危惧したリアージュは、静粛にと場を静めさせ、それから発言した。

 

「ムー国が依然として所属不明の敵勢力に侵略を受けているのは重大な案件です。そこで我が神聖ミリシアル帝国政府はムー国に対し、経済的、軍事的支援を行うことを決定いたしました」

 

 おおっ!と会場内がざわつき始めた。

 列強第1位、世界最強の称号を持つ国家の支援声明に、本会議に参加する文明国はムー国は救われたと考えていた。

 だが近藤やシエリア、それどころかムー国の外交官すら、神聖ミリシアル帝国の支援声明を素直に喜べなかった。

 

「近藤大使、貴殿はどう思う」

 

「確かにこの国は近代的文明を持っていますが、兵器の設計思想や概念等を考えても、正直厳しいものがあるかと思われます」

 

「…だよなぁ」

 

 近藤とシエリアが小声で話し、ムー国外交官が本国にどう報告するかで頭を悩ましていると、初日同じく、会議場の扉が開かれ、そこから汗だくになった職員が入ってきた。

 職員はリアージュの側までやって来て耳打ちをすると、それを聞いているリアージュの表情は青ざめていき、周りは不思議そうにリアージュに視線を向けていた。

 

「どうかしたのですか?」

 

「…先程我が国の偵察機がこちらに向かう国籍不明の大規模航空集団を発見、直後に魔信が途絶えたので、おそらく撃墜されたと思われます」

 

 ざわっ…ざわっ…。

 再び会場内がざわつき出す。だが今度は焦り、不安、恐怖を含んだものだ。

 リアージュが発言する。

 

「で、ですがご安心ください。幸運なことに、現在カルトアルパス近海に我が国の第7魔導艦隊が演習のため展開していました。この艦隊が、皆様をお守りいたします」

 

 この発言を聞いて会場内のざわつきは大分収まることとなったが、真実は少し違っていた。

 第零式魔導艦隊の壊滅の報を受け危機感を抱いたミリシアル政府が、急遽近くにいた第7魔導艦隊を派遣したのだ。

 

 それはさておき、発言を聞いて安心したのか、会場内ではこのような言葉がでるようになった。

 

「では、我がトルキア王国の艦隊も、共に戦おうではないか」

 

「ならば、我らニグラート竜騎士団もお力添えさせて頂きますぞ!」

 

 そのような言葉が広まっていき、会場内では所属不明の航空集団を迎え撃つ流れに染まっていた。

 

「列強相手に圧倒的勝利を納め、倒した日本とグラ・バルカスはどうなさるのですか?」

 

 パンドーラ大魔法公国の大使が近藤とシエリアに訪ねた。それによって視線が2人に集まる。

 

「一応本国に問い合わせてみますが、恐らく戦闘に参加するかと思われます」

 

「わが帝国は戦艦こそムーへ派遣してしまった故に不在だが、依然として強力な空母部隊がいる。我々も参戦しよう」

 

 おおっ!!

 2人の発言で会場内が色めき立つ。

 列強を圧倒した2つの超大国が参戦することは、文明国からすればこれ以上にない助っ人である。

 

 その後の会議では、会場一致で敵勢力を撃退することが決定し、臨時連合艦隊が結成されることとなった。

 

 

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港

 

 

 港湾管理者ブロンドは恐怖と期待が入り混じった感情に襲われていた。

 自国よりは劣るとはいえ、列強ムー国の港湾都市マイカルを短期間で攻め滅ぼしたのと同じ航空集団が、世界最強の神聖ミリシアル帝国に攻め混んでくるという。

 先ほどから上空を見上げると、我が国の最新鋭機エルペシオ3やジグラント2が編隊を組んで南の空へ消えていく。

 

 更にブロンドの視線の先では、各国の護衛艦隊が次々に出港していく。

 

「ムー国、機動部隊出港!!」

 

 第2文明圏の列強国、ムー国の艦隊。

 最新鋭戦艦であり旗艦ルナ・バルコ、その他戦艦2隻、空母2隻、装甲巡洋艦4隻、巡洋艦8隻の17隻が出港する。

 

