ランスとエールの冒険 +まとめSS (RuiCa)
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トリダシタ村を出発する話
「ふん、シィルの腹の中に子供が出来てしまうとは」
妹か弟ができるのは嬉しいことだ、とエールはランスに言った。
「便利な奴隷がいないと気軽に出かけられん。セックスも出来んしつまらんつまらーん!」
大きな子供のように駄々をこねる父、それを謝る父の奴隷で助手で恋人であるシィル、それを微笑ましく見てる母クルックー。
エールにとってここ最近、慣れ親しんだ光景であった。
エールが長田君と出かけた二回目の大冒険。
その旅の終わり間際、アイスの町にてエールはランスとシィルに再会した。
その時シィルのお腹の中に子供がいると言うことを知り、身の安全を考えて二人を匿うようにトリダシタ村に招待したのだった。
リセット以外の魔王の子がエールの存在を知らなかったように、トリダシタ村ならば安全に暮らせるだろう。
「大体何でこの俺様が碌な女もいないこんな田舎のちんけな村にいなければならんのだ」
「魔王であったランスを恨む人間は大勢いるでしょうから安全のためです」
「すいません。クルックーさん……」
少し大きくなったお腹をさすりながらシィルが謝る。
「お前が子供なんぞ作るからこういうことになるのだ!」
シィルさんを妊娠させたのは父だから父のせい、とエールが言うとその頭がぽかっと叩かれる。
「まぁまぁ、アニキも娘さんとゆっくりすればいいじゃないか」
そう言ったのは父曰くちんけな村にそぐわぬ長身美女でモデルでもあるアルカネーゼである。
エールは知らなかったのだが、父の女の一人であったらしい。行きつけのパン屋でありこれまたエールの剣やガードの師匠でもあったサチコさんも父の女だったらしいが、こっちはお互い覚えてなかった。
サチコはエールの父親を知らなかったようでとても驚いていたが、アルカネーゼは知っていたらしくむしろ長年サチコが知らなかったことに呆れ……とても驚いたようだ。
エールから事情を聞き、死んでいたと思ってたシィルが生きていたことを知ったさいも驚きはしたものの二人は喜んで一緒に村に歓迎してくれる。
細かいことを詮索したりもせず、自分を可愛がってくれるのもあってエールは二人が大好きだった。
母であるクルックーもきっと同じだろうか、かつては護衛をしていアッという二人とは友人関係に落ち着いている。
「ふん、つまらん。大体娘に優しくしたところでセックスも何もできんのだ。そんな女に優しくしてやる趣味はない」
「リセットにはあんなに良いパパしてたじゃないか……」
エールはその話を詳しく聞きたかったが、いつもの通り面倒くさがって話してくれないだろうしあとでまたシィルに聞こう、と思った。
シィルはエールからランスの冒険話をせがまれてよく話相手をしていた。
「俺様の英雄譚をしっかり話すんだぞ」
ランスは大笑いでそういって、シィルは焦る。
リーザスをヘルマン軍から救ったり、ゼスを魔軍から救ったり、魔人戦争の話まで本当に英雄譚と呼べる話は聞くだけでエールはとてもワクワクした。
聞いていると、たまにアルカネーゼやサチコが何とも苦い顔をしていることがあるのでもしかしたらごまかしたり脚色されていたりするのかもしれない。
それとランス俺様の女という単語について聞こうとするとシィルがまだエールには早い話だとしどろもどろになるのが見ていて楽しい。
エールから見たシィルは父に好きだと言わせただけあって優しく温かく、妊婦さんなのに心配になってしまうぐらいに働き者でもあり、なるほど包容力の高そうな人だ。
たまにシィルが自分のことを助手と話しては、ランスからぽかっと頭を叩かれているのでけっこうお茶目な人なのかもしれないな、とエールは考えている。
ちなみにランスがシィルに告白した話をすると「うがー!」っとなって怒りだして、シィルをぽかぽかと叩き出し 照れてるのか、とエールが聞けば今度はエールのほっぺたをむにーっと伸ばしてくるのでこの話はもう言わないようにしようと決意している。
平和だが冒険のない日々はシィルの話を聞くことに費やされている。
「エール、シィルさんを困らせてはいけませんよ」
母クルックーに窘められても、エールはシィルのことをとても気に入っていた。
ランスの事を話すシィルは楽しそうというのもあって、かなり突っ込んだことまで聞く仲になっていた。
シィルの腹には自分の未来の弟か妹がいるのでそれもまた楽しみの一つだった。
エールが外に出かけた時、なんとなく安産のお守りを買おうとしたことがあるのだが
「俺様の娘なら買い占めぐらいして来んか」
と、ランスに言われて本当に全部買い占めさせられたことがあった。
「ありがとう、エールちゃん。こんなにいっぱい」
大袋に持ち帰って、そのままどさっと渡すと笑顔で受け取ってくれる。
「俺様の娘がわざわざ買ってきてやったんだからな。一つ残らず身に着けとけよ」
「え、えぇ! 100個ぐらいありますけど」
「これからまだまだ増えるからなー」
そんなことを言ってシィルを困らせたりしている父もまた楽しそうである。
ある日、ランスがエールにこんなこと話し出した。
「エール、お前はこれからどんないい女になろうと俺様は抱くことができん。英雄である俺様に抱かれると言うのはこの世界の全ての良い女にとっての目標であり幸福と言ってもいいが、それが俺様の娘として生まれてきたばかりに……本当にかわいそうなやつだ」
大真面目に哀れんだ瞳をエールに向けるランス。
志津香さんたちは抱いているのに?と言うとエールが首を傾げて尋ねると、ランスが不思議な顔をしたのでどうやら子供の魂が入ってることは知らなかったようだ。
事情をエールが話すと驚きはしたたものの
「子供は後から入り込んだだけで、志津香とナギの体はもとから俺様の女。そっちが先だからセーフ。しかしエールも俺様に抱かれたいからと同じことをするんじゃないぞ。お前は娘であるのが先だからな」
そうですか、とあっさり受け流すと今はまだ理解できんかもしれんな―……などと言っている。
父のいる日常は退屈だったトリダシタ村を楽しくそして騒がしくしていた。
………
……
「エールー!」
エールがそんな穏やかでちょっと騒がしい日々を過ごしていたある日、エールの親友兼相棒である長田君が訪ねてきた。
会うのは一月ぶりぐらいだろうか、親子水入らずですごせるようにと一人で冒険に出かけてしまっていたのだ。
相棒との再会に喜び、エールと長田君は手を取り合ってくるくる回る。
「何をしとんじゃ……」
その様子を何となくランスが見ていた。
「あ、こんにちはー……えーっと、ランスさん?」
「お前はこんな気味の悪いハニワと知り合いなのか。趣味が悪いな」
「ひどくね!?」
魔王退治でも冒険でも一緒にいたのにランスは長田君のことを覚えてはいなかったし覚える気もないようだった。
大事な相棒に酷いこと言わないで欲しい、とエールが口を尖らせると
「お前ハニワが好きなのか。はにわ教には入るんじゃないぞ」
ハニーではなく、長田君が好きなんだと言うと長田君が照れる。
それをランスは面白くなさそうな目で見つめていた。
「なんつーか、エールも家族水入らずでと思ったけど、なんかあんまりいい父ちゃんじゃなさそうだなぁ」
「ハニワにお義父さんと呼ばれる筋合いはないわ!」
「えぇ!?」
そんな不毛な会話を繰り広げて、エールはニコニコと笑顔を浮かべていた。
「ま、まぁ、いいや。エールももう十分家族と仲良くしただろうし、そろそろまた冒険に行かね? 桃源郷探しだけどJAPANのはハズレだったしさー」
「冒険? エールが、この陶器と?」
相棒で親友だからね、とエールが言うとさっとレディチャレンジャーを着込んで荷物を持ってきた。
冒険に必要な荷物はもうまとめてあったのだ。
「うーむ、冒険、冒険か……」
「よし、俺様もついて行ってやる」
悩んだように見えたランスがそう言った。
「え、いや、いいです」
速攻で断った長田君の声は聞こえないようだ。
「ちんけな村で退屈してたところだ。俺様の冒険についてこれるとか光栄に思えよ」
がははー!といって豪快に笑う父ランスの中で、すでに冒険の主導権が握られている。エールと長田君を目を合わせるが、もはや断れないことをお互い悟っているようにため息をついた。
「ランス様……」
「ふん、お前はせいぜいこのちんけな村で退屈な日々を送っていろ。クルックー、あとは任せた」
「分かりました。シィルさんはしっかり保護しておきますね」
「そういうことを言ったんじゃない」
素直に行ってきますもいえないようだった。
「行ってらっしゃい、ランス様。エールちゃん、ランス様をお願いしますね」
そう言ってランスが好きな食べ物やその作り方、嫌いな食べ物なんかが書かれたメモを渡される。
嫌いな食べ物とか出すとさぞ怒るのだろう、エールはシィルに礼を言った。
「気を付けるのですよ、エール。お土産は珍しい貝が良いです」
「珍しい貝は全部俺様のものだぞ」
エールは珍しい貝を見つけたら、隠して持って帰ろうと思った。
こうして、三人の冒険が今スタートするのだった。
「儂もいますよー」
「私もエールさんについていきます」
二人仲良く(?)掃除用具入れに放り込まれていた魔剣と聖刀が主張し始める。
改めて三人と二振りの剣の冒険がこうしてスタートしたのであった。
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冒険の相談をする話
トリダシタ村を出発した一行。
まずは前の冒険の時のように近場のリーザスで物品の補充をしようか、自由都市にも大きな町が、などとエールと長田君が相談していると
「何を言う、まずはカスタムだ。シィルがいないのだから旅の途中で抱ける女がいない、俺様の女を補充しなければな」
「この人、娘さんの前でいきなりなんてこと言うの!?」
長田君の驚きにすぐに慣れるよ、とエールは返した。
村にいたときは夜シィル、クルックー、アルカネーゼにサチコと誰かしらと一緒に姿が見えなくなっていたのをエールは知っていた。
たまに夜にランスがエールの家に尋ねてくることもある。
「ガキはさっさと寝ろ」
そう言って冷たいが、クルックーが笑顔で手を振るのでエールは親指を立てて返す。
弟か妹ができるかも、といううっすら期待をしているのもあって、そのあたり詮索しないのが親孝行だとエールは思っていた。
ちなみに最近はシィルの体調を非常に気遣ってるようだったが、それをエールがランスに何となく言ったらポカンと叩かれる。
一応、父にもいいところがあるよ、とエールはフォローは入れた。
「一応とはなんだ。俺様は世界最高の男だぞ。そうそう、お前たちと別れた後も破壊神バスワルドだかパスワルドだかとそんなのと戦って世界を救っているしな」
何言ってんだこの人、みたいな顔して長田君がランスを見ている。
「俺様のおかげで被害はアムちゃんが作った汚染人間だけ、俺様の女も無事救出。シィルに聞かなかったのか?」
帰ったらお仕置きだな、とランスがぼやく。
アム…?エールはその名前を聞いて心底嫌そうな顔を浮かべた。
「うおっ……なんだその顔、エールはアムちゃんのこと知ってるのか?」
見たことない顔を浮かべるエールにランスが驚いた。
汚染人間にして過去の法王アム・イスエル。
エールが小さい頃の話である。入ってはいけませんと言われた倉庫にこっそり入ったところ母であるクルックーに封印されているというアムと出会って話をしたことがあった。
話の内容は小さい頃なのでよく覚えていないのだが、足元がふわふわとしてずっと頷き続けてしまったのをうっすらと覚えている。
クルックーがすぐに気が付き、アムをメイスで死ぬんじゃないかと言うほど殴り飛ばして事なきをえたのだが、あの時いつもにこやかで優しい母が見せた怖さはエールの子供心に若干のトラウマを残し、アムという人物はとにかく危険の親玉であるということを否が応にも理解した。
絶対に関わってはいけない、話してはいけない、近付いてはいけないと完全汚染人間の危険性を教えられついでに入っちゃいけない倉庫に入ったことを凄い怒られてしまったのもあってアムに恨みを抱いていた。
「それ怒られたのはエールのせいだろう……」
ちなみにその後、アムはいつの間にやら倉庫からいなくなってしまっていた。
クルックーはそもそもアムをここに持ってきた覚えすらなかったが、いつの間にかいたらしい。
ちょっとしたホラー話である。
「しかし、あの法王クルックーさんにも嫌いな人っているんだな。怖い人みたいだけどどんな人なんすか?」
「可愛いぞ、見た目は。俺様はともかく他の奴だと確かにちょっと危ない……エールなんか特にぼーっとしてるからあっという間にひっかかりそうだ。クルックーの言う通り話さん方がいいだろうな」
ランスはエールを見ながらそう言った。
「そうだそうだ、昔ダークランスがアムちゃんにだな……ぷぷっ……いや、あいつに今度話を聞いて見るといいぞ、詳しくな」
含み笑いをする父は気になるが、エールは今度兄に話を聞いてみようと思った。
話は戻って目的地はカスタムである。
「カスタムってーと、志津香さんにナギさんだよな? 冒険のパーティにはやっぱ美女の潤い! ナギさんおっぱいでかいし志津香さんも色気あるし超楽しみだわ」
「俺様はカスタムを救った英雄だからな。カスタムにいる俺様の女はその二人だけじゃないぞ。都市長のランちゃんやマリア、他にもマリアの助手も全員……あげるとキリがない」
長田君を叩き割りながらそう自慢する父にマリアさんは兄であるダークランスの恋人だ、とエールは言った。
「前に行った時もそんなことを言ってたがあいつは天使と二股かけてるだろう。そのうち振られるに決まってるわ」
ヌークは妹みたいなものだとちゃんと言っていたはず。
昔は色々グレていた時期もあったそうだがエールにとってはダークランスはとても世話になった良い兄である。そんなことはない、と口を尖らせ言い返した。
「ランスさんは二股どころじゃないじゃないっすか」
「俺様はいいのだ。むしろ一人に縛られなんぞしたら世界中の女共が悲しむだろうが」
こんなことを大真面目に言っているのもいつものことだった。
ランスは歩幅のせいなのか歩くのが早く、エールと長田君がこれについていくのは大変だった。
襲ってくる魔物などはあっさりと退治はするものの、当然キャンプの準備を手伝ったりするはずもなく、テントが狭いとか食事が粗末だとか、夜には女がいないとか文句を言いはじめ、しまいには
「エールはちょっとビスケッタさんを見習え」
と、言い出しエールははやくもシィルの苦労がしのばれた。
ランス城で主の帰りを待つと言っていたビスケッタは魔王城でも世話になった本職のメイド、魔王に人間のまま仕えたすごい人である。
今はランス城を保全して、おそらくはランスのやった後始末も色々としているはずだ。
エールからすればそんな存在と比較されてもどうしようもなかった。
長田君も文句をつけたりしたが、もちろん割られるだけである。
エールはランスに晩御飯のスープをランスに差し出しながらじーっと見つめた。
「うーん、お前は顔はともかく、もうちょっと可愛げがあれば……いや、どっちにしろ俺様が抱けないからこのままでもいいか。あんまり成長するんじゃないぞ」
スープは薄いとか具が少ないとか言われた。
冒険をしていくうちにこの父・ランスの良さが分かるだろうか。
もし分からなかったらどっかに置いて行こう、とエールは一人うんうんと頷いた。
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カスタムで魔想姉妹やマリアと会う話
目的地であるカスタムに到着。
ランス達はさっそく志津香達のいる家に向かった。
もしかしたら冒険に出ているかもしれないが、志津香達が暮らす家からはちゃんと人の気配がする。
ランスはノックもせずにいきなり家の扉を開けた
「久しぶりだな、志津香!」
「……っ!なんであんたがここに」
本当に突然の訪問に驚き、一瞬魔法を構えて明らかに嫌そうな顔を浮かべる志津香。
「え、ええええ? ラ、ランスー!? ランスじゃーん!!」
それとは対照的にナギは驚きながらも嬉しそうに叫びながら思いっきりランスに抱きついた。
エールはがランスに押し付けられ形が変わるナギの大きな胸を見て実に柔らかそうだと思い、長田君も羨ましそうな視線を向けている。
エールはなんとなく自分の胸のあたりをさすってみるが、悲しい気持ちになるのであまり考えないでおくことにした。
「ぐふふ、ナギは相変わらずエロい体をしてるな」
「ランスのためにばいんばいんのむちむちになったんだもん。昔約束した通りでしょ? 昔はリセットと同じぐらいだったのにねえ」
そこのところを詳しく、とエールが身を乗り出そうとした矢先に志津香が話に割って入ってきた。
「何しに来たのよ」
一見不機嫌そうに見えるが、どこか恥ずかしそうな気配をエールは感じた。
「そういえばお前らが俺の子みたいなもんって話は本当か?」
「え、そ、それは……!」
その言葉を聞いたナギは急に慌てだした。ついでに事情を知らなかった長田君も驚いている。
「で、でも子供って言っても私もお姉様も昔からランスのこと知ってて、記憶だってあって、体も分け合ったはずだし」
「ええ、そうよ。私のお腹にいた子供と私とナギであの時に魂を分け合ったの。知られるのは面倒だし、あんたの魔王化を抑えるのに色々する必要だっていうから黙ってたけどね」
慌てふためくナギとは反対に、冷静に志津香が事情を説明する。
「別に今更どうも思わん。俺様が俺様の女だと言ったら俺様の女だ。ナギなんかは元から俺の娘みたいなところがあったから大して変わらんしな」
そうランスが答えるとナギはギザギザの歯を見せて笑った。
「……うん!へへー、お父さんって呼んでた時期もあったもんね」
「待てよ、子供のころから育て俺様好みの女にした、これはリセットで出来なかったいわゆる光源氏計画! 大成功だな!」
「あんたがいつナギを育てたってのよ」
がははと笑うランスを志津香が睨みつける。
エールと長田君は後ろで感動の再会らしきものを見つめていた。
「エールも久しぶりね。なんでこいつと一緒なのか分からないけど」
「長田君も一緒か。ふふふ、ランスの前だから今日は乗せて割ってあげないよ、ごめんねー!」
長田君は本当に残念そうに悲しそうにしたのでエールが代わりとばかりに長田君を叩き割った。
「エール、さっきの件はあなたが話したの?」
子供は抱けないって言ったのがおかしいなと思ったので、とエールは素直に頷いた。
「はぁ……エールってそういうとこあるわよね」
エールが深く考えず、悪意もなく話したというのを志津香にははっきりと分かる。
