ドラえもん のび太の幻想郷冒険記 (滄海)
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プロローグ その1

ドラえもんのひみつ道具ってさ、全部ではないにしても幻想郷のキャラクターの「〇〇する程度の能力」を機械化、携行可能にしたものなんじゃね?
と言う発想から考えてみた作品です。

そもそも大長編ドラえもんが幻想郷の冒険みたいなものだったし……。


「ド、ラ、え、も~ん!!」

 

セミの声が賑やかになってきたとある日、時期はそろそろ夏休みも7月が終わろうかと言う頃に、お馴染みの声が町内に響き渡った。

今この瞬間だけなら学校の運動会でも1位になれそうな速さでのび太は自宅まで走り、その速さを殺す事無く玄関を勢いよく開け放ち、

即座に靴を器用に脱ぎ散らかし、ママの『廊下を走っちゃいけません』の叱咤も無視して階段を一気に駆け上る。

階段を駆け上った先、自室のふすまを開けて……長かったレースのゴール、と言う訳では無く今日も今日とて

日課のように自室でお茶とどら焼きを食べているであろう青ダヌキ、もとい22世紀のネコ型ロボットである親友の名を再び口にする。

 

「ねえ、ドラえもん。どこでもドア出してよ……って、ドラミちゃんじゃない。一体どうしたの?」

「あ、のび太くん。……じ、実はね……」

 

しかしのび太の予想に反して、ドラえもんはどら焼きを食べてはいなかった。

どら焼きを食べていないどころか、唐草模様の風呂敷に色々な荷物を入れてその恰好は夜逃げか、はたまた泥棒をして逃げる準備をしているかのようだ。

おまけにその傍らには全身黄色で真っ赤なリボン、ドラえもんの兄妹であるドラミちゃんまでいるのだから珍しい。

基本的にドラミちゃんは22世紀で暮らしていて、ドラえもんに用事がある時、もしくはドラえもんが呼んだ時にしか現代にはやって来ないのだ。

そのドラミちゃんがここに来ていると言う事は……? ドラえもんの道具を頼ろうと勢いよく部屋に駆け込んだものの、

ドラミちゃんの存在にすっかりそんな事も忘れてのび太の脳裏に最悪の想像が展開される。

 

 

『ドラえもんが未来に帰る』

 

 

……実際、以前にもドラえもんは未来に帰らざるを得ない事があった。

その時のび太はドラえもんの力に頼らずジャイアンとの一騎打ちで勝利を収め安心させ、ドラえもんは未来へと帰っていった。

その後ジャイアンとスネ夫の『ドラえもんが帰って来た』と言う当時ののび太にはあまりにも残酷な嘘に対してドラえもんが最後に残していったひみつ道具「ウソ800(エイトオーオー)」を使用し、嘘と真実を逆転させたままドラえもんはもう帰ってこない、と言った為に本来ならばもう現代には来れない筈だったドラえもんが再び現代に帰って来れたという懐かしい思い出がある。

のび太にとってその再来を予感させるには、今のドラえもんの格好は十分すぎるものだった。

 

「あら、のび太さんこんにちは。お兄ちゃんてば、本当は定期検診を毎年必ず1回は受けなくちゃいけないの。これは未来のロボットが必ず受けなくちゃいけない法律でも決められた“ロボットの義務の1つ”なんだけど、お兄ちゃんてば全然受けてくれないから、とうとう国立ロボット病院から強制的に入院するように強制措置が取られちゃって……多分1週間くらいなんだけど帰らなくちゃいけないのよ」

「え、1週間帰っちゃうの?」

「うん、でも……のび太くん大丈夫? 僕がいないとのび太くんは何もできないじゃないか」

 

ドラミの説明に目を潤ませながらいやだいやだと駄々をこねる、まるで子供のようなドラえもんを目の前にして、道具を出してくれと言えるのび太ではなかった。

もしドラミの説明が本当だったとするのなら、ドラえもんがずっと残ってくれていたのは自分のためじゃないか。

だからのび太の口から出てきたのは、道具を出してではなく、素直な行ってらっしゃい、の言葉だったのだ。

 

「何言ってるんだよ、ドラえもんの健康の方が大事じゃないか。それに前みたいに一生帰ってこれない訳じゃないんだろ? 任せてよ、1週間くらい」

「大丈夫? ジャイアンたちにいじめられたりして泣いちゃったりしない?」

「しないしない、安心して。それじゃあ、もし泣いちゃったら帰ってきたドラえもんにありったけの小遣いでどら焼き買ってあげるからさ」

「ふふっ、そうならないように気を付けるんだぞ」

 

こうして、最後まで涙を浮かべながらドラえもんは机の引き出しの中に消えていった。

そんな親友の姿を見送りながら、ついさっき空き地でのやり取りを思い出しのび太は盛大なため息を一つ吐くのだった……。

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

 

「それでさ、その湖のほとりにあった神社が山ごとまとめて消えちゃったんだってさ」

「スネ夫、そんな訳ないだろ? ドラえもんの道具じゃあるまいし」

「そうだよ、ジャイアンの言う通りそんなの誰かが作った作り話に決まってるじゃないか」

「でも、もし本当なら一体なにがあったのかしら」

 

のび太たちがいつも集まる空き地、土管の前でいつもの4人・・・のび太、スネ夫、ジャイアン、しずかたちはスネ夫の手にした本の内容に耳を傾けていた。

それはとある県で、少し前に消えた神社の話。

曰く、湖のほとりに建てられていた神社が、そこにいた巫女の少女もろとも一夜で消え去ってしまったと言うのだ。

もちろん本にするにあたり、内容には多少の脚色が成されているのだろう。

おまけに4人はドラえもんと過去に未来、地底に宇宙、挙句には異世界まで数々の冒険をしてきた思い出がある。それらの経験は、ちょっとやそっとの怪談話や不思議な話程度では動じなくなるだけの経験でもあった。

 

「そう思うでしょ? でもほら、この写真を見てよ」

 

が、スネ夫もそんな事は承知と言わんばかりに他の3人にとあるページを開き見せつける。

神社のあった場所はぽかりと抉れ、今では湖の一部になっていると言う説明と共に、本ではその場所と思しき湖の岸辺の写真が載せられていた。

その写真は確かに不自然に丸い形にぽかりと岸辺が抉れている事を3人に示していた。

 

「ほんとだ……」

「うそみたい……」

「へぇ……」

「でさ、僕はパパに言ったんだ。『夏休みの宿題としてこの神社の事を調べてみたい』って。そしたらパパ乗っちゃってさ、別荘も借りて夏休み中使って調べようって言いだしてさ」

 

3人が3人とも何も言わずに写真を凝視している中、スネ夫が得意げに言葉を続けた。

が、のび太としては面白くもなんともない。なにしろこの後に続く言葉は分かっていたからだ。

 

「もし良かったら、ジャイアンにしずかちゃんも一緒に来ない? いろいろまとめてさ、夏休みの宿題共同研究で発表しようよ」

「スネ夫、心の友よ!!」

「スネ夫さん、ありがとう」

 

意外と涙もろいジャイアンがうれし泣きをしながら絞め殺さんばかりの勢いでハグを決め、スネ夫が白目を剥く。

そう、スネ夫お得意のこれは3人用なんだ。である。

今回もスネ夫は今さら思い出したかのようにのび太に視線を向けて口を開いた。

 

「あ、のび太はダメだからね? フィールドワークも必要だし、いろいろ図書館や町の人からも話を聞いたりしなくちゃいけないんだ。ノロマののび太がいたら終わらないよ」

「違いない、のび太がいたら全然進まなくて困っちまうぜ」

 

 

……そーらきた! そーらきた!!

 

 

のび太からすれば来るのが分かってましたと言わんばかりのスネ夫の言葉に乗っかるようにジャイアンも言葉を続ける。

ここまでくると様式美とでも言いたくなるスネ夫とジャイアンのコンビネーションだ。

そしてこの後に続く言葉もまた、一種のお約束でもあった。

 

「なんだいそんなの! ちーっともうらやましくなんかないぞ!! 僕なんか、もっとすごい誰も行った事のない場所へ行って、そこの事を調べてやるんだ!!」

 

そう言うが早いが、のび太は空き地から飛び出すように駆け出していた。

背後でジャイアンやスネ夫、しずかが何かを言っているように聞こえたけれども、今ののび太にとってはどうでもいい事だった……。

 

 

 

 

 

こうして話はのび太の部屋へと戻る事になる。

   




さて、大長編ドラえもん東方編、はじまりはじまりです。
ある程度の流れは考えていますが、ちょっとは当初の予定より変わっていくかもしれません(汗


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プロローグ その2

さて、とうとう冒険へと乗り出したのび太。
まずはいきなり怪しい人物が現れます。


「うーん、どうしよう。ドラえもんがいないんじゃな……」

 

ドラえもんを見送った後、のび太は一人部屋で机に座りこれからの事を考えていた。

ドラえもんが病院に行くと言う事で、一人でもなんとかなるから気にするな、とは言ったもののせめてどこでもドアだけでも出してもらうべきだったか。

そう考えた所で今さらどうにもなるものでもない。

ドラえもんが帰ってくるまで1週間待つか、それとも別の方法を考えるか……あれこれと机に向かって考えた結果、のび太は別の方法を使う事にした。

 

スペアポケット

 

ドラえもんの四次元ポケットの文字通りスペアは押し入れの中、枕の下に隠されている事をのび太は知っている。

それによってチャモチャ星に取り残されたドラえもんを、危機に陥っていたサピオ少年を助けに戻り、ナポギストラー率いる反乱軍への逆転の一歩となったのは懐かしい思い出だ。

ちなみに足元に置いてあるのは四次元くずかごなのは内緒である。

留守中に入り込むとドラえもんは相変わらずプライバシーを覗くな、と怒るのだがそもそもポケットと寝具、ついでにゴミ箱だけしかない寝室にプライバシーもへったくれもあるものか、と言うのがのび太の見解だった。

 

兎にも角にも、ドラえもんが1週間不在になるのならそれまでに戻ってきて返却しておけばバレる事もないだろう。

そんな思いからのび太は押し入れの扉に手をかけた。

するりと、立て付けの良い扉は音もなく開き、見慣れたドラえもんの寝室が姿を現す。

 

「ドラえもん、悪いけどポケットを借りるね」

 

一応、無断で借りる事もあり未来にいるであろう親友に向けて断りの言葉を口にしてから枕の下に手を突っ込み探ってみると、目的のものはすぐに見つかった。

かつて見せた時にしずかがパンツと誤認した、白い布。

確かにサイズ的にも色合いもパンツそのままなのだが侮るなかれ、これこそがドラえもんのスペアポケットである。

中はドラえもんの四次元ポケットと空間的に繋がっており、ドラえもんの道具を自由に取り出せると言う優れものだ。

そうしてのび太はポケットに手を突っ込むと、まず第一に欲しい道具の名前を口にしながら『それ』を引っ張り出した。

 

「どこでもドア!」

 

ただの扉にしか見えないこれこそが、これさえあればどこにでも行ける(ただし10光年以内の距離)夢のような道具なのだ。

その利便性の高さは未来社会において天の川鉄道を廃線に追い込み、のび太も日常生活、また大冒険の際にいやと言うほど経験している。

 

「これでよし、と。後は……」

ドアを立てつけたのび太は、バタバタと走り回りほとんど日常では使う事のない手提げかばんにスペアポケット、それにまだ一つも手を付けられていない夏休みの宿題に筆記具を部屋の片隅の置きっぱなしだったランドセルから取り出すと、無造作に放り込んだ。

さらに、ママに見つからないように玄関へと向かい靴も用意して、これでのび太の準備は整ったわけだ。

ちなみに、もし連泊する事になったとしてものび太流のキャンプ術……すなわちグルメテーブルかけとキャンピングカプセル、着替えが要るなら着せ替えカメラを使えばいいと言う認識で固まっている。

なのでテントや携帯食料、替えの着替えなどを大きなリュックに詰め込んでいく必要はのび太にとってはどこにも無いのだ。

こうして準備を整えたのび太はドアの前に立ち、高らかに宣言した。

 

 

()()()()()()()()()()()へ!!」

 

 

これで後はドアをくぐればそこはもう、目的の場所と言う訳だ。

誰も行った事のない場所、帰ってきたらスネ夫やジャイアン、しずかたちにどんな自慢をしてやろうかと考えながら、のび太はドアノブに手をかけドアを開ける。

 

「さあ、僕は誰も行った事のない場所への第一歩を、踏み出すぞー!」

 

靴を履き、意気揚々とのび太はドアの向こう側へと一歩を踏み出す。

ドアがバタン、としまった後にはのび太の部屋にはただ沈黙だけが流れていた……。

 

「のびちゃん、ドラちゃん、そろそろおやつだから……そう言えばドラちゃんは確かさっき、検査の為に帰るって言ってたわね。 のび太はみんなと遊びに行ってるのかしら……?」

 

しばらくしてのび太のママがおやつのどら焼きを持ってきたものの、部屋はすでにもぬけの殻。

そこでドラえもんが少し前に、検査で1週間ほど留守にすると言われたことを思い出したらしい。それでも、のび太ならドラえもんと二人分食べるでしょと思っても、肝心ののび太がいないのではどうしようもない。

ママは『ま、お夕飯までには帰って来るでしょ』と気にする風でもなく、下へと降りて行ったのだった……。

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

「ここは……どこなんだ……? って、そうだよね。誰も行った事が無い場所、って言ったんだもんな」

一方、のび太はどこでもドアをくぐった先で1人、周りの状況に困惑していた。

誰も行った事のない場所へ、と意気揚々とくぐったドアの先はどこまでも続く深い森の中だったからだ。

かと言って、魔界の森やアニマル惑星の禁断の森のように別に見た事もない植物や日が差さない程に高い木々が生い茂っている訳でもない。

多少涼しげではあるものの、木々の間から少しは日も差し込んでくる。

それでも、こんなどこにでもありそうな森が誰も行った事のない場所か、と言われればのび太にも疑問が浮かぶ。

ではどうするか? 

答えは簡単だ、調べてしまえばいいのだ。

地上にいたままでは自分がどこにいるか分かりにくいのなら、木々の上まで飛び上がってしまえばいい。

そうすれば、ここでは見えない何かが分かるかもしれない。

早速のび太は善は急げ、とばかりにスペアポケットに手を入れ、タケコプターを取り出そうとした。

タケコプターもまた、空を飛んで移動できると言うどこでもドアと並び、日常生活における利便性の高さを誇るひみつ道具の為、出かける時でも一つはズボンのポケットに持っている事が多いのだが、今回についてはまさかいきなり森の中に出るとは思っておらずポケットに入れてなかったのだ。

そうしてタケコプターを取り出そうとした、まさにその時。

 

 

「こんにちは、何をしていらっしゃるのかしら?」

 

 

のび太の背後から声がして、ポケットに手を入れようとしたその身体がびくり、と硬直する。

透き通った声、でもどこか怪しい響きがある。

それはまるでかつて冒険した魔界の海に潜む人魚を思い出させるような声、とでも言うべきか。

おまけに声はちょうどのび太の真後ろから聞こえてくるために、声の主を確認するためにも否が応でも振り向かなくてはならない。

けれども、のび太は身体を硬直させたまま恐怖からなかなか振り向く事ができない。

それはそうだろう、いきなり人気のない深い森の中で背後から声をかけられて怪しむな、と言う方が無理があると言うものだ。

こうしてのび太の夏休みの宿題は、始まる前からピンチに見舞われようとしていた……。

 

 




さて、いきなり背後から声をかけた謎の人物。
果たしてのび太の運命やいかに!?


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ようこそ幻想郷へ

果たしてこの謎のおば……(ゲフンゲフン 女の人の正体は!?
そしてのび太の運命やいかに!


どれだけ時間が経過したのか……ようやく決心したようにのび太は声の方、つまり後ろへと振り向いた。

 

「ようやくこっちを見てくれたわね、別にとって食べたりはしないんだから大丈夫よ?」

「………………」

 

振り向いたのび太の返事はなかった。いやできなかったと言うべきか。

のび太の目の前にいたのは、金色の長い髪をした綺麗な女の人。おまけにドレスを纏い、なぜかこんな森の中にも関わらず日傘をさしている。

少なくともその格好はこんな木々の生い茂る森の中でする格好ではない事はのび太にも理解できる。

その不思議な格好をした女の人が笑顔で自分を見ているのだ。

 

外国人だろうか、もしかしたら宇宙人かも知れない。そういえば……リルルに初めて会った時もこんな感じだったっけ。あの時はジャイアンやスネ夫に追いかけられてたけど。

 

もう二度と会う事は無いだろう、鉄人兵団による奴隷狩りから地球人を救うために歴史を改変し、その命を散らした機械の少女。

一応、3万年後の現在に生まれ変わり、1度だけ遊びに来てくれたけれども、奴隷狩りの必要もない今メカトピアとの接点はもうないはずだ。

彼女に初めて会った時自分に好意的に接してくれた時の印象を思い出しながらも、それより今のび太が気になったのは、誰も行った事がない場所に来たはずなのに、なんで自分以外の人がいるのか? という事。

ひょっとしたらここはメカトピアやそれに近い星なのか? それとも次元の壁を抜けて別の世界に来てしまったのだろうか?

兎にも角にもこのまま黙っていても話は進まない、そう考えてようやくのび太は目の前の女性に促されるように口を開いた。

 

「あの……おばさんは、誰ですか?」

「おっ、おば……。誰がおばさんですってぇ!!」

 

 

だがさすがにおばさん呼ばわりはよろしくなかったらしい。

さっきまでの言葉は一体どこへやら。

それまでの怪しささえある笑顔から一転、柳眉を吊り上げ額に青筋を浮かべながらのび太の発言に怒りそのものを吐き出した。

その怒りの様子はまるで0点を連続して取った時に見せたママの表情にも似ていなくもない。

当然、ママもかくやと言う迫力で怒られてはのび太に抵抗などできるはずもなく……。

 

「ご、ごめんなさーいっ!!」

 

のび太は謝るより外になす術などなかった。

だが女の人の怒りは収まらないようで、のび太に向けて凛とした声で一言だけ呪文のような言葉を告げた。

 

「美しく残酷に、この大地から往ね!」

「へ……わあっ!!?」

 

聞き慣れない女の人の言葉に、頭に?を浮かべるのび太だったけれども、すぐにそんな事は言っていられなくなってしまう。

なにしろ、急に足元の地面が消えたのだから。いや、消えたと言うのは語弊があるか。

急にのび太の足元の地面がぱくりと口を開けたように空間が開き、その真上に立っていたのび太はそのままストン、とその空間の中に落っこちてしまっていた。

突然自分を襲った落下現象に、早くタケコプターをと思うのび太だけれども焦れば焦るほどそう簡単にはタケコプターは出てこない。

おまけにタケコプターを出すにはスペアポケットから取り出すより他には無い。

 

「た、助けてー!!」

 

助けなんて来る訳がないのに、それでも助けを求めてしまうのは落下していくと言う恐怖故か。

特にのび太たちの場合は普段から空をタケコプターで飛ぶと言う事が多く、落ちる事への恐怖が薄らいでいる節さえあった。

……ああ、このままのび太は成す術もなく地面に激突してしまうのか? そう思われた矢先、唐突にのび太を襲う落下は終了する。

そのままお尻からドサリ、と落ちたのは女の人の目の前だった。

何の事は無い、のび太は地面から落っこちて空間を経由して彼女の目の前、自分が落下するまで立っていた場所にまた戻って来ただけだったのだ。

そうして再び戻ってきたのび太に、女の人が話しかける。

ただし、その目は笑っていない。

口元は笑みを浮かべているけれども、ちょっと見るとまだ額には青筋が浮かんでいる。

どうやらまだまだ女の人はとてもお怒りのようだ。

 

「いてててて……」

「いいこと? 私の名前は八雲紫、あなたは気が付かなかったみたいだけれどもこれでも妖怪なのよ? あなたみたいな美味しそうな子供なんて、ペロリと食べちゃうのよ?」

「ええっ!? よ、妖怪なんですか?」

 

目の前の女の人に妖怪である、と言われてはいそうですか、と信じる者はなかなかいないだろう。

少なくとも、妖怪なんてものが実在するなどと言えば、与太話の類と思われてしまうようなこのご時世、驚きでもってのび太が見せた反応は至極もっともなモノだった。

そしてそんな反応を一番楽しんでいたのは、実は女の人……怒っているように見せながら、内心はホクホク顔の八雲紫だったりする。

 

 

……これこれ、この反応よ。幻想郷だと、人間相手でも妖怪だなんて言っても全然驚いてくれないし、その点外の人間はこういう反応が新鮮でたまらないのよね。

 

 

とは言っても、いつまでも脅かしてばかりいられない。さっさとここに来た目的を果たしてまた布団に潜り込もう、そんな事を考えていた時、紫はふと気が付いた。

目の前で脅かした男の子……のび太が、驚きはしたものの驚き方が何か違う事に。

そして、上から下まで自分の事をまじまじと観察するように見ながら、実に奇妙な事を口にしたのだった。

 

「おかしいなあ……西遊記にこんな妖怪いたっけかな? 羅刹女、じゃないですよね? 芭蕉扇も持ってないし」

「羅刹女? だから私は八雲紫よ。確かに妖怪って私は言ったけれども、そもそもなんで西遊記に限定されるのよ?」

 

そう、確かに西遊記にも妖怪は登場する。これは紫だって知っている事だ。

けれども、それならなんで目の前の子は妖怪=西遊記、と言う認識を持っているのか。

 

「え? だって紫さん。僕らが唐の時代でやっつけた西遊記の妖怪たちの生き残りなんでしょ?」

「……へ?」

 

 

……ちょっと待て、今この子はなんて言った? 唐の時代? やっつけた?

 

 

自分の聞き間違いか? と紫はまず自分の耳を疑った。

少なくとものび太が口にした唐の時代と言うのは今から千年以上も前の時代で、どう頑張っても紫が生を受けるよりも昔である事は間違いない。

「あなたが今言っていた唐の時代、って……私の勘違いじゃないとすれば昔の中国の『唐』よね?」

「はい、そうです」

「えっと、ごめんね。悪いんだけど……何があったのかちょっと説明して貰えないかしら?」

 

あまりにも想像の斜め上をゆくのび太の言葉に、たまらず紫は説明を求める。

それがどういう事になるかも知らないままに……。

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

「つまり、唐の時代でゲームから出てきた妖怪が三蔵法師を殺して妖怪の社会になるような歴史改変をしたから、現代からタイムマシンで唐の時代に向かって、そこで西遊記の妖怪たちをやっつけたのね?」

「そ、そうです……あ、あの。紫さん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわよ! 何よタイムマシンって! 未来から来たロボットが出してくれた道具? 幻想郷よりも幻想してるじゃないの!」

 

のび太の説明を受けた直後、紫は文字通り頭を抱えていた。

と言うよりもむしろ思考回路が故障しかかっていたのかもしれない。普段の冷静さを完全にかなぐり捨てながら、絶叫していたのだから。

もしここで普段の紫を知る面々がこの様子を見たら間違いなく驚きの表情を浮かべただろう。

それほどまでに、のび太の話は幻想郷の賢者をしても幻想が幻想でなくなるほどに常軌を逸した内容だったのだ。

 

 

……なに、タイムマシンですって? 唐の時代で妖怪まで退治した? どうりで妖怪程度じゃ大して驚きもしない訳ね。

と言うかそんな事をやってのけるような子なら、博麗大結界を通らずに幻想郷に入って来たって不思議じゃないわ。

 

 

目の前の、眼鏡をかけて頼りなさげな雰囲気を持つのび太にそんな事を思いながらもその反面、もし話してくれた内容が事実なら面白く退屈させない人材もそうざらにはいない。

紫の中でそんな思いが生まれ始めていたのもまた事実。

 

「……ねえ、そう言えばまだ聞いてなかったわね。名前はなんて言うのかしら?」

「あ、僕のび太です。野比のび太」

 

怒涛の展開に悶えながらも、ようやく落ち着いたらしい紫が真面目な顔になりのび太の名前を聞いてくる。

むしろ今までずっと聞いていなかったあたり、よほどのび太の言動が衝撃的だったのだろう。

 

「のび太、ね。まだ説明していなかったのだけれどもここは幻想郷と言う、忘れられたモノたちが最後にたどり着く場所なの。八雲紫の名において、幻想郷はあなたを歓迎いたしますわ」

 

ここで紫の言葉にようやくのび太は気が付いたのだった。

『誰も行った事のない場所』へ行こうとどこでもドアをくぐった時に、紫に会ったのはどうしてなのか。

確かにどこでもドアは、確かに誰も行った事のない場所へと案内してくれたのだ。

幻想郷と言う名の、誰も行った事のない、誰も知らない場所へ。

こうして、のび太の誰も知らない場所での冒険が始まろうとしていた。

 

 

 




謎のおば……もとい幻想郷の賢者、八雲紫さんの登場です。

のび太の中で妖怪=パラレル西遊記、と言うのは、アリだと思うんです。
パパ、ママの変貌(新聞に映る影にトカゲのスープとか)に、先生が目の前で皮膚ぶち破って妖怪化なんてされたら、絶対に妖怪=ヒーローマシンの妖怪の生き残りだっておもっやうと思います。



こうしてのび太くんの幻想郷での生活がいよいよ始まる……といいな(ぇ
後、絶対にどこでもドアって、博麗大結界に引っかからずに中に入ってこれると思うんだ。


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のび太の幻想郷生活
霊夢、大いに驚く


ついに幻想郷に足を踏み入れたのび太。
まずはおなじみのあの場所へと放り込まれます。



更新が遅くなり大変申し訳ありませんでした。
……ひとまず無事に夏コミの原稿は入稿が終わりました(汗


幻想郷も梅雨が明け、いよいよ本格的な夏がやって来た。

博麗神社の境内も、野山もセミがミンミンとやかましく大合唱を行いその様子はまるで夏の暑さに抗議しているかのよう。

そのセミの声に占拠された中に、幻想郷でも特に重要とされる施設。すなわち博麗神社は存在していた。

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

 

「……はぁ、暇ねえ」

 

その日、霊夢は暇だった。

もちろんやる事が全くない訳ではない、かと言ってうだるような暑さの中それをやる気力など持ち合わせていないし、すぐにやらなければいけない訳でもない。

つまりは、暇なのだ。

 

その証拠に縁側でお茶をすすりながらぼけーっ、と何をするでもなくただ誰もいない境内に視線を向けている。

空気そのものが溶けそうなほどにまったりとした空気が霊夢の周囲に漂っているが、むしろ異変が起きなければ暇な日の方が多いのが博麗神社における霊夢の日常だった。

が、あいにくと口に出して暇でなくなるのならこんなにありがたい事は無いのだけれども、悲しい事に暇はちっともなくならない。

 

 

……解決してあげるから、誰か大きな異変でも起こしてくれないかしらね

 

 

と内心思ったりもするのだけれども、博麗の巫女ともあろう者がそんな事を口に出した日には紫が血相を変えてすっ飛んで来かねないのでさすがに霊夢もその発言は自重せざるを得ない。

つまりはやっぱり、暇だ暇だと口にしながら霊夢はお茶をすすりながらただ、ぼーっと時間が過ぎるのを待っている。

建設的かどうかと言う問題はともかくとして、これが最近の霊夢の暇な時間の過ごし方だった……。

と、それまで退屈のあまり半分以上だれていた霊夢の目つきがすっ、と厳しいものに変わり、何もないはずの一点を見つめる。

 

「紫、いるんでしょ? 出てきなさい」

 

はたから見たらただの独り言にしか見えない霊夢の発言。

しかしその発言に応えるように、何もないはずの空間がぱくりと口を開ける。紫お得意のスキマ移動だ。

何もないはずの場所に隙間を開けてするりと出てくるその姿は、まるでどこでもドアのようですらある。

その紫が胡散臭そうな笑顔を浮かべながら口を開いた。

 

「こんにちは霊夢、ずいぶんと暇そうね」

「そりゃあね、でも博麗の巫女が暇って言うのは平和だって事よ? まあ、ちょっとした退屈しのぎくらいあってもいいかなとは思うけれどね」

「ええ、だから退屈しのぎ……になるかもしれない、今の霊夢にぴったりな相手を連れて来たわよ」

「ぴったりな相手……?」

「わぁーっ!!」

「……っ!?」

 

そう言うが早いがもう一つスキマが開き、一体何がと怪訝そうな表情をしている霊夢の前にのび太がどさりと、乱暴に放り出される。

突然理不尽に落っことされるのは今日もう2回目なので、のび太も助けてとは叫んでこそいないけれども畳の上に放り出された事で腰をぶつけたらしく、「いてててて……」と涙目になりながらぶつけた場所をさすっていた。

霊夢もまさか、紫がスキマから子供を、それも見慣れない男の子を放り込んでくるとは思っておらず、目の前に文字通り降ってきたのび太へぎょっとした視線を向けている。

しかし、突然放り込まれたのが人里の子供たちとは違う見慣れない服装の男の子だと気が付くと、霊夢には何か心当たりがあるようでその視線がとたんに険しくなっていく。

 

「紫、あのねぇ。いくら私が暇だからって言っても子供のお守りしろっての? それとも私の前で、人間、それも子供を食べようとするのなら、さすがの私も見過ごすわけにはいかないわよ?」

「こんなとんでもない子、食べないわよっ!」

「じゃあやっぱり子供のお守りじゃない、結界の隙間から迷い込んできたんでしょ? いつも通り、残るかどうか確認して、さっさと送り返せばいいじゃないのよ」

 

『こんな幻想郷以上に幻想してる子なんて食べてたまるもんですか』とでも言いたげに霊夢の言葉に全力でツッコミを入れる紫。

ちなみにのび太はと言うと、もう既に紫が人を食べる妖怪であると本人から説明を受けているので、その事についてはもはや驚きすらしない。

だがそうなると、紫が霊夢に押し付けようとしている仕事は子供のお守りただ一つしかないではないか。と面倒事はしたくない霊夢はさっさと送り返す事を紫に提案する。

と言うか、基本はこれが正しいのだ。

外来人が幻想郷に迷い込み、妖怪などに襲われて糧にならず無事でいたのなら、本人が特に残る事を望まない限りは外の世界に送り返す。

そう、それが本当なら普通だった。

 

そう、普通なら……。

けれども残念ながらのび太はたまたま幻想郷に迷い込んだ『普通』の子供ではなかった。

 

「霊夢。この子はね、博麗大結界の隙間から迷い込んできたんじゃないのよ。いいえ、この子は博麗大結界には一切触れる事なく、幻想郷に入り込んできたのよ」

「へぇ、結界に触れずにね。……って、はぁぁぁぁっ!? ちょっと、あんた何やらかしてんのよ!!」

「ちょ、ちょっと! く、苦しいですって……」

 

さらりと紫の説明を聞き流そうとしていた霊夢が、ふと不穏な発言を耳にして反芻する事数秒。

とんでもない素っ頓狂な声を上げてから見せた霊夢の反応は実に素早かった。

のび太の服の襟首をつかみ、がくんがくんと激しく前後に頭を揺さぶりだしたのだ。

可愛そうにのび太は成す術もなく、ぐわんぐわんと首がもげそうな勢いで霊夢に揺さぶられるままにされている。

 

「いい加減にしなさい!」

「んぐえっ!!」

「はぁ……た、助かった……」

 

紫が手にした日傘を高々と掲げ、すぱんと霊夢をひっぱたいて止めなかったら一体どうなっていた事か。

獲物はたかが日傘とは言え、紫が勢いよく振り下ろした傘の威力は伊達ではない。

軽快な音と共に頭にできた大きなたんこぶを両手で押さえている霊夢が、結果としてのび太の襟首を離した事で、のび太はようやく恐怖の首振り地獄から解放されたのだった……。

 

「……で、本当なの? その、あんたが結界に触れずに入ってきた、って言うのは」

「えっと、結界って言うのが何なのかはよくわからないんですけど……」

「あーもう! じれったいわね、じゃあ、どうやってここに来たのか私たちの前でもう一度やって見せてよ。それなら私も紫も、きっと納得するでしょ?」

 

 

ようやく霊夢から解放されたのび太だったが、本当に博麗大結界に接触する事なく入ってきた事にはいまだに疑いの目を持っているようで、湯呑みのお茶がすっかり冷めてしまっている事も忘れてのび太への質問を繰り返していた。

かと言ってのび太の方も、いきなりどこでもドアをくぐった先で妖怪だ幻想郷だと言われただけで、別に自分がそんなとんでもない事をしたなどと言う自覚はまるっきり持ち合わせてはいない。

そもそも目の前の、名前も知らないお姉さんから首を絞められ、思い切り揺さぶられていただけで自分が気が付かないうちに踏み越えてしまったらしい結界が何なのかその説明すらないのに、どうやったのか説明しろと言われてもどだい無理がある。

だからまず結界と言う『何か』の説明を求めたはずの返事は、何故かもう一度ここに来た方法……つまりはどこでもドアを使って見せてくれ、と言う依頼だった。

 

「ええっ!? で、でも……」

「そうね、私も興味があるわ」

「ほら、これで決まりよ。もちろん準備に時間がかかったり特定の日時じゃないと難しいって言うのなら、私も諦めるけど、どう?」

 

いきなりの依頼に言葉が詰まるのび太、おまけに紫まで興味があると言いだしてしまっては、小学生ののび太にとってはなかなか抵抗もできはしない。

何しろジャイアンズ球場(いつもの空き地)を中学生に乗っ取られた時にも、のび太は非常に下手な対応しかできなかったのだ。

それと同じくらいの年上、おまけに一人はもっと年上、となれば想像に難くない。

二人に半ば押されるような格好ではあるものの、意を決したのび太はどこでもドアを使う事を決心した。

 

「分かりました、じゃあ、ちょっと二人とも外に出てもらっていいですか?」

「外に? いいわよ。紫もいいでしょ?」

「ええ、いいわよ」

 

のび太に促されるように、博麗神社の縁側から境内に出てきた霊夢と紫。

二人の前に立ったのび太はまずズボンのポケットからスペアポケットを取り出し、二人に見せる。何はともかく、これがないとひみつ道具の使用は始まらないのだ。

が、やはりと言うべきか。初めて見るスペアポケットの印象は、霊夢もまたポケットとは認めてくれなかったらしい。

 

「何よそれ……? パンツなんか手にしちゃって、一体パンツでどうやって結界を超えたって言うのよ」

「もぅ、違いますよ。これはポケットなんですって。じゃあいきますよ……? どこでもドア!!」

 

しずかのみならず霊夢にもパンツと誤認された哀れなスペアポケット。

しかしのび太は一言だけ霊夢にパンツでは無い旨を告げると、高らかに手を掲げおなじみの道具の名前を口にした。

 

「「…………!?!?」」

 

たちまち二人の目の前に、のび太がポケットから引っ張り出したどこでもドアがどん、と現れる。

今まで何もなかった場所に、ポケットからぬう、と引っ張り出された奇妙なドアが突然現れたのだから霊夢も紫も驚かない訳がない。

目の前の何の変哲もない子供、そう、ただの外来人だとばかり思っていた子供が物理法則を軽く無視して手品師みたいな事をやってのけたのだから、霊夢も紫も二人とも目をぱちぱちと瞬かせながら、次ののび太のしようとする事を見守っていた。

 

「えっと、どこか行きたい場所ってありますか?」

「……へ? わ、私?」

「はい。今はためしに動かすつもりなので、なるべく近くだと嬉しいんですけど……」

「じゃあ、そろそろお夕飯の支度もしなくちゃいけないし……台所でどうかしら?」

 

急にのび太から行きたい場所を聞かれた霊夢。

一体これから何が始まるのだろうかとのび太の様子を伺っていたところで、急に質問を受けてしどろもどろになりつつも、そろそろ太陽が西に傾き始めた時間帯である事に気がつき、台所を希望する。

 

「台所ですね? じゃあ行きたい場所を口にして、このドアを開けてみて下さい」

「……? こんなただのドア開けて一体どうしろってのよ……。えっと、博麗神社の台所!! これでいいのかしら?」

「はい、大丈夫……だと思います。多分……」

「ちょっと、信用ならないわね……」

「まあ霊夢、信じるか信じないかはそのドアを開けてみれば分かるわよ」

 

今一つ自身のなさそうなのび太の態度に『本当に大丈夫なのかしら』とこぼしながらも、紫にも言われた通り一度試した結果を見てからどうするかは考えようと、と自分の行きたい場所、つまり博麗神社の台所を指定してノブを回してドアを開けた霊夢。

 

「本当にこれで何もなかったらどうしてくれるのよ……」

 

そう言いながらドアの向こう側を覗き込んだ霊夢の視界に入って来たのは、見慣れた博麗神社の台所だった。

 

「……っ!?」

 

予想外の光景に慌てて首を引っ込めて、今自分がいる場所、つまり神社の境内にいる事を確認してからもう一度ドアの中を覗き込む霊夢。

何回同じ事を繰り返しても、結果は変わらなかった。

 

「なるほどね、このドアがあれば行きたい場所に自由に行ける、って言う訳ね……こうして実際に見てみると、想像以上だわね」

 

博麗神社に来る前、既にのび太から簡単にではあるもののパラレル西遊記の冒険について聞かされていた紫でさえ、実際にその道具を目にしては冷汗しか出てこないらしい。

となれば霊夢はどうなるのか?

 

 

 

「……な、何よこれぇぇぇっっっ!!!!!!」

 

 

 

博麗神社の境内に、霊夢の叫びが木霊したのだった……。

 

 

 




霊夢まさかのひみつ道具初体験!!
これで霊夢も一歩22世紀人への階段を上ってしまったのでしょう(違


ちなみに、これだけ会話をしておいて実はまだのび太と霊夢は全く自己紹介をしていなかったりします。
なので次でおそらく自己紹介をするものと思われます(汗


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巫女は胃袋で動きます

どこでもドアの効果を体験した霊夢と紫。
二人にとっては幻想以上のひみつ道具ですが、今度はのび太は一体何を取り出すのか……?


「……境内にいるはずなのに、なんで台所につながってるのよ? 一体何なのこれ? って言うかあなた何者なのよ……? 」

「霊夢もちょっと落ち着きなさい。確かに私も驚いたけれども、そんなにいっぺんに質問したってのび太だって答えられないわよ」

 

叫んでみた所でちっとも変わらない現実にようやく落ち着きを取り戻したらしい霊夢。

その後のび太、霊夢、紫の三人はどこでもドアをポケットへと再び収納して、再び神社の境内から居間へと戻って来ていた。

が、落ち着いたと言っても初めてのどこでもドアの体験、何回ドアを覗いてみても、境内と台所とをつないでいるどこでもドアの効果を生まれて初めて目にしたためか、実際には落ち着いているように見えてまだ少し混乱しているらしく、居間に戻るやいなや矢継ぎばやにのび太へと質問を浴びせかける。

けれどものび太の方はと言えば、紫の言う通りそんなに一度に大量の質問にすらすらと答えられるほど、要領がよい訳ではない。

 

「悪かったわね、まずはお互いに自己紹介しておきましょう。私は霊夢、博麗霊夢よ。幻想郷の管理を任されてる巫女なの。呼ぶときには霊夢って呼んでくれればいいわ。……それで、あなたは?」

「のび太、野比のび太です。今霊夢さんが使ったのはどこでもドアって言う未来の道具で、自分の行きたい場所を頭の中にイメージすれば、そこに行けるようになっているんです」

「未来? 未来の道具って、外の世界じゃ未来の道具が子供でも使えるくらいに出回ってる訳?」

 

自分が使ったどこでもドアが未来の道具だと言われても、もう霊夢は驚かなかった。それだけどこでもドアの衝撃が大きかったのだろう。

いや、それ以上に未来と言う言葉に対して実感が沸かなかったのかもしれない。

そこでのび太は紫にしたのと同じように説明をする事にした。

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

ドラえもんと言う親友の事。その親友は22世紀からやって来た猫型ロボットでポケットから未来の道具を出しては色々と助けてくれる事。そしてその道具の入っているポケットのスペアを借りて、ここにやって来た事。

のび太はひみつ道具に関してさわり程度ではあるものの、説明してみせたのだった。

 

「……と言う訳なんです」

「ねえ紫、なんでかしらね。のび太の話を聞いていたら幻想郷っていったい何なのか分からなくなってきたわ……」

「それについては否定しないわ。さっき説明を受けた時に私も同じことを考えたから。でもこれで分かったでしょう? のび太がどこでもドアで幻想郷に入って来たからこそ、博麗大結界には引っかからなかったのよ」

 

のび太の説明に、頭痛でも覚えたのか頭を抱える霊夢。それは幻想郷にやってきてすぐに紫と遭遇し、彼女に説明した時に見せたのと同じような反応だった。

もっともそれは当然と言えば当然かもしれない、のび太は来て間もないけれども霊夢や紫は幻想郷と言う外界から隔離された世界でずっと暮らしてきたのだ。

そこにいきなり未来の猫型ロボットが出してくれる道具、なんてものが出てくればどうなるかは目に見えている。

そんな中で霊夢の出した結論はと言うと……。

 

「あー! もうやめやめ、悩んでても仕方が無いわ」

 

すがすがしいまでの逃避だった。

『自分の知らない事は知りません』とでも言わんばかりに、雑念を振り払うように頭をぶんぶんと振るい、そのままくるりとのび太の方へと向き直る。

 

「そう言えば名前は……のび太、だっけ? もうこれから外に出ると危ないから、今夜は泊っていきなさい」

「え? まだ夜にはなっていませんけど、ここってそんなに危ないんですか?」

 

霊夢のこれからの時間、外は危ないと言う発言に少し顔色を青くしたのび太が周りを見る。

確かに霊夢の言う通り、今のび太たちがいる博麗神社の境内の周りを包むように広がる空は、日がすっかり木々の向こうに隠れて薄暗くなりつつあり、だんだんと夜に向けて暗くなっていくであろう事はのび太にも分かった。

けれどもそれだけでしかないはずだ、では夜が危ないと言うのは一体どういうことなのか?

確かにのび太は夜、恐竜に襲われた経験がある。

かつて掘り出した化石の卵を復元しふ化させたフタバスズキリュウのピー助をもとの時代の戻すつもりが、日本近海(当時の)ではなく白亜紀北米に送ってしまった事があったのだ。

その時、北米の海岸で夜キャンプファイアをしている最中にティラノサウルスに襲われた事は今でもはっきりと覚えている。

けれどもそれはあくまで白亜紀、一年の一億倍という途方もない時間の果ての向こう側で起きた話であって現代ではない。

では、一体何が出てくると言うのか……?

 

「危ないって言うのは、やっぱり恐竜が襲ってくるとか……?」

「「出るかっ、そんなもん!!」」 

「はぁ……違うわよ、恐竜じゃなくて妖怪が出てくるのよ。夜は妖怪の時間、襲われて食べられても、文句は言えない。それが幻想郷のルールなのよ」

「本当に、のび太と話をしていると飽きないわね……。でも霊夢の言葉は本当よ、もちろん神社にいれば妖怪も襲ってはこないわ。だから安心していいのよ」

「へぇ……」

 

自身の記憶を頼りに、夜に遭遇した危険と言う事でのび太の中での候補を挙げてみたものの、それは残念ながら外れてしまったらしい。

恐竜なんて出るか、と言う巫女と賢者からの見事な唱和を見せたお叱りと共に、霊夢はのび太に幻想郷の夜、についての説明をするのだった。

ちなみに、時折驚いたように頷き、まじめな表情で霊夢の話を聞いているのび太だがその様子を見ながら紫は内心『よくよく考えてみたら、幻想郷の妖怪なんかよりも恐竜の方がよっぽど怖いんじゃないかしら?』と思っていたのは内緒である。

もちろん紫自身も恐竜の生きた姿を見た事は無い。それでも賢者を自負するだけあり恐竜がはるか一億年以上前にこの世界を闊歩していた巨大生物だと言う知識は持っている。

それがもし仮に生きて襲ってきたとしたら、どれほどの迫力か、のび太の言葉の意味が紫には容易に想像がついたのだ。

そうこうするうちに、のび太への幻想郷の夜という時間帯についての危険性への説明が終わったようで、立ち上がると普段の巫女の服の上から白いエプロンを結わえて、台所へと向かおうとする。

 

「のび太が泊まる事を考えてなかったから、材料も少ないしあんまり大したものはできないけれども、何か食べたいものはある? 紫もどうせ食べてくんでしょ?」

「ええ、ごちそうになろうかしら」

 

少なくとも現状ここ以外に行くあてのないのび太はともかくとして、ちっとも帰らない事から紫も一緒に博麗神社で食べていく事を確認した霊夢が『三人分の材料なんてあったかしらね』と台所の隅に置いてある、食料の入っているらしい棚の中をごそごそと漁っていると、その背中にのび太が声をかけた。

 

「あの……もしよかったら僕が用意しましょうか? 急に泊めてもらう事になったんですし……」

「いいのよ、のび太はお客様なんだから。それに、用意するって言ってものび太は手ぶらじゃない。うちの台所を貸してもいいけれど、外の世界の人じゃ料理も大変よ?」

 

のび太の申し出に、せっかくだけどと霊夢が断りの言葉を返す。

霊夢としては、のび太が台所を借りて晩御飯を作る事でお礼をしたい、そう思っていると言う判断だったのだろう。

実際、博麗神社の台所は昔ながらの薪を使うかまどが備え付けられた明治時代そのままの作りになっている。

少なくとも、外の世界の台所とは大きく作りが異なっている台所で外の世界から来たのび太が、子供である事を差し引いても調理をできるとは思っていない、それがのび太の申し出に対する霊夢の返事だった。

 

「あ、いえ。料理なんてする必要ないんです。これがあれば」

「何よ、それ。そんなぼろ布、かまどの焚きつけにでも使うの?」

 

霊夢の言う通り、のび太が手にしていたのは少し大きめの布。もちろんぼろ布でもないし、かまどの焚きつけに使うなんて事をしたら本来の持ち主のドラえもんが発狂して怒り狂うだろう。

もちろんのび太が手にしたこの布は、霊夢の言うようなかまどの焚きつけのような使い方をするものではない。

 

 

『グルメテーブルかけ』

 

 

のび太たちがいろいろな世界に冒険に出かけた際にもお世話になった、またのび太の家出や今回の冒険でも、キャンピングカプセル、着せ替えカメラ、そしてグルメテーブルかけと衣食住の一つを担う重要なひみつ道具でもある。

その使い方と言えば至って簡単で、テーブルかけを広げて食べたいメニューの名前を口にするだけ、本当にそれだけである。

お金もいらず、材料を用意する必要もない。

全くのノーコストで料理を出してくれるのだが、万が一にも故障したりしていると、四次元くずかごから以前のび太が引っ張り出した時のように見た目こそまともなものの、味と匂いが殺人的なものになる場合もあったりする。

けれども、そうでなければ絶品の(味にうるさいスネ夫も認めるレベルの)料理がいくらでも出てくると言う、まさに飢えとは無縁となれる夢のような道具なのだ。

 

「えっと、じゃあ……紫さんの所に戻りましょう。そこで二人に説明しますよ」

「え、ちょ、ちょっとのび太。これから私は晩御飯を作るんだってば」

 

霊夢の手を握り、紫が待つ居間へと向かうのび太。

まだいったい何が起こるのか理解できていない霊夢は『早く晩御飯を作らないと暗くなっちゃう』とぼやいていたが、結局はのび太の態度に折れる格好で居間へと戻って来ていた。

そこにはまだ数時間しか一緒にいないけれども、のび太の道具が見せた奇跡のような出来事からのび太が言うのなら、何かすごい想像以上の事を起こしてくれるのかも知れない、と言う期待のようなものがあったのかもしれない。

 

「これも未来の道具でグルメテーブルかけ、って言います。使い方はどこでもドアよりも簡単で……これもやって見せた方がいいかな」

 

使い方をもう十分に理解しているのび太と、まだ使い方も同んな効果があるのかも理解していない紫と霊夢、三者三様の視線がグルメテーブルかけに集中する。

そこでのび太は、どこでもドア同様に実際に使って見せた方が早いと考えまず、自分の食べたいメニューを宣言した。

 

「ハンバーグ!」

 

 

………………!!!

 

 

「「!?!?!?!?」」

ポン、とでも言おうか。

気の抜けたような効果音と共に、テーブルかけの上に湯気の立つできたてほやほやのハンバーグが出現した。

のび太にとっては見慣れた光景だけれども、全く想像していなかった光景に目を丸くし口を大きく開きぽかん、と突然出現したハンバーグを見ている霊夢と紫の二人。

その呆けた顔はとても博麗の巫女と幻想郷の賢者として、他人に見せられるようなものではなかったけれどもそんな事を気にする余裕は二人には残っていなかったらしい。

 

「な、何よこれ……」

「りょ、料理が。料理が突然出て来たわ……」

「はい、食べたい料理の名前を言うと、このテーブルかけが自動で出してくれるんです」

「な、なんて尊い道具なの……。まさに神の所業よ……ねえのび太、この布神社の御神体として祀っちゃダメかしら?」

「だ、ダメですよ」

「そんな事言って、霊夢食費を浮かすつもりね?」

「な、何言ってるのよ紫。そ、そんな事する訳ないじゃない!」

 

テーブルかけに対して、料理の名前を言えばいい、と説明をするのび太を他所に、思わずテーブルかけに向けて礼拝をおこなってしまう霊夢。

それどころか御神体として博麗神社で祀りたいなどと言い出す始末。

紫のツッコミが無かったら、ジャイアンよろしく力ずくでのび太から奪い取っていたかもしれない。

またのび太はあずかり知らない事ではあるものの、これは巫女としての務めなどで食材やお酒はある程度入ってくるとは言え、なかなか贅沢はできない霊夢にとって好きなものを好きなだけ食べられる事が、どれだけ尊い事なのかその所作や発言が如実に物語っていた。

 

 

そして……

 

 

「「「いただきます!!」」」

 

博麗神社で、未だかつてないほどに豪勢な夕食が始まった。

確かに食材を持ち込みでの宴会をした、と言う経験は霊夢もあるにはある。

けれどもそれはあくまで宴会であってお酒がメイン、わいわいと賑やかに飲むのが主であり食事はあくまでもおつまみ程度と言う事がほとんどなのだ。

それが日常生活の中で、食べても食べてもいくらでも料理を注文できてなおかつそれらが全て無料で材料も要らないのだから、霊夢の食欲ときたらものすごいモノだった。

ちなみにのび太は説明もかねて出したハンバーグ、紫はさすがに人肉は出てこないと踏んだのか『暑いからお蕎麦でも』と、ざるそばを注文。

二人が自分の注文したものを食べている間に霊夢はカレー、かつ丼、ハンバーグと思いつく限りの料理を出してはそれをガツガツと平らげてゆく。

そこに少なくとも女の子、博麗の巫女と言う雰囲気はみじんも無かった……。

 

 

 

……こうして、博麗神社でのび太の幻想郷の一日目の夜は更けてゆくのだった。

 




はい、二つ目のひみつ道具はグルメテーブルかけでした。
これ、絶対霊夢のび太から奪うか、のび太が折れてフエルミラーなどで増やして霊夢に渡すかすると思うんだよなぁ。
本文中でも書きましたけれど、ノーコストノータイムでいくらでも料理が取り出せるとか、霊夢からしたら絶対欲しい道具だものなぁ。





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襲来! 魔女っ子まりちゃん

いよいよ次なる幻想郷の住民が博麗神社にやってきます。
さてさて、一体誰がやって来るのでしょうか!?


のび太が幻想郷の博麗神社にて霊夢、紫と同じ席で夕飯を食べているのと同じ頃、外の世界では……。

 

「のびちゃん、そろそろご飯よー」

 

いつものように台所からのび太の部屋へと声をかけるママ。ここで普段なら返事の一つも帰ってくるのだけれども、今日はいつもと違いうんともすんとも返事がない。

確かに時々は昼寝をしている事もあるけれども、たいていの場合は食べ盛りの子供である。

呼べば返事と共に転げ落ちそうな勢いで、二階の部屋から駆け下りてくるのだ。

 

「変ねぇ……。寝てるのかしら?」

 

普段とは違うのび太の反応に違和感を覚えたのか、出来上がった夕飯を皿に盛り付けるのを止めてから、ママは二階ののび太の部屋へと向かい、確認をする事にした。

盛り付けるのはそんなに時間を要する作業でもない、のび太がもし寝ているのなら起きてきた時に食べられるようにしておけばいいのだから。

 

「のびちゃん、ご飯だから……あら、いないの?」

 

二階ののび太の部屋の前で、一応念のためにノックをして声をかけてみるけれどもやはりのび太からの反応はうんともすんとも返ってこない。

ならばと部屋の戸を開けてみれば何の事は無い、部屋には電気がついておらず本来ならばいるはずの主……のび太がいないのだ。

これではいくら呼ぼうが返事がないのは当たり前ではないか。

しかしそうするとのび太はどこに行ったのだろうか? と言う疑問がママの脳裏に生まれる。

少なくとものび太は帰ってくればただいまと言うし、例外を除いては何も言わずに出かけたり帰ってきたり、と言う事はまずありえない。

と、ここでママは昼間ドラえもんの妹のドラミが挨拶に来た事を思い出した。

 

「ひょっとしたら入院するって昼間出かけたドラちゃんについて未来に遊びに行っているのかもしれないわね」

 

のび太のためにいてくれたドラえもんが、未来の法律で強制入院させられてしまうと言うのだ。もしかしたらドラえもんについて行ったのかもしれない。

もしそうだとするのなら逆に、なまじ自分たちが見ているよりも安心して任せられると言うものだ。

 

「じゃあ、しばらくはのび太も帰ってこないわね」

 

そう言うとママはのび太の部屋のドアを閉めて、安心したようにまた台所へと戻っていった。

のび太が食べる事を前提で作った晩御飯ではあるものの、のび太もドラえもんもいないのならば明日の朝にでもまた出せばいいのだ。

もちろんママは気が付いていなかった。のび太がドラえもんとは全く関係のない場所にいる事を。

気が付いていないから、ママはのび太が帰ってこない事に不安を感じる事はもう、無かった……。

 

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

 

霊夢の勧めで博麗神社に泊めさせてもらった翌日。

さすがに女の子の霊夢と同じ部屋に泊まる訳にもいかず、霊夢が平時利用している寝室とは別の客間で就寝となったのび太。

ちなみに紫はと言うと、自分の家が幻想郷のどこかにあるらしく、夕食後に食べ過ぎでお腹を妊婦のように膨らませては苦しいと呻いている霊夢を他所に来た時と同じように、スキマへと消えていった。

そうして、翌朝……。

木製の雨戸の隙間を通すように、のび太の寝室へと朝日がぽつぽつと差し込んでくる。

また、光に乗るように聞こえてくる小鳥たちのさえずりもまた、外はもう朝である事を教えてくれていたのだけれども、あいにくとここで眠っているのび太は眠りの達人である。

部屋に差し込む日光や目覚まし時計程度でさえ起きないのび太にとって、わずかに差し込む日光や小鳥のさえずりなどないに等しいのだ。

と、その部屋の障子がすう、と静かに開いた。

 

 

……さ……い

 

「グゥ」

 

……さ……い

 

「グゥグゥ」

 

……きな……い

 

「グゥグゥグゥ」

 

……おきなさい

 

「グゥグゥグゥグゥ」

 

……起きなさい!

 

「グゥえっ!」

 

ゆさゆさとのび太を揺さぶる声や、のび太を揺するふり幅も大きくなっていくが、のび太は起きるどころかいびきで返事をする始末。

一体何回起こされたのか、何回目かの声かけの後、眠りながらいびきで生返事をしていたのび太を襲ったのは無言で腹へと叩き込まれた強烈な一撃だった。

さすがに眠りの達人であるのび太もこの一撃を受けてはさすがに眠ってはいられず、弾かれるように布団から飛び起きたのだった。

 

「「いただきます!!」」

 

普段着に着替えてから、前日に引き続き神社の居間で朝食を食べる霊夢とのび太の二人。

今朝の朝食はと言うとご飯に卵焼き、納豆に焼き魚と言う至ってシンプルな朝食となっているが、これらはすべて霊夢のお手製ではなく、当然のように朝食の支度はグルメテーブルかけによる瞬間調達である。

前日にはやれ奇跡だ、やれ神の所業だと礼拝までしていた霊夢もすっかりグルメテーブルかけの使い方を理解したようで、今ではのび太に頼らずとも使えるようになっていた。

やはりその使い方を短期間で完全に習得した動機は、間違いなく食が絡むからであろう事は想像に難くない。

 

 

「で、いいこと? 食べながらでいいから聞きなさい。確かにのび太は無料の食事を提供してくれている、これには確かに感謝しているけど、ここにいるからにはきっちりと働いてもらうわよ?」

「ええっ、僕も働くんですか?」

 

まさか宿題でもしてなさい、ではなく働けと言われるとは思っていなかったのび太は箸を止めて驚いたように霊夢へと視線を向けるが、霊夢の意思は揺るがない。

口にこそしないものの『当然じゃない、』と言わんばかりに、のび太へと容赦なく仕事を言いつけていく。

それはまるでのび太のママがのび太にお使いを頼む日常の光景によく似ていた。

 

「まずは境内の掃き掃除よ、それが終わったら井戸から水くみもお願いね。まずはそんな所かしら」

「えーっ!?」

「つべこべ言わない! いい? 外の世界とここ幻想郷とは違うのよ?」

「はーい……」

 

当然のび太に反論の余地はない。いや、仮に反論しても霊夢はさらにその反論をねじ伏せてくるだろう。

その辺りまでママにお使いを頼まれる光景にそっくりなのだ。

結局のび太は食べ終わるとすぐにホウキ一つを手渡され、そのまま境内へと放り出されてしまった。

唯一の救いは時間も朝早くと言う事もあり、まだ日中ほど暑くないと言う事か。

それでも、何しろのび太の家の庭とは比べ物にならないほどに広い博麗神社の境内、おまけにその周りは全面が緑に包まれている。

つまりは、広い上に落ち葉の量も多いのだ。

 

「疲れたよぉ……ドラえもーん!!」

 

普段の諦めの速さもあって、いつものようにべそをかきながら『これじゃあ終わらないよぅ』と開始5分で早々と親友に助けを求めるのび太だったが、あいにくとその親友は今頃未来のロボット病院にいる事だろう。

もっとも、あちらはあちらで『検査はいやだ!』と逃げ回っているのかもしれないが。

となればどこでもドアで幻想郷に来た時のように自分でひみつ道具を使って何とかするしかない、かと言って庭や境内の掃き掃除を勝手にやってくれるような便利な道具はあるのか? と言うと。

 

 

……それが、あるのだ。

 

 

ぐす、ぐす、とべそをかいていたのび太もようやく落ち着いたようで、記憶を頼りにいつでも使えるようにズボンのポケットに入れて持ち歩いている四次元ポケットに手を入れる。

手で中を探る事数分、普段使われる事が少ない道具のため隅っこの方へと追いやられていたらしい目的の道具はようやく見つかった。

するりと四次元ポケットから目的の道具を取り出すと、高らかに掲げその名を口にする。

 

「確か、前にジャイアンちの庭掃除をやらされた時に……あった! ねじ式台風!!」

 

のび太が取り出したのは、〇のカー〇ィに登場するクラッ〇に、ゼンマイねじをくっつけたとでも言うべき珍妙な格好をした道具。

しかし侮るなかれ、その名の通りねじ式台風はネジを巻く事で台風を起こせると言う道具なのだ。当然その強さと持続力は巻いたねじの回数に比例する。

数回巻いた程度なら、ホウキで掃き掃除をするよりもはるかにお手軽に落ち葉があつまるような、台風と言うよりもむしろつむじ風、と言ったレベルの風になるが、もう少し多く巻けば人間が空中に浮かんだまま風に乗って遊ぶ事ができるレベルまで強くなる。

ちなみに、のび太やドラえもんからねじ式台風を強奪したジャイアンが最大級にねじを巻いた際に発生した超大型ねじ式台風は、庭の葉を全て落とし、ジャイアンたちが風に巻き込まれて目を回すレベルまで威力が跳ね上がったりする。

のび太はそのねじ式台風を手に持ち、確かこれくらいだったな、とドラえもんが自分に説明してくれた際巻いていた回数を思い出しながら、背面にセットされているねじを数回『キーコ、キーコ』と回して巻くと空中に軽く放るような形で手を放す。

 

 

 

…………ヒュオオオオ

 

 

 

するとどうだろう、つむじ風のような弱い竜巻がねじ式台風の周りに起こり、ひとりでに落ち葉を集めていくではないか。

そう、台風の風は内側に向かって進む風なので落ち葉も散らかすのではなく風に乗る格好で集まっていくのだ。

それではのび太がやる事と言えば、ゆっくりと移動しながら落ち葉を集めてゆくねじ式台風の後をついて歩き、変な方向に進んだり、ネジが切れた時に巻き直せばいいだけ。ホウキで終わらないとべそをかいていたさっきまでの掃き掃除とはうって変わってお手軽な掃除へとあっという間に変わってしまったのだった。

「終わったー!!」

 

数十分後、のび太はばんざいをしながらねじ式台風を手に、霊夢から言われた掃き?掃除を全て終わらせてしまっていた。

何回かねじ式台風を使い、それぞれの場所で落ち葉をまとめておいた山も全部一まとめにしてしまったのび太の前にはこんもりとした落ち葉の小山ができあがっている。

このスピードはのび太はもとより、霊夢が掃除をするよりも間違いなく早いねじ式台風での掃き掃除。この記録は今後長く破られないに違いない。

 

「……こら、のび太! 掃除をサボったらだめじゃない!」

「え? いえ、あの……もう終わりました」

「終わった!? 何言ってるのよ、私だってもっと時間がかかるのに……って、あれ? 本当だ」

 

のび太の声を耳にしたらしい霊夢が「サボるんじゃないわよ」と、ママのようにのび太を叱りに神社の今から顔を出した。

けれども、終わったと言うのび太の言葉を受けて疑わしそうに回りを見てみれば、確かにきれいさっぱり落ち葉は片付けられてのび太の脇に山を作っている。

自分が作業をしてももっとかかるんだから嘘おっしゃい、と言おうとしても実際に終わっていると言う証拠を見せられてはいくら霊夢と言えどもぐうの音も出てこない。

ねじ式台風を使っているシーンは見ていないものの、別に霊夢はひみつ道具を使って働いてはいけないとは一言も言っていないのだからこれは明らかにのび太の発想力の勝利である。

が、ここで霊夢は自分が指示を出した作業……すなわち、境内の掃き掃除と井戸からの水くみと言う二つの作業のうち、水くみが終わっていない事に霊夢は気が付いた。

 

「で、でも! まだ井戸の水くみは終わってないんでしょう? それもやらなくっちゃダメじゃない! のんびりしている暇はないわよ!」

「あ、あの……それなら……これを使っちゃダメですか?」

「……? 何よこれ?」

 

鬼の首を取ったり、とでも言いたげにのび太へと強気で薄い胸を張りふんぞり返る霊夢に、のび太は思い出したようにまたパンツ、もとい四次元ポケットから金属でできた、ピカピカと光る道具を取り出した。

ひみつ道具と言えば四次元ポケットやそこから取り出したどこでもドアにグルメテーブルかけ、と言った道具しかまだ見ていない霊夢から見ても、今度のび太が取り出した道具は手のひらに収まる程度の小型の道具である事が分かった。

ただし、その使い道は今まで見て来たひみつ道具以上に霊夢にとって想像しにくい形でもあった。

それは、のび太から受け取った霊夢が手の中でいろいろと転がしながら様々な角度からその道具を見ている事からも伺える。

 

「えっと、これはどこでも蛇口……って言って、くっ付けるとどこからでも水が出てくるんです」

「はぁ!? いくら何でも冗談もいい所よ。くっ付けるとどこからでも水が出てくるなんて、そんな芸当できるのは幻想郷広しと言えども紫くらいのものよ? それがこんな小さな金属の道具をくっつけただけで水が出るなんてそんな……」

 

 

『どこでも蛇口』

 

 

それこそその形は名は体を表すの通り、水道管から取り外した蛇口そのものの形をしたひみつ道具である。

しかしその効果は驚くなかれ、取り付けた場所がどこでも水道となると言う道具なのだ。

のび太が裏山と心を通わせてしばらく暮らした事があった。その時のび太は裏山の木々が水不足に陥らないよう、木々にどこでも蛇口を取り付けて、自由に木々に水がいきわたるようにしたのだった。

この使い方からも分かるようにどこでも蛇口は樹木の幹だろうと家の壁だろうと、取り付ける場所には関係がないのだ。

このどこでも蛇口の使い方の説明……、と言っても使いたい場所に蛇口をくっ付けて、蛇口をひねるだけと言う簡単なのび太の説明に霊夢は半信半疑で物は試し、ととてとてと台所に移動し、手にした蛇口を流し台へとくっ付けて蛇口をひねってみた。

と、どうだろう。

すぐに蛇口の先端からはひんやりとした、まるで井戸水のような水がとうとうと流れ始めたのだ。

そしてその水の流れはいつまでたってもやむ様子が見られない。

 

「み、み、水! 水が、水が噴き出したわよ!!?」

「うわっ!? そんなに驚かないでくださいよ……だから、どこでも蛇口なんですって。これがあれば井戸の水くみも霊夢さん、要りませんよね?」

「う……ま、まあ、ね……」

 

分かっていたはずなのに、まだやはりどこか半信半疑だった霊夢が台所で思わずひっくり返るその様子に、霊夢の後ろからついてきていたのび太はまさかここまで驚くのかと、逆にびっくりして声を上げてしまう。

その様子は、まるでマヤナ国の王子ティオが野比家でカップ麺を食する際、ガスコンロを見て驚きの声を上げた時の様子によく似ていた事をのび太は知らない。

ただ、今ドラえもんがこの場にいたら、火と水の違いこそあれ間違いなくティオの反応そっくり、と言っただろう。

一方の霊夢は霊夢で、年下の男の子の前で驚きのあまりひっくり返り尻もちを搗くと言う恥ずかしい格好を見せてしまった事で顔を真っ赤にしながら、何事も無かったのようにお尻をはたきながら立ち上がった。

それでもまだやはり恥ずかしいらしく、その顔は暑さとは別の要素で赤く染まっている。

その霊夢も『この蛇口があれば井戸水を汲む必要はもうない』と言うのび太の言葉に同意せざるを得なかったのは言うまでもない。

このどこでも蛇口があれば流し場だけでなく、お風呂、飲料水の水がめなどありとあらゆる水が指先一つで作業できるようになるのだ。

この恩恵がどれほどのものか、日々生活の中でその苦労を味わっている霊夢は迷う事なく、ひみつ道具を受け入れたのだった。

 

 

そんな時だった。霊夢とのび太、二人の耳に聞き慣れない甲高い音が飛び込んできたのは。

 

 

 

…………キィィィィィィィィィィン!!!

 

 

 

何かが高速で動いているような甲高い音、ただ気になるのはそれが『自分たちへと近づいてきている』と言う事。

少なくともこんな音を立てるものが近づいてきているとなれば、たいていの場合はろくな事がないと言うのはのび太もだいたいは見当がつく。

となれば、一体何なのかと確認をするのは自然な事とも言えた。

少なくとも、もしこの神社が爆発したりするような事になれば、いくらひみつ道具を持つのび太でも道具を用意したりする時間が無ければ無事では済まない。

ドラミの打ち上げた花火に気を取られたデマオン城の悪魔よろしく、のび太は慌てたように博麗神社の台所から境内へと飛び出した。

この時、もしのび太がもっと注意深く霊夢の様子を確認できていれば、のび太と違い霊夢はそこまで動揺していない事に気が付けたかもしれない。

そう、まるで霊夢にはこの音の主に心当たりでもあるように。

けれども、あいにくとのび太はその点に気が付けるほど落ち着いてはいられなかった。

 

「のび太! 待ちなさい!」

 

背後で霊夢の制止が聞こえる中、博麗神社の境内に飛び出したのび太が周囲を見回す。

音はまだ止んでおらず、さらに近づいてきているようだ。

一体どこから? 周囲をきょろきょろと見回すのび太が空のとある一点を見た時、それはやって来た。

 

 

 

…………ッッッッ!!!

 

 

 

最初は針の先程の黒い点。

それが見る見るうちに大きくなっていき、声を上げる間もなく爆音と衝撃を引き連れてきた『それ』はせっかくのび太が集めた落ち葉の山へと盛大に衝突、としか言いようのない勢いで乱暴に着地する。

どうして着地、と言いきれたのかと言うとその突っ込んできた主が、衝突時の勢いでバラバラと舞い上がるせっかくのび太が集めた落ち葉の中、ホウキから降りてすっく、と立ったからだ。

 

「……………………ふぅ、ちょうどここに落ち葉の山があって助かったぜ」

「………………」

 

そう言ってのび太の目の前に現れたのはホウキを手にした、どこからどう見てもおとぎ話に登場しそうな魔女だった……。

 

 




爆音と衝撃を伴いのび太の目の前に降り立った謎の人物!!
果たしてこの人物の正体とは!?(ぇ


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のび太驚愕! 魔法使いは〇ャ〇〇〇だった!

投稿が遅くなり申し訳ありません。
久しぶりの投稿ですが、いよいよ普通の魔法使い霧雨魔理沙とのび太が邂逅します……。

果たしてどうなる事やら。




音の壁を超えるような速度でのび太の目の前に現れた、魔法使いのような格好をした女の子。

ただし本当に魔法使いなのかはのび太には分からない、言うなれば魔法使い(仮 とでも言った所か。

なにしろもし本当に魔法使いだったとしても、のび太の知る魔法使いとは似ても似つかぬ格好だったのだから、こればかりは仕方がないと言えるだろう。

少なくとものび太の知る魔法使いの少女……満月美夜子と比べても、かなりの温度差がある格好なのは間違いない。

 

 

『のび太の魔界大冒険』

 

 

かつてもしもボックスで科学文明の世界から魔法文明の世界へとのび太とドラえもんが入り込んだ時、その魔法世界では魔界星と言う悪魔の母星が地球を目指して大接近を開始しており、のび太たちはその地球を救う運命の戦士に選ばれた事があった。その魔界星の接近に「魔界接近説」と言う警鐘を鳴らし続けていた満月博士の一人娘、そして共に魔法世界の地球を魔界接近による侵略の魔の手から救った仲間であり、かけがえのない友人でもある美夜子。

その時の美夜子はと言えば、ホウキよりもさっそうと絨毯で空を飛び回り(何しろプロの絨毯レーサーを目指そうかと言う実力者だった)、魔法や剣を使って魔界の悪魔や魔物を薙ぎ払うと言う、驚きの活躍を見せてくれた。

それを考えれば、今目の前にいる魔法使い(仮 の女の子はのび太から見るとひどく異色な存在に見えたのだ。

でもいつまでも見てばかりもいられない、紫に背後から声をかけられた時と同様に、のび太は意を決したように謎の魔法使い(仮 の女の子に声をかける事にした。

ちなみに、もちろん最初に紫を怒らせたようにうかつにおばさんなどとは口にしない。

あくまでもお姉さん、と呼んでおく事で彼女たちの怒りを回避する術をのび太は既に学習していた。

 

「あ、あの……お姉さんは、一体誰ですか?」

「ん? そう言うお前こそ誰だ? この辺じゃ見かけない顔だよな。……ひょっとして外から来たのか?」

 

が、やはり音の壁を突破するほどの速度で飛行していただけあり、とにかく着地する事に全神経を注いでいたらしい魔法使い(仮 の女の子は、のび太の質問にようやく目の前に霊夢とは違う別の誰かがいる事に気が付いたらしい。

質問を受け、のび太のつま先から頭のてっぺんまでまじまじと観察するように眺めながら、誰かと尋ねるのび太に逆に誰なのかを聞いてくる。

そもそものび太の格好が幻想郷の住民が身に着けている服装は個々で異なっているが、人里に暮らす幻想郷の一般人は明治時代からそう変化が見られない。つまりは木綿などの服が多いのだ。

これは子供の格好とになればなおさらである。

その点だけでも化繊のシャツを羽織り、ズボンを履いているのび太の格好は幻想郷の同年代の子供と比べてもと大きく異なっている、また博麗神社に男の子がいる事自体が極めて珍しかった。

となれば、と言う推理から魔法使い(仮 の女の子は、少し考えてからのび太を外から来た子供であると判断したらしい。

 

「そうよ。この子はのび太って言うの。昨日から泊まってる博麗神社のお客様よ」

「初めまして、僕はのび太、野比のび太って言います」

 

そんな魔法使い(仮 の少女に応えたのはのび太ではなく、その背後から現れた巫女の声だった。

その言葉に納得したように頷く魔理沙の様子から、霊夢と魔理沙の二人はかなり気心の知れた間柄だと言うのが伺える。

 

「のび太か、なるほどな。私は魔理沙、霧雨魔理沙だ。普通の魔法使いなんだぜ」

「魔法使い? でも、なんだか僕の知ってる魔法使いとはだいぶ格好が違うような……」

「何? のび太、これはどこに出しても恥ずかしくない魔法使いの格好なんだぞ。これのどこが間違ってるんだよ?」

 

魔法使い(仮 あらため、ようやく自己紹介をされた普通の魔法使い、霧雨魔理沙。

しかしのび太にとってみれば、魔法使いとは魔法世界で知り合った美代子さんの格好なのだ。

少なくとも魔理沙の格好はのび太にとっての魔法使いのイメージからは大きくかけ離れたものだった。

そんなのび太の反応がお気に召さなかったようで、むぅ、と頬を膨らませては「どこが間違ってるんだ?」とのび太に自分の格好……つまりは黒い帽子に黒い服、白いエプロンを見せつけるように、魔理沙はくるりと可愛らしく一回りして見せた。

 

「えっと……ホウキ以外全部、かな……?」

「全部!? おいおい、それは酷いな。そもそものび太は外の世界から来たんだろう? まず魔法使いを見た事がないのに似合わないってのは取り消してもらおうか」

 

外の世界=魔法の息の根が止められた世界。魔理沙のこの認識は間違っていない。

出来杉がかつて『魔法は本当にあるのか』と言う質問をしてきたのび太に語った、魔法も科学も根は一つであり、後から発展した科学によって結果として魔法と言う学問は息の根を止められた。つまりこの世界に魔法はもう、無い。

確かに出来杉は、はっきりと筋道立ててのび太にそう説明している。

出来杉の言う通りこれは紛れもない事実であり、魔理沙の目の前にいるのがもしも普通の子供だったなら、魔理沙の認識、つまり『魔法を見た事もない』と言う言葉は間違ってはいない。

しかし魔理沙の目の前にいるのは外でもない、のび太である。

魔法世界、魔法文明へもしっかりともしもボックスを使い冒険に出かけた事があるのだ。

 

「え、いや……その、実は僕魔法を見た事があるんですけど……。悪魔や、大魔王とも戦ったし……」

「魔法を見た事がある!? そんなはずないだろう、だって外の世界じゃ魔法はないはずだぞ!」

「落ち着きなさい魔理沙、のび太の言っている事はたぶん本当よ。のび太はただの外来人の子供じゃないのよ」

「おいおい霊夢、だってどこからどう見ても、外から来た普通の子供じゃないか」

 

魔法を見た事がある、さらには大魔王などと言う存在とも戦ったと言うのび太の言葉に、自然と魔理沙の言葉も大きくなってしまう。

何しろ今までの自分の常識、外の世界ではもう魔法は廃れているのだ……と言うそれをあっさりとひっくり返されたのだから、それも仕方のない事と言えるだろう。

おまけに霊夢までもがのび太の肩を持ち、ただの子供ではないなどと言い出すのだから魔理沙としては信じられないと言った面持ちでのび太へと視線を送っていた。

 

「確かに私も最初はそう思ったわ。でも、のび太の持っている未来の道具を見たら、魔理沙だって絶対にのび太はただの子供じゃないって信じるはずよ。現に、今だって魔理沙が着地した場所で山になってた落ち葉はのび太が全部集めたものなんだから」

 

霊夢が持つ常識を散々ひっくり返して粉々にしてきた、昨日からののび太の行動。

そもそもやって来る段階からどこでもドアで博麗大結界に引っかかる事なく幻想郷に入り込み、自身と紫の目の前でその効果を披露し、続いてグルメテーブルかけで簡単に満腹になるまで食事を楽しませる。

昨日のたった数時間の間に起きた、怒涛の出来事を霊夢は魔理沙に興奮したように、熱心に説明して見せた。

また、今朝の朝食後にのび太に依頼した境内の落ち葉掃除についても、終わらせた所こそ確認はしたものの霊夢はねじ式台風を使った所を実際に見た訳ではない。

それでも霊夢はのび太が何らかのひみつ道具を持ち出して使った事は気が付いてるらしく、自分がやるよりも早く掃除を終わらせた事についても、暗にひみつ道具を使う事で普段以上の速さで終わらせたのだと言い切ったのだった。

 

「おいおい、博麗大結界を素通りして無限に出てくる料理? 魔法だってそんなとんでもない事するのには相当に時間も準備も必要なんだぞ」

「確かに普通ならね、でものび太はごくあっさりとそれをやってのけるのよ」

「あ、あの……だったら霊夢さん、魔理沙さんも疑ってるみたいですし……僕が掃き掃除に使ったこのねじ式台風、使ってみます?」

「ねじ式台風? また新しい道具ね、それが境内の掃除に使った道具なのかしら?」

 

どちらにしてもせっかく集めた落ち葉の山は、魔理沙の乱暴すぎる着地によって完全にバラバラになってしまっているのだ。

それならもう一度ねじ式台風で集めるのだから、疑っている魔理沙への説明も兼ねて実際に二人に見てもらった方が手っ取り早い……そう考えたのか、のび太は手にしたねじ式台風を霊夢へと渡すと、極端にネジを巻かないようにだけはしっかりと説明して実際に霊夢に使ってもらう事にしたのだった。

 

「……だから、ネジを巻きすぎないようにだけは気を付けてください」

「分かったわ、こんな感じでいいのかしら?」

「はい、それくらいでいいと思います。後はこれを軽く放れば風が起こって落ち葉を集めてくれます」

 

キーコキーコと、のび太に言われた通りにネジを数回巻き、自分の背よりも少し高いくらいの空中に放り出す。

魔理沙が博麗神社にやって来る前に、のび太がやっていた事と同じ事を霊夢がやって見せると、ねじ式台風は再びその周りにヒュオオオオ……と風が渦を巻き、散り散りになった落ち葉を見る見るうちに集めてゆく。

その姿はまさしくねじ式の台風そのものだった。

 

「うおっ!? すげーっ!! 風が起こってる、おいのび太、これはなんて魔法なんだ!?」

「えっと、これは魔法じゃなくて未来の道具なんです。ねじ式台風って言って、ネジを巻くと小型の台風を起こせるんです」

「こんなすごいのに魔法じゃないのか? まあ魔法も道具もどちらでも面白そうだし、なあのび太、これ私に貸してくれよ」

「へ?」

「いいだろ? 減るもんじゃないしさ」

「え、で、でも……」

 

のび太からねじ式台風の説明を受け、おまけに霊夢が実際に説明通りに使っている様子をみてすっかり魔理沙はひみつ道具の魅力に取りつかれてしまったらしい。

そもそもひみつ道具とは、分類するのなら魔法ではなく科学の産物であるのだけれども、自分に利益になりそうだと踏めば魔理沙にとってはどちらでもいいようで、平然とのび太に貸してくれと、それこそまるで外の世界のジャイアンのように頼みこんで来たのだからのび太からすれば驚き以外の何物でもなかった。

確かにのび太の性格は他と比べてもお人よし、に分類されるだろう。

それでもしずかや、信用のできる出来杉と言った友人たちならともかく、出会ってまだ三十分も経っていない相手から道具を貸してくれと言われて、素直に貸せるほどはお人よしではない。

これはのび太自身が、あくまでもドラえもんのスペアポケットを借りてそこから道具を取り出してその効果を発揮しているから、と言うのが一つ。

後は、単純にひみつ道具の効果が持つ危険性からだった。

タケコプターやどこでもドア、グルメテーブルかけにどこでも蛇口くらいならまだ危険や事故は起こりにくいと言える。

これはのび太でも使えており、なおかつ事故も起きていないと言う事からもそれは伺える。

では、ねじ式台風は? あるいはもっと他のひみつ道具まで万が一にも貸してくれと言われたら?