「グラ・バルカス帝国、空母機動部隊出港!!」

 

「大日本帝国、派遣艦隊出港!!」

 

 その後を追うように、グラ・バルカス帝国と日本の艦隊が出港する。

 神聖ミリシアル帝国の魔導艦隊に匹敵する両国の艦隊を、ブロンドはワクワクしながら見守る。

 

 

 今回の艦隊の戦力は、要約すると下記のとおりとなる。

 

神聖ミリシアル帝国…

 魔導戦艦2、空母2、重巡4、巡洋艦8、小型艦20

+地方隊…巡洋艦8

ムー国…

 戦艦3、空母2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8

大日本帝国…

 戦艦1、戦巡2、巡洋艦2、駆逐艦4

グラ・バルカス帝国…

 空母2、重巡2、軽巡4、駆逐艦12

トルキア王国…

 戦列艦7

アガルタ法国…

 魔法船6

マギカライヒ共同体…

 機甲戦列艦7

ニグラート連合…

 戦列艦4、竜母4

パンドーラ大魔法公国…

 魔導船8

 

 

 合計126隻の大艦隊はカルトアルパス港から出港した後に合流、空母(竜母)からは艦載機やワイバーンロードが飛び立ち、艦隊に先駆け敵のいる方角へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 



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第22話─カルトアルパス襲来②─

色々と詰め込んでいたらカオスになった件について…はおいといて、久しぶりの本編更新です。

誤字や文法の間違い等が見つかりましたら、教えていただけると幸いです。


 フォーク海峡上空 世界連合航空団

 

 

 世界連合艦隊や空軍基地等から発進した各国の航空機やワイバーンが、敵航空集団に向けて飛行していた。

 ワイバーンや飛行機械、それも複翼機や単翼機、先進的に見えるが所々古臭く、どこか違和感がある戦闘機が編隊を組んで飛行するその姿は、ある種の力強さを与える。

 

「ムーと同じ機械文明国と聞いていたが、巡航速度とはいえ、まさかこのエルペシオ3についてこれるとは」

 

 カルトアルパス空軍基地から飛び立った第7制空戦闘団団長シルベスタは、初めて見るグラ・バルカス帝国の単翼機の性能、そして部隊の練度に感心していた。既にムーのマリンやニグラートのワイバーンロードはついてこれずに大分後方を飛行している。

 

「前方に敵機発見!!その数不明!!」

 

 目の良い部下が報告をあげる。

 敵はグラ・バルカスの戦闘機に酷似した飛行機械のようだが、ここから見ただけでも数が多すぎる。軽く1000機は超えてるようだ。

 

「全機突撃!奴等に誰を敵に回したか思い知らせてやれ!!」

 

 魔光呪発式空気圧縮放射エンジンが唸りをあげて加速する。

 神聖ミリシアル帝国の誇る最新鋭天の浮舟エルペシオ3の出せる最高速度520kmの速さで敵に近付いていく。

 すると、同じ速度で飛んでいた筈のグラ・バルカス帝国の戦闘機が轟音と共に彼等を追い抜き、味方を置き去りにして敵へと突っ込んでいく。

 

「魔法文明を持たない新興国家の飛行機械が、我が国最新鋭天の浮舟であるエルペシオ3を越えるだと!?」

 

 自身の愛機に絶対の自信を持っていたシルベスタは、グラ・バルカス帝国のアンタレス艦上戦闘機の性能に驚愕する。

 そんな彼をよそに、遂に戦闘機同士の空中戦が始まった。

 

 アンタレスの20mm機関砲が、敵戦闘機の主翼を粉々に粉砕する。

 エルペシオ3も応戦しようとするが、速度、旋回能力、上昇能力などあらゆる面で敵戦闘機に劣っており、次々に撃墜されていく。これはムー国のマリンやニグラートのワイバーンロードも同様である。

 唯一互角に戦えているグラ・バルカス帝国のアンタレスも、敵の数を前に劣性を強いられていた。

 

