ラブライブ!サンシャイン 黒澤家長男の日常 (アドミラルΔ)
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黒澤ルビィは反抗期

この小説のサブタイトルには接続詞があるものとないものがありますその違いに注視して読んでいただけると私としてはとても書きがいがありますしとても嬉しいです






黒澤ダイヤの日誌

弟は剣道,空手,柔道の3部門で中学時代全国に出た。その内剣道は全国優勝2回。その結果と小原家と黒澤家の斡旋により浦の星共学化テストケース1号となる

 

「ルビィを愛してやまないシスコンという点で全て帳消しというのが悲しいところですわね…」

 

────

 

 

俺 黒澤銀は妹のルビィが大好きである。

 

可愛い、天使、目に入れても微塵も痛くないetc…などルビィを形容する言葉はいくらでもある

 

 

そう360度どこから見ても何をしていても可愛すぎるから溺愛してしまうのは仕方ないのだ。その中でも飴をくわえる姿があまりにも可愛いので、俺の将来の夢に“ルビィのくわえる飴になりたい“と書いたこともあった。ちなみにそれは先生に呼び出されてめちゃくちゃに怒られた。くそ…二分の一成人式という場所でふざけるなとか言いやがって…こちとら本気も本気で真面目も真面目だぞ。本気で飴になりたかったのに…

 

そんな天使のように愛らしいルビィに上目遣いで懇願されようものなら、地球一周すら成し遂げられそうな勢いではある。まあ一周の途中でルビィ成分ロスになって倒れるだろうけどさ。だからこそその最愛の妹にこんな態度を取られようものなら割腹ものだろう

 

────

 

 

「ただいま」

 

と言いながら居間に入ってきたルビィ。カバンを置き部屋に着替えに行こうとするのを俺が立ち塞がって制する。むっとした顔もまた可愛いけど最近反抗期来ててこういった感じばっかで全然相手してくれない。泣きそう

 

「おかえりルビィ最近帰るの遅くないか?お兄ちゃんは心配だぞ」

 

居間で首を長く長くしてルビィの帰りを待っていた俺はその天使の遅すぎる帰還に苦言を呈す。所謂ゴールデンタイムと呼ばれるテレビの最も面白い時間帯の内容すらも頭に入らないくらいに心配してたからな…

 

テレビと時計を30秒ごとに目で往復してたら気持ち悪いですわ…って姉ちゃん言われたしそこからそれを我慢しようとしてそわそわしてたらそれはそれでドン引きされたし

 

でもスクールアイドル活動のマネイジメントをして暗くなるまで学校にいることも珍しくない俺ですら遅いと感じる時間なのだ。こんな短針が8を超えるくらいまで帰ってこないとなると俺の知らない悪い友達と遅くまで遊んでいるのかと心配になる。まあルビィを悪の道に引きずろうものならそいつを俺が冥府へ送ってやるがな

 

 

「花丸ちゃん達とおしゃべりしてただけだよ。お兄ちゃんは過干渉すぎ!」

 

例のルビィの親友かの如く目をつりあげてぷんすかと怒るルビィに俺は兄としてビシッと言い放つ

 

「いやお兄ちゃんはてっきりルビィが悪の道に進んでるのかと思って心配してるんだぞ?」

 

「もう…ルビィは子供じゃないの!1人でなんでも出来るもん!そんなにベタベタしないで!」

 

そう言うと俺の脇からするりと抜けて自分の部屋に消えてしまった。愛しのルビィから拒絶されるというあまりのショックに己が死んだかのような錯覚を覚えた。これが噂の兄離れ…?なんて苦しく辛い現象なんだ…

 

 

幼少期の可愛いルビィが部屋の壁につかまりながらよちよちと俺のあとをついてくる姿もあんなに可愛かったのに…

 

小学校時代にルビィに手を出そうとしたとした罪深き不届き者も俺が絞めあげて…ルビィの下駄箱に触れるなんて一億光年早いんだよって言ったやったんだよな…

 

 

中学時代にμ'sの真似事をして自作で衣装を作って踊っていたあの無邪気な可愛さ。ルビィとフリフリな衣装がマリアージュしすぎてあの時は卒倒したわ

 

 

それらがまるで走馬灯のように目の前を駆け巡った。心配してたのに過干渉といって拒絶された…その絶望だけが走馬灯から俺を現実に再び揺り戻す。はっと立ち返って時計をみると数分が経過していた。その間にルビィは着替えを終え居間に戻ってきている

 

 

 

「もう生きる意味がない…ルビィ俺をこの竹刀で葬りさってくれ」

 

俺は傍らにあった竹刀を右手でそっと渡した。小さい頃は俺が鍛錬しているところを見てルビィもそれ持ちたい持ちたいと竹刀を指さしてよく駄々をこねていたのを覚えている。それなりに重いからルビィは竹刀を肩で担いだりして全く振れてないところが可愛くてついつい笑ってたっけ

 

「ルビィはもう子供じゃないからそのくらいの竹刀なら…………………………うゅ、全然持ち上がらないよぉ」

 

最愛の妹を失った俺にもう何も思い残すことはなくもない。いずれ現れるであろうルビィの婚約者を半殺しにすることはしたかったが…あ、ちょっと待ってルビィが持とうとしてるその竹刀はトレーニング用のやつじゃん!天使による‘ただの’竹刀の一撃なら笑顔で受けきれるけどそれはまずいぞ…下手すれば首が取れる「うゆゆゆゆ」「いや!ルビィちょっとま」

 

 

「一体何をしていますの?」

 

騒いでいたところに現れたのは割烹着姿の姉ちゃんだった。学業の成績は抜群に優秀で浦の星女学院の生徒会長もつとめる才女。通り過ぎれば誰もが振り向くであろう美人だけど性格がきつくて死ぬほど真面目なのが難点…」

 

あ、考えてたこと口に出てたか。いやでも全部事実だし…

 

「あらあら銀ったら今日の夕飯は漬物と白米だけでいいんですの?」

 

額に怒りマークを浮かべている姉ちゃんにそんなことを言われるとついつい土下座をしたくなってしまう。姉ちゃんの料理はブロの料理人が夜逃げするほど上手いのでそれにあやかれないのはすなわち死と同義だ。

 

 

「お姉様大変申し訳ございませんでした」

 

木の床板に顔がめり込むほどの完璧な土下座をキメる。額がやけにひんやりとして冷たいけど姉ちゃんの前ではプライドなんてものは掃き捨てるようなものだ。そう俺は死んでも姉ちゃんの夕餉にあやかりたいんだ

 

「もう…そんなに畏まらなくてもきちんと銀の分も用意してありますから…」

 

困り眉で口をとがらせる優しい姉ちゃん。周りからはお堅い生徒会長と言われてるけどなんだかんだ優しいし器量も良いし本当に尊敬すべき人だと思う。いつだって俺の目の前には姉ちゃんがいたから行く先を見失わずに歩いてこれた

 

「悪い、素振りを軽くすませてすぐ食べにいくから」

 

日課の素振りをルビィを心配するあまり忘れていた。仕方ない…少しだけ竹刀と浮気してくるか。でも俺の心はルビィと共にあるからな!

 

 

「銀を待つ間にルビィも支度を手伝いなさい」

 

「ルビィ達は待ってるからお兄ちゃんは早く出ていって!」

 

 

はい

 

 

 

……

 

 

 

縁側の先 月夜が照らす庭のほとりで竹刀を振る

 

 

普段は雑念なんてのはあまり考えないのに今日はやけに心が定まらない。それはきっと心があまりに乱れてるからだろう。ルビィも昔は“お兄ちゃんお兄ちゃん”って言ってよく後ろを付いてきてたのに…これが成長ってやつなのか。侘しさを感じずにはいられないし年月というのも残酷なものなんだな。とりあえず竹刀を振りに振って忘れるしかないんだけどさ

 

まずはアップして軽くフットワークするか

 

 

 

そしてそこからトレーニング。鉄を仕込んである竹刀を思っきり振り回す。今度は軽い竹刀に持ち替えて型を崩さないようにして何度も入れ替え続け振り続ける。竹刀の切っ先が空を切るごとく音を鳴らす。筋肉が軋みを上げ続けているのが自分でも分かるくらいだ。そしてふぅと一息ついた時には吹き出す汗もすでに地面にシミを作るレベルにまで達していた

 

 

「今日はこのくらいで…」

 

さすがの俺も倒れそう…現に目の前がちかちかしてるし

 

 

「ちょっと!ご飯が冷めますわよ」

 

律儀に待ってくれていた優しい姉ちゃんが呼びに来てくれた。今日忘れたいことが100ほどあったから軽くって言ってたのにいつもより長い間竹刀を振ってしまった。

 

「ありがとう姉ちゃん着替えてからすぐあがるよ」

 

 

そのあと元の場所に竹刀をしまい、家族団欒の食卓に向かう

 

 

そんな何一つ変わらない幸せな日常譚

 

──────

主人公のスペックでも

 

 

 

 

学年:2年生 誕生日:8月21日 血液型:A型 身長:186cm 体重:84kg 趣味:剣道 特技:ルビィの年代表を全て言い当てられること 好きな食べ物:肉じゃが 嫌いな食べ物:ホタテ

 

 

浦の星元女学院の2年生でAqoursのマネージャー。家は網元の名家で姉に現生徒会長の黒澤ダイヤ、妹に超絶可愛い黒澤ルビィを持つ。そして当の本人は中学時代剣道全中連覇という偉業をなしとげた。お調子者ではあるが確固たる信念のもとに動くことを信条にしている

 

 

 

ちなみに好きな異性のタイプはルビィ

 

 

 

 

 

 




感想や評価をもらうと書く意欲が湧いてくるのでどしどしください(クレクレ)


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津島善子は厨二病

津島善子ヨハネの日誌

 

地元の名家の長男で文武両道 武道において全国にその名を轟かす存在ってのは厨二心をくすぐられる設定だわ

 

 

「あとはその一族は実は暗殺剣を秘伝していたとかならものすごくそそるわね」

 

 

────

 

黒銀の執行者(セロ・エクスキュータ)

 

闇夜にのさばる悪を滅ぼすために協会から派遣された掃除屋(スイーパー)黒銀の銃から放たれる銀彫の銃弾(エンチャント・バレット)は闇の住人たちを討ち滅ぼす正義の裁きである。体術にもすぐれ幼少期には極東の大会で金の杯をいくつも貰っていたという

 

堕天使【ヨハネ】

 

元々は天使であったがあまりの美貌に神々から嫉妬され天を追放された美しくも悲しき堕天使。運が悪く幸が薄いが従者にあまたのリトルデーモンがいる。ダークブルーの髪は月夜に輝きワインレッドの瞳は闇夜に熙る

 

そんな2人が戦いつつ惹かれ合う本格バトルファンタジーいよいよ公開!

 

────

 

「どう?プロットは完璧じゃない?」

 

この完璧なものを出しましたとばかりのドヤ顔にとても腹が立つ。プロットという言い方といいこいつはほんと厨二にかぶれてやがるからな…

 

「読み物とかなら花丸の方が詳しいんじゃないのか?」

 

「ずら丸は文学チックなものしか読まないしこういうのはあんたみたいに広くて浅い感じじゃないとダメでしょ?」

 

「確かにそうだけどさ…期待するなよ。その通り広く浅く程度の感想しか言えないからな」

 

 

小説まとめ

 

リトルデーモンと共に数々の街を荒し回る堕天使ヨハネと名乗る闇の住人。協会はその行動に頭を悩ませ遂に掃除屋の派遣を決定する。雨のふりしきる街でローブに包まれた顔の見えない二人は互いの目的のためだけに戦った。黒銀が堕天使を組み敷きりついに決着かと思われたその瞬間に突風が吹きお互いの顔が割れてしまう。その姿を見た黒銀は驚いたような声を上げた。牛頭の化け物か何かと思っていたらフードに包まれていた顔が人間の女となんら変わらない姿かたちをしていたからだ。黒銀は‘やめだな’とため息がちに立ち上がりそのまま堕天使ヨハネに背を向けた。

 

‘逃げるの?’

 

その声が雨音でかき消されていればこの戦いは終わっていたのだろう。

 

そこからの二人はまさに子供だった。背を向けたというイニシアチブを堕天使ヨハネは振りかざし黒銀は組み伏せたという事実でそれを説き伏せようとする。地面を叩き鳴らすほどの雨の中でなんてことをしていると痴話喧嘩と間違えられ憲兵の詰所でこっぴどく叱られる羽目になってしまった二人。憲兵の説得も届かずずっといがみ合っていた二人は少し頭を冷やせと牢の中に放り込まれてしまう。何もすることの無い牢の中でヨハネは天界での話から自身という存在を認めない天界と決別し追放されるまでの話。黒銀は愛する妹のために仕方なく掃除屋をしているという話をする。そんな話が月夜になるまで続いた後また街の中に放り出された二人。その時はさすがに争わなかったのだが

 

 

どんなに離れても必ず引き合ってしまうのが敵というもので二人はそれから顔を合わせる度に戦った。何度も何度も戦って何度も何度も牢屋に放り込まれた。その度に街でこんなことがあっただの妹が可愛いだのの話でずっと話し込んだ。その時の憲兵は街と牢屋内での変わりように驚いたと話している

 

 

やがて堕天使ヨハネの標的は街から黒銀の執行者になった。

 

やがて黒銀の執行者の標的は闇の住人から堕天使ヨハネになった。

 

 

2人の中に芽生えたある思い

 

 

「お前が本当にもう街を襲わないと言うのなら俺を」

 

「あんたがこのヨハネという存在を認めるのなら私を」

 

 

「「殺しても構わない」」

 

幾度となく言葉をかわせどこうして同じ言葉が被ったのは初めてだったので二人はおおいに笑いあっていた。そんな二人は一つ大きな取り決めをした

 

 

 

それは──────

 

 

お互いをこの“家”でずっと監視しあうこと

 

 

 

………

 

 

実際目を通した感じはそれなりと言った感じだった。なまじ地頭が良いだけに捻った言葉を巧みに使う文章がよくできている

 

 

「って明らかにヒロインはお前をモデルにしてるだろ!なんだよ美しくも悲しき堕天使って」

 

それでも俺はとりあえずツッコミたかった箇所にツッコミを入れておく。なんだこの神々から嫉妬されたって…痛すぎて身体が痒くなるわ。顔が整ってるってのは百歩譲って認めてやるけどさ

 

 

「いいじゃない少しくらい誇張しても!堕天使なんだから!」

 

「誇張も何も“設定”だろうが津島“善子“さんよ!」

 

「だからヨハネよ!」

 

机から思いっきり身を乗り出す善子が張り上げたその声が教室に響き渡る。もはやこのくだりはダチ○ウ倶楽部並のテンプレートパターンと化していた

 

 

 

 

「話は変わるがこの黒銀の執行者()は1から自分で考えたのか?」

 

もうこの際ヨハネ(失笑)は置いておいく。突っ込んでももはや無駄なような気がするし

 

「あんたがモデルに決まってるじゃない。身近な異性なんてあんたしかいないんだし」

 

流石に顎が外れそうなくらい驚いた。この痛すぎる黒銀のなんたらとやらのモデルが俺!?一体俺のどこにそんな痛い要素があったっていうんだ

 

「なんでこれのモデルが俺なんだよ!身近な異性ならお父さんにでもしておけばいいじゃねぇか!やだよこんな痛々しいキャラのモデル」

 

「うっさいわね!いいじゃないカッコイイんだから!って何でお父さんと戦いながら惹かれなきゃならないのよ!」

 

鼻と鼻がつきそうな距離まで迫り言い合う俺達を美しい声が諌める

 

 

 

「二人ともヒートアップしすぎじゃない?ちょっと落ち着いたら?」

 

そう声をかけてくれたのは桜内梨子。東京からここ沼津に引っ越してきた髪の長いべっぴんさんである。しかしこの場の諌め方…これが都会人とでもいうのか…俺みたいな田舎者には彼女という存在は眩しすぎる

 

 

「確かにそうだな…善子 ヒロインチェンジで」

 

「なんで私のあつかいは雑なのにリリーは優遇するのよ!」

 

「東京の美人だからに決まってるだろ」

 

地団駄を踏み鳴らして抗議する善子に俺は正論を突きつける。東京生まれの美人に優しくするのは普通だろ?全く何言ってんだ

 

「ふっ、東京という言葉に負けるなんて所詮は田舎者ね」

 

「うるせぇ沼津市民」

 

「あんたは内浦でしょうが!」

 

俺たちの争いを前に梨子の笑顔は若干引き攣っていた

 

 

「あはは…仲いいね…」

 

 

 

「「良くないわ(よ)!」」

 

 

 

 

 



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鹿角理亞は瓜二つ

高海千歌の日誌

 

最近、銀くんsaintsnowの理亞ちゃんとほんとに仲が良いなって思う…やっぱり妹にしか目がないのかなぁ…

 

「よし!いまこそリーダーとしてAqours妹化計画の実行をする時だよ!」

 

────

 

縁側の長い暗闇の中でルビィを見た。少女は気配に気がつくと立ち止まった。夜の冷気が流れこんだ。男は体いっぱいに乗り出して、遠くへ呼ぶように、

「ルビィさあん、ルビィさあん」

と声を遠くに響かせた。暗闇の前で踵をかえしゆっくり木板を踏んで来た女は、ツインテールで赤桃色(カメリア)のつり目を要していた。

 

 

「Oh…理亞来てたのか…」

 

ひとつ言い訳をしたい。ルビィと理亞はよく似ているのだ。優しいルビィとつんつんした理亞は性格のこそ似ていないがその根底には小動物的な弱さが見え隠れしている。分類的には小さくて可愛い妹枠と言ったところか

 

 

 

「誰がルビィって?。このシスコン」

 

眉間に思いっきりシワよせて怒っちゃったよ…でも腕組んで自分を大きく見せようとしてる辺りがめっちゃ可愛い。なんせ俺のみぞおちくらいしか身長が無いからな

 

「ごめんって暗闇で二つ結びの影見せられたらルビィと思うじゃんか」

 

「シスコンの部分は否定しないのね…」

 

「否定しようか?」

 

「いや、いい」

 

うん、だろうな。否定しても善子のヨハネコール並に無視されてるからね。非常に辛いんだ。その俺の答えに少し諦観ぎみの理亞は深いため息を1つついた。そのため息にいくつもの疲労が入っているのが手に取るように分かる。週末の今日に学校が終わってからここに来ようと思うとそれなりの時間がかかるからな。事実として理亞が制服のままでここにいたのもそれが理由だろう。というか服や胸の大きさ少しの髪型の違いで気がつくべきだった。

 

 

「そうだ!理亞。今日の夕飯は姉ちゃんがとびきりのを作ってくれるからホントに美味いと思うぞ。マジで世界一の夕飯だから期待しておけ」

 

うちの姉ちゃんは地元でも評判の美人でなおかつ料理上手だからな…正直非の打ち所がない

 

「うちの姉様の方が料理上手なんだから!食べ比べてみたら絶対に分かる。姉様が1番だって」

 

理亞の言う通り聖良は美人で運動もできてスタイルも良くて作詞作曲も出来る完璧超人それでいて料理上手……なるほど非の打ち所がないですね

 

 

「聖良ってなんでも出来るよな。まさしく超人って感じで」

 

「そんな姉様にも出来ないことがあるの。“恋”とか…」

 

 

都会人曰く恋はするものではなく落ちるものであるそうだ。聖良の場合通っているのが由緒あるお嬢様女子校の

函館聖泉女子高等学院だしそんなやすやすと恋に落ちることなんて無さそうに見える

 

 

「確かに聖良が恋してたらそれはもう地球が回ってるってくらいに驚天動地なことだな」

 

「確かにほんと驚天動地だね。鈍感っていうのは」

 

唇をとがらせて言う理亞の眉間にはずっとしわがよっていた。言いたげなフェイスでこっち睨んでるけど俺は理亞の額に触れ怒りしわを軽く伸ばす

 

 

「眉間にしわ寄せてたらせっかくの可愛い顔がしわしわの婆ちゃんになっちゃうぜ?」

 

「触らないで!」

 

「あ、またシワが寄った」

 

 

顔を真っ赤にして手を払おうとする理亞と無理にでもしわを伸ばしたい俺で2人がもみ合っていたら足がもつれ、

 

 

床ドンという形で理亞を押し倒してしまった。一応理亞の頭は腕で守ることは出来たのだがそのせいで抱き寄せた形になってしまっていた。腕のなかにいる理亞の目がまん丸と開かれ俺の瞳の奥を見つめている。

 

待ってくれこんなとこ誰かに見られようもんなら…

 

 

「け、警察に通報しますわ…」

 

 

こうなるのは必至である。しかしどうしてこうした所しか見られないのか…この世に神はいないのか?

 

 

「姉ちゃん誤解だって!」

 

俺は理亞が頭を打たないようにそっと床に寝かせて素早く飛び起き姉ちゃんに誤解だと必死の弁明をする

 

 

 

が時すでに…遅い

 

 

「「この…ケダモノ〜!」」

 

 

俺の両頬にそれはそれは紅い紅葉が咲き乱れた

 

 

 

────

 

【恋をするのは難しいが落ちることは難しくない】

 

 

恋はするものではなく落ちるものだと、誰かから教えられた気がする。

 

 

それはAqoursと初めて会った神田明神

 

その時私はAqoursの皆さんに対し“遊びのつもりなら辞めた方がいい“と言いました。

 

その次に返ってきたのは、“遊びじゃない 撤回してくれ”との声でした。あまりの迫力に少し気圧されたのを覚えています。彼のことは以前から知っていました。オリンピックも期待されている武道界期待の星でAqoursのマネージャー。2足のわらじというにはあまりに歪で全くもって理解出来ないとその時は思っていました

 

 

その場では撤回し、それでも“今のままではラブライブで優勝するのは厳しい”と言い残しました。

 

 

 

 

驚いたのは次の日

 

 

 

 

休日練習をしていた“北海道の”私達の前に現れ

 

 

膝を地面につけ頭を下げたのです。

 

それは謝罪とともに、“Aqoursに何が足りなかったのか”というものでした。私はおもわず目を丸くしました。あれほどキツい言葉をかけた後の相手に土下座など普通は出来ません。私はその時驚きはしましたが教えることなどありませんと言い放ちました。彼はそれでも引き下がりませんでしたせめて基礎トレーニングのメニューだけでもと懇願され渋々承諾しました。

 

 

それからの彼は真剣でした。私達がメニューをこなすのをずっとメモをとりながら見ていました。

 

 

一通りメニューをこなして“何か私達とAqoursの違いは見つけられましたか?”と問うと

 

 

練習メニューをメモしてからずっと“saintsnow“を見ていたから正直あまり分からなかった。ただアイドルには完璧なダンスだけじゃなくて“光るもの”が必要ってよく言うけどそれがよく分かった。ただひとつ言えるのはうちもそうだが光り方が少し歪だと伝説のスクールアイドルの輝きに比べたらまるで不規則に点滅するランプのようだと言っていました

 

あなたに何がわかるの!と理亞は彼に噛みつきますが

 

私がたしなめます。そう彼は全国の頂点に立ったことがあるのですから、私たちがそこに行くまでに足りないものを彼は持っているかもしれない。そう思ったのです

 

Aqoursと私たちが少なくとも共通してるというのなら何か弱点のひとつでも見つけられたんですか?と私は少し意地の悪い質問をしました。

 

彼はこう答えました。やはりその歪さとかかな?

 

誰しもの輝きは合わせられど等しくはないと彼は言ったのです

 

 

そして逆に長所は愛だと言いました

 

初見の時に歪だと感じたあの2足のわらじ…あれに私は嫌悪感を覚えましたがそれはきっとまだまだ歪な光の私たちを鏡で見たような同族嫌悪だったのかも知れません…本当になるほどな審美眼です。でもお陰でAqoursの力の源が知れたのは大きな収穫ですね

 

 

私は一つだけ彼に助言をしました。これはゼロでは無かった私たちが送るただひとつのメッセージ

 

 

“足りないかどうかは分かりませんが必要なのは【目覚めること】です”と

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は時間に余裕が出来たら私達にアポをとり何度も何度も訪ねてきました。熱心にメニューを調べては質問し観察して自分以上に私達のことを知っているんじゃないかってくらいに。

 

そんな真面目な彼ですが少し面白いと思ったのは武道の合宿という名目で来ているので、親にバレたらはっ倒されると言ってたところです。それから彼はしばらくすると函館に来た際私達と一緒に基礎トレーニングをするようになりました。これでトレーニングしてるからセーフと笑いながら話していたのを覚えています。まあ私たちが告げ口したら一発でアウトなんですけどね

 

 

理亞も三顧の礼を超えるくらいに出向いてくれて私達と真面目に向き合う彼の誠実さに触れ態度が柔らかくなりました。休憩時間などきにこにこと喋りながら2人で笑い合っているところを見ると微笑ましいかぎり…まるで兄妹みたいです。

 

 

 

 

その遠くの彼がこちらを見た時伏し目がちに照れてしまう私がいます。

 

 

 

 

 

そう私は恋の落とし穴にするりと落ちてしまったのです

 

 




また追記します


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高海千歌の憂鬱

マリーのシークレットノート♪

 

シーちゃんは弟みたいな存在。でも久しぶりに会ったら身長が物凄く伸びててびっくりしちゃったわ。

 

 

「でもダイヤと結婚すれば合法的にシーちゃんを弟にできる…?」

 

────

 

わたしは普通の存在でいつも輝いてる銀くんや曜ちゃんを羨ましいとずっと思ってた。いつも真ん中で上の二人を見上げてるだけ

 

 

 

 

だから

 

今日は輝いている銀くんからアドバイスを貰おうと思います。うぅ…銀くんだったらこの普通怪獣ちかちー状態から脱却させてくれるのかなぁ

 

 

────

 

 

「普通すぎる?どういうことだ千歌」

 

「いや〜わたしって普通で取り柄がないなぁって思ったの」

 

「そうか?千歌は“普通”に可愛いと思うけど」

 

「いやぁそれほどでも〜って違うよ!銀くん普通って言っちゃってるじゃん!私は梨子ちゃんみたいにピアノできて可愛いとか曜ちゃんみたいにスポーツできて可愛いとか鞠莉さんみたいにお嬢様で可愛いとかダイヤさんみたいに生徒会長で美人とか果南ちゃんみたいにダイビングできて可愛いとか善子ちゃんみたいに堕天使キャラで可愛いとかルビィちゃんみたいに小動物系で可愛いとか花丸ちゃんみたいに読書好きでスタイル抜群で可愛いとかそういうのが欲しいのに“普通“に可愛いじゃダメじゃん!」

 

「今ので“まくしたてる”キャラが獲得出来たじゃないか」

 

 

「えぇ…要らないよそんなキャラ…あ!妹キャラとかどうかな?」

 

銀くんは世界一妹キャラについて詳しそう感じがぷんぷんするよ。だってルビィちゃん大好きだもん

 

「却下」

 

そういうと銀くんは優雅に紅茶を口につけます。何だかんだいいところの坊ちゃんだからどこかゆーがな雰囲気を漂わせてるよね…銀くんもキャラが出来ちゃってるじゃん

 

「お・に・い・ちゃ・ん♡」

 

悔しいので銀くんの耳元で出せる限りの甘い声を出して抵抗を試みる。すかした銀くんにはいい薬だと思うよ全く

 

 

それを聞いた銀くんは

 

「ぶふっ」

 

紅茶を吹いていました。あ〜あ机がびしょびしょだよ

 

でもあの声とお兄ちゃん呼びが予想外に効いたってことかな?

 

 

「ま、まあいいんじゃないか。千歌の“あまあまな声”とマッチして…ってそれだ!」

 

「へ?どういうこと?」

 

「千歌の魅力はそのあまあまな声だってことだよ。普通じゃない立派な魅力じゃないか」

 

えへへ そーなのかな声を褒められるなんて初めてだから

変な気持ちだよ

 

「そう?おにいちゃん」

 

「くふっ…やめてくれ千歌その声は俺に効く…やめてくれ」

 

ふ〜んそっかぁ銀くんお兄ちゃん呼びに弱いんだ〜って

わるいちかが出そうになっているのを必死に抑える

 

「おにいちゃん大好きだよ♡」

 

ふざけてそんな声を出すと

 

凄まじい速さで私の手が掴まれたので目を丸くしていると

 

「結婚してくれ千歌」

 

へ?けっこん?…けっこん およめさん

 

「は…はい」

 

そうして私と銀くんは末永く幸せに暮らしました

 

〜Happy End〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはならず

 

 

銀くんの両肩にはそれぞれ手が乗っていました

 

 

「銀くんはそういうヘルスでも嗜んでおられるので?」

 

梨子ちゃんがひきつった笑顔で銀くんに問いかけてる。笑顔なのにとっても怖い。でもへるすってなんだろわかんないや

 

「梨子はなんでそんなに怒ってるんだ…」

 

「そ、それは…」

 

「まあまあ、梨子ちゃんそんなに怒らないでいいと思うよ。ねえねえ銀ちゃんちょっと飛び込みの練習に付き合って欲しいんだけどいいかな?エンジェルフォールって場所なんだけど」

 

「うん、南米ベネズエラにある落差最大の滝だね。ホントにエンジェルになっちゃうね」

 

なんか曜ちゃんもいつもと雰囲気が違う…あ!そうか妹のことになると目がない銀くんからプロポーズされていたから守ろうとしてくれたのかなぁ

ちょっとだけ…うれしかったけどさ。でもそう思ってくれたのならありがたいのかなぁ

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

授業開始のチャイムが鳴ってみな自分の席に戻る

 

 

 

 

 

 

 

「あれは麻薬だ。危険薬物指定するべきだ。俺のような犠牲者が出る前に…」

 

あの生クリームの二乗のような声でお兄ちゃんと言われた黒澤銀はこんなことを思っていた



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黒澤ダイヤは攻めづらい

松浦果南の日誌

 

もしかして私って千歌よりキャラが弱くない?

普通怪獣かなーんなの?

 

「姉キャラ,海キャラ,幼馴染キャラ共に被ってるんだけど…でもハグキャラがあるからセーフ…だよね」

 

────

最近Aqoursで銀に妹風で責めるとチョロいすぐ落ちるという風潮が広まっていますが…

 

「私にはそれが出来ないではありませんか!」

 

あまりの不合理さに部屋で1人大声を出す私。こほん…今のはすこし品がなかったかも知れません。しかし姉という立場でありながら妹キャラなど

 

年端もいかない童女にママと言っているようなものであっておおよそ不可能かつ意味不明というものですわ。けど留年したとしてもそれは学年の話であって実年齢が変わる訳ではありませんし…

 

まあ、別に姉弟のしてのスキンシップであるなら姉としても出来るわけで…

 

ハグとか…ちょっとからかってみるとか…

 

「被ってますわ!丸かぶりですわ!」

 

またしても大きな声を出してしまいました。戒めねばなりません。しかしあれでは銀自身が果南ねぇ鞠莉ねぇと慕うお二人とスキンシップの仕方がまるっきり同じではありませんか

 

 

そうだ!相談に乗るというのはどうでしょう。これぞ姉と言う感じで威厳を保てますし。その…本当にハグしたいというのなら少しくらいはさせてあげても…

 

そうと決まれば行動あるのみ!いざ銀の部屋へ

 

 

 

 

 

 

「銀いるんですの?入りますわよ」

 

私はそう声をかけると木の戸を横に引きます

 

「姉ちゃんどうしたんだ?」

 

どうやら銀は座布団の上で読み物をしていたようですわね

 

「銀!何か私に相談することはありませんこと?」

 

「すごいいきなりだな姉ちゃん。そうだな…最近曜とか梨子の態度が冷たいことかなぁ」

 

ここは姉としてしっかり答えてさしあげましょう。女の子の悩みというのはなかなか男子は理解しにくいものですから

 

「お二人が冷たくする理由…それは」

 

全くもって分かりませんわ!ですが鈍感な銀のことですからなにかお二人を怒らせるようなことをしたのでしょう

 

「甘いもの不足ですわ!女の子が冷たくなる理由は八割は甘いものと言っても過言ではありません。よってこの券を使ってお二人を慰めてきなさい。あと謝罪もすること!」

 

私は断腸の思いで茶香屋というパンケーキの名店の予約券を渡します。これはルビィと銀と3人で行こうとしていたものですが可愛い弟のためなら仕方ありません

 

「これってテレビでやってた所のやつじゃんか。いいのか姉ちゃん?」

 

「いいんですの。こういう時こそ姉に甘えるのが筋というものですのよ」

 

「本当にありがとう姉ちゃん。この埋め合わせは絶対にするから」

 

銀の笑顔をみると私も姉として相談に乗ってよかったと安心しますわ。パンケーキは露と消えましたが、弟の為になるならそれも良しですわ………ぐすん

 

 

 

パンケーキ食べたかったですわ…

 

「ねぇ銀…少し寄りかかりますわよ」

 

銀の肩に私の頭を寄りかけます。昔は頭を合わせていたのに今では肩にしか届きませんわね…

 

「姉ちゃんホントに今日はどうしたんだ…?」

 

「スキンシップですわ…よ」

 

なんだか眠くなってきてしまいましたわ。ちょっとめをつぶって…

 

「姉ちゃんは本当に自慢の姉だよ。いつもありがとう」

 

まったくそういうのは…めんとむかっていうことですわよ…

 

 

────

 

「二人ともここ行かないか?茶香屋の予約券を貰ったんだよ」

 

「「茶香屋!?」」

 

「嘘…私が東京にいた時も食べられなかった幻のパンケーキ」

 

梨子は信じられないとばかりに券を凝視していた。機嫌が直ってそうなところを見ると姉ちゃんが言ってたことはどうも本当らしい

 

 

「テレビで見たよそれ行列の絶えないパンケーキ店だよね」

 

曜も目をキラキラさせながらその券を見ていた。しかしその無条件の施しに少し怪しさを感じたのか2人はこちらをジト目で見ると

 

「「何が望みなの?」」

 

どうやらパンケーキを餌に何かをしようとしている鬼畜外道に見えたらしい。泣きたい

 

「望みも何もお前ら2人と行きたいなって思っただけだけど」

 

「ふ、ふ〜ん銀ちゃんは“私”と行きたかったんだ。へ〜」

 

「ぎ、銀くんがそういうならお言葉に甘えて…」

 

 

……

 

 

 

休日に3人で東京に行った。パンケーキを食べた。梨子はそこで店員に俺の彼女扱いされたのに怒ったのか

 

「かっこいい“彼氏”の銀くんはかわいい“彼女”の分を払ってくれるのよね?千歌ちゃんをキープしている銀くん?」

 

と言ってきた。笑顔が怖かった。キープってなんだ髪の毛かそりゃ

 

曜はもっと怒っていた。でもお金は出してくれた。そういうとこホント好き

 

 

謝ることを忘れていたので近くの公園で謝った。2人からああいう言葉は軽々しく言わないようにと言われた。特に千歌は影響されやすいから尚更だと言われた

 

 

それから神田明神によってお参りをした。2人は縁結びの御守りを買っていた

 

そのあとは梨子に案内されて色んなところを回った 。途中下町のおばちゃんに曜とカップルに間違われた。曜は意外にもあまり怒っていなくて、梨子は笑顔だった。逆に怖い

 

 

最後の新幹線 行きは一人で座らされたが帰りは3人席の真ん中だった。2人は疲れたのか眠ってしまっていた。近くの子供にあ、おんなのこはべらせてると言われた。その後その子の母親であろう人物に謝られた。

 

おしまい



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桜内梨子 恋とスランプ

 

 

──────

 

私は現在作曲不能な状態…所謂スランプに陥っていた。次の題材は恋の曲に決まったのだけどまったくインスピレーションというとものが湧いてこない。少し前作った海の曲は海に飛び込んでヒントを得たのだけど恋に飛び込むことなど出来そうもないので銀くんを家に呼ぶことにした。その行為の意味は自分でも意味がわからないけど本当にわからない。何故か練習終わりの流れで“今日家に来てくれない?”と言ってしまった。それはもうカップルの会話じゃない?と思ったけど銀くん承諾してくれたしまあいいよね

 

千歌ちゃんの家が隣なので一緒に帰ってはまずいと少し2人で時間を潰してから私の家に向かうことにした。

 

「ただいま〜」

 

「おかえり…ってあら?その子彼氏?」

 

ママが少しニヤニヤしながらそんなことを言う。ママは私が奥手なことを知ってるからこういう色恋沙汰には特にうるさい。小さい頃から好きな子できた?って何回聞かれたか。まあそれは出来たけどさ

 

「違うよ。マネージャーさんだから」

 

「はじめましてAqoursのマネージャーをしております黒澤銀と申します。普段から梨子さんには大変お世話になっておりまして…」

 

 

おぉ…あのダイヤさんの弟だけあって流石に礼儀正しい。初めて接した人には物凄い礼儀をわきまえた好青年に見えてるよ…ママ目がキラキラしてるし

 

「まぁ…凄く礼儀正しいのね。ねぇこの子のことどう思ってるの?」

 

「もう…やめてよ…ほら銀くんは早く上がって上がって私の部屋2階だから」

 

調子が狂う…でも元々狂っている調子がさらに狂えば元に戻るのでは…?そんな考えが巡っているあたり私の頭は限界なのだと思うのだった

 

────

 

ベッドに銀くんを座らせて本題を切りだす。部屋に入れる前に少し片付けたのは見られたくないものが少しだけあったから。絶対に内容は言わないけど

 

「実は恋の曲のイメージが全然湧かなくて…」

 

 

 

「恋の曲のイメージが湧かないかぁ。初めに聞いたノクターンも確か恋の曲だろ?何がそんなに梨子の調子を狂わせてるんだ?」

 

あなただよ!と言いたい気持ちをこらえる。ここで言っても鈍感デリカシー皆無星人には何一つ響かないだろうと思ったから

 

ピアノの前に座りノクターンの一節を奏でてみる。ゆったりとした音の調べが気分を落ち着かせてくれる。「相変わらず綺麗だな」……そんな言葉に気分が高揚し心臓が激しく脈打っているのがわかる。銀くんがこっちを見ながら綺麗と言ってくるものだからついつい勘違いしちゃうのだ。思わせぶりの罪で終身刑にしてしまいたいと考えてしまう。

 

 

弾き終わるとそっと彼の隣に座り…

 

「か、壁クイしてくれない?」

 

 

そんなことを言ってしまうあたり

 

 

今日の私はなんだかおかしい

 

 

────

 

 

「まず壁際に追い込んで私の背中が壁についたら逃げられないようにドンッって手をついて欲しいの。そこから顎をクイってあげて私の瞳を思いっきりのぞき込める位の距離まで顔を近づけて『俺と付き合え』って囁いてくれないかな」

 

 

 

 

「注文の多い料理店並に多いな…まあこれで梨子の不調が治るならやるにはやるが…」

 

私は来るべき時に備え心を整……ドンッ!

 

「俺と付き合え」

 

 

……

 

「へ?」

 

あまりの不意の一撃に頭が真っ白になる。考える間もなく一瞬の内に壁ドンされ私は顎クイされながら瞳の奥を覗き込まれていた。あ、ちゃんと言った通りの距離感…じゃなくて…ち、近い。少し動けば唇が触れ合いそうな…そんな距離に銀くんの顔がある。胸のドキドキが止まらなくて私のこの心臓の音がこんなに近いと聞こえてしまうんじゃないかってそんなこと思ったりして…この数秒が永遠のように感じられる…

 

 

 

「お茶とお菓子持ってき……お邪魔しました」

 

急にドアが開きママがお盆にティーセットを乗せながら入ろうと…しなかった

 

「違うのよママ!」

 

私は弁解しようとママの方へ行こうとするが、あまりの至近距離に銀くんがいるので足が引っかかってしまう。「危ない!」彼は咄嗟に手を引いて……私をベッドに押し倒しました。

 

 

「悪い。わざとじゃないんだ」

 

その時私は何を考えたのか大きく見開いていた目を瞑ってしまいました。きっと“何か”を淡く期待していたのかもしれません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、梨子ちゃんと銀くんがおうせしてる」

 

 

やっぱり大きく目を見開いた

 

 

初夏の夕暮れの暑さに窓を開けていたのが仇となってしまった。千歌ちゃんは意味を知らないで使ってるんだろうなと思いたい。傍から見たら銀くんがわ、私を押し倒してるし逢瀬に見られても仕方がないのかもしれない。断じて違うけどあくまで恋の曲の悩みのためだから相談であって逢瀬じゃない。でも…

 

やっぱり恋ってヤマイだよ

 

 

────

 

今日は意味もなく枕に頭を突っ込む回数が多い。ちなみに今も枕に頭を埋めたくて仕方がない。つ、ついにしちゃったんだよね。

 

「銀くん…あの瞬間から音が湧き出るみたいだよ」

 

私はまたピアノに向かう。音が出ないようにしているはずなのに頭の中からずっと恋の旋律が止まらない

 



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お金とAqours

渡辺曜の日誌

 

自慢じゃないけど昔から何もかもをそつなくこなしてきた。だから彼の目にはあまり私は映らない。少しドジっ子な千歌ちゃんの方がずっと見られてた。私はそれが羨ましかった…

 

「吐息が聞こえる距離まで近づきたいなI miss you~♪って暗い気持ちじゃダメダメ!やっぱり何もかも全速前進だよね!よ~し!頑張るぞ!」

 

────

 

「ねぇねぇ銀くんってオリンピックの期待の星って言われてるけど例えばオリンピックで優勝したらいくら貰えるの?」

 

ダンス練習の休憩中にタオルで汗を拭う千歌は興味本位かそんな話をしてきた。女子高生がする話にしては生々し過ぎないかその話…

 

 

ぱっと出てこなかったので日本武道総会の偉い人に言われた話を思い返してみる…

 

確かあの時に言われたのは…

 

「4000万…だったかな。1競技で」

 

「「「「「「「よ、4000万!?」」」」」」」

 

鞠莉ねぇ以外の8人の声が重なった。聞いてたのかよ

 

みんな目を一同に丸くし顎が地面につきそうな勢いで口をあんぐり開けている

 

まーた俺なんかやっちゃいました?

 

「それって1種目でだから銀ちゃんがもし3競技で優勝したとしたら1億2000万円って事だよね…」

 

曜の目が$になってしまっている。サラリーマンの生涯年収のおよそ6割を目の当たりにするとそうなるのは分かるけどさ…でも3競技で優勝は流石に無理があると思うんだ曜さんよ

 

「これで部屋をμ'sで埋めることが出来ますわよ!ルビィ」

 

「うん!お姉ちゃんの部屋もいっぱいμ'sで埋めようよ!」

 

そこはなぜ俺がお金を出すことが前提となっているのだろうか。やだよあんなプレミア価格の嵐を買うの。なんで200円程度で売られていた初期ブロマイドが3桁万円するんですかね…たとえルビィが金メダル級に可愛くとも背に腹は変えられない。いや…一つだけなら買えないことも…

 

「………」(ただの(だてんし)ようだ)

 

「マルの取り分は100万でいいずら」

 

花丸はのっぽパンを頬張りながらそう話す。うん、休憩中に甘いものをとることはいい事だ。 うん

 

「ってやかましいわ花丸!何だよ取り分ってヤクザの所業じゃねぇか!」

 

 

 

「もう…4000万なんて小金でなんであんなに大騒ぎしてるのかしら…もっとwatchingするところはあるでしょう?ホントにシーちゃんは金メダル取れるかな?とか中学の試合の時に傷の手当をしていた女は誰?とかもっと別のところを見ないと!」

 

「あはは…4000万を小金って言える鞠莉くらいだよ。私たち庶民には到底無理」

 

 

鞠莉ねぇはお金持ちだから流石にこんな話にはなびかないか。って質問を聞いた本人は下を向いてぶつぶつ言ってるけど何してるんだ?

 

けっこん…結婚すりゅうううう」

 

うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇ

 

千歌はそう叫ぶと抱きつきかかろうと襲いかかってくるが

 

あまりのうるささに咄嗟に千歌の両頬を指で挟んで閉じる

くち〇っちならぬちかぱっちの完成である

 

「!!?!□?!?☆〇」

 

なんて言っているのか全くわからないがなにかに気づいたのか千歌が目を瞑った…ところでみんなに取り押さえられる。

 

「5時半 現行犯です」

 

梨子は時計をみてそれを告げる。いやなんでだよ。

 

「お兄さんまだ若いのにこんなことしてていいの?」

 

曜もノリノリすぎるだろ!

 

さっと振り払いたいところだが俺が男であることを考えても8人を振り払うことはさすがに出来ないので

 

 

 

 

そのあと婦警ごっこをしているお二人にみっちりしぼられました。こわかった。

 

 

 

 

 

 



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東京は綺羅綺羅なトコロ

過去回です


黒澤銀の日誌

 

東京には最低三日分の食糧を持っていこうと思う。何があるか分からないしな。もしかしたからトラン○フォーマーが襲ってくるかもしれないし

 

「鉄相手に竹刀って無理じゃね?」

 

────

 

かつてないほどの緊張感が俺を襲っていた。初めての場所と全国制覇のプレッシャーが俺を押し潰そうとしていた。俺はずっと“2倍の成績”と言う言葉に取り憑かれている。だからこそ負けられない…剣道,柔道,空手の内2つで全国の頂きに立たなくてはならない。俺がルビィの分まで結果を出さなくてはならないから。

 

妹は姉ちゃんみたいに全てを完璧にこなすことは出来なかった。それでも…俺とは違って何かを変える力を持っている。だからこそルビィの風当たりが強まるのを俺が抑えなければならない。

 

 

 

その思いとは裏腹に夏のうだるような暑さとプレッシャーから地図がろくに持てていない。そこにかいてある矢印すら理解しがたくなっていた。右上にはマジックで大きく集合場所UTXとの文字が書いてあるのをかろうじて見ることができる。しかしこの“東京駅”というのは迷路なのだろうか。階段を降りたり登ったりしてかれこれ30分は歩き回っている気がする。通路をそう考えながら歩いていると“光”が見えた。俺はそれに吸い寄せられるように向かって歩いていく。

 

「ねぇ。君東京初めてでしょ?」

 

目の前の光の中から現れたのは白の制服を着た少女。身長的には同じ中学生だろうか。それにしても美少女ではあるが前髪がない…これがオシャなのか?東京はマジで変わってるなぁ

 

「正直初めてで全然分からない。UTXという場所を探しているんだ」

 

「そこ私よく知っているから案内してあげようか?」

 

東京の人間は冷血だと聞いた覚えがあるがめちゃめちゃ優しかった。親切すぎて泣きそうになる

 

「自己紹介しておくね私の名前は綺羅ツバサ。その荷物なら君“あれ”に参加するんだね」

 

「綺羅さんでいいのかな?ああ多分そのあれだよ」

 

「ツバサでいいよ。そっか…君のスタイル的にそうかなって思ったの」

 

スタイル?筋肉的なことでも言っているのだろうか。しかし服の上からそれが分かるのは相当すごいな。全てを見抜く審美眼ってやつなのか

 

「俺も自己紹介しておくよ。名前は黒澤銀俺も下の名前で呼んでくれて構わないから」

 

「じゃあ銀くんだね。ほら私に着いて来て」

 

俺はツバサに連れられ電車に乗り込んだ。車窓から見えるビル群が俺を異世界に連れてきたことを認識させる。それでもその時の俺は思いつめていて恩人に話しかけることすら出来ないでいた

 

────

駅を降りるとツバサは眼鏡をかけ帽子を深く被る。夏の日差しを気にしているのだろうと思い気にせず後ろをついていく。

 

「ここよ。UTXって結構大きいでしょ?あそこで受付できるよ。」

右の方に遠目だが全国中学生剣道大会の文字が見えた。周りには白い制服の生徒がちらほらと…ツバサはここの生徒だったのか。ここ高校だけど…

 

「高校生だったのか。悪いな敬語の方が良かったか?」

 

武道の基本である礼儀ができていなかったと反省しツバサに向き直る。

 

「高校三年生なんだけど銀は違うの?」

 

「俺はまだ中三だよ」

 

「身長大っきいし高校生かと思ってた。でも敬語じゃなくていいよ。君面白いから。」

 

そう言うとツバサは不敵な笑みを浮かべて手を引っ張ってくる。その先の看板に書かれていたのは…

スクールアイドル選考会!?俺の目的地である全中の受付からは遠ざかっていた。

 

「違うって俺はあっちだ!」

 

俺は右奥の方を指さしそういった。

 

「そうなの!?てっきりスクールアイドルになりたいのかと思ってたよ。背中にマイクスタンドのカバー背負ってるし」

 

「これは竹刀入れだ…決してマイクスタンドを入れるやつじゃない」

 

「そっか…じゃあここでお別れだね。最後に連絡先を交換しない?」

 

ツバサはそう言うと携帯をとりだした。俺もポケットから取り出して互いに連絡先を交換する。

 

「あら?その画面…2人の女の子に囲まれてモテモテじゃない?」

 

そういえば久しぶりに沼津で会った曜と千歌の3人で撮った写真を無理やりホーム画面にされたような気がする。

 

「これは幼馴染だからそんなんじゃねぇよ。それじゃあもう俺は行くよ。今日は本当にありがとう。お礼は絶対にするから!」

 

俺は手を振りながら駆け出す。結果を…成果を求めて

 

 

 

その年の全国大会を金杯で終えたのはその2日後のことだった。でもあと一つの金杯がいる。そう…いわばこれは割符で

ふたつ揃わなければなんの意味も無いものになる。だからこそ次も勝たなければならない

 

ふと携帯の着信音が鳴った。その相手は…綺羅ツバサ

 

«この間の試合勝ったんだってね。おめでとう!今日帰っちゃうでしょ?少し会わない?UTXのカフェで待ってるから»

 

この文面からこの人物が嵐のような人物だとよく分かる。それでも俺は収まりつかないこの気持ちを誰かに聞いてもらいたくた仕方がなかった。その一心でツバサと歩いた道をもう一度歩く。

 

 

────

 

「ふーん妹のために“2倍の成績”ねぇ…」

 

俺は洗いざらい全てツバサに話した。ツバサは俺が優勝したのに暗い顔で部屋に入ってきたのを不審に思ったのか入るやいなや、言いたいことは全て言った方がいいよその方が楽だからと話してくれた。

 

「誰かのためじゃない。自分次第だから〜。誰かのせいじゃない。主役はじぶんでしょ?〜♪これは私たちA‐RISEの曲」

 

A‐RISE?どっかでその名前を聞いたような気がする。

 

「私はファンを笑顔にするのが仕事だけどそれだけじゃないの。私が輝くことでファンが笑顔になるならそれでいいって言う考え。エゴイストであり奉仕者でもある。でもあなたは奉仕をしているだけ。それじゃあなたはいつか壊れちゃう。そうなると妹さんも守れなくなるよ」

 

「ツバサに何が分かるって…「分かるよ」

 

「私はあの時銀を見かけた時に奉仕をしようなんて思っていなかったし、偽善のように私自身がよく見られたいとかそんなことも考えてなかった。ただ私がUTXに行く過程でたまたま貴方と出会った。“私と目的地が一緒だった”ただそれだけなの。考え方ひとつで人生は変わる。それを銀には分かってほしい」

 

 

かつてないほどのツバサの真剣な眼差しに俺は一瞬たじろいでしまう。でも何か心の重りが外されたような気がして

俺はこの嵐のような人物に会って良かったと心の底から思った。人生観とは変えるものではなく覆されるものだと今しがた理解したのだから

 

「ふふっ。この前のお礼に続いて貸し2だね」

 

小悪魔めいた笑顔でこちらを見るツバサ。俺のツバサに対する評価が救世主から小悪魔に覆った瞬間だった

 

「それじゃあ…私からの連絡には3コール以内で出て、願いを聞いてもらっちゃおうかな?」

 

「分かったよ。貸しを返すまではな」

俺は○龍かなにかなのかと。けれど俺はその時確かに自然な笑顔でツバサに向き合っていた

 

 

────

 

「母さん…俺は自分のために戦うことを決めました。だからこそ母さんから課せられた課題をこれから達成することは出来なくなるかもしれません」

 

俺は苦心の思いでそれを告げる。これからはルビィにも火の粉が降りかかるかもしれないという気持ちがその言葉を吐きにくくしていたがツバサに会えて何かが変わった

 

「私が貴方に厳しいことを言っていたのはその自己犠牲の気持ちをなんとか挫折させようとしていたからです。と言ってもあなたは少し家族に対する愛が重いですから自分自身をさらに追い込んでその壁を無理矢理乗り越えていた。ですが少し見ない間にあなたは何かを見て確実に変わった。それなら別に課題などせずとも良いのです。これからも邁進なさい」

 

その言葉に俺の心は軽くなる。今までついていたものがするすると落ちていくようなそんな感覚だった

 

 

 

 

 

 

 

そうして居間に帰ると自分の知っているある人物が画面の向こうにいた

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはスクールアイドルA‐RISEの綺羅ツバサです」




この物語だけはずっと書きたかったものです。恐らく何度も改稿すると思います。



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鹿角聖良は近づきたい

鹿角理亞の日誌

 

姉様は銀が来るって分かると部屋を片付けたり、髪を少しいじってみたり、可愛い部屋着に着替えたりする。

あと下…おっとこれ以上はいけない

 

「姉様は銀を弟みたいに可愛がってる…姉様を幸せにするにはもう私が銀と結婚するしかない!姉様のためなら仕方ない…仕方ないなぁ〜」ニヘラ

 

────

 

基礎トレーニングを一通りこなした私たちは自宅へ帰ってきました。そろそろ夕飯時でお腹もすいていた頃です

 

 

「銀は今日の夕飯はどうするんですか?」

 

そこはかとなく自然に聞き出します。これも全てあの作戦のためです。もはやこの作戦のためにトレーニングを頑張ったと言っても過言ではありません

 

「そういやそうだった。コンビニで適当に買ってくるよ」

 

銀は足早に出ていこうとしますが引き止めます。いつもそうです。私たちに迷惑をかけないように大抵携帯できる簡易的な食事で済ませています

 

 

「ま、待ってください。その…うちで食べませんか?」

 

だからこそ私は今世紀最大の勇気を振り絞りこの言葉を発しました。心臓が跳ね回っているのが自分でも分かります

 

「いいのか?泊まる場所まで貸してもらってるのにホントに悪いな。ありがたくご相伴にあずかるよ聖良」

 

私は心の中でガッツポーズをします。これこそ私の狙っていたこと男の子を射止めるならまず胃袋から!兵法の基本です。そしてゆくゆくには私たちのマネージャーとして将来サポートして貰うと言う夢が…

 

 

そのためには彼に私たちが“魅力的である“とアピールしなければなりません。お、男の人に料理を振る舞うのは初めてです。えっと…いつも理亞に作っているみたいにすればいいんですよね。な、何も緊張する必要はないはずです

 

 

エプロンを腰に巻き、炊飯器のスイッチを入れます。炊きあがりまでの約50分で全ての料理を仕上げるというのが私のモットーです。

 

今日のメニューは

 

ささみの和風サラダ

 

ほうれん草の胡麻和え

 

味噌汁

 

 

そして肉じゃがです。この料理を選んだことに他意はありません。銀がダイヤさんの肉じゃがが好きということを言っていたとしても全くの無関係です。

 

 

じゃがいも、肉、玉ねぎ、にんじんを切り、先に炒めます。

 

ほうれん草をお湯に入れ、その間に昆布で出汁を引いておきます。炒めておいた4つにさっと茹でたしらたきを加え

た後出汁を入れ沸騰するまで待ちます。待つ間にほうれん草を取り出し食べやすい大きさに切っておきます。浸透圧の関係で和えるのは食べる前です。鍋の水を取り替え味噌汁の用意もしておきます

 

 

 

いつもと違う感覚に私の手は幾度となく止まってしまいます。動きが多いせいか心臓もものすごいスピードで動いています。味噌をといていた時やお皿を洗っていた時などは特にです。全く一体何を想像しているのでしょうか私は

 

 

 

 

ふと彼の方を見ます。理亞と2人でテレビを見ているようですが…いかんせん距離が近いです。あの距離感はまるで恋人ではないですか。銀は理亞を“妹”みたいに可愛がっていますから大丈夫だとは思うのですが…理亞ったら初めの頃なんて用が済んだらさっさと出てって!なんて言っていたのに…人というのはこれほどまでに変わるものなのでしょうか

 

 

そう…まるで今私が作っている料理のようです。ふふん

 

 

 

 

そんなセンチメンタルな気持ちを炊きあがりの音がかき消します。しゃもじを持ち白飯と向き合うとついついいつもと同じ量を茶碗に盛ってしまいました。が、少し減らします。ダイエットですから他意はありません。決して大食いに見られたくないとかそういった理由ではありません。

 

「悪いな聖良運ぶのだけでも手伝うよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

理亞と銀に手伝ってもらい料理を並べることが出来ました。テーブル一杯の料理に私は達成感と充実感を覚えます

 

「それじゃあ食べましょうか」

 

「「「いただきます」」」

 

 

肉じゃがを1口食べつつ彼の様子を伺います。自信作であると同時にハカリでもありますから

 

「この肉じゃがめちゃくちゃ美味いな」

 

その一言だけで小一時間の疲れは吹き飛びます。作ってよかったと心から思える瞬間です。こうして食卓を囲んでいると緊張も疲れとともにどこかへ飛んでいったみたいです

 

「これだけ美味しい料理を作る聖良と結婚出来る人はホント幸せものだと思うぜ」

 

「へ?」

 

予想外の褒め言葉に心臓の鼓動音が早くなっているのが分かります。あれれ?顔がとても熱いです

 

「当たり前でしょ!姉様と結婚するなんて日本一幸せなことなんだから」

 

やめて理亞…そんなに私においうちをかけないで…ドヤ顔で言ってますけど私は恥ずかしいんですからね

 

「そりゃあそうだな。聖良は美人で性格も良くて運動神経抜群で作詞作曲も出来るもんなぁ」

 

銀もおいうちをかけてきました…こういうことを素で言うのが銀ですから驚きはしませんが恥ずかしいものは恥ずかしいです。ま、まあ理亞を妹みたいに可愛がっていてくれていますからその…私が理亞のために仕方なく結婚してあげてもいいですけどね。理亞のために仕方なくですが

 

 

そうして私を褒められ続けるという地獄の夕食を終えると

 

 

 

入浴の時間です。流石に一緒に入りませんかとは言えません。そういうことは結婚してからと相場が決まっていますから

 

湯船に浸かると心が落ち着き今日一日の事がフラッシュバックします。鏡を見ても私の顔が紅潮しているのがよく分かります。私はそれをきっとのぼせていると思い込みたいはずです。照れているなんてそんなはずはないんです

 

「このまま湯船に浸かり続ければこの時は永遠に続くんでしょうか」

 

なんてそれじゃあ私がのぼせてしまいますね

 

 

 

……

 

 

お風呂から上がりまたリビングで喋ったあとは就寝の準備です。私は理亞の部屋で寝て、銀は私の部屋で寝ます。練習の疲れもありますからすぐ…ねむりに……

 

 

 

 

となりのりあのねいきがすぅすぅときこえますふとめがさめてしまいました。

 

おはなつみをすませ なれたてつきでどあをあけなかにはいるわたし

 

べっどにはいりますがなんだかべっとがせまいきがします…

 

そんなことをかんがえつつもぬくもりとこふうなきのかおりがわたしをねむりにさそいます

 

 

 

 

そして朝

 

目の前には銀の顔とドアの前には顔を赤くした理亞

 

 

でもここは私の部屋…私の部屋!?

 

「姉様はもう…大人になってしまったのね…」

 

「ち、違うのよ理亞。ほら銀も早く起きてください!」

 

「う〜ん…姉ちゃんあと5分待ってくれ…」

 

どうやら私をダイヤさんと勘違いしているようです。なるほどこれが銀が家族に見せる隙ですか。ふーんそうなんですか

 

「起きなさい!」

 

私は銀をひっぱたきます。お姉ちゃん風の起こし方に私の頬は少し緩みます。銀は寝ぼけた目で私を見ますが私が目の前にいるのが驚いたのか目を丸くしています。

 

「ちなみに俺は無罪だ。何も知らない」

 

そのあと理亞に私と銀は何故か怒られました。年頃の男女が一緒に寝るなんてダメと言われました。銀は弟みたいなものですし私的にはセーフかと思ったのですが…

 

 

 

────

 

明くる日自分のベッドのはずなのに何故か妙にドキドキしてしまいます。別に私のベッド何ですからドキドキする必要なんてない筈です。そう思い私は意を決して入ろうとします。が不意にドアが開き理亞が入ってきました。何か用があるのと私は問います。

「うん、なんだか今日は姉様と一緒に寝たいなと思って…ダメ?」

 

可愛い妹にそう頼まれて断る姉はいません。2人してベッドにごろんとすると古風な木の香りが私たちを包み込みます。なんだか…きのうといっしょでいしきが…

 

「ねーさまって銀が好きなの?」

 

覚醒します。ぎ、銀のことが好き?そそそそそんなことあるわけが無いです。か、彼は弟みたいなもので…

 

「親愛的な意味でなら銀のことは好きですよ」

 

「じゃあ“脈なし”って伝えておくね」

 

「やめなさい。それだけは」

 

私は気づくと理亞の肩を強く掴んでいました。そのことから理亞は何かを察したように私たちとAqoursってライバルだねと言いました。私はその真意を直ぐに汲み取ります。

私は自覚してしまった。理亞の言葉で。

彼女達の方がずっと彼に近い存在だから…

 

「夢は簡単に掴めないからこそ夢というのです」

 

私は理亞にそう伝えます

 

簡単には諦めない。だって頑張るって素敵な事だから

 

 

 

 

 



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黒澤銀と究極の選択

桜内梨子の日誌

 

中の人?の影響で私が料理できないキャラ認定されてる…

 

「冬はポトフや鍋を作ったりしてるんだけどなぁ…あとハンバーグとか」

 

────

 

「私と理亞が崖から落ちそうになっていて2人の手を銀は掴んでいます。銀は引き上げるにしても1人しか助けることが出来ません。さあどちらを選びますか?」

 

ふと私は彼に意地悪な質問をしました。私を選んでほしいという気持ちと理亞を助けて欲しいという気持ちがせめぎ合っていて私自身もすごく複雑な気持ちです

 

彼は口を開くとこう言いました

 

 

「それなら俺は────」

 

 

────

 

「ねぇねぇわたしと曜ちゃんならどっちがいいお嫁さんになると思う?」

 

調理実習終わりに上機嫌なのかそう話しかけてきたおバカ1号。ここ浦の星元女学院には俺以外に男がいないので必然的にこういう“男なら”という質問は俺にしか回ってこない。はぁ…これがこいつらなら気兼ねなく言えるけど他の子なら少し気を遣ってあげないといけないからな

 

「普通に曜だけど。器量いいし」

 

「そーだよね…曜ちゃんかわいいし、何でもできるもん…」

 

選ばれなかったのがショックなのか少し俯きがちになった千歌はすこし目に涙を浮かべていた。いやそれならなんで質問したんだよ

 

「じゃ、じゃあ!わたしと梨子ちゃんなら?」

 

その涙に少し胸を痛めたのもつかの間、勢いよく机を乗り出し迫真の顔で迫ってくる千歌。三角巾を頭に巻いた千歌の顔が今にも触れあいそうでものすごく近い…俺はその千歌の近い顔(爆笑必至ギャグ)から少し距離をとるようにやれやれと腕を上げてみせた。まったく…愚問も愚問だな…もう聞かなくても分かってるだろ?俺たちは泣いた時も笑った時もずっと一緒にいたはずだ。いわゆる絆というものが俺達の間には通いあってる。なら俺の答えはきっとこうだ

 

 

「梨子で」

 

俺は迷わずAqours随一の常識人を選ぶ。美人でおしとやかで料理が趣味の女の子を選ぶのは順当すぎると思う。都会の人だからという安直な理由ではない。決して憧れがあるとかそういうことではない

 

「なんで!?曜ちゃんとわたしは一緒だけど、梨子ちゃんとならわたしの方が梨子ちゃんより“胸大っきい”のに!」

 

千歌の叫びが教室に響き渡る。別の班の梨子は笑顔でこちらを見ている…その包丁はなんだい?なんで笑顔でこちらに歩み寄ってくるんだい?

 

「雑誌にかいてたもん!男の人は胸が全てだって!」

 

千歌はきっと読む雑誌を間違えたのだろう。それじゃないといつの間にか俺の後ろに包丁を持った梨子が立っているなんてことはないのだから…梨子さんよ包丁の切っ先で背中をつつかないでくれ。何?モールス信号?チカ チャンニ ナニヲ フキコンダノ

 

俺は何もしてねぇよ。あいつが勝手に自爆しているだけだ

 

後ろにいる梨子にだけ聞こえる声でそう話す。 梨子も全体的に細くてスタイルはかなりいいと思うけど…と言うと

 

「(胸が)全体的に細いって言いたいの?」

 

何故かキレ気味でそう言われた。最近怖いよこの人

 

 

「あー千歌もいいお嫁さんになると思うから大丈夫だって!」

 

俺は千歌にもフォローを入れておく。かなり苦し紛れだがどうだろういけるか?

 

 

「えへへほんと?じゃあこのたまごやき味見してみて?」

 

良かった機嫌戻ったわ。けど千歌が俺にこれみよがしに見せてたこれは卵焼きだったのか…てっきり備長炭か何かと思ったよ。箸で掴むとはらはらと崩れて吹き飛んでいきそうなのですぐに口に放り込む…

 

うっ…焦げの層が幾重にも重なって…やばい。素早く水で喉奥に押し込んでなければリバースすらありえるブツだ。けどウマカッタヨと千歌には言っておく

 

 

ふと後ろから声がかかる

 

「ねぇねぇ銀ちゃん!良かったら私のも食べてくれない?」

 

そう言うと曜は“卵焼き”を持ってくる。箸で掴んだ感じは焼き目の通り少し固めに焼いてある感じだった。いただきますと口に入れると塩味を感じる。スポーツした後に食べたくなる味でいかにも曜らしい卵焼きだった。

 

「美味いなこれ…さすが曜」

 

「じゃ、じゃあ私のも持ってきていい?」

 

「梨子のやつも貰っていいのか?超嬉しいよ」

 

梨子の“卵焼き”は焼き目のついた曜とは違い薄黄色のものだった。持ってみた感じも違い柔らかく思わず割りそうになる。これも感謝の気持ちをこめていただく。口の中に甘みが広がる感じはお正月のだし巻き玉子を彷彿とさせる。料理が趣味というのはどうやらマジだったらしいな。美味すぎるぞこれ

 

 

「「「どれが一番美味しかった?」」」

 

3人揃って身を乗り出し感想を求めてくる。少なくとも千歌ではないことは分かる。曜か梨子か俺的に好みだったのは…

 

「曜の卵焼きかな。俺しょっぱい卵焼き好きだし」

 

「イェーイ!銀ちゃんの話覚えててよか……な、何でもないよ。美味しいって言ってくれてありがと」

 

礼を言うと足早に曜は去っていった。2人のふくれ顔の少女を残して…

 

 

百歩譲って梨子は分かるけど千歌は無理だからな。なんで選ばなかったんだみたいな目でこっち見てるけどさすがに贔屓目で見ても軍配上げるにはあまりに炭だったし…

 

 

梨子のは美味かったけど俺は塩の卵焼きの方が好きだったってだけだからごめんよ

 

 

────

「俺の答えは────」

 

 

「2人を引き上げて俺が落ちるが正解かな。2人を選ぶなんて俺には出来ない。俺に“光るもの”はないからさ」

 

彼の瞳はどこか寂しげで…私は本当に意地の悪い質問をしてしまったと後悔します。それでも彼の手を引き私はこう言います

 

「銀がそれで落ちるというのなら今度は私たち2人で銀を引き上げますから!絶対に私たちを命懸けで助けて終わったなんていう美談にはさせませんから!」

 

言葉が少し強くなってしまいましたがそれが私の本心です

 

 

偽りのない本心

 

 

「そっか…ありがとな」

 

そう言うと彼は微かに笑みを浮かべました

 

 

そんな顔のままにさせてはおけません。私は銀の満面の笑みが見たいんですから

 

「そんな顔しないでください銀。今日は大好きな肉じゃがですから元気をだしてもらわないと!」

 

「マジかよ!生きる希望が湧いてきたわ」

 

またそんな冗談を言って…でも良かったです。私が見たかった顔がかえってきましたから。そうです私が見たかったのはあなたのその笑顔なんです

 

 

 



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東京は“ユウキ”がいるトコロ

黒澤銀の日誌

 

明日はゆっくり東京観光をしよう…前回は何も出来なかったからな…

 

小悪魔許すまじ

 

「待ってろよ東京!」

 

────

 

 

明日から東京で行われる秋の大会に向け荷物を詰め込んでいた矢先携帯が鳴りだしたので重い腰をあげ…

~♪。.:*・゜

その音楽に耳を澄ましてみる…ってまずい!この着メロは小悪魔のメロディじゃねぇか!綺羅ツバサ3コールの法則があれ以来出来てしまったので、個人別に着信音を設定したのだがこれはその中でもっとも鳴って欲しくなかったものだった。それまで重かった腰がいきなり軽くなる。それはそれは猛ダッシュである

 

「もしもしツバサか?どうしたんだこんな時間に」

 

「銀って明日東京に来るでしょ。その時にちょっと付き合ってもらおうと思ってさ」

 

なんで知ってるんだこの女はエスパーかなにか?

 

「別にエスパーじゃないって。あなた中学生なのにニュースの顔なのね。県代表になった時も速報出てたじゃない」

 

エスパーだったわこの女

 

「はぁ…どうもお褒めの言葉ありがとう。でもとりあえず用件だけ言ってくれ」

 

「明日4時にあの場所で待ってるから。じゃ、よろしく」ツーツーツー

 

本当に用件だけ言って切りやがった。ツバサが言ったあの場所とは俺とツバサが会った場所のことだろう。ツバサはよく迷子センターとか言ってるがなぁ

 

「貯金箱…あけるか」

 

 

 

────

午前9時前に有楽町駅に着く。4日間の公欠を貰っている俺は制服姿の学生やスーツ姿のサラリーマンを尻目に改札を抜け階段を上る。それにしても東京は人が多いなぁといつもながら思う。とりあえずパトロンから貰った帝都ホテルにチェックインしに行きながら運命の時を待つ

 

「内臓とか要求されたらどうしよ…」

 

 

その後素振りや小説を読んだりして時間を潰した俺は4時前あの場所へと向かった

 

 

────

毎度毎度だがあいつには後光がさしてるかのような光がある。“光るもの”じゃない本当の“光”それが只者ではないことを認識させてくれる。「おーいツバサ待っ……?」

 

光の中から現れた白い制服の少女にはツバサにはない凹凸があった。ちなみに前髪もあった。しかし誰だこの人はツバサの知り合いなのか?

 

「Who are you?」

 

「Hello. I am Anju yuki who is a school idol. I heard the story from Tsubasa.(こんにちは。私はスクールアイドルをしている優木あんじゅといいます。ツバサちゃんから話は聞いているわ)」

 

…この人は相当できる人だな?なるほどあの自由人ツバサの相方がこうなるのは必然だったか

 

「ごめん。少し聞いていいかな?なぜ優木さんがここに?」

 

「ツバサちゃん急用出来たみたいだから代わりにね?それとあんじゅでいいよ」

 

いや代わりにね?じゃなくね?いやまあツバサに内臓をとられることを思えばいいのかもしれないが

 

「ツバサちゃんが“ごめんね、撮影が入っちゃった。代わりにあんじゅにお願いしたから”だって。銀くんは何でもお願いを聞いてくれるんだってね!ツバサちゃんが言ってたよ」

 

あの悪魔なんて事を言いやがる…貯金箱先輩の死を無駄にさせる気か?

 

「俺の財布の範囲内ならな…」

 

さよなら…諭吉先生……

 

「お金とかは全然大丈夫だからその前にお茶しよ?お互いのこともっと知りたいし」

 

あれ?この人もしかして聖人か天使?大悪魔ならブランド物とか要求してきそうな勢いなのに…

 

 

そんな感心をしている俺の手をあんじゅは引いていく。それにしても手が白すぎる…あんじゅの制服と見分けがつかないから服に引っ張られてるのかと思ったよ

 

────

 

「なんだこれ…」

 

お茶とはなんだったのか

 

目の前の生クリームの搭を俺はただただ呆然と眺めることしか出来なかった。そうあんじゅの考えるお茶とは……一緒にカップル限定の生クリームタワーパフェを食べることだった。しかし本当に女子って甘いもの好きだよなぁ。こんな甘ったるいものよくパクパクと口に放り込めるもんだよ。でもカップル限定をうたっていることもあり、個室もそれなりに多い。まあこれは有名人のあんじゅにとってはメリットかもしれないが。

 

「銀くんって明日空手の大会なんだってね。それなのに付き合わせてごめんね?どうしてもこれが食べたかったの」

 

あんじゅはスプーンを指の先で踊らせながら笑顔を見せる

 

 

「別に構わないってこれはツバサに対する礼でもあるから」

 

「そっかぁ〜ツバサちゃん相談にのってあげたんだよね?じゃあ私ものっちゃおうかなぁ~何かない?お姉さんが相談にのるよ?」

 

心の霧が晴れたからといって完璧に消えたわけではない。だからこそ悩み抜いていることがあった

 

「自分のしたいことと勝利はどちらを優先すればいいのかとか?」

 

純粋な疑問をぶつけてみる

 

「何だか私たちの悩みと少し似てるね。でも…私たちは答えを出した。きっとそれは勝負に勝って試合に負けるってことに近いんだよ。もちろん勝利のほうが大事だから自分のしたいことの上に勝利はある。だからみんな自分を消して追い込み続けるの。でも…自分のしたいことが“完全にない”勝利はね。基礎のない塔みたいなものできっと簡単に崩れちゃうんだよ」

 

そういうとあんじゅは下の方のスポンジケーキを掬うのをやめた。これ以上スポンジケーキを取ってしまうと上の方の生クリームの塔はたちまち傾き出すだろう

 

「ちょうどこんなふうにね?だから自分のしたいこともするけど勝利も見据えるっていう強欲さが大事なんだよ?」

 

なるほど…理想の体現者であるアイドルでありながらカップル限定のパフェを食べたいという一見矛盾してそうな願いを強引に通すあたりが強欲さというべきか

 

姉ちゃんも“このカップル限定の生クリームタワーパフェを食べてみたいですわぁ。どなたか付き合ってくれる人は居ないものですかねぇ…”とかちらちらこっち見ながら言ってたし。姉ちゃんはこのことに気づいてたのか…

 

「相談にのってもらってなんか悪いな。ごめん少し席外すよトイレに行ってくる」

 

 

先生を手放すのが今なら惜しくはない。あんじゅへの感謝の念その思いで俺はレジへと向かうのだった。

 

「5000円になります」

 

……はい

 

 

諭吉先生が樋口一葉さんになられたところで机へと戻る。

 

生クリームの塔の攻略は半分くらいだろうか。その細い体のどこにそれが入ったのか不思議でならない

 

「アイドルなら体重管理とか大変じゃないのか?俺も減量とかするけどその比じゃないだろ?」

 

「私食べてもあんまり太らない方だから」

 

全国の女子高生の憧れの的がこの発言をすると心が折れるだろうなと思いつつ脂肪分の低そうなスポンジケーキをちびちびと食べる。

 

「ツバサがそれ聞いたら間違いなく怒るぞ」

 

「もう…女の子と二人きりなのに他の子の話するなんてデリカシーに欠けるよ?」

 

「メンバーだから他の子じゃないだろう」

 

その言葉を発した瞬間あんじゅの目が鋭くなった

 

「私たちは切磋琢磨する仲間でありライバルでもあるの。A‐RISE全員を推す所謂箱推しの人は一定数いるけどそれは少数派で誰かしら個人を推すっていう人の方が圧倒的に多いの。私たちはファンを奪い合ってるライバルってこと分かった?」

 

 

「なるほど…つまりアイドルとは戦争ということか」

 

「そういうこと。ってほらあ〜ん」

 

俺はその言葉で何となく口を開けるがそれあんじゅのスプーンじゃね?

 

「戦には策略も必要なんだよ?」

 

口に広がる生クリームのしつこい甘さのせいか俺にはその言葉の意図を理解することが出来なかった。

 

どういう意味だと言うとあんじゅは“いつか分かる時が来るよ”と笑いながら言った

 

 

塔の攻略を終え2人で外に出て夕暮れの照らす街を歩く。俺の不安は夕焼けの真っ赤な赤が塗りつぶしてくれたように感じた。

 

 

 

 

「最後にこの出会いに感謝って意味で握手しよ?」

 

あんじゅの白く細い手を握った

 

今日1日の感謝の言葉が自然と口からあふれ出る…あんじゅの口から出た言葉は“続きはそれでね”と言う言葉。俺の手には連絡先の書かれたメモが握られていた。これが策略というやつか…しゅごいよA‐RISE

 

 

 

 

「じゃあまた会おうね。バイバイ!」

 

 

 

……A‐RISEに借りがありすぎだわ破産しちゃう

 

 

 

 

 

 



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松浦果南は守られたい

少し色褪せた黒澤ダイヤの日誌

 

私は断然エリーチカですが、銀はμ'sで誰が好みなのでしょう…私は9人の写真を持って部屋を飛び出します

 

「気になりますわ…銀の好きそうなタイプ…」

 

 

……

 

聞いてみましたが…俺はそれに答えられない。俺はあのカオスの間で苦しみ続けるしかないんだ…と言っていましたわ。全くもって意味がわかりませんがそういう時期なのでしょうか

 

 

────

 

私たちAqours3人はボディガード役の銀を連れて白浜にやってきた。青く光る海と照り返す日差しが私の肌を突き刺して早く海に入れと急かしてくる。夏の大会を終えてオフモードに入っていた銀に無理言って一緒に来てもらったのは私たちが‘か弱い’乙女だから。あの時“果南ねぇのその力こ…ぶはっ”ミシッミシッ何も言わずに快く引き受けてくれて本当に良かった

 

 

「シーちゃんシーちゃんマリーの水着はどう?」

 

「うん似合ってる似合ってる」

 

もう何回も見せびらかしてるから銀は鞠莉のこと全然見てない。高一なのに規格外のスタイルをしてるから視線が凄く集まってる…銀は全く見てないけど

 

「もう!もっとこっちを見てよシーちゃん!」ハグー

 

フリルと白を基調とした水着と白の帽子がお嬢様感を演出してて私が見ても可愛いと思う。外国の血なのかメリハリがやっぱりすごいしね。私も白で来たけどこれはまずいかも…ってハグしてるし!でも銀に身体をそんなに押し付けたら…

 

「鞠莉さん公衆の面前でうちの弟にベタベタしないでくださいます?」

 

なんて言ってダイヤは怒ってくるよね。けどそういうダイヤの水着はすごい扇情的なデザイン…正直ダイヤがこんなの着るなんて思いもしなかった。赤に花柄をあしらったビキニスタイルがスレンダーなダイヤの身体を包み込んですごく魅力的…なんというか端的にいうとエロいって感じ。これは引く手あまただろうから本当に銀を連れてきて良かったかもね。妹のルビィちゃん大好き男だけどなんだかんだ言ってダイヤのことも大好きだしナンパなんかされてたりしたら間違いなく怒るだろうから

 

「もぅ…ダイヤは堅いんだから…ねぇシーちゃん?」

 

銀の身体にあたって形を変える鞠莉の双丘に私のはらわたは煮えくりかえる。消そうか……銀を

 

「いや高校生にもなってハグはナシだろ…」

 

平然とした銀の拒絶に鞠莉はふらふらと倒れ込んだ。熱くないのかな…下の砂は素足でふれるとおもわずステップを踏んでしまうほどに熱されてるのに

 

「シーちゃんに振られた…シクシク」

 

はぁ…でも銀の言う通りだよホント…小さい頃は会う度にハグしてたけどさすがにねぇ…特に今は水着だし…

 

「鞠莉も諦めてそろそろ銀離れしたら?」

 

「むぅ…じゃあ果南にダ〜イブ!」

 

そう言うと鞠莉は私の胸に顔を埋めてきたので砂に埋めておく。公衆の面前で普通にセクハラしてくるから仕方ない

 

「訴えるよ鞠莉」

 

「もごもご」

 

「鞠莉ねぇ大丈夫か?」

 

埋まっている鞠莉を引っこ抜く。うるさいからそのままずっと埋めてて良かったのに…ほんとやさしいねぎんは

 

「シーちゃんはおこおこ果南と違って優しいねぇ〜そういうとこ大好き!」

 

そう言ってまた抱きつこうとするけど後ろにダイヤ…

 

 

「お二人とも遊んでないでパラソル立てるの手伝っていただけます?」

 

額に怒りマークを浮かべたダイヤに2人は正座させられてその場は諌められた。二人とも膝が真っ赤っかになるまで座らされてたし流石に反省したでしょ

 

 

「何で俺まで怒られてんだ…」

 

そういうとこじゃない?鞠莉とイチャイチャした罪だよ。

 

暑さとは別の熱さにやられた私は少し1人になりたくて浜辺を1人で歩く。足に寄り返す波がひんやりして気持ちいい…

 

私は鞠莉みたいに積極的にはなれないしダイヤみたいに近しい関係でもない。ならどうすればいい?銀は優しいから懇願すれば理想は叶うかもしれない。けどその先にはただ虚しい現実が立ち尽くしてるだけ…それじゃあ簡単に崩れてしまう。遠くで子供が遊んでるあの砂の城のように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこのお姉さん1人?俺らと遊ばない」

 

 

 

金髪茶髪のピアス男子たちがにやにやしながらこちらを見ていた。まさか私が声をかけられるなんて思いもしなかった。だからこそ油断した…海は自分のホームみたいなものだからと気を張らずにふらついていたのが仇となった。前は完全に塞がれて多勢に無勢今の私にはただ俯くことしか…

 

 

「ほらほら早く遊ぼうぜ?」

 

本当にか弱い乙女の状態になっていたところに相手の1人が私の手を掴もうとする────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…果南ねぇを困らせるな」

その手を横からでてきた手が捻って…銀……?助けてくれたの?なんだろ銀の背中がおおきくなってる…?