ちなみにねじ式台風は、最大限までネジを巻いた場合、かなり強力な台風となる事を実際にジャイアンが起こしているためにのび太は知っている。

あくまでも一例であるとは言え、事故が起こるかもしれないような道具をほいほいと貸す訳には、のび太もいかなかった。

 

『ドラえもん、よく僕がひみつ道具を貸してってお願いしたら、しつこいくらいに説明したり勝手に使うなって怒ったけど、ごめんねドラえもん……あれはこういう事なんだね』

 

初めて親友と同じ立場になって、やっとその意味が分かったのび太。

そして親友の説明をよく聞かずに使って、ひどい目にあったりした経験をいやと言うほど持つのび太の答えは、もう決まっていた。

 

「いいだろ? ちょっとだけだからさ」

「魔理沙、のび太だって困ってるじゃない。その辺にしておきなさいよ」

「大丈夫だって霊夢。道具一つ借りるだけだぜ、別に九十九神になりかかってるとか、怪しい事はないんだしさ」

「だ、ダメですよ。これは貸しません」

 

すでにひみつ道具の恩恵に預かっている霊夢ものび太の側につき、魔理沙を説得にかかるものの、魔理沙は聞き入れる様子がない。

それでも、のび太ははっきりと、貸さない、と言ってのけた。

しかしよくよく見てみれば、のび太のその手足は震えているのが見てとれる。

なにしろ女ジャイアンとでも言えそうな、魔理沙の言葉。

安全カバーをドラえもんが用意してくれた分、かつて世界平和安全協会を名乗る二人組を前にした時の方が、まだのび太にとっては安心できたのだろう。

 

「ほぅ……人の格好にケチまでつけて、道具も貸さないと……そこまで言うからには、覚悟はできてるんだろうな?」

「魔理沙、やめなさい! それ以上は本当にのび太が無事じゃ済まなくなるわ! そうなるなら、私が相手よ!」

 

その証拠にのび太の言葉に、魔理沙の目つきがそれまでの笑顔から一変、鋭いものに変わる。

その辺りまで魔理沙はジャイアンにそっくりだ。

そんな様子を見て、いよいよ語気を強めて魔理沙を制する霊夢の声。

これ以上は本当にのび太の身が危ないと霊夢は判断したらしく、いつでものび太と魔理沙の間に割って入れるように身構え、袖の中に手を入れている。

魔理沙が妙な動きでのび太に手を上げようとすれば、即座に霊夢の袖の中からお札や針が飛び出し魔理沙へと向かうだろう。

それについて、その袖だって四次元ポケットじゃないかとツッコミを入れる者はあいにくとこの場には誰もいなかった。

 

「霊夢とのび太か……。それなら、私とのび太で弾幕勝負をして、私がのび太に勝ったら道具を借りてく。のび太が勝ったら道具も借りないし、私の格好にケチをつけた事も、水に流す。それでどうだ?」

「な、ちょっと! 何勝手に話を進めてるのよっ! のび太は幻想郷に来たばかりで弾幕なんて見た事もないのよ!」

「え、えっと……霊夢さん。弾幕勝負って、なんですか?」

 

博麗神社の境内に、穏やかではない雰囲気の魔理沙と霊夢の言葉、それに鋭い目線とが交差する。

そしてその二人を他所に、事情が全く呑み込めていないのび太は「弾幕ってなんだろう」と一人、首をかしげていた……。

 




ええと、次回いよいよのび太と魔理沙が弾幕勝負を行う事になります(多分
それにしても、原作でも死ぬまで借りておくとか平然と言ってるけど、どう見ても魔理沙はジャイアンだよなぁ……だからたぶんジャイアンと魔理沙は気が合うかもしれませんね。
二人とも雑貨屋や道具屋の子供だし(魔理沙は勘当されてるけど)。



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はじめてのだんまく

すみません、お待たせしてしまいました。

ひとまず先週あたり流動食しか受け付けなかった身体の方はどうにか、ご飯を食べられる程度には体調が戻ってきています。
体調管理できていないと言われればそれまでですが、皆さんもまだまだ暑いのと夏休みなどの方もいらっしゃるかと思いますので、お気を付けください。



魔理沙とのび太の間に霊夢が割って入るそぶりを見せた事で、分が悪くなる踏んだらしい魔理沙が霊夢に『弾幕勝負』なるのび太には聞き慣れない、未知の勝負を持ちかけてきたのだけれども、もちろんのび太は弾幕と言われたところでそれが果たして一体どういうものなのか、ピンとくる訳がない。

 

恐竜の時代、コーヤコーヤ星、バウワンコ王国、ムー連邦、魔法世界、ピリカ星、メカトピアからの侵略ロボット、地底王国の恐竜人、etcetc……。

 

のび太が冒険してきた数多の世界はあれど、弾幕勝負、なるものを行うような、あるいはそれを挑んでくるような世界は今まで一度も無かったのだ。

しいて言うのならばコーヤコーヤ星で星そのものを爆破し、ガルタイト鉱石を手に入れようと企んでいたガルタイト工業が送り込んだ殺し屋ギラーミンとの決闘だろうか。

お互いに名うてのガンマンとしての力量を見抜き、恐ろしい相手だと認め合うほどの実力者同士が行ったその決闘は辛うじて、文字通りの僅差で、のび太のショックガンがギラーミンを制する形で勝利となった。

しかしそれはあくまで『決闘』であって弾幕勝負、ではない。

もしこの場にギラーミンがいたとしても、のび太との勝負は弾幕勝負などではなく決闘であったと証言してくれるに違いない。

つまりは、今ののび太に弾幕勝負と言う単語を理解できる頭は備わっていなかった。

一方で、霊夢はと言うと魔理沙の言っている言葉の意味を理解できているらしく、頭に疑問符を浮かべたのび太を他所に魔理沙に掴みかからん勢いで文句を口にしている。

 

「魔理沙、あんたここに来てまだ何も分かってないのび太に弾幕勝負なんて挑んでどうするのよ」

「大丈夫だって、さすがにスペルカードを使うつもりはないし手加減だってするさ」

「当たり前よ! その代わり魔理沙、弾幕についての説明やルールについても、勝負を持ちかけたあんたが責任もってちゃんとのび太に教えなさいよ?」

「分かったよ、まあそこは私にも責任があるしな。その代り審判は公平に頼むぞ」

 

この、のび太を置いてけぼりにしながら霊夢と魔理沙の間で行われていた会話によって、審判は霊夢が務め、またのび太が初めて体験するであろう弾幕についての説明は魔理沙が行う事になったらしい。

霊夢に思い切り釘を刺されながら、魔理沙がホウキを片手にのび太から少し離れた場所に立って、神妙な顔つきで口を開いた。

 

「のび太、まず勝負の前に弾幕が一体どういうものなのか説明するからな。これは私だけじゃなくて、幻想郷で暮らしていく上で、必要になると思うから、しっかり覚えておいてくれよ」

「はーい」

 

魔理沙の言葉に学校の授業よろしく、返事だけは真面目に答えるのび太。

まあ、学校の授業のように眠気を誘う話でもなさそうであり、おまけに曰くここでの生活をする上でも必要になるらしいとなれば、聞いておいて損はない、と言うのがのび太にも分かったらしい。

それに万が一最悪の場合、のび太にはピンチを切り抜けるのにふさわしい、相手からすれば苦情が飛んでくる事待ったなし、反則級の効果を持ったひみつ道具も多数ポケットの中には控えている。

もちろんそうおいそれとそんなモノを取り出す訳にもいかない(特に魔理沙の前で取り出せば間違いなく貸せと言われるのは目に見えている)ので、使うとしてもあくまでも本当にピンチになった時にだけ、になるだろうけれども……。

 

「いいかのび太! よく見ておけよ……」

「……へっ!?」

 

そんな事を考えているのび太を他所に、魔理沙はホウキを片手に持ったまま、のび太にびしりと指先を突き付けながら、突き付けた指の先端から光る玉とでも言うのか……少なくとものび太にはそうとしか見えない、ゲンコツ一つ握った程度の大きさをした光の玉を生み出した。

おまけに生み出しただけでなく、それはゆっくりとふわふわと空中を漂うようにのび太の方へと飛んでくるのだ。

音もしなければ、ジェットやプロペラで飛んでいる訳でもない。

 

「…………」

「おっと、触るんじゃないぞのび太? 思い切り手加減してスピードを遅くしてるけれども、当たったら痛いのには間違いないからな」

「……っ!!」

 

ただ、ふわふわと風船が漂ってくるように向かってくる光の玉にのび太が近づいて、そっと手を近づけようとしたその動きを遮るように魔理沙がやんわりと警告する。

その言葉が嘘を言っているのでないとしたら、これにもし当たれば魔法世界で悪魔やデマオンの使い魔たちが使った魔法のようにジャイアンやスネ夫のホウキが燃やされたり、服が焦げると言った程度の痛い目には合うのだろう。

魔法世界で実際に見て来た経験から、すぐにのび太はその手を引っ込める。

 

「そうそう、それが弾幕だ。私なら魔法使いだから魔力。霊夢なら霊力、妖怪なら妖力、みたいにそれぞれが持つ力をこうして発射する訳だ。それをお互いに撃ち合って決闘する、当たるまでな」

「…………」

 

生まれてこの方初めてのび太が目にした弾幕、見た目はやはり教えているのが魔法使いの魔理沙と言う事もあり、魔法世界の魔法攻撃に近いものがある。

しかしそれ以外でも、風の民の村で子供たちのリーダー、テムジンが使っていた風弾ダーツにも似ているのかもしれない。

そんな魔法世界や風の民の村だけでなく、今まで自分が冒険してきた世界で似たものがあったかどうかを思い出しながら、じっと魔理沙が放った弾幕を見ていると、やがてそれは力を失ったのかある程度までふよふよと飛んだところでふっ、と消えてしまった。

「あ、消えちゃった……」

「そりゃあ、ありったけの力を込めた訳じゃないからな。いつまでも残ってる事は無いさ。で、続きだけれどもどちらかが弾幕に当たったらそこで勝ち負けは決まりで、その弾幕ごっこはお終い、って訳だ。他にもいろいろと細かい方法はあるけれども、基本はこれだな」

「魔理沙の事だから『いきなり実践あるのみだ』とか言い出さないか心配してたけど、これなら大丈夫そうね」

 

説明を終えてから『これでだいたい分かったか?』とのび太に確認してくる魔理沙。

その様子から二人から少し離れて見ていた霊夢にも、魔理沙としてもできうる限り、全く何も知らない年下の男の子が分かりやすいように、要点を絞って説明していたと言うのが分かったのか、うんうんと満足げに頷いていた。

ただ、のび太の反応だけは少し違っていた。

 

「うーん、弾幕勝負って言うのが決闘なんだ、って事は分かりましたけど……僕にはそんな力なんてないんですけど……その場合はどうなるんですか? 銃とかが使えるなら別ですけど……」

 

そう、困ったような表情を浮かべたのび太の理由はそれだった。

ひみつ道具を使えても、種族としてはただの人間にすぎないのび太は魔力も妖力も、ましてや霊力も持ってはいない。

実際には魔法なら使える可能性はあるものの、使えたとしても効果はスカートをめくるしかできない物体浮遊術のみ。

これでは無いのと大して変わりはないだろう。

唯一の例外として、決闘でも誰にも負けない自信があると言えるのはピストル、大砲、と言った射撃武器の類だけだ。

しかし、ギラーミンとの決闘ならばともかく、弾幕での決闘に銃器の類を果たして霊夢や魔理沙は許可してくれるのだろうか? 

だが、その答えは割とすぐに出てきたのだった。

 

「面白いじゃない。たまにはこう言った要素が入るのも、退屈しのぎとして悪くはないんじゃないかしら?」

 

のび太の言葉に対する霊夢や魔理沙の答え、にしてはおかしい。そもそも二人の声にしては違和感がありすぎる。のび太がそう思う間もなく、三人のいる神社の境内の空間がぱっくりと口を開け、中からするりと抜け出すように紫が現れた。

しかし霊夢も魔理沙も、ついでにのび太も紫の能力、つまりスキマを作って移動すると言うのは何回か見ているし体験もしているので、幻想郷の賢者の登場に別に驚く事もない。

 

「紫、こんな時間に珍しいじゃない。一体どうしたのよ?」

「いえ、そろそろ寝ようかなと思ったら、面白そうな事をしているみたいだから見にきたのよ」

「…………っ!!」

 

日傘を片手に、相変わらずつかみ所のない笑顔で霊夢の問いかけに答える紫。

この場にはいなかったはずなのに、紫は『面白い事をしているから気になって来た』と答えた。

もしかしたらこの幻想郷の賢者も、実はタイムテレビやスパイ衛星みたいな道具でも持ってるのかもしれない。

博麗神社のようなつくりの畳の部屋にごろりと寝そべりながら、テレビを見ている紫の姿を想像してしまい思わず吹き出しそうになり、変な表情にをするのび太に他の三人がが怪訝な表情を向けるが、どうにかのび太はそれ以上変な表情をする事もなく自分の生み出した想像のおかしさに耐えきって見せた。

幸いにも、三人はのび太が噴出しそうになった理由を見抜く訳でもなく、ただむせただけだとでも思ったらしい。

それ以上の詮索がのび太に向かう事は無かった。

 

「さて、それじゃあ話を戻しましょうかしら。あらかじめ言っておきたいのだけれども、あくまで決闘と言っても相手を傷つける事が目的ではないわ。のび太の持っている道具の中にそんなものはあるのかしら?」

「えっと……多分これなら大丈夫じゃないかな? フワフワ銃!!」

 

 

 

『フワフワ銃』

 

 

 

かつてのび太たちが22世紀のミステリートレイン銀河超特急で宇宙の果て、ハテノハテ星群に建設されたテーマパーク・ドリーマーズランドを訪れた事があった。

貴重な鉱石が産出し、鉱山の惑星として賑わいを見せたものの、鉱脈が掘り尽くされさびれてしまった小惑星群そのものをテーマパークとして再興しようとしていた一大事業。

そのテーマパークの中で、のび太は迷う事なく西部の星を選択し、いかんなくその射撃の腕を披露するとたちまち一躍その日の英雄となった(参加者は射撃テストを行い合格者が保安官助手に→暴れ回る悪役を倒し、MVPになった保安官助手に一日正保安官の名誉が与えられる仕組み)。

その時に記念に貰って来たのがフワフワ銃、銃そのものは本物とほとんど変わらない6連発リボルバー銃になっていて、この道具は銃そのものよりも装填する弾の方に特別な効果が持たされていると言ってもいいだろう。

パークの悪役ロボットに命中するとそのまま動きを停止させるけれども、万が一にも人間などに命中した場合、加害・殺傷するのではなく風船のように命中した相手が風船のように膨らみ空中に浮かばせてしまうだけのイタズラアイテムのような効果を発揮するに留まっている。

当然パーク内の西部の星でなければ、ロボットの機能停止機能は働かないが対人での無力化能力はどこでも発揮されるため、記念に貰って来たこの銃一式でのび太はその後のねじ巻き都市冒険記での戦いでも、諸事情から複製された脱獄囚鬼五郎一味を片っ端から膨らませて捕縛に貢献したのだ。

 

「これは、人に命中すると傷つけたりするんじゃなくて風船みたいに丸くなって空中に浮かばせてしまうんです。多分これなら怪我もしないし安全じゃないかな……?」

「ほぅほぅなるほどな。これなら安全みたいだし紫の言う通り、のび太の為にも弾幕ごっこで使う事を許可してもいいんじゃないか?」

「私はまあ、紫や魔理沙がいいって言うのなら反対はしないけど……」

 

これから実際に勝負する為、あまりにも殺傷能力が高すぎるような物騒すぎる飛び道具を出されたら困る、と明らかに表情に出ていた魔理沙も命中してもフワフワと空中に浮かぶだけ、殺傷能力は一切持たずただ相手を無力化するだけの飛び道具と聞いて安心したらしく、弾幕ごっこにおけるのび太の銃器の使用を積極的に推してきている。

 

「じゃあ、決まりね。のび太、あなたが今後弾幕勝負をする時には、特例としてその銃の使用を許可するわ」

「わかりました、ありがとうございます」

 

この時、紫も霊夢も魔理沙も、自分達が一体誰に、どんな許可を与えてしまったのか。

のび太が銃を使うと言う事が一体何を意味するのか、そこに気が付いた者は誰一人としていなかった……。

 




はい、まさかの弾幕ごっこでのび太の銃使用解禁です。
ここにチート少年爆誕がされてしまったのですが、幸か不幸かまだ幻想郷の面々は自分たちが何を許可してしまったのかには気が付いていないのですね。


………そんな状況ですが、実はまだのび太を勝たせるか魔理沙を勝たせるか、非常に迷っています。
どちらの展開も全く考えていない訳ではありませんので、どちらに勝って欲しいか、コメントなど頂けると作者的にも非常に助かります。


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ノビタ 博麗神社空中決戦

のび太VS魔理沙、決着です。
1話で決着付ける為に色々書いていたら当初の予定は端折って3千文字くらいかな、と思ったのがあれよあれよと1万文字……。

サブタイトルは話を書きながら聴いていた爆風スランプの神話から思い付いて付けました(汗
なのでのび太、ではなくノビタになってます。









………………これは一体どういうことなのか?

 

 

………………いや、一体何が起こったのか、と言うべきか。

 

 

頭では理解している、頭では理解しているし自分の身体が大きく数倍にも膨れ上がり、空中に浮かんでいると言う現実を認めなくてはいけないのはよく分かる。

とは言え確かに説明の通り、お腹や服がきつい訳ではない辺り、説明された以上に自分の理解の及ばない何かが作用しているんだろう、と言う所は研究者としての一面を持つ彼女は気が付いた。

結論から言おう。魔理沙はのび太の説明通り、違う事なくフワフワ銃の効果で身体全体が丸くはち切れんばかりに膨れ上がり、博麗神社の境内にぷかぷかと浮かんでいた。

 

「お~い、助けてくれ~」

「「…………………………」」

 

空中に浮かび、落語の戻り井戸のような声を上げる魔理沙を前にして、二人の弾幕勝負を見物していた紫も霊夢も、何も言う事が出来ずただ魔理沙の様子を見上げているしかできなかった。

何しろ元に戻す方法があるのか、あるいはあったとしてどのようにすれば元に戻るのか、のび太から聞いていないので二人にはどうしようもないのと、その肝心要の解除方法を知っているであろうのび太が気絶してしまった事から解除方法を聞こうにも聞けないのだ。

どうしてこうなったのか、話は少し前にさかのぼる……。

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

「よーし、それじゃあのび太も銃を使っていいって許可された訳だし、そろそろ弾幕勝負を始めるとするか!」

「決闘なら負けませんよ!!」

 

のび太がフワフワ銃を取り出して、紫たちに説明をした所で魔理沙は『これでお互いに対等になったんだから早く勝負を始めようぜ』と、先に持ち掛けていた勝負を急かすようホウキを振り回してのび太から少し離れた場所へと歩いていく。

別段のび太が説明を受けた限り、ホウキは関係ないように見えるのだけれども何かのおまじないかな? そんな事をふと考えながらのび太もそれを受け、フワフワ銃と共に用意したガンベルトを腰に巻き付けて、魔理沙から少し離れた場所へと歩いていく。

ちなみに、本音を言うのならのび太としては、銃を使うと言う事で西部の星で着ていた格好もしたかったのだけれども、さすがに急かしてくる以上魔理沙もそこまで待ってはくれないだろうと踏んでいた。

その為、のび太は普段の格好に、ガンベルトを巻くと言う外の世界でも幻想郷でも珍しい格好で魔理沙と戦う事になった。

一方で、紫や霊夢と言った審判や見学を務める二人は、その間に立ち二人の様子を見守った。

 

「じゃあ、のび太と魔理沙の弾幕勝負。1回命中したらそこで終わりよ。まあ、話を聞く限りのび太の銃なら当たった事はすぐに分かりそうだし、のび太も当たったら素直に宣言する事。いいわね!?」

「「はーい(おう!)」」

 

霊夢の、二人への確認の言葉と共にのび太も魔理沙も、一瞬で思考を切り替える。

のび太も魔理沙も、その目は真剣そのものだ。そして二人はたちまちにしてお互いの力量を見抜いていた。

すなわち、目の前の相手は危険だ、と。

 

『のび太か、見た目はただの子供で本当にただの人間だとは言われたけれども……これは厄介な相手だぜ……』

『魔理沙さん、これは言葉通りおっそろしい相手だぞ……』

 

ギラーミンとのコーヤコーヤ星での決闘を彷彿とさせる、全身をピリピリとした感覚がのび太を襲う。

となれば恐らく魔理沙もまた、自分と同じような感覚に陥っているのだろう事は、のび太にも容易に想像できた。

勝負は最初の一発にかかっている、魔理沙よりも一瞬でも早く撃つ事。

それが成功さえすれば勝てる、のび太はそう踏んでいたのだけれども……。

 

……1秒……2秒……3秒……

 

紫や霊夢が固唾を飲んで見守る中、最初に動いたのはのび太だった。

ほんの一瞬、文字通り目にもとまらぬ早業で、投げる手裏剣ストライク……ではなく、腰のホルスターから銃を流れるような動作で抜き出し、魔理沙めがけて引き金を引く。

 

バギュン!! 

 

魔理沙、紫、霊夢たち幻想郷の住人には聞き慣れない火薬による発砲音が響く中、のび太のフワフワ銃は間違いなく魔理沙に命中……したかに見えた。

けれども、命中したかに見えた魔理沙はいつまでたっても膨らみもしないし浮かび上がりもしない。もし本当に命中したのなら、すぐに膨らんで浮かび上がるのに、だ。

となれば答えは一つしかない。そう、ギリギリすんでの所で魔理沙はのび太の銃弾を回避したのだ。

これは魔理沙がこれまでに、数多の異変解決でくぐり抜けてきた経験によるものが実に大きいと言える。

彼女たちの弾幕における勝負では、いかにギリギリ掠るように回避しながら逆に相手に自分の弾幕を命中させるか、と言う点が重要になってくる。

その為、異変解決の中で修羅場をくぐり抜けてきた魔理沙も、自然ととっさにギリギリでも回避する癖、あるいは回避できるだけの反射神経が鍛えられてきたのだ。

それが目に見えないような、小さな拳銃の弾丸でも。

 

「ふぅ、おいおい……危なかったぞ。本当にとんでもない腕前だな。私が帽子を撃ち落とされるなんてな」

「……こう見えても、射撃ならだれにも負けない自信がありますから」

 

それでも、完全な回避には至らなかったようで魔理沙自慢の、黒いとんがり帽子が撃ち落されて地面に落ちたのだから、これだけでも十分にのび太の射撃能力の高さは窺い知れると言うもの。

実際に、幾度も魔理沙と戦った事のある霊夢も紫も十分にその実力を知っている訳で、その実力を知っているはずの魔理沙の帽子をのび太が最初の一発で撃ち落とした事について、表向きこそ平静を装いながらも、のび太の見せた恐るべき射撃の才能に内心は『のび太に銃を持たせた事は失敗だったかも』と戦慄していたりする。

 

「じゃあ、今度はこちらからいくぜ!」

 

当然、魔理沙としてもそこまでされて黙っていられるはずもなく、お返しだと言わんばかりに大量の弾幕を展開しのび太めがけて発射する。

それは最初に弾幕とは何か? と言うのび太への説明の際に見せた手加減されたものとは速さも量も全く違う、明らかにのび太を負かす為の弾幕。

のび太をただの無力な未来の道具を使うだけの外来人の子供、ではなく実力を持った油断のならない相手と認めたが故の弾幕だった。

 

「わっ! わっ、わぁぁぁぁっ!! ど、ドラえもーん!!」

「どうしたどうした、逃げ回ってるだけじゃ勝てないぞ!」

 

右、左、上、下、あっちからもこっちからも向かってくる弾幕に、必死で逃げ惑うのび太。

 

決闘、と言うよりも射撃の才能を持つのび太にも、弱点は幾つかあった。

それは最初の一撃で勝負を決めないと、のび太自身の運動神経、運動能力がかなり低いと言う点。

そしてもう一つは……。

 

バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! カチンッ! カチンッ!

 

のび太の拳銃が次々と火を噴き、近づいてきた弾幕が撃ち落されていく。

弾幕を撃墜すると言うなかなか出来そうでできない芸当を軽々とやってのける辺り、やはりのび太の拳銃の実力は伊達ではない。

しかしのび太の拳銃はリボルバー式なのだ、これはドリーマーズランドでも西部の星に共に出かけたドラえもんからフワフワ銃について説明を受けた時、はっきりと6連発式だと聞いている。

つまりは、6発全部撃ち尽くした場合、新しく銃弾を撃つにはいったん排莢してから新たに銃弾を装填しなければ発射できないのだ。

この辺りがオートマチック式や、ショックガンに空気砲と言ったエネルギー式の武器との大きな違いとなっている。

そして、その弱点を魔理沙が見逃すほど、彼女は心優しい人物ではなかった。

 

「はっはっは! のび太の銃は弾が6連発と聞いていたからな、もしやと思ったらやっぱり弾切れするのか。いくら銃の腕が良くたって、弾が出なくちゃただの飾りか子供のオモチャだぜ!!」

 

魔理沙の言う通り、のび太が勝つためにはなんとしても銃に弾を装填しなくてはいけないのに、向かってくる弾幕はあいにくとそれを簡単にはさせてくれない。

既に()()()()()()は弾幕でいっぱいになり、どちらに逃げてもぶつかりそうな勢いだ。

ならば……、時間を稼ぐのならもう行くべき場所は一つしかなかった。

駆けずり回り弾幕を避けながら、のび太はズボンのポケットから四次元ポケットを引っ張るように取り出すと、急いで手を突っ込み外の世界でも最も多く使ってきたひみつ道具……それこそドラえもんが初めて未来の国からはるばるとやって来たその日に使ったおなじみの道具をがむしゃらに引っ張り出す。

その道具を頭に取り付け、空中に飛び上がるのとのび太のいた場所を弾幕が通り過ぎていくのとは、ほとんど同時だった。

 

「た、タケコプター!!!」

「「「……と、飛んだぁっ!?」」」

 

まさか外の世界の子供が空を自由に飛ぶなどとは全く考えていなかったようで、のび太が空に飛びあがる姿を見て紫、霊夢、魔理沙の三人は皆一様にあんぐりと口を開けた驚きの表情でもって、のび太の姿をただ目で追っていた。

 

 

『タケコプター』

 

 

今更説明も不要であろう、空を自由に飛びたい時には必須の飛行用道具。

先に説明した通り、初めてドラえもんが22世紀からやって来た時、初めてのび太に出したのがこのタケコプターである。

見た目だけなら竹とんぼにピンポン玉を半分に割った半球状のパーツがくっついているだけの簡素な道具だが、その効果は空を自由に飛ぶと言う、まさに人類の夢を叶えた素晴らしいもの。

そんな効果故にドラえもんが野比家に居候して以来、日常生活でも数多の冒険でも、使わなかった事はないほどにドラえもんやのび太の日常生活に大きく貢献しているのは言うまでもない。

ただ、ただその小型の本体を動かす為動力をバッテリーに頼っている性質上、巡航速度をオーバーするような使い方をするとあっという間にバッテリー切れを起こしてしまうと言う欠点もあったりする。

だがさすがに弾幕勝負をしながらバッテリー切れを起こす事もないだろう、と言うか一度弾幕勝負をするたびにバッテリー切れを起こすような戦いをしていたらまずのび太の方が持たないに違いない。

兎にも角にも、空中に逃げてしまえば少なくとも銃に弾を装填する時間くらいは稼げるだろう、そうのび太は考えていた。

空中なら、地上と違い立体的に回避できる分弾幕からも逃れやすくなる。そもそも地上から空中にいる相手を撃ち落とすとなれば、そう簡単にはいかない。

そう思っていた。

 

「こ、これで今のうちに弾を込めれば……」

「はっはっは、まさか博麗大結界をすり抜けるだけじゃなくて、空まで飛ぶなんてな。それなら……こっちも馬鹿正直に地面にしがみついている必要なんてないな!」

「へ……?」

 

そう、のび太は完全に失念していたのだ。()()()()()()()()()()()()()()と言う事を。

それもタケコプターなど必要とせずとも飛べる、と言う事を。そもそも魔理沙が博麗神社に突っ込んできた時も、ホウキにまたがりタケコプターなど必要とせず飛んでいたはず。

それをのび太は目の前で見ていたのだから間違いない、まあその後のいざこざでそんな些細な事は完全に忘れてしまっていたが……。

外の世界でなら、タケコプターでもって空を飛ぶと言う行為は、それだけで大きなアドバンテージを持つ事になる。

そのつもりで空に逃げたのび太の目の前に現れたのは、ここに来た時と同じようにホウキにまたがり、のび太と同じ目線で空中に浮かぶ魔理沙だった。

こうなればいくらのび太でも、自分の立てた『一度空中に逃げて、弾の装填や態勢を立て直してから再度魔理沙に勝負を挑む』と言う作戦が完全に破綻してしまった事は理解できる。

 

「さあ、仕切り直しと行こうぜ」

「は、速い!?」

 

おまけに空中にホバリングしていた魔理沙が一度動き出したと思ったら、想像以上にその動きは速く、その状態で地上で戦っていたのと同じように、いやそれ以上に的確に弾幕を放ってくるのだからのび太としてはたまったものではない。

 

 

『格好も、性格も、全然違うけどまるで絨毯に乗った美夜子さんと勝負しているみたいだ』

 

 

スピードといい、弾幕を放ってくるその姿と言い、魔法世界の美夜子を彷彿とさせるその動き。一つ違うのは美夜子と魔理沙では、魔理沙の方がおてんばな性格をしていると言う点だろうか。

そして、実はのび太は知らない事だが……、魔理沙の方がおてんばだと思っている美夜子も平気で学校の校則違反をやらかしたりする辺り、おてんばだったりする(魔界大冒険外伝にて、遅刻しそうになった時禁止されてるホウキを使い登校し先生に怒られている)。

 

兎にも角にも、のび太の作戦が完全に破綻してしまった以上のび太が勝つにはどうにかして一発でいいから銃に弾を込めて、魔理沙の動きを抑える必要が出来てしまった。

かと言って今ののび太の使えるものと言ったら弾の入っていない、これから弾を込めようとしているフワフワ銃と、タケコプターのみ。

他の道具は一応、四次元ポケットから取り出せば使えるけれども、少なくとも今これ以上弾幕勝負でヘタな道具……たとえばタンマウォッチのようなモノを取り出すと、また魔理沙から貸してくれ、あるいは今のは反則だから勝負をやり直し、などの発言が飛んで来かねない。

つまりは、今のび太はほとんど手持ちの道具も何も使えない状況で、タケコプターよりも早く飛びながら攻撃してくる魔理沙を撃ち落とさなくてはいけないのだ。

では、どうやって魔理沙の動きを止めるのか。

 

「えっと、えっと……魔理沙さんの動きを止める方法は……」

「はっはっは! 私はスピードにはちょっと自信があるんだ! そう簡単には止まらないぜ!!」

 

飛びながらいろいろと考えているのび太の希望を打ち砕くかのように、自信ありげに魔理沙が不敵な笑いを浮かべる。

そう、のび太も勝負していて魔理沙が見せた自信たっぷりな表情からも分かったけれども、魔理沙は速いのだ。

それを止める事なんてできるのだろうか?

射撃なら魔理沙にも負けない自信はある、けれどもそこに至る為の方法が今ののび太には圧倒的に欠けていた。

 

 

 

「……どうやら勝負はあったみたいね。空を飛んだ時はさすがに驚いたけれども……いくらのび太でも空中で魔理沙に勝つのは難しいんじゃないかしら」

「でも、のび太はまだ諦めていないみたいよ。また新しい道具を出したみたいだけれども……あれ以外にも、まだ何か隠し玉を出してきたって不思議じゃないわ。今までだって、そんな事の連続だったじゃない」

「それはそうだけど……でも、初めて弾幕勝負をするのび太と、今までにも何回も異変解決をしてきたベテランの魔理沙よ? さすがに厳しいと思うわ」

 

一方、、博麗神社の境内地上では、空中に場所を移して弾幕勝負をする事になったのび太と魔理沙の二人を見上げながら、霊夢と紫が勝負の行く末について各々の予想について言葉を交わしていた。

まさか空を飛ぶとは思ってもいなかった二人ではあったものの、やはりここは経験豊富な魔理沙が勝つのではないかと踏んだ霊夢と、まだのび太は諦めた訳ではない、と逃げ回り続けているけれどもきっと逆転の一手を放ってくれるとのび太の肩を持つ紫。

二人も勝負の行く末がどうなるかは、分からない。

それほどに、博麗神社の上空ではどちらも決め手を欠く勝負が繰り広げられていた。

 

 

 

そんな足元でギャラリーが自分たちの勝負についてそんな議論を交わしている事など気が付く事もなく、のび太はひたすらにタケコプターで自在に空中を飛び回りながら、弾幕を避け続けていた。

なにしろこれで負ければ、ねじ式台風はジャイアンのような魔理沙に持って行かれてしまう約束なのだ。それだけはどうしても避けなくてはいけない。

 

「魔理沙さんの動きを止める、止める、止める……。これが魔理沙さんじゃなくてジャイアンならなぁ、ジャイアンのママに頼めるのに……ん?」

 

それなのに、どうしてだろう? 必死で弾幕を避けながらのび太の頭の中に最後に浮かんだのは魔理沙とジャイアンが重なった姿だった。

その、頭に浮かんだありえないジャイアンと魔理沙の重なった姿に、今この瞬間も上下左右、あらゆる方向から飛んでくる弾幕をタケコプターで必死に回避しながらのび太はふと、一つの可能性を思いつく。

 

……ジャイアンのママが叱る時、ジャイアンは何をしていてもまず驚いて動きを止めた。なら、魔理沙さんも驚かせば動きを止めるんじゃ?

 

それは魔理沙を驚かせて、動きを止めると言う方法。

一瞬でいい、何かで魔理沙の気をそらせればのび太にも十分勝機は見えてくる。

それでも、のび太の思い描いたこの作成にも問題はあった。

つまりは、どうやって魔理沙を驚かせるか、と言うその一点。

 

「……………………よし!」

 

思い付く方法は一つだけあった、もしかしたらもう今は使えないかもしれない。

それに、きっと使えたとしてもこの方法を使った場合魔理沙は0点を取った時のママのように、炎のように怒るだろう。

それでも、のび太は自分に賭けたのだ。

……かつてドラえもんと魔法世界に行った時、結局魔法で何でもできるのではなく学校で段階を踏んで勉強していく必要があると知ったのび太は元の世界に戻す前に、一つだけでも魔法を習得してから帰ろうと言った。

 

 

 

『物体浮遊術』

 

 

 

先生曰く、魔法の基礎中の基礎。

小さな子供でも魔法世界では物体浮遊術を使い、ビー玉遊びをする程度に基本となる術なのだが……。

ちなみに小学校1年生の教科書に書いてある物体浮遊術の使い方は以下の通りである。

①対象をじっと見つめ(のび太が練習に使ったのは庭に落ちている小石だった)

②心をからっぽにし

③チンカラホイ、と唱えましょう

これだけである。

魔法世界でドラえもんが説明してくれたこの手順を思い出すように、のび太は身体の力を抜き、高速で飛び回る魔理沙を見据えて、呪文を唱えた。

 

「チンカラ……ホイ!!」

「なんだそりゃ? 変な呪文だな……って、な、なんだぁ!?」

「「…………は!?」」

 

魔法使いの魔理沙も初めて耳にする、チンカラホイと言う奇妙な呪文。

そもそも、もしもボックスで向かった魔法世界と幻想郷の魔法の体系は大きく異なっているのだから魔理沙が聞いた事が無くても当然なのだが、その奇妙な呪文がまさか自分のスカートを大きくまくり上げる効果があるなど、一体どこの誰が想像するのか。

事実観戦していた霊夢と紫も、まさかのび太がこのタイミングで魔法によるスカートめくりを行うとは思っておらず、口をあんぐりと開けたまま事の成り行きを見守っている。

そうこうしている間にもばさり、と魔理沙のスカートが大きくめくれてしまい、下に穿いているドロワーズがあらわになってしまった。

とは言え魔理沙からすれば、普段から魔女の格好に身を包み、ホウキで空を飛び弾幕ごっこをしている以上ドロワが見えてしまう事については、自分が魔法使いの道を選んだ段階で起こる事だと素直に割り切っていた。

ただし、いかに割り切っているとはいえ何しろスカートが全部めくれてしまえば、視界の邪魔になる事この上なく、またこの状況を無視できるかと言うと決してそうではない。

実際に魔理沙は、急に視界を遮るようにめくれ上がったスカートに一体何が起こったのかが最初理解できず、弾幕を張る事すら忘れて事の理解に努めていた。

その状況の理解に魔理沙が費やしたした一瞬、ほんのわずかな時間だけ弾幕の手が緩んだ事にさえ気が付かない程の短い時間。

それこそのび太が今、最も欲しがっていた時間だった。

 

「よし、今のうちに……」

 

チャンスはこの一度きり、もたもたしていればすぐに魔理沙は態勢を立て直して弾幕を張り直してくるのは目に見えている。

焦る気持ちを抑えて、のび太はリボルバー銃の薬莢を素早く抜き出しながら捨てると、ベルトから次々と新しい銃弾を取り出し、一発ずつ装填していく。

ほとんど役に立たないはずの物体浮遊術でもって、魔理沙の動きや弾幕の攻撃ををわずかでも止めると言うのび太の作戦は、見事に決まったのだった。

 

「やってくれたな、まさかこんな奥の手を残していたなんてな。魔法を見た事があるって言うのも嘘じゃないみたいだ……けれどそう簡単に勝てると思うなよ!!」

 

一方の魔理沙も、のび太の珍妙な呪文が攻撃するためのものではなく、意表を突くためのものだという事にすぐに気が付いた。

事実、スカートがめくれてしまい視界を遮られた時間はほんの十秒もなく、すぐにスカートも元に戻ってしまったのだから。ならば、魔理沙としてもいつまでも弾幕を薄くし、その場に留まる事には何のメリットもない。

今まで、これ以上に過酷でギリギリの弾幕勝負を繰り返してきた魔理沙はすぐに思考を切り替えるとその場から動きながら、今まで以上に濃密な弾幕をのび太めがけて展開する。

のび太からしてみれば、一体どこが手加減しているんだと文句の一つも言いたくなるような弾幕の密度だが、要はそれらが自分に命中する前に魔理沙を撃ち落としてしまえばいいのだ、とのび太は身構えた。

むしろ今の状態で魔理沙に命中させるよりも、銀河超特急での列車強盗ショーで、『ないよりまし』と車掌自らが言ってのけた信号弾を使ってダーク・ブラック・シャドー団に命中、応戦する方がまだ大変だったのだから。

だからのび太は、身構えた体勢のままただ魔理沙だけを見据えて、精神を集中させるとフワフワ銃を静かに構え、やがて一発だけ引き金を引いた。

 

「そんな弾に……当たってたまるかぁ!!」

「でも……当てて、勝ちます!!」

 

バギュン!!!

 

当たってなるものかとホウキの速度をさらに上げる魔理沙。

その魔理沙に対してなおも絶対に当ててみせると、自信を持って勝ちを断言するのび太。

一発だけ、ただの一発だけ余韻を残し静かに響く銃声。

 

「ふっ、だから言ったろう? 私に命中させたかったらまずは私のホウキのスピードに……って、あ、あれ、あれ……?」

 

『何も起こらないじゃないか』と、勝ち誇ったようにのび太に対して自慢げな表情をする魔理沙だったが、そこはやはり22世紀の道具。

効果はすぐに表れ始めた。身体がまあるく、それこそホウキにまたがっていられない程に膨れ上がり空中に浮かび上がる。

そう、のび太の撃った一発の銃弾は確かに魔理沙に命中したのだ。

 

「やっぱりね、私の言った通りでしょう? のび太は最後まで諦めてなかったのよ。すごいわのび太!」

「まさかのび太が魔理沙に勝利するなんてね、紫の言う通り、凄いわよのび太」

「お~い、私をなんとかしてくれよ~」

 

地上でも、まさかの大番狂わせに紫と霊夢が手を取り合いのび太が見せた大健闘の様子に、興奮しながら今起こった出来事をしきりに褒めちぎっていた、のだけれどもここでめでたしめでたしとなればいいのに、そうは問屋が卸さないのはのび太が並外れた射撃の才能と共に、強度の『不幸』あるいは『不運』の運勢を持つゆえか。

アニマル惑星でもチッポのいとこのロミがニムゲに拉致された際に、禁断の森のどこかに埋められていると言う星の船を探す手段として、3時間限定で非常な幸運に恵まれるひみつ道具『月のツキ』を誰が飲むか? と言う時に満場一致でのび太が選ばれるくらいに運が悪かったりする(普段不運な人間の方が効果が強い為)。

そしてその運の悪さは、最悪の形で訪れた。

 

「ふぅ……勝った……」

 

最後の決め手となった、弾幕が迫る中のび太渾身の精神を研ぎ澄ませた一撃。それは確かに魔理沙に命中した。

そうでなくても、ギラーミンとの勝負と同じかあるいはそれ以上か。

極度の集中を強いる魔理沙との弾幕勝負と言う事もあり、かろうじてやっと勝利を掴んだ事で気が緩んだのだろう。

 

 

 

…………パシッ

 

 

 

「へ?」

 

大きく安堵のため息を吐き出すが早いが自分の頭上で聞こえた、何かが壊れたような音。

今の嫌な音は一体何の音なのか? それの正体を確認するよりも先に、のび太の身体は何が起こったのかを自分自身に説明するかのように、重力に従い真っ逆さまに地面へと向けて落下を始める。

もちろんタケコプターがあれば、長時間使用などの理由でバッテリー切れを起こさない限りは、装着した本人の意志を離れて落下するなんてありえない事だと、これまでにも日々使ってきたのび太は知っていた。

では、今自分が落っこちているのはどうしてなのか?

信じたくない予想、あって欲しくない真実。それを確かめる方法は至って簡単だった。

自分の頭に触れてみればいいのだ。

 

「…………………………ひっ」

 

おそるおそる自分の頭に触れてみるけれども、タケコプターは影も形も見当たらない。ペタペタと指先に触れるのは自分の髪の毛だけ。

そこに至ってようやくのび太は、先に聞こえた奇妙な音が、魔理沙が最後に放った弾幕の流れ弾に当たってタケコプターだけが綺麗に吹き飛んだ音だと気が付いたのだった。

 

「わああああ、助けてえええ!!!」

 

手足をぶんぶんと振り回し、助けを求める悲鳴を上げながら落下していくのび太が恐怖のあまり、意識を手放す最後の瞬間にに見たのは、どこまでも青く広がる幻想郷の青空と必死の形相で自分へと手を伸ばす霊夢の姿だった……。

 

こうして、物語は冒頭へと戻る事になる。

 




のび太と魔理沙の勝負は一応のび太の勝ち、ですけどもほとんどドロー状態にしました。
勝ったけれども、圧倒的な大差をつけての勝利ではないし持ち前の不幸さと、最後の油断から最後の流れ弾に当たって墜落からの気絶。

ちなみに書くにあたりふと読み直してみた宇宙開拓使でのび太はギラーミンとの決闘でも、お互いに撃ち合った直後に恐怖のあまり一瞬気絶していますので改めて射撃の腕前こそ他の作品の有名どころを上回っていますけれども、精神面や肉体面ではやはり小学生なんだな、と再確認した次第です。
ただし、空気砲やショックガンと言ったエネルギー系の射撃道具を使ったら弾数制限がエネルギー依存になるので、おそらく魔理沙の分がさらに悪くなったと思われます(そうならないように敢えて制限のあるフワフワ銃を選択したと言うのもありますが)。













それにしても、感想下さった皆さんのび太+銃だと絶対に負けないと言う意見が大半で、割とどういう流れにしようか悩みに悩んだのは内緒だ(ぇ


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見つかった手掛かり、次の冒険への扉

まず大変時間がかかった事お詫びします。
感想でも、続きを待っているとのお言葉を頂戴したりしておりましたので、大変申し訳ありませんでした。

現在秋季例大祭の原稿と同時進行中で、こちらの方が滞っている状態です。
この次も少し更新が遅めになってしまう可能性がありますので、どうぞご了承下さい。


さて、今回はちょっと話が動きます。
もう少し博麗神社近辺でいろいろな人妖と交流したり、あるいは紅魔館と妖怪の山、どちらに先に向かうようにするかなど非常に迷いましたが、まずはこのような形になりました。



「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!! た、助けてーっ!!」

 

どこまでも青い空、魔理沙との勝負で勝ったはいいものの、最後の最後に油断した結果タケコプターを失い落ちてゆくのび太の身体。

落っこちてゆく中両手を必死にバタバタと振っても、残念ながらグースケたちバードピアの鳥人たちのように浮かび上がる事は無い。

やはり人間の腕ではどう頑張っても、鳥のように翼の代わりにはならなかった。

このまま墜落すれば、博麗神社の境内に叩き付けられて良くて重症、運が悪ければそのまま……と言う事も十分に起こり得る。

ちなみに、のび太も今までにいろいろな冒険をしてきた中で高い場所から落っこちた事は何回もあった。

南海大冒険で宝島の地下、ねじ巻き都市で大地の割れ目etc……。

ただ、これらの時は下が激流だったり、種をまく者の意思によって助け出されたりとたまたま偶然や幸運が重なり無事だったのだ。

しかし今回は……。

 

「……いけない、のび太っ!!」

 

地上で勝利の余韻に浸っている中、のび太の異変に真っ先に気が付いたのは霊夢だった。

タケコプターによってもたらされていた飛行能力が失われ、落下を始めたのび太。当然幻想郷の住人でもないのび太はタケコプターなしでは飛べないのだから、落下し始めたら地面に激突するまで落下は止まらない。

それが何を意味するか、答えは実に簡単だ。

その最悪の事態を阻止するべく、飛び出した霊夢は同じくらいのタイミングで恐怖のあまり気絶してしまったのび太に手を伸ばして、どうにか暴れるのび太の腕を掴みその落下を防ごうとする。

しかしいくら子供とは言え、自由落下している人間一人を支えるには霊夢の華奢な腕ではあまりにも力が足りなさすぎた。

霊夢に支えられた事で一瞬のび太の落下速度が遅くなったものの、すぐに霊夢を引っ張るような格好でのび太はまた落下を始める。

 

「こんの……止まれぇぇぇっ!!」

 

のび太が気絶していなかったら、泣くか気絶するかしそうなほどの必死の形相で落下を食い止めようとする霊夢だが、それでものび太の落下は止まらない。

あわや、のび太は気絶したまま神社の境内に墜落して、冒険はここでおしまいになってしまうのか? ……と思ったその途端に、のび太の落下がぴたりと停止する。

いきなり落下が止まった事で、霊夢もまさかのび太が地面に激突したのか!? と顔色を青くするがよくよく冷静に考えてみれば地面に激突した衝撃はなく、それらしい音も聞こえない。

つまりは霊夢の努力が間に合わず、のび太が地面に墜落してしまった訳ではないようだ。

 

「紫……動くならもっと早くして頂戴」

「あら、ちゃんと間に合ったでしょう?」

「間に合えばいいってもんじゃないでしょうが。私だけじゃのび太を支えきれなかったし、のび太が落ちるのが止まった時は間に合わなくて地面に激突したんじゃないかって、心臓が止まるかと思ったわよ」

 

不機嫌な表情の霊夢の視線の先では、スキマで瞬時に移動したのだろう。紫が気絶したのび太を両手で抱えながら支えていた。

おまけに霊夢の棘のある言葉にも平気で涼しい顔をしていた。

この辺りはやはり長く生きる妖怪だからだろうか? この程度の事ではまるで動じる様子も見られない。

むしろ、ここまでいつもは余裕を見せる紫に頭を抱えさせたのび太の方がどうかしている、と言うべきか。

それはともかくとして、これでのび太は無事に助かった訳だ。

 

「それにしても、本当にあの魔理沙に勝っちゃうなんて……こうして気絶してるのを見てるとただの子供なのにね」

「ええ、でもこの子が幻想郷にいたらきっと毎日退屈なんて言葉は絶対にありえないでしょうね」

「分かる気がするわ、昨日の今日で一体何回のび太の取り出す道具に驚かされたと思っているのよ。それだけでも十分すぎるくらいよ」

 

だから、のび太は知らない。

自分が気絶している間、よっこいしょと紫と霊夢に連れられて縁側に寝かされてその様子をずっと二人に見られていた事を。

更に付け加えるならば、フワフワ銃の効果が3時間継続する事、また時間経過以外で効果を解除する事が出来ない事を霊夢や紫、魔理沙の誰にも伝えていなかったため、空中に浮かんだままトイレに行きたくなってしまった魔理沙の尊厳が大ピンチに陥り、降ろせ! 戻せ! と大騒ぎをしていた事ものび太は全く知らなかった。

もっとも魔理沙については、満水まで貯水されていたダムが決壊する寸前ギリギリのところで、どうにか元に戻り地上へと降りた魔理沙が急いでトイレに駆け込んだおかげで尊厳は守られたのだが。

 

「のび太!!! よくも私を大ピンチにしてくれたな!!」

「へっ!? わぁぁぁぁぁっ!!!」

 

当然のように、気絶から目が覚めたのび太は怒りの形相をした魔理沙に追いかけ回される事になったのは言うまでもない。

そして、これでますますのび太は魔理沙の事をジャイアンそっくりだと思うようになったのだった……。

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます!!!」」」

そしてお昼時。霊夢、魔理沙にのび太は博麗神社の居間で昼食を食べていた。

肝心のメニューはと言うと、全員で食べれると言うことからそうめんにしている。

ちなみにのび太と魔理沙の勝負を観戦していた紫はと言うと、のび太が目を覚ました所で「悪いけれども、私はここで帰るわ」とスキマの向こうへと消えてしまったため、お昼は3人で食べる事になったのだった。

当然昼食の用意は言わずもがな、霊夢とのび太が食べた朝食引き続きグルメテーブルかけによるものである。

またこの、何もない所から希望のメニューを口にするだけでどんどん出てくる、と言う驚異のひみつ道具を初めて目にした魔理沙が、先にこの光景を目撃した霊夢や紫同様に目を丸くしたのは言うまでもない。

 

 

三人食事中……

 

 

三人食事中……

 

 

弾幕勝負の後だからだろうか、三人前のそうめんがものすごい勢いで消えていく中、そう言えば、と魔理沙が口を開いた。

 

「のび太はさ、神隠しにあった訳じゃないんだよな?」

「神隠し!? ないない、そんな事絶対に無いですよ、別に時空乱流に飲み込まれちゃったなんて事はありませんから。ここへもどこでもドアで来たんですから」

「じくう、らんりゅう? ああ、別にそんな変な質問をしたつもりはないんだ。ただ、偶然じゃないならどうしてわざわざ幻想郷にやって来たのか、その訳が知りたくてな」

「確か、未来のひみつ道具を使って幻想郷にきた、だったわよね」

 

既に簡単にではあるものの、説明していた事もあってか魔理沙の質問に『何が知りたいのか?』と怪訝な表情を見せる霊夢とのび太の二人。

特にのび太からすれば神隠しとは、7万年前の日本でドラえもんが説明してくれたように時空乱流に飲み込まれてその時間軸から人間が消滅する、すなわちククルのようになってしまう事なのだ。

そんな物騒な事がホイホイ起こってはたまらないと、のび太に至っては勢いよく首を横に振って魔理沙の質問を否定したのだった。

そんな様子を見て慌てたように、のび太が持つ神隠しへのイメージを知る由もない魔理沙はのび太が幻想郷に来た理由を知りたいから、と付け加える。

でも、のび太からすればそれは話すべき事か非常に迷う事でもあった。

何しろ外の世界の友人たちの自由研究で仲間外れにされ、ついいつものように誰も行った事のない場所について調べてやる! と息巻いてどこでもドアを潜ったら幻想郷だった……なんてどう説明すればいいのか。

でも誤魔化したり嘘をついた所で、宿題をしなくてはいけない以上、どこかでバレる可能性もある。それならばいっその事今ここで正直に話しておけば宿題も手伝ってくれるかもしれない。

なにしろ二人とも自分よりも年上だし、八雲紫のような大人のお姉さんもいるのだ。少なくとも自分自身よりは頭もいいだろう。

しばらくうんうんとどう答えるべきか迷っていたのび太だったが、やがて決心したように説明を始めるのだった。

 

「じ、実は……」

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

……のび太説明中

 

 

夏休みに、友人と遊んでいた時に持ち上がった外の世界にあった神社がそこに住んでいた山一つまるごと忽然と姿を消したと言う噂があった事。

ドラえもんと色々な場所に冒険に出かけた自分たちからすれば、そんな事はただの噂でしかないと思ったものの、その話を持ち出した友人の見せた写真では確かに湖のほとりの一部がまるごと消えているように見えた事。

その謎を調べて、夏休みの自由研究にしようと言う話があった時に自分だけ仲間外れにされた事。

仲間外れにされた事でそれならばと、自分はもっとすごい場所に出かけて行ってそこの事を調べてやるとみんなに宣言してしまった事。

ドラえもんからひみつ道具をしまってあるスペアポケットを借りて、どこでもドアを取り出し『誰も行った事のない場所』へと行こうとしたらドアは幻想郷へと繋がってしまった事。

そこで紫や霊夢と出会って今こうしている事を、簡単にではなく事細かに説明したのだった。

 

「……と言う訳なんです」

「「……………………」」

 

最初霊夢に話した以上にできる限り詳しく、ここにやって来るまでのいきさつを説明したのび太だったが一体どうした事か霊夢も魔理沙も、のび太の話を聞いて難しい顔をしていた。

それはまるでのび太の説明の中に、都合の悪い事実でも混じっていたかのようだ。

もちろん何も知らないのび太としても、二人にそんな表情をされてしまっては、何かまずい事でもあったのかと不安になってしまうのは仕方がないだろう。

実際、のび太の説明が終わった後の博麗神社の居間には難しい顔をした巫女と魔法使いに、オロオロする子供と言う何があったのか判断に困る光景が広がっていたのだから。

かと言って何か悪い事をしてしまったのか、などと聞けるような雰囲気でもない。

 

 

1分……2分……3分……

 

 

針のむしろに座らされているような緊迫の時間が過ぎてゆく中、ずっとのび太の話を聞いてから腕を組んで考え事をしていた魔理沙が霊夢に確認するように口を開いた。

 

「なあ、霊夢。のび太の言っている外の世界で消えてしまった神社ってさ……ひょっとして妖怪の山にある守矢神社の事なんじゃないのか?」

「そうね、もちろん確証は取れないけれど……時期的にも、こっちに来た経緯からしても、十分に可能性はあると思うわ」

「へ? もりや……じんじゃ? 外の世界からこっちにやって来た神社があるんですか……?」

 

全くもって聞き慣れない名前にきょとん、とするのび太。

何という偶然だろうか、まさかスネ夫たちが外の世界でああでもないこうでもないと夏休みの自由研究にすると言っていた神社の消えた先が、この幻想郷である可能性があるだなんて。

ここにきてのび太はあの時、スネ夫に『悪いなのび太、この自由研究3人用なんだ』と言われてすぐにその場を立ち去ってしまった事を少し後悔していた。

せめてあの時、どこかの県で消えてしまったと言う神社の名前だけでも聞いておけば、今魔理沙に言われた守矢神社がそうなのか、それとも偶然似たような経緯でこちらにやって来た神社なのか、確認できたのだから。

それと同時にのび太は心の中に沸き起こって来たのは万歳をしたくなるような、喜びでもあった。

何しろあれだけスネ夫やジャイアンにバカにされていたと言うのに、肝心の自由研究のテーマが実は今自分がいる場所にやって来ているかもしれない、と言うのだ。

実際に、もしこちらにスネ夫たちが調べようとしている神社が幻想郷に来ているのなら、間違いなく実際にその神社へ行った方が自由研究もはかどるだろう。

もし仮に違う神社だったとしても、そこについて調べればいいのだ。

だからのび太は、ドキドキする自分を抑えるように霊夢や魔理沙にお願いをしていた……。

 

「その話、詳しく聞かせてもらっていいですか!」

「お、おう……」

 

それでも、思わず乗り出してしまうほどに興奮していたらしく、のび太の見せた反応に二人とも少し引いていたのだけれど。

兎にも角にも、こうしてのび太が幻想郷にやって来た当初の目的は、予期せぬ形で大きく前に進む格好になったのだった……。

 

 

 




はい、外の世界で消えてしまった謎の神社が幻想入りしていた可能性が出てきました。
さてさて、そのまま謎の神社へと向かうのか!?
そしてのび太ってよくよく考えたら夏休みの自由研究や他の宿題もするために幻想入りしたんですよね(汗

その辺も交えて、いろいろと物語を動かして行けたらいいなぁ……(ぇ



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Chapter1.のび太とふしぎ(すぎる)風祝
目指せ! 妖怪の山


また遅くなりすみません。
現在例大祭の原稿がまだ終わっていない状況です(滝汗
〆切のデッドライン超える寸前なんだよな……実はorz




気を取り直して、いよいよのび太が博麗神社から神社の外へと出発します。
さてさて、一体どんな冒険が待っているのやら……?

ちなみに章タイトルは「のび太とふしぎ風使い」のパロディですね。
今後もそう言ったタイトルのパロディは取り入れていくつもりです。
……そもそも作品のタイトルがねじ巻き都市冒険記のパロディだし(汗


魔理沙の口から語られた妖怪の山にあると言う守矢神社。

その守矢神社こそが、のび太が幻想郷に来るきっかけともなった、外の世界から消えてしまった謎の神社である可能性が高いと言う驚きの情報。

そんな情報があるのに行かないと言う選択肢は当然のび太にはない。

守矢神社が外の世界でスネ夫たちが調べようとしている神社なら、こちらがもっとすごい内容で調べてやろうと息巻きながら早速行ってみようとして、のび太は肝心な事に気が付く。

 

「霊夢さん、魔理沙さん。その……妖怪の山にあるもり、や? 神社ってどこに行けばあるんですか?」

「「あ…………」」

 

そう、のび太の言葉に二人ともようやく気が付いたのだ。のび太は幻想郷の地理について全く知らないと言う事を。

妖怪の山の守矢神社と言われたところで、のび太にとってはどこにあるのかさっぱり見当もつかないと言う事を。

なにしろどこでもドアで幻想郷のどこかにやって来てからは八雲紫の手によって、スキマ経由で博麗神社へと送り込まれた。

そしてそこから1日経ったものの、のび太は博麗神社の敷地から外へは一歩も出ていない。

つまりのび太にとってまだ幻想郷とは博麗神社の中でしかなかったのだ。

外にどんな世界が広がっているのかはまだまだ未知の世界である中、いきなり行ってみろと言われても方角も、何があるのか、そもそもどんな建物なのかも想像もつかない。

例えるなら、今ののび太は海底ハイキングに出かけた際、日本海溝の底で荷物もライトも全部失い、前後不覚となってしまった状況みたいなものと言ってもいいだろう。

そんな右も左も知らない中いきなり、準備もなしに行くと言うのはいささか無謀すぎた……と言いたい所だけれども。

 

「ねえのび太、その……のび太は守矢神社の場所を知らなくても、どこでもドアがあれば大丈夫なんじゃないかしら?」

「あ…………」

 

今度は霊夢たちではなくのび太がぽん、と手を打つ番だった。

そう、霊夢の言う通りのび太にとってはどこでもドアがあれば、そんな不安もどこ吹く風。

ドアを用意してただ一言『守矢神社へ!』と希望すればいいのだ。

そうと決まれば思い立ったが吉日、と言わんばかりにのび太はスペアポケットに手を突っ込みどこでもドアを取り出そうとして……。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

この霊夢の一言がなければ、のび太はどこでもドアを取り出していたはずだったのに、霊夢の制止に思わずのび太はその手を止めてしまう。

 

「……へ?」

「どうした霊夢!? のび太に行かせるのはやっぱりまずいのか?」

 

スペアポケットに手を突っ込んだまま、一体どうしたのかと不思議そうな顔をするのび太。

そしてのび太が守矢神社に行く事に何か問題があるのかと、霊夢の言葉に魔理沙が問いかける。

守矢神社まで、妖怪の山を経由していくのならばともかくどこでもドアで一息に守矢神社まで直接向かってしまうのならば、リスクも何もないはずだ。魔理沙の視線は霊夢にそう訴えている。

そんな二人に一体何が問題なのか答えるように、厳かな口調で、霊夢は口を開いた。

 

「まず、おそうめん全部食べてからにしましょう?」

「「…………はい」」

 

そう、霊夢の言葉通りまだ机の上にはそうめんがたっぷりと残されている事を、まだお昼を食べている最中だと言う事を完全に失念していたのだ。

そんな訳で、昼食を再開する3人。

3人が黙々と声を発する事もなく、そうめんをとり、めんつゆにつけ、つるつるとすする、の行動を繰り返す事で残っていたそうめんの山も次々に消えていく。

そして……。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

そうめんの山は、今度こそきれいさっぱり無くなっていた。

ちなみに、霊夢は普段からあまり食材が手に入らず、たくさん食べられる機会が少ないのか『まだまだいけるわよ』と涼しい顔をしている。

一方の魔理沙はと言うと、居間にごろんと横になり『もうお腹一杯なんだぜ』と実に満足気だ。

そして肝心ののび太はと言うと……。

 

「守矢神社へ!」

 

早く守矢神社へと行きたくて仕方がないのか、食べ終わるが早いが早速スペアポケットへと手を入れて、どこでもドアを取り出していた。

取り出したドアの前で、目的地に守矢神社へと設定すればこれで準備は完了だ。

ようやく待ち望んだ場所へ行けるのだと、のび太は勇んでドアノブに手をかける。

 

「……それにしても便利な道具だなこのドアは。自分の思った場所に一瞬で移動できるなんてさ、これがあればどんな異変が起きても首謀者の所へ出掛けていって、すぐさま解決だぜ」

「確かにそうよね。むしろ定期的に幻想郷を回って、誰かが怪しい企みをしていたらその場で叩きのめして罰金を払わせる、なんてのもいいわね」

「おっ、それいいな! 異変を起こす前に異変を解決!」

 

守矢神社に出発しようとするのび太を他所に、そんな物騒かつこれまでの異変を起こした6ボスが聞いたら泡を吹いて卒倒しそうな会話をする霊夢と魔理沙の二人。

当然のび太には二人が何を言っているのか、知る由もない。

だからのび太は、その内容が幻想郷に暮らしている人にしか分からないものなんだと気にしない事にし、ノブを回してドアを開けようとして……。

 

 

 

『……バンッ!!!』

「……痛っ!?」

 

 

 

本来ならしないはずの音に、のび太はもちろん霊夢と魔理沙までもが、一体何事かとその視線をどこでもドアへと向ける事になったのだった。

まさか、ドアを開けようとした直後に何かにぶつかるなどとは思ってもいなかった3人とも、一体どうしたものかと互いに顔を見合わせながら沈黙を守っている。

 

「「「………………」」」

「痛ったぁ……なんでこんな所にドアがあるのよ!!」

 

いや、沈黙ではなかった。

少しだけ開いたドアの向こう側から、どうやらちょうどドアが開くタイミングでその場に居合わせてしまったらしい誰かの声が聞こえてくる。

おまけにその声の主はひどく気が立っているようだ。

無理もない、全く予想外のドアとの接触事故を起こしたのだ。これで気分を悪くするなと言う方が無理と言うものだろう。

だが、気分を悪くしただけで済めば良かったのだろうが、ドアの向こうの人物はよほど虫の居所が悪かったのか、あるいはジャイアン並みに短気な人物だったらしい。

 

「どっせい!!」

「わぁぁぁぁっ!?」

 

と威勢のいい掛け声とともに、どこでもドアの向こう側から思い切りバン! とドアが閉められてしまったのだ。おまけにただ手でバタン、と静かに閉めたのならばともかく、その名も知らない誰かは何かハンマーのようなモノで叩いたようで、どこでもドアの面がみしり、と軋み音を立ててヒビが入るるほどの勢いで閉められたのだからたまったものではない。

つまり、そんなドアの向こう側から押し返されたと言う訳で。誰かがドアにぶつかった事で扉を開ける事を中断していたのび太はその勢いをまともに受けてしまう事に他ならない。

結果として、どこでもドアに押し返されたのび太は情けない悲鳴を上げながら見事な後転を繰り返しながら博麗神社の居間の壁まですっ飛んでしまったのだった。

 

「う、うーん……いててててて……」

「おい、大丈夫かのび太?」

「僕は何とか……。そ、それよりもどこでもドアは!?」

「ダメみたいね、煙を吹いてるわよ」

 

壁まで吹き飛ばされて転がってしまいうと言う予期せぬ事態に遭遇したのび太。

横になっていた魔理沙もさすがにこれは無視できず、むくりと起き上がり駆け寄ったところで、がば、と思い出したように慌てて起き上がりどこでもドアの様子を確認するけれども、既にどこでもドアは霊夢の言う通り、バチバチと放電して煙を噴き上げていた。

素人目に見ても、この状態で安心して使える、とは言えないだろう。

そんな博麗神社を離れてその頃、妖怪の山のとある場所では……。

 

「一体どうしたんですか? 急に御柱なんて振り回して」

「いや、境内に見慣れないドアがぽつん、と立ってるから何よこれ、と思って近寄ってみたらいきなり開いてぶつかって来たのよ。で怪しかったから御柱でちょっと殴ったら、また消えちゃったんだけど……一体何だったのかしらね?」

 

二人の女性により、そんな会話が成されていたりする。

だが、片方は博麗の巫女の色違いのような格好。そしてもう一人はのび太の胴回りほどもある巨大な柱を軽々と片手で持っていた。

もちろんのび太も、またこの二人も、お互いにそれぞれ何が起こっていたのかは知る術もない。

彼女たちにとってもただ、幻想郷だから外の世界の常識からは外れた不思議な事も起こる、程度の出来事でしかなかった。

 

 

 

それよりも、今ののび太にとってはどこでもドアが故障した事の方がはるかに大問題だった。

守矢神社に行けなくなったと言うレベルではない、どこでもドアが無かったらのび太は外の世界……つまりは自分の家にも帰れないのだ。

いくら夏休みの自由研究のために幻想郷へとやって来たと言っても、ここで永住するつもりはのび太にはない。

 

「ど、どうしよう……ドラえもーん!!」

 

劇場版ならこのままタイトルと共にこんなこといいな♪ できたらいいな♪ と主題歌でも流れてきそうな、とても見事な叫び声。

だがあいにくと、このまま大長編へと突入はしないしドラえもんが助けに来てくれる事もない。

とにかくのび太が自力でどこでもドアをどうにかしなければ帰れないのだ。

どうしようかとうろたえているのび太を励ますように、白黒の魔法使い魔理沙が任せておけ、とでも言わんばかりに自分の胸を叩いた。

 

「よし、そういう事なら私がのび太を守矢神社まで連れて行ってやるよ。上手くいけばどこでもドアも直るかもしれないぞ?」

「え、で、でも……? どこでもドアって、未来の道具なんですけど……?」

 

魔理沙の言葉に困惑するのび太。

確かにのび太にとっては、どこでもドアが故障した今守矢神社まで連れて行ってくれると言う魔理沙の申し出は間違いなくありがたいものである。

しかし、問題はその次の言葉だ。どこでもドアは現代の道具ではなく、ドラえもんが持ってきた22世紀のひみつ道具。どうひっくり返っても、現代の技術で修復できるような代物ではない事はのび太も重々承知している。

それとも、幻想郷の妖怪の山とは、あるいは幻想郷とは外の世界と比べてここだけ科学技術が進んだ22世紀なのだろうか?

 

「妖怪の山にはね、いろいろな技術を持った河童、って言う種族がいるのよ。もしかしたらどこでもドアだって、河童にかかれば修理してもらえるかもしれないわね」

「そう! だけどその前に守矢神社に向かって、神様たちに挨拶すれば河童にきっとドアの修理してもらえるよう、お願いしてもらえると思うんだ。だから、まずは河童じゃなくて神社、って訳だ」

「へぇ……それなら、お願いします」

 

そんな疑問が顔に出ていたのだろう。

霊夢が、どうして妖怪の山に行けばどこでもドアが直る可能性がある、などと魔理沙が言ったのかその理由を説明してくれた。

どうやらのび太にとっても、この幻想郷はまだまだ分からない事が多いらしい。

だが、そもそもどこでもドアが故障しなくても守矢神社までは向かうつもりだったのだ。移動手段がどこでもドアから魔理沙のホウキに変わっただけで移動時間に違いが出る程度の差しかない。

のび太はすぐに、魔理沙の申し出を受けたのだった。

そうと決まれば魔理沙の動きもまた、初めて博麗神社に飛んできた時と同様に素早かった。

境内に出てきた魔理沙はすぐにホウキを用意すると颯爽とまたがり、のび太をその後ろに乗せて身構える。

丁度それは『魔界大冒険』で、ホウキに乗れないのび太がしずかのホウキに乗せてもらった時の状態とよく似ていた。

 

「それじゃあ霊夢、ちょっと妖怪の山までのび太を連れて行ってくるぜ。のび太、しっかり捕まってろよ? 超特急で守矢神社まで運んでやるからな」

「霊夢さん、ちょっと行ってきます」

「魔理沙、間違えてもスピード出しすぎてのび太を落っことすんじゃないわよ? のび太はタケコプターがないと空を飛べないんだから……って、もう出発しちゃったの? なんだか嫌な予感がするんだけど……」

 

スピードについては幻想郷でもかなり上位に入る魔理沙のホウキ。だから、のび太のような慣れない子が一緒にいたらふり落とされる可能性が往々にしてあるため、霊夢が魔理沙に注意した時にはもうそこには魔理沙とのび太の姿はなかった。

なにしろその時には、もう魔理沙のホウキは妖怪の山目指して、一直線に空を切り裂くように守矢神社を目指していたのだから。

そんなせっかちな、既に出発してしまった魔理沙とのび太を心配するように霊夢は一言、ぽつりと漏らすのだった……。

 

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

 

妖怪の山、それは天狗や河童と言った妖怪が拠点としている幻想郷におけるパワーバランスの一角である。

幻想郷に来たばかりののび太は知らない事だが、何しろ天狗たちは排他的で一つの独立した文化を保っている。

もしこの妖怪の山に守矢神社が無かったら、今でもこの場所は天狗や河童たちの拠点として人里の人間たちを誰一人寄せ付けない、まさしく瑕疵なき要塞そのままに、幻想郷の要衝としてあり続けただろう。

けれども、守矢神社がやって来た事によりその立ち位置は多少軟化し、今では不可侵区域でない場所に設けられた参道を通る事なら認められるようになっている。

その参道の上空を、魔理沙のホウキが通過していった。

単純に直線での最速勝負なら美夜子さんの絨毯よりも速いかもしれない。

なにしろ徒歩での参拝とは違い、空中は何も邪魔になるものがない。

その猛烈なスピードそのままに、妖怪の山に設けられた長い参道を眼下に見下ろしながら、魔理沙は守矢神社の鳥居と言う名のゴールを全速力で駆け抜けた。

そのあまりの速さに、守矢神社の境内に一陣の風が吹き荒れ、一体何と事かと守矢神社の風祝が慌てたように社殿から飛び出してくる。

飛び出してきてから、何があったのかと周囲を見回して、ようやくこの風の原因が魔理沙だと理解したらしい。

 

「一体何事ですっ!? ……って、魔理沙さんじゃないですか、どうしたんですかそんなに急いで」

「おう早苗、今日は私じゃなくて守矢神社に用がある子がいてな。その子を送りに来たんだ」

 

勢いこそ今日は特別にあるものの、魔理沙が来るのは別段珍しい事ではない。

ただ、その急ぎ方が普段とは少し違う。おまけに守矢神社に用がある、と言っても()()()()()()()()()()()()()()()。それとも、誰かこれから来るのだろうか? あるいは幽霊でも乗っているのか?

