超次元サッカーへの挑戦 (黒ハム)
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キャラ紹介

キャラ紹介という名の色々なまとめ。見にくかったらごめん。
ぶっちゃけ作者個人用という面が強いですね。過去編やオーガは除いてます(今のところ)。
それでもいいという方はどうぞー
最新話(『次のステージ』)までのネタバレを含みます。

2022/10/31 他キャラの習得必殺技を下に追加。
2023/12/02 オリキャラ習得必殺技の欄を追加。


~主人公~

名前 十六夜(いざよい)綾人(あやと)

性別 男

所属 雷門中

学年 中学二年生(円堂たちと同じ学年)

ポジション 本職はDF。だがGKも含む全ポジションをこなせる。

背番号 16(FF)→12(エイリア)→16(雷門)→16(イナズマジャパン)

属性 風(?)

二つ名『変幻自在のペンギン使い』

 

容姿 十六夜綾人(不完全様よりいただきました。ありがとうございます)

   黒髪茶色の瞳。体型は普通で、背は円堂と同じくらいです。

 

性格 基本的には冷静。だが、感情に左右されることもしばしば。

   第一部(FF編)はツッコミ命と言っても過言ではないほどツッコミしまくる。時々処理落ちする。

   第二部(エイリア編)になると並大抵のことでは驚かなくなってきているが、やはり驚くことも多い。

   第三部(FFI編)、流石に必殺技を見てきていい加減なれてきた。

 

備考 元の世界で若くして(18歳で)死んでしまい、神様が転生させた。

   イナズマイレブンを名前しか知らない。そのため、先の展開が一切分からない系の主人公。

   本人曰くDF。それなのにシュート技が多い。

   ???という才能を持っている。

 

特殊能力(?)

・ペンギンを呼び出せる。

・ペンギンと意思疎通が出来る。

・時を止められる。

・ペンギンの関わる禁断の技をノーダメージで使える。

 

 

~オリキャラ~

名前 メハト・アイア

性別 男

所属 コトアール代表『リトルギガント』

年齢 十六夜と同い年

ポジション ???

初登場話 『デートと遭遇』

備考 ペラーの姉アリアを使役しているペンギン使い。ペンギンの声が聞ける数少ない人間。

 

名前 ???(A(エー)

性別 女

所属 ???

年齢 今の十六夜と同い年

ポジション ???

初登場話 『最悪の罠』

備考 透明なペンギンを呼び出せる怪しい少女。一応、協力的だが……?

 

名前 ???(L(エル)

性別 男

所属 ???

年齢 今の十六夜と同い年

ポジション ???

初登場話 『最悪の罠』

備考 ペンギンと会話できる怪しい少年。Aと共に十六夜を助けた経験あり。一応、協力的だが……?

 

 

~オリペン~

ペラ-一族長男 ボス 

異名:王 

現在の使役者:十六夜綾人

ペンギン界の王子にして、巨体と高いカリスマ性を有している。

5兄弟の纏め役である。

 

ペラ-一族長女 ジェーン 

異名:神速 

現在の使役者:なし

2番目に生まれた、速さに特化しているペンギン。

現在、ニート生活中である。

 

ペラ-一族次男 バール 

異名:何でも屋 

現在の使役者:なし

3番目に生まれた、器用性に優れたペンギン。

現在、どこに居るか不明。

 

ペラ-一族次女 アリア

異名:破壊者

現在の使役者:メハト・アイア

4番目に生まれた、パワー特化型ペンギン。

兄弟愛が強いが少し不器用である。

 

ペラ-一族三男 ペラー 

異名:智将

現在の使役者:十六夜綾人

5番目に生まれた、頭脳明晰なペンギン。

十六夜と共に居る末っ子ペンギンである。

 

 

~主人公使用必殺技集~

本編(オーガ編除く)での登場順で『』内に初登場話を記載。(既存)が付いている技は原作にあり、他の技はオリジナルである。

現時点での必殺技……

シュート技21(内連携技11)

ドリブル技2

ブロック技4

キーパー技6(キャッチング:3、パンチング:3)

総数33(内既存13)

 

 

~FF編~

 

・ライド・ザ・ペンギン 『解呪!え?あんな方法でいいの?』

ドリブル技・林属性

一人技

3の技、エアライドのボールがペンギンに変わった感じの技。

本人はどういう原理でペンギンが空を飛ぶのか全く分かってない。

ドリブル以外でも使用している。汎用性がかなりある。

 

 

・たまのりピエロ 『尾刈斗戦反省』(既存)

ドリブル技

一人技

バランス感覚を身につける特訓中に本人の知らないところで身についた。

本人は必殺技と認識してない。

 

 

・皇帝ペンギン(ore) 『VS帝国 ~ペンギンVSペンギン!?~』

シュート技・林属性・成長タイプ真・ロングシュート

一人技

ペンギン5匹による1人で打つシュート技。威力は2号にやや落ちる。ただ、進化するとペンギンの数が増える。

皇帝ペンギン2号を見て、完成させた。

後ろ回し蹴りのモーションは2の技のノーザンインパクトのモーションが近いイメージ。

ちなみに、シュートチェイン前提の技。

 

 

・ロケットペンギン 『VS戦国伊賀島 ~キーパーの使命~』

キーパー技・パンチング・林属性

一人技

主人公がやれることをやった結果誕生した技。

ロケットこぶしを参考にしている。

 

 

・トライアングルZ 『VS木戸川清修 ~決めろ!トライアングルZ!~』(既存)

シュート技

三人技 パートナー 木戸川の三兄弟のいずれか2人

ピンクが打つ前に十六夜が打ったことで、完成した。いいとこどりにも程があるが致し方なし。

主人公初の連携技。

 

 

・トリプルディフェンス 『VS木戸川清修 ~決めろ!トライアングルZ!~』(既存)

キーパー技・キャッチング

三人技 パートナー 円堂・壁山、壁山・栗松

円堂の両手でのゴッドハンドを壁山とともに支えた。本人たちは必殺技の自覚なし。

また、ファイアードラゴン戦では十六夜のペンギン・ザ・ハンドを壁山と栗松に支えてもらった。本人たちに必殺技の自覚なし。

 

 

・イナズマブレイク 『決勝戦に向け ~合宿~』(既存)

シュート技

三人技 パートナー 円堂、豪炎寺、鬼道のいずれか2人

合宿中に何か出来た。まだ鬼道ポジションは出来ない。

 

 

・イビルズタイム 『VS世宇子 ~決着の時!~』

ブロック技・風属性・シュートブロック不可

一人技

時の流れるスピードを限りなくゼロに近づけ、相手からボールを奪う主人公最大級のチート技。

ヘブンズタイムと対を成す技である。

十六夜初のブロック技だが、本人はあまり使用する気がない。

 

 

・皇帝ペンギン(fire) 『VS世宇子 ~決着の時!~』

シュート技・火属性

二人技 パートナー 炎技使い(豪炎寺、バーン、……)

皇帝ペンギンOとファイアトルネードの合体技。

ペンギンの形の炎が突撃する。

威力はツインブーストFと同等くらい。

 

 

~エイリア編~

 

 

・ムーンフォース 『ムーンVS円堂 ~圧倒~』 

シュート技・風属性・成長タイプV

一人技

遂にペンギンを自力で呼べた結果誕生した技。

背景が夜になり、月からペンギンがやってきて、シュートと共にゴールへ進んでいく。

夜とか月とかのイメージは野坂の必殺技月光丸・燕返し。

 

 

・ミサイルペンギン 『沖縄での特訓』

ブロック技・林属性・成長タイプV・シュートブロック可

一人技

上下左右前後から無数のペンギンが飛来してくる。

相棒のペラーが使える。

これにやられた相手は夢にペンギンが出てくるとか出てこないとか。

ペンギンの操作を誤るとファールをもらう可能性や味方を巻き込む可能性があるので注意。

 

 

・オーバーヘッドペンギン 『雷門VSカオス ~止まらない~』(既存)

シュート技・成長タイプV

一人技

アレス、オリオンのアレ。

この時空では十六夜が開発者(?)だったりする。

 

 

・皇帝ペンギンT(トゥルー) 『雷門VSカオス ~決着~』

シュート技・風属性・ロングシュート

二人技 パートナー 氷技使い(吹雪、ガゼル、……)

背景がオーロラっぽくなって、ペンギンの色は白くなる。冷気をまとった皇帝ペンギンO。威力は他のペンギン系合体技に劣るがスピードは随一。

志ノ乃様から頂いた技です。

 

 

・皇帝ペンギン(god) 『雷門VSネオ・カオス ~敵か味方か~』

シュート技・風属性

二人技 パートナー ゴッドノウズ使い(アフロディ)

皇帝ペンギンOとゴッドノウズの合体技。

なお、ゴッドノウズに合わせるとペンギンは白い天使のペンギンになるらしい。

 

 

・スナイプ・ザ・ペンギン 『雷門VSネオ・カオス ~打ち破るために~』

シュート技・林属性・ロングシュート

一人技

ペンギンがスコープを取り出して狙いを定めてそこに目掛けてシュートする技。

花蕾様より頂いた技です。

 

 

・ツインブーストF 『雷門VSネオ・カオス ~打ち破るために~』(既存)

シュート技

二人技 パートナー 豪炎寺

特に本編では触れてないがその場の勢いでできるようになった。

 

 

・アイギスペンギン 『雷門VSザ・ジェネシス ~氷の感情、炎の思い~』

ブロック技・林属性・シュートブロック可

一人技

6体のペンギンを呼び出し障壁を貼り、それを左手で押さえる技。

花蕾様より頂いた技です。

 

 

・ペンギン・ザ・ゴッド&デビル 『雷門VSザ・ジェネシス ~氷の感情、炎の思い~』(既存)

シュート技

二人技 パートナー アフロディ

オリオンで出て来たペンギン技。灰崎の代わりに十六夜、ヒロトの代わりにアフロディが放つ。

 

 

・波乗りペンギン 『雷門VSダークエンペラーズ ~奇策~』

シュート技・風属性・ロングシュート 

二人技 パートナー ツナミブースト使い(綱海)

皇帝ペンギンOからツナミブーストにシュートチェインした結果、偶発的に誕生した連携技。

皇帝ペンギンOの後、綱海が直接ボールに乗る事で発生した大波にペンギンたちが腹ばいになって一緒に乗り、最後はスパークルウェイブの様にそのままペンギンたちと一緒に打ち出す。

なお、ペンギンたちは一度波に飲まれた後でイワトビペンギンの様に頭部の毛を逆立てた状態で浮上してくる。

h995様より頂いた技です。

 

 

~FFI編~

 

 

・ヴァルターペンギン 『VSビッグウェイブス ~箱のカギ~』

シュート技・ロングシュート

一人技

蹴りの構えをとったら背後から巨大な対物ライフルが出て、蹴りと共にペンギンが発射される。威力はムーンフォースよりは劣るが、スピードは3倍。現時点での十六夜くんの必殺技の中では最速です。

N-WXlGⅨW-N様より頂いた技です。

 

 

・アストロペンギン 『VSデザートライオン ~哀れな旅人~』

シュート技・林属性・成長タイプ V 

二人技 パートナー アストロブレイク使い(緑川(レーゼ))

緑川(1人目)が一足先にジャンプした十六夜(2人目)に向かってアストロブレイクを放つ。ボールが十六夜の頭上まで到着したところで指笛で6羽のペンギンを呼び、ボールに咥え込ませて高速回転させる。そこでボールを覆う紫のオーラがペンギン達に移った所でオーバーヘッドキックを放つ。その後、一度六方に散ったペンギン達がボールの後ろに一斉突撃する事でボールを加速すると同時にオーラをボールへと移し返し、一回り大きくなった紫色のオーラを放つボールと六羽のペンギンが横並びにゴールへ向かって飛んでいく。

h995様よりいただきました。

 

 

・ダブルロケットペンギン 『VSファイアードラゴン ~キャプテン失格~』

キーパー技・パンチング・林属性

一人技

ロケットペンギンの進化バージョン。片手で足りないということで、両手の拳を突き出し、次々とペンギンを放つ。ロケットこぶしからダブルロケットに進化したみたいな感じである。単純計算で2倍の威力ではあるが、既に通用しなさそうなのは内緒。

 

 

・ペンギン・ザ・ハンド 『VSファイアードラゴン ~パーフェクトゾーンプレス~』(既存)

キーパー技・キャッチング

一人技

GO2のメカ円堂の技である。この世界では十六夜くんが最初の使用者。

ペンギンを扱える器がバグレベルなため、常人なら身を滅ぼしかねない皇帝ペンギン1号のペンギンも一切の反動なく使えてしまうチートな性能をしているため、この技を無反動、ノーダメージで使える。

 

 

・ペンギン・ザ・パンチ 『VSファイアードラゴン ~副キャプテン~』

キーパー技・パンチング・無属性

一人技

ペンギン・ザ・ハンドのパンチバージョン。パーが通用しないならグーで行くしかないという発想で生まれたが、アフロディの必殺技によって普通に破られた。

なお、ペンギン・ザ・ハンド同様普通の人間なら手や身体を壊しかねない必殺技である。

 

 

・ムゲン・ザ・ペンギンズ 『VSファイアードラゴン ~迎えた限界~』

キーパー技・キャッチング・林属性

一人技

両腕を突き出した状態でペンギンを呼び出し腕を台にして飛びボールに突撃する。突撃しながら別のペンギンを呼び無限に近い程のペンキンを呼べる。

どう森の住民ハムカツ様より案をいただきました。ありがとうございます。

本作の設定に沿わせるため、ペラーが分身しており、イメージと少し変わりましたがご容赦ください。

 

 

・皇帝ペンギン1号 『VSファイアードラゴン ~反逆児と自由人~』(既存)

シュート技

一人技

手が使えなくなった十六夜がゴールを守るためにその場の勢いで使った技。禁断の必殺技とされている(本人は知らない)が、当然使用回数に制限はない。ちなみに名前は後で鬼道から教えてもらった。

 

 

・イナズマ落とし 『VSファイアードラゴン ~反逆児と自由人~』(既存)

シュート技

二人技 パートナー 壁山

シュート技として使ってない。パスとして使ったが、一応シュートとしても使える。

 

 

・オーバーサイクロンP(ペンギン) 『VSファイアードラゴン ~反逆児と自由人~』

シュート技

一人技

前々から練習していた必殺技が遂に完成。オリオンで出てきたオーバーサイクロンの十六夜verである。

 

 

・ファイアトルネード 『VSファイアードラゴン ~鷹の覚醒、炎の熱さ~』(既存)

シュート技

一人技

単独の必殺シュートでペンギンが関わらないものでは初である。豪炎寺と違い、右足でシュートを打つ模様。

 

 

・ボスペンギン 『VSナイツオブクイーン ~騎士様と化け物~』

ブロック技・山属性・成長タイプG・シュートブロック可

一人技

背後に巨大なペンギンを呼び出し相手を威圧してボールを奪う。イメージはザ・ウォールのペンギン版だが、ペンギンは動ける分応用がしやすい。そして技が進化するたびにボスの周りに子分が増えていく。

パパパパセリ様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・皇帝ペンギンX 『VSチームK ~模倣と代償~』(既存)

シュート技

デモーニオの必殺技。不動の策により、十六夜が見て盗んだ必殺技。なお、デモーニオと同等以上の威力で撃てる。これには影山も驚くしかない。

 

 

・デスゾーンペンギン 『VSチームK ~それぞれの進化~』

シュート技・林属性・成長タイプ真

一人技

帝国学園の代名詞と言うべきデスゾーンをペンギン達と一緒に再現した必殺技。いわば分身デスゾーンのペンギン版だが、仕上げについてはアレンジが入っている。

指笛でペラーを含めた三羽のペンギンを召喚し、ボールを上空に蹴り上げてから三羽にデスゾーン2を発動させる。なおデスゾーン系に特有な三角形の力場とボールを覆うオーラの大きさはペラー達の体格に応じて小さくなっている。仕上げはペラー達がボールから離れた後にボールより更に上に飛び上がった十六夜の錐揉み回転付きのドロップキックで行う。十六夜がボールを蹴り出した後、ペラー達は錐揉み回転しながらボールの側で飛行、三角形の力場を形成した状態でゴールまで突撃する。因みに、この技にペンギン達の指揮者であるペラーが直接参加しているのは、基となったデスゾーン2の発動には指揮者の存在が不可欠である為。

 

この必殺技、実は十六夜を驚かせる為にペラーが仲間と一緒に練習したその場限りの一発芸が基になっている。ただ、一発芸とはいえ威力はともかく技自体の完成度がかなり高く、更にその一部始終をたまたま通りがかったフィディオ達に目撃されてしまった事でその完成度に感心した彼らの善意からの協力によって実戦でも使用できるレベルにまで改良されてしまったという経緯がある(フォディオ達はあくまで十六夜の新技開発における試行錯誤の一環だと思っている)。その為、フィディオ達は十六夜がいつこの技を使ってくれるのかとワクワクしながら待っている模様。

 

h995様より頂きました。ありがとうございます。

 

 

・グランフェンリル 『VSユニコーン ~面白いこと~』(既存)

シュート技

パートナー ディラン、マーク、一ノ瀬

いつぞやと同じでいいとこ取りをした。

 

 

~オリキャラ必殺技~

総数2

 

・インビジブル・ペンギン 『最悪の罠』

???技

一人技

使用者 A

透明なペンギンを呼び出すらしいが……?

 

 

・ライド・ザ・ペンギン 『深まる謎』

使用者 A

もはや便利な移動技である。一応ドリブル技なのだが……

 

 

~原作キャラ必殺技(正史では習得しない必殺技。アレス含む)~

総数21(内既存7)

 

・アイスロード 『カオスVSカオス ~激戦の後半戦~』

ドリブル技

三人技 パートナー氷使い二人

使用者 ガゼル(涼野)

二人が氷を生み出し道を作る。

残りの一人がその上をドリブルして進む。

上手い人は普通のドリブルより速くなり、ディフェンスされる前に突破可能。

下手な人は……察してくれ。

 

 

・フレイムロード 『カオスVSカオス ~激戦の後半戦~』

ドリブル技

三人技 パートナー炎使い二人

使用者 バーン(南雲)

二人が炎の壁を作り道を作る。

残りの一人が壁の間をドリブルして走る。

ドリブルする人は左右を炎の壁に挟まれているため暑い。

 

 

・ブラッドムーン 『雷門VSザ・ジェネシス ~最終決戦~』

シュート技・成長タイプV

一人技

使用者 ウルビダ(八神)

十六夜のムーンフォースと対を為すペンギン技。

威力は流星ブレードと同等かそれ以上。

モチーフはそのままブラッドムーン(調べたら出てきます)

 

 

・オーバーヘッドペンギン 『VSデザートライオン ~哀れな旅人~』(既存)

シュート技

一人技

使用者 鬼道

アレスでの技。この世界では十六夜くんの使っていたものをマネした模様。

 

 

・グレイシャルレイド 『VSファイアードラゴン ~ペンギンVSドラゴン~』 

シュート技・風属性・成長タイプV・シュートチェイン可 

一人技

使用者 涼野(ガゼル)

ガゼル時代に皇帝ペンギンOからノーザンインパクトにチェインする皇帝ペンギンTをまだ兆し程度だったメガトンヘッドに防がれた事で自身のシュートが威力不足である事を悟った涼野が試行錯誤の末に編み出した、ノーザンインパクトの強化改良技。

ドリブルしながらボールを前に蹴り出した後、体を横倒しにして高速で体を何度も捻りながら飛び込む。この体の回転はダイアモンドダストを纏っており、その冷気と遠心力をたっぷりと乗せたキックでボールを蹴り出す。蹴り出されたボールは強烈な冷気を纏い、軌道にダイアモンドダストを残しながら一直線にゴールへと向かう。回転の遠心力の他にドリブルの勢いも利用する事から元の技に比べて威力はおろかスピードも増しており、発動までの時間の短縮にも成功している。

イメージは胸程の高さで前に向かって飛ぶファイアトルネード。

h995様より頂きました。ありがとうございます。

 

 

・クリムゾンブレイズ 『VSファイアードラゴン ~爆発~』

シュート技・火属性・成長タイプV・シュートブロック可 

一人技

使用者 南雲(バーン)

涼野が新必殺技グレイシャルレイドを完成させた事に対抗心を燃やした南雲が自らの持ち味である高い跳躍力を最大限生かす形で開発したシュート技。

ボールと共に上空へ飛び上がり、最高地点に到達したところで紅の炎を纏った利き足でボールを蹴って縦方向のスピンをかける。ボールがスピンと同時に紅の炎を纏ったところでキックの勢いを利用して宙返りをしてから全力でゴールへと蹴り出す。紅の炎を纏った利き足で二度蹴られた事でボールは太陽の様に激しく燃え上がり、時折プロミネンスを吹き出しながら高角度でゴールへと突き進む。

アトミックフレアに比べて一工程多く踏んでいる事から発動までの時間が伸びてしまっているものの、威力は大幅に増している。また非常に高い位置からシュートする為に相手DFからの妨害を受けにくい上、上空から放たれるタイプのシュートをこの必殺技で即座にブロック、カウンターシュートに繋げる事も可能。

h995様より頂きました。ありがとうございます。

 

 

・爆熱ストーム 『再会と進化と秘密と』(既存)

シュート技・トライアングルZ+ファイアトルネード

使用者 ネオジャパンメンバー

アレスで出て来たオーバーライド技。

なお、本編で爆熱ストームが出て来た為、本編では名付けるとしても違う名前が採用されるだろう。紹介するか悩んだが一応紹介。

 

 

・爆裂ジャイロ 『再会と進化と秘密と』

シュート技・風属性・成長タイプ真・シュートチェイン可 

一人技

使用者 武方勝

日本代表の座を諦めない武方勝が猛特訓の末に編み出した、バックトルネードの正統進化形というべきシュート技。

飛び上がる前に体を捩じり、その反動を利用して体を捻りながらボールと共にジャンプする。ある程度上空に出たらボールより上に飛び上がり、捻りの回転を維持したまま伸身宙返りも織り交ぜて踵落としでボールを打ち出す。二種類の回転のタイミングが一致した瞬間に蹴り出されるボールの威力はバックトルネードを遥かに凌駕し、世界でも十分通用するレベルに仕上がっている。

技名は初めて成功した時にまるで爆発した様な手応えがあった事とシュート直前の回転軌道がまるでジャイロスコープの様に見えたという感想を聞いたのが由来。

h995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・アビスフォール 『再会と進化と秘密と』

シュート技・林属性・成長タイプV・シュートブロック可 

一人技

使用者 シャドウ

シャドウが世界への飛躍を志して編み出した、ダークトルネードの進化形というべきシュート技。

ボールと共にジャンプして最高地点に到達した後、ダークトルネードと同じように体を捻って回転しながらボールと一緒に落ちていく。中間地点に到達したところで闇のオーラがシャドウとボールを球状に覆い、その中でシャドウがダークトルネードと同じ様にシュートする。落下の勢いで回転スピードが加算されたシュートの威力はダークトルネードとは比べ物にならない程だが自分から撃つには手間がかかり、最も打ちやすいタイミングはシュートブロックの時である。

技の発想および名前については「自ら深淵に落ちる事で闇がより濃くなる」というシャドウの持論が由来。

h995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・トルネード・デュオ 『再会と進化と秘密と』

シュート技・山属性・成長タイプV・シュートブロック可 

二人技

使用者 武方勝&シャドウ

ダークトルネードとバックトルネードを同時に放つ連携技。端的に言えば、ファイアトルネードをダークトルネードに置き換えたダブルトルネード。

シャドウと武方勝が日本代表を目指して共に練習していく中で「共に代表に選ばれた時にはこの技で世界を沸かせよう」と誓い合った友情の証でもある。

h995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

竜虎相搏(りゅうこそうはく) 『VSナイツオブクイーン ~騎士様と化け物~』

シュート技

二人技

使用者 染岡&虎丸

[ドラゴンクラッシュ]&[タイガードライブ]

竜と虎が互いに睨みを利かせながらゴールに突撃する。

不完全様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・ザンネ・ディ・スクアーロ(鮫の牙) 『VSチームK ~それぞれの進化~』

キーパー技・キャッチング

一人技

使用者 インディゴ(チームKのGK)

ビーストファングの鮫版。ビーストファングを改良した技である。

不完全様より頂きました。ありがとうございます。

 

 

・デスクラッシャーゾーン 『VSチームK ~それぞれの進化~』(既存)

シュート技

使用者 デモーニオ&チームKのメンバー

オリオンでの必殺技。この作品では、チームKの選手が使う模様。

 

 

・アクアリングカット 『VSユニコーン ~翔けるペガサス~』

ブロック技・風属性・成長タイプV・シュートブロック可

一人技

使用者 西垣

モーション

普通のスピニングカット(無印版)に水の力?を混ぜスピニングカット(無印版)の様に放つ技。威力は無印版?のスピニングカットより少しだけ高いが、ファイアトルネードやアトミックフレア、ヒートタックルなど火や炎が出現する技にたいしては威力はかなり上がる。衝撃波?の色のイメージは濃い青色。

やまちゃん様より頂きました、ありがとうございます。

 

 

・ボルケイノデルタ(ボルケイノカットAC版) 『VSユニコーン ~止まらない止められない~』(既存)

ブロック技

使用者 土門

新必殺技……に見えて、実はAC版のボルケイノカットのことである。アニメで登場した記憶がなく、アーケードゲーム(だと思われる)で登場しているか、作者は教えてもらうまで存在を知らなかった。

名前の案はh995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・スピニングエッジ(スピニングカットアレス版) 『VSユニコーン ~止まらない止められない~』(既存)

ブロック技

使用者 西垣

簡潔に言うと名前が変わっただけのアレス版スピニングカット。

こちらも名称の案をh995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・スピニングフェンス 『VSユニコーン ~魔術師VSペンギン使い~』(既存)

ブロック技

使用者 風丸

オリオンの風丸の必殺技。無事に習得した模様。

 

 

・ドラゴントルネードR(リバース) 『VSユニコーン ~全力の友情~』

シュート技

二人技

使用者 染岡&豪炎寺

[ドラゴンスレイヤー]&[爆熱スクリュー]

染岡が雷門の点取り屋として成長し、豪炎寺が雷門の一員として認められ、チームが大きく前進した証である合体技の再誕。進化した灼熱竜のブレス、刮目せよ。

不完全様より頂きました。ありがとうございます。

 

 

・ジャックポットキャッチャー 『VSユニコーン ~面白いこと~』

キーパー技・キャッチング

一人技

使用者 ユニコーン正GK

後ろに現れたスロットマシンが抽選を開始し「777」が揃うと大量のメダルの波が発生してボールを止める技

(揃わなかったら何も起きない)

Nynpeko様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・トランザムマグナム 『VSユニコーン ~トリガー~』

シュート技・火属性・成長タイプV・ロングシュート可 

一人技

使用者 ディラン

ミスターゴールの異名を持つディラン・キースが放つ、渾身の必殺シュート。

ヒールリフトでボールを浮かせて頭越しに移動させると共に足を止めて、GKから背中が見える程に体を捻りながら利き足を限界まで振り上げる。ボールが足元に落ちてくると同時に貯めに貯めた捻りと力を解放して力強くシュートする。ボールは軌跡すら残さない程の圧倒的な速さでゴールに向かって飛んでいく。

持てる力を限界まで振り絞った事でセンターライン上からでも直接ゴールを狙える程の威力と飛距離を有しており、マークとのコンビプレイが主体であるディランの最大の切り札である。その一方でハッタリの類も得意である彼は時に相手の隙を作る為の見せ札としても使用している。

なお、技名に入っている「トランザム」は「TRANS AMerican(アメリカ大陸横断)」の略語であり、技名全体の意味合いとしては「アメリカを席巻する弾丸シュート」になる模様。

h995様よりいただきました。ありがとうございます。

 

 

・ファイアトルネードD(ダブル)D(ドライブ) 『VSユニコーン ~エースストライカー~』(既存)

シュート技

使用者 豪炎寺

パートナー 十六夜

登場すると予想できていた人が多いと思われる必殺技。無事に習得したもののぶっつけ本番で出来たよう。その理由は一体……?



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FF編
転生?そんなのあるの?


 オレは死んでしまったらしい。らしいと不確定な原因は前にいる神様がオレが死んだと言っているからであって、オレ自身にそんな自覚はない。

 

「で?神様。オレは死にました、ということは理解した。それで続きは?」

「そう急かすでない。ほら、お茶でも飲むのじゃ」

 

 差し出されたお茶をオレは啜る。あ、おいしい。

 

「まぁ、お主も不運じゃのう。若くして死んでしまうとは」

 

 他人ごとみたいだな。いや、他人ごとか。

 

「まぁ、まだ高校三年生……10代ですからね」

「して、ここからの選択肢としてはじゃな。地獄に行くか転生するかしか無いのじゃ」

「ちょっと待て神様。天国に行くという選択肢は無いのか?」

 

 おかしい。オレは別に超真面目ってわけでもないが至って普通に過ごしていたはずだぞ。普通に部活に励み、普通に勉強し、普通に恋愛をした。本当に普通の生活しか送ってないぞ。

 

「ああ。ワシにはお主を天国に送る資格がないのじゃ」

「資格?」

「うむ。ほら、運転手は運転免許証が必要じゃろ?教師も教員免許証が必要。アレと同じじゃ」

 

 神様にそんなものがあるのかよ……

 

「地獄と転生に関しては免許が取れたのじゃが、生憎天国に関してはまだなのじゃ」

 

 いいのかそれで。

 

「というわけで、転生先じゃが……これもまた資格がいるんでな」

「もう何も言いません。で?アンタは何の資格を持ってるんですか?」

「イナズマイレブン行きだけじゃ」

 

 イナズマ……イレブン?

 

「何ですかそれ」

「お主。イナズマイレブンを知らんのか?サッカーをやっておったのに?」

「すみません。オレ、ラノベしか興味なくて」

 

 ゲームとかもお陰であんまりやったことない。強いて言えばスマホのソシャゲぐらい。

 

「うーむ。一言で言うなら」

「一言で言うなら?」

「必殺技アリの超次元サッカーじゃ」

「……ん?必殺技?超次元?」

「うむ。炎を纏ってシュートしたり、巨大な手を出したり」

 

 それはオレの知ってるサッカーじゃない。

 

「後は、化身と呼ばれる存在を背中から出したりじゃな」

 

 だから、それはオレのやってきたサッカーじゃない。

 

「して、俗に言う無印とGO世代。どちらに転生したい?」

「……はぁ」

「後、最近アレスルートも出てきたのじゃが……」

 

 いや、原作が分からない人間にルート分岐を言われても、分かるかってんだ。

 

「何が違うのかさっぱりです」

「うむ……まぁ、お主は無印が一番合うじゃろう」

 

 いや、何か勝手に決められてますが。

 

「安心せい。エイリア学園はしっかり襲来するぞ」

 

 ちょっと待って、今襲来するとか言わなかったか?何かは分からないけど襲来するって言った?

 

「よし、決まりじゃな」

 

 すると、オレの身体から淡い光が……。

 

「お主には特典じゃないが必殺技を打てるような身体に改造してある。まぁ、期待するんじゃな。後、中学一年生から始まるからそこのとこよろしく。あ、安心せい。転生後はフォローぐらいしてやるからのう。ではの」

「ちょ、いろいろツッコませ……」

 

 最後まで言い切る前にオレの身体は光に包まれた……!



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サッカーをしないサッカー部

 気付けば転生してから一年以上が経ちました。皆様、いかがお過ごしでしょうか?

 前世の記憶は一応あるけど、神様の言ってた必殺技と呼ばれるものは未だ見たことがございません。……やっぱり嘘だよな?あんなの。一応、雷門中に入学し、サッカー部に入部しましたが、そもそもサッカーをやるための人数すら揃ってないというね。しかも部員もやる気ないしね。いやー、ある意味新鮮なサッカー部だよ。

 

「さぁ、練習だぁ!」

 

 勢いよくドアを開け、暑苦しく宣言する男は円堂守。一応このサッカー部(仮)のキャプテンである。

 

「さぁ、練習……」

 

 しかし、残りの部員は一切そんな事聞いてない。無論、オレを含めてだが。

 

「どうしたどうした。ずーっと、練習してないんだぞ」

 

 別に部活では、という話だけどな。

 

「グラウンド借りられたのかよ」

「これからまた、ラグビー部に交渉して」

「だと思った」

「どうせ笑い者になるだけでやんすよ」

「8人ぽっちならテニスコートだけでも十分だろうって」

「グラウンドが空いてる日にやればいいんじゃないの」

「そうそう」

「空いたことないけど」

 

 各々が勝手なことをいう部員。

 

「俺たちはサッカー部だろ!」

 

 あまりの酷さに当たり前の事を言い出すキャプテン。

 今年こそフットボールフロンティアに出ようと言い出すも、部員たちの心には響かず、

 

「サッカー部がサッカーをやらなくてどうすんだよ!」

 

 正論を言って部室から出ていってしまった。

 さてと、

 

「じゃあ、オレもっと」

 

 部室から出ると、一人ボールを蹴る円堂の姿が。

 

「十六夜!お前も一緒に練習するか!」

「悪いな円堂。オレはこのチームで練習するより、一人の方が向いてるわ」

 

 まぁ、自己練習は怠らずにやっているけどね。でも、さすがにグラウンドがない、部員も足りない、皆のやる気もない。このチームではオレもチームで練習するやる気が起きないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああああ」

 

 次の日のホームルーム。転校生である豪炎寺修也が入ってきたと同時に叫ぶ円堂。おい目立ってるぞ。とりあえず座れ。

 

「何だ知り合いか?」

「いやぁ~知り合いってわけじゃないんですけど」

 

 なら、騒ぐな。

 

「とりあえず、座りなさい」

 

 担任の説明によると豪炎寺は木戸川清修っていうところから、うちに転校してきたそうだ。

 

「席はあそこ、十六夜の後ろな」

「はい」

 

 ん?オレの後ろ?まぁ、どこでもいいか。

 そして昼休み。円堂が豪炎寺の席、つまりオレの後ろの席にやってきた。

 

「豪炎寺、昨日自己紹介してなかったからさ。俺、円堂守。サッカー部のキャプテンやってるんだ。ポジションはキーパー」

 

 おいおい、昨日会ったばっかの人かよ。

 

「お前も入らないか?木戸川清修ってサッカーの名門だもんな」

 

 え?そうなの?いやー他校の情報とか一切調べてないわ。知ってる中学が雷門中しかないって言う情報力のなさ。ある意味すごいわ。というか転生されてこっち来た時には、既に雷門中に入学決定してたし。もっと言うなら転生した日が入学式前日だったし。

 

「どうりであのキック。凄いはずだぜ!」

 

 しかし、豪炎寺の顔は浮かない。

 

「サッカーは……もうやめたんだ……」

「やめたって、どうして」

「俺に構うな」

 

 やれやれ、訳アリって感じだな。

 

「円堂。冬海先生がお前を呼んでる。校長室に来いってさ」

 

 冬海先生……あー名目上はサッカー部の顧問の先生か。 

 

「校長室?」

「大事な話があるらしい。俺、嫌な予感がするんだ。例えば、廃部の話とかさ……」

「廃部ぅ!?」

「私もそんな噂聞いたけど……」

 

 ちなみにオレも。 

 

「冗談じゃないぞ。廃部になんかさせるもんか!」

 

 校長室に向かう円堂。

 

「……やれやれ。廃部って決まったわけじゃないのに、せっかちな奴だね」

「でも十六夜。それ以外に何の話があるんだ?」

「さぁ?」

 

 さすがにそれは想像がつかないが……試合とかだったら笑うな。ウチと試合してくれるようなところがあるんだってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、練習試合が決まりました~パチパチパチ。しかも、負けたら廃部という条件付き。

 

「やるさ!きっちり11人揃えてやる」

 

 加えて、スタートがここからってね。そもそも8人でもやれないことはないがまぁ、キツイね。

 後、相手は帝国学園ってところで、この辺だと最強らしい。

 

「やれやれ。部員勧誘もだけど、練習もしろよな」

「あれ十六夜さん。もう帰るんすか?」

「ああ。どうせ今日は練習ないんだろ?まぁ、アイツは勝手にやってるとは思うが」

 

 さてと、どうせ鉄塔広場に行くだろうからオレは河川敷で練習でもしますか。



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出会い

 河川敷で1人でボールを蹴ること2時間が経過した。

 

「はぁーやっぱり1人だとつまんねえぇな」

 

 そもそも練習できるのがキックとドリブル、後はダッシュぐらいだ。しかし、オレの本職はディフェンダー。一応、ミットフィルダーとフォワードもこなせるが、やっぱり、ディフェンス練習したい。というか、1人だとパス練習すらできない悲しい現実。……って言ってもこの悲しい現実は今まで何度も見てきたから今更だが。

 

「こりゃ、鉄塔広場に行った方が良かったかもな……流石に円堂のヤツは帰った頃か」

 

 そう思いながらリフティングをしている。

 転生してから分かったことだが、とりあえず、身体能力が上がってる。後は神様の事を言うんじゃないが、足から炎ぐらいなら出ても不思議じゃない感じはしてきた。意味が分からんけど。というか、跳躍力が1番上がってる気がする。いや、元の世界で垂直跳びで1m跳べたらかなりのものだと思うのに、ここだと、2mぐらいは普通に跳べる。自分の背丈より高いぞ?

 

「それにキック力も多少は上がったんだよなぁ」

 

 そう思いながらボールを蹴る。……あ、やべ。気を抜きすぎて、思い切り外したよ。

 

「ごめんなさい。そのボール取ってください」

 

 ボールは転がって青い髪の女の子の下へ。歳は同じくらいか?少々大人びいてる感じはするが。

 すると、ボールを蹴って返してくる……あれ?

 

「ありがとうございます。ボール蹴るのうまいですね。サッカーでもやってたんですか?」

「ああ。今もやってる」

 

 へぇ~

 

「あの、練習相手になってもらえませんか?」

「ああ、構わないぞ」

 

 よし、練習相手ゲット。

 

「あ、オレ、十六夜(いざよい)綾人(あやと)って言います」

「私はウル──八神玲名だ」

 

 八神玲名……ねぇ。というか、その前に何て言おうとしたんだろう?まぁ、いいか。

 

「じゃあ、よろしく。八神」

「こちらこそよろしく」

 

 そう言ってとりあえず、パス練習から始めて、次に1対1で練習。

 

「じゃあ、八神。オフェンスでお願い」

「わかった。行くぞ十六夜」

 

 ドリブルをし始める八神。それにしても、練習相手も見つかってよかった。しかも、パス練習をしたけど、そこまで下手じゃない。きっと、ドリブルも下手ではな……

 

 ザシュッ

 

「……っ!?」

 

 今、何が起きたんだ?分からない?いや、見えなかった?気付いたら八神はオレの後ろに……は?

 

「どうした?そんな立ち尽くして」

 

 いやいや、待て待て。オレが反応出来なかった?そもそも動きが見えなかっただと?こんなことがあるのか?

 

「なぁ、八神。ちょっと本気でシュート撃ってくれないか?」

「まぁ、いいが。急にどうした?」

「いや、ちょっと。キーパーの視点からシュートを見たくなった」

「なるほど。十六夜はディフェンダーだから、シュートを見る感覚を養いたいと」

「そうそう」

 

 そう言うことにしておこう。……あれ?オレ、ディフェンダーなんて言ったっけ?

 

「分かった。私も本気で撃とう」

 

 ということでオレはゴール前に立つ。今度は一挙一動に神経を張り詰めて……

 

 ザシュッ

 

「……は?」

 

 今、何が起きたんだ?八神がシュートを撃ったのは分かった。でも早すぎないか?撃ったと思った時にはゴールに入っていた。いくら、PKの位置からとはいえこんなことがあるのか?

 

「もう1本撃とうか?」

「ああ、頼む」

 

 おいおい、もといた世界だとこんなのあり得ないぞ?そんなシュートが見えないぐらい速いなんて。もしかして、アレか?このイナズマイレブンの世界において八神って、ボスキャラ的な存在の1人なのか?いや、中ボス?それにしても、オレの何倍もスペックがあるのだが……え?嘘だろ?だとしても、ここまで差があるのかよ。

 

「なぁ、八神。頼みがある」

「何だ?」

「オレを鍛えてほしい」

「……初対面の相手に頼むことか?チームのメンバーは?」

「いや、オレはお前に頼みたい。お前はオレの何倍も何十倍も強い」

 

 恐らく元の世界でも、この世界でも今まで会った中では群を抜いて、現段階では強い。

 

「凄く迷惑な話かもしれないが、頼む」

 

 頭を下げる。まぁ、元の世界ではこんな頭を下げたくらいじゃ頼まれてもくれないだろう。というか、女子に頼んでるんだな。この際何でもいいけど。

 

「顔を上げてくれ。分かった引き受けてもいい」

「八神……!」

「ただ、チームメイトには言わないでくれ。今後厄介なことが起こる可能性があるからな」

 

 厄介なこと?ふむ……あーもしも本当に敵だった時にあれか。面倒なことになるのか。

 

「分かった」

「なら、明日も今ぐらいの時間に私はここに来る。じゃあ、また明日な。十六夜」

「ああ、また明日、八神」

 

 こうしてオレは八神に鍛えてもらうことになったのだ。

 というか、見えないぐらい速いシュートって何だよ。動体視力を鍛えろと言うのか?もしかして、本当に炎を纏ったシュートが……ってないない。さすがにそれはあり得ない。



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人間頑張れば不可能はない

 八神との特訓に加え、やる気を出したサッカー部員との練習に明け暮れること一週間ぐらい。ついに帝国との練習試合本番を迎えた。

 あれから、風丸、影野が入部、松野が助っ人に入ってくれることになり、部員も無事11人揃った。

 グラウンドに出ると、大きなバス(?)のようなものが校門の前に止まり、何かレッドカーペット(?)が敷かれ、その上を歩く帝国学園のスタメンたち。脇には残りの選手が立って道を作っている。……うん。何これ。ただ、練習試合に来たって感じじゃないんだけど?

 円堂が向こうのキャプテンに挨拶に行くと、向こうはウォーミングアップをしたいって言ったそうだ。うん。何か個人個人のレベルが高く、元の世界ではあり得ない事が起きてる凄い練習光景なのに……

 

「八神のせいかな……」

「何か言ったか?十六夜?」

「何でもないよ円堂」

 

 ここ連日、八神のプレーがもうオレの知る領域から逸脱していることに気付き、それに比べると何故か帝国のプレーは劣って見えた。おかしいな。この辺で帝国学園は最強と言われてるはずなのに、そのプレーが劣って見えるほどだなんて……八神って何者?

 そう思っているとゴーグルを掛けた向こうのキャプテンが円堂に向かってシュート。円堂は辛うじて止めるも、受け止めたボールと円堂のグローブは軽く焦げた。……うん。ちょっと待って。いくら何でもボールとグローブが焦げるって、あり得ないよね?この時点でいろいろツッコんでいい?

 

「面白くなって来たぜ!」

 

 ちょっと待って。何で、誰もグローブが焦げたことに驚かないの?ボールとの摩擦でだよ?いやいや、この時点でおかしいから。

 

「よぉし、一週間の練習の成果!こいつらに見せてやろうぜ!」

「「「えぇっ!?」」」

 

 コイツってアホだよな。去年から思うけど、こんな奴らに一週間で勝とうとしているとか意味分かんないじゃん。いやいや、流石に色々と次元が違いすぎて無理だと思うんだが……

 

「あのーキャプテン。俺……トイレ行って来るっス!」

「壁山!?」

 

 敵前逃亡を図る壁山。

 

「ちょ……待てよ!」

 

 追いかけるオレ。ってアイツ速くね!?これが超次元サッカーか!?

 

「おーい!壁山ぁー!」

 

 やべぇ、校舎に入ってから完全に見失った。うーん。アイツを見つけねぇと10人しかいなくてサッカー出来ねぇしなぁ。

 

「壁山ぁー!居るなら出てこぉーい」

 

 うーん。どこに行ったんだろう?

 

 ドンッドンッ

 

 ん?教室からか?何の音だ?

 

 ドンッドンッ

 

 このロッカーからか?

 

「まぁ、こんなロッカー壁山が入るわけないよな」

 

 でも、一応開けてみると……

 

 ドンッ

 

「十六夜さん……どうもっす」

 

 ……壁山がいた。いや、ロッカー開けた衝撃で吹っ飛んだんだけどオレ。

 

「あーさっさと出て来いよ」

「出られないんっスよ!」

「は?」

 

 え?嘘だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はい。分かりました」

「その必要はないぞ。円堂」

 

 冬海先生に急かされ、壁山とオレを探しにいこうとする円堂たちを引き留める。

 

「十六夜!どこに行って……え?その担いでいるロッカー何だ?」

「壁山だ」

「……はい?」

「壁山が中に入ってる」

 

 ドンッ!と置くと……

 

「あ、キャプテン。みんなも……どうもっす」

「「「か、壁山ぁ!?」」」

 

 扉が開き、壁山と円堂たちのご対面。

 

「とりあえず、出て来いよ」

「それが出られないんだと」

「はい?」

「出してほしいんす!」

「よし、蹴り壊すか」

 

 ロッカーを倒して、ロッカーの底を蹴り上げる。

 

 ガンッ

 

「あぁ!??凄い痛いんですけどぉ!?」

 

 無事壁山は出ることに成功。ロッカーは原型を止めず、オレの足には激痛が走った。

 

「あ、出られたっす」

「流石だな十六夜。……足大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫大丈夫」

 

 ちょっと痛いけど。

 

「すいません。俺ちょっと怖くなったんす」

「壁山。逃げたら何も始まらない。一度逃げたらずーっと、逃げ続けることになる。そんなのカッコ悪いだろ!」

「きゃ、キャプテン……」

 

 弱気になる壁山を円堂は熱く語りかける。

 

「俺、やるだけやってみるっす」

「その意気だ壁山」

「十六夜さんも迷惑かけてすいません」

「気にするなって」

 

 さぁ、これで試合が始められるね。……ん?

 

「……あれ?君は誰?」

「フッ。僕は目金欠流」

 

 目金?うーん。何か聞き覚えがある気がするけど……

 

「まぁ、いっか。眼鏡」

「何か発音が違う気がしますが何でしょう」

「キミベンチね」

「あれぇ!?僕11人目ですよね!?」

「え?キミ12人目だよ」

「何でですか!?僕が颯爽と11人目になって弱小サッカー部を救うはずが……!」

「うーん。まぁ、何でもいいけど。キミベンチ」

「いいのですか!?僕をベンチにおいていいのですか」

「イエス!」

 

 まぁ、見た目からして運動音痴だよね。後、何か上から見下されてる感があって嫌な感じ。

 

「フッ。後悔しますよ」

「大丈夫。君の出番もきっとあるからさ!」

 

 本当にあるかは知らない。

 さぁ、とりあえず、試合開始だね。



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初めての試合、初めての必殺技

「これより、帝国学園対雷門中学の練習試合を始めます」

 

 整列する雷門イレブンと帝国イレブン。この世界に来て早一年。ついに初めての試合かぁ。

 

「両キャプテン。コイントスを」

 

 しかし、帝国のゴーグルを付けたキャプテンはポジションにつこうとする。

 

「鬼道君。コイントスを」

 

 ふむふむ。向こうのキャプテンは鬼道って名前なのか。

 

「必要ない。好きに始めろ」

 

 なるほど。これが強者の余裕ってやつか。

 オレたちのフォーメーションは5ー4ー1。染岡のワントップで、オレは5人のディフェンスの真ん中。完全に守備型のフォーメーションだが、まぁ、仕方ない。オレたちの……というか、オレの作戦としてはカウンターで1点取るって感じだ。

 

「さぁ、皆頑張って行こうぜ」

 

 審判のホイッスルと共に雷門のキックオフで試合開始。ボールは染岡からバックパスでマックス。そして再び染岡へ。

 

「……やっぱ跳躍力がおかしくないか?」

 

 染岡が帝国選手2人のスライディングを跳んで躱す。うん。あり得ねぇ。

 

「すげぇぜ俺。結構やれるんだな」

 

 いや、やり過ぎだって。もう。

 

「染岡。パスだパス」

 

 染岡から上がってきた風丸にパスが通り、染岡、マックス、宍戸とパスが通る。

 ……上手く行きすぎじゃない?

 

「怪しい……」

 

 宍戸のセンタリング。半田が合わせると見せかけスルーし、染岡がシュートを放つ。……アイツどんだけ跳んでるんだよ。このシュートには、普通のキーパーなら反応できないはず。そう、()()()キーパーならだが。

 

「なに!?」

 

 相手のキーパーは手でボールを弾き、そのままキャッチ。

 

「鬼道。俺の仕事はここまでだ」

 

 そして相手キーパーの仕事終了宣言。いやいや、それは舐めすぎでしょ。

 

「ああ。始めよう……帝国のサッカーを」

「始める?」

 

 いや、円堂。キミ、どれだけ耳がいいの?今鬼道は向こうのゴール付近で呟いていたよね?何で、キミに聞こえてるの?いや、オレが言えたことでもないけどさ。まぁ、オレは神様のお陰で聴力も上げられてるから。何故かは知らないけど。

 

「行け」

 

 鬼道がパスを出し、受け取った選手はピッチ中央。センターラインからシュートを放つ。おいおい、超ロングシュートかよ。

 

「舐めすぎだ」

 

 オレはトラップの要領で止めにかかる。これぐらい離れていれば普通に止めれると思った。しかし、

 

「おいおい……威力高くね?」

 

 止めたのはいいけど数センチほどオレ自身の身体は後ろに下げられていた。普通のシュートに見えるヤツでだ。……これが必殺技というやつか(違います)。

 

「なに?止めただと」

 

 若干驚く鬼道。ふむ、やはりこれが必殺技なのか?普通のシュートにしか見えなかったが(必殺技ではありません)。

 

「とりあえず、少林」

 

 少林にパスを出して、再びマックス、染岡にボールが渡る。しかし、ディフェンダーの激しいチャージングの前にボールは取られてしまう。……え?あれ、ファールじゃないの?

 

「ふっ。まさか、豪炎寺以外にも面白そうな奴がいたとはな」

 

 そして、ボールは鬼道へ。何故か1対1の状況になっていた。

 

「へぇーキミたちの狙いは彼なんだ」

 

 なるほど。豪炎寺はバトルものとかでありがちな強い味方キャラってわけか。……まだ、味方になっていないけど。

 

「ディフェンダーに寺門のシュートを止められたのは誤算だったが……まぁいい」

 

 口では何か言いつつフェイントを織り交ぜながら突破しようとする鬼道。

 

「悪いがその程度のフェイントでは抜けないよ」

 

 こっちは元の世界での10年以上の経験と、この世界で八神に鍛えられたんだ。そう簡単には抜かれない。というか、八神のフェイントというか、ドリブル凄いんだよな……あいつ、本職はミッドフィルダーか?

 

「なら、これはどうだ?イリュージョンボール!」

 

 鬼道の周りを3つのボールが……ってちょっと待て!コレどうなってるの!?いやいや、ボールをいくつも使うとか反則でしょ!?いや、イリュージョンだから幻覚!?それでも、いろいろとアウトでしょ!まさか、コレが必殺技なのか!?こんなのアリかよ!

 

「甘いな」

「なっ……!」

 

 気付けば突破されシュート。円堂が止めようとするもボールは雷門ゴールに突き刺さった。……ちょっと待て。今のドリブルをどう止めろと?まさか、目には目を歯には歯を必殺技には必殺技をか!?いや、そんなの持ってないから!必殺技とかないからね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムに突入。あれからオレたちは帝国のサッカーで痛めつけられた。オレは時にはイリュージョンボールで翻弄され、時にはジャッジスルーとかいう非道な必殺技の前にボロボロにされた。スコアは7対0で帝国のリード。というか、試合自体帝国の圧倒的な力の前に成す術はなかった。

 しかも気付けばベンチに2人ほど増えていてツッコミを入れたいが生憎入れる元気がない。

 

「どうなってんだアイツら。誰1人息が乱れてないぜ」

「そりゃそうさ。奴ら走ってないからね」

「僕らずっと遊ばれてるって感じですよ」

 

 いや、感じじゃない。完全に遊ばれてる。

 

「くそっ。このまま終わってたまるか。後半は奴らを走らせて消耗させるんだ」

 

 しかし、円堂の意見にチームメイトは否定的な雰囲気。

 

「なんだなんだ!勝利の女神がどちらに微笑むかなんて最後までやってみなくちゃ分からないだろ!そうだろ!なぁ?皆!」

 

 しかし、この円堂の熱い雰囲気の語りですら誰1人賛同しない。いや、賛同する体力が残ってないのだ。

 

「後半を開始します。集まってください」

 

 審判からの後半開始宣言。チームメイトも前半と同じポジションにつく。

 審判のホイッスル。帝国ボールで後半戦が開始された。ボールは鬼道へ。

 

「行くぞ……デスゾーン開始」

 

 ちょっと待て。デスゾーン直訳すると『死の地帯』いやいや、色々おかしいから。

 

「そして奴を引きずりだせぇ!」

 

 鬼道の蹴ったボールは、前を走る3人の選手の真ん中辺りに飛んでいく。そこで3人の選手はジャンプ。ボールを中心に正三角形の頂点の位置で回転。黒というか紫のオーラを纏いながら3人同時に蹴る。……うん。コレが必殺シュートか。あのオーラってなんだろうな……というか、それ以前に滞空時間長すぎだろアンタら!?後、どんだけジャンプするんだよ!お前ら高跳びで何m行くの!?

 

「止めてやる!」

 

 紫のオーラを纏ったボールを蹴り返そうとするも、

 

「うわぁぁぁああああっ」

 

 完全に力負けし、挙句吹き飛ばされる。……シュートで何mも吹き飛ばされるとか初めての経験だよ畜生。

 ボールは円堂の顔面に。そのままゴールに円堂ごと突き刺さった。

 ……超次元サッカー。何でもありだな……そう思いながらオレは空を仰いでいた。




主人公の弱点。
転生して一年が経ってもまだ元の世界の普通のサッカーをベースに考えている。
初見の必殺技には対応が一切できない。
心の中で必殺技にツッコミをしまくる。


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炎のエースストライカー

 オレたちボールからのキックオフ。スコアは8対0と帝国のリード。スコアだけでも圧倒している帝国だが、試合そのものを完全に支配している。

 

「続けろ。奴をあぶり出すまで」

 

 鬼道の言葉。これって、豪炎寺が来るまで続くってことだよね……?来なかったらどうなるの?

 

「サイクロン!」

 

 帝国ディフェンダーの蹴りによって出来た竜巻で飛ばされる半田。ちょっと待って!何故蹴った時の風であんな竜巻が発生するんだよ!?どんなキック力だおい!?

 

「百裂ショット!」

 

 帝国の必殺シュート。……え?本当に100回ぐらいボールを蹴ってない?どうなってるの?何でボールをそんなに多く蹴られるの!?

 

「キラースライド!」

 

 あ、今までの中でジャッジスルーの次に現実的な技だ。でも、君の脚は何本だい?オレには2本とは思えないのだけど。

 

「出て来いよ。さもないと、アイツを」

「叩きのめす!」

 

 スコアは15対0。オレたちは、全員倒され、帝国のフォワード陣により、円堂は人間サンドバックにされていた。……おかしいな。サッカーってこんなんだっけ?

 

「いい加減にしろよ……」

 

 円堂の前に立って、シュートを受け止める。本当にいい加減にして欲しい。人が必殺技とか使え無いからっていい気になって……!

 

「ほう。まだ立つか」

「行くぞ」

 

 ドリブルで単身突破を試みる。今気付いたが必殺技と言っても弱点のある必殺技もある。まぁ、弱点がないやつとか、突破口がないやつは知らね。

 

「キラースライド!」

「甘い!」

 

 この世界での逝かれた跳躍力を考えれば、こんなの跳べば突破できる!

 

「サイクロン!」

「くっ……!」

 

 こんなの……!

 

「なに!?」

 

 強引に正面突破するしかない。なるほど。こんな強引な方法が取れるって事は、ここで1年努力したってだけじゃないのか。神様に身体が強化されてるのか。なら、安心だ。

 

「行けぇ!」

「フッ」

 

 渾身のシュートも相手キーパーは片手でキャッチ。……ん?片手で、キャッチ?

 

「やれ」

「ジャッジスルー!」

 

 キーパーからボールを受け取った奴がジャッジスルーを仕掛ける。マズい!避けるのが遅れ──

 

「うわぁぁあああああああっ!」

 

 何mも吹き飛ばされる。……一体何回飛べばいいのだろうか。……あ、もうダメ。

 

「百裂ショット!」

 

 円堂に向かう必殺シュート。円堂は止めたようにも見えたがボールの威力に負け、ボール諸共ゴールの中へ。これで16点目。おまけに、雷門はフィールド上に立てる選手がいない。よし、秘密兵器の出番だ。

 

「審判……選手交代。オレに代わって、ベンチの目金」

 

 奴なら!奴ならばまだ無傷だから何とかしてくれるかもしれない!

 

「い、いやだ!こんなのいやだぁ!」

 

 め、目金!?と、逃走しやがったアイツ!ご丁寧にユニフォームを脱ぎ捨てて……ってどうするんだよ!?かなり状況不味くない!?というか、オレが倒れて動けないんですけど!体力は残ってないし!

 

「無様だなぁ」

「無理だな」

「お前らでは俺らから1点を取ることすらな」

 

 笑う帝国イレブン。ダメだ。正論に加えて体力も残ってない。くっ……これが実力差か。というか次元が違いすぎるんだよ……!

 観客からも諦められてるし……こりゃ、もう──

 

「まだだ!」

「円……堂?」

「まだ……終わってねぇ。まだ……終わってねぇぞ!」

 

 再び始まるシュートによるサンドバック状態。あの野郎、何でそこまで諦めが悪いんだよ……!

 

「クソ野郎がぁぁぁぁぁあああああ!」

 

 もう体力なんて残ってない。あるのは気力だけだ。

 

「百裂ショット!」

「止めてやる!」

 

 シュートの前に立ち、右足で蹴り返そうとする。くっ、何だよこれ。強すぎる!

 

「くそがあぁぁぁぁああああああああ!」

 

 叫びと同時に右足を何かが後ろから支えてる感じがする。よく分からないがこれなら……!

 

「吹き飛べ!」

 

 そのままボールはラインを超えて外へ。

 

 ドサッ!

 

「十六夜!?おい!十六夜!」

「わりぃ……もう動けねぇ」

 

 もう限界を超えている。ダメだ。動きそうにもない。

 

『誰だアイツ!』

『あんな奴うちのチームに居たか!?』

 

 周りの観客がうるさいなぁ……何だ?

 

『おや?彼はもしや、昨年のフットボールフロンティアで、1年生ながらその強烈なシュートで一躍ヒーローとなった、豪炎寺修也!』

 

 豪炎寺がこちらに歩いて来る。

 

『その豪炎寺君が、なんと雷門のユニフォームを着て、我々の前に登場!』

 

 あまりの事に冬海先生と審判が駆け寄る。

 

「待ちなさい!君はウチのサッカー部では……」

「良いですよ。俺たちは」

 

 冬海先生の言葉を遮る鬼道。

 

「それでは、帝国学園が承認したため!選手交代を認める!」

 

 審判の宣言により、豪炎寺の参加が決定した。

 

「豪炎寺!やっぱり来てくれたか!」

 

 円堂は豪炎寺の肩に手をかけるが崩れる。

 

「ああ、大丈夫か?」

 

 すかさず豪炎寺が支える。

 

「遅過ぎるぜ、お前」

「豪炎寺。オレと選手交代でフォワードに行ってくれ。頼む」

「ああ、任せろ」

 

 オレは皆の支えもありながら、ベンチに座る。

 

『さぁ雷門は十六夜に代わって新たな10番、豪炎寺が登場です』

「我らの目的はここからだ」

「なるほど。奴が狙いか」

 

 ふむふむ。やはり、豪炎寺を見に来ていたか。

 帝国側のスローインで試合再開。ボールは鬼道に渡り……

 

「行け。デスゾーン」

 

 鬼道からフォワード陣へボールが渡る。そして、デスゾーンを放つ。

 

「よし」

『走ったぁ!何故か豪炎寺、円堂を全くフォローせず!1人帝国ゴールに上がっていく!』

 

 なるほどね。

 

「なに?」

『目金と同じ敵前逃亡かぁ?』

「あいつ、俺を信じて走ってるんだ。俺が止めると信じて。これを止めた俺から、ボールが来るって!必ずパスが来ると信じて!」

 

 円堂から今までにない力を感じる。その力はオレンジ色にも見える巨大な右の掌の形を作り出し、シュートを完全に止める。

 

『止めたぁ!遂に帝国のシュートを止めたぁ!』

 

 待て待て待てぇー!もう、何が何だか分かってないが、何故今の状況を周りにいる奴らは平然と受け入れてるんだぁ!?おかしくね!?普通あり得ないよねぇ!?

 

「行けぇ!豪炎寺!」

 

 円堂からのロングスロー。ボールは豪炎寺に渡る。……いや、君どんだけボール投げてるの?そして、豪炎寺はボールを高く上げ、自身もジャンプ。空中で回転しながら炎を纏い、

 

「ファイアトルネード!」

 

 左脚でシュートを放つ。ボールは炎を纏いキーパーに止められることなくゴールへ……って待て!ちょっと待て!何で君は平然と炎を出してるんだい?色々とヤバいだろこの世界……

 

『ゴォール!遂に!遂に!雷門イレブン。帝国学園から1点をもぎ取りましたぁ!』

 

 盛り上がる観客。待って!おかしいよね!?何で、豪炎寺が炎を纏ったというか、出したことに誰一人驚かないの!?オレだけか!?オレだけなのか!?この状況をおかしいと思っている常識ある一般人は!

 

「ただいま、帝国学園側から試合放棄の申し出があり!ゲームはここで終了!」

『なんと!ここで帝国学園は試合を放棄!これは実質雷門側の勝利とも言える展開です!』

 

 試合には名目上勝利はした。何とも言えない気持ちにオレは空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合も終わり、観客、帝国学園が帰ったとき、オレたち雷門サッカー部はグラウンドに集まっていた。

 

「よく来てくれたなぁ。これで、新生雷門サッカー部の誕生だ」

 

 ユニフォームを脱ぐ豪炎寺。

 

「これからも一緒にやっていこうぜ」

 

 円堂に投げ渡される10番のユニフォーム。

 

「……今回限りだ」

 

 去っていく豪炎寺。

 

「あ、豪炎寺。ありがとな!ありがとう!」

 

 豪炎寺を止めなくていいのかという意見に止めなくていいと答える円堂。オレは止めた方がいいと思うよ。だって、今の豪炎寺上半身裸じゃないか。

 

「さぁ、この1点が俺たち雷門サッカー部の始まりだ!」

『おぉー!』

 

 まぁ、その1点を取ったのが、まだサッカー部に所属してない人間だけどね。

 八神には悪いが放課後の特訓は今日は無しにしてもらおう。だって、ボロボロで疲れたし。……早くこんな異常な世界に慣れたい。後、これ以上ツッコミしかない必殺技が出ませんように。



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Q.ペンギンはどこからやってきますか?

 帝国との練習試合が終わった夜。オレは電話をかけていた。

 

『ほーい。ワシじゃ。何か用かの?』

 

 相手は神様だ。……まぁ、軽い口調だなぁと思うが。

 

「ああ。単刀直入に言うが……オレって必殺技使えるのか?」

 

 そう。元の世界では、あんな炎を出したりとか巨大な手を出したりとかは不可能だ。つまり、そんな世界から来たオレは何も体の構造とかを改造されてない場合、あんな必殺技は出せるはずもない。すなわち、この世界がもしあんなのがポンポン飛び交う世界なら、ここで戦っていくには相当な努力が必要になる。

 

『まぁ、使えるといえば使えるし、使えないと言われたら使えないな』

「……どういうことだ?」

『お主は良くも悪くも感性が元の世界基準ってことじゃ』

 

 だからどうしたの言うだろうか。

 

『それにお主は元は高校生。厨二病なんぞ卒業したじゃろ?』

「まぁ、入学すらしたか怪しいけどな」

『他の者がどうかは知らぬが、1つ言っておく。イメージじゃ』

「イメージだと?」

『そう。まずはイメージじゃ。どんな必殺技を使いたいか。それはどういうモーションが必要になるのか。身に着けるためにはどういう特訓が必要なのか……などじゃな』

「……なるほど」

『お主はゴッドハンドのイメージはある。じゃが、お主は感性が元の世界基準のためどんなに特訓しても巨大な手は出てこないと思ってしまう。それに、どんな特訓をすれば身につくかも分からない……まぁ、そう言うことじゃな』

 

 なかなか奥が深いなぁ……

 

『お主は元々この世界にある必殺技……と言っても、イナズマイレブンを知らなかったお主がどういう必殺技があるかは不明じゃな。ともかく、この世界に元からある必殺技にしろお主が新しく編み出すにしろ、大事なのはイメージ。それと、その必殺技を出す特訓じゃな』

「そうか……」

『安心せい。お主の仲間たちも時期に必殺技は身に着けていくし、お主もそうじゃの……まぁ、どこかで1つぐらいは頑張れば身につくはずじゃ。身につかなかったときは、ベンチウォーマーにでもなるとよい』

 

 なんて曖昧なのだろうか。

 

『ではの』

 

 ガチャ、という感じで切られる電話。……イメージか。

 

「って、イメージで炎が出てもなぁ」

 

 うーん。結局手詰まりか……今までのサッカーでは通用しないのが今日の試合でよくわかった。でも、対抗するための新必殺技を作るなんて考えてもなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イメージ……イメージ……」

「どうしたんだ十六夜。ずっとぶつぶつ言って」

「ああ、悪い悪い。気にすんな」

 

 うーん。頭の中に具体的なイメージかぁ……

 

「さてと、皆。帝国戦で俺たちの問題点が分かった」

 

 気付けば部室には部員全員が集まっていた。おっと、もう部活開始か。

 

「問題点も何もまず体力無さすぎ」

 

 マックスが痛いところを突いてくる。

 

「あ、ごめん。今の凹んだ?」

「まぁ、事実だけどな」

 

 さらに凹む雷門サッカー部の面々。

 

「円堂。話を続けてくれ」

「まぁ、体力作りはもちろんなんだけど、こんなフォーメーションを考えたんだ」

 

 円堂が書いたフォーメーション。ふむふむ。DFを5人から4人に減らすか……まぁ、普通だな。

 

「あの~キャプテン」

「ん?なんだ?」

「この間の豪炎寺さん呼べないんですかねぇ」

「結局のところあの1点。豪炎寺君のシュートだったんだからねぇ」

 

 宍戸と敵前逃亡を図った目金が言う。

 

「今の俺たちじゃ、あんな風になれないッス」

 

 壁山も続けて言う。

 

「あんなのは邪道だ……俺が本物のサッカーを見せてやる」

 

 染岡が豪炎寺のサッカーを邪道というが、オレからすればこの世界のサッカーは邪道というかなんというかだと思うけどな。

 

「豪炎寺はやらないんだろ?」

「それは分からないけど……」

「円堂までアイツを頼りすぎだ」

「そ、そんなことは」

「俺たちだって出来るさ。もっと俺たちを信じろよ」

 

 染岡は苛立ちからか言葉の節々に棘を感じる。

 

「皆お客さんよ……何かあったの?」

「いや、ちょっとな」

「ど、どうぞ」

 

 お客さんと言って木野が中に入れたのは、

 

「くさいわ」

 

 雷門夏未。理事長の娘だった。

 

「こんな奴。何で連れてきたんだよ」

「話があるって言うから」

 

 明らかに苛立つ染岡。まぁまぁ、落ち着けよ。

 

「帝国学園との練習試合。廃部だけは逃れたようね」

「お、おう」

 

 やべぇ……圧力がやべぇ……

 

「これからガンガン試合していくからな」

 

 いや、円堂。オレたち頼む側の人間だからな。

 

「次の対戦校を決めてあげたわ」

 

 微笑と共に告げられる。え?練習試合?

 

「次の試合……!」

 

 喜ぶ円堂を筆頭としたサッカー部の面々。うーん。そんな簡単な話かなぁ?

 

「話を聞くの?聞かないの?」

「ああ。で?どこの学校なんだ?」

「尾刈斗中。試合は一週間後よ」

 

 オカルト厨?オカルト好きが集まってるのか?え?サッカーとオカルト?

 

「オカルト厨?何処そこ?」

「尾刈斗中よ十六夜君。でも、ただ試合をやればいいってだけじゃないわ」

 

 あ、ですよね。というか大して絡んだことないのに名前を覚えられていたんだけど……え?どうして?

 

「どうせ、負けたら廃部だろ?」

「その通りよ」

「……またかよ…………」

「ただし、勝利すればフットボールフロンティアへの参加は認めましょう」

 

 へぇーそういうことか。

 

「精々頑張ることね」

 

 そのまま去っていく雷門。フットボールフロンティア……日本一の中学サッカー部を決める大会か……。これに参加できるということで盛り上がるサッカー部部員。

 

「喜ぶのは早い。俺たちは次の試合に勝たない限り出場できないんだぞ」

「染岡の言う通りだよ。そもそも負けたら廃部だし」

 

 あれ?引き分けはどういう扱いになるのだろうか?

 

「皆。この1戦絶対に負けられないぜ。練習やろう」

『おー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になった。昼間はラグビー部が雷門中のグラウンドを占拠してるため、河川敷に場所を移して練習開始。しかし、染岡が焦りのせいか強引で荒っぽい、ラフプレーが目立った。

 そんな中、帝国学園戦でいた新聞部の音無が練習の見学ということで見に来ていて、尾刈斗中には怖い噂があるとかでそれを教えてくれた。

 

「どうした十六夜。足が止まってるぞ」

「あ、悪い八神。ちょっと考え事」

 

 今は八神とパス練習をしている。まぁ、基礎は大事だからね。

 今のサッカー部は豪炎寺という存在を知ってしまったが為にバラバラになりかけてる。どうせ、豪炎寺は入部するんだろうが、うーん。

 

「なぁ、八神」

「何だ十六夜」

「必殺技って何だと思う?」

「必殺技?」

 

 そう言うと、ボールを持ってこっちにやってくる八神。

 

「なんだ。てっきりお前なら1つぐらい必殺技が使えるもんだと思ってたんだが……」

「いいや。1個も使えないよ」

「そうか」

 

 うーん。何だろうなぁ……

 

「そうだな……とりあえず軽く炎とかを出してみたらどうだ?」

 

「八神って実はバカなのか?」

 

「よし、ゴール前に立て。本気でシュートを撃ち込んでやる」

 

 いやいや、普通の人間は軽くで炎は出ませんからね。ね?聞いてる?

 

「喰らえ!」

「ふぎゃあああああああああ!?」

 

 あ、アイツ……本気で撃って来やがった。というか、何であの帝国の必殺シュートより威力高いんだよ!おかしいだろ!

 

 

 閑話休題

 

 

「そうだな……じゃあ、口に手を当てて吹いてみたらどうだ?指笛って言うのか?」

「吹いたらなんか出て来るのか?」

 

「地面からペンギンが出てくるらしい」

 

「アンタ真顔で何言ってんの?」

 

 いやいやいや?指笛吹くだけで、地面からペンギン出て来くるとかねぇから。そんなことしたら、水族館のペンギンコーナーの存在価値がなくなるから。

 

「いいからやってみろ」

「はーい」

 

 やれやれ。仕方ないなぁ。あ、でもイメージが大事だからね。ペンギンをイメージして……

 

「ピー」

 

 まぁ、どうせ、やっても出てこな──

 

 ザッ(ペンギンが頭を出す音)

 

「……え”!?」

「やれば出来たじゃないか十六夜」

 

 ……おかしいと思うのオレだけ?

 

「中々に可愛いペンギンじゃないか。まだ子どもか?」

 

 撫で始める八神…………え?そういう問題?

 

「十六夜も撫でてみろ。中々に手触りがいいぞ」

「そうか?」

 

 八神の言うままにオレは地面から生えたペンギンを撫でようとする。

 

 ぺしっ(ペンギンの手で払われる音)

 

 ん?拒否された?……まさかな。

 

 ぺしっ

 

「……」

 

 ぺしっぺしっ

 

「…………」

 

 ぺしっぺしっぺしっ

 

「おかしくね!?」

 

 何故オレはダメで八神はオーケーなんだ?おかしくね?

 

『そんな汚い手で触んないでくれる?ご主人様』

 

「ペンギンが喋ったぁぁあああ!?」

「脅かすなよ十六夜。それに何を言ってるんだ?」

「今コイツ喋ったよね!?」

「やれやれ。ついに頭がおかしくなったか」

 

 あれ?もしや聞こえてない?

 

『その通りだ。オレの声はご主人様にしか聞こえてない』

 

「そ、そうか……」

「さっきから1人で何を言ってるんだ?」

 

『じゃあ、オレは帰るわ』

 

 そう言って消えてくペンギン。え?消えた?

 

「うーん……」

「どうしたんだ八神」

「いや。私の知ってるペンギンは大人で大体5匹とか何匹かで出てくるモノなんだが……」

 

 いや、その時点でおかしいから。

 

「まぁ、なんでもいいか」

 

「なんでもよくねぇよ!?」

 

 結局この日の練習ではオレが何故か1匹だけ何故か子どもの何故か意思疎通可能なペンギンを呼び出せることが分かった。これ、どうなってんだ?




主人公は皇帝ペンギン(子ども)を呼びだせるようになった。


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適応力が高すぎない?

 次の日。何か新聞部の音無春奈が、今日からサッカー部のマネージャーをやることになったそうだ。半田とマックスが音無がやかましの間違いじゃないか?と言っていたが……うん。正直それオレも思った。

 というわけで、今日も今日とで河川敷で練習。染岡が既にシュート練習をしていたが、そのシュートに青色のオーラが纏ってるように見えたのは気のせいだと信じたい。というかどうせアレだ。染岡も必殺技使うようになるんだろ?ほら、展開的に。まぁ、豪炎寺に対抗して青い炎とか、そういうのを纏ったシュートになるのだろう。言っとくが、オレはその程度じゃ驚かないぞ。…………多分。

 

「染岡。頑張ってるな」

「円堂……へっ、上手くいかねーよ……。なんかいけそうなのに、全然ゴールが決まらねぇ。これじゃストライカー失格だな」

 

 1つ純粋に思ったこと。この世界におけるストライカーの基準って何ですか?

 

「無理すんなよ染岡。今故障されちゃかなわないからな」

 

 風丸指揮の下、オレ、円堂、染岡以外は練習を、オレたちは土手に座って話をしていた。

 

「そうそう。怪我されたら溜まったもんじゃないよ」

「タイヤで無茶な特訓している円堂には言われたくねーよ」

 

 あーそう言えば円堂ってタイヤで特訓してるんだっけ……何かこの時点でおかしくね?いや、気のせいだろ。うん。気のせい気のせい。

 

「ははっ。俺、こないだ皆で試合出来てすっげー嬉しかったんだ。やっとサッカーらしくなってきたって思ったんだ」

「まぁ、それまで人数も足りず、試合なんてやったことなかったけど。でも色んな意味で面白かった。染岡はどう?」

「羨ましかったんだよ。俺」

「何が?」

 

 察してやれよ円堂。

 

「豪炎寺だよ。あいつ、出て来ただけでオーラが違った。1年生があいつ呼んでくれってのも分かる。あいつがシュートを決めた時、あれが俺だったらなって思ったんだ」

「そっかぁ……」

「……豪炎寺には負けたくない。俺もあんなシュート撃てるようになりたいんだ」

 

 いい話のところ一つ言っていい?いや、豪炎寺みたいなシュートって、アレは普通無理だから。努力とか根性とか精神論とかって次元越えてるから。

 

「よし!お前のシュート、完成させようぜ!そいつで尾刈斗中に勝つんだ!」

 

 おかしいな。円堂。染岡のシュートを完成させるってアレか?無回転シュートとかそういう系か?

 

「無理だよ……試合まであと何日だと思ってるんだ……」

 

 え?日数の問題?絶対違うよね?何か重要なところが違ってるよね?

 

「だから頑張るんじゃないか!」

 

 まさかの根性論!?

 

「豪炎寺になろうとするなよ。お前は染岡竜吾だ。お前には、お前のサッカーがあるだろ?もっと自分に自信を持てよ!」

「まぁ、オレも染岡竜吾は豪炎寺修也になる必要はないと思う。お前はお前だ染岡。自分なりのサッカー。自分なりのシュートを身につける方がいい」

 

 そう。だから、足から炎を出さなくてもいいし、あんなに高くジャンプして回転しなくてもいい。普通に普通のシュートを撃ってくれればいいんだ。

 

「俺のサッカーか……。よぉし!やってやろうじゃねぇか!俺のサッカー!俺のシュート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の練習後。オレはあるところに電話をかけていた。

 

『ほーい。ワシじゃ。何か用かの?』

 

 神様である。

 

「おい神様。何かペンギンが呼びだせるようになったんだけど」

『ほうほう。よかったではないか』

「良くねぇよ!?ついに人間やめちまったじゃねぇか!」

 

 ペンギンを呼び出せる人間はきっと普通の人間ではないだろう。ちなみに今日かけている理由は、昨日電話をしようとして寝てしまったからだ。

 

『前からじゃろ?』

「ふざけるなよ?オレは人間でいたかったんだ」

『はてはて。お主の元の世界ではペンギンを呼べる人間はおらぬが、この世界には割と居るぞ?』

「いやダメだろ!?居ちゃダメだからな!」

『それにしても、そのペンギンと会話出来る人間はワシは見たことない。新種じゃな!』

「新種!?ちょっと待て!普通は話せるわけないのか!?」

『何を言っておるんじゃお主は。常識で考えて動物とテレパシーで話せる人間がいるわけないじゃろ。そんなの特殊な人間だけじゃ』

「この世界に来てからオレの常識は既に粉々だよ畜生!」

 

 もう何が常識で何が非常識かさっぱりわからない。

 

『ほんで?要件はそれだけかのう?』

「あーオレの呼び出せたペンギンってどっから来てんだ?」

『ワシも知らん』

「知らん!?それ1番ダメな奴だからな!」

『全く、あ、今度から電話かけても繋がらんかもしれんぞ?』

「何でだ?」

『ワシも今度試験があるのじゃ』

「そうか。堕ちろ」

『じゃあの。楽しめよ少年』

 

 切られたよ。というか……オレってどうなってんの?あ、転生者ってやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経っただろうか。オレは八神のもとで頑張って練習を重ねていました。時にはペンギンと喧嘩し、時にはペンギンと仲直りし、時にはぶっとばされながらも頑張りました……そしてついにこの日。事件は起きました。

 

「ぐぉおおお!てやぁぁぁああ!」

 

 染岡の放ったシュート。何と後ろから青いドラゴンが出て来たのだ。…………ん?んん?青い…………ドラ……ゴ……ン?

 

「ドラゴォンッッ!?」

 

 円堂はそのシュートに反応できず、ボールはゴールへ……ちょっと待てっ!

 

「ドラゴン!?今ドラゴンが出てきたんだけど!?」

 

 あまりの事に発狂するオレ。でも、この衝撃は絶対他の人にも分かるはずだ。皆だって、あまりの事に言葉を失っているみたいだし。

 

「すっげぇ……」

「今までのシュートとまるで違う……」

「今ドラゴンが、ガァッって吠えたような」

「僕もそんな感じしましたよ」

 

 部員たちの反応はこんな感じだ。ふむふむ。

 

「ち・ょ・っ・と・ま・て!」

 

「どうしたんだ?十六夜」

「いやいや反応薄ぎじゃねぇの!?ドラゴンが出たんだぞ!?色々とあり得ねぇだろ!」

「本当だよ!染岡!」

 

 同調してくれる円堂。そうだよな。いくらお前でもこの異常さは理解してくれ──

 

「すっげぇシュートだったな!十六夜もあり得ないぐらい凄いシュートって興奮してるぞ!」

 

 ──てねぇ!?ちげぇよバカ!オレが言いたいのはもっと根本的なことだよ!

 

「これだ……これが俺のシュートだ!」

 

 納得したぁ!?納得しちゃいけないよねぇ!?絶対納得しちゃいけないよねぇ!?

 

「あぁ!やったな!」

 

 ()()()()!?その一言で済ませちゃったよおい!?

 

「よし!このシュートに名前付けようぜ!」

 

 もう受け入れてるの!?高すぎるだろ!お前適応力が高すぎるだろ!

 

「竜吾シュート!」

「ドラゴンシュート」

「染岡スペシャル!」

「ドラゴン染岡!」

 

 ってお前らもかよ!?オレだけか!オレだけがこの状況を受け入れられてないのかぁ!?

 

「あ、豪炎寺」

 

 円堂が呟く。橋の方を見るとそこには豪炎寺が。

 

「何ぃ!?」

 

 いや、染岡さん。その反応はおかしくないですか?

 

「円堂……俺やるよ」

「豪炎寺……」

「「「やったぁ!」」」

 

 喜ぶ1年生を中心としたサッカー部部員たち。

 こうして、豪炎寺を加えてオレたちは新たなスタートを切るのだった。




うちの主人公。化身、ミキシマックス、ソウルを見たらどんな反応をするのだろうか。


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尾刈斗中の呪い

 練習試合当日となりました。

 豪炎寺が正式に加入してくれた……までは良かったが、染岡が『雷門のストライカーは俺1人で充分』とか言って豪炎寺と反発。対して豪炎寺は気にも止めない様子で軽くあしらうと、その態度に染岡はさらに怒った。……いやねぇ染岡君。大人になりましょうよ?ね?

 その後、マネージャー組が尾刈斗中学の情報を入手、試合の映像を見ることにしたが、尾刈斗中の相手チームの動きがおかしかった。相手チームは一切動かず尾刈斗中の好き放題にされていた。聞くとこれは尾刈斗中の呪いだそうだ。いや、必殺技があって呪いもあるとかサッカーの域を越えてるだろ。だから、あの呪いとやらは科学的に証明出来るはずだ(理系っぽく言ってみた)。

 

『はい。いよいよこの日を迎えました。雷門中対尾刈斗中の練習試合。あの帝国学園と下した我が雷門サッカー部の勇姿を見ようと多くの観客が押し寄せております』

 

 うーん。何で練習試合なのに実況が居るのだろうか?というか、そもそも彼将棋部だよね?サッカー関係ないよね?

 雷門夏未曰く、この試合に勝つことさえできればフットボールフロンティアへの出場を認めてくれるらしいが……呪いを使うような奴らに勝てるのか?まぁでも負けたら廃部だしな……あ、引き分けたらどうするんだろう?あれ?これ前にも思わなかったか?

 

「来たぜ、円堂」

 

 校門を見ると尾刈斗中がやって来た。

 

「……不気味だ」

「お前が言うなって」

 

 なんだろうか。本当に人間?って人が混ざってるよ。ほら、目隠ししている人とか包帯ぐるぐる巻きとかあーロウソクを付けてる人もいる……もう意味不明だね。

 そして皆で整列。すると向こうの監督が俺たちの……いや、豪炎寺の元にやって来る。

 

「君が豪炎寺君。帝国戦での君が撃ったシュート。見せてもらいましたよ。いやはや素晴らしかった今日はお手柔らかにお願いしますね」

「ちょっと待てよ!あんたたちの相手は豪炎寺じゃない!俺たち全員だ!」

 

 苛立つ染岡から正論が出るが、相手の監督は気にしてない様子だ。

 

「はぁ?これは滑稽ですね。我々は豪炎寺君と戦ってみたいから練習試合を申し込んだのですよ?弱小チームの雷門など興味はありません」

 

 なるほど。油断しているのかそれとも挑発しているのか。まぁ、勝てば関係ないか。

 

「やめろ染岡」

「せいぜい豪炎寺君の足を引っ張らないでくださいね」

 

 本当にあの監督は豪炎寺以外眼中にないだろう。まぁ、そっちの方が好都合か。

 

「言ってくれるじゃねぇか」

「見せてやろうぜ。お前の必殺シュートを」

「ああ」

 

 オレたちのフォーメーションは4-4-2。染岡、豪炎寺の2トップで、オレはセンターバック。影野と目金がベンチって感じだ。

 

 ピー!

 

 審判のホイッスルで試合開始。相手チームからのキックオフで始まったが、そのまま10番が上がっていき壁山を抜いて円堂と1対1に。

 

「喰らえ!ファントムシュート!」

 

 ボールと共に軽く飛び上がってシュートを……ちょっと待て!何か紫色の炎の球が六つぐらいに見えるんだけど!?ファントム……ってことは幻影か!?つまり6つのうち5つが偽物!?いやいやどうやって本物を見分けるんだ!?てか止めようがなくないかあんなの!

 

「何の!ゴッドハンド!」

 

 ……あれ?ゴッドハンドの中央だけにしかボールが行ってない?ん?どうなった?残りの幻影のボールは何処に消えた?まさか……オレだけにしか見えていなかったのか!?

 

「ものにしたんだな円堂!」

 

 風丸!?違うよね?というか、今のファントムシュートに対する驚きは無いのか!?

 

「まぁな」

 

 軽く返してボールを風丸に。風丸が上がって少林にボールが渡る。豪炎寺にパスを出そうとしたが、豪炎寺には3人のディフェンスがついている。

 

「こっちだ!」

 

 そのためか染岡が完全なフリー。ボールは少林から染岡に。

 

「見せてやるぜ俺の必殺シュート!ドラゴンクラッシュ!」

 

 ……やっぱりあのシュートおかしいよね?ドラゴンは何処から来たの?何処に消えたの?もう何が何だかわかんないけど、とりあえず、相手キーパーが染岡のシュートに反応できずにゴールを許したのは分かった。これで1対0っと。

 

「何ですって!?」

 

 これには相手監督も驚きを隠せないご様子だ。

 

「ドラゴンクラッシュ?」

「そうか!あのシュートの名前か!」

 

 違うよね?名前に疑問を持つところじゃないよね絶対。

 後から聞くとこれは目金が名付けたらしい。もう君必殺技名付け担当ね。

 

「やったな染岡!俺たちが先取点取ったんだぜ!」

「ああ!」

 

 喜ぶ円堂と染岡。確かに試合の流れを掴むと言う点では先取点は大事だが……何だ?この拭い切れない違和感は。

 尾刈斗からのキックオフで試合再開。勢いに乗った雷門はボールを奪い再び染岡に。そのままドラゴンクラッシュが相手ゴールに刺さってスコアは2対0。あまりに呆気なくシュートが決まるせいか。皆勝てるという空気と、油断が混ざった何とも危険な状態になっていた。オレと豪炎寺を除いては。

 

「これは行けるんじゃないか!十六夜!」

「…………」

「十六夜?」

「あーそうかもな」

 

 再び尾刈斗のキックオフ。

 

「まさか豪炎寺君以外にあんなストライカーがいたなんて予想外でしたよ雷門中の皆さん!いつまでも雑魚が調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 おいおい何だ向こうの監督。雰囲気がガラッと変わったぞ。

 

「始まったか」

「テメェら!そいつらに地獄を見せてやれ!」

 

 始まる?地獄?

 

「マーレマーレマレトマレマーレマーレマレトマレ」

 

 何だ?向こうの監督は頭でもおかしくなったのか?まぁ、どうでもいいか。

 

「何やってるんだお前ら!」

 

 フィールドでは相手選手をマークに行った少林とマックスが何故か味方である半田と宍戸を押さえていた。うーん。どうしたんだろう。ボールは相手キャプテンが持っている。

 

「皆!落ち着いて相手の動きを見るんだ」

 

 落ち着く……ねぇ。

 

「無駄だ。ゴーストロック!」

 

 ゴーストロック?なにそれ?

 

「足が……!動かないっス!」

「これがゴーストロックだ」

 

 え?こんなアリ?というか、

 

「オレ普通に動けるんだけど」

「ファントムシュート!」

 

 って何かオレ以外の雷門のみんなの足によく分からないものが纏わりついてる……って円堂もかよ!キーパーを封じるとかアリかよ!?

 クソッ!そんなこと思っていても状況は変わんねぇ……!六分の一の確率だ……!

 

「これだ!」

 

 しかし、選んだボールは幻影。本物のボールはゴールに刺さっていた。スコアは2対1。

 ゴールを決めたことによりゴーストロックとやらは一時的に解除されたみたいだが……え?あんなの使う連中にどうやって勝てと?え?もう卑怯とか通り越して無理ゲーですよね?だって、キーパーの動きを封じられたらシュート止められないじゃん。



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解呪!え?あんな方法でいいの?

 雷門ボールで試合再開。豪炎寺が尾刈斗中の動きがおかしいと思うも、染岡がボールを奪い単身特攻。

 

「待て染岡!奴らは何かがおかしい!まずは動きをみるんだ!」

 

 豪炎寺の声掛けにも反応せず、キーパーと1対1。ん?キーパーの手の動きがおかしい気がするんだけど……気のせい?遠くからじゃよく分かんないや。

 

「ドラゴンクラッシュ!」

「ゆがむ空間」

 

 染岡のドラゴンクラッシュは相手キーパーの手元に。あれ?今何かがおかしかったような……?何だろう。必殺技は大概おかしい気がするけど、それとは違うこの違和感。

 

「何だ?」

「これぞゆがむ空間。どんなシュートもこの技には無力」

 

 そう言ってパントキックをする相手キーパー。ん?どんなシュートも……無力?何だ。妙にこの言い方が引っかかる。

 ボールは前線の相手キャプテンに……って、まずくね!?

 

「皆!戻れ!」

「無駄だ。お前たちは既に俺たちの呪いにかかっている。ゴーストロック!」

 

 再び発動するゴーストロック。やはり、雷門イレブンの動きが止まる。

 

「うーん。何でオレには効かないのだろうか」

「まさか、動ける奴が居るとはな」

 

 相手選手も驚くことなの?マジで?

 

「だが、このシュートは止められない!ファントムシュート!」

 

 再び放たれる6つのボール。クッ……また六分の一かよ……。

 

「これだ!」

 

 1つのボールに狙いを定めて蹴る……が。

 

「外れだ」

 

 蹴ったのは偽物。本物は既にゴールの中だった。くっ、2対2の同点……!

 そして、まただ。向こうが点を決めると皆動けるようになる。何でだ?どうしてだ?

 

「呪いだと!そんなのまやかしだ!」

 

 雷門ボールで試合再開。染岡の再び特攻。

 

「それはどうかな。ゴーストロック!」

 

 再び足が止められる雷門の10人。くっ……どうなってるんだ本当に?

 

「次こそ止める!」

「無理だな。ファントムシュート!」

 

 4度目のファントムシュート。おそらく、1つを選んでもどうせ空振る。なら、どうする?このまま見逃すか?……いや、1つを選んで止められないなら、

 

「当たりを引くまで止めるだけだ!」

 

 おそらくこんな無茶はこの世界だからできることだろう。

 

 ピー!

 

『ふぁぁあ~呼んだ?』

「ああ呼んだよ!行くぞあの必殺技っぽいやつ!」

『えぇ?あれ未完成じゃん』

「んなの何とかするしかないじゃん!」

『仕方ないなぁ』

 

 ペラー(呼び出した子供ペンギンの名前)は腹を地面につけ少し大きくなる。オレはその背に立ち、そのまま宙に浮く。

 

「ライド・ザ・ペンギン!」

 

 ネーミングがそのままなのは仕方ない。そういうのは置いといて、

 

「ペラー。行けるか!」

『やるしかないんでしょ』

 

 そのままペラーはボールに向かって飛ぶ。1つ、2つ、3つとボールを上に弾いていき、

 

『あれ、残ったよ』

「オーケー!」

 

 4つ目にして本物を引き当てた。そして、そのボールを空中で確保。地面に降り立つ。

 

『じゃあね』

 

 そのまま消えるペラー。

 え?この技がどういう仕組みかって?実はオレにもよくわかってない!

 ただ、本当はドリブル用の技?として出来そうな感じがしたんだけどなぁ……まぁいいか。

 

「何ぃ!?」

 

 危ない。相手キャプテンがちょっと遠くから打ってくれたおかげで間に合った。あのまま5つ目はギリギリだったし、6つ目に関しては手遅れだっただろうし。

 

「すげぇな十六夜!」

 

 後ろで関心する円堂。しかし、足は動かないままだ。

 

「……えーっと、こりゃあ……」

 

 ここで取られるとシュートを打たれ終わる。外に出しても解決するとは限らない。前半終了間際であることを考えると……

 

「ドリブルしか選択肢が残ってないか」

 

 そのままドリブルを始める。10人抜きとかやったことないなぁ……って、思ったが今更だけどこの状況ってある意味では帝国戦と変わんなくね?

 そんなことを考えながら1人、また1人と突破していく。あれ?帝国DFより弱いぞ?これなら、まだ何とかなりそう。

 そして、ついにキーパーと1対1。

 

「無駄だ。ゆがむ空間」

 

 奇妙な手の動きとともに胸の前あたりに現れる謎の空間。なんかおかしなものが見え始めたけど、あのキーパーの手を見てるとなんだか足がふらつくんだけど……まさかそういう必殺技か?だとしたら、あれは幻覚?なら、あの手は見ちゃだめだ。

 

「いけぇ!」

 

 目を閉じてシュートを打つ。当然その前にふらふらになっていたりしたので、ボールは逸れてゴールバーを大きく超えたそうだ。

 

 ピ、ピー!

 

『ここで前半終了!』

 

 将棋部の実況の声とともに足が動けるようになる雷門イレブン。くっ……いったい何なんだあれは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイム。部室に雷門サッカー部は集まっていた。

 

「くそ、どうなってるんだ」

「急に足が動かなくなるなんて」

「やっぱり呪いじゃぁ……」

 

 うーん。考えていたんだけど、オレたちフィールドに出ていた人しか喰らってないんだよねアレ。というか、そもそもオレは何ともないし。

 

「皆、何ビビってるんだよ。まだ前半が終わったばかりじゃないか」

「いやッス!俺これ以上怖くていやッス!」

「落ち着け壁山」

「呪いなんてあるわけないだろう」

 

 壁山が恐怖を訴え、それを宍戸と風丸が止める。だが、

 

「じゃあ何で足が動かなくなるんッスか!」

 

 そうなんだよ。そこなんだよなぁ……

 

「分からない。でも何か秘密があるはずだ……そう言えば尾刈斗中の監督が呪文を呟き始めてからだよな。尾刈斗中が変な動きをし始めたのは」

 

 変な動き?なんか変な動きなんてしてたっけ?

 

「言われてみたら確かに」

「じゃあ、あの呪文に秘密が?」

「答えはフィールドで見つけるしかないな。ボールを取ったらすぐにフォワードにまわすんだ。十六夜のおかげで同点なんだ。まだまだ行ける」

 

 うーん。あの必殺技?での対抗も、シュート位置がもっと近くなると意味ないんだよなぁ。というかあのシュート。ゴール手前ぐらいには幻影が消えてなかったか?

 

「頼んだぞ。染岡。豪炎寺」

「ああ。今度こそ決めてやる」

 

 そして、もうすぐハーフタイムも終了なのでフィールドに戻ろうとするオレたち。

 

「なぁ、十六夜」

「なに?豪炎寺」

 

 しかし、オレは豪炎寺に呼び止められた。

 

「お前の最後に放ったシュート。何であんな風に飛んでいったんだ?」

 

 そっか、周りから見たらオレのシュートは近いのに外した、ノーコンって思われてるわけか。

 

「うーん。なんかキーパーの手を見てたらさ、ふらつくって言えばいいのかな?何か平衡感覚がなくなった気がして、目を閉じて打ったらあんな感じに」

「平衡感覚が……なくなる?」

「まぁ、自分でも言ってる意味が分かんないけどさ」

「そうか……」

 

 何かを考え込む豪炎寺。うーん。不思議だけど……ここのサッカーはツッコミ所満載だからなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷門ボールで後半開始。豪炎寺は少林にバックパスをする。

 

「何でファイアトルネードを撃ちに行かないんだよ!豪炎寺!」

 

 やはりそういうことか。豪炎寺が撃ちに行かないのは、今撃っても無駄なんだ。

 

「ッチ。腰抜けめ!少林来い!」

 

 しかし、染岡にはマークがつく。豪炎寺が撃たないと思ってか、それとも得点を許したからか。少林は半田にボールを渡し、半田は無理やり染岡にパスを出す。だが、当然染岡をマークしている奴にカットされる。

 

「完全に空気が悪い」

 

 豪炎寺を信じる1年生組と、豪炎寺が使い物にならないと思ってる染岡と半田。完全に衝突しているな。挙句には豪炎寺がドリブルをしているところから、染岡は無理やりボールを奪って、

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 シュートを放つも、相手キーパーのゆがむ空間の前に完全に止められてしまう。

 

「てめぇら!ゴーストロックだ!」

 

 相手監督が何か叫ぶが、このままではゴーストロックがあろうがなかろうが負ける。よくて引き分けだ。1つは染岡が自分が点を取ろうとしすぎること。もう1つはあのゆがむ空間のトリック。あれは恐らく単純に強い必殺技じゃない。あのキーパーはどんなシュートも無力といった。それが何を示すかが分かればいいが……

 

「ゴーストロック!」

 

 再び発動するゴーストロック。ッチ。面倒くせぇ必殺技(?)だなおい。

 

「今度は決めさせてもらう!」

「そうは行くかよ」

 

 後ろで円堂がぶつぶつ呟いているが、こっちはこっちでマズイ。何がマズイって相手との距離が近すぎる。このまま撃たれたらペラーをだす余裕がない。

 

「そうか!そうだったのか!」

 

 何かに気付いた円堂。

 

「ゴロゴロゴロ!ドッカァアアーン!」

「うるせぇ円堂!いきなり後ろで大声を出すな!」

 

 オレはあまりのことに後ろを振り返ろうとしてしまう。だが、

 

「隙アリだ!ファントムシュート!」

 

 その一瞬を突かれ放たれるシュート。ヤバい!あれはオレには止められない!

 

「円堂!」

「熱血パンチ!」

 

 ゴッドハンドを出す余裕がなかったのか円堂は別の必殺技で対抗する。……って、お前それただのパンチだよね?痛そうだけどオレでも出来そう。

 ボールは円堂の手元に。シュートを止めた円堂に、オレと風丸、壁山は駆け寄る。

 

「へへっ、見たか俺の熱血パンチ」

「あぁ!じゃなくてどうして動けたんだよ!」

「風丸さんも動けてるっス」

「ちなみに壁山。お前もな」

「分かったんだよ。ゴーストロックの秘密が」

 

 円堂とベンチにいた目金曰く、ゴーストロックというのは一種の催眠術。コロコロと変わる敵のフォーメーションで、混乱するオレたちの頭に相手監督がトマレという暗示を刷り込んだらしい。視覚と聴覚の両方に訴えかけてできるもの。だから、円堂は聴覚の方を打ち消すために大声を出した、と。ちなみに、オレに効かなかった理由は、単純に視覚を混乱させられていなかったから、というのが目金の見解だ。

 確かに冷静に見極められたもんなぁ。しかも、それに気付かせないための相手監督の挑発もさらっと受け流したし。

 

「ハッハッハッ!やっと気付きやがったか!」

 

 いや、監督がそこまで介入していいの?まぁ、オレたちが勝てば練習試合だしいいんだけどさ。でも、これで分かった。恐らく相手キーパーの使う技の正体も催眠術だ。

 

「フォワードにボールを回すんだ!」

 

 円堂から少林にボールが渡る。

 

「でもキャプテン!染岡さんのシュートじゃ……」

「あいつを信じろ!少林!あの監督の言う通り俺たちはまだまだ弱小チームだ。だから、1人1人の力を合わせなきゃ強くなれない。俺たちが守り、お前らが繋ぎ、あいつらが点を取る!俺たちで取る1点は全員で取る1点だ!」

 

 すげぇ。たまにはカッコイイこと言うなぁ。

 

「さぁ行こうぜ!」

 

 全員攻撃。ゆがむ空間の正体は分かった。おそらく、豪炎寺も分かったはずだ。少林から染岡にボールが渡り、染岡がドリブルで上がる。

 

「ゆがむ空間」

 

 既に相手キーパーは技を発動している。そんな中、豪炎寺が染岡と並走して、

 

「奴の手を見るな!あれも催眠術だ!」

 

 やはり気付いてたか。

 

「平衡感覚を失い。シュートが弱くなるぞ」

 

 尾刈斗中。蓋を開ければ呪いではなく催眠術を使うチームだったわけだ。……いやいや、サッカーで催眠術って……ねぇ?何かがおかしくない?

 

「お前……ずっとそれを探っていたのか!」

 

 染岡の前に2人のディフェンスが立ちはだかる。

 

「豪炎寺!」

 

 染岡が豪炎寺の名を呼んで、

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 ドラゴンクラッシュを放った。しかし、ボールの向かう先はゴールでは無く空だった。

 

「どこ狙ってんだ染岡!」

 

 そんな中、1人跳び上がる豪炎寺。

 

「違う!アレはシュートじゃない!パスだ!」

「ファイアトルネード!」

 

 ……ドラゴンクラッシュの青色のドラゴンがオレンジに染まった。え?青色のドラゴンが炎を纏うなら分かるけど、何故にオレンジに染まったし?もう何か色々ありすぎて頭の処理が追いつかない。あ、今ならゴーストロックにかかる自信あるわ。

 目金はドラゴンクラッシュとファイアトルネードの合体技はドラゴントルネードと名付け、そのドラゴントルネードによりもう1点取って、最終的に4対2でオレたちは尾刈斗中を下した。




オリジナル技

ライド・ザ・ペンギン
ドリブル技(一応)
3の技、エアライドのボールがペンギンに変わった感じの技。
本人はどういう原理でペンギンが空を飛ぶのか全く分かってない。


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尾刈斗戦反省

 試合も終わり、染岡と豪炎寺のわだかまりも何だかんだで解けた。

 

「いやぁ勝てたな!十六夜!」

「そうだな」

「これでフットボールフロンティア出場かぁ……!」

 

 そして、その日の帰り道。たまたま円堂と一緒に帰ることになったのだが……凄い目を輝かせる円堂がいた。フットボールフロンティア出場と言ってもまだ予選だけどな。

 

「そういや十六夜」

「なんだ?」

「お前いつの間にあんな必殺技身につけたんだよ!教えてくれてもよかったじゃないか!」

「というかアレまだ未完成だぞ」

「ライド・ザ・ペンギンだっけ?もう完成間近だろ!」

「まぁな……」

 

 とはいえアレはまだまだ八神と特訓が必要っぽいな。あのレベルじゃ完成とは言えない……って、八神が言ってました。まぁ、今日の練習試合も木の辺りから見ていたっぽいけど……何と言われるのやら。

 

「でも、お前DFだろ?何でブロック技じゃなくてドリブル技を身につけようとしてるんだ?」

「あはは……」

 

 それを語るには数日前。まだ、染岡さんがドラゴンクラッシュという技を身に付ける前まで遡らなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ十六夜」

「何だ八神」

 

 ウォーミングアップがてらのパス練習中に話しかけてくる八神。

 

「前に必殺技が使えないと言ってたが、あのペラーを必殺技に組み込むというのはどうだ?」

「はい?」

 

 あまりのことに呆気を取られてしまう。え?ペラーを必殺技に?

 

「いや、その発想はないですわー。でも、仮に組み込むとしてどうやって?」

 

 ボールを八神にパスしておく。うんうん。さすがにそれは考えてなかった。

 ちょっと前に呼び出せるようになったペラー。特訓(?)の成果により、しっかり、地面から出てきて地に足が付けるようになったのだ。

 

「うーん。そうだな……」

 

 顎に手を置いて考える八神。あれ?こうして見ると凄い美人というか……

 

「ペンギンの上に乗ってみるというのはどうだ?」

 

「あ、やっぱり中身はただの残念さんだ」

 

「誰の中身が残念だ!」

 

 本気で撃ってくる八神。そのボールは当然、

 

「ふぎゃあああああああ!」

 

 オレに当たり、オレごとゴールに突き刺さった。……おかしいなぁ。ただのシュートなのに何でこんなに強いんだろう。オレなんかと比べ物にならないよ……

 

「そもそもやってみなくちゃ分からないだろ。ほら、ペラーを呼び出してやってみろ」

「やらなくても分かると思うんだけどなぁ……」

 

 ピー

 

 言われるがままに呼び出す。うん。こいつのサイズ的に乗るのは無理だ。

 

『それで?オレに乗れるかどうかって話?ご主人様』

 

 んーあーそうだね。というか、見た目は可愛いのに一人称が『オレ』って、

 

『オレはご主人様の一人称を真似しているだけ。つまりご主人様のせい』

 

 酷い。それはさすがに酷い。

 

『ほら、ペットは飼い主に似るって言葉があるでしょ?あれあれ』

 

 あーあれね。うん。あれか。

 

「……納得していいのだろうか」

「何を納得するかは知らんがとりあえず、乗ってみろ」

「いやいや八神さん。よく考えてくださいよ。この子子ども。小さい。乗れるサイズじゃない。そもそもペンギンに乗るもんじゃない。ドゥーユーアンダスタン?」

「……む。確かにそうだな」

 

 そうそう。ペンギンに乗るという発想すら動物愛護団体が発狂しそうだが、理解してくれて何よりだ。

 

「じゃあ、ペラー。十六夜が乗れるサイズまで大きくなってみろ」

 

「アンタ本当に頭大丈夫かぁっ!?」

 

 いやいや、今のままじゃ乗れない。じゃあ、大きくしよう。なんだこの考え!?というか無理だろ絶対!

 

『分かった~』

 

 そう言うと腹を地面に付けて大きくなるペラー。

 

「このサイズなら乗れるんじゃないか?」

 

「意味不明!」

 

 本当に大きくなったんですけど!もうこの世界嫌になりそう。いや、既に嫌気はさしてるけどさぁ。

 

『ほら、乗るんでしょ?さっさと乗ったら?』

 

 挙句、乗る対象に催促される始末。え?あ、はい。

 

「そうだな……」

 

 とりあえず、乗ってみた。動くことも考え、サーフボードというかスノボーというかそういうのに乗る感じで立っている。

 

「ペラー。とりあえず、飛んでみろ」

「え?ペンギンってお空飛べないよ?」

『分かった~』

 

 すると、陸から離れて飛び始めるペラー。……あれ……?飛んでるというより……

 

「浮いてる!?」

 

 どういう原理だ!?どういう原理なんだ!?

 

『そんなの分からないよ』

 

 お前が分からなくてどうするの!?

 

「よし、このままペラーが飛んで、十六夜は振り落とされないようにバランスを取るんだ」

『うん。分かった』

 

「分かってんじゃねぇえええええぇぇぇぇ!」

 

 そして、この日。オレは『空飛ぶペンギンの背に乗って空を飛ぶ』という前の世界ではまずあり得ないような体験をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、お前も熱血パンチだっけ?習得していたじゃないか」

 

 そして時間は現在に戻る。

 

「まぁな!特訓の成果だぜ」

 

 特訓の成果……ねぇ。その一言で済ますお前が凄い。

 

「あ、オレこっちだから」

「おう。じゃあ、また明日」

「はいはい。また明日」

 

 一旦家に帰って支度を整え河川敷に。すると、すでに八神が居た。

 

「じゃあ、始めようか」

「よろしく」

 

 ということで準備体操をしてからパスを始める。……最近八神のパスの威力とか速さが上がってる気がするけど、気のせいということで。

 

「今日の試合。そこそこの動きだったな」

「そりゃありがとさん」

 

 八神に言わせると今日の動きはそこそこらしい。

 

「ただまだ『ライド・ザ・ペンギン』あれは未完成だな」

「そうだな」

「色々と応用が効きそうなのが今日の試合で分かっただろう。改善点としては、ペラーに乗るまでの早さと空中でのバランス。十六夜が特訓すべきは大きくその2点だ」

 

 本当はもっとペラーの速さを上げるといいかもしれないとも言われたが、それはオレじゃどうにもできない。ていうか、ペラー曰く、まだまだ速く飛べるそうだからオレの能力がカギとなる。

 って、何でこんな話を真面目にしているんだろうか。というか、あの技(?)をどこまで進化させるつもりなのだろう。

 

「でも、バランス感覚を鍛えるって体幹を鍛えるってことか?」

「まぁ、そうとも言えるな」

 

 なるほど。どうやって鍛えようかな。

 

「何かいい練習メニューとかある?」

「うーん」

 

 考え込む八神。きっと彼女ならいいアイデアを……

 

「そうだ。ボールの上に乗ってバランスを取ったらどうだ?ほら、ピエロのようにボールの上で乗って移動するんだ」

 

「できるかぁぁぁぁぁああああ!」

 

 忘れてた。八神に意見を求めてもダメだということを。

 

「そうか?貸してみろ」

 

 そう言ってボールを貸す。

 八神は普通に上に乗って普通にボールの上に立つ。そして、普通に転がして……

 

「はぁ?」

 

「何だ。思ったよりも簡単すぎたな」

 

「はぁ?」

 

 彼女何言ってるの?というか、あのボールよく潰れないなぁ~この世界のボールって何と言うか凄いよね。燃やしてもパンクしたりしないで、最後は綺麗な形を保てるんだから。

 

「十六夜もやってみろ」

 

 というわけで挑戦。

 

 ズコッ

 

 そして、こける。

 

「下手くそか」

「お前がおかしいからな!?」

「まぁいい。もう1回だ」

「え?」

「バランス感覚を鍛えるにはピッタリだろ?もう1回だ」

 

 この後、出来るまで続けさせられました。まる。




主人公習得技

たまのりピエロ
ドリブル技

バランス感覚を身につける特訓中に本人の知らないところで身についた。
本人は必殺技と認識してない。


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野生中戦に向け ~必殺技を編みだそう~

 あれから、八神考案の意味不明な特訓のお陰かライド・ザ・ペンギンの精度も上がった今日この頃。

 

「皆!分かってるなぁー!」

「「「おぉー!」」」

 

 我らが円堂キャプテンが部活の皆を盛り上げてる。わー。

 

「とうとうフットボールフロンティアが始まるんだ!」

「「「おぉー!」」」

 

 そっか。もう始まるのか。対戦校も決まったし。

 

「で?相手は?」

「相手は──」

 

 まぁ、キャプテンだから知ってるに決まってるか。

 

「──知らない」

「……はぁ。野生中だよ」

 

 野生中と書いて『のせちゅう』と読む。まさか、尾刈斗中がお化け関連だったから野生中は動物とか……ってないない。さすがにそれはないない。

 

「十六夜君の言う通り。初戦の相手は野生中ですよ」

 

 と、入って来たのは我らが顧問冬海先生。

 

「確か野生中は昨年の地区予選決勝で帝国と戦っています」

 

 え?それって、この地区でもかなりの強豪じゃん。

 

「初戦大差で敗退っていうのは勘弁してほしいですね」

 

 なんかこの人。嫌だなぁ。

 

「ああ、それから」

「チーッス。俺、土門飛鳥。一応ディフェンス希望ね」

 

 あ、新入部員だ。

 

「君もモノ好きですね。わざわざ弱小クラブに入部だなんて」

 

 去っていく先生。なんかなーやっぱ、あの人嫌だなー

 

「土門君」

 

 すると木野が土門に話しかける。

 

「あれ?秋じゃないか?」

「何だ?知り合いか?」

「うん。昔ね」

 

 へぇ。凄い偶然もあるもんだなぁ。

 

「歓迎するよ土門!フットボールフロンティアに向けて、一緒に頑張ろー!」

 

 円堂張り切ってるなぁ……

 

「でも相手野生中だろ?大丈夫かな?」

「何だよ、新入りが偉そーに」

「まぁまぁ、染岡。で、土門。それは純粋に相手が強いと言う意味?」

 

 そりゃ去年は決勝まで行ったチーム。弱いわけがない。

 

「簡単にはそうだね。俺、前の中学で戦ったことあるからねぇ。機動力、瞬発力共に大会屈指だ。特に高さ勝負にはめっぽう強いのが特徴だ」

 

 サッカー……高さ勝負……強い……?あれ?そこまで高さで勝負する機会あるっけ?

 

「高さなら大丈夫だ。俺たちには……ファイアトルネード、ドラゴンクラッシュ、ドラゴントルネード。強力なシュートが3つもあるんだぜ」

「円堂。それ、結局ファイアトルネードしか高さ関係ないよね?」

 

 彼は何を根拠に大丈夫と言ってるのだろうか。

 

「どうかな?あいつらのジャンプ力、半端ないよ?ドラゴントルネードだって、上から抑え込まれちゃうかも?」

 

 今何て言った?あんだけ高い位置から打つファイアトルネードを上から抑え込む?……無理無理。

 

「そんなわけないだろ」

「土門の言う通りだ。俺も奴らと戦ったことがある。空中戦だけなら、帝国をも凌ぐ。あのジャンプ力で上を取られた」

 

 ……え?そいつら人間?あ、でもペラーで飛べば行けるか。

 その情報に皆が暗くなる中、円堂は声をあげた。

 

「新・必殺技だぁ!新しい必殺技を生み出すんだよぉ!空を制するんだぁ!」

 

 サッカー。空を制する。意味不明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、特訓開始。円堂ははしご車の上のかごの部分からボールを……

 

「ちょっと待て円堂!そのはしご車どっから持ってきたぁ!」

「え?古株さんから借りた」

 

 古株さんって誰だよ!てか何者だよ!

 

「そんなことは何でもいい!次!十六夜!」

「…………はいはい」

 

 ピー

 

『呼んだ?』

「行くぞ」

『はいはい』

「ライド・ザ・ペンギン」

 

 そして円堂が投げ降ろしたボールをトラップで止めて、円堂のところまで行って返す。

 

「お、おう……って空中戦の特訓でペンギンだしてどうすんだよ!」

「はぁ!?逆に何で出したらダメなんだよ!」

 

 何故何でもアリのサッカーの特訓なのに必殺技を使ってはならないのだろう。というかこの特訓無茶苦茶だからな?な?

 そして休憩時間。その円堂がはしご車を借りてきた古株さんから話を聞いた。

 40年前にこの雷門中には無茶苦茶強い伝説のサッカー部があったそうだ。で、そいつらなら世界も相手に出来たそう。……いや、世界ってレベルが違いすぎるだろ。彼ら……通称『イナズマイレブン』を率いた監督が今は、亡き円堂の祖父だそうだ。

 でも、何かあった空気は出してるけどそれ以上は何も語ってくれない。本当に何かあったのか?

 そして次の日の河川敷での部活練習。皆、新必殺技を編みだそうとしている。

 

『ジャンピングサンダー!』

 

 栗松と少林が何かやってる。だけど失敗して身体を打ってる。

 

「シャドーヘアー!」

 

 宍戸のアフロが凄い成長していた。宍戸が走ると頭から2つのボールが……よく入ったな。アフロの中に。これには呆れるしかない。

 

「必殺!壁山スピーン!」

 

 壁山はボールを前にしてくるくる回ってるだけ。……こんなんで大丈夫?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ夜になる。恒例の八神との特訓である。

 

「…………」

「どうした八神。そんな考え込むような顔をして」

「いや、お前のライド・ザ・ペンギンは完成した」

「そう?ありがとう」

「だから、それを別の必殺技に繋げられないものかと思ってはいるのだが……」

 

 なるほど。確かに既成の技を昇華、進化、発展させた方がやりやすいか…………オレのイメージ的にも。ということは……ペンギン技?

 

「問題は十六夜がペラー1匹しか召喚できないことだ。複数召喚出来れば幅が広がると言うのに」

「酷い言われようだ」

 

 そもそも1匹召喚出来るだけでおかしいからな?

 

「何匹か召喚できないのか?」

「えぇー」

「ちょっとやってみろ」

「はいはい」

 

 ピー

 

『呼んだ?』

 

 ピー

 

『いや、もう居るでしょ?』

 

 ピー

 

『いやいや、増えるわけないじゃん』

 

 よし。

 

「無理であります軍曹殿!ペンギンは量産できません!」

「そうか……」

 

 考え始める八神。あ、このパターンって。

 

「おいペラー。分身しろ」

 

 ほらね。阿保なこと言い出したよ。

 

『ご主人様~この人頭おかしいんじゃないの?』

 

 羽を八神に指してオレに聞いてくる。いや、コイツが頭おかしいの前からでしょ。

 

「ペラーも分身は無理だって」

『うん。あ、でもさすがに分身は無理でも仲間を増やすことは出来るよ』

「でも、ペンギンを増やすことは可能……え?」

 

 今、ペラー何て言った?

 

「そうか。ペラー。仲間を呼んでくれ」

『はーい』

 

 そう言うとどっからかほら貝?を出すペラー。……え?お前今どっから出した?四次元ポケットか?

 

 ウォォォオオオン

 

 響く貝の音。そして、

 

 ザッザッザッザッ

 

 ペンギンが現れた。

 

「なるほどな。ペラー。もっと増やせるか?」

『はーい』

 

 ウォォォオオオン

 

 ザッザッザッザッ

 

 気づけば10匹以上のペンギンが。

 

「これは凄いな」

「……おっかっしいなぁ……ペンギンが増えた」

 

 どうしよう。ペンギン軍団が現れたけどこいつらどうしよう。

 

「よし、十六夜。こういうのはどうだ」

 

 そして、八神の目がオレにとって嫌な風に輝き始めたけどどうしよう。

 そして翌日。円堂が「秘伝書がこの学校に眠ってる!」とか言い始めたけど本当にどうしよう。



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野生中戦に向け ~イナズマ落とし特訓~

 で、現在。部室にいるのはオレと豪炎寺だけです。皆?何か理事長室の金庫の中に秘伝書があるという情報の元、理事長室へ潜入していったよ。

 

「アイツらは隠密行動する気があるのか?」

「さぁな」

 

 もし、隠密行動する気があるなら、何であんな大所帯で行ったんだろうか。とてもじゃないけど理解に苦しむ。いやねぇ、アレだとどうぞ見つけて下さいって言ってるようなもんじゃん。

 

「でも、何で理事長室の金庫の中に円堂のじいさんの秘伝書が?」

「俺には分からん。ただ、響木さんっていうラーメン屋の親父がそう言ったのは事実だ」

 

 どうやら、風丸、円堂、豪炎寺の3人が響木さんから聞いた情報らしい。

 響木さんと、円堂のじいさん。そして、理事長……何か関係があるのか?

 そうやって悩んだりすること十数分。円堂たち探索組が戻ってきた。……1冊のノートを持って。

 

「え?お前ら。マジで盗んできたの?」

 

 これって、バレたら廃部じゃすまなくね?

 

「いや、夏未がくれたんだ」

 

 話を聞くと、金庫の前で悪戦苦闘しているところを見つかり、先に回収していた雷門……まぁ、あのお嬢様が秘伝書をくれたらしい。ただ、

 

「暗号で書かれてるんじゃ……」

「外国の文字ですかね……」

「いや、恐ろしく汚い文字なんだ」

 

 はっきり言おう。一瞬見たが図と、汚い字で何書いてあるのか読めねぇ、と。

 

「汚いんですか」

「誰も読めないんじゃ……」

「誰も使えねぇよ……円堂!」

 

 あまりのことに怒る染岡以下数名。しかし、円堂は、

 

「すげぇ!ゴッドハンドの極意だって!」

「「「読めるのかよ!」」」

 

 どうやら読めるらしい。何か、聞くと円堂が持っている練習ノート?的な奴も、恐ろしく汚い字で書かれている。それを幼い頃から読んでいて、分かるようになったらしい。いや、らしいって……。

 で、読み進める円堂解読班(ただしメンバーは円堂のみ)。すると、高さに対抗する必殺技を見つけたらしい。

 

「うん。相手の高さに勝つのはこれだ。『イナズマ落とし』」

 

 イナズマ落とし?雷でも落とすのか?無理無理。

 

「読むぞ。いいか?『1人がビョーンって飛ぶ。その上でもう1人がバーンってなって、グルってなってズバーン。これぞイナズマ落としの極意』……え?」

 

 おい。擬音語ばっかじゃねぇか。色んな意味でふざけんなよ。

 

「でもさ、じいちゃんは嘘はつかねぇよ。ここには本当にイナズマ落としの極意が書かれているんだ。後は特訓さえすればいいんだよ」

 

 ちょっと待て。今のをどうやって技にするつもりだ?特訓しようがなくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして移動。何か染岡さんが木にロープを掛け、そのロープにタイヤを括りつけた……まぁ、要するにタイヤを持っている。

 

「本日のメインイベントはこれ。敵の凄技を受ける特訓だ」

 

 なるほど。つまり、オレたちに向けそのタイヤをぶつけると。

 1名を除き一瞬で察したオレたち。その1名を残して、サイドにさーっと移動する。

 

「行くぞ!」

 

 そして取り残された1名(宍戸)に向かってタイヤはスピードを上げ突撃していく。

 ちょっと待て。こんな特訓したら幾つ命があっても足りないんですけど。よし、逃げよう。

 

「いいねぇ。特訓だねぇ」

 

 円堂の元へ逃げたオレ。文字通り飛んでいく皆を見て円堂が一言。

 そんな円堂にオレは言いたい。この特訓は命が幾つあっても足りないと。

 

「円堂……それに十六夜も。ちょっといいか?さっきの秘伝書のことで」

 

 すると、豪炎寺が話しかけてきた。

 

「アレってこう言うことじゃないのか?」

 

 そう言って豪炎寺が地面に図を書きながら説明してくれた。オレと円堂はそれを皆の「うわぁー!」とか言う悲鳴をバックに聞いていた。

 豪炎寺の説明によると、まず1人が高く飛ぶ。もう1人がそいつを踏み台にして高さを稼いで、十分な高さのところで、オーバーヘッドキック。ふむふむ。

 

「いやいや、豪炎寺。そんなわけ──」

「豪炎寺……そうだよ!多分その通りだよ。凄いなお前!」

「おいおい円堂冗談も……」

 

 あ、凄い目を輝かせている。コレ、ガチでそう確信した時の顔だ。…………え?嘘だろ?

 

「そんな不安定な足場からオーバーヘッドキックを出せるのは豪炎寺。お前しかいない!」

 

 ……え?そういう問題?

 

「そしてお前の踏み台になれる奴は……」

 

 すると、壁山が空を飛んでいるのが見える…………あれ?あの壁山を吹き飛ばすほどの威力なの?あのタイヤ。

 

「壁山か……よし!」

 

 何がよし!?何も良くねぇよ!?というか壁山が空を飛んでるのはスルーですか!?

 

「よし、十六夜!お前も特訓だ!」

「…………はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、何かタイヤを2個ほど巻きつけられている。巻きつけられてるというか、タイヤの丁度真ん中の部分にすっぽり入って、ロープで固定されてる。

 

「ジャンプ力をつける特訓だ!」

 

 は?いや、無茶苦茶……

 

「はいッス」

 

 あの……だから、

 

「よし行くぞ!壁山!十六夜!」

 

 ……何だこの特訓。

 そして、跳び続けてもう日が暮れた。着地が上手く取れなかったりで全身ボロボロのオレたち3人組。息も上がって、全員倒れている。

 

「もうやめなよ!壁山君1人に苦しい思いをさせたくないからって、円堂君と十六夜君までそんなことする必要ないじゃない!」

 

 円堂……お前の優しさは良くわかった。

 

「キャプテン!十六夜さん!そうだったんすか?……でも、俺もうダメッス……」

 

 ただな、円堂。

 

「人間……もうダメだって思う時こそ。本当の力が出て来るもんさぁ!」

 

 跳び起きる円堂。

 

「さぁ、もう1回だ!」

 

 そして、もう1回と言う。はっはっはっ。

 

「ざけんじゃねぇぞ円堂!巻き込みやがって!」

 

 オレは怒りを力に変えて飛ぶ。何が特訓だざけんじゃねぇ!

 

「ぎゃぁぁぁああああああ!」

 

 隣から聞こえる悲鳴。見ると壁山が空高く跳躍していた。……は?

 

「デンデン虫!うわっ!うわぁ!うわぁああ!」

 

 ゴンッ!

 

 2、3度跳ねた後、木に激突する壁山。

 

「凄いじゃないか!壁山!今の感じだよ」

 

 ……マジで?

 

「よぉし!皆!野生中との試合までもう一踏ん張りだぁ!」

「「「おぉ!」」」

 

 そして、ある重大なことが発覚した。

 なんと!壁山が極度の高所恐怖症だったのだ!

 …………え?大丈夫?これ。いや、大丈夫だろうけど。根拠?特にない。



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VS野生中 ~頑張ってもダメな事ってあるよね?~

 あれから試合当日となりました。壁山の高所恐怖症は80cmまではクリア出来たが後は……。そしてイナズマ落としは遂に完成しなかった。あれが完成しないと相手からは点が取れなくて勝てないらしい。……あぁ……いろんな意味でヤバいなぁ。

 で、野生中にバスで来たのはいい。いいんだが……

 

「本当に大自然に囲まれてるなぁ……」

 

 ジャングルの中に中学校。通うの大変そう……

 

「コケッ、コケッ、これが車コケッ。初めて見たコケッ」

 

 すると、オレたちの試合を見に来た雷門お嬢様が乗ってきた車に群がる人(?)たちが。というか今の奴、車を初めて見たとか言ってたが冗談だよな?

 

「タイヤが4つも付いてるチータ」

「すげぇ、中は機械で一杯だゴリ」

 

 ……冗談だよな?後、その取って付けたような語尾なに?え?お前ら人か?というか、ゴリラはゴリって鳴かねぇよ。

 

「何なの……」

「あ、あの人たちですよ!野生中のサッカー部!」

 

 …………嘘だろ?こんな人間かもよく分からん奴らと戦うの?え?嘘でしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてグラウンドに移動。野生中の生徒が沢山応援に来ている。いやさぁ。応援はいいんだけど……お前ら普通の人間なのに、何でサッカー部員だけあんな動物みたいなの?ついでにアンタらの監督、一目見たけど絶対生きてる時代間違えてるから。

 で、ほとんど向こうの応援。だが、我らが雷門中を応援に来た人たちもいる。壁山の弟とその友人たち。そして、

 

『やっぱり、お前も来たのね』

『言った通りだ。今は試合に集中しろ。負けたら許さん』

 

 ついにアイコンタクトで意思疎通を図れるようになってしまった、八神大先生も来てます。昨日の時点で今日見に来るとは言っていたけど、本当に来たようだ。ただし、木の影から見ている模様。……恥ずかしがり屋?あ、はい。何でもないです。

 

「よし!行くぞ!」

 

 そしてフィールドに入っていく。今回のフォーメーションは尾刈斗戦同様4ー4ー2。各々、前回と同じポジションに付く。前回居なかった土門はベンチスタートだ。

 ちなみに、角間がまた実況に来たがそのことはスルーで。

 

「どうかイナズマ落としをやらなくてすみますように」

 

 隣では壁山が祈るようにしている。…………はぁ。

 

「そう堅くなるなよ。出来るものも出来なくなってしまうぞ」

「十六夜さん……」

 

 ピー!

 

 ホイッスルで試合開始。オレたちボールで試合は始まった。

 

「アーア、アアァァァー!」

 

 そして吠える相手監督。アンタほんとに人間?

 

「他山先生がこの試合に勝ったらおやつ食べ放題だってさ!皆やるコケッ!」

「待てやコラ!お前らふざけてんの!?」

 

 相手キャプテンのニワトリが恐ろしいことを口にする!オレたちどんだけ舐められてんの!?後、あの監督にそんな財力があるとは微塵も思えない!

 と、ツッコんでる間にもボールは風丸に渡り、そこから染岡へ。

 

「野生中の実力!見せてもらおうか!」

 

 ゴール前に高く蹴り込む。豪炎寺へのパスだな。いやぁ、あの高さだし、行けるんじゃないの?改めてみてもあの高さに普通の跳躍で到達するの無理……

 

「…………は?」

 

 豪炎寺がファイアートルネードを撃とうとする……が、空中でボールを相手キャプテン、ニワトリが確保。その跳躍力は豪炎寺を超えてきた……。本当だったのか……

 ニワトリからチーターへボールが渡ろうとする中、1つ些細なことを疑問に思う。いや、本当に些細などうでもいい疑問なんだが……この世界の走り高跳びのギネス記録何mだろうか?あ、棒高跳びでもいいよ。

 

「速い!」

 

 チーターをマークしにいく半田。が、チーターの高速ドリブルに半田は追いつけない。

 

「壁山!中を頼む!」

「は、はいッス!」

 

 少林、風丸と突破されてしまったのでオレがチェックに行く……が、センタリングによりゴール前にボールを上げられてしまう。ッチ!オレじゃ間に合わねぇ!

 

「円堂!」

「ああ、来い!」

 

 するとワシ?みたいな奴がその空中のボールに向かって、跳ぶ。そして、

 

「コンドルダイブ!」

 

 そのまんま!いやそのまんまというかおかしいだろ!空中のボールにダイブ!?というか何かオーラのようなものを纏っていた気がするがアレ何!?

 

「ターザンキック!」

 

 すると、そのシュートに対し更にゴリラが必殺技を放つ。

 おい待てやそこのゴリラ。テメェが掴んでる蔓?はどこから生えてんだ!明らかにおかしいだろ!

 

「何!?させるか、熱血パンチ!」

 

 ゴリラのせいでシュートの軌道が変わったが、辛うじて円堂がパンチングで弾く。弾いたボールはそのまま風丸の下へ。

 

『しかし恐るべき野生中の個人技!雷門中誰1人付いていけない!』

 

 いや、個人技云々以前の問題だと思います。彼らに対して言っちゃ悪いが、明らかに文明が遅れてます。何でサッカーやってるのか、不思議なくらいです。

 ……ただまぁ、分析してみるとニワトリは高く跳べるが、ペンギンを使えば張り合えるだろう。チーターも確かに速いが、別に凄い脅威って程脅威じゃない気がする。…………というか、相手チームにペンギンはいないの?居てもいいと思うんだけど。

 

「あれだけ特訓したのに……」

 

 そう呟く風丸。後は、相手チームには司令塔がいない気がする。いやまぁ、うちもいないけどさ……。

 ボールは風丸から豪炎寺へ。しかし、豪炎寺には3人のマークが付く。

 

「豪炎寺!」

 

 それを見た染岡がパスを貰おうと前線へ上がり声を出す。ボールはそのまま染岡へ。よし、フリーだ。

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 染岡さんの必殺技!しかし、シュートを撃とうとしたその瞬間!相手のライオンが転がりながらタックル!染岡さんをフィールドの外の柵(?)みたいなところまで吹き飛ばした!

 

「染岡!」

 

 足首を抑える染岡さん。あれ?恐ろしい威力でタックル(?)され、柵のようなところに激突して足首を抑える?ん?何かおかしくね?

 

「……って、審判!あれファールですよね!?というか絶対カードものですよアレ!」

 

 とりあえず審判は試合を中断させる。

 さすがに、今のプレーは危険すぎるだろう。元の世界だったら一発退場で済めば可愛いだろうね。じゃあ、この世界は?

 

「しんぱあぁぁぁん!?アンタ今のに注意の1つすらないの!?今のプレーどう考えても危険すぎますよね!?常識で考えてもカードものですよアレ!」

「君。あまり抗議が過ぎるとカードを出すよ」

「ぐっ…………!」

 

 抗議したオレが注意され、挙句カードを出されかける事態になる。ここでカードを出されるのは非常にマズい。ちなみに向こうの選手は御咎めなしだ。解せぬ。何故正当な抗議をしたオレだけが……!

 ちなみに染岡は足首を捻ったらしい。……おかしい。あの状況でよく捻っただけで、終わったなぁ。というか、何処で染岡は足首を捻ったんだ?疑問は尽きないが、次の試合(負けたらなくなるが)には影響がなさそうでよかったが……この試合の得点源が減った。これは本格的に壁山と豪炎寺に託すしかない。いや、最初からその予定だからそこまで変化はないんだが……

 

「…………あの審判どうしてくれよう」

「間違っても手と足は出すなよ」

 

 どうやらこの世界は選手もぶっ飛んでるが、審判の頭のネジもぶっ飛んでるらしい。クソが。オレは聖人君子では無いんだ。今のでオレが注意されるのはさすがにいただけねぇ。後で神様に文句言ってやろう。



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VS野生中 ~詰まったら視点を変えよう~ 

 染岡の代わりに土門が入った。壁山が染岡の穴を埋めるべくFWに、そして土門はDFに入った。これで本格的にイナズマ落としに希望をかけるしかない。

 恐らくあの審判は、向こうのライオンがまた同じようにやってきても、ファールを取らない。つまり、陸上からシュートを撃とうものなら、また飛ばされる可能性が高い。空はあのニワトリが封じてる。……さてさてどうしたものか。

 ワシのスローインで試合再開。カメレオンにボールが渡り、そのままドリブルを開始する。

 

「土門!」

「オーケィ」

 

 土門がディフェンスに行く。そして、

 

「キラースライド!」

 

 カメレオンからボールを奪うことに成功。へぇ。キラースライド。アレって帝国の人たちが使っていなかったっけ?

 そして、土門はドリブルの後、高くボールを上げる。

 

「行くぞ壁山!」

「は、はい!」

 

 イナズマ落とし……が、豪炎寺が壁山に足を掛ける前に怖がってしまいバランスが崩れる。そしてボールはニワトリへ。

 そこからはシュートの嵐だった。向こうが野生の本能を爆発(角間曰く)と言われるまでの個人技を前に、こっちが圧倒的不利な状況に追い込まれる。

 

「ターザンキック!」

「させねぇよ!」

 

 空中でゴリラとボールの蹴り合いになる。ッチ……蔦なんて使いやがって……!状況として、こっちは1点も入ってないが、

 

「もう1度行くぞ!」

「は、はい!」

 

 こちらの希望である2人は、何度も『イナズマ落とし』を挑戦してみるも不発に終わり、全てニワトリに止められる。そして、

 

「スネークショット!」

 

 …………あー割と普通のシュートだ。もしかして今まで見た中で割りとまともじゃね?

 

「熱血パンチ!」

 

 そのシュートを円堂が防いだ。

 

 ピ、ピ──

 

 その直後響くホイッスルの音。

 

『ここで前半終了!両チーム無得点!だが試合を支配しているのは野生中!疲労困憊の雷門中に反撃の手段はあるのか?』

 

 ベンチでは静かなものだ。皆体力をかなり使ってる。そんな中円堂がグローブを外すと……

 

「やったなぁ!皆!」

 

 うわぁ。手真っ赤。お前火傷してる?自分の熱血で?

 

「同点だぜ?あんな凄い連中にさ!」

 

 凄いと言うか……ヤバいと言うか……正直、お友達になりたくないというか……。

 

「後半もゴールを割らせない。そして2人のイナズマ落としで勝つんだ!」

 

 楽観的な円堂の意見に反応したのは壁山。

 

「俺をディフェンスに戻して下さい。ダメなら交代させて下さい。イナズマ落としは無理っス。もうこれ以上ボールを上げてもらっても俺には──」

「いいや。俺はこの先もお前と豪炎寺にボールを出し続ける。高いのが怖いと言いながらあんなに努力してたじゃないか!精一杯やった努力は無駄にはならないよ!きっと実を結ぶさ!」

 

 たまに円堂はいいことを言う。流石と言うか何と言うか。

 そんなハーフタイムの終わりがけ。

 

「なぁ、壁山」

「なんッスか」

「イナズマ落としってどんな風な技なんだろうな」

「……それは……完成させないと分からないんじゃ……」

「かもな。ま、お前が怖いのは下を見ることだから、どうしたら下を見ないように土台になれるか。どうせ、誰も見たことないんだし、前例なんて気にしなくていい。だったら、必ずしも肩や頭を足場にする必要はないんじゃないか?」

「そ、それは……」

「ま、後は好きにやってみろよ。好きにやれる状況は作ってやる」

 

 オレはそのまま自分のポジションへと向かう。

 そもそもこんなことやってること自体間違ってそうだが……。というか、あの『イナズマ落とし』を完成させないでも点を取る方法……あ、ニワトリ封じか。それかライオン殺し。どっちが楽だろう。

 

 ピー!

 

『野生中のキックオフで後半戦開始です!』

 

 ボールはチーターからヘビへ。……ッチ。

 

「スネーク……」

「撃たせるかよ!」

 

 シュートを放とうとする瞬間にボールを上げて、不発にする。流石に円堂が無失点に抑える宣言をしていたが、あの野郎もう手が限界だ。

 

「皆!まずは1点取るぞ!」

「「「おう!」」」

 

 そのままドリブルを仕掛ける。敵が立ちはだかるが、

 

「マックス!…………戻せ!」

「ああ」

 

 マックスとのワンツーで切り抜ける。ライオンが地上でシュートを撃たせない。ならば、空しかない。でも、オレはシュートを撃てない。撃ってもどうせ止められる。ならどうやって取るか。

 

「壁山ストップ!豪炎寺、ファイアトルネードを!」

「だが」

「考えはある!任せろ!」

 

 ピー!

 

『面白いことを考えるねぇ』

 

 呼び出すペラー。ペラーには言葉に出さなくとも考えは伝わってる。

 

「可能か?」

『出来ると思うよ』

「よっしゃ、ライド・ザ・ペンギン!」

 

 オレはボールを高く上げ、ペラーの上に乗り、自身も上昇。

 

「……っ!そういうことか!」

 

 オレの行動を見て察したのか跳び上がる豪炎寺。

 

「と、跳べないコケッ!こんなのアリかコケッ!」

「ニワトリ野郎。お前の跳躍力は確かに凄い。だが、跳べなかったら豪炎寺を止められない……だろ?」

「ひ、卑怯だコケッ!」

「卑怯?さっきのライオン君よりは、良心的だろ?」

 

 と、オレとニワトリがお話している間に、

 

「ファイアトルネード!」

 

 豪炎寺は誰にも邪魔されることなくファイアトルネードを放つ。そのシュートにキーパーは反応できず、ゴールに刺さった。

 

『な、何と!雷門中先制!あの野生中から先制点をもぎ取りました!』

 

「ナイスシュート豪炎寺」

「ナイスアシストだ十六夜」

「どういたしまして」

「その考えはなかったな。あのニワトリは跳ぶから脅威となる。が、跳ばせなければ脅威にはならない。だから、空飛ぶペンギンに乗れるお前が、ペンギンを操って奴の真上に居続ける」

「そうすることで奴は跳べない。跳んだとしてもペラーとぶつかって、結局シュートの邪魔はできない。しかも、向こうからぶつかってきたからファールは取られない」

「ただ、この手はもう使えないぞ」

「ああ、次からはオレが前出た時点でライオンに吹き飛ばされるだろうな」

 

 発想の転換だ。あのニワトリと空中戦をしようとするから負けるんだ。だったら空中戦をさせなければいい。たったそれだけの簡単なことだ。……まぁ、簡単といっても、この荒業は空中にずっと居続けないといけないから、元の世界では到底不可能だ。

 

「壁山!1点取ってゆとりは出来た。失敗してもいい。頑張れよ」

「十六夜さん……」

 

 さて、本当に辛いのはここからだ。野生中はおやつのためとは言え。今まで以上に点取りを必死にやって来るだろう。円堂の手が限界な以上、何とかシュートを防いでいきたい。

 

「ターザンキック!」

「見飽きてんだよ!」

 

 相手ボールで試合再開。そうそうに攻め込まれ再びゴリラと空中で蹴り合いに。クッ、相変わらず見かけ通りのパワーだなおい!だがまだ大丈夫だ!

 

「コンドルダイブ!」

「ライド・ザ・ペンギン!」

 

 空中でコンドルとペンギンの衝突。結果、ボールはどっかへ飛んでいった。

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か!十六夜!」

「ははっ。お前も手が限界……だろ?お互い様だ」

 

 さっきからゴリラと空中戦して、ヘビのシュートを不発にして、ゴリラと空中戦して、チーター止めて、ゴリラと空中戦して……ゴリラと空中戦してる割合高っ!というかゴリラと空中戦って何だよ!

 

「はぁ……はぁ……」

「くっ……」

「円堂と十六夜ばかりに頼るわけにはいかない!」

 

 オレはシュートを完璧に封じてるわけではない。10本に6か7は止めてるが残りは円堂の下へ行ってる。流石に1人じゃキツイが……

 

「ゾーンプレス……確かに有効だが」

 

 残りのメンバーもシュートを打たせまいと、ボールを持った奴に対し、2人もしくは3人で当たってる。ただでさえスタミナ持ってかれてるのに、前半でこっちはガス欠。いつまで持つか……いや、

 

「すげぇぞ!皆!」

 

 持たせるしかない……か。やれやれ、ウチの大将はコレだから。やるしかない。

 

「しまった!」

 

 ゾーンプレスをすること何分か。チーターの突撃からゴリラへのパス。オレはワシによって完全にマークされている。

 

「ターザンキック!」

「ゴールは割らせない!ゴットハンド!」

 

 ゴリラのシュートを円堂はキャッチした。

 

「行くぞ!壁山!」

 

 パントキックで大きく前線へとボールを飛ばす。

 何度目かの、豪炎寺、壁山、ニワトリの3人が跳び上がる光景。やはり、ニワトリは文字通り頭一つ飛び抜けてる。今まではこのままニワトリがボールを取っていた……が。

 

「これが俺のイナズマ落とし!」

 

 今回は違った。壁山が自身の腹を豪炎寺の踏み台としたのだ。しかも、腹を空に向かって突き出すことにより下を見なくていい。なるほど、考えたな。

 そして、ニワトリの高さを超えたところから豪炎寺のオーバーヘッドキック。そのボールは水色というか青色というか雷を纏いゴールへと突き刺さった。いや、もう豪炎寺さんに関しては何も言わねぇ。だって、あの人足から炎出す人だもん。雷出したけどまだ、ガチのじゃないから。うん。きっとそうだ。

 

 ピ、ピー!

 

『ここで試合終了!雷門中対野生中!2対0で雷門中の勝利!初戦突破だ!』

 

「やったな壁山!」

「皆のお陰っス!」

 

 ハイタッチする壁山と円堂。しかし、円堂にかなりの痛みが走った。

 

「だ、大丈夫ッスか?」

 

 手に息をかけ、冷やそうとする。そんな中、雷門が円堂の手に氷を当てる。おっと、フラグか?

 なお、この試合の後、雷門夏未がサッカー部のマネージャーになりました。



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決闘って響きはいいよね?

 野生中戦も終わって何日かした後、河川敷での練習にてそれは起きた。

 

「ついに俺たちにも出来たんじゃないのか……?」

「出来たって……何が?」

「ファンだよ」

「「「えぇぇ!?」」」

 

 と、現在橋に沢山のギャラリーが居るのだ。ただし、

 

「なぁ、豪炎寺。アレって……」

「十中八九他校からの偵察だろうな」

 

 そのすべてが他校の奴らで、オレたちの分析に来ている奴らだが。

 まぁ、練習試合で帝国と尾刈斗に勝ち(実際、帝国に関しては大敗だが)地区予選の優勝候補だった野生中を下したオレたち雷門は、言わばダークホース。注目がされてなかった分データが少ないし、そもそも録に去年まで活動していない。そのデータを取りに来たのは分かるが……この世界ってここまでやるの?

 

「さぁ練習練習!必殺技にもっと磨きをかけるぞ!」

 

 おい。こっちの手の内を堂々とさらしてどうする。

 と、思ってるとグラウンドに突っ込んでくる1台の車……雷門お嬢様の車だ。後少しで円堂を轢きそうになったがそれはスルー。

 そして車から降りてきた雷門が一言。

 

「必殺技の練習は禁止します」

「よし、賛成だ」

 

 即賛成する。異議なしだ。

 

「いきなり何言ってんだよ。十六夜も。必殺技なしでどうやって地区予選勝ち抜けるんだよ」

 

 むしろ、必殺技に頼ってる方がおかしいんだよ。

 

「ん。アレ何か分かる?」

 

 オレは他校の偵察部隊(ギャラリー)を指さす。

 

「何言ってんだよ!俺たちのファンだろ!」

「アレは俺たちのファンなんかじゃない。俺たちのデータを取りに来てる他校の偵察隊だ」

「「「えぇぇっ!?」」」

 

 いや、誰1人として雷門中……同じ学校の学生にファンができないのに、他校にファンが出来ているってことに疑問を抱かなかったのかよ。

 

「分かった!ここで必殺技の練習をすると、他校にこちらの情報を渡しちゃうのですね!」

 

 今のオレたちはどうぞ見てください、好きなだけ分析して対策してくださいって言ってるものだ。

 

「だから、必殺技の練習禁止。で、文句ないよな?キャプテン」

「でも、必殺技なしでどうやって!」

「円堂。必殺技だけがサッカーじゃない。パス回し、トラップ、シュート。やることは山ほどある」

 

 やべぇ。激しく同意だわ。さすが豪炎寺さんです。まぁ、炎出せる人に言われてもアレだが凄い共感できます。

 

「だったら誰にも見られない秘密の場所で練習しよう!必殺技のさ」

「お前……今の話聞いてなかったのか?それと何処にあるんだそんな都合のいい場所」

「ぐっ…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って感じですよ八神さんや!」

「そうか。偵察とは大変だな!」

 

 パス練習をしながら現状を報告する。まぁ、秘密の特訓場所はないが、こんな夜に偵察に来るモノ好きはいないだろう。

 ちなみに、野生中戦の後にも反省点はいくつか挙げられた。今は次の試合のためにもそれを改善することも大事だ。

 

「だいぶペラーを呼び出す速度は上がってたな!」

「それはな!」

 

 ペラーが出て来るまでのタイムラグ。ここを縮められればさらに隙が少なくなるそうだ。八神さん曰く、どんな技も完璧ではないそうだ。どこかに付け入るスキはあるそう。だから自身の技の付け入るスキを減らし、相手の付け入るスキを見つける。これが大事だそうだ。

 

「体力も付けないと前みたいになるぞ!」

「分かってるさ!」

 

 野生中との試合は、最後の方結構バテてしまった。まだまだ体力不足。もっとつけないとなぁ。…………というか八神の方がオレより体力ありそうだなぁ。

 

「あの技は完成しそうか?」

「うーん。まだ何とも」

「そうか。片方だけでも早く身に付けられるといいけどな!」

「無茶言うな!」

 

 ダイレクトでのパス練習。心なしか、この前の野生中のターザンキックなどより威力が高い気がするがスルーの方向で。

 

「大体お前の考案する技無茶苦茶なんだよ!」

「まだ常識の範疇だろ!」

 

 オレにはこの世界の常識が良くわからない。

 

「よし、100回。次のメニューだ」

「はいはい」

 

 こうしてオレの特訓もどんどん進んでいく……やれやれ。何時になったら八神さんに追いつけるのやら。……頭脳だけなら追いつき追い越してるんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、基礎練習の日々の中、それは突然やってきた。

 

「おい!何か変なのが来たぞ!」

 

 今日もいつにも増して他校の偵察部隊が陣取ってる中、2台のトラックがやってきた。

 すると、トラックの荷台に当たる部分は変形して、何か研究施設というか……

 

「なんだ?」

「次の対戦相手です」

「…………もう無茶苦茶だろ」

 

 何?サッカー部偵察のためだけにここまでするの?この世界では。いや意味わかんねぇよもう。

 

「次の対戦相手?」

「御影専農中のメンバーです」

 

 すると音無も他校のデータベースを作っていたようで見せてくる。まさか、洗脳された奴らとか……ってないない。さすがにそこまで安直じゃない。

 で、そのデータベースによると今研究所にいる2人は、エースストライカーの下鶴とキャプテンでゴールキーパーの杉森だそうだ。

 

「気にせずいこう」

 

 何か今までの奴らとは違ってかなり本格的だが、とりあえずいつも通りに基礎練習をする。

 基礎練習をすることどれくらいか、下鶴と杉森が乗り込んできた。

 

「皆!ちょっとストップ!御影専農のキャプテンだな?練習中にグラウンドに入らないでくれよ!」

「何故必殺技の練習を隠す」

 

 うわぁ。話通じてねぇ。

 

「え?」

「今更隠しても無駄だ。既に我々は雷門中サッカー部員全員の能力を解析している」

 

 へぇ。公式戦練習試合未出場の目金の能力もかな?

 

「評価はD-だ。我々には100%勝てない」

 

 それって何段階評価だろう。もしかして最底辺なのでは?

 

「勝負はやってみなくちゃ分からないだろ?」

「勝負?これは害虫駆除作業だ」

 

 …………は?

 

「害虫!?」

「そんなの酷い!」

「俺が追い出してやる!」

「落ち着けお前ら」

「十六夜さん!あんなこと言われてムカつかないんですか?」

「いや、オレよりうちのキャプテンの頭に血が上ってる」

 

 明らかに円堂から怒ってますよオーラが漂ってる。まぁ、怒るのも無理はないな。事実オレも怒ってるし。

 

「俺たちを害虫と言ったの取り消せ」

「事実を言ったまでだ」

「理解できないとは意味が分からない」

「もう許せねぇ!俺たちの必殺技見たいなら見せてやる!決闘だ!」

「「「決闘!?」」」

 

 おいおい頭のおかしなこと言い出したよ。

 

「決闘?なぜそんなことをする必要がある?」

 

 そして理解されてねぇ……

 円堂が説明すること何分か。そうしてようやく理解された。何だこのめんどくせぇ奴らは。お前ら人間か?この世界にはまともな人間はいないのか?

 で、向こうがユニフォームに着替えたりして、先攻は向こうのエースストライカー下鶴だ。

 

「絶対に止めてくれよ!」

「頼みますキャプテン!」

「ああ、任せとけ」

 

 気合は十分か。

 

「では始める」

「よし来い!」

 

 さてさて相手の実力は……ん?軽くドリブルした後、ボールを高く上げ、足に炎を纏いながら回転……アレってどこかで見たような……

 

「ファイアトルネード!」

 

 ああ、ファイアトルネードか。何だ、アレって豪炎寺以外にも使えるんだ……てっきり使えないものだと思ってたけど……うわぁ。化け物増えた。

 

「熱血パンチ!」

 

 円堂は一瞬反応が遅れた後に熱血パンチを繰り出す……が無情にもボールはゴールの中に入った。

 

「ファイアトルネードだ」

「どうしてアイツが……」

「こちらの能力を解析したと言ってましたが必殺技をコピーされているとは」

 

 ……え?そんなに必殺技のコピーって難しいの?まぁ、確かに難しそうだけど……そこまで驚くことなの?前から有名な豪炎寺の技なんだから、誰かは真似して習得してそうなのに。

 とまぁ、何だかんだでボールはこっちのエースストライカーである豪炎寺の下へ。いや、逆に彼以外誰が蹴るの?で、ゴール前には杉森が。

 

「決めろ!豪炎寺!」

「ファイアトルネードはお前の必殺技だ!」

「コピーは本物には敵わないって教えてやるっすよ!」

「頼むぞ!」

 

 頷く豪炎寺。ていうか、1つ思ったこと。杉森の頭に付いてる電極なに?凄い気になるんだけど。

 そんなオレの興味をスルーして蹴り始める豪炎寺。そしてそのまま、

 

「ファイアトルネード!」

 

 ファイアトルネードを放つ。それを杉森は、

 

「シュートポケット!」

 

 腕を交差させた後、何やら空間が杉森の前に形成される。そこにシュートが入るとシュートの威力は弱まってゆき、杉森に片手で止められた。

 ……え?今何したの?え?空間作っちゃった?え?え?どういう原理かさっぱり分からないんだけど?催眠術……ってわけではなさそうだしどうなってんの?驚きを通り越して疑問しかない。いや、マジで何が起きた今?誰か詳しい説明を求む。



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イナビカリ修練場開放!

 あの決闘の後、向こうの2人は帰り、気まずい雰囲気が流れた。

 後日部室にて、音無が御影専農のことについて調べると、サッカーは正確かつ冷静。その上、あの杉森が正ゴールキーパーになってから無失点らしい。どうやらデータ通りのサッカーを本当にしているらしい。

 で、ファイアトルネードが通じず、下手したらドラゴントルネードやイナズマ落としすら通じない可能性が出てきた現状、円堂がまた新必殺技を編みだそう!とか言ったが、それが出来たら何も苦労してねぇよと思った。

 

「皆。夏未さんが呼んでるわよ」

 

 主に2年生の面子で考えてると、やってきた木野がそう言う。

 付いていくと何やら古びた祠?のような何と言うか……

 

「不気味だなぁ……」

「まさか、ここは雷門中学七不思議の1つ開かずの扉。昔生徒がここで忽然と姿を消してしまった。それ以来ここに入った者は二度と戻ってこないという……」

 

 開かずの扉なのに入れるのか?というか残りの6つは何だ?そう思ってると、開かずの扉がキィィという音と共に開いた。

 あまりの事に驚く面々。中からは髪の長い女子生徒……

 

「皆揃ったわね」

 

 雷門(アンタ)かい。

 で、雷門先導の下階段を降りていくサッカー部員。階段を降りた先で、扉が開き電球がつく。

 

「さぁ、入って」

「ここは?」

「伝説のイナズマイレブンの秘密の特訓場……イナビカリ修練場よ」

「「「えぇっ!?」」」

 

 確か40年前のあの……?

 雷門が言うには、雷門の父親(理事長)の書類整理を手伝っていた時に、この場所を発見したそうだ。そして、これをリフォーム。さすがに40年前のそのまんまとはいかなかったみたいだが、とりあえず、必殺技の練習場として生まれ変わったそうだ。円堂がお礼を言うが素直に受け取らない雷門。お、ツンデレか?

 

「おぉし!やるぞ!」

 

 で、雷門曰くこの扉はタイマーロック。一度閉じると時間が経つまで開かない。その時間なんと9999秒。分かりやすく言うなら大体170分、約3時間だ。

 とりあえず、いくつかのグループに分かれ、オレは影野と壁山と一緒に居る。

 

「「「うわぁ!?」」」

 

 何するんだろぉと呑気に構わているところにレーザー光線──ビーム──が放たれて間一髪避ける。

 

「存在が消えちゃうかも……」

「命懸けかよ!?」

「これの何処が必殺技の特訓になるんスか!」

 

 そして一呼吸置いて次の瞬間。ビームが再び発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイマーロックが解除された。開かれた扉の先にいるオレたちを見て、マネージャーズは驚きを隠せない。

 

「し、死ぬかと思ったでヤンス……」

「イナズマイレブンってこんな特訓をしてたんだ……」

「結局新必殺技は出来なかったな……」

 

 全員一様にボロボロでほとんどの奴が座る気力すらない。てか、特訓で命の危険感じたのは初めてなんだが……いや、よく思い返せば八神との特訓もアイツを怒らせたら命懸けに早変わりだし、円堂の無茶苦茶な特訓もあるし割と普通かも。

 

「元気出せ!伝説のイナズマイレブンの特訓と同じのを乗り越えたんだぜ」

「その通りだ。この特訓は無駄にはならない」

「よぉし!試合まで1週間。毎日続けるぞ!」

「「「おー……」」」

 

 ……コレ。誰か死ぬんじゃね?

 

「き、木野……今何時くらい…………?」

「もうすぐ18時かな」

「マジかぁ……円堂。用事あるから帰るわ……」

「おう、気をつけてな」

「あいよー」

 

 そして帰り道で飯食って夜。

 

「よし始めるぞー」

「ちょっと待て。何でお前はそんなにボロボロなんだ。まるでボロ雑巾だぞ」

「命懸けの特訓でこうなった……」

「命懸けの特訓?最近は基礎練習しかしてないって言ってなかったか?」

「あー雷門中で特訓出来るようになってな……」

「なるほど。ちょっと待ってろ」

 

 すると、何処かへ行く八神。

 

「待ってろって言ったけどウォーミングアップしておこう」

 

 今更だがオレも八神もジャージで練習してる。オレは雷門のだが、八神のは多分私服というか普通のだろう。まぁ、何でもいいが。

 で、5分後。

 

「お前。特に処置もせず来ただろ」

「いたっ!?」

「我慢しろ」

 

 確か修練場から出て行く時、救急箱を持った音無とすれ違いはしたけど……そういや、擦り傷とか特に何もしてなかった。

 

「顔だけじゃないだろ。他に怪我してるとこは?」

 

 腕とか足にも絆創膏なりなんなりを貼ってもらったりする。

 

「八神……優しいんだな。お前」

 

 特訓だと鬼教官っていう言葉が似合いそうなものだが。

 

「別に。お前は試合前だからな。身体も大切だろ」

 

 あはは……まぁ、明日以降はもっと怪我しないようにしよう。

 

「というか今更だが、八神はサッカー部に入ってないのか?」

 

 何と言うか、この実力なら普通に入っていそうだが。

 

「訳アリでな…………何れ分かる事になるだろうな

「何か言ったか」

「何でもない!」

「いたっ!怪我してる部分叩くか普通!?」

「さ、特訓するんだろ?」

「ああ、もちろん」

 

 御影専農がデータを基にしたサッカーをするなら、オレらはそのデータを超えなければ勝てない。本当はボロボロだがまだ日数はある。少しくらい無茶な特訓しないとレベルアップは見込めないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして試合当日。オレたちは御影専農中のグラウンドにやってきた。

 

「これ……サッカー場か?」

「アンテナがあろうとなかろうとサッカーには関係ないさ」

 

 まぁ、アンテナだらけなんですかそれは。

 そして、フィールドに出るオレたち。野生中戦より観客数は多いが、まぁ、全員向こうの応援かな。いや、本当に一部を除いてか。

 フォーメーションはいつも通り。ただ、土門を入れ、宍戸はベンチ。MFに風丸をあげるなど少しの変化はあるが。さて、御影専農の強さは帝国に匹敵するらしいが……それ野生中の時も聞いたよ?どんだけ帝国に匹敵するとこあるの?



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VS御影専農 ~そうだ奇策を使おう~

 ピー

 

 審判のホイッスルと共に試合開始。雷門中のキックオフではじまり、豪炎寺から染岡、再び豪炎寺でまた染岡とパスを回し、染岡が斬り込んでいく。迎え討つは先日お会いした向こうのエースストライカー。ディフェンスを仕掛けに来る……

 

「何!?」

 

 ……と、思いきや全く動かずあっさり染岡を通した。

 

「ディフェンスフォーメーションγ3」

 

 が、ガンマスリー?そう思っていると、一斉に動く御影専農。というか、あの電極なに?頭に付いてるけどいいの?

 で、豪炎寺にパスを出すが、豪炎寺の行くルートを潰すように、守備陣が立っている。ということで、染岡にボールを回し、

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 ドラゴンクラッシュを放つ……が、向こうの四人の守備の間を通っただけで、シュートの威力はほぼゼロになりあっさりキャッチされる。

 ……今の必殺技か?判定が難しいな。

 

「驚くことはない。君たちの攻撃は完全にデータ通りだ。従って簡単に予測できる」

 

 うわぁ。本当にデータ通りにやるんだ。

 

「オフェンスフォーメーションβ3(ベータスリー)

 

 杉森から下鶴へボールが繋がる……。

 

「は?」

『おっと御影専農の攻撃!だがこれはどういうことだ?9番山岸が十六夜をマークしているぞ!』

 

 オレがコイツをマークするのは分かる。だが、何故コイツがオレをマークしているんだ。

 振り払って下鶴へチェックに行こうとするも、コイツのマークが外せねぇ。は?どういうことだ。

 そんなこと思ってる間に風丸が1度ボールを奪う。しかし、それでもオレへのマークが外れない。すると、マークする奴が9番(山岸)から7番に変わる。

 

「こいつら……まさか」

 

 そんなことを考えてると、風丸がボールを奪われボールは10番へ。軽くマックス、栗松を抜き去り、シュートを打つと見せかけ、山岸へパス。そのまま山岸はシュートを放った。

 

「……やっぱりかよ」

 

 シュートを辛うじて防いだ円堂。しかし、問題はそこから。オレたちは全員御影専農にマークされている。ディフェンスも例外なくだ。

 

「振り払えねぇ……」

 

 ご丁寧に2人がかりでマークされてるオレ。そんな中風丸が飛び出して、そこに円堂からパス。さらに、風丸は豪炎寺へとパスを出し、

 

「ファイアトルネード!」

 

 豪炎寺がシュートを放つ。

 

「シュートポケット!」

 

 だが、杉森の必殺技に弾かれる……?ん?弾かれた?前は難なくキャッチされてたのに?

 

「豪炎寺!行くぞ!」

 

 こぼれ球に向かって走る染岡。そして、

 

「ドラゴントルネード!」

 

 染岡、豪炎寺の連携技が発動する。

 

「シュートポケット!」

 

 再び弾かれるボール。……なるほど。後少し威力が足りないわけか。

 そして前線に走り込む壁山。

 

「イナズマ落とし!」

 

 3連続シュート。しかし、杉森はこれを。

 

「ロケットこぶし!」

 

 ちょっと待て!右手からロケットパンチ!?お前はロボか!明らかにロボットのアレだろ!

 で、そのロケットパンチ……間違えた。ロケットこぶしによって弾かれるボール。

 今回ばかしは敵に渡った……が。

 

「コイツら!オレを戻らせない気かよ!」

 

 ディフェンスへ戻ろうとするオレを向こうのMF陣が防ぐ。何とか突破しねぇと!

 ボールは10番へ。そのままドリブルであがっていく。

 

「ディフェンス!囲め!」

 

 下がっていた風丸と土門がチェックに行くが、山岸へパス。そのままシュートを撃つと見せかけ走り込んできた下鶴へパス、そのままダイレクトでのシュート。

 山岸がシュートだと思い跳んだ円堂。ギリギリのところで着地し、方向を変えながら下鶴のシュートに熱血パンチを放つも体制が悪くボールは横へ弾かれる。

 

『あーっと!円堂辛うじて防いだ!走り込んできた山岸これをヘディング!』

 

 そのボールに喰らいつくのは山岸。そのままヘディングをする。

 

『あー!ダメだ円堂戻れない!』

「間に合えぇぇっ!」

 

 瞬間ボールがまるで空中に止まったような感じが訪れる……が、そんなの構ってられない。オレはダッシュでボールに追いつき、

 

「おらっ!」

 

 空中にあったボールをなんとか弾くも、そのままのスピードでオレ自身はゴールへと刺さった。

 

「十六夜!?」

「まだ来るぞ円堂!」

 

 オレの弾いたボールを今度は10番が合わせる。

 

「熱血パンチ!」

 

 円堂がボールを外に出す。

 

『十六夜と円堂!2人の活躍で御影専農中の猛攻を防ぎ切った!』

「よく戻ってきたな十六夜!」

 

 差し出された手を掴み立ち上がる。

 

「たく、あの守備突破するのに一苦労だわ」

 

 スローインで試合再開。……が、今度は向こうのDF陣がオレのマークにつく。

 ッチ。確かにこっちのシュートは、今のままじゃ杉森1人に止められてしまう。守備に人を割く必要がないと向こうが、思ってもこれは酷すぎるだろうが。

 

「何でオレばっかマークすんだ?お前らの攻撃だろ?」

 

 努めて優しく問いかける。すると、

 

「十六夜綾人。攻撃、守備において最も警戒が必要な人物」

「え?」

 

 いや、守備はまだしも攻撃も?

 

「故に守備をさせず攻撃にも参加させないのがベストとデータから判断」

「いや、攻撃なんてオレより豪炎寺の方が……」

「3試合分を分析する限り、豪炎寺より十六夜を抑える方が雷門の攻撃力は下がる」

 

 3試合?えーっと、練習試合の帝国、尾刈斗。それから1回戦の野生中。何かやったか?オレ。

 えーっと、帝国では何本かシュートを止め、単身突破を試みたな……失敗したけど。

 尾刈斗ではゴーストロックが最初から効かず、色々と向こうの思惑を崩したな。

 野生中では、シュートを防ぎ1点目に貢献……あぁ、確かに何か色々とやってるわオレって。

 

「先ほども十六夜を抑え込めていれば得点していた確率が99.99%」

「よって全力で抑えにかかる」

 

 ……どうしよう。4人に囲まれてるんだけど。本当にどうしよう。おそらく、このままじゃダメだ。オレが明らかに機能しなくなる。

 

「あっ!」

 

 こっちが抑え込まれてる間に向こうのシュートの嵐の前にこちらの守備が崩れ、点が入ってしまった……。スコアは0対1で、向こうが先制。

 そして、その後の残りの前半の時間は向こうは自分たちがボールを死守することに専念。やはり、オレは封じられてしまう。そのまま前半終了で引き上げる。……ダメだ。多分だが、このままだとマズい。どう考えてもな。

 

「よし!イチかバチかだな」

 

 向こうがデータデータ言うなら一まず、簡単にそれを崩してみよう。



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VS御影専農 ~データを超えよう~

 ハーフタイム中。円堂たちが杉森たちと会って何か話していたらしいが、まぁ、前半最後のボールを死守することだけを考えた、あの攻めてこないプレーに関して文句でも言ったのだろう。

 

『間もなく後半開始!なんと雷門中十六夜を下げてきたぞ!代わりに影野が入るがこれはどういう策だ!?』

 

 奇策……そうオレがベンチに入ることだ。

 

 ピー

 

 後半戦開始。御影専農のキックオフで始まるが、全員守備の全員でボールを保持していることを考えたプレー。

 

「でもどういうことですか十六夜さん!いくら十六夜さんが封じられてるからってベンチに行くことは無いですよ!」

「いや、オレがベンチに下がったのは大きく2つ……いや、3つの狙いがある」

「3つの狙い?」

「1つ目。まず、後半も奴らはオレを数人がかりで封じてくる可能性はある。そんなことされたらオレは置物同然。雷門中(オレら)は実質10人で戦ってるようなものだ」

「でも、代わりに十六夜君1人に複数当たる分向こうの戦力も減ってると思いますが?」

「かもな。でも、現状では向こうがオレに4人とか当てても向こうは大した痛手になってない」

 

 それが前半のあの様だ。しかもコロコロ人員をその場で変えている。向こうが攻めてる時は守備陣を、守ってる時は攻撃陣を当てると言った風にだ。それだとオレは全くと言ってもいいほど相手の戦力を削れていない。

 

「2つ目。奴らは今まで……つまり、帝国、尾刈斗、野生中との試合や河川敷での基礎練習のデータを基に戦ってる。ここで、相手のデータを崩す最もな策は、こっちのデータにないことをする」

「データにないことですか?」

「ああ。で、手っ取り早いのは主要メンバーを外すこと。豪炎寺は帝国戦ほとんどいなかったし、染岡は野生中戦いない」

「なるほど。3試合でのキーマン。そのうち、こちらが外したことのない選手を外せば」

「そいつを抜いた状態でどう動くかはデータにないはずだ」

 

 と言っても対応されるのは時間の問題だが……ま、現状大丈夫だな。奴らが攻めてきてないし、こっちも攻めてないから。

 

「キーマンかつ全試合ほぼフル出場なのは十六夜君と円堂君。でも、円堂君を外すわけにはいかないから」

「絶賛置物中のオレを外したわけ」

 

 今のオレは面白いくらいに戦力的にはゼロカウント。まぁ、こっちにまともな監督が居れば、もう少し策は変わったかも知れないが冬海先生(この監督)はどう考えても使えない。

 

「3つ目はなんですか?」

「ああ。今絶賛膠着状態中だろ?このまま続くとマズイから付け入る隙を見出す。もし、残り10分あたりまでこのままだったら……何とか1点捥ぎ取る策を立てる」

「つまり、分析するというわけね」

「まぁ、あのディフェンスされてる時は、視界も悪くなって全然動きが見れてないからな」

 

 ただ、誰かが崩してくれればいいだけの話だが。

 

「でも、十六夜君。その必要はなさそうよ」

「ああ、バカが動いた」

 

 データにないプレー。簡単に言ってるが実際にはかなり難しい。だって、前例を覆す……とまでは行かないが、今までやったことのないことをしなければならないから。

 

「ああ!」

「円堂君!」

 

 こっちが長々と話している間も、御影専農のボール保持のプレーは続いていた。それに我慢の限界が来た円堂(バカ)が、ゴールを放り出して前線へ駆け上がった。

 

『ああ、なんとキーパー円堂がゴールをガラ空きにして、攻撃参加!』

 

 御影専農からボールを奪い、単身ドリブルで突っ込む円堂。

 

『そしてシュートだ!』

 

 データにないプレーをされて驚いたせいか、円堂へのチェックが遅れる。完全フリーでシュートを放った。

 

「くっそおおおお!」

 

 まぁ、止められたが。これでハッキリした。奴らはデータに頼りすぎだ。お陰でキーパーが攻めてくるというある意味諸刃の剣とも言える策に翻弄されたのだから。ま、普通はキーパーがシュートを打たないから無理ないけど。

 

「さてさて、今のプレーに何を感じたかな?杉森は」

 

 勝つために一点取ってから全力の保持。それもアリはアリだろう。だが、その策の決定的な点は、やってる方がつまらないという点。今の円堂の姿に何か御影専農中(サイボーグ)は感じればいいけど。

 

「……よし。攻めてきた」

 

 先ほどまでと違い攻める指示を出した杉森。隣のベンチで相手監督が騒いでいたが、大方指示を無視してるとかそんな感じだろう。やはり、データサッカーは人間じゃできない。どうしても感情が邪魔をするから。

 ボールは壁山が奪いマックスへ。1人抜き去るも下鶴に取られてしまう。

 

「パトリオットシュート!」

 

 ボールを高く蹴り上げた下鶴。蹴り上げられたボールからさながらロケットのエンジンみたく火を後方噴射。ゴールの角を目掛けて自動で……っておい!ついに自動でゴールに狙い始めたのかよ!お前蹴り上げただけだろ!いいのか色々と!

 

「なっ!届けぇっ!」

 

 円堂がジャンプしながらパンチングで弾く。ボールは後方へ飛んでいった。

 続く御影専農のコーナーキック。が、御影専農同士で空中で衝突。連携が乱れた。弾かれたボールに向かって走るのは下鶴。それを見た円堂も走る……ん?円堂?アイツキーパーだろ。何故前に走ってるし?

 

「豪炎寺!こっちだ!」

「円堂!何をするつもりだ!」

「行くぞ!パトリオットシュート!」

 

 さっきの自動ミサイルが飛んでくる。

 

「止まるな!シュートだ!」

「何!?」

「俺を信じろ!」

 

 2人はシュートを前に1回転しつつ場所を入れ替え豪炎寺が左足で、円堂が右足で同時に蹴り込む。そこから黄色い雷が出て、そのまま相手ゴールまで突き進む。…………黄色い…………雷?青の次は黄色ですか?え?ということはイナズマなんちゃらになるの?というか、アレだよアレ。何で雷が平然と出せるんだよ。雷門中だからか?

 シュートを杉森が止めにかかったが、杉森ごとゴールに突き刺さった。うわぁ。威力たかっ。

 

「やったぜ!守備と攻撃が同時なら奴らも対応できないんだ!」

「ああ、あんな技が決められるなんてな」

「何だか身体が軽いとは思ったけど」

 

 まぁ、これで1ー1の同点か。

 

「イナビカリ修練場を提供したのは無駄じゃなかったようね」

「成果が出て良かったじゃないか。雷門お嬢様」

 

 御影専農ボールで試合再開。そしてさっそく少林がボールを奪った。

 皆、レベルは上がってる。ただ、イナビカリ修練場では個々の身体能力のレベルアップのみ。技術そのものをあげるにはやはり普段の練習も不可欠だろう。

 染岡にボールが渡り、

 

『ドラゴントルネード!』

「シュートポケット!」

 

 今度は打ち破り、杉森ごとゴールにぶち込んだ。これで2ー1。逆転だ。

 御影専農からのキックオフ。しかし、目に見えて動きが悪くなった。いや、さっき監督との通信がどうのこうの言ってたが、まさか、アイツら。監督が居なくなって指示が受けられなくて、もう負けたと思ってるのか?そんな棒立ちになる御影専農を前に、

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 染岡がシュートを放つ。

 

「俺はこの戦い負けたくない!」

 

 諦めムードの中、杉森がシュートポケットで弱め、必死にボールに喰らいついて止める。

 

「皆も同じだろう!最後まで戦うんだぁ!」

 

 一斉に自分たちの頭に付いていた電極を外す御影専農。

 

「最後の1秒まで諦めるなぁっ!」

 

 ボールは前線に渡る。やれやれ、円堂の影響かなぁ。

 そこからは一進一退の攻防。先ほどまでのどこか機械じみたプレーとは違い全員ががむしゃらにボールを追い掛け点を取ろうとする。

 

「決めろ!豪炎寺!」

 

 そんな中、円堂から豪炎寺へパスが行く。

 

「ファイアトルネード!」

 

 豪炎寺がファイアトルネードを撃とうとボールに蹴り込んだ瞬間。同時に反対側から下鶴が同じ体制で蹴り込んでいる。

 2人はそのまま落下し、倒れ込む。砂埃の中、下鶴が最後の力を使って、杉森にパスを出す。

 ボールを受けた杉森は単身特攻。雷門のマークを振り払い、

 

「行くぞ!円堂!」

 

 シュートを打った。

 

「ゴッドハンド!」

 

 それをゴッドハンドで止める円堂。

 

 ピ、ピー

 

 ここで試合終了。2対1で雷門の勝利だ。杉森と円堂が固い握手を交わし、わだかまりも解け、いい感じだ。

 次は準決勝。しかし、オレたちの前には1つ大きな課題があった……。




主人公をベンチに下げた理由、作者視点で言わせてもらうと、主人公がいたらイナズマ一号が完成できなかったからです。その前にシュートを止めかねないですからね。
まぁ、今後、主人公をベンチに下げて必殺技完成っていう流れはないです。


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メイド喫茶?お前らだけで行ってこい

 御影専農戦が終わった翌日。

 

「すまない皆」

 

 オレたちに謝る豪炎寺。どうも昨日の試合の最後の下鶴との打ち合いからの落下で左足を負傷、次の試合には出られないそうだ。骨にまで異常は無いらしいが……よくそれだけで済んだな。この世界の人怪我耐性高くね?

 

「気にすんなって!準決勝は任せとけ!」

「お前は治す事に専念しておけ」

「ああ、悪いな」

 

 タクシーに乗って去っていく豪炎寺。

 

「準決勝は豪炎寺抜きか……」

「せっかく凄いシュート編みだしたのにな」

「イナズマ一号だろ?」

 

 ほら、やっぱりイナズマがついたよ。予想通りだわ。

 

「秘伝書に載ってたんだ。キーパーとフォワードの連携シュート」

 

 何故そこで連携させようと思った。

 

「それでもやっぱり豪炎寺がいないのは……」

「豪炎寺がいなくても、お前らなら大丈夫だろ?」

「土門?」

「いざとなったら、俺が出るしさ」

「そうだな!俺たちで頑張らなくちゃな!よし、早速練習だ!」

「「「おー!」」」

 

 豪炎寺がいないことでやる気が下がるかと思ったが、円堂がいる限り大丈夫か。

 あれから、部室にて。オレたちの相手は準々決勝で戦ってる尾刈斗中と秋葉名戸学園の勝った方と当たるらしい。尾刈斗……懐かしい響きだ。猛特訓の末にかなりレベルアップしたらしいが、まさか、呪い(催眠術)のレベルアップじゃないよな?

 で、残りの秋葉名戸だが……名前から察するにオタクの集まりか?秋葉原にメイドだろ?

 

「で?相手の秋葉名戸学園というのはどんなチームなのかしら?」

 

 雷門の当然の質問に、木野は答える。

 

「学業は優秀なんどけど、少々マニアックな生徒が集まった学校」

 

 ……やっぱオタクじゃん。

 

「フットボールフロンティア参加学校の中で最弱の呼び名が高いチームで」

 

 …………絶対オタクだろ。

 

「な、何これ!?尾刈斗中との試合前にもメイド喫茶に入り浸っていた、ですって!」

「め、メイド喫茶ですと!?」

 

 そして過剰に反応する目金。やっぱそいつらメイド喫茶に入り浸るオタクだろ。

 

「何、それ?」

 

 うわぁ。冷たい眼差し。

 

「そんなチームがよくここまで勝ち残ってこれたね」

「こりゃあ、準決勝の相手は尾刈斗中で決まりでやんすね」

 

 部室内の空気が対戦相手が尾刈斗で決まりとなったそんな中、音無が部室に飛び込んで来た。どうやら、秋葉名戸が尾刈斗に勝ったとのこと。

 それを聞いた目金は秋葉名戸の強さの秘訣はそのメイド喫茶にある!と言い切り、情報収集と言って、そのメイド喫茶に行こう!と言い出した。勝手に行ってこい。

 そして言い包められた円堂はメイド喫茶に行くとか言い出した。円堂以外は恥ずかしさを表しているが、ホントお前はサッカーバカだな。

 

「単純ね……」

「アホくせぇ」

 

 結局、オレと帰った豪炎寺、後、マネージャーズ以外の面子()()でメイド喫茶に行きました。お前ら何で情報収集を全員でやってんだよ。アホか。隠す気ねぇだろ。

 

「というか雷門」

「何?十六夜君」

「そういえば十六夜君は行かないんだね」

「皆さん行きましたよ?」

「アホか。何で全員で情報を集めに行くんだよ」

「で、何か聞きたいことあるんでしょ?」

「ああ。アイツらメイド喫茶行ったが……金あるのか?」

 

 ああいう店は少し高めなはずだ。少なくとも元の世界ではそうだったし、この世界でもそうだろう。

 

「「…………あっ」」

「言っておきますが部費では出しませんわよ」

「だろうな。んじゃ、勝手に練習してくるわ。戻ってくるようなことがあれば自主練と伝えておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした十六夜。気が緩んでるぞ」

「あはは……」

 

 試合前日の夜。いつも通り八神といる……が。

 

「どうにもモチベーションがね」

 

 やる気が出ません。アイツらメイド喫茶行ったら何か地下に案内され、目金レベルのオタク集団を見せつけられたと思ったらそいつらが対戦相手だった。そこからの練習はグダった。ほんと、何もしなくても勝てそうだからな。

 ……ただ、妙な点はある。そんな奴らがどうやって尾刈斗を倒したか。こればかりは疑問だな。

 

「やれやれ、何があったんだ。ここ数日のやる気のなさは酷いぞ」

「いやねぇ……実は」

 

 オレはいきさつを話した。

 

「……メイド喫茶だと?お前も行ったのか?」

 

 すると、すげぇ睨んでくる八神。やべぇ。視線だけで相手を殺しそうだ。

 

「なわけ。興味もねぇよ」

「そうか」

「ま、でも。お前がメイド服着たら興味があるか──」

「フンッ!」

「──ごふぅっ!?」

 

 殺す気でシュートを放つ八神。ボールは腹に食い込みそのままオレごとゴールへ刺さった。

 倒れ込むオレ。そしてそのまま……

 

「スミマセンジョウダンデス」

 

 土下座を超えた土下寝を決めました。

 

「そうかそうか。……笑えない冗談だったな」

 

 倒れ込むオレの肩に手を置く八神。

 

「ハハハ」

 

 目が座ってます八神さん。マジで怖いです。

 オレとしては必殺技も使わない状態、人1人をただのシュートの威力だけで吹き飛ばすアンタが笑えねぇよ。もしかして、八神って……いや、この先は何も言うまい。次はあの橋まで吹き飛ばされそうだ。

 この後の練習はいつもより、キックが強い八神さんでした。マジでスミマセン。



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VS秋葉名戸 ~空気読めない?知るか~

 そして秋葉メイド戦当日。

 

「これを……私に着ろと……!」

 

 メイド服を片手に持ち、震える雷門。

 どうやら秋葉メイド学園で行われる試合。マネージャーはメイド服着用が義務らしい。いや、何だソレ。

 ちなみに木野と音無にも渡された。

 そして、色々あって着替えて着た3人。あはは、もう死んでる雷門が想像に難くない。ん?オレは見ないのかって?そんなの。

 

 ゴゴゴゴゴ……!

 

「どうした十六夜。顔真っ青だぞ」

「あはは……すげぇ悪寒がするんだ」

 

 1人だけ殺気を放つ奴がいる。ヤバい。誰か助けて。オレ殺される。この前余分なこと言ったからか……いや、気のせいということにしておこう。そうだ。考えすぎだ。

 

「で、豪炎寺の代わりは……」

 

 基本いつも通りのフォーメーション。現時点でベンチは影野、土門、目金。この3人から誰かフォワードに……

 

「さて、誰を出そうか」

「正直、土門でよくね?」

「いいえ。ここは切り札の出番でしょう!」

 

 すると、目金が円堂の前に立つ。

 

「切り札?…………ああ、そうか!」

 

 すると何かを察した円堂と、眼鏡をクィっとあげる目金。

 

「十六夜をフォワードに持っていって、土門か影野をディフェンスに置くか!そうか、その手があったか!」

「は?」

 

 いや、無理ですけど?行けなくはないけど無理ですけど?

 

「違います!メイド喫茶に行ったおかげで、彼らのサッカーは理解出来ました」

 

 どうやって理解したのかすげぇ気になる。

 

「僕が必ずチームを勝利に導いてあげましょう!」

「ベンチから?」

「フィールドからです!」

 

 とまぁ、こんなにもやる気な目金君がいるので、そのやる気に豪炎寺や土門、円堂が賭けてみよう!ということで目金がスターティングメンバーに選ばれた。

 

「ふっ、大船に乗ったつもりでいて下さい」

 

 その船、泥船じゃね?

 と思いながらもフィールドに立つオレたち。

 

 ピー

 

 雷門のボールで試合開始。すると、なんかよく分からんことを向こうが言ってる間に取られ、そのまま御影専農の前半最後の時のように攻めてこない。ずっと自陣でボールを回すだけだ。しかもボールを取りに行くとき、また意味不明な言葉を羅列する。

 となると、オレや円堂はどうなるか?答え。

 

 ピー

 

「暇だったな」

 

 気付いたら前半終了していた。走ってないし、ボールに触れてない。

 

「まるで攻めて来ないなんて……この僕にも予想外でしたよ」

 

 おいコラ理解できてねぇじゃねぇか。はぁ。後半は動くか。目金に任せて前半は休んでいたが。

 

「それにしても何でボールが取れないんだ?」

「あいつらの妙なノリに調子を狂わされたからだ」

「得体が知れない」

「……お前もな」

 

 向こうは向こうでゲームしてるし。なんなんだアイツら。

 

 ピー

 

 で、後半開始。すると、向こうは全員で攻めてきた。

 

「動きが変わった!?」

「……なるほどな」

「何がわかったんだ!?」

「アイツらは体力ゼロなんだわ。簡単に言えば1試合フルで走れる体力がねぇ。だから前半で言葉巧みに相手のモチベーションを下げさせ、後半最初に奇襲する。当然、この急な変化にオレたちには対応できないってわけだ!」

 

 オレがダッシュでよう分からんスカーフを巻いたやつにチェックに行く。

 

「変身。フェイクボール!」

「は?」

 

 何事もなく奪えたボール。ふと足元を見ると、

 

「スイカ!?」

 

 スイカだった。

 

『ああっとアクシデント!フィールドに入ったスイカと入れ替わってしまった!』

「ざけんなよ!どう考えてもあの監督が食ってたスイカだろうが!審判!あのクソ監督退場もんだろ!」

 

 が、審判は見向きもしない。

 

「クソが!」

 

 スイカを相手チームのベンチに蹴りつけ自陣ゴールに戻ろうとする。

 スイカはクソ監督の頬を掠め壁に激突したが知らん。

 

「ペラー!」

『はーい』

 

 ペラーを呼び出して乗る。そして全速前進だ。

 何かスカーフを巻いたやつがセンタリングをする。ゴール前には眼鏡をかけた漫画家をバッドのように構える9番が。

 

「ド根性バッド!」

 

 そして漫画家の顔面でボールを打つ!何人間野球してんだよ!サッカーをやってんだぞこっちは!

 

「クソガァ!」

 

 そのまま蹴り返して、どこかへ飛ばす。

 

「すまん十六夜。反応できなかった」

「いや、点は入ってない。気にすんな」

 

 さて……と。

 

「人をバッドのように持てる筋力がありながらこんなクソなことをしてくれたんだ……!」

「お、落ち着け十六夜」

「スイカとボールを入れ替えるだと?舐めた真似しやがって……!」

「ご、ゴールはあの監督じゃないぞ」

「隙アリだ!もう一丁、ド根性バッ」

「へし折ってやるよそのバッドをな!」

 

 ド根性バッドと蹴りがボール越しに衝突する。結果。

 

「な、なんて強さだ!?」

 

 ド根性バッドとやらをしていた2人諸共ボールを蹴り飛ばした。あれ?こんなにキック力あったか?ま、何でもいいか。あと、勿論ボール越しなのでファールではない。

 

「十六夜さん!」

 

 こぼれ球を宍戸が拾い、パスを出す。

 

「行け!染岡!」

 

 そこから染岡へロングパス。

 

「よし!決めてやるぜ!」

 

 ドリブルで相手ディフェンスを突破して行く染岡。そして、

 

「五里霧中!」

 

 ゴール前に立ちはだかった3人が砂煙を上げた。うっわ。全然ゴールが見えねぇ。

 

「目くらまし程度で俺のシュートが止められるかよ!喰らえ!ドラゴンクラッシュ!」

 

 染岡のシュート。煙が晴れ、ボールはゴールの中……ではなく、ゴールの真後ろにあった。キーパーがゴールポストの横でぶっ倒れているが……

 

「何かの技か?ゴールの真後ろにボールがある……」

 

 さっき何かが変だったよな……うーん……あ、そうか。

 

「円堂。ちょっとシュート打ってくるわ」

「おう!ゴールは任せておけ!」

 

 向こうの速さもそう速くないし、シュートも威力的にそう驚異ではない。油断さえしなければ、大丈夫だ。その点、あの円堂が試合中に油断するとも思えない。

 

「少林!ボールくれ」

「は、はい!」

 

 少林からボールを受け取ってドリブルで上がっていく。

 

「無駄だ!五里霧中!」

 

 前提としてこの土煙には終わりがある。さっきの動きを見る限り、ゴール前に立ちはだかってるディフェンス陣とキーパーが足を動かして土煙を上げてるだけ。それだけなら終わりはいずれ来る。それにこの土煙の中では、相手からもオレの姿は捉えられない。なら、

 

「このまま正面切って突き進むのみ」

 

 ドリブルで正面突破。これが確実だな。

 そしてドリブルをし、土煙が消えた。そこは、

 

「やっぱりか」

 

 ボールは足元にある。だが、オレの立っていた位置はゴールの真後ろだ。ゴール横では再びキーパーが倒れている。

 

「なっ!」

「どういうことだ!」

 

 狼狽える敵味方。敵が驚いているのは、何故オレがここに立っているのか、だろうか。味方は言うまでもない。

 ボールは相手のキーパーへ。ゴールキック扱いだな。とりあえず、円堂のとこまで戻る。

 

「今のって?」

「ああ、さっきの染岡のシュートが入らなかったのは恐らく、ゴールがずらされていたからだ」

 

 我ながら突拍子もないことを言っているのは重々承知している。だが、こうとしか考えられない。そうでなければ真っ直ぐ土煙の中を前進したオレが、ゴールの真後ろに立っていた理由が説明できない。いや、実はゴール前にワープゾーンがあって、ゴール後ろへ行けるとかなら別だよ?でもそんなアホくせぇことあり得るわけないし、それならわざわざ砂煙を起こす必要はねぇ。

 

「ゴールをずらしていた!?」

「ああ。だが、ここからどう点を取ろうか」

 

 今ので向こうもシュートが入らないトリックを見破られたことぐらい分かったはずだ。だが、所詮トリックを見破ったところでどうやって点を取るかが問題だ。

 あの土煙はカモフラージュの意味もあっただろう。だが、実際はあんなのはなくていい。いいが、あると、何処へゴールをずらされていたのかが分からない。さて、どうやって点を取ろうか……。

 

「僕に任せて下さい!」

 

 するとオレと円堂の会話が聞こえていた(別に近くで小声ではなく堂々と話していたが)のか目金が何とかすると宣言した。

 

「そうか……分かった!皆!ボールを取ったら目金に回せ!」

 

 相手チームからボールを奪った半田が目金にボールを回した。

 そこからの目金は一味違った。スイカとボールを入れ替える技を使うヒーロー(自称)にヒーローがそんな欺くような技を使わないとか言って不発に終わらせたり、シルキーナナ?とかいうのの原作者2人に説教しながら突破したり、ロボットの動きする奴に説教中に攻撃する奴はロボオタ失格と言ったり、五里霧中を使おうとしたディフェンス陣にゲームのルールを捻じ曲げるような奴にオタクを名乗る資格はない!とか言って五里霧中を中止させたり、何か何言ってんだこいつ。と思ってたら気付けばキーパーと1対1になっていた。

 そして、染岡に回す目金。一方相手キーパーはゴールポストの横に立っていた。

 

「染岡君!ドラゴンクラッシュを!」

「だが!十六夜の言ったようにゴールがずらされたら……!」

「僕に考えがあります!」

「分かった!ドラゴンクラッシュ!」

 

 必殺技を放つ染岡。

 

「ゴールずらし!」

 

 相手キーパーは腹でゴールを押し、ゴール1個分横にずらした。てか名前そのまんま!というかよく腹で動かせたなおい!

 そのままシュートが外れると思った時、シュートを前にして目金が飛び込み、シュートに眼鏡(本当はヘディングしたかったのかな?)を合わせ、軌道を変え、ゴールにシュートを押し込んだ。

 

「こ、これぞメガネクラッシュ……」

 

 お前も名前そのまんまかよ!本当に眼鏡(メガネ)粉砕(クラッシュ)してんじゃねぇか!というか倒れたし!

 

 その後のことを簡潔にまとめよう。結論から言えば雷門中が勝った。

 あれから、目金が負傷で土門と交代。タンカで運ばれる最中、目金のプレーで目が覚めた秋葉メイドたちが正々堂々と戦うことを宣言。染岡のドラゴンクラッシュでキーパーごとゴールの中へボールを押し込み追加点。そのまま試合終了って感じだ。

 

 後、試合後には目金と秋葉メイドたちがお互いに認め合い、秋葉メイドたちの夢──フットボールフロンティアの優勝特典のアメリカ遠征にて、向こうの限定品を買う──を勝手に目金が引きついでいた。

 

 1つ言おう。フットボールフロンティアにまともな理由で参加しているチームはねぇのか!おかし食べ放題の次は限定品のオタクグッズかよ!



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不要な人間は切り捨てよう

 秋葉名戸との戦いに勝利したオレたちは、地区大会決勝戦に向け練習をして行く日々を送っていた。

 

「よし、今日は終わり!帰るか!」

 

 円堂が練習の終わりを宣言する……が。

 

「悪い円堂。オレはもう少しやってくわ」

「練習熱心だな。怪我には気をつけろよ」

「おう」

 

 皆が引きあげていく中、オレは1人残って練習する。

 

「そういや、地区大会決勝戦の後にテストだったか?」

 

 皆、サッカーサッカー言ってるがテストは大丈夫なのか?少ししか時間ないぞ?

 

「まぁ、オレは元受験生様ですから中学2年生レベルくらい余裕ですが」

 

 身体はともかく頭と心は元の世界から引き継がれていた。知識もしっかりあるし、長年のサッカー経験もなくなったりしてはいない。

 

「ただ、もし、必殺技がバンバン出て来るようになったらどうなるんだろうな」

 

 って考えすぎか。さすがに、そんなに何個も出されても困る。

 

「よし、1回帰ろ。多少は勉強もするか」

 

 そう思いカバンを漁ると、

 

「うわっ、筆箱忘れた」

 

 はぁ……取りにいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、雷門中に行くと、こそこそと移動している怪しい人……我らがサッカー部顧問(名前だけ)冬海先生がいた。

 

「何してんだ?」

 

 携帯電話を取り出して……建物の陰に移動している。ん?何してんだ?何となく気になったので、こっそり見てみる。

 

「申し訳ありません。アイツらがここまでやるとは」

 

 アイツら?

 

「わ、分かっております。何としても不参加にしてみます」

 

 電話を切る先生。

 

「はぁ、ダメだ……。うちのチームを決勝に参加させたら……私は破滅だ!」

 

 …………あれ?これ地味にヤバい現場に居合わせてね?

 うーん。とりあえず、バれないよう離れつつ、現状の整理。今、冬海先生が話していた相手……適当に仮名Aさんとしよう。冬海先生はうちのチーム……要は雷門サッカー部を決勝戦に参加させたくない。いや、正確にはAさんにさせるなと命令されている。しかも、Aさんによって冬海先生はかなり追い詰められているように見える。追い詰められた人間は何をしでかすか分からない。これ、刑事ドラマの犯人のお約束ね。

 オーバーだが一番手っ取り早いのは、雷門サッカー部員皆殺し。または全員を負傷させ棄権せざるを得ない状況を作る。他には、飲食物に手を加える策もあるが、今まで何もして来なかったあの人が急にドリンクを作ったって言ったら怪しまれるだろう。いや、円堂とか一部は違うか。

 まぁ、怪我をさせる方針で考えればいいんだが……というか、そもそも冬海先生がオレたちに関わることって何だ?……試合の引率くらいしか思いつかねぇな。だって、あの人、もはやオレたちがサッカー部であるための名前貸ししかしてねぇだろ。バスは免許なくて運転できねぇらしいから運転手としての価値すら……

 

「運転?」

 

 バス→細工→事故→怪我もしくは死→決勝戦棄権→目的達成。

 

「あれ?飛躍し過ぎ?」

 

 だが、冬海先生が裏切り者ってのはさっきの会話から確定。そこは真実だ。

 

「よし。どうせ、朝からやることねぇんだ。ダメもとで見張ってみよう」

 

 きっと最近アホな必殺技や特訓で頭が逝かれたんだ。何か最近、このチームでも染岡や豪炎寺以外によくわからんシュートを撃ち始める兆しが見られる奴らも居るからね。今一度、この飛躍し過ぎた思考が間違ってることを証明しよう!

 それに、なんか探偵みたいで面白そうだしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっはっはっ。もう笑うしかねぇ。え?ツッコミ過ぎて壊れたかって?違うよ。

 

「…………これでよし」

 

 朝、オレは学校用のバスが入ってる車庫の付近で張り込みをしていた。そしたら、何かを持った冬海先生が来るではありませんか。そして車庫に入って、バスに細工していく先生。…………やっべ。マジだったか……ん?アレは……土門?あ、こっちに来るわ。隠れよ。

 

「先生!」

 

 車庫に入り、声をかける土門。

 

「……何だ君でしたか。脅かさないで下さい」

 

 ……ん?反応がおかしい。まさか、土門と冬海先生は繋がっている?

 

「こんなところで、何やってたんですか?」

「さぁ、なんでしょうね。…………ああ。1つだけ忠告しておきますよ。このバスには乗らないことですよ」

 

 100%細工したな。いや、もしかしたら0.01%くらいで本当にバスの整備していた可能性もあったわけじゃん?ま、疑いの余地がなくなったけど。

 

「じゃ」

 

 そして、出てくる冬海先生。

 

「これも総帥の命令か……クソッ!」

 

 総帥?もしや、冬海先生がかけていた相手は総帥と呼ばれる男なのか?

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 ほんと、どうすりゃいいんだよ。

 まず、オレがこのバスの細工を元に戻す事は実質不可能。だって、知識ないもん。次、これを公にすることだが、公にしたらしたで問題は起きる。まぁ、中学校の持つバスで事故等を起こしてそれが仕組まれていたとなれば大事件に発展、雷門中存続の危機かも。さてさて……

 

「マジでどうしようか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、次の日まで冬海先生が他におかしな行動がないか、それとなく見張ることしかできなかった。

 そして、バス細工の翌日の練習中、

 

「はい……はい。もちろんです。雷門中は出場できません。これから、最後の練習を見に行ってやります」

 

 こっそり……というか適当な理由つけて抜け出してきたが、やれやれ。

 

「どうしたの十六夜君」

「雷門か。ん」

 

 今さっき携帯電話で録音していたやつを流す。

 

「へぇ。これを見て」

 

 そう言われて紙を見る。そこには冬海先生がバスに細工した旨が書かれている。この字は……いや、それ以前にこの文をかけるのは、オレたちサッカー部の中で1人しかいないか。

 

「どうするつもりだ?」

「もちろん。今から白状させるわよ」

「乗った。せっかく、密告してくれてる人がいるんだしな」

「行きますわよ」

「おう」

 

 オレと雷門は一旦分かれて別々にグラウンドの方に向かう。どうせ、今やるんだ。打ち合わせなどせずその場のノリで何とかしよう。

 で、グラウンドについてオレはボールを使ってリフティングとかをする。そんな中、

 

「冬海先生」

 

 雷門が冬海先生に声をかける。よし、オレも近くに行っておくか。

 

「はい。なんですか?」

「お願いがあるのですがよろしいですか?」

「お嬢様の願いを断る理由はありませんよ」

 

 うわぁ。媚びを売ろうとしてるなぁ。

 

「遠征に動かすバスの調子が見たいので動かしていただけません?」

「ば、バスをですか?」

「そりゃあいい提案ですね雷門お嬢様。今度使うバスの調子がいいかどうかを確認するのも監督の務めですよね」

 

 ま、そんな務め聞いたことないが。

 

「で、ですが。いきなりそんなことを言われましても、私は大型免許を持っていませんし……」

「それは問題ありません。校内は私有地ですから免許はいりません」

「別にちょっと動かすくらい出来ますよね?」

「し、しかし……」

「断る理由はなかったのではなくて」

「そうそう。まさか、雷門お嬢様の頼みを断らなくてはならないほどの不都合なことなどないですよね?」

 

 ハンカチを取りだし汗を拭く先生。やれやれだ。

 

「冬海先生!」

「は、はい!」

 

 うっわ。このお嬢様こっわ。

 

「どうしたんだよ急に」

「まぁま、とにかく行こうぜ。全員でな」

「???まぁ、いいけど」

 

 と、こんな感じで全員車庫のところに集まり、冬海先生は運転席に座る。

 

「発進させて、止まるだけでいいんです」

 

 しかし、一向に動かない冬海先生。

 

「あれれ?車運転できるんですから簡単ですよね?ほらやってくださいよ」

「早くエンジンをかけて下さい」

「…………あれ?おかしいですね。バッテリーが上がってるのかな」

「ふざけないでください!」

「は、はい……」

 

 やっぱこえぇよこの人。八神と同じくらい……いや、アイツの方がこえぇわ。

 で、とりあえずエンジンをかけた冬海先生。

 

「さ、バスを出しましょうよ。なぁに、ちょっと進んで止まる。簡単なことじゃないですか?」

「出来ません!」

「どうして?」

「どうしてもです!」

 

 すると雷門は手紙を出した。

 

「ここに手紙があります。これから起きようとしたであろう、恐ろしい犯罪を告発する内容です。冬海先生、バスを動かせないのは貴方自身がバスに細工したからではありませんか?この手紙にあるように」

「ホントかよ……」

「ウソだろ?」

 

 円堂と半田が呟く。

 

「答えろよ冬海先生。時間の無駄だ」

「フフフ、ハハハ。そうですよ。私がブレーキオイルを抜きました」

 

 そのまま笑いながら降りてきた冬海先生。

 

「何の為に!」

「あなた方をフットボールフロンティア地区予選の決勝戦に参加させない為です。そうなると困る人がいるんですよ」

 

 困る人……総帥と呼ばれた人物か?とここで、豪炎寺が質問する。

 

「帝国の学園長か?」

 

 反応する冬海先生。図星か。

 

「帝国の為なら、生徒がどうなってもいいと思っているのか!」

「君たちは知らないんだ!あの方がどんなに恐ろしいかを」

「ああ!知りたくもない!」

 

 いつになく感情を露にする豪炎寺。……なんかあったのか? 

 

「貴方のような教師は学校を去りなさい!これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!」

 

 ここで冬海先生は先ほどまでと打って変わり、開き直った様子で話を続ける。

 

「クビですか。そりゃあ良い。良い加減こんな所で教師をやっているのも飽きてきた所です。……しかし、この雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけとは思わないことだ。ねぇ、土門君」

 

 やっぱりか。オレがそう思っている中、一斉に土門を見る雷門サッカー部。その間に堂々と冬海先生はどこかへ歩いていった。

 

「そういや、帝国学園に居たって」

「そんなのアリかよ!」

「土門さん酷いッス……」

「静かにしろ!」

 

 一喝。一瞬にして静まり返った。

 

「お前らなぁ。あのクソ教師の言うことを真に受けてどうすんだよ」

「そうだぜ。俺らは今まで一緒にサッカーやって来たんだ。俺は土門を信じるぜ」

「十六夜……円堂……すまん!俺は……!」

 

 走り去っていく去っていく土門。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の部活。あれから土門はオレたちに謝罪とやって来たことを伝えた。やったことは、情報を帝国に流していただけ。まぁ、雷門を内部崩壊させるとかやってないからいっか。

 

「冬海先生が居なくなってせいせいしたッスね」

「中ボス倒して1面クリアって感じかな」

「バレた時の冬海の顔ったらなかったよな」

 

 あーあ。こういう時に人に対する本当の評価が現れるもんだな。

 

「貴方のような教師は学校を去りなさい!って決まってたよね」

「さすが夏未さん!」

「サッカー部最強のマネージャー」

「これで気持ちよく地区大会決勝に行けるぜ!」

「いいや、それは違うな。オレたちは現状、棄権せざるを得ない」

「「「えぇぇぇっ!?」」」

 

 叫ぶ雷門サッカー部。え?こいつら気付いていなかったのか?



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斬り捨てた穴を埋めよう

 オレの言葉に驚くサッカー部の面々。

 

「どういうことだ十六夜!」

「フットボールフロンティア規約書……読んだか?」

 

 一斉に目を逸らす雷門サッカー部。おい。

 

「なるほど……十六夜君の言う通りですね」

「お前は分かったのか?」

 

 そんな中、目金がオレの言ったことの意味が分かったそうだ。

 

「『監督不在のチームは出場を認めない』とあります」

「そーいうこと。冬海先生はアレだったが監督としての名前貸しはしてくれていたわけ」

「お前知ってたのか!?」

 

 雷門の方を向く円堂。

 

「え、えぇ知ってたわよ!だから貴方たちは早急に新しい監督を探しなさい。これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!」

「「「えぇぇぇっ!?」」」

 

 うわぁ。絶対知らなかったか忘れてたよ。

 

「こうなったら!皆で新監督を探すんだ!皆やろうぜ!」

「誰か運動部の顧問に頼めないかな」

「あーそれ良い考えっすよ」

「雷門夏未が頼めば誰かやってくれるんじゃないか?そもそもアンタが冬海を追い出さなきゃこんなことにはならなかった。責任取ってもらおうじゃねぇか」

「「「おぉーっ!」」」

 

 パチパチパチ

 

 染岡の意見に賛同し、拍手を送るサッカー部員。

 まぁ、相手があの総帥と呼ばれた男が率いてるチームでなければ、誰でもよかったんだろうな。

 

「冬海先生を顧問にしたままで皆試合なんかできて?」

「あはは。さすが雷門お嬢様。ただ、だったら代わりの監督見つけてから追放しても良かったのでは?」

「貴方ねぇ……!貴方も追放させた組の1人でしょうが……!」

「というわけで、この高圧ツンデレプライド高いお嬢様の尻ぬぐいをみんなでしようか」

 

(((十六夜って時々えげつねぇことを言うよな……)))

 

 すげぇ怒ってますよオーラは出てるがんなもん知れね。事実だし。

 

「ま、ただ。お嬢様が安直にこの学校内の大人で雷門サッカー部の監督を立てなかった判断は正解だ」

「貴方。私を下げてるのか上げてるのかどっちかしら」

「下げて上げて下げる」

 

(((結局下げるのかよ!)))

 

「待て、十六夜。コイツの判断が正しいってのはどういう意味だ?」

「ん?よく考えろよ。向こうは冬海を失い土門も失った。じゃあ、総帥……だったか?帝国の学園長がやる次の手は?」

「こっちの新しい監督を懐柔……ですか」

「そうだな。あり得そうな手だ。ここは一旦慎重になるべきだ」

「じゃあ結局どーすんだよ!」

 

 そこだよな……いっそのこと神様に堕天してもらってっていうのもアリか。ただ、そんなこと言った日にはこいつらからバカにされる未来が見える見える。

 

「円堂。雷雷軒の親父はお前のおじいさんを知っていた。ということは」

「そうか!響木さんだ!よし、交渉に乗り込むぞ!」

「「「おぉー!」」」

 

 いや、全員で行くのかよ。……まぁ、今回はメイド喫茶と違って、雷門サッカー部全体に関わることだから行くしかねぇけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「監督になってください!お願いします!」」」

「仕事の邪魔だ」

 

 ですよねー。

 

「すみません……あの!俺のじいちゃん知ってるんですよね!秘伝書のことも知ってた。だったらサッカーも詳しいんじゃないですか!」

「あるいは、円堂のおじいさんとサッカーをやっていたんじゃないですか?」

 

 おや?土門の言葉に一瞬ピクッと反応したような。

 

「それ本当か!?」

「勘だよ。秘伝書のことを知っていたんだ。伝説のイナズマイレブンじゃないのかって」

 

 目を輝かせて見る円堂。

 

「あの時、俺が言ったことを忘れたのか?」

 

 あの時?

 

「イナズマイレブンは災いをもたらすと言ったろ。恐ろしいことになるだけだ」

「でも、俺たちここまで来たのに!全国に行けるんだよ!」

 

 再び反応する響木さん。

 

「あのな……注文しないならとっとと出てけ!」

 

 ですよねー。

 

「だったらラーメン1丁!」

「あいよ」

 

 堂々と頼む円堂。

 

「お前金は?」

「んなの…………あ、財布部室に忘れた」

 

 木野の方を見る円堂。木野は笑顔で、

 

「大丈夫だよ。部室はしっかり鍵かけてきたよ」

 

 絶対違うと思う。

 

「ちゅ、注文取り消しで……」

「んじゃ、オレはチャーシューメンで」

「……お前。金は?」

「このバカと違ってありますよ」

 

 そう言って財布から1000円札を出して見せる。

 

「じゃあ、十六夜!悪いが俺の分も奢ってくれ!」

「嫌だよ」

「なら、お前ここに何しに来たんだよ!」

「ラーメン食いに来た。お前らの行きつけだろ?一度来てみたかったんだぁ」

「で、残りは?客でないなら出て行ってもらおうか。仕事の邪魔だ」

 

 結局オレ以外全員追い出された。お前らなぁ……ここは飲食店だ。金くらい持ってくるだろ普通。

 

「イナズマイレブンか……あのチーム。いいチームだったな。あのキャプテン。ゴッドハンドを使えるぞ」

「へぇ。よく知ってますね」

「まぁ、お前らの試合は全部見に行ったからな」

「わぁ。ありがとうございます」

「お前のことも知ってるぞ。確か、十六夜綾人だったな。副キャプテンの」

「いや、オレは副キャプテンじゃないですし、そもそもうちに副キャプテンなんていませんよ」

「はっはっはっ。てっきりお前さんがそうかと思ったよ」

 

 はっはっはっ。円堂を支えるとか骨が折れそうだ。

 

「チャーシューメン1丁」

「ありがとうございまーす。いただきまーす……美味しいです」

 

 あ、これ今まで食べた中でもかなり美味しいわ。

 

「響木さん」

「何だ?監督なら引き受けんぞ」

 

 ある程度食べ進めたところで話し始める。

 

「いえ、純粋な疑問です。貴方、さっき、『サッカー』とか『全国』って単語に反応してましたよね?」

「さぁな。気のせいだろ」

 

 ねぇ、知ってます?今も僅かに反応したんですよ。

 

「ま、それならいいんですけど。ただ、円堂守。アイツは面白いですよ。アイツは筋金入りのサッカーバカです。見たら響木さん。結構気に入ると思いますが」

「筋金入りのサッカーバカか。お前さんはアイツのことそう評価してるのか」

「はい。あ、ごちそうさまです。後、お代です」

「まいど。お釣りだ」

「また、来ますよ。純粋な客としてもね」

 

 さぁてと。響木さん……何かあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、十六夜。今日は何だ?」

「いやねぇ。今絶賛監督不在なんだよ」

「顧問はどうした?」

「辞めさせた」

「?顧問をか?」

「いや、学校を」

 

 夜の練習中、今の雷門の現状を報告している。いや、報告義務はないんだけどさ。

 

「で、フットボールフロンティアの規定で監督の居ないチームは参加できないんだよ」

「ほう。だが、もうすぐなんだろ?地区予選の決勝戦。日数がないんじゃないか?」

「そこなんだよ……宛が円堂──うちのキャプテンの行きつけのラーメン屋の店主さんしかないんだよ」

「寧ろ、よくラーメン屋の店主さんに頼もうとしているな」

「まぁね。でも、あの人。サッカー知らないわけじゃないんだよなぁ」

 

 だから、決して無知な人に頼もうとはしてないから大丈夫なはずなんだけどなぁ。

 

「ただ、チームとしてのモチベーションは下がってるみたい」

 

 あの後、河川敷で皆を見ていたがどうもやる気がイマイチ。監督が居ないんじゃ試合に出られないからな。そうなると意味ないし。

 後、オレが来る前に鬼道が来ていたらしく、円堂と今度一緒にサッカーの練習するって約束を交わしていたらしい。さすがサッカーバカ。帝国キャプテンだろうと関係なしか。

 

「またか。お前のチームのモチベーションはどれだけ下がれば気が済むんだ」

「あはは……」

「これで、お前が腑抜けなプレーしていたら、本気で撃っていたけどな。やる気はあるようだし許そう」

「ありがとうございます」

 

 あぶねぇ助かった。てか今さら思うがまだ八神が全然本気出してない気がする。

 

「今更だが、いいのか?オレと練習したって、オレに対しては本気を出せてないんだろ?」

 

 それだったらオレ以上のレベルの奴と練習すればいいんじゃないのか?まぁ、頼み込んだのオレだが。

 

「なんだ。そんなことか。私としては十六夜が面白い存在だからな。別に構わない」

「面白い存在?」

 

 それはどういう意味だろうか。

 

「ああ。技術と精神がまるで噛みあってない」

 

 ……技術と……精神?

 

「サッカーを長年やってるのは分かる。なのに必殺技に関しては、まるで必殺技があり得ない世界からやって来たかのように知識も経験も何もない」

 

 うわぁ。図星だ。

 

「かと思えば、必殺技を邪険にせず、1度見て分析し対応しようとする。一言で言えばチグハグなんだ。お前は」

 

 まぁ、対応不可能なものもあるよ?例えば円堂の熱血パンチはアイツの手が届かないところにシュートを打てば不発にできるが、杉森のシュートポケットはゴール前を広くカバーしてるからシュート力を上げる以外に突破口が見えない。

 

「その分析力もかなりのもの。ほんと、不思議な存在だな」

 

 必殺技に必殺技で対抗しなくとも、持ち前の分析力で幾らかは対処法を見つけられる。

 

「と、雑談はここまでにしておこう」

 

 そのまま、いつも通り練習して、今日も1日が終わっていくのだった。



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円堂VS響木!

 地区大会決勝戦の2日前。オレ、円堂、染岡、風丸、木野、土門の6人は屋上に集まっていた。

 

「どーするよ!決勝まであと2日!それまでに新監督見つけなきゃなんねーんだぞ!」

「あーもう!規約なんか嫌い!」

「皆のモチベーションも下がってるから、練習もなんだかなぁって感じだし」

「そりゃあ、監督いないって理由だけで不戦敗になるんだ。無理もねぇよ」

「まさかこんなピンチがあるとは思わなかったなぁ。なーんにも良い手が浮かばなーい!」

 

 空を見上げる円堂。しかし、何も浮かばない。

 

「……俺やっぱり雷雷軒のおじさんにもう一度頼んでみる」

「お前だけだと心配だからついて行くわ」

 

 まーた追い返されたんだったら何にもなんねぇからな。

 で、放課後。円堂がダッシュで雷雷軒を目指してるので慌てて追いかける。しかし、そんなオレたちの前に1人のおじさんが立ちはだかる。

 

「あ、あの時の」

「円堂守に十六夜綾人だな。俺ぁ、こういうもんだ」

 

 おじさんは警察手帳を取り出して俺たちに見せる。

 

「えっ!?刑事さん!?」

「へぇ、鬼瓦刑事かぁ……で、何の用ですか?」

 

 まさか円堂を逮捕しに来たとか?そう思いながら付いて来いって感じだったので、鉄塔広場まで3人で移動する。

 

「話って何ですか?」

「サッカー部の監督……捜してるんだってな」

「まさか!刑事さんが監督やってくれるんですか!?マジ!?」

「落ち着け円堂。職業的にもそれは厳しいはずだ」

「それに、そもそも俺はそんなガラじゃねぇよ。でもまぁ、サッカー好きってことに関しちゃあ、お前さんたちが生まれるずっと前からの筋金入りだ」

 

 一応オレ今年で20歳です……心だけは。……あれ?そう思うとオレって結構年上じゃね?まぁ、何と言うかこっちの世界に来てから精神年齢下がった気がするが。

 すると、右手を1回転しながら突き出し、

 

「ゴッドハンド!」

 

 ただし、何も出ない。やっぱ、これが普通だよね。あと、引いてやるな円堂。

 

「帝国との練習試合の時、お前さんがゴッドハンドを使った時は鳥肌が立ったね。伝説の、イナズマイレブンが蘇ったとな」

「イナズマイレブンを知ってるの!?」

「おうよ!なんたって負け知らずだったんだからな!」

「すんげぇ!」

「そりゃ凄いな」

 

 しかし、ここで暗くなる鬼瓦刑事。

 

「お前たち。イナズマイレブンの悲劇は知ってるか?」

 

 首を横に振るオレたち。何かがあったことは古株さんの話から推察されるが、内容までは知らない。

 で、鬼瓦刑事の話によると40年前のフットボールフロンティア全国大会決勝。雷門VS帝国。が、決勝戦の会場に向かうべく雷門サッカー部の乗っていたバスがブレーキの故障により事故を起こし、怪我をした。当時の彼らは這ってでも会場に行こうとしたが、試合会場に試合を棄権すると1本の電話が入った。結果、帝国の優勝でそこから40年間無敗だそうだ。

 

「……誰がそんな電話を?」

「まだ分からん。ただ、あの電話の裏には何かがある。俺はその真相を調べるためにやったのさ」

 

 おそらく、ただの事故では無く仕組まれた事故なんだろう。だが、誰がやったかは分かっていない。

 

「急にこんな話しちまって悪かったな」

「いいえ。オレとしては知れたのは大きいです」

 

 そう、とても大きい。これが何かの役に立つかは分からない。ただ、雷門サッカー部に所属、円堂守と関わっていく上では聞いておいて損はないと思う。少なくともオレはそう感じた。

 

「ねぇ、本当に雷雷軒のおじさんはイナズマイレブンなの?」

「……そうとも。大介の教え子さ。ポジションはお前さんと同じキーパーだ」

「キーパー!」

 

 そう聞くと走り始めた円堂。おいこら待て。

 

「ありがとう刑事さん!」

「ありがとうございました!」

 

 お礼を言ってダッシュ。

 

「円堂!策は何かあんのか?あの人はちょっとやそっとの説得じゃ動かんぞ!」

「安心しろ!キーパーなら話せる!」

 

 いや、意味わかんねぇよ。

 で、雷雷軒に着いたオレたち。

 

「……またお前らか」

「また、俺たちだよ」

「すみませんね。まだ監督が見つかってないもので」

 

 新聞を読んでる響木さん。

 

「何度来ても答えは変わらんぞ」

「だったら、俺と勝負しようよ」

「勝負だぁ?」

 

 え?勝負すんの? 

 

「刑事さんから聞いたよ。おじさんキーパーなんだろ?」

「……鬼瓦の親父か。あのお節介め」

 

 そして興味なさそうに新聞に目を戻す響木さん。そんな中、円堂はカバンを投げ置き、真剣な眼差しで言う。

 

「キーパーなら、どんな球も受け止めるもんだろ!昔のことは聞いたよ。一度試合が出来なくなったからって、それがどうした!人生まだまだ、終わってねーぞ!」

「フン、このガキンチョが」

 

 全く。中2が自分の何倍も歳いってる相手に人生語るなっての。

 

「やれやれ。でも、響木さん。悪いがオレも円堂と同じ意見ですわ。アンタが選手として果たせなかった夢。監督となってオレたちに託してみませんか?」

「面白いことを言うな」

「俺、思うんだ。キーパーは足を踏ん張って、ヘソの下に力入れて。でないと、守れるゴールも守れないだろ?」

「はっはっはっ。……大介さんも似たようなことを言ってたな。キーパーがゴールを守っているからこそ、皆、安心して全力で相手にぶつかっていけるってな」

「そうだよ!だから俺も全力でおじさんにぶつかる!勝負だ!」

「勝負だぁ?」

「キーパーの俺を見てくれ!おじさんが3本シュートを撃って、俺が3本とも止めたら……監督をやってくれ!」

 

 おっそろしく一方的に吹っ掛けたなコイツ。

 

「まぁ、アホくせぇ勝負でしょうね。だから、円堂が負けたら、オレたちはアンタに金輪際監督をするよう頼みに来ない」

「大した信頼だ」

「ああ。オレはいつもコイツに背中を預けてる。信頼できるからオレは好きに動けてる。というか、自分とこのキャプテンが最初から負けると思うチームメイトなんか何処にいるんですか?」

 

 信じてなきゃ、オレはあんなに試合中攻めたりしない。自由に動けるのは、コイツが後ろで守ってくれているという安心感があるからだ。

 

「ふっ。いいだろう」

 

 そして、河川敷に場所を移す。

 

「円堂。折角の機会なんだ。楽しめよ」

「おう!」

 

 オレはベンチのところに座って勝負を見届ける。

 

「おじさん!久しぶりにボール蹴るんじゃないの?」

「まぁ、見てるといいさ」

「よぉし!来い!」

 

 響木さんのシュート。回転しながらかなりのスピードで下の隅を狙う。それを円堂は何とか反応し弾く。

 というかあの人何歳だよ。普通に凄いんだけど。

 

「なんてパワーだ。流石は元イナズマイレブン。1本目、止めたぞ!」

「やるなぁ」

 

 軽くボールを上げるとそのままダイレクトで打つ。狙いはさっきと逆側だが少し上。威力は上がっている。

 

「はぁぁああああ!」

 

 それを熱血パンチで正面に回り込み、響木さんのところへ弾き飛ばす。

 

「熱血パンチ」

「どうだ2本目だ!」

 

 2人共楽しそうにやってるな。この流れで誘えないかな?

 

「調子に乗るなよ。最後の1本、止められなかったら監督の話はナシだ」

 

 あ、無理だわ。

 

「鬼瓦の親父が言ったことが本当なら……見せてみろ!」

 

 コースはど真ん中。純粋なパワーシュートだ。下手したら並大抵のシュート系必殺技より威力たけぇかも……でも、このくらいのシュート。見慣れてる気がするなぁ。なんでだろう。

 

「ゴッドハンド!」

 

 巨大な右手がシュートを完璧に止める。

 

「ナイスセーブ!円堂!」

「はっはっはっ。こいつは驚いた!大介さんがピッチに帰って来やがった!おい、孫。お前名前はなんというんだ?」

「円堂守!」

「守か……いい名前だ」

「で、響木さん?監督の件は?」

「ああ、約束だからな。引き受けよう」

「よっしゃあああああ!」

「やったな円堂!」

「これで、試合に出られる」

「さっさと戻るぞ。あ、響木監督も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新監督だ!」

 

 オレと円堂は響木監督を連れて部室に来ていた。

 

「響木正剛だ。よろしく頼む。さぁ、決勝戦はもうすぐだ!お前ら全員鍛えてやる!」

「「「おおぉ──!」」」



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VS帝国 ~試合前に重大なことを知っちゃった~

「いよいよ地区大会決勝だ!あの帝国とまた戦えるんだ!特訓の成果、出し切っていこうぜ!」

「「「おおぉー!」」」

「皆張り切ってる。決勝だもんね」

 

 電車の中で張り切る雷門イレブン。まぁ、移動手段がバスでなく電車なのはいろいろと察してほしい。

 

「響木監督!」

 

 呼ばれて立った響木監督。

 

「俺からはたった1つ。全てを出し切るんだ。後悔しない為に!」

「「「はい!」」」

 

(……気がかりなのは影山だ。どんな罠を仕掛けているか分からない。試合が始まるその時まで注意しなければ。俺がこいつらの盾にならねばな。40年前のような思いをするのは俺たちだけで沢山だ)

 

 問題は帝国の学園長。あの人はオレたちの命を軽く見てる。どんな手で来るかわからない。気を抜いたら負けるな。

 

「あれ?夏未さんは?」

「電車は嫌いなんですって……」

 

 なるほど。そういうのアリかよ。

 

「な、何スか!?アレ!」

「まるで要塞だな……」

「あれが帝国学園です。そして中央に大きくそびえているのが……決勝を戦うスタジアムです」

 

 ねぇ、あれ中学校なんだよね?どっかの軍事施設じゃなくて学校なんだよね?おかしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 到着したオレたち。とりあえず円堂が入り口で叫んでいたが、あまり目立たないようにして欲しい。

 

「気をつけろ!バスに細工してくる連中だ!何をしてくるか分からん!落とし穴があるかもしれない!壁が迫ってくるかもしれない!」

 

 響木の言葉に壁山、栗松、宍戸、少林は壁や床のチェックを始める。それを見た一部の奴らは呆れる。

 

「……監督が選手をからかうなんて」

「た、多分監督なりの緊張をほぐす方法なんだよ……」

「ま、用心するに越したことはねぇだろ」

 

 そのまま何事もなくオレたちのロッカールームに辿り着く。

 円堂が扉を開けようとしたその時、中から鬼道が出てきた。

 

「鬼道!」

「無事に着いたみたいだな」

「何だと!?まるで事故でもあった方が良いような言い方じゃねぇか!まさか、この部屋に何かしかけたんじゃ……」

「安心しろ。何もない」

 

 そのまま去っていく鬼道。

 

「待て!何やってたのか白状しろ!」

「染岡。鬼道はそんな奴じゃない」

「止めるな円堂!」

「落ち着け。頭に血が上りすぎだ」

 

 円堂とオレが染岡を必死に抑える。

 

「勝手に入ってすまなかった」

 

 一言残し、今度こそ去る。

 

「鬼道!試合楽しみにしてるからな!」

 

 円堂が声をかける。

 

「とりあえず入ろうぜ。荷物置きてぇ」

 

 と、オレはさっさと入ってさっさと荷物を置く。

 

「おい十六夜!何か仕掛けてあるかもしれねぇだろ」

「別に、鬼道が何もないって言ってたろ」

 

 そう言うと他のメンバーも入ってきて調べ始める。調べてないのは、オレ、円堂、豪炎寺、土門。後、マネージャーズ。

 

「……はぁ。どうせ、何もないさ」

「そうだぞ。鬼道が言ってたじゃないか」

「騙されてんじゃないのか?あいつも帝国の一員だぞ」

「鬼道は信じていい!俺には分かる!」

「はいはい。この話は終わり。今は試合に集中しましょ」

 

 というわけで、準備を進める。にしても、広いなぁ。迷子になりそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、すっきり!」

「さっさと戻るぞ」

 

 トイレから出てきたオレと円堂。別に一緒に来たわけでは無く別々に行ってここで合流した感じだ。

 

「ん?鬼道?」

「どうした?」

 

 円堂が走り出したのでしぶしぶ付いていく。

 

「うわっ」

「って、走るとあぶねぇ……?」

 

 目の前には人が。この人誰?

 

「雷門中サッカー部、円堂守君に十六夜綾人君だったね?私は帝国学園サッカー部監督。影山」

 

 帝国の監督……もしや、この人が総帥と呼ばれる男か。雰囲気的にそう見える。

 

「君たちに話がある」

「話?」

「鬼道のことだ」

「鬼道?」

「ああ。君のチームのマネージャー、音無春奈が鬼道の実の妹だということを知っているかね?」

「いいえ」

「えっ!?音無が鬼道の……」

 

 おそらく揺さぶるための嘘……ではないな。真実だろう。こんなすぐに確認されるような分かりやすい嘘をつくメリットが無い。

 で、話によれば、2人は施設で幼少期を過ごし、鬼道が6歳、音無が5歳の時に別々の家に引きとられた。鬼道は音無(離れた妹)と暮らすために、養父とある契約を交わす。フットボールフロンティア全国大会で三年間優勝し続けること。

 

「鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることは出来ない。もし、地区大会レベルで負けたともなれば……鬼道自身、家から追い出されるかもしれないな」

「そんな……」

「それだけですか?()()()()話したいことというのは」

 

 おそらくこの人は偶然ここで鉢合わせたわけじゃない。オレか円堂、或いは両方と()()()接触してきた。当然だ。ぶっちゃけて言うならこの話を染岡とかに言ってもどうでもいいと思うはずだし。

 

「フッ、忘れるな。雷門が勝てば鬼道たち兄妹は破滅する」

 

 そう言い残して影山は去る。するとそこに響木監督が来た。 

 

「大丈夫か2人とも。影山に何を言われた?」

「……いや、特に」

「大丈夫です」

 

 まずいな……オレはともかく円堂が今の話を受け入れ切れてねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 アップ中に壁山がこける。どうやらいつにない大舞台で緊張しているようだ。音無の方を見るが、元気がない。なるほど、鬼道のことか。

 で、問題はだ。

 

「行くぞ、円堂」

 

 円堂のキーパー練習。オレがシュートを打つも、棒立ちのままだ。そう、このバカだ。

 

「たく、顔洗って目覚まして来い」

「あ、ああ、そうする。悪いな。十六夜」

「全く……」

 

 降りていく円堂。すると、木野が追いかけて、

 

「木野さんと音無さんはどこ?私雑用は嫌よ!」

 

 ぼっちが残った。気付けば音無もいない。

 

「まぁ、いいんじゃねぇか。マネージャー1人でも準備はできるだろ」

「へぇ。何か知ってそうな感じね」

「ははは。オレは何にも」

「全く。そうだ十六夜君。手伝ってくれない?」

「はぁ、ま、仕方ないな」

 

 でも、なんでオレがマネージャーの仕事やってんだろう。

 

「ふぅ。もう行っていいわよ」

「ひでぇ。試合に出る選手なのに……」

 

 そう思ってると宍戸が壁山をくすぐってるのが見える。余りのことに壁山がボールを高く蹴り上げ、

 

 ガンっ!

 

 天井に当ててた。やれやれ、止めた方がいいな。

 

「おい、2人とも。悪ふざけもその辺に」

 

 と思うと落ちてきたボールが宍戸の頭に当たった。

 

「いてっ!」

 

 因果応報だ。にしても綺麗に落ちてき……ん?

 

「あぶねぇ!」

 

 咄嗟に手を出して落ちてきたモノをキャッチする。やっべ、最近動体視力も上がってるわ。後、反応速度も。

 

「くっ!」

 

 さすがにいってぇ……どんな高さから落ちて……は?落ちてきた?

 

「だ、大丈夫ですか!十六夜さん!」

「それ、何すか?」

「……ボルトが6本?しかもかなり大きいやつだ」

 

 おいおい……嫌な予感がしてならねぇんだけど。

 

「大丈夫か!」

「あ、ああ。これが降ってきた」

 

 あっぶね。刃物だったら手が切れてたわ。

 ……ただ、今頭の中で最悪のシナリオは出来てしまっている……妄想で済めばいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両チーム整列して入場する。円堂に一応落ちてきたものを見せて、監督に預けておいた。監督は鬼瓦刑事に渡したそうだ。

 

『雷門。帝国。両チームの入場です』

 

 そして整列し、全員と握手していく。オレは円堂の前、つまり最後から2番目に握手する。鬼道と握手したとき、

 

「天井、仕掛け、違うか?」

「おそらくな」

 

 コクりと小さく頷いたのを見て、そのまま自然な動作で離れていく。

 

「円堂。鬼道はなんて?」

「ああ。試合開始と同時に全員を下げろって」

「オーケー。極端なまでに下がった方がいいな」

 

 ということでスターティングメンバーには最初からいつもより後ろめに居てもらい、その上でホイッスルと同時にペナルティーエリア内くらいまで下がるように指示。当然、意味の分からん指示に反発はあったものの真剣な表情で頼み込む。

 

 ピー

 

 雷門ボールでキックオフ。ホイッスルと同時に全員が下がってくる。

 

「やっべ……マジかよ……」

 

 オレは上の方に視線をやると、何本もの鉄骨が落ちてくるのが見えた。

 

 ドンッ!ドンッドンッ!

 

 鉄骨はスタジアムに落ちると同時に砂煙を上げる。

 

『ああっと!?どういうことだ!?突然雷門中側の天井から鉄骨が降り注いできた!?大事故発生!』

 

 やっば。視界が塞がれて見えねぇ。無事か?

 

『酷い……グラウンドには鉄骨が突き刺さり、雷門中イレブンも……お?何と!雷門中イレブンは無事です!誰1人怪我さえしてない模様です!』

 

 マジかよ……最悪のシナリオが当たった……

 

「鬼道が言っていたのはこういうことだったのか……」

 

 オレは鬼道がどこかへ消えてくのを見て、慌てて追いかけていった。



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VS帝国 ~帝国の本領!ゴッドハンド破れる!?~

 鬼道の後を付いて行ったオレ。すると、とある部屋に辿り着いた。

 

「総帥!これがあなたのやり方ですか!天に唾すれば自分にかかる。あれがヒントになったのです。あなたにしては軽率でしたね」

 

 すると円堂や源田、寺門、響木監督も付いてきた。ところで、天に……って何のこと?

 

「言ってる意味が分からんが?私が細工したという証拠でもあるのかね?」

「あるぜ!」

 

 後ろから響くでかい声。それと共にその証拠品がオレらの頭上を通過して、影山のデスクの上に放り投げられた。いや、当たったらどうするんですか?

 

「そいつが証拠だ」

「刑事さん!」

 

 証拠というのは、オレがキャッチしたデカいボルト。

 どうやらスタジアムの工事関係者が、影山の指示でボルトを緩めていたそう。うん。どうしてこういう人ってこんなことが出来るんだろう。いやね、鉄骨を落とすとか危険じゃん。少しでも間違えば帝国イレブンだったり、観客だったり思わぬ被害が出てたかもしれないんだよ?こういう人の思考だけは理解出来ねぇなぁ。ほんと。

 

「俺はもうあなたの指示では戦いません」

「俺たちも、鬼道と同じ意見です!」

 

 わぁお。革命ですかね。

 

「勝手にするがいい。私にも、もはやお前たちなど必要ない」

 

 刑事さんが連れていった……が。何だろう。まるで帝国を切り捨てることを望んでいたみたいだ……いや、流石にそんなことはないか。

 

「響木監督、円堂、十六夜。本当にすみませんでした。試合をする資格はありません。俺たちの負けです」

「えっ?なに言い出すんだよ」

「今の責任を取るために雷門の不戦勝って形を取りたいってことだろ?」

「…………」

 

 静かに頷く鬼道。それを見て、オレは円堂に話を振る。

 

「だが、円堂。お前には選択肢がある。サッカー(試合)をやって勝敗を決めるか、やらずに勝つか。オレはどっちを選ぼうが文句はねぇよ」

 

 まぁ、コイツが選ぶ答えなんて決まってるが。

 

「へっ。決まってんだろ。俺たちはサッカーをしに来たんだ。お前たち帝国学園とな」

「だろうな。ただ、グラウンドはどうする?あの鉄骨刺さったのは使えねぇだろ?」

「それなら任せておけ」

 

 と、鬼道が言うので全面的に任せておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見せるぞ!生まれ変わった帝国のサッカーを!」

「「「ああ!」」」

「行くぞ!全力でぶつけるんだ!俺たちの熱い雷門魂を!!」

「「「おう!」」」

 

 今回のスターティングメンバーは御影専農の時と同じだ。まぁ、現時点ではこの面子がベストだろうし。

 

 ピー

 

 ホイッスルと同時に試合開始。雷門ボールで始まった帝国戦。まずは豪炎寺がドリブルで上がっていく。ディフェンス2人がスライディングを仕掛けて来たが、ボールを横にいる染岡に渡し、自身は跳んで躱した。

 

『ドラゴントルネード!』

 

 早速オレたちのシュート。すると、源田は大きく飛び上がって、拳を地面に叩きつけ……

 

「パワーシールド!」

 

 何かオーラの壁が出てきた。……なるほど。力を込めた拳を地面に打ち付ければ壁が出てくる……んなわけあるかぁ!なんだよその壁!意味わかんねぇよ!

 

「パワーシールドにはどんなシュートも通用しない」

 

 弾かれたシュート。ん?何か源田のこの台詞に聞き覚えがあるのは気のせい?何か似たようなセリフをどっかで聞いた気がするんだよ。

 ボールは帝国ディフェンダーの五条に。そこから鬼道に渡り、寺門へ。

 

「百裂ショット!」

 

 ッチ。やっぱり百回くらい蹴ってるのか。だが、前は止められなかったとしても今の円堂なら止められるはずだ。

 

「熱血パンチ!」

 

 が、熱血パンチで上手いこと弾けずボールは後ろへ。幸いゴールポストに当たって点にはならなかったが…………あのバカ。まさかな。

 で、帝国のコーナーキック。それに佐久間がヘディングで合わせる。今度は円堂の正面……だが、

 

「何やってんだバカ!」

 

 キャッチし損ねて前に落としてしまう。慌てて前に蹴り飛ばしておいたが。

 そのままボールは相手ディフェンスに渡り、そこから鬼道へ。壁山を抜いて、オレと1対1に。

 

「何か最初を思い出すな」

「なら、あの時と同じように抜いてやろう。イリュージョンボール!」

 

 へぇ。覚えていたんだ。そう思いながらオレは1歩下がる。

 この技には欠点らしい欠点が見えない。ただ、強いて言えば鬼道が相手ディフェンスを抜き去る時、絶対ボールは1つになる。鬼道を抜かせないためには、ボールに惑わされず、アイツ自身を止めればいい。だからこそ抜かれないよう1歩下がった。

 

「ほう、ならば!」

 

 鬼道も1歩下がる。これでオレらの間にはある程度のスペースが……マズい!

 

「シュートを撃てばいいだけだ!円堂!」

 

 足を振り上げた鬼道。マズい!

 

「避けろ!」

 

 後ろから聞こえた豪炎寺の声。聞こえたと同時に横に避けると、豪炎寺がスライディングをし、鬼道と打ち合いみたいになっていた。まさか、前線からここまで戻ってきていたのか。

 ボールは斜め後ろに行き洞面のもとへ。しかし、打ち合いのせいで痛めたのか、足を抑える鬼道。たまらず、洞面は試合を中断すべくボールを外に出した。

 

「サンキュー。豪炎寺、十六夜」

 

 豪炎寺は何も言わずに前線へ走っていった。…………アイツ気付いたのか?

 

「大丈夫か?鬼道」

「ああ、問題ない」

「肩ぐらい貸すさ。とりあえず外に行くぞ」

「…………すまない」

 

 試合が続行する中、オレと鬼道は外に出る。

 

「大丈夫か?今、何か冷やす……」

 

 オレが動く前に既に動いてる人物がいた。

 

「春奈、どうして」

 

 音無だ。仕方ない。ここは2人で話せるよう邪魔者はフィールドに戻るか。

 

「十六夜。鬼道は?」

「おそらく酷すぎる怪我じゃないし、アイツのことだ。フィールドに帰って来るだろうな」

「そうか……」

 

 あーあ。どんだけコイツは引きずってんのか。今のこいつを見てると……単純にイラつく。サッカーでイラつくとか久し振りなようなそうでもないような……

 そんな中、鬼道がフィールドに戻ってきた。そして、

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 染岡がシュートを放つが、

 

「パワーシールド!」

 

 源田によって弾かれる。弾かれたボールを、

 

「ファイアトルネード!」

 

 豪炎寺が押し込もうとする。だが、

 

「パワーシールド!」

 

 再び弾かれた。

 

「残念だったな。パワーシールドは連続で出せる」

 

 連続で出せる……拳を地面に叩きつける……まさか、あのシールドは衝撃波で出来ている?衝撃波であの壁ができるかはいささか疑問だが。弾かれたボールは咲山へ。そこから鬼道へパスが通る。

 すると、佐久間と寺門が鬼道の脇から前線へダッシュ。そして、指を口元に持っていって吹く……まさか!

 

「アレは……!」

 

 地面から5匹のペンギンが出てきて、鬼道がシュート。ペンギンも打ち出され、そのシュートにさらに佐久間と寺門が同時に蹴りをいれ威力アップ。

 

「皇帝ペンギン──」

「「2号!」」

 

 ッチ!まさか、ペンギン技を使えるヤツがここにいたのかよ!……だが、今の動き……そうか!

 

「って考えてる場合じゃねぇ!円堂!」

 

 ペンギン5匹を纏ったシュートは円堂の下へ。

 

「勝負だ!鬼道!ゴッドハンド!」

 

 円堂のゴッドハンド。その指1本に付き1羽のペンギンが突き刺さる。そのペンギンたちはゴッドハンドを打ち破り、シュートは円堂ごとゴールに刺さった。

 

「まさか……敗れるとはな……」

 

 あの円堂のゴッドハンドが破られたのか。だが、あの技……面白い。

 

 ピ、ピー

 

 ここで前半終了。帝国の先制。破られたゴッドハンド。円堂の不調。後半戦はやべぇかもな。




匿名設定をやめました。
理由としては今後活動報告を使う可能性があったからです。
まぁ、気にしないで下さい。


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VS帝国 ~ペンギンVSペンギン!?~

 ハーフタイム。円堂の不調に皆気付いている様子だ。

 

「十六夜」

「何?豪炎寺」

「お前、円堂のこの状態の原因知ってるだろ」

「まぁな。薄々検討はついてる」

「どうするつもりだ」

「オレは何もできねぇ。点をやらせねぇことしかな」

 

 事情を知っている。オレにはアイツの気持ちは分かる。だが、事情を知ってるオレが何を言える?あの話を聞き、鬼道に同情しそうになってる自分が少なからずいる以上、オレからは強く言えねぇ。

 

「十六夜。提案がある」

「風丸か。何だ?」

 

 風丸の提案を聞き、オレは頷く。

 

 ピー

 

 後半戦開始。帝国のキックオフで鬼道がどんどん上がってゆき、寺門にボールが渡りシュートを打ってくる。

 

「風丸!?」

 

 そのシュートをゴール前まで下がってきていた風丸が身体を張って止める。

 

「お前の調子が悪い時は、俺たちがフォローする。仲間だろ!」

 

『な、何と!雷門ディフェンス陣と風丸がゴール前に集結!』

 

 弾かれたボールを佐久間がシュート。それを壁山が弾く。

 

『帝国のシュートの嵐を雷門ディフェンス!身体を張って防ぎ続ける』

 

 シュートの痛みで身体がボロボロになっていく。……たく。オレとしちゃいつも通りなんだがな。

 

「皆……」

 

 そんな中、栗松が弾いたボールが高く上がり、

 

「今だ!」

 

 洞面、寺門、佐久間の3人が高く飛び上がる。マズい!デスゾーンか!

 

「打たせねぇぞ!」

 

 ボールのところまで行こうとする。だが、

 

「悪いな十六夜。打たせてもらう!」

 

 鬼道にガードされる。そのまま、

 

『デスゾーン!』

 

 打たれてしまい、ボールはディフェンス陣の間を抜けゴールへ。しかも、円堂の反応が一歩遅れた。これは……!

 

「うおおおおおぉぉぉっ!」

 

 土門が顔面で受け止めて弾いた。ボールはそのまま外へ。

 

「土門!」

 

『土門防いだ!捨て身のプレーだ!』

 

「土門!大丈夫か?……なんて無茶を」

「デスゾーンはこうでもしなきゃ止められない……くっ。円堂。俺も雷門イレブンになれたかな……」

「当たり前だ!お前はとっくに仲間だ!」

「そっか……」

 

 そのまま担架で運ばれて行く土門。

 

「土門……」

「円堂!」

 

 すると、円堂に向かってファイアトルネードをぶちかます豪炎寺。

 これには敵味方共に唖然とする。無論オレもだ。

 

「俺がサッカーにかける情熱の全てを込めたボールだ」

「豪炎寺……」

「グラウンドの外で何があったかは関係ない。ホイッスルが鳴ったら試合に集中しろ!」

 

 表情が多少変わった円堂。…………たく。荒療治だねぇ豪炎寺は。

 土門に代わるは宍戸。宍戸をMFに、風丸をDFに下げた。

 そして相手のコーナーキック。ボールは鬼道に渡り、鬼道は上にジャンプした佐久間へ。そして、佐久間がヘディングで鬼道にボールを渡し、

 

「ツインブースト!」

 

 鬼道がダイレクトシュート。わぁ、割と普通だ。

 それに対し、円堂は目にも止まらぬ速度で連続パンチを繰り出す。そして弾く。

 

「爆裂パンチ!」

 

 目金が名付けたがいや、そのまんまだよ。

 

「それでこそ円堂だ」

「ようやく戻ったかバカ」

 

 弾いたボールを鬼道が空中で回収。

 

「行くぞ!」

 

 ピ──!

 

 鬼道が指笛を吹くと同時に出てくる5匹のペンギン。

 

「ッチ!こっちもだ!」

 

 ピ──!

 

「ペラー!」

『ほーい』

 

 円堂の真ん前に立ち、ペラーを呼び出して、ペラーがほら貝でペンギンを5匹呼び出す。

 

『皇帝ペンギン2号!』

 

 鬼道が蹴った後、佐久間、寺門の2人が更に蹴る。

 

「止めてやる!行くぞ!」

 

 オレはボールに対して蹴りを正面から入れる。こちらペンギンたちは1匹につき1匹。相手のペンギンと正面から衝突し、抑えている。ペラー?ペラーはオレの頭の上だが?

 

「強いな……!」

 

 が、こっちのペンギンとオレは徐々に押され始めてしまう。

 

『オレに任せて!』

「ペラー!?」

 

 すると、ペラーがボールの上に立った!?え?よく立てるなお前。そして、

 

『僕たちは仲間じゃないか!こんなところで争ってる場合じゃないよ!』

 

 向こうのペンギンたちに語るペラー。…………まさか、ペラーがやろうとしていることって……

 

『仲間同士で争うなんてやめにしようよ!』

 

 情に訴える説得かよ!?説得してシュートを止める気かよ!?聞いたことねぇぞ!

 

『目の前にいるのは誰だい?少なくとも敵じゃないはずだよ。……ほら落ち着いて見てみるんだ。安心して。僕たちは皆、仲間だよ。だから……ね?』

 

 な、なんだこの説得!?徐々に2号のペンギンたちの突撃の威力が収まっていく。それに合わせてこちらも弱めていく。……そ、そうか!2号のペンギンたちの心が動かされペラーの出したペンギンに攻撃することを躊躇し始めたのか!そして、そのまま突撃の威力はゼロに近付く。うんうん。平和的な解決こそいちば──

 

『やれ』

 

 ──次の瞬間。ペラーの出したペンギンたちが2号のペンギンを弾き飛ばした。ボールは威力を完全に無くし、オレの足下に。

 

「……え?」

「何だと!?」

『帝国の必殺シュート!皇帝ペンギン2号を十六夜とペンギンたちが止めたぞ!これは凄い!』

 

 驚く鬼道。いや、オレも驚いてるんだけど…………え"?

 

『ふっ。ご主人様。案外止めるの造作なかったね。油断させてその隙を狩る』

 

 すげぇスポーツマンシップの欠片も無いこと言い出したんだけど……え?