 

「何だてめぇ」

 

「何だって関係者だよ。海ではみんな楽しく遊びたいだろ?果南ねぇが困った顔してんだから遮っただけだ」

 

そう言って捻っていた手を離すと相手は“痛いじゃねぇか!”と腕を振り上げて…銀に殴りかかろうと

 

「ちょ、待てよ…さっきの話聞いていたのか?楽しく遊びたいって言ってるのにそれをしても何もいい事ないぞ?」

 

銀はその手を簡単に掴み取るとまた捻りあげる。流石に幾つもの武道の習い事してるだけあって相手のパンチや掴みが当たってない。

 

 

「待て…そいつ見たことあるぞ!武道の神童とか言われてる黒澤銀だ!」

 

後ろの男が少し指先を震えさせながらそう言った。やっぱり大会で優勝したりしてるからそれなりに有名人なんだね。それにしても銀ってば武道の神童とか呼ばれてるんだね。ぷぷっ…かっちょいいじゃん

 

「あ!?振動だか微動だか知らんがすましてんじゃねぇ!」

 

腕をひねられ続けている相手は怒号をあげ左足を銀に向け振り上げる。銀の脇腹に思いっきり蹴りを入れる気だ

 

「はぁ…ここが砂浜で良かった」

 

銀はその蹴りを躱しながら左手を捻り上げての背負い投げに入る。少し前ニュースで聞いたのは“捻り王子”だったかな?それはこの代名詞“捻り一本背負い”に由来してるとかなんとか…

 

「1本…ってな。あまり一般人あいてにこういうことはしたくないんだけど…腕も引いたしそんなに痛くねぇだろ?さっきも言ったけど手を出しても良いことないって言ったじゃんか。もちろん柔道が好きでここで柔道をして楽しみたいと言うのだったらいくらでも付き合うけど」

 

おお…これは決め台詞だね…これで相手も引いてくれるでしょ…銀助けてくれてほんとにありが…「ルールの上ならてめぇを倒してもいいってことだよなぁ!?」「そうだけど」「やってやらぁ!くらえ!大外刈り!」「ダメだな…きちんと崩しを入れなきゃ技は入らん」ん????この人達はサ○ヤ人なのかな?戦わないと死ぬのかな?

 

 

 

美談は何処…?どこかへ飛んだ?

 

 

 

 

 

 

──────

閑話 あるモブの話

 

 

 

「何と模部選手は黒澤銀選手に会って柔道を始めたと」

 

 

「会ってというか何というか人生においてバカやっててステゴロもそれなりにやってたのに喧嘩を含めて精神面でも完敗したのは初めてだったんっすよ」

 

「だからこそ俺はこの手で…しかも正式なルールに乗っ取った上でアイツを越えたいと純粋に思ったんです」

 

 

「まさに人生を変える出会いだったわけですね」

 

 

「まあでもそれはほとんど建前みたいなもんで本当は超可愛い女の子達侍らせてて羨ましかったからぶっ倒したいと思っただけだけどな黒澤銀!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩…お話聞いてもいいですか?」

 

「Why? 」

 



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レンタル彼氏ってなあに

AqoursのグループLlNE

 

ヨハネ«あいつってどんな食べ物が好きなの?»

 

曜«銀ちゃんが好きなのは主に肉料理かな»

 

マリー«愛さえあれば関係ないワ»

 

ダイヤ«“私”の肉じゃがです。本人のお墨付きですから»

 

梨子«ダイヤさんぜひレシピを!»

 

果南«後生»

 

ダイヤ«我が家秘伝ですから明かせませんですわ»

 

ルビィ«梨子ちゃん!隠し味にはちみつを入れるのがポイントだよ»

 

梨子«ありがとうルビィちゃん!»

 

花丸«それは美味しそうずら…»

 

ダイヤ«………»

 

千歌«( ˘ω˘ ) スヤァ……»

 

────

 

「銀くんレンタル彼氏って知ってる?」

 

高海千歌夏の昼下がりの爆弾発言である。ヴァカな…千歌…一体何処でその言葉を知ったんだ……

 

まさかまさかそれに手を出したのか!?サラ金とレンタル彼氏には手を出すなとママに習わなかったのか!?

 

 

まあ…ないか千歌だしな。どうせ誰かに吹き込まれたんだろ

 

 

「知ってるには知ってるが…それがどうしたんだ?」

 

「千歌ちゃん一緒にごは…「しっているなら話は早い…ちかが銀くんをレンタルします!」

 

 

 

「は?」 「「え?」」

 

 

 

俺は混乱の声を昼ごはんを食べようと近づいてきていた曜と梨子は素っ頓狂な声を出した。全くもって意味がわからないが千歌はドヤ顔でみかん色の財布から諭吉さんを出してきた。生々しいから非常にやめていただきたい。万札を巻き上げてるみたいになっててクラスメイトの視線もやばいから

 

「受け取れるわけないだろそんなの」

 

「え?じゃあやってくれないの?」

 

千歌は目に涙をため諭吉を持つ手を震わせる。いやそんな悲しそうな顔をされると断りづらい…かと言って金を受け取るわけにもいかないし…

 

「分かった!やるから泣くな!金もいらんから仕舞え!」

 

「え?ほんと!やったー!えへへ彼氏だから今日1日ちかのお願い事いっぱい聞いてもらうからね?」

 

俺は千歌の笑顔になった姿を見ていてその後ろの修羅達を見ることが出来ていなかった…

 

────

 

「銀くんほら!あーん」

 

あれから千歌は上機嫌になってずっとこの調子だ。自分の弁当を食べるわけでもなく逆に俺に食わせまくってる。いや俺も姉ちゃんが作ってくれた弁当あるんだけど…

 

「箸出されなくても渡してくれたら自分で食えるって千歌。俺はそんなガキじゃねぇから」

 

「だーめ!ちかが食べさせるの!だって“彼女”だもん!」

 

一体いつからこんなにわがままGirlになったんだ?やっぱり末っ子だからか?これが妹パワーなのか?やはり罪深いな妹パワーってのは…

 

それにしても隣の曜さんよ…笑顔なのはいいが紙パックの牛乳がグシャグシャになってるけど大丈夫なのか…梨子もサンドイッチがプレス機で潰されたみたいになってるけど…

 

 

 

そんな2人を横目に口を開け千歌から卵焼きを受け取る。あの志満さんが作るだけあってやっぱり死ぬほどうまい。

 

「銀くんおいしい?」

 

「あぁうまいなこれ」

 

「もっと食べて?」

 

さらに笑顔で箸を差し出してくる千歌…その笑顔の口元にソースが付いてるのがえらく気になってしまう。

 

「待て千歌。少しじっとしてろ」

 

そう言って手ぬぐいで汚れた千歌の口元を拭う。我ながら末っ子妹パワーには抗えないな。思わず手が出ちゃったよ

 

「えへへありがと」

 

その腑抜けたようなにっこり笑顔をみると手ぬぐいを出した価値があるなと思「銀くん食べカスが落ちてるよ?」

 

そう言いながらこちらに寄ってきた梨子はワイシャツの上の食べかすをつまんで…その奥の皮膚もつまんで痛い。皮膚が引きちぎれそうなんだが…ってつねってないか?俺の皮膚がゴミだと言うの?さすがにそれは泣きたいわ

 

「あ、銀ちゃんこっちにも落ちてる」

 

ズボンの上から曜が親切に取ってくれる…食べカスを皮膚ごとひねりを加えてね

 

 

 

そして俺のたべカスを取ってくれた優しい2人は同時に耳元によると

 

 

「「私も次レンタルするから!」」

 

そう言った。なるほど…千歌に(レンタルの)先を越されてイライラしてたのか。この2人の対応を見ると意外とレンタル彼氏っていうのは女子には広まってたのかもしれない。でも見知らぬ人をレンタルするのは気が引けるから身近な人の方がいいと。

 

善子も言ってたけどこの元女子高じゃあ男子なんて俺1人しかいないからなぁ…分身するわけにはいかないし。中学時代の知り合いを紹介するとか?いやでもあいつは…

 

 

 

それから千歌にずっとあーんをされ昼食を終えた。2人の視線は痛かったけど…実に長い昼休みだった

 

────

 

刺すような視線が終わると思ったら大間違いである。これより午後の授業を終え放課後の練習タイムに突入する。………なるほど死の行軍かな?

 

 

「ねえねえ銀くんちかの汗拭いて?」

 

 

今日だけはこのお願いも断ることが出来ないのでため息をつきつつも拭いてあげるけど視線が痛い。ガン見されてるし…休憩中なんだからもっと景色とか見て黄昏ててもいいのになんでこっち見るの?

 

 

 

「ちかっちとシーちゃんの距離感まるでGirlfriendね?」

 

「うん千歌満面の笑みだし」

 

「“姉”として銀に彼女が出来たという話は聞いていませんが!?」

 

 

「マルはあれちょっとだけ羨ましいずら…」

 

「ちょっとここ負のオーラが溜まりすぎてない?この堕天使ですら吐きそうなんですけど!」

 

「お兄ちゃん…」

 

 

((次は私たちの番だからここはただひたすら耐えるのみ!))

 

 

「えへへありがと銀くん。よーしみんな休憩終わり!練習頑張ろー!」

 

 

「千歌さんその前にお話がございます」

 

「ワタシもちょっと話したいことがあるの」

 

「奇遇だね鞠莉私もだよ」

 

 

千歌…こちらに目線を送られても困る。ルビィに捕らわれている今そちらに助け舟を出すことが出来ない。

 

「お兄ちゃんは千歌ちゃんと付き合ってるの?」

 

そんな潤んだ目で見られたらお兄ちゃん全部洗いざらい話しちゃうんだけど?

 

「善子ちゃんに借りた小説に書いてた幼馴染キャラ敗北の法則はどこへいったずらか?」

 

「ここは現実(リアル)なんだからそんなのあるわけないでしょ!」

 

そして花丸…お前は一体何を言っているんだ?善子も分かってるみたいだし

 

 

「話してくれないとお兄ちゃんのこと嫌いになっちゃうよ…」

 

 

刹那────俺の脳から全身の筋肉に電気信号が送られる。人間は死の瞬間には脳がフル稼働するというがその通りであった。まあ、2秒で全ての情報を吐きましたね。ついでに正座もしました

 

 

「今後“レンタル”彼氏は禁止ですわ!」

 

上の通りの姉ちゃん直々のお触れが出たところで練習再開

 

 

みんなの動きが軽くなったような重くなったような…

 

 

 

…梨子と曜には今度埋め合わせしておくか



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小さくなった高海千歌

リクエストを頂いたような気がする千歌幼体化です
誕生日おめでとう。とりあえず身体ちっちゃくしといたよ的なアレです





渡辺曜の日誌

 

中間テストがひどい点数だとダイヤさんにしぼられるからなぁ…

 

「よし!ウォータークルーズ号君に決めた!」

 

そうして私は鉛筆を回す。運命をその六角形に託して

 

────

 

 

「千歌ちゃんの身体がちっちゃくなった?」

 

この大問題を前に最初に相談したのは頼れる千歌のお隣さん梨子。“大事な話がある。家の前で待っていてくれ”と言って来てもらった。というかAqoursの中で相談するというなら梨子か姉ちゃんくらいしか選択肢がない…今回は隣という点で梨子にしたけどとりあえず“手を出したか否か”を聞いてくるの辞めてくれない?。俺のことなんだと思ってるの?

 

「いや…2人で名探偵コ○ンごっこしてたんだが本当に縮むとは思わないだろ…プラシーボ効果か?」

 

某有名推理漫画の冒頭シーン黒ずくめの男達に謎の薬を飲まされるシーンをふざけて2人でやっていたらこうなってしまったのだ。ちなみに飲ませたのは謎の美女が開発した薬APTX4869…ではなくただの栄養剤である。

 

「プラシーボ効果にしては出来すぎじゃないかな…あはは」

 

「むぅ~ぎんくんりこちゃんとばかりおしゃべりしてないでちかともおしゃべりして!」

 

頬をふくらませた幼稚園児サイズの千歌が膝をホールドしてくる。とりあえずは大切にシワを伸ばして蔵にしまってあったルビィのスモッグを一時的には着させてはいるがこれも時間の問題。元の大きさに戻るまでの服も考えなければならない。そしてもし夜までに戻らなかったら…あの美渡さんに俺は殺られるだろう…もしもの時は俺の命ためにどちらかの家にこのミニマム千歌を泊めなければならない状況になるかもしれん

 

「はぁ…とりあえず服を買いに行くか」

 

「ぎんくんおでかけするの?りこちゃんもいっしょにきてくれるよね?だめ?」

 

ここはひとつ頼まれてくれ。後で何でも言うこと聞くからさ

 

「千歌ちゃん大丈夫私も一緒に行くよ」

 

良かった…さすがに幼女の服を選べるほど俺はよく出来てないから梨子に来てもらわないとほんとに終わるところだった。

 

 

────

 

俺たちは○松屋に来ていた。牛丼チェーンではなく幼児服の方である。

 

「おでかけおでかけたのしいな~♪」

 

小さな千歌を間にして3人で手を繋いでいる光景を買い物をしている奥様方にすごく奇異な目で見られる。まあ若い男女が幼女連れてたらそう思うのは分かるけどさ…もし叶うなら大声でそういう関係ではないと言いたい。じゃあその幼女は何だと言われそうだが

 

 

「これがいい!みかん!」

 

「それじゃああと寝巻も買っとくか」

 

千歌が指さしたのはみかんが大きくプリントされた服とスカート…いや上下みかんって…。小さくなった千歌相手に否定する気もないのでそれと適当に選んだ幼児サイズの寝巻きを取ってレジへと向かう

 

 

 

 

「若い方ですね!おめでたですか?」

 

「(幼女化は)全然おめでたじゃないですよ」

 

「まあ!そうなんですか!でも奥さんも凄い美人さんですし熱くなるのも分かりますよ~」

 

「???え、はい」

 

 

俺と店員さんの会話を聞いていたであろう後ろから熱気がほとばしる。これは梨子さん怒ってますね間違いない…

 

えらくニコニコしていた店員さんから袋を受け取り店を出る。着替えさせたしとりあえずこれか「あいすたべたい!」

 

…リトルプリンセスが指をさしてご所望なので梨子に目線を送る。少しため息をつきながら頷いてくれたので千歌の手を引いていく。

 

「少し待っててくれ行ってくる」

 

 

 

 

「みかん!」

 

 

「はいはい。すいませんみかんといちごをください」

 

 

「これだね?可愛いお嬢さんにめんじてみかん1つおまけしておくよほら」

 

代金を支払いを済ませカップを2つ受け取る。両手を上げて待っている千歌にそれを渡しお礼を言う

 

「すいませんどうもありがとうございます」

 

「えへへおじさんありがと!」

 

 

 

 

「ごめん少し待たせたな。ほらこれ梨子の分いちごで良かったか?」

 

「え?私の分まで買ってくれたの?…ありがとう」

 

「お礼とかいいって!疲れたしそこの木陰で一休みしようぜ」

 

────

 

彼と千歌ちゃんの距離が近いのに私の心は自然と痛まなかった。むしろ小さな千歌ちゃんを間に挟んでいると妙な気分になる。そ、それこそ本当の夫婦みたいな。そんな…気分になる。

 

 

友達の苦労なのに今の私はこの現状に言葉にならない幸せのようなものを感じていて…

 

────

 

…休息を取ってはいるが戻る気配は一向にない。○龍にいっちょ頼むしかないのか…実はアイス食べるとモドルガンの法則で幼体化がとけるとかないの?

 

はぁ…これは本当にあの千歌を泊めないといけないかもな…

 

 

「梨子…千歌を連れて俺の家まで行っててくれないか?俺は千歌の家まで泊めてくるって言いに行くからさ」

 

「待って!私も泊めてくれない?その最後まで見届けないといけないし」

 

「え゛?な゛ん゛て゛た゛よ゛ぉ」

 

「…ごめん。驚きすぎて変な声出た。まあ…いいやバレなきゃセーフだろ。行ってくるけど親御さんへの連絡は忘れずにな」

 

 

……

 

………沼津駅から内浦は遠いんだよ…

 

走ること20数分

 

 

 

 

「すまん!美渡さん志満さん俺の家に千歌泊めてくるから!」

 

そう言い残すとまた家の方へと走り出す。梨子と千歌をバレずに泊めるために…持ってくれよ!俺の命!

 

 

「泊めてくるってどういうことかしら?千歌ちゃんが泊まりに行くんじゃないの?」

 

「さあ?あいつも面を打たれすぎて頭おかしくなったんじゃない?」

 

 

 

────

 

マラソン選手ばりに内浦と沼津間を走り回って用を終えた俺は梨子たちを俺の家の勝手口に誘導した後何事も無かったかのように俺は正門から帰宅する

 

「姉ちゃんただいま!今からずっとトレーニングするから夕飯いいや!」

 

「銀!ちょっと…って行ってしまいましたわ…」

 

 

 

そう言い残すと居間と縁側を駆け抜け勝手口の鍵を開ける。

 

「物音は出来るだけ立てないでくれよ」

 

「う、うん」

 

 

 

 

 

「わーぎんくんのおうちひさしぶりだー!」

 

 

縁側から靴を脱いで入る。普段あまりかけない鍵をかけ、話し声が漏れないようテレビを少し大きめの音量でつけておく。

 

「飯がまだだろ?蔵から保存食を拝借したから食おう」

 

山ほどある備蓄米や非常食のおかずから出来るだけ期限の近いものを選んで持ってきたのだ。あとで母さんには災害時の体験授業をしたとでも言っておこう

 

 

「なんか家なのにキャンプしてるみたいだね」

 

「たまには普通じゃないことをするのもまた一興ってやつだよ」

 

近頃の非常食は進化していて手軽さはもちろん味も改良されているものが多い

 

「ちかこれたべたい!」

 

千歌は小さな指で古き良きドロップをゆびさす。小さな千歌がいるので必要だろうと持ってきたものだった

 

「ご飯前だからダメ」

 

「じゃあごはん!」

 

 

「はいはい。梨子おかずを並べるのを手伝ってくれないか?俺は米の準備をするから」

 

「う、うん任せて」

 

 

水を入れるだけで白米が炊けるとは原理を知っていてもその字面には驚かされる。さて、水も入れたし出来るまで20分くらい待つか

 

 

……

 

 

丸い机の上ににいい香りが立ち込める。普通じゃないこの空間がより楽しくなるようなそんな食卓だった

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

「千歌あーん」

 

「あーん」

 

膝の上の千歌にハンバーグを食べさせる。最近は非常食でも手作りと遜色ないレベルのものが出来ているんだとこのハンバーグをみて痛感したね。すごいよほんと

 

 

「千歌ちゃん今度は私が食べさせてあげるからね」

 

髪を耳にかけながら梨子が千歌にスプーンを差し出す。千歌があまりに膝の上から離れないので梨子に寄ってもらっているのだ。

 

 

梨子が千歌の相手をしてくれている間に備蓄米とハンバーグをかき込む。俺はルビィが小さかった頃に食べさせたりはしてたけどこういうことは梨子にとって初めての体験だと思う。にしては手馴れてる感じがしないでもない。マジで保母さんとかに向いてるんじゃね?

 

 

 

……

 

 

ご飯を食べ終えた後しばらく談笑していたら顎の下の方から寝息が聞こえてきた…どうやら千歌の活動限界のようだ

 

「疲れたし俺達も寝るか…梨子は着替えるのか?それなら外に出るけど」

 

「うん…上下両方着るもの借りたいんだけどいいかな?」

 

「そりゃあそうか。そこの箪笥にシャツとハーフパンツが入ってるから適当にとって着替えたらまた呼んでくれ」

 

 

外に出ると虫の輪唱が夜風にのって耳に届く。疲れもあってうっつらうっつらきそうでやばい

 

寝そう寝そうと戸にもたれ掛かっていたところを開けられ着替えてラフなスタイルになっていた梨子を見上げる形になる

 

「だ、大丈夫?」

 

「ああ、危ない危ない疲れで寝そうだったよ。ほんとにもう寝よう」

 

俺は床にしいた布団で千歌と梨子はベッドでそれぞれ就寝の態勢に入る。俺も走り回って疲れたから眠気がすぐそこまで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜に起き用をたせば常にかけている訳でもない鍵のことなど忘れているのが人間である

 

 

「…zzz」

 

 

────

 

早朝に私は目が覚めた…千歌ちゃんが元の大きさに戻ってるけど…生まれたままの姿だし銀くんにうずまるように寝てるし…でも私は自然と怒ることもせずその背中に吸い込まれていくのです。その大きな背中に額を合わせて目を瞑ったのが私の…

 

 

 

 

 

 

「銀!朝ですわよ…ってちょっとこちらへいらっしゃい…」

 

「……姉ちゃんあと5分」

 

 

5秒すら数えられず引きずられて行く銀くん…でもああして怒ってるダイヤさんも銀くんのことが凄く大切なんだと思う。じゃなきゃ絶対あんなに怒らないもん。生まれたままの状態の千歌ちゃんと一緒に寝てるのがまず大問題なんだけどね…

 

 

 

 

セイザッ

 

…アッハイ

 

 

マッタク!アナタトイウヒトハイツモ

 

 

 

 

枕元に置いてあったのは白無地のシャツと水色のスカート。お世辞にもオシャレとはいえないその2つを寝ぼけている千歌ちゃんに着させる。

 

…あの沼津駅から内浦まで走ってた時に買ってきたんだとしたらすごい光景だね…。汗だくになりながら走ってきた銀くんが女性もののシャツとスカートを買っていく光景は想像するだけでなんというか言葉に困るものだった

 

 

バツトシテキョウハワタクシガギンヲミハリマス!ワタクシノヘヤデネルヨウニ!

 

…ハイ

 

「ん?」

 

遠ざかる黒澤邸から微かに聞こえたその声に私は軽く首をかしげたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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甘え上手な善子さん

小原鞠莉の日誌

 

 

「シーちゃんがニブチンすぎて最近は感覚器官が無いのかもってそんな気がしてきちゃった」

 

 

 

 

────

 

「あんたってさ“ルビィ”のことが好きなの?それとも“妹”が好きなの?どっち?」

 

西の日差しが窓から降り注ぎオレンジ色に現在進行形で染まっている善子は俺を覗き込むようにそんなことを言うのだった。好きという言葉を言うのが恥ずかしかったのかもしれないが言ったあとすぐに向き直り半身でこちらの答えを待っている。はぁ…しかし妹が好きとかルビィが好きとか…話にならんなこれだから近頃の一人っ子というやつは…

 

「愚問だな善子“妹のルビィ”が世界で一番好きにきまってるだろ」

 

「うわぁ…シスコンすぎて正直キモいんだけど…それじゃルビィが妹じゃなかったらどうしてたのよ」

 

その問いに俺は身体の底が冷えるような悪寒を覚えた。ルビィが妹じゃなかったらどう生きればいいんだ…当然知ってるとは思うがビタミンとミネラルとルビィは人体に必須だからな…

 

「そうだな…多分世界のどこかにいるルビィに妹になってくださいって土下座しに行くな」

 

って完全に変質者じゃねぇか…

 

「それって変質者って言わない?」

 

言います

 

「というか何でそんな質問するんだ?」

 

「あんたが下級生に人気あるから」

 

人気? what?

 

…いや分かったぞ。なるほどあの天使の兄だからだな?

 

目の前の自称堕天使とは違い世界に轟く大天使ルビィの可愛さならその兄に人気がいっても不思議ではない。

 

 

つれーわルビィの兄まじでつれーわ

 

「だから私やずら丸まで飛び火して大変なのよ。銀はシスコンだしどうすればいいの?」

 

「俺はシスコンじゃねぇただルビィが大好きなだけだ。」

 

 

全く失敬な…その言い方だとまるで俺がルビィにしか目がないみたいじゃないか俺はAqoursのみんなが好きだし勿論ルビィだけじゃなく姉ちゃんも大好きだ。ただルビィの存在が少し大きいだけだ。決してシスコンではない

 

 

「じ、じゃあ私がアタックしたらどうなのよ」

 

いや攻撃することを相手に言ってどうすんだ…

 

「とりあえずガードかな」

 

「その攻撃じゃなくて私がこい…妹になってあげるって言ったらどうなのって聞いたの!」

 

「馬鹿を言うなヨハネ…貴様には圧倒的に妹のクラス適正が足りていない」

 

妹のクラス適正とはすなわち庇護欲である。守ってあげたいと思ったり支えてあげたいと思えるかどうかがとても重要なのだ。元気系にしろ病弱系にしろクール系にしろ真面目系にしろどこか脆さを併せ持っているのが妹と言うものである

 

「くっくっくっその通り…我のクラス適正は“闇”のみ…とか言ってる場合か!私にだって妹キャラくらいできるわよ!」

 

善子風のテンションに合わせて俺は否定したのだが善子はキャラを捨てて噛み付いてきた。え?そんなに自信あるの?俺は小学生の時に友達100人はあれだけど妹は絶対100人欲しいって答えた男だから妹は普通に欲しいんだけど善子か…想像がつかないだけになんとも言えない

 

「うん…じゃあ今日1日だけ頼む」

 

「分かったわよ“銀兄”」

 

 

 

何ィィィィィィィっ銀兄だとぉぉ!?

 

 

ルビィのスタンダードお兄ちゃんとは一味違うこの呼び名

 

お兄ちゃん,兄さん,兄貴,兄上…など兄を呼ぶものは色々とあるが名前+兄はなかなか破壊力のある呼び方をしてくるじゃないか…まさかまさか俺の妹審美眼の先を言っていたとは…善子には妹のクラス適正があったのかもしれない。どうやら妹審美眼の鍛え直しが必要なようだな…というか正直グッときました。はい

 

「とりあえず頭撫でていいか?ルビィに1番してることだからさ」

 

ルビィの頭を撫でると“くすぐったいよお兄ちゃん”とそれはそれは可愛い照れ顔でこちらを見てくれるのだ天使すぎる

 

 

「別にいいわよそれくらい」

 

善子がそう言ってくれたので頭にポンッと手を置く。え?死ぬほどサラサラしてるんですけど…少し毛先に癖のあるルビィと違い指がすっと入る。無限に撫でれる気がするよこれ

 

「ちょっとくすぐったいわね…」

 

目を逸らしながら照れているその姿に俺は衝撃を受けた。

 

そうルビィを正とするならばこれは負…目線をあえて逸らすことで兄に対する破壊力が高まっている。ま、まあ世界で2番目にはかわいいと思いますよ。ええ

 

 

(危ねぇ…善子じゃなかったら結婚してくれって言うところだったぜ」

 

 

「へ?」

 

「ん?」

 

 

「/////そ、そんなにして欲しいならしてあげなくもないわよ」

 

 

やべぇまた口にでちゃったよ…でも今の善子は妹だしセーフだろ!(暴論)

 

 

 

 

「改めて俺と…」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

 

〜Happy End〜 善子編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはならないのが物語の常である

 

 

バンッ

 

 

 

何者かによって勢いよくドアが開かれる

 

 

 

「部室内での不純異性交遊はこのポリスウーメンが許さないワ」

 

 

「二人とも体力錬成…しよっか?」

 

 

 

「「はい…」」

 

 

────

 

 

「痛た…さすがにこれだけ走ると足にくるわね」

 

私の足は立っているだけで生まれたての子鹿のように震えていた。足の裏も張ってて歩くだけでかなり痛い

 

 

「そんなに痛いならお姫様抱っこしてやろうか?」

 

 

私と違って身体を普段から鍛えてる銀は余裕なのかそんなことを言ってくる。

 

 

「嫌よ恥ずかしい」

 

 

「ならこれならいいか?」

 

 

銀はおんぶをしようと私の前に屈んでくれた。なんでこの男はこうも無償で人にやさしくできるのか。それが私みたいな被害者を生むことを理解出来てるの?

 

 

ありがたいけど少し恥ずかしい…けど正直膝が笑っているのでそうも言ってられない

 

 

「軽いな…」

 

伊達に誰かと一緒の生活サイクルに合わせるために健康生活してる成果…じゃなくて

 

 

「…重さを感じてるかもしれないけどこれは疲れで羽を出せてないだけだから!本当はもっと軽いんだから!」

 

 

「はいはい」

 

 

 

私の身体が熱いのはきっと2人を照らす夕日が少し背伸びをしているのだろう

 

 

 

 

 



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小原鞠莉は言われたい

津島善子の日誌

 

 

「疲れた〜魔力を回復しなくちゃ…もっとこっちに来て…ヨハネをぎゅっっとしなさい?」

 

 

…クールな堕天使は下界の人間なんかにほだされたりしない!こんなこと絶対に言わないんだから!

 

 

 

 

────

 

待ってたわよヴォイスレコーダー!

 

 

一日千秋の思いでこのレコーダーを待ちわびた。ついにあの計画を実行する時が来たようね…

 

 

【シーちゃんの好き好きボイスで安眠しよう計画】

 

 

 

 

 

いつもいつもソルト対応のシーちゃんに絶対好きって言わせてみせるんだから!

 

 

 

……

 

 

ある夕暮れ時

 

 

「シーちゃんマリーのこと好き?」

 

「あーうんすきすき」

 

動画を編集しながらの言葉はやっぱり塩対応…これじゃあちょっと薄すぎかも。もっと力の篭もったLOVEが欲しいのに

 

「じゃあ好きな食べ物は?」

 

こうして足掻いて何としても心のこもった好きとマリーの名前を言ってもらわなくてはならない。

 

「?今日はやけに変なことを聞くんだな。“鞠莉ねぇ”には前にも言ったと思うけど“好き”な食べ物は“姉ちゃん”の肉じゃがだって」

 

そう…私はそれが欲しかったの。Pocketの中のレコーダーを弄り欲しい部分だけを抽出する。ちゃんと出来たかなと耳にレコーダーを当てて早速試してみる

 

«鞠莉ねぇ 好き»

 

oh…ヘブンな心地良さ…これが幸せなのね

 

 

その余韻に浸りながらまた少しレコーダーを弄ってみる。こうしてこうしてこう!

 

«好き 姉ちゃん»

 

…これはスケープゴートに使えそうだから取っておこうっと

 

 

 

「ジョークジョーク!じゃあ…マリーとmarryしてくれない?」

 

「いやいや発音良く“結婚して”とか言ってもダメだろ…あんまり冗談ばかり言ってるとまーた姉ちゃんに怒られるぞ」

 

ため息をつきながらそういうシーちゃん…でも欲しいものはゲットできた。シーちゃんが音のチェックをしている今がチャンス!音量をもう少し大きくして…

 

«鞠莉ねぇ 結婚して»

 

♡♡♡♡♡幸せだわ…これならいくらでも結婚しちゃう!」

 

「何を訳の分からないことを言ってますの?」

 

「げっ…ダイヤ」

 

お固いお堅い生徒会長様に見つかってしまったわ…brotherコンプレックスのダイヤにこんなことしてるのバレたらどうなるか…わかるよね?そうdeadよ。あまり表には出さないようにはしてるけど隠しきれてないシーちゃんへの愛が長い付き合いの私には分かる。もちろんあの果南もね

 

 

「げっ…とはなんです?なにかやましいことでもありますの鞠莉さん?」

 

咄嗟に隠そうとレコーダーごとPocketに手を突っ込んでしまい“何か”のボタンを押してしまった。でもさっき私が押したボタンって確か…

 

«鞠莉ねぇ 好き»

 

「私も!」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 

…なんということでしょう。匠の手によってこの部屋の空気がいきなり物凄いことに…

 

 

「私の前で大胆な告白ですわね…銀」

 

「え?俺何も言ってなかったぞ?」

 

 

«好き 姉ちゃん»

 

 

「好き/////…じゃありませんわ!この浮気者!つい先程に鞠莉さんに告白したかと思えば私に好きですって?何を考えているのですか!」

 

 

ポチッ

 

「いやだから俺は«鞠莉ねぇ 好き»って」

 

 

WOW…ダイヤの後ろに阿修羅が見える。おこおこしてるのが丸わかり…嫉妬の炎で燃え狂いそうなのね

 

 

「あらあらいつからそんなにいろんな女性に手を出すようになりましたの?まるで千手観音ではありませんか?銀」

 

 

「何食抜きましょうか。人は水があれば1週間は生きられるそうですよ銀。1週間…抜きますか?」

 

シーちゃんが至福の時といつも言ってるダイヤのご飯が取り上げなんてなったら死んじゃうだろうからあの土下座を決めてるんだろう

 

「なんだろうな…最近俺の土下座の価値が急落してると思うんだ」

 

 

と言いつつちゃんとやるあたりダイヤの料理が食べられなくなるのが本当に辛いのね。ふふっシーちゃんってばほんと可愛いんだから

 

 

「シーちゃん顔上げて?」

 

 

「なんだよ鞠莉ねぇ今度は…むぐっ」

 

おおよそどこかが貧相なダイヤには出来ないハグをしつつダイヤに目線を送る。ダイヤの修羅の炎がさらにヒートアップ嫉妬ファイヤーしてるわね

 

 

「シーちゃん…マリーはね?シーちゃんのことが…」

 

ミシッ

 

「鞠莉さん?幼い頃に交わした協定をお忘れですか?」

 

おほほ…ダイヤの目が笑っていない

 

 

雰囲気やその場の流れに流されないようにと告白する時は3人平等で恨みっこなしというのがちっちゃい頃に交わした三姉協定…

 

 

流れで告白するのをダイヤは流石に許してくれない

 

 

「負けないからねダイヤ」

 

 

「望むところですわ」

 

 

火花がお互いの間でほとばしる────

 

 

「ところで鞠莉さん…その…そこの銀がピクリとも動かないのですが」

 

「ってあれシーちゃん!?大丈夫!?これは…人工呼吸するしかないわね!」

 

 

(制服を メッシュにしよう…じゃないと俺が死ぬ)

 

 

────

 



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鹿角聖良の華麗なる1日

鹿角聖良の日誌

 

銀がルビィさんや理亞を可愛がっている辺り好きな傾向は二つ結びの女の子ということになりますね…

 

あと胸の慎ましい方が好みような…

 

 

 

……

 

────

朝5:30

 

目覚まし時計が鳴るより早く目が覚めます。このサイクルをなんども繰り返しているので自然と身体がそうさせるのです

 

 

私鹿角聖良の朝はとても早いです。カーテンを開けまだ上がりたての日光を浴びてのびをする。この一連の動作をルーティンと呼びます。いつもと同じ行動をすることで自らのパフォーマンスを一定に保つことが出来るのです

 

 

「うん!今日もとても気持ちのいい朝ですね」

 

 

朝目が覚めるとすぐにジョギングのために家を出ます。私にとって朝は自己研鑽に費やす時間です。もう毎朝の光景なので道行く方々から色んな声を掛けて貰えます

 

「あら聖良ちゃんおはよう」

 

「おはようございます!」

 

 

「聖良ちゃんやこの前は頑張っておったのう。テレビで見とったよ」

 

「いつも応援ありがとうございます‪」

 

そんな人達と挨拶を交わしながら走る。この清涼さもこれを辞められない一つの理由となっています

 

 

 

 

7:00

 

そして朝の運動を終えるとシャワーを浴び早朝の学習に入ります。この朝の静謐さは忙しい日中や夕暮れ時を過ごす学生にとって最高の学習環境と言えます。私はスクールアイドルである以上に学生なので勉学はもっとも重視しなければならないものです。アイドル活動で人気になっても勉強は出来ませんなどとなっては話にならないですから

 

 

 

 

朝食をとり登校の身支度を手早くこなします。周囲にはあまり知られていませんが私はあまり外見には頓着するタイプではありません。本当に大事なのは内面からにじみ出るものだと私は思うからです。

 

 

 

 

学校に登校してまずするのは学友との交流です

 

「おはようございます」

 

「聖良おはよ」

 

その時そこでしか出来ないことに全力を傾けるというのが私の信条です。ここでしか輝けない最高の時を私は逃したくないとそう思っています

 

 

 

 

 

授業の合間休み時間も率先して先生の手伝いに出ます。実験器具を運んだり体育の事前準備をしたり黒板を消したりなど点数稼ぎのためではなくそこで得られる特殊経験こそを重視した結果です

 

 

 

 

 

 

 

放課後 私達が向かうのは人知れずたたずむ名もなき広場

 

 

そこはそこだけは本当に真剣になれる場所

 

このひりつくような空気感を私はたまらなく愛しています

 

理亞とラブライブの頂点を目指す…そのためにここで文字通り血反吐を吐くような猛練習をこなします。私にとってこれが最後の輝きにならないように

 

 

 

 

帰宅すると授業とダンスの予習復習に息抜きも兼ねたスクールアイドルの鑑賞…もとい偵察

 

 

 

そして早めに睡眠をとって翌朝に備えます

 

一切の淀みもなく私の日常は今日も過ぎていきます

 

この美しい1連の流れを弛むことなく私はこれからも歩み続けるのでしょう

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

………

 

朝5:30

 

 

 

私鹿角聖良の朝はとても早いです

 

 

 

「銀があんなにけだものだったなんて…ふ、不純です!」

 

枕に顔をうずめ思わず身をよじってしまいます。叶うならもう一度あの夢を…

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

7:00

 

すこしうたた寝をしていたようですが…ってもうこんな時間!?

 

 

「!まだ宿題が残っています」

 

 

この朝の静謐さは忙しい日中や夕暮れ時を過ごす学生にとって最高の学習環境と言えます。私はスクールアイドルである以上に学生なので勉学はもっとも重視しなければならないものです。アイドル活動で人気になっても勉強は出来ませんなどとなっては話にならないですから「終わった…」

 

 

 

 

朝食をとり「姉様ちゃんと噛まないと喉に詰まる」登校の身支度を手早くこなします。周囲にはあまり知られていませんが私はあまり外見には頓着するタイプではありません。「どうしましょう前髪が決まらない…」本当に大事なのは内面からにじみ出るものだと思うからです。

 

 

学校に登校してまずするのは学友との交流です

「はぁ…はぁ…おはようございます」

 

「お、おはよう聖良」

 

その時そこでしか出来ないことに全力を傾けるというのが私の信条です。ここでしか輝けない最高の時を私は逃したくないとそう思っています

 

 

授業の合間休み時間も率先して先生の手伝いに出ます

 

諸々の点数稼ぎのためではなくそこで得られる特殊経験こそを重視した結果です

 

「鹿角くん手伝ってくれるのは嬉しいけど化学室逆方向だよ?」

 

「大丈夫です。新聞受け経由で行きますから!」

 

「経由ってなにバスかなにか?」

 

 

…あった

 

黒澤銀が県大会優勝全国出場決まる!

 

新聞にデカデカと写っている私のよく知る人物

 

 

 

昨今新聞を読む若い人は減ったので先生方に許可をいただけばおそらくこの新聞を貰うことも不可能ではありません

 

 

先程は点数稼ぎのためではないと言いましたが普段の行いで得られるものもあると私は思います

 

 

 

 

 

 

放課後私…私達が向かうのは人知れずたたずむ広場

 

 

そこはそこだけは本当に真剣になれる場所「姉様」

 

このひりつくような空気感を私はたまらなく愛しています「姉様ってば」

 

「何ですか理亞」

 

練習中に話しかけるなんて余程のことがあるに違いありません

 

「最近姉様がぼーっとしている時が多いから何か悩み事あるのかと思って」

 

「悩み事というか脈絡のないことばかり考えているんです」

 

一番近くにいる理亞には私が最近少しおかしなことに気がついていたようです

 

「例えばどんなこと?」

 

 

「初めて家に招いた時に銀に肉じゃがを振る舞った時の笑顔とかAqoursを遊びといった時の怒った表情とかトレーニングに横目でみる真剣な顔などがなんども脳裏をぐるぐると回っていて」

 

私ったらなんてことを…

 

「銀のことはとりあえず置いといて最近姉様が抜けているような気がしてたから」

 

 

!そうだ理亞の言う通り私はなんのためにスクールアイドルをしているのか。余計なことは考えないで練習に集中しなくては…

 

 

 

 

 

 

帰宅して予習もあまり手につかず日がまたいで布団に入ります

 

 

«今度またそっちに言っていいか?»

 

 

 

そのメッセージを何度も何度も見返します。べ、別に凄く嬉しいとかそういった感情はありません。あくまで銀と一緒にトレーニング出来れば色々得られるものがあるだろうと考えているだけです

 

 

私が来て欲しい訳では決してありませんからね!

 

 

 

 

……

2:00

 

き、今日もあんな夢を見てしまったら…どうなってしまうんでしょう。顔があんなに近いなんて…えへへ

 

 

 

3:00

 

あの先に行ったらもうそれは婚約同然の…でもあんなに言い寄られたら仕方ありませんし…ふふふっ

 

 

……

 

 

こうして私の一日は今日も以前とはまた違った日常が過ぎていくのです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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突然ですがあなたを染め上げます

センチメンタルな日誌

 

日本古来の昔話は大体の話が姫と結ばれてハッピーエンドという話が多い。でもその中で異色を放つ物語がある。

 

 

『かぐや姫物語』

 

竹取物語とも呼ばれる日本最古の物語だ。その内容は光る竹から生まれたかぐや姫の美しさに数多の人が言いよるが最終的には天の住人だったかぐや姫は帝に不死の薬を渡し天に帰るという物語。天の前に人は無力で意気揚々と追い返すと言った大将ですら力なく項垂れたというそんな話もある

 

 

もし…私がかぐや姫の立場ならあの人はどうしてくれるのかな。この世にかぐや姫がいないなら不死になる必要は無いと不死の薬を燃やすのかな。それとも不死になって天の頂きまで迎えに来てくれるのかな。そうだったらいいな…

 

 

────

 

「突然だが梨子お前には田舎に染まってもらう」

 

都会女子などこの内浦には存在しません。梨子を例えるならかえるの中に1人孔雀がいるみたいになってるくらい違う

 

「えっ…と理由を聞いてもいいかな?」

 

嫌なんてことは言えず困り顔の梨子から飛ぶ当然の質問。正直な話俺もこれにはあまり乗り気では無い

 

 

「ずばり!Aqours内の協議によって銀くんが梨子ちゃんを優遇しているぎわくがでているからです!」

 

 

ぴょこっと俺の背中から千歌が顔を出す。俺をダシにして梨子を呼び出しやがった張本人だ。将来の話があるって言って呼び出したのまじで一生許さんぞ。梨子がえらく困ってたからな

 

 

「千歌官房長官決してそのような事実はありません」

 

俺は千歌の方に向き直り答弁を行う

 

まったく俺が梨子を優遇したなど虚言甚だしいな。確かに梨子は都会生まれ都会育ちの都会人だ。そして俺はしがない田舎民ここに優劣の差がありその埋め合わせ的なをしていたことは認めよう。しかしそれはあくまでコンプレックスにおける必然的行動であり梨子からでる都会の輝きと美人さに負けていたとかそういうことでもなければ────ダメだこれ内浦のことdisりすぎでは?……やめよう

 

 

 

 

「でも銀ちゃんが梨子ちゃんを初めて見た時に君は輝いていると手を握って言ったという証拠だってあるんだよ?」

 

 

確かに言いましたはい。仕方ないよ輝いてたもん

 

 

「しかし曜裁判長それあくまで優遇していたという絶対的な証拠にはならないのではないでしょうか」

 

そう俺はあくまで梨子の中にある輝きを見て手を握っただけでそれを優遇しているとは言い難いと思う

 

 

「ぎ、銀ちゃんなかなか言うね」

 

 

いやそんなこいつやりおるみたいな顔してるけど本当にしょうもない寸劇だからなこれ

 

 

「千歌ちゃんも曜ちゃんも銀くんがそんな私を優遇だなんて全然してないよ」

 

 

見かねた梨子が助け舟を出してくれる。ありがとうやっぱり梨子は違「曜ちゃん裁判長!梨子ちゃんはしてきな感情でかばっています!」

 

 

「ち、違うよ…」

 

 

顔を赤くして俯いてしまう梨子…あれ?助け舟が泥舟っぽいやばい沈んでないこれ?

 

というか話が進まなさすぎる

 

「まあその辺で話はおいといて田舎に染まってもらうってのはまあここの暮らしのもっと深いところに慣れて欲しいってだけだからさ」

 

 

「そうそうただこの3人に付き合ってもらうだけだから」

 

 

曜お前自分は最初からその気だったみたいな雰囲気出してるけど寸劇なかなかに乗り気だったろ…

 

 

 

「というわけで梨子トートバッグなんて田舎に存在しないから置いてきな。そんでその靴と服も動きにくいだろ。今から俺たちに付き合うなら濡れて汚れていい服で来た方がいい。俺達は家の前のビーチで待ってるから」

 

────

 

 

ピンクのフリルワンピースに薄青のカーディガンという可愛らしい格好から打って変わってTシャツに短パンというラフな格好になった梨子だがシンプル故の美し「銀ちゃん」曜はなんでつねるのさ

 

 

 

しかしこのビーチも懐かしい。昔はこのビーチでみんなとよく遊んだな特に砂浜相撲と飛び込みをよくやってた気がする。しかし果南ねぇがホント強いんだよ当時は動かなすぎて岩かと思ったね

 

 

 

 

「よっしゃあ!飛び込むぞ!」

 

 

先陣を切って思いっきり飛び込む。

 

深く考え込む時もあるけどそんな時はこういう風に頭の中を空にしてバカみたいに海に飛び込むのも悪くない。単純にみんなと遊ぶのも楽しいしな

 

 

「よーし!私も」

 

 

曜も水泳部らしく綺麗なフォームで海へダイブして犬のように水しぶきを飛ばしながら顔を出す

 

 

「千歌ちゃんも梨子ちゃんも早くおいでよ!」

 

 

千歌は何度もこの光景を見てたから慣れてるだろうけど梨子はまだ流石に遠慮がちか

 

 

「昔は千歌はここを飛び込めなかったよな。今はどうだ?」

 

 

小さい頃の千歌は少し暗めの物静かな子だったからそう思えば本当に変わった方だ。今は輝きが溢れて眩しいくらいだしな

 

 

「今ならいけるよ!だってスクールアイドルだもん!」

 

 

いやそれはさすがに謎理論すぎて返答できねぇよ

 

 

大きな水しぶきをあげて千歌もこちら側へ来た

 

決して綺麗ではないがそれでも勇気ある飛び込みだった。なんというか成長が垣間見れて変な気分になる。あの千歌が本当に変わったんだな…やっぱりスクールアイドルは凄い

 

あとは梨子だけだ

 

 

 

「梨子ちょっと怖いだろ?でも大丈夫だ万が一でも俺が助けるからさ。なんなら目を瞑って飛ぶのもひとつの手だぜ」

 

 

梨子は目をつぶった。あくまで飛ばないという選択肢はないということか。そういう努力家な一面も見てるから俺は精一杯サポートしてるんだけどな…うんちょっと待て目を瞑るのはいいけど飛び込む方向はちゃんと決めてから飛び込まないと───

 

 

頭に飛び膝(無意識)はやばい

 

────

 

あの後散々梨子から謝られたけど焚き付けたのは俺だし梨子は何も悪くない。あの梨子の勇気をむしろ賞賛すべきだろう

 

 

「次は相撲だけど普通にやるとまあ男だし多分俺が勝つから手押し相撲ってのはどうだ?前にも後ろにも足が動いたら負けのやつ」

 

 

 

「ふっスクールアイドルとなった千歌にすきはない。はいぼくをしらせてあげるよ銀くんにね」

 

ほんとそのスクールアイドル神話論はなんなんだ…まったくもってわからんぞ…

 

 

 

……

 

「あぅ負けたぁ」

 

 

目を(><)こんな状態にして後ろへ倒れ込む千歌。いやそりゃあ あんな力任せに俺と押し合いしたら力負けするだろ…隙がないどころか隙しかないじゃねぇか

 

 

「じゃあ私がやろうかな」

 

珍しく梨子自ら立候補してきた。まさか…勝算があるのか?

手押し相撲において内浦の星と呼ばれたこの黒澤銀に勝てるというのか?それなら都会っ子の策略というやつを見せてもらおうか

 

 

「梨子ちゃん対銀くん よーいスタート!」

 

 

なるほどさっきのバカ千歌とは違いそれなりに出来るほうだ。引きや押しなどの駆け引きを絡めつつその本命は押し込みと言ったところか。攻めのかわしかたも上手い気を抜けば俺が前に倒れ込んでしまいそうだ。

 

 

じりじりとした中盤戦が続く

 

 

ここで梨子の押し込みに押し返すと見せて引きのフェイント…を梨子は読んで引いたところを押し込みに来る…そうなれば少し重心が後ろになっているこちらが不利…と見せかけて引きのフェイントすらフェイント引いているように見せかけて実は引いていない!ここで本命の引き!

 

 

押し込み返し読み引きフェイントフェイント読み押し込み読み引き!

 

 

梨子の身体は重心の赴くままに俺の身体へ吸い寄せられていく

 

 

 

梨子の頭がちょうど俺の胸元あたり収まったところでカチャリっと音が

 

 

「はい、梨子ちゃん接触罪ね16:48分現行犯」

 

 

いつの間にやら手錠を所持していた曜にひっとらえられる。そういえば昔は俺がよくみんなに逮捕されてたよな…よく尋問と称して好きな人とか私のチャームポイントは何?とか聞かれたもんだ。いや梨子接触罪とか不当逮捕もいいとこだけどね

 

 

 

「いや…確かに警察ごっこは懐かしいけどこれおもちゃの手錠じゃなくね?重みがやばいんだけど」

 

 

「はいはい続きは署で聞くから梨子ちゃん聞きたいことがあるならその時銀ちゃんになんでも聞いてもいいよ。まあ被疑者にも黙秘権はあるんだけど」

 

 

「中途半端に知識を得たせいでやばく見えるのは気の所為と思いたいんですけど…」

 

 

 

 

(はぁ…銀くんは田舎に染めるって言ってたけどもう十分染まってるよ…)

 

 

「銀くん!桜内警部があなたを取り調べます!」

 

 

「もう!置いてかないでよー!わたしも警察ごっこするー!」

 

 

田舎っていつも卑下するけど、ここの暮らしはこの光景があるから楽しいのだ

 

 

 



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渡辺曜は泳ぎたい

渡辺曜の日誌

 

 

水…水が私を呼んでる…

 

 

泳がなきゃ(使命感)

 

────

 

 

「銀ちゃんこっちこっち」

 

スク水姿の曜が手招きをして俺を呼ぶ。“久しぶりに水の中でトレーニングしたい”と言われたらもう付き合うしか選択肢はない。衣装兼ダンス担当で苦労をかけている分できる限り曜には何でもしてあげたいと思っているからだ。しかし2人だけでは何かと不便だろうと果南ねぇに“付き合って”と言ったら“紛らわしいよ!私は店の手伝いがあるから無理!曜と二人っきりで楽しんできたら!”と怒られた。こわい

 

「プール貸切なんてやっぱすげぇな」

 

「競泳大会でみんな出払ってるからね。私は兼部してるし高飛び込みメインだから行ってないんだけど」

 

ちなみに理事長が鞠莉ねぇだからプール貸してと言ったら貸してくれた。職権乱用どころの騒ぎじゃなかった

 

「まずはストレッチだね!銀ちゃんわかってると思うけどちゃんとやらないと足がつっちゃうよ?」

 

にひひっと曜が笑いながら前屈するのを手伝ってくれる

 

「つって溺れても曜が人工呼吸して助けてくれるだろ?」

 

「またそんな冗談言って!」

 

いっってぇぇ!そういう曜から全体重をかけられる。柔道で柔軟しているとはいえ膝に額がつくほど俺は柔らかくはないのでもも裏が引きちぎれそうになる

 

水泳してる時の曜は少し強引なんだよな…その方がエネルギッシュでいいと思うけどなんせ俺の身体が持たない

 

「いてて全体重のせられるとは思わなかった…」

 

「ごめんごめん次私にもストレッチしてくれない?」

 

曜の背中をぐっと押してあげる。流石水泳部すごく身体が柔らかい。

 

「もっと強くしていいよ?」

 

「え?まだいくのか?結構体重掛けてるぜ」

 

 

「全然大丈夫だよ」

 

 

それじゃあ遠慮なく覆いかぶさってぐっと体重をかけると曜の身体はガラパゴスケータイみたいに折り曲がった

 

「ほらね?」

 

「ああ確かに柔らかいな」

 

 

その後も前に出て開脚したり股割りをしたりして入念にストレッチを行なう。正直曜の身体が柔らかすぎて軟体動物かと思ったわ

 

 

「よしストレッチ終わり!それじゃあ泳ごうよ」

 

 

立ち上がった曜に手を引かれ水に足をつける。曰くいきなり飛び込んだりすると心臓がびっくりするんだそうだ

 

 

プールサイドに座ってきらきらと光る水面が揺れているのを見ると久しぶりに泳ぐのも悪くないとそんな気分になる

 

「うわ冷てぇぇ」

 

「泳いでたら身体も温まってくるから大丈夫!全速前進ヨーソロー!」

 

これは完全に熱血モードに入ってるな…何言ってもこりゃあ聞かないだろ

 

 

……

 

 

クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライと一通り泳いだところで曜から声がかかる

 

 

「銀ちゃんなんなら勝負してみる?」

 

曜のやけに挑戦的なにやけ顔に俺の勝負師としてのプライドに火がつく

 

「ああいいぜ。勝った方が何でも言う事聞くってのはどうだ?」

 

「いいね!自由形の100メーターにしよっか」

 

 

1度プールから上がり3番のレーンに上がる。水泳においての本格的な飛び込みからのスタートをやったことは無いのだが、前に見た曜の綺麗なフォームを俺は鮮明に憶えてる。それに俺の身体の動きを重ねるだけだ

 

 

 

「いくよ!よーいドン!」

 

3番と4番に並んだ横の放物線が綺麗に重なった。よし飛び込み自体は悪くないし出遅れてもいないな。しかしさっき冷たいと言っていたプールが熱くて仕方がない。カンカン照りの太陽のせいかはたまた燃え上がるほどのこの真剣勝負のせいか。でも何にしろ強いやつと戦えることは楽しい。それが絶対に自分の成長に繋がると実感できるからだ。

 

もうすぐ一回目の折り返し。ここのターンでリードを奪う!そのためにただひたすらに目の前の水をかき出していく。そして潜ってクイックターン…手のひらくらいの差だが確かにリード出来ているか?後はこれを維持していかなければいけないんだけど水泳はやっぱキツイ。そうとうな負荷トレーニングをしていてもあれだけの逆三角形の筋肉を付けるのは難しいから如何に水泳選手が常日頃から泳いで鍛えているのかがわかる。

 

ここで二回目の折り返し…リードはほぼゼロどころか俺のスピードの方が落ちてきている。持久力には結構自信があると思ってたんだけどな…しかし弱音を吐いてる訳にもいかねぇし無理してでも身体に鞭打つしかない。曜も最初のスタートのトップスピードよりは落ちてるみたいだし疲れてないわけでもなさそうだ。

 

そして最後の折り返し…リードは曜の方が肘1つくらいのリード。ラストスパートをここでかけるしかない…既に動かないと言っているであろう筋肉に無理やり力を込めて水を蹴り手を振り上げる。そして半分を過ぎたところで曜のペースがさらに上がる!?例えるなら回想でよくあるもがいてもどうもがいても届かない感じを味あわされた気分といえばいいのだろうか

 

 

遠くへと離れていく曜を見送りながら俺は敗北したのだった

 

 

 

……

 

 

「はぁ…疲れた。俺の負けだな」

 

プールサイドに肘をかけながら天を仰いだ。身体を照らす真夏の太陽がひりひりと皮膚の上を焼き尽くしていく

 

「イェイ!勝利のブイ!」

 

曜は眩しい笑顔でブイサインを作りながら勝利を喜んでる。めちゃくちゃ悔しいけど水の中だからなのかどこか清々しい

 

 

「負けたから何でも言ってくれ。今は清々しい気分だから全裸になれっていわれても余裕でできるぜ」

 

「いやそんなこと言わないよ…そうだねまたこんな風にトレーニングに付き合ってくれない?お願いはこれでどう?」

 

 

「それくらいならいつでも言ってくれ。また付き合うから」

 

 

 

「約束だからね!よーしまだまだ泳ぐぞ〜ほら銀ちゃんも!」

 

 

これは明日筋肉痛確定コースだな…

 

 

────

 

そういえば今日すごく距離が近かったぁぁぁ

 

 

水泳のテンションで全然気づいてなかったけど銀ちゃんと私くっついてたじゃん!

 

私…銀ちゃんにか、身体押し付けてたし

 

 

背中から覆いかぶさられてたし…

 

 

水の中の私暴走しすぎて勝負とかしちゃうし勝っちゃうし…

 

 

引かれたりしてないよね…

 

 

 

 

つ、次は控えめにするから

 

 

 

 



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照れたら負けの愛してるゲーム

花丸日誌

 

銀くんは煩悩が全部妹のルビィちゃん関連で108個埋まってそう…

 

 

もしそうだとしたらマルのおうちに来てひたすら床をぴかぴかに磨いて貰うしかないです。煩悩退散のためなら仕方の無いこと…慈悲も容赦もありません

 

────

 

 

「銀くん愛してるゲームって知ってる?」

 

自称流行に敏感なナウい乙女 千歌から発せられた謎のワード…愛してるゲーム?なにそれ文的に合ってるか?ゲームを愛してるの間違いじゃないのか?

 

 

「何だそれ」

 

 

「えーっとね…愛してるとかの言葉で相手に好意を伝えてどちらかが照れたら負けなんだって」

 

 

照れたら負けねぇ…そんなことして一体何が面白いのか分からないけど…いやちょっと待て。ゲームという免罪符があればルビィに愛してると言って貰えるということか。やばい滾ってきた

 

 

「貴重な情報ありがとう千歌今すぐルビィとやってくるよ」

 

 

愛するルビィの元に行くために教室の外へ最高速で駆け出さんと────

 

 

「面白そうなゲームだね私も混ぜてくれない?」

 

 

足を踏み出すまさにその瞬間前方に美少女が現れる…というより立ちふさがった。ものすごい笑顔で

 

 

「梨子はこういうゲームはやらない方じゃないのか」

 

 

非常に奥ゆかしいという言葉が似合う梨子が愛してるゲームをするというのはなかなか想像がつかない。というかすごい笑顔

 

 

「私もやりたいな」

 

 

曜まで参加しての大乱闘となってしまった。ただ1度ルビィに愛してるよお兄ちゃんと言って貰えたらそれでいいのに…とてもにこにこしている曜が何だかとても怖い

 

 

「じゃあ4人でやろうよ!全員で褒めあって照れたら負けね!さっそく愛してるゲームスタート!」

 

 

しかし俺ならともかくルビィの可愛さなんかを褒められたらイチコロですぐ照れる男だからな…ルビィが自慢の妹すぎてつれーわ。とにかくここは心頭滅却して落ち着いていかなければならん

 

 

「えへへ銀くん愛してる」

 

笑顔なのはいい事だけど言う前からモジモジしながら照れてどうするんだ千歌もう負けてるじゃねぇか

 

「うん」

 

心頭滅却すれば火もまた涼し…こんな序盤では流石に照れない

 

「銀ちゃんは真顔で全然効いてないし言ってる千歌ちゃんは出たしから照れちゃってたじゃん…」

 

「あはは銀くんピクリとも動かない真顔だったね」

 

 

「もぅなんでぎんくんはそんなにポーカーフェイスなの?」

 

照れ顔から一転ふくれっ面の千歌にそう詰められる

 

「武道でメンタルは鍛えられてるからな。生半可な精神攻撃じゃ傷一つつかねぇって」

 

 

 

「じゃあさ次は銀ちゃんが言ってみてよ」

 

曜からふわりとしたパスを投げられるがいざ愛してるって言おうとしてもなかなかそれに付随する言葉が出てこない…所謂恋愛ドラマ的なものを俺はあまり見ないからよく分からないんだよな。古典の短歌くらいしか恋については読み込んでないからどうすればいいのかわからん。君がため惜しからざりし命さへ…とでも言えばいいのか?まあいいや素直にいくのが一番

 

 

「小さい頃からずっと輝いてた曜を俺は見てた…曜のことを俺は愛してる」

 

 

なかなかに無難すぎたか?小さい頃から輝いてたとか周知の事実すぎてあまりに安直なチョイスだったかもしれない。実際曜も照れてな…

 

 

ぼんっ!

 

「〜〜〜っっ!」

 

「曜ちゃん!?」

 

 

「ななななななんでわたし?」

 

「言ってみたらって言ってたからつい言って欲しいのかと思ってさ」

 

まるで酔ってるリーマンのように目が回り千鳥足でフラフラになってる。顔真っ赤だしな

 

「大丈夫か?曜」

 

そっと肩に手をのせて振り子のように揺れている曜の動きを止める

 

「だいじょうぶ…ってあれ?ふふっぎんちゃんこそ顔真っ赤だよ?」

 

いやふふっとか微笑してる場合か真っ赤なのはお前の顔だわ

 

「私にも言って欲しいな」

 

とてもいい笑顔ですね怖いなぁ

 

「梨子はとにかく美人だし要領よくなんでもこなせて控えめな性格だから本当に非の打ち所がない。しかもそれでいて料理もできるところとか凄いと思うよ。Aqoursのお嫁さんランキングの1位は間違いなく姉ちゃんか梨子だな」

 

 

 

「訂正」

 

はい

 

「うん梨子が1位かな」

 

 

 

圧倒的忖度!!

 

 

 

「ありがとう嬉しいな。“銀くんのお嫁さんランキング”の1位になれて」

 

なんかおかしい気がするけど何も言えねぇ

 

 

「ねぇねぇ銀くん私も私も!」

 

身を乗り出してき分からんけど普段の頑張り…頑張……頑張り?……に免じてやっとくか

 

「千歌はほんとに可愛いなぁ」

 

 

「えへへありがと」

 

ちょっとは我慢するのかと思ったら照れるのかよ。

 

 

 

正直何をしてたのかよく分からないけど3人を照れさせたから俺の勝ちってことでいいのか?あらためて正面を向いて人を褒めるっていうのは少し照れたけどそれは心の中に留めておくか…

 

 

 

────

saint snowの場合

 

 

 

「聖良…常に理想を追い求めてたゆまぬ努力を見えないところでも続けてる聖良のそんなところが俺は好きなんだ心の底から愛してる」

 

 

「え!?な…そんなこと突然言われても困ります…」

 

 

本当に思っていることをそのまま伝えただけだから特に意図はした考えはないけど気まぐれで愛してるゲームを聖良にやってみたのだが照れてる…よな?

 

 

「照れたから俺の「そんなことを言われたらもう私を貰ってもらうしか…」シキジョウハハワイガイイデスヨネ アトハゴリョウシンヘノアイサツモ

 

 

下を向いたまま動かない聖良…貰う?式場…挨拶?

 

 

「ねぇ銀そこの姉様が固まってるみたいなんだけどどうかしたの?」

 

「それが分からないんだよ」

 

「ふーんまた銀が姉様に何かやったのかと思った」

 

俺が常に何かをやらかすキャラだと思われててすごく悲しい。聖良は動く気配がないしいい所に理亞も来たからとりあえず愛してるゲームするか

 

 

「理亞は自分を奮い立たせていつもいつも頑張ってるな。だから泣いてる時も笑ってる時もそして悲しい時もずっと隣に居たいと思ってる。だって理亞のことを愛してるから」

 

 

愛してるって好意を伝えるという意味では重い言葉だと思ってたけど意外と親愛を相手に伝えるのならいい言葉なのかもしれない。シンプルだからこその良さって感じで

 

その私も銀のこと…

 

 

理亞も俯いちゃったよ。でも重要なことを伝え忘れているので流石にここで1つ言っておかないとまずい

 

 

 

「ごほん二人とも取り込み中申し訳ないんだけど実は愛してるゲー「「銀!」」

 

 

「責任とってもらいますからね!」「責任とってよね!」

 

 

ふぅ…(達観)

 

 

この後めっちゃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説教された

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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黒澤ルビィとはいかにして天使なのか

黒澤銀の古びた日誌

 

そうあれは紛れもない天使だった…俺は母さんが抱いていたルビィを初めて見た時にそう思ったのだ

 

きっと俺はこの子と巡り会うために生まれてきたのだと

 

 

────

天使(ルビィ)のプロフィール

 

身長 154cm

スリーサイズ B76/W56/H79

血液型 A型

誕生日 9月21日

星座 乙女座

好きな食べ物 ポテトフライ・スイートポテト

嫌いな食べ物 わさび

趣味 お洋服・お裁縫

特技 衣装選び

 

 

兄としてそしてAqoursをマネジメントする側としては当然知っているスリーサイズ等々の情報

 

 

ちなみにバレると(自主規制)される。そう姉ちゃんにね

 

 

 

 

 

 

さてなにかってまず趣味がお裁縫ってのがいいよ。お裁縫

 

普段のルビィがドジっ子で声も出ないほどにかわいいところを見ると精緻な作業の裁縫は向いてなさそうなんだけどところがどっこいこれがよく出来ていて頭撫でたりプリン買ってあげたりして褒めるべきところなんだよな。でも俺の道着にくまのプリントを縫い付けるのだけはやめてくれ。それで試合に出た日には社会的に死ぬからさ

 

 

 

話は変わるがこの水着グラビアを見てくれ天使だろう?鞠莉ねぇに進められていた大胆な青ビキニとは違ってピンクを基調とした白フリルのビキニ。これをルビィに似合うとセレクトした俺の鮮やかなる采配に心の底からファンは感謝を述べるべきだ。胸部はまあ…ちょっと心もとないと言えばそうだ。でも幼少期からルビィをくまなく観察してきた俺でもちょっと眼球を乱回転するぐらい驚いたよ。ルビィは決して“ない”わけではないんだ……相対的にAqoursのアベレージが高すぎるのがあれなんだろう。ピンクピンクしてる全体的なカラーは俺の好みからは外れてるけどルビィに似合っているなら全て良し。ピンクという色が持つ魅力は夏のビーチにベストマッチしてるから可憐かつ純粋かつ無垢でありルビィという天使が身につけるに相応しい。あぁもうほんとに可愛いな

 

 

さてここまで少し頭脳的にルビィの可愛さについて話してきたがあえて今心の底から言いたいことを素直に言おう

 

 

 

 

可愛すぎる

 

 

やばい

 

 

とりあえず目がくりくりしてて可愛い。ツーサイドアップの髪型もルビィの背の低さとあいまって犯罪的すぎる。あと声もやばいあの声でお兄ちゃんと呼ばれようもんならもう悶え苦しむだろう。この特権は姉ちゃんと俺だけが享受できる至上の幸せだから誰にも譲ることはない。そしてあの笑顔が天使がすぎるし眩しすぎる。マジでそれだけで生きる意義を見い出すくらいのレベル

 

 

 

…でも最近兄離れが凄い顕著だからな…お兄ちゃん寂しいよホント。ハグも全然してくれなくなったし頭も撫でさせてくれないし寂しすぎて泣く

 

ルビィはもう子供じゃないもん!って言って俺を突き放すから心が砕けるように痛いんだけどその後飴に引っかかって捕まるあたりが可愛いけどね。しかし妹の成長を素直に喜べばいいのか はたまた兄離れを少し悲しく思う心が大事なのか俺にはわからない。もしもの話だけどルビィが好きな人を見つけて俺に相談してこようもんならそいつ諸共ナイアガラの滝にフリーフォールする自信があるわ

 

 

 

 

 

 

 

‘天使’とは宗教において、天の使いとして人間界に遣わされ、神の心を人間に、人間の願いを神に伝えるもの。エンゼル。1やさしくいたわりぶかい人。2きよらかな人。

wikiより引用

 

1の条件

 

ルビィは優しい上にいたわり深く人の苦労をまるで自分のように同情して共感できる性格だ。芯が強いから人の悲しみや苦しみに寄り添い一緒に泣いて慰めることを自然にしている数少ない子だ。真の強さとは力が強いことじゃなくてこういうことだと俺は思う。

 

2の条件

 

ルビィは簡単に騙されるくらい人を疑わない…心が澄み切ったように綺麗なんだ。男があまり得意じゃないルビィには恋の噂とかも聞かなかったし色目を使おうもんならまず俺が許さなかった。純真無垢故に悪い奴に引っかかるかもしれないからな。あと割と下着がし(閲覧規制)

 

 

1と2の条件により

 

 

 

黒澤ルビィは可愛さの権化であり天使である

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[暇なのかもしれないけどだからって私にこんな長文送らないでくれる?このシスコン]

 

 

[これの何処がこんな長文なんだよ。論文に使えそうな素晴らしい文章だろうが]

 

 

[そんな論文を発表するの銀くらいでしょ。シスコン]

 

 

[お前のシスコンもそれなりのレベルだろ]

 

 

[銀と一緒にしないで!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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桜内梨子のピクニック算段

梨子ちゃん推しじゃないのに梨子ちゃんの話は書きやすいというジレンマ


鹿角理亞の日誌

 

銀が勉学に励んでいるのはルビィに教えるためらしい

 

 

ホントシスコンすぎるけど今度教えてって頼んでみようかな

 

────

 

 

「あのね!今度ピクニックにいかない?」

 

 

Why?

 

さすがに驚きを隠せない…だって梨子の美しいピアノの旋律が止まるやいなや胸の前にこぶしを握ってそう言い出したのだからね

 

 

「えらくいきなりだな…」

 

「そ、そうかな…だって銀くんこの間私の作ったサンドイッチ食べてみたいって言ってくれてたし…」

 

 

…確かに言ったか

 

都会スタイルのサンドイッチへの憧れや姉ちゃんの美味い和食弁当でもたまには離れてみたいという感情などが入り交じってそんなことを言ったような気がする

 

正直こんな律儀に覚えてくれているとは思っていなかった。本当に軽い冗談のつもりで言ったのでまさかまさかだ

 

「だからその…どうせならピクニックに出かけてそこでふる舞いたいなって思ったから」

 

 

なるほど…死ぬほど食べたいし行くしかないな

 

欲しいものがある時喉から手が出るとよく言うが 今なら俺の喉から手が這いずり出していてもおかしくはないだろう。それくらい梨子の料理は美味い…都会の女子は料理が出来ないという偏見に満ちた当時の俺をぶん殴ってやりたいくらいだ。

 

 

「うん行こう。梨子の手作りサンドイッチを食べられるなんてまじで嬉しいからさ」

 

「もう…そんなに期待しないでね?日程だけど今度の日曜日とかどうかな?」

 

 

この謙遜が実に梨子らしい。しかしAqoursの練習がオフの日か…諸々の編集をしようと思ってたけどサンドイッチが待っているのならばそれまでに終わらせるしかない。そう俺はその日にたとえ悪魔のメロディが鳴り響こうとも突き進むことを誓った

 

「OKその日にしよう。めちゃめちゃ楽しみだよ」

 

「銀くんってばハードル上げすぎ!ほら早く続きしよ?」

 

 

 

 

いつもと変わらない日常なのにその日は何だかピアノの旋律がいつもより踊っているように見えた

 

 

 

 

 

────

Interlude

 

クローゼットから服をあるだけ引っ張り出して鏡の前でファッションチェックをする。何度も何度も入れ替えて着替えてボタンを外してベルトで締めて…

 

 

…うん明日はこれでいこう

 

 

明日は早起き

 

 

早く寝て起きれるようにしなければ

 

 

だけどそんな考えとは裏腹に思考はどんどん巡っていく

東京から沼津に環境が変わっていくそんな日常に溶け込むように私は恋なんて絶対にしないと思ってたのに…でも人を好きになるのは理屈なんてもので表せるほど簡単ものじゃなくもう反射運動や本能みたいなものできっと抗えないものなんだろう

 

 

そう私は恋をした

 

 

初めて…恋をした

 

 

 

────

 

太陽から降る熱さと肌をからからと乾かそうとする潮風を全身に浴びながら梨子が出てくるのを待っていると前方からガチャりとドアの開いた音がした…

 

 

 

この瞬間を形容するならあまりの綺麗さに目を奪われたといえばいいのだろうか

 

 

 

 

 

水色のワンピースに白ショート丈のブラウス

 

それだけではなく三つ編みに麦わらハットを合わせていてなんというか…いつもの制服姿を見慣れすぎていたのかあまりの違いに思わず目を丸くしてしまった

 

「美人だな…」

 

一思いの感想だ。着飾った言葉はいらずシンプルでいいだろう。

 

 

「あ、ありがとう」

 

梨子は俯いている…

 

 

…思ったことを口に出すくせを戒めたくて仕方がないのだけれども…昨今のコンプライアンスやハラスメントに煩い世の中ではもしかしたら美人と言うだけでセクハラ扱いになるかもしれないからな…

 

「ごめん気にしないでくれ。行こう」

 

 

「う、うん」

 

 

誤魔化すように梨子からバスケットを受け取り海沿いの道を並んで歩き出す。目的地は以前にみんなと一緒にトレーニングで走り込んだ高台だ。あそこは少し勾配がきついからペースを合わせてあげないといけないな。

 

 

 

 

────

 

 

 

高いところまで来たので景色がいい。海も見えて街も見下ろせて最高のロケーションだ

 

 

登り終えて少し梨子と休憩を入れる。スニーカーで来てる俺と違ってヒールサンダルを履いてここを登った梨子には“長め”に休憩をとってもらわないといけない。

 

そうこの“眺め”だけにな…

 

 

「銀くんそっちのシート広げるの手伝ってくれない?」

 

あ、はい

 

って梨子がもう動いてる

 

 

「俺がやるから梨子はもう少し休んでていいぞ。その靴だと登るのしんどかっただろ」

 

 

(…きっとこういうところなんだろうな。登ってるときもゆっくり歩いて私に合わせてくれて…)

 

「ううん大丈夫私もやる」

 

梨子の頬が少し紅潮しているのはこの高台まで登ったから身体が熱くなっているのだろう。だから休んでていいって言ったのに…やりたいなら止めはしないけど

 

「あまり無理しないようにな」

 

 

────

interlude

 

シートを広げ木陰に座り込んだ。葉の間からさす木漏れ日が私の肌をほのかに照らす。でも…その木漏れ日のぬくもりを感じられないほど私の身体は何だか熱くて

 

 

ふと触れた草木の露がとても冷たくて私の身体は熱さをまた自覚してしまうのです

 

 

 

 

 

「梨……梨子!」

 

 

ふと気がつけば銀くんの顔が目の前まで来ていました。ぼっと顔から火が出たように熱くなります。なんだか無性にどきどきしてしまう自分がいるのです

 

 

「何回呼んでも答えないから魂でも抜けてるのかと思った…すげぇ心配したよ」

 

 

「ごめんね少し考え事してて…でも大丈夫だから。ほら早く食べよ」

 

 

────

 

 

 

梨子の手によってバスケットが開かれる。中は王道のBLTサンドやたまごサンド、ハムサンドなどが色鮮やかに詰められていた。食材を宝石箱に例える比喩はこの世にごまんと溢れているがこのバスケットの中身はまさにジュエリーが敷き詰まった宝石箱と呼ぶに相応しい美しさだろう。

 

 

「凄いなこれ。何だか手をつけるのも勿体ないくらいに綺麗だ」

 

 

「誰かさんのために作ってきたんだから食べてくれないと怒っちゃうよ?」

 

「それもそうだな…それじゃいただきます」

 

怒られて食べられなくなるのもあれなので迷い箸ならぬ迷い指をしながら選んだたまごサンドを手に取った。柔らかい弾力で強く掴むと崩れてしまいそうなのであわてて頬張る。

 

 

口いっぱいにたまごの甘さが広がってめちゃくちゃ美味い。しかもただ甘いだけじゃなくて少し入ってるマスタードの風味が味をくどくさせないでしっかりとまとめあげる役目をしている感じだ。

 

続いて王道のBLTサンドを口に入れる。レタスのシャキシャキ感とトマトの瑞々しさがベーコンのガツンとした油っこさにマッチして美味すぎる

 

 

「美味すぎておもわず無言になっちゃったよ。やばいな本当に見た目通りの味だ」

 

 

「ふふっそれなら作ったかいがあるかな」

 

…美人に笑顔ってホント掛け算だよなぁ。このBLTサンドみたいに無敵の組み合わせって感じでさ

 

 

清涼で透き通ったような風が肌を撫でる。その度に鳴り響く木の葉のオーケストラが気分を落ち着けてくれた。なにか大きく盛り上がる訳でもなく大爆笑が起きる訳でもない。ただ近況や他愛のない話をしているだけそれなのに心の底から楽しいと思えるひと時だった

 

 

 

 

 

……

 

梨子の特製サンドイッチが詰まったバスケットを空にして食後のティータイムって至れり尽くせりだなこれ。やるべき事がが山積みにされている俗世から切り離されていて楽園かなにかだと勘違いさせてくれるような空間だ

 

 

 

「礼と言っては何だがここまで来るのに少し足痛めただろ。帰りは俺がおぶるってのはどうだ?」

 

 

本来なら諭吉の束を梨子の手に握らせたいところだけど梨子はそういうのをあまり好まないからこうするしかない。これもなかなかだけどな

 

「そんなことしてくれなくても大丈夫だよ。ちゃんと歩けるから」

 

 

「いやそれじゃあ俺の気すまないからおぶらせてくれ」

 

 

冷静に俯瞰してみると美少女におぶらせてくれと懇願する男の図はなかなかにやばい。ここは人気がない高台だからあれだけど街中でこんなことしてるの見られたら確実に連行される。

 

 

 

 

「…じゃあお言葉に甘えて」

 

 

鼻腔をくすぐる女子特有の香水の匂いが至近距離に迫ってきているという合図…

 

 

…え?体重かかってるこれ?梨子の白くて細い腕が首に巻きついているのはわかるけど重さという重さがない。武道の鍛錬で男子をおぶったり砂を詰めた重りを背負ったりしてるけどそれの10分の1くらいじゃないか?

 

服の下に何も詰まってない説が濃厚すぎる

 

「梨子ごめん俺が山ほど食べたサンドイッチを少しでも食べさせてやれば…」

 

そうすればこんなスカスカにはならなかったのに…すまん…

 

 

「どういうこと?」

 

おぶるとは言ったけどその綺麗な声で耳元に囁かれるとめっちゃゾワゾワするわ

 

「いやなんでもない気にしないでくれ」

 

 

 

それでも背中にいる梨子のクリスタルのような声が耳元を通過すると爽やかな風も相まって心地良い気分になる。結局最後まで梨子にはほとんど何も返せてないな…今度またあらためて礼をしよう…

 



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国木田花丸とアンケート

入学初日国木田花丸の日誌

 

今日お友達のルビィちゃんのお兄さんに初めて会いました。テレビや新聞で見たことがあるので顔は知っていましたが生で見るのは初めてでした。

 

でもルビィちゃんが自慢するほどならきっと素晴らしい人だと…

 

「君俺の妹になってくれないかな?」ドスッ

 

「はいシスコンの銀ちゃんは引っ込んでてね。ねぇ君スクールアイドルに興味ない?」

 

思ってました。

 

 

────

 

ペンケースからペンを取り出し目の前にある紙に向き合う

 

万年金欠のAqoursがやらねばならないアンケートモニターとやらだ。某有名結婚雑誌からきていたのでそれなりに羽振りはいいが目を通した感じかなり踏み込んだ質問が多い。将来の結婚相手はいますか?とか学生相手に何聞いてんだ。いやまあいるけどさ…

 

 

アンケート

 

Q1 恋愛をしたことはありますか?

 

Q2 美人な人と可愛い人どちらがすきですか?

 

Q3 恋人にしたい人はどんな人ですか?

 

 

……

 

 

Q1はまあそれなりでQ2は美人な人Q3は気の合う感じの人かな。そうして俺は“図書室”で静かに書き進めていく。男の俺が部室にいるとあいつらが正直に回答出来ないかもしれないと考え外に出たからだ。スクールアイドルとは言え一応アイドルだし“私はみんなの恋人だよ!”とか言いかねん…バカ千歌あたりがな。そんな回答なんて向こうも求めてないだろう。あとは異性にこういうこと知られるのって単純に恥ずかしいかなと思っての配慮だ。ルビィとかルビィとかルビィとかね

 

 

 

しかしこの静謐な空間でただ一人自分自身と向き合うというのもなかなかいいかもしれな…

 

 

 

「何で花丸が目の前に?」

 

少し苦笑いをしながら机の向かいにちょこんと座っていた

 

「あはは…みんな部室で騒いで書いてるから逃げてきたずら」

 

ガールズトークにおいて恋バナは話のタネが尽きないものとは聞いたことがあるけど騒ぐほどのものだとはな。怒られなきゃいいけどここの理事長鞠莉ねぇだし…ダメだこの学校…早くなんとかしないと

 

「あいつら何してやがる…まあいいここだと静かだしゆっくり書けるだろ。何なら俺も出ようか?」

 

 

「マルのほうが後にきたからそんな気遣いしてくれなくても…」

 

その言葉を最後に二人の会話は失われた。いくら2人だけとはいえ図書室で話し込む訳にもいかないしな。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

幼馴染の千歌や曜、鞠莉ねぇ、果南ねぇあと兄妹の姉ちゃんやルビィと違って花丸は高校で知りあった仲だ。しかもあまり活発的で誰彼構わず話しかけるタイプでもなく黙々と読書とかしてるタイプだった。

 

 

入部当初は2人だけで部室に取り残されたりするとこんな静寂がよくあったな…読書って点で話をしようにも花丸は読書をすることを楽しむ人だけど俺は暇つぶしに読書をする人間だったから共通点はあれど話が広がらなかった思い出がある。ざわ・・・ざわ・・・すらしないしーんだった。だから最初のころは何とか仲良くなろうと必死だったような気がする

 

 

そんな静寂の頃に戻ったみたいでなんかあらためて緊張する

 

 

 

 

そんな思い出に浸りながらアンケートを答えていると手が止まった

 

 

Q9 好きな人または気になる人はいますか?

 

 

「好きな人ねぇ…」

 

真っ先に思いつくのは妹のルビィだ。というか必要条件を妹にした場合おおよそルビィしかこの世に存在しないので妹っぽい感じで考えてみる

 

 

妹オーラがあって可愛い感じで気の合う人…

 

 

すると俺の視線は目の前の用紙から不思議と上がっていき…ちらっと花丸の方に視線が向かった瞬間

 

 

「!」

 

花丸と目が合った

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「な、何でもない…です」

 

目が合って驚いたのか伏し目がちで顔を赤らめ先輩禁止の敬語を使うくらい動揺していた

 

「ほんとに?」

 

「気にしないでぎ、銀くん」

 

やけにモジモジしてるけど目が合っただけでこんなに動揺するか普通?

 

(き、気づかれた?マルが今、銀くんのこと見てたの気づかれてないよね?)

 

(でも、目が合ったってことは銀くんもマルのこと見てたってことだよね?な、なんで見てたんだろう…)

 

(い、今は銀くんじゃなくてアンケートに集中しなくちゃ!)