そんな事を思いながら早苗が魔理沙に尋ねた。

 

「守矢神社に送りに……って、誰かいらっしゃるんですか? 見た所魔理沙さん以外誰も居らっしゃいませんけど……?」

「へ……?」

 

早苗の言葉に、魔理沙が後ろを振り返ると……そこには早苗の指摘通り、誰もいなかった。

本来ならばいないといけないはずの、のび太の姿さえ。

博麗神社でのび太を乗せた時には、間違いなくのび太はいた。でも、守矢神社に到着した今は、いない。

つまりこれが意味する所は……。

自分が何をしてしまったのかようやく理解したらしく、カタカタと震えながら青い顔をした魔理沙の顔から、冷や汗が後から後から溢れてくる。

 

「…………ど、どこかに落っことしてきたーっっっ!!!」

 

そして、守矢神社の境内に魔理沙の叫びが木霊した……。

 

 




のっけからのび太、妖怪の山にて遭難!!

まあ、のび太は振り落とされるのは日本誕生のリニアモーターカーごっこ以来二回目ですし、無事だと……いいなぁ?
ただ、妖怪の山って天狗や河童、風神録に出てきたキャラ以外にも、登場しなかった野良妖怪も多くいると思うんですよね。
妖獣みたいなのが跋扈している、鬱蒼とした森林地帯。

ああ、のび太の運命やいかに!?






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探検! 妖怪の山

お待たせいたしました。
のび太の幻想郷冒険記・のび太と不思議(すぎる)風祝編更新です。
妖怪の山で魔理沙のホウキに乗せてもらいながら守矢神社を目指していたのび太、しかし魔理沙のスピードが速すぎるせいで放り出されたのび太の運命やいかに!?


守矢神社に連れてくる最中にのび太がどこかで振り落とされた、と言う事実が発覚してしまった魔理沙。

そばにいる早苗には目もくれず、まさかの、のび太を道中のどこかで振り落として来たと言う事実に、頭を抱えながら『あああああ』と珍しく激しい動揺をしていた。

事情を知らない早苗としては、激しく動揺する魔理沙と言う実に珍しい光景なのだからもう少し見ていたいとも思ったりしたのだけれども、このままでは埒が明かないのでひとまず魔理沙から説明を聞く事にする。

 

「まずい、どこだ!? どこにのび太を落として来たんだ!?」

「まずは落ち着いてください。落としたって、何を落っことしてきたんですか?」

「のび太だよのび太! 博麗神社に泊まってる外来人の男の子なんだが、守矢神社に行きたいって言うから連れてくるつもりだったんだよ」

「何やってるんですか!? って言うか子供を乗せたままあんなスピードで飛んでくればそれは振り落としたって不思議じゃないですよ!」

「し、仕方が無いだろう!? 夏休みの自由研究で調べたい事があるって言うから急いだ方がいいと思ったんだよ!」

「それにしても限度と言うものがありますよ!」

 

が、これは完全に早苗の失敗だった。

外から来た、何の力もない(と早苗は思い込んでいる。実際にはひみつ道具で空を飛び、弾幕ごっこで魔理沙を下しているのだけれども)子供をホウキに乗せて飛んできたら、途中で振り落としましたと言われて、早苗の方まで魔理沙に引きずられるようにヒートアップしてゆく。

その様子はさながら子供の喧嘩のよう。

早苗を追いかけるように、社殿の中から出てきた人物が二人の間に入らなかったら二人の騒ぎはもっと続いたかもしれない。

と言っても、出てきた人物はただの人物ではないし、まず第一に人ですらない。

守矢神社の風祝である早苗に神奈子様と呼ばれた人物こそ、何を隠そう洩矢神社の祭神の一柱、八坂神奈子なのだ。

赤い衣に背負った注連縄と言う、外で見かけたら二度見どころか三度見してから、スマホを取り出す事間違いなしなこの神奈子が出てきた事で、魔理沙と早苗もお互いにアイコンタクトで一時休戦の協定を暗黙のうちに結び、それまでの喧騒はどこへやら。たちまち静かになる。

一方、社殿から出てきた神奈子は早苗と魔理沙の姿を目にすると、二人の間に割って入るように歩み寄る。

その様子は子供の喧嘩を叱る母親のようにも見えた。

 

「どうしたんだい早苗、急に飛び出していったと思ったら何を騒いでいるのさ? おや、白黒の魔法使いじゃないか」

「神奈子様。聞いてください大変です! 事件です!」

「あー、わかったから早苗、まず落ち着きなさい。白黒の魔法使いが今度は何をしたのよ?」

「おいおい神様、それはひどくないか?」

「あれだけ大声出しながら外で騒げば、否が応でも何かやらかしたと思うでしょう」

 

神奈子に騒ぎの原因であると断じられ、全く信用されていない魔理沙が反論するけれども、対する神奈子は涼しい顔。

そんな神奈子に早苗が、これまでの経緯を説明するのだった。

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

「……で、その外から来たのび太って子をここに連れてこようとして、途中のどこかで振り落としてしまった、と」

「ああ、早く助けに行かないと危ないんだ」

 

珍しく必死な魔理沙の表情と言葉を、神奈子も早苗も嫌と言うほど理解していた。

ただしそれと同時に、口には出さないだけですぐ助けに行けるほど簡単な話でない事もまた、二人は重々承知していた。

まず、一口に妖怪の山と言っても山だけでなく、その周囲に広がる山裾もまた山の一部でありおまけにそれが非常に広い。

もちろん魔理沙が守矢神社にやって来たルート上のどこか、ではあるのだからそこを重点的に探す事になるとは言え、そのどこかにいる人っ子一人を探せと言うのはなかなかに難しい。

落ちた場所にそのままとどまってくれれば探す側としては御の字だけれども、もし参道に出てくれればともかく森の中へと移動されたら、探すのは非常に難しくなるだろう。

もう一つは、妖怪の山の住人たちの存在だ。

妖怪の山には天狗や河童と言った種族が独自の文化を築いているが、それらは極めて排他的な文化を有していて万が一にも、遭難したのび太が天狗や河童たちに先に見つかった場合どんな厄介な事になるか分かったものではない。

おまけに妖怪の山ではいたる所で、侵入者を警戒して哨戒している者たちがそこらじゅうを監視しているのだ。

元々の数が魔理沙や早苗と言った守矢神社の面子よりも多い以上、どちらが先に見つける可能性が高いのかは言うまでもないだろう。

 

「……仕方がないな、私の方から天狗たちに見つけたら保護するよう話をつけて来よう」

「神奈子様!」

「助かる! ちなみにのび太の格好なんだが……」

「ああ、大丈夫だろう。なにしろ妖怪に山に子供が一人で入りこんでいたら天狗が気が付かない訳がない。それよりも早く伝えておかないと騒ぎになるからね。それよりも、私が天狗たちに話を付けに行くから早苗たちもすぐに動きなさい。山の中に迷い込まれたら厄介よ」

 

そんな現状を察した神奈子が『天狗の処に行ってくる』と言い、ふわりと浮かび上がると妖怪の山の奥、天狗たちの里へと飛んで行く。

神奈子としても、自分の神社へとやって来ようとしている人間が遭難しているのにただ指をくわえたままで何もしない、では今後の信仰にも関わってくる事を承知していた。 

逆に言えばここでのび太の救助に一枚噛んでおけば、もしかしたらのび太がそれを知った時に守矢神社の信仰をしてくれるかもしれない。

打算と言われればそれまでだが、彼女たち神様にとっては、どんなに強大な力を有していても信仰されなければ存在が維持できないのだ。

当然人命救助も大事だが、それも含めて今出せる手札はできるだけ切っておく、それが神奈子の出した結論だった。

もちろんそれだけではない。神奈子は自分が天狗に事情を説明しに行っている間に、すぐに魔理沙や早苗に対してのび太を探しに向かうように指示を出す事も忘れてはいなかった。

こうして神奈子からの指示を受けた早苗と魔理沙もまた、洩矢神社から動き出したのだった。

 

 

 

 

                  *         

 

 

 

 

「う、うーん……いてててて……。ふぅ、木の枝に引っかかって助かった……。けど、どっちに行けば守矢神社なんだろう?」

 

一方その頃、あまりの速さに魔理沙のホウキから振り落とされたのび太はと言うと振り落とされた際、直接地面に落ちるのではなく運よく一度木の枝に引っかかる事で、どうにかケガ一つないままで助かっていた。

それはかつて『雲の王国』において、天上連邦の絶滅動物保護区で管理棟から夜に脱走を図り、遭難した時の状況にもよく似ていたけれども、あの時と違い今回は一晩夜を明かさなくていい、と言うのが大きな違いだったが。

とは言え、場所も分からない妖怪の山の山中に一人放り出された事実に変わりはなく、木々が生い茂る深い森の中でどちらに進めばいいのか分からないと言う状況に間違いはなかった。

それはこの幻想郷に初めてやって来た時にも似た状況だった。ならば、のび太のする事は一つしかない。

『よいしょ、よいしょ』と木の枝から慎重に幹へと移動し、後はしがみ付きながら地面までゆっくりと降りてきたのび太は、ズボンのポケットに忍ばせていたタケコプターを取り出すと、慣れた手つきで頭にセットする。

また、山の名前からして『妖怪の山』などと呼ばれているのだから、と年のために魔理沙と勝負した際に使ったフワフワ銃も装備する事を忘れない。

こうして準備を終えるとタケコプターによって浮力を得たのび太の身体が浮遊感に包まれ、すぅ、と音もなく浮かび上がる。

そのままプルプルと独特の音を響かせながら、木々の間を縫うようにゆっくりと飛び始めた。

これは木々が生い茂りすぎて、その間を抜けるのが難しいのでどこか隙間を見つけて、森の上空に出ようと判断した上での行動だったのだけれども……のび太を探そうと言う魔理沙や早苗にとっては、のび太が当てもなく移動し始めた事によって探しにくくなってしまう事を、今ののび太には知る由もなかった。

 

「どこかで森の上に出られればいいんだけど……」

 

そんなのび太が飛びながら周囲を注意深く見まわしてみるけれども、なかなかそう都合のいい生い茂る木々の切れ目は見つからない。

どこまで飛んでも目の前に広がるのは爽やかな森の緑に、外の世界とは比べ物にならないくらいに(これはのび太の家が東京の住宅地と言う事もあるだろうけれども)やかましいくらいに鳴り響くセミの声。

それはもう、博麗神社の周りで鳴いていたセミの声がまだマシに、いやあるいはジャイアンのリサイタルの方が……いや、それと同じくらいと思えるほどともなればに思わず耳をふさぎたくなるのも仕方のない事だろう。

 

「……うー、早く守矢神社に着かないかな」

 

これ以上は聞きたくない、とうんざりした表情で飛び続けるのび太だけれども、そもそも肝心な守矢神社の場所が分かっていないのにどうやって向かうつもりなのか、のび太にツッコミを入れる者は悲しいかな、誰もいなかった。

だが、のび太の苦労が報われたのか、あるいは守矢の神様が奇跡を起こしてくれたのかもしれない。

なぜなら、飛んでいる木々の間の向こう側、視界の先がだんだんと明るくなってきたからだ。

明るいと言う事は、太陽の光や空の明るささえ隠してしまうような深い森の切れ目、つまりはのび太が探していたものが近づいていると言う事。

その明るさに誘われるように、木々や茂みをうまく避けながら向かった先に広がっていたのは……。

 

「うわぁ……」

 

人の手の入らない、きれいな川。

上流からとうとうと流れる透き通った水がゴロゴロと転がる岩の間を流れてゆく光景に、のび太は思わず言葉を失った。

確かにのび太の家の近くにも川はあるにはあった。とは言え、のび太の近所で流れている河川として思い当たる多奈川や町の中を流れるどぶ川とは、目の前の清流とはまさしく雲泥の差である。

かつて『アニマル惑星』で裏山がゴルフ場に開発される計画が持ち上がった時、反対派としてのび太のママも立ち上がった事があった。

その時、同じように反対派として参加していた近所に住むおじさんが『若い頃には小川でアユが採れた』と口にしていたのを、様子を伺っていたのび太たちも聞いていたが、今のび太の目の前に流れる小川はまさにそんな話に聞いた事のある小川そのもの。

おまけにいくら森の中で涼しいとはいえ、やはり時期は夏と言う事もあって朝はそれほどでなくてもだんだんと日が高くなるにつれて暑さが増してくる。

となれば洩矢神社へ向かうのは後にして、のび太が少し川遊びをしよう、とするのは自然な事だったのかもしれない。

そうとなれば善は急げと、靴と靴下を脱いで水のかからない岸の岩の上へと乗せておき、裸足になってそっと水面へと足を入れる。

その瞬間に、うだるような暑い空気とは裏腹にきーんと冷えた水の温度が足を伝って全身を冷ましていく感覚がのび太の身体に伝わってきた。

 

「くーっ、冷たくて気持ちいいや」

 

背中を駆け抜ける、水の温度を堪能してからバシャバシャと水音を立てながら川の中を歩き回り、今度は魚でも捕まえるつもりなのか水の中に動く影はいないか、ときょろきょろ見回しながら獲物を探して回るのび太。

その様子に、ここが『妖怪の山』であると言う、人間の住まう場所とは一線を画した場所なのであると言う危機感は完全に忘れ去られているらしい。

もっとも、博麗神社で霊夢と紫がしてくれた説明の『夜は妖怪の時間、襲われて食べられても、文句は言えない。それが幻想郷のルールなのよ』と言う文句を考えれば、夜にならないうちに神社に向かい、そして博麗神社まで戻ってくれば安心と言う心づもりなのだろう。

つまり、今ののび太の頭の中には『昼間は安心、妖怪は出てこない。夜は危ない、妖怪が出てくる』と言う構図が出来上がっていたのだ。

だから……。

 

「あ、いたっ!」

 

水面でゆらゆらと動く何かの影を見つけて、抜き足差し足、水しぶきをできるだけ立てないようにゆっくりと動きながら、動かない水面に動くそれへと近づいて行き飛び掛かかろうと身構えたその時だった。

 

 

 

「そこの人間! ここは我らの縄張りです! 早々に立ち去りなさい!!」

「へ……? だ、誰!?」

「こら、どこを見ているんですか! 私はここです、あなたの真上ですよ!!」

「…………? あ……」

 

 

 

セミの声しかしないはずの、そして自分以外には誰も居なかったはずの妖怪の山に凛と響く誰かの声。

これから水面に映る影、おそらく魚だろうその獲物を捕まえてやるつもりで、飛び掛かろうとちょうど身構えていた、その格好のまま聞こえてきた声を頼りに周りに誰かがいるのかと周囲を見回しても誰も居ない、でも声だけは聞こえてくると言うこの不思議さ。

一方で、一体何が起きたのかと、戸惑いを隠せずにいたのび太に業を煮やしたのか、あるいはもともと怒りっぽい性格なのか、謎の声の主も自分の居場所を、すなわち自分がのび太の上にいると教えてくる。

その声に従って視線を自分の真上へと移したのび太の先にいたのは、片手に盾を持ち、もう片方の手には大きな剣を突き付けている、白い髪の女の子だった……。

そこでのび太は気が付いた、自分が魚だと思って捕まえようとしていた水面に映る影は、自分に向けて剣を突き付けてきているあの子の影だったのだと。

 

 

 




のび太の前に現れた謎の女の子!
思い切り手持ちの武器を突き付けて敵意満載の謎の少女の正体は!?(ぇ
天狗に話を付ける為に向かった神奈子様、そしてのび太を探しに出かけた魔理沙に早苗は間に合うのか!?
そしてのび太は無事に守矢神社にたどり着けるのだろうか!!!

次回、タイトル未定!!
乞うご期待!!


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『河童の新兵器人里に流出か!? 天狗に対する大規模攻勢の可能性も考慮』 ~XX日の文々。新聞一面より抜粋~

お待たせいたしました。
のび太の幻想郷冒険記、敵か味方か、のび太の前に現れた謎の少女の正体は!?
そしてのび太は守矢神社にたどり着けるのか?



皆さん多くの感想を書いていただきどうもありがとうございます。
お気に入り登録だけでなく、感想を頂けると言う事が書き続ける上で、やる気を出してくれるんだなと最近ひしひしと感じております。
感想は書けていないものもありますが、感想文は全て目を通しておりますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。


「そこの人間! ここは我らの縄張りです!」

 

のび太が謎の声のする方、つまりは上へと見上げてみるとそこにいたのは白い髪をした女の子。

やはり彼女も幻想郷の住民であるらしく、タケコプターも何もつけないまま空中へと浮かんでいる。

ただし、その格好はのび太がこれまで幻想郷で会った他の誰よりもだいぶ違っていた。

 

まず第一にのび太の目を引いたのは彼女の頭についている犬のような耳と、袴から出ているふさふさの尻尾。

少なくともそんなものが付いているのは、アフリカのコンゴ盆地の奥地、通称ヘビースモーカーズフォレストの中心に位置する『バウワンコ王国』の住民か、あるいははるか宇宙のかなたにあるアニマル惑星に住むチッポたちくらいしか、今まで冒険をしてきた世界でものび太にはとんと覚えがない。

そして何よりも決定的な点が一つ。

目の前の犬? っぽい女の子はのび太の事を「()()()()()」と呼んだ。

そう、人間と。

 

大臣ダブランダーの計略により暗殺寸前まで追い詰められ、すんでのところで国外に逃亡したバウワンコ王国の王子ペコも、のび太たちに自身の正体を明かしてはからはのび太たちの事を人間、また王国の外の世界を人間の世界と呼んでいた。

けれどもあくまでペコたちは、犬が進化した結果生まれた種族であってその外見はまさしく直立した犬である。

またアニマル惑星のチッポはのび太たちを異星人として、違う世界の人間であるとはっきり認識していたしなによりもアニマル惑星は地球との距離があまりにも遠すぎた。

つまりは、目の前の剣をこちらに突き付けながらにらみつけて来ている女の子は、バウワンコ王国もアニマル惑星も全く関係がないと言う事だ。

 

 

……では、あの少女はいったい何者なのか?

 

 

そこまでのび太は考えて、趣味のあやとりで工夫の末に『おどるチョウ』を編み出した時と同じくらいに頭を働かせてから、一つの答えにたどり着く。

いや、答えにたどり着くより先。それ以前に答えは少女が最初に口にしていたのだ。

守矢神社を目指す前に魔理沙から教えられた、ここ妖怪の山で彼女はのび太の事をそこの人間と呼び、さらには妖怪の山を自分たちの縄張りであると主張した。

ならば、答えは一つしかない。すなわち、妖怪であると。

それなら、人のような格好ではあるものの耳や尻尾が生えている事も、大きな包丁かあるいは鉈のような剣を自分の方へと向けて突き付けている事だって十分に納得がいく。

 

「い、犬の妖怪!?」

「いかにも! ……って、何を言わせるんですか! 違います!! 私は妖怪の山の白狼天狗、犬走椛(いぬばしりもみじ)。犬ではなくお、お、か、み、です! そんな事より人間よ、ただちに立ち去りなさい!」

「そ、そんな……だって霊夢さんは夜は妖怪の時間だって言っていたのに」

 

そしてのび太の妖怪、と動揺する言葉を肯定しつつも犬ではなく狼であると、わざわざ一句一句、区切りながら大事な事だから間違えないようにと主張する犬耳の少女改め、白狼天狗の犬走椛は改めてのび太に向けて山から立ち去るよう宣告を行ったのだ。

ちなみに、妖怪の山に初めて立ち入ったのび太は知る術もないけれども、これは白狼天狗の仕事の一環であり、侵入者を見つけた場合警告し、侵入者がそれでも引かない場合は応戦……と言うのがその大まかな流れとなる。

が、そんな事はまったく知らないのび太からしてみたらこれは驚きと恐怖以外の何者でもなかった。

なにしろ霊夢と紫から説明を受けた『夜は妖怪の時間』と言う話から、昼間は妖怪は休んでいる……すなわち幻想郷の妖怪は夜行性、と言う認識でいたのだ。

 

「夜しか活動しない? 何を言っているのです、ここは妖怪の山。妖怪が自分の縄張りにいて何がおかしい!? それに、侵入者がいればそれを排除するのが我らの務め、昼も夜も関係ない!」

 

……それが椛がのび太の認識をひっくり返すような発言をするものだから、のび太は完全に椛を誤解する事になってしまった。

それはすなわち、椛がどうしてここに来たのか? というのび太の中に生まれた疑問に対する答え。

自分の上空で身構えている椛は『昼間から人間を食べに出てきた』妖怪であって、霊夢や紫の説明してくれた内容と全く話が違うじゃないか、と言う訳である。

ちょうど椛の持っている刀はおあつらえ向きに、のび太を捌いて調理するのに都合がよさそうなサイズをしている事もあって、のび太の中では椛の存在は完全に自分を食べにやって来た恐ろしい人食い妖怪として固定されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「やだーっ、助けてードラえもーん!!」

「この子供は蒸し焼きにするとおいしそうだな」

「つまみ食いしないでくださいよ? この子供はから揚げにするんですから」

「いや、蒸し焼きにしろ。私はさっぱりした料理が好きなんだ」

「私あぶらっこいの好き」

「から揚げも蒸し焼きも好かん! 塩ゆでにしろ」

「「はは……っ! かしこまりました」」

 

 

 

 

 

 

このままだと目の前の妖怪少女に食べられる。

そう考えるのび太の頭の中では、白狼天狗たちの住処に連れていかれたのび太を前にして、天狗の炊烹長たちが出刃包丁よりも大きな刀を研ぎながらそんな会話をしている……そんな光景が浮かんでいた。

もちろん椛にそんなつもりはさらさら無いのだけれども、誤解が解けていない以上、のび太にとって椛の存在はおっかない人食い妖怪でしかなかった。

とは言え、誤解していると言う意味では、それは椛にも当てはまる事だった。

椛の職務からしてみれば、のび太の存在は縄張りを侵す侵入者でしかなく、彼女はそれを追い払いたいだけなのだから。

ここでのび太はただ守矢神社に行きたいだけ、そして椛は妖怪の山に侵入してきた侵入者を追い払いたいだけ。

その互いの目的がお互いにしっかりと伝えられていれば、のび太は守矢神社へと椛の案内の下、連れて行ってもらい、椛も侵入者は迷子の参拝者だった、と言う事ですんなりと話は進んだのだろう。

けれども悲しい事に肝心の部分が伝えきれていないせいで、二人の盛大な誤解と勘違いはどこまで行っても平行線のまま。

結果として、のび太と椛の間には緊迫した空気が流れ続けていたのだった……。

 

 

 

「……さぁ、おとなしくおうちに帰りなさい!」

 

互いの間に流れる空気にとうとうしびれを切らしたか、三度目の正直と言わんばかりに椛がのび太に対して宣告を下す。

いや、宣告だけではない。

三回も警告したのだからこれ以上の温情をかける義理などありません、とばかりに弾幕を放ってきたのだ。

 

「わぁぁぁっ!! だ、弾幕!?」

「知っているのなら話は早い! 当たればどうなるかも当然分かっているのでしょう? 痛い目にあいたくなければ、今すぐおうちに帰ることです!」

 

そう言うが早いが、椛からのび太の「の」の字のごとく、渦を巻くような弾幕が後から後から放たれては、それらがのび太めがけて襲いかかる。

山に迷い混んできただけの、人里に暮らす普通の人間なら、この弾幕を見ればたちまち腰を抜かしてしまい逃げ帰るだろう。

実のところ椛はそう踏んでいた。

のび太が普通の人間なら、だが。

 

確かにこれが初めての弾幕だとするのなら、のび太も椛の思惑通り、腰を抜かさんばかりに驚き、また慌てふためきながら逃げ出していたかもしれない。

けれどものび太にとっては、既に弾幕とは一度経験した事のあるものなのだ。

おまけに幻想郷の実力者達ならともかく全くそれまでの冒険でもした事のない弾幕勝負であって、しかも相手は幻想郷でもかなりの実力者である霧雨魔理沙。

その魔理沙をほとんど相打ちとは言え、負かした経験があるのだ。

となればのび太にとってはいきなり弾幕勝負に持ち込まれた事で驚きこそしても、いざ始まってしまえば何の事は無い、博麗神社で経験した魔理沙との勝負と同じように、自分のフワフワ銃で勝負するだけでしかなかった。

むしろ、空中にいるとは言えその場に留まりながら弾幕を展開してくる椛よりも、空中を高速で移動しながらそれでもなお的確にこちらに命中するような弾幕を放ってくる分、魔理沙との勝負の方がのび太にとっては大変だったかもしれない。

 

「……どうして避けない? まさか、勝負を捨てたのですか!?」

「……………………」

 

だから、自分の弾幕が押し寄せる中、全く慌てる事なく冷静なのび太の姿に、椛が訝しげな表情を見せたその時、椛は見た。

椛自身の「勝負を諦めたのか?」の言葉にも答える事なく、沈黙を貫いていたのび太が手にした銃をゆっくりと両手で構えながら、その銃口を向ける様を。

 

『この臭い、火薬? あれは銃!? まずい!』

 

他の人妖よりも優れた椛の、白狼天狗としての嗅覚と視覚とが、それを捉え、とっさに回避を試みたのと銃口が火を吐き出したのとは、ほとんど同時だった。

 

 

 

……バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! 

 

 

 

 

「「…………」」

 

妖怪の山の清流の中、六発の銃声が響き渡る。

何の事は無い、のび太がフワフワ銃を連射し、椛に向けての一発と、それから自分に向かってくる弾幕のうち、本当に自分に命中する危険のあるものを残りの5発で撃墜したのだ。

が、それも本当に一瞬の事。

すぐにこだましていた銃声は消えてゆき、後にはまた元のようにさらさらと流れる小川のせせらぎ。小鳥のさえずり、木々のざわめき。

戦いなど何も無かったかのように、静かな自然の風景が戻ってくる。

そんな中で、弾は当たったのか? はたまた当たっていないのか? のび太も椛も、お互いに黙ったままピクリとも動かず、次にどんな動きをされてもいいように、神経を研ぎ澄ませていた。

 

何しろ弾幕を避けるでもなく、銃で迎撃して無効化するなどと言う対応を取る相手は椛も哨戒の任務に就いてからこの方、一度も経験した事が無かったのだ。

椛が戦った事のある相手、となれば記憶に残っているとなれば風神録異変の際に妖怪の山へとやって来た霊夢や魔理沙だろうか?

それでも、その二人でさえ弾幕を撃墜すると言う芸当をやってのける事は無かった。

あくまでも互いの弾幕を回避しつつ、相手に弾幕をぶつける。それが弾幕と言うモノの戦い方だったはずだ。

その幻想郷の常識を、あっさりと覆して見せた子供が人里からやって来て迷子になった、ただの子供である訳がない。

だからこそ椛ものび太の披露した神業的な射撃の腕を見て、すぐにのび太に対する認識を改めていたのだ。

それは白狼天狗としての、いや妖怪としての本能にも近い部分がはっきりと告げる『危険だ』と言う警告。

が、そんな沈黙はすぐに椛の変化と言う形で終わりを告げた。

 

「……? な、なんですかこれは!?」

「あ、ごめんなさい。それはフワフワ銃と言って命中すると傷つけたりはしないで、相手の身体を丸くして三時間、空中にフワフワと浮かべてしまうんです」

 

椛が驚くのも無理はない。

おそらく椛が白狼天狗として生きてきて、初めての経験であろうフワフワ銃の効果。

身体がまん丸くなり、風船のようにプカプカと空中に浮かんでしまうと言う、その効果が表れる……。

そう、のび太の撃った一撃は確かに命中していたのだ。

けれども椛もただやられっ放し、と言う訳ではない。

自分の身体が風船のように膨らむ、と言うこの不可思議な出来事について、すぐに今の自分自身に降りかかった現状について冷静に分析を開始していからだ。

この辺りは、同じフワフワ銃を受けた魔理沙と比べても大きな違いと言えるだろう。

 

『これは何ですか? フワフワ銃などそもそも見た事も聞いた事もありません。いや、確かにあの子供はそもそも名前の通り小型の銃を自分に向けていた……。ならば原因は間違いなくあの銃にあるのでしょう。しかし、この幻想郷であのような道具を作れる技術を持つとなると……』

 

思考を巡らせ、自分の身体の変化よりも先にこの変化を引き起こした道具の出所について椛は推理する。

そう、たとえ自分は倒れても、後に続く仲間に情報を残すために、同じ轍を踏ませないために。

その推理の果てに、椛は恐ろしい事実に気が付いてしまった。

今目の前にいる子供は、妖怪の山の秩序を崩壊させるその始まりに過ぎないのだと言う、恐ろしい事実に。

 

人里の子供がこんな恐ろしい武器を作れるはずがない、これは人間だけでなく白狼天狗以下、天狗族、を見回した所でこんなものを作れる者はいないだろう。

そもそも、妖怪の山は非常に閉鎖的であり仮に作れる者がいたとしてもこんなものが開発されれば、間違いなくその技術は周囲に知れ渡るはずだ。

……となればその出所はどこなのか?

椛にとって、そんな高い技術力を持っている者の心当たりは一つしかない。

そしてそれがもし椛の想像の通りだった場合、妖怪の山として、天狗族として決して看過できない事でもあった。

 

すなわち、河童による新兵器の人間への譲渡。

 

もし極秘に開発した兵器を、天狗にも秘密にしたまま人里へと流出させたのだとしたらとんでもない事になる。

その最悪の事態を回避するためにも、目の前の子供には悪いが天狗の詰め所まで来てもらう必要が出て来てしまった事を椛はすぐに判断すると、膨らんだ身体をどうにか動かして、緊急事態を周囲に知らせる為の最後の手段、呼子を取り出すとそれを口にくわえる。

この呼子を吹けば、他の仲間が増援としてやって来る。

後は人間の子供を逮捕して、尋問なり拷問なりする事で一体どの河童が人里に新しい発明品の武器を流したのかを聞き出せばいい訳だ。

だが、椛は知らなかった。

自分の身体を風船のように膨らませたのび太の銃が、河童の新兵器ではなく未来の……二十二世紀に造られたひみつ道具だと言う事を。

まあ、未来の道具だと想像と言うのもそれはそれで無理な注文なのだけれども。

 

「おのれ人間、河童から兵器を譲渡されただけでなく、そのまま妖怪の山に侵略をしてくるとは許し難し!」

「へ!? か、河童!?」

「問答無用! 言い訳は我らの里まで連行した後でゆっくりと聞きます。それまでに命乞いの言葉でも考えておくがいい!!」

 

 

 

 

 

 

…………ピィィィィィィィィィィィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

一方いきなりのび太はのび太で、いきなりひみつ道具を河童をから渡されたなどと言われても、そもそものび太自身はひみつ道具の出どころが未来の道具なのだと知っているため、椛が何を言っているのか分かろうはずもない。

確かにひみつ道具をスペアポケットからと言う形で借りてはいるものの、どちらかと言えば道具の主は河童ではなく狸である。

……当然、そんな事を言った日には地球破壊爆弾の一つや二つ持ち出して怒り狂うのは目に見えているので決して口にはしないが。

兎にも角にも、最後の最後までお互いに誤解、そしてすれ違いが生じたまま妖怪の山に、椛の吹いた呼子のつんざくような音が、木霊した。




嗚呼、なんという盛大なるすれ違い。
確かに妖怪の山で見た事もない道具を見せられたら、天狗たちにすれば河童じゃ、河童のしわざじゃ! と言う事になってしまうのでしょうね。
おまけにそれを人間が持っているのですから、天狗としてはただただ脅威としか映らないのです。
椛の呼んだ天狗の増援にのび太はさらわれてしまうのか? 魔界大冒険のように、本当に食べられてしまうかもしれないのび太の運命は!?

助けられるのは魔理沙と早苗だけだ、間に合え二人!!!


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妖怪の山、快晴のち台風。時々ブリザード(その1)

だいぶお待たせしてしまいすみません。
ようやくの最新話の投稿です。ちなみにその1、となっているのは前後に分ける事にしたからです。
すみません



尚、愚痴っぽくなり申し訳ありませんが冬コミの原稿にリアルの方では容赦なく上から投げつけられる増産増産おまけに他所のラインから残業応援しろとの指示……とただいま絶賛押し潰されかかっています(滝汗
この作品を読んでいただいている方の中には社会人の方もいらっしゃるかと思いますが、皆さんも他所の部署から残業頼むとか言われてもしっかりとノウ! と断れる勇気を持ちましょう。

おにいさんとの約束だ!



白狼天狗の犬走椛が、フワフワ銃でまん丸く浮かび上がってしまいながらも、どうにか取り出した呼子を吹いた事で妖怪の山のせせらぎの下、響き渡った甲高い音。

そのあまりの音の大きさには、思わずのび太も耳を手で押さえながら目をつむってしまう程。

魔界大冒険で、魔界星の海に生息していた人魚の歌を防ぐためにドラえもんが用意してくれた耳バンでもあれば、今すぐに貼りたいと思ったのも一瞬の事で、すぐにその音は大空に抜けるようにすぅ、と消えていった。

 

「な、なに……? 今のは……?」

「人間、哨戒天狗として長年勤めてきた私をこんな格好にしたのは見事、と言っておきます。でも、今私が吹いた笛の音を聞いた仲間が、もうすぐ駆けつける仕組みになっているのです。勝った気でいられるのも今のうちですよ」

体をまんまるくしてぷかぷかと浮かぶ椛が、のび太の質問とも独り言ともとれる呟きに答えるけれども、今のその格好ではしまらない事この上ない。

それでも『呼子の音を聞いた仲間が駆けつける』と言う椛の言葉には、これっぽっちの嘘もなかったらしい。

辺りの木々がざわざわと音をたてたかと思うと、すぐにのび太はそれが本当なのだと思い知る事になった。

 

 

 

ジャーン! ジャーン! ジャーン!

 

 

 

「えぇっ!?」

 

けたたましい銅鑼の音と共に、ときの声を上げながら次から次へと飛び出してくる天狗、天狗、またまた天狗。

椛と同じ格好をした、椛の言葉を借りるなら白狼天狗が、さすまたや御用の提灯を手にしているその姿は、椛のように追い払う事が目的ではなく、捕まえる事を目的とした装備である事に果たしてのび太は気がついたのか。

もっとも、それにのび太が気がついた所でどうしょうもないのもまた事実なのだけれども。

なぜなら、のび太が驚きの表情でその様子を見ているわずかの間に、飛び出してきた天狗たちはのび太をぐるりと取り囲んで水も漏らさない包囲網を敷いていたのだから。

この辺りの動きからも、飛び出してきた天狗の援軍の練度は、相当に高い事が伺えた。

 

「その者は河童と結託し、極秘に開発された発明品で妖怪の山に謀反を起こそうとしている可能性があります! 何としても捕らえるのです!!」

「「「御用! 御用! ……ぷっ、く、くくくくく……」」」

「さぁ、不届き者をただちに……めっ、召し捕れい……っ!」

「何を笑っているのですか! このままこの子供を放っておけば、第二第三の犠牲者が出るのですよ!」

 

椛の言葉に応じるように、その援軍がいっせいに時代劇さながらのセリフでもって手にした獲物……さすまたや剣、御用提灯を向けとくるとなれば、威圧感も相当なものになるのは間違いない。

間違いはないはずなのだけれども、風船のように膨らんだ格好の椛、と言う援軍として駆け付けた天狗たちにとっても予想外の格好は、彼ら彼女らの笑いのツボを見事に貫いたらしく、真面目な表情や言葉の端々で笑い声が漏れてくる。

よくよく見てみればその口元も、必死で笑いをこらえているのがよく分かった。

 

『その格好で笑うなだなんて反則だ!!』

 

奇しくも、のび太と天狗の心が一つになった瞬間でもあった。

となれば、そんな状況が不満で仕方がないのは、当然その笑いを提供しているまんまるな格好の椛だろう。

『笑っている暇があれば目の前の子供を捕まえなさい』と怒気すら漂わせながら、風船のように空中に浮かんだ格好のまま、椛は語気を強めた。

そんな恰好ではあっても流石にそこまで言われれば援軍として駆け付けた天狗も、おちおちと笑っている訳にもいかない、と誰もが気を引き締めたようでその表情からも笑いが消えてゆく。

と言うよりも、何人かの天狗はまだ表情が引きつっている所を見ると、消えていくと言うよりも気合と根性で無理やり笑いを消していくと言った方がいいのかもしれない。

椛の言う通り、河童と目の前の子供が結託して謀反を企んでいるかどうかの真偽はともかくとして、確かに椛本人を風船モドキにしてしまったと言う事実がある以上、捕まえて事情を聞き出す必要がある、と言うのは誰もが思ったのだろう。

 

しかし、つまりこれはのび太の弁解が通じにくくなる、と言う事でもあった。

のび太の手にしているひみつ道具が天狗たちの言う河童などと言う、のび太からしてみれば見た事もない伝説の動物が作ったものではなく、未来からやって来た青狸……もとい猫型ロボットの親友から借りてきたと言う弁解をしようにも、今目の前で自分に向けて武器を構えている天狗たちの様子を見れば、ひみつ道具の説明をする前に問答無用で捕まる可能性の方が高い……。

それほどまでに険悪な空気がのび太と天狗たちの間には漂っていた。

おまけにのび太のフワフワ銃では1対1の決闘ならそんじょそこらの相手なら負けない自信はあるけれども、何しろ大人数を一人で相手にするにはあまりにも不利すぎる。

手近にいる数人はやっつける事が出来ても、一度に発射できる弾の数が六発と決まっている以上、次に発砲するための弾を込めている間にやっつけられてお終い、となる可能性の方が高いのは目に見えていた。

 

 

 

……ならば、どうするのか?

 

 

 

出すしかない。

この大人数を、なるべく怪我をさせないように、それでいて無力化できるようなひみつ道具を出して、少なくとも話し合いをさせてもらえる状況に持ち込む……そんな道具を一発で取り出して、捕まる前に行動に移す事。

それがのび太の考えた、今一番有効な作戦だった。

ただし、それはとても難しい事だと言う事ものび太は百も承知していた。

その難しい事、と言う問題点は『ドラえもんがどうして自由自在に必要なひみつ道具を取り出せるのか?』と言う所に繋がっていたりする。

実はドラえもんのゴムまりみたいな手、すなわちペタリハンドにはドラえもんの思考に合わせて道具を吸いつけると言う機能が備え付けられている。

これによって、ドラえもんは必要な時に欲しいひみつ道具を自在に取り出すことができるのだ。

逆に言えば、パニックになり思考が混乱している時によくドラえもんが必要なひみつ道具をなかなか取り出す事が出来ないのも、この機能とリンクしている思考回路が混乱した事でペタリハンドが本当に欲しいひみつ道具に対して反応しない、という理由があったりする。

つまり、そんな機能も持ち合わせていないのび太が、一発でこの大人数を相手に無力化できる道具を取り出す、と言うのは日頃ついていないのび太からしてみれば至難の業、と言ってもいいだろう。

それでも、やるしかない。

 

「………………」

 

博麗神社の境内で、魔理沙と弾幕で勝負をした時のような緊張感に、思わずゴクリと息を呑むのび太。

ここまで来たら、もうやるしかないのだと、なけなしの勇気を振り絞り覚悟を決める。

後は天狗たちのスキを伺いながら、ズボンのポケットからスペアポケットを取り出し、有用なひみつ道具を掴んで取り出して、使うだけだ。

そうと決まれば善は急げ。

のび太は今も手にしている、椛を笑いの中心へと仕立て上げたフワフワ銃をホルスターにゆっくりとしまい、そのまま手をズボンのポケットへと動かしてスペアポケットを引っぱり出すのと、その中に手を突っ込むと言う動作をできる限り、拳銃を抜くのと同じくらいに素早い動作でやってのけた。

しかし周りを囲まれている以上、当然ポケットの中を悠長に探し回り、最良の道具を選び抜いている余裕はない。

突っ込んだだけで、いろいろなモノが雑多に入っているのが手に触れる事で分かる四次元空間の中の惨状に『ドラえもんポケットの中をきちんと片付けておきなよ』と内心で親友に愚痴をこぼしながら、手に触れためぼしい道具を掴んだのと、その様子に天狗たちの一人が気が付いたのはどちらが早かったのだろうか。

 

「お前、怪しいぞ! 一体何をしている!」

「「「「「!!!」」」」」

「見つかった!?」

 

天狗の一人が声を上げると同時に、その場全員の視線が一斉にのび太の手元へと集中した。

それは以前にも感じた事のある感覚。ただ見られているだけのはずなのに、強烈な敵意をひしひしと感じるほどの視線が持つ嫌な感覚。

 

 

『のび太と夢幻三剣士』

 

 

かつてのび太は気ままに夢見る機を使い夢を見ていた時にひょんな事から夢幻三剣士の新作カセットを紹介され、その世界を破滅に導かんとする妖霊大帝を唯一滅ぼす事ができる白銀の剣士ノビタニヤンとして、ユミルメ王国で妖霊大帝オドロームと戦う定めを与えられる事になった。

しかし強大な力を持ち、のび太が召喚された時点で王国の半分近くを制圧していたほどの力を持つ妖霊大帝であるオドロームとの決戦を前にして、その前準備として不死身の力を得るために伝説の竜を倒して血を浴びる事で不死身になるよう、相棒のドラえもん(この時の役名は魔法使いのドラモン)から進言され、まず妖魔たちと戦う前に竜の住処を目指す事になったのだった。

そうした経緯から戦う事になった、口から炎を吐き、敵対する者をことごとく石に変えてしまうと言う恐ろしい能力を持った竜。

その中で受けた、敵意に満ちた竜の視線。

今のび太が周りの天狗たちから一斉に受けている視線は、のび太にとってはまさにそれを思い起こさせるものだった。

その天狗たちの敵意に満ちた視線を払いのけるように、のび太はパンツもといスペアポケットから掴んだ道具を引っ張り出す。

かつて夢幻三剣士の世界ユミルメ王国で、ノビタニヤンとして白銀の剣に導かれるままに、幾多のピンチを切り抜けたように。

奇しくもその姿は、偶然かあるいは必然なのか、白銀の剣士が鞘から剣を引き抜く姿にそっくりだった。

そしてスペアポケットと言う鞘から引き抜かれた、運命のひみつ道具は……。

 

「……これは!」

「な、なんだその変な葉っぱは? まさかそんな葉っぱで我々をどうにかしようと言うのか!?」

 

天狗が変な葉っぱと言うひみつ道具。

言われた通り、確かにどこからどう見ても大きなバナナの葉っぱにしか見えないがこう見えてもれっきとしたひみつ道具なのだ。

 

 

『バショー扇』

 

 

それは持ち主の自由自在に、お好みの風を吹かせる事ができるという扇型の道具。

見た目は天狗の指摘通り変な葉っぱそのものだけれども、上空に向かって風を起こせば、のび太やドラえもん、しずかたちが風に乗って宙に浮かぶことができる程度には強い風を吹かせられるし、思い切り振り下ろせばドラえもんが家で転倒した際には台風並みの強風すら巻き起こしている。

それ以外にも、グリップの根元にあるマイクに注文を入れればのび太がイタズラしたように『真夏の熱帯の風、暑くてじっとりと湿っぽいのを』という、夏には絶対に吹いて欲しくないような風も自由自在になんでもござれ。

まさにこれ以上ぴったりな名前はなかなか見つからない、と言う道具でありそしてこの場において、多数の相手を殺傷する事なく無力化するには、これ以上ないほどにふさわしい道具でもあった。

 

「よーし、これなら……せーのっ!!」

「させるな、かかれっ! かかれっ!」

 

ツキの月でも飲んでいるかと錯覚するかのような、自分の幸運に感謝しつつのび太は椛以下、自分をぐるりと取り囲んでいる白狼天狗たちの集団めがけて、かけ声をあげながらバショ-扇を振りかぶる。

子供の力であっても、思い切り振り下ろせばどれほどの力の風が吹くかは以前ドラえもんが家の中で台風を起こした時に経験済みだ。

バショー扇を振り下ろさんとするのび太と、それをさせまいと一斉に飛び掛かってくる白狼天狗たち。

のび太が何をしようとしているのかは理解できなくても、それを振り下ろそうとしていると言う事は間違いなく何かを仕掛けようとしている事、天狗たちの側にとってよろしくない何かが起こるであろう事は容易に理解できる。

のび太がバショー扇を振り下ろすのが先か? 白狼天狗たちがのび太を取り押さえるのが先か?

 

 

 

「待ちなさい!!」

「…………っ?」

「へ……っ?」

 

 

 

そんな両者の行動は、のび太と白狼天狗たちの間に割って入ったこの一声によって無理やり中断されたのだった。

のび太は言われたままにバショー扇を振り下ろすのを止め、また一方の白狼天狗たちもこの声の主を知っているのか、先生に怒られた生徒のように動揺した表情でその動きをぴたりと止めてしまった。

つまりは、この声の主はのび太でも、ましてやぐるりと周りを取り囲んでいる白狼天狗たちでもないと言う事。

空中でフワフワと風船のように浮かんでいる椛も、その声はすでに聴いているので違う事はのび太にも分かる。

 

……では、一体誰が声をかけたのか? 

 

のび太のそんな疑問に答えるように、妖怪の山からの新たな援軍なのか、今自分たちに待てと言ったに違いない人影がふわりと舞い降りた。

ただし、人影、と言ったけれどもその姿はどう見ても人間ではない。

昔話に出てくる天狗のような帽子に、スカート。

そして何よりも目を引くのは、その背中にくっついている黒いカラスのような翼。

のび太がついさっき、そして今も相対している白狼天狗も確かに犬っぽい耳や尻尾が付いているけれども、それ以上に今新しくやって来た妖怪は、人間よりも妖怪らしい格好をしている。

それは鳥の顔をしていない事を別にすればバードピアに住む、グースケたち鳥人間を彷彿とさせる格好でもあった。

もちろん翼の勇者たちの一件以来グースケたちとは会っていないし、幻想郷に来てから知り合った人や妖怪にこんな背中に黒い翼をはやした格好をした人物は誰も居ない。

 

「……えっと、お姉さんは誰ですか?」

 

ここ幻想郷に来てから何回目なのか。

のび太の質問が、黒い翼の妖怪へと向けられたのだった。

 




はい、ちょっと原作とのリンクを匂わせるようなキャラがさらに出現です。
白狼天狗たちは椛以外はモブ扱いなので、これからもちょこちょこ登場しては名もない十把一絡げ、になる可能性が大ですがこの新キャラ(……一体何者なのか)はこれからも話の中で絡んでくれるといいなぁ。


後、後半はタイトル通り 本日天気晴朗ナレドモ風強シ よろしく妖怪の山に嵐が吹く予定です。


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番外編:のび太と幻想郷のお正月

大変遅くなってしまいすみません。
そして新年あけましておめでとうございます。今回は「ドラえもん のび太の幻想郷冒険記」の新年特別の番外編と言う形になります。
そのため、位置づけとしては本編とは絡まない別の世界線あるいはまだ描かれていないこれから起こる全ての異変や冒険まで、全部終わった後の物語、そのあたりは読んでいただいた皆様の想像にお任せする形とさせて下さい。

幻想郷のお正月にどんなひみつ道具が飛び出すのでしょうか?


1月1日。

今年もまた一年の始まりを告げる元旦がやって来た。

この日は博麗大結界の中も外も、あるいは今も昔もお正月と言う認識は変わらない。

子供にとってはお年玉がもらえる一年でも一度きりの貴重なチャンスだし、おおよその大人にとってもまたお盆と並んで仕事を休める骨休めの時期となる。

けれども、逆にお正月だからこそ忙しくなる場所もあった。

つまりは、博麗神社、洩矢神社、命蓮寺と言った宗教施設がまさに、それだ。

 

命蓮寺は人里に近いと言う事もあり人里に暮らす人々から、そして洩矢神社は妖怪の山に位置すると言う事もあり、妖怪の山の天狗や河童たちから参拝や信仰を受けている。

そして普段は参拝客が来ないと言う事で閑散としているここ博麗神社も、一年で最大の稼ぎ時を逃してなるものかと言う霊夢のたゆまぬ努力(夢想封印による近隣の妖怪の徹底駆除、ならびに河童を力ずくで脅迫し参道の整備を依頼)によって人里の人間たち、あるいは幻想郷の有力な妖怪たちが参拝に訪れると言う、普段からは見られない光景が広がっている。

ちなみに、近隣に生息する毛玉や雑魚妖怪の殲滅に、河童に対する脅迫のどこが努力だと言うツッコミは誰もしていない。

誰だって命は惜しいのだ。

 

……と、そんな人妖でにぎわう博麗神社の境内の一角に、何もないところから見慣れぬドアがぬぅ、と現れる。

神社にそぐわない、しかも部屋も何もないただの一枚だけと言う奇妙なドアの出現に、一体何事かと周囲の人妖がドアに視線を送るが、彼ら彼女らは、さらに驚く光景を目にする事になる。

何もない所から現れただけではなく突然その面妖なドアがガチャリ、と開き何もない所からいきなり何人もの子供……いや一人は面妖な青狸か、がぞろぞろと出てきたのだ。

これで驚くなと言うほうが無理な話ではあるけれども、そこは幻想郷に住まう人々。

子供たちの中に青狸がいる事で、すぐに『理屈は分からないけれども、たぶんあの妖怪が何かしたのか』程度に認識が切り替わったのか、見た当初は驚いていた人々もなあんだ、と言った風にまた気にするでもなく参拝や、おみくじを求めたり、と言った事へと戻ってゆく。

そしてその出てきた子供たち、に博麗の巫女は懐かしそうに声をかけるのだった。

 

「あら、のび太にドラえもんじゃない。その様子だと元気にしてたみたいね。ちなみに素敵な賽銭箱はあっちよ。何ならグルメテーブルかけを置いていってくれてもいいわ」

「こんにちはー、霊夢さんも元気だったみたいですね」

 

そう、のび太たちが今日ここへとやって来たのは目的は幻想郷への初詣だったのだ。

ちなみに普段のメンバー、つまりはジャイアンにスネ夫、そしてしずかについてだが、ジャイアンとスネ夫はみすちーの屋台で手伝い兼年越しライブに臨時参加と言う事で一緒に歌う事になっている。

ライブ参加者に死者が出ない事を祈るばかりである、と思ったのはのび太やドラえもんだけではないのは内緒だ。

また、しずかについては、洩矢神社と命蓮寺の両方から正月の手伝いを、と言うオファーが来ていたのだがさすがに一般の、何の力もない女の子を妖怪の山に送り出すのはちょっと、と言う事で今年は妙蓮寺で白蓮や一輪、星やナズーリンと言った面々とともに人里からの参拝客に対してお手伝いをしている。

そして、実は今回出木杉君も幻想郷に来ていたのだが、彼はと言うと人里の稗田家で、幻想郷についての資料を読み漁り、また阿求や慧音と言った知識人との討論会と言う、彼にとってもまた自身の知識見聞を広めるまたとない機会にその時間を費やしていたのだった。

これは、幻想郷の話をのび太たちから聞いた彼が「僕も行ってみたい」と、意思表示をしたことから実現した事でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャリンチャリン』

 

のび太の手から離れた小銭がお賽銭箱に吸い込まれるように消えてゆき、独特の音を響かせた。

その音を聞いた霊夢がしみじみと嬉しそうに喜びの言葉を口にする。特に博麗神社の場合は、普段お賽銭箱にお賽銭が入る事がないため、こういう時でないとこの音が聞けないと言う事がとても大きいのだろう。

そしてのび太たちも、博麗神社に滞在していた間、誰一人としてお賽銭箱にお賽銭を入れようとやって来た参拝客がいない事は身をもって知っていたのだ。

 

「はぁ~、やっぱりお賽銭の音はいつ聞いてもいいわね」

「確かに、ここのお賽銭箱にお賽銭を入れる人って見ませんでしたよね」

「うっさいわね、そう思うならもっと入れてくれたっていいんだからね」

「そんなぁ、お年玉がなくなっちゃう……ねえ、ドラえもん。そういえばさ、確かひみつ道具に『お年玉ぶくろ』ってなかったっけ?」

「お年玉ぶくろ? 確かにあるにはあるけど……あれはやめたほうがいいと思うよ? 君だって松竹梅全部試したけどろくな事にならなかったじゃない」

 

『お賽銭をもっと寄こしてもいいのよ』目で口ほどにものを言う霊夢の視線に、お年玉を全部取られる危機を感じたらしいのび太が『お年玉』の単語で思い出した、ひみつ道具を霊夢に渡してはどうかと、傍らにいるドラえもんへと提案して見せた。

 

 

 

『お年玉ぶくろ』

 

 

 

 

まさに名は体を表す、そのままのひみつ道具であるこれは、実は種類が存在しまつ・たけ・うめと三種類に別れているのだ。

まつはなぐさめ型で、持ち主が痛い目にあったときにその度合いに合わせてお金を出してくれる(半年入院するほどの重傷を負って約1300円)。

たけはせつやく型で、無駄を省くとその分だけお金として省いた分のお金を出してくれる(ただし、無駄遣いしすぎるとお金が消える)。

そして最後のうめはごほうび型となっており、人に何かいいことをしてありがとう、の言葉をもらうとその時にお金を出してくれると言う形になっているのだ(ただし一回につき10円、おまけに叱られると消える)。

 

 

 

「それお年玉じゃないじゃないのよ、もらえる金額が少なすぎるわよ……」

「ですよねぇ……」

「ほら、だから言ったじゃないか。いくら霊夢さんだってそこまでの事はしないよ」

「そっかぁ、僕はてっきり霊夢さんならたけ辺りなら喜んでくれると思ったんだけど……ごめんなさい」

「いいのよ、その気持ちだけで十b………………ちょっと待って、それのまつって『持ち主が痛い目にあった時にその度合いに合わせてお金を出してくれる』のよね?」

 

のび太から道具説明を聞いた霊夢が思わず顔をしかめる。いくら強欲の権化のような霊夢であっても、さすがにここまでコストパフォーマンスの悪いお金の稼ぎ方をしたいとは思わなかったようだ。

せっかく霊夢が喜ぶと思ってお年玉ぶくろを提案したのび太も、霊夢の反応には思わずしゅん、とうなだれて謝ってしまう。

が、その時霊夢は何かをひらめいたらしい。

まつ、つまりなぐさめ型のお年玉ぶくろと言う霊夢にとっておそらくもっとも使い道のなさそうなそれについて、わざわざ確認してくる辺り一体何を思いついたのか、もちろんのび太もドラえもんも想像できるはずもない。

何しろ、未来の世界で半年入院するほどの重傷を負って、ようやく1300円ちょっとのお金が出る、などと言うあまりにも割に合わないものを一体どう使おうと言うのか?

しかし霊夢が何を考えているのか、まだわかっていないのび太やドラえもんにもう一つ頼みをするのだった。

 

「お願い、のび太、ドラえもん。ちょっとどこでもドアとお年玉ぶくろのまつを貸してほしいんだけど……」

「? いいですけど……ドラえもん、どこでもドアを出してよ」

「う、うん。いいけど……どこでもドア!!」

 

どこでもドアを貸してくれと言う霊夢に、一体何に使うのかと思いながらもドラえもんはのび太がやったように、いやそれ以上にごく自然にお腹の四次元ポケットからどこでもドアを取り出して、霊夢の目の前に据え付けた。

もちろん、壊したり幻想郷やのび太あるいはドラえもんに迷惑をかけるようなことに使うとは思っていないのだろうけれども、一体何をするのかはっきりと霊夢の口から説明がない以上、そこにはやはり少しの不安が見て取れる。

 

「ありがとう。じゃあ、ちょっと出かけてくるわ。連れてきたい子がいるのよ……天界へ!」

「天界? 天界って言ったら多分天子さんだろうけれども……」

「「ま、まさか…………」」

 

天界へ、どこでもドアをくぐる前に霊夢が口にしたその場所。

連れてきたい子がいると霊夢が言った以上、おそらくは天界に住んでいる誰かを連れてきたい、と言う事なのだろう。

そして、のび太とドラえもんの記憶の中で幻想郷の天界に住んでいる人物の心当たりと言えば、比那名居天子その人以外では永江衣玖くらいしか思い当たる人物の該当者はいなかった。

が、竜宮の使いである彼女と先ほど霊夢が確認までしてきたお年玉ぶくろ・まつの性質とはかみ合いにくいだろう。

となれば該当する人物は天子しかいない、それに気が付いてしまったからこそ、のび太とドラえもんは思わず互いに顔を見合せたのだった。

 

 

 

 

 

 

…………………………そして、のびたとドラえもんの想像は現実のものとなる。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!! 元旦早々いきなり変な袋を渡したと思ったら一体何するのよ!!!」

「あっはっはっは! 大漁大漁! さすが天人、身体だけは丈夫ね。夢想封印の10発や20発じゃ何ともないわ」

「「………………」」

 

どこでもドアの向こう側で、ものすごい爆発音が響いたかと思うや否や、どこでもドアから転がるように出てきたのはお年玉ぶくろ・まつを手にし、身体や服のあちこちが焦げ付くと言う、とても元日の恰好とは思えないボロボロの比那名居天子と、両手いっぱいに山のようなお金を持ちほくほく顔の霊夢だった。

霊夢の考えはこうだ。

お年玉ぶくろのまつが『持ち主が痛い目にあった時、その痛みに応じた額のお金を出してくれる。ただし、半年入院するような重傷を負っても1300円くらいしか出てこない』のなら、普通の人間とは違い身体がとても丈夫な天人に持たせてありったけの夢想封印を撃ち込んでやれば、もっとお金を稼げるんじゃないか? と言うものだったのだ。

そしてその霊夢の目論見は見事に当たった事になる。

もちろん、今のお金のために平気で夢想封印を20発も天子に撃ち込むような霊夢を、のび太とドラえもんには止めることなど出来ようはずもなかった。

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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天子を夢想封印で吹き飛ばした事でどうにかほしいだけの金額が集まったのか、ようやく天子をボロボロにするのをやめた霊夢のお神楽を、神楽殿の前に集まったのび太たち参拝客は見学していた。

ちなみに、そのバックではドラえもんのひみつ道具『ムードもりあげ楽団』がその能力を遺憾なく発揮し、霊夢の舞う神楽の神々しさをさらに高めている。

いや、実際には霊夢だけでなく早苗と言う、本来ならばここにはいないはずの風祝も共に舞っている事もその一因なのだろうけれども。

これはどういうことかと言うと霊夢の頼みで、どこでもドアをフエルミラーで増やし、博麗神社の境内と命蓮寺、洩矢神の境内をつないでしまい、お正月の3が日についてのみこの3つの場所は徒歩数秒で行き来できるようにしたのだ。

当然いきなり繋がったこの奇怪なドアの出現に命蓮寺も洩矢神社も驚いたけれども、人や妖怪が時間をかけずにすぐに移動できると言う説明にすぐに快諾。

ついでに洩矢神社に至っては、それなら博麗神社の神楽殿で霊夢だけでなく洩矢神社のお神楽も全部やってしまえばいいと言う話でまとまり、博麗神社はその歴史上もっとも参拝客でにぎわうと言う奇跡にも等しい事になっていた。

そんな経緯もあって、今博麗神社でお神楽を見学しているその見学客は人間だけでなく鴉天狗に河童、おまけに命蓮寺の面々や洩矢神社の面々。さらには八雲家に永遠亭のかぐや姫たちや吸血鬼のお嬢様、神霊廟の太子様たちさえも混じると言う、ドラえもんのひみつ道具がなかったなら決してみられない珍しい光景となっていた。

 

 

 

こうして、人も妖怪も幻想郷のお正月は賑やかに過ぎてゆく……。

 




『お年玉ぶくろ』
全てはここから始まりました。これ、天子に持たせて叩きのめしたら、大金持ちになれんじゃね?or天子ならいけるんじゃね?(天子推しの皆さま、ごめんなさい)

と言う形で、使い道のほとんどないであろうお年玉ぶくろを活かす使い道を幻想郷で見つけた、そんな話です。

さて、次の更新は再び夏休みの真っ最中、妖怪の山での冒険へと戻ります(季節外れも甚だしいですが)。
皆様、2018年に引き続き2019年もどうぞよろしくお願いいたします。


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妖怪の山、快晴のち台風。時々ブリザード(その2)

お正月スペシャルから一転、本編の続きです。
謎の黒い翼を持った天使、ならぬ謎の人物が登場。

もしかするとバードピアの住民かも……?


のび太と白狼天狗たちとがにらみ合っている中、突然現れて、勝負を止めるようにとの言葉と一緒に空から降りて来たのは黒い翼を持つ謎の人影。

もちろん外の世界からやって来たのび太にそんな知り合いはいなかった。

 

「……えっと、お姉さんは誰ですか?」

「おっと、これはすみません申し遅れました。私は鴉天狗の射命丸文と言います」

「あ、はい。僕はのび太、野比のび太です」

 

もう紫のような間違いはしない、振り下ろし損ねたバショー扇を取り出した時と同様にスペアポケットへとしまい、明らかに年上であろうその人物にきちんと『お姉さん』と呼称したのび太の質問に『これは失礼しました』と、笑顔とぺこりと音が聞こえてきそうな一礼でのび太に挨拶をする彼女は、鴉天狗の射命丸文と名乗った。

ただし、その様子は白狼天狗たちの対応とはまるっきり正反対。

白狼天狗と鴉天狗、同じ天狗、と名前のつく妖怪なのに一体どうしてこうも態度が違うのか? 少なくとも、のび太の目から見ても文と名乗る鴉天狗には敵意と言うものは感じられなかった。

また一方で、のび太たちを取り囲みながらその様子を伺っている白狼天狗たちにとっても、文の登場は予想外だったようで、こうなっては一体どうしたものかとその周りには確かな動揺が広がっていた。

とは言え文にとってはそんな白狼天狗の動揺などあってないようなものらしく、笑顔のままなおも説明は続いていく。

 

「いやぁ、それにしても大事になる前でよかったですよ。実は先ほど天狗の里に八坂様がいらっしゃいまして、『外からやって来た人間の子供が守矢神社に来ようとしたが、その途中で迷子になった可能性があるから発見しだい保護して欲しい』との依頼があったんです。なにしろ八坂様直々の依頼ですからね。我々妖怪の山には優秀な哨戒部隊が常に配置されていますから安心ですけれども、万に一つも()()()()()()()()()()()と思い私も出張って来た訳ですが……」

「………………っ」

 

そこで文はクルリ、と周囲を見回していったん言葉を切った。

笑顔こそ変わらないものの、じとりとその笑みの裏で鋭さを増した視線の先にいるのは風船のように膨らんだ椛と、この場をぐるりと取り囲む彼女の呼子によって援軍として駆け付けた白狼天狗の集団。

文の鋭い視線に射抜かれた何人かが、その笑顔の裏に秘められた威圧感に思わず息を呑む。

その視線は明らかに『この子供が無事だったからいいようなもの、何かあった場合はどう責任を負うのか?』と言う白狼天狗たちへの非難の意思が込められていた。

白狼天狗たちからすれば忠実に任務をこなしたに過ぎない、と言う意見もあるのだろうけれども、何しろここは妖怪の山。

霊夢や魔理沙からの説明も全く受けていないのび太は何も知らずにいたが、ここに住まう妖怪たちははっきりとした種族間における上意下達の中で生きている。

上からの命令は絶対、それがこの山の掟なのだ。

それを知らないのび太にも、まるでのび太のママが0点のテストを見つけた時と同じような近づいたら危ない、ただならぬ空気をまとう文の雰囲気は感じ取ったらしい。

 

「あ、文さん? なんだか怖いんですけどだ、大丈夫ですか……?」

「おっと、これはすみません。ちょっと驚かせてしまったようですね」

 

矛先が自分に向いていないとは言え、文の雰囲気におそるおそる声をかけるのび太。

ここでようやく文は自覚があるのか、あるいは無自覚なのか、自身が発していた威圧感でのび太が怯えている事に気が付いたらしく、それまで身にまとっていた空気を霧散させる。

後に残るのは最初と同じ、屈託のない笑顔の文だった。

と、その文がのび太の手を握りながら、よく通る声で周囲の白狼天狗に向けて宣言する。

 

「では、私はこの子を八坂様たちのところへ案内してきます。負傷した犬走部隊長はただちに療養所へ向かわせなさい。後の者は普段の任務に戻るように、以上です」

「…………はっ!」

 

てきぱきとした文の指示が出た後の白狼天狗の動きはのび太の前に現れた時と同様に迅速だった。

内心は不満もあるのだろうけれども、そんな事は表に出す事もなく文の指示に全員がびしり、と見事な敬礼をするや否や援軍として後から現れた白狼天狗たちは一人を除いてそのまま飛んでいき、まんまるに膨らんだ椛だけはさすがに飛んでいけない事から、その残った一人の白狼天狗が風船を持った子供のように紐をつけて引っ張ってゆく。

こうして、あっという間に全員がそれぞれ散ってしまうと後に残るのはのび太と、鴉天狗の文だけだった。

 

「それじゃあ行きましょう。私の手をしっかりと握っていてくださいね? 人間は基本飛べないんですから、手を離したら落っこちてしまいますよ」

「あ、あの……僕飛べますから大丈夫ですよ」

「またまた冗談を。八坂様もはっきりと『外の世界からやって来た子供』と言っていましたよ。外から来た人間で空を飛べるなんて言うのは例外中の例外なんでs『タケコプター! ほら、こうやって飛べますから』…………はぁぁあぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 

 

……閑静な妖怪の山の渓流付近の山中で、文の声に驚いた鳥が一斉に飛び立った。

 

 

 

「な、なんですか今の!? 空、空飛んでましたよね!? 人間なのに、外から来たのに!!」

「あ、文さん怖いですよ……」

「ふっふっふっふ、これはとても気になりますね。是非ともどうやったのか教えてもらいたいものです……そして明日の新聞の一面はこの記事でいただきですよ……さあ、さあ! 教えてください!! どうやったのか!!!」

 

鴉天狗と言う妖怪として人間とは比べ物にならない人生を歩んできてなお、文も初めて見たであろうプロペラ式の道具で空を飛ぶ人間の姿。

文の目の前で、頭に奇妙な道具をくっつけて速度こそ出ていないもののしっかりと上下左右と自由自在に飛行してから、再びただいまと言わんばかりに自分の目の前に着地するなどと言う、幻想郷の巫女や魔法使いのような行為とはまるっきり無縁と思われた外から来た子供がいともあっさりとやってのけた事に、文は目を輝かせ……もといギラつかせながらのび太に迫るその姿はつい先ほどまでの笑顔の文ではない、ある意味白狼天狗よりも恐ろしいものがあった。

また、のび太からしても文の豹変と言うのは全くの予想外だった。

空を飛べないと思っているためか、手を握って離さないでほしいと言ってくれはしたものの、何しろのび太には未来のひみつ道具タケコプターと言う空を飛ぶための道具が存在する。

少なくとも電池切れさえなければ、これを頭にくっつけておくだけで妖怪の山程度なら飛んでいけるだろう。

だからこそ、説明するよりも見せたほうが早いと言う判断から、のび太はポケットからタケコプターを取り出して、いつも使っているようにちょっとした高さまでではあるものの、実際に飛んで見せたのだ。

それもただ浮かび上がるだけでなく、弾幕勝負で魔理沙と戦った時のように上下左右に変幻自在な動きも取り入れて、だ。

それがその様子を見たとたんに、天地がひっくり返るような絶叫とともにそれまでの笑顔が一体どこへ消えたのか、守矢神社に案内すると言っていた言葉も忘れたように目をぎらつかせながら迫ってきたのだから驚くなと言う方が無理があると言うもの。

白狼天狗とは違う人にもやさしい妖怪かと思いきや、やはり鴉天狗も人を食べるような恐ろしい妖怪だったのだ。

となれば、のび太からすればやるべきことは一つしかない。

そう、逃げる事だ。

幸い『手を掴んでいてほしい』と言われただけで、まだ文の手を握っていた訳ではないのび太は体の自由がきいた。

また、すぐに文と一緒に飛んでいけるようにと、タケコプターでも飛行を見せたまま頭にそれを付けたままにしていた事も幸いだった。

かつて『のび太の恐竜』において、1億年前の北米大陸から日本までフタバスズキリュウのピー助を送り届ける途中で翼竜に襲われ、全速力で逃げたのと同じくらい、いやそれ以上の速さでのび太はその場から飛び出していた。

ここでドラえもんがいれば速度制限や無茶な使い方をすればバッテリーがすぐに上がる、などと文句を言うかもしれないが、バッテリー維持のための巡航速度厳守も、最高速度を維持し続ける事によるバッテリー切れも何のその、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「……た、た、助けてぇ!!」

 

悲鳴をその場に残しながら、タケコプターの最高速度である時速80キロで以て急いでその場から離れるのび太。

それはつまり、時速80キロが現状のび太が出せる最高速度、と言う事でもある。

言い換えれば、もし仮に文がそれ以上の速さで飛ぶことができたのなら、のび太はタケコプターで飛んで逃げる事が極めて難しい、と言う事でもあった。

そしてのび太は文が、いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと言う事はは全く知らなかった。

もしのび太が鴉天狗の事をもう少し知っていたのなら、タケコプターではなくもう少し別の方法を、別のひみつ道具を使う事を考えていただろう。

けれども残念ながらそれは叶わなかった。

何故なら……。

 

「駄目ですよ、急に逃げ出したりしちゃ。妖怪の山は危険なんですから」

「……ぇえええっ!? な、なんで……」

「なんでって、ご存じありませんでしたか? 私たち鴉天狗って、空を飛ぶのがとても速いんですよ。確かに貴方が空を飛ぶ事ができたのは驚きですけど、その程度の速さなら軽く追いつけますって」

 

そう、これで逃げ出したと思ったのもつかの間。

ものすごい突風がのび太の横を駆け抜けたと思えばタケコプターよりも速いスピードで文がのび太を追い抜いて、立ちふさがるように現れたからだ。

バッテリーが上がる事も辞さずに全速力で飛ぶタケコプターを軽々と上回る文の空を飛ぶ速さに驚くのび太に、文はさらりと鴉天狗の飛行能力の高さをえへん、と自慢げに説明してくれるけれども、今更そんな大事な事を聞いても一体何になると言うのか。

のび太からすればそう言った大事な事はもっと早くに、具体的には豹変した文から逃げ出す前に教えて欲しい、と言うのが本音なのだ。

また、ちなみに妖怪の山は危険と言われたのび太が一番危険なのはその言い出しっぺの文本人なんじゃ、と思いつつも口に出さなかったのは内緒である。

兎にも角にも、頼みの綱のタケコプターよりも相手が早く飛べる、おまけにこういう時に最高の移動手段となるどこでもドアは正体不明の衝撃を受けて故障中……となれば、これでのび太は逃げる事がどうにも難しくなってしまったのだ。

 

「ふっふっふっふ……さあ、明日の朝刊のためにもお話を聞かせてくださいね……」

 

もう逃がさないとでも言いたげに、空中でじりじりとのび太ににじり寄る文。

その姿は以前めだちライトを浴びて町中の人々から追いかけられた末に人気女優の星野スミレ(のび太は知らないが彼女こそがパーマン3号なのである)に接点があった事もあり助けられ、人気のない海岸で彼女が帰りを待ち続けている大切な人、パーマン1号みつ夫の話を放送するからぜひ聞かせろと迫りくるレポーターの姿に近いものがあった。

いや、ただ単にしつこいだけで車よりも速いスピードで空を飛んで向かってこないだけ、あのレポーターの方がまだマシかもしれない。

その時は星野スミレを守るために、件のレポーターにめだちライトの光を浴びせる事で周りの人々の注意をレポーターの方へとそらす事で星野スミレの事を守る事に成功した。

しかし今同じ方法を使おうとしても、めだちライトは第三者がいてこそ威力を発揮するひみつ道具。

今この場にいるのがのび太と文の二人だけでは意味がないのだ。

このどうしようもない、まさにライオン仮面ばりのあやうし! な状況でありながら、残念な事にライオン仮面とは違い弟のオシシ仮面もいとこのオカメ仮面ものび太には居はしない。

万事休すかと思われたまさにその時…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のび太ぁぁぁぁぁっ!! 大丈夫かっ!?」

「魔理沙さん! ……とそれに、えっとお姉さんは誰ですか?」

「私は守矢神社の風祝、東風谷早苗と言います。魔理沙さんから話は聞いていますよ、君がのび太くんですね。まずは守矢神社へ行きましょう。詳しい話はそれからです」

「あ、は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のび太にとっての、オシシ仮面とオカメ仮面。いや、最高の援軍が音の壁をそろそろ突き抜けそうな勢いでのび太のもとへとやって来たのだ。

のび太の名前を呼びながら突っ込んでくる一陣の風、嵐のようなそれはのび太の横で急停止するとのび太と文の間に入り込み、のび太をかばうような格好で身構える。

それは、博麗神社で魔理沙と勝負した時にのび太を魔理沙からかばうように霊夢が立ちはだかった光景とよく似ていた。

おまけに魔理沙のホウキに乗ってやってきたのは魔理沙一人ではなかった、これから目指そうとしていた守矢神社の風祝、東風谷早苗までもがのび太の側についてくれたのだ。

初対面であり、霊夢の色違いのような格好をした東風谷早苗と名乗る彼女の実力はしらなくとも、弾幕勝負で引き分けたとはいえ、魔理沙の実力ならばのび太も知っている。

今のどうにもならないのび太にとって、魔理沙と早苗はこの上なく頼もしい援軍だった。

もっとも、自分の目の前で勝手に横から出てきた魔理沙と早苗がのび太取材対象であるのび太を守矢神社に連れて行こうとしているのだから、先に取材をしようとしていた文からすれば面白くない事この上ない。

 

「魔理沙さん、私の方が先に取材をお願いしようとしていたのに、後から来て勝手にどこに行こうとしているんですか?」

「決まってるだろ? 守矢神社だよ、最初からのび太は守矢神社に行くつもりだったんだからな。早苗! 悪いけど、連れてく間足止め頼めるか!」

 

いかにも不機嫌そうな表情で手帳を片手に魔理沙を睨みつけながらのび太をこちらに返しなさい、と威圧してくるが魔理沙はそんな文の言葉など気にするでもなく、傍らの早苗に文の足止めを頼むと早苗からの返事も待たずに、自身はのび太の手を掴みながら引き寄せ、強引にホウキへと乗せてしまう。

 

「任せてください、魔理沙さんこそ今度は落とさないで下さいよ?」

「もちろんだぜ! しっかり掴まってろよのび太、今度こそ守矢神社に連れて行くからな!!」

「は、はい……っ!!」

「よーし! いっけーぇぇぇっ!!!」

 

もう振り落とすな、と言う早苗の言葉に力強くうなずいた魔理沙の『しっかりと掴まっていろ』の言葉に、言われた通りのび太も魔理沙の身体に腕を回し今度こそ振り落とされないようにしっかりとしがみつく。

何しろのび太が振り落とされるのは今日で二回目なのだ。

ちなみに、一度目はと言うと『のび太の日本誕生』でギガゾンビを追跡していた中、7万年前の中国大陸奥地でリニアモーターカーごっこをしている最中にのび太だけが器用に一人振り落とされている。

これで落とされたらもう3度目。

もうそんな事はごめんだと必死でしがみつく中、魔理沙とのび太の姿はみるみるうちに消えてしまうのだった……。

 

「ふふふ、鴉天狗のスピードを甘く見ているみたいですね……。魔理沙さんのホウキ程度ならすぐに追いつくんですよ?」

「ええ、だから私がここで足止めを任されたんです。行きたいのなら、少なくともその頭を冷やしてからにしてもらいましょう!」

「わかりました、あくまで取材の邪魔をしようと言うのでしたら受けてたちましょう」

 

もちろん文もただ指をくわえて魔理沙が守矢神社へと向かうのを、手を振りながら見送ったわけではない。

魔理沙のホウキの速さは確かに幻想郷でもかなりのスピードではあるけれども、追いつけない訳ではないと手帳を肩から下げたカバンにしまい、文もまた翼を広げ魔理沙の後を追いかけようとする。

けれどもその前には魔理沙から足止めを頼まれていた早苗が、御幣を構えながら立ちふさがった。

のび太を見送った優しげな表情とはうって変わって真剣なその目は『私はてこでも動きません』と言っているかのようだ。御幣を構え『ここは一歩も通しませんよ』とその目で語る早苗のその様子に、文も早苗を言葉ではもう説得できないとみたらしい。

手帳をしまっていた肩掛け鞄からヤツデの葉っぱのような、天狗の羽団扇を取り出して早苗の御幣と同じく構えを見せた。

 

「いざ……」

「尋常に……」

「「勝負!!!」」

 

文と早苗の言葉が終わるが早いが、いや、言葉を言い終えるよりも先に二人は互いにその場からすでに動いていた。

と同時に二人がそれまでいた場所を撃ち抜くように、互いの発射した弾幕が正確に通り過ぎてゆく。

もし文と早苗のどちらかでもその場から動かずにいたら、間違いなくこの瞬間に勝負はついていただろう。

だがそこはすでに幻想郷の住人として弾幕のルールの中でどっぷりと暮らしてきたのだ、幻想郷での生活2日目ののび太ならばともかくそう簡単にやられるような二人ではない。

勝負はどちらに転ぶのか、まったくわからなかった。

 

 

 

その日、妖怪の山の上空で二つの弾幕が交錯したのを哨戒中だった白狼天狗が目撃したと言う……。

 




すみません、えっと……幻想郷の外の人間のイメージをしょっぱなからブレイクさせたのび太を前にして、鴉天狗の文おねえちゃん大暴走(汗
新聞記者の本能なのか、記事のネタがあるとそちらを優先してしまう私の悪い癖でして、とか〇棒の刑事みたいに言い訳しそうな事をさせてしまいました。
冷静な時は本当に真面目なんですよね、きっと。ただ、記事のネタが絡んだり新聞記者になると、めだちライトに登場したモブレポーターみたいに、カギを抜き取って情報を出すよう要求したりと暴走するような。


なので、文との決着はその3に持ち越しになりました。
にしても、書けば書くほどこんなに話が膨らむとは思わなかったです……。


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妖怪の山、快晴のち台風。時々ブリザード(その3)

大変お待たせいたしました。
守矢神社へ向かう話はひとまずこれにておしまいです。
文との勝負が例によってだいぶ長引き、文章量全体も多くなってしまいました(汗

サブタイトルはしっかり考えないと、本当に引きずる事になるな……。
今回の反省点ですね。



「……え、えっと、あのお姉さんは大丈夫なんですか?」

「早苗の事か? ああ、心配しなくても多分大丈夫だ、あいつだってそんなに弱い訳じゃないからな」

 

一方その頃、のび太に取材を迫る文の足止めを守矢神社の風祝である早苗に頼むことで、どうにか文の追跡を振り切った魔理沙とのび太は(今度はのび太は振り落とされないように、また魔理沙はのび太を振り落とさないように少し加減してスピードを落としながら)当初の目的通り、妖怪の山を一路守矢神社へと向かっていた。

最初に博麗神社から連れて行ってもらった時とは違い、『のび太とブリキの迷宮』の冒険でブリキン島に遊びに行った時にドラえもんから出してもらったウルトラバランススキーで暴走した時のような、身体がちぎれんばかりのスピードではなく今度はある程度周囲の景色を眺める余裕もあったおかげか、周りを見ていると眼下に広がるさわやかな緑色の木々が流れるように後ろへと消えてゆく。

『こうして見ているととても妖怪の住む危ない山とは思えないんだけどな』魔理沙にしがみついたのび太がそんな事を考えていると、のび太がしがみついている魔理沙から『ほら、見えてきたぞのび太』と言う声が聞こえてきた。

魔理沙に言われて彼女の背中越しに前を見てみれば、確かに妖怪の山の中ほどに博麗神社のような。いや博麗神社よりも立派な鳥居に社殿の神社が見えてきた。

 

「あれが守矢神社ですか? なんだか博麗神社よりも立派に見えるんですけど……」

「そうだ、あれが守矢神社だぜ。後のび太、間違ってもそれは霊夢の前で言うんじゃないぞ? 間違いなく怒って暴れだすからな」

「えっ!? き、気を付けます……」

 

霊夢が聞いたら魔理沙の言葉通り、間違いなく0点の答案を見つけたママのように怒り狂うに違いない物騒な会話をしながら、魔理沙は慣れた動きでホウキを制御しながら高度を下げつつ鳥居をくぐり、今度こそふわりと守矢神社の境内へホウキを着陸させることに成功した。

もちろん最初に来た時とは違い後ろに乗せたのび太を振り落としているような事もない。

 

「よし、もう大丈夫だ。腕を離してもいいぞ」

 

魔理沙にもう大丈夫だと言われ、ホウキから境内へと降りたのび太が感慨深げにぐるりと周囲を見回す。

朱に塗られた立派な鳥居に静かで広々とした境内、そして奇麗に手入れのされた本殿。同じ神社と言う事で、昨晩宿泊させてもらいお世話になった博麗神社と似ているようでどこか違う、神社の姿がそこにはあった。

のび太が幻想郷に来たきっかけでもある、外の世界から消えてしまったと言う謎の神社。

スネ夫が持っていた雑誌を最後まで見たわけではない事もあり、ここが本当にスネ夫が言っていた消えてしまった神社なのかどうかはまだのび太にもわからない。

それでも幻想郷に来た目的が、ここに来たことでようやく果たされようとしていた。

 

「ここが守矢神社、すごいや……」

「そう、ここが妖怪の山の守矢神社さ。君が外から来た子だろう? 話は聞いているよ、よく来てくれたね」

「……だ、誰!?」

 

そんな境内や本殿、それに境内から見える外の世界ではなかなか見られない光景に息を呑むのび太の背後からかけられた声に思わず振り返ると、そこにいたのは輪っかの形をしたしめ縄を背負うと言うなかなか奇抜な格好をした女の人が立っていた。

その恰好の奇抜さはと言えば、のび太が普段暮らしている幻想郷の外の世界は言うまでもなく、はるか過去や未来の世界に数億光年にもなる宇宙の果てから普通には行くことすらできない別次元まで見渡しても、今までのび太が冒険してきた世界のどこを見てもみる事のなかったほどのもの。

とはいえ、特徴的すぎる背中のしめ縄さえなければ『のび太の創世日記』においてのび太が作った新地球の、古代日本に暮らしていた女王ヒメミコやそれに近しい身分の高い古代日本人の恰好に似ているとも見えなくもない事に、彼女の恰好を見ているうちにのび太は気が付いていた。

この辺は文才や絵の才能の無いのび太ではなくしずかが自由研究において、いろいろとまとめてくれていた事が幸いしたと言えるだろう。

 

「赤い服のヒメミコ……? じゃない、ですよね。あんなオニババみたいなおっかない顔じゃないし、ヒメミコはしめ縄なんてしてなかったし。でも、やっぱり色は違うけど……なんだか昔の日本人の格好に似た格好ですよね」

「おいおい、自己紹介もしないうちからいきなり私をオニババ呼ばわりしたかと思ったら、私の衣装から古代の日本人の恰好にそっくりだって言い出すなんて、けなしたいのか観察眼が鋭いのか、本当によく分からない子だね」

「仕方ないよ。神奈子がおっかないのは昔からだからね」

「ちょっと諏訪子! 何言ってるのさ! それに白黒も! いつまでも笑ってるんじゃないよ」

 

そう、のび太のオニババ発言はどうやら魔理沙のツボに入ったらしく、聞いてからは吹き出しのび太の隣でずっとお腹を抱えて震えながら笑いをこらえている。

そろそろ何とか助けてあげないと、このまま呼吸困難になりそうだ。

そしてオニババと言う言葉で命の危機に陥りかけている魔理沙をよそにもう一人、しめ縄のお姉さんの背後からはひょっこりと小さな女の子が顔を出した。

しめ縄のお姉さん、神奈子と言うらしい……から諏訪子と呼ばれたその子はと言えば、しめ縄ほどではないけれどもカエルのような目玉のくっついたやはり奇妙な帽子、あるいは笠なのか、をかぶっている。

その格好は年齢こそのび太と同じくらいなのにどうしてか、同時くらいの年には見えない不思議な雰囲気の子だった。

この神奈子に諏訪子と互いに名前で呼び会う不思議な二人ではあるけれども、この二人を前にしてのび太の頭にはこの守矢神社こそが外の世界でスネ夫が調べようとしていた神社なのか、と言う疑問とは別にもう一つ新しい疑問が浮かんでくる。

そう、少なくとものび太の少ない知識の中では巫女らしからぬ格好をしたこの二人は『果たして守矢神社の巫女なのだろうか?』と言う疑問だ。

鴉天狗の射名丸文の足止めを買って出てくれた早苗と名乗った彼女は確か『風祝』と名乗っていた。

のび太の知識の中で風祝と言う初めて聞いた言葉が一体何を意味するのかまでは分からない。

ただ、博麗神社にいた霊夢と色こそ違えど似たような格好をしている事からも、神社の関係者なのだろうと言う事は想像できる。

しかし目の前の二人はどう見ても巫女あるいは風祝、どちらにも見えなかった。では果たしてこの二人は一体何者なのか? 