 第7制空戦闘団団長シルベスタも、敵戦闘機に後ろをとられ、振り切ることができないでいた。

 

「くそっ!!くそっ!!!」

 

 シルベスタの乗るエルペシオ3は、敵戦闘機の機関砲弾の直撃を受け爆散、炎に飲まれながら墜落していく。

 

「シルベスタ団長がやられた!!」

 

「ニグラート連合竜騎士団全滅!!ムー国戦闘機隊全滅!!」

 

「グラ・バルカス帝国戦闘機隊劣勢!!」

 

「敵の数が予想以上だ!!すぐに増援と民間人の避難を!!」

 

 その後も空中戦は続き、何とか生き残ったアンタレスやエルペシオ3は、神聖ミリシアル帝国本土に向け撤退を開始した、200機を越えていた世界連合航空団は、最終的には16機にまで数を減らしていた。

 

 その後、敵航空集団は進路を戻し、カルトアルパスへ向け飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 カルトアルパス南西海域 世界連合艦隊

 

 

 世界連合航空団を退けた敵航空集団は、世界連合艦隊上空に迫っていた。

 敵の数はまだかなり多い。それを確認した大日本帝国海軍派遣艦隊の大崎司令は、各艦に激を飛ばす。

 

「敵の数は多いが、我々からすれば旧式だ!臆することはない!!全艦対空戦闘よーい!!」

 

「対空戦闘よーい!!」

 

 各艦艇のVLSが解放され、ミサイルの発射準備が整う。

 

「対空戦闘用意よし!」

 

「撃ち方、始めぇ!!」

 

 大崎の命令と共に各艦艇からSM-6や、新規開発された国産16式多目的誘導弾が発射され、敵航空集団に向け飛翔する。

 

 ミサイルの接近に気付いた敵機が回避行動に移るが、ミサイルは外れることなく敵機へ向け飛んでいき命中、撃墜する。

 

「全弾命中!続いて撃てッ!!」

 

「間もなく、敵が対空主砲弾の射程圏内に入ります」

 

「照準始め!対空主砲弾装填!!」

 

 戦艦陸奥の主砲に対空主砲弾が装填され、敵航空集団へと向けられる…その時だった。

 

「…ッ対水上レーダーに感あり!数およそ90!大艦隊ですッ!!!」

 

「さらにその後方、大量の艦影を発見!!国籍不明!!総数不明!!!」

 

 レーダー員の悲鳴に近い報告にその場の空気が凍りついた。

 

「………付近を航行している友軍の可能性は…」

 

「問い合わせましたが友軍ではありません!!勿論、大東亜共栄圏加盟国や本国の艦隊でもありません!!」

 

 友軍でないとなると…敵!!

 

「対水上戦闘よーい!!本艦は対空主砲弾を撃った後に徹甲弾装填!!対空戦闘は巡洋艦と駆逐艦に一任する!!」

 

 大崎の命令と共に、戦艦陸奥と戦闘巡洋艦2隻が速力40ktにまで増速する。

 その間に戦艦陸奥は対空主砲弾を敵航空集団へ発射、14機を撃墜する。その後、弾種を徹甲弾へと変更し、敵艦隊との会敵に備えた。

 

「何だ!?日本の戦艦のあの速さは!!?」

 

 第7魔導艦隊司令のアグウストは、自分達の魔導戦艦や魔導巡洋艦以上の猛スピードで敵に向かうのを見て、驚愕の声をあげた。

 

「日本の戦艦は化け物だな、我々の駆逐艦よりも速いぞ」

 

「やれやれ、グラ・バルカス帝国はともかく、日本に追い付けるのはいったい何百年後になることやら」

 

 それに対して、グラ・バルカス帝国艦隊とムー国艦隊の両司令は、予め日本の艦艇の性能は事前に伝えられていたが、実際に目の当たりにすると、もはや驚きを通り越して呆れてしまっていた。

 

 そんな彼らをよそに、日本の戦闘艦3隻は目標へと着実に近づいていた。

 