 

(でも…このQ9で手が止まる。この項目に頭を悩まされている。ここみんなは正直に書けてるのかな?それに銀くんはなんて答えたんだろ。“はい?”それとも“いいえ?”どっちなんだろ。…な、何を考えているんだろ…マルに銀くんの答えは関係ないのに…)

 

 

(そう思えば思うほど落ち着かなくなる…もどかしくて胸がざわついて…バクバク鳴ってる心臓の音がこんなに大きかったら銀くんに聞こえちゃうかもしれない…)

 

 

「むぅ〜…ん〜……ぅぅぅ」

 

(分からない…私にはこんな気持ちわからないよ…)

「…」

 

花丸からうめき声にも似た唸り声が聞こえてくるんだけど何か花丸だけセンターの過去問解いてるとかなの?おかしいな全員に同じ紙を渡したはずなんだけど

 

気になるのでまた視線を上げると

 

 

 

目が合った

 

「あ」

 

「──っっ」

 

またまた驚いたのかさっと目線を逸らす花丸

 

「どうかしたか?」

 

「あ、えっと…ぎんくんはもうかけたの?」

 

あまりの動揺に喋りすらぎこちない。こちらにまでその感情が飛び込んでくる

 

 

 

 

俺は“ああ、書けた”の返事と同時に

 

 

好きな人がいると書いた

 

 

 

 

────

 

 

「そっか…あの、あの最後の質問って…」

 

「あれは「や、やっぱり何でもないずら!聞かなかったことにして気にしないで」

 

身体の前で手をブンブン横に振る花丸

 

 

可愛い



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Aqoursを無視するとどうなるのか

転校初日桜内梨子の日誌

 

東京から遥々やってきた静岡県の内浦にある小さな浦の星女学院。といっても今は共学化のテストケースで男子生徒がいるらしいので女子校ではないらしい。

 

「初めまして東京の音ノ木坂から転校してきました。桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

 

 

「奇s「君よく輝いてるって言われない?」

 

「へ?」

 

「銀くんそーいうのせくはらって言うんだよ」

 

拝啓お父様お母様

 

私はどうやら来る学校を間違えたようです

 

 

────

 

 

 

もうさすがに頭にきた。あいつら俺の事やれ“シスコン“だ”お兄ちゃん“だって言って茶化してきやがって今日という今日は許さん!

 

何度でも言おう俺はシスコンではない。妹が世界一可愛いから愛でているだけだ。さすがに腹たったからもう今日は何を言われようともアイツらを無視する

 

 

…ルビィと姉ちゃんには罪はないけどまあ…平等に無視しとくか。非常に心苦しいんですけどね

 

 

ごめんよルビィお兄ちゃんのこと嫌いにならないで

 

────

 

「おーい銀くんおはよー!」

 

朝からサイレンのごとく鳴り響く千歌の声

当然無視する…というか教室だと100パーセント喋るからもう寝た振りで誤魔化すしかない。

 

「zzz」

 

「あれー?ぎんくん朝なのに寝てるのかな?」

 

ごもっともすぎる。昼ごはん食った後に寝てるとかならまだしも朝おきたばかりの登校したばかりで寝てるっておかしな話だろう。作戦を練る時間が無くてそれしか策がないの許して

 

 

「千歌ちゃんも銀くんもおはよう」

 

百合の花のように可憐に響く梨子の声に思わず挨拶を返しそうになるが、すんでのところで耐える。見え見えの罠に引っかかるほど甘くないからな。俺を喋らせようなんて1万光年早いんだよ梨子

 

というか曜は?また遅刻なの?

 

そろそろ俺と頭の軽さが一緒になってきてない?

 

身体をくの字に曲げることに慣れたら終わりだぞ…本当に気をつけた方がいい

 

まあいい「おはよーございます!」

 

「遅刻ギリギリだぞ。3秒で席につけ渡辺」

 

「ら、ラジャー」

 

 

 

始業のチャイムが鳴り響く

 

その音色は今から始まる戦いのゴングでもあった

 

 

無視という戦いのな!

────

 

「シーちゃん発見!ハグ〜!」

 

「…」

 

千歌と曜と梨子がいる教室にいる訳にもいかず外へ出ると廊下でばったり会った鞠莉ねぇにいきなり抱きつかれた。けど今日は反応すらせずひたすらに無視しなければならない。というか二重の意味で苦し…い

 

「抵抗しないってことはついにこのマリーを受け入れてくれたのね!」

 

「…」

 

もうめちゃくちゃツッコミたいけど無視しなければ…鋼の心でこれをやっているから生半可なことでは中断できない。するりと腕の中を抜けて顔も合わせることなくただ黙って反対方向へと歩き出す。

 

「シーちゃん…?」

 

 

 

「廊下での不純異性交遊は禁止ですわよ銀」

 

「銀もちゃんと抵抗しないとダメじゃん。鞠莉はすぐ調子に乗るから」

 

 

げっ…さっきのやり取り見られてたのか。でもこの距離ならあそこで俺が喋らずに去ったことまでは多分分からないだろ。そんな事を思いながら立ち塞がる果南ねぇと姉ちゃんの横を素通りしていく。

 

 

「待ちなさい!」「ちょっと待ってよ!」

 

「…」

 

そう両肩を掴まれ後ろに引き寄せられるが腕をさっと振り払い構わずその場を去る。

 

え?無視ってやる側もこんなに辛いの?あと果南ねぇと姉ちゃんの顔怖くて振り返れないんだけど“ちゃんちゃん♪”って言って終わらせてえよ

 

「銀あなた…」

 

「ふーんそういうことするんだ…」

 

 

 

……

 

助けてドラえもん

 

────

 

地獄の昼間をなんとかやり過ごし放課後の練習へとたどり着いた。当然喋るわけには行かないので練習は遠くでチラ見しつつ編集作業をする

 

「みんな!ちょっときゅうけーい!」

 

曲が終わり最後の決めポーズからリーダーの声掛けで練習は一時中断。

 

「ちょっとあんたこっち来なさいよ」

 

「…」

 

ぐいっと善子に腕を引っ張られ物陰に連れ込まれる。いつもならここで自作小説発表となるのだが今日は顔からして違うだろう。というかルビィと花丸もいるし

 

「3年生の練習が明らかに身が入ってないのが分かるでしょ。あんたなんか知ってるんじゃないの?」

 

「…」

 

流石にこういうことは鋭いな善子は…Aqoursを何だかんだ愛していて日々観察しているんだとつい感心してしまう。無視するけど

 

「お兄ちゃん何か知らないの?」

 

「知ってたらマル達に教えてほしいずら」

 

 

困り顔の2人に詰められるの半端ないって。天使の困り顔ってこう…自らの全てを投げ出して救ってあげたい気持ちになるからさ。うん

 

「…」

 

 

ぎゃあああああああああ二大天使を無視するのがこんなにも辛いとは!喋りたい!今すぐ俺がやっている罪を全て残らず吐き出して懺悔したい。許してくれ神よ天使(ルビィ)

 

 

「…」

 

 

「銀あんた何も言わないの?知らないってこと?」

 

めっちゃ知ってるけど…

 

まあ友達から無視されたら普通に辛いもんな…でも俺は何がなんでも心を鬼にしなくてはならない

 

 

…後でスタイリッシュ土下座で検索しておくか

 

「…」

 

「おーい!3人とも練習再開するよー!」

 

千歌の元気な声がこちらに響く。そういえば教室じゃ寝たフリしてたし3年生と比べて2年生組は無視してた感が薄かったのかもしれないな。

 

「お兄ちゃん…」

 

「銀くん…」

 

その去り際の顔を見た時の衝撃を俺は一生忘れないだろう

 

 

俺の心は大丈夫かい?死にかけてない?

 

 

 

 

……

 

 

 

───

 

 

「シーちゃんはいつも温かいね…」ハイライトオフ

 

「鞠莉さんそれはぬいぐるみですわよ」ハイライトオフ

 

「ダイヤだって手に血が滲むくらいにぎっちゃってるじゃん」ハイライトオフ

 

「マルは大丈夫ずら。この小説があれば…」ハイライトオフ

 

「花丸ちゃんのそれ創作でしょ?」ハイライトオフ

 

「きっとこれが天を追われた罪なのね」ハイライトオフ

 

「うふふ銀くんったらそんなに甘えちゃって」ハイライトオフ

 

「梨子ちゃんまた虚空見つめてるよ」ハイライトオフ

 

「ぎんくんぎんくんぎんくん…」ハイライトオフ

 

 

 

 

 




Aqoursヤンデレ編いよいよ開幕


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鹿角聖良は酔いどれる

主人公の周りの顔面偏差値が高すぎて作中で美人と言われたの2人くらいなのがすごい。千歌ちゃんとか普通に可愛いのにね


古びた小原鞠莉の日誌

 

 

初めてあった男の子に目を丸くして驚かれた

 

「ね、姉ちゃんが等身大のバービー人形持ってきた…」

 

「銀…バービー人形ではなく人間ですわよ」

 

「ニンゲン?もしかしてガイコクジン?本当にお人形さんみたいだ…俺の名前は黒澤銀 きみの名前は?」

 

「お、小原鞠莉デス」

 

「そっか!でも姉ちゃん達と同学年だろうから鞠莉ねぇちゃんだね!これからよろしく!」

 

満面の笑みで手を差し伸べる嵐のようなそれでいて太陽のような男の子に私は心を奪われてしまっていた

 

────

 

 

ウイスキーボンボン (Whiskey Bon Bon) は、洋酒入りのボンボン菓子(ボンボン・ア・ラ・リキュール)の一種。

 

砂糖製の殻でウイスキーを包んでおり、さらにチョコレートでコーティングしたものもある。後者は材料や手間がかかるので、高級感が増す。独特の味から根強いファンが多く、おみやげとして売られているものもある。

 

日本で最初にウイスキーボンボンを作ったのは、マカール・ゴンチャロフ(ゴンチャロフ製菓創業者)だといわれている。wikiより引用

 

……

 

意気揚々と鹿角家に来たのはいいが2人全然見当たらないし…箱が空いたままのウイスキーボンボンが目の前の机に置いてあるし…

 

そしてほのかに香るアルコールの匂い

 

まずい!つまりこ「ぎんにだいぶっえへへあたたかいですね」

 

 

聞きなれたハスキーボイスからクールな印象が感じ取れる。しかしそれなのに何故かいつもとは違う圧倒的違和感があった。確かに背中に人の温かみをフルに感じているはずなのに何故か冷や汗がとまらない…

 

 

「せ、聖良?まさかだけどこれ食べたのか」

 

おそるおそる知りたくもない事実を確認していく。そうこれが夢であって欲しいから聖良さんよ夢オチで済ませようぜ。さあ言ってくれ…その口から食べていないと

 

 

「たべました!」

 

終わったわ

 

というか酔ってるのか雰囲気があまりにおかしくなってるけど聖良ってこんなアホみたいな喋り方してたか?

 

「聖良とりあえず離れよう。絵面がヤバいし理亞に見られたら確実に殺られる」

 

と言いつつ無理やり引き剥がそうとしてもなかなかに鍛えているのと酔っぱらい特有の馬鹿力で全然離せねぇ…どうしてこう俺の1つ上の奴らはハグの力がこんなにも強いんだ…年の功ってやつなのかミシッ

 

「あ!ぎんはてれているんですね!まりさんにいつもだきつかれているからなれてるんだとおもってました。ふふっ」

 

 

少し頬を赤らめながらドヤ顔をする元完璧超人

 

ごめん聖良…俺は聖良のこと完全MUTEKIの人だと思ってた。でも違うんだなって…人は完璧じゃなくてどこか不完全なんだなって(哲学)

 

 

「もしもし警察ですか?」

 

俺の右斜め後方もうひとつの聞きなれた声がポリスメンに通報しているのを俺は聞き逃さない

 

「待ってくれ理亞。これには深いわけがある」

 

 

 

……

 

 

「姉様がウイスキーボンボンを?だからこんなに理性の箍が外れたようにニコニコしているのね」

 

事情を説明したら通報は勘弁してくれた。切れ長のツリ目がかつてないほどつり上がって俺を睨みつけてるけど。

 

「ふふふっこれではなれられません!」

 

腕をホールドされて動けないし抜こうにも全然抜けない…

 

「姉様そろそろ離れないと…」

 

「りあにぎんはわたしません!わたしのぎんですからね!」

 

理亞の声は届かず離さんとばかりに腕はさらに強くホールドされる。正直右腕の血が止まってそうなくらいに握られてるし聖良の肋骨の硬さが分かるくらいには抱きつかれてる。

 

やめてそんなに睨まないで!一応抜こうとは努力してるから

 

 

「私はまだ仕事があるけど。いない間に姉様に変なことしないでよね」

 

そう言うと理亞は奥に消えていった。え?助けてくれないの?

 

────

 

かれこれ2時間くらい右腕を取られたままだった。利き腕を取られているから何も出来ない…助けて理亞えもん…

 

 

「きょうはぎんといっしょにねます!」

 

さっきから聖良はこの調子だ。酔ってもこの芯の強さは変わらないらしい

 

「姉様ダメだって!男女が一緒の部屋で寝るなんて…その…あれだし…」

 

「いっしょにねるからなんです?」

 

「もう!何でもない!銀のバカ!変態!」

 

バタンっと理亞が扉を閉めて出ていってしまうと聖良と二人きりになってしまう件。由々しき事態とはこの時のためにある様な言葉なのかもしれないな…

 

はぁ…しかし聖良は酔うと子供みたいになるタイプだったか…

 

容姿が大人びていてスタイル抜群なだけに物凄く困る。

この鞠莉ねぇ顔負けの抱きつき癖とか我儘なとことか

もう部屋が一緒ってだけでもやばいのに…一緒のベットじゃなきゃヤダ!とか言い出すし

 

「だいぶっ」

 

 

抱きつこうとする聖良を抑えるのにかなり力を使うのでベッドがえらく軋んでいるんですけど。子供のように騒ぐ聖良を優しく宥めながら先のことについて考えをめぐらせる。まあ1日くらい寝なくたって大丈夫死にはしない。それよりもこの状態の聖良を見守ることの方が重要だろう

 

長い戦いになりそうだな…

 

 

 

……

 

 

( ˘ω˘ ) スヤァ…

 

────

 

 

「私ったら一体何を…」

 

肌を多く露出した薄着に少し汗ばんだ身体

 

そして横でぐっすり寝ている銀…

 

銀!?

 

乱れた様子の寝具が何をしていたのか物語っていて疎い私でも想像がつくというものです。ま、まさか本当に…

 

 

それにしても記憶が全くありません。机にあったお菓子を食べたところまでは記憶があるのですが…

 

 

「ね、姉様戻ったの?」ソロリ

 

戻った?一体どういうことでしょうか?

 

「実は先程までのの記憶が全くと言っていいくらいに無くてですね…」

 

「あの時の姉様は…」

 

理亞から聞かされた真実は信じられないものでした。わ、私がずっと銀に抱きついていてその上一緒に寝たいだなんて…まるで変態ではないですか

 

 

こうなったらもう銀の記憶も消すしかありません…この鈍器と鬼ころしで…



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Aqoursと褒めは二次関数

黒澤銀の日誌

 

梨子のアルバム見せてもらったけど小さい頃はツインテールだったんだな…しかもめちゃめちゃ可愛かったし

 

 

…いや別に変なこと考えてるわけじゃないけどね

 

 

 

後生にツインテ…お願いしてみるか…?

 

────

 

「練習に入るにあたってひとつ大事なことがある。それは些細なことであっても褒めることが大事ということだ。誰かを注視して観察してないと褒めることは出来ないからな。見て学ぶそして良いところがあればそれを盗むそして賞賛する。これを重視して練習に望んで欲しい」

 

ホワイトボードに移した“褒める”という言葉にバシンと手を当て力説する。

 

「そうは言うけどじゃあシーちゃんはマリー達のことしっかり観察出来てるって言うの?」

 

鞠莉ねぇから飛ぶ当然の質問。そりゃあそうだ鞠莉ねぇの言う通りこの世には言葉の信用度という話がある

 

簡単に言えば

 

いつも練習をサボってる人間が“サボるな”と言うのと真面目にやってる人間が“サボるな”と言うのとでは言葉の信用性が違うという話だ。俗に言うお前が言うなというやつである

 

 

「そうだなぁ…鞠莉ねぇは前に出てからのパフォーマンスとウィンクとかのタイミングがバッチリでとてもチャーミングだと思うよ」

 

鞠莉ねぇ達3年生がAqoursの土台とも言っていいくらいに3人のパフォーマンスというのはずば抜けている。鞠莉ねぇは歌上手いし果南ねぇはとにかく動けるしうちの姉ちゃんは世界一美人だし。アイドルの三要素のボーカル・ダンス・ビジュアルをAqoursはこの3人で賄ってるようなものだ

 

「oh…ちゃんとマリーのこと見てくれてたのね…いつもどこか俯瞰的だったから心配してたけど安心した。もうホントにシーちゃん大好き!」ハグ

 

珍しく鞠莉ねぇのこと褒めたから地面と平行になってダイブしてきた鞠莉ねぇの頭蓋骨が肋骨にめり込んでとても痛い。

 

やめて!ぐりぐりしないで!痛いから

 

 

「セクハラで訴えるよ銀」

 

果南ねぇの圧倒的な指の怪力による頬つねり。さっきの訂正して果南ねぇの褒めるとこ力こぶにし…いててて頬取れる!

 

「痛ててなんで俺なんだ…引っ付いたのは鞠莉ねぇなのに」

 

「鞠莉さんも次やったら…ねぇ?」

 

笑顔の姉ちゃんの背中に阿修羅が見える…あの鞠莉ねぇが怯えているよ…

 

「じゃあもう1つ俺がちゃんと観察してるとこ見せるよ」

 

そうして俺がルビィに向き直ると全員がやっぱりかという顔をした。なんでだよいいじゃんルビィのこと観察しても

 

 

「ルビィはほんと世界一可愛い」

 

にっこり笑顔で俺はしっかり隅々まで観察して得た答えを述べる

 

「お兄ちゃんこんな所でそんな事言わないで!恥ずかしいの!」

 

ぷりぷりと怒り出す天使。ぷくっと膨れた頬がかわいいなあ

 

「大丈夫。俺は世界普遍の理を言ってるだけだから」

 

そう俺はあたりまえ体操がごとく自然のことを言っているだけなのだ。右足を出して左足を出すと歩ける。そのことと並んでルビィは世界一可愛いこれが当たり前なのだ

 

「もう…そういうとこなの!」

 

プンプン怒っているルビィもただただ微笑ましい。ここだけマイナスイオン出てそうな感じだもん

 

「重症ずら」

 

「銀ちゃん精神科行く?」

 

「えっと…愛が凄いんだね」

 

なんでそんなに毒吐くの?そんなにおかしなことは言ってないのに…

 

 

「おーいそこの堕天使善子さんや」

 

どこか素っ気なかった善子に声をかける。常日頃から善子はこんな態度だけど今日はそれ以上に冷たい感じだった。調子が悪いのか?

 

「ヨハネよ!そこは正式に撤回して!」

 

あ、調子戻った。よし…少しだけこの流れで褒めるか

 

「ごめんごめん善子は堕天使じゃなくて天使だったな。目鼻立ちが整ってるし足も長くてすらっとしたスレンダーのモデル体型。まさしく神の造形美だもんな天使ヨハネさん」

 

嘘は言っていないので怒られるいわれはないが“だから堕天使だって言ってるでしょ!”とかいうツッコミが入るに違いない。もはやそれ欲しさに言っているまである

 

あ、ありがと…

 

「え?」

 

あまりに小声過ぎて全然聞き取れない。顔が少し赤らんでるしやっぱ調子悪いのか?

 

「なんでもないわい!」

 

やっぱ調子戻ってる…?まあいいか

 

「おや?クラスメイトと接している時のあの礼儀正しい善子はどこいったんだ?」

 

そう俺は知っている…Aqoursと一緒にいる時はこんな感じだがいざ世間に溶け込む時は礼節をわきまえた子になっていることを

 

「いえ…お構いなく…とか言ってたじゃん」

 

「言うなー!」

 

 

「いやー俺は礼儀正しい子好きだけどな〜」

 

礼儀は前提であり全ての基礎それが出来ている人が優れていて手放しで素晴らしいという訳では無いが魅力的に見えるのは間違いない

 

「ふふふありがとうぎんくん…そのこーいはありがたくうけとっておくよ」

 

「千歌には言ってないと思うよ」

 

「つまりこのマリーの事がLoveということね!」

 

「鞠莉ちゃんにも言ってないと思うずら」

 

「常日頃から敬礼してて良かったよ!ありがと銀ちゃん」

 

「敬礼と礼儀は関係ないでしょ。目を覚ましなさい曜」

 

 

 

(礼儀正しいとはすなわち数々のお稽古を習っているこの私…銀からこの言質を取った以上もはや有象無象ですわね)

 

(ルビィだって一応網元の生まれだし…作法もちゃんと知ってる。ルビィは礼儀正しい子だよお兄ちゃん)

 

(礼儀作法は嗜んでるつもりだけど…はしたないとことか見せてないよね?大丈夫だよね?)

 

 

梨子は顔がカチカチだしルビィは頑張ルビィしてて可愛いし

 

なんで姉ちゃんは遠目でほくそ笑んでんだ…?

 

まあいいか

 

「それじゃあ練習始めるぞ!」

 

「いえ…おかまいなく…」

 

「やかましいわ」

 

━━━━━━━━

 

 

 

「函館聖泉女子高等学院は一応お嬢様学校だから」

 

「だから何だよ理亞」

 

「別に他意は無いけど」

 

「そうか…だから聖良は礼儀正しいのか」

 

ブチ

 

あれ?なんか切れたか?

 

「ところで理亞俺を踏もうとしないで。あとそんな格好で踏もうとするとパンツ見えるぞ」

 

ズドンッ

 

 

(ふっ…理亞もまだまだ子供だな…)

 

 

 

 

 



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鹿角理亞 新しい一歩

interlude

 

出会ったばかりの頃は敵だと思ってた。ぬるま湯につかって私たちを茶化す。まるで遊びみたいにへらへら笑いながらはねて踊って…

 

そんなAqoursに私は惹かれた

 

 

そして…

 

 

────

 

‹ごめん。やっぱり無理。ごめん›

 

瞳の中を覗き込むように光る携帯の画面に表示されたメッセージを尻目に私は枕に顔を埋めた。目を瞑った暗闇の世界でそのメッセージはずっとリフレインされ続ける。目を背けたくて瞼を閉じているのにその言葉は私をずっと追い回していた

 

 

その無理という言葉はもう勘弁してという言葉を謝罪に置き換えさも否定していないように見せかけた私の考え方に対する否定の言葉…それにほかならない

 

 

姉様が卒業してsaint snowは終わり

 

また新しいスクールアイドルを始めて私は姉様が届かなかったラブライブの頂点を目指す。それが私が壊してしまった姉様の夢…それを償える唯一の方法だから

 

けど私には友人と呼べる人間は数える程にもいない。ゼロ…何も無い場所からのスタートだ

 

そんな私とは違って姉様は人当たりが良くて美人でスタイルも良くて勉強も運動も作詞も作曲も出来て友達も沢山いた。でもその中で私とスクールアイドルをやってくれてた。その姉様とは対照的に何もかもゼロの私が勧誘活動をしてスクールアイドルを始めようとしたのにこの結果(ザマ)

 

あんなに輝いていた2人のsaint snowでは最強で最高だと思ってたのに

 

 

私一人ではこんなにも弱く…脆い

 

 

ドアが開く時には木の軋む音が聞こえる。でもその生活音は部屋が相当静かでなおかつ音に集中できる環境でないとそれは聞こえない。今の私の部屋はその音が聞こえるほどに静かで皮肉にも視覚を閉じていた私は耳に集中出来ている状態だった

 

 

「理亞起きてますか明日銀がこちらに来るそうですよ」

 

半開きのドアをのぞき込む姉様の弾むような声。枕にキスをするのをやめて見た姉様の顔は銀が来るのが嬉しいのかいつもよりにこにことしていた

 

そんな姉様を尻目にちらりと確認した携帯の画面には<ごめん無理>の言葉を塗り替えるように‹明日そっち行く›と表示されていた。

 

 

「理亞あなた…」

 

私の顔を見た姉様が表情を固くしてこちらを見て目を丸くしていた。それは多分私の顔が見ていられない状態だったから

 

「姉様…私は…」

 

いつも頼っていた存在(ねえさま)に寄りかかりそうになる。でもここで頼ってたら姉様に顔が立たない。だってこれは私のミスで姉様の夢を壊したことに対する贖罪なのだから。

 

「理亞もいつかそういうことが分かる日が来ますよ。でももし本当に分からないというのならもう一度だけ私のところに来なさい。そこで私が教えてあげますから」

 

そういうと姉様は部屋を出て行った。分かるって何…?

 

私には何もわからない。何も無い私には

 

 

──────

 

 

明くる日姉様と銀がにこにこと楽しそうに談笑していた。姉様の顔はとても楽しそうで私の心はちくりと痛む。別に疎外感を感じているわけでもないのにチラチラと目で追ってしまう自分にはとても腹が立つ

 

 

 

 

「理亞って人見知りだよな」

こういうことをふと平気で言うノーデリカシー男。姉様の前だからってへらへらした笑顔なのがほんとムカつく

 

「だから何?」

 

そんなのだから思わず私の口調も強くなる。何故そんなことを面と向かって言われないといけないの?

 

「それじゃあ勧誘活動が出来ないだろ?手を貸そうか?」

 

…銀はこれを心配して言ってくれてるんだろうけどその言葉が今ゼロから頑張っている私の1番言われたくないことでついカチンときてしまう

 

「銀に言われなくたってそれくらい出来る!私は銀に手を貸してなんて言ってない!」

 

私はその場に居られなくなり部屋を飛びだす。だって誰も私の気持ちなんて分かってくれないもん

 

「理亞待て!」「理亞待ちなさい!」

 

銀と姉様の声が遠くに響く。その声からずっと遠くへ逃げるように私は駆け出した。

 

 

 

「聖良悪い。今日泊まっていいか?」

 

「ええどうぞ。きっとあの子には貴方の言葉が必要ですから」

 

(はっ!今の会話は夫婦みたいでしたね!ふふふ)

 

 

……

 

とぼとぼと住宅街を一人で歩いていた。街ゆく人は当然外出するときの格好をしていたりデートなのかとてもオシャレなワンピースを着ていたり中にはスーツを着ている人もいる。そんな色とりどりな世界に部屋着で出てきた私は少し浮いていた。

 

 

でもさっきの人見知りの話は本当に当たってる。銀のこと最初は敵として認識してたから遠慮なく心に土足で踏み込んでいけたけど店員さんや保護者の人とか初対面の人相手に私は全然喋れてない…みんなでご飯に行っても“私これ”とか言っていつも頼むの銀か姉様だし…その程度の会話も私は出来ない

 

 

そんな気持ちからまた逃げるように街中の景色を追い抜いているとふと私が張り出したスクールアイドル募集のポスターが目に入った。もう何が何だかわからない感情が自分の中を渦巻きその紙を引きちぎりたくなる。まるでそれは力が足りない自分を写す鏡のようだから

 

 

少し前まであそこはライブ告知のポスターだったのに…

 

 

「やっぱりいつものルートを走ってたか」

 

後ろからかかる聞きなれた声

 

少しだけ息を乱した銀の呼吸音でそれなりのペースで追いかけて来てくれたことが分かる。

 

 

「銀…」

 

この優しさに胸がキュッと苦しくなる。私は不器用でこの温かさにいつも反抗したり噛み付いたりしていた。それなのに銀は…

 

「明日の朝またここ走るんだろ?トレーニング俺も付き合うよ。そこで話したいことがある」

 

いつもこんな態度

 

 

「別にいいけど話すことなんて何も無い」

 

あれだけの啖呵を切ったのにいまさら相談なんて出来ない。だって恥ずかしいし

 

 

「そんなに怒った顔するなって悪かったから1人でしたい年頃なんだろ?」

 

理解したようで理解していないこの銀の言動。私のこと本気でイヤイヤ期の子供だと思ってるの?

 

「その言い方だと私が駄々こねてる子供みたいでしょ!全然違うから!」

 

 

「おっと怒って逃げようとしても無駄だぜ?俺はまた理亞を追いかけるからな」

 

逃がさないようにと思ったのか銀はすぐ私の横につける。さりげなく車道側を歩いているあたりがもう何とも言い難い

 

「そしたら警察にストーカーされてるって言うから」

 

 

「ごめんそれは勘弁して」

 

自信満々に笑っていた顔が困り顔になる変わりようが面白くて私はまた笑ってしまう

 

 

こういうぬるま湯には偶に入りに来るくらいが丁度いい

 

 

ずっとその場に居続けることは出来ない

 

この肯定や優しさというぬるま湯に浸かり続けたらきっと私の身体は最後冷めきってしまう

 

 

だから…

 

───────

 

早朝

 

日もあがらない時間に目覚めさっと着替えを済ませて私は家を出る。でも今日は私だけじゃない…隣に銀がいる

 

いつものコースを走りながら朝霧の中の沈黙を破るように銀が話しかけてきた

 

 

「人の想いっていうのはさ。なんというか心の奥底にしまったり見ないようにしたりあるいは封じ込めたりまあ色々と忘れる方法っていうのはある。でもその想いは絶対に消えないし無くなるなんてことは無いんだよ。だから聖良と理亞2人で紡いだsaint snowが終わったとしてもその想いは絶対に消えない。理亞に何も無いなんてことは無い。これを伝えたかった」

 

走りながら喋ってるからどこか途切れ途切れの言葉。私の頭の中ではこういうふうに文字化されてるけどその中に何回も何回も息継ぎの音(ブレス)が入ってた

 

「何のために理亞はスクールアイドルをやってるんだ?」

 

「何のため…」

 

自然と足が止まった。別に疲れたわけでもないのにどこか力が抜けたように私の足は動かなくなった。はっと立ち返ると何も無いと思ってた私の胸の中から姉様と過ごした時が溢れ出てくる。ずっと残ってた…私は1人じゃなかった

 

 

「少し思うところがあったんだな。まあそれはいいとして休憩がてらちょっとこれを見てくれ」

 

銀はポケットからスカイブルーの羽根を取り出して私に種も仕掛けもないとばかりに見せつける

 

 

「これを振ってぱんっと手を叩くと…ほら綺麗なピュアホワイトの羽根になった」

 

銀の手によって綺麗だったスカイブルーの羽根は何も染まっていないピュアホワイトの羽根に変わった…悔しいけどちょっと上手いからびっくりしたし目が丸くなった

 

「なんでここで手品なんか…」

 

スカイブルーは姉様の色でピュアホワイトは私のイメージカラーここで手品をやることと私の朝練に付き合うことはなんの関係もないからなにかひとつでも企んでないとそれこそおかしくなる

 

「元々はお前のシスコンをどうにかこうにか矯正してやろうと試行錯誤してた結果なんだけどな。無駄だと思ってたずっとやってたけど意義はここにあった。これも最初の頃はミスりまくって全然出来なくてさ。でも何回も何回もやってようやく出来るようになった。何が言いたいかって言うと人間は努力なしに何かを成し遂げることなんて到底無理なんだよ。だから理亞も無理にジャンプしたり飛び上がろうとしなくてもいいからさ一歩一歩確実に歩みを進めていけばいい。俺は理亞の頑張りをずっと見てるから」

 

 

「な、何を…ぐすっ言っ……てるのか」

 

その微笑みと言葉に目頭が急に熱くなった。なんで…?こらえようとすればするほど目が涙を貯めていく

 

 

 

助けられることをぬるま湯と馬鹿にしてたけど本当は私が無理して熱湯風呂に入ってただけ。そうして無理して入り続けてのぼせしまって私は弱いと子供みたいに怒ってた。何でこんなこと気づかなかったんだろう…私はバカだ…大バカだ

 

 

 

「涙を隠したかったら俺の背中で拭けばいい。女の子の綺麗な涙は想い人以外には見せちゃダメって母さんから聞かされてるからここで見えないように思う存分に感情を出せばいい」

 

駆け寄って抱きつくように銀の背中に頭をくっつけた。目から溢れる涙が全然止まらなくて数分間くらいはずっと抱きついてたような気がする。こんなこと絶対に本人には言わないけど銀が大丈夫かと何回も声をかけてくれたから私は安心できた。

 

 

「グスッ」チーン!

 

「あ、バカ鼻はかむな!」

 

 

 

 

……

 

「銀…ちょっとこっち向いて」

 

飛び上がって抱きつくように頬にチュッっと感謝の気持ち

 

「これは…そのお礼だから勘違いしないでよね!」

 

銀は目を見開いてるけど多分私の顔は今真っ赤だと思う。こんなこと生まれて初めてやったからあまり上手くできない

 

「銀がいっつも姉様のこと美人美人って言うから。その…私だって姉様の妹だし将来美人になるかもしれないでしょ。だから実質的には姉様のだと思っていいから」

 

もう顔も頭もとても熱くて考えがまとまらない。自分で何を言っているのかも分からなくなる

 

「そうやって聖良と比べて卑下するのは理亞の悪い癖だぞ。将来とか関係なく理亞は今だって美人で綺麗だ。それに嘘はない」

 

そう言って銀は私の零れようとしていた涙を拭ってくれた

 

 

…私の心はもう幾度となく誰かに盗まれているはずなのに何故何度も心の鐘を打ち鳴らすのだろう。何故あなたの言葉や笑顔で私の心は踊ってしまうのだろう。はぁ…こんな男に愛されている友達(ルビィ)が羨ましくて仕方ない

 

どうして私は貴方のことを好きになってしまったのだろう

 

 

「ああもう……スキ……バカ」

 

 

 

親愛なる姉様ほんとうにごめんなさい

 

 

姉様より大好きな人が私には出来てしまいました

 

 

 

 

 

 

 



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黒澤銀と差し入れハーレム

松浦果南の日誌

 

聖良って性格よしスタイルよし料理出来る作詞作曲できる運動神経抜群でなおかつ姉キャラって…

 

最強キャラじゃん…

 

姉同盟での接触も検討しなくちゃ…

 

 

──────

 

正真正銘本当の武道鍛錬のために俺は1人富士山麓に篭もっていた。曲の編集などのタスクは全て終わらせたから今はひたすら身体を追い込み続ける日々。正直ルビィ成分欠乏症で死にそう。修行僧にでもなった気分だよ

 

まあ1人って言ったけど今姉ちゃんが来てくれてて夕飯作ってもらってるんだけど…朝昼と簡易的なものしか食べれないからいつも姉ちゃんが作ってる飯を食えることがどれだけ幸せなのか分かる。

 

 

「でも姉ちゃんここまで来るの大変だろ?もう三日連続で来てくれてるじゃんか。そこまでしてくれなくても俺は大丈夫だし何より姉ちゃんに悪い」

 

「俺は大丈夫って食事を即席麺やおにぎりだけで済ませることのどこが大丈夫なんですの?」

 

割烹着姿で味噌スープの鍋をかき混ぜる姉ちゃんにぐうの音も出ない正論でボコボコにされる俺。その姉ちゃんの料理の匂いで情けなく腹も鳴りもはや何も言えない

 

ピンポーン

 

ん?この時間に来客か?こんな辺鄙な山奥に?マジで妖怪の類を疑うレベルだぞ。山姥とかが来たのか…?

 

 

「1人だと栄養バランスが偏ってるかと思って差し入れを持ってきました」

 

何だ聖良と理亞か。まあ恐ろしい化け物が出てこなかっただけでも良いか…ってタイミング的に今はやばい

 

「ルビィから聞いて姉様にちょっと伝えたらどうしてもって聞いてくれなくて…ごめん」

 

なんでおれがここに居るってこと知ってるんだと思えばルビィから情報が漏れてたか…天使相手に隠し事は出来ないとはいえまさか理亞にまで伝わるとは思ってなかったよ

 

“お兄ちゃん…ルビィに何か内緒のことあるの?”

 

なんて涙目で言われたら隠し事は出来ない。というかこれは俺の秘密を暴く時のルビィの常套句みたいなもんだから引っかかった俺が悪い。まあいいやかわいいは正義だし

 

「理亞ったらそんなこと言って1番静岡に来たがってたのはどこの誰ですか。そんなおめかしもしちゃって」

 

確かに理亞も聖良も格好は抜群に決まってる…でもその手に持ってるバカでかい風呂敷の中身を確認したくない。さっきのが俺の幻聴であってほしい

 

「重そうだな聖良俺がそれ持とうか?」

 

「ありがとうございます」

 

聖良の細い腕から風呂敷を受け取ったけど俺の腕が地球に引っ張られるこの感じ…“何か”がかなり詰まってるな

 

「なかなか重いなこれ」

 

「差し入れが入ってますから」

 

なるほど…幻聴ではないと

 

さ、差し入れ?マズくないかそれ?俺は今トレーニング中でそれなりの量を食べてるしそれを姉ちゃんは知ってる…

いやまさかこの2人も知ってるなんてことは無いよな?愛しの妹ルビィがそんなことを伝え忘れているわけがない…2人は絶対に知っている。

 

「どうしたのです銀お客様ですか?」

 

あ、やばい

 

「ダイヤさん!?どうしてここに」

 

姉ちゃんを見てさすがに2人は驚いてる。というか今ので多分家に飯があることを察したな。まあでも頑張ったら入るだろ…うん…俺の胃袋がもってくれれば

 

「えっと……こんにちは」

 

この危機的状況にまるで福音ように響く百合のような美しい声は…

 

「梨子まできたか…」

 

あれれ今日は厄日?おかしいな俺は今美人という美人に囲まれていて誰しもが羨ましがる状況にいるはず。なおかつ全員の料理が超一流という条件において俺が何故か不幸を被っているという現状…わけがわからないよ

 

「銀くんが1人って千歌ちゃんから聞いてたからお弁当作ってきたんだけど…お邪魔だったかな…」

 

梨子がその手に持っているやつ…じ、重箱だと!?俺の胃袋破裂しちゃうんですけど…いや梨子の料理もマジで美味しいんだけどさ。来てくれたのはめちゃくちゃ嬉しいけど今はキラーに見えて仕方ない

 

千歌はアイアンクロー…ルビィはプリン抜きの刑だなこれは

 

 

 

 

 

((((くっ…あわよくばここに泊まるという計画が…))))

──────

 

「何だか空気が重いね」

 

にこりと笑う梨子の笑顔でご飯3杯はいけそう。まあ今は全然冗談じゃないんだけど

 

「とてもこんなには食いきれないんですけど」

 

想像して欲しいちゃぶ台に敷き詰められる色とりどり咲き誇る花畑のような大量の料理の数々を。これが今から俺が食う1人前だと言われるとその言葉の定義を広辞苑で引きたくなってしまう。物凄くこの料理達は美味そうなんだ…だがあまりに多い

 

「理亞と2人で前日から仕込みを頑張りました。もちろん食べてくれますよね?」

 

聖良の笑顔がとても素敵でとても怖い。仕込みか…それは大変だろうな…そんな料理を食べないなんて言ったら悲しむなんてどころじゃないだろう

 

「お世話をするのは家族として当然ですわ。私は銀の文字通りの関係者なのですから」

 

「何それ私たちが無関係みたいじゃない」

 

「理亞!3年生ですよ」

 

「はっきり言わせてもらえばそうですわ。銀のお世話は私ひとりで充分です」

 

この言われようだと俺が赤子にでもなってるんじゃないかと思うわ。お世話って…

 

「で、でも銀は姉じゃなく妹を欲しがってるからその…今なら私がなってあげてもいいよ」

 

え?ほんとに?

 

「間接的に私を否定しないでください理亞」

 

「銀はその辺の馬の骨とも分からない妹など必要ありません!姉こそが銀に必要なのです!」

 

「確かにダイヤさんの言う通りです!」

 

え゛嘘だろ…枯れてたから妹オアシス見つけてちょっと嬉しかったのに

 

「梨子助けて」

 

最後の蜘蛛の糸に俺は縋り付く。

 

「私も5時起きで作ったから食べて欲しいな〜なんて」

 

二秒で千切れたわ。詰んでないこれ?

 

 

…食べるか

 

 

──────

 

リコノリョウリハウマイナー

 

「銀くん美味しい?良かった…」

 

無心だ…ただひたすら無心で食う。それしか活路はない

 

「ほらこちらの肉じゃがもどうぞお食べなさい」

 

ワーネェチャンノニクジャガダイスキ

 

「と、特別だからね!に、兄様ほらあ~ん」

 

アーン ウンオイシイヨ

 

「美味しいと言ってもらえると作ったかいがあるというものですね」

 

ソウダナ セイラニハホントカンシャシテル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おえ…これだけ食ったら明日の晩飯までいらないかもな…

 

 

 

 

──────

閑話 あわよくば泊まろうとした4人の想定

 

黒澤ダイヤ

 

「私がここに泊まっていればいつでも料理を振る舞いますわよ?朝も昼も夜もずっと美味しい手料理を銀は食べられますの。‘姉’として…泊まっていいですわよね?」

 

 

……

 

saint snow

 

「あら?終電がもう終わってしまいました…これはもう誰かのところに泊めてもらうしかありませんね?」

 

「兄様…ダメ?」

 

 

……

 

桜内梨子

 

「夜道を歩くのって何だか怖いよね…私あまりこの辺りって土地勘無くて…その一晩だけだからお願い…」



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黒澤ダイヤのおまじない

珍しくハーレム回


松浦果南の色あせた事件簿

 

【マウストゥーマウス事件】

 

被疑者小原鞠莉・黒澤銀

 

鞠莉はダイヤのおまじないの真似事をしようとして銀の唇に迫った模様。なにやらその時きせーじじつと叫びながら銀を追い回していたとの事。

 

鞠莉は姉同盟違反

 

銀は不順異性交遊

 

 

後で銀は私と1時間ハグの刑だから

 

 

──────

練習前のミーティングはある意味カオスと化していた。事の発端は3年生の昔話だったんだが

 

 

「シーちゃん…んぅ~…」

 

目を閉じてこちらに擦り寄ってくる鞠莉ねぇ。目を閉じてるから見えてないかもしれないけど後ろに鬼いるからね。奈良東大寺南大門の金剛力士像ばりに立ちつくしてるから

 

「鞠莉ねぇ…それはあれだろ?こんな場所でやらないからな」

 

ここで言ってるあれとは姉ちゃんが昔よくやってくれた勇気のでるおまじないのことだ。実態は励ましの言葉と額へのキスなんだけどこれが不思議と体の底から力が湧くのだ

 

「マリーじゃダメなの?ダイヤとシーちゃん昔ずーっとチュッチュしてたのに!」

 

実態を知る3年とルビィ以外の視線が刺さる刺さる

 

「言い方に語弊がありすぎるだろ…大会前とかに勇気のでるおまじないって言ってしてもらってただけだから」

 

あれのおかげで勝てた試合もあったしな。姉ちゃんから勇気をもらって負ける訳にはいかないって。だからみんな誤解って分かってくれお願いだから

 

「ち、ちなみにどんなことしてたか聞いていいわよね?」

 

「あら善子さんそんなに気になるなら私が銀に実践しましょうか?」

 

え?なんで姉ちゃんそんな乗り気なの?試合前は控え室とかで人気なかったけどここ人しかいないじゃん

 

「このマリーでもいいわよ!シーちゃん!」

 

「まあいいか誤解とくためなら仕方ない。でも姉ちゃんのおまじないとかマジで久しぶりだな…なんか緊張する」

 

「(´・ω・`)マリーハ?」

 

食い入るような視線が俺達に降りかかる…そんな身を乗り出して見るものでもないだろこれ

 

「銀…勇気をお出しなさい」チュッ

 

額にそっと触れるぬくもりが過去の同じ瞬間を思い起こさせてくれる…いやこの歳になるとさすがに顔から火を噴きそうなくらい恥ずかしいな…けどどこかこの心の奥底から身体が奮い立つ勇気が溢れ出てくる。小さい頃は本当に姉ちゃんが使う魔法だと思ってたくらいに

 

「やばい超恥ずかしいんだけど」

 

「なっ…Guilty Kiss!?」

 

「こ、こんな場所でだ、だいたんずら…」

 

「ふふっ懐かしいなぁ〜ルビィも昔はお姉ちゃんから勇気をいっぱいもらったもん」

 

お望み通りの実践に善子は口大きく開けながらあたふたとし花丸は目をおおった指の間からチラチラと覗きルビィは懐かしさを噛み締めるようにはにかんでいたかわいい

 

 

「んもぉシーちゃんったらいつもいつも照れちゃってこういうことにホント弱いんだから」

 

「仕方ないだろ…姉ちゃんのおまじないは確かに効果あるような気がするけど何回やられてもこれは照れるんだよ」

 

「みんなの前で良くもこんなこと…銀が照れるのだってダイヤがすごい美人だからでしょ」

 

「銀ちゃんシスコンだもんね…」

 

「ぐぬぬ銀くんってばいっつも美人さんに弱いよね!ダイヤちゃんもそうだし梨子ちゃんが来た時だって…あと聖良さんもだし!わたしだって旅館のお客さんには可愛い可愛いって言われてきたのに!」

 

「なんで曜も千歌も怒ってるんだよ…」

 

「別に全然怒ってないよ。全然」

 

その笑顔は怒ってる笑顔ってやつだ曜

 

「そうよ!あんたのことなんて誰も別に何とも思ってないんだから!」

 

「わたしはおこってるよ銀くん!だってアイドルのマネージャーなら美人さんと接触禁止だもん!銀くんがゆーわくされちゃうし」

 

AqoursのリーダーにAqoursの半数以上のメンツとの接触を禁じられた俺は果たしてどうすればいいのだろう。ルビィは美人を通り越して天使だからいいとしてその他は…?これからレシーバーとかで通信したくちゃダメなのか?

 

「……勇気が出て良かったね。って言っておけばいいのかな?」

 

百合のように美しい声がブリザードフラワーになって俺に襲いかかる。否定されてはいないはずなのに何故か冷たい

 

「このマリーに言ってくれればキッスくらい幾らでもするのに!」

 

「だ、だめ…どうしてそんな羨ま…じゃなくて恥ずかしいことできるずらか…?」

 

大胆な鞠莉ねぇとは違って花丸はそういうことには耐性がないからな…そこが天使といわれる所以なんだけど

 

 

しかし小さい頃マウストゥーマウス事件起こして果南ねぇに連行された鞠莉ねぇはともかく花丸に小さい頃会ってたとしたらマジで土下座しておまじないを頼み込んでたかもしれないな…

 

でもあの時の鞠莉ねぇ既成事実なんて言葉どこで覚えてきてたんだ…?

 

 

「もう分かった!分かったから千歌も曜も勘弁してくれってみんなも機嫌直して!」

 

モチベーションアップのためにやっているミーティングがぐだくだになっちまった…俺は身体から力溢れてるけどみんなは怒りが込み上げてるし…

 

 

「あら?私としては軽いスキンシップ程度のつもりだったのですが…大変な雰囲気になってしまいましたわね」

 

遠くから俺の状況を微笑で眺める姉ちゃんはどこか俯瞰しているような余裕すら感じられた。でも俺の背後って微笑出来る状態だっけ?

 

「姉ちゃんそんなこと言ってずに助けてくれ!」

 

「もう勇気はさずけたでしょう!頑張りなさい!ふふっ」




忙しすぎて感想返せてませんごめんなさい。投稿もなるべく早く出来るよう頑張ります

追記・評価がつくととても嬉しいです


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WBNW vs Believe Again

映画を見たら書きたくなった話ですネタバレ注意

未視聴の方はブラウザバック推奨です


さあ始めましょう 私たちの決勝戦を──────

 

 

──────

 

決勝曲 Believe again

 

 

ずっと渇いていた。トクベツとは何なんだろうとその先に何があるのだろうと。私達は探し続けていたその答えをずっとずっと求めさまよっていた。自らの弱さを理解してひたすら自分と向き合い続けてついにここまでたどり着く事が出来た。ここが今まで見上げてきたラブライブ決勝…輝きを求めるもの達が集う夢の景色。長い間あきらめずに挑み続けたその結果がイマこの場所にある

 

 

LoveLive!

 

 

その文字がバックスクリーンの中を踊っていた。きらきらと瞳を輝かせて見ていた輝く世界。私たちはあのμ'sやA‐RISEと同じ場所に立つことが出来る。言葉にできない感情や胸に込み上げる思いで身体中が震えているのが分かります。

 

 

 

 

 

そしてこのきたるべき決勝の曲にはあの曲を持ってきました。作詞作曲を担当している私が理亞に伝えたいことをありったけ詰め込んだ曲。私自身をそのまま表現したのでいつもの敵や答えそれらを探し続け追い求めたsaint snowのような強い歌詞じゃありません。ですがそれでも前へ進むという意思表示の曲に精一杯仕上げたつもりです。私がsaint snowを離れても‘あなたは一人じゃない’と理亞の新しい場所へ踏み出すときの足がかりになるためにかきあげた文字通りの理亞に渡す私の魂。それはずっと理亞の中に残り続けるものですから

 

 

 

 

もう1つこれは分かりきっていた事ですが決勝の相手はあの優勝候補筆頭のAqours。数ヶ月前は取るに足らない相手だと、いつもの様に遊びでやっているグループだとばかり思っていましたがそれは大きな誤りでした。彼女たちは本気も本気だった。μ'sが追いかけた光をその手で掴もうともがき足掻いて苦しんでその果てにここまで辿り着いた。私達が今まで相手にしてきたスクールアイドルなど取るに足らないまさしく最強の相手といっても過言ではないでしょう。でも私達ならそれを乗り越えていける

 

私と理亞の2人なら

 

その固い決意で心を引き締めると理亞のほうを一瞥します

 

 

「!理亞あなた予選でも手が震えてたのに今も…」

 

ぐっと握りしめた理亞の拳が細やかに震えています。北海道の予選でも指先の震えが止まっていない様子でしたしとても心配です。この舞台でミスなどしようものなら恐らく一生のトラウマとなって刻みこまれるでしょうから

 

「ううん…あの時とは違うの姉様 きっとこれは武者震い。私はAqoursと…ルビィとこの舞台で戦えることが嬉しいの」

 

こちらを向いた理亞の顔は今まで私が見たことの無い顔をしていました。まったく…私の知らない間にそんな顔をする相手を作ってしまったわけですね。その屈託のない笑顔はアイドルらしい眩いばかりの笑顔。いつも仏頂面だった頃から理亞も本当によく成長しましたね

 

Aqoursに出会えて私たちも変わることができた。見果てぬ勝利の果てに何を見て何を望むのか…それを教えてくれたのは紛れもなくAqoursですから。イマこの瞬間を大事にしてその先の未来へつなごうとする考え方や最後の最後には楽しもうという思い。それは勝利に焦がれていた私たちに最も欠けていたものといえるでしょう。楽しい…私は今心の底から奮い立っています

 

最高の好敵手(ライバル)に最高の舞台

 

もっと踊りたい…歌いたい…イマこの瞬間を全力で楽しみたい。Aqoursと競い合うという最高の喜びを…

 

 

私達は絶対にあの輝きを掴まえる!

 

 

「Aqoursに勝ちますよ理亞!」

 

「ここにいる全員に見せてあげるからsaint snowのライブを!」

 

オモイはずっと私達の中に残っていく

 

 

 

──────

 

 

決勝曲 WATER BLUE NEW WORLD

 

 

ずっと悔しかった。あの瞬間…思えばそれがAqoursというグループの原点といっても過言じゃないくらいに東京のライブで突きつけられたゼロという数字を私は忘れられない。それでも悔しくて足掻いて諦められなくて…でも言うだけじゃ叶わなくてずっとずっと動き続けたからこそついにここまで来れた。ここが今まで憧れ続けた輝くセカイ。ゼロから始めるのはとても辛くてそれでも何かを変えたいってその思いで私たちはやってきた。今それはココにある

 

 

決勝

 

 

勝ちを決める…その言葉の重みを私たちは誰よりも分かってる。緊張や恐怖なんて感情はこの9人でいれば分かちあって乗り越えることが出来る。今までそうやって何度も苦難を乗り越えてきた。その苦難もこの舞台で終わりを告げる

 

 

そしてこの場所でその9人のAqoursが終わってしまうということも…

 

 

 

この曲は私たちの輝きそのものだ。この曲は私たちの軌跡そのものだ。この曲は私たちの答えそのものだ。私があって梨子ちゃんがいて曜ちゃんルビィちゃん花丸ちゃん善子ちゃん果南ちゃんダイヤちゃん鞠莉ちゃんがいた。あの9人でたどり着いた果ての果ての曲なんだ。でもその原点にはゼロがあって輝きたいという思いがあった。

 

 

 

 

 

そして私たちの最後に向き合ってくれる相手がイマこの場所に立って居る…決勝の相手はあのsaint snow。私たちが全力でぶつかっても尚届かないかもしれないそんな2人。

 

Aqoursのライブはどちらかと言うと外に力を放出していくタイプだけどあの2人のライブには引力みたいなものがあって視線や光をブラックホールみたいに引きずり込んじゃう力がある。全力でぶつかって何もかもを出し尽くしても勝てるかどうかは本当に分からない…それでもあのsaint snowに私は勝ちたいってそう思ってる

 

 

私たちはsaint snowの2人に出会って変わり始めた。理亞ちゃんに“ラブライブは遊びじゃない!”って言われた時は物凄く腹が立った。私たちも廃校を阻止するっていう目的があって全力でやってたから全然遊びのつもりなんてなかったのにって。でもそれはすぐに違うって分かった。saint snow2人がラブライブにかけてる思いは情熱はパフォーマンスにも現れてて私は一瞬で目を奪われた。ああこれがアイドルなんだって輝きを与えるってこういう事なんだって私はその時思ったんだ。

 

でも今は違う。イマの私たちは遊びでもなくただ全力で頂点を目指してる。楽しみたい…イマこの最高の瞬間を…イマを最高と形容したあのµ’sのように。新しい場所って何だろツギノバショにはどんな世界が広がってるんだろう

 

 

私たちに奇跡は起こせなかった。それでも私たちはここに軌跡を残す。浦の星が存在していたという事実をこの場所に刻み込む!

 

「理亞ちゃん…」

 

「ルビィ…手加減なんてしたら理亞さんに怒られますわよ!」

 

「うん!だから…」

 

 

 

「「「「「「「「「イマを全力で輝こう!」」」」」」」」」

 

 

 

そう私たちの始まりはいつもゼロだった

 

──────

 

 

 

そのLoveLive!決勝は歴史に残る大会として後世に語り継がれた。稀代のライバルがしのぎを削った最高の舞台は人々を魅了し数多の学生をこのセカイに引きずり込んだ。輝きたいと思い続けたAqoursと最高という言葉を求め続けたsaint snowの思いはこの頂点にて結実した

 

 

 

ツギノバショへ

 

 

これは両者が口にした歌詞にほかならない。

 

接続詞やアイドルにありがちな好きや気持ちなどの言葉が歌詞として被ることは何も珍しくはなかった。μ'sやA‐RISEが巻き起こしたスクールアイドルという風の中でその手の歌詞など見ないことの方が珍しかったのだ。この場合でもツギやバショがそれぞれ独立していた場合なら似通っているで終わる話だったのだが…このラブライブ決勝という舞台においてツギノバショという言葉を両者は使った。それならこれは単なる偶然ではなく必然だということになる。

 

 

古い殻を破ってツギノバショへ進むのか

 

 

それともイマを重ねツギノバショへ海を渡るのか

 

 

昨日でもなく明日の通過点でもない‘イマ’というこの瞬間を全力で楽しみながらそれらにはいつか終わりがきてしまうと彼女たちは語ったのだ

 

 

 

 

ミライは決定して両者は形は違えど終わりを迎えた。変えたかったミライを変えられず終わることが確定してしまった少女たちは何を思ったのか。きっとその答えがその次の場所という歌詞に溢れ出たのだろう。アイドルとは輝くものであり決して終わりという言葉は使わない。その先は新しいステップであり彼女たちの言う通り次の場所だったのだ

 

 

 

廃校阻止という足場をなくしたAqoursはそれでも歩み続けた。下を向くことなく前だけを向いてずっとありもしない足場を進み続けた。そして彼女たちは浮いたのだ青色のツバサを持って空へ羽ばたいた

 

 

だからこそ彼女たちはココへ立った

 

 

 

スクールアイドル諸君へ

 

 

輝きとはその先にあるミライへ繋がる架け橋だということを覚えていて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鹿角理亞と孤独と繋がり

鹿角聖良の日誌

 

 

私にだけウイスキーボンボンや甘酒を禁止する令が出されてしまいました。何故でしょうわたしはなにもわるいことをしていないのに

 

 

「でも一口…一口だけなら…」

 

 

──────

 

白のチョークがうっすら残るように雑に消された黒板が今日の日直の性格を如実に表していると言っていい。煩雑な黒板とは違ってきっちり等間隔に机は並べられているはずなのにそこにいるクラスメイト一人一人の距離感というのはどこかチグハグで必ずしもこの光景のような等間隔の関係性である訳では無い

 

 

私の休み時間はいつも1人だ

 

 

カーテンの中や机に突っ伏したその極々狭い空間だけが私の心の拠り所となる。saint snowとしてステージ上では笑顔で賞賛されててもいざこの教室にいると自分のちっぽけさを自覚してしまって胸の奥がきゅっと痛む。誰かと共にいることのぬくもりを知ったからこその寂しさに私は苛まれていたのだった「ねぇねぇ鹿角さん」

 

…誰か知らないけど寝てる(ふり)のに話しかけてくるなんて…いったい何の用?…って瞼が少し落ちてるせいか相手の子を少し睨みつける感じになってしまう。仏頂面ではダメだとあれだけ鏡の前で注意したはずなのに

 

「ごめんねちょっと聞きたいんだけど…この間一緒に歩いてたあのかっこいい人って鹿角さんの…彼氏?」

 

その瞬間は心臓が止まったかと思った

 

 

み、見られてたの!?

 

 

二人きりだからってものすごく楽しみにしてて服も自分でかわいいと思うやつを選んで買いに行って朝一で美容院にも行ってきたところを見られた!?姉様とじゃんけんして勝ちとった銀との買い出しのところをクラスメイトに見られちゃったの!?は、恥ずかしい…顔がすごく熱くなっちゃってるし

 

…銀は彼氏じゃないけどここでそう言えばこの子は銀のことかっこいいって言ってたし間違いなく紹介してくれって言ってくる…しかも銀みたいな人連れてて彼氏じゃないってなったらなんか恥ずかしいし…いっそ仲のいい姉様の彼氏ってことにしたら…いやそれならその彼氏と何してるんだってなるし…実は片想いの相手…です。ってそんなの恥ずかしくて言えるわけないじゃない「鹿角さん?」

 

銀…ごめん

 

「う、うん彼氏」

 

うぅ…つい見栄を張っちゃった。教室でちっぽけな存在だった自分が唯一自慢出来るところを見つけてしまった。それに縋ってしまう自分の弱さにやるせない気持ちになる。

 

「ねぇねぇそれならさ一目でいいから会わせてくれない?」

 

拝み倒すようにしてこっち見てるけどまさか自分の言ってる人間が静岡の田舎の人間だとは思ってないだろうからそんなことが言えちゃうんだろう。いやほんと沼津って遠いし…でもこの子を見た感じとても可愛いから銀に会わせたくない。けど怪しまれるのもやだな…

 

「今度の休みなら別にいいけど」

 

ほんとごめんね銀…

 

「ほんと!?ありがとう鹿角さん」

 

その子は仏頂面の私とは正反対のにっこりとした笑顔で席へ帰って行った。むむむ徹底的にマークしておかなくては…

 

あ、でもクラスメイトと休日に約束したのって初めてかも…

 

 

……

 

………

 

 

[ほんとに急で悪いんだけど急用が出来たから次の休みにこっちに来て欲しい]

 

[俺も用があったから逆に助かる 聖良にも話通しておいてくれ]

 

 

さて今から掃除をしなくちゃいけないと思ったその時ふと目に入ったのは…いつかの時に撮った二人だけのツーショット。私の笑顔はすこし強ばっていて唇を少し噛むようにして笑っちゃってるけど隣の銀の顔は楽しさがひしひしと伝わるような表情をしてる。私はその写真を隠すようにして‘3人で撮った’写真をその前に入れ込んだ

 

 

ネエサマギンガツギノヤスミニコッチクルッテ

 

エッホントデスカ デハイロイロトジュンビシナクテハ

 

──────

 

来て欲しくもなかった次の休みがとうとう来てしまった。

 

 

本当はあの子に会わせるためだけど銀には買い出しと言って外へ出てきてもらった。2人でこうして喋りながらこの函館の街を歩くと不思議な気持ちになる。足元がふわふわしてまるで足元の床が無くなっていくみたいな謎の浮遊感に襲われる。でもそれはどこか心地いい

 

たまたま私とブッキングした銀の用事とはAqoursのお泊まり会故に家からつまみ出されるというものだった。なんでも肌色率が上がるからって理由で男は家から全員出されたらしい。最初はお父さんと2人で温泉旅館にでも行くつもりだったらしいけどそこに私からの連絡が来たって訳で…

 

「俺の用事は実質済んだけど理亞の用ってそういや何だ?」

 

まあ気になるよね…こんなところで今から私の彼氏になってくださいとは言いにくいし…素直に言うしかない

 

「実は…見栄張って銀のこと彼氏って言っちゃったから…その…ごめん」

 

あまりの申し訳なさにまともに目を見ることすら出来ずにいた。伏し目がちに謝る私を見て銀は何かを察したように軽くふっ と息を吐いた

 

「なるほど分かった。要はふりをすればいいんだろ?任せとけって慣れてるから適当に合わせられる」

 

とりあえず彼氏を演じてくれる件は了承してくれて良かったけど慣れてるという言葉だけが喉の奥をすっと通らない…慣れてるって何?

 

「鹿角さーん!」

 

そんなことを考えてると遠くから例の声が響いてくる…うぅホントは会わせたくなかった…このまま2人で函館の街を買い出ししながら回りたかったのに。その影が永遠に近づいて来ないで欲しいと心のどこがでは考えてたのかもしれない

 

うわ…近づいてきて分かったけど服装がすごく可愛い…タイトなスキニーにピタッとした白のトップスは一見シンプルだけどそれは本当に可愛い子しか出来ない着こなしだと思う。こんな店の制服を隠しただけの私の格好よりも全然…

 

「一応私の彼氏の銀」

 

そんな気分を振り切りたくて私から口火を切った。でもなんか自分で言っててちょっと恥ずかしくなる。いつもと違ってクラスメイトの前だから少しぶっきらぼうなの自分でもわかるし…ちらりとこちらを見た当の銀はため息をついて仕方ないみたいな感じで口を開いた

 

「初めまして理亞の彼氏の黒澤銀です」

 

うわぁ…銀のこういうところも知ってるけどやっぱりあの黒澤ダイヤの弟だけあってお辞儀の所作から言葉遣いまで気持ち悪いくらいに完璧だ。いつも思うけど初見詐欺だよこんなの…普段はルビィ大好きのシスコンのくせに。

 

「すごい…ジェントルマンみたいな人ですね…身長高いしカッコイイしこんな人が彼氏なんて鹿角さん羨ましいな…」

 

っていつの間にか手を握ってベタベタしてる…人の彼氏をなんだと思って…っていや別に違うんだけどさ。銀はにこにこして応対してるけど多分あの笑い方は少し困ってるよね

 

「ほらそんなに手を握ってないでいいでしょ」

 

「あ、ごめんね…かっこいいって言っても鹿角さんの彼氏だもんね」

 

そう今は…今だけは私だけの彼氏なんだから女の子と仲良くしてたら少しくらい嫉妬してもいいはず。それでなくても銀の周りには女の子が多いのに

 

「銀さんは鹿角さんのどこに惹かれたんですか?」

 

まさかのし、下の名前で呼ぶ…けどその質問はしてくれて正直なところ嬉しい。私もどんなとこを見られてるのかって気になるし…

 

「そうだな…まず友達のことを大切に思える人だし心が優しいから人にも優しい。もちろん普段の行動も可愛いんだけどさ。ただなんというか守りたくなったって言うのかな…いつも孤独に頑張り続けてる理亞を見てたらそんな風に思ったんだよ」

 

…告白まがいのその言葉にあの子は少し驚いてたみたいだけど私はおもわず俯いてしまう。でもあの子から視線だけは外さない…ってその胸くっそぅ…顔とコーデばかり注目してたけど私と同じ1年のくせに膨らんでるその双丘が憎い…花丸にしろどうしてこう天は二物も三物を与えるのか。しかも胸元には大きく光るペンダントつけてるし…男の子が動くものと光るものに目が動きやすいことを知っていてそれを付けてるのかと小一時間問いただしたい。ぐぬぬ私だってあと1年くらい経てばあの子みたいになるはずなのに

 

「…すごいですね。それは鹿角さんのことずっと見てて一緒に過ごしてたからこその言葉なんでしょう。私ってばクラスメイトなのに鹿角さんのことスクールアイドルをやってるってこと以外何も知らないや。」

 

「理亞の魅力なら1時間ほどなら余裕で語れるぞ。実はシス…「もういいから!」

 

これ以上銀に喋らせると余計なことまで喋られちゃう。なんで姉様に憧れを抱いているという話をばらされないといけないの。でもその恐れからの遮りは目の前のクラスメイトより遠く離れた銀との方が濃い時間を過ごしてることの証明になってしまっていた。

 

「何だか相手は彼氏さんなのに妬けちゃいますね。多分そっちが本当の鹿角さんなのに私はいつも孤高でいるところしか知らなかった」

 

「鹿角さん…いえ理亞ちゃん私と友達になってくれませんか?」

 

 

こちらに向き直った彼女から差し出されたその右手…初めての体験に私はなかなか手が出せないでいた。そんな時にバンッと背中を押してくれたのは行ってこいと言って笑った銀だった。

 

 

 

 

私はあなたのことをもっと知りたい

 

 

──────

 

 

「ごめん…こんなことに付き合わせて…私が見栄張って変な嘘ついたから」

 

 

「いいってこういうこと慣れてるし人間だって見栄を張ることも大事だからな」

 

「でも理亞ただ見栄を張るだけじゃダメだぞ。それだと中身のない空っぽの人間になるからな。そうならないためにその張った見栄に自分を合わせていかないとな」

 

 

「でもそれって…」

 

 

「ほら早く帰ろうぜ理亞。聖良の肉じゃがが俺を待ってる」

 

 

 

今日の当番私なんだけどな…

 

 

 

 



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東京とトウドウ(韻)

黒澤銀の日誌

 

 

もうやだ東京行きたくない。このツバサから送られてきた新幹線のチケットを今すぐ破り捨てたい。というかなんで俺の住所知ってんの?エスパーかなにか?

 

 

「おら…東京さ行くだ…」

 

 

──────

 

 

また光が見えた。自ら輝くことの出来る限られたものだけが持つ特別な光。人々を魅了し熱狂させ盲目にさせるほどの圧倒的な光を俺はただ抜け殻のように見つめていた…

 

…いやそれにしてもなんか今回光が強くないか?投光器がスタンバってるって言われても違和感ないくらいだぞ?なんてことを考えてると見えてくる“二つの影”

 

「ふふっハロー銀くん。そんなにこの愛しの私に会いたくて遠路遥々東京まで来てくれたの?」

 

「何言ってんだ?頭でお茶でも沸かしてんのかツバサ」

 

もしくはクレイジーソルトが前髪のない頭いっぱいに詰まってるのかな?ほんといつもながらわけがわからないよこのひと

 

「あら?開幕早々お褒めの言葉ありがと」

 

「私に会いたくてとかてめぇがチケット送ったんだろうが!‘分かってるよね’との手紙付きでな!」

 

「そんなに会うのが嬉しいって言われるとスクールアイドルの頂点にたった甲斐がある気がしてすごく冥利に尽きるわ」

 

うんスルースキルが高すぎて俺の言葉聞き取れてないんじゃないかって思っちゃうよ。もしくは俺の言語とツバサが喋ってる言語が似て非なるものなのか…?大丈夫だよな俺ちゃんと標準語の日本語で喋れてるよな?俺の言葉が実は方言で聞き取れないとかないよな?

 

「凸凹コンビとはよく言ったものだが二人ともすごく仲がいいんだね。そうかツバサが最近えらく楽しそうなのは君が…初めましてだね黒澤銀くん。私の名前は統堂英玲奈というものだ。君と親睦を深めたいと思ってるから他の2人同様下の名前呼んでくれて構わない…学校ではA‐RISEというスクールアイドルをやってるんだ。知っているかな?」

 

うわ何だこの美人…となりのちんちくりんが霞むほどのオーラがあるぞ。ちょっと言葉遣いがカチカチだけど

 

「その節は…あんじゅとツバサにはお世話…あんじゅにはとても世話になりました。俺も銀でいいですからこれからよろしくお願いします」

 

「そうそう銀は私が世話したからね!」

 

あ、ノーコメントでお願いします。この人頭のネジが数本外れてるんで

 

「えっと…英玲奈さんでいいのかな」

 

「英玲奈と呼び捨てでいいし畏まらなくても敬語じゃなくていいから」

 

なんというかこの人から壮年の余裕が言葉の節々から感じられるな…この人が実は着ぐるみでその中に剣道九段の先生が入ってるって言われても違和感がないくらいだ。おもわず唸ってしまう

 

「それはどうも…この方がいいかな」

 

「では銀あらためてよろしく」

 

英玲奈からそっと差し出された白く細い右手をぎゅっと握りしめる。あ、なんだろこの気持ち…心の底から熱く深く感じてしみじみとした気持ちになる。今まで会ってきた人の中で英玲奈がまともな人すぎて泣きそうだ俺

 

 

 

「あんじゅとツバサは相談に乗ったんだって?私もなにか出来るなら手伝うが」

 

「ふふっ今回は違うの!私が呼びたしたのはそれじゃなくてその逆…英玲奈は女性ファンに人気があるけど男性のファン人気に伸び悩んでるって所をこの銀に逆相談してもらうの」

 

「「は?」」

 

は?訳が分からん

 

「それじゃお二人で仲良くね!」

 

そう言うとツバサは帽子を目深に被ってそのまま光の中へ消えてしまった。あの野郎この場を台風のように荒らすだけ荒らして帰りやがった…

 

「まったくツバサには困ったものだね…まあいいあとの話は別の場所でしようか。とりあえず人目のつかないところに行こう。ここでは少し目立ってしまうからね」

 

所作がいちいちかっこいいなこの人。会って間もないのにもう今まで会った人中で1番に好きだわ

 

──────

 

木目調のフローリングとアンティークなイスやテーブルが落ち着いた雰囲気を醸し出している。数々の豆を挽いた香りが漂うカフェにゆったりと座って話すことにした

 

 

「やばいなあいつ無茶苦茶だ」

 

ツバサがああいう人間だと‘分かってる’のにこの始末。もうやだ東京…おうち帰りたい

 

「全国頂点のスクールアイドルを纏めるにはあれくらいの腕力がなくては困るがそれにしてもえらく強引だとは思うよ。ツバサがすまないねいつもいつも」

 

 

その言葉だけで救われたような気がしてしまう。そしてこの笑顔と言動…この人は聖女…?この世に降り立った聖女か?かの英雄ジル・ド・レが救国の聖女ジャンヌダルクを見た時はこんな感じだったのかもしれない。

 

「…まあ何だかんだ言ってるけどツバサには実際世話になったしな。あの腕力によって俺は助けられたと言っても過言じゃない」

 

あと図星をつくのが得意だしそれが結果的に人を救うというのがいかにもツバサの理論らしい。まあ腹はたつけど

 

「もしそうならいつか私もお世話しなくてはね」

 

「いやいやこれ以上A‐RISEに借りを作ると破産するから」

 

「私は甘えてもらっても全然構わないんだが…」

 

英玲奈と話していて抱いたこの感じ…確かに自分の全てを投げ出して支えたくなる気持ちも分からんでもない。いやなるほどこれがアイドルファンの気持ちというやつか。しかしこれがもしそれだというなら少し解せない点があるな…男の俺が英玲奈に抱いてるこの感情がアイドルファンと同義であるなら英玲奈には男ファンがそれなりについているはずなんだが…。

 

現実はあんじゅに多く男のファンがついてる…あんじゅは策略家だし色々その手の策は練ってそうではあるけどさ。なんで男諸君はこの聖人を応援しないんだろう。女子の方がこの人のありがたみ的なのを理解してるとかか?

 

 

「いや何だかんだ俺はその余裕のある雰囲気が出す魅力をもっといろんなファンに知ってもらうべきだと思うけどな。なんというか全てを包み込む包容力的なやつだよ」

 

俺が今受けているこの感動を世界中の人にわかって欲しい…この人はすごいぞ物凄くまともで理解も深い

 

「包容力?どういうことだい?」

 

美人が顎に手を当てて首をこてっとするとすごく映えるからやめていただきたい。すごく俺に効くから

 

俺は英玲奈から目を逸らすようにして策をめぐらせる

 

「今の時代はネット社会だからな…割と個人イベントでやったことでも広まったりするしそういう感じを一度やってみるってのもありだと思う」

 

実際俺なら通いつめるわ。癖のある人に囲まれすぎてまともな人の存在が尊く見えてしまうし…まあこれ以上俺の周りに癖のある人間は増えないと思うけどね!姉トリオと千歌と曜で俺はおなかいっぱいだから期待してるぞ高校の俺!

 

「どれどれこういう感じかな」

 

そういいながら英玲奈はこちらに身を乗り出して頭に手をポンッとおいて頭を撫でてくる。「沢山苦労しただろう?よく頑張ったねえらいえらい」

 

…泣きそう。というか泣くわ

 

ダメだ…この人の周りがキラキラしててあまりに神々しく見えてしまう。聖女を通り越して慈しみの女神へとランクアップしてるよ。というかA‐RISEって悪魔と天使と女神が混在してるグループだったのか…

 

「うんその感じなら絶対男のファン増えるわ。ここで1人増えたし」

 

「ほんとかい?それじゃ今度のイベントでやってみるとするよ」

 

 

その相談が終わってからしていたのは他愛もない話だがこんなにも心が軽くなるものかと俺は思っていた。ぶっちゃけこの人にお金出してと言われたらいくらでも出せる自信がある。美人でまともってすごいアドバンテージなんだなって…連絡先交換したけどこの人の着メロ ゴスペルとかにしようかな

 

 

──────

 

お渡し会

 

 

「英玲奈さんかっこいいです!えっと…頭撫でで貰えませんか?」

 

「これはこれは可愛いお嬢さんだね。それいい子いい子」

 

 

「このあやし方はママ…?」

 

 

 

 

「あ、あのは、励ましてください!」

 

 

「ふふっしっかりやらないとメッだぞ」

 

 

「あ、メッってされたいですはい」

 

 

 

 

──────

A‐RISEファンクラブ 応援メッセージ欄

 

【統堂英玲奈がママな件】

 

 

ママ…?

 

 

確かにあの余裕感は圧倒的な母性を感じさせてくれた

 

 

あ、オギャりました

 

 

エレナママやんけ!

 

 

年会費ごときで赤ちゃんヅラするな

 

 

親の顔より見た

 

 

↑もっと親の顔見ろ

 

 

↑統堂英玲奈が母親定期



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【バレンタイン】saint snow ver.

運営さん後生ですからsaint snowにバレンタインボイスを追加してくださいお願いします

 

 

──────

鹿角聖良ver

 

 

「あ、あの良かったらでいいのですがこのチョコレートを受け取っていただけませんか?その…私も男の子にこういったことをするのは初めてで上手くできているかは分からないのですが…いつも仲良くしていただいているお礼や日頃の感謝の気持ちをこの袋の中精一杯に詰め込みましたから…思いの詰まったチョコレートはどんなに値段の張るものよりもきっと美味しいと思うんです。」

 

 

「ふと思えばあなたとこうして出会うことができて私は世界が広がった気がします」

 

 

「最高の仲間でありライバルとなったAqoursと出会えたこと…伝えたかった想いについて理亞と真剣に向き合えたこと…そしてスクールアイドルの行き着く先についても。正直に言って理亞と私ならどこへでも行ける自信がありました。でもイマになってみるとそれは違うと気づいたんです。だってあなたが共にいなければきっとこの素晴らしい世界にはあと一歩届いていなかったと思うんです。あなたがいて良かった。あなたと出会えて良かった。あなたが私たちと並んで歩いてくれて本当によかった。だからこそ私はあなたのことをこんなにも好きになってしまったんですから。それが私の精一杯の気持ちです!」

 

 

 

 

 

──────

鹿角理亞ver

 

 

「ねぇちょっとこれバレンタインのチョコレートだから…って何そのニヤついた顔は…可愛いラッピングとかしてるけどお前にはお菓子作りなんて出来ないと思ってたって…私だって家が茶房なんだからこのくらいのお菓子程度なら簡単に出来る。これでも一応趣味はお菓子作ることだし…あとラッピングはお店のやつ参考にしただけだから別に凝ってるわけでもない。別にそんなに馬鹿にするんだったらもうこれあげなくてもいいんだけど?」

 

「いやそんな死にそうな顔してしゅんとしなくても…ちゃんとこれはあなたにあげるから」

 

「…って受け取った瞬間満面の笑みになるならあんな魂の抜けたような顔しないでよね。私だって一応勇気を振り絞ってこのチョコを渡してるわけだしその…渡す相手だって1人だけだし…言っとくけどそれは友チョコとか姉様にあげる親愛のチョコとかじゃなくて特別な人にあげる特別なチョコレートなんだからね!いい?1回しか言わないから死んでも聞きなさいよ…わ、私はあなたのことがだ、大好きって何言わせんのよ!バカ!」



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渡辺曜 幼き頃の約束は小指から薬指へ

──────

 

 

彼と将来の指切りを交わしたのはおそらく私だけではない。それを千歌ちゃんだってルビィちゃんだってダイヤちゃんだって果南ちゃんだって鞠莉ちゃんだって交わしたはずだ。

 

 

それを交わしたのはお世辞にも広いとは言えないあの砂浜かもしれない。藺草の匂いに漂う夏の月夜の縁側かもしれない。あるいは内浦の海の中だったりホテルの頂上だったかもしれない

 

 

私が交わした小指の約束は…

 

 

 

──────

 

 

痛い──────くるぶしの骨がハンマーで叩かれてるかのように響く

 

準決勝で負ける訳にはいかないと投げを無理やり堪えたせいで左足をくじいて控え室までの道すらまともに歩けもしていない。ズキズキと骨を蝕むその痛みはここまで来たという達成感を打ち砕くにはあまりにも的確すぎるものだった

 

 

「先輩…そんな腫れた足じゃ決勝はもう…無理です」

 

付き添ってくれている後輩のマネージャーは伏し目がちにそんなことを言った。長い付き合いだからこそ‘無理’と言って俺に曖昧な答えを出さなかった。足が腫れてますけどいけますか?なんてことを言えば俺は確実にいけると答えると分かっているからだ。全く…人に自分の性格を知られるというのも良いことばかりじゃないな

 

「…テーピングをぐるぐるに巻いてくれないか」

 

知らなかったかもしれないけど今の俺は無理なんて答えを出されても引かないからな。なんせ大切な人が観客席に見に来てるのに今更ここにきて引けるわけがない。男女がなんだと言われるこの時代だが敢えて言おう‘男には引けない瞬間’ってのがある。それが今だ

「先輩!?そんな腫れた足で戦ったら選手としての生命が終わっちゃうかもしれないんですよ!?それにまだ剣道だって空手だってあるのに…今からチームドクターにでも見てもらった方が…」

 

いやまあ確かにその通りだけど…ってバカ!こいつ携帯出して連絡しようとしてやがる!でも俺動けないよ!普段の俺ならそこまでダッシュしてその携帯を取り上げるのに!今はただジタバタしか出来ない自分が憎い…

 

「そういえば一つだけ言うこと聞く権利ってのが昔あったよな…俺まだ使ってなかったけど」

 

「そんな昔の話…ってまさか!」

 

何故今そんな話をするんだと困り顔でため息をついたその時俺が何を言おうとしたのか察して目を見開いて驚いたように携帯を落とす

 

「それじゃあ今使おう。この足は俺とお前だけの…」

 

「あと私でしょ。銀ちゃん」

 

後ろからかかる声…現状がめんどくさい事になってしまうからこっちには来て欲しくなかったんだがな。お前はスタンド席の方にずっといるんじゃなかったのか

 

「曜なんでここにいるんだ」

 

学生時代から少し伸びたアッシュの髪が肩をさらさらと撫でている光景が年月を感じさせてくれる。けどそれなりの時間が経った今でもこの距離感が遠くなったという感覚は全くといっていいほどにない

 

「ずっと見てたのに違和感に気づかないなんてことあるわけないじゃん。左足どうしたの?」

 

「心配するな蚊に刺されただけだ」

 

曜に知られると色々とめんどくさいし軽く誤魔化しとくか…

 

「くじいたんだね…そりゃあ痛いはずだよ」

 

なんで分かるんだ?こいつまさかエスパーなのか?