答えは簡単だ、目の前に本人がいるのだから本人に聞いてしまうのが一番手っ取り早い。

なのでのび太は、その一番手っ取り早い方法を選ぶことにした。

 

「あ、あのう……お姉さんたちはこの神社で働いてる人、でいいんですか?」

「うーん、ここで働いている人、とは私たちはちょっと違うかな」

「私たちはここ、守矢神社に祀られている神様なんだよ」

 

ここ幻想郷に来てから、一体何度目の驚きだろうか。

八雲紫と言う妖怪に出会い、博麗神社の巫女霊夢、魔法使いの魔理沙に続いてとうとう神様の登場と来た。

神様と言う事は、やはり『のび太の創世日記』でのび太が未来における夏休みの教材『神様セット』で太陽系を創造したのと同じように、この地球を生み出したのだろうか。

それにしては、二人ともしめ縄とカエルのような帽子を持っているだけで神様セットを活用するのに必要なリングも杖も持っていない。

 

「か、神様!? 神様っていう事はやっぱり僕がやったみたいに、地球を作ったりしたんですか?」

「「……そんなもの作るかっ!!!」」

「確かに外の世界でも神様が天地を一週間で作りました、って話はあるけれども……どうして私たちがそういう事をした、って思ったのさ」

「そもそも幻想郷の人や妖怪だってなかなか地球や天地創造なんて発想は出てこないのに、君みたいな人間の子供から地球を作るっていう発想が出てくるって、そっちの方があり得ないよね」

「……いや、のび太ならあり得るんだぜ? なにしろ私は今朝、博麗神社で起きた事をしっかりとこの目で見てきたからな」

 

のび太がただ外の世界から迷い込んできただけの、人間の子供だと思っている神奈子と諏訪子の言葉を遮るようにそれまで笑い過ぎて悶絶していた魔理沙がどうにか復活し、横から二人にも博麗神社で起きた出来事を説明しようとする。とは言ったものの、その体は小刻みに震えていて、まだ完全には復活できていなかった。

そんな本調子ではない魔理沙を、カエルのような帽子をかぶった女の子……諏訪子が鋭い目つきと手で制した。

 

「白黒。悪いけど、そののび太って子の話は後みたいだよ」

「……へ?」

「ふっふっふっふ、それはいいことを聞きました。……是非ともお話を聞かせてもらいましょうか?」

「「「!!??」」」

 

そう、諏訪子が見据える先から勢いよく守矢神社の境内上空まで飛んでくる黒い影。その正体は他でもない、ついさっき洩矢神社の早苗が足止めをしていたはずの文だった。

もちろん早苗も何もしないままだった訳ではないのだろう。文の恰好は所々焦げ付き、ほつれが見えている。

しかしそれだけなのだ。魔理沙が『多分大丈夫、そんなに弱い訳じゃない』と言っていた早苗の足止めでさえ、この程度のダメージしか受けていないと言う事実からも、鴉天狗と言う種族と人間との間にどれほどの差があるのかをのび太は見せつけられたかのような気がしていたのだった。

 

「さ、早苗さんはどうしたんですか……?」

「それなら、私がここにいる以上彼女がどうなったかはわかりますよね?」

 

 

 

 

……パバババババギュン!!!!!!

 

 

 

 

絞り出すように早苗の安否を尋ねたのび太の質問への回答を文が言い終えるのと、のび太がフワフワ銃を撃つのは果たしてどちらが早かったのだろうか。

一瞬の早業で、フワフワ銃に装填できる六発全ての弾丸を文めがけて発射してみせたのび太の腕前。

その射撃の速度たるや、文の言葉に同じように反応して弾幕を放とうと身構えた魔理沙、そして神奈子に諏訪子の誰よりも早く動き出していた事からも伺える。

 

「ゆるせない……ゆるせないよ……」

「お、おい……のび太……?」

 

その、周りの誰よりも先に文めがけて攻撃を仕掛けたのび太が、文を見据えながらはっきりと怒りの意思を口にした。

まさかのび太がここまで怒りを表に出すとは思っていなかったらしい魔理沙がのび太に声をかけるけれども、その声さえ今ののび太には届いているか怪しいものだった。

それほどまでに、今ののび太は怒っていた。

基本的にのび太が誰かに対して怒る、と言う事はほとんどないに等しいと言っていい。

未来ののび太の結婚前夜の様子を見に、タイムマシンで未来へと飛んだ時しずかのパパがのび太の事を『人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ』と評したように、のび太はのんびり屋で穏やかな心根の人間だ。

そんなのび太が怒った数少ない一つが『のび太の南海大冒険』において、十七世紀のカリブ海に浮かぶトモス島で、未来人のMr.キャッシュ一味の手によりタイムパトロール隊員だったイルカのルフィンを生物兵器に改造されそうになった時くらいのものだろう。

それほど珍しい事なのだが、今この瞬間のび太は本気で怒っていた。だからこそ問答無用で文めがけて全弾発砲したのだ。

ちなみに、ここまでのび太が怒っている理由は……と言うと。

 

 

 

 

 

 

自分や魔理沙の足止めをしてくれた早苗を、文が食べてしまったと勘違いしているから

 

 

 

 

 

 

なのだが、残念ながら誰ものび太の怒りの理由に言及する事は無かった。

のび太も、今まで出会った妖怪……八雲紫が人を食べると言及していた事や、霊夢にも夜は妖怪の時間で人を襲う、と言う説明を受けた事から『妖怪=人食い』と言う図式が頭の中で出来上がっていた事と、その勘違いを口に出さずにただ怒っていた事。

そしてもう一つはのび太自身が『パラレル西遊記』において、唐の時代でヒーローマシンの中から出てきた妖怪たちによって三蔵法師が食べられてしまい、歴史が改変されると言う恐怖を身をもって経験していたと言う事。

もしその事を口に出していれば、周りの誰かがきっと訂正してくれただろう。

けれども、のび太も、魔理沙も神奈子も諏訪子も、そして相対している文にいたるまで、誰もがすれ違いをしたまま図らずものび太対文の構図は完成しようとしているのだった。

そうして勘違いしたままののび太が怒りに任せて、目にもとまらぬ早業で撃ち込んだ弾丸だったけれども、肝心の弾丸はいつまでたっても、文を風船のように膨らませる……フワフワ銃の効果を発揮する様子が見られない。

 

「……ふぅ、本当にあなた外から来た人間の子供ですか? 今の早業ひとつ見ても、とてもそうは見えませんよ」

「まさか、のび太が外したのか?」

「違いますって、私が全部避けたんですよ。この子の腕前は本物です、のんびりしていたら間違いなくやられていたのは私でしたからね」

 

そう、文は全ての弾丸を()()()()()()()()()()()()()のだ。恐るべき鴉天狗の空を飛ぶ早さ、そして動体視力である。

もちろんだからと言って諦める、と言う選択肢はのび太にはない。

文が話をしている最中にも、撃ち尽くしたフワフワ銃の弾丸を込めなおしている。少しでも隙を見せればすぐにでも撃ち抜くつもりなのだ。

 

「これは私も手加減している場合じゃありませんね……ちょっと本気で行きますよ。『無双風神』!!!」

「っ!?!? 消えた!?」

 

のび太がまだあきらめていない事を見て取った文が高らかに宣言した次の瞬間、その文の姿が消えてしまった。のび太が驚くのも無理はない、本当に、まるで幻のようにふっ、とその場から文の姿が忽然と消えうせたのだから。

もちろん蒸発した、あるいは勝負を放棄してこの場から逃げ出した、などと言う事ではない。

種を明かせば目にも止まらぬどころか映る事すらしない、鴉天狗としての飛翔能力を極限まで研ぎ澄ませた超高速での移動と共に圧倒的な物量の弾幕を乱射すると言う、本来ならば弾幕勝負の初心者であるのび太に対して使っていいような代物ではないそれを行っているのだ。

むしろ初心者でありながら、文にそれを使うに値する相手であると認めさせたのび太がすごいのか。

兎にも角にも、こちらからは攻撃を当てられないのに向こうからは雨あられと弾幕が降り注ぐと言うひどい状況。

 

「きゃー、た、た、タケコプター!!!」

 

案の定のび太は魔理沙と勝負をしたとき以上に圧倒的な弾幕の物量に押しつぶされそうになりながら、必死で逃げ回る事になってしまう。

が、地上で逃げ回っていてもいつかは限界が来る。結局のび太は魔理沙と勝負した時と同様、タケコプターを使って空中に逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あの子本当に外から来た人間なのかい? いきなり空を飛んで見せたよ」

「のび太は未来のいろいろな道具を使うんだよ、私との勝負の時にも空を飛んで弾幕を避けて見せたんだぜ」

「それはいいけれども、早くあの子も助けないと。素人にどうにかできる弾幕じゃないよアレは」

 

ちなみにこの間に魔理沙や神奈子、諏訪子と言った面々は何をしていたのかと言うと、まさかこの場所で弾幕勝負が始まるとは思っていなかった事もあり、とっさに文の無双風神から神社を守るために結界を張る事で防御をしていたのだった。

本来ならば神奈子や諏訪子としてみれば、まずはいの一番に力のないただの人間の子供であるのび太を結界の中に入れて守るつもりだったのだけれども、のび太がまさかの空中に逃げると言う選択肢をとった事で守ることができなかったのだ。

かと言って、結界を解いて助けに行こうものなら諏訪子が言うように素人がどうにかできるような弾幕ではない無双風神の流れ弾が、境内はおろか社殿にまで被害をもたらしかねない。

何しろ、颱風が雨戸を叩くような量の弾幕が今この瞬間、会話をしている間にもひっきりなしに結界を叩いているのだ。

 

「どうするんだ、早くのび太を助けないとこのままじゃ間違いなく撃ち落されるぞ」

「ああもう! こうなったら神奈子、魔理沙も。社殿や境内が多少傷んでも仕方がないよ、何とかしてあの子を助けるよ! 神社に参拝に来てくれた子を助けもしないで何が神様だってね」

「そうだね、あたしらにだって神様の意地ってものがあるんだ! 一丁やってやろうじゃない!」

 

それは神様としての意地か、あるいは自負なのか。神社が受けるであろう損壊よりも、ここまで来てくれた人間の子供一人の安全を優先する事を決めた洩矢の二柱。

彼女たちにとっては、かつて外の世界からこの地へと移住を決めた理由にもそれは繋がっていたからこその決断。信仰を失い、自らの存在そのものが消滅の危機に瀕した事から最後の賭けとしてやってきた幻想郷。

その最後の頼みの綱とする地で、自分たちが神として在ろうとする場所へと、それも人里どころか外の世界からわざわざやって来てくれた人間の子供一人助けずに、一体何が信仰なのか。神社の被害を気にして子供一人見捨てるような神を信仰する人々など、いる訳がないのに。

それに気が付いたからこそ、弾幕の嵐の中に飛び出す決意をした神奈子と諏訪子が、それぞれその手に手に御柱と鉄の輪を持ち、いつでも飛び出せるよう身構えた。

 

「悪いがあんたも付き合ってもらうよ。何としてもあの子を無事に助けるんだ」

「いや……それにしては、様子が変だ。のび太の奴、あの弾幕の中で戦おうとしているぞ!」

「「は(へ)……っ!?」」

 

結界の向こうの様子を伺っていた魔理沙の言葉に、神奈子と諏訪子、洩矢の二柱の声が唱和した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

二柱が魔理沙の言葉に、神様らしからぬ声を上げた間にもバシバシと結界を弾幕が叩くその向こう側で、絶望的なのび太と文の勝負……ですらない、一方的な攻撃は今もなお続いていた。

 

「く……っ!『バギュン! バギュン!』」

 

一応、空を飛ぶ事で若干の余裕ができたためか、のび太もただ逃げ回るだけではなくその圧倒的な弾幕の隙をぬうように回避しながら、時々フワフワ銃を目にも映らない文めがけて発射する。

……のだけれどもどれだけ発射しても、そのことごとくが的確に文を捉えながらも決定打にはなれずにいる。

ただし、これはのび太の腕前が下手なのではなく、あまりにも高速で移動する文の周囲に吹き荒れる風がその命中するはずの弾丸をみんな弾いてしまうのだ。

むしろ目にも映らない速度で飛翔する標的に向けて、偶然や奇跡に頼るのではなく実力でもって命中弾を撃ち込めるのび太の射撃の腕前が色々とおかしいと言える。

そのあまりにも人間離れしすぎた射撃の腕前は、高速移動の際に生じる強風のおかげでかろうじて命中せずにいる

文を戦慄させるにも十分すぎるものだった。

 

「……あやややや、これはちょっと笑えないんですけど……。本当に人間ですよね? 取材の時にはまずそこから確認しないといけませんね……」

 

のび太を確保してからの取材において、まずは本当に人間の子供なのかどうかを確認する事を強く決心した文。

一方ののび太は、手持ちのフワフワ銃では文へと弾丸を命中させることができないと言うどうにもならない現実に、どうするべきか弾幕をよけ続けながらずっと考え続けていた。

いや、解決する方法はあるのだ。

文が風でもって守られているのなら、その風を上回る強さの風を吹かせてやればいい。そしてのび太はその強風を吹かせる事の出来るひみつ道具をちゃんと持っていた。

そう、洩矢神社に来る前に妖怪の山の渓流で白狼天狗の一団とにらみ合った時に取り出したバショー扇だ。

台風なみの大風を巻き起こせるあのバショー扇なら文の無双風神にも負けないだろう。

問題は、そのバショー扇をこの嵐のような弾幕の中、一体どうやって取り出すかだけれども、のび太の全く思いもよらないところからその最大のチャンスは転がり込んできた。

 

「のび太! 危ないからさっさと神社の中に逃げるんだぜ!!」

「魔理沙さん!!」

「ほらほら、私たちが弾幕を押さえておくから、早く逃げるんだよ!」

「そういう事、ここから先は私たちの仕事だからね」

 

のび太と文の間に割り込むように、魔理沙、神奈子、諏訪子の三人がやって来たのだ。

それは、その間のび太が弾幕から逃げ回る必要のない時間……スペアポケットからバショー扇を取り出すのに必要な、今のび太が欲しい時間が出来たと言う事でもある。

のび太は知っていた、今まで数多くの異世界や宇宙の果て、気の遠くなるような時間の向こう側での冒険をしてくる中で、そのチャンスを逃してはいけないのだと言う事を。

 

「ダメです! 早苗さんを食べた悪い妖怪を今この場でやっつけないと!!」

「「「……へ?」」」

 

迫りくる弾幕への対処を壁となりのび太を守ろうとする神奈子と諏訪子の二柱に任せ、ここ洩矢神社に来た時と同様にホウキに乗せて全速力で社殿へと飛び込もうとのび太の手を掴む魔理沙の手を振り払いながら、のび太は文への怒りを初めてはっきりと口にし、そしてこのチャンスを逃すまいとスペアポケットへと手を突っ込んだ。

今度はもう、渓流で白狼天狗の集団に囲まれた時のように何が出てくるのか半ば賭けにちかいなどと言う事はない。何しろしまうときに、ポケットの中の四次元空間の一番手前にしまったのは他ならぬのび太自身なのだから。

それを取り出せばいいだけなのだから、今ののび太には迷いも何もありはしない。

鞘から白銀の剣をすらりと引き抜くように、のび太は再度それを取りだした。

 

「バショー扇!!! せーの……っ、それっ!!!」

「のび太、ちょ、ちょっと待て! 落ち着け、誤解だ誤解!!」

 

のび太の発言に、どうしてのび太が文をそこまで敵視し、許さないと怒りを燃やしているのかようやく悟った魔理沙たちだったけれども、のび太の誤解を解くよりも先にのび太は今度こそ、容赦なくバショー扇を振り下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

…………嵐が、訪れた。

 

 

 

 

 

 

「うわっ! うわわわわわっ!?」

「な、なんだいこれはっ!?」

「あーうー!?」

 

僅かな一瞬の静寂の後、突然にごうごうと吹き荒れる猛烈な台風並みの暴風。

何の予兆もない所からいきなり荒れ狂う暴風が吹き出した事で、のび太以外のその場の誰もが吹き飛ばされそうになるのを必死でこらえていた。

ドラえもんがかつてバショー扇を家の中で誤って暴発させ、台風発生させてしまった事があったけれどもそれと同等の嵐をのび太は巻き起こしたのだ。

 

「!? 何ですかこの風は……まさか、天狗が起こす風よりも強いとでも言うんですか……?」

 

当然、その風は守矢神社の境内上空で無双風神中の文にも容赦なく襲い掛かる。雨あられと降り注いでいた無双風神の弾幕も、この台風並みの暴風にあっけなく吹き散らされそれでもまだ止むことなく、文を吹き飛ばさんと暴れまわった。

それでもどうにか、吹き飛ばされる事なく速度を落としながらも飛び回り、何とか暴風を避けようとする辺りは幻想郷でも飛行速度において最速を誇る種族、鴉天狗の意地と言う事なのか。

 

「……もういっちょう! それっ!!!」

 

それでも、さすがにもう一扇ぎされてしまうとさすがの文でも飛び回りながら避ける事は難しいらしく、風の強さによって完全にその場にくぎ付けにされてしまった格好となってしまう。

けれどものび太は気が付いていたのだろうか?

バショー扇を振り下ろし、強風で文を吹き飛ばそうとしているのび太自身のその恰好は奇しくも『のび太のパラレル西遊記』で妖怪軍団の拠点である火焔山の偵察にやって来たのび太を芭蕉扇で吹き飛ばした妖怪、そう、今のび太が許せないと言っている妖怪羅刹女のようである事に……。

そんな事にも気が付いていないのび太は、二扇ぎしてもまだ空中で踏みとどまっている文に、こういう時冴えわたる頭で思考を巡らせていた。

 

もっと強い風を、もっと確実に悪い妖怪をやっつけられる風を!

 

バショー扇は、握りの部分に小型マイクが取り付けられており、メッセージによって吹かせる風の細かな注文ができるようになっている。

そこにどんな言葉を吹き込めば、あの早苗を食い殺した人食い妖怪をやっつける事ができるのか。

そしてのび太は、答えを出す。

以前体験した事のある、命を奪い去るほどに危険な風を思い出したからだ。

『のび太の魔界大冒険』、そして『のび太の南極カチコチ大冒険』で魔界の南極と地球の南極、二つの惑星の極地で体験した、恐るべきブリザード。

体感温度を寒暖入れ替えてしまうひみつ道具であるあべこべクリームがなければ、もはやビバークするしか方法がなかった、あの風なら……あの猛吹雪なら。

意を決したのび太は早苗の敵をとるべく、マイクに向けて高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

 

……………………南極の! ブリザードっ!!!

 

 

 

 

 

「さ、寒いいいいいっ!! なんだこれは、チルノも凍るんじゃないかこれ!?」

「なんだいこれは、まるっきり天変地異じゃないか! 未来の道具ってのはこんな事までできるのかい!!」

「あーうー、ね、眠いよぅ……ぐぅ……」

 

高らかな宣言と共に、振り下ろされたバショー扇。そうして吹いた風は、零下数十度にして、風速数十メートルを

優に超える文字通りの猛吹雪。

バショー扇はマイクに受けた注文を違う事なく、しっかりと再現して見せたのだ。

いくら人間よりもはるかに優れた身体能力を持つ妖怪だと言っても、さすがにあらゆる命の存在を拒否する極地の、厳冬期の猛吹雪を至近距離から直撃してはたまったものではない。

さすがの文もこの想定の範囲をはるかに超えてしまったのび太のひみつ道具の前には成す術もなく、全身を凍り付かせながら墜落していくのだった。

 

「……あぎゃあああああ!!!」

「やった!!」

 

こうしてようやく悪い人食い妖怪(とのび太が誤解している)をやっつけたのび太。でも、のび太は忘れていたのだ。かつてドラえもんに指摘されたタケコプターを使う上での注意点を。

以前『のび太のアニマル惑星』でアニマル惑星へと冒険に出かけたのび太が禁断の森をタケコプターで抜け出そうとした際、猛烈な台風に直撃した事があった。

なんとか無理をして台風の中を飛ぼうと強行したものの、さすがのタケコプターも台風の真っただ中では飛行する事が出来ず、墜落してしまったのだ。

『台風の複眼』を装備して、自分の周囲を台風の目にしたドラえもんに救助されなければ、のび太も生きてはいなかったかもしれない。

文への怒りのせいかあるいは、それ以降猛烈な台風の中、タケコプターを使用する機会がほぼなかったせいなのか、ドラえもんから受けたこの注意を、のび太は完全に忘れていたのだ。

その忘れていた代償はすぐに目に見える形として、現れる事になる。

 

 

 

「……? あ、あ、あ! た、タケコプターがーっ!!」

 

 

 

カラカラとタケコプターの羽が空転し、その飛翔能力がみるみるうちに低下して行く。それはまさにアニマル惑星で起きた現象のそれだった。

台風並みの嵐を二回巻き起こし、おまけにそれ以上の風速を誇るブリザードまで起こしたのだ。

むしろ今までタケコプターが機能してくれた事の方がよっぽど奇跡と言える。

そしてあの時はこっそりと後からついてきてくれていたドラえもんが助けてくれたけれども、今はドラえもんはいない。

 

「助けてぇ、ドラえもーん!!!」

 

最後にのび太が見たのは、助けを上げる中自分が巻き起こした猛吹雪に吹き飛ばされながら守矢神社の境内から飛んでいく光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………この日、妖怪の山ではまっさらな快晴から急に台風が吹き荒れ、おまけにその後数時間にわたって真冬も裸足で逃げ出すような猛吹雪が真夏日にもかかわらず観測されると言う、妖怪の山始まって以来のとんでもない異常すぎる異常気象が観測されたとか。

しかし、その異常気象を引き起こしたのがただ一人の、幻想郷の外の世界からやって来た人間の子供だと言う事実を知るものは、ほとんどいなかった。




ひとまず無事? に守矢神社へと到着したのび太。
次からは守矢神社が本当に外の世界で、スネ夫たちが調べようとしていた神社と同じものなのか、と言った方向に話が動いていく事になるかと思います。



全体的に文章量を抑えて、更新頻度を上げた方がいいのかな……。
とふと思うこの頃。


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……知らない天丼だ 「のび太くん、天井だよ」

お待たせしました。
文・無双風神vsのび太・バショー扇の死闘に終止符を打ったのび太はどうなるのか……?



 

 

 

 

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それはどこまでも広がる真っ暗闇。例えるなら『のび太の日本誕生』で時間犯罪者のギガゾンビがククルたちに造らせていたトコヤミの宮もかくやと言う真っ黒さ。

それはどこか、『のび太の海底鬼岩城』でマリアナ海溝の奥底に首都を構えるムー連邦の海底人が地上人であるのび太たちに海底人の事を知ってもらおうと見せた教育ドリームの世界にも似ていた。その、そっくりであるはずの教育ドリームとの違いは、真っ暗なだけでいつまでたっても海底人たちの説明がやって来ないところか。

その夢かうつつか、どちら側にいるのかも分からない真っ暗闇からのび太は……唐突に抜け出した。

 

「………………あれ、ここは……どこ?」

 

それこそあまりにもだしぬけに抜け出したものだから、果たして自分が一体どうなっているのかさえ理解できていなかったのだ。

一つわかったのは自分の目の前に自分の部屋のようで自分の部屋ではない、見慣れない天井があると言う事。そして自分が布団に寝かされていると言う事だった。

むくりと自分が寝かされていた布団から起き上がり、一体ここはどこなのだろうか? と周囲を見てみる。

六畳の部屋に、のび太の部屋にあるような天井からぶら下がっている蛍光灯。部屋の入口の向かいの壁にある本棚には本がずらりと並び、勉強机にドラえもんが出てきそうな押し入れ。

雰囲気こそ違えど部屋に置いてある荷物や机の配置などはのび太の部屋にそっくりなのだ。ただのび太の部屋と違うのは、部屋の雰囲気がやけに女の子っぽいと言う事だろうか。

のび太も何回かしずかの部屋に遊びに行った事があるけれども、今のび太がいる部屋はしずかの部屋に近い雰囲気があった。

もちろん、だからと言ってここが彼女の部屋でない事は、行った事のあるのび太自身が十分承知している。

何しろしずかの部屋に飾ってあるぬいぐるみたちがここには一つも置いていないのだ。

そして部屋の本棚をよくよく見てみれば、数学だの英語だのと言う、のび太が手にして読んだ瞬間に意識を失うかあるいはそのまま脳死しかねない難解な本が並んでいる。

もちろんしずかの部屋に、こんなのび太の命を奪い取るような危険な本は置いてあったなどと言う記憶はのび太の中にはない。

 

「……よかった、目が覚めたんですね」

「……? あ! 早苗さん!! 無事だったんですか!?」

 

のび太が今まで寝ていた部屋の様子をいろいろと見ていたのび太の背後から声がかかり、思わず振り向くのび太。

何しろその声はもう聞くことのできないはずの声だったから、お礼を言うよりも前に、会えなくなってしまったのだと思っていた声だったから。

何よりも、のび太が文に対して本気で怒った理由だったから。

のび太が振り向いた先、部屋の入り口にはのび太の様子を見に来たのだろう、守矢神社の風祝である東風谷早苗が立っていた。が、その表情は心なしか怒っているようにも心配しているようにも見える。

 

「神奈子様と諏訪子様から聞きましたよ。私が食べられてしまったと勘違いして文さんに勝負を挑んだそうじゃないですか、嬉しいですけどもう子供がそんな無茶をしちゃいけませんよ?」

「……はい」

 

いや、早苗が抱いていた感情はその全部だったらしい。

のび太が目を覚ましていたのを確認するや否や始まったのはお小言である。

もっとも、のび太は知らないけれどもその内容は幻想郷に暮らした事のある者からすれば決して大げさなものではないのだ。

外から来た一般人、それも子供が幻想郷の中でどれほど無力な存なのかは幻想郷で暮らせば嫌でも知る事になる。

そして幻想郷で暮らす早苗は、力のない人間が妖怪を前にした時どれほど無力なのかを知っていた。

知っていたからこその、お小言だった。例えそれが未来からもたらされた、圧倒的な力を持つひみつ道具があったとしても。

そしてそんな真剣な早苗のお小言に、のび太はただはいと頷く事しかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたたた……うぅ、魔理沙さんに『足止めしてくれ』って言われたのに、負けちゃうなんて……って、な、なんですかこれ!?」

 

のび太と魔理沙を守矢神社に行かせるために足止めを請け負い、その上で文に負けてしまった早苗がボロボロになりながらも守矢神社へと帰って来た時、守矢神社は、いや守矢神社を含め妖怪の山は惨憺たる有様だった。

早苗が出かける前は、直前まで彼女自身の日課として掃除をしていた事もあり、いつ参拝客が来てもいいようにときれいに掃除が行き届き、早苗自身が『参拝したいと言うのなら……いつでもかかっておいでなさい! hahahahahahaha!』と思わず口にしてしまうほどに奇麗だった境内は荒野のごとく荒れ果て、朱色で、神社のシンボルとも言える入り口の鳥居は手で押したらそのまま倒れるのでは、と思わせるような大きなヒビが入り、おまけに社殿は屋根も柱も穴だらけときた。

劇的ビフォーアフターにも程があるあまりにも酷い状態に、気が遠くなり倒れそうになるのをぐっとこらえながら、早苗はどうにか意識を保ちながらボロボロになった社殿の中へと足を運ぶのだった。

 

「神奈子様、諏訪子様、これは一体何があったんですか……?」

「ああ、早苗かお帰り。悪いが早苗の部屋を貸してもらえないか。外から来た人間の子供が、風に吹き飛ばされて気を失っているんだ」

「分かりました、それはいいですけれども一体どうしたんですかその子は。多分魔理沙さんのホウキの後ろにいた子ですよね? それが風に吹き飛ばされてって……台風か嵐でも来たみたいな外の被害も併せて、何か関係があるんですか?」

 

ちなみにその話題に中心にいるのび太は社殿の床、冷たい板の間に寝かせられながら気を失ったまま静かに寝息を立てている。

バショー扇で巻き起こしたブリザードに巻き込まれる格好で一緒に吹き飛ばされたのだが、直後に魔理沙がホウキに飛び乗りのび太が墜落する前にどうにか助け出し、社殿に寝かせていたのだった。

社殿の入口に立つ早苗には中で寝ているのび太の様子は見えなくても、神奈子から子供と聞いてすぐにそれが文からの追跡への足止めを魔理沙から頼まれた時、守矢神社へと魔理沙がホウキに乗せて連れて行こうとしていた子なのだとピンときたらしい。

なにしろ早苗が足止めをしていた時間だってそんなに長時間と言う訳ではない。それなのにあまりにも神社の外は荒れ果てていて、おまけに子供が風に吹き飛ばされたというのだ。

幻想郷で風を扱う妖怪と言えば鴉天狗、つまりは射命丸文が疑われそうなものではあるけれども妖怪の山に属する彼女が、妖怪の山の総意として信仰すると決定を下した守矢神社の境内で風を使い暴れまわり、社殿をボロボロにする訳がない……となれば、と言うのが早苗の推測だった。

もっとも、この早苗の推測は一部が的中していて一部は大きく外れているのだけれども、残念ながらそれを訂正してくれる親切な人物はこの中にはいなかった。

 

「それについては、まあ……なんだ。詳しくはこの子が目を覚ましてからだな」

「まあ、あの大風に吹き飛ばされて怪我一つなく、気絶だけで済んだのは本当に奇跡だよ。何しろ無双風神中の鴉天狗をさらに強い大風や吹雪でもって吹き飛ばしたんだからね」

「へぇ…………ん?」

 

さらりと諏訪子が言ってのけた発言を聞き流そうとした所で、ぴたりと早苗の挙動が停止する。

まるでそれはドラえもんのひみつ道具、人間リモコンの停止ボタンでも押したかのようだ。

ちなみに、そうして諏訪子の言葉によって機能を停止していた早苗が再び動き出したのは、一度機能停止してからたっぷりと数十秒は経ってからの事だった。

 

「…………あの、今さらりと言ってのけましたけれどもそれってかなりとんでもない事していませんか?」

「うん、してると思うよ。私も神奈子もあの子が空を飛びながら弾幕をよけ続けてるからさ、このままじゃ危ないから社殿に隠れるように言ったらなんて答えたと思う? 『悪い人食い妖怪をやっつけるんだ』ってさ。あの子、早苗が食べられたと勘違いして、本気で怒って自分よりもはるかに格上の鴉天狗に真正面から戦いを挑んだんだよ」

「なんて無茶を……って言うか神奈子様に諏訪子様も、魔理沙さんまでいたのにどうして誰も止めなかったんですか!」

「仕方ないだろう、のび太が文の事を誤解しているって分かった時にはもうのび太が嵐を起こしていたんだよ。って言うか、早苗もあの風を受けてみれば分かるぞ。あんな風の中そう動けるもんか」

「やめておきな白黒。結果はどうあれ早苗の言う通り私たちの力不足であの子が気絶してる、って言うのは事実なんだ。私たちがさっさと鴉天狗を抑え込めば、こうはならなかった、違うか?」

「それは、そうだけどさ……」

 

早苗の言葉は全くの正論だった。その言葉には神奈子も諏訪子も、そして魔理沙もグウの音の出ない。

何しろ、その場の三人が気が付いた時にはのび太はバショー扇を取り出して振り回していたのだから。

初めて見るひみつ道具を前にして、それがいったいどう言った効果を持つものなのかを理解しろと言うのはいくら何でも無理があり過ぎた。

それでも三人を代表するように、早苗に反論する魔理沙が『なあ?』と傍らにいる神奈子と諏訪子に同意を求める。

それが彼女たちにできる、せいいっぱいの抵抗だった。

けれども魔理沙から話を振られた神奈子と諏訪子の二柱の反応は違う、早苗の言葉を肯定し素直に自分たちがもっと早くに動いていればこうはならなかったと認めたのだ。

さすがに周りに誰も味方がいない状況の中にあって、頑なに我を通し続けられるほど魔理沙ももう子供ではなかった。

降参だとでも言わんばかりに両の手を上に上げ『自分も実力が足りなかった』と態度で二柱の意見に従う意を見せる。

 

「……でも、起きてしまった事は仕方がありません。後はあの子の無事を信じて目を覚ますのを待つだけですね」

 

こうして、三人(内ニ名は神であるけれども)に、早苗がそう告げて『ちょっと様子を見てきます』と言いのび太を寝かせてある部屋……早苗の自室へと様子を伺いに来たところに話は戻る事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。ああ、君はあくまでお客さんなんだ。そんなに畏まらないでいいんだからね」

「は、はい……」

「おいおい、これじゃあまるでのび太にお説教をするみたいじゃないか」

「お説教だなんてとんでもない、むしろわざわざ外の世界から守矢神社まで参拝にやって来てくださった子なんですから、うちとしては大歓迎ですよ」

 

早苗の部屋で気絶から目が覚めたのび太は早苗に案内される形で場所を移し、守矢神社の東風谷家……社殿の裏手に位置する早苗に神奈子、そして諏訪子が普段暮らしている家のリビングへと案内され、守矢神社の面々と向かい合う格好で早苗が用意してくれた座布団に座っていた。

ちなみに、今東風谷家のリビングにはのび太の隣には魔理沙が保護者役として座り、向かい合う格好で早苗、神奈子、諏訪子が座布団にめいめい座っているが、その様子はどう見ても保護者同伴の三者面談に他ならない。

成績が悪く、おまけに授業中も頻繁に昼寝をするのび太を叱るために、わざわざ先生が家までやって来ては、先生とママとにお説教を受ける事がたびたびあったが、今の状況を見ればまさにそれそのものだった。

発言をした本人にはそんな意図はないのだろうけれども、そういう意味では魔理沙の言葉は実に的確に今の状況を捉えていたと言える。

 

「さっきも境内で言っていたけれども、改めて聞かせてちょうだい。特に早苗は留守にしていて全然事情を聞いていなかったからね。君は一体どうしてわざわざ外の世界からうちの神社を訪ねて来たのかしら?」

 

取り外しが効くのか、さっきまで背負っていたしめ縄を外した格好の神様、神奈子が3人を代表して尋ねるその言葉に、ごくりと息を呑むのび太。

はたして守矢神社が外の世界で消えた神社なのかそうでないのか、短い間ではあったものの冒険を繰り返してようやくたどり着いた守矢神社にて、のび太がこの幻想郷に来た目的が果たされようとしていた……。

 




さてさて、いよいよ守矢神社を目指した目的が果たされるのか!?
魔理沙にホウキから振り落とされ、椛他白狼天狗の哨戒部隊に囲まれ、鴉天狗の文に無双風神を使われると言う不幸ぶりを見せたのび太の冒険は報われるのでしょうか……?


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守矢神社の中と外

お待たせしました。

そして守矢神社は果たして本当に、外の世界で消えてしまった神社なのか!?
何の力も持たないのび太に洩矢神社の三人からの視線が突き刺さる!!





「さて、改めて聞くけれども……君は一体どうしてわざわざ外の世界からうちの神社を訪ねて来たのかしら?」

 

目を覚ましてからさっそく早苗に案内された東風谷家のリビングで守矢神社の神奈子、諏訪子、そして早苗と向かい合うように座るのび太へと投げかけられた問いかけ。

その答えに興味津々と言った風に、3人の視線がいっせいにのび太へと集中する。

その問いかけが決して悪意や敵意のあるものではないとは言っても、明らかに年上のお姉さん(一応諏訪子は外見だけ見ればのび太と大差ないのだけれども、時折見せるその雰囲気は明らかに小学生のそれとは違っていた)に問いかけを受けて、小学生ののび太が緊張しないはずはなかった。

 

「あー、のび太。まあ気持ちはわからなくもないがそんなに緊張するな。別に回答いかんによって食われる何て事はないんだし、私がこうして隣にいるんだぜ」

 

と、隣に座る魔理沙が言ってくれなかったならのび太は果たして返事が出来たのだろうか。

そしてもう一つ、その先生との面談のような形式による圧迫面接以上に今ののび太には非常に気になる事があった。

一応、のび太以外の全員からは警戒している様子は見られない事から、のび太もいきなりフワフワ銃を抜き放つような事はしていないけれども、それでもまだ素直に信じられないのか、ちらちらと視線をもう一組の人物たちへと向けている。

そのちらちらとのび太が視線を向ける先、のび太と守矢神社の三名が向かい合うそれぞれのちょうど真ん中、例えるならまるで審判でも務めるかのような位置に二人の女性が座っていたのだ。

そのうちの一人は他でもない、さっきまでのび太めがけて『話を聞かせてもらう』と言いながら襲いかかり、無双風神でもって守矢神社の境内を荒らしまわった挙句にバショー扇でもってのび太が吹き飛ばした、鴉天狗の射命丸文。

 

「そうですよ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですからここはひとつ、明日の朝刊の一面を飾るためにも、詳しい話をお聞かせください」

「「「「………………………………」」」」

 

いくら笑顔で『怖がらなくても大丈夫だから』と言われても、その言葉を信用するにはあまりにもまだのび太は文の事を知らな過ぎたし、なによりも文から受けた事が悪すぎた。

おまけにさっきまで弾幕の上とはいえ争っていた当事者からの発言とは思えない、手のひらを返したような態度に守矢神社の三人も魔理沙も、皆呆れ顔で文を見ているが文本人はそんな視線などまったく気にしている様子が見られない。

どうやら三人を前に緊張しっぱなしののび太とは逆に、文の顔の皮は非常に分厚くできているらしかった。

もしかしたら、硬さだけなら地球人捕獲のためにリルルと共に地球に送り込まれたザンダクロスの装甲を構成するメカトピアの超合金(直径数十m規模のクレーターが発生するレベルの次元震零距離直撃を受けても無傷を誇る)をも凌ぐかもしれない。

ただ、その文の恰好はと言えば、何故かボロボロでその姿はまるでママに思い切り叱られた後のジャイアンのよう。

確かにのび太は至近距離からバショー扇で南極のブリザードを発生させ、それを文にぶつけたとはいえ、服までボロボロにはならなかったはず……。なぜならのび太も地球と魔界の南極でブリザードに遭遇した事があったからだ。

そんな事をのび太が考えていると文の隣の、文にそっくりな女性が神成さんもかくやと言う恐ろし気な声を発した。

 

「……文? あなたはまだ怒られたりないのかしら?」

「いっ、いやだなぁお母さん。私はとてもいい子なんですから、もうこれ以上ヲコラレタイダナンテコトハアルワケナイジャナイデスカ。hahahahahaha」

「お、お母さん!!?」

 

それまで終始笑顔だった文の、ザンダクロスの装甲並みの厚さを誇る面の皮さえも一撃で打ち砕く、その隣に座った女性。

だがそんな事以上にのび太を驚かせたのは、文がその人物に対してはっきりと「母親」と呼んだ事だろう。

考えてみれば妖怪と言う存在がどのように生まれるのか知らないのび太ではあったけれども、今まで数多の世界を冒険してきて出会った異世界の友人や住民たちだって、皆父親と母親がいた。

『のび太と鉄人兵団』で地球を襲撃したメカトピアで生まれたリルルを含む鉄人兵団や、『のび太とふしぎ風使い』でのび太に懐いた風の魔獣マフーガの一部である台風のフー子たちだって、ちょっと見れば親と呼べる存在がそもそもいないようにも見えるけれども、メカトピアのロボットにはメカトピア星全部のロボットの両親とも言うべきアムとイムがいたしフー子だって、マフーガの一部である事を考えればそのマフーガを生み出した嵐族の呪術師ウランダーが親、と言えるだろう。

それに『のび太の恐竜』でのび太自身が布団にくるまる事で1億年前の卵の化石から復元し、ふ化までこぎつけたフタバスズキリュウのピー助だって、あくまでものび太が卵からふ化させただけであってその卵を産んだ親がいたのは間違いない。

それほどまでに、親と言う存在は数々の冒険の中でも当たり前にいたし、中には冒険の中でお世話になった人たちもいたし、いろいろな事情からのび太たちと敵対した人たちだっていた。

だから確かに、文に母親がいた所で何ら不思議な事はない。

冷静に思い起こしてみれば、中国唐の時代でヒーローマシンの妖怪たちと戦った『のび太のパラレル西遊記』でのび太たちの危機を助けてくれたリンレイだって、両親は牛魔王と羅刹女だったのだから。

そんなのび太ではあったけれども、文の口からまさかお母さんと言う言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

だから、のび太の口から出てきた驚きの言葉に文の母親は『おや、そういえば自己紹介がまだだったね』と、思い出したようにのび太の方へと向き直り、うやうやしく頭を垂れるのだった。

 

「私の名前は天魔。こう見えても妖怪の山で天狗たちの長をさせてもらっていてね。さっき言った通り文は私の娘なのさ。それにしても……娘が迷惑をかけたみたいで、君には本当に悪い事をしたね。うちの文(むすめ)はしっかりと叱っておいたから、もう大丈夫だよ」

「てんま……って、お姉さんはペガサスの妖怪なんですか? 文さんは鴉天狗って言ってましたけど……」

「ぶふっ!! ……ち、違いますよ。それは天の馬って書いて天馬です。この方のてんまは天に魔と書くんですよ」

 

てんま、と聞いて連想するものはペガサスだって確かに間違ってはいない……読み方の上なら。こののび太の斜め上過ぎる回答に対し、早苗が思い切り吹き出した。

まあ、外の世界からやって来たのび太にいきなり天魔、の漢字を当てろと言うのも難しいだろう。早苗は吹き出しながらものび太にも天魔の字が分かるように、きちんと紙の上に書いて説明するのだった。

そして……。

 

「なるほどね。外の世界で、湖のほとりにあった神社がそっくり消えたって話の真相を確かめる自由研究で仲間外れにされたから、もっとすごいものを見つけようとしたら幻想郷にやって来たと……。しかも未来の道具で博麗大結界に触れないまま幻想郷に入ってくるって……あたしらよりもとんでもない事してる気がするんだけどね……」

「未来の道具とか、どうひっくり返っても幻想郷よりも幻想してるよね」

「「「……………………」」」

 

もう何回目になるのか、同じ内容を説明するのが少々面倒くさくなりそうなのび太ではあったものの、守矢神社の三人と、妖怪の山の頂点たる天魔ならびに文の親子に対してこれまでの経緯……外の世界で消えたとされる謎の神社を夏休みの自由研究として調べようとした事、その時に仲間外れにされ、ならばもっとすごい場所の事を調べると見栄を張り、未来ひみつ道具で誰も来たことのない場所を目指した所幻想郷へと足を踏み入れてしまった事、八雲紫に幻想郷の話を聞き、博麗神社へと案内されてそこで守矢神社の話を聞いた事で、やって来た事を話すのだった。

ちなみに、隣の魔理沙はと言うともう彼女にとっては聞いた話のため、退屈そうに欠伸をしながら話半分にのび太の説明を聞いていたりするけれども、初めて聞いた面々からすれば幻想郷がかわいいレベルの内容である。

事実、のび太の説明を聞いた守矢神社の三人に天魔は皆頭を抱え、難しい顔をして考え込み、あるいは口をあんぐりと開けたまま幻想郷とは一体なんなのか、と本気で考えているようだった。

唯一、新聞記者の文だけは職業柄なのか驚いたりするよりも先に興味深そうに「こんなに素晴らしい、新聞にしたら売上トップに立てそうな話をメモできないなんて……」と新聞記者としては少しでも新聞のネタにしたいのに、隣の母親に叱られた手前堂々と記事にするのもはばかられる……という相反する状況に、実に悔しそうな表情をしながらも、なるべくのび太の言葉を一言一句覚えておこうと必死になり反芻している。

 

「……まあ、君の話は分かった。結論から言うと、君の友達が外の世界で調べようとしている神社は、間違いなくうちの事だろうね。そういう意味では、君の友達よりも君の方が先に正解へとたどり着いた、と言うべきかな」

「…………じゃあ、ここがスネ夫たちの探している、えっと……外の世界で消えてしまったって言われている神社なんですね」

「ああ、その通りさ」

「…………やったーっ!!」

 

そんな中で、四人の中で一番立ち直りの早かった神奈子が、のび太の探している外の世界で消えてしまった神社はここ守矢神社である事を告げる。スネ夫たちのように外の世界を探すのではなく、幻想郷に来たのび太こそが正解へとたどり着いたのだと。

たっぷり十数秒、神奈子の言葉を受けて沈黙していたが、その次の瞬間のび太は飛び上がらんばかりにバンザイと叫んでいた。

なんという偶然だろうか、何という幸運だろうか。

外の世界で謎の神社を調べようとしていたスネ夫たちに仲間外れにされ、いつものようにドラえもんの道具を使ってやって来た幻想郷こそがその消えてしまった謎の神社の行き先だったなんて一体誰が想像するのだろうか。

スネ夫たちも、まさか調べようとしている消えた神社にのび太がたどり着いているだなどとは、考える事もないだろう。

普段なら、スネ夫やジャイアンに仲間外れにされて悔しい! とドラえもんに泣きつくのび太も今回ばかりは喜びのあまり、敷かれた座布団から立ち上がるとリビングの窓へと駆けてゆき届くはずのない空へ向けて、大声で叫んでいた。

 

「おーい! スネ夫ー! ジャイアーン! しずかちゃーん! どんなもんだい、僕だってやればできるんだぞー!!」

 

その声は、さっきまで暴風や猛吹雪が吹き荒れていたとは思えないきれいな青空へと吸い込まれてゆくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、スネ夫。着いたぞ」

「パパ、ありがとう!」

「おじさん、ありがとうございます」

「スネ夫、それじゃあさっそく調べに行こうぜ!」

 

一方その頃、外の世界ではある日忽然と姿を消した守矢神社(……もっとも、スネ夫たちはその名は知らないのだけれども)、そう湖のほとりから消えてしまったと言われる謎の神社の事を調べるべくスネ夫、ジャイアン、そしてしずかはスネ夫の父親の車に乗って問題の町、湖のほとりに位置する公園の駐車場へと到着した所だった。

スネ夫が父親に神社を調べたいと言ったのは数日前の話なはずなのにもう目的地へとたどり着くこの速さは、スネ夫が以前言っていた「思い立ったらすぐに実行するのがうちの家族なんだ」と言うセリフの正しさを表している。

それでも、忘れ物やトラブルと言った問題もなく、スムーズに動けるのはそう言った事をこれまでにも幾度となくこなしてきた証明でもあった。

そうしてスネ夫の父親にお礼を言って車から降りたスネ夫、ジャイアン、しずかの三人。

ちなみに、スネ夫の父親はこれから宿題をするに辺り宿泊する事になる近隣の貸別荘へと一足先に向かい、物件の確認をする事になっている。

そのため、三人を下すとそのままスネ夫の父親は車で走り去っていってしまった。後に残るのは宿題を前にやる気十分な三人のみ。都会とは違う、周りを山々に囲まれ公園の池とは比べ物にならないサイズの湖を前にしてうーん、と大きく伸びをしながらめいめい大きく深呼吸をする。

涼しく、喧騒の少ない町の空気を堪能しながらそれでよ、とジャイアンが隣のスネ夫に今後の予定を尋ねた。

 

「それでよ、スネ夫。その謎のレンジャーを調べるって言っても、一体どこから調べるんだ?」

「ジャイアン、それを言うなら神社だよ。うーん、まずは実際に消えた神社の跡地に行って、今はどんな様子になっているのかを確認してから街の役場や図書館で話を聞いたり調べたりするのがいいかなって思うんだ。もしかしたら、神社の事を知っている町の人を紹介してもらえるかもしれないしね」

「さすがスネ夫! 冴えてるぞ!!」

「ジャイアン、痛い、痛いから!」

「じゃあ、まずは役場に行ってみましょ」

「おう、そうだな!」

「そうだね」

 

スネ夫の考えていた今後の予定に、ジャイアンが「さすがは心の友よ!」と言いながら全力のハグを決めた。

ジャイアンの持つパワーでハグなどされた日には、そのまま絞め落とされかねないどころか命の危険もある中、痛い痛いと叫ぶスネ夫にようやくジャイアンもスネ夫の事を解放する。

はあはあと、肩で荒い息をしながらどうにか急に降って湧いた命の危険から救われたスネ夫を確認すると、スネ夫とジャイアンの二人をまとめるようにしずかは役場へ行こう、と二人を先導するように歩き出すのだった。

 

「それにしても、のび太は本当に気の毒だよな。こんなに面白そうな自由研究に参加できないなんてな」

「いやー、ほんとほんと」

「二人とも、そんな事を言ったらのび太さんがかわいそうよ?」

 

もちろん、当然のようにスネ夫もジャイアンも、しずかさえも当ののび太が今どこにいるのか、知る由もなかった……。

 

 




今回は守矢神社の中で、スネ夫たちよりも先に正解にたどり着いたのび太と何も知らずに外の世界で宿題をやろうとするスネ夫たちのお話でした。
もちろんスネ夫たちはのび太がどこにいるのかも、何をしているのかも全く知りません。

また、今回妖怪の山の天魔に登場してもらいました。
本作品において彼女は文の母と言う設定にしてあります。でないと、文を叱ったりできるポジションのキャラが少なすぎる……(汗
母親なら、文が暴走してもしっかりと叱り止める事が出来ますので、これは非常にありがたいです。


さてさて、のび太の宿題はどうなるのか?


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ぶんぶん文ちゃん、危機一髪!

はい、今回はのび太が気を失って倒れている間に何があったのか、のお話です。
と言うか完全に守矢神社をボロボロにした文がお説教をされるだけ、ですねこれは。



さて、そして劇場版ドラえもん『のび太の月面探査記』がいよいよ公開されましたね。
私は初日に早速観に行きましたが、いろいろと東方との絡みもできそうなネタがちらほらと。
それを抜きにしても面白い話でしたので、是非とも皆さんも(時間とお金が許すのなら)観に行ってみて下さい。


……さて、話はのび太が目を覚ますちょっとだけ前へと時間がさかのぼる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………や、やっと神社に着きました……。まったく、なんなんですかあの子供は。全速力で飛んでる無双風神中の私に攻撃を当ててくるし、いきなり台風並みの大風を吹かせたり猛吹雪まで起こすだなんて、本当に外から来た子供なんでしょうかね? それ以前に、本当に人間なのかも怪しくなってきましたよ……」

 

のび太と文が互いにバショー扇と無双風神でもってぶつかり合った結果、ものの見事に守矢神社を半壊させてからしばらくして、道中で文に撃墜された早苗が戻ってきた後になってようやく翼をカチンカチンに凍らされれた文も這う這うの体で、守矢神社へと戻ってきた。

ただし、戻ってきたとは言ったものの幻想郷随一の飛行速度を生み出す自慢の黒い翼はボロボロになり、羽さえ何枚かは抜け落ちているような様相に、さすがの鴉天狗も空を飛ぶ事が出来ず一歩一歩歩いて守矢神社まで帰ってきたところからも、至近距離で直撃したバショー扇謹製のブリザードはかなりの威力だった事が伺える。

それでも、ここまでボロボロになりながらもきちんと歩いて帰って来られるだけのダメージしかなかったのだからやはり妖怪の耐久力と言うものは人間とは比較にならないのは間違いないだろう。

そして、妖怪としての耐久力だけではなく、決してくじける事、折れる事のない鋼のメンタルを持つ文は「これはますます記事にする価値が出てきましたね」と、のび太へのインタビューをどうやって取り付けようかその算段を考えていた。

普通はこれだけ酷い目にあったのだから、もうのび太にインタビューする事を考えるのはやめよう、と言う事にはならないのだから彼女の記者魂には恐れ入るしかない。

事実妖怪の山に住まう鴉天狗たちの中で、この奇妙な外から来た子供の異常性と言うのか、特異性と言うのか、に気が付いているのは文だけではないだろうか。

つまりは今ここでのび太に対して独占取材してしまえば文の新聞は売り上げがうなぎのぼり、そうでなくても幻想郷の人妖は皆新しい刺激に飢えている。のび太への取材内容が幻想郷の面々にとって、その刺激への飢えを満たす格好の題材となるのは間違いない、そう文は睨んでいた。

そう、人里の参拝客のように妖怪の山の麓から続く参道の石段を一歩一歩、踏みしめながらどうにか洩矢神社のボロボロになった鳥居が見えてきた、その時までは……。

 

「……おかえり文、ずいぶんと遅かったわね」

 

ようやく神社に戻ってきた自身を出迎えた声に『はて、声をかけてくるのはいったい誰でしょうか?』と不思議そうに顔をあげた文の視線の先。

参道の終着点、守矢神社の鳥居の前では腕を組み仁王立ちしながら文を見下ろす人影が一つ、ようやく守矢神社へと帰ってきた文を今か今かと待ち構えていた。

そもそも妖怪の山の住民で、鴉天狗の文の事を呼び捨てにする者はなかなかいない。まったく皆無ではないけれども、本当にごく一部なのだ。

これは妖怪の山での鴉天狗の立ち位置と実力から来ているのだけれども、その妖怪の山においてあえて呼び捨てで名前を呼ぶのは果たして誰なのか?

足下から視線を上げて確認する先でその人影は鴉天狗の正式な装束に身を包み、足には天狗特有の一枚歯の下駄と言う至極歩きにくそうな下駄をはき、腰に差したのは鞘に塗られた漆の黒が眩しい一振りの刀。

そして毎朝洗面所の鏡で見る、文自身にそっくりな顔立ち。

しいて文との違いを挙げるなら、ショートな文と違いロングにしている、と言うところ位だろうか。

その特徴に該当する人物を嫌と言うほど、数十年数百年前から、文は誰よりもよく知っていた。

 

「…………へっ、お、お母さん!? いっいえ、これは天魔様っ!?」

 

そう、彼女の名は天魔。河童、天狗など数多の妖怪が住まうここ妖怪の山において頂点に立つ絶対の存在。そして彼女は文の実の母親でもあった。

が、家においては母親であってもここ妖怪の山ではあくまでも彼女は天魔なのだ。だから文も慌てて、母親ではなく妖怪の山の長としての名前へと訂正する。

もちろんそこには妖怪の山と言う組織に属する一員としての立場があったのは間違いないがそれ以上に……。

 

『天魔の目が笑っていなかった』

 

何よりもまず、これだった。

顔はさわやかに笑っているはずなのに、口元には穏やかなな笑みが浮かんでいるはずなのに、その目だけはどう贔屓目に見てもこれっぽっちも笑っていない。

長年天魔の娘をやって来た文も、この表情をするときの天魔の事は嫌でも理解している。

すなわち天魔がこの表情をするのは『自分が怒られる時』だと。

当然文も、これからしこたま母親から怒られ長時間お説教をされると理解しながら、甘んじてお説教を受ける程子供ではなかった。

すぐに石段の途中でくるりときびすを返すと『あ、あやややや。私ちょっと落し物がありましたので、探してきますね』と笑顔で取り繕い、急ぎその場を離れようとするのだけれども……。

 

「いだだだだだっ!? お、お母さん暴力は反対なのですよっ!」

「文が逃げようとするからでしょう? 逃げなければわざわざこんな事はしないわよ」

 

残念ながら娘の逃亡を許すほど、天魔は慈悲深い存在ではないようだ。

きびすを返した文が逃げ切るよりも早く、天魔の手が逃げようとする文の耳をむんずと掴み、おまけにそのままずるずると無慈悲に文の事を引きずっていく。

これで体調が万全なら、文も天魔の成すがままにはならなかっただろう。

けれども今の文はその前に起こったのび太との勝負でボロボロになっている事もあり、とてもではないけれども天魔の力に対抗する事などできはしなかった。

耳がちぎれる、と文の必死の懇願もむなしく文はそのままずるずると守矢神社の境内から守矢神社の裏の母屋……東風谷家まで引きずられてゆくのだった。

ただ、一つ文にとって幸いだったのはこの様子を撮影している他の鴉天狗が誰も居なかったと言う事だろうか? これでもし他の鴉天狗がいたのなら、間違いなく天魔に耳を掴まれ引きずられてゆく文の姿は格好の餌食になったはずだ。

仮にもしそうなったのなら幻想郷中に文の醜態が知れ渡り、天魔の権威にさえ傷がついたかもしれない。

しかし、幸いな事にこの事を知るのは天魔に文、そして守矢神社の三名のみだった。

いや、文にとってはそれは幸いだったのだろうか……?

 

 

 

天魔説教中…………

 

 

 

天魔説教中…………

 

 

 

「何度同じ事を言わせるの! いい? 守矢神社に参拝途中で迷子になった子供を、無事神社に送り届けるよう私は指示を出したの。貴女なら、ある程度の力もあるから、もめ事もなく連れてこれると思ったからよ。それが! 何でよりにもよってただの人間の子供に無双風神なんて使ってるのかしら!? おまけに守矢神社まで半壊させるってのはどういうつもりなの!!」

「はい……申し訳ありません……」

「ほんとにもう、あんたという子は!! 人間の子供に怪我がなかったからいいようなもの、おまけにあんたが無双風神まで破られて、風で吹き飛ばされなんて……どこの世の中に外の世界から来た人間の子供に吹き飛ばされるような情けない鴉天狗がいますか!!」

「で、でもあの子はただの子じゃ……「だまらっしゃい!!」」

 

守矢神社の母屋、すなわち東風谷家の和室でもって行われた天魔の説教はそれはもう、文にとっては拷問以外の何物でもなかった。

座布団も与えられず、畳の上に正座をさせられた文は数時間前から途切れる事無く、ひたすらにお小言を聞かされている。

おまけに、ちょっとでも体勢を変えようとすると天魔からの「叱られながら動くとは何事かしらっ! きちんと話を聞く気があるの!!??」と言う、更なるお小言が飛んでくるのだ。これが拷問でなくて一体何が拷問だろうか。

 

「……まったく、あんたって子は普段はしっかり動くのに、どうして新聞記事の事が絡むと途端に他の事はそっちのけで新聞記事の取材をしたがるのかしら。本当に誰に似たのかしらね……」

 

こうしてお説教が始まって一体どれくらいたったのか? いくら妖怪の体力でも、さすがに数時間休む事なく文字通りのぶっ通しで怒鳴り続けて疲れてきたのか、天魔のお説教の声もその勢いは最初の頃よりも幾分落ち着いてきた。

だから天魔が最後に口にした言葉は、文に向けてのお小言と言うよりもむしろ愚痴、と言った方が近いだろう。

何もなければ妖怪の山の鴉天狗として、上意下達の組織の一員として的確に任務をこなし役割を果たしている。

そう、何もなければだ。

しかし天魔の言うように、ここに新聞記事のネタになりそうな事柄が絡むと途端に状況は一変してしまうと言う事か。

鴉天狗としての任務も、他のなにもかも全部を放り出してまずその新聞記事のネタになりそうな事への取材に走ってしまう文に頭を痛めてきたのはここ数年の話ではないのだろう。実際、八坂神奈子の依頼で妖怪の山の総力を挙げて守矢神社に来る途中で遭難したのび太を保護し、連れてきてほしいと言う任務を放り出してあまつさえ保護対象ののび太に無双風神をぶっ放したのは他でもない、文自身である。

そんな事も忘れたように、文はお説教を受け続けて疲れた頭でつい一言漏らしてしまうのだった。

もちろんそれは文の本音であったのかもしれない、しかし今この場においてそれを口にしたのは間違いなく、文の今日一番の失敗だった。

 

「……そりゃあ、誰に似たのって……私はお母さんの娘なんですから、間違いなくお母さんですよね」

「………………ぁ”ぁ”?」

「……………………ぁ」

 

例え本音であったとしても、今それを言うのはあまりにも愚策だった。

文の言葉に、天魔の顔に青筋が浮かび非常にドスの利いた声で応え、その場の空気が一瞬にして剣呑なものへと変化する。

そして文が自分の失敗に気が付いて顔から血の気がさぁ、と引いた時にはもう手遅れだった。

 

 

 

「あんたって子は、何を言っているの!!!」

「あんぎゃあああああああああ!!!」

 

 

 

この日、守矢神社では二度にわたる暴風、そして猛吹雪に引き続き、雷雲もないのに強力な落雷が観測され、鴉天狗の焼き鳥が出来上がったと言う……。

 




文ちゃん、無双風神を破ったバショー扇によるゼロ距離ブリザード直撃に引き続き本日二度目の撃墜。
ちなみに天魔の説教についてはなるべくのび太のママのお小言に近くなるようにしてみました。
なので書いている間に、テキストがのび太のママ役の三石琴乃さんの声で脳内再生されていたのは内緒だ(汗


さてさて、次回はどうなるのか?


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神様、妖怪、そして人間、大いに驚く

久しぶりの投稿です。時間がかかってしまいすみませんでした。

さてさて、守矢神社の神様たちからとうとうのび太が今いる守矢神社こそが、外の世界で消えた神社……スネ夫たちが調べようとしている神社なのだと言う回答を貰ったのび太。
夏休みの宿題は一体どうなるのでしょうか?


