不屈のヒーローアカデミア (nyasu)
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笑顔の素敵な君の名は……

夢を見た。

それは不屈の英雄の物語。

 

誰かが言う、何故お前は立ち向かえるのか。

彼は言う、圧制者を討ち滅ぼす為だと。

 

味方が言う、もうダメだ俺達は負ける。

彼は言う、勝利するときの凱歌はさぞや叫び甲斐があるだろうと。

 

敵が言う、もう諦めろとお前は死ぬ。

彼は言う、圧制者とは永遠に相容れることはない。死ぬがよい。

 

その最後は凄惨な死だった。

身体中を剣や槍で刺され、止めどなく血は流れていた。

味方からも敵からも恐怖され、それでも彼は戦い続けた。

そして、何時だって笑顔だった。

 

 

 

暗い裏路地、そこで俺はため息を吐いた。

眼の前には蜥蜴、鰐、蛇と動物のような見た目の人間が三人。

囲まれるように怯えて震える少女が一人。

異形系の個性を持つ不良に絡まれたって所だろうか。

 

「おい」

「あぁ、何だてめぇ!邪魔すんのか!」

「ソイツら知り合いか?あぁ、分かった違うんだな」

 

首を左右に振る少女に、なるほどと理解する。

やはり絡まれてたって訳だ、ナンパじゃねぇか。

 

「良いこと思いついた、オラァ!」

「ッ!?」

 

蜥蜴顔の奴が俺の顔を殴りつける。

そのせいで、口を切って首は酷い勢いで横を向いた。

クソが、痛ってぇ……

 

「わ、私の事は良いから逃げて!」

「悲劇のヒロイン気取りかよ、いいねぇ」

「おい、手を貸してやるよ」

 

そう言って鰐顔の奴が蹴りを入れてくる。

そのまま俺は路地裏に転ばされる。

畜生、クソッタレが痛いだろうが。

 

「ざっけんじゃねぇよ、個性使うと犯罪だろうが」

「何ブツブツ言ってんだ、ウェーイ!」

 

倒れている俺に対して、鰐野郎が踏んづけてくる。

その足を掴み、力を込める。

 

「あっ?痛たたたた!?はな、離せ!」

「おい、大丈夫か!」

「テメェ!」

 

俺の身体に緑色の光が走る。

電流に似たそれは口と腹部に掛けて走った。

あぁ、使ってしまった。自分でもコントロール出来ないから、困るんだ。

 

「バレなきゃ、まぁいいか」

「足がぁぁぁ!離せ、離せって!」

「うるせぇよ、足くらい何だ」

 

俺はそのまま撚るようにして足の骨を折る。

悲鳴が路地裏に広がるが、死んでないなら安いものだろう。

 

「テメェ、タダで済むと思ってんのか」

「アァ、テメェどこ中だよ!テメェらが喧嘩売ってきてんだろうが、ぶっ殺してやる!」

「なっ、イカれてんのか!」

 

取り敢えず、俺を足蹴にした鰐野郎の尻尾を手に持つ。

何だお前、ズボンに穴開けてんのかよウケる。

でもってそれを思い切り地面に叩きつけた。

 

「カハッ!?」

「アッちゃん!」

「何、この鰐アッちゃんとか言う名前なの?ダサくね、顔に似合わねぇわ」

 

再起不能になった奴を横目に、蜥蜴と蛇の異形コンビに近付く。

異形型の個性、見た目で苦労するのもあるだろうが動物みたいな個性だから身体能力の面でも苦労してるんだろう。

で、だから悪い事していいってか、良いわけねぇだろ。

ゆっくりと近付く俺に蜥蜴野郎が口を開きながら走ってきた。

 

「テメェ、この野郎」

「ぐあぁぁぁぁ!クッソ、痛いじゃねぇか」

 

そのまま俺の肩に噛み付いてくる。

原始的だが、実に有効的な方法だ。

 

「俺じゃなきゃ大怪我だな、おい」

「ぎゃ!?」

「ぎゃ、じゃねぇんだよ!クソが、ざけんな!」

「がっ、あがっ、やっ、やめっ、ぐえぇ!?」

 

噛み付く顔を拳を使ってぶん殴る。

殴り飛んだ蜥蜴の頭を手で掴んで、路地のビルに叩きつけた。

何度も何度も、大丈夫だこれくらいで人は死なない。

 

「お前の首長いな、これから殴るが気道が潰れる心配はないだろ。首、丈夫そうだし」

「ひぃぃぃぃ」

 

俺が人睨みすると、蛇野郎はビビって逃げていく。

はー、雑魚。それでもヴィラン見習いかよ、チンピラが死ね。

助けた少女を見る、俺の顔を見てドン引きしていた。

おっと、慌てて顔を押さえるがもう遅かった。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

引き攣った顔で走る少女、見られたな。

俺は思わず上がってた口角を触りながらそう思った。

悪い癖だ、戦うと自然と笑顔になってしまう。

 

「ふぅ……おー湿気てんな、二人揃って一万も届かねぇのかよ。まぁいいや、ゲーセン行くか」

 

学校で授業って気分でもなかったので、今日はサボる事にした。

 

 

 

再び路地裏で絡んできてチンピラを殴る。

今度は犬と猫、異形型の個性の奴って不良多すぎ。

昼間からゲーセンに行ってるような奴らはだいたい不良って分かんだね。

 

「んだよー、お前ら金欠だから襲ったのかよ。はー、使えな」

「ギャ、やめ!」

「うるせぇよ、テメェら腕の一本ぐらい折っておかないと八つ当たりで誰か殴んだろう」

「そんなことしな、ぎゃぁぁぁぁ!?」

「腕の一本くらいでなんだよ、人間の骨はたくさんあるって映画で言ってたろ?」

 

全くヒーローは何をやってるのか、不良がこれだけ居て何もしていないのには呆れてしまう。

もう社会は腐ってるんだよな、ヒーロー飽和社会だ、ファッションヒーロー多すぎ。

ヒーローってのは狂人だ、自己犠牲の果てに辿り着ける場所だ、なりたくてなるもんじゃねぇんだよ。

 

「これにこりたらカツアゲやめろよ」

「テメェ、覚えてろよ……」

「おいおい、復讐とか怖いからやめろよ。復讐の連鎖は断ち切るべきだろう」

「えっ、ちょ、ぎゃぁぁぁぁ!?」

 

調子乗ってたので徹底的にボコボコにすることにした。

知ってるか、ヴィランに人権ってないんだぜ。

 

 

 

街を歩いていると、ヴィランが暴れていた。

人身事故と同じくらいの確率でヴィランが暴れるなんてよくあることだ。

プロヒーロ―のトップになると片手間で倒せるくらいの雑魚だが、一般人には脅威だ。

戦闘向けの個性なんて珍しいからな、まぁそういう奴はなれる職業が限られてくるからそれはそれで可愛そうだ。

 

「来んじゃねぇよ、この女がどうなっても良いのか!」

 

人質に取られた女が居た。

ヴィランは、鳥のヴィランだった。

なんだろう、今日は異形型の個性に出会いやすい日なのだろうか。

周りの奴らは心配しながらも、野次馬とかして携帯で写真を撮ったりする。

ヒーローが来れば大丈夫、そんな考えで野次馬やってるのだ。

馬鹿じゃねのか、個性は資格がないと使えない、だから資格のあるヒーローが来るまで黙ってみてる。

もう一度いう、馬鹿じゃねのか。

いつ人質が死んだっておかしくないのに傍観決め込むとか、馬鹿じゃねぇのか。

 

「おい、そこの鳥頭」

「来るなつってんだろ、テメェ!」

「君、犯人を刺激するな!」

 

騒がしい大人にうんざりする、俺に注意する前にスマホで写真撮ってるやつを注意しろ。

俺は騒がしい大人を無視してヴィランに近付く。

 

「同じことしか喋れねぇのかオウム野郎、人間様の振りしてんじゃねぇよ。どうした、そのナイフは飾りか?俺を刺してみろよ、それとも弱い奴しか、そこの女しか刺せないってか?」

「テメェ、舐めてんじゃねぇぞ」

「やってみろよ、ほらほらほら、人質なんか捨てて、掛かってこいよ!」

 

俺はそのまま走り出す。

煽りに煽って、走り出す。

ヴィランがキレてナイフを此方に向けてくる。

そして、そのまま俺に向かって突っ込んできた。

ナイフがサクリと胸に刺さる。

痛いじゃねぇか、痛いんだよクソが。

 

「あー悲鳴がうるせぇ、そう思うだろう?死ね!」

「ぐぎゃ!?」

「お前、人のこと刺しやがって!殴られても文句言えねぇぞ!」

「ぐげっ!」

 

俺はナイフが刺さったままヴィランを殴る。

殴って殴って殴り続けるうちに、胸からナイフが落ちた。

回復して筋肉がナイフを押し出したんだろう、まぁいいや殴ろう。

 

「何してるんだ、やめろ!やめろぉぉぉ!」

「離せヒーロー、ヴィラン殴れない!」

 