 

『ペンギンだからスポーツマンシップ関係ない!』

 

 胸を張るペラー。…………誰だよ。ペラーをこんなペンギンにしてしまったのは……

 

『まぁ、性格思考戦略はご主人様譲りだとして』

「ちゃっかりオレのせいにすんじゃねぇ!オレはそんな非道なことしねぇよ!」

『行くよ!ご主人様!今がチャンスだ!』

 

 …………はぁ。今度ペンギンのしつけ方の本でも読もうかな。

 

「まぁいい」

 

 今は切り替えよう。このチャンスを逃す手はない。

 

「鬼道、礼を言うよ。君のおかげで最後のピースが埋まった」

「最後のピースだと?」

「見せてやるよ。これが新必殺技だ!」

 

 オレはボールを空高く蹴り上げ、それに5匹のペンギンたちが最高点に到達したボールに突撃して刺さりボールのスピードを上げ急降下。

 落ちてきたボールに対し後ろ回し蹴りをぶち込む。瞬間、ペンギンたちはボールを押し込みながら離れ、ボールと共にゴールへ突き進む。

 

「無駄だ!新必殺技だろうがパワーシールドには通用しない!」

「頼んだぞ!豪炎寺!」

 

 パワーシールドを展開する源田。パワーシールドとオレのシュートがぶつかり合う中、豪炎寺がファイアトルネード(低空バージョン)放つ。

 

「パワーシールドは衝撃波で出来た壁!弱点は薄さだ!遠くから飛んできたものは跳ね返せても至近距離から押し込めば!」

 

 パワーシールドにひびが入っていく。

 

「なにっ!?」

「ぶち抜ける!ファイアトルネード!」

 

 ペンギンが炎を纏いながら突撃。パワーシールドを破り、ゴールに刺さった。

 

『ゴール!十六夜と豪炎寺の必殺技で雷門!同点に追いついた!』

「ナイスシュート!十六夜!豪炎寺!」

「よく合わせれたな。豪炎寺」

「予想外だがな。お前がゴール前から超ロングシュートを打ってくるとは思わなかった」

「ははは、まぁね」

 

 試合再開。そこからはお互いに攻めては守りの繰り返し。円堂は完全復活したので前半のようなミスはなく戦えてる。

 あと、目金によってこの技は皇帝ペンギンO(ore)と名付けられた。何故にO?まぁ、アイツのネーミングセンスはよう分からんか。

 試合終了まで刻々と近づいてくる中、鬼道がボールを持ち、佐久間、寺門が上がってきた。そしてペンギンを5匹出して、

 

『皇帝ペンギン2号!』

 

 3度目の皇帝ペンギン2号。だが、オレはシュートを防ぐのに間に合わない。

 

「ゴッドハンド!」

 

 円堂はゴッドハンドで対抗する。だが、徐々に押され始めた。

 

「円堂!」

「止めろ!」

 

 押し込まれ始めている。だが、アイツの目は死んでいない。

 

「このボールだけは絶対に!止めるんだぁ!」

 

 すると円堂は空いてた左手も前に突き出して両手でのゴッドハンドを繰り出す。両手で放ったゴッドハンドはペンギンたちを蹴散らし、ボールをキャッチした。

 

「行くぞ!」

 

 ボールは風丸へ。

 

「疾風ダッシュ!」

 

 風丸が目にも止まらぬ速さでジグザグにドリブルをする。……あれ?速くね?瞬間移動した?あ、元陸上部だったっけ?それなら納得……ってことにしとこ。うん、きっとこの世界の陸上部はみんな瞬間移動並みのスピードで走れるんだ(諦め)。

 ボールは少林に渡り、

 

「竜巻旋風!」

 

 ボールを高速回転させることで砂煙の竜巻を生み出す。おい待て。サイクロンとかいう技のせいで、ここの人間が竜巻とかを起こすのは容易だと思うが、ここ芝のフィールドだぞ。土がないのに、何故、土煙が上がってんだ。

 ボールは半田へ。半田がセンタリングをして、そこに走り込んだのは壁山と豪炎寺。

 

「パワーシールドを超える最強の必殺技!フルパワーシールドだ!」

 

 そうして現れた衝撃波の壁は先ほどの壁よりかなりデカい。

 イナズマ落としの体勢に入ってる豪炎寺と壁山。そこにもう1人跳んできた。

 

「決めて来い。円堂。豪炎寺」

 

 円堂だ。2人は空中で同時にオーバーヘッドキック。イナズマ落としの青い雷とイナズマ一号の黄色い雷がボールから迸る。

 

「いっけぇぇっ!」

 

 シュートはフルパワーシールドに激突。回転するボールはそのままフルパワーシールドを突き破りゴールに刺さった。……今更だがゴールネットって丈夫だなぁ。

 

「イナズマ……一号落とし」

 

 そのまんまかよ。

 

「やった……やったぁ!」

 

 ピ、ピ──!

 

 ここで試合終了。2対1で帝国学園に勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆。迷惑かけてごめん!」

 

 オレたちに頭を下げる円堂。

 

「もういいさ。それより皆。お待ちかねだぞ」

 

 観客から一斉に巻き起こる雷門コール。オレたちは手を振って答えた。

 地区大会優勝。次は全国大会だ。後、円堂によると音無と鬼道の関係も元に戻ってよかったよかった。




オリジナル技

皇帝ペンギンO(ore)
シュート技
ペンギン五匹による一人で打つシュート技。威力は2号にやや落ちる。
皇帝ペンギン2号を見て、完成させた。
後ろ回し蹴りのモーションは2の技のノーザンインパクトのモーションが近いイメージ。



ペラーは十六夜君を見て育った結果、相手の必殺技をどう崩すかを考えるようになり、そのためには演技すらこなす恐ろしいペンギンになりました。
後、活動報告でアンケートというか質問?的なの書いてあるのでそちらも見てください。
ただ、活動報告では感想のように返信するかは分かりませんがしっかり見ているので大丈夫です。


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打ち上げと非常な現実

原作は分かりませんが、本作は全国大会前にテストがあることにします。
まぁ、番外編モドキですね。
ちなみに『伝説のイナズマイレブン』の話と並行して進めます。
後、活動報告でアンケートというか質問?的なの書いてあるのでそちらも見てください。


 決勝戦翌日。オレたちは雷門中サッカー部は雷雷軒を貸し切って集まっていた。

 翌日の朝刊には、デカデカとオレたちの優勝したところの写真が写っている。

 

「やったぞぉ!」

「「「やったぞぉっ!」」」

「もう何度目よ」

「いいじゃないか!俺たちは優勝したぞぉ!」

「「「優勝したぞぉっ!」」」

 

 笑いながら木野が円堂に言う。既にこの下りは数えるのも飽きるくらいやっている。最初の数回はオレも声を出したが次第に飽きた。

 いや、よく考えたらまだ地区予選を勝ち進んだだけで、全国大会の入り口に立っただけだし。ああでも、ちょっと前の部員が足りない試合できないから見たら上出来か。

 

「監督!俺、チャーシュー麺追加!」

「僕、五目炒飯!」

「おう!いっぱい食べてけよ!」

 

 全部奢りってのが凄いよなぁ。

 

「しかし、帝国学園も全国大会に出られるとはな」

「大舞台でもう1度戦えるんだ!ワクワクしてくるぜ!ほい、餃子お待ち!」

「やれやれ……まぁ、帝国ともう1度戦うことは楽しみだな。はい、ラーメン1丁」

 

 ちなみにオレと円堂は何故か監督の手伝いをしています。 

 

「あら円堂君に十六夜君。それは決勝まで勝ち進むという宣言と受け取って良いのかしら?」

「まぁ、ここまで来たら全国制覇したいし」

「え?どういうこと?」

 

 雷門の発言を円堂は分かってないらしい。おい、お前、結局読んでねぇだろ規約書。そんな円堂を見て、雷門が説明を始めた。

 

「前年度優勝校と同地区の出場校は別ブロックになるのよ」

「だから、帝国とは決勝戦以外では当たらないように組まれているんだ」

 

 そうじゃないと1回戦からまた帝国と当たっても観客は面白くないだろう。

 

「へぇ、また帝国と決勝戦か」

「おいおい気が早すぎるぜ」

「全くだ。帝国に勝ったって調子に乗ってると簡単に負けるぞ」

 

 全国レベルならそうだろうな。

 

「でも、夏未さん。なんでそんなに詳しいの?」

「大会規約には隅から隅まで目を通したわ。ルールを知らずに慌てるのはもうこりごりだもの」

「ほんと、あの時は誰かさんがルールを知っていれば、あんなに慌てることなかったのにな」

 

 何か言いたげな表情だが、当然オレも大会規約は既に頭の中にインプット済み。何にも言い返せないのが現状だろう。

 その後、今後マネージャーの役割は雷門が事務面、音無が情報面、木野がフィジカル面をそれぞれ担当するということになった。というか雷門がそう決めた。

 

「にしても十六夜の昨日のシュートは凄かったな。まさか、ゴールラインからシュートを打つとは思わなかったけど」

「あはは……まぁ、ちょっと前から特訓はしてたんだよ」

「何だよ水くせぇな!俺らにも教えてくれたって良かったじゃねぇか」

「まぁまぁ」

「でも、豪炎寺もよく即興で合わせられたな」

「十六夜は、パワーシールドの攻略法を俺が確信していることを気付いていたんだろう。後は十六夜のプレーに答えただけだ」

「答えただけって」

 

 それがすげぇっての。

 そんな感じで会話に花を咲かせていると、

 

「あ、監督!餃子もう1皿!」

「私も追加をお願いするわ」

 

 土門と雷門の注文が重なった。しかし、監督曰くあと1人前しか残ってないとか。

 

「それじゃ、夏未ちゃんどーぞ」

「夏未……()()()?」

 

 鋭い目で土門を睨む雷門。当然、雷門()に睨まれた土門()は恐怖を感じているが。

 

「悪くないわね。その呼び方」

「良かったな土門。……殺されずにすんで」

「だけど、理事長代理としての私への敬意は忘れないでいただきたいわ。私の言葉は理事長の言葉よ?」

 

 この人、権力だけは凄いあるんだよなぁ……後、威圧感。

 

「それじゃあ理事長ならどんな言葉をサッカー部面々(コイツら)に送るかね?」

 

 監督の一言で雷門は顔を引き締めてから、マネージャーとしてではなく理事長代理としてのエールを我ら雷門サッカー部に送る。

 

「今やサッカー部は雷門中の名誉を背負っていると言えるわ。必ず全国制覇を成し遂げてちょうだい!」

「おう!やってやるぜ!な!」

 

 円堂は豪炎寺に同意を求め、豪炎寺は親指を立てて円堂に応える。

 

「な?」

「ああ、もちろん」

 

 オレも短く返す。 

 

「よーしやってやろうぜ!!絶対に全国制覇ぁぁああああっ!」

「「「絶対に全国制覇ぁぁぁああああっ!」」」

 

 ………………あっ。思い出した。

 

「そういや、思い出したんだけどさ」

「何だ十六夜?」

「いや……お前ら来週テストだけど、勉強してるか?」

「「「…………あ」」」

 

 うん。今の反応でよく分かった。大体のやつが勉強してないことがよく分かった。

 

「まぁ、サッカー部(うち)は全国大会だから、テスト前の部活休止免除は特例で認めてもらえるだろうが……だからと言って成績が悪くていいわけじゃないぞ?」

「それに赤点を取ろうものなら補習漬けで、放課後の部活が出来なくなってしまうわ。こればかりは、サッカー部だけを優遇するわけにはいかないもの」

 

 文武両道。いくらサッカーが強くてもバカじゃ話にならんからな。

 

「で、今の話を聞いて何処に行こうとする?円堂」

 

 オレはこっそり去ろうとしたバカの肩に優しく手を置く。すると、何人かが席を立ったが、オレの笑顔を見て座り直した。

 

「まさか、雷門中の名誉を背負ってるサッカー部様が、サッカーしか能のないバカ集団だった。なんてことになれば大きな恥だろう。ねぇ、雷門お嬢様」

「えぇ。では円堂君以外にも赤点の不安のある人は、練習後に必ず勉強するようにしなさい」

「え?俺は確定?」

「「当たり前だ(よ)」」

 

 コイツは昼休みや朝の時間をかけてやらねぇとマズいかもな。

 

「ちなみに雷門。その補習って土日はないよな?」

「補習になったことがないから一概には言えませんが、最悪、全国大会の初戦に出られないってことも考えられるでしょうね」

「それって……相当マズくね?」

 

 こうして、円堂の戦いは始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地区大会優勝おめでとう。十六夜」

「それはどうも」

 

 夜。いつも通りの河川敷にいる。

 

「しっかり完成させたんだな」

「まぁ、試合中でだけど」

 

 鬼道たちの皇帝ペンギン2号。アレがペンギン×シュートの合わせたらどうなるかのイメージを確立させてくれた。これには感謝しかない。

 

「でも、これで満足じゃないんでしょ?」

「ああ。まず、お前がペラーというワンクッションを挟まずに撃てたら、真の意味で完成だろうな」

 

 そう。あの技はあの技で出来てはいる。だが、完成したかと言えば疑問(クエッション)が残る。

 

「やはり、ペラーを介さずに別のペンギン。もしくはペラーを含めて何匹かのペンギンを、お前が同時に出せるようになるというのは必須だな」

 

 現状、オレ自身はペラーしか出せない。ペラーが他のペンギンを何匹も出せるだけで、オレがペラー以外のペンギンを出せてない。皇帝ペンギンO……アレも、鬼道みたく最初から5匹出せれば、僅かとはいえロスをなくすことが出来る。まだまだ修行の余地ありか。…………やっぱ、ペンギン出せるのっておかしいよね?

 

「完成していない。まだまだ原石状態の技。磨けば強くなる可能性を秘めている」

 

 そう。それにペンギンだけでなく、あの技はオレのキック力が上がれば更に強くなる。磨きがいのある技だ。……そういうものかな?

 

「で、もう片方は?」

「はっはっはっ」

 

 まだ7割方ですはい。

 

「……全く。それはそうと十六夜。お前、MFに転向しないのか?お前はシュートとドリブル技を持ってるし、別にドリブルが下手なわけでもない」

「うーん。でもやっぱいいや。DFがオレには合ってるよ」

 

 オレがしっくりくるのはDFだ。後ろから全体を見渡して、敵を分析し、敵の攻撃を止める。

 

「確かに。お前のディフェンス能力はかなりのものだからな。長年の練習の賜物か」

「ありがとさん。お前もドリブルとかじゃ、オレは勝てねぇよ」

「でも、今のお前なら必殺技なしなら互角に渡り合えるだろ?」

「なわけ」

 

(まぁ、おそらく必殺技ありにした方が十六夜は私に勝つだろうがな)

 

「じゃあ、やるか」

「おう」



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円堂の苦難と伝説への挑戦

 翌日の朝。そいつの一言はその場にいたオレ、豪炎寺、木野、雷門を震撼させた。

 

「今度の日曜の朝にイナズマイレブンと練習試合を組んだぁ!?」

「あぁ!響木監督が召集をかけるってさ!すっげぇ楽しみだよな!」

 

 あの後、優勝浮かれムードからやべぇ勉強してねぇよムードに早変わりした雷門サッカー部は、円堂を残して全員まっすぐ家に帰った。

 で、唯一残ってた円堂は、イナズマイレブンの浮島さんに出会いかくかくしかじかで、練習試合をすることになった。

 

「……はぁ。円堂君。分かっているの?」

「分かっているって何が?」

「来週の月曜なのよ。テストは」

「……どういうこと?」

「練習試合の翌日はテストなんだ」

「…………ああああぁぁぁぁっ!?ど、どうしよう!どうすればいいんだ!?」

 

 おそらくだが折角の申し出を断るわけにはいかない。いや、どうしてくれるんだこの野郎。

 

「そんなの簡単よ」

「な、夏未……!」

「今日から5日間で仕上げればいいのよ」

「無茶言うなよ!?」

「おーい円堂。いつもの精神論根性論はどーしたー」

 

 いつもなら無茶ぶりもやれば出来るというのに、てんでダメだなコイツ。

 

「はぁ……まぁいい。まずは円堂。お前朝、昼休み、部活前、帰り道は全部勉強な。無論家でもな」

「お、おう……」

 

 目が泳いでる円堂。やべぇかもコイツ。

 

「で、どうせお前1人じゃ変わらないだろうからマンツーマンじゃないが教える形式で行こうと思う。雷門、豪炎寺、木野。勉強は出来るか?」

「誰に聞いていると思ってるの?」

「問題ない」

「大丈夫だよ」

「よし、この4人を中心に円堂を教える」

 

 初戦がどこであれ、ぶっちゃけ、うちにサブキーパーがいない以上円堂が居ないのは非常にマズい。オレもキーパーできないわけではないが、それでもキツいものがある。

 

「で、他に不安のあると言っていた部員は主に目金や風丸あたりに任せたいと思うが」

「あの2人なら大丈夫だろう」

「目金君は運動はともかく、勉学はそこそこ出来るそうだから問題ないわ」

「あのぉ。なんで俺だけ4人もついてる……あ、何でもないです」

 

 コイツの成績の悪さは普段の言動からもだが、去年から目の当たりにしている。オレは、向こうの世界で中学生だった時でも普通に優秀な部類にいたぞ?コイツ、高校はスポーツ推薦じゃないと入れないんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから1週間が経過しました。皆、まるで勉強のストレスを発散するかの如く、部活にはより一層熱が入っていました。……君たち、勉強嫌いなんだね。いや、好きな奴の方がもしかしたら少ないかもしれないけどさ。

 そして日曜日の朝……響木監督が連れてくるイナズマイレブンの人たちとの試合当日。オレは……

 

「でも、いいんですか?十六夜先輩。ベンチスタートで」

「まぁ、いいんじゃね」

 

 帝国戦では響木監督がスターティングメンバーとかフォーメーションを決めていたが、この練習試合やそれまでの試合は円堂やオレ、豪炎寺とかで決めていた。まぁ、だからオレというのは割と発言力がある立場だったりする。

 で、今回何故ベンチスタートかというと……まぁ、集まってる人があれなんだよ。

 

「イナズマイレブンと試合が出来るんだぜ」

「ああ、40年ぶりの伝説復活だ」

「何が飛び出るか楽しみだぜ」

 

 と、皆は盛り上がっている。というかイナズマイレブンが割と身近に多いのだが?うちの学校の生徒指導部に駅前の紳士服店や理髪店の人など、本当に1度は会ったことある人がほとんどだ。

 

「おはよう皆さん」

「「「お、おはよう」」」

 

 執事を従えて、日傘を刺してもらいながら来たのは雷門だ。

 

「お嬢様。今日は休暇をいただきます」

 

 そして燕尾服を脱ぐと下にはユニフォームが……わーお。

 

「皆!今日は胸を借りるつもりで全力でぶつかっていこう!」

「「「おう!」」」

 

 本日の審判、鬼瓦刑事がホイッスルを吹く、と同時にイナズマイレブンのビルダーさんって人がシュートを打とうとするも空振り。そのまま攻めて、豪炎寺の優しいシュートをバトラーさんがヘディングで弾こうとして失敗し、そのままゴールへ。

 そう。問題はこの人たちは40年前が最強なだけでイコール現在も最強ってわけじゃないと言うことだ。確かに、何年かボールを蹴ってなくてもそこそこは出来るかもしれないが、結局はそこそこ。()()あの人たちは、オレたちにとって相手として()()()()()。だからオレは出ない。

 試合が進み、雷門中イレブンも次第にオレと同じように思い始めたころ、

 

「なんだお前たち!」

 

 キーパーである響木監督が声を出した。

 

「俺たちは伝説のイナズマイレブンなんだ!そしてここに!その伝説を夢に描いた子供たちがいる!」

「……監督!」

「俺たちにはその思いを背負う責任があるんだ!その思いに応えてやろうじゃないか!本当のイナズマイレブンとして!」

 

 その言葉に目覚めたイナズマイレブン。プレーが見違えるように変わり、

 

「クロスドライブ!」

 

 ……足から衝撃波?ボールを中心に衝撃波の十字架が円堂に襲いかかる……あれってやっぱり衝撃波?この世界って足を振るうと衝撃波出せるの?マジ?

 

「熱血パンチ!」

 

 そして円堂の熱血パンチが一瞬で破れた。

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 試合は進み、染岡のドラゴンクラッシュを、

 

「ゴッドハンド!」

 

 響木監督の元祖ゴッドハンドが完璧に止めた。

 そして響木監督の投げたボールを浮島さんとビルダーさんの2人がそれぞれの足で挟み、同時に上に蹴り上げる。そのボールにビルダーさんはジャンプしてそのまま、浮島さんはオーバーヘッドキックを同時に蹴り込み、

 

『炎の風見鶏!』

 

 ……火の鳥?あれ?今、鳥が鳴く声がした気がするんだけど気のせい?というか、何あの鳥?炎の羽を羽ばたかせて飛んでいた気がするんだけど。炎ってそんな都合のいいものじゃないと思うんだけど。え?嘘でしょ?

 円堂が止めにかかるもゴールに突き刺さる。そして、ボールから黒い煙が……焦げた?うっそマジで?……いや、逆だ。今までファイアトルネードとかで焦げないボールがおかしいし、オレのシュート技でパンクしないボールがおかしいんだ。そうだ普通なんだ。……でも普通なら灰と化していてもおかしくないと思うのだが。

 あんな必殺技を見たが為に絶賛頭の中パニック状態のオレ。そんな中、

 

「審判さん!タイム!タイムお願いします!」

 

 サッカーにタイムはねぇよ、円堂。

 とまぁ、ツッコミを入れたものの練習試合ってことと円堂の熱意によってタイムは認められた。

 皆を集めた円堂。開くは秘伝書……やっぱ読めねぇよ。

 

「あったぞ。『炎の風見鶏』だ」

「解読出来たのか?」

「ああ。その上、今日はお手本が目の前にある」

「で?誰がやるの?」

「えーっと『この技はスピードがビューン。ジャンプ力がビヨヨーン』か」

 

 ふざけんな。国語力無さすぎだろ。

 

「スピードとジャンプか……陸上部の出番だな!」

 

 流石陸上部……あれ?そう言えば、風丸ってどういう扱いなの?他部活からの助っ人?それとも兼部?よく考えれば、オレって風丸は入部したモノだと思っていたわ。

 

「後は豪炎寺でよくね」

 

 空中でオーバーヘッドキック打つのって、絶対に豪炎寺の役割だと思う。

 

「よし!絶対ものにしようぜ!」

 

 そう言って試合再開。豪炎寺と風丸が何度試しても上手くいかない。

 

「浮島!もう1度見せてやるか!」

 

 そんな中、もう1度お手本を見せてくれるイナズマイレブン。

 

『炎の風見鶏!』

 

 へぇ、なるほどねぇ。

 

「そうか!」

 

 隣では影野が声を上げ、そのままゴールのとこまで歩いていった。まぁ、影野(アイツ)が言ってくれるならいっか。

 

「ゴッドハンド!」

 

 炎の風見鶏はゴッドハンドを軽く破った。

 

「この技の鍵は……2人の距離だよ!」

「え?」

 

 気付いていたか。ただ、円堂はそれを聞いて、何言ってんだ的なことを思っていたらしい。 

 

「2人がボールを中心に同じ距離、同じスピードで合わせないと駄目なんだ」

「なるほど!」

「そういうことか!」

「よく気が付いたな!」

 

 その後、無事に豪炎寺と風丸は炎の風見鶏を放ち、ゴールを決めました。



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勉強会と泊まりとテストと

 イナズマイレブンとの練習試合と少しの練習の後。オレたちサッカー部は、

 

「いいか?関数ってのは――――」

 

 雷門中の教室を借りて勉強会を開いていた。全員が赤点を回避するには、危険そうなやつを潰す必要がある。円堂?ああ、1週間やったが、アイツ。赤点ギリギリで怖いんだよ。後、一夜漬けで何とかなるって言った阿呆がいたので、雷を落としといた。

 

「よし、全員一旦休憩」

 

 サッカーの集中力は凄くても、勉強に生かせないのが残念なところ。休憩を適宜挟まなければ効率が悪い。まぁ、練習もそうだし。適宜休憩する。これが重要だろう。

 てか、何でオレが指揮ってんだよ。オレの仕事じゃねぇだろ。

 

「雷門、そっちは?」

「えぇ。見たところ、円堂君以外なら赤点回避は多分大丈夫よ」

 

 ちなみにこの勉強会はそこまで強制していない。まぁ、強制参加の奴は1人いるがな。でも、その強制参加の奴のおかげか全員参加している。……やれやれ。さすがキャプテンだな。コイツは指導も指揮も向いてないかもしれないが、人を惹きつける魅力とカリスマ性は備わっている。だから、リーダーに向いているんだろうな。

 

「というか十六夜……お前、何でそんな頭いいんだよ……」

「普段から勉学も怠ってないからだ」

 

 本音は2回目なんだから中学レベルは満点当たり前だからだけど。まぁ、1回目でも高得点はキープしていたし。

 

「後言ったよな?馬鹿じゃ試合に出られねぇんだよ」

「うっ……」

「はぁ……ただお前には最終奥義を使うしかないかもしれないな」

「最終奥義?」

「一夜漬け」

 

 一夜漬けは正直お勧めしない。一夜漬けで知識を詰め込んでも、テスト中に睡魔が襲ってきて寝たらゲームオーバーだから。

 

「…………勉強で?」

「勉強で」

 

 固まる円堂。

 

「まぁ、それは無理だろうけど」

「よし!」

 

 コイツの性格上、一晩もシャーペン持ってノートや教科書に向かうというのはできないだろう。いや、仮にできたとしてもだから、

 

「円堂。今日うちに泊まりに来い」

「へ?」

「一夜漬けは無理だが、寝る寸前まで勉強を叩き込んでやる」

 

 八神にはテスト前日って言う理由で予め断りを入れてある。だから、夜の方は予定が空いている。

 

「ちょ、ちょっと確認してみるわ……」

 

 いそいそと携帯電話を取り出し、電話をかける。

 5分後……

 

「『勉強するためにお泊りなんて、守も成長したね……』って感動していたんだけど……」

 

 お前……どんだけサッカー一筋なの?

 

「俺も手伝おうか?円堂の勉強を見るのは1人じゃ大変だろう」

「悪いな。豪炎寺。でもいいのか?」

「ああ。それに円堂(キャプテン)がいない状態で全国大会を戦い抜くのは不可能だからな」

 

 よし、個人的には雷門とか木野とかも教える組としては欲しいが、さすがに女子にそこまで強要するのは気が引ける。

 

「休憩終わり。後1時間勉強したら各々帰るなりしてよし」

「「「はぁーい」」」

 

 こうして再びオレは教壇に立ち、指揮を取っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「いらっしゃい。2人とも」

 

 一旦解散して泊まりセットを持ってきた2人。まぁ、セットと言っても制服とか着替えとかだが。一応雷門中から家までの地図は渡しておいたからな……豪炎寺に。

 

「十六夜。親御さんは?」

「ん?いねぇよ」

「そう?…………え?大丈夫?」

「なぁに気にすんなって。とりあえずあがれよ」

 

 オレは一軒家に住んでいて、自動的に神様が光熱費や水道代などなどを払い、必要とあらば普段の雑貨とかを買うお金もしっかり払ってくれる。

 この世界には家族はいない。両親は元の世界に居るだろうし他の親族もだ。だからオレはここで1人暮らしをしている。ま、1人暮らしも慣れりゃ楽しいけど。

 

「荷物は……」

「ああ、そこの部屋が客間だ。そこに置いといてくれ。ちなみにトイレは階段横だ」

「分かった」

 

 オレは自分の部屋から勉強道具を持ってきて、

 

「じゃあ、飯作ってるから。カレーでいいよな」

「え?お前作れるの?」

「自炊してるからな。当然」

「俺も手伝おうか?」

「いや、円堂を見る奴が居なくなるから1人で充分だ」

「そうか。すまないな」

 

 誰かのために料理を作る…………か。

 

「久しぶりだな」

 

 そう思いながらオレは包丁を握った。

 

「うめぇええええ!」

「美味しいな」

 

 無事カレーは完成し、2人を呼んで夕食にした。

 

「そりゃどーも。食ったら勉強だからな」

「うへぇ…………そういやさ」

「ん?」

「十六夜は何でサッカー始めたんだ?」

「オレか?」

「何かルーツとかはないのか?」

 

 ルーツ……サッカーのか。

 

「うーん。ありきたりだが、面白そうだったからかな。近くの子供たちが入ってたサッカーのクラブとか団とかで、そっから入団して中学も…………雷門中のサッカー部に入部しようとした感じかな」

 

 あっぶね。危うく高校もサッカー部に入ってたことを言うとこだった。

 

「そういや、サッカー部創設したの俺たちだったな」

「あの時は大変だったなぁ」

 

 入学と同時にサッカー部志望の円堂や木野と知り合って、部室の清掃をしたり、今となってはいい思い出だ。……ただ、まだ何1つ終わってないけどな。

 

「さて、洗い物は円堂が風呂入ってる間にしとくとして、今は勉強だ」

「よし!全国大会出るためだ!死ぬ気でやってやる!」

「その意気だ」

「みんなで優勝するんだ!」

 

 まぁ、もう半分自棄になってそうだが、やる気があるだけマシか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストは1日で終わる。正確に言えば主要5科目しかテストはなく実技系は各授業でやるからだ。で、放課後。各自に聞いてみると赤点はなさそうな感じだった。

 そして今日からテストが返される。

 

「十六夜綾人」

「はい」

 

 受け取ったテストには100という数字が。ま、国語以外なら100は固いな。国語に関しちゃ、100と言い切れる自信はない。

 

「円堂守」

「は、はい!」

 

 ガンっって感じで椅子を後ろの奴の机にぶつけて、カクカクとした動きで受け取りに行く。おいおい、不安だからっていくら何でもその動きは……

 

「よっしゃぁああ!」

 

 うっわ。分かりやす。ここまで分かりやすい奴見たことねぇよ。

 で、休み時間。オレと豪炎寺のところにテストを持ってきた円堂がやって来た。

 

「やったぜ!」

 

 そこには33点と書かれたテスト…………赤点ラインは25だが、平均は50を超えてたはずだ。

 

「平均切ってんじゃねぇか馬鹿!」

「し、しっかり赤点は超えたぞ!」

 

 やっぱ、1週間で詰めるのは無理があったか。

 

「ちなみに十六夜と豪炎寺はどうだったんだよ!」

「「ん」」

 

 そう言われたのでオレたちは各々のテストを取り出して見せる。

 

「ふ、2人とも満点……十六夜が頭いいのは知ってたけど豪炎寺まで……」

 

 別に落ち込むわけでもなくただただ驚いていた。

 

「だが、安心するのはまだ早いぞ。円堂」

「え?」

「まだ5教科のうちの1教科返って来ただけだ。これで残りの4つ赤点は笑えねぇぞ」

 

 ネタでは無い。ガチである。

 

「だだだだ大丈夫だ!俺を信じろ!」

「信じられないから言ってんだよ」

「結果で見せてみろ」

 

 その後、残りの4教科も同じような感じで受け取っていたが……どれも赤点ラインより上でも平均に届かなかったことを記す。



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理事長の祝福……そして悲劇

『炎の風見鶏!』

 

 放課後の練習。風丸と豪炎寺の炎の風見鶏が綺麗にゴールに決まった。 

 

「すげえ!息ピッタリだ!」

「こりゃドラゴントルネードも負けてらんないぜ」

 

 全員無事に補習を回避した。一部怪しいやつはいたが、これで心置きなくサッカーに集中できる。ふぅ。もうまもなく始まるんだな。

 

「どうだ影野!?」

「完璧!」

「お前のおかげだよ。影野!」

 

 影野のアドバイスにより、炎の風見鶏を習得した風丸と豪炎寺。そんな2人に影響され一層練習を張り切るオレたち雷門イレブン。

 そんな中、雷門中のグラウンドの前に車がやって来た。高そうな車だ。すると車から1人のおじさんが出て来る。

 

「なぁ、あのおじさん誰?」

「ああ、雷門の親父でうちの理事長。知らなかった?」

「転校生だし、知らないって」

「豪炎寺は知ってた?」

「知ってるさ」

「おーい土門」

 

 と、目を逸らした土門を置いといて、

 

「なんで理事長が?」

「さあ……」

「分かった!理事長も元イナズマイレブンなんだな!」

「なんでそうなるのよ……父はね、中学サッカー協会の会長。しかもフットボールフロンティア大会実行委員長でもあるのよ」

 

 え?雷門の親父さんってそんな偉い人だったの?マジ?

 とりあえず、そんなお偉い人がきたのでオレたちは整列する。

 

「諸君、全国大会出場おめでとう」

「「「ありがとうございます!」」」

 

 理事長からの労いの言葉に礼を言うサッカー部一同。

 

「監督、夏未()から聞いた時は驚きましたよ。まさか伝説のイナズマイレブンがチームを率いているとは……」

「よして下さい。昔のことですよ」

「いやいや、よく戻って来て下さった。そして!君たちのおかげでフットボールフロンティアは大きな盛り上がりを見せている。全国大会でも熱いゲームを期待しているよ!」

「はい!皆!優勝目指して頑張ろうぜ!」

「「「おおぉーっ!」」」

 

 まぁ、ここまで来たら優勝以外満足する気はねぇな。

 

「おお。頼もしい!」

「理事長も応援して下さい!」

「任せておきたまえ!」

 

 へぇ、この理事長。円堂みたいに熱い人だな。意外だ。雷門お嬢様があんなだから。

 その後、理事長を部室に案内する。聞くところによればこの部室は響木監督の代かららしい。うっわ。40年以上の年期物かよ。よく崩れないなこの部室。

 で、理事長やサッカー部員と共に中に入って、響木監督が部室の物をどけ、壁を見るとあらゆる落書きが出て来た。

 

『俺たちは逃げたんじゃない!』

『必殺技完成』

『強くなりたい』

 

 後は円堂のおじいさんが書いたと思われるものも発見したが相変わらず読めない。

 

「しっかし、気が付かなかったな」

「ずっと使ってたのに……」

「ほんとな……」

「正に影の存在……」

「あはっ!こいつはじいちゃんのだな!」

 

 やっぱ、お前のおじいさんのかよ。

 

「何もかも、あの頃のままさ」

「ここにはイナズマイレブンの全てがあるんですな。選手たちの血と汗と涙を感じます」

 

 すると理事長はボールを手にし、リフティングを始めた。へぇ、これは中々。

 

「中々のもんだろう?こう見えても昔からサッカーが好きでね」 

 

 しかし発言の最後でコントロールをミスって、ボールは円堂の顔面に綺麗に直撃する。 

 

「すまん……」

 

 一瞬で空気がいたたまれない感じになった。

 

「だが、これからサッカー部員が増えて来ることを考えると、ここはもう狭いのではないかね?」

「そう言われれば……」

「確かにここは懐かしい。しかしいつまでも古いものに拘っていても仕方なかろう。新しい部室を用意したいのだが……どうかな?サッカー部復活のお祝いと全国大会出場のご褒美と思ってくれたまえ」

 

 その言葉に特に1年生組は喜ぶ。

 しかし、円堂は少し考えた後、その提案を断った。そして、そのことに驚く面々がいる中、語り始めた。

 

「この部室は試合も出来なかった俺たちのことも。昔のイナズマイレブンのことも。皆知ってる。それにこうして仲間も増えてきた。この部室は雷門イレブンの歴史そのものなんだ。俺たちの大事な仲間なんだよ!」

「部室は仲間……お前らしいな。円堂」

「ああ。円堂の言う通りかもな」

「この部室に全国優勝のトロフィー飾ってやろうぜ!」

「おっ。それ良い考え!」

「キャプテン!分かったでやんす!」

「俺たちもこのままで良いです」

「皆!ありがとう!」

 

 ……やれやれ、少しずつ円堂の影響を受け始めたのかねぇ。オレも大分影響を受けてきた気がするな。

 理事長との話も終え、再び練習の為グラウンドに向かうオレたち雷門イレブン。その途中で校舎の方から生徒たちの声援が送られてくる。

 

『頑張れー!』

『頑張れよー!』

『応援してるからなー!』

 

 少し前とは大違いだな。そういや、いつの間にかグラウンド使えるようになったんだな。ラグビー部はどうしたんだろう?

 

「風丸さーん!」

「宮坂か。久しぶりだな」

 

 そんな中、すれ違ったランニング中の陸上部のうちの1人が風丸に声をかける。そのまま風丸は、円堂に声をかけ陸上部の方へと向かった。

 しばらくして戻ってきた風丸。しかし、何があったかは分からないが1度も炎の風見鶏はこの日、成功することは無かった。うーん。陸上部に戻ってこいとか言われたんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、円堂の話によれば風丸はあの宮坂っていう1年に陸上に戻らないかと聞かれているそう。で、どっちか悩んでいる。

 オレとしては戻ろうが残ろうが最終的に風丸が後悔しなけりゃそれでいいって思ったら、円堂も似たような感じの答えを出して伝えてたそうだ。流石だな。そして、その事は既に1年生を始めとする部員にも言っておいた。

 風丸(当の本人)は昨日よりも炎の風見鶏を精度を上げてきた。どうやら、一旦区切りはついたようだな。が、そんな中で雷門にかかってきた1本の電話。そのためにオレ、円堂、木野、雷門の4人は病院に来ていた。

 

「バトラー!……お父様は?」

 

 息を切らしながらも必死に問いかける雷門。

 

「あれだけの傷を負いながらも、気を失うまでフットボールフロンティアの成功を願っておりました」

 

 ……どうやら、ただ熱い人だけではなさそうだ。ただ、その事実に雷門は涙を溜めながら手をギュッと握る。

 

「何があったんですか?」

「ええ、教えていただいてもよろしいですか?」

「全国大会会場となるフロンティアスタジアムを下見した帰りに、事故に遭われたのです。同乗していた関係者の皆さんも傷を負われましたが、最も重いのが旦那様でして……」

 

 ……怪しいな。雷門に対し、声をかける円堂と木野。対照的にオレは声を掛けることなくただただ、この状況に不信感を抱いていた。

 

「明日の一回戦は俺たちに任せておけ!」

 

 何とか気を持ち直す雷門。オレはあることを聞く。

 

「ねぇ、バトラーさん。この事故()()()()()()()()()

「と、おっしゃいますと?」

「下見した大会関係者。明日から始まる全国大会。全員が少なからず負った傷。……出来すぎじゃねぇのか?」

「俺も同意見だ」

 

 そう言って入って来たのは。

 

「刑事さん!?」

「理事長が事故だと聞いてな。気になって来てみたんだ。十六夜(コイツ)と意見は同じ。だが、今のヤツに手が出せるわけがない」

 

 なるほどな。

 

「…………円堂。お前は練習に戻れ。明日から全国大会だ」

「お前は」

「ちょっと気になることがある。なぁに、心配すんな。ヤバいことには首を突っ込むつもりはねぇよ」

 

 ほんと、こういうとこだけ精神的に発達しちまってるのか、はたまた純粋に知りたいただのガキに戻ったのか。それはともかくこの事故の裏に潜むのが誰なのか。どうにも気になるな。



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VS戦国伊賀島 ~全国大会開幕!~

最近、アレスルートやオーガもやりたいなと思い始めた。
まぁ、需要があるかわかりませんのでアンケートを取ります。やるとしたらFF編の後でオーガは番外編、アレスルートは別の小説になるでしょうね。アンケート機能を使ってやってほしい意見が総計300超えたらそれぞれやります。
またアンケートは義務ではありません。任意です。興味ない方はスルーで大丈夫です。
というかアレスルートの場合、派遣先はあそこで確定として、ちょっとFF編の展開を変えた設定だったとしても十六夜の異名が『ペンギン遣い』しか思い浮かばない……どうしよう。でも活躍度合いから付いてない方が不自然な気がするし……マジでどうしようか。


 あれから翌日。今日はフットボールフロンティア全国大会の開会式だ。

 

『全国中学サッカーファンの皆様!遂にこの日を迎えました!今ここ、激闘の殿堂フットボールフロンティアスタジアムはかつてない激闘の予感に、早くも興奮の渦と化しています!』

 

 遂にはじまるのか……。 

 

『フットボールフロンティア開幕!』

 

 空には花火が打ち上げられたり、飛行船が取んだりで会場は大盛況だ。

 実況しているのはプロの解説者で角間さん。確か、将棋部の角間の親父さんじゃなかったか?

 

『各地域より激戦を勝ち抜いてきた強豪チームが今日より日本一をかけてさらなる激闘に臨みます!1番強いチームはどのイレブンなのか!?今から紹介しましょう!』

 

 入場が始まったかぁ。 

 

『近畿ブロック代表、戦国伊賀島中学!』

 

 オレたちは放送で聞いている。

 

「とうとう来たぞ!今日まで色んなことがあったけど、ここまで来たら!思いっきり暴れてやろうぜ!」

「「「おう!」」」

 

 円堂が士気を上げていく。

 

「壁山!トイレは大丈夫か!?」

「さっき行って来たッス!」

 

 ここでもそれかい!

 

「皆頑張ってね!理事長さんの為にも!」

 

 2列に整列して、いつでも入場できるようにする。先頭は円堂と何故かオレ。いや、本当に何で?オレ、こういうの後ろからのんびり行きたい人なのだが。

 

『続いて関東ブロック代表、雷門中学校!』

「さぁお前たち、行ってこい!」

 

 先導の人について行く。

 

『雷門中学校は地区予選大会においてあの帝国学園を下した恐るべきチーム!伝説のイナズマイレブン再びと注目が集まっております!』

 

 というかイナズマイレブンのことって皆知ってるものなの?

 すると、後ろから鬼道たち帝国が。

 

『更に!昨年度優勝校の帝国学園が特別出場枠にて参戦!関東ブロックの地区予選決勝において雷門中と激闘を繰り広げながらも惜敗した超名門中学!特別枠にて王者復活を狙います!』

 

 隣に並んでる帝国に対し、円堂は声を掛ける。

 

「足の怪我はもういいのか?」

「人のことより自分のことの心配をしろ」

「全くだ」

「全国は地区予選とは違うぞ」

「だから燃えるんだろ?」

「全部倒せば日本一。分かりやすいしな」

「俺たちに勝っておいてここで無様に負けるなよ」

「おう。帝国こそ負けんなよ」

 

 と、後は他のチームの紹介を聞きながら待っている。

 

『そして残る1校!推薦招待校として世宇子中学校の参戦が承認されております!』

 

 誰も知らない中学。入場を全選手が注目してると、

 

「あれ?」

 

 看板を持った先導の女の子だけで、後ろには誰もいない。

 

『えー、世宇子中学は調整中につき本日開会式には欠場とのことです』

 

 うわぁ、あの子かわいそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 組み合わせの結果、開会式の翌日……つまり今日、オレたち雷門と戦国伊賀島中学の試合が決まった。

 

「戦国伊賀島中のサッカー部監督の伊賀仙一校長は本物の忍者の末裔と言われており、秘伝の忍術を使って選手を鍛え上げているそうです」

 

 音無からの情報に唖然とするオレたち。

 

「忍者?」 

「忍術って言われてもなぁ……」

「一体どんなサッカーをするんスかね」

 

 もうやめて。忍者がサッカーするとか、ツッコミだけで疲れてしまいそう。

 

「いいさ!どんなチームだって、サッカーをすることには変わりない!俺たちは今まで通り真正面から全力でぶつかっていこう!炎の風見鶏。チャンスがあればバッチリ決めていけよ!」

 

 すると、木野が控室に入ってくる。

 

「皆、練習時間よ」 

 

 そして、そのタイミングで木野のケータイが鳴る。

 

「夏未さんからのメールだわ。『雷門イレブンの皆へ。大事な全国大会の最初の試合なのにマネージャーの役目を果たせなくてごめんなさい。でも私は勝利を信じてます。必ず勝ちなさい。これは理事長の言葉と思ってもらって構いません』だそうよ」

「応援しているのか、命令しているのか分からないでヤンスねぇ」

「ま、いかにも雷門夏未って感じじゃない?」

 

 さて、やりますか。気合は入ったし。

 

「よーし!絶対に勝つぞー!」

「「「おぉー!」」」

「あ、トイレ行ってくるわ」

 

 ズコッ

 

「このタイミングで言うことかよ十六夜~」

「わりぃわりぃ。じゃ、グラウンドでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイブ一回。で、何か分かったんですか?鬼瓦刑事」

「ああ」

 

 オレはトイレ……ではなく会場の観客席の一角で鬼瓦刑事と会っている。

 

「影山が釈放されていた」

「……ほぅ。これまたどうして」

「証拠不十分だそうだ」

「なるほど……」

 

 こりゃあ厄介だな。この前の事故は仕組まれている。犯人が1人浮上したか……ただ。

 

「誰か協力者がいる……のかな」

「分からない……クソッ!理事長の面会が可能になり次第、詳細を聞いてみる」

「分かりました」

「俺は雷門イレブンを応援してる。頑張れよ」

「はい!」

 

 さて、練習に戻るか。ということで、スタジアムに行くと。

 

「誰だ!」

「お前に名乗る名はない」

 

 いや、オレが居ない間に何やってんのアンタら。で、名乗る名がないそうなので、名無し君と呼ばせてもらうが、名無し君は豪炎寺にボールをパスして、

 

「豪炎寺修也。俺と勝負しろ」

「なに?」

「噂は聞いてるぞ。天才ストライカーなんだってな」

 

 ダメだ。まるで、状況が飲み込めねぇ。

 

「何があったんだ?」

「豪炎寺にパスを出したところをコイツがカットしたんだ」

 

 うん、やっぱ分かんねぇわ。

 

「お前は?」

「俺は戦国伊賀島中の霧隠才次」

「って、思いっきり名乗ってるッス」

「全くだ。最初から言えよ名無し君」

 

 もう面倒なのでこいつのあだ名は名無し君だ。てか、こいつ今日の対戦相手じゃん。

 

「俺も足には自信がある。どっちが上か決めとこうじゃないか。ここからフィールドをドリブルして速さを競う。簡単だろう?」

 

 あ、コイツ人の事情を考えないタイプの人間だ。

 

「断る。迷惑だ」

 

 ボールを投げ返す豪炎寺。だろうな。

 

「なっ!?逃げるのか!?腰抜けめ!」

「腰抜けだと!?」 

「お前には言ってない」

 

 だろうな、円堂。お前には言ってないと思う。

 

「仲間を馬鹿にされて黙ってられるか!その勝負、俺が受ける!」

「待て円堂。そんな茶番にお前が付き合う必要ねぇだろ」

「そうだ、円堂。お前が付き合う必要はない」

 

 風丸が続いて答える。全く、面倒だから名無し君には早いとこお帰り願い──

 

「この中で一番足が速いのは俺だ。だから、その勝負。俺が受けよう」

 

 ──たいんですが、何でキミ。勝負受けちゃったの?

 

「誰だ?お前は?」

「お前に名乗る名は無い」

 

 お前もかい。というか観客見てるぞ。こんなところにいていいのか名無し君。

 で、いろいろあってコーンを置きそこまでドリブルで行ってコーンを回って帰って来るまでの速さを競うことに。

 音無のホイッスルで始めて、スタートダッシュはほぼ互角。

 と、ここでオレは何か視線を感じる。いや、八神の場所は把握したが全く別のところ……そう、電光掲示板の上から視線を感じる。いや、あり得ないと思うんだけど、振り返って見ると、

 

「…………」

「「…………」」

 

 目が合った。電光掲示板の上に立ってる2人の人影と目が合った。

 …………えーっと。どうしよ。コレ。

 そう思ってると2人が跳んでこちらの勝負を中断させる。そのまま謝罪の言葉を残すと、どこかへ消えた。

 …………こいつら住んでる世界間違ってね?え?コイツらと試合(サッカー)するの?



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VS戦国伊賀島 ~忍術サッカーって意味不明だよね~

 今回のポジションも4ー4ー2で、宍戸、影野、目金がベンチといつも通りな感じだ。まぁ、相手がどんなプレーをするか分からない以上そう特殊なポジショニングをする必要がない。

 

 ピー

 

 雷門ボールで試合開始。ボールは染岡に渡り、半田へパス!と言ったところで例の名無し君がパスカットをした。

 

「風丸!」

「ああ!」

 

 風丸がプレッシャーをかけに行くと、

 

「残像!」

 

 うっそぉ!?本当に忍術使ってやがる!?片方消えたんだけど!?

 

「見たか!これこそまさに伊賀島流忍法、残像の術!」

 

 そしてそのままシュートが飛んできた。

 

「ナイスパス」

 

 それを簡単にトラップの要領で受け止める。

 

「ふっ。まだまだ序の口だぜ」

「知らねぇよ。半田!」

 

 半田にパスを回し、半田と豪炎寺は上がっていく。

 

「伊賀島流蹴球戦術、鶴翼の陣」

 

 な、なんて言った?と思ってると戦国伊賀島の8人の選手が4人ずつに分かれ真ん中に向かって1列に並び、中央へしかドリブルの行き場をなくす。そして、

 

『伊賀島流忍法、四股踏み!』

 

 中央で待ち構えていた男2人が四股を踏んで、その風圧で豪炎寺と半田を吹き飛ばした。ておい、それのどこが忍法だ!どう考えても相撲だろうが!サッカーも忍者も関係ねぇじゃん!

 そして、弾かれたボールをTHE・忍って感じのキーパーが軽々とキャッチ。おいこら待て!お前ら生きてる時代間違えてるだろ!…………あれ?何だこの既視感(デジャヴ)。どこかで同じようなことを突っ込んだ気がする。

 

「ほっほっほっ。これが伊賀島流忍法によるサッカーじゃ」

「意味わかんねぇよ!」

 

 特に四股踏みって忍者がやることじゃねぇだろ!

 戦国伊賀島の忍者サッカー?っていう意味不明なプレーにペースを狂わされるオレたち。だが、そんな中でもボールを奪い、前線へとつなげる。

 

「染岡!」

「おう!行くぞ豪炎寺!」

「ああ!」

『ドラゴントルネード!』

 

 ドラゴントルネードを打つ……が。

 

「伊賀島流忍法、つむじの術!」

 

 おい待て。どうやってその竜巻出した。自然に出したのか?遂に何もしなくてもそれぐらいの竜巻、普通に出せるようになっちまったのか?

 その竜巻に入った瞬間、ボールの威力は完全に殺され、上空へ投げ出された。で、それを相手キーパーがキャッチ。そのままMFにボールを送り、

 

「伊賀島流忍法、分身フェイント!」

 

 何か3人に増えたんですけど!?分身とかありかよ!…………ん?

 

「オレも分身の術とか言ったら分身できるかな?」

 

 いや、やめよう。そんな下らないこと考えるのは後にしよう。ていうか、残像っていう技をほぼ全員が使えるか知らんがそれにより翻弄されている……クソ。あの技の弱点はなんだ?

 

「鍛えぬかれし強者の必殺技。破れるものなら破ってみい」

 

 何か監督が言ってんな。上等だ。破ってやるよ。

 

「伊賀島流忍法、分身フェイント!」

 

 再び3人に増える相手選手。だがな、

 

「ボールが増えてなきゃ、関係ねぇんだよ!」

「何だと!?」

 

 空中でキープしていた相手のボールを奪い、

 

「壁山!上がれ!」

「はいッス!」

 

 ボールを少林に預けて壁山をあがらせる。

 

『おっと!ディフェンスラインから壁山が上がってきた!これはイナズマ落としか!』

「伊賀島流忍法、くもの糸!」

 

 すると、ディフェンスに行った奴の手から中心にくもの糸がのび、一瞬でくもの巣を形成し、壁山の足を止めさせた。

 いやどう考えてもおかしいだろ!くもの糸で人の足をあげなくすることができるのか!?というかそもそもそのくもの糸どっから出した!忍術か!全て忍術で纏めるつもりか!

 

「クソッ!押しているのに噛み合わない」

「ああ、相手が厄介な技を使いまくるせいで攻めきれてない」

 

 だが、くもの糸の弱点は分かった。攻略法は2つあるな。

 

「伊賀島流忍法、残像!」

 

 片方は偽物、片方は本物。いや、残像という意味から、

 

「こっちが本物!」

「なっ!」

 

 よし。残像にはある程度対応できるな。

 

「こっちだ!」

「ああ、行け!風丸!」

 

 風丸にボールを渡し、風丸はドリブルで目の前にいたディフェンスを突破した……かのように思われた。

 

「伊賀島流忍法、影縫いの術!」

 

 しかし、突破したディフェンダーの影が伸びて、風丸の影を引っ張った?何か転倒したんだが……え?影操っちゃうの?というか、何が起きたのかさっぱりわかんないんだけど?え、どういう原理?

 すると、ボールはそのディフェンダーから背が小さいやつに渡り、そこから名無し君へ。

 

「伊賀島流忍法、つちだるま!」

 

 名無し君のシュートは地面を転がりながら土を纏っていき、どんどん大きな雪だるまならぬつちだるまとなる。くっ。なるほど。あのままデカくした状態でキーパーを弾き飛ばそうと……

 

「ん!」

 

 何か指で切ったかと思うとつちだるまは一瞬にして崩壊し、中のボールが現れた。いや、あのままでよかったじゃん!あのまま突き進んだほうが絶対良かったよ!ってしまった!あのデカいままで来ると思ってたせいで蹴りが間に合わねぇしズレた!

 

「円堂!」

「ああ!熱血パンチ!」

 

 しかし、熱血パンチを正面から弾いてゴールに入ってしまった。

 

『ゴール!先取点は戦国伊賀島だぁ!』

「大丈夫か円堂!」

 

 今何となくだが普段と違って嫌な倒れ方をした気がする。

 

「あ、ああ。すまない。先取点取られた……」

「いや、オレも威力を削げなくてすまない」

「くっ……!」

 

 円堂の右手を掴んで起き上がらせようとすると、顔をしかめる。

 

「……っ!お前!」

 

 雷門ボールで試合再開。が、敵ディフェンスを突破することができず、向こうの忍術に翻弄されてしまい。

 

「分身シュート!」

 

 相手のシュート。3人に分身したかと思うと、その3人で同時に蹴りこむ。くっ、分身フェイントに続いてこっちも分身かよ!分身ディフェンスとか分身キーパーもあるんじゃねぇよな!?

 

「くっ……!」

 

 キャッチで受け止めるも、その威力かはたまた痛みのせいか。思わず膝をついてしまう。

 

 ピー

 

 ここで前半終了。

 一旦各々のベンチに戻る。

 

「思った以上に厄介な相手だな」

「あぁ、何をしてくるか予測がつかない」

 

 ほんと、忍術どれだけあるんだよ。

 

「流石に全国大会の相手は一筋縄じゃいかないってことかな」

「嫌!絶対に突破口はあるはずだ!一筋縄でダメなら二筋縄!二筋縄でダメなら三筋縄だ!」

 

 そこ新しい言葉を作るんじゃない。

 まぁ、突破口があるのは事実だな。少なくともある程度付け入る隙はある。おそらく、カギは風丸。アイツのスピードだな。

 

「はい。しっかり水分補給してね」

「ありがと……くっ」

 

 顔をしかめる円堂。

 

「おい、円堂。グローブを外せ」

「いや、外す意味が」

「手を見せろって言ってんだよ」

 

 無理やり右手のグローブを外す。すると完全にはれ上がっていた。打撲か打ち身かそんな感じがするが相当痛そうだ。いや、ドリンクを持っただけでかなり辛そうだし、痛みは相当なものだろ。

 

「こんな状態で」

「心配すんなって。左手だけでもゴールを守ってみせるさ」

「交代しろ。円堂」

「何言ってんだよ十六夜!俺は戦えるぞ!」

「アホか。全国大会はこの試合だけじゃねぇんだ。後半、左手だけで止めて左手も負傷したらどうする?もし、勝てても次の試合以降に怪我が長引いたらどうする?大会のレベルは高い。おそらく、地区なんかよりずっとな」

「くっ…………でも!」

「怪我を甘く見るんじゃねぇ。無理をして怪我を長引かせた奴を何人も知ってる」

 

 元の世界で戦った相手にもいたし、チームメイトでもな。

 

「まぁ、いい。オレにはそんな最終決定権はねぇ。お前の怪我の具合も正確には分からねぇ。お前がキーパーとして続けたいなら好きにしろ。……ただ、その最終決定権を持つのは響木監督だからな」

「…………」

「はぁ、わりぃ。木野か音無、円堂の手の応急処置を」

「は、はい」

 

 木野が円堂の手の処置を進めていく。

 

「なぁ……円堂。最後に1つ言っておくと時には無理も大事だ。時にはな。ただ、今がその時かちょっと考えてみろ」

 

 コイツは見えてねぇ。そんだけだ。そう思いながら腰掛けて、水分を補給するのだった。



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VS戦国伊賀島 ~キーパーの使命~

 まもなく後半戦開始。風丸がフィールド中央にボールを置く。

 

『さぁ、まもなく後半戦開始ですが、なんと雷門中!前半と大きくポジションを入れ替えてきた』

 

 あの後、円堂に言われたこと。それは、

 

『円堂がフォワードに!代わりに十六夜がキーパーのポジションに立った!』

 

 『俺の代わりにゴールを頼んだぞ』……たく。

 この雷門というチームにサブのゴールキーパーはいない。それも相まってかうちのチームのほとんどのメンバーの中で『円堂=キーパー』という絶対的な等式が成り立ってしまっている。だが、それは時には崩さなければならない。アイツ自身も自分でそう思っていたと思うのだが、別にアイツはサッカーをやる上でキーパーになってるんだ。前提にはサッカーをやりたい。おじいさんが元キーパーだが知らんが結局、アイツの根底にはサッカーをやりたいという思いがある筈だ。

 だからオレはそこを突く。アイツはキーパー以外に価値がないなんて思ったことは一度もない。キーパー以外でも充分活躍できる存在だし、キーパーでないからといってこっちの士気が下がるわけでもない。だからアイツに言った。『なら点を取って来い』ってな。

 

「皆!まずは1点取っていくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 フォーメーションは3ー4ー3。円堂、豪炎寺、染岡の3トップ。まぁ、アイツをフォワードにした理由は監督にも話したが、アイツは強力なシュート技を豪炎寺と連携で撃てる。なら、点を取りに行くにはコイツを上げる方がいい。そんだけだ。

 

 ピ──!

 

 ちなみにキーパー経験だが元の世界の練習のお遊びでしかやったことがない!

 戦国伊賀島のキックオフで後半戦開始。速攻で攻めてくるが、

 

「分身シュート」

 

 へぇ。でも、手を使っていいんだろ。

 

「はぁあああああ!」

 

 いってぇな、畜生。生憎とこっちはキーパー技的なのねぇんだよ。

 

『後半開始早々のシュート!これをキーパー十六夜完全に止めて見せたぞ!』

「悪いな戦国伊賀島。正ゴールキーパー(キャプテン)にゴールを託されたんだ」

 

 ボールを前線へと蹴り飛ばす。

 

「……ゴールを割らせるつもりはねぇぞ」

 

 相手が必殺技で来ようが忍術で来ようが関係ねぇ。ゴールに決めさせなければいい。そうすりゃアイツらが点を取ってくれる。必ずな。

 

「いいや、決めさせてもらう!」

 

 ドリブルしていた円堂からボールを奪い、攻め上がってくる名無し君。そして、普通のシュート。

 

「お前だけじゃないさ十六夜!」

 

 それをオレに到達する前に止める奴が。

 

「風丸!」

「俺も負けたくない!ゴールは俺が居る限り取らせないぞ!」

 

 見るとディフェンス陣の士気も上がってる。やれやれ、どんだけ円堂の存在はデカいのやら。ま、今更だけど。

 

「ほっほっほっ。中々やるのう」

 

 再びボールは戦国伊賀島へ。相手監督が何か呟くと同時に、

 

「伊賀島流蹴球戦術、円月の陣!」

 

 1人の選手の背後に、他の選手がまるでV字のように並び、砂塵を巻きあげながら雷門ゴールに向かって突進してくる。あまりの強さにディフェンスに行った奴らは悉く吹き飛ばされて行く。あれも必殺技なのか?でも要は陣形組んで走ってるだけだろ?あれ?じゃあ、少なくとも忍術ではないな。

 そして、ゴール前に、オレ、壁山、風丸の3人が残ったところで名無し君が砂塵の中、ボールを持って出てきた。

 

「うぉぉおおおお!」

 

 風丸が突撃していくが、

 

「そいつは残像だ!」

「その通り!」

「しまった!壁山止めろ!」

「えぇぇっ!お、俺だけ!?」

「もらった!」

 

 オレはシュートの軌道を読み、そこへ飛び込もうとする……が、

 

「絶対に通さないッス!うおおおおおおお!」

 

 オレと壁山の間に壁が現れた。もう一度言おう。壁が現れた。…………え?壁ができちゃったよ。これ、もしかしてオレいらなくね?というかどうやって壁出した!?

 

『防いだ!まるでそそりたつ壁のようなディフェンスだ!』

「いやまるでじゃないから!」

 

 と、実況にツッコミを入れた次の瞬間!壁は跡形もなく消えていた……え?どこに消えた?

 

「うぉぉおお!やったッス!」

「凄いぞ壁山!」

 

 前線から声を掛ける円堂。

 

「くっそぉ。まだだ!俺の力を見せてやる!」

 

『まだボールは生きていた!もう一度霧隠だ!』

 

「喰らえ!つちだるま!」

 

 そして名無し君のシュートが飛来する。クソ、キーパー技なんてねぇぞ!オレが出来んのはペンギンを呼ぶことだけだ!

 

「うぉぉおおおお!」

 

 風丸がシュートを止めようとコース上に立つが、

 

「しまった!」

 

 止めることに失敗する。えぇい!こうなりゃ、オレができることをするだけだ!

 

 ピー!

 

「ペラー!」

『オーケー』

 

 ペラーがオレの頭の上に乗り、ほら貝で何匹ものペンギンを出す。そんな中、オレはシュートに向かって右の拳を突き出し、

 

「行けぇ!」

 

 呼び出されたペンギンたちがオレの突き出した拳を踏み台にしてシュートに向かって飛び続ける。それは、オレを銃にペンギンを弾丸としたガトリング銃のように。

 

「何だと!?」

「ナイスセーブ!十六夜!」

「おう!」

「ふっふっふっ。名付けてガトリングペンギン!」

 

 何か目金が喋ってたが、跳ね返したボールが敵に渡る。

 

「いや、まだだ!分身シュート!」

「もう一回!ロケットペンギン!」

「僕の名付けたのと違う!?」

 

 いや、だってね。杉森のロケットこぶしをヒントに作ったんだからロケットペンギンでしょ。正確にはロケットペンギンズだけれども言いにくいしさ。

 

「風丸!」

 

 弾いたボールを敵が確保する前に風丸が持つ。そしてスピードを上げてドリブルして行く。

 

「はぁ!伊賀島流忍法、くもの糸!」

「そんなものに捕まって溜まるか!」

「何だと!?」

 

 くもの糸を振り切る風丸。あの技の対処法は、くもの糸が来るよりも速くドリブルするか空を飛ぶかのどっちか。どうやら、気付いていたみたいだな。

 

「行くぞ!豪炎寺!」

「おう!」

『炎の風見鶏!』

 

 豪炎寺と風丸のシュートは、キーパーが技を出すまもなくゴールに突き刺さった。

 

『ゴール!豪炎寺と風丸の放つ必殺シュートが炸裂!雷門中同点だぁ!』

「ナイスシュート!風丸!豪炎寺!」

 

 ハイタッチをする2人に声をかける円堂。

 そして、戦国伊賀島ボールで試合再開。もうすぐ試合が終わる。このまま延長戦か?

 

「まだだ!円月の陣!」

 

 最初から飛ばしてくる戦国伊賀島。

 

「壁山はゴール前を固めろ!土門、栗松は当たらずに待機!風丸はボールを保持した選手が出て来たタイミングで当たっていけ!」

「「「了解!」」」

 

 この陣形のままゴールに突き進むことはないはずだ。だからどこかのタイミングで誰かは出てくる。そこはスピードナンバーワンの風丸が取りに行く。最悪、このまま突撃しても壁山が壁を出して止めれば問題なし。

 

「今だ!」

「おう!」

 

 名無し君がペナルティーエリアに入る寸前で飛び出してきた。そこを風丸が当たってボールを確保する。空中では奴らも残像は満足に使えない!使えたとしてもバレバレなはずだ!

 

「このままじゃ終わらせない!」

「ああ、勝負だ!」

 

 風丸と名無し君の一騎打ち。

 

「お前の速さじゃ俺を振り切れない!」

「足が速いだけじゃダメなんだよ!サッカーは!」

「何ぃ!?」

 

 気付けば相手陣地の奥深くまで2人は進んでいた。そして風丸が止まったかと思うと、名無し君の上からボールを通して、

 

「円堂!豪炎寺!」

「行くぞ!」

「おう!」

『イナズマ1号!』

 

 円堂と豪炎寺によるシュートは、ゴールに突き刺さった。

 

 ピーピ──!

 

『試合終了!雷門中1回戦突破だぁ!』

 

 最終スコア2対1。よっしゃ!1回戦突破!

 その後、風丸はサッカーを続けることに。陸上部の後輩君も風丸のプレーに感動したそうだ。よかったよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

「1回戦。突破おめでとう」

「ありがとな。八神」

「まさか、お前がキーパーやるとは想像もしてなかった」

 

 オレも想像もしてなかった。しかも、円堂が今日の試合で『当分は十六夜をサブキーパーにしょう!』とか言い出す始末。しかも、それに監督までもが同意した。おい。オレの本職はディフェンダーだ。というか、もうキーパーやるつもりはねぇよ。

 

「あの技。お前に言ってた技の片方じゃないのか?」

 

 そう。皇帝ペンギンOのシュート技もだが、八神にはブロック技の案も出されていた。まぁ、それが気づけばキーパー技に変わっていたりするが。

 

「まぁ、頑張って発展させてくさ」

「そうか。ところで、テストの結果は?」

「ん?ああ、全教科満点」

「…………お前。常識ない癖に賢いんだな」

「アンタに常識ないって言われたくねぇ!」

 

 ひでぇ言われようだ。

 

「そういう八神は?」

「私か?私もかなり出来るぞ」

「え?馬鹿なのに?」

「誰が馬鹿だ!」

 

 そのままシュートはオレごとゴールに刺さった。え?ゴール前で話していたか?センターサークルでですが何か?もしかしなくても、これのせいじゃね?オレがキーパー出来たのって。

 

「と、というか。何で平然とオレごとゴールにぶち込めるんだ?」

「もっと手加減して欲しかったか?」

 

 ちげぇよ。それ以前の問題だよ。

 

「まぁいい。今日は軽めにやるぞ」

「おぉー」




オリジナル技

ロケットペンギン
キーパー、パンチング技
主人公がやれることをやった結果誕生した技。
ロケットこぶしを参考にしている。


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帝国の敗北、そして問題発生

オーガをやることが決定しました。それに関して、活動報告に質問を設けましたので是非見て答えてください。
ところで、昨日何かあったのだろうか?PVとお気に入り数が一気に増えてるのだが……まぁ、いっか。


 あの後、円堂は病院で見てもらったとこ2、3日すれば動かせるようになるほどの軽い怪我だった。また、雷門のところに話にいったそうだが木野曰く、何だかんだで2人は仲がいいらしい。

 で、今日は帝国の1回戦。相手は開会式欠席の世宇子中学ってとこ。オレたちはイナビカリ修練場にて特訓をしていた。ここは、最近そこまで命の危険を感じなくなりました。

 すると、息を切らした音無が入って来た。

 

「て、帝国学園が…………!」

「初戦突破か!」

 

 円堂は喜んで近くにいた豪炎寺とハイタッチする。

 

「10-0で……」

「結構な点差だなぁ!」

「世宇子中に完敗しました……」

「「「えぇ……?」」」

 

 驚愕するオレたち。

 

「……嘘だろ?音無」

「ガセじゃねぇのか!?あの帝国が初戦で負けるわけがねぇだろ!」

「それも10-0って、帝国が1点も取れないなんてあり得ないッスよ……」

「完敗じゃねぇか……何があったんだ?」

「見たこともないような技が次々決まって、帝国が手も足も出なかったそうです……」

「あの帝国が……」

 

 おいおい。だが、世宇子中とは当たるとして決勝戦。これは運がいいと言うべきか悪いと言うべきか……どちらにせよ。ギリギリで勝てたチームを大差で下している。これはヤバい。

 

「アイツらは強いんだ!戦った俺たちにはそれが良く分かってる!それに鬼道がいるんだぞ!」

「お兄ちゃん……試合には出なかったんです」

「「「え?」」」

「……相手の世宇子中はノーマークの学校だったから、大事を取って控えに回っていたんです。そしたら相手が圧倒的で……!お兄ちゃんが出ようとした時には……もう」

「そんなことぜってぇあり得ねえ!」

「キャプテン。落ち着いて欲しいッス」

「落ち着いていられるか!鬼道が完敗なんてあり得ねぇ!」

 

 円堂はそう言って、イナビカリ修練場から飛び出していく。

 

「円堂!」

「キャプテン!」

 

 アイツはおそらく帝国学園に向かっただろう。それはなんでもいい。1つ凄い疑問がある。

 

「音無。さっき、鬼道が出ようとした時にはって言ってたよな?」

「は、はい」

「それって、試合はタイムアップで終わったんじゃなくて、帝国の続行不可能、もしくは棄権で終わったってことだよな?」

「その通りです……帝国の続行不可能だったんです」

「それがどうしたんだよ十六夜」

「気付かねぇのか?世宇子は一試合丸々使ってあの点差じゃねぇ。分かりやすく言うなら、最初のうちと帝国の練習試合だった時くらいの……いや、下手したらそれ以上のレベルの差があるんだよ。世宇子と帝国には」

「それって……」

「ああ。どうやら、世宇子はやべぇかもな……」

 

 決勝に行かない限り関係ないが、決勝まで勝ち進めば絶対、世宇子中学と当たる。そんな予感しかしねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆!次の相手は千羽山中だ!」

「千羽山中は山々に囲まれ、大自然に鍛えられた選手たちがいます」

「きっと、自然に恵まれた環境なんスね」

「皆のんびりしてそ~」

 

 そうか?オレにはどうしても野生中みたいなのがイメージされるんだが。

 

「彼らは無限の壁と呼ばれる鉄壁のディフェンスを誇っています。未だかつて得点を許していません」

「全国大会まで!?」

「ええ。1点足りとも」

 

 うーん。何かここまで無失点って御影専農の時も聞いたなぁ。ま、全国大会だとレベルは違うけど。

 

「シュート力には難点もありますが、この鉄壁のディフェンスでここまで勝ち上がってきたんです」

「分かった!その無限の壁とかいう鉄壁のディフェンスを破れば良いんだな!」

「円堂。それを破れてないから鉄壁って言われてるんだぞ」

 

 あまりの発言に皆苦笑する。でも、無限の壁か……何か壁が次々と押し寄せてくるイメージがあるんだが?

 

「でも鉄壁って鉄の壁だろ?」

「まあ、意味ではそうだな」

「だったら!こっちはダイヤモンドの攻めをすれば良いんだよ!」

「「「はぁ?」」」

 

 意味不明だ馬鹿。

 

「鉄壁のディフェンスが崩れるまで攻める!それがダイヤモンドの攻めだ!」

 

 と、こんな感じで今日も特訓が始まりました。

 で、今日の練習中。何か少林がヘディングシュートで技を作ってたので、

 

「クンフーヘッド!」

 

 と、目金が名付けた。

 

「お前、名前付けるの早いな」

「ええ。どこかの誰かさんの時のように無視されないように」

 

 さぁ?一体誰なんだろう。

 

「特訓したかいがありました」

「特訓?」

「日々ゲームをし、漫画を読み、アニメを見て経験に経験を積み重ね、必殺技の名前を研究し続けているのです!」

「サッカーやれよ」

 

 と、目金の馬鹿な話を聞いてた時、問題は発生した。

 

「宍戸!パスだ!」

「はい!」

 

 宍戸が風丸にパスを出したが、上手く通らずに風丸の真後ろに行ってしまう。

 

「あれ?」

「おいおい……しっかりしろよな」

「すみません。いつもみたいにやったつもりだったんですが……」

 

 他にも、

 

「壁山~ヘディング!」

 

 で、顔面にボールが当たったり、

 

「栗松!」

 

 土門が栗松にパスを出すも、えげつないスピードでシュートと見間違うほどだったり、そして極め付けは、

 

『ドラゴントルネード』

 

 この技が豪炎寺が蹴った瞬間にドラゴンが消え、ただのシュートに変わってしまった。

 そして、それは何度やってもただの弱いシュートと変わらなくなってしまう。

 

「何よ。皆たるんでるわね」

「いや、多分それは違う。おそらく、イナビカリ修練場のせいだ」

「…………どういうこと?というか何で貴方は練習してないのよ」

「休憩ですお嬢様。で、それはいいとして、簡単に言えばイナビカリ修練場のおかげで、オレたちは短期間で個人の技術や身体能力は格段に上がった。それは間違いない。そうだな?」

「はい。データを見る限り間違いないです」

「だが、オレたちはお互いにどのレベルまで成長しているのか感覚でとらえられてない」

「そういうことだ」

「だったら私たちは何をすれば」

「何もしなくていい。お前たちは普段通りやってくれ。十六夜もここで下手なことをすれば今より状況が悪くなるかもしれん。アイツらには伝えず普段通りで」

「了解です」

 

 ただ、おそらく1番連携が取れないのは皆からオレに対してだろうな。オレはイナビカリ修練場だけでなく、八神との練習のおかげで今までにないくらい急成長を遂げている気がする。やべぇな。連携が取れないと次の試合は勝てない。ただ、オレに何もするなって、響木監督には秘策があるのか?



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VS千羽山 ~豪炎寺と鬼道~

アレスルートで思い出したのですが、このルートは八神と十六夜は同い年ですがアレスルートだと十六夜が先輩で八神が後輩になるんですよ。年齢的に。後輩となった八神ですか……


「理事長も影山は危険だと思ってるんだな」

「えぇ」

「とにかく何があるかは分からない。気を付けてかかろう」

 

 雷門から手紙を見せてもらった響木監督とついでにオレ。

 なるほど、イナズマイレブンのあの電話も御影専農を裏から操っていたのも影山か。だが、凄い単純な疑問が残る。あの影山はそこまで歳を取っていない。40年前ならせいぜいオレらと同じくらいの言わばガキ。そんなガキがあのバス事故を計画、手配、実行を全てできるのか?

 

「円堂君たちには」

「いや、アイツらには言う必要ない。それに」

「円堂は気付いている。馬鹿なように見えて、フットボールフロンティアの素晴らしさも潜む危険も」

「そう言うこった」

 

 うーん。オレとしちゃ影山単独犯説は薄く、影山の裏に誰か居る、もしくは協力者がいるの2択な気がする。それに鬼瓦刑事が教えてくれたが『プロジェクトZ』って、一体何なんだ?

 そう思ってると音無が校門から出ていくのが見えた。

 うーん。無言で出ていったんだが……気になるな。

 

「って、お前もか」

「行くぞ。十六夜」

 

 そしたら隣に豪炎寺がいた。え?なんでボール持って来てんの?ま、何でもいっか。

 で、追っていくと、音無は鬼道と会ってそのまま河川敷の方に移動した。

 

「聞いたよ。世宇子中戦のこと。…………残念だったね」

「残念?残念なんてもんじゃない。俺の目の前で仲間があんなことに……!こんなに悔しいことがあるか……!俺は…………!俺は!」

 

 と、そんな時、鬼道の元に飛んでくファイアトルネード。

 隣を見ると、手に持っていたボールは無くなり、シュートを撃った後か着地する豪炎寺が……おい!

 

「……こんなボールを蹴ることが出来る奴は!」

 

 そして蹴り返す鬼道。蹴り返されたボールは豪炎寺のもとへ。

 

「豪炎寺!それに十六夜!」

 

 いえ、オレは今回無関係です!無罪を要求します!っと、ボールを持って無言で歩き出す豪炎寺。オレはそれについて行く。

 

「豪炎寺先輩!それに十六夜先輩も!お兄ちゃんは別に雷門のスパイをしていたわけじゃないんです!本当です!」

()()()()()か……」

「まぁ、それぐらいは分かる。さすがにな」

 

 音無と鬼道は雷門中の前で会っていたが、別にスパイ活動だなんて微塵も思ってない。

 

「十六夜先輩…………豪炎寺先輩!」

「来い」

「ああ」

 

 そして階段を降りていく2人。オレは土手に座って成行きを見守る。

 2人は距離を取り、豪炎寺が思い切り蹴るとそれを鬼道が蹴り返し、再び豪炎寺が、

 

「鬼道!そんなに悔しいか!」

「悔しいさ!世宇子中を!俺は倒したい!」 

「だったらやれよ!」

「無理だ!帝国学園はフットボールフロンティアから敗退したんだ!」

「自分から負けを認めるのか鬼道っ!」

 

 豪炎寺はファイアトルネードを撃って、鬼道の顔スレスレを通った。そしてそのままシュートは河川敷の土手にぶつかり、クレーターを発生させる。その瞬間にボールは破裂した。

 よし、豪炎寺。2、3ヶ所ツッコませろ。……と、その前にアイツはオレを殺す気かぁっ!オレも座ってるんだぞ土手に!というかクレーター発生させたよ!地形を変化させちゃったよ!てか、サッカーボールって破裂するんだな!この世界のサッカーボールは破裂しない特別性能だと思っていたよ!

 

「1つだけ方法がある。お前は円堂を正面からしか見たことがないだろう。あいつに背中を任せる気は無いか?」

 

 なるほど。何が言いたいのかよく分かった。鬼道も今の発言の意味するとこが分かったようだ。ただな?やり方を考えろよ!

 そして夜。

 

「このクレーターはなんだ?十六夜」

「さ、さぁ…………隕石でも落ちたんじゃないのか?」

 

 目を逸らして答える。言えねぇ。うちのチームメイトがやっただなんて言えねぇ。

 

「隕石だと!?」

 

 そしてコイツは何でこんなに反応したんだ?理解できねぇ。何か思い入れでもあるのか?隕石に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ試合を始めませんか?」

 

 全国大会2回戦。雷門中対千羽山中の試合当日。オレたちは試合会場にきていて、ベンチに座っている。審判の人が試合を開始するよう催促に来るが、

 

「すみません。もうちょっとだけ待って下さい」

 

 まぁ、オレたちが試合を開始させないよう遅らせてるだけなんですけどね。

 オレは目を閉じて、静かにベンチに座っている。

 

「監督。いい加減にしてください」

「いや、まだだ。もう1人来る」

「もう1人もう1人って全員揃ってるじゃないですか!」

「いいですか?大会規約により後3分以内にフィールドに出ないと試合放棄となります」

「「「えぇっ!?」」」

 

 いや、お前ら規約読んでないのかよ。

 で、みんなで監督を説得しようとするも聞く耳を持たない感じで、

 

「円堂君!キャプテンでしょ!?監督に何か言ってよ」

 

 木野が円堂に説得するよう頼む。が、

 

「監督がまだって言ってるんだからまだなんじゃないか?」

 

 円堂は監督を信じて待つ。

 

「後、30秒……」

 

 気付けば後30秒に。

 

「監督。来ましたよ」

 

 オレは閉じていた目を開けて監督に伝える。

 

「ああ」

「「「え?」」」

 

 瞬間、オレが言った意味が気になったのか、皆静かになる。

 そして近づいてくる足音。

 

「来たな」

 

 そこに立っていたのは、雷門中のユニフォームを纏う鬼道の姿が。あれ?地味にマントの色が違うような……?気のせいか?

 

「「「うそぉおおおおおおおおおっ!?」」」

 

 さてと、全員揃ったか。

 

「鬼道!?」

「どういうことですか監督」

『鬼道です!間違いありません!帝国学園の鬼道です!』

 

 観客はそんなことが許されるのかと言っている。何言ってんだか。

 

「『大会規定第64条第2項。プレイヤーは試合前に転入手続きを完了していれば大会中でのチーム移籍は可能である』別にルールに反しちゃいない」

 

 すると、実況の人が分厚い本を取り出して、そこから調べ、オレと全く同じことを言って、観客を納得させる。と、ここで疑問が沸く。

 

「え?十六夜。お前、アレ全部覚えてたの?」

「一応な。だってあの使えない監督だったし、覚えとかねぇとマズかっただろ」

「「「…………」」」

 

 別の意味で絶句された。え?何、普通じゃないの?隅から隅まで覚えたんだけど。てか、こういうのオレの仕事じゃねぇだろ。

 

「で、鬼道。何か言う事は?」

「俺はあのままでは引き下がれない。世宇子には必ずリベンジする!」

「鬼道!俺には分かってたぜ!お前があのまま諦める奴じゃないってことは!」

「なんて執念だ……」

 

 まぁ、受け入れているからいっか。

 

「でもちょっと心強いね!」

「鬼道さんがいれば必殺技がなくても千羽山の守りを崩せるかも!よーし!頑張るぞっ!」

 

 盛り上がる宍戸と少林の2人。だけどなぁ……

 

「宍戸、少林寺。お前たちはベンチだ」

「「あ…………はい」」

 

 軽く落ち込む2人。はぁ。

 

「ただ、集中は切らすなよ。戦国伊賀島の時みたく思わぬ負傷が出るかもしれねぇからな」

 

 これ以上はスタメンに選ばれてる奴が言えることじゃねぇ。後はどうするかは本人たち次第だ。

 さぁ、試合開始だ。



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VS千羽山 ~failure & recovery~

 今回のフォーメーションはいつも通り4ー4ー2で行く。相手のフォーメーション……まぁ、さすが守備に厚いことだな。

 問題は連携が取れないこと。それに加えて今まで連携したことのない鬼道がいる。さて、鬼道はどう動くか。そっちが楽しみだな。

 

 ピ──

 

 雷門ボールで試合開始。染岡から豪炎寺、半田に渡り、半田から染岡に出そうとするも、

 

「いただきでごんす!」

 

 パスが弱く、敵にあっさりとられてしまう。

 

「ドンマイドンマイ!しっかり繋いで行け!」

 

 相手のドリブルを風丸がカット。そして、栗松にパスを出そうとするも今度は強すぎる。土門がマックスにパス出す時も、マックスの頭上を超えてしまう。ダメだ。本当に連携ができてねぇ。だが、連携しないと点は獲れねぇ。

 

「任せろ!」

 

 敵のカウンターに土門がマークに行く……が、

 

「モグラフェイント!」

 

 地面をボールに押し込んだかと思うと、土門の足元を通って後ろから出てきてそのままダイレクトシュート。正面だったので円堂がキャッチした。

 って、何で垂直に地面に押し込んだボールが勝手に突き進んでんだよ!どう考えてもあり得ねぇだろ!

 円堂から栗松、栗松から半田に出そうとするもパスミス。ボールを奪い、半田から豪炎寺に出そうとするもパスミス。風丸からマックスへも、全くパスが繋がらない。そんな中鬼道は観察している。全員の動きを。……なるほど。お前が修正するのか。

 ボールが敵キャプテンに渡ると、そのままボールに乗って走ってくる。

 

『これは千羽山の必殺技!ラン・ボール・ラン!』

 

 クソッ!ディフェンスに行った奴らが器用なボールさばき(?)で抜かれている……って、あれって、前に八神にやらされたやつの進化版か?ボールの上でバランスを取るって。

 

「キラースライド!」

 

 土門のディフェンス。しかし、これを跳んで回避。そのままの威力でシュートとして放った。

 

「ザ・ウォール!」

 

 それを壁山が壁を出して防ぐ。うわっ。名前そのまんま。

 

「栗松!」

 

 弾いたボールは栗松の頭上を超えてしまう。

 

「強いでヤンス!」

「オレが行く!」

 

 栗松の代わりにジャンプして回収に行こうとする。すると、相手の唯一のフォワードが、右足を光らせて、

 

「シャインドライブ!」

 

 ボール越しに打ち合いになる。が、何だこの強い光は!目潰しかよ!くっ。足やボールが光って見えねぇのは反則だろうが!光るのは頭だけにしとけよ!

 

「くっ……飛んでけ!」

「うわっ!」

 

 力任せにボールを飛ばす……が、うまく着地ができず、オレともう1人が地面に落ちる。

 

「大丈夫か十六夜!」

「大丈夫だが……やっべ。全然見えねぇ」

 

 クソッ。たいしたガードもできず、あんだけ至近距離で不意に強い光を喰らっちまった。

 

「大丈夫か?十六夜」

「鬼道か。わりぃ。ぼやけてあんま見えねぇ」

「交代するか?」

「いいや、ディフェンスくらいはできる」

 

 何とかして立ち上がるが、ヤバい。一時的だとは思うがかなり視界を奪われた。

 

「分かった。最終ラインにいてくれ、どこに向かえばいいかは指示を出す。回復したら教えてくれ」

「了解」

 

 ダメだ。あんま目を開けてられねぇ。閉じていた方がいいな。

 一時的な中断……まぁ、主にオレと相手選手のせいだが、それも終わりスローインから開始されるらしい。

 

「栗松!下がり過ぎだ!もっと上がれ!」

「でやんすが!鬼道さんが!松野さんにはいつもより前にパスを出せって!」

「ならそこに居ろ。鬼道の指示に従え」

「は、はい!」

 

 動きだしたな……って。クソッ。目があんまし開けられねぇ。……どうしようか。まぁ、この手しかないな。上手く行かなかったら交代しよう。

 

 ピー!

 

『えーっと、視界を奪われたから目の代わりになれってこと?』

「そーいうこと。頼む」

『はいはい』

 

 頭の中に、ペラーから現状の情報が入ってくる。全部文字情報か。致し方なし。

 で、スローインから始まり、パスを出されて攻められてる。で、オレを抜こうとドリブルを仕掛けてきてるらしい。

 

「視界を奪われた相手を抜くことなど造作も……!?」

 

 その瞬間、ボールを奪う1人の選手。栗松だ。

 

「栗松!土門へパスだ!3歩先!」

 

 その通り実行すると土門へパスが通る。

 

「マックス!」

「待て土門………………いけっ!」

 

 土門がすぐにパスを出そうとするのをやめ、時間をとってから出させるとパスが通る。

 

『雷門のパスが通り始めた!』

「そのまま持ち込め!松野!…………そしてパスだ!」

「2歩半先!」

 

 これまたパスが通る。

 

「ドラゴンクラッシュ!」

「まき割りチョップ!」

 

 しかしドラゴンクラッシュは千羽山のキーパーの必殺技に跳ね返されてしまった。

 

「豚の鼻くそズラ」

 

 おめぇのことか?

 

「すっげぇぜ鬼道!やっぱりお前は天才ゲームメーカーだぜ!」

「ふっ。今のがゲームメイクと言えるならな」

「どういうことだ?」

「関係あるのは主に走力にキック力。それ以外においてもオレたちは格段にアップしてんだ」

「十六夜!お前大丈夫か?」

「見えなくてもやってやるさ。で、続きだがその伸びには個人差があるんだ」

「つまり、今までの感覚では通用しない。俺はそのズレを修正しただけにすぎない」

 

 だけってそんだけでも凄いっての。

 

「修正しただけって、だったらもっとすげぇっての!ちょっと一緒にやっただけでそんなことが出来るなんて。やっぱ、お前は大大大大大天才だ!」

「ただ、現状は厳しい。特に守備陣。十六夜が視力を奪われた以上十六夜は戦力外と考えて動いてくれ。いつもの感覚で当てにしていると突破されるぞ」

「それは同感だ。すまないが、回復するまでは戦力になれそうにない」

 

 そんな言葉を残し、オレたちはポジションにつく。そしてスローインかで、風丸にボールが渡った。

 

「松野にパスだ!2テンポ遅らせろ!」

 

 また、パスが繋がる。

 

「ちょっとパスが通ったくらいで調子に乗ってるッペ」

「だから都会っ子は甘いッペ」

「それはオレたちから点を取って、勝ってから言いな」

「何だと!」

「見えてないくせに!」

 

 見えてなくても気配はする。見えないからこそ他の感覚が鋭くなっている。

 すると、マックスがディフェンス3人に囲まれた。そして、3人はマックスを中心に円周上を回る。

 

『これは千羽山中の必殺ディフェンス!かごめかごめだ!』

 

「マックス!パスだ!」

 

 円堂の言葉の瞬間、ボールを奪われるマックス。だが、そこを鬼道がカットし、染岡にボールが渡る。

 

『ドラゴントルネード!』

 

 しかし、ゴール前にはキーパーとディフェンダー2人が待ち構えている。

 

「無限の壁!」

 

 どうやら止められたらしい。

 

『出たぁ!今だ無失点を誇る千羽山の無限の壁!』

「牛のフンズラ」

 

 ピ、ピ──

 

 そしてここで前半終了。0ー0で勝負は後半か。



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VS千羽山 ~ブレイク!~

 ハーフタイム。オレはベンチに座る。

 

「大丈夫か?」

「監督……はい。ある程度は回復してきました」

 

 ぼやけているがまだ何とか見える。さっきまでに比べたらマシだ。

 

「後半は染岡のワントップで行こう」

「「「え?」」」

「分かった。鬼道が言うならそれでいい」

「でも、ワントップで?」

「無限の壁は驚異だが弱点はある」

「弱点?」

「それは無限の壁が3人の連携技であること。染岡。攻撃すると見せかけて出来るだけ5番のディフェンダーを4番のディフェンダーから引き離すんだ」

 

 なるほど。3人集まらなきゃ無限の壁は使えない。なら、そもそも3人集めさせない気か。てか見えなくて結局どんな技かわかんねぇよ。

 

「待てよ!豪炎寺を下げるって本当にそれで良いのかよ!そんなの俺たちのサッカーじゃない!豪炎寺と染岡のツートップ。それが俺たちのサッカーだろ!」

「それはそうでやんすが……」

「分かってないな」

「そもそもがちげぇよ」

 

 鬼道とオレが半田の意見に反論する。

 

「いいか!ここはフットボールフロンティア!全国の強豪が雌雄を決する全国大会!そして、そのピッチにお前たちは立っている。もうお仲間サッカーなどしている場合じゃない。お前たちはもう全国レベルなんだ!」

「それに、オレたちのサッカーってのはおかしくねぇか?染岡と豪炎寺のツートップはあくまでベースにあるだけだ。絶対のルールじゃない。この前だって円堂を含めたスリートップにしただろ?ケースバイケースで対応する柔軟性も大切だ」

 

 まぁ、豪炎寺本人が反論したらどうしようかと思ったが、豪炎寺は鬼道の意図を組んでくれてるようだ。

 

 ピ──

 

 後半戦開始。千羽山のキックオフで始まった。

 

『後半戦開始です!雷門中が無限の壁を打ち破り初得点を決めるのか?はたまた千羽山中が雷門のディフェンス陣から先取点を取れるのか!注目の対決です!』

 

 壁山を既に走らせ、シュートを狙う。ボールは8番に対してパスを出された時に鬼道がカットした。

 鬼道がボールを上げる。そして、

 

『イナズマ落とし!』

 

 しかし、ゴール前には既に3人集まっていて、無限の壁を発動していた。わーお。あれが無限の壁か……どこに無限要素があるんだろ……でもまぁ、なるほど。イメージとは違うが正面突破は難しいか。

 ただ、作戦は失敗。引き離したつもりがそんなに離れていなかった。いや、離してもすぐに戻って使われてしまう。

 続いて炎の風見鶏を打つも失敗に終わる。

 ……でも待てよ?

 

「鬼道!1回オレにやらせてくれ!」

「分かった!」

 

 ディフェンスラインから前に飛び出してパスを貰う。まだ、完全復活とはいかないが、

 

「なにぃ!?」

 

 普段、やべぇ奴に鍛えられてるから突破くらい余裕だ。で、4番がディフェンスに来たが、それを振り切り、シュートを放つ!……が。

 

「まき割りチョップ!」

 

 チョップで弾き飛ばされた。え?チョップ?って、よくよく思えば名前そのまんまじゃね?

 弾かれたラインを割ったが、オレは戻りながら考える。引きつけるのが無理なら突破した後にシュートを放てばいいと思ったがダメだったか。クソッ。コイツ1人でもそこそこ強い。

 スローインでマックスにボールが渡る。

 

「円堂!」

 

 呼ばれたのが誰か、円堂本人は首を振って探している。

 

「おめぇだよ。行ってこい」

「ああ!」

 

 ダッシュで前線に駆け上がる円堂。マックスからのバックパスをもらい、

 

『イナズマ1号!』

『無限の壁!』

 

 しかし、無限の壁に阻まれて、ゴールラインの外へ。

 ッチ。イナズマ1号でも無理、おそらく皇帝ペンギンOはやるまでもなくあの壁を破れねぇし、それどころか今の視力であの技がやれるか分かんねぇ。

 

「おい!皆!どうしたんだよ!」

 

 気付けば皆の表情が暗い。ただ、点を取られない限りPK戦に持ち込めるが、PKであのキーパーから点を取れるかと聞かれたら分からない。てか、PKって必殺技アリ?それともナシ?

 

「何凹んでんだ!まさか諦めたとか言うんじゃないだろうな!まだ試合は終わってないぞ!」

「でも、無限の壁を破れないんじゃ……」

「やっぱり必要なんだよ。新しい必殺技が……」

「必殺技ならある!」

 

 はぁ?どこに?

 

「俺たちの必殺技は炎の風見鶏でも、イナズマ1号でもない!俺たちの本当の必殺技は最後まで諦めない気持ちなんだ!」

 

 諦めない……気持ち……か。

 

「帝国の時からずっとそうだった!尾刈斗中の時も、野生中の時も、御影専農の時も、秋葉名戸の時も、戦国伊賀島の時も!諦めなかったからここまで来られたんだろう!俺は諦めない!諦めたら俺たちのサッカーじゃない!俺たちのサッカーは諦めないこと!だったらやろうぜ!最後まで!俺たちのサッカーを!」

 

 乗った。やってやろうか。ぶち壊してやるよ。その壁を。

 

「残り5分!行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 さぁて、始めようか。

 半田からのコーナーキック。染岡がヘディングで合わせようとするもそのまえに相手キーパーが弾く。それを跳ね返してマックスにパス。マックスがシュートを打つも、弾かれてしまう。さすがに無限の壁がなくてもかてぇなおい!

 

「鬼道!」

 

 鬼道にボールが渡り、鬼道が囲まれる中、いつの間にか上がってきていた円堂が声を上げて鬼道の方へと走る。

 鬼道はそれを見て、空中にボールを蹴るとそれは雷雲となり雷を纏ったボールが落ちてくる。それを鬼道、円堂、豪炎寺の3人が同時に蹴り飛ばす。

 

『無限の壁!』

 

 そのシュートは無限の壁を正面から突き破りゴールに刺さった。

 …………やべぇ。

 

 ピ──!

 

 会場が静まり返った。どうしよ。破ったことにも驚きだが、何なんだあのシュート。今までのとは次元が違う。雷雲がどっから出たとか色々疑問は尽きないがな。

 

『無限の壁が破られた!千羽山ついに失点!無失点記録が途絶えたぞぉ!』

 

 ピ、ピ──!

 

『そして、ここで試合終了!1対0!雷門!無限の壁を破っての勝利だぁ!』



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アメリカからの訪問者

 翌日。オレは病院に行ってから練習に来ていた。まぁ、遅刻だな。うん。とりあえず眼の方に異常はなし。あぶね。これ後遺症とか残ったら最悪じゃん。

 で、いつも通りの練習。そこに、ギャラリー?が1人いたけど……

 

「知り合い?」

 

 鬼道と豪炎寺に問い掛けるが首を横に振る。と、そんな中その観客の人の足元にボールが。するとその人はドリブルを始め、ディフェンスにきた、半田と栗松をあっさり躱した。

 

「すっげぇ……よし、来い!」

 

 すると、ボールを前に逆立ち。そのまま回転しながら竜巻を起こして、

 

「スピニングシュート!」

 

 なんでここの人たちって簡単に竜巻起こせんだろぉ。というか、あの技隙だらけじゃね?シュートを打つ前に取られないのかな?

 

「ゴッドハンド!」

 

 円堂のゴッドハンドが押されたが、何とか止めることに成功する。

 

「君の勝ちだ」

「ペナルティーエリアの中からシュートを撃たれてたらそっちの勝ちさ」

「素晴らしい技だったね。あーあ、アメリカの仲間に見せてやりたいなぁ」

 

 アメリカ?日本人だよね?この人。

 

「アメリカでサッカーやってるのか?」

「うん。この間、ジュニアユースチームの代表候補に選ばれたんだ」

「聞いたことがある。将来アメリカ代表入りが確実だろうと評価されてる天才日本人プレイヤーがいると」

 

 始めて聞いたわ。

 

「でも、どうして日本へ?」

「会いたい友達がこの学校にいるんだ」

 

 へぇ。会いたい友達かぁ。

 

「ねぇ。何してるの?」

「あ、木野。こっち来いよ今サッカーのすげぇ上手いやつが」

 

 次の瞬間。木野に抱き着くアメリカ帰りの帰国子女。アメリカ式の挨拶かな?

 

「お、お前何を!……って」 

 

 土門は怒鳴ろうとしたが、木野に抱き着いたのが誰かを理解し、怒るのをやめて固まる。

 

「久しぶりだね。俺だよ」

「……一之瀬君!」

「ただいま。秋」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、何かを3人で話していたのか知らないが、円堂が一之瀬に一緒にサッカーしようと声を掛ける。

 

「一之瀬……鬼道と互角?いや、それ以上に渡り合えるとは……」

「へぇ。凄いね。彼」

「十六夜。お前なら止められるか?」

「え?……うーん、自信はない」

 

 流石にこういうテクニシャンを止めるのは苦労するんだよなぁ。

 

「よぉし!今度は俺とPK対決だ!」

 

 と、ゴールに向かって喜々として走っていく円堂。そして、

 

「15対15だ!」

 

 かれこれ1時間以上やっている。全く、というか。

 

「あの2人ってなんか似てね?」

「ああ、きっと一之瀬も円堂と同等以上のサッカーバカなんだろうな」

「にしてもアメリカか……」

 

 円堂に影響されたのか知らんが、この世界に来てから考え方が変わった気がする。前の世界では、サッカーは……まぁ、楽しいからしていたな。でもそれだけ。ここではそれだけじゃない。もっと凄い奴らと戦いたい……色んな奴らと戦いたい。そんな気がする。

 

「世界には一之瀬レベルがうじゃうじゃいるのかな?」

「かもな」

 

 世界か……ま、そんなこと考える前にこの日本だな。全国大会を見据えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、八神」

 

 その日、一之瀬は円堂の家に泊まることになった。

 あの後、円堂、土門、一之瀬の3人はトライペガサスという必殺技の練習をしていた。が、一向に上手くいかない。曰く3人がトップスピードで1点で交わらないといけないらしいが、その1点で交わるってのが上手くできていないらしい。そのため、今日は完成することが出来なかったそうだ。

 

「どうした?十六夜」

「オレはもっと強くなりたい」

「急にどうした」

「いや、今日アメリカから来た奴が居てさ。そいつに勝てるビジョンが見えなかったんだ」

「ほう。消極的な発言だな」

 

 まぁ、お前に勝てるビジョンの方が見えねぇけど。

 

「純粋な力不足。まだまだ上には上がいるんだ」

「それはそうだろう」

「だから八神。協力してくれ」

「何を今更言ってるんだ。ずっと協力してるだろ」

「そうだったな」

「そういや、目は大丈夫か?」

「病院に行ったが異常なし」

「そうか。よかったな」

 

 と、ここでケータイに電話がかかってきた。

 

「はい、十六夜です」

『おぉ十六夜か!』

「その声は円堂か。で、何の用だ」

『今さ、鬼道以外のサッカー部全員で一之瀬の話を聞いてんだよ。お前も来るか?』

「誘ってもらったとこわりぃな。オレはパスにさせてくれ」

『そうか。用事か?』

「そんなとこ」

『なら、残念だけど仕方ないな』

「悪いな。じゃ、切るぞ」

『おう!また明日な』

 

 全く。

 

「行かなくていいのか?」

「別にいいさ。アイツの話に興味がないって言ったら嘘になる。だが、今はそれよりもお前との時間が大切だ」

「……誤解されても知らないぞ」

「誤解?」

「はぁ。何でもない。なぁ、十六夜」

「何?」

「仮定の話だぞ。身につけるだけで身体能力を飛躍的に向上させられる道具があったら……お前は使いたいか?」

「いいや、全く、微塵も」

「ほう。即答か」

「いや、道具に頼ってるなんてつまらないじゃん」

「面白い意見だな。さ、ほら、強くなりたいんだろ?行くぞ!」

「おう!」

 

 こうして今日も八神との特訓をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一之瀬が来てから数日後。今日の午後の便で彼はアメリカに帰ってしまうそうだ。

 で、トライペガサスなんだが、

 

「惜しい……」

 

 3人の交わった付近から青い炎のペガサスらしきものが見える。初日でも薄っすら見えたが、あの時は視界が完全じゃなかったから幻覚だと思っていたんだが。どうやら本物らしい。

 何度も練習していると、木野が動いた。

 

「マネージャー?」

「思い出したの。ペガサスが飛び立つには乙女の祈りが必要だってね」

 

 そして、木野自身が目印となって立つことを宣言。1歩間違えれば大怪我で済まないが……で、結論から言うとトライペガサスは出来た。幻だと思っていたペガサスは幻なんかじゃないことも分かってしまった。

 で、夕方。一之瀬は既に空港に行った。

 

「あの飛行機に乗ってるのかな」

「多分ね」

 

 雷門中のグラウンドで話している。

 

「一之瀬!また一緒にサッカーやろうぜ!」

 

 空に向かって叫ぶ円堂。

 

「うん。やろう!」

 

 すると答えが後ろから帰ってきた。え?

 どうやら、円堂ともっとサッカーがしたいがために残ったらしい。マジかぁ……すげぇ行動力。雷門中に来てくれるらしいが、わーお。本当にすげぇや。

 

「これからよろしく!」

「ああ、こちらこそよろしく!」

 

 円堂と一之瀬の握手。その上からオレたちは手を乗せる。ま、これからよろしくな。

 そして2回戦の結果によって、準決勝。オレたち雷門イレブンが戦う相手が豪炎寺の前の学校、木戸川清修だと判明した。去年の準優勝校か。気を引き締めないとな。



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全員同じ顔だと髪色でしか見分けられないよね?

 一之瀬の加入から何日か。連携もかなり上手く行ってる。で、雷門からもう一つの準決勝の様子を見たが……世宇子中VSカリビアン中の試合は、開始10分でカリビアン中の試合続行不能により世宇子の勝利。ヤバくね?マジで。

 で、帰り道。オレは円堂、鬼道、豪炎寺と公園に寄っていた。

 

「円堂と十六夜は守備の徹底をしてくれ。相手はオフェンス重視で攻めてくるはずだ」

「おう!ディフェンスは忙しくなりそうだなぁ」

「他人事だなおい。ま、忙しくなるのは仕方ねぇか」

「こちらの攻撃はカウンター主体になるだろう。豪炎寺、攻守の切り替えのタイミングに注意してくれ」

「ああ」

 

 しかし、豪炎寺の反応は薄い。まぁ、元々のチームメイトが相手だからなぁ。戦いにくいか。

 

「よし!作戦会議は一旦休憩だ!来いよ」

 

 走り出す円堂。やれやれ、また勝手なことを。

 で、連れてこられた場所は駄菓子屋。

 

「ここだよ」

「駄菓子屋……」

「だな……」

「なんだよ?来たことないのか?」

「「「ああ」」」

 

 オレたち3人の声が揃う。いや、来たことないですが何か?

 

「こんなところがまだ残っているんだな。稲妻町には」 

「ああ。俺も初めて来た」

「オレもだな」

 

 子供たちや店員のおばあちゃんと話す円堂を見つつ、すぐ脇のベンチに座る。

 

「駄菓子屋か。まるで子供だな。純粋で真っ直ぐで。だからサッカーバカになれるのかもな」

「ああ」

「そういや、十六夜も始めてなんだな」

「まぁな。こっちに来たのは中学からだし、1年の頃は部活とクラスが同じだけで自主練ばっかだったし」

「なるほどな」

 

 と、3人で話していると、

 

「どけよ」

「あっ!割り込みはいけないんだよ!」

「お前ら順番守れよな!」

 

 中が騒がしいな。揉め事か?そう思ってみてみると、

 

「あんたたち。順番くらい守りなさい」

「3対1で俺たちの勝ち~みたいな」

 

 いや、お前らの目節穴なの?ダサいサングラス掛けてるから、数もろくに数えられないのかな?

 

「人数の問題じゃないだろ!」

「いえいえ、人数の問題ですよ」

「俺たちは常に三位一体なんだよ」

 

 もしかして、こいつらって馬鹿?三位一体って言ったのに……もういいや。馬鹿は円堂1人で十分だ。

 

「豪炎寺!」

「久しぶりだな。決勝戦から逃げたツンツン君」

「誰?知り合いか?豪炎寺」

「こんなのが知り合いとか豪炎寺に謝れよ」

 

 と、こっちの言葉をスルーして名乗り始めた。まぁ、おかしなポーズをとってたがスルーで。

 

「武方勝!」

「青」

「友!」

「ピンク」

「努!」

「緑」

「「「3人合わせて!武方三兄弟!」」」

 

 青と緑の手の上に立つピンク。やべぇ。駄菓子屋で組体操やってんのもやべぇが……

 

「どうしよう鬼道。コイツら髪色でしか見分けがつかねぇ…………!」

「いや、他にもあるだろ……髪型とかな」

 

 だめだ。モヒカンが2匹いる時点で見分けがつかない。

 

「で、コイツら誰?通報すればいい?」

「通報してやるな。そいつらは去年豪炎寺の代わりに決勝に出場した木戸川清修のスリートップだ」

「てことは豪炎寺の元チームメイト!?」

 

 今更かよ。普通分かるだろ。

 

「流石は鬼道有人。有力選手の情報は全てインプットされてるってわけか」

「ふっ、三つ子のFWが珍しかったから覚えていただけだ」

「うわぁ。自分で有力選手の情報とか言ったよ……えーっとそこの青いの」

 

 ダメだ。霧隠のときはふざけてあだ名付けたがこいつらはマジで分かんねぇ。

 

「お前ら今年の俺たちの活躍を知らないってか!」

 

 全く、全然、一切、聞いたこともない。

 

「豪炎寺なんかいなくても勝てるって証明したのに!」

 

 あ、ご苦労様です。 

 

「今の木戸川清修は史上最強と言っても良いでしょう。豪炎寺よりもすんごいストライカーが3人もいるんですからね」

「…………ただし、豪炎寺より知名度は低い」

「……十六夜。事実でもそれは言うなよ」

 

 いや、鬼道も事実って思ってんじゃん。

 

「ま、なんつーの?準決勝の相手が雷門中じゃん?軽~くご挨拶。みたいな?」

「ん?挨拶終わったの?じゃあ、帰っていいよ」

「「「話は終わってねぇよ!」」」

「えー早くしろよ。暇じゃねぇんだよ」

「宣言しに来たんですよ!」

「俺たちが豪炎寺修也を叩き潰すとな!」」」

 

 やれやれ、そんだけのために来るとか暇人かよ。

 

「どういうことだ!何でお前たちは」

 

 そこに反応してしまったのは円堂。やれやれ、あんなの無視すりゃいいのに。

 

「豪炎寺修也を叩き潰し、木戸川清修の、いや僕ら三兄弟の恨みを晴らしたい……」 

「それは……」

「それは……!」

「「「豪炎寺が知ってるから聞いてみて!」」」

 

 全員が豪炎寺の方を指さす。

 

「豪炎寺が?」

 

 で、結局武方三兄弟が恨みについて言ったんだが、内容としては去年の木戸川清修は豪炎寺のおかげで勝ち進み三兄弟はずっとベンチ。で、全国制覇の夢を豪炎寺に(勝手に)託した。で、豪炎寺が居れば必ず優勝できると信じていたが、決勝戦の日、豪炎寺は現れなかった。

 なるほどねぇ。で、英雄から一転、プレッシャーに負けて逃げた卑怯者扱い。あまりにも一方的すぎだな。

 

「違う!豪炎寺はそんな奴じゃない!その日豪炎寺は……」

「やめろ」

「でも!」

 

 どうやら訳ありのようだな。

 すると、青が鞄からボールを出した。

 

「ま、折角だし偵察に来たんだし。偵察してやるよ。今の豪炎寺クンの実力を見てみたいなーみたいな?」

「悪いが、その気はない」

 

 背を向けて帰ろうとする豪炎寺。だが、

 

「おやぁ?また逃げるつもりですか?やっぱりお前は臆病者の卑怯者だ!」

 

 そう言って豪炎寺に向かってシュートを打つ青。やれやれ。

 

「お前も何か言い返せよ」

 

 そう言いながら軽く蹴り返す。

 

「ああもう我慢できねぇ!俺がお前らの偵察とやらを豪炎寺の代わりに受けて立ってやる!」

「円堂」

「何言ってんの?」

「超意味わかんないんだけど~みたいな」

「アホかオメェらは」

「「「ああ?」」」

「そもそも、豪炎寺より優れてるってどう証明するつもりだよ?」

「それは」

「まさか豪炎寺がファイアトルネードを打ってそれを傍目に見て評価する。なんてくだらねぇことは言うなよ?無論その逆もだ」

「……じゃあ、どう証明すりゃいいんだよ」

「何でもいいが。お前ら試合でオレたちに勝つために偵察にわざわざ来たんだろ?だったらこっちのシュート力より、キーパーの力を見た方が有益なんじゃないか?」

「十六夜の言うとおりだ。それに、そうすればお互いに対等な条件で偵察できる。こっちはキーパー力、そっちはFW力を見せ合うんだからな」

「やるのか?やらないのか?どっちだ!」

 

 で、結局向こうはやるということで、

 

「ついてこい!」

 

 オレたち7人は円堂が先頭で河川敷に移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはまた面白くなってきたな」

「偵察っていうか決闘って感じ?」

「「「それなら武方三兄弟の力、見せつけてやりましょうかー!」」」

 

 まぁ、鬼道は言った。これが対等だと。だが、オレにとってはこれは対等では無い。圧倒的に雷門中が有利な偵察だ。

 理由は2つ。1つ目。向こうはFW3人組だがこっちはFW、MF、DF、GKと4人共の専門が綺麗に分かれてる。つまり、各ポジションから、多角的な視点で見られる。そして2つ目。アイツらのシュート技を予め見られれば、万が一ツッコミだらけでも本番で驚く必要がなくなる。

 

「行くぞ!」

「よし!」

 

 緑が回転しながら跳んだ。足には青い炎が。

 

「これは!?」

「ファイアトルネード!?」

「回転が逆だ!」

 

 なるほど。つまり、豪炎寺のファイアトルネードのパクリか。

 

「これが豪炎寺のファイアトルネードを超える技!バックトルネード!」

 

 ふむふむ。左足で踵落としを最後にする。いや、そのまんまだなぁ……こりゃあ偵察する意味はなかったか?

 

「爆裂パンチ!」

 

 そして、シュートを弾く……が。

 

『バックトルネード!』

 

 青と赤も立て続けにうち、円堂が反応できずにゴールに刺さった。

 

「何するんだよ!」

「はぁーい。ちょっとゴール奪ってみました。みたいな」

「ちょっと待てよ!そんなの止められるわけないだろ!」

「まぁ、落ち着けよ円堂」

「でも十六夜!3つもボール使うなんて反則だろ!」

「アホか、少しは考えろよ。あの三兄弟はボールを3つ使わないと、お前からゴールを奪えない卑怯者ってことが分かったじゃないか。じゃあ、卑怯者さんたち帰っていいよ」

「「「ちょっと待て!」」」

 

 やれやれ。

 

「黙って聞いていれば僕たちが卑怯者ですって?」

 

 事実そうだろ。

 

「なら、ボール1個でやればいい。みたいな」

「それで点を決めれば文句は無いんですね?」

「ああ、そうだな」

「「「フフフフフ……」」」

 

 あーあ。こいつらどんどん手の内晒してくれるわ。なんてやりやすい奴らだ。

 

「やってやろうじゃん!」

「やめろぉおおおお!」

 

 すると聞き覚えのある声がする。風丸だ。後、土門、木野、一之瀬、宍戸もいる。

 

「ストップ!ストップだ!喧嘩はマズイぞ!円堂」

「へ?喧嘩?」

「違うのか?」

「俺は決闘って聞いたけど」

「誰がそんなことを……」

「だって!やってやるとか、ついて来いとか!物凄い喧嘩になりそうな感じだったじゃないですか!」

 

 宍戸……お前かい。

 

「サッカーの勝負だよぉ。サッカーの……」

「え?サッカーの?」

「もう!慌てちゃったじゃないの!」

「ほーんと。人騒がせだこと。ま、いつものことだけどね」

 

 雷門……なるほど。お前もやはり来ていたか。

 はぁ。これでお流れ……になるわけないか。見たとこあの三兄弟は馬鹿。ギャラリー増えたからカッコよくキーパー円堂から点を取って力の証明……的なことでも考えてるんだろうなぁ。

 

「ギャラリーも増えたことだし」

「「「見せてやるぜ!武方三兄弟最強必殺技を!」」」

 

 アホだ自分から切り札を晒しに来た。

 青から緑にボールを蹴り、緑が上にあげ、ピンクが青の肩を踏み台にして跳び空中で蹴る。そして、

 

『トライアングルZ!』

 

 と言いながら最後に駄菓子屋で見せた傍迷惑な決めポーズをする。

 やべぇ。最後のポーズがだせぇこと以外記憶に残らんかった……ってのはさすがに嘘だが。いや、あのポーズのせいで突っ込みが全部飛んでいったのは事実だな。あえて、ツッコミをするとすれば……え?あのポーズださくね?

 

「爆裂パンチ!」

 

 しかし、1回パンチを繰り出しただけでボールは円堂の顔面に当たりそのままゴールへ。

 なるほど。威力は高いか。さすが最強の必殺技ってとこか。攻略法は見えたけど。



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VS木戸川清修 ~ノーゴール・ノールーズ~

VS木戸川清修ですが、いつもより十六夜が暴走します。
今更ですが十六夜の背番号は16番で一之瀬は17番です。まぁ、十六夜だから16っていう安直な理由で決めたと思って下さい。深い意味はないです。


 あの後は二階堂監督?っていう木戸川清修の監督と西垣という一之瀬、土門、木野の3人のアメリカでの友人が三兄弟を止めに来た。で、その後西垣はその3人と話す中、邪魔者は退散した。一方で円堂はイナビカリ修練場で無茶苦茶な特訓をしていた。身体を壊さないといいけど。

 そして、準決勝当日。

 

「豪炎寺」

「今回は逃げなかったみたいですね」

「俺は正々堂々と戦う。それだけだ」

「ま、精々楽しませてくれよな。みたいな?」

「この1年でお前の力が鈍ってなければ良いけどな!」

 

 控室から出たオレたちを待ち構えていたのはネタ三兄弟を筆頭とする木戸川清修の一部の人。

 

「そこの熱血クンも俺たちのトライアングルZに吹っ飛ばされないようにね!みたいな?」

「ああ、オレたちは必ず止めてやる!絶対に負けない!」

 

 まぁ、点を決めさせなきゃ負けることはないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も4ー4ー2で半田の代わりに一之瀬を入れました。はい。以上です。

 向こうは本人たちが言っていた通り、3トップで来てるみたい。

 

 ピ──

 

 木戸川清修ボールで試合開始。

 染岡、豪炎寺と抜かれて、

 

「風丸!マックス!中央を塞げ!」

「「おう!」」

 

 だが、ボールを持っていたピンクはディフェンスが来る前に上空にボールを蹴った。そして緑が、

 

「バックトルネード!」

 

 ッチ。早速打って来やがった。オレは下がって、

 

「爆裂パンチ!」

 

 が、前の決闘の時と違い、爆裂パンチが押されている。まぁ、想定の範囲内だ。

 

「はぁああああ!」

 

 オレは円堂が爆裂パンチでボールを空中に留めている間に、下からボールを思い切り蹴り上げる。

 

「円堂下がれ」

 

 ピー!

 

 そしてペラー経由で5匹のペンギンを召喚し、

 

「皇帝ペンギンO!」

 

 シュートを繰り出す。あまりのことに意表を突かれたのか、木戸川清修の誇るスリートップも、ましてや、MF、DFも予想外の光景に驚きを禁じ得ない。唯一キーパーが反応したものの。

 

「うわぁ!?」

 

 キャッチを試みたがボールはゴールに刺さった。

 

『ゴール!雷門中のカウンターシュートが決まった!開始早々の先取点!これは大きいぞぉ!』

「「「はぁ?」」」

「よし、鬼道。カウンターで点を取るって戦法ドンピシャだな」

「あ、ああ」

 

 余りのことに雷門中陣営も固まってるみたいだ。

 

「ちょっと待てぇ!みたいな」

「今のは熱血キーパー君が止められずに僕らの力を見せつける場面でしょ!」

「何やっちゃってんの?」

「はぁ?わりぃけど。ゴールを守るのはキーパーだけじゃねぇぞ?」

 

 決闘の時と違ってサッカーはDFでも手を使わなければゴールぐらい守れる。だから、キーパー1人破れるからどうした?キーパー破ってもゴールに刺さらなきゃ関係ねぇ。

 

「だが、この前のバックトルネードとは格が違った……俺1人じゃさっきのシュートで決められていた」

「気にすんな。それは単純に前の決闘で向こうが手を抜いてただけだ。それに次止めりゃいい。そんだけじゃねぇか」

「あ、ああ」

「ただ、十六夜。次はカウンターシュートも対策されるぞ」

「奇襲でこっちの先取点。次決まらなくても後は純粋に点を重ねりゃいい」

 

 というか、あのバックトルネード。やっぱ、八神のシュートよりはよえぇな。

 で、向こうのキックオフで試合再開。再び三兄弟で攻めてくる。

 

「今度こそ決めてやる!」

 

 ピンクから再び緑へ。

 

「バックトルネー……何!?」

「撃つまでが遅いよ、キミ。鬼道!」

 

 このシュートはわざわざヒールで蹴る必要がある。だからというわけではないが蹴ろうとする時に一瞬隙が生まれる。後は、そこでボールを確保すればいいだけ。簡単だ。

 

「パスだ!パスをよこせ、みたいな」

 

 再び木戸川清修の攻撃。

 

「撃たせねぇよ?」

「それはどうですかね?」

 

 緑が空中に跳び上がった瞬間。ピンクと青がオレのマークに付く。

 

「これなら防げまい!」

「これで得点いただき!」

 

 なるほど。オレに空中でカットさせず更にキーパーのところに戻らせない気か。なるほどねぇ。

 

「バックトルネード!」

 

 でもさ、それって。

 

「今度こそ止める!爆裂パンチ!」

 

 そして今度は完璧に弾いて見せた。

 

「よっしゃあ!」

 

 うちのキャプテンには通じないんだよねぇ。オレは決して円堂が止められないからシュートを止めてるわけじゃないんでね。

 前半も20分が過ぎただろうか。得点は相変わらず1ー0で、雷門リード。攻められる時間のほうが多いが未だ失点なし。

 

『おっと。これはパスミス。ボールはゴールラインを超え、雷門中のゴールキックだ』

 

 ここで、向こうの連携にボロが出始めた。

 

「三兄弟が焦り始めたぞ」

 

 ゴール前で鬼道、土門、一之瀬、オレ、円堂が話す。

 

「ま、ディフェンダーがあの三兄弟をマークしてるし、現状相手は早く1点取りたいだろうしな」

「ああ。だから、こちらに余裕があるうちに点を取っておきたい」

「だけど、アイツらは豪炎寺を特に警戒しているはずだぞ」

「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」

「その警戒を利用するってのは?」

「それがベストだろうな」

「豪炎寺囮作戦といったところか」

 

 そのまま鬼道は作戦を豪炎寺、染岡に伝える。

 で、ゴールキック。円堂はゴール前にいた、オレにパスを出す。

 

『これは!?』

「おぉ!」

「マジそれ!?」

「わざわざチャンスをくれるとは!」

『円堂は十六夜に預けた。そこに武方三兄弟が襲いかかる!』

 

 しかし、そこで鬼道がある指示を出す。

 

『おっとその間に豪炎寺と染岡がサイドから駆け上がっていく!』

 

 で、三兄弟が後ろを見た時、既に土門と円堂は前線へと駆け上がっていた。

 

「鬼道!」

 

 オレはセンターライン付近にいる鬼道へパス。そこから一之瀬へボールをつなぐ。

 染岡と豪炎寺につられ、ディフェンスは両サイドに寄って中央がガラ空きになった。

 

「行くぞ!」

 

 3人はトップスピードで走り一点で交わる。

 

『トライペガサス!』

 

 やっぱり、あの青い炎ってどっから出したんだろう。摩擦かな?

 で、そのシュートは相手キーパーを弾き飛ばしゴールへ。2対0っと。

 

「よっしゃぁ!」

『何とキーパー円堂も加わった攻撃で雷門中追加点!木戸川清修を突き放した!』

 

 円堂と豪炎寺がハイタッチをする。そしてそのまま前半は特に何もなく終わっていった。

 勝負は後半戦。今までにあまりない雷門がある程度リードしてから戦うという状況。さてどうなることやら。



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VS木戸川清修 ~決めろ!トライアングルZ!~

十六夜の二つ名的なの『ペンギンの分析家(クワント)』とか『ペンギンの指揮者(コンダクター)』とか思いついたのですが……どうしよう。なんかいい案ないですかね。


 ハーフタイム。雷門優勢だが浮かれた雰囲気はない。

 

「みんな頑張って!あの三兄弟と中盤の連携を崩せているわ」

「だが、奴らも後半は修正してくるだろう」

「それにまだあの技を出していない」

「トライアングルZか」

「このまま終わるはずがない」

 

 バックトルネードが通用しないと向こうが分かった現状。あの技を打つのも時間の問題だな。

 

「どんなシュートだろうと俺が必ず止めてみせる!」

「さすが円堂。まぁ、オレも協力させてもらうよ」

 

 ピ──

 

 雷門ボールでキックオフ。だが、木戸川清修に取られボールは青に。三兄弟であがってきて……

 

「そろそろ見せてやろうじゃん!」

「僕たちの最強の必殺技を!」

「これでゴールをぶち抜く!みたいな!」

 

 そして、ボールはドリブルしていた青から緑へ。そして、緑からピンクへ行こうとボールを上げたところで、

 

「はぁぁあああああっ!」

 

 蹴ったのはピンク──

 

「「「はぁぁぁああああああ!?」」」

 

 ──ではなくオレ。

 

「トライアングルZ!……みたいな?」

 

 決めポーズには参加せず、ボールの行く末を見据える。トライアングルZの攻略法。ぶっちゃけ、最後ピンクが打つ前にこっちが打てばトライアングルZの威力で相手ゴールにシュートを打てる。そう。3人同時のシュートじゃない。3人が順番に、しかも順番を変えずに蹴ってくれたから出来た技。

 そして再び呆気にとられる敵味方。また、キーパーは反応したが、皇帝ペンギンOより癪だがトライアングルZの方が威力が高いので、

 

『ゴール!ま、まさかの展開!十六夜のトライアングルZの最後だけ撃ってそのままゴールに決めたトリッキープレイ!相手チームと連携技を打つなんて前代未聞!雷門中更に追加点だ!』

「ナイスアシスト!緑!青!」

「「「じゃねぇよ!」」」

 

 おかしいな。ここはハイタッチをする場面では?うーん。じゃあ……

 

「よし、トライアングルZでもう1点決めてこうぜ!」

「決めるか!」

「何、いいとこどりしてる!みたいな!」

「貴方は何なんですか!?」

 

 いや、だってねぇ。河川敷とか駄菓子屋であんだけ言ってこっちでも啖呵切ったんだ。

 

「本気で無失点で抑えてやるから覚悟しな」

 

 オレは聖人君子じゃねぇ。あの時は円堂に任せてたが、仲間がぼろくそ言われまくって笑顔で居られるほどお人好しじゃねぇんだわ。だから、ぶっ潰す。

 

『さぁ、雷門中の3点リード。木戸川清修。円堂、十六夜を中心とした雷門ディフェンス陣を突破してゴールを決められるかぁ?』

 

 木戸川清修ボールで試合再開。ピンクがボールを持った。

 

「マックス!一之瀬!コースを塞げ!」

 

 そしてピンクは青にボールを出す。そこを、鬼道がスライディングでカットしようとし、青は不安定な体勢でシュートを打つ。これには円堂も余裕でキャッチ。

 

「一之瀬!土門!トライペガサスだ!」

 

 わぁお。まだまだ攻撃の手を緩める気がないよ。

 ボールを一之瀬に投げ渡し、上がっていく円堂。オレはカウンターで点が決められないようゴール前で仁王立ちする。

 向こうでは、3人が走って交差しようとする中、

 

「俺の目の前で何度もやらせない!スピニングカット!」

 

 西垣が足を青く光らせ振るう。すると、地面から放物線状に青い炎が噴き出て3人を弾き飛ばし、ボールをラインの外へ……えぇっ!?地面から青い炎の壁!?しかもそれで3人吹き飛ばした!?…………ん?あれをロングシュートにぶつけられたらまずくね?やっべ。どうしよう。

 

「ペガサスの羽が折れたな」

 

 あーうん。何も知らない人が聞いたらコイツ大丈夫か?ってなるよね絶対。

 

「さすが西垣。凄いディフェンスだ」

「トライペガサスが止められるなんて……!」

「焦るな円堂。こっちがリードしている。次成功させればいい」

「ああ」

「って会話はいいけど戻ってこい!円堂!」

 

 シュートを外したら戻る。それくらいしてもらわないとマジで困る。

 そしてスローイン。相手チームに渡り、そのままMFから青にパスを出そうとするが、戻ってきていた豪炎寺が空中でカット。そのままドリブルで駆け上がる。

 

「染岡!」

 

 そして染岡にパス。

 

『ドラゴントルネード!』

 

 今度ばかしはキーパーにも時間的にも精神的(?)にも余裕があったのか。

 

「タフネスブロック!」

 

 腹を突き出した。そして、腹でドラゴントルネードを上に弾いた。………………え?アレが必殺技?腹を突き出しただけだよね?え?え?……というか痛そうだしぽっちゃり限定の技かな?オレがやったらめり込みそう。

 で、弾いたボールに豪炎寺が、

 

「ファイアトルネード!」

 

 反応してシュート。これにはキーパー届かず4点目。

 

『ゴール!1度弾かれたボールに豪炎寺が素晴らしい反応で喰らいつき、必殺ファイアトルネードを決めたぁ!雷門中追加点!木戸川清修を圧倒しているぞ!』

 

 そこからは一進一退の攻防だった。シュートを打つも弾かれ、そもそもシュートまで行けないことがほとんどで、刻々と試合終了が近づいている。……って言うとオレたちが4点リードしているように見えないのが不思議。

 

「このまま負けるとかありえないでしょ!」

「俺たちは負けない!」

「絶対に決める!」

 

 って考えていると、しまった!出遅れた!

 

「絶対に!」

 

 ボールは青から緑へ。

 

「俺たちは!」

 

 緑はボールを上に蹴り上げピンクへ。

 

「勝つんだ!」

 

 ピンクはそれをゴールに向かって蹴りつけ、いつものポーズを決めながら、

 

『トライアングルZ!』

 

 ヤバッ!急いで戻らねぇと!

 

「円堂!」

「ゴッドハンド!」

 

 右手だけで押され始めて、すぐに左手も加えたが、それでもどんどん押されていく。だが、時間は充分稼いでくれた。

 

「このゴールだけは絶対に守って見せる!ゴールを背負うということはそういうことだ!」

「その通りだ円堂!」

「俺も一緒に守るッス!」

 

 円堂の右肩を壁山が、左肩をオレが支える。

 

「お前たち!」

「行くぞ!円堂!壁山!」

「はいッス!」

「「「はぁぁぁあああああああああああああっ!」」」

 

 そして、トライアングルZは円堂の手に収まった。

 

『止めたぁ!3人がかりの必殺技でトライアングルZを阻止!木戸川清修ゴールならず!』

「よっしゃぁ!」

「やったな!」

「止めたッス!」

「円堂!こっちだ!」

「おう!」

 

 そして豪炎寺へのロングパス。そのまま上がっていくが、

 

「やらせねぇぞ!」

 

 三兄弟が止めにかかる。すると、豪炎寺は一之瀬へバックパス。

 

「トライペガサスだ。決めろ」

「「「おう!」」」

 

 そして、円堂、土門が上がっていく。

 

「決めさせない!スピニングカット!」

 

 3人の交点のところに放たれるスピニングカット。それを、円堂、一之瀬、土門の3人は突き破り(!?)、空中に上がったボールは炎の色を青から赤に変え、ペガサスではなく巨大な鳥へと変化した。ああいうのを進化と言う…………のか?

 

「「「はぁぁああああああああ!」」」

 

 そのまま放たれるシュート。ディフェンスに来た武方三兄弟とキーパーを吹き飛ばし、ゴールへ。

 

『ゴール!雷門中!五点目だぁ!』

「「「やったぁ!」」」

 

 ゴール前で三人でハイタッチをする。

 

「ペガサスが……フェニックスになって……飛んだ」

 

 ピ、ピ──!

 

『試合終了!雷門中が40年ぶりの決勝進出を果たしたぁ!』

 

 勝った喜びに浸る中、西垣が一之瀬たちに近づく。

 

「やられたよ。完敗だ」

「西垣……」

「素晴らしい技だった。あれはお前たちと円堂の技。ザ・フェニックスだな。一之瀬が不死鳥になって帰ってきたんだから」

「不死鳥か……」

 

 うわぁ。凄い必殺技になったな。

 一方で座り込んでいる三兄弟に豪炎寺が歩み寄る。

 

「もしかして笑いに来たか?みたいな」

 

 豪炎寺は手を差しのべるも三兄弟によって払われた。

 

「僕たち兄弟は貴方を超えてみせると誓い合った!」

「トライアングルZは最強のはずだ!なのに敵のゴールは決めれず味方のゴールを決めるアシストをしちまった!」

「なんで勝てねぇんだよ!」

 

 そんな三兄弟に二階堂監督が話しかける。

 

「確かにお前たちはこの1年必死に練習した。ただ、お前たちは3人で豪炎寺を、雷門中を倒そうとした。でも彼らはチーム全員の力で戦った。豪炎寺1人がいるというだけで、勝ち負けが決まるようなもんじゃないのさ。サッカーはな」

 

 いいこと言うね。あの人。

 

「豪炎寺1人で勝ち負けは決まらない……」

「僕たち3人だけじゃなくて……」

「チーム全員の力……」

 

 笑顔になる二階堂監督に豪炎寺は頭を下げる。

 

「二階堂監督……」

「豪炎寺。この1年で大きく成長したな。先生は嬉しいよ」

 

 どうしよう。あんないい監督響木監督以外に見たことがない。あんな善人がいたんだぁ。

 

「うぅっ」

「どうした十六夜!うれし泣きか?」

「ああ。この世界にもまともな監督はまだいたんだな」

 

 尾刈斗も野生中も御影専農も秋葉名戸も帝国も戦国伊賀島も千羽山も。どこも監督が頭おかしかったりしたからなぁ。

 

「去年のこと。チームのみんなに迷惑をかけてしまい、すいませんでした」

「……妹さんの事故のことなら知っていたよ。しかしどんな理由も言い訳にならないと思ったんだろ?だから黙っていなくなった。そうだな?でも今日の試合でお前が逃げ出したりするような奴じゃないって分かったはずだ!こいつらにも」

「監督……」

「もういいんだ。気にするな」

 

 それを聞いた三兄弟は豪炎寺に頭を下げる。

 無事和解出来たな。いい話だった……。

 

「次は世宇子との決勝戦だ」

「ああ!」

「気を引き締めて行こう」




主人公習得技(?)

トライアングルZ
シュート技
パートナー 三兄弟の青と緑
ピンクが打つ前に十六夜が撃ったことで、完成した。
いいとこどりにも程があるが致し方なし。


トリプルディフェンス
キーパー技
パートナー 円堂と壁山
円堂の両手でのゴッドハンドを壁山とともに支えた。
本人たちは必殺技の自覚なし。





主人公の初の連携技のパートナーが木戸川の武方三兄弟の二人ってある意味前代未聞ではないでしょうか。


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決勝戦に向け ~壁にぶつかりし円堂~

十六夜の二つ名的なのの案をいくつかもらいました。案をくださった方々本当にありがとうございます。
作者はいつもどおり皆様に決めてもらおうと思います(決して自分で決められないからではなく、イナズマウォーカーリスペクト的な感じです。本当に自分で決められないわけではありません)
アンケートを設置しておきますのでご自由に。ただ、締め切りを5月1日の6:00としておきます。
また、オーガの助っ人に関する意見の中で『他作者様のオリ主をお借りする』とありまして素晴らしい意見だと思いました。しかし、今の私に他作者様のオリ主を思い通りに裁ける自信が残念ながらありません……。ごめんなさい。動かし方を教えてくれたらやると思います(多分)その辺は個人的にメッセージでお願いします。
もしそういうことをお考えの作者様やコラボ的なのをしたい作者様がいるのであればうちの十六夜君は『借ります』ということを感想なりなんらかの方法で伝えていただければいつでもお貸しします。


 それは異様な光景だった。

 

「はぁぁああああああああ」

 

 深いため息をつく円堂。そう。あのやる気元気の塊円堂が、朝からすっかり見ないほどにまでやる気が下がってる。こんな円堂見たことない。

 

「どうしたの?その顔」

「……ダメなんだ。ダメなんだよぉ…………」

「お前の成績がか?」

「ダメって何が?」

 

 あ、無視された。と、冗談は置いといて今集まってる面子は、オレ、円堂、木野、豪炎寺、鬼道、一之瀬、風丸。で、結局何がダメなんだろうか。

 

「なあ、俺……ゴッドハンドで世宇子のシュート止められるかな」

「らしくないな。円堂。やってみなくちゃ分からないんじゃないのか?」

「そうそう。分からないなりに真正面からぶつかってくのがお前のスタイルだろ?」

「この決勝、絶対に負けられないんだ!やってみなくちゃ分からないじゃダメなんだ!分かるだろ!?」

 

 恐ろしい気迫。追い詰められてるなぁほんと。

 

「もしかして、昨日の木戸川清修戦で自信を無くしたのか?」

「無くしたっていうか、不安なんだよ。ほら、今までだって十六夜がいなかったら何点も失点していたかもしれない場面があっただろ?」

 

 …………ああ。昨日のが顕著かもな。主に2点……いや、3点分くらい?

 

「そうやって、考えてたら……眠れなくなっちゃって……頭の中、ぐちゃぐちゃで」

 

 あれ?もしかしなくともオレのせい?

 そのまま落ち込んだ状態で玄関に向かう円堂。

 

「彼、今まであんな風になったことあるの?」

「ううん、あんな円堂君見たことない」

 

 これは想像以上にやべぇかも。

 で、授業中。円堂は全く授業に集中できていない。数学の問題を当てられて、あーあ。こっちにヤバい答えがわからないって感じで見てきたが、オレは。

 

「今日もいい日差しだ」

 

 全面スルーで。日向ぼっこをしていた。

 時は流れ放課後、円堂、鬼道、オレ、豪炎寺の4人が机を囲んでる。机には秘伝書が。

 

「ごめん、遅くなった!」

 

 一之瀬と土門がやってきた。

 

「……珍しい空気だな」

「練習は?」

 

 全員の空気が重い。円堂の士気がここまでチームに……いや、正確にはオレたちにか。影響するとは。

 

「一之瀬から聞いたぞ。大分根が深そうだなぁ、ゴッドハンドのこと」

 

 円堂が机に頭を付ける。

 

「うわっ。本当に深いな」

 

 と、ここで豪炎寺が話を変える。

 

「鬼道。雷門で世宇子の力を目の当たりにしているのはお前だけだ。ゴッドハンドは世宇子(ヤツら)のシュートに通用すると思うか?」

「……分からない。俺だって世宇子(ヤツら)の力の全てを把握しているわけじゃないからな。ただ、武方三兄弟のトライアングルZ。あのシュートよりはるかに強く恐ろしいことは確かだな」

 

 え?マジ?

 

「その恐ろしいシュートを止める自信がない。そういうことか」

「ああ。昨日は十六夜と壁山のフォローで何とか止められたし、いつも、十六夜の機転でシュートは止めれることが多い。でも、決勝戦は今までにないくらい激しいものとなる。今までのようなフォローばかり出来なくなるだろう」

「確かになぁ。今までは何とかなったが、今度の奴らばかりはオレがお前のフォローに徹することができないし、出来たとしても止められる保証はない」

 

 雷門の現状が重くのしかかる。

 

「このままじゃダメだ。キーパーとしても、キャプテンとしても」

「そういや、それは。おじいさんのノート。ゴッドハンドより強い技はないのか?」

 

 そういうとあるページを開いて出してくる円堂。相変わらず読めねぇ。

 

「ここだ。ゴッドハンドより凄いキーパー技。名付けてマジン・ザ・ハンド」

 

 おい、まさかマジンを出すとか言わないよな。

 

「ここ、ポイントって書いてあるんだ」

 

 そう言ってへたくそな人のモデルの1点を指す円堂。胸か心臓か。そこがポイントらしいが。

 

「他には書いてないのか?」

「いつもの擬音語オンパレードは?ねぇのか?」

「書いてない」

 

 最悪だ。と、ここで。

 

「キャプテン!」

 

 栗松を筆頭に練習組が入ってくる。

 

「早く練習来て下さいよー!」

「皆待ってますよ!」

「決勝戦までこの勢い。止めたくないんですよねー!」

「俺たち1年、絶対優勝するって誓ったでヤンスよ!」

「雷門中はもう誰にも止められないッス!」

 

 目金、風丸、染岡も入ってくる。円堂のほうを見ると、

 

「よし!やろうぜ!今さ、作戦会議やってたんだ!な!」

 

 オレらに同意を求められたので、うなずいておく。

 

「世宇子なんかぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「「「おーー!」」」

 

 そのまま部室を飛び出した。やれやれ、空元気だな。 

 

「円堂は壁にぶち当たったな」

「ああ」

「そうだな」

「誰でもレベルアップすればするほど大きな壁にぶつかる。乗り越え大きくなるか沈むか。……あの諦めの悪い奴がそんなに簡単に沈むとは思えないがな」

「俺たちでバックアップしていこうよ。皆でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。オレは豪炎寺と鬼道と一緒にいた。向かう先は鉄塔広場。そこには、タイヤを背負ってタイヤに飛ばされた円堂がいた。

 

「こんなことだと思ったぞ」

「それでマジン・ザ・ハンドがマスターできるのか?」

「無茶苦茶だな。相変わらず」

「とにかく俺にはこれしかないからさ」

 

 やれやれ。追い詰められてるからこそやってる……のか。

 

「手伝おう」

「本当!?」

「サッカー馬鹿になってみるか」

「世宇子に勝つ秘訣になるかもしれない」

「しゃあねぇな。付き合うか」

 

 円堂とオレたちの間に3つのタイヤを付けて揺らす。オレたちは交代でシュートを打ち円堂がそれを止める。シンプルだが、円堂側は、タイヤのせいで視界が悪いから難しいだろうな。

 

「来い!」

「でやぁ!」

「ふんっ!」

「おらぁ!」

 

 と、何本も打ってると、

 

「あれ?2人ともどうした?」

 

 雷門と木野の2人が円堂に駆け寄る。

 

「身体がボロボロになるわ!今すぐやめなさい!」

「まだまだ!諦めてたまるか!」

 

 はぁ。

 

「無駄だ」

「やめろと言ってやめる男か?」

「どうせ、続けんだろ?」

「おう!俺は絶対にマジン・ザ・ハンドをマスターして決勝戦を戦い抜くんだ!皆で優勝したいじゃないか」

 

 円堂は続けるようなのでこちらも蹴るのを再開する。そんな中、

 

「ファイアトルネード!」

 

 殺す気かこの人。豪炎寺の必殺シュートはタイヤを全て蹴散らし、円堂に直撃。

 

「…………こいつ生きてるか?」

「…………息はしているぞ」

「…………とりあえず無事だ」

「何やってんのよ!急いで運ぶわよ!」

 

 と、雷門先導の元、円堂を担いで雷雷軒へ。そこで氷を貰って冷やさせる。

 

「随分と無茶をしたもんだな」

「無茶じゃないよ特訓だよ」

 

 お前。全部特訓って言えばいいと思ってないか?

 で、監督によればマジン・ザ・ハンドは、監督自身にはマスターできなかった技らしい。って、そんなもんに挑戦してんのかよ。

 

 ガラッ

 

 すると店のドアが開く。客か?

 

「おいおいどうしたお揃いで」

「刑事さん!」

 

 鬼瓦刑事はやってきてそのままカウンター席に座る。定位置か?前もあそこ座ってたし。

 

「酷い格好だな」

「世宇子に勝つ為だ。なんでもないよ」

「威勢が良いのは結構だが。勝つことに執念を燃やし過ぎると影山みたいになるぞ」

「影山に?」

「……刑事さんは冬海先生に会ったそうよ」

 

 影山を追うために冬海に会った鬼瓦刑事。

 で、刑事が言うには、40年前のイナズマイレブンのバス事件から、ちょっと前の雷門と帝国の試合の鉄骨落下事件。あそこまでの不可解かつ影山の関わってそうな事件の全容を明らかにするには影山の過去を知ることが必要不可欠。

 で、肝心の影山の過去だが、影山の父親──影山東吾──は50年前、人気実力共にトップレベルのサッカープレイヤーだった。だが、円堂のおじいさん──円堂大介──の率いた若手の台頭により、日本代表から外され、試合でも負け、最後には失踪。影山の母親は病死で、独りとなってしまった。

 

「奴の中で家族を壊したサッカーへの憎しみと勝ちへの拘りに対する執念が膨れ上がっていったんだろう……」

「『勝つことが絶対。敗者に存在価値は無い』影山がよく言っていた言葉だ」

「その言葉の裏には、過去が関係している…………間違いなく影山自身の体験からその言葉は来ているな」

「勝つ為に沢山の人を苦しめてる。豪炎寺、お前もその1人」

「なに?」

 

 鬼瓦刑事の言葉に豪炎寺は反応した。当然だ。このタイミングで上がってくるとは思わなかっただろうから。

 

「……妹さんの事故も、奴が関係している可能性がある」

「「「え……!」」」

 

 ……なんとなく話に聞いてた時からそうではないかと思っていた。だって都合よく出来すぎている。木戸川清修と帝国の試合の日に豪炎寺の妹さんは事故で、豪炎寺本人は試合に出場してない。で、その試合は帝国の勝利。雷門イレブンを殺そうとした奴だ。それくらいの手、容易に使うだろう。

 豪炎寺は首からかけているペンダントを握り締めている。おそらく、その妹さんから貰ったものなのだろう。

 

「許せない……!どんな理由があってもサッカーを汚して良いわけがない!間違ってる!」

「……影山は今どこに?」

「分からん。しかし、冬海がおかしなことを言っていてな」

「おかしなことですか?」

 

 冬海の言ったのはこうだ。『プロジェクトZ』というものを知っているか。このフットボールフロンティアは『プロジェクトZ』によって支配されている。影山はサッカーから離れないし、離れられない。影山はまるで神であるかのように空から自分たちを嘲笑っている。

 

「……どうやら『プロジェクトZ』ってのと影山が空にいるというのは繋がってるらしい」

 

 それを聞いたオレたちは考え込む。

 プロジェクトZ……空。何のつながりがあるんだ?ダメだ。前から考えているがプロジェクトZのZ……最近だとZに関するものはトライアングルZくらいしか見てねぇ。

 と、ここで鬼瓦刑事は鬼道に質問する。

 

「些細なことでいい。帝国にいたお前には、空と聞いて何か思い当たるものはないか?」

「いえ、俺にはさっぱり……」

 

 結局、この話はそれでお開きとなった。影山との因縁は解けないみたいだ。いや、新たな因縁が発覚してしまったと言うべきか。




項目の順番は感想で早かった順です。特に他意はないです。


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決勝戦に向け ~おにぎり~

 練習は一層熱が入り始めた。

 決勝戦の相手は今までとは格が違う。円堂も新しい必殺技の練習に関して悩む中、今は自分たちのレベルアップも重要だ。

 

「円堂君たち必死ね……」

「あぁ。でも、何て言ったらいいんですか?私たちは見てるだけであそこに参加出来ないっていうか……」

「もどかしい?」

「そう!それですよ!」

「でもあそこまで無理しなくても……決勝戦で何があるか分からないし……」

「夏未さん、なんか皆に試合して欲しくないみたいですね……」

「そ、そんなことないわ!」

 

 決勝戦……まさか、世宇子中に影山は関わっているのか?

 

「じゃあ、気持ちよく練習してもらう為に……やりますか!」

「やりますか!」

「え?どういうこと?」

 

 と、何処かに消えていったマネージャーズはスルーしておいて、

 

「次、十六夜!」

「はいよ!」

 

 ま、今は練習だな。プロジェクトZに世宇子(Zeus)中。そこまで安直じゃないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆~」

「おにぎりが出来ました」

「「「おぉっ!」」」

 

 オレと鬼道以外の全員が我先にとマネージャーたちの元へと行く。

 

「俺、いっちばぁーん」

 

 おにぎりへと伸ばした手。しかし、

 

 パンッ!

 

「いって。何すんだよ……」

 

 その伸ばした円堂の手は雷門によって弾かれた。

 

「手を洗ってきなさい!」

「「「はぁーい」」」

 

 やれやれ、

 

「おにぎり~おにぎり~」

 

 円堂を先頭に手を洗いに向かう集団。そいつらと、オレ、鬼道と既に手を洗い終え、ハンカチで拭きながらゆったり歩く集団が合流する。

 1つ言おう。何でお前らオレたちを見て驚いてんだ?練習直後だし飯の前に手を洗うのは常識だろ?

 で、マネージャーズのチェックを受ける。許可が降りたが、

 

「まぁ、キャプテン(バカ)を待つか」

「そうだな」

 

 別にそういうルールがあるわけではないが…………ぶっちゃけ、先に食い始めてるとアイツらがうるせぇ。

 で、戻ってきた連中にも許可が降りる。

 

「「「いただきます!」」」

 

 一斉におにぎりを手に取り我先にと食べ始める。

 

「たく。そんなに急いで食ってたら喉に詰まるぞ」

「そんなべタなことがあるわけないだろ!」

 

 まぁ、急いで食ってる理由は壁山とかいう食うスピード、量においてモンスター級がいるからだ。早くしないと全部食われる。

 

「ははっ!これ変てこな形だなぁ。なぁ、十六夜」

「……お前、そっと後ろを見てみろ」 

「え?」

「私が握ったのよ?」

 

 円堂の後ろから仁王立ちする雷門。普通に怖いと思うよ。そんな中、円堂は笑って誤魔化そうとする。

 

「いや、えーっとまぁ形はどんなでも味は一緒だよな!」

 

 そう言って食べる円堂。すると何とも言い表し難い物凄い顔をする。

 

「しょ…………しょっぱい」

 

 なるほど。今まで塩の分量間違ってるんじゃね?と思ったのは雷門(お嬢様)の手作りか。でも円堂の奴。あんだけ食っといてそれに初めて当たったのだろうか?そうだとしたら凄いな。凄い強運。

 

「お塩つけ過ぎたかしら?」

「いや、練習で汗かいた分、塩分補給しないとな……」

 

 その後無理矢理飲み込む円堂。しかし、喉に詰まらせた。雷門が背中叩いて何とかしているが……はぁ、言ったのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからも練習の日々。そんな、ある日の日中。大き過ぎる出来事が起きてしまった。

 

「よし、来い!」

『ドラゴントルネード!』

『ツインブースト!』

 

 相変わらず無茶な特訓だ。マジン・ザ・ハンドを完成させるべく、染岡と豪炎寺のドラゴントルネードと鬼道と一之瀬のツインブーストを同時に止めようとしているのだから。この前3つのボールで同時のシュートを止められるわけがないとかなんとか言ってなかったか?

 で、2つのシュートが円堂の元へ辿り着く前に割って入る人影がいた。

 次の瞬間。2つのシュートはそれぞれ片手ずつ、軽く止められていた。

 

「…………は?」

 

 というか、アレ誰?

 

「すっげぇ!ツインブーストとドラゴントルネードを止めるなんて。お前すっげぇキーパーだな!」

「残念ながら私はキーパーではない。私のチームのキーパーはこの程度のシュート、指1本で止めてしまうだろうね」

 

 指1本で止めようとしたら突き指しそうだな。いや、折れるか。…………っと、そんな非現実的、非常識的な発言を我ら雷門中に対して言える存在。いや、言えるチームはオレは1つしか思い当たらない。

 

「キミの所属しているチームってのは、世宇子中学のことかい?」

「へぇ。よく分かったね。十六夜綾人君。じゃあ、私が誰か分かるかい」

 

 分かるか。アンタ誰だよ。

 

「世宇子のキャプテン。アフロディだ」

 

 …………えぇ?日本人?

 

「その通りだ。円堂守君。改めて自己紹介させてもらうよ。世宇子中のアフロディだ。君の事は十六夜君と合わせて影山総帥から聞いているよ」

「なるほど。世宇子中の背後には影山がいるわけね」

「やはりそうか」

「て、テメェ!宣戦布告に来やがったな!」

「宣戦布告?何を言ってるんだい?宣戦布告というのは戦うためにするもの。私は戦うつもりは無いよ」

 

 戦うつもりがない……ねぇ。

 

「私は忠告に来たんだ。戦わない方がいいってね。君たちが負けるからさ」

 

 へぇ。言ってくれるねぇ。

 

「神と人間が戦っても勝敗は見えている」

 

 うわぁ。自分のこと神とか言っちゃってるよ……うわぁ。イタイヤツだ。

 

「試合はやってみなくちゃ分からないぞ!」

「そうかな?林檎は木から落ちるだろう?世の中には抗えない事実というものがあるのさ。そこに居る鬼道有人君がよく知ってるよ」

「だが、帝国と雷門が同じとは限らねぇはずだぞ」

「同じさ。人間であるという共通点がある。だから練習もやめたまえ。神と人間との力の差は練習で埋められるものじゃないよ。無駄なことさ」

「うるさい!」

 

 あーあ。円堂が怒っちまったよ。まぁ、共感できるが。

 

「練習が無駄だなんて誰にも言わせない!」

 

 さすがキャプテ──

 

「練習はおにぎりだ!」

 

 ──ン?ん?んん?

 

「俺たちの血となり!肉となるんだ!」

 

 言いたいことはすげぇ分かる。すげぇ分かるんだが……

 

「あはは。上手いことを言うね。練習はおにぎりか」

 

 いや、この空気の中言うつもりはさらさらないが、練習がおにぎりというのはオレにはちょっと分からない。

 

「…………笑うとこじゃねぇぞ」

「しょうがないなぁ。それが無駄なことだって証明してあげるよ」

 

 持ってたボールを後方上空に蹴り上げる。そして、そこまで一瞬で移動。軽い感じで蹴って来た…………が。ボールは空中で凄まじい回転をし、赤い閃光を纏う。流石にこのシュートを邪魔する気はないが、なるほど。木戸川清修のあいつらのシュートがかわいく見えるレベルだわこれは。

 正面から受け止める円堂。が、円堂はゴールの中に吹き飛ばされ、ボールはゴールのバーを超え外に。

 

「「「円堂!」」」

 

 駆け寄る雷門イレブン。一瞬目が閉じていたが、目が覚めた円堂の見る先はアフロディ。集まった仲間によってアフロディが遮られたそのとき、

 

「どけよ!」

 

 およそ、普段からは考えられない怒気で声を発してどかせる円堂。

 

「来いよ!もう一発!」

 

 鬼道が後ろから抑えようとするも振り払われる。あまりのことに誰も円堂を止められない。まったく。オレはあえてアフロディと円堂の間に立つ。

 

「……どけよ」

「落ち着けよ。バカ」

「これが落ち着いていられるか!」

「…………落ち着けって言ってんだろうが。何、心配してる仲間に向かって八つ当たりしてんだテメェは。怒りをぶつける相手がちげぇだろうが」

 

 オレは円堂の肩を軽く押す。すると、円堂は尻もちをついて、立てない。

 

「その足の震えで、もう1発打たれて止めれるのかテメェは。すっこんでろ」

 

 オレはアフロディの方と向き合う。

 

「悪いねぇ……()()神様。ただ、さっきのは本気じゃねぇってのは誰でも分かる。どうだろう。…………テメェが本気で打ってそれをオレが止めるってのは。わりぃが、こっちもバカにされてる手前…………ちょっとムカついてんだわ」

「あはは!神のシュートを止めた円堂守もだが、今のを見て尚挑もうとする十六夜綾人。君たちは面白い。君との勝負は決勝戦でつけてあげるよ。決勝が少し楽しみになってきた」

 

 そしてそのまま消えるアフロディ。

 

「何なんだアイツは」

「世宇子中はあんなのばっかだ」

 

 えぇ……あんなイタイ奴らばっかなの?

 

「決勝戦。とんでもないことになりそうだ」

「てか、面倒なことになったなぁ」

 

 あーあ。…………ただ、今のままじゃ足りないか。やっぱりもっと強く……か。

 

「悪かったな。十六夜。皆もごめん」

「やっと戻ったかバーカ」

「でも、今のシュートで新しい必殺技が見えた気がする」

 

 え?マジ?

 

「やれるよ俺たち」

 

 どこが?

 

「いや、今のお前たちじゃ、絶対に不可能だ」

 

 現れた響木監督がそう告げた。ですよねー。



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決勝戦に向け ~合宿~

今回の番外編のオーガは他作者様のイナズマイレブンのオリ主を借りさせていただく形にします(もし、原作キャラがよかった人はごめんなさい。まぁ、IF話として書こうと思えば書けますが、今回このような形で)
それに当たり、後一人、他作者様のイナズマイレブンのオリ主をお借りできればと考えておりましたが、貸していただけるということで締め切らせていただきます。
本編は世宇子へ行くので心配なさらず(いや、むしろこの流れでどうやったらオーガに行くんでしょうね)


「「「合宿?」」」

 

 イナビカリ修練場にて練習するオレたちに告げられた合宿宣言。

 

「ああ。学校に泊まって皆で飯でも作ってな」

「許可は私が取っておきました」

 

 それを聞いて1年生たちは喜ぶ。なるほど。面白そうだな。

 しかし、ここで円堂が否定的な意見を出す。

 

「待ってください監督。飯でも作るって、そんな呑気なこと言ってる場合じゃ……世宇子との試合は明後日なんですよ?それまでにマジン・ザ・ハンドを完成させないと……」

「完成させないと、なんだ?何かあるのか?」

「そうしないと、シュートが止められないし、試合にも……」

「はぁああああ。めんどくせぁなぁ最近のお前は。事あるごとにマジン・ザ・ハンド、マジン・ザ・ハンドって。1回その凝り固まった頭をリセットしろ。根を詰めても簡単にできねぇことくらいオレでも分かる。だから、1回リラックスしてみろ。リセットしてスッキリしたら、何かいいアイデアが浮かぶかもしれねぇだろ?それに、合宿なんていいじゃないか?楽しくわいわいやれば。いい思い出になるぞ。きっとな」 

 

 1度味を占めると溺れる感覚。

 必殺技ってのは確かにすげぇが、そのせいでいざ通用しなくなった時にここまで堕ちてしまう。あの円堂までもが堕ちるのか。それとも、円堂が必殺技なしじゃ何もできねぇ奴だったのか…………あーあ。今のコイツからは木戸川清修まで付いてきた円堂守と同一人物じゃない気がしてならない。一体、誰だお前は。

 

「…………」

「決まりのようね」

「皆用意して5時に集合だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦家に帰り、さっさと準備して学校に向かう。体育館では先生たちが布団を敷いていた。

 

「十六夜君か。早かったな」

 

 見たとこ一番乗りか。まぁ、当然か。

 

「はい。あの響木監督はどちらに?」

「多分、菅田先生のほうに」

「ありがとうございます」

 

 鞄をとりあえず、端のほうの布団の上にのせて出ていく。えーっと。

 

「あ、響木監督」

「十六夜か。早いな」

「まぁ、家にいてもやることありませんしね」

 

 とりあえず、八神のほうは今日はなしの方向で大丈夫だ。連絡済みだ。

 

「でも、合宿なんていい響きですね」

「まぁ、この合宿が何かきっかけとなればいいが」

「アイツなら大丈夫ですよ。きっと」

 

 さて、自分の布団のところに行って、アイマスクを付けて。

 

「おやすみなさい」

 

 皆が来るまで寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円堂は驚いていた。体育館に着くと目の前には綺麗に人数分並べられた布団が。

 

「皆、やめなさいよ!」

 

 木野の注意する声が響く。

 注意した先では、壁山、少林寺、栗松、音無の4人が絶賛枕投げ中だった。そして、流れ()が染岡に直撃。怒り心頭の染岡が1年生組を追い回していた。

 

「宍戸、お前枕なんか持ってきたのか?」

「俺、これがないと眠れないんです。ほら!触ってみて下さいよ!最近流行りの低反発枕!」

 

 宍戸は宍戸でMY枕を持参し、半田と喋っていたり、マックスは影野に寝るときの限定品のキャップを見せたり、目金は自分の枕元にフィギュアを並べたり、極め付けは……

 

「…………スー……」

 

 もうアイマスクを装着し、既に寝ていて、『夕食ができたら起こしてください』と丁寧に枕元にメモ用紙をおく奴がいたりと、

 

「お前ら何しに来たんだ……」

 

 今回ばかしは円堂の言い分も正しい。円堂はあきれながら十六夜を起こすのだった。

 

 

 

 

 

 そして迎えた夕食作り。合宿というのはいろいろある。夕食づくりでは皆がどれだけ料理ができるかが一目でわかる。豪炎寺は上手かったり、少林寺は注文が細かかったり、鬼道のゴーグルをつけると目が染みなかったり。いろいろと、

 

「くそ、どうすりゃいいんだよ!」

 

 ただ1人。円堂は秘伝書とにらめっこをしていた。

 

「おいこら円堂!何キャプテンが夕飯づくりをサボってんだ!」

 

 声を出したのは十六夜。円堂に夕食ができてないのに起こされて不満なのである。ただ、怒りながらも夕食を手際よくかつ丁寧に作っていくのだった。

 

 

 

 

 と、なんやかんやある中で、壁山が半田の背中をつっついていた。

 

「何だよさっきから」

「だから、トイレ……」

「トイレ?だったら行けばいいだろ?」

「ひ、1人でですかぁ……?」

 

 壁山の言い分だとお化けが怖いからついてきてほしいらしい。で、結局、

 

「なんでオレも……」

 

 壁山、影野、何故か十六夜という3人で壁山のトイレに行くことにしたのだ。そして、

 

「出たッス~!ででででででで出たぁああああッスよぉおおおおおおおおお!」

 

 壁山がダッシュで円堂たちのところに帰ってきた。

 

「おおおおお化けが、ささ、3組の教室に……」

「確かに誰かいた」

 

 と、壁山の背後から出てきたのは影野。どうやら、3組でお化け、あるいは人影を見たそうだ。

 

「誰か大人の人が」

 

 しかし、大人は全員この場にいる。と、ここで半田が影山の手下じゃないか?と言い出す。

 

「あ、あれ……?」

 

 そんな話の最中、壁山が声を出す。

 

「どうした?壁山」

「い、いや、十六夜さんが……」

「十六夜がどうかしたのか?」

「一緒に来ていたはずなのに消えた」

「「「えぇぇぇっ!?」」」

 

 あまりの発言に驚きを隠せない一同。

 

「どういうことだ!?」

「まさか、十六夜が捕まったのか!?」

「よ、よぉし!十六夜救出作戦!行くぞぉ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 お化けの正体を見破る。ではなく、十六夜救出に目的が変わった一同。しかし、

 

「あれ?雷門。それに監督。壁山と目金以外のアイツらは?」

「何してたのよ!」

 

 いや、壁山に着いていってトイレに行っただけですが。と内心で思う十六夜なのだ。

 

「皆、貴方を捜しに行ったのよ!」

「わぁーお」

 

 つまり、捜索隊の誰ともすれ違わず普通に帰ってきたのだ。

 

「で、3組に誰がいたんだ?」

「あービルダーさんですよ。伝説のイナズマイレブンの」

「ビルダーが?」

「はい。何でも合宿だからって。で、どうしてアイツらが?」

「影山の手下じゃないかって。それに十六夜君が捕まったんじゃないかって」

 

 恐ろしく見当違いにも程があるって、思いながら肩を竦める十六夜。

 

「で、別件なのだけども……火を見ててくれないかしら」

「あーカレーを焦がさないようにね。りょーかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからビルダーさん筆頭にイナズマイレブンが来て、マジン・ザ・ハンド養成マシーンというのを貸してくれた。曰く重要なポイントを身に着けるためのものらしいが、

 

「か、かてぇ」

 

 錆びついていてハンドルが回らない所からスタートした。

 で、みんなの協力で何とか動かし、円堂は仲間の大切さに気付きながらクリアすることができた。そしてステップ2として、

 

「何でオレがここにいるのだろう」

 

 オレ、鬼道、豪炎寺の3人が、ボールを持ってゴール前に立つ円堂と向かい合っていた。

 

「よし、イナズマブレイクだ」

 

 …………へ?

 

「行くぞ!」

「おう!」

「お、おう?」

 

 あの時の円堂の見よう見まねでやったら、

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 何かこっちはでき、円堂も全身からオーラが出てる……が。円堂は吹き飛ばされた。

 

「もう1度!」

 

 と、何発か打ち、イナズマブレイクの精度は上がっていったが、

 

「くっそぉ!何でできないんだよ!」

 

 円堂の方は出来なかった。

 

「監督」

「ああ。何か、根本的な何かが欠けている……」

 

 根本的な……うーん。円堂が全身から発してたあのオーラ。あれを1点から出すことができれば変わる気がする……が。

 

「やはり、マジン・ザ・ハンドは大介さんにしか出来ない幻の必殺技なのか?」

 

 幻……か。そのことに暗くなる雷門イレブンやイナズマイレブンの人たち。

 

「ちょっと皆どうしたのよ!負けたみたいな空気出して!まだ試合は始まっていないでしょう?」

「でも!相手のシュートが止められないんじゃ……」

「なら、点を取ればいいのよ!10点取られたら11点。100点取られたら101点。そうすれば勝てるじゃない!」

 

 ……無茶苦茶だが、確かにその通りだ。最後に取った得点が、取られた得点を上回っていればいいんだから。

 

「木野先輩の言う通りですよ!点を取ればいいんですよ!」

 

 音無と木野の意見。あぁ、簡単なことを忘れていたな。守ってるだけじゃどのみち勝てねぇ。点を取らないとな。

 

「よぉーし!行くぞぉ!俺たちの底力!見せてやろうぜ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 負けたわけじゃねぇ。マネージャーたちの……円堂の言葉で皆の目に灯がともった。そうだ。それが円堂守だよ。




主人公習得技

イナズマブレイク
シュート技
パートナー 円堂、豪炎寺、鬼道から2人
対して練習してないのに監督の無茶ぶりで出来た技。
流石に鬼道のポジションではまだ出来ない。


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VS世宇子 ~円堂と影山の因縁~

 合宿も終え、ついに決勝戦は明日に控えたその夜。

 

「今日のメニューも終わりだな」

「だな」

 

 木戸川清修の後から特訓を少しハードにしてもらった。だからと言って今までのように奴らのシュートを止めれる保証もなければ、ドリブルを止められる保証はない。

 

「十六夜。明日が試合本番だ。しっかり、疲れを残すなよ」

 

 ストレッチをしながら話を聞いてる。

 

「今のお前は出会ったころに比べれば見違える程力をつけてる」

「お前のお陰だよ。八神」

「決勝戦。私は雷門に勝ってほしいとは思わない」

「へぇ。というか、今までもだろ」

「何だ。気付いていたのか」

 

 八神は決して雷門の応援の為に、今までほぼ全試合を見に来たわけではない。何というか、実力を見定めてるようには見えたが、まぁ気のせいだろう。1番の目的は、

 

「オレがどういうプレーをするかを見に……だろ?」

「ああ。例え雷門が負けたとしてもお前のプレーが良ければいい。逆もだ。勝てても腑抜けていれば見限ることも視野に入れてた」

「はは。そりゃ厳しいことで」

 

 なるほど。オレは見限られてた可能性もあったわけか。

 

「私は知ってる。お前の強さも弱さも。世宇子というのがどれ程の強さか知らんが、そこに負けるような特訓をさせたつもりはないし、お前なら負けない」

「わぁお。お墨付きを貰ったかな」

 

 すると、オレの左胸に拳を当ててくる八神。

 

「正直に言おう。お前は最初はただの面白いプレイヤーだった。それ以上でもそれ以下でもない。だが今は違う」

 

 そして、好戦的な笑みを浮かべる。

 

「少なくとも私の足元には及ぶ存在となった。この短期間での成長スピードは驚いてる」

「やれやれ。でも、まだ足元か……」

 

 オレも応えるように好戦的な笑みを浮かべる。

 

「世宇子ぶっ倒したら、八神。次はお前を超えてやる。楽しみにしてな」

 

 直観だがあのアフロディより、八神が本気を出した方が強い気がする。いつか。コイツの本気より強くなってやる。覚悟しな。

 

「やはり、お前は私の認めるサッカープレイヤーだ。なら、決勝戦(前哨戦)くらいは勝てよ?」

「上等。オレは雷門の強さを知ってる。オレたちは負けない。勝ってやる」

 

 ただの応援……というか若干上からの応援。だが、こっちの方がオレをやる気にさせてくれる。世宇子に勝てなきゃ八神に勝てねぇ。そんな気しかしねぇ。

 

「そうだ。決勝戦の後。会わないか?」

 

 会う?まぁ、断る理由がないか。

 

「構わねぇよ」

「じゃあ、明日の夜。いつも通りの時間な。日中は流石に厳しいだろ?」

「まぁな。じゃあ帰るわ」

「…………頑張れよ」

「おう」

 

 オレは1人去っていく。

 

「…………十六夜綾人。お前は私たちの敵として立ちはだかるか、それとも……」

 

 最後の八神の呟きは、オレには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フットボールフロンティアの会場についた雷門中サッカー部。しかし、閉鎖の2文字があり、会場内には柵のせいで入れない。

 

「誰もいないぞ」

「どうなってんだ」

 

 人の気配はしない……と思っていると雷門の携帯電話の着信音が流れる。

 

「はい。そうです。…………え?どういうことですか?…………でも今更そんな!……はい。分かりました」

「誰からだ?」

「大会本部から」

「まさか、試合会場の変更か?」

「そのまさかよ。急遽、決勝戦の会場が変わったって」

「変わったってどこへ」

「それが」

 

 そう言って見上げる雷門。釣られてオレたちも見上げると、

 

「何だあれ!?」

 

 いや、本当に何だよアレ。何か浮いてるというか飛んでるというか。

 

「まさか、決勝戦のスタジアムというのは」

「え。あそこが?」

「マジで……?」

 

 その後決勝戦……この試合の実行委員によって空飛ぶスタジアム。正式名称ゼウススタジアムに連れてこられたオレたち雷門サッカー部。中に入って、改めてそのスタジアムの凄まじさに絶句する。

 影山の圧力……か。ここまで影響力があったのだと思うと恐ろしくもあり、少し疑問に残る。というか、何でわざわざ試合会場を変更したんだ?……と、ここで円堂がスタジアムを見下ろす影山を発見した。

 

「影山!」

 

 豪炎寺と鬼道を始めとした面々が影山を睨む。

 

「円堂、話がある」

「は、はい」

 

 ここで響木監督が円堂に声を掛け、その場で全員聞こえるように話を始める。

 

「大介さん……お前のおじいさんの死には影山が関わっているかもしれない」

 

 皆一様に驚きを示したが、オレとしては刑事さんから話を聞いた時に、薄々感じ取ったことだ。だって、影山が円堂のおじいさんを怨まないわけがない。円堂のおじいさん率いる世代がいなければ影山のお父さんは消えなかっただろうから。 

 

「じいちゃんが……影山に?」

「ああ」

 

 円堂の呼吸が荒くなり、拳を強く握りこむ。唇を噛み締めながらも、何とか自分を取り戻そうとする。そんな中、豪炎寺が円堂の肩に手を置く。

 そう。豪炎寺もまた影山の被害者なのだ。

 それを思ってか円堂は深呼吸をする。

 

「円堂君」

「……円堂君」

「「「円堂!」」」

「「「キャプテン!」」」

「……円堂」

 

 仲間(オレ)たちの声で落ち着きを取り戻した円堂。そして、円堂は響木監督に向き直る。

 

「監督、皆……こんなに俺を思ってくれる仲間、皆に会えたのはサッカーのおかげなんだ。影山は憎い!だけどそんな気持ちでプレーしたくない。サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする。1つのボールに皆の気持ちをぶつける最高のスポーツなんだ!だからこの試合も俺はいつもの……俺たちのサッカーをする!皆と優勝を目指す!サッカーが好きだから!」

 

 その言葉に皆頷く。

 

「らしいな。円堂……だが、それでこそお前だ」

「十六夜……ああ。俺は俺らしくやるだけだ」

「さぁ、試合の準備だ!」

「「「はい!」」」

 

 響木監督の声に返事をして、オレたちは控え室に向かうのだった。



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VS世宇子 ~圧倒的な差~

 控室でユニフォームに着替える。そして、フィールドに出ていくと超満員の観客が。え?あなたたち会場が当日になって急に変更になったのによく対応できたね。オレはそこに驚きなんだが。

 

『雷門中、40年振りの出場で決勝まで登り詰めてきたぁ!果たしてフットボールフロンティアの優勝をもぎ取ることが出来るのでしょうかぁ!?』

 

 ベンチに集まるオレたち雷門サッカー部。

 

「いよいよ始まるんだな!決勝が!皆とこの場所に立てて、信じられないくらいに嬉しいよ!俺、このメンバーでサッカーをしてきて本当に良かった!皆が俺の力になるんだ!」

「良いこと言うじゃん。円堂」

「さぁアップだ!行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 と、グラウンドに入ると一陣の風が、

 

『この大会最も注目を集めている世宇子イレブンだ!決勝戦まで圧倒的な力で勝ち進んできた大本命!その力を決勝戦においても見せつけるのかぁ!?』

 

 そしてアップも終わり、円陣を組むオレたち。

 

「いいか!全力でぶつかれば何とかなる!勝とうぜ!」

「「「おぉぉっ!」」」

 

 そんな中世宇子中学に運ばれてくる11個のコップ。その中身はドリンクか。

 

「僕たちの勝利に!」

「「「勝利に!」」」

 

 うわぁ。なんか一斉に同じの飲んでるけど、仲いいなぁ。

 で、整列してポジションに付く……まぁ、木戸川清修の時と同じなんですけどね。

 

 ピ──

 

『さぁ、今世宇子ボールで試合が始まった!』

 

 まずはアフロディにボールが渡る……が、

 

「動かない!?」

「舐めんな!」

「君たちの力は分かっている。僕には通用しないということもね。ヘブンズタイム!」

 

 指を鳴らした次の瞬間。アフロディはボールを奪いに行った豪炎寺、染岡の二人の後ろに居た。…………は?

 

「消えた!?」

「いつの間に!」

 

 そして、豪炎寺、染岡の居た場所に突風が起き、2人は吹き飛ばされてしまった。……はぁ?

 アフロディはまるで何でもない道を歩くかのように、ゆっくりとボールを雷門陣内に進めていく。見ると、敵チームは誰もフォローに動いていない。

 

「見えなかった」

「なんて速さだ」

 

 続いて鬼道、一之瀬の2人がボールを奪いに行くが、

 

「ヘブンズタイム」

 

 指を鳴らした次の瞬間には既に2人の後ろに…………は?

 

「僕たちは……人間を超越した存在なんだ」

 

 そして吹き飛ばされる鬼道と一之瀬。続いて土門、壁山、オレの前に現れるアフロディ。

 

「怯えるのも、この技を攻略する方法を見出せないのも恥じる必要はない。自分より上の者を眼にした時には」

 

 3度鳴らされる指。振り返るとそこには、

 

「当然のことなのだから」

 

 アフロディが居た。それを認識すると同時に吹き荒れる風。成すすべもなく飛ばされてしまう。

 

「「「ぐあああああ!」」」

 

 地面に打ち付けられた……が。マジでなんなんだ……あのヘブンズタイム。一切攻略の糸口が掴めねぇ。もう2回も見て1回体験したのにだ。

 

「来い!全力で止めてみせる!」 

「……天使の羽ばたきを聞いたことはあるかい?」

 

 神の次は天使かよ……と思っていると、アフロディの背中から6枚の白い翼が生え上昇。

 

「ゴッドノウズ!これが神の力!」

 

 純白なパワーの溜まってるボールがゴールへ突き進む……なんなんだあの技。アフロディの翼問題からツッコミ問題が始まるが、威力が今まで見たシュートの中でかなり高レベルだ。……というか本当にあの翼なんだよ!本物!?それとも偽物!?どちらにせよ人間やめてんじゃ……あ、コイツら自称神だったわ。くそ、ここまで来ちまったのか……

 

「ゴッドハンド!」

「本当の神はどちらかな?」

 

 一瞬拮抗したかと思うと次の瞬間にはゴッドハンドは砕け散り、円堂ごとゴールに刺さる。

 

『世宇子中先制!恐るべきゴッドノウズの威力だぁ!』

 

 ゴッドハンドが全く通じねぇ……が、それ以上にやべぇのは現時点でアフロディを止める手が見えねぇことだ。

 

『なんということだ世宇子中キャプテンアフロディ!雷門中に全くボールを触らせることなく先制!これが神の領域のプレーかぁ!?』

 

 円堂に駆け寄るオレたち。だが、円堂の右手はこのシュート1発で既にボロボロになっていた。

 

「すげぇシュートだった……でも、次は止める!」

「よしその意気だ!」

「次はこっちの攻撃だ!」

「点を取るぞ!」

「「「おぉ!」」」

 

 試合再開。ボールは染岡と豪炎寺が運ぶ……が。世宇子イレブンは一切動かない。

 

『ドラゴントルネード!』

 

 こちらのシュートに対し、

 

「ツナミウォール!」

「待てやこらぁ!」

 

 相手キーパーポセイドンが両手を地につけるだけで大量の水がグラウンドから出てきて壁となり、完全にボールの威力を殺した。

 ってちげぇよ!どっからその水を出したんだよ!何だ!?ここの地下には巨大な貯水タンクでもあんのか!?にしても芝が一切濡れてねぇのはどういう了見だおい!意味不明だろこいつらの使う必殺技!

 するとポセイドンは優しく豪炎寺の足下にボールを送る。そして右手人差し指でくいくいっと挑発してる。

 

『おーっと!ポセイドン!雷門にボールを渡して打ってこいと挑発!』

 

 豪炎寺から鬼道に渡し、鬼道は地面からペンギンを呼び出す。これは、

 

『皇帝ペンギン2号!』

 

 鬼道、豪炎寺、一之瀬による必殺シュート。

 

「ツナミウォール!」

 

 これもペンギンを弾き飛ばし、簡単に止めてしまった……は?だからそのツナミどっから出したし?この技を砂漠で使えば水不足解決じゃね?

 続いてボールは一之瀬へ。野郎。こちらのシュートが効かないアピールをして、オレらの士気を下げるつもりか?

 

「円堂!行ってこい!」

「おう!」

 

 円堂、一之瀬、土門の3人がトップスピードで走り一点で交わる。

 

『ザ・フェニックス!』

「ギガントウォール!」

「ふざけんなよおい!?」

 

()()()()()ポセイドンがシュートの上からこぶしを打ち付け、地面にめり込ませて止める。

 テメェ巨大化ってどうやったんだよ!今のは幻覚じゃねぇぞ!明らかにゴールよりでかくなってただろお前!おかしいだろテメェ!ビッ〇ライトか!?何処かに近未来の青ダヌキがいるのか!?

 

「これじゃウォーミングアップにもならないな」

「俺たちの必殺技がどれも通用しない!?」

 

 今度こそボールは敵陣。被り物を付けた、デメテル……だったか?

 

「ゴールには近づかせない!」

「俺たち皆で守るでヤンス!」

「キャプテンの元へは行かせないッス!」

 

 風丸、栗松、壁山の3人が向かう……が。

 

「ダッシュストーム!」

 

 デメテルの風によって吹き飛ばされる。……なんだよそれ。竜巻って言っても強すぎる。

 

「はぁああああああ!」

 

 すると、いくつかの岩が宙に浮いた……ん!?浮いたぁ!?ていうか岩なんて置いてなかったから地面から抉り取ったのか!?どうやってだよ!念力か!?超能力者か!?

 

「リフレクトバスター!」

 

 デメテルの打ったシュートは浮いてる岩に次々と当たり、当たる度に威力を高めてゆく。上右左下……

 

「しまった!?」

 

 軌道を計算する前にゴールに向かい始め、オレの横を通過したボール。

 

「ゴッドハンド!」

 

 円堂のゴッドハンドは再び一瞬で破れた。

 

『ゴール!世宇子追加点!これも物凄いシュートだぁ!』

 

 しかし、ここでダッシュストームで飛ばされた栗松が怪我をし試合続行不能に。少林と交代したが……前半10分。スコアは0対2。逆転の糸口は…………全くつかめていない。というか……ツッコミ過ぎて倒れそう……



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VS世宇子 ~傷付く仲間たち~

遂にお気に入り数が4ケタ突入しました……!
日刊ランキングにも乗ってたしここまで大きくなるとは……皆様の支えのおかげですね。
これからも応援よろしくお願いします。


 雷門ボールで試合再開。が、今度は世宇子のディフェンス陣に阻まれシュートまで行けない。そしてボールは再びデメテルへ。

 

「クソ止めてやる!」

「全員サッカー!」

「それが僕たちのサッカーだ!」

 

 オレ、マックス、少林がカットに向かうも、

 

「ダッシュストーム!」

「「「うわぁぁああああ!」」」

 

 吹き荒れる暴風の前にオレたちは成す術もなく飛ばされてしまう。クソ予想以上の強さ……!見てるのと体験するのは違うか……!そして、ボールはヘラに、

 

「ディバインアロー!」

 

 ボールを空中に上げたかと思うと目に見えないスピードで何度も蹴りつけ、最後は回し蹴り。……マジかよ。目に見えないスピードって……ただ、前の2つに比べたらマシか?いや、マシと言っていいのか?

 

「爆裂パンチ!」

 

 が、それも虚しく、

 

『ゴール!世宇子連続得点!あっという間に3点目だぁ!』

 

 円堂ごと、ゴールにぶち込まれた。立ち上がって策を練ろうとする……だが。

 

「おい!少林!マックス!」

 

 少林とマックスが倒れたまま動かない。結論から言うと、負傷により、半田と宍戸と交代になった。

 

「これ以上好き勝手させっかよ!」

「まずは1点取り返すぞ!」

 

 雷門ボールで試合再開。染岡と半田がドリブルで上がっていく。

 

「メガクエイク!」

「「「うわぁああああ!」」」

 

 向こうのディフェンダーディオがジャンプして着地すると、地面にヒビが入りどんどん盛り上がって、染岡、半田、ボールを吹き飛ばした。ボールはコートの外へ。

 おい待てや!何でそんなことになるんだよ!どうしたらそんなことがジャンプしただけで出来るんだよ!ふざけんな!というか、次の瞬間には何事もなかったかのようにグラウンドが元に戻ってるのは何でぇ!?

 

『おーっと!?フォワードの染岡!ミットフィルダーの半田も負傷か!?』

 

 交代枠はあと2枠。だが、片方は……

 

「僕も行きます!僕も雷門の一員だ!」

「目金……!」

 

 目金がフォワード。影野がDFに入る。今まで以上に目まぐるしい試合展開だ。

 

『これで雷門。交代枠を全て使い切りました!』

 

 おまけにベンチは全員負傷退場の仲間たち。もう交代出来る余裕がない。

 スローインで試合再開。ボールは前線に立つ目金……だが。

 

「メガクエイク」

 

 マークについていたディオのメガクエイクの前に無情にも吹き飛ばされてしまった。

 入ったばかりの目金が退場してしまい。現在の雷門ポジショニングは、

 

 

 FW 豪炎寺

 

 MF 風丸 鬼道 一之瀬 宍戸

 

 DF 影野 壁山 十六夜 土門

 

 GK 円堂

 

 

 10人でなおかつ豪炎寺のワントップ。得点力が下がってしまったが、

 

「ヘブンズタイム!」

「「「うわぁああああああ!」」」

 

 ヘブンズタイムの前にフィールドにいた円堂以外全員倒されてしまった。そして、円堂もアフロディのシュートを顔面に喰らって倒れてしまう。

 

「まだ続けるかい?続けるよね。では、質問を変えよう。チームメイトが傷付く様子をまだ見たいのかい?」

 

 野郎……!

 

「続けるか棄権か。君が決めるといい」

 

 しかし、あのバカは迷ってやがる。

 

「立てよ。円堂」

「十六夜……?」

「そうだ。何を迷ってる円堂」

「豪炎寺……」

「俺は戦う。そう誓ったんだ」

「一丁前に人の心配してんじゃねーよ。バーカ」

「豪炎寺と十六夜の言う通りだ。俺たちを思ってだとしたら大間違いだぜ!」

「最後まで諦めない。それを教えてくれたのはお前だろ!」

「俺が好きになったお前のサッカーを見せてくれ!」

「「「円堂!」」」

 

 オレたちは戦う。円堂。お前が諦めない限りな。

 

「なんてバカなんだ…………俺は。仲間を理由に諦めようとしていたのは俺だ!」

「立てるか?」

「ああ。信じてくれる仲間がいる限り。俺は何度でも立ち上がる!」

 

 立ち上がる円堂。たく。諦めるなんて選択肢用意されてねぇだろうが。

 そこから雷門にボールが渡った。豪炎寺が鬼道、一之瀬と共に攻め上がる。

 

「ディフェンスは攻撃陣を徹底的にねらえ!」

「メガクエイク!」

 

 ボールは弾かれ、デメテルへ。

 

「オフェンスは守備陣を」

「ダッシュストーム!」

 

 くそっ。まだ見えねぇのか突破口は!

 

「「「うわぁあああああああああ!」」」

「キーパーは重点的に」

「ディバインアロー!」

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 未完成なマジン・ザ・ハンドはボールを跳ね返したのはいいものの円堂は尻もちをついてしまう。

 

「跳ね返りの角度も予想通り」

「やはりあの技は習得できていないようだ」

 

 情報が漏れてた……か。

 

「こんな奴らにどうやったら勝てるか分からない。分かっていることは、絶対に諦めないことだけ」

 

 立ち上がる円堂にシュートをぶつけるアフロディ。ボールは跳ね返ってデメテルに行き、アフロディにパスが渡る。

 

「まだ立ち上がるか。面白い。君がどこまで耐えられるか。試したくなったよ」

 

 と、ここで。

 

『おーっとアフロディいきなりボールを外に蹴り出した!ミスキックではない。意図的に蹴り出したのか?』

 

 アフロディがボールを外に出し、世宇子中全員がベンチに向かう。

 

『なんと世宇子中余裕の水分補給だ』

 

 ……妙じゃないか?確かに水分補給は大切だ。だが、何で全員同時に、しかも時間を計ったかのようにやってるんだ?

 しかし、水分補給の直後、

 

「ヘブンズタイム!」

 

 辛うじて立ち上がった面子はアフロディのヘブンズタイムに吹き飛ばされ、円堂が人間サンドバック状態になる。そして、円堂までも倒れてしまった。

 

「限界だね。主審、ホイッスルを」

「試合続行不可能ということでこの試合。世宇子中の」

「まだだ……!」

「ああ、まだ……終わってねぇ!」

 

 オレと円堂が立ち上がる。

 

「しかし、君たち2人だけでは」

「そいつらだけじゃない」

「そうだ!」

「まだまだ戦える!」

 

 豪炎寺、鬼道、一之瀬を始めとし、続々と立ち上がる雷門。これには主審も試合続行を認めるしかない。

 

「どうした?その顔は。信じられないものでも見たか?」

 

 オレはアフロディと円堂の間に立ち、アフロディに話しかける。

 

「円堂は何度でも何度でも立ち上がる。倒れる度に強くなる。お前は円堂の強さには敵わない!」

「では、試してみよう……」

 

 背中から6枚の純白の羽。……まずいな。

 

 ピー

 

『ボロボロだけど大丈夫?ご主人様』

「ああ。空へ。頼む」

『りょーかい』

 

 アフロディが空へ飛翔すると同時にオレもペラーに乗って飛び立つ。

 

「ゴッドノウズ!」

「止めてやるよ!」

 

 ペラーから跳躍し、アフロディと同時に蹴り合う。衝撃波が辺り一帯に起きたが関係ない。

 

「君とは勝負する約束だったね!」

「覚えていたのかよ!」

 

 お互いに一層力を込めようとしたその刹那、

 

 ピ、ピ──

 

 鳴り響く笛の音。前半終了のホイッスルが聞こえてくると同時に、オレとアフロディは蹴る力を徐々に弱め、ゼロにし、地に降り立つ。

 

『ここで前半終了だぁ!アフロディと十六夜の蹴り合いは時間切れで決着つかず!』

「命拾いしたね」

「お前がな」

 

 オレは円堂を支えながらベンチに帰っていくのだった。



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VS世宇子 ~反撃の狼煙!~

 ハーフタイム中。ベンチに座り込むオレたちに雷門お嬢様が告げてくる。

 

「神のアクア!?」

「えぇ」

 

 神の水?…………ああ、聖水のことか?でも、サッカーに聖水?んん?

 

「神のアクアが世宇子の力の源よ!」

「体力増強のドリンク!」

 

 え、何で鬼道その名を聞いただけで分かったの?え?一般的に流通されてるの?というか聖水じゃないし。

 

「許せない。俺たちの大好きなサッカーをどこまで汚せば気が済むんだ!」

 

 まぁ、要はドーピングだろ。しかも、神のアクアっていう名で飲んでるからアフロディたちは自分たちを神だと名乗ってると。……蓋を開ければくだらねぇが……奴らは増強されたに過ぎない。

 なら、いい。無敵でないなら勝ち目はある。中学全国大会でドーピングはやり過ぎだろうがんなのオレたちが勝てば関係ねぇ。

 

「円堂君……」

 

 雷門が円堂に声を掛ける。心配するような雷門に円堂は堂々と答える。

 

「俺はやれる。やらなきゃならない。俺たちは世宇子のサッカーが間違ってることを示さないといけないんだ」

「なんだよその使命……まぁ、いいけど。それを果たすってことは勝つことだぞ」

「何を言ってんだ十六夜。最後まで諦めないで勝ちに行くに決まってるじゃないか!」

「聞いただけだよ。ま、予想通りの答えが帰ってきて安心した」

 

 皆も勝つことを諦めてねぇ。それでこそ、オレたち雷門だ。

 

「よし!行ってこい!」

「「「はい!」」」

 

 オレはフィールドに立つがてら現時点での向こうの必殺技の対抗策を考える。

 キーパーは知らん。両方ともゴール全域をカバー出来る以上、アレを打ち破るだけのパワーでゴリ押しか、キーパーに反応されない速度のシュートを撃つしかない。

 ディフェンス、メガクエイクは試したいことが1つある。生憎、見てばっかでオレ自身は受けてないから、それを実証しておきたい。

 ドリブルは、ダッシュストームは何とかなる。2度もうけて風の強さが分かった。ヘブンズタイムに関しては大きく2つの仮説がある。1つは時を止める。もう1つは視覚に捉えられないほどの超スピードでのドリブル。だが、どちらにせよ。一筋縄じゃ対抗できないのは明らかだな。

 シュートはリフレクトバスターは大きな欠点がある。残りの二つは正面からぶつかって止めるくらいか。

 

「お、円堂。グローブ変えたのか」

「元のがボロボロになっちゃって。これ、じいちゃんのなんだ」

「そうか」

 

 オレは円堂のマジン・ザ・ハンドを見た感想を言う。

 

「なぁ、マジン・ザ・ハンドなんだけどさ。お前、何で全身から力を出してんだ?」

「全身から?」

「いや、1点にその力を集中できれば強いかもと思っただけだ。ま、挑戦したこともない人間が偉そうに言えることでもないから、ただの感想程度で忘れてくれ」

「力を……1点に」

 

 初めて見た時、円堂の全身からすげぇ力を感じた。だが、果たして全身から出す必要があるのか?まぁ、あるんだろうな。知らんけど。

 

 ピ、ピ──

 

 雷門ボールで後半戦開始。

 

「点を取る!そして勝つ!」

 

 豪炎寺がドリブルで上がっていくと、立ちはだかったのはディオ。

 

「神には通用しない!」

 

 そして蹴り合いになるが、豪炎寺が徐々に押されてしまう。

 

「「「まだだ!」」」

 

 そこに一之瀬、鬼道の2人が豪炎寺と共に蹴る。が、

 

「無駄だ!神には通用しない!メガクエイク!」

 

 3人を飛ばす…………今更だがお前本当に中学生?

 

「ダッシュストーム!」

 

 ダッシュストームで吹き飛ばされるミットフィルダー陣。そしてボールはアフロディへ。

 くそっ。ヘブンズタイムを見るしかないのか……

 

「ヘブンズタイム!」

 

 指を鳴らすと同時にアフロディは後ろへ。そして突風。くそっ。もしかして指を鳴らすことがカギなのか!?

 

「皆!」

「残るは君だけだ!」

 

 円堂の顔面に向かってシュート。跳ね返ってきたボールはアフロディの足下に。しかし、円堂は倒れない。何度撃たれても円堂は倒れない。倒れてもすぐに立ち上がる。

 

「サッカーを汚しちゃいけない……そんなことは……許しちゃいけないんだ!」

 

 円堂の姿勢にアフロディは恐怖を感じ、オレたちはその勇姿を見て再び立ち上がる。全員身体中ボロボロで、体力なんて残ってないのに。

 

「これは大好きなサッカーを守るための戦いだ」

「円堂っ!」

「円堂!」

「「「円堂!」」」

「「「キャプテン!」」」

 

 アフロディがゴッドノウズの体勢に入る中、オレたち雷門中サッカー部全員の声がフィールド中に響き渡る。

 

「みんなの思いが伝わってくる!」

 

 そして、円堂は両手を見て何かに気付き、体を捻って背を向ける。

 

「諦めたか。だがもう遅い!」

「んなわけねぇだろうがぁ!豪炎寺!鬼道!上がるぞ!」

「「おう!」」

『なんと十六夜、鬼道、豪炎寺の3人が前線へと走り出した!これはどういうことだ!』

 

 円堂からオレンジ色のオーラが放たれ1点に集中し始める。

 

「ゴッドノウズ!」

「うぉおおおおお!マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂の背後から魔神が現れた。そして魔神が手を突き出し、ボールを止める。というか、そのオーラで出来た魔神やべぇな!魔神が手で止めるからマジン・ザ・ハンドってそのまんま!お前のじいさんの技名前そのまんますぎだろ!

 

「円堂!」

「ああ!いっけぇえええええええ!」

 

 ボールは大きく蹴り飛ばされ、

 

「よし!」

 

 駆け出していたオレへと繋がった。

 

「円堂が止めてみせたんだ!絶対ゴールを決めてやる!」

「無駄だ。メガクエイク!」

 

 オレの前に立ちはだかったのはディオ。メガクエイクで足下の地面がせり上がってくる。だが、このスピードなら!

 

「何!?」

「効くかよ!」

 

 それを利用してさらに高く跳ぶまでだ!

 

「鬼道!」

「ああ!」

 

 上空から地面に立っている鬼道へ鋭いパス。そのまま鬼道はダイレクトで上空にあげる。

 

「豪炎寺!」

「ファイアトルネード!」

 

 上げられたボールに豪炎寺はファイアトルネードをゴールではなく下に向かって放つ。

 

「ツインブースト!」

 

 それに鬼道がツインブーストで合わせる。そのままシュートはゴールへ向かい、

 

「ツナミウォール!」

「「うぉおおおおおおおおお!」」

「な、何っ!?何だこのパワーはぁあああああああ!」

 

 キーパーを吹き飛ばしゴールへ突き刺さった。

 

『ミラクルシュート炸裂!雷門中!遂に世宇子中キーパーポセイドンから1点をもぎ取った』

 

 さぁ、反撃開始だ!



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VS世宇子 ~決着の時!~

 1点を取り、世宇子ボールで試合再開。

 

「僕は負けない!」

「抜かせるかよ!」

 

 アフロディとのマッチアップ。

 

「ヘブンズ──」

 

 アフロディが手を上げ指を鳴らそうとする。来た。オレも手を上げ、

 

「──タイム!」

 

 同時に指を鳴らした。すると、アフロディはまだ目の前にいる。よし、

 

「フッ。この技の前では……何!?」

「悪いが動けたみたいだわ!」

 

 そうか。あの指を鳴らしたのがトリガーだったわけか。

 そう考えるのと同時に、目の前で棒立ちするアフロディからボールを奪い去る。

 

「ヘブンズタイムが……破られた!?」

「天の時間を破った悪魔の時間。ヘブンズタイムと対を成す技。イビルズタイム!」

 

 負傷していた目金が起き上がって、名前を付けた。まぁ、何でもいいか!

 

「豪炎寺!」

「おう!」

 

 ピー

 

 オレは、ペラーを呼び出し。

 

「ペラー!」

『オーケー!』

 

 ペラーがペンギンを呼び出して……

 

「皇帝ペンギンO!」

 

 センターラインからシュートを放った。向かう先はゴール……ではなく、空だ。

 

「ファイアトルネード!」

 

 そこに豪炎寺が跳び上がりファイアトルネードを放つ。5匹のペンギンは炎となり、炎がペンギンの形のままキーパーの元へ突撃していく。

 

「ギガントウォール!……うわぁあああああ!」

 

 ボールを上から殴り抑えつけにかかるも、このシュートの前に弾き飛ばされてしまう。

 

『ゴール!雷門中追加点だ!』

「炎のペンギンによるシュート……皇帝ペンギンF(fire)!」

 

 にしてもこんな連携シュートを打てるとは思わなかったな。というか『炎帝ペンギン』でもよくね?まぁいいか。

 

「よし、もう1点だ!」

「「「おう!」」」

 

 再び攻め上がる世宇子中学。

 

「今度こそ!ヘブンズ──」

「やらせねぇよ!イビルズ──」

「「タイム!」」

 

 オレとアフロディ。2人の人間以外の動きが限りなくゼロに近付く。向こうがドリブルで突破しようとするのを防ぎながら話す。

 

「どうして!」

「お前の技は凄まじいスピードでドリブルする技!時を止めたんじゃなくて瞬間移動していると錯覚させられるようなスピードで動いてるだけ!」

「でも、それを見抜けたのは何故だ!?」

「あの突風だ!時を止めて移動しているだけならあんな突風は起きないはずだ!」

 

 そんなの知らんけど!確証も保証も一切ないけど!というかこじつけだけど!

 

「それに時を止めたならそのままシュートを撃てばいい!なのにお前はしなかった。いや、違う!出来なかったんだ!お前は高速で動けるだけ。それ以上でもそれ以下でもない!」

「なら、君は何故僕と同じスピードで動ける!」

「そんなの知るかぁ!」

 

 それはオレにも分からない!

 後に分かったことだが、この技はこの世界の時間を恐ろしいまでに遅くしたらしい。つまり、ヘブンズタイムが自身の速度を限りなく無限に近づける技なら、イビルズタイムはこの世界の時の流れる速度を限りなくゼロにする技。だから、その発動者のオレとアフロディは普通に動くことが出来るわけだ。ちなみに、オレがボールを触るとこの技は自動で解けるらしい。

 

「そしてお前との一騎打ちだが──」

「なっ!?」

「──オレの勝ちだ!」

 

 ボールを奪った時、時の流れが元に戻る。

 

「鬼道!豪炎寺!決めろ!」

「「おう!」」

 

 軽く風が纏うスピードでゴールエリア手前から前線にいる鬼道にキラーパスを出す。そのまま鬼道は、豪炎寺にダイレクトで繋げ、

 

「ファイアトルネード!」

「ツインブースト!」

 

 再びファイアトルネードとツインブーストの組み合わせ。キーパーは反応できずにゴールに刺さった。

 

『ゴール!雷門遂に同点だ!残り時間はあまりない!このまま延長戦か!?それとも決着か』

 

 世宇子ボールで試合再開。今度はアフロディがオレを突破する前に、デメテルへパス。

 

「うぉおおお!リフレクトバスター!」

 

 岩を浮き上がらせてボールがどんどん反射され反射される度に威力が高くなる。そんな技だ。

 

「だがな!」

「何だと!?」

 

 この技は歯車が1つでも狂えば可笑しなことになる。狂わせる方法としては例えば、どれかの岩を蹴って破壊するとかな。全部の岩に跳ね返ってる事は最初に分かってたし。

 だが、問題があった。オレはボールの軌道を完璧に計算していたわけでは無い。あくまで、そのままボールがゴールに向かう事は無くなっただけで、

 

「まだだ!ゴッドノウズ!」

 

 決してオレの足下に来るとは限らず、アフロディの下へボールは行きシュートを放つ……が、

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂の完成したマジン・ザ・ハンドの前にはそのシュートはあまりにも無力だった。

 

「最後の1秒まで全力で戦う!」

 

 一之瀬にボールが渡り、土門、円堂が攻め上がる。これはザ・フェニックスか……!

 

「「「それが俺たちの!」」」

「サッカーだ!」

 

 上空に現れたフェニックス。それを、3人が打つのではなく。

 

「ファイアトルネード!」

 

 豪炎寺のファイアトルネードが打ち出し、フェニックスはさらに巨大に強くなる。このシュートを前に、キーパーのポセイドンはゴールから逃げ出し(おい!いくら何でもダメだろ!)ゴールに刺さった。…………よく、あのゴール燃えないよな。

 

『逆転!遂に雷門勝ち越し!』

 

 ピ、ピ──!

 

『ここで試合終了!フットボールフロンティア決勝戦!勝ったのは雷門!劇的な逆転勝利だぁ!』

 

 最終スコアは4対3……。

 

「……勝った…………!」

「「「やったぁ!」」」

 

 よっしゃ!勝ったぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祝福と多くの歓声を受けるオレたち。

 

「なれたのかな。俺たち、伝説のイナズマイレブンに」

「ふっ。いや。伝説はこれからはじまるんだ」

「そうそう。まだまだスタートしたばかりだよ」

「俺たちは──」

「「「──日本一だぁ!」」」

 

 表彰式やらインタビューやらなんやかんやあるらしいけど……まぁいっか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この時のオレたちは知らない。

 とんでもない敵が待ち構えてることに……




オリジナル技

イビルズタイム
ブロック技
時の流れるスピードを限りなくゼロに近づけ、相手からボールを奪う主人公最大級のチート技。
ヘブンズタイムと対を成す技である。

皇帝ペンギンF(fire)
シュート技
パートナー 豪炎寺
皇帝ペンギンOとファイアトルネードの合体技。
威力はツインブーストFと同等くらい。





これでFF編終了。
活動報告でも予告通りエイリア学園は一週間後に攻めてきます(いや、当日だと染岡たち治ってないじゃん)
まぁ次回からは番外編ですが。
正直な話、イビルズタイムを思いついたことからこの小説は生まれました。何気に主人公の初めてのディフェンス技だったり……シュート技の方が実は多かったり……


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デート with八神

番外編です。
オーガはこのGW中に執筆してます(投稿するかは未定)




 決勝戦の終わった日の夜。

 

「優勝おめでとう。十六夜」

「ありがと。八神」

 

 オレは約束通り河川敷に来ていた。

 

「お前単体でのペンギンを使わない必殺技、イビルズタイムか。何気に初のブロック技だな」

「まぁ──」

 

 オレは指をパチンッと鳴らし移動、そして再び鳴らす。

 

「──強すぎるから普通の相手にはあまり使わないだろうけど」

「確かにな。その技には弱点らしい弱点が見当たらない」

 

 背中越しに話しかけてくる八神。

 そう。この技には明確な弱点が見当たらない。神様にこの技の原理を問い詰めたところ、この技はこの世界の時間を操ってるという超やべぇ技。対抗策が限られているからな。

 これに頼りすぎると弱体化するだろうし、もしアフロディのような、対抗できる奴が現れたときに弱くなってしまう。

 

「で?今日からは何をするんだ?決勝戦は終わった」

「オレはまだ満足してねぇよ。だからまたこれからも頼む」

「…………そうか」

「嫌か?」

「まぁ、まだ私の足元だからな。私を超えたいんだろ?分かった。また今日から厳しくなるぞ」

「あーそれなんだが……」

 

 と、オレは鞄からあるものを取り出す。

 

「今日の試合で限界が来たみたいだ」

 

 ボロボロとなり壊れてしまったスパイク。流石に今日に至るまで無理させすぎたようだ。というか今までよく持った方だ。うんうん。

 

「試合後に買ってこなかったのか?」

「いろいろ忙しくてな……」

「はぁ……」

 

 額に手を置いてため息をつく。そして、

 

「明日。昼間とか暇か?」

「暇だな。ただ、午後からだとありがたい。こっちもいろいろあるからな」

「なら、13時にここで集合な。お前のスパイクを見に行くぞ」

「オレ一人でも行けるが?」

「いいや。お前の感性は常人とずれてる」

 

 いや、ずれてないです。

 

「だから私が選んでやる。お前に合うスパイクをな」

「……分かった」

 

 まぁ、断る理由もねぇし。八神なら信用……出来るよね?

 

「じゃあ、今日はランニングとドリブルだな。よし、行くぞ」

「へいへい。って最初から飛ばすなよ!」

「これぐらい普通だろ?」

 

 普通だろ?じゃねぇんだよ!こっちはボロボロなんだよ!察してくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日の午後。

 

「待たせたな」

「今来たとこだ」

 

 時間通りに来た八神と一緒にスポーツ用具を扱ってる店に向かう。いつもの服装ではなく、スカート姿だ。最初見たときは……あぁ、ジーパンというかズボンだったな。

 

「なかなか似合ってるじゃないか。可愛いと思うぞ」

「かわ……」

 

 顔を赤く染め始める八神。あれ?前の世界ではとりあえず女性の服装はデートの最初に褒めるって学んだが、この世界では違ったのか?

 

「い、十六夜も格好いいぞ……」

「ありがとさん」

 

 何だろう。普段の強さを感じない。ま、そういうこともあるか。

 

「ん?八神。緊張してるのか?」

「そ、そんなわけあるか!」

「デートというか、異性と出掛けて買い物に行くだけだろ?何、緊張してんだか」

「で、デートって……ただ、異性と2人きりで出掛けるのは初めてだな」

「あんなに夜、毎日のように2人きりで会ってたけどな」

「これとそれは別だ!」

 

 そういうものかねぇ……

 

「そういうお前はやけに慣れてるな」

「まぁな。デートなら普通に……」

 

 あ、これ以上は不味いか?デート中に他の女性を出すのはタブーだし、そもそも中2の時点で経験豊富だと誤解されるか。それに、

 

「…………ふぅん」

 

 すでにご機嫌斜めになり始めてるし。

 で、若干不機嫌になった八神だが、スポーツ用具店についた頃には機嫌もある程度戻ったようだ。

 

「メーカーにこだわりは?」

「ない」

 

 そもそもどんなメーカーがあるか知らない。

 

「色にこだわりは?」

「ない。お任せでどうぞ」

 

 まぁ、条件つけると絞っちまうからな。

 

「値段は?」

「常識の範囲内……と言いたいが多少高くても問題はない」

 

 どうせ、神様という名の上限なしのお財布がいるからな。なるべく高校からは頼らなくても生計立てたいが中学生の状態ではそもそもバイトで雇ってもらえねぇ。

 

「分かった。お前は他のところでも見ていてくれ」

「あいよ」

 

 とまぁ、言われたのでスポーツウェアでも見ておこう。にしてもサッカー用具専門店かは知らないが、スパイクだけでもかなりの種類だな。ウェア以外には、ボール、脛当て、キーパーグローブに……へぇ、ミサンガまであるんだ。多種多様というか何というか。

 

「時間つぶしはできそうだな……ん?」

 

 あれ?スポーツ用具店なのに、なんでペンギンのぬいぐるみが?

 

「あ、雷門中サッカー部の十六夜さんですよね……?」

 

 と、ここで若い女性店員が声をかけてくる。

 

「はい。そうですが?」

「あ、やっぱり!この商品十六夜さんをモデルにしたんですよ?」

 

 と、ペンギンを指すが……あぁ。

 

「ペラーか」

「はい。十六夜さんが存じ上げてるか分かりませんが十六夜さんも人気ですし、十六夜さんのよく呼び出されてるペンギンのペラーさんも大人気なんですよ」

 

 だからといって何故こういうスポーツ用具店でペラーのぬいぐるみを売ってるのやら……と思って辺りを見渡すと円堂のバンダナに似たやつとか鬼道のゴーグルもどきとか……ああ、なるほど。そういう店か。

 

「お1つどうぞ。お代はいりませんよ。オリジナルを提供してくださったお礼です。これ人気なんですよ」

「そう?」

「お包みするので会計の時に渡しますね」

 

 まさかペラーがぬいぐるみ化されているとは……この世界は恐ろしいな。

 

「おい、十六夜」

 

 あれから時間が経って、八神が呼んでくる。

 

「これ、履いてみてくれ」

 

 そう言って渡してくるデザインは黒を基調とし、いくつかの青っぽいストライプ。

 

「履き心地も悪くない。柄もシンプルで、派手派手じゃないし、いいんじゃないか?」

「そうか、ならよかった」

 

 今更だがオレたち雷門中って、一緒の……というか全員似たようなスパイク履いてるな。ま、なんでもいっか。

 

「ついでに見たいものあるか?」

「うーん……」

 

 そう言って、店内の商品を見始めた八神。すると、

 

「これ、ペラーのぬいぐるみじゃないか?」

 

 よく分かったな。

 

「結構そっくりじゃないか?」

「それは大いに分かる」

「可愛いな。やっぱり」

 

 性格はかわいくないがな。

 

「あ、ミサンガか」

「そうだな。買うか?」

 

 元の世界で付けてサッカーやってるやついたし。別に置いてあっても不思議ではない。

 

「お前は買うのか?」

「うーん。八神が買うなら」

「なら買う。一緒のでいいか?」

「いいよ。柄は選んで」

「分かった」

 

 楽しそうだなぁ。八神はサッカーが本当に好きなんだな。

 

「じゃあ、これ」

「了解」

「あ……」

 

 と、ミサンガ2つとスパイクを持ってレジに向かう。

 

「これください」

「はい」

 

 対応するのはさっきの店員。

 

「もしかして彼女さんですか?」

「違うとだけお答えしておきますね」

 

 それは違うと断言できる。と、ぬいぐるみと買った商品を持って、

 

「ほらよ」

「……別に自分の分くらい払えるぞ」

「オレの気まぐれと言うことで。後、はいこれ」

「これは?」

「ペラーのぬいぐるみ。オリジナルのおかげで人気らしいから、ヒット商品の元となったということで1つ貰った。お前への今までのお礼とこれからもよろしくって意味で、ささやかなプレゼントだ」

「そうか……ありがと。大事にする」

「オレは近くのスーパーで今日の食材を買っておきたい。お前は?」

「家にこれを置いてくる。時間はかからないから先に行っててくれ」

「じゃ、そこのスーパーに行ってるからな」

 

 そう言うとオレは一旦別れる。家、この辺なのか?

 

「まぁ、確かに荷物にはなるからな」

 

 と思いながら歩いていると、

 

「おい」

 

 なんか、the・不良的なやつが四人くらいがオレを囲うように立った。

 

「ちょっとそこまで面貸せよ」

「……はぁ」

 

 今時こんな不良がいるのか……って、思い返したらこの世界には普通にいたわ。

 

「めんどくせぇな。何の用か、さっさと言え」

 

 で、人気のない廃材置き場に移動する。やれやれ、不運だなぁ。

 

「流石は現在中学サッカー界で有名になった人の言うことだ」

「俺たちとは次元が違うなぁ」

 

 ……はぁ。オレはこういう奴らの相手はあまりしたくないんだよなぁ……

 

「しかも、彼女持ちとかな」

「ほんと、有名人さんは違うねぇ」

 

 彼女持ち?……あー八神のことか。

 

「あいつは彼女じゃねぇよ。てか結局何の用だよ」

 

 直後、目の前の奴が蹴りを放つ。おっと。

 

「お前みたいな光の存在を黒い俺たちがボロボロにし」

「それを餌にあの女を──」

「あの女を?続きを言ってみろ」

 

 と、ここで歩いてきたのは八神だ。え?早くね?瞬間移動でも使ったの?

 

「十六夜がいないから探しに来たが……で、下劣共。十六夜に何してる?」

「はっ。ちょうどよかった。呼び寄せる手間が省けたわ」

 

 リーダーらしき男が軽い口調で答える。

 

「この男は人質だ」

 

 え?マジで?初耳です。

 

「この男を無事に帰したいなら、テメェが代わりになれ」

「……好きにしろ」

「ふーん。じゃあ……!」

 

 拳を振り上げる男。仕方ない。あの技を使おうと手を上げた瞬間……

 

 ドコッ

 

「グハッ!?」

 

 倒れ込む不良のリーダーらしき男。……え?

 

「ただ、私がさせないがな」

 

 威圧感たっぷりの言葉……やべぇ、かっけぇ……が。強くね?オレの倍くらい強くね?

 

「クソアマ!よくもリーダぐほっ!?」

「……遅い」

「ぶほっ!?」

「ふべっ!?」

 

 そしてあっという間に3人も瞬殺した。

 

「ふぅ。他愛もない」

「……ま」

「ま?」

「……ま、マジでかっけぇっすアニキ」

「誰がアニキだ!」

「ぐはぁああああああああっ!?」

 

 そして一瞬で現れた黒いサッカーボール。それを蹴り込まれ廃材置き場の壁に激突した。

 

「アニキ……オレは敵じゃ……(カクッ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か」

「や……八神か」

「たく。気絶して心配したぞ」

 

 気絶させたの誰でしょう?答え、八神。

 

「起き上がれるか」

「……ああ……いてっ」

「ダメならもう少し寝ておけ」

 

 頭の後ろには柔らかい……枕?いや、

 

「悪いな。貸してもらって」

 

 八神による膝枕だった。……今更だがこいつって何者?いくら何でも強すぎね?

 

「さて、行こうか」

「また絡まれても困るからな!」

 

 立ち上がるオレの手を握ってくる。

 

「か、勘違いするな!別に手をつなぎたいからって訳じゃないからな!」

 

 お前はツンデレか。

 で、こんな感じで買い物は終わったのだった。




八神さんはハイソルジャー計画で鍛えられていますから、不良くらい余裕です。
色んな人の意見を詰め込んでみました。


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番外編
VSオーガ! ~決勝戦開始!~


番外編です。
準決勝までは特に展開や十六夜の強さに違いはありません。

また他作者様からキャラをお借りして成り立っています。本当に感謝しています。助っ人に関してなどはオーガ編最終話のあとがきでまとめて述べさせていただきますので、では、最後までどうぞ(と言っても一編にオーガ編全部は投稿しませんがそれはお許しください)。


~~80年後の未来~~

 

「バダップ・スリードよ!我が部隊を率いるのはお前しかいない!そして見ろ!これがお前の倒すべき敵たちだ!」

 

突如浮かび上がってくる映像。そこには二人の少年が映し出されていた。

一人はオレンジのバンダナをつけた少年。もう一人は何故かペンギンを頭の上に乗せた少年。

 

『皆!サッカーやろうぜ!』

『それ以外にレパートリーはないのか』

 

バンダナの少年の言葉にペンギンを乗せた少年は応える。

 

「……この言葉は悪魔の呪文だ……!同志諸君。今、世界にはサッカーという恐るべき危険思想が広がりつつある。このままでは国の未来を担う子供たちはサッカーに魂を奪われ、弱体化してしまう!全てはこの二人の少年、円堂守と十六夜綾人から始まった!歴史の分岐点は80年前のフットボールフロンティア優勝にある!我らの手でこの歴史を変えるのだ!」

「ヒビキ提督。円堂守が原点なのは分かりますが、何故十六夜綾人も?」

「あの男は悪魔の呪文こそ言わないがサッカーを広める力(感染力)は円堂守と同等。故に危険因子と判断される」

 

十六夜本人が聞いたらふざけるなと言いそうだ。

 

「ヒビキ提督!」

「おお。バウゼンか」

「準備は全て整いました」 

「宜しい。では諸君、始めよう。『オペレーション・サンダーブレイク』の発動だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝戦当日。オレたち雷門サッカー部はフロンティアスタジアムに集まっていた。

相手はオーガ学園っていうところ。開会式で名前を聞いた記憶が一切ないんだが……で、問題なのは帝国に10-0かつ病院送りにした世宇子中になんと36-0で圧勝かつ病院送りにしたそうだ。いや、やばくね?何がやばいって、強さが桁違いなんだよ。というか意味不明。後この世界では圧勝する時は相手を病院送りにしなければならないルールでもあるの?

 

「さぁ、皆。いよいよ決勝だ。目指すは優勝」

 

円陣を組みそれぞれ手を出してその上に置いていく。

 

「気合い入れていくぞ!」

『おう!』

 

と、ここで先程まで晴天だった空に突然黒い雲がかかる。え?

 

「何だ?」

「異常気象か?」

 

空にかかった雲は渦を巻き雷の音が聞こえる。

おいおい、天気予報では晴れだったぞ今日。

 

ドンッ!

 

っておい!?グラウンドに雷落ちたんだけど!?避雷針はないのか!?ちょっと危険すぎないかここ!?

 

「見ろ!」

 

すると空に現れたのは鬼のようなマーク!?それが現れた瞬間空の色は黒……いや、ただの黒というには何というか不気味な感じする黒色だ。いや自分でも言ってる意味がよくわかんないけど。さらにフィールドにもいくつかのパネルが浮き上がり、それぞれのゴールの後ろには空と同じ鬼のマークででかい置物が急に現れた……。

 

「ふぅ……」

 

とりあえず頬をつねるが痛い。地味に痛い。つまり、夢ではなく現実。ドリームワールドでなくリアリティー。オーケーオーケー……。…………。

 

「んなわけあるかぁぁぁあああああああっ!」

「な、何だ?」

 

円堂たちの反応は多少の恐れと疑問。ちょっと待て!何、決勝戦だけ特別演出!?だとしたら悪趣味だと――

 

『これはどういうことでしょう!?フロンティアスタジアムが一瞬にして謎のスタジアムになってしまいましたぁ!』

 

――って、違うのかよ!やっぱり違うのかよ!なんだよこれ!誰かさっさと説明して!オレの胃が死ぬ前に!

 

『おぉっと!あれはぁ!』

 

ここで、グラウンドに9人の人が立っているのが確認できた。いや、人じゃないかも。

というか、いつの間に立っていた?いや、そんなことより……

 

「誰か……現状を説明してくれ……オレがオーバーヒートする前に……」

 

オレはもう空を仰ぐしかない。はは。ツッコミ過ぎて過労死しそう。




まぁ、決勝戦前まではあまり変わりませんからね。強いて言えば、オーガの対象に十六夜も加えられたくらいです。
今回は短いですが次から試合開始です。
最後に補足として今日からオーガ終了までは毎朝6:00に投稿します。


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VSオーガ! ~悪夢の前半~

「キラード博士。オーガです」

 

バンダナをつけた少年が通信機に向け話しかける。

 

『こちらも感知しています』

「俺もう行きます!」

「待て。カノン」

 

カノンと呼ばれた少年が行こうとするのを止める青髪の少年。

 

「何で止めるんだよ。レイ。早く行かないとひいじいちゃんたちが!」

「まだ準備が整ってねぇんだ。だろ?博士」

『その通りです。もう少しだけ待ってください』

「オレたちが今行ったところで何もできねぇ。だから――」

 

レイと呼ばれた少年は、空を仰ぎどこか疲れを感じてる十六夜に目を向け、

 

「――オレたちが行くまで耐えてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、なんとか復活したオレ。

突如として現れた王牙学園の面々……まぁ、オーガだな。奴らは、全員が軍服のような格好で統一されてる。おい、サッカーじゃないのか?いや、そういう系の学校?よくわかんねぇな。

とりあえず雷門のスターティングメンバーは全員整列しセンターライン付近でオーガと向き合う。円堂が一歩、向こうも一歩前に出て、

 

「俺は雷門中キャプテン――」

「円堂守だな」

「……あ、ああ」

 

早速こっちの自己紹介をぶった切ってくる向こうのキャプテンらしき人。

 

「そして、そこにいるのは十六夜綾人」

「……そうだけど。アンタ誰?」

「バダップ・スリード」

 

バダップというみたいだが…………え?本名?まぁ、それはいいか。外人だなきっと。

と思ったら他の奴らの名前も全員カタカナで日本人じゃないみたいだった。まぁ、何人でもいっか。サッカーをするわけだし関係ないか。

 

「いい試合にしよう。よろしくな」

 

手を差し出す円堂。が、

 

「下らない」

「え?」

 

バダップは応えようとはしなかった。

 

「戦場で敵と馴れ合おうとは」

「……戦場?」

「……ここが?」

 

戦場がまぁこのサッカーフィールドだとするなら敵はオレたちか。でも、なんか言い方がオーバー過ぎない?うーん……。

 

「戦闘準備」

 

と、バダップが手を上げ、声をかける。それに八人が気をつけのように姿勢を正す。

 

「散開せよ」

 

そして、下に伸ばしていた腕の両肘を、90度に曲げ手を握り、統一された動きでポジションに着いた。

 

「…………」

「え?サッカーやるんだよね?」

 

あまりのことに驚くオレと円堂。

 

「円堂。十六夜。ポジションにつくぞ」

「ああ……」

「お、おう」

 

鬼道に言われてポジションに着く。

 

 

FW 豪炎寺 染岡

 

MF 風丸 鬼道 一ノ瀬 マックス

 

DF 土門 壁山 十六夜 栗松

 

GK 円堂

 

 

とまぁ、決勝戦もいつも通りの感じなポジションである。

全員が各々のポジションにつくと、

 

「……了解。フェイズⅡ。スタート」

 

すると、軍服から一瞬で赤色ベースのユニフォームに早変わり。…………。

 

「はぁあああああああああ!?」

 

いやいやどうなってんの!?一瞬で服が変わったんだけど!オーバーテクノロジーじゃねぇか!少なくともあんな技術はもっと先に生まれるはずだろ!?なんでそんな現代技術を超えてるものを平然と使ってるんだこいつら!?

 

ピーー

 

と言うオレの(心の中の)ツッコミを完全無視して審判が試合開始の笛を吹く。アンタ驚いてないの?

で、雷門ボールでキックオフ。染岡がドリブルで上がっていく。が、バダップたちオーガは全くディフェンスしない。それどころか、動かない。

ボールは何も邪魔されることなく染岡から一ノ瀬、鬼道へと順調に渡っていく。

 

「どうして……?」

「こいつらは何故動かない……?」

 

しかし、オーガはこっちが攻めているにも関わらず誰も動こうとしない。

 

「だったら遠慮なく決めさせてもらうぜ!」

「ああ!決めろ染岡!」

 

そして、鬼道から染岡にボールが渡ろうとしたその時、オーガの6番、サンダユウが走りだす。ダイレクトでシュートを打とうと、足を振り上げていた染岡からボールを奪い去った。

 

『なっ!?』

「……おいおい」

 

あの動き見えなくはないが速い。速くて正確。タイミングとかも全て合理的で合致している。

やはり、こいつら強いな。だが、なぜそんなことをする?

そう考えているうちにボールはサンダユウがループでパスを出しミストレへ。

 

「貰った!」

 

ミストレがトラップした瞬間ボールを奪う風丸。そのままドリブルで上がっていくも、

 

「……おかしい」

 

オーガは誰一人動じることなく、再び動かない。

 

「皆!気にするな!攻め込んで行けー!」

「ああ!豪炎寺!いけぇ!」

 

風丸から豪炎寺へのパスを出そうとしたその時、オーガ7番ドラッヘが動き出し、シュートを打つ寸前でボールをカットする。そしてドラッヘは適当にエスカバへパス。それをカットし、攻める雷門。

 

「何かがおかしい……ちょっと行ってくる」

「ああ、頼んだぞ」

 

何度も何度も雷門が攻め切れない展開が続いたので前線へ行ってみる。

 

「一ノ瀬!」

「ああ!」

 

パスをもらい攻め上がる。やはり妙だ。何故こいつらは一切動かない。いやそれだけならまだいい。ボールをもらって分かったが、こいつらからボールを奪おうとする気が一切感じない。これは明らかに不自然だ。

そのままボールを持ち込み、ペナルティーエリア手前、

 

「…………っ!?」

 

シュートを打とうと足を上げた瞬間、一瞬で目の前にサンダユウが現れそのままとられてしまう。そしてボールは力のない感じで軽く前線へ。

 

「何やってんだあいつら!?」

「なんか、おかしいでやんす!」

「豪炎寺さんたち、何でシュートに行かないんスか?」

「違う。行かないんじゃない。いけないんだ」

 

戻ってきたオレはディフェンス陣に告げた。

 

「どういうことだ」

「これはオレよりあいつらの方が理解している。後10分もすれば前半が終わる。その時な」

 

傍目から見ればこっちが絶好のシュートチャンスを逃しているように見える。そう見えるだけ。実際は、そもそも前提が違う。あれはオレたちにとっての絶好のシュートチャンスなんかじゃない。意図的にオーガが仕組んでいる罠。

ただ、何故オーガはそんな一見無意味なことをする?こんなことに意味はあるのか?

 

(皆、攻め切れない事に苛立っている……オーガも何で攻め上がって来ないんだ?)

 

ピ、ピーー

 

『前半終了!得点は0ー0!試合は雷門ペースだったものの、一発のシュートも無し!まさかの試合展開になっております!』

 

何が狙いかは全く分からない。だが、このまま後半も終わるなんて微塵も思えない。

 

「何が狙いだ……一体」

 

疑問を抱えながらベンチに帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ。この戦法は確かに有効だ」

「って何のんきなこと言ってるんだよレイ!」

「のんきなことじゃねぇよ。奴らが本気を出していたらこっちの手はずが整う前にゲームセットだった。ひいじいちゃんたちには悪いがこの戦法でまだ助かってるんだよこっちは」

「くっ……」

「今は耐えて祈れ。そしていつでも動けるようにしろ。サッカーを、ひいじいちゃんを救いてぇならな」

 

そのレイの眼は何時になく真剣で、

 

「ぶっちゃけ、ひいじいちゃんがツッコミ死しないか心配なんだがな」

 

どことなく別のことを心配しているようだった。



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VSオーガ! ~狂気の後半戦開始!~

ベンチに戻ったオレたち雷門中イレブン。だが、表情は浮かない。

 

「何であいつら何もして来ないんだよ!」

 

苛立ちながらベンチに座った染岡。

オレたちはオーガを見る。しかし、奴らはただ両手を後ろに組み、フィールドに体を向けて整列して待機しているだけ。もうこいつらサッカーチームというより軍隊。サッカープレイヤーより軍人とかに居そうだ。

 

「……妙だよな」

 

ああ、この様相を変えたフィールド……これもオーバーテクノロジーだよな。てか、今日の天気予報晴れなのに曇ってるのも妙だし……

 

「ああ……!なんか、こう……この辺がイライラしてくんだよな!オーガの態度!」

 

ユニフォームの上から心臓の部分を握りしめる染岡。あ、そこなのね。

 

「でもシュートチャンスはいっぱいあったじゃないですか!」 

「そうですよ!何で撃たなかったんですか!?」

 

と、ベンチから見ていた少林と宍戸が声を出す。

 

「……撃てなかったんだ」

「そうは見えなかったぞ?」 

「染岡君の詰めが甘かっただけじゃないんですか?」

「……分からねえ。どうもスッキリしねぇ」

 

スッキリしない……か。

 

「攻め切れない……と言えば分かるか?もう一つ……深く入り込めないんだ」

「それに、さっきいっぱいシュートチャンスがあったって言ったな?あれは全く違うぞ」

『え?』

「確かにそう見えたかもしれない。だが現実はあんなのチャンスじゃない。奴らが何かを狙って意図的に誘い込むための罠だった」

 

シュートチャンスがあればシュートを打つ。サッカープレイヤーとしては普通のことだ。ただ、そのシュートチャンスが意図的に生み出されそれを潰される。これを繰り返されるとオレたちはシュートを打てないことに苛立ちを感じ、感情が荒れる。

と、ここでマックスがドリンクのボトルを思い切り地面に叩きつけた。

 

「くそっ!こうなったらどんな手を使っても前に出るぞ!」

「それじゃ反則になっちゃいますよ」

「変えたいんだよ!流れを!」

 

チームの空気は最悪。これはヤバいな。

 

「俺……なんか嫌な感じがするっス……こんなサッカー嫌っス」

「壁山……」

 

確かに……?ん?まさか奴らの狙いはこの感情か?この感情を生み出させることか?……いや、だからなんだよって話だが。

 

「皆!しっかりしろ!皆の気持ちも分かる!前半は確かにサッカーしている感じじゃなかった。俺だって上手く言えないけど……本当にそんな気持ちで後半を戦うのか!」

「実際……その通りだけどよ……。どうすりゃあ良いんだよ?」

 

円堂の熱弁に皆は一応は落ち着きを見せる。

 

「推測だが後半は間違いなく奴らは動きを見せる」

 

オレたちにトドメを刺すべくな。知らんけどこのまま終わるはずはない。

 

「だから前半のようにはならないはずだ」

 

問題はどんな動きをするか。こればかりは蓋を開けてみないと分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーー

 

後半戦開始。オーガのボールで試合は始まった。ミストレからエスカバ、そしてバダップへとボールが渡り、ドリブルで攻めてくる。それを豪炎寺と染岡は動かず通す。二人を突破したバダップはミストレへパス。受け取ったミストレ。そこを鬼道がスライディングで奪う。

 

「行け!一ノ瀬!」

 

そしてすかさず一ノ瀬へパス。

 

「円堂!土門!」

 

一ノ瀬が二人を呼び、二人は上がっていく。そして、三人は最高速度で一点で交わり、

 

『ザ・フェニックス!』

 

この試合初となる必殺技及びシュートを放った……が、これは奴ら、わざと打たせたな。

するとザコメルは右手に雷を纏い!?嘘だろ!?いや、あれは雷じゃない!電気だ!……いやどっちも大差ないな。うん。

 

「ニードルハンマー!」

 

そして、その右手はボールを貫いたぁ!??そのまま右手を引っ込めるとボールは何事もなかったように球形に戻ったぁ!???

 

「何がどうなってんのぉ!?」

 

明らかにパンクしたよね!?明らかにボールにドデカイ穴開いちゃったよねぇ!?何で一瞬で戻ってんの!?

 

『なにぃ!?』

 

いや、止められて驚いてるけどそこじゃないんだ!驚くのはそこじゃないんだ!

 

『Gyaaaaaaaa!』

 

何か向こうのゴールの後ろにある置物が鳴いてるし!あぁもう!なんなんだよ一体!

 

「敢えて打たせたな」

「よし、次だ」

『おう!』

「よく冷静でいられるなおい!」

 

と、ツッコミながら自陣ゴールへ戻っていくと、

 

「フェーズⅢ……スタート」

 

何かバタップが呟いた。そういや前半始まる時にフェイズⅡて言ってたな。あれ?フェイズⅠはどこに消えた?

するとボールはザコメルから前線のエスカバへ。

 

「ディフェンス!」

 

円堂の声と共に、ミットフィルダーとディフェンス陣が動き出す。

 

「はあああっ!」

 

エスカバの唸り声。すると背後に六つの発射台が地面から現れた!?発射台が開き発射口が見える。そこにはサッカーボール!?

 

「そんなのありかよ!?」

「デスレイン!」

 

エスカバが紫のオーラを纏わせたボールを蹴り出すと同時に発射台からも同じように紫のオーラを纏ったボールが発射される。計七つのボールがゴールに襲いかかる……。

 

「ってどれが本物だよ!」

 

そのうちの一つのボールを打ち返そうと拮抗するも残りの五つのボールが地面に衝突した衝撃波で吹き飛ばされる。残ったボール(おそらく本物)は円堂の正面へ。

 

「ゴッドハンド!」

 

しかし、ゴッドハンドはあっけなく崩壊。円堂ごとゴールに突き刺さった。

 

『Gyaaaaaaaa!』

 

そしてオレたちのゴールの後ろの置物が吠える。

 

「…………っ。いってぇなぁ……」

 

オレは立ち上がるも、

 

「マックス!栗松!」

 

一緒に直撃していた二人は動くことができずにいた。

 

「半田、少林寺。交代だ」

 

遂に本性を現したオーガの前に負傷する二人。シュート一発でこれかよ……。やばくね?

そして、雷門のキックオフで試合再開。ボールが豪炎寺に渡った瞬間。エスカバ、ミストレの二人の強烈なタックルによって倒されてしまった。

 

「豪炎寺!」

 

ボールはエスカバからバダップへ渡る。

 

「野郎!」

 

バダップからボールを奪おうと突撃しに行く染岡。だが、対するバダップは足を高く振り上げ、ボールを染岡の顔面に当てつつ遙か上空へと蹴り飛ばす。そして、そのボールに向かい跳躍した。

 

「止めるぞ!」

『おう!』

 

染岡と豪炎寺以外の八人がゴール前に集結する。

バダップはボールを両足で挟み込み捻る……え?あのボールねじれすぎじゃない?

 

「デススピアー!」

 

そして、足がボールから離れると、ボールは回転するどす黒い槍へとその姿を変えて、

 

「あれがボールの成れの果てだと!?んなわけ……!?」

 

ボールがやってくる風圧だけで吹き飛ばされそうになる。既にオレ以外の七人が吹き飛ばされたが……クソ!なんて力だ。横から近付けない……!

 

「円堂!」

「ああ。今度こそ止める!」

 

そう言うと体を捻る円堂。徐々にパワーが胸の辺りに集まっていく。そして、

 

「マジン・ザ・ハンド!」

「なんかマジンが現れたぁ!?」

 

円堂の背後に現れたマジン。そのマジンが円堂の動きに合わせて右手を突き出す。ちょっと待て!マジンが止めるからってそんな安直なのかよ!いや、安直なのは多いけどさぁ!

 

「うわぁぁ!」

 

マジンはデススピアーにほんの少し抵抗しただけで呆気なく破れてしまう。その風圧で飛ばされるオレ。

 

『Gyaaaaaaaa!』

 

響いた音。その音はオーガの狂気そのものな気がした。

 



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VSオーガ! ~曾孫現る~

デススピアーにより、半田と少林が負傷した。宍戸と影野が入るもオーガのラフプレーの嵐に試合続行不能。結果フィールドに九人しかいない。え?目金?アイツは怪我人の治療にあたってるよ。救護班ってやつ?

で、オーガの殺人級と言っても過言ではない威力のパス回しによって時には直接ぶつけられ、時にはその風圧で何度立ち上がっても何度も倒れさせられてしまう。というか、

 

「何でオレが一番狙われてん――ぐはっ!」

 

モグラ叩きかってほどまでにオレなんて立った次の瞬間には倒されてしまう。

そんなことが何度も繰り返された中、

 

「円堂守。十六夜綾人。サッカーを捨てろ」

「…………はぁ?」

 

何でこいつ急に命令してきたし?意味分かんないのだけど。

 

「見ろ。お前たちの下らないサッカーが……お前たちの言葉と情熱が、チームメイトを傷付けているのだ」

 

カチン。

 

「……俺たちの……サッカーが……!?」

「くだらねぇこと抜かすなよ……!」

 

オレは右手を握りしめ、フィールドに打ち付け体を起こし立ち上がっていく。

 

「チームメイトを傷つけてんのはテメェらだろうが……!それをよくもまぁぬけぬけとオレたちのせいにできるなぁおい」

「事実、お前たちのサッカーのせいで未来では人類は弱体化してしまった」

「なるほどねぇ、アンタら未来人か。ならいろいろと納得だわ」

 

この明らかなオーバーテクノロジーは未来なら普通の技術。なるほど。理解できた。

 

「だがな、オレたちのサッカーのせいで人類が弱くなった?意味不明なこと抜かすなよ。そんな意味不明な理由でオレたちを傷つけているのか?それなら…………もう傷つけるのをやめろ」

「その通りだ!俺たちがやりたいのはサッカーだ!狙うならゴールを狙え!」

 

すると、ボールはバダップに渡る。

 

「ここから消えろ。さもなくばサッカーを捨てろ!」

「意味不明で理不尽な二択を突きつけるんじゃねぇよ!てかどっちも従うかよ!」

 

すると、バダップは遙か上空にボールを蹴り上げる。そして、デススピアーの体制に入った。クソ、絶対止めてやる!

 

「円堂!さっきのマジンを!」

「ああ!」

 

そして力を込めている間に、

 

ピー

 

「ペラー!」

『あいよ』

 

ペンギンが計五匹召喚される。

 

「デススピアー!」

「円堂!オレを投げ飛ばせ!」

 

デススピアーが発射される。オレはすかさず円堂の魔神の右の手のひらに立ち、五匹のペンギンはオレを囲うようにして立つ。

 

「分かった!」

 

そのまま円堂の魔神は右手を思い切りデススピアーめがけて突き出す。

 

「はぁあああああ!」

 

勢いよく飛び出したオレとペンギンズ。オレは空中で体を起こして、一瞬足を引きそのまま……

 

「止めてやる!」

 

ボールと衝突したタイミングで足を突き出そうとする。

ペンギンたちもボールを止めようと必死に力を加えていく。

 

「無駄だ」

「無駄なわけがあるか!」

 

くっ……だが正直に言ってきつい。徐々にパワー負けしてしまう。クソ。だがこのまま点をやるわけにはいかねぇんだ!未来から来ようが知ったこっちゃねぇ!サッカーのせいで人類が弱くなっただなんて下らねぇこと抜かすやつに負けてられっかよ!

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

オレの背中から影のようなものが出てきたその時。

 

「って何だあれ!?なんかこっちに来るんだけど!?」

 

突如オレのとこへ飛来する青白い光のボール。

あまりのことに驚き、影のようなものは何事もなかったかのように消えた(らしい)。

そして、その青白いボールは、オレとデススピアーに当たり、フィールド中に光が溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~間に合った~!」

 

何が起きたか分からんが、気付けば尻餅をついてるオレ。落下したはずなのに不思議と痛みは感じない。

 

「全く。ギリギリ過ぎるんだよ。もう少し余裕を持ってだな」

 

現れたのは二人の少年。何かこっちに笑顔向けてくるが……

 

「いや、お前ら誰だよ。マジで」

 

何かバンダナつけた方は円堂に似た空気を出してるし、青髪の方は……なんて言うかオレに近い感じがする。

 

「君たちは?」

「初めまして。ひいじいちゃん」

 

……………………は?

 

「は?何だって!?」

 

………………ふぅ。落ち着けオレ。いったん整理しよう。…………よし、オレには関係ないな。そうだな。うん。

 

「あぁ、今『自分は無関係ってことにしときたい』って感じのこと思ったでしょ?薄々気づいてると思うんだけど――」

「まぁ待て。それ以上言うな。それ以上言われるもんならオレ(の胃)が死ぬ.オーケー?」

「――初めましてひいじいちゃん。オレは貴方の曾孫の十六夜レイです」

「だろうなぁ!この流れで察してたよ!だから言わないでほしかったのに…………は……はは……」

 

もうオレ死んだわ。脳のキャパシティー、胃のツッコミ容量が完全にオーバーしたわ。

 

『これはフットボールフロンティア史上前代未聞の事態です!』

 

解説さん。あえて言っておくことがあるとすれば――

 

「――でしょうね」

 

これが過去に何例もあったらこの世界から逃げ出すとこだったわ。



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VSオーガ! ~助っ人登場!~

で、まぁいろいろあった結果ひとまず試合に出ていたメンバープラスやってきた二人はベンチに行くことになった。あまりにも最初から異例すぎてタイムという形になってはいるが……

 

「俺は円堂カノン。皆と一緒に戦うために来たんだ」

 

うん。よく分からん。

 

「ひいじいちゃん。円堂守の曾孫として」

「で、オレは十六夜レイ。十六夜綾人の曾孫だ」

「ひ、曾孫ーー!?」

「もう……疲れた……」

 

もういい。早く楽にしてくれ。

 

「未来から来ただなんて……」

「信じられるか?」

 

雷門イレブンは当然こんな反応だ。そりゃあいきなり現れて未来から来ましたなんて言われてもねぇ。しかもオレと円堂の曾孫と来た。

と、ここでカノンの方が円堂にあるノートを見せる。

 

「はい!」

「……あぁっ!これ、じいちゃんのノートだ!うわっ、本物だ。俺の書いたメモまである」

「ヘソの下に力を入れるのは基本中の基本!」

「ええっ!?俺の字読めるの!?」

 

いや、お前どんだけ汚い字で書いてるの?ねぇバカなの?後世のこと考えてあげようよ。円堂語は周りの誰も読めないんだからさ。

 

「じゃあ、オレも証明すっか。ひいじいちゃん。ペラー出して」

「はいはい」

 

もう何でもいいのでレイの言うとおり召喚する。

 

ピーー

 

『呼んだぁ?』

「初めまして十六夜レイです」

「え?聞こえてるの?」

「当たり前じゃん。アンタの血筋だからね」

 

いや、ペンギンと意思疎通ができる血筋って何だよ。

 

「それに」

 

ピーー

 

『初めまして。オレはゼロです』

『どうしよご主人様。オレにそっくりなんだけど』

「どう?オレのペンギン、ゼロは」

「…………」

「ひいじいちゃん?」

「いやさ」

 

あんまり自称オレの曾孫にこんなことを言うのは酷だけど、

 

「自分の名前がレイだからってゼロって安直じゃね?」

「アンタに言われたくねぇ!アンタも大概でしょうが!」

「はぁあ!?少なくともオレは自分の名前からとってないし!」

「エンペラーペンギンのペラーってそっちの方が安直でしょうが!」

「まぁまぁ落ち着けよ十六夜」

「レイが熱くなるなんて珍しいね」

 

はぁ。まぁ、これで分かった。

 

「こりゃ、こいつはオレの曾孫だわ」

「あ、納得するんだ」

 

これ以上おかしな物が証拠として上がらないようこの議論はさっさと終止符を打って終わりにしよう。よし、終了。

 

「まぁ、信じてみる価値はありそうだな」

 

鬼道の結論。そうだな。信じてやるか。

 

「俺も信じよう」

「乗ってみるか」

 

豪炎寺、風丸も続く。

 

「信じてくれてありがとうございます」

「ずっと俺たちはひいじいちゃんたちのことを見てきたんだ。なのに肝心な時に遅れちゃってごめんね」

「肝心な時って?」

「え?もしかして今?」

「そう。この試合だよ。この試合は本来行われるはずがなかったんだ」

 

え?どういうこと?なに、本来の決勝の相手こいつらじゃないの?まぁ、確かに。そんな気はしてなくはなかったけど。

 

「この試合は円堂守と十六夜綾人からサッカーを排除するために仕組まれたんだ」

「待てやコラ。なぜそうなる」

「まぁ、未来では二人のお陰でサッカー界ではいろいろあったんだよ」

 

頼むから円堂と同レベルにしないでくれ。こいつよりは色んな意味で影響力ないから。

 

「残念だったね、チーム・オーガ!勝手に歴史を変えてサッカーを排除しようとするお前たちを……俺たちは許さない!」

「たった二人で何が出来る」

「二人じゃないさ!俺たちが遅れたのは最強の仲間を集めて来たからなんだ!」

「ああ。全く、この世界線以外の世界線から集めるのは骨が折れそうなくらいだったが……彼らなら最強の名にふさわしい」

 

え?今別の世界線って言わなかった?気のせいだよね?ね?

 

「皆!出てきてくれ!」

 

カノンが空に向かって呼びかける。すると、空に三つの光が現れた。その光を中心に空に亀裂が入る…………えぇ……?空に亀裂入れちゃったよ。

で、まるでガラスが砕けるように綺麗に砕けていく暗黒の空。砕けた空の向こうは晴天の青空。

そして、三人の人間らしき影が降りてこようとしていた。

 

「…………スカイダイビング?紐なしバンジー?」

 

と、完全に脳が逝かれて阿呆な事を言ってる中、その姿が一人ずつはっきり見えるようになってきた。

一人目の奴は、どこか雷門中のジャージに似て非なるものを着ている白髪ロングで一つ三つ編みの……女の子?

 

「未来の雷門中サッカー部所属の1年生!お星さまはボクの力!琴星(ことぼし)深苑(みその)にゃぁ!」

 

…………まぁた未来人がやって来たなぁ。なに、そんなにポンポン過去に渡れるの?この世界って。え?マジですか?タイムマシンさん大活躍ですか?というか、あんな高さからよく普通に着地できたな、えーっと琴星か。

というかいろいろありすぎてボクっ娘とか語尾についてツッコミが追いつかない件について……ってそうこうしていたら2人目がよく見えるようになったんだけどなぁ……なんか見覚えあるんだよなぁ……。

あの前髪。あの眼鏡。そして帝国学園のジャージ。

 

「あ、アイツは……!」

 

ほーら。鬼道も反応してるし、絶対あの人だよ。

 

「やれやれ………世界が違っても、あなたたちの周りには面白いことが巻き起こりますねぇ………」

 

はい。この声で確定ですね。

 

「ククク……初めまして。帝国学園の五条(ごじょう)(まさる)と申します……」

 

……なんか琴星と打って変わって登場シーンが……あ、でもアレか。『帝国学園の五条勝!』とか言ったら何というか合わないよね。ならこっちの方がいいか。

でだ、三人目がなぁ……

 

「お、おい!アイツ雷門のジャージ着てるぞ!」

 

そう。琴星とは違い。オレたちと全く()()ジャージを着ている。これには皆注目するしかない。いや、さっきから降りてきている人たちには注目するしかなかったんだけど。

 

「あ!おーい円堂ー!助けに来たぜーーー!!」

 

なんか向こうの世界の円堂の知り合いらしいな。てか、全員注目してんだから早く名乗れ。

 

「……何だよ?その目は」

 

おっと、琴星や五条を含めた全員の目線にも気付いたようだ。

 

「……やらねぇからな!?大トリだからってニチアサみたいなノリ!!恥ずかしいだけじゃねぇか!!絶対やらねーぞ!!」

 

いや、自分が大トリって自覚してんじゃん。もうほら、こっちはさっさと大トリが締めてくれって空気になっちゃってるよ?ギャーギャー騒いでないでやったら?きっと楽になるよ?

 

「雷門中所属、日本代表イナズマジャパン、斎村(さいむら)凪人(なぎひと)!!これで満足かよチクショー!!」

 

漸く着地した斎村。うん、何か彼の登場にいろいろあった気がしないでもないが、

 

「……なんか。アイツには親近感湧いた気がする」

「というか珍しく落ち着いてるな。十六夜」

「ああ、ツッコミって1周回ると冷静になるんだよ」

 

そしてもう1周回るときっと死ぬ。それか元に戻る。

 

「な、なんだ……!」

「彼らが俺たちが集めた助っ人。彼らはこの世界とは違うパラレルワールドから来てくれたんだ」

「ぱ、パラソルワールド?」

「パラレルワールド。並行世界とも呼ばれて、こことは違う『あったかもしれない世界』のこと。皆、それぞれの世界でひいじいちゃんたちとサッカーしているんだ!」

 

ああ、つまりオレが転生されてない世界ね。

 

「守にぃたち!ボクも力を貸すにゃ!」

「鬼道。それに豪炎寺。私も僭越ながら力をお貸ししますよ」

「円堂!修也!助けに来たぜ!」

 

何かいい感じだな。…………というか斎村が一瞬音無に意識を向け、その上で意図的に見ないようにしていた気がしたが……。まぁ、今問い詰める気にもなれねぇしいっか。

 

「なるほど。つまりお前たちは別の世界の俺たちのサッカー仲間ということか」

「そういうことだ修也。円堂と違って理解が早くて助かるぜ」

「なら、こっちの五条とお前は同一人物ではないと言うことだな」

「私以外にも五条勝がいるんですね、やっぱり。まぁ私はこの世界の五条勝とは些か異なった道を歩んでいますので、別人と思って頂いて相違ないかと」

「てことは、この世界に琴星や斎村はやっぱり存在してないってことだな」

「そういうことにゃ!理解が早くて助かるにゃ~」

 

さて、豪炎寺と鬼道を始め円堂以外は理解したようだ。で、なんか軽く会話している。琴星は風丸とかと。五条は鬼道。斎村は豪炎寺と円堂と。

 

「にゃ~……でも、そんなに年の変わらない守兄ぃたちって、何だかスッゴく違和感にゃ……」

「全く、いきなり連れてこられた上にオーガとは………なんか原作とは助っ人も違うし雷門に知らない子もいるし……」

「そう言えばそうだな。えっと、誰だ?」

 

と、ここで三人の目がオレを見ている。おい、曾孫たち。オレの名前伝えてないのかよ。

 

「初めまして。琴星、五条、斎村。オレは十六夜綾人。よろしく」

「綾人…………うん。覚えたにゃ!」

「ククク……よろしくお願いしますね。十六夜君」

「十六夜か……なるほど。やっぱりそうか」

 

ん?やっぱりって何が?と、思ってると、

 

「おいおい円堂。何で泣き始めたんだ?」

 

急に円堂の目から涙が。

 

「だってさ!よくわかんないけど、サッカー好きってだけでこんなに仲間が来てくれたんだぜ!?俺、すげー感激した!」

「未来だけじゃなくて他のパラレルワールドでもひいじいちゃんたちがサッカーの楽しさを皆に伝えてくれたからたっくさん良い事があったんだ!」

『うん!』

「そうなのか?」

 

頷く三人に問い返す円堂。

 

「だから皆で俺たちの現在(いま)を守ろうよ!」

 

すげぇいいこと言ったな。

 

「その言葉……信じるぜ!」

 

とここで情に熱い男。染岡が反応した。既に、上のユニフォームを脱ぎ、シャツ姿になっている。そして、

 

「俺たちの想い、全て託すぜ!」

 

ユニフォームを斎村たちに差し出しながらそう言った。後ろで頷く一ノ瀬たち。

 

「言ったろ?俺も雷門中だって」

 

そう言って斎村は着ていたジャージを脱ぎ捨てた。そして見えるのは15番の雷門中のユニフォーム。

そして斎村は笑顔を向けた。おっと、サプライズかなこれは。

 

「私は持っていないのでお借りしますね」

「皆の思い!しっかり受け取ったにゃ!」

「あ、オレにも貸してよ」

 

と、各々着替えも終わったので、

 

「円堂。円陣でも組もうぜ。気合い入れ直す意味でもな」

「それいい案だな十六夜!よし輪になろうぜ!」

 

そういうわけで円陣を組む。すると、斎村が円堂に向け拳を突き出して

 

「円堂、雷門の力……見せてやろうぜ!」

「斎村……ああ!皆の力でオーガに勝つぞ!」

『おぉっ!』



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VSオーガ! ~圧倒する力~

~~80年後の未来~~

 

「奴らは何者だ」

「はっ。奴らはこの世界とは異なる世界から来ております。本来であれば交わるはずのなかった世界からのものたちと思われます」

「ほう」

「調べたところによりますと琴星深苑。五条勝。斎村凪人。三名ともが円堂守、十六夜綾人と同等レベルの危険性をはらんでおります。いかがしますか?」

「であれば、奴らも我らの敵。円堂守、十六夜綾人共々サッカーを捨てさせる。作戦は続行だ!」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………了解」

 

何かバダップが呟く。もしかして誰かからの通信か?