さて、のび太が幻想郷へとやって来た守矢神社……つまりは外の世界から消えたと言う、スネ夫たちが調べようとしている謎の神社こそが、今のび太がいる神社であると祭神の八坂神奈子に聞かされ喜んだのはいいけれども、のび太にはまだ疑問が残っていた。

つまりは『どうして外の世界から幻想郷へとやって来たのか』と言う事だ。

なにしろ幻想郷に来る、なんてそうそう簡単にできる事ではない。むしろどこでもドアをくぐるだけでひょい、と幻想郷に来れてしまったのび太の方がイレギュラーな存在なのだ。

そのなかなか簡単にできる事ではないはずの事をやってのけたのだから、守矢神社の面々にも何かそれだけの理由があるのだろう。

そしてのび太にとっても、スネ夫たちが外の世界でもう消えてしまった守矢神社について調べているに違いない以上、それよりももっと宿題をすごいものにするにはやはり神社の関係者に直接話を聞くのが一番手っ取り早かった。

だから、のび太は手を挙げてから、一番今聞きたい事を質問するのだった。

 

「え、えっと……早苗さんたちは元々ぼくらの世界、えっと外の世界で暮らしていたんですよね? それなのに、どうしてわざわざ幻想郷に来ようとしたんですか?」

「「「………………………………」」」

 

それは決して難しい質問ではない。ここに来た理由をここに来た本人たちに直接問う。それだけのはずなのに、のび太のこの質問に答える相手は、誰も居なかった。

神奈子も諏訪子も早苗も、それだけではないのび太の隣にいる魔理沙も、そして天魔に文の親子も、簡単に答えられそうなはずなのに、この質問に答える事なくただじっと黙っている。

コチコチと少し古いデザインの壁掛け時計が時間を刻む音だけがリビングに流れる中、意を決したように諏訪子が口を開いた。

そして、彼女のその口から出てきた言葉にのび太は驚く事になる。

 

「……私たちはね、もう外の世界じゃ生きていけなくなったんだよ。だから私たちは外の世界から幻想郷に来るしかなかったんだ」

「え? どうしてですか? だって、外の世界で生きられないってそんな……ラグナ星みたいに外では誰も生きていけないようなボロボロな死の世界には、まだなっていませんよ」

 

のび太の「ラグナ星」と言う聞きなれない言葉にその場の誰もが首を傾げたが、それも無理もない話だった。

それは何しろどこでもドアでもたどり着く事ができない、地球からはるか10光年以上離れた宇宙空間を移動している宇宙船が、三百年前に捨てた母星なのだから。

彼女たちが首を傾げたラグナ星、それは『のび太の宇宙漂流記』でかつて地球を訪れたリアン以下、宇宙少年騎士団太陽系方面調査隊団員たちの母船マザーシップ・ガイアが脱出する事になったはるか宇宙の果てにある星の名前である。いや、あったと言うべきだろうか。

と言うのも地球をはるかに上回るほどに発達しすぎたラグナ星の物質文明が大地も、大気も、海洋も、星のすべてを汚染し尽くし最終的にラグナ星人は呼吸装置を使わなくてはろくに外も出歩けない、外で万が一にも呼吸装置が外れれば窒息待ったなしと言う恐るべき死の星へと変貌させてしまった。

そのためラグナ星人はマザーシップ・ガイアを建造しラグナ星を脱出したのだと、ひょんな事から宇宙少年騎士団の宇宙船スタークラブに乗り込んだのび太たちに団長リアンは教えてくれた。

その後、ワープ装置が故障してしまいスタークラブで直接地球に戻れなくなった(一応、物理的には可能なのだがワープなしで帰還した場合、およそ1億年かかるとの計算結果が出ている)のび太たちが地球に戻るため、そして独立軍を支配し地球を狙おうとしたアンゴルモアと戦うために、リアンの案内でマザーシップ・ガイアへと向かったのは懐かしい思い出である。

それはともかくとして、もし諏訪子の話が本当なら外の世界ではもう彼女たちが生きていけないほどに、空や大地は汚染されていると言う事になるだろう。

もちろん、外の世界からつい数日前にどこでもドアをくぐって幻想郷にやって来たのび太からすれば、外の世界がラグナ星のように生きていけないなどと言うほどに汚染された環境である、と言う実感は当然のび太にはない。

のび太だけでなく、ジャイアンにスネ夫にしずか、ドラえもんに『今この世界で生きられないと思うか?』と質問したところで、そんな事はないと言う回答が笑い声と共に返ってくるのがオチだろう。

そんなやり取りの間に諏訪子はそれだけで、のび太の言う生きられない世界と、自身が口にした生きていけなくなった世界、との間に大きな隔たりがある事に気が付いたらしい。

 

「君の言うラグナ星って言うのが何なのかは私たちにはわからないけれども、別に空気が息もできないほどに汚れたり、大地が汚染されて草木からの実り一つ得られないとか、そんな死の世界になった訳じゃないよ。ただ、私たちにとって外の世界はもうとても生きにくい場所になってしまった、って思ってくれればいいよ」

「もう話したと思うけれども私たちは神様でね、神様って言うのは何でもできるって君も思うかもしれないけれどもそうじゃない、人間たちから信仰される事で初めて存在できるんだ。でも、今の外の世界では神様を信じる人間たちがどんどんと減っていてね」

「あ……」

 

諏訪子の言葉に続けるように、神奈子がその後を引き継いで説明した『神様を信じる人間たちがどんどんと減っている』と言う内容にはのび太にも心当たりがあった。

なにしろひみつ道具やドラえもんと言った未来の存在が、ここ幻想郷で出会った神様や妖怪たちとはまるっきり真逆に位置する存在であり、のび太はその恩恵を外の世界でも他の誰よりも特別に受けているのだ。

のび太自身、幻想郷に来ていなければ神様や妖怪が実在すると言われてもそんなモノはいる訳がないと笑い飛ばしただろう。

そうでなくても以前出木杉くんに説明されたように、科学の発達によっててのび太たちの世界……つまりは幻想郷で言う外の世界において、魔法はすでにその息の根を完全に止められているのだ。それどころか魔法だけではなく神様や妖怪についてもまた然り、結局は後から発達してきた科学によって神も妖怪もその息の根のほぼすべてを止められてしまっている。

そうでなければのび太とドラえもんが伝説の怪物であるヤマタノオロチと弥生時代で対決する事になった原因である『モンスターボール』も発明される事はなかっただろうし、ドラゴンや妖精にユニコーン、それに七万年前の日本でのび太が生みだしたペガ、グリ、ドラコが今でも暮らしているであろう空想動物サファリパークだってなかっただろう。

これらは全て、幻想が完全に外の世界で息の根を止められたからこそ、逆に存在しているのだから。

 

「おい、のび太どうしたんだよ。そんなに泣く事か?」

 

そんな、目の前の神様たちが外の世界で生きられなくなったと言う理由をいやと言うほどに理解して……のび太は泣いた。魔理沙の言葉にも答える事無くただ、泣き続けた。

 

「そんなのひどいよ……今までみんなのために神様たちはずっと昔から一生懸命がんばって来たんでしょ? それなのに、誰にも信じてもらえなくなって、生きてけなくなっちゃうなんて、そんなのってないよ、あんまりだよ……」

「「「「「「………………」」」」」」

 

ぐしゅぐしゅと、ボロボロ涙をこぼしながら泣くのび太のこの言葉に誰も、たった今泣くほどの事かと聞いてしまった魔理沙さえ何も言えなかった。いや、言えないと言うよりもむしろ驚きすらしていた、と言った方が正確だろう。

外から来た、妖怪も神も実在するなどとは数日前まで全く信じていなかったであろう無力な人間の子供が初対面と言っていい神、力だって人間とは比べ物にならない高位の存在である事を気にもせずに涙を流し、心から悲しむ、そんな感受性を持った人間がまだ外の世界に残っていたのか。

言葉には出さずとも、それがその場の全員で一致した感想だった。

実際、守矢神社が幻想郷に来たのは昨日今日の話ではない。幻想郷に山ごと引っ越しをしてからしばらくの時がたち、今では妖怪の山の妖怪たちだけでなく人里でも参拝する人たちがいるくらいには、その存在は幻想郷中に認知されているまでにはなっている。

それでも、彼女たちの事情を正しく知る人妖が少ない可能性もあるにしろ、幻想郷に住む人も妖怪も、彼女たち守矢神社の神々の境遇について、今まで泣き悲しむ者は誰もいなかった。

だからこそ、神奈子や諏訪子に早苗が、外の世界では生きていけない原因が自分たち外の世界の人間にあると理解したのび太の涙は、心からの言葉は、彼女たちにとっても驚きであると同時に、深く突き刺さったのだ。

 

「いいんだよそんなに泣かなくたって、これは私たちが自分で選んだ事なんだ」

「そうだよ。それにこっちに来たらそれはそれで毎日退屈しないしね。君みたいな楽しい子も来てくれたしね」

「で、でも……」

「あー、もう! 男の子がいつまでも泣くんじゃないの! あまり泣いてると祟っちゃうぞ?」

「え? ……わ、わわっ!? ちょ、ちょっと諏訪子さま。たたり……って、祟りがあるんですか?」

「そうさ、小学生くらいにしか見えないけれども諏訪子の正体ははるか大昔から外の世界で神社があった場所を治めていた怖い怖ーい祟り神なんだ。君も言う事を聞かないと…………」

「ちょっと神奈子様も、どうしてのび太くんを脅かすような事を言うんですか!」

「そうだよ神奈子! それに小学生みたいな怖い祟り神って、私の評判下げるような事言わないでよね」

「何言ってるんだい、さっき外で私の事もひどい言いようだったじゃないか。そのお返しさ」

 

神奈子に諏訪子が気にするなと慰めてものび太はなかなか泣き止まない。とうとうしびれを切らした諏訪子がげこ、とカエルのように敷かれた座布団の上からカエル飛びの恰好でひとっ飛びしのび太の首にしがみついた。

ちょうど身長や体形が同じくらいと言う事もあり、その様子は神様と言うよりも同級生同士の小学生がじゃれあっているようにしか見えない。けれども諏訪子の発した祟り、と言う言葉は効果てきめんだったようでそれまでぐずついていたのび太もさすがに泣くのを止めてしまう。と言うか、明らかにその表情には怯えが混じっていた。

それは神への恐怖、と言うよりも幻想郷に暮らす人々がよく宿す表情。妖怪に襲われる、と言う妖怪に向けての恐怖に近いものだった。

それまで黙っていた早苗が間に入らなければ、また別の意味でのび太は泣き出したかもしれない。

おまけに、小学生みたいな容姿だの怖い怖い祟り神だのと、あることない事をのび太に吹き込もうとした神奈子に対して諏訪子がカエルそのままに、ぷくーっと頬を膨らませながら抗議の声を上げ、対する神奈子はけらけらと笑いながらさっきのお返しだと諏訪子の抗議を聞き流す。

そんな守矢の神々のやり取り、神と言うよりもまるで人間のようなやり取りを前にしてようやくのび太の表情にも笑みが戻るのだった。

 

「それじゃあ、諏訪子さまは僕のおばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんのそのまたおばあちゃんの……」

「あー! のび太もそういうこと言うー! 私はそんなにおばあちゃんじゃないよー」

「ははは! 諏訪子はおばあちゃんか。そんな風に言われたのは今までになかったんじゃないのか?」

「それを言ったら神奈子だって同じでしょうが」

「……ぷっ、神奈子さまも諏訪子さまも、なんだか毎日楽しそうですね」

 

……ちなみに、このやり取りの中で最大の被害者は諏訪子ではなく、その傍らで笑うに笑えない状況でひたすらに耐え続けなくてはいけない天魔と文の母子と魔理沙の三人だろう。一瞬でも気を緩めれば間違いなく吹き出すであろうやり取りを、両手で耳をふさぐわけにもいかずとにかくじっと終わるまで耐え続けるしかなかったのだ。

特にのび太が諏訪子に対しておばあちゃん、と発言をした時にはそれまではどうにか耐え続けていたさすがの天魔も吹き出しそうになったのだが、握りしめた手に込めた力を血がにじむほどに強くする事でどうにか凌いでいた事を知るのは、天魔と文に魔理沙のみであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな外野の地獄そのものな体験に終止符を打ったのは、のび太でも神奈子でも諏訪子でも、ましてや早苗でもなくリビングにかけてある壁掛け時計だった。

それまでカチコチと秒針を刻む音を立てていた壁掛け時計が、13時の鐘を鳴らした事でようやく神奈子がもうお昼の時間だと気が付いたのだ。

 

「……おや、もうこんな時間じゃないか。まあ、まだまだのび太も私たちにいろいろと聞きたい事もあるだろうけれども、まずは腹ごしらえをしなくちゃいけないからね。それに神社の修理だって終わってないんだ。そこの鴉天狗だって早く作業に取り掛かりたいだろう?」

「……うぐっ」

 

神奈子の言葉に、文の表情が露骨に怯えの色を帯びる。

そう、何しろまだ守矢神社は先の弾幕勝負の被害を被ったままなのだ。もちろんそれを修理するのは被害を与えた張本人の文である訳で、さすがに守矢神社の八坂神奈子にそう言われてしまっては、文の立場ではぐうとも言えはしない。

それでも、外の世界とは違い幻想郷で食事の支度をするとなるとある程度は時間が必要になってくる……そう文は踏んでいた。薪を使ってかまどの火をおこし、その火でもって鍋の湯を沸かす。

外の世界ならスイッチ一つでお手軽にできる作業もここ幻想郷ならかなりの時間を要するのだ、そう、普段なら。

文は失念していたのだ、今この場には外の世界から来たのび太と言うイレギュラーがいる事に。

 

「あ、それなら食事の支度なんて必要ないぜ早苗。何しろこっちには何でもできる未来の道具があるんだからな」

「なあ白黒、それ……どう考えてもお前さんの持ち物じゃないだろう?」

「なに、細かい事を気にしちゃいけないんだぜ。さあのび太! 今朝見せてくれたあの魔法の布をこいつらにも見せてやってくれ!」

 

お昼ご飯の支度をしようとその場を立つ早苗を魔理沙が制して、自分の道具でもないのに自慢げにひみつ道具のすばらしさを説明しようとする魔理沙。神奈子があきれ顔でツッコミを入れるけれども魔理沙はそんな事を気にする様子もく、ばばん! と効果音でも付きそうな勢いでのび太にグルメテーブルかけの使用を促す。

「はい、それじゃあ……グルメテーブルかけ!」「「「「「………………」」」」」

 

魔理沙に言われてのび太は今朝、博麗神社で霊夢と魔理沙に見せたようにスペアポケットからグルメテーブルかけをなれた手つきで取り出して見せた。

その様子に、何が起こるのかもう知っている魔理沙以外の五人の視線が一斉に集中する。

そして一人すでにグルメテーブルかけの効果を知っている魔理沙は、これから五人が見せるであろう反応を想像したのか笑いをこらえられない、と言った風にその様子を見ていた。

が、のび太の行動はそれだけでは終わらない。今度は魔理沙も名前を知らない道具の名前を口にしながら、再びスペアポケットへと手を突っ込んだのだ。

その様子には、さあグルメテーブルかけの効果に驚くがいい、と笑っていた魔理沙も目を丸くしながらのび太の次の行動をじっと観察する側に回る事になる。

 

「次は……どこにあるかな……えっと、とりよせバッグ!」

「なあのび太、それはどうやって使うんだ? どう見てもただのバッグにしか見えないんだが……」

「えっとですね。これは……霊夢さん!」

「「「「「「………………!?!?!?」」」」」」

 

今度は魔理沙ものび太を観察する側に回る中、六人の前でのび太が取り出したのは女性向けの肩掛けバッグのような……と言うよりもそれしか形容のしようがないバッグだった。

もちろんスペアポケットから取り出した未来のひみつ道具である以上、ただのバッグであるはずはない。

その正体は、取り出したいモノを自在に取り寄せられると言う驚きの道具なのだ。バッグの中は空間がねじ曲がっており、取り寄せたい対象の付近へとその空間の出口が開く。

後はバッグに手を突っ込み、空間の出口を通じて対象を掴んで取り寄せればいいだけ……なのだが、欠点としては手しか突っ込めないため、向こう側がどうなっているのか全く分からないと言う点が挙げられる。

逆に言えば、その欠点さえ目をつむれば『のび太の夢幻三剣士』においては夢宇宙から現実世界の四次元ポケットを取り寄せ、あるいはバッグをさかさまにする事で川の水をも取り寄せて洪水を引き起こし、妖霊大帝オドローム配下の土の精(ゴーレムのような魔物で、水に弱い)を全滅させることにも成功している。

また『のび太の魔界大冒険』においては魔界星から地球ののび太の机を取り寄せ、タイムマシンで過去に戻る事にも成功しているたりする(もっとも、魔界大冒険については魔界星にのび太の机を持ってきたためにメジューサの追跡を許してしまったのだが……)と言う、非常に便利な道具なのだ。

そしてのび太はその効果を証明するかのごとく、霊夢の名前を口にしながらバッグへと手を突っ込む。

そして、その手がゆっくりとバッグから引き抜かれていきその手が掴んでいたのは……取り寄せバッグから顔だけ出した、霊夢の襟だった。

 

「ちょっと紫!! アンタ昼間からなに人の事スキマに引っ張り込もうとしているのよ!! って、あれ? のび太じゃない。それにここは……? 紫は一体どこに行ったのよ?」

「「「「「「えええええええっ!?!?!?」」」」」」

 

もちろん幻想郷で暮らす面々はこんな効果を持つ道具などそうお目にかかる事はないだろう。しいて挙げるとすればスキマ妖怪、八雲紫のスキマの効果が最も近いと言えるのだろうか。それだって、そうそう目にするものではない。

その証拠に、バッグから霊夢が取り出されると言う手品のような現象に守矢神社の東風谷家……母家のリビングで神奈子、諏訪子、早苗、天魔、文、そして魔理沙。六人の上げた驚きの声は、それは見事なハーモニーを奏でたのだった……。

 




新しいひみつ道具、取り寄せバッグの登場です。
しかしこれ、霊夢からしたらいい迷惑ですよね。急に襟首掴まれてスキマ(仮 へと引きずり込まれる訳ですからね……。
そしてまだ直らない守矢神社は果たして修理されるのか? 




※5月に行われる例大祭でサークル申し込みをしていましたが、無事に当選する事が出来ました。
そのため、原稿の執筆作業もあるため、しばらくの間更新が遅くなる事が考えられます。全く更新がゼロになる事はないと思われますので、皆さまどうぞご了承ください。


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直しましょう、守矢神社(その1)

お久しぶりです。投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。
平成の時代はご愛読誠にありがとうございます、そして新しい令和の時代ものび太の冒険にお付き合いいただきますようどうぞ宜しくお願い致します。




「さて、と……掃除も終わっちゃったし、のび太たちが帰ってくるまでのんびりしていようかしら」

 

守矢神社の母屋で、のび太が守矢神社の神様たちに圧迫面接……もといいろいろと話を聞いたりとやり取りをしていた頃、博麗神社に一人残った霊夢は誰もいないのをいい事にのんびりと縁側でお茶をすすりながら「のび太がいてくれるからご飯の支度をしなくて済むし、本当に楽でいいわね」と、完全にのび太のグルメテーブルかけに依存しきった台詞を口にしながらとっておきのお菓子であるおせんべいをぽりぽりと食べていた。

今朝、のび太や魔理沙と一緒に朝食を済ませた霊夢は、守矢神社に行くという二人を見送った後で日課でもある博麗神社の掃除を始める事にしようとして……気が付いてしまったのだ。

もうすでに掃除はのび太がねじ式台風を使って、とっくに終わらせていた事に。それに気が付いて、それじゃあ井戸から水を汲んでおかなくちゃ、と思ったところでそれすらももうのび太が出してくれたひみつ道具、どこでも蛇口のおかげで必要がない事を思い出してしまった。

が、こうなると困ってしまうのが霊夢だった。

なにしろこれが少し前なら、食事一つ取っても準備などにもう少し時間がかかるし、掃除についてもやる人間が霊夢一人しかいない事もあり、必然的に食事の後に始める事になるのだけれども、なにしろ今の博麗神社にはのび太と言うとんでもなく便利な道具を持った居候がいるのだ。

そののび太が持つ道具のおかげで、初めてその効果を目にした霊夢が博麗神社の御神体にしたいとさえ言い出したグルメテーブルかけの効果もって今朝の食事の準備時間は一分も必要とせずに終わっているし、境内の掃除についてはものの三十分もしないうちにねじ式台風で終わらせてしまっている。

つまりそれはそっくりそのまま、本来ならば異変などがない限りは霊夢が朝食の支度や片付けなどを終えてから境内の掃き掃除などの行動を開始する、と言う時間がまるごと必要なくなってしまったと言う事でもあった。

こうなると、本当に何もやる事がなくなってしまう霊夢。

 

「あぁ……退屈。のび太の持ってきてくれた道具は便利なのはとてもいい事だけれども、やる事がなくなるのは困るわね。今度のび太に退屈しのぎになるような道具がないか、聞いてみようかしら……」

 

などと誰に向けるでもなく言いながら、霊夢は戸棚からおせんべいと急須に湯呑みを用意すると本当ならもう少し後になってから飲むつもりだったお茶の支度を始めるのだった。

 

 

 

少女支度中………………

 

 

 

少女支度中………………

 

 

 

「…………。は〜、平和ね。これで誰かお賽銭をたっぷり入れてくれたら言うこと無しなんだけれどなぁ。とは言っても、さすがにのび太からは……貰えないわよねぇ」

 

数刻後、霊夢は淹れたてのお茶をすすりながらのんびりと博麗神社の縁側で平和な時間を満喫していた。

それでも、やはり参拝客がいないと言うのは霊夢にとって平和と天秤にかけられるだけの問題であるらしく、賽銭箱の方を見ながら居候をさせているのび太から宿賃がわりにお賽銭を巻き上げようかとも考えたようだが、すでにグルメテーブルかけにどこでも蛇口と言うひみつ道具を使わせてもらっている以上それも難しいか、とすぐに頭を振ってこの案を打ち消すのだった。

これでもし同じ頃、のび太が妖怪の山で魔理沙に振り落とされて大捜査網が張られたり、哨戒中の白狼天狗の椛や鴉天狗の文と弾幕で勝負したりと大騒ぎをしているなどと知ったら、霊夢もこんなのんきに考え事をしながら過ごしていなかっただろう。

そんなこんなで数時間、何回か湯呑を空けた頃になって霊夢のお腹がくぅ、とかわいらしい音を立てる。

そこでようやく霊夢も、今の時間がお昼を回っている事に気が付いたのだけれども、今ここにのび太はいない。

 

「そう言えば、のび太たちっていつ頃戻ってくるのか何も言ってなかったわね……。どうしよう、お昼はまたのび太の道具で楽しようと思ったんだけどなぁ」

のび太が戻って来なければグルメテーブルかけは使えないし、かと言って自前でお昼の準備をしてものび太と魔理沙が戻ってくる時間が分からなければ二人の分も用意していいのか分からない。

 

「……よし、私も守矢神社に行けばいいのよ」

 

腕組みをしながらどうしたものかとしばらく考えた末に、霊夢が出した結論は自分も魔理沙とのび太を追って守矢神社に行く、と言うものだった。

ぽん、と一つ手を打って『そうよ、なんでこんな簡単な事を思い付かなかったのかしら』などと言いながら、いそいそと湯飲みや急須、おせんべいを片付け始めたまさにその時に霊夢の目の前で『それ』は起こった。

 

「…………? なによ、紫。私はちょっとこれから守矢神社まで行かなくちゃいけないんだけど……っ!?」

 

思い立ったら善は急げとばかりにお茶や急須などを手早く片付け、身支度も整えた霊夢がいざ守矢神社まで、つまりは妖怪の山まで向かおうとしたその矢先に、ぬう、と霊夢の目の前の空間にぱくりと裂け目ができる。

ここで普通の人間なら、めったにお目にかかる事のないこの出来事に驚くのだろうけれども、あいにくと霊夢はただの人間ではない。

この程度の出来事なら割と頻繁に目にしているため、すぐに呆れたように裂け目に向かって口を尖らせる。

そう、その裂け目はのび太が幻想郷に来て最初に遭遇した妖怪、八雲紫の能力によるスキマそっくりだったのだ。

そして紫自身、移動についてはこのスキマを多用し博麗神社にもやって来るため霊夢も今更スキマが空間に開いたところで驚くような事はない……はずだった。

ところが、いつまでたっても開いたスキマからは主である紫が出てこない。本当ならすぐに出てきて胡散臭い笑顔と共に言葉を述べるはずなのに、だ。

それともスキマを開いたはいいものの、狭すぎて詰まっているのではないだろうか? そもそもスキマに詰まる、なんて情けない事はスキマ妖怪である紫に起こるのかしら? などとくだらない事を霊夢が考えてるのと、スキマから手がにょっきりと生えてきたのはほとんど同時だった。

おまけにその手はぶんぶんと動き回り、まるで何かを手探りで探しているかのよう。

紫ならまずしないであろうその手の動きに霊夢が思わずお祓い棒を手にした時、その手が霊夢の襟をむんずとばかりに掴むや否や、スキマめがけて引っ張り込んだ。

 

「ちょ!? ゆ、紫なにするのよ!」

 

今までされた事がなかったせいもあって、まさか紫が自分をスキマに引きずり込もうとするなどとは思っていなかった霊夢は完全に混乱してしまう。

そもそもスキマと言うのはどこだかさえわからないような空間なのだ。引きずり込まれたはいいものの、出口がなければ出る事さえできないのだ。そんなスキマに頭から引きずり込まれた霊夢の目の前にあったのは。

 

「ちょっと紫!! アンタ昼間からなに人の事スキマに引っ張り込もうとしているのよ!! って、あれ? のび太じゃない。それにここは……? 紫は一体どこに行ったのよ?」

「「「「「「えええええええっ!?!?!?」」」」」」

 

八雲紫ではなくのび太と、霊夢を見つめながら驚きの声を上げる魔理沙、そして守矢神社の面々たちだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、守矢神社でお昼にする事になったから、私も呼ぶためにその『とりよせバッグ』で連れてきたって訳ね?」

「は、はい」

 

守矢神社の母屋にとりよせバッグでもってとりよせられた霊夢はうるさい! と周囲を一喝しのび太に事情を求めたはいいけれども、その気迫は神奈子、諏訪子、早苗の三人を前にした時の比ではなかった。もちろん霊夢も決してのび太をおどかそうとした訳ではない。ただ、それでも霊夢の迫力はジャイアンに勝るとも劣らないともなれば、普段ののび太の精神力では耐えられる訳もなく。

若干怯えの入ったのび太のの説明を受けて、ようやく自分が博麗神社から守矢神社まで一瞬で移動した事に納得したように、何回もついさっき自分が体験した事を何回も反芻するのだった。

確かに最初はいきなり襟首をつかまれて引きずり込まれたのだから驚きとともに不機嫌ではあったものの、まさかのび太まで紫のスキマと同じような芸当ができるとは当然のように思っていなかった事ともう一つ、本来最も適切であろうひみつ道具のどこでもドアが壊れている事を霊夢自信が知っていると言う事情もあり、霊夢も「まあ、私もお昼に呼ぼうとしてくれた上での事なんだから仕方がないわね」とこれ以上の追及をするつもりはないようだった。

そして……。

 

「それじゃあみんな揃ったところで……えっと、それぞれ『食べたい料理の名前をこのグルメテーブルかけに言って』下さい」

「それじゃあ……ざるそば!」

「「「「「はああああああああっ!?」」」」」

「「……まあ、こうなるわね(よな)」」

 

のび太の『グルメテーブルかけに向かって食べたいモノを言え』と言う依頼に、真っ先に名乗りを上げた神奈子が物は試し、とざるそばを注文するが早いが、軽快な音とともにグルメテーブルかけの上に打ち立てゆでたてのざるそばが現れた事で、効果をすでに体験して知っている霊夢と魔理沙以外の5人から、一斉に驚きの声が上がった。

だがこれで全員がこのグルメテーブルかけの効果をはっきりと認識したらしく、皆口々に食べたい料理の名前を口にしていく。

ちなみに諏訪子はそうめん、早苗はミートソースパスタ、文と天魔の母子は神奈子同様にざるそばを、のび太はお子様ランチを注文し、最後に残った霊夢と魔理沙がカツ丼を頼もうとして文が『鳥の卵を食べるなんて! それは鴉天狗全員に対する宣戦布告と見ていいですね!?』と激怒してまた暴れそうになり、母親である天魔のゲンコツと共に『この子は、人の食べるものにいちいち文句を言うんじゃありません!』としこたま怒られたのはまた別の話である。

 

「それでは皆さんご一緒に……」

「「「「「「「「いただきます!!!!!!」」」」」」」」

 

神奈子の音頭を合図として守矢神社の母屋、そのリビングに入るには少々大人数による昼食会が始まった。

何の支度をせずともすぐに料理が出てくると言う驚異の利便性に加えて、かつてスネ夫の舌をも唸らせたグルメテーブルかけ。霊夢や魔理沙はおろか、守矢神社の三人も、妖怪の山の二人も、夢中になってそれぞれの頼んだ料理をぱくついている。その味への評価は誰も何も言わないものの、むしろ誰もが黙ったまま夢中で箸を進める様子が何よりの証明だった。

あっという間に全員が食べ終え、後に残るはきれいさっぱり空っぽになった器のみ。

 

「さて、と。お昼も食べた事だし……鴉天狗には壊した神社の修理をやってもらおうかな」

「な、なんで私だけなんですか!? 私よりもむしろこの子の方が私以上に壊していますよね? 外来人とは思えない吹雪や大風まで起こして私を吹き飛ばして……。鴉天狗を吹き飛ばすような吹雪を起こしている以上、ここは私だけではなくこの子も一緒に壊れた神社の修理をやるに相応しいと思います!」

「…………へ!? え、ええええっ!? そ、そんなぁ」

「そんなもヘチマもないです。さあ私だって神社を直すために立ち上がるんです。自分で壊したものはちゃんと自分で直しましょうね」

 

『ふぅ、満腹満腹』とざるそばを平らげてしまった神奈子が文へとさっそく半壊した守矢神社の修理をするように言いつける。

が、なにしろここではいはいと言われるがままに修理を受けてしまったら最後、面倒くさい事この上ないと百も承知。となれば文だってそう簡単に首を縦に振る訳がなかった。

むしろ死なばもろともとでも言わんばかりに『のび太こそ守矢神社を破壊した張本人』などと言い出す始末。

もちろんそれだけではなく、これには文の計算もあった。ここでもしうまくのび太も一緒に神社の修理に駆り出せば、自分だった面倒くさい神社の修理をさっさと終わらせるために間違いなく何か道具を持ち出すのではないか? と文は踏んだのだ。

何しろたった今体験した、のび太が取り出した『グルメテーブルかけ』なるぱっと見はただの布切れ一枚でさえ、本当なら支度にある程度の時間がかかる昼食の支度をわずか数分たらずで終わらせてしまったのを目の当たりにしている。

あれだけあっさりと作業を終わらせてしまう便利な道具があるのだから、物を直したりする修理や治療などを簡単に済ませてしまう道具もあるのではないか? 後はそれを使っている所を撮影、あわよくばのび太から説明までしてもらえれば間違いなく次の新聞の一面はそれで決まり、間違いなく売り上げは上位に食い込むだろう。

となれば多少のリスクなんてなんのその。

射命丸文、彼女は新聞の売り上げのためならばためらう事なく虎穴に飛び込んで見せる記者だった。

だからこそのび太を巻き込んで、ひみつ道具を使うように仕向けたのだ。母親である天魔に起こられるかもしれないと言うリスクを承知の上で。

 

「こらこら、暴走した鴉天狗はともかく、なんでうちの神社にはるばる外から来てくれた参拝客に神社の修理をさせなくちゃならないんだ」

「そうですよ。そんな話が広まったらうちの神社の人気が駄々下がりじゃないですか」

「分からないよ? この子はただの子供じゃないからね。さっきのテーブルかけみたいに、またとんでもない道具が出てくるかもしれないしね」

 

もともとが神社を半壊させた罰則として修理をやらせようとしたはずが、まさかの参拝客であるのび太まで一緒に修理作業を行う流れに傾きかけた事に神奈子が止めに入り、それに続く格好で早苗も文に文句を言う。

特に早苗の場合は、文と勝負して負けていると言う事もあるのだろう。

三人の中で唯一のび太が持つひみつ道具の可能性に、文と同じように目を付けたのは一歩引いた目線で様子を見ている諏訪子。それは見た目的には年上の二人が逸るのを、一番幼い容姿の少女がブレーキをかけると言う実に奇妙な光景でもあった……。

 

 




本当はもう少し短く修理を終わらせるつもりだったのですが、書けば書くほど文章量が増えてしまい投稿どころではなくなってしまいましたので(滝汗 急遽分割する事を決定しました。

これから修理を始めますが、果たしてどんなひみつ道具を使う予定なのか、そもそも彼女たちギャラリーがいる前でひみつ道具を使って無事に修理できるのか、結果につきましてはもう少しお待ちください。




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直しましょう、守矢神社(その2)

守矢神社の修理、前編に引き続き後編の投稿です。大変遅くなりました、本当ならこれを1話にまとめて投稿したかったのですが、やはり無理でしたね。
本当はもっと短い話になるはずだったのに気が付けば前編よりも文章量が多くなると言うこの恐怖(汗
文字って怖いです……。



さて、いよいよ修理が始まりますが守矢神社は直るのでしょうか?


本当なら夏休みの宿題で仲間外れにされたから、負けじとやって来たらその守矢神社こそが外の世界でスネ夫たちが探していると言う消えてしまった神社だったと言うだけの話……のはずなのに。

新聞のネタになるからと暴走して襲い掛かって来た(※のび太視点)文を撃退するために応戦したのび太を待っていたのは、文からの『戦ったのはのび太と私の二人なのだから、直すのも私とのび太の二人でやるべきだ』と言う無茶苦茶な論理展開だった。

そもそも文の言葉は勢いだけで論理からはかけ離れているとしか思えないのだけれどもそこは妖怪として長くを生き、新聞屋として場数を踏んできただけの事はあり、ズイズイと近づきながら笑顔で迫る文にのび太は完全に押されっぱなしになっていた。

 

「さあ、さあ! 神社を壊してしまった者同士さっさと直してしまいましょう。妖怪の山にあるこの守矢神社のため、神奈子様や諏訪子様の信仰のため! ……そして何よりも私の新聞のために!!

「い、今新聞のためにって……」

「……何かいいましたか!?」

「い、いえ。何でもないです……」

「よろしい」

「なあ霊夢。のび太が出す未来の道具なら……守矢神社、すぐに直せると思うか?」

「ええ、簡単かどうかはわからないけれど、できるでしょうね。むしろのび太の道具でできない事を探す方が難しいんじゃないかしら。だから文だってのび太にどうしたって手伝わせたいんでしょ。手っ取り早くするのと、新聞のネタを手に入れるために」

 

また、霊夢と魔理沙も諏訪子同様にのび太に修理の手伝いをさせようとする文の目的に気が付いているため、文の言い分に反対するようなことはなかった。もしかしたら、ああなってしまった文に近づくとどんな面倒くさい事になるか分かっているから、と言う事かもしれないけれども。

むしろ今の二人はこれ以上一体どんな未来の道具が出てくるのか? と言う点に興味があるらしい。

なにしろ二人とも一部だけとは言え、ひみつ道具の効果をこの数日の間に幾度となく体験しているだけあってもう幻想郷以上に幻想しているひみつ道具がこれ以上何をしてくれるのか、気になるのだろう。

 

「……まったくもぅ、あの子は新聞が絡むと本当に見境がなくなるんだから……」

 

逆にこの場にいる面々の中で唯一困ったような……実際に困っているのだろう。のび太にまで神社の修理を手伝わせようとしている文にため息をついたのは実母でもある天魔だった。

神奈子から話を受けて捜索隊や文に命じての、のび太の保護を各天狗たちに命じたその先がこれなのだから、母親としても天狗の長たる天魔としても、ため息の一つくらいは吐かなければやっていられないのかもしれない。

そして天魔の言葉からも、昔からずっと文の性格が変わらない事も伺える。

結局『こうなったら、のび太が危険にさらされそうになったら動くしかない』と、天魔は天魔で一人娘である文の動きに気を付けながら、神奈子たち守矢神社の面々、あるいは霊夢や魔理沙とはまた違った緊張感でもってのび太と文の行動を観察する事になるのだった……。

 

「さて、修理に当たって一体何を出してくれるんでしょうか?」

「…………はぁ、わかりました。えっと……そうですね。この神社のあちこちを直すとなれば……あった!『タイムふろしき!!!』」

「……なんだよのび太、また布切れじゃないか」

「落ち着きなさいよ魔理沙。あののび太が出した物なのよ? ただの布切れの訳がないでしょう」

 

霊夢がただの布切れの訳がない、とは言ったものの、魔理沙の言葉もあながち間違いではない。

何しろ(文に脅されて、半ばあきらめながら)のび太が取り出したのはグルメテーブルかけではないにせよ、また一枚の布切れだったのだから。

この一見するとそれぞれの面が赤と青に染められた、珍しい柄のふろしきにしか見えない布切れこそが包んだもの(あるいは被せたもの)の時間を進めたり(つまりは古くなる)、また逆に巻き戻したりする(つまりは新しくなる)効果を持つタイムふろしきである。

かつて『のび太の恐竜』において、のび太が偶然から発掘した恐竜の卵の化石をこのタイムふろしきで包み、卵として復元させた上、1億年と言う途方もない時間の果てにフタバスズキリュウ(厳密には恐竜とは言えないけれども)のピー助を孵化させたのはのび太にとっても忘れられない思い出である。

とはいえ、まさかこの現代でフタバスズキリュウを育てるわけにもいかず、一億年前の日本に送り返す事にしたのだ。それがのび太たちが幾度となく体験する事になる全ての大冒険の始まりの冒険でもあった。

そんなタイムふろしきを取り出したのび太はさっそくその場の全員に説明を始める。

 

「えっと、これはタイムふろしきって言って……えっと、包んだりかぶせたりしたものの時間の流れを進めたり、逆に遡ったりできるんです。僕がやったのはええと、一億年前の恐竜の卵をタイムふろしきで包んで卵に戻して孵したりさせました」

「「「「「「「いっ…………………………」」」」」」」

 

一億年、つまりは……ジャイアンいわく『一年の一億倍』。

あまりに巨大な時間の壁に、ピンとこないと言うのび太たちにドラえもんが説明した(その当時の学説で)のは、「昔々あるところに王様とお妃様が~」のお馴染みのフレーズで始まるおとぎ話の時代がざっと千年前、その倍の二千年前にはキリストが生まれた。ここからクリスマスや西暦は始まっているのだ。

で、さらにその倍の四千年前になると世界各地に四大文明が発生しており農耕などもはじまるようになる。もひとつおまけに倍の八千年前にまでさかのぼってくるとその頃にはまだ文字の発明がなされていないため、記録がないのでその時代の様子はほとんど不明なのだと言う。

化石や石器などによるものではなく、明確な記録が残っている人類の歴史なんて高々数千年。

その数千年の年月をさらに一万回以上と言うレベルで繰り返してようやく一億年が経過する……などと言う途方もない気の遠くなるような年月であると言うのがドラえもんの説明だった。

もちろん神話の時代からこの国を治めてきたのであろう神奈子と諏訪子、はたまた妖怪として長い時間を生きてきたであろう天魔や文からしても、はるか歴史の向こう側である恐竜の闊歩する時代まで時間を巻き戻せる、などと言う何も知らなければ与太話か冗談としか聞こえない話に誰もが口をぽかん、と開けて唖然としながら、それでもなんとか誰もがのび太の話を聞いていた。

 

「説明するよりも、これもテーブルかけみたいに実際に使って見せた方がいいかな。皆さんちょっといいですか?」

 

が、いくらなんでも外の常識が非常識に、外の非常識が常識となるこの幻想郷でも流石に一億年もの昔の状態まで掘り出した化石を戻して卵を孵化させた、などと言っても普通は信じないだろう。

紫辺りが話を聞いたら、叫ぶどころか泡を吹きだし白目をむきながら卒倒しそうである。

それならばグルメテーブルかけのように実際に使っている所を見せた方が説明するには手っ取り早い、そう考えたのび太はタイムふろしきを手に洩矢神社の境内へと出るように声をかける。

ぞろぞろとのび太を先頭にまだ修理が終わらないボロボロの境内へと出てきた一行を前にして、のび太はマタドールか手品師のようにタイムふろしきを広げ、赤い面を上にして境内へと置いた。

 

「「「「「「「えええええっ!?」」」」」」」

 

次の瞬間……のび太以外の全員から、もう何回目になるのか分からない驚きの声が上がる。何の事はない、タイムふろしきの効果で数時間時間を巻き戻す。

つまりはボロボロになる前の早苗がしっかりと掃除をしていた状態の境内へと修復されたのだ。もっとも、タイムふろしきの効果を考えればそれは修復と言っていいのか、疑問ではあったけれども。

『その説明は長くなるからまたにしよう』とドラえもんが言いそうな作業を終えたのび太からすると、タイムふろしきでの時間操作はもう見慣れた光景なのだけれども、初めて見る彼女たちにとっては、ただふろしきをかぶせただけで十数秒程度待てば修復されてしまうと言う出来事さえ魔法か、あるいは奇跡のように見えたのだろう。

仮に、これでもしこの幻想郷の技術でもって同じことをタイムふろしきを使わずに行った場合、一体どれくらいの時間がかかるのか。

間違いなく十秒程度で終わるような事はあり得ないのだと、この様子を見ていたみんなの反応を見れば間違いない。

そして、境内の修理が終わったのび太はたった今使ったタイムふろしきを手に、自身を修理に誘ってきた張本人。むしろ神社を半壊させた張本人であり、今もあまりにあっけない修復作業を目にして呆然としている文をよそに、のび太はスペアポケットから取り出したタケコプターを頭に載せ、今度はヒビが入った鳥居へと飛んで行く。

 

「文さん、それじゃあ全部傷んだ場所は直してしまいましょう!」

「あ、は、はい……」

 

無理矢理にのび太を洩矢神社の修理に駆り出そうとしていたさっきまでの威勢はどこへやら。

残りの場所も早く直して修理を終わらせてしまおうと言うのび太の言葉に、今度は文がこくこくと首を縦に振る事になるのだった。

そうして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、それにしてもとんでもない子供がやって来たもんだね……。短く見積もっても数日はかかるとおもっていたんだけどねぇ……」

「おまけに、神奈子様が『少し余分に巻き戻して、鳥居や社殿を新品同様に新しくしてくれ』ってお願いしたら本当に前よりも新しくなってしまいましたからね」

「本当に未来の道具って言うのははすごいねえ、神様の私たちが言うのもなんだけれどさ。あれだけの事を苦労も代償も、対価もなくあっさりとやってのけられると、まるであの子も外からやって来た神様みたいに見えるよ」

「……なあ、霊夢。守矢神社を直すのにかかった時間、どれくらいだろうな? 本当にすぐに直ったぞ……」

「たぶん十分もかかってないわねあれは……。こうしてみると改めてのび太ってとんでもない子供よね」

 

数分後、タケコプターであちらこちらを飛び回りながら傷んだ場所をタイムふろしきで直す、もとい時間を巻き戻しながら修復していったのび太の作業は当初神奈子たちが考えていた想像以上の、ありえない常識はずれな速さであっという間に終わってしまった。

おまけに神奈子の言葉にもあるように境内を直した後で、さあ他のところもやってしまおうとしていたのび太に神奈子が待ったをかけ『時間を巻き戻せるのならもう少し余分に巻き戻して、いろいろと新しくできないか?』と持ち掛けたのだ。

余談だがその話を聞いた霊夢は『なんで守矢神社だけなのよ! ずるいじゃない!! うちの神社もやりなさいよね!!』と暴れそうになったものの、のび太が後で博麗神社の社殿や鳥居もタイムふろしきで新品同様に時間を巻き戻す、と約束した事で霊夢も納得し、その場は事なきを得ている。

なお、当然のようにこの一連の作業に文は()()()()()()()()()()()()()()。いや関わる余地などどこにもなかった、と言うべきか。

なにしろタイムふろしきをかぶせて約十秒程度待てば放っておいても元に戻ってしまうのだ。かぶせて、待って、おしまい、すべてがこの三工程で終わってしまうのだから、のび太一人で十分手が足りてしまう。

結局、守矢神社の修復作業はその全部の作業をのび太が行う事になり、文は威勢よくのび太を巻き込んだはいいものの、のび太の様子をただ呆然と眺めているしかできないと言う、文からしてみれば非常にまずい状況になっていた。

新聞のネタのためにハイリスクハイリターンな賭けに打って出て、のび太を修理に巻き込んだはいいものの、取り出されたひみつ道具タイムふろしきが文の想像を斜め上に超える能力を持っていたため、のび太に作業させるだけさせておきながら自分は何もしませんでした、と言う状況。

そしてそんな事を決して赦しておかない、恐ろしい人物が今この場所にいるのだ。

 

「あ、あやややや……まさかこんな短時間で終わってしまうとは……しかも無理やりあの子に修理を手伝うように仕向けたのに、私が何もしていないなんて……これはまずいです……。どうにかして逃げないと……」

「文、貴女は一体何をやっているのかしら……?」

「……っ!?」

 

が、残念ながらもう手遅れだったようだ。その証拠に、早くどうにかしてこの場から離れようと考えを巡らせていた文の背後から文の母、天魔のそれはとても穏やかな声がかけられる。

もちろん穏やかなのは声だけで、実際には絶対零度、先ほど自分がのび太から直撃した猛吹雪もかくやと言う恐ろしいものである事を文は重々承知していた。

のび太が目を覚ます前にこっぴどく怒られたのとは訳が違う、完全に怒った母親の声。『ここまで本気で怒らせたのは何十年ぶりでしょうかね』などと考えている間にも、鬼気迫る天魔の気配は大きくなってゆく。

振り向いたら命が危うい、それは分かっているのだけれども振り向かなければそれもまた命の危機に直面する。

どっちに転んでも手詰まりなこの状況で、すでに天魔の鬼気迫る気配に気が付いた霊夢、魔理沙に神奈子、諏訪子、早苗はのび太を今度こそ守るようにとかばうような格好でとっくに天魔と文の母子から離れていて、何があっても対応できるようにと身構えていた。

つまり、今この場にいるのはほとんど文と天魔だけに等しい。その上で文は逃げなければいけないのだ。

もし逃げられなければ……命の保証はない。

 

『どうする……どうする……どうすれば逃げられるでしょうか。それも、今まだ翼が吹雪のせいで傷んだこの状況で……』

 

新聞の〆切直前の修羅場をも越える早さでもって頭をフル回転させ、どうにかこの状況を打破する方法を考える文。流石に自分の命がかかっていると言う事もあり、その目からも真剣さが伺える。

 

『せめて()()()()()()()()……ん?』

 

地上を走り回るとなればちょっと速い、程度に落ちてしまうが鴉天狗の文の本領は空である。今はボロボロになってしまっているが、その翼さえ元に戻れば元々文は幻想郷でも空を飛ぶ速さは最速と呼んで差し支えない速さなのだ。

その翼を元に戻せればと考えた時文の頭に閃いた一つの方法。そう、戻す方法ならあったのだ。それもすぐ手の届くところに。

たった今、文がのび太に襲い掛かり応戦した結果ボロボロになってしまった守矢神社をあっという間に修復したタイムふろしき、あれを使えば時間を巻き戻して翼が傷む前の時間に戻せるに違いない。一度翼が戻ってしまえば、後は自慢のスピードで逃げ切ってしまえばいいのだ。

 

「文、逃げられるとでも思っているのかしら? そんな傷んだ翼では自慢の速さも出せないでしょう、大人しくしなさい。そうすれば少しだけ叱られる時間が減るわよ……?」

「あやややや、これは本気ですね……でも私は逃げ切って見せますよ!! 天魔の役目についてから事務仕事ばっかりで最近はろくに飛んでもいない天魔様が現役の私に追い付けるとでも思っているんですか?」

「へぇ……そう、それが文の答えなのね……。いいわ、天魔の力とくと見るがいい!!」

 

母親でもある天魔から突き付けられた最後通牒もものともせず、逃げ切って見せると豪語する文の返事に天魔の額に青筋が浮かぶ。

その表情はのび太の0点の答案を見つけた時のママの顔にそっくりだ。

学校の作文で『怖いものはうちのママの怒った顔です』と書くほどに恐ろしいのび太のママの怒った顔に匹敵するレベルの迫力で怒りを表現する天魔だが、文にはタイムふろしきと言う勝算があった。

その方法を実行すべくくるりと天魔に背を向けると、手にした葉団扇を一振り。のび太たちの方へ向けて振り下ろす。

とは言え、全力で振り下ろそうものならのび太のバショー扇程でないにしろまた洩矢神社に被害が出てしまうのでそこはきちんと力を加減しながら振り下ろしたのだ。

 

「あいにくですが、その力はまた今度お願いします……それっ!!」

「うわっ!」

「ちょ、ちょっと文何するのよ!」

「逃げるためですよ、すみませんがちょっとお借りしますね」

「あーっ、タイムふろしきが!」

「まずいわ、追うわよ魔理沙!」

「おう、何としてもふろしきを取り返すぜ!!」

「文、待ちなさい! よその子に迷惑をかけるんじゃありません!!」

 

まさかこの期に及んで弾幕ではなく天狗の葉団扇による突風を起こしてくる事で、皆の対応が一瞬遅れてしまう。

これがもし仮に弾幕を撃ってきたのなら、霊夢たちも弾幕による相殺をする事もできただろう。

けれども何の変哲もない、ただの強いだけの風となると逆に防ぐ事が難しくなってしまう。そこを文は突いたのだ。もちろん、その隙を見逃す文ではない。

いきなりの突風を受けてたたらを踏むのび太へと素早く駆け寄り、修理が終わった後でまだスペアポケットにしまっていなかったタイムふろしきを無理やり奪い取るとそのまま鬼ごっこの鬼から逃げるかのように、その場から走り去りながらタイムふろしきを自分へとかぶせた。

もちろん、そこはきちんと見ていたので赤い方を上にする……包んだりかぶせたものを新しくする側を選ぶ事も間違えない。

後ろから霊夢や魔理沙に天魔の怒声が聞こえてくるが、翼さえ治ってしまえば追いつかれる要素はほとんどなくなる。

 

 

 

…………文はそう、思っていた。

 

 

 

文の作戦は問題ない、そう言っていいだろう。ただ一つの問題点を除けば。タイムふろしきの効果、それを文はまだ完全には理解していなかったのだ。

すなわちどれくらいの間タイムふろしきに包まれた場合、どれくらい時間が動くのか、と言う点だ。

それを知らないまま文はタイムふろしきをかぶったまま、逃げるのに夢中でひたすらに走り回っていた。

それがどういう結果をもたらすのか、失念したまま……。

 

「……? 変ですね、なんだか走りにくくなってきましたけど……ああっ! こ、これはまずいです。治すどころか、自分の事をもっと巻き戻してますよねこれ……」

 

だから文は、タイムふろしきをかぶった自分の時間が想像していた以上に速く過去へと向かい過ぎてすでに翼を治すどころか、もっとはるか昔の頃にまで巻き戻っている事にようやく気が付いた時には服や兜巾、下駄などもどんどん幼くなった文の身体とはサイズが合わなくなっていた。

当然そんなぶかぶかの恰好で走り回ればどうなるかは想像に難くない。

外の世界ですぐに大きくなるからと多少余裕を持たせた格好をした子供が、ぶかぶかの靴などで転ぶ事があるように今の幼くなった文にとっても、元の姿の文がしていた格好と言うのはあまりにも不安定過ぎた。

そんな恰好で走ればどうなるかは言うまでもなく……。

 

「……あっ! 痛ったぁ……、やっぱり身体が縮んでいると、走りにくいです……って、ああっ! は、早くどかさないと……」

 

走る事に夢中で転んでしまうのは仕方のない事だろう。が、そこで終わればまだよかったのだろうけれども、さらなる不幸が文を襲う。

なる地面につんのめるように転んだ文の背中に、タイムふろしきがかぶさったしまったのだ。

しかも赤い方を上にして。ただでさえもう幼い容姿にまで時間が遡っていると言うのに、これ以上さらに時間が退行してしまったら果たしてどうなってしまうのか? 当然もっと時間が遡ると言う事だ。

そして布切れ一枚と言う形をしたこの道具には見た所緊急時の停止装置などが付いているようには見られない。

つまり、おそらくは時間を巻き戻したり進めたりし続ければ、それこそ文の場合ならこのままいけば赤ん坊からさらに胎児に、胎児よりももっと原始的な単細胞に戻り何もなくなってしまうまで、融通を聞かせる事もなく限界まで時間制御が行われる可能性が大きいのだ。

時間を巻き戻し過ぎて、この世から消滅など笑い話で済む問題ではない。

それこそ母親でもある天魔に思い切りこっぴどく叱られた方が生きている可能性がある分まだマシではないか。

と自信に消滅の危機が迫りつつあった今、逃げるとか、天魔の恐怖などと言う些末な事は今の文の頭の中からは完全に抜け落ちていた。

そんな文を捕まえようと後から追いかけていた霊夢と魔理沙がようやく追いついた時、二人の目の前にいたのはぶかぶかの服を着て、タイムふろしきで早く元に戻ろうと悪戦苦闘する身長が縮んでしまった文の姿だった。

 

「こら、文、待てーっ! って……あ、あははははははははっ!!!」

「魔理沙、いきなり笑いだしてどうしたのよ? ……ぷっ、あ、あははははははっ!! ずいぶんち、縮んじゃったわね!」

「わ、笑わないで下さいよぉ。って言うかお願いですから助けて下さぁい!!」

 

そう、タイムふろしきで巻き戻されつつも文はどうにかタイムふろしきを自分の身体から退けて、時間の逆行を止めたのだった。とはいえその代償は決して小さいものではないのだけれど。

自分の意図した以上に身体が幼くなってしまいべそをかきながら助けを求める文の姿に、霊夢と魔理沙がお腹を抱えて、これぞ『抱腹絶倒のお手本』とでも言わんばかりに大爆笑したのは言うまでもなかった。

ちなみに、この後霊夢と魔理沙に続いて文を追いかけてきたのび太以下全員が(天魔まで)同じように縮んで幼い格好になってしまった文の姿を見て大笑いしたのは、また別の話である……。

 

 

 




ぶんぶん文ちゃん、まさかの幼児退行!!! むしろ怒られるよりもこちらの方が危機一髪なのではないでしょうか(汗

ちなみに、確か原作でもタイムふろしきでジャイアンが同じようにタイムふろしきの効果で赤ん坊に戻っていたりしましたので、割とこういった事故は起こりうると思うんですよね。
それこそ人間の寿命程度ならタイムふろしきかぶせて逆行させてしまえばリミッターがない限り、卵細胞まで戻してしまえばそのまま消滅させてしまう事もできると言う倫理に則らなければ実は恐ろしい兵器としての使い方も……。

もちろん当作品のキャラクターたちはそのような使い方をする人妖はいない予定ですのでご安心下さい。



さて、洩矢神社の修理も終わり、次はどのような騒ぎがのび太たちにやって来るのでしょうか?


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戦い終われば……(その1)

遅くなり申し訳ありません。
のび太と文との守矢神社修理代作戦? が無事に終わりました。なので東方原作恒例の、異変が終われば……という一幕になります。




タイムふろしきで傷んでいた社殿の修理も無事に終わったはいいものの、最後の最後に鴉天狗の文が母親である天魔から逃げようとしてタイムふろしきを使った挙句に、時間を巻き戻し過ぎて縮み過ぎてしまうと言うそんじょそこらの異変もかくやと言うトラブルが降って湧いてきたここ洩矢神社。

なんとか文からタイムふろしきを取り返したのび太だったけれども、ようやく守矢神社までたどり着いて目的を果たしたからさぁ、後は博麗神社まで帰りましょう……とはならなかった。

 

「……それでは、乾杯!!!」

「「「「「「「かんぱーい!!!!」」」」」」」

 

守矢神社の祭神が一人、神奈子の音頭に続き境内のいたる所で起こる、乾杯の声。

一体どうした事なのかと言えばなんの事はない、のび太の事をすっかり気に入ってしまった神奈子と諏訪子に加えて妖怪の山の天魔までもが『せっかくはるばる来てくれたのに、妖怪の山(うち)の連中が迷惑をかけたんだ。お詫びもかねて一席設けさせてもらう』と言い出したのだ。

この申し出にのび太も最初は『もう終わった事ですから』と断りを入れたのだけれども、タダでお酒が呑めるチャンスと踏んだのか保護者役の霊夢と魔理沙が乗っかってしまった。

 

「のび太、せっかく誘ってくれているんだ。あまり遠慮しすぎるのはよくないぜ?」

「そうよ、それにいい機会なんだからここで妖怪の山の妖怪とも顔見知りになっておいて損はないわよ?」

「えぇ……そんなぁ……」

 

さすがに博麗神社に居候させてもらっている身の上であるのび太としては、家主が飲んでいこうと言っているのに『じゃあ僕だけ神社に帰りますから』とも言えず、ずるずると引きずられるように宴に参加する事になってしまったのだ。

とは言え、妖怪の山側もそうすんなりと飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ……となった訳ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は反対です! いかに天魔様や神奈子様たちがよいと言っても、白昼堂々と妖怪の山に侵入し我々天狗に向かって刃を向けた人間と共に宴を楽しもうなどと!!」

『…………!!!』

 

やがて『本日夕方より守矢神社にて宴会を行う故、主だった天狗や河童は皆守矢神社の境内に集まるように』と言う天魔から妖怪の山に下された招集令を受けた天狗や河童たちが続々と集まってきた。

誰もかれもが各々の持つ仕事を終えたのか、これからお酒が呑めると言う事なのか皆楽しそうな表情でずらりと並んだ妖怪と言っても、皆が皆人間とほとんど変わらない姿なので事前にここが妖怪の山、あるいは椛や文と言った妖怪たちと出会わなければのび太もそうとは気が付かなかったかもしれない……たちの中で、真っ先に反対意見を出したのは他でもない、昼間守矢神社に来る前に参道で魔理沙に振り落とされ山の中をさまよった挙句に遭遇、戦いになった犬走椛である。

二人が出会った時に起きた弾幕勝負では椛の放つ弾幕が迫りくる中、無事にフワフワ銃を命中させたのび太の勝利であったが三時間で切れる銃弾の効果はここに来るまでの間にしっかり切れたようで、今ではフワフワ銃が命中した直後の風船のようにまんまるい格好ではなく、すらりとした最初に出会った頃の体型に戻っている。

その椛が、同僚の白狼天狗と共に守矢神社へと到着して事情を説明されるや否や、真っ向からのび太へとかみついた。

……もっともそこにあるのは人間への敵対心と言うよりも、フワフワ銃の効果でまんまるい風船のような体型にされたあげくに同僚からも大笑いされたと言う、実に個人的な恨みの方が大きいようにも見られたが。

しかし、この言葉によって完全にその場の妖怪全ての視線がのび太へと集中してしまった。

なにしろ今日の昼間に妖怪の山全体に緊急事態として、外来人の子供が守矢神社へ来る途中で迷子になってしまったため、速やかな捜索と見つけ次第保護をするようにと数十年、数百年に一度あるかないかと言う内容の連絡が走ったのだから誰もが忘れている訳がない。

そしてこの場にいる見慣れない子供、となれば誰がどう見ても『見慣れない子供=今日連絡が入った迷子』と言う公式は容易に描き出せるに違いなかった。

椛の抗議に乗り一緒に抗議をするべきか、あるいはここは人間の子供を受け入れるべきか、ざわざわとざわつく他の天狗たちの様子など気にするでもなく、抗議の声を受けた天魔は落ち着いた口調で椛に尋ねた。

口調だけ聞いたら、とても昼間に文を叱っていた天魔と同じ人物とは思えないだろう。……あるいは相手が娘の文だからこそ、ああなるのかもしれない。

 

「……お前は確か犬走哨戒部隊長、だったな。報告によれば、お前は今日この外来人の子供と接触、戦闘を行っていると言う報告を受けている。それは事実(まこと)か?」

「はっ……それは、事実です」

 

天魔の問いかけに一瞬答えるのをためらうようなそぶりを見せてから、椛は深々と頭を垂れて間違いないと答える。

しかし件の人間の子供に負けたと言う椛にとって恥ずかしい事実があるせいか、なるべくならのび太と出会ったと言う事実さえ、まわりに知られたくはなかったとその表情ははっきりと嫌そうにしている。

けれども椛が嫌そうな表情をしていられたのもそこまでだった。

なんの事はない、さらにあっと驚くような発言が天魔の口からから発せられたのだ。

 

「うむ、実はな。今日はこの犬走哨戒部隊長ともう一人、妖怪の山の者でこの子供と接触、戦闘になった者がおるのじゃよ」

「「「……はぁっ!?」」」

 

このまったく予期しない天魔の発言に、椛を含めた白狼天狗、鴉天狗に加えて河童までもがきれいに声を揃えて驚きの声を上げる。

妖怪の山に入り込んだ外の人間の子供、それは非力で空を飛ぶ事もできないような天狗どころか河童から見てもたやすく追い払い、脅し、やろうと思えば命をも奪えるようなひ弱な存在だったはずだ。それが白狼天狗と戦い、さらにもう一人誰かと戦ったと言う。

さらに言えば今その戦った相手であろう子供は傷一つ負った様子は見られない。つまりは、逃げたにしろ勝ったにしろほとんどの弾幕を避けたと言う事になる。

では、そのもう一人の相手ははたして誰なのか……?

 

「し、しかしそれならば……もう一人、その子供と戦ったと言う相手は一体誰なのですか?」

 

その場全ての妖怪たちの気持ちを代弁したように、椛が天魔に問いかけた。

椛だけではない、他の妖怪たちもそうだそうだと各々に頷き、一体誰なのか非常に気になっているのが見てとれる。

 

「他でもない、鴉天狗の射命丸文じゃよ。もっとも、今はその時の勝負で受けた手傷を癒しておるゆえ、この場には来られんがその事に嘘偽りはないと二人の勝負に立ち会った私が証明しよう」

 

 

 

ざわ……ざわざわ……

 

 

 

ざわざわ……ざわざわ……

 

 

 

鴉天狗の射命丸文に人間の子供が、それも外から来た外来人が手傷を負わせた……天魔の口から語られたこの情報で、場に居合わせた妖怪たちにいっせいに動揺が走る。

実際に戦ったのび太はあまり理解していないかもしれないけれども、鴉天狗の射命丸文は妖怪の山に暮らす妖怪の中でも決して弱くない妖怪として認識されている。これは河童、天狗の誰に聞いてもおおよそ同じような回答が返ってくるだろう。

その文に今もなお療養を必要とするだけの手傷を、つまりは決して軽くない傷を負わせ、それでいながら自分はほとんど無傷に等しいとなれば、目の前の大して強そうでもなくどちらかと言えばパッとしない子供が果たしてどれほどの実力を秘めていると言うのか。

しかも天魔自らが二人の勝負に立ち会い、その結果を見届けていると言う。

妖怪の山を束ねる天魔にここまで言われてしまってはのび太の実力を認めざるを得ない、逆にこれ以上異を唱えればこちらが反逆者と見られかねない……そんな空気がその場に居合わせた妖怪たちに漂い始めた。

 

 

 

……当然ではあるけれども、もちろん真実は決してこの限りではない。

 

 

 

タイムふろしきに包まれる事でちんまいサイズにまで縮んでしまった文を、神社を壊しおまけに修理をのび太に半ば押し付けるような格好になってしまった罰として『しばらくそのままでいなさい』と言う天魔の言葉もあって、出るに出られない文は守矢神社の母屋で隠れるように、避難していたのだ。

万が一にも妖怪たちに見られた日には、向こう数百年にわたって同じネタで笑いものにされるか鴉天狗たちに写真を撮影されて、数多の新聞で翌日の記事の一面を飾るか、どちらにしてもろくな事になるとは思えない。

となれば、真っ先に飛び出してきても不思議ではない文が出てこない事を怪しまれないためにも、天魔や神奈子以下、文が縮む場に居合わせた全員で文はのび太との戦いで手傷を負ってしまい、その療養のために酒宴の席には来られないと言う形で口裏を合わせる事にしたのだった……。

 

「犬走哨戒部隊長、お主の言いたい事も一理ある。しかしこの子供はお主だけでなく、鴉天狗とも真っ向から撃ちあい、小細工なしで勝利して見せたほどの強者よ。私が認めたのだ、それでは……不服か?」

「いっ、いえ! 決してそのような事はございません!」

 

椛がばばっ、とその頭を深々と下げ自身には天魔の言に対し異論のない事をアピールする。

のび太がこの場にいる事に対して反対していた筆頭でもある椛がそのような態度になれば、他の妖怪たちもこれ以上反対する理由はどこにもない。

そんな外来人の子供一人がこの場にいる事に固執するよりも、彼らだって早くお酒が呑みたいのだ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、まずはお酒を出しますね。あ、でも……僕お酒を飲んだ事がないんですけど、どんなお酒がいいんですか?」

「気にするな、出せる中で一番良い酒を出してくれればそれでよい」

「はい、じゃあ……美味しいお酒!!!」

 

そうして、彼らは手に手に升酒を持ち乾杯をするのだけれども……その皆にふるまう樽酒をグルメテーブルかけから当たり前のようにのび太が取り出し、その場の妖怪たちがひっくり返りながら口々に『妖術じゃ! 妖術遣いじゃ!!』『ええい面妖な、幻術で我らをたばかるか!』『天魔様、お下がりください! すぐにこの妖術遣いを始末いたします!』などと叫び、全員を驚きと言う名の阿鼻叫喚に陥れる事は、まだ誰も想像していないのであった……。




これから宴会が始まるのですけれども、やっぱり初見だと悪魔の技にしか見えないグルメテーブルかけ、妖術か幻術そのものですからね。
霊夢や魔理沙たち、幻想郷の面々は子供でも遠慮なしにお酒を飲んでますけどそもそも小学生だからのび太はお酒を飲んじゃいけないんですけどね。(飲んじゃダメと言うよりもサイラン液でパパのウイスキーを殖やそうとした時に、ウイスキーの匂いで酔っぱらうくらいにはのび太は強くないでしょうから飲んだらそのまま倒れそうな気が)


この後は宴会の中の話、あるいは宴会が終われば少し話を動かそうかと思っています(予定は変わる事もあるbyチッポのパパ)


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戦い終われば……(その2)

皆さま大変お待たせしました。守矢神社の宴会第二幕でございます。
妖術遣いのび太(違 の取り出したお酒が皆にふるまわれます。


「おーいのび太、悪いがまた樽酒のお代わりが必要みたいだぜ」

「みんなよく飲むなぁ……、でも魔理沙さんに霊夢さんまで一緒になってお酒飲んでますけど、いいんですか?」

「のび太、ここは幻想郷だぜ? 常識にとらわれていたら負けなんだぜ」

「常識がどうかは置いておいて、細かい事を気にしちゃダメよのび太。と言う訳でお酒のお替りお願いね。あ、ちなみに妖怪の山の妖怪はみんな大酒のみだから、余るなんて事はないから遠慮しないで出していいわよ」

「は、はーい。それじゃあ……美味しいお酒!!!」

 

守矢神社の境内で始まった妖怪の山を挙げての大が三つくらい付くほどの大宴会。

しかもそのお酒はのび太の持つグルメテーブルかけから、まさしく無尽蔵にいくらでも出てくるのだから天狗に河童も神様も、遠慮と言う言葉をどこかその辺に放り投げてきたかのように誰もが浴びるように酒を飲み干すと言う、見ているだけで酔っぱらうか二日酔いで吐きそうな光景が至る所で繰り広げられていた。

これが普段の宴会なら供されるお酒も当然量に限りがあるため、多く用意していても結局一人一人が呑めるお酒の量は決まってしまうけれども今日に限ってはそんな心配もなしに、文字通り好きなだけ呑めるのだから楽しくない訳がない。

少し前に出したはずの樽酒はあっという間に中身が空っぽになり、のび太が次から次へと取り出す新品の樽酒をまた天狗や河童たちが行列を組み、あっという間にお酒を汲んでは空けていく。

道端に落ちたお菓子に群がる蟻だってもう少しゆっくりなのではないだろうか?

 

「よーし、誰か勝負だ!! 私と飲み比べのできる者はおらんか!?」

「いいぞ、いけーっ! 誰か天魔様を負かしてやれ!!」

「よし、儂がいこう! ここらで一つ、天魔様に黒星を付けてやろうかのう」

「面白い、大天狗め。私がどうして天魔の座に就いたのか、今一度その身に教えこんでやる必要がありそうだのう」

 

おまけに天魔様に至っては、樽酒をそのままひょいと持ち上げて樽を杯代わりに飲み干そうと無茶な事を言いだし、どちらが先に酒を飲み干せるか勝負だなどと周囲の天狗や河童を煽る始末。

それに応えるように一人の大柄な天狗……天魔曰く大天狗なる妖怪らしい、が天魔に挑戦状を叩きつけた事で場の興奮は一気に最高潮へと燃え上がった。

天魔と大天狗のどちらに軍配が上がるのか、体格などを考えれば大天狗の方が多く飲めそうではあるけれどもそこは天魔、伊達に妖怪の山の長はやっていないのですとでも言いたげな言葉から、彼女も決して弱くはないのだろうと言う事が想像できた。そして……。

 

「それでは……はじめっ!!」

 

いつの間にやら、この勝負の審判役を務めるらしい事になった鴉天狗が発した開始の掛け声、そして振り下ろされた団扇と共に、天魔と大天狗とが樽酒の樽をひょいと持ち上げるが早いがその中身を呷り始めた。

のび太の腕力ではとうてい持つ事もできないような重さの酒樽を軽々と持ち上げ中身を飲み干して行く姿は、人間と同じような姿ではあるものの人間とは違う存在なのだと嫌でも思い知らされる。

腕力一つとってもそれなのだから、とうてい飲みきれないような量のお酒など妖怪たちにしてみれば大した量ではないらしい。

大天狗のがっしりとした体ならばまだともかくとして、天魔のすらりとした体のどこにお酒が入っているのか? と思いたくなるようなのび太の疑問を無視して徐々に徐々にと酒樽を傾ける天魔は大天狗よりも先に中身を空っぽにしてしまい、ドン! と勢いよく飲み干したばかりの酒樽を地面に置いた事で、場の天狗や河童たちからはどよめきが起こる。

「「「「おおーっ!! さすがは天魔様だ!!」」」」

「ふっふっふっふ、まだまだだな大天狗よ。私を負かしたかったらもう少し酒に強くなって出直してくることだぞ?」

「くっ……、ええい! 天魔様の胃袋は化け物か!?」

「……そ、それではこの勝負! 天魔様の勝ち!!!」

「ええ……あれ飲んじゃったんですか? だって、取り出したばかりだったからかなりたっぷりのお酒が入っていたはずですよ?」

「ふっふっふっふ。のび太、これが幻想郷では当たり前なんだぜ」

「ええっ!? じゃあ、霊夢さんや魔理沙さんも、ああやって酒樽もって飲んじゃうんですか?」

「こら魔理沙、何言ってるのよ。私たちはあんなに飲める訳ないでしょうが。妖怪の山の妖怪や一部の例外だけよ、あんなに飲めるのは。だからのび太もそんなにおびえたように私たちを見なくても大丈夫よ」

「で、ですよねぇ……。でも、本当にあの妖怪の人たもはしかしたらミニブラックホールでも飲んでるんじゃないかな……?

 

ちなみに負けたとはいえ大天狗も天魔が樽を空にしたその数秒後には樽を空にしているのだから、手軽に酒樽を出せるとはいえのび太からすればたまったものではない。

おまけにその様子を見て驚いているのび太に魔理沙が乗っかるものだから、のび太は素直に霊夢や魔理沙までもが軽々と酒樽を持ちながら豪快にお酒をがぶ飲みしている光景を想像してしまったようで、顔を青くしながら二人を交互に見つめていた。

霊夢の訂正がなければ、間違いなくのび太にとって霊夢も魔理沙も妖怪並みの大酒のみと言う認識をしていたに違いない。

幸いにも霊夢が訂正してくれたおかげで、のび太の想像した妖怪大酒飲みな魔理沙と霊夢は文字通りの幻想と化した。

しかしそれにしても、天狗たちのお酒の飲みっぷりはのび太が今まで出会ったどの星の人や次元の人々と比べてもおかしい、と言い切れるレベルでおかしい飲みっぷりだった。

霊夢や魔理沙には聞き取れなかったみたいだけれども、もしかしたらここの妖怪たちはみんなひみつ道具の『ミニブラックホール』でも飲んでいるのかもしれない。

そうのび太に言わせるほどに。

 

 

 

『ミニブラックホール』

 

 

 

それはのび太が以前ジャイアンとの大食い勝負をする時に使ったひみつ道具で、文字通りブラックホールのミニサイズの模型である。

ただしたかが模型と侮るなかれ。光さえ逃げられない吸引力を持つまさに宇宙の墓場と言うだけあって、物を引きずり込む能力は現実のブラックホールとも大して違いはなく、ミニサイズと言いつつ全部飲み込んでしまえば(ブラックホールを一かけら口から飲み込むだけで、異常なほどの食欲になる。)家一軒を丸ごと飲み込めてしまうほどの吸引能力を発揮するのだ。

実際にその恐ろしさを何も知らずブラックホールを全部飲み込んでしまったのび太は、ジャイアンに大食い勝負で圧勝した後でお腹がすいて昼寝もできないと言いつつ居眠りをしながら部屋の中の机やタンス、本棚から中の漫画本まで全部を飲み込んだ挙句、お腹がすいたと言うのび太のためにクッキーを焼いてきてくれたしずかを、クッキーを入れた風呂敷ごとまとめて丸呑みにしかけ、大騒ぎになってしまった。

幸いこの時は飲み込まれそうになっているしずかに気が付いたドラえもんがのび太に『ブラックホール分解液』を飲ませた事で事なきを得たが、あのままドラえもんが気が付かなければしずかものび太に飲み込まれていたかもしれない。

今の天狗たちのお酒の飲みっぷりはのび太にそれを思い出させるほどの飲みっぷりであったのだ。

もちろんミニブラックホールをここ妖怪の山の妖怪たちが飲み込んでいるからこの飲みっぷり、と言う訳では無いのはのび太にも理解できる。あくまでもそれは未来のひみつ道具であってこの時代にはないものなのだから。

けれども、それがあるにしろ無いにしろ、あの文字通り妖怪な飲みっぷりに付いていける訳もなく、のび太は天魔たちのいる場を後にしたのだった……。

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

「それで、君があの射命丸文に勝ったと言うのは本当ですか? どうやって勝ったのかそこの所を是非お願いします!」

「はい、そのままそのまま……いい写真撮れました、ありがとうございます!」

「こちらにも何か一言お願いします!」

「その次はこちらにも何かお願いします!!」

「え、えっと……その……あの……」

 

それなのに、気がつけば天魔や大天狗の飲み比べから逃げるように離れたはずののび太は文ほどではないにせよ、目をギラギラと光らせた、天魔たちの飲み比べの場にいたのとはまた別の鴉天狗の集団にぐるりと取り囲まれ、質問攻めに合っていた。

何しろ妖怪の山の妖怪たちにとってのび太の存在はお酒にも劣らない、まさに話題の中心人物と言える。

結界の外から来た、空も飛べない、霊力や魔力に妖力と言った力も持たない非力なはずの子供が白狼天狗はおろか鴉天狗にも打ち勝ったとなれば、その存在は十分に新聞記事の一面を飾るに値する存在となる……誰もがそう考えたのだ。

確かにこの場にいる彼女たちにとって、ただで後から後からあふれんばかりに出てくるお酒は魅力的ではあったけれども、それよりも彼女たちの中に眠る新聞記者の魂が揺さぶられてしまったようで、お酒よりも前にのび太の情報を他の誰よりも先んじて手に入れるべく、こうしてのび太を取り囲み一言一句をも漏らさぬように、こうして囲んでいるのだった。

万が一にもお酒の誘惑に負けて先に飲んでしまい、潰れてのび太の記事を書き損ねてしまった日にはライバルに先を越されかねない……そう考え、自分の新聞のために必死な者たちがこの場に残り、記事のネタを手に入れようとしている。

それは先に戦った文が、新聞記事のネタになると気が付いたとたんに襲ってきた様子にもよく似ていた。唯一文と違うのは今のび太を取り囲んでいる鴉天狗たちが問答無用で襲い掛かって来ないところか。

もっとも、それもこの場に天魔がいるから、と言う可能性も否定はできないのだけれども。

そんなのび太のピンチを救ったのは……。

 

「はいはーい、のび太から話を聞きたい人は、保護者に素敵なお賽銭を払ってからお願いしまーす」

「またのび太が鴉天狗と戦う、なんて事になったら大変だからな。その辺りはキッチリとさせてもらうんだぜ」

「……と言う訳で、のび太の取材受け付け料は一人五百円から受け付けるわ。びた一文まけないからね」

「え? あ、あの。お金を取るんですか?」

「当り前じゃない、いいのび太? 世の中はお金なのよ!」

「え、でも……」

「それに! のび太がこれからも神社にいるのなら、いろいろお金だってかかるの。そのためにもこうしてお金を用意しておかなくちゃいけないのよ」

『『『『何て強欲な……』』』』

 

押すな押すなと詰めかけてのび太を取り囲んでいる鴉天狗たちの中に突撃し、保護者と言う名目でお賽銭を巻き上げようとする霊夢と魔理沙の二人だった。

もちろん二人は厳密にはのび太の保護者ではない。

けれどものび太が博麗第結界を踏み越える事無く幻想郷に来た時に接触した八雲紫から直々に、博麗神社に居候と言う形で預けられた結果、霊夢は住居を提供していたと言う実績がある(食については完全にのび太依存である事は密に、密に)のもまた事実。

またそうでなくても今日は楽しい宴会の席でもあるし、なにより霊夢の博麗の巫女の実力は決して侮れるものではない……と言うのが天狗や河童の認識だった。

そうでなくてもいきなり乱入してきて金を出せなどと言い出したこの霊夢の発言にはその場全ての鴉天狗が心を一つにしたのだけれども、なにしろのび太の存在が保護者を名乗る霊夢に握られている以上迂闊な事をすれば取材拒否にさえ繋がりかねない。

……結果、鴉天狗たちはなけなしのお小遣いを泣く泣く霊夢が一体どこから用意したのか、手にしている小型の賽銭箱へと順に投げ込む事になるのであった。

もちろんこの予期せぬ増収に霊夢の顔が綻びっぱなしだったのは言うまでもない。

そして、こっそりとスキマからこのやり取りをのぞき見していた紫に『のび太を使ってお金儲けするなんて何考えてるの!』と怒られるのは、また別の話……。

 




質問攻めにあうのび太を助ける、と思いきややはりお金に執着する霊夢。

いよいよ天狗や河童たちにも未来のからもたらされたひみつ道具の存在が明かされます。
特に河童がひみつ道具に触れないのは絶対にないと思うんだ、親和性高そうだし。


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疑惑(その1)

お待たせしました。
守矢神社の異変が終わった飲み会話第三幕です。
何やら不穏なサブタイトルが付いていますが、果たしてどうなるのでしょうか?