「艦種識別完了、戦艦9隻、空母34隻、巡洋艦17隻、駆逐艦30隻!!」

 

「戦艦9隻か…相手にとって不足なし!全艦各自射程に入り次第攻撃開始!!撃ち方、始め!!」

 

 大崎の号令と共に、戦艦陸奥の主砲から46cm砲弾が発射された。

 

 発射された砲弾は放物線を描きながら飛翔し、合計6発の46cm砲弾は敵戦艦の1隻を完璧にとらえた。

 

「敵戦艦1隻を夾叉…ッ敵艦発砲!!」

 

 こちらが夾叉を出したことで焦ったのか、敵戦艦5隻から1隻につき8発、計40発もの砲弾が戦艦陸奥に向け飛翔するが、その全てが艦隊の手前に着弾した。

 

「あの水柱だと…40cmも無さそうだ。36…いや、38cmクラスか?」

 

「それでも、戦闘巡洋艦にとっては脅威です」

 

 確かに戦闘巡洋艦は対艦ミサイル数発分か、あるいは自艦と同口径の砲弾十数発分は耐えられるよう装甲が施されているが、敵はそれを上回る38cm砲で、それを毎回斉射で撃ってくるので40発以上の砲弾が襲いかかってくる。

 恐らくこちらの射程圏内に入る頃には、敵の砲弾は戦闘巡洋艦の装甲を容易く貫通してしまうだろう。

 

「後方の分艦隊より通信…対空ミサイル残弾なし!!?」

 

「司令!!敵航空機がこちらに流れてきます!!」

 

 更に追い討ちをかけるかのように通信担当やレーダー担当から、最悪な報告が上がってくる。現状況での対空戦闘は難しいし、対空ミサイルの残弾なしに至ってはどれだけ敵の数が多いのか。

 

 大崎はこの後の光景を想像して、息を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 敵に対して技術的優位にたっていた大日本帝国であったが、それでも敵の数の暴力を前に追い込まれつつあった。

 

 最初に被害を受けたのは、巡洋艦村雨だった。

 

「敵機約42機、右舷より近づく!いずれも低空…雷撃機です!!」

 

「同じく、左舷より敵機!!その数37!!これは…爆撃機です!!」

 

「出し惜しみはするな!!全火器撃ち続けろ!!」

 

 艦長の島大吾が懸命に指示を飛ばすが、大量の敵機を前に、限界を迎えようとしていた。

 

 そしてついに…。

 

「右舷から雷痕8!!直撃コースです!!!」

 

「衝撃に備え!!」

 

 雷撃機から投下された航空魚雷8本は、巡洋艦村雨の右舷中央部に突き刺さった。

 

 魚雷は喫水下の装甲を吹き飛ばし、巡洋艦村雨は急激に傾向していく。

 

「これまでか…すまない大介、家族を…日本を、頼んだぞ」

 

 島大吾が最後の言葉を呟いた直後、弾薬庫が誘爆し、巡洋艦村雨は僅か数分のうちに海底へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「村雨、轟沈!!」

 

 駆逐艦浜風の艦橋に、悲報が飛び込んだ。

 

「バカな!村雨が!?」

 

「くそっ!流石に数が多すぎたか!!」

 

 乗員達が衝撃を受けるなか、駆逐艦浜風艦長は決断し、指示を飛ばす。

 

「…旗艦に具申。誘導弾の尽きた艦艇から順次撤退を求む…だ」

 

「ッ!?…り、了解!!」

 

 通信担当は艦長の言葉に戸惑うも、直ぐ様気持ちを切り替えて旗艦へと連絡する。

 

 その連絡が送られた頃、前に出た分艦隊も危機的状況に立たされていた。

 

「駆逐艦浜風が撤退を具申しています!」

 

「許可すると伝えろ!このままじゃ消耗戦だ…ッ!!」

 

 直後、戦艦陸奥は強い衝撃に襲われた。

 

「第2砲塔に直撃!なれど砲撃に支障なし!!」

 

 直撃を受けたようだが、どうやら装甲が弾いたようだ。

 安堵する大崎だが、すぐに悲報が訪れる。

 