 

「円堂守。十六夜綾人。誰を加えようとこちらは構わない」

 

そうか。それならよかった。ぶっちゃけ、フットボールフロンティアの規約に反している部分があるから不安だったけどまぁ、相手が認めているならいいよね?異論は認めない。

 

「戦闘を続行する」

「「これは戦闘じゃない!サッカーだ!」」

「守兄ぃにナギーさん。いいこと言うにゃ!」

「ククク……まぁ、お二方の言うとおりですねぇ……」

「たく。いい加減覚えろよなぁ」

 

とオレらはその一言に対し各々言っている。地味に円堂と斎村がハモってたがアイツもサッカーバカなのか?重度の。

 

「そうだ。十六夜。レイから聞いてたんだが……」

 

と、少し斎村と話をしている間に監督から選手交代が言い渡された。そしてその結果、助っ人を加えたフォーメーションはこんな感じになった。

 

 

FW 豪炎寺 琴星

 

MF 風丸 斎村 鬼道 カノン

 

DF レイ 十六夜 五条 壁山

 

GK 円堂

 

 

まぁ、あれだ。カノンは本当はフォワードらしいが中盤に。後、レイはレイでオレと同じく全ポジションをこなせるらしい。いや、そこまで真似しなくとも。ま、いいけど。

さて、後半残り15分か。いろいろ乱入とかがあったためか異例の事態が起きたためか、オーガのボールで試合再開のようだ。

 

「バダップ!俺はサッカーを捨てない!サッカーが好きな仲間がこんなにいるからな!」

「ああ。こっちは捨てる気はさらさらねぇ。作戦続行不能。そう上官にでも伝えておくんだな」

 

ピーー

 

バダップが蹴って試合再開。エスカバとミストレが猛スピードで突っ込んでくる。

 

「来るぞ!」

 

ボールはエスカバが持っているか。ヤバい早く対応しないとシュートまで持ち込まれる。

 

「琴星はバダップ!レイはミストレ!それぞれマークに付け!」

「分かったにゃ!」

「了解」

 

そんな中、冷静に指示を出す斎村。パスコースを塞いでるが、肝心のエスカバがそのまま鬼道とカノンを抜き去ってきた。

 

「ッチ。オレが……」

「待て十六夜!お前は行かなくていい!」

「だが」

「五条!」

「ええ。分かっていますよ。斎村君」

 

斎村の指示がある前に既に走り出していた五条。まるで前から斎村の出す指示が分かってたかのような動きだ。

 

「通しませんよ………!!」

 

そしてエスカバにスライディングを……いや、あれはただのスライディングじゃない!

 

「真キラースライド!!」

 

帝国の使っていたキラースライド……あれが進化しているのか?同じ技なはずなのに威力というか実用性が全然違うように見える。

 

「攻撃はお任せしますよ。斎村君」

 

そして、ボールは斎村へ渡る。

 

「通させるか!」

 

ミストレが死角から猛スピードで突っ込んでタックルを仕掛ける。だがそれを、

 

「何!?」

 

ミストレの方を一切見ることなく、最小限の動きだけで躱す。そしてドリブルを始めるが……おいおい、今本当にわずかにしか横に動いていない。大げさに避けることなく本当に最小限の動きだけでかわしたのかよ……ヤバい。あの男。登場シーンだけ見たらあれなのに……

 

「ククク……十六夜君。彼の動きは見る価値がありますよ。ディフェンスとしてもオフェンスとしてもね」

 

続いてバダップが立ち塞がったのをヒールリフトで、ボールをバダップの頭上にあげ自身も跳び空中で確保。バダップの後ろからジャンプして、ボールを確保にきたイッカを空中でエラシコのように右足のアウトサイドとインサイドを使って躱して着地。着地した瞬間を狙ってサンダユウがボールを奪いに行くもルーレットで躱す。

 

一瞬のうちに三人を抜き去っていった。

 

ゴールへ向かって走る中、ドラッヘ、ダイッコ、ジニスの三人に囲まれるも、一切動じることなくボールをキープし相手に触れさせることすらしない。そんな中、左足で軽くボールを上げると先ほどと同じく空中戦に持ち込もうとドラッヘ、ダイッコが跳び上がる。二人が跳び上がった瞬間、斎村は左足を地面につけたまま右足でボールを回収し、キープしながら跳び上がった二人を抜き去る。ジニスが素早く反応し、斎村を止めようと立ち塞がるも、

 

「すっげぇ!」

「アイツ一人でオーガを圧倒してるぞ!」

 

既に斎村の足元にはボールがなく、相手が動揺した隙に突破する。アイツ、DFが来る直前にボールをヒールで蹴って自分が走る方向とは逆方向に転がしておいたな。そしてボールは斎村が突破した反対方向から回転、φを表すかのように転がり斎村の足元へと戻って来る。

ベンチフィールド関係なしに今のプレーに興奮を隠しきれない一同。

 

「かっこいい……」

 

と、ベンチの方で音無がつぶやく声が聞こえたがオレとしては、

 

「いやアイツだけなんかおかしくね?」

「ククク……十六夜君。彼の本気はこんなものではないですよ」

 

え?マジですか?

すると、斎村はザコメルと一対一になる。

 

「まずは一点取り返す!」

 

そう言った斎村の背中から黒い影のようなものがあふれ出てきた!?

 

「何だあれ!?」

 

その異形は徐々に形を作っていく……

 

「雷鳴の王 サタン!」

 

ナニカガアラワレタ。エ?アレナニ?ナンナノイッタイ。ア、ショリガオイツカナイ。

 

「ナギーさん凄いにゃ!そんな凄い化身を使えるなんて聞いていなかったにゃ!」

「ククク……ここにいても凄まじい力を感じますねぇ…………!」

 

ケシン?ケシンッテイウノ?ダカラナニソレ?

 

「化身と言うのは人が作り出す気が極まって現れたものにゃ!」

 

…………なるほど。分からん。

すると、斎村の化身であるサタン、その右手に雷、左手に光が溢れる。雷と光、二つが合わさり、サッカーボールに注ぎ込まれる。そして跳び上がった斎村が一本の槍のようにサッカーボールに右足の裏でシュートを叩き込む。

え?この時点でツッコミどこ満載だって?いやね。あれだよ。化身という存在自体ツッコミ所の塊じゃん。 

 

「イナビカリフォース!!」

「ニードルハンマー!ぐあぁぁあああああ!?」

 

そのシュートはザコメルの突き出した手をたやすくはじき、ゴールを突き破って後ろの置物にめり込んだ。もう一度言う、ゴールを()()()()()後ろの置物に()()()()()のだ。

 

「…………ゴールネットって無敵じゃないんだな」

 

あ、やっべ……もうげんか……

 

「たく。ひいじいちゃん。何をそんなに驚いてるのさ」

「どうしてだい?これを驚かずにはいられないだろう?」

「だって、ひいじいちゃんも化身出すことできるよ」

 

……What?

 

「すげぇじゃねぇか斎村!」

「戦術眼に長け、圧倒的ボールキープ力。その上決定力もある……か」

「別の世界の俺たちはこんな奴とサッカーしていたのか……」

「くぅううう!雷鳴の王サタンにイナビカリフォース!すっげぇかっけぇ!」

「これはもしかしていけるんじゃないか?」

「斎村さんレベルの助っ人が五人もいるだなんて心強いッス!」

「よぉし!反撃行くぞぉ!」

『おぉっ!』

 

沸き立つ円堂たち。ベンチのメンバーも興奮を抑えきれない様子だ。斎村はカノンや琴星、五条と話しながらもどこか照れた感じがある。

 

「期待されてるとこ悪いけど……オレはあのレベルじゃないよ?さすがにあそこまでは無理」

 

と、小さい声で言っているレイを差し置いてオレは……

 

「オレがあんなのを?はははっ」

 

ありえねぇ。

 

もうすでに逃げたいのですが。え?何から?現実からだよ。

 

得点は1対2。依然としてオーガリードだが、逆転への道は見え始め。先ほどまでよりも全員の気持ちは前向きとなり一つとなった。たったワンプレーで流れを変える。今のオレには到底不可能な芸当だな。



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VSオーガ! ~一人がダメなら二人で!~

ゴールと後ついでに置物も無事元に戻ってオーガのキックオフで試合再開。

ミストレがドリブルで上がってくるが、

 

「にゃ!もうそのスピードは見切ったにゃ!」

 

前線の琴星がそのボールをカットする。

 

「持ち込め!琴星!」

「分かったにゃ!」

 

そのままグングンとスピードを上げて上がっていく。MF陣を抜き去り、立ち塞がったのはダイッコとジニスの二人のDF。

 

「今にゃ!カノっち」

 

すると、琴星が右サイドにボールを蹴る。そこに走り込んでいたのはカノン。DF二人は琴星に付いていたため完全フリーだ。

 

「よぉし!決めてやる!」

 

すると、前にボールを蹴り出し、ダッシュ。そのまま膝を曲げ、空中で前転をして、

 

「ゴッドキャノン!」

 

両足をボールにつけ力をため、一気に解き放った!?まるで砲台じゃねぇか!いやレーザーか!?ゴッド……神の砲台か!?

そのシュートに対し、何度か空中を手で切る動作をするザコメル。

 

「エレキトラップ!」

「ちょい待てや!」

 

すると、切った手の軌跡が電気の線となりそれが何本も現れた!いや、意味分かんねぇよ!そしてその線に触れたボール。一気に電気が集まり、シュートの威力を殺して止めた。

 

「何だよその技!アイツ手を空中で切っただけじゃないのか!?と言うかカノンの方もよくあんな体勢を維持できるなおい!」

「あー……十六夜君。ここではシュートで人が吹き飛び、ドリブルやブロックで人が有り得ない現象を巻き起こし、ペンギンが空を飛ぶんです。もう受け入れた方が身のためだと思いますよ?」

「ぐっ……だが、オレは受け入れることがぁ……!」

 

数秒に渡る葛藤の結果、一旦受け入れることを諦めることにする。諦めて今は勝つことを考えるんだ。

ボールはバダップへ渡り、こちらに向かってドリブルしてくる。

 

「十六夜君」

「ああ」

 

オレは五条と一瞬目を合わせ、五条は、

 

「行かせません……真キラースライド!!」

「フン!二度も同じ手が通用するかぁ!」

 

バダップは五条を跳んで躱す。しかし、五条は突破されたはずなのに不敵に笑う。

 

「えぇ。そんなことくらい計算済みですよ。私も十六夜君も」

「なんだと!?」

「油断大敵。誰が一人で相手すると思った?」

 

オレが空中でバダップからボールを奪いそのままドリブルをしていく。

そうキラースライドは前後左右に強いかもしれない。ただ、弱点は空中。だから誰しもが跳べば躱せると思う。そしてそれを実行に移す。何も考えてなければ突破されてヤバいが、逆に考えれば、キラースライドを避けるために跳ぶことが事前に分かっていれば容易にボールはとれる。

つまり、完全にこちらの思惑通りにバダップは動いたわけだ。にしても五条は凄いな。オレがとった後も着地しやすいようスライディングのスピードとかまで計算していたんだから。DFとしての力でもオレでは負けてるな。

 

「そう言えば十六夜。さっき聞きそびれたんだが、お前はこの戦いが本来、行われることがないことをあらかじめ知っていたか?」

 

すると、いつの間にか隣を走っていた斎村が声をかけてくる。

 

「はぁ?どういう意味だよそれは」

 

エスカバとミストレをワンツーの要領で突破しながら話を進める。

曾孫たちがそんなこと言っていたがあらかじめ知っていたかだと?知ってるわけないじゃん。

 

「本来。この決勝で戦うのは世宇子中のはずだったんだよ」

 

ちょっと待て。何でそんなことを知っている?いや、最初の質問からおかしい。あらかじめこの戦いを知ってるか否かなんて普通は知らないはずだ。それを知ってるとすればそいつは未来、もしくはこの世界以外の場所から来ている。例えこの世界線とは違う並行世界から来ているとはいえこちらの流れを知ってるわけが……ん?そういや、イナズマイレブンの世界は、オレのいた前の世界では二次元だったな。なら、本来のオレたちの未来を知っているこいつは……。

 

「通させん!」

「ッチ考え事くらいさせろよ!斎村!」

 

と、斎村にパスを出そうと足を引くと、ディフェンスは斎村の方へ警戒を向ける。やれやれ、

 

「琴星!」

 

足をボールの上を通過させ、ヒールで琴星にパスを出す。

 

「ナイスパスにゃ!」

「俺を囮に使う……か。考えたな」

「誰が安直に一番警戒されてる奴に出すかっての」

 

まぁ、いいや。もしかしたら別の可能性もあるしな。ただ濃厚なのは、こいつも……。

 

「行かせんぞ」

「受け取ったこのボールは渡さないにゃ!」

 

すると、何か大きな星型の板を取り出す琴星。……は?いや、どっから取り出してんだよそれ!

 

「スパイラルスターウェーブ!!」

 

それに乗り、小さな星をまき散らしながらスピードを上げて突破した。だから星はどこから出してんだよ!

 

「はぁぁっ!」

 

そして突破した後ボールを蹴り上げる琴星。蹴り上げられたボールに数多の星々からパワーが集まっている。すっげぇ星が見えるだけど……おかしいな?幻覚かな?

 

「スターダストレイン!!いっけぇー!!!」

 

そしてそのボールに踵落としをして、流星群とともにゴールへ向かう。いや、流星群も行っちゃったんだけど……

 

「だが、その威力だけじゃ……」

「まだだ!」

 

と、そのシュートに走り込んでいるのは豪炎寺。跳び上がりその身に炎を纏う。そして、その炎は左足に集中する。そして左足から炎が伸び――

 

「マキシマムファイア!!」

 

――炎をボールにぶつけた。ボールは炎を纏い、流星群とともに地面を()()()()()突き進む。いやね、豪炎寺が炎出すことは半ば諦めるけどさ。

 

「だからって地面を抉ったらダメでしょうが!」

 

フィールド破壊。ダメ絶対。

 

「エレキトラップ!」

 

エレキトラップを、マキシマムファイアの炎が電気を包みこみ無力化し流星群が粉砕。

ボールの威力は衰えることなくザコメルごとゴールに突き刺さった。

 

「やったにゃ!さすが炎兄ぃにゃ!」

「琴星もやるじゃないか」

「二人ともナイスシュートだ」

「きどーさん……!よぉしこれで同点にゃ!」

 

褒められて嬉しそうにする琴星。

というか、どうでもいいがザコメル大丈夫か?炎で焼かれ流星群にぶち当たってたが……

 

「うわぁ。不死身かよ」

 

アイツ普通に立ち上がったんだけど。というか、

 

「あれでゴールネット破れないのかよ……」

 

一体、斎村はどんな桁違いな威力でシュートを打ったんだよ……

 

「もう、気付いたら何事もなかったかのようにフィールドが戻っている件については何も言わねぇ」

 

はは……何か……疲れたなぁ……え?まだ15分経ってないの?え?10分すら経ってない?うっそだぁー

もう完全に思考が停止状態に近づき始めた気もしなくはないが、何がともあれ2-2の同点。まだまだ試合は終わらない。




映画ではゴッドキャノンだけでエレキトラップを破ってますが、今作では破れませんでした。
というか、ゴッドキャノンよりウルフレジェンド+マキシマムファイアの方が強いと思うのは作者だけでしょうか?


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VSオーガ! ~繋ぐ繋がる繋げる~

同点に追いつき試合再開。が、バダップはボールを持ったままカノンに急接近し、近距離からシュート並みの威力でボールをぶつける。そして跳ね返ったボールを再びぶつける。人間サンドバッグ状態だ。

 

「アイツ!カノンを潰す気か!」

 

なるほど、助っ人を一人ずつ潰す気か。……感心しないな。

 

「止めねぇと……!」

 

オレが止めようと行こうとするもシュートの嵐がカノンを、そしてその近くにいた者を襲うため容易には近付けない。

そんな中、オレより先にボールとカノンの間に割って入る影があった。

 

「助っ人ばかりにいい格好させないぜ」

「一兄ぃ!」

「風丸さん!」

 

風丸だ。風丸はボールをヘディングで弾き、そのシュートを防いだ。

 

「行くぞぉ!」

 

はじかれたボールは鬼道が確保していて、鬼道から琴星にボールが渡る。

 

「綾人!」

「ナイス!」

 

そして、上がってきたオレにボールが渡る。

 

「十六夜!俺が言ったこと覚えてるな!」

「試合再開前のアレか?」

「ああ!」

 

斎村に試合再開前、話があるとかで話をしていた。

どうやらレイからオレがまだペンギンを多く呼ぶときにペラーを介してしかできないことを伝えられたらしく、それの改善を図るように斎村に頼んでいたそうだ。で、言われたのが……

 

「先入観を捨て、イメージを強く持つ……」

 

後は鬼道が一番イメージしやすいそうだ。よし。

ペンギンは地面から生えるペンギンは地面から生えるペンギンは地面から生えるペンギンは地面から生える…………!

 

ピーー!

 

すると、ペラーを含めた6匹のペンギンが現れた。

 

「皇帝ペンギンO!」

 

そして、センターラインからロングシュートを放つ。

 

「斎村!後は頼んだ!」

「おう!」

 

斎村は右脚に光を集中させ、オレのシュートが到達したタイミングで捻るように蹴り込んだ。

 

「超ライトニングスピアー!!」

 

それは一本の光の槍となり、先端は尖り回転しながら突き進んでいく。ペンギンたちもその姿を光に変え、共にスピードをあげながら突撃していく。

 

『いけぇっ!』

 

すると、ザコメルの肩の後ろ側が盛り上がり!?(人間かアイツ!?)ユニフォームの下から小さな二人のプレイヤーが出て来た。……あ、なるほど。でもなぁ……

 

「…………よく生きてたなぁ」

 

いやね。最初からあそこにいたとしたら少なくとも死んでいてもおかしくないと思うんだ。主にこっちのシュートのせいで。

すると出てきた二人はそれぞれザコメルの手の上に乗って、

 

「ハイボルテージ!」

 

そのまま二人の頭をぶつけると今まで以上の電気がほとばしりそれが壁となってシュートと相対する。いや、おかしくね?何であんな壁ができるの?というか痛くないの?

ボールは壁を突き破るも威力があと一歩足りずに簡単にとられてしまった。

 

「この技を使わせ、あと少し威力があれば破るほどとはな」

『バカな!』

 

驚くフィールドとベンチのメンバー。だが、対照的にオレと斎村は冷静だった。

 

「ッチ。オレの力が足りなかったか」

 

だって、破れなかった大きな原因はオレにある。オレのキック力がもっと高かったら破れていた可能性はあった。ッチ。そう思うと悔しいなおい。

 

「いやそれだけじゃない。もっと連携された技じゃないと完全には破れないだろう」

「それもあるかもな……」

「だが、出来たじゃないか。今の感覚だよ」

「ああ。自己洗脳したらなんとかな」

「…………は?自己洗脳した?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げる斎村。一体何に驚いたんだろうか。

 

「終わらせろ!」

 

そんな会話も終わり自身のポジションにつくと、バダップの指示を受け再びシュート並の威力でオレたちにボールをぶつけ始めたオーガ。

こちらはボールの威力で吹き飛ばされる。仮にトラップしたとしてもオーガの選手がかなりのスピードで接近。ゼロ距離でシュートを放たれやはり吹き飛ばされることになる。さらに、向こうが通用しないと判断された一部のメンバーはオーガの数名による徹底マークでボールに近付かせない。

 

「牙を抜かれた人間よ……トドメだぁっ!」

 

オレたちを傷付け、何度も倒したそんな時、トドメと言ってシュート体勢に入る。

先ほどオレに止めかけられたのもあってか、バダップの横にはミストレとエスカバが。

ミストレとエスカバが跳び上がり、バダップが空へと蹴り出し、自身も跳び上がる。そして、バダップは空中でオーバーヘッドキックのような形で、ミストレ、エスカバとともに同時に蹴り込む。

 

『デスブレイク!』

 

何本ものトゲのような物がボールから生えてくる。シュートはその威力で地面を()()()()()突き進む。今までのシュートに比べ遙かに凶悪で邪悪なシュートだ。なんかウニみたいな見た目とか言ってられない。というかお前らも地面を抉るのかよ。

 

「ひい……じいちゃん!」

 

カノンがよろめきながら立ち上がる。

 

「まだまだぁっ!」

 

そしてカノンと円堂が共に頷き合う。

 

『まだまだ……終わってねぇぞぉーっ!!』

 

……たく。熱いなおい。だが、

 

「それでこそ円堂だよな!五条!レイ!行くぞ!」

 

オレも立ち上がり、五条とレイに声をかける。

 

「ククク……任せてください」

「しっかり合わせてよ!ひいじいちゃん!」

「お前こそな!」

 

まず、五条がシュートの前に立ちはだかる。そして跳び上がり空中で足を振るう。すると、地面からその振るった軌跡上に紫の炎が現れた。しかも、スピニングカットの炎と違いまるで悪魔のような顔を持ち、炎が意思を持っているようにも感じる。

 

「デーモンカット!」

 

そのまんま!てか、やっぱり悪魔かよ!だが、五条のデーモンカットを持ってしてもデスブレイクの威力を完全に止めるには至らなかった。

ただ、それも計算に入れていたのが五条。オレたちの行動を読み、オレたちが次に止めやすいようにボールの軌道をやや上空に変えてくれた。

 

「後は任せましたよ」

 

相手の力量を正確に判断する必要があるはずなのにそれを簡単にやってのける。どこまでも底が知れない実力を持ってるな……。

 

「流石です!行くよひいじいちゃん!」

「おう!」

 

オレは右脚を引き、レイが右脚の上に乗る。そして、右脚を振るうと同時にレイがオレの脚を踏み台にし、跳躍する。

 

ピーー!

 

そして、同時にペンギンをオレとレイが6匹ずつの計12匹を呼び出して、フィールドにペンギンたちが現れる。

オレはペラーに乗りながら加速し、5匹のペンギンと共にシュートへ。レイはゼロに押されながら空中で縦回転をし、スピードを上げ5匹のペンギンと共に落下する。

 

『皇帝ペンギン――』

 

シュートに対し上からは空中からのレイの踵落としが、下からは地上からのオレの蹴りが。二つの蹴りの力が同時に加わりさらに、ペンギンたちがシュートを止めようと食らい付く。

 

『――(Double)(Break)!!』

 

ボールは()()()()()()()し、完全に威力を殺した。

 

『おぉっ!デーモンカットと皇帝ペンギンDBがデスブレイクを完全に止めたぁっ!』

 

あ、やっべボールがと思った次の瞬間にはボールが再生していた。とりあえず、ま、いっかということでボールをカノンに渡す。

 

「俺たちは信じてる……ひいじいちゃんたちから受け継いだサッカーを!」

 

ボールは琴星に渡り、琴星を囲うように残りのオレたち9人が囲うようにして走る。

 

「例え世界が違ったとしても!」

「未来に繋ぐんだ!」

 

助っ人に来てくれた琴星、五条、斎村。未来から来てくれたカノンにレイ。生きている世界が、時代が違ったとしてもサッカーがオレたちを繋いでくれている。

 

「俺たちの――――」

『サッカーを!!』

 

だから、オレたちはその繋いでくれるサッカーを未来へと守っていくんだ!

 

「行かせるか!」

 

オレたちの前に立ち塞がるオーガのディフェンス陣。

 

「これはゴマちゃんが、レイレイが、綾人が止めたボールにゃ!絶対に奪われるわけにはいかないにゃ!」

 

オレたちの一歩先をボールを持った琴星が走る。

 

「それに、ボクはイナズマジャパン……雷門の皆に夢を貰ったんだにゃ。だから、ボクはその夢を、憧れの皆を守るんだにゃ!!」

 

すると、指を鳴らす琴星。

 

「イリュージョンスター!!」

 

オーガのディフェンス陣は琴星の作る幻の星空の世界に連れて行かれた。だんだんと強くなっていく光にオーガディフェンス陣は目を開けてはいられない。

 

「今にゃ!ナギーさん!綾人!決めるにゃ!」

 

その隙を突いて突破し、オレにボールが渡った。

 

「ククク……決めてください。斎村君。十六夜君」

「いっけぇ!二人とも!」

 

五条、円堂からも声が聞こえる。いや、それだけじゃない。オレたちに託してくれる思いが全てこのボールから伝わってくる。今も一緒に走ってくれる仲間の、怪我でベンチに下がってしまった仲間の、未来から、別の世界から来てくれた仲間の。

 

オレは斎村の方に目を向け、アイコンタクトを取って頷き合う。

 

そしてボールを斎村に託す。斎村は走りながら受け取ったボールをゴール前の上空にフルパワーで蹴り上げる。すると、ボールは銀色に光り出して超エネルギーをチャージし始める。オレはすかさず、

 

ピーー!

 

ペンギンを7匹召喚する。

 

「行くぞ!十六夜ぃっ!」

「決めるぞ!斎村ぁっ!」

 

オレはペンギンたちと共に飛び上がり、ボールの上を通過する。オレが飛んだのと同時に斎村も飛び上がり、そのままオレたち二人は縦回転をし、オレが右脚を、斎村が左脚を同時にボールに叩き込む。それに伴いペンギンたちは銀色に染まりそのままゴールに向かって飛んでいく。

 

『セイクリッド・ペンギン!!』

 

デスブレイクとは対極の力。邪悪を打ち破る為の破邪の力を持つシュートがゴールに向かっていく。

 

『いけぇええええええええええっ!!』

『ハイボルテージ!』

 

その破邪の力は雷の壁を打ち破り、ザコメルたちを吹き飛ばして、ゴールに刺さる。

 

「やったにゃ!打ち破ったにゃ!」

「ククク……なかなかの威力ですねぇ」

「やったな!斎村!」

「ナイスシュートだ十六夜!」

 

オレと斎村はハイタッチを交わす。

 

「やっぱ、ひいじいちゃんもすげぇや」

 

3-2。遂に勝ち越すことに成功。時間もまもなく終わりを告げる。このまま何もなければ雷門の勝ちで終わるだろう。そう、

 

「円堂守ぅううううううううっ!!!!」

 

憎悪を怒りを感情の全てを込めて吠えるバダップ。

まだ試合は終わっていない。

最後まで何が起きるか分からないのだ。



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VSオーガ! ~またね~

「円堂守……十六夜綾人……!貴様が!貴様らがいるせいで……!」

 

ちょい待て。さっき、円堂だけだっただろ。何取ってつけたようにオレの名前を出してやがる。オレを巻き込むんじゃない。

で、オーガボールで試合再開。すると、バダップ、エスカバ、ミストレの三人が構えた。

 

「我々は負けることなど許されないのだ!」

 

上空にボールを蹴り上げ再び、

 

『デスブレイク!』

 

デスブレイクが地面を抉りながら突き進む。クソ、さっきより憎悪とか怒りとかで威力が上がってねぇか?心なしか背後に鬼が見える。

 

「円堂守っ!サッカーを捨てろぉっ!捨てるのだぁっ!!」

 

ダメだ!さっきと違ってボールに近づくことすら出来ない。何なんだよこれ!

 

『円堂!』

『キャプテン!』

「円堂さん!」

「守兄ぃ!」

「円堂君!」

「円堂ぉ!」

「円堂っ!」

 

おそらく近づけたとしても今のオレじゃ満足にシュートの威力を削ることすら叶わない。いや、もしオレが完全だったとしてもあのシュートはオレには止められない。

 

「ひいじいちゃぁぁーーん!」

 

円堂は恐れることなく真っ直ぐにボールを見つめる。

 

「バダップ!俺はサッカーを捨てない!サッカーが大好きな仲間がいる限り……俺は絶対諦めない!」

「その通りだ円堂!オレたちは絶対にサッカーを捨てない!例え何があってもな!」

 

オレも円堂に応えるようにして叫ぶ!そうだ!誰がサッカーを捨てるかってんだよ!

 

「うぉぉぉあああああああ!!」

 

再び吠えるバダップ。どうやらオレたちの答えが気にくわなかったようだ。いや、気にくわなかったって次元じゃねぇだろアレ。

すると、円堂の右手に今までにないくらいの光が集まってくる。

 

「未来に届け!」

 

そしてその手を掲げると巨大な手が現れる。ゴッドハンド?いや違う。その手はもっと大きく、もっと強い。

 

「オメガ・ザ・ハンド!!」

 

円堂のオメガ・ザ・ハンドとバタップたちのデスブレイクが正面からぶつかり合う。円堂のオメガ・ザ・ハンドはデスブレイクを握りつぶそうとするもその威力に押し負けそうになってしまう。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

 

だが簡単に押し負ける程円堂も柔ではない。

 

「負けるもんかぁぁっ!!」

 

右手を再び突き出すように構える。すると、徐々にオメガ・ザ・ハンドは、デスブレイクを握りつぶし始め、フィールド中に光が溢れた。

その光が止むとそこには、ボールをしっかりと受け止めた円堂の姿が。

 

「……ははっ。何も言えねぇよ」

「やっぱりひいじいちゃんはすっげぇや!」

 

ピ、ピーー

 

鳴り響く試合終了のホイッスル。

最終的にスコアは3-2でオレたち雷門の勝利だ。

 

『やったぁぁあああああ!』

 

グラウンドへと集まり勝利を分かち合う雷門イレブンと助っ人たち。

気付けばオーガによって変えられたスタジアムは元に戻っていた。

 

「バダップ!」

 

円堂がバダップに話しかける。

 

「すげー決勝戦だったな!お前たちと一緒に試合出来て良かった!」

「よくこの決勝戦をすげーの一言でまとめたな……でもま、過程はどうあれお前らと戦えて楽しかったと思えてるよ。ありがとな」

「だからまた、サッカーやろうぜ」

「その呪文を俺たちにもかけるのか!」

 

…………え?呪文?

 

「勝負が終われば、皆仲間だろ?」

 

いやお前。そもそも呪文って言われて何も思わなかったの?

 

「その考えが未来の人間を弱体化させた!貴様らのせいで戦う事を忘れてしまった!だから俺たちは未来を変えようとしたんだ!」

 

ちょい待て。その貴様らにオレを含めるのは間違ってるぞ。誰だ上官は。文句言いに行ってやる。……てか、

 

「別にそれはねぇだろ」

「何だと!」

「いやさ、試合が終われば皆仲間になる。サッカーってのはボールを蹴り合って点を決めるために攻めたり、逆に取られないよう守ったり。きれい事だけどそういう事を通じて皆最後は皆がつながり笑顔で終われる。違うか?」

「ククク……僭越ながら私もバダップ君へ一言。確かに誰かと競う意味での戦う心は必要でしょう。ですが、君の言う傷つけるための戦いは不必要であると思いますよ」

「ごまちゃんの言う通りにゃ!誰かを無闇に傷つけることは間違っている。ボクは皆が手を取り合って笑顔で楽しく過ごすことのできる。そんな世界がいいにゃ!」

「本当に未来を思うのなら、無益な戦いの必要ないお互いに分かり合える未来への道を模索し、理想の未来へ向けて前進すること。これが大切なんじゃねぇのか?」

 

オレ、五条、琴星、斎村。四人の言葉にバダップは反論することができない。

 

「バダップ……本当に強くならなきゃいけないのはここじゃないかな?」

 

円堂はトントン、と左胸……心臓部を軽く叩いて笑う。

 

「大切なのは戦う事じゃない。戦う勇気を持っているって事だろ?勇気があれば未来だって変えられる!仲間と一緒にもっと強くなる事だって出来る!」

 

すると、バダップは何かに気付いた顔をする。

 

「……俺たちはお前たちの言う『勇気』を見失っていたのかもしれない。円堂守よ!未来は……俺たちの進むべき未来は――」

「見つかるさ!」

 

バダップの不安に円堂は何の迷いもなく応える。

 

「お前たちの勇気で!きっとな!」

 

そして右手を差し伸べる円堂。それにバダップは応えようと右手を差し出そうとする……が。突如赤い光が空から降り注ぎ、円堂とバダップの間に壁となって握手を塞いだ。

 

「バダップ!」

 

バダップたちから光が出てきた。おそらく転送されるのだろう。

最後にバダップは自分の左胸をトントン、と叩く。

 

「…………!」

 

そして、空へと消えていった。

 

「円堂……」

「ああ。アイツにも伝わったな」

『ひいじいちゃん!』

 

と、ここでカノン、レイの曾孫ズが声をかけてくる。

 

「ありがとなカノン!」

「助かったぞ。レイ」

 

未来から来た二人。そして、異なる世界線から来た三人の元へ行く。

 

「琴星!五条!斎村!お前たちもありがとな!」

「ああ。お前たちとサッカーできて楽しかったよ」

「守兄ぃ!綾人!ボクも皆とサッカーできて楽しかったにゃ!」

「ククク……私も君たちと共に戦えて嬉しかったですよ。ああ、鬼道。こちらの私にもよろしくお願いします」

「円堂。十六夜。最高のプレーだった。これから何があっても挫けるなよ」

『ああ!』

 

……って、挫けるようなことがこれから起こるのか?あの円堂が?

 

「ひいじいちゃん」

 

すると、レイが手を前に出す。

 

「オレ。ひいじいちゃんの曾孫でよかったよ」

「……たく。それを中学生のオレに言うなっての。でもまぁ、お前みたいな曾孫が生まれるって事はどうやらオレの家族は平和らしいな」

 

オレも応えるようにして手を前に出し、レイの手を握る。

 

「いや……ひいばあちゃんは怒らすと怖いって聞いてるんだけどなぁ……」

 

と、何か小声で呟くレイ。

 

「どうした?」

「何でもないよ」

 

円堂の方もカノンと握手している。

 

「元気でな。レイ」

「ひいじいちゃんこそ」

 

そして、オレらが手を放すと、青白い光が現れた。おそらく帰る時間が来たのだろう。

 

「十六夜!またサッカーやろうぜ!」

「ええ。また一緒にやりましょう」

「絶対またサッカーをする。約束だにゃ!」

「ああ!もちろんだ!」

 

斎村、五条、琴星、そしてカノンとレイの五人は笑顔で手を振る。オレと円堂はそれを見送った。

 

「……行ったな」

「……ああ」

「……またね」

 

と、オレらが少ししんみりした空気を出してるなか、舞い散る紙吹雪。

振り返るとそこには、ベンチのメンバーを含めた雷門サッカー部全員がいた。

 

『フットボールフロンティア全国大会、大激闘を制したのは雷門中!新たな日本一の誕生だぁ!』

「俺たちは日本一だぁ!」

『おぉぉぉっ!』




次回でオーガ編終了です。
次回は本編短めあとがき長めでお送りします。


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VSオーガ! ~エピローグ~

「でも、まだ信じられないでやんす」

「何がだよ。栗松」

「カノンとレイが未来から来たことでやんすよ。それに三人が異なる世界線から来たって話も……」

 

現在、フットボールフロンティア優勝後、いろいろやることを終えて雷門中にバスで帰還する途中。

 

「あいつらはサッカーが大好きだ。だから俺は信じる。サッカーを好きな奴に悪い奴なんていない」

「円堂らしい答えだな」

「ああ。全くだ」

「琴星。五条。斎村の三人はともかく、カノンとレイが未来から来たかどうかを確かめる方法は一つだけあるぞ」

 

と、鬼道が提案する。

 

「どんな方法だよ」

「長生きをすることだ。曾孫が生まれるまでな」

 

確かに一理ある。あるが……

 

「しかし、円堂と十六夜ならちゃっかり生きてそうだな」

「おい待て。それはどういう意味だ」

「あら?十六夜君もただじゃ死ななそうだけど?」

 

いえ、既に一回死んでますが?

 

「それに円堂君も」

「そうか?そりゃあありがと」

「何で『ありがとう』になっちゃうの?」

「なんか……嬉しいからさ!」

 

あはは……単純な奴だ。そう思いながら外を見るオレ。

 

「どうした?十六夜」

「いやさ、カノンとレイにも驚いたが他の三人もな」

「あの三人か……」

「三人とも俺らの何倍も強かったよな」

「くぅぅ」

「どうした?円堂」

 

すると円堂がすごい悔しそうにする。何があったんだこいつ。

 

「斎村のイナビカリフォースに琴星のスターダストレイン!それから十六夜と斎村のセイクリッド・ペンギン!くぅぅうう!止めてみたかったぜ!」

 

いや、味方だから。間違っても試合中にやっちゃダメだから。

 

「ふっ。それを言うなら俺もあの五条と一度戦ってみたかったな。あの男もまだまだ底がしれなかった」

 

いや、鬼道さん。この話は乗るとマジで……

 

「琴星も別の世界の未来の雷門から来ていたんだったな。未来のストライカーだったりするのかな?」

「もしかしたらアイツは俺を超えるストライカーになっているのかもしれないな」

 

ほら、豪炎寺乗っちゃったし、こりゃああれだ。収集がつかねぇわ。

 

「そういえば十六夜」

「なんだ?風丸」

「お前、レイに言われてなかったか?あの斎村が出した化身?ってのをお前も出せるって」

『あっ……』

 

あーそんなこと言われていたな。

 

「今だしてくれよ!十六夜!」

「無理だっての!」

「えぇー……でも化身かぁ……どんな化身なんだろうな」

 

知らね。というか考えたくもない。これ以上オレの胃を殺さないでくれ。

 

「俺たちもあんなレベルまで絶対に強くなる!これからもサッカーを楽しみ続けるんだ!」

 

でもまぁ、またいつか会えるかもな。そして、いつかまたサッカーできるといいな。そう思いながらオレたちは雷門中へと帰るのだった。




これにてオーガ編終了です!

今回オリ主を貸していただいたメンマ46号様。ハチミツりんご様。奏梅莉愛様。本当にありがとうございます。……今更ですがこの台詞が気にくわない等がございましたら遠慮なくどうぞ。修正させていただきますので。ただ、その場合は感想欄ではなく個人的なメッセージの方でお願いします。

さて、
メンマ46号様の斎村凪人が主人公の『イナズマイレブン-なんか色々混ざった伝説-』
ハチミツリンゴ様の五条勝が主人公の『イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!』
奏梅莉愛様の琴星深苑が主人公の『イナズマイレブンGO 星の奇術師(仮)』
興味のある方は是非読んでみてください!この作品とはまたひと味違いますよ(もっともこの作品が異質すぎるだけな気もありますが……)


他人が動かす自分のオリ主ですか……。お三方はどんな気持ちでいるのでしょうか。すごい気になりますね。


今回のオーガ編はいつも以上に難しくでも面白かったです。
オーガをやろうかとアンケートをした段階ではレイと十六夜の連携技を使用することと、十六夜もターゲットになること以外ほぼノープラン。助っ人を原作以外の面子にしたら面白そうと活動報告で聞いたところ「他作者様のオリ主を貸していただく」という面白そうだと思いました。が、この作品にオリ主を貸してくれる心の広い方がいるのかという不安もあり若干実現には否定的に考えていましたが、心の広いお三方のお陰で実現しました。これには感謝しかありません。


ここでこのオーガ編で出てきたこの作品でのオリジナルの必殺技の解説を。

【皇帝ペンギン(Double)(Break)
ブロック(ただし、SB専用)
属性・風
TP ゲーム3・60
威力:パーフェクトタワー以上

綾人とレイの二人での連携技。綾人がレイを上空へ蹴り飛ばし、二人が同時に6匹ずつペンギンを召喚。綾人は地上からペラーに乗り5匹のペンギンと共にシュートへ。レイは空中でゼロに押されながら縦回転し、ペンギン共に空中からシュートへ。二人同時に蹴りを(綾人は前蹴り、レイは踵落とし)シュートに加えシュートをペンギンたちとともにぶち壊す。

ゲーム風説明文
ペンギンたちよ!そのシュートを喰らい尽くせ!!

【セイクリッド・ペンギン】
シュート
属性・風
TP ゲーム3・64
威力:皇帝ペンギン3号と同等
 
文字通り破邪の力を持ったペンギン。斎村が走りながらゴール前の上空にフルパワーでボールを蹴り上げる。するとボールは銀色に光り出して超エネルギーをチャージし始める。すかさず十六夜が指笛でペンギンを七匹召喚。ペンギンたちと共に飛び上がってボールの上を通過。同様に斎村も飛び上がり、そのまま縦回転の踵落としを二人同時に(十六夜が右脚、斎村が左脚)ボールに叩き込む。それに伴ってペンギンたちの色が銀色に染まってゴールに向かって行く。

ゲーム風説明文
聖なるペンギンよ!その嘴で邪悪を撃ち砕け!!


『セイクリッド・ペンギン』はメンマ46号様に案をいただきました。『皇帝ペンギンDB』の方は作者がそれっぽい感じで書きました。はい。クオリティーなどが天と地ほどの差がありますね。
素晴らしい必殺技をいただき感謝です!


一応番外編……というかオーガ戦を経験した世界線ではこのままエイリア編に突入。十六夜はダークエンペラーズ戦で再び化身の前兆が現れ、世界編でのガルシルド戦で化身使いに覚醒します。先に言っておくと本編ではこの展開にはなりません。というか、豪炎寺と円堂も強化されてるからエイリア編で苦労しなくない?爆熱ストームと正義の鉄拳生まれない?などと思いましたがそこは想像の中に入れておきましょう。


さて、後に言うことがあるとすれば今作者が思いついてる阿呆なことは、

・オリ主だけでチーム作って戦う姿が見たい(いや、敵チームどうすんだよ。オールスターか?)
・十六夜君のモデル作成(いや、ある程度はできてるんですよ。うん)
・十六夜君をクロノストーンとギャラクシーにぶち込みたい(いや、今ぶち込んでも圧倒的実力不足なのですが……特に前者)

こんなことくらいですかね……最後はやるとしても自分が(当たり前ですね)。真ん中は……うん。絵ではないねあれは。画像一覧見てもらえればあんな感じで作るというのが分かります。で、それらはともかくとして、一番上です。誰かやってくれないかなぁと、完全に他力本願ですが思う今日この頃。もしやってくれるなら十六夜君も登場させてほしいなぁと思う今日この頃。


途中、オーガ編関係ない後書きになりましたが。改めて謝辞を。
キャラを貸して下さった方々。活動報告で案を出して下さった方々。そしてここまで付き合ってくれる読者の皆様。本当にありがとうございます。この作品は阿呆な作者が書いていますが、読者の皆様の支えなしでは出来ません(なんか聞き覚えのあるフレーズですね。よく政治界で使われてそう)今後とも応援や協力などお願いします。


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エイリア編
宇宙人襲来!?


令和最初の投稿です。
あと一つの番外編とオーガは後にやることにしましたのでここからエイリア編開始です。
また、十六夜君の二つ名アンケートは締め切ります。沢山の協力ありがとうございます。
あと、番外編についても最低人数は達しているので締め切りますね。
また機会がございましたら協力していただけると幸いです。
では、エイリア編。スタートです。


 フットボールフロンティア決勝戦から早くも1週間が経ったころ。オレは、

 

「で、なんでここなんだ?」

 

 フットボールフロンティアの会場、フロンティアスタジアムに呼び出されていた。

 今日の空は灰色だ。呼びだした人間……昨日ぶりに会う八神の纏う空気は昨日のソレとは変わり、恐ろしいまでに冷たくなっていた。何だ?この空気。何だ?怒ってるのか?コイツは。

 今日も今日とて河川敷で普通に部活はある。いや、昨日までいろいろあって普通に部活やってなかったか?でもそんなのどっちでもいっか。こいつとの練習は欠かさなかったからな。で、今日のあいつらとの練習、オレは遅刻という形にしておいたが……まぁいいか。

 

「今、ここを中心に学校破壊が行われ始めている」

「…………は?」

 

 いきなり何言ってんだコイツは。まさか頭が逝かれたのか?

 

「我々、エイリア学園の手によってな」

「…………えーっと。やらせ?ギャグ?ネタ?ドッキリ?」

「真実だ」

 

 やべぇ。どうしようもなくやべぇ。意味が分からなさすぎて超やべぇ。

 落ち着いて整理しよう。まず、朝。短く『フットボールフロンティアの全国大会が行われた会場前に来い』とあって、それを了承。で、着くと、服装はいつも通りだが、足元には見たことないボール……と思ったらあれだ。前に蹴り込まれたボールだ。そんで、目が一切笑ってなく冷たい雰囲気を纏う八神。……え?遅れた?いや、時間書いてなかったし。で、これだ。

 結論。マジで意味不明。

 

「我々のチームの1つ、ジェミニストームが雷門中に現れた」

「ちょっと待て。どこからツッコミを入れればいいか分からなくてすっげぇ混乱しているんだが」

「現在、雷門にいたチームとサッカーにて試合中」

「そこ話進めちゃう!?混乱してる人差し置いて普通話進める!?」

「貴様には選択肢がある」

「選択肢以前の問題なんですけど!?」

「…………ダメだ」

「はい?」

 

 え?ダメだし?まさかのダメだし?

 

「どうも貴様とは真面目な感じで話せないらしい」

「お前がオレを置き去りに話を進めようとするからだぁ!」

「じゃあ、率直に言ってやろう」

 

 すると、手を差し述べる八神。

 

「私と来い」

「ちょい待て。誰が話を進めろと言った。全然理解できてねぇぞこっちは」

 

 絶対、八神に問題があると思う。コイツ、国語できないのでは?

 

「お前ともう1人の力は我々の認めるところだ」

「なんか認められてた!?」

「だから来い」

「だから何でそうなるんだよ!?」

 

 必殺技以上に意味不明だコイツ!

 

「ああ、もう。埒があかないな」

「あかない理由はお前が全然説明しないからだよ!」

「そうか?逆に問うがお前は何を知りたいんだ?」

 

「全部だよ!」

 

「……わ、私の全部を……知りたいのか?急にそんなこと言われても……」

 

「今の現状についてだこのバカ!」

 

「……何だ」

 

 アホだろコイツ。

 

「じゃあ、知りたいことの要点を纏めて話せ」

 

 お前が言うなお前が。

 はぁ。とりあえず頭の中で考えて、

 

「じゃ、1つ目。雷門中で何が起きてる」

「エイリア学園のチームとサッカーで戦っている……いや、戦っていたが正しいか」

 

 過去形だと?じゃあ決着済みってとこか?

 

「誰が」

「そこまで聞いてないが大人らしい。そしてそいつらは我らに敗北し、雷門中は破壊された」

 

 …………ん?じゃあ、円堂たちじゃないのか?というか今さらっと恐ろしいこと言わなかったか?

 

「2つ目。エイリア学園って何?」

「宇宙人の集まり」

 

 ……地球に住む人間も広い意味では宇宙人だな。よし。…………いや、何もよくねぇけど。

 

「……3つ目。お前は誰?」

「私は八神玲名。いや、ここではウルビダと名乗るべきか。エイリア学園のガイアというチーム……まぁ、要するにエイリア学園に所属している」

 

 ……ウルビダ?なにそれ。なんでウルビダ?ん?んん?

 

「…………4つ目。何故オレと接触した」

「最初は偶然だ」

 

 偶然って怖いな。

 

「……5つ目。で、お前の提示する選択肢はお前に付いていくか否か。違いないか?」

「そうだ」

「で、今の荒唐無稽な話で付いていくと答えると思うか?」

「はい」

「なめんな」

 

 はぁああああああああああああ。

 とここでポケットが微かに振動していることに気付いた。

 

「ちょっと待て。電話が入った」

 

 そして背を向けるオレ。

 

『何してるのよ貴方は!何度もかけてたのに!』

「この声は雷門か?悪い気付かなかった」

 

 ただ、何故第一声で怒られるのだろうか。すごい疑問だが、とりあえず、何でこいつがオレの携帯番号を知っているかについては、スルーしておこう。円堂辺りが教えていたんだろうな。うん。

 

「で、何してるかって?今、ちょっと野暮用で頭のおかしいやつに付き合ってる」

『そう……じゃなくて、今から傘美野中に来れる!?』

「今から?しかも傘美野?何でだ?」

『試合よ!宇宙人とサッカーの試合よ!』

 

 そこやっぱり何かおかしくね?

 

『さっき雷門中が破壊されてしまったの!』

 

 おいおい冗談だよな……その笑えねぇ冗談聞くの2度目なんだが。

 

『現状、うちは豪炎寺君、一之瀬君、土門君、そして十六夜君の4人が欠けているのよ!』

 

 ちょっと待て。この4人が欠けるって相当マズい気がするが、もっとマズいのは、

 

『そのせいでこっちは目金君以外全員出ることになったわ!』

 

 だよなぁ……人数がギリギリなんだよなぁ……。

 ただ、向かいたいが1つ問題がある。

 

「試合が開始してどれくらい経った?」

『前半始まって5分ってとこよ!急いで来なさい!今回の相手は相当マズいわ!』

 

 ブツッ、と切られる電話。そう、その問題と言うのは……

 

「こっから走ろうがタクシー使おうが間に合わねえかもしんねぇ……!」

 

 時間だ。くそっ、何で割と主力勢が居ない中試合始めてんだよあのバカは!まだ鬼道が欠けていないだけマシか!

 

「お前が試合に間に合う方法は1つある」

「……あ。イビルズタイムの連続使用か」

 

 ただ、アレをこっから傘美野まで使うと、結構疲れるんだけどなぁ……それこそ、着いた瞬間ぶっ倒れてそう。

 

「それ以外に方法はある。私がお前をそこの付近まで送る」

 

 何だこいつ。マジで分からんのだが。

 

「ただな十六夜。予言してやろう。お前は試合後、必ず私の誘いに乗る。それでも行くか?」

「こっちは行くしかねぇんだよ」

「そうか。なら、また会おう」

 

 その瞬間。オレはボールから溢れ出る光に包まれた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が止み、開けるとそこには……!

 

「ここどこだよ!」

 

 明らかにさっきいた場所とは違う。どこここ。だれかヘルプミー。

 

「十六夜!」

「豪炎寺か!?」

「急いで傘美野に向かう!」

「ここどこ!?」

「付いて来い!」

 

 ダッシュする豪炎寺。訳も分からず付いていくオレ。一刻を争うのは分かる。分かるが……

 誰かオレに現状を分かりやすく説明してくれ!マジで頼むから!




次回は軽く円堂たちサイドから始めます。


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雷門VSジェミニストーム ~絶望希望絶望~

 その日、雷門中サッカー部は河川敷で練習していた。

 各々の用時の為に、十六夜、豪炎寺、一之瀬、土門の4名は遅れて来る予定でいた。

 練習中。突如、黒い流れ星のようなものが雷門中を直撃。その衝撃は稲妻町全体に響いた。

 当然、円堂たち雷門サッカー部もそれには気付き、急いで学校に向かった。そこで見たのは、

 

「なんてこと」

「ひでぇ」

「何が起きたんだ」

 

 崩れ落ち、瓦礫の山と化した雷門中の校舎。

 

「君たちなのか」

 

 雷門中の火来校長が円堂たちを見つけ声を掛ける。

 校長が言うには宇宙人が攻めてきたという。それを否定しようとした円堂たちが次に見たのは、

 

「古株さん!」

 

 キーパーのユニフォームを着て、倒れている古株さんを始めとし、全員がボロボロになっているイナズマイレブンの人たち。

 彼らが言うには宇宙人がサッカーで挑んできて、自分たちは手も足も出なかったとのこと。

 そんな中、3つの黒いサッカーボールがどこからともなく現れ、中から人みたいなのが現れる。で、そいつらがサッカーを挑んできたらしい。

 

「お、お前たちが宇宙人なのか!?」

「……我々は遠き星エイリアより舞い降りた星の使徒である。我々はお前たちの星の秩序に従い、自らの力を示すと決めた。その秩序とは……サッカー」

 

 十六夜から『何でだよ!』と言うツッコミが聞こえてきそうだが、生憎彼はいない。

 で、星の使徒によると、サッカーで自分たちに勝たなければ地球が存在できなくなるとのこと。

 円堂たちは自分たちの学校が壊されたことに怒り、嘆き、宇宙人に挑もうとするも、3人の中のリーダー的存在の奴は「その必要はない」と言って、黒いボールを蹴った。そのボールは円堂たちを吹き飛ばし、まだ無事な状態で残っていたサッカー部の部室を破壊した。

 

「なんてことを!?」

 

 響木監督が問いただすが、宇宙人たちはボールから発せられた光によって姿を消した。

 部室の前に集まる雷門サッカー部。黒いボールのシュートは世宇子のソレを大きく上回るものだと実感してしまう。

 そんな時、木野と雷門の電話が鳴る。木野には一之瀬から木戸川清修でも宇宙人が現れたこと。雷門には理事長から傘美野に宇宙人が現れたことをそれぞれ告げられた。

 バスに乗って傘美野に。そこでは、傘美野のサッカー部と宇宙人たちが会話をしていた。

 

「……そうだな。学校を守る為なら棄権だって……よし、僕たちは棄権します!試合はしません!」

 

 傘美野のキャプテンはそう宣言した。どうやら彼らは出来たばかりのまだまだ弱小。勝てないと思い、降参を選んだ。だが、宇宙人は黒いサッカーボールを傘美野の校舎に向ける。

 

「弱き者め……」

 

 彼らが言うには棄権するというのは、自身を弱きものと認め、敗北したも同然だそうだ。

 

「よって、破壊する!」

 

 リーダーっぽいのが蹴ろうとしたその瞬間。

 

「待てっ!」

 

 その声は響いた。蹴るのは中断され、雷門中が宇宙人の前に並び立つ。

 円堂が言うには雷門が傘美野に変わって戦うと。宇宙人もそれを承諾し、普通のボールを持ってこいと要求。黒いボールじゃないのか?と聞いた円堂だが、上から目線でレベルを合わせてやると言われ苛立った様子だ。

 

「何っ!?」

「落ち着け円堂。奴らのペースに飲まれるな」

「監督……」

「豪炎寺君、十六夜君、一之瀬君、土門君、4人もいないのよ!?現状では染岡君のワントップになるわ。大丈夫なの!?」

「問題ねぇよ」 

「ああ、バックアップは任せろ」

「頼むぞ!皆」

 

 雷門中サッカー部と宇宙人たち、エイリア学園のジェミニストームとの試合。雷門ボールで試合は始まった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜!着いたぞ!準備はできてるな!」

「ったく!何が起きてんだよ!」

 

 学校につき、すぐさまグラウンドへ。得点は15ー0。おい、テニスの試合か……って冗談はおいといて、

 

「「選手交代だ!」」

 

 コートに入っていき、そう告げる。

 

「豪炎寺!十六夜!」

「立てるか?宍戸」

「来てくれたんですね。豪炎寺さん。十六夜さん」

 

 宍戸は怪我……か。世宇子の時以上の怪我か?

 

「豪炎寺君!十六夜君!」

「目金。宍戸を頼んだ」

「はい!」

「交代だ宍戸、影野。豪炎寺、十六夜が代わりに入る」

 

 とりあえず、ベンチにジャージを置く。

 

「皆!反撃開始だ!」

 

 雷門ボールで試合再開。

 

「イナズマブレイクだ!」

 

 円堂も上がり、鬼道、円堂、豪炎寺の3人のシュート。

 

『イナズマブレイク!』

 

 そのシュートを相手キーパーは、あくびしながら、軽々と片手で止めてしまった。…………わーお。

 

「なんだぁ?今のシュートはぁ……」

 

 そのまま怠そうに、11番に投げ渡すとそこからオーバーヘッドキックでシュートを撃つ。それを、

 

「…………あれ?思ったより弱くね」

 

 普通に足で止めてしまった。あれれ?

 

「……ほう」

 

 そのまま、猛スピードでボールを取りに来るが、

 

「よっと。ダッシュストームよりは風来ないな」

 

 まぁ、ボールが風で流されかけたが余裕で避ける。

 

「てか円堂!お前キーパーだろ!?何でまだ相手ゴール前に突っ立ってんだよ!お前の守るゴールはこっちだろうが!」

「あ、ああ!悪い!」

 

 半田にパスを出しておこう。うーん。でもあの円堂から15点取ったんだ。恐らく、軽々とマジン・ザ・ハンドを打ち破るシュートを撃たれたんだろう。それか超スピードで出す暇を貰えなかったか。ただ、にしてはやられ過ぎなような……なんだこの感じ。

 

「豪炎寺!」

 

 半田から染岡に。何か向こうの動きが一瞬固まったけど気のせい?

 

『ドラゴントルネード!』

 

 すると、ドラゴントルネードを余裕な顔で蹴り返す向こうのキャプテン。そのボールの向かう先は、

 

「あー返すよ!」

 

 オレだったので返しておく。軸足がほんの少し後方に下げられたが普通に蹴り返せた。

 そして、そのままボールは呆気にとられる相手を通り抜け、キーパーを弾き飛ばしゴールへ。

 

「あれ……?」

 

 何が起きてるんだ?というか何なんだこの感覚。今のシュートはかなりの威力だとは思う。でも、脅威に感じるほどじゃない。普通だ。だってこれより強いのを普段蹴られまくってたから。あれ?じゃあ、何で……。え?一体何が起きてるんだ…………?

 

「十六夜」

「あ、監督」

 

 向こうの選手のボールで試合再開。そんな中、響木監督に呼ばれたのでそっちまで行く。

 

「何ですか。監督?」

「質問だ。お前にはあの動きがどう見える?」

「あの……動き?」

 

 ドリブルの風圧で突破したり、パス回しでこっちの選手にぶつけたりして、シュートがあっさり決められてしまったが。

 

「別に普通じゃないですか?」

「あの速さが見えてるというの?」

「は?だって、お嬢様。こんなの見慣れたスピードですよ。あのシュートも、パスも、ドリブルも、ディフェンスも。ああ、でもこの前の世宇子よりは少し速いかな」

 

 流石にあのスピードには付いていくのが……あれ?出来る?そんな気しかしない。というか、雷門メンバーが遅くなってる?あれ?どういうこと?本当に……何が起きてるんだ?

 

「十六夜。一回落ち着け」

「は、はい」

「…………」

「監督?」

 

(おかしい。何故十六夜だけはこのスピードを普通のものと捉え付いていけている。あのディフェンスも他のメンバーなら反応すらできずに取られていたはずだが、あっさり躱していた。シュートに関してもだ。あのシュートの威力、速度共に世宇子以上。なのに十六夜は特に何も思わず蹴り返すことが出来ていた。一体、この男に何が起きているんだ?)

 

「お前はあのチームをどう見る。強いと思うか?」

「???まぁ、世宇子よりは強いと思いますよ。でも、何というか……拍子抜け?って感じはしますよね。あ、戻りますわ」

 

 うーん。確かに世宇子よりは必殺技なしで強いとは思うけど、雷門が15点取られた、って思うと、何かそうでもない相手な気がする。あ、さっき決められて16点か。でもあれ?この感覚は間違ってないよな?え。なら、何が起きているんだ?

 

「……監督!十六夜君の発言はどういうことなのですか!?」

「…………恐ろしいことにアイツは、全くジェミニストームを脅威に感じていない」

「「「えぇっ!?」」」

 

 うーん。まぁ、いいか。何か向こうのキャプテン風向きを確認してシュートを撃って、仲間たちが吹き飛ばされていったけど……

 

「あれ?」

 

 普通に足で止めれた。あれ?何で?

 

「何がどうなってるんだ……」

 

 何故オレはこいつらの動きが見える。何故お前らにはこいつらの動きが見えない。

 何故オレはあのスピードについて行ける。何故お前らはあのスピードについて行けない。

 何故オレはこいつらのシュートが止められる。何故お前らには止められない。

 何故……何故…………何故?アレ?じゃあ、何故オレはお前らと違うんだ?何故……




困惑する十六夜。
ただ、絶対レーゼたちの方が困惑してそうなのは内緒。


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十六夜の決断

 ジェミニストームは傘美野中を破壊した。

 あの後、オレ1人を除く雷門のフィールドに居た奴らが倒れていた。結局、試合は敗北。オレ1人じゃ、サッカーはできない。オレ1人がフィールドで唯一ほぼ無傷で残り、ディフェンスもオフェンスをこなせていたとしても、サッカーというスポーツとしては敗北している。

 個人として勝ててもチームとして勝てなければ意味がないのだ。サッカーは。

 

「で、十六夜。お前は私と共に来るのか。それとも来ないのか」

 

 夜。オレは呼びだされたわけでもなく河川敷にやってきた。目の前にはいつも通りの八神が居る。

 そして、八神は手を再びオレに差し伸べてくる。

 

「ああ、オレは…………」

 

 オレは差し伸べられた八神の手を…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。オレは雷門中に来ていた。あの試合の後、半田、少林、宍戸、影野、マックスの5人が入院したそうだ。ただあんな試合プラス校舎破壊の余波で、5人で入院するやつが済んだと考えれば運がよかったのかもしれない。まぁ、それでも結局、よくはないだろうが。

 

「やっぱりここに居た」

 

 破壊された部室前に、オレ、円堂、豪炎寺、鬼道、木野、音無、雷門が集結する。

 

「めちゃくちゃって分かっていても気になるわよね」

 

 雷門がサッカー部の立札の汚れを払いながら言う。

 

「俺はエイリア学園を許さない!……サッカーを何かを壊したりするのに使うものじゃない。宇宙人に本当のサッカーが何か教えてやる!」

「俺もだ。やろう円堂!」

「俺もそのつもりで来た。もう一度奴らと戦おう。そして勝つんだ!」

「たく。ほんと、お前ららしいな」

 

 どうやら心までは折れてないようだな。よかった。

 

「俺たちもいるぜ!」

 

 すると、入院組以外の面子がそこにはいた。

 

「全く、今回の相手は宇宙人だぞ?いつもの調子でやろうぜはねぇだろ」

「どんな相手でも1歩も引かない。それこそが円堂だよな」

「雷門イレブンの新しい挑戦だね」

「入院しちまった奴らの為にもな!」

「俺たち本当に宇宙人と戦うでやんすね」

「うぅ……」

「どうした壁山?またトイレか?」

「こ、これは武者震いッス!」

「ただ時間はないわよ。怪我してる人たちの回復を待ってる時間はない」

「戦うメンバーが足りてないんだよ。補充しなきゃいけないぞ」

 

 雷門の言う通りだ。時間はずっとあるわけじゃない。だから、怪我してるやつらの復帰を待ってたら手遅れになる。

 そう思ってると響木監督と校長先生がやって来た。連れてかれたのはイナビカリ修練場。そのさらに下だ。

 

「これは、理事長!」

 

 そこには巨大なモニターがあり、その前に理事長は立っていた。

 

「君たちが無事でいてくれて良かった。もはや一刻の猶予もない!奴らはこれからも破壊活動を続けることだろう。何としても欠けたイレブンを集め、地上最強のチームを作らねばならんのだ!」

 

 宇宙に対抗するには地上最強。理にはかなってる……のか? 

 

「地上最強のチーム……か」

「そしてあのエイリア学園を倒す為には」

「理事長!俺たちにやらせて下さい!」

 

 やれやれ。話をぶった切んなよ。円堂。

 

「俺たちがやります!」

 

 全員表情を引き締めている。

 

「皆!やろう!日本一の次は宇宙一だ!」

「「「おぉー!」」」

 

 いや、仮にエイリア学園倒しても宇宙一になるわけでは無いと思うのだが。

 

「準備が出来次第、出発だ。円堂、頼んだぞ」

 

 響木監督がそう言う。

 

「頼んだぞって、監督は?」

「俺は行かん」

「「「えぇぇっ!?」」」

「響木監督には今回、頼んでいることがある。これもエイリア学園と戦うには必要なことでな」

「そんな……じゃあ、監督無しで戦うの……?」

 

 口々に響木監督が居ないことによる不満をもらしている。そんな中後ろの扉が開いた音がする。

 

「紹介しよう。新監督の吉良瞳子君だ」

「ちょっとがっかりですね。理事長。監督がいないと何も出来ないお子様の集まりだったとは思いませんでした。本当にこの子たちに地球の未来を託せるんですか?」

 

 おっと、ドストレートな物言いだ。

 

「それに、彼らは1度エイリア学園に負けているんですよ?」

「だから勝つんです!1度負けた事は次の勝利に繋がるんです!」

 

 全員の目を見た後、

 

「頼もしいわね。でも私のサッカーは今までとは少し違うわよ?覚悟しておいて!覚悟がないなら降りてもらって構いません」

「円堂」

 

 オレは持ってきていた紙袋を円堂に押し付ける。

 

「悪い。じゃあな」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

 オレは監督たちに頭を下げてから、そのまま、エレベーターの方へと向かい、乗り込む。

 

「ま、待てよ十六夜!どうして降りるんだ!負けて悔しくないのか!?」

「頑張れよ。お前ら」

 

 言い切った直後。重いドアが閉まり、上昇する感覚。

 ……そう。これでいいんだ。これで。

 

「……お別れは済んだのか?」

 

 扉を開き、修練場を後にし、雷門中を出ようとするところで呼び止められる。

 

「ああ、行こうか」

 

 そしてオレたちは光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イナズマキャラバンに乗り込み、奈良に向けて出発している円堂たち。

 

「キャプテン。本当に、十六夜さん来なかったっスね……」

「何で十六夜さんが……」

「勝ち目がなくて諦めたわけじゃないんだよね?」

「ああ。ジェミニストームに唯一互角以上に渡り合っていたからな」

「円堂。十六夜から何を渡されたんだ?」

「これだよ……」

 

 そこには16番のユニフォーム……つまり十六夜が着ていたユニフォームだ。

 

「アイツは何を考えてるんだろうな。絶対行くと思ったのに……」




大半以上の人が予想していたでしょうが、十六夜は皆と日本を巡りません。
かと言って豪炎寺の様に人質を取られて身を隠すわけでもなく、エイリア学園に行きます。

あえて補足をするのであれば、十六夜がジェミニストーム戦でああやって感じたのは自分が雷門イレブンと同じレベルか少し上だと思ってたからです。実際はジェネシスの副キャプテンであるウルビダにほぼ毎晩鍛えられましたからね。今更ジェミニストーム相手に彼が負けるのは流石におかしいでしょう。
まぁ、本人から本編にて『何故エイリア学園に行ったか』は語ってもらいますが(と言っても語るほどでもないかな?)。

さて、次回からですが、まず円堂サイドの話は全部アニメ等と変わりません。まぁ、どの要素も増えても減ってもないですからね。
というわけで、次回からほぼオリジナル。十六夜中心のエイリアでの生活です。
でも、必要な話だけやると恐ろしいスピードで最後のジェネシス戦まで行ってしまうので何かやって欲しい内容とか話があったら、いつも通り活動報告に欄を作っておきますね。
ちなみにオーガはこのエイリア編の途中で挟みます(決して案を貰ってから書き上げるまでのつなぎではありません。決して)

活動報告URLです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=214248&uid=129451


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新生活スタート 

今更思ったこと。
うちの八神さんにポンコツ属性ついてね?


 そして光が止み、連れてこられた場所は……

 

「どこの基地だよここ!」

「?私たちのだが」

「ちげぇ!ここは何処だって話だわ!」

「?富士山」

 

 富士山にこんなもん作っちゃったの!?マジで何やってんのアンタら!てかUFO!?まさかのUFO!?アンタら地球人だよな!?

 

「ほら、行くぞ」

「というか、何で入り口からなんだよ。そのボールでさっさと中に入ればいいじゃん」

 

 仕組みはわからんがそのボールは某青タヌキの何処にでも行けるドアと近い仕組みな気がする。だったら、中に入ればいいのに。わざわざ外にいる意味が分からん。

 

「ふっ。お前にこの素晴らしい外観を見せたくてな」

「それだけの理由!?」

 

 ガキか!自慢したいガキか!と、入り口に行くと、

 

『承認コードを確認しました』

 

 開いてくドア。うわぁーハイテクだなーそして、微妙にどや顔なのが凄いムカつくー。

 

『シンニュウシャアリ。シンニュウシャアリ』

 

 ん?侵入者?目の前に並ぶロボット。後、サッカーボール。…………何でサッカーボール?

 

「おい、八神。侵入者って誰のことだろうな」

「……さぁ?」

「おい、八神。まさか、侵入者ってオレのことじゃないだろうな」

「…………さぁ?」

「おい、八神」

『ハイジョシマス』

「お前に警備システムを解除しておくとかそういう頭はなかったのか!」

 

 一斉に蹴りだされるボール。それをオレは止めながら、未だ顔を背けてこちらを見ない八神に問い詰める。

 

「馬鹿なのか!?馬鹿だろ絶対!どこの世界に連れてきといて、侵入者として排除しようとする馬鹿がいるんだ!」

「ああうるさい!これぐらいの警備を突破できないようでは、追い返してもこちらの痛手にならない証拠になるだろうが!」

「逆ギレ!?まさかの逆ギレ!?絶対図星を突かれたからだよな!」

 

 そう思いながらボールを蹴り返し的確にロボットの頭にぶち当てていく。すると、動きは止まった。

 

「流石だ。行くぞ」

「はぁ……頼むから面倒事だけは勘弁して……」

 

 おかしいなぁ。もしかして、ここに連れてこられたのって八神の独断?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入ります。お父様」

 

 この基地には似合わない和室。そこに居るのは1人の……老人?

 

「ウルビダか。そちらは?」

「十六夜綾人です。先日お伝えしたとおり、新たなガイアの一員です」

「そうか。私は吉良星二郎。私のことはどんな風に呼んでもらっても構いません。よろしく」

「十六夜綾人。よろしく、おっちゃん」

「十六夜!お父様になんて呼び方を!」

「まぁまぁ。私が許可したのです。それに堅苦しくなくていい」

「はぁ」

 

 マジか。適当に呼んでみたら認められたよ。

 

「さてと。入りなさい」

 

 入って来たのは紅い髪を逆立てた少年……何か服装が独特にセンスをしている。あ、これユニフォームか。にしても変わってるなぁ。……え?今日からアレ着るの?マジ?

 

「彼はグラン。これから君の所属するチームのキャプテンです」

「よろしく、十六夜君。早速だが君の呼び名を決めたいんだが」

「呼び名?」

「ああ。無論本名以外でな。お前もここでは私のことをウルビダと呼べ」

「へいへい。まぁ、呼び名なんて気にしないですし、どうぞご勝手に決めてくれて結構です」

「…………うーん。ムーン。でどうだろう?」

 

 なるほど。十六夜だからムーンか。

 

「オーケー。じゃ、これからはムーンとしてよろしく」

「じゃあ、ムーン。次は君のユニフォームを合わせよう」

 

 パンパン

 

 2回手を叩くと何処からともなく現れた人たち。……本当に人だよな?

 

「君のユニフォームを合わせてくれる。付いていきたまえ」

「じゃ、いってきまーす」

 

 割と面倒見がいいと言うか……何か裏があると言うか……ま、いっか。

 てか、何でエイリア学園と呼んでいるのか聞くの忘れたけど、今度でいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、ユニフォームというか練習着というか、ま、無事サイズを合わせ、これから過ごすことになる新たな部屋に案内されるが……

 

「まぁ、普通だな」

 

 部屋はベッドと机と最低限のもの。風呂とトイレは別のとこにあるが、シャワーなら浴びられるらしい。ただ、部屋の広さはそこそこある。

 

「リフティングとかできんじゃね?」

 

 というか、一応部屋でもボールコントロールの練習はできそうだな。まぁ、普通はしないだろうけど。いや、荷物動かすの面倒だし。

 

 コンコンコン

 

 と、ノック音が聞こえる。

 

「どうぞー」

 

 入ってきたのは、

 

「グランか。どうした?」

「どうだいムーン。部屋の過ごしやすさは」

「快適だよ」

「そうかい」

「で、本題は?」

「ああ。俺はね。まだ君の実力を認めてない」

 

 でしょうね。

 

「ウルビダの推薦で君をガイアに入れることにした。確かに今までの活躍からするに君の実力は一定以上ある」

「へぇ。アイツの推薦ね……」

「ジェミニストームと同等以上……というのは先日証明された。ただ、だからと言って新参者を急にこのチームに入れるとなると、何かと厄介な事情がこちらにもあってね」

「で?じゃあ、オレをジェミニストームだったか、そこに入れるのか?」

「うーん。ウルビダは何も説明せずに君を連れてきたのかな?」

「ああ。全くもってその通りだ」

 

 大いに肯定しよう。

 

「じゃあ簡単に説明しよう。今、このエイリア学園には5つのチームが存在している」

 

 …………え?マジで?それって、アイツらにとっては絶望的じゃない?

 

「セカンドランクのチーム、ジェミニストームとファーストランクのチーム、イプシロン。それにマスターランクのチーム、ダイヤモンドダスト、プロミネンス、そして我らガイア……いや、ザ・ジェネシスと言うべきかな」

 

 おい。コロコロ名前を変えるんじゃない。分からなくなるだろ。

 

「強さの順位的にはどうなんだ?」

「今言った順に、後の方が強くなる感じだよ」

 

 つまり、ジェミニストームは最弱と。そして雷門は最弱に負けたと。

 

「ただ、ダイヤモンドダストとプロミネンスはほぼ互角。ガイアがその2つより頭1つ上だね」

「あー何となく分かった。要は他チームからの疑問と不満だろ?」

 

 ダイヤモンドダストとプロミネンスはともかく、イプシロンからすれば急に現れたやつが自分より上のチームに配属されるというのが気にくわないのだろうな。

 

「そう。それにマスターランクのチームとセカンド、ファーストランクのチームは少し事情が違うしね」

「事情が違う?」

 

 事情とかあんの?

 

「うーん。そこはウルビダに説明を一任するよ」

「……え?アイツで大丈夫?」

「まぁ、俺が説明するよりかはね」

 

 いや、そういう問題じゃないんだが……説明役にはまともな人を当ててほしいんですが……

 

「さてと、1時間後にグラウンドにね。ちょっと君にやってもらいたいことがあるから」

「へいへい」

 

 そう言い残して出て行ったグラン。というか……

 

「何か複雑だなぁ……」

 

 そう思いながらオレはベッドで寝そべることにした。

 

「……そういや、グラウンドってどこ?」

 

 1つの疑問を残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいグラン。余計なことは吹き込んでないだろうな」

「心配しなくとも君のお気に入りは取らないさ。ウルビダ」

「ふん」

「君が毎晩のように出かけていたのは彼のためか」

「何か問題でもあるか?」

「いいや。ウルビダがそこまで入れ込むとは珍しいってね。もしかして好きになったのかい?」

「…………ふざけたことを抜かすなよ。グラン。恋愛など今の私には不要だ」

「はは。彼への説明は頼んだよ。それと分かってると思うけど」

「この後試すんだろ?アイツなら問題ないさ」

「そうであるといいね」



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試練の時

次回から番外編のオーガを投稿します。


 コンコンコン

 

 グランが去って少しした後。オレの部屋の戸をノックする音が聞こえる。

 

「どうぞー」

 

 オレが入室を許可する。まぁ、断る理由ないからな。戸を開けたのは……

 

「なんだ。やが──ウルビダか。何の用?」

「説明をしに来た。そこに座っていいか?」

「どうぞ」

 

 とまぁ、ベッドに腰掛けるや──ウルビダ。

 

「まずは、この石を見てもらいたい」

 

 すると、見せてきたのは何か透明なカプセルに入ってる石。

 

「宝石?」

 

 紫色に輝いてるけど……うーん。

 

「アメジスト……じゃないし、パープルサファイアでもなさそうだし……」

「宝石ではない。これはエイリア石と呼ばれるものだ」

「はぁ……え?エイリア石?」

 

 まさか、エイリア石とエイリア学園……あれ?安直?

 

「この石をもっと見てみろ」

 

 と、見せられるが……

 

「何か感じないか?」

「……うーん」

 

 ただすげぇ不気味だなぁとしか思わないんだけど。あと、よく光るね。この石。

 

「特に何もないな」

「……ほう。まぁいい」

 

 そう言ってしまうウルビダ。

 

(特に何も思わなかっただと?嘘をついている様子はなさそうだが…………まぁいい。この男は何かと変わってるからな)

 

「じゃあ、説明に入ろう。グランからチームの勢力関係は聞いたと思う」

「ああ。で、マスターランクのチームと他のチームが何か大きな違いがあると言ってたな」

「今見せたエイリア石には人の力を何倍にも引き上げる力がある」

 

 …………は?

 

「その石を身につけただけで恩恵を得られるという代物だ」

「えーっと…………あ。身体検査に引っかからないドーピングか」

「まぁ、その感覚でいいだろう。で、これを使っているのがジェミニストームやイプシロンだ」

 

 つまり、あいつらは言うなれば強化人間ってとこか。

 

「…………ん?じゃあ、ウルビダは使ってないのか?」

「ああ。そうだな。私を含めたマスターランクのチームは使ってない」

「つまり、さっきのが道具によって強化された人間だとすりゃ、お前らは純粋に強化された人間ってとこか」

 

 それなら納得だ。オレが今まで簡単に吹き飛ばされたことがようやく原理がつかめた。……いや、それでも充分やべぇけど。なるほどな。そりゃあ強いわけだ。

 

「てか、そもそも何でこんなことしてんだよ」

「それは私の口からは言えない。聞きたいならお父様の元に行け」

「了解」

「さて、お前にはこの後私と来てもらう」

「ああ……グラウンドで何とかって言ってたな」

「それもあるがそれより前にやってもらうことがある」

 

 え?何かあるの?まさか、掃除当番とか調理分担とか?

 

「走り方の矯正だ」

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからグラウンドでひたすら走らされた。いやね。何か手を後ろにやって若干前屈みで走るみたい。それをエイリア学園の全チーム、全選手が統一してるらしい。いや、走り方統一ってなんだよ。団体行動か。

 

「やってるね」

 

 と、声を掛けてきたのは、

 

「グランか」

「もうすぐ時間だからね。直に皆集まるよ」

 

 グランがやって来てからいくつかの集団がまとめてやってきた。ユニフォームが4種類だから……なるほど。ジェミニストーム以外の4チームか。というかチームによってやはりユニフォームを替えているようだ。だって、ジェミニストームとガイアではユニフォーム違ったし。

 

 パンパン

 

 全員が揃ったようなので、グランが2回手を叩いて注目させる。

 

「今回は急な召集に集まってくれてありがとう。早速だが紹介させてもらうよ。彼はムーン。これから俺たちの仲間になる新人だ」

「ムーンです。よろしく」

「へぇ。こいつが例の片方の奴か……」

 

 と、赤髪のやつが言うが……片方?

 

「おいグラン。もう1人スカウトしていたんじゃないのか?」

 

 と、青……というか白っぽいやつが言うが……え?まだいるの?

 

「そうだね。ムーンの方は乗ってくれたんだけどもう1人は難航しているみたい」

「別に居ても居なくとも、ジェミニストームに勝てないようじゃプロミネンスには遠く及ばないだろうがな」

「それは我らダイヤモンドダストにしても同じ事だ」

 

 あーよく見るとキャプテンマークしているなぁ。なるほど、彼らがそれぞれのチームのキャプテンか。

 

「で、彼を我らガイアにいれるけど文句はないよね?」

「お待ちくださいグラン様」

 

 と、ここで……え?黒髪……って言うの?髪が長すぎてマフラーのようになってない?え?それともマフラーつけてるの?どっち?間をとって髪の毛でマフラー作った?

 

「何だい?デザーム」

「その男の実力はおそらくジェミニストーム以上でしょう。ですが、だからといって我らイプシロンを超えているとは信じられません」

 

 すると、グランは薄い笑みを浮かべる。うん。予想通りに事が進んでるんだね。分かるよその気持ち。

 

「確かにいくらガイアの()()()()()()()スカウトしてきて、()()()()()()加入を認めていたとしても、君を含めここにいる何人かは認めないだろう」

 

 何人かは図星を突かれた感じになる。うわぁ。分かりやすいなぁ。

 

「ならテストしよう。ムーンのポジションはDFだ」

 

 いや、全部出来ますよ……と言おうとしたがやめておこう。グランにはウルビダからオレが全ポジションできることは伝わってる(はず……だよね?まぁいいや)。その上でこうやって言ったということはグランはオレをDFとして以外は()()()()()()。或いは使()()()()()()ということ。…………まぁ、一切反対する気はないからスルーするが。

 

「デザーム。君はFWも出来たね。直接確かめてみるといいよ。それから、バーン。君もどうだい?」

「ありがとうございます」

「はっ。上等だ。やってやるよ」

 

 ちょっと待て。何か2人ともやる気になってんだけど。え、しかもデザームもバーンもそれぞれキャプテンじゃないか。おい、マジで言ってんの?

 そう思ってグランの方を向くと、

 

「あ、ちなみに実力が足りてなかったら容赦なく降格するからね」

 

 いい笑顔で言いやがったよ畜生が。

 

「ふん。ムーンが負けるわけないだろう」

 

 いやね、ウルビダさん。ハードルあげないでもらえます?ね?ね?

 で、取りあえず準備をする。

 

「フン。3分だ。3分でけりをつけてやる」

 

 いや、むしろ3分もかかるの?って野暮なツッコミを入れるのはやめておこう。

 ルールは単純明快。オレがボールを奪えばオレの勝ち。抜かれてシュートを打たれたら負け。

 

「行くぞ」

 

 そして、手を後ろにしてドリブルしてくるデザーム。ほう。レーゼたちより速い気がするなぁ。でもまぁ、

 

「これくらいのスピードなら……!」

 

 別に見慣れているし、ついて行くことも出来る。そして、

 

「何っ!?」

「ふぅ」

 

 これくらいのドリブルなら、余裕でボールを奪える。

 なるほどねぇ。レーゼたちを見ても思ったが彼らはやはり、身体能力が高いのは認めるがあくまでそれだけ。サッカーの技術や連携という意味では雷門の方が上なところが少なからずあるだろう。身体能力……特にスピードが脅威となるが、そのスピードにさえついて行ければ後は相手しやすい。

 

「へぇ。おもしれぇじゃねぇか」

 

 気付くと既にバーンがボールを持って準備していた。

 

「次は俺が行くぜ!」

 

 そう言ってドリブルをしてくるが、さっきのデザームとは違い、

 

 ガンッ!

 

「へぇ、はじかれないか!」

 

 何度もタックルし、オレを吹き飛ばしにかかる。

 

「別に荒いプレーでも問題はないけどさ!」

 

 オレもタックルでバーンを吹き飛ばそうとするも流石に吹き飛ばない。なら、

 

「ここ!」

 

 バーンがタックルしてきたタイミングでオレはそれを体をずらして避ける。そのまま倒れそうになるバーン。そこからボールを奪う。

 

「オレの勝ちだな」

「ああ。で、どうだい?デザーム。バーン。ムーンの実力は」

「……ッチ。認めてやるよ。マスターランクチームに入るに充分な実力だ。条件も満たしているようだしな」

「イプシロンの能力と同等かそれ以上はある。今回は負けたが次は勝つ」

「じゃあ、ガゼル。君もムーンとやるかい?」

「今はやめておこう。現時点の実力は理解した。ただ、まだまだ足りない部分も多い。もっと実力を上げてから戦いたいものだ」

 

 何だろう。このガゼルの強者感は。まぁ、オレだって今の実力がピーク。これ以上つかないとは考えてはいないけどさ。

 

「じゃあ、これからよろしくね。ムーン」

「ああ、こちらこそ」

 

 そして、ガイアに入ることが正式に認められ今日から特訓の日々である。降格処分を受けないよう頑張りますか。



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大阪での特訓

お久しぶりです。気付けば2020年です……。
ペースを頑張って維持したい今日この頃です。


 正式加入も終え、その日の夜。オレはある場所に連れてこられた。

 

「……なにここ」

「ここはもうすぐ廃棄する予定の訓練施設だ」

「訓練施設って……ん?廃棄する予定?」

「ああ、なんでもここの情報が漏れている危険があるそうだ。それに私たちには既に無用の代物だからな」

 

 なるほど。見つかって足がつく前に逃げてしまおうと。というか、無用の代物って……。

 

「外部の者が侵入した形跡はない。侵入していたとしても夜であれば誰も使わないだろう」

 

 しかも、このボールでワープしているから入り口から入らなくてもよい……と。なるほど。

 

「ここからの特訓は必殺技禁止な」

「へーい」

 

 普段も使ってない気がするのは、気のせいということにしておこう。

 

「……で、これは?」

「ランニングマシンに近いものだ。これからやるか?」

「んーじゃあそうするわ」

 

 というわけで、最初はランニングマシンみたいなやつからになり、オレは走る部分のところに立つ。

 

「行くぞ。最初は……いや、最初からレベルマックスでいっか」

「ちょっお前。今なんて……!」

 

 何段階あるかは知らん。知らんけどどうしたら最初からレベルマックスで行こうって考えになるんだ!?てかこれ速っ……!

 

「うぉっ!?」

「あ、言ってなかったが走る部分は波打ったり傾いたりするぞ」

「先に言えぇっ!」

 

 ただえさえクソ速いのにそれに加えて走る部分の変化だと……って!

 

「あぶなっ!」

「あ、言ってなかったがスパイクに見立てた物が飛んでくるぞ」

「先に言えぇっ!」

 

 ふざけるなよおい!?ただえさえ足下は不安定なうえになんか飛んでくるだと!?

 

「おい一旦ストップ!ストップ!」

「あー悪いがこれ以上のレベルはないんだ。すまないな(ニヤニヤ)」

「ちげぇよこの鬼!オレは止めろって言ってんだ!」

「あぁ?誰が鬼だって……!」

「あ」

 

 やっべ。怒らせたかも。すると、ボールを持って反対側へ移動する。そして、

 

「はぁっ!」

 

 シュートを放つ。やべっ!避けないと……!

 

「いった!?」

 

 と、シュートに気を取られスパイクのようなものに当たりそのままクッションまで吹き飛ばされる。

 

「まだまだだな」

「ちょっと待て!今のは酷すぎるだろうが!?」

「やれやれ。次のところ行くぞ」

 

 お願いだから話を聞いて!というかこっちは疲れたんだけど!?

 

「…………ここもランニングマシン?」

 

 で、次やってきたのはさっきよりワイドになったランニングマシン。

 

「まぁ、最初からレベルマックスでいっか」

「ねぇウルビダさん。そういうのよくないとオレは思うんだ」

「よし、行くぞ」

「話を聞いて下さいマジでお願いしま……!」

 

 動き始めたマシン。…………あれ?

 

「さっきよりマシ?」

 

 しかし、何も飛んでこなければ変化もない。あれ?

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

 すると、急に走る向きが反転する。

 

「後、上にも気をつけろよ」

「っとと。え?上……嘘だろぉっ!」

 

 必死のダッシュで上から落ちてくるモノを回避する。なるほど。ハンマーみたいな要領でオレを潰しに来ると。って今度はまた向きが反転したぁ!?

 

「さっきが一直線に走るだけなら今度はコロコロと反転するって感じだな」

「冷静に観察してないで!?」

「ん?私も混ざれと?」

 

 誰も言ってないですそんなこと。

 

「いいだろう」

 

 良くないです。

 すると、ボールを持つウルビダさん。

 

「じゃあ、このままパス練習な」

 

 そして、蹴り出されるボール。安定しない足場。

 

「おい、マジかよ!」

 

 何とか食らいついて蹴り返すもウルビダの遙か頭上へ。

 

「全く、相手に返す精度も大切だぞ」

 

 しかし、そのボールに到達してこっちに返して来る……!

 

「ハンマーみたいなのと同時!?」

 

 何とか避けてパスをする。

 

「そうだ。その調子だ」

 

 ダイレクトで返してきた。待って。少し時間をおいて。頼むから……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパルタパス練習も一段落ついて、今度は……

 

「シュート練習?」

「ああ。お前は一応全ポジションこなせるからな。ここもっと」

 

 すると、ゴールの前に立つのは明らかにヤバい機械。もといロボット。

 

「ウルビダさんや。まさかと思いますが……」

「ああ、レベルマックスだ」

 

 ……………………。

 

「お願いします。レベル1からスタートさせてくださいマジで」

 

 土下座しました。もうね。身体ボロボロなの。分かる?ねぇ分かる?プライドがないのかって?いや今プライドとかいらねぇからこの状況で。

 

「…………はぁ。そこまでするならいいだろう。じゃあレベル1からな」

「ありがとうウルビダ。マジで感謝している」

 

 レベル1。さっきのに比べたら可愛いのが出て来た。

 

「いけっ」

 

 ボールは正面。ロボットは…………粉砕した。

 

「…………え?」

「次行くぞ」

 

 レベル2。さっきよりは強そうなのが出て来た。

 

「いけっ」

 

 ボールは正面。ロボットは…………粉砕した。

 

「…………嘘?」

「次行くぞ」

 

 レベル3。何か腕を伸ばして回転してる。

 

「いけっ」

 

 ボールは正面。ボールははじかれた。

 

「なんのっ!」

 

 弾かれたボールに走って追いつき、ダイレクトで蹴り返し、シュートすると、ロボットは粉砕した。

 

「もうレベルマックスでいいか?」

「実害がなさそうなのでやっちゃって大丈夫です」

 

 レベルマックス。うん。ごつい。

 

「いけぇっ!」

 

 今出せる全力。しかし、簡単にはじかれた。

 

「もう一回っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局何十本か打ったがゴールを奪えなかった。畜生。

 

「で、今度は……明らかにキーパーの特訓だよな」

 

 何か円形の台の上に立っているけど、後ろにはゴールがある。実にシンプルだ。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 そして、無数にある穴の中の1つからボールがものすごい勢いで繰り出される。

 

「ちょっ、風が来てるんですけど!?」

 

 風圧を感じるんですが?と、思いながらボールの正面に移動しようと……

 

「なっ!傾いてる」

 

 して、台が傾く。しまった!オレがバランス取ってるのかこれは!

 

「って変化した!?」

 

 しかもシュートの方も途中でコースが変わるおまけつき。おいおいマジで言ってるのかよ。

 とかなんとか思いつつも必死に食らいついて弾き飛ばす。

 

「…………でも不思議だ。このマシン。先の3つに比べたら簡単そうだ」

「じゃあ、難しくしてやろうか?」

「うぇ?これって最高レベルじゃあ……」

 

 と、ボールを持って移動するウルビダ。

 

「どうしてもこのマシンだとインターバルがあるからな。私も一緒に撃つとしよう。安心しろタイミングはずらすから、2個同時に行くことはない。理論上は止められるはずだ」

「現実的には無理ですけどぉ!?」

「行くぞ!」

 

 ヤバい。マシンの方の次はウルビダ。ウルビダの次はマシン。一息ついてる頃には次のシュートが来てる。鬼畜過ぎんだろぉ!?

 

「あ……」

 

 余りの連続攻撃(シュート)に流石に対応しきれず、一緒にゴールに突き刺さった。

 

…………あ、もう………………疲れた。

 

 そう思ったオレはもう意識を手放すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

「起きたか?ムーン」

「ああ、ウルビダ……」

 

 見るとここはオレの部屋だった。

 

「流石に無茶させすぎたか?」

 

 今更何を。

 

「だとしたら悪かったな。ちょっと急がせ過ぎたかもしれない」

「謝ることはないさ。オレの実力不足ってだけだ」

 

 ほんと、オレの実力不足ってだけ……だよな?まさか誰にもクリア出来ないとか言わないよな?絶対クリア不可能のムリゲーとか言わないよな?

 

「だからクリアするまでやってやる」

「フンっ。お前ならあと2日もあればクリアしそうだけどな」

 

 まぁ、勝手は分かったし、最初の2つはまだいける。問題はあのシュートのだけかな。あれは純粋なキック力不足だし。

 

「今日はもう休もう。じゃあなムーン」

「ウルビダ。また明日から頼むな」

 

 閉じていく扉。ああ、なんか……

 

「オレ生き延びれるかな?」

 

 ……よし、寝よう。実はまだ今日来たばっかなんだよなぁ……おかしい。ハードすぎるんだが?




改めましてお久しぶりです。
ここまで投稿が開いたことをお許しください(不定期更新タグを真面目に考え始めました)。
一応世界編までのプロット……までは行かなくても見通しは立っているんですよ(書いているとは言っていない)。
ただ、ふとあれやりたいこれやりたいと考え始めるとキリがなくてですね……。
今、なんとなくGO2、時空最強イレブンの話もやりたいと思ったり。
十六夜君をぶち込むだけだと面白みがないから最強イレブン11人をそれぞれ投票(アンケート)で決めてやってみたいと思ったり(それやると十六夜君が選ばれなさそうで怖い……まぁ、その時は適当に12人目とかにして無理矢理入れよう。主人公特権だ)。
こんな作者の作品ですがこれからも応援お願いします。
あ、ちなみに今日から一週間は毎日投稿します。


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ペンギン特訓中

 ガイア(ザ・ジェネシス?よく分からんし、とりあえずウルビダのチームでいっか)正式加入より数日。

 施設(?)内を探検してみたり特訓したり名前と顔を一致させようと頑張ったり特訓したり寝たり特訓したり……?あれ?

 

「ほんとハードな生活だな」

 

 何というか……まぁ、凄いな。うん。

 

「そうか?」

 

 で、夜の時間帯。大阪のあの特訓マシンは一応全クリした。

 

「……頑張ったなぁ。自分」

 

 …………本当に疲れた……。思い出すだけで涙が出てきそうだ。というか何回死を覚悟しただろう?確かにね?イナビカリ修練場でも死を覚悟した場面はあったよ?でも今回に至ってはトレーニングマシンが云々より、目の前にいる鬼……こほん。ウルビダのせいなんだよなぁ……思いつきで人を殺しかけないでほしい冗談じゃなくて。

 まぁ、なんだかんだで全部クリアしたのはいいが、どうもあの特訓施設は誰かに見つかったらしく落書きされていた。何か問題があるとはいけないので正式に廃棄したそう。

 とりあえず、夜の特訓はフットボールフロンティアの時みたいな感じでやるように戻った。うん。戻ったよ。

 

「ムーンはまだまだガイアの中では弱い。私もお前を誘った責任がある。付き合うのは普通だろ」

「とっと、相変わらず強いんだよ」

 

 現在パス練習中……ただ、ほぼシュートの威力でやってる気がする。お陰でもらうとき痛い。ちょっと痛い。でもだいぶ慣れた。

 

「よし()()()()()()()()()はこれくらいだな」

 

 極めつけはこれ。別にオレにとってシュート並みに感じるだけで全然こいつからしたら本気なんて出してない。…………というかガイアって凄いなぁ。

 

「で、必殺技だろ?」

「ああ」

 

 今日はこいつから必殺技についての話があると言っていた。詳しい内容は知らない。

 

「まず、私たちガイアの連携シュートは2つ『スーパーノヴァ』と『スペ-スペンギン』だ。後者の方は私たちにとって負担が大きすぎる。だからペンギン使いのお前なら、威力はそのままで負担が少しでも軽減させる方法がないかと思ってな」

 

 なるほど…………オレってペンギン使いなの?

 

「次はお前だ。まだペラー以外出せないのか?」

 

 そうなんだよ。問題はそこなんだよねぇ……。

 

「もしかして、オレってペラー以外出せないのでは?」

『それは違うよ!』

 

 そう答えたのは……ペラー!?

 

「ちょっと待て!?お前は呼んでねぇぞ!?」

『遂にオレの意思で出てくることが出来るようになったのだ』

 

 ……………………え?それアリ?

 

「ほう。遂に笛を鳴らさなくともペラーが呼べたわけか。それは凄いな」

 

 こっちはこっちで凄いの一言で終わらせてるんですけど?いや、オレもそんなこと出来るなんて知らなかったよ?

 

「……はぁ。で、何が違うんだ?」

『コホン。では説明しましょう』

 

 そう言って取り出してきたのはホワイトボード。まぁ、この際どこから出したとかはスルーしておこう。というかお前ペン持てたのな。そこにビックリだわ。

 

『この世界には適正というものがあります。一言で言えばペンギンを呼べるか呼べないかのことです』

「よし待て。そもそもペンギンを呼べる適正とか意味が分からんからな?」

 

 普通はペンギンを地面から生えさせることはできません。これ常識。

 

『だからこの世界って言ったでしょ。で、ご主人様と姉御を含めた少数の人々はペンギンを呼び出せますが、ここで重要となってくるのが「器」です』

「器だと?」

『器というのは言い換えただけ。実態はその人の持つ容量って言ってもいいかな?』

 

 そう言う──まぁ八神に伝えるために必要なところは書いてるんだが。あとは字が意外にきれいで驚いた──と箱のようなものを書くペラー。

 

『当然、人それぞれ容量の大きさは違うね。大きい人も小さい人もいるよ。で、オレらペンギンも個体によって容量を多く使うやつと小さくて済むやつがいるんだ』

 

 例としては皇帝ペンギン2号のペンギンとペラーの喚ぶペンギンたちでは2号のペンギンの方が使う容量が少なくてすむらしい。

 

『個体間の違いはまぁ色々と複雑に絡み合ってるからね。気にしないでいいよ。で、肝心の姉御の喚ぶスペースペンギンたちは容量が大きいんだ。だからペンギン単体でも強い分、シュートにした時威力が出るんだけどね』

「なるほど……そんな裏事情があったのか」

『そう。で、改善方法は1つ。姉御自身の容量……器を大きくすること。受け止める皿が大きくなればいいって話だよ』

「つまり私自身が強くなればいいのか?」

『器を大きくする方法はいくつかあるからね。それももちろん1つだよ。そもそもペンギンを使う技は使用者に多かれ少なかれ負担があるんだ。その負担を何度も受け入れられるようになるには使用者のレベルアップは重要だよ』

「分かった」

 

 ほう。ペンギン技って負担かかるんだ…………?ん?

 

「オレ、負担かかったことないけど?」

『ご主人様はまた別問題』

 

 すると大きな箱の中に小さな箱を書いてそれ以外の部分を黒く塗りつぶした。

 

「これは?」

『ご主人様はオレを含めた10匹程度なら呼び出せるだけの器が既にあるし、負担がかからないのはオレがかけないようにしているだけ』

 

 なるほど。ペラーのおかげか。

 

『で、ご主人様がオレ以外を呼び出せないのはロックがかかっているから』

「ロックがかかっている?」

『そう。普通の人はそんなロックはかかってないんだけどね。でも、そのカギを壊すことができればオレを経由しなくても呼び出せるようになる』

 

 もちろん限度はあるけどねと付け加えたが、カギがかかっている?

 

「そのカギを壊すこと……一体どうすればいいんだ?」

『オレたちを認めること』

「ペラーたちを……認める?」

『ご主人様のそのよく分からない感性がどうしても邪魔をするんだ。「ペンギンを呼び出せる訳がない」って言うね。その潜在的な枷を取り払えばいいってこと』

「つまり特訓するだけではダメと言うことだな」

『そういうことだよ。特訓しても器が大きくなるかもしれないけどご主人様の使える領域は拡がらない』

 

 なるほど…………おかしいな。まるでオレがおかしいと言われているみたいだ。

 他の人たちはペンギンを受け入れている。だから自分の持つ容量をフルに使える。オレは認めていない。だから容量があってもその一部しか使えないってわけか。

 

「よし、諦めよう」

「諦めるな(ペシッ)」

「いった。叩くなよ……」

 

 でも心の枷を外すか……難しそうだなぁ……。滝行でもやってみるか?

 そう思いながら今日も特訓を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、レーゼ」

「ムーンか」

 

 翌日。練習終わりにたまたまジェミニストームキャプテンのレーゼと会った。

 立場……というか所属するチームのランクがオレの方が上ってことで練習とかでも敬語を使ってきていたのでやめるように言ってある(イプシロンにも)。まぁ、堅苦しいの嫌いだし。というか新参者だし。なんか嫌だ。

 

「チームのコンディションは?」

「問題ない」

 

 あはは……すごいねぇ。

 

「そういや、明日だっけ?白恋中との試合」

「宣戦布告は前に済んでいる。逃げ出すか受けるかは知らない。だが奴らの行く末は決まっている」

 

 ほんと、すごい自信だ。

 

「『窮鼠猫を噛む』や『一矢報いる』なんて言葉があるくらいだよ。弱いなんて侮っていたらダメかもね」

「フン。戦う意思を見せ、努力したところで所詮は『焼け石に水』。我らには及ぶまい」

「そういう慢心があるといつか足元を掬われるよ?『油断大敵』……ま、頑張ってね」

 

 そのまますれ違って去って行くレーゼ。

 白恋中ってのがどんなのかは知らない。

 でも、宣戦布告してから期間が空いてる以上、もし彼らが本当に戦う意思があるのなら出てくるだろう。さてさて、

 

「明日は明日の風が吹く……かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

「よし北海道に行くぞ」

「……は?」

 

 え?マジ?




独自設定的なタグ必要か?
まぁ、必殺技なんて独自設定の塊か(開き直り)


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北海道へ

 エイリア学園のボールって便利だよね?だって、富士山から一瞬で北海道だよ?もう飛行機もバスも電車も何もいらないじゃん。というか、

 

「やっぱ、北海道は寒いなぁ……」

 

 てか雪積もってるし。マジかぁ……。

 

「ここが白恋中か」

 

 見ると既にレーゼたちがサッカーの準備を始めている。へぇ。予想通りというか、

 

「あいつら来ていたんだな」

 

 対戦相手としてウォーミングアップをしているのは雷門中。あの時から豪炎寺が抜けて、代わりに女子選手とマフラーの男子選手が入ってる。

 

「変装してきて正解だっただろ?」

 

 隣では防寒具を来たウルビタ……八神の姿が。

 一応ここではウルビタではなく八神と呼んでほしいらしい。曰く、取材とか白恋中の生徒っぽく、観戦に来た一般人と思わせるために。…………まぁ、正直どっちでもいいだろうけど。

 

「ああ……変装のクオリティは低いがな」

 

 オレはスキーとかのゴーグルに、ニット帽、マフラーと顔を頑張って隠している。変装というのは正しいようなどこか間違ってるような……なんかよく分からん感じだ。

 変な装いって意味では合ってるか。ただ、絶対怪しいだろ。隣に八神がいなければ本当にただの怪しい人だ。しかも堂々とではなく陰から見ているあたりもな。これ刑事さんに見つかったら職質は不可避だろう。まさか、中学生の身でありながら職質を受けることになるなんて……っと。そんなことはいいや。

 

「塔子に吹雪……か」

 

 雷門イレブンに加わった女子の方は塔子。男子の方は吹雪か。なるほど。あれから頼もしそうな仲間を加えたわけか。

 

「作戦会議を見る限りは瞳子監督。あんまり信用されてないな」

 

 監督の指示に疑問や不満を持つものが直談判するも軽くあしらわれている。その事に納得をしていない様子を隠しきれていない面々。

 

「そうだな」

 

 あの監督の作戦のカギは吹雪。さてさて、監督の狙いはどうなんだろうな。

 

『さぁ、両チーム共に気合いは十分。天は人類に味方するのか、それとも見放すのか。運命の1戦。まもなくキックオフ』

 

 というか角間。お前、どうやって北海道まで来たんだ?反応からお前。雷門イレブンの皆と来てないだろ。おっそろしい行動力だな。

 

「皆!ファイトだ!」

 

 …………こっちはこっちで相変わらずだな。お前は。

 

 ピ──!

 

 雷門のキックオフで試合開始。鬼道から染岡にボールが渡り、レーゼを躱す。だが、ペナルティーエリアに入る前にボールを取られて、レーゼに渡る。そしてディアムが前線へとダッシュで上がって……へぇ。

 

「ナイスカット!土門!」

 

 走った先にパスを出すレーゼ。が、コースを読んでいた土門がカットしてボールを奪うことに成功する。

 

「今の動きを捕らえられたか」

「成長した……ってことだな」

 

 少なくとも傘美野での時ならあの動きを見ることはできなかったはず。

 しかも土門だけじゃない。風丸、一ノ瀬、鬼道……皆ジェミニストームのスピードを捕らえられている。見ていない間に成長したのだろう。

 

「ただ、見えるだけでは意味がない」

 

 見えることができても問題は得点力とキーパー力。動きが見えたところでシュートが入らなければ勝てないし、シュートを決められたら負ける。

 まだ不明な吹雪や塔子の実力と染岡、円堂の2人を中心とした個々の成長度合い。なんだ。結構面白くなってきたじゃねぇか。

 と、ここでボールはパンドラに渡る。相対するのは塔子。

 

「ザ・タワー!」

 

 はぁあああああああ!?塔子の足下から何重かは知らんけど塔が出て来たぁ!?ていうか雲から電気が塔子の挙げられた両手に……ってあれ雷だろ!?そしてその雷をパンドラの所に落とす。いや待て。雷を操るのも問題だがあのバカ高い塔の意味は!?空に近い方が雷を集めやすいってか!?

 

「疾風ダッシュ!」

 

 ボールは塔子から風丸へ。わぁー前見たときと比べものにならないくらい速くなってるなぁ。…………でも、なんか見慣れたスピードな気がするのはスルーの方向で。

 そして、そのままボールは染岡へ。

 

「ドラゴンクラッシュ!」

 

 威力は上がっている。だが、

 

「ブラックホール!」

 

 キーパーゴルレオの必殺技の前には無力だった。

 いやね。あの技も大概おかしいと思うんだ。なに右手にブラックホールを形成してんの?というか君、ボールを握りつぶしたよね?ね?

 

「はぁ……」

「どうした十六夜」

「お前らの必殺技はツッコミどころ多過ぎなんだよ……」

 

 試合形式の練習中に発狂死するかと思った。ほんと、見ていてツッコミどころ豊富すぎる技の数々だ。まぁ、味方の必殺技にツッコミを入れる必要をなくさないといけないしなぁ。仕方ないか。今死ぬのは。未来のためだ。うんうん。

 そしてボールはレーゼに渡った。

 

「右だ!」

 

 レーゼの高速ドリブル。しかし、このスピードを円堂は見ることができ、ディフェンスの吹雪に指示を出す。指示通り走って行く吹雪。

 

「アイスグランド!」

 

 アイススケートを思わせるような空中回転。着地と同時に氷で道を作っていく。道はドリブルしていたレーゼの前を横切るように続き過程でボールを上にあげる。そのボールを胸トラップの要領で受け止めながら鮮やかに氷の上を滑っていく。

 氷が生み出されたことに驚きを隠せないが、アイツだけやってるスポーツが違う気がしてならない。君はサッカーをやってるの?それともアイススケート?

 

「……にしても吹雪か」

 

 その後も主にアイスグランドを使いジェミニストームがシュートを撃てないように立ち回っている。風丸以上の足の速さ。間違いなくあの中では強い…………が。どうにもまだオレの知らない面がありそうだ。流石にあの監督もバカじゃないだろう。豪炎寺が抜ける穴を埋めるのにただ強いディフェンダーたちを仲間にしても意味がない。

 とそんな中で、ボールはセンターライン付近のレーゼに渡る。吹雪は監督の指示だろうかディフェンスはするもののあくまで自陣エリアのみ。ボールも奪ったらそのまま味方に渡している。

 

「ここまでだ」

 

 ボールをパンドラに預ける。パンドラには鬼道と一ノ瀬のチェックがすぐに入るも、左サイドから攻め上がるイオにパスが通る。そして、イオから再びレーゼへ。

 

『おっと!この位置からシュートを撃つつもりか!?』

 

 レーゼはシュート体勢に入りそのまま、

 

「アストロブレイク!」

 

 必殺技を放つ。いやね。このシュートも中々エグいですよ?だって直訳で『星壊す』だからね。とりあえず地面が抉られて進む光景はやばいとしか言い様がない。

 そんなシュートとゴールの間に立つ2人の影。塔子と壁山だ。

 

「ザ・タワー!」

 

 塔子のザ・タワーが立ち塞ぐもアストロブレイクはタワーをぶち壊して進む。

 

「ザ・ウォール!」

 

 壁山のザ・ウォールも少しは抵抗するも呆気なく崩れ去る。

 

「爆裂パンチ!」

 

 円堂の爆裂パンチ。徐々に押し込まれていき、円堂ごとゴールに突き刺さった。

 

 ピ、ピー

 

『ああっと!ジェミニストームの先制点で前半終了だぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜。この試合はどう見る?」

 

 選手たちが各々のベンチで休む中、八神が問いかけてくる。

 

「9:1で雷門が勝つだろうな」

「ほう。それは見捨てた元チームへの情か?」

「はっ、違うね。そんなの考慮してねぇよ」

 

 別に雷門だったからこの試合は勝てるとみてる訳じゃない。ただ、前半のプレーだけでも雷門が勝つ可能性が高いのが分かるってだけだ。

 

「ジェミニストームが今まで多くの学校に勝ててこれた最大の要因は、あのスピードだ」

「スピードだと?」

「ああ。あいつらは相対する者からするととにかく速い。だからそのスピードについて行けなく、しかも動きすら見えない。だから対処できない」

 

 最初の雷門としてジェミニストームと戦った試合で大差がついたのも、結局はジェミニストームのスピードに雷門がついて行けなかったから。必殺技を出す前に気付けばボールが取られたり、突破されたり、ゴールが決められていたりってことだ。

 

「だが、今の雷門はジェミニストームの動きが見えている。それに加えて雷門イレブンはスピードを中心に個々人のレベルが上がっている」

 

 ジェミニストームのスピードに適応できている。適応さえできれば後は純粋なサッカー勝負になる。

 

「ジェミニストームはサッカーの技術としてはそんなに高くない。スピードがあるだけで個人技が卓越してたり、用いる戦術が強かったりするわけではない」

 

 ジェミニストームは技術レベルは低い。仲間との連携、個人技、戦術、ボールコントロール……間違いなく雷門に劣る。

 圧倒的なスピードの差。埋められてしまった以上、ジェミニストームは雷門にサッカーで勝てない。

 

「ジェミニストームのシュートは雷門には通じない。さっきのようにして2人がシュートの威力を落とし、円堂があの技を出せば止められる。反対に雷門のシュートがジェミニストームには通じないと決まったわけではない」

 

 ジェミニストームのキーパーゴルレオはオレよりも素では強くて弱い。今のオレでも片手でイナズマブレイクを止めれるとは全く思わないが、それでもキーパーとしてはオレより弱い。

 まぁ、仮にストライカーがいなくとも点を取る方法はある。絶対にな。だからそれにさえ気付けば点は取れるだろう。何も必殺シュートでキーパーの必殺技を破って点を決める必要はどこにもない。

 

「なるほどな」

「だが、それでもイプシロンには及ばない。まぁ、まだまだ弱いのには変わりないってことだ」

 

 少なくとも円堂のマジン・ザ・ハンド。あれは今のままではデザームたちに通用しない。

 

「とりあえず……」

 

 休憩を挟む彼らを見る。

 

「サッカーは最後まで何が起きるか分からないからな」

 

 オレの予想が当たるのか外れるのか。答えは蓋を開けてみないと分からない。オレとしては当たっていてほしいが。



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現れる者消える者

 もうすぐ後半が開始される。雷門はポジションを変えてきたようで吹雪が前線に上がっている。

 

「薄々予想はしていたけど、ディフェンダーだけでなくフォワードもこなせるのか」

 

 どちらが本職かは知らないがさてさて、彼のフォワードとしての実力はどれほどのものなのか。

 

 ピ──!

 

 ジェミニストームボールで試合再開。

 

「アイスグランド!」

 

 と、早々にフォワードの吹雪が必殺技を使いボールを奪う。

 そして、マフラーを握ったかと思うと心なしか後ろ髪が逆立ち、目の色が(文字通り)変わった。

 

「俺の出番だぁ!」

 

 口調、プレー共に先ほどと打って変わって荒々しく感じる。そのままシュートを放つ……が。

 

「ブラックホール!」

 

 これはゴルレオによってたやすく止められてしまう。

 ボールは前線へと送られるも雷門が奪い吹雪に繋ぐ。再び吹雪がドリブルで攻め上がる。

 

「グラビテイション!」

 

 吹雪の前に立ちはだかったガニメデが、必殺技を使い吹雪を止めた。

 いやね。あの技もおかしいと思うんだ。何あいつ?重力を何倍にもした空間を生み出してるの?というかよくボール潰れないよね?そこが不思議で仕方ない。

 ボールはリームに渡る。立ち塞がるのは塔子だ。

 

「ザ・タワー!」

 

 うーん。あの技は汎用性高そうだなぁ。塔として待ち構えつつ雷での迎撃。打ち破る方法は限られてきそうな技だ。

 

「こっちだ!」

 

 染岡にパスを出す塔子。だが、

 

「吹雪!」

「ゴールを奪うんだろ?俺に任せとけばいいんだよ!」

 

 吹雪が味方へのパスをカットし、1人ドリブルで攻め上がる。

 

「フォトンフラッシュ!」

 

 しかし、カロンの必殺技の前にボールを奪われてしまう。

 あれね。うん、光がどっから現れるのかも疑問だけどそれよりよく目が回らないね。何回転もしたら、絶対三半規管やられると思うのだけど。

 

「決められなかったじゃねぇか!何考えてんだよ!」

「いいから見てろ。本番はこれからだ」

 

 染岡と吹雪…………なんかオカルト戦の染岡と豪炎寺を見ている気分だ。まぁ、あの時と比べて染岡が成長しているのだけど……

 

「あの雷門9番は味方のパスをカットするとは何を考えているんだ?」

「さぁな?彼のプレーは自己中心的なものから来ているのかそれとも……」

 

 自己中心的なものだったら間違いなく使い物にならない。そりゃあ、味方からボールを奪う程のやつ少なくともチームワーク第一の雷門とは合わないだろう。

 だが、もし吹雪のプレーの意図がオレの考えている通りだったら。彼は豪炎寺とは一味違うエースストライカーなのかもしれない。

 

「まぁ、答えは試合中に分かるだろうね」

 

 ボールはパンドラ、相対するは鬼道と一ノ瀬の2人。奇しくも前半の最後の点を取られた時と同じ構図になった。2人は前半の最後を踏まえてどう対処するのかねぇ。

 パンドラがイオにパスを出す。それに対応したのは一ノ瀬。一ノ瀬は何か踊り始めた!?

 

「何やってんだ!?」

「フレイムダンス!」

 

 炎の踊り!?なんか一ノ瀬の周りに炎が現れ、一ノ瀬の動きに合わせて炎自身も動く。もうめちゃくちゃだなおい。

 そして、イオの持っていたボールを弾くと同時にイオ自身も吹き飛ばした。というか最後の決めポーズまで完璧かよ。

 

「まただと……バカな!」

 

 レーゼに動揺が走る。そりゃあ、こんだけ対応されればいやでも動揺するか。

 

「あーあ。それにしても見抜かれたね。パンドラの癖が」

「癖だと?」

「アイツは唇を舌なめずりした方向の仲間にパスを出す癖があるんだよ。どうにも見抜かれたらしい」

「というかお前は見抜いていたのか?」

「まぁね。ただそれを教えても意味はない。癖っていうのは無意識に出てしまうからね。すぐには治らない」

 

 他にも何人かの癖ではないがある程度の性格は数日中につかみ始めた。やっぱり試合形式の練習だとわかりやすくていい。

 で、ボールはパンドラに渡る。相対するのは一ノ瀬と塔子。案の定、一ノ瀬には癖が見抜かれていたようでパスカットされ、そのままドリブルで攻め上がる。

 

「俺にシュートを撃たせろ!」

 

 吹雪がパスを要求。一ノ瀬は指示通りにパスを出した。

 

「奴を止めろ!」

 

 レーゼの指示でディフェンスのカロンとガニメデが吹雪を止めようとマークに行く。キーパーのゴルレオも吹雪の方に警戒を向けた。

 

「あーあ、やっちゃったね」

 

 その状況を見て吹雪は好戦的な笑みを浮かべる。そして、逆サイドを見て、

 

「染岡!」

 

 逆サイド、ノーマークな染岡にパスを出す。染岡はパスを受け取ると同時にボールを上に蹴り上げる。背後からは羽根の生えた青いドラゴンがぁ!??なんか進化してるぅ!??

 

「いけぇぇ!」

 

 ドラゴンが急降下。合わせてボールも落下し、ダイレクトでシュートを放つ。

 ドラゴンクラッシュとは比べ物にならないパワーのシュートは青いドラゴンと共にゴールに突き進む。

 ゴルレオは吹雪に警戒していた為に反応が遅れ、ボールはネットを揺らした。

 

「よっしゃああああああぁぁ!」

 

 吼える染岡。ドラゴンクラッシュの進化版ということで『ワイバーンクラッシュ』と目金が名付けた。

 

「なるほど。あの9番は考えていたわけか」

「ああ。仲間にパスを出さず何度も強引にゴールを狙っていく。そうすることで吹雪自身に注目が集まり、ボールを持ったときに警戒される」

「それを利用しフリーとなった仲間にパス、そしてシュートってわけか」

「そう。多分、ガイアにはこの戦法は通じなかっただろう。だけど、ジェミニストームはどうしてもこういう面でサッカーの技術面でのレベルの低さが垣間見えてしまう」

 

 確かにレーゼの指示は間違ってはいない。あの場面では吹雪を止めようとする判断自体は間違っていない。でも、吹雪に警戒しすぎたあまり、染岡を忘れていた。そこがミスであり今回の失点の大きな原因だ。

 

「お前だったらあの場面、どう指示していた?」

「ガニメデに吹雪のマークをさせ、カロンに吹雪と染岡両方対応できる位置にいてもらうくらいかな。まぁ、自分で指示するより動いた方が早そうだったけど」

「そうか」

 

 とりあえずこれで同点。さて、この1点は彼らの中にある焦りがさらに膨らませるトリガーになっただろうな。

 冷静になれるか焦ったままか。まぁ、彼らのことだ。見下していた雷門がここまでやった以上、冷静になんてなれやしないか。

 

「だから言ったのに『油断大敵』って」

 

 試合はすでに再開しており、一進一退の攻防が繰り広げられている。

 そんな感じで試合は進み時間も残りわずか。次の1点を決めた方がこの試合を制するだろう。

 

「ディアム!」

 

 とここで、レーゼがボールを奪いドリブルする。ディアムを呼び、2人はシュート体勢に入った。

 

「ユニバースブラスト!」

 

 2人同時にボールを蹴り上げる。ボールの周りには何故か宇宙空間を思わせるような謎の空間が発生、その空間の中心のボールを2人同時に押し込んだ。…………あの空間ほんと何だろうね。

 間違いなくアストロブレイクよりは威力が高い。そのシュートに対し、

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 塔子と壁山の決死のシュートブロック。時間を少し稼ぎ、威力を少し落とすことに成功する。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 その稼がれた時間の間に円堂はマジンを出し、マジンとシュートが激突する。

 若干押され気味になる円堂。だが、

 

『円堂!強烈なシュートを止めたぁぁあああ!』

 

 アイツなら止められる。アイツが負けるわけがない。

 

「行くぞ!反撃だ!」

 

 ボールは前線を走る染岡へ渡る。

 

「止めろ!シュートを撃たせるな!」

 

 レーゼの指示によりディフェンス陣が染岡をマークする。

 

「終わったな」

 

 染岡は逆サイドを見て、

 

「吹雪!いけぇ!」

 

 ノーマークの吹雪にパスを出す。受け取った吹雪はボールを回転させる。ボールには冷気が集まっており……

 

「吹き荒れろ!エターナルブリザード!」

 

 ボールは氷の塊となりボールの周りは強い冷たい風が吹いている。

 その風に吹き飛ばされるゴルレオ。ボールはゴールに突き刺さり、シュートの通った後には氷の道ができていた。当然ゴールも凍らされていて……

 

「ゴールって無敵じゃないんだな……」

 

 率直に言ってヤバいシュートだと思いました。

 

 ピ、ピー!

 

 そして試合終了のホイッスル。結果は雷門の勝利。

 

「あーあ。ジェミニストーム負けたね」

「予想通りになったな」

 

 最後のあれも判断ミスだ。今度は点を取った染岡を注意するあまり吹雪を忘れている。やれやれ、やっぱりジェミニストームは最弱だったか。

 

「というか、あいつら喜びすぎだろ」

 

 グラウンドでは喜ぶ円堂たちと絶望するレーゼたち。

 

「あれは氷山の一角に過ぎないのにな」

「ああ。私たちの計画に、ジェミニストームが負けたところで支障はない」

 

 そう。ジェミニストームが負けたところですべて解決する訳がない。いや、全てどころか何1つ解決してない……と、

 

「来たようだ」

「ああ」

 

 グラウンド一帯には黒い霧のようなものが。

 

「無様だぞ。レーゼ」

 

 そして響くのは男の声。

 

「で、デザーム様!」

 

 現れたのはデザーム率いるイプシロン。

 

「覚悟は出来ているな?お前たちを追放する」

 

 項垂れるレーゼや怯えるジェミニストームのメンバーに向かって容赦なく蹴り出されるデザームのシュート。

 蹴り出されたエイリア学園のボールは、ジェミニストームのメンバーのもとで止まり、彼らを消した……もといワープさせた。

 

「我らはエイリア学園ファーストランクチームイプシロン。地球の民たちよ。やがてエイリア学園の真の力を知るだろう……」

 

 真の力(下から2番目)笑。

 と、そんな笑いは置いといて、

 

「帰るか」

「だな」

 

 雷門は強くなってるようだ……が。さて、どうなるかな。



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迷子と誘いの手

 突然ですが問題です。

 エイリア学園の施設は広いです。広いって事はどういうことが起こるでしょうか?

 

「やっべ……」

 

 答えは道に迷うです。

 いやね。広いからちょっと散策して戻ろうと思ったら戻れなくなったんだよね。いやはや、誰か地図作ってよ。施設マップは重要だと思うよ。うん。というわけで、誰か助けて。

 

「ここどこだよ……はぁ」

 

 最初に見た警備ロボット君たちも今では特訓相手だったりするもののオレのことを侵入者扱いしなくはなった。というかこいつらに道案内機能つけようよ。そうすればオレが迷わなくてすむ。正確には迷った後にしっかり帰れると言うべきか。

 

「っと……」

 

 基本自動ドアだからロックされてない限り近づくだけで扉は開く。おっと?なんだこの部屋。

 

「確かあれは……」

 

 何か巨大な紫色の石……あぁ、少し前にウルビダに見せられた……

 

「エイリア石ですよ」

「そうそうエイリア石……?」

 

 さっと、後ろを振り向くオレ。卑しいことはしてませんよ?人畜無害なただの迷子ですよ?

 

「あなたは確か……研崎さんでしたっけ?」

「覚えてくれていましたか。十六夜綾人君」

 

 まぁ、頑張って覚えたから……何故かこの人とおっちゃんだけ日本人の名前だったし。

 

「ここではムーンとして通っていますよ?」

「知っています。ですが私がお話したいのはムーンとしてのあなたではなく、十六夜綾人としてのあなたです」

「はぁ……」

 

 ぶっちゃけ、大差なくね?

 

「……ん?お話?」

「ええ。その前に質問です。あなたは持てる力は最大限使うべきだと思いますか?」

 

 質問の意図がマジでわかんねぇ……けど、その質問なら、

 

「そりゃあそうじゃないんですか?」

 

 別に間違ってはいない。少なくともオレはそう思う。

 

「同意見ですよ。武力だけではありません。財力、知力、能力など持てる力は最大限に発揮してこそ真の価値があります。逆に発揮しない力など宝の持ち腐れ、それほど意味のないものはありません」

「はぁ」

「君たちのやっているサッカー……それも同じ事です。走力、体力、キック力など個人が持てる力を最大限発揮することも大切です」

 

 何だろう?言ってることは間違ってはいない。間違ってはいないのに僅かな違和感を覚える自分がいる。この小骨が喉奥に刺さってるような気味の悪い感覚は一体……?

 

「あなたは現在ガイアに所属していますね?ですが、あなたと他のメンバーには壁がある。そう感じていませんか?」

「雰囲気って意味じゃそんなにないが、実力って意味じゃ確かにあるかな」

 

 ガイアの中では最弱の自信がある。当然と言われれば当然かもしれないが……

 

「追いすがろうとしても追いつけない。感じているのではありませんか?無力感、焦り、嫉妬、羨望…………彼らに対し、チームメイトに対しそういう感情はありませんか?」

「……まぁ、ないと言ったら嘘になるな」

 

 いつまでも追いつけないまま。間近でずっとアイツを見てきたから分かる。どれだけ練習しても特訓しても追いつけていない。今もずっと後ろ姿を追っているだけだ。

 でも────

 

「でしょう!力が欲しいとは思いませんか?彼らを見返す、彼らを超えるための力が!」

 

 と、スイッチが入ったように熱弁する研崎さん。あまりの変わりように思考を止めてしまう。そして、見せてくるのはこの部屋にあるような巨大なエイリア石ではなくもっと小さなエイリア石……ああ、ウルビダが見せたものか。

 

「君には素質があります!私がこの力を君に授けましょう!」

 

 そして石をそっと握らせてくる研崎さん。

 その瞬間、全身を駆け巡る衝撃のようなものを感じる……!

 

「きっと気に入るはずです……さぁ、見せてください十六夜綾人。君の本当の力を……!」

 

 オレは無言でその場を去った。

 

「クククッ。エイリア石を見るだけでは効果がなかろうともこうして触れさせてしまえばこちらのもの。さぁ、見せてもらいましょうか。『ハイソルジャー』十六夜綾人……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたいた。探したぞムーン」

「ん?」

 

 迷子、食堂にて発見される。いやぁいいね。食堂があるって。

 

「どうした?」

「どうした?って、お前、午後はイプシロンと練習するって言っていたじゃないか」

 

 あ……。

 

「全く。向こうが今度漫遊寺を襲撃に行く前の最終調整をしたいって、お前に頼んでいたんだろ?」

 

 さーっと目を逸らす。

 

「はぁ。目を離して迷子になったかと思えばお前ってやつは……」

 

 ヤバい。完全に忘れていた。

 

「ほら行くぞ」

「へーい」

 

 というか、日頃からイプシロンは練習台にされているんだよなぁ……あと、ジェミニストームも。あんだけ雷門が苦戦しているのに、こっちからすればただの練習台扱い。恐ろしいわ。てか、可哀想。

 そういや、何でこいつはオレのスケジュールを把握してるんだ?ガイアのメンバーには誰にも言ってなかった気がするけど……ま、いっか。

 

「今日は頼みます。ムーン。ウルビダ様」

「え?なにウルビダも頼まれてたの?」

「いいや。ただ付いてきただけだ」

「というかウルビダ様って……」

「なんだ?文句あるのか?」

 

 いやね。何か女王様みたいだなぁーって。お似合いだなーって。ちょっと笑えるなぁーって。

 

「デザーム。こいつにあの技を放ってやれ」

「ゑ?」

「分かりました」

「ゑ?」

「行け。お前たち」

 

 ボールはマキュアに渡り彼女の両隣にゼルとメトロンが、そして力を込めると周りに巨大な岩がいくつも突き刺さり……え?あ、ちょっと待って。

 

『ガイアブレイク!』

 

 マキュアがオーバーヘッドキックの形で、左右の2人は跳び上がってそれぞれ蹴り込む。

 

「ちょ、心の準備がぁああああ!?」

 

 必死にボールの軌道をそらそうとするも……あ、これダメなやつだ。威力が違いすぎる。そりゃあ、こんなの今のオレじゃどうにもならない。

 ボールはオレごとゴールに刺さる。

 

「む、ムーン様!?」

「大丈夫ですか!?」

 

 駆け寄ってくるイプシロンの面々。あぁ、君たちの心遣いに癒やしを覚えるよ。

 

「ふむ……まだまだか」

 

 おいウルビダ。お前は心配の1つもかけられないのか?泣くぞ?流石に泣くぞ?

 

「よし。まずは連携の確認だ。ムーンと私がディフェンスをする。お前たち11人は奪われないようにパスをする。範囲は試合コート全て」

 

 待って。11対2でその広さとかやばくね?ボールを奪うどころか触れることができるかすら怪しいぞ。

 

「なぁに。ムーン。お前の力を持ってすれば取れないことはないさ」

「どっから来るんだよ……その自信は」

 

 とか何とか言いつつボールを奪うことに何度も成功したりする。パスの出す方向とか癖さえ分かれば案外やりやすかったです。

 

「これがマスターランクチームの実力……!」

「我らなどたった2人に負けてしまうというのか……!」

 

 可哀想に思えてきた。雷門ってこれからこいつら相手するんでしょ?でも、そいつらをあっさり倒せそうな、オレたちのようなチームがまだ控えてるって……はっきり言って絶望的だろうなぁ。

 

「まぁまぁ、そう自分たちを責めないでよ。動きはよく出来ている。だから後足りてないのは……」

 

 と、いくつか思ったことを挙げていく。そんな中で1人。デザームは自分の胸に手を当てていた。

 

「どうした?」

「いえ。何でもありません」

「そう」

「次はディフェンス練習とキーパーの練習を兼ねる。私たちが攻めるからお前たちは全力でディフェンスしろ。兼ねると言ってもワザとキーパーまで行かせる必要はない」

「「「はい!」」」

 

 そんな感じでイプシロンの面々との最終調整は夜遅くまでやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてイプシロン漫遊寺襲撃当日。

 

「ムーン。京都へ行くぞ」

「はい?」

 

 なんか前も似たようなことあったような……。



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京都へ

 漫遊寺中……そこはなんと寺だった。古き良き日本って感じがする中学校。今そのグラウンドにて、

 

「何度言われても答えは同じです。私たちに戦う意思はありません」

 

 漫遊寺中学サッカー部の代表とイプシロンキャプテンのデザームが向き合っていた。そして、グラウンドの外には雷門中サッカー部の面々が。やっぱり居たのね。

 

「ならば仕方ない」

 

 そう言ってデザームはエイリアボールを掲げる。そして、掲げられたボールを蹴るゼル。蹴られたボールは何か歴史を感じそうな寺に直撃し、破壊した。

 

「私たちの学校が……!」

 

 え?あれが学校だったの?

 

「やむを得ません。その勝負お受けいたしましょう!」

 

 こうしてイプシロンと漫遊寺中サッカー部の試合が決定。両チームがポジションに着く中、オレはさっきから気になってたことを聞く。

 

「何でここにお前までいるんだ?グラン」

「おっと、この格好の時はヒロトって呼んでよ。十六夜」

「そうだぞグラン。お前が試合を見に来るなんて珍しいじゃないか」

 

 と言っても学校の2階部分(だと思う)の陰からこっそり見ているだけなんだけどね。いや、堂々と見ようとすると流石に怪しまれるから。それに(主にオレが)厄介なことになりかねないし。

 

「まぁまぁ。そんなことよりも試合が始まるよ」

 

 仕方ないグラン……もといヒロトがこの場にいる理由とかはスルーしよう。

 

「お許しください。一時の激情に負けた私たちの弱さを」

 

 何だろう。チーム全員が瞑想している。

 

 ピ──

 

「遠慮はいりません!邪悪なる魂に天罰を下すのです」

 

 と、そんな言葉で試合は漫遊寺ボールで始まった。

 

「だとよ。邪悪なる魂の代表さんたち」

 

 オレは横にいるエイリア学園最強チームのキャプテンと副キャプテンに声をかける。

 

「失礼な。僕らのどこが邪悪って言うんだい」

「全くだ。邪悪さなど微塵もないだろうが」

 

 おっと、この2人は自覚がないようだ。もうダメだね。

 

「愚かな。6分で片付けてやる」

 

 ちょっと待てデザーム。6分で片付けるってお前……

 

「時間計っといてよ十六夜」

「6分で終わらなかったら罰だな」

「いや、今の発言はどうかと思うけどな」

 

 とかなんとか言いつつ試合開始から時間は計っていたのでそれを見る。でも、6分だよ?無理だと思うけどなぁ……

 

「竜巻旋風!」

 

 あれって、少林寺の技じゃね?そう思ってると技を食らったはずのクリプトは簡単に砂の竜巻を破ってあっさりボールを取った。そのままマキュアにボールが渡り、ドリブルしていく。

 

「四股踏み!」

 

 あれって、忍者たちの必殺技じゃ……と思ってるとそんな風を前にしても表情を一切変えずにドリブル。シュートを放ち、四股踏みをしたディフェンダーごとゴールに押し込んだ。

 漫遊寺ボールで試合再開。と、ここで、

 

「クンフーアタック!」

 

 必殺シュートを放つ。もしかしたら、シュートと言いつつ肩で当ててボールを押し込んでいる以外普通の必殺技なのでは?と、そんなシュートもデザームの前には無力。片手であっさり止められてしまう。

 ボールはゼルに。そのままシュートを放つ……と。

 

「火炎放射!」

 

 キーパーの胸(おそらく肺)が異常に膨らみ口から火を吐いた!?ヤバい!びっくり人間出てきたよ!種も仕掛けもなく純粋に口から火を吐けるなんて……!

 

「あーチャッカマンとかいらなさそうだなー(現実逃避)」

 

 キャンプとかするとき便利そーだなー。ほんとほんと、きっと彼はサバイバル環境では重宝するだろうなー。

 しかしまぁ、彼の吐いた炎を切り裂くようにシュートは進みゴールに突き刺さった。

 その後は一方的な展開に。彼らがボールを持てば颯爽と奪い、パスを出しながら的確に漫遊寺の選手に当て、シュートもキーパーやディフェンスを巻き込み、着実にボロボロにしていった。

 

「無念だ……」

 

 そして、最後の選手が倒れてしまう。これで漫遊寺側に戦える選手はいない。

 

「ジャスト6分……」

「流石はデザーム。時間に厳格だね」

 

 え?そういう問題?

 

「6分で15点……まぁ上出来だな」

 

 6分は360秒。それを15で割るから1点24秒ペース。わぁお。それで上出来って言える八神さんマジかっこいいです。

 

「やれ」

 

 デザームがボールを掲げて学校を破壊させようとしている。

 

「待てっ!」

 

 と、ここで響くのは円堂の制止させる声。

 

「まだ試合は終わっちゃいない!俺たちが相手だ!」

「お前たちが?」

 

 んな無茶苦茶な。

 

「ふんっ。いいだろう」

 

 いやいいんかい。

 

「でも、キャプテン。目金先輩が……」

 

 は?目金になんかあったの?

 

「だったら10人で戦うまでだ」

「じゅ、10人で!?」

「このままあいつらの好きにはさせられないだろ!」

 

 いや、それでも10人でイプシロンに挑もうとするのは無謀だろ。

 

「11人目ならいます!木暮君が」

「え?」

「「「木暮ぇっ!?」」」

 

 音無が11人目として名をあげたのは、漫遊寺の選手。ただ、さっきの試合に出ていないことから補欠だろうと推測される。雷門のメンバーもあまりいい顔ではないし。

 

「お願いします!キャプテン!」

 

 すると円堂は笑顔で、

 

「分かったよ。音無。いいですよね!監督!」

「……好きにすればいいわ」

 

 まぁ、アイツがそういうの断るとは思えんか。

 

「さてさて雷門対イプシロンか。クスッ。どうなるんだろうね」

「下らんことを聞くな。イプシロンの圧勝で終わりだろ」

「ま、オレは試合結果よりアイツが気になるな」

「へぇ。漫遊寺の子かい」

「どうしてそこまで信じられるのか。どんな実力を秘めているのか」

 

 彼1人が加わったところで試合結果は変わらないだろう。だが、木暮という選手が何を見せてくれるのか。興味が湧いてる。ポジション的にもディフェンダーだし。

 

「雷門中。ジェミニストームを打ち破った唯一のチーム。たったそれだけのことで勝てるなど我らイプシロンも舐められたものよ」

 

 まぁ、あんまり知らないからしょうがなくない?

 そして、デザームは雷門のメンバーがストレッチを終わるのを見計らって告げた。

 

「諸君。キックオフと行こうか」

「暴れたりねぇなぁ。レーゼに勝ったんなら少しは手応えあるんじゃねぇの?」

「お手並み拝見と行きましょう」

「ぶっ潰す」

「命知らずってマキュア大好き」

 

 軽口を叩く余裕はあるか……まぁ、なかったら困るけど。

 

「聞けぃ雷門中。破壊されるは漫遊寺中にあらず。我らエイリア学園に歯向かい続けるお前たち、雷門イレブンと決まった」

 

 勝手に決めたよ。いいのかそれで。

 

「漫遊寺中は6分で片付けた。だが、お前たちはジェミニストームを打ち破った。その実力をたたえ、3分で決着とする」

 

 いや、短くなってますけど?本当に大丈夫なの?3分って大体のカップラーメンのお湯を入れてからと同じくらいの時間ですけど?

 

「今度は3分かぁ」

「もうサッカーの試合の終わる時間じゃねぇだろ」

「さて奴らはどれだけ抵抗できるかな」

 

 もうヒロトと八神の強キャラ感がやべぇ。まぁ、実際に強いから否定しないけど。

 でも、さっきの試合はイプシロンは本気を出していない。さてどこまで喰らいつくかな?

 

 ピ──

 

 雷門ボールで試合開始。ボールは風丸へ。

 

「戦闘開始!」

 

 デザームの指示により、吹雪と染岡のツートップにマークがつく。

 

「流石にジェミニストーム以上のスピードだな……塔子!」

「鬼道!」

 

 攻める雷門。だが、たった1人。木暮だけは動けずにいた。

 

「土門!」

「撃て!一ノ瀬!」

 

 ボールは鬼道から土門、そして一ノ瀬へと渡る。

 

「スピニングシュート!」

 

 あの威力じゃ足りない。

 

「打ち返せ」

「「了解」」

 

 モールとケイソンが同時に蹴って打ち返す。

 

「これで1点目かな?」

 

 そう。クリアのためにあいつらは打ち返したんじゃない。シュートのために打ち返したのだ。

 

「塔子!壁山!」

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 2人の必殺技で何とか弾くことに成功する。その弾いたボールにジャンプして向かうは吹雪。吹雪のマークについているスオームとメトロンも続いてジャンプする。

 

「貰ったぜ!」

 

 すると、急に雰囲気が変わり、空中で2人の肩を踏み台に更なる跳躍をする。……あれ、ファールにならないの?

 

「エターナルブリザード!」

 

 そのまま空中でシュート。

 ただ、距離もあってか威力は足りない。デザームは左手を突き出して、片手で止めてしまった。

 

「敵ながらいいシュートを打つ。気に入ったぞ」

 

 気に入っちゃったよ。開始40秒、デザーム、吹雪を気に入る。…………というか、まだ40秒しか経ってないの?

 そしてそのまま反撃に移る。パス回しで雷門を翻弄しボールはゼルへ。

 

「ガニメデプロトン!」

 

 あ、1番ダメな技が来た。あれ、ハンドだろ。足を一切使わずもう手からビームじゃないけど出してるしアウトだろ絶対。

 

「ゴッド──」

「間に合わない!」

「爆裂パンチ!」

 

 円堂はゴッドハンドを出そうとするも間に合わず爆裂パンチに切り替えたが無慈悲にもゴールに刺さってしまった。

 

「……まぁ、ゴッドハンドでも無理だっただろうが」

 

 そこから撤退的に痛めつけられる雷門のメンバー。だが、木暮だけは無傷だった。

 

「へぇ、面白いやつだな。木暮」

「ふん。逃げ足だけは速いってことだろ」

「いいや、完璧に避けている。アイツには見えてるんだよ。あのスピードが」

 

 完璧に避けるにはボールや相手の動きが見えてないと無理だ。つまりアイツには見えている。だが、逃げてばかりでは何も解決しないがな。というか、

 

「おいヒロト。今デザームこっち見たぞ」

「まぁ、彼なら気付くだろうね」

「そもそも3人も居れば誰かはバレるだろ」

 

 まぁ、確かにそうだが……

 

「間もなく3分。我々は次の一撃を持ってこのゲームを終了する」

 

 ……サッカーってそんなスポーツだっけ?

 

「聞け地球の民たちよ!我らは10日の後にもう一度勝負をしてやろう!」

 

 勝手に決めちゃったよ。

 

「だが、お前たちは勝負の日まで生き残っていられるかな?」

 

 おかしい。サッカーって本当にそんな生き残るとかいう言葉が出て来るスポーツだっけ?

 すると、デザームの渾身のシュートが雷門ゴールへと迫る。

 

「伏せてろ!木暮!」

 

 シュートのコース上には木暮の姿が。必死に逃げる木暮。だが、逃げ切れない。…………あれ?ボールから逃げるスポーツだっけ?

 

「わわっ!」

 

 木暮は壁山の足に躓き転んでしまう、そこにシュートがやって来てそのまま木暮を巻き込んで竜巻をあげる。

 

「竜巻って……」

 

 竜巻がやんだとき、威力のゼロとなったボールと無傷の木暮が地面に落ちる。

 そして、デザームたちイプシロンは既にその場から居なくなっていた。

 

「帰るぞ。十六夜」

「そうだな」

「面白いね……」

「どうした?ヒロト」

「なんでもないよ」

 

 オレたちも人知れずに帰るのであった……ていうか瞳子監督こっちに気付いていた気がするの気のせい?



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休みと変化

「……え?休み?」

 

 それはイプシロンと雷門が戦った翌日の朝、朝食の時のことだった。

 

「そうだ。毎日のように朝から晩まで練習してはいずれ身体が壊れる。だから、今日から3日間はマスターランクチーム全員休みだ」

 

 意外だ。オレがエイリア学園にやって来て早くも何日か。1日休みを貰ったのは初めてな気がする。しかも3連休。

 

「前までは定期的に休みを入れていたんだがな。ジェミニストームが動き出し本格的に計画が始まってからはこうして一日丸々休む余裕がなくてな」

 

 午前だけ、午後だけ休みというのはちょくちょくあった。……まぁ、オレの予定は大抵……

 

 6:00 起床

 6:30 朝食

 7:30~12:00 個人練習

 12:30 昼食

 13:30~18:00 全体練習

 18:30 夕食

 19:30~22:30 ウルビダと特訓

 23:00 就寝準備とか色々

 0:00 就寝

 

 と、こんな感じである。ベースがこれで時々変わるぐらい……あれ?今気付いたけど、オレってどんだけ練習してんの?マジ?雷門でもこんなに練習したことないぞ?

 

「半日練習しているのか……」

 

 道理で疲れるわけだ。いや、しっかりと間に休憩は入れてるよ?流石に何時間もぶっ通しでやったら死ぬと思う。

 

「で?どうする?一応休みではあるが、別に練習禁止ってわけじゃない。お前が練習したいなら付き合うぞ」

 

 どうしたものか。急に休みって知ってもじゃあこれしよう!なんて思い付かない。まぁ、酷使しすぎてるから少しくらい休みたいのは事実だ。でも、休むにしてもやることないしなぁ……。かと言って円堂たちの動向を探るにしたって、デザームが10日後と宣言した以上、あいつらは「特訓だぁ!」とかやってそうだからな。そんなの見に行ってどうするの?って話だ。

 

「手持ち無沙汰だな……」

 

 勉強……は、別に支障ない。中学レベルなど今更終わってる。元高校生の学力舐めんなよ。

 …………おかしい。やることがない。

 

「なぁ、ウルビダ。お前はどう過ごすつもりだ?」

「私か?特に考えていないな」

 

 マジですかぁ……。折角便乗しようと思っていたのに……。

 

「ただ、久し振りに休むのもいいだろう。お前に付き合って夜まで特訓しているしな」

「いつもすみませんね」

「気にするな。お前との特訓は楽しいからな」

 

 楽しい?ああ、確かにオレにボールぶつけているときのウルビダって楽しそうだもんなぁ……。

 

「今失礼なことを考えなかったか?」

「…………そんなわけないだろ」

「おい、今の間はなんだ。後、私の目を見て話せ」

 

 何故こいつはこんなに鋭いのだろうか?もっと鈍いと思っていたのに。

 

「あ、そうだ。いいこと思いついた。なぁ、ウルビダ」

「なんだ?」

「明日デートしないか?」

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み初日。調べたところによると、休みを貰ったマスターランクチームの面々は一部を除き、皆思い思いに過ごしている。

 自室で読書をする者もいれば料理をする者、エイリアボール(どこでもドア)を使用して海へ行ってみたり温泉へ行ってみたり様々だ。…………ところで温泉とか言った奴金持ったよな?さすがに金払わず逃走とかないよな?まぁ、学校破壊に比べたら可愛いものか。

 

「そろそろ休憩しようと思うのですが」

「そうだね。適度な休憩は大事だよ」

 

 じゃあ、オレは何をしているのか?と聞かれれば、一言で言えば特訓です。

 

「よし。各員10分休憩した後、再開するぞ」

「「「はっ!」」」

 

 正確にはイプシロンの特訓に参加しているって感じかな。

 

「でもムーン。いいのか?」

「ん?何が?」

「ムーンを始めとしたマスターランクチームの皆様は今は休暇中だと」

「あーあれね。勿論休みはするよ。でも、3日間もいらないなぁーって」

「そうか」

「それに。もっと強くなりたいし」

 

 あいつらはきっとこの10日間でレベルアップするだろう。なら、オレも負けていられない。

 

「…………強くなりたい……」

「ん?どうした?」

「いえ。この後のメニューですが……」

 

 こうして、イプシロンとの練習は夕食の時まで続いた。

 

「…………」

 

 その間、なにやら視線を感じたが、特に触れないでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「ムーン……いえ、十六夜綾人の様子はどうでした?」

「特に何も。いたって普通ですね」

「そうですか」

 

 吉良星二郎は研崎竜一からの報告を聞き、調べた情報を口にする。

 

「十六夜綾人。両親を幼い時に亡くし、現在は両親の残した一軒家にて一人暮らし。親族によって生計は立てられている……ですか」

「えぇ。その通りです」

「あの子たちと近しい環境で育っている。いえ、下手したらあの子たちよりも酷いかもしれない。ただ、彼からはどうにも不思議なものを感じますね」

「と言いますと?」

「彼はどうにもただの中学生に見えない」

 

 実際、十六夜綾人はただの中学生なわけがないが、それを知る人物はこの世界には誰もいない。

 

「歳は取りたくないものですね。一介の中学生に過ぎないはずの彼をどうしてこんなに警戒している自分がいるのか。元々、彼は我々の戦力に加えるつもりだった。そのつもりであなた方にも動いてもらう予定でした。しかし、この目で彼を見て思ってしまうのです。『我々が取り込んだ存在は我々を崩壊させる毒だった』のではないかと」

「そうですね。ですが、それならばこう言い換えられますよ。『上手く使えばこの上ない優秀な武器』と。我々を滅ぼせるだけの毒ならば使いこなせば、我々の計画をより完璧にしてくれるコマです」

「それもそうですね。まぁ、所詮は一介の中学生。出来ることなど限られていますか」

「では私はこれで」

「呼び立ててすまないね」

「いえいえ」

 

 さがる研崎竜一。

 

「……ええ。本当に彼は()()()()()最高のコマですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。グラウンドにて2人の選手が話していた。

 

「聞いたかガゼル」

「ああ、どうにもあのお方がジェネシスにガイアを選ぶ噂が流れているようだな」

「クソっ!俺は認めねぇぞ!」

「フンッ。私もまだ認めたわけじゃない」

 

 プロミネンスキャプテンのバーンとダイヤモンドダストキャプテンのガゼルの2人である。

 

「だが、このままでは噂が真実に変わるのも時間の問題だ」

「ああ。何かしら手を打てればいいが」

「一層のこと今から雷門へ襲撃して完膚なきまで叩きのめすか?」

「それは意味がないだろう」

「何故だ?」

「奴らはつい先日、イプシロンに大敗している。その程度のチームに勝つのは戦わなくても分かる。その程度で評価が上がるとは思えない」

「……ッチ。奴らがイプシロンをぶっ倒すぐらいの実力だったら楽だったのによぉ」

「ジェミニストームに勝てたところでイプシロンに対しあの様だ。我らには遠く及ばない」

「ああその通りだな……っ!誰だ!」

 

 と、ここでバーンがボールを蹴る。

 

「わっ、危ないなぁ……」

 

 現れたのは……

 

「ムーンか。盗み聞きとは趣味が悪いぞ」

「いやいや、オレは練習に来ただけだわ」

 

 片手にボールを、足にはバーンが蹴ってきたボールを持って、歩いてくるのはムーン。

 

「聞こえていたか?」

「んーまぁね。要は『ガイアがジェネシスの称号を与えられるのが気に食わない』ってことでしょ?」

「ああ、そうだな」

「でも、まだ君たちがもらう可能性はなくなった訳じゃないんでしょ?焦る必要なくない?」

「だとしてもだ!そもそもそんな噂が流れている時点で気にくわねぇんだよ!」

「やれやれ。だが、それには同感するがな」

 

 ムーンは思っていた。ぶっちゃけジェネシスの称号ってそんなに欲しいの?っと。

 

「じゃあさ、手を組めばいいんじゃない?」

「「はぁ?」」

「いや、プロミネンスとダイヤモンドダスト。2つのチームをいい感じに合わせたらガイアより凄いチームが出来るんじゃないかなって」

「要は選抜チームを作るってわけか」

「そうそうそんな感じ」

「フッ。なかなか面白い話だな。私は乗ってもいい」

「だな。この3人で上には上がいるってことを思い知らせてやろう」

「うんうん…………ん?どの3人?」

「差し詰めムーンはガイアに入り込む我々のスパイってとこか」

「ああ。こいつは自分からチームを選んだわけじゃねぇ。そこまでガイアに思い入れもねぇだろ」

「あのー……」

「ここから少しの間の準備期間ってとこだな」

「それが終わり次第、俺たち3人がグランをぶっ潰す」

「いや、ちょ……」

「「ここにネオ・ジェネシス計画を発動する」」

 

(何か巻き込まれたんですけど……)



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デートと言う名の……

 カオス(あの後バーンとガゼルが選抜チームの名前を決めていた)のスパイに何故か任命されてしまった次の日。オレは八神とイタリアに来ていた。

 

「こちら注文のブルスケッタとマルゲリータです」

 

 ところで質問いいかな?イタリアで話されている言葉って何でしょう?

 答えイタリア語。

 まぁ、観光地ということで英語を話せる人も多いんだけどね。じゃあ、この店員さんが話していたのは何語でしょう?

 答え日本語。

 

「…………?」

「どうした十六夜。食べないのか?」

 

 ま、まぁ。この人が凄い親日家で、日本語が流暢だったならまだいいだろう。

 

『やはり、このレストランは美味しいね』

『えぇ、とっても』

 

 周りに居る一般客を始め、ここに来てから日本語しか聞いておりません。

 ここイタリアだよ?日本にあるイタリア風の所とかじゃないよ?

 

「…………?」

「やっぱり、本場は違うな」

 

 そんな違いを一切気にすることなく食べ進める八神(今は宇宙人笑として活動してないためこちらで呼んでる)。あらら?中学生で習わないのかな?イタリアではイタリア語が主要で日本語がこんなに行き交う光景はおかしいってことに。

 

「………………?」

「どうした?さっきから手が進んでないぞ?」

 

 まさかな。まさか、この世界。実は日本語で全部通じるのか?いやいやそんなわけないない。そんなんだったら、学校で英語という科目は消えてるだろうし、国語じゃなくて世界語とかそんな風に変わってるはずだうん間違いない。

 

「……なぁ、八神」

 

 オレは外の景色を見ながら、目の前で食べ進める彼女の名を呼ぶ。

 

「なんだ?」

「……この世界は素晴らしいな」

「…………はぁ?」

 

 何言ってんだこいつ。頭わいたのか?と言う感じの目で見てくる八神。

 旧約聖書の創世記、第11章に登場するバベルの塔の物語を聞いたことはあるだろうか。詳しくは語るつもりは毛頭ないが、もともと地球上にいる人々は同じ言語を話す1つの民族だった。人々は技術を手に入れ、あるものをつくろうとする。それが天上、神が住まう所へと届くような高い塔である。そのことに怒り、恐れた神は人々が意思疎通を図れないように言語をバラバラにしたという。

 恐らくこの世界は神の怒りに触れず、言語をバラバラにされなかったという世界なのだろう。あぁ、そうか。そうだったのか。この世界では人々と神が…………?

 とここで、オレは自称神様のあの爺を思い出す。ふむ。

 

「やはり、神様って碌でもないだろ」

 

 少なくともまともな神様はあんな軽いノリでオレを転生させないだろう。というか、この世界はよく考えたらオレの第2の生きる世界だったな。

 ちなみに、考え事しすぎて、気付けば目の前の八神はデザートまで食べていたことを記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ。おいしかったね」

「それはいいが、ずっと考え事していたようだが」

「ああ、気にするな」

「そうか?まぁ、お前はよく考え事をするからな。一々聞いてもキリが無いな」

 

 現在イタリアはトリノを散策中です。いやぁ、あれです。エイリアボールって便利だね。外国へも一瞬で行ける。あれ?もしかして電車とか交通機関系いらないのではないだろうか?

 ただ、難点があるとすれば意外と重い。ずっと鞄に入れてるけど割としんどい。

 

「ところで十六夜」

「なに?」

「どうして今日は私をデートに誘ったんだ?」

「うーん……」

 

 特に考えていなかった……というのは嘘になる。ただ、これを聞いていいかは分からないし、もしかしたら自覚していないかもしれない。でも、一応は聞いてみるか。

 

「質問の答えに繋がるか分からないけど……八神。お前、今楽しいか?」

「楽しいかだと?」

「そうだね」

 

 きっと八神──ウルビダはあの人への忠誠が高いメンバーの1人だ。グランは最近円堂の面白さに気付いたらしく、今度試合でも申し込もう的なことを言っていた。バーンやガゼルはそんなグランたちを引きずり下ろすために動き出そうとしている。デザームも特訓を続けているが、何か楽しみを感じている模様。他の面々も挙げたら止まらないが今の状況でも生き生きしている。

 何が言いたいかと言われると今のウルビダは死んでいる。こいつが尊敬するお父様のためを思っている。

 

「何故今そんなのが必要なんだ?」

 

 だから、こいつはエイリア学園の中で1番貢献しようとしている。そのために、全てを犠牲にしている。そんな感じがした。

 こいつをはじめとして多くのエイリア学園の選手は中学生。もっと楽しむべき時期だろうにだ。

 

「さぁ。何でだろうね」

「はぁ?意味が分からんぞ」

 

 恐らく、この計画が失敗すればウルビダには何もなくなってしまう。全てを犠牲にしてきた代償と言うべきか。

 何もなくなるだけならまだいいかもしれない。ただ、今まで抑えてきたもので彼女が壊れてしまうのではないか。暴走するかもしれないし塞ぎ込むかもしれない。どうなるかは分からないがほぼ確実に壊れるだろう。

 そして、オレはそれが怖いと思ってしまっている。とても怖いのだ。

 

「じゃあ、もう1個。何でオレたちは海外に来たのでしょう?」

「来たのでしょう?ってお前が誘ったんだろう?」

「うん。だから何でわざわざ海外に来ているのか。その答えは分かる?」

「そうだな……」

 

 少し考える八神。

 

「……今後の計画のための偵察か?」

 

 うん。予想通りの返答だ。そして、その返答が来たと言うことはこいつの頭の中にはエイリア学園の……彼女たちの言うお父様の事しか入ってない。

 

「まぁ、そうだね」

 

 オレはその答えにYESと答える。ここでNOと答えるとそれは嘘を含んでしまうからだ。

 

「でも、それもあるけど今は楽しもうよ」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場所と時間は変わってとある小さなサッカーコート。

 

「この勝負……勝つよ」

「ああ。分かってる」

 

 オレは何故かこのコートの使用権を賭けた戦いに巻き込まれていた。

 

「はっ。ガキどもが」

「調子に乗るんじゃねぇぞ」

 

 目の前には高校生らしき人が5人。うん。どうにも、現地の人っぽいのに日本語なんだよねぇ。…………すごい違和感。

 

「頑張れーお兄ちゃんたち!」

「負けるなよ十六夜」

 

 ベンチで応援してくれるのは小さな子どもたちと八神。

 ここで何故この状況が起きているかについて簡単に。

 

 まず、隣の少年とちびっ子たちがここを使っている。

 オレたちもサッカーコートがあったので見に行く。

 高校生たち絡んでくる。

 サッカー勝負になる。

 

 ふむ。よく分からんな。ちなみに、ルールは15分のミニゲーム。必殺技禁止でこっちのキックオフで最終的に点を多く取った方が勝ち。

 そして、重要なのは選手の人数だ。こっちは2人に対し向こうは5人。…………ああ、八神様。なぜあなたはベンチに居られるのでしょうか?

 

「じゃあ、始めよーぜ」

 

 ピ──!

 

 あと、何かホイッスルの音が聞こえた。どうやら審判を引き受けてくれている人がいるらしい。スコアボードにも立っている人が……じゃないよね?ねぇ?明らかにこっち人数足りないよ?何で誰も助っ人に入るとかないの?ねぇおかしくない?おかしいよね?

 

「行くよ!アヤト!」

「ああもう!分かったよ!フィディオ!」

 

 こうしてオレとフィディオによるサッカーバトルが幕を開けたのだった。




~重大な(?)お知らせ~

この度、ネタとノリでイナイレの別の二次創作を投稿し始めました。
興味のある方は作者ページからどうぞ。
ヒロインは……タイトルで察してください。


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世界を知る日

 ミニゲーム開始5分。

 

「何なんだこいつら……!」

「つ、強すぎる……!」

 

 スコアは5対0と十六夜とフィディオのチームが圧倒していた。そして、

 

「行けっ!」

「クソっ!」

 

 フィディオのシュートがゴールに刺さる。これで6対0だ。

 私は考えが甘かったかもしれないと試合を見て痛感する。十六夜は人数的にも私が出ないのはおかしいと感じたはずだ。私が出ない理由としては至ってシンプル。十六夜の実力を試すためだ。相手が年上だとしても、人数的に不利だとしても、我々の元に来てさらにレベルを上げた十六夜ならば倒せると確信していたからだ。

 だが現実はどうだ?確かに十六夜はあの者たちを圧倒するレベルにある。だが、十六夜と共に戦っているフィディオと比べると実力が天と地程の差があるのだ。わかりやすく言うなら出会った頃の私と十六夜くらい実力がかけ離れている。

 

「ナイスアシスト!アヤト」

「そっちこそ。ナイスシュート」

 

 思考している間に7点目が入る。もう相手が可哀想に見えてくるが、ふっかけてきたのは相手側なので自業自得と言わざるを得ない。

 恐らく……いや、断言出来るのは、あのフィディオが何者であれ、今の私やグランを含めたエイリア学園の選手は、誰もがあの男の足下にすら及んでいない。誇張しているように見えるが、少なくとも誰も勝てないという点では真実だろう。

 しかし、私は1つだけ分からないことがあった。

 

「……何でお前はそんなに楽しそうなんだ…………」

 

 何故そんな絶望的な実力差を見せつけられてお前はそんな好戦的な笑みを浮かべていられる。努力してあがいてそれでもまだ背中すら見えない壁を見ても何故お前は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ、ピー

 

 試合終了のホイッスル。最終的なスコアは20対0……?もうミニゲームのスコアじゃないだろ。

 

「ッチ。約束だ。引き上げるぞお前ら」

 

 と、約束通り大人しく帰って行く……あ、そこは素直なのね。流石に武力行使はしなかったか。

 

「ふぅーお疲れアヤト」

「あぁ……って言うほど疲れてないだろ?」

 

 スタミナ、スピード、テクニック、パワー……何を取ってもフィディオという選手はオレを遙かに超えている。特にテクニックという面ではそれが顕著に表れている。更に、まるでフィールド全てが見えているように感じるプレーの数々。

 

「あはは……」

「すげぇ!やっぱりフィディオはすげぇよ!」

「かっこよかったよ!」

 

 子どもたちがフィディオに群がっている。すごい人気だな。

 

「流石、イタリアの白い流星と呼ばれるだけのことはある」

 

 審判をしていたおっちゃんが気になることを言う。

 

「白い……流星?」

「おや、アンタは知らんのか?フィディオ・アルデナ。ヨーロッパ屈指のストライカーで、開催の噂がある中学サッカーの世界大会では間違いなくレギュラー入りされると言われている」

 

 何か色々な情報が一気に流れ込んだが、間違いなく言えるのは、

 

「これが世界レベル……!」

「彼はイタリア……いや、世界でも有数のトッププレイヤーといえるだろうな」

 

 オレはその言葉を聞いた瞬間心の底から熱くなるものを感じた。心の奥底からふつふつと湧き上がってくる感情……!

 

「なぁ、フィディオ」

 

 オレはその感情を抑えられない。

 

「何かな?アヤト」

「オレと勝負してくれないか?」

 

 無茶苦茶だとは思う。相手はヨーロッパでも有名なストライカー。対してこっちは無名の日本人プレイヤーで、さっき一緒に戦ってとてつもない実力差があることは痛いほど分かっている。

 

「いいよ。俺も君には興味がわいた。さぁ、やろうか」

 

 話し合いの結果(と言っても一言二言で終わったが)先攻後攻に分かれ先に5点決めた方の勝ちとなった。

 

「じゃあ、俺から行かせてもらうよ」

 

 さっきのミニゲームで分かったこと。それは、今のオレでは絶対に止められないこと。じゃあ、諦めるのか?…………いいや違うな。

 

「…………っ!だが……!」

「ならば……!」

 

 フェイントにも素早く対応する……が、さらにフェイントを重ねられ呆気なく抜かれてしまう。

 

「次はオレの番だな」

 

 ドリブルを始める…………が、ッチ。ストライカーとは言えそこら辺のやつよりはディフェンスが上手い。ダメだ。突破できるビジョンが見えない。

 

「そこだ!」

「しまっ……!」

 

 敗北のビジョンが影をさしたその一瞬を付いて呆気なく取られてしまう。

 

「次は俺の番だな」

「ああ、来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと十六夜は完敗した。1点も取ることが出来ずストレート負けをした。

 フィディオと再戦の約束をして別れたものの、そこから一切言葉を発しない。

 私は今の彼にどう言葉をかけていいか分からなかった。

 いつものような感じで言えばいいのか、慰めるようなそんな感じで言えばいいのか、どう言えばいいのか分からなかった。

 

「なぁ、八神」

 

 夕日が傾き始め、もうすぐこちらの時間では夜になるそんな中、遂に沈黙は破られた。

 

「なんだ?」

「世界レベルは凄いな」

 

 ……それは見ていて思った。十六夜は間違いなくマスターランクチームに恥じない実力を身につけ始めている。だが、それでもほとんど通用しなかった。

 

「今のオレでは一切届いていない。全く相手にならないんだな」

 

 不思議とその言葉には悲しみというか負の感情を一切感じなかった。むしろ、

 

「お前……ニヤついていて引くぞ」

「表情に出ているか?」

「もの凄く」

「あはははは!」

 

 むしろ、プラスの感情しか感じなかった。

 意味が分からない。この男は、あれだけ辛い特訓をして、強くなって、それでも歯が立たなかった相手が目の前に現れた。それなのに、どうして笑っていられるんだ?

 

「お前は……悔しくないのか?」

 

 私は少なくとも悔しい。

 きっとあの男には私たちがアレを使っても敵わない。私たちは最強だと思っていたのに、実際はそうでないことに気付いてしまった。気付かされてしまったことに凄い悔しさを覚える。

 

「悔しいさ。滅茶苦茶悔しい」

 

 十六夜は笑うのを止め、真剣な表情で答えた。

 

「なら、何でお前はそんなに楽しそうなんだ」

「楽しいだろ?だって、必殺技がチートだったからとか、そんなクソみたいな言い訳が出来ない。純粋にオレなんかより凄く強い同年代に会えたんだ。そして、それはフィディオだけじゃない。他の国にももっとそういう純粋に凄い奴らはいる」

 

 上には上がいる。それを理解した上での発言だ。

 

「オレはまだまだ強くなれる。そして、そういう奴らと渡り合いたい」

「渡り合いたい?」

「ああ。だからさ」

 

 そう言うと彼は私の方を見て笑顔を見せる。

 

「これからもよろしくな」

 

 その彼の笑顔を見ると何故か頬が熱くなっていく感じがする。いや、おかしいのは頬だけじゃない。心臓の鼓動が心なしかいつもより早くなり、いても立ってもいられなくなる。

 ──ダメだ。その笑顔を見続けたら私の中で何かが起こる。

 

「じゃあ、帰ったら早速特訓だな」

 

 私は逃げるようにして彼から顔を背けてスタスタと歩き出す。

 おかしい。声がいつもより震えてそれをごまかすために早口になっている気がする。

 

「分かってるよ」

「大体、純粋なテクニック面もそうだが、今回は必殺技禁止の一種の縛りプレイだったんだ。必殺技の練度向上もそうだが、まずお前の場合はペラーを介さずにペンギンを呼ぶところから始めるぞ」

「ちょ、何でそんな早足で早口なんだよ!?」

「お前が遅いだけだ!」

「凄い理不尽!?え、あ、お土産とかまだ見てないだろ!?」

「ほら行くぞ!」

「オレ疲れてるんですけど!?後、迷子になるぞ」

「知るか!」

 

 私がこの気持ちの正体に気付くのはまだまだ先の話。



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十六夜、ペンギンと向き合う

1分で分かる前回までのあらすじ。
デザーム率いるイプシロンは京都で雷門中学と対戦する。
圧勝するイプシロン。キャプテンデザームは10日の猶予を与え雷門と再戦することを告げる。
雷門は愛媛で新帝国学園と対決、そこで染岡は負傷、離脱を余儀なくされる。
その後は大阪へ。嘗て十六夜を苦しめた特訓マシーンと向き合う円堂たち。果たしてクリアできるのか。
一方の十六夜は、海外で八神とデートする。
そこでフィディオと出会う(十六夜は原作を知らないため、そんなすごい存在とは知らなかった)
フィディオに完敗した十六夜。
強くなると決意を固め、彼はある場所を訪れていた。


ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!

 

 圧倒的とも言える存在感。音を聞いただけで分かるこの雄大さ。

 

ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!

 

 オレは今、修行に来ていた。座禅を組み、心を空にする……いや、こうやって考えている時点で空にできていないけど。

 

ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!

 

 初めこそこの修行に辛さを感じたが1時間もすれば自然と苦ではなくなっていく。

 この水の落ち、打ち付ける音だけが残る。

 精神を集中させ雑念を振り払う。そう、オレの中にある雑念…………!

 

(ペンギンは地面から生え空を飛ぶ。これ常識おかしくない。ペンギンは地面から生え空を飛ぶ。これ常識おかしくない。ペンギンは地面から生え空を飛ぶ。これ常識おかしくない)

 

 そう。ペンギンが地面から生えるわけがない、空を飛ぶわけがないという雑念である。またの名を前の世界の常識という。

 

『…………いや、その常識は捨てたらダメでしょ』

 

 うるせぇ。

 

『しかも、それをするために滝行って……』

 

 いいだろ別に。お前も一緒に修行できるし。あと、滝行って何かかっこいいし。

 

『だから感性がズレているって言われるんだよ。ほら姉御なんて暇すぎて帰ったし』

 

 ふっ、この魅力が分からんとはな。まだまだだ。

 

『いや誰だよ。滝に打たれて頭おかしくなった?』

 

 いいかペラー。ここにはオレとお前。後は雄大な自然しかない。それがすべてなんだよ。それが世界のすべてだよ。

 

『ダメだ。ご主人様がキャラ崩壊している』

 

 今のオレの精神を乱すものは何もない。

 

『ふぅーん。じゃあさ、姉御が滝行している姿を想像してみてよ』

 

 ???普通に似合いそうだな。

 

『そして滝による水圧で姉御の衣服がはだけその胸があらわに──』

 

「消え去れ邪念がぁあああああああああああ!」

 

ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 流石に疲れたので少し休憩する。

 

「まだだ……まだ足りない……!」

『そうだよ。前よりは認め始めてるけどまだ、オレ以外を呼ぶには足りないね』

「…………ペラー」

『何?』

「もう1回打たれるぞ」

「その前に飯ぐらい食え」

 

 スパーンっと、いい感じの音が頭から聞こえた。

 うっ……それは打たれると言うよりぶたれるだ。もしくははたかれる……。

 

「今はお昼だぞ。腹が減ってるだろ」

「やれやれ。精神統一をさっきまでしていたんだぞ?お腹がすいてるわけ──」

 

 ──ぐぅううううう。

 

「──あるな。うん。食べよう」

『身体は正直だね』

 

 そういって八神が持ってきたのは弁当。まぁ、エイリアボールを使えばここまで一瞬だからな。

 

「それからタオルだ。とりあえず、頭ぐらい拭いとけ」

「へーい」

 

 流石に髪はまだまだ濡れていた。さすがに弁当の中に水が入るのはまずいか。

 

「いただきまーす」

 

 手を合わせて、それから食べ始める。

 

「順調か?」

「うーん、多少は効果あるみたいだけどまだまだだね」

「ふーん。私も付き合おうか?」

「いえ。邪念が溢れそうなのでやめてください」

「???よく分からんが、そこまで言うならやめとくか」

 

 危ない。きっと隣に並ばれた日には隣に意識が行って、精神統一どころの騒ぎじゃないだろう。

 

「まぁいい。無茶だけはするなよ」

「いつも無茶苦茶な特訓を提案するお前が言うこと?」(もちろん。心配してくれてありがとな)

 

『ご主人様。本音と建前が逆』

 

 咄嗟に口を抑える俺。しかし、時既に遅し……

 

「ほーう?」

 

 目の前に青筋を立てる八神さんが…………ペラー。

 

『何?』

 

 今まで楽しかった。ありがとな。

 次の瞬間。オレは滝の中へ、ボールごと蹴り込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、ここは何処だろう。確か、滝の中へ蹴り込まれて……ああ、そこからどうなったのか。

 

「やれやれ。アホなことしているねぇ」

 

 ん?お前は?というかここは何処?

 

「ここは君の精神世界。心の中さ」

 

 ふーん。よく分かんねぇや。で?お前は?

 

「今の君に名乗る名前はないよ。まぁ、いずれ分かるさ」

 

 うわぁ……そういうこと本当に言うやつがいるんだな。

 

「で、何をつまらないことに拘っているんだ?十六夜綾人」

 

 はぁ?拘っている?

 

「そうだよ。お前は拘っているんだよ。そのこだわりを捨てればいいだけの話なのにな」

 

 何を言ってるんだよお前は。

 

「お前は必殺技が使えるわけがない。そう思っている。でもそれはあり得ないからそう思ってるんじゃない。違うか?」

 

 いやいや。あんな超常現象意味不明だろ。

 

「まぁ、確かにな。でもお前は今の状況で甘んじているんだよ。そしてそれを逃げの手にしている」

 

 ……逃げの手だと?

 

「必殺技を充分に使えないから負けた。よくある話だよ。チートみたいな技を使う奴らに無能力が勝てないのは当然だからな」

 

 お前はさっきから何を言ってるんだ?

 

「お前が純粋な、必殺技がないようなサッカーをしたいって気持ちがあるのは分かる。フィディオとやったようなサッカーがしたいのは分かる。それに嘘はない。でもさ、だからといって必殺技を認めないのはおかしいだろ」

 

 何なんだこいつ。本当に……何なんだ?

 

「お前がやっているのはサッカーだろ。オプションに必殺技が付いているだけで。今までを思い出せよ。お前、必殺技があるサッカーも楽しんでいただろ?」

 

 楽しんでいた……確かにその通りだな。

 

「はっきり言ってやる。今のままだとお前に成長はない」

 

 ……っ!言ってくれるなお前。

 

「時間もねぇし。これだけ言っておいてやる。いい加減つまらないことで拘るのをやめろ」

 

 徐々に薄れていく感覚。まだだ、オレはお前に……

 

「じゃあな。次会う時は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは」

「起きたか」

 

 何か前もあったこの感覚。気付いたら部屋に運ばれていた……。

 

「誰かと話でもしていたのか?なんか言っていたようだが」

「話?あー……」

 

 確かに誰かと話していた気がする。声は覚えているのに話の内容は覚えていない。何だろう。一体あいつは何だったんだ?でもまぁ、

 

「つまらないことに拘らない……」

「???」

「悪い。ちょっとペラーと話がしたいから、1人にさせてくれないか」

「……分かった。また夕食でな」

 

 そう言うと立ち去るウルビダ。

 

「ペラー」

『なに?』

「お前言っていたよな、器の話。オレの器の大きさってぶっちゃけるとどんなもんなんだ?」

『そうだね。正直に言うと、最高だよ。今まで見てきた中でダントツで大きい』

「もし、その器をフルで使えるようになったら?何か変わるか?」

『うーん。必殺技を使えるくらいかな?今よりもいろいろと』

「そうか……ということはお前たちを認めてパワーアップとかは?」

『ないない。そんな認めるだけでパワーアップとかあり得ないよ』

 

 つまり、ほとんど変わらない……ってわけか。

 

「ははっ」

『どうしたのさ』

「いいや。何かつまらないことに拘ってたなぁ……って」

 

 オレはきっと前の世界での普通にとらわれていた。

 でも、とらわれたままだと、きっと強くはなれない。

 それにペラーたちを認めようと認めまいと結局はオレが強くならないと意味はない。

 そして、その先で強者と渡り合う上でペラーたちの力は必要。

 

「今までありがとな。本当に」

 

 今までもペラーたちには救われてきた。

 我ながら酷いな全く。

 使うだけ使って存在を認めてないなんて。

 それじゃあ、ペラーたちが都合のいい道具みたいじゃないか。

 

「なぁ、ペラー」

 

 聞く人が聞いたら頭おかしいかもしれない。でも、それでも。

 

「友達になろう」

 

 オレは手を差し出す。

 ペラーたちを道具とは思ってないし、これからも思わない。オレにとって大切な存在だ。

 

『やっと認めてくれたんだね』

 

 この時を境にオレはペラー以外のペンギンも自力で呼べるようになった。




十六夜君は今まで努力をしてきた。
元の世界でもこの世界でもひたすら努力を積み重ねてきた。
だからペンギンたちを呼び出せるようになるだけで飛躍的に強くなることを認められなかった。
でも、結局認めただけで強くなれるわけではない。
彼が縛られていたのは前の世界の常識ではなく、自分の努力が簡単に否定されてしまう事への恐怖だった。
……というのが彼の無意識の中で起きていたことです。
恐怖に関しては無自覚なので、とらわれていたのは前の世界の常識だと思っていますが。


というわけ十六夜君強化ですね。なおツッコミがなくなるわけではないが多少は減る。(予定)
さて、唐突ですが次回からしばらく一日置き投稿します。


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大阪へ

 イプシロンが雷門との再戦を宣言した日から10日が経ちました。

 噂によると、雷門は数日前から、あの大阪の廃棄した訓練施設で特訓をしているらしい。

 だから、試合会場としてそこにあるスタジアムになりそう……というのが報告で上がってきたことだ。

 まぁ、スタジアム、というか試合の会場を指定せずにこちらが合わせるというスタンスは、優しいと捉えるべきか当然の配慮と捉えるべきかは人それぞれだが。

 

「……オレは知っている」

 

 明日、どうせウルビダが大阪に行くぞ、と言い出すことを。だから、夜の特訓も軽めにしてこうして早めに寝ておくのだ。

 二度あることは三度ある。今回の場合は突発的ではなく事前に知らされていたものだし、もしかしたら、観客もあの廃棄した訓練施設とは言え何人かはいるかもな。というか、沢山居てくれればそこに紛れ込めるから楽なんだよなぁ……。

 

 コンコンコン

 

「はーい」

「入るぞ」

 

 おっと噂をすれば何とやら。まぁ、明日についての話だろうな。

 

「明日のことだが……」

「ああ」

「……明日はイプシロンと雷門は置いといて練習しようと思うがどうだ?」

 

 …………あれぇ?何かがおかしい。

 

「……えっと……どういう風の吹き回しで?」

「ああ。明日はこっそり影から偵察……みたいなことが出来ない立地でな。どう考えても見つかりそうだからやめとこうと……特にお前は見つかると厄介だろ?」

 

 むむ……確かにその通りだな。でも、この10日間一切雷門を直接見ていない以上気になるんだよなぁ……。

 

「よし、なら……」

 

 仕方ない。奥の手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、雷門VSイプシロン当日。オレはいつものようにコソコソ隠れて見る……のではなく。

 

「アイツは誰だ?」

「確か前回はいなかったぞ」

「エイリア学園の監督?」

「いや、それにしては選手っぽいけど……」

「というか、何なのあのミイラ男」

 

 隣のベンチから聞こえてくる声。オレはそれを無視して、

 

「デザーム、それにイプシロンに告ぐ。オレはただの見物人だ。お前ら好きにやってこい」

 

 声をかけると同時にベンチに腰掛ける。

 一応変装しないと……という話でウルビダが任せろと言った結果、包帯で顔をぐるぐる巻きにされた。両目は出ているけど息苦しい……というかこれじゃあ、宇宙人というよりただの重傷人だ。何かが違う。

 後、デザームたちがやっていたがこれ、日本中に中継されているらしい。…………オレ映らないよな?大丈夫だよな?

 雷門の様子を見ているとふむ。情報通り、染岡が離脱している。

 雷門はデザームが宣言した日のすぐ後、オレがデートしている頃に真・帝国学園──影山たちと戦っていたらしい。その戦いで染岡が負傷。戦線離脱を余儀なくされた。

 代わり……と言ったらあれだが、浦部リカが入っている。まぁ、一ノ瀬につきまとってるギャルにしか見えない……一ノ瀬ご愁傷様。そういや財前塔子は円堂を気に入っていたし……君たち何か加えるメンバー間違えてね?

 

「吹雪はディフェンスか……」

 

 お互いにポジションにつくが……なるほど。浦部はフォワードだったか……あれ?染岡がいなくなった以上フォワードが足りなくね?

 ちなみにボイスチェンジャーとか使ってないためあまり喋り過ぎるといつかばれそう。まぁ、ばれた時はばれた時だ。

 

 ピ──

 

 イプシロンボールで試合開始。

 

「メテオシャワー!」

 

 マキュアがボールを持ちドリブル。跳び上がって空中でオーバーヘッドキック。ボールの代わりに隕石のようなモノをいくつも落とす……相変わらずすごいなぁ。一気に鬼道、塔子、浦部を倒す。……全部避ければ良さそうだけどなかなか難しいか。

 

「抜かせない!」

 

 と、ここで風丸がマークしていく。マキュアを足止めしているが……いい位置取りだ。近すぎず遠すぎず。フェイントも対応できてるし、この距離感ならメテオシャワーも打てない。

 その間に他の選手たちが風丸のフォローに向かう。

 

「マキュア!」

 

 見かねたゼルがボールを要求。そして、マキュアからのパスが入り……

 

「ガニメデプロトン!」

 

 ……ダイレクトでシュート(シュートだよな?多分)を打つ。

 さて、これで1点目…………だったら拍子抜けだけど、どうかな?

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂のマジン……以前よりパワーアップしたそれはゼルのシュートを完全に止めた。

 

「…………やっぱりな」

 

 エイリア学園側で円堂が止めたことに驚いていないのはオレとデザームのみ。デザームがわざわざ10日の猶予を与えたのは、雷門のパワーアップする時間を与えたと言うこと。それを知ってか知らずか、奴らはこちらの予想以上にパワーアップしていた。

 ボールは浦部へ。浦部はシュートする……と見せかけて一ノ瀬へパス。…………あのフェイントは分かりやす過ぎるだろ。ボールは一ノ瀬から鬼道。そして、鬼道はボールを上に上げ、一ノ瀬がヘディングし……

 

『ツインブースト!』

 

 最後に鬼道がシュートを放つ。

 これをデザームは片手で軽々止める。だが、

 

「パワーが格段に上がっている」

 

 デザームの足下を見ると少し地面が削れていた。

 1人1人のパワー、スピードはもちろん。チームの連携も以前よりは良くなっている。イプシロンの残りの面々もこの10日の猶予を与えた理由は分かったようだ。ただ、何故雷門を強くしようとしたのか。目的までは分からないらしい。別にオレも完全にデザームの考えが読めてるわけじゃないけど……。

 

「ただ…………まだまだガイアやカオスの敵ではないな」

 

 こちらがシュートを打てば円堂がマジン・ザ・ハンドで止める。向こうがシュートを打てばデザームが片手で止める。シュート以外にも中盤でのボールの奪い合いでもイプシロンと雷門は互角に戦っている。

 

 そう、()()だから問題なのだ。

 

 イプシロンに互角ではオレたちにはまだまだ及ばない。だから……

 

「早くここまで来い……円堂。いや雷門」

 

 オレはこの高まる気持ちを抑え、ベンチから試合の行方を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 硬直していた試合は1人の選手によって大きく動き出す。

 

「いつまで守ってんだよ!」

 

 吹雪が荒々しい声で叫びながら、ドリブルしていたスオームから強引にボールを奪い取る。

 

「吹雪!こっちだ!」

 

 鬼道からのパス要求を無視してドリブルで突っ込む。

 

「完璧じゃなきゃ……俺はいる意味がねぇ!」

 

 吹雪のドリブルを止めようとケイソンとタイタンがマークに付こうとする……が。

 

「打たせろ。こいつが今日のメインディッシュだ」

 

 2人はデザームと吹雪の邪魔にならないよう離れる。

 はぁ……。メインディッシュ……って。あと、打たせろって……おい。これで点が決まったらただのダサいやつだぞ。

 

「ふざけやがって……!喰らえ!」

 

 挑発に乗る吹雪。

 

「エターナルブリザード!」

 

 荒々しいそのシュートがデザームに迫る。

 

「待っていたぞ……!遠距離から打ってあれだけのパワー……この距離からだとどれだけ強烈か……!」

 

 待っているなよ……というかただの戦闘狂じゃねぇか。

 

「ワームホール!」

 

 すると、デザームの前に謎の吸い込む空間が発生し、ボールが吸い込まれて消える。

 その直後、デザームの横から謎の吐き出す空間が発生し、ボールが吐き出されて地面にめり込む。

 

「もっと打ってこい……!私を楽しませろ!」

 

 そう言ってボールを投げるデザーム。

 

「…………サッカーってそんな競技だっけ?」

 

 シュートを撃ちまくってキーパーを楽しませる競技だっけ?……何かが違うような……?



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強さと違和感

 ピ、ピ──!

 

 あれからもお互いシュートの嵐だった。ゼルのガニメデプロトンを円堂のマジン・ザ・ハンドが完全に止め、吹雪のエターナルブリザードをデザームのワームホールが止める。他のシュートも2人のキーパーの素早い反応により止められ未だ両チーム無得点である。

 というか君たち。あまりにもシュート打たれすぎじゃない?ディフェンスは何をしているんだ?まぁ、イプシロン側は時折ワザと打たせてる感じがするけど……。

 

「デザーム様。0ー0のこの状況でなぜ笑っていられるのですか?」

 

 ゼルがデザームに問いただす。

 向こうのベンチではこの互角という状況に満足している者もいる。しかし、点数がお互い入らないことにもどかしさを覚えている者もいる。

 

「ムーン様。貴方はどうお思いですか?この現状を」

「そうだね。マスターランクチームに所属する者として言わせてもらうなら……我らエイリア学園が未だ無得点のこの状況。おまけに試合展開も互角と来た……恥に思え」

「「「…………っ!」」」

 

 一瞬で強張るイプシロンの面々。まぁ、いつもよりは強い言葉を使ったからな。

 

「お、おい……なんだ?あの空気?」

「喧嘩……?」

「そもそもあのミイラ男何者なん?」

「エイリア学園の親玉なのか?」

 

 隣のベンチでは勘違いの声が多発する。やれやれだ。

 

「だけど、オレ個人……ムーンとして言わせてもらうなら、キミたちの動きは悪くない。後半も思い切り、楽しんでやってこい!」

「「「…………っ!!」」」

 

 オレはそのままベンチを立ち去る……いや、トイレ行くだけなんだけどね。

 

「へぇ……宇宙人にもいいこと言うやつがいるんだな」

「そうだな……だが、油断は出来ないぞ」

「分かってるって。でも、この声どこかで聞いたことがある気がするんだよな……」

 

 あ、やっべ。円堂に声バレしてそう。

 いや、まだセーフだな。振り返って見たけど気付いてなさそうだし。そりゃそうか、包帯で声がこもっているんだ。気付くわけないない。あはは、心配しすぎだよな全く……

 

「あ、十六夜さんの声に近かったッス」

 

壁山ぁぁあああああああああああああああ!

 

「十六夜かぁ……確かに似ていたな。アイツ、今頃何しているんだろうな……」

 

 ずっと、隣で試合を見てましたよ。はい。

 やばい。立ち聞きしていると思われたらマズい。そのまま包帯剥がされた日にはもっとマズい。よし、逃げよう。

 

「…………」

 

 と、向こうから歩いてくるのは……吹雪士郎か。

 

「…………」

 

 ?何かブツブツ言ってね?

 

完璧に……なるんだ。完璧に……

 

 如何にも怪しい男(オレ)とすれ違ったにも関わらず、まるで視界に入ってないようにスルーされた。自分で言うのもあれだけど、今存在感すごいんだけど……というか、

 

「こわぁ……」

 

 あそこまでブツブツと独り言を言っているところを見ると、凄く怖く感じる。

 

「…………ちょ!?えっ!?」

 

 トイレに行くと何か水が溢れているんですけどぉ!?えぇっ!?何で蛇口から水出しっ放しになってるの!?誰だよこれ!?嫌がらせかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ──!

 

 後半戦開始。イプシロンと雷門が一進一退の攻防を繰り広げる中、オレはある選手に注目していた。

 

「吹雪……か」

 

 最初に彼を見た北海道でのジェミニストームとの試合。続いて京都でのイプシロンとの試合。そしてこの試合の前半戦。

 最初見たとき、彼は大人しいプレイヤーだと思った。試合外の姿とか纏う雰囲気とかそこからもそう思えた。

 だが、彼のプレー。特にオフェンスの時は雰囲気が変わり荒々しさが見えた。

 でも、たったそれだけなら話は単純だ。前の世界にも居た試合になると性格が変わるやつ。ああいうタイプなのだろうと。

 

「サイドから崩すぞ吹雪。パスだ」

「点取るには俺が必要なんだろ!」

「おい!待て!」

 

 マキュアからボールを奪い、ドリブルで突っ込む。鬼道からの指示にも従わず、こちらのディフェンス陣を抜くとシュート体勢に入った。

 

「エターナルブリザード!」

「ワームホール!」

 

 前半よりもパワーが上がったシュート。だが、ワームホールを打ち破るにはまだ足りなかった。

 ……今の一連のプレーを見ても思う。確かに指示に従わなかったのはアレだが、別に指示が絶対ってわけじゃないからそこはいい。問題は、彼が2人いるように思えてしまうことだ。明らかに普段……というか攻撃の時と守備の時の彼は別人に思えて仕方がない。

 ボールはメトロンへ。マキュア、ゼルの三人がボールを持って雷門ゴールを目指す。

 メトロンの前に立ち塞がるのは吹雪……だが。

 

「しまった……!」

 

 マフラーを握り、何かと戦っているように見えた吹雪。そんなあからさまな隙を逃すわけがなく、メトロンは彼を抜き去った。

 

「ガイアブレイクだ!戦術時間2.7秒」

「「「ラジャー!」」」

 

 そして3人は並び、前に一度モロに喰らったあの技……

 

『ガイアブレイク!』

 

 イプシロンが使える2番目に強いシュートを放った。

 そのシュートコースに割って入ったのは木暮。逆立ちして何かしらの技を放とうとするも、背中にボールが直撃。そのままボールと共にゴールへ向かう。

 

「木暮!?」

 

 円堂も予想外の事態に必殺技を出す暇もなく、そのまま一緒にゴールに刺さった。

 

『ゴール!雷門!イプシロンに先取点を奪われたぁ!』

 

 イプシロン側が1点決めた……が。あの木暮という選手。何か焦っているのか?そういや前半もなんか必殺技出そうとして、出す前に抜かれていたし……。

 

「さぁ、ここからだ!気持ちを切り替えて行くぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 円堂は一言二言木暮に声をかけた後、全体に向けて声を出す。雷門には誰1人として今の失点を攻める者はいない。

 

「今の1点は相当精神的にも来ているはず。だが、円堂の一言で空気が変わった」

 

 正確には空気が変わらなかったと言うべきか。どちらにせよ、雷門の中に負けそうといった弱気な気持ちを感じない。やれやれ……流石というか何というか。

 やっぱりアイツの周りに及ぼす影響力は計り知れないな。

 試合再開。精神的に折れていたなら総崩れしそうなものだが、やはり精神的には一切折れてない。前半同様、いやそれ以上にお互いが全力でぶつかり、試合は動かないでいた。

 

「だからこそ……」

 

 だからこそ、たった1人だけ。今もなおイプシロンではない何かと戦っている。彼にはさっきの円堂の一言が届いたのか?周りの者の声が届いているのか?

 

「メテオシャワー!」

 

 ボールはマキュアに。必殺技で壁山と塔子の2人を倒しゴールへと迫る。

 

「今度こそ止めてやる!」

 

 立ちはだかったのは木暮。その表情に、言葉に焦りは感じなかった。

 

「旋風陣!」

 

 逆立ちし、足を広げものすごいスピードで回転する。そして、ボールは彼の足に吸い寄せられるように行って……

 

「…………よくあれだけ回っていられるよな……」

 

 もう何回転したとかそういう次元じゃない。あれだけのスピードで回転してなお、目も回してなければフラフラにもなっていない。

 ボールは木暮が確保、そのまま吹雪へと繋がる。ドリブルを始めたがまだ大人しい。

 

「……変わった」

 

 ディフェンスに行ったクリプト。彼女を抜き去ると同時に豹変する。そして、

 

「エターナルブリザード!」

 

 さっきよりも更に威力が上がる。……打てば打つほど威力が上がっていくそのシュート。だが、

 

「ワームホール!」

 

 まだデザームのワームホールを打ち破るには足りなかった。

 しかし、さっきよりも出てきたボールの威力が高く地面にめり込む……というかデザームの前の地面に穴が開いた。

 

「いいぞ……!もっと強く!もっと激しく打ってこい!」

 

 いや打ってこいじゃないからね?気持ちは分からなくはないけど試合中だからね?

 

「ちくしょぉおおおおおっ!」

 

 叫ぶ吹雪。……今の彼にはデザームを倒すことしかない……か。

 

「でも、そのおかげで吹雪のシュートは撃つごとに成長している。それをデザームは見て熱く燃えている」

 

 別に熱くなるのはいいが……特に吹雪の方。彼は今ディフェンダーのはず……それなのに攻めることしか考えていない。いや、考えられなくなっていると言うべきか。

 そして再びボールは雷門。一ノ瀬と浦部がボールを持ち上がってくる……が。

 

「こらぁ何すんねん!ウチらのラブラブボール!」

 

 …………浦部の発言はともかく、味方から強引にボールを奪い去る吹雪。

 北海道でのジェミニストームとの試合を思い出すが、あの時と違いただただ、ゴールを決めることしか頭にない。言ってしまえば自己中心的なプレーだ。

 

「吹雪!無茶だ!」

「どけぇっ!」

 

 鬼道の制止を振り切り、ディフェンスに来たメトロンとモールを強引に突破する。

 

「さぁ来い!」

「今度こそ吹き飛ばす!…………余計なことをするなぁああ!」

 

 エターナルブリザードを打つ吹雪。だが、撃つ直前、一瞬おかしくなかったか?まるで何かが暴走を阻止しようとしたみたいに……?

 

「ワームホール!」

 

 そんなオレの疑問をよそに更にパワーを上げたエターナルブリザードとワームホールが衝突する。先ほどまでと違い、謎の吸い込む空間に吸い込まれることなく空間を壊そうとしている。

 

「決まれぇっ!」

「いけぇっ!」

 

 円堂と吹雪からの声。それに応えるようにボールはワームホールを正面から打ち破った。

 

『ゴォオオオオル!同点ゴール!』

 

 ボールはゴールに突き刺さった。1ー1の同点。

 喜ぶ雷門。対してイプシロン側には少しの悔しさはあるものの、それを凌駕する熱を感じる。

 そしてイプシロンボールで試合再開。マキュア、ゼル、メトロンの3人が上がり、

 

『ガイアブレイク!』

 

 シュートを放つ。シュートはディフェンス陣の間を抜け円堂の元へ。

 

「あのスピードだと、マジン・ザ・ハンドは間に合わないな」

 

 間に合ったところで止められる保証はないがな。……そう思っていると、左腕を上げた円堂。そして心臓の部分から何か飛び出て円堂の身体の周りをグルグルと何回転か。そして、右手にその飛び出た光が宿り。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 マジンが出た。

 …………ああ、そう言えばマジン・ザ・ハンドのあのいつもの動きは心臓の部分に気を溜めて、それを右手に伝えるためにやっていたんだっけ。なるほど。これなら体を捻らなくても右手に気が伝わ……んなアホな。遂に気が独りでに飛び始めたのかよ。マジか。マジで言ってるのか。

 円堂の進化した(進化した?)マジン・ザ・ハンドはガイアブレイクを完全に止めた。

 

「おっしゃぁ!」

 

 ま、まぁモーションの疑問はともかく、威力は確実に上がっているなうん。

 勢いに乗る雷門。残り時間がわずかの中、吹雪が飛び出す。

 

「これが最後だ!吹き飛ばせ!」

 

 シュート体勢に入る吹雪。

 

「エターナルブリザード!」

 

 本日何度目かのエターナルブリザードが炸裂する。威力もさらに上がりワームホールでは絶対に止められないだろう。

 

「来るか……なら私も応えよう!」

 

 そうして右手を掲げるデザーム。するとそこには巨大なドリルが。

 

「ドリルスマッシャー!」

 

 そのドリルは勢いよく回転しながらエターナルブリザードと衝突する。そして、そのまま上へ弾き飛ばし軽々キャッチする。

 …………何度見ても分からない。あれは錬金術ですか?いや、何もないところから急にバカみたいにデカいドリルが出て来てるから、オレの中では生成説が濃厚なのだけど。でも生成説はいいのだけど、問題は役目が終わったら一瞬で消えるんだよね……ふむ。

 

「……実は、アレの素材は金属じゃない説」

 

 何故だろう。ドリルスマッシャーとか言ってデザーム自身がグルグル高速回転しながらボールにパンチしている姿が想像される。今度やらせてみようかな?

 

「はっはっはっはっ!」

 

 そして、急に笑い出したデザーム。そのままボールを外に出す。

 

「試合終了だ」

「なんだと!?」

 

 いや、審判が決めるからな?お前が決めるなよ。

 

「確かに時間は残っていないが……」

「引き上げるぞ」

「「「はっ!デザーム様」」」

 

 っと、これに合わせて帰るか。

 

「ふざけんな!まだ勝負はついてねぇ!逃げんな!」

 

 おーい。デザームが挑発しすぎたせいで怒ってるぞぉー。

 

「再び戦う日は遠くない。我らは真の力を示しに現れる」

 

 そう言い残し、イプシロン+オレの姿はグラウンドから消えた。



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ムーンVS円堂 ~福岡へ~

 イプシロンと雷門の試合から何日が経ったある朝。

 

「で?グランは何で集めたんだ?」

「さぁな。アイツのことだから分からん」

 

 ガイアのキャプテン以外のメンバー11人は、グランから急遽集まるように言われていた。場所はミーティングルーム。で、集合時間5分前くらいには、既にグラン以外全員が集まっていた。

 

「やぁ。しっかり集まったようだね」

 

 と、ようやく呼び出した本人が入ってきた。いや、時間ピッタリに来たけど……ねぇ。え?時間ピッタリに来ただけマシ?マジ?

 

「君たちに報告することがある」

「何だよ。改まって」

「明日、俺たちザ・ジェネシスは試合をすることにした」

 

 …………はぁ?

 

「相手は何処だ?」

「雷門中だよ」

「雷門?……この前イプシロンと引き分けていたあの?」

「うん」

 

 相手を聞くなり周りの反応は様々。だけど誰1人としてやる気を出した様子はない。

 

「……実力差がありすぎるから、簡単にこっちが勝って終わると思うのだけど?」

「ははっ、ムーン。君の前のチームのことなのに評価が厳しいね」

「知るか。現状を見たら誰もがそう思うだろ。オレたちが戦う意味を見出せないって」

 

 皆、静かではあるがオレの意見には肯定的らしい。うなずく様子が見られたし。

 

「確かにね。エイリア学園最強の俺たちからしたらそうかもしれない」

 

 グランもそこに関しては同意するようだ。

 

「でも、彼らには、円堂君には可能性があると俺は思う。きっといい試合になるよ」

 

 まぁ、円堂の可能性には否定はしないが……ねぇ。

 

「はぁ。どうせお前のことだから今更変える気はないんだろ?場所と時間は?」

「今、彼らは福岡の陽花戸中というところにいる。時間はお昼の12時からかな。あ、後、ゲイル。君は来なくて大丈夫だよ」

 

 ゲイルが来なくてい………………?ん?ちょっと待って。それってまさか……?

 

「ムーン。君には試合出てもらうからよろしくね」

 

 だよなぁ……はぁ。

 

「へいへい」

 

 全く……自由人というか何というか。でもこんな形とは言えあいつらとサッカーするのは久しぶりだなぁ……。……もっとも、試合になればいいんだけど。

 

「じゃあ、解散していいよ」

「お前は?」

「彼らの様子を見てくるよ」

 

 そう言ってさっさと出て行ってしまうグラン。

 グランの行動には、ガイアのメンバーも慣れているようでさっさとどっか行ってしまった。

 そうして、ミーティングルームにはオレとウルビダだけが残された。

 

「相変わらず自由なやつだ」

「そうなのか?」

「ああ。まぁ、ウォーミングアップになればいいな」

「ウォーミングアップって……」

 

 おそらくだけどウォーミングアップにすらならないんじゃないかな。

 どうしよう。円堂たちに逃げるように言いたい。言いたいけど……どうせ、向こうは試合を受けざるを得ないんだ。じゃあ、言うだけ無駄か。

 

「ああ、そうだ。どうせならお前の新必殺技のお披露目でもしたらどうだ?」

「ははっ。そんなチャンスがあったらな。それにまだ完成していないし」

「それは今から完成させればいい……まぁ、お前がそもそもボール触る機会があるかすら分からんか」

「ディフェンダーはのんびり観戦でもしてますよ」

 

 ほんと、試合といいながらディフェンス陣は何も仕事がないだろう。それが分かっていたからゲイルも快く(本当に快くかは知らない)オレに譲ってくれたんだ。

 立ってるだけとか暇なんだけどなぁ……まぁ、そこは彼らの成長に期待しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにぃ!?グランたちがザ・ジェネシスと名乗って雷門と試合するだと!?」

 

 オレはさっきの集合についてバーンとガゼルから聞かれたのでそのまま答える。

 

「何を驚いている。それより試合する意味はあるのか?」

「ない」

「試合とかはどうでもいいんだよ!そんなのよりグランが俺たちカオスを差し置いて、ジェネシスを名乗るのが問題だろ!」

「それもそうだな。勝手に名乗ってもらっては困る」

「それは知らん」

 

 やれやれ。まぁ、彼らがジェネシスの称号に執着するのも仕方ないと最近思い始めた。いいや、彼らが執着しているのは最強という言葉か。ジェネシスはその最強という言葉を表しているだけに過ぎない。

 結論から言えば負けず嫌いなのだ。バーンもガゼルも、おそらくグランも。彼らはお互いのチームに負けないように日々チームで強くなっている。今でこそ3つから2つに減ったがそれでも、特にカオス側のモチベーションは高い。……高いのはいいんだがオレを巻き込まないでほしい。心の底からそう思います。

 

「こうなったら練習だな」

「ああ。連携ももっと仕上げていかないとな」

「おいムーン。これから練習だ」

「お前たちガイアは今日は休みのはずだ。いいよな?」

 

 ……おかしい。オレに休みを与えないらしい。ここはブラックか?ブラック企業か?…………まぁ企業じゃないけどね。

 

「分かってるよ」

 

 ……今更だが2つのチーム掛け持ちってきつくね?

 この後、この2人の熱に当てられたカオスのメンバーの練習はいつもよりハードだった気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日……雷門と試合する日がやって来ました。昨日は結局、夜遅くまでカオスの練習に付き合わされ、午前中はウルビダとの練習である。

 

「ふぅ……」

 

 ユニフォームを着るのは初めてではないが、やっぱりエイリア学園のユニフォームは何というか……そうジャストフィットなのだ。何というか……もっとゆったりしている方が好きである。

 ついでに言えばこの顔に巻いた包帯暑苦しいんだけど。絶対に激しい運動するのに向いていない。

 

「緊張しているのか?」

 

 ユニフォームに着替えたウルビダが問いかけてくる。

 

「いいや。むしろ早く試合がしたくてウズウズしている」

 

 前に試合をしたのは傘美野でのジェミニストーム戦だからなぁ。凄い久しぶりでワクワクしている。

 

「それに初めてだからな」

「初めてだと?」

「ああ。円堂と真正面からやり合うのは」

 

 今雷門に居るメンバー……鬼道以外は敵として戦うのは初めてだ。

 だから凄い楽しみだ。味方としてあそこまで頼もしい男が敵としてどう見えるのか。

 

「だとしたら残念だな。お前の望む展開にはならないだろう」

「かもな」

「ウルビダ、ムーン。そろそろ時間だよ」

 

 グランに呼ばれたので、会話を終わらせ、皆の元へと向かう。

 

「そうだムーン」

「何だよ」

「好きにやっていいよ。なんならシュートを決めてもいいし」

「まぁ、ボールに触る機会があったら考えるよ」

「そっか」

 

 ほんと、ボールに触る機会があったらの話だ。かと言ってこの前の吹雪みたく、味方からは奪う気一切ないけど。

 

「じゃあ皆。行こうか」

 

 こうしてオレたちは光に包まれる。

 そして、光がやんだとき、

 

「やぁ、円堂君」

 

 目の前には雷門のメンバーが。本当に便利だなぁ……このボール。一瞬で着いたよ。

 

「まさか……ヒロト!?」

 

 おいグラン。お前、円堂にいつの間に接触していたんだよ。そしてヒロトの方で接触したのね。

 

「なんやこいつら。この前の奴らとちゃうやんか」

「エイリア学園にはまだ他のチームがあったってことか」

 

 その通りです。……まぁ、後君たちが見ていないのはカオスだけなんだけどね。

 

「これが俺のチーム。エイリア学園、ザ・ジェネシス。よろしく」

 

 あーあ。これバーンとガゼルが怒るやつだ。

 

「ジェネシス……お前。宇宙人だったのか?」

「どういうことだ……円堂」

「ヒロト……」

 

 えぇ……グラン。お前のせいで何か妙な雰囲気になってるじゃないか……。

 

「さぁ円堂君。サッカー……やろうよ」

 

 1つ言えること。

 もしかしてオレたちって悪役?



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ムーンVS円堂 ~圧倒~

 どうにもオレたちが悪役って感じが否めない。

 いやね?さっきはグランが「円堂を動揺させるために友達のフリをして近づいたんだ」「最低だ」とかなんとか言われていたよ。やれやれ、うちのキャプテンは本当に困る。

 ん?オレに関して?ああ、何か「あのミイラ男親玉じゃなかったんか」とか「あのミイラサッカーするんだ」とかミイラミイラうるせぇよ。言っておくがミイラじゃねぇよ?人間だよ?……あ、今は宇宙人か。

 で、結局試合はするんだけど、オレたちは特に試合前だからと言って話し合うことはない。そのため、そのままポジションについて、雷門がポジションにつくのを待つ。

 

「はぁ……」

 

 空を見上げるとそこには厚い雲が。途中で降らないといいけど。

 そんなことを考えていると、気付けば雷門側もポジションに着いていた。

 

 ピ──!

 

 雷門ボールで試合開始。浦部がドリブルで上がってくるが、フォワードのウィーズがあっさりボールを取って、そのまま攻め込む。

 

「一ノ瀬!」

 

 鬼道からの指示で一ノ瀬がマークに付こうとするもマークに付く前にあっさり抜いていく。

 その間にこちらもミットフィルダー陣が攻め上がる。わぁ、戻ろうとする雷門よりも圧倒的にこっちの方が速いわ。

 

「な、何なんですかあのスピード!?」

 

 向こうが驚くのも無理はない。なんたって今まで見てきたのとは文字通り()()()だろうから。

 

「アーク!」

「コーマ!」

「ウルビダ!」

「グラン!」

 

 素早いパス回しであっという間にゴール前。

 

「行くよ。円堂君」

「来い。ゴールは割らせない」

 

 グランの普通のシュート。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂は必殺技を繰り出すも呆気なく破れ、ゴールに刺さった。

 

「……入っちゃった」

 

 心底驚いているグラン。いや、確かに入っちゃったけどさぁ……。

 

『ゴール!開始1分。ジェネシスあっという間に先制です!』

 

 お前……何か、毎回見ている気がするなぁ。円堂たちのストーカーか?

 

「嘘だろ……?」

「何だよ……今のシュート」

「信じられない。マジン・ザ・ハンドがあんなに簡単に破られるなんて……」

 

 多分こっちも同じ気持ちなんだろうなぁ……あんなに簡単に破れるなんて思ってもいなかっただろう。

 

「なんてパワーだ……でも、もうゴールは許さない!」

「それでこそ円堂君だ」

 

 そして雷門ボールで試合再開。呆気なくウルビダが取って、ドリブル。そしてグランにパス。

 

「行くよ!円堂君!」

「今度は止める!」

 

 再びグランのシュート。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 再び円堂のマジン・ザ・ハンドは呆気なく破れた。

 

「円堂!」

 

 その後は本当に単調な作業ゲー感がやばかった。

 雷門ボールで試合再開しても、フォワードもしくはミットフィルダー陣があっさり奪う。軽快なパス回しをしたり、ドリブルをしたりで、最後はグランが普通にシュートを打って、円堂のマジン・ザ・ハンドを破って点を取る。

 オレを含めたディフェンス陣は試合が始まってから、まだ1歩も動いていないのに、向こうはボロボロ。そりゃそうか。全力で取りに行こうとしても、ドリブルしているこちらのメンバーに追いつけていないもん。

 

『決まったぁ!ジェネシスこれで15点目だぁ!』

 

 気付けば15回、そんなことを繰り返していたらしい。初めてだなぁ。試合でこんなに退屈してるの。

 

「もう終わりなの?君の実力はこんなもんじゃないはずだよ」

 

 地に伏す円堂にそう告げるグラン。

 グラン……それは分かってるけど言い方言い方。お前……それじゃあただの煽りだぞ?

 そして、グランが円堂に背を向けたそのとき、

 

「試合はまだ終わっちゃいない。諦めなきゃ必ず反撃のチャンスは来る。だからそれまでこのゴールは俺が守る!」

 

 その言葉を聞いて安心した。どうやら心は折れていないらしい。まぁ、それでこそ円堂だな。

 

「よぉし!まずは1点!なんとしても奴らから奪うんだ!」

「「「おう!」」」

 

 その円堂の声に真っ先に反応するは鬼道。……ただ、悪いが点をやるつもりはないよ。

 何度目かの雷門のキックオフ。再びボールはあっさりとこちらが奪い、コーマがドリブルで上がっていく。

 

「アーク!」

 

 コーマがアークにパス……がそれを読んでいた鬼道がパスカットに成功する。

 

「…………流石だな」

 

 いい加減にこっちの動きも見慣れてきた頃だ。多分、今のは偶然じゃないんだろうな。

 

「吹雪!」

 

 鬼道から吹雪へパスが繋がる。おっと、初めてミットフィルダー陣を抜いてきたな。

 

「行けっ!吹雪!」

「吹雪さん!」

「よし1点だ!」

 

 しかし、吹雪は何故か足を止めてしまう。その隙を付いてゾーハンがスライディングをし、ボールを外へと出す。

 ……うーん。やっぱり、吹雪は何かに苦しんでいる。今までのことも踏まえると彼は多重人格者。正確に言うなら解離性同一性障害を患っていると推測される。もちろん推測の域は出ないが……で、彼の中にある2つの人格。おかしく見えるのはその2つの人格が争っているからでは?というのがオレの見解だ。まぁ、オレにどうこうできるような範疇を超えているから気にしすぎてもアレだが。

 雷門のスローインをあっさりカットし、反撃に出る……が、再び鬼道によってパスカットされた。

 

「吹雪!」

 

 そしてボールは吹雪へ。

 

「よぉし!今度こそ俺が!」

「やめろぉおっ!」

 

 ディフェンスに向かうが……なんだ?さっきからコロコロ人が変わっているんだけど……?おいおいそんなので大丈夫かよ。

 

「エターナルブリザード!」

 

 そしてこっちの心配をよそにエターナルブリザードを放つ……が。

 

「フンっ」

 

 シュートコースに先回りし、軽々と止めることができた。

 

「…………?」

 

 おかしいな。この前のあの威力はどこへ消えたんだ?いいや、下手したら今まで見てきた彼のエターナルブリザードの中で最弱なのでは?

 というか、キーパーどころかディフェンダーに止められたことで雷門や観客たちに衝撃が走ってる。知らんけど。

 

『な、なんと吹雪のエターナルブリザードがディフェンダーに止められた!?これは失敗かぁ!?』

 

 うーん。確かに失敗かもなぁ。もう1回撃たせたら変わるかな?

 

「…………」

 

 あ、ウルビダがこっち見てる。あの目は多分……

 

「シュートを決めろ……かな?」

 

 まぁ、いいけど。というわけでオレはあの独特の走り方をしながらドリブルで上がっていく。

 

「抜かせない!」

 

 鬼道と一ノ瀬がディフェンスに来る。一瞬視線を横にずらして、

 

「ムーン!」

 

 ウルビダにパス。そしてウルビダがダイレクトで返してくる。やれやれ、そのままで良かったんだけどなぁ。まぁいっか。

 

「行くよ……円堂」

 

 マークにやって来た壁山を軽々突破して円堂と向き合う。

 そしてオレは急停止して、目を閉じ、手を水平に振るう。

 辺りは一気に暗くなり夜を思わせる。唯一残っている光は上空に現れた満月からの光のみ。

 目を開くと同時に真上に向かってボールを蹴り上げ、

 

 ピ──!

 

「ムーン──」

 

 オレの指笛が鳴ると同時に上空に浮かんでいる満月からボールに向かって飛んでくる5つの光。

 オレは高く跳躍し、光が集まったボールを上空からゴールに向かって蹴りつける。

 

「──フォース!」

 

 光は6つに分かれる。1つはボール。5つはペンギンの形をしてボールと共にゴールへと向かう。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂のマジンは呆気なく破れ、ボールは円堂ごとゴールへ刺さった。

 

『ゴール!これでジェネシス16点目!な、何なんだあの必殺技はぁ!?』

 

 シュートを決めると同時に、月は消え辺りは元に戻っている。

 

「上出来だ」

「まぁな」

 

 その後も雷門ボールで試合再開するも、鬼道を中心にボールをこちらから取れたとしても、シュートを打つ前にはディフェンダーが止める。

 しかも、少しずつだがジェネシス側の動きは速く、代わりに雷門側はボロボロになっていき遅くなる。やれやれ。まだ誰一人として本気出していないのに。

 そんなこんなで気付けば20点差。内19点はグランのシュートだったりするが。

 

「…………?」

 

 だが、この絶望的な状況で2人の選手の様子がおかしかった。1人は風丸。彼はおかしいというより、さっきから力の差に絶望した感じでいつもの感じとは違う気がする。まぁ、彼の方は仕方ないかもしれないが、問題はもう1人の方の吹雪。今はフォワードとは言え、ディフェンスもできるはずの彼が、この攻められ続けている状況で味方のフォローに行っていない。

 

『またグランにボールが渡った!』

「円堂!」

 

 グランがドリブルで円堂の元へ。

 

「来い!」

 

 倒れそうに見えるが……まだ流石に倒れないか。

 

「好きだよ……円堂君。君のその瞳!」

 

 そしてボールを上に上げて……ちょっと待って。あれってまさか……

 

「流星ブレード!」

 

 それはオーバーキルだろ!?必殺技使ったオレが言えた立場でもないけどさ!?

 

「うわぁああああああ!」

 

 そして、吹雪がそのシュートに向かって走り出す。

 

「吹雪!」

 

 ダメだ!シュートを止めようとして向かったというより自棄になっている感じがする!

 

「ッチ!」

 

 放たれるグランのシュート。そのシュートに飛び込む吹雪。ダメだ……普通に走ったら間に合わない!

 

「クソっ!イビルズタイム!」

 

 オレは指を鳴らし時間の流れを極限まで遅く──ゼロにする。使いたくはなかったが、使わざるを得ないらしい。

 この技は都合がいいのか悪いのか知らんが、時が止まっている以上何かを動かすとかそういうことは出来ない。だから吹雪を動かして直撃を避ける……みたいなことは出来ない。

 

「自棄になってんじゃねぇよ!」

 

 オレは吹雪とシュートの間に割り込み、ボールに向かって蹴りを加える。

 そして、オレがボールに触れた瞬間、止まっていた時は動き出す。

 

「……!?いつの間に!?」

 

 周りからすれば一瞬で移動したように見えるこの技。種が分かりゃ正体はバレる……というかもうバレている可能性は普通にあるが。

 

「クソがぁっ!」

 

 オレがこいつのシュートを止められないことは最初から分かっている。だからオレが出来るのは精々コースを変えるくらい。

 直後、ボールは地面にぶつかり辺りに衝撃が走る。

 その衝撃でオレと吹雪は吹き飛ばされる。

 オレは綺麗に着地できたが吹雪は倒れたまま動かない。

 吹雪のもとへと駆け寄る雷門。このままでは試合続行は不可能だろう。

 

「吹雪さんっ!」

「吹雪!」

 

 救急車をすぐ近くにいたやつが呼びに行く。これで雷門との試合も終わりかな。

 

「大丈夫かな」

「行こうぜグラン。こんな奴らとやってもウォーミングアップにもなりゃしない」

 

 その言葉を聞いてオレも彼らから背を向けて歩き出す。

 

「待てっ!」

 

 そこで鬼道が制止をかけるが誰も聞かない。グラン以外は既に帰ろうと歩みを止めない。

 

「ムーンと言ったか。お前のお陰で吹雪にシュートが直撃しなかった。それは感謝している」

 

 オレは片手をあげて手を振る。まぁ、そのために動いたんだからな。

 

「1つだけ聞かせろ。……お前は十六夜綾人じゃないのか?」

「「「……え?」」」

 

 声からして分かるが……雷門の面々は驚いているな。…………はぁ。

 

「バレたのなら仕方ないなぁ」

 

 オレは足を止めて彼らと向き合う。

 別に誤魔化してもいいけど……ぶっちゃけ面倒。あの鬼道有人がただの憶測で、そんな荒唐無稽と思えることは言わない。きっと、何かしらの証拠……というより確信を持って言っているはずだ。それを聞いてもいいが時間の無駄。

 だったら、バラしてやろうか。

 

「流石だね鬼道有人。正解だよ」

 

 オレは顔に巻かれた包帯をゆっくりと取る。いやぁ、暑苦しかったなぁ。

 

「──初めまして、そしてお久しぶり。オレはエイリア学園のムーン。君たちの知っている十六夜綾人だよ」

 

 改めて……というより、初めての人もいるから笑顔で自己紹介をする。

 こちらが笑顔の一方で雷門のメンバーには衝撃が走っていた。特に、オレと一緒に戦ったことのある奴らはその衝撃が大きいようだ。

 

「お、お前……宇宙人だったのか?」

「そうだよ円堂。まぁ、君たちを騙していたつもりはなかったんだけどね」

 

 これ以上長居しても質問攻めに遭いそうだ。やれやれ。

 

「行こうかグラン」

「そうだね……それじゃ、またね」

「お、おい!待てよ十六夜!お前には聞きたいことが……!」

「今の君たちに何かを言うつもりはない。聞きたいことがあるなら強くなってから出直してこい」

 

 そして黒い風がオレたちを包み込む。

 そのままオレたちはエイリア学園に帰るのだった。

 

「お前が……敵なのか?……嘘だろ?」

 

 膝を突き、崩れ落ちそうになりながら発せられた弱々しい声。

 その声は十六夜には届かなかった。




オリジナル技

ムーンフォース
シュート技
遂にペンギンを自力で呼べた模様。
その上月からペンギンがやってくる。
夜とか月とかのイメージは野坂の必殺技月光丸・燕返し。


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鬼道の推理、十六夜の特訓

昨日と今日は日間ランキングにも載っていました……凄いなぁ……投稿直前に見たら一桁。
評価もいくつか頂き、お気に入り数も一気に増え……何があったのかと驚くばかりです。
ただランキング載ったりしたのも、諸々全ては読んでくれる読者様のお陰です。
この場をお借りして読んでいただいている読者様に感謝をお伝えします。
…………お気に入り数が2000件超えたら何かしようかな?


 ジェネシスとの戦いの翌日の夕方。

 

「お兄ちゃん。聞きたいことがあるの」

「なんだ?」

 

 俺は春奈から聞きたいことがあると言われてここにやって来た。

 ジェネシスとの戦いから今に至るまでの短い間。その間だけで雷門は大きく変わってしまった。

 吹雪が二重人格であることを知る。風丸の離脱。円堂の練習不参加。

 大きくこの3つだろうか。そして──

 

「何でジェネシスのムーンという選手が十六夜先輩だって分かったの?」

 

 ──そして、十六夜が敵に回ったことを知ってしまった、ということだろうか。そのことにより、雷門の──特に十六夜と一緒にプレーしたことのある者たち──の気が重くなった。ある意味アイツが敵であることを知ったショックが、一番大きいのではないかと思う。

 春奈の質問だが、俺はムーンが十六夜だと知っててあの質問をしたわけじゃない。

 確証はいくつかあった。だが、あの質問の意図は本当は、ムーンが十六夜じゃないと知りたかったためにしたのだ。十六夜が敵でないことを知るためにしたのだった。

 

「分かっていた……と言えば嘘になる。ただ確認したかっただけだ」

「でも、お兄ちゃんが何の確信もなしにあの質問をするとは思えない……何が引っかかったの?」

「まず、壁山が言っていた。ムーンが十六夜の声に近いと」

「声?」

「ああ」

 

 それは前のイプシロンの試合。ベンチにいたムーンが話していた声。確かに包帯によってこもってはいたものの、あの声は十六夜そっくりだった。壁山だけじゃない。それを聞いた円堂や俺も内心では納得していた。

 

「でもそれだけじゃ……」

「ああ、それだけならあまりに証拠としては弱すぎる」

 

 ただ、証拠としては弱いが、疑う足がかりになるには十分だった。

 

「後は昨日の試合で放ったムーンフォースという必殺技」

「でも、十六夜先輩はあんな必殺技使った記憶はないよ?」

「ああ。俺も見たことはない。だが、あのシュートにはペンギンが絡んでいた」

「え?確かにそうだけど……でも」

「確かにそれでも証拠としては不十分だろう。ここで話は少し逸れるが、春菜。お前は十六夜の特異性に気付いているか?」

「特異性?」

「俺は十六夜は特殊だと思っている」

「どういうことなの?」

 

 特殊……というと少し言葉が違うかもしれない。ただあの男は間違いなくイレギュラーだろう。

 

「十六夜と豪炎寺の必殺技。皇帝ペンギンFを覚えているか?」

「世宇子との試合で使っていた技だね」

「ああ。あの技は少しおかしい」

「……どこがおかしいの?」

「あの技の理屈はペンギンを使ったシュートに炎技を合わせたというもの。理論上は俺の皇帝ペンギン2号とファイアートルネードを掛け合わせてもできるはずだ」

「確かにそうだよね。でも、それだったらおかしさはないんじゃ……」

「いいや、おかしい。普通ならあのシュートはペンギンが炎を()()()突撃するようになるはず。間違ってもペンギンが炎()()()()になって突撃するようになるわけがない」

「……言われてみれば……!」

「だから十六夜の……正確には十六夜が呼ぶペンギンはペンギン自身の性質を自在に変えられる。少なくとも俺はそう睨んでいる」

 

 奴はペンギンの形だけじゃない。ペンギンの性質すら変えてしまう。はっきり言ってむちゃくちゃだ。

 だが、そのむちゃくちゃさがなければムーンフォースという必殺技は使えない。

 あの技はやつ自身が作り出した月から光を纏ったペンギンを呼び、ボールと一旦合体させる。そして、やつが蹴り出してボールとペンギンの形をした光がシュートとなってゴールに向かう。

 十六夜はまさしく変幻自在にペンギンを操って技を繰り出す。だからそんな技を使えたムーンが怪しく感じた。

 

「極めつけは、最後に吹雪を助けたあの動き」

「動き?」

「ああ。ムーンという選手は走って駆けつけたんじゃない。吹雪とシュートの間に一瞬で移動した」

 

 ワープ、瞬間移動。いろいろと言い換えることが出来るが間違いなくその類だ。

 

「そして、そんな芸当を出来る存在を今まで2人しか見たことがない」

「2人……?」

「アフロディのヘブンズタイム。そしてそれと対を為す──」

「十六夜先輩のイビルズタイム!そっか!しかも十六夜先輩の方はブロック技だったから……!」

 

 あの瞬間移動にも説明がつけられる。それに微かだが指を鳴らす音がジェネシスゴールの方から聞こえたからな。

 コレが決定打だったと言っても過言ではない。ペンギンの方や声はともかく、アレは誰にでもできるような事じゃない。

 

「十六夜といくつか共通点を持つ存在。だから確認した」

「そっか……」

 

 ただ、十六夜が何を考えているのかは俺には全てを読むことは出来ない。

 アイツは本当に敵なのか。今の俺には判断が出来ない。

 だから、あいつが敵として俺たちの前に現れるならば倒すしかないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず昨日の試合では正体がバレたなぁ……。

 

「お前のペンギン技も大分進化したな」

「まぁな」

 

 ただいま、いつも通りウルビダとの特訓中です。珍しく褒めてきている。

 ペラーたちと向き合ってからペンギンを自力で出せるようになった……まぁ、数には限度があるけど。

 

「というかよく完成したな。ムーンフォース」

 

 この技は──正確にはこの技も?──ウルビダの無茶苦茶な発想から生まれたのだ。

 何があったかというと、まず、オレの名前(こっちでの)がムーン。だから、月に関係した技がほしいと。で、ペンギン要素もほしいと。合わせた結果──

 

 ──どうしたら月からペンギンを呼ぼうという発想になるんだ?

 

「でもオレ、本職はディフェンダーなのになぁ……」

 

 おかしい。なぜシュートばかり練習したんだ?

 だってね。月からペンギンと言ったがそれじゃあ、月が見えてないとできないと言ったんだよ。後、月だと遠すぎるとかね。そしたらね?なんと言ったと思う?

 

 月がないなら作ればいい。

 

 かっこよく言ったけどはっきり言おうか?

 

 バッカじゃねぇの?

 

 ──まぁ、口に出したら殺されそうなので言いませんでしたが。

 

「じゃあ、ブロック技の練習でもするか?」

「へーい」

 

 あの技も苦労したよ?何が苦労って月が全然できないことにね。まぁ、普通はできないんだけど……何か間違えたのか頑張ったらできたんだよ。

 月ができてからも苦労は絶えなかったよ。ボールを蹴り上げる時にボールの位置がキーパーから見て、月と完全に重なるようにとか、ペンギンを呼び出すタイミングとか……本当に細部まで拘ったよ。お陰で完成したの昨日の朝だね。つまり試合当日の朝。ギリギリだね。

 

「でも、不思議だよな……」

「何がだ?」

「ああいや、あんな難しい技。1度完成したら後は簡単にできるようになったんだよなぁ……って」

 

 ボールを蹴りあげる位置や、ペンギンを呼び出すタイミング。自分の跳躍の高さなど、どれか1つでも成り立たなければ出来ないはずで、どれも完璧に揃えるのはわりと難しかったのに、今は何であんなに難しかったか分からないくらい簡単にできる。勿論、多少の意識は必要だけど……言うなればオートモードなんだ。ちょっと意識するだけで身体が自然とそのモーションを寸分の狂い無く動く……

 

「?そういうものだろ?一度できるようになったものはずっと出来るに決まっているじゃないか」

「……あーそういうこと」

 

 この世界は便利だなぁ。要は1度できるようになった必殺技は身体が動きや力、タイミングなどを全て覚えているからほとんど勝手にやってくれると。なるほど。

 

 それ、元の世界のスポーツの選手たちに謝れよ。

 

 例えば体操の選手とかフィギュアスケートとかが顕著というか分かりやすいか?あの人たちは一度できたら終わりじゃないんだよ。1度できても何度も繰り返してそれでも失敗することもあるんだぞ。

 

「さて、じゃあ、特訓するぞ」

「へーい」

 

 何がさてかは分からないが、特訓はさせられるらしい。

 まぁ、強くなるためだからいいんだけどね。




というわけでジェネシス戦翌日の様子です。
この段階では十六夜君は雷門側の試合後のことを一切知りません。


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沖縄での特訓

「行くぜムーン」

「ああ、来い。バーン」

 

 場所はいつもの富士山の所……ではなく沖縄。なぜ沖縄に来たかというと何となくとしか言い様がない。……いや理由はあるよ?うん。

 お互いに服装はエイリア学園のものではないため、特に問題はないが。

 

「オラァ!」

「負けるかぁっ!」

 

 バーンとぶつかり合う。その衝撃で吹き飛びそうになるが、負けないようこちらも押し返す。

 

「なら、これはどうだ!」

 

 そう言ってボールを上に蹴り上げて、

 

「アトミックフレア!」

 

 オーバーヘッドキック。

 

「ッチ!」

 

 蹴り返そうとするも威力は足りず押し負けてしまう。

 

「ふぅ……」

「よし、もう一度だ」

 

 声をかけてくるのは私服のガゼルである。

 

「はぁ……」

 

 何でわざわざ沖縄で特訓してるのか?それは……

 

「何でグラウンド整備で1日コートが使えなくなるんだよ……」

 

 そう。何かグラウンド整備で、1日コートが使えないのだ。曰く、普段からの特訓にフィールドが耐えられなかったらしい……いやフィールドが耐えられなかったなんて、聞いたことないんだけど?

 で、それがいくつかあるうちの1つで起きたために、他のグラウンドもそういうのがないか点検しているらしい。

 じゃあ、何で沖縄か?それは……

 

「人が少なそうだから……って、偏見だろうが」

 

 オレたちはこの状態とはいえ、あまり見つかるのはよろしくない。だから人の少ないところで練習するしかないが、だからといってスペースが狭いと困る。路地裏とかなら、ぶっちゃけ沖縄まで来る意味はないのだが……まぁ、何でもいいか。

 一応、雷門の様子を調べたものによるとあれからまだ福岡にいるらしい。まだって言っても試合してから2日しか経ってないけど。

 あれから吹雪の入院と円堂の戦意喪失が起きているらしいが……吹雪はともかく、円堂もどうせ復活するだろう。むしろ、復活してもらわないと困るが。

 

 だって、オレが認めたキャプテンがこんな所でくたばるわけがないからな。

 

 アイツがこんなところで折れる訳がねぇ。そんな玉じゃねぇことぐらい知っている。

 …………え?オレも苦しめてる要因?むしろオレが一番苦しめているって?さぁ、そんなこと知らね。

 というわけで(どういうわけで?)、雷門は福岡にまだいるし、ここなら堂々と必殺技使って練習していいだろうという発想で、バーンはさっきからアトミックフレアを連発している。

 やめてくれ?ただえさえ暑そうな場所なのにそんな暑苦しい技を使うのは。

 

「行くぞ!」

「来いっ!」

 

 どうにもバーンに手を抜くという発想はないらしい。

 余談だが、後に炎のストライカーが沖縄にいると噂になったそうだ。

 …………まぁ、オレは何も関係ないからいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「チームとして完成しつつあるな」

「そろそろメンバー選考が必要じゃないか?」

 

 木陰で休むオレ、バーン、ガゼルの3人。

 

「だな。今のカオスは23人体制だからな」

 

 カオスが23人いる理由はシンプル。

 元々ダイヤモンドダスト11人。プロミネンス11人。そしてオレがいたからである。

 

「そうだね……12人ベンチに置くのもあれだし」

 

 そもそもオレが頭数に入れられている時点で異議申し立てをしたいレベルなんだけどね。

 

「2チームに分けるか?」

「だな。バックアップ用と戦う用で」

 

 バックアップ用……って。いやいや。それは笑ってしまうのだけど。

 

「せっかくの機会だし考えていくか」

「そうだな。ムーン」

「ん?」

「お前は何処のポジションもこなせたな」

「まぁな」

「分かった」

 

 そう言うと2人は立ち上がって帰って行った。

 

「……いや、何の確認だよ」

 

 まぁいいか。

 

「さて、じゃあやるか」

 

 そう思ってオレは指を口元に……

 

『呼んだ?』

 

 いや、呼ぶつもりだったけどさぁ……ワンテンポもツーテンポも早くない?

 

『まぁ、どうせ呼ぶんだったらいいんじゃない?』

 

 ……はぁ。まぁいいか。こんな所で言い合っても無駄無駄。

 

「ペラー。お前って何匹ペンギン呼べる?」

『うーん。無制限かな』

 

 やばい。格が違いすぎるんだけど。

 

『あはは。でも、綾人も人間で見たら結構呼べる方だよ』

 

 それでも十数匹が限界だぞ?何桁違うと思っているんだよ。

 

『いやいや。十数匹呼べるようになっただけ上等だよ。目指せ100匹』

 

 ハードルが高すぎるんだけど?おい軽く6倍以上じゃねぇか。

 

『でも姉御だったら1000目指せとかいいそうだよ?』

 

 1000も呼んで何するんだよ……というか100も絶対呼べるようになる必要ないだろ……。

 

『まぁ確かにねぇ~オレがいるし』

 

 そう言ってホラ貝を出して吹くと、辺り一面にペンギンが……。うん。やっぱりこんなに呼べるようになる必要ないな。そんなに必要なときはペラーを頼った方が確実。

 

『で?こんなもんで足りる?』

「……はぁ。流石というか何というか」

 

 どうせペラーには心読まれているんだ。これから何を始めるかも分かった上でやってくれている。

 

『さぁて、綾人はオレたちから点が取れるかなぁ?』

 

 どこからか椅子を取り出してきて(いやホントにどっから出したその椅子)腰掛けサングラスを(キミのポケットは四次元ポケットかい?)掛けるペラー。

 別にオレの本職はディフェンダー。ドリブル技術はミットフィルダーとか前線を主とする奴らに勝てなくても仕方ない。仕方ないが……!

 

「負けてられねぇ……!」

 

 あのフィディオの動き。今までで見たことがないくらい凄い技術だった。だからこそ、オレも負けてられない。オレの今の技術では世界にいるやつには通用しない。

 そのためにまずはボールコントロールを強化する必要がある。だから、この大量のペンギンたちに、ボールや自身を当てないようにドリブルしながらゴールを目指す。むちゃくちゃな特訓だがやってやる。

 

『あー綾人。気をつけてね』

 

 はぁ?何を?

 

『知っていると思うけど。ペンギンは飛ぶから』

 

 次の瞬間。一部のペンギンがオレに飛来してきた。

 

『これがオレの必殺技!ミサイルペンギン!』

「ふざけるなぁああああ!?」

 

 上下左右前後から飛来してくるペンギンたち。しかも、今自分に設けた縛りペンギンに当たらないようにするには相当なムリゲーなわけで。

 

『ふっふっふっ。ボールコントロール力を鍛える?甘いね。これで綾人の動体視力、反射神経、ボールキープ力、状況判断能力……などなど。その他諸々を一気に鍛えるのだ!』

 

 ペラーの奴絶対よくない影響受けてるよ!?ねぇ!誰の影響を受けやがったこの野郎!

 

『理論上綾人の身体を無視すれば突破できるはずだ!』

 

 無視すんなよ!?それ一番重要なやつ!っておい!?

 

『うーん。この技。オレがやるからこれだけ強力だけど……あ、綾人が呼び出した方がもっと強力か。そう思うとやっぱり十数匹じゃなくて100は欲しいな……』

 

 さっきからペンギンたちに当たりまくっている。いや、頑張って躱してはいるんだけど……ねぇ。

 

「ッチ。逃げの手だが仕方ねぇイビルズ──」

『させるかぁ!』

 

 パクッ

 

「──タイムゥゥゥゥッッ!?て、手がぁ!手が食われたぁっ!?」

『そんなチート技使わせないよ!』

「おいこら!これはやばいだろがぁ!」

 

 この後、1時間ぐらいの練習でいつもの倍以上ボロボロになりました。

 尚効果が出たかは知りません。ただ1つ言えることは……

 

「次から警備ロボット相手にやろ」

 

 ペラーを練習相手に選ぶと死ぬ。はっきり分かりました。




オリジナル技解説

ミサイルペンギン
ブロック技
上下左右前後から無数のペンギンが飛来してくる。
ペラーが使えるので十六夜も使える。
これにやられた相手は夢にペンギンが出てくるとか出てこないとか。

ちなみにアニメみたくバーンは雷門と接触しません。
次回からムーンが試合します。相手は……?


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カオスVSカオス ~アンバランス~

沖縄と一ヶ月以上前(リアルタイムで)の投稿の後書きから、テンマーズVSプロコトル・オメガに乱入すると思った人ごめんなさい。
彼はあの試合に乱入しません(そもそも天馬の事知りませんし……タイミング良くは行きませんね)。
ここからはカオス戦です(そういえば、どのようにカオスのメンバーが選ばれたんでしょうね?)。
ムーンの活躍(?)です。


「行くぜムーン」

「君は我々に勝てるかな」

 

 目の前にいるのはバーンとガゼル率いるカオスのメンバー。

 

「上等。どっちが強いか教えてやるよ」

 

 対してこちらはオレが率いるカオスのメンバー。

 今、カオスのカオスによるカオス同士の戦い(サッカー)が幕を開ける……。

 

「…………?」

 

 いや、待て。そもそもだ。そもそもなんでこんなことになったんだっけ?ああ、確か今朝──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドンドン

 

 朝。静かに朝食までの時間を潰そうと考えていたオレに来客が……?

 

「ウルビダ?いや、アイツならもう少し静かだろ」

 

 ……うーん。後はグランとか?いやいや、アイツもコンコンコンって感じのノックのはず。この荒々しさ、まさか……

 

 ガチャ

 

「……バーン。後、ガゼル」

 

 やっぱりバーンだった。というか……え?君たち何の用?オレは身に覚えがないんだけど?

 

「助けてくれっ!」

「……はぁ?」

 

 開口一番に救いを求められる。いやいや、何を?え?マジで分からないのだけど?

 

「ガゼル。順を追って説明してくれ」

「ああ。私たちが昨日、メンバー選考するって言ったのは覚えているな?」

「それは覚えているけど……」

 

 そりゃあ昨日の今日で忘れられるような話じゃなかったし。ついでに言うと気になっていたし。

 

「あの後2人で考えていたんだが……正直誰を取って誰を下げるか。イマイチ分からなくなってな」

「……はぁ?どうして?」

「よく思い出してみろ。カオスでの普段の練習を」

 

 カオスでの普段の練習?普通に連携を取る練習だったりだった気が──あれ?そんなに特殊なことやっていたっけ?

 

「試合形式であんまりやったことがないだろ?」

「……おぉ。そういえば」

 

 基本的にオフェンス陣とディフェンス陣を分けちゃって練習したりしているからなぁ……なるほど。それは盲点だ。

 

「試合でどう動けるかも見ておきたいよね……。でも、2チームに分けるのって暫定的にはできているんじゃないの?」

「出来ていないな」

 

 即答されたよ。いや、即答されても困るんだけど──

 

「じゃあ、2チームに分けて試合すれば?ほら、選考試合的な」

「それもダメだったんだ」

「はぁ?何故に?」

「昨日お前抜きの22人でやろうとしたんだが……何故かカオスの選考試合と言いつつダイヤモンドダストVSプロミネンスになっちまったんだ」

「……それはお前らを別々のチームにしたからじゃないのか?」

 

 そりゃあ……ねぇ。想像付くんだけどねぇ。

 

「だが、一緒にしたとすると、言い方が悪いが相手側に纏める役目を果たせる奴がいなくなる」

 

 ……ああ、そうか。カオスだけじゃないが、基本的にエイリア学園のチームはキャプテンがチームを纏めている。その纏めるというのは、リーダー的な意味でもだし、司令塔的な意味でもだ。

 例えで言うなら、フットボールフロンティアあたりの雷門。キャプテンとして円堂がまとめていたが、最悪円堂がいなくても鬼道やオレ、後は豪炎寺なんかがまとめることができ、チームとして成り立つ。……まぁ、アイツがいなくなると、結構デカいダメージになるだろうけど。

 で、エイリア学園のチームはぶっちゃけガイア以外はキャプテンがいないとチームとしてまとまらないのだ。ガイア?だって、あの自由人グランがキャプテン、鬼のウルビダが副キャプテンだよ?なんとかなるさ。

 

「というわけでお前も参加してもらう」

「1人あぶれるやつがいるだろ?いいのか?」

「そいつは審判になるな」

 

 いや、そういう問題じゃないと思うのだが……

 

「いいから行くぞっ!もう全員グラウンドに集めちまっているんだからよぉ!」

「ああっ。集めた張本人たちが遅刻となっては面目がないからな」

「待って飯は!?」

「我慢しろ!」

「終わったら、皆で仲良く食べるんだ」

「腹減ったんですけど!?」

 

 で、グラウンドに強制連行されたオレ。何か不機嫌の人たちがいた気がしなくもないが……え?オレが大遅刻したから怒ってる?はっはっはっ。

 

「……理不尽だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────思い返すととりあえず……。

 

「お腹空いたな……」

 

 これが本当の朝飯前ってやつか。

 

「ムーン。ポジションはどうなさいますか?」

「ん?あぁ……」

 

 ピ──

 

『はいよー』

 

 ペラーを呼び出す。ただ、用があるのはペラーではなく……

 

「あ、書記よろしく」

 

 ホワイトボードとマーカーだったりするが、まぁ字綺麗だしそのまま書記任せよう。

 

『……ねぇ、綾人。ペット虐待って知っている?』

 

 お前はオレのペットじゃない……友達だろ?

 

『一応言っておくと、そんなことじゃ騙されないからね?まぁ、時間の無駄だしいいけどさ』

 

 そう言いながらも渋々ではあるが、書いてくれているペラー。

 さっきあんな風に格好良く2人に宣言して、試合開始的なことを言ったが……実を言うと、まだ今さっきメンバーを決めただけでポジションを決めておりません。

 ねぇ、やっぱり飯食いに行こう?ねぇ。おなかが空いたよ?

 

「よし。さっさとあいつら蹴散らして飯食いに行こう」

 

 食べ物の恨みは怖いからな?覚えていろよ?バーン?ガゼル?

 

「キーパーはベルガ。お前しかいないな」

「任せろ」

 

 …………と言いたいんだけど、実際クララの方がキーパーに向いているんだよなぁ……言わないけど。

 

「で、問題はここからだ。ディフェンダー、クララ、アイキュー、ボンバ、バーラ、サトス、オレ……ディフェンダー多くね?」

「11人中6人ですか……確かに多いですね」

「確かバーン様とガゼル様がちょうどいいハンデだとおっしゃってたような……」

「まぁいい……よくないけど。ミットフィルダー、リオーネ、レアン、ヒート、アイシー。フォワード、まさかのゼロ……おい」

 

 ふざけんなよ?ネッパーとサイデンは向こうのチーム行ったし、フロストは審判やっているし……おい。何が選考試合だ。試合にならねぇじゃねぇか。

 

「このチームになったのはムーンの運のなさ」

「言ってくれるなぁ……!」

 

 クララのあまりにストレートすぎる一言に心が傷つきそうだ。

 知ってるよ。ランダムにしようとか言い出したやつがクジ作ったんだからな……もちろんやり直しなしっていう条件の下で。だから、バーンとガゼルが結果を見て軽く笑っていたのをオレは知っている。

 キーパー?あぁ、ジャンケンして決めた。流石にくじで片方に偏られても洒落にならん。

 

「そうね。でもカオスのボニトナ以外の女子がこちらにいるわ」

「11人中5人ね。ちょうどいい比率じゃない?」

「ムーンのハーレム?」

「おいムーン。妹に手を出したらどうなるか……!」

 

 上からレアン、バーラ、アイシー、アイキューである。何かアイシーの発言がズレてるのはいいが、おいアイキュー。お前明日からシスコンって名乗れ。

 

「あはは……でも、本当にどうしますか?」

「各自自由でよくねぇか?」

「それだと試合にならない」

「その通りだ。だからオレがフォワードに行く。いいか?こっちはカウンター狙いで行く。キーパー、ディフェンダーの6人はボールを取ったらミットフィルダーかオレへ。ミットフィルダー、ガンガン攻めていい。指示はその都度出すつもりだが最後は各自の判断に任せるからよろしくな」

「「「了解!」」」

 

 エイリア学園のチームのいいところはなんだかんだ言いながらも基本的に最後はまとまってくれるところ。本当にありがたい。

 

「行くぞ。あいつらにオレたちの力を見せつけてやる」

 

 フォーメーションは5ー4ー1。……まさか、フォワードになるとは思わなかったけど仕方ない。やるからには勝つ。

 

「さぁ、試合(ゲーム)を始めようか」



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カオスVSカオス ~接戦の前半戦~

 相手のポジションは2ー5ー3。ガゼル、バーン、サイデンの3トップにボニトナ、ネッパー、ドロル、バレン、ブロウの5人がミットフィルダー。ゴッカ、バクレーがディフェンダーで、グレントがゴールを守る。

 攻撃陣の多さに目眩がしそうだが……まぁ、こっちに守備陣が多かったし妥当か。

 やっぱり戦法は……というか作戦はカウンター狙いでいいな。流石に攻められる時間が長くなることは想像に難くない。……ついでに言うとガゼルとバーンにシュートを打たせたらその時点で失点を覚悟した方がいいな。いやだってねぇ……今は問題ないけど、あいつらの必殺技を止められるキーパーってぶっちゃけカオスにいないし。ガイアのネロぐらいしか単体で止められないだろう。

 

「それではカオスAVSカオスBの選考試合を始めます」

 

 ちなみにこっちがカオスBだ……正直何でもいいんだけどね。

 ……というか選考試合なのに選考されることが分かっているというね。もっと言うなら選考する側という謎の立ち位置ね。……いや、なんでこんな立ち位置なのだろうか。というか、その立ち位置の人間試合しちゃダメでしょ。やるとしても数あわせだよ?何であぶれて1人審判になっちゃったの?

 

「ではカオスAのキックオフで試合開始です!」

 

 ピ──!