この後、滅茶苦茶に説教された。



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頭悪いとヒーローになれない風潮

警察署でヒーローと警察官に文句を言われる。

クソうぜぇ説教に申し訳ないふりをして、うつむいてりゃ話が勝手に終わる。

ヒーローの癖に見てるだけの奴とか、そんな贋作が何様だ。

 

「あー、疲れたぜ。ったく、人助けしてなんで怒られなきゃなんねぇんだ」

 

うぜぇうぜぇ、と言いながら警察署を出て家に帰る。

 

「うん?」

 

家に帰る途中、爆音が聞こえた。

おいおい、商店街から火が出てるじゃん。

なんだよ、ヴィランですかそーですか。

自然と足はヴィランのいる場所に向かう。

そこに人を虐げるヴィランがいるのなら、俺は立ち向かわないといけない。

俺が夢見たあの人ならそうしていた、圧政者ぶっ殺すってな。

 

「なんだありゃ」

 

ヴィランが商店街を壊してるのかと思ったら、人質になった子供が爆発していた。

爆発する個性なんだと思うが、そのせいで商店街が燃えている。

可哀想に、商店街の生活してる人達は被害がすごいだろう。

店を修理する金くらいは国が出してくれるだろうが、商品は破棄するから結局は損だ。

でもって、補填の資金は税金だ。

また日本の財政がピンチになる、やっぱりヴィランって最悪だわ。

しかもヘドロみたいなヴィランだ、ああいうのは特殊な刑務所に入れられるから労働とかしない。

つまり、税金で飯食うだけの害悪である。

 

「きゃー来た、ルーキーヒーローのマウントレディよ!」

「わわっ、ちょっと!私、二車線以上じゃなきゃ無理」

 

馬鹿が、なんで来たんだよ。

逆に消防車とかの邪魔になってんだろうが、何もするな小さくなれ。

もしくは野次馬をどけろ、二次災害が怖いだろ。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……今回は他に譲ってやろう」

 

苦手だからって戦わないのか、もういいから人命救助だけしてろ。

 

「そりゃサンキュ、消火で精一杯だよ。状況どうなってんの」

 

お前は……無駄にイケボだな、死ね。

 

「ベトベトで掴めねぇし、良い個性の子供が藻掻いてる」

 

馬鹿が、おかげで商店街は燃えてんだろう。

 

「ダメだ!これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!」

 

いるだけか、戦えよ。

 

「誰か有利な個性が来るのを待つしかねえ!」

 

待つなよ、戦えよ。

 

「それまで被害をおさえよう」

「何、すぐに誰かくるさ」

「あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう」

「クソ、奴を吹き飛ばすだけのパワーがあれば」

 

使えない使えない、ゴミばかりだ。

楽観的になって笑ってんじゃねぇよ、人任せにしてんじゃねぇよ。

悪いが耐えて貰う?悪いわ、耐えさせんなよ助けろ。

強いから戦わないのか、自分が弱いから見捨てるのか。

違うだろ、ヒーローってのは、なんで戦わねぇ!

 

「おい、邪魔だ」

「君、危ないだろ!」

「うるせぇ、俺がいかなくて誰が、あぁん?」

 

前に出る、ただそれだけだった。

その行為をする瞬間に、横を駆ける人影を見た。

誰だ、あの餓鬼の知り合いか?

見知らぬ少年が走っていた。

少年が走る、走ってカバンを投げた。

投げたせいでヴィランに当たり、ヴィランは仰け反り、その隙に少年が助けに行く。

 

「ハハッ、なにあれ最高だな」

「無駄死にだ、自殺志願かよ!」

 

後ろからヒーロー達が駆けていく、少年をヴィランが叩き潰そうとしていたからだ。

そんな彼らを黄金の風が追い越していく。

 

「プロはいつだって命懸け!」

「アレは……」

 

何者かの豪腕が振るわれる。

唸るように風圧が周囲を圧倒し、竜巻のような物が発生する。

その姿を知っている、アレは、アイツはオールマイト。

ナンバーワンヒーローのオールマイトだった。

 

「スゲェなぁ、右手一本で天候も変えれんのかよ」

 

身体強化もあそこまで突き詰めれば凄いに尽きる。

語彙力に乏しくなるが、取り敢えずスゲェ。

はぁ、さてヴィランも居なくなったし帰るか。

 

「ちょっと君、飛び出そうとしていたよね。困るんだよ」

「げっ」

 

俺は再び警察署に連れてかれ、またおまえかという顔を警察官にされた。

俺だってこんな所に来たくなかったよ。

 

 

 

不屈闘士それが俺の名前だ。

母親は治癒力強化の個性、父親は身体強化の個性、俺はそれが上手いこと噛み合って怪我を回復し、その上で肉体を強化する個性を持っている。

俺はその個性を不屈と名付けた、いつか見た夢の英雄に近づきたかったからだ。

餓鬼の頃に見た夢は鮮烈で、俺の中で篝火となって灯っている。

称賛も、金も、地位も、何も要らない。

助けたいから助ける、そのために戦う、それが俺のモットーで、何でか不良になっていた。

 

「何でだ」

 

登校する際に、絡まれてる奴がいるとホイホイ助けに行ってしまう。

結果遅刻、喧嘩ばかりで傷だらけ、悪い噂がたって友達は出来ない。

ヴィランになりきれない、半ヴィランのチンピラ共がお礼参りに来て遅刻する毎日。

出席日数が危うかった、義務教育だからいいが高校なんて行ったら卒業も怪しいかも知れない。

親も警察署で身元引受人をしてたら、諦めてきて何も言わなくなった。

まぁ、事情が事情ってのはあるんだろうがうんざりはしていただろう。

 

「何だ、また一人か」

 

母は個性の都合で看護婦を、親父は土方の仕事をしている。

どちらも個性を限定的に使って働いており、重宝されるから夜勤が多い。

今日はどちらも夜勤の日なのだろうな。

仕方ないので、帰ってきてそうそう家を出る。

ラーメン屋にでも行って、飯を食おうと思ったのだ。

 

「へいらっしゃい、ってまた来たのかよ」

「今どき個人経営の中華屋に来てんだ。チェーン店を選ばなかった俺に感謝しろ」

「なんでぇ、別に他所行ったって構わねぇんだよ」

「うるせぇ、ここのラーメンが好きなんだよ」

 

いつもみたいなやり取りを中華料理屋の親父としながら、席に着く。

豚の姿をした異形型の個性の持ち主で、見た目通り料理が上手い。

特にチャーシューに関しては美味すぎると思う。

まぁ、俺のチャーシューだとか俺で煮込んだスープだとか自虐ネタは、洒落にならないからやめてほしいがな。

 

「オメェよ、フラフラしてるとロクな大人になんねぇぞ」

「うるせぇ、好きでフラフラしてんじゃねぇよ。それに、ロクな大人って何だよ」

「そりゃ、警察とかヒーローとか公務員だろうなぁ」

「警察は嫌だな、アイツらヴィランとは戦えない。なるならヒーローだ」

「不良がヒーロー目指すなんて世も末だね、ほらさっさと食って勉強しな」

「あぁ、ヒーローって頭も良くないといけねぇのか」

「んなことしらねぇのか、偏差値ってのがあってだな。まぁ、頭良いに越したことはねぇ」

 

ラーメンを啜りながら親父の話を聞く。

親父も専門学校に通って就職した口で、勉強が好きじゃないから詳しくは何するか知らないらしい。

ただ、ヒーローってのは頭が良くないとなれないくらいは知ってるらしい。

 

「くだらねぇ、頭が悪いとなっちゃいけねぇのかヒーローってのは」

「そりゃ腕っぷしだけじゃな、事務処理とか色々あんだろ」

「戦うだけだろ?」

「戦った後に手続きとかあるんだろう、事務所とか税金とか部下の給料とか色々よ」

「そんなんヒーローじゃねぇよ」

 

事務処理に追われて、税金に頭を悩ませ、挙げ句メディアに露出して金儲け。

違うだろ、そんなんヒーローじゃねぇだろ。

 

「じゃあどうするだよ」

「馬鹿でもヒーローになってやるよ」

「なれるわけないだろ、真面目に勉強しろ」

「なるわボケ!ノー勉でヒーローなってやるわ!」

「おうおう、じゃあヒーロー科のある学校に受かったらラーメン奢ってやるわ。死ぬほど食わしてやる」

「上等だ、破産覚悟しとけよ。ごちそうさん!」

 

食い終わった皿を置いて、俺は店を出た。

取り敢えず、片っ端からヒーロー科のある学校に受ければ一個くらい受かるだろう。

資格が無いとヒーローになれないとか、世知辛いぜ。



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試験っていうか殺しに来てるだろ

コロコロ、コロコロ、俺は鉛筆を転がす。

ヒーローとは逆境でこそ輝く者、ここが俺の限界、それを超えてみせる!