「青葉!戦列を離れる!!」

 

 担当者の悲痛な報告を受け、大崎は視線を戦闘巡洋艦青葉に向けた。

 

 戦闘巡洋艦青葉は艦尾から黒煙を巻き上げ、大きく速度を落としていく、おそらく推進器をやられたのだろう。

 だが、悲劇はそこで終わらなかった。

 突如として敵の砲撃が、戦闘巡洋艦青葉に集中し出したのだ。

 

 2隻は沈めることができたが、未だ健在の戦艦7隻の前部砲塔の一斉砲撃、計56発の38cm砲弾は戦闘巡洋艦青葉に向け飛翔し、直撃した。

 第1砲塔は砲身が砕け散り、第3砲塔が爆発で吹き飛ぶ。21発の直撃を受けた戦闘巡洋艦青葉は、巡洋艦村雨以上の早さで、その身を海底へと沈めていった。

 

「青葉……轟沈……」

 

「そんな、青葉まで…」

 

「旗風轟沈!!綾風、戦列を離れる!!」

 

 その間にも、後方の被害は増え続ける。

 

「くそっ…撤退だ、全艦撤退!!世界連合艦隊には悪いが、今ここで、いたずらに戦力を減らすわけにはいかない!!」

 

 この事は世界連合艦隊にも伝えられた。

 

「腰抜けが…所詮は辺境の蛮国か」

 

 このように蔑む者もいれば…

 

「大日本帝国でも、この数は厳しかったか」

 

 と大日本帝国の実力を知る者(主にムー国とグラ・バルカス帝国の軍人だが)は、大日本帝国の撤退に同調して撤退を具申するのだった。

 

 

 

 

 

 大日本帝国艦隊が戦闘から離脱を開始したことにより、敵航空集団は世界連合艦隊へ殺到した。

 各国の艦隊は持ち前の対空火器を使い抵抗するが、大日本帝国の対空砲火に比べると格段に少なく、次々に撃沈されていく。グラ・バルカス帝国の空母も甲板に火災が発生して大破し、神聖ミリシアル帝国所属の魔導戦艦ですら、敵機の雷撃を受けわずか数分のうちに沈んでいった。

 

 数機の爆撃機が戦艦ルナ・バルコへ殺到する。

 

「回避行動!面舵いっぱーい!!」

 

 戦艦ルナ・バルコは爆撃を回避するためにゆっくりと旋回する…が。

 

「艦尾と中央部に被弾…!?なに!?機関と推進器をやられただと!!?」

 

「お、おい!このままだと座礁するぞ!!」

 

 ムーの戦艦ルナ・バルコは陸地に向かって爆走し、岩礁に乗り上げる事となった。

 

 その後、アルタラス王国派遣隊駐屯地から発進した99式戦闘攻撃機36機並びに、爆弾の代わりに対艦ミサイルを搭載した77式重爆撃機15機が増援として到着。増援の航空部隊は敵前衛艦隊を放置して揚陸艦隊を攻撃、揚陸部隊の半数を失った敵艦隊は反転して撤退していった。

 

 大日本帝国派遣艦隊は被害の少ない戦闘巡洋艦那智と駆逐艦山風をカルトアルパスに残して本国に帰国、各国の艦隊も全滅するか、壊滅的被害を受け、艦艇の残った国は、大臣を護衛するための最低限の戦力を残し、その他はすべて帰国させていくこととなった。

 

 

 



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第23話─アトランティス大帝国─

 大日本帝国 帝都東京都 首相官邸

 

 

「まさか、これ程とはなぁ」

 

 今村総理の言葉は、会議に参加している全員の思いを表していた。

 

 新たな転移国家の存在、その転移国家による奇襲攻撃、落ちたマイカル、派遣艦隊の想定外の被害。

 事前に情報を得ていたにも関わらず、これ程の被害が出たのだ。

 

「総理、確かに今回の被害を無視することはできませんが、それ以上に問題なのが、敵対的な転移国家についてです」

 

「…アトランティス大帝国(・・・・・・・・・・)………か」

 