「ちなみに、鴉天狗の射命丸文氏を負かしたとの事ですが一体どうやって負かしたのでしょうか?」

「ええっと、その……バショー扇って言う未来の道具でブリザードを起こして吹き飛ばしちゃって……」

「未来の道具? つまり、外の世界には未来の道具があふれている、と言う事ですか!?」

「い、いえ。そうじゃないんです。僕の家に未来から来たドラえもんって言う猫型ロボットがいて、その道具を借りているんです。だから、さっきからお酒を出しているあのグルメテーブルかけも、みんな驚いてましたけど未来の道具だからああやって、いくらでも料理やお酒を取り出せるんです」

「「「「………………………………」」」」

 

のび太への質問で次々と明らかになる、幻想郷の妖怪たちでさえひっくり返りそうになるような驚愕の事実。当初参拝にやって来る途中で迷子になったから見つけ次第保護するように、と言う通達を受けた時には妖怪の山の誰もがただの外からやって来た非力な人間の子供と思いきや、ふたを開けてみれば普通の子供どころか幻想郷でもトップクラスに非常識すぎる、未来の道具などと言う代物を持ったとんでもない子供だったのだから驚くなと言う方が無理と言うものだろう。

この場でのび太の説明を聞いて驚いていないのは、グルメテーブルかけにタケコプター、ついでに弾幕勝負の結果フワフワ銃で撃ち抜かれ大変な事になってしまった……つまりひみつ道具の効果をすでに体験している保護者役の霊夢と魔理沙だけである。

その二人以外にとって、非常識の幻想郷をもってしてもあり得ないはずの未来と言う世界からもたらされたひみつ道具の存在。

しかもこれがただ口で言われただけならただの与太話と笑う事もできたろうけれども、常識と非常識が外とはまるっきり違うこの幻想郷の守矢神社で、実際にこの場の妖怪たちの目の前で、のび太が何もない所からグルメテーブルかけを使い、樽酒を後から後から際限なく取り出すと言う事をやってのけた姿をはっきりと見ている。

妖術でも幻術でもなんでもない、妖術でどこかから空間を介して樽酒を取り寄せたのでもなく、幻術で何もない所でお酒があるように見せかけているのでもない。本当に何もない所から、モノを取り出すと言う本来ならばありえないはずの事を簡単にやってのけて見せたのび太。

それが功を奏したようで、誰ものび太の説明する未来からもたらされたと言うひみつ道具の存在を疑おうとはしなかった。いや、鴉天狗たちにとって他に説明のしようがなかったと言うべきだろうか。

こうして、グルメテーブルかけと言う魔法のような道具を目にした鴉天狗たちへと与えられた未来の道具と言う言葉は、彼女たち鴉天狗の想像力を大きく掻き立てたようで各々唸ったり首を傾げながら、翌日の一面を飾るであろうこの内容をどのような記事にしようかと考え始めていたその時。

 

「ちょ、ちょっと……もしよろしければ、なにかその料理を取り出せる布以外にも、未来の道具の力を見せてもらえませんか……?」

「え、他にも、ですか?」

「はい、お酒をいくらでも取り出せるあの布は私たち以外にも白狼天狗や鴉天狗、それに大天狗様に天魔様もしっかりと見ています。なので、ここにいる私たち以外はまだ見ていない道具を見せてもらいたいのです」

「え、えっと……霊夢さん、魔理沙さん、これってどうしましょうか」

 

一人の鴉天狗が手を挙げて、グルメテーブルかけ以外にも何かひみつ道具の効果を見せて欲しいと言い出した。

確かにお金は皆払ってもらった以上、説明はしなくてはいけないけれどもまさかグルメテーブルかけ以外に何かひみつ道具を使って欲しいと言われても、のび太自身がこの場では自分を含めて誰かが妖怪に襲われた、あるいは誰かを助けなくてはいけないと言った緊急事態でもなければひみつ道具は使うつもりはなかった事もあり、とっさの事に返事に困ってしまう。

 

「そうだな、さすがに文を吹き飛ばしたバショー扇をここで使ったら大変な事になるからな、あれはダメとして……のび太、何かこう、安全かつ見たら誰もがびっくりするようなひみつ道具はないのか? あの、今朝壊れたドアみたいな」

「どこでもドア、だっけ。あれは確かに初めて見たら腰を抜かす事請け合いね、私も腰を抜かしそうになったし。ただなんだかよく分からないんだけれども、朝急に壊れてたわよね。だから河童に見てもらったら、って守矢神社のほかに河童にも会って壊れたドアを見てもらうつもりだったんじゃなかったっけ?」

「そうだった、壊れちゃったどこでもドアが今使えればなぁ……」

 

どうしようかと困り顔ののび太が保護者役の霊夢と魔理沙に助けを求めた結果、魔理沙が今朝守矢神社に行くために使おうとしたどこでもドアみたいな、誰かを傷つけたりする危険のない道具がないのか逆に聞いてきた。

確かに魔理沙や霊夢が見たひみつ道具は、フワフワ銃にグルメテーブルかけや文を吹き飛ばしたバショー扇、それにどこでもドアにねじ式台風、後はどこでも蛇口と言ったもの、あくまでもごく一部のものしかまだ見ていない。霊夢や魔理沙も含めて、それら以外にのび太がどんなひみつ道具を持っているのか、この場にしっかりと把握している者は誰もいないのだ。

だから霊夢と魔理沙にとって、タケコプターでのび太が空を飛ぶよりも衝撃的だった、どこでもドアさえ使えれば、それを見せるのが鴉天狗たちに衝撃を与えるには一番良い、と言う考えだったらしいがさすがに壊れている以上ないものねだりはできない、はずだった。

 

「どこでも……どあ、ですか?」

「ええ、どこにでも行けると言う道具なんですけど、あいにく壊れちゃってて……ん?」

 

初めて耳にする『どこでもドア』の言葉に、鴉天狗たちがいっせいに耳をそばだてる。一体どんな道具なのか? どんな効果を持っているのか? 一言一句、外見まで含めて一切の情報を逃す事なく手に入れようと中にはカメラまで手にして何が出てくるのかを待ち構えている中、のび太の行動が一瞬ぴたりと停止する。

のび太にひみつ道具を使って欲しいと頼んできた鴉天狗に、どこでもドアの事を説明している最中にふっと浮かんできた浮かんだ違和感。

それを確認するかのように、動きをぴたりと止めたのび太はもう一度ゆっくりと、確認するかのように頭の中で考えをまとめてゆく。

 

 

 

あいにくと今壊れている。そう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

壊れているから直してもらうために河童に会いに行く。

そう、壊れているから、直す、直す……。そこまで考えた時、のび太の頭の中でいろいろと散らばっていたピースがカチリと一つにまとまった。

 

「あーっ!!! しまった!!!」

「どうしたのよのび太? そんなに大きな声を出して」

「何かまずい事でもあったのか!?」

 

いきなり大声を出したのび太に、何があったのかとぎょっとしながらも心配そうに声をかける二人。

スネ夫からびっくり箱を渡されて開封した時に上げた声……いたずらを仕掛けた側のスネ夫としずかが逆に驚くレベルの声をのび太は上げる事があるけれども、それほどにのび太が出した声は大きく、またあまりにも唐突だった。

そんな声をのび太が出したのだから、一体何事かと心配するのも無理はないだろう。

 

 

 

「いえ、その……朝神社に来る前に壊れたどこでもドアなんですけど、神社を直した時と同じようにタイムふろしきを使えば直せたな、って思って……」

「「…………あ」」

「な、なんで忘れてたのよ(んだよ)そんな大事な事!!」

「ご、ごめんなさーいっ!!」

 

うっかりしてた、とでも言いたげな。いや実際にうっかりしていたとしか言いようのないのび太の言葉に、霊夢と魔理沙も思わずずっこけそうになる。

ついでに二人からののび太に対するツッコミは、互いに意識していた訳ではないだろうけれども見事に重なって見せた。やはりこの辺り、のび太はあずかり知らない事ではあるけれどものび太が幻想郷に来る以前からの長く付き合いのある二人であるから、息もぴったりである。

逆に鴉天狗たちの視線は、それまでの期待に満ちた視線から徐々に不安なそれへと変化していった事をのび太たちは気が付いていたのだろうか?

最初は『人間の子供、おまけに外の世界からやって来た身でありながら白狼天狗の犬走椛を撃退し、さらに格上の鴉天狗の射命丸文をさえ吹き飛ばし、勝利した』と言う天魔直々の触れ込みであったためそれ相応の期待をしていても、いざ蓋を開けてみればおっちょこちょいで霊夢や魔理沙からは叱られている、年相応な子供でしかないときた。

こんなどこにでもいそうな、ひょっとしたら椛や文を撃退したと言う天魔の説明も、未来の道具と言う話さえも、最初からなかった、ただの出まかせ、嘘なのでは? とさえ思わせるような子供が本当に、天魔の言う通り文に勝利したのだろうか?

そんな鴉天狗たちの顔に出ていた疑いの空気を感じ取った、と言うよりも今のやり取りを前にして露骨に不安げな目線をのび太に送っていた鴉天狗たちに霊夢がその場を代表するように、天狗たちに話しかける。

 

「あんた達、信じられないって顔をしてるけどのび太が文に勝った、って話、あるいは未来の道具っていう話を疑ってるのかしら?」

「あ、いえ。そこまでではないのですけれど……何と言うのか、どうにもしまりのない顔の子ですし、見ていると頼りなさげな子ですから、天魔様の言葉ではありますけれども、どうやって勝ったのか、と……」

「大丈夫よ、今すぐのび太があんた達にも分かるように、とんでもないモノを見せてくれるわ。だから安心して見ていなさい」

「わ、分かりました。それじゃあまずは……どこでもドア! そして次は……タイムふろしき!!」

 

もちろん霊夢の発言はこの数日の間にのび太の持つひみつ道具、そして魔理沙と戦った時の実力をしっかりと見ているからこその発言だ。

その霊夢から『さぁ、やっちゃいなさい』と太鼓判を押されたのび太はようやく意を決したように、ズボンのポケットから例のごとくスペアポケットを引っ張り出した。

誰もが、しずかさえどう見てもパンツにしか見えず誤解したと言う実績を持つスペアポケット。そのスペアポケットへと慣れた手つきで手を突っ込み、どう考えても物理的に取り出せるとは思えない巨大などこでもドア(故障中)を取り出して見せる。

どしん、と音を立てて守矢神社の境内へと置かれた、ちょっと見てもよくよく見ても、知らなければただのドアにしか見えないそれを見た鴉天狗たちのいったい何人が、そのドアの持つ効果を想像できただろう。

そして今回のひみつ道具はどこでもドアだけでは終わらない。

どこでもドアを取り出した後で、のび太はそのまま立て続けに再びポケットへ手を突っ込み、今度は時計の柄のついて表裏で赤と青と色が違うと言う、実に個性的な絵柄のふろしきであるタイムを取り出した。

これでのび太の必要としている道具はそろった訳だ。

 

「後は、このタイムふろしきをどこでもドアに……。これで後は待つだけです」

「ええと、その扉に布を被せてって言うのは、何かのおまじないでしょうか? それとも、儀式か何かで?」

「少し待ってくださいね、そうすればわかりますから」

「は、はあ……」

 

タイムふろしきの赤い側を外側にして、のび太がどこでもドアへと被せる。ここで間違って逆側を被せてしまおうものなら、どこでもドアが完全に壊れてしまうので注意する事も忘れない。

そうして待つ事数分。

一体のび太が何をしているのか分からないまま、何が始まるのか尋ねても待ってくれとだけ返されてしまい眺めている事しかできない鴉天狗たちと何をしているのかおおよそ理解している霊夢と魔理沙の前で『そろそろかな?』とのび太がタイムふろしきを取り払った。

 

「それじゃあ、最初に質問してきてくれた鴉天狗さん。どこか行きたい場所ってありませんか?」

「私、ですか? そうですね……ちょうどペンに使うインクが切れてしまいそうで、家に戻りたいと思っていたところですね」

「それじゃあ、どこに行きたいかを頭の中に思い浮かべながらこのドアを開けてみて下さい」

「??? えっと……『私の家』へ!!! って、アイエエエ!? 私の家、ナンデ? ナンデ!? ここ守矢神社よね!?」

「このどこでもドアがあれば、好きな場所に行けるんです。ただし、10光年以内なら……ですけど」

「すごい……」

「まさに未来の道具だ」

「外の世界では、こんなすごい道具を子供でも簡単に扱っていると言うのか……」

 

のび太に促されるまま、実験として最初にひみつ道具を一つ見せて欲しいと頼んだ鴉天狗は自分の家と宣言し、どこでもドアを開けた。いや、ドアを開けて驚愕した。守矢神社の境内にいるはずなのに、ドアを開けた先には自分の家があるのだから。

思わずどこでもドアの向こうと、こちら側を交互にのぞき込み一体何がどうなっているのかを確認している鴉天狗のその様子は、霊夢が博麗神社で初めてどこでもドアを体験した時と同じような反応と奇しくもそっくり同じであった。

この自分もしていたであろう反応を第三者の目線で目撃した霊夢が笑っていたのは言うまでもない。

そして、この行きたい場所さえしっかりとイメージできれば一瞬で移動できると言うとんでもないドアの存在、グルメテーブルかけとさらに明かされたどこでもドアの存在を見せた事で鴉天狗たちからは誰ともなく驚きと称賛の言葉が飛び交い、それに満足したらしい天狗たちの質問攻めからようやくのび太は解放されたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

「すげーっ! 外からやって来た未来の道具すげーっ! ねえねえねえ!!! これちょっと借りてもいい? 調べさせてよ。大丈夫、魔改造や自爆装置の取り付けなんてしないからさ。ねっ、いいでしょ?」

「あ、あの……君は、誰?」

「あ、ごめんごめん。まだ名乗ってなかったね。私の名前は河城にとり、河童のにとりさ。私たち河童はこうした機械をいじったりするのが大好きでね、こんなに凄い機械を見るだけでいじる事もできないだなんて我慢できなくてさ。だから、1日だけでも貸してもらって、調べてみたいんだよ」

「か、河童? うーん、僕の知ってる河童とはなんだか格好が違うような気がするんだけど……」

「細かい事を気にしちゃダメだよ。ねっ、そんな事よりもさ頼むよ、ちょっとだけでいいから構造を調べさせて、お願い!」

 

と思ったら、鴉天狗たちの囲みが波のように引いたと思ったらその次はにとりたち河童が取り囲んできたのであった。

ただ、その姿は鴉天狗以上にのび太の知る河童……すなわち外の世界でその辺を歩く一般人10人に聞いたら10人とも答えるであろう、背中に甲羅を持ち頭に皿のある河童とはあまりにもかけ離れた姿だった。

最初に、出発前にも確かにのび太は妖怪の山に河童と言う優れた技術を持つ妖怪がいるとは聞いていたけれども、まさか外の世界に伝わる姿の河童とは違い、甲羅も皿も持たない種族を聞かなければ人間と言われても通用しそうな姿の女の子だとは思ってもいなかったのび太も、にとりから河童だと説明を受けてもにわかには信じられないようで、首をひねっている。

 

「ちょっと、だから調べるならまず出すものがあるでしょう出すものが? のび太の道具をいじりたければ、まずは保護者である私にきちんとお賽銭を支払ってからにしなさい。いいわね?」

「……それなら、このキュウリをやるっ! 露地栽培の無農薬、この色このつや、人里でもめったに流通しない最高級品だ!!」

「いらないわよ(んだぜ)そんなものっ!!」

「なん…………だと…………」

 

のび太に迫る河童に対しても、鴉天狗同様に報酬を要求した霊夢(と魔理沙)。

霊夢としては別に誰が来たところでのび太に危害を加えなければ問題はないのだ、それどころかむしろ霊夢からしてみればのび太に話を聞きたい者が来れば来るほど、素敵なお賽銭箱にお賽銭を入れてもらえる可能性が出てくるのだから歓迎こそすれ拒否をする理由などどこにもない。

とはいえ、お賽銭が目当ての二人にとってさすがに最高級品であってもキュウリはいらなかったようで、はっきりと断った時のにとりたち河童が見せた表情は、まるで『のび太の魔界大冒険』にてデマオンの手下メジューサの魔法で石にされてしまった自分の恐怖の表情を見ているようだと、のび太は一人霊夢や魔理沙と河童たちのやり取りを前に思うのだった……。

 

 




ひみつ道具と最も親和性の高いであろう妖怪ついに河童の登場です(お賽銭代わりに差し出したキュウリは完全に霊夢と魔理沙に拒絶されましたが)。
このやり取りはかつて放送されていたアニメ、スクライドでの瓜核とイーリャンのやり取りをイメージしていましたが、あのやりとりの雰囲気を出すのはなかなか難しいですね。

さて、今回のサブタイトルですが、この河童たちがひみつ道具をいじろうとして……?
と言う所から次回はちょっと作品のタグにもある独自解釈を交えていこうと思っています。


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疑惑(その2)

大変お待たせしました。
守矢神社の宴会編、その最後となる話です。ここでようやくタイトルの意味につなげる事が出来ました……。
それでは、本編をどうぞ。


守矢神社の境内で行われていた大宴会。

図らずもそれに参加する事になったのび太だったけれども、それだけではなくて妖怪の山の長である天魔直々に『のび太が鴉天狗の射命丸文と戦い、そして勝利を収めた』と言う説明を場の全員にされてしまった結果、のび太は他の鴉天狗に囲まれ質問攻めにあい、どうにかそれも終わったと思ったら次は河童に取り囲まれて困ると言う状況に陥っていた。

そこにはのび太だけでなくのび太の保護者を称する霊夢と魔理沙が助けに入ってくれたからいいようなもので、もし二人がいなかったらのび太は果たしてどうなっていたのやら。

おまけにその取り囲んできた河童の中でもリーダー的な存在らしいにとり、と名乗る河童に至っては『一日だけ借りてどこでもドアを調べさせてほしい』などと言い出す始末。

今までいろいろな世界を冒険してきたのび太であったけれども、どこの世界でもその世界の住民の前でひみつ道具を使って見せた所で調べたり分解してみたいなどと言い出す人は誰もいなかったのだ。

 

「……わかりました。でも本当に見るだけですからね? 分解して直せなくなったとか、改造して変な機能をくっ付けたりとかはなしにしてくださいね?」

「分かってる分かってるって、ちゃんと明日には返すし手を加えるような事はしないよ」

「くれぐれもお願いします、……もし何かあったらタイムふろしきで元に戻せばいいしな

 

この初めての申し出に、さてどうしようかと考えていたのび太だったが結局にとりにどこでもドアを貸す事にしたのだった。

もちろん何もないに越した事はないけれども、最悪何かあった場合でもタイムふろしきで戻してしまえばいいのだから。それに、ここには霊夢に魔理沙もいるのだからもし何かあれば間違いなく二人が動くだろうと言う目算ものび太にはあった。

そしてのび太が道具を貸す事に承諾の意を見せるが早いが、にとりとのび太との間に霊夢が割込みお賽銭箱をにとりへと突き出す。

 

「……それじゃあにとり、交渉が成立したところでさっさと出すものを出してもらいましょうか」

「キュウリはだめなんでしょ? それだと、キュウリ以外の持ち合わせあったかな……」

「いい? 出すもの出さなかったら、のび太は道具を貸さないわよ。道具を借りたければキュウリじゃなくてお金を出しなさいお金を」

「うーん……あっ、なんとか足りそうだね。ほら、これでいいでしょ?」

「はい、まいどありー。いやー、それにしてもお賽銭箱にお金の入る音って言うのはいつ聞いてもいいものよね」

「霊夢の場合は博麗神社にお賽銭を入れに来る参拝客なんてめったに来ないからな」

「ちょっと魔理沙、なによそれ。まるでうちの神社がいつも暮らしに困ってるみたいじゃないのよ」

「そこまでは言わないけどさ、霊夢って暇さえあればいつもこう……お賽銭箱を覗いてはため息をついてるじゃないか」

「ちょっと! そこまでじゃないわよ! そんな事言ったらのび太が誤解するでしょ!」

 

にとりがポケットから出した財布から何枚かの小銭を取り出し、賽銭箱の上で手を離すとそれらはチャリンチャリンと小気味良い音を立てながら賽銭箱の中へと消えていった。

当然きちんと料金さえ払いさえすれば霊夢もこれ以上追求する必要はなく、上機嫌で鼻歌まで歌いだす始末。

それだけこの臨時収入が嬉しいのだろう。

思わず魔理沙が漏らした余計な一言でその表情も瞬時に険しいものに変わるけれども、のび太だって薄々それは気が付いていた。

なにしろ守矢神社をタイムふろしきで直して綺麗になった時に、霊夢が『守矢神社だけ新品同様になってずるい! うちもやりなさいよね!』と駄々をこねたくらいなのだ。きっと実情は魔理沙の言う通りなのだろう。

そんな霊夢や魔理沙のやり取りをよそに、霊夢にお金を支払いのび太からどこでもドアを受け取ったにとりたち河童はまるで神輿でも担ぐかのようにみんなでどこでもドアを『わっしょいわっしょい!』と持ちながら境内から夜の闇へと消えてゆく。

場所が場所だけに、その姿は本当にまるで神社から妖怪の山を練り歩かんとするお神輿のよう。ただし、その担がれているモノがお神輿とは程遠いその形をした一枚のドア、でさえなければ。

そんなにとりたち河童の行列の掛け声が消えた事で、ようやくのび太は完全に開放されたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

のび太は河童に鴉天狗から解放されたけれども、だからと言ってこの宴会が終わるなどと言う事はない。記事を書くために先に帰る鴉天狗もいれば、まだまだ呑めるとお酒を飲む天狗だっている。

しかし何しろお酒を出しているのはあの眠りの達人のび太である。

 

「ふぁ~…………」

「大丈夫のび太? そろそろ眠いんじゃない?」

「おいおい大丈夫か? 立ったまま寝そうだぞ」

「だ、大丈夫ですけど……それにまだ寝る訳にはいかないですから」

「それはそうよ、こんなところで寝られたら私だってのび太を運んでなんてあげられないわよ?」

「あ、いえ。そうじゃなくて……」

 

お酒を出しながら大きな欠伸を一つするのび太。

ここには時計がないから正確な時間は分からないけれども、少なくとものび太の経験則上冒険に出てキャンプをする事になった場合、欠伸をするほどに眠気が来ると言う場合はたいていもうかなり夜遅くであると言う事は気が付いている。

その証拠に、霊夢と魔理沙から大丈夫かと尋ねられたのび太の身体は右へ左へとふらふらしており、放っておいたらこの場でそのまま眠りかねない雰囲気さえある。

 

「どこでもドアがあれば博麗神社まで戻る事もできたけれども、河童に貸しちゃったからそれも無理よね。魔理沙、早苗たちにお願いして寝室を一つ貸してもらうように頼んできてちょうだい」

「そうだな、ここで寝られたら面倒だからな。よし、ちょっと頼んでくるんだぜ」

「お願いね、ってあ、こらのび太、どうしたのよ。今魔理沙が部屋を貸してくれるか聞いてきてくれてるから待ちなさいって」

 

そうとなれば二人の行動は実に速かった。

阿吽の呼吸で霊夢はのび太が寝ないようにのび太に話しかけ続け、魔理沙は早苗たち守矢神社の面々に、のび太を博麗神社に連れていく事が難しく、寝室を貸してほしい旨を伝えにゆく。

その間にのび太はここにグルメテーブルかけを置いていくわけにもいかず『美味しいお酒!』とこれで今日出せるお酒は最後だからと山のような酒樽を用意すると、ふらふらとした足取りでそのまま守矢神社の母屋へと歩いていく。

当然まだ魔理沙は戻って来ておらず寝具を貸してもらえるかの許可だって出ていない。

そこは守矢神社の早苗も神奈子も諏訪子だって、外の世界から足を運び、文との戦いで傷んだ神社をあっという間に直してくれた子供を外にほっぽり出す事はしないだろう。それでもやはり許可を取る前に勝手に寝ると言うのは失礼と言うものである事くらい、霊夢だって理解している。

そんな霊夢の制止なんて、まるで耳に入っていないかのようにのび太はあっちへふらりこっちへふらりと危なっかしい足取りで守矢神社の母屋へと勝手に上がり込み、すたすたと歩いていく。

 

「こら、勝手に上がり込んじゃダメじゃない。眠いのは分けるけれども……って、そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

自分の制止の言葉も聞かずに勝手に母屋へと上がり込むのび太を止めようとしていた霊夢だったけれども、のび太が歩いていく場所から、のび太が何を目指しているのかに気が付いたらしく、納得したように制止する事をやめてその後ろをついていく。

それはのび太を止めると言うよりも、見ているだけで危なっかしいのび太に万が一がないように、と言う事なのだろう。

そして居間へとやってきたのび太の姿を見つけたらしい小さな人影、、のび太の行動の答えでもある人影が暗闇の中からのび太がやって来た事に気が付いたらしく文句の言葉を投げかけてきた。

 

「もぅ……遅いですよぉ、外からは楽しそうな声が聞こてきますし、行きたいけどこの格好で行ったら絶対に笑いものになるし、お腹だってペコペコですし……」

「ごめんなさい、文さん。他の天狗の人や河童の人たちに囲まれちゃって……お腹減ってますよね? 晩御飯の用意、すぐにしますから」

「そっか、そうよね。考えたら文は宴会に出れなかったから、何も食べてないのよね」

「そうですよ! って言うか霊夢さん、今まで忘れてましたね!?」

 

そう、のび太がここにやって来た理由。それはもちろん眠いからもう就寝しなくてはいけないと言う事もあるけれども、もう一つの理由は今境内で行われている妖怪の山の妖怪一同が飲めや歌えやとやっている宴会へと出てこれない、子供の姿にまで大きく縮んでしまった文の夕飯の支度をすると言う事でもあった。

少し遅いお昼をみんなで食べた後、洩矢神社の修理をしてから文が縮んでしまい、それから今まで文は何も食べていないのだ。

しかもすぐ近くの境内からは、母親である天魔や仲間の鴉天狗たちが呑めや歌えやと楽しそうにしている声が聞こえてくる。

これも天魔の課した罰の一つなのだとしたら、なんと厳しい罰なのか……。これではお腹だって減ってしまうだろう。

実際こうしてのび太たちと話している間にも文のお腹からはくぅ、とかわいらしい音が聞こえてきている。

ちなみに、身体が縮んでしまいぶかぶかになってしまった服装については、早苗が小さいころにまだ外にあった神社でお勤めで着ていた祝の衣装がしまってあったため、今だけと言う事でそれを着る事で事なきを得ていた。

 

「それじゃあ、グルメテーブルかけを用意しますから好きなものを食べましょう」

「本当ですよ、こんなに待たせるだなんて……。それじゃあ、野菜のかき揚げ丼にしましょう」

「早っ! あまりかき込むとのどつめちゃいますよ?」

「これくらい大丈夫です、鴉天狗は幻想郷で一番速い種族なんですから、食べるのだってこれくらい速くないと務まりませんかr……ん、んぐっ……」

 

のび太に促される文の言葉に反応したグルメテーブルかけが、すぐに言葉通りのメニュー……つまりは野菜のかき揚げ丼を出現させた。

しかも文のお腹の空き具合も忖度して対応してくれたのか、その丼のサイズも気持ち大きいように感じられる。もちろんグルメテーブルかけにそんな便利な機能はない。

あくまでもこれは文が縮んでしまい、丼のサイズと文のサイズの比率が変わった事による錯覚にすぎないはずなのに、そう思わせるサイズのかき揚げ丼を文はいただきます、とも言わずにものすごい勢いでかき込み始めた。

少なくとも女の子がするような食べ方ではない。

その速さは霊夢の食べる速さといい勝負と言った所だろうか。

あまりの速さにのび太も気を付けるようにと声をかけるが文はそんな忠告などどこ吹く風、全く気にする事もなく丼の中身をかき込んでいく……が、やはり普段の姿の文ならばそんな事はないのかもしれないけれども、今はなにしろのび太と同じかそれ以上に小さな姿にまで縮んでいるのだ。その姿で無茶な食べ方をすればどうなるのかは言うまでもない。

案の定、文はご飯をのどに詰めてひっくり返ってしまった。

 

「大丈夫ですか? ほら、これを飲んでください」

「……なんだかこうして見てると、小さな文の面倒を見ているのび太って文のお兄さんみたいね」

「えーっ、そうかなぁ」

「そうですよぉ、何を言ってるんですかぁ。ほら、もっと言ってあげてください。このままだと私があなたの妹にされちゃうんですからね」

「………………」

「………………? あれ、もしもーし……?」

 

夕ご飯の支度に、文がのどにご飯を詰めれば水を出してと、文の面倒を見ているのび太のその姿を見ていた霊夢が楽しそうにそんなとんでもない言葉を口にした。

もちろんのび太は驚くしかないし、文からすればいくら縮んでしまっているとは言え自分の年齢の百分の一程度しか生きていない人間の子供が兄みたいだ、などと言われては面白いはずがない。

むぅ、と口をとがらせて霊夢めがけて抗議する文。そのままもっと二人で断固抗議しましょう、と昼間のび太に神社の修理を持ちかけた時のように、のび太に持ち掛けるがのび太からは一向に返事が返ってこない。

ようやく文も、のび太の様子におかしいと気が付いて声をかけてみるけれども……。

 

「ぐぅ……」

「あらら、眠っちゃってますよ」

「ああもう、こんな所で寝ちゃって! ほら、起きるわよのび太。起きなさい!」

「ぐぅ……ぐぅ……」

「ほら、起きて下さいよぉ。このままだと霊夢さんが本気で怒っちゃいますよぅ!」

「おーい霊夢、早苗たちに寝室や寝具を借してもらえるように頼んできたぜ……ってなんだ、のび太の奴もう寝ちゃったのか? っておい霊夢、のび太に何しようとしてるんだよ!」

「ああ、魔理沙ありがとう。のび太が寝ちゃって、呼んでも揺すっても起きないからちょっとお尻に数発針でも刺して起こそうかなって……」 

「いくら何でもそりゃやり過ぎだろ。ひとまず掛布団と毛布を出してきたから、それをかけてあげれば風邪は引かないだろう。さすがにこのまま部屋まで連れて行くのは無理そうだからな、ここで寝かせるしかないだろう」

 

元々眠い目をこすり、あちらへふらりこちらへふらりと危なっかしい足取りでご飯を食べていなかった文のためにとここまで来たのび太だったけれどもとうとうその睡魔の力が限界を超えてしまったらしい。

文の世話をしていた格好そのままで、のび太はぐぅぐぅと寝息を立てながら眠ってしまっていたのだった。

こんな所で寝られてしまっては、運ぶのだって大変だからと霊夢が慌てて起こそうとするがそこは拳銃と共に眠りの達人でもあるのび太である。揺さぶろうが声をかけようが起きる気配はみじんにも感じられない。

ちょうどのび太が夢の世界へと旅立つのと入れ替わりに居間へと入って来た魔理沙が布団を持ってこなかったら、のび太のお尻にはかつて『のび太の創世日記』において新地球の弥生時代にヒメミコたち古代王朝の女王が『白神様』と呼び、異常気象の解決を願い生け贄を捧げていた双頭の白い大ムカデを撃退した際に地底に潜む昆虫人から撃ち込まれた極細の矢よろしく、毛糸を編むための編針のような長さの太い針がぶっすりと刺されていたに違いない。

その時撃ち込まれた際には撃ち込まれた瞬間に痛みで飛び上がるほどの痛みだったが、間違いなく霊夢の針が刺さっていたらそれ以上の痛みがのび太を襲っただろう。そうならなかったのはのび太にとっても幸いだった。

こうして自身の全くあずかり知らぬところで訪れたお尻最大の危機を無事に脱しながら、のび太は深い夢の世界へと落ちていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり草木も眠る丑三つ時、妖怪の山の何処かで……。

 

「ね、ねえにとり。これ一体どういう事……?」

「分からない……、なんで未来の道具にこんなものがあるのか、私が聞きたいくらいだよ……」

 

河童たちがどこでもドアをわっしょいわっしょいと担ぎ上げてにとりの研究所へと運び込んで数時間後、徹夜でのび太から借りたどこでもドアを研究、調査していたにとりたち河童は分解を始めたどこでもドアの中を見て、首を傾げていた。

既に分解は開始され、取り外された部品、中の構造や配線の流れなどは全て逐一調査、記録され外された部品は部品でまた別の河童が細かく分析、調査する。

そんな中で調査はいよいよ佳境に入ろうとしていたのだ。すなわち、どこでもドアの心臓部、いうなればドアが持つ空間移動の肝となる制御装置の解析だ。

皆が興奮を抑えきれない中、にとりが周囲に「いい、あけるよ?」と確認しながら肝心の部分を開いていく。そこにあったのは、複雑な構造をした基盤に配線。だが、それだけならまだよかった。

 

 

 

しかし、そこにあったのはそれだけではない。

 

 

 

どこでもドアの内部、その装置の中に配された基盤に刻まれた文字。

分解している河童の一人が何気なく気が付いたそれは、妖怪の山で河童たちが自分の作品となる機械や装置を作った時に、誰が作ったモノなのかを用意に判別できるように河童たちがそれぞれ各々の名前を印章化して刻印するように決めた古くからの決まりに則ったもの……のはずのもの。

それが果たして一体どういう訳なのか、この場にいる河童一同が初めて見て、初めて分解するはずの未来の道具に刻まれていたのだからその場の河童全員が驚き、そして首を傾げてしまったのだ。

もちろん外の世界で誰かが考案した意匠と偶然に似ていた、と言う可能性も否定はできない。それでもあくまで偶然、と言い切るにはそこに刻まれていた名前はあまりにも出来過ぎていたのだ。

 

「これ、どうしようか……?」

「分からない、でもこれは未来の道具ってあの人間の子は言っていたから、多分あの子に事情を聞いても仕方がないだろうし……ひとまず、今回は残念だけどこの問題については完全に保留して、それ以外の所の分析を続けよう。あの子には明日中に返すって約束してるからね。何とかして終わらせるよ!」

「「「「おーっ!!」」」」

 

にとりの、今回は保留にしてひとまず調査だけ終わらせようと言う言葉に異を唱える河童たちは誰もおらず、みんなで一致団結して期限までに終わらせようと言う元気な声が河童たちの研究所に響き渡る。

こうして、どこでもドアを分解する事で図らずも世に現れた22世紀のひみつ道具と、幻想郷の河童との不思議なつながりは河童たちだけの秘密として、妖怪の山の長である天魔や祭神である守矢神社の面々はおろか、のび太にさえ知られる事無く伏せられる事になるのだった……。

 




どこでもドアの中に隠されていた(訳では無いですけれども)制御装置と言う重要部分に刻印されていた河城にとりの名前。果たしてこれは一体何を意味するのでしょうか!?
この謎が解き明かされる日ははたして来るのか!!!



続きはまた次回!


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迷子還る

大変更新が遅くなり申し訳ありません。
諸々リアルがありましたが、どうにか合間をぬって書き足していた不思議(すぎる)風祝編、いよいよおしまいです。



…………………………………………

 

 

 

……………………………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「……う、うーん……ふぁぁ…………っ!? しまった寝坊した! 学校に遅刻しちゃう! ドラえもーん!! って、そっか、もう夏休みなんだっけ」

 

窓の隙間からしゃんと差し込んでくる朝日と、かすかに聞こえる小鳥のさえずり。

外の世界でも、日々なかなか起きられないのび太が目覚まし時計を器用に止めた後で最後に目覚まし代わりにするのが大体この二つなのだけれども、そう言った生活習慣はここ幻想郷でもそうそう変わるものではない。

結果としてのび太はがば! と布団を跳ね上げながら起き上がり遅刻だ遅刻だと大騒ぎをして、親友の名前を叫びながらようやく自分のいる場所が普段見慣れた自分の部屋でない事を、もう夏休みで学校なんて関係がない事を思い出したのだった。

落ち着いて周りを見てみれば、今のび太が寝ていたのは昨日の夜宴会に参加できなかった文がいた東風谷家の母屋、その居間だった。

おまけに誰かが布団をかけてくれたのか、昨日ここに来た時にはなかったはずの布団と、そこにいたであろう小さい文がまとめて撥ね飛ばされている。

よほど眠いのだろう、のび太に勢いよく布団ごと撥ね飛ばされたはずなのに、その布団で一緒に寝ていたであろう文はまだすうすうと寝息を立てていた。

 

「えっと確か、ゆうべ文さんの夕ご飯を用意しにグルメテーブルかけを持ってここまで来て……あれ、その後どうしたんだっけ?」

「……文の夕ご飯を用意している最中にのび太寝ちゃったじゃない。覚えてないの?」

「あ、霊夢さんおはようございます……って、あ、あれ? どうしたんですかその顔。傷だらけじゃないですか」

 

何があったのかを思い出そうと首を傾げているその後ろから声がかかり、声のした方へ振り向くといつもの紅白の巫女服ではなく寝巻き姿のままの霊夢が立っている。

ただしその顔は一体どうした訳なのか、前日境内で宴会をしていた時とはうって変わってひどくボロボロになっている。

そう、それは以前『ドラえもんだらけ』で宿題をドラえもんに押し付けた時に手が足りなくなったドラえもんが二時間後、四時間後、六時間後、八時間後の自分をタイムマシンで連れてきて手伝わせた際に「ほんのお返しだい」と未来の自分たちに殴られ傷だらけになってしまった時の姿にそっくりだった。

ちなみに余談ではあるけれども、実は最初にタイムマシンで二時間後の自分を連れてきた時にドラえもんが発した第一声も「どうして傷だらけなの」であったりする。

この辺りはのび太もドラえもんも、同じような思考をしているらしい。

 

「……当てて見なさい」

「ええ? 当ててみろって言われても……うーん……」

 

一体何があったのかと尋ねるのび太の言葉に露骨に反応して不満げな表情をする霊夢からの何があったのかを当ててみろと言う質問にあれやこれやと考えてみるのび太だけれども、答えはちっとも出てこない。

そもそものび太が眠ってしまっている間に何があったのかを理解しろと言う方が無理な話だろう。

ちなみにこの霊夢の負傷の原因とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「いや~、こんなにお賽銭が入って来るなんて何時ぶりかしら? のび太って本当に最高の福の神ね。神社に一生住んでもらいたいくらいよ」

「確かにな。博麗神社の賽銭箱がお賽銭でいっぱいになるところなんて生まれてこの方見た事ないんだぜ。明日は槍でも降るんじゃないか?」

「あー、もう槍でもグングニルでも、レーヴァテインでも何でもかかって来なさいっての。今の私は何が来たって怖くないわよ」

 

のび太が文の夕食の支度をしている最中に寝てしまってから、霊夢と魔理沙は守矢神社の母屋、その居間で祝勝会と言う名目で二人お酒を飲んでいた。もちろんお酒の出どころはのび太が持っていたグルメテーブルかけである。

今までの経緯から使い方を覚えている霊夢と魔理沙は、のび太に無断でお酒を取り出しのび太の横で酒盛りを開いていたのである。

ちなみに、縮んでしまった文も体が縮んだ事で子供に中身も子供に戻ってしまったのか、のび太の用意してくれた食事を食べたら眠くなってしまったらしく舟をこぎだした事もあり『新しい布団を持ってくるのが面倒だ』と言う霊夢と魔理沙二人の見解の一致もあり、のび太と一緒の布団に放り込んで寝かせていたりする。

こうなればもう二人を止めるブレーキ役になる人物は誰もいない。

家主である守矢神社の面々は境内でまだ呑んでいるらしく、神奈子も諏訪子も早苗さえ戻ってくる気配がなく、ひみつ道具については唯一であろうその効果を知り、本当なら二人を止める役目になるだろうのび太も今はぐっすりと夢の中。

 

「お賽銭もたっぷり! お酒も飲み放題! いやー、最高ね」

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなに最高ならぜひ私も混ぜてもらおうかしら?」

 

 

 

 

 

 

起きているのが霊夢と魔理沙しかいないはずの居間に、妖艶な声がその場に割り込むように響き渡る。

もちろんのび太や文の寝言でもないし、守矢神社の神様や早苗たちが戻ってきてイタズラをしたのでもない。

その証拠に、二人の目の前で空間がぱっくりと口をあけてその中から金髪の女性が出てきたのだから。

が、霊夢も魔理沙もその程度の事では別に驚きはしない。

こんな登場の仕方をする相手の心当たりは、一人しかいないからだ。

 

「あら、紫じゃない。どうしたのよ?」

「博麗神社じゃなくて守矢神社に顔を出すなんて珍しいな」

 

事実霊夢も魔理沙も、この妖怪の賢者の登場にもまるで世間話でもするように話しかけていて、怪しんだり怯えたりする様子はみじんも見られない。まあ、だからこそ紫も初めてのび太と出会った時のように、妖怪と言う存在が消え失せてしまった外の世界の住民を脅かしてはその新鮮な反応を楽しむと言うような事をする結果になってしまっているのだろう。

兎にも角にも、二人の反応を見てもわかるようにこの時、霊夢も魔理沙もどうして紫がここにひょっこりと顔を出したのかを理解はしていなかった。せいぜいが、またいつものように気まぐれでやって来た程度の認識だったのだ。

が、その甘い認識はすぐにこっぱみじんに砕かれる事になった。

 

「霊夢、ずいぶんとお金を稼いだみたいね。それものび太をダシに使うだなんて」

「へっ!? え、いや、それはその……博麗神社でのび太を預かる上で必要な生活費を稼ぐためよっ。ほ、ほら! いくら預かるとは言ったって、ただで泊める訳にはいかないじゃない! ね、ねっ!?」

「あら、それにしても見たところ食事は全部のび太の道具持ちで霊夢、貴女のやる事ってあったかしら?」

「う……ぐぬぬ…………」

 

紫は無慈悲にも霊夢の弁解、もとい言い訳を尽く潰していく。

おまけにそれを表向きは実に爽やかな笑顔でやるのだから、怖さも倍増である。

一方、そんな笑顔の紫とは真逆に霊夢は苦虫を噛み潰してじっくりと味わったような酷い顔になっていた。

霊夢の表情もゆかりの表情も、今は夢の世界に旅立っているのび太が目にしたら泣き出すか気絶するかもしれない、それほどに恐ろしい表情をしていた。

 

「霊夢、これでそろそろ言い訳は出尽くしたかしら? それなら覚悟はいいわね?」

「いい訳ないでしょうが!! こうなったら腕ずくでも自分の稼ぎは守らないといけないみたいね」

「お、おい霊夢。のび太も文も寝てるんだから、あまり大暴れするなよ?」

 

もちろんそんな一触即発の状況を歓迎など出来るはずもなく、魔理沙はのび太や文が寝ているのだから大暴れするなと釘をさす。

そこにはそれ以外にも、軒を借りている状況で大暴れされたら間違いなく洩矢神社の三人から飛んできた苦情で自分もとばっちりを受ける事が目に見えていたからだろう。

が、残念な事にそんな魔理沙の忠告で止まるほど、お金に対する執着は半端ではない。

その証拠に、何処からともなくお払い棒まで取り出し紫に突きつけて完全に稼いだ金はびた一文紫に引き渡す気はない、と言い切って見せた。

 

「ふん、私の稼いだお金よ! 欲しければ……っ、ひゃぁああああああっ!」

 

そのまま威勢よく、口上を述べている途中で、そのまま霊夢が即席落とし穴にはまったようにすぽん、と綺麗さっぱりいなくなる。が、あいにくと即席落とし穴はスペアポケットの中で使うには誰かが取り出さなくてはいけない。つまりは霊夢が消失した原因はそれによるものではない訳だ。

この突然人が消失すると言う怪奇現象を一人目撃してしまった魔理沙だけは、この原因がわかっているようでいずこかへと消えてしまった友人の冥福を祈るべく「ナンマイダブナンマイダブ……」と手を合わせるのだった。

 

「すまん霊夢、強く生きてくれ……」

「……ちょっと魔理沙、かってに私を殺すんじゃないわよ!」

「げえっ、霊夢!?」

……と、魔理沙が祈りをささげた次の瞬間何もないはずの空間。まさに魔理沙が手を合わせて霊夢の冥福(? を祈るその目の前の空間を引き裂くように、つい一瞬前まで元気で紫に啖呵を切っていた霊夢がボロボロになって這い出してきた。 

紫のスキマに引きずり込まれ、天魔に叱られた文よろしくボコボコにされたのだろう霊夢の形相は今が夜中と言う事もあり、もしのび太が目を覚ましたら恐怖のあまりに泣き出すか気絶するか、最悪おもらしすらしかねないほどに酷いものだった。

そんな友人の見せた……むしろ女の子が見せてはいけないような形相には、魔理沙の反応も思わずげえっ、などと失礼極まりない反応しかできないまま、ホラー映画よろしく霊夢の手が魔理沙の首根っこをむんずと掴む。

 

「……ふっふっふ、ねえ魔理沙。私達友達よね? 友達なら幸せも苦難も、分かち合うべきよね?」

「い、いや……それなら私は友達を遠慮したいんだぜ……」

「問答無用っッ!!」

「う、うわぁぁぁぁぁ」

「二人とも、騒ぐのはいいけれどものび太たちが起きちゃうから静かに喧嘩しなさい?」

 

空間の隙間から上半身だけを器用に出して、霊夢と魔理沙の取っ組み合いを呆れたように見ている紫。

ちなみにそのきっかけを作ったのは外ならない紫なのだけれどもそれを指摘する人物は残念ながらこの場にはいなかった……。

 

 


 

 

……と、こんな事が夜中にあったのだった。

もちろん再三ではあるが、霊夢に何があったのかを当ててみろと言われた所で眠りの達人のび太が眠ってしまった後で起こったこの出来事について分かれと言う方が無理なのは言うまでもない。

 

「ふぁ……、全く霊夢のやつ、ひどい目にあったぜ……。お、のび太じゃないか」

「!? ま、魔理沙さんまで。一体ゆうべ何があったんですか?」

 

おまけにボロボロの霊夢に続き、今度はボロボロの魔理沙まで現れる始末。

今までいろいろな世界に冒険に出かけていても『寝ている間に仲間がボロボロになっていて朝起きたら酷い顔をしていました』などと言う経験がなかったのび太からすれば、朝起きたらいきなりボロボロになっている二人が登場すると言うのは驚き以外の何物でもなかった。

「もぅ……皆さん朝から何を騒いでるんですか? ……おやおや、朝から外来人の子供を巡り霊夢さんと魔理沙さんの喧嘩が勃発ですか」

 

さらに間の悪いことに身体は子供、頭脳はそのままなタイムふろしきで子供サイズにちぢんだ文まで『これは良いネタになりそうです』と騒がしさに目を醒ますやいなや絡みだす始末。

こうなると身体が小さくなっても本当に反省しているのか、怪しいものである。

そしてこのわいわいとにぎやかな霊夢や魔理沙たちの騒ぎは、声を聞きつけて起きてきた家主たち……つまり神奈子に諏訪子、そして早苗がやって来るまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……、朝からどうしてお前たちはそう騒ぐ事しかできないんだ?」

「本当に神奈子様の言う通りですよ、そもそもお布団と寝る場所を貸したのはのび太さんとちぢんでしまって元に戻るまでの間文さんを、と言うつもりだったのにどうして他の二人までいるんですか!?」

「まあまあ、子供は元気が一番だよ。それに外から来たのび太がいるんだから、巫女も白黒も普段みたいに弾幕で大暴れ、って訳にはいかない事くらい承知してるだろうさ」

「そんな事よりも早く朝ごはんにしましょうよ」

「霊夢の言う通りだぜ、一日の始まりは朝食からなんだぜ」

「……はぁ、まったく本当に麓の巫女は……。まあ、愚痴ばかりこぼしていても仕方がない。のび太、すまないが例の布切れを用意してもらってもいいだろうか?」

「はい、それじゃあ……『グルメテーブルかけ!!!』」

 

東風谷家の居間に集まった神奈子、諏訪子、早苗に霊夢、魔理沙、のび太に文。全員が輪のように座り、揃ったところで家長役を務める神奈子が朝霊夢たちが起こした騒ぎに苦言を呈し、実際に東風谷家の家事や雑務を取り仕切っている早苗がそれに同調する。

霊夢や魔理沙の二人がミンミンと鳴くひなゼミのように騒がなければまだそのお説教は長々と続いたに違いない。

ため息と共に諦めたような表情の神奈子に頼まれたのび太が、ここ幻想郷に来てからもっとも使われているひみつ道具であるグルメテーブルかけをスペアポケットから取り出して床に敷いた。

やはり博麗神社に引き続き守矢神社でも、ノーコストかつ一瞬で好きな料理をいくらでも取り出せてしまうと言うグルメテーブルかけの便利さは完全に認知されたようだ。

こうして皆でワイワイと好きなものを注文し、博麗神社でも守矢神社でもなかなか見られない大人数での朝食を食べた後……。

 

「……はい、できました! 時間の巻き戻し具合はこれくらいでいいですか?」

「はい、もうこれ以上ないほどにばっちりです!」

「ちょっとのび太! 約束したんだから守矢神社だけじゃなくて、ウチの神社もちゃんと新品に戻しなさいよ?」

「戻る前に、ちゃんと私も戻してくださいよぅ!」

「ちょっと待ちなさいよ文、アンタ今の恰好で戻ったら服が大変な事になるんじゃないかしら?」

「………………わ、私はもう少しこのまま子供の頃の時間を堪能しようと思います」

「あー、鴉天狗よ。その事なんだが朝食の前に天魔からの遣いが来てな『アンタの事だから、放っておくといつまでも小さくなったまま子供の頃を堪能しようとするに違いないから、さっさと人間の子の道具で元の大きさになって戻ってこい』だそうだ」

「そ、そんなぁ! 神様、お、お慈悲を~!」

 

博麗神社に帰るのかと思いきや、その前にのび太は先に交わした約束通り、タイムふろしきでもって守矢神社の社殿や鳥居など、神社の建物の時間を巻き戻す作業を行っていた。

タイムふろしきで文との勝負の後、ボロボロになってしまった守矢神社を直した時に頼まれたのだけれども、やはり時間を巻き戻すと言う幻想郷でもなかなか見られない効果は絶大で、のび太が損傷した部分を直したのと同様に守矢神社はあっという間にピカピカの、出来た当初の輝きそのままの姿へと生まれ変わってしまった。

その様子を見て霊夢が博麗神社も同じように直せと言っているが、もしのび太が時間を巻き戻すところを見ていなかったら、あるいは守矢神社がピカピカの真新しい神社になっている事を後から知ったら、間違いなく霊夢はのび太に向けてその感情をぶつける、すなわち激怒しただろう。

幸いにも博麗神社も同じように新築同様に時間を巻き戻す、という約束をしたおかげでのび太の安全は確保された訳だが果たして霊夢がそれだけで満足するのかどうかは、神のみぞ、いやこの場合は神すらあずかり知らぬ事だった。

兎にも角にも、こうしてのび太が幻想郷に来て博麗神社に続く妖怪の山への冒険は終わりを迎えようとしていた。

もっとも文だけは、母親である天魔からさっさと元のサイズになって戻って来いと言われたためか、泣きそうになっていたが、まあ実際に表向きはのび太との勝負で追った手傷を癒していると言う触れ込みである以上、いつまでも表に出てこない訳にはいかないと怪しまれると言う事もあるだろうから、仕方がないだろう。

ちなみに、さすがにのび太が元に戻すわけにはいかず、文の時間を進める作業は守矢神社や博麗神社、つまりはのび太以外の女性陣に任せる事になったのは言うまでもない。

そして……。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ帰るわよのび太」

「はい、いろいろありがとうございました」

「なに、宿題について分からない事があったらまた来るといい。のび太ならいつだってウチは歓迎するよ」

「そうですね、あんなに食費も準備もいらないご飯はこっちに来てからはほとんどなかったですからね」

「あーうー、ねえねえのび太。博麗神社じゃなくてさ、ウチの神社で寝泊まりすればいいんじゃない? それならいつでも宿題はできるんじゃないの?」

「おいおい、そんな事絶対に霊夢が赦さないだろ……」

「当たり前でしょ! のび太は紫にも言われて博麗神社で直々に預かってる子なのよ? それに妖怪の山なんて危険地帯にある守矢神社で預かる事になったら、何があるかわからないじゃないの」

「今の霊夢に預けた方がどうなるか分からない気がしなくもないんだぜ……」

「魔理沙、何か言った?」

「い、いや。何でもないんだぜ」

 

幻想郷にいる間、博麗神社ではなく守矢神社で暮らせば、のび太が幻想郷にやって来た本来の目的である宿題だってすぐにできる……と諏訪子が出してきた提案に両手をぶんぶんと振り回しながら反対意見を唱える霊夢。

一応その理由としては、妖怪の住まう妖怪の山に位置する守矢神社にのび太を預けたら、どんな危険が待っているか分からないと言うものだったけれども、その本音はのび太がいないとグルメテーブルかけを自在に使えないから、と言う事は想像に難くない。

そもそも妖怪の山の妖怪を相手にしたところで、すでにのび太は妖怪の山でも上位の実力を持つ天狗と言う種族をすでに二人相手にし、一人には勝利。半ば引き分けではあるにせよもう一人にも互角の立ち回りを演じている。

そののび太を危機に陥れる妖怪ともなれば、かなりの実力がなければ難しいであろう事を霊夢は完全に失念していたらしい。

 

「で、でもほら! ゆうべ直したどこでもドアがあればほんの数秒で来れますから」

「でも、それって確かゆうべ河童たちに預けてそれっきりじゃなかったか?」

「う……」

 

そんな霊夢をなだめようと、のび太が昨夜の大宴会の最中にタイムふろしきで修理したどこでもドアの名前を口にするが魔理沙の言う通り、それは同じタイミングでにとりたちに河童の手によって調査用に持ち去られている。

一応、河童たちのリーダー的な立場であるらしい音頭をとっていたにとり曰く『明日には返す』と言っていたが、それだって『何時に』とは明言していなかったのだ。

このままでは、のび太を渡してなるものかとだだをこねる霊夢が暴れだしかねない……そんな空気を打ち払うかかのごとく、救いの手は空間を越えて現れた。

神奈子に諏訪子、早苗や霊夢、魔理沙にのび太がわいのわいのと騒いでいるその輪の外で、空間を揺らめかせるようにピンク色と言う独特の色合いをしたただのドアがぬぅ、と出現する。

もちろんそんないきなりどこからともなく現れるドアがただのドアな訳がない。こんなことができるドアも、それを使う事の出来る心当たりものび太は一人しか思い浮かばなかった。

 

「ふぅ、どうやらちゃんと修理も成功したみたいだね。遅くなってごめんね、ゆうべ貸してもらったこのどんなとこでもドア、しっかり調べさせてもらったし、今日までって約束だからね。返しに来たよ」

「あ、ありがとうございます。ちょうどこれから神社まで帰ろうと思っていたから助かりました。でもどんなとこでもドアじゃなくて、どこでもドアですよ?」

「細かい事を気にしちゃダメだよ盟友、どんなとこでも、もどこでも、もこのドアの前じゃ大して変わらないよ」

 

守矢神社の境内に現れたどこでもドアがガチャリと開き、向こう側から顔をのぞかせたのは前日にドアを調べたいと借りていったにとりだった。どうやら一度分解したどこでもドアを再度組み立てなおした後で、きちんと作動するかのテストを兼ねて、守矢神社へとやって来たらしい。

普段はそれを使う側でしかないため、なかなかこうしてどこかから誰かがやって来ようとする場面には出くわすことのないのび太にとってもそれは新鮮な光景だった。

 

「よし、ドアも返って来たしさあのび太、私たちの神社に帰るわよ!」

「え? あ、ちょ、ちょっと霊夢さーん! ちょっと待って、神奈子様に諏訪子様、それに早苗さんも。もしよかったら……えっとはい! これを使ってみて下さい、これは……『〇〇〇〇〇〇』って言って……………………きっとこれがあれば外の世界みたいに神様の事を誰も信じなくなって、消えちゃうなんて事はなくなりますよ」

「ほぅ、ありがとう。外から参拝に来て、おまけに奉納品までくれるだなんてなかなか見どころがある子じゃないか。やっぱりウチにずっといなさい。そうしなさい」

「あ……それはさすがに霊夢さんがおっかないから、また来ます」

「ほら! のび太、さっさと帰って神社を立派にしてもらうわよ!」

「そうかい、残念だねぇ。まあ、それならこれを持っていきなさい。守矢神社特製のお守りだよ。何かあった時にきっと君を守ってくれるから」

「あ、ありがとうございます」

「……あー、その、なんだ。いろいろと騒がしくしてすまなかったな。また来るんだぜ」

「……なんだか、嵐みたいでしたね」

「まあ、実際に嵐も起こしちゃったしねあの子」

 

博麗神社を直したいと言う思惑があってか、いの一番にドアへ飛び込む霊夢にどこでもドアをくぐる途中で、何かを思い出したように神奈子たちのもとへと駆け寄り、スペアポケットから一つだけひみつ道具を取り出して渡すのび太。

それを神奈子に手渡し、代わりに神奈子様からお守り……早苗が髪飾りのように頭につけているカエルのお守りと同じものを受け取ると、それをポケットにしまいくるりときびすを返しそのままどこでもドアの向こうに消えていった。

そして最後には、霊夢の騒がしさに申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べ、ドアをくぐる魔理沙。

三人がどこでもドアをくぐり、ドアがしまるとたちまち煙のように消えてしまう。

後の残ったのは守矢神社の三人だけが、唐突にやって来て大騒ぎをして博麗神社に帰っていったとんでもない外来人の子供、のび太の事について口にする。

こうして守矢神社の三人はまた日常へと戻っていくのだったけれども、のび太が渡したひみつ道具がこの後の幻想郷に大きな影響を及ぼす事になるとは、この時誰も気がついてはいなかったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこでもドアで博麗神社へと戻ってきた霊夢、魔理沙、そしてのび太の三人は帰って来て早々、縁側で三人並んで腰かけながらゆったりとした時間を満喫していた。

確かに守矢神社でも好き放題やっていたように見えなくもないが、やはり落ち着けると言う意味では霊夢からすれば自宅が一番と言う事なのだろう。

 

「あー、一日留守にしただけだったけれども、やっぱり自分の家はいいわね」

「確かにそうですよね、僕もいろいろな場所に冒険に行った後で自分の部屋に帰ってきて昼寝をすると、いつもよりも気持ちよく眠れるし」

「まあ、そうだな。私もやっぱり自分の家異変解決を自分の家に帰ってくると、我が家はいいもんだって思うからな」

「えっ! 魔理沙さんって家あったんですか?」

「こらのび太! 私は宿無しじゃないぞ!」

「こら魔理沙も、あまりのび太をいじめるんじゃないわよ。それからのび太、アンタに一つ言う事があるわ」

「…………え?」

 

魔理沙から彼女にも自宅があると言う驚愕の発言が飛び出し、それに驚いたのび太を魔理沙がホウキを振り回しながら追いかけようとするところで、霊夢がそんな二人のやり取りを制止して真剣な面持ちでのび太を見据えた。

あまりにも真剣なその表情は、のび太をこれから退治すると言われたら信じてしまうほどだ。

が、次に霊夢から出てきた言葉は……そんな真剣な表情からはうって変わって優しい言葉で……。

 

「おかえりなさい、のび太。色々あったけど、無事で良かったわ」

「はいっ、霊夢さん……ただいま!」

 




ひとまず不思議(すぎる)風祝編「は」これでおしまいです。
ちなみにこの珍妙なタイトルの由来は藤子先生の短編『旅人還る』からですね。


とは言え、これで守矢神社の面々が退場と言う訳ではありませんので、間違いなくいろいろと今後も絡んできます。
何しろ妖怪の山と言う幻想郷のパワーバランスの一角にその存在感をはっきりと示しましたからね、そして名前は明かしていませんがのび太が博麗神社に帰る直前に、神奈子様たちに渡したひみつ道具。あれも今後の幻想郷に大きな影響を与える事になります、と言う予定です(汗

さて、ひとまずはちょこちょこと日常生活を送るのび太たちの様子を描こうかなと思います。






(追伸
実はこの数日間を書くのに、一年が経過していたと言う事実に今私は大変戦慄しております(滝汗




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のび太と不思議(すぎる)風祝編・登場人物紹介

のび太と不思議(すぎる)風祝編に登場したキャラクターの説明です。



【登場人物紹介】

ドラえもんside

 

 

 

・野比のび太

 言わずと知れたぐうたら小学生。夏休みにスネ夫がジャイアンとしずかを誘って外の世界で消失した洩矢神社を自由研究のテーマにしようとした時に仲間外れにされた事でいつものように見栄を張り、どこでもドアを使って幻想郷へとやって来た。

ドラえもんが未来の病院へ定期検診に行くと言う事でスペアポケットを持っているため、ひみつ道具については基本ドラえもんと同じように使う事ができるチートとなっている。

幻想郷で紫、霊夢、魔理沙と出会い弾幕勝負を教わった結果タケコプターで空を飛びながら『のび太の銀河超特急』で西部の星で支給されたフワフワ銃を乱射すると言う、天狗とも渡り合う実力を発揮する。

 

・ドラえもん

 言わずと知れたネズミ嫌いな青ダヌキ……もといネコ型ロボット。

のび太がひみつ道具を出してとねだった時に、ちょうど未来のロボット病院からの検診で入院しなくてはいけない状況だったため、現在は未来にて検査入院中。

 

・スネ夫・ジャイアン・しずか

 嫌味なお坊ちゃま。大長編になると漢に変貌する我らがガキ大将。お風呂大好きしずちゃん。

のび太をのけ者にしながら三人で現在は洩矢神社の跡地に到着し夏休みの宿題を始めた。

当然まだのび太が実は先に消失してしまった神社にたどり着いてしまっている事には気が付いていない。

 

 

 

 

 

 

幻想郷side

 

 

 

・博麗霊夢

 言わずと知れた紅白な博麗の巫女。

八雲紫からのび太を預かる事になったが、初めて見る未来世界のひみつ道具に驚かされる。

お気に入りのひみつ道具は際限なくタイムラグなし、なおかつノーコストで料理が出てくる『グルメテーブルかけ』。

最初はひみつ道具を欲しがる幻想郷版ジャイアン的立ち位置だった魔理沙を抑える役割だったはずなのに、話が進むにつれて霊夢が暴走して魔理沙が抑える役割に変わりつつある(汗

なんだかんだ言いつつも、霊夢も魔理沙ものび太に対してはいいお姉さんである。

 

・霧雨魔理沙

 言わずと知れた白黒の魔法使い。

のび太が博麗神社にやって来た翌日、神社でのび太と出会い服装についての会話からのび太とねじ式台風を賭けて弾幕勝負を行うが初めての弾幕勝負でありながらタケコプターで空を飛び、フワフワ銃で互角に戦い引き分けたのび太を認める事に。

最初こそガキ大将的な雰囲気を漂わせていたが、どちらかと言うと最近では魔理沙よりも霊夢の方が金銭やひみつ道具絡みで暴走するので、それを抑える役割になりつつある。

最終的にはどちらも暴走しそうではあるが。

 

・八雲紫

 言わずと知れたスキマ妖怪。最初に逢った時におばさん呼ばわりしたら小学生相手にも拘らず激怒した。

初めてのび太がどこでもドアで幻想郷に踏み込んだ時に、博麗大結界に対して一切の干渉をせずに踏み込んできたため直ちに接触した最初の人物。しかしさすがの紫も未来のひみつ道具を使い、数多の世界を冒険してきたのび太の前では頭を抱える羽目になってしまった。

幻想郷の面々の中では一番のび太の実力を認め、評価している幻想郷におけるのび太の保護者的な立ち位置にいる人物でもある。

やっぱりひみつ道具については驚かされっぱなし。

 

・八坂神奈子・洩矢諏訪子・東風谷早苗

 幻想郷の妖怪の山に位置する守矢神社。外の世界でスネ夫たちが調べようとしている守矢神社のまさにその移転先で信仰を広めようとしている神様たち。

わざわざ外の世界からやって来たと言う経緯や神社の修復、早苗が鴉天狗の文に食べられたと誤解し怒った事などもあり、のび太に対しては非常に友好的。

最期に博麗神社に帰ろうとするのび太から、早苗に対してひみつ道具が一つ渡されたが……?

 

・射命丸文・天魔

 妖怪の山の鴉天狗である文と、その実の母親である天魔。イメージ的にはショートヘアーの文と、ロングヘア―の天魔と言った違い。妖怪の山の長を務めているだけあって実力は本物であり、普段は穏やかで優秀な鴉天狗である娘の文が一度新聞記事絡みになると暴走するたびに叱りつけている。

そのため文は妖怪の山の長、としてだけではなく母親としても完全に頭が上がらず、暴走しそうになった時でも天魔が絡むと途端に暴走が停止するほど。

天魔に叱られた文が一度タイムふろしきをかぶってしまい、幼年時代の姿まで縮んでしまう事に。

 

・犬走椛

 妖怪の山の哨戒天狗で哨戒部隊長。

妖怪の山で迷子になったのび太を発見し、誤解から弾幕勝負になるものび太のフワフワ銃でまんまるい風船のような姿に変えられてしまい部下や同僚の腹筋に多大なダメージを負わせた。

そう言った経緯からのび太に対しては若干辛辣な雰囲気がある。

 

・河城にとり

 妖怪の山の種族である河童の中でも音頭をとっているリーダー格の河童。

のび太が洩矢神社にやって来た夜の大宴会の中で、のび太が持っているどこでもドアに興味を示し一晩だけ貸してほしいと頼み込み、解析を行うがその最中にどこでもドアの制御装置・中枢部分の基盤に自分の名前が刻まれていると言う事実に驚愕。

未来のひみつ道具である事から、のび太に聞いても答えは出ないだろうと判断。その場に居合わせた河童たちだけの秘密にする事に。

 

 

 

 

 



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のび太の楽しい幻想郷生活
幕間


一つ冒険に区切りがつきましたので、今回はのび太以外の様子です。


のび太が幻想郷と言う、外の世界で忘れられた場所へと足を踏み入れて霊夢や魔理沙と冒険を繰り広げていたちょうどその頃。

ロボットの義務である定期検診をサボり続けた結果、未来の国立ロボット病院に強制入院の措置を取られ、放り込まれてしまったドラえもんはと言うと……。

 

「……うーん、のび太くん大丈夫かな……? ぼくがいなくても一人で大丈夫なんて言っていたけれども……モグモグ……なんか心配だ……モグモグ……」

「お兄ちゃん何言ってるの、のび太さんなら大丈夫よ。きっと今頃大変かもしれないけれども夏休みの宿題をやってお兄ちゃんの帰りを待ってるわ。だからちゃんと検査してもらいましょ」

 

妹ドラミに見舞いに来てもらったドラえもんは病室のベッドの上で、窓の外の未来世界の景色を眺めながらのび太がきちんとやっているかどうか不安そうに、ドラミが手土産にと大量に持ってきてくれたどら焼きを一つ手にし、それを口に放り込む。何しろここは病院と言う事もあり、ロボットに供される病院食も人間のそれとさして違いはない。つまりはドラえもんにとって味気ない事この上なかったのだ。

別に身体の何処かが壊れた、という事情で入院している訳では無いドラえもんにとってこの食事は非常に味気なく、また退屈極まりない入院生活を送る事になった結果、入院一日目にして病院の売店からどら焼きの姿を消し去ったドラえもんはとうとう妹のドラミやのび太の子孫にあたるセワシに『頼む! どら焼きを持ってきて!!』と頼み込み、こうしてどら焼きを食べながら病院生活を送る事になったのだ。

 

「そうなんだけどね、のび太くんの事だからジャイアンやスネ夫たちにいじめられていないかなって思って。一週間なら、セワシくんに話をしてのび太くんも一緒に22世紀に遊びに連れてきた方がよかったのかな? ほら、22世紀なら空想動物サファリパークに連れていく事だってできたし……」

「そう言えば、のび太さんが前に生みだしたペガサスとグリフォンとドラゴンは、あのサファリパークにいるのよね」

「そうなんだ、久しぶりにのび太くんもペガたちに会えれば嬉しいかなって、今になってみると思うんだ」

「確かにそうだけれども、入院している今そんな事を思いついても仕方がないじゃない。やっぱり素直に検査してもらうのが一番よ」

「うん…………そうだね……モグモグ……」

 

そう兄妹で会話をする病室の窓の向こう側、ビルや未来の鉄道が張り巡らされたその先にほんの小さく見えるのは未来の空想動物サファリパークだった。

文字通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()サファリパークであり、22世紀の世界でも有名な観光スポットとして人気を博している。

それだけではなくかつて『のび太の日本誕生』で七万年前の日本列島に家出をした時にのび太が複数の動物の遺伝子を掛け合わせる事で生まれた三頭の空想動物たちが、今はそこで元気に暮らしている事を知っているドラえもんは病室の窓からその施設が見えた時にその事を思い出し、どうせなら入院している間セワシの家に泊めてもらうなどしてでものび太を連れてくるべきだったか、と思ったのだった……。

が、もちろんドラえもんもドラミも、まさかのび太が自分のあずかり知らぬ間にスペアポケットを勝手に持ち出して空想動物サファリパークよりもさらにぶっ飛んだ場所へと足を踏み入れている事など、全く知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまたドラえもんが入院している22世紀とは違う、現代ののび太たちが暮らす外の世界。

夏休みの宿題のテーマ、つまり突然消失してしまった神社の事を調べるべく町の図書館や役場などに足を運んでいたスネ夫たちだったが、初日の調べは決して芳しいものではなかった。

あちらこちらを回り、まずは一番何か知っているであろうと相談の結果足を運んだ役場から出てきた三人の表情は実に難しい、浮かない表情をしていた。

役場に行き、消えた神社の話を聞いた三人が自由研究として消えた神社について調べたい、と説明すると役場の人は快く応じ色々な話を聞かせてくれたのだけれどもまさか三人も神社が消える前に空を飛んでいた、などと言う噂があると言われては目を丸くするより他にはなかったのだ。

もっとも、それは役場の人も同じようで『あくまで噂話だからね』と三人に前置きした上での話だった辺り、地元の人もこんな非現実的な話は誰も信じていないのだろう。

いや、むしろドラえもんと言う未来の存在や地底人、海底人、天上人、異世界人との交流をすでに行っているドラえもんやのび太たちならいざ知らず。何も知らない現代の人間に信じろと言う方が難しいと言うべきか。

そんな三人の心情を代表するかのように、ジャイアンがスネ夫につかみ掛かる。

 

「なんだよありゃ。おいスネ夫! お前が言っていた消えた神社って本当にあった事なんだろうな? 一体どうしたら『空を飛んで神社が消えた』なんて話が出てくるんだよ。その神社はドラえもんが消したのか? それとも未来人や宇宙人が建てた神社だってのか?」

「そんな事僕に言われても分かる訳ないでしょ? 僕だってまさか神社が空を飛んだ、なんて話が出てくるなんて思ってもみなかったんだから」

「……でも未来人が、って言うのはあり得るんじゃないかしら。ほら、覚えてる? 私がアラビアンナイトの世界でアブジルに捕まった時の事。あの時私たちを助けてくれたシンドバッド王様の宮殿だって、航海の途中で助けたタイムトラベラー、つまり未来人がお礼にって用意してくれたものだったじゃない」

 

これ以上放っておくと興奮した様子のジャイアンがスネ夫にゲンコツの一つや二つお見舞いしかねない……そう感じたらしいしずかがジャイアンとスネ夫の間を持つように、ジャイアンの未来人と言う言葉に、かつての冒険の記憶を語りだす。

 

 

 

『のび太のドラビアンナイト』

 

 

 

かつて絵本入り込みぐつ、と言うひみつ道具で絵本の中に入って遊んでいたのび太としずかだったが、ひょんなことからしずかがアラビアンナイトの世界に迷い込んでしまい、そこで奴隷商人アブジルに囚われの身となってしまった事があった。

宇宙完全大百科で調べた結果、アラビアンナイトの世界に登場する実在の人物としてハールーン・アッ=ラシード王(アッバース王の第五代カリフ)の存在を知り、現実と物語との繋がりと言う可能性に賭けてしずかを助けるために九世紀のアラビアへと飛んだドラえもんたち。

そこで地獄の鍋底と呼ばれるほどの過酷な砂漠の果てに黄金宮殿を築き、悠々自適の生活を送っていたシンドバッド王……かつて七つの海を七たび航海し、幾多の冒険を繰り広げた船乗りシンドバッドに助けられたのだが、黄金宮殿の簒奪を企むアブジルや盗賊のカシムたちが最後の最後に見せた切り札こそが、黄金宮殿の空飛ぶからくりだった。

かつてシンドバッド王が航海の最中助けた人物が未来からのタイムトラベラーであり、彼がシンドバッドへのお礼として築いた黄金宮殿、そこにはからくりを操作する事で空を飛ぶ機能が付いていたのだ。

それを経験している事から、しずかは消失した神社がそれと同じように遥か昔に未来人が建てたのではないかと推理したのだった。

 

「……それは、確かにそうだけどさ。そうなると海……はないから、湖で溺れてたタイムペラペラが、空飛ぶ神社を作ったのか?」

「……ジャイアン、タイムペラペラじゃなくてタイムトラベラーだよ」

「そのベラベラが作ったのか?」

「はっきりとは言えないけれども、少なくともアラビアンナイトの世界でシンドバッド王様の宮殿が飛んでるのよ? 可能性はあると思うわ」

「そうなると、消えた神社を調べるのと一緒にもっと昔の言い伝えとかで、神社がいつできたかとか遠いどこかからやって来た神様とか伝説に人物がいないかとか、その辺も調べた方がいいかもね」

「ええ。明日からはそっちの方向で調査をしましょ」

「よーし、そうときまったら飯にしようぜ!!!」

 

もちろん三人は気が付いていない、その推理が全くもって見当違いの方向を向いている事に。

三人にとって不幸だったのは、この消失した神社が空を飛んだと言う話を知る前に、一度未来人の科学力でもって造られた空飛ぶ宮殿の存在を知っていた事だろう。

それを知っていたからこそ、しずかは的外れな推理をする事になってしまったし、ジャイアンもスネ夫もそれに対して異を唱える事ができなかった。

三人が真実に気が付くのには、まだまだ時間がかかりそうである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そこは果たしてどこなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一見するとのどかな田舎の一軒家、にも見えなくはない家。その周りを取り囲むのはどこまでも続く森ばかり。つまりはこの一軒家は森の中に建っていた。そして空はどこまでも続く青空、それだけを見れば田舎の一軒家そのものだ。

もっとも幻想郷の場合、下手に人里から離れた場所に居を構えた場合最悪妖怪に襲われお昼ごはんにされてしまう危険もある為、普通の人間が人里から離れた場所に家を建てると言う事は非常に珍しい。

その証拠に家の中ではも幻想郷の賢者、八雲紫は大きなテレビのような画面を前にしてキーボードを叩き、いろいろと計算をしているらしく、カタカタと独特の音が響いてくる。

どれほどその独特の音が続いたのか、しばらくの間聞こえていたキーボード音がカタッと止んだ。

止んだ、と言うよりも何かを思い出したように手を止めた、と言った方が正しいだろうか。

キーボードに手を添えたまま、目の前の画面とは違うどこか遠くに思いを馳せるように彼女の視線は空中を見ている。

 

「ふぅ……そうか、そういえば……もうそろそろそんな時期なのね……」

 

何かを思い出したように、懐かしそうに()()の始まりを予感させる言葉を口にしたまま、キーボードから手を離し、うーんと大きく伸びをしてから慣れたようにスキマを一つ作りその中へと潜り込む。

何をすると言うよりも、単純に移動手段として昔から使っているスキマ妖怪たる八雲紫の得意技だ。

そうしてその移動手段として用いたスキマの先で広がっていたのは、窓の外に瞬く無数の星空と、青く輝く美しい一つの惑星だった……。

 




のび太の妖怪の山ツアーが終わった頃のドラえもんやジャイアン、スネ夫、しずかたちの様子はこうなっております。
もちろんのび太が幻想郷へと入り込み、今までみんなで冒険した世界とはまた違う世界で大冒険が始まっているなどとは露ほども信じておりませんし気が付いておりません。




また最後のシーンなど幻想郷? と首を傾げたくなるであろう伏線もいろいろと出してみましたので、これらがどう本編と絡んでくるのか、皆さん乞うご期待!