 

 切り替えるか。選考試合でしかも選考側だからどんなプレーしてもいいんだが……

 

「負ける気はねぇぞ……!」

 

 生憎負けたくはない。だから勝ちに行く。

 ボールを持つのはガゼル。フォワード……だが、さすがにディフェンスをしなければマズいのでプレッシャーをかけていく。

 

「君を単身で抜くには骨が折れそうだ」

「そうかい」

 

 ガゼルはバーンと違い真っ向からぶつかってくるようなパワー勝負は仕掛けてこない。どちらかと言うと持ち前のスピードで相手を置き去りにするかフェイントを仕掛けてくるか。

 まぁ、熱くなってくると変わるが基本的にはこの2つか。

 

「ガゼル!」

 

 バーンが手を上げ、ガゼルを呼ぶ。ガゼルはバーンにパスする……と見せかけて、

 

「ネッパー!」

 

 後ろにいたネッパーにバックパス。

 

「ドロル!」

「バーン様!」

 

 そのままネッパーはサイドを走っていたドロルにパスし、ドロルがダイレクトでバーンへと繋げる。

 昔……というかカオスが出来た当初はダイヤモンドダストとプロミネンスでイマイチ連携がとれなくなっていた。全員が全員というわけではないが、ネッパーもその傾向が強かった1人だ。徹底的にプロミネンスの奴しかパスを出さないタイプだった。

 だが、彼を含めたそういう人たちもバーンとガゼルが手を組んだ理由を少しずつ理解して今では、連携もしっかりとれている。

 

「1人が無理なら連携して抜くだけだ」

「やるね……」

 

 前のカオスは2チームが合わさっただけのチーム。だからガイアには勿論、雷門にも欠点を見抜かれれば勝てる保証はなかった。

 だが今は違う。こいつらは1つにまとまっている。だからこいつらから選んだメンバーがガイアと戦えば結果は誰にも分からないだろう。予想外って言うのは付き物だから。

 

「ボンバ!バーンに当たれ!アイキュー!クララ!」

「分かった!」

「了解」

「うん」

 

 バーンを止めようとボンバが立ちはだかる。あの巨体だ。バーンと言えどもパワー勝負は避けるはず。だから選択肢はパスか突破。前線の方のパスコースはクララが塞ぎ、ガゼルにはオレが付いている。バックパスとかはそこまで警戒しなくていい。正直、バーンとガゼルの2人が脅威だから、その2人にボールを行かないよう立ち回ればそこまでダメージはない。まぁ、この2人を封じた上でどう得点に繋げてくるかが見物だが。

 

「はっ!抜いてやる!」

 

 軽いフェイントを織り交ぜボンバを突破するバーン。

 

「計算通りですね!」

「なっ……!」

 

 バーンがボンバを突破した矢先、アイキューによってボールを奪われる。

 

「ナイスディフェンス!」

「ボンバのおかげですよ……アイシー!」

 

 ボンバは確かに抜かれた。抜かれたが、その後ろにいるアイキューの事を考え、獲りやすいように抜かせたのだ。オフェンス陣の連携もそうだが、ディフェンス陣も負けてないくらいの連携を発揮する。

 1番の不安要素だった連携が解消されている今、後は個人としての技量も大きく関わってくるだろう。

 

「ヒート!」

「ムーン!」

 

 アイキューからアイシーへ、そしてヒートに繋がり前線へと走るオレへと繋がる。

 

「ムーンを止めろ!」

「「「おう!」」」

 

 近くにいたボニトナが立ち塞がる。後ろには抜かれた時のフォローのためにゴッカが。

 

「レアン!」

 

 突破しても、その後に取られる確率が高いと判断し、ボールを下げる。

 

「リオーネ!」

 

 すぐさまサイドを走っていたリオーネにパスが渡る。

 

「1回ボンバに戻せ!」

「ボンバ!」

 

 そのままディフェンスのボンバにパスが渡る。そして、

 

「ボンバ!こっちだ!」

「ムーン!」

 

 ボンバからオレへと大きくロングパスが来る。それを空中で取ろうとジャンプする……が、

 

「取らせない!」

 

 バレンがカットしようと同時に跳び上がる。

 

「無駄だ!ヒート!」

 

 空中でヘディングをし、ヒートにパス。ヒートはそのままダイレクトでシュートを撃つが、

 

「ナイスだ!グレント!」

 

 グレントが見事にキャッチする。

 

「ナイスシュート!どんどん狙っていけ!」

「はい!」

 

 それにしてもいい感じでパスが繋がった。やっぱりサッカーってこうだよな。間違っても、この前の雷門戦みたいに一方的に遊んで終わりじゃないよな。

 

「こっちだ!」

「おう!」

 

 パントキックでボールはブロウに。

 

「アイシー当たれ!クララとバーラはそれぞれガゼルとバーンをマーク!」

「ブロウ!こっちだ!」

 

 オレの指示の直後フリーになっているネッパーがボールを要求。

 

「ネッパー!」

「行かせない!」

 

 パスはネッパーへ、レアンが当たるが……

 

「えっ……!」

 

 ネッパーはそのパスをスルーする。そのボールの先に居たのは……

 

「持ち込めドロル!」

「おう!」

 

 完全にフリーとなっているドロルだ。ッチ。まさか、スルーするとは想定外だ。

 一応、皆にもこれは選考試合と言ってある。だから少しでもアピールしようと、いつもより自分勝手なプレーが見られると思ったが……

 

「どうにも成長しているみたいだな……」

 

 そんな自己アピールよりも試合に勝つ。そのためには協力する……か。

 

「サイデン!」

 

 そしてそのままボールはサイデンへ。サイデンがボレーシュートを放つ。

 

「ナイスキャッチだ」

 

 シュートはベルガがしっかり止めた。

 

「ドンマイドンマイ!」

 

 その後も一進一退の攻防を繰り広げ、

 

「ムーン。そろそろじゃねぇか?」

「ああ。ガゼル、よろしく」

 

 前半も半分が過ぎたころ、ガゼルが両チームに宣言する。

 

「これより必殺技の使用を許可する!」

 

 そう。この試合はあくまで選考試合。最初の方に、必殺技を使わないで皆がどれだけ動けるかを見るために行っていたのが、必殺技禁止ルール(破ると即交代、選考の対象から外すというペナルティー付)。まぁ、結局いらんかったかもしれないけどね。

 

「じゃあ、行くぜっ!」

 

 と、ガゼルの宣言とほぼ同時にバーンが走り出してボールを要求。あ、あの野郎。さっきまでそこにいたのに。

 

「バーン様!」

 

 その声に反応したネッパーがパスを出す。

 

「止めろ!」

「おせぇよ!」

 

 ディフェンス陣がバーンに当たりに行こうとした時、既にバーンはボールを蹴り上げて、

 

「アトミックフレア!」

 

 必殺技を放った。多少距離があるシュート。

 

「アイスブロック!」

 

 それをベルガは手に氷を纏わせボールに向ける。だが、

 

「…………うわぁっ!」

 

 呆気なく手の氷は粉砕し、ボールはゴールへ。

 さすがマスターランクチームのキャプテン。距離が少しあるくらいで、止められる程柔なシュートは打ってこない。

 

「カオスAのゴール!」

 

 必殺技をアリにして早々の失点。やはり、ガゼルとバーンにシュートを打たせるとマズいか。

 

「ドンマイドンマイ!1点取っていくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 というわけでカオスBのキックオフで試合再開。

 

「ヒート!」

「レアン!」

「アイキュー!」

「アイシー!」

「リオーネ!」

「ムーン!」

 

 素早いパス回しで相手を翻弄し、ボールは最後、前線へと駆け上がるオレの元に。

 

「行かせない!イグナイトスティール!」

 

 バクレーのディフェンス技、イグナイトスティール。

 スライディングした場所から炎が出てくるという技。摩擦による熱が……とかいろいろ考えたけど、あれ熱くないのかなぁ?

 

「よっと」

 

 これの対処法は単純。ジャンプして躱せばいいのだ。

 あくまでスライディングなので空中には弱い。だから、

 

「フローズンスティール!」

 

 だから、その弱点を克服するために編み出されたのが、着地するタイミングと場所を狙って放たれるもう1つのディフェンス技。2度目のスライディングである。

 こちらはゴッカによる必殺技で、今度は氷。スライディングした場所が氷になっているというもう思考を放棄したくなる技だ。

 ちなみにイグナイトスティールはプロミネンスの、フローズンスティールはダイヤモンドダストのほぼ全員が共通して使える技。だからこのダブルディフェンスも普通にやってのける。だって強いもん。原理は凄い単純だけど強いもん。

 

「まぁ、対処法はあるけど」

 

 ピ──!

 

 とは言え強いけど対処できないわけじゃない。方法は主に2つ。1つはイグナイトスティールとフローズンスティールのごく僅かな間に着地し、もう1回跳ぶ。もう1つは飛ぶこと。だから、

 

「ライド・ザ・ペンギン!」

 

 跳びながらペラーを召喚。そのままペラーの上に乗り、フローズンスティールを躱す。まぁ、理論上あの連携技は最大11回連続で出来る。さすがに、11人も先に述べたタイミングゲー的な方法で躱すのは難しい。だから突破するんだったら飛んだ方がいい。

 

「行くぞ!」

「来い!」

 

 ピ──!

 

 オレはペンギンを10匹呼び出しボールを蹴り上げる。そして、

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 皇帝ペンギンOを放つ。前まで5匹で打っていたけど今は倍の数でも制御できるようになった。そしてペンギンの数が増えたことで威力も上がる。これが進化した皇帝ペンギンOだ。

 

「バーンアウト!」

 

 対してグレントは両手に炎を灯してシュートにぶつける……が。

 

「ぐぁあああっ!」

 

 シュートの前に弾き飛ばされた。

 

「カオスBのゴール!」

 

 というか、あの技の名前面白いね。バーンOUT!って何やったんだろうねバーン。

 そして、カオスAのボールで試合再開。

 

「フレイムベール!」

 

 ボールを地面に押し込むと同時に迫ってくる火柱、そして目の前に現れる薄い炎の壁。その衝撃によって吹き飛ばされる。

 というか、フレイムベールはプロミネンス、これに対応したウォーターベールはダイヤモンドダストのほとんどの選手が使える。君たち仲いいね。何で皆同じ必殺技を使えるんだろう?統一感が凄いなぁ……って感心している場合じゃねぇ。

 

「止めろ!」

「遅い!ガゼル様!」

 

 ボールはガゼルの元に行き、

 

「ノーザンインパクト!」

 

 ダイレクトでシュートを放った。

 

「アイスブロック!……うわぁっ!」

 

 再び敗れるアイスブロック。

 

「カオスAのゴール!」

 

 ピ、ピ──

 

「前半終了です!」

 

 ガゼルが点を決めると同時に前半が終了する。2ー1……まだどうなるかは分からない。

 

「ところで、選考試合なのに選考する側ばっか点を決めてよいのだろうか?」

 

 オレのささやかな疑問はガゼルたちに届かなかった。



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カオスVSカオス ~激戦の後半戦~

後書きに報告があります。


 後半戦も始まり白熱の試合展開だった。

 

「ムーンフォース!」

「バーンアウト!」

『ファイアブリザード!』

「アイスブロック!」

「イグナイトスティール!」

「ウォーターベール!」

「フレイムベール!」

「フローズンスティール!」

 

 片方(バーンかガゼル)が決めればもう片方(オレ)が決まるというシーソーゲーム。後半も残りわずか。得点は5ー4となっていて接戦だ。ちなみに負けている方がオレたちである。まぁ、それはいい。それはいいんだが……

 

「いや待って」

 

 現時点で得点しているのは、バーン、ガゼル、オレの3人のみ。いやいやいや。これ選考会。選考する側しか決めてないじゃん。

 というか、キーパー……もう少し止めてくれぇ……このままじゃ君たち、ジャンケンで主力メンバーかバックアップか決めてもらうことになるよ?分かってる?ジャンケンで決めるんだよ?何のための選考試合か分かんないよ?

 

「どうするムーン。このままじゃ……」

 

 そして問題がある。必殺技使用を許可してからカオスAが決め、カオスBが追いつき、またカオスAが放すという展開しかない。

 つまり、勝つためにはどこかで2連続で点を決めないといけない。

 

「仕方ねぇ……リオーネ。アイシー。アレやるぞ。ヒート。合わせろ」

「はい!」

「分かった」

「了解」

 

 とりあえずこれで1点確実に取りに行く。

 

「ボンバ!こっちだ!」

「ムーン!」

 

 ボールはセンターライン付近にいたオレに。両サイドにリオーネとアイシーが立つ。

 

「行くぞ!」

 

 リオーネとアイシーは両サイドで片足を上げてから振り下ろす。するとオレの目の前に1本の氷の道ができる。

 

『アイスロード!』

 

 この技は吹雪のアイスグランドを応用した技。単純な話で純粋に走るより速く、しかも、この道の両サイドに踏み込むと足が凍り付いて動けなくなるという特典付き。憎いね。対処法が限られている代わりに、ドリブルする側が氷の上を滑るのが下手くそだと遅くなると言う、かなりマイナスを抱えた技。

 残念と言うべきかオレにはそんな鮮やかなスケートの技術はない。しかし、

 

 ピ──!

 

「ライド・ザ・ペンギン」

 

 ペラーの上に乗り、ペラーは氷の上を滑走する。そう、この技はオレ単体ではマイナスしかないがペンギンと無茶苦茶相性がいい。だって、

 

「来いっ!」

 

 だって、センターライン付近から気付けばペナルティーエリア前にいるのだから。さすが普段から氷に囲まれて生活しているだけのことはある。

 

「行けっ!」

 

 オレは飛び降り、そのスピードのままペラーがキーパーに向かい突撃する。さながら弾丸のような速度で進むペラー。

 

「バーンアウト!」

 

 すかさずグレントが必殺技を放つ……が、

 

「なっ!」

 

 そこにボールが()()()()。グレントが灰にした?違う。その灰にするボールが存在していなかったのだ。

 

「いけっ!」

 

 オレの横でシュートを撃つヒート。ボールはそのままゴールに刺さる。

 

「カオスBのゴール!5ー5」

「あのペンギンはフェイクだったのか……!」

「ナイスだ」

「ああ」

 

 ペンギンが突撃していった。キーパーからすればそれが何らかのシュートだと錯覚する。錯覚しないで冷静にシュートか違うかを判断しようとすると、今度は間に合わない。だから、必殺技を繰り出すしかない。

 そこを突いて、飛び降りるときにボールはヒートに渡しておいたのだ。キーパーの視点的にペンギンが注目の的となり、他が霞んでいたから見えなかったのも不思議じゃないけど。

 

「まぁ、これの厄介なところは選択可能なところだけど」

 

 じゃあ、次はペンギンを無視すればいいかと聞かれればそうじゃない。オレはそのままシュートを打つことも可能。だからこのシュートは読み合いに勝たなければ止められない。

 

「フンッ。また突き放してやる」

「いいや。今度こそ逆転する」

「カオスAのキックオフで試合再開」

 

 ガゼルがボールを蹴り、ボールはバーンへ。

 

「ネッパー!サイデン!こっちもあれやるぞ!」

「「了解!」」

 

 ネッパーとサイデンがバーンの両隣に立ち、そこから猛スピードで直進する。

 すると、2人の走った跡から炎が噴き出して、その炎の壁によって1本の道が形成される。

 

『フレイムロード!』

 

 その道を走るバーン。

 この技はアイスロードの言ってしまえば対となる技。左右からブロックしようにも炎の壁が邪魔をする。

 

「バーラ!サトス!コースを塞げ!」

「はい!」

「分かった!」

 

 だが、この技の欠点ではないが炎の壁があるのはあくまでペナルティーエリアの手前まで。そのままシュートを打とうとしてもディフェンダー2人がコースを塞げばキーパーの正面にしかボールは行かない。

 

「無駄だ!」

 

 勿論。そのまま行けばの話であるが。

 バーンは急停止し、ボールを空へとあげる。

 

「アトミックフレ──」

 

 そのまま必殺技を繰り出そうとする……が、

 

「それぐらい読んでいるに決まっているだろ!」

「──何だと!?」

 

 ボールを空中で更に蹴り上げることでバーンの必殺技を不発に終わらせる。

 そのまま着地するオレたち。ボールは落下してくる……うわぁ。あれだけ高いところから落ちるボールとか威力高そうだなぁ……。

 ちらっと目の前に居るバーンを見ると……ニカッと好戦的な笑みを浮かべている。

 

「バーン!」

「あぁ!行くぞ!ガゼル!」

 

 そして、近くまで走り込んできていたガゼルと共に跳躍する……クソっ!

 

「やらせねぇぞ!」

 

 オレも2人に僅かにだが遅れて跳躍し、

 

 ピ──!

 

 ペンギンを呼び出しておく。

 そして、

 

『ファイアブリザード!』

「負けるかっ!」

 

 空中でファイアブリザードとオレのオーバーヘッドキック(ペンギン付)が激突する。

 辺り一帯に衝撃が走り、オレたち3人は吹き飛ばされる。

 

「くっ……!」

「ボールはっ!?」

 

 全員着地はできたもののボールを完全に見失った。

 

「消えた……?」

 

 見渡してみてもボールがない。

 

「フロスト。ボールはどこへ行った?」

 

 ガゼルが審判であるフロストへと声をかける。

 

「割れました」

「「「…………え?」」」

「ガゼル様、バーン様とムーンの激突の影響でボールは割れました」

 

 証拠と言わんばかりにボールの破片(?)を見せてくる…………わーお。

 

「まぁ、そこそこ古かったしな」

「仕方ねぇか」

 

 いや、古かったからとかそういう問題か?まぁ、今まで何で割れてないか不思議に思っていたけど、実際に割れたところを目撃すると……

 

「何で割れたんだろう?」

 

 逆に割れたことに疑問を抱いてしまう。答えは出ているんだけどね?何というか……頭が受け付けるのをやめている。

 

「なら、試合終了でいいな?残り時間的にもわざわざボールを持ってくる必要はあるまい」

「だな。終わってみれば同点って結果は納得いかねぇけど」

「それはこっちの台詞だ」

 

 そして何とも締まらない感じで試合終了。スコアは5ー5。

 

「じゃあ、これから選考でも始めるか」

「いや、まず飯食わせろ。朝飯食ってねぇんだぞ」

 

 オレの意見に賛同を示すメンバーがちらほら。

 

「よし、じゃあ食堂行くか」

「「「おー」」」

 

 よし。ようやく飯が──

 

「ここに居たか。ムーン」

「ウルビダ?」

「ほら行くぞ」

「へ?行くってどこに?」

「ガイアでのチーム練習だ。昨日伝えておいただろ?」

 

 ──あああああ!?忘れてたぁっ!?

 

「すまんな。コイツを貰っていく」

「ま、待ってくれ!飯が!オレのご飯が!」

「自業自得だ。バカ者」

 

 ズルズルと引きずられていく身体。

 

「だ、誰かぁ!誰か助けてぇっ!」

 

 ガイアのメンバーに助けを求めるも、全員、オレから目を背けた!?見捨てられたんですけどぉ!?

 

「ちょうどいいじゃないか」

「……え?何が?」

「ウォーミングアップは終わってるんだろ?」

 

 ウォーミングアップ?え?ウォーミングアップって次元じゃないんですけど?

 

「誰かぁ!バーン!ガゼル!この鬼からオレを救ってくれぇ!」

「誰が鬼だ」

 

 有無を言わせないような威圧感。あぁ……ダメだ。終わったなオレ。

 その日、何故かウルビダからのパスはいつもより痛かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガゼル……」

「私は……いや、私たちは何も見なかった。いいな」

「そうだな。何もなかった」

「さぁ、朝食にいこうか」

「「「はーい」」」




オリジナル技解説

アイスロード
ドリブル技
三人技 パートナー氷使い二人
二人が氷を生み出し道を作る。
残りの一人がその上をドリブルして進む。
上手い人は普通のドリブルより速くなり、ディフェンスされる前に突破可能。
下手な人は……察してくれ。

フレイムロード
ドリブル技
三人技 パートナー炎使い二人
二人が炎の壁を作り道を作る。
残りの一人が壁の間をドリブルして走る。
ドリブルする人は左右を炎の壁に挟まれているため暑い。



というわけで、後書きの報告会(飛ばしたい方はどうぞ)を始めます

1点目。サブタイトル『鬼道の推理、十六夜の特訓』にてお気に入り者数2000人超えたら~と言っておりました。既に2000人突破……どころか2200人ぐらいになってました(本当にすげぇ……)
こちらは活動報告にて募りたいと思います。何かやってほしいことがあったら言ってください。実現可能不可能など含め頑張って返信していきます。詳細は活動報告に書いておきます。
URLです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=235325&uid=129451

2点目。必殺技に関して。感想でも面白そうなペンギン技の名前が出てきているので一層のこと活動報告に欄を設けます(ただし、ペンギン技に限る)。詳細は活動報告にて。
URLです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=235327&uid=129451

また、先日出たムーンフォースの技の名前として、ペンギン技だから技名にペンギンつけたら?という意見をいただきました。なのでこの話の最後にアンケートをします。一応、これは4月8日まで。改名する場合は前話もしっかり直します。まぁ、強制じゃないので気楽にどうぞ。ちなみに改名案はムーンフォース(ペンギン)です。


以上2点です。
ちなみにこの一日おき投稿は2000人突破記念ということで4月一杯は続きます。


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脅迫と怒り

 雷門中が沖縄にいるらしい。

 らしいというのはこれまた人伝に聴いた話だからである。

 どうにも沖縄に炎のストライカーがいるとかいないとか……うん。少し前のバーンたちとの練習は関係ないよな?関係していたら、オレにも責任の一端がある気がして成らない……いや、そうでもないか。悪いのはバーン。オレじゃない。

 

「…………」

 

ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ!

 

 滝に打たれて精神を高めていく。

 すべての感覚が研ぎ澄まされていくこの感じ……。

 

『…………』

 

 隣でもペラーが似たような感じで滝に打たれている。

 これ、端から見れば滝に打たれるペットと飼い主ってとこか?

 

『いや、ペンギンをペットにする人はいないでしょ』

 

 それもそうか。

 今は滝に入りながら休憩中。どうにも最近は最初に比べるとすぐに集中状態に入れるようになった。これも修行の成果か?…………まぁ、どの程度サッカーに生かされるかは知らんけど。

 集中状態になればこの自然の全てと自分の感覚が一体となる。そんな錯覚と言ったらおしまいだが感覚になれる。

 だからこそ──と言ったらアレだが、

 

「…………気付いているか?ペラー」

『…………当然』

 

 だからこそ、さっきから3人ほど、陰からこちらを伺っている者の存在に目を閉じていても気づけるわけで。

 

「いい加減ご登場願おうか」

 

 オレは横に置いてあったボールを手に取り、パントキックの要領で真上に蹴り上げる。ボールは水の流れに逆らい、滝を切り裂く勢いで空へ。そして、そのまま落ちてきたボールを……

 

「皇帝ペンギンOペンギンなしver!」

 

 後ろ回し蹴りで3人の気配のする方へとシュートを放つ。

 

『……いや、ペンギンいないその技はただのシュートだから』

 

 うるせぇ。お前ら出すと威力が高すぎて近くの木をへし折りかねない。

 

『いや、綾人単体でももう充分だよ?ほら』

 

 目を開けてみるとへし折れている木が……そして、その倒れた木の傍らに立つ3人の男の影が……よし。狙い通りだな。

 

『絶対嘘だ!力の調節ミスったんでしょ!』

 

 ああ、そうだよ!裸足だったから感覚狂ったんだよ!ついでに滝のせいでボール加速していたし!後、あんなに簡単に折れると思わなかったし!

 …………でも、おかしいな?前の世界なんてどんな方法でシュート打っても木なんて折れたことないけどなぁ?

 

『…………絶対姉御の影響だ……そのうちコンクリート破壊しそう』

 

 それはないない。

 

『と、1回オレは消えるね』

 

 見ると、その3人の男がこちらに近づいてきている。

 仕方ない。なんか見たことある顔だし。話くらい聞いてやろうか。

 

「十六夜綾人君。お話があります」

「お話……ねぇ」

「率直に言います。何故貴方はエイリア石を身に付けていないのですか?」

 

 …………こいつらがエイリア学園の手の者っていうのは知っている。だが、なぜエイリア石を受け取ったことを知っている?……いや、答えなんてたった1つか。

 

「あーあれね。なくしたよ」

「研崎さんから渡された力を……いえ。でしたらもう1度授けるまでです」

 

 そう言ってエイリア石を出してくるハゲ頭。ご丁寧に首からかけられるように加工されている。

 

「悪いけど、お断りさせていただくよ。オレには必要ない」

 

 あの石を触ったとき、自分の中に力が流れてくる感覚がした。

 まるで、強くしてやる。願いを叶えてやると、石が言っているみたいだった。

 そして、それは拒絶を許さない程の力だった。

 

「いいえ。貴方はこれを身に付けなければならない。さもないと────豪炎寺夕香さんの安全は保証しませんよ」

「…………あ"ぁ"?

「察しのいい貴方は気付いているはずだ。豪炎寺修也君が何故、雷門を離れているかを」

「テメェらなぁ……!自分たちの計画のために、子どもを人質にとって恥ずかしくはねぇのかよ!」

「いいんですか?どうなっても知りませんよ?」

 

 …………オレは豪炎寺が妹を守るために雷門を離れたのを知っている。

 妹を守るために雷門を離れる選択を取った豪炎寺を責めるつもりはねぇし、オレも尊重する。

 だから──オレはこの脅しに屈するしかない。オレには1人でこの状況を打開する術を持ち合わせていないから。

 

「……分かった。だからあの子に手を出すな」

 

 オレは本人に会った事があるわけじゃない。だが、豪炎寺があの子を大切に思っていることを知っている。だから、オレはアイツの思いを……!

 

「いい判断です」

 

 そう言って首にかけられたエイリア石。

 

「くっ……!」

 

 流れ込んでくる力。悪魔のような囁き。

 前は、堕ちそうなところをペラーが間一髪のところで落としてくれたが、今回は期待できない。

 こいつらのいる手前外すことなんてできないだろう。

 

「心配しなくていい。直に豪炎寺修也君も君の隣で我々に力を貸してくれる」

 

 ……はぁ?ということはおい。

 

「テメェら……!豪炎寺に手を出すつもりか……!」

「えぇ。約束通り、()()()()()手を出しませんよ。……彼が抵抗しなかったらね」

 

 ざけんなよ……!ふざけんなよクソやろうどもがぁ……!

 

「……潰す……!ぜってぇぶっ潰してやる……!」

「いい目だ。飲み込まれるのも時間の問題だな」

「精々その力を我々のために使ってくれよ」

「ではまた会おう。十六夜綾人君」

 

 3人の男は消えた。

 

「ダメだ……!この力に飲み込まれたら……!」

 

 きっとオレはオレでいられなくなる。そう思い、エイリア石を握り締め、破壊を試みるが、握りしめると同時に一層力がオレを支配しようとしてくる。

 

「クソがぁああああああああっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムーンが失踪した翌日。

 

「……ふむ」

 

 今日、イプシロン改が雷門に試合を挑むようだ。そのために先ほど沖縄へと向かった。

 ムーンの失踪──と言っても帰ってこなかっただけだと思っていたが──に関して、お父様の付き人である研崎が言うには、真の戦士となるために彼には特別な任務を与えた、とのことだが……

 

「……なんだ。この胸騒ぎは」

 

 私の……いや。私たちの知らないところで、何かが動いている。そんな気がしてしまう。

 

「……ん?あれは?」

 

 研崎と……その部下?何かを話している?

 

「十六夜…………様子は?」

 

 十六夜だと?ムーンの事か?

 

「あれから動きはなく……」

「そうですか。愚かなことだ。力に逆らうなんて。まぁいい。あなたたちは豪炎寺の方を」

「はい」

 

 立ち聞き……という形になってしまったが、動きはない?力に逆らう?……一体何のことだ?

 

「やれやれ。予想外ですね。まぁいいでしょう。計画に支障はありません」

 

 計画だと?お父様の計画だったらいいが……

 

「何なんだこの胸騒ぎは……」

 

 さっきから何かがある。何かおかしい。

 

「…………ムーンに会う必要がありそうだな」

 

 そう思い、私はボールを片手にまずは施設の中を捜索するのだった。



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エイリア石の誘惑

 施設内を捜すもやはりムーンの姿はない。

 外に出るが奴がどこにいるかは分からないし、世界中から人を1人宛もなく捜すのは不可能。

 だから──

 

「奴が行きそうな場所……それか行った場所か……」

 

 最後の目撃情報……というと大袈裟だが、捜すのと並行して会ったメンバーたちに、ムーンを最後のいつ見たかというのを聞いていた。

 ほとんどのメンバーが、食事の時が最後だったようであまり当てにならなかったが、普通のサッカーボールを持っている姿を見たという情報を得た。

 つまり、ボールを持って消えた。すなわち、どこかに特訓しにいった可能性が高い。

 

「ただ……」

 

 それが分かっただけ進歩……といいたいが、あの男だ。特訓をするのにサッカ-ゴールがある必要もましてや広いスペースも必要ない。極論、奴は個室ぐらいの限られたスペースさえあれば特訓ができる。

 だから私と行ったことのないような新しい場所に行ったらお手上げだ。

 

「…………待てよ?」

 

 ふと、最初に立ち聞きした、あの男たちの会話を思い出す。

 ムーンに動きはないと言っていた。

 動きはないという言葉があの男自身がおかしな動きを見せていないという意味かもしれない。ただ、あの聞こえた会話の流れからしたら、本当に動いていない。つまり、その場にずっととどまっている可能性がある。

 

「…………だとすると」

 

 もし、後者なら一気に捜索範囲は狭まる。なぜなら、奴が公共の施設などの人目に付く場所や長時間滞在していた場合に問題が起きそうな場所にいないことになる。そんな場所にいれば奴らが、何かしらの方法で基地まで連れてくるはず。

 

「……つまり、山とかそういう自然の中……」

 

 じゃあ、ムーンと自然で私が関連した場所…………あった。

 

「ダメ元で行ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うとムーンを発見することは出来た。

 前にムーンがペンギン使いとして覚醒するべく、滝行をしたことがあった。

 あれ以来、たまにではあるがその滝に行っていると、何でも落ち着く場所だからと言っていた。

 ムーンと自然に関連した場所。しかもここはあまり有名ではない。だからそんなに人がいなく、私の考えた条件を満たすのにピッタリの場所だった。

 だが、問題はここからだったと私はムーンを見て知ることになる。

 

「……なんだこれは」

 

 ムーンを中心に出来ているクレーター。その中心でムーンはうずくまるようにしている。

 

『待って!』

 

 駆け寄ろうとする私。しかし、それを制止させるように小さな手が私を阻む。

 

「ペラー……」

 

 ムーン……いや、十六夜の喚ぶ特殊なペンギンであるペラー。十六夜と意思疎通が可能で、私たちともコミュニケーションがとれる存在。

 

『今の綾人には近づかない方がいい』

 

 前と同じく、どこからか取り出したホワイトボードとペンで筆談をしてくるペラー。

 

「……何が起きている?」

 

 私はペラーに疑問をぶつける。

 今の十六夜はただうずくまるようにしている……わけではない。胸の辺りから紫色の光が、そして背中……というより全身からドス黒いと言ったら言い過ぎだが、黒いオーラが出ている。

 はっきり言って異常なのだ。

 

『オレにも詳しくは分からない。ただ、綾人は戦っていてそれを邪魔することは誰もできないんだ』

 

 十六夜が戦っているのは分かる。でも、誰も邪魔できないのはどういうことだ?エイリア石にそんな力があるなんて話は聞かない。

 

「ペラー。分かる範囲でいい。あのドス黒い方のオーラはなんだ?」

『そうだね……オレは最初、思いの力……っていうと抽象的になっちゃうんだけど、そんな感じだと思っていた』

「思いの力……?」

『うん』

 

 エイリア石には分かりやすく言えば人をパワーアップする力がある。

 身体能力の向上、精神的な弱さの克服など、様々な強い恩恵()を与えてくれる。

 そして代償……というより、その強すぎる力は与えられた者の性格や思想をねじ曲げてしまう。

 話によればエイリア石の光を間近で見るだけでもエイリア石から人間の心にある力への渇望や欲が増長され、手にした者は力と引き換えにそれらが満たされる。

 私たちはその力を知っている。強さも何もかもを。ただ、お父様の計画では私たちはそれに頼ってはいけない。

 理由……というより原理は単純なのだ。あくまで得られる力はあの石から与えられるもの。逆に考えるとあの石さえ取り上げれば力は失われる。決してあの石を手にした人間が強くなっているわけじゃない。あの石が手にした人間を強くしているだけなのだ。

 だから、その石の力と十六夜の思いが目に見える形で戦っているのだろう。

 

「……待て」

 

 ここで私はペラーの言った言葉を見る。

 

「そんな感じだと思っていただと?じゃあ、違うと思っているのか?」

『綾人の思いの塊だと思っていた……けど、もう1つ。あの力は綾人に近づかせないような不思議な力があるんだ』

 

 そう言ってペラーは近くの石ころを投げ付ける。

 

「お、おい」

 

 しかしその石ころは十六夜の近くまで行くと空中で急停止。そして地面へ叩きつけた。

 

「…………は?」

 

 こう言ってはあれだが……理解が出来なかった。何が起きたんだ今?

 

『だからあの黒い方はよく分からない。けど、1つだけ言えるのは……綾人は今も戦っている。オレに出来るのは見守ることだけ……』

 

 複雑な感情で十六夜の方を見るペラー。心なしかいつもよりも身体が透けて……!?

 

「お前!身体が……!」

『きっと綾人が負ければオレは消える。だってオレは綾人が生み出した存在だから』

 

 …………私はどうすればいいんだ。

 エイリア石の効力を知っている。これまでの十六夜の努力も知っている。

 あの石があればアイツはきっと想像もできないくらい強くなれる。そしてそれはお父様の計画を進めるのに大きく役立つだろう。

 でも、心のどこかでアイツがエイリア石に負けてしまうのが嫌な自分がいる。ペラーが消える消えないとかそういうのじゃない。

 エイリア石に取り込まれれば…………いや、そんなのはなくてもアイツは強い…………でも……いや…………ダメだ。全然分からない。

 ……私は一体…………どうすればいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう終わりか?」

 

 目の前に立つ奴がボールを足で持ちながら倒れ込むオレを見下してくる。

 

「そうだろうな。いい加減力の差が分かっただろ?」

 

 ボールの上に座り見下ろしてくる。

 

「くくっ。エイリア石の力は最高だ。力がドンドン溢れて来やがる……なぁ?いい加減負けを認めようぜ?十六夜綾人……いいや。もう1人のオレ」

 

 目の前に見える男はオレとそっくり。少し目尻が上がって、髪が荒々しくなっているくらいで後は瓜二つ。

 

「ざけんなよ……!」

「なら、ボールを獲ってみろよ」

 

 ニヤニヤとした感じで言ってくる。……腹立たしい。しかもオレが言って来ているあたりクソみたいに腹立たしい。

 だが、さっきから何度も戦っているが一向にボールに触れることさえ出来ていない。もし、サッカーの能力がパラメーターで表示されるとすれば間違いなく目の前のオレは、少なくとも今のオレの上位互換だろう。

 

「オレはお前の中にいた。ずっと悔しかったんだぜ?どんなに努力したってウルビダには勝てねぇし、やっとアイツに本気出させたと思ったらフィディオに軽くあしらわれてよぉ」

 

 推測だが……コイツはエイリア石に取り憑かれたオレ。ここで負ければきっと、表でもこっちのオレが出て来る……それだけは阻止しねぇと。

 

「円堂たちにしてもそうだ。アイツら、オレなんかよりも成長スピードが段違いだ。ドンドン強くなっていきやがる。ふざけんなって思わないか?お前の十何年分の努力を軽々超えてくるんだぜ?」

「だから?」

「おいおい。悔しくねぇのか?フットボールフロンティアでのこと思い出してみろよ。少なくとも雷門イレブンは数名を除くが間違いなく前の世界のオレより強いぜ?十何年やって来たオレよりピカピカのルーキーたちがだ」

 

 確かにそうだ。少なくともこっちに来たばかりのオレよりは強い。それは認めよう。

 

「でもな?この力さえあれば、アイツらを簡単にねじ伏せる事ができる。ああ、円堂たちだけじゃねぇぞ?今まで散々やられ続けたウルビダ……八神を赤子の手をひねるくらいたやすくぶちのめせる。それだけじゃねぇ。軽くあしらわれたフィディオにだって勝てる!」

 

 目の前のオレの力説は止まらない。どんどん熱が入っていく。

 

「いいか!よく聞きやがれ十六夜綾人(オリジナル)!この力があればオレは最強になれる!もう二度と誰にも負けねぇ!誰が相手でもぶちのめせるんだ!素晴らしいと思わねぇか!今度はオレが絶対的な力の差を見せつけることができるんだ!」

 

 ヒートアップしていくオレ。確かに聞いているとその甘い言葉に乗りそうになってしまう。

 

「……なぁ。それって楽しいか?」

 

 そう以前までのオレだったらの話だったらであるが。

 目の前のオレが熱くなっていくのと対照的にオレは冷めていった。なぜかは分からない。でも冷めていた。

 

「楽しいか?くくっ。楽しいに決まっているだろ?殲滅できるんだぜ?見下せるんだぜ?」

「……ちげぇよアホ。その力を手に入れてのサッカー……楽しいか?」

 

 勝負をしていて、コイツから一切サッカーに熱意を楽しさを感じなかった。

 

「あぁ、そういうことか。楽しいとか楽しくないとかどうでもいい。勝てれば、圧倒的力を見せ付ければそれでいいに決まってるだろ」

 

 …………ああ。そういうこと。大きすぎる力に取り憑かれたから、単純なことを忘れているのか。

 

「……お前は弱い」

「……今、なんて言った?テメェ」

「……お前は弱いって言った。文句あるか?」

「はははっ!この期に及んで戯れ言言ってんじゃねぇよ!今倒れているのは誰だよ!テメェが弱く負けているからだろうが!」

「……オレが弱いのは知っている……というかお前。この声が聞こえていないのか?」

「声だと?」

「八神が負けるなって言ってくれている。ペラーが頑張れと言ってくれている」

「ハハハッ!ついにそんな幻聴が聞こえ始めたかおい!滑稽だな!まぁ、雑魚共がなんと言おうがオレは興味がねぇがな!」

 

 オレは立ち上がり目の前のオレを見る。

 

「お前は忘れている。サッカーはチームでやるものだ」

「だからどうした!」

「オレ1人が最強になれるだと?ざけんなよクソが。仲間と共に最強になるんだろうが!」

 

 オレは口元に指をやる。

 

「勘違い野郎に絶対負けるかよ!」

 

 ピ──!

 

 出て来るペンギン。その数は十を越え百、千、万……。

 

「お、おい……!何だよそれは!ふざけてんじゃねぇぞ!」

「ふざける?テメェはさっきオレの大切な仲間たちをバカにした」

 

 八神はずっともがいている。アイツのお父様の計画の為にすべてを犠牲にし努力をしている。

 ペラーは、オレの大切な相棒だ。謎に包まれてはいるがアイツは歴としたオレのパートナーだ。

 そんな大切な仲間たちをコイツは雑魚と呼んだ。

 

「忘れてねぇかもう1人のオレ?オレは沸点が低いぜ?…………仲間がバカにされた時はな」

 

 この感情は怒りだ。サッカーを冒涜された怒り。仲間をバカにされた怒り。

 

「ま、待て!いいのか!オレに任せれば強大な力で──」

「いらねぇっつてんだろうが!そんなのがなくてもオレには仲間がいる!」

 

 そして、こんな自分が心の中に今もなお居るという現状に対する怒り。

 

「オレの中から消えろもう1人のオレ(エイリア石の力)

「ほ、本当にいいのか!オレをこのまま消すのは絶対に後悔するぞ!力を手に入れられる絶好の──」

 

 目の前の奴の戯れ言を無視し、手を挙げて、

 

「じゃあな……ミサイルペンギン!」

 

 振り下ろす。同時に無数のペンギンがもう1人のオレに突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……十六夜……!」

 

 私はどうすればいいか分からなかった。ただ、十六夜に負けてほしくなかった。だから……

 

『姉御も無茶するよ……ほんと』

「何言ってるか分からんがお前もだろ……ペラー」

 

 だから私は十六夜の肩に手を置き呼びかけ続けていた。

 ただ、何やら私を弾き飛ばそうとする力が働いているみたいで、気を抜けば吹き飛ばされてしまうだろう。

 

『いい加減帰ってきてよ!綾人!』

 

 呼びかけ続けること何分か。ついに動きが見られた。

 

「……なんだこれは?」

 

 黒い力がエイリア石の光を飲み込んだのだ。

 

「ふぅ……ようやく終わった気がする」

 

 そして、黒い力が霧散すると同時に十六夜が起き上がる。

 その胸にあるエイリア石は黒褐色に染まり粉々に砕けた。

 

「ただいま。2人とも」

「十六夜!」

『綾人!』

「ありがとな」

 

 起き上がった十六夜の顔はどこか晴れ晴れとしていた気がした。




もし、十六夜が負けていたらダークエンペラーズ行きでしたね。
あ、ちなみに十六夜が単体であれだけのペンギンを呼び出したのはあくまで精神世界だからなので現実ではあんなに呼び出せません。


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雷門VSイプシロン改 ~暗躍する者~

ほぼダイジェスト……すみません。
だって、こうしないと原作(アニメ)のパクリというかそのままになっちゃうんだもん。


 十六夜がエイリア石の力と戦っていた一方で、雷門VSイプシロン改の試合は大海原中で行われることになった。

 土方雷電の放送の元、観客は集まり、いつもよりも賑わった状態でスタートする。

 ボールはまずイプシロン改が持ち攻め上がる。前回よりも身体能力や技術が上がった彼らはゴール前、前回よりも威力の上がっているガイアブレイクを放つ。

 それを円堂は究極奥義、正義の鉄拳で完璧に弾き返す。

 この円堂のワンプレーにより、雷門陣営も火が付き、イプシロン改の攻撃を防ぐ事に成功。ボールは浦部に渡り、必殺技ローズスプラッシュを放つが、これはデザームのワームホールの前に敗れてしまう。そして、

 

「お前だ!お前が撃ってこい!」

 

 デザームは吹雪へボールを渡しシュートを打てと挑発する。挑発に乗った吹雪は、エターナルブリザードを放つも、デザームのドリルスマッシャーによりはじかれてしまう。

 

「なんだ?今のは」

 

 吹雪のシュートに違和感を感じるデザーム。対して再びエターナルブリザードを放つ吹雪。デザームも再びドリルスマッシャーで弾き返し、

 

「そういうことか」

 

 何かを確信する。3度目のエターナルブリザード。それに対して前回敗れたワームホールで応戦するデザーム。結果はワームホールの勝ちでシュートを止めることに成功する。

 放たれる4度目のエターナルブリザード。これに対してデザームは片手で止めてしまう。

 あまりの出来事に雷門や観客は驚きを隠せないでいた。

 

「バカな……」

「楽しみにしていたのに、この程度とはな。お前はもう必要ない」

 

 その一言と出来事により倒れ込んでしまう吹雪。円堂たちが声をかけるも一切の反応がない。

 喪失状態の吹雪は戦線離脱を余儀なくされる。代わりに入ったのは目金。

 そこからは防戦一方となった雷門。攻めの中心である吹雪が抜けたために攻撃力が落ちてしまっている。

 円堂を中心にシュートを防いでいるものの次第に疲れがたまり単純なミスが増える。辛うじて前線にボールをあげてもシュートまで至らない展開が続いた。

 

『バタフライドリーム!』

 

 そんな苦しい展開が続いた中、ようやくボールが浦部に渡り、塔子と共に必殺技を放つも、ワームホールの前に止められてしまう。

 ボールはデザームから鬼道へ。

 

『ツインブースト!』

 

 鬼道と一ノ瀬の必殺技。しかし、これもデザームのワームホールに止められてしまう。

 ボールはデザームから一ノ瀬へ。

 

『ザ・フェニックス!』

 

 一ノ瀬、土門、円堂の必殺技。やはり、これもデザームのワームホールに止められてしまう。

 

「もはやお前たちのシュートに興味はない」

 

 そう言ってボールをフィールドの外へと出すデザーム。

 

「審判。私とフォワードのゼルとポジションチェンジだ」

 

 フィールドプレイヤーとゴールキーパーのポジションチェンジ。滅多に行われることのないそれに対してやデザームがフォワードに来たことに驚きを隠せないでいる。

 そしてデザームは円堂の元へと行き宣言する。

 

「正義の鉄拳を破るのはこの私だ」

 

 ボールを持ったデザーム。ディフェンス陣を蹴散らしてゴール前へと進む。

 

「グングニル!」

 

 そして、デザームの必殺技がゴールに迫る。

 

「正義の鉄拳!」

 

 正義の鉄拳とシュートがぶつかり合う。そのシュートは無情にも正義の鉄拳を破りゴールへと刺さった。

 そしてそのまま前半が終了する。

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムも終わり後半。イプシロン改は雷門を潰すことに決め、ディフェンス陣を吹き飛ばしながら進み、

 

「グングニル!」

 

 2度目のグングニルを放つ。

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 塔子、壁山のダブルディフェンスがシュートの威力を多少落とすも、

 

「正義の鉄拳!」

 

 円堂の正義の鉄拳は再び破れる。そのままゴールと思いきやシュートに飛び込んだ、この試合から加入のディフェンダー綱海によって防ぐことに成功する。

 しかし、ボールはデザームに獲られてしまう。そして、

 

「グングニル!」

「正義の鉄拳!」

 

 3度目の激突。これもまたグングニルが正義の鉄拳を破ることに。

 ゴール前に木暮、土門、立向居、鬼道の4人が人の壁となりシュートをかろうじて弾き返す……がそのボールはデザームに渡ってしまう。

 雷門イレブンが全員倒れてしまった一方、ある人物たちが動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は試合から山道を歩く2人の少年に。片方は大柄の、片方はフードを被った少年だ。

 その2人を付け狙うは3人の男たち。十六夜を脅迫した3人組である。

 3人組の追跡に気付いていた2人は、山道の途中、二手に別れて林の中へと走って行く。

 一瞬、見失った3人組。しかし、運良く目的のフードを被った人物を発見する。

 

「久しぶりだね。と言っても、君も我々が見張っていたことを知っているからそんな挨拶も不要か」

 

 話しかける3人組の内の1人。

 

「事情が変わってね。君の意思に関わらず協力してもらうことにした。一緒に来てもらおう」

 

 そして、肩に手を置き連れて行こうとする……が。

 

「誰だお前!」

 

 咄嗟に離れる男たち。

 

「現行犯だ」

 

 フードを外し、現れたのは鬼瓦刑事。見れば男たちを警察の人たちが取り囲んでいた。

 

「諦めろ。逃げられはせん」

「妹がどうなってもいいのか!」

 

 男たちはフードの少年──豪炎寺の姿を見るなり脅そうとする……が。

 

「彼女は我々が安全な所へと移した」

 

 既に手は打たれていた。

 

「クソっ。作戦失敗か」

 

 エイリア石の力で逃げようとする男たち。

 

「させるかよ!」

 

 が、ここに1人の少年が何の前触れもなく現れた。

 

「なっ……!貴様は……!」

「よくもやりやがったなクソ野郎ども」

 

 現れた少年──十六夜の手により、触れられたエイリア石は力を失っていき粉々となる。

 

「貴様!あのお方を裏切るつもりか!」

「あぁ?オレはテメェらにむかついたから、報復に来ただけだ。大人しく捕まりやがれ!」

 

 逃げる手段を失った3人組。呆気なく警察の手により捕まった。

 

「……十六夜……!お前……なんでここに」

「もうこれでお前を縛るものはない。そうだろ?いけっ!アイツらの元に!」

「……っ!ああ!お前も一緒に──!?」

 

 十六夜と共に向かおうとした豪炎寺。しかし、既に十六夜の姿はなくなっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「お疲れ様だ」

 

 大海原中グラウンドの観客席の一画にて、こちらもフードを被り息切れしている少年と隣で帽子を被りサングラスを掛けた少女がいた。

 

「流石に……イビルズタイムの……長時間使用は……キッツ」

 

 少年──十六夜は、イビルズタイムを使うことによりここまで帰ってきていたのだ。

 

「試合は?」

「デザームの奴がキーパーが立ち上がるのを待っているおかげで、お前がいなくなってから一切動いていない」

 

 少女──八神は十六夜の疑問に答える。

 あのあと2人は変装道具を取った後、すぐにここまでワープしてきた。試合自体は後半から見ている。

 

(正義の鉄拳……確かに拳が飛んでいくすごそうな技だが……イマイチ何かに欠けている)

 

 後半に入り、2度破られた円堂の新たな必殺技にどこか疑問を持つ十六夜。

 

「グングニル!」

 

 そんな疑問を余所に試合は動き出す。

 後半3度目のグングニル。今度は先2つと違い雷門の他の面々が倒れているせいで破られた後のフォローは効かない。

 

「正義の鉄拳!」

 

 それに対して、何かに気付いた様子の円堂。放たれた正義の鉄拳は先ほどよりパワーアップし、グングニルを跳ね返した。

 

「へぇ……」

 

(パワーアップ……進化し強くなり続ける必殺技ってとこか。なるほど……ただ、まだグングニルを弾き返せる程度のレベルじゃ、オレたちには通用しないぞ)

 

 内心でもはや悪役としか言い様がないことを思っている十六夜。

 弾かれたボールはコートの外にいたあるフードを被った少年の足下に行った。

 その少年はボールを止めると同時にコートの中へ。

 

「あれは……!」

 

 フードを外し現れたのは……雷門のエースストライカー豪炎寺修也である。

 

「豪炎寺さんが帰ってきたッス!」

「監督!」

「選手交代!10番、豪炎寺修也が入ります!」

 

 沸き立つ観客と雷門イレブン。

 

「流石豪炎寺ってとこかな。この歓声は」

「奴1人が加わったところで我らには敵わない」

「さぁね。まぁ、どれだけパワーアップしているのか」

 

 一方、この展開になることが予想できていた十六夜とジェネシスの八神は対称的に落ち着いていた。

 試合再開。マキュアのスローインからデザームにボールが渡る。

 

「見せてみろ!お前の実力を!」

 

 豪炎寺に向かい突撃するデザーム。

 そんなデザームからボールを軽々取った豪炎寺。そしてそのまま、

 

「ファイアトルネード!」

 

 必殺技を放つ。

 

「決まったな」

 

 進化したファイアトルネードを見て十六夜は、確信する。あれはゼルでは止められないと。

 

「ワームホール!」

 

 一瞬止めたかのように見えたが、その炎はワームホールを焼き尽くし、ゼルごとゴールへと押し込んだ。

 そして、今のを見てデザームはキーパーに戻ると宣言する。

 

「ファイアトルネードではドリルスマッシャーは破れない……ただ、まだ隠し玉があるな」

「これはイプシロン改の負けだな」

 

 早々にイプシロン改の負けを悟った2人。

 試合はイプシロン改のキックオフで始まったものの一ノ瀬のフレイムダンスにより、一ノ瀬がボールを奪う。そのまま鬼道に渡り、豪炎寺にボールを出そうとするも、豪炎寺にはケイソンとタイタンのマークが付いていた。

 鬼道は一度うなずくと豪炎寺に向かってパス。しかし、そのボールは2人の正面。パスミスと思われたが、ボールはケイソンとタイタンの前で大きく曲がり豪炎寺の元へ。

 

「流石。そこまで計算に入れていたか」

 

 この器用さには十六夜も舌を巻く。鬼道はあの2人がつられると分かってあのパスを出している。一緒に何度か練習して癖を見抜いている十六夜ならともかく、数度試合をしただけでそこまで計算に入れられる鬼道には賞賛しかない。

 ボールは豪炎寺のもとへ。ゴール前、デザームと1対1である。

 

「来い!」

 

 すると、豪炎寺の背後に炎の魔人が現れ、その手の上に豪炎寺は1度乗る。そしてそのまま回転しながら跳躍し、

 

「爆熱ストーム!」

 

 左足でボールを叩き込んだ。

 

(……え?豪炎寺の背後に炎の魔人が見えたんだけど……え?遂に君も魔神出しちゃったの?というかうわぁ……あの炎の熱量エグいなぁ……絶対これ、グレントやベルガでも止められないだろ)

 

 一目見てそのやばさを実感する十六夜。

 

「ドリルスマッシャー!」

 

 デザームのドリルスマッシャーがボールと激突する。最初こそ拮抗しているように見えたものの段々と押されはじめる。そして──

 

(凄いな豪炎寺の奴。決まると分かってもうゴールの方を見ていない。格好いいねぇ)

 

 ──ドリルにヒビが入り、ドリルをシュートが粉砕した。

 

 ピ、ピ──

 

 ゴールにボールが刺さり、試合終了の笛が鳴る。勝ったのは雷門中である。

 

「行こうか」

「そうだな」

 

 それを見届けた十六夜と八神はそのまま観客席から姿を消すのだった。



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宣戦布告しよう

 そう。姿を消すはず()()()

 

「おい。そろそろ行くぞ。ガゼル、ムーン」

「ああ。分かってる」

「ちょ、え?オレも行くの?」

 

 一旦基地に戻ったオレたち2人。すぐさまオレの方はガゼルとバーンに連行されていた。

 

「当たり前だ。まだ誰がキャプテンか決めていないのだからな」

 

 お、おう……オレもキャプテン候補でしたか……。

 

「それに1人だけ行くのとかもう見飽きただろうしな」

 

 だからって3人は多いって思うんだ。少なくてもオレは行かなくていいと思う。

 

「よし、着替え終わったな……っておい!ムーン早く着替えろ!」

「いやオレ行くこと了承していないんだけど?」

「さっさとしねぇとウルビダにあることないこと言いふらすぞ!」

「テメェそれは反則だろ!?」

「モタモタするな!」

 

 くそぉ!なんでここでウルビダを引き合いに出すのかなぁ!卑怯じゃないかなぁ!

 

「行くぞ!」

「ま、待ってくれ!包帯が!変装が!」

「今更いらねぇだろそんなの!」

 

 クソっ!本当に2人で行けばいいのになんでオレまで……!

 と思いながら光に包まれて次の瞬間には……

 

「十六夜っ!」

「ガゼル様!バーン様!ムーン様!」

 

 早い。気付かれるのが早すぎる。分かってる?登場してからコンマ何秒の世界だよ?おかしくね?

 

「我々はマスターランクチームカオスのガゼル」

「同じくバーン」

「……ムーン」

 

 ……今気付いたけど掛け持ちだよね?やっぱり表に出ちゃダメじゃね?

 

「今回の──」

「十六夜!お前はジェネシスじゃなかったのか!?」

 

 あのー円堂?今、ガゼルの言葉遮ったよね君。

 

「答えろ十六夜!」

「簡単なことだ円堂。コイツは2つのチームに所属しているだけだ」

 

 代わりに答えるバーン。いや、本当に簡単に言ったなぁ。

 

「十六夜……お前……」

 

 そんな目で見ないで豪炎寺。そりゃあね?いろいろ事情があるんだよ。

 

「コホン。今回の敗北でイプシロンの完全追放が決まった」

「よって、お前らを追放する」

 

 言葉の意味を察したデザームは円堂から距離を取る。

 そして、そのままボールはイプシロンの元へ行き光り輝く。

 次の瞬間、イプシロンの姿は消えた。

 

「くっ!?」

「円堂守。そして雷門」

「お前らと戦える日を楽しみにしているぜ」

 

 そう言い残しオレたちも姿を消す。

 

「チームカオス……ジェネシス以外の敵」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!?オレ全然喋ってないしいらなかったよね!?」

 

 オレは帰ると同時に2人に問いただす。

 

「いや、お前は必要だった。目立つ要員として」

「いらねぇよ!あぁもう!」

 

 はぁ。元から敵対してることはばれているんだ。あんまり変わらないけどさ!

 

「……で?試合はいつするんだ?」

「近い内にする予定だ」

「へいへい。決まったら教えてくれ」

 

 というわけで帰ろう……というか飯を食いに行こうとする。

 

「めんどくせぇし明日でよくねぇか?」

「いや待て。確かに近い内って言ってたけどさぁ」

 

 が、後ろであまりにも可哀想なことを言っていたのでストップをかける。待ってくれ。流石に明日はやめてあげよう……ね?

 

「そうだな。奴らが東京に帰り次第挑むとするか」

「せめてそうしてくれ。じゃあ、飯食いに行ってくる」

 

 ということで食堂へ行く。

 

「すみませーん。カレーとチャーハンとサラダと焼肉と餃子とあ、デザートも下さい」

「頼みすぎじゃないか?」

「うわっ!?」

 

 背後にいつの間にかウルビダが居た。やめてくれ?心臓に悪いから。

 

「仕方ないだろ?昨日から何も食ってないんだ。凄い腹減ってる」

 

 腹減ってたけど試合が気になったからそのまま試合行って一仕事して帰ってきたんだ。もう限界。円堂たちと話してもよかったけどお腹が鳴らないように抑えるので忙しかった。

 

「私はいつもの」

 

 いつものってすごいよな……この何というか、格差を感じている。

 で、お互いに食事を持って席に移動する。

 

「1日ぶりのご飯は最高だぁ」

『ダメだよ。よく噛んで食べないと。あ、一口貰うね』

 

 そう言って肉をナイフとフォークを巧みに使い一口サイズに切り食べるペラー。

 

「相変わらずペラーは器用だな」

「オレ。お前に食事のマナーとか教えたっけ?」

『教わってないよ。ただ知ってるだけ』

 

 凄い今更だがペラーって何なんだろう?

 意思疎通ができて、道具をしっかり使えて、知識も豊富で。うーん……?まぁいいか。特に気にしてないや。何か、これ以上考え事を増やすと面倒だし。これ以上厄介事は御免だね。

 

「で?今度カオスとして試合しに行くんだろ」

「まぁね。流石にこの前みたいな圧勝はできないと思うけど」

 

 皆レベルアップしていたし、豪炎寺も帰ってきているし。流石に前みたいなワンサイドゲームにはならないはずだ。

 きっともう少しまともな試合展開になるはず。

 

「勝てよ。エイリア学園マスターランクチームの誇りにかけて」

「おう。任せとけ」

 

 絶対に勝てると言い切れはしないだろう。だが、負ける気は微塵もない。

 デザームのパクりじゃないけど、きっと今度の試合は前より楽しめるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜綾人。彼は不思議な存在ですね」

「確かに不思議な存在だ」

「彼が原因でガイア、プロミネンス、ダイヤモンドダストの3つ巴状態から、ガイアとカオスの2つのチームの争いになった。これは予期しない展開でした」

「ええ。あのプライドが高い2人が手を組むとは。本当に予想外です」

「ですが、そのおかげでガイアもカオスもここ最近の伸びは素晴らしいです。どうやら練習相手がいなくなっても問題はなかったようですね」

 

 会話をしながらお茶を啜る。

 

「ただ、本当に不思議だ。エイリア石の力が全く効かない人間が存在するとは」

「報告によりますと彼はエイリア石の力が効かないだけでなく、エイリア石そのものの力を無力化させる、そんな力があるそうです」

「ですが、この情報はとても有意義です」

「有意義……ですか?」

「ええ。私の考えは正しかった。エイリア石を持たせて強化させても、大きな弱点を抱えることになる。今までは石を外されることのみを考えていましたが」

「十六夜綾人のように無力化させ力を持つ人間と相対するときに必然的に弱くなる……ですか」

「その通りです。ただ、彼が石に触れていないと意味がないそうなので彼自身が脅威になるかは別問題ですが」

 

(なるほど。しかし、これは誤算だった。十六夜綾人は間違いなく私の手には来ない)

 

「そうなると、彼は一体何者でしょうね。初めからエイリア石に対抗するために存在しているのか、それとも……」

「どちらにせよ。我々の計画を止められるほどの力は彼自身有してない。問題はないと思われます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数日後。カオスが東京に戻った雷門を試合をするために呼びつけた直後。予想だにしない事態が起こってしまった。



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雷門VSカオス ~emergency~

カオスであってカオスでないチームカオス。
何が言いたいかは本編を見れば分かります。


 それは雷門の面々が河川敷に集まっていたと知り、雷門に試合を申し込んだ直後の出来事だった。

 

「よし、まずはこの試合のキャプテンを決めるじゃんけんからだな」

「そうだな。行くぞ」

「え?オレもじゃんけんするの?」

「当たり前だ。ちなみに2番目に勝ったやつが副キャプテンな」

「うわぁ……いらね」

「さっさとやるぞ。最初はグー。ジャンケン」

「「「ポイ。あいこで……」」」

 

 数分に渡る激戦の末。

 

「え?オレがキャプテン?」

 

 キャプテンになりました。

 

「クソっ……!あそこでパーを出していれば……!」

 

 副キャプテンはガゼル。

 

「ッチ。今回は譲ってやるよ」

 

 無職はバーンとなった。いや、何で数分もかかったし?意味わかんないんだけど?

 

「で?会場をフットボールフロンティアスタジアムにしたのはいいけどさ。本命?サブ?どっちで行くの?」

「今回は様子見だからサブ……バックアップチームで行こうと思う」

「まぁ、最初から本命は面白くねぇからな」

「へーい。で?メンバー招集は終わったのか?」

「見ろ。しっかりいるだろ?」

 

 メンバーはオレたち3人を除くと、サトス、レアン、ボニトナ、サイデン、アイキュー、アイシー、バレン、ブロウの8人。あ、オレたちがじゃんけんしている間に居た?ゴメン。それは悪かった…………?………………ん?あれちょっと待て。

 

「おい、ガゼル。バーン。キーパーはどうした?」

「む。そう言えば。ベルガはどこへ行った」

「ガゼル様。ベルガは腕を負傷していますよ」

「負傷だと。何故だ?」

「バーン様のサンドバッグ……いえ、シュート練習の相手をしていて……」

「おいバーン。テメェやりやがったな」

「ちょ、俺も悪気はないって。というか、それ知っててグレントを呼んでおいたはずなんだが……」

「バーン様。グレントは先ほどおなか壊したとトイレに駆け込んで……」

「「「…………」」」

 

 見つめ合うオレらトップ陣。ヤバい。ウチのキーパー全滅した。クララ?あの子怖いもん。

 

「…………今から取り消せねぇか?試合」

「それが……もう雷門中は準備して現在アップ中だと情報が」

「「「…………」」」

 

 再び見つめ合うオレらトップ陣。ヤバい。これ試合中止とかできねぇやつだ。

 

「ふぅー仕方ない。最終手段だ。ムーン」

「何だよ」

「お前がキーパーだ」

 

 …………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お決まりの光が現れ、晴れると目の前には……あぁ、いるよね。

 

 コツン

 

「何するんだよガゼル!」

「キャプテンはお前だ。さっさと言うべきこと言ってこい」

「早く試合させろ」

「……分かったよ」

 

 ……ッチ。だからキャプテンなんてやりたくねぇんだよ。

 

「エイリア学園マスターランクチーム、カオス。(今回なぜか)キャプテンのムーンだ」

「十六夜……!俺たちは本当に戦わないといけないのかっ!」

「その通りだ。オレはお前らの敵だ。…………遠慮なんてしてくれるなよ?雷門」

「分かったよ……。たとえお前が相手でも俺は……俺たちは!お前たちを絶対に倒してみせる!」

「いい試合にしよう」

 

 両チームポジションに着く……。

 

「なっ……!」

「十六夜がキーパーだと?」

 

 驚かれているなぁ……うんうん。その気持ちよく分かる。だって、1番驚いているのオレだから。

 

『お待たせしました!エイリア学園マスターランクチームのカオスと雷門中の試合が今行われようとしています!何と!カオスのキャプテンは元雷門中のあの十六夜です!ポジションもキーパーと一体何が起きているのでしょうか!』

 

 よし。あの実況は無視だ。……というか、なんで誰もムーンって呼んでくれないの?さっきから正体がバレすぎてつらい。

 ポジションはGKがオレ。DFはアイキュー、アイシー、サトス。MF、ブロウ、レアン、ボニトナ、サイデン、バレン。FW、ガゼル、バーン。……一言言おう。やっぱりオレがキャプテンでキーパーなのはおかしい気がする。分かってる君たち?シュート撃たれて失点しても文句言わないでよ。

 

 ピ──!

 

 試合開始のホイッスルが鳴り響く。雷門のキックオフで試合開始。ボールは豪炎寺が持ち……

 

「…………え?」

 

 あっさり抜かれるバーンとガゼル。いや、抜かれるというか……

 

「なんだこいつら?」

「動かないだと!?」

 

 動いてないんですけど!?何やってるの君たち!?腕を組んで棒立ちしている場合かよ!……まぁいい。きっとMFは止めるために動いて──

 

「こいつらウチらのこと舐めとんのか!」

 

 ──動いてくれよ!?あ、レアンがこっち向いて来た。おーディフェンスに──

 

「……(グッ)」

 

 いや、何作戦通りって感じで言ってるの?作戦?聞いてないですけど?

 

「ウチが決めたる!」

 

 ボールは浦部に渡る……そしてディフェンス陣は……うん。動かない……やめてくれ?本当にやめてくれ?

 

「ローズスプラッシュ!」

 

 そして浦部が必殺技を放つ……と、同時にバーンとガゼルが前線へと走り出す。

 

「……あーそういうこと」

 

 理解した。理解したけどさぁ……。

 

「そういうことは前もって伝えるのが普通だろうがぁ!」

 

 オレは怒りを込めながらボールを上に蹴り上げる。シュート?ガイアの奴らの強いパスとそんなに変わらんかった。アイツらが凄いのかこっちが大したことがないのか……まぁいい。

 

「マズい!戻れ!」

 

 鬼道はこれから何をしようとしているか分かったようですぐさま指示を出す。元々雷門にいたメンバーは察することが出来たようで備える動きはしているが、生憎加入メンバーは咄嗟の事過ぎて対応が追いついていない。

 まぁ、その一瞬が命取りなんだけど。

 

 ピ──!

 

 オレは10匹のペンギンを呼び出し、シュート体勢に入る。

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 蹴り上げたボールが落ちてくるのと同時に必殺技を放ちシュートを打つ。

 

「止めるッス!ザ・ウォール!」

 

 壁山のザ・ウォールが発動する……が、

 

「うわぁあああああっ!」

 

 止められず吹き飛ばされてしまう。そして、そのままボールはゴールに……

 

「ナイスパスだ」

 

 ……向かうが、そこに追いつく1人の影。

 

「バーン!」

「おうよ!」

 

 そして、追いついたガゼルは弱まったシュートを蹴り上げ、ボールとペンギンたちは空へと飛んでいく。

 

「喰らえ!アトミックフレア!」

 

 そこに跳躍していたバーンの必殺技、アトミックフレアが炸裂する。これによりペンギンはその姿を炎へと変え、突撃していく。

 これぞ皇帝ペンギンFって感じかな?

 

「正義の鉄拳!」

 

 グングニルを止めた円堂の正義の鉄拳。だが、この技には敵わず、拳は炎によって燃やされ、ボールはゴールに刺さった。

 

『ご、ゴール!何と十六夜の超ロングシュートにガゼル、バーンの連携でシュートチェイン!開始1分!カオスにゴールを奪われてしまった……』

 

 とりあえず1点取ったことはいいんだけど……

 

「ガゼル!バーン!聞いてないんだけど!?」

「フッ。奴らの度肝を抜くためにやったんだ」

「ちげぇよ!?やるなら事前に伝えとけよ!」

「よく言うだろ?敵を騙すにはまず味方からって」

「ゴールキーパー騙しちゃダメだよね!?」

「まぁいいさ。我々の強さをここから見せつけてやる」

 

 ……これ、点が決められていたら恐ろしく間抜けだったと思う。

 

「鬼道。今のは……」

「ああ。木戸川清修の時と同じだな。十六夜の超ロングカウンターシュートで意表を突く」

「しかも、俺たちが反応すると分かってシュートチェインをしてきた」

「どうやら本当にアイツは容赦しないつもりらしいな」

「なら、俺たちも全力でやるだけだ!次は絶対止める!」

「よし!まずは1点取り返すぞ!」

「「「おー!」」」

 

 どうやら向こうも気合いが入ったみたいだ。まぁ、全力でやらなきゃ意味がねぇからな。

 雷門のキックオフで試合再開。が、再びFW、MF陣は動かない……は?

 

『おぉっと!?カオスのメンバー!先ほどと同じで動かない!これは撃ってこいと挑発しているのかぁ!?』

 

 してねぇよ!?撃ってほしくねぇよ!?特に豪炎寺なんて打たれたら止められる気しねぇよ!?

 

「豪炎寺に回せ!」

 

 さっすが鬼道だな!よく分かってるじゃないか!

 

「分かった!」

 

 ボールは浦部から一ノ瀬、そして豪炎寺に渡る……

 

「計算通り」

 

 ……ところでアイキューがカットした。

 なるほど。今度は先ほどの反省を踏まえて豪炎寺に回すだろうからそこをカットすると。浦部が打っても止められることが実証できたからいいと……って心臓に悪過ぎだわ!シュートが来ると思ってヒヤヒヤしたぞ!

 

「ボニトナ!」

「レアン!」

「ガゼル様!」

 

『あぁーっと!カオスの速攻!素早いパス回しでボールはガゼルのもとに!』

 

「喰らえ!」

 

 そしてそのままシュートを打つガゼル。しかし、

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 塔子と壁山のダブルブロックを前にタダのシュートでは破ることができなかった。

 しかし、狙い通りに止めたわけでもなく、ボールは大きく観客席のところまで飛んでいく。

 

「あーあ、誰かボール取ってこないといけないのかぁ」

「ムーン。お前行ってこい。飛べるだろ?」

「そうだな。時間短縮だ」

「えぇー……止められたのお前だろ」

「フン。次は決めるさ」

「安心しろ。次も決めてやるから」

「はいはい。……仕方ねぇなぁ。じゃあちょっと、いって──」

 

 と、ペンギンを呼ぼうとしたタイミングでボールがコートに帰ってきた……え?怪奇現象?

 さらに、スタジアムの上から人影が舞い降り…………え?嘘だろ?

 

「ああ!」

「アフロディ……だと?」

 

 世宇子中のキャプテン、アフロディが姿を現した。

 何でお前が……いや、一体……お前は何しに来たんだ?




早いですがアフロディさん登場です。


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雷門VSカオス ~元神の力~

 フィールドに舞い降りた元(自称)神ことアフロディ。

 試合は一時中断という形で、雷門側のベンチに行くアフロディと雷門メンバー。

 

「どうするよ。アレ」

「世宇子中の元神様……ねぇ」

 

 こっちもオレたち3人は様子を見ている。他?連携などの確認をしているよ?この数分のプレーで、問題があるところは調整しに行っている。

 一方のアフロディであるが、彼曰く雷門と共にエイリア学園と戦いたいとのこと。

 

「まぁ、誰が加わってもいいと思うよ。ただ、アフロディはちょっとマズいかもな」

「はぁ?世宇子中なんて神のアクアに頼っていたチームだろ?」

「ドーピング頼りの勘違いチーム……というのが我々の評価だが?」

「うーん。そうだね。でもさ、アイツは神のアクアなんてない方が脅威かもしれないよ」

 

 はっきり言うなら、今までのエイリア学園との試合を見てきて、自ら力になりたいと志願する奴が弱いわけがない。

 と、ここで瞳子監督がこちらにやってくる。

 

「アフロディ君を私たちのチームに加えます。この試合にも出場してもらいますが」

「文句はありませんよ監督さん。お好きなように」

「えぇ。そうするわ」

 

 そしてそのまま帰って行く瞳子監督。

 さて、これで言い訳もできなくなったが……

 

「皆。少し聞いて。おそらくだけど──」

 

 オレはカオスの面々を集めてあることを告げる。

 

「……なるほどな」

「ああ、あり得る話だ」

「だろ?だからここで追加点を取りに行く」

 

 雷門側がポジションに着き始めたのでこちらも自分のポジションに戻る。どうやら浦部とアフロディを入れ替えたようだ。

 1点差のこの状況。点は取りたいけど守備を薄くするわけにはいかない。考え得る限り最善の選択だろう。

 

「さてと……」

 

 正直な話、アフロディは打たれたら止められるとは思えん。警戒人物の1人だ。だが、最初は大丈夫だろう。

 サイデンのスローインで試合再開。ボールはバレンに渡り、そのまま攻め上がる。

 

「させるか!ボルケイノカット!」

 

 しかし、ここは土門のボルケイノカットに阻まれる。

 

「こっちだ!」

 

 土門がボールを持ったところに、フリーのアフロディがボールを要求する。

 しかし、土門はパスを出すことを躊躇した。

 

「甘いぜ!」

「しまった!」

 

 その隙を突いてバーンがボールを奪い去る。

 

「通さないッス!ザ・ウォール!」

「ハッ!そんなのじゃ止められるかよ!」

 

 バーンはザ・ウォールよりも高い位置にボールをあげる。そして、そのままシュート体勢に入った。

 

「行くぜ!アトミックフレア!」

 

 上空からの強襲。ザ・ウォールよりも高い位置からのシュートは誰にも阻まれずにゴールへ向かった。

 

「正義の鉄拳!」

 

 円堂が正義の鉄拳を繰り出すも、バーンの必殺技の威力に負け、そのままゴールへ。

 

『ゴール!試合再開早々!バーンがシュートを決めた!雷門の連携の隙を突かれたかぁ!』

 

「ナイスシュート。バーン」

「あぁ、お前の言ったとおり、連携は完璧じゃないようだ」

 

 そう。元々敵だった相手だ。いくら円堂が認めたとは言え、彼らの心の中には本当に信用できるか?と言った疑いの心が出て来る。その心は彼へのパスを躊躇させ判断を鈍らせる。そこを付けばあっさり点が取られるって話だ。

 まぁ、こんなことがこれからずっと通用するとは思えない。だが、今はそこを付くのがベストだということに間違いはない。

 

「よし、もう1点取るぞ!」

「「「おぉ!」」」

 

 雷門ボールでキックオフ。ボールは豪炎寺に渡り、

 

「行かせねぇよ」

「通さない」

 

 3度目の正直って言うべきか今度はバーンとガゼルの2人が素早くマークに付いた。

 

「こっちだ!」

 

 鬼道がバックパスを要求し、そのままパスする。鬼道から塔子にパスが回り、攻めてくるが、

 

「貰った!」

 

 ボニトナがカットし、レアンへとパスを出す。レアンはそのまま攻め上がる。

 

「ザ・ウォール!」

 

 しかし、順調に行くことはなく壁山のザ・ウォールに阻まれる。そのままボールを持ち込む壁山。

 

「壁山!アフロディがフリーだ!」

「え!?でも……」

「パスするんだ!」

「は、はいッス!」

 

 鬼道に言われてパスを出す壁山。しかし、そのパスはアフロディの遙か前へ。明らかなパスミス。

 

「サトス!」

「おう!」

 

 そんな隙を逃すほど甘くはない。

 あと少しでラインを割るといったところでサトスがボールを大きく前線へと蹴り上げる。

 

「マズい!戻れ!」

 

 そのままオレたちのカウンター。ボールはバレンからバーンへ。

 

「やらせねぇ!ボルケイノカット」

「あめぇよ!」

 

 土門が必殺技を放つも、素早くガゼルにパスを出すことで躱す。

 

「止めてやる!」

 

 綱海と一騎打ちになるガゼル。軽くボールをあげてジャンプすると綱海も続けて跳ぶ。

 

「フン」

 

 だが、すぐさまヘディングでボールを地面へ向かわせることでそのまま綱海を抜き去る。

 

「行くぞ!ノーザンインパクト!」

 

 そしてそのまま必殺技を放つガゼル。

 

「正義の鉄拳!」

 

 放たれる正義の鉄拳はまだオレたちに通用するレベルではなく、破れてゴールに刺さった。

 

『ゴール!なんとこれでカオスの3点目だ!』

 

「ナイスパスだ。バーン」

「はっ。決めて当然だよな」

「2人ともナイス連携。サトスもよく追いついた」

「はい!」

「さぁ次だ!気を抜かずに行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 いやぁ、あのバーンが強引突破せず冷静にパス出すとは予想外だったけど……いっか。あれでオッケーだし。

 

「監督……」

「えぇ。この2失点は間違いなくアフロディ君への不信感から起きているもの」

「十六夜君ね。彼は間違いなくそのことを分かって指示を出しているわ」

「彼を敵に回すとここまで厄介とは……」

「なら監督!ウチを戻してや!そうすれば……」

「それは聞けないわ。カオスから点を取るにはアフロディ君の力は必ず必要になるもの」

 

 この状況が作られているのは単純にアフロディを仲間と認め切れていない、言ってしまえばチームの一部の人間がもたらしているもの。

 ならこの状況を向こうが変えるには?単純だ。アフロディがチームに認められればいい。そのために手っ取り早いのは何かしらの形でチームに貢献すればいい。

 ただ、今のアフロディにとってはある意味無理ゲーな状況だろうな。彼が信頼されるには仲間と連携して点を取るとか、認められるようなプレーをしないといけない。しかし、信頼されていないために連携ができていない。矛盾しているのだ。

 

「だからこそカギは──」

 

 オレの中でカギは鬼道、豪炎寺そして綱海だと考えられる。彼らなら躊躇なくボールをアフロディへと出せるだろう。彼らを基準にプレーに繋げられるかがカギとなってくる。

 

「うーん。そろそろかな」

 

 というか、流石にこの状況でチームメイトへの不信感とか言ってる場合じゃないと思うんだけど。まぁ、まだ連携とれないのであれば容赦なくそこをつくだけだ。

 雷門ボールで試合再開。ボールは鬼道から一ノ瀬に渡った。攻め上がる一ノ瀬。

 

「さぁ、君はどうする?」

 

 豪炎寺にはアイキューとアイシーがマークをしている。サトスには豪炎寺とアフロディのケアができる言わば中途半端な位置にいるため、アフロディがフリーに近いのだ。

 誰の目から見てもアフロディに出すのが正解のこの状況。一ノ瀬が選んだのは、

 

「豪炎寺!」

 

 豪炎寺へのパスだった。あーあ。外れだ。

 

「アイシー!サトス!」

「うん。フローズンスティール!」

 

 すかさず、アイシーのフローズンスティールが豪炎寺を襲う。これを跳ぶことで回避するものの、

 

「イグナイトスティール!」

 

 その着地を狙って容赦なくサトスのイグナイトスティールが炸裂する。これには豪炎寺も反応できずボールを奪うことに成功する。

 

「バレンへパスだ!」

「おう!」

 

 そしてバレンにパスが繋がる。持ち込むバレン。そこに木暮がブロックに来て、

 

「旋風陣」

 

 彼の必殺技の前にボールは獲られてしまう。

 

「うっしっし。どんなもんだい」

「調子に乗るな!」

 

 本当にそうだよ?ボールを奪ったくらいで調子に乗ってもらっては困るよ?

 

「うわぁ!」

「おい!遠いぞ!」

 

 迫るガゼルに対して木暮が慌てて綱海へとパスを出す……が、そのパスは遠い。

 

「パスが乱れた!奪え!」

 

 バーンの指示により、ボニトナとレアンのコンビがボールへと向かう。

 綱海がボールに追い付くも、2人のディフェンスの目の前。選択肢はほぼないに等しいこの状況。

 

「ちょうどいいぜ……アフロディ!」

 

 綱海は2人のディフェンスの間に見えたアフロディへとパスを出す。

 

「行くよ」

 

 パスを受け取ったアフロディはそのままこちらに攻めてくる。

 

「アイキュー!アイシー!サトス!」

 

 攻めてきているのはアフロディのみ。3人がかりでブロックに行くも……

 

「ヘブンズタイム!」

 

 次の瞬間には呆気なく抜かれてしまう。ッチ。これがあるから厄介だよ本当に。

 

「堕落したものだな。アフロディ」

「お前を神の座から引きずり降ろした雷門に味方するとはなぁ?」

 

 何とかガゼルとバーンの2人が追いついて、アフロディの前に立つ。

 

「引きずり降ろした?違うな。彼らの、円堂君の強さが僕を悪夢から目覚めさせた。新たな力をくれたんだ」

「はぁっ!新たな力だ?」

「神のアクアなしじゃ何もできない!」

 

 ガゼルとバーンが2人がかりで奪いに行く。

 

「そんなの必要ない」

 

 アフロディは落ち着いて、すぐ隣を走る豪炎寺へと軽くパスを出し、そのまま2人を抜き去る。豪炎寺はダイレクトでアフロディに返す……初めてとは思えない連携だ。

 

「見せてあげよう……生まれ変わった僕の力を!」

 

 するとアフロディの背中から羽が……ってマズい!感心している場合じゃねぇしあれは!

 

「ゴッドノウズ!」

「させるか!ロケットペンギン!」

 

 ペラーを呼び出し、拳から何匹ものペンギンが飛んでいくが、

 

「これは!」

「前よりもパワーアップしている!」

「クソッ!熱血パンチ(という名のただのパンチ)!」

 

 ペンギンたちが悉く跳ね返されたのでパンチを放つも弾き飛ばされ、ボールはゴールに刺さった。

 

『ゴール!アフロディのゴッドノウズが決まったぁ!雷門1点返しました!』

 

 ハイタッチする豪炎寺とアフロディ。

 

「いいぞ!皆!このユニフォームを着れば気持ちは1つ!皆で同じゴールを目指すんだ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 一連のプレーを見て、アフロディへの評価が変わったようだ。

 

「ははっ……!」

 

 ヤバい。心の底から湧き上がるこの熱量……やっぱり最高だ。お前らとのサッカーは。

 

「楽しくなってきたな!お前ら!こっからが本番だ!カオスの力見せてやるぞ!」

「「「おう!」」」

 

 前半も折り返し地点に突入した。スコアは3ー1とカオスリード。アフロディが本格的に機能し始めた以上、まだまだ勝負は分からないな。



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雷門VSカオス ~止まらない~

 カオスボールで試合再開。ガゼル、バーン、ボニトナ、バレンと細かく、そして早くパスを回していく。

 

『おぉーっと!カオスのFW、MF陣による素早いパス回しが、雷門イレブンを翻弄しているぞ!』

 

 さっきまでと違う戦法……と言ったら大袈裟だが、さっきまでと少し作戦を変えている。

 ドリブル主体からパス主体で組み立てていく。

 既にこっちのドリブルによる突破力は見せている。だからいくらパス主体に攻め始めたと言っても向こうは、パスとドリブルの両方を常に警戒して守る必要がある。

 そもそもの話、オフェンスとディフェンスを比べると、どう考えてもディフェンスの方があらゆる意味で大変なのだ。オフェンス側はドリブル、パス、シュートなど多数の選択肢から選ぶ。ディフェンス側は出されたそれに対抗しなければならない。ほとんどのケースに置いてディフェンス側は後手に回る。

 もちろん、オフェンス側が取れる選択肢を予め減らすために、ディフェンス側も立ち回る。それがある分ディフェンスの方が完全に不利というわけではない。だが、向き合うときにディフェンス側の方が力を使うのは事実。

 じゃあ、ディフェンスを消耗させるにはどうすればいいか?簡単だ。

 

「アイキュー!アイシー!サトス!」

 

 DFの3人もパス回しに参加する。これによりフィールド全体を使ってのボール運び。

 ディフェンスを消耗させる簡単な方法。選択肢を増やすのだ。選択肢が増えれば増えるほど考えることが増える。考えることが増えるということはディフェンスをする際に消耗していくことに他ならない。

 それに加えディフェンス側はパスカットをしようと走り回る。脳や精神だけでなく、体力面でも徐々に奪っていく。

 しかも、3ー1と向こうが負けており、1点でもいいから早く欲しいこの状況。徐々に焦りは募り、それがミスへと繋がる。

 

「……見えた。へい!」

「ムーン!」

 

 向こうの対処としてFW陣の警戒。当然だ。その2人がこっちの得点に絡んでいるのだから。ガゼルとバーンにそれぞれ2人、最低でも1人が常にマークに付いている。

 あの2人はそれを知ってか、場所をコロコロと移動している。それにより向こうは何度もマークチェンジをする必要があり、結果……

 

「しまった!戻れ!」

「行けっ!サイデン!」

 

 ……結果。バーンとガゼルにディフェンスたちはつられやすくなり、MF陣が動きやすくなる。

 オレからのロングパスを受け取ったサイデンはマークの付いていないフリー状態。

 言い忘れていた……って訳でもないけど、サイデンの本来のポジションはFWだ。雷門のイメージでシュートを撃つのがオレ、ガゼル、バーンのみと思われているが実際は違う。あくまでイメージにないだけで他の選手も打つことができる。

 

「アトミックフレア!」

 

 サイデンのアトミックフレアが炸裂する。

 バーンには劣るが並大抵のキーパー相手なら余裕で決められる。……もっとも、()()()()キーパーが相手ならの話だが。

 

「正義の鉄拳!」

 

 円堂の正義の鉄拳はサイデンのアトミックフレアを弾き返す。間違いなく動揺……というより隙を突いてはみたが、円堂から点を取るのはやっぱり誰でもできるって訳じゃないな。

 

「ドンマイドンマイ!ナイスシュートだ!」

「次は決める……!」

 

 だが、これで雷門側は分かったはず。別にMF陣にシュート力がないからFW陣しか撃っていなかったわけじゃない。ただ、ガゼルとバーンの2人が撃ちたいから撃っていたに過ぎないのだ。

 

「さぁ、ドンドン選択肢を増やしていこう」

 

 これによってまた1つ選択肢が増えた。MFからのシュートってな。

 そして今のサイデンのシュートのお陰で1つ掴めたことがある。

 時間もこっちがパス回しとか諸々である程度使っていたからいい頃合い。

 

「……動こうか」

 

 ボールは壁山から一ノ瀬、そして塔子に渡る。

 

「ディフェンス!」

 

 アイシーが塔子をブロックしに、アイキューとサトスがアフロディにマークに付く。

 これだけ見ればさっき点を取ったアフロディを厳重に警戒しているように見える。だから、

 

「なら……豪炎寺!」

 

 だから、DFが誰もいない豪炎寺へとパスを出すはず。

 

「読み通り!」

「「「なっ……!」」」

 

 驚愕する雷門イレブン。当然だ。

 

『な、なんと!豪炎寺へのパスをカットしたのはキーパーの十六夜だぁっ!カオス、ゴールをがら空きにする大胆不敵なプレーだぁ!』

 

 さっきまで言っていた選択肢の話。ディフェンス側がうまく動けば相手の選択肢を減らし、限定できる。限定できればこっちのものだ。

 

「行くぞ!攻撃だ!」

 

 そのままドリブルで駆け上がっていく。

 そもそもだ。そもそも、豪炎寺をフリーにしておくほど舐めたプレーはしねぇよ。

 

「十六夜からボールを奪え!チャンスだ!」

 

 鬼道がすかさず指示を出す。そりゃそうだ。だって、今オレからボールを奪えば点を取れるのだから。

 ただまぁ、ボールを奪えればの話だが。

 

「止める!ザ・タワー!」

 

 塔子の必殺技、ザ・タワー。何度か見てきてこの技の対処法は分かっている。

 

「アイシー!」

「うん!」

 

 この技は塔の威圧で足を止めさせ、そこに雷を落とす。ただ雷を落とす範囲は決まっているように見える。おそらく、この塔の正面にあたる範囲のみ。

 だから一度、必殺技の範囲外にいるアイシーに渡し、自身も塔を回り込むようにして突破。再びボールを貰い、塔子を抜き去る。

 正面から破壊してもいいが、オレ個人的にはパワーでの突破より、こうやって簡単にと言ったらあれだが力をかけずに突破出来るならそっちの方がいい。

 

「しまった!」

「行かせないよ!」

 

 すぐさま一ノ瀬のヘルプが入る。

 

「フレイムダンス!」

 

 この技は炎を操ってボールを奪い、ドリブルしてきたやつを吹き飛ばす。

 

「よっと!」

 

 ただ、炎の大きさとかは操れない。太さとかが決まっているんだったら、この技は炎を避ければそれでいい。途中から大きさが変わるなんてことはないからな。

 

「何!?」

「マズい……止めろ!」

 

 すると木暮がこっちにやってきた。

 

「止めてやる!旋風陣!」

 

 この技は木暮の超スピードの回転で風を起こし、ボールを引き寄せ最終的にキープする技。シュートの時は足に当てて、そのまま勢い使わせることで削ごうっていう感じだろうか。

 

「はいよ」

 

 対策としてオレはボールを()()()()()()()。この技は発動された以上細かなフェイントは意味をなさない。ボールをキープしようとしてもおそらく無駄。無駄だと分かっているなら大人しく渡した方がいい。

 ボールが上に上がり、木暮の回転が止まる。そして、

 

「うっしっし。何だ。意外とらくしょ──」

「じゃあ、返してもらうよ」

「──う!?う、嘘だろ!?」

 

 左膝の丁度上辺りで漂うボールをすかさず回収する。なぜかは知らないけどこの技。止めた後に一瞬隙が生まれる。なら、そこをつくだけってな。

 という感じで突破し、

 

「通さないッス!ザ・ウォール!」

 

 壁山のザ・ウォール。もう何回も見たことのあるその迫力に今更怖じ気づくことはない。

 とりあえず、ボールを上に蹴り上げて壁の上を通過し、オレも壁にある僅かな凹凸に足をかけて、跳んでいく。この壁はコンクリートとかより自然の崖とかが近い。だから、綺麗な平らじゃなくて凸凹がある。壊して突破もいいがこっちの方がしっくり来る。

 

「行くぞ円堂!」

「来い!」

 

 円堂との1対1。オレはペンギンを10匹呼び出して……

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 必殺技を放つ。ペンギンたちはボールと共にゴールへと飛んでいく。

 

「正義の鉄拳!」

 

 対して円堂は正義の鉄拳を使い、飛んでくるシュートを弾こうとする。

 ペンギンと拳の衝突。勝ったのは……

 

「よし!」

 

 拳の方だった。

 

「まだだ!」

 

 オレはすかさず跳び上がり、

 

 ピ──!

 

 空中でペンギンを6匹呼び出す。ペンギンたちはボールに食いつき、超高速で回転し始めた。

 

「また来るぞ!構えろ円堂!」

 

 鬼道が気付いたか……だが一手遅い!

 

「オーバーヘッドペンギン!」

 

 そしてそのボールをオーバーヘッドキックで蹴る。青紫色のオーラを出しながらボールとペンギンはゴールへと向かっていく。

 

「正義の鉄拳!」

 

 正義の鉄拳を再び繰り出す円堂。だが、溜の時間がいつもより短くなってしまったそれは、さっきよりも弱々しいものだった。

 

「うわぁっ!」

 

 故にさっきよりも威力のあるこのシュートを止められるはずがない。

 

『ゴール!1度は弾いて見せた円堂!しかし、十六夜が素早い反応で食らい付きシュートを決めた!なんとカオスこれで4点目!』

 

 円堂の正義の鉄拳。ボールを弾く軌道やスピードが毎回ほとんど変わらない。サイデンのお陰である程度掴めていた。後は反応して決めるだけだ。

 

「ナイスシュートだ」

「狙ってやったのか?」

「当然」

 

 弾かれる事なんて最初から織り込み済みだ。そこまでバカじゃない。

 

 ピ、ピ──!

 

『ここで前半終了のホイッスル!スコアは4ー1!後半、雷門の反撃は見られるのか!』

 

 ふぅ。気付けば前半終了か。アフロディ加入のおかげか予想より一方的ではないな。

 ただ、こっちのMF陣もシュートを持っているが、アイツらだってまだ連携技を出していない。撃たれたら100%止められる補償はないが……まぁ、それはその時考えよう。




主人公習得技

オーバーヘッドペンギン
アレス、オリオンのアレ。
前回のカオス同士の戦いの最後に思いついた技。
この時空では十六夜が開発者(?)だったりする。


ちなみに、主人公のシュート技の強さの順番は、
皇帝ペンギンO改<オーバーヘッドペンギン<ムーンフォース
って感じです。
皇帝ペンギンOはシュートチェインが前提の技なので、単体だとそんなに強くないです。


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雷門VSカオス ~奇策~

 前半が終了して4ー1。

 

「なかなかじゃないか?」

「相変わらず手厳しい……」

 

 ハーフタイム。オレはこの試合を見に来ていたウルビダとグランと話している。観客席まで来ているが……まぁいいか。

 

「オーバーヘッドペンギン。お前がこの前、何か掴んだって言ってたやつか」

「そうだよ」

 

 ファイアブリザードと打ち合いになったあの時の感覚。それを実際に必殺技にしてみた……まぁムーンフォースに比べたら会得するのに時間はそんなにかからなかった。その分、お手軽だけど威力はお察しって感じだ。

 

「このチームがガイアとジェネシスの座を競っているチーム……惜しいね」

「何が惜しいんだ?グラン」

「このチームは間違いなくダイヤモンドダストにもプロミネンスにも勝っている。でも、俺たちガイアには勝てない。何でか分かるかい?」

「型の違いによる相性……じゃないのか?」

 

 カオスは攻撃特化チーム。攻撃力は高いが、反面守備力は低めだ。決してディフェンス陣が弱いってわけではなく、はっきり言ってキーパーが弱い。キーパーに関してはあの2人はデザームと同じくらいの実力だ。いや、キーパー力という観点で見たらデザームに劣るかもしれない。

 対してガイアはバランス型。若干攻撃に偏っているが、キーパーのネロはエイリア学園のキーパーの中で頭が1つも2つも飛び抜けている。その証拠ってわけじゃないがオレはアイツからだけは点を取ったことがない。

 この2つのチームが戦った未来を想像する……ガイアが100%勝つとは言わないがカオスが勝てる可能性は限りなく低い。

 

「それもあるけどもう1つは君だよ。ムーン」

「…………オレ?」

「このチーム……まぁ、バックアップチームの様だけど……ここまで雷門を圧倒できているのは君の功績が大きい。それは誰の目から見ても明らかだ。しかし、君は本来我々ガイアの選手。つまり──」

「オレが貢献している状況では、カオスがジェネシスに選ばれることはない……ってとこか」

「──そういうこと」

「はっ。関係ないな。オレにとってはカオスが選ばれようがガイアが選ばれようがどうでもいい」

「ははっ。確かにそうだ。君にはどっちでもいいことか」

 

 そんな称号よりオレは今燃えているんだ。アイツらとのサッカー、プレーの駆け引き。圧倒できているように見えてはいるが実際は危うい場面も多い。

 雷門というチームは試合の中でも成長していく。だから後半もこのまま圧倒できるとは思っていない。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

「行ってこい」

 

 円堂……いや、雷門は敵に回すとこんなにも厄介で、こんなにも熱くしてくれるとは。

 

「最高だ」

 

 オレはグラウンドへと向かい、作戦会議に加わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の雷門ベンチ。

 

「前半が終了して4ー1。まだ逆転は狙える点差だな」

「アイツらのシュートは凄かった。でも、後半は絶対に止めてやる」

 

 自分に渇を入れる円堂。4点取られたこの状況だが止めることを諦めてはいないらしい。

 

「勝つためには、やはり十六夜をなんとかするしかないだろうな」

「そうだね。彼が攻撃でも守備でも中心……要になっている」

「アイツのシュートすげぇな。福岡の時もだけどどんどん強くなっている」

「そもそもアイツ何者なん?ゴールキーパーの癖にドリブルからあんなシュートまで打って」

 

 十六夜のことをよく知らない浦部が疑問に思う。木暮や綱海と言った面々もそれには同意している。

 

「アイツはオールラウンドプレイヤーだ。FWからGKまでこなせる、言わば万能で柔軟な選手。ただ、本職はDFだがな」

「改めて思うけど、全ポジションこなせるって化け物だよな」

「なぜかは分からないけど、彼のドリブルとかボールテクニックは、フットボールフロンティアの時とは比べ物にならないくらいうまくなっているよ」

「でもさ、必殺技が通用しなかったんだけど。あれはどうしてなの?」

「アイツの観察眼はかなりのものだ。大体の必殺技は見ただけで分析し攻略してしまう」

「味方の時は頼もしかったけどな……その観察眼」

 

 改めて十六夜のやばさを実感している雷門イレブン。

 ちなみに、十六夜のボールテクニックがうまくなっているのは、フィディオに負けてからそっち方面の強化を重点的に行っていたからだ、ということを彼らは知らない。

 

「だがアイツがキーパーなら好都合だ」

「好都合って……全然点を取れていないのに?」

「アイツは化け物ではあるが無敵じゃない。ディフェンス能力も高いが、決して突破できないわけじゃない。そしてそれは奴自身も理解しているはず」

「彼が前に出てくるときは、彼の中で点を取られるリスクが限りなくゼロに近いと思っているとき。だからそれを上回る策を練れば点が取れる……そうだね?」

 

 あくまでキーパーに付いている以上、十六夜自身も無闇に攻め上がっているわけではない。前半の動きからそう察せられる。ただ、上手く十六夜がゴールから離れた状態で点を取れるかは別問題だが。

 

「ああ。もちろんそれもある。だから、それに関しても1つ策はある。もう1つ確実に言えるのはアイツはキーパーとして未熟。ある程度のシュートは止められるが威力が高い技は止められない。そのハードルはデザームより高くはないはずだ」

「つまり、連携技でも破れる可能性があるということ?」

「だから、円堂。チャンスがあれば攻め上がってくれ」

「でも、それはかなりのリスクを孕んでいる……この点差で行うのは危険じゃないかい?」

 

 円堂は連携技の中心に居るケースが多い。ザ・フェニックスやイナズマブレイクが主であるが、それらの技でも十六夜から点を奪うことが可能だと鬼道は考える。

 しかし、3点差のこの状況で、キーパーが上がるという状況を作るのは危険だとアフロディは告げる。

 

「危険……なのは承知の上だ。だが後半、間違いなく豪炎寺とアフロディはマークが厳しくなるだろう。点を取る手段は増やすに越したことはない。もっとも、円堂。お前が行けると思ったらでいい。無理はしなくていい」

「おう。分かった!」

 

 リスクとリターン。

 ノーリスクで点を取る手段が限られている以上、多少のリスクは目を瞑るしかないと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムを終えて両チームがポジションに着いた。

 

『さぁ、カオスボールでまもなく後半戦開始です!果たして雷門は逆転し勝利を掴むことが出来るのでしょうか!』

 

 相変わらず実況の角間は雷門よりだが致し方ない。

 普通の試合ならともかく、エイリア学園との試合では多くの人が実況の立場にいても雷門贔屓になるだろう。

 

 ピ──!

 

 後半戦開始、バーンとガゼルが素早いパス回しで雷門陣地へと攻めていく。

 

「突き放すぞ!」

「分かってる!」

 

 現状の3点差に甘んずる事なく徹底的に突き放そうとするカオス。

 

(流石に油断はしていないか……)

 

 ゴール前に立つ十六夜の方を見て鬼道は内心で多少残念に思う。それもそうだ。3点差が付いているこの状況で油断してくれればそこが綻びとなる。そうすれば事は進みやすくなるが、生憎カオス側は何点差付いていても満足はしない。最後まで本気でやるというスタンスで行くようだ。

 もっとも誰の影響かは火を見るより明らかだが。

 ただ、それぐらいは計算通りである鬼道。だから後半最初、カオスボールで始まるこの時はある作戦を皆に伝えていた。

 

「ッチ。サイデン!」

「バレン!」

「ガゼル様!」

「レアン!」

 

『おおっと!雷門側徹底した全員守備だ!これではカオス攻めきれない!』

 

 シュートを打たせなければ点を取られることはない。

 ボールを持った選手には当然、前半で点を取っているガゼルとバーンには特に厳しくマークをつける。

 目には目を歯には歯を。カオスが豪炎寺とアフロディを徹底的に抑えるのなら、雷門はガゼルとバーンを徹底的に抑える。

 

(さぁ……攻めてこい!十六夜!)

(明らかに誘ってるなぁ……)

 

 そうすればカオスは自ずと十六夜が攻め上がるしか点を取る手段がない。それが鬼道の作戦だと分かっている十六夜。

 

「分かってるけど……やるしかねぇな!」

 

 罠だと分かっているが敢えて正面から崩しに行こうと考える十六夜。ゴール前から前線へと攻め上がる。

 

「へい!」

「ムーン!」

 

 ボニトナからパスを貰う十六夜。

 

「ここでボールを奪う!」

 

 マークに付いたのは鬼道、一ノ瀬、アフロディの3人。

 

「さすがに突破はきついよな……サトス!」

 

 サトスにバックパスをする十六夜。

 

「来るぞ!円堂!」

 

 サトスはそのまま大きくボールをあげる。

 

「行くぜ!オーバーヘッドペンギン!」

 

 少し距離のあるシュートを放つ十六夜。

 

「止める!正義の鉄拳!」

 

 シュートと拳がぶつかり合う。そんな中、着地と同時に()()()()さらに走って行く十六夜。

 

「おっしゃあ!」

「まだだ!」

 

 勝ったのは円堂。しかし、その弾かれたボールに食らいつこうと再び跳躍する十六夜。

 前半ラストと似たシチュエーションとなる。

 

「頼むぞ!豪炎寺!壁山!」

 

 だが、鬼道の指示で大きく下がっていた豪炎寺と壁山の2人も十六夜に続いて跳び上がる。

 

「行くぞ!」

「はいッス!」

 

 壁山は空中で腹を上に向け、豪炎寺が踏み台にし、速くそして高く跳躍する。

 

「イナズマ落としか!」

 

 空中で豪炎寺たちのしようとしていることに気付いた十六夜。

 ボールに先に到達するのが豪炎寺だと判断すると、ペラーを呼び出し、シュートコースに居座ることにする。

 

「悪いがフェイクだ……綱海!」

 

 空中からオーバーヘッドキックの要領で下にいる綱海へとパスを出す。

 

「おう!」

 

 受け取った綱海。すると背後から大波が現れて……。

 

「ツナミブースト!」

 

 そこをボールをサーフィンボードに見立て乗りこなす綱海。そのままオーバーヘッドキックを放ち、ボールはゴールへと飛んでいく。

 鬼道の作戦、それは十六夜を前線へと釣りだし、綱海のロングシュートで点を取るというもの。ロングシュートを打てるのは十六夜だけではない。しかも、綱海のことを十六夜はよく知らない。

 だから、鬼道は放たれたシュートを見て、点が入ると()()()思っていた。

 

「よっしゃぁ!これで1点や!」

 

 そう。()()()キーパー相手ならこれで得点できるだろう。

 

「まだだ!」

 

 空中にいる十六夜はまだだと叫ぶ。ペラーに乗りシュートを追う十六夜。誰の目から見ても先にゴールに到達するのはシュートだろう。

 しかし、十六夜は諦めていなかった。むしろ口角上がっており、このギリギリの状況に楽しんでいるとさえ思えた。

 

 ピ──!

 

「ミサイルペンギン!」

 

 突如、センターサークル内に現れた十数のペンギン。一斉にシュートへと向かい、少しずつだが威力とスピードを削っていく。

 そして、

 

「オラァ!」

 

 ペナルティーエリア前でシュートに追い付いた十六夜は、踵落としをボールに叩き込み勢いを完全に殺した。

 そう、普通のキーパーならもう諦め案件かもしれないが、十六夜はDFであり、ペンギンを色々な形で使える選手。ペンギンを使ったブロック技を身につけている可能性云々以前に、そもそもシュートをペナルティーエリア内で止めるという考えを持っていない。

 手を使わなくても止められる。今までも発想と本人の能力で止めてきていた男だ。

 

「……アレに追いつくなんてね」

「アイツの判断が早かった。あの場で豪炎寺と打ち合う方に行ってくれれば、間に合わなくて点が取れた可能性があっただろうに」

 

 十六夜に止められて同時に鬼道は思う。

 

(本気で勝ちに来ているな……やはり、点を取るにはアイツを正面から破るのは絶対か)

 

 小細工が通用しない以上正面から崩すしかない。

 後半戦も始まったばかり、試合はどうなっていくのか……。



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雷門VSカオス ~十六夜の弱点~

 後半戦は、十六夜が雷門の奇襲を止めてから動かなかった。

 両チームの攻めの中心となっていたフォワードに厳しいマークが付き、お互いチャンスに恵まれない。

 更に奇襲のお陰かそのせいか、十六夜自身もロングシュートの存在から前に出ることが躊躇う展開も見られ、より一層試合は動かなかった。

 

「どうする鬼道。このままじゃ時間切れだ」

 

 マークの厳しい豪炎寺が鬼道のもとへと作戦を聞きに行く。

 いくらマークが厳しいとは言え、流石に深くまで下がればマークは外される。それは実証済みだった。

 

「僕のヘブンズタイムももう通用しないだろうしね」

 

 一緒に付いてきたアフロディも会話に加わる。

 彼の必殺技──ヘブンズタイムはドリブル技の中ではかなり強い部類に入るだろう。しかし、それを対抗する術──十六夜のイビルズタイムがある以上、前半のようにはうまくいかないのは分かり切っている。

 

「向こうはこちらのことを知っている。対してこちらは十六夜以外を知らない」

「情報から不利だね」

 

 当然と言うべきか十六夜は、雷門側の選手の特徴や使われる必殺技を完璧とは言わないが大体把握している。知らないのは加入して日が浅い者ぐらいだろう。

 だが、今の彼はゴールキーパー。加入した者の中で彼からゴールを奪える可能性があるのは吹雪ぐらいだ。

 しかし、彼のシュートは1回止められている。そもそも今の状態では試合に出ることさえ叶わないだろうが。

 

「いいや。逆に言えば俺たちはほぼ全員がアイツを知っている」

 

 鬼道はそう言う。たった1人とは言え相手の情報を持ち、共有している。

 大きな事とはいえそれが直接点に結びつくかと言われれば疑問が残る。

 

「ハーフタイムも言ったが十六夜は、無敵じゃない。それどころかアイツには大きな弱点が存在している」

「大きな弱点…………あぁ。おそらくだけどアレか」

「それともう1つ。奴の性格を考えればこれで1点取れるはずだ」

「大きな弱点って一体なんだい?彼にそんな弱点があるようには見えないけど」

「弱点と言ったら大袈裟だが、アイツは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ。後半始まってそこそこ経つ。しかしお互い得点なし。

 向こうはこっちのシュートを警戒して守りを固めつつ、豪炎寺とアフロディがいるせいで油断は出来ない。

 理不尽だよなぁ……そこにいるだけで点を取られる匂いがプンプンとする。

 やれやれ。やっぱりキーパーってある意味怖いよなぁ……何というか。

 

「よく、円堂ってあれだけやるわ」

 

 だってあれだよ?この世界何が飛んでくるかマジで分かんないよ?開けてみてのお楽しみというか、ただの恐怖だよ?

 そう思うとつくづく自分はDFの方がいいと思う。まぁ、シュート止めようと行くのは置いといて、ゴールキーパーとフィールドプレイヤーの違いは自由度だと思う。

 イメージと言うよりいくら攻められるからと言って、攻めに行って守らないのはゴールキーパーの仕事を果たしていない。

 オレは割と自由人と言ったらアレだが、ディフェンダーでも攻めるしなんやかんやで動き回っている。ゴールキーパーだとそれが制限される。

 

「そもそもがキーパーに向いていないかもな……というのはいいけど」

 

 向こうの方でアフロディ、鬼道、豪炎寺の3人組が集まっている。ボール?さっきうちのサイデンが蹴り飛ばして、拾いに行っているよ?観客席の方に。

 今思うとあの3人は影山と因縁を持つ者であり、円堂によって救われた者である。

 なるほど。そんな3人が同じチームでこうやって協力してオレから点を取ろうと……ちょっと待て。え?あの結構ヤバい3人が協力している?目標はこのゴール?感慨深いなぁって言ってる場合じゃねぇじゃん。相当マズいじゃん。死ぬじゃん。

 

「……いや、落ち着け」

 

 どうせ来たシュートに対応するしかない。……というかあの3人で連携技的なのあったっけ?いや、ないだろ。

 そう思っていると豪炎寺とアフロディが前線に戻ってきた。特に変化はなさそうだが……あの鬼道が打つ手なしですなんて言わないだろう。それだったらもっと絶望的な顔をするはずだ。

 そんなこんなでゴールキックから試合再開。ボールは土門から壁山、一ノ瀬に渡る。アフロディと豪炎寺が上がってくるもしっかりとマークが出来ている。問題はない……よな?

 そしてボールは鬼道へと渡り、

 

「イリュージョンボール!」

 

 必殺技を使いバレンを抜き去って、

 

「行くぞ!」

 

 ボールを大きくあげた。そのボールはゴール前の高い位置……!

 

「アフロディだ!」

 

 そのボールに純白の羽を出しながら食らいつくのはアフロディ。シュート体勢に入ったところをアイキューとアイシーが跳び上がって阻害する。

 

「そう来ると思っていたよ!」

 

 アフロディはそのボールを更に上へと蹴り上げる。

 嘘だろ?シュートを打たずに上へと蹴った?そこには誰もいないし、そんなところ誰も到達できない。落ちてくるのを待つしか……!

 

「壁山!」

「はいッス!」

 

 ボールが最高点に到達した瞬間、ボールに向かって跳び上がる2人の影が。

 

「今度こそイナズマ落としか!」

 

 同時にサトスも跳び上がるも空中で壁山を土台にして更に高く跳び上がる豪炎寺には届かない。そこから豪炎寺は炎を足にまとわせ回転し……

 

「ファイアトルネード!」

 

 普段より遙か高い位置からのファイアトルネードを放つ。

 クソ!そっちかよ!だが、止められないと決まったわけじゃ……?ちょっと待て!あの軌道だとゴールに到達しないぞ!アレだとペナルティーエリア手前ぐらいに落ち……!

 

「ディフェンス!鬼道だ!」

 

 咄嗟にディフェンスに指示を出す。しかし、その瞬間。オレは気付いてしまう。

 サトスは豪炎寺たちと跳び上がったため壁山と共にまだ空中。アイキューとアイシーはアフロディに付いており、アフロディはゴットノウズもどきの後にサイドまで走っていたためセンターで鬼道がフリーという事態。しかも誰もマークに行けないというより間に合わない。

 

「ツインブースト!」

 

 ファイアトルネードとツインブーストの組み合わせ。それは世宇子戦で見たそれよりも威力が高く進化していた。

 

「クソっ!」

 

 ペンギンを呼ぶには指笛をする必要がある。だがボールは目と鼻の先。呼び出すことも叶わない。ペラーを出してもアイツが他のペンギンを呼び出すのにわずかとはいえ時間がかかる。

 一矢報いる……という言い方はおかしいが足掻くため、止めようとするために両手を突き出す。

 次の瞬間両手を伝い凄まじい勢いが全身を襲う。

 力を入れ耐えようとするもボールの勢いにより、抉られる地面。そして、

 

「ぐぁあああああああ!」

 

 身体ごとゴールに叩き込まれた。

 

『ゴォールッ!雷門の鮮やかな連携!後半も半分が過ぎようとしたところで雷門が1点返した!これで2点差だぁ!』

 

「ははっ。やられたな……完全に」

 

 ディフェンスをアフロディが誘導して釣りだし、全員の視線を豪炎寺に集めさせた上で、鬼道による連携シュートかよ。一本取られた……ってところじゃないだろうな。

 

「大丈夫か?」

「悪い。完全に出し抜かれた」

 

 ガゼルとバーンによって差し出された手を取り立ち上がる。

 

「気にすんな!俺たちが点を取ってやるからよ!」

「ああ。次は私たちの反撃だ」

「バーン……ガゼル……よし。取り返していくぞ!お前ら!」

「「「おう!」」」

 

 いい空気だ。やっぱりこれがサッカーだよな。間違っても片方のチームがダブルスコアで、相手を怪我させて圧勝するものじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦成功だな。鬼道」

「ああ」

 

 鬼道と豪炎寺の気付いていた十六夜の弱点。それは初見の必殺技への対応力の低さだった。十六夜は、初めてその必殺技を見たとき動きが停止し判断が遅れる。技を分析しようと細かく見ているために起きる現象と2人は考えたが、実際は非現実的な光景に驚き、目を逸らし、ツッコミを入れているためなのを2人は知らない。

 

「なるほどね。細かく分析してしまうからこそ、必殺技の中にイレギュラーが混ざると弱くなってしまうんだね」

「ああ。後半最初も、壁山と豪炎寺が跳んで壁山を踏み台にしただけで、イナズマ落としを警戒していた。それ以外の可能性を考慮できていなかったのか、反射的に構えてしまったのかは分からないが」

 

 それが性格的な意味での弱点だと鬼道は言う。

 必殺技を分析し対応が出来るのは美点だが、分析しすぎたあまりに必殺技の中のイレギュラーに弱い。

 

「ただ奴は2度も同じ手が通用するほど簡単な相手ではない。もう1度同じパターンをやれば対応はされてしまうだろう」

「御影専農みたいだな。徹底した分析から確実なルートを探し出す」

「いいや。アイツらよりも厄介だろう。分析の精度は機械を使わない以上劣っているが、反面その場の対応力は遙かに勝っている」

「そうだよね。分析と実行を同時に行えるタイプだから尚更厄介だ」

 

 彼を表すなら司令塔と行動役、2つを兼任してしまえるタイプ。言わば万能なのだ。

 

「でも、何だかいい雰囲気だよな。カオスって」

 

 と3人の会話に円堂が混ざってくる。

 

「雰囲気?」

「ああ。何というか、アイツら心の底から楽しんでいる気がする」

「楽しんで……か」

 

 円堂がそう言うと、3人も自然と笑みがこぼれる。

 

「確かにな。アイツらからは、イプシロンとやった時以上にサッカーに対する熱さをチーム全体から感じる」

「そうだね。僕も彼らとやるのは楽しくてしょうがない」

「ある意味アイツが敵でよかったかもな」

 

 雷門全体を見ても雰囲気は重くなったりしていない。最初こそ十六夜が敵だと言うことに戸惑いがあったものの、今はそれ以上にこの試合に対して熱くなっている。

 

「次こそアイツらのシュートを完璧に止めてやる!絶対点は入れさせない!」

「俺たちもアイツから点を取っていくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 4ー2。雷門にとって順調な滑り出しで始まった試合後半。

 しかし、十六夜の弱点があるように、雷門の弱点が見えてくるのだった。




十六夜がカオスをサッカーバカに染め上げる。
十六夜は強く円堂のサッカーバカの影響を受けていた。
故にカオスがサッカーバカっぽくなっているのは円堂が原因。
ヤバいな……さすが原作主人公。
次回、決着(予定)。


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雷門VSカオス ~決着~

 雷門が得点を決めて2点差と迫られるカオス。

 

「彼ら。楽しそうだね」

 

 隣に立つグランがそう言ってくる。

 

「フン。勝てなければ意味はない」

 

 だが、理解が出来なかった。カオスが楽しそう?先ほど失点をして差を詰められたのに?後半に入ってまだ得点を挙げていないのに?

 

「おっと。君は気付いていたと思うんだけどな。彼のおかげで」

 

 そう言って指さすのはゴール前に立つ1人の選手──ムーン。

 あの男は……いや、あの男と雷門の面々がこの試合を盛り上げている。互いが互いに楽しく、熱く、激しい試合をしている。

 確かに私もムーンを見ていると、心の中に熱くなっていくものを感じる。

 ただ、最近の私はそれ以外にも色々なことを思ってしまっている節がある。

 

「そんなもの不要だ」

 

 だが、どれもお父様の計画を完遂するためには不必要。一言で言うなら邪魔なのだ。

 そんなものを抱いてもしょうがない。

 アイツの力は我々に必要で、私のこの感情は不必要。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「ねぇウルビダ。君は誰の味方になるつもり?」

 

 グランからの質問。コイツが急に意味ありげなよく分からない質問をすることは慣れている。ただ、今回に関しては何の意図があるか一切分からない。誰の味方?そんなの決まっているじゃないか。

 

「お父様に決まってるだろ?」

 

 そう言うとグランは笑ってみせる。

 その笑いはやっぱりという意味か何の意味かは分からない。

 ただ1つ言えるのは、今はコイツにかまってる場合じゃない。そう思い直して、私は試合を見ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合残り10分を切っただろうか。

 試合はあれから4ー2の状態。つまり、逃げ切れば勝てる。

 だがそんなのははっきり言って面白くない。

 最後の1分1秒まで何が起きるか分からない以上1点でも多く取りに行く。

 だから──

 

「出し惜しみなしだ。バーン!レアン!ボニトナ!」

「アレか!」

「分かったわ!」

「了解!」

 

 ──だから遠慮なく技を使わせてもらうことにしよう。

 レアンとボニトナがセンターライン付近で、人が2人入るか入らないかくらいのスペースを間に空けて横並びに立っている。

 後は……

 

「ガゼル!サイデン!バレン!」

「分かってる。行くぞ!」

「「おう!」」

 

 ボールはサイデンからバレンまたサイデンと2人でパスを回して翻弄する。その間に、バーンがレアンとボニトナの間に入り、ガゼルはディフェンダーを引きつけながら中央からサイドへと走る。

 

「行くぞ!」

「ディフェンス!来るぞ!」

 

 そしてゴール前まで2人が走るペースが出来た瞬間、レアンとボニトナはダッシュ。同時にボールはサイデンから一旦アイキューに戻し、バーンへと渡った。

 2人が走った跡から炎が現れ、炎の壁が形成される。その中をバーンが突き進み……

 

『フレイムロード!』

「な、何だコレは!」

「近付けない!」

 

 鬼道と一ノ瀬がバーンをマークしようと左右から向かうも炎の壁を前に弾かれる。

 

「ここだ!」

 

 この技左右からは強いが生憎炎の壁には終わりがある。言ってしまえば出口から入ればいいのだ。その事を察したのか土門が入っていく……が。

 

「くっ!キラースライド!」

 

 問題は左右のスペースが狭すぎて技を思うように撃てない。

 

「はっ!」

 

 バーンは跳んで躱す。そして、

 

「行くぜ!」

 

 ボールを空高く上げ、自身も跳躍し、

 

「アトミックフレア!」

 

 必殺技を放った。このまま行けば得点だ。

 

「もう点はやらない!絶対に止めてやる!」

 

 脚を高く振り上げ、溜を作った後に振り下ろす。何度も見て、この試合だけでも何度も破った必殺技。

 

「正義の鉄拳!」

 

 しかし、先ほどまでと違い威力の上がった正義の鉄拳。進化したそれはバーンの必殺技を弾き返した。

 

『おぉっ!何と円堂!正義の鉄拳を進化させバーンのアトミックフレアを打ち破った!』

「よっしゃぁ!」

 

 弾かれたボールは塔子が取る。

 流石……としか言いようがねぇな。この試合だけで進化させやがった。アレを打ち破るには、バーンとガゼルのあの技か?いいや、純粋にオレの技でも打ち破ってみたい。だが、時間は刻一刻と終わりに近づいている。もっと余っていればその願いも叶えられただろうか。

 雷門側を見るとこちらの攻撃が不発に終わった直後。オレ以外の誰もが決まると思っていたために反応が遅れる。つまり、向こうにすれば絶好の機会。こっちにすれば絶体絶命。

 

「今だ!点を取るぞ!」

「「「おう!」」」

「ここ1本止めるぞ!ディフェンス!」

「「「分かった!」」」

 

 ディフェンスはより一層厳しく当たって行き、中々もう1歩攻め込めずに居る雷門。そうこうしているうちに時間だけが過ぎていく。

 焦る雷門。だが、焦っているのはこっちも同じだ。なぜか?単純だ。前半は点を決めれたのに後半は無得点。後半だけで見たら雷門に負けている。

 だから、両方とも点が欲しい状況なのだ。

 

「こっちだ!」

 

 ボールを要求したのは……円堂!?

 

『な、なんと!このタイミングで上がってきたのは円堂だぁ!雷門!全員攻撃で点を取りに行く!』

 

 これって、千羽山の時みたいだなぁ……って言ってる場合じゃねぇ。円堂の攻めは予想外すぎる。そのせいでこっちの反応がまた遅れた。

 

「鬼道!」

 

 すかさず鬼道にパス。パス後もそのまま上がっていく。

 

「行くぞ!豪炎寺!円堂!」

「「おう!」」

 

 鬼道を中心にその斜め後ろに豪炎寺と円堂が走って行く。アレはイナズマブレイクか!

 ボールをあげる鬼道。

 

「させるかぁっ!」

「「「なっ……!」」」

 

 イナズマブレイクを撃たれたらどのみち止められねぇ。だったら撃たせる前に取るしかねぇだろ!

 

『な、なんと!ボールを取ったのは十六夜だぁっ!あぁっと!雷門のゴールがガラ空きだぁ!』

 

 よし、このまま攻めれば……!

 

「円堂君戻れ!早く!」

 

 目の前に現れたアフロディ。彼を抜き去るのには時間がかかる。だから……!

 

「こっちだ!」

「ガゼル!」

 

 マークを外したフリーのガゼルへとパスを出す。そして、ボールはアフロディを抜き去ったオレに帰ってくる。

 

「アレをやるぞ。ムーン」

「ああ、あの技か」

 

 確かにこのまま攻めると円堂がゴールへと戻ってしまう。そうなれば折角のこの得点の機会を奪うことになってしまう。だから、

 

「合わせろよ」

「そっちこそ」

 

 だから、ここからシュートを打ってやろう。

 オレはすぐさま皇帝ペンギンO改の体制に入る。それと同時にガゼルもシュート体制に入ったようで、辺り一帯には冷気で満たされ、背後にはオーロラが見える。

 

『皇帝ペンギンT(トゥルー)!』

 

 皇帝ペンギンO改を撃った直後に、ガゼルがノーザンインパクトをチェインすることでの連携技、皇帝ペンギンT。ペンギンたちは白く染まり、1匹1匹が冷気をまとっている。

 だが、何故このシュートを今選んだか?

 

「な、何だあのスピードは!」

「は、速すぎるッス!」

「円堂!」

 

 このシュート。威力はそこまでなのでさっきの進化した正義の鉄拳なら止められてしまうだろう。だが、スピードは随一のもの。この圧倒的スピードを誇るシュートは円堂より速くゴール……いいや、ゴールより手前のペナルティーエリアに到達するだろう。

 走っていた円堂は、仲間からの指示もありすぐさま反転し、正義の鉄拳を放とうと脚を高く振り上げ素早く振り下ろし、

 

「正義の鉄け──」

「ダメだ!ペナルティーエリア外だぞ!ハンドになる!」

 

 拳を突き出そうとしたところで、鬼道の言葉により踏み止まる。……というかこの世界にもハンドって概念はあったんだね。いや、ファールって概念が限りなくゼロに近かったからハンドもないかと思っていたよ。

 そうしている間にもシュートは円堂の方へと行き……

 

「たぁああああああああっ!」

 

 円堂はボールに頭突きをかました。

 …………いや、タダの頭突き。さすがにただのヘディングじゃあ止められんだろうコレは。

 

「うわっ!?」

 

 すると円堂の頭から()()()()()()

 もう一度言おう。円堂の頭から正義の鉄拳の小さい版が出て来た。

 

「何!?」

「バカな!」

「はぁぁああああっ!??」

 

 いやいやいや!何で頭からあんなのが出てきているの!?意味分かんねぇよ!というかアレ、ハンドじゃねぇのか!?……え?審判さん何だって?何々?頭から出たからハンドじゃない?あれはヘディングだ?

 

「いいのかそんな理屈で!?」

 

 明らかに手の形してたろ!?下手したらガニメデプロトンと同じくらい厳しいぞアレ!?

 

 ピ、ピ──

 

 と、ここで試合終了。

 え?最後……あ、得点にはならない?ですよね。知ってた。

 

「まさか、あんな技を使ってくるとはな」

「円堂守。底知れないやつだ」

 

 終わってみれば勝てた……が。後半はこちらのペースに雷門も付いてきたようだ。どこまでも強くなっているなアイツら。

 

「よし。帰るか」

 

 いつものごとくエイリアボールで帰ろうとする。

 

「十六夜!」

 

 ……と、呼び止められた。

 

「……何だよ円堂」

「お前が何で敵に回ったかとかは分からない。でも!これだけは言わせてくれ!」

 

 そう言ってオレの目を見て円堂は言葉を紡いだ。

 

「いい試合だった!またサッカーしようぜ!」

 

 思わず笑みがこぼれてしまう。他の奴らを見てもどこか楽しそうな感じがして……

 

「またな」

 

 オレたちは光に包まれ、帰って行った。

 

「よし!皆!次は勝つぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 試合後の雷門は試合に負けた絶望はなく、純粋に次への期待が高まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ムーン。サッカーって胸を熱くしてくれるんだな」

「この感じ久しく忘れていたぜ!思い出させてくれてありがとな!ムーン」

「いいや、オレじゃない。円堂の力だよ」

「フッ。次も勝ってみせる」

「俺もやってやる!」

「我々の本気を見せてやろうか」

「そして、雷門に勝つんだ」

 

 オレたちの中に湧き上がるこの熱。

 だが、彼らは忘れていた。自分たちはあくまでエイリア学園。サッカーは計画のための手段でしかないことを……。




おぉ……半分くらいオリジナルのカオス戦。まさかの6話分で過去最長(オーガを除く)。
ま、まぁ……試合以外の描写もあったりしたしこんなもんか……ジェネシス戦どうなるんだろうか。
ちなみに今回出て来た皇帝ペンギンTは志ノ乃様から頂きました。ありがとうございます。
今後も皆様から頂いた必殺技も少しずつ出て来ます(さすがに一辺に出すと十六夜の強化がヤバいことになる)。
あ、ちなみにまだまだ必殺技は募集していますので。
後は下に解説(一部簡略化等)を載せておきます。いつものあれです。では。

オリジナル技解説
皇帝ペンギンT(トゥルー)
属性 風
シュート技 (ロング)
二人技 パートナー氷技使い(吹雪、ガゼル、……)

背景がオーロラっぽくなって、ペンギンの色は白くなる。冷気をまとった皇帝ペンギンO。威力は他のペンギン系合体技に劣るがスピードは随一。

ところで話は変わりますがTwitterってあるじゃないですか。
今まで使ったことないけどあれで告知……ではないけどそういうのやった方がいいのかな?二次創作用のアカウント作って。
皆様どう思われます?感想欄だと面倒なことが起きると思われるので、後は活動報告にて。興味ない方はスルーでOKです。

活動報告URL
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=236583&uid=129451


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病を看るから看病である

 それはカオスVS雷門の試合が終わってからだった。

 オレは未だに燻るこの熱を抑えきれずに、ウルビダに特訓に付き合ってもらうよう打診した。

 彼女は(何故か)頬を紅くしながら承諾した。

 そう、ここまではよかったのだ。ここまでは。

 

「……ん?」

 

 どこか、いつものウルビダと違う。何というか……

 

「行くぞ」

 

 受け取るパスもいつものような強さはなく弱い。それだけでなくコントロールも悪い。……何かがおかしい。

 

「ウルビダ」

「何だムーン……次行くぞ」

 

 既に疲れた感じを見せる。普段の彼女ならば、こんな軽いウォーミングアップだけでここまでは疲れない。明らかに変だ。…………ふむ。

 

「ちょっといいか」

 

 オレは彼女に近付き額に手を当てる……

 

「い、いきなり何をする!」

 

 普段の彼女ならもっと素早く反応出来たのに遅い。それに掌に伝わるぬくもりというか暖かさ……これは。

 

「お前……熱があるんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言いましょう。ウルビダさんが風邪を引きました。

 原因?簡単に言うと無理のしすぎだって。え?じゃあ、無理しかしてないオレって……あ、神様がきっと風邪を引かないような身体にしたんだろう。うん。そうだねきっと。だから滝に打たれて全身ずぶ濡れで一晩外で上裸で過ごしても風邪なんか引かない体質に……おいバカって言ったやつ前に出ろ。バカは風邪を引かない?あれは違うわ。バカは風邪を引いたことに気付かないんだよ。あれ?じゃあ、円堂は皆勤賞しか獲ったことないって言ってたから、正真正銘のバカでは?おぉ、なるほど。確かにあの熱血さなら風邪を引いたことに気付かない以前にウイルスとか菌をあの熱で燃やしてそうだなぁ……。

 

 閑話休題。

 

 話がそれた。うん、確か神様ってすごいって話だったね(違います)。そういや最近神様に電話することなくなったなぁ……まぁいいか。ここで暮らしていくのにいつまでも神様にすがっていてもどうしようもない。オレはオレのやりたいようにする。すなわち──

 

『さっきから現実から目を背けようと必死だね。綾人』

 

 ──必死?必死って何のことだいペラー君。言いがかりはよしたまえ。

 

『いや、姉御の部屋で2人きり。しかも、姉御が今後ろで着替え中だからって……』

 

 あああああああ!それを思い出させるなバカ!仕方ねぇだろ!?こうでもしてないと、後ろで着替えているウルビダの衣服のすれる音とかが気になってしまうんだから!

 

『綾人も男の子だったんだね……』

 

 おいこの野郎。どういう反応だコラ。

 

『てっきり綾人はサッカーしか興味がないかと』

 

 他にもあるわ!女子にも興味があるわ!

 

『特に姉御には興味津々?』

 

 ……うるせぇ。

 

「……もういいぞ。振り向いても」

 

 そう言われたので振り向くと、布団を被って目元当たりだけを出しているウルビダ。

 あ、あれ?おかしいな。ウルビダってこんなに可愛かったっけ?

 

『姉御は喋らなければ美人だよ』

 

 だよな。喋ると残念さが垣間見られるよな。

 

『そうそう。本当にもったいないよね』

 

 うんうん。

 

「…………さっきから悪口を言ってないか?」

「何も言ってないよ?」(察しが良過ぎじゃね?)

「……そうか」

 

 あぶね、今回はごまかせた……のはいいんだけど。ああどうしよう。いつもにしては珍しい、なんともいえない沈黙が流れているんですけど……。

 何となく気まずくなって部屋を見渡してみる。ウルビダの部屋は一言で言えばシンプル。全然ごちゃごちゃしていない。

 

『ねぇねぇ綾人。これ、前綾人があげてたやつでしょ』

 

 ああ、お前のぬいぐるみか。大切にしてくれているんだな……って何でお前が知ってるんだよ。

 

『そりゃあ、綾人の事は何でも知ってるからね』

 

 おっと?プライベートの侵害か?……まぁいいや。

 そして、視線を移すと勉強机の上には2つの写真が立てられていた。1つは幼い頃のウルビダ……八神を含めた、お日さま園での写真。皆、笑顔が見られる。もう1つは……

 

「…………それは私の本当の両親だ」

 

 オレの疑問に答えてくれるウルビダ。いや、あなた凄いですね?何でオレの思考が読めたの?

 

「…………両親は……確か……」

「…………ああ。私が小さい頃に亡くなったよ」

 

 エイリア学園に居るオレ以外の選手たちは全員が全員、お日さま園という孤児たちの施設出身だ。主に2つ。両親が死んだか捨てられたか。

 

「…………お日さま園に来たばかりの私はすぐに泣いていたそうだ。両親のことで哀しみがあった」

「…………仕方ねぇだろ」

 

 まだ幼いんだ。両親が死んで悲しくなかったなんてよほどの事がない限りあり得ないだろう。

 

「…………でもお父様は私を──私たちを受け入れてくれた。サッカーボールをくれたり勉強を教えてくれた。私はそんなお父様について行きたい。この計画もお父様はきっと正しいと思うから付いてきている」

「……そうか」

「…………お父様から聞いた。お前も両親がいないって……すまない。勝手に聞いてしまって」

「……いいよ。調べりゃ簡単に出て来る」

「……なぁ、ムーン。いや、十六夜……私は怖いんだ」

 

 震える手をこちらに差し出す八神。

 

「……おかしな話だと笑ってくれ。私は怖いんだ……お前が、十六夜が目の前からいなくなることを」

「…………っ!」

「ずっとそばにいて……」

 

 差し出された手。しかし、こちらが取る前に引っ込め、そのまま反対側を向く八神。

 

「……今のは忘れてくれ。いや、絶対に忘れろ。いいな?」

「分かったよ」

「約束だぞ?」

「へいへい」

 

 まぁ、そんなに言われても絶対忘れるつもりはないけど。

 

「それと部屋に戻れ。お前もうつりたくはないだろうし練習もしたいだろ。こんな私に構うな」

「いや。オレは大丈夫だ。看病ぐらいさせろ」

 

 オレは椅子をベッドの横に持ってきてそこに座る。

 コイツが風邪を引いた原因の一端はオレにもあるだろうからな。それにこんな状況じゃ誰も看てくれるやつなんていない。それはさすがに可哀想ってものだ。

 そして、八神の頭をなで始める。

 

「……ありがとな」

 

 程なくして眠りについた八神。

 

「……ごめんな」

 

 オレは謝った。その声が彼女に届いていないと知っていても。

 お前はオレを同じような境遇を持つ仲間と思うだろう。でも本当は違うんだ。本当は逆なんだ。オレが両親の前から消えた存在なんだ。

 

『綾人……』

「……ペラー。オレは改めて決めたよ」

『……うん。オレはそれに付き合うよ』

 

 八神。オレはお前のそばにいる。…………だから、

 

「…………ごめんな」

 

 これはオレのワガママで、正しいかは分からない。

 だが、この先どうなろうとオレはこの道を進んで行く。

 もう迷わないし引き返さない。

 例え誰が敵として立ちはだかろうとオレは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして終幕へと物語は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜が決意を固めた頃、他の場所でも同じように動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おいバーン。この通知を見たか」

「ああ。クソっ!なんでガイアが正式にジェネシスの称号なんだ!」

「……なぁバーン。1つ提案をしていいか?」

 

 動き出すガゼルとバーン。

 

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス計画も大詰めですね」

「えぇ。最終段階ですね。準備はもうまもなく終わります」

 

 最終段階へと移行する計画。

 

(私の方も少しずつピースは埋まってきています。あと少し……)

 

 潜む野望。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、雷門側でも大きな動きを見せていた。

 

「円堂君」

「はい!」

 

 アフロディを新たに加えた雷門。

 

「貴方にはゴールキーパーをやめてもらうわ」

「…………え?」

 

 キャプテン円堂に重大な宣告が言い渡されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべての決着が付くまで後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時系列云々はダイヤモンド戦がカオス戦に変わったために起きたものと思ってください(一応)。
思い切りタイトル詐欺をしていたような……そうでもないような……。


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雷門VSネオ・カオス ~宣戦布告~

「グラン。聞きたいことがある」

「何だい?ムーン」

 

 ウルビダが倒れてから数日が経過したある日の昼頃。

 あれからウルビダは体調をしっかり整えることが出来た。

 そして、心配があったため治った後も二、三日は様子見という名目で彼女のストッパー役になっていた。……まぁ、彼女を無理させなければいいだけで、オレは無茶ぶりの連続だったんだけどな。あと、ペラーが何かサングラスを掛けて『スナイパーってかっこよくね?』とか言い出したけど知らん。

 で、いろいろあって日は結構空いたがオレはグランにある話を聞くために、彼の元を訪れていた。

 

「ジェネシスについてだ」

「なるほど。ちょっと長くなりそうだし、外に行かないかい?」

「いいよ。任せる」

 

 そうしてオレたちはエイリアボールで場所を移動する。

 着いた所は…………

 

「帝国学園……?」

「ああ。ちょっと彼らの様子でも見ながらと思ってね」

「ん?彼らだと?」

「雷門さ」

 

 ああ、そういうこと。…………ってアイツら今帝国学園にいるのかよ。というかよくその事知ってたなお前。

 

「研崎さんの部下の方が言っててね」

 

 ……見張りか?…………???よく分かんないけど……まぁいいか。

(勝手に許可もなく)グラウンドの観客席へと向かうオレたち。

 

「帝国学園と雷門が練習試合をするのか?」

 

 いや、よく見ると少し違うな。円堂、鬼道、土門が帝国側に居る。

 

「どうやら俺たちが見ていない間に雷門は大きく変わったようだね」

「そうみたいだな」

 

 ぱっと見、アフロディが正式加入、円堂のポジションチェンジ、立向居がキーパーってとこか。何というか……新鮮だな。

 

「…………ちょっと残念かな」

「残念?」

「何でもないよ。で、ジェネシスについての話だったね」

 

 試合開始のホイッスルが鳴る。練習試合を尻目にこちらは話を進めるか。

 

「ああ。まず、あの人は何を基準にカオスではなくガイアをジェネシスに正式に決定した?」

「まぁ、ガイア所属でありながらカオスに力を貸していた君ならではの質問だね。何でだと思う?」

「いや、質問を質問で返すなよ」

「でも君は先日の試合で答えを出した。そのまんまだよ」

「……本当にそれだけか?オレが居て貢献していたからという理由だけなのか?」

「ははっ。君はガイアでもカオスでも選ばれるのはどちらでもいいとか興味ないとか言ってなかったっけ?」

「あの時は試合中で燃えてたからな。そんなことに思考割くのがもったいなかったんだよ」

 

 まぁ、今も大して興味はないが、両方の努力とか実力を知っている分少し気になったのが本音だ。

 

「そうだね。ヒントをあげよう。お父様はあの試合をご覧になって俺たちガイアに称号を渡した」

 

 ……そこまでヒントになってないだろ。というか、またオレが答えるのか。

 でも、言われてみればそうか。オレが居たからというのも試合を見ていなければ理由には出来ない。ただ、それだけでは違うだろうな。だって、オレがガイア所属でもカオスでプレーするのがマズければ最初からオレにお達しが来るはず。いや、そもそもダイヤモンドダストとプロミネンスが一つのチームになる時点でアウトなはず。

 つまり、オレが居たからと言うのは理由の一つであって大きくはない。もっと別の何かがあるはずだ。

 

「……ああ、そういうこと」

「分かったかい?」

「大前提だが、ジェネシスの称号は最強のチームに与えられるものって認識でいいよな?」

「その通りだよ」

「なら話は簡単だ。カオスは負けたからな」

「どういう意味で負けたのかな?」

「試合としては4ー2。でも後半戦だけなら0ー1。負けているんだよ雷門に」

「正解だよ。ジェネシスの称号を持つチームは最強でなくてはならない。カオスは試合に勝っていても後半は負けていたに等しい」

「最強のチームならば後半も圧倒していたはず。故にカオスはふさわしくない」

 

 完璧とまでは行かないが分からなくはないロジックだ。無理矢理さもそこまでない。

 

「それに加え、攻撃特化のカオスが後半無得点だったというのも関わっているだろうな」

「その通りだね」

 

 チームカラーと言ったらあれだが、チームも攻撃特化、バランス型、守備特化などあるが、攻撃特化が点を取れなくては話にならない。

 つまり、この前の試合。選手にとっては楽しく、熱く、互いに健闘したいい試合。

 でもエイリア学園の上からしたらジェネシスを見極める試合。

 試合に勝って勝負に負けた的な感じか。

 

「じゃあ、君の来るであろう次の質問に応えておこう」

「どうぞ」

「君は正式にジェネシスのメンバーに選ばれている」

 

 ……なるほどなぁ。

 

「よく聞きたいことが分かったな」

「この流れで君がする質問はこれだと思ってね」

 

 読まれていた……というより分かりやすかっただけか。

 そう思い手すりに肘をかけながら試合を観戦する。

 

「面白いことやってるんだね。彼ら」

「そうだな」

 

 円堂、鬼道、土門の三人が帝国学園のデスゾーンを練習している。一方の立向居も何かしらの技を出そうとして奮闘している。

 

「…………ん?」

「どうしたんだい?」

「いや、ちょっとな……」

 

 立向居の方は……正直何がしたいか、完成形が見えないから何も言えないけど。問題はデスゾーンを打っている三人だ。動きは帝国が撃っているのを見た記憶と照らし合わせても遜色ない。

 しかし、デスゾーンは途中でパワーを失ってしまっている。

 

「気になるかい」

「お前もだろ」

「まぁね」

 

 何度もデスゾーンに挑戦する三人と新必殺技にチャレンジする立向居。

 デスゾーンのタイミングは完璧なのに何故発動しないのか……ん?完璧だと?

 

「あぁ。そういうこと」

「何か分かったのかい?」

「円堂たちが挑戦してる技が何故成功しないかがな」

「へぇ。それは何で?」

「あの技で重要なのは三人の回転とかのタイミングなんだよ」

「見た感じ三人とも息ピッタリだと思うけど?」

「そう。確かに完璧に見える。だがあのタイミングじゃないんだよ」

「……どういうこと?」

「あのタイミングは帝国学園の選手たちが打つ時に最適なタイミング。だから、雷門が打つ時に最適なタイミングとは限らないんだ」

「なるほど……打つ選手、打つチームが違えば同じ合体技でもタイミングはズレるわけだね」

 

 成功していない要因はこれだろうな。これ以外の可能性も一応はあるが、今言ったのが的を得ている気がする。

 

「帰るか」

「もう少し見ていかなくてもいいのかい?」

「必要ねぇよ。というかお前が勝手に連れてきたんだろうが。バレる前に帰るぞ」

「そうだね。バレると厄介だからね。十六夜は特に」

「お前もな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷門、帝国両チームの誰にも知られずにムーンとグランが試合を見て帰った後、鬼道、土門、円堂はデスゾーンを完成させることに成功した。

 そしてその先の必殺技を完成させた三人。そのタイミングで空からボールが降ってきた。

 落下と同時に紫色の煙が立ち込める。

 

「これは……エイリア学園!」

 

 煙が晴れたとき、そこには……

 

「「我らはネオ・カオス」」

 

 バーンとガゼルをはじめとした11人の選手が立っていた。

 

「バーン!ガゼル!」

「雷門よ。我らネオ・カオスの挑戦を受けよ!」

「宇宙最強がどちらか証明しよう!」

「くっ……」

 

 高らかに宣言するガゼルとバーン。

 

「ネオ・カオスだと?前はカオスだったような……」

「アレはあくまでバックアップ。ベンチメンバー中心で戦っただけだ」

「そしてネオ・カオスこそが本命。最強メンバーのみで構成されている」

 

(ベンチメンバー中心であの実力だと?いや、それよりもネオ・カオスのメンバーの中に十六夜の姿がない……一体どういうことだ?)

 

 鬼道は一人、ネオ・カオスのメンバーを見て疑問に思う。そう、この中には十六夜がいないのだ。

 

「試合は二日後。場所はここ帝国学園スタジアム」

「もし受けなければ無作為に日本中にこのボールを蹴り付けるだろう」

 

 そう言い残し煙に包まれるネオ・カオス。次の瞬間には、彼らの姿は消えていた。

 

「カオスを超えるネオ・カオス……」

「一体、どんな強さを持つチームなんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして試合の旨は瞳子監督にも伝えられた。

 

「カオスを超えるネオ・カオス……」

 

 試合は二日後。

 新体制となる雷門と前回よりメンバーが一新されたカオスの戦いはどうなっていくのか……。




カオスの一個上の名前の案が思いつかなくてネオ・カオスになりました(なおメンバーは本来のカオスの模様。ややこしいなぁ)。
あまりにも不評だったら変えます(変える代わりに案を私に下さい……)。


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雷門VSネオ・カオス ~開戦~

Twitter始めました。
URL等は作者のマイページに貼ってあるのでそちらからどうぞ。


 試合前日の夕方。綱海、円堂、豪炎寺、鬼道の四人は鉄塔広場に集まっていた。

 綱海と豪炎寺の二人が木に吊してあるタイヤで特訓(?)している中、その様子を見ながら円堂と鬼道の二人は話していた。

 

「なぁ円堂。グランのことだが」

「グラン?ヒロトのことか……」

「お前はアイツのことどう思う?」

「どう思うって…………分からない」

「そうか……」

「ただ…………いや、分からない」

 

 珍しく歯切れが悪そうに答える円堂。その様子を見て鬼道は次の質問をする。

 

「なら十六夜のことはどう思う?」

「…………」

 

 少しの沈黙の後、円堂は答えた。

 

「……アイツさ。ずっと一緒にサッカー部でやってきてたんだよ。今年からじゃなくて去年からずっと。フットボールフロンティアでもさ。アイツにはずっと支えられてきて、一緒に楽しく、熱いサッカーをして、結果的に勝つことができた。中学からだったけどサッカーをやってきて……アイツのことは分かっているつもりだった」

 

 夕陽を見ながら話す円堂。

 

「何かさ、エイリア学園が来てからアイツのことが分からなくなったんだよ。最初に離脱するし。そう思えば敵として現れるし。全然分からないよ」

 

 ははっ、と少し笑ってから続けた。

 

「そりゃあ福岡であんな形で再会したときはすげぇ落ち込んだよ。今までずっと一緒だったやつが敵で、もしかしたら、今までずーっと騙されてきたんじゃないかって。そう思うと余計に苦しくなった」

「円堂……」

「でもさ。俺は信じることにしたんだ。アイツ自身というか、アイツとやって来た今までのサッカーを。この前のカオス戦すげぇ楽しかった。十六夜もすげぇ楽しそうだった。きっとアイツのしたかったサッカーができていたからだと思う。だから、俺はアイツを、アイツのサッカーを信じる」

「それが敵として戦うことになってもか?」

「ああ。例え敵として戦うことになっても、アイツは何かアイツなりの考えを持ってやっている。間違ってもエイリア学園に操られているわけじゃない。だったら俺はアイツと正面からぶつかってやる」

「……なぁ円堂。アイツはおそらく──」

「おい!なぁにそこでゴチャゴチャやってるんだよ!お前らも来いって!」

 

 と、ここでタイヤの上に乗りながら綱海が二人に声をかける。

 

「よぉし!俺もやるぞ!なぁ!鬼道!」

「……あぁ」

 

(アイツのサッカーを信じる……か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして試合当日。雷門中メンバーはグラウンドでウォーミングアップをしていた。

 帝国学園の選手たちは観客席から見守ることにしたようだ。

 円堂、鬼道、土門はデスゾーン2をチャンスがあれば打とうと気合いを入れる。

 キーパーを任された立向居は緊張しているようだが綱海の声かけで少しはほぐれた様子。

 そんな中、帝国学園スタジアムの中央付近に空から赤と青の混ざったボールが落ちてくる。

 

「来たな」

 

 煙が晴れたときそこにはネオ・カオスの11人が立っていた。

 

「円堂守!宇宙最強のチームの挑戦を受けたことを後悔させてやる!」

「前と同じチームと思うなよ?コテンパンにしてやるからな」

 

 ガゼルとバーンの二人の言葉に対し円堂も負けじと声を上げる。

 

「負けるもんか!俺にはこの地上最強の仲間たちがいるんだ!」

「勝負だ!」

 

 バーンの言葉を受け、両チームポジションについた。

 

『さぁお待たせしました!本日はここ帝国学園スタジアムより雷門VSネオ・カオスの一戦をお送りします!ネオ・カオスは前回戦ったカオスの本命のチーム。キャプテンのバーン、副キャプテンのガゼルを除く9人の選手が入れ替わっています。対して雷門は円堂がリベロに上がり、立向居がキーパーに入って初めての試合。これは期待が高まります!』

 

 相変わらず実況席には角間が居るがそこには慣れたようで皆スルーをしている。

 

 ピ──!

 

 豪炎寺のキックオフで試合開始。ボールはアフロディから豪炎寺、一ノ瀬、塔子へと繋がった。

 

「行かせない!」

 

 塔子へマークするのはドロル。塔子がキープしていたボールをスライディングして奪取した。

 

「「「なっ!」」」

 

 あっさり取られると思っていなかった雷門陣営は声を思わず上げてしまう。

 そのまま攻め上がるドロル。

 

「土門!」

 

 土門がマークしに行くも突破され、立ち塞がった壁山も突破される。

 

「ちょっと!前のカオスと全然違うじゃないですか!」

「本命のチーム……前回、ベンチメンバー中心だったというのは本当のようね」

 

 彼らは知らないが、エイリア石を使わなくても個々のレベルは前回のメンバーよりも高い。その上でエイリア石による強化がされている以上、カオスより遙かにパワーアップされている。

 

「行かせるかっ!」

 

 綱海がブロックしに行く……が。

 

「ガゼル様!」

 

 ドロルの隣を走っていたガゼルにパス。そして、

 

「ノーザンインパクト!」

 

 必殺技を放つ。前回よりもパワーがさらに上がったノーザンインパクトは立向居の守るゴールへと向かう。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 立向居は完成できていないムゲン・ザ・ハンドではなく、マジン・ザ・ハンドで応戦しようとするが呆気なく敗れ去った。

 

『おぉっと!ネオ・カオスの鮮やかなカウンター攻撃に雷門!先制点を許してしまった!』

 

 1ー0。先制点はカオスが取った。

 雷門のキックオフで試合再開。ボールはアフロディへ渡った。

 

「行かせねぇ!」

 

 ブロックしに行くのはネッパー。

 

「ヘブンズタイム!」

 

 そんな彼に、アフロディはヘブンズタイムを放つ。

 

「付いてこられるかな?」

 

 アフロディは動きが止まって見えるネッパーの隣をドリブルして突破する。……そう、突破するはず()()()

 

「ふん!」

 

 なんとネッパーがヘブンズタイムを打ち破りアフロディからボールを奪い去った。

 

「ヘブンズタイムが破られた!?」

「そんなことが十六夜以外にできるなんて!?」

 

 ヘブンズタイムが破られたことにより衝撃が走る。

 それもそうだ。ヘブンズタイムは破る方法が限られた必殺技。無敵に近いその技が破られた衝撃は計り知れない。

 

「ヒート!」

「リオーネ!」

「バーン様!」

 

 ネッパーから素早くパスが繋がりボールはバーンの元へ。

 

「行くぜ!アトミックフレア!」

 

 そしてそのままアトミックフレアを放つ。こちらも前回よりもパワーアップされたもの。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 対して再びマジン・ザ・ハンドを繰り出すも呆気なく破れてしまった。

 その後もアフロディのヘブンズタイムはネッパーに通じず、豪炎寺を中心に攻めようもフローズンスティールとイグナイトスティールのコンボにより、点を決めるどころかシュートまで持ち込めない。

 守備もガゼルとバーンを中心とした連携に翻弄され突破されてしまう。更に二人の必殺シュートに対して、立向居のマジン・ザ・ハンドでは力不足だった。

 

『あぁっと!これは一方的な試合になってきたぞ!』

 

「うわぁあああ!」

 

『ネオ・カオスの追加点!なんとスコアは既に10ー0!』

 

 前半もまだ半分。一方的な試合展開になってしまった。

 

「くそっ……!」

 

 思わず声が漏れ出している。

 

「選手交代!」

 

 そんな中、響き渡るのは瞳子監督の言葉だった。

 

「財前さん交代よ」

「私がですか?でも一体誰と──」

 

 カツン、カツン

 

 グラウンドの方に向かっている足音。観客や選手も含めた全員がやって来る選手に注目する。

 そして、その男はベンチのところに立った。

 

「「「なっ……!」」」

「16番十六夜綾人が入ります!」

 

 円堂に預けていた雷門の16番のユニフォームを着た男。

 

『な、なんと!十六夜が雷門のユニフォームを着て現れたぞ!これは──』

「い、十六夜……!」

 

 塔子と交代しフィールドへと入っていく十六夜。雷門のメンバーの顔を見渡して、

 

「どうしたお前ら!まだ試合は終わってねぇぞ!」

「「「…………っ!」」」

 

 感動の再会的なのを全てすっ飛ばして渇を入れる。

 

「さぁ、勝ちに行くぞ!」

 

 笑顔で宣言する十六夜。

 得点差は10点。前半も半分が過ぎたこの状況。

 絶望的なこの状況を打開することは果たしてできるのだろうか?



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雷門VSネオ・カオス ~敵か味方か~

 突如現れた十六夜。

 しかし、反応は言うなら豪炎寺の帰ってきたときより、アフロディの参戦の時の方に近かった。

 いくら元々仲間だった十六夜綾人と言っても、つい先日敵チームとして戦ったばかりの雷門にとっては受け入れることは容易ではない。

 

「おかえり……と言いたいとこだが十六夜。俺たちはお前が何を考えているかは分からない。だからプレーで示してみろ」

 

 鬼道は十六夜に対してこう伝えた。それに対して十六夜は、

 

「分かってるさ」

 

 どこか笑みを浮かべながら答える十六夜。

 ネオ・カオス側もざわつきが起きながらではあるが雷門のキックオフで試合が再開する。

 ボールはゴッカのフローズンスティールによって奪われて、

 

「どういうつもりだ!ムーン!」

 

 バーンへと繋がる。そして十六夜に向かって叫びながらドリブルでぶつかっていこうとする。

 

「どういうつもり……ねぇ」

 

 そんなバーンからボールを奪い去った十六夜は、

 

「こういうつもりだよ!」

 

 ピ──!

 

 10匹のペンギンを呼び出しシュートモーションに入る。

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 そしてそのままシュートを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立向居の守るゴールに向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「なっ……!」」」

 

 あまりのプレーに驚きの声が上がる。

 それもそうだ。なぜなら十六夜は、本来自身の守るはずのゴールへとシュートを放ったのだから。

 

「お前!」

 

 そのプレーに綱海が声を上げようとする。だが、その間にもボールはゴールへと迫っていく。

 

(ダメだ……!ここで必殺技を使ったらハンドになる!でも、このシュートはどうやって止めれば……!)

 

 味方の放ったシュートをどうすればいいか分からない立向居。

 

(…………あれ?このシュート……見えた。…………聞こえた。え?どうして……?)

 

 そんな中、ムゲン・ザ・ハンドの特訓のお陰かボールが見え、ボールの纏う空気の音が聞こえた立向居はそのシュートに疑問に思う。

 そして、その疑問に思った時、ボールは立向居の頭上を通過し、

 

 ガンッ!

 

 ゴールバーに激突する。

 ボールは跳ね返って空高く飛んでいく。

 そしてその跳ね返ったシュートに対して、

 

 ピ──!

 

「行くぞ!オーバーヘッドペンギン!」

 

 走り込んでいた十六夜がシュートを合わせる。空中で呼び出した6匹のペンギン。先程の10匹に加えた計16匹のペンギンがネオ・カオス陣地へと向かい飛んでいく。

 あまりのプレーにネオ・カオス、雷門、そして観戦している帝国の選手は一切反応ができていなかった…………ただ()()を除いては。

 

「行ったぞ!豪炎寺!」

「分かってるさ」

 

 ネオ・カオス陣地へと走り込んでいくのは豪炎寺と鬼道。

 十六夜のプレーにより固まっていたネオ・カオスのディフェンス陣を抜くのは容易かった。

 

「……っ!ディフェンス!その二人を止めろ!」

 

 ようやく我に返ったガゼルが素早く指示を出す……が一手遅かった。既に豪炎寺が空に向かって跳んでいたのだ。

 シュートもセンターラインを超えた辺りから空へと軌道を変える。

 

「そいつだけでも抑えろ!」

 

 続いてバーンが鬼道だけでも抑えるよう指示を出す。現状、豪炎寺を止めることは不可能。ならば、前回の失点であるツインブーストを警戒しての判断だった。

 

「ファイアトルネード!」

 

 十六夜のシュートに合わせた豪炎寺。16匹のペンギンはその姿を炎へと変え、ペンギンの形をした炎が()()()()()()()()()()()()()()()

 

「行けっ!」

 

 鬼道に警戒していたばかりに、シュートコースにはディフェンス陣はいない。シュートは誰にも邪魔されることなくグレントの元へと向かう。

 

「バーンアウト!」

 

 迎え撃つグレントはその両手に炎を宿す……が、あまりにも炎そのものの規模が違いすぎた。

 

「ぐああああああ」

 

 グレントと弾き飛ばしてボールはゴールへと刺さる。

 

『ご、ゴール!十六夜と豪炎寺、鬼道の三人による奇襲が成功!雷門!一点を返しました』

 

 何が起きたかイマイチつかみ切れていない面々を置いてけぼりにして、十六夜は、豪炎寺、鬼道の二人とハイタッチをした。

 

「よく合わせたな」

「お前が皇帝ペンギンO改を打つ前に一瞬、俺と鬼道の方を見ていたからな」

「相手の度肝を抜く事が好きなお前なら何かやると思った」

「別に度肝を抜く事が好きって訳じゃないけどな」

 

 一瞬のアイコンタクトだけで、力を合わせた三人。

 

「そもそも鬼道。お前が言ったじゃないか。今の状況ではオレを他のメンバーが信じ切れていない。だからプレーで信じさせる。そのために協力するって」

「ふっ。アフロディの時の二の舞になっては逆転なんて出来ないだろう。俺はお前のプレーに答えるだけだ」

「しっかりと伝わっていたようで何よりだ。あそこまで分かりやすいプレーだったから俺たちも合わせやすかった」

 

 そう。最初にわざわざ鬼道が伝えた理由はこれだったのだ。

 本来なら言わなくていいことを敢えて言った。理由はその言葉の裏の意味を察してほしいために。

 そして見事にそれを察した十六夜と豪炎寺の二人。オウンゴールを……というのはやり過ぎたかもしれないが結果オーライだからいいかと笑って済まそうとする十六夜。

 

「やってくれるじゃねぇか……!」

「ごめんね。オレはこいつらとお前たちを倒すと決めたから」

「その選択。後悔させてやる」

 

 今のプレーでわずかばかりに残っていた仲間意識を捨てるネオ・カオスのメンバー。

 

「おかえり十六夜!」

「おかえりなさいッス!」

「たく。そういうことなら言えってんだよ!」

「本当だよ。凄いヒヤヒヤしたよ」

 

 上から円堂、壁山、土門、一ノ瀬と順に声をかけていく。

 

「悪い悪い。豪炎寺や鬼道に伝わるようなわかりやすいプレーがあれくらいしか思いつかなくてさ」

 

 口ではそう言っているが悪いと一切思っていないであろう十六夜。敵を騙すためにワザと自分のゴールを狙った。敵を騙すにはまず味方からという言葉もあるが……一歩間違えれば完全に裏切り者だっただろう。

 

「よぉし!反撃だ!」

「「「おう!」」」

 

 円堂の言葉によって活気づいた雷門。対してネオ・カオスは多少冷静さを取り戻していた。

 

「行くぞ」

「ああ」

 

 そしてネオ・カオスのキックオフで試合が再開した。

 

『な、なんと!試合再開と同時にネオ・カオス、ガゼルとバーンによる速攻!速い!これには雷門側追いつけない!』

 

 再開と同時に二人が猛スピードで攻めている。

 

「一点取られたら取り返すだけだ!」

「貴様が戻ったところで勝ち目はない!」

 

 雷門のミットフィルダー陣を突破し、ディフェンス陣をも鮮やかかつ素早い連携で突破する。そして、

 

「行くぜ!」

 

 バーンがボールを蹴り上げシュート体制に入った。

 

「アトミックフレア!」

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 放たれた必殺技に対して立向居は円堂とは色違いのマジンを呼び出す。

 しかし、あまりのパワーの違いにマジンは呆気なく破れてしまう。

 

「うわぁあああ!」

 

 ボールはそのままゴールへ……

 

「させねぇよ!」

 

 ……そこに割り込んだのは十六夜。シュートに対し右脚を合わせることにより蹴り返そうと試みる。

 

「おらぁっ!」

 

 そしてボールは飛んでいきラインを割った。

 

「…………ッチ」

 

 しかし、そのシュートは予想よりも強く、彼の狙い通りに飛んでいかなかった。

 

「あ、ありがとうございます」

「何を恐れている。立向居」

「……え?」

 

 止めてくれた事に感謝する立向居に対して、問いかける十六夜。

 あまりにも唐突な質問に、一瞬理解が止まる立向居。

 

「失敗を恐れているんじゃねぇよ。そんなんじゃ止められるわけがねぇだろ」

「失敗って……でも、俺が止められなかったらゴールが……」

「んなの点を取られたら取り返すだけだろうが!それに失点したってそれはお前だけのせいじゃねぇ。シュートを打たせたオレたちにも非はある。だからな、失点はお前だけのせいじゃない。オレたち全員のせいだ!」

「…………っ!」

「オレは円堂がキーパーと認めたお前を信じる。だから、失敗してもいい。本気で、今出せる全力で真正面からぶつかっていけ!いいな!」

「は、はいっ!」

 

 十六夜は返事を聞くとガゼルやバーンへのチェックへと向かう。

 

「アイツ。すげぇいいこと言うな」

「味方になるとここまで頼もしいなんて……」

「俺もあの後ろ姿にはどれだけ救われたか」

「やっぱり心強いッス!」

「よぉし!俺たちも負けていられねぇぞ!」

「「「おうっ!」」」

 

 ディフェンス陣にも火が灯る。

 スローインからボールを貰ったのはドロル。そのまま攻め上がってくるが、

 

「行かせるかっ!」

 

 円堂がすぐさまスライディングして、ボールを奪う。そして、

 

「十六夜!」

「オッケー!」

 

 ボールは十六夜へと渡った。

 

「通さない!」

「ここで止める!」

 

 前に立ち塞がるのはネッパーとヒート。

 

「いいや、通させてもらう!」

 

 そのまま二人の間へと強引に走って通ろうとする十六夜。ヒートがスライディングを、ネッパーがそれを避けたところを奪おうと試みる……が、

 

「一ノ瀬!」

 

()()()()()()()()()()()一ノ瀬へとバックパスをする。

 

「鬼道!」

 

 十六夜の後ろに走り込んでいた一ノ瀬。そのまま流れるように鬼道へとパスを出す。

 

「十六夜!」

 

 ディフェンスに来た二人を突破した十六夜は、鬼道からボールを貰い再び突撃をする。

 

「通させるか!イグナイトスティール!」

 

 ボンバのイグナイトスティールが炸裂する。これを飛んで躱し……

 

「フローズンスティール!」

 

 ゴッカのフローズンスティールが着地した瞬間を狙いに来るも、

 

 ピ──!

 

「ライド・ザ・ペンギン!」

 

 ペラーに乗ることでそれを回避し、着地に成功する。

 

「それは通用しない」

「打たせるわけにはいかない」

 

 しかし、残ったクララとバーラがシュートコースを塞ぐようにして立つ。

 さらに、後ろからはボンバやリオーネが迫るが……

 

「いいや、打たせてもらうよ」

 

 特に気にせずボールを蹴り上げ、

 

 ピ──!

 

 ペンギンを10匹呼び出した。

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 そしてそのままシュートを放つ。ゴールまでは距離があり、二人のディフェンダーがシュートの威力を落とすため立ち塞がるが、

 

「……え?」

 

 シュートは二人のディフェンダーの前で大きく曲がり、左サイド側の上空へと飛んでいく。

 

「ナイスパスだよ。十六夜君」

「ああ、決めろ。アフロディ」

 

 そこには既に純白の羽を生やしてシュート体制に入っていたアフロディの姿が。

 

「ゴッドノウズ!」

 

 アフロディの右足へと吸い込まれるように十六夜のシュートは行く。

 ダイレクトでそれを蹴り出すと、ペンギンたちは白い光となり、翼が天使の羽のように、またペンギンたちの頭にはリングが。さながら、天使となったペンギンたちがシュートと共にグレントの守るゴールへと向かった。

 

「バーンアウト!」

 

 バーンアウトとシュートが激突する……がそのパワーにグレントの炎がかなうことはなくゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!素晴らしい連携です!雷門追加点だ!』

 

 これにて雷門は二点目だ。

 

「神の力を纏ったペンギンのシュート……皇帝ペンギン(god)!」

「いや、ペンギンなんかゴッドなんかはっきりせんかいな」

「はっ!少し閃いてしまいました!」

「そんなのドブにでも捨ててこいや」

「なっ!人の閃きをそんな雑に……!」

 

 と、ベンチでやっているが完全にフィールドプレイヤーたちには聞こえていない模様。

 2ー10。点差は絶望的だが十六夜参戦から数分で二得点をあげている雷門。勝負の行方はまだ分からない。




皇帝ペンギン(god)
シュート技
パートナー アフロディ
皇帝ペンギンOとゴッドノウズの合体技。
なお、ゴッドノウズに合わせるとペンギンは白い天使のペンギンになるらしい。

目金がこの技を見て何かを閃いていたが……まぁ、察しのいい人はすぐに分かるでしょう。
これで一日おき投稿は終了ですかね。次回は……いつだろう。


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雷門VSネオ・カオス ~前半戦終了~

 二得点に絡む活躍……って言われているけど。

 

「流石に警戒はされるよなぁ……」

 

 試合再開早々ガゼルとバーンを中心に攻め上がるもディフェンス陣が奮闘し、攻撃をシャットアウト。

 対して、こっちが攻めようとするとバーンかガゼルのどちらか、もしくは両方がオレをマークしてくる。いやぁ、やりづらいことこの上ない。

 

「十六夜。どうだ?突破できそうか?」

「いいや、振り払える気がしねぇ……今はな」

「そうか。なら、ディフェンスに専念していてくれ」

「そうすると、攻撃力が……ああそうか。アイツが代わりに攻めれば問題ないか」

「その通りだ」

 

 それにしてもすげぇ違和感。キーパー以外の円堂がレア過ぎる件について。

 記憶が正しければ戦国伊賀島以外で、コイツがフィールドプレイヤーとして戦っている姿を見たことがない。というか更に思い出せばあの試合が、ある意味オレにとってディフェンス以外のポジションでの初試合だった気もする。

 今思うと、コイツとこうやって肩を並べて戦うのって初めてというか……新鮮?

 

「円堂。交代だ」

「おう!任せたぞ!」

「お前もな」

 

 現状このチームにはリベロが二人いる。オレと円堂。

 オレと円堂は二人同時に攻めることをすれば、攻撃力は飛躍的に上がるだろうが反面カウンターにクソほど弱くなる。まぁ、諸刃の剣だな。オレと円堂の同時攻撃は。

 で、そんなことだから、鬼道から一応、オレたちは片方が攻めたらもう片方が守るというごく普通のことを言われている。初めての試みだから臨機応変にコロコロ変えられない可能性があったため、オレが攻め、円堂が守りで固定した。

 だから攻守交代。もともとオレはキーパーのフォローから攻めまで何でもこなしに行く、文字通り自由人ではあるが、チームプレーを重んじてはいるつもり。

 

「ただ……」

 

 カオスからは正直オレたち二人が攻めなくとも点は取れるだろうし、頑張れば守ることも出来るはず。

 この先を考えると、グランたちには柔軟に動けなければ戦うことは出来ない……まぁアイツらと渡り合うにはまだピースが足りないが。

 

「いや、今はこの試合だ」

 

 ともかく、今回は円堂のリベロ移行が初なんだ。いきなり難しい動きまでは出来ないし、8点差を覆すには正直ギリギリの状況だ。

 クソっ。本当に初期のカオスであれば、連携の隙を突けばこの点差でも容易にひっくり返せるだろう。だが、今のこいつらはそんな弱点存在しない。

 それにどちらかと言うと8点を取ることが難しいというよりこれ以上点を取られないことの方が難しい。これ以上の点を取られることはなんとしても避けたいが……。

 

「そろそろあの二人がアレを打ってもおかしくない」

 

 前の試合では制約というか、本気を見せないようにするため封印していた(本人たち曰く)が、今回はそんなことしないだろう。

 あれを打たれたら現状の戦力では止めることは至難のワザだ。

 そもそも立向居があの挑戦していた新必殺技を完成させない限り厳しい現状は変わらない。マジン・ザ・ハンドが一切通用しない以上その技の完成に賭けたいが……。

 

「そう上手くいくのやら」

「何を言っている!」

「こっちの話だ!」

 

 ボールを持ったバーンとの激突。改めて思うがパワーが上がっている。少なくとも前に一緒にやったときよりもだ。

 短期間でのパワーアップ……エイリア石か。ただえさえ強いのに加えてエイリア石の力を使うとか……そこまで追い込まれているのか?いいや、違うな。

 

「俺たちは認めねぇ!」

 

 そこまでしてでも認めてほしいのだ。彼らは自分たちの力をあの人に。

 全てを犠牲にしてでもきっと……ああそうか。

 

「お前らの覚悟は分かった。でもな……」

 

 悪いな。お前らの覚悟は分かったし、気持ちも分かった。その上でオレは……

 

「負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

 オレはお前らエイリア学園を全力で叩き潰す。そう決めたんだ。

 ウルビダを……お前らを救うために。この闇から救うために……お前らを倒す。例え恨まれようと、さげすまれようと、これがオレの答えだ。

 

「ッチ!ガゼル!」

 

 激しいぶつかり合い。バーンはこのままではシュートを撃つのは無理だと判断しガゼルへとパスを出す。

 

「綱海!」

「おうよ!」

 

 だが、そんなぶつかり合いの中で出したパスは普段より精度が落ちる。ガゼルをマークしていた綱海がそのボールに食らいつき。

 

「円堂!」

 

 ダイレクトで中盤に居た円堂へと繋げる。

 

「行かせない!フローズンスティール!」

「っ!鬼道!」

 

 ブロックにやって来たドロルを躱すために鬼道へとボールを流す。

 

「行くぞ!円堂!土門!」

 

 鬼道の元に円堂と土門の二人が集まり、鬼道は高くボールをあげた。

 そして三人が同時にジャンプし、回転を始める。

 

「雷門版のデスゾーンってとこか」

 

 この前(こっそり)見たときと違い、三人の回転はバラバラ。だがしっかりと三人のパワーは中央にあるボールに集まってる。

 そして三人が同時に中央にあるボールに寄って行く。なるほど。これだったら決まるのでは……

 

「…………は?」

 

 次の瞬間。中央に集まっていた三人は再びボールから離れて跳び上がる。

 ボールに集まってたパワーはさらに増幅され、巨大なパワーの塊となったボールを三人が同時に蹴り出した。

 

『デスゾーン2!』

 

 デスゾーンを超えたデスゾーン。だからデスゾーン2……名前は安直(人のこといえない)だがパワーは桁違いだ。

 

「バーンアウト!」

 

 そのパワーの前にグレントは押し込まれそのままゴールに突き刺さった。

 

『決まったぁっ!新必殺技デスゾーン2で雷門の得点!』

 

 ははっ……この技ならネロから点を取ることも夢じゃない……たく。

 

「どんだけ強くなって行くんだよ……」

 

 流石としか言い様がない。だが、オレも負けるつもりはないがな。

 

「よし!もう一点取っていくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 そしてカオスのキックオフで試合が再開する。

 

「はっ!突き放してやるよ!」

 

 バーンの速攻に鬼道が抜かれてしまう。

 

「行かせるか!」

 

 そしてマークに行く円堂。だが、

 

「甘い!」

 

 バーンは跳び上がって回避する。その高さはアトミックフレアを撃つには十分な高さだった。

 

「止めてやる!」

 

 シュートが来ると思い跳び上がる。だが、

 

「ガゼル!」

 

 空中で体制を整え、下にいたガゼルにパスを出す。フリーだったガゼルはそのままシュート体制に入った。

 

「立向居!」

「ノーザンインパクト!」

 

 放たれるシュート。綱海や壁山がそのシュートを止めようと走って向かうが間に合わない。オレもブロックを仕掛ける前にはシュートがゴールに到達されてしまう。

 

「立向居っ!」

 

 立向居はそのシュートを見て、一瞬目を閉じる。そして目を開き、両手を大きく広げながら頭の上で合わせた。

 合わせたまま胸の前に持って来る。すると彼の背後から黄金に輝く四本の手が……

 

「……は?」

 

 そしてその四本の手はシュートを止めようと向かっていく。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 現れた四本の手によってシュートは威力をなくしていき、ボールは立向居の手に収まった。

 

「…………出来た……!」

 

 え?これだったの?なんかやろうとしていた新必殺って?いや、ムゲンとか言っときながら四本しかなくねとか言えばいい?というか、

 

 ピ、ピ──!

 

『ここで前半終了です!3ー10。果たして試合はどのような展開を迎えるのでしょうか!』

 

 前半戦終了のホイッスルが鳴る。それと同時に立向居の元へと駆けていく雷門の面々。

 

「立向居!」

「やったな!」

「はい!」

 

 ……ま、まぁ、色々と置いといて前半の終え方としては最高の形だろう。

 得点差は7点と大きいものの、円堂たちの得点からの立向居のセーブ。

 後半に向けて絶望はない。勝利への道筋は確かに残されているのだから。



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雷門VSネオ・カオス ~後半戦開始~

「まさかあのキーパー一人で止めてくるとはな」

「ああ。円堂やムーン以外に止められるのは想定外だった」

 

 ネオ・カオス側のベンチでは先ほどのプレーに対し、立向居の評価を改めていた。

 

「お言葉ですがバーン様、ガゼル様。今のプレーを加味してもあのキーパーの実力は二人よりは劣っているでしょう」

「現時点では確かにそうだ。だがその二人が託すほどのキーパーだとも言い換えられる」

「つまり、弱いわけがない……まだまだ何かを秘めている可能性がありますね」

「それに問題はガゼル様のシュートを一人で止められてしまった点にあるか」

「しかもこの状況普通ならキーパー一人に託し守りを手薄にするかもしれない。だが……」

「あのムーンがそんなことするとは思えない」

 

 ネッパーをはじめとし、ネオ・カオスの面々での話し合いが行われる。

 

「あの必殺技を使えば破れる。だがムーンが易々と打たせはしないだろう」

「課題はムーンを如何にして抑えるか。そしてどうやってシュートを止めるかに尽きるな」

 

 チームとしてまとまりを見せるネオ・カオス。選手たちの顔には七点差が付いているこの状況でも慢心や油断はなく、ポジションに着くまで作戦会議は行われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方の雷門側のベンチ。

 

「というか十六夜は今まで何をしてたんだよ」

「あーそれは後でいいか?今は試合に集中しよう」

「そうだな。まだまだ七点差ある。油断は出来ない」

 

 こちらも十六夜を受け入れはしたが、この男が今まで何をしていたのかが気になる模様。

 

「なーなー。アンタ、あいつらの弱点知らん?」

「そうですね、十六夜君。彼らに付け入る隙はないのですか?」

 

 敵の情報を多く持っていそうな男……十六夜に声をかける二人。選手マネージャー問わず、この場にいるものは気になってる様子だ。

 

「そうだな。まず前提として、カオスやネオ・カオスっていうチームは二つのチームから出来た、言わば混成チーム。だから元々の所属していたチームが違う者同士には連携の隙があった」

「へぇ、二つのチームを合わせた……ん?連携の隙があった?」

「じゃあ、今はないのか?」

「試合して分かるだろ?連携にそんな隙はなくなったよ。いや、なくしたと言うべきか……」

「まさかとは思うけど……その隙をなくしたのって貴方の働きが大きいのでは……」

「まぁ、否定はしないな」

 

(((もしかしてコイツってやっぱり敵だった?)))

 

 本来十六夜が加入していなければ、改善させていなければ付け入ることの出来た大きな隙。

 だが今の彼らにはそんな隙はなくなってしまった。

 

「あー後、はっきり言うとあのキーパー。アイツはそこまで強くない。ジェネシスのキーパー……ネロって言うんだがそいつに比べたら遙かに弱い。だから豪炎寺、アフロディ。二人なら単独で点を取るのに十分過ぎるほどの力を持っている」

「ああ」

「分かったよ」

 

(まぁ、吹雪でも行けるだろうが……前の試合も含め出ていない以上期待はできないか)

 

 吹雪の方を一瞬見るが、すぐに視線を全体に散らした。

 

「重要なことだが奴らは攻撃重視のチーム。だから、油断なんてしてるとまた突き放されるぞ」

 

 十六夜が少し威圧を込めて話す。

 現状は止めることができているが油断すれば簡単に崩されるだろう。

 

「だが逆転の余地は大いにある。後半もガンガン行くぞ」

「よぉし!逆転していくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 そして残された数少ない時間を使い、十六夜と鬼道は情報を共有し後半に向けてのゲームメイクを進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、いよいよ後半開始です。3ー10でカオスがリード!果たして雷門追いつけるか!』

 

 ピ──!

 

 カオスボールで後半戦開始。ボールはネッパーが持っている。ネッパーからリオーネ、そしてヒートへと細かくパスを繋げていく。

 さっきアフロディや豪炎寺でも点を取ることができると言った。その言葉には勿論嘘はない。問題はどうやってそこまで持って行くか。

 

「まずはボールを獲らないことには始まらないか。円堂!土門!」

「おう!」

「分かった!」

 

 ボールはネッパーが持っている。正面から土門がマークに、土門の後ろからオレと円堂が走って向かう。

 

「ボルケイノカット!」

 

 土門の必殺技ボルケイノカットが発動する。この技はシュートブロックなどにも使える優秀な技。威力も大きいが、当然弱点が存在している。一言で言うなら正面は強いがそれ以外は弱い。

 だからネッパーの取る選択肢は二つ。ドリブルで大きく迂回するか、後ろか横へパスを出すか。今回ネッパーは前者を選んだようだが……

 

「外れだよ!」

 

 同じくボルケイノカットを迂回するように走っていたオレの正面にネッパーは現れる。ボルケイノカットのお陰でオレたちの動きが見えなかったネッパー。思わず足を止めてしまう。そしてその隙を逃すほどオレは甘くない。

 

「攻めるぞ!」

 

 ボールを奪いドリブルで上がっていく。

 ちなみにさっき、ネッパーは右から迂回したようだが左から迂回すれば円堂に当たっていた。ボルケイノカットはカモフラージュ。本命はオレと円堂のディフェンスってな。

 …………まぁ、それはいいんだけど……動きが早い。既にアフロディと豪炎寺にはクララとバーラがそれぞれマークが付いており、オレに対しても正面からゴッカとボンバ、後ろからヒートが追いかけてくる状況。

 

「こっちだ十六夜!」

「任せたぞ!円堂!」

 

 その様子を見てか円堂が前線へと駆け上がる。既に鬼道からは臨機応変にやってみようと言われているのでお互いにどっちがというのは決めてない。

 そこへとパスを出すと、円堂は急に足を止めた。そして軽くボールをあげ……

 

「たぁあああああっ!」

 

 雄叫びっぽいのとともに頭の上に大きな手が出て来た。そしてその手はパーからグーへと形を変えて、

 

「メガトンヘッド!」

 

 そのままボールにグーでパンチした。要は正義の鉄拳のヘディング版なんだが……まさかこれってあれか。オレとガゼルのシュートを止めたあのヘディングの完成版か。

 

「バーンアウト!」

 

 円堂が元々キーパーというのはネオ・カオスでも周知済み。そんな円堂が一人で打つという予想外の事態に慌てて対応するグレント。しかし、そんな状態で止められるはずもなくボールはゴールへと刺さった。

 

「よっしゃあぁっ!」

「お前……マジか」

「これが俺の必殺技だ」

「ははっ……あれを完成させてたのかよ」

 

 今思うとこいつらの成長ヤバいな。あれから技だけでも増えてるし……。

 しかもこの技。シュートとシュートブロックを両立させることができるとか……おいおい。

 凄いな雷門。今までと違って本当に攻撃型じゃねぇか。どこからシュートが飛んでくるか分からんとか、相手からすればやりにくいことこの上なしかよ。

 再びカオスボールで試合再開。ボールはドロルが持っている。

 

「木暮!」

「おう!旋風陣!」

「ウォーターベール!」

 

 木暮が旋風陣でボールをカットしようと試みる。だが、ドロルの技、ウォーターベールによって敗れてしまった。

 

「バーン様!」

 

 そしてそのまま大きくボールを蹴り上げるドロル。空中では既にオーバーヘッドキックの体制に入ったバーンの姿が……

 

「来るぞ!」

「アトミックフレア!」

 

 ダイレクトで必殺技を撃つバーン。

 

「通さないッス!ザ・ウォール!」

 

 壁山がシュートの前に入り少しでも威力を落とそうと試みる。

 一瞬拮抗を見せるも、壁は呆気なく崩されてしまった。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 すかさず立向居の必殺技、ムゲン・ザ・ハンドが発動する。シュートは四本の手により押さえられボールは立向居の手の中に収まった。

 

「クソッ。次は破ってやる」

 

 気になるのはムゲン・ザ・ハンドがどこまで止められるのかが分からないこと。キーパーの必殺技は、何度か試行錯誤を繰り返さないと、どこまで止められてどこからがアウトなのかが分からない。それを試合中に試すほど余裕はないから分からないが……ジェネシスにもこの技は通用するのか?

 

「円堂さん!」

 

 ボールは円堂に渡る。過信慢心は良くないが……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。

 

「鬼道!」

「アフロディ!」

 

 そのままボールは鬼道。そしてボールを受け取るために下がっていたアフロディへと繋がる。

 ドリブルで上がっていくアフロディ。その前に立ち塞がるのは、ネッパーとリオーネだった。

 

「ヘブンズタイム!」

 

 アフロディの必殺技により、彼以外の選手の動きが停止する。本来なら誰も動けず、誰にも邪魔されずに突破することが出来るこの技。

 

「それは効かない!」

 

 だがネッパーには通用せず、アフロディからボールをカットしようと試みる。

 

「そうだね。でも今動けるのは僕と君だけじゃない」

 

 アフロディは慌てずボールを一回下げる。

 

「そうだよね?十六夜君」

「なっ……!」

 

 ボールを受け取ると同時に止まっていた時間が動き出す。やっぱり、イビルズタイムで時間を止めるとボールに触れた瞬間に解除されるか……仕方ない。他の目的で使ったこともあるけどメインはブロック技だから。

 そしてアフロディは前線へと走って行く。カオス側はアフロディの必殺技はネッパーが破ると思ったためにフォローが遅れる。つまり、

 

「アフロディ!」

 

 アフロディへとパスを出す。フリーでボールを受け取ったアフロディ。

 

「イグナイトスティール!」

 

 バーラがイグナイトスティールでボールをカットしようとする。しかし、既にシュートのために跳び上がっていたアフロディ。

 

「ゴッドノウズ!」

「バーンアウト!」

 

 放たれたシュート。バーンアウトがシュートとぶつかるもそのまま破れ、ボールはゴールに。既に何度も破れているバーンアウト。ここまで来ると哀れとしか言い様がない。

 

「決まったね。十六夜君」

「ああ」

 

 ネッパーがヘブンズタイムを破れることを逆手に取った作戦。向こうは前半で何度も破ってきたからこそ隙が生まれる。前半で何度も破られたのは無駄じゃなかったのだ。

 後半が開始し5分が経過した。得点は5ー10で、残り5点差。

 このまま順調に行けば逆転できるだろう。しかし、ある事態が想定外を巻き起こすのだった。



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雷門VSネオ・カオス ~想像を超える者~

 それは後半が始まって10分が経とうとした時だった。

 あれからアフロディとオレの時間停止下での連携によりネッパーを振り切り、マークに来たゴッカ、ボンバを逆サイドの豪炎寺にボールを渡すことによって突破。そのまま豪炎寺は爆熱ストームを打ちグレントのバーンアウトを破って6点目を決めた。

 

「ツナミブースト!」

 

 そして、先ほどネオ・カオスからボールを奪い、綱海にボールを渡した。それと同時に綱海がロングシュートを放つ。

 

「バーンアウト!」

 

 本日何度目かのバーンアウト。グレントの必殺技によりシュートは()()()()のだった。

 

「「「…………っ!??」」」

 

 ネオ・カオスのメンバーとオレに衝撃が走る。なぜならあの技は本来、ボールをその熱で焦がし灰にしてキャッチする技のはずだったからだ。……いや灰にしちゃダメだとは思うけどさ……。

 それがボールを弾いた……いや、どちらかと言うとボールをキャッチ出来なかった、()()()()()ように見える。

 だが、悲しきかな。雷門メンバーは、バーンアウトがシュートを止めたところを見たことがなかったため、オレとネオ・カオスの感じている違和感や衝撃に誰も気付けない。思わず足を止めているネオ・カオスのメンバーをよそに一ノ瀬がボールを確保して、

 

「ファイアトルネード!」

 

 そのまま空中にいた豪炎寺にパス。豪炎寺のファイアトルネードは、止めようと手を突き出したグレントの手を弾き、彼ごとゴールに突き刺さった。

 

「よっしゃあ!後3点!」

「残り時間もまだまだあります!」

「これは逆転勝利行けますよ!」

 

 

 

 ベンチ、フィールド問わずに喜ぶ雷門。

 だがそんな中で十六夜は一人、素直に喜べず違和感を覚えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じく違和感を感じたネオ・カオス。バーンとガゼルがキーパーのグレントの元に行く。

 

「グレント。今のは……」

「すみません……っ!」

 

 ボールを触れようとするグレント。だがその手がボールに触れると痛みで声をあげそうになる。

 

「おい。グローブを外して手を見せてみろ」

 

 ガゼルがそう提案(命令)するがグレントは渋り中々グローブをはずそうとしない。

 その姿に業を煮やしたバーンが無理やり手を取りグローブを外させると……

 

「お前……この手……!」

 

 そこには真っ赤に腫れた両手が。ガスマスク越しで表情が分かりにくいが相当の痛みがあるだろう。それだけじゃない。そのせいでまともにボールすら触れない状況だ。

 他のネオ・カオスのメンバーも集まり、その悲惨さを目の当たりにする。

 

「……どうする?」

 

 このまま続けても現状のグレントではシュートは止められない。しかも、雷門の様子を見る限り十六夜はこの異変に気付いている。あの男はロングシュートが打てる。

 

「……間違いなく雷門によるロングシュートの嵐が来るぞ」

 

 ここまで強力なシュートとぶつかり敗れてきた。その負荷は想定よりも大きなものだった。

 

「……ベルガを呼ぶか?」

「……だが、試合を中断して呼ぶことは出来ないだろう」

 

 ネオ・カオスのベンチには誰も座ってない。そもそもエイリア学園のチームは途中交代を一切考えていないから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

「……どうする?」

 

 必死に考えて打開策を見いだそうとする。

 現状、グレントはキーパー続行不可能。ベルガを呼ぶこともできない。そして生半可な選手がゴールに立ったところでキーパーとしての能力が低いことは十六夜に知られる。

 守りを固めように彼らのシュート範囲はこのコートすべて。綱海や十六夜ならば相手ゴール前からでもシュートを打ててしまう。

 絶望的な状況下。ある選手が動き出したのだった。

 

「……ガゼル様。バーン様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっと?ただいま入った情報によりますと、どうやらネオ・カオスはキーパーを交代するようです。負傷したキーパーのグレントとディフェンスのクララを入れ替えるようです』

 

 ……………………は?

 

「キーパーが女の子になったッス」

「どうやら僕らのシュートに手が限界を迎えたようだね」

 

 …………いやいや、それは分かる。というかさっきの違和感やっぱりそうだったかぁ……じゃねぇ。マズいマズい。

 

「だが、負傷交代ならあのキーパーはさっきのキーパーよりは強くないはずだ」

「よし!後3点!逆転していくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 盛り上がりを見せる雷門メンバー。いや、違う。そうじゃない。そうじゃない……マズい。

 

「どうした十六夜?顔色が悪くなってるぞ?」

「…………どうする?どうやって点を取る?」

 

 そんなオレの葛藤をよそに試合は再開する。

 

「フレイムダンス!」

 

 一ノ瀬がリオーネからボールを奪い、

 

「鬼道!」

「豪炎寺!」

 

 豪炎寺へと渡る。

 

「フローズンスティール!」

 

 ゴッカのフローズンスティール。それを跳んで躱して、

 

「イグナイトスティール!」

 

 続いてやってきたボンバのイグナイトスティールを、

 

「アフロディ!」

 

 空中でパスすることによって躱した。ボールを受け取ったアフロディ。グレントを躱してクララと一対一に。

 

「決めさせてもらうよ。ゴットノウズ!」

 

 放たれたシュート。そのシュートに対しクララはゆっくりと片手を突き出して、

 

「……アイスブロックV2」

 

 ボールが彼女の手に触れた瞬間。ボールは凍り付き地面に落ちた。

 

「「「なっ……!」」」

「やっぱりかぁ……!」

 

 雷門メンバーとネオ・カオスのメンバーに広がる衝撃。オレの中に広がる絶望感。

 

「ふふっ……この程度のシュートで決まると思った?」

 

 そんなオレたちを見て何処か満足げに語るクララ。その一言にグレントが膝を付いている。きっとあのマスクの下は涙で溢れているに違いない。

 それはそうとはっきり言おう。クララはエイリア学園においてネロの次に強いキーパーだと。グレントやベルガ、そしてオレを超えていると。

 

「…………皆。すまん」

「え?」

 

 オレは謝罪しておく。多分これオレの責任だわ。完全にやらかしたわ。

 思い出すはカオス結成時。クララのキーパーとしての強さを知ったオレは、最終兵器として使えるなと思い、不測の事態が起きた時に使うため、彼女とキーパー練習をしていたのだ。……まさかその不測の事態が今起きるとは。え?前のカオス戦?いや、だってあの時、絶対ムーンがやればいいで終わってたからな。それに説得の時間がなかったし。

 …………で、気付いたときにはグレントとベルガを完全に超えていた。だが、彼らの名誉のために他の奴らに黙っていた。……そして現状アレである。オレでも単独で止められないアフロディのゴッドノウズを単独で止めてしまったのだ。

 すなわち、ヤバい。つまりヤバい。なるほど。まさか、想定よりレベルアップしていたとは。

 

「ネッパー」

 

 ボールはネッパーに。衝撃を受けている面々が多い中、衝撃を与えた張本人はこの機を逃さない。

 

「マズい!戻れ!」

 

 今のが決まると思っていた雷門メンバーは急いでディフェンスに切り替える。

 

「ガゼル様!バーン様!」

 

 だが、時既に遅し。ボールは跳んでいた二人の元に渡る。

 バーンは右足に炎を、ガゼルは左足に冷気を纏い、同時にボールを蹴る。

 

『ファイアブリザード!』

 

 炎と氷を纏ったシュートは立向居の守るゴールへと向かう。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 ボールを止めようと四本の手が押さえにかかる。だが、その手は粉々に砕かれ、ボールはゴールに刺さった。

 

『決まってしまったぁっ!ネオ・カオスのカウンター攻撃!バーンとガゼルのファイアブリザードが立向居のムゲン・ザ・ハンドを破った!得点は7ー11!この試合はどうなるのか予想が付かない!』

 

 ……こうなった以上あれだな。

 

「責任を持ってオレがアイツから点を取るしかねぇ……!」

「ふふっ」

 

 オレはゴール前で静かに笑う彼女に向け、宣言するのだった。



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雷門VSネオ・カオス ~打ち破るために~

 雷門のキックオフで試合再開。ネオ・カオス側もシュートを止め、その上で決めたことにより勢いに乗る。

 拮抗した試合展開の中、豪炎寺が飛び出して、

 

「爆熱ストーム!」

 

 必殺技を放った。だが、

 

「アイスブロックV2」

 

 クララの必殺技を破ることはなかった。炎は氷によって包まれてボールは地面に落ちる。…………いやウチのエースストライカーが止められたんですけど?え?どんだけ強いのアイツ?

 …………落ち着け。おそらく連携技なら破れる可能性がある。デスゾーン2とか……だが、ネオ・カオス側は連携技を打たせないような立ち回りに変えている。

 

「やっぱり火力か……」

 

 アフロディ、豪炎寺が止められた以上単独で決めるのはほぼ無理。だが……

 

「円堂。鬼道。オレが行く」

「十六夜……!」

「分かった。頼んだ」

「ああ」

 

 それでもやるしかねぇ。あのバケモノを生み出した以上、責任を持ってバケモノ狩りをするしかねぇ。

 

「こっちだ!」

 

 ボールは一ノ瀬が確保する。

 

 ピ──!

 

「行くぞっ!」

 

 ペラーを呼び出し、ペラーが肩に乗る。その手にはスコープが握られており、

 

『照準セット!クリア!』

 

 するとオレの目には、ペラーが定めた狙い──ゴール右上の隅にターゲットマーク──が見える。

 

「行けっ!スナイプ・ザ・ペンギン!」

 

 オレはボールを軽く上げ、そのまま蹴る。すると一匹のペンギンが現れボールに嘴を刺して押していく。

 この技は正確さがずば抜けている。どれだけ距離があっても、どんな位置からでも絶対に狙い通りの場所にシュートを打てる。威力重視ではなくコントロール重視。そしてコントロール面では最強と言えるだろう。

 クララは確かにキャッチ力はある。だが、正面ではなく隅を狙ったシュート。正面ではないからアイツは必殺技を使えない。これならアイツは弾けるはずが……!

 

「アイスブロックV2」

「はぁっ!?」

 

 現実は非情だった。

 彼女は移動しながら跳び上がり、ボールに対し正面ではなく側面から殴り付けた。ボールとペンギンは凍らされその重さで地面に落ちる。

 っておいおいおい!?練習でもそんなことしなかっただろうが!?それにベルガだってそんな使い方してねぇだろ!?

 

「何か出来た」

 

 嘘だろおい!?確かコイツ、何でアイスブロック使えるの?って聞いたら見たらできたとか言ってたな……おいおい。まさかコースを狙っても決められないとか……弱点なしかよ!結局正面から破るしかないのかよ!

 後、今のを見たらベルガ泣くぞおい!

 

「ゴッカ」

 

 ボールはゴッカに渡る。ゴッカからヒート、ネッパー、リオーネへと渡っていく。

 

「行かせない!フレイムダンス!」

 

 そこに一ノ瀬が走り込んでいき、ボールをカット。

 

「円堂!」

「土門!」

「十六夜!」

 

 そしてボールは再びオレの元に渡る。

 ボールを持ち駆け上がっていく。ゴッカとボンバを個人技だけで躱して、

 

「ムーンフォース!」

 

 オレの今の最大火力の必殺技を放つ。

 

「アイスブロックV2」

 

 だが、そのシュートは止められてしまった。……くっ。進化する前だったら決まっていたのに進化してからは決まらない……!何なんだよこの堅さは……!

 そこから攻め込んでくればこっちのディフェンスやキーパーが奮闘し、こちらが攻めてシュートを打てばクララが止める。試合は膠着状態を迎えた。

 刻一刻と後半終了の時間が迫っていく中、リスクはあるが一点を取りに行く策を思い付く。

 

「鬼道。賭けだが一個策はある」

 

 鬼道にその策を伝える。

 

「……分かった。それに賭けよう」

「そのためにも……」

 

 オレは瞳子監督の方へと行き、あることを告げる。

 

「分かったわ」

 

 そしてボールを外に出し、一回試合を止める。

 

「木暮君。交代よ」

 

 木暮と塔子を入れ替える。まぁ、正式な試合じゃないし交代制限はないだろう。

 そして壁山、塔子、円堂に作戦を伝える。

 

「分かったッス!」

「分かった!」

「ああ、任せろ!」

 

 ネオ・カオスのスローインで試合再開。ボールはヒートに渡った。

 

「綱海!」

「おうよ!」

 

 綱海がマークに付く。

 

「こっちだ!」

「もう一点決めてやる!」

 

 そんな中、ガゼルとバーンが走ってきて、二人は同時に跳躍。

 

「バーン様!ガゼル様!」

 

 ヒートはボールを上げて、二人は再びファイアブリザードの体勢に。

 

「今だ!」

 

 その体勢に入ったのを見届けオレはセンターサークルに向けて走って行く。

 

『ファイアブリザード!』

 

 放たれるシュート。そのシュートが自身のゴールへと向かう中、前線めがけて走って行く。

 

『おぉっと!?十六夜!シュートを前にしてフォローしに行かない!どういうことだ!?シュートはそのまま立向居の守るゴールに向け……あぁ!シュートを前に三人のディフェンダーが!』

「行くぞっ!壁山!塔子!」

 

 立向居とシュートの間に円堂と壁山、塔子が入っている。

 

「ザ・ウォール!」

「ザ・タワー!」

 

 壁山と塔子のダブルブロック。二つの技によって少し威力は削られるもの、ボールはゴールへと突き進んでいく。

 

「メガトンヘッド!」

 

 壁とタワーが崩したそのボールに対し、円堂がメガトンヘッドをぶつける。思い出すのはカオス戦のこと。あの技は未完成の状態でオレとガゼルのシュートを弾いた。なら、完成した状態のあの技は、威力を削いだファイアブリザードをはじけるはず。

 そして賭けというのはまさにこれだ。メガトンヘッドがファイアブリザードをはじけなければ点が決まる可能性がある。頼むぞ……円堂……!

 

「いけぇっ!」

 

 数秒の拮抗の後、メガトンヘッドはシュートを弾き返す。

 

『なんと!円堂のメガトンヘッドがファイアブリザードを弾きそのままネオ・カオス側のゴールへと向かっている!カウンターシュートだ!』

 

 ファイアブリザードのパワーを逆に使えば威力の高いシュートが打てる。だが、当然、パワーは途中で落ちるし、精度もあるとは言えない。

 

「十六夜!」

「おう!」

 

 だからオレがそれを補う。まずは、飛んできたシュートに対し、上空へと蹴り上げる。

 

「豪炎寺!」

「ファイアトルネード!」

 

 既に跳んでいた豪炎寺がそのシュートに必殺技を放つ。落ちていた威力はそのパワーを取り戻しそのまま地上へと向かっていく。

 

「頼んだぞ!十六夜!」

「ああ!これでどうだぁっ!」

 

 そして落ちてきたシュートに対し蹴りつける。

 幾重にも力が重ねがけられたシュートはゴールへと向かって突き進む。

 

「……っ!アイスブロックV2」

 

 クララのアイスブロックV2が炸裂する。

 だが、ボールは氷で包まれることなく、そのままクララの手を弾きゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!素晴らしい連携です!遂に雷門がゴールをもぎ取った!これで8ー11です!』

 

「「「よっしゃぁっ!」」」

 

 喜ぶオレたち。

 だが、問題は時間が残っていないこととこの策は二度も通用しないことだろうか。

 後半も残りわずか。三点差と絶望的な状況は変わらない。




主人公習得技

スナイプ・ザ・ペンギン
シュート技
ペンギンがスコープを取り出して狙いを定めてそこに目掛けてシュートする技。ロングシュート可能。
花蕾様より案をいただきました。イメージと違う!こういうイメージだ!とありましたらお伝えください。描写の方を書き換えます。

ツインブーストF
シュート技
パートナー 豪炎寺(ファイアトルネード習得者)
特に本編では触れてないがその場の勢いでできるようになった。


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雷門VSネオ・カオス ~終わりと始まり~

 残り時間もそうない。三点差という絶望的な状況。そんな状況に対してオレは笑っていた。

 

「おもしれぇ……!」

 

 ネオ・カオスのキックオフで試合再開。ガゼルとバーンを中心に攻め込んでくる。

 

「一ノ瀬!土門!」

「おう!」

「止めてやる!」

 

 鬼道の指示でボールを奪いに行く二人。

 ガゼルとバーンはボールを後ろにいたネッパーに渡す。

 

「フレイムダンス!」

 

 そんなネッパーに対し、一ノ瀬の必殺技が炸裂する。しかし、これは躱されてしまう。

 

「ボルケイノカット!」

 

 躱した先には土門が必殺技で待ち受けている。

 

「リオーネ!」

 

 ドリブルで突破しようとして止められた反省からか、パスを選択するネッパー。

 

「通さない!ザ・タワー!」

「ウォーターベール!」

 

 塔子が止めに行くも、リオーネの必殺技の前にタワーは崩され突破されてしまう。

 

「ドロル!」

 

 そこからドロルへとパスが繋がった。

 

「行かせないッス!ザ・ウォール!」

「ウォーターベール!」

 

 壁山が必殺技を発動するも壁は水圧によって崩されてしまう。

 

「バーン様!ガゼル様!」

 

 先ほど、三人がかりで止めてシュートに繋げたファイアブリザード。だが、さっき止めたうちの二人が突破され、シュートブロックに間に合わない以上、打たれたら終わる。そう、打たれたらの話だが。

 

「綱海!」

「おうよ!」

 

 綱海がボールに向かって跳んでいき、バーンとガゼルが打つ前にボールをカット。

 

「円堂!」

「十六夜!」

「鬼道!」

 

 そこから円堂へとパスを出し、円堂からオレ、そしてダイレクトで鬼道へと繋げる。

 

「行かせない!」

 

 そこへヒートがマークしに行く。

 

「十六夜!」

「おう!」

 

 鬼道がフェイントで躱すと見せかけ、走り込んでいたオレへとパスを繋げる。

 

「アフロディ!」

 

 そしてアフロディへとパスを出す。

 

「イグナイトスティール!」

 

 バーラはイグナイトスティールで止めにかかる。だが、

 

「ヘブンズタイム!」

 

 次の瞬間にはアフロディはスライディングをするバーラの後ろにいた。なるほど……時を止めてしまえば突破は容易って訳か……つくづく思うが、あの技って最強というかチート級というか(人のこと言えない)。

 

「豪炎寺君!」

 

 そして豪炎寺へとパスが繋がる。

 

「フローズンスティール!」

 

 そこへゴッカのフローズンスティールが炸裂。それを跳んで躱して、

 

「イグナイトスティール!」

 

 ボンバのイグナイトスティールが炸裂するタイミングで、

 

「十六夜!」

「ああ!」

 

 前線へと駆け上がっていたオレへとパスが繋がる。この試合何度目かのオレとクララの1対1。

 オレはボールを蹴り上げ、目を閉じて一旦落ち着く。そして、

 

「今度こそ……絶対決めてやる!」

 

 ピ──!

 

 目を見開くと同時にペンギンを呼び出す。上空に浮かぶ満月から10の光がボールに注がれる。

 

「ムーンフォース──」

 

 オレは今までより光り輝くそれを思い切り蹴りつける。

 

「──V2!」

 

 光は11に分かれる。輝くボールを囲うようにして5つの光のペンギンが、さらにその回りを5つの光のペンギンが囲うようにして位置し、突き進む。

 

「アイスブロックV2」

 

 クララが止めようと必殺技を繰り出す。徐々に氷によって浸食され凍らされていくボールとペンギンたち。

 

「…………っ!」

 

 だが、呑み込まれる刹那。ボールとペンギンたちは一層輝きを増し、そのパワーで氷を打ち砕く。

 

「よしっ!」

 

 アイスブロックV2は破った。後はこのままゴールに刺さるだけ。

 誰もが得点すると思ったその時。一人の男が執念を見せた。

 

「まだだ!」

 

 グレントである。

 ボールとゴールの間に滑り込むようにして割って入る。

 

「うぉおおおおおおおお!」

 

 勢いに一瞬押されそうに見えたが踏みとどまっている。

 そしてボールは彼の胸のところで回転を止め、遂にボールは止まった。

 

「止められた……?」

「嘘だろ……?」

 

『試合終了だよ』

 

 グレントが止めた直後、響き渡る声。そして空から白く光るボールが落ちてきた。

 ボールが地面に落ち砂煙が巻き起こる。そしてその煙が晴れたとき、そこには……

 

「皆楽しそうだな」

「ヒロト!」

 

 グランとその横には……

 

「ウルビダ……」

 

 目を閉じては居るが静かな怒りを感じるウルビダがいた。

 

「十六夜……貴様。我々を裏切るのか」

 

 静かに圧を込めて言ってくる。だがその圧に呑み込まれる訳にはいかない。

 

「ああ。そうだ」

「そうか……」

 

 次の瞬間、オレに向かってシュートが来た。

 

「……次会うときは、敵としてだ」

 

 そのシュート、殺すつもりというより宣戦布告のつもりだろう。いつもより力をセーブされているように感じた。

 ただ、その目は完全に敵として認識し殺すつもりであるが。

 

「……ああ。ウルビダ……それにグラン」

 

 オレも受け取ったボールをウルビダに向かってシュートする気で打つ。

 

「お前らジェネシスはオレたちがぶっ倒す。覚悟しておけ」

 

 そのシュートはウルビダに止められた。

 

「じゃあね円堂君。ああ、彼らは回収していくから」

 

 そしてネオ・カオスとグラン、ウルビダは白き光に包まれた。

 その光がやんだときそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夕方。オレたちは帝国学園から雷門中へと戻ってきた。

 道中オレは寝ていたため知らないが、何かオレにいろいろと聞きたかったらしい。ただ、あまりにも爆睡してた為聞けなかったと、運転手の古株さんが教えてくれた。……いやマジで寝過ごしたよ。というか皆置いてったの?マジで?

 

「……たく。ふぁぁあああ。よく寝た」

「眠そうだね。十六夜」

 

 バスを一人降りたオレに誰かが声をかけてきた。

 

「ん?あーグランか……何しに来たんだよ。さっきの今で」

「ちょっと姉さんに挨拶しにね」

「あー瞳子監督に会いに来たか……」

「……やっぱり知ってるんだね」

「まぁな。舐めんなよ」

「実に惜しい。なぁ、十六夜。ジェネシスと共に戦わないかい?そうすれば円堂君と戦えるよ」

 

 手を差し伸べてくるグラン。

 

「ははっ。冗談にしては面白くねぇよ」

「そうかい。本当に残念だ」

 

 そのまま去って行こうとするグラン。オレも他の場所に移動しようと歩きはじめる。

 

「その選択。後悔するよ」

「お前らを救うためにお前らを倒す。それだけだ」

「じゃあね。ムーン」

「さよならだ。キャプテン」

「「次はフィールドで会おう」」

 

 それを機にオレたちはお互いに言葉を発しなかった。

 そしてオレは目的地に着く。そこはオレ以外の奴らが初めて瞳子監督と出会った場所。

 

「十六夜綾人。ただいま戻りました」

「おぉ。無事に帰ったか十六夜君」

「はい。雷門理事長」

 

 そこには理事長と鬼瓦刑事がいた。

 

「潜入調査。ご苦労だったな」

「いえいえ。これからですよ……最後の戦いは」

「ああ、そうだったな」

「君の報告通りなら残るチームはザ・ジェネシスただ一つ」

「誠に勝手ながら最終戦の宣戦布告はさせていただきましたが」

「君から見てザ・ジェネシスに雷門は勝てると思うのかね?」

「正直に言って分かりません。雷門というチームは戦いの中で成長していく。そしてザ・ジェネシスの本気をオレは見たことがない。完全に未知数です」

 

 今までの試合もそうだった。試合の中での成長をしていくのがこの雷門というチームだ。無論、その成長を前提にするなんて甘いことを考えてはいない。だがそれを差し引いても未知数としか言い様がない。

 

「十六夜君だったかな。君には助けられた。ありがとう」

 

 すると画面に一人の男性とその背後に黒服が見える……ああ、ボディーガードの人か。

 

「いいえ。鬼瓦刑事と連絡を取りながら進めていただけです。財前総理が無事で何よりでした」

「こちらも彼のおかげで動きは取りやすかった。感謝している」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 …………あれ?オレってまさか……今、この国で一番偉い人と話している?え?マジで?

 

「失礼します……あら?」

 

 丁寧なお辞儀とともに入って来たのは、

 

「貴方、こんなところに居たのね」

「お嬢様か。何かあったのか?」

「ええ。今さっきね」

 

 雷門の話によると、どうやらグランと瞳子監督の話を女子マネージャープラス浦部が目撃。そこで瞳子監督がグランに姉さんと呼ばれていることが発覚し、つい先ほど雷門サッカー部と監督でお話し合いが行われていたそうだ。

 ちなみに、サッカー部が集まっていく過程でオレとグランのやり取りも聞かれたらしいが……まぁ、問題はないか。で、瞳子監督が明日富士山へ行くと。そこで話すと。出発は朝の8時。行く覚悟があるやつが行くって雰囲気になったらしいが……え?オレその場に居なくて良かったの?というか瞳子監督には悪いが……大抵のことならオレが知ってるんだけど?明日富士山に向かう途中で絶対質問攻めにあうじゃん。

 

「富士山山麓……あぁ、エイリア学園の本拠地があるとこか」

「やはり……貴方は知っているようね」

「まぁな。ずっとそこにいたし。というか理事長たちも知ってるぞ。そんなこと」

「そう……一つ聞かせて。貴方は一体何をしていたの?」

「あぁ……どうせ明日も話すから明日じゃダメか?」

「話すにしても、誰か一人くらい味方がいた方が都合がいいでしょう?」

 

 なるほどな。瞳子監督が擁護すると逆効果な気がするからな。お嬢様ならアイツらを黙らせることができるだろ。保険としてはありか。

 

「話してもいいですよね。理事長」

「ああ。我々もいくつか聞きたいことがあるからな」

「じゃあ、一つ一つ行きますか……」

 

 こうしてオレはすべて話すことにした。……まぁ、明日も話すんだけどね。



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富士山へ

長らくお待たせしました。
お気に入り登録や高評価をしてくださった方々、感想をくださった方々、本当にありがとうございます。
凄い待たせてしまい申し訳ない……!本年もどうぞよろしくお願いします。


 ネオ・カオス戦翌日の朝8時前。

 あの日は結局お嬢様たちに話して帰って寝たため他の奴らと全く会ってない。

 

「瞳子監督。おそらくオレは今までのことを聞かれます。何か隠した方がいいことはありますか?」

「大丈夫よ。覚悟はできているわ」

「十六夜」

 

 瞳子監督と話していると一人の男性が現れた。

 

「彼女自身が話すべき事もある。そこはお前から言うべきじゃない」

「分かりましたよ。響木監督」

 

 響木監督。勿論オレがスパイとして潜り込んでいたことを知っている人物の一人である。

 

「時間だ」

「ええ。行きましょう」

 

 時計は8時を指していた。キャラバンに向けて二人の監督と共に歩いて行く……今思ったがオレ場違い?

 そう思っているとキャラバンの前には皆がいた。

 

「瞳子監督に……響木監督!響木監督も一緒に?」

「ああ」

「皆そろってるわね……行きましょう」

 

 バスに乗り込むオレたち。オレの隣にはアフロディが座っていた。

 そして富士山に向けて出発するバス。出発したとほぼ同時に、

 

「なぁ十六夜。話してくれないか?お前は一体何者で、今まで何をしていたのかを」

 

 早かった。質問が早かった。まぁいいか。

 

「じゃあ、話していくか……ああ、長くなるから好きに聞いてくれりゃいい。質問も勝手にしておけ」

 

 昨日話してみて、大体何が質問としてくるかとかどういう順番で話せばいいかは知っている。

 

「まず初めに言っておくと、アイツらエイリア学園は人間だ。オレたちと同じな」

「「「えぇぇっ!?」」」

 

 そして車内に衝撃が走った。…………あーこれもっと後に言った方がよかったか?いやこれ言わないと色々と聞かれるし……。

 

「宇宙人じゃない……?」

「人間だと……?」

「でもアイツら自分たちのことを宇宙人って……」

「それはあれだ。彼らは目的のために素性を隠す必要があった。あんな絶大な力を持っているのは、宇宙人ってした方が都合が良かったんだよ。いろいろとな。まぁ信じるも信じないもどっちでもいい。進めるぞ」

 

 昨日のお嬢様の反応で分かってた。こいつらは本気でエイリア学園を宇宙人の集まりだと思っていたことを。

 

「オレがエイリア学園と関わりだしたのは、帝国学園との練習試合。あの前だ」

「……は?え?帝国学園との練習試合って」

「ああ。豪炎寺が加入するきっかけになったあれだ」

「なぁなぁ。それって何時の話なん?」

「フットボールフロンティアが始まる前ですね……」

「だから相当前の話だな」

「まぁ、正確にはオレはその時、相手がエイリア学園の選手だとは思ってなかったんだよ。一切そんな事情も知らず、ずーっと関わってきた」

「でもそんなこと何時……」

「夜だよ。夜の河川敷。お前らとの部活終わりに毎晩のように一緒に練習していた……そいつがウルビダと名乗ってる選手だ」

 

 皆からすれば思いもよらないだろう。何せ、まさかそんな前からオレがザ・ジェネシスとエイリア学園と関わりを持っていたなんて。…………まぁ、当時のオレも知らなかったが。

 

「で、時間は跳んでフットボールフロンティア決勝戦から一週間が経った時、ちょうどエイリア学園が本格的に学校破壊を始めた日だな。オレはウルビダから呼び出されてスタジアムに行っていた」

「だからあの時お前はいなかったのか……」

「そこでオレに与えらえられた選択肢はエイリア学園につくかお前らにつくか。まぁ、有り体に言えばスカウトされたわけだ。エイリア学園からな」

 

 ほんと、あの時は八神の頭が急におかしくなったのではと思ったわ。

 

「これで分かるだろ?オレがあの試合でジェミニストームを圧倒できた理由が」

「ザ・ジェネシスに所属していた選手からずっと鍛え上げられていた。だからジェミニストームのスピード、パワーに最初から慣れていた……ってことか」

「そーいうこと。自分でも驚いたけどな」

 

 いやはや。あの時はえ?嘘だろ?って思ったなぁ……まぁ、過去の自分から見れば今のオレなんて嘘みたいな存在だろうな。

 

「で、お前らを病院なり家なりに送り込んだ後、オレは響木監督に連れられ理事長、鬼瓦刑事、瞳子監督の元に行った。そこで告げたんだよ。オレはエイリア学園から勧誘を受けているってな」

「お前……そうか。気付いたら家にいたのはお前が運んだからなのか」

「まぁ運ぶって言っても理事長たちの力を借りたけどな。で、そこで話し合った結果ある策を思いついたんだよ。それがオレをスパイとして潜入させること」

「なるほど……正体不明の敵の懐に潜り込んで情報を探ったわけか」

「当然、反対意見もあった。だが、どのみちオレはあのまま雷門にいられなかったんだよ」

「どうしてだ?そのまま雷門で戦えばよかったんじゃないのか?」

「よく考えてもみろ。お前ら、あのままオレと一緒に戦っていて強くなれるのか?」

「なるほど。唯一対抗……いえ、上回っていたからこそどうしても十六夜君を頼りにしてしまう」

「確かに……十六夜のワンマンチームに成ってしまう可能性はあるな……」

 

 そう。勿論情報収集も大事だがそこだ。サッカーは11人でやるもの。一人に頼り切ったチームなんてすぐに限界を迎える。オレがチームの実力を上げるのに足を引っ張ってしまう……言わば足枷になってしまうから。

 

「いや、でもそんなこと……」

「確かにそうはならなかったかもな。でも、スカウトが来るほどだ。断れば豪炎寺のように、オレも脅されてチームを離れざる状況を作られていただろう」

「……どのみち、お前が残れる可能性はゼロに等しかったのか……」

「そう。だからチームを離れる決断をした。奴らを倒すために」

 

 スカウトが来た時点でもう、オレに道はほとんど残っていなかった。だったら、正体不明の敵を少しでも知るために乗り込んだ方がいい、そう判断したまでだ。

 

「後は知ってるだろ?急に消えると行方不明だの誘拐だのそんなこと考えられてもお互いに困る。だから、お前らに形式的なお別れをしてエイリア学園に単身乗り込んだ……っと、ここまでがオレが向こうにいた理由だ。質問は?」

「なるほどな……腑に落ちた。エイリア学園の力に絶望したわけじゃなくて倒すために動いていたわけか」

「はぁ……何というか」

「想像も出来ませんね……」

「向こうでもまずは場所の把握、施設の内容、メンバー構成に人数に関係者に……本当に全部調べていたからな。そのくせして練習はクソみてぇに疲れるし、ああ、お前らの大半も経験したあの大阪のマシーン。あれ全部クリアするの疲れたわ」

「え?お前もあれをやっていたのか?」

「というか全部って……え?あれを全部か?」

「まぁな」

 

 あのマシーンの凶悪さを知っている面々は顔を引きつっている。ああ、オレも頭おかしいと思うけどな。それに加えて八神が難易度上げたからな。

 

「で、何でも情報が漏れてる危険があるからそこを廃棄しようか迷ってたらしいんだ。ははっ、最後のダメ押しじゃないけど最終的に情報漏らしたのオレだけど」

「アンタだったんか……急にここに来たら面白いもんがあるって送ってきたのは」

「そうそう。無論送ったのはオレが全部クリアした後だけど」

 

 ほんと、漏れてる危険があるから廃棄しようという考えは、リスクを管理する上ではいい策だろう。だからダメ押ししても足が付かなかったわけだが……まぁ、落書きするとは思わなかったけど。

 

「そんな感じだな。瞳子監督から何か動きがあった時は連絡もらってたし、こっちも次の襲撃予告地とか流してたし……後聞きたいことはあるか?」

「いやお前。福岡でのことやカオス戦のことは……」

「あれな……いやな?オレの所属はジェネシスだったんだよ。で?福岡でお前らと戦うってグランのヤツが言うし、オレも出ろって言うし……。容赦なくグランは流星ブレード打つし、吹雪は飛び込もうとするし……もう勘弁してくれって感じだったな」

「なるほどな……お前が助けた理由はそれか。スパイとして潜入していたとはいえ、雷門サッカー部のメンバーが目の前で負傷されるのはマイナスになると」

「そりゃそうだ。吹雪は必要な人材だからな」

 

 まぁ、この中にいるメンバーも、離脱してしまったメンバーも。決して、誰かが不必要って訳でもないけど。

 

「で、カオス戦のことだが……あれはオレのミスだった。バーンとガゼル、そしてグランの三人が率いるチームは本来競い合ってトップを目指していたんだよ。で、グランがトップに立ちそうだからってバーンとガゼルが手を組んでそれで巻き込まれて……あはは。何やってるんだろうな」

 

 周りの反応は……まぁ苦笑いだよな。スパイとして潜入してるやつが引っかき回したあげく、自分たちの前に敵として現れてるからな。

 

「後はネオ・カオスがお前らに宣戦布告したって言うから、状況を見てどうするか決めようかと思ったら、思いの外やばいから頃合いかなって思って戻ってきたって話だ。以上かな。何かあるか?」

 

 まぁ困惑するよな普通。というかよくばれなかったものだ。

 

「なぁ十六夜。俺の事情は最初から知っていたのか?」

「妹のことだろ?お前が離れた直後に知った。ただ悪かったと思ってる。どうしてもばれないように助けるには無理があった。本当はもう少し早く助けられれば良かったんだが……」

「いや、気にしなくていい。無事だったんだ。…………なるほどな。あの時一瞬で消えたのはそういうことか」

「あはは……さすがにあそこで戻るわけにはいかなくてな」

 

 あの時はまだ早かった。だから戻ることをしなかった。

 

「いやぁ……何というか……十六夜。お前ってすっげぇヤツだったんだな。まさかそんなに動いてるとは……」

「ははっ。まぁ、敵を騙すにはまず味方からってな」

 

 おかげさまで疑われることはほぼなく順調に行ったし。

 

「ただ、お前を敵に回すのは二度と考えたくないな」

「ああ、本当に厄介すぎる」

「そうッスよ」

 

 ははは……。

 

「オレからすりゃあ雷門ほど敵に回したくない相手はいねぇよ……」

「そこは僕も同感だよ。ああ、そうだ十六夜君。一ついいかな」

 

 そんな感じでオレたちは着実に敵の本拠地へと近づいていくのであった。

 ……雷門の強さは知っている……だが、それでも、これから戦うであろうザ・ジェネシス。彼らの力も、恐ろしさもある程度は知っている。一緒にやってきたから分かるあの強さ。だが、それでもオレはアイツらの本気を知らない。もし、アイツらが本気を出したら……いや、十中八九本気を出してくるだろうが、今のオレでは……オレたち雷門は勝てるのか?

 ……いいや、そんな後ろ向きな考えはよそう。オレたちなら止められる。きっとそうだ。オレたちは勝つ。何が何でも勝つ。……勝たなきゃならないのだから。勝たなければ……




ちなみに誰かさんのおかげかせいか、響木監督の黒幕はお前だ的なシーンはないです。

活動報告にてこの作品の今後について重要な話をしています。
もし、都合がよければ見てください。
活動報告URLです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=255669&uid=129451


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雷門VSザ・ジェネシス ~エイリア学園~

 そしてオレたちは富士山に到着。キャラバンで山道を登っていくとついに、エイリア学園の本拠地が見えてきた。

 

「な、何ッスかあれ!」

「富士山にこんなものが!?」

「U、UFO!?」

 

 本拠地が見え、バスの中が軽く騒ぎになる。

 

「十六夜君、あれが……」

「ああ、間違いない。あれがエイリア学園の本拠地だ」

 

 オレとしてはずっとあそこにいたから……というか今更だがあんなところだし、ずっと高所トレーニング状態だったのでは?まぁ、それも今日で終わらせるつもりだから何でもいいけど。

 バスはそのまま閉じられた入り口へと向かう。

 

『承認コードを入力してください』

 

 ああ、懐かしいな。確か、最初来たときもそんな感じだったな。まぁ、その後は入り口なんて使わなかったが。

 瞳子監督がコードを入力すると、入り口が開く。もしこの人が知らなかったら、オレが開けないといけなくなるところだったが……流石に、そんな阿呆な展開はなかったらしい。

 そして、これ以上このキャラバンでは進めないところまでやって来た。そのためオレたちは、全員ここで降りることにする。

 

「監督、ここは何のための施設ですか?」

「吉良財閥の兵器研究施設よ」

「吉良財閥?」

「吉良って……監督の苗字も吉良じゃ……」

「そう。瞳子監督の父さんである吉良星二郎がトップを務めてる。自らの作り出した兵器で世界を支配しようとしている」

「世界を……支配する?」

「そうだ。そしてその人こそ、このエイリア学園の騒動の黒幕だ」

「「「…………っ!」」」

 

 皆に衝撃が走る。そりゃそうだ。オレたちの倒すべき敵は、世界征服を企むほど巨大な存在。そして、そんな黒幕の本拠地に居るという現状に、皆それぞれ思うところがあるらしい。

 すると、オレたちを待っていたかのようにドアが開く。

 

「行くぞ」

 

 建物の構造は全部把握している。だから、オレは一切迷うことなく開かれたドアの先へと進んでいく。そして、そんなオレに続くようにして皆も付いてくる。

 

『シンニュウシャアリ。シンニュウシャアリ』

 

 通路を少し進むと、待ち受けるのは数体の警備ロボット。足元にはご丁寧にサッカーボールがある。

 

『ハイジョハイジョハイジョ』

 

 一斉に蹴り出されるボール。迫り来るボールの嵐にオレ以外の全員が脇の通路へと避難する。

 皆が慌てている中、

 

「あー懐かしいな」

 

 オレは一人懐かしさを覚えていた。あぁ、あの時はウルビダが警備システムを解除してなかったせいで今と同じような目に遭ったっけ?あー凄い昔に感じるなぁ……

 

「お、おい!十六夜!」

「危ないッス!」

 

 警備ロボットたちは標的をオレのみに定める。なるほど、既にオレを仲間として認識はしてないか……。

 迫り来るシュートの嵐。ご丁寧に蹴り返して差し上げてもよろしいが……

 

「別に、壊していいんだろ?」

 

 ピ──!

 

「行け、ミサイルペンギン」

 

 放たれた二十を超えるペンギンたち。あるペンギンはボールを弾き返し、あるペンギンはロボットたちに突撃していく。

 シュートの嵐に対してペンギンの嵐。そして、ペンギンの嵐がやんだとき、

 

「じゃあ行こうか。皆」

 

 そこには大量のロボットの残骸()が転がっていた。

 

「「「…………」」」

「ん?どうした?」

 

 あまりの光景に固まる皆。

 

「いやぁ……お前……え?」

「えげつねぇな……おい」

 

 どうやらロボットのなれの果てを見て引いてるらしい。

 

「段々、お前の呼べるペンギンの数増えてないか?」

「ん?あー制御を考えないなら今みたいに二十三十は呼べるな」

 

 最も、現段階でこの数を試合中に使おうものなら、制御しきれずに相手選手とか味方とかに行きかねないからな。まだまだ練習が足りない以上、この数は呼ばないけど。

 今にして思うと、このエイリア学園の騒動が起きる前って、オレが呼び出せるのペラーだけだったんだよなぁ……それが気付けばこんなに。というか、ペラー曰くまだまだ呼び出せる可能性があるらしい。いや、オレは何を目指しているんだろうか?

 さらに進んでいくオレたち。突如、通路の照明が落ちた。

 代わりに壁に見えていたところが開き、新たな通路が現れる。ご丁寧にその通路には明かりが灯っているので……ああ、こっちに進めと。確かこの先は……ホロビジョンルームだったかな?

 

「行こうか」

 

 その通路をドンドン進んでいく。別にトラップがあるわけじゃないので一切警戒していないが。

 その通路の先には、巨大な自動扉。そこがオレたちを認識して開いていく。

 

「さてと……」

 

 そこは真っ暗な部屋だった。全員が入ったことを確認してか、背後の扉が音を立てて閉まる。

 閉まると同時に空中では吉良星二郎の立体映像……ホログラムが映る。

 

「お父さん……!」

「この人が……」

 

『日本国首脳陣の皆様。お待たせしました。これよりプレゼンテーションをはじめさせていただきます』

 

 ……オレたちに向けて言っていない?この言い方から察するに……映像を首脳陣の皆様にお届けしているって事か?

 そして映るのはいくつかの映像。ジェミニストームやイプシロンなどの試合や学校破壊の様子。

 そこから伝えられるのは……まぁ、オレからすれば調べた事実を復唱しているだけ。

 エイリア学園。事の発端は五年前、富士山山麓に飛来した隕石。そこから人間の潜在能力を発揮するエイリア石が発見される。エイリア石の研究は進み、人間の身体能力を飛躍的に向上させることに成功。総理にこの力を使い強い力を持ち戦うために生み出す人間、ハイソルジャーに関することを提案。しかし、その提案は棄却される。

 そこでハイソルジャーの事を分からせるため、総理の好きなサッカーでその力を示そうとする。それがエイリア学園によるサッカーでの襲撃だった。

 

「なんてことを……!」

 

 最強にして究極のハイソルジャー、ザ・ジェネシス。そしてその能力を実演するとのこと。オレたち雷門イレブンを相手に。

 道が開かれる。現れた研崎が案内し、連れて行った先……そこは日本庭園だった。

 

「プロモーションはどうでしたか?」

 

 そこにいたのは、吉良星二郎本人。

 

「お父様は間違っています。ハイソルジャー計画をやめてください!」

「どうやら分かってないようですね。お前たちも私の計画に組み込まれていたことを」

「どういう意味ですか?」

「エイリア学園との長い戦いで鍛え上げられた雷門は、最強のチーム、ザ・ジェネシスの最高の実験相手となる……違うか?」

「素晴らしい。流石はザ・ジェネシスに所属していただけのことはありますね」

 

 それぐらい分からない訳ではない。簡単に推察できる。ただ、残酷なのは……

 

「瞳子。お前は私の期待通りの働きをしてくれました」

「私が……エイリア学園の……」

 

 これまで、このハイソルジャー計画を崩すために奮闘してきた瞳子監督が、実はその計画を完成させるのに一役買ってしまっていた、という事実だろうか。

 

「さぁ、試合の準備をしてください。ジェネシスが待っていますよ」

 

 そして去って行く吉良星二郎。静かにオレたちの方へと振り返った瞳子監督。

 

「皆……私は今日までエイリア学園を倒し、ハイソルジャー計画を潰すためにやって来た。でもあなたたちを利用して来てしまったことになるのかもしれない。私に監督の資格は──」

「違う!」

「──円堂君」

「監督は俺たちの監督だ!監督は俺たちが強くなる作戦を考えてくれた!次に繋がる負け方を教えてくれた!俺たちの挑戦を見守ってくれた!だからここまで来られたんだ!」

 

 皆もその意見には同意のようで、思い思いに監督への感謝や気持ちを伝えていく。

 

「監督!俺たちには瞳子監督が必要なんです!最後まで一緒に戦ってください!」

「皆……!」

 

 オレたちは控え室へと移動する。

 一人一人、準備を進めていく中、オレも静かに準備を進めていた。

 スパイクを履きながらふと右足につけたミサンガを見る。

 

「ああ、そういや……」

 

 ずっとつけていて、今や身体の一部って言っても差し支えないその存在。

 そしてこの黒が基調で青っぽい色のストライプがいくつか入ったスパイク。今となってはかなり馴染んでいて、それでいて少しずつボロボロになり始めている。

 オレは改めて決意する。オレはお前に……いいや、オレはお前らに勝つ。たとえ、どんなに壁が高くても、絶対に勝たなくてはならないのだから。

 

「行くぞ皆!この戦いは絶対に負けられない。俺たちの戦いは地球の運命を決めるんだ!」

「今度こそ、本当の最終決戦という訳だな」

 

 円堂を中心にオレたちは瞳子監督と向き合う。

 

「あなたたちは地上最強のサッカーチームよ。だから、私の指示はただ一つ……勝ちなさい!」

「「「はい!」」」

 

 監督の言葉を受けてオレたちは最終決戦の舞台へと上がっていくのだった。




活動報告での宣言通り本日より1日空き投稿を少しの間、行います。
また、活動報告を見ていただいた方はご存知かもしれませんが、皆さんの意見のもとで今後の展開(世界編)について以下の二つからアンケートを取りたいと考えます。

一つは、原作(アニメ)のイナズマジャパンのメンバーに十六夜を追加しただけのパターン。アンケートでは、原作ルートとさせて頂きます。

もう一つは、メンバー候補を皆様から募集し、イナズマジャパンのメンバーを何人か入れ替えるパターン。アンケートでは、変更ルートとさせて頂きます。

簡単に補足、並びに違いについて。
原作ルートはそのままです。十六夜君をメンバーとして追加。八神さんをマネージャーとして追加します。途中離脱、加入なども変えずに行きます。

変更ルートは既存のイナズマジャパンのメンバーの何人かを入れ替えるもの。また16人が原作の枠ですが、18~20になる見込み。(原作ルートだと17枠です。十六夜君を追加しただけなので)。そして、女性選手の参加可能とさせて頂きます。その影響で相手チームにも些細な変化が起きると思われます。
また、変更ルートの場合、現状ジャパンのメンバーとして確定しているのは円堂、鬼道、豪炎寺、十六夜、八神の五人。他のメンバーを活動報告などを用いて募集していきます。(詳細はこのルートに決定次第活動報告にて)

イナズマジャパンのメンバーの違いによる、試合展開、登場必殺技などが少しずつ変わっていくと思われますが、一番の違いはヒロインである八神さんの動きです。
原作ルートは、八神さんが試合に出るのは天使と悪魔の1戦のみです。基本はマネージャーとしてのチームのサポートに徹します。
変更ルートは、選手なので試合に出ます。(ただし、十六夜君含め、全試合フル出場とは限らない)だから、共闘する機会が原作ルートより多いです。

以上二つのルートでアンケートを取ります。
作者が皆さんの意見も参考に悩んだ結果、この二つのどちらかで行こうと思います。
期間は3月15日午前6時まで。終了時点で1票でも多い方を採用。
今回のアンケートはこの作品の今後に関わりますので、どうか協力してもいいよという方、お願いします。


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雷門VSザ・ジェネシス ~最終決戦~

 グラウンドに出るオレたち。屋根が宙に浮き、フィールドのセッティングも今までにないものとなっている。

 

「とうとう来たね、円堂君」

「ああ、お前たちを倒すためにな」

「俺はこの戦いでジェネシスが最強だと証明してみせる」

「最強だけを求めたサッカーが楽しいか?」

「…………それが父さんの望みだから。俺は父さんのために最強でなくちゃいけないんだ」

 

 グランが答えるがジェネシスの他のメンバーも同じ気持ちだろう。彼らにとっての父さん……吉良星二郎のために、最強のチームとしてオレらと戦う。

 

「「………………」」

 

 円堂と共に並び立ち、ジェネシスのメンバーを、特にウルビダを見る。向こうもオレを見ているがお互いに何かを言うことはない。

 

「君たちの相手は最強にして最後のチーム、ザ・ジェネシスだ」

 

 グランのその一言を残してザ・ジェネシスは彼らのベンチへと戻っていく。

 

「行くぞ、円堂」

「ああ」

 

 オレたちも自分たちのベンチへと戻っていく。

 そして今回のスターティングメンバーとポジションが言い渡された。

 

 FW アフロディ 豪炎寺

 

 MF 一ノ瀬 鬼道 財前 土門

 

 DF 壁山 十六夜 円堂 綱海

 

 GK 立向居

 

『皆さん!いよいよこの時がやって来ました!』

 

 …………すげぇどうでもいいが、何でお前(角間)ここにいるの?ここ富士山だよ?どこから情報を仕入れて、どうやって来て、どうやって侵入したのお前。

 

『今や地上最強と言っても過言ではない雷門イレブンがエイリア学園最強のザ・ジェネシスと雌雄を決するのです!』

 

 ……とりあえずこいつの事を無視して、お互いの選手がポジションに着いた。

 

 ピ──!

 

 ジェネシスボールで試合開始。ボールはアークからウルビダへと渡り、ウィーズへ。

 そしてそのままシュートを打つ。

 

「舐めすぎだっての!円堂!」

「任せろ!」

 

 シュートコースに割って入る円堂。そして、

 

「メガトンヘッド!」

 

 メガトンヘッドでシュートを跳ね返す。

 

「鬼道!」

 

 空中でそのボールを確保して鬼道へとパスを出す。

 

「イリュージョンボール!」

 

 鬼道は必殺技でコーマを抜き去った。

 

「一ノ瀬!」

 

 そして一ノ瀬へとパスが繋がる。マークに来たのはキープ。それをアフロディとのワンツーで躱して、

 

「豪炎寺!」

 

 豪炎寺へとパスが繋がる。

 

「爆熱ストーム!」

 

 そのまま必殺技を放つ。だが、

 

「プロキオンネット!」

 

 ネロを中心とし宇宙空間が現れる。そして、ネロの前には三つの光が現れ、正三角形を作り出す。その内部にはネットのようなものが貼られ、シュートはその衝撃とかパワーを吸収され片手で止められてしまった。

 

「クッ……」

 

 やはり一筋縄ではいかないようだ。ボールはキープに渡りそのままウルビダにパスを出す。

 

『おっと!ウルビダの速攻だ!』

 

 そして素早いドリブルでドンドンと上がってくる。確かに速い。だが、そのスピードならついて行ける。

 

「行かせるか!」

 

 ウルビダのドリブルを止めるべく立ち塞がる。軽く左右に揺さぶりを掛けてくる。この動きなら……右からの突破か!

 

「ふっ」

「なっ……!」

 

 次の瞬間、左サイドへとパスを出す。……嘘だろ?ドリブルして突破しようとして一瞬で切り替えた……!それに今、こいつは左サイドへ意識を向けていなかっただろ?

 

「グラン!」

 

 パスを受けたウィーズ、そのまま跳んでいたグランへとダイレクトでパスを出す。

 

「流星ブレード!」

 

 パスを受けたグランは必殺シュートを放つ。

 

「止めろ!立向居!」

 

 ダメだ……!誰もフォローが間に合わない!

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 立向居のムゲン・ザ・ハンド。しかし、グランの流星ブレードには通用せず、ボールはゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!試合開始早々、先取点はジェネシスだぁっ!』

 

 マジかよ……ここまであっさり決められるなんて……!

 

「十六夜。貴様の動きなど手に取るように分かる」

「…………っ!」

「貴様じゃ私に勝てない」

 

 そう言い残し、自分のポジションへと戻っていくウルビダ。一瞬見えたその目には、憎悪と失望の色が見えた気がした。

 

「……ははっ」

「……大丈夫ッスか?十六夜さん?」

「……大丈夫だ。悪い。簡単に突破されて」

 

 言ってくれんじゃねぇか……!

 

「ヒロト!お前たちのサッカーは間違っている!本当の力は努力して身につけるものなんだ!」

「果たしてそうかな?我らジェネシスこそ最強なんだ」

 

 グランの言葉とそれを裏付けるような今のプレー。何人かが顔をうつむかせ、未だ埋められていない力の差に絶望を感じ始める。

 ……そんな時だった。

 

「顔を上げなさい!」

 

 監督の声が聞こえてきたのは。

 

「貴方たちは強くなっている!諦めず立ち止まらず一歩一歩ここまでやって来た!自分を信じなさい!そうすれば貴方たちは勝てる!私は信じているわ!」

「瞳子監督……」

 

 …………ふぅ。冷静になれ。いったん落ち着こう。この勝負は負けられない……がむしゃらに突っ込んで勝てるほどアイツは……アイツらは弱くない。だから落ち着け。

 

「監督の言うとおりだ!絶対に勝つぞ!」

『おう!』

 

 気付けば周りも顔を上げ、前を見ている。たった一言でオレたちの空気を変えるとは……監督の言葉って、ここまで大きな影響を与えるんだな。

 雷門ボールで試合再開。豪炎寺がボールを持って上がるのと同時に、オレたちDF陣も前へと上がっていく。

 

「爆熱ストーム!」

 

 そして豪炎寺がそのままシュートを放った……ゴールとは逆方向に。……あれ?似た光景をどこかで見たことがあるような……

 

「円堂!」

「おう!メガトンヘッド!」

 

 そして、そのシュートを円堂がメガトンヘッドで跳ね返す。ボールはネロの守るゴールへと突き進む。なるほど。ただ爆熱ストームを打っても突破できない。だからシュートを重ねたわけか。

 

「プロキオンネット!」

 

 だが、それをネロはしっかりとキャッチし、止めてしまう。

 

「戻れ!」

「グランをマークだ!」

 

 カウンターを警戒して戻らせる。そして、グランには円堂と鬼道のダブルディフェンスがついた。

 それを見てか、ボールはウルビダが持って攻め上がる。

 

「今度こそ止める!」

 

 その前に立ち塞がるオレ。ウルビダはそれを見るなり、一瞬ボールを足の裏で止めて……

 

「遅い!」

 

 そして、すぐさまボールを蹴り出し、そのスピードでオレの横を突破する。

 ッチ!緩急をつけることで、オレの動きが止まった瞬間を見計らい、最高速で抜き去っていきやがった!完全にやられた!

 

「グラン!」

 

 そして、大きくボールを蹴り上げる。円堂と鬼道のダブルディフェンスが付いていたにも関わらず、そのボールに対し、グランは大きく跳び上がり……

 

「流星ブレード!」

 

 ダイレクトでシュートを放った。

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 塔子と壁山のダブルブロック。ボールはその絶大な威力を持って、ダブルブロックを打ち破った。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 そこに立向居のムゲン・ザ・ハンドがそのシュートを止めにかかる。だが……

 

「うわぁっ!」

 

 止めようと出された四本の手は、無情にも砕け散る。ボールはそのままゴールへと向かうが……

 

「おりゃぁっ!」

 

 綱海が間一髪のところでボールを弾く。代わりに綱海はゴールに入ったが……

 

「綱海さん……!」

「いいぞ!綱海!」

「おう!」

 

 ジェネシスのコーナーキックで、試合再開。あげられたボールに対し、グランがボレーを放つ。

 

「くっ……!」

 

 それを何とか弾く。弾かれたボールは円堂の元に行った。

 

「鬼道!」

「アフロディ!」

 

 そこから鬼道を経由してアフロディへと繋がる。そこにゾーハンとハウザーの二人が迫る。

 

「ヘブンズタイム!」

 

 豪炎寺がキープによってマークされており、ドリブルを選んだアフロディ。だが……

 

「……っ!」

 

 次の瞬間。ボールはゾーハンが持っていた。……ネッパーだけじゃなくてザ・ジェネシスにもヘブンズタイムが通用しないのか……!

 そこからボールはコーマへ。コーマからクイール、そしてウィ-ズへ。

 

「そこだ!」

 

 ウィーズがボールを受け取った瞬間にボールを奪い去る。よし。ここから反げ──

 

「遅い」

「なっ……!」

 

 そこから更にボールをカットしてくるウルビダ。嘘だろ……?ここまであっさり取られるのかよ……!

 

「はぁっ!」

 

 そしてそのままシュートを放つ。

 

「通さないッス!」

 

 壁山がそのシュートを腹で受け、壁山を円堂と綱海が支える。

 ボールの勢いはゼロとなり足下へ落ちる。そのボールを壁山が大きく前線へと蹴った。

 

「土門!」

「鬼道!」

「豪炎寺!」

 

 ボールは空中で一ノ瀬が確保する。そこから土門、鬼道、豪炎寺へと渡っていった。

 

「アフロディ!」

 

 そしてボールを蹴り上げる豪炎寺。そこにはアフロディがシュート体勢で構えていた。

 

「ゴッドノウズ!」

 

 繰り出されるそのシュート。だが、

 

「プロキオンネット!」

 

 ネロの前には通用しなかった。ネロを破るにはどうすれば……!いや、その前にどうやってウルビダに勝てばいいんだ……!確かに今までコイツに勝ったことはほとんどない。だが、ここまで圧倒的にやられるとは思いもしなかった。一体どうすれば……!

 ボールはアークからウルビダへと渡る。

 目の前にはボールを持ったウルビダが。この試合始まって以来何度目かの相対。ダメだ……!どうやっても勝てるビジョンが見えない……!オレでは彼女を止められないのか……?いや、弱気になっては……!

 

「…………っ!」

 

 そう思った瞬間、軽いフェイントを挟み横を突破していくウルビダ。クソ!また抜かれた……!

 

「まだだよ!」

 

 突破された直後、前にいたはずのアフロディがスライディングをし、ボールを外へと出した。

 

「…………悪い。助かった」

「気にしないで」

「……ああ」

 

(吹雪君も問題として残ってるけど……十六夜君。今の君からはいつもの迫力がない)

 

 ジェネシスのスローインで試合再開。ボールはクイールが持っている。

 

「行かせない!」

 

 クイールの前に立ち塞がる。だが、クイールはそのままコーマへとパスを出す。

 

「攻めるんだ!十六夜君!」

 

 そのパスをカットしたアフロディ。カットしたボールをオレにパスを出してくる。

 

「ああ!」

 

 オレはドリブルをして前へと進んでいく。マークに来たゾーハンをアフロディとのワンツーで抜き去っていく。

 

「行くぞっ!」

 

 そしてボールを蹴り上げ、背後には満月が現れる。

 

 ピ──!

 

 そしてその満月から10の光がボールへと注がれ、

 

「ムーンフォース──」

 

 オレはそのボールを……

 

「ふんっ!」

「なっ……!」

 

 蹴りつけた同じタイミングで逆方向からボールから蹴りつけられる。

 空中で蹴り合いになるオレとウルビダ。そして……

 

「堕ちろ」

「くそっ……!」

 

 その蹴り合いに負け、オレは地面に背中から叩きつけられそうになる。

 

『危ないっ!』

 

 幸い、ペラーがクッションになってくれたお陰で、そこまでダメージはない。

 

「…………この程度か」

 

 そして、地面に倒れ込むオレを一瞥し、そのままドリブルで攻め上がるウルビダ。マークに来た土門や一ノ瀬を抜かす。

 

「ジェネシスはグランだけのチームではないぞ!」

 

 グランをマ-クしているのは円堂と綱海。だが、ウルビダはグランへとパスを出すことなく、ボールを上へと蹴り上げる。

 

「はぁあああああ!」

 

 そして、ウルビダは濃い赤に染まるペンギンたちを6匹呼び出す。そのペンギンたちはボールへと喰らい付くと、ボールを縦回転させる。

 

「ブラッドムーン!」

 

 そのボールにオーバーヘッドキックをし、その血のように紅く染まったボールは6匹のペンギンと共にゴールを目指す。

 シュートを放ち、空中にいるウルビダの後ろには血のように赤い月が浮かんでいた。

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!」

 

 そのシュートを前に塔子と壁山が立ち塞がるも、敗れ去ってしまう。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 そして立向居のムゲン・ザ・ハンド。その四本の手はペンギンたちによって崩され、ボールはゴールへと刺さった。

 

「……貴様のムーンフォースと対を為す私の技だ」

 

 ゴールへと刺さったボールを見ているオレに対し、淡々と告げてくるその言葉。

 

「…………思い違いをしていたようだ。貴様ごときもう眼中にない」

 

 その目にはもう、オレが映っていなかった。




オリジナル技解説

ブラッドムーン
シュート技
使用者 ウルビダ
十六夜のムーンフォースと対を為すペンギン技。
威力は流星ブレードと同等かそれ以上。
モチーフはそのままブラッドムーン(調べたら出てきます)。


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雷門VSザ・ジェネシス ~吹雪の覚醒~

「うっ……!」

 

 重なる失点。度重なる敗北。そして告げられた言葉。

 

「塔子!大丈夫か!」

「大丈夫ッスか?」

「ごめん……止められなかった」

「立てるか?」

「ああっ。ちょっと打っただけ……くっ」

 

 顔をしかめる塔子。そして駆け寄るチームメイト。

 軽い絶望にあったオレを強制的に現実世界に引き戻したのは、更なる絶望へと堕とす光景だった。

 塔子の力は現状、ジェネシスのシュートを止めるのに必要なカード。そんな彼女が試合続行が出来ないとなれば、彼らのシュートに対抗する術が減ると言うこと。

 

「監督!僕を試合に出してください!」

 

 そんな中、ベンチでは吹雪が立って瞳子監督に試合に出たい旨を伝えていた。

 

「僕は皆の役に立ちたいんです」

 

 吹雪と瞳子監督の視線が交差する。その瞳を見て監督は決断した。

 

「選手交代!財前塔子に代わって吹雪士郎!」

 

 選手交代。ベンチでは吹雪が出られるように準備を進めていた。

 

「アフロディ君は財前さんのポジションに。吹雪君。あなたにはフォワードを任せるわ」

 

 塔子がベンチに下がる中、アフロディがMFに下がってくる。

 

「さぁ、行きなさい!」

「はい!」

 

 そして、交代して入ってきた吹雪。彼はオレたちの前に立った。

 

「いいんだな?」

 

 円堂の短い問いかけ。それに彼は小さく頷いた。

 

「頼んだぜ。吹雪」

 

 両肩に軽く手を置き激励する円堂。吹雪はそのままポジションへと走って行った。

 

「よし。吹雪にボールを回すぞ!」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫さ。アイツなら。吹雪は自分の意思でここに戻ってきた。だったら俺たちが出来るのは信じてやることだけだ」

 

 円堂の言葉に賛同するチームメイト。各々がポジションにつき雷門ボールで試合が再開される。

 ボールを持った吹雪。対してジェネシスは、豪炎寺やアフロディにマークを集中させている。パスコースを潰しただけで、吹雪にはほとんどディフェンスが行っていない。これは……打たせようとしている?