迷惑をかけたやろうとか、困らせようとか、そんな考えが出来るような子ではない。
志津香は呆れるようなしぐさをした後、
「ランス、言っておくけどエールに手は出しちゃだめよ。その子は本当にあんたの子供なんだから」
「知っとるわ。だからお前ら二人俺様と一緒に来い。冒険中すぐ抱ける女がいなくては不便だからな。世話なんかはエールにやらせればいいが、そっちはどうもできん」
「シィルちゃんはどうしたのよ」
「……あいつは留守番だ、留守番」
シィルさんはお腹に子供がいるのでうちの村で療養中です、というとランスはエールをぽかっと叩いた。
それを聞いて姉妹は驚いた表情をランスに向けた。
「へー、おめでとう! えへへ、また妹か弟が増えるんだね」
ナギは驚いたがすぐに満面の笑みを浮かべて祝福の言葉を述べた。
「そう……良かったわね、ランス。やっとシィルちゃんとの約束果たせるんじゃない」
魔王討伐の冒険でランスのことを好きだったと言っていた志津香も優しくそう言った。その笑顔は温かく綺麗なものである。
「ふん。奴隷のことなんぞどうでもいい。腹にガキがいる間は使い辛くて不便と言うぐらいだ」
「へへ、これは照れてるんすよー。なんやかんやで奥さんの事すげー心配しててさ。エールに安産のお守り買い占めさせたって聞いて」
ランスが長田君を叩き割った。
「なるほどねー、しばらく冒険に連れ出せないからその代わりをエールがやってるのか。うんうん、偉い偉い」
ナギはエールの頭を撫でた。
「エールも肝心のセックスはできんから役に立たんし代わりにもならんぞ。そこでお前らの出番と言うわけだ」
ランスが来るのは当然とばかりに話をしはじめた。
「いやよ」
志津香がはっきりと言った。
「なんだとー!」
「前にも話したけど、私はあんたの魔王化を止めるために抱かれていただけ。それがすんだのならもう抱かれる必要はないもの。こっちは魔王の情婦とか愛人とか散々言われて迷惑していたのよ?」
そういえば前の冒険にカスタムに来た時、ランスが既にカスタムの町を訪ねていたと言う話をエールは聞いていた。
「あんた、ついこの間マリアの工房で暴れてランにカスタム叩きだされたでしょう。それでよくまた来る気になれたわね」
「ランもマリアも俺様の女だぞ」
「マリアはダークランスの恋人だからもう手を出すのはやめなさい。あんたに酷いこと言われたマリアがあの時本当にどれだけ落ち込んでたか……」
おそらく前に来た時も言いあったであろうことを志津香は話し始める。
「そういえばミルがいないな。あれからずいぶん時間が経ったんだ、初めて会った時ぐらいムチムチに」
「そうやって話を反らそうとしても無駄よ」
「ぐぬぬ……ならナギはどうだ!」
「お姉様が行かないなら私も行かない。ここで生活するためにラン……都市長からもらってる仕事もあるから離れられないしね」
少し残念そうだが、ナギも同じように断った。
「もう抱いてやらんぞー!」
「バカ言ってないで、とにかくダークランスと鉢合わせる前に、ランがあんたを見つける来る前にカスタムから出ていきなさい。一緒にいるエールにはちょっと悪いけどね」
「ダークランスはエールがランスと一緒に旅なんてめちゃくちゃ心配するだろうね。ふっふー、ちょっと会わせてみたいかも」
「えー! 二人とも来ないんすかー!? せっかくの旅の潤いがー! あれ、もしかしてランスさんって意外とモテないんじゃ」
長田君はまた割られている。
「そうだ、お前たちが来ないならエールに手を出してしまうかもしれんぞ!」
そのランスの言葉にちょっとその場の空気の温度が下がった。
「さすがにそれは儂でも引くわー」
「本当に最低ですね」
「それは冗談でもきついっす……」
本気ではないのだろうが、カオス・日光・長田君も思わず引くような一言である。
「……あんた、言っていいことと悪いことの区別もつかないの?」
志津香の切れ長の目がランスを鋭く睨みつけた。
「ランスはエールの教育に悪そうだねぇ」
それが冗談だとわかっているナギは余裕の表情である。
だしにされたエールはというと、おもむろにランスの手を取って
ふにゅん…
自分の胸に手を当てさせた。
その行動に周りがさらに凍り付いたのだが、
「ぎゃー!」
大声で叫んだのは他でもないランスだった。
「お前! エール! 俺様の娘が、女の子が! はしたない真似するんじゃない!」
ボカン!とエールの頭が叩かれる。
おそらく過去一番強い叩き方でエールは頭を抱えてうずくまり、そっとヒーリングをかけた。
「エール! あんた、またそんな変なことしない! 本当に襲われたらどうするのよ!」
「誰がするか―ーーー!」
「あはは、エールはランスといても変わんないかー!」
二人がギャーギャー騒ぎ、その様子を見てナギは笑っていた。
エールは頭をさすりながら志津香に近づいて、父が来て嬉しくなかった?と小首を傾げながらそっと聞いてみた。
「……嬉しいわけないでしょ」
言葉とは違い志津香が少し照れているように見え、エールはそのままじっと見つめる。
「何よ?」
志津香さんが相手しないと父が暴れてとても困る、とエールはわがままを言う様に口を尖らせる。
「もしかして、エールに当たられたら私のせいになるって言いたいの?」
エールはうんうんと頷いた。
「ああ、お姉様ってばエールにこんなに気を使わせちゃってー」
そんなことを話すナギを志津香はぺしっと指で叩いた。
「はぁ……全くしょうがない、今日だけあんたの相手してあげるわ。明日には出ていきなさいよ」
「わーい、ランスとお姉様と一緒だー!えへへ、久しぶりだ!」
ごゆっくりどうぞ、とエールは長田君の手を引いてその場を離れる。
「エールもちょっと合わないうちに少し大人になったね。最初に会った時は本当にあぶなっかしい感じでさ」
「変なことするのは相変わらずだけどね」
「ランスはその頃のことあんまり知らないんじゃない? あとで話してあげる」
二人は"姉"として少し成長した"妹"を見て嬉しそうに話した。
「ふん、どうでもいいわ。生意気だし、色気も胸もないし、変なことはするしぜーんぜんガキではないか。俺様の娘なら……俺様に似ればもっとこう女らしくて可愛くなるはずだ。変な所がクルックーに似たな」
エールは素早く戻ってきてランスのすねに一発蹴りを入れ、走って逃げて行った。
「貴様、何をするかー!」
「追いかけるなら私は戻るわよ……似てないと思ってたけどあんたたちそっくりね」
憤慨している父であり恋人でもあるランス、呆れている大好きな姉の志津香、走っていく妹のような存在であるエール。
ナギはその光景に家族の幸せを感じながら、ランスの手を強く引っ張って家の中へと招くのだった。
………
「さて、俺らはどーするよ? 町ブラブラする? それともマリアさんとこ行く?」
エールは当然のようにマリアの工房へ向かっていた。
マリアの工房は現在、世界各地からの注文が入るようになり大きな会社のようになっている。
ダークランスはマリアがいるカスタムを実質拠点にお供に天使のヌークを連れて各地に出かけているとエールは聞いていた。
「まぁ、そうだよな。ダークランスさんと会わせるとまずいってのは俺にも分かるわー、マリアさんの工房で喧嘩になって色々吹っ飛ばしたんだっけ?」
それは以前マリアに挨拶に来た時に聞いたことだった。
もし来ていたら面倒だからダークランスと会わせないようにしたい、あと前回もお世話になったよしみで宿代を浮くかもしれない、とエールは言った。
「お前、まさかそっちが目的じゃないだろうな?」
「そっか。シィルちゃんに子供が出来たんだ。出産祝い考えておかなきゃね」
エールはマリアに会い、ランスとカスタムに来ていることを告げた。
シィルがいないということを疑問に思われたので事情を素直に答えるとマリアは優しく笑った。
「ダークランスも妹か弟が増えて喜びそう。ランスと会わせると喧嘩になりそうだから私から伝えておくね」
「この大人の雰囲気、巨乳、眼鏡!やっぱマリアさんはいいなー」
エールは長田君を蹴り飛ばした。
マリアは忙しい中、応接室にエールたちを通し、お茶とお菓子を振舞ってくれた。
その机の上には新型チューリップの模型がデデンと置かれているのが気になったが、マリアにとってはオブジェのようなものなのだろう。
「あっ、それ気になる?ちょっと小さいでしょ?これはね、威力は低いんだけど量産型でヒララ鉱石を従来の70%程度で作れてコスト面が優秀なの。
他にもポピンズのからくりを参考にした駆動とヘルマンで見つけた新種のヒララ鉱石で新しい機構を開発中で――」
マリアは目を輝かせながらチューリップ談議をはじめた。こうなってしまうととにかく長いのがマリアである。
エールはやや頭に入ってこない解説を聞きながら長田君に使ってみたら?と提案する。
「いや、俺、手届かないし……」
旅の途中でヒララ鉱石を見つけたら持ってきてね、とマリアが言った。
過去、いくつかの冒険でランスがどこかしらから拾ってきてくれたことがあるらしい。
ちなみにダークランスも積極的に拾ってきてくれているとのこと。たぶんランスに負けたくないからだろう。
「そうそう、ランスはシィルちゃん以外を冒険に連れて歩くってほとんどないんだよ。シィルちゃんの代わりって言ったら失礼だけど、エールちゃん、気に入られているのね」
シィルさんはポカポカと叩かれているし、ボクもことあるごとに叩かれてる、とエールは言った。
「エールが叩かれるのはけっこーお前自身にも問題があると思うぞー、すっげー今更だけど」
あとセックスできないからシィルさんの代わりにはならない、と言われたことも話す。
「もー、ランスは娘さんになんてこと言うかな! そういうとこ本当に変わってないんだから。ダークランスに言ったらエールちゃんのこと本当に心配しそうね」
マリアは呆れつつも、なんだか楽しそうな様子だった。
エールはマリアをじっと見つめ、そのままなんとなく抱きついてみる。
「あ、お前!どさくさにまぎれてうらやましいことを」
「妹か弟が生まれたらエールちゃんは嬉しい? エールちゃんはお兄ちゃんお姉ちゃんいっぱいだけど下の子はあんまりいないもんね。誰かさんみたいに姉バカになっちゃったりして」
エールにとってマリアも姉のようなもの、優しく頭を撫でてくれる手は優しくとても気持ちが良かった。
そのまま、何となくお腹を触ってみた。
「きゃっ、もしかして太った?えっと、年取ると体重が落ちにくくて……」
妹や弟も嬉しいが甥っ子か姪っ子もいれば楽しそう、とエールは伝えた。
「え!?えええ!?」
「お前、いきなりなんてこと言うんだー!」
ぺしぺしぺしと長田君がエールの足を叩いた。
マリアは驚いてエールを引き離すと、すぐに大人の落ち着きを取り戻した。
「もう、エールちゃんは変なこと言うんだから」
「お前、ちょっと常識っつーか、デリカシーってか! そういうの考えろよな!」
エールにとっては本当に今更な助言である。
「ふふ、今日はうちに泊まっていって大丈夫よ。お客様用の部屋用意するからね」
ありがとうございます、といって一泊させてもらうことにした。
次の日、エールたちがマリアに礼を言って志津香たちのところに向かうとちょうど家から出てくるところだった。
ランスがガーガー騒いで志津香にあしらわれているのが見える。おそらく一緒に来い、断るといったやり取りだろう。
太陽はすでに登りきっており、時間は既にお昼を回っていた。
「シィルちゃんが子供産むんならこっちから訪ねることはあるかもしれないわ。エールの住んでた村なら行ったことあるし」
「ふっふっふ。ランスって出産に立ち会ったことないんだよね。どんな顔するか今から楽しみにしておくよ」
「来るな!」
二人はエールに向きなおる。
「それじゃあ、エール、ランスのことよろしくね」
「暴走しすぎないように縄付けておいてってことよ。こいつの世話も大変でしょうけどまあ、エールならなんとかなるでしょ」
「志津香さんって結構適当っすよねー」
長田君を睨む志津香を後目に、エールは大きく頷いた。
「ふん、エールがどうしてもというから俺様の冒険に連れてってやってるんだぞ。身の回りの世話ぐらいはやって当たり前だ」
「いや、ランスさんが付いてくるって言ったんすよ!?」
別れ際、ナギと志津香が見送ってくれるがそれもまた騒がしい。
エールと長田君は手を振ろうとしたが、ランスがさっさと出て行ってしまったのを見て急いで追いかけて行った。
三人の姿が見えなくなると、志津香は体を大きく伸ばし、表情を緩め優しい笑みを口元に浮かべた。
それは無意識的なものだったのか、そんな姉の表情を見てナギも微笑むのだった。
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日光とカオスとレベル神の話
カスタムを出発した一行。
ランスはカスタムで一夜をすごしその日は満足したようだったがそれから数日たってとある夜のキャンプの事。
「全くあいつは素直じゃない……」
ランスは毎日のようにぶつくさと愚痴を言うようになっていた。
志津香さん達来れなくて残念だったね、とエールが声をかける。
「ふん、別に俺様の女はあいつらだけじゃないわ」
そう言ってランスは不機嫌そうに夕食にかじりついている。
「しかしハーレムに入れる女探しの旅だと言うのに俺様の冒険史上、過去最低に色気のないパーティだ。これはいかんぞ」
「え、この旅の目的ってそんなんだったん?」
長田君が驚いている。
エールも初耳であったがそういえば最初に会った時にもハーレムを作るとか言ってたな、と思い出していた。
色気が欲しいならボクが脱ごうか、とエールが言った。
「何言い出すんだ。そもそもお前が脱いだところで何の足しにもならん」
「そーそー、脱げばいいっていう発想がそもそもお子様っつーか?」
エールはおもむろに服を脱ごうとしたが
「エールさん、はしたない真似してはいけません」
日光がエールを窘めると、エールは素直に服を着なおした。
思いつきやその場のノリと勢いで突飛な行動をとるエールだが、日光は厳しい母親のような存在であり、何より冒険中世話になっている大事な愛刀ということもあり怒らせたくはなかった。
「……こいつのこういうところ、最初に会ったころのクルックーに似てるな」
エールは詳しく聞きたいと思ったのだが、ランスははっと気が付いたような顔をした。
「そーだそーだ、日光さんがいるじゃないか!」
「お断りします」
エールが返答する前に何を言われるのか察知した日光がぴしゃっと言った。
「日光さんはすごい美女だからな。久しぶりにあの体で」
「やめて下さい」
「あの時は相性抜群であへあへのとろとろだったではないか」
「エールさんの前でその話をするなら本気で怒りますよ」
エールは父とも契約の儀式をしたのか、と聞いた。
「……やむを得ない事情があって断れなかったもので」
「あー、そういえばお前も日光さんと持ってるってことはやったってことか。アームズも持っていたが、日光さんはレズだったのか?」
同性愛はいかんぞ……、とつぶやく。
日光はそれに何も答えなかったが、おそらくランスを睨みつけているだろう。その様子にエールは日光をぎゅっと抱きしめる。
「日光を怒らせん方がいいぞ。堅物日光がこんな子供に手を出すはずないじゃろ。この嬢ちゃん、何でか儂も使えるしなー」
「なんだと?」
「よっぽど波長があっとったのか、まさか日光と儂の正式オーナーが出る日が来るとはのー……そーいや、無理矢理だったが心の友もか。その娘ならさもありなーん」
「そうか、お前もカオスが使えるなら交換ができるな。エール、カオスと日光さんを交換」
そんな下品な剣いらない、とランスの言葉は遮られた。
そもそも魔人退治ならともかく普通の冒険になぜそんなセクハラ魔剣を大事に使っているのか、とエールはランスに聞いてみる。
「ひっど!」
「そういえばそうだな。こんな汚い声の下ネタ駄剣持ち歩いていた俺様まで同じと思われるではないか。どっかで捨てるか」
「言いたい放題! ちょっとー儂、魔人いっぱい殺してるすごい剣ですよ?」
「殺ったのは英雄である俺様だろうが」
そう言いあっているランスとカオスをエールは何か言いたげに交互に見つめた。
「魔剣カオスはランスさんにお似合いっすよー、てかそっくりっす」
割られる長田君を見てエールは口に出さなくて良かった、と思った。
「そういえばカオス、お前エールに何かしとらんだろうな?」
カオスはエールをちらっと見て、はぁーっと長いため息をついた。
「ぜーんぜん! そんな色気のない貧相ボディじゃ儂の心のちんちんは元気にならんよ。小さいし、胸もないし、せめてあと五年? そこでぼいんぼいんになってやっと食指が動くかどうかじゃな。あの可愛かったカーマちゃんの次がこーんなのなんて儂、超がっかりよー」
「カーマって前のカオスオーナーっすよね? 有名だから名前は知ってるけど、どんな人だったんすか?」
長田君が興味津々にカオスに尋ねる。
「素直で性格も流されやすいというか人を疑わないと言うか。適当な事言って人類の為と言えばなーんでもさせてくれてな、オーナーだったときはそりゃもう毎晩色々と……何よりむちむちのプリンプリン!」
「カオスさんもやっぱ女はおっぱい派すか? やっぱ女は乳っすよね!」
「中々、話の分かるハニーじゃないか。だがおっぱいが大きいだけじゃいかんのだ、触ったら恥ずかしがるような初心さも欲しいとこじゃな。儂、淫乱は好みじゃないの。あときつい感じがない愛嬌ある若いねーちゃんだとなお良し。カーマちゃんは良かったぞーむほほ……」
「うおー、会ってみてー! 俺はそこに眼鏡があれば完璧っすねー!」
露骨にいやらしい顔になってるカオスと楽しそうに話す長田君。
エールもカーマに会ってみたいと思ったが、とりあえず長田君を叩き割ると母から受け取っていたやすりを構えた。
片刃になったら日光さんみたいにまともになるかもしれない、と言いながらカオスをガリガリと削りはじめる。
「忘れてたー!この子、あの法王の子ー!助けて、心の友ー! 削れちゃう、刀になっちゃうー!」
「がはは、ちょっと削れておくといいわ。……そういえばカオスはカーマちゃんと一緒に俺様に会いに来たんだったな。あんま覚えていないが、確かにすごいエロい身体を……あの時まで処女だったんだから俺様に気が合ったのは確実! カーマちゃんも探し出してハーレムに入れてやろう」
カオスをやすりで削り続けているエールを見ながらランスは何かを思いついたように言った。
「……そうだ!俺様は美樹ちゃん達を元に戻してやった。日光さんはその礼を俺様にすべきじゃないのか!?」
ランスはまだ日光を抱くのをあきらめていないようだった。
「ランスさんがお二人を救ってくれたこと、それは本当に感謝しています」