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人里に行こう(その1)

更新が遅くなりすみません。

ちょっと短めですが、次の目的地が決まりました。
まずは幻想郷での暮らし、なので異変と言うよりもちょっと息抜きのような感じで人里に向かいます。
※一応のび太が幻想郷に来た目的って、夏休みの宿題ですので。


「あーっ、のび太がいるとやる事が簡単に終わるから本当に楽でいいわね」

「霊夢はここに座って、のび太に指示を出してただけだったけどな」

「う、だ……だってテーブルかけなら私でも使えるけど、台風とか何か取り扱いを間違えたら怖いじゃない」

「間違えないように練習する、って頭はないのな」

「……霊夢さん、境内の掃除終わりました」

「ごくろうさまのび太、それじゃあ朝ごはんにしましょうか」

 

のび太が妖怪の山から戻ってきて一日が過ぎた。

と言っても妖怪の山で大怪我をしたりした訳ではない事から、霊夢と魔理沙にとってはまた異変のない日常が、のび太にとっては冒険が待っているに違いないであろう日常が、戻ってきた。

 

「「「いただきます!!!」」」

 

居間に集まり、ちゃぶ台を囲みながら霊夢、魔理沙、のび太の三人で食べる朝ごはん。

ちなみに今朝の献立はご飯とみそ汁、そして焼き鮭に豆腐、卵と言う外の世界の旅館などに宿泊しても出てきそうな朝食のメニューである。

が……。

 

「やっぱりのび太の道具が出してくれる料理は、美味いんだぜ。特にこの魚、幻想郷じゃなかなか高価で滅多に食べられないのに、こうもあっさりと出てくるんだから本当にありがたいぜ」

「そうよね、この大きさだったら三人分でいくらするかしらね?」

「賽銭箱の中身何年分かはかかるだr……「ひっ!?」っ!」

「…………魔理沙、これ以上言ったらどうなるかは分かってるわね?」

「はっはっは、何を言い出すんだ? 私は余計な事は言わない性格なんだぜ」

 

焼き鮭を美味い美味いとぱくつく霊夢と魔理沙の二人と、対照的にそんな二人の様子を不思議に思いながら、ごくありきたりな焼き鮭の切身を口に運ぶのび太。

幻想郷ではなかなか口にできない魚である鮭の切り身がごく当たり前に出てきた事が感動だったらしく、高くて手が出ない事を言及した霊夢がそれをからかった魔理沙に針を投げつけた。

やはりお賽銭箱にお賽銭がなかなか入らない事は霊夢も気にしているらしい。

ちなみにどうして鮭の切身でここまで感動しているのか、のび太はまだ知らないがここ幻想郷には海がない。

つまり海の幸は基本的に手に入らないと思っていい。

しかし二人は鮭の事を知っており、値段が高いと口にしていた。それはなぜか?

 

鮭確かに海の魚である。しかしだからと言って全く淡水に生息していない訳ではないのだ。

当の鮭だって、卵を産みにはるばる自分が生まれた川へと遡上し、卵を産みそしてその生涯を終える。

これはかつて『酒の泳ぐ川』にてのび太が鮭の生涯を調べ、学んだ事である。

 

そしてその鮭の仲間は淡水にも生息している。パパが以前釣り好きの同僚に尺ほどもあるサイズのものを釣ったと自慢されたイワナなどがまさにそれだった。

ただし、イワナ、ヤマメ、アマゴといったこれらの魚は元来警戒心が強くなおかつ山奥の渓流に暮らしているため漁師が行ったとしてもそうヒョイヒョイと簡単に釣れる魚ではない(※実際これらの種の解禁日は早い所で2月なので、解禁日当日に釣行しようとすると場所によっては雪渓を渡っていく事すら起こりうる)。

ドラえもんの出してくれたひみつ道具『箱庭シリーズ・急流山』で、のび太のパパがつかみ取り大会でもしたのかと言う数のイワナを漁獲できたのはあくまでも未来の道具によるもので、実際には非常に難しい釣りなのである。

それはつまり、それらの魚が幻想郷の市場に流通する数がとても少ないと言う事に他ならない。

当然供給が少ないと言う事は値段の高騰を招く。結果として、お金持ちならばともかくとして一般の庶民の口にはなかなか入らないハレの日のごちそうとして、それらの魚は幻想郷の人々にとっては知られる味になっていた。

そのごちそうなはずの魚とそっくりな味をした料理がさも当然のように食卓に並んだため、霊夢と魔理沙は感動していたのである。

こうして三人の食事が終わった頃になって、霊夢が「よいしょ」と新聞の束を居間へと持ち込んできた。

 

「わ、霊夢さんこれなんですか?」

「新聞よ、幻想郷のね。昨夜妖怪の山で鴉天狗たちが色々話を聞いてきたでしょ? 彼女たちがあの後でこうして新聞にしたのよ」

「……それにしても、今日はさすがに量が多くないか?」

「のび太みたいな子供がやって来たのよ? 記事にするなって言う方が無理な話よ」

「ええっ、じゃあこれって、みんな僕の事を書いた新聞なんですか?」

「そうね、みんな一面のび太の事で埋まってるわ」

「えへへ、僕が新聞にのるなんて……」

 

魔理沙が呆れたように言うのも無理はない。普段ここ博麗神社では文が作成している文々。新聞くらいしか読んではいない。

と言うよりもほぼ日刊で新聞を作る鴉天狗と言う存在が射命丸文くらいしかいない、と言った方が正しいか。他の鴉天狗は日刊ではなく週刊、あるいは大々的な異変や事件が起こった時に号外として(という表現も本当はおかしいのだけれども)ばら撒く、そんな天狗も少なくはなかった。

そんな中、ほぼ全ての妖怪の山に住まう鴉天狗たちがいっせいに新聞をばら撒いたのだから、いかにのび太と言う存在が妖怪の山に衝撃をもたらしたのか、その度合いが伺える。

一方ののび太は、自分が新聞にのったとあってその表情は緩みっぱなしだった。

外の世界ではぐうたら、勉強もできない、おまけにいじめられっ子とあり学級新聞にだってそうそう書かれる事はないような生活をしていたのに、ここでまさか妖怪から新聞にしてもらえるなんて思っても見なかったのだ。

が、その新聞を見てん? と目を潜める事になる。

 

「外の世界から来た謎の子供、本当に人間か!? 天狗を負かし空を飛ぶ子供、未来の道具が見せる恐怖! ……なんだこりゃ?」

「あー、まあよくある事だな。色々と話を大きくして書くんだよ。だから、鴉天狗の新聞は情報って言うよりも、面白おかしく書いてある事を楽しむ、マンガみたいなものなんだぜ」

「えー、そんなぁ」

 

そこに書かれていたのは、のび太が昨夜に話した事とはまるっきり違う、根も葉もない事まで付け足されて書かれていたのだ。意気揚々と外の世界ではまず目を通さない新聞に目を通したらこれでは、落ち込みたくもなるだろう。

山のようにある新聞の全部がこうだとしたら読む気すら失せてしまう、そう思っていた矢先に魔理沙が取り出して『のび太、見てみろよ!』と言ったのは一枚の新聞。その名前を文々。新聞と言った。

 

「……これ、なんて読むんです? ぶん……? 新聞?」

「ぶんぶんまるしんぶん、だな。のび太が勝負した鴉天狗の文が書いている新聞がこれなんだよ」

「ええっ、あの文さんの新聞、ですか?」

「そうね、でもこの様子だと元の大きさに戻った後で書いたみたいね。もっとも、文の新聞も他のとそこまでは変わらないんじゃなかったっけ」

「いや、そうでもないみたいだぜ……?」

 

初めて目にした奇妙な名前の新聞。文々。新聞をそのまま『ぶんぶんまるしんぶん』とは読めずに目をぱちくりとさせていたのび太に、魔理沙が笑いながら読み方を教えてくれた文の新聞。その奇妙な名前の新聞にのび太よりも先に目を通していた魔理沙曰く、どうやら文の新聞は他の新聞とは書き方について違うらしい。

そこに書かれていたのは外の世界で消失した守矢神社を宿題のために探しに幻想郷にやって来たのび太と遭遇した自分自身が弾幕で勝負を行った結果、大風を起こす未来世界の道具を使った事で吹き飛ばされて敗北したと言う顛末だった。

またそれだけではなく、守矢神社の神々とのび太との対談の場にも居合わせた事で、食料がいくらでも出てくるグルメテーブルかけを出してもらったりと、タイムふろしきで守矢神社まで直すどころか新品同様に戻してしまうと言う、神様でもなかなか難しい事をあっさりとやってのける姿までしっかりと写真に写されている。

目を通してみると確かに、他の新聞よりは比較的事実に則った内容が書かれている辺り、本当に天魔に叱られた事で反省したいるのか、あるいはもしかしたら文には他の鴉天狗とは異なりのび太との勝負の果てにタイムふろしきで幼い姿に縮んでしまった事などの負い目があるため、あまりある事ない事を書いてしまいそれらを外に漏らされては困ると言う思惑があるのかもしれない。

 

「そう言えば、のび太って宿題をしに来たのよね?」

「あ、いっけない。そう言えば……そうです」

「へぇ、なあのび太。外の世界の宿題ってどんなものがあるんだ?」

「え、宿題ですか? ちょっと待ってくださいね」

 

外の世界の宿題と言う存在に興味を示したらしく、どんなものがあるのか聞いてきた魔理沙に見せようとのび太がここに来る時に色々と詰め込んできたカバンを泊めさせてもらっている部屋から持ってくる。

そのままグルメテーブルかけを片付けたちゃぶ台の上に広げたのは、夏休みのしおり、日記、朝顔の絵日記、算数のドリル、漢字の書き取り、読書感想文、自由研究、と言ったごくごく外の世界ではありふれた夏休みの宿題一式。

 

「へぇ、外の世界ではのび太たちはこんなものをやるんだな……」

「面白いわね、朝顔の観察なんてして何が面白いのかしら?」

「僕に言われても……」

 

幻想郷では夏休みの宿題は無いのだろうか? 少なくとものび太が見せた宿題のセットを見た霊夢や魔理沙の感想からは、夏休みの宿題と言うものを知っているようには聞こえなかった。だがもしそうだとすると幻想郷には夏休みの宿題がないのかもしれない。もしそうだとするのなら、ここは何と素晴らしい世界なのだろうか。

 

「ねえのび太、人里に行ってみない? 多分この宿題をするのならここでやるよりも、人里の方がいいかもしれないわ」

「人里、ですか?」

「そうだな、ここでやるよりもその方がいいんじゃないか? のび太ならどこでもドアも空を飛ぶ道具もあるし、そんじょそこらの妖怪なら軽くあしらえるだろうからいいんじゃないか?」

 

宿題がないなんて、なんてすばらし世界なんだろう。僕も幻想郷に生まれたかった。

『のび太の宇宙開拓史』において、コーヤコーヤ星と地球との時間の経過の仕方が全く違い(向こうの1日が地球時間の2~3時間にしか該当しない)に気がつき、コーヤコーヤ星なら毎日一日中遊びまわっても地球では数時間しか経過しないと言うなんて素晴らしい星だ、と気が付いた時のような事を考えていたのび太に霊夢から掛けられたのは『人里』と言う新しい場所への案内状だった。

 

 

 

こうしてのび太は妖怪の山に引き続き幻想郷の新しい場所、人里へと足を踏み入れる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のび太は気が付いていなかった。

いや、のび太だけではない。のび太と共に数日とは言え暮らしながら霊夢も魔理沙も全く気がついてはいなかった。

未来からのひみつ道具を数多駆使するのび太と言う、幻想郷をもってしても完全に規格外な存在が入り込んできた事が鴉天狗のばら撒いた新聞によって、今までは知られていなかったものが完全に誰もが知るところとなってしまったのだと言う事に。

幻想郷は決して一枚岩ではない、そのパワーバランスを各地で担う実力者たちが、のび太にどういった形で接触をするのか、それはまだ誰にも分からない……。




はい。
のび太幻想郷中に知れ渡るの巻でございます。

ひみつ道具にどっぷりとつかって全く違和感を感じなくなっている霊夢と魔理沙ですが、実際何も知らない他の幻想郷の住民からすれば一人で数多の『〇〇する程度の能力』を使える事に他ならないんですよね。
幻想郷の猛者たちが果たしてそんなのび太を見逃したままにしておくのか?
そして人里に向かったのび太を待つものは!?



次回、乞うご期待!!!


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人里に行こう(その2)

10月初投稿ですね、大変お待たせいたしました。
みんなも徹夜寝不足、しないように気をつけましょう。

妖怪の山でのトラブルも無事に終わり博麗神社に戻ってきたのび太。
次の目的地は宿題を終わらせるための場所として霊夢たちが教えてくれた、人里!?
さてさて、何が、誰が、果たして待ち受けているのか!?


「……のび太、人里に行く準備はできたかしら?」

「はい、大丈夫です」

「よしのび太! それじゃあ人里まで行ってみるんだぜ! 遅れないようにするんだぞ!?」

「魔理沙、アンタそう言って全速力で飛ばしてのび太を振り落とした事、忘れるんじゃないわよ?」

 

善は急げ、の言葉通り朝ご飯を食べ終わった霊夢、魔理沙、のび太は博麗神社の境内からふわりと空に浮かび上がり人里へ向けて出発した。

ちなみにのび太はいつものように頭にタケコプターをくっつけて、魔理沙は魔法使いらしくホウキにまたがって、そして霊夢は何もなしにそのまま空を飛んでいる。

最初は魔理沙が『さあ! 全速力で人里まで行くんだぜ!』と思い切り飛ばそうとしたのだけれども、霊夢からののび太を妖怪の山に連れて行く途中で、スピードを上げ過ぎた結果道中振り落としたと言う前科について言及されると途端に顔色を青くしてゆっくりとのび太のタケコプターに合わせたスピードに落としている。

そうして三人、のんびりと幻想郷の空を飛んでいるがそこはのび太も常時タケコプターで空を飛んでいる事もあり、別に騒いだりと言う事はなく普段通り、当たり前のように飛んでいた。

 

「しかし、空を飛んでいても別に慌てる様子もなし。本当にのび太って何でもありだよな」

「いやー、そんな事ないですよ」

「いいえ、未来の道具かも知れないけれどもそれを使いこなすのだって一つの能力よ。もっと自分に自信を持ちなさいよね」

「そうだぜ、特に鴉天狗の文を風で吹き飛ばすなんて、私にだってなかなかできない芸当なんだぜ」

 

そんな他愛のない雑談をしながら空を飛ぶ中、霊夢の姿を見ていたのび太はふと何かを思い出したように、おそるおそる、といった風に霊夢に訊ねた。

 

「……そう言えば、あの……霊夢さん」

「? どうしたの、のび太? そんなに改まって」

「あ、いえ。……その、霊夢さんや守矢神社の早苗さんって、実は地球侵略……と言うよりも地球人を捕獲に宇宙からやって来たロボットとかじゃないんですよね?」

「ぶふぅっ!?」

「はぁぁぁっ!!? 何言ってるのよ、私はれっきとした人間よ!」

 

唐突に発せられたのび太のあまりと言えばあまりにぶっ飛んだ発言、と言うか質問に霊夢は訳がわからないといった声をあげ魔理沙については思いきり吹き出した。

 

「おいおいのび太、急にどうしたんだ? 確かに霊夢の実力なら幻想郷くらいは征服できるだろうけれども……それでも長年付き合ってきた私が言うんだ。霊夢も早苗も、間違いなく正真正銘の人間なんだぜ」

「魔理沙、ちょっと後で覚えてなさいよ? ……ねぇのび太、一体どうして私を見て人間じゃなくてロボットじゃないか、なんて思ったの?」

「あ、え……その……」

 

霊夢からの質問はもっともだ。普通は行きなり他人をロボットか? などとは訊ねたりはしない。

けれどものび太には思い出があるのだ。地球侵略にやって来たロボットとの、思い出が。

 

 

 

『のび太と鉄人兵団』

 

 

 

かつて地球からはるか彼方のロボットが支配する惑星メカトピアでは元々は上流階級のロボットたちが下層階級のロボットを奴隷として扱っていたものの、近代になりロボットはみな平等と言う考え方が広まった結果、ロボットに代わる新たな労働力と言う名の奴隷として地球人捕獲作戦のためにやって来た少女リルル。

スパイとして怪しまれないように地球人そっくりな姿をした彼女ともう一体、北極に前線基地を建設するために送り込まれた工作ロボット、ジュド。

スネ夫の従兄が作成したロボット、ミクロスに張り合うために偶然から拾ったジュドを巡る果てに知り合ったリルルだったが、のび太たちが組み立てたザンダクロス(ジュドの名前を知らないのび太たちが命名した)を返すため保管してある鏡面世界へと案内したのだった。

が、その時にあろう事かリルルはタケコプターもなしに空を飛んで見せたのだ。空を飛ぼうとリルルにもタケコプターを渡そうとした所で、そんな物は要りませんと言わんばかりにふわりと空を飛ぶ姿を見たのび太は思わず内心で『タケコプターなしで!? どういう人間なんだ……?』と驚いたのは言うまでもない。

後になって考えればこれはそもそもリルルが地球人どころか宇宙人ですらなく、元々ロボットだったからできた芸当なのだと分かったけれども初めて見た時にどれだけ面食らったのかは今でものび太は覚えていた。

だから、タケコプターもホウキも、自分の翼も使わずに空を飛ぶ霊夢や早苗を見てもしかしたら、とのび太は尋ねたのだ。

 

「……なるほどな、空を自由に飛ぶ人間そっくりのロボットか。だから何もなしに空を飛ぶ霊夢を見て、聞いたと。だそうだぜ、霊夢」

「むー、それならそうとちゃんと説明しなさいよね。いきなりロボットですかなんて聞いてくるから本当にびっくりしちゃったんだから。でも外の世界ってすごい異変が起こっているのね。だって、人間を奴隷として使うために他の世界からその、てつじんへいだん、だっけ? がやって来たからのび太と友達たち数人で、とんでもない数のの大軍と戦ったんでしょ?」

「はい、そうです……」

「実はのび太ってさ……話を聞けば聞くほど私たちの想像を上回るとんでもない事さらっとやってないか?」

「……よね。私たちが今までに色々異変を解決してきたー、って言うのがのび太の話を聞いているととてもちっぽけなものに思えてくるわよね」

「で、でも霊夢さんたちだってそのいへん、ですか? を今までに何回も解決してきたんですよね?」

「そりゃあそうだけれども、さすがにそんな数万を超えるような空を埋め尽くす敵軍に対して数人で迎え撃つなんて異変は今までになかったわよ。……それにそんな異変、絶対に起きて欲しくないし

 

人里までの道中、のび太が経験した異変にも引けを取らない大長編の話を聞かされた霊夢に魔理沙。

それは恐らくのび太が経験した数ある冒険の中でも最大級にとてつもない相手だったであろう鉄人兵団の話である。

何しろその兵力は圧倒的で、東京を一夜で灰燼と化しただけにとどまらず先遣隊の三分の二をそれぞれニューヨーク、パリ、ロンドンの三方面へと送り込み、同時攻撃してあっという間に火の海に変え、さらにメカトピアから増援を求めると言う大兵力。

最終的に兵団が暴れている地球が鏡面世界と言う、巧妙に作られた偽物の世界である事に気が付いてしまいその出入口である高井山の山奥にある湖へと全兵力が押し寄せ、文字通り湖の周囲全ての空を黒く埋め尽くす兵団数万あるいは数十万か。その大軍団相手に地球人の未来を賭けてドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫はたった四人で戦う事になったのだった。

おまけにこちらの武器は毎度おなじみショックガンに空気砲、スモールライトに瞬間接着銃と言う決定打に欠ける射撃武器。一応その火力不足を補うために改良型やまびこ山もありったけ用意し、至る所に配置したもののそれでも火力不足と、鉄人兵団の圧倒的な物量には敵わず、最後には頼みの綱、最後の切り札たるザンダクロスさえ抑え込まれる事態となってしまう。

のび太はあずかり知らぬことであるが一対一で自分のコピーと戦わされる惑星間の代理戦争『ひとりぼっちの宇宙戦争』とどちらが果たしてマシだろうか? という規模であるこの大冒険の話を聞かされては、今まで解決してきた異変と言うものがどれだけ小規模のものなのか、と霊夢や魔理沙たちが真剣に考えてしまうのも無理はないだろう。

ちなみにその大兵力による圧倒的な物量差でザンダクロスさえ封殺され、のび太たちにはもう何も打つ手がなくなった時に逆転の一手をもたらしたのは外でもない、鉄人兵団のスパイとして地球に送り込まれていたリルルの命と引き換えに成し遂げた過去改変だった。

のび太にとってもいまだに忘れられない人の心と機械の身体を持った少女リルル。そのリルルと同じように、何も使わずに空を自由自在に飛ぶと言う霊夢の姿を見たからこそ、ゼロに限りなく近いであろう可能性であるにもかかわらず、もしかしてとのび太に質問させたのだ。

やはりと言うか、答えは分かり切っていたけれども……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、木々の向こう側にだんだんと瓦屋根や板葺きの屋根が見えてきた。その様子は外の世界とは全く違う、タイムマシンで出かけた昔の時代の街のようも見える。

もちろんそこには外の世界ならどこでも見かけるありふれたものである電柱も、ましてや道を走る車も何もない。本当に現代結界こそあれど現代の日本なのかと思いたくなるような風景に、今までにも過去から未来へ色々な冒険をしてきたさすがののび太も目を丸くする。

 

「霊夢さん。あれが人里、なんですか?」

「そうよ、そしてあの人里こそがこの幻想郷で暮らす人々にとって一番安全な場所でもあるのよ」

「安全って、何かあるんですか?」

「妖怪は人里に入って来たっていいんだぜ。でも人里の中では絶対に妖怪は人間を襲ってはいけない、って言う決まりがあるんだ。これをもし破ったりすれば、霊夢がその妖怪をすぐにやっつけに行くって言う訳だ。逆に言えば、夜とかに人里をもし出たりしたら妖怪に襲われたりしても人間だって文句は言えない、って訳なんだぜ」

 

霊夢の説明に魔理沙がさらに付け足すように解説をしてくれる。

霊夢がただ人里であると言うのではなくわざわざ安全、と口にし魔理沙が事でその意味を説明してくれたおかげで、のび太も幻想郷に来てから忘れていた事をようやく思い出す。

のび太自身はひみつ道具で妖怪たちをやっつけたり負かしたりしていたけれどもそれはあくまでも特別な事であって、普通の人から見れば妖怪の山で出会った白狼天狗や鴉天狗などはどうひっくり返っても相手にもならない、妖怪と人間の間には力の差がはっきりあるのだと。

でも、もしそうだとするのならその力の差がある妖怪をやっつけに行く霊夢は一体どれだけ強いのだろうか?

 

「あの……じゃあ、ひょっとして霊夢さんって強いんですか?」

「え、そりゃあ強いに決まってるじゃない! のび太、アンタ私の事を一体どういう風に思ってたのよ!」

「え、いえ……。だっていつもいつも神社でぐうたらしてるから、今の魔理沙さんの話を聞いてもどうもピンと来なくて……」

「あはは、言いたい放題されてるな霊夢。でものび太、霊夢が強いって言うのは本当だぜ。何も無い時は本当にぐうたらの化身みたいにのんびりしてるけど、一度異変が起こればすぐに動き出して妖怪変化をやっつけるんだぜ」

「へぇ……。……本当かな?

 

霊夢がのび太のつぶやきを聞いていなかったのは幸いだっただろう。

のび太の言葉に顔を赤く、頬をぷーっと膨らませながら『わ、私はそんなにぐうたらじゃないわよ!』と言っている所に追い打ちを掛けられたら、間違いなく怒っただろうことは想像に難くない。

そう言う意味で、のび太は幸運だった。

 

「さて、そろそろ降りるわよのび太」

「あ、はーい」

「あの辺なんかいいんじゃないか」

「そうね。のび太、あそこに降りるわよ」

 

人里に降りようとする霊夢の言葉に魔理沙が通りの一角、人通りの少ない場所を見つけて指差して高度を下げてゆく。

そのまま魔理沙に続くように霊夢も降りてゆき……最後にのび太が続く、という格好でふわり、と三人は人里の通りに無事着地した。

しかしのび太たちが暮らす外の世界では珍しい、空を飛ぶという事も霊夢も魔理沙も空を飛んで人里にやって来ることが多いのか、空を飛ぶ光景は珍しくないのか、通りを往来する人々は誰ものび太たちが空を飛んで来たことに驚く様子はない。

 

「……ここが人里かぁ」

「そう。何しろ幻想郷に暮らす人間の大半がここにいるからな、いろいろなものがあるんだぜ?」

「へぇ、面白そうですね」

「……待ちなさい、何のためにここまで来たのか分かってるの? まずはのび太の宿題が先よ」

「硬い事言うなよ霊夢、そもそもその夏休みだって、のび太の話だとまだたっぷりあるみたいじゃないか」

「甘いのよ魔理沙! そうやってまだ時間があると思って縁側でお茶を飲んでいたら、一体何回夕方になってやらなきゃいけなかった事ができなかったと思ってるのよ! いい? やるべき事はまず先にやるのよ、いいわね?」

「「……………………」」

 

着地してから、周囲をきょろきょろと見回すのび太。確かに妖怪の山と違って人の姿は少なくはない数が通りを歩いているのが見える。しかしやはりその恰好はのび太の見慣れた外の世界の姿とは違い、皆時代劇やタイムマシンで過去の日本に行った時などに出てきそうな格好の人ばかりだ。

それが改めてここが外の世界とは全く違う、幻想郷と言う世界なのだと言う事をのび太に教えてくれる。

さて、そんな人里に早速魔理沙の案内で探検に出かけようとしたその矢先に、のび太と魔理沙の背中に無の鋭い言葉が突き刺さった。

その言葉も、その表情もまるで宿題をしないで遊びに行こうとした時に捕まってしまったママがのび太にするお小言のようなのだけれども、その内容はただ勉強しなさい、宿題はやったのと押し付けるようにただただお説教を行う(※のび太視点で)ママとは違い、自分の失敗談から来ているため非常に説得力がある。

おまけについここに来る直前まで話していた内容を考えると、霊夢の実力は非常に高いと言うのだから、ママとは違って逃げる事も容易ではないだろう。

そんな訳で……。

 

「霊夢さん、僕たちどこに行くんですか?」

「決まってるじゃない、寺子屋よ。多分今日もやってるはずだし」

「てらこや? って聞いた事が無いんですけれども、どんなお店なんですか?」

 

のび太の左右に霊夢と魔理沙が並び、人里を歩く三人。その姿はちょっとみると、異変を起こした首謀者ののび太を逃亡を阻止するために左右を固めながら連行していく最中の霊夢と魔理沙、と言うようにも見える。

もちろんそんな事はないのだけれども。

そうして霊夢と魔理沙に案内されながら人里の通りを歩くのび太が耳にしたのは、外の世界では聞いた事もないお店の名前だった。

 

「そうね、子供たちが集まっていろいろと先生に歴史とか歴史とか歴史とかを教わる場所なのよ」

「だな、一応歴史の他にも読み書きそろばんとかも教えてくれるけれども基本は歴史だな」

「……? 子供が集まって読み書きそろばんを教わる場所って、どこかで聞いた事があるな」

 

もちろんのび太は知らない。寺子屋がお店ではなく外の世界の学校と同じような子供たちに教育するための場であると言う事を……。

知らないままに、なんだっけ? と思いながらも『お店って言うくらいだから、もしかしたら宿題とかを手伝ってくれるような場所なのかもしれない。確かにそれなら神社で一人夏休みの宿題をするよりもてらこやに行った方が楽に宿題が終わるかも』などと勝手に自己完結して霊夢たちの案内に黙ってついていくのだった。

そこで子供たちに歴史を、歴史を歴史を 教えている先生が一体どんな人物なのかも知らずに……。




さて、まずは目的地が人里の寺子屋に決まりました(桃鉄風に)
寺子屋の意味さえまず理解していないのび太は、一体誰先生と遭遇するのか!?
果たしてのび太の頭は無事で済むのか!?

次回、乞うご期待!!!


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寺子屋は何屋さん?

お久しぶりです。
遅くなりましたがようやくの投稿です。最近なんだか月1ペースになってるな……どうにかしないと(汗

人里にやって来たのび太たちが目指すのは寺子屋、のび太の運命は?


寺子屋を目指して人里の通りを歩く霊夢、魔理沙、そしてのび太の三人。

その間にものび太はあっちこっちへと視線を送り、なかなか外の世界ではお目にかかれない人里の風景を楽しんでいた。

もちろんのび太は気が付いていない。のび太の目線からすれば珍しいのは幻想郷だけれども、幻想郷の人里で暮らす市井の人々からすれば、見慣れない格好で周囲を物珍しげに見ている博麗の巫女に連れられた子供の方がよっぽど珍しい存在であると言う事を。

そんな人々の視線に気が付かないのは三人の内のび太だけである。残りの霊夢と魔理沙は当然市井の人々からの好奇の視線に気が付いていたけれども、かと言ってのび太にそんなにキョロキョロするなと怒るのも難しい。宿題をするために、神社よりもいいだろうと言う事でやって来たとは言えのび太にとっては初めての人里、何もかもが目新しいのだ。

それをそんなにキョロキョロして私たちが恥ずかしいから止めろと言ったところで果たしてのび太は止めるだろうか? その答えが否であろう事は霊夢と魔理沙の二人にも容易に想像がつく。

なぜならもし逆に、霊夢や魔理沙が外の世界に迷い混み、のび太や外の世界で出会った人物に連れられて同じように外の世界の街に出かけたなら自分たちも同じような事になる事が分かっていたからだ。

こうしてのび太たち一行は寺子屋までの間、人里観光ツアーとして歩き回る事になったのだけれどもそこは幻想郷。外の世界とはまた大分趣が違っている。

通りに並ぶお店もスーパーのように何でも売っている大きなお店、というものはなくせいぜいがジャイアンの家のような雑貨屋である。

それ以外にもドラえもんが見たらよだれをたらしながら突撃しそうなどら焼きが並んでいるお菓子屋、外の世界とはまるっきり違う服を売っている服屋、これは外の世界でもあまり変わらない八百屋に魚屋、あるいは本屋に今では珍しい米穀店。ついでに小料理屋に花屋まで、やはりそれなりに暮らしている人も多いためかそれぞれ専門に品物を扱うお店が軒を連ねているらしい。

現代に暮らしているのび太の視点からすると、こんなに色々と扱うものによって別々のお店がなくてもスーパーやコンビニがあればまとめて買えて便利なのに、と思うものの、そんなものができたのはつい最近の事。

のび太のパパが子供の頃には、店舗の雰囲気などこそ昔の雰囲気が残っており、外の世界とは若干雰囲気が違うけれどもこれが当たり前だった事を、残念ながらのび太は知らなかった。

 

「すごい、こんなお店もあるんですね……。でもスーパーやコンビニはどこにも見当たらないや。やっぱり無いのかな……?」

「……ほら、のび太。訳の分からない事を言っていつまでもキョロキョロしていないで。着いたわ、あれが寺子屋よ」

「あれが寺子屋ですか? なんだかあんまり他のお店と違って何かを売っているお店っぽくないような……」

「まあ、中に入ってみればのび太だって分かるだろ? さあ行こうぜ」

 

そうして観光ツアーと化していた移動を続けてしばらく、人里の通りを霊夢と魔理沙の先導で歩いていくその先で『あそこよ』と霊夢が指さした先にそのお店(?) は建っていた。が、その建物はどう見ても人里でここまで歩いて来る途中で見た通り沿いに建っているお店とは趣が違う事に気がついいたようで、のび太はその建物を見てなんだか様子がおかしいぞと首をかしげている。

なにしろまずお店ならどこも出しているであろう看板がない、おまけに暖簾も何も出ていない。そもそも売り物を売ろうと言う意志が感じられないその佇まいの怪しさにのび太は首を傾げながら中に入るのをためらっていたけれども、案内役の霊夢と魔理沙が中に入ってしまえば自分だけ外で待っていますと言う訳にもいかない。

結局のび太も寺子屋の入口をくぐる事になったのだった……。

 

 

 

ちなみに、読んでくださっている諸兄諸氏がご存じのように寺子屋は何かを販売したりする『お店』ではない。

のび太は盛大に勘違いしているが、寺子屋は外の世界でいうのならば学校に近い施設である。子供が読み書きそろばんと言った生活に必要な事を学ぶ場所、それが寺子屋なのだが残念な事にのび太はその点についての知識の持ち合わせはまったくと言っていいほど無かった。

だからこそ、霊夢と魔理沙から寺子屋の説明を聞いた時にもどこかで聞いた事があるな、程度の認識しかなかったのだけれども。

 

 

 

それでも、そんなのび太でも寺子屋の中に入りようやくこの場所が「寺子屋」と名前が付きながらも物を売るお店にしてはどうやら様子がおかしいぞ、と何かに気が付いた。

寺子屋の入口をくぐったのび太の目に入って来たのはまず、真っすぐな廊下。木製の、昔々それこそのび太のパパがまだ子供で、のび太のおじいちゃんが元気だったころの学校のイメージそのものなのである。

もしかしたらインドによく出かけるのび郎おじさんがゾウのハナ夫の事を説明する時に話してくれた、戦争で疎開していた昔話の頃(※『ゾウとおじさん』より)にも田舎ではこんな学校にいたのかもしれない。

その廊下が寺子屋の中をずっと奥まで伸びていて、大きな部屋が一つ。いうなればのび太の通う学校の教室よりも大きい教室が一つと廊下と言う間取りを見てしまえばいくらのんびり屋ののび太でもさすがに寺子屋の正体に気がつくと言うもの。

 

「あの……霊夢さん、この寺子屋ってひょっとして、幻想郷の学校なんですか?」

「学校って言うのが何なのかはよく分からないけれども、先生が子供たちに読み書き歴史を教えている場所よ」

「やっぱり! どうりで。いつも立たされてる廊下と似てると思った……」

「なんだのび太、外の世界では廊下に立たされる勉強でもあるのか?」

「ち、違いますよぉ」

 

何も知らない魔理沙がのび太の言葉に興味深そうに聞いてくるけれども、まさかのび太も自分が授業中に居眠りや遅刻に忘れ物をたびたびして、先生に怒られた結果廊下に立たされているなどとは恥ずかしくて説明できなかった。そのためそのまま違うとだけ答えてどうにかその場をごまかそうとする。

そう、学校の廊下とはある意味のび太が学校にいる時に机よりも多く過ごす事があるポジションである。

先生の発する「ばかもーん!! 廊下に立っとれ!」の呪文はもはや日常茶飯事と化している。それは当然、その分のび太の遅刻に忘れ物にテストの成績に授業中から平気で居眠り、とそれを言わせるだけの事をやらかしているのだけれども。

兎にも角にも、それだけ常日頃から立たされている場所なのだから、間違えようはずもない。のび太はここ廊下に来てようやく寺子屋が学校と同一の存在であるとはっきり心で理解したのだ。

そんなのび太の内心に潜む『怖れ』に反応したのか、その場をごまかそうとするのび太の必死の気持ちが天に通じたのか、教室の中から異様な音が響いてきた。

 

 

 

 

 

 

…………ズ……ゴゥゥゥゥゥン

 

 

 

 

 

 

「ひ……っ!? な、なに今の音……?」

「あー、今日も慧音は平常運転だな」

「へ? けーね……?」

「みたいね。いいのび太、面倒なことになるから良い子にしてなさいよ。 わかったわね?」

「え、いい子にしていないと肉食恐竜でも出てくるんですか?」

「「出るかっ! そんなものっ!!!」」

 

 

鈍く、それでいて腹にズシリと響く音はこれまでに何回も過去で耳にした大きな恐竜がたてる足音のよう。

かつて『のび太の恐竜』で、ピー助を北米大陸(一億年前)から日本列島成立予定地へと北回りのルートで連れてゆこうとした時にキャンプ地とした火口湖で出会ったブロントサウルス(※後期の版ではアパトサウルスに修正)が歩くたびに一歩一歩立てていた足音がまさにこんな感じだった。

それなのに山のように大きな恐竜が立てる足音のような耳にしても、霊夢や魔理沙はさほど気にする様子は見られない。

むしろいい子にしていないと何が起こるのか、霊夢の言葉が非常に気になるところである。いや、妖怪が洩矢神社に向かう途中にあれだけ出会ったのだから、恐竜の一頭や二頭くらいいても不思議ではない。

前に聞いた時には紫と霊夢にいるか、と言われたけれども念には念を入れて、とそう思って質問したのだけれども、二人から返って来たのは鋭いツッコミだった。

どうやら幻想郷には妖怪はいるのに残念ながら恐竜は一頭たりともいてはくれないらしい。

地面の下には恐竜が今日も暮らしていると言うのに、じつに世の中とは不公平ではないか。

そんな事をのび太が考えていると、突然教室の扉がガラリと開けられて中から女の人が出てきた。

ただし、ただの女の人ではない。色の薄い長い髪に青い服装はまだへんてこではないのだけれども、その頭のてっぺんにはへんてこな形の帽子を乗っけている。

少なくとも今までいろいろな世界を冒険してきたのび太にも、まだ見た事がない形の帽子だった。

もしかするとこの人がけーね、と霊夢や魔理沙が呼んでいる人なのかもしれない。もっともその場合、この女の人はどうやってあの恐竜の足音(仮)を立てたのか? という最大の疑問が残るのだけれど……。

 

「こら! 誰だ、廊下で騒ぐんじゃない。そもそも授業中に何をやっているんだ? ……って、お前たち珍しいじゃないか。寺子屋に顔を出すなんて」

「ちょうどよかったわ慧音、のび太の宿題を見てあげてほしいのよ」

「……そうか、その子が外から来た子……のび太と言うのか。今朝の新聞ではどの新聞も1面を飾っていたから驚いたよ。しかし君、見るのは構わないがそもそも宿題と言うものは各々に出された課題を自分の力で解くことに意味があるのだぞ? それを他人の力を借りて解いていては自分の力にもならないだろう。君に宿題を出したのが一体誰なのかはあいにくと私も分からないが、きっと宿題を出した人物は君に自力で解いてほしいと思っていると思うぞ。自己紹介が遅れたが私は上白沢慧音、この人里で見ての通り寺子屋の先生をしている。かく言う私も宿題を子供たちに出しているが、やはりずるをしたりして全部正しい答えの宿題を出されるより、例え間違いだらけでもきちんと自力で解いてきてくれた子の方が私は嬉しいよ」

 

……長い。とにかくひたすらに長い。これでもかと言うほどに長い。そして話の内容が正しい事なのにいかんせん真面目過ぎて、たった今の数分程度の話を聞いているだけで眠くなるのはどうしてなのだろうか。

もちろんこの慧音先生が言っている事は間違っていないし、のび太に宿題を出した学校の先生もずるをしたり、やって来ないよりも、間違いだらけでも全部終わらせると言う事を一つの評価として見ている事をのび太もちゃんと知っている。

以前『出来杉グッスリ作戦』においてしずかが30分、スネ夫が3時間、ジャイアンが4時間、のび太に至っては朝までかかる、と言うほどの大量の宿題を出された際に、グッスリ枕と言う強制的に相手を眠らせる道具で出木杉を妨害しようとした事があった(ちなみに出木杉は10分もあればできると言ってのけた)。

この時はドラえもんから出してもらったグッスリ枕で出木杉を朝まで眠らせて妨害しようとしたものの紆余曲折までの結果、故障したグッスリ枕から放たれた覚醒電波を受けて眠れなくなってしまったのび太が、最終的に宿題でもやって気を紛らすしかないと朝までかかってどうにか宿題を終わらせた時には普段とはうって変わって「よくやった」「間違いだらけでも全部やってきたのはえらい」と評価しみんなも見習うようにと、クラスに呼び掛けていた事からも、のび太の先生もきちんと自力で解く事を評価の一つとして見ている事が伺える。

それでも、わざわざここまで来て「自分でやりなさい」では身も蓋もありはしない。

 

「あのねぇ、そんな事は分かってるの! でも、のび太が出された宿題の中に、ちょっと面倒なものがあるのよ」

「どうした、面倒と言うと……そんなに大変な宿題があるのか?」

「えっと、自由研究なんですけど……僕がここに来た理由が、その……」

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

のび太は慧音に改めて説明をする。

外の世界で友達が守矢神社の跡地について調べよう言い出したのに仲間外れにされた事。それに負けじと自分はもっとすごい誰も行った事のない場所を調べてやると言い出して、ここに来てしまった事。

なので自由研究は幻想郷について何か調べたいと思っている事。

それらを説明し終えると慧音先生はふむ、と考えるしぐさをしてから一言だけ、口にした。

 

「……なるほどな。幻想郷について調べるとなれば確かにそれは博麗神社では難しいだろう。しかしそれなら、私よりも稗田家にお世話になった方がいいんじゃないのかな? それに私は今こうして授業中だし話を聞くにしても、授業が終わった後になってしまうぞ? それともせっかく幻想郷に来たんだから、一緒に私の授業をお試しと言う事で聞いていくと言うのなら話は別だが……。そうだな、それがいいんじゃないか?」

「そっか、確かに言われてみればそうよね……のび太、どうする? 授業を一緒に聞いてく?」

「え、ええっ!? じゅ、授業ですか?」

「面白そうじゃないかのび太、せっかくだから他の宿題も見てもらったらどうだ? 慧音ならきっと教えてくれると思うんだぜ」

「あ、えっと……その……」

 

いつの間にか、慧音、霊夢そして魔理沙からの一切悪意のない善意だけでじわじわとふさがれてゆく退路。

夏休みと言う、学校の無い素晴らしい日々。おまけに今のび太がいる場所は幻想郷と言う、さらに学校からは縁遠い場所だと思っていはずなのにいきなり現れた寺子屋。

もちろんのび太が日々学校の先生から怒られて廊下に立たされる生活を送っているなどと言う事は、霊夢たちは知る由もない。だから、のび太が寺子屋の授業についても苦手意識を持っているなどとは微塵も思っていなかった。

 

「大丈夫なんだぜのび太、()()()()()宿()()()()()()()()()()()()優しい先生なんだぜ」

「そうね、今のところ異変が起きる様子もないしのび太が授業を受けるなら保護者もちゃんとついてあげないとね」

「よし、決まりだな。それじゃあ特別に体験入学と言う事でのび太を寺子屋に招待しよう。短い間かも知れないが、しっかりと勉強していくんだぞ」

「え、ええっ! ちょ、ちょっと……あーっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………こうして、慧音に引きずられるようにしてのび太は寺子屋の教室へと半ば強引に連れていかれてしまったのであった。

 




のび太、寺子屋に食べられる!!!(嘘
霊夢も魔理沙も慧音も、悪意がある訳ではありません。しかしのび太からしてみれば悪意たっぷりの誘い以外の何物でもない訳でして……。
おまけにのび太たちが入る前に大きな音がしたという事はおそらく……頭突きを喰らった子が最低一名は中にいると言うのは間違いありませんね。

嗚呼、居眠りも宿題を忘れる事も得意なのび太の運命やいかに(フラグ)


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のび太、死すっっっッッッ!!!!!!

やめて! 慧音先生の固い頭で、のび太みたいな貧弱な子の頭に頭突きを受けたら気持ちよさそうにお昼寝しているのび太の命の火が燃え尽きちゃう!

お願い、死なないでのび太!

あなたが今ここで倒れたら、この『ドラえもん のび太の幻想郷冒険記』の続きはどうなっちゃうの?

頭突きを受けるまで文字数はまだ残ってる。ここを耐えれば、生き延びられるんだから!






今回「のび太、死すっっっッッッ!!!!!!」デュエルスタンバイ!








……だって、ねえ。
全開の感想をくださった方が軒並みこのフレーズを入れてくるんですから、急遽のび太を死なせる方向にシフトさせましたよええ。
と言う訳で、のび太死す、お楽しみに!(ぇ (なんてひどい予告w)


「……と言う訳で、今回特別に外の世界からやって来たのび太も一緒に皆と授業を受ける事になった。短い間かも知れないがよろしく頼むぞ。また、後ろにいる博麗の巫女と白黒の魔法使いは幻想郷に来て間もないのび太の保護者役だだからのび太が授業を受ける所を見ていくそうだ。みんな、博麗の巫女に笑われないようしっかりと授業を受けるように」

「「「はーい!!!」」」

「よし、それでは授業の続きを始めるぞ!!」

 

寺子屋へとやって来たのび太は抵抗する間もないままに、慧音によって特別に外からやって来た子供と言う事で一緒に授業を受ける事になってしまった。

最初こそ引きずられるような格好で教室に入ってきたとたん、中にいる同い年くらいの子供たちから一斉に視線を受ける事になってしまったのだけれどもそこはさすが慧音先生。

しっかりとのび太の事を説明し、特別に授業を受ける事を説明しついでに霊夢と魔理沙と言う本来ならば寺子屋などもう利用しないはずの二人まで一緒に入って来た事についても説明を終わらせてすぐに授業へと戻っていく……のだけれども。

 

「………………………………」

 

教室の隅に転がっている、そう文字通り眠っているのではなく、頭に大きなたんこぶを作りながら転がっている青い服を着た女の子の事を誰も気にしないのは一体どうしてなのか? それは慧音先生だけではなく、授業を受けている幻想郷の子供、それにのび太たちが受けているこの授業を後ろで見学している霊夢や魔理沙の二人も気にしていないのだ。

普段のび太が学校でしているようにただ居眠りをしている、というのならともかくたんこぶまで作って倒れている子ともなればそう無視できるものでもなく。

気になっておちおち眠れやしないのび太が選んだのは、先生に聞いてみると言う事だった。

 

「あ、あの……すみません」

「……ん、のび太か。どうしたんだ?」

「あ、あの……あそこで倒れてる青い服の子は、あのままにしておいて大丈夫なんですか?」

 

おそるおそる手を上げたのび太に気が付いた慧音先生がそれに気が付いてのび太に発言を促してきたため、早速教室の片隅でたんこぶを作っている子を放っておいていいのか質問する。もちろんのび太としては、倒れている子にもしも何かあれば、と言うつもりだったのだけれどものび太の発した質問に、教室にいたのび太以外の全員……慧音先生はおろか霊夢も魔理沙も、そして一緒に授業を受けている子供たちもようやく『あぁ』と何かに気が付いたようにそれぞれ頷くのだった。

 

「ん? ああ、チルノの事か。まあ、チルノなら大丈夫だ。授業中に騒いだ挙句に吹雪まで起こそうとしたからな、叱ったんだ」

「え、し、しかった……? その、ちるのちゃんを、ですか?」

 

慧音先生の『授業中に騒いでいたから叱った』と言う言葉、それはのび太の想像の斜め上を行くものだった。

のび太自身も学校で先生に「ばかもん!」と叱られる事はしょっちゅうだし、廊下に立たされる事もほぼ毎日である。それでも(さすがののび太も授業中に騒いだり、と言う事まではしないけれども)たんこぶを作って倒れる程に叱られた記憶はさすがにない。

あるいは何回も注意された上でそれでも先生の言う事を聞かずに騒いでいたから、頭にたんこぶを作る羽目になったのだろうか? と言うか、たんこぶを作って倒れる程の威力の頭突きを放つというのは、まるでドラえもんのようではないか。

ちなみに、そのドラえもんの頭突きの威力も実はなかなか尋常ではなかったりする。

 

 

 

 

 

 

『のび太と雲の王国』

 

 

 

 

 

 

以前、理科の授業で先生から気象についての説明を受けていた時、天国はどこにあるのかと尋ねたのび太は思い切り笑われてしまった事があった。

もちろん今の科学の常識では天国などと言うものは宗教では存在しても、現実にはあり得ない場所、と言うのが一般の見解である。

ならば自分たちで理想の天国を作ってしまえばいいと、雲を固めて足場にできる雲固めガスを使い、天上王国を作る事にしたのび太たちだった。が、ジャイアンたちも仲間に入れて王国を作っていた矢先に、実は地球の空には天上連邦と言う先住民たちが地上の文明には気が付かれないままのび太たちと同様に世界中に散らばった雲を固めた大地でもって連邦国家を築いていた事が発覚。おまけに雷雲からの雷を受けてドラえもんが壊され、環境の破壊を進める地上世界に対し、神話上のノアの箱舟よろしくノア計画と言う地上破壊計画が進んでいる真っ最中である事までものび太たちは知ってしまう。

こうした紆余曲折の末に天上連邦が推進するノア計画の実行を止めるため、故障から復帰したドラえもんが持ち出したのは雲戻しガス。この天上世界をあっという間に破壊する事ができるガスを切り札としての対話を試みたその矢先に天上王国が密漁者たちに乗っ取られてしまい、ドラえもんものび太も拘束されてしまった。

文字通り手も足も出ず、打つ手がなかった時にドラえもんが最後に使った武器こそが、王国が保有していた天上世界最強の切り札雲戻しガスのガスタンクをも破壊するほどの『石頭』だった。

結果としてガスタンクは無事にドラえもんが見せた渾身の突貫からの頭突きで見事に破裂し、王国中に雲戻しガスが蔓延。みんなでお金を出し合い一生懸命作った天上王国ではあったものの、天上連邦を滅ぼす訳にもいかず(事実王国を乗っ取った密猟者がガスを発射しエネルギー州を消滅させているため、事態が長引けば連邦全部が消滅の危機にあった)その王国をバ◎スよろしく自壊させる事で事態の収束を図ったのは、懐かしい思い出である……。

もし仮に、この慧音先生の言葉が正しければ先生はドラえもんの頭突きと同じくらいの威力の頭突きを使えると言う事になる。

 

「のび太、さっきも言っただろう? ()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()優しい先生だって。逆に言えば授業中にチルノみたいに悪さをしたり宿題を忘れたり、居眠りしたりすると、頭突きでもって叱られるんだよ」

「ず、頭突きですか? あ、じゃ、じゃあ……ひょっとしてさっき僕らが教室の外で聞いた恐竜の足音みたいな大きな音は……」

「ああ、そうだ。もちろんのび太だって例外ではないからな。さすがに宿題は出していないから忘れようもないが、居眠りをしたら渾身の頭突きで起こしてやるからそのつもりで授業を受けるんだぞ? さあ、これでわかったろう。授業に戻るぞ」

 

確かに魔理沙は言っていた。『居眠りをしたり宿題を忘れたりしなければ優しい先生』だと。

それにしても限度があると思ったのはのび太だけなのだろうか、と言うか居眠りをしたりすると学校の先生のようにばかもん! と叱りながら起こしてくれるのかと思いきや怒られるのと一緒に恐竜の足音並みの音を立てての頭突きをされるなど、危険すぎる事この上ない。

おまけに、さらに都合の悪い事に……。

 

「……であるからして……ここで、…………がこのような行動に出た訳は…………」

「………………………………」

 

慧音先生の授業の内容は、学校で日々受けている先生の授業よりもはるかに分かりにくく、また長々とした言葉が途切れる事無く続くようなものだった。

難しい話に理解のできない内容。この授業で眠るな、眠れば襲ってくるのは教室を揺るがすドラえもん並みの威力の頭突きだと言うのは、のび太にとってあまりにも辛すぎる内容の授業である。事実、開始5分でのび太に襲い来る睡魔との戦いに苦戦を強いられることになった。

それでも眠ったら自分の頭がガスタンクよろしく爆発する、教室の隅に倒れているチルノのように無事では済まない、そうイメージしながらその恐怖を想像する事でどうにか眠気に耐えていたものの、何しろのび太は宇宙でも有数の実力を持つと自負する射撃と並んで、いつでもどこでも眠れると言う昼寝の達人でもある。

いくら耐えようとしてもそう簡単に耐えられるわけもなく、すぐにこっくりこっくりと、舟をこぎだした。

 

 

 

 

 

 

……おい霊夢、のび太やばいんじゃないか? あの様子だと間違いなくもうすぐ眠りだすぞ

もう、なんであんなに眠るなって言ったのに眠るのよ! チルノみたいに頭突きを喰らいたいのかしら

仕方ないだろう、そもそもあの慧音の授業で眠るなって言う方がおかしいんだよ。精神修行だってもう少しましな修行をさせてもらえそうだぜ

まったくね……。噂では厳しい授業、辛い授業とは聞いていたけれどもまさか慧音の授業がここまで酷い内容だなんて思わなかったのよ

 

教室の一番後ろで、慧音には聞こえないように二人小声で相談しているのは霊夢と魔理沙の二人である。

授業を見学している二人にも、授業を受けているのび太が舟をこぎだした事を……つまりはもうすぐ居眠りを始めるであろう事はしっかりと見て取れた。もちろん先の慧音の宣言通り、特別に授業を受けているからと言って慧音は手加減するつもりはないだろう。一刻も早くどうにかして起こさないとチルノに引き続き、慧音の頭突きによる本日二人目の犠牲者になりかねない。

しかし起こしに行く訳にもいかず、かといって声を掛けるなどもってのほか。のび太を起こそうと声を掛けたとたんに、間違いなく慧音の頭突きの矛先は自分たちに向いてくる事を霊夢も魔理沙も重々承知している。

つまりはのび太が慧音の頭突きを回避するには、授業の間どうにかして起きているかあるいは居眠りをしてしまっても、頭突きが飛んでくる前に野生動物のごとき勘でもって目を覚ます必要があるのだけれども、そのどちらもがのび太にとっては非常に厳しい条件である事は二人の目の前でこっくりこっくりと頭を揺らしながら今にも眠りそうなのび太の姿が証明していた。

こうして二人は内心ハラハラしながらのび太の無事を祈っていのに、どうして運命と言うものはこうイタズラをしてしまうのだろうか? それとものび太が持つツキのなさ……『ツキの月』を誰よりも使うのに向いているほどに普段ツイていない運の無さがこの運命を呼び寄せたのだろうか?

 

「おーい、のび太この問題は分かるかな?」

「…………………………」

「おーい、のび太……?」

 

黒板に書いた問題を解かせようとのび太に声を掛けたものの、のび太からの返事がない事でその目つきがどんどんと鋭くなっていく。明らかに怒っている兆候だ。

当然後ろで授業を見ていた霊夢も、魔理沙も、また授業を受けている他の子供たちも慧音が見せる気配の変化に気が付いたらしく、みんな一言も口にしないでだんまりを決め込んでいる。と言うか、一生懸命に各々の教科書へと視線を下げて、勉強していますと言う事をアピールしている。

誰だって自分の命は惜しいのだ。……たとえそれが保護者としての役割を放棄する事になっても。

 

「のび太。こら、起きないか」

「グウ……」

「授業中に寝るんじゃない」

「グウグウ……」

「このままだと、本当にお仕置きが待っているぞ……?」

「グウグウグウ……」

「そうか……それが返事か……」

「グウグウグウ……グウ……」

「……わかった、もういい」

「グウグウグウグウグウ……」

 

つかつかと歩み寄り、最後通牒を突き付ける慧音に対してのび太は器用にもいびきで返事をする始末。

そのあまりにも見事ないびきのタイミングに実は起きていて、イタズラのためにわざと寝たふりをしているんじゃないだろうかと思わせるその器用な対応に、当然のように慧音は額に青筋を浮かべている。

そして慧音以外のこの場の全員は『そんなに器用ないびきで笑わせようとするんじゃない!』と、吹き出しそうになるのを全力で我慢しながら全員が心を一つにして耐えていた。

この、嵐の前の静けさのような静寂も一瞬。憑き物が落ちたように一転、それまでの怒りに目を釣り上げながら睨みつけていた表情から、にこりと実に綺麗た笑顔になった慧音の『それ』は最後に散りゆく者に見せる慈悲の笑顔かあるいは悪魔の微笑みなのか。

次の瞬間、慧音は思い切り頭を振りかぶり……全力でもって自らの頭をのび太の額へと叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さっさと、起きろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大音響あるいは爆発音、そう形容しても納得してしまいそうな鈍い衝撃音が寺子屋の教室に響き渡る。いや、この音の大きさなら寺子屋の外を歩いている市井の人々にも聞こえたかもしれない。

その衝撃の大きさたるや教室の扉や窓がびりびりと震えて、まるで大風でも教室に吹き込んできたかのように揺さぶったほどなのだ。外まで聞こえていたとしても全く不思議はない。

一方でそんなドラえもんの頭突きと同じくらいの威力を持つと推測される慧音の頭突きを居眠りしたまま、受けるその瞬間まで全く何も知らないまま叩き込まれたのび太はと言うと……。

慧音が全力を込めて叩きつけた、まさしく渾身の頭突き。威力の強さのあまり、座っていたその場から吹き飛んだのび太のメガネは外れ、かわいそうに悲鳴一つ上げる暇もなく畳の床を数回バウンドしながら教室の一番後ろ、霊夢や魔理沙のもとにまで転がっていく。

 

「……お、おい。のび太、大丈夫か? なんだかいつになく大きい音がしたけれども、おーい。ほら、目を覚ませよ……」

「魔理沙、あれだけの衝撃を頭に受けたのよ? 無理やり動かしたら危険じゃないかしら。チルノみたいにのび太が丈夫だとは限らないんだから」

 

自分たちの所へと転がって来たのび太。目を星にして完全に気を失っているらしいその様子にすぐさまかけよって頬をぺちぺちと叩きながら必死の形相で声を掛ける魔理沙と、内心は動転しているのだろうけれどもそれを外に出さないようにしながら魔理沙にのび太をあまり動かさないように注意する霊夢。

その時、霊夢の忠告を無視するように必死でのび太を起こそうとしていた魔理沙の顔から、赤みがさあっと引いていき蒼白になっていくのを霊夢は見逃さなかった。

 

「……魔理沙、どうしたのよ?」

「……霊夢、どうしよう。のび太が、のび太が息をしていないんだぜ……って言うか、これ心臓の音もしてない気がするんだ……」

「え、ちょっと嘘でしょ……? ちょっとのび太! 目を覚ましなさいよ!」

 

動転して顔をくしゃくしゃにしながらどうしようと聞いてくる魔理沙の言葉には、今まで数多の異変を解決してきた霊夢も自身の顔からさあっ、と血の気が失せていくのを実感せずにはいられなかった。

また慧音や他の子供と言った寺子屋にいる他の面々も、さすがに子供が一人慧音の頭突きで死ぬかもしれないとなれば動揺するのは当然だろう。全員のその表情からは血の気が引き、ざわざわと騒々しくなる教室は『静かに』と言う慧音の呼びかけさえも意味をなさず、もはや完全に授業をできる状態ではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷に来てまだ数日しか経っていないにもかかわらず、魔法使いとの勝負や妖怪との戦いを経験してきたのび太の命は寺子屋の先生の手によって未だかつてない危機に見舞われようとしていた……。




のび太に訪れた命の危機。寺子屋で夏休みの宿題をしようとしていた矢先に命を落としてしまった? のび太の運命やいかに!?

正直なところ、感想に流される格好で必殺してしまった感があるので今後の展開をどうしようかちょっと考え中です(汗 が……もし死んでしまったのならばやはり出てくるのはあののび太にも引けを取らないぐうたらとぐうたらに頭を悩ませる真面目のコンビ、でしょうか。



次回、乞う! ご期待!!!


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天国よいとこ?(その1)

すみません、何とか無事? 年内に一話載せる事ができました。
遅くなりまして大変申し訳ありません。

と言う訳で、とうとうのび太お亡くなりに。
果たしてこの後の冒険はどうなってしまうのでしょうか?








今回のタイトル『天国よいとこ』は藤子F先生の漫画、モジャ公より取らせて頂きました。
シャングリラ文明って、ユートピアなのかディストピアなのか……。


「お、おい起きろよのび太! 悪い冗談は無しなんだぜ? どうせ、心臓が動いてないのも息してないのも我慢してて、ばぁ、とかいたずらしようってんだろ? ほら、怒らないからさっさと起きろってば……」

 

魔理沙の声がむなしく響く寺子屋の教室は、突如として騒然となってしまった。

何しろ外の世界からやって来たはずののび太が、居眠りをした挙句に慧音の頭突きを受けて死んでしまったと言うのだ。

事実、慧音の頭突きを受けたのび太はあまりの衝撃に教室の隅へと転がり、白目をむいたまま完全にピクリとも動かない。

そののび太に、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら魔理沙が声を掛けているが、いくら声を掛けた所で心臓も動いておらず、息もしていない人間に対してさっさと起きろと言うのはいささか無茶なお願いが過ぎるだろう。

ちなみに、この寺子屋殺人事件(仮 の実行犯である慧音先生であるけれども「……何という事だ、先生が生徒の命を奪ってしまうだなんて……」と完全に自己嫌悪に陥り『orz』のポーズをとりながら教室の片隅で、どんよりとした空気を身にまといながら落ち込んでいたりする。

先生は自己嫌悪で近寄りがたい雰囲気を放ち、教室の片隅では白黒の魔法使いが死んでしまった外の子供にすがり付きながら号泣する。

生徒たちも、一体自分たちはどうすればいいのだろうかとその表情には不安しかない。

このまま混乱の中、ただいたずらに時間だけが過ぎていくのかと思われた中、凛とした声がその場に響いた。

 

「魔理沙! 泣いている場合じゃないでしょ! この中で飛ぶ速さはあんたが一番速いのよ! 早くのび太を永遠亭へ連れて行きなさい! いや、ダメね。それよりも永琳を連れてきて! それしかのび太を助ける道は無いわ」

 

その瞬間、一部を除きその場の全員の視線がいっせいに声の主に集中する。その視線の先では、腕を組み仁王立ちをした霊夢が魔理沙を睨みつけていた。

あいにくとのび太は見る事ができないけれども、やはりこういう所は博麗の巫女なのだなと思わされる態度である。きっとのび太も、もし今のこの霊夢の姿を見たら間違いなく『霊夢が強いのか?』などと言う質問はしなくなるだろう。

が、残念ながらそののび太はもう、この世にはいない。

いや、この世とのつながりが経ち切れようとしている中、で博麗の巫女が諦めていないのだ。それなのに、その友人である魔法使いの魔理沙もまた、諦める訳にはいかなかった。

 

「……そ、そうだったんだぜ。まだのび太が助からないと決まった訳じゃないからな」

 

手で涙をぬぐうと、愛用のホウキを手に教室の外へと飛び出し、霊夢が口にした永遠亭へと永琳なる人物を呼びに行こうとしたまさにその時。

 

 

 

 

 

 

「あー、それは多分無理じゃないかな? 永遠亭の薬師じゃあ、この子は助けられないよ」

「「………………っ!?!?」」

 

 

 

 

 

 

どこか明るく陽気でありながら、それでいてどこか暗い。そんな不思議な雰囲気の声がその場に唐突に割り込んできた。

もちろん声の主は霊夢でも魔理沙でも、当然慧音でもないしましてやのび太ですらない。一体誰が、と生徒たちが

では一体誰が? と生徒たちが周囲をきょろきょろと見回すとそこには一体いつの間にやら、赤い髪をした大きな鎌を持った女の人が一人立っていた。もちろん寺子屋の先生ではないし、当然生徒に鎌を持って勉強をしに来るような子はいはしない。

つまりは、その人物は寺子屋とは全く無関係な訳だ。

 

「まだ死神はお呼びじゃないわよ。のび太が治療を受けてそれでもダメだって言われるまで、大人しくいつも通りサボってなさい」

「そうだな、もし嫌だって言うのなら……力ずくでも退いてもらうんだぜ」

 

死神、そう彼女は死神なのだ。その証拠に、その手には魂を刈り取ると言う大きな鎌を手にしている。おおかたその鎌で今命を落としたばかりののび太の魂を刈り取りに来たのだろう。

そうとしか思えない登場の仕方に霊夢ものび太と死神の間に割り込むように移動し、袖から何枚ものお札を取り出すと死神めがけて突き付けた。

さらに死神の登場に気が付いた魔理沙も、今まさに飛び出そうとしたところで大急ぎでのび太の側に戻り、霊夢の隣で同じようにホウキを片手に身構えている。

霊夢も魔理沙も、さすがに寺子屋の教室で、まだ子供たちが近くにいる所で針や大幣、さらには弾幕を展開して大立ち回りを演じるのは危険すぎると判断したらしい。そうでなくても霊夢や魔理沙の背後には命を落としたばかりののび太の身体が横たわっているのである。

死神は無事に追い返しました、でも戦いの余波でのび太の身体はボロボロ、助かりませんでした。では本末転倒にも程がある。だからこそのお札やホウキでの威嚇だった。

そうして、いつでも死神が怪しい動きをすれば飛び出せるようにと、慎重に身構えながら霊夢は死神に再度の、そして最後の警告を発した。

その身体から発される殺気は、もしこの警告を無視して死神がいつまでもこの場にとどまるのなら実力で叩きだす、と言う意志を如実に表している。

 

「もう一度言うわよ、のび太の魂をアンタに渡すつもりは無いわ。大人しく退きなさい? そうすれば、痛い目を見ずに済むわよ」

「悪いけど退く気はないよ? さっきも言ったようにその子は永遠亭の薬師じゃ助けられない。何しろ魂が身体から外れてるんだからね」

「は? 魂が外れてる? 身体から?」

「一体どういう事なんだぜ?」

 

そんな霊夢の警告もまるで気にする風でもなく、死神は『魂が外れている』と全く予想外の言葉を口にした。

もちろん霊夢も魔理沙も、二人とも魂を奪いに来たとばかり思っていた死神がまさかそんな事を言い出すとは思ってもおらず、それまでの気勢をそがれたように口をぽかんと開けて、それまでの勢いははたしてどこへやら。

それまでの死神を追い出す気配はすっかりどこかへと行ってしまい、それどころか死神の言葉の続きを促すように完全に黙りこくってしまった。

 

「そう。魂が外れてるのさ、身体からね。おおかたそこの先生が頭突きをしたはずみに外れちゃったんだろうね。……当然普通はこんなことめったに起こるような事じゃないんだけど、もしかしてこの子以前に魂が身体から抜け出したりしてるんじゃないのかい?」

「あのねぇ、いくらのび太が未来の道具を使使ったり、いろいろな冒険をしているみたいな事は話してくれたけれどもさすがに魂まで身体から切り離したりできたら、もう道具じゃ済まないわよ? ……のび太の道具の場合、ありそうだけど」

「でもさ、魂だぜ? 私たちが今までいろいろな異変を解決したりしてきたけれども、魂が外れたとかそんな話は一度も聞いた事が無いんだぜ」

「だから言っているじゃないか。めったに起こる事じゃないって」

 

死神と問答を繰り返す霊夢と魔理沙。死神はのび太の魂が身体から外れたと言っているけれども、霊夢と魔理沙はまだ少し疑っているらしい。

実際に死神も、魂が身体から外れるのは珍しい事だと言っているのだから、今起こっている事はかなり珍しく、そうそう起こるような事ではない事は間違いないのだろう。

しかし死神の見立ては間違ってはいない。その見立て通り、のび太は実際に魂を切り離して過去に飛ばした事があるのだ。

 

 

 

 

 

 

『タマシイム・マシン』

 

 

 

 

 

 

タイムマシンの誤植ではない。タマシイム・マシンという一種のタイムマシンでのび太は以前魂を切り離したのだ。

このひみつ道具の効果は、使用した人間の魂だけを切り離し、マシンで指定した過去の時代に指定した時間だけ送り込むと言う効果を持っている。

この道具によってのび太は魂だけを赤ん坊のころに1時間、送り込み勉強も宿題も学校もない時代に行った事があった。

そしてこの道具は『魂の一部』を時間移動させるのではなく、丸ごと魂を時間移動させてしまうためその間抜き取られた身体は完全に心臓も、意識もない、まさに死んだような状態になってしまうと言う、つまりその間完全な無防備かつ何も知らなければ死んでしまったと思われる状態になってしまうと言う欠点があった。

実際、のび太がタマシイム・マシンを使って過去に行っている間、魂の抜けたのび太の身体を見つけたママはのび太が死んでしまったと勘違いして完全に卒倒してしまった事がある。

そんな事もあり、のび太の魂は一度外れた事により、外れやすくなっていたのだろう。

勿論死神も、霊夢も魔理沙もそんなのび太の事を知る由はなかった。

 

「……百歩譲って、のび太が本当に魂が頭突きの衝撃で外れた、でもって永遠亭じゃあ戻せないって言いきるくらいなんだから、当然戻す方法はあるのよね?」

「おいおいおい、まさかまた慧音に頭突きをさせる気か? そんなことしたら今度こそのび太の魂が天国か地獄に行っちまうんだぜ」

「あー、まあ方法って言うか、私じゃなくてそれをやるのは四季様だけどね。この子をあの世に連れて行くのさ」

「「………………大丈夫なの?(か?)それ。 のび太を閻魔の所になんて連れて行くなんて……」」

 

死神が、呼び捨てでなくて『様』をつけて呼ぶ四季様なる人物。

霊夢や魔理沙が閻魔と呼ぶ、その人物の所に連れて行けばのび太を助けられると言う死神の言葉に、霊夢も魔理沙もその表情や言葉からは不安と不信しか見当たらない。

まあ、文字通り命を落っことした人間を閻魔の前に連れて行ったら、後に残るは蘇生ではなく天国か地獄のどちらかに放り込まれる、と言うのがおおよそ一般的な常識であるからこの不安は抱かれても仕方がないだろう。

しかし、通常の病気や事故ではなく、魂が身体から抜けてしまっていると言う以上、直せるとしたら永遠亭の薬師ではなく、死後の世界を司る者たちしかいない、と言うのも理由としては頷けるもの。

何しろ今までの冒険でも、あの世と言う場所に行く事はとんと無かった。そして命を落とすと言う事も。

その今まで無かった事が起こってしまったのだから、それを解決できるのも今までに行った事のない場所と言う事なのだろう。

 

「いいわ、ただし私たちも同行させてちょうだい。何があってもいいようにね」

「だな、私も付いていくんだぜ」

「お前さんたちも行くのかい? ……うーん、まあ大丈夫だろうね。いいよ、じゃあついておいで。とりあえず三途の川でこの子の魂を見つけたら、身体と魂を一緒に向こう側に連れて行くよ。まずはそれからだね」

 

死神や閻魔が何をするか分かったものではない、とのび太のあの世行きについて同行を申し出た霊夢と魔理沙に、死神が少しどうするべきか考えた上で許可を出す。

ついでに魂の抜け殻になったのび太の身体をよいしょ、と背負うと、ここに来た時と同じように

こうして、図らずも人里や寺子屋を見に来たはずののび太(の身体)はあの世に旅立つ事になったのだった……。

 

 




と言う訳で急遽人里からあの世への大移動となりました(ただし抜け殻になった身体だけ)。
さて、このまま地獄に落とされるのか天国に行ってしまうのか、それともさっさと帰って来られるのか。
ちなみに今回登場した死神の小野塚小町は、のび太の視点ではなく、すでに名前やどんな人物か知っている人間同士(霊夢や魔理沙)の会話と言う流れになっているため、小町ではなく表現は一律で死神、としてあります。
恐らく閻魔の四季様も同じような事になるかと思われます。

さて、次回もお楽しみに!


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番外編:のび太と幻想郷の冬休み(レミリア編)

あけましておめでとうございます。
番外編、今回は冬休みの幻想郷の暮らしレミリア編です。
どうしてレミリアなのかは、やはり動かしやすいから……(ぇ


さてさて、一体紅魔館のお嬢様に何が起こるのか……?