 

「舐めやがって……吹き荒れろ!エターナルブリザード!」

 

 吹雪が荒々しい口調で、シュートを放つ。

 

「プロキオンネット!」

 

 しかし、そのシュートはネロの手に収まってしまった。吹雪でもネロを打ち破れなかった……のか。

 ボールはコーマからアーク、そして鬼道と一ノ瀬のマークを振り切ったグランに渡る。そこに走り込んでいたのは吹雪だった。

 

「アイスグランド!」

 

 吹雪のアイスグランドがグランを襲う。だが、グランには通用しなかった。

 ただボールを足の裏で止めて立ち止まっていただけ。しかし、氷と共に吹雪は弾かれてしまう。

 

「僕のプレーが全然通用しない……!完璧にならなくちゃいけないのに!」

 

 シュートだけでなくディフェンスまでもが通用しない。そのことに焦りを感じる吹雪。

 そのままグランは円堂と壁山を抜き去って、シュート体勢に入る。

 

「流星ブレード!」

 

 放たれるシュート。

 

「これ以上離されるわけには……!」

 

 シュートとゴールの間に割って入り、蹴り返そうと試みる。だが、その圧倒的な力の差に飛ばされ、ボールはゴールへと向かった。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 立向居の背中から現れる四本の手。シュートを止めようと向かうがボールはその手を砕きゴールへと向かう。

 

「まだだよ!」

 

 ゴールギリギリで走り込んできたのはアフロディ。そのシュートを胸で受け止め、ボールはゴールラインを割ることなく止まった。そして、落ちたボールを大きく前へと蹴り出す。

 

「すみません……俺が止められないばかりに」

「気にしないで。ゴールは君だけが守るんじゃない。僕たち全員で守るものなんだ」

「そうだぜ!だからお前も諦めずにガンガンやっていけ!」

「諦めずに……」

 

 弾かれたボールはクイールが確保し、ウルビダへと渡る。

 

「止める……!」

「……そうか」

 

 ウルビダは俺がディフェンスに来ていても、意にも介さず、軽いフェイントと共に抜き去っていく。そのあまりに淡々としたプレーは、まるで何もないかのように感じ、さっきの眼中にないという発言が本気だったことが伝わる。だが、そんなプレーなのにオレがアイツからボールを奪える未来が見えない。

 

「…………クソッ」

 

 悔しさを感じるが立ち止まっている場合ではない。振り返ってボールを追いかけようとするが、既にウィーズへとパスが出されていた。

 ウィーズへとパスが繋がった瞬間。一ノ瀬、鬼道、土門、円堂の四人による四方向からの同時スライディング。ウィーズは咄嗟のことで反応が遅れ、ボールは弾かれ宙を舞う。そのボールに反応したのは鬼道。

 

「吹雪っ!」

 

 ダイレクトで吹雪にパスを出す。しかし、吹雪は何処か魂がここにない感じがして……

 

「吹雪!」

 

 豪炎寺の声でボールが迫ってきていることに気付く吹雪。あまりに反応が遅れたためか、ボールを上手くトラップすることが出来ず、足でボールを弾いてしまう。そのままボールは外に、タッチラインを割ってしまった。

 

『あぁっと!吹雪!痛恨のトラップミスだぁっ!』

 

 実況の声が響く中、豪炎寺はボールを取りに行って拾い上げる。そして、

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 吹雪の腹部にシュートが直撃した。その威力のせいで吹雪は後方に吹き飛ばされてしまう。

 膝をつき、シュートの痛みか腹部を抑える吹雪。そんな彼の前には、シュートを打った張本人である豪炎寺が立っていた。

 

「豪炎寺君……?」

「本気のプレーで失敗するならいい。だが、やる気のないプレーだけは絶対に許さない!お前には聞こえないのか?あの声が」

「声……?」

 

 吹雪の声に答えることなく、豪炎寺は自分のポジションへと戻っていく。

 アークのスローインで試合再開。ボールはコーマに渡り、ウィーズ、ウルビダ、そしてグランへと渡る。

 

「流星ブレード!」

「止めるッス!ザ・ウォール!」

「やらせねぇ!」

 

 グランの必殺シュート。それを壁山がザ・ウォールで防ぎつつ、オレが蹴り込んでシュートを止めようとする。だが、

 

「うわぁああ!」

「くっ!」

 

 シュートの威力を削いだだけで、止めることはかなわなかった。

 

「たぁぁああっ!メガトンヘッド!」

 

 シュートと立向居の間に入ったのは円堂。円堂の必殺技とグランの必殺技が激突する。

 

「負けるかぁ……!いっけぇ!吹雪ぃっ!」

 

 弾いたボールはグランの頭上を越えて吹雪の下へ。

 

「……聞こえる。ボールから皆の声が……皆の思いが込められたボール……!」

 

 ボールを持ったまま立ち止まる吹雪に、容赦ないコーマとクイールのダブルスライディングが襲いかかる。

 それを、空中へと跳躍することで回避する吹雪。そして、空中で身に纏っていた白いマフラーを投げ捨てる。着地した吹雪。その目には迷いがなく、雰囲気も今までにはないようなものへと変わっていた。

 

「吹雪?」

 

 円堂たちもその変化には気付いた様子だ。

 吹雪は相手ゴールの方を向きドリブルで上がっていく。隣には豪炎寺が走っていた。

 ゾーハンとハウザーのダブルディフェンスが迫り来る。豪炎寺へとパスを出し、自身は二人の間を駆け抜け、そして豪炎寺から再びパスを貰う。

 その動きは速く迷いがない。今までとは大きく動きが変わっていた。

 

「これが完璧になることの答えだ!」

 

 そして吹雪はボールを軽く上げると右足で蹴り込む。ボールには三本の爪で何回も引っかくようにしてパワーが注ぎ込まれる。

 

「ウルフレジェンド!」

 

 吹雪が吼える。それに呼応するように背後にはオオカミ、そしてその後ろには満月が現れる。三つに分かれたボールは一つになり、ゴールへと向かっていった。

 

「プロキオンネット!」

 

 そのシュートはネロの必殺技を受け手もなお、止まることはなかった。

 そして、ボールはプロキオンネットを打ち破り、ネロを弾き飛ばしてゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!吹雪の新必殺技が炸裂!雷門!遂に一点を返したぞ!』

「やったぁ!」

 

 喜ぶ雷門。対してジェネシスは、失点するとは思わなかった様子。その様子が如実に表れていた。

 ジェネシスのキックオフで試合再開。ボールを持っているのはグラン。グランはスピードを上げてオレたちディフェンスのマークを振り切り、立向居と一対一に。

 

「流星ブレード!」

 

 放たれたシュート。そのシュートに対し、立向居は怯えることなく、向かっていく。

 

「俺だって雷門の一員なんだ!」

 

 その彼の熱意に応じてなのか、彼の必殺技ムゲン・ザ・ハンドはその手の本数を2本増やした、計6本の金色の手でシュートに向かっていく。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 進化した彼の必殺技。それは先ほどまで数人で止めるのがやっとだったグランのシュートを、一人で止めて見せたのだった。

 

「究極奥義は進化するんだ!俺が諦めない限り何度でも!」

 

 進化した彼の必殺技。ムゲン・ザ・ハンドG2と目金は名付けた。

 止めたボールは綱海に渡る。吹雪の得点。立向居のセーブ。このまま勢いに乗ろうとするが、

 

 ドォンッ!

 

 突如、謎の爆発音と共にスタジアム全体が揺れる。とっさの衝撃でボールは誰も居ないところへ転がっていく。

 

『ご苦労様。鬼瓦警部』

 

 すると、プロジェクターに投影された吉良星二郎の姿が。

 

『しかし、あなたたちの苦労も無駄だったようです』

 

 話を聞くに、鬼瓦警部たちが裏で動いていたようだ。

 

『確かに、エイリア石から出るエナジーには、人間を強化する力があります。そのエナジーの供給が止まってしまえば、力を受けていた者は普通の人間に戻ります』

 

 謎の爆発音……エイリア石……そういうことか。裏で、エイリア石を爆発させたのか。

 だが、それはこの試合においては、何も意味をもたらさない。だって、彼らは……ジェネシスは。

 

「ジェネシスは、エイリア石を用いていたジェミニストームやイプシロンとは違う。彼らを相手に訓練して、強化されただけの普通の人間……」

『その通りですよ。ジェネシスこそ真の人間の力。弱点などない、最高最強の人間たちです』

「「「……っ!」」」

 

 そのことに雷門のメンバーには衝撃が走る。恐らく、この試合を中継で見ている奴らもだろう。

 

『ジェネシスこそ新たなる人間の形なのです』

 

 演説が終わったのか声が聞こえなくなる。だが、特等席からこちらを見下ろすその姿は自分が正しいと言わんばかりで……

 

「お前の勝手で!皆の大好きなサッカーを悪いことに使うな!」

 

 円堂は声を上げる。だが、その声は届かない。

 

「君たちには。崇高な父さんの考えを理解できるわけがない!」

「ヒロト!」

 

 ボールはグランが持っていた。そのまま、ドリブルで上がっていき、シュートを放つ。

 

「やらせるかぁ……」

 

 それを辛うじてはじき返す。ボールは円堂の方へと飛んでいった。円堂はそのまま、吹雪へと流し、

 

「ウルフレジェンド!」

 

 吹雪の必殺技。ウルフレジェンドがゴールへと向かう。しかし、ネロのもう一つの必殺技が発動し、シュートは時計の舞う異空間へと突入する。シュートのスピードはその空間で殺されてしまい、ボールは最終的にネロの前で停止する。

 

「時空の壁!」

 

 そして、そのボールに裏拳を当てるネロ。ボールは勢いよく飛んでいき、センターラインを超えてグランの下に。グランはトラップすると、近くにはウルビダとウィーズが。

 三人はボールを中心に、ボールから背を向けるように立つ。そのままボールとともに空高く飛び上がる。空には宇宙を思わせるような景色。ボールには大きな力が溜まって行って。

 

「スーパーノヴァ!」

 

 三人による蹴りが、斬撃のように飛んでいきボールにぶつかる。ボールはその力と共にゴールへと向かっていく。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG2!」

 

 そのシュートは進化したムゲン・ザ・ハンドをあっさりと破り、ゴールへと刺さった。

 

「我らジェネシスこそが最強と言うわけだ!」

 

 スコアは1ー3。まだまだ逆転への兆しが見えない。



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雷門VSザ・ジェネシス ~氷の感情、炎の思い~

 再び二点差に放されてしまった。そんな中、円堂は再び吉良星二郎に向かって声を上げる。

 

「大好きなサッカーを汚すな!」

『どういう意味ですか?』

 

 すると、プロジェクターに自身の姿を映し出して答えてくる。

 

「力とは皆が努力して付けるものなんだ!」

『忘れたのですか?あなたたちも、エイリア石で強くなったジェミニやイプシロンと戦い、強くなったと言うことを。エイリア石を利用して強くなったという意味では、雷門もジェネシスも変わらないのです』

 

 ここに来て正論が出て来る。確かにそうだ。ジェネシスも雷門もエイリア石で強化された奴らを相手にして、自身を強くしたという意味では一緒だ。

 

『雷門も最初とは随分とメンバーが替わり、強くなりましたね。ですが、道具を入れ替えたからここまで強くなれたのです。我々と同じく、弱者を切り捨て、より強い者と入れ替えたからこそ』

「ふざけるなぁ!弱いからじゃない!」

『いいえ。弱いからです。だから怪我をする。だからチームを去る。実力がないから脱落していったのです』

「違う!」

『彼らはあなたたちにとって無用の存在』

「違う違う違う!アイツらは弱くない!絶対に違う!俺が証明してやる!」

 

 円堂の敵意のこもったその目。その目を見るとヤツは、口角をあげてプロジェクターを切る。

 雷門ボールで試合再開。

 

「こっちだ!」

 

 円堂がボールを要求しパスが渡る。そして一人荒々しく突撃していく円堂。だが、呆気なくグランにボールを取られてしまった。すると、取り返そうとグランに当たっていく円堂。しかし、それを余裕な顔で躱すグラン。

 俺たちは初めて見るかもしれない。円堂のあんな、怒りに任せただけのプレーを。楽しさも熱血も何も感じない。ただの怒りしかアイツからは感じない。

 

 でも、そんなアイツでも今のオレに比べたらマシだ。

 

 ジェネシスを倒さなくてはいけない。でも、アイツらは今のオレよりも強い。

 アイツらには……特にウルビダには勝てるビジョンが見えない。ボールを取ることが出来ない。必殺技なんて使われたら止められない。ドリブルでも突破できない。シュートも封じられた。この試合だけじゃない。今まで幾度となくやって来て、実力差は痛いほど分かっている。それでも追いつこうとしてきたが、まだ遠い。その壁を越えるには、一体後どれだけ時間がかかる?分からない。

 

『スーパーノヴァ!』

 

 そんな中、シュートが放たれる。そのシュートに向け走り出そうとする……が、思いとは裏腹に足がまるで石像のように固まって、動こうとしなかった。

 ダメだ。あの威力のシュートは止められない。

 止めに行かなければいけない。だが、シュートを前に感じた出来ないという諦めのせいか、それともその威力の高さに怖じ気づいてしまったのか、オレの足は一向に動こうとしなかった。

 そんなオレとは違い、壁山が、綱海が、土門が、アフロディがシュートに向かう。だが、たやすく弾き飛ばされてしまった。それをただ見ているだけだった。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG2!」

 

 立向居が必殺技を放つ。しかし、ボールは止まらない。シュートは止めようとしてくる手を砕きゴールへと向かう。

 ゴールへと入ってしまう寸前、二人の影がそのシュートを止めようと割って入った。

 吹雪と豪炎寺だ。二人がかりの決死のブロック。そのおかげでボールは軌道がそれ、バーに当たって弾かれ、ゴールには入らなかった。

 失点を防いだ。だが、今のシュートを止めるのに何人が身体を張った?シュート一本止めることすらギリギリな奴ら相手に、どうやって勝てる?勝つことができる?

 

「全員でフォローしなくてはならないキーパー。君たちの弱点であり、敗因となる。だからさ、キーパーに戻りなよ円堂君。そうじゃないと倒しがいがないよ」

 

 グランの発する言葉をただただ耳で流していた。いや、耳から耳へと流れていった。

 そして、そこからは一方的だった。こちらの攻撃は通用しない。守備も通用しない。ジェネシスの猛攻で、その気になれば簡単に潰せるのにそうしない。力の差を見せつけ、見せしめている。

 どうやってあんなヤツらに勝てる?勝ち筋はあるのか?……そんなのないんじゃないか?

 

「ボールを寄越せ!」

 

 吼える円堂。しかし、それだけではボールは奪うことができない。

 

「円堂……」

「あんなキャプテン。初めて見るッス」

「…………」

 

(いや、円堂君だけじゃない。十六夜君の心が完全に折れている。もう彼は戦うことが……)

(アイツはジェネシスにいたからこそ、この中の誰よりも実力差を身に染みて知っている。それに加え、アイツの力が一切通用しなかったことがこの現状を生み出している)

(十六夜をスパイに送り込んだ弊害……と言うべきか。頭にエイリア学園のことがちらつき過ぎて本来のプレーがまるで出来ていない)

 

 ピ、ピー!

 

 前半終了のホイッスルが鳴った。得点は二点差。だが、点差以上の実力差が心にのしかかってくる。

 

「円堂君」

 

 一人座る円堂に対し、瞳子監督が声をかけに行く。オレはそれを横目にベンチから離れる。

 

「…………」

 

 トイレのところに行き、洗面台のところに立つ。

 前半は何も通用しなかった。後半はどうなるんだ?いや、そもそも今のオレに、

 

「後半を戦う力なんて残っているのか……?」

 

 円堂は……いや、他の皆も怒りを少なからず抱いている。でも、オレの中には不思議とその感情が湧いてこない。湧くほど力も何もないのだろう。……ダメだ。

 勝たなくてはならない。それなのに、この絶望的な差……ダメだ。どうあがいても……

 

「勝てる気がしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻るか」

 

 結局何にもなかった。頭から水を被ったりしたが、どうもその水の冷たさを感じない。感じないレベルで、心が冷え切っていた。

 ダメだ。恐らくオレは足を引っ張ることになるだろう。……交代するしかない。これ以上ピッチに立っていても迷惑をかけるだけだ。

 ベンチに戻ろうとする。すると、

 

「ファイアトルネード!」

 

 炎を纏ったボールが身体を直撃する。何にも身構えてなんかいなくて、ボールの威力に負け、風の前の塵のように吹き飛ばされてしまう。

 

「豪炎寺!?」

「わわっ!?十六夜さんが吹き飛ばされたッス!」

「ちょっと!?コレ大丈夫なの!?」

 

 ベンチの方が騒がしくなる。何故だろう。不思議と痛みは感じなかった。ボールが当たった痛みも、地面に打ち付けられた痛みも。

 だが、何だ?この心に来るような熱は。この熱は……何なんだ?

 

「お前だけだ。この中で勝てないと思っているやつは。お前が今まで、どれだけの思いを味わってきたかなんて知らない」

「……っ」

「試合外のことを考えるな!試合(プレー)に集中しろ!いい加減目を醒ませ!十六夜!」

 

 そう言い残すと豪炎寺はフィールドへと入っていく。立ち上がったオレのもとに監督がやって来た。

 

「十六夜君。あなたには後半も出てもらうわ」

「……無理ですよ。オレにはもう戦う力なんてないです」

「本当にそうかしら?」

「……そうですよ」

「それでもあなたにはフィールドには立ってもらう。いいわね」

 

 有無を言わせないような語調。オレはフィールドへと入っていく。……立っていてもどうせ、何も出来ない。でも、何だ?さっきから(ここ)に何か熱いものが……これは一体、何なんだ?

 

(十六夜以外の心は一つになった……後はお前だけだ。お前なら必ず気付くはずだ)

 

 ピ──!

 

 雷門ボールで後半戦開始。ボールは円堂が持ち、そのままドリブルで上がっていく。

 

「ヒロト……」

「君にオレを抜くことは出来ない」

 

 円堂の前に立ちはだかるのはグラン。さっきまでの円堂だったら突っ込んで行って終わりだったが……

 

「……前半とは違うというわけか」

 

 バックパスをし、ボールは後ろを走っていた鬼道に。そのまま円堂はグランと鬼道の間に入って、彼がブロックに行かないよう阻止する。

 

「それで我らジェネシスに敵うと思うな!」

 

 ウィーズのスライディングが鬼道を襲う。だが、鬼道は冷静に隣を走る一ノ瀬にパスを出すことで躱す。

 その後も、土門、アフロディ、吹雪、鬼道、円堂と細かくパスが繋がっていき、ジェネシスを翻弄する。

 

「何だ?どうなっている」

 

 グランと同じ意見だ。少なくとも前半より上手くなっている。何故?一体何故?

 

「俺たちの強さは仲間と共にあるんだ!」

 

 円堂が持っていたボールをあげる。すると、鬼道、土門と共に跳び上がって……

 

『デスゾーン2!』

 

 シュートを放った。そのシュートはゴールへと向かう。

 

「時空の壁!」

 

 ネロの必殺技時空の壁。その必殺技を前に、シュートは一度止まる。しかし、止まったボールから再びパワーが溢れていく。

 

「何ぃ!?」

 

 そして、そのパワーによってネロを弾き飛ばし、ボールはゴールへと刺さった。

 

『決まった!デスゾーン2が時空の壁を打ち破ってゴールへ!これで再び一点差に!』

「よし!」

「ジェネシスが二点も失うなんて……」

 

 喜びを表す雷門と対照的に驚きを隠せないジェネシス。

 

「仲間が居れば、心のパワーは百倍にも千倍にもなる」

「…………っ!」

 

 その言葉が響いてくる。そして、胸のあたりに燻っていたものが強くなっていく。

 ジェネシスのキックオフで試合再開。グラン、ウルビダ、ウィーズの三人が雷門メンバーを抜き去って、迫り来る。

 

『スーパーノヴァ!』

 

 そしてこの試合、三度目のスーパーノヴァを放った。そのシュートコースにはオレが立っている。

 

「十六夜!」

「十六夜さん!」

 

 一度目も二度目も見ているだけだった。一度目にその威力の高さを改めて肌で感じ、二度目に至ってはシュートを前に動くことすらできなかった。

 

「十六夜っ!」

 

 ジェネシスは強い。一緒にやってきてその強さは、肌で感じている。

 その中でもウルビダの強さは、こいつらと同じくらいずっとやって来て、骨身に染みている。その力は今のオレなんかではまだまだ及ばないものだ。そんなことは分かっている。

 だが、もっと根本は何だ?力の差は、頭が身体が心が感じていること。でも、この心にある炎は何だ?

 

「単純なことだよな……」

 

 その思いは最も単純なことだ。理屈とか、力の差とか、負けたらどうとか、そんなもん全部どうだっていい。

 

「負けたくねぇ!オレたちは絶対に勝つ!」

 

 負けたくない。それだけだ。絶望的な力の差があろうと、オレは負けたくない。オレたちは負けたくない。

 オレは指を口元にやって指笛をふく。

 

 ピー!

 

 現れたのは6匹のペンギン。ペンギンたちが正六角形の頂点に位置すると羽を拡げ、その羽が近くのペンギンの羽とぶつかり合い辺が出来る。その間には障壁が貼られ、言うなればペンギンの盾が生まれた。

 

「はあああああぁぁぁぁぁっ!」

 

 その盾とシュートがぶつかり合う。

 ペンギンたちも押し返そうと飛ぶが、オレ自身も左手で盾を支え、シュートを押し返そうとする。

 

「無駄だ。このシュートはお前じゃ止められない」

「無駄じゃねぇ!」

「何だと?」

「オレの後ろには仲間が居る!オレを支えてくれる仲間たちが居る!たとえこの盾が砕かれようと仲間たちが必ず止めてくれる!そう信じている!だからオレは!全力を出してこのボールにぶつかれる!」

 

 忘れていた感覚だ。サッカーは一人でやってるんじゃない。共に戦っている仲間が居る。

 仲間がオレの期待に応えてくれている。それなのにオレが仲間の期待を裏切ってどうする。

 シュートの威力に押し負けそうになり、少しずつ支えている両足の足下の地面がえぐれていく。

 

「舐めんじゃねぇぞ!」

 

 徐々に盾にヒビが入っていく。だが、まだ砕かれていない。砕かれていないのなら、砕かれるその瞬間まで耐えるだけ。耐えれば、耐えただけ威力は削がれているのだから。

 そうして耐え続けていると、少しずつボールの回転は遅くなり、ついに完全に停止した。ボールはオレの足下に転がり、それを軽く足裏で止める。

 

「何っ!?」

『ふ、防いだぁっ!ザ・ジェネシスの強烈なシュートを!十六夜が防いで見せたぁ!』

「やったな十六夜!」

「ようやく目が醒めたか」

「そのようだね」

「ありとあらゆる邪悪を跳ね返す盾……いや、ペンギン。ズバリ、アイギスペンギンと名付けましょう!」

 

 足下にあるボールを軽く蹴り出し、ドリブルをしていく。

 

「貴様……!ここは行かせんぞ!」

「ウルビダ……いいや、通らせてもらう」

 

 オレのテクニックでは、ウルビダを抜けないことは分かっている。一人じゃ突破できない壁ということぐらい分かっている。

 

「そこだ!」

 

 ウルビダがボールを奪おうと足を出してくる。

 

「円堂!」

 

 そのタイミングでバックパスを出して、前に走り出す。

 

「なっ……!後ろを見ていなかったのに……何故」

 

 すれ違う時に、ウルビダが声を漏らす。何故?そんなの簡単だ。

 

「アイツなら絶対にそこに居てくれる。だったら、オレはそれを信じて前に走り出すだけだ」

「十六夜!」

 

 そしてボールがオレの頭上を越えて、大きく前へと飛んでいく。

 

「大き過ぎる!パスミスだ!」

 

 何処かから聞こえるそんな声。だが、オレはそうは思わない。オレがアイツを信じたように、アイツもオレを信じている。絶対にこのパスを受け取るって。だからこそ、

 

「その信頼に応えないとな!」

 

 ピー!

 

「行くぞ!ライド・ザ・ペンギン!」

 

 指笛とともに現れたペラーの背に乗り、ボールに向かって飛んでいく。

 

「何っ!?」

「悪いな。このボールは奪わせない……鬼道!」

 

 ボールをカットしようと跳んでいたアーク。彼に触れる前に、ボールへと追いつきそのまま下に居る鬼道へとパスを出す。

 

「十六夜!」

 

 そのまま地面に降り立つと同時にボールを受け取り、再びドリブル。

 

「ここから先には行かせない!」

「止める!」

 

 ゲイルとキープのダブルディフェンスが立ち塞がる。吹雪と豪炎寺にはそれぞれマークが付いている状況、後ろにまたパスを出すことも出来るが……

 

「ここは押し通る!」

 

 軽くフェイントを入れつつ、二人のディフェンダーの間にスペースが出来るタイミングを見計らって……

 

「何だと!?」

「今までより速い!?」

 

 最高速で、一気に駆け抜ける。

 

「十六夜君!」

 

 すると、隣をアフロディが併走する。

 

「彼の技を破るにはアレしかない!」

「キャラバンで言ってたアレか……オッケー!今ならやれそうだ!」

「じゃあ、やろうか。僕たちの必殺技を」

「あぁ、行くぞ!」

 

 そう言ってオレはボールを前へと蹴り出す。ボールには黒紫のオーラが纏っていて、ある程度地面すれすれを飛んだ後、一気に急上昇する。

 

「はぁっ!」

 

 そのボールに対し、アフロディが追いつき、金色の翼を生やしながらボールに力を込める。すると、ボールは金色のオーラを纏い、アフロディはシュート体勢に入る。

 

「来いっ!」

 

 対してオレは力を溜めた後、地面に手を叩きつける。すると、手を中心に黒い魔法陣が生成され、そこから6匹の真っ黒なペンギンが生まれる。

 そのペンギンたちと共にボールへと跳んでいき、オーバーヘッドキックの体勢になる。

 

「「ペンギン・ザ・ゴッド&デビル!!」」

 

 オレとアフロディ、二人が同時にシュートする。神を表すような神々しい光と、悪魔を表すような禍々しい光。対極に位置する力が同時にボールへと注ぎ込まれ、一瞬、空が黒と金の光に覆われる。

 その光がやんだ後、ボールは二つのオーラを纏いながら、3匹の金色に輝く神のようなペンギンたちと、3匹の黒色に染まる悪魔のようなペンギンたちと共にゴールへと突き進んでいく。

 

「時空の壁!」

 

 そのシュートは時空の壁を前にしても勢いは衰えることがない。神と悪魔、6匹のペンギンたちがその壁をその嘴で打ち破っていく。

 

「うわぁっ!」

 

 そして、時空の壁は敗れ去り、ボールはゴールへと突き刺さった。




習得技紹介。

アイギスペンギン
ブロック技
6体のペンギンを呼び出し障壁を貼る技。シュートブロック可能。
(手で支えていたけど、バーバリアンの盾という技がハンドじゃなければこれもハンドじゃないでしょ)
花蕾様より案をいただきました。ありがとうございます。

ペンギン・ザ・ゴッド&デビル
シュート技
パートナー アフロディ
オリオンで出て来たペンギン技。灰崎の代わりに十六夜、ヒロトの代わりにアフロディが放つ。
威力は高い(元々がアジアのキーパーに通用していたことと二人のレベル的に)


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雷門VSザ・ジェネシス ~リミッター解除~

「ごめん!」

 

 シュートを決めたオレは雷門のメンバーに頭を下げて謝っていた。

 

「独りよがりなプレーをして、勝手に絶望して、勝手に諦めていた……本当に悪かった!」

「十六夜……」

「だが、お前らのお陰で目が醒めた。もう、大丈夫だ」

「ようやく、いつものお前が戻ってきたか」

「それでこそ、十六夜だ」

「十六夜……ああ!一緒にこの試合、勝とうぜ!」

「おうっ、キャプテン!」

 

 そうだ、オレにはこいつらがいるんだ。1人で戦っているわけじゃない……こんな簡単なことを忘れていたなんて、どうかしていたな。

 ジェネシスのキックオフで試合再開。スコアは3ー3の同点。

 パスを回しつつ、こっちのフォワード、ミットフィルダー陣を突破してくる。ボールを持っているのはウルビダだった。

 

「十六夜……!」

「眼中になかったんじゃないのか?」

 

 ウルビダがフェイントを入れてくるが、それについていき抜かせない。

 

「くっ……!」

 

 アイツにオレの癖が分かるのなら、オレだってアイツの癖が分かる。だから、徹底的に抜かせないようにブロックする。

 少しでも足止めをすれば、他のメンバーがパスコースを防いだり、フォローの動きがしやすくなる。たとえ、ボールが取れなかったとしても、喰らいつくことに意味はある。一人で勝つ必要はない。

 

「だったら……!」

 

 抜けないと判断したウルビダ。ボールを強引に真上に蹴り上げる。空には紅い月が浮かんでいた。

 

「させねぇ!」

 

 ウルビダの呼び出した赤色のペンギンが、ボールに食らいつき回転を始める。

 シュートを打たせることを阻止すべく、オレも跳び上がる。背後には満月があらわれ、そこからやってきた金色のペンギンがボールの回転を止めようと食らいつく。

 

「ブラッド──」

「ムーン──」

「──ムーン!」「──フォース!」

 

 空中での衝突。

 ボールは金と赤が混ざった色になり、お互いの衝突で生まれたパワーがボールへと貯められていく。

 

「はぁぁあああああああああっ!」

「負けるかぁあああああああっ!」

 

 互いの蹴る力が大きくなる。お互いの力が拮抗し、双方引かない。

 数秒に渡るぶつかり合い。その拮抗は唐突に終わりを迎えた。互いの力が加わり、強大なパワーがボールに蓄積されていった。その蓄積された力は許容量を超えたのか、一気に爆発する。

 爆発によって起こった衝撃で吹き飛ばされるオレとウルビダ。

 

「ペラー!」

『任せて!』

 

 空中で反転していたウルビダが地面に叩きつけられそうになる。それを防ぐため、ペラー以下ペンギンたちが彼女のクッションになる。

 一方のオレは空中で体制を立て直して、地面に着地。もう一度跳躍し、落ちてきたボールをパスすることで繋げた。

 

「……何故、助けた」

「お前が怪我してないならいい」

「答えになってない」

「オレは正面からお前らに勝ちたいんだ。怪我させて勝つのは違うと思っただけだ」

「その甘さ……後悔することになるぞ」

 

 パスしたボールは鬼道、アフロディ、円堂、吹雪、豪炎寺と渡って行き……

 

「爆熱ストーム!」

 

 豪炎寺のシュートがゴールに向かって飛んでいく。

 

「時空の壁!」

 

 しかし、ネロの必殺技、時空の壁の前にボールは止まってしまい、弾かれる。

 弾かれたボールはそのまま、タッチラインを割った。

 

『グラン。リミッター解除です』

 

 すると、吉良星二郎の映像がグラウンドに映し出される。

 ……ちょっと待て。リミッター解除だと?

 

「父さん!リミッター解除って、そんなことをすれば皆が!」

『怖じ気付いたのですか?』

 

 グランの必死の訴え。しかし、あの男の目にはグランに対する失意が見て取れる。

 

『ウルビダ。グランに代わりあなたが指揮を執りなさい』

「はい。お父様」

「父さん!」

「やめろ!ウルビダ!そんなことをしたらお前ら……!」

 

 しかし、制止の声は届かない。ウルビダは静かに手を上げて、

 

「リミッター……解除」

 

 そのまま胸元にあるスイッチを押し、リミッターを解除した。

 ウルビダが押したのを見てか、他のジェネシスのメンバーも全員リミッターを解除する。

 

「……くっ!」

 

 オレは吉良星二郎本人の方を睨みつける。このままでは、アイツらが壊れてしまう。それでもいいのか、と。だが、当然、反応はない。

 

「十六夜君。リミッター解除って一体……」

「……そのまんまだが……気をつけろ。ここから先は、さっきまでと次元が違う」

 

 他の雷門のメンバーも今のリミッター解除には疑問や違和感を抱きながら、試合を再開する。スローインから、ボールは円堂に渡った。

 そのまま円堂は、ウルビダの隣をドリブルで突破する。そんな円堂を見ても、彼女は腕を組んだまま棒立ち。一切ブロックに行かなかったが、次の瞬間、

 

「なっ……!」

 

 走り出したウルビダが一瞬にして円堂からボールを奪い去った。

 

「動きが……見えない」

 

 そのままドリブルで駆け上がるウルビダ。咄嗟のことと今まで以上のスピード。雷門のメンバーは誰も反応出来なかった。

 ボールを持つウルビダ。そして、左右にはグランとウィーズが。

 

「リミッター解除……!人間の能力を超えている!」

「十六夜!リミッター解除とはなんだ!」

「人間が本来、無意識に抑えている力を引き出すもの!人間の能力を全開に引き出す!」

「パワーアップってことか!?」

「ああ!代わりに身体への負担がバカデカい!このままだとアイツらの身体がぶっ壊れる!」

「「「……!」」」

 

 抜かれたメンバーがボールを取り返そうと全力で走る。だが、そのスピードにオレたちは追いつくどころか引き離されてしまう。

 

「父さん!今すぐやめさせて!」

「そうさせたのはお前だ。瞳子」

「やめろ!ウルビダ!」

「お父様の望みは私たちの望みだ!」

 

 クソ!声が届いていない!

 

「これがジェネシス最強の必殺技だ!」

 

 そして、ウルビダたちがシュート体勢に入る。

 まず、左右にいたグランとウィーズが跳びあがる。一方のウルビダは、中心で力を溜め、その間に宇宙服を着た5匹のペンギンが地面から顔を出す。そして、ボールとペンギンが空高く舞い上がり、グランとウィーズの下へ。そのまま二人はツインシュートをする。

 

『スペースペンギン!』

 

 ボールはペンギンと共にゴールへと向かう。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG2!」

 

 6本の手がボールを止めようとする。だが、ボールは止まらない。

 

「うぉぉおおおおっ!」

 

 更に2本の手が出て来てボールを押さえようとする。

 

「これはムゲン・ザ・ハンドG3!これなら……!」

 

 土壇場で進化したムゲン・ザ・ハンド。しかし、その8本になった手は、ペンギンたちによって砕かれ、ボールはゴールへと入ってしまう。

 

『あぁーっと!進化したムゲン・ザ・ハンド!しかし、恐るべきシュートの前に敗れ去ってしまう!これで3ー4!ジェネシスにまたも勝ち越しを許してしまった!』

 

 すると、急にウルビダ、グラン、ウィーズの三人が身体を押さえ、苦しみ始める。

 

「もうやめろ!身体が悲鳴を上げている!これ以上は……」

「これぐらい……お父様のためなら!」

「……っ!」

 

 目と目が合う。しかし、その目には、絶対に倒す、絶対に勝つと言っているようで……

 

「そう。父さんのため……」

 

 そのままポジションへと戻っていく三人。

 

「何だよ……ヒロトですら……ジェネシスですら道具なのかよ!」

 

 雷門の全員が吉良星二郎の方を向く。

 改めて怒りを感じる。だが、リミッター解除したところで、オレたちは負けるつもりはない。

 雷門のキックオフで試合再開。ボールはオレが持ち、あがっていく。

 

「遅い!」

 

 ブロックに来たウルビダ。横からボールを奪おうと足を出す。

 

「何ぃ!?」

 

 それを跳ぶことで回避。空中にいる状態でパスを出し、ボールを円堂に渡す。

 円堂の前にはグランが立ちはだかる。しかし、隣を走っていた鬼道とのワンツーでグランを突破した。

 

「リミッターを解除した私たちを躱すだと?何が起きている?」

「まさか……これも!」

「……仲間を想う力。人の心が生み出す力よ」

 

 ジェネシスのメンバーが驚く中、

 

「豪炎寺!」

 

 円堂は豪炎寺へとパスを出す。しかし、豪炎寺に渡らせまいと、ゾーハンがスライディングをする。ボールは弾かれ、そのままタッチラインを割ろうとしていた。

 

「このボールは、絶対に繋ぐ!」

 

 そこを吹雪が滑り込み、体勢を崩しながらも豪炎寺へとパスを出す。

 

「爆熱ストーム!」

 

 先ほどのシュートよりも炎が猛々しく燃えさかる。さっきよりも力強いシュートがゴールへと向かう。

 

「時空の壁!」

 

 しかし、時空の壁に阻まれてボールはネロの手中に収まりかける。

 

「何っ!?パワーアップしているだと!?」

 

 だが、収まる直前で、ボールは勢いを取り戻しネロを弾く。ネロを弾いたためかコースが逸れてゴールバーに直撃。ボールは空高く舞い上がっていった。

 

「まだだ!」

 

 ボールに対して跳び上がるオレ。遅れてウルビダが跳び上がってくる。オレよりも遅く跳び上がった彼女だが、オレを抜かし、ボールへと近づいていく。

 

「円堂!」

「ああ!」

 

 丁度オレたちの足下の方に居た円堂。察してくれたのか、彼の頭には大きな拳が現れた。

 

「メガトンヘッド!」

 

 少し落下して、その拳の上に着地する。

 

「いっけぇ!」

 

 そして、円堂は勢いよくオレを上へと吹き飛ばす。ウルビダを追い越し、ボールの下へたどり着くことに成功する。

 

『これはシュートか!?』

 

「豪炎寺!吹雪!受け取れっ!」

 

 空中で反転し、オーバーヘッドキックでボールを蹴リ出す。ボールはシュート並みの威力で、走っている豪炎寺と吹雪の中間地点に向かう。

 

「豪炎寺君!行くよ!」

「おう!」

 

 橙色のオーラを纏い走る豪炎寺と、水色のオーラを纏い走る吹雪。二人が丁度ボールの到達地点で交わり反転。二人同時にボールを蹴る。

 二人が蹴ったと同時に背後には地球が。そして、ボールは橙色の炎と水色の炎を3本ずつ吹き出しながら、勢いよくゴールへと刺さった。

 

『ゴール!豪炎寺と吹雪の連携技炸裂!4ー4!追いついた!』

「名付けてクロスファイア!」

 

 クロスファイアと名付けられたシュートによって再び同点に追いつく雷門。

 後半残り僅か。試合は最終局面を迎えようとしていた。



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雷門VSザ・ジェネシス ~仲間の力~

 新必殺技、クロスファイアによって同点に追いついたオレたち。

 

「やったな!」

「うん!」

 

 豪炎寺と吹雪が堅い握手を交わす。

 

「豪炎寺!吹雪!」

「これは、皆で取った一点だね!」

 

 全員で頷くオレたち。

 

「これが円堂君のサッカーなのか……」

 

 この得点にはジェネシスも驚きを隠せなかったようだ。

 双方ポジションについて、ジェネシスのキックオフで試合再開。

 

「最強なのはジェネシスの!」

「父さんのサッカ-だ!」

 

 ウルビダとグランの二人が、ボールを持ち駆け上がる。解除されたその力に慣れてきたのか、動きは先ほどよりも洗練され、そのスピードにオレたちは追いつくことが出来なかった。

 

『なんとグランとウルビダに全員躱されてしまったぁ!』

 

 そこにウィーズが合流する。そして、3人はシュート体勢に入って……

 

『スペースペンギン!』

 

 ジェネシス最強のシュートを放った。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG3!」

 

 8本の手がシュートに向かう。だが、先程と同じように徐々に破られようとしていた。

 

「立向居!」

「止めてみせる……!もう1点も……やるわけには……行かないんだ!」

 

 立向居の気迫。更に増えた手がペンギンたちを上から押しつぶし、ボールを止めた。

 

『な、なんと立向居!スペースペンギンを止めた!』

「グレード4!」

 

 ここに来て更なる進化を遂げたムゲン・ザ・ハンド。この試合だけでも大きな成長を遂げたそれは、遂にジェネシスの最強の必殺技を止めるまでになっていた。

 

「ジェネシスの最強のシュートが……!」

「なぜ決まらない……!」

 

 この光景に再び驚きに包まれるジェネシス、並びに吉良星二郎。

 

「綱海さん!」

 

 投げられたボールは綱海の下へ。

 

「壁山!」

 

 そして、壁山に繋がる。

 

「土門さん!」

 

 そのまま、土門へと繋がり、

 

「一ノ瀬!」

 

 一ノ瀬まで繋がる。

 

「アフロディ!」

 

 アフロディへとパスが出て、

 

「鬼道君!」

 

 鬼道に繋がった。そして、

 

「十六夜!」

 

 オレへとパスが来る。

 このボールには全員の思いが込められている。だから、オレはこれをアイツに繋げる。繋がってきたボールをアイツらへと託す。

 

「円堂!」

 

 ボールは円堂へと繋がった。円堂がドリブルをするが、何かに気付いた様子だった、近くを走っていた豪炎寺と吹雪も何かに気付く。

 そしてボールをセンターマークに置き、ボールを中心に正三角形の頂点に立つ円堂、豪炎寺、吹雪の三人。彼らを囲うようにして青いオーラの円ができ、さらにその外側に8つの光が正八角形の頂点に現れる。光からパワーが中心にいる円堂たちに送られる。

 その光が溜まった瞬間、円堂、豪炎寺、吹雪の三人がボールと共に跳び上がる。ボールは空中で大きなエネルギーの塊のようになる。その塊に向け、円堂、豪炎寺、吹雪の三人が矢のように突き刺さる。ボールはいくつかの光に分かれた後に一つの大きな光となり、ゴールへと向かっていく。

 ジェネシスのディフェンス4人、そしてネロの合わせて5人がかりで止めようと試みるも全員吹き飛ばされる。

 

「グラン!」

「ああ!」

 

 ゴールに決まる直前、ウルビダとグランの2人がボールを蹴り返そうと試みる。

 

「お父様のために!」

「負けるわけには行かない!」

 

 彼女たちが吉良星二郎の為に力を振り絞る。

 僅かな拮抗。

 しかし、シュートは光を増して、二人を弾き飛ばした。

 

「そうか……これが!」

 

 そのままボールはゴールに突き刺さった。

 

『ゴォォール!雷門逆転!勝ち越しだぁ!』

 

「円堂君……皆……!」

 

 ピ、ピー!

 

『ここで試合終了!5ー4で雷門の勝利!遂に……遂に!エイリア学園を倒しました!』

 

「やったぁ!」

「よっしゃぁ!」

 

 勝利に沸き立つオレたち。対称的にジェネシスの面々は落ち込みを見せていた。

 

「勝ちたかった……!お父様のために……!」

 

 涙を零すウルビダ。彼女の思いを考えれば当然のことだろう。

 今すぐ声を掛けに行きたいような衝動に駆られる。だが、それはしてはいけないはずだ。彼女の中で取り巻く思い。オレはそれを知っていた上で、彼女らを倒すためにここにいたのだから。

 

「円堂君……」

「ヒロト……」

 

 そんな中、グランが円堂へと声をかける。すると、少し笑顔になって、

 

「仲間って凄いんだね」

「そうさ!ヒロトにもそのことが分かってもらえて嬉しいよ!」

 

 円堂もその言葉に笑顔になって答える。そして彼に向けて手を差し出す。

 グランもその意図を組み、円堂の手を握る。

 

「ヒロト……」

「姉さんが伝えたかったこと。これだったんだね?」

 

 瞳子監督も笑顔を向ける。どうやら、正しくグランに伝わっているようだ。

 

「……ヒロト」

 

 と、そんな中、先ほどまで上で見ていたはずの吉良星二郎が、オレたちの前に現れる。

 

「お前たちを苦しめて、すまなかった……」

「…………父さん……」

「瞳子。私はあの、エイリア石に取り憑かれていた」

 

 吉良星二郎はそう言って、申し訳なさそうに俯く。

 

「お前の……いや、お前のチームのおかげで、ようやく分かった」

「お父さん……!」

「そう……ジェネシス計画そのものが、間違っていたのだ……」

「…………っ!」

 

 吉良星二郎の今までの行いが間違っていた、と言うことを認める発言。その発言はこの計画を止めようとしていたオレたちにとっては、よかったと思えるものだった。

 だが、たった一人。オレたちが安堵したような、そんな空気になる中、その一人の空気が明らかに変わったように思えた。そいつの……彼女の方を振り向くとそこには── 

 

「……ふざ、けるな……!」

 

 ──憎しみや怒りなどが含まれた低くドスの利いた声。その声の主であるウルビダは、ボールを片手に持ったまま、吉良星二郎を睨みつけていた。

 

「これほど愛し、尽くしてきた私たちを!よりによって貴方が否定するなぁああっ!」 

 

 彼女の心からの叫び声。その声と共に、ウルビダは手に持っていたボールを地面に落とし、蹴り飛ばす。その狙いは……彼女がこれまでお父様と呼んで慕っていた吉良星二郎が。

 

「なっ!」

「お父さん!」

 

 対する吉良星二郎は、自分に向かって跳んでくるボールを正面から見て立っているだけだった。

 動く素振りは一切ない。きっと、彼女の怒りが込められたボールを受け止めるつもりなのだろう。

 だが……そんなの……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドォッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝突した音がスタジアム中に響き渡る。誰もがそのボールの当たった先を見る。

 そこには、吉良星二郎をかばって立っていたグランが。しかし、そのグランにボールが届くことはなかった。なぜか?

 そう、グランの前にもう一人、立っていた男がいたからである。

 

「ムーン!?」

「十六夜……」

「…………くっ」

 

 ボールは彼の胸のところで回転を止め、静かに落ちる。一度ウルビダの方を見た十六夜。しかし、そのまま倒れ込んでしまう。

 彼女の怒りによって強化されたそのシュートに、十六夜は耐えることが出来なかった。弾かれることはなかったが、倒れたまま起き上がってこない。

 

「十六夜!?しっかりしろ!十六夜!」

「ムーン!何で君が……!」

 

 そんな光景に、グラウンドに居たメンバーは唖然としてしまう。いち早く我を取り戻した円堂とグランが駆け寄り彼に呼びかける。

 しかし、その声に十六夜は応えることが出来なかった。



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雷門VSザ・ジェネシス ~別れの時~

 朧気な意識の中、オレはあることを思い出していた。

 それはムーンとして潜入していた時のこと。

 まだまだ情報不足が否めない最初の頃。信用をしてもらうのと、情報を集めるためにエイリア学園にいた色んな奴らと話していた。

 ジェミニストーム、イプシロン、ダイヤモンドダスト、プロミネンス、ガイア。ほぼ全員と程度の差はあれ話をした。

 

「ここの生活には慣れましたか?」

「あ、おっちゃん。どうも」

 

 そんなある時。おっちゃん……吉良星二郎から声がかけられたので簡単に答える。

 

「えぇ、おかげさまで慣れましたよ」

「ここにはね。君と似た境遇の子どもたちが多い。ある子どもは親に捨てられ、ある子どもは親を失っている。そういう子どもがね」

「なるほど……ねぇ。なぁ、おっちゃん。あなたはアイツらのことどう思っているんですか?」

 

 ただの計画の駒かそれとも……

 

「どう思っているか?そうですね……幸せになるべき子どもたち、でしょうか」

「……どういうことですか?」

「親という存在はね。子どもにとっては最も身近で、最も大切な存在なんだよ。でも、そんな大切な存在から捨てられたショック、突然失ったショックというのはね。他の人たちが思っているよりもずっと大きく深い傷になる。だから……そんな傷を負ったあの子たちは幸せになるべき存在ですよ」

 

 その眼は、とても嘘を言っているとは思えなくて、その言葉は心の底からの言葉な気がして。

 

「……その言葉、信じますよ」

 

 今のはオレを騙す建前じゃない。きっと、この人の心にあった言葉なんだろう。

 だからこそ、何でそんな大切な子どもたちを使うようなマネをしているんだと言いたくなる。何で、そんな優しい心を持ちながら、こんなことをしてしまっているんだと言いたくなる。

 

「じゃあ、失礼します」

「えぇ。ムーン、あなたも頑張りなさい」

「……はい」

 

 そんな衝動を抑え、俺は去って行く。

 アイツらの誰に聞いても、この人の悪口は出てこない。

 この人はアイツらを我が子のように愛している。アイツらもこの人を実の親のように愛している。何で、お互いがお互いを想っているのに……

 

「……こんなことを起こしてんだよ」

 

 ……だから、オレは知りたい。何故こんなことが起きてしまったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カハッ……!」

 

 咳込むのと同時に覚醒する。

 今のは走馬灯……?いや、それにしては短いような……というか、クソいてぇ。今までのどんなシュートよりも痛かった。

 

「何故だムーン!何故止めたんだ!」

「……止めるさ」

 

 ボールが当たった部分を押さえながら、何とか立ち上がる。だが、今にも倒れ込んでしまいそうだ。

 

「……ここでこの人を傷つけたら……お前が絶対に後悔するから……!」

「お前は知っているだろ!私が……私たちが!全てを捧げていたことに!そいつが正しいと信じて!この計画が正しいと信じて!でも、そいつは私たちの存在を否定したんだ!そいつを信じてずっと戦ってきた、私たちの存在を!」

「……知ってるさ……!お前が……お前らが!この男のために全てを捧げていたことぐらい!」

「そうだろ!私たちは全てをかけて戦ってきた!全てをかけてお前らと戦った!ただ……強くなるために……!それを今更、間違っていただと!?そんなことが許されるのか!」

「許されるとは思ってねぇよ……!」

「なら!」

「だけど!……だけど、そうだとしても、お前はこの人を傷つけたら後悔する!」

「何故そう言い切れる!」

「この人はお前らの父さんだろ!お前が……お前らが慕っている、大切な父さんだろうが!」

「…………っ!」

「アンタもアンタだ!アンタは両親が居ないオレのことも受け入れようとした!アンタのことだ、オレのことを怪しんでいた気持ちはあっただろ!駒と見ていた気持ちもあっただろ!それでも……それでも。そんな気持ちの中にも、アンタはオレにもこいつらと同じように受け入れる優しさを見せてくれた」

「……っ!」

「ならさ……何で、こいつらのことを大事に考えられなかったんだよ……何で、こいつらがいたのに呑まれてしまったんだよ……!こいつらのことをすげぇ大切に思っていたのに、本当の家族のように持っていたはずなのに……何で駒としか見れなくなっちまったんだよ……くっ」

 

 倒れ込もうとするオレをグランが支える。そして、

 

「……ウルビダ。お前の気持ちもわかる……でも……それでも、ムーンの言うとおりさ。この人は……」

 

 グランがオレより前に出て、その一言を告げた。

 

「俺の大事な、父さんなんだ!」

「……!」

「……もちろん、本当の父さんじゃないことはわかってる。ヒロトって名前が、ずっと前に死んだ、父さんの本当の息子だってことも」

「……本当の、息子……?」

 

 吉良ヒロト。本当の吉良星二郎の子孫。命を落としてしまった、この人の息子。

 

「それでも、構わなかった……!父さんが、俺に本当の『ヒロト』の姿を重ね合わせるだけでも……!」

 

 エイリア学園のメンバーの共通点は、全員が各々の事情により、実の親と居られなくなり、お日様園という施設で育てられたと言うこと。その施設でのことを楽しそうに話してくれた奴らもいた。

 

「たとえ、存在を否定されたとしても、もう必要とされなくなったとしても……父さんは……たった一人の父さんなんだ」

「ヒロト……お前はそこまで……」

 

 すると、吉良星二郎の目つきが変わった。何処か真剣な表情で、覚悟を決めたように見えた。

 

「私は間違っていた。私にはお前たちに父さんと呼んでもらう資格はない」

 

 近くに落ちていたボールを拾い上げ、ウルビダの方へと放つ。

 

「さぁ打て!私に向かって打てウルビダ!」

 

 そして、オレや円堂、グランを庇うように、前に立つ。

 

「父さん!」

「こんなことで許してもらおうだなんて思っていない。だが、少しでもお前の気が収まるのなら……さぁ!打て!」

「うぅぅあああぁぁっ!」

 

 咆哮と共に足を振り上げるウルビダ。

 

「八神!」

 

 咄嗟に彼女の名前を叫ぶ。彼女の目は吉良星二郎を睨みつけており……だが、段々とその覇気はなくなっていった。そして、

 

「打てない……」

 

 膝を突き、地面に座り込むウルビダ。

 

「打てるわけない……だってあなたは!私にとっても……大切な父さんなんだ!」

 

 涙を流しながら答えるウルビダ。見ると、他のジェネシスのメンバーも涙を流していた。

 

「私は人として恥ずかしい……こんなに想ってくれている子どもたちを復讐の道具に……」

 

 その様子に吉良星二郎も膝を突く。

 

「あなたの口から教えてもらえませんか?何故、こんな計画を建てたのか」

 

 そこに鬼瓦刑事がやってくる。あくまでこの計画が出来た表面的な理由は知っている。だが、そこにある思いまではまだ分からない。

 

「どこで道を誤ったのか。巻き込んでしまった子どもたちの為にも」

 

 そして吉良星二郎からこの計画について語られた。

 吉良ヒロト。彼の息子でとてもサッカーが上手かったそうだ。将来も期待されていた彼は、サッカー留学したその地で謎の死を遂げる。そのことに政府の人の子どもが関わっていたらしく、事故死として処理された。失意に暮れ、生きる気力すらなくしていた吉良星二郎に瞳子監督がお日様園を提案する。お日様園に居る子どもたちのおかげで、生きる気を取り戻す。そして彼らが生きがいとなっていったそうだ。

 時は進み5年前。ある隕石……エイリア石がここに落下してきた。エイリア石の解析をしていく中でその強大な力にとりつかれてしまう。その力により、抑えこまれていた復讐心がこみ上げてきたそうだ。

 

「すまない……本当にすまない。私は愚かだった」

「父さん……」

 

 強すぎる力にとりつかれてしまった……ただ、この人は根っからの悪ではない。すべてが重なって生まれた、この人も被害者かもしれない。

 

ドオオォォンッ!

 

 何かが爆発するような音と共に、グラウンドが激しく揺れる。

 

「なんだ!?」

「地震!?」

「いかん!崩れるぞ!」

 

 スタジアムが崩壊を始めている。

 

「出口……!?」

 

 出口の方を見ると瓦礫で埋まっていた。……おいおい、生き埋めにする気かよ。

 

「でも、誰が……?」

 

 この人がオレたちと共に心中する?いや、そんな素振りなかったし、それならもっと早いタイミングで崩壊させているはず。じゃあ、何者かがオレたちを消すために?

 と、短く思考もまとまっていない中、イナズマキャラバンがまだ塞がれていない出口からやって来る。

 

「皆!早く乗るんだ!」

 

 徐々に崩壊のスピードが速くなっていく。ここがいつまで持つかは分からない。

 ジェネシス、雷門のメンバー全員がイナズマキャラバンに向かって走る。

 

「立てるか?」

「ああ……」

 

 ウルビダに手を貸して立ち上がってもらう。だいぶ痛みも慣れてきたし、今なら動ける。

 ただ、イナズマキャラバン。入り口は一つで約30人が乗り込む。どうしても時間稼ぎが必要か。

 

「ペラー。ぶっ壊すぞ」

『了解』

 

 ペラーを呼ぶと、ペラーが数十匹のペンギンを呼び出す。そして、

 

「『ミサイルペンギン!』」

 

 数十匹のペンギンが空高く飛んでいく。ペンギン一匹一匹を操ろうと思うとオレ一人では無理だが、ペラーのお陰で確実にデカいのとキャラバンの上に降ってきているのだけは粉々に出来ている。

 

「父さん!」

「ヒロト!」

 

 ほぼ全員がイナズマキャラバンに乗り込むことが出来た。しかし、吉良星二郎は元の位置から動こうとしていなかった。

 

「クソ……!早く連れ戻せよ……!」

 

 グランと円堂が彼の下へ向かう。瞳子監督も心配そうに見つめてるが、あの表情。ここを死に場所にするつもりか……!

 

「大丈夫か?十六夜」

「ああ……!と言っても長くは持たない……!」

 

 上の方で起こっている小さな爆発。それとともに降ってくる施設の破片。

 今、キャラバンの上、出口までの道、アイツらの上などある程度絞ってはいるがそれでも、中々厳しいものがある。それに、この施設そのものがいつまで持つか分からない。

 

「何バカなことを言ってんだ!こんなとこで死んでどうするんだよ!そんなことをしてヒロトたちが喜ぶと思ってるのか!」

「円堂……!」

「まだ分からないのか!皆にはアンタが必要なんだ!」

「そうだぞおっちゃん!アンタが死ぬことが罪滅ぼしになるわけじゃねぇ!生きてくれよ!こいつらの為に!」

「……行こう。父さん」

 

 グランと円堂がおっちゃんを連れて、イナズマキャラバンへと戻ってくる。

 

「古株さん!走れる!?」

「ああ!行くぞお前たち!何かに捕まっていろ!」

 

 キャラバンが急発進する。あまりの衝撃で後ろに倒れ込みそうになるが……

 

「八神……!」

「まだ脱出できていない。気を抜くな」

「ああ……!悪い」

 

 彼女の支えで何とか倒れずに済む。

 後ろから迫る爆発。キャラバンが出るのが早いか、あの爆発に巻き込まれるが早いか。

 

「出口よ!」

 

 キャラバンの先に光が見える。だが、すぐ後ろには爆発が。

 どちらが早いか。ギリギリの状況。結果としては、キャラバンの方が僅かに速かった。

 しかし、キャラバンが出口から飛び出した直後。出口が爆発し、爆風がキャラバンを襲う。

 

「ダメだ!崖から落ちる!」

「曲がりきれない!」

「いいや!なんとかする!ペラー!」

『任せて!』

 

 ペラーがまずキャラバンの外に何十匹かのペンギンを呼び出してペンギンの壁を作る。次に何匹かのペンギンを体当たりさせることで無理矢理コースを曲げる。更に見えてはいないが減速させようと、数匹のペンギンを正面からぶつけている。

 

「これなら行けるぞ!皆!もう一踏ん張りじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、古株さんのドライビングテクニックにより何とか危機を脱したオレたち。そこそこ広めの場所で停車して、全員降りる。

 振り返ると、さっきまで居た基地は黒煙を上げていて……

 

「終わったんだな」

 

 エイリア学園の基地。その最後をオレたちは見届けていた。

 そこからしばらくして警察車両が到着する。

 

「瞳子。お前のおかげで目が醒めたよ……ありがとう」

「お父さん……」

 

 警官に挟まれながら連れて行かれる吉良星二郎。

 

「父さん!」

 

 彼がパトカーに乗せられる前にグランが声をかける。

 

「オレ、待ってるから!父さんが帰ってくるまでずっと待ってるから!」

 

 そのままパトカーに乗せられ、パトカーは走り去っていく。

 

「さぁ、君たちも行こう」

 

 ジェネシスのメンバーも警察車両へと歩いて行く。

 

「響木監督。円堂くんたちのこと、お願いしてもよろしいですか?ヒロトたちの傍にいたいんです」

「ああ」

 

 そういうと瞳子監督はオレたちの下にやって来る。

 

「ありがとう。皆、ここまでやってこれたのも皆のおかげよ。本当に感謝しているわ」

 

 そして、オレたちに頭を下げる瞳子監督。

 

「監督……!」

 

 頭を上げる監督。少しだけ笑顔を向けると、振り返って彼らの下へと歩いて行く。

 

「十六夜!」

「……八神」

「……さようなら」

「…………っ!」

 

 彼女が静かに手を振る。そして、振り返ってまっすぐと歩いて行く。

 

「さようなら……」

 

 オレの声は届いたかは分からない。でも、きっとこれで別れなんだと思うと……

 

「……また、きっと会えるさ。サッカーを続けていれば」

「ああ……そうだな……」

 

 色々と言いたいことはある。でも、今、言うことはできない。

 

「…………次は、何のしがらみもなく会いたいな」

 

 敵としてでも、味方としてでもない。純粋な友として……

 

 そんな再会が出来る未来……ただそれを願うばかりだ。



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雷門VSダークエンペラーズ ~想定外の敵~

 ザ・ジェネシス、エイリア学園との戦いは終わった。

 オレたちはザ・ジェネシスのメンバーが保護され送られていくのを見送り、雷門中へと帰還していた。道中でも、キャラバンのエンジントラブルがあったりしたが、もうすぐこの中の何人かは地元へと帰らないといけない。

 別れが来る。そんなことを考えつつも、とりあえず一つ大きな事が終わったというのが今ある事実か。

 

「この先どうしようか……」

 

 キャラバンの外を見ながら思いに耽る。前はフットボールフロンティア優勝や、打倒エイリア学園みたいな大きな目標があったけど、今はその目標がない。

 

「アフロディ。お前も戻るのか?」

「そうだね。僕も世宇子中に帰るつもり。まぁ、他の皆に比べたら近いけどね」

「なるほどなぁ……」

「でも、君たちとサッカーをして改めて思ったよ。あの時、僕たちを倒してくれてよかったってね」

「……そうなのか?」

「まぁ、今回のエイリア学園のこともだけど。人間って強すぎる力を手に入れると、それは身を滅ぼしかねないからね。もし、あの時勝っていたのが雷門じゃなくて僕らだったらって思うと……」

「エイリア学園に世宇子……二つの脅威が襲い来るとか……放棄したくなるな」

「そうだね。でも、エイリア学園の人たちも目が醒めてくれてよかったって思うよ」

「そうだな。なぁ、お前は今後なんかするとか決めているか?」

「うーん……もう少し落ち着いてからゆっくり考えるよ」

「オレも、そうするか」

 

 キャラバンはやがて雷門中へと到着する。しかし、そこの漂う空気は何かが違った。

 今にも雨が降りそうな黒い空。霧がかかってうっすらとしか先が見えない。一言で言えば気味が悪かった。

 

 カツカツ

 

 そこに足音が響き渡る。その足音は段々と近づいてきてやがて止まった。そこに居たのは……

 

「お待ちしていましたよ……雷門の皆さん」

「研崎……!何でお前が!」

「これはこれは十六夜君。お久しぶりですね」

「……何しに来た」

「そうですね……皆さんにはまだ最後の戦いが残っています」

 

 そう言うと研崎の後ろには11人のフードを深く被った奴らが現れる。

 そしてその内の一人がこちらに向かって歩いてきて……

 

「風丸!?」

 

 フードを取る。その正体は……雷門の仲間である風丸だった。

 次々と明らかになる正体。染岡、影野、半田、栗松、少林寺、マックス……ほとんどが雷門のメンバーで、このエイリア学園との戦いで離脱していった者だった。

 そして、風丸があるものを見せる。オレにとっては見慣れたもので、本来なら風丸が持つはずのないもの……

 

「エイリア学園のボール……何でお前が?」

「どうして……風丸君?」

「再会の挨拶代わりだ」

 

 そう言うと円堂に向かってシュートを放つ。辛うじて弾いた円堂だが……その衝撃は計り知れない。

 

「風丸……お前に一体何があったんだ!?」

「円堂、人には限界がある。でも、自分の限界を知るのはつらい……だから俺は強くなったんだよ。誰よりも強く、大いなる力を手に入れたんだ!」

 

 そして風丸が取り出したのはエイリア石だった。

 

「エイリア石の力を使って強くなるなんて……そんなの間違ってる!」

「だったら証明してくれないか?オレたちの納得のいくようにな!」

「証明……だと?」

「ああ、人の力でどこまでやれるか。オレたちに示してみろ!サッカーでオレたちを負かしてみろ!」

「染岡君……本気で言ってるの?」

「そ、そうか!お前たち操られているんだな!待ってろ、すぐに助けてやるからな!」

「……何か勘違いしていないですか?」

「勘違い……だと?」

「オレたちはオレたちの意志でここにいる」

「……っ!」

 

 その目には一切の迷いがなかった。アイツら……本気で言っている。だが、アイツらがそんなことをいきなり言うわけがない。そうなると原因は……

 

「おい研崎……!テメェ!何しやがった!」

「十六夜君。大人への口の利き方がなってないですよ」

「んなことどうでもいい!さっさと答えろ!」

「……私の野望ですよ。あのお方……吉良は何も分かっていなかった。どれだけこのエイリア石が素晴らしいものなのか。あの人の計画は穴だらけだった。ジェネシスがハイソルジャー?そんなことはない……だから、私が作ったんですよ。究極のハイソルジャーをね。まぁ、君たちには感謝していますよ。お陰であの男を消すことができた……基地ごとね」

「基地の爆発はテメェがやったのか!」

「その通りですよ。もう用済みですから」

「テメェ……!」

「本当は君にもこのチームに入ってもらう予定でした。十六夜君。だから君にエイリア石を与えた……なのに残念です。君はその力を拒み、剰え触れたエイリア石を無力化させてしまうとは」

「知るかよ。だが、オレが無力化させれば解決だろ?」

「果たして、本当にそうですか?」

「……なんだと?」

「私は彼らに与えただけに過ぎない。受け取ったのは彼らの意志です。力を求めたのは彼ら自身。その力を無理矢理奪う……果たして、それは本当に彼らの救いになるんでしょうかね?君たちのような持つものが持たざるものから強引に奪う……果たしてそれはどうなんでしょうかね?」

「…………っ!」

 

 確かに……そうかもしれない。無理矢理エイリア石を無力化しても、力がなくなるだけ。アイツらの心は何も変わらないし変われない……クソ……嫌な言い方をしてくる……!

 

「オレたちと戦え。円堂」

「……嫌だ」

 

 円堂が断った。アイツがサッカーをすることを拒んだ。

 

「こんな状態のお前たちと試合だなんて……!」

 

 その意見に反対する者はオレたちの中には居なかった。

 

「我々との試合を断ればどうなるか……お教えしましょう」

 

 そう言うと染岡の足下にエイリアボールが。

 

「まず手始めに……雷門中を破壊します」

「ダメだ!やめろ染岡!」

「お分かりですか?あなた方には選択肢がないんですよ」

 

 ……この野郎……!

 

「…………分かった。勝負しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いのチームがベンチに入る。研崎によると、日本中のテレビなどのマスメディアをジャックしたらしく、ここから全部中継されているようだ。

 狙いとしては、ダークエンペラーズの圧倒的な強さを見せつけるってとこだろうが……クソ、どこまでも人を……!

 

「……皆……忘れちゃったんですかね……」

 

 壁山が、サッカー部と書かれた木の板を見ながらそう呟く。ただの木の板ではなく、これは前の部室に飾ってあった看板……オレたち初期のメンバーからすれば大切なものである。

 

「いいや、皆、あんなに頑張ってやってきたんだ……だから。エイリア石なんかに潰されるはずがない!仲間はいつまでも仲間なんだ!」

「取り戻そう。本当の皆を」

「ああ。アイツらを絶対に救い出そう」

「アイツらはサッカ-を諦めかけたとき、傍に居てくれた仲間だ。今度は俺たちが!」

「ああ」

「ウチも協力するで!」

 

 そう言ってきたのは浦部。そして、その後ろには今回の戦いで加わってきた仲間たち。

 

「俺たちも雷門イレブンだからな」

「ああ。もちろんだよ」

「俺もやります!」

「俺だって!」

「彼らも僕の道を正してくれた……だから、今度は僕が彼らの道を正す」

「お前たち、準備はいいか?」

「響木監督……」

「見せてやれ!お前たちのサッカーを!」

「「「はい!」」」

 

 オレたちは輪になり、手を差し出す。全員が手を重ね、最後に円堂が重ねる。

 

「さぁ、行くぞ!皆!」

「「「おう!」」」

 

 そしてポジションに着く。今回の雷門のメンバーとポジションはこんな感じだ。

 

 FW 吹雪 豪炎寺

 

 MF 土門 円堂 鬼道 アフロディ 一ノ瀬

 

 DF 綱海 十六夜 壁山

 

 GK 立向居

 

 実況は(いつの間にか居た安定の)角間、審判は古株さんが務めることに。

 

 ピ──!

 

 雷門のキックオフで今、試合が始まった。



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雷門VSダークエンペラーズ ~力~

 雷門ボールで試合が始まる。ボールは鬼道が持っていた。

 

「こっちだ!」

 

 鬼道の後ろを走っていた円堂がボールを要求する。

 ボールを受け取った円堂。そのままドリブルをしていく。立ちはだかるのは風丸。

 そして一瞬だった。円堂と風丸がすれ違った瞬間。ボールは風丸の下にあった。

 

「あはは、その程度か?キーパーじゃなければたいしたことないな」

 

 あまりに速い。一切の無駄な動きがなく、ボールをたやすく取ってしまった。

 ブロックに向かったのは土門とアフロディ。

 

「行かせないよ」

「通すものか!」

「無駄だ。疾風ダッシュ!」

 

 風丸の必殺技は最早、瞬間移動と言っても過言ではないレベルで、二人を抜き去る。

 

「何……?」

「何だよアレ……!」

 

 桁違いなレベルでのパワーアップ。コレには驚きを隠せない。

 

「風丸さん……」

 

 そのまま壁山の下へとドリブルで駆けていく風丸。普通のドリブルですら、かなり速くなっている。

 

「はぁ!」

 

 そして、迷いなくシュートを放つ。

 

「壁山!」

「ザ・ウォール!」

 

 自分に飛んでくるシュートに対し、止めようと必殺技で対抗する壁山。

 

「うわぁああっ!」

 

 しかし、壁は崩れ去りボールはゴールへと向かう。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 立向居の必殺技がそのシュートを防ぐ。だが、ただのシュートなのに余裕といった感じはなくギリギリ。スピードだけじゃない。パワーも桁違いなレベルになっている。

 

「まだほんの小手調べさ」

 

 そう言って戻っていく風丸。確かに、今のシュートは全力って感じがしなかった。

 

「強いな……想像以上だ」

「ああ……多分、風丸だけじゃねぇ……アイツら全員が……」

 

 立向居からボールは鬼道に。

 

「豪炎寺!」

 

 そして豪炎寺へと繋がる……はずだった。そのパスをカットしたのは半田。

 

「動きが遅くなったな!豪炎寺!」

 

 そのままボールを風丸に渡す。

 

「通さない」

「いいや、通らせてもらう……疾風ダッシュ!」

「イビルズタイム!」

 

 風丸が目の前から消えた瞬間に、必殺技を使って時の流れをゼロに近づける。風丸は……斜め後ろ。そこから最後に到達する地点を考え、そこの前に立つ。そして、時の流れを戻す。

 

「……なるほど。ソレを使ったか」

「どうにも、この技を使う相手だからな」

 

 遅くなったタイミングでボールを奪い、パスを出す。

 ボールを受け取った土門が、一ノ瀬へとパスを出す。ブロックに来たのは宍戸と少林寺の二人。

 

「行くぞ少林!」

「おう!」

 

 すると、宍戸が反転し、少林寺の方を向き手をバレーのレシーブのように構える。その構えた手に少林寺が飛び乗り、上に投げ飛ばす。そのまま少林寺は空中で体制を整え、一ノ瀬の前へと落ちてくる。

 

「シューティングスター!」

 

 地面に付いた衝撃波で一ノ瀬を吹き飛ばした。あっさりとボールを奪う……攻撃も守備も強いな。

 そのまま、ボールを持ち込む少林寺。シャドウという選手へとパスを出そうとする。

 

「そこだよ!」

 

 そのボールをカットするアフロディ。そのまま、円堂へとパスを出す。円堂から鬼道、そしてダイレクトで豪炎寺へと渡った。

 

「豪炎寺!」

 

 フリーで受け取った豪炎寺。絶好のシュートチャンスだ。

 

「爆熱ストーム!」

 

 豪炎寺の必殺技が炸裂する。対する、キーパーは御影専農の杉森。シュートを見ると不敵な笑みを浮かべ、シュートに向かって走り出す。横には気付けば影野が走っていた。

 二人は一瞬のアイコンタクトの後に、距離を取り、左右から同時に蹴りを叩き込む。

 

「「デュアルスマッシュ!」」

 

 そしてボールは杉森の手に。その姿には衝撃が走った。

 

「アイツら……あんなに楽々と」

「これがエイリア石の力なのか……?」

「それだけじゃない」

「ああ。アイツら自身も強くなっている」

「それをこんな形で知ることになるとはな……」

 

 もっと別の形で知ることができていたらよかった。そう思うが、そんなこと言ってる場合じゃない。

 ボールは染岡に。ドリブルで一人駆け上がっていく。そこに立ち塞がるのは円堂と壁山。

 

「通さないッス!」

「ははっ!今のオレにはそんなディフェンス通用しない」

「それは本当の力じゃない!」

「だったら止めてみろ!」

「行くぞ!」

「はいッス!」

「甘いな!」

 

 円堂と壁山のダブルディフェンスを強引に突破する染岡。

 

「どうだ!俺の勝ちだ!」

「染岡君!アイスグランド!」

 

 フォワードに吹雪が染岡を止めるために立ちはだかる。吹雪の必殺技によって氷付けにされ、ボールはラインを割った。

 

「染岡君!僕は忘れていないよ。君がどんな思いでチームを離れたか、どんな思いで僕に後を託したか!」

「ふん。そんなこと、覚えてねぇ」

 

 ただ一言、そう言って去って行く。

 

「何を言っても無駄のようだな」

「ああ。届いていないな」

「じゃあ、どうすれば……」

「勝つしかない。俺たちのサッカーで」

 

 声が届いていない以上、勝つしかない……か。

 スローインで試合再開。ボールは綱海が持った。

 

「一ノ瀬!」

 

 そして一ノ瀬へとパスが通る。

 

「土門!円堂!」

 

 一ノ瀬が土門と円堂を呼ぶ。そしてザ・フェニックスの体制に入る……が、

 

「スピニングカット!」

 

 木戸川清修の西垣の必殺技によって阻まれる。その炎の壁は前に見たときとは比べものにならないほど、猛々しく燃えていた。とてもじゃないが、正面から突破なんてできそうにない。

 

「西垣、こっちだ!」

 

 風丸へとパスを出す。鬼道がそれをカットしようとするも、風丸は鬼道の前で受け取って、

 

「シャドウ!」

 

 ダイレクトでシャドウへパスを出す。そして、シャドウはシュート体勢に入る。

 

「ダークトルネード!」

 

 そのシュートは、豪炎寺のファイアートルネードの炎を真っ黒な炎にした技だった。

 

「闇に呑み込まれてしまえ!」

「闇なんてここにはねぇ!」

「ああ!止めてやる!」

 

 綱海とオレが空中で止めようと身体を張るが、

 

「「うわぁぁっ!」」

 

 吹き飛ばされてしまう。そのまま、ボールと共にゴールへと向かっていき、

 

『ご、ゴール!な、なんと!綱海、十六夜、立向居の三人ごとゴールへと押し込んだ!先制点はダークエンペラーズだぁ!』

 

 人を三人吹き飛ばして纏めてゴールに入れるとか……

 

「大丈夫か!?」

「わりぃ……止められなかった。お前ら怪我はないか?」

「おう……」

「大丈夫です……」

 

 雷門のキックオフで試合再開。しかし、俺たちの攻撃はことごとく防がれてしまいシュートまで持ち込めない。そればかりか、普段は前に出ることも多いオレや円堂も守備で手一杯で、攻撃に参加する余裕がない。

 

「疾風ダッシュ!」

「しまった!」

 

 円堂が風丸の必殺技で突破される。

 

「行け!染岡!」

 

 そして染岡へとパスが通る。しまった、アイツを止めないと。

 

「僕が行く!」

「吹雪!分かった!」

「やれるものならやってみろ!」

 

 染岡がシュート体勢に入る。高く上げられたボールに、羽の生えたドラゴン……ワイバーンが力を込めて急降下。

 

「ワイバーン……」

 

 そのままシュートと行ったところで、吹雪が間に合い蹴りを叩き込む。染岡と吹雪の蹴りが拮抗する。

 

「テメェ!さっきから俺の邪魔ばっかしやがって……!」

「染岡君!僕と風になろうって約束したじゃないか!忘れちゃったの!?」

「だから!覚えてねぇって言ってんだろうがぁ!」

 

 突如、染岡の身につけていたエイリア石から光が溢れ出る。そして、そのまま力が溢れ出て、吹雪を吹き飛ばした。

 

「クソったれ!」

 

 そのシュートを蹴り返そうと試みる。

 

「お前も吹き飛べ!」

「ぐあぁぁっ!」

 

 だが、その威力の前に吹き飛ばされてしまった。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 立向居の必殺技が炸裂する。だが、伸ばされた手をすべて砕いて、ボールはゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!染岡のパワーアップしたワイバーンクラッシュが決まったぁ!ダークエンペラーズ追加点だ!』

 

 何とか立ち上がるも、まだ多少足が痛む。すげぇ威力だな……おい。だが、それでも負けられねぇ。次は何としても止めてやる……!




アンケートご協力感謝です!
まさか1,000人以上の方々に協力してもらえるとは……そして、すごい差が開いたわけでもない。
本編では、宣言通り原作ルートで行いたいと思います!


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雷門VSダークエンペラーズ ~奇策~

 雷門のキックオフで試合再開。しかし、あっさりとボールを奪われてしまった。

 

「通さない!」

「甘いな!疾風ダッシュ!」

 

 風丸の必殺技が炸裂し、円堂を突破する。ボールは、半田の下へ。

 

「見ろ円堂!」

「これがオレたちの真の力だ!」

 

 ドリブルしていた半田とマックスが両手を繋ぐ。そして、そのままボールを中心に回転。回転した勢いで風が起こりボールが空へ上がっていく。

 

「「レボリューションV!」」

 

 そして勢いよく空に上がり、二人がボールを蹴る。ボールを中心にまるでVの字を描くように蹴られたシュート。ボールの回転で地面を抉り、砂煙を巻き起こしながらゴールへと向かう。

 

「来い。ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 しかし、その手は破られ、ボールはゴールへと向かう。

 

「させねぇ!」

 

 ゴールへと入る直前にボールを蹴り飛ばす。ボールはラインを割った。

 

『間一髪!十六夜が追加点を防ぎました!』

 

 なんてシュートだよ……本当にパワーアップしていやがるな。

 

「大丈夫か!」

 

 円堂が立向居に駆け寄る。見ると手を押さえているようだ。

 

「大丈夫です……ちょっと痺れただけです」

「そうか。ゴールは託したぞ」

「はい!」

 

 確かに……こんなの何発も喰らっていたらキーパーは持たないか。

 

「だが……そう甘いこと言ってられないのも事実……!」

 

 スローインで試合再開。ボールを何とか奪っても、攻撃はシュートまで持ち込めない。パスをカットされ、時にはドリブルを止められる。苦しい展開だ。

 

「こっちだ!」

 

 そんな中、円堂が上がってパスを要求する。パスが通った……が、円堂の前には風丸が。

 

「分身ディフェンス!」

 

 すると、三人に分身した風丸。一人が円堂からボールを奪い、一人がダイレクトでそのボールを繋げ、受け取った一人が円堂の後ろで着地。そのまま分身は消え去った。

 

 ピ、ピ──!

 

『ここで前半終了!ダークエンペラーズに二点のリードを許した雷門!後半で巻き返せるのか!?』

 

 ベンチに帰って行くオレたち。ただまぁ、他の試合に比べるとやりやすいようでやりにくい。かなり体力を削られた。

 

「くそ、どうすれば……!」

「ずっと一緒にやってきたから皆の癖や弱点が知られている」

「動きが読まれている……」

 

 ジェネシス戦のオレみたいってわけか……ただ、アイツに比べたらそこまで読まれていないか。

 

「それを逆手に取るんだ」

「監督?」

「お前たちが動けば、アイツらも動く」

「……なるほどねぇ」

「どういうことだ?」

「簡単だ。オレたちの多くはアイツらとずっとやってきていた。だから、動きが読まれている。じゃあ、読まれないヤツをキーにすればいい」

「その通りだ。切り札は、綱海、アフロディ。綱海のことはアイツらの誰も読み切れない」

「そりゃそうだ。誰も俺のこと知らねぇよな」

「アフロディに関しても同様だと言える」

「確かに。神のアクアを使っていたときの僕は知ってても、今の僕は知らない……」

 

 なるほど。この二人は確かに、向こうじゃ読み切れないか。

 

「十六夜」

「なんだ?鬼道」

「後半、隙があれば積極的にボールを持て。お前の守備力は知られていても、攻撃力はそこまで知られていない」

「なるほど……」

 

 確かに、前までに比べるとディフェンス能力より、攻める方の能力が上がっている。でも、アイツらはほとんど知らないか……

 

「十六夜君」

「なんだ?アフロディ?」

「一つ、思いついたことがあるんだ」

 

 そう言って耳打ちしてくるアフロディ。なるほど。確かに騙せるな。

 

「分かった。やってみよう」

「ああ」

 

 そしてポジションに着く。

 

 ピー!

 

 後半が始まった。ボールを奪ってからパスを中心に組み立てる。ただし、攻めることはなく自陣だけでボールを回している状況。周りから見れば攻め手を欠いて、自陣でボールを回すだけに見えるだろう。

 

「まだだ……」

 

 隣にいる綱海が機を伺っている。確かに、まだ大きな隙はない。オレも今上がるには、あまりに無謀だ。

 

「鬼道!」

 

 土門から鬼道へのパス。しかし、そこを風丸がカットする。

 

「どうした?攻めることも出来ないのか?」

「行かせるもんか!」

 

 風丸のフェイントに必死に喰らいつく円堂。

 

「絶対に!通さない……!この試合、絶対に、勝ってみせる!」

 

 円堂の気迫がオレたちにまで伝わってくる。……そうだよな。絶対に勝つんだよな。

 

「邪魔だぁ!」

 

 ここで、風丸が持っていたボールを円堂の腹にぶつけるという攻撃的なプレーをする。

 

「円堂!」

 

 弾き飛ばされる円堂。すぐさま駆け寄って、彼を起こす。

 

「大丈夫か?」

「ああ……大丈夫だ」

 

 ボールは風丸の下に転がる。

 

「テメェ!何すんだ!お前ら仲間だったんじゃねぇのかよ!円堂をボールで吹き飛ばして……そんなにエイリア石が大事か!」

「お前に何が分かる!」

 

 綱海の言葉に怒った風丸。そのまま綱海をラフプレーで倒した。

 

「いや、分かる……!君たちと同じで、心からサッカーを愛するキャプテンを慕っている。キャプテンたちに出会えたから!今の僕があるんだ!」

「……!」

「アイスグランド!」

 

 吹雪が必殺技でボールを奪う。

 

「十六夜君!」

「ああ!」

 

 そしてオレがボールを持つ。

 

「豪炎寺!アフロディ!行くぞ!」

「おう!」

「ああ!」

 

 前線にいた豪炎寺とアフロディがそれぞれ斜め前に向かって走って行く。

 

 ピ──!

 

 俺は10匹のペンギンを呼び出して、ボールを高く蹴り上げる。

 

「シュートチェインをするつもりだ!」

 

 風丸からの指示でディフェンス陣が、左右にいる豪炎寺とアフロディのマークにつく。

 

「皇帝ペンギンO改!」

 

 お陰で真ん中に、ゴールまでの道が出来る。

 この技がチェインを前提とした技と言うことぐらい知られている。だが、チェインすることは絶対じゃない。だから確実に引っかかってくれると信じていた。

 

「十六夜!この波、乗らせてもらうぜ!」

「ちょっ!?はぁ!?」

 

 綱海がたった今打ったシュートの上に乗っかる。そこにはいつもの大波が現れた。

 

「こりゃあいい波だ!」

 

 綱海だけじゃなくて、一緒にペンギンたちも波に乗っていた。いや……え?綱海がペンギンたちとサーフィンしている?アイツが乗ってるのオレのシュートなんだけど?何なのその身体能力。流石に意味分からないんだけど?

 

「このままいっけぇ!」

 

 そして、そのまま目の前に現れた大きな波に向かってボールを打ち出す。その大きな波にペンギンたちとボールは一度飲まれたが浮上。ペンギンたちは、まるでイワトビペンギンのようにトサカを逆立てながら、ボールと共に加速しながらゴールへと突き進む。

 その速さはガゼルとの連携技、皇帝ペンギンTと同じか少し遅い程度。だが、豪炎寺やアフロディへと注意が向いていたディフェンス陣は反応が遅れ、対応ができない。

 

「ダブルロケッ……!」

 

 咄嗟に杉森が両手でのロケットこぶしを放とうとする。しかし、ボールは既に彼の目の前。その拳が放たれる前に拳にボールとペンギンが直撃。そのまま、ゴールへと押し込んだ。

 

『ゴール!な、なんと!綱海と十六夜の連携技による超ロングシュートがゴールに!雷門!遂に一点を返した!』

 

「綱海君が生み出した波を十六夜君のペンギンたちが乗りこなす……ズバリ、波乗りペンギン!」

「よっしゃあ!十六夜!やったな!」

「あ、あぁ。何かよく分かんねぇけどやったな」

 

 いやいや、人のシュートの上に乗るとか聞いたことねえよ?意味が分からねぇよ?え?何、どんなバランス感覚しているんだコイツ。

 そんな人の驚きをよそにダークエンペラーズボールで試合再開。ボールは風丸が持った。

 

「十六夜……!」

「止めてやるさ」

「遅い!疾風ダッシュ!」

「……だから、もう見えてんだよ!」

 

 流石に何度も使われれば、どこで遅くなるかとかは分かる。ワープじゃない、あくまでドリブル。だから、

 

「そこだ」

「何!?」

 

 一瞬動きが遅くなった場所で横からボールを蹴って、風丸の足下からなくす。

 

「十六夜!」

 

 その蹴られたボールに食いついたのは綱海。パスじゃなくて、外に出すつもりだったが……

 

「ありがとな!綱海!」

 

 せっかく繋いでもらったボールだ。このボール、絶対に無駄にはしない。

 

「通さねぇぞ!」

「甘いな」

 

 ブロックに来た染岡をフェイントで躱す。

 

「通さないよ」

「行かせん!」

 

 マックスと半田のダブルディフェンス。

 

「お前らの癖も分かってんだよ!」

 

 あくまで彼らはエイリア石でパワーアップしただけ。だから、もとからある癖までは消えていない。

 二人の合間を縫うようにしてボールを持ち、突破する。

 

「「シューティングスター」」

 

 宍戸と少林寺の必殺技。この技は確かに当たれば強い。

 

「もちろん。当たればの話だけど!」

 

 少林寺が地面に突撃した瞬間に、前方へと跳ぶ。衝撃波で吹き飛ばす?だったら、その衝撃波に乗ればいい。相も変わらず無茶苦茶だが……

 

「アフロディ!」

 

 その勢いのまま空中でアフロディに向かってパスを出す。

 

「行くよ」

 

 そしてアフロディは上へとボールを蹴り上げた。

 

「やらせないでヤンス!」

「決めさせない」

 

 ゴッドノウズの体制に入ったのを見て、栗末と影野が跳躍。シュートコースを防ぎにかかる。

 

「これはシュートじゃない、パスだよ」

 

 しかし、それはフェイク。翼を出して飛んだだけで、彼にシュートをするつもりはなかった。

 

「豪炎寺君!吹雪君!」

 

 地面を走る二人の下へパスが通る。

 

「「クロスファイア!」」

 

 二人の必殺技は誰にも遮られることなく、杉森の下へと向かう。

 

「ダブルロケット!」

 

 杉森の必殺技。飛んでいった拳はシュートとぶつかる。しかし、その威力に押されて、拳は弾かれ、ボールはゴールへと突き刺さる。

 

『ゴール!2ー2!雷門追いついた!』

 

 何とか、同点に追いついたオレたち。後半の残り時間はまだまだある。

 ここから逆転……そう意気込むオレたちを快く思わない人間がいた。




オリジナル技紹介。

波乗りペンギン 
属性風 
パートナー 綱海
ロングシュート可
皇帝ペンギンOからツナミブーストにシュートチェインした結果、偶発的に誕生した連携技。
皇帝ペンギンOの後、綱海が直接ボールに乗る事で発生した大波にペンギンたちが腹ばいになって一緒に乗り、最後はスパークルウェイブの様にそのままペンギンたちと一緒に打ち出す。
なお、ペンギンたちは一度波に飲まれた後でイワトビペンギンの様に頭部の毛を逆立てた状態で浮上してくる。

h995様より頂きました。ありがとうございます。


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雷門VSダークエンペラーズ ~光~

高評価、並びにお気に入り登録感謝です。
今回で一日おき投稿は一旦終わりです。


「何をしているのです!何のためにエイリア石の力を与えてやったと思っているのですか!」

 

 後半に入ってオレたちが優勢で試合が進んだこと。そして、遂に同点に追いついたことに対し、ベンチに居た研崎が立ち上がり声をあげる。

 

「お前たちの能力を見せつけてやりなさい!」

 

 その声に呼応するように、ダークエンペラーズの面々の胸元のエイリア石が輝きを増す。

 

「……何か起きるのか……?」

 

 今更、何かが起きようと凄い動じるつもりもないが……何だろう。嫌な予感がする。

 そう思っている中、ダークエンペラーズのキックオフで試合再開。ドリブルで攻め上がるシャドウからボールを奪い、円堂へとパスを出す。

 

「分身ディフェンス!」

 

 しかし、ブロックに行った風丸の必殺技によって呆気なく取られてしまった。

 

「見せてやる。オレたちの最強の必殺シュートを」

 

 最強の……必殺シュートだと?ただでさえ、こっちはさっきまでのを止めるのに精一杯だと言うのにその上があるのかよ……

 そんななか、染岡とマックスの二人が風丸の下へと集う。そして、三人が同時にボールを蹴り上げる。禍々しい力が込められたそのボールは天高く登っていくと……

 

「あれは……!?」

「フェニックス……!?」

「いや、色が違う!」

 

 円堂、土門、一ノ瀬の必殺技、ザ・フェニックスのフェニックスにそっくりだ。違うのは、こっちのフェニックスは紫色の炎で出来ていることだろうか。

 

「「「ダークフェニックス!」」」

 

 三人同時のオーバーヘッドキック。それによりボールはフェニックスと共にゴールへと向かう。

 そのシュートの力強さ、恐ろしさをあのフェニックスが物語っている。まるで、全てを闇に落とさんとするその禍々しさ。

 

「……っ!止めろ!立向居!」

 

 そのせいでオレたちディフェンス陣の反応が遅れる。ボールは既にゴール前。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 立向居が必殺技で止めようとする……が、そのシュートは明らかに今までのシュートとパワーの桁が違った。全てを砕き、ボールはゴールへと突き刺さる。

 

「どうだ円堂!オレたちは誰にも負けない!」

 

 2ー3で、ダークエンペラーズの勝ち越す。たぐり寄せた流れを一気に持っていかれる一撃だった。

 雷門ボールでのキックオフ。しかし、さっきまでと違いあっさりと奪われてしまった。

 

「「「トリプルブースト!」」」

 

 栗末、宍戸、風丸の必殺技。

 

「これ以上の得点を許すな!」

「分かっているよ!」

 

 そのシュートを辛うじて弾く鬼道とアフロディ。だが、弾いた後に二人とも膝を突いてしまう。

 

「「レボリューションV!」」

 

 半田とマックスのシュートを、土門と一ノ瀬が弾く。

 

「ダークトルネード!」

 

 シャドウのシュートを綱海が弾く。

 

「ワイバーンクラッシュ!」

 

 染岡のシュートを吹雪と壁山が弾く。

 ダークエンペラーズの猛攻、シュートの嵐を辛うじて防いでいるものの、その代償は大きい。一人、また一人と倒れて行ってしまう。

 

「「「ダークフェニックス!」」」

「アイギスペンギン!」

 

 先ほど点を奪ったシュートに対して、必殺技を放つ。

 

「なんつーパワーだよ……!」

 

 だが、前に受けたスーパーノヴァ、あれとは比較にならないパワー。少しずつ押され、盾にもヒビが入る。

 

「十六夜!」

 

 豪炎寺がそのシュートを弾こうと横から蹴りを入れる。少しの拮抗。

 

「「くっ……!」」

 

 そして、盾が砕けると同時に吹き飛ばされるオレと豪炎寺。そのままボールも弾かれた。

 だが、その代償は大きく、オレも豪炎寺も立ち上がることが出来ない。

 

「もう一発だ!」

 

 そんなことをアイツらが考慮するはずもなく、もう一回ダークフェニックスの体勢に入る三人。

 

「「「ダークフェニックス!」」」

 

 それをオレは立ち上がる事ができずに眺めるだけだった。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 立向居の必殺技が炸裂する。しかし、その威力の前に押され始めてしまう。

 

「立向居!」

 

 そこに円堂が割って入り、彼を支える。ムゲン・ザ・ハンドは砕かれたもののボールはゴールバーを超えて、外に出た。

 すると、立向居に駆け寄る円堂。何やら立向居の付けているグローブを取っているが……

 

『おぉっと!立向居が負傷か!?』

 

 くっ……そりゃ、こんなえげつないもん何発も喰らえば……手にかかるダメージは計り知れないか……!

 

「どうする円堂。まだ続けるか?見てみろ、この無様な姿を。……もう諦めろ」

 

 円堂以外誰も立ち上がれていない現状。確かに……無様と言われても仕方ないかもしれない。

 

「……いいや。諦めない。……諦めないぞ!」

「それでこそ……お前だ」

 

 ガンッ!

 

 拳を地面に叩きつけて、何とか立ち上がる。正直、さっきの一撃が予想以上に重かった。

 

「ゴールは俺が守る!」

「いいや……オレたちで……だろ?」

「円堂……十六夜……!」

 

 円堂がユニフォームを着替えるために少しだけ試合が中断する。本当に僅かな休憩時間だったが、それでもありがたかった。息を少しでも整え、次来るであろう展開をイメージする。

 

「久々に見るな……お前のキーパー姿」

「もう一点もやらせねぇぞ!」

 

 ダークエンペラーズのコーナーキックで試合再開。だが、雷門はキーパーの円堂と辛うじて立ち上がっているオレしか残っていないため、ボールは誰にも取られる心配もなく風丸の下へ。

 

「行くぞ!」

 

 そう言って放たれたシュート。その狙いは……

 

「だろうな!」

 

 ゴール前にいたオレだった。そのシュートを蹴り返そうと踏ん張る。

 

「オラァ!」

 

 何とか蹴り返したものの、今のでバランスを崩し倒れてしまう。

 

「次だ!」

 

 そのまま、ダイレクトシュートを放つ風丸。今度は円堂の正面に行った。円堂が止めようと手を前に出す……が、弾かれてしまい、ボールはゴールへ。

 

「まだだ!」

 

 しかし、上体が逸れた状態で円堂は後ろへと跳ぶ。何とかボールをキャッチし、ゴールラインはギリギリ割っていなかった。

 

「……円堂……」

「風丸……お前、どうしてエイリア石なんかに!」

「オレは強くなりたかった!円堂、お前のように!」

 

 円堂のように……?その言葉の真意を考えていると、円堂は風丸にボールを軽く投げ渡す。

 

「円堂……どういうつもりだ?」

「十六夜……悪い。ここは俺にやらせてくれ」

「…………分かった」

 

 円堂の目には決意が見えた。何があったのかは分からないが、アイツに何か思うところがあったようだ。

 オレは、少しだけゴールから離れることにする。といっても、すぐに立ち上がることが出来ない以上、ペラーたちペンギンに乗せてもらう形で。

 

「来い!お前の全てを受け止める!」

「……っ!」

 

 その言葉に風丸が反応。勢いよくシュートを放つ。

 

「ゴッドハンド!」

 

 そのシュートを円堂の右手が受け止めた。そして、再び風丸へとボールを転がす。

 

「風丸……思い出してくれ!」

「黙れぇっ!」

 

 風丸が怒りをあらわにする。ボールは栗末に渡り、そこから宍戸、そして風丸へとシュートが繋がる。

 

「「「トリプルブースト!」」」

「ゴッドハンド!」

 

 そのシュートを先ほどよりも金色に光り輝く手が受け止めようとする。

 

「思い出してくれ……!皆!俺たちのサッカーを……!」

 

 少しずつ押されていく円堂。しかし、その言葉に、表情に諦めはない。

 ゴールラインギリギリでボールを止める円堂。だが、円堂も限界を迎えたのか倒れてしまった。

 

「皆立ちなさい!立ち上がって!」

 

 雷門の言葉が聞こえる。だが、身体に力が入らない。他の皆も同じようで、立ち上がることが出来ない。

 

 

 

 

 

 ……このまま、終わってしまうのか?

 

 

 

 

 

 このまま、全て終わってしまうのか?

 

 

 

 

 

「雷門!雷門!雷門!雷門!」

 

 

 

 

 

 そんな時、声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「「「雷門!雷門!雷門!雷門!」」」

 

 

 

 

 

 その声は、一つの声から始まり、やがて雷門ベンチ全体から。

 

 

 

 

 

「「「雷門!雷門!雷門!雷門!」」」

 

 

 

 

 

 それだけじゃない。雷門中の外から見ている人たちからも聞こえてくる。

 

 

 

 

 

「「「雷門!雷門!雷門!雷門!」」」

 

 

 

 

 聞こえてこないはずなのに、その声はまるで日本中から聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 その声はもう立ち上がる力さえないと思っていたのに、その力を分けてくれるようなものだった。

 

 

 

 

 

 倒れていた仲間が次々と立ち上がっていく。皆、限界を迎えていたはずなのに。

 そのことにはダークエンペラーズの面々も驚きを隠せない様子だった。

 立ち上がったオレたちは、まだ立ち上がっていない男の方を見る。そして、

 

 

 

 

 

「円堂……!」

「円堂!」

「円堂君!」

「円堂!」

「キャプテン!」

「円堂さん!」

 

 

 

 

 

 その言葉に反応するように、ゆっくりと立ち上がる円堂。そして、ふらふらになりながらもボールを風丸の方に投げた。

 

「まだまだ終わってねぇぞ!」

 

 身体は限界を迎えている。だが、心までは折れていなかった。

 

「「「ダークフェニックス!」」」

 

 その様子に風丸は吼えるように叫び、必殺シュートを放つ。

 

「はぁぁぁああああっ!ゴッドハンド!」

 

 円堂の右手から、虹色の輝きを放つゴッドハンドが現れる。その輝きは、まるで全ての闇を浄化するような強くも優しい光。シュートはその右手によって完全に止められた。

 

「思い出せぇ!皆ぁっ!」

 

 そして両手でボールを掲げる円堂。そのボールは緑色に輝き、いくつもの幻影のボールが飛び出していく。

 

 

 

 

 

『サッカーやろうぜ!』

 

 

 

 

 

 そのボールから聞こえてくるのは円堂の声。アイツの真っ直ぐなサッカーへの思い。

 それが伝わっているのはオレだけじゃない。立ち上がった雷門メンバーや、ダークエンペラーズの面々にも伝わっている。

 その光を受けてか、ダークエンペラーズの面々の胸元にあるエイリア石が一つ、また一つと粉々に砕けていく。

 

「……円堂」

 

 雲の切れ間から太陽の光が差し込んでくる。円堂は力を使い果たしたのか、そのまま倒れ込んでしまう。

 そして、エイリア石の力を失ったメンバーも一人、また一人と倒れていく……そんな中、

 

「ま、まだです!まだエイリア石の力は終わっていない!」

 

 研崎が一人吠えていた。

 

「……これ以上……テメェの都合で……サッカーを汚すんじゃねぇ!!」

 

 これ以上、アイツらを……サッカーを汚させてたまるものか。

 その思いが大きくなると共に、背中から黒い影が現れる。その影は大きく膨れ上がりながら研崎のもとへと向かっていく。

 

「や、やめろぉ!来るんじゃない!」

 

 その影は研崎の持っているアタッシュケースを飲み込んだ。

 数秒の後、影は跡形もなく消え去る。

 

「くっ……」

 

 一気に全身の力が抜けていく感覚。抵抗することが出来ないと本能的に悟り、その感覚に身を委ねながら倒れていくことにする。

 倒れる寸前で見えたのは、アタッシュケースに入っていたエイリア石が力を失い、粉々に砕けた様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだな」

「あら?目が醒めたの?」

 

 目を開けると眩しい光が入ってくる。それに背くようにグラウンドを見ると、わいわいとサッカーをやっている様子が目に入ってきた。

 

「戻ったんだな……」

「そうね……あなたも混ざってきたら?」

「さっきの黒い影のせいか……ごっそり体力持ってかれたわ。当分、動けねぇよ」

 

 ベンチで横たわっていると雷門が話しかけてくる。ただまぁ、身体がちっとも動かねぇ。

 そのまま試合が終わる。試合の結果は一応3ー3の引き分け。あの後、豪炎寺が点を決めたらしい。

 

「よぉし!円堂を胴上げだぁ!」

 

 綱海の一言で多くのメンバーが円堂の周りに集まる。

 

「十六夜も行くぞ」

「動けねぇっての」

「これなら行けるだろう?」

 

 豪炎寺と鬼道の肩を借りながら立ち上がる。そのまま歩いて行く過程で財前が円堂の頬にキスをしていたが……なんというか、大胆なことで。

 そのまま円堂の胴上げが始まる。オレは力が入らない関係で、鬼道と豪炎寺と共に少し外から眺めることに。

 

「たく、アイツはやっぱり、すげぇよな」

「ああ。そうだな」

「フッ、それもそうだろう。なんたってアイツは日本一のサッカーバカだからな」

「日本一で収まる器じゃねぇだろ」

「宇宙一のサッカーバカ……なんてどうだ?」

「それぐらいの方が相応しいかもな」

 

 天高く上げられる円堂。

 

「皆!サッカーやろうぜ!」

「「「おう!」」」




エイリア編……完結。
数話ほど閑話挟んで世界編に行きます。
ちなみに、主人公の化身の描写を出していますが、世界編の予選や本戦で化身が出てくることはないです。


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十六夜、武者修行へ

半年ぶりです。気付けばお気に入り登録者が3000人超えていました……待たせてすまない。
こんな亀のように遅い作品を応援してくれてありがとうございます。
二、三話やったら世界編突入です。


 ダークエンペラーズとの戦いから数日が経とうとしていた。

 戻りつつある日常。あれから、あの黒い影は出そうとしても出なかった。まぁ、必殺技と呼ぶにはなんか違うらしいし、誰もあれの正体は分からなかった。ただ、ペラーは知っているっぽかったし、超久し振りに電話をかけた神様も正体は知っているけど教えないって感じだった。

 教えてくれないものは仕方ない。そう思うことにして、オレは別のことをずっと考えていた。

 エイリア学園との戦いを通して、フットボールフロンティアの時よりも大きく成長できたと思う。この戦いで、ペラーを始め、ペンギンたちを自力で呼べるようになったり、テクニックという面でも身体能力という面でも、前の自分からは進化しているだろう。

 

「……なるほど。それが君の考えか……」

「はい」

 

 現在、オレは理事長の下にいた。

 多くの学校が破壊されたり、いろいろあった中、ここ雷門中も、もうじきいつも通り授業が始まる。……一応、円堂たちも戦いの中、瞳子監督による勉強会もやっていたようでそこは心配いらないそう。……まぁ、オレは勉強なんかしていないけどね。

 

「円堂たちは日本中を巡ってサッカーをしていました。しかし、オレは巡っていない。代わりに、スパイとして潜入する中で、一度だけ海外の選手とサッカーをする機会がありました。……そこで会った選手は、オレが知る中では間違いなく最強の選手です。はっきり言うなら、ジェネシスやダークエンペラーズの選手よりも実力は上です」

「…………」

「こうして一段落ついた今、オレはあの時の熱をもう一度感じたい。そしてあの時に比べ、どれだけ自分がそのレベルに追いつけたか。まだどれだけ差があるのか知りたい。挑戦してみたいんですよ。世界レベルに」

「なるほど。君には今回の件でいろいろ迷惑をかけてしまった。本来なら、頼むことすらあり得ないような危険な任務を任せてしまった。君の働きのお陰で助かったのも事実。君がそれを望むなら我々としては支えるつもりだ。……一応、学校側としては留学という扱いで今回の件は話を通そう」

「はい。ありがとうございます」

「気にしないでくれ。それに、君はしばらく雲隠れをしておいた方がいいかもしれない。エイリア学園との戦いは世間にも広まっていた。当然、君がムーンとして出場していた試合も流れている。事情を知らない者からすれば君の行動は謎……君が敵に寝返っていたと誤解してしまっている人も居るかもしれない。言い方が悪くなるが、今回の事態が落ち着くまでは海外に逃げるというのもありだろう」

「確かにそうですね……」

 

 世間からの目……あんまり意識していなかったが確かにな。俺って世間からすれば一度雷門を裏切ったのにノコノコ帰ってきた……とか思われていてもおかしくないか。しばらくは雷門を持ち上げられるか、エイリア学園の話題で一杯か。……あれだけの日本中を巻き込んだ大騒動。落ち着くには時間がかかりそうだ。

 

「それに、君のような若者が自ら世界を知りたいと言ってくれたんだ。一人の大人として、応援しないわけにはいかないだろう?……それで。その話は円堂君たちに伝えてあるのかい?」

「いえ、まだですね」

 

 さすがに確定していないのに言うわけにはいかないし。

 

「言わなくていいのかい?」

「そうですね……明日ぐらいに言います」

「分かった。また明日、具体的な予定などを詰めようか」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、話も詰め予定が決まった。友人であり、キャプテンである円堂にも直接話しておきたいが……

 

「夕方だし……鉄塔広場かな」

 

 雷門中から出て、鉄塔広場に向けて歩を進める。

 そして鉄塔広場に到着する。そこには、円堂だけではなく、豪炎寺と吹雪がいた。

 

「十六夜!お前も来たのか!」

「ん?何かの集まりか?」

「明日、吹雪が北海道に帰るからな。ここ最近のことを振り返っていたところだ」

「あー明日だったか」

 

 吹雪を含めた途中で雷門に加入したヤツらは、各々のタイミングで地元に帰っている。確かに、ここにずっといるわけにはいかないか。

 

「うん。それで今は、十六夜君たちが敵として現れたところだね」

「ほんと、沖縄でいきなり現れたときは驚いたなぁ……」

「ああ。俺もその少し前に助けてもらったから余計に……な?」

「あはは……いや、ほんと、アレは違うんだって」

「しかも、試合の時はキーパーとして出場してたし……」

「アレも、うちのキーパー陣が不慮の事故で出場できなかったからだし……」

「でも、君は楽しんでいるように見えたよ」

「否定はしない」

 

 うん。否定はしないな。あの試合が楽しかったのは本音だし。

 

「でも、あの試合は雷門を変えたよな」

「ああ、円堂がキーパーからリベロにポジションチェンジ」

「いつもキーパーとしていたから余計にな」

「そして、ネオ・カオス戦で十六夜君が帰ってきた」

「あの試合、確かヒロトが止めて終わったんだよな」

「最後までやっていたらどうなっていたことか……」

 

 というか、クララがキーパーとして強すぎて笑えなかった記憶がある。いや、ホントね?悪気はなかったんですよ。悪気はなかったんですけど……ねぇ?

 

「そして、ジェネシス戦だね。あの試合……キャプテン、豪炎寺君……皆のおかげで、僕は大切なことに気付けたよ」

「まぁ、オレもお前らのお陰で助かった。それにあの時はありがとな、豪炎寺。……もっとも、いきなりファイアトルネードをぶつけてくるのは勘弁して欲しいけどな」

「ふっ、それは今後のお前次第……だな」

「あはは……まぁ、怪我しない程度ならいいんじゃないか?」

「よくねぇよ」

 

 ほんと、マジで他に方法がなかったのか聞きてぇが……まぁいいや。もし今後、豪炎寺が不抜けるようなことがあれば、お返ししてやろう。

 

「エイリア学園を倒す旅は、辛くて、苦しくて、悲しいこともたくさんあった。でも、それ以上に多くの仲間と出会って、その一つ一つが俺たちを強くしてくれた。な?豪炎寺、十六夜?」

「ああ、そうだな」

「まぁな」

 

 ここでオレは旅に出ていないとか言うのは野暮だろう。その指摘は、心の中だけにとどめておくことにする。

 

「僕こそ皆に出会えてよかった。豪炎寺君、キャプテン……君たちと出会えていなければ、僕は本当の僕を取り戻せなかったと思う。だから……」

「いいや。取り戻せたのは、吹雪。お前がそうありたいと願ったからだ。俺や皆はそれを手伝っただけだ」

「豪炎寺君……僕、サッカーやっていてよかった」

「当たり前だろ?」

「そうだね。また会えるよね」

「今度、俺たちが北海道に行って、雷門と白恋として試合ができるといいな」

「うん。やろう!」

「面白そうだな」

「じゃあ、約束だ!」

 

 そう言って、円堂が差し出したボールの上に、吹雪、豪炎寺、オレ、そして円堂が手を乗せる。

 

「皆でまた」

「「「サッカーやろうぜ」」」

 

 そう宣言を交わす……と、ここで、重要なことを思い出した。何のためにここに来たのかその目的を。

 

「あ、円堂。そういや言い忘れてたことがあった」

「何だ?十六夜」

「オレ、明後日からイタリアに行くわ」

「……はい?」

 

 固まる円堂。心なしか、吹雪と豪炎寺も驚いている様子だ。

 

「…………はあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 そして円堂の絶叫が響く。いやぁ……あはは。

 

「驚かせたか?」

「いやいやいや!?吹雪が帰るのは分かるよ?分かるし、他の皆もだったからいいけどさ?十六夜!?何で急に海外に!?」

「……俺も驚いている」

「僕もだよ……十六夜君っていつもこうなの?」

「まぁ、コイツは人を驚かせることに定評があるからな」

 

 いや、ないけど?ないと思うけど?何、コイツはいつも唐突に意味分からんことを言い出すみたいに言うの?

 

「まぁ、理由はいろいろあるけど……一つは事が落ち着くのを静かに待ちたいからだな」

「事が……落ち着く?」

「円堂。エイリア学園の騒動は解決した。だが、ニュースや世間は今もその騒動で持ち上がっている」

「確かにね……まだ解決して日が浅いから。それに、彼らが残した痕はあまりにも大きすぎるしね」

「俺たちやエイリア学園として戦っていた選手は、当然注目の的だ」

「で、でもだからって……」

「十六夜だけが違う点。それは、エイリア学園側としても、雷門側としても試合に出ていたこと。スパイ……というのは俺たちが知っている事実だが、それを公表するのはあまりに危険だ」

「どうして……?」

「キャプテン。忘れたかもしれないけど、今回の事件は総理大臣も関わった事件……あまりにも規模が大きいんだよ?」

「そうそう。そんな大事件に一介の中学生をスパイとして敵側に送り込んだーなんて話したら、それこそ厄介だろ?」

「確かに……でも……」

「それに十六夜のことだ。ただ事件が落ち着くのを待つためだけに海外に逃げるとは考えにくい。……他にもあるんだろ?」

「まぁな。海外でしか出来ない、そこでやりたいことがある……その内容は今はいいかな」

 

 語り始めるときりがねぇし。それに、既に豪炎寺と吹雪は納得してくれた感じだしな。多分、鬼道がこの場にいてもすぐに納得してくれただろう。……後は円堂か。

 

「分かった!十六夜がやりたいことなら俺は応援する!」

「ありがとな」

「ちなみに期間はどのくらいだ?」

「約3ヶ月ってとこだ。理事長には話してある」

「そうか……」

 

 そう思うと長いかもしれないが、人の噂も七十五日という言葉があるように、今回の事件も3ヶ月くらいしたら話題に挙がらなくなるだろう。それくらい、この世界もいろいろな出来事にあふれているからな。

 

「よし!今から雷雷軒行こうぜ!皆で飯食おう!」

「いいね。僕は賛成だよ」

「ああ。吹雪の送別会と、十六夜の送り出しを兼ねてな」

「断る道理がねぇな」

 

 こうして、オレたちは雷雷軒に行った。そこでは、色んな話が出て楽しい一時を過ごせた。

 

 

 

 

 

 そして……

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

 オレはイタリアへと向かうのだった。




最近、イナイレの別の作品を思うこの頃。地味に二つ思いついていたりいなかったり。

一つはRTAではないが縛りプレイで、雷門で一試合につき必ず一点以上取らないと次へ進めないという縛りを受けた主人公が、何度かループしながら世界一を目指して頑張るやつ。
基本は失敗すれば前回の試合直後に戻る。ただし、最初の帝国との練習試合だけ二年生最初か雷門中入学までもどるという鬼畜ゲー仕様。

で、もう一つはパワサカというゲーム(パワプロのサッカー版)とのクロスオーバーではないが主人公はパワサカ基準で成長していくけど、ここは必殺技飛び交う世界だから……って感じで苦しむやつ。パワサカ基準では最強を超えてチートクラスの能力を持って行くことになるけど……。

まぁ、もしかしたら既にあるかもしれないけど。というか、この作品を頑張れって話なんだけどね。
ちなみに、明日はキャラ紹介(という名の作者用まとめ)を1話のところに投稿します。本編ではないので、Twitterでの告知は行いません。
キャラ紹介をあげる理由は……特にないですね。


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ペンギンの世界(!?)

お気に入り登録に評価、感想もありがとう!
今回は……タイトルから察してください。


 イタリアでの修行も一ヶ月が経とうとしていた今日この頃。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 こちらに来てからは、フィディオをはじめとし、今まで日本では出会ったことのないレベルの選手と何人か出会いました。彼らとは、最初こそレベルの差に驚いたものの、練習することで少しずつ何が足りないかなどが見えてきた気がします。……まぁ、よくよく話を聞いてみると、彼らはイタリア代表?代表候補?そんな感じの選手らしいけど。……いやー……そりゃあ、強いわけだなぁ。

 これはそんなとある日の出来事でした。

 

 

 

 

 

「ふぅー……」

 

 ランニングコースを3周ほど走り終えて息を整える。今日は、練習に付き合ってくれている彼らが、各々の用事で忙しいため、一人で自主練をすることにした。

 

 ピー

 

『はーい』

「よし、今日も練習するか」

『んーでも、今日ってフィディオたちが用事あるって言ってたでしょ?』

「だから、お前と二人……いや、一人と一ペンギンで特訓だな」

『そうだね~あ、綾人綾人』

「どうした?」

『試練を受けてみる気ある?』

「試練?いや別に……」

『まぁ、渋るよね~いきなり聞かれても。うんうん、分かるよその気持ち』

「そりゃそうだろ。何があるかぐらい教えてもらわないと、はいともいいえとも答えられないっての」

『でも、ゴメンね』

「は?何を謝って……」

『綾人が暇だと思ってもう頼んじゃった』

「……はい?」

 

 ピー……

 

 どこからか聞こえてくる笛の音。

 そして次の瞬間。俺の目の前の景色は一変した。

 さっきまでは言うなれば街。建物がいくつか並んでいて、道路の脇には街路樹があるような感じの街だった。しかし、今目の前に広がっているのは一面の銀世界……は?

 

『おぉーうまく行ったね~ようこそオレたちの世界へ』

「いやオレたちの世界ってどういうこと!?」

『ん?だから、綾人が呼び出すペンギンたちがいるでしょ?そのペンギンたちが住んでいる世界』

「いやいやいや!?異世界転生!?ちょい待て整理させろ!?」

『うーん、分かりやすく言うと普段と逆のことをしたんだよ』

「逆……?」

『いつもは綾人がオレたちを指笛を使って呼び出すでしょ?でも、呼び出すペンギンたちって、綾人が土とか無から生成している訳じゃないんだよ』

「まぁ、どこから来るかは疑問に思っていたが……」

 

 まさか、こんな世界があるとは誰が想像できようか。

 

『それで、今回は逆。オレたちが綾人を呼び出すために指笛を使ったの』

「はぁ……」

『ちなみに、人間をこの世界に呼び出すなんて初の試みだから、成功してよかったよ!』

「おい待て。失敗していたらどうなっていた?」

『んーまぁ、何も変化ないか、綾人が氷から上半身だけ出てきたか……最悪、氷の中で生き埋め?』

「さらっと恐ろしいことを言うんじゃねぇ!」

 

 どうしようか。さっきから夢とか疑っているが、妙に寒いし感覚もあるしで……ヤバい現実だこれ。

 

『さぁ、ボスに挨拶に行くよ』

「は?ボス?」

『今回の試練を与えようと進言したペンギン。ちなみに結構偉いよ』

 

 と、ペラーが歩き出したので、オレも続いて歩き出す。

 

「いや、ちょっ、試練って何も聞いていないんだけど?」

『安心してよ綾人。オレも何も聞いていない』

「おい」

『だってさぁ。ペンギンがこうして人間を呼び出した、なんて話聞いたことないもん。一体どんな試練なんだろうね?』

「呼び出すならそこをはっきりさせておいてくれよ……試練をやる目的すら分かってないじゃねぇか」

 

 ペラーがとことこと歩くがペースが遅すぎたので、ペラーを頭の上に乗せて歩く。

 さっきから何匹かペンギンとすれ違うが……

 

「どうしよう。会話が聞こえてくるんだけど」

『やっぱり綾人は特殊だね~』

「それは前々から言われているけどさ……」

『オレはこの世界では結構頭がいい方なんだ。だから、ある程度のコミュニケーションを取れるけど……ほら姉御とだって、ホワイトボードを通してだったじゃん?でも綾人とは会話が出来る。それは、綾人がこの世界のペンギンの声を聞こえるからなんだ』

「……お前だけじゃないのかよ……!」

『うーん、ここに来て確信かな?他のペンギンとは必殺技を発動したときしか会わないじゃん?会話なんてしないからね』

 

 マジか……異世界転生したらペンギンと会話できました。って今更思うと弱くないかその能力。

 

『さてさて、そろそろ見えてくるかな?』

「いや、目の前海ですけど?」

『あーうん。じゃ、いつも通り乗ってよ』

 

 そう言うとペラーは飛び降りる。まぁ、いいけどさぁ……

 

「乗ったぞ」

『じゃ、バランス保ってよ?ここ、人間基準だと寒いから』

「十分寒いけど?振り落としたら許さねぇよ?」

『任せてよ~』

 

 そう言いながらゆっくりと進んでいく。気分はそうだなぁ……セグウェイとかそんな感じ?まぁ、落ちたら地面じゃなくて冷たい水の中だけど。

 そして数分後、氷でできた城が見えてきた。

 

「あれは?」

『あそこがボスの住んでいる城だよ』

「いや、どう考えてもボスって王様のことじゃねぇか」

『違う違う。ボスは正確には王子だよ。王様は別にいるよ』

「あっ……そう」

 

 段々と城に近づいていく……が、想像の数倍でかかった。おかしい。ペンギンサイズだと思って、オレが入れるか心配していたんだけど……

 

「なぁ、あの入り口バカみたいにデカくねぇか?遠目でも分かるんだけど」

『ん?あーボスってね。身長3m超えているよ』

「…………え"?」

『あ、安心して。ボスに踏み潰されることはないと思うから』

「いや待て。どうしたらそんなデカくなるんだよ?お前らペンギンだろ?」

『ダメだよ~綾人の世界で考えたら。あ、もうすぐ着くよ』

 

 そう言って城の前に到着。間近で見るがでけぇ。何だよこの城……マジかよおい。

 

『さてこのまま行くよ』

「え?お前から降りなくていいのか?」

『別にいいよ?だってこの城、氷で出来ているし。後、多少の雪』

「え?大丈夫か?溶けない?」

『心配ないよ~多少溶けてもすぐに凍らせているから』

「…………」

 

 何だろう。これ以上はツッコミたくない。

 

『あ、綾人~そこの3階のボタンを押して』

「え?エレベーター?城にエレベーター?」

『だって、階段登るのに一苦労だよ?』

 

 あ、そっか。階段のサイズを考えたら、確かに登るのはきついな。

 

「いや、お前飛べるじゃん」

『飛べるけど疲れたくない』

「そうなのか?」

『そうそう』

 

 そう言いながらもエレベーターは上に進んでいく。

 

「ここに電気でも通っているのか?」

『電気?水力を使えば解決だよ』

「水力……そっか。ここ、水が大量にあるし……なるほど。考えられているな」

『でしょー?』

 

 三階にしては着くのに時間がかかる……と思ったけどよく考えたら、一フロアの高さが、全然違ったわ。そりゃ、時間がかかるわ。

 驚きを通り越して、興味深くなっているとエレベーターが目的のフロアに着く。

 そして、少し進むと巨大な扉が……

 

『ここがボスの部屋だよ』

「そうか……」

『ボスー入るよー』

「いや軽っ!?ノリが軽くないか!?」

 

 いや、この世界の王子だろ!?ノリが軽くないか!?

 

『おぉー連れて来たか兄弟』

 

 そう思って入ると……うんまぁ。人生で初めてだ。初めてペンギンを見上げているんだけど。

 

『ボスーこの人が十六夜綾人。オレと契約している、ご主人様で友達だよー』

『なるほど……この人間が。いやぁ、弟が世話になっているな!』

「いえ、こちらこそ……ちょい待て?弟?舎弟ってこと?」

『おっ、本当に話が通じているな。ちなみに実の弟だ』

「ちょっと待て。王子の弟って……お前も王子なのか!?」

『あれ?言ってなかったっけ?』

「言ってねぇ」

『オレは第三王子だよ。兄が二人と姉が二人の末っ子なんだ』

「五人兄弟……!」

 

 初めて聞いたよ。なんだかんだで長い付き合いになってくるのに初めて聞いたよ。

 

『説明していなかったのか?普通のペンギンが他のペンギンを呼び出せるわけないのに』

『あれ?知らなかったの?オレは、この世界では偉いからほら貝で呼び出せたんだよ?』

「知らねぇよ!?てっきり、オレが呼び出せなかったからお前が呼び出していると思っていたけど!?」

『普通のペンギンには無理だよ~』

「お前って……凄いんだな」

『知らなかったのか?それにペンギンの中で一番賢い……智将とも呼ばれているぞ?』

『いや~褒めないでよボス~』

「知らねぇ……!」

 

 もう何なの?意味分からねぇよ。

 

『で?ボス、綾人を連れてこいって言ってたけど。試練ってなに?』

『ああ、試練は嘘だ』

 

 いや、試練が嘘ってどういうこと?

 

「じゃあ、何のために呼ばれたんだよ……」

『その前に拳を出してくれないか』

「はぁ……?」

 

 そう言いながら右手をグーにして突き出す。すると、そこに羽をちょこんと乗せた。

 

『……やはりな』

「何が?」

『弟を呼び出せたからもしやと思ったが……これは凄い「器」の大きさだ』

「器……?あー前に聞いたな」

『凄いでしょ?歴代のペンギン使いの中で断トツでしょ?』

『あぁ。お前なら行けるかもしれないな……』

「え?何が?」

『十六夜綾人。我と契約しろ』

「……はい?」

『お前の器の大きさなら我をあの世界に呼び出せる。しかも、適性もかなり高いと見た』

「……えっと、どういうこと?」

『前に器の話はしたでしょ?姉御と一緒に』

「いや、それは覚えているけど……」

 

 確か、呼び出す個体によって使う容量の大きさや、負担が変わるって話だろ?で、容量が大きいほど強いんだっけ?

 

『ボス……というか、うちの家系はその使う容量が結構大きいんだ。例えであらわすと普通のペンギンは1MBに対し、うちの家系のペンギンは1GBぐらい?』

「それ……1024倍違うんだけど……」

『だけど、普通の人間は精々100MBとか多くても500MBしか器がないんだ』

「あーね。そりゃ、どんなに頑張っても入らないな」

『うん。で、綾人は1.5GBとかかな?もっとあるかもだけど、そんな感じなんだ』

「へぇー……え?そんなにあるの?」

『これでもまだまだ発展途中だと思うよ?』

「マジで?」

『……歴代のペンギン使いでは我を呼び出すことは不可能だった。だが、お前なら可能だろう。……だから契約を結ぼうじゃないか』

「契約って……」

 

 何か契約って聞くと、嫌な響きにしか聞こえないけど……

 

『たいしたことはやらんよ。手を開いて突き出してくれ』

「こうか?」

『そうだ。そして……』

 

 そう言うと羽を手のひらに合わせるように差し出してくる。

 

『契約完了だな』

「……え?これで?なんかもっと……こう……え?ないの?契約書とか……巻物とか……血判とか」

『ないな』

『ちなみにオレは契約済みだよー』

「いつの間に」

『綾人が寝ている間に』

「おい」

『でも、ボスが契約かぁ……なんかあったの?』

『話を聞いていると興味が湧いてな。この男に力を貸すのも悪くないと思ったわけだ』

『そう?』

『ああ、十六夜綾人。この弟と違って、我は自由に行き来するつもりはないから心配しなくてもいい』

「そこは心配していないけど……」

『そもそも、自由に行き来できる時点で特殊だが』

「おい」

 

 確かに鬼道とかに聞いても疑問符浮かべられたもん。やっぱり、特殊だったのかお前。

 

『それでどうするの?この後は……』

『ああっ、せっかく呼べたんだし、宴でもしようかと』

『綾人は魚平気だよ。だけど、生でそのまま食べさせるのは可哀想だよ?』

『じゃあ、刺身にするか……』

 

 こうして食事をいただくことになったが……うん。宴で刺身オンリーってマジで?

 

『綾人ー鰯のジュースかアジのスムージーどっちがいい?』

「おい。カオスな二択を進めるんじゃない」

『オッケー。ミックスジュースね』

「やめろ!?さっきの選択肢から何のミックスが出てくるか想像できないんだけど!?」

『ちなみに容器は海水を凍らせたモノだからちょっとしょっぱいかも』

「なんだかすげぇ不安になってきたんだけど!?」

 

 ちなみにこの後、宴を乗り越え、無事に現実世界に帰還出来ました。




世界編の閑話に何しようか考えた結果、ふと浮かんだ話。実際、ペンギンたちってどこから来ているんでしょうね?


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イタリアでの修行風景

 ペンギンの世界に行ってから更に一ヶ月程が経過しました。留学(?)の期間も残り一ヶ月程になった今日この頃。

 

「休憩にしようか、アヤト」

「そうだな。フィディオ」

 

 ベンチに腰をかけ、水分を補給するオレたち。

 

「そういや、この前の試合見に行ったぞ」

「本当か!?どうだった?」

「ああ、すっげぇいい試合だった。相手のレベルも高かったけど、ブラージのナイスセーブから、アンジェロが繋いで、フィディオが持ち込んで決める。あそこまで鮮やかにカウンター攻撃を決めるとか凄いな。あの速い展開には相手も追いつけていなかったし」

「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」

「あんなの見せられたら、オレも早く試合がしたいと思ったよ」

 

 当然ながら、こっちに来てから試合をした記憶はない。フィディオのおかげでイタリア代表のメンバーとはそこそこ交流があり、彼らの自主練習に混ざることはあるものの、公式戦となれば別問題。試合形式の練習は参加したけど、試合は見ているだけの状況だ。

 

「でも、アヤトのレベルなら俺たちについて行けそうだけどな」

「ははっ、まだまだだよ」

 

 まだまだフィディオたちとのレベルには差がある。二ヶ月前に比べれば、その差は縮まった方ではあるが、やはりそこに至るには足りてないことがいくつかある。

 

「でも、いつかお前たちに追い付く……いや、追い抜いてやるさ」

「こっちも負けてられないな。そう言えば、日本はFFIはどうするんだ?」

「あーフットボールフロンティアインターナショナルか。うーん、連絡を多少は取っているけどその話は持ち上がっていないな。もしかしたら、選手候補を選んでいる最中かも」

「他のチームや国の事情は分からないけど、そろそろ準備した方がいいと思うけどな。ほら、俺たちだって、ある程度の実力はあっても、何人かとは初対面で連携を取るのに時間がかかったし……」

「うーん……日本代表か……」

 

 よく考えれば雷門って日本一になったし……かなり昔に感じるけど。そういう意味では、雷門から代表に選ばれる人が多いか?後はエイリア学園騒動で一緒に戦ったメンバーとか……

 

「まぁ、誰になるか分からないけど、円堂は入っているだろうな」

「エンドウ……あぁ、アヤトがよく話すマモルのことだね」

「そうそう。あのサッカーバカ」

「アヤトがそこまで褒めるんだったら、一度会ってみたいけどな」

「ああ。絶対に気に入るはずだ」

 

 サッカーを本気で好きでやっている奴なら、海外の選手であっても気に入ると思う。それほど、アイツはサッカーにかける思いが人の何倍もある……少なくともオレはそう思っている。

 

「そういや、あの子のことはどうなった?」

「あの子……ルシェのことか?」

「そうだな」

「相変わらず……だね。ああでも、手術が出来そうなところは見つけたんだ」

「本当か!?なら、手術を受けてもらえば……」

「ああ。でも、その手術を受けるには莫大な手術費が必要……」

「…………」

 

 ルシェ。フィディオが出会った盲目の少女で、オレも少し前にフィディオと話しているのを目撃し、少しだが交流を深めた。話してみると、どこにでもいそうな普通の少女。手術と言っているが、目を見えるようにするための手術であり、やはりというべきか、中学生がどうこう出来る額ではなさそうだ。

 

「それに、ルシェ自身も手術が怖いみたいなんだ」

「金銭面だけではなく、精神面もか……」

「ああ。だからルシェの説得は頑張ってやってみる。その上で俺がプロになって、手術費を稼いでみせる……!……途方もない額かもしれないけどね」

「オレも協力する。微力ながら力になる」

「アヤト……ありがとう。なんか、巻き込んだみたいでごめんな」

「気にすんな。巻き込むのも巻き込まれるのも慣れている」

 

 どこに行っても何かに巻き込まれている感じがするしな……ほんと。オレってこんなに巻き込まれ体質だっけ?いや、トラブルメーカーと言うべきか?どちらにせよ、トラブルとは切っても切れない関係になりつつあるなぁ。

 

「おーい、フィディオ!」

「ん?アンジェロ?」

「なんだ、アヤトも一緒か」

「ブラージか。何か用?」

「僕たちも一緒に特訓しようと思って」

 

 そう言うと、アンジェロやブラージを始めとした数人がこちらにやってくる。

 

「まぁ、1対1ばっかだったし、いいんじゃないか?」

「そうだね。よし、やろうか皆」

「アヤト!ウォーミングアップに付き合ってくれ!」

「へいへい。今日こそ、お前の必殺技を破ってやるからな」

「おう!今日も決めさせるつもりはないぞ!」

「盛り上がるのはいいが、こっちのバーバリアンの盾も破れてないんじゃなかったのか?」

「分かってるってベント。纏めてぶち破ってやるからよ」

「その前に、俺のシュートがお前のアイギスペンギンを破ってやるよ」

「いいや、ラファエレ。まだまだ破らせるわけにはいかないな」

 

 この後はイタリア代表のメンバーの何人かと練習に励んだ。やっぱりというべきかチームとしてのレベルも高そうだし……ほんと、日本はどうするんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜……。

 

「これで……!」

 

 ボールが無人のゴールに刺さる。

 

「はぁはぁ……やっぱり、オレのムーンフォースじゃ、ブラ-ジのコロッセオガードを破るには威力が足りないか……!いや、それどころかベントのバーバリアンの盾もヒビを入れるのが限界だったし……!」

 

 自分が点を取る側の人間ではない、と言ってしまえばそれで済む話だろう。オレはメインはディフェンダーで、守る側の人間だし。ただ、それでも……

 

「……負けたままでいられるか……!」

 

 他の必殺技も効かなかったし……新必殺技が必要かもしれない。だが、重大な問題点としては……

 

「オレが今まで身に付けた技って……偶発的に生まれたか……八神のアイディアが基なんだよな……」

 

 そう思うと一人で考えて、特訓して身に付けた技ってないんだよなぁ…………あれ?なんだろう。この思考に至った時点で、もう大分この世界に染まったな。いや、日本の危機をサッカーで救っていた時点で染まっているか。

 

『いいかい綾人。まずは分析が必要だよ』

 

 と、ホワイトボード片手に現れたペラー……うん。もう、ペラーが呼ばなくても来るのは驚かないや。

 

『相手の必殺技を破るには、分析して、そこから必要なことを考えるんだよ』

「確かになぁ……ただ、コロッセオガードやバーバリアンの盾専用の技じゃ、あまりにも汎用性がなさすぎる。だから分析はほどほどに、必要なことを考えるか」

『そうだね……じゃ、まずシュートについて改めて考えてみようよ』

「シュートについて?」

『ほら、どうしたら相手のゴールを奪われるか。どうしたら、必殺技を破れるかだよ』

「うーん。まずは純粋なパワーか?圧倒的な力で突き破る」

 

 そう言うと、パワーって書くペラー。

 

「後はスピードか?相手が必殺技のモーション中に決める」

 

 そう言うと、今度はスピードって書いている。

 

『後はコースじゃない?』

「ん?ああ、確かに正面じゃなくて四隅とかな」

 

 とりあえず、コースって書くペラー。 

 

『それもあるけど、コースを読まれないようにするとか……』

「うーん、無回転ってことか?」

『それもいいけど、逆に回転をかけまくったら?』

「はぁ?普通のカーブシュートじゃねぇか」

『いやいや、それで地面に叩きつけてバウンドさせるんだよ。そうすれば、バウンドするたびに違う方向に行くから読まれにくそうじゃない?』

「跳ねるたびにあらゆる方向に飛んでいくって……ゴールに向かうか?それ?」

『そこはほら……綾人の運!』

「運でどうにかしろと!?」

 

 いや、運ゲー……それでゴールに行くとか無理だろ。というか、運でどうにかしろって方が無理だ。

 

「だが、跳ねるたびに違う方向って……難しいって次元じゃないだろ。どうするんだよ」

『うーん、綾人って実質両利きでしょ?』

「まぁ、両方とも蹴れるけど……」

『右足で回転かけて、左足で回転かけて、それで蹴る』

「いや、どう考えても左足で回転かけたのが優先されるだろ」

『……どうしよう。姐御が居れば、いいアイデアをもらえたのに……』

「……そうかもな」

 

 何だかんだ八神の発想のおかげで、必殺技のイメージを掴めたり、完成することができたこともある。そう思うと……

 

『元気にしているかな……』

「さぁな……少なくともあと一ヶ月は再会できないしな……」

『会いたいね』

「そうだな」

『あ、珍しく素直だ。素直にデレた』

「デレてねぇよ!……はぁ。とりあえず、オレたちで考えるぞ」

『はーい。とりあえず、どうしたらいい感じの回転をかけられるかを考えようよ』

「あ、その方針で行くのね」

『まぁまぁ、凄い回転かけられたら貫通力もある気がするから、必殺技を破るにはもってこいかもよ』

「分かった。確かに、コロッセオガードはゴール全体をカバーできる必殺技。いくらコースが読まれなくなっても、ああいう技を破るには結局シュート自体の威力が必要だし」

『とりあえず、今日はこのくらいにしようよ』

「そうだな。休みながら考えるか」

 

 ということで、まだまだ漠然としているが、必殺技を作るべく動き出すのだった。

 なお、ディフェンダーなのにシュート技ばっかり増えていくことには目をつむることにする。




そんなこんなで次回は、皆様待望のお話(だと勝手に思っています)


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再会。そして……

待たせたな皆!ようやくこの時が来ましたよ……!長かったよ……!


 エイリア学園との戦いから三ヶ月が経過した。

 イタリアに武者修行というか何というかで行っていたオレは昨日帰国。相変わらずの一人暮らしをしていた。

 

「……行くか」

 

 エイリア学園との戦い……正確にはジェネシスとの戦いが終わってから、ジェネシスやカオスなどのエイリア学園のメンバーがどうなったかは知らない。まぁ、オレが海外に行っていたというのが大きな要因ではあるけど。鬼瓦刑事や響木監督が言うには、彼ら彼女らに罪はなく、今は普通に暮らしているそう。

 そして日が沈んだ、夜。かなり昔に感じるが、オレはフットボールフロンティアの頃の癖か習慣か、河川敷でボールを蹴りにきた。やはり……というか、あの頃と違って一人だけど。

 

「まぁ、この数ヶ月でそこそこは成長した……つもりだけど」

 

 そう言いながらボールをゴールに向かって蹴る。静かな夜にボールがネットに擦れる音だけが聞こえてくる。

 

「静かだな……」

 

 空を見上げると月が綺麗に浮かんでいた。

 月を見ていると自分がムーンとしてエイリア学園に潜入していた時のことを思う。

 あの時、オレが彼女に付いて、ジェネシスにいたら今頃どうなっていたんだろうか。そう思うときもあるが、あの選択は間違っていないと思える。ただ……

 

「お前の傍に居る……そう決めたんだけどな」

 

 彼女が風邪で倒れたとき、オレは心の中でそう誓った。でも、今はどうだ?彼女の傍に居るどころか、そもそも連絡すら取っていない。

 エイリア学園との戦いが終わって、全てが丸く収まった。それは大変喜ばしいことだ。だが、そのせいでオレと彼女の関係は一つの終わりを迎えたんだろう。

 オレは彼女に鍛えてもらい、彼女はオレを仲間として利用する。そんな歪で何でもない関係がきっと、終わっただけなんだろう。

 

「……っ!」

 

 そう思っていると、誰かがボールを蹴る音が聞こえる。さっきまで、誰も近くに居なかったことから、反射的に自分のボールの方を向く。

 飛んできたボールを軽くトラップし、改めてボールが飛んできた方向を向く。そこには……

 

「……久し振りだな……十六夜」

「八神……」

 

 月明かりの下。青い髪を静かに揺らし、立っている少女……八神がいた。

 唐突な再会に少し驚きつつも、オレは彼女にパスを出しながら提案する。

 

「なぁ、サッカーしないか?」

 

 トラップし、ボールを受け取った彼女。そのまま、ボールを蹴り返しながら、

 

「そうだな。やろうか」

 

 そう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前までに比べたら、ウォーミングアップにすらならないほど優しかっただろう。

 八神から殺人的なパスを受けることもなく、死を覚悟するシュートも飛んでこなく、厳しい指摘が来るわけでもない。そういう意味では、特訓というにはほど遠いものだっただろう。

 だけど、パスをしながら、1対1をしながら、話をした。ここ数ヶ月どんな感じだったというのがメインだったけど。楽しかった。楽しい時間だったというのが、オレの感想だった。

 

「八神……楽しんでいるな」

「ふっ……そうかもな。前と違って今ではサッカーを純粋に楽しめる……昔に戻った気分だ」

「なら、よかった」

 

 あの時の八神からは、サッカーに対して楽しいって感情をあまり感じなかった。

 だからこうして、楽しんでいる彼女を見ると、心が温かくなる。

 

「なぁ、八神……よくここが分かったな」

「まぁな。勘が冴えてたよ……本当はお前の家に行こうとしたが、家の場所が分からなかったとかではないからな」

「…………」

 

 今の一言で全部台無しだ。まぁ、そういうところも彼女らしいか。

 

「……なぁ八神。オレ、思ったんだよ。数ヶ月前まではさ、お前が隣にいるのが当たり前だった。出会って、一緒にボール蹴って、敵対して……いろいろあったけどさ……離れて、ずっと考えて……こうして、再会して改めて分かったよ。オレ、お前のことが好きみたいだわ」

 

 ずっと心の中で何かが欠けていた。戦いが終わってからずっと何かが足りなかった。パズルの1ピースだけが欠けている感覚がずっとあった。

 エイリア学園との戦いが起こる前も、起きていた最中も。彼女とは何だかんだいろいろとあった。時には喧嘩じゃないが衝突したり、時には色んなところに行ったり、時には助けてもらったり。そういうことを重ねていくうち、気付けばオレにとって彼女はなくてはならない存在になっていた。

 彼女と再会して、その欠けていた感覚は消えていた。きっと、そういう事なんだろうとなんとなく察した。……次離れてしまったら、また会えるかなんて分からない。そう思うと、その言葉は思っていたよりも自然に出て来た。

 

「だからさ、オレと――」

「ま、待ってくれ!」

 

 彼女の言葉が遮ってくる。彼女の方を見ると、頬は紅く染まり、口元に手をやって、視線はこちらを向かず、ちょっと逸らしていた。

 

「わ、私はお前にそ、そんな好きって言って貰えるはずがない……」

「どうして?」

「私はお前のことを傷つけた。何度も何度も。あの時の試合だって、お前の心を考えないような発言もした。プレーでお前を傷つけた。……最後だって、私のボールをぶつけたし……そ、そんな私に、好きって言ってもらうことなんて……」

「八神。あれはお前が気にすることじゃない。だってあれは……」

「だとしてもだ!エイリア学園としての事情があったにせよ、お前を傷つけたことに変わりない。だから……!」

 

 彼女の眼からは、今にも涙が溢れてしまいそうな。そんな空気を感じる。

 

「今日だって……謝る気で来た。今までのことを……この数ヶ月でお前が私にどんな思いを抱いているか不安だった……。もしかしたら、今までのことを根に持っているかもしれない……そう思うと不安で不安で溜まらなかった」

「八神……」

「私には、お前から好きって言ってもらう……そんなことあるはずがなんてない。お前に好きだと、伝えられるはずがない。……だから、頼むから……そんな優しい嘘を言わないで……」

「嘘じゃない!」

「…………っ!」

「お前のことが好きなのは嘘なんかじゃない!お前がオレを傷つけた?でも、それ以上にお前はオレに優しくしてくれた。オレが強くなるために特訓にだって付き合ってくれた。悩んだら相談にも乗ってくれた」

「でも……!」

「覚えているか?オレがエイリア石の力に呑まれそうになった時のこと。あの時もお前が居てくれたから、オレは呑まれずにすんだ。お前がいたからオレはここまで来ることができた」

「十六夜……」

「そんなことを言ったらオレだってお前をずっと騙していた!誘いに乗ったふりをして、仲間のふりをして、お前をずっと騙していた!利用していたんだ!謝るとしたらオレの方だ!本当に悪かったと思っている……ごめん」

「違う!お前を私は利用していたんだ!お前が私を利用したって誰も責めはしない!」

「…………だったらいいじゃないか。……お互い様なんだよオレたちは。だからさ……」

 

 オレは彼女の背中に手を回し、そっと抱き寄せる。

 

「オレは八神……お前のことが好きなんだ。オレと付き合ってくれないか?」

「…………いいのか?」

「ああ」

「……っ!私も……十六夜が好き……だ」

 

 そして、月明かりの下。オレたちの距離はさらに近付いていく。そして遂にその距離はゼロになった。

 離れたとき、彼女は涙を流しながらも笑顔を向けてくれた。オレはきっと今の彼女の表情を忘れることはできないだろう。……だって、その笑顔は今まで見てきた彼女の中で一番、美しかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのは忘れてくれ」

 

 数分後。早々に忘れてくれと彼女に言われた。

 

「え?嫌だ」

「…………」

 

 すると、握っていた手の力が強くなる。が、何かそこまで痛みを感じないので、

 

「照れてる八神も可愛いよ」

 

 そう返しておく。照れてる八神が可愛いなと思いながら、二人で歩いて行く。

 

「ところで、八神。その荷物は?」

「え?……あ、そ、その……泊めて欲しいな……って」

「……あ、そっか。この時間から帰れないよな……あれ?あの時はどうやって帰っていたんだ?」

「あのボールのワープだな」

「なるほどな」

「……で、その……いいのか?」

「いいよ」

「ありがと……」

 

 そうして家にたどり着く。

 

「お、お邪魔します」

「まぁ、あがって。荷物はリビングに置いてくれればいいから。布団は、オレの部屋にあるから、ひいておく。後は今から風呂を沸かすから……」

『あ、風呂ならさっき入れておいたよ』

「ナイスペラー、流石だな」

『いえいえ』

「じゃあ、八神。風呂、先に入っていいよ」

「お、おう……そうか」

 

 というわけで、風呂に向かう八神。そして、

 

「ぜ、絶対に覗くなよ!」

 

 そう言い残して消えていった。

 

『綾人……』

「ペラー……」

『覗きに行くの?』

「行かねぇよ」

『でもよかった~ようやく付き合ったんだね。ここまで長かったよ~』

「お前は親か」

『まぁ、控えめに言って保護者?』

「控えめに言わなかったら何になっていたんだよ」

 

 苦笑しながらその事を伝えると、電話の着信音が鳴り響いた。

 

「もしもし、十六夜です」

『響木だ。久しぶりだな十六夜』

「あ、お久しぶりです監督。すみません、連絡も何もなくて……」

『気にしなくていい。こっちこそ夜遅くにすまない』

「いえ、大丈夫です」

『ところで日本に帰っているのか?』

「はい。昨日帰国しました」

『理事長の言うとおりでよかった』

 

 一応、理事長には留学扱いだったから定期的に報告していて、帰国したことも伝えてあったが……なんだろう。急用だろうか?

 

『さっそくで悪いが、明日の朝。雷門中に来ることは可能か?』

「はい。大丈夫ですけど……部活ですか?」

『いいや、違う。用件は明日伝えるが……集合は9時。場所は雷門中体育館だ。いいな?』

「あ、はい」

 

 そう言って電話が切れる。確か、部活は明日休みって言ってたような気がするし……呼び出しか?呼び出されたのか?

 

『また面倒ごととか?』

「いや、それだったら明日用件を伝えるなんて言わないだろ」

『そっか。じゃあ、何かあるんじゃない?』

「あぁー……ん?そういや、今更だけどさ」

『なにさ』

「八神ってよくタイミングあったよな。一昨日まで日本にいなかったのに」

『そう言えば……』

「一日二日間違えていたら絶対やばかっただろうに……」

『うーん……』

 

 ペラーとあーだこーだと話し合っていると……

 

「風呂、空いたぞ」

「はーい。あ、八神。聞きたかったんだけどさ、よくオレが居るタイミングでこっちに来たよな」

「あーそのことか。実は今日の朝方、今皆で暮らしているところに、響木監督から電話があったらしくな。ヒロトとリュウジ……あーヒロトは置いといて、リュウジってのは、エイリア学園時代のレーゼのことだ。その二人が呼ばれてな」

「あーオレもさっき、電話かかってきたわ」

 

 ヒロト……グランとレーゼか。メンツ的に、サッカー関連なら、円堂、豪炎寺、鬼道、吹雪あたりも呼ばれていそうだが……まぁ、その四人も揃っていたらアレぐらいしか思いつかないが。

 

「そこで姉さん……瞳子先生が、付き添いでこっちにやって来てな。十六夜もこっちに帰ってきたらしいから会いに行くか?って聞かれて……」

「現在に至ると。……あれ?オレがいないの知っていたのか?」

「あの騒動の後、雷門中には何回か取材が入っていてな。何度も報道されていたが、最初の取材以外、十六夜の姿がなくて皆で不思議に思っていたんだ。ほら、お前はエイリア学園に潜入していたから全員と顔見知り以上だろう?そこで、姉さんが電話で聞いたんだ。そしたら、海外にいるって言っていて……」

「なるほどな……」

 

 そりゃ、その報道が本格的に来る前に姿を消したからな……

 

「そっか。教えてくれてありがとう」

「あぁ。それに、お前もアイツらと同じ用事なら明日は早いだろう?さっさと風呂入って寝るぞ」

「はいはい。ペラー、後よろしく」

『ほーい』

 

 ということで、風呂に向かう。さてさて……用事とは一体何なのか。まぁ、おそらくアレだろうが……




ここまで長かった……リアルタイムにして3年以上、話数で言うと120話(キャラ紹介を除く)ですね。本当は100話ジャストで付き合わせたかったんですけどね(白目)
終わり方は、イチャつきにしようか、次章へ向けたものにしようか悩んだ結果こちらに。ま、まぁ、まだ付き合って初日ですしね。こんな感じで。

ちなみに、十六夜君がジェネシスに残った場合のIFルートは、構想はある程度練れました。どのような形で、いつ投稿するかは分かりませんが、期待しないで待っていていただけると助かります。忘れたころにやって来ると思うので。

次回から世界編です。……次回はいつになるんでしょうね……?


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FFI編
代表候補集結


忘れた頃にやってくる。……ということで、長いことお待たせしました。約11ヶ月ぶりです。
これより第3章、世界への挑戦編開始です。


 そして、翌日の朝……

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「そうだな。行ってこい」

 

 招集されたのがオレだけだったので、八神には留守番を頼んだ。

 さて……久し振りの雷門中か。約3ヶ月ぶりってとこだな……そういや、帰国したことまだアイツらに伝えてないな。まぁ……なるようになるか。

 

「時間的には余裕があるし……先に、理事長のところに行ってみるか。もし居なかったら、明日以降に会いに行けばいいだろうし」

 

 報告は定期的にしていたものの、帰国してからまだ挨拶を済ませていなかった。時間的な余裕を考えると、行くタイミングとしてはいいかもしれない。でも、話す時間を考えるとギリギリか?いや、そこまで長話をする気もないし、そもそも居るかどうか分からないし行くだけ行ってみよう。

 ということで、雷門中にやって来た。何処か懐かしさを感じながら、校舎の中に入っていくことにする。なんというか、卒業した後に久し振りに母校を訪れる人の気分を味わってる。……まだ、卒業してないけど。

 

 コンコンコン

 

「どうぞ」

「失礼します。十六夜綾人です」

「おぉ、君か」

「お久しぶりです、理事長。……あれ?雷門もいたんだな」

「えぇ。3ヶ月ぶりね、十六夜君。ところで、私たちサッカー部の誰かに帰国の連絡はしたかしら?」

「あはは……一昨日帰ってきたばかりだし……色々忙しかったんで……」

「御託は結構よ」

「別にいいやと後回しにしていました。サプライズということで、どうか手を打ってください」

 

 手を合わせ頭を下げる。だって、これ以上言い訳しても意味なさそうだし……。

 

「……まぁいいわ。あなたのそういうところは今に始まったことじゃないもの」

「そういうところ?」

「皆に黙って裏で自由にするところ。……でも、会えて良かったわ。今日会えなかったら、次会うのは当分先になったもの」

「はぁ?どういうことだ?」

「……私も海外留学に行くのよ。今夜発つわ」

「へぇ……そうか」

 

 随分と急な話に思えるが、よく考えれば理事長以外と連絡を取ったのは3ヶ月前が最後。その間に何かが起きていても不思議じゃないか。

 

「円堂たちには言ってあるのか?」

「まだよ。後で言うつもり」

「そう……それって、人のこと言えなくね?」

 

 オレも留学に関しては直前で言っていたから(尚、帰国に関しての報告はまだしていない)あまり変わらない気が……

 

「そうね。でも、あなたと違って、もっと計画的なものだから」

「計画的……ねぇ。勉強以外の目的でもあるのか?」

「そうね。詳しくは言えないけど」

 

 このタイミングでの訳あり海外留学。ただ学びに行くわけではない……か。だが、これ以上深く聞いても、オレにできることなんてないか。

 

「頑張れよ。応援している」

「えぇ、ありがとう。あなたも頑張りなさいよ」

「へいへい。そういや、招集された理由は知っているのか?」

「そうね。知っているわ」

「それって……?」

「後でまとめて説明があるから、それまで待っていなさい」

 

 まとめて……ねぇ。やっぱりアレしかないだろう。

 

「1つ言っておくなら、あなたのいない3ヶ月間で彼らは成長しているわよ」

「はっ。オレだって、この3ヶ月、遊んでいたわけじゃないからな」

「えぇ、精々がっかりさせないようにね。では、お父様。私は木野さんと音無さんのところに行くわ」

 

 そう言って出て行く雷門。閉じられた扉を見た後に、理事長の方に身体を向ける。

 

「何か、タイミングが悪くてすみません」

「いいや、話は終わっていたから大丈夫だよ。それより、十六夜君もお疲れ様だったね」

「今回の留学はオレにとって大きなものになりました。とても感謝しています」

「そうか……そう言ってくれるとありがたい。積もる話もあるだろう。だが、響木監督の招集した時間を過ぎているし、話はまた後でいいかい?」

「はい。……え?過ぎてる?」

 

 時計を見ると……うわ、本当に過ぎているんだけど?

 

「帰国してすぐなのに、すまないね」

「いえ、大丈夫です」

「頑張って行ってきてくれ」

「はい」

 

 そう言って部屋から出て行く。なるほど、どうやら思ったよりも時間が経っていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ギリギリセーフっと」

「あぁっ!十六夜!すっげぇ久しぶりだな!」

 

 体育館に入ると同時に円堂から声を掛けられる。ということで片手を挙げながら答える。

 

「おう、久し振り」

「遅刻だぞ。十六夜」

「フッ、これで全員か?」

 

 そのまま豪炎寺と鬼道にも……あはは。

 

「いやー集合時間前には雷門中に来ていたよ?ちょっと理事長と話していて……な」

「へぇーこっちにはいつ帰ってきたんだ?」

「一昨日だな。まだ半分、時差ぼけしてるかも」

「しっかりしろ……と言いたいが、3ヶ月も向こうにいたんだったらしょうがないか」

「イタリアだったか?確かに、日本とは時差がそこそこあるからな」

「まぁ、その内戻るさ」

「くぅ……!またお前とサッカーできるんだな!」

「おう。改めてよろしくな」

 

 ということで円堂と握手を交わす。

 見たところ3人以外に招集されているのは、雷門の壁山、風丸、栗松、染岡に吹雪や木暮、立向居、綱海といったエイリア学園と戦ったメンバーや、昨日八神が言っていたヒロトと緑川……それに木戸川の青いのに、帝国の佐久間、眼鏡、ダークエンペラーズにいたシャドウ、豪炎寺がお世話になっていた土方……後は分からない人が3人ほど。

 見たところオレを含めて22人……22?何か、ちょうど2チーム出来たな。うん。しかも、何だか強者揃いだし……

 

「十六夜も居るとなると、招集された理由はアレか?」

「ああ。このメンバーを集めたんだったら、そう考えるぐらいしかないだろう」

「何となくは分かるけど……眼鏡のせいで、違う気がするんだよなぁ……」

 

 向こうでフィディオたちにもうすぐアレが始まるって聞いていたから、ここのメンバーを見て、何となくは分かるけど……何で眼鏡が居るんだろうか?確かに、ダークエンペラーズ戦までベンチには居たけど……アレの選考に選ばれる程の実力を持っているとは考えにくい。まさか、3ヶ月の間に想像をこえるレベルアップをして、ただの眼鏡から覚醒した目金に変わったのか?

 

「えぇっ!?集めた理由分かるのか!?」

 

 ちなみに円堂は一切分かっていないらしい。

 そう思っていると、響木監督とマネージャーたちが入ってくる。

 

「全員揃っているか?」

 

 オレたち22人は、響木監督の前に集合する。

 

「いいかよく聞け。今からお前たちを日本代表候補の強化選手に任命する」

 

 あー何となく想像通りだ。

 

「に、日本代表!?一体何の!?」

「サッカー以外にあるか?」

「えと、えーっと……早食い?」

「なわけねぇだろ。それはお前と壁山だけだ」

「た、確かに……!」

「今年からフットボールフロンティアの世界大会、フットボールフロンティアインターナショナル、通称『FFI』が開催される。少年サッカー世界一を決める大会……お前たちはその代表候補なのだ」

 

 FFIに関しては、向こうでも話が出たから知っている。それにしても、世界大会か……勝ち進めばアイツらと戦えるのかな。

 

「うっ……」

「う?」

「うぉぉおおおおおお!すげぇぞ皆!次は世界だぁ!」

 

 円堂の咆哮。まぁ、確かに1年前なんて、世界とか想像も出来なかったからな。

 

「世界か……」

「ついに世界と戦えるんだな」

「ああ。このチームで……」

「腕が鳴るぜぇ!日本一の次は宇宙一!宇宙一の次は世界一だ!」

 

 染岡さん?順番おかしくないですか?

 

「そもそも宇宙一にはなっていないけどね。うっしっし」

 

 木暮の正論が刺さる。まぁ、その通りなんだが……言い方というものが……ねぇ?

 

「いいか?あくまでこの22人は候補だ。ここから17人まで絞り込む」

「まず11人ずつ2チームに分けます。そして、2日後にその2チームで日本代表選手選考試合を行います」

 

 ここから5人減るのか……全員入れるだけの枠がないのは残念だな。

 

「それではメンバー発表を行います」

 

 ということで、1人1人名前を呼ばれてチーム分けがされた。

 同じチームには、円堂、壁山、染岡、吹雪、綱海、ヒロト、土方、武方、佐久間、飛鷹。

 もう一つのチームには、鬼道、豪炎寺、風丸、栗松、木暮、立向居、目金、シャドウ、緑川、虎丸、不動。

 便宜上、円堂やオレがいるチームはAチーム。鬼道や豪炎寺がいるチームをBチームと呼ぶことにするらしい。

 

「円堂、鬼道。お前たちがそれぞれのチームのキャプテンだ」

「はい!」

 

 まぁ、妥当なところだな。というか、2人以外にキャプテンってあまり考えられないしな。

 

「どうぞヨロシク。鬼道クン」

 

 そんなことを考えていると不動(と呼ばれていた人)が鬼道に声をかける。

 

「……黙れ」

 

 おっと、いきなり空気が悪いな。鬼道と不動……なにか因縁でもあるのか?

 

「また、個人の能力を見るために、選考試合では連携技は禁止とする。持てる力を全て出し切れ」

「「「はい!」」」

 

 連携技の禁止……そういや、オレって連携技豊富だったなぁ……うんうん。……それ全部禁止されるのか。……まぁ、連携技の練習したの前回いつ?ってレベルだから問題ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は円堂たちと明日の簡単な打ち合わせをし、理事長に報告の続きをして帰路につく。

 不動に関しては、エイリア学園の騒動の最中に、真・帝国のキャプテンとして試合をしたらしい。とりあえず、その時の因縁というか何というかが、オレが思っていた以上にあるらしい。……らしいっていうのは、全部聞いたことだからで……まぁ、元々敵側だったヒロトや緑川が呼ばれたんだし、不動も改心(?)したから呼ばれたんだろう……多分。

 後は、目金が実は眼鏡の双子の弟で、運動できる方の眼鏡だとか、飛鷹、虎丸の2人については一切情報がないとか。あーそういや、この場にいなくて疑問に思った、一ノ瀬と土門はアメリカに行くって聞いたな。ただ、アフロディが呼ばれなかった理由はよく分かっていない。他にもバーンとかガゼルとか……うーん。考えてもしょうがないか。呼べるヤツが22人しか居なかったと考えると、オレが想定しているヤツが全員居なくてもしょうがないのか。監督には監督の選考基準があっただろうし。

 

「ただいまー」

「おかえり」

「居ない間、何かあった?」

「特に何もなかったぞ」

「そう?……あー食材やっぱり少ないな。買い出し行ってくるわ」

「いや、私も行こう」

「んー分かった」

 

 ということで、八神と一緒に買い出しに行くことに。リフティングしながら歩いて行く。

 

「そういや、集まりの件はどうだったんだ?」

「あー日本代表の候補だと。2日後に選考試合してメンバーを決めるって」

「ふーん。集まっているメンバーにもよるが、お前なら9割方いけそうだけどな」

「あはは、高評価どうも。まぁ、オレはオレの出来ることをするだけだ」

「そうだな。油断して腑抜けたプレーをすれば、お前とはいえ落ちるだろうな」

 

 あはは……相変わらず手厳しいなぁ。

 そう思ってリフティングをしていると、八神の手が何というか……こっちに近づいては離れてって感じで、ぎこちなく動いているのに気付く。あー……ね。

 

「手……繋ぐか?」

「なっ……べ、別に……どうしてもって言うなら繋がないこともないけど……」

「じゃ、どうしてもってことで」

「い、いきなり……!?」

「嫌だったか?」

「い、嫌なわけがないだろう!」

 

 ボールを閉まって手を繋ぐ。何処か口調は荒々しいが、顔を真っ赤にして……やっぱりこの彼女、可愛いのでは?

 そう思いながら、買い物をする。そして、河川敷に寄って行くことにする。まぁ、丁度外に出たし、元々八神に相談したいこともあったし。

 

「今から練習するのか?」

「いいや。そこまではしないけど……ちょっと案が欲しくて」

「案?」

「向こうでずっと練習していた必殺技があってさ。その時の周りの意見を参考に7割ぐらいできたと思うんだけど……そこから行き詰まって」

「……なるほどな。とりあえず見せてみろ」

「分かった」

 

 ということで、ボールを持ってセンターライン付近に、ゴールを正面にして立つ。

 

「シュート技なのか?」

「まぁな」

「……お前、本職はCB……DFじゃなかったのか?コンバートしたのか?」

「……ノーコメントで」

 

 分かるよその気持ち。もはやDFがメインとは思えないくらい、シュート技持っているからな。そして、今完成させようとしているのもシュート技……あれ?オレってDFだっけ?まぁ、何処のポジションでも出来るって言うのが売りの万能型DFってことでどうかよろしくお願いします。

 片足を振り上げて、振り下ろす。振り下ろすと同時に、辺り一帯の地面には氷が張り、背後には巨大な氷山がそびえ立つ。そして、ボールを強烈な縦回転を加えながら、蹴り上げる。ある一定の高さまで打ち上げたら、跳びあがりオーバーヘッドキックの体勢になりながら、右足で縦回転させたボールの下側を蹴って、ボールに右回転を加える。激しく回転するボールは、辺りの冷気と小さな氷塊を巻き込み、竜巻を発生させる。竜巻ができたところで、ボールを両足の裏で押し出すようにして斜め下へと蹴り出す。

 ボールは一度氷の床を砕き、地面を砕いて地中へ沈み込む。そして、地面から勢いよく出て来ると同時に、ペンギンたちも現れボールと共にゴールへと飛んでいく……が。

 

「……くっ」

 

 ゴール手前でボールの勢いが段々と消えて行き、そのせいで制御が効かなくなったのか、あらぬ方向へとボールは飛んでいった。

 

「……なるほどな。威力は今まで見てきた技と比べて桁違い。完成すればムーンフォースと比べられないレベルになるかもな……ただ」

「悪いけど、このシュートが最後まで勢いを保てたことはないな。ここ1ヶ月試行錯誤して、今のが1番威力が高い」

 

 ……まぁ、その試行錯誤の過程で色んな技が生まれたけど。

 

「だが、もう少しゴール手前から打てば……いや、ダメか。今の技は完成すれば、フィールドを砕き、その砕いた塊をも巻き込んでしまうような……言ってしまえば破壊的なシュートになる。どのみち手前から打っても、不安定な現状ではゴールに入るとは限らないか」

「一応、最後の両足で押し出すのをゴールに向けてやることも考えたが……」

「それだと今度は両足の力加減や向きなど、細かいところがズレれば制御が効かなくなる……ってとこか?」

「ああ。地面に叩きつけて出てくるボール……それをペンギンたちがコースとか制御してくれているからな。最初から呼ぶことも考えたが……」

「最初の状態では勢いが強すぎて、並のペンギンたちではコースを正すことが難しい……か」

「そういうこと。だから、どうしたらボールの勢いを保てつつゴールを狙えるか……ちょっとアイデアが欲しくてな」

「うーん、いきなり言われてもな……結構難易度高いぞ、この技」

「いつもの頭のおかしな意見をどうか1つお願いします!」

「うむ……おい、ちょっと待て。今、いつもの頭のおかしなって言ったな?私がいつ頭のおかしいことを言ったんだ?」

「え?常に言ってるだろう?」

「ふふふっ、お前が海外に行っている間。レベルが上がっているのがお前だけだと思うなよ?」

 

 この後、超久しぶりに彼女による鬼のスパルタ特訓をしました。あー懐かしいなー(白目)夕食?その後に頑張って作って食べたよ(涙目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、各チームでの練習をして、2日後……代表選考試合当日を迎えるのだった。




唐突ですが、今週からしばらく(少なくとも年内)は毎週月曜日朝6時に投稿予定(トラブルが起きなければ)です。


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代表選手選考試合 ~試合開始と前半~

あ、あれ?き、気付いたら開始から4年経って5年目突入……?


 選考試合当日は雷門中に大勢の観客がやって来ていた。

 少し前にオレたちは日本代表のユニフォームが配られた。Aチームには青色を、Bチームには白色を基調としたユニフォームだ。一応、青の方がメイン、ホーム用で、白の方がサブ、アウェイ用となるらしい。そのユニフォームを身にまといながら、外に出ると待っていたのは大勢の観客……

 

「いやーすげぇ数だな」

「だな!くぅ……!燃えてきたぁ!」

 

 流石は日本代表を決める大事な1戦。会場がスタジアムではなく中学校だと言うのに、すごい数を集めたものだ。改めて見ると、多いな……うん。

 探すと、昔みたいに木に寄り添って、試合を見守っている八神の姿が……堂々と見ればいいのに。やましいことなんて昔みたいにないんだから。

 

「そう言えば十六夜。良かったのか?」

「ん?何が?」

「お前のポジションって本当はDFだろ?でも、この試合はMFとして出るって……」

「バランス的にな。まぁ、気にすんなよ」

「そうか?」

「そんなことより、そろそろ試合が始まるぞ。切り替えていこうぜ、キャプテン」

「おう!じゃあ、皆!円陣組もうぜ!」

 

 そう言って円堂がAチームの面々を招集する。そして……

 

「行くぞ!悔いのないゲームにしようぜ!」

「「「おう!」」」

 

 鬼道率いるBチームも円陣を済ませて、準備万端のようだ。

 

「よし!試合開始だ!」

 

 響木監督の合図で両チームのメンバーがポジションにつく。今回はAチームのポジションは4-3-3。こっちにDFとFWが多かったため、オレと三つ子の青いのと佐久間はMFとして試合に出ることになった。よく思い返せば本職がMFってヤツ、こっちのチームに居なかったような……まぁ、あくまで3ヶ月以上前の記憶だからアレだけど。コンバートしていたら知らん。

 

『さぁ!お待たせしました!』

 

 ……なんだろう。3ヶ月ぶりに見たけど……え?角間、お前ってこの試合も実況するの?なんというか……ここまで来るとお前も凄いな。何だかんだで、日本代表を選ぶ大切な1戦の実況が出来るように成長しただなんて……ある意味感激だよ。

 

「……この試合(ここ)は始まりの1歩……待ってろよ、フィディオ。必ずオレもそこに行くからな」

 

 アイツと再び相見えるためには、この試合……いや、これからの試合もオレは出場し、日本として勝たなければならない。だから、この1戦は最初の1歩であり、大事な通過点……さぁ、行こうか。

 

『さぁ、いよいよAチームのキックオフで試合が始まります!』

 

 ピーー!

 

 審判の笛、染岡が吹雪にボールを渡して試合が始まった。吹雪からヒロト、そして再び染岡へとパスが通る。染岡の前に立ち塞がったのは不動だ。

 

「……あの動き」

 

 染岡を抜かせまいと不動がついて行く……が、逆をつかれて抜かれてしまう。不動を抜いて、そのまま攻めていきたい染岡。

 

「そこだ!」

 

 だが、カバーに来ていた風丸によってボールを容易く奪われてしまう。

 不動のヤツ……あえて抜かせたか。面白いことするじゃん。

 そこからボールは鬼道へ。そして、豪炎寺へと渡った。豪炎寺は土方を抜いて、円堂と1対1に。

 

「ファイアトルネード改!」

 

 前に見たときよりもパワーが上がっているファイアトルネードがゴールへと向かっていく。

 

「真ゴッドハンド!」

 

 それに対し、こちらも前よりもパワーが上がったゴッドハンドで対抗する。

 

「よぉし!」

 

 ボールは円堂の手の中におさまる。

 

『いきなりの円堂と豪炎寺の対決!まずは挨拶代わりかぁ!』

 

 雷門のエースストライカーとキャプテンの激突に観客が沸く。

 

「さぁ、反撃だ!十六夜!」

「おう!」

 

 投げられたボールはオレの下へと辿り着く。

 

「さぁ、見せてみろ。修行の成果を」

「はっ、いいぜ。乗った!」

 

 ボールを持ったオレに立ち塞がったのは鬼道。ここでこうして相手チームとして向き合うと……最初に出会った時のことを思い出しそうだ。そう思いながら……

 

「……っ!」

 

 シザースで軽くフェイントを入れつつ、足を一歩前に出して、ヒールリフトで鬼道の上を通していく。そして、抜いたタイミングでヒロトへとパスを出す。

 

「フェイントのキレが数段増しているな」

「向こうで散々鍛えたからな。まだまだこんなもんじゃねぇよ」

「ふっ、面白い」

 

 ボールは吹雪へと渡り、染岡に。染岡はボールを高く蹴り上げると……

 

「ワイバーンクラッシュV2!」

 

 進化したワイバーンクラッシュが立向居の守るゴールへと向かう。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 それを立向居は完璧に止めてみせた。やはりというか、皆の必殺技も見ないうちに成長している。油断していたら足下を掬われるな。

 

「鬼道さん!」

 

 ボールは鬼道へと渡った。

 

「行かせねぇよ」

 

 相手チームの中枢をフリーにさせておくほど、舐め腐ったことはしない。すぐにブロックしに行き、時間を稼ぐ。DFではなくMFなんだし、無理に取る必要はない。

 

「考え事してる場合か?」

「くっ!」

 

 ……そう思っていたが、鬼道の思考に乱れが入った。プレーに集中できていないところがあるなら、そこをつくまでということで、ボールを奪おうとプレスをかける。

 だが、鬼道も考えている場合じゃないと悟ったのか、ボールを出す。その出した先には不動……いや、鬼道と不動って……そこまで拗れているのか。想像以上なんだけど……というか、響木監督はそれを分かって同じチームにしたのか……?

 不動に渡ったボールを佐久間がスライディングをして奪い、染岡に渡す。

 

「どうだ!」

 

 佐久間が不動に声をかけるが、不動は落ち着いた様子でいる。おっと、鬼道と不動だけじゃなく、佐久間と不動もあれなのか。不動と2人って感じで何かギスギスしているなぁ……

 

「これは勝つための試合じゃねぇ。決めるところだけ決めればいいんだよ」

 

 ……いやぁ……確かに、今までみたいな勝つか負けるかの試合というより、実力を見せる側面が強い試合だけど……言い方が……ねぇ?火に油を注ぐってこういうことではないだろうか?

 

「これだけは言っとくぜ?今日は自分のことしか考えてねぇよ」

 

 そう言い残して、自分たちのチームの方へと戻っていく不動。

 彼の言ってることは、ある意味正しいというか……今は便宜上こうやって2つのチームに分かれていて、そのチームで試合をしているが、最後の選ばれる時はどっちのチームに居たかなんて関係ないだろうからなぁ……

 

「気にするな。試合に集中だ」

「ああ、そうだな」

 

 その言葉を聞いた後、切り替えようとする2人。なんというか心配にはなるが、心配していてもしょうがない。アイツらの問題と今は割り切るか。

 ボールは染岡からヒロトへと渡り、ヒロトが木暮を抜いて……

 

「流星ブレード!」

 

 必殺技を放つ。その軌道にいた栗松はそのシュートをしゃがんで避けて……え?そのせいで反応が遅れた立向居が飛び込もうとするもゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!先取点は円堂チームだぁ!』

 

 いや……え?あそこで避けたら流石にダメでしょ?

 

「くぅ……俺だって本当はFWなんだ!MFなんて納得いかねぇ!みたいな!」

「まぁまぁ、FW4人ってバランス悪いし、諦めろ、みたいな?」

「諦められるか!というか、真似するな!クソォ……俺だって点を取ってやるから!みたいな!」

「へいへい、無茶苦茶はやるなよ」

 

 今回の試合は何人か、本来のポジションとは違うところで出場している。だから、そういう不満も出てくるか……共感は出来ないけど。DFが一番本領を発揮できるけど、そこじゃなくても、ある程度動けるからよく分かんない。

 そんな中、Bチームのキックオフで試合再開。シャドウがドリブルで攻めてきたところを奪って、ドリブルをしようとする。

 

「……ん?」

 

 BチームのDFである木暮と風丸がさっきよりラインをあげている?鬼道の指示か?まぁいいや、ドリブルで攻めるか。

 

「勝手に指示を出すな!」

 

 って怒られた先には不動……こっちが攻めようとする中で最終ラインをあげる……

 

『おおっ!?武方が突然前線に上がっていくぞ!』

「はぁ?」

 

 思わず声が出てしまった……のは置いておいて、武方を探すと……あぁ、前線に走っているわ。そして、その奥を走っているのは不動……

 

「風丸!十六夜にあたれ!」

 

 不動の指示通り、ブロックに来る風丸。そんな中で、武方の前に立ちはだかる不動。

 

「パスだ!パスを寄越せ、みたいな!」

 

 武方からのパス要求。彼にボールを渡すべく、パスするためにボールを蹴る……

 

「……まぁ、無視でいいや」

 

 ……ことはせず、キックフェイントをいれて、そのままスピードを上げて突き進む。

 

「何してるんだよ!パスをしろ、みたいな!」

 

 未だにゴール前で何か言っている武方の方を見ると……予想通り、不動が場所を移動していた。そのせいで、彼はBチームの最終ラインより奥にいる……いや、いい加減気づけよ。

 

「はぁああああ!」

「よっと、ナイススライディング」

 

 風丸のスライディングをジャンプして躱す……おっと、

 

「パスが出来ない相手から奪いに来た?」

「あーあ、仕掛ける相手を間違えた」

「まぁ、武方を使うまではよかったでしょ。ボールを持っていた相手が悪かっただけでさ」

 

 躱した先に居たのは不動。進ませないように進路を妨害する……時間を稼ぐディフェンスだな。ボールを奪う気をそんなに感じない。木暮や躱した風丸がブロックに来ると厄介だな……

 

「じゃ、打つか」

 

 パスは出せないし、強引に抜くのは悪手……少し距離はあるけど、打つか。幸い空中で放てる技ならブロックとか関係なさそうだし。

 そう思って、ボールを空高く蹴り上げ、跳び上がる。

 

「オーバーヘッドペンギンV2!」

 

 元々の技より6匹から12匹に増えたペンギンが、蹴り出されたボールと共に突き進んでいく。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 だが、立向居の必殺技により、ボールは止められてしまう。というか、ボールと共にペンギンが潰されたように見えたけど……え?今更だけど死んでないよね?

 

『止めたぁ!十六夜の進化した必殺技を立向居が受け止めました!』

 

「ナイスセーブだな、立向居」

「はい!俺も負けていられないですから!」

 

 立向居がボールを蹴って前線へとボールを渡す。さて、自陣に戻るか……

 

「何で、パスを出さなかった!俺に出しておけば決められた、みたいな!」

 

 と思ったところ柄の悪い兄ちゃん……もとい武方に絡まれる。

 

「……え?何言ってんだよ」

「本職がDFのお前より、FWである俺が打った方が……」

「いやいやそうじゃなくて……え?お前本当に気付いてないの?」

「何をだ、みたいな!」

「オフサイドトラップ……不動の仕掛けた罠にお前、まんまと嵌まっていたぞ?」

「う、嘘だろ……?」

 

 ショックを受けた武方を置いて(無視して)、試合に戻る。ボールは綱海がクリアして外に出た。……それにしても、飛鷹……彼は何故この場に選ばれたのだろうか?昨日の練習でも思ったが動きが初心者……さっきも、円堂の指示に戸惑い、綱海がギリギリのところをフォローしてくれていたが……

 Bチームのスローインで試合再開。ボールを持った豪炎寺は、すぐにシュート体勢に入った。

 

「爆熱ストーム!」

 

 炎を纏ったシュートは円堂の守るゴールへと迫っていく。

 

「正義の鉄拳G2!」

 

 そして、シュートと円堂の必殺技が激突する。少しの拮抗の後、正義の鉄拳は砕け、ボールはゴールへと刺さった。

 1-1の同点。互角の戦いと言っても差し支えない状況……さて、どうしたものか。




前の話では誤字報告をしてくださり、ありがとうございます。もし誤字がありましたら気軽に報告してください。

後、オーバーヘッドペンギンがV進化かは知らないです(記憶が正しければ、どういう進化か分からなかった気がするし)……もし、違ったら教えてください。


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代表選手選考試合 ~後半と選考結果~

 ハーフタイムに突入し、休みつつ前半での展開を思い返す。

 豪炎寺が点を取った後の展開は一進一退と言えるものだった。互いに点を取ろうと攻め合い、ディフェンダーが阻止する……そんな中で、染岡が進化したワイバーンクラッシュV2で点を取り、2-1とAチームがリードした状態で前半を終えた。

 そんな中で気になったことは……

 

「十六夜」

「ん?」

 

 何かが投げられたのでキャッチする。投げられたものはドリンク……?投げてきた相手は……

 

「八神か……どうした?」

「私の仕事だ」

「はい?」

 

 理解が、追いつかなかった。仕事?どういうこと?

 

「言ってなかったか?戦術アドバイザーとして、日本代表に同行することになったって」

「聞いてないけど?初耳だけど?……え?マジで?」

「マジだ」

「はぁ……で、戦術アドバイザーってどういうこと?」

「要するにマネージャーになった」

「なるほど」

 

 なんて分かりやすく纏めてくれたんだ……そう思っていると別のヤツが声を掛けてくる。

 

「フッフッフッ……ちなみに!この目金も彼女と同じく、戦術アドバイザーとして日本代表に同行することになりましたので!」

「ん?お前、Bチームじゃ……」

「それは弟!アドバイザーになったのは兄の方です!」

「ふーん……?あれ?戦術アドバイザーって2人も要るのか?」

「こっちは記録担当だ」

「うぐっ……せめて、情報収集担当にしてください……」

 

 よく分からないが仕事は違うようだ。……いや、本当によく分かっていないけど。というか、いつの間にそんな大層な役職にうちの彼女は就いたんだ?……え?本当に一切知らなかったんだけど?

 

「それより十六夜。私が戦術アドバイザーになった意味……分かるよな?」

「微塵も、これっぽちも、一切分かりません」

「……もし、お前が選ばれなければ……」

「……悲しい?」

「私が戦術アドバイザーになった意味が()()なくなる」

「いやいや、全てって。それは言い過ぎでは……」

「後半は死ぬ気でやれ。()()()?」

「Yes, boss.」

 

 心なしか背筋が伸びた。ヤバい、選ばれなければ詰む。前半もそこまで手を抜いていたわけではないが、後半もこれはやらなきゃ死ぬ……そんな気がする。

 八神が立ち去るのを敬礼して見送る……って、そのせいで考えがまとまってない。とりあえず、相手チームで気になった選手……虎丸のことを注意深く見ておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半は前半よりも白熱していた。雷門中や元地上最強イレブンの面々も栗松を始めとして、新必殺技や進化した必殺技を披露する。互いのFW陣のシュートを円堂と立向居がセーブし、点を取らせない。

 そんな攻防の中……遂に後半終了間際、状況が大きく動く。鬼道がボールを持ち込み、豪炎寺と2人で攻め上がる。壁山と土方は豪炎寺をマークして、点を取らせないようにする……が、鬼道がゴールを狙ってシュートを打った。そのシュートに円堂が反応し、辛うじて弾くも、弾いたボールに真っ先に反応したのは不動。ディフェンスが来る前に、ダイレクトでシュートを放った。体勢を崩したままの円堂……そして、シュートに走り込んだのは飛鷹。

 

「くっそぉ~~!」

 

 シュートを前に体勢を崩してしまう飛鷹。半ばヤケクソ気味に声を荒げ、ボールを蹴ろうとするも、大きくからぶってしまう。そのままゴールへ向かうシュート……しかし、飛鷹の蹴った跡に紫色の謎の空間が現れて、それがシュートとぶつかる。

 

「なんだ……今の?」

 

 ボールはゴール前で転がり、それを円堂が危なげなくキャッチしたが……今のは必殺技?シュートが急に失速……完全に止まったわけじゃなく、何かに弾かれたようにも見えた。

 

「遠目じゃ分からねぇけど……」

 

 少なくとも狙ってやったものではないだろう。飛鷹自身もどこか困惑し、それが隠せていない。なら一体……?

 

「十六夜!」

「はいよ」

 

 円堂からボールが飛んでくる。彼が何をしたか、その答えを考えるのは試合の後でいい。それに今なら、鬼道も不動も自陣にいない……カウンターチャンスだな。

 

「上がれAチーム!カウンターだ!」

 

 佐久間にパスを出し前線へと駆け上がる。

 

「ディフェンス!時間を稼いでくれ!」

 

 鬼道の指示により、佐久間に目金弟がマークにつく。現状、こっちの攻めの人数の方が多いため、時間を稼ごうとする……が。

 

「佐久間!」

「ああ、十六夜!」

 

 佐久間からボールをもらい、そのままヒロトへダイレクトでパスを出す。

 

「ナイスパスだよ、十六夜くん」

「栗松!」

「行かせないでヤンス!」

 

 すぐさま栗松がチェックにつく。それを見たヒロトは吹雪へとパスを出す……が。

 

「通させるか!」

 

 そのパスコースに割って入ろうとするのは風丸。心なしか風を纏っており、今日一で動きが速く見える。その俊足を持って、パスカットに成功する。

 

「こっちだ!」

「ああ、鬼道!」

 

 そのまま鬼道にパスを出す……が。

 

「カウンター失敗……だけど、まだこっちの攻撃は終わらせねぇよ」

「十六夜……読んでいたか……!」

 

 風丸がパスカットをするために走った辺りから、鬼道へのパス一点読みで走っていたが正解だったようだ。トラップした瞬間を狙って、ボールを奪い去る。

 

「行かせませんよ」

「虎丸か……よくフォローに来た……けど、押し通る」

 

 カウンター攻撃はスピード命。相手の体制が整う前に攻めるのが基本……だが、既に失敗し、向こうの守備も整ってきた以上、早く攻める必要はなくなった。だから……

 

「…………っ!?」

「言ったろ?じゃ、通らせてもらう」

「木暮!来るぞ!」

「わ、分かってる!」

 

 フェイントで虎丸を躱し、そのままの勢いで後ろに来ていた緑川を躱す。正面突破でゴールを目指す方針に切り換える。

 

「シュートコースを潰してるな……」

 

 木暮と風丸の2人が立ちはだかる。隙あればシュートを打つことはバレているためか、シュートコースを潰しにかかっている。その上、栗松や目金がヒロト、染岡、吹雪へのパスコースを塞ぎ、対応できる位置でスタンバイしている。

 

「じゃ、突破させてもらうわ」

 

 そうなれば取る選択肢は突破一択。木暮と風丸の連携の隙をついて躱す。

 

「構えろ立向居!」

「分かってます!」

 

 ただ、風丸のスピードはオレのドリブルより速い。そのせいで、抜いたはずなのにまだ付いてきている。風丸が付いてきているせいで必殺技を打つ余裕はない。打とうとすればその隙に奪われる……だから。

 

「追い付くだろ?吹雪!」

 

 一瞬止まり、足裏で後ろにボールを流す。人間は急には止まれないし、走っていたのを一瞬で逆方向に向きを変えるなんて芸当は普通出来ない。風丸が急ブレーキをかけ、前のめりになったタイミングで、右サイドへ大きくパスを出す。

 

「ナイスパスだよ。十六夜君」

 

 足下ではなく空いたスペースへのパス。栗松を追い抜き、そのパスに追いつく吹雪。そのままシュート体勢に入った。

 

「ウルフレジェンド!」

 

 そして、必殺技を放つ。ゴール目がけて進んでいくシュート。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG4!」

 

 立向居も反応し、必殺技を放つ……が、抵抗空しく、そのままボールはゴールに入った。

 

『ゴール!円堂チームに追加点だぁっ!』

 

 ピ、ピー

 

『ここで試合終了!選考試合は円堂チームの勝利だぁ!』

 

 点が決まった直後に鳴り響く試合終了のホイッスル。周りを見るとほとんどの奴らが緊張と疲れからか息を切らし、膝を突いたり倒れたりしている。

 

「お前たちよくやったな」

「監督……!」

 

 すると響木監督がグラウンドの方にやって来た。

 

「さて、いよいよ運命の選択をしなきゃならん」

 

 そう言い残すと、グラウンドから去って行く……

 

「そっか。今から選考するのか……」

 

 すっかり忘れていたが、この試合の後に話し合いとかで決めるのだろう。当たり前な話だが、試合終了後すぐに分かるわけじゃないか。

 

「八神ー暇だし練習に付き合ってくれ」

「ああ、分かった」

 

 流石に数分とかで日本代表は決まらないだろう。そんな早く決まるんだったら選考試合の意味を聞きたくなるし……1時間くらいは余裕あるだろ。

 

「じゃ、円堂、鬼道。適当な所で練習しに行くからなんかあったら教えてくれー」

「おう!……って今から練習するのか!?」

「お前……疲れてないのか?」

「まだまだ行けるかな?んじゃ、よろしくー」

 

 とりあえず着替えに行く。流石に代表になったわけでもないのに、このユニフォームで練習するわけにはいかないし。

 

「アイツは何というか……やっぱり自由人だな。3ヶ月で自由人に磨きがかかったな」

「ああ。それに、選考試合の後に練習するだけの気力と体力に余裕があるとは……」

 

 そう豪炎寺と鬼道が言っていたらしいが、当然聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは日本代表最終選考通過者を発表する」

 

 練習に一区切りをつけ、呼ばれたので雷門中のグラウンドに戻ってきた。試合の時には溢れそうなくらい観客がいたのに今はゼロ……日本代表はどこかのタイミングで大々的にお披露目って感じなのか?

 グラウンドに立つ響木監督……その前に整列するA,Bそれぞれのチームとして出場していた22人。横にはマネージャーと戦術アドバイザー(?)たちが並ぶ。

 

「と、その前にお前たちに日本代表監督を紹介する」

「「「えぇっ!?」」」

 

 一部のメンバーが驚きを隠せない中、1人の男の人が響木監督の隣に立つ。

 

「……ふゆっぺの……お父さん?」

 

 円堂が呟くが……ふゆっぺって誰?お前の知り合いなの?お前の知り合いのお父さんが、日本代表チームの監督なの?

 

「わたしが日本代表監督の久遠道也だ。よろしく頼む」

 

 ……久遠……道也?聞き覚えがないし、会った覚えもない。円堂たちの様子を見る限り、この世界で有名な人ってわけでもなさそうだが……

 

「どうして、響木監督が日本代表の監督じゃないんですか?」

 

 円堂が疑問を口にするが……その疑問って、捉えようによっては失礼に当たるんじゃ……

 

「久遠ならお前たちの力を今まで以上に引き出してくれる」

 

 ……そう言われて納得する円堂……まぁ、瞳子監督の時みたいに何か思惑があるのか?

 

「ではこれより、代表メンバーを発表する。鬼道有人」

「はい!」

「豪炎寺修也」

「はい!」

「基山ヒロト、吹雪士郎」

「「はい!」」

「風丸一郎太、木暮夕弥、綱海条介」

「「「はい(おう)!」」」

「土方雷電、立向居勇気、緑川リュウジ」

「「「はい(ウォッス)!」」」

 

 ……何だろう……沖縄出身の2人の返事が違うような……って気付けば半分以上呼ばれてた件について。というか円堂は?いや、オレも呼ばれてないけど……

 

「不動明王」

「……へっ」

「宇都宮虎丸、飛鷹征矢」

「はいっ!」

「……はい!」

「壁山塀吾郎」

「は、はいッス!」

「おめでとうでやんす!壁山!」

 

 壁山が呼ばれたと同時に祝福を贈る栗松……ノータイムで友人のことを祝えるあたりいいやつだな。

 

「栗松鉄平」

「え?お、俺でやんすか?」

 

 そして、そのまま呼ばれる栗松……ん?後何人だっけ呼ばれてないの?そろそろ、やばくない?

 

「副キャプテン、十六夜綾人」

「はい!……はい?」

 

 ヤバい……と思った次の瞬間に呼ばれたけど……え?何か名前の前に付いてなかった?副キャプテンって聞こえたけど、気のせいだよな?それって鬼道とか別のヤツの役目じゃ……

 

「……最後に、キャプテン、円堂守!」

「はい!」

 

 ……いや、オレが副キャプテンとして呼ばれた時点で、円堂がキャプテンじゃなかったらどうしようかと考えたものだが……え?オレ副キャプテンなの?マジですか?悪いけどチームを纏めることは向いてないですよ?

 

「以上、17名」

 

 呼ばれなかった者は悔しさを表したり、選ばれた者を祝福したりしている……けど、自分で言うのも何だけど、そういう副キャプテンみたいなものにふさわしくないと思うんだけど……

 

「選ばれた者は選ばれなかった者の想いを背負うのだ!」

「「「はい!」」」

 

 ……まさかの副キャプテン抜擢……でもまぁ、それだけ期待されているって言うなら応えようじゃないか。

 

「今日からお前たちはイナズマジャパンだ。世界への道は険しいぞ。……覚悟はいいな?」

「「「はい!」」」

 

 覚悟なら既に出来ている。世界の険しさも知っている。だけど、このメンバーでオレたちは勝ち進む……そして……

 

「絶対に……頂点まで行ってやる」

 

 各々の思いを胸に、イナズマジャパンの物語が始まるのだった。



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日本代表合宿開始

月曜の朝の週一投稿って、この作品が投稿されたら1週間が始まるってことか……読者にとっては嬉しいのか悲しいのか……
ちなみに投稿を月曜日にしている理由は、日曜日なら感想返信とTwitterの宣伝を忘れなさそうだからです(まだ4週しかやってないのに既に忘れかけて寝そうになったことあるけど……)


 日本代表メンバーが決定され、オレたちが最初に言い渡されたのは……

 

「まさか、日本代表メンバーで合宿するとは……」

「妥当なところだろう。お前はともかく、他のメンバーの中には実家が遠い者も居る」

 

 雷門中にある合宿所……そこで各自に個室が割り当てられ、ほとんどのメンバーがそこで生活しながら練習をすることになったのだ。メリットとしては、オレたち日本代表メンバーの主な練習場所は雷門中のグラウンドだから、朝早くから夜遅くまで練習できること。寝泊まりする場所と練習場が隣接しているからこそ出来ることだ。

 また、各自に日本代表のユニフォームとジャージが正式に配られた。背番号は16番……もう十六夜だから16番で固定なのかな?まぁ、いいけどさ。

 

「おはようございます!」

「おはよ。音無」

「おはよう」

「って、十六夜先輩に八神さん!?何で厨房から!?」

「朝食作りの手伝い」

「それをしている十六夜の手伝い」

「はぇ……でも、そう言うのって私たちマネージャーの仕事じゃ……」

「オレは気分だから気にしなくていい」

 

 確か、虎丸は実家通いだが、それ以外の面々は泊まっているはず。特に壁山という大食いや他にも食べる面々が居る以上、厨房の手が足りない……そう思い手伝うことにした次第である。

 

「おはようございます……」

「おはよう……?」

 

 次に入ってきたのは淡い紫色の髪の少女……誰でしたっけ?もしかして、シェフの方ですか?

 

「あ、十六夜先輩は初めましてですよね?」 

「え?音無の知り合い?」

「日本代表のマネージャーになった久遠冬花さんですよ」

「マネージャーの久遠冬花です。よろしくお願いします」

「十六夜綾人だ。よろしく」

「八神玲名……戦術アドバイザーだ。よろしく頼む」

「え?八神、お前も初対面なの?」

「あぁ。そうなるな」

「……って、久遠……?その苗字って……」

「お察しの通り、久遠道也は私の父親です」

「なるほど……そういう。まぁいいや、よろしく久遠……って、そう呼ぶと監督を呼び捨てしているみたいになるのか。冬花って呼んでいいか?」

 

 まぁ、今までも雷門夏未に関しては雷門と苗字で呼び捨てにしていたが今更だろう。だって、一学生が理事長とあんなに話す機会があるなんて思わねぇじゃん。もう色んな意味で連絡先を交換しそうなレベルまで来ているよほんと。

 

「はい。大丈夫ですよ、十六夜くん」

「ありがとな」

「…………ふぅーん」

 

 とりあえず、冬花がマネージャーってのは分かったが……

 

「何だよ八神?その目は」

「別に。何もない」

「そうか?」

 

 どことなく不機嫌になる八神。朝から彼女を怒らせてしまったのだろうか?そう思っていると、木野や目金もやって来て……もしかして、マネージャーたちの集合時間ってオレたちより早い説ありますかね?そう思いながら、料理を進めていくことに……

 

「八神って料理できるんだな」

「それほどでもない。エイリア学園の件が終わってから、練習し始めたからな」

「そう。でも、3ヶ月くらいにしてはセンスいいような……」

「そうか?そう言うお前の方が上手いだろ?」

「まぁ、歴が違うからな」

 

 元の世界での年数も足すとそこそこになるからな……と、そう言えば最近は神様に電話をかけることもなくなったな。なんというか……自分なりにこの世界に馴染めてきたのだろう。……というか、前の世界では日本代表の副キャプテン……とか想像もつかなかったな。いや、サッカーで学校破壊とか、そういうのも想像つかなかったけど。

 手伝っていると、徐々に食堂に人が集まってくる。何人かは厨房から声を掛けると驚いたが、一部の面々にはスルーされた。特に鬼道や豪炎寺あたりには、『あぁ、コイツが何をしても今更だな』みたいな感じでスルーされたと思う。流石にそれは悲しいな……

 

「そういや、円堂は?」

 

 続々と人が集まり食事をとっていく、肝心のキャプテンが来ていない。アイツ……合宿初日から寝坊か?しっかりしてくれよ、キャプテン。

 

「私、起こしてくるね」

 

 そう言って食堂を出て行く木野。なんというか……

 

「アイツ、大丈夫か?」

「そういうお前も、普通は選手が料理する側にいないだろ」

「そうか?」

「そうだな」

 

 この後、木野の悲鳴と円堂の叫び声が食堂まで響くのだった。大方、寝ぼけた円堂が木野とアイツの母親とを間違えたのだろう。……そんなんでいいのか?キャプテン……

 そして、円堂が食事をとっていると、円堂と冬花は知り合い(円堂が一方的に知っている?)みたいで、何か()()()円堂がサッカー関連以外で困っているように見えた(なお、テストは除く)。円堂は覚えているのに冬花が覚えていない……みたいな悲しいことが起きているけど、幼少期の記憶なんてそんなもんだろ。オレだって幼稚園とか保育園の記憶とか朧気……どころかほとんど忘れているし。下手すりゃ、こっちの中学校生活が濃すぎて、元の世界で中学は誰と一緒だったかも忘れているレベルだし。……いや、本当に濃すぎる……主に帝国が乗り込んできた辺りから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、監督によりグラウンドに集められる。マネージャー、戦術アドバイザーの5人が改めて自己紹介をし、このメンバーで日本代表としてやっていくことが言われた。

 

「まずはFFIアジア予選に向けて練習を始めるが、その前に言っておくことがある。はっきり言って、今のお前たちでは世界には通用しない」

「「「…………っ」」」

 

 でしょうね。世界レベルを間近で見てきたから、察してはいた。

 

「なんだその顔は。まさか自分たちが世界レベルだなどと自惚れていたわけではあるまいな?お前たちのレベルなど、世界から見ればゴミ同然だ」

 

 あはは……ゴミとはこれまたドストレートな言い方で……

 

「私はそんなお前たちを1から鍛え直すよう頼まれた。中には、私のやり方に納得出来ないものもいるだろう。……だが、口答えすることは一切許さない」

 

 今までにないくらい高圧的というか……空気が違うな。流石に甘いことは言っていられないか……

 

「それから豪炎寺、吹雪、鬼道、十六夜!そして円堂!」

 

 ……え?呼ばれたけど何か言われるの?

 

「私はお前たちのことをレギュラーだとは全く考えていない。過去の実績など何の意味も為さない。試合に出たければ死ぬ気でレギュラーの座を勝ち取ってみせろ。以上だ」

 

 ……なるほどね……雷門としてFFやエイリア学園の騒動を一緒にやって来たメンバーの中には、オレたちはレギュラーで決定……みたいに思っているかもしれないし、呼ばれた5人の中にはないとは思うが、自分たちはレギュラーに選ばれるに決まっているという驕りがあるかもしれない。そういうのを壊すための発言だろうな…………多分。

 ということで、練習開始。アップを済ませた後はチームに分かれて練習するらしいが……普通に2チームに分かれたら8と9で片方多くなるな……奇数の弊害ってやつか。

 

「十六夜」

「はい」

 

 そう思っていると監督から呼ばれた。何だ?既に何かやらかしたか?やらかしたのは食堂で料理をしたことか?それとも代表選考で呼ばれる前に勝手に出歩いたことか?それともそれとも……

 

「お前の練習は別の場所だ。八神に指示は出してある」

「……はい?」

「体育館までダッシュだ」

「はい?」

「ぼさっとするな!」

「は、はい!」

 

 やべぇ、何一つ分からねぇ。何でオレだけ?何、数合わせでハブられたの?珍しいな……数合わせで足すんじゃなくて、引くなんて……でも、まさか引かれる側になるとは思わなかった。

 

「……で?八神……オレは何すんの?」

「まずは2時間マラソンだ」

「……は?……えっと、何処を走るんだ?」

「そこにランニングマシンがあるだろ?」

「…………」

「その後は体幹トレーニング。こっちにメニューは書いてある。それを大体2時間」

「…………」

「そして、フィジカルトレーニング。それも大体2時間」

「…………」

「最後はスプリント100本で、その後はクールダウンをして終わりとなっている」

「…………ねぇ、サッカーは?ボールは?」

 

 というか待てそのメニュー。オレを殺す気か?いつぞやの地獄再来なんですけど?いや、その地獄を余裕で上回りそうなんだけど?え?何、ここでコイツは殺しておかないと的な何かですか?

 

「この練習を耐えきった後に余裕があればやっていいと」

「ねぇよ?そんな地獄を耐えきった先に、余裕なんてなさそうだけど?」

「水分補給なら言え。こっちで準備してある。よし、始めるぞ」

「え?ちょ、ま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方……

 

 ダンッ!

 

 勢いよく扉を開くと、皆が驚いたようにこっちを見てくる……が、今はどうでもよかった。

 

「おー十六夜。お前だけ別メニューで……ってどうしたんだその汗の量!?」

「殺されかけた……」

 

 ドサッ

 

 そのまま空いている席に座って突っ伏す。もう何もしたくねぇ。

 

「はぁ!?お前、どんなメニューこなしたらそうなるんだ……」

「コレだよ。十六夜の練習メニューは」

 

 その疑問に答える前に、八神が持っていた練習メニューを見せているようで説明の手間が省けた。

 やべぇ……今までの練習が嘘のようにハードだった。もうこのまま寝そう……昼食?食ったら吐きそうだったから食ってねぇよ。夕食も食える気がしねぇ……

 

「こっちが可愛く見えてくるね……」

「そっちは……何かあったか……?」

 

 そう聞くと、ダメ出しに次ぐダメ出しの嵐だったらしい。守ることしか考えていないディフェンスはいらないと壁山を筆頭に言われたり、鬼道や誰かの指示がないと動けないのかと言われたりしたそう。で、その反面で不動のラフプレーギリギリのプレーには褒めていたとかなんとかで……まぁ、挙げればキリがなく、全員が全員何かしら言われていたらしい。……その中には納得のいっていないものもあるとかなんとか。

 

「円堂くんはどう思った?あの監督のこと」

「どうって……確かにちょっと変わっていると思うけど……いい監督じゃないか!思ったことはハッキリ言ってくれるし!きっと俺たちにはまだまだ足りないところがあるんだよ!世界を目指すにはさ!」

 

 だとしたらオレは足りないところだらけなのか?だから、サッカーの技術面じゃなくて身体能力を鍛えるようなメニューばっかりなのか?と言いたいが声を出すのがめんどくせぇ……というかそんな気力がねぇ。

 

「でも、何で十六夜先輩だけ別メニューなんすかね……」

「知るかぁ……こっちが聞きてぇ……」

 

 この後、食事をして、風呂入ったら速攻で寝れた。余りにも疲れすぎて、風呂入った瞬間に寝落ちしかけたことを記す。夜の練習?無理に決まっているだろ、そんな体力残ってねぇよ。

 こうして合宿初日は過ぎていった……波乱が起きそうな種を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督。十六夜の記録です」

「そうか」

「何故、アイツだけ他のメンバーと練習メニューが違うんですか?」

「必要ないからだ」

「……どういうことですか?」

「17人の中で十六夜だけが違う。それだけだ」

「十六夜だけが……?」

「明日の分だ。いくつか修正してある」

「ありがとうございます……」




合宿初日、我らが主人公十六夜、死にかける。

また、この作品に関する活動報告をあげました。名前は色々箱ってなってます。
主に感想欄で運営対応になってしまうことに関してです。それを少しでも減らすため、改めて、色々と書き込める場所を作りました。一度見ていただけると嬉しいです。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=285931&uid=129451



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まさかの練習禁止!?

 合宿開始から数日が経過した。

 

「…………」

「十六夜、生きてるか?」

「…………」

「返事がないな。どうやら屍らしい」

「いや……その反応はどうなの?彼女として」

「仕方ないだろ?反応がないんだから」

「ほら十六夜くんも、何か言わないと……」

「…………」

「暖簾に腕押し……ダメだね。揺すっても一切反応がないね」

「だろ?」

 

 伏せた状態で、頭の上で八神とヒロトと緑川のエイリア組の会話を聞くが……うん。反応する気力ねぇや。

 最後にボールを触ったのはいつだっけ?いや、もう身体中が悲鳴を上げている。初日と同じメニュー……いや、日が経てば経つほど、オレの弱いところを補うようにメニューが少しずつ変わって、こなすのは流石にきつ過ぎ……微塵も慣れやしねぇ……何で的確に弱いところ突いてくるんだよ……

 

「えぇっ!?久遠監督がサッカー部を潰した!?」

 

 そのまま食堂の机に突っ伏し、意識を空の彼方へ飛ばしていたが、円堂の大声で意識を取り戻す。軽く顔を動かすと、気付けばイナズマジャパンの選手、マネージャーがほぼ全員揃っていた。……ん?サッカー部……潰した?

 

「間違いありません。サッカー協会の資料室で見つけたんです」

 

 音無がそう言うが……いつの間にサッカー協会に行ったの?

 

「資料によると、久遠監督は10年前、桜咲木中の監督をやっていたみたいなんです。桜咲木中はその年、フットボールフロンティアの予選を大差で勝ち越していたんです。ところが、決勝戦の前に久遠監督が事件を起こし、決勝戦は棄権に……」

「何だって!?」

「……事件って……具体的には……?」

「うぉっ!?十六夜!?生きていたのか!?」

「勝手に殺すな……!」

「事件に関しては詳しいことは分かりませんでした……ただ、他に桜咲木中の監督に関することを調べていたら、変な噂が出てきたんです。久遠道也は『呪われた監督』だって」

 

 ……呪われた……監督ねぇ……でも、響木監督が久遠監督を連れてきたし……そんな怪しい人を連れてくるか?……まぁ、白か黒かはその内分かるだろ……今はそれより眠い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今夜は皆さんもお待ちかね。これより第1回FFI、アジア予選大会組み合わせ抽選会の様子をお届けします』

 

 練習も終わったある夜。オレたちイナズマジャパンのメンバーは、テレビ越しに予選の抽選会を見ていた。もちろん、今日の練習もいつものアレで、オレは食堂の机に突っ伏しながら見ているが……

 

『FFIは全世界を5つのエリアに分けて予選を行います。そして、各エリアの代表チームが「ライオコット島」に集結し、世界一の座を賭けて戦うフットボールフロンティアの世界大会です。そのうち1つはこのアジアエリア。この予選には日本を含めた8ヶ国が参加しており、優勝した1ヶ国が代表として決勝ラウンドに進むことが出来ます』

 

 8ヶ国でトーナメント戦……3回勝てば決勝ラウンドへ。でも1回でも負けたらその時点で終了か……

 

『さぁ、抽選が始まりました。まずは韓国代表「ファイアードラゴン」からだ!アジア最強と呼び声も高いファイアードラゴン、果たして抽選の結果は……?』

『韓国、3-A』

 

 早速トーナメント表の1つに韓国、ファイアードラゴンの名前が刻まれていく。アジア最強……優勝候補の一角が最初から決まっていくか……

 

『次はオーストラリア!こちらも優勝候補の「ビッグウェイブス」が代表です』

「早速、優勝候補のチームたちが抽選かよ……」

 

 ここで優勝候補同士がぶつかってくれるとありがたいが……さてさて。

 

『オーストラリア、1-B』

 

 ……よりにもよって、オーストラリアと韓国は当たるとしても決勝戦。日本が予選を突破するためには、優勝候補の2チーム共に勝たないといけないか……それかそいつらに勝ったチームに勝つしかない……か。

 

『カタール代表「デザートライオン」2-B』

 

 と、次はカタールの代表がトーナメント表に埋まっていく。確か、日本は5番目の抽選だっけ?

 

『サウジアラビア代表「ザ・バラクーダ」4-B』

 

 そしてサウジアラビア代表が埋まっていく。これで1~4の全てが埋まった。ということは、日本はこの4チームのどれかと初戦にぶつかるってわけか……1/2の確率で優勝候補とやり合うとか……

 

『さぁ、次はいよいよ日本代表「イナズマジャパン」の抽選です。果たして対戦相手はオーストラリアかカタールか。それとも韓国かサウジアラビアか……』

 

 久遠監督がくじを引く。そして出た結果は……

 

『日本代表「イナズマジャパン」1-A』

『決まりました!イナズマジャパン、一回戦の対戦相手はオーストラリア代表「ビッグウェイブス」です!試合は2日後!これは熱い試合になりそうです!』

 

 2日後でしかも優勝候補のチーム……か。

 

「いきなり優勝候補か……」

「だが、相手にとって不足はない」

「面白くなってきたな……おい」

「よぉし皆!オーストラリア戦に向けて、明日から特訓だぁ!」

「「「おぉっ!」」」

「お、おぉ~!」

 

 全員が立ち上がり、拳を天に突き上げる中、伏せたまま拳を突き上げる……よし、このまま寝よう。……いや、部屋に戻らねぇと怒られるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからお前たちに練習の方針を伝える」

 

 翌日早朝。集まったオレたちの前で久遠監督が練習に関しての話を始めた。

 

「オーストラリア戦までの2日間、練習禁止とする。合宿所から出ることも許さん」

「「「れ、練習禁止!?」」」

 

 ……マジか……流石に驚いた。初戦でしかも優勝候補を相手にして、練習しないとか……

 

「待ってください!俺たちは日本代表になったばかりでチームとして完成していません。この2日間はチームの連携を高めるために使うべきです」

「監督は私だ。命令には従ってもらう。従わないならチームを抜けろ」

「…………っ」

「それぞれに個室を用意した。互いの往き来は勝手だが、合宿所から出ることは許さない」

 

 個室だと……?今まで寝泊まりしてたところと違ってか?

 そして案内される個室。部屋には簡易なベットと机が……あんまり造りは変わってないな。

 

「とりあえず……」

 

 寝るか。いや、一日寝ただけで回復出来たら苦労はしねぇ。というか、ここ最近身体を酷使しすぎて、全身が痛い。…………筋肉痛だなぁ……これ……

 

 

 

 

 

「ふぁあああ。わりぃ、寝過ごした」

「遅すぎだ。昼飯には来い」

「最近昼飯を食った記憶ねぇけどな……でも、ここ最近の疲労が大分抜けたわ……ん?どうした?お前ら」

 

 お昼を過ぎた頃だろうか……食堂に行くと、何処か浮かない表情をするメンバーたちがいた。

 

「もしかして……合宿所から抜け出して練習しようとしたところを咎められた……とか?」

「「「…………(ギクッ)」」」

 

 ……図星かよ。まぁ、あんな指示に素直に従える人間は少ないよな。桜咲木中の件もあるし、指示の意図も不明だし。

 

「みなさーん!」

「目金か。大声出してどうした?」

「聞いて驚かないでください……!なんと、オーストラリア代表の情報を入手しました!」

「「「おぉっ!」」」

 

 手に持っているのは1枚のDVD……なるほど。相手チームの分析も必要なことか。

 

「僕の情報収集能力、お見せしましょう!」

「八神ー水取ってくれ」

「はいはい」

「って聞いてください十六夜君!?」

「聞いてる聞いてる。でも、おなか空いてる」

「全く……コレを見れば君もアッと驚くに違いないですよ」

「………………(もぐもぐ)」

「って無視ですか!?」

「「「早くしろよ!」」」

 

 と、周りの皆に急かされ、DVDをセットする目金。仕方ないんだ、おなかが空いて倒れそうなんだ。というか、昨日までがハ-ド過ぎて若干やつれたまであるんだ。

 そう思って、流れ始めたビデオ。ビッグウェイブスの選手の練習風景かと思えば、次の瞬間画面が切り替わり……ビーチで遊んでいる映像が流れ始めた。

 

「「「…………(ガクッ)」」」

 

 これにはオレたちも驚き、あまりのことにこけかける。なるほど……本当に驚かされるとは……

 

「目金……なんだコレ?」

「国と国との戦い……流石に相手チームの情報を手に入れることは難しくなっています。ですが、この目金!その程度で諦める男ではありません!海で遊ぶ映像を手に入れてきました!」

「見る意味ねぇじゃん」

「それって役立たず……」

「使えねぇ」

 

 不動、冬花、オレのスリーコンボの前にショックを受ける目金。

 

「やっぱ、目金に期待するのは無理だったか……オレの持っていない情報を期待したのに」

「ぐぬぬ……!」

「待て十六夜。持っていない情報って……お前は何か知っているのか?」

「ん?あー、ビッグウェイブスは海の男たちって呼ばれてる。さっきも映像に出てたが、海で心と身体を鍛え抜いたチームなんだよ。後は、前に調べた限りだと、相手チームの攻撃を完全に防ぐような戦術?必殺技?なんかそういうものがあるらしいな。守備が硬いチームだと」

「海で鍛え抜いた……!」

 

 綱海の目が輝いた気がしたが……まぁ、いいか。

 

「……十六夜くん……それっていつ仕入れたんですか?さっきまで寝てたくせに……」

「そうだな。練習もハードでそんな暇なかっただろ?」

「FFIが開催されることは、()()()()友人たちから聞いていたからな。予め、アジアの強豪国は調べておいた……と言っても、オーストラリアと韓国ぐらいしか情報持ってないし、少し古いから期待すんなよ」

 

 2戦目以降に当たれば、予選の様子から情報を手に入れられるけど、初戦だけは無理だ。当たって欲しくはなかったけど、まさか手に入れていた情報が活かされるとは……

 

「……ということは、その守備を破らなければ、勝つことは出来ない……か」

「くぅ……聞いただけで燃えてきた!早速練習だぁ!」

 

 と、食堂からダッシュで外に出ようとする円堂。だが、食堂の入口で久遠監督に見つかったようだ。なんて読まれやすい男なんだお前は。行動パターンバレてるじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後も色々とありました。虎丸の帰宅、綱海の脱走、飛鷹の揉め事……前者2人はともかく、飛鷹は大丈夫なのか?不良っぽい奴らに絡まれて出て行ったけど……

 まぁ、オレじゃどうにもならないから一旦置いておこう。とりあえず、そろそろ脱走しか考えていないヤツのところに行くか。

 

 コンコンコン

 

「円堂ー入るぞー」

「練習したい練習したい練習したい……!」

 

 円堂の部屋に入ると、ボールを持ってベッドの上で転がっているヤツが……

 

「おいおい……」

「十六夜!脱出する方法を思いついたのか!?」

「なわけ」

「だよな……くぅ!綱海と行けばよかった!」

 

 ……と言ったが嘘である。ペラーに乗って窓の外から出られるし、イビルズタイムを使えばバレずに移動できる。オレにとっては脱出不可能ってわけじゃないが、黙っておこう。この合宿所から出てはいけないという状況が、監督が何か意味を持ってやっているのなら、その行動は監督の意図を壊してしまいかねないからな。……って考えると、綱海のことだし、回りくどい手は使っていないはず……アイツに関しては()()()見逃した……という可能性もあるな。連れ戻そうという動きが一切見られていないし、居ないことに気付いていないとも思えないし……。

 

「一緒に練習しようぜ」

「何言ってるんだよ!練習は禁止されてるって……」

「じゃあ、何でサッカーボールを部屋に持ち込めているんだよ」

 

 そう言ってオレは、持ってきたボールを使ってリフティングを始める。

 

「本当に練習を禁止しているならボールは没収。オレやお前みたいな問題を起こしそうなバカにはマネージャーの見張りが付くに決まっているだろうが。だから、あくまで禁止されていることは、ここから出ることと、監督の目の前で練習することの2つだけ」

「えっと、えっと……つまり?」

「バレなきゃオッケー」

 

 そう言って、オレは軽く円堂に向かってシュートを打つ。持っていたボールを置いて、咄嗟にキャッチする円堂。

 

「ナイスキャッチ」

「そっか……そうだよな!ありがとう十六夜!俺、そろそろ我慢の限界を迎えておかしくなりそうだった!」

「禁断症状かよ……まぁ、オレも久々にボール蹴ったけどな」

「よしもう1本だ!来い!」

「はいはい!」

 

 円堂から渡されたボールを蹴り返す。そして、それをキャッチする円堂。

 

「もう1本!」

「じゃあ、これはどうだよ!」

 

 壁にぶつけ、ボールを跳ね返させる。そのボールは円堂の横からやってきて……

 

「いいなそれ!跳ね返ったボールに素早く反応するか……!だったら、壁当てのパス練習はどうだ?」

「面白そうだな」

 

 円堂からのパスをダイレクトで返す。そして、円堂はトラップし、再び壁にボールをぶつける。そんなことを何回か繰り返していると……

 

「我慢出来なくなって、とうとう部屋の中で始めたか」

「おっ、豪炎寺じゃん」

 

 壁に当たり跳ね返ってきたボールを豪炎寺に向かって蹴る。それを豪炎寺はトラップして受け止めると……

 

「来い!」

「行くぞ!」

 

 そのままシュートを放った。

 

「いいシュートだ!……で?何で2人がここに?」

「お前の部屋から物音がしてたからな。鬼道と様子を見に来た」

「ふーん。まぁ、入れよ2人とも!」

 

 そして、2人を招き入れ、4人で囲んで座ることに。

 

「なぁ、世界一って考えたことあるか?FFIにはすげーヤツがいっぱいで、そいつらとプレーできるんだ!しかも、そいつらに勝ったら世界一になれるんだ!じっとなんてしていられない!俺さ、皆と一緒に見てみたいんだ!勝ち残った奴らだけが見られる世界一のサッカーってヤツを」

「「「ああ」」」

「だから挑戦しようぜ!世界一に!FFIで優勝するんだ!」

 

 円堂が立ち上がり、右手を高く掲げ、人差し指で1を表す。

 

「世界一に!」

「世界一に」

「世界一に!」

 

 それに習い、オレたち3人も立ち上がり、右手を空に向かって突き出し、人差し指で1を作る。

 

 ガラッ!

 

「「「世界一に!」」」

 

 すると、何人かが部屋の中に入ってきて同じように、右手の人差し指で1を作って声を出す。

 

「皆……!よし、優勝するぞ!特訓だぁ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 こうして、オレたちは部屋の中で各々特訓を続け、オーストラリア戦当日を迎えるのであった……。



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VSビッグウェイブス ~必殺タクティクス~

 アジア予選の開会式……観客は満員でとてもじゃないが、フットボールフロンティアの時の開会式と比べると熱量がまるで違う。それに他のチームの顔つきも……たった8チームしかいないが、その8チームそれぞれが背負っている重みを感じる。しかも、副キャプテンという肩書きのせいか、円堂と共に先頭を歩いているため……うん。改めて、この役職荷が重いなぁと感じ始めた。

 そして各国のチーム紹介や選手宣誓など、開会式は順調に進んでいき……

 

「では最後に、日本の財前総理にFFIアジア地区予選の開会宣言を行っていただきます」

 

 ……総理が開会宣言……確かに地区予選とは言ったが、あくまで世界規模の大会って意味だ。そりゃ、総理が開会宣言もするか……あの人もサッカー好きだったし。

 

「少年たちの祭典!世界最強のサッカーチームはどこなのか?それを決める夢の大会、フットボールフロンティアインターナショナル!それぞれの国の威信をかけた熱く燃える試合、素晴らしいプレーを期待しています」

 

 湧き上がる観客の声を背に帰って行く総理……今更だけど、オレたちの多くが総理と面識あるってマジ?エイリア学園の件で面識があるとか……今更だがヤバいな。

 そして、1回戦を戦うイナズマジャパンとビッグウェイブスの選手たちだけがフィールドに残る。代わりに、それぞれの監督やマネージャーたちがグラウンドに降りてきて、準備を始めることに。アップや何故か写真撮影を挟みつつ……

 

「これよりスターティングイレブンを発表する」

 

 久遠監督の指示でベンチ前に集合し、遂にスタメンの発表である。……どうしようか。オレの記憶が正しければ、オレだけ監督の前で練習をしていないんだよな……いや、サボりとかじゃなくて、監督の指示だけどさ。

 

「FW、豪炎寺、吹雪、十六夜」

 

 …………はい?

 

「MF、鬼道、緑川、基山」

 

 ……え?聞き間違いだよな?

 

「DF、壁山、綱海、土方、風丸。そして、GK兼ゲームキャプテン、円堂」

 

 ……聞き間違いじゃなかったんだろう。…………え?オレFWなの?

 そう思いつつ、呼ばれた11人は相手チームとの挨拶を済ませると、自分のポジションにつく……

 

「オレ、本当にFWなの?」

「みたいだな。……でも、十六夜をFWにする……何かあるのか?」

「ないと困るよ?オレの本職、DFなんだけど?」

「今更だろう」

 

 い、今更……確かに言われてみれば今更なんだけど……日本に帰ってからDFとして何もしてないし……選考試合はMFとして出たし……あれ?

 

「オレって本当にDFなのか……?もしかして、オレはDFじゃないのか……?」

「…………」

 

 実はDFじゃなくて、FWとして代表に選ばれていたとか?久遠監督って……オレがDFであることを知らないとか?(迷推理)

 

「ただ……」

「ただ?」

「いや、何でもない」

「ないのかよ」

 

(オーストラリアは守備が堅いチームと言っていた。確かに、十六夜の攻撃力をフルで使えるFWという選択はなくはない。だが、このチームの連携はまだまだ足りていない。ならば、十六夜の守備力を活かし、失点のリスクをゼロにする方が無難にも思えるが……)

 

 鬼道が考え込んだので、思考を切り換える。とにかく、FWとして出る以上、点を取りに行くだけ。仕事を果たすだけだな、うん。……オレが何処のポジションを想定して呼ばれたかは今度考えよう。

 

 ピーー!

 

『キックオフ!試合開始です!』

 

 イナズマジャパンボールで試合開始。ボールは鬼道が持っている。

 豪炎寺、吹雪が前線へと攻め上がっていくので、オレも遅れずに攻め上がっていく。

 そして、次の瞬間だった。ボールを持っている鬼道に対して、ビッグウェイブスの4人の選手が鬼道を囲うようにしてブロックする。

 

「なんだあれ?」

 

 その4人の選手は鬼道へと絶えずプレッシャーをかけ続ける。外側から見ても、鬼道が動こうと陣形は崩れていないように見える。

 

「……っ!?」

 

 その上、鬼道からのパスコースも、前線へのパスだけでなくバックパスのコースも主に4人が防いでる。特に前線のオレや吹雪には別の選手がついていて、かなり警戒されているようだ。

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

 ……何それ?アイツらの必殺技?4人がかりの必殺技って結構大掛かりだな……

 

『出たぁ!ビッグウェイブスのボックスロック・ディフェンス!一度囲まれると二度と抜け出せない必殺タクティクスだぁ!』

 

 え?必殺タクティクス?必殺技じゃないの?必ず殺す戦術……物騒だなぁ。

 そんなことを思ってる中、健闘空しく鬼道はボールを取られてしまう。流石に初見での対処は厳しいだろうな……

 

 ドンッ!

 

『ああっとイナズマジャパン!連携がうまく行っていない!』

 

 ボールを取りに行こうとした綱海と土方が衝突する。ポジショニングが上手く噛み合っていない。そのままこぼれたボールは相手の11番に渡った。

 そして、11番の選手の足下には海が現れて……

 

「メガロドン!」

 

 シュートを放つ。そのシュートの下の海に巨大な陰が現れ、サメ……メガロドンが現れた。おいおいマジかよ……メガロドンを放つからメガロドンか……安直だな……じゃない。

 そのシュートは誰にも邪魔されることなく、円堂のところに向かっていく。

 

「正義の鉄拳G2!」

 

 円堂の正義の鉄拳とサメがぶつかる。僅かな拮抗の後、正義の鉄拳は砕かれ、ボールがゴールに入った。

 開始2分。オーストラリア代表の1点先取……か。あまりにも呆気なく点を決められたな。そこに至る過程で連携不足とかもあったが、円堂の技が通用しなかったのがデカいな……

 

「凄いな!こんなすごい奴らとやれるなんて、燃えてきた!」

 

 ……ははっ。流石円堂だ。こんなに呆気なく点を取られても、折れていないな。

 

「皆!試合は始まったばかりだ!まずは1点追いつこうぜ!」

「「「おう!」」」

 

 点を取りに行くには、あのボックスロック・ディフェンスを何とかしないといけない。あれを攻略する……いや、まだ情報が足りないか……

 再びイナズマジャパンのキックオフで試合再開。豪炎寺がボールを持ち込む……が、

 

「ボックスロック・ディフェンスだ!」

 

 今度は豪炎寺がボックスロック・ディフェンスの中に囚われてしまう。相手キャプテンがカギ……?いや、そうとは限らないか。

 

「……っ!」

 

 地上はダメだと判断したのか、上から突破することを試みる……が、それを読んで跳躍していた相手キャプテンにボールを奪われた。

 相手キャプテンから10番にボールが渡り、シュートを放つ……が、これを円堂がしっかり反応し、キャッチする。そして、今度は吹雪にボールが渡った。

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

 が、また4人の選手が吹雪を囲う。一瞬の隙を見つけ、パスを出そうにも、パスカットをされ奪われる。そして、攻められこちらのゴール前まで運ばれる。

 ……一度でも囲まれたら終わり……か。ならば……

 

「円堂!」

「分かった!頼むぞ十六夜!」

 

 相手のシュートをキャッチした円堂からボールを受け取る。そのまま、ドリブルをして切り込んでいく。

 

「無駄だ!ボックスロック・ディフェ……」

「ヒロト!ダイレクトで前線へ大きく!」

 

 4人の選手に囲まれる前に、ヒロトへパスを出す。

 

「頼むよ!十六夜くん!」

 

 そして、ヒロトが要望通り、前線へと大きくパスを出した。

 

「そうか!囲まれなければボックスロック・ディフェンスは発動しません!」

「だが、甘い!それぐらい想定内だ!」

 

 ベンチに居る目金の大きな声……確かにその通りだが、どうやらその程度は想定内らしい。

 相手のキャプテンが進路を塞ぎ、もう1人がパスカットをしようと試みる。なるほど……4人で囲む以上、オレの前には2人のディフェンダーがいる。片方がこっちを妨害し、もう片方がパスを取りに行く……か。しかも、別の選手にパスを出せば、パススピードが相手の反応できないくらいのものじゃないと、そいつがボックスロック・ディフェンスの餌食になると……考えられているな……。

 

「……じゃ、これは想定内か?」

「何!?」

 

 オレは急ブレーキをかけ、走る方向を90度変える。ボールの落下地点へと走るのではなく、空中にあるボールを取りに行く。

 

「これで!」

 

 跳躍し、身体の向きを反転させ、オーバヘッドキックの要領で空中にあるボールを更に高く蹴り上げる。

 

「空中戦なら勝てると思ったか!」

 

 相手キャプテンが地上でスタンバイしているのを横目に見つつ、オレは……

 

 ピー!

 

「誰が地面に落とすかよ。ライド・ザ・ペンギン!」

『じゃ、行くよ!』

 

 空中でペラーに乗り、そのまま空へと飛んでいく。

 

『ああっと!流石は変幻自在のペンギン使い、十六夜綾人!ペンギンとともに、ボックスロック・ディフェンスの届かない空へと飛んでいった!』

 

 さて、ここまで飛べば誰も到達できないだろ……で、

 

「ペラー、いつもより速くね?」

『だって、綾人のバランス力が上がってきているからね。それに世界相手ならこれぐらいでいいでしょ』

「本音は?」

『最近暇だったから頑張ってみた』

「そうか……」

 

 もう少し働かせないとダメかもな……そう思いながら、そのままボールに追いつき、ボールを通り越した後で急降下。そのまま上空から相手ゴールに向けて、シュートを放つ。はるか上空から放ったシュート。そのスピードは徐々に上がっていく。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 しかし、相手キーパーの必殺技、グレートバリアリーフが発動する。キーパーの前に現れた海……そこに入るとシュートは減速し、威力を失って、相手キーパーに容易くキャッチされた。

 

「何だよあの技……」

 

 ペラーに乗って地上に帰還する。ゴール全域を覆われたら、コースで……とか考えても無駄じゃないか。

 

「でも、海か……」

 

 相手の技が海に関することなら……相性はいいかもな。ペンギンと海……でも、

 

「オーストラリアの海って冷たかったっけ?」

 

 オレはどうでもいいことを考えながら守備へと意識を切り替えるのだった。



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VSビッグウェイブス ~箱のカギ~

不完全様より、我らが主人公、十六夜綾人くんのイラストを頂きました!ありがとうございます!
下を押して貰えばイラストが見られます。
十六夜綾人


「なぁ、フィディオ」

「どうしたんだい?アヤト」

「お前のプレーって視野が広いよな。まるでフィールド全体が見えているようなプレーの数々……何を意識しているんだ?」

「そうだね……ボールを見続けない……かな?正直、あんまり意識はしてないかも」

「意識してない……か」

「でも、アヤトだって、視野は広い方だと思うよ。特にディフェンスの時なんかは、よく見えてると思うけど……」

「うーん……オフェンスになるとどうしても視野が狭くなるからな……」

「じゃあさ、ボールを見るのを最小限にするのはどう?ドリブルやキープしている間も、下を極力見ずに辺りを見る……これを考えてやるんじゃなくて、癖にするとか」

「あー……何度か言われた気がするな。癖にする……か」

「そうだね。後はアヤトの場合……というより、これは皆かもしれないけど、考え事をし始めると視野がどんどん狭くなってしまうからね」

「あーだから意識しなくても、周りを見る癖をってことか……確かに。考え始めると、周り見えてないからな……」

「試合中、状況はどんどん変化しているんだ。その変化を知るためには周りを見ないとね」

「オッケー、もっと意識してみるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボックスロック・ディフェンス!」

 

 相手のボックスロック・ディフェンスの餌食になってしまう鬼道。堅いディフェンスによって、ボールを奪われてしまう。

 あれから、ヒロト、緑川もボックスロック・ディフェンスの餌食になり、破ることが出来ていない。そして、そこで奪われたボールは相手チームの前線に送られ、シュートを打たれる。幸いなのは、円堂の奮闘により、あれ以上の失点はなく、スコアが0-1のままだということだ。

 ……防戦一方、そんな中……

 

「まだ気付かないのか!」

 

 久遠監督の声が聞こえてきた。

 

「箱のカギはお前たちの中にある!」

 

 そう言って胸を親指で指す監督。箱のカギ……?どういうこと?

 スローインで試合再開。ボールはオレが運んでいるが……箱のカギ?箱って……何?しかも、そのカギ?箱……箱?

 

「ボックスロック・ディフェンス!ついに捕らえたぞ16番!」

「ん?…………あっ」

『あぁっと!遂に十六夜も囲まれてしまったぁ!』

 

 久遠監督の言葉の意味を考えていたら、ボックスロック・ディフェンスに捕まった。

 

「ッチ、さっきまでより囲うの早過ぎだろ……!」

「今まで上手く逃れていたようだが、今度は逃がさんぞ!」

 

 やべぇ、目を付けられていた。何でだよ……ってよく考えたら、オレだけまだこっちのMF、FW陣で引っかかっていなかったし、何なら上手く躱してたし……って、おいおいどうしよう。キープは出来るんだけど、ここ無茶苦茶狭いんだが…………あぁっ!ボックスロック……箱と錠か!つまり、ここがカギのかかった箱で……って閉じ込められているじゃん!そのカギが…………?いや、分からねぇや。

 

「おっと……」

 

 外から見てた通りダメなようだな。どこから突破しようとも2人がかりでコースを潰してくる。そいつらに手間取ったらフォローが来るから意味ないか……で、パスコースもないな。開いているように見えているところは、ワザと開けているだけ……そこに出そうものなら奪われるか。なるほど……ドリブル、パス、シュート……全部封じられたなら、やることなんてキープ一択なんだけど。

 

「何!?」

「何故だ!?」

「どうなってる!?」

「奪え!さっさと奪うんだ!」

『なんと十六夜!見事なボールタッチで、ボックスロック・ディフェンスの狭いスペースでボールをキープしているぞ!』

「そうか!十六夜!そのままキープしろ!」

「いや、それしか出来ないんだけど?」

「それでいい!箱が崩れるまでキープし続けるんだ!それ以外のことは無視していい!」

 

 え?無視していいの?……まぁ、司令塔が周りを無視していいって言うなら……

 

「んじゃ、取れるなら取ってみな?」

 

 パスという選択肢を消して、ボールを取られないことに力を注ぐ。……うーん、やっぱり考え事をしていると少し視野が狭くなってしまったな……4人で囲うんだから、接近に気付けたはずなんだけど……

 

「まだまだ甘いなぁ……」

 

 細かなタッチ、フェイントを織り交ぜつつボールを奪われないことに集中する。時にはリフティングも挟んで、相手を翻弄する。ただ、ボールを見る時間は最小限に。周りを見て状況を把握する。

 

「……っ!?」

「当たれ!激しく行くんだ!」

「もっと……ボールを見る時間を減らす……いや、このスピードじゃ遅い……もっと早く……」

 

 まだまだクセになるレベルに到達してない……でも、周りを見ることを意識しすぎるとフェイントのキレが落ちる……パスコースも突破口も見えているけど、もう少しここで練習するか……

 

(十六夜のキープ力……やはりアイツのテクニックは、留学する前と比べものにならない。いや、それだけじゃない。俺たちの中でもアイツの実力は頭一つ抜けている……どこまでレベルアップしているんだアイツは。でも、これならば……)

 

「クソが!」

 

 囲っていた4人の内1人が溜まらずタックルをしてくる……が。

 

「何だと!?」

 

 肩と肩がぶつかる……が、その威力を使い、ボールを足に乗せたまま回転して躱す。おぉっ、すげぇ。今ので体勢が崩れなかった……いや、崩れる気配もなかったな。行ける気しかしなかった。

 

「今だ!突破しろ!」

「分かってる」

 

 1人欠けた分、スペースが空いた。そこに向かって走り……

 

「悪いけど、見えてるから」

 

 その穴埋めに2人が来たので、アウトサイドで左側に弾く。そのまま、弾いたボールを回収し、足を伸ばしてきた抵抗しようとした相手をボールを相手の頭上を通過させることで躱した。

 

「バカな!?」

「嘘だろ!?」

『ボックスロック・ディフェンス破れる!十六夜の華麗なフェイントで4人を躱したぞ!』

「ありがとな鬼道。…………で、結局箱のカギって何だ?」

「お前……分かってなかったのか?」

「箱は分かった。カギは分かってない」

「……監督の練習禁止で、狭い部屋に閉じ込められただろ?その狭い部屋での練習が、狭いスペースでボールをキープすることの……」

「一度破ったくらいでいい気になるなよ!」

 

 と、鬼道が答えてくれている間に再びボックスロック・ディフェンスに捕まった。正確には捕まりにいったと言うべきか。

 

「こいつらの隙が出来るまで無理せず、キープし続ければいいってことだろ?」

「それでいい!豪炎寺!吹雪!」

「おう!」

「うん!」

 

 しかも、ボックスロック・ディフェンスの弱点は、1人の選手に4人の選手をぶつける点にある。どうやっても人数差が生まれてしまうことだ。奪えれば強いが、奪えなければフリーの選手に対するマークは甘くなる。だから……

 

「そこ」

「「なっ……!」」

「ナイスだよ、十六夜くん!」

 

 一瞬、DF2人の間に隙が生まれる。その隙を逃さず、吹雪へとパスを出す。一度破られたことで動揺したのだろう。さっきよりも隙が出来るのが早かった。

 

『イナズマジャパン!ボックスロック・ディフェンスを完全に攻略したぁ!』

 

 攻略法さえ分かれば、やりようはある。しかも、捕まった方が人数差が生まれるし、シュートチャンスが増える。

 

「ウルフレジェンド!」

 

 ボールを受け取った吹雪。そのまま必殺技を放った。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 ……が、相手キーパーの前に止められてしまう。そのキーパーからのパスを豪炎寺がカットして……

 

「爆熱ストーム!」

 

 必殺技を放つも……

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 再び阻まれてしまった。……まさか吹雪に豪炎寺までもが止められるとは……

 ボールを持った相手選手。だが、何を思ったのか外へとボールを出した。

 

『ここでビッグウェイブス2人の選手を交代』

 

 交代のために()()()外に出したのか?入ってくるのはMFとDF……でも、そんな早急に交代したかったのか?……何が狙いなんだ?

 スローインで試合再開。ボールは緑川が運ぶ……

 

「ボックスロック・ディフェンスをしてこない?」

 

 ただ、先ほどまでと違い、4人が集まる気配がない。対峙するのは交代したばかりのDFの選手……

 

「グレイブストーン!」

 

 その選手が大きく跳躍し、両手を地面に叩きつける。すると、地面から次々と大岩が生えてきて、あっという間に緑川を囲んだ。そして、逃げ道を塞いだところで、緑川の真下から岩が突き出て彼を吹き飛ばした。

 

「個人技でのディフェンス……」

 

 流石は優勝候補か。自分たちの使う戦術の弱点を的確に把握していたか。そして、切り替えるまでの判断の早さ……おいおい、まだオレが2回抜いただけだろうが……

 そして、ボールを奪ったDFは同じく先ほど交代したMFにパスを出す。木暮がマークについた……が。

 

「カンガルーキック!」

 

 ボールを軽く浮かせて、ボールに背を向ける。軽く跳び上がり、膝を曲げ、両足の裏でボールに力を溜める。そして、膝を伸ばすとともに、木暮の身体にボールをぶつけ吹き飛ばす。

 

「海だけじゃなかったの!?」

「どうやらリザーブとして、陸で鍛えた選手たちが控えていたようですね!」

 

 カンガルー……いや、物騒な技だな……おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『互いに攻め手を欠き、試合は膠着状態だ!』

 

 前半終了間際。ボールは鬼道が運んでいた。

 あれから、一進一退の攻防が繰り広げられた。互いにシュートを放つもキーパーによって止められる。お互いの攻撃陣の方が強いのか、シュートまでは持ち運べるもののキーパーからゴールを奪えないでいた。

 肝心のオレは相手からの警戒が強いためか、中々ボールを持たせてもらえない状態になっている。前半の内に何とか1点取って追いつきたいんだが……どうしたものか。

 

「……っ!」

 

 鬼道に対し、7番と9番がスライディングをする。7番のスライディングはジャンプして躱したものの、9番のスライディングが着地した鬼道の足に当たってしまう。

 

 ピー!

 

「あっ……!」

「鬼道!」

 

 審判の笛により一時中断。右足首を押さえる鬼道の下へと駆け寄っていくオレたち。

 

「大丈夫か」

「大したことはない……!」

 

 風丸の手を掴んで立ち上がる鬼道。その顔は痛みを隠しているように見えた。

 

「……風丸。このフリーキック、オレにパスを出してくれ」

「十六夜……?」

「ここで点を決めるからさ……頼む」

 

 フリーキックが行われた後、いつ前半が終わってもおかしくない。前半をリードされて折り返すのと、同点で終えるのでは精神的にもかなり変わってくる。

 

「分かった。任せたぞ」

「おう。任された」

 

 そして、フリーキックで試合再開。ボールは風丸からオレに渡る。

 渡ると同時に蹴りの構えを取る。すると、背後に巨大な対物ライフルが現れる。

 

「ヴァルターペンギン!」

 

 足を振り抜くと同時に、いつもより小柄なペンギンがボールと共に発射される。威力はムーンフォースに劣るが、スナイプ・ザ・ペンギンの正確性、皇帝ペンギンTのスピードを掛け合わせたようなシュート。相手の必殺技が発動する前に決めればいいという発想のもとで生まれた、スピードに特化した一撃。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 シュートを放つと同時に、相手キーパーは咄嗟の判断で必殺技を放つ。……少しでも反応が遅れていたら必殺技を放つ前に決められたのに……けど。

 

「知っているか?ペンギンって、陸上より水中の方が速いってことをさ」

 

 確かにスピード重視だし、ペンギンが1匹しか放たれないから威力は高くない。けど、グレートバリアリーフとは()()()()()。相手の技は、海の壁を生成し、そこにボールが入ることでシュートを遅くし、威力を失わせるもの。

 

「何だと!?」

 

 確かにボールは海の中に入って減速した。だが、ボールを押していたペンギンは、海に入った途端()()()()。ただでさえスピードに特化した、速かったペンギンが更に加速する。そのペンギンが止まりそうになっていたボールを押して行き、相手のキーパーを避けて進み、そのままゴールに刺さった。

 

『ゴォール!ここでイナズマジャパン!十六夜の新必殺技で同点に追いついたぞぉ!』

 

 オレは右手の拳を握り締める。

 

「よし」

「ナイスシュート!十六夜!」

「やるな」

 

 ピ、ピー!

 

『ここで前半終了のホイッスル!1-1!同点でハーフタイムを迎える両チーム!果たして、後半はどのような展開を迎えるのか!』

 

「鬼道、肩貸すぞ」

「俺も!」

「あぁ、悪い……!」

 

 喜びも束の間というやつか。円堂と2人で支えながら鬼道をベンチまで運ぶ。1人で歩くことが困難か……これは後半は厳しいな。




習得技紹介

ヴァルターペンギン
シュート技
蹴りの構えをとったら背後から巨大な対物ライフルが出て、蹴りと共にペンギンが発射される。威力はムーンフォースよりは劣るが、スピードは3倍。現時点での十六夜くんの必殺技の中では最速です。
N-WXlGⅨW-N様より案をいただきました。ありがとうございます。
地味にオーストラリアにも生息しているリトルペンギンで放っています。(オーストラリア戦なので)

凄い私ごとですが、遂に今期、ブルーロックのアニメが放送……!
好きな作品だし、PVの作画も良かったし凄い期待している……!


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VSビッグウェイブス ~海の男~

「うぐっ……!」

 

 ハーフタイム、ベンチから聞こえるのは鬼道の呻き声だった。

 

「この試合は無理です」

「これくらい大丈夫だ」

「鬼道、気持ちは分かる。だけど、無理はするな」

「円堂……!」

「鬼道、交代だ」

 

 やはりと言うべきか、鬼道の怪我では試合続行は不可能……か。

 

「後半頭から行くぞ。虎丸」

「は、はい!皆さんに迷惑がかからないプレーを心がけます!」

 

 鬼道に替えて虎丸を投入か……どんな策があるのか。

 

「後半の指示を伝える。吹雪、お前は中盤の底に下がって、攻撃の芽を摘め」

「はい」

「十六夜、お前のお陰で前半を同点で終えられた。よくやった」

「ありがとうございます」

「前半のプレーで後半は、お前への警戒は一層強くなるだろう。その状況を使え、いいな?」

「分かりました」

 

 使え……ねぇ。まぁ、警戒がこっちに向いてくれれば他が動きやすいよな。……というか吹雪のポジションを下げるってことはオレと豪炎寺の2トップですか?いや、吹雪はDF出来るけど……マジですか?

 

「虎丸はそのまま鬼道のポジションに入れ」

「いいんですか?俺で……」

「お前がやるんだ」

「はい!」

 

 確かに鬼道のポジションは攻撃の要となっていたところ……荷が重く感じるのも無理はないか。

 

「まぁ、気楽にやれって。後ろには俺たちが付いてるからよ」

「それから綱海」

「えっ……俺にも何か指示が……?」

「綱海。お前は俺の指示を聞かず、外に出て特訓していたようだな?」

 

 あ、バレてるわ。まぁ、バレる可能性も考慮して、出なくて正解だったわ。綱海も顔を真っ青にしているし……

 

「お前には責任を取ってもらう。点を取れ。新しい必殺技でな」

 

 な、なんて責任の取らせ方だ……

 

「新しい必殺技!?まさかお前も十六夜みたいに隠して……?」

「別に隠してねぇよ。披露する機会がなかっただけだっての」

「いやいや、そんなんじゃねぇーって。……けど、あれはまだ全然できてなくてよ」

「ヤツらを倒すにはどんな技が必要か。イメージを描くんだ。お前には分かるはずだ」

 

 イメージか……イメージねぇ……確かに、あの技も完成したイメージがわいていないしな……もしかしたら、それが原因かもな。

 

「ヒントはあのフィールドにある」

「フィールドに……?」

「誰にだって自分のステージがある。海はお前のものだと証明しろ!」

「よく分かんねぇけど分かった!」

 

 ……何だろう。綱海がやる気になったからいっか。とりあえず、綱海や他の奴らが動きやすいフィールドを作ることに専念するか。

 

「十六夜」

 

 監督の指示を一通り聞いて、後半の動きをイメージしていると、八神から声をかけられる。

 

「よくやった。必殺タクティクスを破り、シュートを決めたな」

「ありがとな」

「まぁ、それが監督の狙いだったのかもな」

「というと?」

「あの必殺タクティクスを破るには、ボール保持力に長けたFWかMFが必要だった。お前をFWに置いた理由は、そうだったかもな。もし、監督のヒントより早い段階で捕まっていても、お前なら取られないと踏んでいたかもな」

「なるほどな……」

「他にもありそうだが、後半も頑張れよ」

「任せろ」

 

 なるほど……オレがFWに居る意味……か。確かに、発表されたときに疑問に思った後は何も考えていなかったな。もしかしたら、オレが一番必殺タクティクスを破る可能性が高かったことを見越して……まぁ、他の奴らでも、やり方さえ分かれば突破出来ただろうけど。だから、向こうも戦術を変えたわけだし。

 

(データ上、十六夜の動きは格段に良くなっている。それに、あの必殺タクティクスを破った動き……タックルを受けても、体幹がぶれていなかった。練習禁止される前のトレーニングの成果か?でも、何故十六夜だけ別メニューだったんだ……アイツと他のメンバーは何が違うんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、綱海?何してるんだ?」

 

 解説が虎丸に関し出場経験ゼロで実力が未知数……みたいなことを言ってる中、フィールドに耳をつけてる綱海の所に行く。

 

「フィールドにヒントって言うから何かねぇかと……」

 

 だからって何も聞こえねぇだろ。そう思ったが言わないでおこう。

 

「なぁ、十六夜。お前はどうやって点を取ったんだ?何かイメージしたことでもあるのか?」

「ん?あー、アイツの技ってオレのペンギンと相性良さそうだなーって思った。後は、海の中に入ったとしても、加速させれば破れるだろってことで、スピード重視の技を放った」

「そっかぁ……破るために……。アイツの技もよく見てみるか……」

「綱海さん!十六夜さん!もう試合が始まるッス!」

「じゃ、戻るわ」

「おう!」

 

 そして、ポジションにつく。

 

 ピー!