 

「そんななんで分かるんだって顔したって…銀ちゃん怪我した時だいたいそう言うし…捻挫したら蚊に刺されたって言って打撲ならかすり傷って言うでしょ」

 

…やっぱり人に自分の性格を知られることに良いことは無いな。ダメだわ自分の手札を見られるようなもんだし

 

「そう言えばそうだったな。じゃあ皮膚がめくれたってことにしといてくれ」

 

「いや…じゃあってもう無理だから。くじいてるんでしょ?」

 

「確かにそうだ。知られてしまっては仕方ない…けどなんと言われようが俺は引かないがな!」

 

そうたとえ天地がひっくり返ろうとも俺は引かないことに決めたんだ。1度決めた男に二言はない

 

「そんな子供みたいなこと言われても…」

 

「そうですよ!‘彼女’さんからも先輩に言ってやってください!」

 

 

「っそんなでかい声で曜のことを彼女とか言うんじゃあない!」

 

恥ずかしさのあまり大きい声を出してしまった…びっくりしたのか2人が目を丸くしてこっち見てるし…

 

 

さっき言われたことはまあ本当だ。小さい頃の約束の通り

 

五輪の選手になって隣に並んだらその時はずっと共に歩いて欲しいという曜の願いを叶えたのだ。もちろんその願いがあるからというだけじゃなくて曜のすべてが魅力的ってことが一番なんだけどな

 

「別にいいじゃないですかオリンピック選手同士のビッグカップルとかテレビで言われてましたし」

 

「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ」

 

「その話は今は置いといて銀ちゃん次の試合出るんでしょ?それまでアイシングしてたら?」

 

確かに俺の決勝の相手が決まるまでまだそれなりに時間はあるし氷水に足突っ込んどくレベルでアイシングすれば多少はマシになるだろう

 

「ちょっ…先輩はもう無理なんですって!歩けないのにどうやって技をかけたりするんですか」

 

「そりゃ気合いだろ」

 

「ダメだこの人…根本からおかしいんだ…」

 

なんてこと言うんだ…まるで俺がおかしいかのように言いやがる。ただ足が歩けないくらい捻挫して痛いけど柔道するってだけなのに

 

「もしそれで勝ったらご・ほ・う・びあげるからね!」

 

応援してくれていたのか少しだけ掠れていた声でそっと耳元にそういうことを囁かれると物凄くくすぐったい

 

「ご褒美ってなんだ?ルビィのハグか?」

 

「銀ちゃん無事に負けてくれていいよ」

 

半分くらい冗談で言ったのに曜は心臓が止まるほどの侮蔑の目でこちらを見てスタンドに帰ってしまった…いやさすがに分かってるけどね。冗談だよ冗談

 

「先輩ってホントそういうとこありますよね…」

 

間違えた侮蔑の目二つあったわ…

 

──────

 

あれから10数分アイシングをした後足にテーピングをぐるぐる巻きにしてこの決戦の舞台へ上がろうとしている。正直右に重心をかけていないと激痛で立ってもいられない。恐らくドクターには今のでバレたな…顔でわかるし。

 

決勝の相手はイタリアのドローレという選手…背丈はあまり変わらないが左足が使えない分力負けだけは勘弁しなくてはならない

 

 

 

「ジャパニーズシルバースター…ワールドでもアナタは有名ですよ。そんなアナタと闘えるのは光栄ですがまさか怪我をしているとは…名前を馬鹿にするのは失礼ですがそれでもアナタには文字通りシルバーメダルを取ってもらいましょう…」

 

「俺は怪我なんてしてねぇしなんなら投げられた腰でも痛めねぇようにクッションでもつけてたらどうだ間抜け」

 

「二人とも私語を慎んで 礼」

 

 

……

 

 

その審判の声と礼で試合は始まったがそれはまさに蹂躙と言う言葉が相応しいものだった。崩しを入れられるだけで足に響くので簡単に投げられてしまうのだ。一本はとられなかったが技ありをすでに取られてしまっている…正直絶体絶命だ

 

「黒澤 もう棄権した方がいい」

 

「そんな事言われても最後のクォーターが残ってるでしょう」

 

 

ドクターが言っても俺が聞かないのでついに監督にすら降りろと言われるようになった。それでも引きたくない俺はそう言い放って舞台へと上がる

 

 

しかしいくら騒がしいこの競技場と言えど静かになる瞬間というのが幾ばくか存在する。例えばバレーのサーブ前とか開始や終わりの礼の最中とかは割と静かになったりする

 

 

そうそれはまさに今最終クォーター開始の礼をしようとしたその時だった

 

 

「がんばれ!」

 

 

観客や日本の応援団はともかく相手国の応援団やテレビカメラですらその根元に目線を送った。こんな誰も声を出さない時間に声を出すなんて普通は恥ずかしくて出来ないだろう。だからこそ誰もが驚いた。そして…だからこそ俺に届いた

 

「引けない瞬間か…」

 

ふと天を仰いだ。目をくらませるほどの眩しい照明がこの競技場を照らしている。思えばどこか俺は終わりの美学的なものでケガをおして試合に出て華々しく散ることが出来ればいいそんな考えで満足していたのかもしれない。それが今となっては大切な人が一人でも応援してくれてる負けられない試合に変わった。だとするなら俺がすべきは散ることじゃなく勝つことだ

 

「礼」

 

技ありを取られてる今相手は優勢勝ちを狙いに来るだろう。逆に俺には一本しかない。けどなんだろうかこの逆境と痛みの中はずなのに不思議と身体が軽いし相手の動きが手に取るように見える。どこか焦らなくてはいけない状態なのに俺の頭はずっと俯瞰してみているように冷静で何かを待っている

 

 

ひねり一本背負いのその瞬間を

 

 

相手は痺れを切らしたのか袖を引き崩しに入る。俺はそれを待っていたとばかりに相手の崩しを逆に利用して腕をとり冷静に投げに入る。その間はわずか数秒程だったが俺には悠久のように感じられた。バタンッとドローレの背中が床に着いた音がなり審判が高々と一本と言ったその瞬間

 

 

彼女と目が合った

 

 

ありがとう 曜のおかげだ

 

 

 

……

 

 

………

 

「黒澤銀選手金メダル獲得おめでとうございます。さてこの感動誰にまず伝えたいですか」

 

 

「まあここは家族と答えたいところ何ですが…そうは問屋が卸さないでしょう」

 

 

「そうですね…既に観客の方々はもう色めきだってますからね」

 

「いやここで逆に家族というのもいいかもしれません」

 

「ほう…というのは?」

 

 

マイクを少し離し大きく息を吸いこんだ。俺の中に勇気を詰め込むように

 

 

「曜!俺と家族になってくれ!!」

 

 

 

俺のその言葉に観客の歓声と拍手が湧き、大スクリーンにはスタンドにいた曜が抜かれていた。用意のいい報道陣がそばで待機していたのか素早く曜にマイクが手渡されている。けっ用意のいいこった。こいつら俺が曜って言うことわかってやがったな…それならほんとに家族に報告してやればよかったよ。でもまあここにいるのは曜のおかげだしいいけどさ

 

 

 

 

「は、はひ、私で良ければお願いしますっ」

 

 

 

曜のその言葉に競技場には金メダルの時以上の拍手と歓声が祝福の賛辞と共に鳴り響いた

 

 




書き終わったあととりあえず苦いレモンかじりました


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女子2年会わざれば刮目して見よ

黒澤ルビィの日誌

 

ついつい冷たい態度をとっちゃうけど本当はお兄ちゃんの大きな手で頭を撫でられるととても安心する。みんなはいざ離れたりすると大切なものが分かるっていうけど…

 

 

 

──────

 

やばい…部室にバズーカ持った金髪の不審者が現れたんだけど…

 

まあ例のごとく鞠莉ねぇなんですけどね。しかし鴨が葱を背負ってくるとはよく言うけどまさか鞠莉ねぇがバズーカを背負ってくるとは思わないだろ…でも今現実として存在している以上それを認知しなくてはならない。

 

はぁ…鴨が葱を背負ってくるっていうのはうまいことが重なって都合がいい的なニュアンスだけど鞠莉ねぇがバズーカを背負ってくるは絶対面倒事が重なって都合が悪くなるって意味だろうからな…

 

 

「ねえねえみんなこれ見て!2年バズーカって言うんだけど…実はこれで人をうつと2年後の姿と入れ替わるってシロモノなの!すごいでしょ!これにウン億いれるくらいには目を引かれたからついオークションで奮発しちゃった」

 

「これだから金持ちは…」

 

「入れ替わりなんてすごい未来ずら〜まるで○の名はみたいずら」

 

「マルの名はって何なの花丸ちゃん?」

 

「そこはずら丸が著作権的に配慮したんだからツッこまなくてもいいでしょ!」

 

「おーすごいね!わたしも未来の自分みたいからうってほしい!」

 

「いやさっきの話なら千歌に打っても未来の自分と入れ替わるだけだろ…」

 

「あ、そっかぁえへへそうだった」

 

「でもそんなもの学校に持ってきていいのかな…?」

 

「鞠莉ちゃんが理事長だしいいんじゃない」

 

「そうだとしたらなんという職権乱用ですの…」

 

しかしこんなおもちゃみたいなのにウン億って…なんでもとあるマフィアの資金難でこういった謎のバズーカが闇オークションに流れたらしいけどこの見た目ならまあ十中八九詐欺だろうな

 

「んぅ〜シーちゃんでも狙っちゃおうかなぁ?」

 

鞠莉ねぇはバズーカを肩に担いで誰を狙おうかとあちらこちらに砲口を向ける。見た目があれだからなんだろうイタリアのマフィアにしか見えない。というかおもちゃとはいえよくそれ担いできて警察に捕まらなかったな

 

「それともダイヤ?果南かな?」

 

「はい!わたしわたし!」

 

「oh!千歌っちかな?」

 

「それともシーちゃん愛しのルビ…あ、やば」

 

引き金を引く音が聞こえてしまった

 

ボンッ

 

 

鞠莉ねぇが放ったバズーカの爆音とそれに伴う部室が見えなくなるほどの白煙で視界が埋め尽くされあの砲口の向いていたルビィの姿が見当たらない。しかしみんなが咳き込むほどのこの煙の量…2年後の姿になるという浅いジョークグッズにしてはよく出来ていると言っていいだろう。鞠莉ねぇも自称マフィアのおもちゃ屋もそうだけど考えてたのは見えなくなるほどの煙を出した間に入れ替わって驚かせるとかいう陳腐な子供だましだろうな。鞠莉ねぇはそういうとこ意外と用意周到だから暴発したフリしてすり代わりの人仕込んでんだろ?

 

 

なんて考えていると煙が薄くなっていき先程までルビィがいた場所には全く別の姿かたちの影があって…

 

 

それは‘長い’赤い髪をクラウンハーフアップにした足も長く身長も鞠莉ねぇより高いというモデル顔負けの抜群スタイルを持つ謎の美人だった。正直結構ルビィに似てるからほんとに2年後から来たのかと思って息を5回くらい飲み込んだ。でも…ジョークにしては手が込みすぎじゃないか?鞠莉ねぇだって暇じゃないしこんなルビィ似の美人を探してくるなんてめちゃくちゃ時間かかっただろ。いくら驚かせたいからってこんな「お兄ちゃん…?」

 

確かにあなたから見て俺はルビィのお兄ちゃんだけど…ってまさかその声

 

「え゛?おめぇほんとにルビィなんか…?」

 

「お兄ちゃん久しぶり!」

 

そう言いながらルビィ?が胸の中に飛び込んでくる。確かに飛び込みながら頬をみぞおち辺りにもってくるこの抱きつきはルビィの抱きつき方だけど違和感しかない…スタイルが全然違うし身長伸びてるし髪長いし姉ちゃんとルビィがフュージョンしたって言ってくれた方がまだ信憑性あるくらいなんですけど。でも姉ちゃんはそこにいるし…あとなんだろうなこの約八人くらいの殺気…感じないようにしてたけどやっぱり感じちゃうわ

 

 

「はぁ~久しぶりのお兄ちゃんは温かいね…ってあれ?お姉ちゃんにAqoursのみんなもいる…みんな浦の星の制服を着てる話してるなんて同窓会でもしてたの?確かに今は忙しいけどそれなら私も呼んで欲しかったなぁ」

 

にこにこと喋るルビィ?に対し他の八人はジト目だったり冷徹な目だったりにこにことしている梨子以外はみんなそんな感じだ。

 

「まず前提としてですが!話をするにあたってあなたがルビィだとしてもしなくてもとりあえず銀から離れたほうが良いのではありませんか?」

 

「むぅ〜お姉ちゃんのケチ…私だってデートしてお兄ちゃん成分を補給したの1ヶ月も前だから枯渇してるのに…」

 

 

姉ちゃんのその一言にルビィ?は唇をとがらせながらゆっくりと背中に回した手をほどく。まあ本当にルビィだとするならずっと抱きついてくれても全然構わないけどね。しかしあの反抗期を乗り越えて一緒にデートで出かけられてるってのが未来の自分自身のはずなのにクソほど羨ましい

 

「お兄ちゃんは最近ずっとどこかに飛びっぱなしだったから全然会えてなかったしお兄ちゃんとこうして会ったのすごく久しぶりだよ」

 

前言撤回…全然羨ましくない。地獄じゃないかそれ

 

「あールビィよ。まあ落ち着いて聞いて欲しいんだけどここは同窓会の場じゃなくてだな…実はお前は2年前に飛ばされてるんだ」

 

「えぇっ!ってまあそうだよね。最初はみんなで集まってるのかなと思ったけどそれにしてはみんな若いなと思ったもん」

 

こんな異常事態でもえらく冷静沈着に話を聞くところはどこかルビィというより姉ちゃんらしい。ルビィならてっきりピぎゃぁぁぁあって驚くかと思ったけどそうでもないか

 

「しかしこれほどまでに姿形が変わっていてルビィと言われましても…デレデレと鼻の下を伸ばしている銀はともかく皆さんがまだ少し疑っているようですし証拠というのはありませんの?」

 

「ルビィがルビィである証拠…お姉ちゃんの身長が162cmで1月1日生まれのA型…好きな食べ物が抹茶味のお菓子・プリンくらいの情報で大丈夫かな?」

 

「それくらいならAqoursのホームページのプロフィール欄に書いてますわ」

 

「じゃあお兄ちゃんがどこかに泊まりに行ってる時お姉ちゃんはお兄ちゃんのベッ「間違いなくあなたはルビィですわ」

 

ルビィの肩を強く握り笑顔で本人と断定する姉ちゃん。いやなんかお兄ちゃんがどうとか言ってなかった?えらくその情報が気になりますわ

 

「それにしてもハグから離れたわりにはまだそこの距離近くない?」

 

確かに少し動けば触れ合うほどの距離にルビィがいるから近すぎるというのも分からなくもない

 

「善子ちゃん2年前でも全然変わらないね」

 

「やかましいわい!」

 

2年という年月が経っても善子はあまり変わらないのか…まあ1年生の時点で完成されてる分もうどこ変えても崩れるだけだし変わらない方がいいような気もする。性格以外はな

 

「善子ちゃんも言ってる通りだけどもう少し離れた方がいいんじゃないかな?」

 

泥棒猫…

 

「何か言った?」

 

「ううん何も確かに梨子ちゃんの言う通りだと思う。もう少し離れるね」

 

「もう少し…?それはmmじゃないのかな?」

 

「ちゃんと少し離れたよ?」

 

あの空間には笑顔しかない理想の世界なのに得体の知れないこの恐怖の感情は何だろうか。おかしいな…身体の震えが止まらない…2人はにこにこと笑いあってるはずなのになんで火花の音が聞こえるんだろう

 

 

「このないすばでーのお姉さんがルビィちゃんなんて…千歌も2年経ったらこんな風に…」

 

「この鞠莉ちゃんに負けるとも劣らないスタイル…正直羨ましい」

 

千歌と曜の舐め回すような視線にルビィは少し苦笑いしつつ照れるように身体を腕で覆う。成長しても自分がいざ褒められると照れるってところはどこかルビィらしい

 

 

「そんなにじろじろ見なくても…ってあれ?千歌ちゃん…は善子ちゃんよりもっと変わってないね。曜ちゃんもまだ髪が短いとこ以外は全然変わってない」

 

「え?2年後のわたしは足の長いモデル体型になってるはずじゃないの!?」

 

「うん…なってない」

 

「そんな…足のすらっと長いモデルのような若女将としてやっていく予定だったのに…」

 

「一応…十千万の若女将はその界隈では有名だから…」

 

未来の私がそうってことは銀ちゃんはやっぱり梨子ちゃんやダイヤさんみたいな髪の長い女の子の方が…

 

曜がぶつぶつと言ってるのは置いといて千歌は足の長いモデルみたいになれると思ってたって遺伝の直系は若すぎて志満さんの娘や美渡さんの妹と間違われるあの母親だからなかなかきついものがあるだろ

 

 

「片や妹好きのシスコンで片や兄好きのブラコンって…救いようがないけど最強じゃん」

 

「はぁ…果南ねぇ…俺はシスコンじゃない」

 

「はぁ…果南ちゃんってばルビィはブラコンじゃないよ?」

 

「はぁ…そのバカップルみたいなセリフは聞き飽きた」

 

「果南ちゃんが未来の善子ちゃんと同じこと言うよぉ」

 

 

全くこちらは失敬な話だな。未来のルビィが否定してるように俺達はブラコンでもシスコンでもない。ましてやバカップルとかいう不名誉な称号でひとくくりにされるほど馬鹿なことをいってるつもりもないんだがな。

 

 

「ルビィ最後の癒しの花丸ちゃん!」ギュ

 

「ルビィちゃんく、苦しいずら…」

 

驚いていたのか口をあんぐり開けていた花丸にルビィが癒しと言いながら飛びついた。低身長コンビだったのに2年経てばルビィの胸に花丸の頭が埋まるほどになったか…でもあの空間だけは真の理想の世界に見える…なんというか眼福というか天使と天使が合わさって天国に見えてしまう。俺死んだらあの世界に行きたいから今のうちに徳を積んでおこう

 

 

「あと鞠莉ねぇには姉ちゃんからきついお仕置きがあるならな」

 

「ワタシニホンゴワカリマセーン」

 

 

ふふっとルビィがそれを聞いて笑ってるってことはその聞きたくない話を聞いた時の返し方はおそらく未来でも変わっていないのだろう。人はいつか変わるけどそれでもどこか変わらないところがあるっていうのは成長って言葉に対する皮肉なのかもしれないな

 

 

 

……

 

………

 

時計の長針が一周の三分の一を回るほどに俺達はルビィと喋りこんでいた。まあ練習をしようにも1人が未来人となってはフォーメーションも何も無いから仕方ない

 

 

「やっぱりこうして気楽にみんなと話し合うのはいいね」

 

「何か気に病むことでもあるのか?」

 

「うん…学校ではスクールアイドル部の部長でAqoursのリーダー兼完全無欠の生徒会長で通ってるから実はお兄ちゃんのこと大好きでずっと会ってたいなんて死んでも言えないよ…」

 

 

完全無欠の生徒会長ってどこかで聞いたようなって茶化そうとしたけどその翡翠の瞳が俯きがちに曇っていてそれが軽い悩みでないことを暗に表していたから流石に言い出せなかった。まあいくらルビィが成長して完全無欠になったからって上に立ったからこその苦労というものは絶対に絶えないからな…そういう弱みを見せない見せられないというのもひとつの例だろうしイメージだけが先行してしまってその人の本当の自分を隠させてしまうというのはもう人間の業といってもいい

 

 

「そんなに深く悩まなくたって大丈夫だって遠くにいても何年経とうとルビィのことはずっと見てるから」

 

 

そう言っていつも励ましてた時のようにぽんぽんと頭を撫でる。昔だって今だってルビィが泣いたり落ち込んだりした時はあぐらの上にルビィを乗せてずっと言葉をかけながら泣き止むまで頭を撫でていた。そっと慰めるように手櫛をかけた指が髪のトンネルを抜けるその秒数が過ぎ去った年月と成長を感じさせてくれる

 

かつて我が身よにふる…と小野小町は過ぎ去っていく年月を残酷であると詠んだが俺はそれだけではないと思う。過ぎ去った年月はまたその人の新たな魅力を呼び起こすものだと思うからだ。確かに絶世の美女とうたわれた小野小町の美貌が花の色が移り変わるように衰えたのは事実だ。でも己の中に積もり積もったその時間があの美しい歌を呼び起こしたんだと俺は思う

 

「そっか…このぬくもり…ルビィ思い出したよ。心の中に9人のAqoursの思いがずっと残ってるようにお兄ちゃんが梳いてくれたこの感触はずっと残り続けてるんだ。ずっとずっとずっとお兄ちゃんは私の事を応援してくれてた」

 

 

気持ちの整理がついた時に見せるその笑顔を俺はよく知っていた。でもその笑顔は今まで以上に輝いていて俺は‘成長’という言葉を強く実感してしまう。いや…それは違うか。元々芯が太くて誰よりも優しく人に寄り添っていたその真の強さに身の丈があっただけなのかもしれないな

 

 

「一つ年下のお兄ちゃんに最後のわがまま…思いっきりぎゅっと抱きしめて欲しいな」

 

 

何度見たかそして何度見るかの両手を広げたその姿に俺は思いっきり抱きしボンッ

 

「ルビィのその悲しみは俺が受け止めよう。その苦しみは俺が分かち合おう。その寂しさは俺が寄り添おう。だから絶対大丈夫」

 

少しの間であの背丈に慣れたのかまるでいつものルビィを抱きしめているかのような感触を覚える。それに少し安堵しながらそっとルビィを腕の中に引き込んだ。こんなにも小さいのに1人でずっとひたむきに頑張ってるんだ。あれくらいのわがままを言って何が悪いんだろうか

 

「お兄ちゃんくるしいよぉ」

 

「ルビィがぎゅっとしろって言うから…って戻ってるじゃねぇか!?」

 

「戻ってるって何がなの?」

 

首をこてんと傾げたルビィはあの2年後の凛とした姿とは打って変わってけどただただ愛らしかった。

 

「いやいいんだ。この際だからルビィのこと2年後の分まで抱きしめとく」

 

「うゅ何だかお兄ちゃんがおかしくなってるよぉ」

 

 

未来の俺よ

 

ああやって頑張ってるルビィをほったらかしにしてるんならあのバズーカで俺が未来に乗り込んでぶん殴ってやるからな

 

 

 

 

 

(いやそれじゃあお兄ちゃんが入れ替わるだけだよ…)

 

 

 




【あとがき】

この話はルビィちゃんの未来の姿が書かれたイラストを見て思いついた話ですがいろいろと伝えたいことを内包して書いています

ひとつはアルティメットルビィを爆誕させたかっただけです


後半の部分の和歌が現代まで連綿と受け継がれてることとルビィちゃんと主人公のあの応援がいつまでたっても残ってることをミーニングして書いてるのですがなかなか文章力が足りずあとがきで説明してるのが現状ですね…


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この中に1人犯人がいます【バレンタイン】

元々バレンタインに投稿する予定だったものです


「これ1滴であなたの好きな人もイチコロです…一撃必殺惚れ薬【媚薬成分入り】これがあれば…」

 

 

バレンタインのチョコレート

 

私はその誘惑の文言に負けこの薬をチョコレートに混ぜてしまいました

 

──────

 

いつもの部室もバレンタインの今日ばかりは大盛況だ。そうAqoursの9人にsaint snowの2人…合わせて11人がそれぞれ友チョコを交換しているのだ。百貨店の地下売り場かのようにチョコが飛び交いまるで商売かのようにラッピングされたチョコが手と手の間で取引されていく。その光景は凄いのだがそれに関われていない男の俺は暇なので最近習った場合の数とやらでこの組み合わせの通りでも解いてやろうかなんてことを考えていた

 

 

 

「銀ってば暇なの?」

 

他愛ない話をするために最初に行う潤滑油程度の会話にやけにそわそわした様子で話す理亞。そんな後ろに手を回してもじもじするなんて赤の他人を前にしてるんじゃないんだからさ…いや確かにチョコの交換に参加してないこの状況では赤の他人かもしれないけどね

 

「超暇。ユニットフェスの会議って聞いてなければ今頃帰ってるぞ」

 

そうだこいつらユニットフェスの会議って名目で集まって交換会してやがるからな…めちゃくちゃタチが悪い。じゃあ何で俺を呼んだんだよ。なんだ真面目にやってるんだなって俺もちゃんとやらないとなって思いながら意気揚々と来た時の感動を返してくれ

 

「それは後でほんとにやるから…その…私のチョコ

 

「ちょっとまったぁ!ふふふ理亞ちゃんにぬけがけはさせないよ…ぎんくんわたしのチョコうけとって?」

 

理亞がなにか小声でいいながら差し出してきたチョコレートを遮るようにドヤ顔の千歌が割り込んできた。遮られたのが気に食わないのか理亞はえらいむっとしてるし…いやほんとうちの不甲斐ないリーダーがすまん

 

 

「まあまあ千歌さん私達は以前からずっとあげていたのですし銀に初めてあげるという方に配慮するというのも悪くないのではありませんか?」

 

配慮って何?俺にチョコあげるのって配慮されるべき事案なの?泣きそうだわ

 

「去年も同時にあげたんだし今年もみんなで一斉にあげたらいいじゃん」

 

「oh!果南ってばグッドアイディア!それじゃあシーちゃんにあげる人は平等に机に置きましょ♪」

 

机の上にずらっと並べられる11個のチョコレート。マジかよいつもくれてる姉ちゃん達や千歌達に加えて梨子と花丸と善子に聖良と理亞の5人までチョコをくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい。比較的優しい梨子や聖良や花丸はなんだかんだ頼んだらくれそうだったけど正直善子や理亞がくれるなんて思ってなかったからな…その分嬉しさも倍増ってやつだ

 

まあひとまとめにチョコレートと言ってもそれは多種多様でラッピングも大きさも包み方の丁寧さなんかも見えてそれはそれで面白い。置いた人を見なくてもこれは誰のチョコでしょうと言われればそれなりに分かりそうな気もする

 

「みんなありがとう。ホント嬉しいよ」

 

「えへへがんばってつくったからね!」

 

「私はとても自信がありますよ。ここにいる誰より美味しいって」

 

「あらあら聖良さん。銀の好みを全て知り尽くしたこの私に勝てると?」

 

「まあまあそんなbattleしないで!そういうのはシーちゃんが食べ比べて決めたらいいんじゃない?11人のやつをね」

 

え?今からこれ全部食うの?チョコで長机が半分くらい埋まってるくらい量があるのに?

 

でもみんなの視線がめちゃめちゃ痛いし流石にこれだけ食ってくれとばかりに見つめられたら食うしかないか…事の発端があれだから順番的には姉ちゃんと聖良が最後になるように食べていくけどもし味が同じくらいだった場合俺は軍配をどっちにあげればいいんだ?俺はどちらにも胃袋を握られてるといっても過言じゃないんですけど

 

そんなことを考えつつ見慣れた千歌曜コンビのチョコを手に取った。その横には見たことない装飾のものが置かれているけどこれ梨子のやつか…今日がバレンタインじゃなかったらこれの中にチョコレート入ってるって分からんわ

 

「じゃあ最初に2年のやつからいただきますか」

 

千歌と曜のやつは毎年見慣れてるから驚かないんだけど梨子のチョコ何これ?東京仕様なのは分かるけどこんな形したチョコ見たことない…え?ブランドものを見てすこし真似ただけの地味なやつ?めっっっちゃ美味いけどナニソレイミワカンナイ

 

 

まあ3つを食べてみた感想を例えるなら悟空とベ○ータとク○リン…ここでは誰が誰に相当するのかは伏せておくけどそれくらいの戦闘力の差があると言えばいいのだろうか。千歌のチョコも昔から美味しかったけどパーフェクトヒューマンの曜にはどうしても届いていなかったような気がするし。そこに新たに最強の刺客(りこ)が加わったとなればもうあれだ。千歌を二人と比べてる俺が言うのもなんだが…料理においてお前は泣いていい。あの二人が強すぎるから仕方ないんだ

 

 

「次は1年のやついただきます」

 

この中で毎年貰っているルビィのチョコレートは俺の1年間のガソリンと言ってもいい。つまり自身の誕生日でもなく4月の新年度でもなくルビィのこのチョコを中心に1年が回っていると言っても過言じゃない。その天使のラッピングはとても可愛く花丸とペアにしてあってまさに天使コンビというに相応しい。この黒と赤でラッピングされた自称堕天使のチョコとは大違いだな。

 

「くっくっく真紅に輝くブラッディベリーチョコを口にするとは…」

 

「いや見たら分かるわ。クランベリー如きで何言ってんだ」

 

「うっさいわね!包装もそれっぽくしたんだからノリなさよ!」

 

「そっかありがとう。‘俺専用’にラッピングしてくれて」

 

「あっ……ちがっ……」

 

意地の悪いその言葉に善子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。やばいやりすぎたか…?まあ善子は普段カッコつけてるけどこういうことを面と向かって指摘すると割と照れるからな…

 

 

あとルビィと花丸のチョコを永久保存しようとしたらジト目で食べてと怒られたのでもう本当に仕方なく食べた。やっぱり天使のチョコは美味かった。この2人から貰えたしこの世に悔いないわ

 

 

ってこの部屋暑くね…?これだけ暑いとチョコ食べる前に溶けちゃうぞこれ。暖房の設定20度ってのがまあまあだからかそういう風に感じるのか?窓を少し開けて空気の入れ替えをしつつ少し身体を冷ますか

 

 

「次は鞠莉ねぇと果南ねぇのやつかな」

 

果南ねぇはシンプルなカップケーキでいかにもといった感じだけど鞠莉ねぇもシンプルなケーキにしてくるとは思ってなかった。いつも奇抜なやつ作ってきてたし今回もそんな感じかと思ってたけど…

 

「やっぱ二人とも美味いな」

 

「んありがと」

 

「そりゃあもうシーちゃんへのラブが詰まってるから当然美味しいに決まってるでしょ」

 

「鞠莉ねぇはいつからそんな冗談を言えるようになったんだか…初めてくれた時はガチガチだったじゃんか」

 

あの時の鞠莉ねぇからシーちゃんさんへと言われた時は首を傾げざるを得なかったよ。敬称はダブってるし目は泳いでるし異性にあげるの初めてとか言ってたからああなるのは分かるけど…

 

「仕方ないじゃない。日本に来て日が浅かったしそういうことはあまり分からなかったの」

 

まあそれもそうか。俺も死ぬほど失礼ながら鞠莉ねぇを初めて見た時動くバービー人形かと思ったからな…

 

 

「はいこれ」

 

千歌に遮られたのを仕切り直すかのようにあの時と同じ状況で渡してくる半身の理亞

 

「ありがとう理亞」

 

チョコを手渡してくれているその理亞の瞳があまりに綺麗で吸い込まれそうになる。カメリアの瞳は磨きぬかれた宝石のように輝いていてついつい深く覗き込んでしまった…いやほんとに何してるんだ俺…

 

「…私の目じゃなくてチョコを見て欲しいんだけど」

 

「…すまん」

 

お菓子作りが趣味の理亞が作ったチョコはとても美味かった。あたまが少しふらふらするのはちょっと甘いものを取りすぎたからなのだろう。あと2つか?踏ん張らなくてはな

 

「最後は」「私たちですね」

 

ここにいる11人の中で最も高い料理スキルを持つ2人のチョコを今から品定めしなくてはならない…2人は自信満々なのか早く食べろとばかりに差し出してくる

 

 

 

姉ちゃんのチョコクッキーは当然ながらめちゃくちゃ美味い。甘過ぎずくどすぎずで苦い訳でもなくちょうどいい味というか言ってたとおり好みを知ってるからこその味でまさに感服と言った感じだ。神だわ

 

一方聖良のチョコアーモンドは…やはり美味い。ハチミツとクローバーのような奇跡の調和というべきかチョコの甘さとアーモンドの風味が絶妙なハーモニーを奏でていて完璧というに相応しいものだった。GODだわ

 

 

しかし糖分の取りすぎかマジであたまがフラフラしてきた。熱っぽいしチョコ食べすぎると風邪ひくっていう迷信もあながち間違いではないような気がしてきたわ

 

「どっちが美味しかったですか?」

 

「私ですわよね銀」

 

 

「ちょっと待ってくれ外の空気吸わせて」

 

窓際まで行き外の空気を思いっきり吸おうとしたその時部屋のくず入れにあるものが捨てられているものが見えた。それを拾い上げてよく目を凝らして…

 

一撃必殺惚れ薬【媚薬成分入り】

 

俺がまさか違うだろうと思って拾い上げたものがまさか合っているとは思わなかった…その薬の右下には小さく注意書きでプラシーボ効果が大半なので品質は保証できませんと書いてある。大半ってことは少なくとも少しはそれらしきものが入ってるってことじゃねぇか…

 

「この中に1人媚薬の犯人がいる!」

 

その薬を高々と掲げ全員に印籠かの如く見せつけた。それに驚いたのかみんな目を丸くしている。まあこの中に媚薬盛ったやつがいるとなればそりゃあ驚くわ

 

「まさかこの中にはいないでしょ。誰かが使ってそこに捨てたんじゃない?」

 

「いや部室なのにそんなわけないだろ」

 

ってまずい媚薬を盛られたという事実を認識してしまったが故にさっきからの症状が進みさらに発汗や頬の紅潮が強まってきたような気がする。目の前にいる全員が全員キラキラと光る魅力的な女の子に見えて仕方がない…へたすれば告白未遂やプロポーズ未遂を起こしそうだ

 

 

「とりあえずみんな早く俺から離れろ…取り返しがつかなくなってもしらねぇぞ」

 

 

衝動にかられそうになるのを理性がなんとか抑えてる状態だが身体中の発汗もかなり進み頭が正直ぼーっとしてきた。なんというか‘魅力的に見えるフィルターが11枚’かかってそうな……11枚?

 

 

理性の箍が今にも外れそうな俺でも腹の底からふつふつの煮えたものが喉まで上がってきているのが分かる

 

「まさかお前ら…」

 

想像出来ない…いや想像しなくなかった。このバレンタインという時期に売り出される惚れ薬が流行っているのは知っていたが…まさかこいつら全員が入れやがったのか?遊びか本気かはもうこのあたまではわからないけど

 

「私はその…ほんの興味本位で…」

 

「そうそうIt’s joke」

 

「私はあの銀に効くなんて思ってなかったから…」

 

「わたしは部室であの薬を見ちゃって…」

 

「千歌ちゃんと同じく…」

 

「私も…」

 

「一撃必殺!ってのに正直惹かれたの。惚れ薬は一応黒魔術的なあれで気になっただけだから」

 

「1年生で一緒に買い出し行った時善子ちゃんこっそり買ってたからルビィもその…」

 

「…買ったことナチュラルにバラすのやめなさいよ!いいでしょ私も一端(いっぱし)の女子高生でそういうのが気になったんだから!」

 

「マルも恋愛小説でちょっとそれが気になって…」

 

 

「私は正直に銀に惚れても…「姉様ここは…私はその…実験だから。前に銀が言ってた薬が効きにくい体質ってやつの…ごめん」

 

まずいぞ…考えが纏まらなくなってきたしそもそもこいつらの言ってることがよく分からん。でも俺も頭が回ってないから中身を理解しようとしても出来ないし上手く言葉もでない

 

まあ最後に聞いた理亞の言葉通り俺は確かに薬が効きにくい体質で風邪とか引いても薬が効かないから姉ちゃんには葛根湯や薬膳をお願いすることが多かったのは事実だ。でもだからといって一撃必殺だったか?の薬を11発も喰らえばさすがに物量で押し切られる。

 

「とりあえず俺は部室から出るよ…」

 

もう他の誰かを見ると飛びついて抱きつきそうになるからな…そんなことしたらもはや家族でもシャレにならなさそうだからここから逃げるしかない。まだいしきのあるうちに…

 

 

あ、やばい落ちる

 

 

 

 

……

 

 

 

ふと我に返った時には周りは衣服と呼吸の乱れたみんなが倒れ込んでいて…俺は白目を向いてひっくり返ってしまった

 

「はぁ…はぁ…これがホントのユニットカーニバルってやつですか」

 

「…違うと思うよ姉様」



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津島善子 クリティカル

ただ目的もなくだらだらと二人で喋って笑いあってそれだけで楽しいと思える人を好きな人と言うらしい。一目惚れや運命の出会いといったメルヘンチックでもないその簡素な言葉に妙に引かれたのを私は憶えている

 

──────

 

‘友達’とどこかに出かけるというのは私にとってはなかなかに珍しいことだった。高校に上がってAqoursに入って人間関係が変わったから言えるかもしれないのだが私が私でいられる状態でフラットに出かけられるというのはそれでもなかなかに珍しい。要約すれば私の会話や人間関係は上っ面が非常に多いということだ。

 

だからこそAqoursのみんなで出かけられる日や銀と出かけられる日はそれこそ私にとっては特別な日になる。今日は後者なのでさらに特別といっても過言ではないのだが

 

「おーい善子!」

 

「だからヨハ…」

 

 

服装重複!!(ペアルック)

 

いつもの堕天使スタイルだとショッピングモールみたいなところを回るのになにかと不便だろうとネットでレディース 無難と調べて買った白Tと薄色デニムのコーデが被ってしまった。もちろん全部が全部同じという訳ではなく胸ポケットとの有無などところどころ違ってはいるのだが…はたから見たらペアルックしてショッピングモールをふらついているカップルにしか見えない

 

 

今日は貴重な二人きりのチャンスだと思って色んなところを回る予定だったけどこんな格好じゃ作戦を変更するしか…

 

「お、双子コーデじゃんか。ははは被るなんておもしろいな」

 

そうだ双子コーデと思えば恥ずかしくなんて…というコペルニクス的転回は客観性を鑑みてすぐ諦めた。男女で服装を合わせていて双子コーデと思うやつは余程の恋愛バカかこの目の前の鈍感男以外にはありえないだろう。

 

「アイデンティティを大事にしてるスクールアイドルからしたら被るなんて致命傷だから全然面白くないんだけど…あと傍から見たらペアルックだし」

 

「そっかペアルックか…まあ善子なら被っても大丈夫だろ」

 

ヘラヘラと笑うこの男には私から5時間連れ回しの刑をプレゼントしようと思う。さっきまでの恥ずかしさなんてなんのそのこの目の前の恋愛バカには1度私からビシッと言っておくべきだと思うからだ。

 

「あんたね…ペアルックっていうのは男女がするとそれはもうこいび…」

 

「今日買うの何だったっけ?」

 

「話を聞きなさいよ!」

 

──────

 

あのカップルに間違われ続けるという羞恥地獄の5時間から私の家に帰ってきてしばしの休憩。帰ってきた矢先にお母さんがそちらの人は彼氏?と言いながらにやにやしてたのが今でも瞼の裏に焼き付いている。というか他の子の家にも行っている銀はこんなやりとり言われ慣れてるのか淡々としてたし

 

 

今二人きりで私の部屋にいる。その言葉だけで私とあいつの関係性がそれなりに測れるというのだから文字というのは言葉であれこれ説明するより単純ではないのかと思ってしまう。ソファに並んで座っていると暖かい温もりを感じられカップから漂う甘い香りで自分の部屋のはずなのにどこか浮ついた気持ちになる

 

 

「善子」

 

真面目な顔をした銀はこちらに向き直り私を呼んだ。馬鹿にしたような言い方ではない所からそれなりに真剣な話が飛んでくるということが分か…

 

「いきなり何?というかヨハ「好き」

 

 

「んなっ!?」

 

と顔を真っ赤にして驚いてしまうがこの男は好きと言うのに慣れているのかどこか飄々とした表情をしている。そういうとこがホントムカつく…おそらく溺愛しているルビィに言い慣れすぎてこの好きという言葉がこいつにとっては綿より軽いのだろう。言われ慣れてるルビィはまたかとばかりに軽く受け流していたけど慣れていない私なんかはすぐ照れてしまう。全く…とんだ堕天使(ヨハネ)キラーもいたものだとこのやりとりをするたびに思う

 

昨今草食系と言われる男子が増える中でからかいとはいえこんなにも軽く好意をぽんぽん投げてくるというのは本当に珍しいだろう。だからといってこんなにもグミ撃ちのように好きを撃たれては私としてはたまったものじゃないのだが

 

 

「いやーほんといい反応するよな善子は」

 

 

「あんたね…こんなことほかの女の子にしてたらそれこそ本当に勘違いされるわよ?」

 

現在進行形で勘違いしてしまった私が言うのだから間違いない。というか異性に軽く好きと言えるその胆力がどこに売っているのか聞きたいくらいだ

 

 

「大丈夫大丈夫ルビィと善子以外にはしないし」

 

 

笑いながら言った銀の言葉にその目が捉えているのはやはりあの子(ルビィ)なのかと胸の奥が少し締め付けられるように痛む。叶うならばそれを私だけが独占したいと思うのは身勝手な願いなのだろうか

 

「ほんとそういうとこブレないわね…」

 

「でもリアクションしてくれるだけ有難いんだぜ?ルビィなんか塩だよ塩」

 

…──────

 

「あのなルビィ。お兄ちゃんがルビィのことどれくらい好きかと言うとだな…それはもうエベレストよりも高くマリアナ海溝よりも深いほどの愛情が…」

 

「おねぇちゃんきょうのご飯はなあに?」

 

「今日はルビィの好きなポテトづくしですわよ」

 

「わぁーやったぁ!」

 

「ルビィよさっきは華麗にスルーされたけど…じゃあポテトフライとお兄ちゃんならどっちが好きなんだ?」

 

「ポテトフライだよ?」

 

「俺は芋以下なのか…」

 

…──────

 

「こんな感じだ。ひどい仕打ちだろ?」

 

なんだろうか開幕の愛情表現がすこし気持ち悪いというところを突っ込むべきなんだろうか。それともルビィのあまりの塩対応ぶりを笑ってあげるべきなんだろうか

 

しかし愛情表現の仕方が気持ち悪いというのはオタクの特徴と言ってもいい。銀はさしずめルビィオタクといったところで、だからこそルビィに対して愛情の表しかたが独特で一般人からは少し違ったように見えてしまうのだろう。はぁ…オタク文化に理解があるものとしてちょっとは哀れんであげようかしら…

 

「あんたの愛情表現の仕方が重いからでしょ」

 

「俺の中のルビィ愛の総量からしたら妥当だと思うんだけどなぁ」

 

「だからそれが重いって言ってんのよ。私へのからかいと比べてみなさいよ!」

 

好きとエベレストより高くマリアナ海溝より深い好きを比べて等価値だと言うやつがどこの世界にいるのだろう否いない。

 

「…確かに重いな。他人から指摘されるとよく分かるわ」

 

「でしょ?って何のためにうちに呼んだって動画編集のためじゃない。こんなだべってる場合じゃなかった」

 

私はおもむろに立ち上がりノートパソコンを取りに行く。画面を開き充電がされていることを確認してコードを抜きまた元の場所へと帰ろうとした時

 

足元の配線に気づかなかった私はいつもの如く転んで…

 

 

なかった。

 

目の前にフローリングが広がっている訳ではなく私が朝に目を丸くした白のTシャツがあって私は抱きとめられていたのだった。一気に顔の温度が上がり頭のてっぺんまで真っ赤に染まるのが鏡を見なくても分かる

 

「取り敢えず高っけぇノートパソコンは無事だな…」

 

銀に抱きとめられるといういつも不幸な私が享受した不幸中の幸い。よく滑って転ぶ私の前にあなたがずっといてくれたらいいのに…なんてことを思ってしまう

 

 

「あと大丈夫か…よ「待って…もう少しだけこのままでいさせて…」

 

真っ赤な顔を見られたくなかったというのもあるがその懐のぬくもりから私は離れたくなかったというのが本音だ。離れればもう二度とそこには戻れないような気がしたからいつも達観して大人ぶっていた皮を脱ぎ捨てて離れたくないと言った。それが心の底からの私の本心

 

「っそれが善子の取り繕わない言葉ならな」

 

 

言葉にせずとも伝わるものはあり言葉にすることで伝わるものもある

 

 

曰く

 

目的もなくだらだらと二人で喋って笑いあってそれだけで楽しいと思えるあなたを好きな人と言うのだろう

 

 

「善子」

 

「何?」

 

「好き」

 

「だからからかうのやめなさいよ!」



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鹿角聖良は食べられない

タイトル詐欺ですし長らく空いてしまいましたし…


鹿角聖良の日誌

 

婿養子 戸籍 G○○gle検索

 

しかし向こうが網元で名家なだけにそれを許してくれるかどうか…ってなぜ私は結婚を前提にしているんですか。家に招くだけならそれこそ雇うという選択肢だって…

 

はぁ…からめ手なんて柄じゃありませんし正攻法でいくしかありませんね…

 

──────

 

聖良がブロッコリーを食べられないという超耳寄りな情報を手に入れてしまった。あの完璧超人にいつも上手く言いくるめられている身としてはその欠点を見つけてしまった以上薮蛇と分かっていてもつつかずにはいられない。もうそれこそ最高級のブロッコリーを聖良にはプレゼントしてあげようと思う。そして目を><にした聖良の姿を拝み倒すというプランだ

 

完璧な球がこの世に存在しないように完璧な人間など存在しないんだよ。俺がそれを証明してみせよう

 

 

これより函館にアポなしで突撃する

 

 

──────

 

茶房 菊泉 もう何度もここへは来ているので閉店間際のタイミングなどはバッチリだ。バリバリの営業時間中に突撃したりすると逆に迷惑かもしれないからこんな時間に来たわけだが…

 

木製の引き戸を横に移動させるこの行為からにやけが止まらないあたりそうとうな期待をしている事が分かる

 

「「いらっしゃ……」」

 

「おっす」

 

あ、そういえば2人ともが制服で接客してるとこみるの初めてかもな…聖良みたいな美人がふりふりの和風メイド服着てるとギャップにビビるし理亞が着てるとちっこいからこういう格好が良く似合ってるところがまた面白い

 

「冷やかしにきたの?」

 

開幕早々の言葉がそれって…理亞は俺の事なんだと思ってるんだ

 

「なわけねぇだろ」

 

「それなら一体どうしてこんな時間にここへ?」

 

聖良から飛ぶ至極真っ当な質問。そう静岡の沼津からここ函館までは“まあまあな時間”がかかる。当然それなりの用がないとここまで来る意味がないというやつだ

 

「実は聖良がブロッコリーを食べられないという情報を聞きつけてジェットでマッハで飛んできたんだ」

 

「いやほんとにそうだとしたら銀ってば暇すぎでしょ…」

 

そんなジト目で見ないでくれ悲しくなるから

 

「それだけじゃなくて一応フェスの企画書も持ってきてる」

 

「一応って…」

 

「しかしブロッコリーですか?何処でその情報を聞いたのかは分かりませんが食べられますよ?」

 

「マジか…」

 

なるほど完璧な存在などこの世に存在しないと思ってたけどここにいる聖良はその完璧な存在だったか…もう聖良には欠点という概念がないんじゃないかと思うよ

 

「もちろん好きと言われるとそうではないくらいにブロッコリーは苦手ですが食べられないということはありません。でも苦手を克服するというのもそれはそれで必要なことですから」

 

ちなみにあの姉ちゃんですら苦手なもの(ハンバーグ)があるから聖良の言ってることが文字通り次元が違うというのが分かる。というか苦手なものって気持ちで克服できるものだっけ?

 

「俺の計画が…パァだ」

 

「あら?一体どんな計画だったか聞いてもいいですか?」

 

あ、このにっこり笑顔はやばいな…地雷を踏んだっぽい

 

「いやーこ、克服の手伝いを…」

 

こう触れ合うような距離に詰め寄られてはは俺も苦笑いをしながら頭をかくことしかできない。その赤紫色の瞳に見つめられると全てを見通されているような気がするからだ

 

「ならもう結構ですので銀の嫌いな食べ物の克服の手伝いをしましょうか?」

 

え?急に風向きが逆になってない?俺に吹いてた追い風がいまや俺を追い込む逆風とかしてるんですけど

 

「え゙」

 

いやでも流石に俺の嫌いな食べ物なんて知らないだろう。長い付き合いだけどその話は1度もした事

 

「何でも銀はホタテが苦手だとか」

 

「なんで知ってるんだ」

 

ないんだけどなぁ…誰だ俺の機密情報を漏らしたスパイは

 

「ダイヤさんから聞きました」

 

姉ちゃん…信じてたのに…。でも姉ちゃんと聖良が話してる時に俺の嫌いな食べ物の話がどこから出たのかと俺は問いただしたいね

 

「よ、よーし聖良がブロッコリー食べれるって分かったしそろそろ帰ろっかなー」

 

「まあまあせっかくここまで来たんですから夕飯を食べっていってはどうです?」

 

肩を掴まれてにっこりと笑われるというこの流れはまずいな…間違いなく鹿角家の今日の夕飯にはホタテが入ってる。俺は未来を予知できるから分かってしまうんだ。だからこそこの流れはここで断ち切っておかなくてはならない

 

「いやいやそんなお構いなく」

 

日本人の美しい謙遜の精神で俺は引こうと試みる

 

「全然構わないし銀がほんとに良いところに来てくれた。丁度姉様と買い出しに行こうとしてたし」

 

「いやでも家族も心配してるし…」

 

「もしもしダイヤさんですか?夜分にすみません。はい…はい実は銀がこちらに泊まりたいと…はい…OKとの事ですよ銀。」

 

あまりの手際の良さに頭のネジが飛んだよ…しかし家族の俺に対する心配ってめっちゃ軽くね?それとも聖良という存在の信用度が函館山よりも高いの?

 

「今日のメニューはクラムチャウダーで決まりですね」

 

ゔ俺の苦手料理じゃねえか。プロ級の腕前を誇る姉ちゃんの料理で唯一泣きながら食った料理だからな…作って貰った手前絶対に残さないという意思で食い切ったけど

 

「ちなみにホタテは?」

 

「入れますよ?」

 

 

ですよね

 

 

あまりの落胆に首が折れ曲がったわ

──────

 

 

 

聖良と理亞にはんば連れられる形で近所のスーパーまでやってきた。しかし沼津と同じ漁港の函館は生鮮売り場がとにかくでかい。こういったイカやエビが生きたまま並んでいるというのは高層ビルの立ち並ぶ都会ではあまり見ない光景だろうな

 

 

 

ふと目の前に迫った苦難にため息を吐く。ホタテが苦手といっても貝の系統ならほとんど苦手だからな…味噌汁に入ってるアサリとかならまだマシなんだけど寿司とかのムール貝とかつぶ貝とかはやばいんだよ…

 

 

「ダイヤさんからぜひ克服させてくださいなとの伝言を預かっていますから」

 

もはやそう言われては何も言うことが出来ない。あの聖良がやる気満々の顔をしているのだからもう何言っても聞いてくれないだろうし

 

「いつもなら料理当番が作るんだけど今日は嫌いな食べ物の克服って事で特別に姉様と2人で作るから多分大丈夫だって」

 

「あ、そう…期待しないで期待しとく」

 

「あまりの嫌さに日本語がおかしくなってますよ」

 

理亞も仏頂面だけどどこかやる気が溢れてる…いやいつもなら2人して作ってくれるなんて豪華だと飛んで喜ぶけど状況が状況だけに素直に喜べない

 

「ちなみにホタテのどこが苦手なんですか?」

 

「あの風味と歯ごたえかな。なんというか感覚的に嫌なんだよ」

 

乾物にしても消えないホタテ独特の風味と人工芝を噛んでるような歯ごたえがたまらなく嫌なのだ。歯ごたえが嫌ならひもなら食べれるでしょと言われてひも食わされたらあまりの匂いに卒倒したし

 

「なるほど…風味は新鮮なものを使えば何とかなりますね…あとは歯ごたえですがこれは調理する時に考えましょう。理亞とびきり新鮮なホタテを選んで買ってきて貰えますか?」

 

「わかった」

 

聖良から駄賃を受け取ると理亞はいつになく真剣な表情で駆け出していった

 

「ホタテと違ってアサリは缶のもので充分ですから私達は缶の売り場へ行きましょう」

 

 

缶の表?というのだろうか絵柄や写真がプリントされた方向が前にきちんと揃えられている光景はどこか機械的であり大衆によりそうスーパーでありながら気品溢れる美術館のような雰囲気を漂わせていた。

 

「桃にみかんにこっちはフルーツポンチか…一体アサリはどこなんだ?」

 

「確かにマジマジと見るとほんとに種類が多いですね」

 

ここへは来なれているはずの聖良ですら感心するような缶の棚に右往左往と首を扇風機のごとく振り続けること数分

 

「あ、これじゃね?」

 

「ふぅ…ようやく見つけられましたね…後はホワイトソースの素があれば……」

 

 

 

「パパとママ?」

 

その声がした下の方に目線を向けると俺たちを指さしてパパとママと連呼し続ける小さな男の子がいた。その一瞬は迷子かと思ったけど俺たちを指さす姿をみて目を丸くした親御さんらしき人がすぐすっ飛んできて何度もすいませんと頭を下げていた。俺達もそれに共鳴するように頭を下げ続けているとその親子は離れていって…

 

 

 

「こら!初々しい夫婦の邪魔しちゃダメでしょ?」

 

「パパとママじゃないの?」

 

「これからそうなるのよ」

 

どこか俺達の未来を見透かしたような慈愛に満ちた目とその爆弾発言を残されてしまった俺たちは去っていく親子を尻目に1歩も動けないでいた。よりにもよって聖良と夫婦に間違えられるとはな…

 

 

 

冷静に分析してみると付き合いたてのカップルのようにはイチャつかないつかず離れずの距離感があの男の子からみて夫婦に見えたのかもしれない。しかし見ず知らずの子供から夫婦に思われたってことは自分の親と同じものを俺たちに見たということになるから…

 

 

 

「ま、まあ子供の言ったことだし…?」

 

「そ、そうですよね。ま、まだまだ買いたいものはありますしそちらへいきましょう!!」

 

聖良は焦っているのか混乱しているのか顔を赤くして元来た道を戻ろうとしていた。俺はそれを止めようと聖良の手をぐっと握ってしまい…

 

「「あ」」

 

 

……

 

さっきから喧嘩したように顔も合わせられず並んで歩いているので話す内容がとにかくぎこちない。俺はホタテに良いところを見つけようと熱弁していたし聖良は聖良で“私とホタテならどちらが好きですか”とか言い出すし…二人とも目がグルグルに回ってたような気がする

 

 

先にホタテを買って待っててくれた理亞と合流してからもこのぎこちなさを隠すのに精一杯だった。

 

 

 

──────

 

スーパーから鹿角家に戻ってくるまでの夜風が頬の熱を取り去ってくれたのはラッキーと言えるだろう。顔真っ赤にしてクラムチャウダーを食う訳にはいかないからな…紅白とかおめでたとかもう連想ゲームのごとく飛び出てくるからさ…

 

 

 

邪な考えが裏目となりひょんなことから客人となってしまった俺はキッチンの聖良と理亞を邪魔しないよう大人しく座っていることしかできない。

 

それでも漂ってきた鼻腔を撫でるようなホワイトソースのいいにおいに自然と2人の方へ身体が向いた

 

 

 

聖良と理亞が並んで料理を作るという風景

 

 

 

その風景に俺は目を奪われた。女の子には魅力的に写る瞬間が5個あるというがひとつはやはりこれだろう。自分のために料理を作ってくれるというのはそれだけで己の心を満たし相手を幾重もの魅力フィルターをかけて写し出してくれる。さっきあんなことを言われたからかもしれないけどそれでも目を奪われるには充分すぎるものだった

 

 

 

 

おたまで小皿に少しだけすくうと湯気がふわっと立ち上がって聖良はそれを切り払うような真剣な表情で口へと運ぶ。それはまるで精神を研ぎ澄ました居合のようで俺は思わず唾を飲んでしまった。横で見ていた理亞も味が気になるようで聖良の横顔をじっと見つめていた。やがて離れている俺でも聞こえた“うん”の声で調理は佳境に入るのだろう

 

 

 

 

 

 

──────

 

「はいお待ちどうさまです。冷めないうちにどうぞ」

 

机にコトッと置かれたのはパイがドーム状に膨らんだ所謂パイ包みというものだった。これを閃いた料理人が味噌汁の蓋からヒントを得たという豆知識を連想しているあたり俺はこの現実から逃げたいのだろう

 

「悪い二人とも俺実はホタテアレルギーなんだ」

 

「それが冗談なら分かってるよね?」

 

…はい

 

「いやそんな睨まなくても軽いジョークだって…あの調理工程見てて今更食いませんなんて誰が言うんだ。いただきます」

 

ドーム状に膨らんだパイ生地を零さないように崩して中のクラムチャウダーと共に口に入れる。……めっっっちゃ美味い

 

というか食べて思ったけどこれホタテ入ってるか?なんか出汁とったあとに細かく刻んで入れた干ししいたけみたいな物体しか…!?

 

「まさかこれがホタテなのか?」

 

「ええ銀のホタテだけ細かく刻んで入れています。本来なら歯ごたえを楽しむためにそんな細かくはしないんですけどいきなりまるごと入れて食べられませんとなっては本末転倒ですから」

 

「貝の出汁はアサリとかから出てるから一緒に煮る必要ないし別にホタテだけならボイルしておいて入れるだけでいいから。ほら私たちのは大きいでしょ?」

 

 

そう言って理亞はスプーンで目に見えるホタテをすくい上げた。あ、やめてくれ俺にそれを見せないでくれと思ったけどいざ口に入れた今ならそれも食えそうな気がする。正直細かくしたとはいえまさか食えるとは思ってなかったから

 

「理亞それ食べていいか?」

 

「え?食べられるなら別にいいけど…」

 

そのやれるならやってみろ的な言葉を聞くと俺はそのまま理亞からスプーンを受け取りホタテを口に入れた。ゔっとなったのは一瞬で聖良が言っていた通り新鮮故の歯ごたえと臭みのなさが自然と咀嚼を進めてそのホタテはあっという間になくなった。あ、ホタテ食えたわ

 

「そ、それ私の…」

 

「あ…すまん。洗ってくるよ」

 

渡し箸ならぬ渡しスプーンは品がないかなと思ってスプーン受け取ったんだけど俺もなんでそのままいったのかわからん。姉ちゃんもルビィも家族の箸を平気で使うから平気だろと思ったけどここ家じゃないわ。鹿角家だわ

 

「い、いや別にいい。私はそれくらいき、気にしないし」

 

「ほんとにすま「銀!!私のもどうぞ!」

 

聖良が思いっきり身を乗り出してホタテの乗ったスプーンを突き出してきた。な、なんでそんな真剣な面持ちでこっち見てるんだ?

 

「いやもう食えたし全然大丈夫」「どうぞ」「あの食べられたんですけど」「どうぞ」

 

笑顔で応対する自動人形か何かかな?聖良は1度決めたらテコでも動かんから俺が食うと言うまで多分このままだろうな…

 

「分かったよ…俺の皿に入れてもらえるか?」

 

「このまま食べてもらっても構いませんよ?」

 

それはあーんというやつでは?姉ちゃんが見てたら“年頃の淑女がどうのこうの”ってめちゃくちゃに怒るやつだぞ

 

「いや俺が構うんだけど」

 

「私は“全然”気にしませんから」

 

その聖良のにっこりとした笑顔の横からもじもじとしながら理亞もスプーンを差し出してきて…

 

「わ、私も気にしないから…」

 

 

 

やっぱりホタテはいいとこないよ

 

食べれたけどね

 

 

──────

 

 

 



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青春の中で少女達はきっと恋に落ちている

HoneyWorksの世界は恋に落ちているという曲を聞いて書いたものです。しかし青春に‘ひび’とルビを振っているのを見てあまりのエモさに服が弾け飛びました。


高海千歌の日誌

 

青春ってダイヤモンドだったり恋する季節だったりかけぬけるものだったり涙の結晶だったりしてよく分からないなぁ

 

 

でもそうだとしたらきっと青春が聞こえるってなんだろ(哲学)

──────

 

高校2年の一学期。1年経って高校の雰囲気にも慣れてそこからまた新しい生活が始まるんだとわくわくとドキドキが入り交じってなんだかすごく複雑な気持ち

 

そして浦の星は小さな学校だからクラス替えしてもほとんどクラスメイトは変わらない。だから…また銀くんとお隣になれた。これは一学期の最初とテストの時だけ出来る、出席番号順という千歌だけの特権。曜ちゃんが遠くへ行ってしまうのが寂しいけど休み時間の度にこっちに来てくれるからその寂しさは授業の間だけだから我慢出来る!…って授業を我慢してるようじゃだめだめか

 

 

 

なんでもないこの一つ一つの時間が銀くんが隣にいるだけで輝いて見えたり胸が弾んだりしちゃう。笑っちゃうじゃんこのままずっと隣に居てくれたらいいのになんて考えてるのがさ。 何でもないふとした瞬間に私たちの呼吸が重なったりしてまたわたしとあなたは笑顔になる

 

 

でも銀くんはみんなの人気者だから…私なんかといるとくすんじゃうかもしれない。きっとあの梨子ちゃんみたいに輝いてるひとのほうが相応しいんだろうな…

 

 

あれれ?でも何で…なんでなんだろ?

 

梨子ちゃんみたいな人の方が相応しいのに…銀くんの事ことばかり考えてる。ふと目が合って見つめ合うわずか数秒が永遠にも感じられて…それでもやっぱり恥ずかしいから私は目を逸らしちゃう

 

 

「どうした?何か言いたげな顔だったけど」

 

「銀くんが梨子ちゃんばっかり見てるってことを言いたかったの!」

 

ほんとは私が嫉妬しているだけ…

 

なんてことは絶対に言えない

 

──────

 

初めて出来た男友達。この出会いの関係性はきっとそこに集約されるのだろう。

 

「君よく輝いてるって言われない?」

 

なんてことを言われた時にはすごくびっくりしちゃってそれを言うのがこの沼津の人だからなのか男の子からなのか全然分からなくてしどろもどろになったのを覚えている。その時は千歌ちゃんが助け船を出してくれて助かったけど放置されてあのままなら変な宗教にでも勧誘されてた気がするし…輝き教とか今なら何かわかる妹教とか…

 

 

それでもあなたの言葉にいつも心を揺らされてしまうのは意識しすぎ…なのかな?男の子とこんなに話すことなんて今までなかったから話し方なんて全然分からないし銀くんは銀くんで私のことその…美人とか言ってくるし。私なんて全然地味なのに…千歌ちゃんみたいな明るい子の方が男の子はきっと好きだよね…

 

 

銀くんと話してるそんな千歌ちゃんはいつも自然体でにこにこの天真爛漫な笑顔。それを見てるこっちも笑顔になるようなそんな表情をしてる。打算的な私よりも全然…

 

やっぱりそういう方がいいのかな…

 

 

知れば知るほどお似合いに見えてしまう二人に経験したことの無い複雑な気持ちが私の中に渦巻いて…

 

そんな私の気持ちはデクレッシェンドみたいにだんだん弱くなってきちゃって胸の奥のぬくもりがキュッと締め付ける痛みに変わった瞬間…銀くんが少し遠のいた気がした。

 

 

 

……

 

異性 胸にキュンとした痛み 検索

 

 

もしかして…恋

 

 

その携帯の画面を見た瞬間。顔から火が出そうになるほど真っ赤になった

 

でもどうして…何で…何でなの?

 

どうして…

 

‘大切な人と同じ人を好きになってしまったんだろう’

 

違うのに… 千歌ちゃんの方がきっと…相応しいのに…

 

 

あなたの事ことばかり考えてしまう

 

気付かない方が良かった…でも気付いてしまったこの胸の想いにはきっと抗えない。恋は落ちるものだったり戦争だったりと数多の比喩で例えられるけど私は燃え上がるものだと思う。だってそうじゃないとこの胸の高鳴りと顔の火照りが説明出来ないから…

 

「好き…ってなんなんだろ」

 

恋の神様がいるなら私にこのどうもならないこの感情をどう抑えればいいのか教えて欲しい。

 

「なんて…東京にいる時に神田明神にでも行っておけば良かったなぁ」

 

恋をした乙女というのは好きな人のことが頭から離れないのだろう。だって…私のこの心拍数が想いとともに加速していく感覚があるから…

 

「…き…好き…好き…私は銀くんが好き…」

 

 

私はそのことを考える間もなく千歌ちゃんにメッセージを送ってしまった。家が隣だから直接話せばって思ったけどこの渦巻いた感情の中で喋ると何を言い出すか分からないから送る前にきっちり確認出来るSNSを使ったのだ。ヴゥっとバイブレーションが響いて私はまたその画面をちらりと見た

 

‘銀くんのこと何でも知っていたいって思っちゃう?あははそれは絶対に恋だよ。でも…梨子ちゃんがそんなこと聞くなんて思いもしなかった(*^^*)’

 

‘仕方ないでしょ。恋がこういうものだって初めて気づいたんだもの’

 

‘銀くん取らないでヾ(๑`Д´๑)ノなんてこと梨子ちゃん美人さんだから言ってられないなぁ’

 

‘じゃあ真っ向勝負だね’

 

‘うーん真っ向勝負…というかバトルロワイヤルというか…’

 

‘でも私はずっとずっと好きだった。それこそもう幼稚園くらいの時からずっとずっと好きだった。それでも私は輝けなくて引っこみ気味だったから…だから私は輝きたい!‘

 

 

‘私は恋に落ちてしまったから。男の子と日常的に喋るなんて初めてで最初はずっとこのまま仲のいい友達になれたらいいなって思ってたのに。銀くんの笑顔の前じゃそんなこと言ってられなくなっちゃったの’

 

……

 

………

 

きっと銀くんはどんかんだから目の前で口にしないと絶対に分からないんだろうなぁ…

 

銀くんはバレンタインになったら靴箱はチョコで埋まるし1週間あればその数日は絶対に告白されてるくらい人気があった。それがクラスで一番可愛いって言われてる子でも揺らがなくて銀くんはその全てを断り続けてた。わたしにはその理由が全然分からなくてあと一歩という距離をつめられないでいたんだ。

 

 

「諦めちゃダメなんだ。絶対その日は来る」

 

そうだ私を照らしてくれたµ’sの曲の一節に勇気を貰って私はあと1歩を踏み出す

 

「銀くんにたいせつなお話があります」

 

私の顔がどうなってるかなんてもう考えられなかった。頬が赤くても唇が青くても笑ってたって照れてたって私はもう迷わないから

 

「お、いいとこに来たな千歌。実は俺も話したいことがあったんだ」

 

その言葉に前のめりになっていた私は少し落ち着いて銀くんに向き直ります。

 

「そ、そのはなしってなに?」

 

「実はな…今度東京の神田明神でみんな知ってる超有名人と会えることになったんだ」

 

その言葉が一瞬理解できなくて…5秒くらい頭で整理してからやっと私は驚く準備が出来たのでした

 

「えぇぇええとうきょうぅぅぅ!!!」

 

 

その驚きで私は何を言おうとしていたのかを全て忘れてしまいました

 

 

 




鹿角理亞は瓜二つの閑話に繋がります


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たわわチャレンジ

松浦果南の日誌

 

 

胸があってもダイビングスーツが着にくいだけだよって言ったらダイヤにすごい顔された…

 

 

「そうでしたら私がスライスしてさしあげましょうか?って怖すぎだよ…」

 

──────

 

 

「ねぇねぇ銀くんみてみて!ほら!」

 

いつも通り部室でだべっているとさっきからスマホをえらくこねくり回していた千歌からそんな声がかかる。別に見たくもないけどみてみてと五月蝿いので仕方なく後ろを振り返る

 

 

「ふふん!すごいでしょ!」

 

そこにいたのは胸の上にスマホを乗せてドヤ顔をする千歌だった。いったい何がしたいんだこいつは…横で梨子がすごい顔してるぞ。すごいからもっと見てって言うけど俺はもうそれ見たくないよ。だって横が怖いもん

 

「千歌ちゃんそれ少し前にバズってた たわわチャレンジってやつだよね?私も出来るよ!ほら!」

 

曜もふふんとばかりに胸にスマホを乗せてこっち見てるけどその横の梨子の顔がすごいことになってるぞ…あ、梨子がおもむろにスマホを胸にかざして笑顔になった

 

ストン

 

とスマホが胸の前を通過していき…その梨子の笑顔にだんだんと影が落ちていって目が漆黒にそまった…梨子はいったい何がしたいんだ

 

「あはは…そのスマホのやつ 私と鞠莉は出来たけどダイヤは…」

 

「ダイヤはスレンダーだもんねぇ」

 

果南ねぇと鞠莉ねぇの苦笑いの先にあった姉ちゃんの物悲しさ溢れる顔に俺は思わず息を飲み込んだ。あの姉ちゃんの目が死んでるよ…

 

「胸の上に携帯電話が乗らないからと言って何になりますの…別に悲しくなんて全然ありませんわ………っ」

 

もう一度やればと胸の前に構えられた姉ちゃんの携帯は制服の上を滑り落ちるようにして下に落ちる。取っ掛かりがないという事実を証明するようにカツンッと言う音が部屋に響いた

 

「諦めるのも肝心だよダイヤ」

 

「slenderなダイヤには私からマッサージをプレゼンツしよっか?」

 

「そんな訳の分からないものなど要りませんから…」

 

そのやりとりの後ろからまた何かが落ちる音がした。そこにいたのは…善子か。なんでみんなこんなことにやけになってるのかわけが分からんぞ

 

「わ、私はまだ成長期だからあと2年したらいけるし…」

 

「あ!いけたずら」

 

「花丸ちゃんすごい!」

 

「…圧倒的美少女でどれだけ食べても太らなくて高校1年生で胸の上にスマートフォンが乗る…はたして同じ人間なのか…?」

 

 

善子とルビィは羨ましいのか花丸の胸元をずっと凝視している。女子は胸が大きいかどうかがそんなにも羨ましいのか…?バストサイズの計算式とかあんま詳しくないけど花丸と善子の差が4cmってことくらいは分かるからたった人差し指程度の長さに善子は嫉妬していることになる

 

「天は二物も三物も与えるなんて…やはり堕天使が反逆するのが運命(さだめ)か…」

 

指の隙間から瞳を覗かせるようにして厨二臭いセリフを振りまいている自称堕天使…格好つけてるようだけどギランと光らせようとしていたその目は少し死んでいた

 

「でもルビィと違って善子ちゃんも三物をもってる人側だと思うけどなぁ」

 

そんなことないぞルビィ。俺はルビィのいい所を千個くらい知ってるし三物どころか千物を天から与えられたことも分かってる。まあ天使の名の通り天の使いなんだからそれも当たり前だろうけど

 

「そう?でもあんたがみんな欲しがってるものを1番持ってるけどね」

 

「みんながほしがってるもの?それってなぁに?」

 

「……その鈍さとかじゃない」

 

後ろから袖をくいくいっと引っ張られる。その犯人は…千歌か…

 

「ぎんくんスマホ乗ったからほめてほめて!」

 

にんまり笑顔でこっちに擦り寄ってくる千歌。まるでどこかで優勝してきたかのようにえっへんとしてるけど何も偉くないからな

 

「いやなんでだよ」

 

「なんでなんでえらいじゃん!」

 

おいおい高二にもなって足じたばたさせて駄々をこねるんじゃないよ。顔も相まって子供にしか見えんぞ…

 

「いやスマホが胸に乗るからなんなんだよ…さすがに褒めれねぇわ」

 

「そ、そうですわよね!さすが銀はわかってますわ」

 

「?うん分かってるけど…」

 

姉ちゃんが満面の笑みで俺の手を取りブンブン振り回す。いやどれだけあのことにヘイト持ってんだ…

 

「でも大は小を兼ねるっていうよ?」

 

丸く収まりかけてたのに果南ねぇのその追い打ちで姉ちゃんに火がついてしまう。今タイムマシンあったらそのことわざ作ったやつをはっ倒しに行くのに

 

「…っ確かにそうですが。でも小さいなりにもっと注視するべきところがあるでしょう?」

 

いや小さいのに注視って…見るとこないから小さいんだろ…。あまりの怒りで姉ちゃんおかしくなってるじゃんか

 

「まあまあ結局は好きな人がどう思うかですから。他の人からどう思われようと好きな人が大きいのが好きなのか小さいのが好きなのかが重要ですし。ねぇ銀くん?」

 

その声の響きはとても美しくてつい聞き惚れてしまうのだが今回ばかりはそれが底冷えの冷たさを放っていて…

 

「え?うん」

 

俺はわけも分からずうんと答えるしかないのだった

 

「銀くんはどう思う?大きいのと小さいのどっちが好き?」

 

うーんこの梨子の笑顔的に俺が大きい方と言えば抹殺されるんじゃなかろうか。別に俺としては胸の大きさなんてどうでもいいんだけどな…結局好きになった人だったら全てを愛せなきゃおかしいし

 

「どっちでもいいよ」

 

「じゃあ胸にスマホが乗らなくてもいいのね?」

 

なんだその判断基準は…スマホがいくら世界に普及したからってそんな基準は世界のどこを探してもないと思うぞ

 

「あぁうんいいから」

 

良かった…

 

「え?」

 

「ううんナンデモナイヨ!」

 

いやなんでそんな棒読みのセリフみたいな喋り方なんだ

 

 

 

「胸の上からスマホが落ちないこのチャレンジだけにオチがないってやつだね」

 

 

「いややかましいわ」

 

 

その言葉を放った千歌のデコにペチンとツッコミを入れた

 



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その黒澤銀 消えるよ

リクエストを頂いたものですがセリフ多すぎてショートストーリーみたいになってしまった…時間ある時に追記します


黒澤ダイヤの日誌

 

 

浮気防止にはマッサージなどの身体接触がいいと書いてありますが…

 

「私たちは銀にダウンストレッチをしてもらってますから、それはもう手なずけられてますわね…」

 

 

──────

 

 

 

急に協会から言われ連れていかれた強化試合を終え沼津駅へと久々に帰ってきた。この沼津特有の雰囲気はどこへいっても忘れることの無いただひたすらに落ち着く空間だ。まあめっちゃ田舎なんだけどな…

 

 

…あそこのロータリー前にいるのはルビィでも姉ちゃんでもないな…?あの姿は善子か?家族が出迎えてくれるのは珍しくないけどあいつが出迎えるなんてめっちゃ珍しいな…今日は槍でも降ってくるんじゃね?

 

「強化試合おつかれさま。学校から直帰で行かないと行けない状況だったからルビィ達に伝えといてくれって言われてたけど…フフン面白そうだったから何も伝えてないわよ!だからあんたは今行方不明ってことになってるから」

 

は?行方不明?

 

「そうか…その団子頭を握りつぶしていいか?」

 

その情報を聞いた頭はものすごく冷静なのだが怒ってはない訳では無い。俺はめっちゃキレてるよ

 

「怒るも何もAqoursにもたまにはこういうドッキリが必要なのよ。土壇場に立たされた時のパニック耐性ってやつがね」

 

 

「こいつ……」

 

まあ言ってることも確かに一理あるけど荒療治すぎないかそれ。俺だってルビィがいなくなったドッキリなんて仕掛けられたらリアルに狂う自信あるぞ

 

「一応保険として72時間までは大丈夫だからってみんなには言ってるし…大丈夫でしょ」

 

ちょっと待て なんだその苦笑いは…ほんとに大丈夫なんだろうな

 

「大丈夫でしょって…みんなの状況をしらないのか?」

 

「そんなのあんたが急にいなくなるんだから練習なんて取り止めよ。私は知ってるから何も無いけどみんなはあんたが行方不明になったと思ってるんだから」

 

「いや俺山にいただけなんだけどなぁ」

 

山奥の学校いくし電波も繋がらないからいらないだろうと思って携帯も置いていったんだよな。それで連絡も取れないしどうしようもないと…詰んでるよなぁ。携帯の画面見たら通知欄で埋まってそうだ

 

「銀がいなくなったらみんながどうなるか…それが今日見れるわよ」

 

その不敵な笑みは今から始まる映画のスクリーンを見るかのような表情で…こいつこの状況を楽しんでやがるな…

 

「ま、さっさとみんな集めてちゃんちゃん♪って言ったら終わるだろ」

 

「それもいいけど日常を少し覗き見てからにしましょ。私も少し気になってるし」

 

 

……

 

………

 

 

「あれは鞠莉ねぇ…なのか?」

 

「目が虚ろで髪がボサボサね…とてもお嬢さまには見えないわ…」

 

「でもこんな場所で一体何してるんだ?」

 

いつもアグレッシブだった鞠莉ねぇがふらふらとゾンビのように沼津のストリートを歩いているのは今に見るまで想像できなかった…いや想像したくなかったと言うべきか

 

「さあね…でもあの格好ならさっき家から出てきましたなんてわけない」

 

バンッ

 

「あ!鞠莉ねぇがシャッターに!」

 

「待ちなさい!」

 

「なんで止めるんだよ」

 

咄嗟に腕を捕まれふらふらとして立ち上がれそうにない鞠莉ねぇに駆け寄ることができない。

 

「さっき言ったこと忘れたの?あんたが急に消えるとこうなるのよ。少しでも目に焼き付けておきなさい」

 

 

「痛い…ふふシーちゃんどこ?マリーはここよ?内浦と沼津は1周したし次は静岡でもまわろうかしら。待っててシーちゃん」

 

膝を握りしめながら立ち上がったその足取りはお世辞にも軽いとは言えずふらふらと足を擦りながら前へと進んでいた

 

「大丈夫?鞠莉」

 

その声は…果南ねぇか?鞠莉ねぇとは違って走ってきてるあたりえらく元気だけど

 

「oh果南そっちは行けたの?」

 

「私なら三島を1周したし大丈夫。それより鞠莉の方が心配だよ」

 

は?三島を1周した?いやちょっと何言ってるか全然分からないんですけど…それは隣の市じゃなくて流石にどこか違う町のことだよな?三島って地名はいくらでもあるし

 

「私はまだいける…でもその言い様なら隣の市にもシーちゃんはいなかったのね」

 

「うん…これまで何も言わずに出ていくなんて無かったのにね…」

 

目の前のこいつが全ての元凶だと今すぐ言いに行きたい。でもやっぱ果南ねぇは三島市1周したのか…シンプルに化け物すぎない?

 

「でもさ銀を信じて待とうよ。普段通りにさ元気な鞠莉の姿で」ナデナデ

 

「…ううっ…果南…グスッ………」

 

果南ねぇが鞠莉ねぇを抱き寄せて慰めている光景は幾度と見たけど…傍から見てるあたり罪悪感が半端ない

 

 

 

「おい善子」

 

「な、なによ?」

 

「お前のやったことってさあまりにGuiltyすぎやしないか?」

 

「……てへっ」

 

「とりあえずネタばらししに……」

 

さっきと同じく行くなとばかりに腕を掴まれる。ここでもう洗いざらい話して俺はもう楽になりたいんだけど…

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 

「なんだよ」

 

「まだあと六人残ってるでしょ」

 

「いや…そうだけど鞠莉ねぇ可哀想だし」

 

「今度最高級国産和牛の肉じゃがを手作りでご馳走してあげるわ」

 

「ほら、次行くぞ」

 

「あんたチョロすぎじゃない?」

 

──────

 

「……で、ここは?」

 

「ずら丸の部屋を見るための特等席よ」

 

「警察に電話したくなってきたんだが」

 

「それすると捕まるのは銀なんだけど」

 

女子高生の部屋を覗いている行方不明の男子高校生…なるほどこれが役満か…

 

「……」

 

部屋の中の花丸は時折ペンを紙に滑らせながらそれでいて集中しているわけでもなくただただじっとしていた

 

 

 

「全然動かないな」

 

「自分の部屋なら誰でもあんな感じじゃない?」

 

「しかし花丸とは付き合いも短いしな。平常に過ごせてるならそれでよしだろ」

 

特段に異常がないんだとしたらすぐにこの場を離れるべきだろう。だって俺は警察のお世話になりたくないし

 

「平常ねぇ…」

 

「あ、なんか喋ってるぞ」

 

 

 

 

『……こうして…くんと私は結ばれました』

 

『……なんて』

 

 

「なにしてんだ?あいつ……」

 

「小説でも考えてるんじゃない?」

 

小説ねぇ…結ばれたの文言から恋愛小説ってことは分かるが…

 

『…出会いは突然で』

 

『…恋のライバルは……何人もいて』

 

『…それもみんなみんなとびきり可愛くて』

 

『…私なんてかなうはずがないって思ってて』

 

『…くん昨日は…月が綺麗でした』

 

『……方が綺麗だよ』

 

『マルのほうが綺麗……って…それじゃあまるで……』

 

『……毎朝君の味噌汁が飲みたい』

 

『え?毎日?本当に食べたいん…ですか?』

 

『……言葉にするのは恥ずかしいけどさ俺と……』

 

『ううん、うれしい!本当に……マルは幸せ…です』

 

『……これから2人で歩んでいこう』

 

1人で二役を演じているこの光景をはたして小説執筆作業と呼んでいいのだろうか

 

「……」

 

「……」

 

「仮想の世界で理想の彼を作ってそれで心の崩壊を防いでいるのね」

 

「どうするんだ善子」

 

「と、ととりあえずお、おおお落ち着きましょ」

 

「まずお前が落ち着けよ…」

 

「でも元々引っ込み思案なところがあるから全て自分のうちで抱え込むのがずら丸の悪いところよ。あの調子じゃルビィにも相談してないでしょうに」

 

花丸がこれならルビィの様子も心配だ。思ったより事態は深刻なのかもしれないな…

 

「あのなぁ善子。この世にはやっていいことが…」

 

「肉じゃが」

 

「この世は肉じゃが…か」

 

 

──────

 

 

「うーん……梨子とかはどうしてるんだろ」

 

「リリー?リリーなら大丈夫でしょ」

 

「確かにそうかああいう大人びた美人こそこういう時落ち着いているもんだしな」

 

いつもと変わらず美しくエレガントにピアノを弾いてそうではある。まあ俺の妄想なんだけど…

 

「あら?あんたはリリーに心配して欲しくないの?」

 

「え?逆に心配してくれてるのか?まさか」

 

「はぁ…鈍感ってのはこういう時に困りものね」

 

……

 

………

 

「秘密の場所part2よ」

 

「俺はこのドッキリが終わったら自首したらいいのか?」

 

現時点で女子高生の部屋を覗く場所を2つも知っちゃったんだけど…しかもとびきり美少女のをだぜ?