 

「時間です。やめて下さい」

 

俺はやりきった。

提出していく紙を見ながら思った。

普通のテストより雄英ってムズくね。

わかんないところは天運に任せた。

 

 

 

次の試験は実技だった。

ヒーローなんて結局強くなきゃ何も出来やしない、分かりやすい。

実技で落ちた場合、ヒーローのサポートに回るサポート科とかに入るらしい。

それでも他の学校よりも設備が充実してるから、戦えなくても実技試験を受ける奴もいるって聞いた。

 

ヒーローを目指してる奴は、この中に何人いるのだろうか。

少なくとも最初からヒーローになろうと思ってるやつは全員ではない。

普通科ってのになろうと思ってるやつは、サポート科になろうと思ってるやつは、この実技を嬉しいとも思わんのだろう。

でも試験だから、ある程度成績を残したい、無理をしてでも受けないといけない。

 

「圧政だ、これは悪逆だな」

 

運動が出来ない者を運動に駆り立てる、これが試験という名の雄英による圧政だ。

俺の夢の人も言っていた圧政は良くないと、権力で押さえつけるまさに圧政である。

 

 

『今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!』

 

実技試験の説明を受ける。

ロボットを倒してポイントを稼げというものだ。

取り敢えず倒せば良いのは分かりやすいが、戦闘向きじゃない個性とかどうするんだろうか。

例えば描写する個性とか、製図が得意でサポート科志望の奴は無理ゲーである。

 

『はい、スタート』

 

ざわつきが会場を支配する。

もう始まってるらしい、でもこのざわざわは始まってたからではない。

もっと普通の運動テストだと思ってたのだろう。

彼らは守られるべき弱者だ、俺のヒーローは見捨てないのである。

どうせ記念受験、一番難しい雄英は筆記で落ちるだろう。

なら、他の者と争ってまで実技を頑張っても仕方ないな。

 

「あ、ああああ」

「怪我を治せばさせてもいいって訳じゃねぇぞ」

 

座り込んで頭を抱える女の子が居た。

ブッ殺すと襲いかかるロボットが居た。

その金属の腕を、思い切り振り回すロボット。

危ないだろ、何を考えてやがる。

 

「ッ!オラァ!」

 

金属の拳が俺の頬を殴る。

俺の拳がロボットを殴る。

金属を殴る、当然の如く拳が痛い。

なんだったら、擦りむいて傷が出来たくらいだ。

だが、案外脆いのかロボットは動かなくなる。

 

「おい、誰かコイツをどうにかしろ。お前も泣くな、怪我してないんだろ」

「あり……えぐっ……ひぐっ……」

「戦えないやつは道具を使え、ロボットは叩けば動かなくなる」

 

会場は街のように広い、寧ろ街を再現されている。

なら、設置物もあるわけで自転車やバイク、樹木や街灯と武器になりそうな物はたくさんあった。

 

「一人で戦うな、協力しろ!誰かを出し抜く奴がヒーローじゃねぇだろ、協力したって全員に点数は入る!」

 

先生に聞いてないので確信はないが、それで怪我するやつが減るなら別にいい。

俺の言葉に、そこら辺にある武器になりそうな物を持って徒党を組む。

そんな彼らを襲うロボットを近い順に殴る。

 

「喰らえ、自転車アタック!」

「危ない!」

「チッ、うおぉぉぉぉ!」

 

自転車をロボットに向けて投げる奴の後ろから悲鳴が漏れた。

よくわかんないが、どこかからかミサイルが飛んできたのだ。

何でミサイル、普通に死ぬわ。

俺はそれを壊して助けるべく、近くにあった標識を掴む。

掴んで引き抜き、それを振り抜いた。

 

「伏せろ!」

 

爆発、破片が地上に飛ぶ。

何名かその結果怪我をした。

試験で怪我をするとかどういう神経してるのか、ヒーローを目指すなら仕方ないっていう考えか。

 

「布を卷け、それから足を挫いたやつは手を貸してもらえ、後ろの方ならロボットも来ないだろ」

「おい、命令するな!そうやって、俺達を足止めさせて自分だけポイントを取る気だな!それでもヒーロー志望かよ!」

「喧しいぞ馬鹿が、目の前の奴くらいヒーローなら救ってみせろ」

「そもそもお前がミサイルなんか壊したから怪我したんだろ!」

 

その指摘はもっともだ。

ミサイルが落ちたら、そう思って行動したがもしかしたらもっといい方法があったかもしれない。

助けようとして状況を悪化させたかもしれない、だがそんなものは結果論だ。

 

「悪かったな、だがアレが最善だ」

「ふざけんな、だか……ら……って」

 

爆発するような音が響いた。

ビルが壊れ、黒い巨大な影が俺を覆う。

振り向いた先、そこには緑色の巨大なロボットが手を広げて迫ってきていた。

すげぇ、スケールだ。そして、アホだこの学校。

俺達生徒を殺そうとしてやがるとしか思えない。

 

「うわぁぁぁ!」

「逃げろ、0Pヴィランだ!」

 

俺の横を走り去っていく受験生達、逃げれるなら逃げればいい。

問題は、足を挫いたりした奴。

たくさんいりゃ、一人くらいそういう奴がいる。

見捨てるか、試験だから死なないだろうって。

 

「違うだろ、ヒーローってのは」

 

俺の知ってるヒーローは逃げたりしない。

笑って逆境を乗り越えるのだ。

その背後に、守るべき弱者がいる限り戦うのだ。

 

「勝てる勝てないじゃない、立ち向かわないと行けないんだ」

 

足を挫いた奴の元に行く、そして頭上から来るロボットの腕を見る。

俺の個性は回復と強化だ、壊れる身体はすぐに治り強化されている。

だが、いつからか壊れることもないくらいに丈夫になり、俺の個性は頭打ちだった。

医者の話じゃ個性による一世代限りの進化、人間としての肉体スペックが高くなったかららしい。

結果、俺がボロボロになるような事が減ったのだ。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「うるせぇ、黙ってろ!」

 

押し付けるようにロボットの拳が俺に振り落とされる。

両手を頭上に上げ、構えた。

数秒後、重い衝撃が身体を駆け巡る。

筋力に物を言わせ、足を曲げずに支える。

ピキリ、と地面に亀裂が走った。

俺の足が地面に減り込んだ。

腕がミシミシと、筋繊維が壊れる音が聞こえた。

血管がブチ切れ、足の骨が折れたのか熱くなる。

胸に込み上げてくる何かが血だと吐き出してから気付く。

 

「あっ、あっ……」

「耐えたぞ、クソッタレ!」

 

だが、俺はやり遂げた。

巨大なロボットの拳を受け止めた。

身体を緑の光が駆け巡った。

身体中の痛みは無くなり、一回り体格が大きくなる。

だが、まだ足りない!こんなんじゃ足りないんだよ。

俺じゃコイツは倒せない、オールマイトのようなパワーが足りない。

 

「ロボットが!」

「また殴ってくるってか、来い!」

 

俺の身体からロボットの腕が離れていく。

その隙を見て挫いていた奴を抱える。

倒せないなら倒さなくていい、今は人命救助が最優先だ。

俺は結局、そのまま時間いっぱいロボットから逃げまくった。

 

 

 

雄英以外の学校も受け、まさに総当たりで試験ばかり受けていた。

どこもかしこも戦闘があるが、少なくとも雄英ほどぶっ飛んでなかった。

怪我はありそうだが、流石に殺しに来てたのは雄英だけだ。

 

「おい、合格通知来てるぞ!驚くなよ!」

「いきなり部屋を開けられたことのほうが驚きなんだが」

 

親父が紙を渡してくる。

本人じゃないのに、封筒開けたのか。

まぁいい、どこの学校だと思ってみれば雄英だった。

 

「はぁ?」

「スゲェな、記念受験で受かるとかスゲェなぁ!」

「おいおいどういうことだよ」

 

確かにロボットは幾らか倒したが、俺より倒してるやつはたくさんいた。

どういうことか、成績表を見る。

 

「レスキューポイント?はぁ、なるほど」

 

どうも人を助けたことでもポイントが入る説明があり、俺は合格点に達したようだった

 

「親父、ラーメン食ってくる」

「おう」

 

玄関を出て、俺は合格通知を握りしめた。

 

「しゃぁぁぁぁぁ!待てろ、ラーメン!」

 

このあと滅茶苦茶ラーメン食った。



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緑とかピンクとか髪の色も個性的だよな

雄英に来た。

すごい、流石日本一知名度の高い学校だ。

俺はそのまま教室に向かう、今日はガイダンスとか校長の話があるそうなので早く帰れる。

早く帰れることは良いことだ、遊ぶことが出来るからな。

一度教室で集まり、クラスで体育館に向かうのが今日の日程だった。

 

教室に入ると一瞬視線が集まり、ヒソヒソと囁かれる。

何だ、ズボンのチャックでも開いてたのか?