 

『後半開始!1-1の同点!先に点を取るのはイナズマジャパンか!それともビッグウェイブスか!』

 

 ビッグウェイブスのキックオフで試合開始。ボールは11番が持っていた。ディフェンスに行くのは虎丸。それを見て11番は10番とのワンツーで抜こうとするが……

 

「いい動きじゃねぇか」

 

 10番から11番にボールが戻るタイミングで、パスカットをし、ボールを奪った。そしてドリブルをして駆け上がる虎丸、フリーだった豪炎寺へとパスを出した。

 

「爆熱ストーム!」

「グレートバリアリーフ!」

 

 だが、豪炎寺の必殺技は相手キーパーの前に止められてしまう。

 そして、キーパーからボールが飛んでいきカウンター……次の1点は、こっちが取っておきたいな。前半からだが、お互いシュート数の割に1点ずつしか取ることが出来ていない。ここで1点取られると、こちらの士気にも関わってくるから何としても1点欲しい……ただ、相手も同じ事を考えているようで、攻撃の時はオレをフリーにはさせてくれない。まぁ、監督が言ってたように警戒しているのが丸わかりだ。

 時間だけが過ぎていく……そんな中、試合が動こうとしていた。

 

「俺に回せ!」

 

 何かに気付いたのか、DFである綱海がボールを要求する。シュートを打つためにどんどん前へと攻め上がる。

 

「はい!」

 

 ボールを持っていた虎丸はその要求に応えてパスを出す。跳び上がった綱海。巨大な波の中、ボールをサーフボードのようにしてその波を乗りこなす。そして、ツナミブーストと同じ要領で、オーバーヘッドキックで打ち出した。……最後の方のモーションは、ツナミブーストと同じだったが、技の出始めが違ったように見えるその技……だが、

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 相手キーパーの必殺技の海を前に、ボールを回転させることで抵抗を見せた……が、その抵抗も徐々に弱まり、海の中に入ってしまう。そして、ボールはキーパーの手の中に収まった。

 

「その程度で乗りこなせると思うか?」

 

 という相手キーパーの言葉から、ボールは相手キャプテンに渡り、そのまま前線の10番へ。10番は土方のディフェンスを躱すと11番へとパスを出す。

 

「メガロドン!」

 

 11番の必殺技が放たれる。1点目を取られたときと全く同じシチュエーション。

 

「この技は一度見た!」

 

 しかし、円堂はシュートを前に目を閉じるという驚きの行動に走る。意味は分からないが、アイツが捨てたとも思えない。きっと、何かあるんだろう。だったら……

 

「綱海!前線に残ってろ!」

「おう!」

 

 ダッシュで円堂の方へと走っていく。新必殺技でキャッチするにしても、正義の鉄拳で弾くにしても、次のボールを取って、何か感覚を掴み始めている綱海に賭けたい。そのためにはここは奪われるわけにはいかない。

 そして、目を見開く円堂。そのまま左足を高く上げて振り下ろし……

 

「正義の鉄拳G3!」

 

 正義の鉄拳を進化させた。進化した正義の鉄拳がメガロドンを完璧に弾いてみせた。

 

「ナイス円堂!」

 

 相手選手に取られる前に空中でボールを確保する。そして、

 

「綱海!」

「任せとけ!」

 

 そのままゴール前へと走る綱海へとパスを出す。

 

「俺に乗れねぇ波はねぇ!」

 

 そして、綱海は跳び上がる。そこには巨大な渦を巻く波が現れた。その中で、ボールをサーフボードのようにして波を乗りこなす綱海。その渦の中央のところで、跳び上がり、両足の裏でボールを蹴り出した。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 綱海のシュートと海の壁が衝突する。

 

「海は俺のもんだぁっ!」

 

 綱海のシュートの回転は衰えるどころか増していき、遂にグレートバリアリーフの海の壁に、大穴を空けることに成功する。空けた穴を通り、そのまま相手ゴールに刺さった。

 

「ザ・タイフーン!」

 

 ゴールに入ると同時に目金が名前を付ける。……相変わらずお前は必殺技命名担当なんだな……

 

『ゴール!イナズマジャパン!綱海の新必殺技で1点リード!大きな1点が入ったぞ!』

 

「よっしゃぁ!」

 

 両手を掲げてガッツポーズをする綱海。

 後半も折り返した段階で2-1とリードしている展開。

 予選第1回戦の決着は間もなく……



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VSビッグウェイブス ~監督の呪い~

 綱海の得点でチームが沸き上がる中、鬼道は久遠監督に聞いていた。

 

「桜咲木中で何があったんですか!」

 

 これまでの采配から、鬼道は久遠監督を認めていた。久遠監督はチームをダメにするような監督ではない……と。であれば、10年前の一件は何があったのか、と。鬼道の中では信頼できる人に監督を任せたい……そう思って聞いたのだった。

 

「俺が説明しよう」

 

 答える気がない久遠監督に代わって、響木監督が説明を始める。

 10年前……桜咲木中はフットボールフロンティアの優勝候補の一角だった。だが、最強チームとの決勝前日、部員たちは対戦相手と喧嘩し、相手選手に怪我を負わせてしまった。

 

「最強のチーム……まさか!」

 

 ここで鬼道は感づいた。響木監督が最強チームと呼称していた相手は帝国学園……影山の仕組んだことだと推測される。事件が公の場で出回れば、サッカー部は無期限活動停止。部員たちはサッカーをする場を追いやられてしまう。久遠監督が相手に問題を大事にしないよう頼み込むも聞き入れてもらえず、チームを守るために自分が問題を起こしたとして決勝を棄権した。

 その事件のせいで、指導者資格が停止された。それから10年経ち、指導者資格停止処分が解けたところを響木監督が代表監督になってもらえるよう要請。処分中も久遠監督のサッカーへの情熱は衰えず、研究を続けていた……その熱意に響木監督は惹かれたと言う。久遠監督の指導力こそ、この代表チームには必要だと言う。

 

(……だから、データベースに事件のことがなかったわけか。詳しく掘り下げれば掘り下げるほど、ただの事件ではなく、影山が仕組んだものだと知られてしまうから……この人も、影山に狂わされた1人……か)

 

 それをフィールドで聞いていた十六夜は、改めて久遠監督を認め、この試合に勝つ意思を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、綱海が点を入れたタイミングで2人の選手が交代する。そして、ビッグウェイブスのキックオフと同時に……

 

『あぁっと!綱海には1人、十六夜には2人の選手がマークだ!綱海の得点力と、十六夜の行動力を警戒しての判断か!』

 

 マジかよ。思い切りがいいな……でも、普通は2人もマーク付いてたら、サポートどころかディフェンスにすらいけねぇんだけど?というか綱海も封じられたけど……そんなに警戒されるような仕事したかな?…………したわ。必殺タクティクス破って点を決めてさっきは決定的なパス出してって思い切り仕事したわ。もし、相手にいたらオレもこれ以上、仕事させたくないわ。

 試合も終盤戦。相手選手の3人が、こちらの2人にかかりきりとはいえ、こちらも攻め手に欠けてしまう。これまで点を決めた選手を抑えているというのが大きいだろう。しかも、向こうとしては、そういうのに長けた選手をぶつけているのだろうな。攻撃力、守備力共に減ったとは感じられない。……想定された動き。相手のキーマンを徹底的に潰すか……。

 状況的には、こちらが守りきれば勝ち。しかし、DFである綱海がおさえられてしまったために、こっちのDFの枚数も減ってしまっている。その上、キーパーである円堂はこの試合で、何本もシュートを打たれている以上、それなりに疲労している……現段階で100%このまま守り切って逃げ切れる保証はない。……そのためにも後1点が欲しい……後1点取ることが出来れば、確実に勝てると言っていいだろう。

 

「男ならこんなネチネチやってねぇで、ガツンとぶつかってきやがれ!」

 

 そう言った綱海は、自身のマークを強引に引き剥がしてボールを受け取る。そして、壁山へとパスを出した。

 

『なんとビッグウェイブス!全員でのマンツーマンディフェンスに切り替えた!』

 

 オレには相変わらずマークが2枚だが、ボールを保持している壁山以外には全員、誰かが付いている……マジかよ。普通、CBの土方にもマークが付くか……?……いや、逆か。ここで壁山からボール奪えば、最大級のチャンスだ。そして、点を取れば同点……延長戦に持ち込める。……最後の賭けに出たな。

 フリーの選手が居ない。周りを見渡して動揺する壁山に、土方をマークしていた11番がボールを奪いに来る。

 

「どうすればいいんッスか!?」

 

 11番から逃げるようにしてドリブルを始める壁山。

 

「1人で持ち込め!」

 

 そこに久遠監督からの指示が飛ぶ。11番のタックルを受けるが……

 

「負けないッス!」

 

 相手にタックルを仕返して、比較的大柄な選手を吹き飛ばした……やるじゃん、アイツ。……なら、負けていられねぇよな。

 

「……なぁ知ってるか?いくらここまでピッタリマークしていても……お前らじゃ、オレの動き出しには付いてこられねぇ」

「何を言っている?」

「お前だけは抑える」

「壁山!こっちだ!」

「任せたッス!十六夜さん!」

 

 ボールが飛んで来るが、まだ2人のマークがついたまま。少しずつ近づいていくボール……オレは周りを見て状況を確認する。そして、相手選手2人の視線がオレからボールへと移る……

 

「おせぇよ!」

「ここで強引に……!?コイツ、試合終盤なのに……!」

「全く運動量が落ちてない!?」

 

 その瞬間、トップスピードで2人のマークを振り払う。オレからボールに注目が移った関係で、アイツらは反応が遅れた。そしてそのまま、ボールの方へと走って行く……全く、こっちが何百本スプリントさせられたと思ってんだよ。まだ、あのスプリントの1本目の方が疲れていたわ。

 

「持ち込め!虎丸!」

「はい!」

 

 そのままダイレクトで虎丸の走る先へとパスを出す。前もって確認していたが、1番コースが空いているのがあそこだった。

 受け取った虎丸は自身のマークを振り払い、ドリブルで攻め上がる。

 

「……っ!」

 

 シュートを打とうとする虎丸。だが、シュートを打たず、やって来たディフェンスを躱して豪炎寺へとパスを出す。……今の、シュートフェイントに見えるが……打てなくはなかったよな?

 ボールを受け取った豪炎寺。炎を纏わせ、回転しながら空へと舞い上がっていく。その炎は渦を巻き、最高到達点でボールを左足で蹴り出した。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

 爆熱ストームやファイアトルネードよりも、炎の勢いは強くなり、更に回転が加わっている。海の壁を前にしても、炎の勢いは衰えることなく、海の壁を貫いた。そして、キーパーごとゴールへと突き刺した。

 

「爆熱スクリュー!」

 

 と、目金が名付けた。何だろう……やっぱり君の役目は戦術アドバイザーじゃないよね?

 

『ゴール!豪炎寺の新必殺技が炸裂!ダメ押しの1点が入ったぞ!』

 

 ピ、ピー!

 

『そしてここで試合終了!イナズマジャパン初戦突破ぁっ!』

 

「やったぁ!」

 

 喜びを表すメンバーたち。そして沸き上がる観客たち。

 そんな中で、豪炎寺は虎丸に声をかけていた。

 

「虎丸」

「何でしょう、豪炎寺さん」

「何故シュートを打たなかった。最後の場面、お前ならディフェンスが来る前に打てたはずだ」

「俺より豪炎寺さんの方が確実だと思ったので。では、失礼します」

 

 そう言って豪炎寺の前から去って行く虎丸。

 

「……やっぱり、気になるよな」

「十六夜か……お前も気付いていたか」

「まぁな。最後は決定的だったがそれだけじゃない。他の場面でも打てた場面がいくつかあったはず……」

「練習でもそうだった。アイツはシュートを絶対に打たない。決定的なチャンスがあっても、近くに居る誰かに渡している」

「……そうなのか……」

「……アイツがシュートを打たない理由……本当の理由は何なんだ……?」

 

 このイナズマジャパン……まだまだ問題が多そうだなぁ……

 

「……それにお前もだぞ。十六夜」

「オレか?何かやったか?」

「……お前も基本的にはフォローしかしていなかっただろうが。俺には実力を出し切っていないように見えたが?」

「あはは……手厳しいなぁ」

「いくらFWとは言え、お前のことだ。もっと相手からのシュート数を減らせたはずだろ?それに、お前の実力なら後半も点を取れただろ?最後のもわざわざダイレクトでパスしなくても、自分で持ち込むことも出来たはず……」

「すげぇな豪炎寺!いつの間にあんなシュートを完成させてたんだよ!」

 

 と、円堂がやって来たので、こっそりフェードアウトする。

 まぁ、なんというか……フィディオたちと比べるとビッグウェイブスの面々は、言っちゃ悪いがあらゆる面で遙かに()()()()()。皆はボックスロック・ディフェンスに手こずって、何度も挑戦していたが、アイツらなら1回見れば破っていただろう。それに、あのキーパー技もブラージの技に比べれば弱いし、シュートに関してもフィディオと比べたら天と地ほど差がある。

 ……これが世界レベルって、皆は思っていただろうけど、この程度じゃない。世界一になるには……世界一を目指すなら、この程度では圧倒的に足りていない。アイツらを越えるレベルにならないと。

 

「…………監督がゴミというのも分かるな……」

 

 このままでは運良く勝ち上がれたとしても、その先でフィディオたちや彼らと同じレベルのチームに惨敗するだろう。……もっと強くならないとな……オレ自身も。このままではアイツらと合わせる顔がない。

 

「もっと強く……」

 

 オレの呟きは、勝利で湧き上がっている空気の中に消えていった。



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砂浜での再会

「何読んでいるの?フィディオ」

「あの人から届いた日本の雑誌。日本代表の集合写真が写っているんだよ」

「ははっ、アヤトもしっかり写っているんじゃねぇか」

「そうだねブラージ。まぁ、彼が選ばれないとは考えにくかったけどね」

「でも、キャプテンマークをつけているのアヤトじゃなくて、バンダナの人だね」

「だな、アンジェロ。でも、性格的にアイツにはキャプテンは向いていないだろ」

「キーパ-でキャプテン……もしかして、アヤトがよく言っていたエンドウって人かな?」

「誰でもいいが、次会えるとしたら世界大会本戦……日本は勝ち上がってくると思うか?」

「分からないかな。アヤトは俺たちと渡り合うレベルまで成長した。でも、サッカーは11人でやるスポーツ……アヤト1人で勝ち上がれるほどアジアのレベルは低くないと思う」

「けどさぁ、アイツレベルの選手って今のアジアに居たか?少なくとも個人技でアイツを止められるヤツはアジアにいねぇだろ」

「そうだよね~最初会った時とは比べものにならない進化を遂げてるし。それにシュートもいくつか編み出してるからね……本職DFだけど」

「あっ……そういやそうだったな。アイツ、FWでもMFでもなかったわ」

「あそこまで全ポジションを高いレベルで熟せる選手は世界中探してもそうそう居ないよね」

「それに次会う時は、間違いなく前より成長していると思う。イギリスのエドガーやアルゼンチンのテレス、アメリカのディラン、マークたち同様、警戒すべき選手になっていると思うよ」

「ははっ、そうじゃなくちゃ面白くねぇ。それに、アイツがあの技を完成させていたなら、一度やり合ってみたいしな」

「まぁ、アヤトがあっさり負けちゃうと特にフィディオの面目に関わるよね?毎日のように練習していたんだからさ」

「どちらにせよ、俺たちが勝ち上がらないと意味はない。それに、レベルアップしたのは彼だけじゃないって見せ付けないと」

「そうだね!僕らも負けていられないよ!」

「さぁ、次の試合に向けて練習開始だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビッグウェイブス戦から日は流れ、オレたちイナズマジャパンは食堂に集められていた。

 

「FFIアジア予選、第2試合の対戦相手が決まった」

 

 初戦であるオーストラリア戦を制したオレたち。トーナメントである以上、次の対戦相手は、別の試合の勝った方……確か、タイかカタールのどちらか勝った方が当たると思うが、どちらになったのだろうか。

 

「カタール代表、デザートライオンだ」

「カタールは砂漠に囲まれた中東の国です。ずっと砂の上でサッカーをしてきた選手たちの体力と足腰の強さは並じゃないそうです」

 

 ……なるほど。ビッグウェイブスが海で鍛えたチームなら、デザートライオンは砂漠で鍛えたチームというわけか。

 

「彼らと戦うためには、基礎体力と身体能力の強化が必要だ。カタール戦までにこの二点を徹底的に鍛えること。いいな?」

「「「はい!」」」

 

 ……とは言え、その二点の強化って……何だか最近やってた気がするなぁ……気のせいかなぁ……?

 

「……あ、監督。オレっていつまであのメニューなんですか?」

 

 ビッグウェイブス戦後も、チームメイトと練習をせず、ずっと筋トレの日々……そろそろボールを使った練習がしたい。というか、いい加減チーム練習に混ざらなくていいのか?まぁ、監督の意図が何かあるならいいけどさ。

 

「今日から違うメニューになる」

「あ、そうなんですか?」

「……じゃあ、十六夜。付いてきてくれ」

 

 現れたのは……古株さん?一体、どこに連れて行かれるのやら……というか、絶対チーム練習じゃねぇだろ。明らかにオレだけどっかに連行されるだろ。

 

 

 

 

 

「また、十六夜さんだけ別メニューッスね……」

「確かにな。アイツとは連携の確認をしておきたいが……何かしらの考えがあってのことだろう」

「そうだな!それより、どんな特訓をすればいいんだ?」

「そんなの走り込むしかねぇだろ!走って走って強い足腰を身につけりゃいいんだ!」

「単純だがそれが一番か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古株さんに連れられ、そのまま車に乗り、連れて来られた場所は……

 

「…………砂浜?」

「久遠監督の指示で、試合当日の朝までお前さんはここで練習じゃ」

「……マジですか?」

 

 そう説明を受けるが……うぇ?マジで?遂に合宿所追放ですか?

 

「というか何するんですか?」

「そりゃ……」

「来たな、十六夜」

「八神か。……あれ?染岡に佐久間に……お前らどうした?」

 

 そう思っていると現れたのは八神と染岡、佐久間にシャドウ、青、目金弟の6人……八神以外は落選メンバーだな。というか八神さん、今朝から姿が見えなかったのは先にここに来てたからなのか……

 

「どうした?はねぇだろ、みたいな」

「じゃ、久し振り。元気だった?」

「そうじゃねぇよ!みたいな!」

「……で?どうしたんだよお前ら」

「ここは僕から説明しましょう。我々5人は久遠監督からの指示で、君の特訓相手に選ばれたんです」

「へぇ……」

「俺たちも代表入りを諦めたわけじゃない。それに、お前の特訓に付き合うことは、俺たちのレベルアップにも繋がる」

「……だから協力する」

 

 ……確か、代表メンバーは試合ごとに入れ替えることが出来るルールがあったな。円堂から軽くは聞いていたけど、彼らのような落選した人たちは、そこで立ち止まらず練習を続けているとかなんとか……

 

「ここでお前を倒せれば俺の株も上がる?みたいな」

「特訓の様子はお前の分だけじゃなくて、俺たちの分もマネージャーが監督に伝えてくれるらしい。だから、俺たちにとってはこの特訓は数少ないアピールポイントでもある」

「マネージャーではなくアドバイザーと呼べ。ちなみに練習メニューは既に貰っている。お前たち5人は、辞めたければ辞めていいからな」

「オレは?」

「拒否権があると思うか?代表チーム副キャプテン」

「ですよねー」

 

 ところで、副キャプテンがチームにほとんど関われていないのはよろしいのでしょうか?

 

「後、試合までは雷門中の合宿所ではなくこの近くで寝泊まりとなる。特訓の場所は主にこの砂浜だな」

「まぁ、一々移動するのも面倒だしな……」

 

 普段と違って地面が砂のところでの練習か……体力がいつもより奪われやすそうだな。

 ということで各自が軽く体操をした後……

 

「まずはあのコーンまでランニングで往復50本。そして、ドリブルで往復50本な。始め!」

「「え?」」

「何をボサッとしているんだ、おまえたち。他の者はもう走り始めているぞ」

 

 足下が砂のせいか、いつもと感覚がまるで違う。分かっていたことではあるが……体育館やグラウンドの方がマジで楽だな。

 

「遅いぞ十六夜!」

「分かってるっての!」

 

 闇雲に走ろうとしても、いつもと違って前に進めない。砂浜は走りづらい……無理やりはきかないな。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……とりあえず合計100本終了っと……」

 

 水分は端と端にセットしてあった為、こまめに取っていたが……マジでしんどいな。走る場所が変わるだけでここまでとは……

 

「次はラダーだな。そこに置いてある」

「残りの奴らは?」

「お前は待っていたいか?」

「いいや」

「だったら放っておけ。心配しなくとも個別に記録し、指示は出せる」

「ありがと。助かる」

 

 流石にアイツらに体力面で負けるほど柔じゃない……が。

 

「……アイツらの熱量やべぇな……」

 

 特に染岡と佐久間に関しては、ランニングの時は死に物狂いで付いてきていた。ドリブルも手こずってはいたが、極端に遅いわけではない。シャドウや武方、目金に関しても、必死になって付いてきている。……代表に選ばれた奴らも1回でも負けたら終わりの状況で必死だが、こいつらも選ばれるために必死なんだな。

 

「……なおさら、負けていられねぇな」

 

 ラダーでのメニューをこなしていると、ドリブルを終えたヤツがこちらのメニューに移ってくる。

 

「負けねぇぞ……!十六夜」

「染岡……いいぜ、ぶっ倒れるなよ」

「俺も忘れるなよ……!」

「…………俺もだ」

「ぜぇ……ぜぇ……まだまだ……みたいな!」

「はぁ……はぁ……僕も余裕ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

 砂浜で寝転がっていると、八神が声をかけてくる。

 1日も終わり、5人は疲れのあまりか、シャワーを浴びたら即爆睡した。オレもオーストラリア戦前後に地獄を見てなければ、即ダウンしていただろう。

 

「ハードと言えばハードだったな。……ただ、アイツらが居て良かったよ」

「ほぅ?」

「アイツらは全然諦めていない。代表の入替制度……代表として認めてもらえるように必死だ。打算で参加したやつや、自己研鑽のために参加したやつも居るだろうけど……それでも、アイツらは今日までサボっていたわけじゃない」

 

 終わらせる早さや程度の差はあるにせよ、全員がノルマをクリアしていた。

 

「だから、そういうヤツらが居るのにうかうかしていられない。間近でやってそう思ったよ」

 

 八神や古株さんは決してオレだけを贔屓はしていなかった。データや改善点は皆に等しく伝えられたし、最低限……ノルマの量も変わらなかった。

 

「八神、今から少し付き合ってくれ」

「まだ練習するのか?明日以降もあるぞ」

「知ってる。でも、まだ行けるから問題ない」

「そうか。お前がいいならいいけどな」

「それに、あの必殺技も早く完成させたいしな」

「じゃあ、軽くパスから行くぞ」

「おう!」

 

 軽くパス練習から始める。ただまぁ、下は砂なので転がらない。パス一つとっても色々と考える必要がある。

 

「なぁ、八神」

「何だ?」

「1つ頼んでいいか?」

「言ってみろ」

「――――――なんだけど、頼めるか?」

「その事か……分かった。明日中になんとかしてみよう」

「ありがと」

「気にするな。それも私の仕事だからな」

「それとさ。今はお互い忙しいけど、今度お互いに休みのとき……デートしないか?」

「なっ……!」

 

 そう言うと、珍しく八神がボールを蹴り損なって空振る。

 

「きゅ、急にどうしてそんな……」

「なんというか……付き合ってから、恋人らしいことしてないなぁ……って」

 

 例えば、この砂浜でもそうだろう。元の世界でも居たようなカップルは、きっと笑顔で追いかけっこしている。そうでなくても、せめて2人で何かしらのことで遊んでいるだろうが、オレたちはオレが走り、八神が走らせるという関係になってしまっている。なんと悲しいことだろうか。

 

「確かに付き合ってからお前が代表に選ばれて……一緒に居る時間は多いけど……」

「でも、彼氏彼女じゃなくて、選手とマネージャー……ああいや、アドバイザーだっけか。今もオレの練習に付き合ってくれるけど……正直、付き合う前も同じことしてたし。立場が違うだけで……な?」

「……そうだな……」

「だからなんというか……彼氏彼女って関係になったんだし、そういう恋人としての時間も過ごしたいなって」

「……その思いは嬉しい。……でも、私は今のままでもいい」

「というと?」

「私たちは世界と戦っているんだ。世界一を目指している途中なんだから、サッカー以外のことは考えなくていい」

 

 確かに、寄り道している時間も余裕もない……か。

 

「それに……私はこういう時間も好きだぞ。お前とサッカーをする時間、お前のプレーを見ている時間、お前が頑張っているのを支える時間……私の中には、そういう時間もいいものだって思えている自分がいるんだ。お前にとっては、この時間は昔の特訓してた時と同じかもしれない。でも、私にとっては、この2人だけの時間が居心地が良くて、とても好きなんだ。お前と過ごせる、一緒の景色を見れる時間が好きなんだよ」

「…………八神……聞いてて恥ずかしいことよくスラスラ言えるな……」

 

 何だろう。凄い顔が熱くなってきた……

 

「い、今のは忘れろ!よ、要するにだ!無理に恋人らしいことしなくていいってことだ!」

「分かったよ。でも、もし時間ができたら一緒に出掛ける。それでいいか?」

「……いいに決まっているだろう」

 

 どうしようか。うちの彼女が凄い可愛い。

 

「もうウォーミングアップは終わっただろう!ほら、あの技を完成させるんだろ!」

「ああ!」

 

 この後、かなり遅い時間まで練習したことを記す。



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砂浜での特訓

「久遠、十六夜の姿が見えんが……アイツはずっと別メニューか」

「えぇ。彼には既に必要な力はついていますので。彼には彼のメニューを熟してもらってます」

「アイツの能力は一線を画しているからな。だが、このままでいいのか?」

「よくはないでしょう。ですが、十六夜の問題を解決するには彼らの力が必要です」

「……十六夜の問題か。周りから見れば問題はないって言われそうだがな」

「響木さんもお察しの通りです。彼は周りより先を見て、実力をつけている。……ですが、そのせいで彼のレベルとイナズマジャパンのレベルはかなり開いてしまっている」

「エイリア学園の件からこのFFIが始まるまでの約3ヶ月。確かに円堂たちも成長した。だが、周りが自分より格上の世界レベルを相手に練習した十六夜と、自分たちより格上が周りに居なかった円堂たちでは、あまりにも成長の差があり過ぎる」

「そのせいで彼は本気を出せない。本気を出しても周りの選手がついてこない。今の十六夜綾人の本気に応えられる選手は日本に居ません」

「……それどころか、アイツの本気に答えられる選手はビッグウェイブス……アジア最強候補にも居なかった。だから本気を出せず、円堂たちの成長に期待している状態……か」

「そうでしょうね。もし、彼が本気を出していれば、ビッグウェイブスはもっと楽に、大差で勝てたでしょうね。……ですが、彼はそれをしなかった」

「それをしてしまえば、イナズマジャパンの勝利ではなく、十六夜個人の勝利になってしまう。たった1人の力で勝ち進めるほど、世界一という夢は簡単なものではないと、十六夜自身も分かっているからだろうな」

「救いなのは、彼の思いでしょうか。強くなりたい、誰かに勝ちたい……誰よりも世界一になるための明確なビジョンが見えています。そして、その為にチームメイトより優秀であっても強くなる努力を続いています」

「ああ。だが、その思いも行き過ぎれば……」

「えぇ。破滅してしまうでしょう。思いが強すぎた者の末路は想像の通りです」

「……チームプレーを重んじる雷門。その考えを受け継ぐ者が多く在籍するイナズマジャパン。その中で、本気を出すと誰も協力できなくなってしまう選手……か」

「その上、十六夜綾人という選手は個人技で戦うことに秀でています。チームとしてではなく個人。彼はイナズマジャパンの中で1番、誰かにあわせることを苦手とする選手でしょう」

「チームプレーと個人のプレー……確かに、今の十六夜にとって、チームプレーをすることは自分のやりたいプレーを封印している状態」

「えぇ。だからこの先必要になってくるのは、十六夜の本気を引き出せるチームになること。十六夜という武器は今のチームにとって扱い切れない代物ですから」

「だが、十六夜の本気に答えることが出来れば、このチームの戦術の幅は一気に広がるな」

「その為に、彼らには進化が求められるでしょう。ついてしまった差を埋めるような成長……十六夜がチームを見限り、1人で戦うことを選ぶ前に」

「まぁ、見限るという選択が起こらないようなケアはしているんだろう?」

「ケアはケアです。選ぶのは十六夜自身ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日……

 

「今日はそこまで」

 

 八神から終了の合図が出る。その声と共に、崩れ落ちる5人の身体……

 

「はぁ……はぁ……!相変わらずキツいな……!」

「昨日よりは……慣れると……思っていたんだけどな……!」

「お疲れーほら、タオル」

「ははっ……お前は余裕そうだな……十六夜」

「ありがとな……」

「まぁ、体力はある方だからなぁ……」

 

 膝をつき肩で息をしている染岡と佐久間……ただ、昨日よりは動きが改善されている。昨日の八神からのアドバイスで余分なところが少しずつ削られているようだった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「し、死ぬ……!」

「…………っ」

「お前らもお疲れ。クールダウンは忘れるなよ」

 

 そう言って砂浜で大の字になっている武方、目金、シャドウにもタオルを投げていく。彼らの場合は染岡や佐久間より体力が少なく、倒れ込んでいるが……まぁ、この特訓を生き残れればかなりの強化になるだろう。

 

「明日からはボールを使う練習が増えるからな。今日よりハードになる。しっかり休んでおけよ。アドバイスは後で纏めて行うからな」

「んじゃ、シャワー浴びてくるわー」

 

 そう言ってさっさと荷物を纏めて動き始める。

 

「アイツはバケモノかよ……よく平然と動けるな……」

「見ていたか?アイツの動きも昨日より改善されている……」

「負けていられねぇ……みたいな……!」

「そうですね……必ず……!」

「…………追い付く……いや、追い越す……!」

「だな……!明日も頑張ろうぜお前ら……!」

「「「おぉ……!」」」 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

『ふむふむ。だいぶ動きが良くなっているね』

「ペラーか……あれ?お前、お湯は平気だっけ?」

 

 シャワーを浴びているとペラーが現れる。……ペンギンってお湯大丈夫だっけ?

 

『オレは平気だよー』

「そう?」

『日本代表になってから綾人はフィジカル面でかなり強化されてるね。体力はもちろん、パワーやスピードも上がっている。それに体幹を鍛えているおかげで、前よりも軸がぶれないし、疲れにくくなっているね』

「……あんまり実感はないけどなぁ……」

『でも、筋肉もいい感じについているよ』

 

 そう言ってペチペチと身体を叩いてくるペラー。

 

『綾人のメインポジションであるCB(センターバック)は、1対1でのスキルは必要になってくる。綾人の分析力は一級品だけど、それを今以上に活かすにはやっぱり身体が重要になってくるからね』

「まぁ、確かに……な」

『その点、久遠監督もよく分かっているみたいだね。そう思うとあの人はやっぱり凄いね』

「それはなんとなく分かる」

 

 ビッグウェイブス戦や、そこに至るまでで分かったが、あの人の言っていることは間違っていない。言われた時点では理解できないことも、後にその意味がしっかりあることに分かるようなものばかりだ。……まぁ、だからこそ、そんな人からすればオレはテクニックやチームプレーよりフィジカルが問題視されているのだろうけど。……確かに今までフィジカル面を特化して鍛えた事ってないしなぁ……というか今まで我流が多すぎた気がする。いい感じに修正しているってことかな?

 

「というかお前……サッカーに詳しくなってないか?」

『ふっふっふっ、オレだって成長するんだよ』

「そう……流石は智将ってとこか?」

『えっへん』

 

 胸を張るペラーをよそに、身体を拭き、髪を軽く乾かして外に出る。

 

「十六夜。昨日頼まれてたものだ……って服を着ろバカ者!」

「いってぇ!?下はジャージもしっかり履いてるだろ!?」

「上を着ろ!上裸で現れるバカがどこに居る!?」

「えぇ……シャワー浴びたばっかりで、まだ暑いんですけど……」

 

 外に出た瞬間、顔を真っ赤にした八神に叩かれました。痛かったです。……いや、だって暑いじゃん?涼しくなるまでだから……ねぇ?あ、これ以上殺される前にしっかり着ますよ。うんうん着る着る。……というか、いつぞやの滝行とかでオレの上裸とか見慣れてるだろうになんでぇ……

 

「まったく……お前ってやつは……とにかく行くぞ」

「へ-い」

 

 ということで移動する。八神に頼んだものというのは……

 

「さてさて、デザートライオンの分析でも始めますか……あれ?八神も見るのか?」

「一応な。これでも戦術アドバイザーだからな」

 

 戦術アドバイザー関係あったか?まぁいいか……

 

「1回戦の試合映像……まぁ、同じように向こうも分析しているんだろうな」

「そうだな。1回戦の時と違い、2回戦からは相手の情報を手に入れる難易度は一気に下がる。既に1度戦っているのだからな」

 

 そう言って試合映像が流れ始める。

 そして、事件は後半に起きた。

 

「…………タイ代表……これで何人目だ?十六夜」

「6人目……だな」

 

 後半開始15分……最後の交代枠が使われた。

 

「交代した6人……いや前半から出ていたメンバーの動きが悪い。どういうことだ?」

「ふむ……」

 

 前半はデザートライオンが攻められる展開が多かったが、後半開始早々には拮抗し、今ではデザートライオン側が攻める展開へと変わっている。タイ代表も粘りはするものの、デザートライオンの攻めの前にやられてしまう。

 

「……もう一度前半から見せてくれ。早送りでいい」

「ああ」

 

 そして、再び試合の最初から流していく。

 

「……まず、デザートライオンは接触プレーが多いな」

「そうだな。ただ、危険なプレーと言うより荒いプレーが多い。試合を通してカードはもちろん、ファールの1つも取られていない」

「そういうチームなんだろ。……ってやっぱりかぁ……」

「やっぱりって?」

「気付かないか?さっき見ていた後半終盤のプレーと前半のプレー……こいつらの運動量がほとんど変わってない。体力が並じゃないってのは事実らしいな」

「なるほど……それなら、足腰の強さも頷ける。前半から1対1で当たり負けする展開がない。それどころか、後半は2対1みたいな数的不利に陥っても強引に突破していた」

「テクニックで攻めるというよりパワー重視型……それも、チーム全体がってことか」

「……だとすると、こっちはどう戦えばいいんだ?」

「まず、デザートライオンがやったことは前半で相手の体力を削り、後半で攻撃の枚数を増やして攻め潰すって感じだろう。前半で体力を奪われた状態で、後半の攻撃を耐えきれずに負けたと見える」

「そうだな……後半は足が止まってしまう選手が多く居た。それは体力の限界を迎えてしまったからってことか」

「息が上がり、体力が尽きそうになれば、パフォーマンスは一気に下がる。走る速さ、キックの威力と正確さ、判断のスピードなど諸々のステータスが下がってしまう」

「確かに、必殺技の威力もそうだな。疲れ切った状態で打つのと、ベストな状態で打つのでは雲泥の差だ」

「……こういう相手に勝つには……チーム全体の体力の底上げは必須だな」

 

 その日の天候にもよるが……ビッグウェイブスの時よりはキツくなりそうだな。ただ、必殺技はいくつかあったが、ボックスロック・ディフェンスみたいな必殺タクティクスは使っていなかった。そういう戦術がないのが救いか……いや、隠しているだけって線もあるから一概には言えないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次!50本目!」

「おう!」

 

 翌日、宣言通りにボールを使った練習を本格的に取り入れることになった。昨日までより走る量を減らし、1対1での練習を取り入れている。明日以降は2対2やパス練習が入ってくるが……

 

「そこだろ」

「……っ!」

 

 オフェンス側の染岡がフェイントで突破しようとしたところを見抜き、ボールを奪うディフェンス側の十六夜。

 

「強すぎ……みたいな」

「ですね……しかも僕ら5人と連戦ですよ……」

「……1回もシュートまで持って行けていない……」

「これが現状の実力差……か」

 

 1人につき50回、この1対1を行ったが、オフェンス側の5人は誰一人シュートまで持って行けなかった。十六夜の250連勝……本人の希望もありノンストップで行ったが()()だった。

 

「ふぅ……次、誰だ?」

「終わりだ」

「あれ?そうなのか?」

「お前たちは負けた回数だけドリブルで往復だ。始め!」

 

 3日目ともなれば、開始するときに文句の声が上がらなくなった。これが慣れというものだろうか。いや、きっと文句を言う時間がもったないと思い始めたのだろう。……うむ、いい傾向だな。

 

「ちなみにオレが負けた時は?」

「負けた回数×100回走っていたな」

「え?オレだけ掛け算はやばくないか?100倍はやばくないか?」

「まぁ、最大で25000回だったってことだろ?」

「死ぬわ。流石に死ぬわ」

 

 とか何とか言っているが、時間をかければ終わっただろう。というより、この男は最初から負けるつもりがなかっただろうな。

 

「で?この後のメニューは?」

「今日はこれで終わりの予定だ」

「そう?じゃ、八神。アイツらが走っている間、少し必殺技の特訓をするか」

「いいけど、何をするんだ?」

「お前、海、シュート打つ。オレ、ペラー乗る、拾う」

 

 何故か片言だが言いたいことは伝わった。要するに、ライド・ザ・ペンギンのスピードと精度向上だろう。

 

「ブラッドムーンV2!」

 

 その要望に応えるべく、進化したブラッドムーンを水平線上に向かって放つ……昨日までも思ったが、砂に足を取られて少し威力が落ちるな……次は改善しなければ。

 

「……え?」

「どうした十六夜。ボールがどんどん遠くに行くぞ?」

「いや……え?何で必殺技?普通のシュートでよかったんだけど……」

 

 水しぶきをあげながら進んでいくボールを2人で眺める……なるほど。こうやって打って飛距離を伸ばす特訓も出来そうだな。いや、あえて足が軽く海に浸かる位置から打てば……

 

「ブラッドムーンV2!」

「ちょっ、2本目は聞いてねぇ!?」

 

 思った通り、さっきまでより負荷がかかっている……これはいい特訓だな。

 

「ほら、どんどん打っていくぞ!ブラッドムーンV2!」

「嘘だろおい!?い、行くぞペラー!ライド・ザ・ペンギン!」

 

 シュートに向かって、飛んでいくペラーと十六夜。なるほど……

 

「私はアレに負けないように打てばいいんだな」

 

 この後、ドリブルを終えた他の者もシュートを海へと打っていた。ちなみにボールは十六夜が取ると、他のペンギンたちが私たちのもとまで届けてくれる便利なシステムが出来上がっていた。

 そして、日も暮れた頃……気付けば、十六夜以外の面々のキック練習及び必殺技の練度上げに変わっていた。その中でも特に染岡は、新しい必殺技を撃とうと試行錯誤していたようで……とりあえず、最後は十六夜が涙目で海から帰還した。何故泣きそうになっていたかはよく分からないが、私も色々と改善点が見つかったのでよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからも地獄の特訓の日々は続いた。そして、そんな砂浜での強化合宿を終え、遂にデザートライオン戦当日を迎えた。

 

「悪い、到着が遅れた」

「すみません、遅れました」

 

 渋滞にはまり、スタジアムにギリギリの到着となったオレと八神。

 

「十六夜!よかった!間に合ったんだな!」

「悪い……ん?そのクーラーボックスはなんだ?」

「乃々美さんが持ってきてくれたんッスよ」

「…………誰?」

「あーお前は居なくて知らなかったよな?えっと……」

 

 と、オレが居ない間の出来事を言われた。簡潔にまとめると、虎丸の自宅は定食屋で、身体の弱い母親に代わって1人で切り盛りしていたことが判明。で、その自宅の隣にある弁当屋の娘である乃々美さんって人も、虎丸の自宅を手伝ってくれていたよう。

 

「揃ったな。スターティングイレブンを発表する」

 

 そんな話を聞きつつ準備を進めると、久遠監督から今日のスタメンが発表される。

 

「FW、基山、豪炎寺、吹雪。MF、十六夜、鬼道、緑川。DF、風丸、土方、壁山、綱海。ゲームキャプテン兼GK、円堂。以上だ」

 

 ……今度はMF……DFじゃないのか。

 

「……十六夜」

 

 そう思っていると呼ばれたので久遠監督のところに行く。

 

「――――――――――」

 

 耳打ちであることを告げられる。

 

「いいな?」

「はい」

 

 なるほどねぇ……試合映像を見る限り、ある意味では考えられたことか。まぁ、指示に従って行きますか。



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VSデザートライオン ~哀れな旅人~

上手く分けられず、気付けばこの作品では珍しい8000字オーバーです。


 ピー!

 

 イナズマジャパンボールで試合開始。ボールは豪炎寺からヒロトに渡った。相手の10番がスライディングでボールを奪おうとするも、それをはねのけた。

 

「鬼道くん!」

 

 ボールは鬼道に渡る。そこに立ち塞がったのは9番で、ショルダータックルを仕掛ける。

 

「豪炎寺!」

 

 そんな相手を押し返して、豪炎寺へとパスを出す。

 

「これ以上進ませるな!」

 

 相手キャプテン、ビヨンの指示で4番、5番がブロックに向かう……が。

 

「吹雪!」

 

 冷静に隣を走っていた吹雪にパスを出す。そして、

 

「ウルフレジェンド!」

 

 必殺技を放った。

 

「うおぉぉっ!」

 

 シュートはビヨンを直撃。そのままビヨンを吹き飛ばす。

 

「バカな!」

「任せろ!」

 

 シュートはビヨンの粘りで威力をかなり削られたようで、キーパーがパンチングで弾き飛ばした。

 なんというか……余りにも呆気なく、相手ゴール前まで進めてしまったな。前回のオーストラリア戦とは大違いだ。しかも、こっちのコーナーキックから試合再開でまだまだこっちのチャンスだし……

 

「俺に蹴らせてくれ。十六夜」

「ん?分かった」

 

 コーナーキックを蹴りに行こうとすると、風丸が声をかけてくる。無策で蹴らせてくれと頼んだわけでもなさそうだし、任せてみるか。前の試合ではフリーキックの時に頼みを聞いてもらったし。

 息を整える風丸。そして……

 

「これが俺の新必殺技だぁ!」

「はい?」

 

 What happened?急にどうした?そう思って見ていると風丸の蹴ったボールは大きくあげすぎ……誰の目にもミスキックに映った。しかし、そのボールは恐ろしいほど回転が加えられており、どんどん曲がっていく。そして、そのボールの行き先は……

 

「このぉっ!」

 

 キーパーもそのボールの行き先を察知して手を伸ばし跳び上がる。だが、反応するのが遅かったため、ボールは伸ばされた手に触れることなく、ゴールの右上の角へと刺さった。

 

『なんと!コーナーから直接ゴールに叩き込んだぁ!』

 

 何だろう……必殺技って言ってたけど、アレなら元の世界でもできる人居そうだな。……というか、ああいうものをこの世界に来てから最初に見たかったなぁ……今更だけど。本当に今更だけど。というか、アレも必殺技判定でよろしくて?

 

「大きく弧を描いてゴールを抉るシュート……そう、名付けるなら――」

「バナナシュート」

「いいかも知れませんね!」

「何で先に言っちゃうんですか!」

 

 かわいそうに。目金の仕事が冬花に盗られちゃったよ。

 

「静かにしろ目金」

「ぐぬぬ……!」

「……だが、やはりデザートライオンは接触プレーが多いな。それに……」

「それに……なんでしょう、八神さん?」

「いや、気のせいだろう。気にするな」

 

(映像で見た通りと言うべきか……デザートライオンはこの暑さで誰も汗をかいてる様子がない。……砂漠で鍛えられている以上、この程度の暑さには慣れているみたいだな)

 

 何かベンチでマネージャーたちが話し合っているが、気にしないでおこう。とりあえず、試合開始早々、1点先に取ったのはデカい。

 デザートライオンのキックオフで試合再開。10番が攻め上がってくるが……

 

「止めさせてもらう!」

 

 緑川がボールを奪う。10番も驚いているように見えたが、そんなのお構いなしに上がっていく。

 

「吹雪!」

 

 緑川を止めようと2人がブロックに来る。それを見てか吹雪にパスを出すも、

 

「ヤツを止めろ!」

 

 さっきシュートを打ったこともあってか、吹雪に別の2人がブロックに向かった。その動きを見て、吹雪はボールを受け取らずスルーする。スルーされたボールの先に居たのは……

 

「ナイスだよ!吹雪くん!」

 

 ヒロトだった。

 

「止める!」

 

 だが、すかさず別のヤツがブロックに行く。

 

「こっちだ!」

「頼んだよ!鬼道くん!」

 

 そして、ボールはフォローに走っていた鬼道へと渡る。キーパーと鬼道の間には誰も居ない。決定的なシュートチャンスだが……鬼道って単独の必殺シュートあったっけ?まぁ、普通のシュートでも工夫して打てば――

 

「十六夜、借りるぞ!」

「――はい?え?何を?」

 

 鬼道が急に何かを借りるとオレに言って、ボールを上空へと蹴り上げる。借りる?お金か?それとも何かの道具?うーん……でも、そんなの今言うことか?

 そう思っていると、鬼道は跳び上がって……

 

 ピー!

 

 空中で指笛を吹いてペンギンを呼び出した。

 

「…………」

 

 何か見覚えあるなーって思っていると、ペンギンたちはボールに嘴を突き刺して回転、そこを……

 

「オーバーヘッドペンギン!」

 

 鬼道がオーバーヘッドキックで打ち出し、シュートと共にペンギンたちがゴールへと向かっていく。

 

「借りるってオレの必殺技かよ!?」

 

 放たれた必殺技は、キーパーが必殺技を出す前にゴールへと刺さった。

 

「き、鬼道さん?いつの間にオレのオーバーヘッドペンギンを……?」

「俺も単独で打てるシュートが欲しいと思ってな。お前の技が丁度よかったんだ」

「あ……はい」

 

 ただ、気のせいかもしれないけど、鬼道のオーバーヘッドペンギン……あのペンギンって2号のペンギンだよな?まぁいいけど……

 

「そう言えば……」

 

 借りるって事は返されるってことだよな?でも、必殺技を返すことなんて出来ないし、さっきのは借りるじゃなくて貰うの方が言葉的には合ってるような……

 

「って、そんなことどうでもいいわ」

 

 相手キーパー……必殺技、使えなくはなかったんじゃないのか?たまたま反応出来なかっただけか?それとも……こちらに勢いをつけさせて、攻撃を重視させることが目的か?

 前半はまだ1/3も終わっていないのに2-0……普通なら喜ぶべき展開だろう。だが、分析した限りだと、この程度は彼らにとって計算の内……勝負は後半だろうな。

 

「この調子でもう1点取っていくぞ!」

「「「おう!」」」」

 

 確かに、後半に向けてもっと点差を広げておく。逃げ切るために点はあればあるほどいいんだが……

 

「マンツーマンディフェンス……か」

 

 壁山が相手FWからボールを奪ったと同時にこちらのFW、MF陣に1人1人ディフェンスがつく。ビッグウェイブスの時と違うのは、DF陣には一切マークがついていないことだろうか。

 

「…………?」

 

 ただ何とかいうか……寄せが甘い?フィジカル重視の割に、こちらをパワーで抑えこもうとしていない?よく言えば隙だらけで、こっちは動きたい放題なんだが……ふむ。

 

「こっちだ!」

「はいッス!」

 

 そんな中、鬼道が自身のマークを振り払ってボールを受け取る。

 

「行かせない!」

 

 ただ、振り払われたディフェンスも負けじと食らいついていく。ぶつかる肩と肩。そんな中、他の面々も自身のマークを振り払おうと、動いていて……

 

「こっちだ!」

「頼んだぞ!緑川!」

 

 ボールは緑川に渡った。

 

「これで3点目だ!アストロブレイク!」

 

 フリーになった緑川がシュートを放つ。ボールは地面を抉りながら進んでいく。そんなシュートを前に相手キーパーは足で砂煙を巻き上げながら上昇し……

 

「ストームライダー!」

 

 砂煙は竜巻のようになり、その竜巻をシュートにぶつける。竜巻の中に入ったシュートは威力を失い、キーパーの手の中におさまった。

 

「クソッ!」

「こんなものか」

 

 ボールはキーパーから前線へと送られる。当然ながら、マンツーマンディフェンスをしていた彼らも攻撃に移っていた。

 

「来るぞ!ディフェンス!」

 

 鬼道が声をあげる中、今の一連の流れを確認する。あれぐらいのディフェンスならビッグウェイブスの時に比べれば、突破するのは苦じゃない。だが、試合もまだ前半のここでやって来たその目的は……こちらの体力を消耗させること。キーパーが必殺技を使ったのは、これ以上の失点は流石にマズいと感じているから……

 

「おっしゃぁ!カウンターだ!」

 

 土方がボールを奪い取る。それを見て、全員が敵陣へと攻める姿勢を見せる。相手はマンツーマンディフェンスをしてくる……

 

「……緑川への……プレスが甘くなった?」

 

 心なしか緑川へのマークが緩くなる。代わりに豪炎寺へのマークが厳しく……いや、よく見ると吹雪も厳しめか……後、相対的にはオレも。ただ、それにしては鬼道に対して甘いな……つまり、点を取る能力が高いヤツを重点的に……ってことか。鬼道がそこまでの理由はさっきのを見て、必殺技が使えれば止められると踏んで?それとも……敢えて甘くすることで鬼道を動かして、早めに体力を枯渇させるつもりか?

 

「鬼道!」

「ああ!行け、緑川!」

 

 ボールは土方から鬼道、そして緑川へと渡った。

 

「今度こそ……!」

「行かせん!」

「なっ……!」

 

 アストロブレイクを打とうとした緑川からボールを奪うビヨン。……いくらマークが緩くなったからと言って、簡単にシュートを打たせてもらえるわけではない……か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前半終了間際。あれから点は動いていない。……そして、イナズマジャパンが()()()()攻める展開がほとんどだった。対する相手チームのシュート数はゼロ……すべての攻撃を、DF陣まででブロックし、キーパーである円堂までたどり着かせなかった。こちらも攻めてはいたが向こうに阻まれ、点を決めることはなかった。

 あと一歩足りない……そんな中、オレは緑川に声をかけた。

 

「はぁ……はぁ……クソッ」

「緑川、ちょっといいか?」

「十六夜か……どうした?」

「前半ラストに1点決めたい。協力してくれないか?」

「もちろん構わないが……何で俺なんだ?」

「まず、お前も感じていると思うがアストロブレイクじゃゴールを決めるのに少々弱い」

「クッ……」

 

 緑川が苦い顔をする。あの後も何回かチャンスがあって、彼はアストロブレイクを放っているが全て止められているからだ。

 

「だが、そのお陰でお前へのマークはFW、MF陣の中で1番緩い」

「決められないと分かっているから……だろうな」

「ああ。奴らのプレーからはお前じゃ決められない……お前のことを無意識のうちに舐めているように感じる。だから、その慢心をつく。乗ってくれるか?」

「……分かったよ。油断大敵……油断している相手にひと泡吹かせてやるさ」

「オーケー」

 

 ということで、簡潔にオレの策を伝える。

 

「そんなこと、練習もなく出来るのか?」

「そこはお前を信じている。心配すんな、失敗しても2-0で終わるか3-0かの違い。やるだけの価値はある」

「ぶっつけ本番で失敗しても大きな支障は無い……そして、成功すれば1点入るか。分かった、やってみる」

「ああ、頼んだぞ」

 

 そのまま鬼道のもとに行き、次のボールはオレに渡すようにお願いする。鬼道は何か策があるんだなと言って了承。……さて、これで準備は整ったな。

 相手ボールのスローインで試合再開。

 

「おっしゃぁ!」

 

 ボールを奪ったのは綱海だった。

 

「綱海!十六夜だ!」

「おう!頼んだぜ!」

 

 ボールはこちらへと飛んでくる。

 

「お前にはゴールを向かせない!」

「2対1だ!ここで止めてやる!」

「あー何か警戒されてる感じ?」

 

 2人の選手が背中越しにブロックしてくる。前を向かせないように力を加えてきて……おかしいな?この試合ではまだ何もしてないんだけど……何でこんな警戒されているんだ?でもまぁ……

 

「……っ!?コイツ……!?」

「なっ……なんだこの力!?」

「悪いけど、その程度で止められると思うなよ。じゃ、頼むわ」

 

 やってきたボールをダイレクトで緑川に向けて蹴って渡す。そして、2人から距離を取る。

 

(今の……相手を手で押さえ込んでいた?ボディブロック……ファールにならないように上手く手を使って二人の選手を押さえ込む……そう言えば、合宿でも思ったが手の使い方が前までと変わったのか?)

 

「ふっ、何度打とうと無駄だ。もっとも、打てればの話だが」

「言ってろ!次こそ決める!」

 

 ブロックに行ったのはビヨン。まぁ、いくら打たれても決まらないとは言え、敢えて打たせる理由もない。ボールを奪おうと、激しくプレスを仕掛ける。

 

「こんなものか!」

「くっ……!」

「緑川!」

 

 そんな緑川へ声をかけたのはヒロトだった。

 

「お前なら突破できる!見せてやるんだ!」

「ヒロト……ああ!」

 

 その声に答えるようにして声をあげる。そして……

 

「うぉおおおお!」

「な、何だ!?」

 

 白い光……助走を軽くつけ、身体を白熱化させ、電光石火のような速さでビヨンを抜き去った。

 

「名付けるなら、ライトニングアクセル!」

 

 新しい必殺技、ライトニングアクセルでビヨンを抜き去る。その様子を見て他のディフェンダーは緑川から今までとは違う何かを感じ、シュートコースを塞ごうと迫る中、緑川はアストロブレイクの体勢に入った。

 

「行くぞ、十六夜!」

「いつでもオッケー」

 

 それを見てダッシュで駆け上がっていく。そして、ジャンプをして跳び上がる。

 

「アストロ!」

 

 緑川はアストロブレイクを放った。放った先はゴールではなく上空。本来は地面を抉るように進むシュートが空高く飛んでいく。

 

 ピー!

 

 ボールがオレの頭上に到達した段階でペンギンたちを呼び、6匹のペンギンがボールに喰らいついて回転する。ボールに纏っていた紫色のオーラはペンギンたちへと移り、ペンギンたちの色が濃い紫へと変わっていく。

 

「ペンギン!」

 

 そんなボールに向かってオーバーヘッドペンギンを放つ。ペンギンたちは1度六方に散らばると、再びボールの後ろに集結し……

 

「……っ!なんて……大きさだ……!」

 

 ペンギンたちがボールを押し、シュートは加速する。そんな中で、ペンギンたちに取り込まれたオーラがボールへと帰って行き、最初よりも一回り大きな紫色のオーラを纏ってゴールへと突撃していく。

 

「ストームライダー!」

 

 ボールと共に6匹のペンギンが横並びとなって、ゴールへと突撃していく。ゴール前には相手キーパーの必殺技により砂の竜巻が出来ているが……

 

「想像以上のシナジーってとこか……」

 

 正面からぶつかって、竜巻は霧散する。ボールはゴールに刺さった。

 

『ゴール!緑川と十六夜の連携シュートがゴールに刺さった!3-0!イナズマジャパン突き放しました!』

 

 ピ、ピー!

 

『ここで前半終了のホイッスル!デザートライオンはこの3点差をどう覆してくるのか!後半戦も楽しみです!』

 

「やったな、緑川」

「ああ……!」

「それに、シュートを放つ前のアレも凄かったじゃん。この1点はお前のものだ」

「ありがとな。でも、お前の協力がなければ決められなかった……」

「まぁ、オレもあそこまで噛み合うとは思わなかったけどな」

「だけど、次は協力がなくてもアレぐらいのシュートを打ってやる。今ので、何か見えた気がするんだ」

「そうか。それなら試してよかった」

 

 そんなやり取りをしつつ、ベンチへと戻っていく。緑川を始め、他のメンバーはベンチへ戻るとすぐに座り込んでしまった。

 

「皆お疲れ様!」

「ありがとな!よし、後半もこの調子で行こうぜ!」

 

 円堂が木野からタオルを受け取りつつ、声をかける……が、出ていたメンバーは全員息が上がり、答える気力すらなさそうだ。前半だけで1試合分以上の体力を持って行かれているように思える……

 

「ほら」

「ああ」

 

 八神から水分を受け取る。

 

「お前……ほとんど走ってなかっただろ。それにボールにも最後の得点以外ほとんど触れてない」

「流石、よく見てる」

「まさか……バテたとかはないよな?」

「なわけ。この程度でバテるほど柔な鍛え方されてねぇ」

「それもそうか」

「なぁ、何か気付いたか?」

「映像で分析した通りって印象だな。タイ代表も、前半は一方的に攻めていた」

「オレも同感だ。……敗北したチームと似たような道を辿っている」

「そうだな。それに……」

 

 八神が指をさしその先である相手のベンチを見る。こちらは出ていたメンバーのほとんどが息が上がって、座り込んでいるのに対し……

 

「誰1人息が上がっていない。体力的には余裕と言っていいだろうな」

「……そうだな」

 

 余裕そう……と言うのが素直な感想だった。なるほど……ここまで差が出るのか。

 

「監督、いいんですか?」

「まだだ」

 

 何を……と聞いていないが、伝わっているのだろう。

 監督も彼らがどんな風に勝ち上がったのかは知っているだろう。まだ……ということは、動くべきはもっと先……か。流石に手遅れになる前には動くだろうし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ、ピー!

 

 後半開始、デザートライオンのキックオフで始まった。相手はFW3枚という攻撃的な布陣に切り替える。3点差で後がないから、攻めることを重視する……って考えるのが妥当だろう。だが、1回戦も同じように後半は攻撃重視に戦術を変えてきた。やはり、前半はリードされてもいいからなるべく失点を減らし、後半で一気に巻き返す……という作戦で動いているのだろうか。

 10番がドリブルで攻め上がってくる。それに対して……

 

「緑川チェックだ!」

「分かってる!」

 

 鬼道と緑川の2人がブロックに行く……が、2人まとめて吹き飛ばされた。

 

「詰めろ、土方!壁山!」

「おう!」

「はいッス!」

 

 更に土方と壁山の2人がかりで止めに行くも、あっさり抜かれてしまいゴール前へと到達される。

 そして、円堂と1対1になり、シュートを放つ。

 

「正義の鉄拳G3!」

 

 シュートは弾かれ風丸の下に。風丸はボールを外に出して試合を止めた。

 後半開始1分足らず……相手の10番1人にこっちの4人が呆気なく抜かれてしまい、ゴールまで辿り着かれた。

 

「なんでこんな簡単に……?」

 

 円堂が今のプレーに疑問を持つ中、

 

 ドサッ

 

 何かが倒れる音が響く。辺りを見渡すと、倒れて動けなくなった緑川の姿があった。

 全員で駆け寄ると、肩で息をし、動けなくなっている緑川の姿が……

 

「どうした?こんなに早く息が上がるなんて」

「ずっと特訓をしてきたツケが回ってきたようだ……」

 

 立とうにも、足が震えてしまっている。……精神はともかく身体が限界を迎えている様子だ。

 

「すまない。皆の足を引っ張ってしまって」

「何言ってるんだ!お前のお陰で1点決めてるじゃないか!」

「だから、皆の足を引っ張ってるなんか言うなよ」

「それでも……!最後まで立っていられないのが悔しいんだ……!」

 

 円堂とヒロトが支えながら、緑川をベンチの方まで運ぶ。代わりに入ってきたのは栗松だった。これで1人目の交代枠が使われたことになる。

 デザートライオンからのスローインで試合再開。10番からのパスを栗松がカットした。

 

「一気に追加点でヤンスよ!」

 

 そのままドリブルで攻め上がる栗松。だが……

 

「やはりか……」

 

 攻め上がるイナズマジャパンの他のメンバーの足取りは重い。具体的には、ドリブルをしている栗松に追いつけていないのだ。

 ……緑川は特訓のツケと言ったが、そんなのは些細な違いだろう。緑川も他のメンバーも、デザートライオンによって前半のうちに体力を奪われている。

 

「皆、狩りの時間だ!」

 

 そう指示を出すデザートライオンのキャプテンであるビヨン。その声に他のメンバーの目の色が変わった。捕食者としての目……まるで、この時を待ちわびていたかのような目……

 

「しまったでヤンス!」

 

 ビヨンが栗松からボールを奪う。そのままデザートライオンのメンバー全員によるカウンター攻撃……

 

「来るぞ!ディフェンスを固めろ!」

 

 円堂の指示が飛ぶ……が、スタミナを奪われ、動きが鈍くなっているせいで、間に合っていない。

 ボールは10番に渡った。ブロックに行ったヒロトと土方がタックルで吹き飛ばされる。ゴール前には壁山と綱海、対して向こうは9番と10番の2枚。数の差はない……

 

「行け!」

「させるか!」

 

 10番から9番へループパスが通る。そのボールに向かって9番が跳び上がり、ヘディングを決めようとするのを、綱海も跳び上がってヘディングで対抗しようとする……空中での激突。徐々に綱海が押され……

 

「綱海!」

「吹き飛べ!」

 

 円堂が綱海を支えようとするも、円堂、綱海の2人ごとボールをゴールに叩き込んだ。……というか、2人纏めてゴールの中に叩き込むとか……どんな荒技だよ。力業過ぎるだろうが。

 

「な、なんて力だ……!」

 

 円堂は立ち上がる……だが、

 

「綱海?おい、綱海!」

 

 綱海が倒れたまま動かない。いや、動けないと言うべきか。しかも、それだけじゃない。

 

「ヒロト、大丈夫か?」

「土方、立てそうか?」

 

 その前に吹き飛ばされたヒロトと土方も立ち上がることが出来ていない。ラフプレーによるダメージ+体力の限界っていったところか。

 

「ここからが俺たちのサッカ-の始まりだ」

 

 そんなこちらの様子を見て、宣言したのはビヨン。後ろにはデザートライオンのメンバーが並ぶ。

 

「砂漠でサッカーしてきた俺たちにとって、この暑さは当たり前。いわば、この暑さこそ俺たちの本当の力を発揮できるステージなのさ!」

「鍛え上げられた身体と、無限の体力……それが俺たちの最大の武器!」

「さあ、もっと暑くなれ!そして砂漠に迷い込んだ哀れな旅人に敗北を……!」

 

 前半のラフプレーはこちらの体力を削ぐため……そして、後半でフォーメーションを変えてきたのは、そんなオレたちをその攻撃力で仕留めるため。点と点が線で繋がり、皆の心に敗北の足音が聞こえてくる。

 そんな中でオレはただ1人、静かに時を待っていた。




習得技紹介

アストロペンギン 
属性 林 成長タイプ V 
パートナー 緑川
緑川(1人目)が一足先にジャンプした十六夜(2人目)に向かってアストロブレイクを放つ。ボールが十六夜の頭上まで到着したところで指笛で6羽のペンギンを呼び、ボールに咥え込ませて高速回転させる。そこでボールを覆う紫のオーラがペンギン達に移った所でオーバーヘッドキックを放つ。その後、一度六方に散ったペンギン達がボールの後ろに一斉突撃する事でボールを加速すると同時にオーラをボールへと移し返し、一回り大きくなった紫色のオーラを放つボールと六羽のペンギンが横並びにゴールへ向かって飛んでいく。
h995様よりいただきました。

割と多くの人が気になっていたと思いますが、鬼道さん、オーバーヘッドペンギン習得です。


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VSデザートライオン ~ペンギンVSライオン~

おまけ付きで8000字オーバー……おまけなくても7000字くらいはあると思う。
何故おまけがあるか?気付いたら書いてたよね、うん。


 後半開始早々に1点を決められ、3-1の状況。体力切れを起こした綱海、ヒロト、土方の3人が交代して、代わりに入ったのは飛鷹、立向居、木暮。既に交代のカードを4枚切らされており、残る交代枠は不動と虎丸だけ……ヤバいな。タイ戦の時よりハイペースで交代枠が切らされている。要因は……良すぎるくらいのこの天気か。この暑さが更に体力を奪っているのだろう。

 

「頼んだぞ!立向居!飛鷹!木暮!」

 

 現状、前半から出ているメンバーは誰が倒れてもおかしくない。これ以上の交代は本格的にマズいが……と、そんなことを考えつつ、イナズマジャパンのキックオフで試合再開。吹雪、豪炎寺、鬼道の3人が攻め上がっていく。

 

「僕にパスを……!」

「行くぞ吹雪!」

 

 鬼道から吹雪へとパスが通る。そして……

 

「ウルフレジェンド!」

 

 必殺技が放たれる。だが、それは前半に放ったものよりも威力が落ちている。

 

「ストームライダー!」

 

 相手キーパーの必殺技が吹雪のシュートとぶつかる。竜巻の中に入ったシュートは威力を失い、キーパーの手の中におさまった。

 

「吹雪!」

 

 そして、その様子を見た吹雪は静かに膝から崩れ落ちてしまうのだった。

 吹雪が倒れたことで試合は中断。円堂を筆頭に吹雪のもとへ駆け寄る。これで、5人目の交代枠を使わされるのだろう。……完全に相手の掌の上ってとこか。

 

「限界のようだな」

 

 吹雪のもとに集まったオレたちにかけられる言葉。

 

「この暑さの中、ここまでよく頑張ったと認めよう」

「最後に勝つのは極限まで鍛えられた身体能力を持つ俺たちだ」

「お前たちの得意なチームプレーでどこまで凌げるかな?」

 

 ビヨンの淡々とした言葉。そこには嘲笑なんかはなく、事実を告げているようだった。……だからこそ、むかつくわけだが。そう思い、監督の方を見ると頷いてくれた。……やっとか。

 

「はっ、そういうのは勝ってから言えよ。これで負けたらダサいけど?」

「強がりはやめておけ。お前たちはもう俺たちについてこれない」

「安心しろよ。ここからは、ライオン狩りの時間だ。精々、迷える旅人の前に現れた食料として、おいしく食べられろよ」

「フッ、面白い。次に倒れるのは貴様になるだろう」

 

 吹雪が運ばれ代わりに入ったのは虎丸……残り時間はまだかなり残っている。

 

「さぁ、ギアを上げていきますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールはキーパーから10番に渡り、そこからビヨンに渡る……

 

『おっと!ここで入ってきたばかりの宇都宮がインターセプト!』

 

 虎丸がボールを奪い、1人で攻め上がる。ブロックに来た2人の選手を抜き去りゴール前まで攻め込む。

 ディフェンスは居なくてフリーの状態、決定的なシュートチャンス……だが、

 

『あっとここで宇都宮バックパスだ!』

 

 虎丸の取った行動はシュートではなくバックパス。後ろにいた豪炎寺へのバックパスだった。

 そのボールは5番によってカットされる……

 

「皆!マークだ!」

 

 5番から10番、10番から7番へとボールが繋がる。だが、前半から出ていたメンバーは追いつけない。

 

「任せろ」

「なっ!?」

「ナイス十六夜!」

 

 7番からボールを奪い去る。周りを見渡し、そのまま持ち込んでいく。

 

「行かせるか!」

 

 10番からのショルダータックル……だが、

 

「何っ!?」

 

 10番を吹き飛ばして進んでいく。

 

「何故だ!何故、お前は疲れていない!」

「さぁ?何故でしょうね」

 

 目の前にやって来た9番のスライディングを躱し、8番のタックルを弾き返す。

 

『な、なんと十六夜!ここに来て、デザートライオンの選手3人を強引に突破したぞ!』

 

「十六夜さんの運動量が上がってます!」

「これはどういうことなんですか……!?」

「前半から出ている人たちはほとんど動けなくなっているのに……」

「簡単な話だ。アイツは、1人だけ体力を温存していた」

「というと……?」

「前半は全員が攻めていて、チーム全員が点を取ろうと走り回っていた……そんな中で唯一、最小限の動きだけでプレーしていた……ほとんど動いてなかったんだ。前半最後の緑川との得点が目立っていたが、それまでボールに触れてさえいなかったんだ。その上で、アイツは元々体力がある方だし、温存しようとしていたなら、そこまで減ってないだろう。……少なくとも、デザートライオンの選手と同じくらいかそれ以上に動けるだろうな」

 

(監督の指示か、分析したアイツが立てた戦略か……おそらく前者だろうな。アイツなら、前半で追いつけないくらい点差を広げて後半は逃げ切る……みたいな戦略を立てそうだし。ああ見えて脳筋というか……相手の分析や戦術の攻略法を見抜くのは得意でも、()()()()()()()戦略を立てることはそこまでだからな)

 

「押さえろ!」

「おう!」

「任せろ!」

 

 更に2人の選手がブロックに来るが……

 

「なっ……!」

 

 1人目のブロックを、相手の股下にボールを通すことで躱し、

 

「コイツ……!?」

 

 すぐさまやって来た2人目のブロックを、同じく股抜きで突破する。そのまま、コーナーの方へ走る。

 

「二連続股抜きだと……!?」

「鬼道!」

「くっ……!」

 

 そこから中央に向かってクロスをあげる。……しかし、いち早く反応したビヨンが、カットを試みる。キーパーもビヨンも他のメンバーも、皆が鬼道か豪炎寺に注意を向けている……そんな時だった。飛んでいるボールに走る1つの影が現れたのは。

 

『なんと!宇都宮飛び込んだ!』

 

 上げられたボールがビヨンに止められる前に、虎丸が飛び込んで奪ったのだ。誰も警戒していなかった味方によるパスカット。虎丸が完全にフリーの状態……その上、キーパーも咄嗟のことで反応が遅れている。

 

「よく気付いたな……本当は鬼道じゃなくてお前へのパスだって」

 

 思い描いた展開。後は必殺技を使わずとも打てば入る……そんなこと誰でも分かるだろう。

 

「今だ!打て、虎丸!」

 

 それを分かって、豪炎寺も打つように指示を出す。しかし……

 

『おっと宇都宮!ここで豪炎寺にパス!』

 

 シュートを打たず、隣にいた豪炎寺へとパスを出したのだ。

 

「はぁ?」

 

 豪炎寺は虎丸の方を睨み、そのままシュート体勢に入った。

 

「爆熱ストーム!」

 

 だが、豪炎寺のシュートもいつもより威力が落ちている。やはり、体力を削られすぎているか……

 

「ストームライダー!」

 

 そんなシュートを相手キーパーは危なげなくキャッチする。

 

「惜しかったな!でも、ナイスアシストだったぞ!虎丸!」

 

 恐らく、近くに居たオレや鬼道、豪炎寺以外には、そう見えたのだろう。……何故か、絶好のシュートチャンスを無駄にして、ボールを渡したようには見えない。いや、本当にどういうことだ?途中まではオレの想定した通りに進んでいたのに……何故虎丸は打たなかった?打って1点って流れだろ今のは……

 

「虎丸!決定的なチャンスだったんだぞ!何故自分で打たなかったんだ!」

「……だって豪炎寺さんの方が確実だと思って……それに、俺が決めたらダメなんです」

「どういう意味だ虎丸!」

 

 決めたらダメ……どういう意味だ?オレも理解ができていないが、そんなことを待ってくれる相手じゃなかった。

 

「攻め上がれ!」

 

 キーパーからボールが10番に渡る。……まぁいい。虎丸の件は一旦後回しだ、切り替えよう。

 

「皆!戻れ!」

 

 やはりというべきか、前半から出ていたメンバーの戻りが遅い。

 立向居が10番をブロックしようとするも、吹き飛ばされ、ボールはビヨンへ。……生半可なブロックじゃ止められないか。

 

「ミラージュシュート!」

 

 受け取ったビヨンの足下がまるで鏡張りのようになる。そこでシュートをするビヨン。鏡に映ったビヨンも全く同じ動作でシュートを放つ。2つのボールが混ざり合ってゴールへと向かっていく。

 

「正義の鉄拳G3!」

 

 シュートを辛うじて弾く円堂……そのままボールは弾かれ、デザートライオンのコーナーキックとなる。

 後半も半分が過ぎたか過ぎていないかの瀬戸際。ここで1点取られるとなると、逆転負けという敗北が近づいてくる状況……本来なら前線へとボールを弾くはずの必殺技が、弾ききれず後ろへと飛んでいる……円堂もこの暑さで体力を奪われてしまっている。これ以上、シュートを打たれることは失点へと繋がってしまう可能性が高い……か。

 

「死守するぞ!」

 

 ゴール前で思考を進める。

 相手からすればここで1点取って、残り時間で確実にトドメを刺す……か。ここで失点し、そのままもう1点何処かで取られて延長戦なんて行おうものなら……確実に負ける。PK戦……に関しても、こっちは不利だろう。……この局面は確実に防がないとマズい。それなら、誰で来る?相手もここは確実に決めたいはずだから、奴らは誰で攻めてくる?

 全員がゴール前を警戒する中、ビヨンは近くに居た9番にパスを出す。

 

「何!?」

「コースを切れ!」

 

 ゴール前にあげるのではなくショートコーナー。鬼道の指示で3人がマークにつく……が、その前にシュートを打たれる。

 

「栗松!中央からサイドへ走れ!」

「うぇ!?な、何故でや――」

「走れ!」

「止める!」

 

 オレの唐突な指示に驚く栗松。悪いが戸惑う彼に指示の意図を伝える時間はない。1秒を争うような切迫した状況……そんな中、円堂が前へ軽く出て止めようとする。

 

「出るな円堂!」

「……っ!」

 

 オレの言葉が聞こえると同時に急停止する円堂。ボールは彼の前で急上昇し、それに10番がヘディングを合わせようとする。

 

「そこだろ?見えてるんだよ!」

「なっ……!」

 

 円堂の後ろから彼を追い越し、10番がヘディングをしたところに逆からヘディングをする。ボールを挟んでのぶつかり合い。

 

「お返ししないと気が済まないんでね!」

「は、弾き返されるだと!?うわぁっ!?」

 

 ボールごと相手を弾き飛ばす。ボールを弾き飛ばした先。そこには……

 

「木暮!逆サイドに大きくクリア!」

「わ、分かったよ!」

 

 木暮がいる。弾き飛ばされた10番には目もくれず、オレは密集地帯から出るように前へと走る。

 

「……え?」

「な、何が……?」

「栗松!拾って空高く蹴り上げろ!」

「わ、分かったでヤンス!」

 

 何が起きているか分かっていない味方や敵を差し置き、ボールが飛んでいった先にいる栗松へと指示を出す。ボールを取ると、相手が来る前にボールを空高く蹴り上げた。

 

「いくぞ、ペラー!」

『あいよー!』

 

 それを見て、ペラーを呼び出して乗る。そして、空中にあるボールへと飛んでいく。

 

「カウンター!あがれるヤツはあがれ!」

 

 誰も届かない空中でボールを拾う。空から見ると分かるが……前半から出ているヤツの足取りが重いな。後半から出ているメンバー主体で行くのがベストか?……いや、

 

「1人で行く方が手っ取り早いし、楽だな」

「ヤツから奪え!行かせるな!」

 

 地上に着地すると、相手がブロックに来る。そんな相手のタックルやスライディングを、力業でねじ伏せつつ進んでいく……

 

「デザートストーム!」

「っ……!」

 

 が、突破した先に居たビヨンが砂嵐を巻き起こして、視界を塞いでくる。しかも、目に砂が入って地味に痛い。……ッチ、この必殺技、映像で見たときはあまり脅威に思えなかった。だが、この砂嵐で自身の場所を特定させずに奪ってくる、どこから奪いに来ているか分からないようにしている……やっぱ、映像越しで見るのと受けるのでは全然違うな……!

 

「……そこっ!」

「……っ!」

 

 砂嵐の中、ビヨンが肩にぶつかってきた。

 

「何故奪えない!何故お前は倒れない!」

「……無限の体力と当たり負けしないフィジカルがお前らの武器だったよな。……でも甘い。その武器はオレには通用しない」

「何を……!」

 

 腕をセンサーのように使いビヨンの位置を特定し、彼に背を向け、ボールに近づかせないようにキープをする。

 

「まず、お前らの体力っていう武器はそれ以上の体力を持つヤツ。もしくは、体力を温存していたヤツには通用しない」

「……っ!お前……!まさか、前半は手を抜いていたのか!」

「人聞き悪いなぁ……温存していたと言ってくれ。そして、フィジカルだがオレは代表に選ばれてからフィジカル面の強化を重点的に行っていた。たった2,3日の付け焼き刃じゃない。少なくとも1対1のぶつかり合いなら、お前らに負けはしねぇよ」

「クソッ……!」

「ただこの必殺技……目潰しに加え、この砂嵐で足音がかき消されている……しっかり考えているな。並みの選手が相手なら簡単にボールを奪えるだろう」

「だったら……!」

「目が見えてなくても、音が満足に聞こえ無くても、お前の狙いはボールだろ?そして、お前がプレスしてくれるおかげで、お前の位置だけは分かる。もっと工夫しなきゃ、上には通用しない」

「……言わせておけば……!だが、俺だけが奪いに来ていると思うな!」

「「「デザートストーム!」」」

 

『な、なんとデザートライオン!必殺技デザートストームを何重にも発動!フィールドには巨大な砂のドームが生まれたぞ!中に閉じ込められた十六夜は無事なのか!?』

 

 砂嵐が一気に強くなる。というか砂の量が多くて、音が聞こえにくいし、地味に痛い……なんだ?周りに居た奴らもデザートストームを……?しかも、砂が積もって……砂浜?いや、砂漠って言った方がいいか。というか、砂嵐で目が開けないんだが……

 

「足下は砂……ということはボールが転がらねぇ……っ!?」

 

 ボールに砂以外の何かが触れた感じがして咄嗟に回避する。耳を澄ますと雑音(ノイズ)の中、微かに足音が聞こる……ダメだな。この音だけじゃ、正確な人数と位置が分からない。……だが、こんなヤバいレベルの砂嵐の中、突っ込む味方が居るとは思えない。……じゃあ、全部敵ってことか。さてさて、砂嵐による目潰しを喰らって、足下は砂。奴らのホームでどうやって相手したものか……

 

「さっさと抜け出すためのカギは――」

『いやーすごい状況だね』

「――流石、ナイスタイミング」

『でしょ?で、ペンギンを何体か呼び出して、綾人の眼の代わりをして、オレは外の様子を伝えればいいんでしょ?』

「頼む」

『あいあい』

 

 そう言ってオレの周囲にペンギンを呼び出すペラー……

 

「相変わらず全部声での情報か……文句言える立場じゃないが」

 

 ペンギンたちから聞こえてくる情報を基に相手からのタックルを躱していく。と言っても紙一重なんだが……

 

『鬼道から、上空に蹴り飛ばしてだって』

「オッケー」

 

 彼らのプレスをかいくぐって、鬼道の指示通り空高くへとボールを蹴る。

 

「行け!虎丸!」

 

 空から鬼道の声が聞こえる。この砂嵐よりも高く跳び上がったということは、恐らく、壁山のお腹をジャンプ台にしたのだろう。確かに、前後左右が分からない状態でも、上だったら外からもオレからも分かるわけか。

 気付けば巨大な砂のドームから解放されたらしい。……というか、冷静に考えると今のやばかったな。重ねがけられたデザートストーム……巨大な砂嵐に閉じ込められ、視覚と聴覚を封じられ、ボールを奪いに来る獅子たち……冷静に考えると強力だな。ビッグウェイブスの必殺タクティクス以上に厄介で、破る手段が限られている。我ながらよく対応できたものだ。もっと練度を上げられていたらやばかっただろうな。

 

「大丈夫か十六夜」

「悪い、そろそろ見えてくるはずだ」

「前みたいに無理はするな」

「ああ、少し待ってくれ。すぐに回復させる」

 

 前みたい……確か、フットボールフロンティアの全国大会でも似たような目潰しを受けたな……だから、鬼道の対応が早かったのか。

 

「あのコーナーキックは助かった……読んでいたのか?」

「まぁな……全員がゴール前を警戒していた。逆に、ゴール前以外は警戒が薄い……そして、敵の立ち位置からコーナーキックを蹴るビヨンに近いヤツが2人も居た」

「だから、狙いはショートコーナー……そして、俺たちは不意を突かれ全員がそちらをおさえようとする。……だが、それこそが……」

「相手の狙いだろうな。ゴール前からサイドへとこちらの意識が向けば、今度はゴール前の警戒が薄くなる……そして、そこをあの10番がついた。あんな人が入り乱れた状態では円堂もまともに必殺技が使えないし、そもそも9番がシュートを打つと思ってただろうからな。合わせられていたら、止められなかっただろうな」

「そうか……そこまで読んでいたのか……」

「オレが得意なのは分析だからな。……まぁでも、9番へのブロックが少なければ、そのまま打っていた可能性も十分あった。それを潰してくれたのは助かったよ」

「というかお前……10番を弾き飛ばしていたが……」

「ん?ああ、普通にパスカットしてもよかったけど、綱海がやられた分を返そうと思って。ほら、きちんとお返ししてあげないと失礼かと思って」

「……負けていたらどうするつもりだったんだ?」

「微塵も負けるつもりなかったな。少なくとも、円堂を避けつつ、ゴールを狙う……威力よりコースを重視していて、ぶつかり合いになると思っていなかった相手に負けねぇよ」

「……なるほどな」

 

(いくらパワーがある相手でも、100%出していないなら勝てると踏んでいたわけか。……もっとも、相手が100%出していてもコイツが本気を出していたらどうなっていたか分からないが)

 

 先ほどのコーナーキックの状況を確認していると視界が回復していく。前と違い、光での目潰しではなく砂だったからだろうか、体感ではそこまで視界が回復するまでに時間を要していない。そして、徐々に開ける視界の中、見えてきたのは走って行くフォワード陣の姿と、その先でボールを保持する虎丸の姿。

 

「豪炎寺さん!」

 

 そして、フリーの状態の虎丸が豪炎寺にパスを出す。

 そのパスを受けた豪炎寺は、ダイレクトで蹴り返し、虎丸の肩にぶつけて、ボールを外に出した。

 ……あちゃぁ……豪炎寺さん。これはお怒りですね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NGシーン(ネタ)~

 

「何故奪えない!何故お前は倒れない!」

「……無限の体力と当たり負けしないフィジカルがお前らの武器だったよな。……でも甘い。その武器はオレには通用しない」

「何を……!」

 

 腕をセンサーのように使いビヨンの位置を特定し、彼に背を向け、ボールに近づかせないようにキープをする。

 

「いいか、お前らと違ってオレは今まで何百発とこの身にシュートを受けてきた」

「…………はぁ?」

「「…………ん?」」

「無茶苦茶な特訓に付き合わされ、ボロボロになるまでしごかれてきたんだ。いきなり、レベルマックスを越えハードモード以上の難易度バグレベルから始める特訓があるかって言うんだ。時にはシュートで吹き飛ばされてゴールネットや壁に叩きつけられ、時には超硬くて重いボール(エイリアボール)を身体に打ち込まれ、時には必殺技を放たれた。砂漠で鍛えた?こっちはな!彼女による無茶ぶりの連続で殺されかける日々を送っていたんだよ!お前ら以上に命がけの日々を送っていたんだよ!そうした地獄の中を生き延びてきたオレが、今更中ボスですらねぇ精々主人公たちの誰かが覚醒するために使われ最後は軽くあしらわれて終わっていくようなテメェらに負ける道理はねぇんだよ!鍛え上げられたフィジカル?無限の体力?上のレベルを知らない、見てきていない井の中の蛙状態のテメェら程度に!こんなところで負けるわけねぇだろうがあああああああああああああああぁっ!」

「お、おい?お、お前は何を言ってるんだ……?この暑さで頭をやられたのか……?それとも砂嵐で……?こ、こいつは一体何なんだ!?というか、お前の仲間全員引いてるぞ!?」

「「…………」」

 

((本当にアイツは何を言ってるんだ……?というか、砂嵐の中で何しているんだ……?))

 

「お、落ち着いて八神。今は試合中だ。それにグーはよくないと俺は思うんだけど……」

「そ、そうだよ。十六夜もきっと暑さでハイになっているだけだから……ひぃ!?」

「放せ、ヒロト、緑川。ヤツに一発入れてくる」

「だ、だから試合中だって。それに十六夜くんが倒れたら一気に試合が傾いちゃうかもだから……」

「そ、それにきっと本心では感謝をして……ひぃ!?」

 

 試合後、十六夜がぶっ飛ばされたのは言うまでも無い。




最後のはただのネタです(黒子のバスケのNG集的な?)……というか十六夜くんがいつもよりハイになりすぎているなぁ……君、一応冷静沈着な感じの性格なんですが……


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VSデザートライオン ~虎の目覚め~

 肩を押さえて座り込む虎丸。

 

「何をするんですか!豪炎寺さん!」

「さっきからなんだ!お前のプレーは!」

「これが俺のベストです!俺のアシストでみんなが取る!それが1番なんです!そうすれば俺が皆の活躍の場を奪うこともない……楽しくサッカーができるんです!」

「ふざけるな!」

 

 虎丸の言葉に、強く返す豪炎寺。これには同意できる。オレも同じ気持ちだしな。

 

「……っ!」

「そんなサッカーは本当の楽しさじゃない!サッカーは人の顔色を窺ってやるようなものじゃない!見ろ!」

 

 そう言って近くに来ていたオレたちの方に手を向ける豪炎寺。

 

「ここに居るのは日本中から集められた最強のプレーヤー……そして!」

 

 そのまま反対の……デザートライオンのゴールの方へ手を向ける豪炎寺。

 

「相手は『世界』だ!俺たちは世界と戦い、勝つためにここにいるんだ!忘れるな!」

「そうだぜ、虎丸!」

 

 豪炎寺の熱い言葉に続いたのは円堂だ。

 

「『全員』が『全力』でゴールを目指さなくちゃ勝てないぜ?もっとチームメイトを信じろって!」

「チーム……メイト……」

「今の想いを全部サッカーにぶつけろ!俺たちが全部受け止めてやる!」

「キャプテン……!」

「虎丸、ここにはお前のプレーを受け止められない柔なヤツは1人も居ない」

「やろうぜ!虎丸!」

 

 豪炎寺、円堂、鬼道の言葉を受けて、虎丸の表情に明るさが灯る。

 

「いいんですか?俺、思い切りやっちゃっても?」

「フフッ、俺を驚かせてみろ」

「はい!」

 

 虎丸のやる気に満ちた声……後半の残りはこのやる気にかけるか。どれほどのプレーを見せてくれるのか楽しみだ。

 オレたちが各々ポジションに着いたところで、スローインで試合再開。ボールは5番に渡り、再び10番へ。

 

「うぉぉぉおおおおっ!」

 

 飛鷹の気迫に満ちた突撃に戸惑ったのか、ビヨンへとパスを出す10番。

 

「行かせねぇよ?」

「通させてもらう!シザース・ボム!」

 

 ビヨンの足下が爆発し、砂塵が襲ってくる……ああ、この技も映像で見たから知っている。こんな砂塵の中、いくらアイツらでもボールを持ちながら通り抜けることは困難……なら、

 

「上だろ?」

「コレもだと!?」

 

 空中でビヨンからボールを奪う。

 

「攻撃開始っと」

 

 そのまま攻め上がる……が、

 

「あぁ、やっぱり警戒されるよな……」

 

 3人がかりでボールを奪いに来る相手チーム。容赦なさ過ぎだな……ほんと。

 

「十六夜さん!」

 

 虎丸からの要求の声が聞こえる。アイツからの要求か……

 

「任せるぞ」

「はい!」

 

 3人の間……僅かに見えた隙。その隙を通すパスを出す。ボールを受け取った虎丸はドリブルで攻め上がっていく。

 

「行かせん!」

 

 ブロックに来た9番、4番、5番の選手の間を軽やかに突破していく。

 

「へぇ……やるじゃん」

 

 今までよりも動きのキレが数段増してる。アレが本当の実力か……ベンチの方を軽く見ると、驚きに包まれる面々が居る中、久遠監督が軽く笑っていた。分かっていた……ということだろうか。

 そのままスライディングを躱し、前へと突き進んでいく。

 

「豪炎寺さん……キャプテン……!俺、本気のプレーをやってみます!俺と一緒にやってくれる、俺と一緒に戦ってくれる仲間がここにいるんだ!」

「決めろ!虎丸!」

 

 遂にキーパーと1対1になる。今までの虎丸なら、誰かにパスを出していたが、本気のプレーをすると言ったアイツからは、そんな逃げる選択肢を選ぶようには感じなかった。

 

「ずっと封印してきた俺のシュート!」

 

 右足を力強く引くと、背後には巨大な虎が出現する。

 

「うなれ!タイガードライブ!」

 

 そして、勢いよく蹴り出されるシュート……虎の咆哮がスタジアムに響き渡る。

 

「ストームライダー!」

 

 そのシュートは相手キーパーの生み出した砂煙の竜巻を正面から突き破り、ゴールへと突き刺さった。

 

『決まったぁ!宇都宮!デザートライオンを突き放す強烈なゴール!イナズマジャパン!ここで1点を取りました!』

 

「あれが宇都宮虎丸の本当の力か……」

「すげぇ……すげぇぞ虎丸!」

「フッ……」

 

 すげぇなアイツ……あのキーパーから1人でゴールを奪える実力があったのか。それは流石に見抜けなかったわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督サン、あんた、アイツの実力が分かってあのタイミングで投入したのか?」

 

 後半残りわずか、3点を追いかける形となり、一層激しく攻め立てるデザートライオン。しかし、十六夜や後半から出場しているメンバーを中心とし、その攻撃を完全に防いでいた。

 

「たしかに、いくら体力があるからと言っても相手は人間です。後半もこの時間になれば疲労は見えてくるでしょう」

「そうか!だから監督は皆の体力を向上させ、前半でできる限りデザートライオンの体力を消耗させた」

「それだけじゃないですね。後半は十六夜くんと交代で出た人たちが、更に体力を消耗させ、疲労を蓄積させる……」

「そして、虎丸くんの力が充分に発揮される場を整えた……そういうことですね?」

「……選手には活躍すべき場面があり、チームには勝つべき状態がある。選手たちの能力を結集し、出し切らない限り勝ち続けることなど不可能。力を出し惜しんで行ける世界などない!」

 

 その言葉がベンチのメンバーに伝わる。

 

(なるほど……後半の十六夜のプレー……ラフプレーにラフプレーで対抗してたのはそれが理由か。……アイツの目的は体力を削ること。向こうのやっていたことをそのまま返しているな……もっとも)

 

 ボールは9番が持っている。そこに……

 

「栗松、立向居、飛鷹、木暮!4人で囲め!」

「はいでヤンス!」

「わ、分かりました!」

「お、オッス!」

「うん!」

 

 十六夜からの指示で4人が9番を囲む。

 

「邪魔だぁ!」

 

 だが、その4人の間を強引に突破する9番……

 

「読み通りっと」

「なっ!?」

 

 そこからボールを奪ったのは十六夜だった。……4人で囲むことで9番の視野を狭くして、自分が動くのを見えなくしたわけか。性格上、パスを出さないと踏んでの行動……というわけか。

 

(流石の守備力……あのコーナーキックのピンチ以来、一度もシュートを打たれていない。そもそも、アイツが突破されるビジョンが見えない。……ここまで来たら確信できる……何故、十六夜だけ別なのか。何故、アイツが本来のポジションであるDFで出場しないのか)

 

「最後の攻撃行きますか。虎丸、もう1点取りに行くか?」

「はい!行きましょう!」

「んじゃ、軽く行こうか」

 

 宇都宮と共に攻め上がって行く十六夜。そのまま、相手選手を抜き去っていく。もうフィジカルで対抗する気はないのか、相手のタックルやスライディングを軽々と躱している。

 

「なっ……!」

「フィジカルだけじゃないのか!?」

「勘違いするなよ。そもそもオレはパワーゴリ押しで突き進むタイプじゃねぇから。虎丸、即返す感じでよろしく」

「はい!」

「おっけー、じゃ、次は少し先にダイレクトで返してくれ」

「こうですね!」

「よし、そしたら、そこに走ってくれれば……」

 

 ワンツーを交えながら鮮やかに敵陣へと切り込んでいく2人。

 

「十六夜くん……何だかつまらなさそう」

「え?」

「あ、ごめんなさい……何か十六夜くんの目からやる気みたいなのを感じなくて……」

「そうでしょうか?少なくとも、相手選手には負けていないですし……」

「うーん、虎丸くんが何時になく楽しそうだから、そう見えちゃうんじゃない?」

「ほら、十六夜先輩って静かな方ですから、感情が分かりにくいかもしれないですよ」

「皆さんがそう言うなら……そうかもしれませんね」

 

(この試合を通して思うが、アイツは相手選手を軽くあしらっているように思える。……誰がどう見ても、十六夜が格上で相手が格下……相手もその国を代表し、1回戦を勝ち上がってきたようなチームだというのに)

 

 そして、八神は久遠監督の方を見る。

 

(十六夜はこのチームの中で、唯一世界レベルを知っている。そして、そいつらとの練習のお陰で、このチームで……いや、ビッグウェイブスやデザートライオンの選手と比べても、次元が違う。ただ、それでも、十六夜はまだまだ世界トップレベルのプレイヤーではない。……アイツが1人でプレーしては、試合に勝てても他の選手はレベルが上がらない。そうなれば近い将来、必ずイナズマジャパンは負ける。十六夜1人が相手と渡り合えても、チームとして渡り合えなければ負ける。選手たちの能力を引き出し、結集させるために……か)

 

 気付けば残るディフェンスは後1人。後1人突破すれば、キーパーとの対決になる。

 

「じゃ……」

 

 ディフェンスの位置を確認して、大きく右足を振り上げる十六夜。足下にはペンギンが準備している。

 

「止める!」

 

 シュートだと判断し、十六夜とゴールの間に割り込み、シュートをブロックしようとする……だが。

 

「早計だな」

「なっ……」

 

 右足は振り下ろされたが、その位置はボールの少し奥。ボールは前へと進まず、気付けばペンギンたちは消えていた。……シュートフェイント。騙された相手は、十六夜が次のアクションに移っているのに反応できなかった。

 

「フィニッシュ頼むわ」

「任せてください!タイガードライブ!」

 

 右足の後ろを通すようにして、左足のインサイドで宇都宮へとパスを出す。受け取った宇都宮はフリー、ダイレクトで必殺シュートが炸裂する。

 

「ストームライダー!」

 

 相手も必殺技で対抗するも、シュートはゴールに。

 

「ナイスシュート、虎丸」

「ナイスアシストです!十六夜さん!」

 

 ピ、ピー! 

 

『ゴール!そして、ここで試合終了のホイッスル!5-1!イナズマジャパンの勝利です!FFIアジア予選決勝戦に駒を進めましたぁ!』

 

 5-1……一時危うい場面があったものの結果だけ見れば4点差という大差で勝ち、決勝に駒を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがお前の全力か?」

 

 試合終了後、控え室で豪炎寺が虎丸に声をかける。

 

「俺たちに付いてくるにはまだまだ時間がかかりそうだな」

「……でも俺、まだ本気出していませんから。センパイ?」

「こいつ……」

「さぁ次の試合も勝ちますよ!アジア予選ぐらいで立ち止まっていられないですから!」

「……なんか性格変わってないか?」

「さぁ?何処かの誰かさんが本性を剥き出しにさせたんでしょ」

「扱いにくいヤツが出てきたな?鬼道」

「扱いにくいヤツはそこのペンギンだけで充分だ」

「ははっ、ペンギンの次は虎って、水族館から動物園になったな」

「お前……よくその反応が出来たな……」

「コイツより扱いやすいことを祈りたいものだ……」

「いやいや、オレなんて扱いやすい部類の選手だろ?」

「どうだか。少なくとも3点目と5点目は、お前1人で決めれただろ」

「同感だな。緑川と虎丸に渡していたが、お前1人でもゴールまで行けただろ」

「まぁまぁ、緑川も虎丸も何かに気付いたり、目覚めたりしたからさ。オッケーって事で」

「そうそう!虎丸が本来のプレーが出来るようになって、俺は嬉しい!」

「「…………」」

 

 というか今更だけど、オレ=ペンギンなのか?そういう認識なのか?

 

「でも、何でこんな凄いヤツがフットボールフロンティアに出てこなかったんッスかね?」

「出られないですよ」

「なんで?」

「だって俺……まだ小6ですから」

「しょ、しょうろくぅぅう!?」

 

 …………おっと。これは流石に予想外。

 

「なるほど……そうだったのですか。FFは中学生の大会です。でもFFIは、世界各国の事情を踏まえ15歳以下なら誰でも参加できるんです」

「小学生だったのか……お前」

 

 おっと、あの豪炎寺も唖然としているぞ。

 

「だからって甘く見ていたらエースストライカーの座はいただきますよ。いつか、豪炎寺さんを超えますから」

「フッ……」

 

 あはは……本当に猫被っていたんだな。ほとんど関わってなかったけど……ねぇ。

 

「面白くなりそうだな。ほんと」

 

 ますます面白くなりそう……ただ、このチームはまだまだ問題点だらけなんだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、とある教室にて……

 

「今日の試合の見直しか?」

「ん?あーそうだな」

 

 プロジェクターを使って映像を見ている十六夜のもとに八神がやって来た。

 

「5-1とスコアだけ見れば大差での勝利……だが、試合内容的には余裕があったとは言い難い」

「確かにな。後半は悲惨なものだったし、下手すれば負けていただろう」

「その要因が何か……それを考え、学び、次へ生かさないと世界一なんて夢のまた夢だろうな」

「ほぅ……じゃあ、お前はどう考えているんだ?」

「簡単な話だ。……相手の強みに対抗しようとしたことだ」

「と言うと?」

「イナズマジャパンの強みはチームプレー……それなのに、前半では相手とフィジカルで勝負していた。それに走らされ回って、ハーフタイムで座り込んでしまう程体力を削られた。アイツらの言い分通り、後半の最初の段階で限界を迎えてしまったんだよ」

「……相手のDFを突破するときも、ドリブルではなくパスワークで突破する……みたいに、こっちの土俵に上げるべきだったってことか?」

「そうだな」

 

 そう答えると十六夜は手を上に伸ばす。

 

「それに、予想だと近々『もっと強い必殺シュートが必要だ』的な発言を誰かがするだろうな」

「なるほど……今までも放ったシュートが全部決まっているわけではない。この先、もっと強い相手に当たることを考えると、誰かが提案してもおかしくはないか」

「別に否定はしない。……だが、シュートは打たせてもらえなかったら意味が無い。どんなに強力なシュートを持っていても、そもそも打たせてもらえなければ、点は取れない……だから、個人的には強力なシュートを身につけるより、シュートを打てるようにする、打てる状況を作る技術の方が大事だと思うけどな」

「確かに一理ある……か」

 

 まぁ、強力なシュートを身に付けようとしている人間が言っても説得力は薄いけどな……そう付け加える十六夜。それを見て苦笑する八神。

 

「そう言えば、聞きたいんだが……お前は今、サッカーが楽しいか?」

「いきなりなんだ?」

「試合最後のプレーを見て、ベンチでつまらなそうって言う声が出たんだ。実際、最後のプレーからお前のやる気は感じなかったが……どうだ?」

「あー…………まぁ、つまらないな。少し退屈」

「ほう」

「試合最後……正直、デザートライオンの格付けは済んでいた。相手はとにかくフィジカルでの勝負に持ち込もうと突撃してくる……ワンパターンなんだよ。通用しないなら、通用しないなりに頭を使って工夫すればいいのに、次は通用するはずとフィジカルでの勝負ばっかり続けられ……正直、やる気も下がるわ」

「……確かに、タックルやスライディングを仕掛けて躱すの繰り返し……お前にとっては単調な作業にも感じたわけか」

「まぁな……はっきり言ってレベルが低い。この言い方はアレだが……最後まで、自分たちのフィジカル、体力って武器はオレに負けるはずがないって思い込んでいた気がする。……敗北を認められず、現実が見られないヤツにオレは興味を抱かない」

 

(これが十六夜綾人の強さ……かもしれないな)

 

「イタリア代表とやって来た時の感覚が基準になってしまったせいか……今はそこまで面白さがない。……強いヤツとの戦いは心が躍るし、1対1の駆け引きはやっていて楽しいし、相手に勝ちたいと心から思えるんだが……少なくとも、日本に帰ってきてからそんなことは思えていないな」

 

(コイツは私に何度も負け続けた。ジェネシス戦で挫折と絶望を味わった。きっと、世界を相手に戦い、そこでも何度も負けてきたんだろう。届かない相手、高すぎる壁、何度も何度も自分より遙かに強い相手に挑み、勝てるように努力した。向こうでどう変わったかは分からないが……)

 

「……なるほどな。それが本気を出せない理由か」

「ん?」

「全力を出せても本気を出せない。……それは、お前の心がサッカーに向いていない、目の前の相手に向いていないから……か」

「あー……なるほどな。それもありそうだな……でも、決勝大会は楽しみにしてる。フィディオを始め、世界中の強者が集まる。オレが本気を出しても届かない相手がたくさん居る。……だから、今はそいつらしか見てないな。そいつらと戦うため……そして、勝つためにレベルを上げることしか考えていない」

「…………」

「それに日本代表……日本から集められた最強のプレイヤーたちの中にオレの本気のプレーを受け止めてくれるヤツはいない……と、悪いな八神、こんな話をして。そろそろ寝ようぜ。明日も早いし」

 

(……きっと、前より個としての力を求められ、それに応えるように強くなった。強くなって驕りが出たわけではない。ただ……その強さ故に仲間たちと意識、プレーのレベルに差を感じてしまったのだろう。だったら私は……)

 

 そう言って立ち上がる十六夜。片付けを行って、八神と一緒に教室を出て行く。

 

「……やはりか」

 

 久遠監督が十六夜たちに気付かれず会話を聞いていたことは、当然本人たちは知らない。




十六夜くん、皆が虎丸に対して言ったことが心に刺さっている模様。
虎丸はその言葉に救われ、本来のプレーを取り戻したが、十六夜くんはその言葉によって現状を再認識してしまう。
……あれ?主人公離反フラグ立ちました?イナズマジャパンに失望して、自ら離脱し海外チームで登場し、壁として立ちはだかる的なルートのフラグが立ちましたかね?



後、下は色々と面倒ごとが重なって精神を壊されかけた作者が書き殴った、一切本作品と関係ないものです。多分、投稿頻度の遅さの理由が垣間見える気がしますので、飛ばしてください。

ポケモン楽しい~SAOVSもやりたいな~。でも、そこそこ自重しないと卒論終わる気がしない……!あ、ヘブバンの4章進めたい。というか、個人的にはダンガンロンパもFE風花雪月無双のルナティックもやりたいのに手を付けている暇がぁ……!
今期はブルーロックのアニメが期待を裏切らないクオリティで大満足。こっから更に盛り上がっていくから楽しみ……!
ライアー・ライアーのテレビアニメ化……!PVも公開され、色んなイラストも見られて……推しが出るまでやらないかな?2期、3期と続いて推しが登場すると嬉しいな。というか、今週の金曜に続刊出るから買って読まないと……!
スパイ教室の放送が近くなってきている……!原作は全部買ってるけど一行も読んでいない……!どうしよう、PV見ると面白そうで読みたいんだが。でも時間がぁ……
ところでこのすばの原作最後まで読んでなくね?いつ読もう……

これでも一部ですが、全部伝わった人……いるかな?
こんな作者ですが来週も忘れずに更新します。


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現れる挑戦者

 デザートライオン戦翌日の朝……

 

「次はいよいよ決勝戦だ!」

「「「おう!」」」

 

 食堂にて、イナズマジャパンのメンバーは盛り上がっていた。というのも昨日の勝利と、決勝まで駒を進めたという事実がやる気を底上げするみたいだ。

 

「これに勝てば世界ッスね!」

「決勝大会……どんな奴らがいるんだろうな」

 

 練習前の食事はいつもより賑やかだった。……が、浮かない顔をしているメンバーも中にはいた。気にはなるが……うん。気にしすぎても仕方ないところはあるだろう。

 

「そこで1つ提案がある」

「どうした?鬼道?」

「これまでの2試合で皆も分かっただろうが、予選を勝ち抜き決勝大会に出るためには、より強力な必殺技が必要だ」

 

 何か……予想通りだな。でもまぁ、必殺技と必殺技のぶつかり合いになった時とか、もっと強力なシュート、キーパー技はあっても困らないのは間違いないと思う。もちろん、ドリブルやブロックに関しても同じ事が言えるだろうが。

 ……ただ、必殺技より大事なことがありそうだと思うけど、それは言わないようにしよう。このいい感じの空気をぶち壊しかねないからな。

 

「風丸、お前が日本代表の紅白戦でパスカットをしたときの動き……覚えているか?」

「パスカット……?」

「あーあの時ね。疾風ダッシュとは違った加速で、風を纏うって言ったらアレだけど、そんな感じじゃなかったか?」

「そうだ。あの風を使いこなすことが出来れば、お前にとって強力な武器の1つとなるはずだ。久遠監督に自主練習の許可は取ってある」

「分かった。やってみるよ」

 

 強力な武器……か。風を使う……一体、どんな感じになるんだろうか。

 

「それから土方と吹雪に連携の必殺シュートを身に付けてもらいたい」

「連携の必殺技ってこと?」

「安定したボディバランスとパワーの土方、スピードの吹雪の2人なら攻撃の幅も広がるはずだ」

「なるほど……よっしゃ!やってみようぜ、吹雪!」

「うん!」

 

 なるほど……中々面白そうな話だ。

 

「連携必殺技かぁ……なんか面白そうだな!俺たちもやってみるか!」

 

 そう言って綱海が声をかけたのは壁山だった。

 

「うっ!?お、俺ッスか!?」

「なんだよ。嫌なのか?」

「い、いやってわけじゃないんッスけど……」

「じゃ、決まりだな!いいだろ?」

「綱海と壁山か……なるほど、面白いコンビだな」

「よっしゃ!すげぇ必殺技を完成させような!」

 

 ……まぁ、タイプが違う2人だからこそ生まれる必殺技もあるかもしれないな……とりあえず、壁山ドンマイ。

 そう思いながら、グラウンドに集合する。久遠監督から今日の練習メニューを聞こうとしたタイミングで、円堂のもとにシュートが飛んでくる。

 

「誰だ!」

「また会えたな、円堂」

「お前は……まさかデザームか!?」

「その名前はもう捨てた。私の本当の名は砂木沼(さぎぬま)(おさむ)だ」

「えぇっ!?……そうだったの?」

 

 まぁ、デザームは仮の名前だっただろうし……本名は今知ったけど。なるほど……デザームあらためおさーむになったと。

 

「円堂!私はお前と決着をつけるために再び戻ってきたのだ!」

 

 そう思ってると15人の選手がデザームの後ろから現れた。その面々は見覚えのある顔ばかりで……と思っていると、選手たちの後ろから前に出てきた人が。

 

「久しぶりね。円堂くん」

「えっ!?えぇっ!?なんで瞳子監督がここに!?」

「あら?このメンバーを見てもまだ分からない?」

 

 いや、分からないんですけど?

 

「私たちはイナズマジャパンに挑戦します!真の日本代表の座をかけて!」

「…………はい?」

 

 その宣言を聞いてもやっぱり意味が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況がうまく飲み込めなかったが、話を要約するとデザーム(砂木沼)率いるネオジャパンと、円堂率いるイナズマジャパンの試合をさせて欲しいと。そして、ネオジャパンが勝った暁には日本代表の座を頂くと。で、その勝負に久遠監督は了承、試合は明日行うことになったのだった。いやー……そんな無茶苦茶な話、よく通ったな。まぁ、強い方のチームが代表の座につくって考えればいいんだけど……ねぇ?

 

「こんなことになるなんてね……」

「しかも、代表の座をかけての勝負とは……」

「集合!」

 

 色々と思うところがある中、久遠監督が号令をかける。

 

「明日はネオジャパンとの試合になった。今日の練習後は、念入りにクールダウンを行い、疲れを残さないようにするんだ」

「「「はい!」」」

「では、指示を出していく」

 

 ということで、指示が出される。……で、オレの指示は……

 

「まさか、知っていたとは……恐ろしい人だ」

 

 午前中は風丸や一部のメンバー同様、必殺技を完成させるために練習することだった。まぁ、午後からは相変わらずのフィジカルトレーニング……筋トレなんですけどね。

 

「でも、あの技はかなり完成してきただろ?」

「ああ。でも、そのかなりって言うのがやっぱり問題だ。完成度は8、9割って言ったところ……それじゃまだ実戦で打つわけにはいかない」

「……そうだな。今のままじゃ、まだ世界の強豪には通用しないな」

「と言っても、これ以上どうしたものか……」

 

 デザートライオン戦に向け行われた強化合宿で、かなり完成に近づけた。だが、デザートライオン戦で打たなかったように、まだ完成したわけではない。

 

「そうだな……やはり精度向上じゃないか?今の状態だと成功するかどうかはギャンブルになってしまっている」

「確かにな……」

 

 あれからの改良で、ゴールに勢いを保ったまま行くこともあった。だが、あくまで狙った場所から外れなくなっただけであって、途中で勢いが消えてしまうこともある。……だからこそのギャンブル。どんな威力でゴールに辿り着くか、打った本人ですら分かっていないのだ。

 

「それに、問題は威力……今まで打てた中での最大でも、どこまで通用するか分からない。最大威力で通用しないなら、ゴールを奪えることなんて夢のまた夢だろう」

「そうだな。威力に関しては、最小の時と最大の時の両方がもっと上がれば使い道はあるんだがな」

「と言うと?」

「全く同じモーションで、使用者も同じ必殺技。それなのに、打つ度威力が変わる……そんなことがあったら面白そうだと思ってな」

「まぁ、威力より軌道とかコースがランダムならもっと面白そうだが……オレが求めているのはギャンブル性じゃなくて安定性。だから、威力向上は一旦置いておいて、威力を安定させることだな。もう一度確認するか……」

「そうだな」

 

 ここ最近は必殺技を放つ様子を撮影、録画してもらっている。分析していくしかないか……

 

 

 

 

 

「ダメだぁ。……よく分からねぇ」

「そうだな……」

 

 あれから練習は終わり夜になる。教室のプロジェクターを借り、午前中の練習の様子を映像を流して見るも……

 

「この時とこの時が顕著だ。ほぼ同じモーションで打っている。それなのに、こっちはゴールまで勢いを保つのに、こっちは切れてしかもバーに直撃して外した」

「出てきているペンギンたちもほぼ同じ……いよいよギャンブルってところか?」

 

 ハイレベルな動画での間違い探しと言ったところか?しかも、自分の感覚では同じように打っているから映像も同じに見えてしまう。

 

「……ふむ。他の者の力を借りるか」

「他?」

「私たちはこの技を見過ぎている。だから、些細な違いがあっても、無意識のうちにスルーしているかもしれないだろ?」

「なるほど。それに先入観もあるかもな……何かを抜かしているってことか」

「ああ。そういうのにうってつけなのは……」

「あれ?十六夜くんたちだったんだ」

 

 そう思っていると教室の入口に立っていたのは……

 

「ヒロト?それに緑川か」

「どうしたんだお前たち」

「外で練習していたら、この部屋だけカーテンが閉まっていてね。気になったから休むついでに緑川と見に行こうってなってね」

「誰も使っていないはずの部屋だったからね……ま、まぁ幽霊ではないと思ってたけど!」

「怖いからやめようって言ってたのは何処の誰だったか……」

「う、うるさいなぁ……で、何見てるの?」

「あー……まぁ、2人ならいっか。ホラー映画」

「ひぃぃいい!?」

「冗談は程々にしておけ……このバカの新必殺技」

「新必殺技?」

「まぁ……実はかれこれ何ヶ月か練習しているんだけどな」

「何ヶ月って……日本代表になる前からか?」

「そうなるな」

「ふぅん……それでどれくらい出来たの?」

「9割だと私たちは思っている」

「9割?残りの1割は?」

「威力が安定しないんだ……見てもらった方が早いな」

 

 そう言ってさっき見比べた2つの映像を流す。

 

「なるほど……緑川。何か気付いた?」

「あんまりかな……ヒロトは?」

「そうだね……2つの映像を同時に流せる?」

「同時って……」

「うん……時間差じゃなくて同時に見比べたい」

「いいだろう」

 

 ヒロトの指示で2つの映像を同時に流すことに……

 

「やっぱり……」

「やっぱりって?」

「成功した方と失敗した方……地面へ蹴り込む角度と地中から出てくるときの角度が違うね」

「え?マジで?」

 

 そう思って流すと……

 

「確かに……地面へ上から打ち込むときと斜め上から打ち込むときって感じで僅かに違うな……これが安定しない原因か?」

「いや……それだけじゃ無いと思う」

「どういうことだ、緑川」

「風……竜巻の出来る時も僅かに違う気がする」

「出来る時……蹴る時か」

 

 ということで、もう一回流すが……

 

「右足で蹴る時に違いはない……ように思えるけど……」

「そうだな……ここは何回も確認したな」

「灯台下暗し……じゃないけど、蹴っている右足じゃなくて、蹴っていない左足じゃないか?」

「左だと?」

 

 ということで、もう一回流すと……

 

「本当だ……左足の動きが違うな……」

「ああ。繊細な技だからこそ、一挙手一投足が重要になる。回転をかける右足に意識が行き過ぎて、左足の動きが適当になっているな」

「適当というか……いや適当か。右で回転をかける時に邪魔にならない位置に左足はあるって感じだし」

「ならさ、左足でも回転をかけたらどうだい?」

「左でも?」

「右で回転をかけて、両足で押し出すのを、右で回転をかけ、左でも回転をかけてから両足で押し出す」

「……でも回転のかけ方では、相殺されねぇか?」

「じゃあ、同じ向きに回転を……いや、ダメか。これ以上回転させたら、コースが安定しなくなる……威力は解決しても、コースがダメならゴールへ向かわない……か」

「ならさ、右足で回転をかける前に左足で……」

 

 この後、2人も交えた4人での議論でおおまかな方向性が見えてきた。いくつか案をもらったので、今後実験をしていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日……ネオジャパンとの代表をかけた試合当日である。既にお相手は準備済みだ。……なんというか……うん、前までに会ったことのあるメンバーばかりだけど、前とは面構えが違う感じがするな。

 

「スターティングメンバーを発表する」

 

 今までの試合同様、久遠監督からスタメンが発表される。

 

「FW、豪炎寺、吹雪。MF、基山、虎丸、鬼道、緑川。DF、木暮、壁山、土方、綱海」

 

 ……おっと?呼ばれなかったぞ?ということはベンチスタートか?

 

「ゲームキャプテン兼GK、円堂。以上だ」

 

 いやーベンチスタートか……アレを試合の中で試す絶好の機会って意味ではフルで出たかったなぁ……まぁ、久遠監督の指示だし従うか。

 

「そして、お前たちに言っておくことがある」

 

 ……何だろう?もしかして、試合に勝ったとしてもネオジャパンにいい選手が居たら、代表を交代するとかか?チームまるごとではなく、個別に入れ替えるとか?だから、気を抜かずに行けという――

 

「この試合、十六夜を出すつもりはない」

「――――――はい?」

「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

 悲報、監督からこの試合に出させてもらえないことが判明した。

 あれ、おかしいな?この試合って、ただの練習試合じゃなくて日本代表をかけた大事な試合だと認識しているんですが?え?試合がどうなるか分からないのに、始まる前に言われたんだけど……え?どういうことですか?オレ、何かやっちゃいました?何かのペナルティですか?




えぇーネオジャパン戦をどうするかという話ですが、この終わりからお察しを……!
理由は何となく分かると思いますが、次回の後書きにて。

ところで、今更気付いたけど、仮に監督たちが十六夜を本戦から起用しようと考えて、敢えて予選の時に、呼ばないor落としていたら、海外の代表チームで出て来た可能性があるな……と。本戦で呼ぼうとしたら海外の代表チームに所属しているからって断られそうだな……


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VSネオジャパン ~ベンチの外~

 試合に出さない通告を受けたオレは、監督の指示でユニフォームからジャージへと着替える。……そこまでするってことは、この試合がどんな状況になろうと絶対に出す気はないのだろう。

 なんというか……ネオジャパンのメンバーもベンチにユニフォームを着ていないオレが居るのを見て驚いている様子だ。いや、オレが一番驚いていますけど?え?本当に何かした?怪我もしてないんですけど?

 

「何ぃっ!?アンタ試合に出ないの!?」

「嘘でしょ!?日本代表がかかっているんじゃないの!?」

 

 と、着替えている最中にやってきた浦部と塔子に驚かれるが……

 

「監督が言うには出すつもりないってさ。まぁ、この試合は円堂たちに任せるわ」

 

 審判は古株さんが、実況解説はお馴染み角間がやってくれるそう。で、相手チームを見渡すとほとんど……と言うより、全員が顔見知りであることに改めて驚く。なんというか……レベルが高いんだな、オレたちの周りって。……で、それはいいんだが……

 

「デザームがMFなんだ……FWかGKだと思っていた」

 

 一部のメンバーはポジションが知っているものと違った……瞳子監督のもとで鍛えられた……とか?……というか、今更ながらネオジャパンのメンバー16人しかいないな……17人まで選手登録が可能なはずなんだけど、後1人は誰なのやら。

 そんな事を思っていると試合が開始される。

 

「風丸」

「はい」

 

 試合が始まった直後、風丸を呼ぶ監督。一言二言話したかと思うと……

 

「十六夜。悪いがついてきてくれ」

「ん?分かった」

 

 何か呼ばれたのでついて行くことにする。出番がないことは確定してたからなぁ……でも、何故呼ばれたのやら。

 そしてついた場所は、サッカー部の部室前のスペース。今はグラウンドで試合しているためか、辺りに人は居ない。

 

「監督の指示だ。前半が終わるまでに俺の必殺技を完成させたい」

「お前の必殺技?」

「ああ」

 

 ……前半が終わるまで……つまり急ピッチで完成させろと言うのが監督からの指示。……風丸がベンチスタートだったのはそのためか……

 

「分かった、協力する」

「話が早くて助かる」

 

 どうしてそんな急ぎで……と思ったが、理由を聞くのは後でもいい。前半が終わるまでってことはモタモタしていたら間に合わなくなってしまう。

 

「とりあえず、何処まで完成している?」

「一応イメージは掴めているつもりだ。ただ……」

「ただ?」

「まだ対人では試していない……ボールを持った状態でもだ」

「なるほど……察するにドリブル技か?ボールを持って対人ってことは」

「そのつもりだ」

「オッケー。軽くボールを取りに行けばいいか?」

「頼む……行くぞ」

 

 そう言って風丸はこちらに向かって走り出す。そして……

 

「……っ!」

 

 一気に加速し、オレを風の中に閉じ込めた。なるほど……身動きを封じるって魂胆か。

 

「そこ!」

「……くっ……!」

 

 横を通り抜けようとした風丸からボールを奪い取る。すると、竜巻のようなものは消え去った。

 

「風の中に閉じ込めて突破する……コンセプトはいいんじゃないか?」

「止められてなければ、素直に受け取れたんだけどな……」

「あはは……軽くって言ったけど、ちょっと手加減の度合い間違えた」

「いや、それくらい突破できないと通用しないだろうからな……で、受けてみてどうだった」

「そうだな……さっきも言ったようにコンセプト自体はいいと思う。相手を竜巻の中に閉じ込める……その時のスピードもかなりものだった。……だが、その後だな。オレの横をドリブルで突破しようとしたときに、一気にスピードが落ちていた。少なくとも、オレが反応して奪うことができるレベルまで遅くなっていたのは確かだ」 

「やっぱりか……」

「やっぱりって?」

「自分でも遅くなったのは感じていた……ただ、あれ以上に速くすると……」

「今度は別の問題が生じる……か」

「そうだな」

 

 自分の速さとボールの速さが噛み合わない。風丸の足が速い分、ボールのスピードをそこに合わせようと思うとコントロールに不安が残る……か。

 

「あの風の中だと、お前も竜巻の外は見れないんじゃないか?」

「そうだな……その通りだ」

「となると、必然的に遅くなるな……ドリブルのスピードを速くしてしまうと、万が一竜巻の外でカバーに来た相手が居たときに接触する可能性が高い」

 

 見えてから止まろうに距離が近すぎる……1対1ではそんな心配はないだろうが、試合中となれば、自分と相手以外にも選手がいる。そいつらの位置が分からなくなってしまうのに制御できないスピードで走る……風丸も他者も接触して怪我をする可能性が残ってしまうな。

 

「……発想の転換か」

「何かいいアイデアが?」

「出来るか分からんけど……その竜巻というか風の勢いで相手選手を飛ばすのはどうだ?」

「……ただ竜巻の中に閉じ込めるんじゃなく、閉じ込めた上で最後は吹き飛ばすってことか?」

「ああ。そもそも竜巻の中では外が見えないし、逆も然りなんだ。それくらい強烈な風の壁が出来てしまえば、外から干渉することはまず出来ないだろう。出来たとしてかなりの荒業になるだろうし」

「つまり、竜巻の中に閉じ込めた相手と俺は、他の奴らの横槍が入られない……1対1の状況になるんだよな?」

「そうだな。そこでお前はドリブルで突破しようとしたが……そんな狭いスペースでは、風丸の速さって武器は普通にやれば死んでしまう。それどころか、ブロックする側からすれば、お前の取れる選択肢はパスもシュートも消えドリブル一択……迷う要素がない」

「こっちは長所が消された上で、ディフェンス側はドリブルすると分かっている……有利にするはずが不利になっているんだな」

「だから、1対1の勝負をしない。相手を竜巻で吹き飛ばしてしまえば、そんな駆け引きはいらないだろ?」

「なるほど……確かに、それなら格上相手にも通用しそうだな。お前のような突破するのが困難なディフェンダー相手でも、そもそも勝負しなければいいってわけだな」

 

 勝負する前に片をつける……1対1の駆け引きを行わず相手を倒してしまえばいい。中々の暴論だし、風で吹き飛ばすって言っている以上普通は不可能だろう。だが、もし出来れば、この必殺技を破る方法はかなり限定される。

 

「となると帝国のサイクロン並の風力を生み出す必要がある……か」

「いや、それ以上だろ。あの風力じゃ足りない」

「少し実験してみる。付き合ってくれ」

「オッケー……って……ん?」

 

 それってオレが吹き飛ばされること確定なような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「十六夜か。前半も終わりになるというのに何処に……って何でそんなボロボロなんだ!?」

「ちょっと、打ち上げ花火の花火玉の気分を数十回くらい味わってきた」

「何を訳の分からないことを言っている。ほら見せてみろ、手当てする」

「あはは……」

 

 事実以外の何者でもないんだけどなぁ。それにしても、あれから何度も打ち上げられたなぁ……うん。おかげで技は完成したけど……いやぁ……よく飛んだな、今日は。空が青かったです。

 とまぁ、八神さんの手当てを受ける傍らで話を進める。

 

「で、試合はどんな感じだった?」

「一番大きいのは、向こうの(あらた)と呼ばれた選手がデザームの必殺技であるグングニルを進化させ、円堂の正義の鉄拳を打ち破って点を決めたな」

「マジ?」

 

 よく見るとイナズマジャパンはネオジャパンに0-1で負けている……おいおい。お前ら何しているんだよ。オレは空高く飛ばされてたけどさぁ。

 

「一応その後は、円堂が正義の鉄拳を進化させてグングニルを弾き返したが……」

「なるほど……でも0点ってことは攻めきれていないのか?」

「ネオジャパンのディフェンスが思ったより強固でな。崩すことが出来てないんだ。シュートもまだ1本しか打てていない」

「へぇ……それは中々の堅さだな。まぁ、だからこそ、刺さりそうだけど」

 

 八神と話している間に、虎丸と交代でフィールドに入っていく風丸。

 ヒロトのスローインで試合再開。ボールは緑川に渡る前にデザームがカットする。そして、そのボールを鬼道がカットし、風丸へと繋げた。

 

「な、何ですか!?あの竜巻は!?」

 

 風丸がドリブルをしてボールを運んでいく中で、ブロックに来た相手を竜巻の中に閉じ込める。

 

「さっき完成させたばかりの風丸の新必殺技。竜巻の中では風丸が、ボールを取られないよう、自分にパスを出しながら風の勢いを強めているはずだ」

「風神の舞!」

 

 そして、少しすると閉じ込められていた相手選手が大きく空へと打ち出される。それと同時に発生していた竜巻は霧散し、着地する風丸。そのまま、前へとボールを蹴り出し、ドリブルを再開した。

 竜巻が消えたとき、風丸のスピードはゼロになっている。スピードを完全に殺せば、周りを見る余裕が生まれ、次の行動をしやすくなる……しかも、目の前にいた相手はその間空中にいて手出しができない。

 

「爆熱ストーム!」

 

 ボールは豪炎寺に渡り、シュートを放つ。そのシュートに対し源田は手に巨大なドリルを生成し……あれ?

 

「ドリルスマッシャーV2!」

 

 デザームの必殺技を放った。勢いよく回転するドリルはシュートを弾こうとするも、豪炎寺のシュートを弾くことはかなわずドリルは破壊される。

 

「はぇ……源田がデザームの必殺技を……ねぇ」

「ネオジャパンの選手は、新必殺技を生み出すのではなく、他者の持っている強力な技を取り込んで自分の物にしている」

「なるほどねぇ……確かにゼロから生み出すより、元々ある強力な技を使えるようにした方が効率的ではありそうだな」

 

 1点決めたことで木野と冬花は手を取り合って喜び、目金は名前が付けられなかったと言って項垂れていた。

 そんな中、前半終了のホイッスルが鳴り響き、フィールドに出ていた選手たちがベンチに集まってくる。……ん?もしかして、前半でシュート数2ですか?それ大丈夫か?

 

「後半の指示を伝える……が、その前に十六夜」

「はい」

 

 何だろう。やっぱり試合に出すから準備しろってことだろうか?

 

「コレを渡す」

 

 そう言って渡されたのはDVD……?

 

「えっと……」

「使い方は分かるだろう。今から行け」

「試合は?」

「必要ない」

「…………分かりました」

 

 遂にベンチにすら要らないようだ……いや、試合に出ないことが決定しているからかもしれないが。さてさて、DVDの中身は……っと。

 

「これは韓国代表と中国代表の試合か……ってことは1回戦だな……っ!?」

 

 試合を見ようと思った矢先、韓国代表ファイアードラゴンの選手を見て驚く。

 

「マジか……アフロディ、バーン、ガゼルの3トップとか……」

 

 冗談じゃねぇ……いや、確かにこれなら日本代表の選考に居なかったのも、ネオジャパンのメンバーに居なかったのも頷ける。だけど……いやぁマジか……まさか3人が別のチームとして出場するとは……な。……あれ?あいつらって韓国と関わりあったのか?

 

「まぁ、せっかく時間もらったし……分析させてもらいますか」

 

 ファイアードラゴンは次の試合勝てば決勝進出で、オレたちと決勝戦を戦うことになる。もし、準決勝で彼らが負けたとしても、このチームを越えるチームが出てくると考えれば分析しておくに越したことはない。というか……こいつらが手を組んで負けるビジョンが見えないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久遠監督」

 

 試合終了後、久遠監督に声をかける瞳子監督の姿があった。

 

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ」

「……十六夜くんを出さなかったのは、チームの成長の為ですか?」

「…………」

「ビッグウェイブス戦、デザートライオン戦共に見させてもらいました。もし彼が出ていれば、ネオジャパンはもっと簡単に負けていたでしょう。そして、円堂君を始めこの試合を通して選手たちは成長しなかった」

「……1人の力には限界がある。彼を出さなかったのは、このチームが十六夜綾人という選手にどこまで頼っていたかを見るためです。彼に頼り切っていては、ここから先の戦いを勝ち上がれないでしょう」

「今回の試合は通過点に過ぎなかった……と?あくまで、自分たちが成長するための通過点に……」

「ここで負けてしまうのならそれまでだっただけです。1人の選手が居ないから負けた……その程度のチームなら、世界一になることなど到底不可能でしょうから」

「彼はネオジャパンが勝った場合には17人目の選手として貰い受けるつもりでしたが……彼抜きのイナズマジャパンに負けたのなら文句もありませんね。また鍛え直してきます」




ちなみに久遠監督が必要ないと言ったのは、十六夜くんがこの試合に必要ないということと、十六夜くんにとってこの試合は必要ないことの2つの意味がありました。

ネオジャパン戦はかなり悩みました(というか、FFIまでに空いてた原因の大半はここをどうするか悩んで執筆が止まってた)
他の選手の持つ有用な必殺技を共有している→十六夜くんは既に分析済みのためあっさり止められる。
強固なディフェンス→十六夜くん1人で突破できてしまう。
ネオジャパンを強くする→十六夜くんが苦戦できるレベルまで強くしたら、久遠監督普通に選手入れ替えるだろ。
……とか何とか考えたら、ネオジャパン戦がデザートライオン戦以上の虐殺になりそうでしたね。そうなるんだったら一層のこと十六夜をベンチにすればいいなってなりました。

とまぁ、こんな感じでネオジャパン戦はあっさり終わらせましたが、ファイアードラゴン戦はそこそこありますのでお許しを……!というか、若干3名ほど十六夜くんのせいで原作より強化された選手が居ますので……ね?
後、ネオジャパンメンバーも出番はある予定です。


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世界の壁

「気合い入ってるなぁ……」

 

 ネオジャパン戦は最終的には2-1のスコアでイナズマジャパンが勝利し、無事乗っ取られずにすんだらしい。らしいと言うのは後半に当たる時間及びその後の時間を、他チームの分析に費やしていたためである。そもそも、前半の最後しかリアルタイムで見てないからアレだけど。

 一応、八神が撮っていた試合映像を見させてもらったが……うんまぁ、トライアングルZが出てきたときは驚いたなぁ。……というか、あの武方三つ子じゃねぇんだから、最後の決めポーズいらなくね?

 と、そんな他人事のように何を見ているかと……

 

「8対8のミニゲーム形式の練習……いや、急に呼ばれて何でベンチなのだろうか?」

「知らん」

 

 八神と一緒に体育館でフィジカルトレーニングをやっていたら、冬花に呼ばれて、ベンチで練習を眺めている。監督が呼んだのはいいんだけど……

 

「十六夜」

「何でしょう?」

「10分休憩を挟んだ後、お前も混ざってもらう」

「え?いいんですか?」

 

 今まではこれでもかと隔離されていたのに……

 

「ただし、条件がある」

「条件?」

「本気を出せ。お前の本気のプレーをするんだ」

「……いいんですか?」

「周りに合わせる必要は無い」

 

 チーム練習で本気を出すのか……しかも、合わせるなって……まぁ、いっか。何か考えがあるんでしょ。どうなっても知らないけど。

 

「ただし、円堂とお前は必殺技の使用を禁止する」

「円堂も?とりあえず、分かりました」

「それと……」

 

 あることを頼まれたので了承する。そんな感じで、約10分後……

 

「何かおかしくね?」

 

 円堂たちの休憩を挟んだ後、チーム分けを変えると言うことで、監督が分けたのはいいんだが……

 

「何でこっち5人なの?向こうは11人なのに。というか不動ベンチなの?」

 

 こっちの面子はオレ、ヒロト、立向居、緑川、栗松。残り全員相手……いや、バランス悪すぎでしょ。せめて、誰かもう1人くらい欲しいんですけど?というか不動君ベンチにいないでこっちにおいで。え?監督の指示でダメだと?

 

「休憩終わり!再開するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンバランスなチーム分けだな」

「ですね……円堂君、豪炎寺君、鬼道君、吹雪君と……主力を固めた上で人数が6人も違いますから」

 

 十六夜に本気を出せと言っていたが……明らかに不公平過ぎるな。偏りが酷すぎる。というか……

 

「…………」

 

 何で不動はベンチなんだ?せめて、十六夜側で出せばいいのに……それでも5人足りないと言うのに。

 

「こっちのボールで試合スタートだし……やりますか」

 

 ボールは十六夜が持って始まった。

 

「取らせてもらいますよ、十六夜さん!」

「人数差は同情するけど、取らせてもらうよ」

「取れるならいいぞ」

「「……っ!?」」

 

 宇都宮と吹雪がプレスを仕掛けた……が、軽い言葉とは裏腹に……

 

「は、速いです……!」

「ちょっ、どうなってるんですか!?今まで見たものよりもずっと速いですって……!?」

 

 シザースフェイント、フェイントの中ではそこまで難しくない部類に入るだろう。しかも、前へと進まずその場で使うなら、初心者でもそんなに習得まで時間はかからないくらいのものだが……

 

「次元が違いすぎるだろ……」

 

 十六夜のそのフェイントは、ボールを跨ぐのが速過ぎる。そのせいか、右か左かの二択どころか、いつ突破を仕掛けるのかすら読めない……

 

「こっちの足下見過ぎ。そんな棒立ちじゃこっちの行動に反応できないって」

 

 と、言葉をかけながらあっさりと宇都宮と吹雪の2人の間を通り抜けた。

 

「……お前……それが本気か?」

「どうだろうな」

「……くっ!?」

 

 ブロックに来た鬼道。ブロックに来たものの、十六夜が左足を右足の後ろを通しつつ、爪先で彼の股を通すようにボールを蹴って突破する。そのまま走り抜けるも……

 

「俺がついてる!」

「ナイスだ!挟むぞ風丸!」

「挟む?なにそれ」

「嘘だろ……!?」

 

 一瞬ストップする十六夜。それに伴って、風丸も足を止めてしまったが、その隙をつき一気に加速して突破する。ストップアンドゴー……一瞬でスピードを殺して、そこから爆発的な加速でトップスピードへと持って行く……なんてアジリティだ。トップスピードは風丸や吹雪に劣るもののそれでも充分だろう。

 

「ディフェンス!止めてくれ!」

「スーパーしこふみ!」

「あぁ、ここまでね」

「避けられたぁ!?」

「ここは僕が!アイスグランド!」

「はいはい、こっちと」

「……っ!?」

「旋風陣!」

「ダメだって。既に分析済みだからさ」

「うわぁっ!?」

「うぉおおおお!」

「おりゃぁああああ!」

「必殺技は通じないけど、その突撃はもっと通じないぞ」

「つ、強すぎだろっ!?」

「……っ!」

 

 土方のスーパーしこふみを、落ちてくる足に踏みつけられないよう避け、ディフェンスに戻ってきた吹雪のアイスグランドを、軽くジャンプし、地面が凍ったのをみてスケートをするかのように逆サイドへと移動し、木暮の旋風陣をあっさり躱し、飛鷹と綱海の猪突猛進のタックルを自身がタックルすることで跳ね返す。……あっという間の5人抜き。

 

「止めるッス!」

「ペナルティーエリア侵入完了っと」

「あぁ……」

 

 自身の前に立ちはだかった壁山をヒールリフトで突破する。円堂との1対1……だが、

 

「来い!」

「…………」

 

 何故かシュートを打たず、円堂の元へドリブル続行。たまらず円堂は前に出ようと……

 

「ほいっと」

「あ……!」

 

 そのタイミングでシュートを放つ。円堂が前へと一歩を踏み出したタイミングで足を振り抜いて点を決めた。あのタイミングでは円堂も反応できない……

 

「……あ、ヒロト、緑川ごめんな。動いてくれてるのは見えてたけど、パス出さずに決めちゃったわ。次からはパス出すからよろしく」

「あ、うん……」

「わ、分かった……」

 

 必殺技禁止……久遠監督の言う通り、十六夜は必殺技を使う素振りすら見せずに完封した。たった1人で11人を圧倒した……正確には豪炎寺は躱していないんだが……そんなのは些細な違いだろう。というか……あの距離まで詰められたら円堂も出せる必殺技に限りがある。……これが世界レベル……なのか?十六夜はこれ以上を目指しているのか?

 

「お前……代表選考の時、本気だったか?」

「んー言わなかったっけ?まだまだこんなもんじゃねぇ的なこと……まぁ、身体能力は監督のお陰で鍛えられたから、その分更に良くなっただろうけど」

「……やっぱり、5人だって油断できないな。次はこっちの攻めだ!」

 

 鬼道が声をかける。人数差はあれど、改めて油断できないと悟ったらしい。円堂たちのキックオフで再開。豪炎寺から宇都宮、そこから鬼道へと渡った。

 

「ところでさ、覚えてる?オレって本職はDF……突破するより止める方が得意だってこと」

「……っ!」

 

 鬼道がフェイントを仕掛けるも、余裕でついていく十六夜。

 

(右……左……いや、ダメだ。後ろへのパスは自由にさせてくれているが、ドリブルでの突破と致命的なパスコースは全て塞がれている……!それに何だこのプレッシャー……ボックスロック・ディフェンスの比じゃない……!)

 

 そして……

 

「そこ」

「……っ!」

 

 手をまるで槍のように鬼道の前へと突き刺すと、身体を鬼道とボールの間に入れる。そして、ボールを踵で軽く蹴って、流れるように鬼道を躱し……

 

「はい」

 

 そのままボールを蹴った。その先にはヒロトがいる。

 

「っ!?」

 

 だが、受け手であるヒロトはボールに追いつけなかった。ボールはそのままラインを割る。

 

「あ、悪い」

「こっちこそゴメン。タイミングがズレたみたい」

 

 と、フィールドで声をかけているが……鬼道との1対1をさっきまでしていたのに、一瞬で切り替えていた。……いつからヒロトの位置を把握していたんだ?

 

「鬼道!」

「ああ、虎丸!」

 

 風丸のスローインでボールを受け取ったのは鬼道。そこから宇都宮へとパスを出す……が。

 

「そこ来ると思ってた」

「えっ……?」

 

 宇都宮がトラップし前を向こうとした瞬間、すれ違うようにしてボールを奪った十六夜。

 

「鬼道君から虎丸君にパスが出ることを読んで……」

「あんなに呆気なく奪われるなんて……」

 

 そのままドリブルで攻め上がる……ん?

 

「何処を……?」

 

 首を振って周りを確認している。なんというか……ボールを見る時間が少ないな。

 

「そこだ!」

 

 と、そこに風丸がスライディングを仕掛ける。それをボールと共に跳び上がったかと思うと……

 

「そこ」

 

 空中でパスを出す。だが……

 

「……っ!」

 

 ボールは緑川よりも手前のスペースに。そのまま、ラインを割った。

 

「あ、ゴメン」

 

 再びパスミスをする十六夜。その後も、十六夜がボールを奪ってパスを出すも、全て繋がらない。

 

「十六夜先輩……調子が悪いんでしょうか?」

「それはないと思いますよ。だって、あの人数差で未だ円堂君たちのシュート数は0……ネオジャパン以上のディフェンス力を1人で見せているんですから」

「そもそも既に1人で1点取ってるしな」

「うーん……一緒に練習していないから、皆さんのことが分かってないのかな?」

「それもないんじゃないかな。だって、試合だとパスミスをしないし……一体、どうしちゃったんだろう」

「パスミスしているのは十六夜のせいじゃない」

「響木監督?どういう事ですか?」

 

 と、ベンチでの会話に混ざってきたのは響木さんだった。

 

「そうですよ。十六夜先輩からのパスだけ全部ミスしているんですよ?」

「それは久遠が十六夜に本気を出させたからだろうな」

「お父さんが……?それに本気を出したから……?」

「ああ。十六夜のプレーのスピードに、他のメンバーが追いつけていないんだ」

「そっか……十六夜はアイツの考えるベストなところに、アイツの考える最良のタイミングで出している」

「確かに……十六夜君のパスする先は相手が警戒していなく、味方が走っている位置……相手にとっては出されたら嫌な位置ばかりです」

「そのタイミングで、そこに走り込んでいて欲しい……それが十六夜の思うプレー。……ただ、もし十六夜側に問題点があるとすれば……」

 

 何度目かのパスミスをする十六夜。何度目かのスローインで再開する……

 

「基本的にノールック……パスする先を見ていない。その上、パスするモーションもほとんどなく、誰もいつパスを出すか分かっていない。……だから、十六夜のパスは相手に自分と同じレベルを要求する、相手に合わせるパスじゃなく相手に取ってこいと言う傲慢なパス。今まで受けてきたパスとは根本的な性質が違うものだ」

「ですが、現時点でそれを問題点と感じているのは十六夜を含めた我々以外の話です。十六夜には周りを気にするなと伝えてありますので……これが、十六夜の求める理想のプレーというわけですね」

 

 十六夜の求める理想……パスミスをしても、常に味方の2,3歩……下手すればもっと先に出している。つまり、その差の分だけ味方に早く動いて欲しい……か。

 

「……っ!」

「あっ!ヒロトさんがパスを取れましたよ!」

「と言ってもギリギリだがな」

 

 何とか足を伸ばして、パスを受け取るヒロト。ただ、本当にギリギリだったようで体勢を崩してしまっているが。

 

「十六夜くん!……っ!?」

 

 だが、その様子を一切見ていない十六夜。誰もがボールを見ていたのに、パスを出した本人はボールを一切見ていなかった。

 

「もうちょっと先がよかったかな……」

 

 足を止め、足を後ろに伸ばすことでパスを受け取る十六夜。……なるほど、十六夜が求めていたのはもっと先だったわけか……しかも、そのロスのせいで綱海と土方のブロックがつく。

 今のも十六夜の走る先に出していれば、2人に挟まれる前に突破できた……

 

「十六夜の本気……いや、考える理想のプレーは相当高いな」

 

 と、そんな十六夜のプレーを見て、鬼道が何やら思考をしている。大方、十六夜のプレーを分析しているのだろうか?

 

(今までのパス……そして、今のパスを受け取ったこと。もし同じチームだったら、十六夜の場合、指示を出すよりワンテンポ早く……正確には、俺が指示を出すポイントを見つけた時には既にその行動を実行している。つまり……他のメンバーにとっては十六夜のプレースピードは早すぎる……!)

 

「そこまで!全員集合!」

 

 十六夜が2人を抜き去ろうとした瞬間に監督の声が響き渡る。

 

「今日の練習はここまでだ。各自、クールダウンを怠るな」

「「「ありがとうございました!」」」

「あ、監督ー終わりって事は、ここ来る前にスプリント50本残ってたんですけど、やらなくてもいいって事ですか?」

「スプリントは0からやり直しだ」

「ひでぇ!?中断したの監督のせいなのに!?」

「早く行け、倍に増やすぞ」

「うへぇ……」

 

 肩を落としながら体育館へと戻っていく十六夜。私も戦術アドバイザーとしてついて行くことに。

 

(…………テクニックだけじゃない。スタミナ、フィジカル、アジリティ、体幹、戦術、視野の広さ、判断スピード……あらゆる能力(パラメーター)が留学前と比較し、飛躍的に上がっている。これが世界レベル……このままだと完全に置いて行かれるな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は練習しないのか?」

「練習はしていただろ?なんならさっきまで走らされてただろ?」

「まだ日は落ちていないし、他のヤツらはやっているのにお前はどうなんだって話だ」

 

 今日の練習が終わり自由時間に入っている……はずなのだが、チームメイトのほぼ全員が居残り練習をしている。次の決勝戦に向けて気合い十分ってとこらしい。

 

「次の相手は韓国代表ファイアードラゴンかサウジアラビア代表ザ・バラクーダ……闇雲に練習すれば勝てる……ってわけじゃねぇしな」

「確かにそうだな。世界大会レベルにもなれば、その予選であっても今までと規模が違う。対戦相手を分析することは必須と言っていいか」

「まぁな。練習が無駄とは言わないが、対戦相手の情報は集めておいて損はない」

「……それで、もう1つの準決勝……どちらが勝つと思う?」

「韓国代表ファイアードラゴンだな。あの攻撃力……最初の抽選でアジア最強と言われているのも頷ける。ビッグウェイブスが守備重視のチームとすれば、ファイアードラゴンはその守備すら破壊してくる攻撃的なチーム……前の2試合より点の取り合い合戦になるだろうな」

 

 ファイアードラゴンが本当に相手だった場合、アフロディ、バーン、ガゼルの3人が主にシュートを打ってくる。アイツらの必殺技もそれぞれ進化を遂げていたし何より……何かを隠している気がする。その何かは分からないが……

 

「それにファイアードラゴンはボックスロック・ディフェンスなんて目じゃない守りの必殺タクティクス、パーフェクトゾーンプレスがある……初戦では1回しか使っていなかったが……アレを破る方法がさっぱりだ」

「攻撃力が最強……そして、破る方法が不明の必殺タクティクス……か」

「ああ……だから、攻撃だけじゃなく、守備もかなりのものだ。……それに、相手チームには鬼道と同等以上のゲームメーカーが居るし……ヤバいな。そう思うと、サウジアラビア代表が韓国代表に勝てるビジョンが見えてねぇ。日本代表もだけど」

「そこまで言わせるとは……な」

 

 ファイアードラゴンとザ・バラクーダの試合はリアルで見に行った方がいいかもな……映像越しでは限界もあるだろうし。監督に交渉してみるか……

 

「十六夜!」

 

 と、そんなことを話していると円堂が駆け寄ってくる。

 

「おー円堂、どうした?」

「俺にシュートを打ってくれ!」

 

 …………はぁ?

 

「わざわざオレに頼まなくても、豪炎寺とかヒロトとか居るだろ?」

「お前に打ってもらいたいんだ!お前の本気を受けてみたい!」

「……たく、分かったよ。準備してくるから少し待ってろ」

 

 そう言ってスパイクを取りに行く。全く……何でグラウンドで一緒に練習していたアイツらじゃなくて、わざわざオレに頼んだのかね。

 そう思いながら準備をし、フィールドへ。ペナルティエリアの外に立って、ゴール前に立っている円堂に声をかける。

 

「本気って言ってたけど、いいんだな?」

「ああ、来い!」

 

 そういや、練習は別だったし、円堂の守るゴールにシュートを打つのって久々だな……と思ったけどさっきの練習で打ったわ。うん、点を決めたわ。

 とりあえず、目を閉じて考える……本気か……あの技はまだ出せないって考えるとアレしかないか。

 

「行くぞ」

 

 ピーーー!

 

 目を見開くと同時にボールを蹴り上げ、ペンギンを呼び出す。上空に浮かぶ満月から15の光がボールに注がれる。

 

「ムーンフォースV3!」

 

 光り輝くそれ……暗闇を照らしている光の球を思い切り蹴る。すると、光は16個に分かれる。輝くボールを、5匹ずつ3層に分かれて覆うペンギンたち。

 

「正義の鉄拳G5!」

 

 そのシュートに対して、円堂はネオジャパン戦で進化させた正義の鉄拳を放つ。虹色の光が拳から漏れていく……だが、

 

「……ぐっ……くぅ……!」

 

 徐々に拳は押されていく。何とか踏ん張ろうとするも、円堂自身も地面にスパイクの跡を残しながら押し込まれていく。

 

 バリンッ!

 

 ペンギンたちが力強く輝くと同時に拳が砕けた。そして、そのままボールはゴールに刺さった。

 

「円堂さんの進化した正義の鉄拳が……こんなにあっさり破られるなんて」

「十六夜さんのシュートも進化していたッス……」

「こんなシュートをまだ隠していたでヤンスか!?」

 

 周りで自主練をしていた奴らも驚きを隠せない様子だ。……まぁ、よく思い返せば、代表選考を含める3試合(ネオジャパン戦は出番がなかった)を通して必殺シュートってオーバーヘッドペンギンとヴァルターペンギンしか見せてないからな……一部の面子以外。そりゃ、驚いてもしかたないか。

 

「大丈夫か、円堂。立てるか?」

「あ、ああ……」

 

 尻餅をついて、自分の手を見つめている円堂に声をかける。

 

「なぁ、十六夜……」

「なんだ?」

「世界には……こんなシュートを打つやつがたくさん居るのか……?」

「…………」

 

 ああ、そういうこと。オレをシュート相手に選んだのは、イナズマジャパンのメンバーの中で、唯一世界レベルを体感してきたヤツだから。そんなヤツから見て、自分の今出せる最高の必殺技が何処まで通用するか知りたかった……ってことか。

 

「まぁ、ぶっちゃけると――――この程度ならいくらでも居るだろうな」

「……っ!」

 

 そう考えると下手に元気づけようと嘘をつくのは、ヤツの求めていることとは違うだろう。

 そのままゴールに入ったボールを拾い上げ、リフティングを始める。

 

「今の技は、お前も見たことがあったよな?そこから向こうで修行して進化させたよ。……でも、向こうのキーパーの必殺技は破れなかった」

「そ、そうなのか!?」

「ああ。こっちに帰ってくるまで挑み続けたけど、1度も破れなかった。……そして、向こうにはそんなキーパーの必殺技を簡単に破ってしまうシュートを持っているヤツがいた」

「…………っ!」

「やぁーあのシュートは身を以て体験したけど……この必殺技とは比べ物にならない。使い手がすげぇってのもあるけど、あのシュートは越えられなかった……」

 

 まぁ、オレの本職はディフェンダーだからシュート力で勝つ必要はないけど……それでも、まだ他の面でも追いつけていない。

 さっきの練習も甘かっただろう。今にして思えば、もう少し早くパスコースを判断し、パスを出すことができたな。それに守備も結果的にはシュート数0だが、もっと周りを見て状況を判断していれば早く奪えた。まだ甘い……ドリブルもフェイントもイメージの動きと僅かにズレがあったし、ディフェンスはもっと周りを見て情報を得て、他の奴らの次の動き、やりたい動きを予測し、確実に潰すことがまだ出来ていない。1対1より多対1の方が動きが出来ていないし……まだまだ反省点はあるな。

 

「……で、いきなりどうしたんだよ」

「……今のままでは勝てないって久遠監督に言われた」

「……そうか」

「それは正義の鉄拳が、世界には通用しないってことなんじゃないかって思ったんだ」

「…………ん?」

「ありがとう十六夜!お前のおかげで実感した!うん……新しい必殺技か……」

「いや、そういうことじゃ――」

 

 何か円堂が久遠監督の意図を違う風に受け取った気がして、否定しようとした。しかし、オレの目線の先にはこのやりとりを見ている久遠監督が居て、静かに首を振っていた。えっと……これ以上は何も言うなってことでよろしいですか?

 

「――あーちょっと用事あるから行くな」

「必殺技……正義の鉄拳を超える必殺技……」

 

 って、聞こえてねぇし。まぁいいや。

 ということで、円堂を置いて何処かに行こうとすると久遠監督が手招きをしている。えーっと、周りには人が居ない……あ、呼ばれてるのオレか。

 

「十六夜」

「監督……いいんですか?アイツのこと放っておいて」

「それより、決勝戦までの指示を伝える」

「えーっと……また、個別メニューですか?」

 

 と、質問するが早いか渡されるのが早いか……いやいや、これって……

 

「グローブ……?」

「キーパーとしての練習をするんだ」

「…………え?何故に?」

「お前はこのチームにおいて、サブキーパーのサブ……3人目のキーパーだからな」

 

 ……マジで?いや、キーパーも出来なくはないけどさ……本気で言ってますか?

 まぁ、このチームの主のキーパーが円堂、サブキーパーが立向居……でそのサブと。……確かに残った15人の中で、キーパー経験ありそうなのオレくらいだし、万が一2人が負傷して、キーパーとして出られなくなったら、オレにまわってきそうだけどさぁ……いや、何でこのタイミングで?前は新必殺技を完成させろって言ってみたり、今度はキーパーやれって……新必殺技がシュート技と知っていますよね?

 ただ、何を言っても無駄な気がするので……

 

「……分かりました」

「練習は明日からだ」

「はい」

 

 ところで、いつになったらオレは本格的にチーム練習に混ざることが出来るのだろうか?

 後、気付いたらほとんどのヤツが自主練を切り上げて居なくなっていたことを記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不動。お前にこれを渡しておく」

「へぇ……はぁ?」

「これが使えるかどうかはお前次第だ」

「なるほどねぇ……アンタがベンチで十六夜のプレーを見てろって言ったのは……」

「そこまで分かってるならいい」




というわけで、世界の壁を十六夜くん(副キャプテン)が見せつける+円堂君(キャプテン)が悩み始める回です。なお、十六夜くんのせいで余計に正義の鉄拳じゃ通用しないんだという思考に陥らせたのは内緒。
ちなみに、十六夜くんはオルフェウスメンバー+久遠監督によってアホほど強化されていますが、いくつかの要素は留学前とほぼほぼ変化なし(下手すれば弱体化?)です。例えば、シュート技以外の必殺技のレパートリーは変わってないですね。

というか、約4ヶ月週1投稿が続いている……!気付けばアニメの1クール分超えたな……!さぁ、どこまで続くか……!


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蚊帳の外

「もう1本行くよ」

「おぉー」

 

 キーパーとしての練習が始まってから数日が経っただろうか……うんまぁ……

 

「相変わらず器用だね。全ポジション満遍なく熟せるなんて」

「あはは……そうでもねぇけど」

 

 ここ数日、午前中はチーム練習に混ざらず、八神とキーパーの特訓。午後は筋トレで、夕方はファイアードラゴンの分析。夜はヒロトと緑川の自主練に付き合っている。……あれ?今更ながらハードメニュー?

 

「次、行くぞ!うぉおおおおおお!」

 

 緑川がアストロブレイクを放つ……空中で。何やら試行錯誤しているようで、地面を抉りながら進むはずのシュートが空から来た。

 

「ロケットペンギンV3!」

 

 そんなシュートに対して、ペンギンたちを突撃させる。ボールに対し向かっていくペンギン……そのままシュートを弾き返した。

 

「また止められた……!」

「そうだね……もっとパワーを溜めないとゴールを決めるのは難しそうだね」

「だな。地上で放っていたのを空中で放つアイデアはいいけど、上手くボールに力が集まっていない感じがする」

「でも、地上で放っていた時よりは強力になったんじゃないかい?」

「そうだな……元々地面を抉って進んでいたから、そういうのが無くなった分、力が減少はしなくなったな」

「もう一回、打っていいか?次はもっと力を溜めることを意識してみる」

「もちろん。気が済むまで付き合う」

「そうだね。やろう、緑川」

「ありがとう。もう少しで行けそうな気がするんだ」

 

 こうして、今日も夜遅くまで彼らの特訓に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ試合が始まるな。十六夜」

「……ああ」

 

 翌日……オレと八神はスタジアムに居た。

 

「準決勝……韓国代表ファイアードラゴン対サウジアラビア代表ザ・バラクーダ……どうなるんだろうな」

「さぁな……まぁ、久遠監督に許可貰って観戦しているんだ。収穫はありませんでした……なんて答えることがないよう、しっかり見させてもらうさ」

 

 他のメンバーはいつも通り雷門中で練習している。まぁ、何人かは必殺技完成の為に躍起になっているし、円堂もあれからずっと新必殺技に執着なようだし……他チームの分析は1人でやりますか。

 

「……何か気になることでもあるのか?ずっと、考え事をしているようだが……」

「ああ、いや。何でもない」

「何でもなくはないだろう。試合まで少し猶予があるし、話してみろ」

 

 なんというか……鋭いな。まさか、気付かれていたとは……

 

「……豪炎寺のことだよ」

「豪炎寺だと?てっきり、円堂か緑川だと思っていたんだが……」

「円堂はともかく、緑川はある意味では吹っ切れているだろ……ただ、アイツの場合はオーバーワークになっていないかが心配だな」

「ヒロトも言っていたな……アイツにはしっかり休んでいると言っているらしいが、本当かは分からない。日本代表が決まるまでの3ヶ月は純粋にサッカーを楽しんでいたんだがな……」

「今は楽しさが薄れた……とか?」

「少なくとも私にはそう見えるな。エイリア学園に居た頃は、一番下のチームに配属されていたし、日本代表になってからは周りの成長に対し思うところがあったのだろう」

「劣等感……か。でもまぁ、仕方ないと言えば仕方ないだろ。……誰だって、最初からトップに立っているわけじゃない。周りに自分より格上が居るのは普通……だから、アイツがチームの足を引っ張っているわけでもないのに、劣等感なんて感じても仕方ねぇのにな……」

「今は緑川のことは置いておこう。それより何故、豪炎寺が気になるんだ?」

「何て言うか……最近は合宿所に戻るのも遅いし、すれ違う時も何か悩んでいて声をかけても、反応が遅いというか……」

「ふむ……」

 

 イナズマジャパンのメンバーで見れば、豪炎寺との付き合いは長い方に入る。そこそこの付き合いだから分かるというか……アイツが何か悩んでいて、それが上手く割り切れていないように思える。

 

「確かに、マネージャーたちが言っていたが豪炎寺のヤツ、最近の練習では周りに対する言葉が強くなっているって言ってたな。次が決勝戦だから気合いが入っているって思っているらしいが……」

「うーん……?」

 

 過去を思い出すが……気合いが入っているからって、そんな強い言葉を言う奴だったか?腑抜けているヤツには厳しいけど、アイツは言葉よりもプレーやボールを通して伝えるというか……何か違和感を感じるな。

 

「ダメだぁ……というか、同じチームメイトなのに、他の奴らと練習しなさ過ぎて、どうにも見えていない部分が多いな……虎丸の件だって、一緒に練習していればもう少し早く気付けただろうに……」

「そんなことを言っても仕方ないだろう。ほら、そろそろ試合が始まるぞ。切り替えろ」

 

 そして、試合が始まった……が、どうしたものか。なんというか……

 

「何で副キャプテンに選ばれたんだろ……?」

 

 実力だけでキャプテン、副キャプテンを選んだようには思えない。何かしらの役割があるから選んだはずだ。……確かに雷門中時代もキャプテンである円堂の補佐的なことをすることが多くて、副キャプテンっぽく見えていたこともあっただろうが……うーむ。どうにも、副キャプテンっていうか……纏める立場は向いてないんだよなぁ……

 でも、キャプテンや副キャプテンが纏める……チームのことを見なくちゃいけないなら、何故オレは隔離みたいな感じで試合は一緒にやるけど、練習はやらない的なことになっているんだ?よく分からねぇな……オレは……副キャプテンとして何の役目があるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督に結果は伝えておいた」

「ありがと」

「気にするな。それが私の仕事だ」

 

 試合終了後、八神が結果を報告したのを確認して会場を出る。

 

「10-0でファイアードラゴンの圧勝か……」

「そうだな。試合展開も終始ファイアードラゴンのペースで進んでいたな」

「しかも、得点はアフロディ、バーン、ガゼルの3人。相手キャプテンのチェ・チャンスウが起点となって、その3人の誰かが決める形が嵌まっていたな」

「ゴッドノウズ、アトミックフレア、ノーザンインパクト……それぞれ進化させていたな。少なくとも、バーンとガゼルの動きは私の知っているものよりも良くなっていた」

 

 アフロディに関してもダークエンペラーズ戦より良くなっていたし……今更ながら10点差はやばいな。

 

「ただ、十六夜……確かにアイツらのレベルもそうだが、必殺タクティクスのパーフェクトゾーンプレスも重要じゃないか?」

「そうだな……この試合もたった1回しか使う場面はなかったが……充分なインパクトを残していた。アレを破れるかどうかがファイアードラゴンを倒す一つの鍵になるだろう」

「あの必殺タクティクス……1人で破れるものではなさそうだな。ボール保持者と近くに居た1人を残りのメンバーから孤立させる必殺タクティクス」

「ボール保持者を3人が囲ってその周りを走る。更に近くにいた仲間とすでに作られた円を囲うようにして4人の選手が走る……2つの円が出来上がっていたが……あれはパワーじゃ破れないだろ」

「人数をかける必殺タクティクスだからこそ、突破できた時のチャンスは大きいが……そもそも突破口を見出せないのが課題だな……」

「まぁ、簡単に破れるなら苦労しないし、ファイアードラゴン側も使わないだろう。ただ、問題は必殺タクティクスだけじゃない……」

「さっきも名前を挙げていたチェ・チャンスウか?」

「ああ。アイツがファイアードラゴンの頭脳であり心臓だ。……アイツがファイアードラゴンってチームを1つに纏め、操ることによって相手を自分の思い描いている通りに動かしていた」

 

 アイツをおさえる……1対1で倒すことはそこまで難易度は高くないだろう。だが、たとえ1対1でアイツに勝てても、アイツのゲームメイクを破らない限りは意味が無い。しかも、1人を押さえたところで残りの10人は決して指示待ち人間の集まりじゃない。司令塔を潰しても自分で判断して動くことが出来るだろう。

 つまり、たった1人をおさえるのに人数をかけてしまうようなことになれば、確実にこっちが不利になってしまう。

 

「……正直に答えろ。イナズマジャパンは勝てると思うか?」

「……勝てないだろうな。お前の意見は?」

「同意見だ。勝てるビジョンが見えない……パーフェクトゾーンプレスが破れるか破れないか以前の問題だろう」

 

 まぁ、そうなるだろうな……それに少なくともアフロディ、ガゼル、バーンの3人のエイリア学園からここまでのレベルの上がり方と、イナズマジャパンの多くのメンバーの上がり方では差があり過ぎる。……というかあの3人が日本代表に居てくれたら凄く心強いんだけど……

 

「しかも、ご丁寧に宣戦布告してきてるし……」

「ん?どういうことだ?」

「簡単なことだ。ファイアードラゴンは情報を隠すため、1試合目はここまで点差をつけていない」

「そう言えば……1試合目でも10点近く開いていてもおかしくないはず……」

「ああ、だから1試合目はそこまで本気を出していない。で、この試合は次にイナズマジャパンと当たると分かっていてここまで点差をつけた……成長したのはお前たちだけじゃない。勝つのは俺たちだ……そんな感じだろうな」

「見せつけた……か。そんな相手に勝利するために必要なものは……チームとしての成長ってとこか」

 

 残された時間でどこまで成長できるか……か。ただ、そんな曖昧なものに縋ってもしょうがない。ここで負ければアイツらとの戦いも叶わないし、世界一になんてなれない。それにアフロディたちは適当に流して勝てるような相手じゃないと改めて感じた。

 

「次の試合は本気を出しても勝てるかどうかか……こりゃ、荒れるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、試合当日を迎えた。結局、あれから今日に至るまで、オレの生活は変わらず、チームがどうなったかはよく分かっていない。気付いたらグラウンドの一角に泥沼が出来ていたけどよく知らない。

 

「十六夜」

「何ですか監督。というか、何でオレは監督たちと一緒なんですか?」

 

 久遠監督と冬花、八神とオレの4人は、他の皆より早く試合会場に居た。いや、前回のデザートライオン戦では、そもそもスタート地点が違ったからアレだけど……何故別枠?何で強制連行されたんですか?逃げも隠れもしませんよ?

 

「勝てると思うか?この試合」

「……難しいと思いますよ。少なくとも、オレがなんとなくで感じている問題が解消されていないなら」

「その先はどうだ?」

「そうですね……もし、問題が解消されていない状態で勝てたとしたなら、イナズマジャパンは世界で通用しないでしょう。惨敗して終わりかと」

「なら、その問題を解決するためのカギは誰だと思う?」

「円堂じゃないんですか?」

 

 そう答えると久遠監督は目を閉じた。…………あれ?答えミスったか?

 そのままなんというか……空気重っ!?いや、ここに居るメンバーがメンバーだけに空気重くねぇか!?試合前に雑談するようなメンバーでもないけどさ!?

 

「十六夜、お前にこの試合の指示を出しておく」

「何でしょうか」

「勝ち越し点を決めるな」

「……はい?」

「勝っている或いは引き分けの時はお前が得点を決めることを禁止する」

「いや……何故ですか?」

「いずれ分かる」

 

 ……えっと、それはFWとして出すけど点を取るタイミングは限られているって事ですか?

 

「……遅いね。守くんたち」

「……ん。言われてみれば……」

 

 近くにある時計を見るともう着いてもいい頃だった。

 

「何かトラブルでも起きたのか?」

「単に渋滞にはまった可能性もある……もう少し待ってから考えればいいだろ」

 

 前もオレと八神を乗せた車が渋滞にはまった為ギリギリに着いた。まだ、試合開始まで時間があるから、慌てるような時間ではないだろう。

 そう思っていると猛スピードで突っ込んでくる見慣れたバスが1台。そして、そのバスはオレたちの目の前で止まった。

 

「遅れてすみません。監督」

 

 円堂を筆頭に続々とバスから降りてくる。

 

「全員揃っているな?行くぞ!」

「「「はい!」」」

 

 久遠監督を筆頭にスタジアムに入っていく。

 

「なぁ、鬼道。何かトラブルか?」

「……大したことじゃない。気にするな」

「そうか?」

 

 んーまぁ、無事時間にも間に合ったし、気にしても仕方ないか。




十六夜くんのせいで原作強化された選手ランキング作ったらアフロディ、バーン、ガゼルは上位に入るだろうな……
というわけで、FFI編で初めて大幅強化された相手との試合です。どうなるんでしょうね?
ちなみにですが、十六夜くんのメインポジションはDFです。
ダークエンペラーズ戦以来、
日本代表選考試合→MF
ビッグウェイブス→FW
デザートライオン→MF
ネオジャパン→ベンチ
と続いていますが、本人はDFと言っています。


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VSファイアードラゴン ~キャプテン失格~

「アヤトってどんなサッカーを目指しているの?」

「ん?」

 

 それはある休憩中のことだった。

 

「いや、アヤトって全ポジション熟せるし、分析力も高い。どんな選手になりたいかって思ってさ」

「あー……よく考えたことないかも」

「そんなの決まってるだろ?俺からゴールを奪えるような点取り屋に決まってる」

「おいおいブラージ、忘れたのか?コイツのメインポジションはDF……俺をも止める最強のDFだろ」

「あれ?ラファエレってアヤトに勝ったことあったっけ?」

「う、うるせぇアンジェロ!最初は勝ってたんだよ最初は!」

「ハハッ、2週間もしない内に止められたもんな!その点1ヶ月以上経ったけど俺は破られてないぜ?」

「そう言えばラファエレのシュートって、アヤトの必殺技を破ったことないよね?」

「おいアヤト!今から俺と勝負だ!今度こそ勝つ!」

 

 悔しそうにするラファエレに対し、煽るブラージとアンジェロ……おいおい。

 

「まぁまぁ、落ち着いてラファエレ」

「全然付き合うのは構わないが……どんな選手になりたいか……か」

「うん。今のアヤトのプレーって、なんというか……アヤトのやりたいことと味方のプレーがズレている気がするんだ。味方を信じたプレーをし過ぎているっていうか……ああ、ごめん。もちろん、味方と共有して、しっかり出来るならいいんだけど……それだと味方に左右されている気がしてね。アヤトのやりたいことの中に、味方への絶対的な信頼がある気がしてね……」

「そんなつもりはなかったんだけどな……」

 

 フィディオに言われて、今までのことを思い出す。言われてみれば、留学したばっかりの時なんかは、オレのパスが味方に届かないときが何回かあったな……それにオレのプレーを理解してもらえていると思って突っ走ったことも何回か。

 

「……思い返すと、思い当たる節があるな。多分、日本に居た頃は味方との連携で仲間と力を合わせてっていうのが多かったし、その中で応えてくれる仲間がいたから、無意識に甘えていた……その感覚のままやっていた時があったかも」

「仲間との連携……そこまでの関係を築けることは凄く良いことだと思う。でも、それが無意識の常識になってしまうかもしれないってこと。だって、初めて合わせる相手が居た時にそれは通用しない。そして、いつもの仲間でも、こうやって離れてアヤトだけが強くなった時、仲間とのレベルの差はある……その状態で、アヤトの思うプレーに彼らはついて行けない」

「……その可能性を考えられなかったのは、アイツらならって言う思いがあったから。アイツらなら出来るって無意識に思ってしまっていたからだ」

 

 これに関しても痛いところがある。エイリア学園……最初の戦いの時、オレはアイツらと同じ目線に立っていると思っていた。本当は差が広がっていたのに、それに気付きもしなかった。

 それに、その後もだ。ジェネシス戦をやるころにはアイツらも追いついてきた……だから、オレが帰国した後もアイツらは同じだけレベルを上げて、オレのプレーについてきてくれると無意識の内に思い込んでいる。だからまた繰り返す可能性を考慮すらしていなかった。

 

「……でも、ダメだ。それじゃ、オレはアイツらに依存してしまっている。オレがアイツらとしか満足に戦えない選手になってしまう。それじゃ、ダメなんだ」

「そうだね。じゃあ、どんなサッカーを目指す?アヤトはどんなプレイヤーになりたい?」

「どんなプレイヤー……か」

「ああ。それがないと君は俺に勝てないままだよ」

 

 確かにな……今までのオレは八神を超えることを目標にしてがむしゃらにやって来た。そして今は、フィディオを超える……世界トップレベルのプレイヤーになることが目標。だが、がむしゃらに乗り越えられるほどこの壁は甘くないし、アレも着実に迫っている。確かに1つの指針が必要か……

 

「……1人で戦える選手になる。誰が味方であっても関係ない。味方を信じすぎない、頼りすぎない、依存しすぎない……たとえ、1人になったとしても試合に勝つ選手になる」

「ハハッ、1人で試合に勝つとは思い切ったな」

「うるせー悪いか?」

「いや、いいんじゃないか?だって、それがアヤトの中にある思いなんでしょ?」

「うんうん、傲慢に思われるかもしれないけど、プレー1つで黙らせちゃえばいいんだよ!」

「それならゴールを決めればいいんじゃないか?得点を取れば大体のヤツは黙るぞ?」

「お、アヤトからゴールを決められないフォワード様が何か言ってるな」

「う、うるせぇ!」

「でも俺も概ね賛成だ。やっぱ、それぐらいの気合がねぇとな!」

「あはは……じゃあ、そのために具体的にはどうする?」

「具体的に……か」

「1人になったとしても勝つ。そのためにどうする?」

 

 目標は定まったから後は手段……か。うーむ……

 

「うーん、アヤトが凄いのって分析力だよね?」

「ああ。相手のプレーを分析する力、必殺技を分析する力ならフィディオも超えているだろ」

「まぁ、確かにね」

「ただ、分析力だけじゃどうしようもないな……」

 

 武器は分析力。だが、相手を分析することだけじゃ何もない……何かないと…………

 

「やっぱ、シュート力だろ!俺からゴールを奪えるくらいのな!」

「おいおい、それだったら俺を止めるだけの守備力だろ」

「あはは……2人ともそればっかだね……」

 

 シュート、ドリブル、パス……色々とあるが、確かに守備力と言うのは一理ある。だが、ただ守備力ってだけじゃ1人で勝つことに繋がらない。サッカーで勝つには守っているだけじゃダメ……攻撃面も必要だ。……なら、攻撃にも守備にも使えそうなモノがいい。

 

「フィディオは何だと思う?」

「そうだね……いや、俺の考えはいいかな」

「えぇーなんでさ」

「アヤトが自分で見つけることに価値があるからね」

「ふーん……」

「…………なぁ、フィディオ。お前は視野が広いよな……そして、それを使って最適なコースを見つけている。そこをお前の突破力とパスを駆使して攻め上がっている」

「そうだね」

「だったらオレもお前と同等以上の視野を手に入れ……そこにオレの分析力を加えることが出来れば……あ」

 

 と、ここまで来て1つ見えた。

 

「そうか……視野の広さと分析力を組み合わせれば……最適なコースが分かるんだ」

「うーん……それって、フィディオと同じ事をやるの?」

「いいや……もっとオレのやり方で行く。オレにはフィディオのテクニックも、スピードも、パスセンスも、チーム戦術も、シュート力もない。それじゃ、ただの劣化だ……それじゃ超えられない」

「冷静な分析だね……それじゃあどうする?」

「……オレの思う未来を作る」

「「「はぁ?」」」

「フィールド全ての情報を手に入れ続け、それを分析すれば、フィールドで起こる未来を予測できるはず……そうすれば、オレがそこに介入し、自分の思う未来を作ることも可能なはずだ」

「ははっ、凄いねアヤト。それは俺でも思いつかなかったよ。でも、それは最終段階でしょ?」

「ああ、流石にまだそんな頭の使い方はできねぇし、そこまでの視野もない。1つが出来ていないのに、同時なんて夢のまた夢……だからそのプレーに近付けるよう今は、視野を広げる練習と相手の最適を見つける練習だな」

 

 それに1人で勝つには1対1を制する技術も必須。しかもこれをやるには、相手の必殺技を分析して攻略することも……なるほど、やることが多いな。でも、確実に見えてきた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スターティングメンバーを発表する」

 

 ウォーミングアップも終わり、監督に招集される。さっき、円堂が監督と何か話していたようだけど一体何だったんだろうか?

 

「FW、豪炎寺、吹雪。MF、風丸、鬼道、基山、緑川。DF、綱海、土方、壁山、飛鷹」

 

 ……おっと?名前を呼ばれなかったってことは、ネオジャパンの時みたくベンチスタートか?となると、円堂たちと合流する前の指示が意味不明なんですが。まぁ、でも、ネオジャパンの時は出番なかったけど、流石に出番はあるだ――

 

「ゲームキャプテン兼GK、十六夜。以上だ」

「…………はい?」

 

 聞き間違いか?何か、キーパーでオレの名前を呼ばれなかったか?気のせいか?

 

「監督……失礼ですが、名前間違えました?」

「間違えてなどいない。お前がゲームキャプテン兼キーパーだ、十六夜綾人」

「…………」

 

 え?あまりにも不意打ち過ぎてやばいんだけど……?

 

「待って下さい監督。十六夜がキーパーってどういうことですか?」

「いや、本当にどういうことですか?」

「そ、そうッスよ。キャプテンは……?」

「円堂はスタメンから外す。着替えろ十六夜」

「って、キーパー用のユニフォームなんて貰ってな――」

「八神に渡してある。早くしろ」

「――あ、はい」

 

 ということで、八神からキーパーのユニフォームとグローブを受け取る。キーパー用……まさか準備されていたとは……いや、キーパーとしての練習をしていたから、用意されているかもとは思ったが本当に……

 

「十六夜……これ」

 

 ポジションにつこうとする中、円堂がキャプテンマークを渡してくる。

 

「何があった円堂。お前が外されるなんて」

「……分からない。ただ、キャプテン失格だって……このままじゃイナズマジャパンは負けるって、言われた」

「……そうか。……フィールドで待ってるぞ、キャプテン。誰が何と言おうが、このイナズマジャパンのキャプテンに相応しいヤツは、お前しかいねぇからな」

 

 オレは円堂の胸に拳を当てると、そのままフィールドに向かう。

 何があったかは知らない……けど、アイツなら久遠監督の意図に気付くはず。オレにできることは、勝つためにベストを尽くすだけだ。

 

「っておいおい!なんで円堂がベンチにいるんだよ!?」

「この大切な試合にキャプテンである円堂くんを出さないなんて……何を考えているんだ?」

「さぁな?だからと言って簡単には点はやらねぇよ。アフロディ、バーン、ガゼル」

「フッ、そうだね。君も油断は出来ないから……全力で行かせてもらうよ」

 

 向こうは前の試合までと同様にアフロディ、バーン、ガゼルの3トップ……攻撃力はアジア最強と言っていい。そんな彼らに何処まで通じるのか……

 

「やってやろうじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、なんと!イナズマジャパン、キーパーに入ったのは十六夜!イナズマジャパンの守護神、キャプテンの円堂はベンチスタートです!』

 

 流れてくる実況に、観客も戸惑いを隠せない。そりゃそうだろう。あの円堂をベンチスタートにさせるなんて、誰も想像していなかったことだろうし。というか、何故立向居じゃないんだ?……マジで意図が読めねぇ……

 

『さぁ、まもなく試合開始です!』

 

 ピー!

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合開始。ボールは吹雪が持って攻め上がる。

 

「吹雪!サイドだ!」

「ああ!」

 

 鬼道の指示で、吹雪がサイドを攻め上がる風丸にパスを出す。

 

「頼むぞ!」

 

 そして、風丸からのセンターリング。ゴール前には吹雪と豪炎寺が走っている。

 

「……何だアレ?」

 

 相手のキャプテン、チャンスウがハンドサインを出している。そのサインを受けてか、豪炎寺と吹雪にはそれぞれ1人ずつマークにつく。……確実に防ぎに来たか。だが、ボールは弧を描きながら、2人の後ろを走っていたヒロトへと繋がった。そして……

 

「流星ブレード!」

 

 ヒロトの必殺技が相手ゴールへと迫っていく。すると相手キーパーは両手に火を灯し、両手を合わせる。そして……

 

「大爆発張り手!」

 

 背中に火を揺らめかせながら、何度も何度も張り手をボールに喰らわす。そして、何回かの張り手の後に何かが爆発、ボールはその余波で吹き飛ばされた。

 ……張り手……張り手だなぁ……そのまんまだなぁ……そう思ってるとボールは鬼道とチャンスウの近くへ。ボールを確保したのはチャンスウだった。

 

「涼野、南雲、アフロディ上がりなさい!」

「ディフェンス!来るぞ!」

 

 チャンスウがドリブルで上がっていく。その前にはバーン、ガゼル、アフロディの3人……誰が撃ってもおかしくない状況だな……まぁ、アフロディに来る可能性が1番高いか。

 

「アフロディ」

「行くよ!十六夜くん!」

 

 ボールはチャンスウからアフロディへ渡る。……予想はしてたけど、嫌なとこだな……ほんと。

 

「真ゴッドノウズ!」

 

 放たれた必殺技はゴッドノウズ……だが、それは今までのゴッドノウズとは比べようのない威力を感じる。……やっぱ、目の前で見ると迫力が違うわ。

 

「ペラー!」

『あいよー』

「ロケットペンギンV3!」

 

 片手でのロケットペンギンでは止めるのは不可能だと思い、両手の拳を突き出して、ペンギンを放つ。単純計算で、同じ時間あたりにロケットペンギンの2倍の量のペンギンを射出できる。

 

「……っ!」

『キーパー十六夜!アフロディの強力な必殺シュートをしっかりとキャッチしました!』

「フッ、これぐらいは止めてくれないと面白くない」

「挨拶代わりの一撃ってか?」

「まぁね。でも、これで僕らも本気で打てることが分かったから安心したよ」

「上等だ。次以降も止めてやるよ」

 

 そう言って去って行くアフロディ。……口ではああ言ったが、冗談じゃない。この技は向こうの張り手みたくボールを()()()。それなのに、弾ききれず、正面にやってきたのを受け止めて事なきを得たんだぞ?……しかも今の発言がブラフである可能性は低い……間違いなく次以降は本気で打ってくる。その本気が指す中には今まで見せていない新必殺技があるかもな……さてさて、

 

「…………どう止めたものか……な!」

 

 前線へとボールを蹴り出す。ヤバいな……本当にどう止めようか。

 

「フフッ、片手で放つロケットペンギンではなく、両手で放つロケットペンギン。進化を遂げたロケットペンギン、その名も――」

「ダブルロケットペンギン」

「――何で先に言っちゃうんですかぁ!」

 

 ……後は何だろう。最近、目金より先に冬花が名付けるせいでアイツの出番が奪われている気がする。……まぁ、両手verとか付けようと思っていたオレより言いやすそうだから、採用しよう。

 そうこうしている間にボールは6番に奪われる。奪い返そうと豪炎寺がスライディングをする……が。

 

 ピー!

 

『豪炎寺の強烈なスライディングタックルが決まりましたが、これはファールです』

 

 ……あの豪炎寺がファールだと?しかも、あそこの場所的にも、奪わなければならないほど危険な場所じゃない。それなら、そんな強引に行かなくてよかったはず……

 

「もしかして、焦っている……のか?」

 

 でも何故だ?まだまだ前半も開始したばかりで0-0の同点。負けている状況や、試合終了間際ならともかく、こんな序盤から何を焦っているんだ?……前々から様子がおかしいとは思っていたが解決できていないのか……

 ファイアードラゴンのフリーキックで試合再開。蹴られたボールを相手選手と土方が奪い合おうとした結果、そのまま飛鷹に渡った。そして、攻め上がっていく飛鷹……

 

「飛鷹!パス出せ!来てるぞ!」

 

 近くに居る鬼道の指示が聞こえていないのか、スピードに乗って1人で攻め上がっていく。しかし、そのドリブルはお世辞にも上手いとは言えず、ここから見ても隙だらけ。そして、そんな隙を逃してくれるわけがない。ガゼルとバーンが飛鷹から難なくボールを奪い取る。

 

「……何故、パスを出さなかった?」

 

 フリーな味方も居たのに何故……?何故あんな強引に?飛鷹も何か焦っている……というのか?

 しかし、考えように相手は待ってくれない。ガゼルとバーンの2人は土方、壁山の2人を抜き去った。

 

「行くぜムーン!」

「先取点は頂く!」

 

 2人がフリーの状態……マズい、打たれたら止められる保証はない。……いや、2人の死角から走り込んで来ているのは……

 

「打たせないよ!」

「吹雪さん!」

「戻ってきていたのか!」

「スノーエンジェル!」

 

 冷気を纏いながら回転し、あたりに凍えそうな風を発生させる。そして、ガゼルとバーンの2人を一瞬にして氷付けにし、ボールを奪い取った。……アイスグランドを進化させたのか。

 

「いつの間にあんな名前を付けて――いいえ、あんな必殺技を完成させていたんですか!」

 

 本音ダダ漏れの目金……だが、そのお陰で助かったのも事実。そのままドリブルで攻め上がっていく吹雪……

 

「行くよ!土方くん!」

「おう!あの技だな!」

 

 ボールを土方に預け、並走する2人。相手のディフェンスを躱し……

 

「これが俺たちの連携技!」

 

 土方が力を込めたボールを蹴り出す。そのボールは雷を纏っていて、遠くからでも力強さを感じる。ゴールへ向かうボールに吹雪が追いつき、蹴りを加える。その後ろには獣が見えており……

 

「まるで雷を纏いながら荒野を駆ける獣!名付けるならそう――」

『サンダービースト!』

 

 目金より先に必殺技の名を叫ぶ吹雪と土方。なるほど……アレが2人の長所を掛け合わせた、練習していた必殺技か……

 

「大爆発張り手!」

 

 シュートに対し、相手キーパーが張り手をする。だが、先ほど見たときより張り手の度に押し込まれており、そして爆発と同時にキーパーが吹き飛び、ボールはゴールへと刺さった。

 1-0でイナズマジャパンが先制……だが、

 

「……まるで焦っていない」

 

 相手チームは、想定内と言わんばかりの様子……それに、こっちも監督が険しい表情のままだ。先取点を取られるのと引き換えに、何かを確かめた……?こっちの実力を再確認して、何かしらの戦術を練るってことか?

 

「十六夜くん、ありがとね」

「ん?感謝するならオレの方だろ、吹雪。さっきの場面は助かった」

「ううん、君のお陰でアイスグランドじゃ世界には通用しないって分かったからさ。確かに、アイスグランドじゃ相手を止めるのに時間がかかりすぎるし、何より直線上に凍らせている。……そんなんじゃ、世界レベルのプレイヤーに簡単に対処されてしまうってね」

「それを進化させ、一瞬で足下から全身を氷漬けか……凄いな。それなら、世界レベルの相手にも通用する。というか、土方との必殺技もだし、短期間でよく2つも完成させたな」

「君とのレベルの差を感じたからね。……それが世界とのレベルの差ってのも実感した。だから、少しでも追いつけるよう足掻いただけだよ……勝つよ、この試合」

「おう」

 

 そう言って自身のポジションに戻っていく吹雪。……あの練習のお陰で火がついたか……いいな。自分の現状を再認識して、そこから上がってくる……良かった。本当に……

 後は、円堂が言われたキャプテン失格とイナズマジャパンが負けるという意味だな。……今のイナズマジャパン……これまでの試合とは何処か違う感じを受ける。……キーパーから見ると、いつもよりも動きがおかしい奴らが何人か。何か問題を抱え、その問題が解決できていない。そして、円堂を下げたのは、それをベンチから見て気付かせるためってところか?

 ……だとしたら、頼むから手遅れになる前には気付いてくれよ、キャプテン。




ちなみに年内投稿最後だと思われます。皆様、よいお年をお過ごしください。

オリジナル技紹介
ダブルロケットペンギン
習得者、十六夜
キーパー技・パンチング
ロケットペンギンの進化バージョン。片手で足りないということで、両手の拳を突き出し、次々とペンギンを放つ。ロケットこぶしからダブルロケットに進化したみたいな感じである。単純計算で2倍の威力ではあるが、既に通用しなさそうなのは内緒。


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VSファイアードラゴン ~パーフェクトゾーンプレス~

あけましておめでとうございます。
新年になりましたね……今年はどこまで行けるのか。


 ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。ボールはアフロディが持っている。アフロディからバ-ンにボールが渡り……

 

「はぁあああ!」

 

 緑川がスライディングでボールを奪おうとする。しかし、あっさり躱され、ボールはチャンスウの下へ。

 

「少しは上手くなったようだなレーゼ。だが、ここまでだ」

「どういう意味だ、バーン」

 

 緑川の言葉に応えることなく、走って行くバーン。今更だけど君たちもお互いのことそっち(エイリアネーム)で呼ぶのね。まぁ、前はそっちでしか呼んでなかったから仕方ないんだろうけど。オレもそっちの方が呼び慣れているし……

 

「スノーエンジェル!」

 

 チャンスウからボールを奪ったのは吹雪。FWでありながらDFもこなせる彼は、スピードを活かして攻守共に駆け回ってくれている。このイナズマジャパンでも強者に入る……が。

 

「……今の」

 

 チャンスウはボールを取られたはずなのに、笑ってみせた。いや、笑うというか口角を上げたというか……とにかく、想定通りって感じがした。

 ボールは吹雪から綱海へ。そして、綱海に渡ったとき、チャンスウが叫んだ。

 

「龍の雄叫びを聞け!」

「……急にどうした?」

「必殺タクティクス、『パーフェクトゾーンプレス』!」

 

 ボールを確保していた綱海を中心に、チャンスウを含めた3人の選手が時計回りに走る。そして、綱海と走る3人、近くに居た吹雪の5人を囲うようにして4人の選手が反時計回りに走り始める。その速さは眼で捉えるのがやっとなほど。2つの包囲網により、綱海、吹雪、そしてオレたちが分断されてしまう。

 その上、2つの包囲網は徐々に狭くなっているようで、閉じ込められた2人を押し潰さんばかりだ。

 

「……やばいな……もう使ってきたか」

 

 未だ攻略法を見出せていない必殺タクティクス……どうする?あれをどう攻略する?

 

『あっと!綱海、ボールを奪われた!』

 

 綱海がボールを奪われた後、何かに弾かれる音がする。性格的に、取り返そうとタックルした綱海が包囲網の壁に弾かれたのだろうか。

 そしてボールは2つの包囲網を行き来しているそうで……何だろう、嫌な予感がする。

 

「吹雪!綱海!ボールを奪い返さなくていい!」

「無駄だよムーン。あの中にいる2人は、想像もできないくらいのプレッシャーを感じている……その声は届かない」

 

 嫌な予感を頼りに声を出すが、ガゼルに無駄だと一蹴される。……というか、オレもそっちで呼ぶのね。バーンもそう呼んでいた気がしたけどさ。

 そして、悲劇は起こった。

 

『なんと!吹雪と綱海が激突!』

 

 砂煙がやみ、包囲網を作っていた選手たちの動きが止まる。見えたのは吹雪と綱海の2人が倒れている光景だった。ボールはチャンスウが持っている……おそらくだが、ボールを奪いに行こうとして、2人が激突したのだろう。

 

『信じられない展開!チームメイト同士でクラッシュだ!』

 

 2人が足を抑えて動けなくなっている。……最悪だ。ここで吹雪と綱海の2人を失うなんて……

 試合は一時中断、吹雪と綱海がベンチに運ばれる。……チャンスウが言っていたが、恐怖による精神の支配……しかも、それはあの必殺タクティクスを受けた2人だけじゃない。周りで見ていたオレたちをも支配しようとしている……ダメだ、フィールドで見て改めて感じた。アレはボックスロック・ディフェンスの比じゃねぇ。正面突破出来そうにない……か。とは言え、最後はあの中に入らないと何も分からないだろうが……

 負傷した吹雪と綱海に代わり、入ってきたのは虎丸と栗松。ファイアードラゴンボールで試合再開。

 

「ならく落とし!」

 

 チャンスウは踵落としをボールに喰らわせる。ボールは緑川の手前で一度回転、緑川の身体に当たり吹き飛ばし、ボールはチャンスウのもとへ帰る。

 

「アフロディ!」

 

 そして、ボールはアフロディに渡った。

 

「止めろ!シュートを打たせるな!」

 

 鬼道の指示に土方と壁山が応えて向かうが、そっちじゃない……あいつらのフィニッシャーは……

 

「南雲につけ!」

「正解だよ、十六夜くん。このチームの得点源は僕だけじゃない」

 

 そう言って、ボールはサイドを走るバーンに渡った。

 

「よっしゃ!行くぞガゼル!」

「進化したのはお前たちだけじゃない!」

 

 そう言って高く蹴り上げられたボール、跳び上がる2人。これは……まさか……!

 

『真ファイアブリザード!』

 

 やはり、進化していたのはアフロディだけじゃなかった。彼らが放つファイアブリザードも、前までとは比べものにならない進化を遂げている。

 

「ダブルロケットペンギン!」

 

 それに対し、アフロディの時と同じ技を放つ……が。

 

「…………っ!」

「十六夜!」

 

 ペンギンたちの突撃は空しく、ボールはオレごとゴールへと突き刺さった。

 

『ゴール!ファイアードラゴンのシュートがゴールに入った!これで同点!追いつかれてしまったぞイナズマジャパン!』

 

「大丈夫か十六夜!」

 

 鬼道の手を取って立ち上がる。

 

「ああ、何とかな……すまねぇ。止められなかった」

「無理はない。この1点は俺たち全員の責任だ」

「悪いが、ムーン。このシュートは、本来キーパーじゃないお前には止められない」

「止めたければ、円堂を早く出すんだな」

「言ってろ。次は止めてやるからよ」

「ハッ、じゃあ次も決めさせてもらうぜ!」

「精々楽しませてくれよ」

 

 去って行くバーンとガゼル……っ!

 

「ハハッ……シュートを喰らった手がヒリヒリするわ……慣れていないからか、アイツらのシュートの威力が高いからか」

「行けるか?」

「やるしかねぇだろ。それに、2度もやられるつもりはねぇ」

 

 とは言え、この技は通用しない。どうにか別の方法を考えるしかないか。

 そして、イナズマジャパンボールで試合再開。ボールは土方が持った。

 

「パーフェクトゾーンプレス!」

 

 土方と風丸がパーフェクトゾーンプレスによって捕まってしまう。

 

「無理するな!土方!風丸!」

 

 鬼道の声が聞こえる。さっきみたいな激突で、これ以上戦力を減らされるわけにはいかないが、彼らには届いたかどうか……

 

『あっと!ボールを奪われた!』

 

 包囲網の中でボールを奪われた土方。

 

「取り返さなくていい!2人はじっとしていろ!」

 

 中の様子は分からない。だが、先ほどとは違い、ボールは外の選手に向かって蹴り出され、パーフェクトゾーンプレスが解かれる。……2人は怪我もなく無事……だが、その無事を喜ぶ暇を与えてくれない。

 パーフェクトゾーンプレスは7人がかりの必殺タクティクス。しかし、流れるような攻めへの切替で、その人数差を感じさせない。ボールはチャンスウが持ち、攻め上がる。

 

「ならく落とし!」

「うわぁあああああ!」

 

 栗松がブロックに行くと、ならく落としの前に吹き飛ばされてしまう。

 

「ここで追加点です!」

 

 そしてボールはバーンに渡った。隣にはガゼルが居る。

 

『真ファイアブリザード!』

 

 つい先ほど点を決めたシュートがこちらに向かってくる。もう一度ダブルロケットペンギンを放つか?いや、アレじゃ止められねぇ……ミサイルペンギンを……いや、アレじゃ細かい操作が必要だ。それに、この距離じゃ威力はダブルロケットペンギンに劣ってしまって止められねぇ。アイギスペンギンもダメだ。盾が破れなくてもゴールラインまで押されこまれればゲームセット……どうすりゃいいんだ。どうやって止める……!

 

「真ザ・ウォール!」

「壁山!」

「少しでも威力を下げるッス……!そうすれば、十六夜さんなら止めてくれるって信じているッス!」

「壁山……!」

 

 必死に堪えてくれている壁山……クソ!やる前から何を弱気になっている!やれることをやるだけだろうが!

 

「壁山!十六夜!」

 

 ベンチから円堂の声が聞こえてくる。それと同時に壁山のザ・ウォールは破れ、シュートが向かってくる。

 

「……っ!イチかバチかだ!来い!」

 

 ピー!

 

 指笛で呼ぶと赤色に染まったペンギンが5匹、空からやって来る。5匹のペンギンたちは、オレの右腕に食らいつく。

 

「ゴッドハンド!」

 

 そしてそのまま右手を突き出す。しかし、円堂みたいな大きな手は現れなかったが……

 

「ただでやられるつもりはねぇんだよ!」

 

 突き出した右手にシュートが激突する。僅かな拮抗の後、ボールは勢いを失い……

 

『止めたぁ!強力なシュートを十六夜がキャッチ!イナズマジャパン!防ぎましたぁ!』

 

 そのまま右手におさまった。

 

「ふぅ……ナイス壁山。フォロー助かった」

「それほどでもないッス!」

「十六夜!」

「って、どうした鬼道?そんな血相変えて……」

 

 鬼道が血相を変えてこちらにやって来る。え?何かあったか?

 

「お前、痛みは!?右手は大丈夫か!?」

「右手?」

 

 あーそう言えば右腕、ペンギンに噛まれたんだっけ?噛まれたというか噛ませたというか……

 

「なんともないけど?」

 

 自分でもびっくりだ。噛まれたはずなのに痛くない。というか、シュートを右手だけで止めたら痛いと思うけど、そういう痛みもない。……もしかして、凄い必殺技が誕生した?というか、ペンギンの色が真っ赤だったな……いや、普段のペンギンたちも技によって色が違うから今さらか。

 

「そう……か。ならいいんだ」

「???」

 

(あのペンギンの色と雰囲気……間違いない。皇帝ペンギン1号……禁断とされる必殺技のペンギンだ。皇帝ペンギン1号のキーパーバージョン……そんな技、1度でも使用すれば痛みに襲われ、2度使用すれば試合続行は不可能なはず。なのに、十六夜は何もない……どういうことだ?……いや、後でいいか)

 

「まさか止められるとはな」

「フッ、面白い。やはりムーンはムーンで侮れないようだな」

「ああ!だが、そうこなくちゃ面白くねぇ!強くなったのはヤツだけじゃねぇんだ!」

「我々の真の力を思い知らせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの技……真・帝国の時の禁断の……」

「ど、どういうことですか!?アレって確か……」

 

 そう言って、真・帝国戦のことを知っているメンバーは不動の方を向く。だが……

 

「知るかよ。アレは皇帝ペンギン1号じゃねぇし、そうだとしても何でノーリスクでアイツが使えてるのかなんて、分かるわけねぇだろ」

「皇帝ペンギン1号……?」

「とても危険な必殺技なの。2回使えば試合続行は不可能……3回使うと選手生命に関わってしまう禁断の必殺技」

「……絶大な威力を誇りますが、代償が大きすぎる技……そう鬼道くんから聞きました」

 

 不動は興味が失せたように試合の方を見るが、内心では疑問に感じていた。帝国の禁断の必殺技を、しかも皇帝ペンギン1号を見たことないはずの十六夜が、何の代償も支払わずに使えていることに。

 ベンチのメンバーの一部が十六夜の身体を心配する中、八神が声を出す。

 

「心配するな。十六夜はあのペンギンを制御しているようだ」

「そ、そうなのか……?」

「ああ、十六夜のペンギンが伝えてくれた」

「ならいいけど……え?十六夜のペンギン?いつの間に」

「ついさっきな。だから、心配しなくていいそうだ」

「ま、まぁ、それならいいでしょう。皇帝ペンギン1号と円堂くんのゴッドハンドを掛け合わせた技……そう、その名も──」

「ペンギン・ザ・ハンドってところか」

「──次はあなたですか!?僕は何人に邪魔されればいいんですか!?」

 

 試合は1-1の同点。十六夜の新必殺技でシュートを止めるも、パーフェクトゾーンプレスを破る活路は見えていない。

 

「…………あ、思いついたわ。アレの攻略法」

 

 ただ1人、十六夜綾人を除いて。




習得技紹介。

ペンギン・ザ・ハンド
キーパー技。キャッチング。
GO2のメカ円堂の技である。
十六夜くんは前もどこかで言ったように、ペンギンを扱える器がバグレベル。だから常人なら、身を滅ぼしかねない皇帝ペンギン1号のペンギンも一切の反動なく使えてしまうチートな性能をしているため、この技を無反動、ノーダメージで使える。
何人かこの技はどうかと提案されましたが、ばっちり習得しました。ちなみに十六夜くんが真・帝国戦を知らない理由の一つは、この技を習得しやすくするためだったりする。知ってたら、皇帝ペンギン1号を使った佐久間の姿を見て、使おうとなんて考えもしないだろうし。


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VSファイアードラゴン ~ペンギンVSドラゴン~

 あることを思いついたオレはボールが外に出たタイミングで鬼道を呼ぶ。

 

「鬼道、パーフェクトゾーンプレスを破る方法を思いついたんだけど」

「何だと?」

「――――――――って感じなんだけど」

 

 鬼道に話すと、何故か苦笑いをしてくる。

 

「……それ、本当に出来るのか?」

「理論上はいけるはず。頭の中では出来た」

「頭の中か……まぁ、やってみる価値はあるな」

「ありがと、フォローよろしく」

「……失敗してもケガだけはするなよ」

「おう」

 

 と、鬼道からの許可が得られたので、ヒロトを呼んできてもらい話をする。

 

「何かな?」

「ヒロトってさ……」

 

 あることを聞くと、少し考えて頷いてくれる。

 

「だったら……」

 

 ということで鬼道に伝えたことと同じ事を伝えると……

 

「……え?本当に言ってる?」

 

 無茶苦茶心配そうな表情を向けてくる。

 

「任せろ、失敗したことないから」

「挑戦したことがないからね」

「とにかく、やってみようぜ。鬼道にはオッケーもらったからさ」

 

 と、鬼道の方を指さすと、諦めろと言った表情をヒロトに向ける。何でそんな表情を向けているのだろうか?

 

「でも、それが成功すれば、相手には大打撃を与えられそうだね……分かった。そこまで言うならやってみるよ」

「ありがと。合図出すからよろしく」

 

 ということで今回の作戦に必要な面子への声かけは終わった。さて……

 

「作戦実行……の前にボールを奪わないとな。そうじゃないと話にならない」

 

 ファイアードラゴンのスローインで試合再開。ボールはチャンスウが持った。

 

「何か企んでいるようですね……」

「気をつけた方がいい。十六夜くんの企みは相当厄介だと思うよ」

 

 何かアフロディからの評価が酷いが……今は気にしないでおこう。

 

「ハッ、何を企んでいようが関係ねぇ。点を取れば解決だろ」

「フッ、我々の力でねじ伏せれば変わらない」

「そうですね……ここは1点決めてリードしておきますか」

 

 そう言うとチャンスウが片手を挙げる。すると、ファイアードラゴンが一気にこちらの陣内に切り込んできて……

 

「マズいな……完全に掌の上か」

 

 鬼道が指示を出すも、追いついていない。相手のパスにより翻弄されている……いや待て。

 

「ちょ……何をしているんだ?」

 

 フィールドの中央付近でチャンスウ、アフロディ、バーン、ガゼルの4人が集まっている?それ以外の面々にパスを回させて……一体何を?そう思っていると、四方にちりぢりになる。集まったのは何の狙いが……?作戦共有でもしていたのか?

 

「十六夜くん。君の弱点を突くことにしたよ」

「はぁ?」

 

 ボールを持ったアフロディが何か言ってくる。弱点って……何か前もキーパーやっていてこの対面で突かれた気がするが……と、そんな事を考えているとゴッドノウズの体勢に入った。

 

「行くよ!真ゴッドノウズ!」

 

 アフロディのシュートがゴールに迫る。狙いは……

 

「正面だと?これなら……っ!」

 

 コースは正面。そう思ってペンギンを呼ぼうとすると、シュートに走り込んでくる陰が見えた。

 

「私を忘れてもらっては困る。ノーザンインパクトV3!」

 

 ガゼルがシュートチェインをする。そのせいでコースが変わった。

 

「ッチ!そこか!」

 

 狙いは右上の隅。そう思うと同時に、ペンギンを呼び出し腕に喰わせ、走り込んで跳び上がる。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 手を上に伸ばしながらの跳躍。だが……

 

「なっ……!?」

 

 無情にも手がシュートに触れることはなかった。ボールはそのまま……

 

 ガンッ!

 

 響く鈍い音。それと同時にボールは大きく跳ね返る。その跳ね返った先では既にバーンが構えており……

 

「1点もらうぜムーン!アトミックフレアV3!」

 

 ダイレクトで必殺技を放つ。狙いは左上の隅……だが、シュートを放たれたタイミングでオレの身体はまだ空中にある。着地して急いで走り込んで飛び込む?いや間に合うかそれ?

 

「クソがっ!」

 

 着地して飛び込もうとするも、シュートに触れることは出来ずゴールに刺さってしまう。

 

『ゴール!アフロディ、涼野、南雲の連携シュートがイナズマジャパンのゴールを貫いた!ファイアードラゴン逆転だぁ!』

 

 オフサイド……は出ていない。期待はしていなかったが、オフサイドにならないタイミングで前に出ていたか。

 

「あなたのテクニック、フィジカル、分析力、守備力……今までの2試合を分析させてもらいましたがどれも素晴らしいものです」

 

 ゴールの中に入ったボールを拾うと、チャンスウがペナルティーエリアまでやって来ていた。

 

「……ですが、はっきり言いましょう。君はキーパーとしての経験は浅い。キーパーに慣れていないんですよ」

「…………それとこの失点に何の関係がある」

「あなたは、ゴールの大きさを感覚として理解していないということですよ」

「…………っ!」

「アフロディのシュートで必殺技の準備を行い、涼野のシュートチェインで君はコースを変えられ飛び込んだ……ですが、優秀なキーパーなら気付いたはずです。涼野が変えたコースでは、ゴールのバーに当たってしまい、ゴールには入らないのではないかと」

「…………」

「だから、判断するために跳び込むことを躊躇するはずですが……あなたはそれに気付かず跳んでしまった。いくらあなたとは言え、空中で体勢を変えるのは準備していなければ難しい。そして、跳ね返った球を南雲がダイレクトで決めた。もちろん、君が間に合いそうにないコースを狙ってね」

 

 つまり、チャンスウはオレ相手だから……普段キーパーをやっていないから、この策で挑んだ……正面からのパワー勝負を避け、確実にゴールを奪ってきた。

 

「もちろん、搦め手を使わなくとも決める手段はありましたが……この失点の仕方の方が精神的に来るのではないかと思いまして」

「……ハハッ、確かにキーパーとしての経験不足っていう弱点を突かれれば来るものはあるな」

 

 円堂ならば、立向居ならば止められた。他のキーパーなら止められたシュートを、オレは止められなかったと植え付けたい……か。

 

「ああ、悔しいな……だが、一つ言わせろ。オレがテメェ程度で測れる存在だと思うなよ」

「その言葉が威勢だけの虚言にならないことを祈りますよ」

 

 そう言って戻っていくチャンスウ。去り際には笑みを残して……

 

「ご、ごめんなさいッス十六夜先輩!俺が時間を稼げていれば……」

「気にすんな壁山。アレに反応するなんて至難の業だろ。切り替えていこうぜ」

「は、はいッス!」

「と、そのついでに次のキックオフで仕掛けるから守備任せた。……人のことを支配した気でいる勘違い野郎にひと泡吹かせてくる」

「分かったッス」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは鬼道に渡った。

 

「託すぞ!十六夜!」

「ああ、任せろ」

 

 ゴールから上がっていき、ボールを貰う。

 

「ちょっ、十六夜先輩!?」

「ゴールががら空きですけど!?」

「ま、まさか今の失点で火が!?」

 

 ベンチで何か言ってるけど聞こえない。敵陣に向けてドリブルを始める。

 

「点を取られて自棄になったあなたから奪って、カウンターを決めてもう1点ですかね」

「奪ってから言えよ。奪えなければ、その計算は意味ないぜ?」

「えぇ、では……パーフェクトゾーンプレス!」

 

 ゆっくりとドリブルするオレを囲うようにして3人が。近くに居た緑川を巻き込むようにして4人が囲んで走る。

 

『ああっと!十六夜と緑川がパーフェクトゾーンプレスに捕まったぞ!イナズマジャパン、ここで奪われると大ピンチだがどうするんだ!?』

 

「緑川、動くなよ」

「お、おう……!」

 

 パーフェクトゾーンプレスは何度か見てきた……確かに強力な必殺タクティクス。時間をかければかけるほど狭まっていくスペースとそれによるプレッシャー。更に、選手たちが走ることにより、そのスピードで風の壁と言うべきものが出来ている。

 

「さぁ、どうしますか?」

 

 1人での突破は不可能……そう思っているんだろうな。実際、ビッグウェイブス戦みたく、時間を稼いで綻びを生み出すのは無理だろうし、デザートライオン戦みたく、フィジカル勝負に持ち込んで……なんて次元が違い過ぎてお話にならないだろう。……だが、完全無欠というわけじゃない。無敵の必殺技、必殺タクティクスなんて存在しない……必ず隙がある。少なくともオレはそう思っている。

 

『合図出したよーいつでもオッケー』

「じゃあ、やりますか」

 

 ペラーが教えてくれたタイミングで、オレの背後に巨大な対物ライフルを出現させる。ライフルの中には弾丸としてペンギンが入っている。

 

「ヴァルターペンギン」

「なるほど……そう来ますか」

 

 チャンスウが走りながら何かに気付いたようだ。だが、そんなのは無視だ無視。よく動きを見て、タイミングを見計らって……

 

「させませんよ!」

「……っ!」

 

 把握と思考を進めている中、突如現れた足。伸びてきた足に驚き、それにボールを奪われないように自身の足を振り抜いてしまった。クソッ、完全にズラされた。このタイミングじゃ突破できない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って感じで満足か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 確かに足を振り抜き、ボールを蹴った。だが、蹴ったところはボールの下で、すくい上げるように軽く浮かせるだけにとどまる。相手の足がボールに触れることはなく、何一つズレずに終わったのだ。そして……

 

「ぶち抜く!」

 

 ボールが空中にある状態だが気にしない。タイミングを見てボレーシュートを放つ。蹴り出されたボールとその後ろを追従するペンギンは、パーフェクトゾーンプレスで生まれた2つの円に風穴を開けて相手ゴールへと迫っていく。

 

「くっ……ですが、そんなシュートでは、うちのキーパーからゴールを奪えませんよ」

「だろうな。でも、よく見てみろよ」

 

 シュートの先にはヒロトが居る。ヒロトは低い軌道のボールに……

 

「流星ブレードV2!」

 

 本来は高く跳び上がって放つ必殺技である流星ブレードを、いつもよりかなり低い位置で放つ。いつも以上の流星ブレードの威力に、こっちのシュートの威力が掛け合わさり……

 

「大爆発張り手!」

 

 そのシュートと相手の張り手が激突する。徐々に相手を押し込んでいき……

 

『な、なんとパーフェクトゾーンプレスを破壊する一撃を放った十六夜!そして、それに呼応した基山の2人によるシュートがゴールに突き刺さりました!イナズマジャパン同点ゴールです!』

 

 ファイアードラゴン側が苦い顔を見せる。チャンスウはいち早く狙いに気付いていたようだが、それでもまさかの展開だからだろう。

 

「……無茶苦茶なことをしますね」

「アフロディたちから聞いてなかったか?オレは相手の予測を裏切るヤツだって」

「自由にさせたら一番危険とは聞いていましたが……確かに、パーフェクトゾーンプレスの包囲は人が走ることで生み出している。当然ながら人と人の間にはスペースがあります……ですが、そんな僅かなスペース。しかも、内側も外側も両方のスペースが生まれる一瞬を突こうなんて……」

「まぁ、そのスペースも風の壁が生まれてしまって、普通は突こうなんて考えない。だが、人を吹き飛ばすのと風の壁を貫くのって、どう考えても後者の方が楽だろ」

「おかしいですね。この中で必殺技……ましてシュートを放つなんて出来ないはずなんですが……」

「タイミング良く必殺技を放つだけだろ?さっきみたいに邪魔されようとも、プレッシャーをかけられようと、視界が塞がれていなければ問題ねぇ」

「発想が異次元ですね……そして、それを遂行するだけの実力と自信、その無茶苦茶に呼応する仲間……あなたがキーパーの理由がますます不明ですね」

「これで同点……さぁ、振り出しだ」

「えぇ、ですが……その破り方はあなたにしか出来ません。パーフェクトゾーンプレスはあなたたちに通用することをお忘れなく」

 

 チャンスウと言葉を交わして、自陣ゴールへと戻っていく。

 

「あはは……流石だね、十六夜くん」

「ヒロトもありがと。オレの技だけじゃ、パーフェクトゾーンプレスは破れても、相手キーパーに止められていた」

「前者を破る方が凄いと思うんだけどね……でも鬼道くん、どうする?この破り方は……」

「ああ……ある意味では相手にとって防ぎようがない方法だが欠点が2つ。十六夜にしか使えないことと、十六夜がキーパーのせいでカウンターに弱すぎること。シュートチェイン前提のせいで、シュートチェインできるやつを止められたら終わり……だから、ヤツも驚きはしたが余裕なんだろう。これはあくまで一発芸……攻略法ではないからだ」

「まぁ、オレにはこの破り方しか思いつかないんだけどな……あはは」

 

 うーむ……確かにこの破り方は、キーパーに止められカウンター喰らおうものなら目も当てられないしな……誰でも出来る方法で破る……か。

 

「そもそもの話、捕まらなければ破らなくてもいいんだけどな……」

 

 あの必殺タクティクスをどうやって破るかは散々考え抜いた後なんだ。流石にこれ以上は、何かきっかけがないと閃かないぞ?

 そう思いながら、ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。

 

「まぁいいでしょう。どれだけ点を取られても、取り返せばいいんですから」

 

 と言って、いつもの4人で攻め上がってくる……今更だが、あの4人が攻めてくるだけで、簡単にキーパーまで到達されるんですけどいいんですか?そろそろオレをディフェンダーに……

 

「行くよ、十六夜くん」

 

 とか余計なことを考える暇はないらしい。もう目の前まで来ているわ。

 

「真ゴッドノウズ!」

 

 と、放たれたアフロディのシュート。狙いは右上の隅……!クソッ!さっきの失点と同じパターン……!だったら、跳ばなければ……いやでも、さっきのを踏まえて今度はバーじゃなくてしっかりと入る可能性が……ッチ!

 

「迷ってられねぇ!ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 右手を伸ばしながら跳ぶ。迷う時間が長ければ長いほど、もし入るコースだったときに間に合わない。だったら、跳ぶしかない……!

 

「えぇ、あなたは跳ぶしかないんです。ですが……」

 

 ガンッ!

 

 ボールはバーに直撃する。先ほどとは違い、斜め下に跳ね返った。

 

「終わりだムーン……」

 

 ペナルティーエリアのライン際ではシュート体勢に入ったガゼルが。

 

「ノーザンインパクトV3!」

 

 狙いは左上の隅……クソッ!さっきと同じパターン……!

 

「同じ手を喰らうかよ!ボス!」

『やれやれ、初登場がコレか』

 

 そう言いながらボスが片方の羽根を使い、オレの体勢を変える。

 

「借りる!」

『飛ばすぞ!』

 

 ボスの羽根に両足の裏をつけて、ボスは左上の隅に向けて羽根を振るう。

 

「膝!」

「なんて無茶苦茶を……!」

「ルーズボール!ディフェンダー!」

 

 そのまま膝をシュートの側面に喰らわせる。ボールは軌道を変え、ゴールのポストにあたり、右サイドへと飛んでいく。飛んでいったボールは……

 

「貰うぜ!」

「流石に無理だっての!」

 

 ボールを空高く打ち上げ、バーンがシュート体勢に入るのを見ながら、無情にも身体は左サイドへと吹き飛んでいく。

 

「アトミックフレアV3!」

 

 クソッ!今からじゃペンギンたちは間に合わないし、着地してからダッシュしても間に合うわけがない。どうする、どうすればいい……!今度こそ詰みか……!

 

「やらせないでヤンス!スピニングカット!」

「栗松!」

 

 と、シュートとゴールの間に割って入ったのは栗松だった。

 

「俺もいるッス!真ザ・ウォール!」

「壁山!」

 

 2人がシュートを止めようと必殺技をぶつける。

 

「その程度じゃ止まらねぇぞ!」

「「うわぁあああああっ!」」

 

 しかし、2人の必殺技は破られてしまう……が、

 

「ギリギリセーフ、助かったお前ら」

 

 2人のシュートブロックにより稼いでくれた時間で着地して、ダッシュでシュートコースに割り込む。そして、ペンギンをつけたままの右手をボールの側面にぶつける。

 

「今度こそ止めたぞ」

 

 そのままボールを受け止めつつ一回転。無事着地をして、右手におさまったボールを掲げる。

 

「ナイスブロック、栗松、壁山」

「へへっ、十六夜さんなら時間を稼げば止めてくれると信じていたでヤンス」

「そうッス。俺たちも流石に3発目なら間に合うッス」

「ありがと。んじゃ、いってくるわ」

 

 そう言って、ボールを地面に置いてドリブルをする。

 

「って、ゴールはどうするでヤンスか!?」

「十六夜さんはキーパーッスよ!?」

 

 後ろで悲鳴を上げるディフェンダー陣を置いて前線へと駆け上がる。

 

「止めなさい!彼を止めれば1点です!」

「フッ、ここは行かせない」

「おいおいお前はキーパーだろ?」

 

 ガゼルとバーンがブロックに来るが……

 

「……今」

「強引に……!?」

「強すぎだろ……!?」

 

 2人の間に生まれる空間……その隙を見抜いてフィジカルで突破する。

 

「そこだよ!」

「見えてた」

 

 突破した瞬間、スライディングを仕掛けてくるアフロディ。それをボールを軽く浮かせることで躱す。

 

「ここで時間を稼ぎます!ディフェンス、体制を整えなさい!」

「そう言うの言われるとさぁ……」

「なっ……!?」

 

 右足を1歩踏み出し、ボールを左足で右足の後ろを通し、つま先で相手の股を通す。そして、左足を軸に回転して、チャンスウを突破する。

 

「さっさと突破したくなっちゃうじゃん」

 

 そしてそのまま走って行く。ただ、1秒稼がれたせいで、ガゼルとバーンは既に戻り始めているし、アフロディも体勢を整えた。

 

「ッチ、オレのゴールまでの道筋は見えてるのに……」

 

 あの制約のせいで、今は得点を決めることが出来ない。最後はパス出すことを考えると……誰に渡そうかな……

 

「通さな……おわっ!?」

 

 やってきたディフェンダーの股下にボールを通して軽く突破する。

 

「両サイドからプレスしなさい!」

「邪魔」

「なっ……!?」

「強っ……!」

 

 そうだな……一番良い位置にいるのは……

 

「託すわ、豪炎寺」

「……っ!」

 

 豪炎寺にパスを出す……が、ボールは豪炎寺の足に当たり、コロコロと転がって外に出た。

 

「……………………は?」

 

 豪炎寺が……トラップミス?結構取りやすいように、考えて出したはずなのに……しかも、敵のプレッシャーもなく、そこまで切羽詰まった状況でもないのに……え?というか今……

 

「プレーに集中していなかった……?」

「リスタート!早くしなさい!」

「マズい!戻れ十六夜!」

「……っ!」

 

 思考を切り替えろ、考えるのは後回しだ。早く戻らねぇと……!

 

「涼野、決めなさい!」

「悪いけどムーン……この必殺技は今までの比じゃない」

「は……?」

 

 スローインからボールを受け取ったのはガゼル。そのままドリブルを軽くしたかと思うと、ボールを軽く前へと蹴り出す。そこに、体を横倒しにして、体を捻りながら高速で回転、ダイヤモンドダストを纏いながらボールを蹴り出す。まるで、ファイアートルネードを低いところで打ったみたいだ。

 

「グレイシャルレイド!」

 

 蹴り出されたボールは一直線にゴールへと向かう。強烈な冷気を纏っており、ボールの通った軌道上にはダイヤモンドダストを残して……

 

「クソ速っ!?」

 

 ノーザンインパクトの比じゃねぇ。いや、速度で言うならヴァルターペンギンに匹敵……下手すりゃ越えてる。そんなシュートに走って追いつけるわけがねぇ。いくらスローイン→ドリブル→必殺技の発動のロスがあるとは言え、そんなのは些細なものだ。

 

「ペラー!」

『全速力で発進!』

 

 それを見るや否やペラーに乗って加速するも、シュートは遙か先を行く。ペラーに乗っても追いつけない……!ダメだ、時間を稼がねぇと!

 

「ミサイルペンギンV2!」

 

 ミサイルペンギンで、シュートの威力を削ぎ落とそうとする……だが、

 

「何て速さだよ……!?」

 

 いくら人を避けるようにして、こっちがペンギンたちを操作しているとはいえ、シュートに追いつけていない。これじゃ当たらねぇ……!

 

「スピニングカット!」

「真ザ・ウォール!」

 

 栗松と壁山が構えてくれている……その隙にこっちもペンギンたちを当てて威力を削げば……!?

 

「「うわぁあああああ!」」

 

 稼げたのは僅かな時間。その僅かな時間ではオレ自身がボールに追いつくことが出来なかった。そのままボールは無情にも無人のゴールへと刺さる。

 

「これがノーザンインパクトを超えた私の必殺技。威力、スピード共に今までの比じゃない」

「……これがお前の……新たな必殺技……!」

「本当は本戦まで取っておくって方針だったけどね。でも、ムーン……いや、イナズマジャパン。君たちには打っていいって言われたよ。……だから本気でいかせてもらう」

「……なるほどな。本戦の為に隠していたってことか……」

 

 情報戦……こんな必殺技見たことがない……イナズマジャパンがギリギリのところを勝ち上がってきたのに対し、こいつらは武器を隠しながら大差で勝ち上がってきた……か。

 

「……おもしれぇ。なら、どっちの矛が強いか競おうじゃねぇか」

「フッ……精々楽しませてくれよ、ムーン」

 

 そう言ってポジションにつくガゼル。

 

「十六夜さん……ごめんなさいッス……」

「俺たちがもっと時間を稼げれば……」

「お前たちのせいじゃない。今の失点はオレの責任だ」

「そう自分を責めるな十六夜。今のは……」

「次のリスタートで即ボールくれ」

「あ、ああ……」

 

 オレはゴールへと戻り、ボールを拾って渡す。

 一度目を閉じ深呼吸をし、改めてイナズマジャパンのメンバーを見渡す。そして、ファイアードラゴンのメンバーを見渡し……ああ、そうか。

 

「ハッ……」

 

 どうやら、オレの中から抜けきってなかったらしいな。円堂なら必ず気付いてくれる、アイツさえ戻ってくれればっていう甘い考え、根拠のない信頼が。

 

「これじゃダメだな」

 

 そんなご都合主義に縋っているようじゃダメだ。そんな甘いものを捨てろ。誰かが変えてくれるなんて思ってるようじゃダメなんだ。

 

「……行こうか」

 

 たとえ1人になったとしても……世界一になるために、こんなところで足踏みしてられるかよ。




次回サブタイトル、副キャプテン。
十六夜くんが……チーム崩壊を加速させる……!?


オリジナル必殺技
グレイシャルレイド 
属性 風 
成長タイプ V シュートチェイン可 
使用者 涼野(ガゼル)
ガゼル時代に皇帝ペンギンOからノーザンインパクトにチェインする皇帝ペンギンTをまだ兆し程度だったメガトンヘッドに防がれた事で自身のシュートが威力不足である事を悟った涼野が試行錯誤の末に編み出した、ノーザンインパクトの強化改良技。
ドリブルしながらボールを前に蹴り出した後、体を横倒しにして高速で体を何度も捻りながら飛び込む。この体の回転はダイアモンドダストを纏っており、その冷気と遠心力をたっぷりと乗せたキックでボールを蹴り出す。蹴り出されたボールは強烈な冷気を纏い、軌道にダイアモンドダストを残しながら一直線にゴールへと向かう。回転の遠心力の他にドリブルの勢いも利用する事から元の技に比べて威力はおろかスピードも増しており、発動までの時間の短縮にも成功している。
イメージは胸程の高さで前に向かって飛ぶファイアトルネード。

h995様より頂きました。ありがとうございます。


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VSファイアードラゴン ~副キャプテン~

この世界ってセパタクローも超次元になっていそうだな(唐突)
卒論が終わる気配を見せないことで頭がバグっただけですね、きっと。
ということで、前回不穏な終わりをしている本編をどうぞ。


「マズいんじゃないか?久遠」

「…………」

「十六夜のヤツ、完全にスイッチが入ってるぞ?いいのか、止めなくて」

「…………円堂、何故立向居ではなく十六夜をキーパーに置いたか……分かるか?」

「それは……」

「少なくとも立向居がゴールを守っていれば、こんな形で失点はなかっただろうな。それに十六夜ももっと満足に攻め上がれたはずだ」

「それは……そうですが……」

 

 円堂は手を握りしめる。確かに今の場面、円堂や立向居がキーパーに居ればこんな形で失点しなかったのは言うまでも無い。キーパーである十六夜が攻め上がったからこその失点である。その前のもそうだ。十六夜のキーパーとしての経験の浅さを突かれたもので、これもあんな形での失点は防げたはずのものだ。

 

「十六夜のプレーを見てみろ」

「え?」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「十六夜先輩!?」

「さっきそれで失点したばっかですよ!?」

 

 十六夜が持っていた。たった1人で攻め上がっていく十六夜。

 

「愚かです……パーフェクトゾーン――」

「おせぇよ」

「なっ……捕らえきらない……!」

 

 十六夜の周りを走ろうとする選手……だが、上手く十六夜を囲えない。それもそのはずで、十六夜は周りを選手が囲もうとしているにも関わらず、一切足を止めようとしない……その上、直線ではなくジグザグに走っている。さっきから相手の肩とぶつかっているが、一切バランスを崩す様子がない。

 

「プラン変更です」

 

 パーフェクトゾーンプレスを諦めたのか、囲おうとしなくなった。だが、十六夜の走るコースはとてもじゃないが、私たちでも読めない。縦横無尽に走っている。一体何を狙って……

 

「……っ!?」

「止められない……!」

「何だよ暴走か!?」

 

 ……暴走、そう思っても仕方ないくらい今の十六夜のプレーは読めない。敵だけじゃない、味方も困惑を隠せていない。

 

「プラン変更です!」

「十分掻き乱したし、そろそろ行くか」

 

 チャンスウの指示で敵が動く。それを十六夜は単独で突破していく。1人また1人と個人技だけで突破していく。

 

「ご、強引すぎます!さっきからパスコースがあんなに空いてるのに……!」

「ハッ、パスは出さねぇだろうよ」

「どういうこと……?」

「どうもこうも、それが敵の狙いだからだよ」

「え?」

「どういうことなの?不動くん」

「イナズマジャパンの中で十六夜以上に脅威な選手はいない。相手からすれば、十六夜にボールがあるより、他の選手に渡してくれればボールを取れる確率は跳ね上がる。だからワザとパスコースを空けているんだよ。そして、その意図に気付かない愚か者は如何にもフリーですって、自分にボールをくれと要求する」

 

 見ると、味方側も十六夜からもらえる位置でパスを要求している。が、その声を全て無視しているようだ。聞こえていないのではなく、聞いていないのだ。

 

「ま、優秀な選手ならここでそいつにパスするという選択がミスだって分かるだろうよ。だから今の十六夜の中に単独で突破すること以外の選択肢はない」

「で、でも、1人で全員抜く方が勝算は低いのでは……?」

「そう思うなら精々、味方がワザと空けられたパスコースじゃなくて、相手の意表を突く、十六夜が求める場所に動くことを祈るんだな。それか、十六夜が味方を指示して動かす……とかな?」

 

 ニヒルに笑いながら十六夜を見ている不動。恐らくコイツは気付いている。今の十六夜が味方を動かす指示を出すことがないことを。

 

「で、でも、何だかんだでもうすぐゴールまで到達してますよ……!?」

 

 そして、最後にやって来たブロックを躱し、遂にキーパーと1対1に。

 

「ムーンフォースV3!」

「大爆発張り手!」

 

 十六夜の必殺技と相手キーパーの必殺技の激突。勝ったのは……

 

『ご、ゴール!イナズマジャパン再び同点だ!十六夜がたった1人で圧倒し、ゴールを奪ったぞ!』

 

 十六夜だった。

 

「悪いけど、この程度の策に嵌まるほど愚かじゃねぇから」

「……やはり、気付いていましたか」

「まぁな。それに、何点取られようが関係ねぇよ。……オレが取られた分取り返す。オレ1人でお前らに勝つからさ」

「……っ!?」

「これは諦めじゃないし、失望でもないし、ヤケクソでもない。1人で突破し、1人で決める……味方に左右されない、味方を頼りすぎない。世界一になるために、1人で勝つために身に着けたオレのプレーだ……全力で止めに来いよ。三流の策じゃオレは止められないぞ」

「三流とは……言ってくれますね……!」

 

 いつになく空気が冷たい十六夜。

 

「十六夜を副キャプテンとして選んだ理由は何故だが分かるか?」

「何故って……強いからですか?」

「少し違う。十六夜のレベルはかなり高く、このチームの中でも明確に世界一になるために必要なことが見えている。先を見据え、自分のレベルを正しく認識している」

「……っ!」

「アイツは一人一人の目指す目標や超えるべき壁となり、チーム全体に刺激を与え、どんな逆境でもその実力で勝つための光となる存在……そう期待しての選出だった」

 

 現にここまで3得点の内2得点は十六夜が絡んでいる。アイツが居なければ、ただただ突き放されていただろう。

 

「大丈夫かな、今の十六夜くんのプレー……」

「アイツの分析力、テクニック、フィジカル……おおよそ全ての能力を上げて帰ってきた。だが、いくつかの能力は留学前と変わっていない……寧ろ、下がっているだろうな」

「そうだね……今の十六夜くんはキーパー。それなのに思考はフォワードのそれに近い。いや、その中にミッドフィルダーとディフェンダーの思考も混ざってしまっていて……」

「全てのポジションを熟せるからこそだな。……そして、本来の長所が今は枷になっている」

「暴走させてしまった要因は……」

「豪炎寺の不調だろうな。いつもの力が出せない……どころか、今までに見たことが無いレベルでのエースストライカーの不調。それがアイツの中で超えてはいけないものを超えたんだろう」

「それに加え、吹雪くんたちの怪我。円堂くんのベンチスタート……」

「更には他のメンバーも何人かが本調子じゃない……」

「前線の俺たちだけでは点が取れない。ディフェンダーも彼らを止められず結果的に撃たれて点が入る……」

「ようやく十六夜綾人という選手の問題点が浮き彫りになった。……ただ問題はそこもだが……」

「今のイナズマジャパンは結果的にそれが最善手。十六夜くんの暴走が1番勝算がある……だから監督も下げられない。今ここで十六夜くんが抜ければ……」

「この危うい拮抗は確実に崩れる。ある意味で一番厄介で一番制御が効かない選手だ」

「十六夜くんは気付いているのかな?彼は相手の最適を潰すことは出来るのに……」

味方の最適(仲間のプレー)を引き出せない。自分のゴールしか思い描けない(味方のゴールを見ることが出来ない)。チームとして戦えない……十六夜綾人という選手が留学して帰ってきて、致命的に欠落してしまったところだろう」

「そうだね。その十六夜くんの問題解決は……」

「最優先にしないと全てが壊れる。……だが、アイツは今までも本音で話すことがほとんどない。自分のことを多くは語らない。そんなヤツの問題を解決するには……」

「時間がかかる……しかも、こんな試合中に、悠長に解決できる問題じゃない……か。難しいね……」

「今はアイツのフォローに回るしかないな」

 

 フィールドではヒロトと鬼道が話している……おそらくだが、あの2人は今の一連のプレーの理由に気付いたのだろう。そして、十六夜が暴走を始めていることも……十六夜自身、今のプレーについては味方から抗議されているが、軽くあしらっているように見える。

 そんな会話も一区切り付き、全員がポジションにつく。そして、ファイアードラゴンのキックオフで試合が再開された。

 

「それなら僕が実力でそのゴールをこじ開けよう」

「来い」

 

 速攻でイナズマジャパンのゴール前まで切り込まれる。ボールを受け取ったアフロディ。彼の背中からは黄金の羽が6枚生えてくる。そして、ゴッドノウズの時と同じように力を溜めている……が、その色は白ではなく黄金。

 

「ゴッドブレイク!」

 

 黄金のオーラを纏ったボールを空中で踵落としをして、シュートを放つ。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 そのシュートをキャッチしようとする十六夜……だが、

 

「何だこれ……!」

 

 すかさず右腕を左手で支えようとする……が、そんな抵抗は無に等しかった。呆気なくペンギン・ザ・ハンドは破れ、ボールはゴ-ルの中に入る。

 

『ゴール!試合再開早々、アフロディの新必殺シュートでファイアードラゴンに得点が入った!3-4!再び1点差!なんてシーソーゲームだぁ!』

 

「……なんだよこの威力……!」

「どうだい?これがゴッドノウズを超える僕の必殺技だよ」

「……ハッ、面白いじゃねぇか」

「さぁ、これを君に止められるか……楽しみにしているよ」

 

 そう言い残して、自分のポジションへと戻っていくアフロディ。

 

「悪い鬼道。止められなかった」

「あの技は、ゴッドノウズとは比べものにならない威力を有していた。だから1人じゃ……」

「次のキックオフ蹴らせてくれ。すぐに追いつく」

 

 と、キーパーであるにも関わらず、センターサークルに向かって歩いて行く十六夜。

 

「円堂、お前がキャプテンである理由を考えろ」

「俺が……キャプテンの理由……」

 

 そして、イナズマジャパンのキックオフで試合再開。鬼道が軽く蹴ると、十六夜はペンギンを呼び出して……

 

「真皇帝ペンギンO!」

 

 センターラインからのロングシュート。15匹のペンギンと共にゴールへと向かっていく。だが……何故あの技なんだ?今の十六夜の打てる必殺技の中で、ここでその技をチョイスする意味が分からないんだが……

 

「……キーパーの人……何もしてない?」

「え?」

 

 相手キーパーはシュートを見るも動く気配がない。それどころか、止めようとする意思も感じない。一体何故だ……?

 

 ガンッ!

 

 バーにあたり、空高く跳ね返るシュート。十六夜が……外したのか?

 

「凄いな三流ゲームメーカー。お前のところの優秀なキーパーさんは、ゴールに入らないシュートに反応しねぇらしいな」

「……っ!いつの間に……!」

 

 跳ね返った先には、既に跳んでいた十六夜が居た。向かって来るボールとペンギンたちに向かってシュート体勢に入る。

 

「後悔しろ……今のを止めていれば良かったとな。……オーバーヘッドペンギンV3!」

 

 そして、ダイレクトで蹴り返した。オーバーヘッドペンギンにより、更に数を増やしてペンギンたちは突撃していく。

 

「大爆発張り手!」

 

 相手キーパーの必殺技が発動する。ボールに向かって張り手をするも、ペンギンたちによってボールは徐々にゴールの中へと押し込まれていく。そして……

 

『ゴール!な、なんとスコアは4-4!壮絶な点の取り合いだぁ!イナズマジャパンが再び追いついたぁ!』

 

「……フフッ、あなたはペンギンの皮を被ったバケモノ……悪魔ですね。えぇ、いいでしょう。次のあなたの攻撃は確実に止めさせてもらいます。あなた1人では勝てないですよ?」

「…………」

 

 なんというか……完全に敵に目をつけられているな……と。そんなこんなで、ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。

 

「いくら十六夜くんが決めても……相手の攻撃を止められないんじゃどうしようもない……」

 

 相手のパス回しに翻弄されているイナズマジャパン。完全に手のひらの上で踊らされている。

 

『フレイムロード!』

 

 相手がカオスが使っていたドリブル技を使用する。あれは炎技を使っていないと出来ないはずだが……いや、確かファイアードラゴンには地走り火炎って技があったな……だから使えるってわけか。その技のせいでゴールまで一本の道ができる。そこを悠々と走るアフロディ。そして……

 

「ゴッドブレイク!」

 

 必殺技を放った。それに対して……

 

「パーがダメならグーだ!ペンギン・ザ・パンチ!」

 

 ペンギン・ザ・ハンドをグーで放った。真正面からぶつかった……が。

 

『ゴール!ファイアードラゴンが再びリード!圧倒的な攻撃力を見せつけているぞ!』

 

 僅かな拮抗の後に弾かれて、ゴールに刺さる。

 

「……くそ、グーでもダメか……!というか、グーの方が弱くなっている気がする……!」

「十六夜くん……大丈夫かい?」

「悪い、止められなかった。次、取り返す」

 

 ボールをゴールから取り出すとそのままセンターサークルまで歩いて行く。

 

「十六夜くん……もうキーパーであること忘れているね」

「えぇ……普通、キーパーはキックオフに行かないんですが……」

「だ、大丈夫でしょうか……?」

「シュートを受けすぎて頭が……」

「「「…………」」」

 

 あまりにも悲しいことをベンチで言われている始末。確かに、もう受けたシュート数は2桁を越えて、5点も決められたんだ……仕方ない……のか?でも、今までDFの時ですらこんなことはなかったはずなんだが……なんというか……らしくない感じが続くな。

 

「お前がやりたいサッカーは……本当にそれなのか?」

 

 十六夜がプレーする度に、何かが壊れていく感覚がする。味方と相手と……その中でただ1人孤立している。このままじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは十六夜が持っていた。もはやGKなのに、最前線で戦っているという現象に相手が驚くことはなくなり、味方は頭を抱えている状況。そんな中でブロックに行ったのはチャンスウだった。

 

「1秒でいいんです」

「はぁ?」

「1秒でいい。君の足を止めることが出来れば……」

「……っ!?」

 

 十六夜とチャンスウを囲うようにして4人の選手が走る。

 

『こ、これは!簡易版パーフェクトゾーンプレスか!?選手たちの壁によって十六夜とチャンスウが他のメンバーと分断されたぞ!』

 

「簡易版パーフェクトゾーンプレスですか……まぁ、その通りなんですが。さて、これで君は私を突破しても前へは進めませんね。さぁ、このプレゼントの感想はいかがでしょうか?」

「最悪のプレゼントだな。……お前に取られたり、壁を作ってるヤツに取られたら終わりか……いくらなんでも不公平だろ」

「不平等と言って欲しいですね。君は誰かに取られたら負け、私はこの包囲網を君が破ったら負け」

「実質、お前の敗北条件はないようなもんだろうが……!」

「しかも君の視界を塞ぐことも出来ている。外の状況がほとんど分からない状態ですよ。……さぁ、いつまで粘れますか?」

 

『そして、チャンスウと十六夜による一騎打ちが始まった!流石の十六夜も打つ手なしか!?』

 

(ッチ、キープし続けるのは苦じゃないが……これじゃ終わりが見えねぇ。必殺技で突破……は無理だな。そんなモーションに入った瞬間に取られてしまう。どうする?消耗戦とかやりたくはねぇんだけど……というか、外の状況がマジで分からねぇ。視界を潰されてる……!)

 

 十六夜がボールをキープしチャンスウを突破するも、パーフェクトゾーンプレスの包囲から出られない。限られたスペースで1度でも取られたら終わりのゲーム……

 

「また、タイミングを見計らいますか?」

「そんな余裕をくれるならな?」

「フフッ、与えるわけありませんよ。さぁ、諦めたらどうですか?ここは敗北を認めて我々に1点を与える。その後に君がその突破力で2点取れば済む話でしょう?」

「ハッ、よく言うな。無条件で2点取らせてくれるなら、そんな戯れ言を考える余地があるが……そんなおいしい話はねぇだろ」

「えぇ、ありませんよ。まぁ、あなたがいつミスをするか……どんなに優秀なプレイヤーもミスはします。人間である以上、いつかはミスするんですよ?」

「そうだな……ッチ、マジで厄介だな……!」

「さぁ、早く負けを認めて楽になりましょう?」

「うるせぇ……煽ってるつもりか?」

「えぇ。負けず嫌いのあなたには効くかと。それとも、この停滞を続けた方がジワジワと無力感を感じて精神的に来ますか?」

「……性格悪いな。友達いねぇだろ」

「お互い様でしょう?」

 

(クソッ、マジでどうする?会話していても、コイツから微塵も油断を感じねぇ。前半の残り時間をここで使い切るのは確実に悪手。必殺技を封じられ、個人技でも無理ってとこか。前者はともかく後者がキツイ。クソッ……やりたくはないが、見えなければ最終手段を使うしかない。チャンスウを……)

 

 打つ手なし。十六夜の中で、現状の打開は不可能で不穏な事を考え始めた時……

 

「本当にいいのか?鬼道」

「ああ、やってくれ。土方」

「まぁ、お前が言うならやるけどよぉ……巻き込んでも知らねぇぞ」

「ヤツならば大丈夫だ」

「そこまで言うなら分かった!行くぜ!」

 

 鬼道の打開策が発動する。

 

「スーパーしこふみ!」

 

 土方の必殺技により、巨大な足がパーフェクトゾーンプレスの中に落ちてくる。

 

「「……っ!?」」

 

 それに気付いたチャンスウと十六夜は、互いに落ちてきた足を避ける。そして、その衝撃で上がる砂煙と、味方の誰の必殺技でもないことから動揺を見せたファイアードラゴン側の選手たち。

 

「マズい!足を止めてはなりません!」

「行け!風丸!」

「おう!」

 

 その動揺から減速してしまうファイアードラゴン側。そのせいで、パーフェクトゾーンプレスに僅かな綻びが生まれる。

 

「貰うぞ、十六夜」

「助かったわ」

 

 その綻びをついて風丸が突っ込んでいく。そして、十六夜は風丸の進行方向に対してボールを出し、それを受け取ると、相手が立て直すよりも早くパーフェクトゾーンプレスを突っ切った。

 

『な、なんと!風丸がパーフェクトゾーンプレスの壁を切り裂き、十六夜とボールを救出!これはイナズマジャパンのゲームメーカー鬼道有人の策略か!』

 

「行け、虎丸!」

「はい!」

 

 そこからフリーだった虎丸へとボールが繋がった。

 

「タイガードライブ!」

「大爆発張り手!」

 

 虎丸の必殺シュートが炸裂する。だが、相手キーパーの必殺技の前に容易く止められてしまった。

 

「お、俺の技が止められた……!」

 

 ボールはキーパーからチャンスウに渡る。

 

「一旦仕切り直そっか」

「なっ……!?」

 

 トラップして前を向いた瞬間、勢いよくボールは蹴り出され、外に出たのだった。

 

「いやー助かったわ、鬼道」

 

 蹴り出した張本人である十六夜は、驚いているチャンスウを無視して鬼道に声をかける。

 

「今の繋げられただろ……」

「仕切り直した方がやりやすいかと思ってな」

「……まぁいい。お前があそこまで時間を掛けても突破出来ていないなら、内側からの脱出は不可能だと思ってな。外から関与させてもらった」

 

 そう、鬼道は十六夜が突破するのに時間がかかっていることから、中から出られないのではないかと判断し、十六夜が粘っている裏で動いていたのだ。

 

「マジでありがと。アイツさえ居なければ必殺技使えたんだけど、生憎必殺技は使えなかったし。あと少し遅かったら、チャンスウにボールをぶつけ、アイツをパーフェクトゾーンプレスの壁にぶつけることで相手を動揺させて、足を止めさせた隙に突破しようとしてたわ」

 

(……何故でしょう?凄く寒気がしますが……気のせいでしょう)

 

「必殺技が……使えない……」

「まぁでも、土方の必殺技のお陰で隙が生まれたよ。ありがとな」

「ハハッ、流石に空からの奇襲は想定されて居ないようだったな。お前に当たらなくて良かったぜ」

「空から……そういうことか」

「ん?」

「どうしたんだ鬼道。何かを思いついたような顔で……」

「ああ、お前たちのお陰で見つけたんだ。パーフェクトゾーンプレスを完璧に攻略する鍵を」

 

 鬼道が何かを思いついた様子を見せる。そして、十六夜がゴールに戻る前にあることを頼むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NGシーン(ネタ)~

 

「本当にいいのか?鬼道」

「ああ、やってくれ。土方」

「まぁ、お前が言うならやるけどよぉ……巻き込んでも知らねぇぞ」

「フッ、ヤツならば大丈夫だ」

「そこまで言うなら分かった!行くぜ!」

 

 鬼道の打開策が発動する。

 

「スーパーしこふみ!」

 

 土方の必殺技により、巨大な足がパーフェクトゾーンプレスの中に落ちてくる。

 

「「……っ!?」」

 

 それに気付いたチャンスウと十六夜は、互いに落ちてきた足を避ける。

 

「もういっちょ!スーパーしこふみ!」

 

 そして、再び降ってくる足。

 

「ちょっ!?おい待て!?」

「まだまだぁ!スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!」

「な、何を考えているんですかあなたのチームメイトは!?」

「知るかよ!?オレが一番聞きてぇよ!?」

「スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!」

 

 降り注ぐ巨大な足を狭いスペースの中で避けるチャンスウと十六夜の2人。

 

「お前こそ早くパーフェクトゾーンプレスを解除しろよ!そしてさっさと逃がしてくれ!」

「……一ついいことを教えてあげましょう」

「な、何だよ……」

「解除できるならとっくにやってます」

「ふざけんなこの野郎!?」

「こうなれば……あなたを殺して私も死にます」

「これサッカーだろ!?」

「スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!スーパーしこふみ!……そういや鬼道、これっていつまで続ければいいんだ?よく分からんから連続で放ってるが……あ、スーパーしこふみ!」

「これぞ四面楚歌……いえ、空もダメなので五面楚歌でしょうか?」

「スーパーしこふみ!」

「誰かぁ!相手チームの頭脳が頭壊れたんだけど!?誰かお医者さんを呼んでくれぇ!」

「スーパーしこふみ!」

「フッフッフッ……流石は我々の必殺タクティクスです。時間と共に徐々に縮まっていく包囲網……まさか私が苦しめられる日が来ようとは……!」

「スーパーしこふみ!」

「いい加減どっちかやめてくれぇ!?というか、誰でもいいから助けてくれ!?」

「スーパーしこふみ!」

「させませんよ……!あなただけ助かるなんて私が許しません!」

「スーパーしこふみ!」

「許さなくていいんだよ!お前に許されなくてもオレには関係ねぇんだよ!」

「スーパーしこふみ!」

「「「…………」」」

「スーパーしこふみV2!」

 

(1回で良かったんだがな……すまん、十六夜)

 

 この後、ボロボロの十六夜とチャンスウが出てきたとか何とか。




TPの概念なんてないからね。仕方ないね。いやーNGくらいは漂っている色々を無視したいからしょうがないんだよ(遠い目)
というかこの主人公、エイリア編最初の豪炎寺の不調知らないんだよな。雷門を離れた理由は知ってて関与したのに、あの必殺技外していた試合(エイリア学園のせいで)を知らないんだよなぁ……

次回サブタイトル、爆発


習得必殺技紹介

ペンギン・ザ・パンチ
キーパー技、パンチング 
習得者 十六夜
ペンギン・ザ・ハンドのパンチバージョン。パーが通用しないならグーで行くしかないという発想で生まれたが、アフロディの必殺技によって普通に破られた。
なお、ペンギン・ザ・ハンド同様普通の人間なら手や身体を壊しかねない必殺技である。
何気に、新必殺技は破られない的な暗黙のルールを無視した必殺技でもある。



スコアだけ見れば試合終了していてもおかしくないですが、まだ前半すら終わっていません。
一応現時点での得点内訳……
イナズマジャパン  VSファイアードラゴン
   4            5

土方&吹雪 1
           南雲&涼野 1
           南雲(涼野&アフロディ) 2
ヒロト(十六夜)2
           涼野 3
十六夜 3
           アフロディ 4
十六夜 4
           アフロディ 5


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VSファイアードラゴン ~爆発~

スパイ教室を読みたい欲に駆られ、1週間で本編1~8巻と短編集も1~3巻を読んだバカです。最新刊である9巻は今週中には買って読み終わってると思います。
前々から買ってはいたんです。読みたくはあったんです。読まず計11冊が積まれていたんです。アニメの第2話見た後に読書欲が爆発しただけなんです。ちなみに推しはグレーテさんです(誰も聞いてない)
そして、ここに書いている理由は……今作者は頭がとろけていることの説明ですかね?卒論に追い詰められた人の末路です。次回の前書きも何か書いてたら気にせずスルーしてください。
というわけで(?)本編どうぞ。


「……そろそろ練習の成果を見せてもらおうか」

 

 ベンチでは監督が意味深につぶやく中、相手のスローインで試合再開。ボールはチャンスウが持った。

 

「まぁ、いいでしょう。この攻撃で1点です」

 

 チャンスウが静かに手を挙げるとアフロディ、ガゼル、バーンの3人がイナズマジャパンゴールめがけて攻め込んでいく。

 

「き、来たッス……!」

「今度こそ止めるでヤンスよ……!」

 

 ディフェンス陣に緊張が走る中、十六夜は……

 

「構えて……いない?」

 

 なんというか……脱力していた。余計な力は一切入らずそれでいて……

 

「何か……喋っているのか?」

 

 口が僅かに動いている。喋っている……わけではないだろう。話し相手がいない。それなら独り言か……でも一体、何を……?