 

 

 

ピアノの美しい旋律が鳴り響いたと思えば直ぐにカタカタとパソコンの打ち込み音が聞こえる。あれは前に二人でやっていた曲の編集作業…俺がいない今あれを一人でやっているのか?2人の仕事を一人でやるなんてハードワークをやっていたらいつか…

 

バタッ

 

 

 

「梨子!?大丈夫か?」

 

「待って私が連絡するわ」

 

「……」

 

状況が軽かったら人工呼吸は俺に任せろってジョークもかませるんだろうけどさすがにこれじゃ何も言えなかったよ

 

「どうかした?」

 

「…マジでやばかったら俺を呼んでくれ」

 

「分かったわ。少し外すわよ」

 

 

……

 

………

 

コンコン

 

「失礼します……」ガチャ

 

「……」スースー

 

ベッドの上で眠っているリリーの寝顔は相変わらず綺麗。あいつがいっつも美人美人っていうのもわかる気がする

 

「あら、善子ちゃんお見舞いに来てくれたの?」

 

あ、リリーのお母さん。そっか…娘さんが倒れたら真っ先に飛んでくるよね…ほんとに悪いことしちゃったな

 

「あ、こんにちは。リリ…梨子さんは?」

 

「ええ、オーバーワークって言っても、そんなにたいしたことないみたい。スクールアイドルをやって身体は丈夫になったからって言ってたはずなのに、今日いきなり倒れちゃったから」

 

「やっぱり銀が消えたからですか?」

 

「……ええ。銀くんが行方不明って聞いてから私がやらなきゃって言って夜更かししてて……ずっと夜通し銀くんの分まで」

 

あいつもしんどいしんどいって言いながらやってた仕事を作曲しながらやってたなんて…その苦しさは想像するだけで胃が収縮するよう

 

「……」

 

「『これだけの仕事を銀くんはずっとやって来てくれたんだ』って…」

 

「……」

 

「……銀くんがいないと、梨子はこのまま仕事に取り憑かれちゃうかも……なんて」

 

 

……

 

………

 

 

 

 

 

「……らしいわ」

 

「…とりあえず残ったタスクは俺が終わらせとくよ。あと梨子の仕事に対する俸禄は善子に請求するから」

 

「わ、私の財布が寒くなっちゃう」

 

「いや当然の報いだろ…」

 

「そうね…私もやりすぎたわ」

 

 

……

 

 

「次は姉ちゃんとルビィだな。もう白状したいけど嫌なんだろ善子。姉ちゃんにカミナリ落とされるのがよ」

 

「どうせなら苦痛はいっぺんに受ける方がマシよ。ネタばらししたら私はどうなるか分からないし」

 

「いやさすがにどうなるかは冗談だろ…」

 

「さあね…」

 

「まあいいやこっちの裏口から入ろう」

 

 

「あれは料理してるのかしら…割烹着姿も相まってすごく様になってるわね。」

 

「いやちょっと待て…確かに姉ちゃんが料理してる姿は何回も見てきたけどなんだこの違和感は…」

 

変な格好や髪型をしているとかの特別な違和感はない…ただ‘何か’がおかしい…いつもと‘同じ’はずなのに…

 

「そんなおかしいところなんてある?珍しいとこなんて包丁を左手で………っ!?」

 

「おいおい姉ちゃんは昔からずっと右利きだぞ…だからこそこんな光景はありえないはずなんだ。だからこそなんで…なんで包丁もおたまもましてやフタをただ取るときですら全部左でやってんだ…?」

 

姉ちゃんは己の利き手と逆の腕でいつもと同じ動きを再生し続けてるのか…?なんてことしてるんだ…

 

「まるで鏡の世界…己の存在は鏡の中でこの現実は嘘であると否定するみたいに」

 

「そんなこと言ってる場合なのか…?姉ちゃんがあの調子ならルビィはもっと心配だわ」

 

「ルビィは大丈夫だよお兄ちゃん」

 

目が据わっていた。精確に緻密にまた精緻にこの状況を描写するなら‘いつの間にかルビィが目の前にいて俺に抱きつきながらこちらに目を向けていてその目はまん丸と開かれていてただひたすらに俺の瞳の奥を1点に見つめていた’

 

「お兄ちゃんが離れないようにルビィがずっとそばにいるね。合宿でも旅行でもルビィがずっとずっとずっとずっとお兄ちゃんのそばにいるよ」

 

「だって離れたら消えちゃうんだもん。だからルビィがずっとおめめの中に入れてあげる。そしたらお兄ちゃんはどこにも行かないよね?」

 

「あんた…つい数日前までお兄ちゃんはベタベタし過ぎとか言ってなかった?」

 

「善子ちゃんもお兄ちゃんをおめめの中に入れたいの?」

 

「質問を質問で返すんじゃないわよ!そう親に習ったの?」

 

「好きってこういう気持ちなんだね。善子ちゃん」

 

「ダメだ…話が通じない」

 

「ルビィ!そろそろご飯が…銀!」

 

包丁を持った姉ちゃんが全速力で駆け寄ってくる。めっちゃ怖い

 

「どこに行ってましたの…私はずっとあなたのことを…」

 

「そのへんは後で説明するよ。あと二人俺の姿を見せてやらないと行けない奴がいるから」

 

……

 

………

 

「みんなから聞いた情報によると2人はこの公園にいるらしいわ」

 

 

 

 

「よーちゃんみっけ!」

 

「あ、みつかっちゃったか」

 

高校生が無邪気に公園で遊んでいる光景はなんというか狂気だった。しかもどこか2人はこどもじみてるし…

 

「おそらくあんたがいないということを幼児化することで否定しているのね。2人は幼馴染だからあんたとの記憶も共有してるし」

 

いつのまにか解説キャラも板についてきたな…全然シャレになってないけど…

 

「……ぎんくんはまだみつからないね」

 

「ぎんちゃんどこにかくれてるんだろ」

 

 

「もしかしたらもうかなんちゃんたちとあそんでるのかなぁ」

 

「うーんそっかぁ…じゃああしたはわたしたちとずっとあそんでもらうようにやくそくしよ?」

 

「うん!ぜーったいずっとずっとあそんでもらうもん!」

 

「だからゆーやけこやけでいいこはかえろー!」

 

「そーだよね!だってちかはいいこだもん」

 

「いいこにしてなきゃ……ぎんくんが……」

 

 

 

 

「曜!千歌!」

 

俺達が隠れていた草むらから善子が飛び出し2人の手を引っ張ってくる

 

「よしこちゃん?」

 

「どーしたの?」

 

「もう見てられないわ。こっちに来なさいあなた達が1番会いたい人に会わせてあげる」

 

「え?会いたい人?」

 

「それって!」

 

「ほらこっちよ!」

 

「あれれ?でもそっちはくさむら…」

 

「それにそろそろもうかえらないと…銀ちゃん!?」

 

「二人とも意識は戻ったか?」

 

「……え?銀くんなの?」

 

「小さい頃の夢はもう…醒めただろ」

 

 

 

「どうしよ…もし夢だとしても今は目の前の銀ちゃんに飛びつきたい」

 

「私もだよ…曜ちゃん」

 

「じゃあ、せーのでいこ!せーの!」

 

「!……全く…まだ小さい頃のテンションが抜けてないんじゃないか?」

 

懐に飛び込んで腕をぐっと回される。俺が実態であるかどうか確かめるように背中や腹を撫でてるのは寂しさの現れなんだろう。でも自らをこんなに大切に想われている実感とこの背中周りを撫でられている感触がどこかこそばゆい…

 

「あったかいよ!本物だよ!」

 

「ホントだ…夢じゃない…」

 

「ごめんな…いきなり消えて…」

 

「寂しかったけど…でもまた会えたから」

 

「うん!千歌ちゃんの言う通り…でも行方不明って」

 

「それは…こいつが」

 

……

 

 

なぜかその後俺は善子と共にみんなに土下座した

 

 

あまりの理不尽さに枕がずぶ濡れになったわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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if 津島善子が許嫁だったら

──────

許婚(いいなずけ、いいなづけ)とは、現在の概念では幼少時に本人たちの意志にかかわらず双方の親または親代わりの者が合意で結婚の約束をすること。また、その約束を結んだ婚約者をさす言葉。許嫁とも書かれる。

 

許婚という語には、結婚を(家など)当人以外のものが決定するニュアンスがある。Wikiより引用

 

この言葉の通りなら俺の背中に抱きついている少女。津島善子はそれに該当するのだろう。なんでも善子のお母さんとうちの母さんが古い仲でこんなふざけた関係が生まれたと言うのだが…

 

正直この歳になったらそれも希薄になってくるものだ

 

「離れろ暑苦しいから」

 

外で虫が輪唱してる時期に密着したらもうそれだけで汗が吹きでてくる。居間が汗でベトベトになるのは勘弁なので是非離れて欲しいんだけど…

 

「離れろ?ちょっと何言ってるかわかんないわ」

 

いやここでサンドウィッ○マンのものまねしてる場合じゃねぇだろ…こっちはクソ暑いんだよ!俺の背中をホールドできるのはお前じゃなくて世界で唯一ルビィだけだ

 

「離れてくれ」

 

「やだ」 ギュ

 

「離れろって」

 

「いや笑」 ギュ

こいつ…一個下の癖に俺のこと嘲笑しやがって…どうやら1つ上の力ってものを見せてやる時が来たようだな…

 

「くっそ……離れろよ……」グッ

 

「いやよ!あんたはこのヨハネのリトルデーモンなんだからギュッとしなさいよ!!義務でしょ義務!」 ギュウウウ

 

あだだだそんなに締め付けたら俺の背骨が大なりみたいに曲がるだろうが!

 

「いつから俺はお前のリトルデーモンになったんだよ!」

 

「そんなの幼馴染なんだから太古の昔からよ!」

 

太古の昔ってたった10数年で何言ってんだか…昔から私は天使だの羽が生えるだの言ってたしクレイジーさだけはほんとに変わらんな

 

「はぁ…お前とは少し絡むだけでこんなに疲れる…まあいいや俺の部屋に戻るわ……あとは姉ちゃんたちとごゆっくり」

 

「…なによ。可愛くないわね…」

 

まあこないとは思うけど念のために鍵しとくか。もう俺は静かに読書に勤しみたいしあいつに邪魔されたらそれこそかなわない。でも戸の方からガチャりと音がすればそれはもう侵入を許しているわけで…

 

「入るわよ」

 

「いやなんで入ってこれるんだよ!?」

 

あまりに自然に入ってくるから鍵という概念が壊れてるのかと思ったわ

 

「あんたって…ほかの女の子にもこうなわけ?」

 

そして入ってきてジト目で言い放ったのはそんなことだった。こいつは昔から俺に対して女心というものを分かってないだの怒ってたからな…男だからわからないものはわからないんだけど…

 

「そんなわけねぇだろ。これでも妹には超優しい聖人だぞ」

 

「けどこの調子じゃお嫁さんにになる人がとてもかわいそうじゃない…というかもし私が許嫁じゃなかったら一生結婚できないんじゃない?」

 

こいつはこいつなりに俺の事を憐れんでいるのか…でも全然的外れな気がするけど…

 

「いやまあそう思うなら離れてくれ」

 

「これは私なりの憐れみなのよ?」 ギュ

 

こいつ…言動と行動が噛み合ってないんだよなぁ…憐れんでるとか言いながら抱きついてくるんじゃねぇよ

 

「あいにくそういうのは間に合ってるから」

 

「うるさいわね!!」 ギュウウウ

 

イテテテテ肋骨が腕にめり込んでるって!

 

 

「ほら俺から離れてやるからさ!だからその手を離しやがれ…」グッ

 

「い・や・よぉぉ……!!!」 ギュウウウ

 

どっからその意地を出してるのかマジで分からん。何?俺の腕を締めあげてお陀仏させようってこと?

 

「しかし頑固だなぁ…ひっつき虫かよ…」

 

「誰がひっつき虫よ!」

 

いやそこに怒るのかよ…俺だってこの善子の1連の行動に対してめっちゃ怒りたいのに

 

「まあいいや。善子はそういや飯は食ったのか?」

 

「まだだけど」

 

「じゃあ久しぶりに善子の作る肉じゃがが食いたい」

 

昔からなんでもそつなく出来た善子は当然料理も抜群に出来る。特に肉じゃががめちゃくちゃというほどうまい。結構前に姉ちゃんも肉じゃがは料理の腕が特に出るから結婚するならそれがとても美味しい人と結婚すべきって言ってたしな

 

 

「やだ。めんどくさいしダイヤさんにでも作ってもらえば?」

 

あぁそう…しかし今日善子が来てるからなのかもしれないけど姉ちゃんちょっとピリついてるんだよなぁ…正直頼みにくい…

 

「そうか…善子の料理食いたかったんだけどなぁ」

 

「…じゃお花摘みに行ってくるからついてこないでよね!」

 

その隠語は知ってるからそれをいちいち報告するんじゃないよ。育ちの良さ出てるけどこっちも網元で一応名家なんだから逆に分かるわ。トイレだろトイレ

 

「はいはいはよ行ってくれ。トイレにな」

 

「乙女の前でそんなこと言うんじゃないわよ!」

 

自称乙女によって引き戸がそっと閉められて俺はまた1人になった。しかしトイレの場所を聞かないあたり善子がこの家にどれだけ来ているのかが分かる。友達の家に行ったらまずトイレの位置を確認するのがデフォルトだからな… これはマストだ

 

 

 

「ふわぁぁ……ねみぃ」

 

 

少し横になって目をつぶるか。頼むにしても少し時間はあるしちょっと小休止……

 

 

……

 

「んぁ…ちょっとだけ目をつぶるつもりだったのにやっぱ寝てたか…」

 

「すぅ……すぅ……」

 

目をパチリと開けるとまず目に入ったのが善子の寝顔。というか何でこいつは俺のベッドで寝てやがんだ?

 

「そんなに密着されると暑いだろ……おーい善子起きろ」

 

「んぅ……?」

 

「クソ暑い」

 

寝ぼけ眼を右手で擦りながらそれでも左手は俺の裾を離さないあたりがこいつの意地というかなんというか説明のできない領域というんだろう。でも暑いから即刻やめろ

 

「うるさいわね……」

 

「それで飯はどうするんだ?」

 

「別になんでもいいでしょ」

 

寝起きだからか知らんけどえらく素っ気ない

 

「仕方ないな…姉ちゃんに…」

 

「……」ギュゥ

 

こいつ…何がなんでも離さない気か?今日だけで俺の腕を何回ホールドしてると思ってんだ

 

「その腕を早く離せ」

 

「んぁぁ…やだ笑」

 

その善子の顔を見て脳みその血管が数本ほど千切れたような気がする。でも腹も減ったし怒る気力が湧かない

 

「ほらもう、ひっついてもいいから居間に行くぞ。腹が減ったんだ」

 

「おんぶは?」

 

「うるせーよ。お前にはおんぶは上等すぎる。引き摺るで充分だ」

 

「仕方ないわね…」ギュゥゥ

 

…右腕が悲鳴上げてるけど飯食えるならそれでいいや。

 

……

 

………

 

居間に入ると分かる甘く炊かれた匂いが鼻腔をくすぐる。これは期待していいのか…?実は割り下を煮込んでただけでしたっていうドッキリじゃないよな?

 

 

「これは……肉じゃがの匂いか……?」

 

「ほんとね。何か言うことは?」

 

「サンキューまじで愛してる」

 

肉じゃがをちゃんと美味く作れる人に悪い人はいないってじいちゃんも言ってたし善子はやっぱ天使だわ

 

「あんた…それこの料理作ってくれた人全員に言ってるんじゃないでしょうね…」

 

「ま、まさかぁ」

 

指で数えられるくらいしか言ってないと思う…多分…

 

「ダウトね」

 

「だって肉じゃが好きだし…」

 

「…子供か!」

 

「引き摺られてるお前の方が駄々こねてる子供みたいだけどな」

 

米俵1つ分にも満たない善子の体重では簡単に引きずれてしまう。へりとか柱があたりそうになったら担いでやったりしたけどそれでも軽いものは軽い

 

「そんなこと言うとまた背中に抱きつくわよ?いいの?」

 

「暑苦しいからやめてくれ」

 

「じゃあほら鍋のところに行くわよ。それじゃないと料理をよそえないじゃない」

 

いやちょっと何言ってるか分かんない

 

「いやお前が腕離せば万事解決するんだけど」

 

「別にいいけどあんたがこないと焦げるわよ」

 

「…それなら仕方ねぇな」

 

肉じゃがのためなら全てが仕方ないけどこのよそうという作業に俺はいるのか?立ってるだけなんですけど

 

 

──────

 

「やっぱ善子の料理くっそうまいな……」

 

手作りの肉じゃがを食べられることこそこの世においての至高だと俺は思う。コンビニなどの惣菜では絶対に再現できない手作り特有のこのうまみを俺はこよなく愛しているからだ

 

「……やった

 

「…?そんなに静かにして食わないなんてダイエット中なのか?」

 

「女の子に対してそんなこと言うんじゃないわよ!ちゃんと食べるから!」

 

「肉が無いんだから山ほど食った方がいいぞ」

 

Aqours全員に言えることだけど全員軽すぎるんだよな…俺と違って内蔵とか入ってないんじゃないかって思うよ

 

「付き合いが長いからこそあんたの言おうとしてる意味は分かるけどリリーとかあんたのお姉さんにそれを言うと消されるわよ」

 

「なんでだよ…事実じゃん」

 

「あんたねぇ…女心っていうのは…」

 

以下女心は異性からの言葉に物凄く影響を受けるというのとだからこそのデリカシー云々の話を延々と聞かされた。

 

「あんたのそれもうないけど…おかわりは?」

 

「めっちゃいる」

 

「あんたが食べると思って少し多めにつくったんだから食べ過ぎってくらいおかわりしなさい」

 

……

 

「今日はありがとう善子。嫌って言いつつ作ってくれるところがほんと優しいな」

 

ほんとそういうとこなのよ……」

 

「……どうした?」

 

「なんでもないわ。ただの独り言だし」

 

食後に居間でくつろぐこの時間は日本人の幸福時間のひとつに入るだろう。ただしそれはこいつが隣で抱きついていなければの話なのだが…こいつが近いせいでひたすらに暑苦しい

 

 

「この部屋暑いわね……」

 

「お前が隣でひっついているからな」

 

木に抱きついているコアラのような状態で善子に左半身を奪われているので動くのもままならない

 

「私が熱源とでも言いたいの?」

 

「おう今すぐ引き剥がしてやろうか?」

 

「でも私は心に冷たい闇を抱えてる堕天使だから熱を感じないし?」

 

それなら芸人が押すな押すなと言ってる熱湯風呂にこのまま放り込んでやろうか

 

「あっそ」

 

「もっと興味を持ちなさいよ!」

 

「堕天使キャラはくどいし飽きたわ。次は侍キャラでやってくれ」

 

またつまらぬものを斬ってしまった的なキャラで頼む

 

「拙者は…って飽きたってなによ!私は堕天使なの!」

 

「はいはいそうだな善子さんよ」

 

っていたたたたた腹いせに俺の腕を締め付けるんじゃない!

 

 

 

「おいもうこんな時間だぞ。そろそろ家に帰らなくていいのか?」

 

「え?そんなに?…誰かさんといると時が経つのは早いのね」

 

「おばさんも心配するだろうし早く帰った方がいい」

 

良い子が帰る時間からすでに3時間も超過してしまっている。高校生といえどこれ以上はさすがにダメだろう

 

「…そうね。いつまでもあんたといたらシスコンが移っちゃうし」

 

「仮にそうだとしてもお前は一人っ子だろ。」

 

「あと暗いから気をつけろ。はたから見たらお前は最高に可愛いんだからな」

 

「そう思うなら家までついてきてくれていいのよ?私の家少し遠いし」 チラッ

 

「……」

 

「何寝ようとしてるの!ちょっとは引き止めなさいよ!寂しいじゃない!」

 

グスン…

──────

 

いつかの数年後

 

 

 

 

 

「おーい善子…おきろ……朝だぞ」

 

「ふわぁ全く今何時と思って…」

 

「短針と長針が一直線になっちゃてる時間」

 

「え゛!?ごはんのよういしなきゃ!」

 

「いや今日は俺が用意したから」

 

「ほんと?」

 

「だから顔洗ってこい」

 

「ふわぁありがと」

 

「あ、そういや善子」

 

「……?」

 

「善子の今日の寝言は‘わたしのだんなさんはせかいいち’だったぞ」

 

 

 

「んにゃああああああああぁぁぁ!忘れなさいよ!」

 

「いやーほんとお褒めに預かり光栄だよ」

 

「夢の私のバカァァァ!」

 

 

 

 

 



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黒澤銀と恋占い

言い訳もなく非常に拙いです。


黒澤銀の日誌

 

 

花丸が天使なのは自明の理だけどその中でもおさげの髪型が1番可愛いと思う。だって天使だからね

 

 

──────

 

「あなたは忍耐力がある方ですがそれでも限界を超えるとはっちゃけてしまいます。非常に真面目で努力家であり1度決めたら最後までやり遂げようとします。さらに恋愛面では好きな人に対してアタックしようとするもなかなか踏み出せずにいる。占いの結果としてはこんな感じかしら」

 

「…すごいあたってるずら」

 

目をキラキラさせながら善子の手をブンブンと振る花丸。これを信じてるようなら将来変な壺でも買わされそうな勢いだぞ…

 

「純朴な花丸にバーナム効果使って信じ込ませてんじゃねぇよ。騙されてるぞ花丸」

 

「いたのなら話しかけなさいよ。せっかく面白いことしてるんだから」

 

「わ、銀くん。えーと騙されてるってどういうこと?」

 

首をこてっとかしげるおさげの花丸が可愛すぎて思考が10秒くらい飛んだわ。多分だけどおさげによって天使度が+20%は上がってると思う

 

「…要は誰にでも当てはまることを言って当たってると思わせてるってことだ」

 

「ほぇ〜じゃあ占いはホントじゃないってこと?」

 

「まあ万人に共通することだから間違いじゃないけどこれならあなたは人間ですって言ってるようなもんだからな」

 

「何よそのジト目は…私のことを占いを少し齧った詐欺師かにわかだと思ってるんじゃないでしょうね…」

 

さすがに純粋な天使を黒魔術で誑かす悪魔としか認識してなかったわ。

 

「言っとくけど!キャラの維持のため…じゃなくてこのヨハネとしての知識はそれくらいじゃ留まらないわよ!ちゃんとしたのもあるから!」

 

「「へー」」

 

「さっきのは謝るから興味を持ちなさいよ!」

 

 

「じゃあ占われてみるか」

 

ある一方に関する知識の深さだけは善子のことを手ぶらで褒めなきゃいけない。割りと本気で占星とかしたら当たりそうだし

 

「恋愛のやつからいくわよ。あなたの前に赤、青、白、黒のカードがあります。それを見知らぬ異性にプレゼントするとしてあなたはどの色のカードを渡しますか?」

 

「赤」

 

「マルは白ずら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

診断中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは赤からいくわよ。赤を選んだということはあなたは恋愛に又は恋愛相手に情熱を求めています。燃え上がるような恋があなたには似合うでしょう」

 

「あ…うん」

 

見知らぬ異性って言われても分からなかったからルビィと姉ちゃんのイメージで赤を選んだっていうのは黙っておくか…占いからズレちゃいそうだし

 

「次は白だけど…白を選んだあなたは恋愛に純粋さを求めています。純白のようなプラトニックラブを無意識に求めていると言ってもいいでしょう」

 

花丸の結果は俺と違って合ってそうだな。だって天使だし白だし実質純粋=花丸といっても過言じゃない

 

「あってるのかな…?」

 

「…あと青は冷静さ黒は誇りや高潔さってところね。ま、自分がどう思うかは置いといて私から見ればあんた達2人は合ってると思うわよ」

 

「善子ちゃんがほんとの占い師に見えてきた…」

 

またまた目をキラキラさせている花丸。しっかりしてるように見えて意外と乙女なんだな…そういうところもめっちゃ可愛いけど

 

「ふっ…これからは占い堕天使のヨハネと呼びなさい」

 

「それだと当たらなさそうだけどな」

 

「うっさいわよ!次!あなたの目の前に広い草原があります。そこに小さな火種が現れたとしてそれはどこまで燃え広がった?またどれくらいで鎮火した?」

 

「燃え広がらずにすぐ鎮火した。」

 

「マルも同じずら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

診断中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これはあなたのストレス度合いを表しています。燃えた面積が多いほどストレスが多く、鎮火するまでの時間はそのストレスが消えるまでの時間を表しています。ってあんた達はストレスを感じるってたまじゃなかったわね…」

 

「まあ俺は隣にルビィか花丸がいてくれればストレスなんてないしな」

 

むしろ癒しのオーラで無限に力が湧いてくるまであるぞ

 

「え?銀くんそれって…プロポ「次行くわよ」

 

なんか花丸の話遮ってなかった?そんなに勢いよく占いがしたいんなら最初からすれば良かったのに

 

「あなたの目の前に花屋さんがあります。そこに色とりどりの花があったとして、それはどれくらい咲いていましたか?ところどころなのか満開なのか、それとも全て蕾なのか」

 

 

 

「俺はすべて満開。あますことなく全ての花がだ」

 

「マルは1輪だけ綺麗に咲いてたずら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

診断中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは愛の重さを表しています。花が多く咲いていればいるほど愛が重いです…銀あんた…」

 

「…やっぱ俺も1輪で」

 

愛が重いってなんか嫌じゃん…表現的には素晴らしい愛の総量ですとかにして欲しい。だってストーカーみたいだし…

 

「占いにやっぱとかあるわけないでしょ…あんたは愛が重いの受け入れなさい」

 

愛を軽くする方法を調べるしかないか…

 

「逆にずら丸はそこまでって感じね。愛の重さは人並みで普通だわ」

 

「…でもちゃんと好きな人はいるよ?」

 

なんで花丸はこっちをちらちら見てるんだ?そんなに俺の愛が重いことがあれなのか?

 

 

「これまでの占いしてきたけど今度は逆に私の好きなものでも当ててみたら?」

 

煽るように笑みを浮かべてるけど占いと何の関係もないじゃん…俺も人の癖とかは見るの好きだけど好きなものとか見抜ける気がしないし

 

「ヒントは今私の近くにあるものよ」

 

「いや全然わからん…」

 

ヒントがヒントの仕事をして無さすぎてビビっちゃうね。周りにあるのって机と椅子に申し訳程度の花瓶しかないんだぞ。

 

「マルはわかったずら」

 

「マジかよ花丸。ヒントをプリーズ」

 

「マルも…好きかな」

 

花丸も好き……?善子と花丸の共通項なんてあったか?花丸にヒント貰ったらさすがに分かるだろと思ったけどそのヒントでさらに混乱してしまった

 

「…すぐそこの図書室とか?」

 

「不正解ね。多分一生分からないだろうけど一応宿題にしといてあげる。ほらずらまるも勝ち逃げするわよ」

 

「しっかり考えてね?銀くん!」

 

手を振りながらこの教室を去っていた花丸がとりあえず天使だったことをこの日の日誌に書くとして…

 

最初に花丸が好きなものと言われたら間違いなく‘俺’と答えるのに…っていやこれは俺のエゴであり願望なんだけどな。しかし善子のすきなものと言われると途端に見えなくなる。あいつは確かチョコといちごが好きだったっけ…でもこの空間には無かったしなぁ…

 

 

はぁ…帰ってルビィにでも聞くか…

 

 

 

……

 

………

 

 

ハァ…ソンナシツモンスルナンテオニイチャンハドレダケドンカンナノ?

 

イヤギャクニワカルヤツトカイルノカ?

 

ミンナワカルンジャナイ? オニイチャンイガイハ

 

 

 



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Aqours内の待遇格差

滑り込みというか空いた分だけ埋めときます…1日でこんなに書いたの久しぶりだ…


高海千歌の日誌

 

銀くんをうちで雇えれば一緒にいられる…?

 

 

でも鞠莉ちゃんに同じことされた時ってうちの旅館勝てるのかな?

 

 

 

──────

 

「どーいつろーどーどーいつちんぎん!」

 

頬を膨らませてそう呪文を唱え続けるAqoursのリーダー()

 

「は?」

 

理解しようとしても理解できない現状をイマというんだろう。何してんだこいつ

 

「だから!どーいつ「さっきから千歌ちゃんは銀ちゃんはメンバーによって待遇を変えてるって…しかも同じ仕事をしてるんだったら同じ報酬を得るべきだ!って」

 

この曜の苦笑いが今の千歌のモンスター具合を表してるといっていい。千歌はこうなるとひたすらに面倒臭いからな…

 

「いやそれ前もやっただろ…待遇は変えてない」

 

昨今労働者の権利云々がうるさいことは知ってたけどまさかこのスクールアイドル界隈にまで回ってくるとは思ってなかった。まあ千歌が勝手に言ってるだけでなんの関係もないけど

 

「銀ちゃんの周りに女の子が増えたから千歌ちゃんも少しアングリーになってるんだと思うよ」

 

だとしたら俺が浦の星に入ったことがもうダメみたいになるじゃん。タイムマシンでも開発するか…?

 

「どうどう落ち着け千歌」

 

今はとりあえずぷんすかと怒ってるのをどうにか落ち着けるしかない

 

「えへへ銀くんってば喉元はくすぐったいよぉ…」

 

「お?落ち着いたか?」

 

「って違う!疑惑の証明のためにAqours全員集合だよ!」

 

リーダー()による招集によりAqoursが集められることになってけどこれは本格的にだるいことになったな…

 

「結婚三年目の不仲をいびってくる姑のような面倒くささだ…」

 

「銀ちゃんそれ的確すぎてツッコミずらいよ…」

 

──────

 

「集まってもらったのは銀くんがメンバーによって待遇を変えているという疑惑があるからです!」

 

「あれ?何となくデジャヴ…」

 

梨子はこの話1回聞いてるからな…正直申し訳がないとしか言い様がない

 

「何も言わずに聞いてやってくれ梨子。言いたいことが山ほどあるのは分かるけど頼む」

 

「そんな銀くんに事情聴取するためにみんなには来てもらいました」

 

「でもこいつにとってはルビィが1でその他は有象無象って感じでしょ?」

 

「失敬だな善子そんなことあるわけないだろ。ただ少しだけルビィを優遇してるだけだ」

 

「その少しだけを具体的に数値化しなさいよ」

 

「5mくらい?」

 

「結構あるじゃん…」

 

果南ねぇのため息混じりの声に少しばかりかみんなも頷いていた。

 

「それじゃあ格差あるって決まったし解散する?」

 

「ちょっと待ったぁ。まだ聴取は終わってないよ」

 

えぇ…結局やらなきゃいけないのか…

 

「じゃあもう早く終わらせよ。銀もほらそんな嫌そうな顔してないでこっち来なよ」

 

「銀くんいくよ?…果南ちゃんの印象とかイメージは?」

 

「年上の幼馴染」

 

普通のこと言っただけなのに果南ねぇに思いっきり睨まれた…なんで?

 

「鞠莉ちゃんは?」

 

「果南ねぇと同じ」

 

鞠莉ねぇは逆に床に手をつけて身体震わせてるし…

 

「ダイヤさんは?」

 

「自慢の姉ちゃん」

 

驚きに目を見開いた後その褒めに口角を少し上げた姉ちゃんは俺の腕に手を当てこう言った

 

「ほーら銀の言ってる通り格差はありませんわ!」

 

 

「いや明らかに格差あるよね…」

 

「千歌っちの言ってることよーく分かっちゃったわ…」

 

やっぱり姉弟だと意見が合うなあ!と喜んでいた矢先に2人のジト目と言葉の槍が俺を貫いていた

 

 

 

「ほら2人もそう言ってる!次は1年生のこと聞くけど善子ちゃんは?」

 

「まあ一応美人」

 

善子は美人と言われ慣れてるのか照れてる素振りもなくそっぽを向いて唇を尖らせていた

 

「花丸ちゃんは?」

 

「天使かな」

 

えへへと言いながらにこにこと照れてる花丸は天使。

 

「ルビィちゃん」

 

「超天使で目に入れても微塵も痛くない」

 

ルビィには天使と言い過ぎて天使耐性あるからもっと別の褒め言葉を考えないとダメだな…ワンパターンすぎるし

 

「Aqoursの一年生がはいすぺっくすぎるよぉ…でも2年生にはエースの梨子ちゃんがいるし!」

 

「なんか企画の趣旨が変わってない?千歌ちゃんこれ学年対抗じゃないよ?」

 

「あ、そーだった。むむむでも一年生にそんな差があるように見えない…」

 

「私だけ格が落ちてるんですけど…2人が天使の私一応美人って…」

 

「善子ちゃんそんなにショック受けなくても銀ちゃんの中であの2人が強すぎるだけだから大丈夫だよ」

 

 

 

「次は私たちだけど…まず梨子ちゃんは?」

 

「お淑やかな美人」

 

そうにこりとした笑みを浮かべられると非常に怖い。え?俺言葉の選択間違えてないよな?

 

「曜ちゃんは?」

 

「運動とか料理とか裁縫とかなんでも出来るし自慢の幼馴染」

 

曜もへへって照れてるけどこれ全部事実だからな。あまりにハイスペック過ぎてビックリするわ

 

 

後は千歌だけど人に自分の印象を自ら聞くのってなんか恥ずかしいんだよな

 

「わ、私」

 

「幼馴染」

 

事実。

 

「で?」

 

「ん?」

 

「しょ、詳細を…」

 

「詳細?」

 

・ ・ ・?詳細って何だ?wikiで幼馴染の詳細を引っ張ってきたら良いの?

幼馴染(おさななじみ)は、幼い頃に親しくしていた友達を言う。

 

後述のような文化もあってか、現在では異性の(特に初恋の)相手を思い浮かべる人も多いようである。 本来は同性・異性を問わない、いわゆる「竹馬の友」を指す言葉であり、報道などでは「幼なじみの男性/女性と……」といった表現もなされる。Wikipediaより引用

 

「差別じゃん!」

 

机をバンと叩いて迫真の顔で詰め寄ってくる千歌

 

「は?」

 

「よーちゃんと私にけってーてきな差があったじゃん!」

 

「幼馴染に差なんてないだろ」

 

少なくとも俺は曜と千歌に差をつけたことなんてないけど

 

「あるじゃん!」

 

「どこにだ」

 

「明らかに文字数が違ったじゃん!26文字と3文字だよ?そんなの悔しいじゃん!」

 

そんな文字数が欲しかったのか?それならあのWikiの文言でもくれてあげたら良かったよ

 

「分かった分かった。千歌も自慢の幼馴染だから」

 

「えへへほんとに?やったあ」

 

とりあえず機嫌も直ったしこのままミーティングして練習に入るとするか

 

 

 

「うちのリーダーがあれで大丈夫なのかしら…」

 

「ま、悪い男に引っかかってないだけマシじゃない?」

 

「ある意味では1番悪い男の子ではありますが…」

 

 

 

「なんで千歌ちゃんは差別だって怒ってたんだろ?」

 

「鈍感の遺伝子は兄妹揃ってなのね…」

 

「善子ちゃん…持たざるものはただ黙るしかないずら」

 

 

 



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saint snow 恋がこんなに苦しいなんて 前編

自分で言うのもなんですが魂を込めました


──────

 

 

姉様…きっとこうなってしまった以上私達はどっちかが傷つかなきゃいけない。同じ人を好きにってしまって2人で追いかけてそれで幸せになれるなんて幻想はこの世にないの。だから…姉様には絶対に今の現状から逃げずに銀と真剣に向き合って欲しい。お互いに気にするのはやめてアタックして振られたらお終い。そうしたほうがいいと思う

 

 

 

 

 

 

«理亞…ほんとうにごめんなさい…»

 

 

謝らないでよ…私まで泣いちゃうじゃん…

 

──────

 

 

 

 

夏は暑く冬は寒いと小さい頃から口酸っぱく言われてきた俺からすればこの気候は珍しくとても涼しい。 といってもそれは平均と比べてなので汗ばむという点では何ら変わりわないのだが…しかも明日からはまた暑さがUターンしてくるらしいしただひたすらにだれた日々が続くのだろう。

 

そんなことを考えていると太もものあたりがヴヴッと響く…この振動音は恐らくメッセージだろうと思いつつも、間違えてマナーモード中に悪魔から着信来てました。なんてことがないように恐る恐る画面を開く。そこにはメッセージ一通from聖良‘理亞が世話をかけてすみませんね’と表示されていていかにも聖良らしい文言に少し笑みを浮かべてしまった

 

「そういやこっちにいつまでいるんだ?」

 

「あと4日くらい」

 

理亞が来てもう3日か…と時が経つのは意外と早いなと年寄りみたいなことを思ってしまった。しかし世間様が働いていても学生にとってはこの夏休みというのは天国であり理想郷なのだろう。それほどまでにこの長期休暇はなんにでも使える時間なのだ

 

「ふーん」

 

なんてことを思いつつ聖良のメッセージに対する返事を打っていると理亞が何かを言おうとした。だが首を振って口をつぐみ言おうか言わないかとモジモジしている。そんな時はどうしたと聞きやすいように続きを促す。その態度に不服なのか理亞は俺のその声にむっとしたような表情をした

 

「それ…誰かから連絡でもきたの?」

 

「あぁすまん」

 

話している相手の前でスマートフォンを弄るのはさすがに失礼だったか。 とはいえ全く無関係の人間とやり取りしてるわけではなかったので軽くすまんと頭を下げ少し間を置いて携帯の画面を見せる。

 

「聖良からお前のことを任されてるんだよ。ほら」

 

正直に包み隠さず見せたのに理亞はその画面を見て少しだけ表情を強張らせた。いやなんでだ?

 

「姉様とやりとりって結構してるの?」

 

「そこまでだけどな。理亞と頻度は変わらないと思う」

 

それって結構じゃん…

 

聖良と理亞とはまだ出会って半年も経ってないくらいと言われれば驚くような関係性ではあるけどやりとりをしたと言えるほどの内容じゃない気がするし。むしろ姉ちゃんとかルビィの方が仲良いだろうからな

 

「正直銀って姉様のことどう思ってるの?」

 

「え?」

 

理亞のその質問に俺は‘え’か‘は’としか答えられなかった。それほどまでにそれを理解するのを拒否していたのかもしれない。友達に対してどう思ってるかなんて普通は聞かないと思ったからだ

 

「何で?」

 

「だっていっつも姉様にデレデレしてるし」

 

否定はしないけど、むしろあの完璧超人の美人に微笑まれて照れないやつとかいるの?聖良が通ってるのは女子校だけどあれが共学とかならファンクラブとか出来るレベルだろ

 

「美人すぎるのは認める。けどそういうのじゃない」

 

聖良に対して思うのはまず尊敬の念だ。あれほどまでに理想を体現する人間を俺は見たことがなかったし、それを追い求める辛さと答え続ける苦しみに耐え続けてるのはもう敬服に値するレベルだと思うからだ。それを置いといてあの聖良と男女の関係になりたいかと問われると少し首を捻ってしまう。

 

「ふーん」

 

どこか素っ気ない理亞は欲しかった答えが貰えなかったことをもどかしそうにしながら唸る。 口角もすこしだけ上がっているように見えたけどその理由を聞こうと思う気分ではなかった

 

「でも私から見たら好きそうな感じはするけど」

 

話の流れから見るに理亞には俺が聖良のことを好きであるように見えるらしい。 確かに好きかと言われれば嫌いじゃないし逆に好きの部類に入る。でもそれが恋愛に関する感情かと言われたら少し思い悩んでしまう。

 

でも一つ言えることは好意の種類として聖良に向かっているこの感情はAqoursのメンバーに向かうものとは違うような気もするんだよな…まあ幼馴染も多いし一概に言えるものでもないのかもしれないけど

 

「あまり恋とかしてこなかったらそういうのは全然分からないんだよ」

 

その点においては何も包み隠すとこはない。数多の例え言葉がある恋において不意に思いを馳せたり胸が苦しくなったりすることが果たして恋愛感情なのかどうかは俺にも分からないからだ

 

「私のことは正直に言ってどう思ってる?」

 

「理亞はなんか好きとか嫌いとかそういうのじゃない気がする」

 

感情を言葉にするのは難しいけど、なんというか理亞に対する想いを例えようとしてもちょうどいいのが出てこない。好きと言われれば好きなんだけど、それはAqoursのみんなにも言えることだし

 

「どういうこと?」

 

「しいて言うなら妹みたいなもの…かな」

 

「銀にとって妹は万能器具なの?」

 

キッと睨みつけるその表情は出会った頃からなんら変わらず俺の瞳を捉え続けていた。

 

「だって妹って言うけどルビィと私じゃ待遇が違うでしょ?」

 

もし本当に理亞が俺の妹だったしたら俺はルビィと同じように理亞を愛しただろうか。それはそうならないと分からないのだが俺は愛しさえすれど多分同じようにはならないと思う。恐らく愛の形というのはそれぞれ決まっていて、他人に対する愛し方をそのまま持ってくるなんてことはありえないのだ。

 

「…そうだな」

 

理亞の言葉が重石のように俺にのしかかる。意味の無い言葉や軽口とは違う真に中身の詰まった重みのある言葉がずしりと俺を押し潰さんとしていた

 

「じゃあ私が好きって言ったらどうする?」

 

「好きって言ったらねぇ…」

 

ラグビーとアメフト、クリケットとベースボールのようにはたから見たら似ているようなことでもいざ話が飛ぶと分からなくなるのは当然だろう。今、どう思ってるから好きの話にいきなりワープしたし…

 

「で何が好きなんだ?」

 

「銀」

 

その目と目が合った瞬間まるでギリシャ神話のメデューサに見つめられたのかの如く身体が硬直する。 もうひとつの物質の方の銀であって欲しいと頭が現実逃避し始める。さすがに思考を巡らせすぎて少し押し黙ってしまった

 

「驚いた?」

 

 

素直にそうだと答えた。いつもの通りならあなたの気持ちには応えられないごめんなさいと言うのだが。 そのいつもの様にあなたの気持ちには応えられないと理亞に言えなかったのは俺の心の弱さが原因なんだろう。ただただ何も言えない悔しさが胸のうちで燻る。そしてひとつの罪悪感があるということは俺の中では理亞に対する感情は‘好きそうな感じ’的なものではないということだ。

 

 

言葉の渦から抽出した単語を丁寧に編み上げて話し始める。

 

「そうだな…」

 

おそらくとかたぶんなんて曖昧な言葉で濁すのはきっと失礼だろう

 

「理亞のことは成長してる妹を見てる気分なんだ。なんていうか目が離せないって言うか」

 

丁寧に紡いだつもりだったが言葉が足りていなかった。なんだろう説明するのはとても難しく簡単に言葉にできるような関係性じゃない気がする。向こうからしたら俺が最初は敵だったというのもこの現状を分かりにくくしているのだ。でも一つだけハッキリとわかるのはこの気持ちは恋愛感情というよりは妹に対するものだ

 

 

悪いことをしている気持ちからか心臓を針で突き刺すような痛みが押し寄せている。しかし言葉を重ねれば重ねるほどにそれはふわふわとした意味の無い風船のようなものになるだろう。 だからこそ口を閉じた

 

理亞は少し顔を上げて梁の方をじっと見つめていた。そこから目を閉じてふっと息をひとつ吐いて嘲るように口を開いた

 

「好きだったんだけどなぁ…」

 

その言葉に俺は何も言えずにいると理亞がすっと立ち上がった。見なくても家の間取りが頭に入っている俺は理亞が歩いていった方向でどこに行ったかを推測する

 

 

ルビィの部屋

 

それはまるで同じ存在をそこの空間に押し込めているようで俺は何かの嫌悪感に襲われた。まるで別人に生まれ変わったかのように己の身体がうごかせず、ただ頭だけがかろうじて回っている。

 

 

…恋がこんなに苦しいなんて思いもしなかった

 

 

そんなことを考えていると不意に聖良の顔が目の前をフラッシュバックしたような錯覚に襲われる。

 

その錯覚で立ち返った俺はまだ神経伝達に反抗気味な利き手から動かしていく。その手の中に、‘よろしくお願いします’と受信したメッセージを表示したまま画面を律儀に点灯し続けるスマートフォンがあった。 カチッと電源ボタンを押してからポケットに突っ込む。緊張からなのか何か違う原因なのか俺の喉はからからに渇いていて無意識の内に注いでいた茶をくっと流し込んだ

 

 

きっと精神がすこしすり減っているのだろう

 

その日の夕食をいつもの半分程度に減らしてもらい体調でも悪いのですかと姉ちゃんに心配された。

 

別に体調が悪いわけではないのにどうして俺の身体が動かないのだろう。その日は金縛りにあったように何も動けず意識が落ちた

 

 

──────

 

鳥のさえずりが太陽が上ってきたことを知らせていた。しかし起き上がることができず上の方を見たりうつ伏せになったりと布団とずっと戯れていた

 

「理亞か…」

 

とびきり可愛いと言っても過言じゃない理亞から告白されて嬉しいと言えば嬉しいのだがどちらかというと後ろめたさの方が大きかった。 自分で言うのもなんだがそれなりに告白はされてきた方だ。それでもこんなに近くなった関係の人から好意を告げられたのは恐らく…初めてだと思う。だからなのか得体の知れない罪悪感がただ俺を蝕み続けていた。

 

 

 

そんな感情から逃げるように一人になりたくて裏口を風のように走り抜けると勢いで淡島まで来てしまった

 

 

鼻を通る磯の匂いも肌を撫でる海風さえ以前とは何かが違うような気がする。生まれ変わったのか、もしくは俺以外の全ての環境が入れ替わったのかそんな感情に飲み込まれて落ち着かない。

 

ここに来たからにはある程度想定してたけどいざ帰ろうとしたら果南ねぇに捕まった。

 

 

防波堤に腰を下ろすと果南ねぇは俺の顔を見てうわっと変な顔をした。

 

「どうかしたの?」

 

銀がそんな顔するなんて珍しいなんて言いながらにこりと笑う。果南ねぇだけは変わっていなかったとその時は妙なことを思った。

 

「いや、なんというか」

 

その他もろもろのことを分かりやすく説明するなら

 

「理亞に告白されたから半分保留してるけど聖良とも向き合いたい」

 

「うわぁ…女の子をボトルみたいにキープしてる奴がいるよ」

 

果南ねぇは侮蔑の目で俺を見下していた。でもそれすらも変化がないように感じられて、すこし安堵の気持ちが押し寄せた。

 

「でそんなはっきりしないなんて何があったの」

 

告白されたから困ってる。

 

と説明するのは誰だって出来る。しかし大事なのはその後で告白をされたことによって俺にもたらされた影響を果南ねぇには説明しなければならないのだろう。しかし…どう説明したものか

 

「なんか‘究極の選択’を目の前にしてる気分なんだよ」

 

不変なんて絶対にありえない。あの二人と仲良くし続けることは出来てもその関係っていうのは絶対に変わりながら進んでいく。そこを有耶無耶にしたままで付き合ったって結局いつかは別れることになるからだ

 

「ふーん…究極の選択ねぇ」

 

俺は何を選択すればいいのだろうと。いやもはや選択は出来ているのだろうけどそれを掴み取っていいのか、そしてその先にある未来に対して踏み込んでいいのか思い悩んでいるのだ。先を憂いていると言えば聞こえはいいのだが1歩すら踏み出せない臆病者でもあった。それでもあの時好きと聞いて脳裏に浮かんだのは聖良のことだった。

 

 

究極の選択とだいそれたように言っても

 

 

その答えは決まっていて俺は聖良のことが好きなのだろう。自覚症状などがなく果南ねぇと理亞によって気付かされたのだが今しがた完璧に理解した。そして思うのはずっと隣にいて欲しいという浅すぎる願いだ

 

聖良は俺にとって姉ちゃんと並ぶ姉の理想像だった。叱責や激励を絶妙なタイミングで言葉にしてくれる。俺の事を知り尽くしている姉ちゃんのように計算された訳じゃなくただ自分が思うことをしているだけなのに。まさしく泰然自若で何事にも包み隠さず向き合ってくれる人がいるとそれはもうどうやっても好きになってしまう。

 

 

 

しかしこうやって唸りながらと考えるのはしょうじゃないんだけどな…

 

「そんなに思い悩むって銀のキャラじゃないでしょ?」

 

果南ねぇは俺の思考をエスパーのように読み取りそんなことを言ってくる。いや、単純に昔からの付き合いだから俺の性格を知ってるんだろうと切り捨てるのは簡単だけどにこりと笑って励まそうとしてくれているようなのでエスパーな救世主ということにしておいた。まあ果南ねぇには絶対エスパーキャラは似合わないけどな。俺が見るに格闘・水の複合タイプだろう

 

「何でもマルチタスクでやろうとするのは銀の悪い癖だよ。もう2足もわらじ履いてるんだから、これ以上他のものに手を出すと本当に千手観音になっちゃうよ?だから一つ一つやっていけばいいの」

 

そうか、確かに何でも並行してやろうとするのは俺の悪いところだ。何となくマルチでやらないと時間がもったいない気がしてならないし、そう思ってこの前飯食いながら素振りしたら時短になると思ってやったら姉ちゃんに飯をドッグフードにされたしな …

 

俺に出来ることは一つ一つと向き合うしかない

 

 

 

 

 

思えばあの関係を俺はずっと続いて欲しいと感じていた。

 

でも1度動き始めた歯車は絶対に止まらないし、2人のどちらかと向き合ったらきっと今のような関係じゃいられない。

 

究極の選択。

 

果南ねぇが言っていた一つ一つという言葉。でもそれじゃあきっと間に合わない。 きっとこのぬるま湯のような関係を続けることは出来ない。この選択を選ばないといけない状態にいつの間にか必ずなっているはずだ。

 

 

 

まあこんな美人姉妹を並べて究極の選択なんて言ってる時点で俺は超恵まれてると言ってもいいんだけどさ…

 

 

「明日から俺が分身出来るようになってないかな」

 

「はいはい無理だから」

 

まだ言ってるのかと果南ねぇはひやりとする冷たい声で言った。

 

「だよなぁ」

 

無理なものは無理で割り切るしかない。己の限られた手札にいきなりジョーカーが舞い降りてくるのは善子の持ってる異世界小説だけで十分だ。本来ならその手札で出来る最高の結果を思考し続けることが人生の義務なのだろう

 

だからこそ俺は理亞に対しても正面からぶつかって考えてることを伝えるしかない

 

果南ねぇは俺を見透かしたようにまたにやりと笑った

 

「銀はちょっと英雄気取りなところがあるから」

 

「英雄気取り?」

 

「みんなを救いたい!模範となり続けたい!ってね。でも今回ばかりは綺麗な手のまま終わるのは多分無理だと思うよ。傷つける覚悟ってやつが銀にも必要なんだよ」

 

「覚悟か…」

 

傷つける覚悟なんて考えたこともなかった。むしろ今までずっと傷ついている人を守りたいって考えだったし、実際にルビィを俺は守り続けてきた

 

「手を汚さずにこの世の全てを解決できるなんて…そんなことありえないから」

 

果南ねぇはこの世の真理を見たかのような冷たい目で俺を見ていた。

 

 

「あとは急がば回れじゃなくて急がば待機もありだよ。時間が解決するってこともあるんだからさ。」

 

ちょっといいことっぽいことを言ってるところがまたおもしろい

 

果南ねぇと別れ本土に戻る。 夕焼けが地平線を真っ赤に染めているあたり相当な時間そこにいたんだと実感させてくれる。

 

 

 

もし聖良と付き合えたとしたら今度は理亞と話が出来なくなったらどうしようと…そんな弱いことを考えてしまう。理亞には俺の思いを伝えなければいけない。けどそれで納得してくれるの保証なんてどこにもない。

 

 

 

 

夏の太陽が海の向こうへ沈もうとしている。リーンと鳴いている虫の声がそこらじゅうに響いている。 道路も店も島も何もかもが夕焼け色に染まっている

 

 

 

 

家に帰っても俺の考えは全く纏まらずただ天井を見つめることしか出来なかった。そして頭を抱えたまま目を瞑りついには眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 



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saint snow 恋がこんなに苦しいなんて 後編

──────

 

明くる日も会話はほぼゼロ

 

 

しかしこのままではダメだと思い理亞を誘って高台に行こうと決めた。こっそりと耳打ちすると理亞はこくりと頷き玄関の方へ抜けた。俺は出かけてくると声を上げ、姉ちゃんの気を付けて行ってらっしゃいの声を聞いた後に理亞を追いかけた

 

 

海沿いの道路を2人で歩く。木々のトンネルをくぐり抜ける。木漏れ日が照らす高台まで登った時ふっと息を一つ吐いた。それが会話を始める下準備だったのだが、いざこの思いを喋ろうとすると言葉に詰まってしまう。ジーッと鳴く蝉の鳴き声がまだかまだかと聞こえる。肌を撫でる海風が俺を催促しているようにも思える。冷や汗かそれとも暑さなのか背中につーっと一筋の汗が流れた

 

 

結局会話の内容を考えている時点でおかしな話なのだ。会話とは自分の思いを形にすることなのにその形を頭で思考している時点で混乱は避けられないものになる。

 

 

 

 

 

 

また一つふっと息を吐いた。今度はホントの下準備

 

 

「俺は」

 

獲物を見定めるような理亞の目がこちらを見ている。しかし俺は歩みを止めない。答えは決まった。ならそれを言葉にするだけだ

 

 

「聖良が好きだ」

 

この空間に似合う長い静寂。しかしこの状況には少し似合っていない。俺の目線の先にいる理亞は唇を噛み締めながら少し瞳を潤ませていた

 

「私は」

 

唇を(ほど)いてその言葉を発したあとにまた少し押し黙る。 その身体は拳をぐっと握りしめ小刻みに震えていた

 

「やっぱり、妹なの?」

 

声を震わせながらうつむいた理亞に対して俺は何も言えなかった。己の心を形にするだけなのに、どうしても考えてしまう。でも、考えれば考えるほどに思考は巡り俺の頭は絡まるようにこんがらがっていく

 

言葉をひとつ。違うと言いたい。妹みたいなものだと思っているからとかそういうことじゃないと。けど果たしてそれを言ったとして理亞は納得してくれるのだろうか。

 

 

 

無言の空間に耐えきれず少し上を向いた。木漏れ日が蝉を丁度照らしていた。腹部を震わせながら短い命を燃やしながら生きている。きっとこの楽しかった夏も終わりを告げる。 季節がまたひとつ巡っていく

 

 

 

 

 

 

「悔しい」

 

ぼそりと聞こえた理亞の声

 

「え?」

 

「悔しいって言ったの!」

 

いつもの通り目をキッと凝らして大きな声を出した

 

「だって…姉様のことは大好きだけど…」

 

「うん」

 

俺も

 

「美人で気配りもできて料理上手でスポーツも勉強も完璧で…」

 

それもわかる

 

「それでも姉妹だから…負けたくなかった…」

 

大粒の涙が理亞の目から溢れ出ていた。手で何度もその水滴を振り払おうとしている。されどもその涙が止まることは無かった

 

「ずっと尊敬してたもんな」

 

「いつも尊敬してた」

 

喉の筋肉が上手く動かず掠れた声でごめんなと言葉をかけて肩を震わせている理亞の頬をつたう涙を俺はすっと拭った。涙声ながらに少しにこりと笑った理亞はもしもの話をし始めた

 

「ねぇ姉様にふられたらどうするの?」

 

「もし振られたら「私と付き合って」

 

は?

 

「って聖良がダメだったから理亞と付き合うなんて真似できるわけないだろ」

 

そんなことしたらこの世の女性全てから総叩きされそうだ。俺だってまだ命を大事にしたいのにやめてくれよ

 

 

「…付き合って欲しいっていうのが私の願望だけどもっと言いたいのは‘姉様と本気で向き合って欲しい’ってこと。それで告白して振られることになったとしても」

 

「本気で向き合うか…」

 

「ほんとに姉様に本気で告白するのなら別にそういう扱いでもいいよってこと。そしたら本気で向き合ったご褒美として私と添いとげる権利をあげる」

 

少しのすまし顔と少しの羞恥。切れたナイフのように敵を作っていた時とはまるで違う表情

 

 

「本気で向き合うのは決まってるけど、その保険みたいなもんはナシだ」

 

今願いが叶う願望器があるのなら俺は2人を幸せにしたいと願うだろう。けどそんなものはこの世になく俺はどちらかを傷つけなければいけない。それが‘覚悟’だ

 

 

 

「それなら振られたら婚姻届書く罰ゲームとか?」

 

それは罰ゲームというのだろうか。考えようによっては褒美説もあるぞ

 

「グレードアップしてるしそもそも俺が聖良に振られる前提で話を進めてんじゃねぇよ」

 

もしかしたら告白が成功するかもしれないだろ。1%くらいの確率で…

 

「私の方が絶対姉様のこと好きだから振られてよ」

あまりの暴論に圧政の皇帝も裸足で逃げだすレベルだぞ…俺も泣きそうになってくるわ 。まあ好きの気持ちが負けてるとは思わないけどな

 

 

 

 

「あのなぁ「ほら早く帰ろ」

 

それはこれまで見た理亞の笑顔で1番朗らかな笑みだった

 

 

 

澄み渡る空を見ながら俺はあることを思っていた。理亞は一体あの時何を考えていたのか。まさかあれが本気であるとは思っていないがそれでも一抹の不安は拭えない。人間が保険をかけたがる生き物だと知ってあれを言っていたとしたら。そしてもしそれが本気で言っているものだったとしたら…なんてもしもを考えるのももうやめだ

 

関係が無くなることはない。けど確実に変わる。まあ、多分おそらくの話になるのだが

 

 

 

……

 

洗い物をしていたとてもお手伝いさんでえらいルビィが不意に俺に声をかけた。

 

「理亞ちゃんと何かあったの?」

 

他人の痛みを分かちあえるルビィは心の機微に非常に聰い。理亞に何かあったことなんて一目で見抜いただろう。

けどなんというか言葉にしにくいけどこの問題をルビィに言うのは何か違う気がした。

 

「いや何も」

 

「…じゃあすこし妬けちゃうな」

 

唇を尖らせてそう言うルビィに成長を感じずにはいられなかった。 そうして自分の部屋に戻り布団に寝転がって天を見上げた。理亞に思いを伝えた今もう一人にも伝えなければならない。

 

 

告白

 

 

には時と場所が欠かせない。しかし急いだところでこの結果というのはさほど影響が出ないだろう。とりあえずは作戦タイムというか待つというかそういう時間も必要だ。

 

考えすぎで頭も痛い。今日は疲れたからもう何も考えられない。…チカチカと画面を光らせ続けるスマートフォンを手に取った。その携帯のを止めようと画面を見るとメッセージが来ていた。

 

from聖良。

 

普段の夜の血流量を遥かに超えるくらいに心臓が動いていた。それが驚きからなのか恥ずかしさなのかは少し置いておいて内容に目を通す。それは単純で近々友達の誕生日が来るためプレゼント選びを手伝って欲しいという内容。

 

東京の街を二人でお出かけしませんかというもの。

 

 

あまりの驚きで呼吸をするのも忘れていた。 息を吐き大きく息を吸い込む。目一杯入った酸素を最大限頭に回し状況を整理する。えっと聖良と二人で出かける…と

 

 

 

なんで俺なんだ? 聖良と一緒に出かけられるってのはそりゃあ嬉しいけど姉ちゃんとか理亞の方がいいんじゃないのか。

 

でもそこは何かの理由があるのだろうと考えず分かったとだけ送っておいた。

 

 

──────

 

当日。俺はいつも以上に早く目覚めた。まだ太陽が全然上っておらず周りはまだ薄暗い。たぶん大会のときより今は身体が震えてる。

10時に東京駅に集合するので俺が家を出るのは朝早くになる。というか聖良のいる北海道から行こうとするなら前泊レベルだろう。手早く携帯で時刻表や乗り換えを調べて電車に乗ろうと駆け出した。

 

 

それでもこの車窓が都会になっていく光景だけはいつも慣れない

 

 

「お久しぶりですね」

 

「ああ久しぶり」

 

練習着や制服以外の聖良を見るのが久しぶりすぎてドギマギしてしまう。私服を似合っていると言いたいのはやまやまだがそれを言葉にしていいか悩んでしまう。

 

 

 

そう考えると目を合わせることすら億劫になる。 なぜか普段と纏う雰囲気が全然違って見えるし

 

「行くか」

 

「そ、そうですね」

 

もはや考えていては埒が明かない。考えたら負けだ

 

 

 

集合場所の東京駅から電車を乗り継ぎ、その駅を降りた後とりあえずショッピングモールに向かって歩く。恋だのなんだのを考えるより近況の話や他愛ない話をするのはなんて楽なんだろう。ショッピングモールに着くまでも着いてからもずっと喋っていたけど、終始俺の口角が上がっていたのを俺自身気づけずにいたのだった

 

 

 

「何か考えてるのはあるのか?」

 

モールのエスカレーターは家族連れに優しいように作られていて、既存のものより少し遅い。俺はそれに少し痺れを切らしてしまって、エスカレーターの上で会話の口火を切った

 

「え?どういうことです?」

 

「プレゼント」

 

聖良は少し驚いたように目を見開いていた

 

「実は何も…」

 

「マジかよ。行き当たりばったりなんてあの聖良からは想像出来ないな」

 

「下調べしてもよかったのですが現地で見る方に重きを置きたくて…」

 

会話をするために後ろを向いているとそろそろエスカレーターは終わりを迎え階段状の床が平行になり始めていた。つまずかないように足元を確認して降りまた聖良の方に向き直った

 

「なるほどな」

データ派と思いきや感覚派というわけか。確かに現地で見ないと分からないものなんて山ほどあるからな…とその友達の欲しそうなものをを聖良に聞きながら店を巡る。

 

「確かあの子はスポーツとかが好きなんですよね」

 

まじかよ。 スポーツ少女か…正直予想外でした。女の子なんだから可愛いものっていうのはもう時代が許さないってやつなんだろう

 

「じゃ、スポーツ用品のとこ回るか」

 

 

 

 

とにかくシューズや器具が置いてある店とか専門店とかを回る。 美人をこういった所に連れ回す男の居心地の悪さは大会のプレッシャーにも劣らない。俺はともかく聖良でさえとピンとくるものがなかなかないらしい。

 

 

 

あれでもないこれでもないと言い合いながら、ついでに違う話も軽く混ぜながら色々と店を回った。

 

結局回っているうちに昼になり腹の虫も不服と言って暴れ始めたので昼飯を食べることにした。料理にあまり詳しくない俺は聖良に連れられパスタ屋?に入る。いやでも正直種類なんてミートスパゲティとカルボナーラくらいしか知らないんですけど…

 

 

対面に座って冷製カッペリーニを上品に食べている聖良の顔を覗き見る。でもそのカッペリーニって単語は初めて聞いたから最初はパスタ屋で使う呪文かな?って思った。メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシみたいなさ。

 

 

しかしなんか好意を自覚してしまったからこそ下手打ってないかなとかまずいことしてないかなとか失敗してないかなとか…まるで新入社員のような考えをずっと巡らせてしまっている

 

ふと気付くと聖良がこっちを見ていた。

 

「どうかしましたか?」

 

「え?」

 

「そんなにじっと見つめられるとその…食べにくいので」

 

「すまん」

 

あまりに綺麗に食べるからついついじっと見てしまっていた。それはまるで華麗なひとつのショーのようで目を奪われていたのだ

 

飯を食べてる時の視線なんて考えたことがなかったのでいざどこかに向けるとなるとまた考えてしまう。でも首伏せてるとそれはそれでおかしいし…

 

 

でもここの店めっちゃ美味い。聖良はこの店を知ってて入ったのか…?まあいいけど

 

 

 

昼飯を食べ終えてまた店巡りを再開しようとした時聖良が一際騒々しくピカピカと輝く場所で足を止めた。

 

ゲームセンターか

 

「どうしたんだ?」

 

「実は私…こういうところであまり遊んだことがなくて…」

 

聖良の顔は苦笑い。興味はあるが入ったことがないから踏み出しにくい…しかも今は買い物中だし。なんて感情が入り交じっているのだろうか

 

「…よしさっきから考えても決まらなかったろ?1回脳みそ使うのやめて遊ぼうぜ」

 

「え?でも」

 

「いいじゃんか。むしろ遊び心から発想が飛ぶかもしんねぇし」

 

 

 

「エアホッケーしようぜ!」

 

白いスマッシャーを握りながらサムズアップする。言っておくが俺はエアホッケーは強いぜ。なんせ内浦に黒澤銀ありといわしめた…

 

「これどうやるんですか?」

 

え?

 

「知らないのか?これはな白いスマッシャーを握ってこのパックを向こうのゴールに入れたらいいんだ」

 

手取り足取り説明する。まあこれもエアホッケー玄人の使命と思えばなんら辛くはない

 

「な、なるほど…あ、あの手をそんなに握られると」

 

あ、スマッシャーごと聖良の手を握りこんでるじゃねぇか…

 

「すまん」

 

「い、いえこちらこそ教えてもらってありがとうございます」

 

「…じゃあ始めるけど負けた方がなんでも言うこと聞くってのはどうだ?負けず嫌いの聖良には効く言葉だと思うけど」

 

恥ずかしさからこんなことを口走ってしまった。まあさすがに負けないとは思うけどこの手のやつがかかると強くなる奴がいてそれで俺は負かされて酷い目にあってきたからな…

 

「いいですね。それなら私も本気でやれるというものです」

 

 

 

……

 

 

………

 

負けました。

 

 

「ふふっスクールアイドルの反射神経を侮っていたのが敗因になりましたね」

 

分からん…何だスクールアイドルの反射神経って…

 

「何が望みだ…だがうちの妹だけは…」

 

「なぜそんな役者風になるんですか…」

 

その呆れ顔すらも俺の笑顔の要因となる。一緒にいて楽しいからきっと好きな人というのだろう

 

「あ!あれを撮ってみたかったんです!」

 

「げっ…プリントシール」

 

聖良が指をさしていたのは俺がAqoursのメンツから鴨にされ続けた伝説のマシーンだった…あいつら金を入れるだけ入れさせて撮り逃げしやがるからな。でもそのおかげかそれなりにこの機械に詳しいのがとても皮肉が効いていて悔しい

 

「これはどうやって撮るんですか?」

 

「ここにまず金を入れるだろ?そしてこのボタンで選んで…ほらここを見ろ」

 

パシャ

 

機械から提示されたのは少し驚いた表情でカメラを見つめる聖良とその状況を面白がっている俺だった

 

«次はもっと顔を寄せて!»

 

「え?そ、そんなことを要求するんですか」

 

「実はな聖良…この機械が言ってることには絶対服従なんだ」

 

「そうなんですか!?じゃあもっと近づけないと…」

 

嘘だけど聖良は信じているようなのでこのままにしておく

 

パシャ

 

「顔真っ赤だな二人とも」

 

「し、仕方ないですよ。こんなに顔を寄せてるんですから」

 

«最後はとびきり可愛い顔で!3・2・1»

 

パシャ

 

その時の写真を見ることも許されず放り出され最後の写真は1枚たりとも聖良は分けてくれなかった。俺はカメラのレンズを見つめていて聖良が何をしたのかまるで分かっていなかったのだ

 

 

 

それからゲームセンターを出て他の店を適当に見て回る。結局聖良が選んだのは俺が良いなと言った手ぬぐいだった。珍しいな…もしかして聖良の友達って剣道少女?

 

 

「ほんとにこれでいいのか?」

 

「ええ」

 

 

それから特に何があったわけでもなく日も傾いてきたので帰ることにした。駅まで歩く時間、電車に揺れられる時間までが聖良といるととても短く感じてしまう。

 

 

 

 

東京駅につく頃には日もだいぶ落ち始めていた

 

 

‘姉様と本気で向き合って’

その言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。そんな俺の事情なんて知る由もない聖良は礼儀正しく頭を下げる。

 

「今日はありがとうございました」

 

恥ずかしさから目を合わせることも出来ず、ただ面白みもなく“あぁいや楽しかったよ”と返事をした。ふと視線を外すと赤レンガが真っ赤に染っていた。ついでに言えば俺の顔も夕焼けによって真っ赤に彩られていた

 

あとコンマ数秒で聖良は歩いていってしまう。またどこか遠くへ行ってしまう。‘本気で向き合って’ なんて

 

理亞見とけよこれが俺の本気だ

 

「待ってくれ」

 

聖良はピタリと立ち止まった。振り返った表情はにこりと笑っていて本当に俺の事を聞こうとしている。俺が今からぶつけるのはただのエゴなのに

 

 

…?

 

 

あれ?そういえば告白ってどうやるんだっけ。何かを言わなきゃならないことだけは分かるんだけどその先が出てこない。

 

 

「あーえっと」

 

一言一句50音から整理していこうとする。でもダメだった。何も浮かばない。緊張というか得体の知れない恐怖感というか説明のしがたいものが今俺の身体を這いずり回っていた。皮膚が拍動しているような錯覚にも襲われる。俺はどうしたらいいのだろう

 

 

無の時間があまりに多く、さすがに焦り始める。焦りは禁物と言うけど今はそんな言葉投げ捨てたい気分だった。振られるかもしれない…いやそれなら理亞と付き合うことになる。なんて冗談を頭でかませるくらいには回復してきた

 

「待ってくれ」

 

こくりと頷いているあたり承諾は得られたらしい。 さらに思考を進めていく

 

『考えることをやめなさい』

 

『人は考えることをやめるとただの葦になる』

 

ついには自分の中で二律背反(パラドックス)していた。 考えすぎて困るなら考えるのを辞めればいい。でも思考を止めるといざブレーキをかける時に困ってしまう

 

 

ならば考えることを辞めるわけでもなくされど考え続けることも無く、ただひたすらに己の心をそのまま伝えよう。結局のところそれしか方法はないのだから 。

 

 

俺の気持ちをそのまま形にして伝える

 

 

「聖良のことが好きだ」

 

俺が時を止めた。いやそう錯覚しているだけなのか。

 

「付き合ってください」

 

それでも雑踏のなかからこの空間だけは時間軸から切り離されているような気がした。

 

待つことを能わず返事はすぐに来た

 

「は、はい」

 

「え?」

 

「え?」

 

俺も目を丸くしたし聖良も目を丸くしていた。

 

てっきりごめんなさいのgが聞こえた時点で泣きながら逃げ出そうと思ってたからあまりに想定外過ぎた

 

「ど、どうかしましたか?」

 

聖良も聖良で慌てふためくような様子で俺を見てるし。

 

「え?ぶっちゃけ途中から告白するってバレてた?」

 

「…」

 

聖良は少し申し訳なさそうに俯いた。

 

「…なんとなくですが」

 

本日2度目の苦笑いはどうやら本当に困らせていたようですね…

 

「そうか…」

 

聖良はその真っ赤になった顔を伏せがちにして言葉を必死に渦から探し出して、

 

「あの…そのふつつかものですがよろしくおねがいします」

 

なんて言いながら聖良が笑った。

 

「あと銀の顔とても真っ赤になってますよ」

 

「夕陽が照らしてるだけだ」

 

お互い様だろというのもなんか野暮な気がしたので言わなかった。 これがもう夢なら夢でもいいしそれなら一生目覚めたくない。

 

そしてその後に最高の笑顔でばいばいとしたのを俺は生涯忘れないだろう。そこからの記憶はほとんどないと言っていい。やけににやにやしながら帰って駅の職員に声をかけられたことだけはかろうじて覚えている

 

 

 

そして目覚めた次の日の朝にこんなメッセージが届いていた

 

 

 

《今日も一日頑張ってくださいね あなたの彼女より》

 

 

 

 

そのメッセージには写真が添付されていて頬にキスをする聖良のシール写真が写っていた

 

 

 

──────

 




saint snowの小説もっと増えて欲しい。みんな書いてお願い


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この黒澤家には問題がある!

──────

 

「皆様集まっていただき大変感謝申し上げますわ。只今より黒澤家の重大会議を行います!」

 

居間にいきなり集められて言われた第一声がこれって…どうせ姉ちゃんのプリンが誰かに食べられたとかだろ

 

「いや俺たち3人しかいないのに重大とか言われても」

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

ルビィも首を傾げてわけ分かってないしさ。ほんと姉ちゃんは何がしたいんだ?

 

「まあ落ち着きなさい2人とも」

 

「うん姉ちゃんも落ち着いてくれ」

 

ほんとに頼むからこのあたりでブレーキをかけて欲しい。なんだかめんどくさくなる気がするから

 

「うぉほん。私達には長所があります。私は生徒会長であり成績も学年トップ。銀には武道の才能と勉学においても学年上位という文武両道さ。そしてルビィには‘類まれなるアイドルの才能’があるんですの」

 

ルビィの長所はもっとあるけど、この話を早く畳みたいからその話は黙っておいた。あと今回は意外にもプリンの話じゃなかったんだな

 

「自慢大会でも始まるのかこれ」

 

「えへへルビィのえらいところいっぱいあるかなぁ…」

 

あるぞ…でも姉ちゃんの話を終わらせてぇんだ…

 

「しかし!それとは打って変わって私達には欠点があります!私には運動音痴という欠点が銀にはシスコンという欠点がそしてルビィには…少し気が弱いところが」

 

「いや姉ちゃんルビィに甘くね?あと俺はシス「うゅ…でもそう言われても…」

 

「だからこそ克服すべきなのです!仮にも名家なのだとしたら完璧をもとめられるのですから」

 

一理あるけど俺のは欠点じゃなくね?ただルビィが好きなだけじゃん。それをなぜ欠点と言われなきゃいけないのか

 

「はぁ」

 

「うゅ」

 

「ということで克服タイムのお時間ですわ」

 

多分だけどこうなった姉ちゃんは止まらないな…てこでも動かんだろ

 

「でも克服には時間が絶対にいるぞ」

 

「いえ、今回のこの出来事がきっかけになればそれで良いのですわ。いきなり出来るだなんて思ってませんもの」

 

「ルビィも頑張ルビィするよ!」

 

ルビィがやる気なら俺も頑張ってこの話に付き合うかな…

 

 

「じゃあ最初は姉ちゃんの運動音痴を俺が担当するよ」

 

 

──────

 

「なぜグラウンドにいるんですの」

 

「鞠莉ねぇが貸してくれた」

 

運動するなら別にどこでもいいのだが、折角なら慣れ親しんだ場所で動きたいというのが人間なので急いで鞠莉ねぇに電話しました。備品も触っていいって言ってたし理事長って凄いな…

 

「またもや職権乱用ですわね」

 

「お姉ちゃんは分かるけどルビィも体操服に着替えさせられてるのはなんでなの?」

 

しかし体操着姿のルビィはほんとに可愛いな…1年の体育を窓から覗いてたら先生に広辞苑投げられるからなかなか見れないんだよな。もうこれだけで姉ちゃんの話に付き合ってよかったと思えるくらいだ

 

「ルビィも運動するのが得意じゃないから姉ちゃんと同じことしてもらおうと思って」

 

「うーん…確かに得意じゃないけど…」

 

「まあいい経験になるからさ。じゃあスポーツテストの中から抜粋してソフトボール投げと50m走をしようと思う」

 

克服の触り程度ならそんなに重いことをしなくてもいいだろう。テストがてらに記録を見てそれを基準に取り組んでくれたらいい

 

「そんなことしたら…動けなくなりますわ」

 

「いや大丈夫だから…ほらこれを向こうに投げて」

 

「へぁ」

 

渡したソフトボールを砲丸投げの選手のフォームみたいに投げる姉ちゃん。男女の筋肉量の差とか以前の問題だった。

 

「姉ちゃん4m80…あのソフトボールが5mも飛んでないぞ…まずフォームがへなへなだしちゃんと肩を使わないと飛ばないぞ?次はルビィもそこから投げてくれ」

 

「えい!」

 

決して綺麗でないがそれでも力を伝えることが出来ている。そのボールはふわりと放物線を描き姉ちゃんの記録をはるかに飛び越えた

 

「お、すごいぞルビィは11mだ。あともう少しタメを大きくしたらもう少し飛びそうだぞ」

 

「ルビィのだけ綿で出来ているのではありませんか?」

 

「いやそんなわけないだろ、ちゃんと同じやつだから」

 

「しかしこれでは姉としての威厳が!」

 

へぁ。の時点でもうないから安心して欲しい。姉ちゃんのことは尊敬してるけど威厳はさっきので消え去ったから

 

「いやもう運動においては無いから大丈夫」

 

「次は50m計測するから向こうのスタートラインに行ってくれ。」

 

あまり乗り気ではないのか、とぼとぼと歩みを進めてスタートラインへと向かう2人。並んで手を地面につけたのを確認したので声を張り上げる

 

 

「ピストルがないから声でいくぞ。On your mark set スタート!」

 

幸先の良いスタートという訳でも無い。腕の振りと脚の回転がまるで合っていない。まあ><目をこうやって走っているあたりは可愛らしいけどな。お、やっと近づいてきた

 

「はぁぁ……一歩も動けませんわ…」

 

「はぁ…はぁ…疲れたよぉ」

 

地面に倒れ込みながら肩で呼吸をしているあたりこれが姉ちゃんとルビィの本気なんだと俺は手のひらで握りしめたストッブウォッチを覗き込みながらごくりと唾を飲んだ

 

「姉ちゃん10秒53ルビィ10秒96。もっとはやく腕を振らないとな」

 

「なかなかのベストタイムですわ」

 

「平均よりめっちゃ下だけど」

 

あまり詳しくはわからないけど小学校レベルと大差ないと思う

 

「もう克服は無理なのではありませんか…?」

 

「言い出したの姉ちゃんだし俺で無理ならじゃあ果南ねぇにお願いしようかな」

 

きっと果南ねぇのことならデスマーチ式克服スパルタレッスンを引っさげてくるはずだ。俺でも死ぬと思う

 

「それはやめなさい。死んでしまいますわ」

 

「そうだよ!克服をするのも難しいの!」

 

 

 

「そうですわよねルビィ。この雪辱は次の銀のターンにて返させていただきますわ」

 

 

 

 

─────

 

「ということで克服の達人をお呼びしておきました」

 

「どうもこんにちは」

 

あ、完璧な人だ。

 

「でも聖良は酔うと記憶なくなるじゃん」

 

「…確かにそうですが本来アルコールの分解酵素の保有量は生まれつき決まっていてそれを増やすことは出来ないのです。つまりこれは欠点であれど克服できないもので仕方がないんです」

 

「あ、うん」

 

あまりの早口にびっくりしたわ。結構気にしてたんだなそれ

 

「では聖良さんの克服の考え方を教えていただきたいのですが」

 

「つまり…littleSisterのシスコンならばbigSisterのシスコンに矯正してしまえばいいんです」

 

うわーぼくにほんじんだからえいごがぜんぜんききとれないなーせいらのいってることがぜんぜんわからないなー

 

「I don't know」

 

「つまり姉を溺愛すればいいのです」

 

「?」

 

まるで理解ができない。マリーアントワネットの理論並に意味がわからない

 

「ダイヤさんでも私…でもどちらかを今のルビィさん並みに愛せばいいんです」

 

「それって克服になら「なります」

 

「いや」

 

「なりますよきっと」

 

にっこりとした聖良の剣幕に気圧されたけどやっぱりならないような気がする

 

「あ、そう」

 

「ということでお姉ちゃん大好き!と一言どうぞ」

 

「ねーちゃんだいすきー」

 

「ほら!もっと感情をこめないと克服できませんよ!」

 

あぁもうほんとに仕方ねぇな…こいつら俺が言うまで絶対に終わらんだろ

 

「姉ちゃんにはいつも感謝してるしすごく尊敬してる。俺は本当に姉ちゃんが大好きだ」

 

「…別に気にしてませんわよ」

 

頬のあたりかいてるからいつも褒められ慣れてる姉ちゃんもさすがに照れてるな。

 

 

「次は私にもください。仮にも姉なので」

 

「いやそれなら理亞にでもやってもらえよ」

 

理亞が素直に姉様大好きって言ってる様子はあまり想像出来ないけどな

 

「あの子は照れちゃってやってくれないんですよ。銀が言ってくれないのなら最愛のルビィさんにお願いしちゃいますよ?いいんですか?」

 

「はぁ…仕方ない…呼び方は聖良ねぇでいいか?」

 

「え、ええ」(すごくいいですね…その~ねぇって呼び方!)

 

「俺は聖良ねぇのことだ、大好き…」今すぐ消え去りたい。今この瞬間から俺の分子が砂となって景色と溶け合いたいくらいだ

 

「…good heaven」

 

 

 

「ところでなんでルビィは膨れっ面なんだい?」

 

「お兄ちゃんのすけこまし…」

 

「そんなに怒らないでくれよ」

 

頬をハムスターみたいに膨らませて拗ねてるのも可愛い。もう何しても可愛いってほんと罪作りだわ

 

「いつもはルビィのこと好きって言ってくるのに…」

 

「ルビィさんや飴をあげるから許してくれ」

 

「わぁい!…じゃなくてお兄ちゃんのことはもう知らない!」

 

反抗期つらすぎ侍なんだが…世の中の父親ってどうやって乗り越えてるんだこれ

 

「えぇ…じゃあ何したら許してくれるんだ」

 

「みんなとお、同じことしてくれたら」

 

「…はい」

 

まあ同じことするだけなら全然苦痛ないしむしろ言いたいまであるからいいや

 

「ルビィ大好き」

 

「まだ」

 

「世界で一番愛してる」

 

「もうちょっと」

 

「俺は世界で一番ルビィを愛してるし大好きだ!」

 

わ、私も

 

小声で喋ったような気がしないでもなくもなかったけど聞き取れなかったから再度聞き返す

 

「ん?」

 

「なんでもないよ」

 

にっこりと笑うルビィ。最近その笑顔の習得者増えてきたよな…«何も言うな»ってのを内包してる気がしてつい閉口しちゃうんだよ

 

「気も良くなったところで次のルビィの克服に参りましょうか」

 

「いや気が良くなったって言われてもこれ効果あるのか?」

 

「ええ、これでシスコンといっても両天秤になって実質プラマイゼロになったはずです」

 

「正直聖良が今日言ってることは何一つわけがわからないよ」

 

 

 

 

 

──────

 

 

「気を強くするには告白しかありませんわ。ルビィには好きな人はいませんの?」

 

「そんなのいないよぉ…」

 

ちなみにいるって聞いたらそいつを(自主規制)して(自主規制)するところだった。もしくは俺と空手、柔道、剣道で三番勝負をしてもらうかだな。

 

「じゃあ銀で代用しましょう」

 

「いやそんな代用魚みたいな軽いノリで言われても…ルビィから好きって言われるのはめっちゃ嬉しいけど」

 

「早くやろ?お兄ちゃん」

 

さっきからまあまあルビィが乗り気なのは何でなの。嬉しいけどさ!