 

「何かようか?」

「い、いえ、すいません」

「……そうか」

 

俺の方をジッと見て喋っていた女の子に話しかけたが応えてもらえなかった。

何だってんだ、ったく。

黒板に張ってあった席順を見て自分の席に着く。

どうでもいいが、この椅子と机小さい。

取り敢えず目一杯後ろに下がらねぇと座れねぇな。

 

「うひょー、流石だぜ!レベル高いぞ、顔採用あっただろこれ」

「何だ」

 

なんか声が聞こえて横を向いたら、小さいやつが震えていた。

なんか、個性的な髪型だな。

 

「うん、何だ?アンタもおっぱいが気になるのか?」

「…………はぁ?」

「ひぃぃぃ、何急にキレてんだよ!畜生め、おっぱいぷるんぷるーん!」

 

聞き間違いだと思って聞き返したら、すごい速さで居なくなる個性的な髪型の奴。

隣の席なのに名前聞いてない、あとキレてない。

 

「うふふ、僕は青山優雅よろしくぅー」

「……あぁ、そうだな」

 

なんか後ろから話しかけてきた奴もヤバそうなのがいるんだが。

アレだな、花輪くんだな。

メルシーとかいいそうだ。

 

「君は何位か聞いたかい?アレには驚いたね」

「……アレ?」

「オールマイトさ、まさか投影されるなんてびっくりだったよ」

「合格通知の紙しかなかったんだが」

「えっ、機械が入ってなかったかい?」

 

どういうことだよ、おい。

入れ忘れか、いやもしかしたら俺の両親のどちらかが持ってたのか。

謎だ、まぁ別にそんな好きじゃないから別にどうでもいいけど。

決してミーハーじゃないんだぜ、俺はオールマイトのファンとか言うミーハーじゃないんだぜ。

他にまともなやつはいないのか。

 

「くっ、我が封印されし力が……落ち着け、ダークシャドウ……」

「……あぁ、頑張れ」

 

おかしい、このクラスおかしい。

ド変態とナルシストと中二病がいるんだが、どうなってやがる!

個性が強すぎるだろ、ある意味な。

女子からはヒソヒソ何かを言われ、仲の良さげな男子のグループも出来ており、そこに馴染めないような個性の強い奴らが点在している。

まぁ、最初の日だしすぐには友達にはなれないだろうさ。

そう思ってたら、ドアが勢いよく開いた。

 

「何見てんだぁ!あぁ!?ブッ殺すぞ、チッ!」

 

ヤンキーだ、ヤンキーまでこのクラス入ってきた。

おっ、後から真面目そうなやつが見える。

なんだよ、ちゃんとしたやつもいるじゃん。

 

「君、机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!」

「思わねーわ、てめーどこ中だよ、端役が!」

 

えぇ、初日に喧嘩とか真面目ってレベルじゃないぞ。

そこは空気読んでほっとけよ、先生が注意すんだろうしさ。

何だお前クソ真面目か。

取り敢えず、ガイダンスの概要とか読むことにした。

周りは談笑しているが、何故か俺のまわりには人が居ないからだ。

何でみんな俺を中心に避けるんだ。

 

 

 

……ハッ!?しまった、眠ちまった。

あれ、誰も居ないんだけど何でだ。

 

「な、何してますの?」

「……誰だ」

「あの、グラウンド集合なんですけど、大丈夫ですか?着替えてなさそうですし」

 

あ、あれか。

ガイダンス終わって、その後の授業の時間が来たって事なのか。

取り敢えず、グラウンドに行くか。

 

「なっ、ななな……」

「何だ?」

「は、破廉恥ですわ!」

 

そう言って、俺に話しかけた女子が廊下を走って行った。

なるほど、目の前で着替えたからか。

それにしても……。

 

「リアルにですわって言うやついたのか」

 

俺の中でさっきの女子をお嬢様という渾名で呼ぶことにした。

グラウンドに行くと、何やら説明をしていた。

こっそりと背後に並んで誤魔化す。

高校は退学があるからな、授業は真面目に受けないとダメだ。

 

「成績最下位の者は、見込みなしと判断し、退学処分としよう」

 

あっ、やっぱり。

高校って厳しいと聞いていたが、日本一だとスゲェ厳しいんだな。

うん、さっきの女子だ。

 

「おい」

「あ、貴方は……」

「あー、さっきは悪かった。あと今、何やってんだ」

「今は個性把握テストですわよ、先生の話し聞いてなかったんですか」

「あぁ」

 

だって今来たからな、おいそこやっぱり不良ってなんだ。

俺は不良じゃねぇ、それが理由で避けてるのか。

 

「助かった、じゃあなお嬢様」

「お、お嬢様!?私は、八百万百ですわ!」

「……そうか、俺は不屈闘士だ」

 

男達のグループの後ろに座る。

座った瞬間、さっと避けられたがウゼェ。

特に緑色の髪のやつが俺の顔を見て悲鳴を上げた、そうか顔が怖いのか。

 

「取り敢えず、思い切り投げれば良いのか」

 

体育はあまり好きじゃなかった。

俺の個性は異形型みたいに自分でどうこうできるタイプじゃない。

だから、普通の人間と違って常に身体強化されてるので怪我をさせちまう。

セーブしながらやるから、見学ばかりしていた。

思い切り振りかぶる、結構な距離を飛んだ。

 

その後も人のを見ながら試験をする。

お嬢様、八百万がいきなり服を脱いだかと思ったら腹からバイクが出来てびっくりした。

アイツの個性はきっとドラえもんだな、間違いない。

俺に似た個性の奴もいた、緑色のチビだ。

俺と違って身体強化の類なのか、指を抑えていた。

あれだ、個性を使うと怪我するタイプみたいだ。

治れば俺とお揃いだった。

 

「因みに退学は嘘。君達を奮いたたせる合理的虚偽という奴だ」

「なんだ嘘なのか」

「あんなのウソに決まっているじゃないですか……ちょっと考えればわかりますわ」

 

ちょっと考えて分かってなかった、コイツさては頭良いな。

所で、どうして余計に人が避けてるんだろうか。

 

 

 

初日だからか、親交を深める為にグループごとに遊びに行く奴らが居た。

当然のように、俺はぼっちだった悲しい。

悲しいが腹は減る、学食はずっとやってるらしいので放課後に飯を食う旨い。

 

「あっ」

「…………」

 

何かお嬢様がいた。

何で食堂にいるんだ、それと何故近付いてくる。

 

「あの、何で避けますの」

「…………何かようか」

「いえ、目があったのでクラスメイトですし」

「そうか」

 

取り敢えず飯を食う。

どうしよう、めっちゃ見られてる。

何でだ、何でこんな見られてるんだ。

 

「つかのことお聞きしますけど、どうして不良なんてやってるんですか」

「不良じゃねぇよ」

「でも授業中は寝てるし、見た目は怖いですし、髪も不良みたいですよね」

「不良じゃねぇって言ってんだろ」

 

そう言いつつ、気になったので前髪を弄ぶ。

金髪、確かに染めても居ないのに金髪なのは目立つな。

でも個性が原因で髪の色が派手なのはいる、ブロッコリーとか紅白饅頭みたいな奴らもいただろう。

 

「おい、女がそんなに食って良いのか?」

「私の個性は脂質を変換してますの。だから、食べなくてはいけないのですわ」

「食べても太らないのか、便利だな」

「あんまり嬉しくないですわ」

 

そうか、大変なのな。

俺も回復する際に、色々と成分を使うのか燃費は悪い。

医者の話なんざ覚えてないが、食べなきゃいけないのは一緒だ。

あと、勝手に筋肉質になるから食ってないとカロリー消費がやばくて死ぬ。

 

「その、今更なのですけど」

「なんだ」

 

俺の前でお嬢様がモジモジしていた。

なんだ、トイレでも行きたいのか?

 

「せっかく同じクラスですし……お友達になりましょう」

「……あぁ、よろしくな」

「私、男の子の友達は今までいませんでしたの。不屈さんは私の初めての相手ですね」

「ゴホッ、ゴホッ!?」

「だ、大丈夫ですの!?」

 



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その個性、殺せるよ……いや個性ってマジで危ないから

雄英、そこは日本一の学校である。

つまり、教育も日本一であり、日本一であろうという自負もある。

ヒーローなら限界を越えようという、Plus Ultraという校訓、そして無理と思える勉強量をやらせる。

 

「クソが、クソが、クソが、クソが……」

「おい、アイツぶつぶつ言ってて怖くね」

「不良、悪の烙印を押されし宿命」

「いや、その悪は頭の良し悪しだからな」

 

なんかチビと中二がうるさい、こっちは授業のスピード早すぎて追いつけないんだわ。

要点だけ教える、合理的だからなって先生ちょっとしか教えてくれないし後は自習でどうにかしろって、難しいわ。

そもそも、ヒーローが先生やる必要性ってあるのかよ!専門の教師でいいだろうがよ。

何で、勉強したらこうして先生になれるぞとか言うんだ。別に、教師目指してねぇわ。

 

「勉強なんてしなくてもいいだろうが、クソが」

「不屈さん、ちょっと」

「や、やおももー!やめろ、お前のやおろっぱいは人類の至宝だ、死ぬ気か!?」

「小声で叫ぶとは、峰田……出来る!」

 

そもそもヒーローがいつ数学使うんだよ、科学とか国語とか、使うところなんかないだ痛ッ!?

頭を叩かれ、振り向くとムスッとした八百万がいた。

手を擦っており、叩いたのはコイツだと分かる。

おい、叩いといて痛そうだな。

 

「不満が口に出てましてよ、はぁ……だから不良はやめなさいと」

「だから不良じゃないって言ってんだろ」

「じゃあどうして勉強しないんですか、しなくてもいいではありませんわ」

「……悪かった」

 

が、学生は勉強が本分。

お、俺は限界を超えるぞ!不良を、やめてやる!