日光が黒髪で大人の和服美女の姿になって、恭しくランスに頭を下げる。
「相変わらず美人だ。その姿になったということはつまりやらせてくれると」
抱き寄せようとしたランスの手を日光が払いのける。
「しかしランスさんは美樹ちゃんに、健太郎君に、本当に酷いことをしました」
美樹ちゃんに健太郎君と言うのは日光の過去の使い手で特別に思い出深い人達だというのはエールも聞いていた。
「魔王継承の時に記憶が元に戻ったようで、お二人は気にしてませんでしたが、私は……」
静かだが大きな怒りを感じさせる声色。
日光がランスを冷たく睨みつけ、その気配に周りの温度が下がったような気がして、なぜか長田君が怯えている。
「うぐ……」
その迫力にランスも思わず言葉に詰まっている。
「私がランスさんに抱かれることはもうありませんよ」
大方、その美樹ちゃんとやらにいつもの通りエロい事でもしたのだろうと思ったのだが、どうやらそれだけではなさそうな雰囲気。
日光の話し辛そうな様子もあってこれは深く聞いてはいけないこと、エールは理解した。
「そうだ、エール。お前がオーナーなら日光さんが俺様に抱かれるように命令しろ」
エールはカオスをやすりで削る手を止め、首を横に振った。
「お父様の命令が聞けないのか!」
ランスはちょっとすごんでみるがエールは首をさらに激しく横に振った。
そしておもむろにカオスを振り回して床にたたきつけた。
「いたっ! やめてっ! なんで儂に当たるの!?」
日光さんは物じゃない、と言ってポイっとカオスをランスの足元に投げつけ軽蔑するような瞳を向ける。
その瞳になんとなくランスは目を逸らすしかなかった。
「エールさん、ありがとうございます」
その様子を見て日光はエールに優しく微笑み、いつもの刀の姿へと戻った。
エールは日光さんとさらに仲良くなれた気がした。……………
ランスはさらに考え始める。
「うーん、女、女が抱きたい……英雄である俺様が何日も女が抱けんなど」
そして思いついたような顔をした。
「ふふん、そういえばエールにもレベル神がついてるんだったな。どんなのだ? 可愛いか? ちょっと呼び出してみろ」
赤いピエロっぽい服を着た男のレベル神様だよ、とエールが答えた。
「なんだ男か。つまらん、大した奴でもなさそうだな」
男というだけですぐに興味がなくなったようだ。
真面目なレベル神様だと思っているが、エールは自分のレベル神と話をしたこともされたこともない。
「お前のレベル神は無愛想なのか?レ ベル神はレベルが上がると服を脱ぎ……いや、男のストリップとか想像しただけで気分が悪くなった」
ストリップってなんのことだろう、とエールは訝しんだがランスは嫌そうな顔をして話を切った。
「まぁ、男なんぞどうでもいい。お前たちに俺様の新しいレベル神を見せてやろう。カモーン、クエルプラン!」
そうランスが叫ぶと神々しい光をキラキラを放つ薄紅色の髪をした美少女が現れた。
「私は第一級神魂管理、ではなく偉大なるレベル神クエルプラン……ランス、レベルアップですか?」
「がははは!お前らに頼らんでも俺様にはいつでもこーんな可愛い子がついているのだ!」
よっぽど自慢したかったのだろうか、豪快に笑っている。
確かに近くで見ると目もくらむばかりの美少女で、可愛いと言われたのが嬉しいのか少し照れているように見えた。
「クエルプランってあの元大怪獣のお姉さんだっけ?レベル神って、確か元はすっごいえらい神様だってミラクルさんが話してなかった?」
エールはミラクルから聞いた話をほぼ忘れていたが、長田君はよく覚えているようだ。
魔王城で襲われて倒した後、小さくなったこの人を抱えて二人で奥の部屋にしけこんでたな、というのだけはエールも覚えていた。
父のレベル神だとは思っていなかったが。
「ぐふふ、この超可愛いレベル神は俺様にめろめろ!というわけで、クエルプランちゃん今夜俺様の相手をするのだー!」
「こ、困ります。私は今はレベル神であって、そういうことは……」
そういいながら体をもじもじとさせる。
その様子はまんざらでもなさそうだ。
「本当に神様とでも見境なしなんすねー」
「魔王、魔人、カラー、天使、悪魔に魔物に神。心の友はやってない種族の方が珍しいからのー」
「ランスさんはやるとなったら手段も問いませんからね」
そういえばランスは松下姫がポピンズ以外には手を出していると言っていたのを思い出していた。
あとハニーともやった記憶はないらしい、ホルスや妖怪はどうなんだろうか。
エールは今度聞いてみようと思った。
ボクもレベル神呼ぼうか?と何となくエールが言ったが
「男なんぞ呼ばんでいい」
あっさりと却下されてしまった。
ランスに呼び出され、嬉しそうにしていたクエルプランはふとランスの傍らにいたエールと目が合った。
エールはこんばんは、と言って挨拶をし何となく拝む様なポーズをとってみた。長田君もそれに気が付いて同じように手を合わせている。
「ランス、この人間は?」
「こいつは俺様の娘。あとそいつにくっついてる陶器。なんだ知り合いか?」
大怪獣だった時に襲われたことがある、とエールは言った。
「あのでかいのとこの可愛い子は別物。お前も小さいこと気にするんじゃない」
ランスの言う通りエールはもう特に気にしていないのだが、クエルプランはやたら神妙な表情でエールをじっと見つめている。
「前にエールってJAPANでクエルプランさん追い払ったことあったよな。そのこと怒ってんじゃねーの?」
ひそひそと長田君がエールに耳打ちした。
しかしエールとしてはあのままでは死ぬところだったのもあって怒られる筋合いはないと、対抗してクエルプランをじーっと見つめ返してみた。
するとクエルプランはすっと目を逸らし、少し身体を震わせる。
「どうした?」
「体を冷たいものが通り抜けていくような感覚がしました。これは一体……」
「夜だからちょっと肌寒いかもしれんな。今から俺様が暖めてやろう」
少し不安げな様子のクエルプランをランスが抱きしめる。
「気温的な寒さとは違うものだと思います……が、あの、ランス、抱きつかれると、今度は胸の辺りが苦しく」
「その苦しさは俺様への愛情!ぐふふ、既に体が熱くなってきてるみたいだな?」
ついでとばかりに尻やら胸やらに手をまわしてデレデレと鼻の下を伸ばしながらランスがそう言った。
「娘さんの前でも堂々としてるなぁ……」
長田君がどこかうらやましそうにその様子を見つめている。
クエルプランは身体を這いまわるランスの手に大きく意識を取られながらも、再度ちらりとエールに目をやった。
エールはその様子を特に気にせず夕食の片づけをしはじめている。
それを見たクエルプランもすでに意識はランスの方へと向いていた。
夢見ごこちとばかりに瞳を蕩けさせると、ランスにひょいっと持ち上げられる。
「ああ、ランス……」
「がはは、グーッド!」
そう言って二人でさっさとテントの中に入っていってしまった。
全身を撫でまわされても全く抵抗しない神を見て父はモテるんだなあ、と思いながらエールはひらひらと手を振った。
「エールのレベル神もあんな美人だったらよかったのになー」
片づけをしながら長田君がそんなことを話す。
修行でもお世話になったボクのレベル神に失礼なこと言わないで欲しい、エールは長田君の頬をむにーっと引っ張った。
何となくエールもレベル神を呼び出そうとしてみるが今はレベルアップ出来ないせいか呼び出せなかった。
エールは自分のレベル神の名前も知らないし、話をしたこともない。
レベル神と親しくしているランスが、少しうらやましいと思った。
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三人がシャングリラでデート(?)する話
※ 突然のメリモの杖 エールちゃんはシスコン 容姿・茶エールちゃん想定
エール一行は国際共同都市シャングリラまで来ていた。
リセットがランスの姿を見て嬉しそうにするがランスの方はそっけなく、パステルとやろうとして喧嘩しはじめたり。
昔の女に会いに行って無理矢理やろうとして騒ぎを起こしたり。
待ちゆく美女に声をかけては、あわや国際問題になりかけたり。
ともあれそんなシャングリラの日々を過ごしていたある日の話。
エールの元に彼女の大好きな姉であるリセットが会いに来てくれていた。
現在、ここシャングリラでは盛大な国家間交流として盛大な祭りが催されている。
「このお祭りはシャングリラの自慢なの。色んな種族の人たちがみーんな仲良くしてるでしょ?」
リセットが窓から祭りの様子を見下ろしつつ得意気に語った。
長田君がハニー向けのお店まであると喜んでいたし、本当に種族が問わず楽しめるすごい祭りなのだろう。
エールも称賛しつつ、せっかくだからリセットとお祭りに行きたい、と言った。
「ごめんね。私も行きたいけど、顔が知られてるから下手に町に出ちゃうと人だかり出来ちゃってお祭り楽しんでる人たちのお邪魔になっちゃうから。それに何かトラブルもあったとき私が必要になるかもしれないしね。視察って名目ならいいかもしれないけどそれだとお仕事になっちゃうし……」
ただでさえシャングリラで人望と人気のあったリセットは魔王の脅威を取り除いたという偉業も重なりますますファンが増えているようだった。
まさにシャングリラの顔にしてアイドルである。
「エールちゃん達はいっぱい楽しんできてね」
エールにはそう言って笑うリセットが少し寂しそうに見えた。
変装していけばいいのではないか?と提案してみる。
「変装っていってもお姉ちゃん、小さいからすぐにバレちゃうよ……探偵の時もすぐにばれちゃってたみたいだし」
あれはそもそも隠す気があったのだろうか?とエールは首を傾げる。
こんなこともあろうかと。
エールはナギからこっそりと預かっていたとあるアイテムを思い出し、リセットを自分の部屋に引っ張っていった。
「な、なんだか、恥ずかしいね」
リセットはメリモの杖で変身していた。
身長はエールより少し大きくなり、豊満な胸元にくびれた腰でスタイル抜群、カラーの中でも絶世の美女と呼べるリセットの姿にエールは目を丸くし感嘆するばかりだった。
服もちゃんと大人用を用意したのだがそれの露出度が少し高いため、美しさの中にもエロスを感じさせる佇まい。
これが闘神都市でシュリさんに見せた姿だというが、エールは女ながらも思わずその美しさに見とれてしまい、そりゃシュリさんもベタ褒めするわけだと納得してぐっと親指を立てる。
「うぅ、褒めすぎだよー……」
そう言って照れて微笑む姉の美しさは後光がさすレベルで、父のレベル神であるクエルプランや魔人の姫ホーネットをも凌ぐだろうとエールは思った。
これがリセットの未来の姿だと思うと今からでも男が群がってくるのが見えるようで、別な意味で外に出て大丈夫だろうかと心配になってしまう。
父や兄がそのままでいてほしいと願う気持ちがよく分かる。
「ふふふ。せっかくだからエールちゃんも変身してみよっか?」
そう言って、リセットはメリモの杖をエールに渡した。
エールは首を振ったが、リセットは自分だけがこうなるのは不公平だと譲らないため、エールもその杖を使ってみることにした。
「わー、エールちゃんとっても綺麗だよー!」
鏡を見たエールは自分でも驚いた。
顔立ちが母に似た落ち着いた美人になっていて、スタイルもコンプレックスだった貧しい胸も豊かに膨らみ、ブラウスを窮屈そうに押し上げていた。
「服借りてくるからちょっと待っててね」
そのままリセットを待っていると部屋の扉がノックされる。
「おーい、エール。シャングリラの祭りで貝が売って、ってうぉ!?」
部屋に入ってきた長田君がびっくりしている。
「ど、どちら様? あれ、俺部屋間違いました!?」
そう言って部屋を出入りする長田君をエールはじーっと見つめる。
「お、おお、すごい美人さんだけど。お部屋間違えてますよ?」
おずおずと話す長田君にエールは気が付いてもらえないことで少し口をとがらせると、その頭をぺしぺしと叩いてみた。
「なんだよーってん…?あれ、もしかしてエール!?どうしたんだよ、大きくなってるー!」
メリモの杖というもので変身していると言って、エールは全身を見せるようにくるくると回ってみた。
「おーおーーー!すっげーいいけど、その胸とかちょっと盛りすぎじゃね?」
エールは豊満になった胸を長田君の上に乗っけてみる。
「あんっ!」
長田君が粉々になった。
ことあるごとに貧乳だと言ってくる長田君に胸を押し付けて割るのはエールの目標の一つ。杖で叶えたことなのが残念とはいえ、エールとしてはその反応に大満足であった。
「こらこら、エールちゃん。ナギちゃんみたいな事しないの」
リセットが部屋に入ってきていた。
「おおお、こっちもすごい。けど、こっちがエールってことは、もしかしてリセットさん?」
リセットが笑顔でそうだよーと返すと長田君は嬉しそうにはしゃいでいる。
「思い描いたような巨乳スレンダー美人! うわー、リセットさんってこんなすごい美人になるんだなー! いやエールもだけど超ビックリだわー!」
わーわーとはしゃぐ長田君にリセットの中身に見た目が追い付いたらたぶんこんな感じだろう、とエールは言った。
「えへへ、ありがとう。なんか照れるなぁ」
一旦、長田君に外に出て貰ってリセットが持ってきた服に着替える。
露出度は控えめの白いワンピース、おそらくカラーの服だろう。
着替えたエールを長田君が見ると
「おー、すげー! エールじゃないみたいだ。まあ、中身代わってないから実際はアレだけどこのまま黙って大人しくしてたらいいとこのお嬢さんぽくなるんじゃね?」
そんなことを言う長田君に二人でお祭り行ってくる、エールが少し拗ねながら言った。
「えー! 俺はー?」
今日は姉妹仲良く、リセットとデート。ハニ飯でも見つけたらお土産に買ってくるから、と言って長田君は日光さんと一緒に家で留守番して貰うことにした。
「私が行くとバレてしまいそうですしね。ふふ、お二人ともお気をつけて楽しんできてください」
「うー、残念だけど。気を付けて行けよー」
明日一緒に行こうと長田君に言いながら、エールはリセットの手を引っ張っていった。
シャングリラの中央広場。
祭り中ということもあって人の出入りが一段と多く賑やかを通り越して騒がしいほどである。
エールとリセットは手を繋ぎながら仲良く祭りを楽しんでいた。
「なんかいつもより視線が高くて新鮮。エールちゃんの顔が横にあるよー」
リセットはとても嬉しそうだった。
種族や国を問わず行き交う人々はリセットとエールを見て思わず振り返る。
「なんか注目されちゃってるけど、ばれてないよねぇ……」
そう不安がっているが、リセットがすごい美人だから振り返ってるだけだろう、とエールが言うと
「もう、エールちゃんはまたそんなこと言うんだから。本当にエールちゃんが男の子だったらモテモテだったかもねぇ」
いつものように優しく笑う姉は美しかった。
エールとしては自慢の姉の美人ぶりを周りにおすそ分けという優越感と、その姉と手を繋いでいるということが誇らしくとにかく得意げな表情を浮かべていた。
たまに姉に声をかけようとする男を視線で殺せそうなレベルでギロリと睨んで退散させるのも忘れていない。
「あ、見て見て。これJAPANからの輸入品だって。乱義ちゃんたち元気にしてるかな?」
「こっちはゼスの魔法の道具だね。そういえばスシヌちゃん、マジックさんの後を継いで女王様になるお勉強し始めたんだってー」
各地域の特産品などを見ながら兄弟や姉妹のことを思いだしているのが、面倒見の良い姉らしいなとエールは思いながらいつの間にか自分がリセットに手を引っ張られる側になっていた。
その中でもエールがふと足を止めたのはハニーグッズのあるお店。
「エールちゃんは本当にハニーさんが好きだねぇ。あ、好きなのは長田君か」
そういってからかう様に言った姉をエールはぺしぺしと叩く。
「いつものお返しだよー」
エールはリセットとのデートを心行くまで楽しんでいた。
………
ひとしきり祭りを回った後、噴水のある広場のベンチに二人で腰を掛けクレープを食べていた。
「えへへ、楽しいね。こうやって羽を伸ばすのもシャングリラの町を普通に回るのも久しぶりだよ。ありがとう、エールちゃん!」
満足しおうな表情で綺麗に笑うリセットに、エールも満面の笑みを返した。
エールが飲み物を買ってくる、といってリセットのそばから離れると遠巻きに見ていたガラの悪い男が素早く寄ってきてリセットに声をかけた。
「お嬢さん、俺たちとデートしない?」
妙に鼻の下を伸ばした男たち。
その視線は胸元に向いているのが分かり、露骨にいやらしい視線を向けている。
「妹と一緒なので……」
「いやいや、その妹ちゃんも一緒でいいよ?」
リセットは困ったように断るが、男たちは強引にリセットに手を伸ばそうとして…
<ドカッ>
思い切り蹴られて吹き飛んでいった。
「雑魚が俺様が目につけた女に話しかけてんじゃねー!」
男達は突然割り込んできた緑色の男に驚いて殴りかかろうとするが、反対に叩きのめされ情けない声を上げて逃げて行った。
リセットはその光景を目を丸くして見ている。
「がはは、大丈夫か、お嬢さん。危ないところだったなー」
そう言って振りかえった男は、リセットの姿を上から下まで嘗め回す様にじろじろと眺めはじめた。
「うーむ、近くで見ると更に可愛い。顔もだがスタイルも……これは俺様が会ってきた中でもトップクラス。性格も優しそう素直そうで実にグッドだ。しかもこれだけの可愛さでクリスタルが赤い! 100点満点だな」
思ったことをすべて口に出している。
「あはは。助けてくれてありがとう、おと―――」
そう言いかけたリセットの台詞をすべて聞く前に、その男の背中にやたらキレの良い蹴りが突き刺さった。
「何をするかー!」
前のめりに転がった男が剣を構えて立ち上がると、そこには手に二つ飲み物を持ったエールが立っていた。
片方をリセットに渡すと、リセットを守る様に間に立ちふさがる。
「むむむ、こっちも中々可愛いではないか……俺様はナンパしてたわけじゃないぞ。むしろ君の友達が悪い男にナンパされそうになっていたので助けていたのだ」
いつものエールがこんなことをしたらげんこつの一つでも飛んでくるところだが、この姿のせいかその男……二人の父親であるランスはエールの方も嘗め回すように見てニヤニヤ見ているだけだった。
「俺様はランス。英雄ランス様だ。君もカラーなら聞いたことがあるだろう」
どうやら目の前にいる父・ランスは目の前にいるのが娘二人だという事に気が付いていないようだった。
「ありがとうございました、ランス、さん」
リセットが改めてお礼を言い、エールも蹴りを入れたことを謝った。
「俺様は寛大だから許してやろう。ところで君達の名前は?」