「すごい、あんな面白かった遊び初めて!」

「一体どういうしくみになっているんだろうな」

「次なにして遊ぶ?」

「あれにしようぜ!!」

 

そんな事を口々に言いながら、寺子屋の教室に置かれた箱の中から、数人の子供が飛び出してきた。

箱の表には宇宙の絵が描いてあり、どこから見ても幻想郷にあったものではない事が伺える。

それもそのはず、これはドラえもんのポケットから取り出されたひみつ道具の一つ『宇宙探検すごろく』であり、プレイヤーたちは箱の脇に開いている穴に手を入れると自動的に箱の中へと吸い込まれ、中で本当の宇宙のような世界を双六の要領でゴールを目指していくと言うゲームなのだ。

ちなみにサイコロはどうするのかと言うと、各プレイヤーが乗って進む乗り物の目の前上空にサイコロが浮遊しており、手にしたレーザーガンを当てるとサイコロを振った事になる、という仕組みになっている。

その宇宙探検すごろくの他にも人の身長ほどもある大きな本『冒険ゲームブック』やまた別の場所では小さな宇宙船が部屋の中を飛び回っている。

こちらは『スペースウォーズ・ゲームセット』だ。

一体なぜこんな事になっているのかと言うと、冬休みになり幻想郷へと遊びに来たのび太たちは、たこあげや羽根つきや独楽、メンコにすごろく、福笑いと言った昔ながらの遊びしかない幻想郷の子供たちの事情に驚いたのだ。

もちろん外の世界でもたこあげくらいならまだ残っているが、今の外の世界ではやはり場所などの関係でなかなかそう言った遊びをするのは難しい。

それならばと言う事でドラえもんが取り出したのは未来のひみつ道具でも、遊びや冒険を手軽に楽しめるタイプのひみつ道具を取り出した所、初めての未来の娯楽にすっかり夢中になってしまったのだった。

こうした事もあり、今や寺子屋はちょっとした遊戯場になっており、冬の間退屈な子供たちに人気の遊び場としてにぎわいを見せている。

最初この事に寺子屋の慧音先生は「勉強しなさい!」と怒ったのだが、ドラえもんが「ノーリツチャカチャカ錠」を取り出し、子供たちの勉強時間短縮を図った事と、遊びに来た蓬莱人の妹紅が子供たちに混ざって一緒に遊びだしてしまったために仕方がないと、勉強もきちんとする事を条件にして折れたと言う経緯がある。

で、子供たちだけなら良かったのだけれども……。

 

「咲夜! 何なのよこのゲーム! 難しいじゃない!!」

「お嬢様、決して難しくはないかと……」

「なんでよ?」

「『あの』運動神経の低いのび太でさえハイスコアを軽々と更新できるような内容のゲームを、我らがレミリアお嬢様が難しいと言うだなんてあり得ないですし」

「あんなそこら辺の化け物より化け物染みた射撃適正持ってる幻想郷最強のニュー◎△プと一緒にするんじゃないわよ!!!」

 

うがー、と紅魔館の当主と言うカリスマなど一体どこへ放り捨てたのやら。スペースウォーズゲームセットの宇宙船の中から、レミリアが放り出されるように飛び出してきた。

そう、彼女もまたこの未来のひみつ道具による遊びが流行っていると聞いてやって来たのだけれども、どうもレミリアには宇宙船に乗って、敵の宇宙船を撃墜すると言うゲームは難しかったらしい。

まあ、本来ならば宇宙船に乗って戦うよりも自分が翼でもって空を飛んで弾幕を発射した方が強いような人物なので仕方がないのかもしれない。

そんなレミリアが飛び出して来るや否や、傍らで待機していたメイド長の咲夜に不満をぶつけるが、咲夜は全くそんな主の不満に動じる事はない。

むしろのび太が叩き出し続けたハイスコア(実は未来世界でも世界ランキングトップランカーに名を連ねられるほどのハイスコア)表を前にして『あののび太でも出来るのにお嬢様はできないのですか?』などと煽る始末。

が、レミリアも姿こそ幼いが決して馬鹿ではない。伊達に500年の年月を生きてきた訳では無いのだ。

そのレミリアだからこそ、のび太の射撃能力は幻想郷でも極めて高いレベルの実力であるとはっきりと理解していおり、咲夜の言葉に『のび太みたいな射撃の化け物と一緒にするな』と手足を振り回しながら、自分の怒りを表現しだすのだった。

 

「あーうっさいわね! なら、そこの冒険ゲームブックでもやってなさい。のび太曰く『本の中に入って実際に冒険しながら異変を解決するゲーム』だそうよ。」

「だって、このゲーム手加減が難しいのよ! 何よ、道中のモンスターをグングニルで吹き飛ばしたらダメって」

「あーもう、だからこれはそう言うゲームじゃないの。もう……」

「何かないの? こうワクワクドキドキできるような道具」

「私じゃなくてそれはのび太たちに聞きなさいよ。私が分かる訳ないでしょ?」

 

寺子屋の部屋の一角で、管理人として待機している顔を赤くしている霊夢がレミリアにうるさいと注意する。

ちなみに神社はどうしたと言うと、あろう事かドラえもんにコピーロボットを出してもらい、霊夢そっくりそのままのコピーの方に、お神楽などをさせると言う、コピーはおろか話を聞いたら紫だって青筋を浮かべて激怒しそうな事を行っていた。

兎にも角にも、この寺子屋遊技場で何かトラブルが起こらないようにという名目で立っている霊夢はと言うと、保護者と言う立ち位置と言う事もあり、グルメテーブルかけから取り出したお酒をガブガブと呑みながらだと言うのは内緒である。

……まあ、子供たちが見ている前なので内緒も何もあったものではないのだけれども。

 

「仕方ないわね……ねえ、のび太、ドラえもん。ちょっといいかしら?」

「はーい、あれ? レミリアさんどうかしましたか?」

「はいはい、レミリアさん。どうかしましたか?」

 

そんな顔を赤くした霊夢を他所に、レミリアは新しい道具を出してもらおうと今は皆でトランプをしているのび太やドラえもんに声を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

 

 

 

「……と言う訳なのよ。何かいい道具はないかしら?」

「うーん、面白い道具か。あ、そうだ! これがいい!『ドリームプレイヤー』!!!」

 

あれでもないこれでもないと、しばらくの間ポケットに手を突っ込んで探し回っていた末に、ドラえもんが取り出したのは昔の枕のような形をした道具の一式だった。

しかも枕だけではなく、それに合わせていろいろな種類のカセットまでついている。

 

「変な形の道具ね、まるで枕みたいじゃない」

「そう、これはドリームプレイヤーって言って、この枕型の本体に色々な種類の中から好きなカセットを選んでしてから眠ると、好きな夢を見られるんです」

「あら面白そうね、好きな夢が見られるなんて。ちなみにどんなカセットがあるのかしら」

 

好きな夢が見られる道具、という『気ままに夢見る機』の下位互換、もしくは簡易版とでも言えるその道具の説目に面白そうだと興味を持ったらしいレミリアはさっそくドラえもんからカセットを受け取ると何を見ようか物色し始めた。

 

「いろいろあるわね……。って言うか、ほとんどのジャンル網羅してるじゃない。……ん? ねえ、これって一体何?」

 

レミリアが物色をしているドリームプレイヤーのカセットはかなりの内容が幅広く、それこそSF、西部劇、時代劇、、スリラー、メロドラマ、青春ドラマなどがジャンルとして取り揃えられているのだが、実はその中に一つだけどう考えても場違いとしか思えないジャンルが混じっている。

それが『教訓』であり、ドラえもんものび太が以前この道具を使おうとした時に関係ない、と言った代物であった。

その教訓と言う場違いなカセットを手に、レミリアがのび太に一体何のかを尋ねてくる。奇しくもそれはのび太が初めて道具を使った時の、のび太とドラえもんのような立ち位置であった。

 

「えっと、前に僕も使ったんですけど『教訓』って言って、ためになる夢だって言うんですけど正直、やめておいた方がいいです。僕はそれを見た後、もう少しためにならない夢が見たいって思いましたから……」

「……何を言っているのかしらのび太。紅魔館の当主である私がのび太とは違う所を見せてあげるわ、この夢から目覚めた時、高みへと昇ってみせたパーフェクト・レミリアの姿をとくとご覧にいれなさい」

「……いいんですか? 他の夢と違って本当にためにはなるけれども、楽しい保証はありませんよ?」

「ふっ、くどいわのび太、ドラえもん。その教訓のカセットを私に貸しなさい」

「……うーん、まぁレミリアさんがそこまで言うなら……はい、どうぞ」

 

のび太のためになる夢、という説明。おまけに実際にのび太が以前使ってみたと言う説明に対抗心を燃やしたのか、レミリアがドラえもんに教訓のカセットを渡すように言ってくる。

そこまで言われてはドラえもんものび太も、断る理由がないと言う事で渋々、といった感じではあったもののドラえもんとのび太の二人はレミリアに教訓のカセットを渡したのだった。

そのままプレイヤーに教訓のカセットを差し込み、枕にして就寝してしまうレミリア。

寝つきがもともと良いのか、あるいははたまた機械の働きによるものなのか。二人の目の前でレミリアはすやすやとあっという間に夢の世界へと旅立っていくが、当然彼女は知らない。

かつてのび太が見た時と同様に、これから夢の中に出てくる『模範的カリスマなレミリア』による、様々な試練が自分を襲う事に。

のび太と同じように、夢の中で異変やその辺のゲームよりもはるかに大変な苦労を強いられる事に。

 

 

 

まだまだ幻想郷の冬と、夢は終わらない……。

 




教訓のカセットをセットしたドリームプレイヤーですやすやと夢を見続けるレミリア。
きっと目が覚めた時にはのび太と同じく、次はためにならない夢がいい、と言ってくれるでしょう。
もしのび太が見た夢がどんな内容なのか気になる方は、てんとう虫コミックスドラえもんの38巻を読んでみるとわかるかと思います。



それでは、次からはまた本編に戻ります。


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天国よいとこ?(その2)

のび太の魂がいよいよあの世への冒険へと旅立ちます。
さてさて、どんな事が起こるのでしょうか?
そもそも、天国って本当に良いところなのか?








※先日、番外編を投稿した翌日辺りで日間ランキングがまさかの一桁と言う、全く予想外の数値を叩きだし、大勢の方に見に来てもらえましたが本当にありがとうございます。
皆様からの評価としてこれが箸にも棒にも掛からぬような作品であればこのような結果にはならなかったでしょうし、これも偏に当作品を面白いと評価してくださる方々のおかげです。
今後も皆様に面白いと評価していただけるよう(そして自分も面白いとおもえるよう)切磋琢磨していきますので、今年もどうぞ宜しくお願い致しますm(__)m


のび太が大変な事になっているちょうど同じ頃、東京練馬区月見台の一角、野比家ではちょうどお昼前と言う事もありバラエティ番組を見ながら居間でおせんべいをかじっている最中だった。

バラエティ番組では売り出し中の若手芸人がトークで皆を沸かせている、やがてその若手のトークも終わろうかという時になって、キッチンの方からガシャンと言うけたたましい音が聞こえてきた。

 

「……なにかしら? ひょっとして、泥棒……?」

 

もちろんパパは今の時間仕事であるし、万が一にも帰宅するような事があれば玄関から「ただいま」と言って帰ってくるのが常である。またそれ以外の住民であるのび太と、ドラえもんについては今はドラえもんが未来で入院すると言う事でのび太もそれについて一緒に未来に行っているはずだった。

つまりはこの家には今、ママ一人しかいないはずなのだ。それがキッチンから物音がするとなれば、この家の人間以外の誰かがいるとしか考えられないのだ。

しかしもし万が一にも泥棒だった場合、ママに対抗できる手段は無いに等しい。かと言って何もしないでいると言う選択ができる程、ママは本来おしとやかな性格ではなかった。今でこそ専業主婦として家に入り、のび太やパパの帰りを待つママとしての立場に立っているが、何しろ子供の頃は絵にかいたようなおてんば娘でそのおてんばぶりと来たらタイムマシンで子供の頃のママと出会ったのび太やドラえもんに向かってくるような性格だったのだから。

そんな性格だから、すぐにママは意を決するといるかもしれない泥棒に気が付かれないよう慎重に、足音を立てないように気を付けながらそろりそろりとのび太の部屋へと階段を上り急ぎ向かうと、のび太の部屋からバットを持ち出した。ちなみにどうしてバットが置いてある場所がすぐにわかったのかと言うと、全く片づけをしないのび太に代わって、ちょくちょく部屋の片づけをしているからである。

兎にも角にも、鈍器としては十分どころか過分すぎるほどに凶悪なそれを武器にしていつ泥棒がひょっこりと出てきても大丈夫なように身構えながら、一歩一歩と何かが潜んでいるかもしれないキッチンへと向かっていく。

段ボールにこそ隠れないが、某かくれんぼなゲームメ〇ル〇アよろしく慎重に歩みを重ね……やがて意を決したようにバットを振りかぶり、いつ泥棒が出てきてもすぐに殴り倒せるように準備しながらキッチンにいざ踏み込んでみたものの、そこには誰もいなかった。

 

「あ、あら……? 変ねぇ、確かに物音がしたのに……?」

 

キッチンをきょろきょろと見回してからまずは侵入経路として最も怪しい勝手口を見てみるけれども閉まっており、何回確認しても確かに施錠してある間違いはなかった。もちろん油断はしないように隠れられそうな場所を調べて見たけれども、そもそもキッチンにあるものを泥棒するような者などそうそういないだろう。いるとしたらぬいぐるみが生きて暮らしている小惑星の探検に出かける前の準備をしようとしている前科百犯の犯罪者である熊虎鬼五郎か、あるいは時空乱流に引きずり込まれ現代まで流されてきてしまい極度の空腹に見舞われていたであろう原始人のククルくらいものである。

兎にも角にも、物音の原因が泥棒ではないと言う事が分かって安堵したママだったが、それでは一体何が物音を立てたのか。それについてはすぐに原因が見つかった。

 

「……あらやだ、のび太のお茶碗がひとりでに割れるだなんて……。もしかして、のび太に何かあったのかしら? 未来世界に遊びに行っているって言っても、ドラちゃんもいてくれるし、ドラミちゃんだって見ていてくれるはずだから大丈夫だと思うんだけど……」

 

そう、何もしていないし誰も触れていないのにのび太の茶碗だけが綺麗に割れていたのだ。まるで持ち主の運命を周りに知らせるかのごとく。

『ドラちゃんと一緒に未来から戻ってくるまでに新しいのを買っておかなくっちゃ』とぼやきながら破片を片付けるママだが、もちろんママは何も知らない。同じ頃、幻想郷で、息子ののび太がまさに命の危機に瀕しているだなどと言う事はこれっぽっちも想像していなかった。

だからママは、割れた茶碗を片付けると時計を見て『いけない、そろそろお昼の支度しなくっちゃ』と、茶碗が割れた事を、この瞬間に生じた嫌な予感をただの偶然だと決めつけて、そのまま日常の中へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここって一体どこなんだ? たしか、人里に向かってから寺子屋で……変だな、何か大事な事があったはずなのに思い出せないや。まあ、いっか。きっと気のせいでしょ」

 

一方その頃、のび太は見た事もない……と言っても幻想郷に来るまでも、数多の冒険の中でいろいろな世界を見てきたけれども今いるはずの幻想郷でも、見た事のない場所をさ迷っていた。

薄暗い森の中、まるでこの幻想郷に最初にやって来て八雲紫と出会ったあの森の中のような雰囲気の中、どこまでも伸びている一本の道。ただのび太にとって安心だったのは、その道を歩いているのが自分一人ではなく、他にも何人もの同じような人たちがお道の先を目指しているのか、一様にゆっくりとした足取りで歩いていると言う事だろう。

ただ、そこにいるのは大半の人がお年寄りで、重たい荷物などは持っていないけれども誰もが皆疲れているのだろうか、歩いている絵もがひどく青い顔をしていた。

もしこれがドラえもんなら「青いと言うより薄汚い、今朝も顔を洗わなかったな」などと言ってきそうなものだが、あいにくとドラえもんは未来のロボット病院で入院しているためツッコミが飛んでくる事は無かった。

そんな人々の行列についていくように歩いていくのび太だが、幸いにも道はまっすぐである事と何よりもその道は歩いている人が途切れる事がなかったため、いつも外の世界で起こっているような迷子になると言う事は無かった。

だが、のび太は気が付いたのだろうか? 今自分が歩いている道が、どこに向かっているのかと言う事を。歩いている人たちの流れが行くだけで、引き返してくるあるいは戻ってくる人は誰一人としていないと言う事にのび太は気が付いていたのだろうか?

今自分のいる場所がどこなのかを知ってか知らずか、ずんずんと歩いていくのび太。やがて……。

 

「あ、そろそろ森を抜けるぞ……ああーっ! すごい、こんな場所があったなんて……!!」

 

ようやく森を抜けた先でのび太の目に飛び込んできたのは、それまでの何もない森の中とはうって変わって屋台が道の脇にずらりと並ぶと言う、まるでお祭りか縁日のような賑わいを見せる不思議な場所だった。

おまけにその先には大きな川も見えるが、そんな事よりも今ののび太にとってはにぎやかで面白そうな屋台などの方へと、完全に興味が移っていた。誰だってお祭りは好きなのだ。それはのび太だって例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

………………!!! ………………!!! ………………!!! ………………!!!

 

 

 

 

 

 

………………!!! ………………!!! ………………!!! ………………!!!

 

 

 

 

 

 

………………!!! ………………!!! ………………!!! ………………!!!

 

 

 

 

 

 

「面白そうだな……あっ、でもいけない! 考えたら僕ここに来る時にお小遣い全然持って来なかったっけ……」

 

たこ焼き、お好み焼き、焼きそばにりんご飴。金魚すくいに射的と、おおよそお祭りに並んでいるであろう屋台のジャンルはほとんど網羅されているる事が見て取れる。しかもそれらが歩きながらきょろきょろと見回しているのび太や他の歩いている人々にひっきりなしに声を掛けてくるのだからうるさい事この上ない。

さっきまでの森の中の静けさは一体どこへ行ったのか、と思うような賑やかな道。

色々なお店から声を掛けられて、その時にようやくのび太はそもそも自分がお小遣いを一切持ってきていない事に気が付いた。

何しろ衣食住の三要素を全てひみつ道具の着せ替えカメラ、グルメテーブルかけ、キャンピングカプセルで賄うつもりでやって来ていたためのび太の活動でお小遣いが必要になると言う事が想定されていなかったのだ。

さすがののび太でもお金がないのでは、屋台を楽しめない事くらいは知っている。

しばらくの間、いろいろな屋台を覗いたりしていたものの結局のび太は、諦めてそのまま川の方へと歩き出した。

 

「それにしても大きな川……多奈川よりも大きいんじゃないの……?」

 

ようやくやって来た川のほとりに立つと、さらにその川の大きさがよく分かりのび太は思わず声を上げてしまう。

おおよそのび太の生活圏の中で一番大きな川と言えば、街の中を流れる多奈川である。

この川は以前『のび太と竜の騎士』において発覚した、地底世界への入口がある川でもあった。その時は地底の洞くつで遊んでいたいつもの5人の中で、紆余曲折の果てに地底世界に取り残されてしまったスネ夫を救出するために、スネ夫の取り残されている洞窟と多奈川の地下に伸びる洞窟とがつながっている可能性に気が付き、川底に潜って洞窟を探したのは今となっては懐かしい思い出である。

そうして何とかスネ夫と再会できたはいいものの、今度は地底に暮らす恐竜人と地上に生きるのび太たち哺乳人類との確執に巻き込まれ、冒険をする事になったのだが、そのきっかけとなった多奈川が小川に見える程、目の前の大河は途方もなく大きかった。

その大きさのせいなのかあるいは道の終着点がこの川なのか、のび太は周囲を見回してみても橋がかかっている様子は見られない。つまりは本当にここで道が終わっているのか、はたまた船などの川を渡る手段があるのかのどちらかと言う事になる。

もちろんもう一つの方法としては泳いで渡る、などと言う事もできるのだろうけれどもあいにくとのび太は器用にもお風呂の浴槽で溺れる事が出来る程のカナヅチである。とてもではないけれども向こう岸が見えないほどの大河を、ひみつ道具もなしに泳いで渡るなどと言う事は不可能であった。

 

「橋も見当たらないし……あ、あそこに人が集まっているから、船で渡れるのかな? あ、でも船が来ても僕渡し賃持ってないぞ……。まあ、どっちにしても船がまだ見えないんだから、待つしかないか。こんなに暖かくて気持ちがいいんだし、お昼寝しなくちゃもったいないよね……ぐぅ……」

 

しばらくの間川のほとりをあっちへうろうろ、こっちへうろうろと歩き回っていたのび太だったがやがて一角に人が大勢集まって列を作っている場所を見つけた。おまけに桟橋のような者も川に向かって突き出ている、と言う事は人が並んでいるのだし、きっとここから船が出るのだろう。そう考えたのび太は川べりの土手に寝転がって、そのまま数秒後にはグウグウといびきをかきながら眠り始めてしまった。

この辺りはさすが、眠りの達人である。

 

 

 

……もちろんのび太は気が付いていない。

 

 

 

今自分のいる場所が三途の川のほとりであると言う事に。自分も含めて、今川のほとりで並んでいる人影の中で生者は誰一人としていないと言う事に、幸せそうな寝顔で昼寝を始めてしまったのび太は残念ながら気が付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、本当にこっちであってるのよね?」

「ああ、魂が外れたんだろう? それなら結果として死者の魂と行きつく先は同じはずだからね。間違いなく三途の川へと向かっているはずさ。そこで他の魂と一緒に集まっているだろうから、そこからこの子の魂を見つければいいさ」

「それにしても、こういう時魂ってのは便利なんだぜ。放っておいても三途の川を目指すんだからな」

「それについてはどうしてなのか私らにも詳しくわかっている訳じゃあないんだけどね。まあ、おそらくは魂として輪廻転生の輪に戻りたいって本能的に行動するんだろうね」

 

一方こちらは寺子屋で魂が抜けてしまった抜け殻になったのび太の身体をあの世へと運ぶ死神の小町、それに動向を申し出た霊夢に魔理沙たち。のび太の身体を、ひょいと担ぎ上げてのび太の魂がいるであろう三途の川を目指す三人だった。

霊夢と魔理沙は最初『のび太の外れた魂がどこに行ったのか探さなくちゃ』と焦ったのだけれども、小町の『三途の川を目指しているだろうから、そのまま向かえば問題ない』という言葉に、真っすぐにあの世を目指す事になったのだ。さらに言うと徒歩ののび太と空を飛ぶ三人、どちらが早いかは目に見えている。

のび太が歩きながら通り抜けたであろう森の中の道も、屋台が立ち並ぶ賑やかな道も、あっという間に通り過ぎてさらにその先の、のび太がいるであろう三途の川が見えてきた。

 

「魂が集まっているから、あのどこかにいるはずなんだけど……」

「しかし本当に大勢集まってるな、相当仕事サボってたんじゃないのか?」

「いやいや、そんなに毎日サボっていたら四季様から大目玉だよ。それに今日は私は非番だからね。そしたら、いやな気配がするから見に行ってみたら……ってね。まあ、まさかこんな事になるとは思わなかったけれどもね。じゃあ、二人は悪いけれどもちょっとこの子の魂を探してみてくれないかい? 私は船頭が戻って来たらこの子の魂をもう運んだかどうか、聞いてみるからさ」

「ちょっと待ちなさい、この中から探せって言うの?」

「おいおい、冗談だよな?」

「冗談じゃないって、別に向こう岸まで運べだなんて言いはしないさ。ただ、見つけてくれれば後は私が運ぶからさ」

「まあ仕方ないわ、とりあえず探すわよ魔理沙」

「みたいなんだぜ霊夢……じゃあ、私は向こうから探すんだぜ」

 

のび太の身体を落とさないように慎重に着地し、並んでいる人々の魂の行列の側に歩み寄る三人。

確かに小町の言う通り、今日は小町ではない別の死神が担当しているらしく小町そっくりの恰好をした死神が人魂を連れて小舟で桟橋から川の向こうへと運んでいるのが見て取れる。

その輸送がはかどっているのか、のび太が川にたどり着き魂の行列を見た時とは異なり列の長さはそれなりに短くなっていた。

とは言え、いくら短くなっていると言ってもそれでもまだ決して一人二人と言うような数ではない。その中から探せと言うのだから、霊夢も魔理沙も文句を言いたくもなるだろう。

が、文句をいった所でのび太の魂が見つかる訳では無い。ここで文句を言えば見つかるのならいくらでも言うだろうけれども、それで見つかるほど世の中は甘くないのだ。

それぞれ互いに行列の端と端から探していくと声を掛け合い、歩き出す二人。

その間にも小町は魂を運ぶ同僚が戻って来るや否や声を掛け、のび太……人間の子供の魂を運んだかどうかを確認していた。

が、結果は思わしくなかったらしい。小町に尋ねられた同僚の死神は、首を横に振るとまた桟橋から魂を乗せた船を漕ぎだし岸から離れてゆく。

その対応からも、まだのび太の魂が向こう岸へと運ばれていない事は小町には理解できた。

ならばまだのび太の魂は彼岸ではなく此岸にいると言う事だ。それを確認した小町は、魂の行列の中からのび太の魂を探している最中の二人に声を張り上げた。

 

「おーい、二人とも! まだこの子の魂は向こうへは運ばれていないってさ。必ずこっちにいるはずだよ」

「よし、それならこの行列を捌けばおしまいって事だな」

「助かったわね。彼岸に運ばれていたら面倒だったもの」

 

こうして、まだ幻想郷側、此岸にのび太がいるとわかった事で霊夢も魔理沙もやる気を見せ、さらには小町も手伝ってどんどんと魂を確認したのだけれども……。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、なんで魂なのにこんなに気持ちよさそうにいびきかいて寝てるのよ!?」

「って言うかのび太って、慧音から頭突きを受ける前にもグウグウ居眠りしていなかったか?」

「いやーそんな事言われても、私も先に言った通り人間の魂が身体から外れるなんて事はめったに起こらないからなかなかどんな事になるか分からなかったけど、まさか昼寝してるとはね……」

 

そう、三人の前でのび太の魂はまだ起きずに昼寝をしていたのだった。

小町が同僚からのび太の魂を運んだかどうか、確認をした結果まだこちら側にいると分かってから、三人で急いで確認をしたのだけれども、結局のところその行列の中にはのび太の魂は見つからなかった。

これはおかしいと、一度探し終えてから三人で額を集めて話し合った結果、もう一度周りも含めて見てみようと言う事になり、三人が再び散らばって三途の川のほとりを探し回った結果見つけたのは、のび太の魂が土手に寝転がり足まで組んで、鼻提灯を浮かべながらグウグウととても気持ちよさそうに昼寝をしている姿だった。

 

「…………グウ…………グウ…………グウ…………グウ…………」

「「「………………………………」」」

 

散々探し回った挙句、ようやく見つけたと思ったら、人の苦労もう知らずにこれまでの間ずっと気持ちよさそうに昼寝をしていましたと言う事実に、さすがの三人も機嫌が悪くなると言うもの。

 

「……のび太! さっさと起きなさい!!!」

 

三途の川のほとり、暖かい陽気の下で三人を代表するかのような霊夢の怒りの声が木霊した。




のび太、無事見つかりました。(ただしお昼寝中)
そもそも魂って、昼寝するのか?(汗

無事にのび太は起きるのか、そもそもちゃんと三途の川を渡って此岸から彼岸へと向かえるのか?



次回、乞うご期待!!!


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天国よいとこ?(その3)

遅くなりました。
のび太のあの世への冒険編、第三話です。
まずは三途の川を渡らなくてはいけないのですがさてさて、どうなる事やら……。


「……のび太! さっさと起きなさい!!!」

「……グウ」

「……ねえ、この子ってさ本当に魂なんだよね? 私も死神の仕事をして短くはないけれども、昼寝をしている魂って言うのは初めて見たよ」

「私もだぜ。ただのび太については昼寝の達人だからな……魂だけになったって不思議じゃないんだぜ」

「それはそうかもしれないけれどもさ……」

 

三途の川のほとりに響く、凛とした霊夢の声に例のごとくのび太は器用にいびきでもって返事を返してみせた。

こののび太の、居眠りをしていてもいびきで返事をできると言う特技(?)については霊夢だけでなく魔理沙も、のび太が命を落とす直前に寺子屋で見て知ってはいる。

けれども、なにも魂になってまでその特技を披露しなくてもいいだろうと言うのが魔理沙の素直な感想だった。

また、死神の小町についてはのび太のこの特技を目にするのは完全に初めてなため、この幻想郷にあっても非常識極まりない、魂の身でありながら昼寝をしさらに霊夢の声にいびきで返事をすると言うとんでもない行為に目を丸くし、傍らにいる魔理沙に思わず聞いてしまっている。

が、これは完全に霊夢の怒りに油を注ぐだけだった。いつまでたってもいびきをかいて返事をするだけで、一向に起きる気配のないのび太にとうとうしびれを切らした霊夢がお祓い棒を取り出し、思い切りのび太の頭をバッシバッシと叩きだしたのだ。

その勢いと来たらかつて『のび太と鉄人兵団』において、ザンダクロスと共に地球に送り込まれてきた、ボーリングの玉のようなザンダクロスの電子頭脳が大音量で本国メカトピアに向けて信号を発した際、余りの音の大きさに近所迷惑だから静かにしなさいと、ママが怒りながら頭脳を追い回しホウキで散々ひっぱたいたほどの勢いがあった。

そもそもお祓い棒で魂だけののび太をひっぱたいたらそのまま成仏してしまいそうなものなのだけれども、幸か不幸か、あるいは霊夢がきちんと手加減をしてくれたのかのび太は成仏する事なくゆっくりと目を覚ました。

 

「……ふぁ……ぁぁぁ……。……あれ、霊夢さんに魔理沙さん、一体どうしたんですかこんなところで? それに、お姉さんは……誰ですか?」

 

頭を散々ひっぱたかれたとは思えない呑気さで、大きな欠伸をしながらようやくのび太は目を覚まして周囲をきょろきょろとみまわして、そこでようやく霊夢と魔理沙と、さらにもう一人知らない人物がいる事に気が付いたらしい。

そもそもどうして自分が昼寝をしていただけなのに寺子屋にいたはずの霊夢たちがここにいるのか、その所を全く理解していないのび太は完全に、目の前にいる霊夢たちも偶然にここまでやって来た程度にしか考えていなかった。

 

「あー、そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前は小野塚小町、死神だよ」

「え……死神……? えーっ!? 死神って、あの死神ですか!? でも、黒い服を着たガイコツじゃないけど……」

「あはは、それはこことは違う場所を担当している死神の格好だからさ。私たちも死神なんだけれどね、私たちの担当しているここらでは、これが死神の制服なのさ」

「で、でも死神って事は、お姉さんやっぱり僕の事を狙ってるんでしょ?」

 

死神、という物騒な言葉に反応したのび太の顔からさあ、と一瞬で血の気が引いていく。無理もない、世の中の常識で考えても死神のお世話になる時などと言うものは普通なら一生のうちで一つしかないのだから。すなわち『死の神』の名前通り命を落とす時だ。

死神のイメージ、黒いローブを身に着けたガイコツの死神、とはまるっきりかけ離れた姿ではあるけれどもその死神が今自分の目の前にいる、となればその理由は一つしか考えられない。もちろんそれは自分の命が危ないと言う事に他ならない。

だからこそのび太は大きな声で目を丸くしながら驚いたのだ。

けれども、そんな死神と言う驚くような発言さえ、のび太にとっては彼女の口から出てきた次の言葉に比べればささいな物だった。

 

「命を狙う? そんな事をする必要なんて無いよ、だって君はもう魂だけになっているんだから」

「わああああ!? ど、どうして僕がもう一人?」

「だから、こっちが君の身体で今私と話をしている君は、この身体から抜け出している魂だからさ」

「そ、そんなぁーっ! 助けてーっ、ドラえもーん!!!」

「落ち着きなさいのび太! 確かにのび太の魂と身体とは今離れ離れになってるけれども、別に死んじゃった訳じゃないんだから。のび太を助けるためには一度川を越えて向こう側に行かなくちゃいけないのよ、分かる?」

 

ほら、と魂がだけになっている証拠だと言わんばかりにのび太にもう魂が抜けて抜け殻になってしまったのび太の身体を見せつける小町。逆に、自分の身体を鏡ではなく第三者の視線で見るという珍しい体験をする事になってしまったのび太は、自分がようやく今死神どころかもっととんでもない命の危機に瀕している事実に気が付いた。

その驚きようときたら慌てふためいて腰まで抜かしながら親友の名前を叫ぶほど、とは言ってもここは幻想郷でさらにその中でも彼岸に近い三途の川のほとりである。そのままドラえもんの歌が流れだし、映画が始まりそうなのび太のその声も、三途の川にむなしく響くだけであった。

もしここで霊夢がのび太の肩をがっし、とつかみ身体を思い切り揺さぶりながら落ち着かせなかったらおそらくのび太はずっと動揺しっ放しだっただろう。

 

「……え、それじゃあ僕、助かるんですか!?」

「ああ、大人しく言う事を聞いていれば助かるみたいなんだぜ。だからいつまでも昼寝していないで、ちゃんと起きるんだぜ」

「やったーっ! 嫌だなあ魔理沙さん、僕はそんなに昼寝なんてしませんよ」

「……本当にもぅ、現金なんだから……」

「まあまあ、この子が目を覚ましたんだからいいじゃないか。これでひとまずやらなくちゃいけないのは川の向こう岸まで連れて行くだけになったからね」

 

しかしそこはやはり幾度の冒険や死地を潜り抜けてきたと言っても小学生である事に変わりはなかった。霊夢の説明に助かるかも、という一筋の光明が見えるや否や諸手を挙げて万歳と全身で喜びを表現する始末である。

おまけに魔理沙の言葉にも、ついさっきまでと言うよりも直前まで鼻提灯を出しながら昼寝をしていて、口元にもしっかりとよだれの跡が残っているとは思えない発言に、さすがの霊夢もため息をついてしまうのだった。

兎にも角にも、案内人となる死神小町の元にこれでのび太の身体と魂の二つが揃った訳だ。

後は小町が先に霊夢と魔理沙の二人に説明した通り、三途の川の向こうの閻魔の所に連れて行くだけである。

それだからか、小町が向こう岸まで行くから船に乗るようにと先頭を切って渡し場まで歩き出した。その小町の視線の先には、川岸に繋ぎ止められた木造の船がいくつも並んでいるのが見える。それだけ見たらまるで昔話に登場する海辺の村のようでもある。

 

「それじゃあ、積もる話は後にしてまずは三途の川を渡っちゃおうか……みんな、渡し場にある船に乗って」

「え、それなら飛んで行けば早いじゃない。なんでわざわざ船で移動するのよ」

「そうだぜ、私も霊夢も小町も、のび太だって未来の道具を使って空を飛べるんだからそのまま飛んで行けばいいじゃないか」

「あのねぇ、そりゃあ私も空を飛べるよ? だけども、この子の身体はどうするのさ」

「「…………あ」」

 

この小町の船で行くと言う発言に霊夢も魔理沙も不満を口にするが、小町が担いでいたのび太の身体を見せながら「身体だけで空を飛べるなら私もそうしたいんだけどね」と言われてしまっては黙るより他にはなかった。

確かにのび太が空を飛べるのはあくまでも魂がちゃんと身体の中に入っている時であって、魂と身体とか分かれてしまっている今、身体は当然飛べるはずがないのだから。

こうして小町の言葉に納得せざるを得なかった二人とのび太の魂は小町に案内されるまま、彼女の用意した船に乗ろうとしたのだけれども……。

 

「ねえ、もっとましな船はないの? 向こう岸に着く途中で沈没なんて私嫌なんだけど」

「これじゃあ運ばれる魂も浮かばれないんだぜ」

「……なんだか、しずかちゃんを追いかけてバグダッドで乗ったボロ船みたい」

「仕方ないだろう? 直したくたってお金が無いんだから……」

 

三者三様のあまりにも辛辣すぎる評価に、小町も泣きそうになるのをぐっとこらえながらかろうじて予算の無さを訴えるのだった。

なにしろ、小町が「さあ乗って乗って」と促す件の船は、すぐには沈没こそしないだろうけれども、長年使いこまれたせいか酷く痛んだ様子が素人目に見ても伺える木造の船なのだから。

ちなみにこのバグダッドで乗ったボロ船とは『のび太のドラビアンナイト』において、絵本の世界に取り残されてしまったしずかを助け出すためにバグダッドに赴いた際、船に乗せられている(とのび太が夢で見た)しずかを追いかけるためにヘビ使いの老人から船を一艘買う事を勧められたものである。

これは実はハールーン・アル・ラシード王によって盗賊のカシムがバグダッド中で指名手配をされた中、国外脱出を図るための方便だったのだけれどもそんな事は露ほどにも疑わないのび太たちは、ヘビ使いに扮したカシムに勧められたままに一艘の船を、その中でも一番安い船を購入する事になったのだった。

その時の船こそがボロボロの嵐でも吹いたら沈没しそうな船だったのだが、今のび太の目の前に浮かんでいる小町の船は、その時のボロ船にも負けず劣らずの傷み具合なのだ。のび太がボロ船呼ばわりするのも無理はないだろう。

 

「そりゃあね、私だって()()()()()()()()()()があれば仕事だって頑張ろうって気になるよ? でも、この船でやる気を出せだなんて言われてもねぇ……」

「なら、もっと立派な船になればいいんですか?」

「立派な……って、そりゃあなってくれれば嬉しいけれども、どうやって立派な船にしてくれるんだい? まさか君みたいな子供がお金を出してくれる訳じゃないだろう?」

「小町、甘く見ない方がいいわよ。のび太の持ってるひみつ道具はすごいんだから。あの鴉天狗と正面から戦って勝って見せるような事をやってのけるし、時間だって巻き戻すんだから」

「そうだな、霊夢の言う通りなんだぜ。私もその場に居合わせたんだが、あれは人間が起こしていい風じゃなかったんだぜ……」

「……ねえ、もう一度確認したいんだけれども本当にこの子って、人間なんだよね? どう考えても、話を聞く限りじゃ妖怪か神の仕業じゃないかい? それって」

「そう思いたいのは仕方がないけれども、残念ながらのび太は人間よ。それも外からやって来た、ただの道具を使うだけの男の子なのよ」

「……うーん、にわかには信じがたいねぇ。それならさ、私の船をその、豪華にしてみておくれよ。それができたら私だって信じるよ」

 

そんなのび太の、昔の冒険の日々を思い出している間にもさらに愚痴をこぼし続ける小町。その愚痴に、目ざとくのび太が反応する。

もちろんこれはのび太からすれば、というよりものび太が持つスペアポケットから取り出して使用するひみつ道具の力をもってすれば、ボロボロの船を豪華絢爛なそれに作り変えてしまうことなど造作もない事だからこその反応なのだけれども、当然初対面の小町はそんな事は全く知らない話である。

そして小町はと言うと、船を立派にするだなんて常識的に考えても無理だと思っている矢先に霊夢と魔理沙から、ここ数日の間に起きた、もといのび太の起こした所業をつらつらと聞かされては、のび太の正体が実は神や妖怪の類なのではないかと、完全に面食らった様子だった。

おまけに二人の話を聞いてもまだ完全に信じ切れていない様子で、のび太に対して『船を豪華にしてくれたら、霊夢たちの言う事も信じる』と言い出した。

どう見ても体よく船を今のボロ船から立派なものに変えてもらおうと言う思惑しか感じられないのだけれども、のび太はそんな小町の思惑など気にしたようでもなく、素直にうなずくと自分の身体のズボンに手を入れてスペアポケットを取り出そうとして……そのまま魂ののび太の手は、ペコのペンダントが発生させたバウワンコの巨神像の幻影よろしく、すり抜けてしまった。

 

「分かりました、いいですよ。それじゃあポケットから……って、あれ? すり抜けちゃう」

「ああ、そうだね。君は今魂だけになってるからだね。私たち死神ならともかく、君の場合はまあ無理かな」

「えーっ、それじゃあ船が豪華にできませんよ」

「……………………困るよっ! ねえお願い、何とかしてよ!!! 何をすれば私の船が豪華になるんだい? ねえ、ねえ! ねえ!!」

 

何回試してもどうしても自分の魂が自分の身体をすり抜けてしまい、ポケットを取り出す事ができないと言う、初めての体験に目をぱちぱちさせながらのび太は自分の身体と、自分の手とを見比べている。

一方の小町も、思い出したように魂が実態に触れられないと言う事実に納得したようにうなずいていた。

ただし、それもわずかの間の事。しばらくの間のび太の言葉の意味を考えていた小町はおもむろにがばっ、とのび太の魂にしがみついた。

やはり先ほどの言葉に嘘はないようで、小町は死神だからなのかしっかりとのび太の魂にしがみついている。

 

「ちょ……あ、あの……く、……苦しいですって……」

「「いい加減にしなさいっ(しろっ)!!!」」

「ぐえっ! い、痛たたた……四季様じゃないんだから勘弁しておくれよ」

「あんたがのび太を締め上げようとするからでしょうが! ……で、のび太。のび太の持っている不思議な道具の中に、あの沈没船モドキを豪華にできる道具って言うのは、あるの?」

「あるにはあります。ただ、多分僕が取り出さないと霊夢さんたちだと……どんな形なのか分からないから、どれがどれやらわからなくて、取り出せないんじゃないかな」

 

小町にしがみつかれ、白目をむいて気を失いそうになるのび太。魂が気を失うと言うのもおかしなものだけれども、兎にも角にもそのまま成仏してしまいそうなのび太の危機を救ったのは霊夢と魔理沙の二人が振り下ろしたお祓い棒とホウキと言う名の、鉄槌だった。

そうしてひとまず落ち着いたところで、のび太たちがとった方法は……。

 

「……んー、これっ!」

「……違いますね」

「えー、またかよ。それじゃあ……これだっ!」

「これも違いますね」

「おいおい、一体どれなのさ……」

「僕が探すのが一番手っ取り早いんですけど、僕じゃあすり抜けちゃうし……」

 

魔理沙と霊夢と小町とで、手当たり次第にひみつ道具を取り出してはのび太に見せると言う原始的な方法だった。

とは言え、のび太の言うように現状のび太がひみつ道具を取り出せない以上取れる手段と言ったらこれくらいしかないのもまた事実。

 

 

 

 

 

 

少女探索中……

 

 

 

少女探索中……

 

 

 

少女探索中……

 

 

 

 

 

 

「あ、これ! これです! デラックスライト!!」

「「「……………………」」」

 

そうして一体どれくらい時間が経ったのか。三途の川のほとりに賽の河原の石積みよろしくひみつ道具の山ができ、三人がそろそろ疲労で口数も少なくなってきたころ、ようやく霊夢がのび太の求める道具を取り出す事に成功したのだった。

最初の頃は元気にポケットから道具を取り出していたのだけれども、最後の方になるともうひたすらに無言で黙々と道具を取り出し、のび太に見せつけて正解かどうかを確認、間違っていると分かると道具の山へと積み上げてゆく作業の繰り返し。いよいよ瞳からも輝きが消えてゆこうかという時に、ようやく掴んだひみつ道具、その名もデラックスライト。

これはその名の通りライトの形をしたひみつ道具で、光を浴びせた対象をデラックスにすると言う効果を持っている。スネ夫のラジコンを羨ましがったのび太が、オモチャの車に対して使った所ラジコンのスーパーカーに変化するなどの効果を持っている。これならば小町の船も豪華になる事は間違いないだろう。

 

「……で、これをどうすればいいんだぜ?」

「使い方は簡単です。豪華にしたいものに向けてこのライトを照らしてください、そうすれば豪華になりますよ」

「……………………」

 

ようやく見つかった目的のひみつ道具だと言うのに、疲れからかどんよりとした口調で魔理沙が使い方を尋ねる。

そう、今ののび太にはひみつ道具を使えない以上、使うのも霊夢たちでないといけないのだ。

こうして、紆余曲折の果てにようやくデラックスライトを浴びた小町の船はたちまちその姿を変貌させた。

 

「……ええええーっ!!」

「すごいんだぜ、本当にあのボロ船が豪華になったんだぜ!」

「それにしても、これはいくら何でもあのボロ船がここまでの船になるって言うのはさすがに豪華になりすぎなんじゃないかしら?」

「すごいや、あのボロ船がこんなにカッコいい帆船になるなんて……。宝島を目指す船みたいだ」

「本当にあの船がこんな立派になるなんて……、私は夢を見ているんじゃないよね?」

 

手漕ぎの和船が、かつて『のび太の宝島』で宝の島を目指してのび太が作った組み立て帆船ノビタオーラ号そっくりな帆船へと姿を変えた事で、既にひみつ道具をいくつかは使い、あるいは使う所を見ていてひみつ道具がどんなものなのかを知っているはずの霊夢も魔理沙も、またひみつ道具が一体どういうものなのか全く知らなかった小町も、それまでの疲れから輝きを失っていた三人の目にみるみる輝きが戻っていく。

特に小町は、船が豪華になるところをきちんと目撃した事もあり、のび太のひみつ道具のすごさを完全に信じたようで、子供のように喜び勇んで、誰よりも真っ先に豪華な帆船へと姿を変えた自分の船へと飛び乗った。

いろいろと確かめるようにあちらをうろうろ、こちらをうろうろと歩き回ってから、最後尾目指して走り出す。もちろん彼女の行先は言うまでもなく最後尾にある、帆船でおなじみの装備である舵輪のある場所である。

死神の恰好をした船長が舵輪を握り帆船を動かすと言うと違和感を感じそうなものだけれども、どうしてなかなかこれが似合っている。後、ここに海賊の帽子でもかぶればその姿は『のび太の南海大冒険』でカリブ海にその名を轟かせた大海賊キャプテン・キッドやキャプテン・コルトのようだ。

 

「さあ、みんな乗った乗った! 君が私のあの船をこんな豪華な船にしてくれたんだ、これでやる気を出さなくっちゃ死神の名が廃るってね。さあ、いよいよ出航だよ!」

「「「おーっ!!!」」」

 

こうして三人の元気な声と共に、三途の川に少々似つかわしくない豪華な帆船が、のび太たちを乗せていよいよ出航を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、いっけない! デラックスライトを出す時に一緒に出したひみつ道具、全部ポケットにまた戻さなくっちゃ」

「「ちょっと! のび太あんた何やってんのよ(るんだぜ)!!」」

 

ちなみにいざ出帆しようとしたまさにその矢先に、のび太がひみつ道具を出しっ放しにしている事を思い出して、出帆よりも先にまずは山のように積まれていたひみつ道具をまたスペアポケットに戻す作業が発生していたりするのだけれども、それはまた別のお話。




小町の和船が突然のデラックスに。
そもそも帆船って一人で動かせる代物ではないはずなのですが、どうやって動かすのでしょうか? 
小町の同僚たちもみんなでこの豪華帆船型死神の船を動かす、なんてのも面白そうだな。キャプテンは小町で、そのうちにキャプテン・小町とか呼ばれて。


さて、いよいよ次は川を渡り彼岸へと向かいます。
乞う、ご期待っ!!!


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天国よいとこ?(その4)

お待たせしました。
いよいよ此岸と彼岸の境目である三途の川を出発したのび太たち。向こう岸である彼岸には無事にたどり着けるのでしょうか?(フラグ


「幻想博麗丸よ!」

「いーや! ブレイジングスター号だ!!」

「ダメですよ! この船は僕のひみつ道具で豪華にしたんですから。ここはノビタオーラⅡ世号で決まりです!」

「そんな名前が幻想郷で許されると思っているのかしら?」

「何言ってるんだぜ、やはり船の名前にもパワーが溢れていないといけないんだぜ!」

 

 

三途の川のほとり、此岸の渡し場を出帆した小町の元ボロ船……今は豪華帆船は、三途の川をのんびりと彼岸目指して走っていたがその上では霊夢、魔理沙、のび太の三人によるいつ終わるとも分からない激しい議論が繰り広げられていた。

ちなみにその議論の議題はと言うと『この帆船の名前をどうするか?』という実にくだらないものだったりする。

さらに言ってしまえば、いつもこの船を利用するのならばともかく、たいていの場合なら一生に一度死後魂を彼岸に送り届ける時にだけ利用される船に名前を付けて一体どうするのかと思うし、そもそものび太は外の世界から来た身の上で将来人生の最後に乗る船がこれになるとは限らないのだけれども、そこの所は三人は全く考えていないらしい。

とにかく、このカッコいい幻想郷でも珍しい帆船に自分の名前を付けたいのだ。

と言うのも、霊夢も魔理沙も、最初こそ初めて体験する帆船と言う乗り物に目を輝かせていたのだけれども、そもそも自分で飛ぶよりも遅く、何よりも三途の川の光景と言うものがいつまでたっても代わり映えの無いものであると言う事からすぐに飽きてしまった。

そしてあろう事かほぼ唯一霊夢たちも使い方をしっかりと理解しているひみつ道具であるグルメテーブルかけまで取り出し、死神の船の上で呑めや歌えやのどんちゃん騒ぎを始めようとする始末。

さすがにこの暴挙には小町も『私が仕事中で呑めないのに、何羨ましい事してるのさ!』と、そのまま舵を取ると言う職務放棄して二人に加わり酒を飲み始めそうな勢いであったために、それを察した霊夢と魔理沙の二人もいそいそと片付けたのだった。

もしそうでなかったら『のび太の大魔境』でワニがうようよと潜むアグアグの河を渡る時に、ジャイアンが舵をほったらかしにして岩礁に衝突させたように、大惨事が起こっていたかもしれない。

そんなこんなで、暇ではあるけれどもお酒も飲めず、さて一体何をしようかとのび太も交えて雑談をしていた矢先に、ふと霊夢が口にした一言である「そう言えばこの船って、なんて名前なの?」という言葉から、各々自分の気に入った名前を付けたい三人によって今の激論が続いている、と言う訳だ。

だが、ここでこの議論は思いがけない収束を見せる事になる。

 

「ちょっと待っておくれよ。この船は私の船なんだよ? それに勝手に名前を付けられちゃ困るって。この船は『グレイトフル・イグナウス号』って豪華になった時にもう決めてあるんだから!!!」

「ちょっと待ちなさい小町、私に断りもなく何勝手に船の名前決めてるのよ!」

「そうだぜ、そんな横文字の船なんて似合わないんだぜ! そもそもグレイトフル・イグナウスって言語が統一されていないじゃないか」

「いいじゃないか、私の船なんだし。この偉大なる単語の素晴らしさが分からないなんてまだまだだね」

 

船の持ち主である小町が三人の議論に参戦して、がんと譲らなかったのだ。しかも小町の言い分にはこの船の持ち主であると言うとても大きな強みがある。そのため霊夢と魔理沙の意見はあっさりと棄却され、しかしその上でボロ船からここまで豪華な帆船に変えてくれたのび太には、とても大きな恩義があると言う事で最終的に『コマチオーラ号』へと決まったのだった。

こうしてボロ船改めコマチオーラ号は相も変わらずのんびりと三途の川を走り続けるのだけれども……。

 

「あー、退屈。ねえ小町、まだ三途の川の向こう岸には着かないのかしら?」

「そんな事言ってもねぇ、確かに手漕ぎの船の時は自分で漕げば進んだけどこの船は風任せか……そこはちょっと違うんだね」

 

あまりにものんびりと走り続けるコマチオーラ号の速度に、霊夢が明らかに不機嫌になっていたのだ。

元々お酒も飲めず、かといって自分で飛んで行けばひとっ飛びにも拘わらずのんびりと未だに三途の川の上を走っているのだからさっさと行ってのび太の魂を身体に戻したいのに、船で出帆する前にまずひみつ道具デラックスライトを探す羽目になり時間を取られ、とストレスが溜まりつつある証拠に、空気がピリピリと張り詰めてきているのがのび太にも感じられる。

 

「な、なあ霊夢、この船がこんなに遅いのって、要は帆に風を受けて進む風任せだからって事だよな。それならさ、のび太に大風を吹かせてもらえば……当然この船も手っ取り早く進むんじゃないか?」

「……のび太、それ、できるのかしら?」

「は、はいっ、できます! 前に同じような事があって、その時は成功しましたからこの船でも多分できます。できますけど……さっきみたいに道具を取り出してもらえないと……」

「ああ、それならだいたい見当がつくぜ。のび太が取り出そうとしているのは、たぶんこの前妖怪の山で文を吹き飛ばした、あの不思議な扇じゃないのか?」

「あ、はい。そうです。バショー扇です」

 

その爆発寸前の爆弾のような、危険な空気をまとった霊夢の空気を察してか、魔理沙が慌てて取り繕うように声をかけた。もちろん下手に声をかけると霊夢の怒りに火を注ぐ結果になりかねないのは魔理沙もよく承知しているのか、その内容は霊夢を刺激しないような内容を選んでいるのがのび太にもわかった。

その会話の中で、魔理沙が帆船コマチオーラ号を早く移動させる方法としてのび太の持つひみつ道具を使い大風を起こし、移動速度を上げようとするものだったが奇しくもそれはボロ船と揶揄したバグダッドで手に入れた船を加速させた方法と同じものだった。

ちなみに先の船を加速させた時はチグリス川を下り、ペルシャ湾を抜け、一日でアラビア海の真っただ中までたどり着いている(地図を見てもらえれば分かるように現在のイラク首都であるバグダッドは内陸部でチグリス川の流域、畔に位置しており海に出るにはチグリス川を下り海に出る必要がある)。

ちなみにこの移動距離は地図で見ればわかるが約2~3000㎞ほどの移動をしている事になるのだから恐ろしい速度であるのは間違いない。

それに少なくとも先のデラックスライトとは違い、魔理沙がバショー扇を一度見て形を知っているため取り出すのにはさほど苦労はしないだろうと判断したのび太は魔理沙に任せる事にしたのだった。

 

「よーし、それじゃあ私がしっかりと取り出すから、見てるんだぜ! えーと、えーと……あっ、あの不思議な扇ーっ!!!」

「せめて名前は覚えて下さいよ、バショー扇ですって」

「固い事は言いっこなしなんだぜ」

「いいからさっさと扇ぎなさいよ魔理沙!」

「あ、霊夢さん。何かにつかまった方がいいですよ。多分大変な事に……」

「え、何が?」

 

スペアポケットに手を突っ込み、しばらく中をごそごそと探し回った後、妖怪の山でのび太がそれを取り出した時と同様に、魔理沙もそれをするりと引き抜いて高々と天に掲げてみせたバショー扇。わざわざ名前も覚えていないのに名前を呼びながら道具を掲げる辺り、のび太やドラえもんにそっくりだ。

そのバショー扇を手に、コマチオーラ号の船尾まで駆けてゆき、魔理沙は文を吹き飛ばしたのび太のように思い切りそれを振り下ろした。全力で。

 

「ふっふっふ……弾幕だけじゃなくて、大風だってパワーなんだぜ!! それ……っ!」

「っ!? ちょ、ちょっと魔理沙さん力が強すぎますよーっ!!!」

「こら魔理沙、少しは手加減しなさいよーっ!!!」

 

当然台風並みの風を巻き起こす事ができるバショー扇でそんな大風を起こしたのだから、当然のようにコマチオーラ号はそれまでののんびりとした航海から一転、ものすごい速度で三途の川を走り始めた。それはまさにかつてバグダッドから出航したボロ船の再現でもあった。

風を受けて帆も、綱も吹き飛ばん勢いで風を受けて軋みを上げて、メインマストも風の力が強すぎるのか心なしかしなって見える。幸いのび太は先の冒険で風の強さに吹き飛ばされそうになった経験があったため、すぐに霊夢に声をかけて自分は船室へと入り込んだ事で事なきを得た。

しかし霊夢はと言うと、そもそも妖怪の山でもバショー扇がどれほどの風を起こすのか見ていなかった事、そしてのび太の忠告に一体何が? ときょとん、としたところでまともに魔理沙が起こした風を受けた為吹き飛ばされそうになり慌てて船の柵にしがみついてどうにか風をやり過ごしていた。

ちなみに舵輪を握っている小町はと言うと、急激な船の加速に必死で舵輪を握りしめ、声を出す事もできずにどうにか船の進路を保っているありさまだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、幻想郷から見て三途の川の向こう側……彼岸の是非曲直庁、すなわち小町の勤め先では小町たちの同僚や上司が何も知らずにその日も普段の仕事をこなしていた。

あの世でもこの世でも、仕事と言うものはそうそう変わるものではないらしく、格好こそ外の世界で働くのび太のパパたちのようにスーツ姿ではないものの書類を運んだり、その書類に印鑑を押したり、あるいは小町たち此岸から運ばれてきた魂の生前の行いに合わせて裁判を行い、判決に則った行き先に魂を案内したりと皆せわしなく動いている。

それは昔から変わる事なく、またこれからも変わる事がないと、誰もがそう信じていた。

 

 

 

…………『それ』が来るまでは。

 

 

 

「「「「………………ああああああああああああああああああ!!!!!」」」」

 

 

 

「止めて! 止めて! 止めて! 止めて!」

「止めろって言ったって、どうすれば止まるんだぜ!!!」

「私が……知る訳ないでしょ……っ!!!」

「た……たぶん、勢いが完全になくなるまで……こりゃあ止まらないよ……」

「……魔理沙、あんた…………無事に止まったら覚えてなさいよ……」

 

断末魔の悲鳴でももう少し穏やかなものになりそうな叫び声が、三途の川からやって来てはさらに川岸を乗り越えておまけにその先の道を勢いよくがりがりと船底を削る音と共に通り過ぎていく。

そう、魔理沙が思い切り扇いだバショー扇の力が強すぎて、三途の川を走り続けたコマチオーラ号は川が終わり向こう岸が見えてもなおスピードを落とすことなく走り続けていた。おまけに、帆船と言う構造上一度加速してしまうと減速する方法はもはやないに等しい事から、川が終わって岸に乗り上げてもまだ進み続けておりのび太、霊夢、魔理沙、小町の四人は悲鳴を上げながらただ、ものすごい振動に振り落とされないようそれぞれ船体にしがみつきながら、船が止まるのを待つよりほかに方法は残されていなかった。

いや、一日で数千キロも進むような勢いでいったん加速してしまっては、たとえコマチオーラ号が帆船でなく、エンジンを積んだ船になっていたとしてもそう簡単に減速はできないだろう。

当然死者の魂ではなく、こんな異様な物体が三途の川の方から土ぼこりと悲鳴を上げながら接近してくるのだから是非曲直庁の職員も気が付かない訳がなく、正門を警備していた職員からの『不審な物体接近』の通報によって、それまでのんびりとしていた是非曲直庁は一転ものものしい警報が鳴り響き、死神たちが次々に飛び出してきては鎌を手に手に警備をとると言う、厳戒態勢に陥った。

その様子はさながら『のび太の海底鬼岩城』において海底火山の爆発を目と耳がキャッチし、警報と共にバトルフィッシュの群れが舞い上がり、七千年の眠りから目覚め活動を再開したアトランティス連邦が遺した最後の拠点・鬼岩城のようでもあった。もっとも、鬼岩城とは異なり是非曲直庁は鉄騎隊のように無尽蔵の兵力でもないだろうし、鬼角弾を乱射したりはしない分遥かに鬼岩城よりもはるかにマシなのだけれども……。

兎にも角にも、そんな厳戒態勢に入った是非曲直庁へとコマチオーラ号はぐんぐんと向かっていく。死神たちも必死で『止まれ!』と警告を発したりするけれども、そもそも止まるための装置のついていない帆船を自力で止める術など無いに等しいし、止められるものならここに至るまでにとっくに止めていたはずだ。

 

「あ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶつかるーっ!!!」

「みんな振り落とされるんじゃないわよーっ!!」

「うわぁぁぁぁぁーっ!!!」

「私の船がーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている間にも、制止を振り切るように是非曲直庁に向けてつっ込んでくる船がもう止められないと悟るや、死神たちも轢かれたくはないのか散り散りに逃げ出してゆく。のび太たちも船の勢いが止まらず、ぶつかると分かるや目をつむり衝突の勢いで吹き飛ばされないように、しっかりと周囲に掴まる。

そうしてコマチオーラ号はその豪華な姿を披露してから、わずか数時間の処女航海の後に、是非曲直庁の壁面に衝突し、もうもうと土ぼこりを舞い上げながら大破したのであった。

 

「あ、あ……びっくりした……。魂じゃなかったらどうなってたか分からないや……」

「い、痛たたたたたた……のび太、魔理沙、みんな無事?」

「どうにかな……下手な異変よりもよっぽど命の危機を感じたんだぜ……」

「……まったくね。衝突の瞬間はさすがに神様に祈ったわ……」

「あああー!! せっかく立派になったのに私の船がぁぁぁ……」

「ま、まあ大丈夫だぜ小町。確かに船はこんなになったけれども、のび太なら元に戻せるか羅安心するんだぜ。なあ、霊夢」

「そうね、時間を巻き戻したりするあの風呂敷なら、この船もきっと戻せるわね」

「本当かい? よーし、それなら急いで四季様に会いに行かなくちゃいけないね!」

「え、え? ちょ、ちょっと小町さん」

 

是非曲直庁の壁に衝突し、大破したコマチオーラ号の残骸からどうにか這い出してきた霊夢、魔理沙、のび太に小町、そして小町が背負っているのび太の身体。誰もが衝突の際に舞い上がった土ぼこりを全身に浴びて、真っ黒けになりしずかでなくてもお風呂に入りたくなりそうなひどいありさまである。

それでも、全員幸い大きなケガもなく衝突の際の衝撃で身体を船体にぶつけたりしたいいけれども、ひとまず声をかけ合い互いの無事を確認してから船を見上げたその視線の先、そこにはもうあの豪華な帆船の面影はどこにもない、むしろデラックスライトを使う前のボロ船よりもさらにひどい事になっている。

あまりにもあっけない、自分の相棒の最期に、小町は完全に落ち込み涙を流していた。

それでも小町はともかく、霊夢も魔理沙もそう悲観はしていなかった。もちろんその理由はのび太が妖怪の山、洩矢神社で使って見せたタイムふろしきの存在を知っているからである。鴉天狗の射命丸文を子供に戻し、文とのび太の弾幕勝負でボロボロに痛んだ洩矢神社をあっという間に時間を巻き戻すと言う方法で修復して見せたあの驚異のひみつ道具。

あれさえあれば大破して残骸に姿を変えたコマチオーラ号であっても、間違いなく元に戻せるであろう事を、のび太ならそれができる事を説明すると、小町はがば! とそれまでの落ち込んだ姿から立ち直り、魂ののび太の腕をつかみ、建物の中へと連れれ行こうとする。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

「…………これは一体どういう事かしら? 小町」

「し、四季様!? ど、どうしてここに!?!?」

 

 

 

 

 

 

のび太たちの前に立ちふさがるように、一人の人物が立っていた。




四季様、大地に立つ!
そりゃあまあ、是非曲直庁の壁に帆船かっ飛ばして衝突、大破させればそりゃあ一体何事かって四季様だって出てきますよね。そもそも事前に警報鳴らして厳戒態勢敷いていた訳ですし……。

ちなみに作中で小町が名付けようとしていたグレイトフル・イグナウス号ですが、英語とラテン語で『怠ける事に感謝』(非常におおざっぱな意訳)と言う小町らしい意味にしています。
もっとも、のび太への感謝も込めて最終的にコマチオーラ号になった訳ですが、もしグレイトフル・イグナウス号で船籍を登録して四季様に船の名前の意味を知られたら絶対お説教コースだったろうな、とちょっと妄想。




さてさて、次はいよいよ四季様との対面です。
乞う、ご期待っ!!!


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絶対に笑ってはいけない六十年目の東方裁判24時(その1)

更新が遅くなりすみません。
ようやく四季様とのび太との掛け合いをどうするか、考えが纏まりました(汗
本当はもう少し先で花映塚エピソードは挿入しようと考えていましたが、予想外にのび太死すしてしまったので、最後の方までまだ全く考えていませんでしたが、多分これでどうにかなる……はずです。

では、四季様とのび太のお話、はじまりはじまり。


どうにか、文字通りどうにか無事に三途の川の向こう側までたどり着いたのび太たち。しかしたどり着いたと言ってもその方法は帆船になった小町のボロ船……コマチオーラ号をバショー扇で扇いで加速させ、ものすごい勢いで走った挙句に止まる事ができず、小町の職場でもある是非曲直庁の壁にそのまま衝突、大破と言うものだった。

本来なら、だれか大けがをしても不思議ではないほどの勢いによる衝突でバラバラに壊れたコマチオーラ号の残骸からどうにかこうにか這い出してきた霊夢たちを他所に、のび太を連れて中に行こうとした小町の目の前に立ちはだかった一つの人影。

それが普通の、人里で暮らす人々や今まで冒険をした世界で暮らしていた人々のような恰好をしていれば驚きもしなかったのだろうけれども、頭には幻想郷はおろか、他の惑星や異世界でもなかなか見ない奇妙なデザインの帽子をかぶり、手には死神小町が持つ鎌とはまた違ったしゃもじのような棒切れを手にすると言う、そうそうお目にかかる事の無い格好をしている。

その人影が、ゆっくりと口を開いた。

 

「……小町、これは一体どういう事なのかしら?」

「し、四季様……こ、これはその……あのですね……ちょっとした手違いでして……」

「確かに貴女は今日は非番でした。それは私も認めましょう。ですが、小町は三途の川を自分のでもない、訳の分からない船でもって走り回り、その挙句に自分の職場でもあるこの是非曲直庁へと突撃、大破させて多大な損害を与えた事を……ちょっとした手違いだと、そう言うのですね?」

「うぐ……っ、た、確かにそんな事もありましたが、これには三途の川よりも深い訳が……」

「いいでしょう、一応小町の言い分も聞いておきましょうか」

「この、この子です! めったに起こらない事なんですが、事故で身体から魂が抜けてしまって、まだ死ぬべきではないこの人間の子を助けるために、急いで駆け付けたんですよ!」

「はい、そうなんです……」

「なるほど、確かにこの子は魂が外れてしまっているようですね。しかし珍しい……」

 

この謎の人物の登場に、明らかに動揺している小町。その様子は、隠しておいた0点の答案の束を見つけられてママに叱られる時の自分とどこか似ているな、などと思いつつもそれは自分とは関係のない対岸の火事だと、のび太は思っていた。

それがいきなり『この子が原因なんです』と神成さんの家の窓ガラスを割った犯人か容疑者のように奇妙な帽子をかぶった謎の人物に突き出されてしまったのび太だが、実際に小町の言う通り魂が外れてしまったらしい事は間違いないので、小町に合わせて頷くより他に方法はない。

そんな事よりも、今のび太が気になっていたのは目の前にいる、この謎の人物の正体である。

変な帽子をかぶり、しゃもじを手にすると言う、これからご飯でも食べそうな装いの人物にどうして死神などと言う、その辺の妖怪よりもはるかにおっかない立場にいる小町がペコペコしているのかそれがのび太には疑問だったのだ。

 

「……ねえ、小町さん。このお姉さんは誰なんですか?」

「あら、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前は四季映姫、こう見えても閻魔をさせてもらっています」

「閻魔? えんまって……あの地獄で悪い人の舌を引っこ抜くって言う、あの……閻魔ですか?」

「ええ。と言っても、そう言った刑罰を加える役目には私とはまた違う担当がいるのだけれども、おおむねその閻魔で間違っていないわ」

 

『あなたは誰?』もうここに来て何回この質問をしたのか。それどころか今まで過去、未来、古代、別次元、他の惑星、いろいろな世界で大冒険をしてきた中でも、いろいろな人に出会うたびに繰り返してきたもはやのび太にとっては慣れっこになってしまったこの質問。そのたびに、いろいろな時代、世界で出会った人々からはいろいろな答えが返ってきた。

だから閻魔と言う回答が返って来た所で不思議ではない、はずなのだけれども……目の前の人物、四季映姫と名乗った人物は、死神を名乗った小町同様にのび太のイメージする閻魔からはだいぶかけ離れている。のび太のイメージする閻魔大王は『しつけキャンディー』で登場したようにひげもじゃで、赤い顔に昔の中国人のような格好をしたおっかない顔の男の人であって、目の前にいる四季様のようなお姉さんではない。

もし仮にこの場にドラえもんやジャイアン、スネ夫にしずかたちがいたとしたら、四季様が閻魔と言われて果たしてみんなは納得しただろうか?

いや、納得しないだろう。何故なら、のび太が今現に納得していないのだから。

 

「フフフッ……アハハハハハハッ! ウシャシャシャシャ! あー、おかしい。えんま、閻魔なんている訳ないのに。それにもしいるとしたって、閻魔ならもっとおっかない顔してるはずですよ。ねえ、小町さんもそう思いますよね? あれ、小町さん……?」

「「「………………………………」」」

 

 

その証拠に、閻魔なんている訳がないとお腹を抱えて大笑いしているのび太。今は身体から外れた魂だけの存在になっているはずなのに呼吸困難に陥りながら笑い転げると言う、昼寝に引き続き珍しい行動を披露しているけれども、真実を知る小町たちからすれば決してのび太が抱腹絶倒するその様子は一緒になって笑えるものではなかった。

事実、大笑いしているのはのび太だけで霊夢も魔理沙も、もちろんのび太に同意を求められた小町も青い顔をしてのび太を見ている。青いと言うよりも完全に血の気が引いた顔と言ってもいいだろう。

のび太は知らない事だが、それはちょうど『のび太のアニマル惑星』において、禁断の森の中で迷子になってしまったジャイアンとスネ夫が、迷いに迷った挙句光の階段の中でニムゲを見てしまった時の表情によく似ていた。そう、あの血の気が完全に引きジャイアンいわく『なんだよ、何かあるのかとドキッとするじゃないか』と言わせた、顔から血の気がなくなり真っ青になったスネ夫の表情である。

そして、霊夢たちから血の気を引かせた当の四季様はと言うと、とても怒っていた。それはもう、さすがののび太でもこれは間違いなく怒っているんだなと分かるほどに怒っていた。

 

「ごめんなさいね、おっかない顔をしていなくて。もしよろしければ、おっかない顔の獄卒たちをあなたに紹介するわよ」

「え……? い、いえ……そんなにしてもらわなくても……」

「……まったく、閻魔に対してそんなものいる訳がないなどと暴言を吐き、笑い転げるとは何事ですか! 貴方は少し信心がなさすぎます。いいでしょう、ここに来たのも何かの縁、次に貴方が死んだ時に私が地獄行きの判決を下さずに済むよう少し信心についてお話をしてあげましょう」

 

以前学校で出された作文の課題でのび太が書いた『僕の怖いものはうちのママの怒った顔です』と書いてママを怒らせた事があったけれども、今の四季様の顔はまさにその表情にそっくりだったのだ。それだけではなく、その周りには見えるはずのない燃え盛る炎のような気配すら浮かんでいるし、その手にしているしゃもじのような棒がミシミシと音を立てているようにも聞こえるのは、決して気のせいではないだろう。

いくらのんびり屋ののび太でも、ここまで『私は冷静さを欠こうとしています』と怒りを表現されてはさすがに気が付くと言うもの。

が、残念ながらのび太が四季様の怒りに気が付くのはあまりにも遅すぎた。

しかも0点の答案を見つけたママにそっくりな、憤怒の表情を見せる四季様からは、そんなに怖い顔がいいのなら地獄の獄卒を紹介しましょうかなどとまで言われてしまう始末。もっとも、幸か不幸かのび太の頭では獄卒、と言う言葉の意味は理解できてはいなかったのだけれども……。

ただし、少なくともこのタイミングで発せられた言葉であり、おまけに『おっかない顔の』などと言う単語が前に付くのだから決して楽しいものや明るい意味を含んだものではないのだろう事は、のび太にでも容易に想像がつく。

こうして、四季様のありがたい……もといのび太のママ並みに口うるさいお説教が始まった。

 

 

 

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

 

 

 

「いいですか? 閻魔なんていはないと貴方は言いましたが、ちゃんと私と言う閻魔がいるのです。つまりはもし現世で善行を積まなければ、死後に貴方は地獄に落ちてしまうのですよ? もし地獄に落ちれば、恐ろしい顔をした獄卒に舌を抜かれるだけではなくもっと恐ろしい責め苦に未来永劫身を引き裂かれる事となるでしょう。事実、私は生前に口を酸っぱくして善行を積むようにと告げたにも拘らずそれでもなお私の言葉を無視した結果、死後になって地獄行きの判決を下され、その時になって必死で許しを請いながら地獄へと落とされていった死者たちを何人も見てきました。ですが、私の判決は下されれば決して覆る事はありません。貴方もそのような事にならない為にも、今日ここで私の言葉に耳を傾けて、おのれの愚かさをきちんと反省し悔い改め、地獄に通されないように善行を積みながら生きる必要があるのです。明日からやろう、ではいけません。今日から悔い改めたものにのみ、天国への扉は開かれているのですからね?」

「…………………………」

 

が、始まってみて分かったけれども四季様のお説教は長い、とにかくくどくて長くそして退屈だった。

こんなにもお説教が長いのは『勉強が勉強して勉強になって勉強する事が 勉強の勉強だから勉強なのよ! わかった!?』などと言いながら1時間以上もお説教を続けるのび太のママと、ひたすらに眠くなる授業をする寺子屋の慧音先生くらいのものだとばかり思っていたのに、よりにもよってここにもいたのだった。いや、むしろ外の世界ならママ一人だけなのにここに二人目がいるのだから幻想郷と言うのはのび太にとって、思った以上に恐ろしい場所だったのかもしれない。

そして、その長く長く、おまけに堅苦しい言葉がいつまでも続く四季様のお説教は、のび太にとある状態をもたらした。そう、寺子屋でもあったようにのび太は眠くなってしまったのだ。

もちろんのび太も最初から四季様のお説教に対して居眠りをしようなどと考えていた訳では無い。

しかし、長い、くどい、訳が分からない事をひたすらに繰り返し聞かされると言うのは大変に退屈かつ苦痛なものなのだ。それは先の寺子屋でものび太が居眠りをした事からも伺える。

つまりはどういう事かと言うと……。

 

「…………………………」

おい、霊夢。のび太ってば、また居眠りしそうだぞ

分かってるわよ、でもどうしろって言うのよ? ここで、説教の邪魔したら有罪だのなんだのって、面倒な事になるわよ

私も長い事死神としてやっているけどさ、四季様のお説教を受けている最中に居眠りをするって言う図太い魂は初めて見たよ……

 

のび太はまた、お説教を受けながらこっくりこっくりと舟をこぎだしたのだ。

本当なら霊夢や魔理沙ものび太に寝るなと言いたいところなのだろうけれども、そこは昼寝が何よりも大好きなのび太である。例え霊夢たちが寝るなと言っても、寺子屋での前例もある事だし間違いなく居眠りをしただろう。

一方で四季様も、閻魔としての仕事についてこの方、閻魔の職務として死者に対しての裁判、説教や閻魔としての業務がない、休暇の日に幻想郷のあちこちへと足を運び、目についた人妖に対して善行を積み地獄に落ちる事の無いようにと、これまで自分でも数えきれないほどの回数説教を行って来たと言う自負はあったけれども、こんこんとお説教をしている最中にその相手が目の前で堂々と居眠りを始めると言う体験はさすがに今までにした事がなかった。

少なくとも、職務として死者をも裁く時もそう。幻想郷で人や妖怪に対して説教をする時もそう。人であれ妖怪であれ死者であれ、閻魔の説教を聞く者は皆誰であっても閻魔と言う存在を怖れ敬い、平伏し、あるいは若干恐れを抱きながらも、説教を一言一句聞き漏らさぬようにと、耳を傾けていた。

今回のお説教にしてもそう、きちんと自分の言葉に耳を傾け、大なり小なり行いを改善してくれる……そう思っていたはずがまさかの居眠りである。おまけに口元からはよだれをたらし、鼻からは大きな鼻提灯を出して完全に夢の世界に旅立っている。

この、説教に対して居眠りなどと言うあまりと言えばあんまりな対応をされた事で四季様も最初はそのあまりの神経の図太さにあっけにとられ、そしてすぐに額には青筋が浮かびあがった。

もちろんそれだけで済む訳がなく、説教の最中に居眠りをするなどと言う不届きなのび太めがけて、四季様はいったん説教を中断すると高々と掲げた棒を一息に、そうして思い切り、振り下ろす。

そこには一切の手加減などと言う慈悲の心は、ありはしなかった。

 

「さっさと………………起きなさい!!!

「あいたーっ!!!」

「あいたじゃありません! 閻魔が説教をしている最中に堂々と居眠りをするとはいい度胸をしていますね。そんなに地獄に落とされたいんですか!?」

「ええっ、地獄なんてやだぁ!!!」

「地獄が嫌ならきちんと私の言葉を聞く事です!!! どうやら、貴方にはまだまだお説教をする必要がありそうですね」

「だって……何を言っているのか分かりにくいんですもん……」

 

ぱかん、と景気のいい音と共に頭を叩かれて大きなたんこぶを作ったのび太が痛さのあまり、ジャイアンに怒鳴られたような勢いで1m近くその場で垂直に飛び上がりながら、それまでの夢の世界から一転、現実の世界へと一息に引っ張り起こされてきた。

いや、叩き起こすだけでない。そのまま今すぐにでものび太の魂を掴んで、地獄の底でぐつぐつと煮えたぎる釜の中に放り込みそうな勢いだ。それに合わせてしっかりと『地獄に落とされたいんですか?』と脅す事も忘れない。

もしここでこれ以上の口答えをしようものなら、そのまま閻魔の権力を行使して地獄に叩き落されそうな迫力である。

おまけに、のび太が居眠りした事が気に入らないようで、さらにお説教の時間を引き延ばすとまで宣言してくる始末。もしそうなった時、そのお説教はのび太にとって地獄に落とされなくても、もれなくこの場所がそのまま地獄になるのは間違いない。

なんとしてもそれだけは回避したい……のび太が必死でお説教と言う名の地獄を回避するためにはどうすればいいかを。どんなひみつ道具があればこのピンチを切り抜けられるかを、勉強やテストの時とは比べ物にならない速さで頭を回転させ考えてゆく。

そして、のび太はすぐにこのピンチを切り抜ける事ができるひみつ道具を思いついた。

後はそれを使わせてもらうように早速四季様と交渉するだけだ。

 

「……だったら、僕を先に元に戻してもらえませんか? そうしたらお説教がたったの一言で済む道具を出しますから」

 

こうして、四季様のお説教延長戦と言う名の地獄をなんとしても切り抜けるための、のび太の戦いが始まった。

 




お説教をたったの一言で終わらせる事ができるとのび太が言い放った魔法のようなひみつ道具。
のび太が言うこのひみつ道具とは果たして何なのか!?
そもそも閻魔に対して交渉を試みようだなどと言う恐れ多い事をしてのび太は無事に助かるのか!?



次回、乞うご期待!!!


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