って、だから不良じゃねぇって言ってんだろ。

 

「あ、謝った。謝ったぞ、アイツ」

「八百万……すごい女だ」

「そこ、うるさいですわよ!」

「あっ、やべっ」

 

休み時間、俺の周りで八百万達が走り回っていた。

……うるせぇ。

 

 

 

ドアが勢いよく開けられた。

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」

 

身長2.2m体重274kg、筋肉モリモリマッチョマン。

世界観が違う、なんか全体的に濃い、そんなヒーロー!

 

「オールマイトだァァァァァ!」

「スゲェェェェェェ!」

「画風が違うぅぅぅぅ!」

 

 

皆が興奮していた

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!」

 

ヒーローの基礎、つまり道徳の授業だなと俺は当たりをつける。

道徳か、確かに大事だ。

量産型の使えないヒーローが減るからな。

 

「早速だが今日は戦闘訓練だ!」

 

 

 

オールマイトは、バッと謎ポーズの状態から"BATTLE"と書かれたカードをこちらに掲げて見せた。

道徳ではない、体育の授業だった。

確かに戦えないヒーローとか個性が使えるタダの人である。

 

「それに伴ってこちら」

 

バゴンと音を立てて壁が動いてロッカーが現れた。

何を言ってるのかわからないと思う、俺も分からない。

少なくとも、その隠す必要性は金の無駄な気がする。 

 

「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチューム!」

「おぉぉぉぉぉ!」

 

皆が一斉に沸き立つ。

コスチューム、そう言えば俺も出したな。

先生に裸でも戦えるんでどうしたらいいか相談した奴だ。

困ったら先生に相談する、君は合理的だねと言われたから多分大丈夫だろう。

 

着替えてから、グラウンドに集合する。

皆、派手な格好でヒーローらしい。

だが、そんな格好に意味はあるのか?

まだ、防具的なのなら分かるが布みたいなのは防御力皆無だぞ。

 

「おい、見ろよ」

「ヤバイな、アレはヤバイ」

「本人が気にしてないがアレはヤバイな」

 

グラウンドの片隅で、男子達が何やらコソコソしていた。

何を見ているんだ、そう思い視線を追う。

 

「百ちゃんて、アレだね」

「発育の暴力だよね、うん」

「……羨ましい」

 

その視線の先は女子達だった。

あぁ、なるほどな……ッ!?

 

「どうしました、不屈さん」

「…………」

「痛っ、ちょ、なんでぶつんですの、チョップやめて!」

「はぁぁぁぁぁ……」

 

俺は近付いてきた八百万の頭を無言でチョップする。

なんだ、その格好はまったく痴女か貴様。

なんだか無性に疲れた、胃が痛くなってきた気がする。

 

「服を着ろ」

「着てますわよ!」

「酷いコスチュームだな」

「し、失礼ですわ!これは個性に特性上仕方なく、私だって恥ずかしいですのに」

「何で着たんだよ」

 

そりゃ男子達が騒ぐわけである。

俺の発言にムッとしながら、今度はこっちのコスチュームについて言及してくる。

 

「不屈さん、貴方だって……なんか地味ですわね」

「あぁ、そうだな」

「…………えぇぇぇ」

「やめろ」

 

八百万の発言をきっかけに、他の奴らも地味とか言い出した。

 

「ヒーロースーツっていうか、スーツだよな」

「特殊繊維で編まれた防水防火防刃防弾性能付きだ」

「なんでサングラス……」

「スタングレネードなどの対策に特殊加工されたサングラスだ」

「やっぱ地味だよな」

「潜入にも向いて、普段から着れるから着替える時間が短縮できる、合理的だろ」

「お前、こんなの考えるなんてセンスねぇな」

「因みに考えたのは俺らの担任だ」

「…………俺、死ぬかも」

「…………生きろ」

 

授業が始まった。

ヴィラン組、ヒーロー組に分かれて二対二の戦闘訓練を行う訓練だった。

みんなくじ引きを引いて、チームを作る。

 

「…………」

「何?」

「い、色々と心の準備が」

「だいたい想像ついた」

 

クラスメイトの女子は耳郎響香と名乗った。

個性は爆音を流して攻撃したり、音をキャッチできる耳たぶを操る個性だ。

耳たぶはすげー伸びるし自由自在だ。

 

「戦えんのか」

「ちょっとキツイかも」

 

相手は芦戸と青山だ。

誰だと思って顔を見れば、ピンクの奴と花輪くんだった。

 

「あっちは、遠距離の攻撃が出来る個性。こっちは、お互い近接」

「関係ない、やるぞ」

 

授業が始まったら、取り敢えず殴る。

殴るしか出来ないんだから、余計なことを考えない。

 

「核を奪えばいい、意識を核を守ることに割かないんだ気が楽だ」

「……アンタ、意外と喋るんだね」

「……うるせぇ」

 

ヴィラン側は最上階に居る。

耳郎の耳で索敵した結果、どうも上にいるようだ。

 

「作戦は?」

「敵を倒し、核を奪う」

「えっ、特に何も考えてない……」

「行くぞ」

「えぇぇ……」

 

ヒーローは逃げも隠れもしない、階段を駆け上る。

 

「来た、見た、後は勝つのみ!」

「その声は、芦戸」

 

階段をのぼる瞬間、フロアが溶ける。

コイツは、酸ッ!やろう、階段を溶かしやがった。

 

「入り口は一箇所、此処を通らねば上がってこれまい。そして、周囲は酸でドロドロだ。触れたら怪我する、降参しろヒーロー」

「怪我するか、あぁそうだな」

 

耳郎を掴んで担ぎ、俺は一歩踏み出した。

階段を溶かした名残、強力な酸が足を溶かす。

今後は靴に鉄板を仕込むとしよう。

 

「コイツ、足を溶かしながら前進していやがるッ!トンデモねぇ、クレイジー野郎だァ!」

「あのこ、あんなタイプだったけ……」

「そんな飛んだところをビームで狙い撃つ作戦だったのに、どうしよう」

「青山、意外とセコいな」

 

階段を駆け上がり奴らを追い詰める。

足は煙が出て溶けている、両足は常に緑の色を纏っている。

溶けては再生を繰り返し、皮膚も強化されていく。

 

「もう大丈夫だ」

「その理屈はおかしい」

「こうなれば、頭から酸を被せるしか!怖いんだぞー、私の酸は怖いんだぞー」

「やめろ、おいやめろ」

「怖くねぇよ、やれるもんならやってみろ!」

「お前も乗るんじゃない」

「こうなれば、ビィィィィム!げ、限界を超えろ!」

「ムッ!?グゥゥゥゥ!」

 

前方からビームが来る、俺はそれに対して腕を……耳郎が邪魔で防げない。

そのまま腹にビームを喰らう。

だが、数秒も持たないはずの攻撃は続く。

 

「あっ、無理」

「諦めんなよ、2秒は出てただろ!もっと、頑張れよ」

「ネ、ネビルビーム!」

「グゥゥゥゥ、流石ロボット一撃するだけあるぜ!」

「いやいやいや、血がドバって、ドバって!授業中止だろ、これ!」

「大丈夫だ、もう治ってきた。行け、耳郎!」

「ちょ、投げんなぁぁぁぁ!」

 

耳郎を投げて、俺は二人に相対する。

青山は腹を抱えて跪いてるから、実質芦戸だけだった。

 

「来いよヴィランども、核なんか捨てて掛かってこい!」

「やってやるぞー!」

「いや、授業の趣旨を忘れるなよ、お前ら」

 

その後、核のハリボテを確保された耳郎以外、オールマイトに授業の趣旨を忘れたことを怒られた。

そんな、何故だ。俺は核を確保できように、アシストしたのになんでだ。

 

「いや、核なんか捨てろとか言ったからだろ」

 

 

 

 



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個性に強弱はなくても、相性はあると思う

朝、学校の前に人混みが出来ていた。

なにあれ、きもちわるい。

 

「おう、おはよう」

「切島」

「マスコミだな、やっぱオールマイトってスゲェや」

 

そうなのか、だが入口前にいるのは邪魔だな。

このままだと遅刻になってしまうので、とにかく学校に向かう。

 

「あ、貴方!もしかして雄英高校の生徒さん?」

「…………」

「あの、ちょ、止まって」

「…………」

 

マスコミを押し切り、そのまま向かう。

あっ、コイツら抱きついてきやがった。

 

「うおぉぉぉぉ」

「ぬおっ、俺達を無視して歩き続けているぞ!」

「止まれ、記者魂舐めるなよぉぉぉ」

 

俺は足や腕、はたは背中まで抱きついてる男達を無視した。

俺の進む行動を阻もうとは、邪魔である。

押し付け、強制、それは圧政だろ。

圧政には屈しない、屈しないぞマスコミ共!