気が付いていないのか、エールはちょっと呆れて名前を名乗ろうとしたが。
するとリセットがエールの袖をそっと引っ張って目くばせのウインクをした。エールはその仕草にちょっとドキドキした。
「私の名前はえっとリ、リ、リリーです」
何故か本名を名乗らなかったリセットに合わせエールもルーエです、とものすごく適当な偽名を名乗ってみた。
「リリーちゃんにルーエちゃんか、名前まで可愛いじゃないか。しかし、君達みたいな可愛い子が無防備に歩いていちゃ、ああいういやらしい男たちが鼻の下伸ばして寄ってきて危ないだろう。そこでこの俺様が入れば安心!君達を守ってやるぞー」
その鼻の下を伸ばしているいやらしくて危険な男の代表格が今目の前にいる、とエールは思った。
お姉ちゃん、どうする?とエールが聞いてみる。
「え?」
偽名で呼ぶとリセットと呼んでしまいそうなので、あまり呼ばないお姉ちゃんと呼んでみたのだがリセットは久々のその呼び方が嬉しかったのか、頬を緩ませてエールの頭を撫でた。
エールとしてはお姉ちゃんと呼ぶのはお願い事がある時、甘えたい時、リセットの笑顔が見たい時等の特別でとっておきの呼び方なのであまり使いたくはないのだが。
「えへへー、お姉ちゃんって言われるの嬉しいなぁ」
いつもより視線が高い美しい姉に頭を撫でられてエールも自然と口元が緩む。
「二人は随分仲が良さそうだが……お姉ちゃんだと?」
エールは自分たちのことを気が付かれたかと思ったが…
「むむむ、まさかあれか。女同士で姉妹の絆がプティスール……いやいや、同性愛はいかんぞ。君達みたいな可愛い子が勿体ない」
ランスは見当違いな勘違いをしていただけだった。
「いえ、私達は本当の姉妹で……」
「だがリリーちゃんはカラー、ルーエちゃんは人間だろう?」
父親が一緒、とエールが言うとそれを聞いたランスは憤慨した。
「なにぃ!? カラーと人間両方を嫁にした男がいるのか!?」
「えっと、結婚はしてないかな。父はその、とても自由な人なので」
世界でも類を見ない女好きという言葉を、自由な人とだけで表現するのが無理があるのではないかとエールは思った。
「娘が美人ということは母親もさぞ……ぐぬぬ、全く責任も取れんとは君たちの父親は最悪だな!」
不機嫌そうにいうランスに本当にその通りです、とエールが笑いをこらえながら答える。
「そ、そんなことないよー……お父さんにも良い所いっぱいあるんだから」
肩を震わせているエールになんとかフォローを入れる。
「ぐぬぬ……まあ。俺様以外の男は基本的にそんなクズばかりだ。しかし君たちは幸運だ、俺様が本当に良い男と言うのを教えてやるからこれからデートをしよう! もちろん二人まとめてだぞ」
さっきナンパではないと言ったのも忘れてランスはリセット達を誘った。
その目は誰が見てもどうみてもいやらしいことを考えているのがまるわかりでエールはどうするのかと、リセットの方を改めて見る。
「いいですよ。一緒にお祭り回りましょう。エ…ルーエちゃんもいいよね?」
そう笑って答えたので、エールもそれに合わせて頷いた。
もしかしたらリセットは父親と一緒にお祭りを回ってみたかったのかもしれない。
エールも父ではない姿のランスには少し興味があった。
ランスはまさかここまですんなりとナンパが成功するとは思ってなかったのかかなり驚いた表情をしたが、直後にがはははーと笑って喜んんでいる。
「えー!? 心の友のナンパが成功するとかそんなバカな! お嬢さん達趣味わっるー」
ランスの脇から汚いおっさんみたいな声がした。
「ええい、黙れ。エロ駄剣め。俺様のかっこよさにかかればこれぐらい当然だ!」
「今日だけで三回逃げられてるくせにのー。そうそう儂様、魔剣カオス。超すごい剣だけど知ってる? お嬢さんたちムチムチプリンで良い体しとるのー、二人いるんだからせっかくだから片方でも味見させて……」
「俺様が手を出してないもんに手を出すんじゃない。そうでなくてもこの世の美女はすべて俺様のもの、お前の分などないがな」
ランスはカオスを持ち歩いていたようだ。
エールは何となくカオスを持ち上げて胸にぎゅっと抱きしめてみる。
「おやー、お嬢さんひょっとして儂様好み? うっひょー、良い乳しとるのーう」
エールはカオスと出会った時に後、数年後出直せと言われランスとの冒険中にも貧相な体とか言われていたのを忘れていなかった。
でれでれといやらしい顔になるカオスに、エールは勝ち誇った気分になってから口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「あれ儂の事なんで持ててるのん?」
カオスは疑問に思い、その表情を少し不思議に思ったものの柔らかい感触にごまかされた。
「ルーエちゃん、そんな駄剣ポイしなさい、ポイ」
エールは二人はよく似ている、と言いながらポイはせずランスの脇にちゃんと剣を返した。
カオスもランスも、お互い似ていると言われてちょっと不満げである。
「じゃあ、三人でデートするんだよね?」
その様子を苦笑しながら見ていたリセットが改めてそう言った。
「ああ、欲しいものがあったら何でも言っていいぞ。俺様が買ってやろう」
そういうのにお金使わないでほしい、とエールがつぶやく。
「君は倹約家というやつか。良い子だが、俺様は金持ちだから気にすることはないぞ」
がはは、と笑っているがエールは内心気が気ではない。
そのお金は今後もエールたちが冒険に使う資金であり、真面目に仕事を受けていないのもあってそんなに多くの持ち合わせはないのだ。
お金が無くならないように節約するのはエールと長田君の役目であり、ランスは冒険途中で料理などの材料が減ると容赦なく文句を言ってくる。
「お買い物しなくても、お祭りの催し物とか見て回るだけで楽しいよ。私はシャングリラのお祭りのことはとてもよく知ってるから案内するね」
金銭面での苦労をなんとなくそれを察したのか、上手くフォローする。
エールは心の中で姉に感謝した。
「それじゃ行こう、行こーう」
そう言ってリセットは嬉しそうにランスの右腕に抱きつくと、むにゅりと柔らかい感触がランスの腕に当たる。
「おほー……ん、うん?」
ランスが一瞬喜んだが、すぐに不思議そうな顔をしている。
「どうかしたの?」
「いや、リリーちゃん、実は男なんてことはないよな?」
お姉ちゃんになんてこと言うんだ、とエールが抗議する。
「すごく良い感触なんだか、なんかこう……俺様のハイパー兵器が反応しない?」
続いてエールもランスの左腕に抱きついてみる。
「むむむ。ルーエちゃんにも反応しないだと……」
ランスは美人姉妹に腕を掴まれている。
普段ならこのまま夜にする予定の姉妹丼の妄想にでも浸るところだが、ランス自慢のハイパー兵器が全く反応しない。
「いやいや、さすがにカラーが男であるはずはない。俺様は大人の男だからたまには下半身抜きに口説き落としたいとかたぶんそういうのだ。気にせず行くぞー」
不思議に思ったが、デートしていればそのうち反応するだろう。
むしろ反応しないことで警戒を解かせてから、と考えることにし二人を連れて歩き出した。
ランスは美女二人を両脇に連れてそのまま祭りを歩きまわる。
それに通りすがる人々は度々振り返り、遠巻きからも視線を送られ自然と注目を集めていた。
「ぐふふ、これは気分がいいな。男どもがみーんな羨ましそうな目で見てるわ、さすが俺様!」
ランスは大笑いして上機嫌である。
「あれ、ランスさんだよな……」
「あの二人可哀相、すごい美人なのに一体どんな弱みを握られて……」
それは別に羨望の目というだけではなかった。
しばらく歩いていると、リセットが一つの店を指さした。
「ルーエちゃん、あっちに貝とか売ってるお店があるよー」
「ほほう、ルーエちゃんも貝が好きなのか。いい趣味だな」
エールとランスはその貝を並べている店に足早に寄っていく。
「いらっしゃい」
しかし、エールがその並べられた貝達を見るとその顔はあまり嬉しそうな表情にはならなかった。
「どうしたの?貝好きだよね?」
リセットがどうしたのかとエールの顔をのぞき込むと、エールがその中からそっと赤い丸の入った貝を持ち上げる。
「それは日本貝といってJAPANで発見されたレアものですぜ!」
店番の男が揉み手をしながらそう言った。
エールは眉を寄せてその貝を眺めていると、さっとランスが横からその貝をひったくった。
「これは偽物、普通の貝に赤い丸が書いてあるだけだ。よく見ると他のもしょぼい偽物ばっかりだな」
リセットは驚いたがやっぱり貝の気品が足りないと思った、とエールは納得した。
「な、なにを証拠に?」
「俺様は全部本物を持ってるからな。こんなしょぼい偽物に騙されたりせんわ」
さらりと答えるランスに、エールははじめて父を純粋に憧れの目を向けた。
「え、ええ? 偽物の販売は犯罪ですよ」
リセットがシャングリラの代表の一人として咎めようとしたが
「うるせぇ!」
といっていきなり男が殴り掛かってきた、がそれをランスがざしゅっーと切り裂く。
ギリギリで死んでいなかったらしく、警備兵が呼ばれ、店番の男は偽物販売の罪でしょっぴかれて行った。
「ふん、気分を害した。貝の偽物など冒涜もいいところだ」
リセットは何やらメモを取っている。
おそらくあとで仕事に使うものだろう、こんなところまで真面目である。
そんなことがありながらも三人は祭りを見て回った。
色んな地域の食べ物を食べ比べて、ヘルマンの飯は不味いなと文句をつけてみたり。
ちょっとした路上パフォーマンスを覗いていればランスが足を引っかけて転ばせ大惨事になったり。
射的屋で銃が全く当たらず暴れて警備兵につかまるところだったり。
リセットと肩がぶつかって因縁をつけてきた相手をエールが殺る前に斬ってみたり。
主にランスが遠慮なくやりたい放題して祭りを回り終わって、三人は酒場に行くことになった。
席に着くとエールがピンクウニューンを三人分注文する。
「おっ、ルーエちゃんは気が利くな」
エールがいつもやっていることではあるが、そう褒められると悪い気はしない。
そのまま飲み物を飲みつつ、一緒に晩御飯も食べてしまうことにして料理も注文する。
食事をしながらランスは自分の英雄譚を二人に聞かせていた。それには随分と誇張が入っていて、知っているリセットとエールはやや苦笑しながらも楽しく聞いていた。
「はん、甘いもんばっかり飲んでやがるなー、ガキの集まりか。そこの女共、そんなとこいないでこっちきて酌でも」
酔客に馬鹿にされると、ランスはその酔客を問答無用でぶちのめしてから
「酒だ、酒持ってこい!」
悔しかったのかランスは大量に酒を注文しだした。
「あああ、お酒弱いのに……」
リセットは怒涛の勢いで酒を飲みはじめたランスに慌てている。
エールはというと高いお酒の注文をキャンセルし、出来るだけ安いお酒にしてもらっていた。
「うーん、しかしなんちゅー美人姉妹じゃ。これはこの後、仲良く姉妹丼……いや、処女にはきついか? まず優しく処女を散らしてから姉妹丼のコースと行くかー今夜は最低四発だな」
酔いが回り始めるとランスはもはや建前など気にせずそんなことを言い始める。
「もう、口に出てるんだから……えっちなことはしないよ」
「いや、夜のデートはこれからだからな。安心しろ、俺様は紳士だから無理矢理やったりはせん。ぐふふ……」
そう言っていやらしい顔になりながら、リセットの腰に手を回す。
手に柔らかい感触伝わるのだがランスはやはり怪訝な顔をした。
「……いや、やっぱりおかしい。なんで俺様のハイパー兵器が反応せんのじゃー!」
ランスが急に叫び出したかと思うとひょいっとリセットを担ぎ上げる。
「え、ええ!? ちょっと降ろしてー!」
リセットが手足をばたつかせて抵抗するがその力は強く、そのまま酒場の二階にある宿泊部屋に連れて行かれてしまう。
エールも食べかけていたデザートのうはぁんを急いで完食してからバタバタとその後を追いかけていった。
酒屋と併設された宿の一室。
リセットをベッドに放り投げるとランスはすぱぱーんと裸になった。
「とりあえずリリーちゃんはクリスタルが赤い、つまり処女! 俺様が手取り足取り優しーくはじめてのセックスを教えてやろう!」
「きゃー!」
リセットはもろにそれを見てしまい、反射的に顔を手で覆った。
「ぐふふふ。実に可愛い反応だ。なんでか今日はハイパー兵器の調子が悪いが、そのエロい体。服を脱がせばすぐにでも臨戦態勢――」
<ごすっ!!>
素っ裸で仁王立ちしているランスの背後から、足の間をすり抜けて臨戦態勢の整っていないハイパー兵器にするどい蹴りが突き刺さった。
「ぐはああああ………」
それは見事な金的で、あまりの痛みにランスが悶絶してうずくまる。
その背後にはエールがランスをゴミを見るような目で見下ろしていた。
お姉ちゃんスリープ、とエールが言った。
「うん?あ!そ、そうだね!スリープ!スリープ!」
ぐごー!
ランスは寝た。
素っ裸のまま大の字で床に転がったランスをエールが足でつついてみるが、起きる気配はない。
「あ、ああ。びっくりした。ありがと、エールちゃん……」
リセットはベッドから降りると、ほっと胸をなでおろした。
エールはランスの服から財布を取り出してリセットに渡す。
「えええ、ダメだよ! そんなことしたらすごい怒られるよ?」
盗るわけではなく酒代と宿代払ってきてほしい、とエールが言った。
「あ、ごめん! 払ってくるね」
リセットが部屋から出ていくとエールは床に転がっているランスをむんずと掴んでベッドに放り投げる。重いが運べないほどではない。
その下半身についてるものを臨戦態勢になってなくても大きいなーなどと思いながら、そのまま手足を整えその上に毛布をふわりと掛けた。
ランスは変わらずいびきをかいて寝ており、やっぱり起きる気配はなかった。
今度は服をかき集めて畳んでおこうとしたのだが…
そうするとぞわりとエールは尻が撫でられる感触がした。
驚いていると今度は服の中に手が入れられる。
「心の友が反応せんとかいうからもしかしたら実はついてたり? と、ちょーっと警戒したが」
カオスからオーラの手が伸びて、エールの下着の上から下半身をまさぐる。
「ついとらんなー」
いやらしい顔をしたカオスがオーラの手をしゅるりと何本にも伸ばしては、エールの服のなかに次から次に潜入させて無遠慮にその全身をまさぐりはじめた。
「うひょひょひょ。中々良い反応じゃのー。なーんで心の友は反応せんかったんじゃろー? これはもーっとよく調べんといかんなー」
エールは抗議しようとしたがそのオーラの手は口の中にまで侵入し、言葉を出せなくなっていた。
「……おや? お嬢ちゃん随分具合の良いものを――」
「ちょっと待って、カオスさん! やめてあげて!」
戻ってきたリセットがまさぐられているエールを見て驚き声を上げる。
「まあまあ、そう嫌がることもないぞ。儂なら処女だろうとそうでなかろうとどんな女の子でも気持ちよーく出来るからの、お嬢ちゃんもクリスタルも赤いままでオーケー」
そう言ってリセットの胸にも手を伸ばした。
「ひゃああ……!」
それを見てエールは口に入れられていたオーラの手を思いっきり噛みちぎる様に振りほどく。
「いやー! 儂の心のハイパー兵器が噛み千切られたー! なんかすっごい痛い気がするー!」
それ以上やるとカフェさんや、日光さんに言いつけるとエールが解放された口で怒気を含ませながら言った。
「え?」
その言葉にカオスは一気にオーラの手を消す。
「えー! なんでその名前知ってんの!?」
「もう、お父さんもカオスさんも全然気が付かないんだから。エールちゃん、大丈夫?」
エールはすぐにでもカオスを踏んづけてやろうとしたが全身をまさぐられたせいもあって力が入らなかった。
「お父さんにエールちゃん? お前さん、もしかしてリセットの嬢ちゃんか?」
「そうだよ、もー……」
「んでこっちの姉ちゃんは、なるほどね。ちーっとも気が付かんかったわ!しかし、なんで大人になってんの?」
かくかくしかじか。
メリモの杖で大人になっていた、とリセットは説明した。
「なるほど。しかし心の友は姿が変わっても娘には反応せんのじゃな。ちょーっと危なかったとは思うが」
表面では全くわかっていなかったようだが心のどこかで自分の娘達だというのがわかっていたのかもしれない。
それはリセットもエールも少し嬉しいことであった。
「しかし、嬢ちゃん、なかなかいい反応じゃったな。具合もかなりのもんで――もしかして儂が使えたのって将来エロエロな身体になるって思ってたからだったのかも?」
エールはいやらしい顔をしたカオスをグリグリを踏みつける。
「儂、SM趣味はないからやめてー! しかし、どーすんの? 心の友、このまま起きたらめちゃくちゃ怒ると思うぞい」
「私達はこのまま帰るよ。カオスさんはこのままお父さんのことよろしくね」
「でも儂様たぶん話しちゃいますよ?」
魔剣カオスが呆れたように言った。
エールはスーハーと大きく呼吸をすると。
もしお父さんに話したらボクがカオスにえっちな事されて、リセットにも触ったってって言いふらす。日光さんにも言うし、カフェさんにも言うし、お父さんにも言う。お母さんにも言ってAL教に封印してもらう。
一気にそう言い切って、かなり本気でカオスを睨みつけた。
「冗談だって!分かったから、それはやめてくれい。ロリコン魔剣とか言われちゃう」
「私はロリじゃありません!」
リセットが大人の姿のまま怒った。
そうしてランスを寝かせたまま、リセットとエールの二人は家に帰っていった。
………
……
「は? お前に懐くようなカラーがいるわけないじゃろう。しかもそれが人間と姉妹で両方美女であっただと? なんとバカバカしい、妄想もそこまでいけば哀れなものじゃ。寝言は寝て言うのじゃな」
次の日、ランスはパステルにそういうカラーの心当たりを聞いて、当然のように喧嘩を始めていた。
それをサクラやイージスが止めて、ランスは館を叩きだされてしまった。
そして噴水のある広場のベンチに機嫌の悪そうな顔で腰を掛け、祭りを楽しむ人々をつまらなそうに凝視しながら昨日の美女がいないかどうか目を凝らしていた。
そうしているとリセットが押し寄せる人ごみをかき分けてランスの元に歩いてきた。脇にはエールと長田君も一緒である。
「なんだ。リセットにエール、あと陶器までいるのか。何している?」
「今日は視察してるんだ、昨日ちょっと偽物の商品を出していたお店があって一度見ておこうかってなってね。エールちゃんたちにも手伝ってもらってるんだよー」
「つまらんことをしているもんだ」
ランスが興味なさそうに言った。
「お父さんこそ何してるの?」