 

「やはり、ファイアードラゴンの攻めは凄いですね……こちらのディフェンスをあっさり突破していきますよ」

「ど、どうするんでしょう?これでシュートを打たれたら2点差に……!」

 

 十六夜のその様子に気付いているのは私だけだったようだ。ベンチに居る他のメンバーはボールの方を見ていた。フィールド上でも、こちらはボールを持っている相手を、相手はこれから突破するディフェンダーを見ている。

 ……だからだろうか。ゴール前で口角を僅かに上げ、獰猛な笑みを浮かべたアイツに気付いたのが私しか居ないのは。

 

「さぁ、行きますよ!」

 

 ボールを持っていたチャンスウの言葉。その言葉と同時にボールは蹴り出され、アフロディはディフェンダーを突破する。蹴り出されたと同時に裏を取って突破したのだ。

 

「うぉぉおおおおおお!」

 

 飛鷹がパスカットを試みて突撃する。だが……

 

「それくらい読み通りです」

 

 アフロディに向かっていたはずのボールは曲がっていき、その狙いを変えた。そこに居たのは……

 

「ハッ!これで2点差だ!」

 

 バーンだ。飛鷹が釣り出された為に完全にフリーだ。

 

「これで終わ……なっ!?」

「これで1点取れるってシナリオだったか、三流さん?」

「……なんて男ですか……!」

 

 バーンに渡る直前でそのボールをカットしたのは十六夜だった。

 

「キーパーが前に飛び出してパスカットは計算外か?ごめんな、キーパーとしての経験が浅いから飛び出したらいけないタイミングとかよく分からねぇんだわ」

「それぐらいは分かるでしょうに……!」

「じゃ、役目は果たしたんで、あとよろしく」

 

 役目……?気になることを言った十六夜は鬼道へとパスを出す。ボールを受け取った鬼道は……

 

「流石だな」

 

 フィールドの中央でボールを受け取るも……動いていない。一体、どういうことだ?

 

「せっかくの同点のチャンスを無駄にしましたね」

「さぁ、それはどうだろうな」

「パーフェクトゾーンプレス!」

 

 チャンスウが声をかけつつ、必殺タクティクスを発動させる。近くに居た虎丸も捕まってしまったが、鬼道のヤツ……まさか、ワザとパーフェクトゾーンプレスを発動させる隙を作ったのか?でも、アレは十六夜の強引な策でしか破れてはいないんだぞ……?

 

「皆!泥のフィールドを思い出せ!」

「泥のフィールド?」

 

 その言葉の真意を汲み取れず首を傾げる。フィールドでは、十六夜も頭に?を浮かべていた。

 確か、十六夜以外は泥のフィールドで練習をしていた……んだったか?しかし、鬼道は何故その話を……そう思った時だった。パーフェクトゾーンプレスの中から空に向かってボールが打ち上げられたのは。

 

「俺が取る!」

 

 いち早くバーンが反応し、跳び上がってボールを奪おうとする……だが、

 

「凄い……ちゃんとボールが繋がっている……」

 

 先に風丸が跳び上がってボールに追い付くとダイレクトでパスを出す。受け取った選手も、一回トラップをするとすぐさま別の選手へとパスを出す。いつもと違うのは、全員が浮かせたパスを出していることだろうか?

 

「なるほどな……」

 

 泥のフィールド……仮にここが一面の泥沼なら、グラウンダーでのパスは繋がらない。しかもトラップでも地面に落とせば終わり……監督が意図していた破り方はコレだったわけか。

 

「素晴らしい必殺タクティクスです!この戦術をルート・オブ・スカイと名付けましょう!」

 

 目金の声が聞こえてるが、無視でいいだろう。……ただ、気になるのは……

 

「でも監督、何故十六夜先輩を泥のフィールドで練習させなかったんですか?」

 

 と、音無が代わりに質問をしてくれたようだな。

 

「そうですね……十六夜さんなら泥のフィールドで練習していれば、すぐに空が鍵だってことに気付けそうですよね」

「うしし……だってあの人、ペンギンに乗ってよく飛んでいるしね」

 

 立向居と木暮が言うことも分かる。一体何故……

 

「1つは発想を縛ってしまうからだ」

「……え?」

「泥のフィールドで練習したことが、必ずパーフェクトゾーンプレスを破るための鍵になる。その思考に辿り着いてしまうと、それ以外のことに目を向けられなくなる。それを危惧してのことだ」

「……なるほどな」

 

 オーストラリア戦の前にあった練習禁止……あれにはボックスロック・ディフェンスを破るための鍵があった。今回も同じ事があると考えてしまうと、アイツのやった破り方は生まれなかった。縛られないこと……アイツにとってはそれが自身の持つ武器を最大限に発揮できる方法だと監督は考えたわけか。

 

「俺にくれ!」

「分かった!頼むぞ緑川!」

 

 ゴール前へ走っていた緑川にボールが渡る。

 空中でパスを受けた緑川は踵でボールを回転、現れた宇宙空間の中で回転するボールは力を溜めていた。

 

「アストロゲート!」

 

 そして、蹴リ出されたボールは紫のオーラを纏い、地面を抉りながら進んでいく。アストロブレイクの進化版……空中から放たれたその威力は、アストロブレイクを大きく上回り、十六夜との連携技であるアストロペンギン以上に感じた。

 

「大爆発張り手!」

 

 それに対して、張り手が繰り出されるものの張り手をする度に押し込まれていき、爆発と共にボールはゴールへと刺さった。

 

『ゴール!イナズマジャパンの必殺タクティクスがパーフェクトゾーンプレスを打ち破った!そして、ゴールを決めたのは緑川!新必殺技でゴールを決めたぞ!再びイナズマジャパンが追いついたぁ!』

 

「やったな緑川。最高の必殺シュートだよ」

「やるじゃん、緑川。すげぇシュートを完成させたな」

「ありがとな、ヒロト、十六夜。お前たちのお陰で完成できたんだ」

 

 ゴールを決めた緑川に声をかけに行くヒロトと十六夜。ヒロトも緑川も進化している……か。

 

「気に入りましたよ、イナズマジャパン。龍の餌食に相応しい相手です」

 

 この失点を受けても気にした様子がないファイアードラゴン。……パーフェクトゾーンプレスが通用しなくなるのも時間の問題と分かっていたか。ビッグウエイブスの時もボックスロック・ディフェンスが破れてからは戦術を切り替えてきていた。彼らもまた、パーフェクトゾーンプレスが破れたのなら別の戦術に切り替えるのだろうか。

 

「特に鬼道有人、十六夜綾人。龍はあなたたちを倒したくてしょうがないようです」

「あのチェ・チャンスウに認めてもらえるとは、光栄の極みだな」

「ははっ、もっと楽しませてくれよ?」

「フフフッ、最後に戦場の勝者になるのは龍だと嫌でも分かりますよ」

 

 そう宣言してポジションにつくチャンスウ。

 

「それにしても、あのカットは凄かったな。しっかり役目を果たしてくれた」

「ボールを奪う……キーパーが前に出てカットするなんてアイツの辞書にはねぇと思ってな。それにそうじゃなくても、あそこがアイツにとって最善のコースだった。そこを潰しただけに過ぎねぇよ」

「それでも充分だ。ただ、お前が常識的にありえないタイミングで飛び出すことも、これで刻まれただろう。もうこの試合では通用しないんじゃないか?」

「さぁな。まぁ、不用意にはやらないよう気を付ける」

 

 前半残りわずか、ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。アフロディ、バーン、ガゼルの素早いパス回しとチャンスウの指揮で一気にイナズマジャパン陣内に切り込んでくる。

 

「コース切れ土方!飛鷹!マーク外すな!栗松、そこじゃ意味ねぇ!」

 

 十六夜からの指示が飛んでいる……が、味方が対応できていない。焦っている?いや……分かっていないんだ。恐らく、相手のやりたいことは確実に見えている。見えていて、そこを潰そうとしているが……潰す側の動きが考慮できていない。

 

「面白い選手だ。私たちの道筋を見えているのに、味方を上手く動かせていない。敵の能力は把握しているのに、味方の能力を把握できていない」

「……っ」

 

(そうじゃねぇ……!こっちは味方の能力も分析済みなんだよ……!何でだ……何で想定とズレるんだ……!奴らのコースは見えているのに……!何で防げねぇ……!)

 

 たまらず十六夜が一歩踏み出さんとすると、

 

「そこだよ!」

「……っ!」

 

 ヒロトが戻ってきてパスカットをする。ボールは弾かれ、コースが変わった。

 

「助かった、ヒロト」

「気にしないで。今の十六夜くんはキーパーでしょ?」

 

 そのままボールは緑川のもとへと渡る。

 

「奪わせてもらうぜ!」

「そうは行くか!ライトニングアクセル!」

 

 緑川の必殺技で相手ディフェンスを抜き去る。

 

「……くっ、風丸!」

 

 ディフェンスを抜き去った緑川は、何処か苦悶の表情を浮かべながら風丸へとパスを出した。

 

「風神の舞!」

 

 そして風丸の必殺技で別の相手を抜き去る。どうやら、今までの試合であまり使われていない必殺技の対応は遅い傾向にあるな。まぁ、十六夜の分析力を持ってしても初見で完璧に見破ることはほぼ不可能だしな。

 

「虎丸!」

「はい!」

 

 ボールは宇都宮に渡る。宇都宮がボールを運び、豪炎寺がその前を走る。

 

「タイガー……!」

 

 そして宇都宮がシュート体勢に入った。彼の必殺技、タイガードライブを放つが向かう先はゴールではない。シュートは空高く上がっていく。

 

「……っ!ストーム!」

 

 そのシュートに合わせたのは豪炎寺だった。爆熱ストームを合わせ、ボールはゴールに向かう。だが、虎が吠えたかと思った次の瞬間。纏っていた炎やオーラは消え失せ、シュート大きく逸れ、ゴールから外れてしまう。

 タイガードライブと爆熱ストームの合体技か……面白いことを考える。決まれば強い合体技。……だが、タイミングが合っていない……か。

 

「……何処見てるんだ?」

 

 十六夜が何処かを見ていた。

 

(やはり、今日の豪炎寺……観客の方を見ることが多いな。前の2つの試合ではそんな素振りほとんど見せていないのに。……どうにも、集中出来ている感じがしない)

 

 その視線を追うも特定できない。一体何処を……と、そう思っていると、ゴールキックで試合再開。蹴られたボールは、チャンスウのもとに。そこには土方と鬼道の2人がブロックに行った。

 

「ならく落とし!」

 

 チャンスウの技が土方を襲う。ならく落としの勢いで吹き飛ばされる土方。だが、運の悪いことに吹き飛ばされた先には鬼道が……

 

「土方!鬼道!」

 

 笛は鳴っていない……2人が倒れているも試合は止まっていない。そんな中、バーンにボールが渡る。

 

「勝負だムーン!正面突破してやるよ!」

「……っ!来い!」

 

 ボールと共に上空へ跳び上がるバーン。最高地点に到達したところで、紅の炎を纏った足でボールの下側を蹴り、縦方向のスピンをかける。アトミックフレアと違う……見たことのない技だ。

 

「進化したのはガゼルだけじゃねぇ!クリムゾンブレイズ!」

 

 ボールがスピンと同時に紅の炎を纏ったところで、バーンがキックの時の勢いを利用して1回宙返りをする。そして、体勢を軽く立て直して全力でゴールへと蹴り出した。ファイアーブリザードの時の動きからゴッドノウズに繋げた感じだろうか。

 紅の炎を纏った足で二度蹴られた事でボールは太陽の様に激しく燃え上がる。時折プロミネンスを吹き出しながら上空よりゴールへと飛来する。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 そのシュートに右手をぶつける十六夜……だが。

 

「何だよ……この威力……っ!?」

 

 咄嗟に右腕を左手で支えるも、ゴールへと押し込まれていく。そして……

 

「吹き飛べ!」

「クッ……あああああああっ!」

 

 激しく噴き出た炎が右手を弾き飛ばし、十六夜の身体ごとボールをゴールへと押し込んだ。

 

『ゴール!南雲の新必殺技がイナズマジャパンのゴールをこじ開けたぁ!ファイアードラゴンがリードしたぞ!』

 

 ピ、ピー!

 

『そして、ここで前半終了のホイッスル!5-6と壮絶な点の取り合い!激しい攻防の行方は後半に持ち越しだぁ!』

 

 ゴールの直後に鳴り響くホイッスル。前半をリードされて終わり……か。

 

「何てシュートだ……おい」

「ガゼルやアフロディだけが進化したとでも思ってたか?俺も負けてられねぇからよ」

「クソ……」

 

 ガゼルの新必殺技がスピードを強化し、相手に反応させない……十六夜のヴァルターペンギンに近い考えなら、バーンは高い打点から放つことにより、シュートブロックしても届かせないってことだろうか?ただ、2人とも元々使っていた技より威力を桁違いに上げている……見ない間に進化している。

 

「十六夜の背中も遠いが……」

 

 周りに居たはずの奴らも進化を遂げている……か。

 

「軽視していたわけじゃねぇけど……お前も相当な進化を遂げやがったな」

「ああ、そして勝つのは俺たちだ。後半も楽しみにしておけよ!」

 

 フィールドでは十六夜とバーンが話を終えて、ベンチへと戻ってくる。今はイナズマジャパンが勝つために出来ることをするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜」

「八神か。どうし……っ!」

 

 ベンチに下がると八神が十六夜の傍まで行く。そして、強引にグローブを脱がせた。

 

「痛いだろ。その手」

「……バレてた?」

「はぁ……座れ。冷やすぞ」

「分かったよ」

 

 グローブを取った彼の両手は真っ赤に腫れていた。痛みは感じていたはずだが、それでも予想以上の赤さだろう。

 

「全員集合。後半はメンバーを入れ替える」

 

 監督は全員の顔を見渡すと、メンバーの名を告げた。

 

「緑川、土方、鬼道。お前たちは下がれ」

「なっ!どうしてですか!」

「緑川、無理をし過ぎたようだな。足に来ているぞ」

「……っ!…………はい」

「土方、お前のその足ではこの試合はもう走れない」

「……すまん皆。足を引っ張るくらいなら、大人しく下がる」

「そして、鬼道。お前も最後の土方との衝突で膝を痛めただろう」

「……気付いてましたか」

「下手に庇うように動いては悪化させるだけだ。無理する前に下がれ」

「分かりました」

 

 告げられた交代。今まで以上にベンチは怪我人で埋まっていた。

 

「土方の代わりには木暮。お前が入れ」

「はい!」

「そして、緑川の代わりに不動。行けるな?」

「「「えぇ?」」」

 

 ほぼ全員が驚いたような表情で不動を見る。呼ばれた本人も驚いている状況だ。

 

「へぇ、やっとですか」

「待ってください!不動はまだチームに溶け込んでいません!なぜこの場面で不動を出すんですか?」

「敵は不動を知らない。言うなれば……不動はジョーカーだ」

「ジョーカー?」

「ジョーカーですか。そいつはいいや」

 

 予選が始まってから不動は一度も試合に出なかった。当然、試合映像をいくら見返しても不動だけはどんな選手か分からない。さらに、イナズマジャパンのメンバーの何人かと関わりのあるアフロディ、南雲、涼野でさえも不動のことは知らない。つまり、不動という選手はファイアードラゴンにとっては一切情報のない、読めない選手ということになる。

 

「それなら流れを取れるかもしれない。だろ、鬼道?」

「……円堂」

「いいこと言うねぇ、キャプテン。強いモノは弱いモノを食らって生きる。それが自然界の掟だ」

「……くっ」

 

 そう言うとウォーミングアップを始める不動。

 

「……監督。あと1人は?」

「いや、このまま10人で行く」

「「「えぇっ!?」」」

 

 10人で戦うことに驚くメンバー。円堂を含め、交代枠は後2つあるがどちらも切るつもりがないことに驚きを隠せない。

 

「監督……もしかして、オレはキーパー続投ですか?」

「そうです監督。十六夜の手も限界に近い……」

「キーパーはお前のままだ。変えるつもりはない。それと、指示だが……十六夜、後半は攻めることを禁止する」

「……っ!……どういうことですか、監督」

「そのままの意味だ。攻撃は勿論、守備でもペナルティーエリアから出ることを禁止する」

 

 そう言うとベンチに腰掛ける監督……

 

「悪いんですが、その指示の理由を聞かせてください」

「そ、そうですよ!十六夜くんのお陰でここまで戦えているんですから……!」

「……私は十六夜綾人という選手を過大評価し過ぎていたようだな。はっきり言おう、今のお前に世界一のプレイヤーにはなれない」

「……っ!」

 

 ベンチの空気が重く、冷たいものに変わっていく。

 

「傲慢なプレーを繰り返し、独りで戦い、独りで勝つ……確かにお前のレベルはこの中でも群を抜く。世界にも十分届き、韓国代表の選手と……いや、このアジアのレベルで見ても頭1つ抜けているだろう。お前ほど個人技に優れ、分析力も高く、自由な発想で攻守共に熟せる同年代の選手は世界中を探しても決して多くはない」

「だったら……!」

「……だが、今のお前はチームを勝たせることが出来ていない。サッカーというスポーツで見れば、1点ビハインドで、イナズマジャパンは負けている。お前のその実力を持ってしても負けているのが何よりの証拠だ」

「…………」

 

 拳を硬く握り締める十六夜……手に走っている痛みには気付いていないようだ。

 

「それは……アンタが指示したからだろうが……!」

「そうだな。私はお前にある指示を出した。お前が、引き分けや勝っている状態で点を決めることを禁止するとな。それにキーパーをやれと指示を出したのも私だ」

「……っ!監督、それって……!」

「前の試合でも、十六夜だけ体力を温存させ……この試合でもですか」

「で、でもそれって、俺がキーパーだったら……」

「お前がキーパーだったとしても現状は変わらなかっただろう、立向居。そもそもの話だ。キーパーで出場している選手にとって、私の指示は縛りにもなっていないはずだ。違うか?」

「…………」

「はっきり言おう。お前は高い実力を有しながら、世界レベルの武器を持ちながら、それでも勝てていない。このチームが勝つことが出来ていないのは、円堂が出場してないことでも、他の選手がトラブルを抱えているからでもない。お前だ、十六夜綾人。お前が果たすべき仕事が出来ていないことを自覚しろ」

 

 ダンッ!

 

 床に拳をぶつける十六夜。普段では見られないその姿に周りも声を掛けられないでいた。

 

「頭、冷やしてきます」

「好きにしろ」

 

 そして、そのままベンチから去って行く十六夜。

 

「1つ言っておく。後半のあの指示の期限は、ある時が来るまでだ。それに気付けなければ、お前にはチームを離れてもらう」

 

 その声は届いたのか届いていないのか。

 

「か、監督!確かに十六夜は慣れないキーパーでかなり失点をしたかもしれません!でも、いくら何でも厳しいんじゃ……!」

「今のお前には物申す資格はないぞ、円堂。アイツをあそこまでさせた原因の一端はお前だぞ」

「……っ!俺が……?」

「付き合いの長いはずのお前が、キャプテンであるお前が、アイツの問題点を爆発するまで気付けなかった。……お前にとって、多くの者にとってはこの試合でいきなり爆発したように思えるが、予兆はあった。……それにお前は気付けなかった、感じ取れなかった。名ばかりのキャプテンが率いるチームでは、未来はない」

「…………」

 

 重い空気がハーフタイム中のベンチを包み込む……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響木さんは、十六夜の過去を知っていますか?」

「十六夜の過去……か。よくは知らないが、急にどうしたんだ?」

「私には、彼という選手の思考がどうしてもただの中学生には思えないんです。特に、チームプレーを重んじていた雷門に在籍しながら、彼の中には一人でというのが根強く存在している……そう思えまして」

「アイツは俺も出会った時から一人が多かったな。なんというか……チームで浮いている訳でも孤立している訳でもないのに、一人に感じた。……ただ、アイツが話さない以上分からない。それに……」

「両親の死がきっかけの可能性もある……ですか。確かに、安易に踏み込むべき問題ではありませんね」

「……それにしても厳しいことを言ったな」

「今の十六夜はチームに必要ありません。それは事実ですので」

「難儀な選手だな……そして、扱いの難しさを再認識させられる」

「一番厄介な選手ですね。このイナズマジャパンのメンバーで……いえ、今まで見てきた選手の中でも異質に感じる。他の選手もですが、特に彼はどうするのが最適なのか悩むばかりです」

「悩んだ結果がヤツの問題を無理矢理浮上させ、爆発させた……か。確かに、アイツの問題を放置したままでは世界で戦えない。今、爆発させなければもっと深刻化していたかもしれない。……だが、久遠。お前にしてはだいぶ甘かったんじゃないか?」

「…………」

「普段なら、あそこまで言わないだろう?それだけ、十六夜に期待しているってことか?」

「……彼ほどの選手がここで潰れてしまうのは惜しいですからね。ですが、撤回する気はありません。もしもの時は……容赦なく切り捨てます」




原作よりも悪化したハーフタイムです。
ここに来て主人公の爆弾が……ただえさえ、問題が多いこの試合にとびきりの問題を持ち込んで……さて、どうなるんでしょうか?
そして、十六夜の価値観の形成理由・過程は絶対監督たちじゃ分からないんですけどね。まさか、この世界に来る前に原因があるなんて想像できるわけがない。両親ではなく、自分の方が死んでいるなんて思うわけがない。
さて、そんな十六夜くんの過去を挟もうかどうしようか迷い中……って感じですが一応補足しておくと、前の世界で十六夜くんは特別な存在というわけではありません。特別な過去みたいなのはなく、取り巻く環境が性格形成に影響しただけのどこにでも居る一般人です。


次回サブタイトル、見えていないもの

オリジナル必殺技紹介

クリムゾンブレイズ 
属性 火 
成長タイプ V 
シュートブロック可 
使用者 南雲
涼野が新必殺技グレイシャルレイドを完成させた事に対抗心を燃やした南雲が自らの持ち味である高い跳躍力を最大限生かす形で開発したシュート技。
ボールと共に上空へ飛び上がり、最高地点に到達したところで紅の炎を纏った利き足でボールを蹴って縦方向のスピンをかける。ボールがスピンと同時に紅の炎を纏ったところでキックの勢いを利用して宙返りをしてから全力でゴールへと蹴り出す。紅の炎を纏った利き足で二度蹴られた事でボールは太陽の様に激しく燃え上がり、時折プロミネンスを吹き出しながら高角度でゴールへと突き進む。
アトミックフレアに比べて一工程多く踏んでいる事から発動までの時間が伸びてしまっているものの、威力は大幅に増している。また非常に高い位置からシュートする為に相手DFからの妨害を受けにくい上、上空から放たれるタイプのシュートをこの必殺技で即座にブロック、カウンターシュートに繋げる事も可能。

h995様より頂きました。ありがとうございます。


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VSファイアードラゴン ~見えていないもの~

『ボクが思うにこの試合で勝てなかった原因はただ1つだよ』

 

 頭を冷やしたくて外に出た。そして、ベンチに腰掛け目を閉じる。

 

「クソ……」

 

 さっきの監督の言葉に苛立つ心を必死に抑えこむ。思考を切り替え、冷静さを取り戻そうとする。

 

『それは十六夜綾人……キミさ!キミがチームの足を引っ張ったからだよ!』

 

「うるせぇ……」

 

 だが、頭から声が聞こえてきて離れない。

 

『キミに怒る資格なんてないよ!それとも、このボクの分析に間違いがあるとでも?』

 

 まだこの世界に来る前……要は前の世界でのこと。高校時代に告げられたその言葉が今になって思い出される。

 

『確かにチームメイトのレベルがキミより低いことは知ってるし、見れば分かる。プレーを見てても、チームメイトにミスが目立っていたのはよく分かる』

 

 この世界に来て1年も経つ頃にはほとんど前の世界のことを思い出すことはなかった。

 

『でも!それでもキミがチームを放棄したから負けたんだよ!チームを見限ったから負けたんだよ!キミが仲間を捨てて、1人でやったから負けたんだよ!』

 

 思い出さないし、思い出せない。はっきり言って、前の世界で一緒にサッカーをやっていた奴らは誰も覚えていない。

 

『いい加減にするんだ愚か者!ボクが見たいのはそんなプレーじゃない!分からないのか!キミの力を最大限発揮するには1人じゃ絶対無理なんだ!一緒に居る仲間が必要なんだよ!どんな形であれ、キミにはチームメイトが必要なんだよ!』

 

 あの時……オレは彼女の言葉にどう答えたか覚えていない。だが……

 

『思い上がるのも大概にするんだこの分からず屋!キミの言う綺麗事が必要なんだよ!環境が生んだバケモノめ!このモンスターが!そんなんだから自分の才能にすら気付けないんだよ自称凡人!一生その檻に囚われていればいい!勝手にするんだ!』

 

 ……天才が初めて凡人に涙を見せたことだけは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「ここに居た」

「吹雪か……動いて大丈夫なのか?」

「少し厳しいけどね……流石に全く動けないほどじゃないよ」

 

 会場の外のベンチにて。あれから独りになっていた十六夜の下に、吹雪がやって来た。

 

「…………」

「さっきの監督の言葉を考えているの?」

「……ああ、そうだな」

「……十六夜くんはどう思っているの?」

「まぁ、その通りだろうなって。現時点で負けているのは事実だし」

「……それだけ?」

「ああ」

「……今、聞きたいのは君の本音だよ。肯定でも否定でも正解でも間違いでも無い。僕が聞きたいのは、十六夜綾人という選手がさっきの監督の言葉に何を感じたのかだよ」

「…………」

 

 少しの間沈黙が支配する。そして……

 

「ムカついたな……マジでムカついた」

「どうして?」

「言われなくても分かってんだよ……負けている原因がオレだってことくらい……!だからなんだよ……この負けている現状に一番いらついているのはオレなんだよ……!」

「そう……」

「オレが好きにやっていれば勝てる……そこまで驕るのは間違いだ。アイツらは強いことくらい分かる。……でも、だからどうした……絶対に負けられねぇ……勝ちに行くだけだ……!」

 

 目から闘志は消えていない。しかし、完全にあるモノが見えなくなっていた。その様子を察した吹雪は声を掛ける。

 

「勝ちたいのは僕も同じだよ」

「……だろうな。でも、チーム全員が目の前の勝利を掴もうと、勝ちに行こうとしてない。…………終わってるんだよ。目の前の勝利を欲していない奴らが居て、そいつらが足を引っ張っている。……ふざけんなよ。そんな奴らが居るくらいなら、オレは1人で勝ちに行く」

「それは飛躍しすぎじゃない?確かに彼らに勝とうと、心の底から願えていない人は居ると思う。試合以外の事で思考が一杯の人は居ると思う。そのせいで本来の力を発揮できていない人も居ると思う」

「だから……」

「でも、だからって他の勝ちに行こうとしている人まで見捨てて、1人で勝ちに行こうとするのは違うんじゃない?少なくとも、君と同じように勝とうと全力で藻掻いている人は居る。そんな人まで切り捨てるのは違うと思う」

「…………」

「……ねぇ、十六夜くん。君の思う世界トップレベルのプレイヤーって、皆独りでプレーするの?」

「独りでって……」

「僕はね、ずっと完璧になろうとしていたんだ。士郎とアツヤ、二人で完璧……そう言ってくれた父の言葉の通り、僕は完璧という言葉に拘っていた。……でも、それじゃ通用しなかった」

「それは……」

「豪炎寺くんや皆が教えてくれたんだよ、完璧になることって言うのは、仲間と共に歩むこと。独りじゃ決して到達できないんだって」

「仲間と共に……」

「今の……留学から帰ってきた君のプレ-は間違いなく凄い。エイリア学園の頃はほとんど同じフィールドに立たなかったけど、それでもかなりレベルアップしているのは分かる。でも、この試合……ううん、帰ってきてからの君は誰も頼ろうとしていない。仲間を、味方を、誰も頼ろうとしていない。そして、誰も理解しようとしてない。分かり合おうともしない。最初から何処か諦めてしまっている」

「…………」

「だから君は秘めた思いを誰にも共有しない。はっきり言わない。何故って聞かない。一緒に考えようとしない。勝ちたいって強い思いを共有しない。悪いと分かっている現状を誰にも伝えない。……ずっと独りで抱え込んで、独りぼっちでプレーしているんだ。……違う?」

 

 吹雪の言葉が十六夜の中にある壁を叩く。

 

「……眩しいんだよ」

「眩しい?」

 

 そう言って、ベンチに横になり空を見上げる。

 

「皆で協力して……仲間と共に……チームプレーを大切に……全部眩しく感じてしまうんだよ……全部綺麗事に感じてしまうんだよ」

「綺麗事って……」

「醜く歪んでいるのは分かっている。サッカーは11人でやるもの……そんなことは知ってるんだよ。1人に頼り切ったチームなんて脆くて弱いことも分かってるんだよ。綺麗事が大事って頭では理解しているんだよ」

「だったら……」

「だけど、あくまでそれまでだ。そんな綺麗事を語れるのは、綺麗事だけじゃどうにもならなかったことがねぇからだ。……だからなんだよ。綺麗事を信じているお前らがすげぇ眩しく見えるのは……」

「…………」

「……その中でも円堂は一際眩しい。アイツは光だ。光として存在感が強すぎる」

「まぁ、キャプテンって太陽みたいだからね」

「そうだな。周囲を照らし、周囲を光で染め上げる。だからさ……アイツの近くに居ると忘れてしまうんだよ。その温かさで……自分が本当は光じゃなくて、その対極に位置することを」

「……対極って……まるで、自分が闇とでも言いたい感じだね」

「まぁ、闇って言うか……何だろうな。でも、本質的な考え方はアイツと違うことは確かだと思っている。サッカーに対するどうこうもきっとアイツ……いや、お前らとは違う。……育ってきた環境もここまで温かくて優しいものじゃなかったからな」

「だから闇……か」

 

 1人になって、離れてようやく思い出す。彼らとは相容れない存在と言うことに……

 

「それにお前らは、代表になってからもどんどん成長している。一人一人の成長速度に差はあっても、全員が上のステップへと進んでいるだろ。……対して、オレは帰ってきてから一切成長していないんだよ」

「そんなこと……」

「強くはなったと思う。フィジカルを鍛えて強くはなった。今までより体力もつけた。砂浜で走るフォームも見直した。ずっと練習してきた必殺技も身に着けた。……でも、何にも変われていない。このチームで唯一停滞し続けている……それが嫌でも分かってしまった。そして、進み続けるお前らを見ると……すげぇ悔しく思ってしまう」

「…………」

「本当は喜ぶべきってのは分かっている。お前らが努力しているのも分かっている。間違いってのも分かっている。でも……オレが苦労して乗り越えた壁をお前らは軽々と超えている……そんな気がする。……分かってんだよ……そんなの勘違いだって。……今のままじゃダメなことくらい、分かってるんだよ。…………でも、どうすりゃいいのか分かんないんだよ」

 

 ついていたはずの差が徐々に縮まっていく。他者が前に進んでいるのに自分は進めないでいる。周りの成長を嬉しく思う反面、素直に喜べない自分がいる。光さす温かい空間に冷たく影を落としてしまう。

 

「どうすればいい……か。他人と比べなくていいと思うけどな」

「は……?」

「きっと焦っているんだと思う。実際、僕もそうだったし……でもさ、君は十分強い。君が停滞し続けているって言うけど、それはそうだよ。ずっと前に進み続けられる人なんていない……時には止まっちゃうし、時には後退するかもしれない。前に進んで戻ってまた進んで…………でもさ、僕らがやっているのはサッカーだよ。1人で苦しむ必要は無い。君だって万能じゃない。完璧じゃない。……君は神じゃないんだ。何でも出来なくていいと思うよ」

「出来なくても……」

「君が出来ないことは僕らチームが支える。だから、君が出来ることでチームを支えてよ……それがチームで戦うってことでしょ?」

「…………」

「これも綺麗事に聞こえるかもしれない。でも、綺麗事でいいと思うよ。十六夜くんが身に着けた、1人でも勝つ為に身に着けた数々の武器()……それは決して周りに劣っていない。それを自分だけが勝つためじゃなく、イナズマジャパンが勝つためにどう使えばいいのか。それが……」

「……鍵……か。自分の持っているものを一緒に戦う奴らにどう組み合わせるか」

「味方に合わせるって言うのは、決して手を抜くことじゃない。相手のレベルに合わせることでもないはずだよ。……今は1人で戦う必要は無い。僕らが一緒に戦うからさ」

「ありがとな、吹雪」

 

 そう言うと立ち上がる十六夜。

 

「今すぐには変われない。いや、変われるかすら分からない。でも今ここで、オレがすべきことを気付けた。……後はプレーで示すだけだ」

「うん、じゃあ戻ろっか」

「肩貸すぞ」

「ありがとね」

 

 吹雪に肩を貸しながら、フィールドへと歩いて行く。

 

「でも、自分が闇か……」

「……まぁ、なんて言うか……ずっと昔から絡み付いている(ツタ)があるんだよ」

「絡み付いている蔦……育っていた環境で身に着いた価値観や考え方ってところかな?」

「その蔦は消えたように見えても残っている。円堂の光に当てられ、忘れることが出来てもずっと残っている。綺麗事と蔦……折り合いをつけることが出来ていないんだよ」

「そう……今度聞かせてよ。君を縛るその蔦について」

「機会があれば……な」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜が吹雪と共に戻ってきた。グローブを手に取るとそれを手に嵌めていき……

 

「八神」

「何だ、十六夜」

「オレを一発ぶってくれ」

 

 パシン!

 

 ということでぶってやった。十六夜が軽く吹き飛んだためか、周りのメンバーは動揺する。

 

「ちょっ……おま、迷いなさすぎなんだけど……」

「で?目が醒めたか?」

「……ああ、ありがとな。行ってくる」

「行って来い」

 

 そう言ってそのままフィールドへと入っていく。

 

「ゴメン!」

 

 そして、頭を下げ大声で謝罪をした。状況が二転三転して、驚く彼らをよそに……

 

「色々と言いたいことはあるかもしれねぇが、この試合の後半だけでいい!オレに力を貸してくれ!頼む!」

 

 頭を下げたまま、そう言い放った。

 

「頭を上げろよ、十六夜」

「そうだよ、十六夜くん」

 

 風丸とヒロトが十六夜に近付き声を掛ける。

 

「お前にらしくないところもあったかもだが、今は目の前の試合だ」

「勝つための宣言……でしょ?」

「ああ。イナズマジャパンが勝つために、オレ1人じゃどうしても足りない。都合良いって思うのは分かる。だが、オレに力を貸してくれないか?」

「そんなの当たり前ッスよ!」

「そうでヤンス!力を貸すでヤンスよ!」

「何々?さっきのビンタで目覚めたとか?うっしっし」

「うっせぇ……けど、ありがとな。……行くぞ。勝ちに行く」

「「「おう!」」」

「指示出すから頼む。着いてきてくれ」

 

 壁山、栗松、木暮と声を掛けに行く。ただ、他の後半出るメンバーが十六夜のところに行かないのは気がかりだが……まぁいいだろう。

 そして、後半戦が始まった。十六夜の姿を見るといつもの感じに戻ったような、また別の感じな気もするが、とにかく危うさは消えていた。

 試合に目を向けると、ファイアードラゴンからボールを奪った不動は1人で持ち込んでいる。

 

「……不動くん、いい動きだね。敵もどうしたらいいか分かってないみたいだ」

「もしかして、監督は不動をジョーカーにするために、これまで一度も試合に出さなかった……?」

「この韓国戦が重要になってくると判断して、こんな戦術を使ってくるなんて……」

 

 ベンチで感心の声が上がる……が、不動のプレーはチームメイトを信じているようには思えなかった。味方を使って、持ち込んでいる……味方を使うと言っても鬼道や十六夜とは違う。味方をボールを通すだけの壁としか見ていない……そう思えるプレーだった。

 そんなプレーで1人でゴール前まで持ち込むも、相手キーパーにあっさり止められてしまう。

 

「どうしてアイツは……」

「強い想いを持った者は強くなれる。たとえそれが正しい方向でないとしてもな」

「響木監督!?」

 

 響木さんが話に入ってきた。強い想い……私で言うとあの頃のお父様のためを思って必死になっていた時のように……だろうか。

 

「不動が異常なまでに『力』を得ようとするのに理由がある」

 

 不動……確か、エイリア学園の時に近づいてきた影山に接触してたらしいな。影山という男に関してはお父様も懸念材料……厄介な相手として調べていた。そんな男に自ら近付くのは、何かそうまでして得たいものがないと説明が付かない。

 

「不動はもともと、普通のサラリーマンの家庭で育った子どもだった。だがある日、父親が上司のミスの責任を負わされ会社を辞めさせられたのだ……それから、借金取りに追われ、不動の家庭は沈んでいった。父親を否定する母親……それをアイツは歪んだ形で受け入れ、荒れていった。悪い仲間とつるむようになり、力を求めるようになった。それからはお前たちも知っている者が多いだろう。真・帝国学園の影山に取り入ろうとし失敗。アイツはまた独りになった」

 

 それが不動という男……か。両親によって価値観をねじ曲げられてしまった……実の両親を失った私たちと近しい部分があるのか。

 

「……だが、俺はアイツの中にサッカープレイヤーとしての才能を感じた。だから、日本代表の候補に選んだんだ」

「……アイツにそんな過去が」

「ありがとうございます。少しアイツが分かってきました。ですが、それとこれとは別です。あんなプレーをする不動を受け入れるわけにはいきません」

 

 フィールド上では、不動は独りでプレーしていた。独りでボールを奪い、独りで持ち込み、独りでシュートを打つ。他の面々に募っている不信感は、ベンチに居る私たちにも伝わってきている。

 

「このままだと日本は間違いなく負ける。どうする円堂?」

「……分かりません。オレにはこの試合をどう戦ったらいいのか……」

「円堂、焦るな。試合を見ていても答えはでない。今は『チーム』のことを見るんだ」

「チームを見る……?」

 

 しかし、試合は常に動いていて、ベンチがゆっくり考える時間をくれない。

 ボールを取ったキーパーが相手キャプテンにパスを出す。そいつは不動を抜き去るとアフロディへとパスを出した。彼への不信感、1人少ない状況、焦りなどが募った結果、ディフェンスの連携が乱れ……

 

「うぉおおおおお!ここで止めるッス!」

「それじゃ止められな……っ!」

「いや、俺も居る!」

 

 ……ていない。アフロディに壁山がブロックに行き、そのフォローをするように風丸がブロックし、ボールを奪い去った。壁山に注意を向かせた隙に風丸のスピードでかっ攫う……か。

 

「ナイスブロック!前線上がれ!風丸、ヒロトへ出してお前も前へ」

「おう!」

 

 十六夜の指示で止めることに成功する。

 

「ひとまず、吹っ切れたようだな」

「そうみたいですね、監督」

「どういうことですか?」

「十六夜綾人の最大の武器は分析力。それは俺たちの誰よりも長けている力だ。そこにアイツは今まで以上に意識している視野を加えている。分析力と視野を組み合わせ、相手が取る最適な選択……フィールドで起こることの未来を見ているんだ」

「「「み、未来!?」」」

 

 ヒロトから虎丸に、虎丸から豪炎寺に繋げたものの、そこで奪われてしまう……が。

 

「スピニングカット!」

「何!?」

「ナイスだよ、栗松くん!」

 

 ガゼルへと出されたパスを栗松が必殺技をぶつけカットする。そのカットしたボールをヒロトが拾った。

 

「相手の最適を潰し、自身の思う未来へ誘導する……それが十六夜の本当のプレースタイル。あくまでフィジカルやテクニック駆使でのドリブル突破はそれを構築するためのモノに過ぎない」

「で、でも前半は……そんなこと……」

「出来なかった。ううん、正確には今までは足りなかったんだよ……そうだよね?」

「ああ」

 

 ヒロトがパスを出すもカットされる。そこを不動が拾って攻めるも奪われてしまう……が、それを木暮が取り返す。攻撃陣はボロボロで、何度も奪われているが、その全てをシュートを撃たせる前に取り返している。

 

「今までのアイツは、未来を作るために自分が介入することを前提に考えていた」

「つまり……」

「守備なら最後に自分が奪う。もしくは、自分が囮になって味方が奪う。攻撃なら自分が突破する、自分がシュートを撃つことが前提だった。……全ての行動の中に『自分が』というものが入ってしまっていた。そんな無意識の前提があってプレーの幅を狭めてしまっていた。だから、見えていても防げなかったし、他人のゴールを描けなかった」

「今は違うよ。キーパーであることで、自分という存在は介入できない。無意識の中にあった(前提)に気付くことが出来た。だから自分という存在を消し、味方の能力を理解して、味方だけで道筋を描くことで防ぎに行っている」

「で、でも!味方の能力を理解って……」

「そうですよ!前半は指示をミスしてズレて……それをこんな短時間で修正出来るんですか?」

 

 音無、目金から指摘が入る。確かに、彼らの言い分も分かる。だが……

 

「鬼道が言っただろう。十六夜は自分を組み込むことが前提で動かしていた……だから、十六夜が入らない時の指示は何かが欠けていたはずだ」

「あ……そっか。自分を組み込んでいるのに自分が動かないからその分ズレて……」

「ああ。それにアイツの分析力だ……俺たち味方に対する分析精度も高いはず」

「まぁ、普通はおかしいと思うよ。ほとんど知らないはずの敵の取りたい行動を高精度で読めるのに、ここまで何試合も戦っている味方の動きが読めないなんてね」

 

 そりゃそうだろう。対峙するのが初めての敵も居る中で、相手の動きを読むことが出来ている。そこまで高い能力を持っているヤツが、味方の動きを読めないわけがない。

 

(マズいですね……前半と全く違う。十六夜綾人の指示の的確さが上がっている。そして、その指示でこちらが苦しめられている……ですか。つくづく嫌な選手だ。あの個人技抜きでここまで厄介だなんて……見誤っていましたね)

 

 十六夜のプレーが変わったことで、試合状況は前半とは大きく変わっていた。今まで簡単にディフェンスを突破され、容易くシュートを撃たれていたのが嘘のようで、未だ相手はゴールまで辿り着けていない。

 

「面白い……ですが、この程度では防げませんよ!」

「全部見えてる。お前の取る最適を全部潰す。ぶっ潰してやるよ、三流」

「君は司令塔にはなれない。司令塔に頭脳戦で勝てないことを思い知らせてあげましょう?」

「司令塔?ハッ、なる気ねぇよ。うちには優秀な司令塔たちが居るからいらねぇな」

 

 チャンスウと十六夜の指示が飛び交う……天才ゲームメーカー相手に彼の最善手を全て潰している。こちらの天才ゲームメーカーも、その様子には頷いて……ん?不動のヤツが……十六夜の方を見て笑みを浮かべている?

 

「見間違いか……」

 

 すぐに真剣な顔つきに戻った。気のせいだろうか?確かに不動も鬼道と同じく、読むことが出来る側……もしかして十六夜が言ってた優秀な司令塔たちって……

 

「十六夜がキーパー……自身が動かないことで、全ての能力を使って味方を動かし、シュートを撃たせない。シュートを止めるんじゃない。そもそも、シュートを撃たせないことに特化したゴールキーパー」

「その上、必要があれば自分でボールを奪うし、自分でゴールも奪う。多くのキーパーとは根本的に違うスタイルだね」

「それが十六夜さんの……円堂さんとはまた違うキーパーとしての姿……」

 

 きっと、円堂の下位互換ではないだろう。円堂にはない、十六夜には十六夜のキーパーとして起用するだけの価値がある。

 

「ただ、このスタイルも完璧じゃない。どんなに最適に動かしても、味方がミスすることもある。相手の取る選択が想像していないものになる可能性もある。相手が最適を超えてくる可能性もある」

 

 見るとフィールド上では飛鷹が抜かれ、アフロディがシュート体勢に入っていた。

 

「ゴッドブレイク!」

 

 そして、必殺シュートが放たれる。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 十六夜が必殺技で対抗する。

 徐々に押し込まれてしまっている。このままではゴールに入ってしまう……誰もがそう思った時だった。

 

「今は1人で止められないか……!だが、点をやるわけには行かない!力を貸してくれ!」

「もちろんッス!十六夜さん!」

「俺たちが支えるでヤンス!」

 

 十六夜の右肩を壁山が、左肩を栗松が支える。

 

「1人が無理なら3人!止めるぞお前ら!」

「はいッス!」

「行くでヤンス!」

「「「はぁぁぁあああああああああああああっ!」」」

 

 シュートは徐々に勢いを失っていき、ボールは十六夜の手の中におさまった。

 

『防いだぁ!アフロディの強力なシュートを、3人がかりで防ぎましたぁ!』

 

「よし!」

「止めたッス!」

「やったでヤンス!」

 

 1人で止められなかったシュートを3人で止めた……か。

 

「ただ、ゴールまで辿り着かれても、簡単に得点をあげるほど優しくはないだろうがな」

「と、止めましたよ……!」

「凄い!3人とも凄い!」

「完璧ではないアイツのプレーを上の段階へと進めるには、今度はアイツをオレたちが知らないといけない。得体の知れないマイペースな万能ペンギンという外側じゃなく、十六夜綾人っていう本質をな」

「十六夜を……知る」

 

 ……絶対、鬼道の発言を聞いたら十六夜はツッコミをいれそうだな。お前、そんなことを思っていたのか……って。

 ……今までの試合はアイツが暴走するどころか、手を抜いてても勝てるレベルだった。でも、この試合は手を抜いて勝てるほど甘くはない。きっと、生半可な相手じゃないから、十六夜の問題が浮き彫りになったのだろう。そして、浮き彫りになりやすかったのは、キーパーだったから……か。

 

「監督がそう仕向けた……のか」

 

 きっとここで十六夜の問題を出しておかないと、世界大会本戦に出場しても勝ち進むことが出来ない。いや、そもそもコイツの問題は……時間が経てば経つほどもっと悪化していた。次の試合以降だったら手遅れになっていたかもしれないのか。

 この試合中に完璧に解決することは無理かもしれない。ただ、解決の糸口を掴めれば、いつかは十六夜という選手と向き合える……か。




ということで、この試合1人目の覚醒です。
最初のは……ね?誰のセリフかは多分予想通りです。1話時点で既に十六夜くんに元々の世界で彼女が居たことの伏線(らしきもの)は張っていたんで(回収するとは思ってなかったけど)……まぁ察してください。

相手の最適を見るというチート能力手にしてますが、当然弱点はあります。あくまで十六夜くんが周りの動きやその選手の特徴などの情報をもとに分析、導き出したものなので、必殺技や必殺タクティクスでの突破だったり、元々の世界基準で実現不可能な突破方法だったり、最適以外の奇抜な突破だったり、相手の情報が不足or得ていた情報が間違いだったりには弱いです。……そう思うと最初から完全無欠というより、試合中に段々と強くなるヤツですね。


次回、サブタイトル 迎えた限界


十六夜に大きな影響を与えた、育ってきた環境とは何か。そして本人も周りも、1人を除き誰もが気付いていない十六夜の()()とは何か。……何だか問題解決回のはずなのに新たな問題が浮上しましたかね?

ちなみに、今までは必殺技などで前の環境と違いすぎたことに順応出来ていなかったことと、円堂の影響をかなり受けていたため、本来の持っていた考え方が表に出ていなかった。環境に慣れてきて、しばらく離れていた為、円堂の影響が薄れたからこそ、前の世界での十六夜綾人というサッカー選手が表に出始めている状況ですね。

一応補足しておくと、持っている才能も現実離れはしてないです。ただ、才能は本人も気付かない内に、神様によって強化されている所もありますかね。才能に関してのヒントを挙げるなら、FF編でも発揮している……でしょうか。


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VSファイアードラゴン ~迎えた限界~

 オレが壁山、栗松とシュートを止めたその一方で……

 

「不動!何故、パスを出さない!」

「うるせぇな。俺は出したいときに出す」

「……っ!勝手にしろ」

 

 不動の個人プレー……その余りにも自分勝手なプレーに誰もついて行けない……ように見える。そんな中でのこんなピンチが訪れていたんだ。文句も言いたくなるし……何とかしないといけないが……

 

「頑なにパスを出さない理由……か」

 

 ボールを前線に送り、風丸が持っている……が、

 

「ヒロト!」

 

 明らかにフリーな不動ではなく、他のメンバーへのパス。前線はただでさえ人数が足りていないのに誰も不動に出そうとしない。そのせいで人数が減り、選択肢も限定されている。

 

「行きますよ!豪炎寺さん!」

「ああ」

「タイガー……!」

「ストーム!」

 

 そして、虎丸と豪炎寺の連携の必殺技も前半終了間際に打ってたものと同じ……いや、それ以上にタイミングがズレて、ボールは見当違いな方向へと飛んでいく。不動のプレーがチームに悪影響を及ぼしている……と言いたいが、豪炎寺と虎丸――正確には豪炎寺のことはそれ以前からの問題だった。

 

「……ほんと、何してるんだ?」

 

 豪炎寺からいつもの空気を感じない。ずっと、心ここにあらずって感じがする。

 そんな中、キーパーからのゴールキックをカットする不動。

 

「パーフェクトゾーンプレス!」

 

 だが、誰にも頼ろうとしていないと思われているせいか、パーフェクトゾーンプレスを発動されてしまう。あの必殺タクティクスを破るには、1人じゃ不可能……だが、

 

「不動!パスを出せ!」

 

 一向にパスが上がらない。いや、パスを出したとしても、今の状態で繋がるかは分からないが……このままじゃ奪われるのは時間の問題。

 

「それを分かって出さない理由……」

 

 出さない理由……もしかして……

 

「今のオレじゃ見えない何かが見えている?」

 

 ここで最適な選択をしない……敢えて外すことで、普通じゃ考えられない選択肢を生み出そうとしている?今の自分たちではなく、未来の自分たちが痛快な一手を打つ為の布石?目の前の最適を見られるオレが見えない、もっと先を見通して動いているのか……?

 

「ディフェンス!来るぞ!」

 

 思考中、不動がパーフェクトゾーンプレスの前にボールを奪われてしまう。すぐさま、切り替える……が、人数不利な状況、しかもチームの空気の悪さか上手く噛み合っていない。

 

「うぉぉぉおおおおっ!」

「飛鷹!前に出すぎだ!」

「甘いですね。ならく落とし!」

「うわあああぁぁっ!」

 

 飛鷹の無謀な突撃は、ならく落としによってあっさり吹き飛ばされる。

 

「俺が行く!」

「ストップ!裏抜かれる!」

「え!?」

「今です!」

 

 木暮がフォローに走ろうとした時、アフロディが裏へと走り出す。そして、そこにセンターリングが上がってしまう……

 

「次こそ決めるよ?十六夜くん」

「今度も止めてやる」

「1人で止められるかな?」

「……っ!」

 

 ゴッドブレイクの体勢に入る。ペンギン・ザ・ハンドもペンギン・ザ・パンチも通用しない。さっきみたいな味方のフォローをあてにする訳にはいかない。……どうする?アイツのシュートを1人で止めるにはどうすればいい?

 

『綾人!オレを信じて!』

「分かったペラー。お前に賭けるぞ」

 

 俺はペラーの指示通り、両腕を前に突き出して構える。突き出した両手の掌にはペラーが足を乗せ、突撃体勢に。

 

「ゴッドブレイク!」

 

 そしてゴッドブレイクが放たれる。

 

『発射角度調整』

「シュートに向けて……」

『行くよ!綾人!』

「発射!」

 

 両手の掌をボールに向け、ペラーが勢いよく飛び出す。そして……

 

『分身!』

「…………は?」

 

 ペラーが3匹に()()()()。3匹のペラーが直列に並んで突撃している。また、それぞれのペラーがホラ貝を持っており……

 

 ウォォォオオオン、ウォォォオオオン、ウォォォオオオン

 

 ペラーたちは空中でペンギンたちを呼び出した。そして第一陣がシュートにぶつかっている間に……

 

 ウォォォオオオン、ウォォォオオオン

 

 第二陣、第三陣のペンギンの数が倍になっていく。第一陣が耐えている間にもう1回ホラ貝が鳴り響いて数は元の4倍。第一陣が破れた後も第二陣が突撃している間にペラーが呼び出して第三陣のペンギンの数が増え……

 

『圧倒的物量でシュートの威力を削ぎ落とす!後は頼むよ、綾人!』

 

 ……確か、ペンギンの世界に行ったとき聞いたな。ペラーは他のペンギンを呼び出せる特別なペンギンだって。……まさか分身して、他の分身が時間を稼ぎ、シュートの威力を削いでいる間にどんどん数を増やしていく……

 

「へぇ……準備する必要もなかったか」

 

 圧倒的な数によるペンギンの突撃……ダブルロケットペンギンを進化させたような技のお陰で、オレの下に来る頃にはノーマルシュートと変わらないレベルの威力で普通にキャッチできた。一応、ペンギン・ザ・ハンドが放てるようにしていたが無駄に終わった。

 

『止めたぁ!遂にアフロディの必殺シュートを1人で止めてみせたぞ!』

 

 ペンギンの量が多くなると制御が難しくなる。ミサイルペンギンで、そのことは実証済み。でも、この方法ならかなりの数を制御できることが分かる。複雑な動きはいらない、真っ直ぐシュートに向かえばいいのだから。

 

『と言っても、この技は使用者の容量が大きくないと一発で全身に激痛が走って倒れるんだけどね』

「ん?お前、今なんて言った?」

 

 さらっと恐ろしいことを言ったのは気のせいだよな?

 

「ダブルロケットペンギンを超える圧倒的な数による突撃。増えるペンギンの数は計り知れない……そう!その名も――」

「ムゲン・ザ・ペンギンズ」

「また取られたぁ!」

 

 ま、まぁ、狙いを一点に絞れば、今のオレなら結構な数を制御できる。……何かに使えそうだが、考えるのは今度だ。

 

「面白い。本当は円堂君相手に撃ちたかったけど、君にも僕たちの最強のシュートを放つ価値があるようだね」

 

 …………うぇ?今、なんて言いました?聞き間違いじゃなければ、最強のシュートがなんとかって……

 

「ははっ……」

 

 ふざけんなよ?お前らどれだけ武器を隠しているんだよ。というか、こっちはさっきからギリギリ止めることが出来ているって状況なんだけど?え?嘘だろ?嘘だと言ってくれ?

 

「こっちだ!」

「オッケー」

 

 不動からのパス要求があったので、不動へとパスを出す。不動に出すか、他に出すかの2択だが……不動からは何かを狙っている感じがする。今までの好き勝手やっていたプレーは、ある一手の為の布石。オレや鬼道とは全く違う勝ち筋を描いている気がする。だから、その感覚に賭けることにした。

 一方の相手は不動がパスを出さないと思ってか、5人がかりで囲んだ。……確かに、ここまでまともなパスは1つもないけど……すげぇなおい。いや、よく思い返せばオレも5人がかりで来られたわ。

 

「味方に嫌われても敵には人気だな」

「俺の力を認めたということだろ?」

「何だと?」

「これだけの人数をかけるってことは、こっちのバカキーパーと同じくらい警戒してくれてるんだろ?」

 

 誰がバカキーパーだ。

 

「ハッ、テメェよりあのバカペンギンの方が厄介に決まってるだろうが」

 

 誰がバカペンギンだ。

 

「お前らとの遊びの時間は終わりだ」

 

 と、不動は徐にサイドへとボールを出した。

 

「パス!?」

 

 そこには風丸が走って行た……が、風丸は追いつけずにラインの外へ。

 

「ッチ!しっかりしやがれ!」

「今更何を!しかも何処に蹴っているんだ」

 

 ファイアードラゴンのスローイン。受け取った選手がチャンスウへパスを出す。が、それをインターセプトする不動。2人の選手がブロックに来たタイミングで壁山に出す……が、壁山はそのパスに追いつけずにボールはラインの外へ。

 

「いい加減にしろよ!」

「あんなの追いつけないッスよ!」

 

 チームメイトが()()()文句を言う中、オレは震えていた。

 

「おいおいマジかよ……!」

 

 オレの見た最適と一致している。いや、違う。オレは見たんじゃなく、()()()()()いたんだ。不動が後半開始から思い描いていた策略によって、相手の誰もが無警戒の最高を魅せられていたんだ。誰もがアイツはパスを出さない、味方と連携出来ない……それを疑わせないことがアイツの策略。敵を騙すにはまずは味方からとはよく言ったものだ。

 

「鬼道とはまた違った戦術……やっぱアイツの方がオレより司令塔に相応しいだろ……ただ」

 

 スローインで試合再開。不動がカットしパスを出すもまたも味方は取れない。

 何故そんな凄いプレーにアイツらは答えられなかったんだ?

 だって、不動のパスはアイツらなら問題なく取れたはずだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ取れない……!何やってんだ!バカが!」

 

 不動の叫びがベンチまで聞こえてくる。

 

「不動さんの言い方はともかく、どうしたんでしょうね?みんな、いつもならあれくらい取れそうなものなんですが……」

「いや、いつもなら取れているはずだ。不動のパスは取れるように出されている」

「でも、皆さん取れていないですし……」

「前の十六夜くんの時と同様、味方に取ってこいっていう傲慢なパスだからでは?」

「……!いや、そうじゃない。もしかしてあいつは、敵の動きも味方の能力も分かったうえでパスを出しているんじゃないか?」

「それなら、何でパスが繋がらないの……?」

「みんなが不動を信頼出来ていないんだ。そのせいで、いつも通りのプレーが出来ていない」

「ああ。不動のパスは十六夜のあのパスとは違う。味方のプレーを引き出すようなパス……問題があるのはそれを受け取る側だ」

 

 十六夜のあのパスはある意味では出し手である十六夜にも原因があった。だが、今回は不動には原因らしい原因はない。あるとすれば……不動という選手を信用できていない今のチームの空気だろう。

 フィールドでは試合が再開されている。不動のパスは通らない……そして、そんな中でボールは相手チームのキャプテンの手に渡った。

 

「アフロディ、南雲、涼野!ここで突き放します!」

「分かった」

「いいぜ!」

「ああ!」

 

 そして、その宣言と共に4人が攻め上がっていく。十六夜が指示を飛ばすも、チャンスウのゲームメイクがそれを上回り、遂にゴール前。

 

「見せてあげよう十六夜くん。これがファイアードラゴン最強のシュートだよ」

 

 そう言って、アフロディはゴッドブレイクの体勢に入った。しかし、跳んでいたのはアフロディだけではない。

 

「何ですかアレは!?」

「ファイアブリザードか!?」

 

 ほぼ同時にバーンとガゼルも跳び上がっていた。そして、バーンは左足に炎を纏いそのまま蹴りを、ガゼルが左足に氷を纏い回し蹴りの体勢に……そして、中央ではアフロディがゴッドブレイクの体勢に入っていた。

 

『カオスブレイク!』

 

 そして3人が同時に蹴ると、ボールは炎と氷と光を纏ってゴールへと突き進んでいく。カオスブレイク……ゴッドブレイクとファイアブリザードを掛け合わせた技……

 

「十六夜っ!」

 

 今まで見た中でも最強クラスの必殺技が、十六夜の守るゴールを襲う。

 

「ムゲン・ザ・ペンギンズ!」

 

 先ほどゴッドブレイクを止めてみせた必殺技で対抗する……が。

 

「何だよ……これ……っ!?」

 

 抵抗するペンギンも、止めようとする十六夜も、全てをなぎ倒してゴールへと刺さった。……あの必殺技の欠点は、ペンギンの増えるスピードよりシュートの進むスピード、威力が高過ぎたときに突破されるというもの……だが、それでもあの量のペンギンをなぎ倒すなんて……

 

『ゴール!アフロディ、涼野、南雲の連携必殺技、カオスブレイクが日本のゴールをこじ開けた!5-7!韓国、日本を突き放す1点だぁ!』

 

 聞こえてくる実況の声。倒れたままの十六夜。

 

「これが僕たちの最強シュートさ」

「お前じゃ止められないぞ、ムーン」

「さぁ、何処まで出来るかな」

 

 そして点を決めた3人は自陣へと戻っていく。

 

「あのシュート……今の俺じゃ絶対に止められない……なんて威力のシュートだ……!」

「円堂さん……」

 

 ベンチにも伝わってくるほどの衝撃……だが、それだけで終わらなかった。

 

「……あぐっ!」

 

 手を地面につけて立とうとする……が、そのままバランスを崩してしまった。そして、手を押さえようとするも、そちらの手にも痛みが走っている様子。

 両手を壊した……前半終了時点で既に手は真っ赤で限界は近かっただろう。そこに破壊力の塊のようなシュートを喰らったことで、遂に限界を迎えた……

 

「監督!十六夜の手が限界を迎えてます!俺を出してください!」

「……まだ出来ない」

「じゃ、じゃあ俺が……」

「…………」

 

 監督が険しい顔で悩んでいる。キーパーを交代しない……恐らく交代しないんじゃない、出来ないんだ。今、十六夜が抜け、立向居が入ったとすれば……シュートを撃たれ、カオスブレイクが……いや、3人が個人技でゴールをこじ開けてくる可能性がある。これ以上点差が広がる事態になれば……勝ち目はなくなる。

 

「……っ!監督!十六夜くんが……」

 

 すると何とか立ち上がった様子の十六夜がこちらを見て、何かを伝えている。

 

「『まだ行ける』……って、無茶ですよ!」

 

 審判が駆け寄るも、大丈夫って感じで返している様子だ。

 

「…………このまま行く」

「監督!」

 

 5-7と点差が2点差になってしまう。キーパーの負傷、噛み合わない歯車……悪夢はまだ終わらないらしい。




習得必殺技

ムゲン・ザ・ペンギンズ
キーパー技。
両腕を突き出した状態でペンギンを呼び出し腕を台にして飛びボールに突撃する。突撃しながら別のペンギンを呼び無限に近い程のペンキンを呼べる。

どう森の住民ハムカツ様より案をいただきました。ありがとうございます。
本作の設定に沿わせるため、ペラーが分身しており、イメージと少し変わりましたがご容赦ください。

そろそろ水族館の職員あたりから十六夜くんが怒られないかなと心配です。


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VSファイアードラゴン ~反逆児と自由人~

 両手が痛い……ボールに触れた瞬間に襲い来る激痛。その痛みに思わず手を押さえようとする……だが押さえる手にも痛みが走る。

 

「本当に大丈夫か?」

「はは……両手ともやったみたいだな。……正直、もう両手は使えねぇ」

 

 監督や審判には大丈夫って感じで伝えているが……まぁ、虚勢だよな。……今の状態だと、ボールが手に触れた瞬間終わる。そして、これ以上点を取られれば負ける。

 

「だが、負けるのはゴメンだ……」

 

 治療のために下がれば、今の状況だとすぐに失点してしまうだろう。円堂が交代できるならすぐにそうするはず……それがないなら、交代先は立向居。アイツがカオスブレイクを止められるビジョンは、はっきり言って見えない。それどころか、アイツらの個人のシュートすら止められないかもしれない。……下がるに下がれないってところだ。

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。点差は2点……もう1点取られたら、勝ち目はほぼゼロになる……が。

 

「相変わらず……いや、それ以上か」

 

 早く点を取らなければいけないこと。これ以上点を取られるわけにはいかないこと。……そして、オレの手が限界を迎えていること。全員がそれらを分かっている。……だが、それでも、不動と他の8人での連携は上手く噛み合っていない。

 しかし、相手はそんな状況でも攻める手をやめるつもりはない。そりゃそうだ。これは練習試合じゃなくて、世界大会本戦進出をかけた決勝戦。相手がどんな状況だろうと、最後の1秒まで手を緩めてくれるわけがない。たとえ、点差が開いていても慢心するわけがない。

 

「行きますよ!これでトドメです!」

 

 何度目かの攻防戦……チャンスウを中心に、アフロディ、バーン、ガゼルの4人で攻め上がってくる。

 

「通さないッス!真ザ・ウォール!」

「ならく落とし!」

 

 壁山のザ・ウォールをならく落としが正面から粉砕する。

 

「アフロディ、南雲、涼野だ!」

 

 向こうもこっちが限界なのは分かっている。指示を飛ばしていくが……

 

「何故だ……?」

 

 おかしい。しっかり防いでいるはずなのに、シュートが撃たれる道筋(ルート)が見える。でも何でだ?アイツら3人がシュートを撃つ未来(ビジョン)が見えないのに何故……っ!?

 

「クソ……そういうことかよ」

「知っていますか?シュートを撃てるのは3人だけではありませんよ」

 

 そう言うとチャンスウは軽くボールを浮かせる。その足は炎を纏っており、赤いドラゴンが背後に現れた。

 

「ドラゴンキャノン!」

 

 そして放たれたシュートと共にドラゴンが咆哮と共にやって来る。今までの試合も含めあの3人しか打たなかったことで失念していた。他の選手もシュートを撃てる可能性があることを完全に消してしまっていた。

 

「散りなさい。龍の前に」

 

 そんな状況でシュートの前に飛び出したのは飛鷹だった。

 

「はぁあああああっ!」

 

 ……しかし、そのシュートを前に空振り。しかもシュートは右隅の角を狙ったもの……手を伸ばして届いても意味がねぇ……だが、

 

「舐められたもんだな……両手が限界のキーパー(オレ)からなら、お前(テメェ)でも点を取れるとでも思ってんのか?」

 

 ピー

 

 痛む手を我慢して指笛を吹く。現れたのは5匹の赤いペンギン。

 

「やめておきなさい。そんな状態の手で、このシュートは止められない。悪化するだけですよ?」

「テメェが撃つことは最適じゃねぇ。これで得点を決められる(ゴール出来る)なんて甘い妄想(ビジョン)はオレが――」

 

 手ではなく右足に5匹のペンギンが喰らい付いた状態で、シュートに向かって跳び上がる。そして、

 

「――ぶっ潰す」

 

 シュートに向け右足を振り抜く。手が使えないなら足で止めるしかない。そもそもキーパーだから手を使わないといけないなんて誰が決めた?

 

「まさかそんな荒技を……その状態でも侮れないとは……」

 

 ドサッ

 

 上手く受け身が取れず、背中から地面に落ちる。ボールはゴールバーを超えて飛んでいく。本当は前線へと蹴り飛ばしたかったが……

 

「ちょっとミスったな……本当はカウンターで前線に繋げたかったんだけど。……お前はストライカーじゃない。悪いけど、このゴールはストライカーじゃない人間じゃ奪えない」

「くっ……」

 

 とりあえず煽っておこう。軽く煽って、ヤツの中の選択肢が限定されれば御の字。アイツら3人の誰かがフィニッシャーになるって確定出来れば防ぐのは楽になる。

 

「大丈夫ッスか!?」

「サンキュ、悪いが腕持って起こすの手伝ってくれ」

「分かったッス!」

 

 壁山の手を借りて、何とか立ち上がる。流石に両手が使えないのは普通に厳しいな。

 

「くそっ!これ以上カッコ悪いとこは見せられねぇ……!スズメたちのためにも……!」

 

 飛鷹の方を見ると、何やら焦っている感じ……普段よりも更に繊細さを欠いていたが一体……じゃないな。そんなこと気にしている余裕は微塵もねぇ。コーナーキックになってしまった以上ピンチは続いている。しかも混戦状態の中でコースを読むのは至難の業だろう。ふむ……

 

「栗松、木暮、風丸」

「何でヤンスか?」

「てか、その手……大丈夫なの?」

「気にすんな。それより頼みがある」

「分かった。聞こう」

 

 立ち上がり、一言、二言で話を終える。3人は分かってくれたようで頷いて応えてくれた。

 チャンスウのコーナーキック。高く上げられたボールに2人の選手が反応した。

 

「今度こそ!」

 

 飛鷹がヘディングをしようと試みる……が、空振りに終わってしまう。そして、相手選手がヘディングを合わせてシュートする……

 

「通さない!」

 

 それを木暮が弾き返す。だが、弾いた先には別の相手選手が……

 

「喰らえ!」

「決めさせないでヤンス!」

 

 ダイレクトシュートを放つがそれをブロックする栗松。しかし、弾かれたボールはチャンスウのもとへ行く。

 

「全員ゴール前を固めろ!死守するぞ!」

 

 風丸の指示で、イナズマジャパンのメンバーがゴールを守ろうと固まる。だが、その指示も一部には届いていない。

 

「なるほど、そう来ましたか……ならば、決めなさい!」

 

 それを見て、再び上げられたボール。その先にはアフロディ、バーン、ガゼルの3人が……

 

「取らせてもらうよ」

「ここで決める」

「終わりだ!イナズマジャパン!」

『カオスブレ――』

「撃たせねぇよ」

 

 オレはシュートを撃たれる前に跳び上がって、ボールを空高く蹴り飛ばす。

 

『なんと!シュート体勢に入った3人の前に飛び出したのは、GKの十六夜だ!カオスブレイクは不発に終わったぞ!』

「どうして君が……!」

「読んでいたから……壁山!跳んでくれ!」

「はいッス!」

 

 時間がないので一言で応えて壁山を呼ぶ。チャンスウの中で、確実に点を取る方法はアイツら3人の誰かがシュートすること。だったら、コーナーキックで起こるゴール前の混戦を他のヤツらに任せて、3人が打つまで動けるように待機するのが1番だと考えていた。風丸にも頼んでゴール前を固めてくれれば、他の奴らの普通のシュートじゃ決まらないと思ってくれると考えたが……とりあえず、よかった。

 

「借りるわ」

「どうぞッス!」

 

 そして壁山の腹を借りて跳躍、このボールは誰にも取らせるわけにはいかない。

 

「カウンター!虎丸!豪炎寺!走れ!」

「はい!」

 

 地上では虎丸たちがゴールに向かって走る中、ボールを2人に向かってオーバーヘッドキックで蹴る。何かボールから稲妻が走っているが気にしない。

 

「戻りなさい!」

 

 チャンスウの声が響く。あの状態からカウンター攻撃が来るとは思わず、焦りも見えるが判断の早さは流石と言ったところ。

 ……だが、一手遅い。シュート並みのスピードで飛んでいったパスは虎丸が確保し、シュート体勢に入った。

 

「タイガー……!」

「ストーム!」

 

 しかし、ボールは再度ゴールの枠から外れ、何処かへ飛んでいってしまう。

 豪炎寺……お前は……一体どうしたんだ。

 

「……っ!」

 

 チームの状況は最悪だ。みんなが焦っているのもある。いくら防げても決められないなら意味が無い。……全員が同じ方向を向いている感じがしない。

 

「ははっ……ようやくかよ」

 

 ベンチを見ると円堂が立ち上がっていた。ここで、ようやくキャプテンの出番か。

 

「なら見せてやろうか……」

 

 この状況を打開するための一手だ。……アイツの光とは違った、オレのやり方を見せてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久遠監督!……俺!」

「分かったのか円堂。自分のやるべきことが」

 

 監督に声をかけたのはキャプテンの円堂だった。

 

「はい!監督。俺、キャプテンなんですね。あいつらの……」

「……なら行ってこい円堂!あいつらを世界の舞台へ連れて行ってやれ。お前の力でな」

「はい!監督!」

 

 円堂が準備を始める。こちらの様子を一瞥した十六夜が口角を上げていた。早く交代させるためにボールを外に出す……なんて甘いことは考えていない顔だな。

 ボールはチャンスウが持っている。ここまで辛うじて止めてきたが、ギリギリの状況は続いている……どうするつもりだ?

 

「壁山!チャンスウのブロックを!他のヤツはアフロディたちにマークを!」

「はいッス!」

 

 十六夜の指示で壁山がブロックに行く。だが……

 

「行かせないッス!真ザ・ウォール!」

「通させてもらいます!ならく落とし!」

 

 ならく落としがザ・ウォールを砕かんとする。壁を砕き、相手へと帰っていくボール……

 

「サンキュー壁山。悪いけど、これ以上シュートを撃たれたら敵わないんでね」

「……っ!?」

 

 チャンスウがトラップした瞬間、そのボールを奪い取る十六夜。まさか、このタイミングで前に出てブロックするとは思わなかったのだろう。ここで抜かれればゴールはガラ空きだと言うのに。……まぁ、今更なんだけどな。前半はアイツが攻めてたせいでゴールがガラ空きな状況なんてよくあったけどな。

 そして、そのボールを外に出す……ことはしなかった。

 

「不動!」

 

 十六夜から不動へとパスが通る。そのパスには、パスを受けた本人も、フィールド上の他のメンバーにも衝撃が走った。後半が始まってから今まで一度も彼からのパスは通っていない。ベンチでは、何故通らないのかは分かっているが、フィールドの選手には伝わってない。いや、伝わっていたとしても身体が動かないだろう。そんな単純な問題ではないだろうから。

 不動のもとへ2人の選手がブロックに行った。そして、不動からのパス……それはヒロトに出されたが、ヒロトは追いつけない。本来のアイツなら追いつけただろうが……いや、あのパスは普段のアイツでも追いつけない。どういうつもりだ?

 

「ついに闇雲に蹴りましたか」

 

 誰も取れないはずのパス……だが、ヒロトの陰から、彼を追い越し、1人の選手がボールに向かって走っていた。

 

『なんと!ここで不動からのパスが初めて通ったぞ!しかも受け取ったのはキーパーの十六夜!イナズマジャパン!守りを捨てた攻撃だ!』

 

 ラインギリギリのところでボールを確保することに成功した十六夜。

 十六夜の自由さ……というより、ああいうタイプだと知ってはいるが驚いた。この局面で、ゴールに向かって走れる大胆さ……なんというか……流石だな。ミスすれば3点差で状況は詰みに近くなるというのに。

 

「ナイスパス不動。点取りに行くぞ」

「ようやくマシなヤツが来たかよ、十六夜」

 

 不動とのワンツーで相手を突破していく。

 

「これは……!」

「十六夜は信じたんだ。不動なら思い描いたパスをくれるって……そして、これで証明された。パスが通らなかったのは、不動のせいじゃない。俺たちが不動を信頼出来ていなかったからだって」

 

 いや、それだけじゃない……不動のヤツ、十六夜のプレースピードに食らいついてる。あいつのパスを十六夜は一切減速することなく受け取れている。

 

「ははっ」

「……何笑ってんだよ」

「今までにない感覚だ……オレ1人じゃ見えなかったゴールのイメージがどんどん溢れてくる」

「そうかよ。じゃあ、それに刺激を加えてやるよ!」

「いいねいいね、こんな感じでよろしく」

「ここだろ?」

「ナイス」

 

 十六夜と不動の連携……

 

「どういうことだ……?何故、不動には十六夜の本気のプレーが分かる」

「そうだな。何故伝わらなかったアイツのプレーが不動には分かるか……何故だか分かるか?鬼道」

「……不動にも十六夜のパスの貰いたい位置、タイミングが分かっている……と」

「ああ。お前と同じで見えている。……いや、正確には、十六夜との連携に関してはお前を越えていると言っていい」

「……っ!ですが何故……?」

「不動には十六夜の身体能力に関するデータを渡した。その上でネオジャパン戦の後の練習ではベンチに下げ、十六夜のプレーを見させた」

「そういうことですか……」

「え?え?どういうことだ?」

「……不動のゲームメイク力は恐らく俺と並ぶ。だから、十六夜の考えるプレー……アイツの思考を瞬時に理解することが出来る。だが、問題は十六夜の身体能力を計算できなく、アイツのプレースピードに合わせられないんだ」

「十六夜くんのプレーの内容は理解できるけど、プレーに合わせることは別問題ってことだね」

「ああ。そこを不動は、データを頭に入れることで合わせてきた。そうか……だから、十六夜は一緒に練習しなかったのか。俺たちにアイツの手を抜いたプレースピードに慣れさせないために、アイツ自身が本気を出さないことに慣れさせないために……」

 

 なるほど……十六夜を切り離した理由……そういうこともあるのか。

 

「……っ!……マズいですね……人数をかけて止めなさい!」

 

 焦るチャンスウに対し、2人の連携はどんどん噛み合っていく。不動がデータとの誤差を修正し、十六夜も不動の能力を理解してきている証拠だろう。迫り来るディフェンスも2人で軽々突破していった。互いが独りでプレーしていた時より、脅威的で、自由で、それでいて……

 

「2人とも……楽しそう」

「この状況を……楽しんでいる」

 

 最後のブロック……ソイツの裏を取って突破する十六夜。

 

「ハッ!コレで決めなかったらぶっ飛ばすぞ!十六夜!」

「……なっ!」

 

 そのタイミングで、不動がボールを上げた。

 

「ご馳走様」

 

 完全に裏を取られたことでついていけないディフェンダー。ペナルティーエリア手前、フリーでボールを受け取った十六夜は、相手キーパーと1対1になる。

 

「見せてやるよ……これがオレの本気だ」

 

 一瞬にして十六夜は冷気を纏う。そして、冷気を纏った片足を振り上げて振り下ろす。すると十六夜の背後には巨大な氷山が現れた。そして、ボールを強烈な縦回転を加えながら、蹴り上げる。ある程度の高さまで打ち上げられたボールに向かって、跳びあがりオーバーヘッドキックの体勢になりながら、左足で縦回転させたボールの下側を蹴り、ボールに左回転を加える。激しく回転するボールは、辺りの冷気と小さな氷塊を巻き込み、竜巻を発生さた。そして、流れるようにボールの上側を素早く右足の踵を通過させる。すると、その竜巻を包むように逆回転する気流を発生する。最後にその状態のボールを両足の裏で、押し出すようにして地面へと蹴り出した。

 

「オーバーサイクロンP(ペンギン)

 

 ボールは一度氷の床を砕き、地面を砕いて地中へ沈み込む。そして、地面から勢いよく出て来ると同時に、巨大なペンギン……ボスと、他のペンギンたちが現れ、ボールと共にゴールへと飛んでいく。

 ボールはその回転で巨大な嵐を巻き起こしていた。圧倒的とも言える風の暴力が、フィールドを砕き、それらを巻き上げながら突き進んでいく。

 

「大爆発張り手!」

 

 相手キーパーが張り手を繰り出す……が、一回目の張り手が弾き返され、そのままキーパーを吹き飛ばし、ゴールへと刺さった。

 

『ご、ゴール!十六夜綾人の強烈な新必殺技がゴールへと突き刺さったぁ!イナズマジャパン!1点返しました!』

 

 湧き上がる観客。拳を天高く突き上げる十六夜。そして手を不動に向ける。不動はふんっと鼻を鳴らしたが、どこか満足げだった。

 

「ナイスアシスト、不動」

「フンっ、俺がフォローに回ったんだ。あれくらい当然だろ」

「……お前、まさかツンデレか?もっと素直に喜ぼうぜ?」

「テメェ……二度とパス出さねぇぞ……!」

 

 ……なんというか、いつの間に仲良くなったんだ?あの2人。

 

「凄い……あれが十六夜の新必殺技……!」

「なんだよアイツ!あんな状況で1点を返しやがった!」

「威力はムーンフォースより遙か上……カオスブレイクと同等……いや、それ以上……!なんてシュートを隠し持っているんですか!というか勝手に名前を付けないでください!」

「「「…………」」」

 

 ベンチにも衝撃が走る。……アレが今の十六夜綾人の出せる最強のシュート……全てを破壊する一撃。……アイツの世界にも通用するような一撃はスタジアムを沸かせた。

 

「選手交代!栗松鉄平に代わり円堂守!」

 

 そして、そんなフィールドに円堂がキーパーとして入っていった。




ゲーム風に言うなら、この話の最初の十六夜くんはキャッチ、パンチング不可、キーパー技使用不可状態です。つまり、ゲームならシュートブロックがない限り、ノーマルシュートでも入ります。
そしてすまない栗松……誰を交代させるか悩んだ結果なんだ……。ちなみに、十六夜くんがGK以外のポジションで出ていたら、栗松は試合に出られなかったようです。……許せ。


習得必殺技

皇帝ペンギン1号
シュート技
手が使えなくなった十六夜がゴールを守るためにその場の勢いで使った技。禁断の必殺技とされている(本人は知らない)が、当然使用回数に制限はない。ちなみに名前は後で鬼道から教えてもらった。

イナズマ落とし
シュート技・二人技
パートナー 壁山
なんちゃってイナズマ落とし。よく思い返せば、アレってイナズマ落としじゃね?と味方が気付いたのは試合終了後。本人はそれどころではないので、一切意識していない。ちなみにパスするためだから、本気では撃っていない。本気だったら虎丸が取れていない。

オーバーサイクロンP(ペンギン)
シュート技
前々から練習していた必殺技が遂に完成。オリオンで出てきたオーバーサイクロンの十六夜verである。
現段階で十六夜くんの使う必殺技では飛び抜けて威力が高い。
まあ、本当はムーンフォースで十分だから撃つ必要は無いんだが、カオスブレイクを見せた彼らへの対抗心+不動のお陰で乗りに乗っていたからで撃ったとか。


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VSファイアードラゴン ~噛み合う歯車~

気になって十六夜くんの習得技の数を数えたんですよね……そしたら、シュート技が半分以上占めていたんです。お前……本当にDFか……?
ちなみにキャラ紹介に習得必殺技の数等も記載したので興味があればどうぞ。気が乗った時にアレは情報が増えているので……


 得点と同時に、選手交代の宣言。オレも着替えるためにベンチに向かう。ベンチを見ると円堂だけじゃなく、鬼道も準備を終えて入って来る。

 

「ナイスゴール、十六夜!」

「ありがと。でも、まだ負けてる……気を抜くなよ。キャプテン」

「ああ!一緒に勝とうぜ!」

「……そうだな。……後、悪いけどキャプテンマーク取ってくれない?」

「お、おう……」

 

 取ろうとしたが力が入らなかった。というか今更ながら痛みが増してきた……多分アレだ。一回試合の外に出るってことで、集中が少し切れたんだろうな。集中が切れて痛みが主張してきたんだろうな。

 

「まだ戦えるな?十六夜」

「手が限界なだけ、最後までやるさ。お前は?」

「無論だ。先に行ってるぞ」

 

 円堂、鬼道と軽く話し終えるとベンチに行き、グローブを脱ぐ……

 

「うわぁ……手が更に真っ赤……いや、赤を通り越してもはや青いかも。そりゃ痛いわけだ」

「両手を貸せ、十六夜。湿布と包帯と手袋を付ける」

「……痛くするなよ?絶対痛くするなよ?」

「知るか、手遅れだろ」

 

 ひでぇ。およそ彼女が、怪我をしている彼氏にかけるとは思えない言葉だ。でもまぁ、こんなぶっきらぼうな言い方はしているが、手つきやいつもより優しく、どことなく心配している空気を感じる……あれ?八神ってやっぱりツンデレか?

 

「……デレた?」

「黙れ」

「痛っ!?」

 

 軽くはたかれたがバカみたいに痛い。あれ?折れてないよな?折れてはいないよな?

 ベンチで処置を受けている中、フィールドに入っていった円堂が皆に声をかけている。

 

「みんな勝ちたくないのか!?」

「勝ちたいさ!でも……」

「だったらよく見るんだ!不動の言葉じゃなくアイツのプレーを!あいつは自分だけじゃない。お前たちを活かしたプレ-をしようとしている。さっきの十六夜の得点を見ただろ?」

「いや、アイツのあんなパスを取れるヤツなんて十六夜くらいだろ」

「そうッスよ。あんなパス嫌がらせッス」

「ボールは嘘をつかない。パスを受けてみれば全て分かる!」

 

 円堂の熱い言葉……理屈ではなく、感情に訴えかける言葉。円堂らしい……と言ったところか。少なくともオレじゃ無理だな。

 ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。まだ治療中……というか処置が終わってないから、ベンチに下がって見ているが。あとキーパーのユニフォームから着替えないといけないし。

 相手チームからボールを奪う不動。だが、パスがオレ以外には通らないことを思ってか、不動1人に4人の選手が奪おうとする。

 

「流石、鬼道だな」

 

 鬼道がパスをもらおうとラインギリギリを走っている。そして、そこにパスを出す不動……パスが繋がった。

 

「もっと強くて速いパスで構わない!」

 

 そして、不動へとパスを出し、鬼道は相手の裏のスペースへ走って行く。

 

「なら、こいつでどうだ!」

 

 不動のパスが再び繋がった。そして、鬼道がダイレクトシュートを放つもキーパーに弾かれてボールはラインの外へ。

 

(今の一連のプレ-のお陰で、チームの不動への不信感がだいぶ払拭されたように思える。不動と一番因縁があり、確執があったであろう鬼道との連携が取れていたのだから)

 

「まぁ、お前と不動のプレーも凄かったけどな」

「そうか?……確かにオレもやってて楽しかったけどな。1人じゃ見えないもの、出来ないものはあった」

「まぁ、少なくとも1人で突破していた前半より、連携してたさっきの方が相手にとっては止められないだろうな」

「勝つために、自分の武器をどう使うか……もう少し味方をどう使うかも見直すか」

「アホか。今までが独りでやり過ぎなんだ、お前は」

 

 イナズマジャパンのスローイン、ボールは鬼道から不動へ。そして、壁山の方へとパスを出した。

 

「追いついたッス!」

 

 不動のパスを受け取った壁山。そのまま上がっていくことに。そして、壁山は不動へとパスを出す。今度は風丸に……

 

「パスが繋がっています!」

「皆、不動くんを信じ始めた……」

 

 その変化は大きく、ファイアードラゴンにも脅威に映ったようだ。

 

「不動がチームの歯車として機能し始めている。これ以上好き勝手なプレーをさせるのは危険ですね!」

 

 チャンスウが不動のマークにつく。先ほどまでとは違い、パスも出させないよう不動に貼りついている……

 

「不動!こっちだ!」

 

 そんな状況を見て、鬼道がフォローに向かった。

 

「……!チッ、仕切ってんじゃねぇ」

 

 そう言うと鬼道と不動が互い違いにボールを蹴る。スピンさせたボールからは紫色のオーラが出ており、その回転の余波でチャンスウが吹き飛んだ。

 

「フィールド上の相手選手の動きを殺してしまう技。名付けて――」

「キラーフィールズ」

「――って十六夜くん!?何で君まで先に言っちゃうんですかぁ!?」

 

 何となく思いついたから言ってみた。決して目金の出番を奪いたかったわけではない。

 

「でも凄い!あの2人が協力するなんて……」

「しかも、今のはお互いの動きが分かっていないと出来なかった技」

「分かってきたようだな……不動という選手との付き合い方が」

 

 八神からの処置も終わり、出られるように準備する。

 ボールは不動がゴール前へと高く蹴り上げていた。そのボールを取ろうと、相手チームの選手が2人、対してこちらからは、壁山と風丸が跳び上がっていた。

 風丸は空中で反転すると、壁山の方へと落ちていく。それを見た壁山は足の裏を空中に向けた。そこに着地する風丸。壁山が勢いよく蹴り出し、風丸は風を足に纏わせながらオーバーヘッドキックを決めた。

 

「大爆発張り手!」

 

 相手キーパーの必殺技、張り手を何回も繰り出すも徐々に押し込まれていき……

 

『ゴール!風丸と壁山の連携シュート炸裂!イナズマジャパン!遂に同点!』

 

「たつまき落とし!……ふっ、今回は僕の勝ちですね」

「お前は誰と戦っているんだ?」

 

 早かった。目金がゴールの感動よりも早く名前を付けていた。そのせいでゴールの感動が薄れた。というか壁山が高所恐怖症じゃなくなっている気がするな……懐かしいな。FFの最初の頃はあんなに怖がっていたのに……もう何回くらい空高く跳んだことやら。

 

「って今のは綱海さんと練習していた技じゃ?」

「関係ねぇって!よく決めてくれたぜ!」

 

 これで同点7-7、次の1点を決めた方が勝利に大きく近付くだろう。

 

「十六夜。目は醒めたようだな」

「おかげさまで。味方を頼らない……それが行き過ぎて、勝手に足手纏いだと切り捨ててしまっていたんですね」

「答えはプレーで見させてもらった。確かに、チームのメンバーとお前との間にはかなりの差がある。その上で、味方が本気のプレーをしなかったのなら、突っ走るのも無理はない」

「……でも、そこで諦めたんですね。取るべき選択を誤った。副キャプテンとして……いいえ、ゲームキャプテンを任されていたオレが取るべき選択は一人で戦うことじゃなかった」

「お前の突破力は、イナズマジャパンにとっても武器の1つだ。だが、それだけじゃ通用しないのが世界トップレベル……次は上手く使えるな?」

「はい。……どんなに上手くとも、絶対にパスしないって分かっているヤツを止めるほど楽なものはない。そんなことはよく知っています」

「行ってこい。これ以上の指示は必要か?」

「いいえ、残り時間でオレのやるべきことは分かっているんで。……では、行ってきます」

 

 そして、フィールドに戻っていく。これでイナズマジャパンは11人全員がフィールドに揃った。

 

『十六夜もフィールドに戻り、ここでイナズマジャパン11人全員揃いました!7-7の同点!勝つのはイナズマジャパンか!それともファイアードラゴンか!』

 

 何人の交代を経て現在のポジションはこうなっている。

 

 FW 豪炎寺 虎丸

 

 MF ヒロト 鬼道 不動 風丸

 

 DF 飛鷹 十六夜 壁山 木暮

 

 GK 円堂

 

 ベンチメンバーのほとんどが怪我人……それどころかフィールドに立っているメンバーも怪我をしたり、何処かを痛めたりしているが……まぁ、今取れる選択肢の中ではベストだろう。

 ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。ボールはチャンスウが持って攻め上がる。

 

「不動!」

「分かってる!」

 

 チャンスウのもとには鬼道と不動の2人がマークについた。

 

「アフロディ、南雲、涼野!上がりなさい!」

 

 すかさずボールを前に走るアフロディのもとへ送る。

 

「ヒロトは涼野、木暮は南雲をマーク、壁山は後ろでフォロー」

「うん」

「分かった!」

「はいッス!」

 

 3人に指示を出し、オレ自身は……

 

「ようやく本気を出してくれたね」

「最初から本気だっての」

 

 ボールを持っているアフロディをブロックしに行く。

 

「君との勝負ならアレを使いたいけど……君の手が限界だから控えた方がいいかい?」

「いいや、1回くらいなら大丈夫だ」

「そうかい?じゃあ、遠慮無く」

 

 アフロディは足を止め、代わりに手を挙げる。オレもそれに習い、足を止めて手を挙げた。そして……

 

「ヘブンズ――」「イビルズ――」

「「タイム!」」

 

 鳴り響く指パッチンの音と共に、周りの全てが静止する。この世界で動くことができるのは、技の発動者であるオレとアフロディのみ。

 

「懐かしいね……FFの決勝戦。あの時の借りを返させてもらうよ」

 

 そう言ってドリブルで突っ込んでくる。

 

「こっちも負けるつもりはねぇよ」

「それでこそ倒しがいがあるってものだよ」

 

 フェイントで突破しようしてくるが……

 

「抜かせねぇよ」

「君も成長してるってことだね」

「お前こそ、前より動きにキレがある。少なくともダークエンペラーズと戦ったあの時よりも、上手くなっているな」

「お褒めに預かり光栄だね。ただ、そんな僕を1対1で止めるなんて君も流石と言ったところ。……だったら、これならどう?」

 

 そう言って左右に揺さぶりをかけようとしてくる……この動きなら……

 

「こっちだろ?」

「そうだね……でも、僕の勝ちだよ」

 

 アフロディが抜こうとした方向を見極め阻止することに成功した……ように思えた。

 

「なっ……!」

 

 アフロディの足下にはボールがなくなっていた。そして、気付けば周りの時が動き始めている。

 

「君の弱点は必殺技の最中にイレギュラーが混ざること……ヘブンズタイムで止まっている選手にパスを出すのは想定外のようだったね」

「……クソッ。だがパスを出された側からしても、それはイレギュラーだろ。オレとお前が必殺技を使った次の瞬間には自分の方にボールが飛んできているなんて……」

「そうだね。でも……」

 

 ボールはバーンのもとへ飛んでいく。木暮はいきなりやって来たボールに対し、驚いた表情を向ける中、バーンは想定内と言わんばかりに笑っていた。まさか……

 

「伝えておけばいいだけ……だよね?」

「アフロディ!」

 

 ダイレクトで返すバーン。そのボールはアフロディの足下ではなく、遙か上空へと返される。まさか……とアフロディの方を振り返ると、既に黄金の羽を生やして飛び立った後だった。

 

「円堂!」

「来い!アフロディ!」

「行くよ、円堂君……ゴッドブレイク!」

 

 今から跳んでも間に合わない……判断と同時に円堂に声をかけ、自陣ゴールへと走って行く。やられた……オレからすれば想定外でも、アイツらにとっては想定内。向こうはオレがイナズマジャパンのメンバーであることを知っていて、アフロディがオレと必殺技で作った誰にも邪魔されないであろう空間で戦うことが最初から想定されていた。ヘブンズタイム中でのパス……ボールを蹴った瞬間に時が動き始めたことから、ヘブンズタイム中でシュートを撃とうとしても同じ事が起こる……制約ってとこか?

 

「正義の鉄拳G5!」

 

 正義の鉄拳とゴッドブレイクがぶつかり合う。

 

「くっ……!」

 

 徐々に拳は押し込まれて行くも、必死に耐える円堂。

 

 パリンッ!

 

 拳の弾ける音がする。正義の鉄拳が破られてしまったのだろう。……だが、

 

「流石の粘りだ、キャプテン。お陰で間に合った」

「十六夜!」

 

 跳び上がると回し蹴りの要領でボールを弾く。弾いた先には飛鷹が居て、慌ててボールを確保する。

 

「クリアだ!来てるぞ!」

 

 そこにガゼルが素早くボールを奪おうとプレスをかける。初心者だから……というか、急に来たボールと相手の存在に慌ててしまったようで、あたふたしている。そして、そんな彼からボールを奪うガゼル。

 

「これで決める!」

 

 そしてシュートを放った。シュートを早く打つ為に必殺技ではなくノーマルシュートを採用したのだろう。こちらは、円堂が正義の鉄拳を打った直後で反応が遅れてしまい、オレ自身も先程のクリアでゴールの中に居て体勢を崩しているため、フォローが間に合わない。このままでは失点する……

 

「通さないッス!ザ・マウンテン!」

 

 そう思っていた時、シュートコースに割って入った陰が1つ。壁山だ。今までのような壁ではなく、彼の背後には山がいくつもそびえ立つ。その山によってシュートは弾かれ、ラインの外へと出て行った。

 

「ナイス壁山!」

「すげぇじゃねぇか!」

「おぉー!俺、やったッス!」

 

 ここに来て壁山が新必殺技を身につけたとか……すげぇなおい。今までのザ・ウォールよりも頑丈で隙が無い技……進化させやがった。

 

「……ただ、やっぱり止めるの苦労しそうだな……」

 

 キーパー視点とまた少し違う感覚……対峙して分かるが、やっぱりこいつらは油断ならねぇな。




今更だが、十六夜くんって絶対ラスボスに相応しい性能しているんだよな……
今まで使ってきた全ての必殺技・戦術が一切通用しない。出し抜くには、対峙する中で新たな必殺技を身に着けるか、今までの必殺技を進化させるしかないって……間違いなく主人公の前に立ちはだかる敵ポジションなんだよ……おまけにチームプレーが苦手っていうね。
ちなみに味方に居ると敵が突破するためにどんどん進化していくという……お前、難易度上げる天才か?ちなみにこの男のせいで、既にオルフェウスとリトルギガントは強化確定なのは察しがついているでしょう。他の世界大会出場チームも差はあれど強化されている可能性が……?


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VSファイアードラゴン ~鷹の覚醒、炎の熱さ~

 ファイアードラゴンのスローインで試合再開。ボールは……

 

「やっぱりここでお前が持つよな……アフロディ」

「流石の読みだね。キーパーよりディフェンダーの方がずっと厄介だ」

 

 再びアフロディと向き合うことに。さっきの宣言の通りか、ヘブンズタイムを使う素振りは見られない。

 

「どうする?ここは通させねぇけど?」

「そうだね……通してもらえなさそうだ」

「……っ!南雲だ!南雲につけ!」

 

 アフロディの後ろから挟み込もうとした鬼道が叫ぶ。その声を聞いて、アフロディは……

 

「流石だね……鬼道くん。でも、遅い!」

 

 逆サイドへ大きくボールを蹴った。そこにはディフェンダーの裏をかいて走っていたバーンの姿が……

 

「行くぜ円堂!ゴールは俺が決める!」

 

 ボールを受け取るとすかさず空高く打ち上げる。そして、シュートの体勢に入った。

 

「クリムゾン――」

「やらせない!」

 

 そこに割って入ったのは風丸だった。鬼道の指示を受け、持ち前の俊足で追いつき、シュート体勢に入っていたバーンからボールを奪うことに成功する。

 

「飛鷹!」

 

 空中でボールを確保した風丸は、近くに居た飛鷹へとパスを出す。風丸の身体の向きは丁度自陣のゴールを向いている。あの体勢では前線へとクリアすることが出来ないと判断し、フリーの飛鷹に渡そうとしたのだろう。

 ……だが、

 

「……飛鷹?」

 

 来たボールを蹴ろうとして、空振ってしまう飛鷹。ボールはそのまま転がり、ファイアードラゴンのコーナーキックとなってしまう。

 

「くっそぉぉぉ!」

 

 頭を抱え、悔しさを表す飛鷹。……なんというか、今日の飛鷹のプレーはミスが目立つというか……負の連鎖が起きている気がする。ミスしてはいけないのにミスをしてしまう……ミスが怖くて、ミスに対し敏感になり、いつもよりも力が入ってしまい結果ミスをする。

 

「コーナーキックだ。ここ凌ぐぞ」

「「「おう!」」」

「アフロディ、南雲、涼野をマーク。チャンスウにはオレがつく」

「分かった。任せたぞ」

 

 素早く指示を出していく。ここで1点決められるわけにはいかない……何としても守らなくては。

 

「うまくいかねぇ……!このままじゃただの足手まといじゃねぇか……!」

「何を怖がっているんだ?飛鷹」

「そんなことは……っ!」

 

 誰が誰のマークをするか確認をしている中、円堂が飛鷹に声をかける。

 

「失敗したって格好悪くなんかない。本当に格好悪いのは、失敗を恐れて自分のプレーをしていない今のお前だ!」

「キャプテン……」

「思い切りプレーしてみろ!失敗したっていいじゃないか!今のお前を全部ぶつけてみろ!」

 

 円堂の言葉に対し、何処か吹っ切れた様子の飛鷹。

 

「キャプテン……そうだ、失敗がなんだ!俺は飛鷹征矢だ!」

 

 流石というか、アイツの言葉には人を動かす力でもあるのかね。とりあえず、飛鷹に関しては心配ないだろ。仮にまたミスしてもフォローすればいいんだから。

 コーナーキック……ボールを蹴るヤツが助走し始めたタイミングで、動き出したヤツがいた。

 

「やっぱ、受け取るのはお前だよな?チャンスウ」

「よく読み切りましたと言っておきましょう」

 

 ショートコーナー……軽いパスぐらいの感覚で蹴られたボールを取りに行くチャンスウとオレ。

 

「ゴールの方は向かせねぇぞ」

 

 チャンスウの1歩分後ろを走りゴール側を向かせないようにする。フィニッシャーはあの3人だが、いずれもゴール前に居る。コイツにボールをあげさせないよう、ここで追い込めば勝ちだ。

 

「そうでしょうね。でも、向く必要はありませんよ」

「クソ……想定よりお前らのところのフォローが早いな……!」

 

 チャンスウはダイレクトでボールを横に弾いた。その先には走り込んでいるサイドバックの陰が……

 

「釣り出された……ってことか?」

「あなたがディフェンス陣の中では厄介ですので。私に釣られればよし。釣られなければ、私が別の策を立てるまでです」

「どのみち、お前を好きにさせない選択肢しかなかったわけか」

「そういう事です。あなたが後手に回らざるを得ない以上、この駆け引きは私が勝つのは決まっていました」

 

 そして、サイドバックからゴール前へと大きくボールがあげられた。

 

「決めなさい!」

 

 跳び上がる3人……最初から自分たちのもとへボールが来ると分かっていたようでシュート体勢に入っている。

 

「……でも、オレがお前との駆け引きに負けても、イナズマジャパンは負けねぇよ」

「ほう……彼に何か出来るとでも」

「見てなって」

 

 そんな中、1人の陰が空中に居る3人へと突っ込んでいった。飛鷹である。

 

「うぉぉおおおお!」

 

 そして、3人の前で足を振り抜く。すると、蹴った軌跡には紫の謎の空間が生まれ、その空間にボールが引き寄せられる。

 

「真空魔!」

 

 ボールは飛鷹の足下におさまった。そして、大きく前線へとボールをクリアする。

 

「……なんと、こんな事が……!」

「おぉ、すげぇなアイツ」

 

 今日見た中で1番のプレーを見せる飛鷹。

 

「格好良かったぜ」

 

 円堂の声かけに何処か照れくさそうに答える……もうアイツの心配は必要ないか。

 

「皆、上がれ!速攻だ!」

 

 円堂の声に応え前線へと走り出す。……残る心配は……豪炎寺だけ……か。

 

「豪炎寺さん!今度こそ行きますよ!」

「……ああ!」

 

 ボールは虎丸が持っている。

 

「タイガー……!」

 

 本日何度目かのタイガードライブが空へと舞って行く。そして、そこに合わせるのは当然、豪炎寺である。

 

「ストーム!」

 

 爆熱ストームが放たれボールはゴールへ……だが、最後はあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

 相手のゴールキックで試合再開。

 

「虎丸!豪炎寺!」

 

 相手選手が受け取ったボールを鬼道が素早く奪って、再び虎丸のもとへとボールが行く。

 

「タイガー……!」

「ストーム!」

 

 放たれる必殺技。しかし、またしてもボールはゴールを捕らえることなく何処かへと飛んでいってしまう。

 

「何やってんだ……アイツは……」

 

 再び相手のゴールキックで試合再開。ボールはチャンスウが持った。

 

「ここで決めます!全員、上がりなさい!」

『なんと!後半も残り時間があと少しとなっているこの状況で、ファイアードラゴン全員攻撃を仕掛けるようだ!』

 

 チャンスウの指示でディフェンダーまでもが上がってくる。こちらに取らせないようにするためか、ディフェンダーも巻き込んでダイレクトでパスを繋いで攻め上がってくる。

 

「来るぞディフェンス陣!構えろ!」

 

 ボールはチャンスウが持った。

 

「このタイミングでドリブルに切り替えただと?今のはアフロディとのワンツーが最適だろうが……」

「そうですね。でも、最適な行動を取るだけが策ではありません。あなただけは確実に突破しておかないといけないのでね……」

「何だよそれ……まるでオレに確実に勝てると言ってるみたいじゃねぇか」

 

 オレの目の前でボールを止めるチャンスウ。コイツとの1対1は見えていなかったが動き的に……

 

「ならく落とし!」

 

 チャンスウの必殺技が発動する。だが……

 

「その必殺技は見切っている」

 

 それは読めていた。フェイントでの突破ではなく必殺技を使うと。

 ならく落としは激しい回転をするボールを相手選手にぶつけ、相手を倒して進む技。相手にぶつければ、自分のもとへと帰ってくるようにボールの回転は計算されている。だからこそ、後ろに下がることでボールを避け、通過させた後にチャンスウとボールの間に入れば、落ち着いてボールを取る事ができる。

 

「えぇ、そう来ると思いましたよ」

「嘘だろおい……!?」

 

 本来、チャンスウは帰ってくるボールを待つためにその場で静止するはず……だが、アイツはあろうことかこちらに突っ込んできた。

 

「あなたが避けることは想定内……そのために使ったんですから」

「畜生……やってくれるじゃねぇか……!」

「行きなさい!」

 

 空中にあったボールをアフロディへと蹴ってパスを出す。クソ、チャンスウはこちらが必殺技を読んでいると確信して、対策してくる行動を更に対策してって……改めて思うがなんて厄介な選手だよおい……!

 受け取ったアフロディ……その後ろにはバーンとガゼルが付いてきていて……

 

「通さないッス!ザ・マウンテン!」

 

 壁山が必殺技で止めようとするも、生み出された山より高くボールを蹴り上げるアフロディ。そして……

 

『カオスブレイク!』

 

 ファイアードラゴン最強のシュートが円堂の守るゴールへと飛んでいった。

 

「円堂!」

 

 円堂は拳を握り締めたまま動かなかった。迫り来るボールに対し、正義の鉄拳を放とうとはしなかった。

 

「諦めましたか……」

「……いいや」

 

 オレは素早く敵の位置を確認する。今からゴールへ向かうことは愚策。だったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスブレイクがゴールに迫る中、十六夜はチャンスウから離れ、相手ゴールの方を向いていた。アイツは何を……

 

「一緒に行くんだ!」

 

 そう思ったとき、円堂の声がフィールドに居る私たちに聞こえてくる。その右手には黄金のオーラが纏っていた。

 

「だぁあああああ!」

 

 勢いよく跳び上がる円堂。その後ろには円堂と同じ動きをする黄金の魔神が現れる。

 そして、右手を振り上げ、ボールが来たタイミングで勢いよく振り下ろす。すると、ボールはクレーターの中心で埋まっていた。

 

「今のは……?」

 

 ボールは円堂が確保した。しかし、見たことのない光景に戸惑いを隠しきれない。相手もカオスブレイクを止められるとは思っても居なかったようで、戸惑っているのが目に見えて分かる。

 

「正義の鉄拳を遙かに超える新技……いかりのてっつい!」

 

 いかりのてっつい……そう名付けられた技によってゴールを守った円堂。

 

「円堂!」

「頼んだぜ!十六夜!」

 

 ボールはセンターライン付近に居た十六夜に届けられる。……まさか、アイツ、円堂が止めると信じて走り出していたのか……?

 

「……っ!彼を止めなさい!」

 

 チャンスウの指示が飛ぶ。それもそうだ。アイツはアイツで、1人でファイアードラゴンのゴールをこじ開ける強力なシュートを持っている。

 

「地走り火炎!」

 

 そんなアイツに必殺技が放たれる。炎を纏った相手の蹴り……

 

「よっと」

 

 それをボールを軽く浮かせ、自身も跳び上がることで回避する。

 

「十六夜さん!」

 

 アイツの前に出た虎丸からのボール要求の声。豪炎寺も虎丸の近くで準備している……

 

「…………」

 

 しかし、十六夜は虎丸に出すことなくボールを上空に打ち上げた。オーバーヘッドペンギンを打つ気か?……そう思ったが、アイツは右足に炎をまとわせ、回転しながらボールに向かって跳んでいく。

 

「あの動きは!?」

「まさか……!」

 

 フィールドに居たものも、ベンチに居たものも十六夜の技のモーションを見て驚愕する。なぜならあの技は――

 

「ファイアトルネード!」

 

 ――豪炎寺修也の代名詞である必殺技、ファイアトルネードだったからだ。

 炎を纏ったシュートはゴールへと向かうことなく、ある1人の選手……豪炎寺へと向かっていった。そして……

 

「豪炎寺!?」

 

 十六夜のシュートは豪炎寺を直撃した。




次回、決着。

習得技紹介。

ファイアトルネード
シュート技
単独の必殺シュートでペンギンが関わらないものでは初である。豪炎寺と違い、右足でシュートを打つ模様。


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VSファイアードラゴン ~世界への切符~

この世界、SNSが現代くらい発達していたらとんでもないことになりそう……
多分ネット上で議論がやばいことになってると思う。


 ボールは弾かれ、外に出た。

 

「わわっ!?豪炎寺さんが吹き飛ばされたッス!」

「い、十六夜!?」

「何しているんですか!?」

 

 ゆっくりと降り立つ十六夜。その目は吹き飛ばされた豪炎寺を見ていた。

 

「オレが言えた立場でもねぇってのは重々承知だ。でもさぁ……そろそろ起きろよ。オレも寝過ごしたけど、これ以上寝てたら試合が終わるぞ?お前はこのイナズマジャパンのエースストライカーなんだろ?」

「…………」

「そうじゃねぇとオレがその座を奪い取る。オレが次の1点取って、イナズマジャパンを勝利させる」

 

 そう言うと、十六夜は豪炎寺から背を向けて歩き出す。もうそれ以上言うつもりはないって事だろう。

 立ち上がった豪炎寺。そこに別の声が届く。

 

「そうだぜ豪炎寺!」

 

 円堂だ。ゴール前から豪炎寺の方へ歩いてきた。

 

「お前の親父さんにも見せてやろうぜ、サッカーの素晴らしさを!」

「十六夜……円堂……」

 

 すると目を閉じて何かを考える豪炎寺。少しして目を開けると、何処か吹っ切れた様子を見せる。その様子を察してか、全員がポジションにつく。

 

「さっきの……まるであの時と同じ光景だったね」

「そうですね……」

「まぁ、立場が逆転してましたけど」

「あの時……?」

「うん。前にね、十六夜くんが今の豪炎寺くんみたいに自分のプレーが出来ていないなぁってことがあったの。もちろん、理由は違ったと思うけどね」

「その時なんですよ!豪炎寺先輩が十六夜先輩にファイアトルネードを当てたんです!」

「豪炎寺くんの説教を受けて、十六夜くんが少し変わったんです」

「そうなんだ……でも、確かにさっきまでより吹っ切れたみたいだね」

 

 十六夜の件は詳しく知らないが……おそらく、雷門とジェネシスが富士山で戦ったあの時だろう。……なんというか、十六夜がああなった原因を作った身としては触れにくい話題だな。

 ファイアードラゴンボールで試合再開。ボールはチャンスウが持った。

 

「十六夜!」

 

 そんな状態で豪炎寺は、ブロックに行った十六夜からボールを要求する。まだボールを奪えていないのにだ。

 

「早すぎだろ……まぁ、いいけどさ」

「ならく落とし!」

 

 十六夜がチャンスウに向かっていく。そんなアイツを見てチャンスウはならく落としを放ち、ボールをぶつけようとする。

 

(ボールにぶつかっても、ボールを避けても相手の思う壺……だけど、もう負けない。コイツが何を考えていたとしても、もう抜かせない)

 

 十六夜は軽く跳び上がる。しかし、アレではボールにぶつかったときに衝撃で飛ばされる……何を考えているんだ?

 

「残念ながら、軽く当たっただけでもボールは私の下に帰ってきますよ」

「んな事想定内だバーカ……豪炎寺、今度は受け取れよ」

「なっ……!なんて力業を……!」

 

 自分に向かってくるボールに対し、蹴りを加える十六夜。その回転の勢いが強かったためか蹴った瞬間、空中に居た十六夜は弾かれてしまいフィールドの外まで吹っ飛ぶ……が、代わりにボールは豪炎寺のもとへ飛んでいった。

 

「ナイスパス……虎丸!今度こそ決めるぞ!ついてこい!」

「はい!」

 

 そのボールをしっかり受け取った豪炎寺は虎丸と共にゴールへと走って行く。

 

「タイガー!」

「ストーム!」

 

 そして、2人の連携技タイガーストームがゴールへと向かう。炎を纏ったボールの後ろを虎が咆哮をあげながら走って行く。

 

「大爆発張り手!」

 

 ボールは相手キーパーの正面。威力は先ほどまでと違い、しっかり保たれている。

 ボールに対し繰り出される張り手……しかし、放たれたシュートは止まることなく、キーパーを吹き飛ばしてゴールへと刺さった。

 

「豪炎寺さん!」

「ああ、やったな」

 

 遂に完成した必殺技で8-7と逆転する私たち。残り時間もあとわずか……だが、ファイアードラゴン側は諦めていなかった。

 

「ナイスシュート、豪炎寺」

「ありがとな、十六夜」

 

 そして、ファイアードラゴンのキックオフで試合再開。

 

「まだだ……まだだ!」

「うぇ!?お前、目あったの!?」

 

 フィールドでは失礼な驚き(多分素だろう)をする十六夜。なんと、チャンスウの目が開いたのだ(多分閉じていたわけではない)。

 そして、チャンスウ、アフロディ、バーン、ガゼルの4人が速攻を仕掛ける。ボールはアフロディが持った。

 

『カオスブレイク!』

 

 放たれたシュートがゴールへと迫る。先ほどまでのカオスブレイクよりも威力が上がって見える。

 

「「「キャプテン!」」」

「円堂!」

 

 フィールド、ベンチにいる全員が円堂の方を見る。

 

「この一点……絶対に守ってみせる!」

 

 先ほど見せたように、右手に力を込め、跳び上がる円堂。

 

「いかりのてっつい!」

 

 振り下ろした拳。先ほどと違い、地面に叩きつけられてもなお、ボールは勢いを保ったままだ。

 

 

 

 

 

 ゴール前で光の爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 力と力がぶつかり合い、何かが爆ぜた。

 巻き起こった煙……それが晴れるとそこには……

 

 

 

 

 

 ピ、ピー!

 

 

 

 

 

 地面にめり込んだボールはゴールラインを割っておらず、衝撃で飛ばされた円堂だけがゴールの中で尻もちをついていた。

 つまり、ボールはゴールに入っておらず点は入れられていない……

 

『ここで試合終了!8-7と壮絶な点の取り合い!この激戦を制し、世界への切符を手にしたのは、イナズマジャパンだぁ!』

 

 最終スコア8-7でイナズマジャパンは決勝戦を勝利し、世界大会進出を決めたのだった。

 

「勝ったぞぉぉおおおお!」

「「「おおおおおぉぉぉ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、円堂。あの人は?」

「豪炎寺の親父さん……だな」

 

 ベンチで世界大会進出の喜びを分かち合う中、観客席の方へと向かった豪炎寺のもとに1人の男の人がやって来る。

 

「父さん、ありがとう」

 

 豪炎寺が何を抱えていたかは分かっていないが……観客席を気にしていたことや、円堂が豪炎寺に対しお父さんに見せるとか言ってたし……あの人が関係しているのか?

 

「……いい試合だった。世界大会も楽しみにしている」

「な、なぁ、十六夜。今のって……」

「いや、普通に祝福じゃねぇの?何があったかよく知らんけど……」

「歩いて行くがいい。お前はお前自身の道をな」

 

 そう言って立ち去っていく豪炎寺のお父さん。

 

「どうした円堂。すげぇ、嬉しそうだけど」

「だってぇ……だって!これで豪炎寺も一緒に世界で戦えるんだぜ!」

「はぁ?どういう――」

 

 ――ことって聞こうとしたが、きっと豪炎寺と円堂しか分からない何かがあったんだろう。見る限りでは、解決したようだしここで蒸し返す話でもねぇだろ。

 

「豪炎寺!よかったな」

「ああ!」

 

 結果オーライってことでよかったよかった。

 

「十六夜」

「何だ?」

「ありがとな。お前のお陰で目が醒めた」

「オレだけのお陰じゃねぇだろ」

「フッ、だがあの一撃は中々効いた」

「それならよかった」

「それと、このチームのエースストライカーは俺だ。お前には譲らないぞ」

「ハッ、その座は奪うモノだろ?……次、同じ事があったら容赦なく奪うからな」

「そっちこそ。またぶつける嵌めにならないといいな」

「うっせぇー次あの状態になったら多分、円堂から正義の鉄拳が飛んでくるわ」

「それか、鬼道からのオーバーヘッドペンギンかもな」

「というか、お前は吹雪にもぶつけたことあるし、エターナルブリザードでも飛んでくるんじゃね?」

「じゃあ、お前にはヒロトの流星ブレードってとこか?一応、グランと同じチームだったこともあるし」

「……ははっ」

「……フッ」

 

 思わず笑ってしまう。ただまぁ、そういうことが起きないよう肝に銘じよう。 

 

「……まぁ、よくよく考えると世間的にはお前の方がエースストライカーに見えるだろうがな」

「え?何で?」

「この試合ではハットトリックを決めたし、個人での強力な必殺シュート持ちだろ?」

「おぉ……言われてみれば」

「自覚無かったのか……まぁいい。とりあえず……」

 

 豪炎寺が手を挙げたので、オレも手を挙げる。そして、軽くハイタッチをすると……

 

「って無茶苦茶いてぇ!?お前ハイタッチの威力どうなってるの!?」

「……お前の怪我も考えて、触れるか触れないかぐらいにしたんだが……」

「な、なんだこの激痛……!今まで感じたことのないような感覚……!」

「……これは世界大会の前に病院行きだな……」

 

 何とも締まらないが、この試合で怪我をしたメンバーと共に、病院送りが決定したのだった。

 そして表彰式も終わり、病院にて……

 

「しばらく運動禁止ね」

「What?」

 

 ……世界大会まで残り1ヶ月。そんな中で、オレは運動を禁止されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NGシーン(ネタ)~

 

「十六夜さん!」

 

 アイツの前に出た虎丸からのボール要求の声。豪炎寺も虎丸の近くで準備している……

 

「…………」

 

 しかし、十六夜は虎丸に出すことなくシュート体勢に入る。

 

「オーバーサイクロンP!」

 

 十六夜の打てる最強の必殺技。地面を抉りながらペンギンたちと共にシュートはゴールへと向かうことなく、ある1人の選手……豪炎寺へと向かっていった。そして……

 

「豪炎寺!?」

 

 十六夜のシュートは豪炎寺を直撃した。

 

 ゴンッ!

 

 直撃し、彼をフィールドの外まで吹き飛ばし、観客席のところへと激突させた。

 

「わわっ!?豪炎寺さんが吹き飛ばされたッス!」

「い、十六夜!?」

「何しているんですか!?」

 

 ゆっくりと歩いて行く十六夜。その目は吹き飛ばされた豪炎寺を見ていた。

 

「オレが言えた立場でもねぇってのは重々承知だ。でもさぁ……そろそろ起きろよ。オレも寝過ごしたけど、これ以上寝てたら試合が終わるぞ?お前はこのイナズマジャパンのエースストライカーなんだろ?」

「…………」

「そうじゃねぇとオレがその座を奪い取る。オレが次の1点取って、イナズマジャパンを勝利させる」

 

 そう言うと、十六夜は豪炎寺から背を向けて歩き出す。もうそれ以上言うつもりはないって事だろう。

 

「「「…………」」」

「…………」

「……ん?どうしたんだお前ら?」

 

 と、ここでようやく十六夜は気付く。何かがおかしいことに……そう、

 

「ご、豪炎寺さん!しっかりして下さい!」

「き、気絶してる……!目を覚ませ!豪炎寺!」

「タンカー!誰かタンカーを!」

「無理もない……十六夜の本気のシュートを喰らって、吹き飛ばされて、壁に激突したんだ」

「…………」

 

 豪炎寺が起き上がる気配を見せないことに。

 

「あー……オレ、なんかやっちゃったか?」

「「「やり過ぎた馬鹿野郎!」」」




NGルートでは十六夜くん、なろう系主人公になりましたね。ちなみに、このルートではそのまま豪炎寺が離脱(復帰は絶望的)してしまうので、控えめに言ってヤバいルートです。流石に世界大会本戦を豪炎寺抜きでは詰むポイントがいくつか……



世界編を考えるときに一番最初に思いついたこと、この試合で豪炎寺にファイアトルネードを当てること。
そのために、ジェネシス戦では最初の構想を少し変え、十六夜くんを精神的に追い詰めて、豪炎寺にファイアトルネードをぶつけてもらったのは内緒。十六夜くんはこの3ヶ月、陰でファイアトルネードを自力で習得した模様。(まぁ正確には、陰で身に付けた数ある必殺技の内の1つがファイアトルネードだったわけだが)
ちなみに、豪炎寺の事情を知らないようにするため、十六夜くんは徹底的に隔離された模様。そのために、アジア予選はずっと個人練習だったんだから(超メタ発言)。だって、流石に知ってたらそんなことやらないだろうし…………多分。え?やらないよな?……怪しいけど、多分大丈夫でしょう(何が?)。


当初の予定では、週1投稿はファイアードラゴン戦までにする予定でしたが、続けられる限り続けていきます。……唐突に切れたら察して下さい。


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休養

「幸い骨まで達してないようだが、酷い打撲……両手共に完治するのに3週間はかかるとみていい」

「……でも、手だけなら練習は……」

「サッカーだし、多少はしていいと言いたいんだが……君、右足首も痛めているでしょ?」

「…………(サッ)」

「…………(グイッ)」

 

 首を逸らしたが、八神によって戻された。

 

「手を休めるついでに身体もしっかり休めることだね。大丈夫、手も足も君の怪我なら世界大会には間に合うから」

「……あい」

「後は、定期的に病院に来ること。早く治したいなら無理をせず定期的にここに……」

 

 長々と注意事項を説明され、八神に連れられ待合室に行く。一応付き添いということで八神にはついてきてもらっており……

 

「八神さん、首が痛いです」

「お前が途中で顔を逸らすからだろ」

 

 文句を言ったが受け入れてもらえなかった。

 

「というか、足の怪我隠してただろ」

「……バレた?」

「チャンスウのならく落としを蹴って、豪炎寺へと強引にパスを出した時だろ?吹き飛ばされた時に手を庇うようにして、足をやったんだろ?」

「あはは……おっしゃる通りです」

「最後のアフロディたちのシュートも、本来のお前なら撃たせる前に止められたんだろうが、足の痛みで反応が遅れて撃たれた。お前の動き、反応がいつもより遅かったのは、足の痛みがあったからか」

「あはは……」

 

 なるほど……監督が手のレントゲンだけじゃなく、足も診てもらうよう頼んでいたってことは……これはバレてたな。というか……

 

「よく見てるな」

「当たり前だろ。お前の彼女だぞ。舐めて貰っては困る」

「あ、はい」

 

 これは隠し事出来なさそうだな……

 

「大丈夫だったか!?」

「ここ病院だぞー声落とせー」

「お、おぉ、ゴメン」

 

 そんな中で、待合室に居た円堂に声をかけられる。

 というのも、オレだけじゃなく、吹雪、綱海、緑川、土方、鬼道と合わせて6人……日本代表の17人の内、6人も病院行きが決定した。そのため、ついでに他の11人も何かないかという検査に来ている……大所帯だな、マジで。ちなみにここは豪炎寺のお父さんが勤めているところでもあり、息子さんに必殺シュートを放ったことを何か言われると思ったら小さく「ありがとう」と言われた。え?オレ、下手しなくても怒られるようなことしましたけど?

 

「このバカは手と足を怪我して完治3週間くらい。ドクターストップでしばらく運動禁止だと」

「あはは……バカって酷いなー……」

「ということは、世界大会にはギリギリ間に合うのか?」

 

 そう言ったのは鬼道……音無が一緒に説明を聞いたようだ。まぁ、なんて言うか……誤魔化す可能性があるヤツはマネージャーとか誰かが一緒に説明を受けることになっている。信用ねぇな……ちなみに円堂には冬花がついたとか。おい、オレたち誰も信用ねぇじゃないか。豪炎寺なんて吹雪の付き添い担当だったのに、お前らどうなってんだ。オレも人のこと言えねぇけどさ。

 

「しっかり休んでいればなぁ……そう言う鬼道は?」

「2、3日で治るが、念のため1週間は安静にしてろと言われただけだ」

「そっかー……円堂は?」

「健康体そのものって言われたぞ!」

「お、おう……」

 

 え?オレ、もしかしてこの中で重傷……?

 そう思って、全員の結果が出たところ、綱海と土方も大体2,3日で治るらしい。で、緑川は2、3週間くらい……問題は吹雪だった。骨まで怪我が達していたそうで、2ヶ月以上とかなんとか……あれ?もしかして、怪我の酷さランキング作ったらオレ2位ですか?残りの11人?全員なんともないってさ。

 全ての結果を聞いた監督は個別に指示を出していく。……と言っても、怪我した6人は怪我の治療に専念、回復次第必要ならばリハビリをするとのこと。他はチーム練習って言うのが基本だ。

 あーなんて言うか……

 

「ペラー、色々と頼むわ。両手使えねぇから」

『仕方ないなー宿題は自分でやるんだよ?』

「何の為に足の指は5本あると思う?……手が使えなくなった時、シャーペンを足で握るためだよ」

『どうしよ……怪我のせいか、綾人の頭が著しく悪くなっている……』

「おい、そこ。何故彼女を頼らない」

「…………」

「無視するな」

「あたっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

『…………』

 

 運動を禁止された二日後。オレは自室に籠もって瞑想をしていた……というのも、自宅療養という名目で合宿所から家に帰ってきたのが昨日。……まぁ、流石にね?合宿所で介護生活っぽいことをされるのは恥ずかしいわけですよ。

 

「十六夜ー貰ってきたぞ」

「…………」

『…………』

「……寝てないか?ペラーのヤツ」

「はぁ!?ちょっ、ペラ-さん?瞑想しているんじゃないの?人の頭の上で呑気に寝てたの?」

『…………』

 

 ダメだ。ペラーのヤツ、オレの頭の上で寝てやがる……なんて自由なペンギンなんだ……

 

「全く……ほら、ペラー。寝るなら十六夜のベッドが空いてるぞ」

「いや、自分の世界に帰れば解決だろ」

「じゃあ、送ってこい」

「出来たら苦労しねぇ」

 

 と言って、八神がペラーをオレのベッドに移動させる。

 

「で、ほら。試合と練習の記録だ。それとプロの試合映像」

「お、ありがと」

 

 八神から受け取ったのは、前回の試合とそれまでの練習を撮影したものと、この世界での大人……プロの試合映像。まぁ、昔に何試合か見たことあるけど、あの時はドラマか何かと思っていたからな……ほんと、あの時は架空の世界のお話だと思っていたんだよなぁ……まさかノンフィクションだったとは驚きである。

 

「なぁ、八神――」

「なんだ?」

「――超がつくほど暇」

「知るか」

 

 はっきり言おう。両手が使えないし、足首はいてぇし、運動禁止だし?無茶苦茶暇なんだが?体力が有り余って仕方ないんだが?気晴らしに料理……って考えたけどフライパン持てなくて諦めた。本当にやることないんだが?で、ボールは没収されたし……勉強?無事な方の足でシャーペン握って字を書いているよ。無茶苦茶汚い字だけどな。

 

「八神」

「何だ?」

「チェスでもしようぜ」

「悪いがルールが分からん」

「マジ?」

「マジだ」

「……万策尽きたか」

「いや、お前の策が浅すぎるだろうが。何で選択肢が1個しかないんだ。しかも、何でそれがチェスなんだ」

「家に娯楽らしい娯楽ないんだよなぁ……」

 

 というか、今更ながらエイリア学園が襲来した辺りからほとんど家に帰ってないよな。しかも、トランプも両手が使えないんじゃ満足に出来ないし……

 

「全く……昼飯作ってくるから、大人しくそれでも見てろ」

「へーい」

 

 八神さんはオレの監視という名目で、この家に荷物を置いて泊まっている……合宿前と同じ感じだな、うん。

 

「そう言えば……」

 

 試合中、チャンスウのシュートを止めた必殺技、皇帝ペンギン1号……鬼道曰く、禁断の必殺技らしい。曰く、2度使えば試合続行は不可能になり、3度以上はサッカーが二度と出来なくなるとかなんとか。で、その前にその場のノリで完成した、ペンギン・ザ・ハンドやペンギン・ザ・パンチは皇帝ペンギン1号のキーパー技バージョンらしく、新たな禁断の必殺技であると鬼道と不動による禁断の必殺技委員会が承認した。いやー……まぁ、彼らからすれば、ペンギン・ザ・ハンドが皇帝ペンギン1号の派生という認識だが、オレからすると逆なんだが……そこの認識のズレは一旦置いておこう。

 ……で、問題は、そんな危険な必殺技をノリで身につけ、ノリで使っちゃったオレが、一切そういうダメージを受けてないことである。もちろん、両手が使えないのはペンギン・ザ・ハンドの影響ではなく、ファイアードラゴンの強烈なシュートを喰らいすぎた影響だし、足の怪我も皇帝ペンギン1号関係ないし。

 とにかく検証も兼ね、本当に身体に負担がないかを怪我が治り次第検証するとか。いやー実験台(モルモット)になった気分だ。

 

「にしても、禁断の必殺技……ねぇ。そんな物騒なものまでこんな世界にはあるんだなぁ……」

 

 まぁ、正直な話なんでもいいが。ただ、彼らに言わせると、他の奴らには技の原理とか教えるなとのこと。いや、原理も何も、ペンギンを足に食いつかせるんじゃなくて、手に食いつかせたら出来ただけなんですが。うーん、でもこの禁断の必殺技……何とかして身体への負担をなくせば、いいんだけど……そういう新たな必殺技を作るのって苦手だからなぁ……禁断の必殺技委員会に任せよう。……ん?そういや任せようはいいけど、オレもそのメンバーに入れられていたような……

 

「出来たぞ」

「へーい」

 

 ビデオを見ていると呼ばれたのでご飯を食べに行く。……まぁ、箸が使えないため、スプーンとかで食べられる料理ばかりだが。

 

「おいしい……八神って料理上達した?」

「……そう言ってもらえて嬉しい」

「あ、八神さんがデレた」

「うるさいバカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪我をして1週間近く……痛みにも慣れてきたが、極力手は使わないようにしている生活。最近はペラーに代筆を頼むことを覚えたり、ペラーに髪を洗ってもらうことを覚えたり……あれ?もしかして、ペラーに介護されている?彼女よりペラーに色々としてもらっている?

 

「ほら、新しいの貰ってきたぞ……ってお前、利き足右だよな?」

「そうだな」

「よく室内で座って左足だけでリフティング出来るな……」

「一応、両足使えるからな」

「実質、両利きか……」

 

 1週間もすれば気付く。左足無事ならボール蹴れるじゃん。室内でしかも座ってのリフティングなら、運動禁止されてても出来るでしょ。動かないようにすれば、ウォーキングと変わらんってことにしておこう。

 

「ちなみにいつからやってる?」

「八神さんが出て行ってから。大体2時間くらい?」

「……運動禁止されてるだろ?2時間はやり過ぎだろ」

「…………」

 

 そっとボールを置く。決して八神さんの笑顔に気圧されたわけではない。

 

「はぁ……にしてもこの1週間、ずっと色んな試合映像見ているな。しかも、中学生のではなく大人……プロの試合映像か。何か気になることでもあるのか?」

「うーん……2つだな」

「2つ?」

「1つは、参考にするため。……更なる進化を遂げるために、次に何を加えようかって思っているところ」

「更なる進化って……お前の未来視のか?」

「未来視って……まぁ、そうだな。守備は置いといて、攻撃……不動との連携で改めて思ったんだ。オレのプレーを理解し、同じビジョンかそれ以上のプレーが見えている選手とは連携できる。だが……」

「それ以外の選手とは連携できない。イナズマジャパンだと鬼道、不動以外の選手と連携が難しいってことか」

「そうだな。オレの欠点の1つが連携が出来ない……正確に言えば、連携出来る相手が限られていること。まぁ、その問題点は追々考えるとして……」

「それで?進化するために何を加えるかだったな。方針は見えているのか?」

「いくつかは……一番いいと思うのはパスかね」

「パス……?」

 

 その答えに八神は疑問符を浮かべる。当然と言えば当然か。こんな必殺技ポンポン飛び交う超次元サッカーの中で、どんな凄いものをやるかと思えば、まさかのパスだからな。しかも、連携が出来ないって言っておいてだし。

 

「お前が言う未来視は視野×分析……この2つを掛け合わせたものだ。そこに突破を合わせると、1人でゴールまで突き進むことが出来る」

「ファイアードラゴンのアレだな。全員をその技術で突破するスタイル」

「アレだけでは、格上には通用しない。パスしないって分かりきっているなら、尚更な」

「そこからパスって……」

「これはまだ頭の中のイメージだが……未来視にパスを合わせると、相手にとって予想外の場所に出すことも出来る」

「まぁ、そうだろうな。お前にしか見えていないコースへ出すんだからな」

「だが、ただのパスじゃ意味がない(面白くない)……だから、正確にはキラーパスを合わせようと思う」

「それって、韓国戦前の練習での、傲慢なパスと同じになるんじゃないか?」

「あれは味方の能力を度外視し過ぎている。味方が取れるようにするのは当然として、相手からすればコースがないところへとパスを出す」

「……つまり、お前の技術で無理やりパスコースを生み出すと……そして、そのコースで正確かつ鋭いパスを出すと」

「相手DFにとって絶対あり得ないパスコースを。通るはずがないと思っている、防げているはずのコース……一瞬の隙を見抜いてパスを出す」

「……とんでもない無茶だな」

「味方の配置は鬼道たちに指示してもらえば、なんとかなる目途はついてる。もちろん、ゆくゆくは味方の指示も自分がやる前提でいないと、優秀な司令塔が居ないチームで使えなくなる。……まぁ、オレが持ったときに気を抜かないで居てもらえれば、変なミスもないだろうな」

「見えないはずのパスコースを……誰もが無理だと思っているからこそ、通った時に刺さる。それをギャンブルにしない為のお前の読み能力か……決まれば強烈だし、それに……お前がボールを持っているときに、他の選手を無視できなくなる」

「ああ。そうすれば、今度は突破力が刺さる……パスかドリブルか……2択を迫りつつ、それでいてオレに人数を割けにくくする。そうすれば、もっとオレが動きやすくなる」

「自分という武器を効果的に活かす……か。色々と考えているんだな」

 

 パスの技術ならある程度は身に着いている。だから、イメージの具体化と、味方がどんなパスなら取れるかの分析が今出来ること。机上の空論であるこのイメージをもっと現実味を帯びさせるために今は頭を働かせる。

 

「あれ?2つって言ってたよな。もう1つは?」

「あー……知るため……だな」

「知る?何をだ?」

「オレの持っている才能」

「はぁ……?お前の才能って圧倒的な分析力じゃないのか?それにあれだけのペンギンを操れるのも才能だろ」

 

 八神が意味が分からないって顔をしている。まぁ、なんとなくは分かる。この世界で一緒にプレーした奴からすれば、分析力という才能があるから、必殺技にも対抗できている、未来も見えている……とか思っているんだろうな。

 

「なぁ、八神。……オレの分析力は才能じゃないって言ったら信じるか?」

「いや……信じるも何も、お前の分析力が凄まじいのは事実だろ?」

 

 ……韓国戦でのハーフタイムでふと思い出した前世のこと……アイツはオレの才能を知っていて、それに気付けていないと言った。アイツしか知らないオレの才能……

 

「この分析力は他人から貰ったものなんだよ」

「はぁ!?いや、お前……分析力を貰うって……」

 

 オレの分析力はアイツに教えてもらったモノ。本来はオレのモノでもないし、オレはアイツほど分析力に長けてはいない。……これはオレの才能ではない。アイツから貰った能力(ギフト)だ。

 

「昔、オレには凄い才能があるって言ってくれたヤツが居てな。ソイツからこの分析力を教えてもらった……他人譲りで、ソイツには一歩劣る力なんだよ」

「はぁ……でも、お前を超えるって相当なレベルだぞ?同等じゃなくて凌駕しているのは……」

「アイツは天才だったからな」

「じゃあ、ソイツに聞けばいいんじゃないか?」

「あー……聞けないんだよ。絶対に話せない場所に居るから……」

「……あ」

 

 そこで何かに気付いたのだろう。絶対に真相とは違うが、何処か悲しげな表情を浮かべる。

 

「とりあえず、その無自覚な才能を自覚し、使いこなせれば強いかなと。だから何かきっかけがないかって探してるだけだ」

「お前に分析力とは違う才能……ペンギン力か?」

「ペンギン力が何か分からないが違うと断言させて貰おう」

 

 前世で微塵も役に立たない力だからな。寧ろ、その才能を読まれていたら、恐ろしく怖いわ。

 あの天才が言う才能とは何か……そして、オレの力を最大限発揮するためには仲間が必要……

 

「まぁ、そっちは軽く考える程度に留めておくけどな。自分には凄い才能があるはずなんだ……!って思い込んで、アホみたいな沼に嵌まるわけには行かないし」

 

 ……本当にそんな凄い才能があるかは分からない。もしかしたら、アイツの分析が間違っていてそんなものは無いのかもしれない。

 

「進化するために……」

 

 カギは今まで忘れていた昔のサッカー。アイツとやっていたあの頃出来た2人のサッカー……それがカギとなるかもしれない。そこにオレの中に眠るモノを呼び起こす何かがあるかもしれない。

 

「ふむ……後は時折頭のおかしい発想をするとかか?」

「喧嘩売ってます?八神さんもしかして喧嘩売ってます?」

「それか、類い稀なるツッコミ力」

「類い稀なる~とか付ければどんな事でも格好良く聞こえると思ったら大間違いだ」

「もしかして、必殺技を生成する才能か?」

「違うだろうな」

 

 仲間……彼ら彼女らなら、きっと……あの時みたいなことを繰り返さないはずだ。

 この後、八神がポンコツさを発揮し、奇抜なことを言い始めるのだが、コレと言ってピンと来ることに思い当たらなかったことを記す。




禁断の必殺技委員会発足。理由は何処かのバカが自力で禁断の必殺技を身につけてしまったため。
委員長鬼道で副委員長不動。十六夜も強制的に入れられた。その内、佐久間も入る予定。


改めて(?)宣言します。この作品は自分が書きたいように書いています。だからこの作品が合わないなら合わないでいいと思ってます。万人受けを目指す、高評価を目指す作品ではないので……自分のやりたいようにやる。とあるYoutuberさんの動画を見て、改めて思いました。
あと、今までもあったけど前書き・後書きがこの作品に関係ないこと書いてあっても許してくれ……そこはスルーしてくれていいから……!


次回、十六夜くんの過去のお話その1……予定ではその2までやったら本編に戻ります。


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過去編 ~十六夜(バケモノ)の形成~

グロい描写がかなり苦手なのに、デスゲーム系の話が結構好きって言うのがある種の悩み。まぁ、スプラッター系とか内臓飛び出る系とかあまりにグロいものは無理だけど……。ちなみに作者は多分、集合体恐怖症なので(なので?)、細菌とか虫とかそういうグロさもアウトです。
個人的に頭脳戦とか騙し合いが絡んでいるのが好きなんだろうけど……うーむ、どうしたものか……というのが悩み。昨日、王様ゲームの漫画やリアルアカウントという漫画をスマホで見ていてそう思った。読み進めるのに勇気が要るけどついつい押してしまう。


という雑談は置いておいて、十六夜の過去編……まぁ、タイトル通りですね。ちなみに上の話は一切関係ありません。あれは作者のどうでもいいお話です。流石に十六夜くんにそんなデスゲームの生存者or犠牲者みたいな設定はないです。
先に言っておくと十六夜に大きな影響を与えた人は2人います。


 あの人のやり方は間違いだったかもしれない。正解ではなかったかもしれない。だが、少なくとも十六夜綾人という人間に大きな影響を与えたのは言うまでもなかった。

 

 十六夜がサッカーを始めたのは小学生の時。小学校に入学と同時に近所のサッカーの少年団に入ったのだった。始めた理由は覚えていない。面白そうだったかもしれないし、周りがやっていたからだったかもしれない。

 そして、最初の1年が何事もなく過ぎ去った頃、あるコーチが現れた。十六夜綾人小学2年生……まだ人間的にも未熟な彼にそのコーチの与えた影響は計り知れなかった

 

『徹底した個人能力主義』

 

 そのコーチを一言で表すならこれだろう。体力、両足それぞれのキック力や精度、走力、ジャンプ力、バランス力、俊敏性、反射神経……あらゆる個人能力を目に見えるよう数値化し、試合に応じて総合能力の上位5人、8人、11人が出場できるというもの。そして、1位から自分が出たいポジションを選ぶことが出来るというものだった。

 チームの空気は一変した。レギュラーに選ばれるためには成績を残すしかない。自分が出るポジションを選ぶにはトップを目指さなければならない。チーム内での戦いは熾烈を極めた。一緒に居るのはライバル……越えるべき相手。その認識がチームの中に広まっていった。

 

「チームメイトって言うのは仲良しの友達じゃない。レギュラーという座を掛けて競い合い、奪い合う相手だ。周りに居るのはライバルだ……仲良しサッカーがしたいヤツはこのチームにはいらない」

 

 十六夜綾人はそのチームの方針に馴染んでいった。十六夜だけではない、多くの子どもが方針に馴染んだ。ただ、長くそこに在籍していた子どもたちからは反発も出た。今までのやり方がいい……と。だが、在籍して日が浅い、または低学年の子どもたちは前のやり方にそこまで思い入れがないため徐々に何も感じなかった。

 2年も経てば、そのやり方に従う者だけが残っていた。当然、十六夜もそこに残っている。ただ、十六夜は毎回レギュラーに選ばれるほどの実力はなかった。

 

「負けられない……!」

 

 その思いが強かったのは十六夜だけではない。下位でやる気の無いものや中途半端なものはすぐに消えていき、残るのは負けず嫌いの子どもたち。

 

「そうだ。敗北を深く刻み込み、死に物狂いで勝ちを奪い取れ。負けてもいいなんて温い考えは捨てろ。勝つために藻掻き足掻き苦しみ、その手に勝利をつかみ取れ」

 

 その姿は試合にも表れる。味方の誰にも負けないことを示すのは当然として、それでいて試合には負けたくない。連携という文字はないが、敗北は嫌い……噛み合わないが、個人能力だけで解決する。フィールドの選手がやりたいことをコーチが纏めるようなチームだった。

 5年生にもなれば、十六夜はほとんどの試合でレギュラーを勝ち取っていた。試合に出るたびポジションが違うことは普通で、最早気にしていない。フォワードとして、ミットフィルダーとして、ディフェンダーとして、キーパーとして……何れも試合に出るための指標の一つだったため、一通りは熟せる。

 一人一人が高い能力を持ち、全員が全ポジションを熟せ、全員が負けず嫌い……そんなチームには大きすぎる欠点があった。味方との連携が取れない……協力が出来ない事だった。味方へのライバル意識が強すぎること、連携を取る練習をしていないことなどの要因から、連携がほとんど出来なかった。

 そして、サッカーで学んだことは日常生活でも現れる。どんなこと些細な事であれ、十六夜は勝負に負けることを嫌った。学校でのテストや運動会、ゲームなど、勝負事には負けず嫌いな面を発揮していった。

 

 

 

 

 

「チームプレーを大切に……」

 

 中学校に上がり、十六夜はサッカー部に入部する。周りに同じ少年団出身は少なかった。そして、サッカー部の空気は和を重んじていて……十六夜は心の底から馴染めずに居た。

 11人でというのを強調され、自分より能力の劣る先輩が偉そうに命令する。チームプレーが大切……3年生や2年生が中心に、連携が取れる、チームの枠組みに嵌まれる選手が試合に優先して出られる。今までの環境と大違いであり、その環境に反発を覚えていた。

 

「……お前は能力は高いんだがな……」

 

 顧問から言われるのはそれだった。能力は高い。だが周りに合わせられない。顧問自身も制御できない。だから試合には出せない。

 十六夜は孤立した。それを特に何とも思っていなかった。部活での練習を熟し、その後の自主練も欠かさない。また、サッカーだけでなく勉強も切り替えて行う。十六夜の負けず嫌いはサッカーだけに留まらなかった。負けることが嫌いで、負けたときに次に勝つための努力を怠らない。周りがどうだろうと、ひたすら自分の事に没頭していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も自主練か?夜遅くまで偉いな」

「……片付けはしっかりしておくんで」

 

 冬の夜。すっかり暗くなった校庭では、1人黙々とサッカーボールを蹴っている少年が居た。

 

「宿題は終わってるのか?」

「帰ってからやりますよ」

 

 中学1年生の十六夜綾人である。ハーフラインからペナルティーエリア手前まで、適当に並べたコーンたちをドリブルで避け、突破と同時にシュートを撃つ。かれこれ、部活が終わってから2時間はやっていた。

 

「お前がチームで1番努力をしているのは分かっている。毎朝誰よりも早く来て練習し、放課後も1番遅くまで……というか、本当は生徒は帰る時間なのに残って練習している。テスト期間も、近くのグラウンドで練習してから学校に来ているらしいな」

「よく知ってますね」

 

 練習をしながらサッカー部顧問の先生との話を続ける。ただ、十六夜の頭の中には……

 

(今のコースはダメだな。身体が若干流れてシュートが甘くなった。修正しないと……)

 

 と言う感じで、先生の話は右耳から入って左耳へと抜けて行っているが。

 

「それにお前はこのチームで1番個人としては強いだろう。……だからこそ聞きたい。何故、お前はチームメイトと協力しないんだ」

「…………」

「サッカーは11人でやるものだろ?チームプレーを大切に……普段からそう言ってるじゃないか。何でお前は頑なに協力しないんだ?」

「…………」

「他の先生にも聞いたが、学校生活では特に問題ないんだろう?別に部員との仲も悪いわけじゃないらしいな。他の事では協力できるのに、何でサッカーだけは……」

「サッカー()本気でやってますから」

 

 再びドリブルをしてボールを蹴る。蹴られたボールはゴールの右上の隅へと吸い込まれていく。

 

「別に他の事だって協力しているつもりはないですよ。ただ、言われるのが面倒で、合わせているだけです」

「じゃあ、サッカーでもチームメイトに合わせて……」

「……ふざけたこと言わないでくださいよ」

 

 ボールを回収しドリブル。全てを突破する前にボールを蹴ると、蹴られたボールはゴールの左上の隅へと吸い込まれていく。

 

「何でアイツらに合わせないといけないんですか?」

「何でって……お前なぁ。サッカーは11人でやるものだろ?11人が協力して戦って、11人で勝利を掴む。それがサッカーの……」

「……醍醐味……面白さですか」

「そうだ!共に汗を流し、共に喜びを分かち合い、共に悲しむ……そうやって皆で成長していくことが大事だ!皆で楽しく!勝敗よりも皆で楽しむことが大切だ!」

「……共に……皆…………クソですね」

「……は?」

「今日はここまでにするんで」

 

 そう言って片付け始める十六夜。

 

「……じゃあ、十六夜。お前にとってサッカーはなんなんだ?」

「誰にも負けたくないもの」

「……それで楽しいのか?」

「楽しい?楽しいですよ。今まで勝てなかったヤツに勝てたとき、相手をぶっ潰せたとき、出来なかったことが出来たとき……」

「それは本当のサッカーの楽しさじゃない!いいか、サッカーってのはチームで……」

「チームチームって……生温いこと言わないでくださいよ。チームメイトってのは競い合い奪い合い潰し合う相手……ここには甘くて反吐が出そうなヤツしかいねぇのに、その空気に合わせろって?……くだらねぇこと言わないでください」

「っておい!話は終わってないぞ!」

「片付け終了っと。じゃ、さよなら、先生。また明日」

「それじゃ、いつまでも試合に出せないぞ!」

 

 その言葉を無視して帰っていく十六夜。

 

「全くアイツは……真面目なのか不真面目なのか……これも一種の反抗期ってヤツか?」

 

 

 

 

 

 そして、中学1年生の3月……事件は起きる。

 

「お前には分からねぇよ!お前のような天才には俺たち凡人の苦しみなんか絶対分からねぇんだよ!」

「…………」

「どうやっても勝てるわけねぇだろ!前半終了して5点差ついてんだぞ!ずっと攻められてたし、勝てるわけねぇんだよ!ベンチに居るから言えるんだろうが!まだ勝てるなんて甘いこと考えられるんだろうが!」

「……クソ反吐が出るな、おい」

「ああ?」

「うぜぇんだよ……そういうの。負けてるのはテメェらが弱いからだろうが。テメェらが甘いからだろうが。ああ?テメェらは、試合に勝つためにどれだけの時間費やした?この試合を本気で勝ちてぇなら、何で死に物狂いで練習しねぇんだよ」

「テメ……こっちは先輩だぞ!」

「んなこと知るかよ。そういうのくだらねぇっての……オレからすりゃ、テメェなんて猿共の頂上に立っていい気になってるボス猿なんだよ」

「いい加減にしろよこのクソが!」

 

 十六夜の胸ぐらを掴み立ち上がらせる相手。そんな様子を見て、周りは止めようか迷いを抱く中、十六夜は冷めていた。

 

「大体さぁ、オレらが会場校で?いつもより応援が多くて?格好良いとこ見せようとして?それで、ぼろ負けして珍しくお通夜な空気醸し出して?そしたら、誰かが慰めてくれるって?でも、ちょっと事実を言ってきたからオレに八つ当たりってか?」

「「「……っ!?」」」

「図星かおい…………マジでふざけるのも大概にしろよ。普段の試合から負けてもヘラヘラとチームの結束力だけなら負けてねぇなんてクソくだらねぇ戯言を言い続けたツケが回ってきただけだろうが。自業自得なんだよ」

「お、おい、十六夜。そこまでに……」

「別に事実しか言ってませんよ、先生。アンタの甘い采配が招いた結果がこのざまだ。お得意の綺麗事でなだめておいて下さいよ。つぅか、この時間は後半どう戦うかを考える時間だろうが。慰めなんてどうでもいいことしてる余裕があるんだったら、さっさと勝つための策でも練ってろよ」

「テメェがやれよ……じゃあ、テメェがやってみろよ!テメェが出れば勝てるんだよな!?ずっとベンチで碌に試合に出させてもらえないくせにな!ああ!?」

「ハッ、お前らよりはオレ1人の方がマシかもな……ただ興味ねぇよ。負けても絶望しない、すぐに忘れ次に活かさないようなゴミどもなんか微塵も興味ねぇ。……というかさ、いい加減気付よ。オレの言葉にアンタしか正面から噛みついてねぇんだよ、部長さん。見ろよ、このチームは……お前以外、オレの言葉に反論の1つも怒りの1つも覚えない甘い連中なんだよ。事実を言われて泣き寝入りすることしか出来ないクソみたいなヤツらの集まりなんだよ」

「テメェ……!見ていただけのくせに……!」

「じゃあ、後半頑張ってくださいね。応援してますよ、部長」

「……っ!」

 

 そう言って胸倉を掴んでいた手を払い除ける。そして、座り直そうとしたときに……

 

「……メンバー交代だ。十六夜、それからベンチの他の部員も準備しろ」

「いいんですか?アンタの理念はぶち壊しですよ……それとも、もう逆転の策がないから、ベンチメンバーの経験の為に出すってことですか?点差が広がるのは無視して、もう勝てないから、どうなっても関係ないと?5点も差がついているからどうでもいいと?」

「「「…………」」」

「くだらねぇな、マジで。もう敗北をすんなり受け入れてるとか……マジで終わってる」

「いいから準備しろ、十六夜」

「はいはい。分かりましたよ、先生」

 

 そして、後半が始まる。

 

「おいおい、ベンチメンバーで経験積ませるってか?もう諦めたんだな」

「ほざいてろ三下。全部ぶち壊すから」

「ハッ、スタメンにも選ばれないレベルな癖に口だけは達者ってか?」

「…………」

「まぁ、ベンチで揉めてたらしいしな。ここは気持ちよく勝たせてもらうわ」

 

 たった1人でプレ-する十六夜。攻撃も守備もたった1人でプレーする。ボールを持ったらシュートまで誰にも渡さない。ボールを持っている選手はたとえ、味方であっても強引に奪っていく。

 

「バケモノかよ……なんだよあのバケモノ!」

「敵味方お構いなしかよ!?仲間にタックルして奪うとか正気か!?」

「だけどクソ上手い……!何だよあの技術!?何で止められねぇんだよ!?」

「意味分かんねぇって!アイツを止めろ!徹底的にマークしろ!」

「アイツ潰せば終わりだって!」

 

 壊す、ぶち壊す、破壊する……そのバケモノは全てを蹂躙する。相手も味方も全部壊す……

 

「十六夜!パスしろって!」

「何でパスしねぇんだよ!」

「そりゃ強引すぎだろ!」

 

 味方からの言葉は全部無視する。勝てるかもしれない希望を見せられ、その希望にあやかり、通用しなかったお得意のチームプレーをもう一度しようとするなんて……

 

「……終わってんだよ」

 

 ザシュッ

 

 十六夜の放ったシュートはゴールに突き刺さる。

 

試合再開(リスタート)早くしろよ」

 

 そして、そのままゴールに入ったボールを持って、センターサークルへと歩いて行く。

 最初こそ、味方からの歓声はあがった。だが、自分たちの意向に従わないと、それは徐々に罵声に変わる。監督からも、チームを見ろ、周りの声を聞けとしか聞こえてこない。何一つ、勝つための指示が飛んでこない。何一つ、自分たちが勝利するための行動が見えてこない。手の届く距離まで近付いた勝利よりも、チームプレーという下らないモノを優先しようとする。自分たちのプレーを優先しようとする。意味が分からなかった。何故、勝利を欲しない。何故、勝つために貪欲にプレーしない。何故……勝つための最善を尽くそうとしない。

 

「アイツを止めろ!」

「俺たちを使え!」

「どうせパス出さない!」

「こっちフリー!」

「この人数なら止められる……なっ!?」

「十六夜!味方見ろって!」

 

 ふざけた声が聞こえる。何を言っているんだお前らは。お前らにパスを出してもすぐに奪われる。使え?フリー?周りを見てねぇのはお前らだろうが。使えない位置に居るのはお前らだろうが。そんなことも分からねぇなんて温いんだよ。

 

「十六夜!いい加減にしろ!味方に!パスを!出せ!」

「うっせぇ……うぜぇよ……」

 

 ああ、そうか……ここに味方なんて居ない。居るのは相手と敵だけだ。倒すべき相手と、敗北させようとする敵だけ。敵がオレを縛ろうとしてくる。チームプレーなんて耳障りの良い言葉で縛ろうとしてくる。自分たちの型に嵌めようとしてくる。うるさい黙れ。口を閉じろ。気持ち悪い。吐き気がする。息苦しい。息ができない。憎悪が湧く。殺意が湧く。壊れればいい。潰したい。ああ全部……

 

「ぶっ壊す……ぶっ潰す……」

 

 ぐちゃぐちゃにぶっ壊したい。もう全部……壊れてしまえばいい。壊れて壊れて壊れて……

 

「暴走してる!?」

「強引すぎだろ……!?」

「止めろ!これ以上失点は洒落にならねぇぞ!」

「たった1人で勝てるわけねぇだろうが!」

 

 誰にも縛らせない。縛ってくる鎖が全部気持ち悪い。お前らの価値観を押しつけんなよ。全てを壊して潰して殺してやるよ。この衝動に身を任せて、全部ぶっ壊してやるよ。

 

「先生!十六夜を交代してください!」

「……いや、出来ない……!」

「何でですか!?アイツのプレーは凄い!もう1人で4点も取っている……!でも、こんなのサッカーじゃない!サッカーは11人で……」

「甘かった……見誤っていた……アイツもプレイヤーだ。心の奥底では試合に出たかったはずだ……それなのにずっと出さなかった。アイツだけサッカー部の中で1秒もフィールドに立てなかった……ずっとベンチだったんだ。……腹を極限まで空かせたバケモノが、鎖を引きちぎり、衝動に任せて蹂躙している」

「……っ!」

「止められない……初めてだ。あんな暴力的なサッカーを見るのは……ここで無理矢理止めたら彼は壊れてしまう。これはサッカー部の顧問としてじゃない……一教師として止めるわけにはいかないんだ。出すべきじゃなかった……浅はか過ぎたんだ……もう遅すぎたんだ……」

「「「…………」」」

 

 そして、試合終了間際。バケモノはある思いを固めた。

 

「サッカー部やめよ」

「なっ……!?」

 

 ザシュッ

 

 6点目を取った十六夜は決意した……こんな生温い奴らにぼろ負けして意気消沈するチームではもうやっていけないと。ちょっと勝てる希望が見えたらすぐに掌を返すような奴らとは一緒に居られないと。

 

 ピ、ピーー!

 

 試合のホイッスルが鳴り響く……逆転勝利をおさめたのに、誰1人歓声をあげない。あるのは、相手チームの応援と……十六夜綾人(バケモノ)への畏怖だけだった。

 

「いざよい……」

 

 そして、十六夜はそのまま片付けをして去った。顧問の、チームメイトの言葉に耳を傾けることなく、そのままサッカー部を退部した。チームプレーを大切にしているチームの中でチームプレーが極端に苦手な存在として、チームの空気をぶち壊しまくる、ムードメーカーならぬムードクラッシャーはチームを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜くんの進路希望は……まぁ、予想通りね」

 

 時は流れ中学3年生。中3にもなれば進路を決める……ということで、進学先を決めるために担任と面談をしていたのだ。

 

「寧ろ、あなたはここしかないでしょ。成績も主要5科目は5段階中の5でトップだし、テストも基本学年1位。実技科目の成績が並だけど許容範囲内ね。この辺りのトップ校……確かにレベルは高いけど、慢心しなければ余裕で行けるわ」

「ありがとうございます」

 

 十六夜綾人は基本的に負けず嫌いである。テストも一部の例外を除いて、負けることが嫌いなため努力を怠らない。その結果が現れているのだ。

 

「でも、不思議ね。あなたのその負けず嫌いな努力家としての面を見ると、実技科目も出来てもよさそうなんだけど……」

「別にこんなものですよ」

「そ、そう……もう少し合唱も力を入れてくれていいんだけど……ほら、他の子よりも歌が下手って何か負けてる気にならない?」

「???最低限出来ればいいんじゃないですか?」

「ま、まぁ、決して真面目にやっていないわけじゃないから、これ以上はいいわ」

 

 この頃にもなると十六夜は、全方面に負けず嫌いを発動させていた小学校時代とは違い、ある程度の取捨選択は出来ていた。

 

「日常生活でも大きな問題はなし。まぁ、あの件からちょっと確執があるみたいだけど……」

「どうでもいいですよ。あんなゴミどもに価値はねぇです」

「あはは……ゴミどもとはこれまた手厳しい。しばらくは起きていないみたいだけど……やり過ぎないでね?」

「ただの自滅ですよ」

「……ただの自滅ならサッカー部は停部に追い込まれていないんだよ。まぁ、最近は生徒指導の先生が君関係でのいざこざが減ったから、このままなくなったままだとありがたいって」

「自分から仕掛けるつもりはないんで」

「はぁ……まぁ、彼らもいい加減痛い目見たから分かったと願いたいわね。それで、話変わるけど十六夜くんの将来の夢は?やっぱりサッカー関係?サッカー部を辞めた後もずっと、1人で練習を続けているくらいなんだから」

「…………将来の夢……」

 

 将来の夢……十六夜綾人には夢がなかった。サッカーは、自分の中では負けたくないものであって夢であるとは言えない。サッカーはサッカー、夢は夢という感じだった。

 

「えっと……お母さんやお父さんと話はしないの?」

「一応、母には『大学には行っておくといいんじゃない?』って言われてますね。でも、その先は特に何もですね。『なりたいものになる』……そんな感じです。もっとも、なりたいものが見当たらないですが」

「うーん……」

 

 十六夜綾人には負けたくないものはあってもなりたいものはない。

 

「よし、これから先生やご両親と一緒に夢を見つけていこ?あ、ちなみに来週はテスト期間だから、グラウンドでサッカーの練習は禁止ね。……まぁ、もう3年生だし、先生たちは今更で流せるけど……他の子たちの嫉妬とか面倒なことは嫌でしょ?」

「そうっすね。では失礼します」

「うん。次の子呼んでね」

「はい」

 

 そう言って部屋を出て行く十六夜。

 

「はぁ……夢がない。目標がない……か。高校も行きたいからじゃなくて、行けるから選んでいるタイプね……まぁ、行けるからがこの辺のトップ校なのは、先生としては嬉しいのか悲しいのか。3年間見ていて分かるけど、負けることが嫌いな負けず嫌いなだけで、自主的に勝ちたいって思うことが基本ないのが問題ね。テストも点数で負けたくないから満点を取ってる。決して満点を取りたいから、高得点を取りたいから取っているわけじゃない。……とりあえず、彼は何か目標とか夢を持つことが大事っと」

 

 そして、別の紙を見て頭を抱える。

 

「やれやれ……ただ、友人がゼロに近く、学校内では孤立状態。その上、何人かのサッカー部員が問題行動を起こし、サッカー部は停部状態となった元凶……って言うと彼が加害者みたいだけど、ある意味加害者なんだよねぇ……。彼にも友達が出来て平穏な生活が訪れればいいんだけど……」

「先生ー」

「あれ?十六夜くん?次の子は?」

「生徒指導の先生が呼んでいますよ」

「……え?……ま、まさか……」

「いやーたまたま、生徒指導の先生がうちのクラスの様子を見たときに、オレの席にイタズラしようとしていたバカどもがいたらしいですわ」

「これ以上問題起こさないでよ!?」

「さぁ?運がなかっただけでしょ?」

「ただの被害者だったらそんな計画通りなんて顔しないんです!あぁもう!私の仕事が増えちゃう……!」

「頑張ってください。じゃ、事情聴取に行ってきまーす」

「そんなノリで行く被害者がいるか!このバケモノ問題児!って私も呼ばれているんでしょ!」

「いやーまさか本当にトラップに引っかかるバカが居るとは……」

「だから友達出来ないんでしょ!?普通はトラップを仕掛けてから席を離れないんだよ!用意周到か!だから怖がられているんだよ!だからバカ以外は誰も近づきたくないんだよ!というか、少しは成績優秀者らしく優等生みたいな振る舞いをしてみなさい!」

「では、今から頑張ります。優等生として、完璧な演技をしてみますよ」

「そういう意味じゃないんだよ!頼むから少しは反省して欲しいんだけど!?」

 

 十六夜はサッカーには本気を出す。だが、本気だからと言ってプロの選手を目指しているわけでもない。突き動かす原動力は……誰かに負けたくない。ただそれだけだった。

 それとは別に中学時代の十六夜は学校側が頭を抱える問題児であった。




過去編その1……次回はその2です。時系列では十六夜くんの中学時代までのお話です。次回は高1の時のお話です。
関係ないですが、後書きが1000字超えていますので興味なければスルーで。何なら前書きも余計な事書いてありますが……もう前書き後書きに関係ないこと書くの見逃して……!気分で書いているから……!


コーチ
 十六夜綾人に多大な影響を与えた人物その1。徹底した個人能力主義で来る者拒まず去る者追わずの男。勝負事に勝とうと思わない人間に興味は無く、勝つために足掻く人間には手を差し伸べる。チームで連携が出来なくとも、11人がそれぞれ個人として最強なら勝てるという考えを基に指導した人物。
 十六夜が小学校2年生になると同時に入り、5年間サッカーを教えた師。ちなみに、十六夜が卒業と同時に少年団を追い出されている。
 十六夜が高校生になっても直接・間接的に絡む人物である。


顧問
 十六夜の中学時代のサッカー部顧問で男の先生。勝利より楽しむこと、個人プレーよりチームプレーを信条としているため、前述のコーチとは対極に位置する存在。
 十六夜を唯一試合で出したのは、行き過ぎた個人プレーの考えを少しでも変えられると思ったから。点差も開き、自分たちより格上相手なら十六夜の個人プレーは通用しないと思っていたが、完全に見誤る。
 なお、あの試合を機に十六夜からは授業中であろうとも無視されるようになる。


担任
 十六夜の担任。若手の女の先生であり、1年生の頃から3年連続で彼の担任である。そのため、十六夜のことは教師陣の中では1番分かっており、十六夜自身も割と気を許している。
 あの試合を見に行っていたため、十六夜の暴走した状態を知っている。十六夜の家庭環境を見ても、彼自身が何故あそこまで歪な性格になったかは分かっていない。十六夜のことは護りたいと思っている……が、それはそれとして彼が事あるごとに問題を起こして胃が痛くなる。しかも、彼自身が被害者の皮を被った加害者であることを知っているので更に胃が痛くなる。
 何処までも十六夜の味方をして、陰で心配してくれた存在。高校生ではもう少し落ち着いて欲しいと切に願うが、十六夜の訃報を聞きショックを受ける。死亡理由を聞いて少しは変われたのかと思っている。


十六夜(いざよい)綾人(あやと)
 イナイレのとある人風に言うなら実験体かつ作品の1つ。反抗期と負けず嫌いと頭の良さと破壊衝動と悪ノリと諸々混ざった問題児であり、トラブルメーカー。協調性ゼロで担任の胃痛の種である。本人曰く、この頃はまだ青かった……若気の至りらしい。
 小学生の時にいた監督とチームの影響で、負けず嫌いな気持ちが強くなりすぎている。なお、小学校ではその面が強く出過ぎて、あらゆる勝負事では勝つまで戦い続ける、負けることを激しく嫌うようになる。
 中学ではサッカー部に入部するも、心の底から馴染めずにいた。敗北しても笑っているチームメイトの感情が一切理解できない、そもそもスタメンの基準が理解できない、周りが本気で練習に取り組まないなど、今までの環境との違いに困惑していた。困惑をしていたが、適応することなく、自分を貫いたことでチームからは浮いた存在になるが、特に何も思っていない。試合に出してもらえず、ベンチに居たがそのことに不満はなかった。理由は顧問の意向に合わない。だからと言って、合わせる気はなかった。唯一出場した試合の直後にサッカー部を退部する。退部した後も卒業まで自主練習を欠かさなかった。ちなみに、試合に出れないことに関しては特に何も思っていなかった。
 負けず嫌いな面は成長と共にある程度は抑制できるようになっている。勉強面ではそれを発揮し、学年一位。周りからは天才と言われ嫉妬の対象だが、本人は努力しないと出来ない凡人だと思っている。ちなみに、色んな嫉妬とかのせいで問題が起きているが全部返り討ちにしているため……



あの試合時点での十六夜くんがイナイレ世界に飛んでいたら、まぁ、やばかっただろうな……円堂くんが何とかしない限り、雷門サッカー部は早々に抜けてる可能性が高い。それに一部メンバーの好感度も低くなってる可能性があるってね。
ファイアードラゴン戦のアレは暴走に見えているだけで、本当の中学時代の暴走に比べたらまだ可愛いというね。次回は、十六夜を変えるもう1人が登場です。


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過去編 ~出会い~

スパイ教室のグレーテ編良かった……!特にラストが凄かった……!
ブルーロックの2期決定……!今から待ち遠しい……!
ライアー・ライアーの最新刊早く買って読みたい……!
以上、ここ一週間の感想です。
ちなみに作者、つい先日大学を卒業しました。春からは大学院で頑張っていきます。
では過去編その2をどうぞ。


 十六夜綾人を初めて見たのは中学時代のある日のことだった。

 

「ねぇ、あの人……ずっと1人でプレーしている……」

「凄く上手くない?あの人だけ次元が違うって言うか……」

 

 サッカーには興味が無かった。自分たちの学校のサッカー部が、何かの大会の予選があるとか言っていた気がするが、見に来るつもりはなかった。だから、応援しに来たとか見に来たとかではなく、ここには理由を付けて逃げて来たというのが正確な表現だ。

 

「あれ?このままだと……もしかして逆転される?」

「い、いやいや……え?本当に?」

 

 フィールドにはバケモノが居た。全てを蹂躙するバケモノが。サッカーは11人対11人のチーム戦だって認識だったけど……多分、21人対1人……あのバケモノの認識ではそうなのだろう。現に、誰からでもボールを奪いに行っているから……彼はきっと1人なんだろう。

 

「凄いなぁ……いいよね、ああいう天才は」

 

 きっと彼はサッカーに関して凄い才能があるんだろう。アニメの主人公みたいに天才的なセンスを持っている……きっと、たった1人でも試合を終わらせる力を持っているんだろう。

 

「十六夜!いい加減にしろ!味方に!パスを!出せ!」

 

 向こうの先生から怒声が飛んでくる。

 

「うっせぇ……うぜぇよ……」

 

 その言葉を無視した彼は、自分たちが応援している場所の近くを走って行く。……その表情は、声は、雰囲気はとても怖いもの。……怖くて恐くて冷たくて……でも、彼を見ていると、凄いって思ってしまう。

 

「何で……」

 

 何で彼は1人で戦えるんだろう?この場には……観客を含めて、きっと彼の味方は誰も居ない。彼を応援する者さえも居ない。たった独りで……でも、彼は戦い続けている。折れることなく、呑まれることなく、自分の衝動に任せ、自分の信念を貫こうとしている。

 気付けば彼のプレーに目を奪われていた。視線は彼を追っている。きっと、サッカーというスポーツで見れば彼の戦い方は間違いなんだろう。ただ、それでも……

 

「格好いい……」

 

 1人になっても戦い続ける。独りでも戦い続ける。誰も味方がいない。周りには敵しかいない孤独だったとしても……自分にはそんな強さがない。だから……憧れた。プレッシャーに、期待に押し潰されそうな弱い自分とは違う強者に憧れた。

 

「いざよい……」

 

 気付けば試合は終わっていた。結果は彼のチームの勝利でウチの学校のサッカー部の逆転負け。彼さえ居なければ……そういう声が聞こえてくる。

 なんとなく居心地が悪くて、その場を去った……そして、本来の居場所に戻ることにする。サッカーはよく分からないけど……全てを破壊し、変えた十六夜くん(バケモノ)は……

 

「……ボクもキミみたいになれるかな?」

 

 ……ボクにはとても格好良く見えたのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜は県内屈指の進学校に入学する。そして、部活は迷わずサッカー部に入部した。その頃には負けず嫌いな側面をある程度隠すようになっていた。負けず嫌いなところや、協調性のないところを隠し、学校生活を送るようになっていた。

 

「キミ、連携すること苦手でしょ?」

 

 高校1年生の4月……部活に正式に所属したばかりの頃。サッカー部のマネージャーにして、後に十六夜と付き合うことになる同級生が声を掛けてくる。

 

「能力のパラメーターはかなり高い。特に全体的なレベルがとても高く完成されていると言ってもいいね。このチームの他の選手と比べても、すぐにスタメンの座を余裕で奪える。……でも、致命的なまでにチームメイトと協力できてない。なるほどなるほど……」

「…………」

「調べたよ?十六夜綾人クン。キミは中学時代ほとんど試合に出られなかった。正確に言えば、1試合だけ出場し、圧倒的な実力でねじ伏せ、その後には退部している。ステータスはずば抜けているのに……それは、キミの性格が問題。とても負けず嫌いで……それでいて、協調性のないところが強すぎる。加えて、キミという選手を誰も扱いきれなかった。ふふん、こんな面白い人に会えるなんてね」

 

 彼女の目が輝く。が、十六夜は無視してボールを蹴る。

 

「ああ、邪魔しちゃってゴメンね。それに勝手に調べてゴメン。ボクのクセみたいなものなんだよ。ボクはついつい、相手を分析してしまう。気になる相手が居るとあらゆるデータを収集しそこから分析し、どういう人なのかを理解する……ああ、勘違いしないでくれよ?ボクの言う気になるは恋愛的な意味は無く、ただの興味みたいなものさ」

「…………」

 

 何だこの意味不明な女は……十六夜は思った。興が削がれた為、その後は練習を切り上げて帰ることにした。

 そして、次の日……

 

「おはよう、十六夜クン」

「おはよ……何でここに?ストーカー?」

「…………いや、同じクラスだからね?何なら初めての席替え以来ずっーと、キミの隣の席だよ?授業でペアワークも普通にやっていたよね?……まさかキミ。普段は愛想笑いと協調性の仮面を付けているだけで、ほんとは他人に興味ないんでしょ?それともボクの存在感がなさ過ぎたかな?」

「…………」

「あ、目逸らした。全く……もしかして高校生デビュー?如何にも優等生面してたけど、隣の席の人の名前と顔すら碌に覚えない、他人に興味なしのマイペースクソ野郎だった?」

「うるせぇ」

「とにかく、改めてよろしくね。あ、ボクの名前は分かっているよね?」

「…………」

「おーい、十六夜の綾人ク~ン?」

陽向(ひなた)神奈(かんな)

「そうそう。あ、神奈でいいよ」

「陽向って呼ぶわ」

「えぇー名前覚えた記念に名前で呼んでもいいのにー」

 

 この日から、十六夜は隣の席の人(陽向)とよく会話するようになった。

 

「へいへい、お兄さん。このデータを見て見てー」

「ああ……ってなんだコレ?」

「フッフッフッ……キミのスポーツテストの結果と普段の様子から、キミの能力値のパラメータをこのようにグラフにして、視覚化してみました!どやぁ!」

「暇なの?お前」

「暇じゃないよ!最近のボクの興味の対象はキミなんだ!」

「ごめんなさい」

「何故謝った!?まるでボクが告白して振られたみたいじゃないか!」

「……はぁ……でも、すげぇな。よく調べたな、コレ」

「でしょでしょ?」

「ああ……正直ドン引きする。というか、している」

「引かないで!?」

 

 意味不明な行動力。しかし、その分析力は認めざるを得なかった。

 

「……比較的フィジカル面が弱い……か。確かに、筋トレとかはそこまで積極的にしてないな……」

「そうそう。ボールコントロール、フェイントの技術、シュートの精度……とテクニック面は秀でているから、今はフィジカルトレーニングだね。ということで、キミのフィジカル面強化の為の練習メニューを作ってきました!どぉん!」

「暇なの?お前」

「う、うるさいうるさい!さぁ、コレ通りにやるんだ!適宜ボクが修正するからさ!」

「うるさいのはお前だっての……でもまぁ、やってやるよ。よし、行くぞ!」

「うん!……って授業あるからね!逸る気持ち抑えて抑えて!」

「…………」

「うわぁ……恥ずかしいね~気が乗って行こうとして、今がお昼休みってことを忘れるなんていひゃいいひゃいほほをひっぱりゃないえぇ~!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボク……陽向神奈は県内屈指の進学校に入学した。そして、そこで運命的な再会を果たす。

 

「十六夜綾人と言います。今日からよろしくお願いします」

 

 入学したその日……ボクはクラスメイトの中に彼の存在を見つけた。声をかけようと思った……でも、かけられなかった。ボクにとっては再会でも、彼にとっては初めまして。ボクにとっては格好良いと思った憧れでも、彼にとってはただのモブ。その差はあまりにも大きかった。

 

「この席か……ペアワークとかよろしくな。陽向さん」

「あ、ボクの方こそ……」

 

 入学して数日後……ボクらのクラスは席替えを行った。ボクは一番後ろの列で、窓際から2列目。隣……窓際で、一番後ろの席には十六夜クンが座った。でも、授業を見る限り……何というか、違和感を覚えた。あの時感じた彼の格好良さというか……荒々しさを一切感じなかった。普通……優しくて、他人を思いやれるような……そんな温かな存在に感じた。

 そして、ある日の放課後……ボクは部活を見て回って、気付けば遅い時間になっていた。入りたい部活はないけど、何かはやりたい……そんな曖昧な中途半端な感じで見て回っていた。

 

「そう言えば……」

 

 十六夜クンはやっぱりサッカー部だろうか?それとも、ボクみたいに辞めちゃったのかな?

 

「あー……」

 

 遠目から見ると、ライトで照らされたグラウンドには人の陰がないように感じた。……そりゃそうか。時間的に部活はもう終わっているし……しょうがないか。

 

 ザシュ

 

 グラウンドの方まで歩くと、何か音が聞こえた。慌てて近くのところに身を潜めると……

 

「まだ甘い……」

 

 十六夜クンが1人練習していた。もう誰も残っていないグラウンドでただ1人練習をしていた。

 しばらくの間、その様子を眺めていた。そして、そのまま彼は練習を終えると1人で帰っていってしまった。

 

「よし……」

 

 ボクは調べて、十六夜クンがサッカー部に入部したと分かると、ボクもマネージャーを志願し、入部することに決めた。そして、十六夜クンを調べた。サッカーについても学んだ。

 

「うん……今日こそ……!だ、大体、いつもクラスで話しかけているんだ。同じ感じで……」

 

 十六夜クンは部活の有無に関わらず、それどころか休日でさえサッカーをしている。そして、部活のある日は決まって最後まで残って自主練を欠かさない。先輩たちや同級生は彼と一緒に残って……って言うことはしない。ここは進学校だし、塾とかなんとかで忙しいみたいだ。だから……自然と2人きりになれる。

 覚悟を決めて話しかけた。

 

「キミ、連携すること苦手でしょ?」

 

 彼は無言だった。クラスで話すときの温かい雰囲気ではなく、どことなく冷たい空気。そのまま、ボクの話を終えると、無言でその場を去ってしまう。

 

「……あう……失敗したかな?だ、第一気になる人が居るとついつい調べたくなるって設定いるかな?十六夜クン以外碌に調べたことないけど……それに最後の恋愛感情がないとか格好付けて言ったけど……必要だったかな?えっと……」

 

 これは俗に言う……失敗というヤツでは?うぅ……とりあえず、明日も学校あるし……明日学校で話しかけて、そこから何とかしよう……

 そんな決意を固めた翌日。

 

「おはよう、十六夜クン」

「おはよ……何でここに?ストーカー?」

「…………」

 

 この野郎。さては、猫被っていやがったな。

 話を終えると……うん。十六夜クンはボクに対して、猫を被る気はないらしい。昨日までの温かい感じは消えて、本来の感じに戻る。ボク的にはこっちの方が嫌な感じがしないからいいかな。何というか……本音で接してくれる感じがしていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜クン。ボクは分かったよ」

「何を?」

「キミは受けだ」

「…………」

「え?何で頭を抱えているの?もしかして体調悪くなった……?えっと、保健室行く?連れて行こっか?」

「……寝るわ」

「寝ないでよー!真面目な話なんだから!」

「分かった分かった。真面目じゃなくなった瞬間寝る」

「うわぁー会話する気ゼロだぁ……何かボクだけ塩対応な気がするな。他の子と話す時のテンション違うじゃん」

「別に、陽向サン相手ならこんな感じでいいだろ」

「ふむふむ。ボクには素で接する……そして素が冷たい……はっ!もしかしてツンデレかい?」

「寝るわ。5限始まったら起こしてくれ」

「寝ないでよー!耳元で念仏流すぞこらぁ!」

「なんて脅しだよ……分かったよ。次やったらトイレに逃げる」

「な、なんてことを……!ボクが手出し出来ない最強の領域に……!じゃあ、手を繋いで逃げられなくしてあげる!」

「お前……そんなに男子トイレに入りたいのか?変態か?」

「違うからね!?」

「で?結局何の話だ?」

「コホン。キミのプレーを分析して分かったんだよ。キミは能動的なプレーが少ないんだ!」

「…………?」

 

 ドォン!と言った効果音が鳴りそうな感じで告げる陽向。しかし、十六夜の頭には疑問符が浮かんでいた。

 

「例えばドリブルをする時、キミは相手の出だしを見てから行動を決める。確かに、後出しじゃんけんみたいで強いけど、キミから仕掛けることは少ない」

「…………自覚なかったな」

「キミのドリブルは相手の動きを見て、その隙を突くように動いている。カウンター型とも言え強い武器だ……けど、キミはそれしかやっていない。そんな受動的な相手依存のドリブルしかやっていない。手札が多いのに、自分から先行で手札を切ることがないんだよ」

「相手の動き出しがないと動けないって知られれば、相手が動かず時間稼ぎに徹した場合に弱くなる……か」

「特に顕著なのはブロックする時!キミは相手の動き出しを見てからしか動かない。それだとワンテンポ反応が遅くなって、相手が上手いとその隙を突かれてしまう……まぁ、その隙を突ける人が身の回りに少ないんだけどね」

「……ふむ……」

「真面目な顔になったね。フッフッフッ……ボクの話にしっかり理解を示してくれているんだね。ボクは嬉しいよ」

 

 悔しいが彼女の分析は十六夜自身も認めている。彼女の分析が外れたことはない。

 彼女は天才……自分とも周りとも違う、分析力に秀でた天才だ。もし、彼女の身体能力が高ければ、恐らく自分は負けるだろう……彼女が自身の分析を実践出来るだけの身体を持ち合わせていれば、きっと自分は勝てない。十六夜にとっては明確に勝てないことが理解できる相手で、それでも敵として戦ってみたいと思わせる相手で……そんな妄想が現実にならないって分かっている相手だった。

 

「だが、どうするんだ?ブロックする時なんて、相手の動き出しを見てから動くのが普通だろ?」

「はぁーキミの考えは砂糖より甘い。やれやれ、これ以上甘いとブラックコーヒーが欲しくなるよ」

「よし、今から買ってくるから絶対飲めよ?」

「冗談だって!ボク、ブラックじゃ飲めないよ!」

「そう言われたらますます飲ませたくな……分かった分かった。買わねぇから泣きそうな顔で袖を掴むな。安心しろって……でも、考えが甘いか……ふむ」

「はぁーやれやれ、キミのちっぽけな脳みそじゃそれくらいしか出て来ないか」

「相変わらず表情と感情がころころ変わるヤツだな……じゃあ、天才さんはどうお考えで?」

「簡単だよ。先を読めばいいんでしょ?」

「…………」

「相手の行動を読む。未来を見ればいいんじゃないの?」

 

 その言葉を聞いて、十六夜は立ち上がった。そして、

 

「トイレ行くか」

「ストップ!」

 

 一歩歩き出そうとして止められた。

 彼女は天才故に凡人の思考を理解できないらしい。天才的な頭脳を持つ彼女は、その秀でた分析力から相手の次の行動をほぼ100%の精度で一瞬で当てることが出来るのだろう。しかし、それは天才だから出来ること。凡人には到底不可能で、サッカーという瞬間瞬間でフィールドの状況が変わるようなスポーツでは、少なくとも凡人には無理な芸当だ。

 

「先読みって言うけどさ……言うほど簡単じゃねぇんだよ」

「やれやれ……でも、精度をあげることは出来るんだよ!」

「どうやって?」

「そこでカギになるのが分析力です!」

「お前の得意分野じゃねぇか」

「そうそう、ボクの分析力をキミが身に着ければ解決だよ。だから、キミにボクの分析力を授けようって面倒くさがるな協調性ゼロ!ほら、強くなるためだよ。キミの能力を最大限発揮するためには、ボクの分析力が必要なのさ!コホン。さぁ、ボクの分析力をキミに授けトイレ行こうとすんなぁ!折角転生物主人公が神様から能力を授かるシーンをやろうとって無視すんなこのばかぁ!」

 

 凡人に何を期待しているのか分からない。……ただ……

 

「ばーか!ばーか!ばーか!」

「腕にしがみつきながらバカバカ連呼するな……分かったよ。そこまで言うならやってやる」

 

 素直に引き受けるのは負けた気がする。だから、折れてやった……

 

「ふふん。素直に教えてくださいって言えば可愛げがあるって無視すんなこらぁ!」

 

 って言う思考をどうせ読まれているが、癪なので認めたくはない。だが、分析力……か。今のオレにないもの……もし、身につけられれば変われるんだろうか。……ただ……

 

「見える……見えるよ……!ボクの分析力の素晴らしさに気付いて、ボクを崇め称えるキミの姿が……!」

「ハハーヒナタサマー」

「うむうむ。苦しゅうないぞよ。では、特訓を始めようじゃないか」

「もう昼休み終わるぞ」

「うぇ!?」

 

 こんな風に変わりたくはない……そう思ってしまうのはどうしようもないんだろう。




その3以降もやりますが、次回は通常回に戻ります。というか過去編ガチでやり出したら止まらなさそうなので、本編に戻り、時折挟む予定です。


陽向(ひなた)神奈(かんな)(天才彼女)
 十六夜綾人に多大な影響を与えた人物その2。頭脳明晰でテストでは学年トップ。好きな動物はペンギン。趣味は読書とチェスで特技は分析。その分析力はFFI韓国戦時点の十六夜を凌駕している。
 身体能力は平均以下で、運動全般が苦手。サッカーやスポーツに関しては、高校から勉強し始めた。
 中学時代に十六夜のサッカーを見て惹かれた。十六夜はサッカーの天才だと思っていたが、高校で出会い認識を改めている。また、あの試合以降、度々サッカー部の試合を見に行くも、十六夜の姿は見つけられなかった。半ば再会を諦めていたが、進学と同時に同じクラスになった。
 一目惚れであるが、本人が恋愛感情に気付くのはまだ先の話。


十六夜(いざよい)綾人(あやと)自称凡人(バケモノ)
 隣の席の女子(陽向)をストーカー呼ばわりした最低男。Sっ気がある。
 日常生活では真面目な学生を演じているが、実際は興味のないことは一切記憶に残っていない。演じている理由は、中学時代の時みたいにカウンターで潰すことに飽きたからとそもそも構う時間が無駄だと感じたから。
 高校進学と同時にサッカー部の門を叩き、練習を欠かさない。
 陽向のことはテンションの上下が凄まじい天才だと思っている。雑にあしらっているように見えるが、実際は本音で接しているだけ。気を許し、信用しているが、彼女が何故ここまで自分に関わっているのかはよく分かっていない。

 イナズマイレブンの世界では必殺技や身体能力お化けしかいないという前世ではあり得ない、勝ち負けを超えた存在たちと、とある理由で、この頃の自分が封印された状態だったが、徐々に慣れてしまった為……


 いくつか解説(?)と謎?
1. 前話で十六夜くんがサッカー部を潰した(停部に追いやった)ことでやべぇって話ですが、十六夜くんは積極的に潰してたわけではないです。あくまでカウンター……自分に害をなす相手を返り討ちにしただけです。相手側が少しエスカレートしたために、自滅した際のダメージが大きくなったって話ですね。
 まぁ、周りからすれば、勉強が出来る天才で、サッカーも超上手い天才。中学生だから嫉妬がいじめに繋がりそうになったが、選んだ相手が悪すぎた。十六夜自身もサッカーで挑んでくるならまだしも、そういう形で来ることにはむかついたって感じです。

2. この作品の初期の時点で疑問に思った人も居るであろう『コイツ、プロの試合見てないの?必殺技出てきてるでしょ?何でそんなに驚いているの?』って疑問ですが、十六夜は前世からそんなにプロの試合に興味が無いです。というのも、十六夜は憧れている選手やチームも居なくて、将来サッカー選手になりたいと考えていないので、そんなにプロの世界に興味が無いです。サッカーをやっている人が絶対にプロ等の試合を見るか?と言われたらそうじゃない例です。
 また、仮に見たとしてもあり得ないもの。イメージとしては、自分たちが『少林サッカー』っていう映画のサッカーを見て、あれは現実的にあり得ない映画って認識しているのと同じ感じです。『少林サッカー』っていう映画が分からない人は調べてもらうとイメージがつきます。
 だから、超次元サッカーに一切耐性の無い人間がいきなり目の前であり得ない光景を見て……って感じです。

3. 『何故、十六夜はDFというポジションに拘っているのか』これはイナイレ世界でのFFI終了時点及び高校入学時点での十六夜綾人がDFをやっている・やりたい理由はいずれ分かります。
 ただ、高校在学中に自身がDFをやっている・やりたいことについて変化(?)が訪れます。詳しいことは過去編の3以降で。

4. 十六夜の才能について。随時、書いてもらった予想や意見を見させてもらっていますが、しっかり過去編中で答えは明らかにしますのでご心配なく。一応、FF編から才能の片鱗を思わせる描写は何度か入っています。


 その他にも過去編では取り上げることは色々ありますが……何かあれば感想か活動報告にお願いします。こうして後書きに書くこともあるかも?


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実験と推測と連行と

過去編2話挟んでの本編……回収していないものを拾っていきます。
ちなみにナイツオブクイーン戦は早くてGW明けくらいかも?


 そんなこんなで3週間くらいのリハビリ、療養生活を終え、遂に運動が解禁された。そんな昼……

 

「次、10本目」

「へーい」

 

 ピー!

 

 ペンギンを呼び出して足に喰い付かせる。

 

「皇帝ペンギン1号!」

 

 真紅に染まったペンギンたちがボールとともに無人のゴールへと突き進んでいく。

 

「十六夜、身体に異常は?」

「一切ないな」

「これでいいんじゃないか?鬼道クン」

「ああ。間違いないだろうな」

 

 ボールを取りに行っていると、不動と鬼道が後ろで話している。

 

「試合中で気付かなかったわけではない。十六夜は皇帝ペンギン1号を放っても、一切身体に負担が掛からないことがこれで確定した」

「常人なら1本ですらキツく、3本撃とうものならサッカー人生を左右され病院行きだが、コイツは10本撃っても何ともない……影山もビックリだろうよ。禁断の必殺技をポンポン撃つヤツが居るなんてな」

「想定されていない……イレギュラーだろうな」

「間違いねぇ。イレギュラーと言うべきか……人間とは思えない、バケモノとでも言うべきか」

「バケモノとはひでぇなおい……これでも歴とした人間だと自負しているんだが……まぁいいや。で?結局この技は試合中に使っても問題ないのか?」

「ああ、大丈夫だ」

実験(テスト)に付き合わせて悪かったな、十六夜」

「まぁ、アッキーの頼みなら聞いてやらんこともない」

「……ちょっと待てクソペンギン。今、俺のことなんて呼んだ?」

「え?アッキー……ん?アッキーこそ今なんて呼んだ?」

「……おいクソペンギン。その呼び方はやめろ。つぅか、誰に聞いた!」

「すげぇ……よく聞いたって分かったな。えっと、この前、豪炎寺に勧められて行った、髪切るところの人。イナズマジャパンの試合を見てたって話から発展して……」

「豪炎寺だと……!?アイツも同じところに……いや、待て。俺の方が後に行ったってことか……!?」

「どうしたアッキー?」

「アッキーやめろ!」

「えぇーいいじゃん、アッキーで」

 

 と、不動が急にオレの胸当たりにパスを出した。

 

「ん?どうし……」

「ジャッジスルー2!」

「あーね。ボス」

 

 不動がボールを蹴るより速く、オレは後ろに下がり代わりにボスがボールを受ける。

 

『盾にするな』

「ちょっ!?」

「まぁまぁ、アッキーの気が済むまで付き合ってやってくれ」

「はぁ……お前たちなぁ……」

 

 ボスのお腹にボール越しに蹴りを加え続けるもビクともしない。ジャッジスルー2……って2?2って見たことあったっけ?2がどんな技か忘れたような知らないような……とにかく、しばらくすると不動は諦めたようだ。

 

「ケッ、もう知らねぇ」

「ヘイ、鬼道。アッキー呼びが公認されたぜ」

「認めてねぇよ!次は絶対ぶっ殺す!」

 

 そう言って立ち去っていくアッキー……もとい不動。やれやれ、そんなにいらついてもいいことないのに。

 

「お前なぁ……まぁ、いいか」

「お前の諦めるスピード上がってね?」

「もうどうしようもないって悟ったからな」

「ひでぇ」

「おーい!十六夜!」

 

 と、そこに現れたのは円堂と豪炎寺だった。

 

「おーどうした?円堂」

「俺にシュートを打ってくれ!」

「はぁ?……って何かこの流れ前にもあったな。既視感(デジャヴ)か?」

「お前のオーバーサイクロンPを止められるか試してみたい!」

 

 ということで円堂がゴールまで走っていって構える。いや、もう撃つこと確定かよ。誰も承諾してねぇぞ?

 

「よし来い!」

「たく……分かったよ」

 

 こっちもシュートを撃つために場所を移動する。そして……

 

「オーバーサイクロンP!」

 

 現時点でオレの放てる最強のシュートを放つ。

 

「いかりのてっつい!」

 

 一方の円堂は、この前の試合で習得した必殺技で対抗する。ボールを地面に叩きつけ止めようとする……が、

 

「うわああああああっ!」

 

 シュートによって生み出された風が円堂を吹き飛ばし、ゴールへと押し込んだ。

 

「今のイナズマジャパンで最強の必殺シュートだな、鬼道」

「ああ。現時点でこの必殺シュートを越えるものはない。だが……」

「世界一になるためには、この技を越える必要があるか……面白い」

「フッ、ストライカーとしての血が騒ぐってところか?」

「そんなところだ」

「おーい、円堂ー大丈夫かー?」

 

 円堂は立ち上がると、こちらへやって来る。

 

「すっげぇ必殺技だよな十六夜!俺のいかりのてっついでも止められなかった……くぅ!やっぱりすげぇよ!お前はさ!」

「ははっ、まだまだ満足してねぇよ」

「むしろ、その意気じゃないと困る」

「オレはもっと強くなる。モタモタしていると置いていくぞ、お前ら」

「フッ、すぐに追いついてやるさ」

「ああ!ってそうだった、お前に聞きたいことがあったんだよ」

「ん?」

 

 ということで、円堂について行って宿舎のヤツの部屋へと入っていく。豪炎寺、鬼道も一緒だ。

 

「コレなんだけどさ……」

「うわぁ……なんだコレ?暗号か?」

「お前も見覚えがあるはずだぞ、この字はな」

「この字って……ああ!この汚くて読めねぇヤバさの次元が違う字は円堂のノートの字か!」

「正確には、円堂のお爺さんの字だな」

「はぁ……で?これがどうした?」

「頂上で待っている……そう書かれたこの手紙が韓国戦の数日前に送られて来たんだ」

「……ちょっと待て。円堂、お前の爺さんは……」

「ああ、昔に亡くなっている……」

 

 死者からの手紙……?そんな非現実的なこと……この世界だとあっても不思議じゃないのか?いや、周りの反応的に流石にあり得ない……のか?自信を持って断言できないんだけど……とりあえずあり得ない体で進めるか。

 

「一応、お前以外は全員知っている。手紙が届いたタイミングで居たからな」

「……え?オレだけハブられた?」

「お前だけ個人練習だったからだろ」

「はぁ……で?お前らの見解は?」

「頂上……FFIのって考えると、何処かの国のチームが関わっている可能性がある。しかも、この字は紛れもなく円堂大介の字だろう」

「まぁ、こんな字を真似するなんてほぼ無理だし、メリットがねぇ……」

「ただ、当の本人が昔に亡くなっている以上、そんなことはないはずだ」

「なるほどねぇ。絶対にあり得ない結論に至ったせいで、困惑中と……」

 

 思ったが、円堂の不調の原因ってこの手紙もなのか?おいおい……

 

「それでお前ならって……」

「悪いがさっぱりだ。ただ、この字は円堂大介の字で間違いないんだろ?」

「ああ……何度も見てきたんだ。間違いないと思う」

「だったら、可能性として挙げられるのは円堂大介が本当は生きていたってパターンだな」

「でも!……でも、それだったら、何で爺ちゃんは連絡一つなかったんだ?」

「表面上は死んだ人間だからじゃないのか?」

「なるほど。円堂大介は確かに死んだとされているな」

「ああ、それは間違いない」

「生きていたら誰かにとって都合の悪い存在……だから、死んだってことにしている。そして、そうしている以上、家族でさえ生存していることを伝えられなかった……まぁ、オレの想像だけどな。そういう系の事件を昔に見たことがあるだけだ」

「昔って……お前、いくつだよ」

「オレにとってはお前らとFF(フットボールフロンティア)で優勝したことすら昔に感じるんだよ。悪いか」

「まぁ、あれからエイリア学園との激闘をする中、お前はスパイ活動。そこから3カ月の間、俺たちは各々学園生活を送りながらサッカーをやっていて、お前は留学。FFIの予選で世界を相手に力を合わせようとする中、お前はずっと独りで挙げ句暴走状態に陥ることに。そして、決勝戦から3週間近く、俺たちは各々のレベルアップと本戦に向けて特訓を重ねる中、お前は療養とリハビリで……」

「……何かオレだけやってること違くね?」

「バカだからだろ」

「オイコラ」

「ただ、昔に感じるには十分濃いな」

 

 危ねぇ……思い切り前世でそういう事件が題材の推理モノを見たって意味だったが、上手くごまかせたな。

 

「と言ってもこれだけじゃ真実は分からねぇ。この手紙に何かしらの意味があるならFFIで優勝すれば分かるんじゃないか?もちろん、これが誰かの仕組んだ罠だったとしても、何かは分かるはずだ」

「そっか……そうだよな!FFIで勝ち進めばこの手紙の意味も分かるんだ!」

 

 そう言うと何処か吹っ切れた顔をする円堂。

 

「よぉし、この勢いでFFIを優勝しようぜ!」

「そのつもりだ」

「ああ」

「もちろん」

「よし、今から特訓だぁ!行くぞぉ!」

 

 そして部屋を飛び出す円堂。

 

「全く……というか、お前ら知ってたのかよ」

「寧ろ、お前が知らなさ過ぎだ」

「本当にな。この感じだと、飛鷹のアレも知らないんじゃないか?」

「アレって何だよ」

「俺たちも行くぞ」

「だな」

「ちょっ、おいって。え?おい何かあったのかよ!まさか、お前らのバスが遅れた時に何か……って鬼道!お前、気にしなくていい的なこと言ってなかったか!?というか、豪炎寺!お前も結局何があったんだよ!」

「「もう終わったことだ」」

「お前ら隠し事多くねぇか!?」

「「お前には一番言われたくない」」

「オレたちチームじゃなかったのかよ!?……ってよく考えるとこの台詞をオレが言うと物凄い違和感で吐きそうに……って置いてくなよ!おいぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、八神」

「どうした?」

「どこに向かってるんだ?」

「内緒だ」

「…………」

 

 円堂の手紙の件を教えてもらった次の日……八神に連れられて何処かに向かっていた。

 

『まぁ、治ったと言ってもまだ無理は出来ないからね。世界大会まではペースを落とすんだよ?』

「……前向きに善処する方向で検討したいかと思います」

『うわぁ……絶対ペース落とさないなぁ……』

 

 頭の上に乗ってるペラーがそう言う。まぁ、無理はしないようにしますか。……と言っても昨日は常人なら身体を壊す技を何回も撃ったんですけどね。

 

「そこのところをどうか……教えては頂けませんか?」

「秘密……というか言ってなかったか?」

「言ってないです。言ってないからあなたはもったいぶっているのでは?」

「それもそうか。姉さん……ネオジャパンのところだ」

「はい?」

 

 一体どういうことだろう……新たな疑問を抱きながら、八神に連れて行かれるのだった。




次回、連行された十六夜の行く先では何が……?


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再会と進化と秘密と

スパイ教室アニメ2期……!これは今から7月が待ち遠しい……!
英語が得意な人が羨ましい……そんなことを思う今日この頃です。

Q. 何故1話に纏めたんですか?
A. どんどん長くなったんです……


「来たわね、十六夜くん」

「来たんではなく、連れてこられたんですが……」

 

 何処かのグラウンドにて、瞳子監督のもとで練習を重ねるネオジャパンの面々のところに連れて来られた。

 

「八神、用件は聞いてるのか?」

「いいや、何も」

 

 連れて来た張本人である八神もよく分かってないそうで……一体どういう用件だろうか?

 

「全員集合」

 

 監督の掛け声で集まる選手たち……よく見ると……

 

「あれ?お前らも?こんなところでどうした?」

「どうした?はねぇだろ、みたいな」

「じゃ、久し振り。元気だった?」

「そうじゃねぇよ!みたいな!」

 

 武方の青色と目金の弟とシャドウの3人もそこには居た。ネオジャパンの選手16人に加え、彼ら3人……計19人がそこにはいたが……

 

「……で?どうしたんだよお前ら」

「ここは僕から説明しましょう。我々3人は瞳子監督から、ネオジャパン戦の後にこのチームにスカウトされたんです」

「ほう」

「……何だか既視感(デジャヴ)を感じるやり取りだな」

「ほんとにな」

 

 佐久間と染岡が居ないが……なんとも懐かしさを感じるやり取りだな。

 

「そこからは私が説明します。本戦でも代表入れ替え制度は存在しています。ここから世界大会本戦……イナズマジャパンの戦いはますます激しく、そして厳しいものになるでしょう」

「そうですね」

「私たちはお前たちに……いや、正確にはお前を除くイナズマジャパンのメンバーに試合を申し込んで負けた」

 

 ファイアードラゴン戦の前の出来事……イナズマジャパンとネオジャパンの代表を賭けた一戦で……まぁ、オレは終始ベンチだったんだが、多少は関わったので記憶にも残っている。

 

「ま、まさか……リベンジを……?」

「私たちもそこまで愚かじゃない。何度も何度も挑んで、お前たちの貴重な時間を奪うつもりはない。時間を奪い、それで日本代表が負けるようなことに繋がれば本末転倒だ」

「なるほど」

 

 彼らも確かに自分たちが世界の舞台で戦いたいという気持ちはあるのだろう。だが、日本代表に勝って欲しい気持ちもある。自分たちが戦いたいという気持ちが、日本代表の邪魔になってしまうわけにはいかない……と。

 

「私たちはあの敗北から更に自分たちを磨き上げた。先のアジア予選の決勝戦は全員で見させてもらった。十六夜をキーパーで起用する、円堂をベンチに置くという大胆な策にはじまり……」

 

 オサームが韓国戦で感じた熱い思いをぶつけてくる。時にはダメ出しを、時には良い点を言ってくれるが……如何せん長い。せめて、こういうのはもっと纏めてから言ってくれ?

 

「……あのオーバーサイクロンPには私の心を震わせ……」

「ごめん、そろそろ話進めてくれない?」

「す、すまない……つい熱くなっていたようだ」

 

 ……むしろ10分以上黙って聞いていたのを褒めて欲しい。

 

「とりあえず、日本代表の座を、チーム単位ではなく個人として狙っているメンバーが集まっている認識で大丈夫?」

「そう思ってもらって構いません。ファイアードラゴン戦で怪我をした選手たちの代わりに、久遠監督から招集を受けた染岡くんと佐久間くんもつい先日まで一緒に鍛えていましたからね」

 

 つい先日、代表交代を行うことが告げられたらしい。交代したのは吹雪と緑川……特に吹雪は怪我が治ることがなく、ここで離脱する形になったのだ。2人の代わりに入ると紹介されたのは染岡と佐久間。彼らの努力はデザートライオン戦の前も知っているが……なるほど。このメンバーの中で鍛えられたのならあの時から更にパワーアップしているだろう。そして、その努力が報われた形になる。まだ直接会っていないため、その実力が分からないが……今から楽しみだ。

 ちなみにオレ自身は監督が代表交代を発表する場には直接は居なくて、病院に居た。なんとなくだが、そこで治ってないと言われたらオレもこいつらの誰かと入れ替わっていたのだろう。

 

「で?用件は?合同練習……にしてはイナズマジャパンのメンバーがオレしか居ないんだが」

「久遠監督には十六夜くんのリハビリを兼ねてちょうど良いのでは?という結論になっています。……一番は、ここに居るメンバーの強化です。あなたは全ポジションを熟せ、日本でトップレベルの実力を持っていますので」

「……なるほど。要するに……お前らの特訓相手として、リハビリを兼ねて一緒に鍛えろってことか。いいな、おい。さっそくやろうぜ、砂木沼」

「話が早くて助かるわ。まずは軽くミニゲーム形式で行きましょう」

 

 ということでメンバー発表……うんまぁ、

 

「……知ってた。ネオジャパンのスタメンとその他って構図になることくらい」

「その他って言うんじゃねぇ!みたいな!」

「ごめんごめん」

 

 イナズマジャパンと戦った時の11人と残り……人数差はあるけど気にならない程か。

 

「悪いけど、最初のボールもらうわ。今出せる本気出してみる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーバーサイクロンP!」

『真無限の壁!』

 

 十六夜のシュートと無限の壁が激突する……が、抵抗する壁は呆気なく砕け散り、ボールがゴールへと突き刺さった。

 

「イナズマジャパンとの代表戦……彼が居なくて本当によかったわ」

「姉さん……練習になってるか?コレ」

 

 思わず姉さんに聞いてしまう。誰がどう見ても虐殺……それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 

「いいのよ玲名。ネオジャパンの……いいえ、日本代表の座を狙っている彼らに、日本最強格の選手のレベルと自分たちとの実力差を感じさせることが目的だもの」

 

 そう言われて改めて他の19人を見る……が、その実力差に絶望はしていない。初めから分かっていた……だが、諦めもない。必死に喰らいつこうとしている。

 

「たった1人でネオジャパンのディフェンスを突破し、敢えて無限の壁を撃たせるように時間を稼ぎ、その上で叩き潰している。十六夜くんも徐々に分かっているようね……これは正式な試合じゃないからこそ、彼も本気を出しつつ、手を抜いてくれている」

「矛盾しているように聞こえるけど……手を抜くというか、先んじて潰すんじゃなくて、全部引き出させた上で潰しているから……こっちの方が堪えるんじゃ……?」

 

 その気になれば、パスカットも出来るだろうし、相手のキックオフと同時に詰めて終わりだろう。ドリブルも最初の1回こそ1人でキーパー含む11人抜きをやってのけたが、その後は味方を使うようになっている。1人で制圧できるのにそうしない。相手の取る未来が見えているのに、未来を潰さないどころかその行動を引き出している。……まぁ、引き出した上で潰しているんだが。……悪魔かアイツは。

 

「……あと、あのバカ最初に『大体7割くらいか……調子取り戻さないとな』とか呟いていたし」

 

 3週間の療養生活は流石に堪えたらしい。一応、サッカーボールは毎日触れていたが、それでもやれることには限りがあった。まぁ、7割でアレなら10割出すことが出来ていたならもっと悲惨だったんだろうな。というかそもそも……

 

「ネオジャパンのメンバーの使用する必殺技の特徴は、有用な他者の必殺技を使えるようにすること。……でも、それは十六夜には通用しない。一度分析した必殺技はヤツには通用しない」

「えぇ、知ってるわ。……だからこそ、彼らには進化が求められる」

 

 そう言って改めて見ると、必殺技を使いながら何かを試行錯誤している。きっと、十六夜に通用させる……一矢報いるために何かをやっているのだろう。

 

「行くぞ、十六夜!コレを止めてみろ!」

 

 と、そんな中で十六夜にシュートを放つようだ。……いや、それだけ聞くとアレだが、きっとディフェンダーである十六夜にブロックできるかと試そうとしているのだろう。……そうだと信じたい。

 

『トライアングルZ!』

 

 砂木沼たちがトライアングルZを放つ……が、今まで見てきたものとモーションが異なる。具体的には3人が同時に上空へと蹴り出して……ゴールとは全然違うところへと向かっていく。ボールの軌道にはトライアングルがいくつも出来ているが……

 

「ファイアトルネード!」

 

 そのボールの軌道上に出来たトライアングルの中を、ファイアトルネードをしながら駆け上がっていく改という選手。トライアングルは炎に包まれ巨大な炎の渦が生まれる。

 

「ミサイルペンギンV2!」

 

 それに向けて十六夜はミサイルペンギンを放つ……が、

 

「……っ!」

 

 そのシュートの軌道はまるで読めない……何だあの軌道……!?

 

「どうだ十六夜!見たか!」

 

 読めない軌道……十六夜の読みを超えたソレは、ペンギンたちで迎撃することが出来ず、そのままゴールへと突き刺さった……

 

「なるほど……一直線じゃなくて、複雑な軌道を経てゴールへと辿り着くシュートか……。しかも、分析しても次も同じ軌道で来るとは限らない……シュートブロックが実質出来ない一撃か……。既存の必殺技を組み合わせて面白いものを作ったな……おい」

 

 十六夜が笑みを浮かべた。きっと、自分の想像を超える面白いものを見られたからだろう。必殺技を破ることだけが正しいわけではない。必殺技を出させない、当てさせないことに重きを置くシュート……か。

 

「お前たちばかりズルい、みたいな!俺たちだって十六夜の度肝を抜く新必殺技があるっての!」

「……ああ」

「何だか面白そうだな……監督。見てみたいんですけど、いいですか?」

「好きにしなさい」

 

 気付けば、十六夜がゴール前に立ってシュートを受ける感じに変わっていた。いいのかっと思ったが、さっきの練習形式だと彼らの成長を見ることは難しかったからいいか。

 

「十六夜!お前からゴールを奪ってやる!みたいな!」

「こいよ、武方勝。見せてみろ」

 

 そう言うと体を捩じり、その反動を利用して体を捻りながらボールと共にジャンプする武方。ある程度上空に出たらボールより上に跳び上がり……

 

「爆裂ジャイロ!」

 

 捻りの回転を維持したまま伸身宙返りも織り交ぜて踵落としでボールを打ち出す。バックトルネードを進化させた……というのか?

 

「いいね……ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 いつの間にかキーパーグロ-ブをつけていた十六夜の必殺技が発動する……

 

「……なんて回転だおい……正直、驚きが隠せねぇ」

 

 僅かにだが十六夜は押し込まれたのだろう。見ると、十六夜の足下は抉れていた。

 

「くっそぉ!アフロディが破れたその技を破れなかった!みたいな!」

「いや……充分だろ。感触的に豪炎寺の爆熱スクリューと同等か?」

「次だ次!シャドウ!お前の技を見せてやれ!みたいな!」

「……おう」

 

 ボールはシャドウの下へ行く。すると、ボールと共にジャンプして最高地点に到達した。その後は、彼の必殺技であったダークトルネードと同じように体を捻り、回転しながらボールと一緒に落ちていく。中間地点に到達したところで闇のオーラがシャドウとボールを球状に覆った。

 

「アビスフォール!」

 

 その球状のオーラからゴールへと向かう一筋の闇……ダークトルネードを進化させたってことなのだろう。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!」

 

 それを正面から受け止める十六夜……先ほどと同じく、少し押し込まれたところで止められた。

 

「……お前もすげぇな……おい。なんて新必殺技だよ」

「……まだまだだ」

「よっしゃシャドウ!あの技をやって十六夜を真正面からゴールを奪うぞ!みたいな!」

「……分かった」

 

 今度は2人で撃つつもりなのだろうか?ボールを蹴り上げると、シャドウがダークトルネードを、武方がバックトルネードをするために、そのまま上空へと跳んでいく。

 

『トルネード・デュオ!』

 

 2人が同時にそれぞれの必殺技をボールにぶつける。タイミングは完璧……息の合ったシュートだ。そして、黒と青の炎を猛々しく噴き出しながらゴールへと向かう。

 

「ペンギン・ザ・ハンド!……っ!?」

 

 十六夜の必殺技とシュートがぶつかる。ぶつかった瞬間に十六夜は苦悶の表情を浮かべ、左手で支えることにした。

 

「……マジか……何て勢いだよ」

 

 そのまま十六夜の必殺技を破り、ゴールへと突き刺さった。

 

「どうだ!これが俺たちの必殺技だ!」

「すげぇなおい。2人の息が完璧に合っていないと出来ない技だろ」

「……これが特訓の成果だ。俺たちの世界へ通用させる一撃だ」

「いいなおい……マジで最高だよ、お前ら」

「め、珍しく素直に褒めてる……みたいな」

「……フッ」

 

 デザートライオン戦の前の合宿……あの時よりも確実に進化している。十六夜に褒められて、何処か照れ臭い表情を浮かべる武方とシャドウ。

 

「そこまで。一回休憩を挟みます」

 

 と、姉さんの声で選手たちの一部が休憩に入る。……これが選ばれなかった者の力……きっと、一緒にやってきた染岡と佐久間が評価されたことで腐らず、更なる熱が入ったのだろう。イナズマジャパンのメンバーも熱が入っていたが……

 

「凄まじいな……」

 

 今はまだ十六夜が最強だろうが、もしかしたらこの中にコイツを追い抜く存在が現れる……そんな予感を感じさせる熱だ。そして、それはアイツ自身も感じている……韓国戦前の冷めた様子は既に消えて、アイツの中にも炎が灯っている。

 

「ならば、私も……」

 

 今はこの熱に身を委ねてみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜、ちょっといいか?」

「どうした?源田」

 

 休憩……と言われたのに、ネオジャパンのメンバーのほとんどは練習を続けている。さっきの手合わせで思うところがあったのだろうか、声を掛け合いながら練習をしていた。熱が入った様子……その業火にあてられたのかうちの彼女(八神)も気付けば練習に参加していた。

 そんな様子を眺めていると源田が声をかけてくる。

 

「お前のシュートは凄まじかった。まさか無限の壁を容易く破るとはな……」

「そりゃどうも」

「……もっと強くなるために俺はどうしたらいいと思う?」

「へ?」

 

 いきなりの質問に驚きを隠せない。

 

「監督のやり方に不満があるわけではないんだ。ただ、お前のシュートを受けて感じたのは……少なくとも日本のゴールキーパーの必殺技ではお前を、世界トップレベルのシュートを受けられない」

「いや、オレは別にトップレベルではないけど……」

「それなら尚更だ。仮に円堂や立向居の座る席を奪えたとしても、今の俺じゃゴールを満足に守れないんだ」

「……まぁ、確かにな。今の源田が使える最強のキーパー技は無限の壁。でも、無限の壁は3人技で2人のディフェンダーが戻っている必要がある」

「そんな隙を世界レベルのプレイヤーたちが見逃すわけがないだろう。何かしらの対策で封じられてしまう可能性が高い。現にお前は無限の壁を発動させないことも出来たはずだ。違うか?」

「そりゃな……となると、1人で止める必要がある……か。お前が目指しているのは?」

「この前の決勝戦で円堂が使ったいかりのてっつい……アレを超える技だ」

「おぉ、現時点で日本のゴールキーパーの中の最強を超えるか……」

「ああ。あの技では、お前のオーバーサイクロンPは止められない……そんな気がする」

 

 あはは……まぁ、昨日勝負して、勝ったんだが……なるほど。それを見抜くとは中々の感覚だな。

 

「と言っても、漠然と超えると言っても具体的な策がないとな。例えば、今使える必殺技を世界レベルまで進化させるとか、色んな人の必殺技を組み合わせるとか……それか、全くの新必殺技を思いつくか」

「ふむ……」

 

 考え込む様子を見せる源田。オレだってあの技はフィディオを超えるためにペラーと意見を出し合って試行錯誤を重ねた結果だからな……しかも、ここで方針を決めないともうすぐ日本を離れるからアドバイス出来ないし、多分している余裕はない。

 

「1つ思いついた」

 

 少し経った後、何かを思いついたらしい。

 

「ほう」

「お前の使ったペンギン・ザ・ハンド。あれは皇帝ペンギン1号のキーパー技……禁断の必殺技とも言うべき技だろ?」

「あー鬼道や不動にも言われた。というか、禁断の必殺技認定された」

「気になったのは……お前がノーリスクで禁断の必殺技を使っていた点」

 

 そこってそんなに重要か……と思ったけど、大きな代償を支払う代わりに強大な力が手に入るのが普通の人。だが、オレはその代償を支払わず大きな力を手に入れた……まぁ、昨日の検証で本当にノーリスクだと再確認したわけだが。

 

「もし、俺もノーリスクで禁断の必殺技……ビーストファングを使えれば、何かの取っ掛かりになると思ってな。どうだ?」

「なるほど……禁断の必殺技を……か」

「ああ。あの時の俺はエイリア石の力に飲まれ、力を求めるためにその技を習得した。……封印しているが、今の俺も使えないことはない」

「だったらさ。ただノーリスクで使えるだけじゃ面白くないじゃん。だから、その技を進化させたらどうだ?」

「進化……?」

「禁断の必殺技の原理とかどうして負担がデカいのかとかさっぱりだけど、あれって影山が作った技なんだろ?それに、その必殺技は知らんけど、今のままじゃ通用しねぇ」

「……確かに。禁断の必殺技であるお前の技も、武方勝とシャドウの連携必殺技で破られた……アフロディ単独にもか」

「だから、それをお前の技に進化させるんだよ。影山の必殺技を越え、源田の必殺技にするんだよ」

「俺の……必殺技に」

「どうだ?面白そうだろ?」

「そうだな……影山の作った技を踏み台に俺の必殺技へと昇華させる。俺が、世界にも通用するような必殺技へと進化させる……」

 

 そう言いながら手を見る源田。

 

「ありがとう十六夜。お陰で見えてきた……もし、その技が出来たら、お前相手に試させてくれ」

「おう、期待している」

「というわけで、早速付き合ってくれ」

「いいぜ、やろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほぉーい、ワシじゃ。どうじゃ、今の世界には大分慣れたかのう?』

「いや、慣れたけど……急にどうしたんだよ。神様」

 

 その日の夜。あれから、ネオジャパンの面々との練習は遅くまで続き、日本を離れる前日までは一緒に練習することに決めた。久遠監督からもオッケーが出たため、彼らの合宿先にお邪魔している。

 外を散歩していると、久しぶりに神様から電話がかかってきた。本当に久しぶり過ぎて一瞬誰だっけこの爺さんと思ったが、オレは悪くないと思う。

 

『遂に受かったんじゃ』

「何に?」

『資格じゃよ資格。あれ言っていなかったか?』

「あー……興味が無くて忘れてた」

『お主……それが神に対する接し方か?』

「いや、知らねぇよ。……で、合格の報告貰ったから祝えばいいのか?おめでとー」

『そうじゃなくてのぅ……実は、受かって喜び、盛大な宴会をして、酒を飲んでちょっと酔っ払った拍子にお前さんの世界をほんのすこーし弄ってしまったんじゃ』

「…………は?」

 

 今何て言ったこの爺さん?というか、何をどうしたらそうなるんだこの爺さん?

 

『いやーお酒が入りすぎてのう。酔った拍子にやってしまったんじゃ。まぁ、酔っ払った爺さんの行いと言うことで大目に見てほしいのじゃ』

「……いや、それで済むなら警察はいらないんだけど?」

『ということでよろしくの』

「いや、何をどう弄ったが教えろよ爺さん」

『えぇーお主は原作知識持って無双するタイプの少年じゃなくて、原作よく知らないけど異世界に転生してしまったからなんとかするかってタイプの少年じゃろ?そんな少年にここがこうで~とか言っても伝わらんじゃろ?』

「まぁ、確かにそうだな」

 

 よくよく思い出すとこの世界ってアレだったな。ゲームとかが基になっているとか何とか言ってた気がしなくもないが、よく知らないから次に何が起こるか知らねぇわ。というか、知ってたらここまでの諸々苦労してない。知っていたなら、最初に八神と関わった段階で彼女の問題を解決しようと躍起になってたと思うし……というか、必殺技で胃が死にかけることは無かったと思うし。

 

『一言で表すと、大変になったじゃな。ゲームで言うなら勝手にノーマルモードからルナティックモードに変わったレベルじゃが……まぁ、頑張っての。では、健闘を祈るぞ。ふぉふぉふぉ』

「っておい、何が大変になったんだよ……」

『秘密じゃ』

「…………」

 

 というか、よく考えるとノーマルからルナティックって、ハードモード飛ばしてね?いや、ゲームによってそういうの違うから別にいっか。どうせ、ノーマルもハードもルナティックも、オレには一切分からねぇし。

 

「……まぁいいや。丁度良い機会だし、アンタに聞きたいことがある。オレの身体についてだ」

『ほう』

「……オレの身体……能力は元の世界じゃ出来ないことが出来るようになっている。間違いないな?」

『そうじゃな。元居たお主の世界では足から炎を出せる人間は居ないじゃろ?』

「……そこで聞きたい。この身体、限界はあるのか?」

『限界?』

「記憶が正しければ、アンタはこの身体をこの世界に合わせ、改造して送り込んだんだろ?だから、前の世界で出来ないことも出来る。だったら、オレのイメージするある種の超人的なプレーも出来るようになるんじゃないのか?具体的には――」

 

 オレはあることを伝える。それに対して帰ってきた返答は……

 

『イエス……と言うべきじゃな』

「そうか」

『何なら今からそれが出来るようにしてやろうか?』

「いいや……そんな強化の仕方はオレのやり方じゃねぇ。オレらしくやるよ」

『そうじゃな……お主ならそう言うと思っていた』

「……あと、ありがとな」

『ん?』

「こんな面白れぇ世界に連れて来てくれて」

『ほっほっほっ。お主が望んだことじゃ。ではの』

 

 切れる電話……ある意味で人智を越えた肉体……まだまだ眠っている潜在能力……そして、それを引き出せるかはオレ次第……か。

 

「さてと、こういう無茶苦茶なことは、八神さんにでも相談しますか」

 

 オレは知る由もなかった。実はこの神様がとんでもないことをしでかしたことに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……記憶の蓋が開き始めておる……か。封印した記憶を取り戻しつつある……やはり、中途半端に記憶を残したのは失敗じゃったか。……じゃが、ここまで来た以上、忘れたままというわけにも行くまい。……何れは思い出していたことじゃ』

 

 

 

 

 

『すまんな、十六夜綾人よ……お主には嘘を付いておる。……お主は……ワシが殺したも同然なんじゃ』




というわけで、久々の神様です。一体、何をやっちゃったんでしょうかね?
まぁ、原作知識皆無の十六夜くんは、どう足掻いても気付くことはないですが……
というか、十六夜くんは既にハードモードだったんだよなぁ……。だって、この男のせいで一部の敵が強化されているんだし……
それに加え、神様はどんな嘘を、どうして付いたんでしょうかね?


今更だが、自分の書く主人公たちの多くに当てはまる特徴が、マイペース、トラブルメーカー、重い過去持ち。……何故か、主人公たちの過去がどんどん重くなっていくんですよね……。十六夜くんは、こう見えて、彼女と付き合っていて、学校生活を送っている最中で死んでいる時点で重い気もするけど、まだ何故か重くなる要素を秘めているんですよね……まぁ、過去編やっているんで何処かで違和感を感じている人も居たでしょうし、過去編進めると感じるでしょうし……多分。


次回はついにライオコット島へ飛び立ちます。


必殺技紹介
・トライアングルZ+ファイアトルネード→爆熱ストーム
アレスで出て来たオーバーライド技。
なお、本編で爆熱ストームが出て来た為、本編では名付けるとしても違う名前が採用されるだろう。紹介するか悩んだが一応紹介。

・爆裂ジャイロ 
属性 風 成長タイプ 真 シュートチェイン可 
使用者 武方勝
日本代表の座を諦めない武方勝が猛特訓の末に編み出した、バックトルネードの正統進化形というべきシュート技。
飛び上がる前に体を捩じり、その反動を利用して体を捻りながらボールと共にジャンプする。ある程度上空に出たらボールより上に飛び上がり、捻りの回転を維持したまま伸身宙返りも織り交ぜて踵落としでボールを打ち出す。二種類の回転のタイミングが一致した瞬間に蹴り出されるボールの威力はバックトルネードを遥かに凌駕し、世界でも十分通用するレベルに仕上がっている。
技名は初めて成功した時にまるで爆発した様な手応えがあった事とシュート直前の回転軌道がまるでジャイロスコープの様に見えたという感想を聞いたのが由来。

・アビスフォール
属性 林 成長タイプ V シュートブロック可 
使用者 シャドウ
シャドウが世界への飛躍を志して編み出した、ダークトルネードの進化形というべきシュート技。
ボールと共にジャンプして最高地点に到達した後、ダークトルネードと同じように体を捻って回転しながらボールと一緒に落ちていく。中間地点に到達したところで闇のオーラがシャドウとボールを球状に覆い、その中でシャドウがダークトルネードと同じ様にシュートする。落下の勢いで回転スピードが加算されたシュートの威力はダークトルネードとは比べ物にならない程だが自分から撃つには手間がかかり、最も打ちやすいタイミングはシュートブロックの時である。
技の発想および名前については「自ら深淵に落ちる事で闇がより濃くなる」というシャドウの持論が由来。

・トルネード・デュオ 
属性 山 成長タイプ V シュートブロック可 
使用者 武方勝、シャドウ
ダークトルネードとバックトルネードを同時に放つ連携技。端的に言えば、ファイアトルネードをダークトルネードに置き換えたダブルトルネード。
シャドウと武方勝が日本代表を目指して共に練習していく中で「共に代表に選ばれた時にはこの技で世界を沸かせよう」と誓い合った友情の証でもある。

下3つのオリジナル必殺技はh995様よりいただきました。ありがとうございます。


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ライオコット島へ

 そんなこんなで、ファイアードラゴンとの戦いから約1ヶ月が経過した。あれから、ネオジャパンの面々と練習し、感覚を取り戻すことは出来た。出発する日、円堂たちへ伝えてくれってことで手紙をもらい、円堂に渡しておいた。

 要約すると頑張れというエールと、腑抜けていたらその座を奪うという挑戦的な内容で、後は長々と予選でのプレーに関して書いてあり、さっきまで朗読会が行われていたが、余りにも長すぎて途中でそっと封印された。言いたいことを短く纏めることも大事なんだと改めて気付かされた……いい学びを得たな。うん。

 

「随分と遠くまで来たな……」

 

 飛行機の窓の外に映るは雲の上の世界……現在オレたちイナズマジャパンは、イナズマジェットと呼ばれるイナズマジャパン専用の飛行機に乗っていた。

 というのも、FFI本戦の会場はライオコット島と呼ばれる南の島だからである。別名サッカーアイランドと呼ばれ、島を丸ごと買い取ってこのFFIの為に色々と準備したとかなんとか。そして、その南の島に行くために飛行機を使っているわけだが……

 

「珍しく感傷に浸っているんだな」

「そうか?なんというか……ようやくアイツらと会えるんだなって思ってな」

「FFI本戦の国……その中にイタリアの名前があったな。お前の修行相手であるフィディオか?」

「ああ、ようやく戦える……成長したオレを見せてやる」

「それに、しばらく怪我のせいで療養・リハビリ生活だったしな」

「そうなんだよ……ようやく来たんだ。思う存分暴れ回りてぇ……」

「同感だぜ十六夜!予選には参加出来なかった分、本戦で暴れさせてもらう!」

 

 と、隣に座る八神と話していると後ろに座っているヤツが話に混ざってくる。

 

「頼りにしてるぜ、染岡。佐久間も、あの時からレベルアップしたお前らを見せてくれよ」

「ああ、任せてくれ」

 

 頼もしい声が聞こえてくる。彼らのように途中で参戦するメンバーの意識も高い。もちろん、最初から居るメンバーの意識も高いままだ。

 

「良い空気だな……ところで、八神」

「何だ?」

「お前、ずっとオレの手を握ってるけど……」

「い、いいだろ別に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イナズマジェットはイナズマキャラバンを乗せて空港に着いた。そこからはイナズマキャラバンに乗り込み日本代表の宿舎に移動。それぞれの国の選手が最大限に力を発揮できるよう、それぞれの国の宿舎の近くはその国にあった風景になるようにエリアごとで建築様式とか諸々を変えているらしい。……なんというか、そんな細かいところまでお金をかけるなんて凄いなぁ……

 

「ん?そういや、円堂は?」

 

 今日はあくまでここへの移動がメイン。軽めの練習で終わり、宿舎の食堂では夕食が準備されていた。宿舎の探検だぁ!ってはしゃいでいたヤツも多かったが……うんまぁ、一言で言うなら日本を意識して作ったんだなと感じられて凄かった。あれ?もしかして、オレ今日凄いしか言ってない?語彙力死んだかな?

 

「十六夜くんも見てないの?」

「まぁな」

 

 八神と一緒に軽く探索を終え、食堂に入ると木野があきれたように答える。

 

「まったく……特訓にいい場所はないかって探しに行ったのかしら?」

「あはは……ありそう。オレも探しに行こうか?」

「ううん、大丈夫。そのうち帰ってくると思うから」

 

 まったく……アイツの自由さには困るな。(ブーメランである)……仕方ない、探しに行ってやるか。

 

「と言っても、島の構造よく知らねぇなだよなぁ……ん?」

 

 あの人影……もしかして、

 

「あれ?鬼瓦刑事じゃないですか。お久し振りです」

「ん?おぉー十六夜か。久し振りだな。エイリア学園の一件以来か?」

「はい。あの時は色々お世話になりました。で、刑事は何故この島に?」

「お前さんたちの試合を観戦しに来たんだよ」

「……ふぅん……で?本当の理由は?」

「……はぁ、お前さんは本当に鋭いというか……」

 

 なんというか……コイツには隠しても無駄そうって空気を感じた。酷い話である。

 

「……ヤツがこのFFI世界大会に関わっているって言う情報を得た」

「ヤツ…………影山……ですか?」

「ああ」

 

 声量を落として質問する。そしてそれに肯定が帰ってきた。

 

「……それ、鬼道たちが聞いたら黙ってないような……」

「世界大会に出るお前さんたちには迷惑がかからないようにする。響木とも話したが、子どもたちは巻き込むべきじゃないってな」

 

 日本代表のメンバーには過去に彼と関わったヤツが多く居る……が、その反面よく知らないヤツだっている。確かに下手に関わらせる訳にはいかないか……あの男の危険さは知っているし。

 影山の陰……か。でも……

 

「今までは日本国内でしたよね?……ここは世界大会で、場所も国外です。……今までみたいなことは出来ないと思いますけどね……」

 

 ライオコット島で試合が行われる以上、会場は日本のものってわけではない。あくまで主催者のものだが……ただここに集まっているそれぞれの国が、自分たちの代表を決めてここまでの試合を戦い抜いて居る以上、帝国や世字子のような、事故やドーピングは難しいと思うんだが……

 

「確かにそう考えるのが自然だが、相手は影山だ」

「常識に囚われていてはいけない……か。でも、影山が主催者ってわけでもないですよね?観客か、何処かの国のチームに関わっているか……そんな男に何が出来るって言うんですかね?」

「少なくとも日本には手を出していないようだな」

「それは鬼道たちの反応を見ても明らか……日本代表が決まってから、影山ってワードは不動や久遠監督関連のあくまで、過去のことしか飛び出さなかった。現在進行形で何かって話は聞いていないですね」

 

 ふむ……でも、例えば久遠監督が何かしようにも、日本の選手はどうにかできても、海外のチームまでは手の出しようがないだろう。……もし影山の目的が日本の選手なら、アイツが今まで日本に関わってこなかったのは疑問が残るし、何より他国からは手を出す手段も限られている。

 

「もしかして……運営ですか?影山の手下や本人が入り込んでいて、何かしらで運営に関わっている……?」

「……お前さんは本当に中学生かって疑いたくなる時もあるな……とにかく、このことは誰にも言うなよ」

「分かりました。また、何かあったら連絡しますよ」

「出来れば連絡がないことを祈りたいものだが……というか、お前さん。頼むから運営へ潜入とか危険なことはくれぐれもするなよ」

「善処します」

「約束してくれ」

 

 そう言って頭を抱える鬼瓦刑事。うーん、影山か……

 

「「遅い!」」

「「す、すみません……」」

「まったく……もう夕食の時間過ぎてるよ」

「居なくなった円堂も、探しに行った十六夜も……お前たちはキャプテンと副キャプテンだろう?」

「「……返す言葉もありません」」

 

 ちなみに、合宿所前でどこからか帰ってきた円堂とたまたま会って、一緒に帰ったら木野と八神に怒られました。理由?言えるわけねぇだろ……って、円堂さんや?何でお前も言いにくそうなの?お前も何かあったの?オレ?オレはもう既にあったよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし、タイヤ探すぞ!」

「いやいや……え?何でこっちに来て初日にやることがタイヤ探しなんだよ」

 

 夕食も食べ終わり自由時間。オレは円堂に連れられ外に出ていた。

 何でもマネージャー3人が円堂の為に新しいロープを作って持ってきてくれたそう。コレがあれば、こっちでもタイヤ特訓が出来る……と。そして、タイヤを探すためだけにオレは連れて来られた。

 

「タイヤ……違う、アレも違う」

「いいか?見つけても絶対に飛び付くなよ?持ち主と交渉だからな?」

「わ、分かってるって!」

「それと、前を見て歩け。キョロキョロし過ぎだ」

 

 すれ違う人たちに見られているが……誰もこの男がタイヤを探してキョロキョロしているとは思うまい。

 

「うぉおおお!見つけたぁ!そのタイヤ待ったぁ!」

「円堂!?ちょ、どこ行くんだアホ!」

 

 急に振り返ったと思うとトラックを追いかけ始める円堂。……おいおいまさか、あのトラックの荷台に乗っているタイヤが目当てとか言うなよな?……いや、言いそう。

 

「っておい待てって」

 

 仕方ないので走るトラックを追いかけた円堂を追うことに。いや、普通に考えろ?間に合わねぇだろ?

 

「しゃあねぇ……来い!ペラー!」

 

 ペラーを召喚して、空から追いかけることにしようとする……が。現れたのはペラーではなく……

 

「あれぇ?なんでボスが?」

『すまんな。弟からだ』

 

 そう言って看板を渡してくるボス。えーっと?

 

「『次の試合まで休暇です』……ふざけんなぁ!」

 

 看板を地面に叩きつける。すると、看板の裏が見えて……

 

「『試合外労働が多すぎたから休みが欲しい』……すみませんでしたぁ!」

 

 速攻で謝ることにした。いやぁ……ねぇ。そう言われたらオレも言い返せないじゃん。と言うか……え?こうなることを見越して裏に書いたのお前。何て読み能力だよ、流石智将だよ。

 

「ボス、ペラーには休むように伝えておいてくれ」

『うむ。ちなみに我らも休暇を取らせてもらうからな』

「好きにしてくれ。世界大会本戦では頼むぞ」

『任せておけ。ではこれにて』

 

 そう言ってボスは消える……仕方ない。

 

「走るか」

 

 全速力で走ることにする。……うん?今の状況って、行き交う人々の流れを読んで、一瞬で最適な走行ルートを導き出すって言う特訓になるんじゃ……

 

「って、走らねぇとマジでどっか行くわ」

 

 と、10分くらいしたら追いついて……

 

「わりぃ、ウチのツレが……」

 

 誰かに円堂がぶつかったようで、円堂が体勢を崩していた。

 

「……アヤト?」

「って、フィディオ?」

「久し振りアヤト。元気にしてた?」

「ああ、そっちこそ元気にしてたか?」

「って、あ!」

 

 唐突な再会に驚いていると円堂が声をあげる。見ると、サッカーボールが円堂の追いかけていたトラックの荷台に入ったようだ。サッカーボール?円堂は持っていなかったことを考えると……まさか、フィディオのか!?人様に迷惑かけてるんじゃねぇよ!

 

「ごめん!キミのボール……」

 

 謝るが先か走り出すのが先か。その光景を見たときにはオレたち3人は走り出していた。

 

「速い……!」

「アヤト、そこ左に曲がるよ」

「オッケー」

 

 路地裏の狭い道。木箱や梯子を華麗なステップで避けていくフィディオに付いて、オレも最短で避けていく。

 

「相変わらずの身のこなし……と」

 

 抜けた先を見ると丁度トラックがやって来たよう。坂道を登って、やって来る軽トラ……でも、このスピードなら……多分、大丈夫。

 

「待ってください」

「止まってくれ」

 

 オレたちの声が届いたようで、急停止してくれるトラック。

 

「なんだぁ?」

「ボールを返して下さい」

「荷台に乗ったみたいなんです」

 

 運転手が荷台を見ようとすると、急停止した反動でボールが坂を転がっていく。

 

「危ない!」

「円堂!前見ろ!」

 

 坂の下に居る円堂の下に、ボールだけでなく、巨大なタイヤも勢いよく転がっていく。円堂はボールをキャッチするとすぐさま頭上に投げ……

 

「ゴッドハンド!」

 

 巨大な手でタイヤを受け止めた。……あぶねぇ……イビルズタイムの準備はしてたけど、あのデカさとスピードだと、坂の下に居るヤツが怪我するかもしれねぇから下手に避けられなかったが……なんとか事故にならずにすんだ。

 いや、最初からイビルズタイム使えよって話だが……あの技、オレがサッカーボールに触れると解除されるから、使えなかったんだよなぁ。というか、イビルズタイムを使って出来る事は精々円堂の傍に移動して、解除と同時にアイツを押してどかすぐらいだ。……まさか、ペラ-たちに休暇を与えて、1時間もしないうちに後悔するとは……

 

「無事か円堂」

「おう!あ、これ悪かったな」

「ありがと。なぁ、アヤト。彼って……」

「ああ、前も話したことがあるだろ?円堂守、オレたち日本代表のキャプテンだ」

「おぉ、君が噂のエンドウマモルか」

「へ?噂……?」

「あー円堂。こっちはフィディオ・アルデナ。イタリアにオレが留学してた時に一緒に特訓してくれたヤツだ。イタリア代表オルフェウスの選手だな」

「おぉ!すっげぇなお前!あのスピードで障害物に一切当たらず路地裏を駆け抜けていて……」

「キミこそ。凄いってアヤトから聞いてたけど、今のタイヤを止めたパワー……普通はできるものじゃないよ」

 

 ははは……なんていうか……偶然とはいえ、ものすごい再会の仕方だな。

 

「お前さん、大丈夫か?」

「はい!」

「まったく……何で追いかけてきたのやら……」

「……ん?」

 

 何でって……普通はこのボールを追いかけたって思うだろ?……もしかして、この爺さん。円堂が追いかけてきているのを知っていて、止めなかったのか?……いや、まさかな。

 

「すみません、このタイヤ貸してもらえませんか?」

「タイヤ?そんなタイヤ、何に使うんだ?」

「サッカーの特訓です!」

「今どきそんなことをするヤツが居るなんてな……」

 

 まぁ、そんな反応にもなるわな……

 

「いいだろう」

「やった!ありがとう、おじさん」

「よかったな、エンドウ」

「ああ!迷惑かけてごめんな。また会おうぜ、フィディオ!次は試合でな!」

「オレからも、ウチのキャプテンが迷惑かけたな」

「気にしないでよ。それより、エンドウ。アヤトを借りていいか?」

「え?いいけど……」

「ありがと。久し振りに会ったし、ちょっと話そうよ」

「いいな」

 

 この後、フィディオと軽く話して、今度イタリア代表の宿舎に遊びに行くことを約束した。

 ちなみに、円堂は爺さんにタイヤを取り付けるのも手伝ってもらったそうで……オレと円堂は仲良く「こんな時間までなにしているの」と木野と八神に怒られるのだった。……一日に二度も怒られるとか……解せぬ。




 この前、友人たちとアニメや漫画、ラノベの話をしていて、ふと人生に多大な影響を与えた作品があるな~って感じました。以下、語っているので飛ばしてもらって大丈夫です。布教と言うより、ただの好きなものを語っているだけです。

 作者個人としては、

・家庭教師ヒットマンREBORN!(アニメにハマったきっかけにして、個人的には原点にあたると言っても良い。シモン編以降もやらないかなと静かに待っている)

・問題児たちが異世界から来るそうですよ?(初めて買ったラノベ。買った理由は、アニメでハマって無茶苦茶続きが気になったから。続編の最新刊がいつか出て欲しいと願っている)

・バカとテストと召喚獣(面白いよね。アニメも原作も何周かしていて、何周しても笑ってる。同じ作者での作品ぐらんぶるも何度も笑ってる。ちなみにこの作品と出会ってなければ、多分ハーメルン様で二次創作なんて書いていない。この作品も生まれていないですね)

・ダンガンロンパ(初めて見た時の何とも言えない絶望感と騙された感がヤバい。色んな意味で自分の中に痕を残した作品。沼に嵌まって抜け出せなくなりそうな感じがする。記憶を消してもう一回この作品と出会いたいような作品)

・ブルーロック(この『超次元サッカーへの挑戦』をここまで読んでたらね?コイツ、絶対ハマってるなって思うであろう作品No.1。面白いのはもちろんですが、個人的に自身の中学時代のサッカー観(現在も含む)に共感できる所があるってのが1番。皆さんの中には、ブルーロックにハマったからその思想がこの作品に漏れ出ていると思うでしょうが、実際には元々イナイレのサッカー観よりこっちの方が合っていて、本来の作者の思想がブルーロックという作品に触れた影響で漏れ出ているっていうのが実際です)

 パッと思いつくのはこんな感じですかね。細かく挙げたらきりがないので……。
(他にもめだかボックスも結構好きだし、電波教師やフェアリーテイルも好き。あと、ジャンルは違うがトモダチゲームも原作買って読みたいけど、読めない状態が続いている。最近は漫画アプリでリアルアカウントを読んでいて……と、色んな作品の影響で、こんな人間が生まれたんだろう)

 一応、他のサッカーが題材の作品だとアオアシはアニメで見て、エリアの騎士は漫画アプリで読んでいる最中ですが……多分、作者のサッカーに対する考えに1番近いのはブルーロックです。もちろん、イナイレ含め3つとも面白いですが、もしも、作者の中学時代にブルーロックという作品が存在して読んでいれば、高校でもサッカーを続けていたんじゃないかと思えるくらいには大きいです。

 と、ここまで他の作品ばかり語ったので、イナズマイレブンについて。アニメは円堂のFF編から天馬のクロノストーン編までリアタイして、ギャラクシーはリアタイせず、見た話が所々あるかな?って感じで、アレスオリオンは一応見た。多分、天馬編の3期以外、全部1度は見た自信がある。円堂世代は、小学校時代からサッカーやりながら見ていたけど……まぁ、所属していたところが色々あったということで……(流石に十六夜くんの過去編より酷くはないけど、環境だけならそこそこヤバかった。特に中学校)
 ゲームは3のボンバーから、天馬世代はシャイン、ネップウ、スーパーノヴァって感じでやったかな。Wiiのストライカーも1つやって、switchでの最新作は……いつ出るのかな?って感じ。

 この『超次元サッカーへの挑戦』を書き始めたのが大学受験の年で、気付けば5年目で……正直に思うことがあるのなら、大学受験を前に何を考えていたんだお前は?です。そして、何で5年目にして完結が見えねぇんだよ、ですかね。いやー……エイリア編で待たせすぎたんですかね。今思えば、もう少し日常回入れたかったのは反省点です……ネタが……ネタがぁ……そんなこと言い出したらこの作品は反省点だらけですが……許してぇ……
 個人的に、FF編で必殺技に驚きつつ、皆で優勝を目指す。結構王道で、正規ルートな感じ。
 エイリア編は誰もやってないことやりたい。そうだ、スパイしよう。って感じでゲームなら二週目以降の隠された裏ルートを通る。
 FFI編は超次元サッカーに慣れ、正規ルートを通るかはたまた裏ルートを通るのか……ここまではまだ正規ルートな感じですかね?ネオジャパン戦不参加・ファイアードラゴン戦キーパー出場とやってますが……個人的にはまだ正規ルートの範疇だと信じたいです。
 一応、FFI編ではここから先の展開の中で、構想当初(?)からやりたいことがあと1つはあるので……さぁ、それがいつやれるのか。この週1投稿が続く中でやれるのか。そして、過去編はどう動くのか……

 ということで次回、タイトル『世界トップレベル』……少しずつ進んでいきます。


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世界トップレベル

 あれから2日後……オレたちはミーティングをしていた。

 昨日は夜にFFI世界大会の開会式があり、本戦出場を果たした10チームがタイタニックスタジアムに集結した。その中にはアメリカ代表として一ノ瀬や土門の姿もあり再会を喜んでいた。

 

「まずはルールの確認をします」

 

 世界大会のルールは本戦に勝ち上がった10チームを、5チームずつのグループに分ける。グループ毎に総当たり戦を行い、それぞれの試合で勝利チームには3点、引き分けは両チームに1点、負けたチームには0点の勝ち点が与えられ、最終的に勝ち点が高い上位2チームが決勝トーナメントに出場できるというもの。

 

「イナズマジャパンはグループA。他には、イタリア、アルゼンチン、イギリス、アメリカが同じグループです」

「……っ!」

 

 イタリア……!フィディオたちと戦えるってことか……!

 

「初戦は2日後。対戦相手はイギリス代表ナイツオブクイーンだ」

「エドガー・バルチナスが相手か……いいねぇ。おもしれぇ」

「え?知ってるのか?」

 

 何人かが誰だそいつは?的な感じで首を傾げる。

 

「おいおいお前らなぁ……出場国の注目プレイヤーくらい気にしておけよな。イギリス代表にしてキャプテンのエドガー・バルチナスは今大会中でもトップクラスの選手。『静かなる闘将』と呼ばれているらしいな」

「おぉ……」

「他にもオレたちが当たる国だと、アルゼンチンには『アンデスの不落の要塞』と呼ばれる今大会最強DFと評判のテレス・トルーエが居る」

「最強のディフェンダー……」

「って、十六夜さん以上でヤンスか!?」

「正直、向こうの方がオレよりも強固なDFだろうな。そして、イタリアにはイタリアの白い流星、フィディオ・アルデナが居る。華麗なテクニックとスピード、フィールド全体を見渡すような視野の広さを持っている。彼も間違いなく世界トップレベルのプレイヤーだ」

「テクニックにスピード……!」

「アメリカ代表ならマーク・クルーガーとディラン・キースのコンビが注目されている。恐らくこの大会で最も完成されているコンビだ。1人でも十分強く厄介な上、彼らのコンビプレイを止めないと間違いなく勝てねぇ。ああ、お前らの多くも知ってると思うが、アメリカ代表になった一ノ瀬も彼らと共に頭角を現している」

「す、すげぇ……あれ?日本は?」

「日本だと十六夜くんですね。FFI予選の試合で全ポジションで出場し、日本の勝利に貢献したユーティリティ・プレイヤーとして名をあげていますね」

「そう言えば、昨日の開会式でも日本の注目選手として呼ばれていたな」

「予選では単独で通算4得点を挙げ、加えてアシストや連携必殺技でも何得点か。また、相手の必殺タクティクスを破りつつ、ディフェンスやキーパーとして失点を防いだんだ。攻守ともに高い水準にある万能選手ってのが大きいだろう」

 

 あはは……なんだか褒められると照れくさいな……まぁ、凄いと言うより奇抜って意味合いが強そうだけど。GKが攻め上がって得点するとかそう多くはないだろうし。

 

「よぉし!初戦に向けて特訓だぁ!」

「「「おぉ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習は、ようやくと言うべきだろうか、皆と一緒にやることになりました。個別メニューからは解放らしい。……よく考えると今まで皆と一緒に練習したことあったっけ?……なかったな、うん。

 で、今は木野が全員を招集して、少し休憩になった。一体なんだろうか?