 

「あ、でもルビィは告白したことないからあんまり言葉が分からないや」

 

ちなみに告白されたやつがいたとしたらそいつを(自主規制)て(自主規制)すところだった。

 

「それなら私が手本を見せましょう。見ているのですよルビィ」

 

 

 

「こほん。私は銀のことをとても愛しています。どうか私の気持ちを受け取ってくださいませんか?」

 

「あ、はい」

 

流れるような美しい優美な告白の流れについ肯定の言葉が漏れてしまった。なんというか隙がないよなこの告白の仕方ってそりゃあOKもしてしまうよ

 

「…ちょっと待ってください!まだ返事をするのは早いですよ銀。なぜなら私が残っているからです」

 

「はい?」

 

「え?」

 

「見本をみせるってことか?」

 

一例だけだと少ないからって聖良も参戦してサンプル大会が始まったんだけど…

 

「え、えぇそうですよ!見本です見本。ダイヤさんが正統派だったので私は少し崩して今どき風にします。まあ少し演義風になってしまうんですけどね」

 

聖良は少し目を閉じた。気持ちを作っていたのだろうか

 

「今、銀って好きな人いるんですか?」

 

「ルビィかなやっぱ」

 

大好きだから仕方ないね

 

「…今そう言われると流れが作れないのでいないって言ってもらっていいですか」

 

「…はい」

 

なんというかシンプルなダメだしって地味にきつい

 

「それではあらためて銀って今好きな人いるんですか?」

 

「rいないけど」

 

「そっかぁ結構かっこいいのに意外ですね。じゃあ試しに私と付き合ってくれませんか?」

 

「は?」

 

カーブだと思ったらスライダーだったとかのレベルじゃないぞ。球がいきなり目の前に現れたんだが…

 

「付き合ってくれませんか?」

 

「ん?」

 

聞き間違いの線がないことを悟ってしまう

 

「付き「いや分かってるけど流れおかしくない?」

 

「えぇそうですわ。なんというか私と雰囲気が違いすぎます」

 

これにはさすがに姉ちゃんもビビるよな。

 

「まじで流れが急に変わったからびっくりしたわ」

 

「最近のトレンドは王道ヒロインより身近系ヒロインと聞きましたから」

 

大抵鞠莉ねぇ辺りだろうけどこういう訳の分からない情報を聖良に吹き込んだ不届き者は誰だよ。台風になりうるからやめてくれよマジで…

 

「まあ確かにあの流れならokしちゃうのかもしれんな。なんていうか異性感を限りなく薄くして承諾を得てるみたいな感じだ」

 

「それでは返事をどうぞ」

 

「よろしくお願いします?」

 

もう返事の仕方も分からない

 

「ふふっ…自分の告白の才能が恐ろしいですね」

 

「聖良さんもお姉ちゃんもルビィのこと忘れてない?」

 

むすっとルビィが割り込んできた。

 

「ま、まさかぁ」

 

「えぇ全然忘れてませんわよ?」

 

「…ほんとかなぁ」

 

「大丈夫だってルビィ俺ならいつでもOKする準備ができてるからな」

 

「まだ何も言ってないよぉ」

 

好きでも愛してるでも付き合ってでもオールオッケーだから何かしらの言葉を言ってくれたらサムズアップしながら言うわ

 

「…けどいざとなったらちょっと恥ずかしい」

 

「何事も勇気ですわよ」

 

「えぇラブライブ優勝者なんですから告白くらい余裕ですよ」

 

「ラブライブ優勝の肩書きににすべてかかりすぎだろ…」

 

千歌のスクールアイドル理論並にその理論は心配になるわ

 

「よし!いくよお兄ちゃん」

 

「ばっちりこい」

 

 

「小さい頃からルビィをそばで見守っていてくれてありがとう。辛い時も苦しい時もルビィの心に寄り添ってくれてありがとう。ルビィの夢を一緒に追いかけて実現させてくれてありがとう。えへへそんな優しいお兄ちゃんがルビィは大好きです」

 

 

「こ、これは…」

 

「凄まじいほどの神々しい光が…」

 

 

 

 

我が生涯に一片の悔い無し…

 

 

 

 

 

「ある一方は灰になってますけどね」

 

「銀!あなたにはまだやるべきことが残っていますよ。灰になってる場合ですか」

 

その言葉で消え去ろうとしていた魂が引き戻される

 

「あっぶねぇ。あまりの多幸感に燃え尽きて消えるところだった」

 

「あ、あくまでその…克服の練習だからねお兄ちゃん。」

 

それでも嬉しいから俺の中のルビィフォルダに永久保存した。だれか俺の脳をスキャニングしてこのデータだしてくれ。家宝にするから

 

「それじゃあ採点に入りましょうか」

 

「え?」

 

採点って何?カラオケかなにか?

 

「え、と言われても3人告白したんですから」

 

「そうですよ。答える義務というものがあります」

 

 

「さあ3人の中から誰を選ぶんですか?」

 

ずいっと3人に詰め寄られて背中から嫌な汗がドバっと吹きでてくる。それは俗に言う冷や汗というやつで…

 

「いや克服の話じゃなくて完全に告白の話になってるじゃねぇか!やだよそんなの!俺はもう帰る!」

 

「あ、逃げないでください。ダイヤさん追いかけますよ!」

 

「いや、ちょっと私は今走るのは…」

 

「問答無用です!」

 

 

「あ、そんなスピードで引っ張られては明日歩けなくなりますわ…」

 

 

 

 

「ルビィもちゃんと言いたいことを言えるようになるように克服してちゃんと告白するからねお兄ちゃん」



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鹿角理亞は揺るがない

天気を憂いて外を眺めていると窓の汚れのふちが…いや違った。窓のふちの汚れが少し気になった。指で撫でると少し灰色がかっていて、年越しの大掃除からもうそんなにたったかなとそんな焦燥に駆られてしまう

 

 

あなたに会えるということ。それだけで私の心は踊ってしまう

──────

 

 

「気になったんだけどさ、お兄ちゃんってどうなの?」

 

私はかねてから気になっていた話題をルビィにぶつけた。それは感覚の問題というか、自分にはないものを人に尋ねてしまうというのは人間が好奇心の獣である以上仕方ないことなのかもしれない

 

「どういうこと?」

 

ルビィはその感覚が当たり前なのか首を傾げながら不思議そうな顔をした。まあそれはある種当然の反応なんだろう

 

「いやなんか、うちにも姉様はいるけどお兄ちゃんっていないからどういう感覚なのかなって」

 

ひとつはただ単に兄がいるとどうなのかということ。もうひとつはあの“銀”が兄としているということはどのような感覚なのかということ。そのふたつを内包したのが兄とはどうなのかという質問だった

 

「うーん考えたことなかったなぁ」

 

「銀が兄だったから何か便利だったとか困ったことがあったとかないの?」

 

あれだけの好意を毎日のように撃たれて困ってないのかとか色々と気になるものがあるから

 

「お兄ちゃんはルビィのこと何でもしてくれるからありがたいけど、その分クラスの子にお兄ちゃんの話を結構されるのが少し嫌かな」

 

「なに?紹介してくれみたいなやつ?」

 

それともよくある。また告白されたよ的な自虐風自慢かな?

 

「違うの…君を妹にしたいって言われたんだけどって…」

 

「完全に変質者じゃん」

 

いきなり会った同級生のお兄ちゃんから“君を妹にしたい”って言われたらさすがにドン引きするし、なんなら警察に行くんじゃない?まあそれもあいつだから許されてそうだけど…

 

「それでもお兄ちゃんをかっこいいって言う子はすごく多かったよ」

 

うん…だよね

 

「銀の中身知ったらその子たちも少しは考え直したんじゃない」

 

ものすごくシスコンで思いやりはあるけどデリカシーは無くて寄り添って欲しい時に寄り添ってくれて、でもこの気持ちには気づいてくれない困った男だから

 

「確かにそうだけど逆に聖良さんってそういう隙が無さそうだよね」

 

「うーん姉様は確かに完璧なんだけど、ズバズバとものを言うから人と喧嘩が多いの」

 

Aqoursに初対面で喧嘩売るくらいには姉様はキツいと思う。まあそれを言うなら虎の威を借る狐の私もだけど…

 

「ひぇ…聖良さんって不良さんなの?」

 

「そんな肉弾戦じゃなくて口喧嘩。でも姉様は完璧だから完全に相手を正論で理路整然と打ち負かしてる」

 

正直姉様になんか言ったところで‘’なぜそう思うんですか?” とか“馬鹿みたいにそれだけですか?もっと建設的な議論を…”とかって言い返されたら誰でも心折れると思う。わたしが相手ならたぶん泣いてる

 

「あはは凄いね…」

 

「でも一つだけ欠点があるとしたらすごい奥手」

 

普段から見てものすごくアグレッシブな姉様が急に消極的になるんだからもうびっくりする。なんかよそよそしくなったり、もじもじしだしたりほんと恋する乙女か!って感じだから…

 

「奥手?」

 

「誰にとは言わないけどびっくりするくらいアピールの仕方が弱い」

 

例えるならば普段のsaint snowのダンスからは想像出来ないほどには弱いし野菜に例えるならもやしだし、着火道具に例えるならマッチ棒くらいには弱い

 

「へ?アピールに弱いとかがあるの?」

 

「うん。この前は‘私って味噌汁作るのが得意なんですよね〜’って」

 

恐らく姉様は〝毎朝味噌汁を作ってください〟って言葉からあれを言ったんだろうけどさすがに無理があるんじゃないかと思う。それだとただの味噌汁作るの上手いお姉さんに成り下がっちゃうよ…

 

「…」

 

「いやほんと急がば回れって言うけどその回り道は逆に遠いと思うんだけどね…」

 

「でもうちのお姉ちゃんもそんな感じだよ。お兄ちゃんにいっつも‘肉じゃがが美味しく作れる女性を好きになりなさい’って言ってるし」

 

それなら銀のお姉さんも実質姉様なのかもしれない。もはや言ってることばが似すぎてて同一人物説すら匂わせてる

 

「なんていうか似たもの同士だ…」

 

「理亞ちゃんもお料理作れるんだよね?そういうことは言わないの?」

 

「姉様達の方が凄いから…ほら多少ピアノを触れたとしてもそっちの作曲担当の前でそれを言うなんて無理でしょ?」

 

「確かに…梨子ちゃんの前でピアノできるなんて言えないよね」

 

己の武器は最も自信のあるべきものでないとならないって雑誌に書いてたし…

 

「やっぱり武器はそれなりのものじゃないと」

 

「うふふ理亞ちゃんも乙女なんだね」

にっこりと笑ってるけどルビィは本人そのものが武器だからね。なんか己自身が武器ってかっこいいけど、銀曰くルビィの場合は可愛さの暴力だからって言ってたあたりなんとも言い難い

 

「あんたもでしょルビィ。ブラコンを隠してる振りして銀のこと大好きなくせに」

 

「うん、やっぱりお兄ちゃんは優しいから…」

 

あの兄がいてこの妹なのだ。シスコンブラコンの最強コンビを崩せるものなどこの世に存在するのだろうか

 

「それ分かる。なんていうか手が届く優しさみたいな感じ」

 

「心がぽかぽかするんだよね」キュゥ

 

お腹のなる音すら、そしてそこから照れる顔すら可愛いのならもう何もかもが可愛いのだろう。はっきりいって少しずるい

 

「お腹空いた?」

 

「…うぅ恥ずかしい」

 

女子力に自信が無い訳では無いけど天を恨んでしまいそうだから少しはその可愛さを分けて欲しい。

 

「なにか作ろっか」

 

「あ!ルビィはオムライスが食べたいな」

 

「わかった作る」

 

オムライスは店でも出してるし、そんなに難しいわけでもないからこの時間のご飯には丁度いい

 

「やったぁ!えへへルビィも手伝うよ」

 

「じゃあこの玉ねぎ切ってて、ほかの材料取ってくるから」

 

材料的にピーマンと人参とケチャップにご飯と卵があれば…

 

「あぅ玉ねぎ切ってると目が痛い…」

 

「めっちゃ涙目になってるじゃん。大丈夫?」

 

涙ながらに玉ねぎと格闘しているルビィの姿を両手いっぱいに材料を抱えながら少し見守った。手伝うと言ったあたり包丁は握りなれているようで玉ねぎのみじん切りもなんのそのといったようだ。

 

「こればっかりは仕方ないよ…」

 

「涙目でも手元はちゃんと見ないとダメだからね」

 

ご飯を少し冷ましながら卵を割る。二人分なのと少しリッチにいきたいという気持ちから少し卵は多めにしてみた

 

「あ、理亞ちゃん片手で卵割ってる」

 

「こんなの茶房じゃ一般教養」

 

…え?逆に片手割りって女子高生みんなできるんじゃないの?正直全て姉様が基準だから私って片手で卵を割るの遅い方だと思ってたんだけど…

 

「茶房ってすごい」

 

「でも言っとくと姉様は私の3倍のスピードでこれと同じことやるから次元が違う」

 

卵割る時だけ姉様阿修羅みたいな動きするし、残像作るし…

 

「お姉ちゃんも片手で割ってたけどどうやるんだろ」

 

「何事も練習すれば何とかなる」

 

私だって最初は出来なかったけど、姉様に“何事も努力です!”って言われてできるようになった

 

「saint snowって根性論みたいなとこあるよね…」

 

「根性論じゃなく熱血って言って」

 

根性だと泥臭くなる。私たちはあくまでスクールアイドルでスマートだから

 

「変わらないと思うんだけど…あ、材料全部切り終わったよ」

 

「ありがと、ルビィはチキンライス作れる?」

 

「うん、できるよ」

 

「じゃあお願い。私はそのまま卵を担当するから」

 

卵を焼くのにはいつも神経を使う。半熟の状態を維持し続けるには火と対話をしなければならないからだ。なんて言ってるけど私がまだ作るの得意じゃないだけだけど…

 

「〜♪」

 

「何それ聞いたことない…新曲?」

 

「うん、梨子ちゃんが作ってたやつなんだけど…ここの部分のメロディがすごく綺麗だなって」

 

桜内梨子…記憶が間違ってなければ確かあの髪の長い美人だよね。銀がでれでれへらへらしながら喋ってる

 

「あの人って美人だし料理できそうだしもろ銀の好きそうなタイプだよね」

 

なんて言うか私女子力ありますよって顔が言ってるレベルの人っていうかなんていうかそんな感じ

 

「現に千歌ちゃんから聞いたのは、会った初日に君は輝いてるって言ったって」

 

「…アホじゃん」

 

私の予想が合っていてなんか悲しくなる。そこは予想を裏切って硬派にいって欲しかった

 

「はぁ…美人さんなのほんと羨ましいなぁ」

 

「あ、待って今から集中する」

 

フライパンの上の卵を手首のスナップを使いながらひっくり返していく。焦ることなく…でも焦げないように少し早く綺麗な半月形になるように

 

「…すごい」

 

「ふぅ…あの作業だけはほんとに無言でやらないと出来ないからごめんね。いわゆる‘ふわとろ’って状態にするにはそれくらい集中力がいるから」

 

「ルビィの方もチキンライス出来たし盛りつけようよ」

 

チキンライスから香るケチャップの匂いが脳天にガツンと響く。お店とか行った時に卵を開いて一番最初にくるこの匂いは正しく鼻腔をくすぐるという表現に相応しいだろう。まあ今はその前にもう嗅いでしまっているんだけど…

 

 

「写真撮る?」

 

「うん!SNS映えするように可愛く盛りつけしよ」

 

「…こんな感じ?」

 

「後は…スマホスマホ」

 

「ほらルビィ ストーリーの用意出来てる?今から包丁入れるよ」

 

これで中が半熟じゃなかったら…なんて後ろ向きな考えはなしでちゃんと出来てるはずだと己を信じるのみ

 

「うん、準備OK」

 

「それじゃあ…入刀」

 

包丁の切っ先が卵に触れる。中からキラキラと輝いた面が現れると少し心の重りがおりたような気がした

 

「おぉ…中がちゃんと半熟だぁ」

 

「これは昼ごはんだけどこんなの朝飯前」

 

正直内心はすごくビクビクしてた。まあなんてことはさすがにここでは言えない

 

「うん、理亞ちゃんの勇姿、バッチリ撮れたからシェアしておくね」

 

「ふふっこれはいいねが爆発するの間違いない」

 

この店がバズれば売り上げが上がって相対的にsaint snowの知名度も上がる…

 

「あんまり期待しすぎるとあれだからSNSをチェックするのはまた後でにしよっか?」

 

「うん、とりあえず作ったしまず食べよ」

 

「「いただきます」」

 

少しだけルビィの様子をちらりと窺う。

 

「あむっ…わぁおいしい!」

 

「ほんとそれ」

 

自分で言うのもなんだけど我ながら美味しい。いやまあ店で出す料理なんだから当然なんだけど何故か安心してしまう

 

「さすが理亞ちゃん」

 

「いやルビィのチキンライスがあってこそだから」

 

このチキンライスのクオリティなら全然この店でバイトできるけど、その場合交通費が凄いことになりそう

 

「いやいや理亞ちゃんこそ」

 

目の前で手をバイバイのように振りあって謙遜し合う光景を日本では美徳と呼ぶ。その場合内心が鳴門の渦潮のように渦巻いているのは恐らく誰も知らないのだろう

 

「ここで日本人の美徳を発動しても仕方ないしまあ、お互い美味しいってことでいいじゃん」

 

「うんそうだね…」

 

 

2人で食卓を囲う。‘似たもの同士’だった過去の乗り越えて今の私たちがある。その中心にはAqoursがいてsaint snowがいてそして…

 



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黒澤銀はやりたくない

今回はダイヤさんの初期設定だった千歌と勝負してスクールアイドルになったという死に設定を銀バージョンにアレンジして書いてみました


06/23にタイトル変更


──────

 

「スクールアイドルするから銀くん手伝ってください」

 

「やだ」

 

いくら千歌の頼みとはいえスクールアイドルの手伝いなんて俺がやるわけないだろ。全く愚問すぎて呆れてしまうわ

 

 

「ねぇなんでぇーいいじゃん」

 

あ、こら!そんなふうに膨れっ面で机の上に乗り上げてぐずるんじゃない。いいとししてるんだからもっと上手にぐずればいいだろ。なんで俺の机に突っ伏すんだ

 

「いや俺スクールアイドルなんて知らないし」

 

早くこの話を切り上げたいからしれっと嘘をついた。ルビィの影響で本当はめちゃくちゃ知ってるけど多分それ言うとめんどくさい気がする。

 

「じゃあ銀くんの大好きな梨子ちゃんがスクールアイドルやるって言ったら手伝う?」

 

「て、手伝……わない」

 

俺の大好きなって…千歌は俺の事どんな風に思ってるんだ…いくら梨子といえど幼馴染である千歌と態度を変えるわけないだろ

 

「私の時と違って迷ってるじゃん!ゆーぐうだ!」

 

「いや俺は人類みな平等だと思ってるって」

 

一見綺麗事のようだけど本当に千歌と梨子に差なんてない。それだけは確かだ

 

「あの…全部こっちに聞こえてるんだけど」

 

俺たちの会話を聞いていたのか苦笑い気味の梨子がこちらにやってきた。くっそ美人でおしとやかで料理が趣味の女の子でピアノも弾ける都会人…正直俺からはぐうの音も出ないし劣等感で悔しさすら覚える

 

「あ、ごめんね梨子ちゃん。ところでスクールアイドル部に入らない?」

 

「へ?」

 

梨子は困っているのか戸惑いながらあたふたとしていた。理由はおそらく目の前のやつに訳の分からないことを言われているからだろう

 

「お前はとりあえず接続詞の勉強からしてこい。梨子も気にしなくていいから」

 

「う、うん。さっき私のこと銀くんが大好きみたいなこと聞こえたからその…」

 

「え?」

 

全然聞き取れないけどさっきの会話のことを言ってるのか?そんなにでかい声で喋ってたのか

 

「いや…何でもないんだけど…」

 

目の前で手をパタパタと振って謙遜する梨子。あまりに美しい謙遜に後光すら見えるよ

 

「?梨子がいいならいいけどさ。とりあえず千歌の話はもう終わりだ」

 

「終わりにしたかったら意見がぶつかった時にする儀式をするしかないよ銀くん」

 

千歌はニヤリと笑っていた。この顔は大抵何か企んでる顔だけど…

 

「なにじゃんけんか?」

 

「じゃんけんだと運が絡んじゃうから…」

 

ちなみにこう言っている千歌のじゃんけんは非常に弱い。排水溝にハマったり、行事に参加したら全部雨になるようなものすごく運の悪い奴くらいにしか勝てないんじゃないか?

 

 

「じゃあ相撲だね」

 

横から曜がひょっこりと生えてきた。話聞いてたのか

 

「相撲でいいのか?」

 

小さい頃よくやってたとはいえ珍しい勝負内容だな。運の絡まない純粋な力勝負とはいえ男の俺に何か勝てるビジョンでもあるのか

 

「わたしたちと相撲で勝負してわたしたちが勝ったらスクールアイドルの手伝いをしてもらう」

 

千歌は賭けの内容を説明するがそれには大事なことが足りていない

 

「じゃあ俺が勝ったら?」

 

この内容なら相当重いものを賭けないと釣り合わないはずだ。俺の高校人生を少しくださいと言われてるようなものだからな

 

「じゃあ…千歌がなんでも言うこと聞く」

 

却下。これを誰かに告発された場合俺の人生が終わるしそれが姉ちゃんだった場合なんかは想像したくもない

 

「女子がそんなことを軽々しく言うんじゃない。だから俺の望みは‘ちゃんと勉強をする’それだけでいい」

 

進学とかの進路選択はもちろん千歌が選ぶべきだけど志望校は私立上位に設定してきちんとそれに沿って勉強してもらう。テストの学年上位に千歌が名を連ねるというのが俺の望みだ

 

「…やっぱり何かの罰ゲームの方が…」

 

「ん?勉強が罰ゲームより嫌だといいたいのか?」

 

学生の本分を嫌とはいい度胸をしているじゃないか。うちの生徒会長が聞けばカンカンに怒るぞ

 

「え?い、いやぁそんなことないよ」

 

「ごめんね銀ちゃん。千歌ちゃんは多分こうなると止まらないからこうするしかないと思って」

 

「いや別にいいぞ曜。どうせこいつは猪突猛進だから自分で決めたことに向き合わせないといけないし」

 

己が決めたことに人を巻き込むということはそれなりの責任がいるということを理解する必要がある。説教くさいようだけどそれは当然の事だ

 

「あはは…なんか銀ちゃんらしい手厳しさだ」

 

「決戦の舞台はいつもの砂浜でいいよね?」

 

 

 

……

「なんで梨子がいるんだ?」

 

俺と同じで梨子もスクールアイドルの手伝いに誘われてたはずだ。まあ美人だし作曲できるし千歌がみすみす見逃すわけはないけどそれにしてもこの場に誘うとは思ってなかった

 

「梨子ちゃんにはわたしがどれだけ本気か見てって言って来てもらったの」

 

「なんか身内のことなのに首突っ込んだみたいでごめんね」

 

何も悪くないのにぺこりと頭を下げる梨子に俺も頭が上がらない。正直都会の女子高生をパンクな何かかと想像していた俺はこのお淑やかが擬人化したような梨子が東京から来たと聞いた時ほんとにたまげた。

 

「ふっふっふっどうせ梨子ちゃんも身内になるんだからかんけーないよ」

 

「ごめんな梨子。たかだか相撲を見に来させるなんてくだらないことして」

 

「ううん、全然大丈夫だよ」

 

アホなことを言っている千歌は無視しといて…しかし目の前で手をパタパタと振りながらにこりと笑う梨子があまりに眩しすぎて直視できない。ほんとピカピカと名のつく某悪魔の実でも食べてるんですかね…

 

「ルールは簡単でこの円から出るか足の裏以外が地面に着いたら負け…だよね?」

 

「あと危ないし俺はハンデとして投げなしでいい。」

 

千歌程度なら片手でぶん投げれるからな…さすがにそれは危ないから決まり手にするならあくまで押し出しだけでいい

 

やさしいんだね…

 

「なんか言ったか梨子」

 

既に土俵内に入っている俺は円の外にいる梨子の言葉が聞き取れなかった

 

「ううん、何でも」

 

「それじゃあいくよ!はっけよい…のこった!」

 

「これでどーだ!」

 

千歌が思いっきり突進してきたけどあたりが軽すぎないか?綿と相撲してる気分なんだけど…

 

「お、重い…もしかして銀くんって岩?」

 

「俺まだ力入れてないぞ」

 

何もせずにただ立ってるだけだ

 

「またまたそんなこと言っちゃって!だってそれだと千歌が勝てないじゃん」

 

にっこりと笑ってるけど全く持ってその通りで頭と両手の三点で押しても俺の身体はピクリとも動いていないから文字通り千歌に勝ち目はない。投げようとしてもおそらく千歌の腕力じゃキツいだろうし

 

「もう押していいか?」

 

「え?」

 

少し力を入れて千歌の身体をぐっと押していくと砂をかき分ける音と共に後退していく。ほんとに軽すぎるこれ

 

「ぐぬ…とまれぇぇぇ」

 

あと3センチ…2センチ…1セン──────

 

 

 

 

 

 

 

あれ?そういえばこの状況でなんで千歌は笑ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「さっき言ったでしょ?‘わたしたち’って」

 

「助太刀ターイム!」

 

え?曜がいきなり参戦しだしたんだけど?千歌と一緒に笑いながら俺のこと押してきてるんですけど…

 

「は?」

 

いやまずいぞ2人して押してるせいか知らんがあと1歩が縮まらない。というか少しずつ押し戻されてきてる…

 

 

くそ…あの時執拗に‘わたしたちと相撲’って連呼してたのはこのためか…

 

「2人なら銀くんの体重と変わらなくなるしいけるよ!」

 

「ほんとだ…確かに千歌ちゃんが(みかん1つ分)kgだし曜ちゃんは(夜羽遡露)kgだから足したら銀くんと変わらないくらいありそうだね」

 

俺の推測とちょっとズレてたから詳細なデータをどうもありがとうと言っておいた方がいいのか?2人の口が顎外れそうなくらい開いてるけど

 

「り、梨子ちゃんな、なんでここで言うの!」

 

「うわぁぁプライバシーの侵害だぁ!」

 

いやなんで体重言ったくらいでこんなに取り乱してんの?むしろ軽すぎる理由が分かったからいいくらいだぞ

 

「え?言っちゃダメだったの?2人が体重の話してるからてっきり言っていいのかなって」

 

どうせ梨子も見た感じ(サンドイッチ一個分)kgくらいだろうし、人の身体見たら大体の体重なんてのは分かるんだからそんな体重の話を言われたからって響くもんでもないだろ

 

「梨子ちゃんに体重を言われたからにはもうスクールアイドル部に入ってもらうしかないよ」

 

しかし己の犠牲も顧みずあの手この手で勧誘してるなこいつ…ルビィなんか飴で引っかかるから注意してやらないと

 

「いやそんな制度ないからな…お前ら2人を押し出してこれも終わりだ」

 

運動系の部活をやっている男子高校生が本気を出せば女子高生二人など相手にならないと言うことを教えてやろう

 

「あれあれ?2人なのに押し負けてる?」

 

「でも千歌ちゃん」

 

「うん、辞めないよ!だって…」

 

 

 

 

「「諦めたくない」」

 

「からって何で被せてくるの!」

 

「ふふっ絶対に言うと思った」

 

 

 

 

 

 

やっぱりすごいな2人とも…

 

 

 

 

 

 

「ねぇそう言えばなんだけど私たちって千歌ちゃん達2人で限定されてない…よね?」

 

「え?梨子ちゃん?」

 

梨子さんや何でこっちに歩いてくるんだい?もしかして何かこちらに用でもあるんですかい?

 

「なんか凄い感化されちゃった。地味な私が…なんて思ってたけどがむしゃらに進み続ける2人見てたらね…私も頑張らなきゃって思ったの」

 

…千歌と曜の背中を梨子が支えていた。ぶっちゃけ3対1は聞いてないぞ

 

「ちょっと待って…さすがの俺も3人は無理かもしれん」

 

「そうだよ!私一人じゃ無理かもしれないけどこの3人なら乗り越えられる!」

 

 

その言葉を聞いた以上もう進まない否押せない。

 

 

そもそも私たち〜の言葉遊びが子供じみていた事も理解していた。だがそれでも異論を唱えなかったのはどこか千歌に期待していたのかもしれない。ただがむしゃらに突っ走った先の世界を俺にみせてくれるかもしれないなんてことを考えていたのだ

 

 

 

いつしか俺の身体は砂の上に直線を描き円を乗り越えていた

 

「俺の負けだな」

 

「やったぁ!」

 

「じゃあ私たちの手伝いをしてくれるんだよね?」

 

「ま、次のラブライブまでだけど」

 

 

いつも1人で戦っていたから少し小休止であいつらの後ろに立つのも悪くはないだろう

 

 

──────

 

 

 

 

「お兄ちゃんあのね?ルビィがもしスクールアイドルになったらお手伝いしてくれる?」

 

「そんなの当たり前だろ。最大限かつ最高のサポートをしてやるよ」

 

いくらルビィのお願いだからってスクールアイドルの手伝いを俺が断るわけないだろ。全く愚問すぎて呆れてしまうわ

 



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相合傘は濡れている方が惚れている

ラブライブ!サンシャイン!! のLiveを現地で初めて見たのですが、これほどまでに心を満たしてくれるものだとは思いもしませんでした。私の好きなsaint snowのBelieve Againを生で聞いた時は、鳥肌と共に感嘆の声が自然と出ていたのを覚えています。最近はモチベーションも下がっていたので、Liveに行くことで1ついい気分転換にもなりましたし、これからまた少しずつ投稿出来ればと思います。




──────

 

 

 

 

 

 

 

 

私は泣き続ける空をただひたすらに見つめていた。まあそんな文豪チックに表しても置かれているこの状況は変わらない。要は傘を忘れてしまったので帰るに帰れない状態なのだ。水泳で濡れることには慣れているとはいえ今は下に水着を着ていないし濡れたら下着が透けてしまう。女子校だから大丈夫、という言葉ももいまは昔の話だ。

 

 

 

そしてAqoursのみんなと帰ろうとしても千歌ちゃんと梨子ちゃんは作曲作業中だし、善子ちゃんと果南ちゃんは復学の補習をしてるし、ルビィちゃん花丸ちゃんは衣装作り、生徒会長と理事長はそれぞれの仕事ともれなく隙がない。そう私は八方塞がりなのだ

 

 

 

「…どうしよう」

 

 

 

同じ方向の善子ちゃんはまだまだ時間がかかりそうだし待ってるのも何だかなあと思ってしまう。それにいくら先輩後輩気兼ねない関係だからと言っても傘入れてって気を使わせるのは悪い気がする。ホントに濡れて帰るしかないのかな…

 

 

 

 

「こんな所で何してるんだ曜?」

 

 

 

「あれ?銀ちゃんこそ仕事はどうしたの?」

 

 

 

「俺今日は用無いよってみんなに言われたんだよ。曜こそAqoursも水泳部も練習休みだろ?早く帰らないのか?」

 

 

 

「いやぁ実は帰りたくても帰れないんだよねぇ」

 

 

 

「ふっまさか傘を忘れたのか?」

 

 

そこはかとなくぼかしていたのに一瞬で見破られた。まあ下足室の前で立ってる時点で推測は出来そうなんだけどね。

 

 

「う、うん忘れちゃった」

 

 

 

「まあ俺もだけど」

 

 

その返答はあまりに予想外すぎた。鼻で笑われるのは分かるけど、‘俺も’と言われるなんて思いもしなかったから

 

 

「え?」

 

 

 

「だから姉ちゃんから借りてきた。俺はルビィと相合傘したかったんだけど姉ちゃんに結婚前の異性がどうとか怒られてな…」

 

 

そう言って銀ちゃんは趣のある和傘を私に見せてくれる。都会でこれを差すと奇異な視線を向けられるのかもしれないけどここ内浦には視線がそれほどない。正直銀ちゃんとここで会えたのはラッキーかもしれないけど1つだけ気がかりなのは家の方向がそれほど同じじゃないということだ。傘に入れて貰えたとしても必ずどちらかに徒労が生まれる。それがネックなのだ

 

 

 

 

 

「もしあれならそっちまで送ろうか?」

 

 

 

「ほんとに?いいの?」

 

 

送る…か。銀ちゃんは本当に優しいな。そっかじゃあ私たちは相合傘で帰るんだね…え?ホントに銀ちゃんと相合傘で帰るの?さっきダイヤさんに怒られたとかどうとか言ってたのに。

 

 

 

「ほんとにって…置いていくわけないだろ。ここで帰ったらそれこそ俺が鬼みたいじゃねぇか。相合傘といえど姉ちゃんにバレなきゃセーフだしよ」

 

 

 

「あ、ありがと」

 

 

 

傘入れて貰えたし濡れなくてラッキーなんて思っていた子供の時とは全く違うようで複雑な感情が渦巻く。雨で気温が下がっているはずなのに少し頬が熱くなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

相合傘の距離は体験してみないと分からないものだけど、体験者から言えば意外と近い。小さい頃は何気なくやっていたことでも高校生の私には凄く恥ずかしいしね。銀ちゃんは飄々としてるけど恥ずかしくないのかな?

 

 

 

 

 

 

「こういうことするのも久しぶりだな」

 

 

 

「小学校の登下校以来だもんね」

 

 

最高のイマを積み重ねていれば、昔も楽しかったし今も楽しいと言える。あの頃も楽しかったけど、今も最高に楽しいから懐かしむ気持ちはあっても戻りたいと言う気持ちは不思議とない

 

 

「ほんとに懐かしいよ。しかしまた同じ学校に通えるとはなぁ」

 

 

銀ちゃんは懐かしむように遠くを見つめていた。色んなことがあった小学校時代を振り返ってるのかな

 

 

「ふふっ一緒になれて嬉しいの?」

 

 

 

「いやそろそろ転校したい」

 

 

冗談でもカチンときた。中学時代の私たちの想いも知らないでそんな冗談を言うなんて少し乙女心の履修が足りてないんじゃないかな?

 

 

「むっダイヤちゃんに言いつけるよ」

 

 

 

「冗談に決まってるじゃないか。俺とお前の仲だろ曜?」

 

 

「えっと知り合い?」

 

 

あんなことを言われたからこちらも反撃する。

 

 

「待ってお願いだから言わないでくれ。スクールアイドルの手伝い疲れちゃった☆転校する☆てへっとか言ったら‘愛が足りませんわ’って言われてマジで飯が無くなるから」

 

 

 

「分かってるって言わないよ。それよりそっち濡れてないの?」

 

 

銀ちゃんの高さで傘を差すと私にかかっちゃうから少し傾けた私に雨がかからないようにしてくれている。

 

 

「濡れてるけど身長差あるしこればかりは仕方ないだろ」

 

 

 

「でもそれだと銀ちゃんが濡れちゃうじゃん」

 

 

 

「「俺は大丈夫」って銀ちゃんよく言うよね」

 

 

してやったりと私はドヤ顔で銀ちゃんに向き直った。当の本人は言い当てられたから少し困り顔だ

 

 

「言おうとしてたことを当てるなんて知り合いにしてはよく知ってるんだな」

 

 

 

「いやそこ根に持たないでよ…でもちゃんと自分もいたわってもらわないと私も困るよ」

 

 

 

「マネージャーからしたら曜が風邪ひくほうが大問題だろ?」

 

 

 

 

 

銀ちゃんからそう言って貰えて嬉しい半面悲しくもなった。自分を顧みず他者を救う。美しい自己犠牲の精神を見ていて思うのは感動ばかりではないのだ

 

 

 

 

「銀ちゃんがそんなに自分を犠牲にして濡れるなら私もこの傘を飛び出して濡れるよ?」

 

 

「ふぅ…は?」

 

 

何を言っているんだこいつ…みたいな目でこっちを見てくる。それでもこれくらい言わないと銀ちゃんは耳を傾けてくれないから

 

「だって‘親友’なら痛みも等分でしょ」

 

そう言って傾いていた傘を向こう側に戻した。私の右肩に冷たい雫が流れるように落ちてきて身体がぴくりと跳ねた。そんな身体の反応を見ていたのか銀ちゃんがまた傘を少し傾けた。私はそれをまた向こうへ戻す。戻る、戻す、戻る、戻す。その行為を何度も繰り返す

 

 

 

「あぁもう傘で振り子してんじゃねぇんだよ!おとなしく俺の厚意を受け取ってくれ!」

 

 

 

「えぇぇぇ!好意!?」

 

 

そんなことをいきなり言われては混乱しない方がおかしいだろう。真剣な面持ちの銀ちゃんはもはや濡れないことを放棄するように私に傘を押し付けてくる

 

 

「そうだよ厚意だよ。それの何がおかしいんだ」

 

 

 

「い、いやおかしくないけどここで言うの?」

 

 

好意って傘押し付けながら言うものじゃない気がするし…

 

 

「まあ確かに厚意はそんな口に出すもんじゃないけどさ」

 

 

 

「えへへ…でも好意なら仕方ないよね」

 

 

 

「?まあ納得してくれたならいいけど」

 

 

 

 

す、好きって言われたんだよね?この相合傘っていう場所的にはロマンチックに分類されるシチュエーションで…えへへ

 

 

 

 

 

好意を口に出して言ったのが少し恥ずかしかったのか銀ちゃんは顔を真っ赤にしてる。かくいう私も人のことは言ってられないくらい顔が赤いだけどさ。この一悶着でもみ合ったから雨が制服のところどころに染みを作っていた。

 

 

 

「この好意って‘私’に向けてなんだよね…?」

 

 

 

「?それはそうだろ」

 

 

 

「……えへ

 

銀ちゃんがよく言う。みんなが大好き的なニュアンスかなと思ったけどそうでもないらしい。ここが家なら声にならない叫び声を上げているところだ。でもこうやって好きって言われるのがここまで恥ずかしいとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

この熱量が空の雨雲を穿ちそうなくらいには顔が沸騰するように熱い。銀ちゃんに見つめられると心がキュッっとなる。ここまでドキドキとするのは久しぶり…いや身体全体が心臓に成り代わったようにドキドキするのは初めてかもしれない。銀ちゃんの瞳がこちらを見据えている。自分の心臓の音が聞こえているかもしれない。そんな感情に飲み込まれて今にも蒸発してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

そんな熱を肩に触れた雨がそっと冷やしてくれたような気がした

 

 

 

 

 



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渡辺曜 天に花火が咲きほこる季節

今回は曜エンドの補完です。それに合わせて曜エンドも少し書き換えたのでぜひ…


──────

 

 

 

寄せては返す波の音が耳を撫でる。砂浜に押し寄せる夜の海は黒く染まり、青々とした昼の海とはひと味違う趣を感じさせてくれる。 俺はただ暇だからこの砂浜に来た……訳ではなく人を待っていた。そう今宵の沼津夏祭りは曜と回るからだ

 

 

 

 

「ごめん銀ちゃん。待った?」

 

「いや全然」

 

 

…一目で尋常じゃない可愛さだと見抜いた。お下げ気味に結んだ髪に白と青の花模様の浴衣がよく映えている。端的に言えば可愛いし言葉をこねくり回しても可愛い。この世で一番この浴衣が似合っていると言っても過言ではない

 

 

 

「久しぶりなんだけど浴衣…どうかな?」

 

「よく似合ってる」

 

「あ、ありがと」

 

照れたら右下を向くのは昔からの癖だ。何から何でも曜の事は分かるし、逆にそれは俺のことを何でも知られるほど付き合っていることになる

 

「花火までちょっとだけ時間あるし、少し回るだろ?」

 

「うん!私わたあめ食べたい!」

 

天真爛漫と言う言葉が似合うほどの笑顔。待ちきれないのか俺の袖を早くとばかりにくっと引いていた。肩と肩が触れ合う距離まで近づいている。

 

「わたあめか。確か屋台ってあっちの方だったよな」

 

「ふふっ何回も来てるから覚えちゃってるじゃん」

 

「うちの家も噛んでるし嫌でも覚えるっての」

 

地元の網元だからこの手の祭りなんかでは実行委員長を務めることが多い。実際母さんが挨拶に出かけることは珍しいことではなかったし、俺もそれをよく見ていた。故に顔見知りが多いのだ

 

「あはは昔は銀ちゃん知ってるとこだとタダで貰えてたもんね」

 

「まあさすがに今では出すけどな」

 

「あ!あれじゃない?」

 

駆け出そうとする曜の手をぐっと握った。どうしてとばかりにこちらを向いて目を丸くしている。まあどうしてかと言われれば離れないでそばにいて欲しかったと答えるけど、今回は適当にお茶を濁しておくか

 

「待った。いくら知ってるとことは言えはぐれたら危ないだろ?二人で行こう」

 

 

「う、うん」

 

握手のように握っていた友達繋ぎを1度解き指をしっかり絡めた。一生はぐれないようにとしっかり願いを込めながら。

 

(うぅ…恥ずかしい。でもあの真剣な眼差しで見つめられたら何だか大事にされてるんだなって思っちゃったし…)

 

 

「お、いらっしゃい。なんだいカップルかい?お熱いねぇ」

 

「へへわたあめ1つください!」

 

あまりに長く一緒にいたから、二人でいても違和感ないけど人から指摘されてカップルなんだとふと自覚する。付き合ってないころに昔はよく間違えられたけど、それは他人から見たらそうだとしか見えないからだったのかもしれない

 

「ほらどうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

▽わたがしを笑顔で受け取るその姿に目を奪われた。▽わたがしを見て目を輝かせている姿に目を奪われた。▽わたがしを齧り甘いねと笑いながら言うその姿に目を奪われた。▽目を奪われた俺は目の前が真っ暗になった

 

 

「意外と感性は変わってないのかもな」

 

「どういうこと?」

 

「子供の頃と曜は同じってこと」

 

目を潰されないように屋台と曜を交互に見るようにした。カステラや焼きそばなんかの食べ物から輪投げにピンボールなどの遊びまで割となんでも揃っているのがうちの祭りの特徴だ

 

「えぇ〜私も少しは変わっ……あ!金魚すくいだ。懐かしいなぁ〜」

 

言動や目移りという行動は無邪気な子供そのものなのに水面の煌めきが照らす横顔が少しだけ大人に見えた。キラキラと瞳を輝かせている様子はさながら夢見る乙女のようだ

 

「久しぶりにやるか?」

 

「うん!えへへこれ持ってて」

 

さっきまでまん丸としていたわたあめはでこぼこになっていて‘わた’と言うにはすこし無理な形をしていた。それをしり目に曜は颯爽と腕まくり…浴衣から覗くその白く細い腕は引き締まっていてたるみというものは見られない。意気揚々と曜が下を向いているあいだに百円玉を店主に3枚渡しておいた

 

「まずはポイを水に浸してっと…」

 

周りからは‘あぁ破れた’だの‘1匹取れた〜’なんて声が聞こえているが曜には聞こえていないらしい。まるで飛び込み台からプールを見下ろすようにして集中している

 

「えい!」

 

曜が狙ったのはポイの直径と同じくらいの超大物。その体躯にはあの集中力も流石に勝てないようだった。無残に穴が空いたポイを曜は悲しく見つめている

 

「いやぁ行けると思ったんだけどなぁ」

 

「相手の方が1枚上手だったな」

 

うなだれる曜の手にわたあめを返してあげた。しょんぼりとしていた顔はわたあめを齧るとまた綻ぶ

 

「ここでうじうじしても仕方ないか!まだまだやりたいこと沢山あるし早く行こ!射的に輪投げにくじ引き…あと焼きそばとか玉せんも食べたい!LETSヨーソロー!」

 

手を引いて駆けだすその姿はずっと変わらない。ただ幾重にも目の前にフィルターが掛かって魅力的に見えるだけなのだ。変わっているのは俺自身だ

 

「あれだけ体重制限について言われてるのに太っても知らねぇぞ」

 

「なんか言った?」

 

あ、これはダメな方の笑顔ですね。俺は曜のことを何でも知ってるから分かるんだ

 

「いや何も」

 

「ま、私太りにくい体質だし大丈夫」

 

「聞いてたのかよ」

 

「そりゃあ聞こえるに決まってるじゃん女の子だよ?」

 

女の子の前にとびきり可愛いとかの前置詞が抜けているけどそれは俺の頭の中で補完しておく。

 

「一番大事なレベルだしさすがに聞こえるか。じゃあ花火の音で聞こえないときに言おうかな」

 

「銀ちゃんがもしそうするなら私聞こえる距離まで一生引っ付くからね」

 

 

「それって【花火大会の開演時間までもう少しとなりました。繰り返します御来場の皆様花火大会の開演時間までもう少しとなりました。】

 

「……この話はもうおわりだな。移動するぞ」

 

「もう今何言おうとしてたの」

 

「だから聞こえないところじゃないと言わないって」

 

「意地悪だぁ!」

 

 

─────

 

少し人混みから離れたところに来た。ここからだと花火が見渡せるし、夜風で涼むことも出来る。夜の空が俺達を覗いていた。かがやく満天の星…といってもこの目に届いている光は何億年も前のもので“今”その星が存在しているという確約はないのだろう。きっとそれは関係性のようなもので目に見えず他者と共感することでしか感じることが出来ないものなのだ

 

 

 

「月がすごく綺麗」

 

「それを俺以外の男の前で言うとそいつを埋めなくちゃいけなくなるからほどほどにな」

 

「ちゃんと分かってるよ。意味は」

 

無邪気な笑みとは違うどこか読み切ったような妖艶な笑みを見せる曜。成長かそれとも変質か…俺には分からない。けどその笑みですら魅力的に感じられるのは俺もそうなったからなのだろうか

 

 

「…きっちり8時。そろそろ上がるぞ」

 

「うん」

 

手をお互い握り合い、体を寄せて、上を見上げた。笛のような音がなったかと思えばその一瞬には胸に響く爆音と共に瞳の奥を輝かせる牡丹のような花火が打ち上がっていた。赤い残滓は星のように光り、(そら)に溶け込んでゆく。

 

「綺麗だね」

 

「あぁ綺麗だな」

 

花火が夜天に瞬いていた。水面に写っている輝きすらも美しく思える。肌をビリつかせる程のこの音でさえ高鳴りを続けている心臓の音には勝てないだろう

 

「ねぇ銀ちゃん。どうして私を選んだの?魅力的な子がいっぱいいてその中に大好きなルビィちゃんもいたでしょ?」

 

曜は不意にそんなことを聞いてきた。瞳の奥が見えるほどの距離で俺の真意を知ろうとしている

 

「そうだな…まあ色々理由はあるけどさ。一番は曜が抱えてるプレッシャーとか重圧とか求められるものとかを分かち合いたかったからだよ。友達想いだから親友のために一歩引けるとことかさ。でもその一歩を引くために曜が何を犠牲にしてるかなんてみんな分かってくれないだろ?俺はそれを理解してやりたかったし、それをやり続ける曜をずっと見てたから」

 

「って言うか五輪選手になったら付き合ってって言ったのは曜だろ」

 

「あはは確かにそうだけど…まさか本当になるとは思ってなくて………だ……き…けど」

 

一際大きな花火が咲いた。体全体が震えたような音が辺りに響き曜の言葉が上手く聞き取れない

 

「ごめん、花火で聞き取れなかった」

 

「…距離が足りなかった?」

 

そんな吐息が耳を撫でた。筆の毛先のように縛られた髪が肩に触れるのと相まってとてもくすぐったい

 

「聞き取れないならこの距離で喋ろっか」

 

「くすぐったいからやめてくれ」

 

「だってそれじゃあ銀ちゃん聞こえないじゃん……あ、そうだ」

 

何か思いついたように立ち上がった曜はこちらを向いた。夜天の空を照らす花火を背にして笑ったその姿は1枚の絵のようだ

 

「これならどうかな?」

 

「いやどうかな?じゃないだろ」

 

と思えば俺の膝の上に座っていた。人目がないとはいえこんなことをされては対応に困ってしまう

 

「これなら聞こえるでしょ?」

 

スカイブルーの瞳に吸い込まれそうになる。夜風にたなびくアッシュの髪に目をひかれてしまう。白い首筋を見ると瞳孔が開くのを感じる。視界の奥で花火が咲いているのを辛うじて認識しているが渡辺曜という存在が俺の目を支配していた。もはや目が離せない

 

「好き」

 

蕾のような唇が迫ってくる。既に曜の目は閉じられていて、答えというのものが俺に提示されているようなものだった

 

「待て」

 

その美しい唇をたしなめるように指をそっと当てた。どうやら俺にも理性というものが残っていたらしい

 

「!?なんで?」

 

「そういうのはお互いに責任が伴うだろ」

 

曜にはファンクラブまであるくらいなのにたかだか付き合ってしかない馬の骨がそこまで突っ込んでいいのかという話だ。少なからず俺に対して批判の声があるというのも重々承知している。まあそれでも曜を渡すつもりは毛頭無いけど自重はするべきだろう

 

「そんな膨れたって仕方ないだろ。ほら花火見るぞ」

 

「ちぇ…」

 

「あ、銀ちゃん何かついてるよ。取ってあげる」

 

曜が見せたのは‘妖艶であり無邪気な笑み’。取ってあげると言っているのに手の位置は首の後ろに手が回っていた。いや待てこれは─────「!?」

 

「責任取ってくれるんだよね?」

 

そっと離れた唇に手を当て花火の前で曜は笑っていた。もはやメインである花火が曜のためのバックライトと化している。まるでそれはメインの花を際立たせるための添え物のようにそこに置かれていた。体裁も理想もなんのそのだ。好きな人が出来たらその人のためになんでもするし、愛の前に障害物などあってもそれは塵芥でしかないのだろう。

 

「あぁ夢の舞台でな」

 

俺は小指をそっと前に差し出した。ここで決意をするのだ。今はまだ出来ないけれどきっとあなたを幸せにすると

 

「待ってるからね」

 

曜もまた指を絡めて俺に応えてくれる。幼き頃に約束を交わしたようにぎゅっと小指を握りしめた

 

 

「あ、そろそろフィナーレだ」

 

初夏に夏が来れば蒸しかえるようなこの暑さが早く終わってほしいと嘆くものだが、晩夏においてはこのジメジメとした気温さえ過ぎ去って欲しくないと思ってしまう。実りの秋がくるといえどこの夏という特別な季節が終わるのはなんだか寂しい気持ちがするのだ。夏休みしかり田舎への帰省しかりそして花火や海などの遊びでさえも…

 

 

 

 

そう思いながら2人手を繋いで最後に一際輝く花火を見ていた

 

 

 



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黒澤ルビィは入りたい【湯煙】

R18回避成功ということでえっちな描写は微塵もありません


──────

 

「は?」

 

お兄ちゃんはルビィが言ったことを全然理解してない様子で聞き返してくる。ただ‘ルビィと一緒にお風呂に入ろ?’って言っただけなのに何で聞き返すんだろう?

 

「だから、一緒にお風呂に入ろ?」

 

「やだ」

 

話を聞く気が全然ないよぉ…お兄ちゃんはいつも大好き…とか可愛い…とか言ってくるのにこういう所は変にこだわるからみんなを困らせてるんだ

 

「昔はよく入ってたもん」

 

昔は3人でお風呂に入るのが当たり前だったから急にお姉ちゃんやお兄ちゃんが一緒に入ってくれなくなった時はすごく寂しくなった。今でこそ理由はわかるんだけど…

 

「いやお前もういい歳してるだろ」

 

「ルビィの男性恐怖症を克服するためだから…だめ?」

 

「いつの設定だよ。昔に克服しただろ」

 

そう…一緒に入ってくれなくなったお兄ちゃんを説得するために男性恐怖症を引き合いに出したんだ。でもお兄ちゃんが大好きなのに男性恐怖症って今思えばおかしな状況なんだけど、お兄ちゃんのこと男として認識してなかったのかな…?

 

「それじゃお風呂で待ってるからね」

 

「いや、行かないからな」

 

「……」

 

あまりに相手をしてくれないから諦めていくふりをしてチラッと横目でお兄ちゃんを見た。お風呂に行こうとするルビィにはまるで関心がない様子…

 

「……」

 

「…ぐすっ…」

 

そんな悲しい現実に少し涙が出たのでずるいと思うけどお兄ちゃんの説得に使おうかな

 

「お、おい…」

 

「お兄ちゃんと…入りたいのに…一緒に入ってもらえないなんて…ぐすっ」

 

「いや分かったから…もう泣くな」

 

九死に一生、死中に活。逆境に対することわざたちがルビィに力をくれたみたい。おかげでお兄ちゃんと一緒にお風呂に入れそう

 

 

「えへへありがと」

 

頭に触れた温かみとお兄ちゃんと一緒にまたお風呂に入れると思ったら流れていた涙も自然と止まった

 

「その代わり3分で出るけどな」

 

「ふふ…そうはいかの…「誰に吹き込まれたのかは知らんけどそれは言わせねぇよ」

 

あぁ渾身のギャグを言おうと思ったのに…

 

「じゃ待ってるからね」

 

 

──────

 

 

「脱衣所まで来たはいいけどさ。さすがに入りにくいんだが」

 

「…お兄ちゃん?はやく入って来て」

 

久しぶりのお兄ちゃんとのお風呂はこの期待のところでさえ心を満たしてくれていた。まるで今は遠足の準備をしているような楽しさがある

 

「混浴なら水着でよくね?」

 

「お風呂入るのに水着なんて甘えてちゃダメだよ」

 

「謎すぎるポリシーだ…」

 

ため息をつきながら引戸を開けたお兄ちゃんはルビィが服を着ているのにびっくりしたのか目を大きく見開いていた

 

「…正直真っ裸と思ってたからまだ服着てて安心したよ」

 

「え?これからお兄ちゃんが脱がせるんだよ?」

 

「は?」

 

「え?」

 

もしかして昔みたいに脱がしてくれないの?久しぶりのバンザイタイムに胸がドキドキしてたのに!

 

「いや1人で脱げるだろ」

 

「…そうだけどお兄ちゃんに脱がして欲しいの」

 

自分で脱ぐ感覚じゃなくてお兄ちゃんに脱がしてもらってあの乱暴に首の部分を通して貰う感覚を味わいたいから…ってこの文だとそういうことされるのが好きみたいだなことになるよね…

 

「やだ」

 

「………ぐすっ…」

 

その涙の真偽は私とお兄ちゃんしかいないから誰も分からない。ただお兄ちゃんが涙に弱いということをルビィは知ってるだけ

 

「…あぁもう仕方ねぇな…」

 

「わぁい!やったぁ!」

 

「…ほら腕上げろ」

 

「はい」

 

にっこりと笑顔でばんざいすると裾の当たりからめくるようにして脱がしてくれる。首が抜けて最後に腕が抜けるこの感覚はいつになってもいいものかもしれない

 

「ホックは外すからブラは自分で取れよ」

 

「ん」

 

善子ちゃんがよく見てるアニメなんかでは兄妹間で下着を見られたりしたら、暴力!なんてシーンをよく見るけどルビィはそうは思わない。だって家族なんだから見られることなんて茶飯事だし。でもお姉ちゃんはじろじろとは見られたくないって言ってたっけ

 

「下も脱がすぞ」

 

「あ、今日のパンツあんまり可愛くない…」

 

白の子供パンツだからお兄ちゃんを悩殺できない…もっと鞠莉ちゃんが持ってるような下着にすれば良かったなぁ

 

「洗濯干す時に見てるし種類なんて関係ないだろ」

 

「…そこは嘘でも気にしてよぉ」

 

そう言えばお兄ちゃんが洗濯物干してるし下着なんて見慣れたものだよね…悩殺は無理かぁ

 

「全部脱がしたし、せめてタオルで隠せ」

 

「別に恥ずかしくないよ?」

 

「いや気にするとかじゃなくてモラル的な問題だから」

 

ばさっと頭にタオルが掛けられる。これでからだを隠せとお兄ちゃんは言っているんだろう。そんなお兄ちゃんの行動に頬が膨らんでいく

 

「聖良さんや鞠莉ちゃんと違ってルビィの胸小さいのに?」

 

「3年だからルビィと比べても…」

 

その先の言葉をルビィは読み取ってカウンター攻撃を仕掛けた

 

「花丸ちゃん…」

 

「…」

 

1年生なのに胸が大きくて飛びっきり可愛くて背も小さくてどれだけ食べても太らなくてお兄ちゃんから愛されてる花丸ちゃん。

 

「…って花丸を引き合いに出しても譲らねぇよ。ほら隠せ」

 

「ルビィの体型じゃダメなの?」

 

「あのなぁ…ルビィはルビィであって体型がどうのこうのなんて関係ないんだって。それでももしこれから成長してルビィがモデルみたいな体型になったらきっと全人類が恋するからな」

 

その全人類の中にルビィの目の前の人は含まれてるのかな?それなら未来のルビィにすごく期待が持てるんだけど…

 

「むぅ…」

 

「納得したか?」

 

「ほんとのほんとだよね?」

 

「あぁ俺が保証する」

 

「えへへそうかなぁ…」

 

嬉しい。ただお兄ちゃんに認められて褒められて頭を撫でられるだけで幸せを感じる。それが妹の特権

 

「…」

 

「…」

 

「いや何してんだ」

 

「お兄ちゃんが脱ぐのを待とうかなって」

 

「いや身体冷えるだろうし先入ってろ」

 

「お兄ちゃんの服をルビィが脱がせたいな…って」

 

 

「もういいから入ってろ!」

脱衣所からお風呂場に押し込められた。むぅ…お兄ちゃんはとてもケチんぼだ

 

 

──────

 

 

 

 

「入るぞ…」

 

「いらっしゃいお兄ちゃん」

 

おぉ…前は隠してるけど全裸のお兄ちゃんだ。逆三角形の筋肉に目が吸い寄せられちゃう

 

「…目を閉じていた方がいいか?」

 

「ルビィに気を使わなくてもいいよ」

 

「…ならいいけどさ」

 

「もしかしてルビィにこーふんしちゃった?」

 

少し恥ずかしいけどそんなことを言ってみた。今のルビィはとても悪い笑顔をしてると思う

 

「はいはい」

 

「もうちょっと乗ってくれてもいいのに…」

 

「‘家族’だからな」

そうあくまでお兄ちゃんとは家族。それ以上でもそれ以下でもない

 

「お兄ちゃん頭と身体流してあげようか?」

 

「いいのか?」

 

「‘家族’だからね」

 

少し嫌味をこめたオウム返し。お兄ちゃんには届いてるのかな?

 

「さぁお兄ちゃん、ここに座って」

 

美容師さんになった気分でシャワーを取り温度を確かめる。温かさがちょうど良くなったらお兄ちゃんの頭にかけて全体が満遍なく濡れたらシャンプーを泡立てて洗い始める

「痒いところない?」

 

「ないない。気持ちいいよ」

 

「お湯加減は?」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

次は背中をせっせと洗い始める。ボディタオル越しでも分かる筋肉に少し驚いちゃったのはこういうことをするのが久しぶりだからだ

 

 

 

「お兄ちゃんの背中やっぱりおっきいや」

 

「俺の背中はルビィを守るためにあるからな」

 

「えへへお兄ちゃん優しい」

 

 

「ありがとなルビィ。…よし、今度はルビィの頭と背中も流してやろう」

 

「わぁいほんとに久しぶりだ」

 

今はもう必要ないけど、どこか昔を懐かしみたかったから少しキツくなったシャンプーハットを頭につけた。お兄ちゃんにはくすっと笑われたけど、これも大切な思い出だからご愛嬌…だよね

 

「ちっさいな」

 

「お胸が?」

 

「誰もそんなこと言ってないだろ…背中だよ背中」

 

 

「あと少ししたらルビィも成長するもん」

 

「どれくらいだ?」

 

「背伸びしたらお兄ちゃんにキス出来るくらい!」

 

「理想がまあまあ高いな…」

 

ただこうしてお風呂で会話するだけで楽しい。千歌ちゃんの家でする世間話とか修学旅行の大浴場で喋ってる時とは違う楽しさだ

 

「洗ってくれてありがとねお兄ちゃん」

 

「お互い様だろ?それじゃ浸かるか」

 

背中から手を離された感覚に少し寂しくなった。楽しい時間がすぎるのはどうしてこんなに早いんだろう

 

「あっ…」

 

「ん?」

 

「…」

 

 

 

「ふぅ…いい湯だ」

 

 

「つ、月がきれいだね」

 

この意味は花丸ちゃんに教えて貰った。何でもアイラブユーのいんゆ?って言ってた気がする

 

「あぁそうだな。今宵の満月も中秋に負けないくらい美しい」

 

コヨイノマンゲツモチュウシュウニマケナイクライウツクシイ?花丸ちゃんの家のお経?

 

「ち、中秋?」

 

「九月の満月ってこと」

 

「る、ルビィもし、知ってたよ。あ、そうだもっとそっちにいっていい?」

 

「いいぞ」

 

二人分の隙間が空いていたのをぐっと詰めた。肩と肩とが触れ合う距離。パーソナルスペースとか家族の距離だ

 

「ふぅ…落ち着くね」

 

「あぁ…」

 

「お兄ちゃん…」

 

「ん?」

 

「抱き寄せて?」

 

「…これでいいか?」

 

「うん」

 

ルビィの肩にお兄ちゃんの手が回されてる。お兄ちゃんの肩にルビィの頭が触れてる。近くてとてもドキドキしてそれでもリラックスしていて不思議な気持ち

 

 

 

「身体だけじゃなくて胸の奥まで暖かいや」

 

「…え?」

 

「ううん何でも…」

 

「でもこういうのもたまにはいいのかもな」

 

 

「ルビィの裸を定期的に見たいなんて…お兄ちゃんのえっち…」

 

「おいおい嘘だろ」

 

もちろんそんな意図で言ってないことは家族だし妹だから分かる。お兄ちゃんが困ってるからもうこれで変なこと喋るのはおしまいにしよう。けどもうちょっとだけ浸かっていたいってお願いは困らずに聞いてくれるかなぁ?

 

 

 

 

 

 



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松浦果南は抱きつきたい

──────

 

「あ、ごめん当たった」

 

後ろを振り返ろうとしたら死角にいた果南ねぇにぶつかってしまった。きゃっって可愛い声を上げていたのは俺の聞き間違えか空耳か幻聴だと思っておく。これ聞き返したら何返ってくるか分からないし

 

「ん。いいよハグしたら許す」

 

「えぇ…」

 

二人きりならまだしもみんながいる場所でハグするの?やだよそれ…果南ねぇのハグの声にみんな反応してこっちガン見してるじゃん

 

「いいでしょ」

 

「仕方ないか…」

 

それでも悪いのはこっちだし向こうも譲る気がないから背に腹で抱きついた。背中をぽんぽんすると果南ねぇ的にポイントが高いらしい

 

「よろしい」

 

「「「「……」」」」

 

冷ややかな目線が八つ。笑顔な人が約一名。なんだこの空間。まったく…視線が痛い以外この空間にはなんの問題もないな

 

──────

 

「すまん、ちょっと遅れた」

 

今日は俺個人の件で時間を取られてしまった。おかげでマネージャとして有るまじき失態…Aqoursのミーティングに大遅刻だ。

 

「遅かったね銀。おいで、ハグしたら許す」

 

「ハグが免罪符って…」

 

手を大きく広げて待っている果南ねぇの姿を見るのは昨日ぶりだから珍しくもなんともないし、目新しさもない。ただ俺はそのポーズをした果南ねぇが頑なに譲らないことだけはよく知っていた

 

「ん早く」

 

「はい」

 

もう全て諦めて抱きついた。ついでに背中もぽんぽんしておく。ポイントは大事だからな…だからみんなカードを作るんだろうし

 

「うむ」

 

「「「「……」」」」

 

視線を感じるけどきっとそれは俺の後ろの背景を見ているんだろう。そうに違いない。いやそうであってくれ。

 

──────

 

誰もいない教室に二人きりになるとなんだか妙な気分になるのは俺だけではないはずだ。例えばそれがとびきりの美少女だったりすれば浮き足立った足がタップダンスを始めてもおかしくはない気がする

 

「銀くんあのね?例えば私が悪いことをしたとしてハグしたら許してくれる?」

 

「は?」

 

また免罪符を増やそうとしてるのか?あのなぁなんで中世ヨーロッパでカトリック教会の威信が落ちたか分かってるだろ。免罪符を金と交換して売り捌いたから落ちたんだぞ?そんな簡単に免罪符を配り歩いて…梨子とハグねぇ………いや全然なびかないけどね?羨ましいとかちょっとだけならとか全然ないけどな!

 

「いやいつも果南ちゃんとハグしてるから…」

 

「あぁあれは昔からの儀式みたいなもんだからな…そうやるもんだし」

 

「ハグをするのが?」

 

昔からそうだし別に疑問もなかったけどな…梨子からすればそれは不思議だったわけか

 

「ハグしたら全てチャラなんだよ。これでお互い恨みっこなしってな」

 

「ふーんそういう意図があったのね」

 

窓の外を見て何かを考えている梨子は少し安心したかのような声を出した。まあ何に安堵したのかはまるで俺には分からないけどな

 

「まあ鞠莉ねぇとかはハグ魔だしただ抱きつきたいだけだろうな」

 

「もぅ…それを断らないから困ってるんでしょ」

 

はぁ…と溜息をつきながらこちらを見上げてくる梨子。その眉間に若干のしわが寄っていた

 

「困ってる?誰がだ」

 

「え?…い、いやち、違くてあの…銀くんが困ってるかなって」

 

手をパタパタとしたがら焦る梨子はどうやら俺の心配をしてくれていたみたいだ。ハグされて困る…ってこともそんなにないような気もするけど…

 

「まあ慣れたもんだよ」

 

「じゃあ…わ、私も…悪いことしたから…」

 

両手を広げて待つこの状態を俺は幼少期から何度も見てきた。まあそれは果南ねぇや鞠莉ねぇのものがほとんどで梨子がこのポーズをとっているのを見たのは今この時が初めてだ。時間がなんだか止まっているような気がしたので、一秒二秒の瞬間だけ時計をちらりと見た。秒針は確かに時を刻んでいて、どうやら時が凍った訳では無いようだ。ならきっとこの時を悠久に感じているのは俺だけなんだろう

 

「あ、ハグ浮気だ」

 

果南ねぇのその声で俺の体内時計はまたグルグルと周り出した

 

「あれ果南ねぇなんでここに」

 

「通り過ぎようとしたら2人で喋ってたからさ」

 

普段使わないような教室に二人でいたらそりゃあ不審がるのも当然か。真っ当すぎてぐうの音も出ないな

 

「それにハグしようとしてたし」

 

「い、いや違うのこれは」

 

あ、ハグ警察だ。だれかがハグしようとすると飛んでくるポリスウーメンじゃん。梨子はそれに困ってるしさ

 

「でも銀に抱きつきたいんでしょ?」

 

「…ちょっとだけ興味があったっていうかその…」

 

2人だと大胆なのに第三者がいると恥ずかしがるって何だかカップルぽいなと冷静に俯瞰してるけどこれ助け舟出さないとだめだよな…果南ねぇ止まらなそうだし

 

「ほら抱きついちゃいなよ」

 

「いや俺の意思は?」

 

あまりの暴君さにびっくりするわ。人に抱きついていいよって言えるの親くらいだろ…もしかして果南ねぇって俺の親か何か?

 

「梨子ちゃんに抱きつけるのに意思とかあるの?」

 

「ないですはい」

 

ごめん確かにないわ。俺の理性よ持ってくれ…

 

「えっとじゃあ失礼します?」

 

「どうぞ?」

 

そっと胸の中に飛び込んで来た梨子を抱きとめたそれはとても長い抱擁に思えた。後で数えてみたら5秒程度だっただろうけど、その瞬間の俺には秒針が一周しているようにも思えた。胸の高鳴りは己で制御することも出来ず、ただ鼓動を叩き続けていた

 

「…確かにこれは中毒になっちゃうなぁ…

 

「心臓が破裂しそうなんですけど」

 

「ふふ聞こえてるよ銀くんの音」

 

そっと胸元に耳をあたられると‘梨子の匂い’が鼻をくすぐる。それは柔軟剤なのかシャンプーの匂いなのか香水なのかまでは俺には分からない。けど確かに梨子を俺の胸の中に感じたのだ

 

「…」

 

約一名はすっごいジト目で俺の事見てるけど、抱きつけって言ったの果南ねぇだからな

 

「なんかわがまま言ってごめんね?ありがとう」

 

手をパタパタとして恥ずかしがりながら梨子は去っていた。その背中を見送りながらふぅ…と息をついた。今日は嵐のような日だったしさっさと帰って風呂にゆっくり浸かりたいなと思うくらいには精神にすごい疲れがきてい「さてさて次は私かな」

 

「いや何肩回してんの」

 

そんな登板前のピッチャーよろしく準備運動しなくても今日果南ねぇすることもうないからね?

 

「え?私の番だから」

 

「そんなわけないだろ」

 

「ちゃんと順番待ちしてたのに?」

 

「俺はアトラクションか何かかな?」

 

今日の果南ねぇはいつにも増してむちゃくちゃだな…やべぇよこいつ

 

「むぅ…ハグさせろー!」

 

「何も悪いことしてないだろ」

 

「した。ハグ浮気」

 

ぷくっと頬を膨らませて抗議する姿は昔から何も変わっていない。上級生のはずなのに子供を見ているようで少し笑ってしまった

 

「それだと俺は罪を重ねすぎてるん「いいじゃんたまには何も考えないでハグするのもさ」

 

「俺の意思は?」

 

「ない」

 

「あっそう」

 

全てを諦めて果南ねぇに抱きついた。広背筋のあたりをぐっとホールドするのが果南ねぇの抱きつき方だ。昔は肩と肩に頭が乗ってたけど今その頭は俺の胸に埋められていた

 

「背中に手を回してぽんぽんしてくれないの?」

 

「ハグ玄人の言葉やめてくれ。あえて梨子のとき黙ってたろ」

 

「ふっ…経験値の差」

 

「ったく昔は俺が背中ぽんぽんされてたのに…」

 

今となっては俺より小さくなってしまった背中をさするようにぽんぽんしてあげる。だいたいこのあたりというのも俺の経験則が教えてくれた

 

「ん落ち着く」

 

「それは良かった」

 

「上書きしたしこれで良し」

 

ハグしたからか満面の笑みになった果南ねぇはサムズアップしてそんなことを言ってきた

 

「なんだよそれ。俺はセーブデータじゃないっての」

 

 

 

「でもそれはね…私だって女の子なんだから昔からハグしてた男の子が別の子とハグしだしたら不安になるよ」

 

「いやで「でもハグしたら許す。だって…昔からそうでしょ?」

 

「確かにそうだな」

 

なんだか納得させられているようでさせられてないような気もするけどまあいいや

 

「だからセーブデータのファイル名は常に果南にしておきたいの」

 

「だから俺をセーブデータにしないでくれ」

 

それだと鞠莉ねぇの名前入ってたら一瞬で上書きされようだしな…お互いにその話が通った日にはどんなことになるか分からないし想像したくもない

 

「ふふっいいじゃん。なんなら一生セーブしてあげようか?」

 

「やだよそんなの」

 

もぅ…鈍いんだから

 

 

 

 

 

 



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渡辺月は添い遂げる

最初は普通に書いてたのにこの展開思いついたからすごく書き直しました…



追記・なんか投稿して1年でした。空白期間があったのであれですが少し感慨深いです


──────

 

 

 

「ちょっとお味噌汁の味を見てくれない?」

 

「…うん美味いぞ」

 

「それはよかった」

 

 

「僕の愛情たっぷりの朝ごはんをたんと食べてね!」

 

「ありがたいけど月も食わないと腹減るだろ」

 

「いいのいいの!」

 

 

「あ!お弁当もきちんと用意したからね!」

 

「じゃあ今日はデザートでも帰りに買おうか?」

 

「お!やったぁ。その言葉覚えたからね!」

──────

 

 

「さて僕が作ったお弁当の時間だね」

 

「早く飯食おうぜ月」

 

 

 

 

「愛が詰まってるからとても美味しいと思うよ」

 

「あっそう」

 

「もう冷たいなぁ…」

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

「うん!我ながら美味しい」

 

「思わずかきこんじゃうな」

 

「ふふっ当然だよ!なんせ僕の愛なんだから」

 

「特にこの卵焼きがうめぇ」

 

「自信作だよそれ」

 

 

「さすが月だ。いい嫁さんになるな」

 

「もう…既にお嫁さんでしょ?」

 

──────

 

 

 

「このプリンがいいかな…いやでもこのエクレアも…」

 

「まだか?」

 

「あと30分くらい悩みたいんだけど」

 

「待って長すぎる」

 

「り、両方という手はない?」

 

「いいよ別に」

 

「いいの?」

 

「うん」

 

 

「銀ちゃん大好き!」

 

 

「暑いから抱きつくのは離れてくれ…」

 

 

「えぇ…せっかく‘夫婦’になったんだからひっつこうよ」

 

「いややだよ」

 

──

 

 

 

 

「ほら銀ちゃん朝だよ起きて!遅刻する!」

 

「んぁ後2分」

 

「あぁもう起きて!」

 

 

 

「月の味噌汁美味いなぁ」

「ほらご飯も食べて」

 

「美味いなぁ、味噌汁」

 

「起きてすぐはまるでロボットだねこれ」

 

 

 

 

─────

 

 

 

「銀ちゃんさ」

 

「ん?」

 

「食後って何か飲んだっけ?コーヒー?紅茶?」

 

「コーヒー淹れてほしいな」

 

「おっけーじゃあ準備するからカップとか出しといてくれない?」

 

「はいよ」

 

 

 

「ふん♪ふふん♪」

 

「ご機嫌だな」

 

「女の子はティータイムが大好きだからね!」

 

「お茶請けの間違いだろ」

 

「…そんな現実的なこと言わないでよ…」

 

「まあでも月がそういうタイプじゃないのは知ってるから大丈夫だって」

 

「もぅ…僕が変な女だと勘違いされるとこだったよ」

 

 

「お湯沸いたぞ」

 

「お湯入れた時に湯気から香るこの匂いがたまらないんだよねぇ」

 

「確かにいい匂いだな」

 

「銀ちゃんはミルクだけだっけ?」

 

「あぁ月は2つずつか?」

 

「うん」

 

 

 

「ふぅ…落ち着くね」

 

「うんやっぱり月が淹れると格段に美味い」

 

「ミルクと一緒に愛を入れたからね」

 

 

「まあこれから先ずっと一緒にいるしそしたらこの美味いコーヒーもずっと飲めるな」

 

「ふふっありがとう」

「んぁ…やべぇコーヒー飲んだけど眠くなってきた」

 

 

 

「眠いならその…僕が膝枕してあげようか」

 

「いいのか?」

 

 

「別にいいよ?」

 

「じゃあありがたく頂戴するよ」

 

 

 

「どうぞ」

 

「それじゃあ遠慮なく」

 

「一応洗濯してるけど変な匂いとかしないよね?」

 

「いや月の匂いがする」

 

「もう変なこと言わないでよ!」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 

「眠たかったら寝ていいからね?」

 

「いやもうすこしつきとしゃべりたい」

 

「あ、本格的に眠くなってきてるでしょ」

 

「あぁまぶたがひっつきそうだ」

 

 

 

「つき」

 

「ん?」

 

「ずっとここにいたい」

 

「うん」

 

「うわねそう」

 

「うん」

 

「……」

 

 

「おやすみ…銀ちゃん」

 

 

──────

 

「今日は銀ちゃんと一緒に入りたかったのになぁ…」

 

 

「月が綺麗」

 

 

 

「だからこそすごくいいお湯」

 

「もし銀ちゃんが二重の意味でそれを言ってくれたら…」

 

「それこそ至上の喜びかもしれない。夜天の空を照らす満月と目の前のぼ、僕が綺麗であると…」

 

「今宵はとても月が綺麗だ」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

私、桜内梨子は震え上がった。神経が毛筆の先で撫でられるようにして身の毛がよだつ、全身に汗がはり巡るようにべっとりとして、心臓が恐怖に急かされるように拍動している。いやこれが何かの小説であるなら、きっと私は純粋な気もちで読めただろう。でもこれは小説でも日記でもなく、ただの妄想なのだ。それに気がついたのはここに出てくる‘銀’と呼称される男の子に心当たりがあるのと、曜ちゃんから月という名のいとこがいると聞いたことがあるからだ。そしてこのノートには理解出来るふしもある。好きな人がこうして欲しいとかの妄想はきっと誰でもするものだからだ。ただそれでも私はこのノートのように、まるでこの出来事があったかのように自分の妄想を書き連ねることは出来ないだろう

 

 

これは何だろうか、昔からの未来予想図にしてはエゴの塊で小説にしては偏りすぎている。私はとんでもないノートを拾ってしまったのかもしれない。

 

 

拾ったものを導くDEATH(死)NOTE(ノート)とはよく言ったものだけど、この場合命を狙われているのはきっと──────

 

 

 



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鹿角姉妹は甘やかしたい

──────

 

夕食後はゆっくりとした時間を楽しむ。お茶を飲んだり何も考えずにぼーっとしたりテレビを見たりする。それでも今日は函館に来ているので必然的にこの時間はおしゃべりになる

 

「男の人はなぜ年下の女性のことをママと呼ぶんですか?」

 

「世の中みんな疲れてるからだろ」

 

第一に疲れから包容力を感じたいと思う点だろう。上司なんかの理不尽じゃなくて頑張ってることはちゃんと気付いて褒めてくれるし、それでも逆に社会で辛いことがあったら慰めてくれるって言ってるしな…そりゃあ疲れてたら依存するわ

 

「疲れてると母性を感じたくなるんですか」

 

「いやなんというか純真無垢だった時代に戻ってただ女の子に甘えたいだけなんじゃねぇの」

 

社会の闇から離れて女の子に甘えたいってなるのはそれはそれで闇が深いけど…

 

「へーそうなんですね。では甘えてみますか?」

 

「はい?」

 

いや笑ってるけどちょっと何言ってるか分からない。

 

「私がママになりましょうか?」

 

「いや俺そんなに疲れてないし母親は母さんで間に合ってるんだけど」

 

「では母親を浮気ということで」

 

聖良の淡々とした言葉に概念が壊れそう。何母親を浮気って…

 

「待ってくれその言葉に俺の脳がついていけてない」

 

「一晩だけの関係ですから大丈夫ですよ」

 

「その文言は大丈夫じゃない気がするんだが」

 

一晩だけ母親を浮気ってのがパワーワードすぎる。しかも聖良があまりに普通に喋るから俺がおかしいんじゃないかと一瞬思ったし

 

「男の人はバブみを感じるんですよね?」

 

「どこからその言葉覚えたんだ」

 

「ふふん最近ネットには強くなってきたんです!」

 

ドヤ顔で胸張ってるけどどこを見てるとかは聞かない方がいいのか?

 

「それダメな方のネットだからな。もっと将来に役立つようなことにネットを使ってくれ」

 

「最近は‘私の嫁!’よりも‘あなたの子どもになりたい’の方がトレンドだと書いてましたし」

 

「スクールアイドルのネット掲示板が特殊すぎて辛い」

 

それこそ社会の闇の縮図だろ。なんだ子供になりたいって学生に言っていい言葉なのか?

 

「つまり男の人は母性に飢えてるんですよ!」

 

「ほんとにそうか…?」

 

「そうです」

 

「いや俺はいらないけどね?」

 

需要と供給の曲線が上手く交差してないと思うんだけど…明らかに供給過多だよね

 

「でも銀は疲れてるんですよね?」

 

「いやでも肉体的にだからな?母性に飢えてる人達は精神的に疲れてるの」

 

スクールアイドルの雑務をやってて身体はしんどくなるけど、それを母性で回復しようなんて思ったことないし

 

「つまり銀は哺乳瓶を加えても疲れが取れないということですか?」

 

「うん」

 

仮に回復するとしても哺乳類咥えて疲れ取りたいかいわれるさすがに悩むわ

 

「いや、姉様の通りなら‘年下’の女の子じゃないと疲れが取れないと思う」

 

「は?」

 

理亞も自然に会話に入ってきたけど会話の最初はふわっとしたボールってママに習わなかった?ハイスピンジャイロをこっちに投げてない?