「うむ。昨日すごい美女二人組に会ってな。俺様の巧みな話術と口説き文句でナンパに成功し、酒場で英雄譚を利かせてメロメロにして、さっそうとベッドに連れ込んでいざセックス!と言うところで記憶が飛んで……ヤれた記憶がないまま朝起きたら二人ともいなくなっていたのだ。照れて逃げてしまったと思ったが、エロ駄剣は知らんと言うし、パステルは妄想だの寝言だの……」
「なら幻覚なんかじゃないすか? シャングリラは日差しが強くて頭もぼーっとしやすく」
ランスが長田君を叩き割った。
「お父さん、一緒にお祭りまわろうよ」
リセットが笑ってランスを誘った。
「いやだ、面倒くさい。俺様は昨日あった女の子を探しているんだ、そんなことに付き合っている暇はない」
その美女二人とやらもここで待ってるより祭りを回った方が会えるんじゃないか、とエールが言うと
「……それもそうだな。ここで待ってても暇だ。お前ら、それっぽい美女見つけたら俺様に知らせろよ。クリスタルの赤い巨乳で美人のカラーとなんか茶髪で色っぽい感じでこれまた巨乳の女の子だ。見落とすんじゃないぞ!」
そう言って立ち上がった。
「ん?あれ、それってー」
長田君が気が付いたようだが、リセットとエールの目くばせを受けて口を閉じる。
ランスの右手をリセットが握り、エールはランスの左腕抱きつく。
「うーむ、同じような状況でも昨日は良い感触だったのに、なんちゅー貧相な……まあ、我慢して行ってやるとするか」
ランスの言葉に娘二人は口をとがらせるが、すぐに嬉しそうな顔になって、足早に歩き出すランスにくっついて行った。
リセットとエールはランスに見えないよう、笑いあった。
ちなみにナギから聞いて後から分かったことだが、メリモの杖は自分のなりたいという願望を形にするものであって将来の姿を見せるものじゃないと知って、リセットエールは大いに落ち込んだのであった。
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医療都市シヴァイツァーでの話
父に会って欲しい人がいる。
自由都市に暮らしているので寄って欲しい、ランス達一行が冒険中エールがそんなこと言いだした。
「自由都市というとコパンドンか? 会いに行ってもいいが、先に連絡して盛大な歓迎の用意をさせておけよ。もちろんハーレムのな、100人は用意させろ」
コパンドン・ドット。エールたちが魔王討伐でもお世話になり、闘神大会で実況兼スポンサーもしていた世界有数の金持ちだ。
「100人て。そんな頑張れるんすか?」
「俺様なら余裕だぞ」
マジか、みたいな顔を長田君がするがそれにはどことなく羨望の眼差しも含まれていた。
確かに会って欲しくもあるがコパンドンさんではない、とエールは横に首を振った。
「ならば、カチューシャか? セラクロラスの力で若くしたがあれからまたムチムチに育ってるのだろうなぁ……ぐふふ」
ランスは鼻の下を伸ばした。
聞き覚えのない名前であったのでエールは首を傾げている。
「ウズメの母ちゃんの見当かなみさんだろ? 今、ロックアースにいんのかね。ランスさんにすっげー会いたがってたもんなー」
前回の旅でエールのことをランスとウズメを助けた恩人だと、泣くほど感謝していた優しそうな人だ。
確かにウズメ共々会って欲しいがそれも違う、エールはまた首を横に振った。
「ならば誰だ?俺様に会いたい女なんぞ心当たりがありすぎて分からんぞ。ちなみに男やブス、ばばあなら会わんからな。ポランチョだかペランチョにも行かんし、AL教の連中にも興味はないぞ」
ポランチョだからペランチョだかは知らないが、AL教というのはカイズのことだろうか。
どちらにしろ今回はそのどちらでもない。
父に会いたがっているのは世界でも指折りの天才美少女だ、とエールは言った。
「ほう、世界でも指折りの美少女……」
だが、あのエールがそんなことを言い出すのを不自然に感じランスは警戒した。
「待て、そいつの名前は何だ?」
彼女はミルキー・ティーと名乗っていることを伝える。
ランスの頭の中で女性の名前が検索されたが、聞いたことのない名前だった。
「ミルキー・ティー……聞いたことない名前だが間違いなく可愛い子なんだろうな?」
誰が見ても可愛い。
本来なら中々会うことができない人だがすでに会えるように手紙は出してある、とエールは自信を持って答えた。
「ほほう、お前にしては用意がいいな。そのミルキーちゃんは俺様のファンか? よしよし、俺様は優しいからな、会いに行ってやろう!」
ランスはすっかり警戒を解き、上機嫌になっている。
エールも笑顔を浮かべてランスの袖を引っ張って案内していった。
一方、長田君はその名前に聞き覚えがあったのだが、ちらりと視線を合わせたエールが人差し指を口に当てるとそのまま口をつぐんだ。
そうしてエールたち一行は医療都市シヴァイツァーに到着した。
「なんかえらく辛気臭い場所だな。景気の悪い面した連中ばっかりだし、薬品臭いし、本当にこんなところに美少女がいるのか?」
ランスの言う通り、町の雰囲気は決して明るくはなかった。薬品の匂いが風に乗って流れてきて思わず顔をしかめる。
エールは気にせずずんずんと進んで町一番の大きな建物に案内した。
「ここはやたらでかいが、病院か。俺様には縁のない場所だ」
ここにその会って欲しい人がいる、エールはランスの袖を引っ張りながら中に入っていった。
怪我人や病人が多く出入りしており、中では看護婦があわただしく働いているのが見えた。
「ほほう、ミルキーちゃんはさては看護婦だな? それとも女医さん、いや大きな病院だから病弱で儚げな美少女と言う線もあり得るか。うん、きっとそうだ」
ランスは鼻の下を伸ばすばかりである。
受付に話しを通してもらい、エールたちは大きな部屋の前までやって来た。
エールが天才美少女医師にお客様を連れてきた、と言って扉をノックすると中から声が聞こえる。
「あんた、その呼び方はやめろって言ったでしょーが!」
苛立ってはいるが、可愛い声が聞こえる。
「はぁ……扉開いてるわよ。あによ、どうしても会いたい用事って。病気じゃないとは書いてあったけど」
お邪魔します、と言って扉を開ける。
そこには黒いゴスロリ意匠に白衣を羽織った可愛い女の子……
エールの姉であるミックスが書類の積み上げられた大きな机の奥に座っていた。
ミックスはエールの後ろにいる口の大きい緑の男に注目した。
「あれ、お父さん?」
思ってもみなかった客にミックスは目を見開いている。
ランスの方もエールより小柄なその少女ミックスをまじまじと見つめ、二人の目が合った。
「エール、まさかお前の美少女というのは」
エールはじゃじゃーんと効果音を口にしながらミックスの方を手で仰いで見せた。
長田君も何となくタンバリンを叩いている。
「二人ともうっさい」
エールと長田君は黙った。
「だーまさーれたー!!」
ランスは叫びだした。
騙してはいない、どうみても美少女である、とエールは親指をぐっと立てる。
「いくら美少女でも娘ではヤれんではないか! 病弱で儚げな病弱美少女かかエロエロな診療をしてくれる看護婦で俺様のファンというミルキー・ティーちゃんはどこいったんだ!」
ランスの頭の中で一体どうしてそういうミルキー像が生まれたのかはエールの知るところではないが、とりあえず世界でも有数の天才美少女医師だ、と自信を持って言い切った。
「ミルキー・ティーはあたしの偽名よ。トー家の名前は面倒だし、お父さんの子だってバレるのも面倒くさいし。 んで、一体何しに来たの」
ミックスが少し不機嫌そうな顔でそういうので、エールは口をとがらせて拗ねた。
「ああ、エールってばあたしの約束覚えててくれたのね。前に会った時に私がお父さんに会いたいって言ってたやつ」
エールは前の冒険でここシヴァイツァーに来た時、とある理由からミックスが父であるランスに会いたいと話していたのを覚えていた。
父に娘が会いたがっていると言っても素直に来てはくれないだろうと思い、このような形ではあるが何とか連れてきたのである。
ミックスが自分に会いたがっていたと言われるとガーガーと喚いていたランスは少し機嫌を直したようだ。
「ほほう、俺様にそんなに会いたがっていたとは。 前は生意気言っていたが可愛いところもあるではないか」
そう言ってミックスの頭をわしわしと撫でる父ランスはなんだか嬉しそうで……
エールはよく分からないがその光景が何故かほんの少し面白くなかった。
「ランス、さん?」
桃色の髪を結んだ看護婦さんが部屋に入ってきて驚いた表情をしていた。
「む、これはなかなかの美人看護婦ちゃん。俺様を知ってるのかな、そう俺様は英雄――」
早速鼻の下を伸ばすランスにその看護婦はぱたぱたと近づいてその手をぎゅっと握った。
ランス以外の全員が近づくと危ないと思ったのだが、その看護婦からでた言葉は懐かしさに溢れたものだった。
「私のこと覚えていませんか? キャロリです。キャロリ・メイト。昔ランスさん緑化病を治してもらって、助けていただいた……」
ランスもその姿をじっと見つめる。
「お、おおお? キャロリちゃんか! 覚えてるぞ! ぐっーと大人になったなー!」
「お父さんとキャロリが知り合いって本当だったのね」
「ミルキー先生こそ、本当にランスさんのお子さんだったんですね。ふふ、ミラクルさんにもランスさんにも似てないからあまり信じてませんでした」
「私の親はお婆ちゃんとお爺ちゃんだから」
ミックスが答える。
破天荒なミラクルではあるが、その両親はいたって普通の人であったらしい。
「そうか? 俺様には似てないかもしれんがこいつの顔とか雰囲気とかミラクルそっくりだぞ」
「あ?」
ミックスは不機嫌そうな顔になった。
「なんていうか、ミックスは根がすごく良い人っぽいとことかミラクルさんそっくりだよなー、あと服の趣味とか?」
闘神大会でパートナーにした長田君が言うと妙な説得力がある。
「全然似てない! 失礼なこと言わないで!」
ランスと長田君はミックスを怒らせていた。
こんなことを言っているがエールがクルックーを愛しているように、ミックスも母であるミラクルのことが大好きであることをエールは知っている。
闘神都市でミラクルをママと呼んで恥ずかしがっていミックスは可愛かったな、というのを思い出しエールはくすくすと笑った。
「あに、笑ってるのよ? ……何か失礼なこと考えてない?」
エールは首を横に振った。
「しかし、なんでキャロリちゃんがここに?」
「キャロリはあたしの助手よ。冒険中、病院任せてたの」
ミックスはこの町ではトップの地位にいる存在だ。
そのミックスと敬語ながら気さくに話すキャロリは、年こそ離れているがただの助手ではなく相棒や親友のように信頼の置ける存在なのだろう、とエールは思った。
「すいません。私じゃミルキー先生の代わりになれず、先生が帰ってきてずっと大変そうで……」
「あなたは本当に頑張ってくれたわ。指示通り動いてくれて患者さんたちも安心できたみたいだしね」
元々ほぼ休みなく働いていたと聞いていた。
冒険の間は病院に帰れなかったので大変だっただろう。
冒険のリーダーとしてミックスを巻き込んでしまったエールは少しばつが悪そうな顔をした。
「でもあたしも兄弟間でコネ出来たおかげで薬の材料とか物品とかの調達が楽になったから悪いもんでもなかったわ。魔王の子の一人って顔を知られたのが面倒と言えば面倒かもね」
エールの様子を察知し、ミックスがフォローを入れる。
魔王の子と知られたせいで東ヘルマンあたりに変な事されてないか、とエールは聞いてみた。
「あたしのとこは大丈夫よ。あっちも体面ってのがあるせいか病院に手を出すような外道な事はしないのかもね、まぁこっちが偽名だから気づいてないだけなのかもしれないけど」
そんなに甘い相手だとは思わないが、エールは胸をなでおろした。
ミックスがタイガー将軍を倒した時に治療したということもあるのかもしれない。
ミックスはエールと話している間もキャロリとランスが懐かしそうに話しているのを見つめていた。
「二人の出会いの事聞いてはいたけどつまりあれは本当の話だったのね……はぁ」
キャロリとランスの出会いは娘としてはあまり信じたくないものだった。
結果的にそれがキャロリの命を救ったのだとしても、である。
「エールは知らなくていいのよ」
事情を聞こうとしたエールを先んじてミックスが制した。
「しかしキャロリちゃんはあれから緑化病の再発なんかはしてないのか?もしそうなら今夜俺様が――」
「ランスさんがいなくなってしまっていつ再発するか長い間びくびくして暮らしてたんですけど、今のところは何とか大丈夫です」
ランスが言い切る前にキャロリが言った。
「でもいつ再発するか怖くて、また昔みたいになってしまうんじゃないかって……緑化病持ちだって知られるのも怖くて……ゼスで引きこもって生活してたんですがそこにミルキー先生が来て言ってくれたんです。私の近くで助手やりながらなら何かあった時も安心だって。不治の病だろうが何だろうが何があっても見捨てないって」
「あたし、そんなこと言ったっけ?」
「私、すごく救われたんですよ」
ミックスは何でもない顔をしているが、笑顔で言うキャロリからは感謝の気持ちが溢れていた、
「緑化病が根絶できたわけじゃないですし、まだ差別もありますけど緑の里に強制隔離されることはなくなりました。人目は避けますがここシヴァイツァーに来ればいいんですから。ミルキー先生のおかげで希望が見えるようになったんですよ」
「医者が病人見捨てるなんてするわけないでしょ」
さらりと言うミックスは頼もしい。
冒険中も医療面サポートはすべてこなしてくれていたし、遭難したときの治療もしてくれた。ミックスの凄さは良く知っている。
さすが自慢の姉の一人だとエールは誇らしく思った。
「そう緑化病、それなのよ。お父さん」
「なんだ?」
あまり興味がなさそうに今までの話を聞いていたランスがミックスの方に振り向いた。
「時間もないし手早く済ませないとね」
「すませるって何がだ?」
「体調べさせて貰うわ。あと血液と精液の採取をさせてちょうだい」
ミックスが特に恥ずかしがらずにそう言った。
「……は?」
「キャロリから聞いたんだけどお父さんの精液で緑化病を治療出来たんでしょ? ずっと良い医療のサンプルになると思ってたの、うまくいけば緑化病の特効薬作れそうだから」
「なんだと……」
娘から突然そんな言葉を聞いて事情が呑み込めないというような顔をしている。
エールと長田君も医療サンプルに良さそうとは聞いていたが、詳しい事情は知らなかったので驚いている。
「あと他にも才能限界を上げるとかいう話も聞いてるわ。いやそもそも才能限界がないっていうのがおかしいし、詳しく調べたかったのよね」
呆気に取られているランスの方に歩き出してその体をぺたぺたとさわり始めた。
「本当は解剖したいって気持ちはあるけど何も取って食おうってわけじゃないの、そこまではしないから安心して。さすがに魔王の時じゃこういうの頼めなかったから助かるわ。元魔王で色々特別なお父さん以上のサンプルなんてそうはないだろうし、これで医療がどれほど捗るか」
ミックスはかつてエールをサンプルにしたいと言った時のように目を輝かせていた。
あの時は嘘か冗談だったようだが、今の目を見るとあながち冗談でなかったような気がしてエールは少し身震いする。
「ああ、お父さんを調べてる間だけどエールには……そうね。薬草の採取とか頼もうかと」
「とりあえず父さんのこと捕まえてくれる?」
分かった、といってエールはその場から逃げようとしていたランスの足元に粘着地面をおみまいした。
「何をするかー!」
志津香さんがスシヌに教えた粘着地面を自分も習っておいた、上手く出来て良かったとエールは得意げに言った。
「そういうことをいっとるんじゃない! 離せー! きゃ、キャロリちゃん、助けてくれー!」
「ご、ごめんなさい。ランスさんが頑張ってくれれば色んな人が助かるので、だからご協力お願いします!」
キャロリは申し訳なさそうに頭を下げた。
「待て、お前!」
連れていかれた一室でランスは裸にされ実験台のような斜め向きの寝台にベルトで固定されていた。
ミックスは手早く、血液を採取したりランスの体を隅々まで調べたりしてはカルテに何事かを書き込んでいる。
「体温は普通ね。うーん、普通の人より陰茎がかなり大きいって以外は特に変わった部分はないかしら」
「せめて、キャロリちゃん! キャロリちゃんを所望するー!」
「キャロリにそんなことさせられないわよ。 ほらさっさと出して」
ミックスは特に恥ずかしがる気配もなく、むき出しになったランスのハイパー兵器を医療の薄手の手袋をした手でしごいている。
しかし全く大きくなる気配はなかった。
「全然大きくならないわね」
「娘に触られて大きくなるかー!」
「困ったわ。これじゃ採取できないじゃない」
萎えたままのハイパー兵器を一瞥して言った。
ミックスは悩んだが、突然何かを思いついた表情になった
「そういえばこういうの得意な知り合いがいるわ。確かお父さんのことも知ってたはずだしちょっと呼ぶから大人しく待っててね。麻酔薬とか麻痺毒とか入れたくないし」
そう言ってランスを置いて外に出て行ってしまった。
「エールはそこで見張っておいてね。誰も入れちゃダメだから」
部屋の扉の前で待機しているエールは大きく頷いた。
「エール、そこにいるんだろう! これをほどかんかー! ほどかんとあとでお仕置きだぞー!」
ギャーギャーと騒いでいるランスの声をエールは聞こえないふりを決め込んだ。
「お前ちょっと酷くね?」
エールの横にいる長田君は娘二人に捕まって精液を絞られるという状況にさすがに同情していた。
こういう時シィルさんならどうするんだろうな、とエールはぼんやり考えながら全ては医療の発展の為だから仕方ないんだ、と特に感情をこめずに言った。
「うぅ……ランスさんあとで怖いぞ……」
その時はその時である。
ミックスに出してもらったお茶は少し苦い。
お茶菓子とかないのかな、とエールはのんびり呟いた。
………
そうこうしているとミックスが一人の女性を連れて戻ってきた。
紫のロングヘアー、ちらりと空いた胸元がセクシーな人である。
「うぉー、今の人すっげー巨乳じゃなかった!? 美人じゃなかったー!?」
急にテンションを上げている長田君をエールは叩き割った。
「ランスー! 本当にランスだー!」
その紫色の髪のセクシーな女性は固定されているランスに抱きついた。
「うぉ、実に柔らかい……ぐふふ」
「あはは、これでどういう状況なの? そういうプレイなの?」
抱きつかれてむにゅりと形を変える大きな胸の感触にランスは遠慮なくいやらしい視線を飛ばした。
「ランス、私が誰か分かる?」
「ん……どっかで見たことある」
ランスはまじまじとその女性を上から下までじっくり眺めた。