 

「アイツだけなんか違う登校してる」

「しっ、今のうちに行くぞ」

「不屈の奴は犠牲になったのだ……」

 

マスコミを振り切るのを諦めて、そのまま校門に向かった。

途中で先生が止めに来るまでマスコミは止まらない、アイツら何がしたいんだよ。

インタビューだったか、考えたら分かった。

その後は何もなかった。

学級委員を決めるとか、警報がなるとかあったが、そんなことより勉強が忙しかった。

学級員は眼鏡がなった、だろうなだって眼鏡だしな。

 

「で、なんで警報なったんだ?」

「セキュリティが壊れたらしい」

「そうか」

 

マスコミが騒いでいたのも忘れた頃だった。

何やかんやあって、体育の授業。

ヒーロー基礎学の時間がやって来た。

敷地内が広いからとバスで移動する事になった。

どうやら、学校内に災害を再現する施設があるらしい。

それを使ったレスキュー訓練が今回の授業だ。

 

「なぁ、なんか悩みでもあるのか」

「なんだ急に」

「いや、無言で人の頭を取るから」

 

隣の席の峰田が俺に向かってそんな事を言ってきた。

そう言えば、無意識で頭の……何だこれ気持ち悪い。

 

「何だお前の個性」

「超くっつく、オイラにはくっつかず跳ねる」

「ずっと取れないんだが」

「効果切れるまでオイラでもどうしようもない」

 

えっ、これ取れないのかよ。

あっ、ヤバイ両手でくっついた。

くっ、クソッタレェェェェ!

 

「すげー伸びてる、まるでピザ生地だな」

「峰田、殴るぞ」

「何で!?超理不尽!」

 

峰田の謎のもぎもぎは取れなさそうなので諦めて寝ることにした。

いや、だってどう頑張っても無理だもん。

 

「おい、寝るなよ」

「自習しすぎて寝てないんだ」

「そんなことどうでもいい、それよりお前八百万と仲がいいだろ。俺も、あの胸揉みたい」

「揉んでねぇよ、揉んでるみたいに言うんじゃねぇ」

「不屈ってよく八百万と一緒にいるよな、好きだったりして」

「……そんな訳ねぇだろ」

 

寝るのは邪魔されたが、峰田はどうして俺の隣にいるのか。

名前が近いからか、鬱陶しい。

他のやつみたいに避けられるのもいやだが、ぐいぐい来られるのも面倒だ。

バスの後ろでは個性の話で盛り上がっていた、なんか派手なとか個性の運用とか色々だ。

 

「俺らってさ、地味だよな」

「増強型だからな」

「っていうか、不屈ってアレじゃん。サイヤ人じゃん、死にかけるほど強くなるんだろ」

「俺の個性は不屈だ、サイヤ人じゃねぇ」

「そうだよな、怒りで覚醒したことあんの?」

「サイヤ人じゃねぇって言ってんだろ」

 

いや確かに似ているが、というかそのまんまだが俺は気とか操れない。

というか、あんな複合型の個性とか持ってたらヤバイ。

あんな俺の考えた最強個性みたいな主人公が、個性発現前の時代に考えられてたとかスゲェよ。

 

「俺もかっこいい個性が良かった、そしたらモテたのに」

「ブレないなお前」

「俺の個性じゃなぁ、戦闘向きじゃないし」

「どんな者だろうと人にはそれぞれその個性にあった適材適所がある。王には王の、料理人には料理人の、それが生きるという事だ。個性も同様『強い』『弱い』の概念はない……ってジャンプで見た」

「ジャンプスゲェェェェ!俺、毎週見るよ!でも個性に弱いとかあるだろ」

「使い方って話だろ、たぶん」

 

峰田と少しだけ仲良くなれた気がした。

 

「因みにオイラ、To LOVEるとか初恋限定とかエロ系しか興味ないから」

「やっぱお前はブレないな」

 

しばらくするとバスが到着した。

遊園地みたいだった、というか嘘の災害事故の施設でUSJって、パクリだろ。

 

「オイラ、ハリポタ行きたいな、ジュラシックでもいいけど」

「何しに来た、あと多分ないぞ」

「オイラ、杖でスカート浮かせてパンツ見たいんだ」

「最低だな、魔法使いが泣くぞ」

 

13号先生の偉い話が始まった。

その話を聞いて、後で提出するであろうレポートは強い個性でも使い方を謝れば危ないので強い個性のやつにはそれなりの悩みがあるんだなと書くことだ。

先生とかの話って、後でレポート出させるの多いよね。

 

「ッ13号、生徒を守れ!」

 

俺が考え事していたら黒い靄が現れる。

アレはブラックホール、ではないんだろうな。

 

「動くな、アレはヴィランだ!」

「な、なんだってー!?」

 

なんかいっぱい人が現れる。

恐らくだが、あの靄はワープする個性だ。

最近、空間をつなげる奴をアニメで見た。

魔法少女の敵として戦ってた。

 

「はじめまして。我々はヴィラン連合」

 

話してる途中で爆豪と切島が動いた。

いや、ダメだろ。

物理は効かない、空間系能力者は漫画で近接に強い描写があるからな。

気付いたら、俺は岩場にいた。

 

「はぁ?」

「ここは……」

「ヒャッハー!」

 

どうやら飛ばされたらしい、周りには八百万と耳郎がいる。

周囲の状況を確認していたら、刃物を持ったヴィランが上から降ってくる。

そして、俺の肩にナイフがあたってキンッと金属がぶつかった音がした。

骨がぶつかった時に発生した音だ。

悪いな、俺の骨って丈夫なんだわ

 

「えっ、ぐぼぉ!?」

「よくわかんねぇが、殴れば良いんだろ」

 

ヴィランに人権はない、なので容赦はしない。

 

「不屈!」

「おお、腕が伸びた。ゴム人間かな、スゲェな」

「お二人とも、真面目にして下さい!来ます!」

「えっ、なんで私怒られてるの?」

 

腕を伸ばしたヴィランが岩を投げてくる。

しかし、それは耳郎の個性によって妨害され途中で頓挫した。

爆音がヴィラン達を襲ったのだ。

あれか、コスチュームで補強されてるのか。

俺のは丈夫なだけだからな、ナイフで切れてないのはスゲェと思うけど。

 

「崖を常に背後に、頭上にも警戒して!」

「あぁ」

 

八百万の指示に従い、崖を背に……俺は遠距離攻撃とか出来ないので意味ないぞ。

 

「やっぱ無理だ、取り敢えずツッコむ」

「なっ、馬鹿なんですの!死ぬんですの!」

「ちょ、マジか、クソ!死ぬなよ、不屈!」

 

ヴィランの元まで俺は走った。

囲むようにいるヴィラン達、にしても異形型が多いな。

相性が悪そうな奴が居ないだけが救いか。

 

「うおぉぉぉぉ!」

「やめろ、離せ!嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!」

「こっち来んな!」

 

俺はヴィランの一体を捕まえ、振り回すことで他のヴィランを攻撃する。

ヴィランでヴィランを殴れば、一石二鳥である。

筋力がないと出来ないが、俺は可能だ。

 

「集団で嬲ろうとするなんて悪党どもめ、気兼ねなくぶん殴れるぜ」

「抜かせ、食らうが良い!」

 

ヴィランの一体が岩を片手に飛んでくる。

その岩は身体よりも数倍大きい岩で、持ち上げてることから増強型だと思われる。

 

「俺の個性は物を軽くする個性、押しつぶしてくれる」

「いや、岩から重さを取る利点がないだろ。軽いならどかせられるし」

「あっ」

「流石に、アンタほど間抜けなヴィランは今まで会ったことなかったぜ」

 

俺はそう言って、ヴィランの一体を殴り飛ばす。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

全身鎧のヴィランがやってくる。

個性か、どんな個性か分からんが体格はよく巨体で重そうだ。

そんな鎧のヴィランが、タックルを仕掛けてくる

 

「フ、フハハハ!さぁ、来いよヴィラン!」

「俺は生まれながらに鎧だった。固くて大きい、それは最強って事だ!」

「うおぉぉぉぉ!」

 

俺は正面から押さえかかる。

そんな俺を、鎧のヴィランは押し出していく。

地面がえぐれた、ズルズルと俺の身体が動いたからだ。

後方へと押し出されたが、しかしそれでも止めることは出来た。

 

「止まったな」

「なんだそりゃ?俺は鎧と一体化している、打撃は効かないぜ」

「鎧ってのは地面に衝撃を逃してるらしいな、知ってたか」

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

鎧を空中に放り投げ、殴りまくる。

どんな個性か知らんが、俺の方が物理的に強かったな。

 

「悪いが相性最悪だぜ。俺は全身毒人間、触れたら侵される。さぁ、苦しむ顔を見せてゲボォ!?」

「悪いな、昔から薬とか効かないんだわ。ちょっと、しんどくなったか」

「象すら動けなくなる毒なのに、グハァ……」

 

全身が毒とかいうヴィランを殴って蹴って、転がしておく。

確かに毒とやらに侵された、全身が痛くて気持ち悪くてしんどいだけだ。

気合でどうにかなる、動けないわけじゃない。

 

「死にな!」

「テメェが……八百万!?悪い、反射的に殴っちまった」

「馬鹿な、俺の変身に気付いていたのか」

「変身する個性か、紛らわしい奴め」

「だからどうした、クラスメイトを殴れゲェ!?」

「中身がヴィランなら殴れるわ」

 

八百万の顔が腫れ上がるまでぶん殴る、まぁ見た目だけだな。

中身はヴィランだからいいだろう。

 

 