 今村総理は複雑そうな表情で窓から空を眺め、先日のことを思い返していた。

 

 事の始まりは、フォーク海峡海戦後のことだった。

 

 

/

 

 

 港町カルトアルパスを守るべく出港した世界連合艦隊の帰投の報を受け、カルトアルパスにいた人々は港へと詰め寄っていた。そして、国民や商人は帰投した艦隊を見て、絶句した。

 

 各国の送り込んだ最新鋭艦艇や、極めて練度の高い精鋭艦隊、そして神聖ミリシアル帝国海軍第7魔導艦隊を含めた世界連合艦隊の全艦艇が、大小様々な傷を負って帰投してきたのだ。

 100隻を優に超え、堂々たる姿を見せていた世界連合艦隊は、今では僅か14隻にまで減っていた。

 

 大日本帝国派遣艦隊旗艦、戦艦陸奥の艦橋…いや、艦橋だった場所(・・・・・・・)に、副長の海馬はいた。

 

 撤退時に殿を務めた戦艦陸奥の艦橋に敵戦艦の主砲弾が命中。CICで指示を出していた海馬は被害を免れたのだが、艦橋にいた大崎司令以下艦長を含めた主要幹部が戦死、臨時の指揮官として艦隊を動かしていた。

 

「…酷いものだ」

 

 海馬は自艦隊の被害状況を見て、ひとり呟いた。

 

 

 【被害状況】

〈轟沈〉

戦闘巡洋艦青葉

巡洋艦村雨

駆逐艦旗風

駆逐艦綾風(傾向が激しく自沈処分)

〈大破〉

戦艦陸奥

巡洋艦最上(駆逐艦浜風が曳航)

〈小破〉

戦闘巡洋艦那智

駆逐艦山風

駆逐艦浜風

 

 

 圧倒的技術優勢にあったにも関わらずこれ程の被害、敵は強大な軍事力を誇る覇権国家である可能性が極めて高い。

 

 艦隊がカルトアルパス港に停泊(一部は帰国)してから1時間が経過した頃、警戒のためフォーク海峡上空を監視していた、アルタラス王国に駐留している大日本帝国空軍所属の早期警戒機から情報が入った。

 

 

 

 敵戦艦1隻確認、白旗を掲げカルトアルパスへ向かう。

 

 

 

 この報はすぐに近藤外交官に、そして先進11ヵ国会議参加国に伝えられた。

 

「即刻沈めるべきだ!!宣戦布告もなしに攻め込んできた蛮族に会う必要などない!!」

 

 やはりというか、こういった過激な発言も少なくはなかったが、大日本帝国とグラ・バルカス帝国、そして列強ムー国もが会うべきだと反対し、結果敵と対峙することとなった。

 

 それから30分後、カルトアルパス港に敵戦艦が到着した。

 

 敵戦艦は先の海戦で大日本帝国前衛分艦隊と激しい砲撃戦を繰り広げた戦艦と同型で、38cm4連装砲を3基12門搭載した超弩級戦艦。こいつの砲撃で、戦闘巡洋艦青葉は沈み、戦艦陸奥も大破まで追い込まれたのだ。

 

 港湾管理局の職員や残存艦隊の艦艇、軍人が警戒する中、敵戦艦は港に接岸した。

 そして彼らは、戦艦から降りてきた相手を見て、絶句した。

 

 緑色なのだ、肌の色が。

 

 この世界にも人間限定で言えば、黒人や白人、そして黄色人種等が存在するが、緑色の人種など見たことも聞いたこともない。

 

 困惑する彼らを他所に、外交官と思われるスーツを着た男達は神聖ミリシアル帝国の用意した魔導車に乗り込み、帝国文化館国際会議場へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

「…相手側の代表が到着しました」

 

 職員が報告と同時に、国際会議場の扉が開かれ、相手側の代表が入室する。

 各国の外交官は、初めて見る緑色の肌を持つ異様な人種に目が釘付けとなった…ただ1国を除いて。

 

「なっ…バカな…そんな事が……」

 