「実に良いスタイル、ってお前、ミルか!?」
「へっへー久しぶり! 私の事、覚えててくれたんだ!」
「当然だ! おー、初めて会った時を思い出すじゃないか!」
ランスが久しぶりに再会したミルは初めて会ったときのような大人の姿となっていた。
「ミル、お父さんと知り合いだったわよね。前にうっすら聞いただけだけど」
「そうだよ。私の初めての人!」
「そう……キャロリもだったし。今更だけどどんだけなのよ」
ミックスは呆れてため息をついている。
「そういえばミルキーちゃんってランスの子供だったんだっけ。なんか言われてもピンとこなかったけど」
「ミルキーちゃん言うな」
ミックスが気を取り直してミルの方を向いた。
「それで依頼なんだけどお父さんの精液絞り出してくれる? 他にできそうな子がいないし、あたしがやっても勃たないみたいで」
「わぁ。ミルキーちゃんはお医者さんだからそういうことに抵抗ないんだろうけど、普通ならすごいインモラル」
ミルは目を見開くが、すぐ舌なめずりをする。
「そういう事ならこのミルお姉さんに任せて、ランスのなら喜んでやっちゃう」
昔のミリなら子供っぽさで怖さも何もなかったが、大人になったミリの姿ではまるで肉食獣のような獲物を狙う瞳で妖艶さを漂わせる表情になっていた。
ミルがランスのハイパー兵器を握るとすぐにびくびくと持ち上がり臨戦態勢になる。
「ああ、そうだ。唾液そういう別な体液は入れないでね。もちろん薬も使わないでお願い出来る?」
「りょーかい。医療サンプルにするんだもんね。んじゃ、おっぱいですればいいかな?」
そう言って服をはだけると手にも余りそうな豊かなバストが露わになった。
ランスもそれを見て思わず感嘆の声をあげる。
「うおおおう……ミルもすっかり良い女になったな。胸だけではなくあそこでもお願いしたい……」
「ふふふ、それは後でたっぷりと。でも流石のランスも実の子相手じゃ無理なんだね」
「うるさいわ、娘じゃなくてもガキ相手に勃つか!」
ミルはそう言いながらもハイパー兵器を手で愛撫している。
その気持ちよさにランスも全て任せてしまおうと思ったのだが……
「ミックス、その前にお前ちょっと出ていけ」
カルテを手に持ったミックス見てハイパー兵器はしおしおと萎えてしまった。
「駄目よ。別なの入ってないか見ないといけないし。別に減るもんでもないでしょ」
「お前がいると勃つもんも勃たんわー!」
引かないミックスに怒鳴るランス。
ミルがその様子を見て諭すようにミックスに向けて笑顔を向けた。
「さすがに父親としては娘に見られるの嫌なんじゃないかな。変なもの入れないって約束するからミルキーちゃんはちょっと出て上げてくれる? こう見えて父親のメンツってものがあるのよ、きっと」
「だからミルキーちゃん言うなってば。 はぁ……分かったわよ。その瓶いっぱいにしてね」
「はいはい。任せて」
ミックスが部屋を出ると、ミルは妖艶な表情をランスに向けた。
「これは前哨戦ってやつだからね…… 今夜が楽しみだなー」
………
「ミルキー先生、それにエールちゃん、あと長田君でしたっけ。改めてお茶とお菓子の用意をしましたので少し休んでください」
「ありがと、キャロリ。こんなにのんびりするのは久しぶりね」
そういうミックスは机の上に置かれた書類に次から次に目を通していて、エールの目には全然のんびりしているようには見えなかった。
「エールもちょっと来なさい」
一通りカルテや書類を見終えると今度はついでとばかりにエールを診始めた。
手早く血液を採取し、聴診器を当て、口の中をのぞき、触診をする。
エールはミックスに触られて少し気持ちが良かった。
「はい、エールも健康そのもの。身長伸びたみたいね」
エールはその言葉を聞いてちょっと嬉しくなった。
「うーん、お父さんの体ってどれだけ特別なのかと思ったけど見ただけじゃ普通の人と違いがわからないわね。精液が特別とか、抱くとか近くにずっといるとその人の才能限界が上がるとか不思議なことだらけなのに……そういうのもあたし達にも受け継がれてたりするのかしら? いや、そもそも才能限界ないって何なの。そんなの他に見たことない、本当に分からないことだらけだわ。神はレベルが存在しないし違うわよね。もっと詳しく調べたいわ」
ミックスがカルテを見つつ悩んでいる。
このままではランスを解剖しかねない雰囲気だ。そうなったら流石に止めようとエールは思った。
しばらくしてランスが解放されたのか部屋に入ってきた。
「ミルキーちゃん、採取終わったよ。ああ、ミックスちゃんって呼んだ方がいい?」
「お疲れ様、ミル。偽名の方でお願いするけどそもそもちゃん付けはやめろってば……」
ランスはミルに抱きつかれていた。
「えらい目にあった……しかし、むふふ。これも役得か」
どうなることかと思ったが気持ち良かったんだろうか、表情は満足げである。
お疲れ様、と言ってエールは父にピンクウニューンを差し出した。
<ポカン!>
それを受け取りながらもエールの頭は強く叩かれた。
「お前は父親を何だと思ってるんだーー!」
「エールはあたしの依頼を聞いただけ。叩かないでやって」
「お前もだ!」
ランスはミックスの頭も叩いた。
世界有数の頭脳になにかあったらどうするんだ、とエールが止める。
「まあ、そう怒らなくてもいいじゃない。おかげで私達、再会できたんだから。ランスも気持ち良かったでしょ?」
エールは父ランスに抱きついているミルに挨拶をした。
長田君は巨乳に目をやってそわそわしている。
「こんにちは。エールちゃんにミルキーちゃんってどっちもランスの子供ってことは二人は姉妹だよね? お姉ちゃんは大切にしなよ?」
ミルがエールを見て少し寂しそうに笑った。
「しかしまさかミルがこんな辛気臭いところにいるとはな」
「普段からここにいるわけじゃないよ。ランスに会えたのはラッキーだったなー」
ミルはランスにしなだれかかっている。
「ミルには似合わん場所だ」
「アイム薬屋。薬の知識は豊富だから協力してるの」
見た目ではわからないが、どうやら薬剤師であるらしい。
「何でお前が?」
「キャロリとは友達だし……それにこの病院があの頃にあったらお姉ちゃん、助かってたのかなってさ」
ミルはそっと目をつぶった。
病気で家族を亡くす……エールにとってそんなことは考えるだけでも辛いことだった。
「ゲンフルエンザだったわね。症例が少なくて苦労してるわ。かかる人が少ないのは良いことでもあるけどね」
「ミルキー先生ならいつか治療法を見つけ出せますよ」
キャロリが前向きにそう話した。
レリコフの不治の病と言われたものまでミックスは治しているんだものね、とエールは続ける。
「レリコフ、シーラの子供だったな……ふん、俺様の子供ならそれぐらい出来て当然だ」
「ミラクルさんなら余の子であれば当然!とか言いそうだよなー」
「簡単に言ってくれるわ……」
ミックスは呆れた顔をしている。
そんな顔をしているが、ミックスが医療に対していつでも全力なことをエールは良く知っていた。本当に自慢の姉である。
「よし、そろそろ行くぞミル」
「はいはーい。あ、お父さんのことちょっと借りるね」
「どこ行くんすか?」
長田君が聞くがそれは野暮である、とエールが止めた。
「もちろんセックスだ! 胸だけとか逆に溜まるわ!」
「瓶いっぱいにしたのに元気だよね。元気じゃなくても私の薬で元気にさせるけど?」
「ミルはそっちが本業なのよね。それさえなければうちの病院の専属スタッフに誘いたいぐらいなんだけど」
「じょーだん! 堅苦しいのは苦手! んじゃねー!」
「がはは、行くぞー!」
ランスは我慢できないとばかりにミルを抱き上げると部屋から出て行った。
エールはごゆっくり、と言って手を振って見送る。
「うおー…あんな巨乳美人と羨ましい! くそー、ランスさんってなんであんなモテるんだ……」
長田君は羨望の眼差しを送っていた。
ランスがこれだけモテる理由は娘であるエールやミックスにもよく分からなかった。
その日、エールたちは病院で泊まらせて貰えることになった。
空いているベッドはないそうで応接室を借りている。ベッドではなくソファーであるが高級そうにふかふかとしているので問題ない。
運んできてくれた夜ごはんは驚いたことにミックスの手作りであるらしいが非常に美味であった。
そういえば確かミックスには料理の才能もあったはず、エールたちは料理を感心しながら料理をかき込んでいる。
「あんた、ちょっと落ち着いて食べなさいよ。ちゃんと噛まないと消化に悪いわよ。長田君もね」
その夜は横にならず、エールとミックスは改めて近況や今までの冒険のことを話しあった。
そしていつの間にか姉妹仲良く眠りに落ちた。
………
……
次の日、昼になってランスは満足そうに戻ってきた。
ミルは仕事があるらしく、すぐに別れてしまったらしい。
「ぐふふ、あの頃まだ未熟だった身体があんなに育つとはな……ナギもそうだがこれは実に楽しいぞ。他に前は未熟で食べ頃じゃなかった子はいたかなー……」
ランスに新しい野望が芽生えてたようだ。
エールには何人か心当たりがあるので近くに寄ってしまうことがあるなら逃がすことも考えようと思った、
「よし、この辛気臭いとこ出ていく前に今夜はキャロリちゃんだ!」
そう言ってキャロリを誘っている。
「あに、うちの助手に手出そうとしてんの!」
困っているキャロリの手を強引に握るランスに、ミックスが怒ってメスを投げていた。
「そうそう。あんたたち、冒険者でしょ。ちょっとこれよろしく、急ぎでね」
ミックスがメモ用紙をエールたちに渡す。
エールはびくっとした。
この流れは前にシヴァイツァーに来た時と同じ仕事の依頼、珍しい薬の材料の調達依頼である。
「なんで俺様がそんなことせにゃならんのだ」
冒険資金を稼がないといけないから、と言って渋っているランスをエールは強引に引っ張っていった。
それからエールたちはミックスの依頼で数日間、薬草や医療材料の採集場所を行ったり来たりすることになった。
勢いに任せて手伝っていたランスもすぐに駄々をこねて文句を言いまっている。
そこをミックスやキャロリが宥めようとすると
「キャロリちゃんがお礼にやらせてくれるのならやってやる!」
と言い出していた。
それが叶ったかどうかは知らないが、ランスは半ばヤケになってミックスからの依頼をこなしていった。
なんだかんだ娘のお願いとあれば聞いてくれるのかもしれない、とエールは笑顔を浮かべながら仕事をこなしていく。
報酬をまとめてもらう頃にはエールたちは疲れでへろへろになっていた。
「お疲れ様。摘むとすぐ鮮度が下がっちゃう薬草とかあるから助かったわ。危険な所にある夜にしか取れない奴とか、腕があって信用できる人じゃないと任せられないしね」
どういたしまして、エールは若干ぐったりしながら言った。
「そうだ。お父さん、もうちょっと精液採取させて――」
「エール! 陶器! さっさとここを出ていくぞ!」
エールたちは挨拶もそこそこにシヴァイツァーを出発した。
………
「ランスさんたち行っちゃいましたね」
騒がしい三人が減った応接室、キャロリがしみじみと呟いた。
「そのお薬、ランスさんに協力してもらったって発表するんですか?」
「事実だからね」
ミックスが新しい薬を手にしている。
まだ全て完成してはいないが、これが出来れば緑化病はもう全く怖くない病気になるはずだ。
「そうすれば東ヘルマンでしたっけ……そういう魔王だったらランスさんへの風当たりも減るかもしれませんしね」
「あたしは有り余ってる体力を使って貰っただけ」
ミックスが溜息をつく。
ここシヴァイツァーは世界中から患者がやってくるが、同時に世界中から情報も流れてこんできている。
エールはミックスを何かされてないか心配と言っていたが、実のところミックスの方こそランスたちの事をずっと心配していた。
東ヘルマンはいまだ健在、打倒魔王ランスを掲げ、魔王の脅威は消え去ったと各国が表明してもそれを信じていない者たちは多いが、だからといって下手に潰せばテロ組織と化している過激派に火をつけてしまうだろう。
非常にデリケートな問題だった。
だがミックスはエールやランス達なら大丈夫だろう、と気を取り直して白衣を翻す。
「そろそろ回診の時間ね。行きましょうか」
キャロリだけが気づいたが、そう言ったミックスは笑顔を浮かべていた。
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ランス10 小話SS
エールとワーグの話
エールはワーグを見つめていた。
「何かしら?」
エールはワーグがこちらをじっーと見ている気がしたので視線を合わせただけだったのだが、気づかれるとワーグはさっと目を逸らした。
それを見てエールはワーグに近寄ると腕を上げる。
何をされるのかとワーグは怯えたようにドキリとしたのだが、その頭にはそっとにみかんを乗せられていた。
「ほ、本当に、何なのこの子……」
頭に乗せられたみかんを受け取りながらその謎の行動にワーグはどう反応していいか分からない。
「プレゼントかな?うれしー、ありがとー!」
ワーグは困った様子で俯くだけだが、白い生物が嬉しそうにしたのを見てエールは満足げに頷いた。
「もう、エールちゃんはまたそうやっていきなり人の頭にみかん乗せてー」
その様子を見ていたリセットが助け舟とばかりに二人の間に入ってくる。
「リセット……」
ワーグはリセットの声を聴くとぱっと顔を上げてそちらを見た。
「突然でびっくりさせちゃったね。この子はエールちゃん、私の妹だよ」
「わーい!リセットだ、久しぶりー!会いたかったよー!」
「黙りなさい、ラッシー……話をするのは久しぶりね」
ワーグが気さくに挨拶をする白い生物ラッシーを窘めながらも、エールは心なしかその瞳が輝き言葉も柔らかくなったように感じた。
「エールちゃんはちょっと変わってるけど私達の冒険のリーダーでいっぱい頑張ってくれたの。とってもいい子だからワーグちゃんも仲良くしてあげてね」
リセットがそうエールを紹介した。
リセットに促されるようにワーグは今度は目を逸らさずまっすぐにエールを見つめる。
しかし目の前にいる少女、エールがにこにこと笑顔を浮かべているだけなのでその心中は分からなかった。
対するエールもワーグの表情は固く何を考えているかは分からない。
とりあえずエールはこんにちは、とあいさつをしてみる。
「こんにちはー!大きいけどリセットの妹なんだねー」
気さくに挨拶を返してくる白い生物と違い、ワーグのエールを見つめる瞳は緊張しているのかかうつむきがちである。
自分が大きいのではなくリセットが小さいだけ、とエールが言うとリセットがぺしぺしとエールを叩いた。
普段は大人びている姉も小さいのを指摘されると拗ねる。エールはそんな可愛い反応をする姉も好きである。
何も話さないワーグに自分が魔人を討伐してきたリーダーだからか警戒されているのかもしれない、とエールが考えていると
「やっほー、ワーグ!」
ナギが後ろからワーグをぎゅっと抱きしめた。
「あー、このふわふわの抱き心地。ワーグってば全然変わってないね」
「だ、抱きつかないで」
「わーい、ナギだー!ずっとお話しできなくて寂しかったよー!」
「ふふ、ラッシーは相変わらず素直だねぇ」
「……黙りなさい、ラッシー」
ワーグはさっきまでの固い表情はなくなり、顔を真っ赤にさせたままそう言った。
「まあ、変わってないって言ったらリセットも全然変わってないけど」
「ナギちゃん!」
「ごめんごめん。中身はすっかりみんなのお姉ちゃんになってるってー」
リセットが頬を膨らませる。
ナギの登場でその場の緊張はすっかりなくなり和やかな空気が流れる。
少し離れた場所で正気に戻ったランスが馬鹿笑いをしているのが見える中、エール、リセット、ナギ、そしてワーグとラッシーで床に座り小さなお茶会が始まった。
リセットがビスケッタから四人分のお茶をお菓子を受け取ると、ささっと並べてくれる。
エールはみんなは仲良いのか、と聞いてみる。
「昔の魔人戦争でお父さんが保護して仲間になってくれて、それからずっとお友達なんだよ」
「と、友達……」
「うれしー!大事なお友達ー!」
その言葉がよほどうれしいのだろう、ワーグは頬を染めた。
「今はワーグちゃんも能力のオンオフが出来るからこうやって向かい合ってお話しできるようになってるけど、あの頃は近くに行っちゃうとどうしても眠っちゃうからお手紙でやり取りするしかなかったんだよね」
「……あの時貰った手紙は全部取ってあるわ。寂しくなった時に読み返してる」
「私もお手紙全部取っておいてるよ、懐かしいね」
にこにこと笑って昔を懐かしむように話するリセット。
「ワーグってばその頃に私たちが上げた手作りのぬいぐるみ、ずっと大切にしてくれてるんだよね。今見るとよれよれのくちゃくちゃでかなり恥ずかしい代物……作り直したい……」
「返さないわよ。あの子も私にとって大事なお友達なんだから」
同じくにこにこと笑っているナギ。
二人に挟まれているワーグは表情こそ固いままだが、言葉は優しく柔らかくとても楽しそうに見えた。
魔人戦争というとエールが生まれる前の話、リセットもナギもまだ相当に小さかったはずでワーグは幼馴染といってもいいのではないだろうか。
「ランスが落ち着いてる間には近くでお話も出来たんだけど最近はずっとその機会もなくなっちゃって心配してた。ワーグ、すごく寂しそうだったのに声をかけられなくてごめんね」
ナギが少し真面目そうにそんなこと話す。
「ナギが悪く思う事なんてない……私はあなた達を眠らせて。怖がられて、嫌われるんじゃないかって思って……」
泣きそうな表情をするワーグの頭をリセットが優しく撫でる。
「最初に会った時はワーグよりだいぶ小さかったのに、いつのまにか身長も抜かしちゃったね。ワーグもリセットも見た目変わらないからなんか私だけ大きくなっちゃった感じがするよ」
「私はこれから大きくなるのー!」
軽口を叩く姉にすねる小さな姉、嫌われていないと安堵している小さな魔人。
その様子をにこにこと見つめているエールにワーグが改めて向き直る。
「あなたは私が魔人だって聞いて怖くはないの?」
普通の人間は魔人と聞けば震え上がるのが当たり前だった。
魔人戦争に参加し、魔王ランスと一緒に行動するようになって、魔人ワーグの姿と能力の危険性は広く知られるようになっている。
一見弱そうな女の子に見えても攻撃が通らず、近づくだけで眠らされるとあっては人類に打つ手はない。目の前に現れるだけでみんな叫び声をあげて逃げていく、それが普通の反応だった。
例え、ワーグに敵意がなくともだ。
「私が魔王様の命令であなた達を眠らせたこともある危険な魔人だっていうこと、忘れないで。私が本気を出せば今だって……」