 

「だって年上の人なら年齢的な敬意のニュアンスと母性が混じりあっちゃうでしょ?」

 

「なるほど…」

 

いや聖良は納得してる様子だけど俺にはわからんぞ。あと理亞も訳の分からんことを力説するのやめてくれ

 

「そうじゃなくて‘年下’にママって甘えるからそれに対して背徳感を感じて疲れがとれるってことじゃないかな」

 

「…それは盲点でした。では年上の私じゃ銀のママに届かないと」

 

「そう…私しかなれない」

 

そんな覚悟の目をこっちに向けても何も出ないからな?まるで今からヒーローに返信するかのような面持ちだけど、もう1回だけ会話の流れを思い返してくれ。今君はおかしなことを言ってたんだぞ

 

「いや母親はもういいんだって」

 

「大丈夫。ちゃんと予習はしてる」

 

「いや何のだよ」

 

その予習の中身は聞きたくないけど、きっと聞いたら目を覆うだろうな…

 

「哺乳瓶を咥えさせて赤ちゃん言葉で喋ればいいんでしょ」

 

「それただの特殊なプレイだから」

 

「あと全肯定しないとダメとか」

 

「それは社会の闇に疲れてるだけ」

 

「む、胸を…」

 

「はいアウト」

 

それだけは絶対に言わせないしやらせないしやりたくもない。

 

「まだ何も言ってなかったのに」

 

「いや想像つくわ」

 

「えっち」

 

「むしろ想像ですんだなら本望だっての」

 

理亞の口からそれが言われたってだけで吐血する勢いだからな?しかも覚悟の準備してるからマジでやりそうだし

 

「ここまできたらやるまで引き下がれませんよ」

 

「俺に幼児退行しろと?」

 

頼むから大人しく引き下がって欲しい。ママーって言いながら甘えるのって誰得なんだって話だし

 

「して欲しいけどしてくれないでしょ?」

 

「それはそうだろ。逆の立場なら断るはずだ」

 

というか特殊なひと以外幼児退行したがる人なんていないだろ。さも当然のように退行を進めるんじゃない

 

「…私は一向に構いませんけど」

 

「聖良の物事に対する信念は美しいけどこんなことに使わないでくれ」

 

ここで意固地になられても困るわ。俺がやるからお前も幼児退行な!って言われたらなんも言い返せないし聖良ならやりかねない

 

「じゃあせめて少し幼い声でママって呼ぶだけでもやって欲しい…」

 

「…それで本当に終わるんだな?」

 

結構嫌だけど哺乳瓶を咥えずに済むのならいいのかもしれない。めっっちゃ嫌だけどな

 

「えぇ言ったからには曲げません」

 

「聖良も結局やるのかよ。さっきの茶番は何だったんだ」

 

「いいじゃないですかママが1人増えるくらい」

 

だからそれが特殊なんだって。あまりに自然に言うから納得しちゃうだろ

 

 

「はぁ…」

 

「あ、銀は背が高いので屈んでもらっていいですか?見下ろされてると効果が半減するので…」

 

覚悟を腹に据えた。引き下がらないのならもはやそれをするしかないからだ。理亞を見上げるくらいまで腰を下げて、出来る限り幼い声を喉から絞り出す

 

 

「せ、せいらまま、りあまま」

 

ズキューン

 

「か、かわいい……」

 

「はぁはぁ銀ってばまったくそんなに甘えたそうにして…」

 

あれ?目つきがやばい。聖良は慈母みたいな目をしてるけど特に理亞の方があれだ…垂涎しながら血走った目をしている

 

「ふふっ今ミルクをあげますからね」

 

「いやこれで終わり…って」

 

おいちょっと待て聖良。炊事場から哺乳瓶を取り出すんじゃない

 

「銀おいで?ママが遊んであげる」

 

 

手を広げてにっこりしながら俺を向かい入れようとする理亞。いつものツンツン具合からは想像もできないけど何故かそれに引き寄せられない

 

「あの…終わり…」

 

 

「「育児に終わりはありません!」」

 

「あっそう」

 

 

よく漫画とかである終わる終わる詐欺ってやつか…辛いな…

 

 

 

 



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ハジメテコイヲシタキオク 国木田花丸

リクエストを頂いたヒロインが恋心を抱く瞬間です。しかし本当に書くのが難しかったです。もうやりたくないと思っ(あと10人)


──────

 

 

 

初めて見たのはきっとあのバスの中

 

 

この内浦という小さな町にとても大きな大きな人がいるのですから見た時はとてもびっくりしたのを覚えています。といってもマルの身長が小さいからその時は大きく見えたのかもしれません

 

 

そしてそんな記憶も薄れる頃に浦の星の校門で銀くんと出会ったのでした。この人がルビィちゃんのお兄さんかぁ大きい人だなぁ…なんて思っているといきなり手を握られて

 

「いきなりで申し訳ないけど妹になってくれない?」

 

 

なんて言われたのです。その後に曜ちゃんに小突かれながら引っ張られていきましたが、男の人に手を握られるのが初めてであの時はとても心臓がバクバクしていたのを覚えています。それが緊張からなのかはけっきょくのところ分からずじまいでした

 

 

 

 

マルの世界はいつも本の中で…図書室でことが当たり前になっていました。本の中に入ると落ち着いて、この世と隔絶したような気持ちになれる。推理作品なら探偵にアクション作品ならヒーローにコメディ作品ならコメディアンに時代小説なら武士や忍者にそして恋愛モノならヒロインに。マルはその様々な世界で形や役割を変えながらイキているような感覚を覚えるのです。

 

 

でも…浦の星女学院に入ってからは本を静かに読んでいても銀くんが乱入してくるようになりました。時には旅人を嘲笑うピエロの役でマルの事をからかっては満面の笑みでこちらを向いてくる人、その次は冷静沈着な先生の役で俯瞰して物事を見ているようでダンスやパフォーマンスの的確なアドバイスをしてくれる人、そして最後は少し意地悪で鈍感なのにモテる先輩の役でよく先輩達が困っているのを横目で見ていました。その光景はとても微笑ましく、きっとルビィちゃんを含めてAqoursのみんなは銀くんのことが好きなんだと思いました。でも…その輪の中で過ごすのは楽しいのですがもはや理想だった本の世界はマルの聖域ではなくなり静かな場所を探して旅立たなくてはなりませんでした。

 

本を読もうと屋上、校舎裏、実験室、体育倉庫…色んな場所に行きましたがどこにいても銀くんは追いかけてきました。意図して来ているのに‘偶然だな’と声をかけてくる様は簡単に言えば‘ストーカー’です。でも不思議と嫌な気持ちはせず、むしろマルの世界と銀くんの世界が繋がった感覚は少し心地よかったのです。

 

 

──────

 

 

「花丸は己の可能性についてどう思う?」

 

読んでいた本を口元に当てそう喋りかけてきた銀くんをチラリと見ました。表情は至って真剣でどうやら冗談を交えているようでもないようです。それでも屋上の風で制服がたなびいているさまは小説の1ページのようでした

 

「可能性?」

 

「人生には多くの分岐点があってそれを取捨選択していく話さ。俺は正直強引に誘ったのを何だか悪い気がしててな」

 

その時、銀くんの姿がどの世界にも当てはまらない不可思議なものにブレて見えました。今までは誑かすことが得意だったピエロの様でマル達を見守ってくれる先生みたいでそして少し意地悪なセンパイだったはずなのに…今は何も見あたらない

 

「…え?」

 

「もちろん輝いてるしとびきり可愛いからスクールアイドルにも向いてるんだけど、自分のしたいことと向いてることって必ずしもイコールじゃないだろ?だから花丸がもし本を読んでることの方がやっぱりいいって言うのなら俺が千歌に直談判してもいいと思ってる。自分のいるべきセカイってやつさ」

 

ずっと疑念に駆られていた…でもきっとそれは私の中で精算がついて答えが出たものだ。マルは開いていた本と離れるようにそっとページを閉じた。その瞬間…銀くんの輪郭が定まったような気がした

 

そう…マルの世界はいつも本の中(Aqoursの輪)で…図書室(いつもの場所)本を読む(練習する)ことが当たり前になっていました。本の中に入る(ダンスをしている)と落ち着いて、この世と隔絶した(みんなと繋がった)ような気持ちになれる。

 

マルはきっとAqoursに入ったことでルビィちゃんと2人で図書室にこもっていた頃とは変わった。それが成長なのか変化なのか…それとも退化なのかは分からない。けど…今はスクールアイドルが一番楽しいずら!自分が選んだ道が間違ってなかったって心の底から思えてる」

 

「そっか…それが心の声なら聞けて良かった。俺の行動も浮かばれるしな」

 

今はそう…広がったセカイの中の2人。目の前の人はマルを閉じ込めていた殻を破るきっかけをくれた人で新しいセカイに誘ってくれた人。きっと役に押し込めるのもおこがましいほど愚直にマルを見てくれた人だ

 

「えへへ…なんかちょっと恥ずかしい…」

 

「いやいや俺も花丸と仲良くなろうと必死だったから」

 

にこりと笑った銀くんは座っていたマルの隣に腰掛けてきました。それはいつもと変わらないマルとの距離で何だか安心する

 

「あれは仲良くなるというよりす、ストーカーじゃ…」

 

「違う、友達作りだ。誰がなんと言おうと友達作りなんだ」

 

それは喉の奥に魚の骨を詰まらせたような慌てようで…なんだかとても心がほっこりしました。自然と口角が上がってマルの口も饒舌になります

 

「じゃ、じゃああの時倒れてきて胸を触ったのも…」

 

「あれは事故だ。本当に許してくれ」

 

夕暮れの体育倉庫で足をマットに引っかけた銀くんがマルに倒れかかってきてむ、胸を触られた事件。初めて繋がった感覚があったのがセクハラされた時なんて誰にも言えなくてそれ以来マルの中でずっと秘められてる感情。不思議な感じで…自分の物語と人の物語が混じり合う感覚を得たのはあの時が初めてだった。それはルビィちゃんにも感じたことの無い感情だったから

 

「美味しい食事を要求するずら」

 

「許すなら飯に連れてけってことか?」

 

‘まあ、別にいいけど’と言うのが銀くんが頼まれた時によく言う口癖です。そんなことまで分かってしまうのですからマルもそれなりに銀くんに付き合ったことになります。それでも千歌ちゃん達には程遠いのは十分わかっているつもりです

 

「出来ればふ、二人きりで」

 

「二人きり?なんで2人じゃないとダメなんだ」

 

遠いからこそもっと近づきたい。銀くんのことを理解したい。そして…もっとマルのことをわかって欲しい

 

「みんなで行くとさっきの秘密がバレちゃうずらよ?」

 

「…はい。ぜひ二人きりでご飯に連れていかせて頂きます」

 

マルの‘本を読むという当たり前’にいつしか銀くんが自然に溶け込むようになっていて。それは銀くんがずっとマルのことを追いかけてくれたからで…だからこそこうして繋がることが出来た。でもこの感情のそれをマルは何度も何度も本で見た。

 

 

追いかけられていたはずが

 

‘人を追いかける立場の人’になっていたのです

 

マルは千歌ちゃん達と同じところのスタートラインにやっと立った。それでもミイラ取りがなんとやら…過去のあの時追いかけられていたマルが少し羨ましく感じてしまいます。

 

 

「ちなみにマルはやっと千歌ちゃん達と同じ気持ちになったずら」

 

「お!スクールアイドルが大好きになったのか?」

 

「うん!大好きずら!」

 

 

そう…確か女の子はお砂糖とスパイスと少しばかりの可愛い嘘で出来ている。秘密を纏った女は美しくなる…なんて文を解するのにこれほどの時間がかかるなんて思っていなかった。それでも理解出来たのはきっと少しばかりの秘密をマルが身につけたからなんだろう

 

 

 



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イマスキニナル 津島善子

──────

 

悔しいけどこの恋心を認めたらあんな態度を取っていたのがおかしなことになる。あんなシスコンで鈍感な男なんて好きになったらダメなのに…あの時に出会ってさえいなければ…

 

──────

 

その日もあぁ一般人のふりをするの疲れたなぁと思いながら下校しようと帰る準備をしてたらいきなり見知らぬ上級生が教室のドアを開けて歩いてきて

 

「ルビィから言われてた通り顔は美人だけど…自称堕天使はスクールアイドルに誘うにしてはイロモノすぎるな…なんというか熟成しすぎたバナナみたいで…」

 

なんてことを真顔で言われた。そういえば最近二年生がスクールアイドルを始めたと話題になっていた気もする。そしてこの‘男’の先輩もすごく話題になっていた。なんせ一年前まで女学院だったのだからこれが居たら話題になるのは必至だろう

 

「これでも私は女子してるんだけどあんたデリカシーって言葉知ってる?」

 

私もイロモノなんて言われたから一応先輩だってわかってたけどそう言ってやった。今思えばほんとこいつとの出会いなんて最悪だったわ。ここが法治国家で良かったと思えるくらいだし

 

 

「失敬だな。女子と男子の見分けくらいつくに決まってるだろ。侮ってるのか」

 

「そういうこと言いたいんじゃないわよ!デリカシーがあるのかを聞いてるの!」

 

なんだこいつは…とその時は思った。声を荒らげずにはいられないというか、そういう元の星に生まれてきたと言われれば納得してしまうくらいには無茶苦茶だった

 

「いやそれよく言われるけどあるからな?なんだいきなり話しかけたことを怒ってるのか?それとも最初は文通して欲しい派か?」

 

「あのねぇ…」

 

もう話が進まないから心の中で突っ込んでおくけど、誰が熟成しすぎたバナナと言われて喜ぶのか。デリカシーの池に今すぐこいつを放り込んでやりたいくらい

 

「あ!お兄ちゃん。こんなところで何してるの?」

 

「いやちよっと話してただけだ。いくら美人に声をかけてるからって浮気じゃないぞルビィ」

 

少し目を泳がせながら妹相手に浮気を弁明するって意味がわからない。普通はそれ彼女とかにするわよね…?

 

「??よく分からないけど一緒に帰ろ?」

 

「え?あぁ良いぞ。校門で待っててくれすぐ行くから」

 

「うん」

 

 

「またくるよ。えっと…」

 

何かを言い淀んでいる。こんな時に力を発揮するのが明るい人たちをトレースして得た擬似コミュニケーション演算装置。つまり所謂陽キャと言われている人の会話を頭で予測して打ち出すというわけ。でもこれを1日ずっと使うと頭がオーバーフローしてとても疲れるのよね

 

「私の名前はヨハネよ」

 

「あぁまたな津島‘善子’さん」

 

こいつ…人の神経を逆撫でする才能しかないんじゃないの…?

 

「知ってるなら迷うんじゃないわよ!というかヨハネ!」

 

…私が恥をしのんで会話の演算をしたってのに…!何なのよあいつは…

 

 

 

 

 

「善子ちゃんって黒澤先輩と知り合いなの?」

 

「え?」

 

うわさっきのやり取り見てたのかクラスメイトが話しかけてきた。何とかしてやり過ごさないと…

 

「さっきすごい仲良さそうに喋ってたでしょ?すごいよね先輩って…あの生徒会長の弟だし大会とかも出ていっぱい優勝してるらしいよ」

 

「は、はぁ…」

 

「もし仲良くなったら私にも紹介してね」

 

そんなことを言いながら離れて言ったけどあんなやつと仲良くなりたいなんて気が触れてるのかしら…まあ天文学的確率で仲良くなったとしたらあの子に譲ってあげよう。だって私は恋なんてしないと思うし

 

──────

 

あいつはそれから私を見つけると笑いながら‘善子’って連呼してきた。ほんとうにそういうのは困る…無邪気さは私にとって毒みたいなものだから本当に困るのよ

 

 

 

「よう善子」

 

昼休みの中庭は少し息を抜いて落ち着ける空間なのにこいつがいるとひとつも落ち着かない。まるでゲームの主人公かのように確実に人のいる場所を当ててくる

 

「ヨハネ」

 

「聞いたぜ善子。お前あの超天使で可愛い花丸ちゃんと知り合いなんだってな」

 

やけにごまをするように笑いながら話しかけてくるから少し鳥肌立っちゃった。シンプルに引いちゃったわよ

 

「えぇ幼稚園での幼馴染だけどそれが?」

 

「なんか仲良くなるコツとかないか?ルビィに言っても全然教えてくれないんだよ。‘お兄ちゃんの目的知ってるからダメ!’ってな」

 

ルビィも正解だわ。こんなやつの前に無垢なずら丸置いておいたら何が起こるか分からないし…いや別に私もそんなに知ってるわけじゃないんだけど…

 

「はぁ…?あんたあのずら丸に気でもあるの?」

 

「ん?俺はただ妹にしたいだけだけど」

 

「そういえばあんたシスコンなんだってね…」

 

最初のカタログスペックを見た時はあまりのチートさに神を呪ったけどそれを知った今ならもうどうだっていい気がする。例えるなら点を貫くほどの巨人が足枷に富士山を抱えてるみたいな感じだし

 

「相変わらず失敬なやつだな。違うってのヨハネさんよ」

 

「だからヨハネ…って何よそれ」

思わず唇を尖らせてしまった。こいつはたまに会話のペースを変えてくるから私の拍子まで狂ってしまう

 

「いや俺はからかいこそしてもお前自身の存在は認めてるんだぜ?堕天使がなんだと言ってるけど俺はお前の何気ない素も結構好きだからな」

 

「な、何よ今度は私を妹に丸め込もうってわけ?」

 

「え?違うけど」

 

少しだけドキドキした気持ちを返して欲しい。いや別に何を期待したわけじゃないけど、私だって一応女子してるんだからそういうことを考えてもいいと思うから

 

「そこはうんって言うところでしょ!」

 

「え?妹になりたいのか?」

 

未だかつてこれほどまでに鈍感な男を見たことあるだろうか否無い。まあそれは私が異性との交流が少ないというのもあると思うけど、それにしても疎いと思う

 

「違うけどこう…流れの順序ってものがあるでしょうに…」

 

「いや分かるかよそんなの…って時間だし俺もそろそろ行くわ。またな」

 

「あっ…待っ……」

 

って堕天使が下界の人間にほだされることがあってはならない。これはあくまで私が付き合ってあげてるだけで、仕方なくやっていること…だからいつでも私のタイミングでこの関係はきっと断ち切れるはずだ…そうに違いない

 

──────

 

 

 

「先輩ってかっこいいよね」

 

「うんうん!彼女とかいるのかなぁ」

 

「えぇー!そりゃあいるでしょぉ。何でも2年生の転校生の手を初日に取って輝いてるって言ったらしいし、女の子の知り合いがすごく多いらしいよ」

 

「すごいね…王子様みたい」

 

「あたしの手も取ってもらえたらなぁ」

 

「あはは無理無理!生徒会長並に美人じゃないと厳しいでしょ」

 

なんて言うクラスメイトの言葉。あいつは千歌達から聞いた話だと相当な数告白されてきているらしい。めっちゃ悔しいけどあいつは人気なのだ。でもこういった恋心なんてものは‘前からずっと好きだった’って何も偉くはなくて、今好きになったものたちが本気で向き合わなければ価値がないものだ

 

 

 

まあそれでも私が適当な恋心を自覚したのはあの時のロマンチックな言葉やセリフ…という訳ではなく、ただの日常の一コマのほんとしょうもない言葉

 

「堕天使がなんだと言ってるけど俺はお前の何気ない素も結構好きだからな」

 

という言葉にときめいていた。私という素の存在、取り繕った人格や堕天使ヨハネとして配信する姿じゃなく、ただの津島善子として見てくれたこと。それがなんだかすごく嬉しかったのだ。けれどそんなことで好きになってしまうなんて神に嫉妬された堕天使というのも案外ちょろいのかもしれない。

 

………

 

「で?あんたの事は結局先輩って呼べばいいの?」

 

「別に何でもいいよ。なんなら呼び捨てでもいいし」

 

距離感が測りやすいのか測りにくいのかまるで分からない。私の読んでる小説の知識だときっとこのこいつの周りを囲むことは容易に出来ても傍に立つことは並大抵では出来ないのだろう

 

「あっそ。なら銀ね」

 

「…最近はえらく柔らかくなったな。なんかあったのか?」

 

「べ、別になんでもないわよ」

 

 

あなたと喋っているだけで私の心臓が跳ね上がる。それはまるで空に飛ばしてみれば夏の青空のような甘酸っぱい初恋で、この感情だけは上塗りで塗り固めた私という存在の中でいちばん尊いものだと私は思った。いつもはそんなことを思わないのに、花火や海に今年の夏は行きたいと思ったのはきっとあなたのせいなのだろうと

 

 

 

 

 

これが好きって気持ちなのね…

 



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コイワズライ 桜内梨子

──────

 

恋の病気には対策や治療法ががなく1度その病にかかってしまえば抗うことが出来なくなってしまう。キミは誰かと一緒にいるだけで一緒にいる子は笑顔になっちゃう。でもその”誰か”が女の子だと今度は少し私の胸が苦しくなってしまう。 瞬間、刹那を切り取った1コマも感情のフィルターを通せば記憶となり思い出になる。その理論のとおりならこの記憶というのも一生の思い出になるのだろう。それが心に刻むということだから…

 

そんなもっとも女子らしいことに意識を持っていかれたのはあの放課後。茜色の空に照らされる君に あの日私は恋に落ちた

 

 

 

 

「美しい音色だな」

 

千歌ちゃんに頼まれたスクールアイドルのデビュー曲を作ろうと夕暮れの音楽室でピアノを弾いていたらいきなり銀くんがドアを開けて現れてそんなことを言ってきた。音に形なんてないはずなのにどうして美しいと感じたのだろうと私は思ってしまった

 

「心に染み入るようなそんな優しい音だ」

 

そんなことを言いながらワックスで磨かれた木板を踏み鳴らし、一歩二歩とこちらに歩み寄ってきた。けれど私の音をあんな言葉で表現されたことなくてなんてどう言い返したらいいのか分からない。ただ褒められていることだけは分かるからありがとうとだけ言っておいた。彼から返ってきたのは邪魔しないから少しだけここにいていいか?という言葉だった。私はそれに頷いてから鍵盤に指を置いた。銀くんは私から数歩離れたところに立ってるけど、ピアノの演奏会で慣れてるから人に見られることは大して恥ずかしくないし、それが男の子でも何ら問題は無い。…普通ならそうなんだけど目の前にいるのは転校初日に私のことを輝いてるといった人だから少し思い悩むところがあるのよね…

 

 

「そういや梨子、いつもあいつらと一緒にいてくれてありがとな」

 

「へ?どうして?」

 

 

友達の一緒にいるだけで感謝されるというのも少しおかしなような気がする。おかげで素っ頓狂な声が男の子の前なのに出てしまった

 

「いや元々俺とあの二人で互いの足りない部分を補ってたんだ。もちろん異性だから出来ないこともあったしその逆もあったけど…でも今はそれを梨子がやってくれてるだろ?だからめちゃくちゃ感謝してるんだ」

 

少し意外だったのは彼の目に私がきちんと映り込んでいたということだった。いつも千歌ちゃんや曜ちゃんのことを見ていたからやっぱり幼馴染って関係はいいよね…と私は少しその仲に嫉妬をしていたのだ。いや別に私が見られてないからどうとかは無いけど、あの輪が少し神聖なようにも思えていたから認知されているだけでも少し嬉しく思ってしまった

 

「そんなことないよ…私なんて全然「地味…だって?そんなことないだろ」

 

「え?」

 

「出会ってまだ数週くらいだけど俺は梨子のこと素晴らしい人間だと思ってる。この際俺が転校初日に言った容姿の話は置いといて人間性だって文句のつけようがないだろ」

 

ピアノの腕木に手を置きぐっと詰め寄ってきた銀くんはため息混じりにそんなことを言った。私の瞳を覗き込むようにすると床の木板が軋むような音を立てそれに反応するように足を組みかえていた。私はその距離に少し焦るような気持ちを覚えながらペダルを音をたてぬようゆっくりと踏んだ。それはまるで車のアクセルのように気持ちにスピードを乗せていくようだった

 

「そ、そんなに褒められても何も出ないよ…」

 

「まあ千歌も何をする力はあるけどバカだしあの曜も明るく見えて実はナイーブだからな。あの二人にとって梨子は必要不可欠なんだと思う。だから俺があの二人を支えるならきっと俺にも梨子が不可欠なんだ」

 

あなたは夕焼けの空を見ながら2人のことを話し、そして私の名前が出るとこちらを向いた。

 

何も知らなかった一端の少女が環境の変化で色んなことを知っていくというのは、物語の進み方でよくあることで、でもきっとそれは舞台装置のようなものだと私は思っていた。それはある種用意されたものでこうすれば喜んだり悲しんだり感動するのだろうと、はんば予測されながら紡がれているのだろうと思っていた。けどそれは違って、受け身ではなく自分自身の手で‘少女が環境によって変わっていく’のだ。

 

「…少しだけ弾いていい?」

 

ショパンのノクターンの一節。きっと誰もが聞いたことのあるメロディを奏でて見せた。別に自慢したかった訳でもないけど、さっき銀くんが音を美しいと言ったように私は音に気分があると思ったからだ。だからこそ私は今ノクターンを弾いた。

 

じっと音を見通すような銀くんの視線がやたらと私に突き刺さる。けどそんなことだって忘れるような静寂は夕暮れも相まってノスタルジックな雰囲気で、それは紅茶に溶かした砂糖のようにこの空気に馴染んでいく。 

 

「綺麗だな」

 

「うん…綺麗だよねこの旋律」

 

「いや…ピアノを弾いてた時の梨子の横顔なんだけど」

 

言葉をひとつ‘もぅ’と頬を膨らますようにして言った。あぁ神様どうか口は災いの元で患いの元だからこの人の口をどうか…どうかチャックしてください。私にはきっとこの人の口撃に耐えられるまでの体力がありません。地味な生活を送ってきた私にはあまりに眩しすぎて、この夕陽のように目をくらませてしまいます

 

「〜生まれたんだと 気がついたわけは~♪♪」

 

「お?もしかして千歌の言ってた新曲?」

 

「うん、新しいことに気づいたから」

 

 

私は変われる。その終着点は分からないけど、きっとそれは輝くようなセカイだと私は信じている。そしてそこにあなたがいるということも

 

 



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花嫁総選挙 前編

1回消えたので記憶で書きました。整合が取れなかったら感想やコメント等で教えてください


──────

 

スクールアイドルランキングにのる有名人になったりすると、所謂メディアに出る機会というのも増えてくる。今回もそれで雑誌の企画に函館のライブで有名になったsaint snowとAqoursが呼ばれたというわけだ。なんでもお嫁さんにしたいランキングを投票で決めてその上位3人は表紙を飾るらしい。まあ俺はルビィに投票するけどね

 

 

 

「今日全パターンの表紙撮るの?すごく時間かかると思うんだけど…」

 

首を傾げる千歌に果南ねぇが溜息をつきながら答えた。というか仮にもリーダーなら話聞いておいて…お願いだから

 

「いや違うって…今回はまだアピールの写真撮るだけだから」

 

「じゃあマリーはシーちゃんをお婿さんにする!」

 

鞠莉ねぇに腕掴まれることには茶飯事的に慣れているので丁寧に振りほどいておいた

 

「そのアピールは読者の方にするもので銀はあくまでモデルですわ!」

 

姉ちゃんは鞠莉ねぇに怒ってるみたいだけど前日の夜はめっちゃそわそわしてたし真面目だけど遠足は楽しむタイプだからな…

 

「それじゃあみんな花嫁衣裳に着替えよっか?アピールは着替えたら自由にしてていいよ」

 

謎の依頼者でTと名乗る人物。背が低いので多分女性だろうけど、目深に被った帽子とサングラスのせいで表情や顔が全くわからない。まあ体型が子供だから…なんてことを考えてたら〝失礼なこと考えてるでしょ〟と言われた。怖い

 

「なんか花嫁衣裳って制服とかと違って服の中でも本当に特別な感じがするよね!」

 

「うんやっぱり女の子なら1度は着てみたいもんね」

 

この話を受けた時は学生なのになんでウェディングドレスなんだと思ったけどこいつらが嬉しそうなら俺もこの企画を受けてよかったなと思える

 

「ふっ…純白の中に生える漆黒。アイデンティティの暴走が止まらないわ…」

 

「今日は流石の善子ちゃんも白ずらよ。とーいつずら」

 

「くっ…協調性の暴力が…」

 

片目の前に手をやりふらふらとよろめく善子。別に善子だって美人だから白似合うと思うんだけどなぁ

 

「って黒だとお兄ちゃんのタキシードと被っちゃうんじゃ…」

 

「というかドレスの着付けなんてしたことないんだけど」

 

「そんなこと言うなら私もですよ理亞。でもこれはきっといい経験になりますよ」

 

そういえば何故か俺もタキシード着させられてるんだよな…学生服とは違うこの窮屈さは多分次着ることになるまでは確実になれないと思う

 

花嫁着付け中…

 

 

……

 

着付け前の崇高なるじゃんけんの結果、アピール順はAqoursの3年、2年、1年、saint snowの理亞、聖良の順に決まった。ドレスのタイプによって着るのにかかる時間はまばらだからAqoursの学年の中じゃ早いもん順だ。というかここに来て思ったけど何で俺がモデルをしないと行けないんだ?マネージャーとして同行するのは分かるけどマネキン代わりに立たされるのはまじで理解できないんだが?アピールする相手なんてそれこそマネキンで良いだろそんなの。いやまあいいけどさ

 

 

「じゃーん!どうシーちゃん見とれた?ねぇ似合ってる?」

 

長袖のレースが着いたドレス、髪も綺麗に編み込んであるしまるでどこかのお姫様みたいだな。意外でもなかったけどロイヤルブライダルスタイルか

 

 

「うん、似合ってるけど」

 

「え?あ…ありがと」

 

「なんでそんなにしおらしいんだ?」

 

 

「だってぇシーちゃんがそんなに素直に褒めてくれるだなんて思わなかったんだもん」

 

「そりゃあ花嫁姿くらい手放しで褒めるに決まってるだろ。今の鞠莉ねぇはとびきり可愛いよ」

 

いつもそうだったらいいのに…

 

鞠莉ねぇの声が小さくて聞き取れなかった。それでも俺は賛辞の言葉が足りないと次の言葉を…「次は私だね」

 

大型トラックの急発進のような勢いで肩を結構な勢いで引かれた。果南ねぇの装いは以外にもベーシックで違和感がないと言うのだろうか。普通に綺麗だった

 

「…ってなんか普通だな。いや確かにおめかしはしてるんだろうけど一発目が鞠莉ねぇだったからインパクトが…いや綺麗だけどね?」

 

「…ふーん。鞠莉のことは褒めたのに私は普通なんだふーん」

 

「いやそのジト目やめて」

 

これハグするまで許してくれない時の果南ねぇじゃん…

 

「結局は私って銀の中じゃダイヤ、鞠莉ときて3番手なんだね」

 

「待って、いじけないでくれよ…何したら許してくれるんだ」

 

「ハグ」

 

もはや何も言わずに果南ねぇに抱きついた。きっと何も知らない人がこの光景を見たら結婚式のワンシーンだと思うだろう。でもそれは違う。これは某倍返しの土下座シーン同様謝罪シーンなのだ

 

 

「銀、こちらを向いてくださいな」

 

美しい、いやそれではこの状態を表せない。きっとこの言葉の方が相応しいだろう。絢爛、それに尽きる。和装のテイストが施されたドレスは姉ちゃんのイメージにしっかり重なり純白の織は狐の嫁入りすら説き伏せるように見える

 

「姉ちゃんは相変わらず美人だな」

 

「そうですか?あの時の母の写真と比べたら見劣りしてしまうような気もしますが」

 

昔見せてもらった写真には普段ですら完璧な母さんがそれこそ最強の装備を纏っているようにも見えて姉ちゃんと一緒にとても驚いたのをおぼえている

 

「んなことねぇよ。世界一だ」

 

「まぁ…口がお上手ですこと」

 

「いや手弱女モードに入るのやめて」

 

ったく大抵こういうことを教えるのは日舞の先生だからな…舞子や芸妓に教えるのはわかるけど姉ちゃんに変なこと吹き込んでんじゃねぇよ

 

「はい!私はどう銀くん!」

 

「うん、次」

 

「なんでさぁ!もっと見て!」

 

あまりにいつもと違いすぎて目に毒だからやめてくれ。いつも子供みたいなことしてるのになんで今は貴婦人みたいなことになってるの?やめて効くから。

 

 

「今日はギャップが凄すぎて千歌のこと直視できない」

 

「えへへほんと?なんか恥ずかしいなぁ」

 

どちらかと言えば童顔な千歌がこれほどまで大人っぽく見えるとはプロの技術はすごいなと思ってしまう。アイシャドウからリップまで大人っぽいメイクでまとめられていてあどけなさが完全に抜けていたからだ

 

「あ、でもその表情は普段の千歌だわ」

 

「ふふっドキッとした?」

 

「いやしおらしさが足りない」

 

アドバンテージを見出したのかにやにやとしながらこっちに歩みよってきたので俺の中でギャップは取り除かれ普段の千歌に印象が戻ってしまっていた

 

 

 

「どう…かな?」

 

結婚してくれと喉元まででかかったのをすんでで飲み込んだ。ストラップレスのドレスは控えめな性格の梨子が着るにはあまりに扇情的でさっきの千歌同様ギャップに驚いてしまう。それでもティアラは近づかないとわからないくらいの大きさで控えめな梨子らしいと思った

 

「あまりのオーラに蒸発しそう」

 

「…あと1年は待ってくれないとね」

 

「なんでだ?」

 

「え?い、いや何でもないよ」

 

この手をパタパタと振る梨子を見ることができる将来の旦那が羨ましすぎて血涙がでそう。美人薄命っていうけど美人を眺めてる俺の寿命の方が薄くスライスされてるようだ…

 

「銀ちゃんこっちだよ」

 

明るく快活な曜がこうもしおらしい表情でドレスを見せてくるなをて俺泣きそう。昔から船乗りの制服とかは大好きだったけどこういうのにはあまり興味なさげだったからな…情に来るものがある

 

「あの曜がここまで…感慨深いな」

 

「お父さん目線で見るのやめてよ…」

 

「俺に女の子らしくなりたいって泣きついてきた時からこんなに成長するなんて…」

 

「いや結婚式のスピーチっぽいのもやめて…」

 

今はみんなの前だから涙我慢してるけど次この姿見たら俺多分涙流すだろうな…だって昔の曜にこの姿見せてあげたいもん

 

 

「守護天使ヨハネ降臨…ってそんなにジロジロみないでよ!」

 

なんだこいつ天使か?聖歌隊のようなゆったりとした布が背中にあしらわれそれが天使のように見えてしまう。しかし本当に美人だから白似合うなマジで

 

「いや…意外に似合っててついな」

 

「見惚れたのなら許してあげるけど?」

 

「中身チェンジ。素直クールな感じで頼む」

 

「どうせ未来でまた見るのだからそんなに見るものでもないでしょ……って何やらせるのよ!」

 

いいものを見られたからこうして少し怒り気味の善子に肩を揺すられるこの感触でさえも少し心地いい。でもあれが本心だったら誰もが飛んで喜ぶだろうな

 

 

「なんだか照れるずら」

 

あぁなるほど福音の天使ね。しかし半袖のドレスを小さな花丸が来てたら参列の子供にしか見えないな…まあでもめっっっちゃ可愛いからいいんだけど

 

「花丸って誕生日まだだよな?」

 

「うん…まだだけど」

 

「くそっ…この花丸と結婚できないのか」

 

「へ?」

 

まあでも俺の年齢もまだだから花丸の誕生日が来たところで意味ないんだけどな…もはや日本の法律から変えていくしかないのか?

 

「えへへお兄ちゃん。花嫁さんだよ」

 

大天使。はっと息を飲み込んで神に祈った。ありがとうございますこの世にこんな大天使を生み出してくれて俺はルビィがこの世界に存在するだけで生きていけます

 

「可愛いぞルビィ」

 

「なんだか衣装さんが張り切ってすごいの持ってきちゃって時間がかかったの」

 

装飾の凝ってるプリンセススタイルのドレスだしまあ時間はかかるだろうな。でもおそらくこの可愛さの前なら1分の遅延で怒り出すサラリーマンでさえも許すだろう。それくらいかわいいは正義なのだ

 

「うんだとしても全てが許される」

 

正直さっきからにやけが止まらない。頬の辺りの表情筋が引き攣りそうだ…

 

「えへへいつかはお兄ちゃんと腕組んで歩きたいな」

 

「いや別に今すぐでもいいけど」

 

 

 

そんなことを言いながらルビィと喋っているとタキシードの裾をくいくいっと引かれた。伏し目がちに顔を背けいてる理亞のドレスは下半身にフリルをあしらったプリセンススタイルで可憐というに相応しい

 

「理亞か。似合ってるじゃねぇか」

 

「そ、そう?私は少しあれだと思ったんだけど…」

 

「いやめっちゃ可愛いけど」

 

「ぁ……りがと」

 

「可愛いぞ理亞」

 

「2回も言わなくていいから!」

 

こうして理亞のことを褒めているのはいつも自分を否定してばかりだから花嫁姿の時くらい褒めちぎってあげようと思ったからだ。いつもつんつんしてるけど褒められなれてないか褒めると顔を逸らして照れることだって俺は分かってるしな

 

 

「最後は私ですよ銀。こちらを向いてください」

 

はい美人。というか代名詞みたいなサイドテール解いたのか。それでも腰をキュッと引き締めたドレスはまさしく王道で道を真っ直ぐ突き進むような聖良にとても似合っている

 

「声にならないな」

 

「ふふっ自分で言うのもなんですが私は自分に自信がありますから」

 

「いや今ならその言葉も分かる」

 

容姿、勉強、運動、才能。どれにおいても隙がなく完璧と言える人間が自分に自信が無いとなるとそれはおかしなことだろう。かといって傲慢な態度を取られてもそれはそれで鼻につくというものだ。聖良は少し自信過剰なところはあるけどあくまでそれは積み重ねてきたものに対する信頼からくるもので決して人に対して驕ることはない

 

「惚れました?」

 

「いえ出会った時から」

 

「それでは私は前世から…ってここで邦画見たいことをしてる場合じゃないですね」

 

軽く冗談を交えながらはははと笑いあっていると後ろから声をかけられた

 

「そうだね…君たちには戦ってもらわないといけないから」

 

光がそこに照らされひとつの影を生み出す。それは太陽であり光。あまねくものを照らしだした原初の光

 

「う、嘘ですよね…。あの人は…」

 

「ま、まさかですわ。開いた口が塞がらないとはこのことかと…」

 

「へ?どなた?」

 

 

「銀くんはほんといい子たちに囲まれてるね」

 

 

つ、ツバサ?

 

 

 

 

驚くのも間もなく、俺たちは‘とりあえず楽屋に来て’というツバサの声にふらふらとついて行くしかなかったのだった

 



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花嫁総選挙 後編

──────

 

俺たちはツバサに招かれるまま誘われて楽屋に連れられた。それなりの広さがありこれだけの人数がいてもまだ広いと感じる部屋だ。その奥のパイプ椅子に腰掛けているツバサに俺は眉をしかめながら話しかけた

 

「なんでお前がここにいるんだツバサ」

 

「あら?最初からちゃんといたでしょ?Tとしてね」

 

ふふっと笑うとジャケットの内側からサングラスを取り出した。それはさっきまでいたTという人物が付けていたものと同じもので背丈やよくよく見ると髪の色も同じだったなと思い返す。というか心を読まれた時点で少しは疑うべきだったのかもしれないな

 

「これもお前が…「ち、ちょっと待ってください!銀はA‐RISEの方とお知り合いなんですか!?」

 

いつもは取り乱さない聖良が慌てるようにして俺の手を掴みぎゅっと握りしめていた。その瞳の奥はきらきらと輝いていてなにかに憧れる少女にしか見えない

 

「え?うん。中学の時に道案内してもらった以来だけど」

 

「そ、それってスクールアイドルだった時からという訳ですか」

 

「あらいず?ってなに?」

 

驚きで動きが忙しない聖良と打って変わってスクールアイドルに疎い千歌はA‐RISEの名前を聞いても首を傾げていた。まあ俺もツバサ達と知り合った頃はそんな感じだったような気もする

 

「A‐RISEとはあのμ'sと並ぶ伝説のスクールアイドルですわ。文字通り私たちでは格がいくつも違うようなグループ。そしてあの方はそのリーダー綺羅ツバサさんですわ」

 

「ほぇ〜じゃあすっごい人だ!」

 

「ふふっ私って意外と有名人?」

 

その笑う表情は小悪魔ないつもと同じで童顔に見えたり大人っぽく見えたりする不思議な笑顔だ。それは初めて俺がツバサのパフォーマンスを見たShocking Partyの誘うような笑みによく似ていた

 

「…これは仕組んだってことでいいんだよな。面白がってたのか?」

 

「いいえ?そんなことないよ。これは私たちのお金で本当の企画として動いているのよ」

 

「優木あんじゅさんも…」

 

げっ…あんじゅもいるのか…まあでもツバサだけなら引っ掻き回すだけだし調整役っていうのもいるか。あんじゅも大変だな

 

「そう私たちは次世代のスクールアイドルをフィーチャーするためにここにきた」

 

「英玲奈………には頭が上がらないから何も言えない」

 

聖母=英玲奈といっても過言じゃないくらいには世話になってるから英玲奈には何を命令されようとも従うし何もされても文句は言わない。実際問題これを企画したのが英玲奈なんだとしたら俺は無言で従うしな

 

「A‐RISEをよ、呼び捨てですか…」

 

「私はね?銀くん。あなたと結婚したいの」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「はいはい冗談ね」

 

俺はまだ結婚できる年齢じゃないし、そんなプロポーズされても流すってわかるだろ。日本の結婚適齢の法律を作った人に感謝状を送り付けたいくらいだわ

 

「いいえそんなことないわ。本当の気持ちよ?」

 

「あのなぁ…俺の後ろの視線の痛さが分からないのか?」

 

A‐RISEにプロポーズされてるのがそんなに気に食わないのか11の視線が俺の身体を突き刺しまくっている。目は口ほどに物を言うってことで下手に言葉にされるより辛い

 

「…ってその話はおいといて、今回の雑誌の名前がまだ無いの。だって私たちが刊行したものなんだから」

 

「ん?だから何だ」

 

その話とツバサ達が出てきたこととなんの関係があるんだ。だとしてもこれには関係がないはず…

 

「そして衣装にもあまり意味が無かったの」

 

「???」

 

…?だとしたらこの企画は俺たちに対するドッキリか何かなのか?くそっ俺たちはしてやられたのか

 

「今回呼んだのはあなた達と勝負をしたかったからなの」

 

「「「「えぇぇぇぇぇ」」」」

 

何言ってんだこいつ

 

「あの伝説のグループと戦うなんて…」

 

ずっと目を輝かせて憧れていたA‐RISEと戦うことになるかもしれないとルビィは伏し目がちに無理だよとばかりに身体を抱き寄せていた。

 

「勿論条件があるよ」

 

「罰金でもあるのか?」

 

まあ金を賭けあって勝負するとポリスメンに連れていかれるんですけどね。さすがにないだろうけどまあ軽い罰ゲーム程度かな

 

「ううん。今回の勝者の特典に銀くんがつくことよ!」

 

「はい?」

 

あぁなるほど俺ね……俺?なんで俺が特典にされるんだ。もはやその事が罰ゲームなんだけど?

 

「つまり勝ったグループは銀くんを好きにできるってことさ」

 

「じ、人権は…」

 

「神のみぞ知るってところ?」

 

「悪魔かな?」

 

こいつ人の血が通ってるのか?正統派とか言われてアイドルやってるくせに今やってることは外道もいいとこだぞ。まあ英玲奈が企画したのなら許すけど、ツバサなら許さん

 

 

 

 

「銀くんは渡さないですよ!μ'sと並ぶスクールアイドルだってAqoursはまけません!」

 

俺の目の前に千歌が手で行き先を防ぐようにして立っていた。かつて俺が千歌たちに同じことをしていたようにまた千歌たちも俺の前にたちふざってくれていた。これは俺の力の及ばない範囲だと、自分たちの範囲だと分かって立ってくれているのだ

 

「うん!だってずっとAqoursのマネージャーしてくれるって言ってたもん」

 

「千歌ちゃんの言う通り、私たちが勝つから」

 

「そうずらぽっとでの…」

 

「花丸ちゃん!あんまりキツく言っちゃうと…物凄い先輩だし…」

 

「やつに負けるわけないってところね」

 

「あらあらあの善子さんまでそんな調子では憧れていた私も負けられませんわ」

 

「It’s a fight。渡さないし渡せない」

 

「これがAqoursの総意ってこと」

 

 

Aqoursが俺の前に並び立つ。矢面にたっていたいつもとは違い後ろの景色というのもまた一興で面白い。それでもこの小さな背中がどれだけ頼もしいことかと胸の奥が響くような感覚すら覚えた

 

 

 

 

「待ってください私達もいます」

 

「うん…11人ならあのA‐RISEだって乗り越えられる!」

 

saint Aqours snow…2つのライバルグループが協力して誕生したロックのようなブチ上がりと流れる水のような爽やかさを併せ持つ最強のスクールアイドルだ。今それが目の前にいる。俺の気分が軍師ならきっとこの戦には負ける気がしないだろう

 

 

「ふふっ真剣な表情。じゃあその写真いただき!」

 

パシャリとシャッターの切られた音がした。いつの間にか背後から取り出していたカメラにより真剣な表情でツバサを見つめていた瞬間が切り取られてしまった

 

「なっ…」

 

「敵を目の前にした表情ってとても写真映えすると思わない?」

 

カメラのファインダーから目を離すとにっこりと笑いこちらにそのデータを見せてくる。みんなの表情は真剣そのもので雑誌の写真というよりは決勝大会用の写真に近いかもしれない

 

「つくづく性格が悪いなツバサ」

 

「性格が悪いだなんてそんな人聞きの悪いこと言わないでよ。私は常に合理的なことを選択しているだけ」

 

「つまりわざとこいつらを煽ったわけか…」

 

ツバサは合理主義者でありながら感情によるパフォーマンスの差異について本気で信じている。つまり感情によって人の生み出す表情、写真でさえも最高のものを生み出すには心のガソリンが欠かせないと言っているのだ

 

「うん、でも銀くんに関するあのことは本意だよ」

 

「はいはい」

 

「あらあらほんと冷たい」

 

下手に過去を知られているだけに強めに反抗できないのが辛いところだ。例えるならボコボコに体罰されながらもそれの成果で全国大会で優勝した後に会うコーチのような感覚だ。手放しで褒めることは出来ないけどそれが無ければ俺という存在が形成されていなかったかもしれないからだ

 

 

「で、勝負ってなんなんですか」

 

「そうだね…君たちは恋を理解しているかい?」

 

おっと英玲奈からそんな言葉が聞けるなんて思ってなかった。でももし英玲奈が恋してたら女性ファン卒倒するだろ

 

「え?」

 

「人が最もかっこよく、もしくは可愛くなるのは恋愛をした時…つまりスクールアイドルが1番可愛くなれる瞬間は本来ならタブーである好きな人を想った時なの」

 

あんじゅはまあ…恋してても違和感ないけど男のファンの方がやばいイメージがあるから多分卒倒じゃすまないだろうな

 

「は、はぁ…」

 

「このスクールアイドルを特集する雑誌の表紙にはとびきり可愛い表情が欲しいからね。己の全てをさらけ出すくらいで来てもらわないとダメなの。そして…今から私たちはその表情をして写ってくる。それまで少し恋について考えていてくれるかな。勝てなきゃ銀くんは頂くし、表紙も私たちということになっちゃうよ」

 

 

話しながら立ち上がりドアの向こう側に消えていったツバサは最後に俺の方をちらりと見ると少し口角を上げたような気がした

 

──────

 

「ど、どーしよ」

 

「す、好きな人を思うって言ったって…」

 

さっきから何でみんなこっちをちらちら見るの?もしかしてだけど…女子の恋バナに俺が不要なのか?

 

「気になるなら俺外に出てるけど」

 

「い、いやあんたはそこにいなさい。これは私たちの覚悟の問題だから」

 

「え?そんな覚悟なんているんですか?そもそも私を含めみなさんは銀のことが…「姉様!プライバシーが!」

 

理亞が珍しく聖良に声を荒らげ自制を促しているように見える。まあその内容が全然分からないんですけどね。でも覚悟とか準備とかってそんなに考えないもんだけどなぁ

 

「はい?」

 

「少なくともここじゃダメ!」

 

 

「うゅ…」

 

「はぁ…前途多難だよ」

 

「ちょっとぉ!そんなsighばかりつかないでよ」

 

「ですが…」

 

「もう私たちはいまからとびきり可愛い表情をしなくちゃならないのにそんな眉間にしわ寄せてたらダメでしょう?」

 

1番の年長者である鞠莉ねぇの言葉に耳を傾けているとドアが開かれ、衣装の上から羽織っているであろうパーカー姿のツバサ達が楽屋に帰ってきた

 

 

「ふぅ…意外とかかるのね」

 

「あぁなかなか最高の表情というのも難しいものだ」

 

「えぇでもそれがアイドルだからね」

 

普段着感覚のパーカーですらこの3人が着ると衣装に見えてしまう。意思や動きレベルで統一されたこのグループはそんな錯覚すら起こせてしまうのだろう

 

 

「銀くん見る?まだデータしかないけどこれが私たちの全力だよ」

 

 

「…悔しいほど映えてるな」

 

「見るほどに惹かれるような引力をひしひしと感じるよぉ…」

 

白と黄色を基調にしたPrivate Warsの衣装。今でも数々のシングルやアルバムを出しているA‐RISEがあえてこの服で撮ったということは本当にスクールアイドルだった時のことを思い起こして俺たちの前に立っているのだ。

 

 

「…でも負けられない」

 

「千歌ちゃん行こう」

 

「うん」

 

千歌の目をちらりと見た。これほどまで完成された写真を見てもまだ目の奥の闘志は死んでいない。勝てるという確証はないけどでも負けるなんて思ってないんだろうな。そんな千歌の心意気を勝手に汲み取り俺はドアをくぐったのだった

 

 

──────

 

 

…闘志を燃やすのはいいけど恋する表情とは程遠いな…

 

 

やはり少しばかり表情がかたいように見える。伝説的なスクールアイドルを目の前にして己のポテンシャルを100%引き出すというのはなかなか難しいものがある。Aqoursやsaint snowの力はこんなものじゃないのに、みんなそれぞれの表情は笑顔とは遠くむしろ歯を食いしばるように強ばっている。

 

 

部活動や外部練習で集合をかけられる時、よくコーチには注目するようにと手をパンと叩いて集められた。俺はそれにならい手を思いっきり叩いてみんなの視線を集めた

 

パンッ

 

「はい注目。いいか?相手は伝説的なスクールアイドルで不安になるのも分かるし、悩むのも分かる。まあそして仮にだ、俺があいつらに奪われるとしても俺の心はお前らとともにあるから!だから悩むな前を向いて走り続けろ!」

 

 

「…うん。そうだよね」

 

「なんか目が覚めたかも」

 

「じゃあ銀ちゃんもこっち来てよ」

 

白の背景の撮影場所から曜がひょっこりと出てきて俺の手を引いていく。いやこんなウェディングドレス集団にタキシード1人を放り込もうとするな

 

「は?スクールアイドルの撮影なのに俺が写ったら意味ないだろ」

 

「その辺は編集でなんとかなるでしょほら早く」

 

「いやそんな引っ張らなくてもいいだろ…」

 

善子と曜に両手を引かれ仕方なく俺もカメラの前に来た。ライトが眩しいくらいに照らされて思わぶ目を覆ってしまう

 

「お、お兄ちゃんの隣はる、ルビィが…」

 

「それなら全員で囲むみたいにするずら。そしてマルって!」

 

「それだと何かのCMみたいになってしまいますわ」

 

「もうこの際だから全員でハグすればいいんじゃない」

 

「それだと編集する人が死んじゃう」

 

11人に抱きつかれてる人を消すってどんだけ労力いるんだよ。それならアクリルガラスにでも抱きついてた方がマシだっての

 

「じゃあKISS?」

 

「やらないし俺の口は11個もついてねぇよ」

 

 

「あははなんか修学旅行みたいでいいですね」

 

「ふふっなんか悩んでたのが馬鹿らしい」

 

パシャリとシャッターが切られた。カウントもなくこちらを向いてくれと言った訳でもない。むしろ全員が俺の方を向いているようで、とても重要な表紙の撮影とは思えないものだった。

 

(ツバサさん…とんでもないものが撮れましたよ…)

 

 

「「「「「ってその写真ちょっと待ったぁ!」」」」」

 

──────

 

 

 

「ふふっ11人なんてモテモテだなぁ銀くん」

 

 

 

……

 

 

 

その後雑誌は大ヒットしたが、表紙についてはいろいろと議論され、輪の中に猫がいた説や別取りで撮ったものを11人分合成した説、顔を含め何もかもを修正した説など様々な説が飛び交ったが結局真相を知るものはあの時あの場所にいたものしか分からないのだった

 

 

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

よく結婚ソングとして歌われる超有名ソングが携帯から流れた。個別に着信音を設定している俺だがさすがにこんな恥ずかしい音を知り合いに設定するなんて出来ないので、誰かにイタズラでもされたかと思いながら携帯を耳に当てた

 

 

「ねぇやっぱり諦めきれないから結婚してよ」

 

「イタ電なら切るぞ。最近詐欺が流行ってるし」

 

「そんなわけないでしょ。私だよ私」

 

「どなたですか」

 

「携帯の音って本来の声じゃないらしいし、やっぱり分からないのかしら」

 

もはや分かってはいるのだが相手にしたくない気持ちから必死にはぐらかしていた。だって絶対面倒なことになるし

 

「ねぇ…迷子の銀くん。また東京に来てよ。私たちの本気の気持ちを見せたいの」

 

 

 

……

 

 



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俺が函館聖泉女子高等学院に「男子サンプル」として拉致られた件

──────

 

「おーい起きてください。朝ですよ」

 

「あと1020分」

 

それくらいないと俺は起きられない。朝ってそういうもんだと俺は思うしな。この俺を照らす太陽が沈むまでここにいるべきなんだ。というわけでいざ目をつぶる

 

「それだと今日が終わるんですが…」

 

なんて普通に泊まりに来た時のやり取りをしている場合じゃなかった。俺は聖良に聞くことがあるんだと跳ねるように飛び起きた

 

「ふふっおはようございます。爽やかな朝ですね」

 

「そういや俺泊まりだけって聞いてたんだけど何だ男子サンプルって」

 

「えぇ鞠莉さんが知り合いで助かりました。銀を公休にしてもらってこちらに貸していただけるとはありがたい限りです」

 

話を要約すると“聖良の学校が同年代の男の子と交流したいって言ってたでしょ?シーちゃんを公休にするから貸してあげる!”と言った具合らしい。俺はそんなにゲーム感覚で貸し借りされる存在だったのかと首がへし折れそうになった

 

「騙されたのか俺…」

 

「いやぁ…うちの高校もそれなりのお嬢様の女子高ですからなかなか年頃の男子と触れ合うというのが少なくてですね。つい鞠莉さんの優しさに甘えてしまったというか」

 

「うん。でも明日が月曜なのに泊まりっておかしいなって俺も思ったもん」

 

「もう諦めたら?銀も女の子に囲まれていい気分になれるしうちの女子は年頃の男子と触れ合える。win-winだと思うけど」

 

いつも朝はトレーニングしてるからジャージのはずなんだけど今日はもう着替えて髪型もバッチリしてる。校則すれすれの色つきリップまでしてるあたり朝の弱い俺と違って理亞は用意周到だな…助け舟は全然出してくれないけど

 

「いや俺大損だと思うけど」

 

「えっ…もしかして銀って同性愛者なの?それはごめん配慮に欠けてた」

 

ベッドの脇から数歩下がりひきつった表情で俺の方を見つめてくる。こらこら最近そういうのうるさいからあまり顔をしかめたらダメだぞ

 

「そんなわけないだろ…いや俺が言いたいのは通ってる浦の星も元女子校なんだから常日頃から囲まれてるってことだよ!Win-Winも何も無いだろうが」

 

「じゃあ帰っちゃうの…?」

 

うっ…その悲しそうな目は兄の俺に効く…それをされると何でもしてあげたくなるからやめて欲しいんだけどな

 

「いや別にいいけどさ…」

 

「それなら早く朝食を食べてくださいね。腕によりをかけて作りましたから」

 

「そう私と姉様の自信作」

 

「じゃあいただきに行きますか」

 

聖良のベッドに寝ていたので俺は来た時の状態に戻すようベッドメイクを手早く済ませ制服に着替えてから理亞達のもとへ向かった

 

 

「あれ?これは夕食かな?」

 

「そんなわけないでしょ。朝ごはんに決まってる」

 

「ふふっ献立はイカの刺身に卵焼きとたこさんウィンナー、魚介たっぷりの味噌汁に丼いっぱいの白ご飯です」

 

アンティークな木目が美しい机には聖良が言った通りの料理が所狭しと並べられ、立ち込める湯気を鼻に入れると思わず腹が鳴るような出来栄えだった。夕食のような豪勢さだけどそれでも理亞と聖良が早起きして作ってくれたんだと思うと残すという気は微塵もしなかった

 

「いただきます」

 

「どうぞ召し上がってください」

 

まずは卵焼きを1口。塩気があり、かたさもそれなりといった感じでこれは作りなれてないとこういう風にはできないだろうと思った。あと理亞はこっちをちらちら見てるけど何がしたいんだ?これめっちゃ美味いからそんなに見てもあげないよ?

 

「その卵焼きどう?」

 

「これか?美味いぞ。料理上手の人が作ってる感じするし」

 

「あっ…そう。やったぁ

 

「銀、味噌汁もどうぞ」

 

「え?うん」

 

聖良から笑顔で勧められたその味噌汁は立ち込める湯気が顔全体にまるでパックのように張り付きその熱さを実感させてくれる。その湯気をふぅと息で切り払いながら味噌汁を口に含むと味噌と共に香る魚介の風味が鼻から通るように抜けその旨味は喉を通った熱とともにじんわりとせりあがってくるようだった

 

「美味い」

 

「ふふっそう言って貰えると早起きしたかいがありました。もっと飲んでくださっても構いませんよ」

 

「卵焼きももっと食べて」

 

1口飲んだだけの味噌汁を聖良に継ぎ足され、俺の皿には理亞によって卵焼きが山のように積まれていた。いや美味いから全部食うけどさ…

 

「そういや今日って俺は何すればいいんだ?」

 

進められた味噌汁と卵焼きを食いながらひとつ聖良に質問をした。男子サンプルという言葉だけでは俺は何も分からないので話を知っている張本人に聞くしかないのだ

 

「もうすぐ社会に出る3年生を対象に集会を行いそこで銀を紹介。そのあとは2限まで総合教養となっていますのでクラス事に交流して貰うという感じです」

 

「同年代の男知らないってそれどこの時代なんだって話だけどな」

 

「自分で言うのも何ですがお嬢様学校を舐めてはいけませんよ。男性とお付き合いするのはまず文を交わしてから…なんて思考が平安時代で止まってる人もいるんですから」

 

「そんな人間がいきなり共学の大学に行ったりしたらとんでもないことになるってことか…?」

 

「えぇだからこそ私たちと一緒に偶然テレビに映った銀を槍玉にあげたのでしょう。どこぞの見知らぬ人よりかはほら銀は一応有名人ですし」

 

「うわ函館ライブの時かよ…やっちまった」

 

ライブのパフォーマンスについて喋ってたところを映されてたのかよ…地元のテレビのやつら裏のメイキングとかは軽くって言ってたじゃん。何結構ガチの考察シーンまでちゃっかり撮ってんだ…おかげでこれだし

 

「これでも私はPTAに尽力したんですよ?銀は浦の星という元女子校に通ってるから女子の扱いにも慣れてるしきっとこの学院の生徒にとってもいい経験になると」

 

「それ俺にブーメランのように帰ってきてないか?尽力してくれたのは嬉しいけど力になってる気がしないもん」

 

「あ、そろそろ時間やばい」

 

既に時計は8時20分を回っていて始業までに席をつくとなればこれはギリギリの時間だろう。というかそれが分かるあたりここでトレーニングしすぎてまあまあ土地勘あるっていうのが悔しいまである

 

「二人ともありがとう。ごちそうさま」

 

「うんお粗末さま」

 

「お皿はシンクに置いておいてください。帰ってきたらまた洗いますから」

 

「俺も手伝うよ」

 

これほどまでの朝食を用意してもらって何もしないととんだ無礼者になってしまう。たとえ日本人的な謙遜を受けたとしてと俺はやる。やるったらやるんだ

 

「むっ…姉様も銀も早く。遅れちゃう」

 

「はいはいっと」

 

 

 

菊泉の戸から出るのは割と珍しくないけどこうして朝に制服を着て3人で出るというのはとても珍しい。コートを着ているとはいえ暖房で暖められた部屋から一歩踏み出すと刺さるような寒さが身体に堪える。ところどころスケートリンクのように凍った道路で滑らぬよう一歩一歩確かめるようにして歩き出した

 

 

 

冬の空気は澄み渡り頬が朝風によって乾くように冷えていく。北海道の冬は外套と首周りを巻くマフラーが無ければ1歩も動けないような寒さだ。道路脇には雪が集められ歩道には踏み鳴らされた雪が半透明になってアスファルトを映している。手袋をつけてスクールカバンを持つ学生やコートのポケットに手を入れて暖を取るサラリーマンなどが白い息を吐きながらここ函館の街を歩いていた

 

「くっそ寒いな北海道って」

 

「そう?今日はまだマシな方だと思うけど」

 

太陽が確かに俺の顔付近をを照らしているはずなのに感じるのは冷たさだけで夏には鬱陶しいとすら思っていたあの熱が微塵も感じられなかった。夏と冬の寒暖差の原理は知っているのだが、人間的な感情が同じ太陽なのだから同じ仕事をしてくれよと訴えているのがわかる

 

「関東の人間には応えるんだよ」

 

「静岡は東海地方では?」

 

「少しくらい誇張させてくれよ…」

 

いいじゃん少し行ったら熱海で関東なんだからさ。実質沼津も関東みたいなもんだろ

 

「でも銀は最初私たちのこと東京のスクールアイドルだと思ったんでしょ?」

 

「あぁそういやそうだったな。あの一件の後東京のスクールアイドルで調べまくったけど全くお前ら2人のデータが出なくてな。仕方ないから〜たらSnowってうろ覚えの情報で調べたら出たんだよ。函館ってな」

 

あの自信満々で高慢ちきな態度なら東京に違いないと思って調べたのに出ないしグループの名前もそんなに覚えてないし八方塞がりだったんだよなぁ…千歌のやつはそれが書かれてた紙をゼロだったからって紙飛行機にして投げ飛ばすし…許さん

 

「でもそしたら次の日こっちにいたんだよね」

 

「あの時は本当に驚きましたね」

 

「これでもAqoursのマネージャーだからな。あいつらの成長のためなら何でもしたかったんだ」

 

それでも今のAqoursより上にいるのだからなにか理由があるんだろうと、それを見つけるのに俺は必死だった。何とかしてあいつらに夢を見せてやりたかったから

 

「「…」」

 

「姉様が優しいから警察に通報しなかったけど私なら通報してた」

 

「うんまあ…あの時の理亞の目三角定規並に吊り上がってたもん」

 

憎き仇を見つけたような目で俺を見るもんだから戦慄したね。ルビィとそこはかとなく似てるのに性格は真反対でツンツンガールだったし

 

「そう許してあげた私は寛大ってこと」

 

「はいはいかんだいかんだい」

 

でも根は優しいところは似てるんだよな2人とも。理亞も人にはきついけどそれは自分もしんどいことをしてるからこそだしな

 

「さて着きましたよ。入りましょうか」

 

「えっ…入るも何もガードマンいんだけど」

 

「まあ女子校ですからね。今日は私達と一緒にいれば入れますし大丈夫です」

 

「あっそう…」

 

中世ヨーロッパのお城についてるような門から入って女子だらけの学院に足を踏み入れた。既に登下校している女の子達からものすごい奇異な目で見られている。つらい

 

「ここの廊下を真っ直ぐ行くと応接室なのでそこで待っていてくださいね」

 

「オッケー分かった…憂鬱だけどな」

 

──────

 

地獄(じごく)は、宗教的死生観において、複数の霊界(死後の世界)のうち、悪行を為した者の霊魂が死後に送られ罰を受けるとされる世界。厳しい責め苦を受けるとされる。素朴な世界観では地面のはるか下に位置することが多い。Wikiより引用

 

さて地獄には種類があるって聞くけどこれはどういう地獄か法事の時に来てくれる坊さんに問いただしたい

 

「銀にはどんなことをお願いしても構いませんよ。どんなお願いも聞いてくれる万能超人ですから」

 

「そんな万能調味料みたいな扱いしないでくれ。普通だからな」

 

この企画の監督役をしている聖良はずっと俺の横についてるけどそんな俺はドラ○もんでも何でもないんだから完璧を求められても困るんだが…しかも初対面の女の子にだよ?

 

「ではわたくしはその…年頃の男性と腕を組んでみたいです!」

 

「構いませんよ。もう好きなタイミングでどうぞ」

 

黒髪のショートカットが輝きを放つ美少女に腕組んでほしいって言われるのは嬉しいけど、その隣の人のおかけで傍若無人という言葉がこれほど似合う光景はないな。

 

「いやその選択権は俺に…」

 

「それでは失礼して…まあ腕がお太いんですのね」

 

シャツの下の細い腕が左腕に組まれそっと体を寄せられた。肘の当たりをサラリと撫でる細い指と首筋からふんわり漂う嗅いだことの無い香水の匂いで少しくらくらしてしまう

 

「まあ鍛えてますから」

 

「…腕を組むということの意義について考えたこともありましたが確かにこうして腕を組むというのはなんというか安堵を覚えてしまいますね」

 

頭を腕に預けられもう微動だにすることが出来ない。ちらりと見下ろした耳は少し赤くなっていてやっぱり恥ずかしいんだなと笑ってしまった。でもそれを見つめている聖良の額にシワがよっているように見えるけどこれを‘構いませんよ’って言ったのYouだからな

 

「はいおしまいです」

 

「あら残念です。もう少しこのままでも良かったのですけど」

 

口元に手を当て微笑しながら俺の元を離れていった。しかし誰一人として粗雑な対応をされなかったというのはここがどれほどお嬢様学校なのか思い知らされる。さっきの人の爪の垢を俺とであった頃の理亞に煎じて飲ませたいくらいだ

 

「ふふっ全くそんな冗談は私の前だけにしてくださいね。さもないと銀の夕食がホタテだらけになりますから」

 

「何それ地獄過ぎないか」

 

と言ったタイミングでキーンコーンカーンコーンとチャイムがなった。ようやく長い二限が終わり俺の役目も終わったというわけだ。やっぱり自由っていいなってこの時間を経て実感できたよ(激うまギャグ)

 

「そういえば鼻の下を伸ばした数をカウントしたのでダイヤさんに報告します」

 

「伸ばしてないからゼロだろ」

 

「13です」

 

レポートを書いていたのかなと思っていたノートには相手の状況と俺の状況が事細かに記され俺の表情まで文字化されていた。俺が相手に照れていたか否かまで記されている

 

「結構リアルな数字じゃん…」

 

「しかしこの報告をチャラにする方法が一つだけありますよ」

 

「何?賄賂か?」

 

この世は金だとだれが言ったか言ってないか知らないけどそういうものだと今わかった。お金というのはきっとこういう時に使うためにあるんだと

 

「いいえ私と腕を組んで帰宅することです」

 

「いやちょっと待て理亞はどうするんだ」

 

「何を言ってるんです?腕は二つあるんですから2人で両腕を組みますよ?」

 

さも当然かのように言われると俺が間違ってるみたいじゃん…でも両腕を女の子に許すって絶対正しくないんだよなぁ…

 

「俺それしたら函館の人に何されるか分かんないんだけど」

 

「大丈夫ですよ。家まですぐなんですから」

 

「確かに…」

 

その後俺は腕を組んだ状態で買い物に付き合わされ、買い物に来ている主婦からとんでもない目で見られた。聖良のうそつき!家まですぐって言ったじゃん!でもあれか?家まですぐとは言ったけど帰るとは言ってないってか?やられたわマジで…

 



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1年生でも看病がしたい!

ラノベタイトルシリーズ第2弾は内容と全く関係ありません


──────

 

普段は元気なお兄ちゃんが風邪をひいてしまいました。いつもならお姉ちゃんが薬膳を作ってくれたりするんだけど今はお琴の発表会で前日から沼津を出ちゃってます。まあだからこそこうして同年代だけのお泊まり会が出来てるんだけど…

 

 

「…ルビィ聞こえるか?」

 

「何?お兄ちゃん」

 

「風邪がうつると良くないから俺の部屋には誰も入れるな。便所と洗面所も俺は遠い方に行くから出来るだけ鉢合わせないようにしよう」

 

いつもは気兼ねなく入れるこの部屋がとても遠くに感じられる。木で出来た仕切りが鈍重な鉄の扉にも思えてとても入ろうと思えない

 

「じゃあこのおかゆさんは…」

 

「あぁそうか…まあ部屋の前に置いてくれたら取りに行くよ。ゴホッゴホッ…ありがとな」

 

「冷やしたタオルも置いてるから使ってね」

 

…とても心配。ルビィのこの元気をお兄ちゃんに分けてあげたい。けどお兄ちゃんのその気遣いも汲んであげないといけないから…どうしようも出来ない

 

──────

 

 

「今日のお出かけは中止ね」

 

すらっとした善子ちゃんはお出かけする時の格好をしてるのにお兄ちゃんの体調が悪いと言ったらすぐに思いとどまってくれた。やっぱりすごく優しい

 

「善子ちゃんがそんなこと言うなんて意外ずら」

 

「だって病人置いたまま外に出れるわけないじゃない」

 

「お兄ちゃんには入るなって言われたけどやっぱりルビィは看病に行くべきだと思う!」

 

心配で心配でいてもたってもいられない。何かしてあげたいとそんな気分に駆られて仕方がないのだ

 

「賛成ずら。すごく心配だし」

 

「別にいいけど、せっかく沼津まで来たのに家にいるなんて貴重なシルバーウィークの1日なのに…」

 

そう今日は珍しく理亞ちゃんがこっちに来て4人でお出かけしようと思ってたのにとても悪いことをしてしまった。季節の変わり目はとくに危ないと言われてるから気をつけてはいたんだけどまさかあのお兄ちゃんが体調を崩すなんて思ってなかったから

 

「はっ…シルバーウィークってことは銀くんの週ってことだし致し方ないずら」

 

「いやそんなダジャレ言ってないでどうするか考えるわよ」

 

「えへへお兄ちゃんが元気になるならルビィ何でもするよ!」

 

「なんでもって…言うけどそんな大それたものでもないでしょ。銀の体調管理も問題なんだから」

 

相変わらず手厳しい意見だと思う。自らを追い込んで追い込んで高みを目指してる理亞ちゃんにはきっとそれは甘いと見えたのかな

 

「じゃあ理亞ちゃんは看病しないずらか?」

 

「べ、別にしないとは言ってない」

 

でもこうして優しいのも理亞ちゃんだ。ミスを叱責することはあっても決して見捨てることは無い。きっとそれは姉の聖良さんの影響も少なからずあるんだと思う。ルビィだってお姉ちゃんの影響も受けてるから

 

「ふっ…この堕天使ヨハネの魔術にかかれば人の世の災禍など一瞬にして祓えよう…」

 

「とりあえず身体に良さそうなもの作るとして…あと風邪薬とかないの?」

 

「マルは水枕とタオルを…」

 

(お兄ちゃんしんどそうだったしみんなで押しかけたら迷惑になるよね…うーん…)

 

「あのね?看病するの1人だけにしない?」

 

はりきってじゅんびしようとしてるみんなにルビィは待ったをかけた。もちろんルビィの中で巡ったあの感情が建前なのかもしれないという不安がある…それでも言わずにはいられなかった

 

「何よ。妹のあんたがするってわけ?」

 

「あ、いやそうじゃなくて…」

 

ルビィがお世話したいからなんてきっとこんなエゴは認めてくれない。だってこの想いはみんな等しくて家族だからという理由で優先されてはいけないからだ

 

「それなら平等にじゃんけんにするずら」

 

「それなら恨みっこなし」

 

「ふっ…このヨハネの「最初はグー」

 

「言わせなさいよ!」

 

「「「「じゃんけんぽん!」」」」

 

 

 

──────

 

 

風が吹けば桶屋が儲かる…それなら風邪を引けば何処が儲かるのだろうか。このことわざの通りなら製薬会社なんてことはないだろうから梅干しを作るところか梅の農家なんて言ってたらいいかな。しかし無駄なことを考えるのは現実逃避出来ていいがいかんせん頭が痛い。関節も痛むし結構この風邪重いな…休みでよかったよマジで

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへお兄ちゃん来ちゃった」

 

「ルビィか?うつるから入るなっていったろ?…というか出かけるんじゃなかったのか」

 

風邪やインフルエンザの時特有の無音の空間で無駄なことを考えるのにも飽きたなぁと思ってたら出かけていたはずのルビィが入ってきた。うつるからやめろって言ったのに…

 

「もうお兄ちゃんの方が心配なの!お出かけもやめになったし別にいいでしょ?」

 

「気遣ってくれたのか?それは悪い事をしたな…一応部屋から出たらうがいと手洗いをするんだぞ」

 

「うん!わかった。お兄ちゃん何かして欲しいことない?」

 

「あぁそういやタオル新しいのがほしい」

 

「うんそれじゃあ変えてくるね」

 

俺のデコで茹で上げられたタオルを受け取るとルビィは1度部屋から出ていき数分するとまた帰ってきた。タオルを指でつまんでいるあたり温度の変化があったと見える

 

「タオルおくよ?」

 

「冷た」

 

熱を持ち続ける額が急速に冷やされていくのを感じる。それによってオーバーフローしていた思考も一旦冷静さを取り戻した。

 

「一応氷水につけたからしばらく持つと思う」

 

「ありがとなルビィ」

 

「ふふっまだして欲しいことあったら言ってね。ルビィ何でもするから」

 

姉妹からなのか一瞬だけ姉ちゃんの影が重なって見えた。2~3年に1度くらいは体調を崩す時があるけどその時もこういうふうにお世話してくれてたんだ

 

「…少しだけ手を握ってくれないか」

 

「うん…いいけど。ひゃっ!いつもより熱い」

 

「悪いな…でもルビィの手握ったら安心する」

 

俺の手よりも一回り小さいその手に俺は今救われている。守りたくて引っ張ってあげたくて握っていたその手に安堵を覚えているのだ。人は進む…主観的な目線から外れたところでひっそりと成長する

 

「ずっと握っててもいいからね」

 

「やばい…安心したからなんかちょっと落ちるわ」

 

「うん…おやすみお兄ちゃん」

 

 

微睡みの中で最後に見えたのは…

 

──────

 

 

「ぅあ…ってもう夕方か。だいぶ寝たし少しはマシになったかな」

 

「すぅ…すぅ…」

 

「律儀に手を握ってくれてたのか。優しいなルビィは」

 

まだ少し倦怠感が残る身体を起こしそっと手櫛をするようにルビィの髪に触れた。起こさぬようにしながらそれでも愛と感謝が伝わるように頭を撫でた

 

「ぎんくん起きた?」

 

背後から声がした。そういえば俺が頭をのせてたところは水枕というにはいい匂いもしたし少し暖かかったような…

 

「花丸が膝枕してくれてのか…」

 

「あんたもう体調は大丈夫なの?」

 

「あぁおかげさまでなんとかな」

 

ルビィと手を繋いでいる方の逆手側に善子と理亞がいた。二人共が格好が出かけるようの格好だからなんだか悪い気がしてならない

 

「ルビィだけに無理させたらと思ってきたら…何手を握ってるの?」

 

「仕方ないだろ。ルビィの手を握ってると治る気がしたんだよ」

 

実際治ったしな。やっぱりルビィがいるだけで俺の免疫細胞も頑張ってる気がしたもん

 

「あんたそれ違う病気だから」

 

「でも銀くんの体調が良くなっちゃったらマルたちすることないよね…?」

 

「いや花丸が顔見せてくれるだけで嬉しいよ」

 

「…うゅ。んぁおにいちゃん?」

 

めをくしくしと擦りながら起きる姿はもう久しぶりに見た。まあ俺の朝が弱すぎるってもあるけどそもそも小学校くらいから分けられたからな…

 

「ルビィ起きたか?」

 

「あれ?お兄ちゃんもう平気なの?」

 

「あぁルビィがこの手を握ってくれてたからな」

 

「はいエンガチョ」

 

プロポーズする時のように顔の前に手を掲げてみせた…のを善子に強制的に切断されてしまう。しかももっともこの場合縁起の悪い方法でだ。これでルビィが結婚できなくなったらどうすんだ全く

 

「何すんだ善子」

 

「治ったんなら手を握る必要ないでしょ?」

 

「…くそっ今晩もお願いしようと思ってたのに」

 

体調不良を理由に合法的にルビィに添い寝してもらえるチャンスが…水泡と消えたんだが?

 

じゃあマルが…

 

「一生寝るっていうなら私が付き合ってあげるけど?」

 

「冗談だって…そんなに怒るなよ理亞」

 

「…一応今晩もお粥作ってあげるけどきっちり料金は請求するから」

 

「代金は俺の笑顔でいいか?」

 

サムズアップして最高の笑顔を理亞に向けた。つんつんしている理亞にはちょうどいい清涼剤だろう

 

「やっぱりご飯抜き」

 

「あんたそんな冗談言えるってことは看病いらないってことでいいわね」

 

「ルビィもご飯の準備してくるね?」

 

「銀くん治りかけだからお大事にしてね。ぶり返すといけないし」

 

たくさんの可愛い子に看病されるという幻想はつゆと消え、みんなそう言い残すと出ていってしまった。ひとりまた静寂に取り残され虚しくなる

 

「治って嬉しいはずなのに…泣きそう」

 

──────

 

 

 

次の日に仲良くみんなで風邪を引きました

 

 

「こほっこほっ」

 

「うぅ…しんどいずら」

 

「…せっかくの沼津なのに」

 

「ふっ…この堕て…ごほっごほっ」

 

 

「ったく俺も病み上がりなのに…おいみんな大丈夫か」

 



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津島善子は否定したい

ツンデレは正義


──────

 

「そういえば2人でお話するのは初めてですね。同じ学校に通う善子さんに聞きたいのですがもっと銀と仲良くなるにはどうしたらいいと思います?」

 

「なんで私に聞くのよ」

 

あまり話さない人と2人きりだから気まずいな…なんてことを考えてたら向こうから話しかけてきた。しかもはぐらかすことが出来そうにないしあまり話したくない方の話題だし…

 

しかし…聖良さんは友達の友達の姉だから絡みにくのよね…いくらsaint Aqours snowとしてグループを一時的に組んだとはいえあれも理亞とルビィがいてこそのものだったから…わたしはその手伝いをしたに過ぎない。いやむしろこれは最初の方に表面上のガワだけで聖良さんと喋ってしまったことも尾を引いているのかもしれないけど…

 

「善子さんは恋において百戦錬磨だから相談した方がいいって言われたんですけど違いますか?」

 

「誰よ?そんなこといったの」

 

年齢=彼氏いないの私に百戦錬磨という言葉は当てはまらないどころのことじゃないと思う。まあ言い方を変えて無敗というのならあってるのかもしれないけど…

 

「え?理亞を経由したルビィさんと花丸さんと銀からですよ?」

 

「彼奴等め…!」

 

そんなの話を盛ってるに決まってるでしょ!なんて言えないし…というかそもそもあんたはあいつから美人美人って言われてるでしょうが!仲良くなるもくそもないわよ!ルビィとずら丸に並ぶ高位置じゃない!

 

「ま、そうねツンデレ…というのはどう?」

 

「つんでれ…ですか」

 

昔からのライトノベルだとメインヒロインがツンデレというのが圧倒的に多い。最近は全肯定系のヒロインに押され気味だけどそれでもツンデレの破壊力は今なお健在といえる

 

「好きなのにあえて嫌いという態度を取ってみるてのもいいんじゃない」

 

「そんなことをして意味があるんですか?」

 

王道と正道でここまで突き進んできたこの人にはからめ手という考えがあまりないのかもしれない。いや…まあツンデレは正統といえば正統なんだけどそれはあくまで私たちの中の世界であって一般人からすればそれは逸脱しているものに見えるだろう

 

「えぇ単純な好きの方向では効かないやつやそもそも浴びるほど受けているやつもいるのよ。だからこそ少しテイストを変えてみる。例えばあまいスイカにしょっぱい塩をまぶすように」

 

「なるほど…スイカに塩をですか…」

 

「こういうのは“ギャップ”だから差が大きいほどいいのよ。だからこそ思いっきり銀のこと嫌ってあげたら?」

 

「なるほど…そうと決まれば実践あるのみですね!」

 

そして本当に嫌われてくれたらなんて…私はやっぱり腹黒くどこまでも一般人なんだろう。満面の笑みで去っていたその背中を見送る時にそんな考えが渦巻いてしまうあたりが本当にそうだと。私は邪という言葉に惹かれるはずなのに…王道に対する邪道を選択する自分自身をどこか嫌悪しているように思えた

 

 

「銀!」

 

「ん?どうしたんだ」

 

「私は銀が大嫌いです!どうです?好きになりました?」

 

満面の笑みで大嫌いと言われて好きになった?と言われて正気を保てる人間など存在するのだろうか?いやいない。しかもそれをやってるのが俺の周りの数少ない常識人の聖良っていうのが最高に頭の痛いポイントだしな…

 

「やばい…この世界においてのとんでもないバグ見つけちまったんだが」

 

──────

 

 

「結局善子のイタズラか…」

 

聖良さんが包み隠さず話したのか私は銀に呼びつけられた。その横に座っている聖良さんはさっきまでの自信満々だった表情を失い少ししゅんとしていた。きっと本気で好きになってくれると勘違いしてたのね…

 

「ふん」

 

「聖良は変なところで純粋なんだからあまり変なことを吹き込むとこういうことするからやめてくれよ」

 

困ったように言う銀の顔は本当に聖良さんを心配しているように見える。だいたいあなたはAqoursのマネージャーなのにどうしてsaint snowにも目を向けるの?もっと私たちを見て欲しいのに…もっともっと私だけを見てくれたら

 

「随分優しいのね。聖良さんには」

 

「は?」

 

「つまり…私には何もしないくせに聖良さんには蝶よ花よって扱いなのね。どうせ私みたいな女にはそういう扱いがベストってこと?」

 

言葉に切れ味があるとしたらきっと今は最高に研がれた状態と言っていいと思う。それほどまでに私の感情はささくれだっていたのだ。あぁほんとにやってられない

 

「…参ったなこりゃ」

後頭部を軽く掻きながら困った表情をしている。別にその表情にさせたかった訳じゃないんだけど、私の口はもう止まらない。日頃の嫉妬や鬱憤が決壊したダムのように溢れ出てくる。だからあん「なるほど…善子さんも銀のことが好きなんですね」

 

「…は!?」

 

なんてことをいうのこのひとは

 

「好きなんですね」

 

「はぁぁぁん!?んなわけないでしょ!!」

 

好意をバラされたからか私の口は止まらない。否定の言葉が決壊したダムのように溢れ出てくる。いや好きだけど好きであると認めたくないからだ

 

「好きなのに嫌いな態度をとるのでしょう?」

 

「ちがっ!?」

 

そういえばそんな話もしたような気がする。好きなのに嫌いだと否定するのがツンデレだと言った。しかしそれがバレてるならもはや私の言葉は墓穴にしかなんないわね

 

「ツンデレとはそういうものなのですよね?」

 

「違わい!これは本当に嫌いなだけで…!」

 

「真のツンデレとはこういうものでしたか」

 

感嘆したような表情でこちらを見られるとまるで私が本当のツンデレかのようになっちゃうじゃない!私はあくまでこいつとは普通に接してるだけで…

 

「違うっての!!私は嫌いなんだから!」

 

さっきまでとは少し違いしゅんとしていた聖良さんは元気に、私から嫌いと言われ続けている銀は項垂れていた。いやそんなめちゃくちゃ嫌いなわけじゃないんだけどその売り言葉に買い言葉というか…なんかごめん

 

「あと申し訳ありませんでした」

 

函館に招待された時のように頭を下げられた。けれど理由が全くわからない。まあこれが好意をバラしてごめんなさいというなら死んでも許さないけどね

 

「え?」

 

「あなたは本当に銀が好きなんですね」

 

もう何度目かの押し問答。さすがに銀に対して嫌いと言いすぎたので少しは私も自粛した

 

「だから…」

 

「いや分かります」

 

「私には銀しかいませんけどきっと善子さんも銀しかいないのでしょう?それなのに好きだから仲良くする方法を教えてなんてひどかったです」

 

年下に対して自らの非を認め謝罪するというのは誰にでもできる事じゃない。けれどこの謝罪はどこかズレているような気がしてならない。謝ってるから許してあげたいんだけど許した先の着地点が分からないからだ

 

「もう…違うっての!そんなに銀が好きだって認めさせたいなら証拠でも出してみなさいよ!」

 

単に好きそうだから…では話の筋が通らない。きっとそのあたりを重視する聖良さんだからこそこういうことが効くのだ

 

「さっき私が伺う前に言っていた独り言はこんな感じだったですかね?」

 

…?

 

「まったくほかの子ばかりにうつつを抜かせて…いつまで私を放っておくのよ。私のことをさも特別扱いして勘違いさせといていざとなったら目移りってこと?はいはい分かっるわよ…どーせ私みたいなサブカルぶった自称堕天使の女は優先順位最下位ってことくらい!」

 

「……」

 

 

「…私に輝いた世界を教えてやるから俺を信じてくれって言ったくせに…ばか」

 

妙に芝居がかった…そしてどことなく私を真似たイントネーションと声で、私が“独り言”で言っていた事を一言一句暗唱して見せた。き、聞かれてたの?