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逆境こそ、我が戦場

「俺達を倒しても、へへへ、秘密兵器がある。お前らは終わりだァ!」

「うるせぇ!」

 

目を見開くヴィランの顔面を殴って鎮める。

秘密兵器とやらが何だろうが、知ったことではない。

 

「このあとどうしましょう、皆さんが心配ですわ」

「みんなの実力なら、そこら辺のチンピラには負けないと思うけど」

 

不安げな女子達を他所に、俺は周囲を見渡す。

さっき俺がいた場所はあっちだな、見覚えがる景色だ。

 

「なぁ八百万、ロケットって作れるか?」

「人が飛ぶほどのロケットを?無理ではないですが正気ですの?」

「絶対、それで向かおうとしてるよね」

 

こ、コイツらどうして俺の考えが……いや、まぁその通りなんだけどな。

でも、笑って災害地に飛び込んで殺そうとする相手を殺さずに捕まえる奴を正気とかおかしいと思う。

ヒーローになるってのは、英雄になるってのは、正義の味方ってのは人間じゃないだろう。

 

「出来るんだろ、やってくれ」

「でも」

「頼む、ヤラせてくれ。一発でいい、一発でいいから!」

「なんか迫られる百が、卑猥に見える」

「どういうことですの!?」

 

疲労からか顔を真っ赤にした八百万が仕方ないなとばかりにロケットを用意してくれた。

デカイな、意外とデカイぞこれ。

 

「ねぇ、本当にやるの?そのままクルって地面に激突しない?」

「怖いこと言うなよ耳郎、そういうとこだぞ耳郎」

「そういうとこって何!?」

 

出来るできないではない、やるのである。

八百万がスイッチを渡してくる、これを押せば行けるのか。

 

「いいですか、これからパラシュートを――」

「押せば良いんだな」

「ちょ、おま!?」

 

バシュっとロケットが発射する。

うお、ブレる筋肉で制御しないと!

とりあえず、真上に向けてロケットを整えて飛んでった。

意外と、コントロールが出来ない。

 

「あっ」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

下で悲鳴が聞こえる。

この高さから落ちたら死ぬかな、死ぬかも。

 

「根性ォォォォ!」

 

体重を前にかけてとりあえず目的地まで行く。

落ちることは落ちた時に考えればいい。

 

「相澤先生、包帯ぐるぐるじゃねぇーか」

 

上から敵が戦っているのが見えた。

行くしかない、ロケットはもう必要ない。

なので、思い切りぶん殴った。

すると、なんか知らないが爆発した。

 

「「死んだぁぁぁぁぁ!」」

 

爆発は強く、俺は地面に向けてふっ飛ばされる。

なんかドーム近い、これアレだ、ぶつかるアレだ。

強、速、避……無理!受け身で?出来る?否、死!

 

「何だぁ、ボス!空から人間が」

「何だと、そんな訳が」

「あれは不屈君だ!」

「すまん」

 

俺はその言葉を最後に、ヴィランごと地面に落ちた。

不屈くぅぅぅんと叫ぶ緑谷の声がするがそれどころではない。

体の前面が完全にぶっ壊れた。

皮膚がぐちゃぐちゃになっているな、血管も破裂してるし、呼吸が出来ない。

骨も、衝撃が凄かったのか全部折れた。

筋肉も、力が入らないし駄目かもしれねぇ。

痛てぇ、つかなんで意識がはっきりしてんだよ。

 

「何だこいつ、何処から出てきた」

「痛てぇ、クソが勝手に来て勝手に死んだぞコイツ!」

「何してるんだ、さっさと片付けろ」

 

俺の下敷きになってたヴィランが、体を持って投げ捨てる。

完全に死んだと思われてるが、生きてます。

 

「待て、様子が可笑しくないか」

「フフフ、フハハハ!」

 

馬鹿め、俺の再生時間まで何もしないなんてな。

 

「し、死体が起き上がった」

「なんか、一回り大きくなってないか?」

 

飛び起きると同時にヴィランを殴った。

よく分かんねぇが、あの偉そうな奴をぶん殴ってやる。

なんだそのコスチューム、恥ずかしくねぇのかよ。

 

「最近の子供はすごいな、恥ずかしくなってくるぜ」

「恥ずかしいのはその格好だろ」

「……生意気なガキは嫌いだ、脳無」

 

眼の前に、すごい速さで黒い巨体が現れる。

顔は鳥のようで、脳は剥き出しだ。

異形型にしては異常すぎる見た目、何だコイツ?

 

「はぁ?」

 

気付けば、体がバラバラに砕けていた。

砕けて、そして俺は空を見ていた。

殴られた、いつの間に、見えなかった。

なんて速さとパワーだ、オールマイトがヴィランをふっとばす映像を見たことあるが一緒かよ。

 

「だが、死んで、ねぇ……」

 

俺の体表を緑の閃光が走る。

攻撃に備えるように、より丈夫となって、そして再生する。

ピンチだ、逆境である、いいね最高だね。

逆境こそ英雄の居場所だ。

 

「叛逆だ、俺の叛逆は今こそ始まる!」

 

空中に居るからなんだ、リミッターを外せ、俺なら出来るはずだ。

回復する、強化する、もっとそれ以外にも使えるはずだ。

再生する部位を必要最低限にコントロールする、俺の力だ、強化する力だってコントロールできる。

右足だけだ、右足だけに注ぐ、ありったけの回復エネルギーを強化エネルギーに回す。

 

「はは、やりゃぁ出来るじゃねぇか!」

 

片足がこれでもかと緑色に輝く、後は振り抜くのみだ。

蹴った、それだけで空気が裂けた。

皮膚が裂けた、血が舞った、そして進んだ。

空気を蹴り抜き、風圧にさらされ、音を置き去りにして敵に向かう。

 

「手、離せぇぇぇぇ!」

「よく分かんねぇが、俺が来た!」

 

手だらけのヴィランに向かって行く。

俺の体を黒い巨人が押さえようとするが、勢いは殺せない。

 

「クソが」

 

巨体が揺れ、それによって手だらけのヴィランが巨体に押し飛ばされる。

何しようとしたが、邪魔したらしいな。

その時、ドアが爆発した。

 

「オ、オールマイト!」

「嫌な予感がしてね、校長の話を振り切ってやって来たよ。来る途中で飯田少年と出会って、何があったかあらましは聞いた」

「うらぁぁぁぁ死ねぇぇぇぇ!」

「もう大丈夫!私が、来た!」

「待ってたよヒーロー、社会のゴミめ」

 

黒い巨人、怪人脳無とやらに挑みかかる。

目に負えない程の速度、だが思ったほどじゃない。

さっきとは違う、俺はふっ飛ばされない。

なぜなら、片足を地面に突き刺したからだ。

 

「…………」

「もっとだ、もっともっと、俺を痛めつけろ!痛みこそが、俺を強くする!」

 

俺のパンチが当たっても、脳無には効いてない。

異形型の個性にしてはおかしい、ダメージが入ってない。

強敵だ、全力を出しても倒せない強敵、いいぞ。

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

突き刺した片足を軸にして、俺は縦横無尽に殴り飛ばされる。

足の骨折が治れば元の状態に戻り、サンドバッグの用に殴られては足が折れて地面に叩きつけられる。

殴られ、復帰して、殴り、殴られ、倒され、復帰し、殴って、ボロボロになるだけの時間だ。

だが、いつか終わる、この戦いで俺は傷を負うごとに確実に強化されている。

いつか、いつか俺はコイツに届く。

 

「カロライナ、スラァァァシュ!」

「脳無」

 

一瞬で巨体が消えた。

見れば、さっき来ていたオールマイトが横取りしていた。

あの手だらけ野郎、命令してオールマイトとぶつけさせたのか。

 

「クソがぁぁぁぁぁぁ!」

「おいおい、今から脳無が殺すんだ。邪魔するなよ」

 

拳を握り、手だらけ野郎に向かって殴り掛かる。

そんな俺の喉をヤツの手が掴み、激痛が喉に走った。

だから、どうした!

 

「ぜぇッ!」

「ガッ!?」

 

全力の頭突きがやつに入る。

喉が回復してるのが分かるので、何かされたんだろ。

 

「痛てぇ……クソガキがぁ!」

「テメェが大将だろ、ぶっ潰してやる!」

「俺はガキが嫌いなんだ、殺してやるよ」

「やってみろよ、クソヴィラン!」

 

テンション上がるぜ、お前をぶっ飛ばしてハッピーエンドだ。

 

「さぁ、俺の愛を受け入れろ!圧制者ぁぁぁぁ!」

「何を言ってんだ、クソガキ!」

 



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お前に足りないもの、それは情熱思想理念頭脳気品優雅さ、勤勉さ、そして何よりも筋肉が足りないッ!