 ムー国外交官が消えそうな声量で呟く。すると相手側の代表も気が付いたのか、ムー国の外交官を見てニイッと表情を歪ませた。

 

「ようやく見つけたぞ、ムーよ」

 

「アトランティス…ッ!」

 

 ムー国外交官の吐き捨てるように言い放った言葉、アトランティス。その言葉の意味を理解できたのは、近藤外交官等大日本帝国のみであった。

 

(アトランティス…確か地軸がずれて南極となって滅んだはずでは…)

 

「我は運がいい。今日は宣告だけの予定であったが、良い収穫も得られた」

 

「宣告だと?何をするつもりだ」

 

 議長のリアージュが訪ねるが、男は無視して宣告する。

 

「我がアトランティス大帝国大帝グォーダー様に代わり、下等民族統括局局長バルが告げる。下等民族よ、我が軍門に下り国を明け渡せ。断るのも良いがその場合、世界に平等な死を与えよう」

 

 その日、新たな転移国家アトランティス大帝国は世界に対し、宣戦を布告した。

 

 

 

 

 

 時は戻り、首相官邸。

 

 

「先進11ヵ国会議の様子は?」

 

「最後の連絡では、各国が一丸となってアトランティス大帝国に立ち向かう方針のようです」

 

 外務副大臣の報告を聞き、今村は背もたれにもたれ掛かった。

 

 異世界転移後3度目の戦争、それもロウリア王国やパーパルディア皇国のようなレベルではない、グラ・バルカス帝国並みの技術力と圧倒的物量。これを退けるのは非常に困難だ。

 だから今回の先進11ヵ国会議の方針は願ってもないものだ。

 

「それで、会議参加国で戦力になりそうなのはどこだ」

 

 今村総理の問いに、防衛省の職員が発言する。

 

「我が国を除きますと、やはりと言うべきか、グラ・バルカス帝国が最高戦力となります。また、ムー国も我が国の技術提供により近代化が進んでおり、報告によりますと先日単翼機の量産を開始したとのことです…まぁこの2国くらいですかね」

 

「神聖ミリシアル帝国はどうなんだ?世界最強を名乗っているが」

 

「調査結果を見る限り、彼の国は古の魔法帝国の遺跡から発掘された魔法技術に依存しすぎている傾向があります。ジェットエンジンに似た技術があるのにバイパス比がメチャクチャでレシプロ戦闘機以下の性能しか出せず、先の海戦時の対空戦闘では近接信管も対魚雷防御もない…ハッキリ言って戦力外です」

 

「世界最強が戦力外とは…皮肉だねぇ」

 

 会議室内の空気が重くなるのを感じる。

 何気に一番期待していた国がダメとなると、やはり期待できるのはグラ・バルカス帝国とムー国のみとなるからだ。

 圧倒的物量を誇る的に対し、3ヵ国のみで相手取れるかどうか。

 

「確かに神聖ミリシアル帝国はダメでしたが、そこはあまり問題ないかと」

 

「何故だ?3ヵ国だけでは厳しいだろう?」

 

「別に先進11ヵ国会議参加国に限る必要はありません。神聖ミリシアル帝国以上の国なら、第三文明圏に沢山ありますから」

 

 その言葉に、その場にいた者はハッとなり思い出す。グラ・バルカス帝国やムー国並みの技術力を持つ友好国の存在を。

 

「大東亜共栄圏か!」

 

「はい。我が国の技術共有により近代化が大幅に進み、それに伴い軍事力も文句なしです。アトランティスは世界に対して宣戦を布告していますので、彼らが参戦する理由には困りません」

 

「そうだな…わかった。私から加盟国に具申しておこう」

 

 会議の内容が纏まり、解散しようとして今村等が席を立とうとしたその時、扉をぶち抜いて一人の職員が飛び込んできた…とびっきりの悲報を持って。

 

「近藤大使から非常通信…先進11ヵ国会議とはもう、共に戦う道は無くなったそうです」

 

 この日、会議は深夜まで続くこととなった。

 

 

 



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