 

「んなぁ!?そそれどどどこできききいてたのよ」

 

「善子さんのいるところへいざ入ろうとしたらこういうことを仰っていたのでつい…聞き耳を」

 

申し訳なさそうな顔がさらに私の焦りを加速させていく。思考は巡り脳が熱暴走を起こしてる気もしてきた。やがて人は限界を迎えると考えることをやめて足の方に力を貯めていく

 

「…うわわわわぁん!もういやぁ!」

 

「え?善子さん!どこへ行くんですか!」

 

走った。この現実から逃げたくてだ。私は堕天使だから魔術でなんとかなるなんてことも思い浮かばず、ただ私は私という存在が消え去ったらいいのにと思いながら走った。このまま光の速度を超えて過去に戻りたいとかそんな非現実的なことばかりが目の前を襲ってくる。もはやそれすらからも逃げたくて私はただただ走った

 

 

 

「マネージャーをしてるグループの子からめちゃくちゃ嫌いって言われた…俺これでも仲良い方かなと思ってたのに…」

 

 

 

 



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ナイトプールのナイトはきっとKnightのナイト

小説は突発的に書いた方が絶対いいです。なんか身に染みてわかりました


──────

 

夏の陽気はコンクリートによってバフがかかり、天気予報で聞く以上の暑さを俺たちにもたらしていた。マネージャーである俺は身体を冷やす氷やスポーツドリンクの用意などでてんやわんやになる季節と言える。ダンス練習が終わる頃ともなればみんなが踊っていたその地面には汗によって水たまりができ、練習着も水を吸って色が変わって重くなっているように見えた。俺は各メンバーに水を摂ることと服を変えて身体を冷やさないようにと念押しする。そしてさあみんなが着替えるだろうからそろそろ去ろうかなと思った時、後ろから百合のように美しい声が聞こえた。

 

 

「銀くんってさ…その…ナイトプールって知ってる?」

 

「あぁ知ってるよ。あのプールなのに写真ばっか撮ってるところだろ?」

 

泳ぐもしくは涼むための施設で何故かスマホを弄り倒すという謎な施設と俺は勝手に認識してる。まあそのためのプールだと言われたら何も言えないんだけどさ

 

「確かに間違ってないけど知識の偏りがすごい…」

 

「それがどうしたんだ」

 

「いや実はちょっと興味があって…」

 

引き笑いに照れ笑い。梨子が後ろに手を回してモジモジとしだして、“興味がある”と言うことはつまりこういうことだ

 

「行きたいってか」

 

「うん…」

 

突発的に言い出す幼馴染2人とは違い、奥ゆかしいからこそ梨子の言動というのは読みやすい。ある種それが日本人的な感じだからこそと言えるのかもしれないけど

 

 

「まあ別に…「いけません!」

 

「うわっ姉ちゃん!?聞いてたのか」

 

「あんな破廉恥な場所に異性で二人で行くなど言語道断ですわ!そもそもゴニョゴニョが多いと聞きますし!」

 

「は?」

 

あんな場所に2人でどう…しか聞き取れない。何ナイトプールって異性2人で言ったらそんなにまずい場所なの?いいじゃん写真館と何ら変わらないだろ

 

「行くのでしたら私も同伴致します!」

 

「嫌なんでだよ」

 

ほんとに何で?姉ちゃん昔から俺が女の子と遊ぼうとしたらしきりに着いて来たがったけど、それ姉弟逆の現象じゃね?なんで年長者がついて来たがるんだ…

 

「監視ですわ!梨子さんとその…不埒な行為をするかもしれませんし!」

 

「ふ、ふら…な行為なんてしません!」

 

「不埒な行為なんてしねぇよ。あそこプールだろ」

 

ナイトプールをどんな場所だと思ってるのかわからないけどそんな顔を赤くするほどのものでもないだろ。みんなスマホを片手に写真を撮ってる場所なんだから不埒とか言ってる暇絶対ねぇよ

 

「こ、こえが大きいですわ!」

 

「というか梨子もなんで俺を誘ったんだ?あんなカップルだらけの場所にわざわざ俺と行く必要ないだろ」

 

「いや千歌ちゃん達を誘ってもよかったんだけどその…女の子だけで行くとナンパが多いって聞くから…」

 

まあ“興味はあるけどナンパされるかもしれないから出来れば身近な男を連れていきたい”ってところか。というか美人な梨子が1人でそんなところ言ったら確実に声をかけられるだろうな。俺が言うのもなんだけど行くのならついて行かせてくださいっていうレベル

 

「そのための俺ってわけか。その話2年前くらいにも聞いた気がするなぁ姉ちゃん」

 

「えぇそれはそれは銀はナンパ避けには大層効きますわよ」

 

「やばい…皮肉が通じねぇ…」

 

あの時無理やり連れていかされたからな…主に果南ねぇによるパワーハラスメント的行為によって

 

「とにかく協力してもらえたらありがたいなって」

 

「別にいいよ。ついでに姉ちゃんもついてくるし」

 

「私はおまけではなく、あくまで監視ですわ。正当にナイトプールを楽しんでおられたら私はそれでいいのです」

 

たまにおまけ付きって書いてるのに逆にいらないなと思う時がある。多分今はそれだ。まあそれは梨子が俺と二人きりになりたかったと勝手に妄想して終わりにしておく

 

 

「じゃあ次の土曜日の夜にお願いしていい?」

 

 

 

──────

 

 

街中にあるビル街の屋上にそれはあった。華やかな装飾に水面に映える照明、まさしく“ナイト”プール。大人が楽しむ夜の遊びらしく子供っ子一人おらず周りはカップルや大学生らしい集団ばかりだ。誘ってきた張本人の梨子はピンクのビキニに透明感のあるフリルをあしらった水着を着ていてとても大人らしいと行った感じだった

 

 

そして…

 

 

 

「姉ちゃん監視って言ってなかった?」

 

赤のコスモスが美しいチューブトップを見事なまでに着こなしていた。ご丁寧に頭に花飾りまでつけていて監視という概念を疑いたくなる。プールの監視員がそんな格好してたら卒倒するだろう。つまりそういう事だ

 

 

「えぇ監視ですわ」

 

「めっちゃ楽しんでない?」

 

「え?」

 

「なんなら今日の夕方からウキウキだったよな」

 

鼻歌歌いながら用意までしちゃってさ…いつもはそんなこと思わないけど、今日はルビィが泊まりにいってて良かったとすら思ったよ

 

「っそんなことありませんわ!」

 

「まあまあプールはやっぱり楽しみたいし…ね?」

 

「監視される側の梨子がそれでいいんならいいけどさ」

 

友達と遊ぶ時にその家族がついてきたら変なあれになるだろう。それでも嫌じゃないってどれだけ懐が深いの?優しすぎやしないですかい?

 

「というか寒くないか梨子?夏とはいえ風も少し吹いてるし」

 

「温水だから問題ないよ。それと…どうかな?水着…男の子から見ての感想がやっぱり欲しいし」

 

「正直眩しすぎて直視できない」

 

なんだろう。美人の水着って眩しい気がする。でもそれを見ることで目がやられるなら俺の両目も本望かもしれない。ほら男の両目は美人の水着を最終終着点としてる所あるし

 

「では私の水着はどうですか?銀」

 

「なあいつの間に新しくしたんだそれ…似合ってるけどさ」

 

もしそれがこれに合わせてとかなら目を覆いたくなる。どんだけウキウキだったんだよって話になるからな…

 

「最近は流行りというのも分かってきましたし、ナイトプールに行っても恥ずかしくないものを買ってきたのですわ」

 

「でも母さんがみたら慎みがたりません!って怒るだろうな…」

 

「ふふっバレなきゃセーフと言ったのはどこの誰ですか?」

 

「俺かぁ…」

 

バレなきゃセーフ理論を多用する俺からしたらそれを言われてら何も言えない。そう見られたら困るものも見られなければセーフなのだ

 

「……」

 

「ん?どうした梨子」

 

「私一人っ子だから姉弟ってやっぱり羨ましいなぁって思って」

 

「そうか…?あ、でも姉ちゃんみたいな姉弟が欲しかったら俺と結婚してくあだだ「それを不埒な行為と言うのですわ!!」

 

軽いジョークなのに耳を思いっきり引っ張られる。痛てててててそんなに引っ張られたら俺の耳フェネックみたいになっちゃうぅぅぅ!

 

姉弟って羨ましいな…

 

耳の穴を広げられているはずなのにその梨子の囁きを聞き取ることが出来なかった。

 

……

 

 

そして怒られるといつも正座。でも今日は浮輪だった

 

「ほらここに座る!」

 

「いやでもこれカップル用の…」

 

よくある尻を入れてぷかぷかと浮いた形になる。上を見上げるとネオンに紛れた星が見えた

 

「そして私もここに座ります」

 

「近くね?距離」

 

手を繋ぐことはもちろん背中や頭を合わせることも出来る距離。ピンクの色がそういうものだろうと言ってるようにも思えた。

 

「カップル用ですから当然ですわ」

 

「絶対、姉弟で座るやつじゃねぇよ…」

 

「ふふっ銀ったら少しドキドキしてるのではないですか?」

 

水の上に浮かぶ不安定な浮き輪の上で姉ちゃんが笑いながらにじり寄ってくる。ビニールが擦れる音と水が跳ねる音が激しくなって水面にも泡がたっていた……泡?

 

 

「えぇ本当に速く拍動してますね」

 

「な…梨子!?」

 

「梨子さん!?」

 

∞マークになっていた浮き輪の俺側から梨子が飛び出してきた。潜水艦のように俺の下に潜り込んで一気に浮上してきたのか?あと胸に頭つけるのはいいけど姉ちゃんの目がすごく怖い。

 

 

「あ、思ったよりち、近いね」

 

この光景…股の間から梨子が飛び出してきてるのはいいけどこれ周りから見たらアウトじゃね?事案警察が出動する事態なんですけど

 

「破廉恥ですわ!」

 

浮き輪に乗せられたのに降ろされた。理不尽すぎる

 

……

 

 

 

「喉乾いたし、ちょっと飲み物買ってくるわ。変な輩に絡まれたらすぐ声上げろよ」

 

「うんありがとう」

 

「銀も気をつけるんですのよ」

 

銀くんってやっぱり武道してるからすごい身体になってるなぁ……でも上裸の姿なんかすごく新鮮っていうか水に濡れた髪をかきあげるとことか様になっててかっこよかったし…

 

「ケッコンとかまだ早いよね」

 

「梨子さん?」

 

「え?いや何でもな…それより銀くん遅いなぁって…はは」

 

「確かに…すぐそこなのに混んでるのでしょうか?」

 

「見に行きます?」

 

「えぇ杞憂に終わればそれでいいですから」

 

 

 

「かっこいいお兄さん。そんなにかしこまらないでアタシたちと遊んでよぉ」

 

ナンパ避けの人がナンパされていたら私はどうすればいいのだろう。解決法がわからずただあたふたとしか出来なかった。身体が鉛のようになり動かない

 

 

 

 

「いやだから遊ばねぇって」

 

「ねぇ君運動してるでしょ?筋肉すごいしかっこいいしさ。いいじゃんアタシらと遊ぼ?」

 

「ね〜?ここに来てるってことは今これいないんでしょ?」

 

小指を立てているのはきっと彼女がいないということを表しているんだろう。どうしよう相手の容姿が少し怖くて私は足を踏み出せない

 

「参ったな…逆だと思ってたからこれは想定してなかった」

 

 

銀くんもそう言ってる通りこういうの逆ナンパって言うんだよね?というかあれから一歩も踏み出せてないし…ダイヤさんは借りてきた猫みたいになってるし…でも近くにいるからいつもは考えないけど銀くんって見た目かっこいいもんね……しかもあの二人私なんかより全然オトナに見えるし。どうしたらいいんだろ

 

「連れを待たせてるんだけど」

 

「どうせ男の子でしょ?私たち全然構わないから連れてきなよ」

 

 

「うーん困ったな。どうしたもんか」

 

 

ふと目が合った。物陰というものから見よう見ようと身体を出しついには丸わかりになっていたのだ。

 

「おい梨子そこの“ダイヤ”を連れてこっちに来い」

 

「え、うん」

 

「この通り俺は女の子を侍らせてる屑なんでどうぞお引取りを」

 

「二股してるってことで合わせてくれ」

 

「そ、そうです…2…人とも銀くんの彼女です」

 

「マジ!?2人ともめっちゃ可愛いじゃん!」

 

「まぁこのレベルならこうなっちゃうかぁ」

 

「そっかぁ残念…またねかっこいいお兄さん!」

 

「ふふっ私たちずっと待ってるからね!」

 

最後までニコニコしながら帰って言ったのを見ておおごとにならずに済んだと安心した。いくら大人のナイトプールとはいえ荒っぽいことになってしまってはこの周りのせっかくの雰囲気も冷めてしまうからだ。あくまでここは楽しむ場所であるべきだろう。まあそれも銀くんの機転によるものだけど

 

 

「危ねぇ…悪いな。こんな芝居に付き合わせて」

 

「べべべ別に、ど、どうってことな…」

 

「ふぅ…全く監視というのも大変ですわね」

 

「いや姉ちゃんマジで何もしてなかったじゃん」

 

「借りてきた猫でしたね」

 

「だって…ちょっと怖かったのですわ。あんな感じの生徒はうちの学校にはいませんし…」

 

「それってチキンハー…」

 

ダイヤさんの視線が銀くんに突き刺さっていた。それの視線にバツが悪そうに頭をかいて話題を変えようとする

 

「そ、それより梨子彼女の振りとか嫌だったろ?」

 

「むしろいい…んでもなくて…まああの状況ならああするしか無かったし仕方ないよ」

 

「それより呼び捨てにしたことの方が問題ですわ!」

 

「は?」

 

「あ、あの時私のことをだ、ダイヤと言ったじゃないですか」

 

「そりゃ彼女って言い張るのに姉ちゃんとは言えないだろ」

 

「きっとそのせいで私は驚いてしまったのですわ。ですから喋れなかったのです」

 

「ダイヤ」

 

「はぅ…」

 

「姉ちゃん」

 

「そもそも皆さんは下の名前で呼ばれているのに私はずっと姉ちゃんと呼ばれているのですからそれはもう驚く…」

 

「ダイヤ」

 

「はぅ…って馬鹿にするのはおやめなさい!あとそれと!」

 

「おっと」

 

 

ドキドキするからやめてくださいな

 

私は2人の前を横切った。それが聞かれたくなくて、狙いすましたスナイパーのように

 

──────

 

「最後にSNS映えするような写真を撮ってくれない?」

 

そう言って梨子は自分のスマートフォンを差し出してきた。既にカメラが起動されていて足元が画面に写っている。俺は手の水滴をスマホが濡れないように拭いそれを受け取った

 

「どう撮ればいいんだ?」

 

「私たちがそれっぽくポーズするからあとはシャッター押すだけで大丈夫」

 

「OKわかった」

 

宣材写真とかの撮影でも梨子はえらくこなれてるからそういうことには少し造形があるのだろう。それともそれはもしかして都会人の必須スキルなのか?

 

「私たち?」

 

「ほらダイヤさんもそんな可愛い水着なんですから!」

 

「ちょっと梨子さん!?私は写真が得意では…」

 

ダイヤさんが本気を出してポージングしたらきっと銀くんもドキドキしますよ

 

こちらを一瞥してから姉ちゃんに耳打ちした。それを聞いたダ…姉ちゃんは俺と自分の水着を交互に見ると頬をかいてふぅとため息をついた

 

「し、仕方ないですわね…」

 

「じゃあ銀くん撮ってくれる?」

 

「あぁ撮るぞはいチーズっと」

 

梨子は少し髪をかき上げながら、姉ちゃんは髪を少し手で遊びながらポージングをしていた。さながらモデルのように流し目をして、照れ笑いをしながら撮影会は続いて、俺は最高の1枚を撮ることが出来た。

 

 

映える。映えるとも。だって自分が自信を持って言える美人2人が最高の表情をしているのだから

 

 

 

 



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『コラボ』『人殺し』は襲われる

今回はあのSaint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』の作者様である七宮梅雨さんに小説を寄稿して頂きました。しょうもない私のツイートを拾ってくださったことも有難かったですし、快くコラボを受けてくださったことにも感謝を申し上げます


──────

 

 

 突然なのだが、今俺が心の底から思っていることをこの作品を読んでいる読者に伝えようと思う。え?そんなのどうでもいいって??おいおい、そんな事言うなよ。泣くぞ??

 

 

 俺、奥山 明は今、この場からめちゃくちゃ帰りたいと思っている。本当に今この状況においてはこの一言に限る。

 

 

ルビィ「うゆ………、明くん。ごめんね。」

 

 

 俺の隣で申しわけなさそうな表情をしているルビィはAqoursのメンバーの中で1番身長が低いのに、体全体を収縮してしまって更に小さく見える。

 

 今、俺達が向かっているのはルビィの家……………すなわち黒澤家だ。どうして、彼女の家に向かっているのかというと

 

ルビィ「ルビィがもっと計画的に宿題をやっていればこうならなかったのに………。」

 

 そう。ルビィは明日から学校があるというのにも関わらず、宿題を終わらせていないらしい。そして、その中にルビィの苦手な教科があるらしく宿題を消化するついでに俺から勉強を教わりたいということだ。

 

 ちなみちKKDことダイヤちゃんは今日、かなっちとマリーの3人で遊びに行くんだとか。ス〇バの新作を飲みに行くらしい。今どきのJKって感じだな。いいと思います。

 

明「気にすんな。あとから花丸と善子も来るんだ。すぐに終わるよ」

 

ルビィ「でも、明くんはあまりルビィの家に………来たくないんだよね。」

 

明「…………否定はしない。」

 

 いや、別にルビィやダイヤちゃんのことが嫌だから黒澤家に行きたくないという訳では無い。むしろ、凄く行きたいよ??行きたいけど…………

 

明「あの人がいるんだよなぁ………」

 

 俺は頭を掻きながらボソッと呟く。あの人とは一体誰のことなのか。きっと、すぐに分かるから詳細はここで言うのはやめておこう。

 

 そして、ルビィと軽く雑談をしながら歩いていると黒澤家に到着。相変わらず立派な家だな。

 

ルビィ「多分、この時間はシャワー浴びてるから大丈夫だとは思うけど………」

 

 ルビィはそう言って、玄関の扉を開けた瞬間

 

 

??「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

ルビィ「ピギイ!?」

 

 玄関の中から、1人の男性が手に木刀を持ち殺意をバリバリ放出させながら俺に向かって来る。

 

 

明「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

 

 俺は叫びながらもその男性の本気100%の一振を白刃取りでなんとか受け止める。うわ、なんか上手くいったわ。てか、めっちゃ手がビリビリして痛てぇ。

 

ルビィ「明くん、凄い!!」

 

??「貴様ぁぁぉぁぁぁ!!!」

 

明「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 俺は掴んだ木刀を男性ごと放り投げた。男性は慣れていると言わんばかりに綺麗に受身を取って、素早く立ち上がる。

 

 俺は溜息を吐きながらその男性に声をかける。

 

明「なぁ、銀先輩。いい加減、急に攻撃仕掛けてくるのやめてくれませんか??」

 

銀「うるせぇ!!ルビィに手を出すお邪魔虫は俺が排除してやる!!」

 

 そう言って、再び木刀を構える男性の名前は黒澤 銀先輩。ルビィの兄で、ダイヤちゃんの弟だ。まぁ、見てわかる通り重症レベルのシスコンである。

 

 彼は俺と同じ武道を嗜んでおり、ルビィ曰く剣道、空手、柔道は中学の時に全国大会に出場した経験があり、その内剣道は2回全国大会を優勝しているらしい。

 

 そして、俺と同じくAqoursのマネージャーもやっている。俺が加入する前から銀先輩はマネージャーとしていた。幼馴染である千歌や船長にお願いされたらしい。最初は断ってたらしいが、なんか相撲をとってそれで負けたらしい。女に負けるとか………プークスクス

 

銀「お前、絶対俺の事を馬鹿にしてるだろ。」

 

明「そんな訳ないじゃないですか。常に銀先輩のことを尊敬してますよ(棒)」

 

銀「やっぱり殺す」ムカ

 

ルビィ「もぅ、お兄ちゃん!!これ以上、明くんを困らせるならお兄ちゃんとは口聞かない!!」(-ω-´ )ぷい

 

銀「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!それだけは勘弁をぉぉぉぉ!」

 

 皆の者よ。これが黒澤 銀という男である。つい数秒前まで殺気だだ漏れ青年だったのに、愛する妹の冷たい目線からのキツい一言でスライディング土下座をぶちかましていた。

 

ルビィ「ふんだ!!明くん、早くルビィの部屋に行こ」プンスカ

 

明「お、おう。てか、銀先輩はいいのか??スライディング土下座の影響で、顔が地面に埋まってっけど」

 

ルビィ「お兄ちゃんなんて知らない!!セミさんと一緒に地面の中に7年ぐらい生活すればいいんだ!!」

 

 この子、実の兄になんて恐ろしいことを言うんだ。

 

銀「奥山ぁぁ!!貴様、ルビィの部屋に行って何をする気だぁ!!まさか……、不純な行為を」

 

 するわけねぇだろ。俺には花丸という愛しい想い人がいるんじゃい。想い人の親友に手を出すとかそんな恐ろしいこと出来るか!!はっ倒すぞ。

 

ルビィ「黙ルビィ」バキッ

 

銀「ピギイ!?」ブクフク

 

明「ひぃ!!」

 

 そろそろ1発かましてやろうかな、と思っていたら真っ先にルビィが飛び出して実の兄の股間を思いっきり踏みつける。恐らく、先程の銀先輩の発言が原因だろう。それによって、銀先輩は白目剥いて口から泡を吹き出して気絶した。

 

 やられてない俺も無意識に股間に手を抑えてしまう。これに関しては男の象徴を持つものならば誰しもが共感できることだろう。女の子には分からないやつよ。

 

ルビィ「さ、明くん。行こっか」

 

明「りょ、了解です。姐さん」

 

 普段は人見知りで、か弱い女の子のはずなのに兄に関すると物凄く頼もしくなる。つい、彼女のことを姐さんと呼んでしまった。

 

 

 こうして、俺はルビィの部屋に行って勉強を教えるのだった。

 

 

 

 ちなみに、彼女の部屋に向かう途中に銀先輩の部屋らしきものがチラッと見えたのだが、なんかとても赤かった。どうして赤いのかはまぁ………察してくれると助かるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明「この問題はな、最初見たら難しいと思うかもしれないけどここに代入するとな」

 

ルビィ「うゆうゆ」

 

明「あーら、不思議。あんなに難しいと思われてた問題が代入しただけで簡単な式になっちゃいました。」

 

ルビィ「わぁー、凄い!!本当だ!!」パチパチ

 

 ルビィは嬉しそうに手を叩く。いや、これ普通に授業で習った内容だからね??平山先生泣いちゃうよ??

 

ルビィ「よーし、次の問題はルビィだけでやってみりゅ」

 

明「おー、頑張れ〜。」

 

 ルビィが1人で問題を解いている間、俺は分厚い参考書を取り出して個人的な勉強へと移る。

 

 30分ぐらいやったところで俺は尿意を感じたため、ルビィに許可を取って御手洗場へと向かう。

 

 それにしても、黒澤家って本当にでかいなぁ。何回か訪れたことあるけど、未だに迷いそうになる

 

 

 ーーービュン

 

 

 ん??

 

 

 ーーービュン

 

 

 なんだ、この音は。

 

 庭の方から何かを素振りする音が聞こえてくる。気になってそちらの方に足を運ぶと、先程まで気絶していた銀先輩が竹刀を素振りしていた。自主練だろうか。

 

 

ーーービュン

 

 

 ほぉ………、普段はシスコンで気持ち悪い銀先輩だが自主練している姿はまるで別人だった。竹刀の一振り一振りに一切無駄がない。流石は全国大会の優勝記録を持つだけはある。普通にかっこいいな。

 

銀「何見てんだよ、変態野郎。」

 

 視線に気がついたのか、銀先輩は俺の方に振り向いた瞬間、とても嫌そうな表情を浮かべた。あと、変態なのはアンタだ。

 

明「いや、御手洗行こうとしたら素振りしてる銀先輩を見つけたんですよ。それにしても、やっぱり様になってますね。ルビィが教えてくれた通りかっこいいっすよ」

 

 普段は銀先輩のことを避けているルビィだが、彼女は彼女で何気に銀先輩のことが好きである。お兄ちゃんはこうだったとか、ルビィの為に〜〜してくれた。とかどうでもいいことを嬉しそうに口に出している。ルビィも何気にシスコンでブラコンなのかもしれない。

 

銀「え!?ルビィがそんなことを!?照れるなぁ〜」

 

 ハハ、銀先輩とても嬉しそうだ。そりゃあ、大好きな妹にカッコイイなんて言われたら嬉しいに決まってる。

 

銀「なぁ、奥山」

 

明「はい??」

 

銀「俺と少し………やらないか??」

 

明「ごめんなさい。俺、そんな趣味ないです。」

 

銀「違ぇよ。俺もそんな趣味はねぇわ」

 

 銀先輩はツッコミを入れながらも俺に竹刀を放り投げる。マジか……………。

 

銀「メインは空手らしいが、剣道もやれるだろ??」

 

明「言うても、少しかじった程度ですよ??」

 

銀「基礎できてるなら充分だ。ささ、来い」

 

 銀先輩は竹刀を構える。おいおい、マジか。この人。俺、小便しに来ただけなんだけど……………。何で日本で注目されている人と剣道しなくちゃいけないんだよ。

 

 まぁ、1戦ぐらいなら付き合ってあげるか。瞬殺だと思うけど。

 

 俺は竹刀を手に取り、基本的な剣道の構えを取る。

 

銀「よし。構えたな。それじゃあ………始め!!」ダッ

 

明「うおっ!?」バチッ

 

 始めって言った瞬間、銀先輩が俺に向かって竹刀を振りおろす。突然の事で、思考が一瞬だけ停止した俺だが身体が勝手に反応し先輩の一振を竹刀で受け止める。

 

銀「流石だな」

 

明「それは……どーも!!」

 

銀「ぐはっ!」

 

 俺は先輩の腹に目がけて蹴りを入れて、先輩の力が緩まったのを確認して一旦距離を取る。剣道のルールでは反則かもしれんけど、気にしたら負けだ。

 

明「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 今度は俺から攻撃を仕掛ける。ジグザグしながら銀先輩の方まで近づき、胴に目がけて竹刀を振る。

 

銀「ふん!!」

 

 復活した銀先輩は俺の攻撃を容易く受け止める。だが、俺は攻撃をやめない。ひたすら竹刀を振りまくる。

 

 バチン、バチンと竹刀と竹刀が激しく接触する音が何度も何度も響き渡る。

 

 ちっ………、やっぱそう簡単には行かないか。だったら…………

 

 

明「全集中 水の呼吸 壱の型 」スゥ

 

 

銀「なんで呼吸法!?現実で出来るわけねぇだろ!!」

 

 ですよねー。いやぁ、最近鬼滅の刃にハマってるからついやってしまったぜ。読んでない人は是非読んでみてくれ。漫画もアニメも最高だから。

 

明「てか、先輩も読んでるんですね」

 

銀「家が家だからこっそとりと…………な!!」

 

明「うおっ!?」

 

 あ、あっぶねぇー。今のは正直いってヤバかった。

 

銀「はぁ!!」

 

明「ぐっ!」

 

 銀先輩の攻撃の重みが先程のより強くなっている。なるほど、今までは遊びで今からは本気で来るらしい。

 

銀「オラオラオラァ!!どうしたぁ!?」

 

明「ぐっ………、アンタ普段はそんなキャラじゃねぇだろ!!」

 

銀「コラボだから気合い入ってんだよ!」

 

明「バリバリ、メタ発言してんじゃねぇか!!やめろ!!」

 

 俺はそう言って、銀先輩の一撃を竹刀で弾き彼の胸元まで素早く接近する。

 

明「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺は雄叫びをあげながらそのまま彼の腹に目がけて竹刀を振るう。このまま当てれば俺の勝ちだと思われていたが

 

銀「あっぶね!!」

 

 焦った銀先輩は上半身を後ろの方に沿い、ブリッジのような形をとって俺の攻撃を紙一重で躱した。何、その躱し方。気持ち悪っ

 

 空ぶってしまった俺はすぐに構い直して振り向くがその数秒の余裕を見逃すほど目の前にいる男は馬鹿じゃない。

 

 振り向くと、俺の視界の目の前には竹刀の先端があった。

 

明「………降参です」

 

 俺は苦笑いしながらそう言って、竹刀を手から離して両手を上げる。

 

銀「よし。俺の勝ちだな。という訳ですぐに俺の家から出ていきな。あと、二度とルビィに話しかけるな。」

 

明「何で!?そんな約束してなかったですよね!?」

 

 俺のツッコミに銀先輩は「冗談だよ」とケラケラ笑いながら言葉を出す。こいつスキンヘッドにしてやろうか。

 

明「そもそも、どうして俺と?」

 

銀「ルビィと普段接してるお前をぶちのめしたかっ…………ゲフンゲフン。武道を嗜んでいるお前と1度は戦ってみたいと思ってたんだ。」

 

 

 おい、会話の前半に本音が出かけてたぞ。てか、ほとんど出てたぞ。むせるタイミングが少々遅かったぞ。絶対にわざとだな。

 

 

銀「というのは9割で残りの1割が最近のお前の態度に腹が立ったからだ。」

 

明「俺の態度??」

 

 それは…………どいうことだ??全く分からない

 

 

 

銀「お前、聖良達に会うことに関してビビってるだろ」

 

 

 

明「ーーーーーーッッ!?」

 

 銀先輩の言葉に俺は何も言えなくなる。ちなみに、銀先輩は何回か偶然にも聖良姉ちゃんと理亜姉ちゃんに会ったことがあるらしい。

 

銀「お前は何気にそういうのは隠すのは得意だと思うけど俺の前では無力だ。あと、あいつにもな………」

 

 あいつ??あいつとは一体誰だ??

 

銀「名前はプライバシーに反するから伏せとくけどな。お前のその態度でいつかAqoursの活動に影響が出るかもしれねぇからよ。マネージャーの先輩である俺が喝入れてやろうとした訳だ」

 

 …………貴方に俺の何が分かるんだよ。絶対に分からない。俺のこの苦しみが。『人殺し』になって家族に………大好きな姉ちゃん達にも拒絶された俺の気持ちが!!

 

 

 

 

銀「『考え方ひとつで人生が変わる』」

 

 

 

 

明「え??」

 

銀「俺が過去にとあることで悩んでいた時にある人から言われたら言葉だ。俺はこの一言によって救われた。」

 

 銀先輩は俺が使っていた竹刀を回収し俺に背を向いて何歩か歩いたところで一言だけ呟いた。

 

 

 

銀「だから、奥山も覆してみろよ。今までの考え方を」

 

 

 

 銀先輩はそう言って俺の目の前から去って行った。俺は少しの間、その場から動くことが出来なかった。先輩の言葉が頭の中から離れない。鳥肌が凄いことになっている。

 

 俺は今まで、姉ちゃん達に会うことをイメージした時に再び拒絶される未来を描いていた。これは俺が弱くてビビっていたからだ。

 

 

 

 じゃあ、もしそれが違ったら??

 

 

 

 

 もし、拒絶される未来じゃなく俺と姉ちゃん達が笑い合える未来になったとしたら??

 

 

 

 

 

 

 あぁ、それはなんて素晴らしい未来なのだろうか。

 

 

 

 

 

 確かにこれは俺の勝手な妄想に過ぎない。だけど、悪くは無い。少なくとも、拒絶される未来を描いていた今までに比べたら……。

 

 

 俺は立ち上がって、銀先輩が向かった方向に目がけて一礼をする。その後、ルビィの部屋へと戻った。

 

 

ルビィ「明くん、遅かったね。大丈夫??」

 

 部屋に戻ると、ルビィは心配そうに俺の側まで駆け寄って声をかける。手洗い行くって言ってから随分時間が経っていたからな。迷惑をかけてしまった。ちなみに、花丸と善子は既にルビィの部屋にいた。

 

明「ごめんごめん。ちょっと色々あって」

 

ルビィ「またお兄ちゃん??」

 

明「まぁ……、否定はしない。」

 

ルビィ「もぅー、本当に口聞くのやめようかな」

 

 やめてあげて。そんなことされたら、あの人再起不可能になっちゃう。

 

善子「クックックッ。リトルデーモン達よ。仲間同士で争うのはやめておきなさい。じゃないとこの堕天使ヨハネの天罰が下されるわよ」

 

明「善子は黙って宿題やってろ」

 

善子「善子言うな!!ヨハネ!!」

 

 善子はブーブー言っている隣で花丸が何かに気付き、首を傾げながら俺に言葉をかける。

 

花丸「あれ??明くん。なんか顔色が良くなった気がするずら。何かあった??」

 

明「ん??まぁ、少しな」

 

花丸「そっか…………。良かった」

 

明「何か言ったか??」

 

花丸「うぅん。何も。よし、ルビィちゃんと善子ちゃんの宿題を早く終わらせるずら!!」

 

善子「ねぇ、ずら丸。アンタが見せてくれたらすぐに終わるんだけど」

 

ルビィ「善子ちゃん。それはダメだよ。ここの部分は次のテスト範囲に入れるって先生言ってたよ」

 

花丸「ルビィちゃんよ言う通りずらよ。善子ちゃん」

 

善子「だからヨハネだってば!!次行ったら堕天使奥義使うからね!!」

 

 

明「…………ハハ」

 

 

 考え方ひとつで人生は変わる………ね。何だか、この3人のアホみたいな光景見てたらその通りかもしれないと思う自分がいる。

 

 

 まさか、あの人に背中を押される事になるとはな。全く予想していなかったわ。頭の中で、自分の部屋でドヤ顔しながら優越感に浸っている銀先輩の姿が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 それはそれで腹が立つな。よーし……

 

 

 

 

明「なぁ、ルビィ。さっき銀先輩がルビィの下着を頭に被って未熟DREAMER踊ってたぞ」

 

ルビィ「ピギイ!?もう絶対にお兄ちゃんとは口聞かない!!」

 

 

 

 花丸曰く、この時の俺の表情はなんだか取り憑いたものが全て落ちたように楽しくそして悪そうな感じ笑っていたらしい。



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『コラボ』『人殺し』は独白をする


もし私の文で興味を持たれたら『人殺し』をぜひ読んでください。本当にお願いします


──────

 

道路を通る車の音が鮮明に聞こえるこんな夜中に起きるのは何度目だろうか。息が荒くなって過呼吸になりそうになるのを必死にこらえ、これが現実であることを頭で理解する。壁の時計を見ると既に丑三つ時を迎え、ただでさえ閑散としている街は本当に静まりかえっていた。荒れた呼吸を整えながら左手を胸に当て拍動が正常であるかを確認する

 

 

その一連の流れによって今見ていた映像が夢であると安堵して胸を撫で下ろすのと同時に、あの時の映像がフラッシュバックして湧き上がる気持ち悪さが安堵とは裏腹に胃の中からせり上がってくる。寝ていたベッドは寝汗によって俺の寝姿を形づくり、肌にべっとりと張り付いた汗が怨念のようにも感じられる。それを振り払うように拭いさり新しいシャツをタンスから1枚取りだした。そのひんやりとした感触に少しの安心感を覚えたのだった

 

 

「『人殺し』なのだからもう私の前に現れないで…本当に関わらないで…」

 

忘れたくても忘れられず今もクリアに映し出される…聖良姉ちゃんの引きつった頬が身体を抱き寄せる腕が…怯えた目があの時の俺という存在と相対していたのだ。人の記憶というのが物事をあやふやに記憶する中で、唯一鮮明に記憶するといわれているのは感情と強く結びついた時だと言われている。それなら俺のこの絶望で結びついた記憶が鮮明じゃなくなるのに一体何年かかるのだろう。だって見えないようにした所でこうして思い起こされるのだから…

 

 

 

白い天井のシミを数えることにも飽き、目を閉じて寝ようとしてもずっとその光景に追いかけられている。慌てふためく銀行員がバッグに急いでお金を積み込むところや銃を向けられた多くの人の畏怖の顔。そして恐怖に歪んだママの顔。けたたましいサイレンの音と警察の人のメガホンの声、そしてその中で覆面の男が銃口を辺りに振り回す恐怖の光景が今も脳裏に焼き付いている。黒く渦巻いた感情と結びついた記憶は、一夜漬けの暗記のように簡単に忘れさられるものでもなく、それはまるで赤錆みたいに俺の脳にこびりついていた

 

 

言い聞かせる。言い聞かせて理解して飲み込む。きっとそれしかなかったのだと…そう俺はそれでも“家族”を守りたくて勇気を振り絞って相手に体当たりをしたのだと。ただそうするしか無かったから小さいながらに頑張った。そうして犯人から偶然奪ったそれを初めて握った時は銃のことをただ強い武器だとしか認識してなかったけど、今思えばたった3センチ程度の鉄の塊だけで人は殺せてしまう。例えそれが5歳の俺だって例外ではない。引き金を引けば目の前の理不尽だって倒せてしまう。そう考えてあの時の僕は人差し指をぐっと引いたのだった

 

バンッ

 

と鼓膜が破れそうになるほどの爆音が鳴り響いた。その驚くような反動で銃は手放してしまったけど標準なんて分からずただ相手に向かって撃ったその弾丸は良いか悪いか相手の相手の頭を的確に穿っていた。まさしく『勧善懲悪』。僕という善によって銀行強盗という悪は倒されこの美談は幕を閉じるのだと。それが例えば小説や芝居であればの話だけれど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実はそうでなく

 

 

理不尽って言葉はきっと俺のためにあるのだと思った

 

 

守りたかった。ただそれだけのために俺は犯人に突撃して震える手で引き金を引いたのに…待っていたのは畏怖と拒絶の視線だった。

 

『人殺し』『人殺し』

 

目の前がぐちゃぐちゃになって両脇に警察官が座るという狭苦しさやあの時かけられた手錠の重みは誰だって理解してくれない。それなのに強盗から助けてくれなかった警察が何故か僕を逮捕しているということに、耐え難い理不尽さを感じたのを覚えている。恐怖に脅えていた僕たちのことなんて知らずに外から声をかけていただけなのに随分偉そうなんだなとその時は思った。腰についているその黒いものはなんのためにあるんだと。守れないならそんなもの付けないでくれと思ったのだ。そんな憎悪にまみれた黒い感情が己の中でずっとずっと渦巻いていた。

 

 

誰もあの凄惨なさまを見た時の俺の気持ちなんて分からないくせに…誰も粘りのある血液が額の隙間からだらだらと流れ血溜まりをつくっている光景なんて見たことないくせに!どうして…否定の言葉ばかりを浴びせられないといけないんだ。フィクションなら少しばかりは称えられてもいいはずなのに…なんて現実はこう非情なんだろう。…それから俺は記憶に蓋をしているはずなのにそれらに関係するものをみてしまうと吐き気を催すような身体になってしまった。気持ち悪いんだ…何もかも

 

 

そうして今でも目をつぶれば聖良姉ちゃんからの侮蔑の目が…憎しみの籠ったその『人殺し』という言葉が反芻されるようにリフレインする。長い時があったから推測はいくらでもできた。俺をシンプルに人殺しと見定めたのか、それとも関係を断ちたくて拒絶したのか、恐怖からうっかりそれが漏れたのか。まあ…でもこの際それはなんだっていいんだ。俺は実の姉であり家族だった人から『人殺し』と言われ憎まれている。それが分かればもうどうだっていい。

 

 

 

今ではどこにあるか分からないけど、警察に拘束されてた時に書き殴ったノートの中にはその時の感情を詰め込んで詰め込んで書いたような気がする。ごめんなさい、あいたい、ごめんなさい、あいたい、ごめんなさい、まもれなくてごめんなさいほんとうにごめんなさい、あいたい…なんて子供ながらに純粋で今の俺では目をおおってしまうものだ

 

 

当時からだいぶ経って姉ちゃん達に会いたいなんて感情は絶望が塗り替えた。家族に対する愛情はそれ以上の憎悪が塗り潰した。そして何も無い俺が残った。関係を絶つ訳でもなく構築するわけでもない。ただ“無”関係であることだけを求め日々を過ごす。何も期待しないし何も絶望したりしない。だってもう既に家族からの拒絶という最大の絶望を知ってしまったのだから。例えるなら普段100kgでウエイトトレーニングをしている人間が5kgでやったらどうなるのかという話だ。端的に言えば何も感じない。感情の弦が音を立てないこういう人のことを植物のような人間というらしいけど、そう言われてしまえばそうだ。思えば俺はあの時からずっと人間的には死んでいるのだろう。“心は身体のガソリン‘’だとするならば俺はきっと永遠にガス欠状態だ。がんじがらめで過去に縛られて動かないし動けない。なんせ枯れ果てて心が輝いても潤ってもいないんだから

 

 

 

あぁどうして2人の姉があんなにも笑って、楽しんで踊っているのに…どうして俺は背中から刺すような痛みを感じながら幻覚に追い回されないといけないんだ?侮蔑、恐怖、憎悪、拒絶、虚無、非情それら全てを内包したような目で俺を見下したってのにステージではにこやかってか?笑わせないでくれよ。守ったのに拒絶した心無い姉妹が…

 

 

 

 

ほら笑ってよ俺という存在を。楽しんでよ僕の人生以上に。もっと踊ってよ俺はもう動けないから。僕という人間的に死んだ屍の上に姉ちゃん2人は立ってるんだからさ。だって…『人殺し』に怯えるような弱い心じゃダメなんでしょ?

 

 

 

…なんて少し俺らしくなかったかな。ここ静岡と函館じゃ偶然だって起こりえない。買い物に行ったスーパーで同級生とばったりなんて感覚であの姉妹と会うなんて到底ありえないのだ。人の噂も七十五日、血の繋がった家族の記憶も10年だって持たない。名前だって変わったし時が経てば全てが解決する。東京では偶然見てしまったけどそれでも俺があの姉妹を忘れて、あの姉妹が俺を忘れれば全てが丸く収まる。そんな未来はすぐそこにあるだろう。俺も甘えを捨てる選択する時がくる。この想いを切り捨てなければいけない時が…

 

 

 

 



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アワクイトシイヒビ 高海千歌

リクエストの好きになった瞬間も書きたいけど、悲恋も書きてぇなぁ………

…混ぜるか

的な感じで書きました


──────

 

 

連日ニュースを彩っていた夏の甲子園も毎日の練習の間にいつの間にか終わっていて、ふと気づけばあんなにうるさかった蝉の声もなりを潜めていた。学校に向かう途中に浴びる朝風にも冷たさを感じるようになりなんだか少し寂しくなる。

 

あれほどジメジメとしていた風がちょっとだけ乾いているところを見ると体感的には夏なんだけどもう暦の上では立秋を過ぎ、季節は秋なんだとそんなズレを身を持って感じる。秋の空は高く澄み渡るように美しいのだけどそれは夏という季節がはるか彼方の空の向こうへ消えていってしまうようで少し悲しくなるのだ。海の果ての地平線にあったあの入道雲がなんだか今はとても懐かしく思えた

 

 

 

 

遠い昔。果南ちゃんと曜ちゃんと銀くんとわたし。その4人で遊ぶのは本当に楽しくて、日が暮れて帰る時間になるのがあっという間だった。明日また遊ぶ約束をして笑顔でばいばいする。それだけで次の日への活力が湧いてくるのだから子供というのはえらく単純なものなんだなと今になって思う。

 

小さい頃の私は、輝いてる曜ちゃんや銀くんを傍目で見守るようなどちらかと言えば大人しい存在で全くと言っていいほど輝いていなかった。嫉妬…していないと言えば嘘になる。私もあの二人と同じ景色で並びたいとそんなことを思っていたような気がする。その頃からだろう…きっと好きになったのは。何も無いと思える私を見てくれるひと。友達として接してくれるひと。わたしに輝きを見出してくれたひと

 

 

だから好きだ。私は銀くんが好きだった

 

──────

 

今日は近くで花火がある。何も無いこの街で唯一活気があるイベントと言ってもいい。わたしは年甲斐もなくはしゃいでしまって2人のお姉ちゃんに浴衣が着たいと言ってしまった。そうして志満ねぇと美渡ねぇに着付けてもらった白い花柄の浴衣。地元の祭りに行くのにこんな格好するなんて笑われるかもしれないけど、むしろ内浦じゃこういう機会しかないから仕方ないと言えば仕方ない。知り合いやクラスメイトに見られて笑われるのもやむなしなのが地元で浴衣を着るということなのだ。梨子ちゃんは東京に出てて、曜ちゃんと銀くんは別に用事があるから一緒には来れないけどそれでも特別なことをしたかったからこうして浴衣を着た

 

 

「雨降りそうだから傘もってく?」

 

 

「大丈夫!きっと晴れるもん!」

 

 

「そう?じゃあ気をつけてね!」

 

下駄を履いているからスキップは出来ないけど、少し跳ねた様な足取りで玄関を抜けたのだった

……

 

 

夜になると暗くなるこの街も今日だけは明るい。沿岸の道を歩く人は多く、町民全員がここに来てるんじゃないかなんて思うくらいの人の数だ。わたしはそんな祭りの灯りに吸い寄せられるように歩いていく。下駄のカツンカツンという音がいつになく新鮮でとても心地がいい。沖から吹く海風が浴衣をたなびかせ、清涼感を与えてくれる。

 

 

 

 

屋台を見て思うけどうちのまちの祭りはピンボールに輪投げなどの遊びから焼きそばやカステラの食べ物まで割となんでもあるのが特徴だ。だから子供だけで来ても楽しいしカップルや大人だけでも楽しめる。まあここにそれ以外娯楽がないから来てるんだろうけど…

 

「おじさん!輪投げやります!」

 

屋台エリアをすぐに入って見つけた輪投げ屋さん。商品にみかんがあったから釣られたわけじゃなく、私はあのみかんを救いたかったからしただけ。けっして邪な考えがあった訳じゃない

 

「お、威勢がいいねぇ。ほらそこからこれを投げな」

 

「てい!やー!とぉー!」

 

入らない。何一つ。センスがないのは分かっていたけどまさかこれほどまでとは思っていなかった。昔から狙ってとる系統のやつは苦手だったけどこんなレベルだとは微塵も思わなかった…あまりの酷さに泣きたくなる。仕方ないみかんは諦めようと思ったその時

 

 

「あと10分ほどで花火が上がります──────」

 

どっとこの空間にどよめきが走った。待ってましたとばかりにみんなの足が速くなった。おそらくみんな花火が綺麗に見える場所に行くんだろう。それは友達なのか恋人なのか家族なのかは分からないけど、その一瞬は何にも変え難い奇跡のような一時になる。きっと夏の花火にはそういう効果がある

 

私も向かおう。秘密の場所に。人混みから離れた私たちだけの場所に

 

 

 

 

………

 

……

 

 

 

 

 

その瞬間は目を疑った

 

 

いや今までの言動を示し合わせれば多分そうなんだろうけどきっとそうであって欲しくないと願っていたから。1人で祭りに来たことも2人に“同じ理由”で断られたこともそうだ。わたしは考えたくなかったんだ。いや現実から目を逸らしていただけかもしれないけど…

 

 

 

 

 

でもどうして…銀くんと曜ちゃんが恋人繋ぎで歩いているのをわたしは見てしまったのだろう…どうして…見たかった訳でもない光景をわたしは見てしまうのだろう…そんな見つめ合っている2人を前にわたしは動けずにいた。身体に力が入らず、視界はぐるぐると歪んでいた。考えることも出来ずただ立ち尽くすだけ

 

 

 

 

いつぞやに幼馴染は負けフラグなんて言葉を聞いたような気がする。フラグという言葉の意味はよく分からないけど、ヒロインとして幼馴染は負けやすい。もしくは当て馬にされやすいということらしい。確かそんなことを善子ちゃんから聞いたような覚えがある。それなら幼馴染に負けた幼馴染というのは果たしてなんと言えばいいのだろうか。いやそもそも勝ち目があるなんて思ったこともないんだけど、もし恋愛に勝ち負けがあるんだとしたらきっとわたしは負けている。いやいまならきっと負けたというべきかな

 

 

「何やってんだろわたし…」

 

 

白染の袖にぽつりと雨がひとつ。それはじんわりと広がって私の浴衣を染めてゆく。頬にもひとつ雨粒が落ちた。声にも出せないような無情さが胸を埋めつくし、今にも張り裂けそうになる。涙を流すのを堪えたいから目を覆った。着付けてもらった浴衣が乱れることなんて考えず丁寧に梳かしてもらった髪型が崩れることだって構いもせず、ただこのやるせなさに蹂躙された。

 

 

 

『勝てるわけないのに』

 

 

違う。曜ちゃんはそんなこと言わない…

 

 

『お前じゃ曜には勝てない』

 

 

違…う。銀くんは…

 

 

そんなこと…2人は言わない。だからこそふたりは完璧で隙がなくてみんなから慕われる。だから…だから…2人は結ばれたんだ。わたしが付け入る隙なんてなかった…そう思えるくらい

 

 

「本日の花火は雨天により────」

 

 

みんな傘をさしてこの場所をあとにしていく。夜店の明かりも消え始め、花火を見ることなく祭りは終わった。ただ暗い夜の浜辺で一人…胸を焦がし尽くすほどの想いが冷たい雨によって急速に冷まされていく

 

 

 

 

……

 

もし銀くんと本気で向き合って、曜ちゃんとも対峙していれば、少しは変わったのかな…それでもしわたしが選ばれるようなことがあれば逆の立場だったのかな…。なんてこれ以上は考えても無駄だよね…変えたい未来というのは変わらず、きっとこのまま。わたしはすこしでも涙を堪えたくて目を指でぐっ押さえた。黒い空から降りしきる雨粒に逆らうようにわたしはひとつ言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「大好きだから…きっとだいじょう…ぶ」

 

 

 

星一つない曇天からは大粒の雨が落ち涙とともにわたしの顔を濡らしていた。こんなに…こんなに辛い思いをするなら思い出なんて消えてしまえばいいのに…

 

 

 

 

 

だからこそきっとこの言葉を言うのは最初で最後。

 

 

 

 

銀くん。曜ちゃん。わたしはふたりのことがだいすきでした…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千歌ちゃん推しの人ごめんなさい


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黒澤銀と温泉合宿

投稿期間もだいぶ空いてますし、結構前に受けたリクエストをようやく書き終えました。もう次からは多分リクは受け付けない思います


──────

 

マンネリという言葉がある。まあそれは“同じこと”に飽きてしまうことだ。つまり何が言いたいのかと言うと…

 

 

「何か別の温泉にでも行くか」

 

隣の女風呂に聞こえるように大きく響く声を出した。ここの湯に浸かって満天の星に湯煙が登っていく光景はなんというか“いつもと同じ”光景だった。気分転換に一緒に入ってくんね?ってルビィに聞いたらみんながいるから普通にダメって言われた。少しくらい迷ってくれてもいいじゃん…お兄ちゃん寂しいよ

 

「えぇーぎんくんうちの温泉に飽きたって言うの?」

 

「嫌ちげぇよ。たまには違うとこ入りたいなって思っただけだ」

 

「それ飽きてるじゃん!!」

 

うまく意図を隠したつもりだったけど意外とそういうのに聡い千歌にバレた。いつもはあんぽんたんなのになんでこういう時だけ鋭いんだよ

 

「じゃあ合宿も兼ねて行くのはどう?」

 

「えぇそれなら温泉に行くという理由も通りますわね」

 

あれ?千歌は反対してたけどなんか結構行けそうな雰囲気じゃね?やっぱみんな飽き…「いやいやリーダーとして断固反対だよ!うちでいいじゃん!」

 

「よし!こういうときは多数決だ!俺は賛成!」

 

「ルビィも合宿行きたい!」

 

「マルも賛成ずら」

 

「ふっこのヨハネは皆とは常に逆の…「というか千歌ちゃん以外全員賛成じゃ…」 サイゴマデイワセナサイヨ!

 

「り、梨子ちゃんは味方だよね…」

 

「ごめん…私も賛成かなぁ…」

 

「これがし、しめんそか…」

 

「言っておきますが桶狭間の戦いのような少数の軍勢が大群に勝つというのは本当に稀有なのですわ」

 

「そうそう数こそ力ってこと」

 

「oh!power of justiceね!」

 

「んむぅ…仕方ない…がっしゅくだぁ!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 

……

 

 

「なにしてんの」

 

風呂から上がってさあゆっくりしようと思ったらみんな拝んだり腕の筋肉伸ばしてるし訳が分からない

 

「じゃんけんですわ」

 

「何の」

 

「銀の後ろに乗る人のですわ。8人乗りの車をチャーターしても1人は余ってしまいますから」

 

え?2人乗りするってことか?乗せるっていったって確かに中型のバイク免許持ってるけどそれはあくまで身分証明書代わりにとったやつだからな…まじで心配も心配なんですけど…

 

 

「で、そのじゃんけんで負けたヤツが俺の後ろってことか」

 

「いえ勝った人ですが」

 

「?」

 

「?」

 

わけがわからないよ

 

「まあいいけどさ…なんでそれで鞠莉ねぇがむくれてるんだ」

 

 

「免許持ってるから自動的に鞠莉ちゃんは運転手なの」

 

「やだやだ!私もシーちゃんの後ろに乗って抱きつきたい!」

 

「仕方ないじゃん…免許持ちは鞠莉しか居ないんだから」

 

「それなら果南運転変わってよぉ!船の免許あるじゃない!」

 

「海の移動ならいいけど船の免許で車を運転したら無免許で捕まるって…」

 

鞠莉ねぇは足をバタバタして駄々っ子みたいなことしてるし果南ねぇはそれを見て呆れ顔だし…でもさっき姉ちゃんが言ってた話を要約すると、ジャンケンで負けて俺の後ろに行かされるとなんだかそれは罰ゲームみたいだから勝った人にしようって話らしい。

 

まあそれを当の本人に伝えられるととても傷つくんですけどね。ちなみにそれを聞いてからなんなら俺の後ろはルビィでもいいよって言ったら“みんな平等だから”ってすごい渋い顔された。俺は泣いた

 

 

「こほん!それでは仕切り直して…いきますわよ」

 

「「「「「じゃんけん!」」」」」

 

 

 

「「「「ぽん!」」」」

 

 

自称罰ゲームジャンケンじゃない罰ゲームじゃんけんの勝者は…

 

 

 

 

 

「か、勝ちましたわ…この手のじゃんけんはいつも縁がなくおわっていましたのに…」

 

 

「ん?姉ちゃんが勝ったのか?まあその方が収まり良いから助かるんだけど」

 

どうも姉ちゃんらしかった。家族だったら気兼ねなく抱きつけるし、むしろ姉ちゃんが勝って良かったと思う。仮に誰かが勝って後ろに乗ったとして裾しかつまんでくれなかったらあまりの心の距離に俺のヘルメットが涙で埋まるからな…

 

 

──────

 

「それじゃあれっつごー!」

 

既に合宿先に荷物を送り、軽い手荷物だけを持って車へと乗り込む一行。

 

 

「はい姉ちゃん。ヘルメット被って」

 

「…?これでは背中に頬を当てられませんが…?走行中に爽やかな写真も撮ることが出来ないのですが!?」

 

「そりゃあフルフェイスだからな」

 

「2人乗りは絵になると聞いた事ありますのに…」

 

「一応姉ちゃんの安全を考えてのことだから諦めてくれ」

 

「……そう言われてはいた仕方ありません」

 

「じゃあ行くからしっかり掴まってなよ」

 

スターターを入れアクセルを回すと腹の底に響く重低音が鳴り響いた。俺はその久しぶりの感触を確かめるようにクラッチを握ってギアを入れアクセルを回した

 

「えぇしっかりとですわね」

 

そうしっかりと抱きつかれている。その白くて細い姉ちゃんの細腕さえ俺の身体に巻き付けばもうクッションのように思えてしまう。女の子の身体は水枕のように柔らかいと例えた偉人を手放しで褒めたいくらいだ

 

ふふっ大きい背中

 

「え?なんか言った?」

 

「なんでもありませんわ!ふふふっ」

 

 

 

─────

 

「ついたぁ!」

 

「近くに見えてるのに結構かかるのね」

 

「山中湖うっ…なんだか頭が痛いずら…」

 

「花丸ちゃん大丈夫?高山病かなぁ?」

 

「そんなわけないでしょ!ここは麓も麓よ!」

 

「うぅ…運転しんどいかったわ…ご褒美としてシーちゃんのハグが欲しい」

 

「はいはいさっさと行くよ鞠莉」

 

 

 

「姉ちゃん着いたぞ」

 

「…」

 

「着いたけど」

 

「しーん」

 

「なんでSEを口で言うんだ…ほら支えてるから早く降りて」

 

「…仕方ありませんわね」

 

「なんで俺に非があるみたいな言い方なの…」

 

溜息をつきながら旅館に足を踏み入れた。香る木の匂いが今までの疲労を吹き飛ばしてくれるようでとても心地いい。でもみんなの荷物をもってるから現在進行形で疲れてるんだけどな!

 

……

 

 

ついてからの練習も一段落してみんなは山にトレーニングがてらの散策に行ってしまった。ここに残っているのはハードなトレーニングでグロッキーになっている花丸と何やら話があると言っていたルビィだけだ。

 

「で話ってなんだルビィ」

 

「今日の深夜に2人だけでお風呂に入ろ?」

 

「前はみんないるからヤダって言ってたのに」

 

「みんなといるとお兄ちゃんに甘えられないから…せめてそういうことだけでも家族としてのスキンシップがしたいなって思って…」

 

「あぁそれなら全然いいけど、11時くらいでいいか?」

 

「うん。待ってるからね」

 

 

壁に耳あり障子に目あり。こういった2人だけの秘密というのはどうも漏れやすい。俺が想定していた光景と目の前に広がっている光景は随分と違っているように見えた

 

 

「なにここ女風呂?」

 

「いいえ混浴ですが?」

 

「では何故姉ちゃんがここにいるんですの?」

 

本当になんでいるのかわからない。ちょっと待ってくれこれが夢説が濃厚すぎる。仮に夢だとしたら朝の俺今日だけは早く起きてくれ。あまりにここは危険すぎる

 

「それは混浴をしにきたからですわ。2人きりで、と聞きましたが」

 

「なんで知ってるんだ」

 

「かべにめありしょうじにみみあり。ふっ…内緒話はバレやすいんだよ銀くん!」

 

「千歌ちゃん…それ逆だよ」

 

「あはは女の子はこそこそ話には耳聰いからね」

 

なんだろう。ここは男子ならば垂涎の光景のはずなのに俺はいま背中に冷や汗を浮かべている。あれおかしいな千歌の家の時は俺もあっちに行って騒ぎたいなと1人寂しく思ってたのに今はその孤独が恋しくてたまらない。少なくともプールとか海とかとは段違いの空間であることは分かる。これはだからこその奇妙さだろう

 

「ねむいずらぁ」

 

「ちょっとずら丸ってば自分で立ちなさいよ!あぁもうそんなふらふらしたらタオルがズレるでしょうが!」

 

「今夜は寝れないpartynightよ!」

 

「やることはお風呂に入るだけだけどね鞠莉。だからあまり騒がないでよ」

 

 

「…夢だな」

 

そうだこれは夢なんだ。おれは今、夢を見ているんだ。目が覚めた時姉ちゃんが般若の形相でこっちを見てて、とりあえず謝りながら寝ぼけまなこで朝ご飯を食べて、この世の天使のルビィと登校するんだ。そうだ目が覚「夢じゃないよお兄ちゃん」

 

「やっぱりか…ルビィたしか2人だけって言ってなかった?」

 

「えへへそれだと“平等”じゃないでしょ?だからね…てへっ」

 

「かわいいがすぎる」

 

そんなこと言ったってな…俺だって全員とだったら考え直してたかもしれないのに

 

「本音と建前が逆になってますわよ銀」

 

 

「…ったくとりあえず湯を頭から被って目を覚ますわ」

 

心頭滅却すれば火もまた涼し。心を無にすれば目の前の桃源郷も男湯に大変身だ。そしたら何も考える必要が無い

 

「あ、銀くんそれは」

 

置かれてある桶を持ってきてお湯をめいっぱい掬いとった。それを頭から振り下ろすようにしてひっくり返した。

 

 

「熱っっっつ!」

 

あまりの熱さにのたうち回った。身体が燃え上がるかのような熱さに目が覚めた。ただしあまりに痛すぎて言葉が出ない

 

「かけ湯じゃなくて温泉たまご用のお湯だよ…」

 

そりゃ熱いわけだ。ご丁寧に注意喚起まで書かれてるのに全然気が付かなかった。やっぱ思い込みって怖い。まあこれは単なる凡ミスだけど

 

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「あぁなんとかな」

 

ふらふらとしながら立ち上がった。ルビィの前であまりゴロゴロ転がるのを見せたくないし 。できるだけピンピンしとかないと兄のメンツってのがあるからな

 

 

「というかわざわざ注意書きまで書いてあるのに間違えるバカがどこにいるのよ」

 

「うるせぇそこの冷水まるごとぶっかけるぞ」

 

今の俺は頭が沸騰してるからな。怒らせるとそれはもう怖いぜ?冷水をみずしゅりけんにして飛ばすくらいはできるかもしれないぞ

 

「はぁん!?やれるもんならやってみなさいよ!」

 

「zzz」ピトッ

 

あまりに熱くなった俺にひんやりとした水饅頭のような感触。ふと下を見ると目をつぶった天使がいた。あぁなるほどここが天国か

 

「んな!?ちょっとずら丸どこにくっついてんのよ」

 

「ふわぁ…どこって善子ちゃ…」

 

「いや大丈夫か花丸俺だぞ」

 

「…………じゅらぁぁ!?ぎ、銀くん!?」

 

 

「悪いな花丸、眠いだろ?もういつもなら寝てる時間だろうに」

 

「え、いやべ、別にいいんだけど…」

 

ゆでダコのように赤くなった顔をぶんぶんと振りながら頬をパンパンと叩いていた。それは多分起きようとしてのことなんだろう。なんて健気なんだろうか…目の前の性悪堕天使にはぜひ見習ってもらいたいレベルだ

 

「んもぅ!せっかくの温泉なんだから銀くん早くこっちに来てよ!」

 

「はいはい今から行くから」

 

 

少し気恥しさも交えた声で千歌にそう話した。この露天風呂から富士山の山肌に湯煙が登っていく光景はなんというか新鮮な光景だった。ただひたすらに楽しいと思えるそんな時間で「あと内緒話の罰で銀は全員の体をマッサージの刑だからね」

 

「…はい」

 

 

 

いい雰囲気を味わおうとしたのもつかの間。果南ねぇ裁判長に刑を言い渡され上がったあと1人10分間計90分マッサージさせられた。女の子の身体は水枕のように柔らかいと先人は例えたけどその水枕を力加減をめっちゃ気をつけてマッサージするのは死ぬほどしんどいということを俺は後世に伝えていきたいと思う

 

 



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虹ヶ咲 トクベツな感情 前編

マジ繁忙期なので雑です。後編の投稿はいまのところ未定

小説というかSSに近い感じです


──────

 

スクールアイドル。周りをときめかせることの出来る特別な存在。私とはとても似ても似つかないもの

 

 

そういうコンプレックスというのはきっと誰しにもあるものだと思う。それは劣っていたりあるいは過剰だったりして人の目を集めやすいからコンプレックスというのだと思う。そうだとしたら私のこの平均値とも言える性格からなにまでを一体何で例えたらいいんだろう

 

勉強もそれなりで運動もそれなりで趣味や特技が特筆しているわけでもなく、料理が少し出来るのとスマホゲー厶を多少嗜むくらいしか取り柄のない女の子。人はそれを“普通”と呼ぶ。1位と最下位は人の目を集めやすいけど真ん中に目を向ける人はいない。

 

 

私ってなんだろう。私に出来ることって…

 

……

 

 

「強化委員?」

 

 

「そうなんです!全国のスクールアイドル部の中で特に成績の素晴らしいグループの中から選ばれて、所謂発展途上のグループを指導してくれる制度なんです!それがうちに来るなんてもう!凄いですよね!」

 

「せつ菜ちゃんなんだかテンションが凄いね…」

 

「それはもう卍の二乗のテンアゲです!」

 

「テンションが高すぎて愛ちゃんみたいになってる…それでどんな人がくるの?」

 

「それがどうもAqoursのマネージャーさんらしくてですね」

 

「マネージャーさん?」

 

「えぇ歩夢さんも1度あってみてください。きっといいアドバイスを聞けると思いますよ」

 

………

 

……

 

 

「でなんだ。普通なことに悩んでるって?」

 

「なんというか私って取り柄がないなって」

 

「そういう相談前にも受けた気がするぞ…いやというかお前は普通にかわいいだろ」

 

「可愛い…って言ってもらうのは嬉しいんですけど“普通”じゃダメなんです!もっとこう色が欲しいというか。私ってこう他のみんなに例えたら水みたい無色透明みたいだなって」

 

「…?それっていいことじゃないのか?」

 

「え?」

 

「他の人を色んなジュースに例えてるんだろ?その中で水があったらそれはそれで目立つんじゃないのか」

 

「じゃあ聞きますけどあなたはこの虹ヶ咲で誰がいちばん魅力的に見えたんですか?」

 

「朝香果林さんだけど」

 

「ほら!」

 

 

「…やべぇつい嘘のつけない性格が出てしまった」

 

「みんな果林さんみたいな美人さんに惹かれるんですよ!だから私ももっとアピール出来るポイントが欲しいんです!」

 

「と言っても雰囲気とかは一朝一夕で身につくものじゃないし…」

 

「それなら私もオフショルダーと短パンで…!セクシーに…」

 

「やめとけ同じ土俵に乗るだけだぞ」

 

 

「それなら私はどうすれば…」

 

「あ、せんぱーい…お、お邪魔しました」

 

「待ってかすみちゃん!多分誤解してるよ!この人は…」

 

「彼氏さんですか?」

 

 

「絶対そう勘違いしてると思った。違うよ…聞いてるでしょ?強化委員のこと」

 

「ということはこの人は!Aqoursのマネージャーさんですか?あのルビィちゃ…さんの兄の黒澤銀さんということでしょうか?」

 

 

「ん?もしかして中須かすみか?」

 

「え?どうしてその黒澤さんはこのかすみんの名前が分かったんですか…?いくら可愛さの権化の私とはいえ顔をそんなに知られてる訳でもないですし、もしかしてさっきの話は嘘でやっぱりストーカー?」

 

「んなわけあるか!ここに来るまでに全員のプロフィールに目を通してきてるんだよ。というか兄妹がいるから俺は基本下の名前で呼び捨てにしてくれ」

 

 

「お姉さんと妹さんもスクールアイドルですもんね…では銀先輩とお呼びします。そっかぁでもあのAqoursの人に指導してもらえるなんて夢見たいです。スクールアイドルは結構見てる方なんですけど特にルビィちゃんの可愛さなんてもう何度悶えたことか」

 

 

「分かる。というかルビィの可愛さが分かるなんてお前はなんてわかってるやつなんだ。もう感心した!」

 

 

「えっ…とよく分からないんだけどAqoursの中に兄妹がいるってこと?」

 

「えぇそうなんですよ!ってなんだかお話のお邪魔してます?」

 

 

「いやいや私が普通なキャラだからっていう相談してただけだよ。気にしないで」

 

「え、先輩が普通ならほかの女の子はなんて表したらいいんですか。普通に可愛いですよ先輩は」

 

「いやだから“普通”にかわいいじゃなくてもっとキャラが欲しいというか…なんというか…」

 

「そうですねぇ…まあかすみんは天性の可愛さがあったのでなかなかそういう悩みというのが…」

 

 

「ちなみにこういうのはウザカワって言うんだぞ。一種のキャラだから覚えておくといい」

 

「あぁもうかすみんのこと銀先輩ってばウザイって言わないでくださいよ!まあ可愛いっていうのは事実ですけど…あ!でも歩夢先輩は確かお料理できましたよね?それがアピールポイントになるんじゃないですか?」

 

「それがうちには眠りの料理人がいるから…」

 

「あっ…彼方先輩ですか…すごいですもんねあの人」

 

「呼ばれてとび出て彼方ちゃんさんじょー」

 

 

 

「あ、彼方先輩!ちょうど先輩の話を…「おやすみ〜zzz」

 

 

「ちょっ…先輩!はたから見たら抱きついてるように見えちゃうのに何で初対面の人にもたれ掛かるんですか!」

 

 

「んぅ…何だかこの人は敵な気がしないな〜って」

 

 

「え?おふたりはお知り合いなんですか?」

 

 

「そういえば…全然初対面なんだけどうーん…フィーリング?」

 

 

「二人の間に共通点でもあるのかな?」

 

 

「近江彼方。得意なことは料理で寝ることが好き。あと備考欄に妹の遥が大好きと書いてあった」

 

「ちなみにぎ、銀くんはお料理が得意なの?」

 

「いいや全然」

 

「じゃあ寝ることが好き?」

 

「寝覚めは悪いけど好きではないな」

 

「じゃ、じゃあ妹が…」

 

「まあ好き…と言えば大好きかな」

 

 

「そりゃあ彼方先輩も親近感がわくはずです…」

 

「妹同盟…!」

 

「ここに結成だな」

 

「なんで固い握手をしてるんですか…しかも同盟の内容が妹を可愛がるのに情熱を燃やすってところがあまりに悲しすぎます…過去の色んな同盟に謝って欲しいレベルですよ…」

 

 

「ついでに立ち抱き枕にもなって欲しい」

 

 

「なんだそれ」

 

「たってる時に寝れるように抱きつける枕係。あなたは背が高いからちょうどいい」

 

「あぁ彼方さん…?俺名前銀っていうから呼び捨てにしてくれ。あなたって呼ばれると距離感じるからさ」

 

 

「じゃあこれから銀は彼方ちゃんのだきまくらにけってー!」

 

「いやならねぇよ!俺は妹の抱き枕以外はならないって決めてんだ」

 

「じゃあこれから私の妹にします」

 

「俺男」

 

「じゃあおとうとに」

 

「ダメだこいつ……俺が会ってきた姉のタイプと違いすぎて扱いがわかんねぇ…」

 

「zzz…」

 

「抱きついてないで起きろ彼方!」

 

 

「私たちは何を見せられてるのかな…」

 

「まああれが強化委員の仕事なんでしょう…」

 

……

 

 

お風呂から上がって勉強机に座った。今日の課題と明日の予習が終わる頃にはお風呂で帯びた熱も少し過ぎ去っていて夜の時間の経過を感じさせてくれる。あとはベッドの上でスマホをいじって明日に備える。さあさて今からスマホのゲームを触ろうとした時メッセージ音がピロリと鳴った

 

 

 

 

『夜分にすまん。昼間はあまり相談に乗れなくて悪かったな』

 

『いやいや全然大丈夫だよ』

 

『…歩夢のその謙遜はいいところであり悪いところだな。うちにも謙遜の達人がいるけどたまに心配になるからさ』

 

『もう少し遠慮しない方がいいってこと?』

 

『遠慮…というか。したいことをするって言うある種人間の根幹の感情をもっと押し出すってところかな。本能と理性のバランスだよ』

 

『うーん難しい(>_<)』

 

『まあ歩夢はともかくほかの連中はもっと理性がいるな…今日はあれから別れて地獄を見たんだよ』

 

『ふーんどんなことがあったの?』

 

『エマとは天然で話が噛み合わないし果林にもからかわれるし璃奈も愛も大くせ者だしまともなのしずくくらいだったわ…』

 

『へーそうなんだ』

 

『あーまあなんだ。自分のこと卑下しないでむしろあの集団をまとめられるのは歩夢しかいないって自信もって欲しいってことを伝えたかったんだ。それより時間とらせて悪かったな。おやすみ』

 

『うん、おやすみ。また明日』

 

 

昼は私自分のことを無色透明だと思ってた。でもあなたと出会ってきっと私の色が何色かわかった気がする。きっと私の色は…

 

 

 

 

 

 




すうぅぅ…歩夢さんスクスタでイメージ変わりすぎでしょ…もっと清純派幼馴染だと思ってました。違いました。ヤンデレでした。こわい。


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虹ヶ咲 アルイはトクイな感情 後編

ということで今回は恋愛要素を限りなく薄くしてみました。また書くことがあれば濃くするかもしれません


──────

 

睡眠マンから命からがら逃げ出した先にいたのはぽわぽわオーラ全開の不思議少女だった。なんだこれは…RPGの敵でももう少しマシなのが出てくるぞ…

 

 

 

「わぉ草木の間からこんにちは」

 

 

「どうも…君はエマヴェルデだな」

 

 

「わぁ何で私の名前知ってるんですか?もしかして魔法?」

首をコテっと傾げる仕草はまるでわかっていないという表情。あるいは理解していないと言うべきか…

 

「違う…強化委員の話って聞いてないか?」

 

「おぉ〜教会員さん?うーん思い当たるのはキリスト教かなぁ?」

 

「違う“強化”委員だ!さっき思ったけど誰1人話が通ってないのか何これドッキリ?」

 

「あ!そういえばかすみちゃんがとても嬉しそうに話してたのってそれなのかなぁ?」

 

「あーうん多分それだからそれにしよう」

 

「でも私日本に来たのも最近だしまだスクールアイドル始めたばかりだから、他のグループ?っていうのが全然わからないんだぁ。強化委員のあなたが教えてくれるの?」

 

「ああ俺にできる範囲なら何でも…っておっとそういや自己紹介がまだだったか。俺の名前は黒澤銀。スクールアイドルの兄妹がいるから下の名前で呼んでもらっていいか?」

 

「じゃあ銀くんだねぇ〜私もエマでいいよ。フレンドリーにこれからよろしくね!」

 

しかし鞠莉ねぇくらいタッパがあるから少し不思議な感覚になるな。周りの子はもう少し低いから、これくらいの位置に頭あるのは珍しいし

 

「…えっとスクールアイドルの何かを教えるんだったか。何が知りたい?」

 

「ラブライブでゆーしょうするにはどうしたらいいのかな?」

 

「…ぶっちゃけレベルがダンチ過ぎてビビったわ。もっと軽いレベルのやつかと思ったよ…」

 

「…?」

 

「日本に来て浅いならスクールアイドルについてはあまり知らないってことだな。それならきっと甲子園に例えてもあまり分からないだろうから…えっとエマの出身はどこだったっけ?」

 

「緑の豊かなスイスだよ〜」

 

「スイスか。それなら…おそらくスクールアイドルというのはそっちのスイス時計に匹敵するくらいの知名度だろうな。自国においてその名前を知らないものはいないし、文化・カルチャーの1部になっていると言ってもいい。加えてラブライブ優勝というブランドはその学校の一大ステータスと言ってもいいレベルなんだ。実際ある高校は優勝したことによって廃校を救ったくらいだからな。当然生半可な気持ちじゃ成し遂げられないと分かるだろ?」

 

「…?」

 

「いやなんでわかんねぇんだよ」

 

「だって私たち生半可な気持ちでスクールアイドルやってないもん」

 

ふわふわとした雰囲気からは想像できないほどの言葉が俺を貫いた。そう、負けとか勝ちとか成績が優秀だとかに関係なくきっと全国のスクールアイドルはこういう気持ちでアイドル活動に望んでいる。そう喉元に刃が当たっているかもしれないという気持ちで望まなければいつ寝首をかかれるか分からないのだ

 

 

「そうか…それならきっと俺から言うことはないのかもしれないな」

 

「…?」

 

「いやだからなんで分かんねぇんだよ」

 

ダメだこいつ…早くなんとかしないととんでもないことになる気がする。いやそもそも絡むことなんてこれっきりな訳だけど

 

──────

 

「璃奈ちゃんボード[(¬、¬) アヤシイ]」

 

「はい?」

 

見下げてみればちっさい少女が俺を怪しいとばかりに指さしていた。この身長の感じならルビィと同じくらいかそれより小さいくらいだろう

 

「愛さん警察がりなりーのピンチに駆けつけた!」

 

「は?」

 

「この人虹ヶ咲の制服じゃない」

 

「でも制服は着てるよ?どこかの高校生かな?」

 

顔を紙で隠してる女の子に俺怪しいって言われたんだけど、なんだろうか言葉にできない理不尽さを感じてるんだが?ブーメランって言葉知ってる?

 

そんでもってさっきふらっと現れたもう片方の子はギャルっぽい見た目で、まあギャルだなって感じ。と言ってもメイクが物凄く濃い訳ではなく本当に顔が綺麗なんだなというのは何となく感じ取れた

 

「今日何回も言ったけど強化委員って知ってる?」

 

「お!そういえば今日がそうだったね。つまり愛さんたちを指導してくれる人ってことだ!いぇーい!指導が始動なんてね!」

 

「璃奈ちゃんボード[寒い:;((>﹏<๑));:]」

 

「えぇ〜渾身のダジャレだったのに!」

 

すごい綺麗な顔立ちしてるのにダジャレ連発するからイメージが250度くらい転回してんだけど…もしかしてこの学園にはまともな人間がいないのか…?

 

「とりあえず名前だけ控えておく」

 

「いやだから犯人扱いやめて」

 

「確か黒澤銀くんでしょ?せっつーがこないだ話してたし。うーん私は愛って下の名前でいいからシルバーブラック略してシルブラって呼んでいい?」

 

「待ってあだ名が特殊すぎるだろ…せめてもっと普通にしてくれ」

 

「えぇーかっこいいし結構いいとおもったんだけどなぁ…じゃあ仕方ないし普通に名前で呼ぶね!」

 

「うん絶対にそうしてくれた方がいい」

 

「天王寺璃奈。私は愛さんと違って天王寺様と呼ぶことをしょもうしゅる…忘れて」

 

「あぁ分かったよ天王寺しゃま」

 

「璃奈ちゃんボード[۹(◦`H´◦)۶プンスカ!]…忘れる条件として私も下の名前でいい。だから忘れて」

 

 

顔は見えないけれど少し耳が赤いのが見えた。感情を出すのが苦手でもきっとこうしてお互いが深くコミュニケーションを取ろうとすれば2人の心を通わせるのは難しくないはずだ。

 

 

 

─────

 

とても忙しいとのことで俺達は今、果林の事務所に向かいながら話をしていた。こうして歩きながら話をしないといけないあたり現役モデルの果林は放課後もすぐ仕事というのがよくあることらしい。ちなみに美人過ぎて緊張しながら朝香さんって呼んでたら下の名前でいいわよって言ってくれた。優しい

 

 

「セクシー系スクールアイドルってどうなの?」

 

「どうっていうのはあれだけど自分でそれを言うのか…」

 

「ふふっ自分で言うのもなんだけど私は自分に自信があるの」

 

「ま、それは分かるけど」

 

 

「例えばキミみたいな子とかには1番私の魅力を分かってほしいんだけど…」

 

グッと詰め寄られると自分の心臓がドキリとはねるのが分かる。透き通るような碧眼に少しウェーブがかった髪。そして自分で言ってる通りの完璧なスタイルに年上特有の余裕ある雰囲気がもう俺の弱点全てを突いているのがわかる。でもまあ美人だから仕方な「それも強化委員のお仕事?銀くん」

 

凛と響く百合のような美しい声。あーこれも弱点なんだよなぁ…さっきのと合わせて俺の弱点もう10個以上あるんじゃないかって言うかその声……

 

「梨子…さん?」

 

「お疲れ様。銀くん」

 

なんて美しい笑顔なんでしょうか。感嘆する他無いほどの満面の笑み。だけど俺からしたらものすごく怖い。そういや梨子は音の木坂の担当だったか…まさか鉢合わせることなんて考えてなかったな…

 

「あら…あなたがたまげるくらい美人すぎるって話してた例の子?」

 

「いや事実だけど本人の前で言わないで」

 

ほらそういうのって2人だけの秘密って相場が決まってるじゃん。なんでいきなり市場を崩壊させちゃうの?俺の株価が暴落寸前なんですけど…

 

「ぶっちゃけると彼女なの?」

 

「そんなわけないでしょう…ほらそんなこと言うから梨子の目がつり上がってるじゃないですか…」

 

「ふふっずいぶん近いね?距離」

 

「…はいすいません」

 

目元をひくつかせた笑顔で言われたので少し離れた。ただひたすらに怖い

 

ふふっ少し遊んじゃおうかなぁ

 

「え?果林なんか言っ「ごめんね?私たちこれからイケナイコトするから…ね?」

 

そう言ってまた体を寄せられるやいなや果林に腕の当たりをそっと撫でられた。あまりのくすぐったさにぐふっと変な声が出てしまう

 

「イ、イケナイコト!?そ、それってつまり…」

 

「えぇ2人だけのイケナイコト」

 

「…ちなみにどんなことをするんです?」

 

「え?そ、それはもうイケナイコトよ」

 

「…もしかして“そういうこと”を知らないんじゃ…それはもうぶっちゃけると処…「んなっ!?んてこと言うの!それ言うならあなたもどうせ処…でしょ!?」

 

「銀くんの前でなんてこと言うんですか!確かに処…ですけど。と、とにかくイケナイコトをするんでしたら私が借りていきますから!」

 

 

「え?ちょっと待って俺の意見は?」

 

「ありません!」

 

 

「…はい」

腕を組まれて連行された。なんだろうこの結末。これじゃあ沼津にいる時と何一つ変わってない気がするんですけど…あぁ果林が夕陽と共に遠のいていく…

 

 

 

「最近はああいうぐいぐい来る子が好みなのかしらね。これでも私は自分に自信があったんだけど…」

 

 

 

セッキョウコワイ。デモオレワルクナイ。ナンデ…

 

──────

 

夜更け前の生徒会室には明かりがともされそこにうごく影がひとつだけぽつりとあった。そのじんぶつに心当たりしかない俺はその部屋のドアを軽い怒りの気持ちで開けたのだった

 

 

「中川ァ!!」

 

「ひゃあ!な、なんですか!」

 

メガネにお下げの虹ヶ咲学園生徒会長。名を中川菜々という。ルビィと同じくらいの小さな身体でこれだけの重みを背負っているのはある種尊敬に値するレベルだ。でも色々暴露できる秘密を浅い関係ながら滅茶苦茶持ってるんだけどそれはこの際黙っておく

 

「お前強化委員の話本当にみんなに周知したんだろうな…?」

 

「え?それならきちんと話しましたよ?今度来るAqoursというグループの魅力や素晴らしさについて軽く2時間は語ったつもりです!後半の方はみなさんほぼほぼ寝ていらっしゃいましたが…」

 

「いやAqoursの説明はいいけど強化委員のシステムについては?」

 

「え?あ…あはは」

 

元気満点の笑顔…よりはるかに遠い乾ききった笑いでばつが悪そうにしている。俺は色々と察した

 

「してないんだな?」

 

「うぅ…はい」

 

「はぁ…どうりでみんな“そんな話をされた気がする”みたいなスタンスなわけだ…」

 

強化委員?あぁそういえばそんな話も聞いた気がするよHAHAHA!みたいな感じだったからな…俺がアウェイすぎる

 

「すみません…つい熱が入って」

 

「いやいいよ別にそんな怒りに来たわけじゃねぇし…それよりその片付けとかは俺がやっとくから菜々は事務処理を早く終わらせな」

 

あ、すいません。ありがとうございます

 

「すいませーん。部室の鍵を返しに来たんですけど」

 

「あら…しずくさんこんばんは。後でお預かりするので鍵はそこに置いておいてください」

 

それは一瞬。俺の目の前を横切った少女に目を奪われた。いやそういう瞬間はこれまでに何度かあったんだけど今回は格が違った。それはまるで自らの運命の人に出会ったかのようなそんな衝撃

 

「『理想のヒロイン』とはよく言ったもんだな…」

 

「こんばんは…あ、もしかしてあの指導をされる方ですか?」

 

「うんその指導をする人。全然