敵が構える、両手を広げる構えだ。

掴めば終わる、そういう個性だ。

そういう個性を、主軸に置いた戦い方だ。

 

「ハッ、トロいなぁ……」

「ッ!?」

 

まるでコマ送りのように、目の前にやつがいた。

瞬間移動、いや、速いのだ。

敵が俺の首を捕らえるように掴んでくる。

だが、俺とお前の相性は最悪だ。

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

敵の手は恐怖の塊だ。

触れれば崩壊し、死を招く。

一撃が必殺、致死の攻撃、だから臆して引く。

それがヤツの強み、恐怖は動きを鈍らせる。

だから、だから踏み出す。

勇気とは、怖さを知ること、恐怖を我が物とする事だ。

 

「コイツ!」

 

踏み込む、同時にヤツの手が俺の首にぶつかる。

まるで破片となるように、皮膚が崩れていく。

その上で、俺は拳を握って振り下ろす。

 

「チッ!キチガイが」

 

拳の一撃を、難なく受け止められ拳が崩れていく。

緑の閃光が拳に集い、崩壊と再生が拮抗する。

その個性は、破壊する個性なのだろう。

だが、俺の個性は再生する、つまりプラマイゼロだ。

 

「強いな、いいぞ!いいぞ、クソヴィラン!」

 

俺は握られた拳に重ねるように手を置いた。

ヤツの押さえる腕を上から押さえる形だ。

そして、そのまま膂力で持ち上げ振い落す。

 

「デタラメな野郎め……」

「沈めぇぇぇぇぇ!」

 

ヴィランを頭から叩き落とす。

もうどうにもすることは出来ない、さぁ沈めクソヴィラン!

 

「イライラする、あぁ、あぁぁぁ!クソが!」

「なっ!?」

 

寸での所で、俺の攻撃は成立しなかった。

なぜなら、俺の腕が根本から崩れ去ったからだ。

両腕が、手首と肘の先から無くなっていた。

片方は手首を、片方は肘から先を、千切るように奪われた。

 

「どうしたよぉ、クソガキ。腕はいったいどこにやった」

「個性の強弱をコントロールしたのか、これは……」

 

崩壊した腕を見る。

左右で明らかに崩れ方が違う、片方は狭い範囲で崩れており深い。

片方は広い範囲で浅く壊れている。

個性を、絞ったのか。

 

「いいぞ、いいぞヴィラン!」

 

良いことを知った、なら今度は俺の番だ。

力を注ぐように、集中させる。

パワーの集中だけではない、範囲を絞る。

まるでホースの出口を小さくするように、力を使う範囲を狭め、勢いをます。

傷口から帯電するように再生が始まる。

骨が伸び、覆うように筋繊維が生え、その上を皮膚が包むように再生する。

俺は再生した腕を何度か開いて確かめ、ヴィランの方を向いた。

 

「もっとだ、んむぉっとだぁ!」

「チート野郎が」

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

駆ける、駆ける、駆ける。

ただ愚直に、ただ直進する。

奴は増強型の個性ではない、ならあの動きは鍛えたことにより手に入れた。

なら、俺にだって追いつくことは可能である。

片足が壊れるくらい踏み込んだ。

ヒビが入ったような、筋肉が切れたような気もするが、すぐに再生する。

俺は、もっと、速くなれる。

 

「コイツ、速くなりやが」

「うるせぇ、殴らせろぉぉぉ!」

「邪魔すんなよ、今が良いときだろうが」

 

地面がいきなり崩れて亀裂混じりになっていく。

何だこれ、コイツ錬金術師かよ!

崩れる足場、それに体勢を崩す。

 

「ヘッハッハッハ!オラァ!」

 

崩したままなのは癪なので、岩のように崩れた地面を殴り飛ばす。

途中で崩れて砂になろうが関係ない、その物量がヴィランの動きを阻害する。

俺は転がるように地面に倒れ、倒れた拍子で四つん這いになり、そして両手両足で獣のように地面を掴む。

 

「ハッハハー!」

「いい加減、死ねよ」

「いいな、良いなお前!オゴッ!?」

 

砕けた地面、途中で砂となったそれの中から奴の手が伸びてくる。

皮膚を崩壊させたとして、それは再生するので問題ない。

 

「そう考えるよな。でも、その再生力を上回るとしたらどうなるんだろうな」

「何?しまった!」

「ゲームオーバーだ」

 

嫌な予感を抱くには遅すぎた。

俺の身体は急には止まれずそのまま突き進み、カウンター気味に奴の手の平に触れた。

触れた瞬間、消し飛ぶように腹に風穴が空いた。

クソが、意識が……。

 

 

 

そこは、どこかの闘技場だった。

周囲には観客がおり、目の前には傷ついた男が居た。

男は血を吐き、倒れている。

俺は、その男を殺したであろう拳を見ていた。

歓声は遠く、観客の人間たちにとって男たちの戦いはどこか別世界のようだった。

否、別世界であるものか。

この戦いが、仕組まれた闘争が、別の世界で起きている訳がないではないか。

 

『俺は死にたくない』

『どうして死ななきゃいけないんだ』

『こんな生活、もう嫌だ』

 

嘆く剣奴達、彼らは死ぬために連れてこられた。

彼らの役割はお互いに殺し合い、市民を楽しませる道化である。

果たしてそうだろうか、市民と剣奴に違いはあるのか。

同じように笑い、同じように怒り、同じように嘆く剣奴達は市民と別の生き物か。

 

『だから私は、私達は剣を取ったのだ』

 

声がした、いつか聞いたことのある男の声だ。

 

『我々は勝てないと分かっていた、だが自由を勝ち取るには必要であった。我々が死のうとも、それは礎になると分かっていたからだ。圧制者を、奴らの傲慢さを許してはならないからだ』

『さぁ少年よ、立ち止まる暇はないぞ。奴らは待ってはくれない、弱者はいつだって奴らの脅威に晒されている』

『敵が与えうる苦痛のすべてを耐えて凌駕することで、その敵を完全に凌駕し勝利する。これこそ、必勝法だ』

 

気付けば、俺は地面に寝転がっていた。

空いたはずの穴はないが、しかし服は一部無くなっていた。

穴が空いたのは間違いない、そしてそれは回復したのだろう。

それにしても、何かの夢を見ていた気がする。

眼の前を覆い尽くす……筋肉……うっ、頭が……これ以上は思い出すのをやめよう。

 

 

 

周囲を見渡すと、オールマイトが怪人と向かい合っていた。

オールマイトは立ち尽くしている。

脇腹からは出血が見え、ダメージを負っているようだ。

俺がオールマイトを見ていると、クソヴィランの手マン野郎が走り出した。

 

「さっさとブッ殺すとしよう」

「それでも私は平和と正義の象徴なのだ!」

 

手マン野郎の狙いは生徒だった。

すっかり楽しくて忘れていたが、他にもいたんだった。

あのままじゃ、死ぬかもしれない。

なら、俺は動くしかない。

しかし、そんな俺よりも速くオールマイトは動いた。

それに呼応するように、怪人も走る。

お互いの拳がぶつかり、爆風が吹きあふれる。

 

 

「聞いてただろうが、コイツはショック吸収の個性なんだよ」

「だからそれがどうした!吸収ということは、限界が来るまで殴り続ければいい!」

「ッ!?」

 

そ、その発想はなかった。

なんてことだ、やはりオールマイトは天才か。

 

「私を倒すために作られたのだろう、なら私の限界以上のパワーで倒すのみ!」

「ち、近づけない」

 

オールマイトが拳を重ねるように怪人とパンチを繰り出し合う。

殴り、殴られ、殴り、殴られ、お互いを攻撃し続ける。

力こそパワー、その真理がそこにはあった。

怪人が、吹き飛ばされ、空の彼方へとビデオゲームのように飛んで行った。

 

「ゲームオーバーだ……」

 

怪人が消えるのを見たヴィランは、黒い靄のヴィランを使って逃げていった。

残念だが、奴を倒すことはできなかった。

こうして、俺達のUSJでの事件は終わるのだった。

 

 

 

そして、なぜか俺は拘束されていた。

 

「ふごぉぉぉぉ!」

「男が拘束されても、意味がないんだよぉぉぉぉ!」

「峰田君そこなの、それよりツッコミ所が満載だよ!」

 

勝手に交戦したとか色々な理由で俺は拘束され、説教を受けていた。

なんだろう、ハウンドドッグ先生とエクトプラズマ先生に囲まれると、命の危機を感じる。

怖い、なんていうか、怖い。

 

「なんだろう、捕まってるヴィランより先生達のほうが」

「梅雨ちゃん、しぃー!」

「ケロ、ごめんなさい。思ったことを言ってしまったわ」

 

項垂れる先生達、ハウンドドッグ先生なんてくぅーんと泣いていた。

なんか、頑張れ超頑張れ。

 

「さて、不屈少年。どうして拘束されてるか分かるかい?」

「フォフォォォォ」

「ちょっと、何言ってるかわからないです」

 

じゃあこの拘束を外してくれ、俺は悪くねぇ!悪いのはヴィランだ。

しかし、俺の発言は却下された。

 

「確かに正当防衛かもしれないが、だが危険に飛び込むのは良くない。勇気と蛮勇は別なんだ、いいね」

「なに、俺に戦うなというのか!なんという、あっせ――」

「良くないんだ、いいね?」

「アッハイ」

 

なんというか、いつもより数倍増しでオールマイトの画風が濃かった。

すごい、俺達と違う世界観で生きてる気がする。

こ、これがナンバーワンヒーロー、圧倒的だな。

 

 



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