脅す様にそう言ったワーグは言葉とは裏腹に顔を伏せており、エールの目にはとても寂しそうに見えた。
「こんなこと言ってるけれどワーグちゃんは人を傷つけるために能力を使ったりしないから大丈夫。 むしろお父さんが魔王になってる間、ずっとみんな……人間側が下手に抵抗して被害が出ないようにしてくれてたんだ」
「キャンプにランスと一緒に来てた前に話したでしょ?それと同じ理由だね」
ワーグ本人が言う通りかなり危険な能力を持っているようだが、リセットとナギが言うには害意はなくむしろ人類のことを考えて行動してくれていたらしい。
魔人リズナと同じように人類に協力をしていた感じだろうか。
「違うわ。騒がれると面倒だからっていう魔王様の命令……最初からずっと。魔王様、ランスが血に飲まれておかしくなってしまってもその命令を解除させられることはなかったから」
「それでもワーグちゃんのおかげで助かった人も多かったと思う。ありがとう、ワーグちゃん」
本当にただ魔王の命令だとしても、リセットの言う通りワーグのおかげで被害が大きくならなかった地域も多かったのは事実である。
リセットが心からのお礼の言葉を述べた。
「それにワーグちゃん、私達の事見逃してくれたんじゃない?」
「もし誰か一人でも眠らせられなかったら、私の負け。ホーネットまで倒すような人間に私が勝てるはずないもの」
「リセットやナギと戦いたくなんかないよー」
ラッシーが悲しそうにそう言った。
ワーグもそれを否定することはない。
「ワーグちゃんもお父さんに戻ってほしかったのかなって思ってた」
そう言ってリセットとワーグは後ろでシィルや他の子供や魔人達と騒いでいるランスを見つめている。
「こっちのランスの方が慣れてるから」
「こっちのランスの方が優しくて好き!大好きー!」
「黙りなさい、ラッシー」
「あー、ワーグは本当に良い子だねぇ」
ナギがワーグの頭をくしゃくしゃと撫でる。
エールもなんとなくワーグの頭を撫でてみた。
「わー! うれしいけど恥ずかしー! 」
「頭、撫でないで。私を、魔人を全く怖がらないなんて……」
ワーグは顔を真っ赤にしながらもなんとか言葉を絞り出した。
「いやー、もはや魔人より強いエールには今更でしょ。それを抜かしても相棒がハニーって子だから種族がどうとか気にしないだろうけど」
魔人を切れる刀である日光を持ち、魔人すら凌駕する力を持ったエールにとって目の前にいる自分ぐらいの女の子は恐れの対象にはならなかった。
むしろ、エールは自分こそ怖がられているところなのではないだろうかと思った。
「別に、リセットの妹なんでしょ。それにあなた魔人を倒したリーダーなんてそんな感じに見えないわ」
「エールはこう見えてもやるときはやるんだよ?」
ナギはそういうが当のエールは緊張感は全くない。
ワーグから見たエールは、茶をすすりつつお菓子を遠慮なく次々に口に放り込みながらリセットやナギとワーグが楽しそうに話す様子を嬉しそうに見つめている普通の少女にしか見えなかった。
「ワーグちゃんはこんな感じですごく良い子だから。エールちゃんも仲良くしてあげてねー」
「表情が硬いのはただの恥ずかしがり屋なだけだからね。ラッシーの言うことが本音だと思っておくといいかも」
「ずっとお話してみたかったよー、仲良くしてねー!」
「だ、黙りなさい、ラッシー」
ワーグは改めてエールに向き直る。
「あなたも、エールも私とお友達になってくれたら嬉しい……」
エールはそう言ったワーグを返事とばかりにぎゅっと抱きしめてみた。
「あ! な! 何するの!」
「あらー、エールったらだいたーん」
「きゃー!近い!近い!近い!ちーかーいー!」
騒ぐラッシーと顔を真っ赤にさせているワーグを見ながら、ふわふわとした柔らかさに甘くて良い香りがする、とエールが言った。
ナギがワーグを抱きしめていたのが気持ちよさそうだったから抱きついたのだが、予想以上に落ち着くふわふわ感であった。
「男の子が言ったらかなりのセクハラ発言……まあ、女の子同士だし恥ずかしがることもないけどエールってそういうとこあるよね」
「ふふ、仲良くなれそうで良かった」
ナギもリセットもそれを止めることなく笑ってみていた。
ワーグに抱きついているとエールは次第に眠くなってきた。
そしてワーグの膝に頭を乗せる。
「あ! 私、な、何もしてない……」
突然、うとうとし頭を預けてきたエールにワーグは焦る。
「もしかしてエールちゃん、さっきまでの戦いですごく疲れてた?お父さんを相手にかなり無理してたものね」
いやお腹いっぱいで眠くなった、とエールが言った。
ワーグの膝は柔らかく気持ちが良かった。
「あはは……エールちゃんはもー…しょうがないからワーグちゃん、そのまま少しだけお昼寝させてあげてくれる?」
「わ、分かったわ」
「くすぐったいよー! 恥ずかしいよー!」
ラッシーは騒いでいるが、ワーグは既に眠りはじめたエールを追い払おうとはしなかった。
「それにしてもこの子、私が寝ている人の夢に入り込んで操れるってこと忘れてないかしら。それとも知らないだけ?」
「ワーグちゃんはそんなことしないでしょ?」
「あはは、せっかくなら幸せな夢でも見せてあげて」
全く警戒なんてしてないように、リセットとナギが笑ってそう言った。
「……その必要ないわ」
膝で眠っているエールの頭を優しく撫でながらワーグは言った。
「この子、幸せそうに寝てるもの」
「よし、私もワーグに寄りかかって寝ちゃおうかなー。あー、本当に良い匂いする」
「せっかくだから私もーよろしくね、ワーグちゃん」
「ナギにリセットまで……」
その後ナギとリセットもワーグの近くで少しだけ昼寝をし、三人に囲まれることになったワーグは顔を真っ赤にして固まっていた。
その光景は場所が魔王城という場所でありながら平和であたたかいものだった。
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サチコとアルカネーゼの話(ミニSS)
「くしゅん! あー…まただ」
「どうした、サチコ。風邪でも引いたかい?」
「なんか最近、変なくしゃみが出るんですよねぇ……」
「誰かが噂でもしてんのかもな」
その頃、エールは今はパン屋さんをやっている近所お姉さんにして師匠と呼べる存在のことを冒険中色々な人に話していた。
現役のテンプルナイトリーダーの娘で魔人戦争でも活躍し、それ以前から法王ムーララルーを立派に守っていた元テンプルナイトの女性。
実際にサチコを知る人間は首をかしげるばかりだが、幼いころからエールの世話していたというその存在はさぞかしすごい人物なのだろうと各国で噂になっていた。
「お父さんかな? エールちゃん預かってた頃からずっと孫が欲しがって結婚しろーってうるさかったし」
「父親の部下っていうかテンプルナイツ仲間だったってやつに言い寄られたって話どうなった?」
「なんか結婚とかあんまり興味ない……そういうアルカネーゼさんはどうなんです?美人だしモデルだしモテモテなんじゃないんですか?女の人からもですけど」
「そりゃ、いまだにラブレター貰うけどさ。男の方はアニキの事考えるとどうも理想が高くなっちゃってね」
「えー、ランスさん以上ならいっぱいいると思うけど……」
サチコは首を傾げる。アルカネーゼとは長い付き合いだが、ランスへの思いはあまり理解できなかった。
「そういやあのエールが魔王を倒したって話は本当かい?」
「村に帰ってきた時に魔王やっつけたって嬉しそうに話してましたね」
二人はクルックーからそのことを聞いていたのだがそれがどれだけの偉業なのかピンと来ていなかった。
ここは魔王の脅威もほとんど影響がなかったトリダシタ村。
ただサチコは父親であるBSがそれを聞いて感涙してたので、エールがすごく頑張ったんだろうなぐらいは理解できていた。
「そうそう、その時うちのパンいっぱい買っていきましたよ。村に帰ってきたら絶対食べたかったって」
おまけをつけてあげたら満面の笑みを浮かべたエールを思い出し、サチコは少し得意げに笑った。
「そりゃサチコも嬉しいな。 しかしあのエールが立派になったもんだねぇ。よく肩車ねだられてたのがついこの間の事みたいだ」
「アルカネーゼさんに会ったらまたねだられると思いますけど。私もお勉強とかちょっとしたガードの技とか剣とか教えてあげたりしましたけど、役に立ったんでしょうか」
サチコにガードや剣の才能はないが、クルックーに頼まれてテンプルナイトとして培った基本中の基本をエールに教えていた。
「教えるの大変でしたねぇ…」
訓練中、何度もボールをぶつけられたりいたずらで盾のヒロシ君を壊されかけたりしたのをサチコは思い出していた。
おてんばと言えば聞こえがいいが、エールはどうも行動が読めないところがある。
横で見ていたクルックーにエールは度々叱られつつも勉強はともかく剣は楽しかったのか飲み込みが早くあっという間に教えられることはなくなってしまった。
それはしっかりとエールの戦闘スタイルの基盤になっている。
「将来、テンプルナイトになるって言ってたんだっけ」
「エールちゃんはクルックーさんのこと大好きですからね。クルックーさんがピクルス入りサンドイッチ好きだからってエールちゃんも頑張って覚えて」
「あはは、懐かしいな。 アタイみたいなスタイルになりたいとか言ってたっけ」
「それは今でも気にしてると思います」
「あー… エールも大きくなったらこうなるって軽く言ったのマズかったかな」
少しずつ大きくなっていたエールは自身のスタイルがあまり変化ないことを心配していた。
「ちょっと嬉しいよな。アタイらも」
「エールちゃん、また冒険に出て行っちゃいましたけどもう心配もいらないですよね」
立派に育ったエールを嬉しく、少し寂しくも感じる二人。
これはエールにとって憧れのお姉さんである二人の話。
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マジック母娘とガンジーの話(ミニSS)
「ママ、お墓のお手入れすんだよ」
「ご苦労様、スシヌ」
ゼス王家の秘密の墓所、都会の喧騒から外れた静かな場所にそれはある。
そこにはマジックの母、そして父であるラグナロックアーク・スーパー・ガンジーが眠っている。
マジック母娘はそっと手を合わせた。
「私も会ってみたかったわ。スシヌのお爺ちゃんに」
ふわふわと浮かんだ幽霊、ゼスの健国王パセリも共に手を合わせながら言った。
会うことは出来なかったが、正義に燃え前線に立ち王宮で働く全ての人や多くのゼス国民から慕われていたガンジーの話は色々と聞いている。
特に男に基本興味がないスシヌの父と二人で酒を酌み交わすほどの仲だったと聞いた時は大変驚いたものだ。
そんなスシヌの祖父であるガンジー王が亡くなったのは、魔人戦争でのこと。
ゼスを襲った魔人メディウサに、ガンジーとその護衛だった二人は惨殺された。そのあまりに惨たらしい光景はゼス国中に放映され、15年と言う時が流れてもなおゼス国民の心に爪跡を残している。
その時ガンジー共に殺された護衛の一人、カオル・クインシー・神楽もここで眠っている。
本来であれば王家の墓所に王家の人間ではないカオルが入ることは出来ない。
しかし最後まで共にあった彼女のガンジーへの深い想いを汲み、マジックが特別に計らって共に埋葬したのだった。
そしてもう一人、カオルと同じく最後までガンジーの護衛でありマジックの友人でもあったウィチタも共に埋葬しようとしたが、彼女の遺体はあらゆる手を尽くしても発見出来なかった。
今から10年前の勇者災害の際、彼女の姿を見たと言う情報もあったが生きているなどありえないことだった。
父やカオルの死体が転がる中、惨たらしく嬲られていた友人の姿をを思い出しマジックが小さく身震いした。
「ママ、大丈夫……?」
スシヌが心配そうにマジックをのぞき込む。まだ赤ん坊だったスシヌにその時の記憶がないのがマジックにとっては救いだった。
「大丈夫よ。 今日はスシヌが、孫が魔王を倒したんだって最高の報告をしにきたんだからね」
ここに来ると悪い記憶が蘇るばかりだったが今回は違う。
「親父も向こうで泣きながら喜んでるわ」
マジックはそう言いながら、今度は目に入れても痛くないとばかりにデレデレと赤ん坊のスシヌを可愛がっていたガンジーを思い出して笑みを浮かべた。
ランスと出会ったころ孫が欲しいと言っていた父ガンジーの願いは叶えてあげられた。
そして現在、ゼスでは魔法が使えない市民が政治面でも多く活躍出来るほど差別がなくなり、すぐ横にある魔物界は魔王から解放された元魔人のホーネット達が魔物をまとめるということもあって人間界に対する大規模な襲撃はなくなったと言っていいだろう。
心配事はまだまだあれど、とりあえずゼスの未来は明るい。
いつも疲れた顔をしているマジックが浮かべた心からの笑みに、スシヌもつられるように笑った。
「魔王討伐に行くなんて事になって、スシヌは気が弱いからすごく心配だったけど……見事にやり遂げた。あなたは私の自慢の娘だわ」
マジックがそう言ってスシヌの頭を優しく撫でる。
「わ、私がやったわけじゃないよ。お兄ちゃんにお姉ちゃんに…それに」
「スシヌの気になる人のおかげよね~」
パセリが目を輝かせながら言うと、マジックが驚いた表情になった。
「なっ! あなたまさかリーザスの……」
「ザンスちゃんじゃないよ!?」
スシヌは思わずそう言ってしまい、顔を真っ赤にした。
「ふふふ、他に気になる人が出来ちゃったのよね~」
きゃーきゃーとはしゃぐパセリを見てマジックは驚くが軽く咳ばらいをして冷静に言った。
「コホン。 いつかスシヌにもそういう日が来るって思ってたけど、相手はどんな人? その人にはあなたと一緒にゼスを継いで欲しいのだけど… ううん、せめて私と同じ轍は踏まないで欲しいぐらいかしらね」
マジックは軽く首を振った。
「でもママはパパのこと大好きなんでしょ?」
「うんうん、マジックはランスさん一筋だものね。やっぱり愛があるのが一番よ」
スシヌとパセリの言葉に今度はマジックが顔を赤くした。
「そ、それはそうだけど! 私が苦労したからスシヌには結婚とかして、ずっと側にいて支えてくれるような人が良いって言いたいんです」
「ランスさんはいっぱい愛のある人だったものね。でも私にはその気持ち分かるなぁ、ハーレムっていうか恋人がいっぱいいるのも良いものよ。逆にその中の一人になっても……」
「分からないでください! あとスシヌに変な事教えるのはやめて下さい!」
マジックはパセリに語気を強めたが、パセリの方はどこ吹く風できゃーきゃーと言っている。
それを聞いたスシヌは顔を真っ赤にしていた。
「と、とにかくスシヌも自信をつけてきたようだし、これからはいつか私の後を継げるように頑張って貰わないとね」
マジックは強引に話を切った。
「う、うん! 頑張る!」
スシヌは杖をぎゅっと握って気合を入れる。
「気になる人にも振り向いてもらえるように頑張らなくっちゃね」
「スシヌの気になる子か……せめて将軍の、クラウン家の子ぐらいしっかりした子であって欲しいわ」
「スシヌは年下OKだものね。恋人いっぱい作っても良いのよ?」
「おばあちゃん、何言ってるの!」
パセリの言葉にスシヌが焦り、またマジックが怒りつつ、三人は少し騒がしく墓所を後にする。
その時のマジックにはよもやスシヌの気になる人が女の子であることなど想像もついてなかった。
「んじゃ親父、また来年」
墓所を出る際、マジックが振り返って小さく手を振ると、嬉しそうに笑っている父の姿が見えたような気がした。
ゼス女王マジックが赤毛の友人、そしてかつての勇者と呼ばれた男とも再会するのはそう遠くない話である。
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ランスとエールの冒険 続き
翔竜山をもう一度登る話 前編
「翔竜山へ行くぞ!」
ランスが突然そんなことを言いだしたのでエールと長田君は驚いた。
翔竜山は標高12000メートルと言われた世界で一番高い山。
魔王だったランスがアメージング城を作っていた場所でもある。
懐かしくなったの?とエールは聞くがランスはそのまま話を続けた。
「前から探していたカーマちゃんが翔竜山へ登って行ったらしい。だから追いかける」
「カーマちゃん? もしかしてエールの前のカオスオーナーっすか?」
「そーそー、儂の前のオーナーのカーマちゃん。可愛い子よ~」
エールは前にゼスに訪れた際に訪ねた孤児院で聞いた話を思い出した。
カオスに選ばれて鬼畜王戦争に参加、最後の戦いでカオスを失ってしまいその後色々あって今はどこにいるかわからない、という。
確か剣を扱う才能はなかったと聞いた、とエールはカオスに尋ねてみた。
「そうなの。何とか儂を使おうと頑張って努力はしててそれがまた健気でなー。儂と深くつながれば扱いが上手くなるぞーって言えばいくらでもエロいことさせてくれた」
おそらくそんなのは嘘なのだろう、いやらしい顔をしているカオスにエールは眉根を寄せた。
「カオス、あなたまさかそんな事をするために……」
日光は自分を使っていたアームズと違ってレベルも才能も決して最前線に出るようなものではないカーマのことを心配していた。
カーマは協力的だったが、もしカオスが好みだからというだけであの鬼畜王戦争に巻き込んだのであればそれは許せないことである。
「前にも話したがそれは違う。カーマちゃんが儂の事ひょいっと持ちあげて驚いたのはこっちじゃよ。長い間持ってても儂に呑まれることもなかったし相性バッチリじゃった。 ……お前さんとあの武器マニアの女戦士と違ってな」
カオスは日光を真剣な目を向ける。
「あれだけの魔人相手、相性の悪いお前さん達だけじゃどうにもならんかったろうが」
日光は押し黙った。
日光とアームズの相性はお世辞にも良くはなかった。
カーマがカオスを使えなければ鬼畜王戦争で魔王を正気に戻すまでいけなかっただろう。
「それにカーマちゃんは剣の方はからっきしじゃったがとにかく身軽な子でな。どうやら人間だった頃の儂に似た才能があったようでそっちの動きやなんやらは教えられることが多かった。おかげで魔人の無敵結界を破るぐらいは出来たんじゃよ」
エールはふむふむと頷きながら話を聞いていたが、カオスに呑まれるとは何の事だろう、と尋ねる。
「相性が悪いのに儂の事ずーーっと持っとると正気を失ってしまうんじゃ。前に儂、盗まれたことがあって盗んだ子がおかしくなった。心の友がボコって元に戻したがの」
「そんなことあったか?」
ランスはカオスを盗んだマチルダの事が全く思い出せなかった。
「あれ、もしかしてカオスさんってけっこうやべー感じなの? あんまそういうイメージないけど」
魔人の無敵結界を解除できること以外はただのセクハラエロ魔剣だと思っていた、とエールが長田君の言葉に頷く。
「ひっど! 儂、すごい魔剣なんだってば」
「でもエールは長い間持ってても大丈夫だったよな。いやホントにへーき?」
途中でダークランスに預けたというのもあるが、エールはカオスを持っても問題なくぴんぴんしている。
「嬢ちゃんはそもそも儂、持ち主と認めてすらおらんわい。……とにかくカーマちゃんには儂を上手く扱うには儂にえっちな事されるのが必要ーとか言っておったんじゃ。結局、リセットの嬢ちゃんにバラされちまったが世話になったから怒ってないんだと。本当に良い子じゃったなぁ~」
しみじみとカーマを思い出すカオス。
「へー、性格も良いんすね! 確かカオスさんが前にすっごい巨乳でうはうはって言ってたし、うおー、マジ会ってみてー!」
「そりゃもうむちむちのぷりんぷりんで反応も良くて素直で優しくて……」
カオスがいやらしい顔をした後、エールの方に視線をちらっと向けてはぁーーーっと大きなため息をついた。
エールはランスからカオスを奪い取ってガンガンと床に叩きつけて、ついでに長田君を割った。
「儂、何にも言ってないのにー!」
カーマ・アトランジャー。
鬼畜王戦争に参加し、魔人撃退の立役者になった前カオスオーナーの英雄。
さらにランスにカオス、日光までお墨付きのむちむちでぷりんぷりんのお姉さんとあってはエールも興味津々だった。
エールは冒険の最中、色んな人や魔人、妖怪まで巨乳に触らせてもらいご利益を貰って来た。
もちろんご利益の為にどうにかこうにか触らせて貰おうと考えている。
「カーマちゃんも俺様の作るハーレムに入れてやろうと思ってたのだが中々捕まらなかったのだ」
そういえば前にもそんなことを聞いていた。
カーマもお父さんの女の一人なんだね、とエールが聞く。
「当然だ。だが……実は初めてやった時にな。ちょーーーーーっと乱暴にしてしまってな。次会ったら優しくセックスしてやろうと思っていたのだ」
鬼畜王戦争。
それはランスにとって忘れたい過去である。
忘れたいというのは危険な魔人を作り、世界を混乱させ、人類を危機に陥れた後悔の念などではない。
最凶生物SBR。
人類の切り札となったそれは魔王になってもなおランスの魂の奥に刻みこまれていた最も恐ろしくおぞましい存在だった。
目の前に突然あらわれた"それ"は陰影を思い出すだけで吐き気とめまいがし、顔を少しでも思い出そうとすれば心臓が止まりそうになる。
突然、息を荒くして顔を青くさせはじめたランスにエールは急いでヒーリングをかけた。
最上位のヒーリングでも震えが治まらないただならぬ様子の父にエールは大丈夫?と心配そうに顔をのぞき込む。
「ぜぇぜぇ……とにかく俺様はカーマちゃんともう一度やらんといかんのだ」
リセットのビンタによって心臓の動きと正気を戻された後、ランスはカーマと再会した。
魔王になってもなお自分を信じている憧れの存在だと、健気にも自分の為に処女を取っておいたと言っていた美しく成長していたカーマ。
当然ムードも高まって良い雰囲気となってそのまま抱くことになったが、直前のSBRの影がどうしても頭をよぎってしまい、それを振りほどこうとしたためにかなり乱暴にやってしまった。
憧れは幻想だった、とカーマにはかなり失望した目で見られてしまったのをランスはものすごく後悔している。
「エロマスターである俺様が下手くそで乱暴だなどと勘違いさせたままなのはいかん。俺様のスーパーテクであへあへいわせるためにも、もう一度会ってセックスせねば」
「カーマちゃんは儂のテクニックにめろめろだったからの。心の友じゃ満足できんぞー、きっと」
「あの時は俺様にベタぼれだったのだ。ちゃんと抱けばすぐにめろめろになるわ」
仲良くエロ話をしている父と剣を仲良さそうだな、と思いながらエールは二人を見つめていた。
似た者同士である。
しかし翔竜山といえば人が簡単に登れる山ではない。
カーマは何をしに行ったのだろう、エールは首を傾げる。
「それはもちろん俺様の事が忘れられなかったのだ。あそこはカーマちゃんと感動の再会をした場所。俺様を思い出して泣いているに違いない。そこでもう一度運命の再会を演出すればむこうから抱いて欲しいと言ってくるだろう」
感動だか運命だか知らないがいつでも自信たっぷりなのは父の良い所だ、とエールは前向きに考えることにした。
「……鬼畜王戦争ってさ。人類滅亡の危機っつーヤバい戦争じゃなかった?」
ランスの中では人類の危機より、一人の女。
こそこそと話しかけてくる長田君に今更だよ、とエールはくすくすと笑った。
………
……
エール達は翔竜山を登っている。
「ひーひー… もうくたくた…… ちょっと休憩させて~……」
「したいなら陶器一人で残れ」
「いやいや、今一人でこんなところに置き去りにされたら死ぬってー!」
エールは山を登っている間、ずっと懐かしさを感じていた。
むしろあの時より登りやすくなった気がする。
「マージーでー? 確かあん時はロッキーさんが荷物とか持ってくれたじゃん?」
ロッキーから魔王がいる土地は人間が住めなくなっていく、というような話を聞いていたのを思い出した。
魔王が居なくなったから、少しはそれが薄れたのかもしれない。
エールははじめて父に会いにここに来た時、ドラゴンと戦ってるアームズさんに会ったと思い出話をしてみる。
「アームズか。あいつはどうだ、まだいけそうだったか?」
逞しくも綺麗なお姉さんで闘神都市や修行なんかでとても世話になった、とエールが少し嬉しそうに話す。
「よしよし。機会があったら娘が世話になった礼をしなければな」
鼻の下を伸ばす父を見て別に礼じゃなくても襲い掛かりそうだ、と思いながら、
自分もお父さんとの間に子ども産んでおけば良かったと言ってた、とエールは話す。
「これ以上ガキはいらんな……避妊魔法してれば大丈夫だろ。そうだ、エール。俺様に避妊魔法はちゃんとかけてるだろうな」
エールは頷いた。
エールは長田君と出かけた前の冒険で少し危なかったことがあり、クルックーから避妊魔法を習っている。
シィルがいない今、避妊魔法をランスにかけるのはエールの仕事だった。
遠くない未来にシィルとランスの間には自分の弟か妹が生まれる。
家族が増えるのは喜ばしい事だ。
自分の母であるクルックーの間にももう一人生まれて欲しいとも思っているし、修行で世話になったアームズや謙信、さらに父をずっと慕い続けている香姫やコパンドンといった女性の間にも弟か妹が生まれたらさらに楽しくなりそうだ。
エールが兄弟姉妹がもっと増えると良い、と思っている事をランスは知らない。
「そういや、魔人サテラさんとかやべー強くてさー。覚えてる?」
あの時、魔人サテラに何度も殺すと言われて実際殺されかけている。
リセットが攫われたりと良い思い出の無い魔人……その後に長田君とでかけた冒険で偶然出会った際にちょっとした復讐をエールはしていた。
「んでんでー、初めて会った時のランスさんめちゃくちゃ怖かったよなー、なんか見ただけで割れそうでさ」
現れた父は死の恐怖そのもののような恐ろしさで、体が硬直し動けなくなるほどの威圧感だった。
「ちーーっとも覚えとらんな」
思い出したくないのか、本当に覚えていないのか、ランスは気にせず歩いて行く。
エールは追いかけながら、今のお父さんの方が良いよ、と楽しそうに声をかけた。
「……ふふん、当然だ。俺様は世界一いい男だからな」
娘の言葉を聞いて少しだけ振り向いたランスは少し上機嫌だった。
ランス達はさらに山を登っていく。
疲れてこけそうになる長田君を支えつつ、そういえば近道とかないの?とエールがランスに聞く。
あの山に色々と物を持ち込むのは大変そうだ。
「城内に転移魔法陣があったな」
ならそれを使えばいいのに、とエールが言おうとする前に
「…吹っ飛んだが」
ランスは短く言って山をずんずんと進んでいく。
エールは大怪獣クエルプランに突っ込まれ、城が半壊していることを思い出した。
「……それでさ、この辺になんか動く死体みたいなのいたよな。ほら、洞窟にさー」
長田君がなんとかランスの歩調を緩めようと話題を振る。
勇者ゲイマルク。
エールが思い出せるのは鎧をまとっているボロボロの動く死体である。
「何度か殺してやったはずだがまだ生きてやがったのか? ……そういやサテラが殺せないとかなんとか言ってたような」
エールは死なせてくれと言っていたゲイマルクを思い出す。
……そのボロボロの姿を見て、とても哀れに思った。
エールがそう思った瞬間、ゲイマルクは光となって消えていった。
無意識的に神魔法で成仏させてしまったのかもしれない、と今更ながら考えている。
「なんてことをしたんだ。あいつは各地で女を誑かしては人間を殺しまわって、世界各地で俺様の女たちをいじめて回ってたクズ。苦しんでたならそのままで良かったんだぞ」
ランスがエールに吐き捨てるように言った。
その言葉には大きな嫌悪が込められている。
「AL教も襲われたと聞いているしな。クルックーもあれに殺されかけたんじゃないのか」
前にカイズに寄った際、クルックーから勇者ゲイマルクが起こした勇者災害という事件の話を聞いていた。
そのせいでエールはあの時ゲイマルクを哀れんだことを後悔している。
もっとも、母であるクルックーはエールが優しく育ったことを嬉しそうにして褒めてくれたのだが。
「前の奴もだが勇者なんてろくなのがいない。英雄である俺様が居ればそもそも勇者なんて必要ないがな」
かの勇者災害を止めたのは魔王だったランスである、と言う事もクルックーから聞いていた。
その時のクルックーは優しい表情を浮かべており、でエールはその時の事を思い出して笑みを浮かべる。
あの時、もう一度父と会いたいと思ったのだ。
「なんだ、ニヤニヤとして。いや、お前はいつもニヤついいてるが」
ランスはにこやかなエールの顔を見た。
そういえば最初にゲイマルクと会った時に側にいた女か男か分からない小さな子供――異様な圧力だった勇者の従者の事をエールは思い出す。
あと一年でどうのこうの言っていたが、最後に浮かべていた邪悪な笑みを思い出すと……エールはなぜか胸がムカムカとした。
「ぼーっとするな! さっさと行くぞ!」
エールはランスに呼ばれて急いで後をついていく。
相変わらずエールや長田君に合わせてゆっくり進むということをランスはしない。
目の前には既に黒く大きな城が見えていた。
………
「がはははは! さすが俺様の作ったアメージング城、作りかけで終わってしまったのが勿体ない荘厳な出来栄え! ……半分吹っ飛んでるが」
黒を基調にした巨大で荘厳な城であるが、大怪獣クエルプランに突っ込まれ半壊したままの状態である。
エールとしては黒くてなんかゴテゴテした城であり、洗練されて美しいリーザス城やエキゾチックだが荘厳なゼスの王宮に比べて趣味が悪いと感じていた。
ついでに名前もダサい。
ふと脳裏にランス城が思い浮かぶ。今はヒーローの父母が交易都市として使っているがあれもへんてこな見た目だったことを思い出し、エールは思わず苦笑いする。
「いやー、ここくると思い出すよな。色々とさ、ほんっと大冒険だったもんなぁ……」
到着に安心したのか、魔王討伐の冒険を思い出したのか、涙ぐむ長田君。
お父さんに殺されかけたこととかものすごい蹴られたこととか、とエールはランス聞こえるように言った。
あの時は本当に死にかけたのだが、今横にいる父・ランスを見るとあれももう思い出話である。
「別に死んでないのだから小さい事を気にするんじゃない」
ランスの方は少し気まずそうに言って城に入ろうとしたのだが……
城に近付くと入る前から妙な気配があることに気がついて、エールが止めた。
「カーマちゃんか?」
エールは首を振って一人や二人ではなく大量にいる、と答える。
そう、妙にたくさんいる。
とりあえずすぐに入らず隠れて様子を見よう、とエールはランスと長田君を引っ張って物陰に隠れながら城を伺うことにした。
少し離れた場所から門を見てみると数体の魔物が城に出入りしているのが見え、さらに門番らしき魔物までいるのが見える。
「てか、なんか魔物がいっぱいいる? みんな魔物の森に帰ったんじゃないの?」
魔物は遺跡や廃城、古屋敷など人の気配のなくなった場所に勝手に住み始めることがある。
しかしそれにしては見張りが立って居たり、見回っている魔物がいたり妙に組織的だ。
「盗賊みたいにリーダーがいるんかね。なんかお互い話とかしてるし、魔物って集まることあるしさ」
分類上は魔物のハニーである長田君の言う通り、魔物同士で何かを話し合っているのが見える。
礼をしたりされたりしている様子を見るとばらばらに住み着いているのではなく上下を決めてきっちりと統率されているような雰囲気をエールも感じた。
そこでエールはかつて誰かから聞いた魔物界の話を思い出した。
父が魔王になってから魔物界は派閥争いが各地で起きていて、勢力が色々と別れているという話だ。
「そうなのか?」
ランスは興味なさそうに言った。
それで魔人カミーラが大規模な反乱を起こしたことがあると聞いた、とエールが首を傾げる。
「おー、そうだそうだ! それでとっ捕まえてたっぷりおしおきしてやったんだったな! カミーラが入ったことでやっと念願だった女魔人のハーレムも完成。記念に何日もぶっ続けでヤったからな!」
ランスは思い出したのか楽しそうに笑った。
「あの時はカミーラとホーネットを重ねてな。口では嫌がっていたが身体はすぐに濡れ濡れ――」
「娘相手でも容赦なくエロ自慢はじめるよな、この人」
「エールさんの教育に悪いです……」
日光が思わずぼやく。
「儂も魔人はいかんなー、魔人は斬った方が気持ちが良い」
ランスの話も、カオスの物騒なセリフも興味はあるがそれは後で聞くことにする。
カミーラ派閥以外にもホーネット達元魔人に従うことのなかった魔物がここを根城にしているんじゃないか、とエールは推測した。
魔王はいなくなったが、魔物界を統べる次の王になりたがってるやつらは居そうな話だ。
「お、おー! なるほど! さすが俺の相棒! 冴えてるー!」
「私もそう思います。数の多さから考えて自然に集まったとは考えにくいでしょう」
長田君も何度も頷き、日光もそれに賛同する。
エールは少し得意げに鼻を鳴らした。
「それが分かったからなんだというんだ」
ランスの言葉にエールは言葉に詰まったが、そんな魔物の一団がいるなら潰した方がいいんじゃないか、と提案する。
「……面倒くさい。俺様の城を勝手に使ってるのはムカつくが今はカーマちゃんが先。あんな魔物なんぞ相手にしている暇は――」
ランスが本当に面倒くさそうな顔をしたところで魔物の大声が聞こえてきた。
「また人間を捕まえました!」
「そうか、ここ数日妙に人間が多いな」
「いつもの通り牢屋に詰め込んでおけ。オルブライト様に報告するのを忘れるんじゃないぞ」
魔物が何かを抱えて城に入っていく。
「むむむむむ、まさかカーマちゃんか?」
女性一人より大きそうな気がした、とエールが言う前にランスが剣を抜こうとする。
「ま、待った待った! 突撃すんの!?」
下手に突っ込むと敵がわんさか来るね、と言いながらもエールも日光を抜いた。
「なんでエールまでやる気になっちゃってんの!?」
良い経験値になるよ、とエールはやる気に満ちていた。
「ここまで登ってきたのに疲れてないのかよ……じゃなくって! カーマさんが捕まってるかもしれないしもうちょっと慎重にいくべきっしょ!」
「確かにカーマちゃんが人質になる可能性があるか」
ランスは妙にやる気を出しているエールを見ながら剣を下した。
「それに下手に行くと敵がわんさか集まってくるだろうな。別に倒しても良いが数次第じゃ面倒だ。エール、お前は慎重さが足りん」
エールは自分が言ったはずの小言を言われて不満そうにランスを見つめる。
「よし、ここはあの秘密の通路を使うか」
そう言ったランスにエールは日光を鞘に戻しつつ、何か隠し通路みたいなのがあるの?と先ほどとは打って変わって目をキラキラさせた。
「主である俺様しか知らないやつがな。ついてこい」
ランスの案内でエール達は城の正面から裏手に回った。
一見すると何もない城の壁に見えるが、ランスが手をかざすと壁の一部が音を立てて動き内部への通路が現れる。
「ここから中に入るぞ」
魔法がかけられているようで、かなり厳重に隠されていたようだ。
「城への隠し通路とかなんかロマンあるー!」
先に進みだしたランスを追いかけながら、エールと長田君は興奮気味にこの仕掛けは何?とランスに尋ねる。
「この辺りには俺様の女たちの部屋がある。この通路はその部屋にそれぞれ繋がっているんだ」
エールは首を傾げた。
「つまり夜這い用通路だな。女湯の覗き穴もあるぞ」
そう言われてエールが穴を除くと、長い事使われていないだろう寂れた温泉のような施設が見える。
向こうからは分からないだろう絶妙な位置取りだった。
「いやいや、ちょっとちょっと! ランスさんって魔王だったのになんでそんなのが必要なの!? 魔人は魔王に絶対服従っしょ!?」
確かに魔王が命令すれば夜這いや覗きなんか必要ないはず、とエールも首を傾げる。
「女風呂もだがそもそも俺様が立ち入り禁止の場所なんてどこにもないぞ。あいつらは命令に従順なのは良いが、普通に呼ぶとしっかり準備してきて面白くない。その点、突然寝込みを襲いに行くと慌てまくって反応が違う。呼んで来させるのと、こっちから行くのとでは趣きが違うのだ。モテない陶器やお子様のエールには分からんだろうがな」
やたら得意そうに言うランスに長田君は言い返そうとしたが、それを口に出せる度胸はない。
「……だが何度かやってたら扉や廊下に妙な細工をするやつが出てな。仕方ないからこっそり通路を作らせた。バレないよう色んな魔法がかけられてるんだぞ」
ランスは得意げに笑っているがせっかくの隠し通路がそんなくだらない事の為に作られてた事を知ってエールは少しがっかりした。
「女用の牢屋やエロ拷問室には誰もいないようだな。ってことはカーマちゃんは別の牢屋か」
ランスがのぞき込んだそこには怪しげな道具が並んでいる暗い部屋である。
エールが興味津々にその部屋に入りこれとかどっかで見たような形をしている、と手近にあった張り型を指でつつく。
「こら、女の子がそんなもんを触るんじゃない」
ランスがエールの首根っこを掴んで部屋から追い出した。
ともあれランス達はアメージング城に潜入した。
※設定
・ゲイマルク成仏済み、エールが魔王に最後まで立ち向かうルート
・最凶生物SBR … 伝説のブスLv3、シルバレル。
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