 

「えぇ!?パーティー!?」

 

 円堂が驚いているように、どうやら、イギリス代表、ナイツオブクイーンからパーティーの招待状が届いたようだ。

 

「初戦の相手として親睦を深めたいんだって。今日の夕方、イギリス街に正装で来てくださいって」

「…………げっ」

「どうした十六夜?」

「……いや、何でもない」

 

 今日の夕方……え?マジで?

 

「ということで、時間までに準備してね」

 

 そのまま流れ解散になるオレたち。パーティーかぁ……まぁ、1人減ってもバレないでしょ。うんうん、バレないバレない……

 

「アヤト、少し遅かったようだけど……大丈夫?」

「悪い待たせたな。練習終わりに少しミーティングがあってな」

 

 ということで、セントラルエリアで待ち合わせをしていたフィディオと合流する。

 

「確か、アヤトたち日本はAグループの初戦だったね。相手はイギリスでしょ?」

「よく知ってるな……もう情報が出ているのか?」

「まぁねっと」

 

 持っていたボールを軽くこちらに蹴ってくる。

 

「流石FFI本戦、情報が早いなっと!」

 

 こちらも受け止めて、パスを出す。

 

「そうだね。ここまで大掛かりだし、観客も集めたいんじゃないかな?」

「ははっ、そりゃそうか」

「でも、日本と同じグループでよかったよ。確実に君と戦えるからね。それと、エンドウとも」

「同感だ。お前らと正面から戦えるなんて、運がいいみたいだ」

「ははっ、アヤトらしいね」

 

 そのまま雑談をしながら、互いにリフティングとパスをしながら歩いて行く。

 

「そういや同じグループの面々見たか?」

「ああ、やっぱり本戦は違うね。どのチームにも世界トップレベルのプレイヤーがいる。一筋縄じゃいかない相手ばかりだ」

「だな。お前らと戦うのも楽しみだけど、他の奴らにも負けてられない」

「やっぱりそうだよね。世界一を決めるなんてワクワクする……」

 

 そう言ったフィディオの視線が何処か一点を見ていた。アレは……円堂か。

 

「誘うか?円堂も」

「いいのかい?」

「ああ、もちろんだ」

 

 タイヤ特訓をしている円堂のもとへ2人で行く。……ところで、アイツはここにタイヤつけてるけど許可は取ったのだろうか?……まぁいいか。

 

「おーい、円堂!」

「あ、十六夜!それにフィディオも!あれ?2人がどうして一緒に?」

「久し振りにアヤトとサッカーしようと思ってね」

「よかったらお前も一緒にやらねぇか?」

「えぇっ!?いいのか!」

「もちろんだよ」

「よし!じゃあ、ジャパンエリアに行こうぜ!ここじゃなくて、グラウンドでやろう!」

「確かにな。ここにはゴールもねぇし」

「うん、お邪魔させてもらうよ」

 

 ということでジャパンエリアのグラウンドに移動する。オレは円堂、フィディオの2人共とサッカーをしたことがあるため、最初は見学。フィディオがシュートを打って、円堂が止めることに。

 

「はぇー……やっぱ、アイツのシュートはすげぇな……」

 

 何度も見慣れていたつもりだったが、改めて見るとフィディオのプレーは次元が違うな。他の選手たちよりも繊細で……

 

「あれ?アイツは……」

 

 と、フィディオが打ったシュートを割り込んできたヤツがトラップする。

 

「探したぜ、フィディオ」

「テレス・トルーエ!」

 

 アルゼンチン代表キャプテン、テレスだった。……おっと、予想以上の乱入者だな。

 

「知り合いなのか?」

 

 ズコッ

 

 円堂……お前、説明しただろ……何で忘れてるんだよ……と、オレがあきれているのをよそに、フィディオがテレスの説明をする。……予選を失点0でおさえたアルゼンチン。そのディフェンスの要となっている選手……

 

「俺、イナズマジャパンの円堂守!よろしくな!」

 

 と、円堂がテレスに自己紹介する……が、無視される。まぁなんというか……日本だと円堂はサッカーやっていれば誰でも知っているくらいの有名人だけど、海外から見たらコイツ誰だ?だからな……昨日の開会式も思ったが、日本はそこまで注目されていないようだし。恐らく分析もされていないから、本当にコイツ誰だ状態だろうな。

 

「なぁ、フィディオ。俺と勝負しないか?お前が俺のディフェンスを抜くことが出来るかどうか。まぁ、ほんのお遊びさ」

「悪いが、今は彼らと……」

「俺なら構わないさ!それに俺も見てみたいしな!世界レベルのすげーディフェンスをさ!な、お前もそうだろ!十六夜!」

「イザヨイアヤトか……おいアヤト、お前も混ざれよ」

 

 ボールをこちらに蹴ってくる。軽くトラップをして……

 

「え?十六夜のこと知ってるのか?」

「開会式で紹介されてただろ。それにコイツからは俺たちと近い空気を感じる。……で?どうなんだ?」

「覚えていてくれて光栄だな。いいぜ、その挑発受けてやるよ、テレス」

「決まりだな」

「それならミーたちもいれてよね」

 

 と、更に現れたのはアメリカ代表のユニフォームを着た2人。……おいおい、マジかよ……

 

「ディラン、マーク」

「よっ」

「???」

「あー円堂……」

 

 現れた2人が誰か分からないようで、疑問符を浮かべている円堂に補足説明をする。一応、名前だけは出したんだが……多分、こいつにとってはアメリカイコール一ノ瀬と土門の居るチームって認識なんだろうな。

 

「何でお前らまで?」

「ちょっと、エンドウマモルとイザヨイアヤトをね」

「俺たちを?」

「エンドウは凄いってカズヤが褒めてたからな。それにイザヨイ、キミもね」

 

 カズヤ……一ノ瀬のことか。やっぱり、チーム内でも上の方に居るか……FFやエイリア学園からどこまで成長したんだか。

 

「なぁ、これだけ揃ったんだし、5人で勝負と行かないか?誰が先にシュートを決めるか」

「うん」

「望むところだ」

「やろうか」

「いいよ」

「んじゃ、円堂。ゴールはよろしく……と言っても味方じゃないけど」

「ああ!」

 

 ということで、円堂がゴール前に立つ。じゃんけんの結果、最初のオフェンスはテレスで、オレたちはボールを取ったヤツがオフェンスで、残りがディフェンス。ボールを取ったヤツはハーフラインまで戻ってから攻撃開始。それを繰り返し、点を決めたら勝ちの変則的な1対4をやることになった。

 

「へぇ……やるなぁ」

 

 テレスがマーク、ディランを抜いてオレの前にやってくる。軽く揺さぶりをかけて……

 

「遅い!」

「ハッ!想定内!」

 

 ボールを奪うことに成功する。

 

「やられたか」

「簡単には抜かせねぇよ」

 

(すごい……あのテレスのフェイントからボールを奪った……十六夜のヤツ。やっぱすげぇ……それに、いつもより生き生きしているし)

 

「行くぜ」

 

 ハーフラインまで進んで反転。そこから攻め上がることにする。

 

「……へぇ、思ったよりやるね」

「そりゃどうも」

 

 マークを抜くことには成功する……が、

 

「今回はミーの勝ちだね!」

「くっ、やるなぁ……!」

 

 ディランにボールを奪われてしまう。

 

「まだまだここからだっての……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円堂くーん!十六夜くーん!」

 

 日が沈みそうになり、気付けば夕焼けが美しく見える時間帯になっていた。そんな中、オレたちの戦っているフィールドに響く木野の声。

 

「なんだ?アイツ、こんなところにドレスなんて来てくるなんて」

 

 思わずオレたちも足を止めることに……ん?何で木野のやつ、ドレスなんて着ているんだ?何かあったのか?

 

「もう、パーティー始まってるよ!」

「パーティー?」

「あぁ!」

 

 いまいちピンと来なかったが、円堂には心当たりがあったらしい。

 

「円堂?何か思い当たる節でもあったのか?」

「パーティーだよ十六夜!ほら、イギリス代表から誘われてただろ?」

「……あー……そんなのあったな……うん。面倒だし、パスで」

「えぇっ!?」

「悪いな。向こうには謝っといてくれ」

「わ、分かった……ゴメン!じゃあ、またな!楽しかったぜ!」

 

 そう言って木野のもとにダッシュする円堂。

 

「……楽しかった?アイツ、何かしたか?」

 

 とテレスが言うのも仕方がない。オレたち5人の勝負が始まってからここまで、誰もシュートを打てていない……要は、この長い時間、円堂はただ立っていただけなのだ。

 

「まぁ、ああいうヤツなんだよ」

「というか、お前はいいのかよ。行かなくても」

「こっちの方がパーティーより数倍楽しいだろ」

「ヒューいいね、まだまだ盛り上がって行くよ!」

「じゃあ、再開しようか。フィディオからのボールでいいよな?」

「そうだね……さぁ、やろうか」

「「「おう!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………遅い」

「まぁまぁ、八神。落ち着いてよ」

 

 パーティーが始まったが、十六夜が来ないことに苛立ちを見せる八神。

 

「……アイツは何をしているんだ?」

「あはは……まぁ、円堂くんも来てないし……」

「まったく……」

「イラだってもしょうがないって……」

「イラだってなどいない。私はいつも通りだろうが、ヒロト」

「……とてもそうは見えないんだけど……」

「まったく……ただ、少しイラだっていることがあるとすれば、エドガーだな。友好的と見せかけて、内心では見下している感じを受けた」

「まぁまぁ……十六夜くんが来ないからって八つ当たりを……」

「すみません!遅れました!」

 

 と、響き渡ったのは円堂の声。呼びに行った木野も一緒のようだ。しかし……

 

「あはは……円堂くん、ユニフォームのままだね……」

「正装って言われていただろうに……」

「でも、あれだね。十六夜くんの姿は見えないね」

「……てっきり、円堂と居ると思ったが違うらしいな。ということは……」

「心当たりが?」

「……なくはない」

 

 残った可能性を考え、頭を抱える八神。

 

「木野、ちょっといいか?」

「八神さん?」

「十六夜という名のバカのことだが……」

「あはは……十六夜くんね……」

「その様子だと知っているようだな」

「えーっと、円堂くんたちとサッカーをしていて……十六夜くんはサッカーを優先したみたいで……大きな声じゃ言えないけど、面倒だからパスって」

「まったく……円堂ですらパーティーを優先したというのに、あのバカは……」

「あはは……謝っといてくれって頼まれたって……」

「まぁまぁ……でも、十六夜くんがサッカーを優先するって相手がそんなに凄かったのかな?」

「そうなの!どの選手も海外の選手だったけど、もう凄いとしか言えなくて!1人1人のプレーの次元が違うと言うか……もうホント見たことないくらいのレベルだったの!そんな凄い選手が4人も居る中、十六夜くんも全然負けていなかったの!それで、円堂くんからの話も合わせるともう何時間もずっとやっているらしいのよ!」

「あはは……何時間ってことは、こっちがパーティーの準備とか着替えとかしている間もずっとやっていたのかな」

「何時間もやっていれば、来る気もうせるだろうな……」

 

 そう言って歩き出す八神。

 

「八神さん?」

「合宿所に戻る。流石に暗くなったし、終わってるだろう」

「あーうん、気をつけてね」

 

 手を軽く振ってそのまま去って行く八神。

 

「あはは……十六夜くんも自由だけど、八神もだいぶそれに毒されたみたいだね」

「うーん……本当にそうかな……?」

「まぁ、せっかくのドレス姿を十六夜くんに見てもらいたいってのもあるだろうね。なんたって付き合ってる2人だし」

「そうそう……ってえぇっ!?あの2人付き合ってたの!?」

「うん、日本代表の選考前には……ってあれ?知らなかった?」

「し、知らなかった……いつも一緒に居るなぁとは思ってたけど……」

「ああ見えて、八神は十六夜くんに相当惚れ込んでいるからね……」

 

(まぁ、代表に戦術アドバイザーとして同行したのも十六夜くんの近くに居るためだし……隠しているつもりだけど)

 

 そんな2人に見送られながら、宿舎に戻った八神。そこには……

 

「ん?もう終わったのか?早かったなー」

「…………」

 

 食堂で1人、ゆっくりしている十六夜の姿があった。

 

「……くつろいでいるな?」

「まぁな……いやーいい汗かいたし、風呂にも入ってさっぱりした。もう少ししたら今日は寝るわ」

「…………」

 

(なんて自由なんだこの男は……)

 

 あまりの自由さに呆れるしかない八神。

 

「ところで、何か言うことはないのか?」

「うぇ?……あ、ドレス似合ってるぞ、八神。すげぇ綺麗だ」

「…………」

「ちょっ、無言でつねらないでくれ!?何か答え方間違えたか!?」

「そうじゃなくてだな?木野が言うには、凄いレベルの海外選手4人と何時間もサッカーしてたって聞いたが?」

「あーフィディオに、テレス、ディラン、マークの4人だな」

「……全員が全員、今大会で注目されているメンバーじゃないか。何なら全員がAグループだし……よくそんな面子で集まったな」

「そうなんだよ!実際に一緒にプレーして凄かったんだよ!くぅ……こんな奴らと試合出来るとか楽しみで仕方ねぇ……!」

「……珍しくテンション高いな」

「そうか?」

 

 自覚はないが、基本冷静(ただし、ツッコミは除く)な男が、興奮気味に話していたんだ。テンションの差に驚くのも無理はない。

 

「……ん、よし!寝る!」

「そうか。私は着替えてくる」

「んじゃ、おやすみー……ん?」

 

 颯爽と部屋に戻ろうとする十六夜の袖を掴む八神。

 

「どうし…………」

 

 た、とは続くことはなかった。何故なら、十六夜の口は八神によって塞がれていたからである。

 

「お、おやすみ……」

「八神……顔真っ赤」

「う、うるさい!早く寝ろバカ!」

「はいはい」

 

 そう言って今度こそ歩き出す十六夜……

 

「好きだよ、八神」

 

 そして、食堂から出る直前にそう呟いた。

 

「~~~っ!」

 

 その言葉によって更に顔を紅く染める八神が残るのだった。

 

(平静を装ってたけど……オレも紅くなってるんだろうな……というかうちの彼女可愛過ぎないか?)

 

 この後、パーティーから帰ってきた円堂たちが、十六夜が既に就寝していることを聞かされ、あまりの自由さに頭を抱えることになるのだが、当然本人は知らない。




まさか、ナイツオブクイーンのパーティーを蹴る主人公が居るなんてな……円堂さんですら、サッカーをやめてパーティーに行ったんだぞ……!?

次回、『ペナルティーと約束』


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ペナルティーと約束

 パーティーから一夜明け次の日……オレがバックれたパーティーでは余興として、エドガーと円堂の1対1が行われたらしい。そこではエドガーの必殺技エクスカリバーが、円堂のいかりのてっついを圧倒的な力で砕いたとか。

 で、そんな世界トップレベルのシュートを見せられ、それぞれ思うところがあったらしい。そのおかげか、いつもよりも練習に熱が入っているな……と、グラウンドの外周を走りながらそう思っていた。

 

「後10周」

「うへぇ」

 

 ちなみにオレが走らされているのは、招待されたパーティーを無断で蹴ったことによるペナルティーらしい。いや、だから……ねぇ?前日までに伝えてくれればオレだって、別の約束を取り付けなかったんですよ。当日いきなりじゃなければ……というか、罰で外周を100周するのはやり過ぎなんだと思うんですよ。

 まぁ、そんな余興をするんだったら混ざりたかったという思いがある反面、オレはオレで貴重な経験が出来たなと思うからよしとしよう。うん、走らされていること以外はよしとしよう。

 

「監督ー100周終わりましたよー」

「そうか。それで十六夜」

「反省したか、ですか?」

「いいや、違う。お前はどうだったんだ?」

「……はい?」

「パーティーを蹴って、エドガー以外のAグループの主要……アルゼンチン、アメリカ、イタリアに居る世界トップレベルたちと一足先に戦った感想を聞きたい」

「あー」

 

 どこまでもお見通しなのだろうか?というか、お見通しなら何でペナルティーが発生したんですかね?パーティーを蹴ったからですかね?……まぁ、いいんですけど。

 

「正直、肌で実感しましたよ。……アイツらにはまだ勝てない」

「……そうか」

「でも、あの時……留学していた時よりは確実に近付いている……あの頃とは違って手の届く範囲まで来ている……そう感じました」

「それならいい。目的は果たしてくれたようだからな」

「目的?」

「アジア予選とはレベルが違う本戦……世界の壁を実感することだ」

「そういうことですか。だからパーティーの誘いを受けたんですね」

「あくまでそれも1つというだけだ」

 

 本物の世界の壁というヤツを実感する……そのためにパーティーを受けた。親睦を深める目的もあるだろうが……実際に話すことで得られるものがあるってところだろう。

 

「お前しか知らなかった世界を皆が知った。勝ち上がる為には、自分たちがアジア予選を勝ち上がった猛者……そんな慢心があっては足を引っ張るだけだ」

「……なるほど」

 

 言っちゃ悪いがアジアのレベルは高くない。韓国はまだしも、他のチームはレベルが低い。吹けば飛ぶ紙切れ程度だ。だからこそ、レベルが高くないところを通過したことを誇っていては初戦で鼻が折られ、その後もズルズル惨敗するだけだ。

 レベル的にオレたちは挑戦者(チャレンジャー)。間違っても、相手してやる、待ち受ける側じゃない。格上を喰らってやるって気持ちがないと、負けてしまうだろう。

 

「まぁ、全員目の色が変わった。多かれ少なかれ何か感じたんでしょ。壁の高さを見て恐れるヤツは居ても、自分たちが上だって慢心するヤツはねぇっすよ」

「お前もここからは厳しい戦いになる。同格……いや、今まで居なかった格上が相手に居るんだからな」

「そんなの百も承知です。というか、ようやく面白くなるんでしょ?韓国戦より楽しい試合が待っている……うずうずが止まらないですね」

「お前にとってはビッグウェイブスもデザートライオンも歯牙にかけない、取るに足らない相手だったからな」

「本気を出しても勝てるか分からない……勝算が低い相手……ようやく楽しくなる。そして、格上(そんな相手)が居るってのは負けていい理由にならない……やるからにはオレたちは勝ちますよ」

「それでいい」

 

 オレ個人としても負ける気はないが、何よりイナズマジャパンとして負ける気はない。全勝で一位通過……それぐらいの気概で行く。

 

「おーい、十六夜!キーパー練習付き合ってくれよ!」

「へいへい。じゃあ、行ってきますわ」

「ああ」

 

 ただ、心配なのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜……練習も終わり、夜ご飯も食べ終えた後、砂浜に十六夜と共に来ていた。

 

「なぁ、八神……オレさ。改めて思ったんだ」

「何をだ」

「世界一になりたい……イナズマジャパンとしてFFIの頂点に立ちたいって」

「今更何を言い出すかと思えば……」

「はは……まぁ、これは再確認だよ。……そして、イナズマジャパンとしてFFIの頂点に立った後は……オレ個人はサッカー選手に、プロの選手になりたいって」

「意外だな。お前の実力だから、昔からサッカー選手になりたいと思ってプレーしているかと……」

 

 十六夜のプレーの技術はもちろん、圧倒的なまでの練習量……てっきりプロを目指しているものだと思っていたが……

 

「前はさ……何というか、夢も目標も無かったんだよ。負けたくないからやっていただけで自分からってのはなかった……その先になりたいものがなかった。ようやく……この世界でオレが本気で目指したいものが見つかったんだ」

「そうか……それはよかったな」

 

 やはり意外……という言葉しか出てこなかった。夢も目標もない……この男はこう見えて勉強も欠かさずやっていたらしいし……たとえサッカー選手になる気がなくとも、何かはそういう目標があると思っていたんだが……

 

「……それで何だけど……オレのことどう見えてる?」

「はぁ?急にどうした?」

「……何て言うか……こう言う言い方をするとアレだが、オレは徐々に戻っている感じがするんだ。お前と……円堂と出会う前の自分に」

「…………」

「だから、怖いとか冷たいとか……」

 

 私は思い切りヤツのケツを蹴り上げた。

 

「いてっ!?ちょっ、何故蹴ったし!?」

「お前は過去を語りたがらないから、触れないようにしてきたつもりだからそんなこと知らん。お前が昔、出会う前はどんな人間だったかなんてよく分からん」

 

 家族が居ない男の過去だ……何か隠したい重いこともあるんだろう。私たちに通ずる何かがある……安易な気持ちで踏み入れてはいけない空間だろう。

 

「だから、今の私の主観で語らせてもらう。お前はクソほどマイペースだ。協調性皆無のトラブルメーカー。頭が良いクセしてバカなことを言うし、よく分からんことをやる。常人じゃ思いつかない奇抜なアイデアを平然と出すし、平然とやってのける。特に最近の試合中なんかは口が悪いときも多いし、性格が悪いって言われても仕方のない行動言動もあるだろう」

「…………」

「私はお前のことを完璧とも思わないし、超が付くほど善人とも思わん。裏があるし、黒い面もあるだろう。怖いとか冷たいとかそういうマイナスな面もあるだろう」

「そうだな……」

「……だけど、人ってそういうもんだろ?全員から好かれる善人なんてまず居ない。私だってそうだ。私だってプラスな面だけじゃなく、マイナスな面もあるだろう。お前からすればよく分からんこともあるだろう」

 

 私は十六夜綾人という人間を完全には理解していない。むしろ、分からないことだらけだろう。彼女として、近くに居る者として、同じイナズマジャパンのメンバーとして、一人のサッカープレイヤーとして、知らないことも多いだろう。だが……

 

「私は知っている。お前の性格がどれだけ悪かったとしても、過去に何か隠したいことがあったとしても……お前のサッカーに対する努力は知っている。お前の家に居たときに見たボロボロでも丁寧に磨かれたスパイク……色が禿げ落ちて補修跡があるようなボール……あんなのは1日2日で出来たものじゃない。ずっと練習し続けないと出来ないものだ。それに、ちょっと目を離すとすぐにサッカーのことをやってるし考えている。ずっと前からお前の練習に付き合って、何だかんだ言いながらも、私の拙い指導をモノにして上達してきた……一朝一夕じゃない。何日何ヶ月と、私はこの世界において、お前のそんなサッカーに対する姿を1番近くで見てきた自信がある」

「……っ!」

「だから私は十六夜綾人という人間は誰よりも努力出来る人間だと思う。怖いとか冷たい面があっても、私はお前の真摯な面を知っている。……だから、私はお前のことを好きになったんだ。1番近くでお前のことを見てきて、お前のそういう姿に気付いたら惚れていたんだ」

 

 最初はエイリア学園の計画に使えるか、或いは立ちはだかる壁になるのか……たったそれだけの事だったのに、気付けば大切な存在になっていた。私にとって大きな存在へと変わっていった。

 

「……だから、それくらいで離れはしない。もちろん、お前の行動を、プレーを全部肯定するようなバカになる気はない。お前が道を外してると思えば蹴り飛ばしてでも戻してやる……だから、やってみろよ十六夜綾人。見せてみろ、お前の全てを、本気のプレーを。この先、プロを目指すんだろ?プロは手を抜いて戦い抜ける程甘くはない世界だろ?」

「……そうだな。その通りだな……マジで」

「やり過ぎたら意地でも戻してやる。お前がもし暴走しようものなら全力で止めてやる」

「助かるわ……それなら安心してプレーできる。安心して自分(本気)を出せる」

「そうだろ?」

 

 バシン!

 

 思い切りヤツの背中を叩く。何処か暗い表情を見せる馬鹿が、いつも通り前を向けるように。少しでもこの男を縛るしがらみがなくなるように。

 

 バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!

 

「って痛いんですけど!?こういうの1回で良いんだって!ちょっ、やり過ぎだって!」

「でも、余計なことは吹っ飛んだだろ?」

「大事なことも吹っ飛ぶわ!」

「お前はごちゃごちゃ考えすぎなんだよバカ」

「たく……でも、ありがとな。最高の彼女だよ、()()

「……っ!」

「ちょっと練習するから付き合ってくれよ」

「……ふん。言われなくても付き合ってやる」

 

 十六夜綾人という人間にはきっと何かある……何かとんでもない秘密がある。でも、たとえどんな秘密を抱えていようと私は……

 

「お前を信じ、支えてやるさ。()()の彼女としてな」

 

 私がお父様を傷つけようとしたとき、自分の身を挺して止めてくれたんだ。私たちを止めるために、危険な潜入活動を行い、戦ってくれたんだ。その姿が嘘だと思えない。だから……私は私の出来ることをしたい。




十六夜綾人は戻り始める……だが、同時に進もうとしている。
彼が選ぶのは破滅か光かそれとも……
次回、ナイツオブクイーン戦スタート。


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VSナイツオブクイーン ~剣VS盾~

 ナイツオブクイーン戦当日の朝。オレは……

 

「うん、中々の味だ」

 

 厨房にて、調理担当と一緒に朝食を作っていた。

 

「こんなところに居たのか、十六夜」

「おはよ、八神」

「他の奴らは練習しているぞ」

「知っている。皆、試合前からやる気十分だな」

 

 初戦ということもあってか、朝食前からほとんどの者が既にウォーミングアップに外へと出て行った。

 

「お前は……って聞かなくても分かるか」

「過去のデータのインプットは終了している。軽く走って身体も動かした……ウォーミングアップなら済ませたな」

「……で?今日の試合は勝てそうなのか?」

「さぁな」

「さぁなって、お前なぁ……」

「韓国戦の前はイナズマジャパンはチームとしていくつか問題を抱えていた。相手が格上ってこともあって、あのままじゃ負けると思っていた」

「ふぅん。今は?」

「お前も分かるだろ?確かに世界からすれば日本のレベルは低いって思われている。……だけど、雷門ってチームが強い相手との試合の中で成長を重ねて来たように、このイナズマジャパンも同じ事が言えるだけの可能性を秘めている。……だから、オレからは今日の試合、勝てるとも負けるとも言えない……やってみなくちゃ分からないってやつだ」

「そうか……でも、微塵も負ける気がしないって目をしているが?」

「あ、バレた?……やるからには勝つ。というか、最初から負けると思って試合なんかしねぇよ」

「……まったく」

「それに、エドガーは情報に違わずすげぇヤツなんだろ?恐らく過去のデータ(予選の時)よりレベルアップしている……そんな相手にどこまでやれるか。早く試合したくてうずうずしている」

「まぁ、お前がパーティーに参加していれば、会えたんだけどな」

「あはは……それは言わないお約束って事で……もう散々言われたんで……っと」

 

 完成っと、後は揃うまで待つかぁ……

 

「でも、世界大会というだけあってすごい規模だな。まさか、試合会場は近くの島に作られたスタジアムとは……」

「それはオレも驚いた。開会式で使ったタイタニックスタジアムは決勝トーナメントまで出番がないらしいし、今日だとウミヘビ島に作られたウミヘビスタジアムが会場なんだろ?他にもそれぞれの島にそれぞれのスタジアムが作られているし……」

「しかも、それぞれのスタジアムもかなりの大きさ。どれだけ金がかかっているのやら……」

「だな。この島を買い占めてこんな改造したのにも驚きなのに、近くの島々まで買い占めてスタジアムを作るとか……流石の一言だ」

 

 正直、タイタニックスタジアムだけでも日程的には回せるように調整出来るだろう。だが、色んなスタジアムで開催……しかも、各国専用の船まで用意してくれている。ほんと、どれだけ金かけているんだろうか。

 

「もしかしたら、FFIが終わった後も何らかの形で使うんだろうな。というか、一度きりだったらいよいよ金の使い方がヤバい」

「私たちでは想像の出来ない世界だな」

「おはよ!あれ?十六夜、練習は?」

「あー軽く走って飯作ってた」

「お前……いや、それでこそ十六夜か」

「だな。十六夜なりに気合い入ってるんだろ」

「ははっ、とりあえず座れよ。冷めねぇうちに食おうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船旅を終え、ウミヘビスタジアムにやって来た。そして、グラウンドにてアップを開始するオレたちイナズマジャパン。……まぁ気になるのは……

 

『ナイツオブクイーン!かんばれぇ!』

『イギリスに勝利を!』

『エドガー様~!』

 

 まだ試合前だが……うん。観客の声援がすごい。というより早い。

 

「いやー圧倒的なアウェイだなー」

「そう言いながら、まったく気にしていないだろう?」

「まぁな。オレはオレのプレーをするだけだし」

「ふっ、流石だな。呑まれていないようだな」

「ははっ、そんな柔なメンタルは持ち合わせていないからな」

 

 と、鬼道と話していると……

 

「君がイザヨイアヤトだね」

「そうだけど……そっちこそエドガー・バルチナスだな?」

「その通りです。キミだけはパーティーに不参加だったからね。試合前に挨拶をと思って」

「それはそれはご丁寧に……パーティーの件は悪かったな。せっかく誘ってもらったのに」

「いえいえ。私たちも当日の朝に伝えましたからね。都合が悪いこともあるでしょう。……いい試合にしましょう」

 

 そう言って手を差し出してくる。握手ってことか。

 

「こちらこそ、よろしくな」

 

 差し出された手を握り返す……ん?

 

「では、これで」

 

 そして、去って行くエドガー。

 

「試合前に挨拶出来ていなかった選手に挨拶か……」

「そういうところを見るとやっぱり、紳士って感じだな……十六夜?」

 

 さっきまで話していた鬼道と、近くで見ていた豪炎寺が声をかけてくる。

 

「……どうやら、向こうの紳士様はかなりお怒りらしいな」

「……どういうことだ?」

 

 握手した手を見つめる。……うん、これはそういう事だろう。

 

「アイツ、笑顔で握手の手に力を込めていた……やれやれ。どうやら、パーティーを蹴ったことを根に持っているらしい」

「まぁ、その件はお前が悪いからな」

「うぐっ……し、仕方ねぇだろ……もっと前から約束してくれよ……」

「どうだかな」

「うぐぐっ……」

 

 信用ねぇ……仲間からの信用がないんだけど?

 

「というかパーティー1つ蹴っただけで、監督もエドガーも厳し過ぎだろ……」

「まぁ、そう言うな。ただ、やっぱり十六夜の知名度は俺たちより上らしいな。試合前から個人的に宣戦布告してきているあたり……そうだろ?鬼道」

「ああ。十六夜がパーティーに参加しなかったことがバレている……無名の選手が不参加でも相手は気にしないだろうけど、わざわざ言ってきたあたりそういう事なんだろう」

「もし、十六夜がパーティーに居たら、余興の相手は変わっていたかもな」

「あり得るな」

「でも、知名度もだけど、今だけって話だろ?……というか、そんな前評判なんて興味ねぇよ。()り合えば分かる。お前らがホンモノなら徐々に伝わっていくだろ?イナズマジャパン(このチーム)には他にも凄いヤツは居るって」

「そのためにも勝たないとな……あの感じ、負けるとは微塵も思っていないらしい」

「ああ。だが、負けられないのは俺たちも一緒だ」

「勝とうぜ。アイツらに……そして、世界に知らしめてやろう」

 

 そして、アップの時間も終えて、ベンチに集合する。そして……

 

「スターティングメンバーを発表する」

 

 恒例のというべきか、必要な通過儀礼というべきか、今日のスタメン発表である。

 

「FW、豪炎寺、宇都宮。MF、基山、鬼道、土方、風丸。DF、綱海、壁山、十六夜、飛鷹」

 

 おっと、初めてだな。最初からDFとは……

 

「ゲームキャプテン兼GK、円堂。以上だ」

 

 ……世界大会だから出し惜しみはなしってことか。

 

「いいか。全力で戦い、勝利を掴んでこい」

「「「はい!」」」

 

 久遠監督の言葉を受けて、円堂以外の10人がフィールドへ。円堂は、キャプテンとして、審判のところに行き、キックオフを決めるコイントスを行っている。

 

「イナズマジャパンのキックオフか……幸先よく行きたいな」

「わわっ……き、緊張して来たッス……」

「やろうぜ、壁山。全力を見せ付けてやろう」

「は、ハイッス!」

 

 解説では、ナイツオブクイーンとイナズマジャパンについてそれぞれ言っている……が、メインはエドガーとおまけでのオレの紹介。エドガーの凄さが改めて伝わっただけだな。解説も一応中立的な立ち位置では居るんだろうが、心の中ではナイツオブクイーンが勝つと予想しているのだろう。

 

「あれ?十六夜、お前手袋なんてしてるのか?」

「フィールドグローブってヤツだよ」

「はぇー……そんなのもあるんだな」

「まぁ、ウチのチームでしているヤツいねぇし。ちょっと気合を入れるためにな」

「ははっ!お前も世界大会で乗ってるってことか!」

 

 綱海から背中を叩かれる。グローブを付けていることに意味があるかは分からない。ただ……

 

「こういうのは形から……ってな」

 

 円堂もポジションについたので、改めて気を引き締める。

 

 ピーー!

 

 ホイッスルが鳴り試合開始。ボールは鬼道が持った。鬼道がドリブルで突破し虎丸へ渡る。そして、虎丸から豪炎寺へとパスを出す……が。

 

「へぇ……」

 

 そこを相手チームの5番がパスカットをする。なるほど……読まれていたか。そして、そのプレーで湧き上がるイギリスのサポーターたち。

 

「土方2歩下がれ、風丸ボール持っているヤツにサイドからタックル、綱海とヒロトはそれぞれFWの選手のマークを」

「「「おう!」」」

「飛鷹、3メートル先だ……今、行け」

「おっす!」

「ナイス、そのまま鬼道へ」

「ほぅ……味方を動かしてパスを出させましたか」

 

 飛鷹がカットしたボールを鬼道に渡す。そのまま鬼道がパスを出すもカットされてしまう。その後も、シュートを打たれる前に味方がボールを奪うも、出したパスは悉くカットされてしまう……流石というか、レベルが高いな……こっちの攻めが通用してない。

 

「十六夜さん、攻めなくていいんッスか?」

「まだだ……もう少し見てぇ」

 

 DFであっても攻めることが多いからか、攻めずに最終ラインに居ることに疑問を持ったらしい。こちらが得ている情報は古いもの……現在の情報との差を埋めておきたい。ズレがあっては致命的な読みのミスへと繋がりかねない。

 そんなことを思って指示と分析をしていると、ボールはエドガーに渡った。

 

「受けてみよイザヨイ!この聖なる騎士の剣を!」

 

 エドガーが一回転し右足を大きくあげる。すると、オーラが巨大な剣を生成し、まるで足から剣が生えているようだ。

 

「エクスカリバー!」

 

 そして、その剣――エクスカリバーを振り下ろし、ボールは衝撃波とともに地面を切り裂き進んでいく……

 

『出たぁ!エドガーのエクスカリバー!』

「いいぜ……受けてやるよ。エドガー」

 

 わざわざ名指しで挑発し、オレの正面に来るように打ってくれたんだ……ここで逃げるわけには行かない。

 

「ダメだ十六夜!それは円堂ですら……」

 

 ピー!

 

 仲間の静止する声に聞こえないふりをして、ペンギンを呼び出す。相手が剣ならこっちは盾だ。

 

「アイギス・ペンギンV2!」

 

 12匹のペンギンたちが現れ、6匹ずつに分かれ盾を2つ生成する。2つの盾が重なってボールを受け止めようと待ち構える。

 

「……っ!予想以上のパワーだなぁ……!」

 

 盾とシュートがぶつかり合う。少しずつ押されていき、1枚目のパリンッと音を立てて砕け散る。

 

『防ぎました!なんと十六夜の必殺技がエドガーのシュートを防いだぁ!』

 

 2枚目の盾はヒビが入ったものの砕かれることなく、ボールを止めた。そして、足下に転がるボール……

 

「止めましたか。少しはやるようですね」

「これで少しか……まぁいいけどさ」

「そろそろ動いたらどうです?あなた方については、大体掴めて来ましたけど?」

「こっちも分析はほぼ完了した。早くお前の手の内も晒して欲しいものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜の進化させたアイギス・ペンギンがエドガーのエクスカリバーを受け止めた。

 

「さ、流石は十六夜くん……いかりのてっついですら止められなかったものを止めるとは……」

 

 ベンチ、観客、フィールド……驚いていないのは止めた張本人と撃った張本人だけだろうか。挨拶代わりの一撃なんだろう。ただ、それでもエドガーの必殺技をディフェンダーである十六夜が止めたと言うのは、衝撃として会場中に伝わっている。

 

「でも……何であんな凄い技があったのに、韓国戦では使わなかったんだろう?」

「あ……そう言えば。アレを使えばカオスブレイクも止められたんじゃ……」

「使えなかったんだよ。十六夜は」

「どうして?」

「あの技は確かに強固だ。進化して2枚になっていたが、多くのヤツは1枚目を砕くことすら出来ないだろう」

「確かにそうですね……じゃあ、やっぱり何故使わなかったんですか?少なくとも7失点もしなかったと思いますが……」

「あの技の欠点は2つ。1つ目は正面に来たシュートしか使えないこと。あくまで盾を生成し、支えるのはヤツ自身……正面以外への対応が遅れてしまうこと。そして、2つ目はあの必殺技は十六夜が支えて止めるということ」

「それが、どうしたら使えないことに繋がるんですか?」

「今も十六夜自身がシュートの威力で後ろに下げさせられたように、盾が砕けなくてもゴールになってしまうことがあることだ」

「なるほど……止める位置が後ろ過ぎると、ボールがゴールに入っているかもしれないんですね」

 

 だからあの必殺技はディフェンダーとしてシュートを防ぐ分には使えるが、キーパーとして使うには不便な面がある。だからこそ使えなかったんだろうと推測される。それに加え、手が限界を迎えていたから支えられなかったんだろうな。

 十六夜がエドガーの必殺技を止めた……だが、あくまでそれだけ。こちらのパスコースは読まれ、攻めることが出来ていない。そして更には……

 

「何ですか!?あのフォーメーションは!?」

 

 ナイツオブクイーンのフォーメーションが変わる。具体的には5人の選手がVの字を作るような感じになっているが……っ!

 

「次から次へと……!」

 

 Vの字のとがった部分に位置する選手を躱しても、次の選手がすぐにやってきて、それを躱しても次が……攻め手に息もつかせないような連続プレスをかけてくる戦術。

 

「アブソリュートナイツ」

 

 アブソリュートナイツ……そう呼ばれた戦術の前に、攻め手を失ってしまうイナズマジャパン。

 

「反撃開始です」

 

 向こうの監督の指示で攻め上がってくるナイツオブクイーン。

 

「な、何ですかあの戦術は……」

「…………」

「どうしたの?八神さん、気になることでも?」

「いや、十六夜のヤツが大人しいなって」

 

 ディフェンスになると十六夜が的確な指示を出す。韓国戦で使った未来視によって、味方がパスカットやブロックすることで、さっきのエドガーのシュート以外に相手のシュートはない。双方、攻撃がすべて止められている形だが……

 

「十六夜がほとんど動いていないな」

 

 アイツは指示しか出していない。自分がブロックに行くことなく、攻撃を防いでいる。それにまだ、さっきのシュート以外にボールに触れてさえいない。ディフェンスとはいえ、攻撃にも参加していない……今までの試合のせいか妙に大人しく感じるな。

 

「ただ、それはエドガーも同じ……か」

 

 エドガーもほとんど動きを見せていない。水面下での探り合いが行われていると見るべきか。嵐の前の静けさ……試合はそんな予感を思わせる立ち上がりで進んでいくのだった。



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VSナイツオブクイーン ~代表の使命~

「……日本のサッカー、なかなか頑張ってるじゃないか」

「それはお世辞か?」

「さぁ、どうだろうね」

 

 ボールを持ったエドガーはオレと1対1になる……が、

 

「…………?」

 

 何故か自陣ゴールの方へとドリブルをし始めた。……おいおい、何してるんだ?ゴールは逆方向だぞ……?

 

「何しているんだ?アイツ」

「分からない……」

 

 理解出来ない行動……一切アイツからのパスルートは見えていない。何か狙いがあるのか……何を仕掛けてくるか読めない。深追いは禁物だと判断し、ブロックに行くのは他のヤツに任せ、前線の空いている選手の方に行くが……センターライン付近で突如反転、右足を振り上げシュート体勢に入った。

 

「エクスカリバー!」

 

 放たれたシュート……だが、何故わざわざ距離を取ったんだ?オレの前で打ってもよかったんじゃ……っ!?

 

「なっ!?追いつけねぇ!」

 

 オレの正面に打たれたわけではなく、ゴールに向かって打たれたそのシュート。距離もあり、さっきのシュートスピードを見た限り、コースに割って入るのは容易だと思っていた。

 だが、その推測に反して追いつくことが出来なかった。目の前を猛スピードで進んでいくシュートを見送る形になる……

 

「ザ・マウンテン!」

 

 壁山がシュートコースに入ってブロックを試みる……が、山は粉砕され壁山も吹き飛んでしまう。

 

「いかりのてっつい!」

 

 円堂のいかりのてっついがシュートを止めようとする……が、止めることはかなわず円堂は弾かれ、ボールはゴールに刺さった。

 

『ゴール!エドガーの強烈な一撃がイナズマジャパンゴールを揺らした!ナイツオブクイーン先制だ!』

 

「前より威力が……!」

「……距離があればあるほど、威力とスピードが上がる必殺シュート……ってことかよ。クソッ、見誤った」

 

 そんな意味が分からねぇシュートがあるとは思わなかった。普通のシュートは距離があるほど、威力が落ちていくのに、ヤツの必殺技は増していくとか……クソ、ということはエドガーのシュートレンジは……このコート全て……いや、この感じだと、センターラインより後ろから撃たれりゃ止められねぇか。悉く常識が通用しねぇな……マジで。ただえさえ厄介な選手なのに、シュートレンジがフィールド全てとかどうしろって言うんだよ。

 

「負けてたまるか……!」

「円堂……」

「俺たちは世界一になるためにここに来たんだ」

「世界一……か」

 

 すると、エドガーがやって来て話に混ざってくる。

 

「キミたちは世界一の意味を本当に分かっているのか?」

「え?」

「キミの言う世界一からは自分たちの想いしか感じられない。世界で戦うチームは自分の国の数え切れない人々の夢を託されているんだ。それを裏切ることは出来ない。その夢を背負って戦うのが代表の使命だ」

 

 なるほど……ねぇ。

 

「我らはナイツオブクイーンに選ばれた誇りを胸に抱いている。ただ、目の前の高みしか見えていないキミたちに負けるわけにはいかない!」

「……エドガー。お前への認識を改めるよ」

「ほぅ……」

「……代表になれず無念な思いをしたヤツや、代表を外されオレたちに託したヤツ、はたまた日本が世界一になることを応援しているヤツ……色んなヤツの思いをオレたちは背負わなくちゃいけないんだって」

 

 日本代表が決まったとき、響木監督は言っていた。選ばれた者は、選ばれなかった者の思いを背負うって。もちろんそれだけじゃない。イナズマジャパンを応援してくれている人たちの思いもオレたちは背負っていかなくちゃいけない。だが……

 

「だけど……悪いけどそんなのはオレの感覚じゃない。本気で戦う理由になれやしねぇ。……言っちゃ悪いが、そんな押し付けされても困るんだよ」

「……ほぅ。それなら何故キミはここに立っている?何の為にここで戦っている?」

 

 確かに、皆の思いや願いを背負って戦いますって言う方が、代表としては正しいんだろう。だが、そんなことに縛られたくないし、はっきり言ってそんな崇高なものを背負って戦ってますって思えるような人間にオレは出来ていない。

 

「世界一になるため……お前らと戦って、お前らに勝つためにここにいる。勝利以外に何もいらねぇんだよ。夢をとか誇りをとか綺麗事(そんなこと)どうでもいいんだよ。代表の使命って崇高なもの(そんなやつ)を背負えるほど格好良い(出来た)存在でもねぇんだよ」

 

 支えてくれる人たちには感謝している。それは間違いない。期待されているってのも分かっている。応援してくれるってのも分かっている。……だとしても、オレは勝つためにここに居る。世界一になるためにここで戦っている。

 

「というかさ、目の前の高みしか見えてない?目の前の高みを目指して何が悪い。目の前に強いヤツがいるんだったら、そいつに勝ちたいと思うのは当然だろうが」

「……どうやら、キミとは合わないようだ。……来い、イザヨイアヤト。独りよがりで傲慢なキミの思想……私が直々に引導を渡そうじゃないか」

「誰がどういう思いで戦おうと勝手だろうが。自分の正しさを押し付けんなよ。……潰し合おうじゃねぇか。そして、最後に勝つのはオレたちイナズマジャパンだ」

「いいや、最後に勝つのは私たちイギリス、ナイツオブクイーンだ」

 

 そう言い残して、自分のポジションへと戻っていくエドガー。

 

「言い切ったな十六夜。……今のがお前の本音か、エドガーを誘うための虚言(ブラフ)かはどちらでもいいが、これでエドガーのヘイトはお前に向いただろうな」

「……なぁ鬼道、ちょっといいか?」

「何だ?そろそろ攻め上がるからフォロー頼むって話か?」

「流石。じゃ、よろしく」

「ふっ、見せてこい。お前のプレーを」

「ギア上げるから置いていったらゴメンな」

 

 先取点を取られてしまったが、まだまだここから。まだ0-1……焦る時間じゃない。エドガーに対する評価、情報を更新しろ……アイツがナイツオブクイーンの心臓だ。そして、アイツはオレの格上だ。

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「ぶっ潰しぶっ壊してやんよ!ナイツオブクイーン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1点取られて試合再開。ボールは十六夜に渡った。そして、スイッチが切り替わったように獰猛な雰囲気になる。冷静で理知的で、未来を淡々と見通していた機械(マシン)が、荒ぶる空気を纏い、血に飢えた(バケモノ)へと変貌する。戻った……ってやつなんだろうな。

 

「正面から来るか……面白い」

 

 ドリブルをする十六夜。対してナイツオブクイーンはフォーメーションを変えた……

 

「アブソリュートナイツ!」

 

 必殺タクティクス、アブソリュートナイツが発動する。

 

「またあの必殺タクティクスです!」

「十六夜先輩はどうするつもりなのでしょうか?」

「どうもしないだろ」

「えぇっ!?」

 

 そんなことお構いなしにアブソリュートナイツへと突っ込んでいく。1人目を躱し、すぐさまやってきた2人目を躱し、3人目を躱していく……

 

「なんだコイツ……!?」

「読まれた……!?」

「すまん!そっち行った!」

 

 そのまま4人目と相対する……が、

 

「す、凄いです……まるでボールが足に吸い付いているみたい……!」

「アブソリュートナイツは次々とプレスを仕掛けてくる戦術……確かに、普通は何人も連続でプレスに来ればかなわないだろう。だが、あくまでプレスをする人数には限りがある」

「そうか!時間をかけずに突破しちゃえば、最大でも10人しか来ないんですね!」

「まぁ、10人しかと見るべきか、世界レベルが10人もと言うべきかはさておくがそういうことだ」

 

 まるで敵じゃないと言わんばかりだ。続く5人目とあわせ、一切気にした様子がなく突破した。

 

「面白い。アブソリュートナイツを正面から打ち破るとは……しかし、ここで通行止めだ」

 

 そんな十六夜を止めに現れたのはエドガー。6人目である彼は十六夜にプレスを仕掛けていない。……時間を稼ぐディフェンス……プレスでは簡単に抜かれると判断したのか、守り方を変えてきた。

 

「やめるわ」

「……っ!パスだと……!?」

「今は仕掛けるときじゃないからな」

 

 そして、守り方を変えたのを見て、十六夜も攻め方を変える。今までの味方を無視したドリブルでの突破から、パスへと切り替えた。……あの雰囲気は作ったモノだったか……それとも、途中までは本気でエドガーを見た瞬間切り替えたか。

 

「……もしかしたら……今までヤツはずっと隠していたのか……?」

 

 冷静沈着で分析力に長けた頭脳派プレイヤー……それが十六夜綾人という選手だと思っていた。でも、本当のヤツは、荒々しい雰囲気を纏い本能で動く感覚派プレイヤーなのだろうか……?ただ、隠してきたにしては引っかかる。分析力は他人から貰ったもの……今まで見てきたプレースタイルは誰かから貰ったものなのか?

 

「いや……今は試合だな」

 

 ……もしかしたら、韓国戦も暴走じゃなく初期に戻っただけ……そんな可能性すらある。そんなことを考えたらキリがないだろうな。

 

「お前たち、アップしろ」

 

 そんなフィールドでの様子を見て、久遠監督はベンチメンバーに声をかけた。……交代枠を使う……それか、いつでも使えるようにだろうか。

 

「虎丸!」

「はい!」

 

 十六夜からのパスを受け取ったのは鬼道。そのままダイレクトで宇都宮へと繋げた。攻め上がる宇都宮……だが、立ちはだかったのは4番。

 

「ストーンプリズン!」

 

 宇都宮の両脇を逃がさないように、石の柱が地面から出て来る。徐々に石の柱が出るスピードが宇都宮の進むスピードより速くなり……

 

「カウンター警戒!戻れ!」

 

 宇都宮の目の前に現れた石の柱。そこにぶつかり、ボールを奪われてしまった。ボールはエドガーに渡る。

 

「お前は通行止めだ。行かせねぇよ」

「私を止めるつもりかい?」

「つもりじゃねぇ。止めるんだよ」

 

 先ほどと攻守反転し、今度はボールを持つエドガーに対して十六夜がブロックに行く。

 

「ディフェンス陣!守備固めろ!」

「行け!騎士たちよ!」

 

 十六夜の指示とエドガーがパスを出したのはほぼ同時。

 

「流石はトップレベル……判断の早さも一流ですね。あの場面、エドガーが十六夜くんを突破しようと意地になっていれば、もっとやりやすかったのですが……」

「十六夜が勝てばそれでよし。負けてもフォローに行った鬼道が奪っていた……それを見越してのパスへの切り替え。一筋縄ではいかないようだな」

「えぇ、ですが十六夜くんは役目を果たした。エドガーにシュートを撃たせなかった……それはかなり大きいでしょう」

「他の選手がどれほどかは分からないが、あのシュートを超えるとは思えないしな」

「それにしても、やはり世界は違いますね。今までより全体のプレーレベルが上がっています……ですが、こちらも負けていません」

「そうですよ!特に読み合いなら負けません!」

 

 音無の言葉を聞き、チラッと不動の方を見ると、今までの試合より真剣な様子で試合を見ていた。彼もまた鬼道と並び、優秀なゲームメイカーだと認識している。おそらく久遠監督もベンチから彼に攻略法を見出させるつもりなのだろう。

 シュートを撃ったのは11番。コースを狙ったものだったが、円堂がしっかり反応して受け止めた。

 

「十六夜!」

 

 ボールは円堂から十六夜へ。そして、ダイレクトで風丸に渡った。

 

「風神の舞!」

 

 ブロックに来た相手を必殺技で突破する。ボールは豪炎寺に渡った。

 

「ストーンプリズン!」

 

 4番が先ほど宇都宮を止めた必殺技を繰り出す。対する豪炎寺は、自分の前に石の柱が出てきたタイミングで跳び上がり、4番の必殺技を破る。

 シュートコースが空いた。キーパーまで障害はなくなった。

 

「爆熱スク――」

 

 必殺技を放とうとする豪炎寺。しかし、炎の渦の中、ボールをかすめ取ったのはエドガー。そして……

 

「エクスカリバー!」

 

 相手ゴール付近からの超ロングシュートが炸裂する。普通であれば、無謀な一撃……だが、あの技は違う。

 

「シャレにならねぇだろ!?」

 

 十六夜が思わず叫んでいるが、あの技は距離があればあるほど威力とスピードを増していくと推測される。つまり、相手ゴール前から撃ったそれは、先ほどとは比べものにならない威力になるはず……

 

「……っ!やっぱ間に合わねぇ!皇帝ペンギン1号!」

 

 そんなシュートに対し、コースに入ることまでは成功した十六夜。そこから、アイギス・ペンギンを放とうとしたのだろうが、相手のシュートのスピードを見て技を切り換える。足に食らいついたペンギン。本来ならシュート技になるであろうそれをシュートを打ち返す為に使った。……だが……

 

「後頼む!」

 

 吹き飛ばされる十六夜。流石に蹴り返すことは出来なかったようだ。

 

「ザ・マウンテン!」

 

 しかし、十六夜の稼いだ僅かな時間のおかげで壁山のブロックが間に合う。僅かに止まるボール……だが、シュートを防ぐことは出来ず、ザ・マウンテンも破られ、壁山も吹き飛ばされてしまった。

 

「いかりのてっつい!」

 

 円堂のいかりのてっついがボールを地面に叩きつける。今度は弾かれることなく止まった。

 

「な、なんとか止めましたね……」

「よ、よかったぁ……」

 

 円堂がボールを前へと送ろうとした……が、そこで気付いてしまった。

 

「壁山!」

 

 壁山が倒れたまま起き上がれなくなっていることに。



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VSナイツオブクイーン ~戦場(ステージ)の差~

最近は何をしていても院での研究が頭から離れない……そんな院生です。

ちなみに【推しの子】にはまりました。
いやぁ……1話見るごとにどんどん沼へ沈み込む感覚がしますね。沈み込んで行ってこの前【推しの子】を11巻まで全部購入しましたが。……あれは書店バイトの友人が再版が来ることとすぐになくなるだろうってことを教えてくれたおかげですね。そのお陰で見かけて数分で購入を決めましたが。

では、ナイツオブクイーン戦……何も問題が起きないといいですが。


『あぁっと!強烈なシュートを正面から受けた壁山!立ち上がることが出来ません!』

『大丈夫でしょうか?エドガー選手の必殺シュートを真正面から喰らっていますからね……』

 

「壁山!大丈夫か!?」

 

 駆け寄るオレたち。オレと円堂が起き上がらせるが、立つことは出来ない……相当のダメージをもらってしまったようだ。

 

「マジで助かった。お前の粘りがなきゃ、決められていた」

「根性あるな、お前」

「イナズマジャパンの失点は俺たちだけの失点じゃないッスから……!」

「……っ」

 

 その言葉はエドガーに触発されたのだろう。あの言葉が響いたのはオレだけじゃなかったようだ。…………最も、響き方は違うだろうが。

 

「選手交代だ」

 

 久遠監督が選手交代を指示する。怪我をした壁山、そして綱海を下げ、代わりに入るのは染岡と栗松か。

 

「ゆっくり休んでろ、壁山。お前の働き、無駄にしねぇよ」

「お願いするッス、十六夜さん」

「俺の分も頼むぜ!十六夜!」

「任せろ」

 

 綱海と共に壁山に肩を貸してなんとかベンチまで運ぶ。

 

「十六夜」

「はい」

「ポジションを無視していい。やるべきことをやれ」

「分かりました」

 

 ベンチに行くと監督に声をかけられる。エドガーのシュートレンジ……相手ゴール前から撃たれるヤツにディフェンダーのオレが釣り出されるわけにはいかない……そうやっているとさっきみたいな相手ゴール前からのシュートに反応が遅れる。だから、監督はポジションを無視してもいいって言ったんだろう。

 

「染岡……お前って点取る自信あるか?」

「ああ!もちろんだ!」

「良い返事だストライカー。豪炎寺もちょっといいか?」

 

 鬼道が栗松と風丸を呼んで話している中、オレは染岡と豪炎寺と話をする。

 

「行けるか?」

「お前は突拍子もないことを言うな……」

「オレの頭と技術がありゃ行けるはずだ」

「上等じゃねぇか!やろうぜ、十六夜!」

「まぁ、使わずに済むかもな」

「済めばそれでいいんだよ」

 

 そのまま話が終わると円堂の方へ向かう。

 

「円堂ーこっから相手のシュート増えるけど頼むわ」

「おう……」

「どうした?」

「エドガーのシュート……どうやったら止められるのかな……って」

「分からん」

「えぇ!?は、早くないか?もう少しこう考えたりとか……」

「悪いけど、必殺シュートを止める方法なんてよく分からない。真正面からパワーで対抗ぐらいしか出てこねぇしな」

「でも……アイツのシュートのパワーに正面からは……」

「オレに出来ることは出来る限りアイツに撃たせないようにすること。そして、撃たれてもほんの少しパワーを削り、時間を稼ぐことだけだ」

「な、なるほど……」

「思い切りやってくれよ、キャプテン。失敗して、失点したとしてもオレたちが取り返す。それがお前の言うチームってヤツなんだろ?全力でやったヤツの失敗を責める人間なんていねぇ……それがお前の率いるチームだろ?」

「思い切り……分かった。任せたぞ、十六夜」

「背中は預けたわ」

 

 ポジションにつき、試合が再開する。ボールは鬼道が持っていた。それを見て相手は陣形を変え、アブソリュートナイツの体勢に入った。

 

「風丸!栗松!」

「おう!」

「はいでヤンス!」

 

 鬼道は2人を呼ぶ。すると、前から鬼道、風丸、栗松と一直線に並んで攻めていく。……なんだあの布陣は?

 

「……あーそういうこと」

 

 アブソリュートナイツが発動し、次々とプレスに来る……が、3人は、相手選手が来たらすぐ横へパスを出している。そして、パスを出したヤツは最後尾に移動して……

 

「アブソリュートナイツの連続プレスに対抗して、こっちもボールを持っているやつをその場その場で変えている……パスでの突破を基本としているってことか」

 

 それなら高い技術を必要としない。個人技での突破ではなく、連携で突破していく……これなら取られるリスクも少ない。

 

「流石は鬼道だな。同じ必殺タクティクスでも、視点が違うと破る手段が違うか」

「まぼろしドリブル!」

 

 栗松の必殺技で最後のディフェンスを突破し……

 

「イザヨイ以外にも破れた……か。少々イナズマジャパンを過小評価していたようだ」

「あぁっ!?」

 

 そのディフェンスの陰から現れたエドガーによって、ボールを奪われてしまった。 

 

「なるほどねぇ。オレも同じ潰し方を思い描いていたよ」

「幻の4人目……というわけですか」

「お前こそ幻の6人目してたろ。相手の必殺タクティクスを破ったと思う、油断が襲ってくる瞬間を狩る。オレが単独で破ったから警戒していたか?」

「無策で突っ込む愚者はいないと思って、念の為警戒していただけだよ」

「ディフェンス!十六夜が時間を稼いでいる間に戻れ!」

 

 鬼道の指示で、守備へと切り替えている。その間に……

 

「やっぱ、すげぇなおい」

「キミこそ、中々の守備力だ」

 

 エドガーとのマッチアップ。さぁ、()り合おうじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?十六夜さん、いつの間に……?」

 

 アブソリュートナイツを崩したタイミングでのエドガーの乱入……そして、エドガーに取られたのも束の間、十六夜がブロックに行っていた。

 

「よく見ているねぇ、あのペンギンは」

「どういうことですか?」

「十六夜は鬼道クンがアブソリュートナイツを破る手を打ったのは分かってた。アブソリュートナイツを破ろうとする鬼道クンたち……フィールドの選手は彼らに釘付けになった。そんな中、エドガーはただ1人、鬼道クンたちがアブソリュートナイツを破ると考え、破られた時のフォローに走り、その動きを見ていた十六夜がエドガーに取られる未来を読んで、走り出していた」

「つまり……突破されることを読んでいたエドガーと、そのエドガーに奪われることを読んでいたから一瞬で追いついたと……」

 

 そんな不動の解説を聞きながら、エドガーとの1対1を見る……が、

 

「い、十六夜さんが……まだ奪えてないッス……!」

 

 余裕がない……いつもとは違って、エドガーのプレーに紙一重でついて行っている状況。エドガーのドリブル技術はかなり高い……今までの相手とは格が違う。

 

「レベルが高過ぎる……!」

 

 アジアの猛者ですら、純粋な技術のみで十六夜をここまで追い詰めることはなかった。必殺技を使わない技術も優れている……これが、本物の世界トップレベル。

 十六夜綾人という選手は間違いなく日本トップクラス。それなのに世界を見れば、そのレベルを超える者は何人も居る……か。

 

「だが、十六夜は仕事を果たしている」

「確かにな。アレならエクスカリバーを撃つ隙はねぇ」

 

 紙一重でついて行っている……余裕はないが振り切られていない。十六夜自身もそういう守備に切り替えたのだろう。奪いに行くのではなく、突破させないことに重きを置いている。シュートを撃つ隙を与えない守備……か。

 

「支えるでヤンス!」

 

 そんな勝負……十六夜を助けるために栗松が割って入ろうとする。

 

「……この程度か」

「クソッ!」

 

 エドガーがすかさず栗松の前へと移動する。十六夜もついて行くが、エドガーとの間に栗松が挟まれている状態になる。そして、エドガーはそのまま大きくバックパスを出した。

 

「遅らせろ!」

 

 エドガーの動き出しが見えず、2歩も3歩も遅れてしまう十六夜。しかも、栗松を避けるために、更に遅れてしまう。

 ボールは相手のキーパーの足下に収まる。そこに迷わず走り込むエドガーと遅れて走り出す十六夜。

 

「ッチ……!邪魔……!」

 

 しかも、最短ルートで走り込もうにも他の選手が立ちはだかる。走行妨害……その選手を避けるための1歩が、回り込むその1秒が更にエドガーとの差を拡げる。

 

「エクスカリバー!」

 

 そして、エドガーがいち早く自身のゴール前へと辿り着く。そのままキーパーからボールを受け取るとシュートを放つ。

 

「皇帝ペンギン1号!」

 

 シュートを撃たせないことは不可能だと悟り、シュートコースに割って入る……が、それでもアイギス・ペンギンを放つ余裕はなく皇帝ペンギン1号でブロックするも、吹き飛ばされてしまう。

 

「うぉおおおおお!真空魔!」

「スーパーしこふみ!」

 

 飛鷹と土方がシュートブロックを試みるも止められない。

 

「いかりのてっつい!」

 

 円堂のいかりのてっついが炸裂。だが……

 

『エドガーが追加点を決めたぁ!これで2-0!ナイツオブクイーン!イナズマジャパンを突き放す1点を決めたぞぉ!』

 

 ボールはゴールへと刺さり、点が決まってしまった。

 

「イザヨイアヤト。キミの技術は素晴らしい。私に啖呵を切るだけのことはある……だからこそ、残念だよ。いや、哀れとも言うべきか……キミは仲間に恵まれていないようだね」

「うるせぇ。テメェとの1対1(サシ)での勝負、邪魔される可能性を考慮出来なかったオレが悪い。次はねぇよ」

「……フフッ。そうですか。……まぁ、キミの言うお仲間は足を引っ張った事実にさえ気付かないでしょうね。キミが私に負けた……残るのはそれだけでしょう」

「…………どうにも、オレをキレさせたいようだな……テメェは」

「そんな狙いはありませんよ。でも、こんな雑談で熱くなってるようじゃまだまだですね」

「雑談?トラッシュトークの間違いだろ?」

「いいえ、雑談ですよ。だって、()()をお伝えしているだけですから」

「……そうかよ」

 

 十六夜とエドガーが何かを話しているようだが、よくは聞こえなかった。十六夜は豪炎寺と染岡のもとへ行くと、一言二言話してポジションにつく。

 

「まさか、あの十六夜くんがやられて点を取られるとは……」

「ハッ、お前は何を見ていたんだよ」

「で、でも、十六夜くんが()()()()誰かと協力していれば……」

「お前は選手(プレイヤー)じゃねぇからそんなことが言えるんだよ……お前の言う協力は十六夜からすりゃ足を引っ張る行為以外の何でもねぇんだよ」

「なっ……!」

「……格が違う……立っている、戦っている戦場が違うことを理解出来ていないヤツとは協力もクソもねぇよ」

 

 イナズマジャパンボールで試合再開。ボールは鬼道から風丸に渡り……

 

「虎丸!」

 

 虎丸へとパスが出る。だが、そのインターセプトしようと割って入る陰が……

 

「こんなパスじゃ通ら……なっ!?」

 

 相手選手がパスカットをしようと割って入った……が、その前に割って入った陰が1つ。

 

「反応しろよ、ストライカー共?」

 

 足を振り抜き、ボールに強烈な縦回転を加えながら、ボールは割って入った相手ディフェンスと虎丸の頭上を駆け上っていく。独断でのパスルートの変更……そんなことをされては、パスをカットされなかっただけで、誰にも取れない……

 

「流石だ十六夜」

「だろ?豪炎寺」

 

 そのパスに反応したのは豪炎寺だった。跳び上がって、そのままシュート体勢に入る。……しかし、

 

「面白い……ですが、これで突破できたと思ってもらっては困ります」

「エドガーだと!?」

 

 同時に跳び上がっていたのはエドガー……まさか、十六夜の動き出しを見て読んでいたというのか?これでは折角の奇策も無意味に……

 

「あーストライカー共って言わなかったっけ?」

 

 そんなことを言いながら十六夜は走り出していた……豪炎寺たちとは逆サイドへと。このままではエドガーに取られるかもしれないと言うのに……

 

「……っ!?」

「もう遅い……決めろ!染岡!」

 

 豪炎寺から中央へと走る染岡へとパスを出した。豪炎寺がエドガーを引きつけ、残りのディフェンスを十六夜が引き受ける……それぞれがサイドへと引きつけ、中央には隙が生まれていた。そして、その隙に気付いたとき……誰もが両サイドばかりを見ていた中、ただ1人中央を走っていた男がボールを受け取り、キーパーと1対1になっていた。

 

「ドラゴンスレイヤー!」

 

 染岡の後ろに現れたドラゴンは、彼の必殺技であるワイバーンクラッシュの時のドラゴンよりも強そうな見た目をしている。そのドラゴンのブレスがボールと共にゴールへ向かっていく。

 

「あぁ……!」

 

 キーパーは豪炎寺と十六夜を警戒していたために、そのシュートに反応できない。手を伸ばそうとするも、ボールに触れることは出来ず、ゴールへと刺さった。

 

『ゴール!イナズマジャパン!リスタートと同時に、十六夜と豪炎寺のサポートを受け、染岡が決めました!2-1です!』

『この試合から参戦した染岡選手ですが、素晴らしい必殺シュートを持っていますね』

 

「よっしゃあああああ!」

 

 1-2……ゴールをこじ開けた染岡。フィールドでは彼が喜びを表し、吼えている。

 

「アレが染岡の新しい必殺技か……!」

「ああ!アイツの諦めない心が実を結んだんだ!」

「すげぇなおい!」

 

 喜びを表す面々の中、十六夜は豪炎寺、鬼道と話していた。

 

「敵を騙すにはまず味方から……お前への警戒を利用したのか」

「まぁな。ナイツオブクイーンがパスコースを読めていても、オレが勝手に変えてしまえば関係ない。その先に居た豪炎寺が撃てればよし。読まれていて、エドガーが引っかかればよしの二段構えの戦略だ」

「よく反応できたな、豪炎寺」

「事前に聞かされていたからな。コイツなら見えていただろうって思ってな」

「いい動き出しだった。お陰で完全に騙せた」

「お礼なら染岡にもな。アイツのシュート力がなければ成立しなかったんだ」

「って十六夜さん!俺もストライカーですよ!これじゃあ、イナズマジャパンのストライカーが豪炎寺さんと染岡さんみたいじゃないですか」

「忘れてねぇって。1人止められたら2人目、3人目……向こうと違って、点を決める手段はいくらでもある」

「よし、前半残り僅かだ。気を引き締めるぞ」

 

 得点を決めたイナズマジャパンに対し、ナイツオブクイーンは5人の選手を一気に交代する。それに合わせてフォーメーションも見たことのないような、中央に人数を集めるものになっていた。わざわざこのタイミングで仕掛けて来た……おそらく、前半最後に何かをするつもりなのだろう。

 ナイツオブクイーンのキックオフで試合再開。そして、恐れていた事態はすぐに起きてしまった。

 

「無敵の槍!」

 

 ボールを持つエドガー。そんな彼の前に1人。斜め後ろにそれぞれ1人の3人の選手が彼を守るようにして突き進んでくる。

 

「止めるんだ!」

 

 プレスに行った鬼道と土方を吹き飛ばす。……槍……圧倒的な貫通力で、無理やりゴールまでの道をこじ開けるつもりか?

 

「いかせねぇ!アイギス・ペンギンV2!」

 

 栗松、飛鷹も吹き飛ばされてしまった中、普通のブロックじゃ止められないと判断し、十六夜は必殺技を使って対抗する。

 

「クッ……だが勢いはこれで……!」

 

 盾にはヒビが入っていく。だが、向こうの貫通力も徐々に収まっていった。

 

「これなら止められます!」

 

 このまま止められる……私たちがそう思ったとき、

 

「構えろ円堂!来るぞ!」

 

 十六夜の焦った声が響く。来るだと?一体……

 

「よく気付いた!だが遅い!」

 

 無敵の槍……その中央に居たエドガーが十六夜の頭上を飛び越し通過する。そうか……!十六夜が止めているのは槍の先端……ボール保持者じゃない……!

 

「パラディンストライク!」

 

 ボールに対し、つま先でシュートをするエドガー。エクスカリバーは距離があればあるほど威力の上がる技。近距離で打つには向いていない……ここまで近距離から打てるシュートを隠していたというのか……!

 

「いかりのてっつい!」

 

 いかりのてっついでシュートを止めようとする……だが、それでは止まらず、円堂を吹き飛ばしてボールはゴールの中に刺さった。

 

「無敵の槍を止めるとは恐れ入ったよ、イザヨイ」

「お前を止められなかった時点で意味ねぇだろ、エドガー」

「勝利は私たちのものだ」

「気が早過ぎだろ。最後に勝つのはオレたちだ」

 

 ピ、ピー

 

 前半終了のホイッスルが鳴り響く……1-3で2点ビハインドでの折り返し……か。

 

『ここで前半終了!ナイツオブクイーンの必殺タクティクス、無敵の槍からのエドガーのシュートが刺さった!3-1!前半終了間際に重い1点が入りました!』

『しかも、これでエドガー選手がハットトリック達成ですね。後半も彼のプレーには注目したいところ。そして、再び2点差に拡げられたイナズマジャパン、十六夜選手の反撃も楽しみにしたいですね』

『では、前半の振り返りをしていきましょう』

 

 そのままベンチへと戻ってくるイナズマジャパンの面々。その表情は暗かった。ハーフタイムは控え室へと移動すると言うことで移動していく……

 

「悪い、無敵の槍を止められなかった」

「気にするな」

「次は止める……任せろ」

「策はあるのか?」

「一応な」

「そうか……頼りにしているぞ」

 

 鬼道と話を終えて、こちらへとやってくる十六夜。

 

「ほら、ドリンクだ」

「ありがと」

 

 十六夜にドリンクを受け渡す。

 

「どうだ?世界は」

「やっぱ、凄ぇわ……でも、負けていられねぇよ」

「目は死んでないようだな」

「ああ、次は勝つ」

 

 ドリンクを返してきたので受け取る。

 

「……悪い。ちょっと考えたいから外出る」

「そうか」

 

 そのまま控室ではなく、外へと出て行く十六夜。

 

「ミーティングを始める」

 

 遅れてやってきた円堂も揃い、十六夜以外が揃ったタイミングで監督は声をかける。十六夜がいないのを気にしない様子だが、一言断ってから行ったのだろう……多分。

 

「これ以上の失点は許されない。後半はボールをキープし、常に動かし続けろ。分かったな?」

「え?そんなこと出来るんですか?」

「出来るかではない、やるんだ。鬼道、そして不動。お前たちがコントロールしろ。後半はお前たち2人が司令塔だ。同時にピッチに居る意味を考えてプレーしろ」

 

 2人の司令塔によって……か。確かに、十六夜は司令塔ではないからな。

 

「後半はメンバーを入れ替える……」

 

 飛鷹、土方、風丸の3人をベンチに下げ、不動、佐久間、木暮を投入する。ナイツオブクイーンもイナズマジャパンも既に交代枠を5枠も消費している……全員で勝ちに行くということだろうか。

 

「監督、エドガーはどうするんですか?」

 

 3失点は全てエドガーによるもの。エドガーをどうにかすれば、失点は防げるだろう。

 

「ナイツオブクイーンの中で一番脅威的なのはエドガー……彼をどうするか、それが守備でのカギになるね」

「で、でも十六夜さんでも勝てない相手ッスよ……?」

「じゃあ、エドガーに2人マークをつけるとか?」

 

 ただ、エドガーをどうするか……具体的な策が思いつかない。彼を封じればいいが、他を無視することも出来ないし、人数も多くは割けない。

 

「ただいま、戻りました」

 

 そんな中、十六夜が戻ってくる。

 

「監督、エドガーの相手はオレ1人にやらせてください」

 

 そして、戻ってきたと同時にそんなことを言ってのけた。

 

「…………」

「そ、そんな無謀でヤンスよ……!」

「そうですよ!1人じゃ勝てなかったんですよ!」

「2点目の失点を忘れたんですか!?」

「せめて、十六夜先輩と誰か……」

「……お前の意図を聞かせろ」

「現状、イナズマジャパンのメンバーでアイツを押さえる役としての適任は、オレしかいないと思っています。……だからオレ1人で相手する」

「それでも誰かと一緒なら……!」

「それしかないだろ」

「ああ、賛成だ」

 

 十六夜に賛同したのは鬼道と不動、豪炎寺も頷いて賛同の意を示す。

 

「でも、1人じゃ……」

「逆だろ。コイツは1人じゃないと意味がねぇ。俺たちじゃ足手纏いなんだよ」

「あ、足手纏いって……」

「不動の言う通りだ。十六夜ともう1人つけるって話だが、誰がついても、そいつが十六夜の足を引っ張って隙をつくってしまう。……イナズマジャパンの中に十六夜と肩を並べ、対等に組める選手はいない。だから十六夜1人の方が勝算がある」

「でも……それで前半失点して……」

「お前らが不安に感じる要素である2点目の失点。アレは十六夜のせいじゃねぇ。どう考えても栗松が悪い」

「お、俺……?」

「お前が十六夜がやられる隙を作った。助けるためにって思ってたんだろうが、少なくとも、あのタイミングでの割り込みは十六夜にとっての邪魔以外の何でもねぇ。自分たちと十六夜たちとの差を理解出来てないんだよ」

「不動、言い過ぎだ」

「へいへい」

 

 無自覚だからこそ、良かれと思ってやったからこそ、突き刺さるものがある。目に見えて落ち込んだ様子の栗松を1年生組が元気づける。

 

「過ぎたことを言っても仕方ねぇよ。とりあえず、いいですよね?監督」

「元よりそのつもりだ」

「ナイツオブクイーンは、良くも悪くもうちと近い……いや、うちよりひでぇ。ぶっ壊すカギはエドガーだ。アイツさえ潰せば、あのチームは機能停止に追い込める」

 

 そう言って、十六夜は身体動かしてくると言って出て行く。あの男は何というか、自由だな。ただまぁ……

 

「十六夜なりの覚悟……か。この試合のカギを握るのは俺たちのようだな」

「どういうことですか?」

「十六夜が1人でエドガーを止める。俺たちが動きやすいように、相手の猛者(エース)をウチの最強(エース)が潰すって宣言してるんだ。……立っている次元がちげぇんだよ。俺たちの立っている場所と、エドガーと十六夜の立っている場所は」

「だからこそ、十六夜はエドガーを封殺することに注力する。俺たち10人が3点以上取れるかどうか……それがカギだ」

「ある意味、ファイアードラゴン戦から考え方が成長したんだね。自分が点を取る役目に回って、エドガーを放置すれば、逆転することが出来ない……それが分かって、自分が点を取ることを捨てる選択を選んだ。もっとも、隙さえあれば撃つだろうけど」

 

 口調とか雰囲気とかはアレだが、チームが勝つために尽くそうとしているのは間違いないか。

 

「ハッ、そもそも点を取るのは俺たちストライカーの役目だっての。後半はガンガン点を取っていくぞ、豪炎寺」

「だーかーら!俺を忘れないで下さいよ!俺だって、染岡さんに負けない必殺技があるんですからね!」

「それから円堂。いくら十六夜がエドガーを押さえてくれても、ヤツのシュート全てを防げるとは限らない。それに、他の選手のシュート数も増えるだろう。ゴールを守れるかはお前にかかっているぞ」

「ああ……」

 

 エドガーの嫌なところ(武器の1つ)は相手ゴール前からでもシュートが撃てること……突破されなければいいって話じゃないことだ。どこでボールを貰ってもシュートを撃たれるリスクがある。

 ……十六夜が世界トップレベル相手にどう戦うか。そして、世界レベルのシュートに円堂がどう対抗するか……予選と本戦ではレベルがまるで違うな。



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VSナイツオブクイーン ~騎士様と化け物~

「十六夜さん……ゴメンでヤンス」

「……あぁ?」

 

 オレが風に当たって考えていると栗松がやって来る。

 

「2点目の失点の時……俺、十六夜さんを助けようとしてそれで……」

「邪魔して失点に繋がった……か?」

「……っ!そう……でヤンス。だからそのことを謝りたくて……」

「謝罪はいらねぇよ」

「え……?」

「そんな言葉に価値はねぇ。今はハーフタイムだろ?……試合に集中してぇんだ。テメェがそうやって謝ったところでオレからの評価は下がるだけだ」

「……っ!ゴメンなさい……」

「…………」

 

 目に見えて落ち込んでいる……あぁ、そうか。また忘れていた。言葉にしなきゃ伝わらねぇか。

 

「顔上げろ。お前はあの時何を思っていた」

「え?そ、それは……十六夜さんが負けそうって……だから支えようと……」

「……そうかよ。それなら、お前は行動したことを謝るな」

「それってどういう……」

「あの状況で割って入る……その行動を思っても起こせるのは数少ない人間だ。だから、行動を起こそうとし、実際に起こしたことは評価する。……行動の仕方を間違えた。タイミングを間違えた。割り込む戦場のレベルを見誤った」

「……っ!」

「はっきり言う、お前は弱い。エドガーからすればお前なんて眼中にないレベルの弱者だ。そんな弱者(格下)ががむしゃらに突っ込んだところで軽くあしらわれる。それどころか、オレを妨害するために使われる始末だ。いいか?……お前はたった1人じゃエドガーに敵わない、警戒される価値すらない弱者(ザコ)だ」

「そ、それは……」

「だから、それを()()()()

「……え?」

「警戒されないことを利用しろ。お前が謝りたい、そんな失敗を思う気持ちがあるなら、プレーで示せ。お前はサッカー選手(プレイヤー)だろ?選手が失敗(ミス)をプレーで挽回しなくてどうする」

 

 厳しく聞こえるだろうが、これでも抑えた方だ。今、この場において言葉での謝罪なんてどうでもいい。必要なのはそこからどうやって挽回するかだ。

 

「試合は終わってねぇよ。お前にはお前の戦い方があるはずだ。謝罪なんかは試合後にいくらでも出来る。今出来ることをしろ」

「…………」

「後は考えろ。必要なら鬼道や不動に聞け」

 

 そして、そのまま歩いて行く。過度な期待はしない。だが、栗松も雷門として戦ってきたメンバ-の1人。……雷門のメンバ-は誰かさんの影響か諦めの悪いヤツが多い。ここまで煽られて、ただで折れるタマじゃねぇはずだ。

 

「厳しいねぇ~十六夜クンは」

「聞いてたのか?」

「まぁな」

「……お前なら上手く動かせるだろ?」

「へっ、分かってるよ。テメェの邪魔はさせねぇから安心して戦いな」

「ありがてぇ。全力でアイツと向き合える。……後ろは任せた」

「……勝つぞ、十六夜。こんな初戦で敗北とか俺はゴメンだな」

「やるぞ不動。勝利以外いらねぇよ」

 

 栗松から……読めないヤツから見て、あの場面はオレが負けていると思われていた。誰かの助けがないと勝てないと、状況を覆せねぇと思われていた。(しゃく)だが、それが世間の評価。前半でのプレーで、エドガーの方がオレより格上って言うのが大多数の共通認識。

 

「悪いけど、オレはアイツの引き立て役じゃねぇ……喰らい潰してやるよ」

 

 アイツの方が強いってことぐらい身に染みて分かっている。言われなくてもよく分かる。だが、相手より弱いって言うのは負けていい理由じゃねぇ。それに、この勝負の勝ちは譲らねぇし譲れねぇ。

 

「第二ラウンド開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムも終わり、ポジションにつく選手たち。前半終了間際と同じように、ナイツオブクイーンは攻撃的な陣形だ。

 ナイツオブクイーンのキックオフで後半戦開始。こちらの選手たちは中央を開けるように移動する。

 

「受けて立とう……無敵の槍!」

 

 早速、無敵の槍で突っ込んでくるナイツオブクイーンの選手たち。

 

「で、アホペンギン。改めて聞くけど、真正面からぶつかるって正気か?」

「そうだな~フォローだけ頼むわ、アッキー」

「へーへー、尻拭いはやってやるよ」

「拭かなくてもいいように頑張るわ」

 

 無敵の槍に正面から突っ込んでいくのは十六夜。会話の感じは軽かったが、本人たちの目は至って真剣だった。

 

「あくまで正面から防ぐつもりか!イザヨイ!」

「お前らの槍とオレの盾……どっちが強いか勝負しようじゃねぇか。来い!ボス!」

 

 すると、十六夜の背後に現れたのは……

 

「きょ、巨大なペンギンです……!何ですかアレは!?」

「十六夜の使役するペンギンだな」

「す、すごい大きさ……!」

 

 前に十六夜がなんやかんやあって呼び出せるようになったと言っていた、ペラーの実の兄ことボス。

 

「ボスペンギン!」

 

 必殺技の名前は安直だが、そのボスが十六夜の前に立ちはだかるようにして移動する。

 

「ザ・ウォールのペンギン版ですかね……?」

「ああ。だが、ペンギンだからこそ、ただの壁とは違って機動力がある」

 

 ボスペンギンと無敵の槍の尖端が激突する。壁と槍の衝突……

 

「借りるぞ、ボス」

「なっ……!?」

 

 そんな中、無敵の槍の後ろへ回り込んでそこから跳び、ボスの腹を使って更に跳躍。弾丸のように無敵の槍の中へと飛び込む十六夜。なるほど……壁と違って、弾力もあるわけか。相手(と味方の大半)がそんな無謀な行動に驚いている隙に、障壁を突き抜けた十六夜はボールを外へと蹴り飛ばした。

 

『な、なんと十六夜!無敵の槍に突っ込んでボールを奪い取った!?』

『こんな破り方をするとは……十六夜選手は予選でも相手の必殺タクティクスを力業で破ってきたそうですが、ここでも見られるとは……』

 

 十六夜の破り方には鬼道みたいなある種の美しさは存在しない。何処か脳筋で、残虐で、暴力的な十六夜本人にしか出来ない破り方が多いが……

 

「まさか、無敵の槍の内部に侵入するとは……」

「流石は十六夜さんッス!」

「俺たちじゃ想像もつかないことをやってのけるな……」

 

 と、ベンチでは今更過ぎる十六夜の奇行を賞賛する。ある意味で『読めない』ことをするのに定評がある男だからな……あと、無茶苦茶なところ。

 

『…………』

「サンキュー、ボス。ナイス活躍だ」

 

 なんというか……ボスも喋るんだな。何を言っているかは全然分からないが……アイツは何なんだ?ペラーだけでもあれだが、他のペンギンとも喋ることが出来るなんて……不思議だな、相変わらず。

 

「行くぞ!」

「フンッ、合わせろよ」

 

 飛ばされたボールは不動が拾った。そして、鬼道と不動の指示に従ってボールを動かしていくフィールドの選手たち。指示する人間(司令塔)が2人居るのに指示の食い違いが起きていない。それぞれがそれぞれどう指示するか分かっているみたいで……息が合っていると言えるだろう。こんなこと少し前では想像も出来なかった。

 

「互いの周りを3人の選手がまわりながら移動し、パス交換をする……それぞれへの指示も正確とか……」

 

 前半はこちらのプレ-が読まれ、パスがほとんど通らなかったのを思うと、今では相手を翻弄し、ボールに触らせない。……こんなプレーが出来るとは……。

 

「流星ブレードV2!」

 

 ボールはヒロトに渡り、シュートを放つ。

 

「ガラティーン!」

 

 キーパーの手からまるで光の剣が出てきて、シュートを一刀両断。ボールを真っ二つにした。十六夜がエドガーのマークをしながら、『いや、ボールを斬ったらダメだろ』とか思っていそうな顔をしているが知らない。

 

(いや、流石にボールを斬ったらダメだろ……)

 

「言うなればデュアルタイフーン!」

 

 そこからイナズマジャパンの攻める展開が続いた。十六夜がエドガーにマンツーマンでつき、ボールを持たせない。相手チームのエドガー以外のシュートが飛んでくることが増えるも、円堂の守るゴールを奪うことはない。

 エドガーと十六夜が静かに睨み合う中、試合は2人の司令塔によって完全にイナズマジャパンのペースになっていた。

 

「虎丸!」

 

 不動から宇都宮へのパスが通る。彼の前には甲冑の兜を来たようなヤツが現れた。

 

「ストーンプリズン!」

 

 そして、1度は宇都宮を止めた必殺技を使う。しかし、前半に豪炎寺が破ったのと同じように、跳ぶことでソレを回避した。

 そのままシュートを撃つ体勢に入る宇都宮。彼の背後には7本の剣が現れて……

 

「はぁあああああ!」

 

 シュートを放つ。すると、7本の剣もボールと一緒にゴールへと向かう。

 

「ガラティーン!」

 

 相手キーパーがシュートを叩き斬ろうと剣を振り下ろす……が、シュートに弾かれ、ボールはゴールに入った。

 

「よし!」

 

 これが控室で言っていた新しい必殺技……

 

「グラディウスアーチと名付けましょう」

 

 目金の名前をつけるスピードはさておき、イナズマジャパンのメンバーは加速度的に進化してる……

 ナイツオブクイーンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「ハッ、来いよ騎士様(エドガー)!ぶっ潰してやるよ!」

「お望み通り正面からたたき伏せてあげよう!行くぞ、化け物(イザヨイ)!」

 

 後半が始まって半分くらい……ようやく2人の怪物が激突する。

 

「無敵の槍を使わなくても……エドガーを止めるのは至難の業ですね」

「あの2人だけレベルが違う……」

 

 エドガーにシュートを撃たせない……ボールを無理に奪うのではなくついて行くことに注力している十六夜。抜かれることはしない……だが、一歩エドガーが迫れば、十六夜も一歩下がってしまう。徐々にこちらのゴールへと迫ってきてしまう。

 

「……この勝負はオレの負けでいい」

「ほう?」

 

 唐突にそんなことを言い出した十六夜。聞こえていた者が疑問に思うと同時に、スライディングを仕掛けた。

 

「急に大雑把に……っ!」

「栗松!やれ!」

「スピニングカット!」

 

 ボールを浮き上がらせて躱すエドガー。そこへボールに向け、不動の指示を受けた栗松がスピニングカットをぶつけた。空中で身動きが取れないエドガーはボールが弾かれるのを見ていることしか出来なかった。

 

「テメェは1つ勘違いをした。仲間に恵まれていない?オレの自由奔放なプレーに合わせようとしてくれるヤツが居るんだ。着いてこようとしてくれるヤツが居るんだ。……それで十分なんだよ」

「行け!」

 

 いち早く体勢を立て直し、既に走り始めた十六夜。そんな十六夜の下にパスが通る。

 

「どけよ。オレの前に立ちはだかるつもりなら……潰すぞ」

 

 ……予選の時と比べると十六夜のヤツは本当に吹っ切れたな……悪役的な方向に。昔の十六夜は一体どれだけ口調が荒れていたんだ……?

 

「止めろ!コイツを行かせるな!」

「守備を固めろ!」

 

 十六夜の突破力は知られているのだろう。アブソリュートナイツをたった1人で破ったのを間近で見ているのもあって、相手ディフェンス全員が十六夜へと警戒を向ける……だからこそ刺さる。

 

「え……?」

 

 予備動作はほとんどなかった。十六夜からそんな空気を一切感じなかった。誰もがアイツはドリブルで突破する……そう()()()()()。だから、敵も味方も全員が意表を突かれた。

 

「ナイスパスだ、十六夜」

「良い動きだ、エースストライカー」

 

 敵を惹きつけ、その上でその敵の間を通すような鋭いパス。そのパスが前線でフリーだった豪炎寺へと繋がった。

 

「一体何が……」

「十六夜は特別なことはしていない。自分という存在が相手にとってどう思われているかを理解していた。だからこそ、自分に釘付けにさせ、自分を囮にした……」

 

 注意を自分に向かせ、相手にとって取らないと思わせた選択を、一番効果的なタイミングで実行する。全てを嘲り、欺き、勝利へと向かっていく。

 

「相手を自分の思う未来へと引きずり込み……そして、全てをぶち壊す」

 

 既に豪炎寺はシュート体勢に入っていた。誰もが十六夜以外に注意を向けられなくなった死角を突く……十六夜が生み出した闇をチームメイトが光へと変える。

 

「爆熱スクリュー!」

「ガラティーン!」

 

 放たれたシュートに咄嗟に対応するキーパー……だが、体勢も溜めも不十分。僅かな拮抗の後、その剣は炎によって焼き壊される。これで1点……誰もがそう思ったとき、

 

「決めさせるかぁ!」

 

 1人の男……エドガーが飛び込んでブロックした。ワントラップしてボールを落ち着かせると、シュート体勢に入る。

 

「エクス――」

 

 ゴール前からのシュート……エドガーの渾身のシュートが炸裂する。

 

「――カリ……なっ!?」

「テメェを自由にさせねぇよ」

 

 誰もがそう思ったとき、皆が光しか見なくなった瞬間、闇の中に潜んでいたバケモノが光を呑み込み闇へと変える。

 エドガーが必殺技を放とうとする瞬間、十六夜が無防備なボールを相手ゴールに向かって叩き込もうとシュートを放つ。しかし、そのシュートは辛うじてキーパーが飛び込んで弾いてしまう。

 

「ルーズボール!拾うんだ!」「お前ら反応しろ!」

 

 エドガーと十六夜が同時に声をあげる。

 

「うぉおおおおお!」

「はぁあああああ!」

 

 弾かれたボールに向けて走り込むのは2人のストライカー。

 

「ドラゴン――」

「タイガー――」

 

 2人が同時にシュート体勢に入る。そして……

 

「クラッシュ!」「ドライブ!」

 

 2人同時のシュート。竜と虎が互いに睨み合いぶつかり合いながらゴールへと向かっていく。キーパーは体勢を崩し、エドガーもブロックに行けない。他のディフェンスも竜と虎の迫力に近付けず……

 

『ゴール!同点ゴールです!豪炎寺から十六夜!そして、染岡と虎丸のツインシュートがゴールへと突き刺さったぁ!』

『一の矢を止めれば二の矢が、そして三の矢が飛んでくる……息もつかせない怒涛の攻め。イナズマジャパンのストライカー陣の意地を見せましたね……』

  

 シュートはゴールへと突き刺さった。 

 

「くっ……」

「1つ教えてやるよ、エドガー。……コイツらはお前らのところみたいに、完璧なフォローなんてしてくれない。オレのプレーの意図を、取って欲しい行動を全員が理解なんてしてくれない。……けどな、お前らのところと違って、オレ抜きでもやってくれる。エドガー(テメェ)が居なければ攻撃も守備も録に出来ねぇ出来損ない集団とはちげぇよ」

「……出来損ないとは……言ってくれるな……!」

「さてさて、仲間に恵まれていないのはどっちだろうなぁ?」

「……どうやら、キミは本気で私を怒らせたいようだね。ここまでの侮辱されたのは初めてだよ」

「お互い様だろ。それを侮辱と捉えるってことは……事実だから、違うか?」

「フフッ、仕返し……というわけですか」

「……1つ忠告しておく。……テメェ以外に、円堂からゴールを奪えるヤツはいねぇから」

 

 十六夜の冷たい視線、そして、エドガーの怒りを込めた視線。一触即発とも言うべきだろうか、2人の間には火花が散っている。特に何事もなく別れたように思えるが……

 

「ナイスゴール、よくやったストライカーズ」

「まぁ、俺だけでも決められたんですけどね」

「あぁ?俺だってお前が居なくても決められたっての」

「ナイスシュートだ、染岡、虎丸。よく反応した」

「へへん、ストライカーのゴールへの嗅覚を舐めてもらっては困ります!」

「へっ、だが、これで同点だ……そうだろ?」

「あぁ。後1点……取りに行くぞ」

「次の1点は俺たちで取りますよ!豪炎寺さん!」

「いいや、俺が決めてやる!」

「じゃあ、間を取ってオレが取るわ」

「「何でそうなるんだよ!(ですか!)」」

 

 なんというか……十六夜っていつからイナズマジャパンのストライカーになったんだ?キーパーになったり、司令塔になったり忙しいヤツだな。

 

「それにしても……よく見てるな」

 

 十六夜がパスを出した後、エドガーがゴールへと走っているのを見かけ、彼の死角をつくように追い駆けていた。多くの者が豪炎寺のシュートに注目する中、2人は自分の取れる最善の行動をしていた……か。

 

「染岡くんと虎丸くんの連携必殺技。竜と虎が互いに睨み合うようにし、ぶつかり合いながらゴールへと突撃していく……そう!まさしくドラ――」

竜虎相搏(りゅうこそうはく)

「えっと……あ、さっきの染岡くんと虎丸くんの必殺技のこと?」

「うん。竜と虎が戦っているのが見えたから……」

「いいんじゃないですか!格好良いと思いますよ!」

「――って、僕の担当を取らないで下さいよぉ!」

 

 3-3の同点。試合の残り時間も半分を切った。……次の1点を取った方が勝利へと大きく近づくだろう。




習得必殺技紹介
ボスペンギン
山属性のブロック技
背後に巨大なペンギンを呼び出し相手を威圧してボールを奪う。イメージはザ・ウォールのペンギン版だが、ペンギンは動ける分応用がしやすい。そして技が進化するたびにボスの周りに子分が増えていく。

パパパパセリ様よりいただきました。ありがとうございます。


竜虎相搏(りゅうこそうはく)
シュート技。[ドラゴンクラッシュ]&[タイガードライブ]
竜と虎が互いに睨みを利かせながらゴールに突撃する。

不完全様よりいただきました。ありがとうございます。


次回、決着。


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VSナイツオブクイーン ~激突の行方~

 ナイツオブクイーンのキックオフで試合再開。

 

「いい加減、騎士様(テメェ)の動きに慣れてきたわ」

「奇遇ですね。私も化け物(キミ)の動きは見飽きたところです」

 

 エドガーにボールが渡った瞬間に詰め寄る十六夜。

 

「オレと戦り合おう(踊ろう)ぜ?英国の騎士(ナイト)様?」

「その挑発(お誘い)(つつし)んでお受けいたしましょう」

 

 エドガーのフェイントに十六夜がギリギリついて行く攻防……最初こそ、今までと同じ展開に見えたが徐々に、十六夜側から仕掛けることが多くなる。

 

「……っ!」

「潰す……壊す……!」

「バケモノ……!」

「るっせぇ……騎士(正義)が勝つのはファンタジーの世界なんだよ」

悪魔()が勝つ幻想こそ空想の世界に置いてきたらどうです?」

 

 十六夜のタックルに反応してエドガーもタックルを返す。ハンドワークで間合いに入ろうとすると、エドガーも自身の腕を使って、十六夜を振り払う。奪うにはあと一歩が足りない。だが、その一歩を埋められる要素がない。

 

「未来……分析……構築……遅い……まだ遅い……!もっと……もっと早く……!」

「…………っ!」

 

 ボールに僅かに触れる十六夜。しかし、咄嗟に所有権を戻すエドガー。激しい攻防は誰も近づけさせなかった。

 

(何だこの(バケモノ)……!?私のプレーの先が見えているのか……!?)

(足りねぇ……!もっと早くしろ……!こんなスピードじゃ通用しねぇんだよ……!全てを見ろ……情報を叩き込め……エドガーの行動を読め……オレの勝つための未来を構築しろ……!)

 

「…………っ!」

 

 ベンチにも伝わってくる気迫……何だ?今までの十六夜とは決定的に違う……暴走?違う……もっと何か……十六夜綾人が何かを掴もうとしている……?

 

(これ以上はマズい……!この男が何かを掴み始め、加速度的に進化し始めた……!)

 

 この試合の中で初めてエドガーが苦悶の表情を浮かべる。そして、意を決したような感じでエドガーから仕掛けた。

 

「……読まれた……!?」

 

 エドガーのフェイント……ボールは伸びてきた足によって、弾き飛ばされた。弾いたのは十六夜。弾かれたボールは……

 

「鬼道くん!」

 

 相手に取られるも、エドガー(絶対的なエース)の敗北が思わず彼らの足を止めてしまう。その一瞬の隙にヒロトが奪い去り、鬼道へとパスを出した。

 

「十六夜!」

 

 既に十六夜は走り出していた。その先へとパスを出す鬼道。だが……

 

「ここは通させない……!」

 

 トラップのために減速したその隙に、滑り込むようにしてエドガーが十六夜の前へと立ち塞がった。なんて切り替えの早さ……互いにこうなることが分かって、次の行動に移していたというのか……!?

 

(読まれた……?いや、なんて反応だ……!試合最初とは比べ物にならない……!まさか、十六夜のプレーに合わせてエドガーもレベルを……!?)

 

 エドガーに余裕はない。いや、十六夜にも余裕がない。ギリギリの攻防、どちらが勝ってもおかしくない。

 世界トップレベルのプレイヤーは本職以外も高いレベルで熟せる……今まで、誰も止めることが出来ない十六夜の突破を紙一重で止めている。

 

「…………っ!」

「ルーズボール!」

 

 フェイントからのノールックキラーパス。誰にも読めず、誰にも防がれないはずのそれに、エドガーは僅かに反応し、足を掠めさせた。

 

「仕切り直せ!あの2人に近づけるな!」

 

 フィールド上に居る異次元の存在の2人……そこにボールが渡ってしまえば誰にも展開が読めない。そう判断し、不動は僅かにコースが逸れたボールを確保しつつ人を動かし始める。

 

「ああ!行くぞ!デュアルタイフーン!」

 

 鬼道もそれに呼応するように指示を出す。必殺タクティクス……ボールを動かし続け、相手に触れさせない。しかし、相手も喰らいついてきて、中々隙が生まれない……互いのチームの最強(エース)が試合全体のレベルを引き上げている……

 

「こっちだ!」

「エドガー!」

「狩る!」

「クッ……!」

 

 何とかボールを奪った相手選手からエドガーへのパスを十六夜がカットし、弾いたかと思えば……

 

「へい!」

「十六夜さん!」

「そこだ!」

「ッチ……!」

 

 十六夜がパスを受け取り、トラップした瞬間を狙ってボールはエドガーによって蹴り飛ばされる。互いがぶつかり合い、互いを最大限警戒し、互いにボールをキープさせない。その上、互いに相手チームからボールを奪うために最善を尽くそうとするため……

 

「そっちは危険だ!」

「一回戻すんだ!」

 

 2人の司令塔が戦場で暴れる怪物たちから遠ざけつつ、パスを回そうとする。ただボールを狙って暴れるだけならまだ可愛いものだ。2人が互いのチームの最適を潰すように動くため、思うように攻め切れず、決定的な隙が見えない。

 試合終了が刻一刻と近付いてくる……リーグ戦だから当然延長戦はない。引き分けなら引き分けで終わるだけ。……だが、5チーム中2チームしか決勝トーナメントに上がれないと考えると、ここでの引き分けは後に響いてくる。そのことはお互い分かっているだろう。その上で互いに譲れない、負けられない、勝ちに行く……

 

「染岡!」

 

 そんな中、鬼道から染岡へとボールが渡った。

 

「行け!染岡!」

 

 ブロックに来た選手を躱し、フリーになる。ゴールを狙える位置……得点のチャンスがやって来た。

 

「ドラゴンスレイヤー!」

 

 染岡の必殺シュートが放たれる。彼のシュートは誰にも遮られず、相手ゴールへと……

 

「負けるわけには行かない!」

 

 向かっていく……誰もがそう考えた中で、割って入ったのはエドガー。彼は右足を振り上げ……

 

「エクスカリバー!」

 

 エドガーのエクスカリバーと、染岡のドラゴンスレイヤーがぶつかり合う。

 

『信じられない!ドラゴンスレイヤーを蹴り返しましたぁ!』

 

 そして、勝ったのはエドガーのエクスカリバーだった。

 

「アイギス・ペンギンV2!」

「十六夜!?」

「全員下がれ!ここ凌がねぇと負けるぞ!」

 

 そのカウンターシュートに、最前線で必殺技をぶつけるのは十六夜。流石にシュートを蹴り返すとは思ってなかったはずなのに、その反応速度は驚愕を隠せない……だが、

 

「クソッ……!何だよこの威力……!桁違い過ぎる……!」

 

 ジリジリと十六夜の足下が抉れていく。

 

「だぁっ!もう1枚割れたのかよ!」

 

 そして、1枚目のシールドが崩れ去る。ドラゴンスレイヤーのパワーとエクスカリバーのパワーが合わさった最悪(最強)のシュートは、十六夜の必殺技をも簡単に砕いてしまうというのか……

 

「イザヨイ、キミの判断と健闘は素晴らしいものだ。口は悪いが、賞賛に値するものだ」

「何、終わりみたいに……!まだ1枚残って……っ!?」

 

 そんな絶望に絶望が重なる。気付けばエドガーは十六夜の目の前に居た。誰もが十六夜を見ていたために、エドガーが動き出していたことに気付けなかった。

 

「身を挺し、このシュートを止めようとする姿勢、評価に値する!受け取るといい!これが我らの勝ちを決める最強のシュートだ!」

「上から目線でむかつくんだよ!つぅか、何が勝ちを決めるだ……!こっちだって負けられねぇんだよ!」

「ならば、どちらが上か決めようじゃないか!」

「はっ!やってやろうじゃねぇか!」

 

 十六夜が止めているボールに対し、更にパラディンストライクを放つ体勢を取るエドガー。対して十六夜は、向こうの挑発に乗るように、ペンギンたちを足につけている。

 そして、十六夜は支えていた盾を捨てて……両者が同時に動き出す。

 

「パラディンストライク!」

「皇帝ペンギン1号!」

 

 バンッ!

 

 必殺技を放った直後、エドガーと十六夜が同時に蹴りを叩き込んだボールを中心に、小規模な爆発が起きる。2人は爆風により互いに弾かれ合うように吹き飛ばされてしまった。

 

『な、何ということでしょう!エドガーと十六夜の衝突によりフィールド上では爆発が……!』

『凄まじいパワーでしたからね……2人は無事でしょうか?』

「エドガー!」

「十六夜!」

 

 それぞれのチームからそれぞれを心配する声が聞こえてくる……が、

 

「私の勝ちだ!」

「わりぃキャプテン!頼んだ!」

 

 フィールドを転がっていく中、2人が声を出す。

 

『勝ったのはエドガーだぁ!凄まじいスピードでイナズマジャパンゴールに向かってボールが飛んでいきます!』

『最早このシュートは誰にも止められないでしょう』

 

 爆風の中を暴力の塊とも言うべきシュートが飛んでいく。狙いは円堂の守るゴール。

 

「少しでも遅らせるんだ!」

「旋風陣!」

「スピニングカット!」

 

 ディフェンダー陣がシュートブロックをするために必殺技を放つ……が、

 

「「うわぁあああああああ!」」

 

 全員が(ことごと)く吹き飛ばされていく。稼げたのは僅かな時間。威力もほんの少ししか削げていない。

 

「そうか!」

 

 シュートがゴールに迫る中、何かに気付いた様子の円堂は、右の拳に力を溜めて、そのまま地面に拳をぶつける。すると、円堂の周りに半球状のオレンジ色の結界が出来た。そこにシュートが激突……ボールは結界に沿って進み、ゴールの上を通過していく。凄まじい威力のシュートはそのまま空高く突き進んでいった。

 

『ふ、防いだぁ!イナズマジャパンキャプテン円堂が、シュートを防ぎましたぁ!』

『これは凄いです!誰にも止められないと思われていたシュートが、ゴールから逸れましたね……!』

 

「そんな……!」

「最高かよ……!」

 

 ベンチでは円堂が止めたことに対して盛り上がっている。止めるのではなく逸らす技。どんな高威力なシュートもゴールから逸らしてしまえばいい。真正面から止める必要はない……か。

 

「まさしく、イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 ピー-!

 

 ナイツオブクイーンは驚愕を、イナズマジャパンは歓喜を表す中、審判の笛によって現実へと引き戻される。見ると、審判の人たちがエドガーと十六夜それぞれに駆け寄っていた。先の爆発の衝撃で2人とも倒れたまま起き上がってこない。

 

「立向居、選手交代だ」

「は、はい!」

 

 担架でベンチまで運ばれる十六夜。向こうもエドガーがベンチまで担架で運ばれていた。

 

「無茶しやがって……バカ」

 

 それぞれ選手交代を終え、円堂のキックで試合再開。ベンチでは意識のない十六夜の処置をしていた。

 試合はロスタイムに突入。もう時間は残っていない。そして、それぞれの抱える最強格の選手もフィールドには残っていない状況。そんな状況でナイツオブクイーンのコーナーキックで試合再開。相手選手がヘディングであわせるも……

 

「よし!」

 

 円堂がしっかりキャッチする。エドガーや十六夜よりもシュート技術が数段劣っている。威力、速度、コース、タイミング、駆け引き……全てが彼らに比べ劣っている。円堂という男からゴールを奪うレベルに達していない。

 

「こっちだ!円堂!」

「頼んだぞ!鬼道!」 

「一気に攻めるぞ!」

「分かってる!ラストチャンスだ!」

 

 ボールを受け取った鬼道。不動と共に攻め上がっていく。最後の攻防……何としても1点が欲しい。後1点取れれば勝利で終わることが出来る。

 

「何としても止めるぞ!」

「ああ!騎士(ナイト)の誇りに賭けて!」

「倒れたエドガーの為にも!」

 

 ナイツオブクイーンのプレスが一層激しくなる。対するイナズマジャパンも負けていない。そのプレスを掻い潜り、一歩一歩ゴールへと近付いていく。

 

「行くぞ不動!」

「偉そうに命令するな!」

『キラーフィールズ!』

 

 キラーフィールズの衝撃波でディフェンスを吹き飛ばし、ボールは宇都宮と豪炎寺のもとへ。

 

「行くぞ!」

「はい!」

 

 そして、シュート体勢に入った。

 

『タイガーストーム!』

「ガラティーン!」

 

 放たれたシュートを斬ろうとするキーパー。だが、剣は砕け、ボールはゴールに刺さる。

 

『決まったぁ!イナズマジャパン逆転です!』

 

 ピ、ピー!

 

『ここで試合終了!強豪ナイツオブクイーンを降したのはイナズマジャパンだぁ!』

 

 試合終了のホイッスルが鳴り響く。4-3で私たちイナズマジャパンは強豪、ナイツオブクイーンに勝利をおさめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合終了後……勝利を喜ぶイナズマジャパンのメンバー。意識を取り戻した十六夜が肩を貸してほしいと言ってきたので、肩を貸す。

 

「いい戦いだった」

 

 するとイナズマジャパンの方にナイツオブクイーンの選手たちがやって来る。エドガーも同じように相手選手に肩を貸してもらって歩いているようだ。

 

「キミたちと世界一を競って戦えてよかった。今回は私たちの負けだよ」

 

 なんというか……最初は日本を見下していた感じがしたが、今はそんな嫌な感じはしない。対等な相手を見ているように話してくれている。

 

「だが、私たちは必ず決勝トーナメントへ上がってみせる。そして、世界一になるのは我々ナイツオブクイーンだ」

 

 こちらを対等な相手とみた上で宣言してくる。そこに驕りはないように思えた。

 

「俺たちだって負けないさ!また一緒にサッカーしような!」

「フッ……それとイザヨイ。良い勝負だった」

「だな。……今回はオレの負けだ。次は勝つ」

「私としては勝利とは言えないのだが……」

「試合に勝って勝負に負けた。これは譲れねぇよ。今度は絶対に勝つ」

「そうか……ならば、私もキミに負けないようにしなくてはな」

 

 十六夜が私の支えから離れ歩き出す。エドガーも同じように支えなしで歩いて……

 

「イナズマジャパンの健闘を祈るよ」

「こっちも、お前らの健闘を祈ってる」

 

 嵌めていたグローブを外し、握手を交わすとナイツオブクイーンは背を向けて歩き出した。

 

「って十六夜!起きて大丈夫なのか!?」

「まさか、エドガーと撃ち合いをするとは……」

「アイツには負けた。世界トップレベルとの実力差を改めて感じたよ」

 

 その目には悔しさが滲み出ていた。イナズマジャパンとしては勝てても個人としては負けた……敗北感の方が強いのだろうな。

 

「円堂、お前のお陰でゴールを守れた。お前らのお陰で勝てた……ありがとな」

「気にすんなって!俺もお前や皆のお陰でゴールを守れたんだからさ!」

「それに、一方的に負けたわけでもないんだ。俺たちからすれば互角と言ってもいい。流石だ、十六夜」

「そう……か。でも……悔しい…………なぁ」

「ちょっ!?」

 

 そのまま倒れ込みそうになった十六夜をヒロトと共に受け止める。

 

「い、十六夜!?」

「寝かせてあげよ?」

「そうだな。そうするか」

 

 円堂たちも控室の方へと歩いて行く。

 

「まったく……お疲れ様」

「…………」

 

 静かに眠る十六夜。この後、直接病院に運ばれたことを記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~NGシーン(ネタ、十六夜視点)~

 

「身を挺し、このシュートを止めようとする姿勢、評価に値する!受け取るといい!これが我らの勝ちを決める最強のシュートだ!」

「上から目線でむかつくんだよ!つぅか、何が勝ちを決めるだ……!こっちだって負けられねぇんだよ!」

「ならば、どちらが上か決めようじゃないか!」

「はっ!やってやろうじゃねぇか!」

 

 止めていたボールに対し、更にパラディンストライクを放つ体勢を取るエドガー。対してこっちも、向こうの挑発に乗るように、ペンギンたちを足につけ、持っていた盾を捨ててシュート体勢に入る。

 

「パラディンストライク!」

「皇帝ペンギン1号!」

 

 ピーー!

 

「「え?」」

 

 お互いに蹴ろうとしたタイミングでホイッスルが鳴り響く。蹴るのを中断、ボールはそのままゴールに入り……

 

「16番、ハンド」

「…………はい?」

「…………」

 

 どうやら盾を捨てた時にハンド判定が出たらしい。……え?ハンドってあったの?というか……え?これハンドになるの?手、当たりましたかね?

 

「ナイツオブクイーンボールで試合再開」

「「…………」」

 

 なんというか……こういうのをいたたまれないと言うのだろうか……

 

『あーっと!エドガーと十六夜の激突はまさかのハンドです!』

『すごいものが見れると思ったんですけどね……』

 

 なんか……ごめんなさい。




 NGルートの場合、イナズマジャパンとナイツオブクイーンは引き分けに終わり、円堂のイジゲン・ザ・ハンド習得のフラグがへし折れます……中々にヤバいルートですね。ちなみに、とあるフラグも折れますので、相当やばいです。

 ということで、エドガー微強化?と言う名の最初から本気を出したエドガー率いるナイツオブクイーン戦でしたね。

 次回は休養回です。オリペンが出ます(!?)


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デートと遭遇

いつも誤字報告感謝してます。
何か、ん?おかしくね?って思ったところがあれば遠慮無く教えてください……(前話でちょっとやらかしたんで、この作者時々やらかすんで)
そういうときは感想欄でも活動報告でもメッセージでもやりやすいヤツでお願いします。

ということでタイトル通り、試合と試合の間のお話です。


 ナイツオブクイーン戦翌日……

 

「いやぁー今日はオフかー……」

「だな」

 

 昨日のナイツオブクイーンの試合終了後……エドガーと挨拶を終え、気付いたら病院に運ばれていて、ベッドの上で寝かされていた。曰く、あの衝突で頭とか打っている可能性があるとか何とかで諸々の検査の為、一晩泊まっていけとのこと。まぁ、気絶したしな……で、監督に電話かけると翌日……すなわち今日はオフにするということを告げられ。なんでも冬花の提案で、激戦の後だし疲れているだろうとのこと。……まぁ、昨日は全員多かれ少なかれ出番があったし、世界大会初戦ということで精神的にも疲れたヤツは多いだろう。

 そんな提案によりオレたちは全員、ライオコット島の観光をするはず…………だった。

 

「ごめんな、検査に付き合わせて」

「気にするな」

 

 まぁ、午前中も検査が続いたんですけどね。朝には八神もやってきてもらって……まぁ、結果から言うと特に何もなく、かすり傷が所々あるくらいとのこと。この身体って地味に頑丈だなと思いましたね。

 ちなみに、病院ではエドガーと再会。彼も挨拶の後に病院に運ばれ、検査をしていたが、彼にも大きなけがはなく、次の試合への影響はないそう。まぁ、昨日の試合を通してか、少し仲良くなれた気がするのはよかっただろう。……というか、今更ながら、なんであんなに言い合って仲良くなれたんだ?まぁ、誰かが言っていた昨日の敵は今日の友ってヤツなんだろう。

 

「1人でまわってもつまらん。お前が隣に居ないとな」

「八神……」

「だから、私から離れるなよ?」

「え?イケメンが隣に居るんですけど」

 

 え?何この人、発言が格好良すぎじゃありません?

 

「で?どこ行くんだ?」

「え?ノープランなの?」

「当たり前だろ」

「じゃあ、その手に持っているパンフレットは?」

 

 八神の手に持っているパンフレット……何か付箋が貼ってあるのが見えるんだけど、どういうことだろうか。

 

「べ、別に、お前と出かけられるのが楽しみで調べたとかではないからな?どこまわろうか、色々と考えていたわけではないからな?」

「え?うちの彼女が可愛いんですけど」

 

 さっきはイケメンかと思ったが、実は美少女だった?いや、美少女だけど実はイケメンだった?

 

「それに……」

 

 おっと、これ以上何を言うつもりなんだろうか?これ以上何を言っても可愛いか格好いいの感想しか出てこないと思うんだけど……

 

「……お前はマイペースで、自由人気質があるからな。プランを立てても、それ通り動くか分からないしな。それに、目を離すとすぐにフラフラどこかに行って問題を拾ってくる」

「あは、あはは……そんなことないです」

 

 顔を背ける。いや、そんなことしてないよ?うんうん、それじゃあ、まるでオレがトラブルメーカーって言ってるみたいじゃないか。

 

「…………(じー)」

 

 八神さんの視線が刺さって痛いです。深々と刺さって痛いです。……え?バレてないよな?既にこのライオコット島に影山が居て、問題が起きるかもってことを鬼瓦刑事経由で知っているとかバレてないよな?

 

「と、とりあえず飯にしようぜ……八神、オススメの店は?」

「話をそらしたな……まぁいい。このライオコット島では、セントラルエリアでお店が集まっているのはもちろん、各国のエリアに行けばそれぞれの国の料理を味わえるそうだ」

「ふむふむ」

「私が最初に行きたいのはイタリアエリアだな」

「イタリア?何で?」

 

 イタリアって言うと、フィディオたちのところだけど……何故イタリアに行きたいんだろう?

 

「……お前と一緒に行った場所だからな……あの時はその……そういうことを一切考えてなかったから……もう一度行きたいと思って」

「八神……!」

「何で泣きそうになっている!?」

「……いや……まさか、そんな殊勝な考えがあったなんて……」

「……で?賛成なのか?」

「もちろん、行こうか」

 

 ということでイタリアエリアに行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中、セントラルエリアでは、多くのヤツが家族にお土産を買ったりしてワイワイしているのが見えた。……まぁ、オレにはそのお土産を買って帰るような家族が居ないんですけどね。ちなみに八神も、エイリア学園の面子にはヒロトとどうするかは話しているそうで……お互い、血の繋がった家族は居なかったりする。

 

「すげぇ……本場の料理人呼んだってだけあってすげぇ……!」

「やっぱり、本場の味は違うな」

 

 お店に入って昼食を取る。……やっぱ、なんというか……ねぇ。もちろん、作った人が実際にそこの人というのもあるけど、それだけじゃなく、景観もその国に合わせているから……

 

「懐かしいな……前にデートしたときと同じ感じで」

「ああ……でも、今は楽しいぞ、十六夜」

「ん?」

「前はお父様の計画が第一にあって、楽しむ余裕がなかったからな。お前とこうして出掛けられて凄く楽しいぞ」

「それはよかった」

 

 あの時聞けなかった言葉が聞けて満足だ。やっぱ、こういう時は楽しまないとね。

 

「……っ!」

 

 デザートを注文したときだった。悪寒というか、寒気に近い感覚がした。なんだ今の……?

 

「十六夜?」

「悪い、コップについてた水滴が傷に染みてな……」

「かすり傷が多いんだ、諦めろ」

「あはは……」

 

 と笑っている間に、店の屋根上にペラーたちを呼び出す。

 

『いきなり何ー?2人のデートを邪魔するつもりはないんだけど……』

 

 と不服そうなペラーに、声に出さずに伝えていく。

 

『え?この近くに影山らしき人が居ないか、上空から調べて伝えて欲しい?……なんか、まるでスパイみたいだね……面白そーだし、いいよ~』

 

 面白そーって……

 

『大丈夫大丈夫。バレそうになったら帰ればいいから~』

 

 と、ペラーたちが飛んでいく……頼むから目立つなよ……

 

「次はどこ行く?」

「そうだな……どこ行きたい?」

「他の国のエリアを見て回るのも面白そうだな」

「なるほど……いいかもな」

 

 ということで、他のエリアに移動するけど……あれ?今更だけど、アイツらってオレから何mまでしか離れられない的な制約ってあるのか?あったらイタリアエリアに居ないといけないけど……

 

『大丈夫だよー』

 

 と、ペラーの声が頭に聞こえてくる。よく分からんが大丈夫らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石にこの島も各エリアもそこそこの広さがあるため、半日ではまわりきれず、イタリア、イギリス、アメリカ、アルゼンチンと同じグループの国のエリアを見て回ってからセントラルエリアに戻ってきた。

 

「それぞれの国の特色が出ていて面白かったな」

「ああ」

 

 ペラーたち偵察部隊も途中で帰還。ペラ-から報告を受けた限り、金髪サングラス細身の長身で、影山っぽい空気の人が居たとのこと。ペラーたち偵察部隊の長所は、バレないことと、情報伝達を言葉を介さずテレパシーのような感じでできること……ただ短所は道具を持たせると受け渡しが困難なため、カメラみたいな物を渡せず、五感の共有みたいな便利なことも出来ない。あくまで、ペラーたちの感じたものを言語情報として伝えられるくらいしか出来ないのだ。

 

「メールか?」

「ちょっとな」

 

 一応鬼瓦刑事に確認を取る。何かしら情報がないかということと、こちらの得た情報の伝達だ。まぁ、イタリアエリアで見つけた相手が本当に影山なら……今のうちに何をしたいのか探っておきたい。大きな問題が起きてからではなく、起きる前に問題を防ぎたい。

 

「さて、どこ行く?」

「そうだな……」

 

 と、八神が近くを見渡していると……

 

「イザヨイアヤト、だよね?」

「ん?」

 

 不意に声をかけられる。……まぁ、今日も観光の最中で日本のファンと言っていた人たちから声をかけられたけど……

 

「そうだけど……何処かの国の選手か?」

 

 黒色の髪に少し日焼けした感じの肌色、歳は同じくらいで服装はジャージ……どっかの国の選手だろうか?

 

「うん。ボクはコトアール代表、メハト・アイアだよ」

「コトアールってことはBグループの国の選手か」

「そうそう」

「改めて日本代表の十六夜綾人だ。こっちは、日本代表の戦術アドバイザー、八神玲名」

「八神玲名だ。よろしく」

「レイナだね。2人ともよろしくね」

 

 なんというか……あまり情報がなく、開会式でもめぼしい選手とかは紹介されていなかったと記憶している。そういう意味では、イナズマジャパンと同じくらいの注目度のチームだ。

 

「それで、メハト。何か用か?」

「うーん、ご挨拶かな?キミとボクには共通点があるみたいだし」

「共通点?」

 

 すると、メハトの近くに1匹のペンギンが現れる……あれ?コイツ、予備動作がなかったぞ?

 

「ほら、キミが見たがってたアヤトだよ」

『へぇ、あなたが綾人ね。うちの兄と弟がお世話になっている……』

「ペンギンが喋った!?」

「いや、お前のペンギンも喋ってるだろ」

「……なんとなく、そういう反応をしてみたかったんです。初心に帰りたかったんです」

『強そうには見えないけど?メハト、本当にコイツ強いの?』

「強いと思うよ?昨日のナイツオブクイーン戦の活躍は凄かったしね。監督も褒めてたよ」

『ふーん、あの人が褒めるなら中々のサッカーバカね』

 

 ……ん?

 

「お前、ペンギン、会話、できてる」

「何で片言なんだ?」

「そうだよ?」

「おぉっ!すげぇ!オレ以外で初めて見た!」

「そうだね、ボクも母さん以外で初めてだよ」

 

 オレはメハトの手を取る。この世界に来て初めてだ。初めてペンギンと会話しているヤツを見つけた。……ん?

 

「母さん以外で……?」

「うん、ボクの母さんもサッカーをやっていたんだよ。この子は母さんから受け継いだんだ」

『この子って、貴方より歳上ですけど?』

「はえぇ……ペンギンって受け継ぐものなんだ……」

「いや、そんな話は聞いたことないけどな」

「え?そうなの?……とりあえず、ペラー召喚」

『本日2度目のとーじょーのペラーだよ~……って姉さん!?』

『元気そうね』

 

 するとペラーは八神のところに駆け寄り足にしがみつく……

 

「おーい、どうした?ペラー」

『あら?久し振りに会ったから緊張しているのかしら?』

『ねぇ、綾人。帰っていい?凄く帰りたいんだけど……』

『帰ってもいいけど、私も向こうに帰るわよ』

『……どうしよう。絶対に逃れられないんだけど……』

「…………」

 

 何か、姉弟であるんだろうなーいやー仲がいいってことにしておこー

 

『いいかい、綾人。この姉さん……正確には2番目の姉だから、次女はね。とっても力が強いんだよ』

『そんなに強くないわよ。精々、ペンギンの世界でトップってだけよ』

「え?ボスより強いのか?」

『あら?うちの兄を知っているのかしら?』

『まぁ、ボスも綾人と契約したからね……』

『アイツが……ねぇ。まぁ、兄よりも強いわ』

「…………」

 

 え?体格差すごいんだけど?見るからに普通のペンギンサイズなのに?あの巨体を持つボスより強いの?マジで?

 

『うぅ……この前は、主人の呼び出しなしでも行き来する方法を教えろって脅されたし……』

『脅してないわ。ちょっと壁際に追い詰めて、羽根で壁に穴開けて聞いただけよ』

 

 世間一般ではそれを脅しという。

 

「なるほど……彼女が少し前から呼び出さなくても、勝手に出てこれたのはそれか……」

「何か……うちのがごめんな」

「ううん。面白いからいいよ」

 

 あはは……面白いで済まされるんだ。

 

「一体、何の話をしているんだ?それで、何でペラーは涙目で私にすがっているんだ?」

『姉御!助けて!』

 

 と、ホワイトボードではなく、看板で伝えるペラー……お前……いつの間にそんなの用意していたんだ?

 

『まさか……!あなたもこの子の姉枠を争う存在だと言うの……?』

「多分、違うと思うよ?」

『そうだとしたら……綾人、あなた私の弟になりなさい』

「いや、何でだよ」

『メハトは私にとっても息子のようなものなの。だから、あなたが弟になれば解決なの』

「なぁ、メハト……お前のペンギン、大丈夫か?とんでも理論で頭が痛いんだけど……」

「あはは……なんというか、不器用だけど世話焼きというか……家族とか兄弟を大切にしているというか……」

 

 なんだろう……不器用とか家族を大切にって……どこか八神に似ているな。もしかして、ペラーが八神のことを姉御と言っているのはそれか?

 

「よし、大体分かった」

「え?八神さんや、何が分かったんだい?」

「私の理解を超えることが起きていることが分かった」

「オレの理解も超えているから安心していい」

「あはは……ボクもほとんど理解していないけど……ねぇ、アヤト。ボクと勝負しない?」

「勝負?」

 

 そう言って取り出されたのはサッカーボール。……なるほど。

 

「いいな、やろうぜ」

「うん、そうこなくっちゃ」

 

 そして、場所を近くの砂浜へと移す。

 

「じゃあ、ボクがドリブルをするから止めてね」

「お手柔らかに頼むわ」

 

 ペンギン姉弟は八神さんの足下から見ている。……必殺技を使わない純粋な勝負か。

 

「行くよ」

「来い」

 

 相手の情報は一切無い。どんなプレーをする選手か分からない以上、未来を見ることは出来ないな。

 

「へぇ……」

 

 中々のフェイントのキレだ。足下が砂浜ということを含め、相当レベルが高いと見た。

 

「どう?乗ってきた?」

「もちろん……そこ!」

「……っ!鋭いね……」

 

 素早くボールとメハトとの間に身体を入れて、ボールを奪取する。

 

「……凄いなお前」

「そう?あっさり奪ったように見えたけど」

「いや、おもりつけてそのフェイントのキレとかヤバいなって……」

「……っ!?……よく気付いたね。いつから?」

「会話している時だな」

 

 そういうとドサッという音を立てて、砂浜に何かが落ちた。おもり……それを拾うと……

 

「重っ!?何キロだよ!?」

「20kgだね」

「ハッ……おもしれぇ。それなしでもう1度やろうぜ」

「お手柔らかにね」

 

 ということでもう1戦することに。

 

「……やっぱ、そうなるよな」

「……ほらほら、もっと加速するよ?」

 

 キレが段違い……そりゃそうだ。あんなアホみてぇなおもりつけてさっきのキレだ。おそらく……

 

「普通のヤツにはおもりをつけてるなんて想像もつかねぇ……」

「そりゃどうも……ほら遅れてるよ?」

 

 分析……予測……ダメだ。思考が追いつけねぇ。未来を見た瞬間にはその未来を過去に置き去りにされてる。クソッ……!

 

「……いやーここまで着いてくるなんて凄いね、アヤト」

 

 と、オレを抜き去り、背後から声を掛けてくるメハト。

 

「煽りか?」

「ううん。おもりを外せば軽く抜けると思っていたし、何より今のボクのMAXでも一瞬で抜けず時間も少しかかった。しかも、キミは昨日の激戦で本調子じゃないというのにね」

「こっちこそ、お前には本調子で、分析済みだとしても勝てねぇよ。……だって、まだ別のおもり付けたままだろ?お前」

「へぇ……それも見抜くんだ。中々の観察力だね」

「違和感を感じただけだ。まぁ、お前と別ブロックで正直助かったわ……だが、次はねぇぞ」

「うんうん。ボクも監督が気にするイナズマジャパンにこんな逸材が居るんだ。……絶対、決勝に上がってきてよ」

「ハッ、お互い様だ。……じゃあ、またな」

「うん、また()ろう」

 

 気付けばペラ-たちは居なくなっていた。と言うより、メハトとの対決で忘れていた。

 

「八神ーおもり買いに行く」

「言うと思ったこの負けず嫌い。……まぁ、お前に言われるまではおもりをつけているなんて想像も出来なかったがな」

「どうやらこの世界大会……バケモノが至る所に潜んでやがる」

「目が輝いているな……惚れた弱みだな。そういうバカなところも格好良く見えるんだから」

「バカ言うな」

 

(世界大会には十六夜を超えるレベルがそこら中に居る……か。世界一になるということはそいつら全員に勝たなければならない……)

 

「八神?考え事か?」

「……何でもない」

 

(私が出来ることは……)

 

 目の前の相手に全力を出したい……その為に懸念材料をなくすことが先決か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メハトー綾人はどうだったの?』

「そうだね……正直、予想以上の難敵だ」

『そうなの?メハトの圧勝に見えたけど?』

「そりゃ、ボクが一方的に知っていて、アヤト側は知らない上に本調子じゃなかったからね。……イザヨイアヤトという選手は相手を分析することに長けている。今のは初見殺し……次も勝てるとは限らないってやつだよ」

『ふぅーん。でも、あなたも全力を出していない。お互い様でしょ?』

「そうだね……ただ」

『ただ?』

「アヤトはもっと強くなる。そう感じたよ」

『じゃ、負けられないわね!せっかく宣戦布告したんだもの!今から特訓よ特訓!』

「え?あ、ちょ……」




~オリキャラ簡易説明~

名前 メハト・アイア
性別 男
所属 コトアール代表『リトルギガント』
年齢 十六夜と同い年
ポジション ???
備考 ペラーの姉を使役しているペンギン使い。ペンギンの声が聞ける数少ない人間。

多分、十六夜くん以外の初めてのオリキャラです(オーガ、過去編を除く)。
この作品は十六夜くん以外のオリキャラをたくさん出すつもりはない(過去編除く)ですが、後2人は出す予定なので勘弁してください……!


次回、謎の人物との対峙、明かされるペラー一族の秘密、十六夜綾人問題に首を突っ込むの3本立てです。


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評価と証明

 この話はわりとこの作品独自の設定が多いです。もし、過去の話と矛盾していたら教えてください。
 そして、久々に1万字超えましたね。


 メハトと別れ、買い物をしてからイナズマジャパンの宿舎に帰る。円堂との勝負をして、夕食を食べたところで久遠監督に呼び出された。

 

「何でしょうか?」

「お前にお客だ」

 

 若い男の人がスーツを着て会釈をする。……えっと……誰?どちら様?

 

「イザヨイアヤト選手をスカウトしに来ました」

「…………はい?」

 

 スカウト?え?どういうこと?そう久遠監督に目線を向けると……

 

「すみませんが、彼にも最初から説明をした方がよろしいかと」

「おっと、すみません」

 

 どうぞ、と言って向かい合うようにソファに腰掛ける。

 

「彼はヨーロッパのとある国の人だ。……早い話、その国のプロリーグからスカウトが来たわけだ」

「ワタシの国も、日本同様このFFIに参加しました……が予選敗退。本戦には出られなかったんです」

「ヨーロッパ……イギリス、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ……10カ国中5カ国がヨーロッパの国々ですよね。……枠が多い分、世界で見れば強豪揃いだったと」

 

 というか、枠が多過ぎじゃね?確かに国の数もそこそこあるけど……それにしてはアジアが1に対して多いような……まぁ、参加した国がそもそも多いのだろう。アジア予選なんて8ヶ国だけだったし。それに全体的なレベルも高いんだろうな。

 

「えぇ……ワタシの国のチームはイギリスとあたり、完敗しました。特にエドガー選手には一切手も足も出ませんでしたね。ワタシの国でもサッカーは人気スポーツの1つでしてね。このFFIには国民も期待したんですが……結果は予選敗退。せめて、自分たちを降したイギリスが優勝してもらおう……応援するつもりであなたたち日本との試合を見させてもらいました」

「なるほど……じゃあ、日本が勝って残念だったんじゃ?」

「もちろん、そういう声も少なくありません。ですが、それ以上に我々が勝てなかったイギリスを降したあなたたちを賞賛する声が多かったですよ。ワタシもその内の1人です。特に、イザヨイ選手……あなたのプレーには私も目を奪われました。エドガー選手と1対1でも渡り合うだけの実力を持っていて……」

「それは言い過ぎですよ。まだまだエドガーには及びません」

「あなたはそう思っているかもしれません。ですが、あの試合を見た者からすれば、あなたとエドガー選手は互角……同等だと思います」

 

 なんというか……まぁ、よくあることか。自分の評価と他者の評価の食い違いは。

 

「もし可能ならワタシはあなたをスカウトしたい。そう考えております」

「つまり、あなたの国でサッカーする……と?」

「正確に言うなら、FFI終了後……あなたが中学校を卒業と同時に、ワタシのチームに正式に所属していただき、選手として活躍してもらいたいと考えています」

「……なるほど」

「ワタシのクラブのオーナーも先の試合はご覧になりました。是非、ワタシのクラブに力を貸して欲しい……と」

 

 現実味がない話……何処かそう感じてしまっている自分がいる。前世ではこんなこと想像できただろうか?将来の夢がプロになる……そう思った矢先にスカウトされるなんて出来事……

 

「と、あまり前のめりに話しても仕方ないですね。そうですね……イザヨイ選手なりに、エドガー選手との差は何だと思いますか?エドガー選手には及ばないとおっしゃっていましたが」

「そうですね……いくつかありますが、一番はポジショニングですかね」

「と言いますと?」

「もちろん、エドガーの最大の武器は長距離から放つシュート……文字通り、フィールド全体が彼にとってはシュートレンジになっています」

「そうですね……確かに彼の必殺技であるエクスカリバー……距離が離れれば離れるほど威力の上がるシュートは強力です。彼ほどのシュートレンジを持つ選手はプロでも珍しいでしょう」

「えぇ、だから彼を相手するチームは、彼にボールを持たせない立ち回りを強いられます。実際、マンツーマンでマークし、何度もマッチアップして分かりますが……彼の動きは守備も攻撃も、味方や相手の位置を常に把握している。そして、上手く立ち回っている」

「上手く……とは?」

「正確な表現ではないかもしれませんが……彼は消えるのが上手い。常に意識しないといけない相手なはずなのに、気付けば思いもよらぬ位置でボールをもらっている。或いは守備に貢献しています。……フィールドに居る選手は試合中、特定の選手だけを注目し続けるなんて不可能。ボール、味方、他の相手……見るべき対象は他にもある。……彼は、そう言った相手の視線や注意がどこに向けられているか理解し、それらが薄い場所にポジショニングしている。だから、彼にボールを持たせないようにするのが難しい」

「そうですね……イギリスの試合を見る限り、予選においても『エドガー選手にボールを持たせない』……そう掲げても、気付けばボールは彼の手に渡っている。言うなれば、彼は何処で貰っても打てる武器を最大限発揮するために、ポジショニングを常に意識している。彼の行動の1つ1つに意味がある」

「そして、時にはそれらを囮に、釣りにしてくる。あそこまでのポジショニングはオレには明確に出来ていない点ではありますね」

「なるほど……実に冷静な分析だと思います。どんなに得点能力に長けた選手でも、ポジショニング……その選手の位置や動きが悪ければボールを貰えず、得点は叶いません。それをしっかり理解している……だからこそ、イザヨイ選手は彼を見失わずに警戒できた。試合中にしっかり対応できていましたよ」

「そうですかね……」

「えぇ。それに、イザヨイ選手はエドガー選手との1対1でも遅れを取っていませんでした。試合の終盤になるにつれ、エドガー選手とイザヨイ選手の間に差は無かったように思えます」

「まぁなんて言うか……後半の途中から不思議な感覚があったんです。何というか、全体の動きがゆっくりに見えたというか……」

「……ほぅ?フロー……あるいはゾーンに入ったってことでしょうか」

「フロー?ゾーン?」

 

 何か聞き覚えのある単語だが……昔、何処かで聞いたっけ?うん……何か聞き覚えあるんだよな……

 

「簡単に言うと、最高に集中している状態がフロー。その上の極限の集中状態がゾーン……ってワタシは認識しています。まぁ、同じようなものだと思って構いませんよ」

「はぁ……必殺技みたいなものですか?」

「いいえ、違いますよ。その選手がその場に置いて、自身の最適な目標に向かい、雑念が一切無い集中できている状態のことです。自身のパフォーマンスを最大限発揮出来ている状態ですよ」

「……もう少し詳しく教えて欲しいですね。具体的に最適な目標とは何でしょうか?」

「そうですね……心理学においての話がありますが、簡潔にまとめるのであれば、挑戦……目標のレベルと、自身の持つスキルのレベルが双方高い状態にあることでしょうか?自分の持つスキルレベルから高過ぎず、低過ぎない目標を掲げているということですかね」

「自分の持っているものと、挑戦したいことのレベルの差……」

「えぇ。例えばイザヨイ選手。イザヨイ選手にとって、アジア予選はどうでしたか?昨日の試合の後、イナズマジャパンの予選の様子をクドウ監督に頼んでビデオでいただき、拝見させてもらいましたが……例えば、ビッグウェイブス戦やデザートライオン戦。君は退屈ではなかったですか?勝っても特に感動はなかったのではないですか?」

「そうですね」

「それは君のレベルに対し、彼らに勝つという目標が低すぎた為に起きたこと。イナズマジャパンにとっては最適な、高い目標でも、君にとっては低い目標……挑戦の難易度がイージーだった。逆に考えましょう。例えば次の試合……あなた方はアルゼンチン、ジ・エンパイアと当たります。彼らとの試合で君がハットトリックを決めるという目標を立てたとしましょう。どう思いますか?」

「……テレス・トルーエを相手に……ですか。率直に言って無理……そう思ってしまいますね」

「その感覚で正しいんです。挑戦したいことのレベルを高く設定しすぎると、今みたいに不安が勝る。心の底から、達成できると信じられる目標でなければ、フローには入れません」

「……つまり、挑戦の難易度をハードにするのがベスト……ということか。余裕には達成できない。でも、達成できると心から信じられる目標」

「えぇ。君にとってあの瞬間『エドガー選手に勝つ』というのがベストな目標設定で、それを心の底から願い、寧ろそれ以外には要らないとさえ思っていた。だから、フローに入れたんだと思います」

「……なるほど」

「えぇ。ですが、気を付けて欲しい点が1点。フロー、あるいはゾーンの感触に味を占めないことです」

「というと?」

「フローやゾーン状態においては、無敵とさえ思う感覚がある……入れるはずだ、入りさえすれば勝てる、あの素晴らしい感覚をもう一度……そういう邪なものは集中するための妨げになるんです」

「……分かりました」

「大事なのは、その都度その都度で、何を挑戦の目標にするのか。どんな目標なら、君自身が心の底から達成したいと思い、雑念や邪念を捨てて立ち向かえるのか……と、ごめんなさい。語りすぎましたかね?」

「いいえ、ありがとうございます」

「クドウ監督も、出しゃばってしまいすみません」

「いえ、十六夜にとってとても有意義なお話だったかと思います。流石は、トップチームを指導するコーチ……プロ選手を見ている方です」

 

 なるほど……確かに、この人はサッカーを知っている。スカウト専門じゃなくて、実際に指導している側だと言われれば納得だ。

 

「今日はこの辺りで。昨日の激闘を経て、イザヨイ選手もお疲れでしょう。またお話出来たら嬉しく感じます。では」

 

 そう言って立ち上がり、出て行こうとする。

 

「今回の話、凄く為になりました。それに、スカウトの話もありがとうございます」

「いえいえ。……一応、お伝えしておくとイザヨイ選手には多くの選択肢があります。もし、日本が勝ち進めば、間違いなくキミの存在を欲しがるクラブは多数出てくるでしょう。あくまで、ワタシたちが1番早かっただけ……だから、スカウトを受けるかどうかのお話はすぐに決めなくて大丈夫ですよ」

「……お気遣い感謝します。そして、改めてありがとうございます。……オレは今の実力で満足するつもりはありません。オレはエドガーより弱い。世界トップレベルの奴らからすればまだ足下レベルです」

「そこまで卑下する必要は……」

「だから、もっと強くなります。アイツらを超える選手になる……まだまだオレの実力はこんなものじゃないって証明して見せます」

「……驕りもなく、向上心もある……ですか。えぇ、是非見せてください。イザヨイ選手の挑戦を」

「はい!」

 

 そして、部屋から出て行く。

 

「……大きく出たな」

「さっきまでの話の通り、オレの実力はまだまだ。それはエドガーと戦って一番感じたことです。……評価されたのは嬉しいんですが、アレで満足されては困ります。それに……あの試合はナイツオブクイーン相手だから勝てた試合です」

「ほぅ」

「エドガー以外が弱い。エドガー頼りのワンマンチームだったから勝てました。……アメリカやイタリアにはああいう戦術は取れませんから」

「……なるほどな」

「でも、心配していませんよ。寧ろ初戦がナイツオブクイーンでよかったです。オレが信じるって決めた彼らならあの試合を正しく糧にしてくれる……そう思っていますから」

「そうか。ちなみに話は戻るが、十六夜。このFFIでは予選の段階で既にイナズマジャパンのメンバーには、日本の各クラブチームからかなりのオファーを受けているぞ。高校入学と同時に来て欲しい、FFI終了次第実際に会って話をしたい……って感じでな」

「あれ?そうなんですね。……え?もしかして、いつものオレだけ知らなかったパターンですか?」

「いや、お前以外には誰にも伝えてない」

 

 おっと、今回はオレしか知らないパターンでしたか。

 

「へぇ……何でって思いましたが伝えると面倒なことが起きる可能性があるからですかね」

「その面倒なこととはなんだ?」

「具体的には、オファーを受けた受けていないによる格差が生じること。それが、チーム内に不和をもたらす要因になりかねないこと。また、相手に勝つためではなく、目立ってオファーをもらうためのプレーをしてしまう可能性があるから……でしょうかね」

「概ね正解だ。お前以外のメンバーにはFFIが終わり次第、落ち着いたら伝える予定だ」

「分かりました。他言無用で行きますね」

「そうして欲しい」

「ちなみにですが、日本のクラブからのオファーって一番多いのは円堂ですか?」

「察しが良いな。次点で鬼道、豪炎寺、吹雪と言った面々が続いてる」

「へぇ……」

「ちなみにお前はオファー数で言えば、イナズマジャパンの中では中の下ぐらいだ」

「あれ?意外とあるんですね」

「……お前は本当に中学生か?」

 

 え?何でそうなりました?

 

「……お前の実績を考えれば、普通は自分が1番でもおかしくないって思うと思ったんだが……」

「そうですか?……だって、クラブチームからすれば、自分たちに欲しい人材にオファーをするんですよね?」

「そうだな」

「だったら、オレにはほとんど来ないですよ。だって、オレほど扱いにくい選手は居ないでしょうし」

「…………まぁ、私もお前の力を発揮できているかと聞かれれば答えに困るしな」

「強くても自分たちが扱えないんじゃ意味が無い……だからオファーには期待してないです。それに、この先もアピールする気はないですよ。オレはオレのプレーを貫きます。今欲しいのはオファーより世界一の座……目の前の凄いヤツらと戦って勝つことだけです。ああ、もちろん、こんなオレを高く評価してもらえること自体はすげぇ嬉しいですけどね」

 

 合わないなら見限ってもらった方が良い……その方が絶対に互いのためになる。少なくとも、オレはお利口な選手にはなれる気がしないから。

 

「そうか」

「ああ、そうだ監督。ある許可が欲しいんです」

「許可だと?」

「はい。実は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久遠監督との話も終えて、風呂に入って寝ようとしたところで……

 

「何でオレは呼び出されてるんだろうか……」

 

 オレはボスに呼び出され、2回目となるペンギンの世界へやって来た。

 

『おぉ、綾人。来てくれたな』

「いや、アレを断ること出来ないんだけど?断る手段があるなら教えてくれない?」

『うーむ……知らないな!』

「その反応は知ってるなこの野郎……で?ボスがお出迎え……はいいんだけど、呼び出してどうした?」

 

 あたりを見るとボス以外にペンギンの姿はない。……というか、なんだこの遺跡っぽいの……

 

『今日、妹とも会っただろう?』

「まぁな。使役者のメハトと一緒に会った」

『そこで疑問に思わなかったか?』

「いや、疑問だらけだけど?でも、もう面倒だからいいかなって……」

『ということで』

「聞けよ」

『お前の疑問を解決するために、ここに呼び出したのだ』

「はぁ……」

 

 と言っても、何か壁に絵が書いてあるだけで……いや、分からんが?というか、サッカーと関係あるか?

 

『まず、前に呼び出したときのことを訂正させて欲しい。歴代のペンギン使いで我を呼び出せなかったって話は嘘だ』

「……嘘?じゃあ、過去にはお前を使役していたヤツが居るって事か?」

『ああ。そして、我が兄弟の特異性に繋がるんだが……我が家系のペンギンたちは、綾人たちの世界に強大な「器」と「特異性」を持っている人間と共に産まれるんだ』

「えーっと……」

『ペラーから聞いたことはないか?アイツはお前が生み出した存在……お前が生まれたから、アイツは生まれたって……』

「ちょっと待てよ……」

 

 確か、オレがエイリア石の力に飲み込まれそうになった事件で、ペラーがそう言っていたと八神が言っていたな。

 

『聞き覚えがあるんだろう』

「ああ……ということは何だ?ペラーはオレが生まれたからこの世界で生まれたし、アイツの姉……次女だよな。アイツもメハトの母さんが生まれた時にこっちの世界で生まれたってことか?」

『そうなるな』

 

 …………あれ?今更だけど、ペンギンと喋れるとか、器が大きいのって神様特典じゃないってことですか?おい、どういう事だよ神様。異世界転生にチート能力は付き物だと教えてもらったんだが?…………ん?いつ教えてもらったっけ?

 

『……ただ、ペラーだけは特殊だった』

「特殊?」

『アイツだけ幼い子どもだろう?それはアイツが生まれてまだ少し……具体的には、綾人が中学校に入ったときに生まれたんだ』

「えっと……」

『普通は生まれたときからある程度素質は決まっている。その素質が強大なときに、我らが産まれる……が、ペラーの生まれた時期が他の4人の時と比べズレてるんだ』

「あー……」

 

 なんとなく分かった。本来なら、彼らの一族のペンギンとオレたちは誕生日が一緒になるはず……だけど、明らかにズレているんだ。理由はオレが、この世界に転生したのが赤ちゃんからではなく、中学生からだからで……

 

『まぁ、細かいことはいい』

「……ん?でも、待てよ……ということはメハトはどうなるんだ?メハト・アイアも、お前らの一族を呼び出せたって事は、かなりの器を持っているはずだろ?その時に、お前らの兄弟は増えなかったのか?」

『確かに彼の「器」は母親譲りで相当なもの。我が一族を呼び出すことが出来るほどな。……だが、「特異性」はそこまでじゃない。だから生まれなかったんだと推測される』

「特異性……ねぇ……」

 

 オレの特異性は出自だろうな……うん、間違いないと思う。

 

「……まぁ、なんとなくは分かったからいいけど……でも、名前とかって誰が決めるんだ?」

『それは我らを呼び出せた者から授けられる。ある意味で生みの親から貰うものだな』

 

 まぁ、この場合の生みの親ってのは、産んだ親ではなく、一緒に生まれてきた人間側を指すんだろうな。

 

「……うん?じゃあ、こっちの世界のペンギンって子どもを産まないのか?人間の事情関係なく結婚とか出産は……」

『我らの血を引かないペンギンは普通に増えるな』

「我らの血って……お前らの兄弟はアレなんだろ?オレたちに影響して増えるから勝手には増えないんじゃねぇの?」

『あー兄弟は……な?』

「兄弟?……そういやあの次女がメハトの親……つまり、30年は生きていると考えると……お前ら兄弟って結婚しないのか?人間側なら30で結婚している人はそこそこ居るだろうし」

『結婚するし、子どもも産む。ただ、これがまた面倒な話で、結婚して産まれる子どもって言うのはお主らの世界と関係しているんだ』

「そこも関係するのかよ」

『我ら兄弟を生み出した者の子孫で、器が認めるほど大きく、なおかつ対応するペンギンが結婚しているときに起こるな。だから次女……アリアは結婚していないから、メハト・アイアが生まれたときにペンギンは増えていない』

 

 つまり、条件としては、

 1.ペンギンを生み出したヤツの子孫であること。

 2.ソイツの器が大きいこと。

 3.生み出されたペンギンが結婚していること。

 この3つの条件が揃ったときに、ペラ-たちの子どもは生まれるってことか。どれか1つでも欠けたらダメ……ねぇ。

 

「でも、それってかなりの数にならねぇか?子孫ってことは、どんどん増えていくと思うんだが?」

『そうはならんな。お前さんたちの子孫が、必ずしも大きい器を持っているわけではない。お前さんも両親の持っているものを100%受け継いではいないだろう?だから、必ずしも増え続けるとは限らんよ』

「なるほどねぇ……まぁ、先祖返りとかはあるけど、そんなの沢山あるってわけじゃないか」

 

 ペラ-たち兄弟を生み出す側の人間には、そういう血にも負けない何かしらの『特異性』が必要になってくるわけだ。で、残りの奴らは器だけがあればいい。兄弟が増えるか、兄弟の子どもが増えるかの違い……頭が痛くなる話だな。ただ、現状ペラーの子どもとか考えなくていいだけマシか?

 

『お前は我を生み出し、唯一呼び出せたアイツによく似てる……だから、話したくなったんだろうな』

「はぁ……」

『ちなみにお前が驚いたように、アリアは力だけは我らを超えるぞ』

「……え?アレ、本当だったの?」

『ああ。我らの一族は、何かしら強みを持っている。我はこの体格と圧倒的なカリスマ性、末っ子は智将と呼ばれるくらいの頭脳と頭の回転、次女は破壊者の異名を持つ力に優れたペンギンだ』

 

 ……どうしよう……なんて一家だ。しかも、それでいてペンギンだからな……いや、ほんとなんて話だ。

 

「ちなみに他は?後2匹居るんだろ?」

『ああ、長女であるジェーンはスピードに優れている。異名は神速……それぐらい、アイツは速さに特化しているペンギンだ……だが』

「だが?」

『アイツを生み出した存在が居なくなってからは、引き籠もっていてな。世間では王族唯一のニートペンギンと呼ばれている』

 

 おいおい、ここにはニートも居るのかよ……

 

『次男のバールは器用性だな。すべてのことをそつなくこなせるオールラウンダー……何でも屋と呼ばれるほどのペンギンだ。ただ……』

「ただ?」

『どこかを旅しているから、ここ数年会ってないな。末っ子も次男だけは見たことないはずだ』

「…………」

 

 え?旅できるほどこの世界広いのか?というか、大丈夫か?この一族。何か肩書きは立派だけど……え?大丈夫か?すげぇ、不安になってくるんだけど……

 

『ペラ-にアリアは勝手に世界間を行き来しているし……困ったものだ』

「あー……なんというか……大変そうだな」

 

 というか、アイツらにやり方聞けば自由に行き来できるのでは?夏とか避暑地にピッタリだろ。

 

『まぁ、気にしても仕方ない。王として、我がいる限りここは安泰だからな』

「はぁ……あれ?お前、王子だろ?」

『親父はベッドの上だからな……前に立って指揮を執っているのは我だ』

 

 なんだこの家系、なんだこの兄弟……なんというか、聞いたけど想像も出来ない世界だなぁ……

 

『ところで泊まっていくか?』

「風邪引くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日……オレは久遠監督に許可を貰って、影山問題に首を突っ込むことにした。条件はアルゼンチン戦との切り替えをはしっかりすること。アルゼンチン戦が3日後に迫っていることを考えると今日中に目処をつけ、明日切り替えがベストか……

 

「とりあえず、鬼瓦刑事から写真付きでメールも送られてきたし……」

 

 特徴を伝えたらこの男じゃないか?と聞かれたので、その男を捜すことにする。で、この男はイタリアエリアにいるってことは分かっているが……

 

「フィディオたちが病院に行ったって話が気になるな……行くか」

 

 イタリア代表の宿舎の方へと行ったが、完全に閉ざされていた……で、入るわけにも行かず、近くにいた人たちに聞いてみたところ、さっき病院に向かったって話を聞いたので、病院に向かうことに……

 

「よっ、探したぞ」

「アヤト?どうしてここに?」

 

 病院に向かうとフィディオ、アンジェロ、ダンテの3人がいた。

 

「ちょっと、お前に用があってな」

「用って……」

「ああいや大した用じゃないんだが……その前に、何で病院に?」

「……ブラージが昨日怪我をしたんだよ」

「は?……重傷なのか?」

「ううん、幸い数日安静にしていれば治るんだけど……」

「けど?」

「えーっと……なんて言うか……」

「皆、事故に遭って怪我をしちゃったんだよ!」

「アンジェロ!それは……」

「でも……アヤトならいいでしょ?それに隠したって……」

「皆が事故?隠した?……ちょっと待て、お前ら一体何が起きてるんだ?」

 

 何処か歯切れが悪そうな彼ら。場所を移そうと言うことで、人目が気にならないところに移動したが、どことなくまとう空気は重い……

 

「昨日のことから話すよ。昨日、俺たちのもとに1人の男が現れたんだ」

「ミスターK……そう名乗っていた」

「……K?」

 

 Kって……影山のKじゃないよな?いや、プロジェクトZの時も安直だったけど……

 

「ああ。調べるとその男は日本人の『カゲヤマ』という男だった」

「…………」

 

 その名を聞いて頭を抱えてしまった……まさか、もう問題が起きていたなんて……

 

「アヤト、知ってるの?」

「ああ……ただ、先にそっちの状況を聞きたい」

「分かった。……ミスターKは、急遽代表の監督に就任することになり、俺たちに代表をクビにすると告げた」

「はぁ?そんな横暴……いや、監督には代表交代の権限があるのか……」

「だから反発したんだ。そしたら、彼が用意したチームと3日後に試合……勝った方が代表という条件を告げてきた」

「それが……昨日のことか?」

「ああ」

 

 だったら試合は2日後……つまり、アルゼンチン戦前日か。

 

「だけど、代表チームのグラウンドは彼らチームKが使うって事で話は進んで……俺たちは練習できそうな場所を探したんだ。そしたら……」

「……次々と事故で怪我人が増えていったんだ。ブラージ、ラファエレ、ジャンルカ……」

「昨日だけで10人の選手が怪我をした……ブラージのように、完治まで数日かかるヤツも居れば、その怪我がミスターKの仕業だって事で、試合に対し恐怖を抱くヤツも……」

「なるほど……ということはミスターKのせいで事故が……」

「ああ。少なくともそう考えているヤツは多いよ」

「偶然じゃないよ!偶然で10人も同じ日にけがをするなんて……!」

「確かにな……1人2人ならまだしも……って待てよ。何人残ってるんだ?」

「無事なのは6人だけ……とてもじゃないが、このままじゃ試合できない」

「…………」

 

 なんというか……帝国の話に似ているな。相手を事故に遭わせて試合に出させなくする……しかも、今回は何かの大会ではなく、代表交代を賭けた……公式戦ではない試合……クソッ、ここまでやるのかアイツは……!

 

「……なぁ、公式戦じゃないんだろ?」

「ああ、そうだね……」

「オレも混ぜてくれないか?……ミスターK……いや、影山には昔、いろいろあってな」

「でも、いいのかい?」

「もちろん。それに……オレはこの予選リーグ、チームKじゃなくて、お前らオルフェウスと戦いたい」

「アヤト……」

「これで7人!確かにアヤトが入ってくれるなら心強いよ!」

「でもいいのか……アルゼンチン戦が近いだろう?」

「監督はなんとか説得する。そんなことより問題はチームKだろ?」

「そうだな。アヤトが入ったとは言え、人数不利は否めない」

「かと言って、後4人を誰かスカウトしても……危険な試合に巻き込めないしね」

 

 とりあえず、後4人をどうにかする問題は置いておいて、今日は近くで練習することにした。ただ……

 

「……アヤト、動き鈍ってない?」

「まさかお前も怪我を……!?」

「いや……今朝からおもりつけてるけど……サッカーってなるとやっぱ動きにくい……」

「何でまた……」

「特訓……!」

 

 20kgって改めて感じるけど、凄い重いんですけど……え?メハトのヤツ、コレつけてても違和感ない動きが出来てたとかマジ?日常生活はともかく、サッカーでそのレベルは相当なんだけど?これは試合外はずっと付けて過ごさないといけないヤツですかね?




 最初のヤツはこの話の設定です。……いや、世界レベルと戦っている選手なんて、この世界のクラブチーム(特に日本)からすれば、無茶苦茶欲しい人材でしょ。
 それにGO世代で10年後の彼らの一部メンバーが海外や日本のプロサッカー選手として活躍してるとか言ってたし、この大会で見られても不思議じゃないだろうし……

 ちなみに、ナイツオブクイーンをエドガーのワンマンチームと言っていますが、あくまで十六夜くん視点ではって話ですね。エドガーと周りのレベル差があり過ぎる……前まで置かれていた状況と似た問題を抱えているって思っていますね。だからこそ、ナイツオブクイーンにエドガーと並ぶ選手が居ればもっと勝つのに苦戦したと分析しています。だからこそ、あの戦術では少なくともアメリカやイタリアには勝てないと話していますね。アルゼンチン?あそこはまた別問題ですから……

 そして、十六夜くんに覚醒フラグが立った気がしますが……十六夜くんにとって、フロー、あるいはゾーン状態はある代償(?)と引き換えに入れるものです。ある代償とは何でしょうか……?

~ペラー一族の簡易説明コーナー~

長男 ボス 異名:王 現在の使役者:十六夜綾人
ペンギン界の王子にして、巨体と高いカリスマ性を有している。
5兄弟の纏め役である。

長女 ジェーン 異名:神速 現在の使役者:なし
2番目に生まれた、速さに特化しているペンギン。
現在、ニート生活中である。

次男 バール 異名:何でも屋 現在の使役者:なし
3番目に生まれた、器用性に優れたペンギン。
現在、どこに居るか不明。

次女 アリア 異名:破壊者 現在の使役者:メハト・アイア
4番目に生まれた、パワー特化型ペンギン。
兄弟愛が強いが少し不器用である。

三男 ペラー 異名:智将 現在の使役者:十六夜綾人
5番目に生まれた、頭脳明晰なペンギン。
十六夜と共に居る末っ子ペンギンである。

 何か、オリキャラというか、オリペンというか……ねぇ?まさか、名前付きオリキャラの人数(予定だと十六夜合わせて4人、オーガ・過去編除く)よりオリペンの数(5匹)が多い作品もそうないだろう。
 ちなみにオーガ編で出て来たゼロはペラーの息子ですね、はい。レイが生まれたときに産まれました。

 次回は過去編……陽向神奈のヤバさの片鱗が……?そして、十六夜に変化が……?


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過去編 ~十六夜(コマ)陽向(プレイヤー)

過去編その3です。
字数は前話を超えています。


「チェックメイト」

 

 高1の秋の休日のこと……とある理由で十六夜は陽向の家に呼ばれていた。と言うのも……

 

『ボクの口調がおかしい?それはねぇ、このラノベでボクが好きなキャラに影響されてはいストップ。キミ帰ろうとしたでしょ?ねぇ、このオタクめんどくせぇーって思ったでしょ?もっと面倒くさいところ見せてあげるから取りあえずボクの家に行くよ!キミにラノベの素晴らしさを教えてあげよう!さぁ、行こう!』

 

 ……簡潔に纏めるなら、十六夜が余分なことを言ったからである。何とか、その日に連れて行かれることは阻止したものの、後日時間を取ることになったのだ。

 

「クッ……!」

「ふっふっふっ……ボクにチェスで勝つだなんて100年早い!」

「……もう一度だ」

「フハハハハ!いいでしょういいでしょう、受けてあげようじゃないかその勝負!と、その前に次のラノベ紹介をさせてね♪次は――」

 

 では、何故チェスをしているのか。それは、十六夜が彼女の部屋に入り、本棚には大量のラノベと漫画が並んでいる棚を目撃。コイツに語らせたら終わらないと察した十六夜は、彼女の部屋に置かれていたチェスを目にする。……勝負形式にして、自身が負ければ1冊紹介出来る……みたいな形にすれば良いのではないかと考えたのだ。幸い、自分は初心者ではあるがルールくらいなら分かる。彼女の実力はともかく、きっと時間稼ぎにはなる……そういう思いから勝負を吹っ掛けた。

 

「でねでね。この作品は伏線の張り方が絶妙で、その回収も実に鮮やかなんだ!あ、このラノベも貸してあげるから読んでみてね。個人的には3巻までは読んで欲しいから、3巻まとめて貸してあげるね」

「……あのー陽向さんや?どんどん借りるラノベの冊数が増えているんですが……」

「大丈夫大丈夫!1日あれば読み終わるって!1日は24時間!1冊2時間くらいで行けば12冊行ける!」

「じゃねぇよ!?24時間ぶっ続けで読めって言う気か!?つぅか、その時間サッカーと勉強に費やせるだろ!?」

「えぇー仕方ないなぁ。じゃあ、ボクの分析で完璧なスケジュールを立ててあげるから、それで読書時間確保ね。そもそも十六夜クンは2次元に興味なさすぎ!人生損しているよ!」

「うっせぇ天才オタク」

「全くーボクレベルとは言わないけど、ある程度は2次元を嗜むといいと思うよ。第1……」

 

 と、語り始めた彼女……もう半年以上の付き合いになるから分かるが、彼女は語り始めると止まらない。ゲームもアニメも漫画も、今までの人生の大半をサッカーに費やしすぎて、そう言うのには疎い……どころかあまり興味がない人間にとっては、面倒くさいことこの上ない。ただ、彼女があまりにも嬉しそうに語るせいで止めるタイミングを失っているのだ。

 

「……って聞いてるの?」

「へーへー……というかお前、チェス強すぎねぇか?いくらお前が天才で、オレが初心者だとしても、ここまで一方的にボコボコにされるのか?」

「…………あれ?言ってなかったっけ?」

「何を?」

「小さい頃から中学生までチェスは本気でやってたよ?ほら、そこに賞状とか並んでるでしょ?」

 

 言われて部屋を改めて見渡す十六夜。大量のラノベが目に入って、それ以外の物は一切目に入っていなかったが……よく見ると、賞状やら盾やらが置いてあった。

 

「えへへ……自分で言うのも恥ずかしいけど、日本ランキングで1位になったこともあるんだ」

「…………」

 

 マジかコイツ。十六夜は引くと同時に理解した。元日本一に初心者が無策で勝てるわけねぇと。

 

「……とにかく、お前がチェスやってるのは知らなかったわ。というか、ウチの高校チェス部とかあったろ。何でやってないんだ?」

「……一言で言うなら、疲れたから」

「はぁ……?」

「あはは……意味分からないよね。……でも、そうとしか言えないんだ」

「……そうかよ」

 

 何かがあった……けど、本人が言わない限りは無理に聞くことはないだろう。そう思って質問を変える。

 

「じゃあ、何でサッカー部のマネージャーに?文芸部もあったと思ったが……」

「えぇ~ヒ・ミ・ツ♪」

「あっ、そう。……ほら、次の対局だ」

「え?」

「あ?何してる、準備しろよ」

「えーっと、ボクが元日本一って知ったよね?」

「知った」

「キミは初心者だよね?」

「間違いない」

「……勝ち目ある?」

「テメェの強さを知った……舐めてたわけじゃねぇが、テメェが元最強だと理解した。その辺を考慮すれば、限りなくゼロに近いが勝ち目はあるんじゃないか?」

「……ぷっ」

「……あ?」

「あはははは!いやーゴメンね~。そっかぁ……十六夜クンってとっても負けず嫌いだったね。そっかそっかぁ……うん!手加減しないからボコボコにされて泣かないでね!」

「るっせぇーテメェの掌の上で踊ると思うなよ」

「じゃあさ、次ボクが勝ったらお互いを名前で呼ぶってのも追加ね!」

「はぁ?」

「ボクは綾人って呼ぶからさ!」

「上等。手を抜いたら締める」

 

 2人の対局が始まる。そして、十六夜が4手目に入ろうとしたとき、

 

「ねぇ、十六夜クン」

 

 目を閉じた陽向が声をかける。

 

「何だよ」

「手を抜くなって言ったよね?」

「言ったな」

「じゃあさ、少し待って」

「はぁ?」

「手を抜かない……ボクの本気を見せてあげるから」

「……っ!」

 

 そして、目が開かれる。普段では感じられない、想像も付かない威圧感に思わず気圧される十六夜。その雰囲気で身を以て感じる……

 

「……さっきまでの対局。手抜いてただろ?」

「そうだね」

 

(スイッチが入ってる……対峙して分かるがなんてプレッシャーだおい。普段のコイツからは想像も付かない……まるで別人を相手しているようだな。……なるほど、コレが陽向神奈の本気ってヤツか)

 

「分かったよ……一応、オレの手番だけど、このままか?」

「うん。それでも、待ってて」

「好きなだけ時間使えよ。ゆっくり待ってやる」

「ありがとね」

 

 すると陽向は立ち上がり、自身の机に向かうと、紙に何かを書き連ねる。迷うことなく、止まることなく……そうして、書き上げたその紙を四つ折りにすると……

 

「はい。対局が終わるまで預かってて」

「おう。……開いていいか?」

「ダメ。対局が終わってから」

「へいへい」

 

 そう言ってポケットにしまう十六夜。一方の陽向は近くに台を置き、スマホを立て掛ける。

 

「それと、ここからはこの対局撮らせてもらうね」

「別に構わねぇよ」

「じゃあ、対局再開ね。十六夜クンの番だよ」

 

 謎の紙とスマホによる撮影……今までの対局になかったことだが、断る理由もないので受け入れる十六夜。

 

「ねぇ、十六夜クン。知ってる?」

「対局中だろ?……で、何をだ?」

「チェスってね、盤上の戦争なんだよ。そして、その目的は相手の精神を砕くこと」

「…………お前がそういうこと言うと笑えねぇな」

「ボクが言い出したことじゃないよ。昔の人の名言さ」

「そうか」

「チェスはね、心優しい人や臆病者は向いてないらしいんだ」

「それも誰かが言ったのか?」

「うん。そして、ボクもそれは同感。チェスは冷酷な人が向いている……人を殺す準備が出来ているくらいのね」

「……っ!?」

「あはっ♪もしかして、怖じ気づいた?」

 

(なんだよこれ……震えてるのか?怖い……恐怖している?冷や汗が止まらない……目の前に居るのは本当に陽向神奈なのか?オレがいつも見ている少女に思えない……何だよこれ……オレがやってるのは盤上遊戯(ゲーム)じゃないのか……?)

 

「ねぇ、(こっち)を見てよ。引きずり込んであげるからさ」

「…………っ!??」

「顔色悪いね。ねぇ、キミには何が見えてる?」

 

(槍の先がこちらを向いている……戦車の砲塔がこちらに照準を合わせている……何だこのビジョン……!?ここは戦場だと否応なしに()()()()()()()。何だよ……何だよこれ……!)

 

「バケモノが……!」

「いい響きだね……キミと同じだ……さぁ、次の手を打ったらどうだい?……もっとも、キミに残された猶予は少ないからよく考えると良い」

 

(クソが……!マジで隙が見えねぇとかそういう次元じゃない……!何だよこれ……オレがやってるのは本当にチェスなのかよ……!)

 

 そして……

 

「チェックメイト」

「……………………」

 

 パンッ

 

「……っ!脅かすなよ……」

 

 陽向の拍手で現実に戻る十六夜。

 

「えへへ~ボクの勝ちだよ。じゃあ、渡した紙を開けてみて」

「ああ……ってこれ何だよ?」

「開けたら分かるよ」

「へいへい……って、はぁ?」

 

 十六夜が開いた紙……そこにはアルファベットと数字が羅列されていた。

 

「何だと思う?」

「暗号……?いや、そんな意味不明なことはしねぇだろうな。数字とアルファベットの羅列…………もしかして、棋譜ってヤツか?」

「正解。それは、チェスの棋譜だよ」

「ちょっと待て。読み方は分かんねぇけど……棋譜って確かその対局でどう駒を動かしたってヤツを表すんだよな?」

「その認識で大丈夫だよ。例えばPf4だったら、ポーンをf4……だからここへ動かしたって感じだね」

「そういうことじゃねぇよ」

「ん?」

「この棋譜は今さっきの対局の棋譜なんだろ?」

「……うん。撮った動画と見比べてみると一緒だよ」

 

 動画を流しながら確認していく。陽向の解説を聞きながら一手ずつ確認していく。対局の棋譜だから一致しているのは当たり前なのだが、十六夜の背中には寒気が走っていた。

 

「違う……お前はこの棋譜を最初の段階で書いてた」

「正確には後攻のボクが3手終えた段階でね」

「それなのに……最後の一手までこの棋譜と対局が一致している。こんなこと信じたくねぇぞ……」

 

 もしこれがテレビ番組ならやらせを疑うだろう。だが、目の前で、対戦相手として見れば、当然仕掛けはなにもない。……だからこそ、十六夜の中には恐怖という感情を感じずには居られなかった。

 

「お前が未来を読むことができるってのは知っていたが……それでも高々相手が次に取る行動を読むぐらいだと思っていた。でも、今回は違う……お前はこの勝負全てを読んでいた……」

「……うん。ボクには視えていた……キミがどの手を打つのか全て分かっていた。キミの性格、思考パターン、見えている(ルート)、チェスへの理解度……全てを分析し、読み切り、ボクの勝つ未来を構築し、キミを引きずり込んだ」

「ハッ……何だよコイツ……!」

 

 あり得ないことをやってのけたバケモノに戦慄する十六夜……ただの敗北じゃない。圧倒的で絶望的なまでの敗北……一切勝てる気がしない敗北……

 

「…………やっぱりそういう風になるよね……ゴメンね。キミじゃ()()()()()()()()()()()()()()……アンフェアな勝負を挑んでゴメンね。さっきの賭けはなしでも……」

「……何勘違いしてんだよ、()()

「ふぇ?」

「……元日本一の天才様が本気を出すとここまで強いって話だろ?それこそ、対局序盤の段階から自分の勝利する未来へと引きずり込むことが出来るくらい強いし、途中から完全にお前の雰囲気に飲み込まれた……圧倒的で絶望的で震えが止まらねぇ。……けどな、言ったはずだ。テメェの掌の上で踊ってると思うなと。いつか、お前の予想しない、お前の描いた未来とは別の未来を強引に引き寄せてやるよ」

「……綾人、両手を広げて」

「あぁ?こうか?」

 

 すると、十六夜の胸元に飛び込む陽向。そのまま彼の背中に手を回し、離さないように抱きつく。

 

「ちょっ、何する……」

「絶望的な差を感じても……そんな啖呵を切ってくれたの綾人だけだよ。誰もが離れていく中……うん。いいよ綾人……バケモノ(ボク)がキミの心が折れ、地に這いつくばってしまうほどの絶望的な力の差を見せてあげるよ」

「……そうかよ。やってみろよ、悪いけどオレの諦めは悪いからな」

「うん!徹底的にへし折って叩き潰して絶望させてあげる!」

「いい笑顔で中々酷いこと言うな、おい」

「……あ、もしかしたら綾人ってさ。心の奥底では、サッカーでボクと同じ事思っているんじゃない?」

「ああ?」

「圧倒的な力を持つ故の孤独。その差に相手は愚か、味方さえも絶望し離れていってしまう。……でも、そんな力の差があっても諦めず、何度折れても必死に追いかけてくれる。本気でキミと正面からぶつかってくれる……そんな仲間をキミは求めているんじゃない?」

「…………かもな……で?次のラノベは何だ?というか離れろ」

「えぇーもうこのままがいい。今日は離れないもん」

「……このままだとチェス出来ないだろ?」

「このままやるもん。綾人が動かしたコマとその位置を言ってくれれば、ボクが口頭でやるもん」

「……目隠しチェス……それも相手だけか……おいおい、ハンデのつもりか?」

「ハンデ?何で?全部覚えて、頭の中で構築すればいいんでしょ?それの何処がハンデなの?」

「…………」

 

(一般人はそんなこと出来ねぇんだよ。マジでコイツの底が知れねぇんだけど?)

 

「ハンデって言うなら、ボクはキミの手番の後5秒以内に次の手を答えてあげようか?後、キング以外全部取ってからしかチェックメイトしちゃいけないってのも追加する?」

「…………やっぱ、コイツ、バケモノだわ……もう何でもいい。始めるぞ」

「うん。じゃあ、今の分のラノベ紹介は次に回すね。2回分の紹介権は何に使おうかな~」

 

 十六夜が駒を並べつつ、気になったことを口にする。

 

「というか、途中のアレは演技か?正直、かなり恐く感じたが」

「演技?ううん、昔のボクに戻っただけだよ?」

「…………」

「何かね、昔はチェスするときの雰囲気が変わったんだって。まぁ、綾人風に言うなら、ボクの中のバケモノが表に出ていたみたい。そのせいでよく対戦相手に泣かれちゃったんだ」

 

(そりゃ、子どもがやられりゃ泣くわ)

 

「まぁ、普段は封印してるけど、綾人が本気って言ったからつい出しちゃった♪」

「……今後は神奈さんを怒らせないように気を付けます」

「……え?そんなに恐かった?」

「…………」

 

 この後、大量のラノベと、1週間分のタイムスケジュールを家に持って帰る十六夜の姿があったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇね……うみゅ」

「なげぇうるせぇ寝かせろ……」

 

 とある日の昼休み……机に突っ伏して寝ていた十六夜の下にやって来た陽向。寝ている十六夜の耳元で囁く……というより、話をしたくて、ねぇを連呼していたのである。そんな彼女の両頬を片手で掴み、物理的に話せなくする十六夜。

 

「……で?人の眠りを妨げた理由は?」

「…………(パシパシパシパシ)」

「ああ、悪い」

 

 陽向に腕を何回か叩かれたことでその手を解放する。

 

「綾人!今のはセクハラだよ!ボクじゃなかったら怒ってるよ!」

「お前でも怒ってるだろ……たく、悪かったよ、神奈」

「全く……で?何で寝てたの?」

「寝不足……」

「何で?ボクの渡したスケジュールだと、昨夜は22時には寝て、今朝は5時に起床……7時間睡眠で、綾人の体質的には問題ない睡眠時間を確保できているはずなんだけど?」

「寝る前に読んでたラノベが面白くて……つい、2時頃まで読んでた」

「何と!?ついに綾人がラノベに目覚めたということ!?」

「読み進めたら止まらなくなって……って何で感動したような感じで手を取っているんだよ」

「うんうん。ようやくボクの同志に……ちなみに読んでたのどれ?」

「これだよ。1巻だけのつもりが3巻まで読んでしまったわ」 

「ふふん♪そんな綾人サンは4巻が気になることでしょう」

「…………ぶっちゃけ、気になる」

「実は!そんなこともあろうかとここに4巻があるのです!」

「え?準備良すぎないか?え?お前、ストーカー?」

「違うよ!昨日は1巻だけの予定だったから学校で1巻と4巻を交換しようと思っただけだよ!」

「ああ、そういうことか。何だ、早とちりを――」

「ちなみに5巻と6巻も用意してあります」

「――え?やっぱ、ストーカーか?」

「違うもん!よく考えたら4巻から6巻ってセットで貸した方がいいって思っただけだもん!」

 

 彼女はストーカーではなく、ただ好きなものを共有して語りたいオタクであった。

 

「とりあえず、3巻まで返すわ」

「うん。じゃあ、6巻までね」

「おう」

「今日は夜遅くまで起きてちゃダメだよ」

「……善処する」

「はぁ……ってそうじゃない!綾人って進路調査の紙書いた?」

「進路調査?」

「ほら、今朝先生が配ってたでしょ?」

「あー……」

「さては、聞いてなかったなこの野郎」

「聞いて無くても神奈が教えてくれるって信じてたからな」

「きゅん……ってなると思った?どうせ、寝不足で寝てただけでしょ」

「頭がスリープモードでした。ごめんなさい」

「素直でよろしい」

 

 そう言われて机の中から紙を取り出す十六夜。

 

「うげっ……志望校も書くのかよ……」

「そりゃあここは進学校だよ?9割以上の人が進学するんだからさ、1年生の内から書くのは当たり前じゃないの?というか、模試でも志望校書いてるじゃん」

「まぁ、そうだけど……」

「あ、そっか。綾人って模試の志望校のところ適当だもんね。自分がDとかE判定出そうなとこを第1志望にして、後はCを2、Bを3、Aを4って感じに書いてるんだよね?」

「え?何で誰にも言ったことないのに知ってんの?」

「綾人の志望校判定がいつも綺麗にそう並んでいるのと、いつも志望校どころか書いてる学部まで変わっているから。どこに行きたいか何も決めてないんだろうなーって」

「へーへーその通りですよ……マジで怖いわお前の分析力」

「怖いは褒め言葉だよね!」

「いや、純粋に怖くて引いてる」

「引かないでよぉ~!」

「ほんと、お前に隠し事できなさそうで怖いわ」

「え?ボクに何か隠し事するつもりなの?」

「しようとしても出来ねぇだろ」

「……で、どうすんの?」

「って言ってもなぁ……一応理系の大学志望だけど、どこ行くかってねぇ。とりあえず、この辺書いとけば怒られない?」

「怒られない?で選んだところが……ねぇ。綾人サンや?一応、綾人サンが選んでいるの難関大学って呼ばれる場所なんですわ」

「しょうがねぇだろ学年主席さんや。一応、この学年で学年次席に位置している人間が難関大学目指さなかった方が先生方に怒られるって。というか、絶対後が面倒」

「まぁ、そうだよね~学年1位の下に居続ける学年2位さんが、難関大学目指してないって言われたら衝撃が走るだろうね~じゃあさ、ボクと同じとこ書いておこうよ」

「おっけーそうするわー」

「ノリが軽い。結構大事なことなんだけどなぁ……」

「後2年以内に考える」

「絶対、綾人ってそのテンションでこの学校受けたよね?とりあえずここでって感じで」

「その通りだな。そういうお前もだろ?」

「ちっちっちっ。この学校ってアレだよ?中学校時代に成績が優秀な子は皆ここ目指しているし、ここに通っているってだけで頭良いって思われるんだよ」

「へぇーほぉー」

 

 そんな会話をしながら、十六夜は陽向の紙を写させてもらうことに。

 

「綾人ってさぁ。サッカー選手になる気はないの?」

「微妙だな。大学には行くって感じだけど、結局その後の職業どうする問題は封印中」

「普段は優等生演じているからね~中身はマイペースで、サッカー中は人格変わるって感じだもんね」

「うるせぇ」

「ちなみに塾に通う気は?」

「ねぇな。サッカーの時間が削れる」

「だと思った。まぁ、ボクも行く気は更々ないけどね」

「ちなみにこのクラスで塾通っていないヤツ、オレとお前だけらしい」

「おぉ~ボクらだけのってヤツだね。あ、そうだ今度の土日空いてる?ボクと勉強会しようよ~」

「分かった。ただ、最低でも3時間はサッカーと筋トレだ。これは譲れない」

「分かってるって。チェスの時間も1時間は欲しいし~うん。勉強は6時間くらいでどう?」

「ああ。場所はどうする?」

「ボクの家でいいよ~あ、でもたまには綾人の家でもいいんだけどな~チラッチラッ」

「確認しておく」

 

 この後、陽向が土日それぞれの予定をタイムスケジュールにして共有し、その通り動いたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい、綾人ーボク、気付いたんだ」

「何を?」

「綾人ってバカだよね?」

「ぶっ飛ばすぞコラ」

 

 1年生の冬……自主練習に付き合う陽向からの唐突な発言に頭を抱える十六夜。

 

「ゴメンゴメン。ボクが言いたいのは、サッカーの、特に試合中にキミは頭を使ってないよねっていひゃいひゃいなんでほほひっぱうの!?」

「ムカついたからだ」

「ゆゆひえー」

「……たく……で?神奈さんや。人をバカ呼ばわりするのには理由があるんですよね?ねぇならゴール前に立てシュート撃ち込んでやる」

「DV!暴力反対だよ!」

「安心しろ、数cmズラしてギリギリ当てねぇ。風を感じさせてやるよ」

「ぼ、ボクはそんなスリル満点なアドベンチャーは遠慮させてもらおうかなー……って、そうじゃないよ!えぇーこほん。十六夜の綾人クンは普段は頭がいい」

「お前に言われるとムカつくなぁ?陽向の神奈サンよぉ?」

「一々怒らない!……でも、キミのサッカーからは知性を感じない。少しは頭を使って、先読みをするようになったけど……それでも試合形式での練習とか試合中は頭を使って動いていない。本能のままに動いている感じがするんだ」

「…………」

「例えば、綾人がボールを奪ったとする。その後のアクションはいつもどうやって決めている?ドリブルする、パスを出す、クリアする……色んな選択肢がある中で、キミはどうやってそのプレーを決めている?」

「そりゃあ……」

 

 と、ここで言葉に詰まってしまった十六夜。どうやって決める?周りを見て……そこから、どうやって?周りの人の配置を考えて……いるか?そんなことまで。というか、何か考えているか?思考を続けるも明確な答えは出ない。だから……

 

「……何となく?」

 

 よく分からないのが正解だった。

 

「やっぱり……じゃあ、例えばだけど、キミがボールを貰った時……キミってドリブルしかしないよね?何で?ダイレクトでパス出せば有効な場面もあるのに何でドリブルしかしないの?」

「……何でって……」

「キミはキミの行動(アクション)を説明できていない。それは考えていないから。本能で動いているからだ。何となく、感覚で、直感……キミはキミのプレーを言語化出来ていない。だから、キミはキミのプレーを見返した時に、その時のプレーの意図を説明できない」

「…………」

「そして、それはキミが成長しない要因の1つでもある。確かに、本能のままにプレーするのが有効な場面もあるだろう。感覚も大事になる時があるだろう。確かに、感覚で動ければ、思考時間を短縮できるメリットもある。……だが、本能頼りでは、それを読まれたときに弱くなる。それが通用しなくなった時に終わってしまう」

「…………」

「だから今のキミに必要なのは技術より思考だ。自分のプレーを言語化する練習だ」

「……と言っても……」

「じゃあ言うけど、キミのスペックは高い。だけど、脳を使わず感覚頼りだったらその真価を発揮出来ているとは言えない。キミの嫌いな天才……感覚だけで生きていけるのはそういう人間だけだよ」

「…………」

「じゃあ、自称凡人クン。キミは少しずつ分析力を身につけ始めた……もっと練度を高めると同時に、キミはもっとプレーを言語化する練習が必要だ。それが、最適な一手を打つことに繋がる。そして、ゆくゆくはキミが2つのスタイルを使いこなせる存在になる」

「2つのスタイル?」

「本能と感覚のみで動く……言わば、今までのバケモノのプレーと、頭を使い思考して動く……言わば、機械みたいなプレー。対極な2つのスタイルを身につけ、使い分ければ……こう……すごいことが出来ると思う!よくわかんないけど!」

「最後が曖昧だな……おい。でも、分かったよ。今のままじゃダメってことだろ?じゃあ、どうすればいい?」

「素直でよろしい。いきなりあれもこれもは難しいと思う。だからボクが手本を見せるよ」

「え?運動音痴のくせに?」

「う、うるさいうるさい!……ボクがキミと1つになる!」

「気持ち悪い」

「酷い!?ストレートに心に刺さるんだけど!キミのオブラートはどこに行った!」

「使用期限切れです」

「新しく発注しておいて」

「面倒くせぇ」

「せめて……こう、ボクが傷つくか傷つかないかギリギリの……ねぇ?」

「お前が言い方変えれば、オレも言わなくて済むんだが?」

「じゃあ、ボクがキミの頭脳になる!」

「……もういいや」

「キミには能力がある!ボクがキミの頭脳となり、キミが行うべき最適なアクションを伝える。キミはボクの指示通りに動けばいいんだ!」

「……そんなこと出来るか?マネージャーと選手だぞ?」

「フッフッフッ、ボクの分析力なら行ける!」

「すげぇ自信だな」

「さぁ、最低限の指示だけ叩き込んでもらうよ!」

「分かったけど……それがどう思考を鍛えることに繋がるんだ?」

「キミは反省するときに、ボクの指示理由を考える。ボクの指示したプレーの意図を言語化する練習さ」

「まぁ、面白そうだな……乗った。頑張って動かしてくれよ」

「任せておくれ!さぁ、やるよ!」

 

 

 

 

 

 そして、冬休み前に組まれた練習試合でのこと。

 

「c2で待機!10秒後、そこに来るから奪って!」

「あいよ」

「そして、b6までドリブル!c4とb5で接敵するから即突破!30秒以上かけない!」

「了解」

「到達したらg7へパス!そのままd7まで走ったらダイレクトで押し込む!」

「はいよ」

 

 フィールドをチェス盤に見立てた指示……常人では理解できない指示を、十六夜は完璧に遂行していた。

 

「よし、1点っと」

「流石!ボクの読み通りだね!」

「流石だ相棒。もう1点行くぞ」

「し、仕方ないなぁ……このまま行くよ!」

 

 十六夜と陽向は無双していた。正確には、陽向が十六夜を完璧に動かし、誰も止められない状態が出来ていた。

 

「b2まで走って!そこで接敵するからc1へのコースをカットしながらa1まで追い込み!スローで問題なし!」

「あいあい」

「追い込んだら奪う!そして、h3へロングボール!a4まで走って!全速力だよ!」

「オッケー」

「次は……」

 

 声を聞き取って、その指示を遂行する。場所は大雑把だがそれでも、何をすべきかをしっかりと汲み取っていた。

 

 ピ、ピー

 

 試合は大勝。彼女の指示には一切の間違いはなく、勝利をおさめることが出来たのだった。

 

「お疲れー綾人」

「お疲れ神奈。手挙げてくれないか?」

「え?こう?」

 

 パンッ

 

「ナイスゲーム、神奈」

「え?……こ、これって俗に言うハイタッチと言うやつでは……!?」

「まぁ、そうだな」

「もう1回!もう1回やろうよ!」

「嫌だよ。練習試合で何回もやるもんじゃねぇって。……それより、喉大丈夫か?」

「えへへ……ちょっと張り切り過ぎた」

「飲むか?」

「ありがと……って!こ、これ……!?」

「何だ?いらないのか?」

「さっきまで綾人が飲んでいたヤツでしょ!?」

「そうだが……?別のがいいか?」

「あ……ううん、これでいい。これがいい」

「とりあえず、今度は分析だな」

「う、うん……」

「何で顔真っ赤にしてるんだ?」

「う、うるさい!それよりどうだった?」

「ん?」

「試合やってみて」

「そうだな……楽しかった。気持ちよくプレーできたというか、初めて理解されている気がした……って何、笑ってるんだよ」

「凄い嬉しそうだなーって。だって、ハイタッチするくらいだもんね」

「……うるせぇ」

「まぁまぁ、苦になっていないならよかった。ボクの指示が嫌になってないなら良かったよ」

「お前はすげぇよ。よくもまぁ、フィールドの外からオレを完璧に操れるわ」

 

 十六夜は感心した。彼女によって完璧に操られていた……誰もが扱うことを諦めた自分を使いこなしてみせたのだ。

 

「そうだねーでも、まだまだだよ。実際に動かしてみて、十六夜綾人というコマの性能も扱いにくさも分かった……だから、ボクの才能ならもっとキミを思うように動かせる。もっと完璧に操ることが出来る。キミの力を最大限に引き出せる」

「ハッ、言ってくれるねぇ。それならオレは、陽向神奈というプレイヤーがもっと頭を悩ますくらいのコマにでもなろうかね」

「ふふん♪それなら、ボクが綾人のことをもっともーっと理解して、戦場(フィールド)の最適解に導いてあげるよ!」

「じゃあ、こっちはお前の理解を超える成長を見せてやるよ。お前の分析じゃ測れないレベルになってやる」

「むむ?ボクの分析で測れないだって?だったら、ボクのこの力ももっと磨いてあげるんだから」

「ああ?お前の能力じゃ測れないレベルになって、お前に合わせるくらいになってやるよ」

「だったら……」

「それなら……」

 

 と、子どもみたいな言い合いを続けること数分。

 

「……でも、それは今だけの話。綾人はそれを自分でやれるようにするんだよ。とりあえず、今は綾人の中にある破壊衝動は封印!」

「破壊……衝動……?」

「え?気付いていないの?綾人のバケモノの根幹は、キミの中にある強い破壊衝動から来ているんだよ?だから、キミが本能でプレーするときは、相手をぶっ潰す!とか、ぶっ壊す!とかそういう物騒なこと言ってやってるんだよ?」

「……マジ?本能って言うから普段、無意識でプレーを選択しているんだと……もしかして、だからバケモノって言われてたのか?」

「……え?今のいままで気付かなかったの?いつもの数倍お口が悪くなって、冷たくて、恐くて……」

「はぁ……」

「うわぁ……自覚なかったんだ」

「微塵もねぇ」

「えぇ……」

 

 陽向は一歩引いた感じで十六夜を見る。

 

「根っこがクズ野郎?」

「黙れ」

「とにかく、本能での破壊は封印。バケモノの根底にある荒ぶる破壊衝動を封印して、理性でのプレーを心がけること」

「理性……ねぇ」

「もし、それでも破壊したいなら……そうだね。相手に何もさせない。分析し、弱点を見出し、やろうとしていることを全部潰して、徹底的に壊す。こちらに立ち向かえないような邪悪さを見せつける」

「そっちの方が最低だろ」

「うっさい!ボクの頭脳とキミの衝動をマックスで掛け合わせるならそれが一番だよ!」

「へいへい。しばらくはそういうことを考えないようにしますよ。衝動を封印ねぇ……封印封印」

「ぺたぺた」

「何、人のでこを触ってんだ」

「いや、封印って言ったら、お札を額に貼るイメージあるじゃん?お札代わりに僕の手でも……」

「そうだな。お札より効果があるかもな……じゃあ、お前の手だけ貰おうか」

「ひぃいいい!?猟奇的!本能を封印したはずなのに漏れ出てるよ!」

「冗談だって。しっかり抑えるから心配するなって」

「イメージは鎖だよ。破壊衝動を持つバケモノに鎖を巻き付けて動けなくするんだ」

「なるほど……鎖、ねぇ」

 

 そう言われて十六夜はイメージをしてみる。怪物に鎖を巻き付けて、杭を打つ……暴れても解けず引きちぎられない。そんな強固な鎖をイメージする。 

 

「……こほん。では、頭を使うお時間です。はい、綾人クン。何故、ボクはこのシーンでc2で待機させたでしょうか」

「はい。そこに敵が来るから」

「10点だよ!」

「え?満点解答だったか?」

「100点満点のだよ!全然ダメ!そんな小学生レベルの解答じゃ全然ダメだよ!」

「うへぇ……じゃあ、何でさ」

「そもそも敵が来るのは間違ってないけど、何で敵がここにドリブルで突っ込むことがボクは分かったか……それが分からないとキミは一生ボクの操り人形のままだよ!」

「……ちょっと時間くれ、考える」

「まぁ、いいでしょう。でも、実際の試合では待ってくれないからね?」

「分かってる」

「あ、でも綾人が一生ボクの物って考えるといいかも……一生ボクのところから逃がさないように鎖で繋いで……」

「…………冗談だよな?」

 

 その後、十六夜が散々ダメ出しを喰らったのは言うまでも無い。




 前半だけ見ると、チェスの元日本一に挑む初心者主人公って作品になりそうですね。十六夜……お前、前世はチェス漫画の主人公だったのか……?

陽向神奈(天才(バケモノ)
 幼少期よりチェスをやっており、ランキングで日本一を取ったこともある天才。ラノベを愛し、アニメを嗜み、ソシャゲをする程度のオタク。十六夜に対し、ズバズバと意見を言う貴重な存在。十六夜からはバケモノ認定され、恐怖を感じさせた。
 チェスにおいては、目隠し、多面指し、早指しなどのルールでも最強である。それどころか、相手のことを分析していれば、特徴、性格、チェスの経験などから僅か数手で自身のチェックメイトまでの未来を構築できる。心の中には十六夜にも引けを取らない凶暴なバケモノを飼っている。これがチェス漫画なら、確実にラスボスor裏ボスな存在である。
 中学校時代には日本一というプレッシャーや期待に押し潰されそうになり、心が悲鳴を上げそうになっていたが、十六夜の1人でも戦う姿勢を見て持ち直す。だが、その圧倒的な実力から周りに人が居なくなってしまい、結果孤独になる。あまりにも差があり過ぎると悟り、チェスから離れ、徐々に2次元に染まるようになる。しかし、チェスから完全に離れることが出来なかったため、1人で続けていた。
 マネージャーとして、サッカーをチェスに見立てた十六夜以外には伝わらない戦略を取り始める。イナイレ世界で十六夜がやっている未来視を現実世界でも可能にしてしまうバケモノ。十六夜よりも先読みに特化しているため、運動神経さえ良ければ十六夜と渡り合えた可能性がある(なお、実際は運動音痴のため……)
 ちなみに、十六夜のスケジュール管理を一任している(勝手に)。


十六夜綾人
 若干天然が入った優等生の皮を被ったマイペース野郎。少しずつ陽向の影響を受けつつある自称凡人。彼女にスケジュール管理を(勝手に)されているが一切苦になっていない。サッカー中の破壊衝動(ようやく本人自覚)を封印し、頭を使うプレーを目指し始めた。
 本来は本能でプレーするような感覚派プレイヤー。誰かに指示する側ではなく、される側の選手。分析して動いていく頭脳派プレイヤーや、作戦を練ってそれ通り動かす司令塔とは縁遠いと思っていた。
 一切目標がない、夢がない空っぽ人間。ただ、火種はしっかりとある。その火種に気付き、それを業火に出来るかそれともその前に……


 次回は本編。十六夜とオルフェウスの話です。


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共同戦線

 前回は6時に投稿するつもりが0時になってました。0と6を間違えるとは……


 翌日の朝、イナズマジャパンの宿舎食堂にて……

 

「そういや、十六夜は?」

「そう言えば……昨日の朝食以来見ていないな」

 

 十六夜の不在……昨日から帰ってきていないことが知れ渡ったようだ。

 

「アイツなら用事があるって言って昨日から居ない。一応、明日まで帰ってこないそうだ」

「えぇっ!?そうなのか!?」

「既に久遠監督と響木さんには話を通しているらしい」

「えーっと……アルゼンチン戦には帰ってくるんだな」

「多分な」

「……まぁ、アイツの独断自由行動は今に始まったことじゃないか……なぁ、鬼道?」

「あ、ああ……」

 

 ……なんというか……十六夜綾人というチームでも重要な人物が不在なのに、あっさり受け入れられたな……本当にアイツは今まで何をしてきたのやら。……いや、色々とやらかしてるって聞いたな。

 

「鬼道?考え事か?」

「ちょっとな……」

「…………」

 

 鬼道、そして不動の様子が少しおかしく感じる……十六夜ならその理由も知っているのだろうか?……というか……

 

「何も言えないけど頼むって……」

 

 帰ってきていないと言ったが、実際は、皆が居ないタイミングを見計らい一度宿舎に帰宅し、そこで監督たちに会っていたそう。そこで、何泊か分の用意を済ませて、出て行ったとか。詳しくは教えてくれなかったが、監督たちが承諾したってことは何かあるのだろう……まったく。

 

「そういうことは直接言え……って言っても無駄か……」

「十六夜くんのことかい?」

「まぁな……あのバカ、電話で用件だけ伝えて……こっちの話を聞くってことを知らないらしい」

「あはは……でも、円堂くんたちの様子を見ていると、一切心配されていないね。特に前から一緒だと誰も気にしていないというか、こういうことに皆慣れているみたいだね」

「まったく……あのバカはこのイナズマジャパンの副キャプテンだろうが……」

 

 予選の時は監督の指示で別行動だったが、まさか、独断で別行動をするとは思わなかった。……はぁ……何を考えているのやら、よく考えればエイリア学園の時も独断でかき回したとか聞いたか?……それをこんな世界大会の舞台でやるとは頭が痛くなってくる…… 

 

「彼女として心配?」

「う、うるさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日は久遠監督に話を通し、オルフェウスに混ぜてもらえることになった。そのまま彼らと一緒に泊まったが、特にミスターKからの攻撃はなかった。

 

「やっぱり7人はキツいだろうね……」

「相手の強さが分からんとどうしようもねぇな……」

 

 一応、鬼瓦刑事にもこの事を伝えたが……流石に日本の一警察であるあの人が関われる規模を超えてしまったようだ。……相手はイタリアで監督に就任している……日本なら手の出しようもあるだろうが、流石に海外の監督相手は厳しいみたいだ。

 相手が見える範囲にいるのに、手を打てない……こんなにもどかしいとは思わなかった。だけど今は、イタリア代表の座を守ること……これが、アイツの計画を妨げると信じている……が……

 

「どうしたんだ?考え事?」

「ああ、パオロ監督……だったよな?その人からは監督交代は何も聞いてなかったんだろ?」

「そうだね。急にミスターKが現れて……」

「やっぱり、何かおかしいんだよな……」

 

 少なくとも影山はこのエイリア学園の事件が解決する頃までは日本に居たはずだ。真・帝国として、おっちゃんたち……エイリア学園とも関わっていた。そんな男に、海外に手を延ばす理由はあったのだろうか?目的が日本なら、その段階でイタリアに手を出す理由はない……だが、たった何ヶ月で、イタリアのサッカー関連で影響を及ぼせるほどの存在になったのか?……正直、想像も出来ない。

 更に前……鬼道が帝国に居たときは、世宇子のこともあったし……そんな前からイタリアには居ないはず……やはりと言うべきか、影山の関係者が潜んでいるのか?でも、ただの関係者がそんな大事な仕事を任せられるのか?

 

「ピースが足りないな……」

 

 影山以外にも厄介なヤツが居る……そう思うが、証拠はないし、あの男なら1人でやりかねない……それにイタリアに留学していた頃も影山なんて出てこなかったし、そもそもフィディオたちもつい先日初めて会ったんだ……うーん?

 

「試合はもう明日なんだ。ここまで来たら、7人でやるしかないんじゃないか?」

「そうだよな……」

 

 ただ、明日の試合でもしオレたちが負けるようなことがあれば……それは、きっと影山の策通りに進んでしまう。……でも、これ以上こっちのメンバーを減らす動きが見られないのは不思議だな。初日に仕掛けたから、こっちが警戒していると思っているのか?それにしては動きがないし……怪我の度合いも言っちゃ悪いが軽い。FFでの帝国戦で鉄骨の雨を降らせた男が、数日で完治するような怪我しか与えられていないなんて……何を考えているんだ?まるで掴めない……

 

「十六夜!?何でお前、こんなところに!?」

 

 と、フィディオと歩いていると円堂、鬼道、佐久間、不動の4人と遭遇する。

 

「あれ?円堂たちじゃないか、練習は?」

「それはお前に一番言われたくないんだがな……」

 

 話を聞くに、鬼道、佐久間、不動の3人は今日の練習で本調子じゃなさそうでどこか上の空だったよう。そこで久遠監督はその3人を練習から外したのだが、気付いたら3人ともが練習場から失踪。そのことに気付いた円堂が、3人を捜索すると、イタリアエリア行きのバスに乗っているところを見かけ、合流してそのままここに至るそう。

 

「もしかして……サボりか?」

「……お前ならこの面子が揃っていて、ここに来ている理由が分かるだろう?」

「…………はぁ」

 

 オレは頭を抱えた。この面子が揃ってイタリアエリアに来た……ということは十中八九影山関連だろう。しかも、ピンポイントでここに来たと言うことは何かしらの情報を持っていると見ていい。……巻き込みたくなかったから秘密裏に動いていたのに……

 

「影山関連だろ?」

「知ってるのか!?」

「……今なら引き返せるぞ?」

「引き返すと思うか?」

「ですよねー……はぁ」

 

 苦笑いをする……いやぁ……

 

「フィディオ、今のオレたちの状況を話してくれないか?」

「え?いいのかい?」

「なんというか……こいつらはオレ以上に影山と各々因縁があるというか……元々関わっているメンバ-だからな。……後、このまま聞かずに引き下がるとも思えねぇし……」

「分かった。キミが言うなら……」

 

 ということで場所を移してフィディオが現状を説明する。そして……

 

「十六夜!何でこんな大事な事を黙っていたんだ!」

「余計な事に巻き込みたくなかったからだよ。オレたちは世界一になるんだろ?そのために、まずはリーグ戦に全力を注がないといけない。……だから、この問題はお前らには秘密にしようと……」

「へぇ、じゃあお前はいつ知ったんだ?この問題を」

「……この際言っておくと、影山が居ることは、この島に来た日に知った。信頼できる刑事に聞いてな」

「何だと!?そんな時から知ってたのか、十六夜!?」

「言ったろ?巻き込みたくなかったから秘密にしてた。刑事さんも同意見だ。お前たちを……正確にはオレも含めてだが、巻き込みたくなかったんだよ」

 

 両手を挙げて降参のポーズをする。……いやぁ……ねぇ?

 

「相変わらずお前の行動力は……はぁ」

 

 なんというか……一周まわって呆れられている。あれ?鬼道さん諦めが早すぎですよ?

 

「で?お前はどうするつもりだ?」

「どうするも何もフィディオが言ったろ?明日はミスターK……影山率いるチームKとオルフェウスがイタリア代表の座を賭けて勝負する。オレはオルフェウスの選手として試合に出る。だから、この問題はオレに任せて、お前らは明後日のアルゼンチン戦に向けて練習でも――」

「お前だけにそんなことさせない!」

「――円堂?」

「影山の問題は俺たちの問題でもある!十六夜やフィディオたちだけの問題じゃないんだ!」

「ああ。それにお前たちより俺たちの方が因縁は深い」

 

 ……ここまで来て知って、帰れの一言で帰る連中じゃないことぐらい知ってたが……

 

「それに、オルフェウスの選手が怪我させられたんだろ?何人残ってるんだよ?」

「6人だね。アヤトが入って7人だけど……」

「なら、ここに居るだろ?なぁ、キャプテン」

 

 不動が挑発するように円堂に聞く。そうなんだよな……こっちは人手が欲しい状況って言うのも事実なんだよな……

 

「俺、鬼道、佐久間、不動……そっか!俺たち4人が入れば11人になる!」

「え?いいのかい?」

「ああ!影山が相手なら俺たちも力を貸す!だよな、鬼道!」

「……そうだな」

 

 鬼道は不動の方を見ていたが……え?こいつらまた何かやったの?既にやらかしたのはオレだけど……いや、そもそも練習中に3人とも上の空ってことは、既に影山と接触した可能性があるのか……

 

「俺も乗るぜ、その戦い」

「はっ、影山と戦うメンバーとしちゃ、悪くねぇんじゃねーの?」

 

 佐久間と不動も同意する……これで4人の同意が得られた。

 

「分かった。俺からもよろしく頼むよ」

「おう!」

「……とりあえず、お前ら4人は久遠監督と響木監督のところに戻って報告しておけ。あと、各自準備しろよ?明日はチームKと試合なんだから」

「あれ?お前はどうするんだ?」

「オレは昨日の段階で報告も準備も済んでるからな……フィディオと一緒にオルフェウスの選手たちにお前らのことを伝えてくる」

「分かった。俺たちは一度日本エリアに戻る。その後は?」

「終わったらメールしてくれ。どうするか電話で相談だな」

 

 そう言って4人は日本エリアへと帰って行く。

 

「何か……いいチームだね。君たちは」

「ん?」

「キャプテンであるエンドウはキミだけでなく俺たちの心配もしてくれていた。彼と因縁があるからこそ、この戦いが危険だと分かっているのに乗ってくれたんだ」

「まぁ、オレも円堂もFFIでお前らと戦いたいんだよ。それを影山のせいで潰されたくない。それに、アイツは友達を助けるのにそんな危険だとか何だとか関係ないんだよ」

「友達……」

「アイツ基準ならお前は友達認定されてるだろうな。だって、一緒にボール蹴った仲だろ?」

「そうだね……よし、皆のところに報告しに行こう!」

「おう」

 

 この後、無事に監督たちの許可が降りた4人。彼らとは明日の朝に合流することになった。

 そして、翌日……チームKとのイタリア代表の座を賭けた試合が幕を開けるのだった。…………裏で問題が起きるとは知らずに……




 春アニメが終わり、夏アニメが始まる……今期も見たいアニメが多いですね。ちなみに秋も多そうです……あれ?アニメ尽くし?
 次回はその間の裏の話ですね。


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新必殺技特訓

「木暮!起きるでヤンス!」

「しっかりして欲しいッス!」

「うぅ……俺……」

「大丈夫でヤンス!傷は浅いでヤンス!」

「……俺が行くよ」

「立向居!?無茶なことはやめるッス!」

「そうでヤンスよ!木暮の惨状を見たでヤンス!俺たちには……」

「ダメなんだ……!ここで逃げてたら何も変わらない……!」

「立向居……」

「分かったッス……そこまで言うなら止めないッス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事は1時間前に遡る。

 十六夜綾人(バカ)が帰ってこない……あまりの自由さに呆れていた八神。

 

「暇だ……」

 

 今日の練習は早く終わった……鬼道、不動、佐久間が練習に集中できずに外され、気付けば円堂と4人して居なくなってしまう。17人中5人も居なくなってしまい、全体練習は早くに切り上げられたのだ。

 仕事らしい仕事はすべて終え、休息の時間……これまでは十六夜に付き合う時間が長く、こうして1人でという時間が少なかった。だからこそ、生まれてしまったこの時間……どこで何をしようかと考える彼女。

 

「もう1本行くぞ!虎丸!ヒロト!」

「はい!」

「うん!」

 

 そんな彼女がぼーっとしながら眺める先で豪炎寺、宇都宮、ヒロトの3人が、来たるアルゼンチン戦に向けて新必殺技の練習を重ねていった。3人での強力なシュート技……完成すれば、十六夜の必殺技オーバーサイクロンPにも勝る、イナズマジャパン最強の必殺技になるだろう。徐々に完成に近づいていて、この調子なら明日の朝には完成するだろうか?そんな分析をしつつ、他の選手にも目を向ける。

 

「飛鷹!」

「うっす!お願いします!」

「おっしゃ行くぞぉ!」

 

 反対側のゴール付近では風丸、飛鷹、土方、染岡と言った面々も練習に熱が入っている。初戦に勝利し、勢いに乗っている。レベルの高さを肌で感じ、置いていかれないように……と言ったところか。

 

「人が少ないな」

 

 監督やマネージャーたちは宿舎に戻っていた。ただ、それにしては人が少ない。もちろん、彼らも練習が終わり自由時間ではあるのだがグラウンドには7人しかいない。他のメンバーはどうしたのだろうか……そう思って探しに行くことにした。

 

「うぉおおおおお!ザ・タイフーン!」

「ん?」

 

 海岸沿いに歩いているとフェンスに囲まれたコートに辿り着く。そこでは……

 

「八神さん!」

「音無か」

 

 綱海、立向居、木暮、壁山、栗松の5人が特訓をしていた。

 

「何をしているんだ?」

「立向居くんの新しい必殺技の特訓中です!」

「特訓?新しい必殺技?」

「ええ!円堂先輩や十六夜先輩の必殺技を超えるために!自分だけの必殺技を身に付けようと特訓している最中なんです!」

「ほう……」

 

 立向居……八神はジェネシス時代、彼がキーパーとして雷門のゴールを守っていたのを知っている。何なら自分も彼の守っていたゴールを奪おうとシュートを撃っていた人の1人である。

 

(なるほどな……確かにイナズマジャパンで考えれば……)

 

 現状、最初の紅白戦とネオジャパン戦しかキーパーとして戦わず、公式戦では怪我人などの交代としてフィールドプレイヤーとして出たっきり。それどころか、円堂が監督から失格と言われた試合すら十六夜が試合に出ていた……彼は一切キーパーとして試合に出ていない。

 

(もっとも、韓国戦は十六夜の問題もあったからキーパーはヤツがやったんだろうが……)

 

 立向居と十六夜……円堂がキーパーで出られなくなったときに、イナズマジャパンのゴールを託されるのはこの2人のどちらか。現状ではサブキーパーの立向居より、十六夜の方がキーパーとして上という意見もあるだろう。

 

「十六夜相手ならキーパーとしては互角以上だと思っているんだが……」

「ま、まぁ、十六夜先輩と比べちゃうと……総合的に負い目が感じるみたいで……」

「あぁ……」

 

 十六夜のキーパーとしての強さは強力な必殺技ではなく、分析力による未来を構築する力……それを最大限発揮し、シュートを撃たせないことにある。シュートのセーブ率で比べれば、立向居にも勝ち目はあるだろうが、総合的な能力値や攻撃参加など色々な視点で考えた時に、キーパーとして今の立向居が十六夜に勝てているとは言い難いのだ。

 もっとも、十六夜はキーパーで縛られるより、フィールドプレイヤーとして出てもらった方が活躍してくれるだろうから、久遠監督もよほどのことが無い限り、十六夜をキーパーとして出場させる気は無いだろうが。

 

「十六夜にはゴールを守る力がある……円堂とは別に。だが、自分には自信を持って守れる力があると言えない……か」

「そういうことみたいです」

「次!お願いします!」

「ちょ、ちょっと休憩にしないでヤンスか?」

「そ、そうッス……ずっと撃ってるッス……」

「まぁ、確かに。ずっと必殺技撃ち続けて疲れたな」

「はぁ……はぁ……もう無理……」

 

 と、八神が音無と話している間に立向居以外の4人が座り込んでしまう。流石にぶっ続けでシュートを撃つのに疲れが出てきたようだ。

 

「もう!ほら立向居くんが待ってるよ!」

「そ、そうは言っても……」

「いや、そこに居るじゃん」

 

 すると、木暮が八神を指をさす。

 

「何だ?」

「アンタ、元ジェネシスの選手でしょ?」

「そ、そうだったでヤンス!」

「そうだが……何だ?お前らに代わって撃てばいいのか?」

「あ……え、えっと、お願いします!」

 

 軽く八神は足を伸ばし……そして、

 

「はぁ!」

 

 シュートを撃つ。

 

「……っ!」

「はぁ……すげぇなおい。てっきり、マネージャー仕事で鈍っていると思ってたんだが……」

「そうッス……何だか懐かしい怖さを感じるッス……」

「次!お願いします!」

「いいだろう。はぁ!」

 

 立て続けにシュートを撃つ。十六夜の特訓に付き合う中で、自身の研鑽も積んできている。今の彼女が、ジェネシス時代とは比べ物にならない程強くなっていることを知っているのは、十六夜とヒロトのみである。

 

「……凄い……手がヒリヒリする……次!お願いします!」

「はぁ!」

 

 当然、他のメンバーは彼女を目金と同じような立場、マネージャーだと思っていたため、強くなっているとは夢にも思わなかった。

 思いもよらぬ助っ人の登場により、立向居の特訓は更に激しいものになる。

 

「やっぱり、十六夜さんって凄いッスよね……」

「どうしたでヤンスか?壁山」

「俺たちと同じDFって言ってるのに、凄いシュートまで撃てて……」

「確かにね。それに凄いブロック技まであるし」

「ドリブルも凄いでヤンス!必殺技なしで相手の必殺タクティクスを突破するのは十六夜さんしか出来ない芸当でヤンス!」

「最近思うッス……十六夜さんは何処か我慢してプレーしている感じがするって……」

「確かに……1人でプレーすることが多く感じるでヤンス」

「そうなの?最初からあんな感じじゃなかった?」

「さぁ?ノリが合う時は一緒に戦うって感じだろ」

「昔はキャプテンと一緒に俺たちを後ろから支えてくれるというか……」

「凄い安心感があったでヤンス!」

「そうなのか?アイツってガンガン前出て引っ張ってる感じだろ?」

「まぁ、前出過ぎて見えないときもあるけどね」

「……最近はプレー中に怖く感じる時があるッス……でも、この前の試合も思ったんッスけど、十六夜さんにはもっと自由にプレーして欲しいッス」

「……確かに怖いでヤンス……それに、俺たちが足を引っ張っているってのは事実でヤンス……」

「なぁに言ってんだ。確かに、今の俺たちはアイツにとって不甲斐ないかもしれねぇ。でもな、そこで止まったらいよいよ終わりだ。見せ付けてやろうぜ!俺たちだけで十分だって!俺たちはアイツが安心できるディフェンダーだってな!」

「十六夜さんが……」

「安心できる……」

「そうそう。十六夜さんみたいに難しいことも凄いことも出来ないけどさ。少しでもあの人の負担を減らせれば、あの人が自由に出来るんでしょ?」

「そうッスね……うぉおおおおお!俺、もっと頑張るッス!頑張って、十六夜さんの負担を減らすッス!」

「その息でヤンス!壁山!」

「まぁ、あの人って練習お化けだよね。朝から晩まで練習漬けじゃん?」

「そう言えば……早朝から走っているのを見たことあるでヤンス」

「それに、練習終わってからも筋トレをしてたッス」

 

 と、八神が何本か撃っている中、十六夜の話で盛り上がる4人。そんな中で、木暮が気付いた。

 

「そう言えば、アンタって十六夜さんとずっと一緒のイメージがあるから、1人って珍しいね」

「確かになっ!」

「普段一緒なのに今は1人……もしかして、十六夜さんに逃げられた?」

「……あぁ?」

 

 その瞬間、八神にスイッチが入ってしまった……が、木暮は気付かなかった。

 

「まぁ、アンタって怖そうだもん。何というかピリピリしているって言うか……もしかして、十六夜さんってアンタから逃げるためにへぶっ!?」

 

 ピキッ……そんな音が聞こえてきそうな八神が放つ渾身のシュートが木暮に刺さった。

 

 

 

 

 

 そして、冒頭の場面に戻る。

 

「これだ立向居!」

「え?」

「今のコイツを真似するんだ!この……ゴォオオオオって感じで怒りのオーラが溢れて止まらない……見ているだけで恐怖を感じるこの状態を真似するゴホッ!?」

「つ、綱海さん!?」

 

 更に余分なことを言った綱海にもシュートが刺さる。壁山と栗松はあまりの光景に震え上がり、抱き合うようにして端まで移動した。

 

「で、でもこの感じ……これが魔王……?もしかして、俺も……?よ、よし来い!」

 

 ドンっ……そう音が聞こえてきそうな重いシュートが刺さる。

 

「くっ……も、もう一度!」

 

 ドンっ!ドンっ!ドンっ!……次々打ち込まれるシュートの嵐。1つ1つのシュートに怒りが込められている……

 

「この怒りを……俺も……うぉおおおおおおお!」

 

 一瞬、立向居の背から紫の何かが現れたが、八神の渾身のシュートが腹に刺さり、それは霧散した。

 

「立向居くん!?」

 

 そして、そのまま前のめりに地面に倒れ伏したのだった。

 

 

 

 

 

「えっと……何かやらかした?」

「特には」

 

 練習終わり……一部メンバーから怖がられるようになった八神さんが居たとかいないとか。




 十六夜くんたちが割と大変なときに、こっちも結構大変な事になってますね……そして、久し振りに十六夜くんが出ないお話でした。
 次回、チームK戦スタート。


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VSチームK ~X~

「じゃあ、皆!ちょっと行ってくる!」

「うん、気をつけてね」

「いってらっしゃい」

 

 アルゼンチン戦前日の朝、円堂、鬼道、佐久間、不動の4人が宿舎からイタリアエリアに向けて出発する。

 昨日は練習の途中から行方不明になっていた4人が夕食前に帰宅。夕食の場で、円堂たち4人と十六夜の計5人が、今日イタリア代表の座を賭けて影山が監督のチームKと試合をすることが伝えられた。本当は響木さんもついて行きたかったそうだが、今日は本部から呼び出しを受けたとかで、彼らだけで行くことになった。

 ちなみに十六夜は宣言通り昨日は帰らず、おそらくチームKとの決着がついてから来るのだろう。

 

「……まったく……十六夜のバカ、勝手に動いて……」

「まさか、イタリア代表のメンバーを守るために動いていたとはね……」

 

 朝食の片付けも終わり午前の練習がスタートする。久遠監督は皆に指示だけ伝えて、本部に向けて出発した。

 

「でも、影山は危険な男ってお父様も言っていたからね。十六夜くんの判断は正しかったと思うよ」

「他人を巻き込まないように黙って……か。やれやれとしか言いようがないな……」

 

 多分、エイリア学園の時もそうだろう。十六夜が単身で乗り込んできた裏には、多くの人を巻き込まないように……まったく、お人好しというかバカというか……

 

「た、大変です!」

 

 すると、目金が大声をあげながらグラウンドに入ってきた。

 

「騒々しい。一体どうしたんだ?」

「じ、実は今、本部から連絡があって――」

 

 目金からの報告は衝撃的なものだった。

 

「…………ねぇ、八神。これって……」

「……まさかこんなことが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円堂たちとオルフェウスの選手のメンバーの挨拶も終え、怪我したメンバーを含めた全員でミスターKの下へと行く。

 

「ククク……久しぶりだな鬼道!」

「影山!」

 

 ミスターKは正体を隠すつもりがないらしい。……隠れてこそこそってわけじゃないのか。

 

「私の最高作品……お前は必ず来ると思っていた」

 

 ……ん?必ず来る……知っていたというのか?

 

「黙れ!貴様には聞きたいことが山ほどある!」

「常に冷静であれと教えたはずだぞ」

 

 後ろに並んでいるのはチームK。彼らが今日の対戦相手……だが……

 

「……引っかかる言い方だな……」

 

 この代表交代を賭けた1戦……狙いはイタリア代表の座だと思っていた。だが、それだけでは腑に落ちない点は確かに存在していた……が、来ると思っていた……か。

 

「……っ!?な、なんだ!?」

「鬼道に……そっくり!?」

 

 そんな影山の後ろから出て来た男は、髪型、ゴーグル、マント……なんというか鬼道にそっくりな男だった。

 

「紹介しよう。これが私の新たな作品、デモーニオ・ストラーダだ」

 

 ……鬼道とそっくりだけど、名前は全然違った。生き別れの双子説がワンチャンあるかと思ったが、鬼道の出生を考えればその可能性は限りなく低かったわ。

 

「鬼道より鋭く、速くそして強く!私の作品はここまで進化したのだ!」

「……そこまでするかね」

「未練が残ってんのか?」

 

 鬼道を基準としているあたり、この男は何としても鬼道を自分の手に置いておきたいのか?

 

「私はこのチームKで世界の頂点を極め、全てのサッカーを否定し破壊する。お前たちの未来は彼らによって破壊されるのだ」

 

 ……サッカーを否定し破壊するって……前から思うがコイツ、サッカーにどんな感情を抱いているんだよ……色々と重すぎだろ。

 

「ミスターK!約束です、この試合で勝った方がイタリア代表になると!」

「安心しろ、約束は守る。サッカーは勝つことが全て……負ければ存在する意味がないからな」

 

 負ければ存在価値なし……か。その点は共感できるな。ただ、だからと言って勝つために何でもするってのはあんまり分かりたくないな。

 

「お前……!まだそんなことを!」

「鬼道有人!この試合でお前には消えてもらう。俺たちこそが総帥の理想!究極のチーム!そして、俺が究極だ!」

「…………」

 

 究極ってなんだっけ?

 

「さぁ、勝負を始めよう」

 

 ということでチームKとオルフェウス・イナズマジャパンの混合チームはそれぞれアップを始める。……あ、いきなり試合開始じゃないのね。しっかり時間を取ってくれるのね。

 

「アヤト、昨日言っていたフォーメーションで問題ないかな?」

「……ああ。それで大丈夫だ」

「……考え事かい?」

「まぁな……ちょっと気になる言葉があってな。試合では切り換える」

「そう……マモル!」

「……ん?」

「あ、君のことエンドウじゃなくてマモルって呼んでもいいか?」

「もちろん!フィディオ!」

「ありがとう!それじゃあ、今日の試合のことなんだけど……」

 

 と円堂と打ち合わせをしているのを尻目に見つつ、ミスターKの方を見る。

 鬼道は必ず来る……そう言っていた。でも、鬼道とオレたちが会ったのは偶然なはず……いや、その前にワザと鬼道の前に姿を現したとか?アイツが現れれば、鬼道は嫌でもそっちに行ってしまうから……それを見越してワザと?イタリアエリアまで来てくれれば、後はどうにかしてオルフェウスと出会わせて……そう考えると引き返させるべきだったか?……いや、影山のことだ。自分を餌に鬼道を釣った……クソ、面倒なことをやってくれる。

 

 パンッ!

 

「……ん?」

「な、何をする!?」

 

 見ると、同じく何かを考えていた鬼道に不動がビンタしていた。……はい?

 

「どうだ、少しは頭が冷えたか?あ?」

 

 ビンタした不動は謝ることなく続ける。

 

「いつもチームでどうの言っているわりには、周りのことが目に入っていないんじゃねぇの?影山を倒すのはお前じゃない。()()()じゃなきゃいけねぇ……そうだろ?」

「…………」

「……鬼道、()()()をやってみないか?」

 

 あ、不動が珍しく鬼道のことをクン付けじゃなく呼び捨てにした……じゃなくて、あの技?

 

「あの技?まさか、お前!皇帝ペンギン1号を使うつもりか!?」

「冗談キツイぜ。あんなおっかねー技、使い手はそこのバカだけで十分だろ」

 

 え?あの技っておっかないの?……こわぁ……使うのやめよかな?(今更である)

 

「今の俺たちでやろうぜ、皇帝ペンギン1号の威力と皇帝ペンギン2号のバランスをもった技をな」

「なっ!そんな技があるのか!?」

「え?佐久間も初耳なのか?」

「……っ!まさか、あの幻の究極奥義を……!」

 

 佐久間が驚く中、鬼道には思い当たる節があったよう。え?何、幻って……

 

「出来るのか?不可能だと言われ続けた皇帝ペンギン3号が……!」

 

 あれ?幻だからてっきり0号だと思ったけど、3号なのね。0の方が幻だと思うけど……その内4号出たらどうするんだろうか。

 

「この島で影山を見つけたときは驚いたぜ。でも、同時に思った。……アイツを見返してやりたい、俺に二流って言いやがったアイツを見返してやりたいってね。そのためには習得不可能だと言われていた皇帝ペンギン3号を完成させるのがいいと思ってな。だが、そんなことを考えていると知られ、特訓も邪魔をされたらかなわない。それどころか、ヒントを掴まれて先に完成されたら癪だからな。そこで、影山を油断させるため、寝返ったフリをしたわけ」

「え?アッキー、寝返ってたの?」

「コソコソ調査していたお前には言われたくねぇーよ。あと、アッキー言うな」

 

 なるほど……昨日、鬼道が不動を怪しんでいたのはそれか……

 

「だがなぜ本当のことを黙っていた?俺たちに話してくれていても……」

「まったくーそうしていれば少なくとも仲間内ですれ違いはなかっただろうに……やれやれだ。何でお前らは面倒ごとを拾ってくるのが上手なんだよ」

「「お前が言うな」」

「え?」

「……それに、本当のことを言ったところで、お前らは信じていたのかよ」

 

 ……まぁ、円堂はともかく、鬼道と佐久間には疑われていただろうな……そんなの出任せだって。

 

「まぁいいさ。どうせ俺はチームでの嫌われ者だからな」

「ふ、不動……」

「なんてな。しかし見ものだったぜ鬼道クン。お前の焦った顔はよ」

「これからは不動にもっと優しくしないとな……」

「気持ちわりぃこと言うんじゃねぇ」

「不動……疑って、すまなかった」

「鬼道……」

 

 鬼道が不動に素直に謝った。自分の非を認めるって大事だね。

 

「……こっちも気持ちわりーな。お前はいつも通り、偉そうにしてりゃいいんだよ」

「……ツンデレか?」

「うっせぇぞアホペンギン!」

 

 いやー……ねぇ?なんというか……不動っていいやつだなーって改めて思ったわけですよ。決してからかいたい気持ちがあったからではない。

 

「ああもう、鬼道!お前の能力が俺の期待通りなら皇帝ペンギン3号は必ず完成する!」

「面白い、やってみる価値はあるな。遅れは取るなよ、不動」

「俺にも協力させてくれ!俺たち3人なら完成させられるはずだ!」

「フッ……」

「さぁ、行くよ皆!必ず勝つんだ!」

「「「おう!」」」

 

 何処か吹っ切れた様子の鬼道……それだけじゃないか。不動も佐久間も……イナズマジャパンのメンバー全員が同じところを見ている。

 

「ブラージ、これ置いといて」

 

 そう言っておもりを投げ渡す。

 

「おう!って重いな!?……さっきまでコレつけてウォーミングアップしてたのかよ」

「まぁな。試合じゃ流石につけねぇよ」

 

 グローブをつけながら考える。この試合、オレはオレに出来ることをする……イタリア代表の座はフィディオたちのものだ。

 

「それではイタリア代表決定戦を始める!」

 

 それぞれポジションにつく。今回はこんな感じだ。

 

 FW フィディオ 佐久間

 

 MF ダンテ 鬼道 不動 アンジェロ

 

 DF マルコ 十六夜 ガッツ ベント

 

 GK 円堂

 

 フィディオたちと相談した結果、こんな感じだが……どうなることやら。

 そして、チームKボールで試合が始まった。ボールはデモーニオが持った。

 

「真イリュージョンボール!」

「なっ……!」

「鬼道が抜かれた!?」

「あの技は……!」

「鬼道の……っ!来るぞ、マルコ!」

「……っ!ああ!」

 

 ワンテンポ遅れてマルコがブロックに行く……くっそ、彼らのことは知っているがそれでも合わせるのは初めて……イナズマジャパンとオルフェウスの選手で上手く連携が取れていない。

 

「円堂!来るぞ!」

「ああ!」

 

 マルコが抜かれたのでカバーに入る……が、10番とのワンツーで抜かれてしまう……クッ、合わせるのが初めてのメンバーだから動きが噛み合わねぇ……!

 

「これが究極のシュートだ!」

 

 ピーー!

 

 デモーニオは5匹のペンギンを呼び出した。ペンギンは宙を舞い、ボールの周りを飛ぶ。ボールには赤黒い力が込められていき、デモーニオの右足へと食いついた。そして、そのまま……

 

「皇帝ペンギンX!」

 

 シュートを放つ。皇帝ペンギン1号を超えた威力のシュートは真っ直ぐ円堂の守るゴールへと迫っていく。

 

「いかりの……っ!速い!」

 

 いかりのてっついを繰り出そうとした円堂の背中にシュートが直撃。そのままゴールに刺さった。

 

「何だ……今の……!」

「皇帝ペンギン1号……?いや、それ以上の技……」

「そんな技なのに……アイツは」

「見たか!これが究極のペンギン、皇帝ペンギンXだ!」

 

 デモーニオの叫び……アレが……

 

「皇帝ペンギン1号を超えた必殺技……か」

「おい、アホペンギン」

「何だい?アッキー」

「――――――」

 

 不動からあることを言われる。

 

「……行けるか?」

「……面白そうだな。乗ってやるよ、その策に」

 

 試合開始直後、デモーニオの力を見せつけるような一撃。0-1で試合は始まるのだった。




不動と十六夜……何をするつもりなんですかね?

チームK戦の原作との変更点(ざっくり)
強化ポイント
・十六夜加入。
・十六夜により、オルフェウス・イナズマジャパン双方が原作より強化。
弱体化ポイント
・イナズマジャパンの4人の合流が遅れたため、オルフェウスとイナズマジャパンの連携が取りにくくなる。
???ポイント
・影山の想定の中に十六夜も入っていること。

さて、どうなるんでしょうかね?


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VSチームK ~因縁~

 スパイ教室の最新刊面白かった……!明日はライアー・ライアーの最新刊……!これは読まざるを得ない……!諸々やらないといけないことあるけど……!


「鬼道よ、これで分かっただろう?私という過去から逃れることは出来ないのだ」

「そんな言葉には惑わされません!過去を背負っても前へ進むことはできる!」

「今のお前を作ったのは私だ。帰ってこい、私の元にしかお前の未来はない」

「ならばこれからの道は俺が作る!俺は円堂と……イナズマジャパンと共に進む!」

「言うねぇ……見せてやろうじゃねぇか」

「ああ!お前の……俺たちの答えをこの試合で!」

 

 帝国組が影山に対し、強い意志を固めている……なるほど、久遠監督が許可したのは、影山の問題が解決しないと本調子にならない。対峙する過程で何かが起きることを期待して……か。

 

「円堂」

「十六夜?何だ?」

「次のデモーニオのシュート、任せていいか?」

「おう!任せておけ!」

「ありがと」

 

 とは言え、何度も撃たせても消耗するだけ……チャンスは一度か。

 オルフェウスボールで試合再開。

 

「鬼道、指示を頼む!」

「分かってる!アンジェロ、ダンテ!両サイドから上がれ!ディフェンス!ラインを上げろ!」

「「「おう!」」」

 

 こっちのチームの弱点は、オルフェウスとイナズマジャパンの2チームの混合チームであることによる連携不足なこと。……だが、鬼道なら上手く指揮をして連携を取れるはず……あの男は、FFで雷門に参加したとき、その才でオレたちを指揮してみせたんだから。

 

「まだまだ連携不足か?」

「くっ……!」

 

 しかし、パスを途中でカットされる。流石にあの時と違い、まだオルフェウスの選手たちの情報をインプットしきれていないのだろう。それに相手も強い……そう簡単にはいかないか。

 

「君は通さないよ」

「ディフェンス。下がって立て直しを」

「お前たちが相手か……面白い!」

 

 デモーニオをマークしているのはオレ。そして、オレの数歩後ろにフィディオがいる。

 

「さっきの失点の際に気付いたけど……お前の動きは鬼道によく似ている」

「……っ!確かに……!」

「はっ。ソイツは見た目だけじゃなく、プレースタイルも鬼道クンの真似をしているってわけかよ」

「だが、似ているだけ……お前は鬼道の真似をしているに過ぎない紛い物。1対1じゃ負ける気しねぇな」

「黙れ!」

 

 強引に突っ込んでくるデモーニオ……オレとデモーニオが交差する。

 

「口ほどにもない!簡単に突破……っ!」

「よし!アヤト!」

「ナイスパスだ、フィディオ」

 

 オレはデモーニオからボールを奪わず、そのまま前線へと走った。煽られたデモーニオはオレを突破したことで油断する……そこをフィディオが奪い去る。やっぱり、こんな単純な挑発に乗ってくれるとは……鬼道より相手しやすいな。

 

「十六夜!」

「あいよ!」

 

 目の前に来たディフェンスを突破し、鬼道へとボールを渡す。そして……

 

「「「うぉぉおおおおお!」」」

 

 鬼道がボールを蹴り、その後不動と佐久間が同時に蹴る。……皇帝ペンギン2号……じゃなくて、3号に挑戦したということか。だが……

 

「フルパワーシールドV3!」

 

 必殺技の前にあっけなく弾かれてしまった。

 

「クソッ、失敗か……」

「ああ……どうすれば……」

「何かが足りない……次、行くぞ!」

 

 流石に幻の究極奥義と言っていた以上、やると宣言してからすぐには完成しないらしい。それもそうか……簡単にできてたら不可能だの幻だの言われていないか。

 

「アヤト、今のって……」

「アイツらが影山に見せつけるために挑戦したんだろうな」

「どうする?アレが完成しなかったら……」

「まぁ、この試合中に完成させるだろ。アイツらならなんとかする」

「信じているんだね」

「信じているっていうか……直感?……だが、それはそれとして試合は別。勝ちに行くならまずは確実に1点取りたい。行けるか?フィディオ」

「ああ、俺たちでやろう!」

 

 DFがGKにバックパスをして、それをダイレクトで蹴ってボールを前線へと送る……

 

「またお前か!」

「またオレだよ」

 

 ボールを持ったデモーニオの前に再び立ちはだかる。さっきと同じでフィディオがオレの後ろでスタンバイをしている。

 

「二度も同じ手は通用しないぞ……!」

「だろうな。じゃあ、どうするんだ?」

 

 デモーニオがフェイントを仕掛ける……が、突破させない。デモーニオは究極と自称していたが、フィディオたちに比べるとレベルが高いことはない。これなら……

 

「真イリュージョンボール!」

「あーごめんな」

 

 デモーニオが必殺技で突破しようと試みる。だが……

 

「その技、既に何回も見ているから」

「……っ!」

 

 ボールを奪い去って、隣に走ってきたフィディオに渡す。イリュージョンボールは鬼道のおかげで既に分析済み……この必殺技を使うと分かっている以上、オレには通用しない。

 

「行くよアヤト!まずは1点返す!」

「もう走ってる」

 

 フィディオが迫り来るディフェンスを軽やかに突破していく。ここはあそこに走って……

 

「アヤト!」

「ドンピシャ。流石のテクニックだな」

 

 フィディオと目が合った瞬間、パスが来る。トラップするとドリブルをしてディフェンスを突破していく。

 

「アヤトもかなり上手くなったね」

「それほどでも!」

 

 フィディオと目が合い、彼の数歩先にパスを出す。そして、フィディオが出したい場所を状況を見て、即判断し走り込む。

 

「速い……!」

「クソ!奪えない!」

「なんなんだこいつら……!」

 

 フィディオも、オレが持つと同時にオレが出したい場所へと走ってくれる。そのお陰で自分のタイミングで出せる。互いのやりたいプレーを共有し、それに答えている……すげぇ、やりやすいな。やりやすいし何より……

 

「すげぇ、楽しいわ」

 

(十六夜のプレーにフィディオが完璧に応えている……いや、それだけじゃない。フィディオのプレーにも十六夜が応えている……アイコンタクトによる一瞬でのイメージ共有。そして、それを実行するだけの高い能力。たった2人でチームKを圧倒する……これが今のイナズマジャパンじゃ出来ない、十六夜との連携か……!)

 

「1点目はお前が決めてくれよ。イタリア代表はお前らなんだからさ」

「行くよ!オーディンソード!」

 

 必殺技オーディンソードが炸裂する。……やっぱ、間近で見るとすげぇシュートだな。

 

「フルパワーシールドV3!」

 

 相手キーパーは止めようとする……が、

 

「うわぁああああああ!」

 

 キーパーごとボールはゴールへと突き刺さった。

 

「すっげぇシュートだな!フィディオ!」

「ああ、これが俺の必殺技さ」

「くぅうう!俺たちも負けていられない!な、鬼道!」

「ああ、これで同点……振り出しだ!気を引き締めて行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 1-1の同点……前半はまだ時間がある。余裕のあるうちに点を取っておきたいな……

 

「鬼道。オレたちで後、2点くらい取ってくる。そこから、お前らの試行錯誤の時間でいいか?」

「2点くらい取ってくるって簡単に言うな……分かった。確かにこの試合は勝たなければならない。俺たちばかり試している訳にはいかないか」

「そういうこと。お前らなら完成させるだろうが、オルフェウス側の印象もある。練習試合ならともかく、彼らにとって確実に落とせない1戦。だから、引き分けの状態でやるより、勝っている状態でやった方が色々といいだろ?」

「そうだな……任せたぞ」

「おう。そっちは完成させることに集中してくれ」

 

 その後、フィディオの下へ行く。

 

「アヤト、次はもう少しギア上げていい?」

「ああ、もっと早くしてもなんとかする」

「そう?じゃあ、しっかり付いてきてよ」

「おう」

 

 フィディオとのプレーはやりやすいが、それはフィディオが合わせてくれているのが大きい。本来の彼のプレースピードに着いて行くには、他のこと見ている余裕ねぇな。今のオレが合わせるには、フィディオとのプレーだけに全能力、全思考を割かねぇと……

 チームKのキックオフで試合再開。ボールはデモーニオが持っていた。

 

「ビオレテ!ビアンコ!」

 

 11番と9番もあがってくる……ッチ、デモーニオが1人で突破しようとしてやられていることと、こっちの連携が足りてないってことを突こうとしているってとこか……

 

「焦ってくれればいいんだけど……思いの外冷静だな」

 

 パス回しをしているチームK。……個々の力ならチームKの選手に勝っているヤツが多いだろう。だが、連携という点に着目すると、向こうが1枚上手だ。

 

「ガッツ!ベント!そっちから来るぞ!」

「遅い!」

 

 そんな中、デモーニオが抜け出す……ッチ、こっちとは逆サイドか……!

 

「十六夜!」

 

 フォローに走ろうとしたタイミングで不動から声がかかる。……なるほど、確かにこのタイミングがベストかもな……

 

「悪い円堂!任せるぞ!」

「分かった!」

「喰らえ!皇帝ペンギンX!」

 

 デモーニオの必殺技が放たれる。1回目より、デモーニオの一挙手一投足を注視する。

 

「いかりのてっつい!」

 

 円堂が必殺技を放つ。今度は、技の途中で衝突……ということはなく、しっかりと拳で地面に叩きつけることに成功した。……だが、その威力は止められず、円堂の拳を弾き、彼を正面から吹き飛ばそうとする。

 

「真熱血パンチ!」

 

 ボールの威力に負けないよう、ギリギリで耐える円堂。そんな中、彼は熱血パンチを地面に向かって放つ。放つと同時に地面から爆風が巻き起こった。

 

 ガンッ!

 

 続いて響いたのは鈍い音……見ると、自ら起こした衝撃で吹き飛ばされ、ゴールポストに背をぶつけた円堂の姿が。

 

「大丈夫か!?」

「へへっ……」

 

 笑顔でボールを見せてくる……ボールはゴールに入ることなく、円堂が手中に収めていた。

 

「……たく、無茶苦茶かよ……」

「よぉし、反撃だぁ!頼んだぜ、十六夜!」

「あいあい、任せろよキャプテン」

 

 円堂からのボールをダイレクトでフィディオへとパスを出す。

 

「お前は自由にさせない!」

「やってみろよ」

 

 フィディオがドリブルで突破していく中、オレをマークしようとデモーニオが立ちはだかる……が、

 

「アヤト!」

 

 左右に揺さぶりを掛けつつ、加速してボールへと向かっていく。

 

「行かせるか!」

「取らせてもらうわ」

「なっ……!?」

 

 デモーニオを身体で押さえ、ボールをトラップする。

 

「はい、そこ!」

 

 そして、そのままボールを蹴り出す。場所は相手選手が密集している場所……

 

「よく見てたね……アヤト!」

「まぁな、フィディオ!」

 

 ダイレクトで返してくるのでダッシュで取りに行き、ダイレクトで返す。

 

(2人のワンツーで相手を翻弄し、こじ開けていく……割って入ろうに2人の動きが速過ぎる。ボールの出す場所や動き出しに迷いが一切無い。明らかにこの2人だけ別格……十六夜が日本に帰らず、イタリアで代表になっていたら一体どうなっていたんだか……)

 

「じゃ、次の得点はアヤトが決めてよ!」

「オッケー……行くぞ、皇帝ペンギン……!」

「撃たせねぇ!」

 

 やって来たボールに対し、右足にペンギンを喰いつかせ、ダイレクトで必殺技を放とうとするも、相手ディフェンダーのタックルが襲ってくる。

 

「吹っ飛べ!」

 

 右側からのタックルに備えるべく引いていた足を地面に付ける。なるほど……

 

「だから、何?」

「なっ…!?動かねぇ!?」

 

 相手ディフェンダーを受け止めつつ、ペンギンを喰いつかせ直した左足を引いて必殺技を放つ。

 

「皇帝ペンギン1号!」

 

 ダイレクトで放たれたシュートは真っ直ぐゴールへと向かう。

 

「アレは……!?」

「フルパワーシールドV3!」

 

 ベンチでは影山が反応したが、そんなこと構うわけもなく、シュートは相手の生み出した衝撃波の壁を喰い破り、ゴールへと刺さった。

 

「悪いけど、オレ両利きだから」

「ナイスシュート!」

「ナイスパス、フィディオ」

「ブロックされながらもよく撃てたね」

「分かってたしな。というか、あの程度の邪魔(ブロック)で止められてたまるかっての」

「フフフ……」

 

 フィディオとハイタッチを交わすと何故か、デモーニオが笑っていた。

 

「どうした?点を取られておかしくなったか?」

「ハハハッ!その技は知っているぞ!総帥が危険だと判断した禁断の必殺技!」

「なっ……そうなのか!?アヤト!」

「ああ、そうだ!1度放てば激痛が襲いかかり、2度放てば試合続行に関わり、3度放てば選手生命が危ぶまれる欠陥必殺技!威力のみを重視し、調子に乗ったな!これでお前のプレーの質は一気に落ち……」

「えっと……何言ってるんだ?お前?」

「本当は激痛が襲ってきているんだろ!平静を装っても無駄だぞ!」

「いや、信じなくてもいいんだけどさ……オレ、この技ノーリスク・ノーダメージで使えるんだわ」

「………………は?」

 

 驚いた顔でデモーニオはベンチを見る。ついでに、オレもそっちを見る。で、2人の視線の先でベンチに座っている影山は……

 

「…………?」

 

 固まっていた。どういうことだ?と驚愕しているのを必死に誤魔化しているようだった。

 ちなみに、フィディオには鬼道が説明していたが、とりあえず危険が無いということで安堵した様子だった。

 

「鬼道、そろそろ準備しろよ?オレたちがお前らの舞台(ステージ)を用意してやるよ」

「ああ、分かった。頼りにしているぞ、十六夜」

 

 情報のインプットは大体終わった。ここからはアウトプットの時間だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ、ピー!

 

 前半終了のホイッスルが鳴り響く。あの後は、フィディオとの連携で攻め上がり、彼のオーディンソードが3点目を奪った。そして、その後は、鬼道、不動、佐久間の3人が何度も試行錯誤するがうまくいかず、時間が来たために3-1で前半を終えた。

 

「とりあえず、前半は勝ち越しで終わったね」

「だなーまぁ、今のところは余裕……ってところか?」

「そうだね。俺たち以外の連携もかなり取れるようになってきたし、後半はもっといけるんじゃない?」

「確かに。攻守ともにオルフェウスとイナズマジャパンの動きが噛み合ってきている。油断しなければ行けるだろ」

 

 結果から見ても圧倒しているが、内容的にも連携が試合最初に比べ、かなり取れるようになった。何事もなく後半も行けば圧勝出来るだろう。後は……

 

「鬼道、そっちはどうだ?」

「後、何かが足りないって感じだな……」

「幻の究極奥義なんだろ?どんな感じになるか想像もつかないけどな」

「おいアホペンギン」

「何だいアッキー?」

「何かねぇか?何が足りねぇと思う?」

「えぇー……うーん……?」

 

 不動にいきなり言われたので少し考えてみる。……と言ってもなぁ……

 

「…………人数……とか?」

「人数?4人に増やせって事か?」

「違う違う。1号って1人で撃つじゃん?で、2号って最後2人で同時に蹴るじゃん?じゃあ、3号って3人同時に撃つんじゃないかって……」

「3人同時か……確かに試してなかったな」

「ああ。でも、同時に打つには少し考えないとな……」

「帝国じゃない人間だからこその純粋な視点か……」

 

 あはは……純粋って褒めてるのか?それとも単純って意味なのか?……まぁ、いいってことにするか。……ん?

 

「もしかして0号って0人が撃つ……なわけないか」

 

 0人が撃つってどういう事だよ。……ということはオレの推測間違ってる?

 

「で?お前の方はどうだよ」

「ん?どうって?」

「言ってたヤツ」

「後半開始したらやってみる」

「そうか」

 

 と、鬼道たちが話し合い始めたのでフィディオたちの下へ行くことに。

 

「やっぱり、凄いよアヤト!」

「ああ!お前がウチに来てくれていれば、とんでもない事が出来たかもな!」

「うんうん!僕たちオルフェウスが更に盤石になっていたよ!」

「全くだぜ!くぅ、一緒に戦いたかったぜ!」

「そうか?フィディオの方がまだまだ凄いけど……」

「いいや、アヤトもかなりレベルアップしている。俺とのプレーの中で、主張することと合わせることを上手く両立させられている」

「それは、お前のレベルが高いお陰で自由にやれているだけだっての」

「それでも、俺のプレーの意図を理解し、素早く呼応してくれているのは事実だ。前よりも連携が取りやすくなっているよ」

「そうか?と言ってもギリギリも良いところだが……」

「それでも、着いてきてくれてることは事実だよ。それに、アヤトのプレーは前言ってた理想が実現できていると思う」

「前って言うと……アレだね!未来を作るって言ってたヤツ!」

「そう言えば……2点目取ってから、チームKはほとんどボールを持てていないな。それにこっちのシュート数もすげぇ数だし……」

「まだ足りねぇよ。オレの作った未来とラグがある……特にフィディオのプレーだけは追いつけていない時がある」

 

 エドガーの時もそうだ。アイツのプレーの先を読んだときには置き去りにされていた。全体を見ることは無意識に出来るようになっている。ただ、そこから分析し、構築して行動するまでがまだ遅い。世界レベルに通用するスピードはあるが、世界トップレベルには通用していない。

 エドガーとの対決で入れたフロー……アレは恐らく、見る→分析→構築→行動までの流れを一瞬で、反射的に行えていた。それぐらいのスピードがなければこいつらには通用しない。

 

「いや、十分すげぇっての。ベンチから見ても、お前のブロック率が異常だって」

「そうそう。アヤトが一切抜かれていないし、抜かれてもワザと抜かせているだけだし……それにパスカットも何度もやってたしね!」

「でも、体力は持つのかい?キミの未来視は脳を酷使し続ける……体力の消費が激しいんじゃない?」

「よく見抜いているな……まぁ、心配いらねぇよ。1試合分くらい持たせないと話にならねぇしな」

 

 ……ただ、反射的に行う……前半でも試したが、フローに入るにはどうにも目標設定がうまく出来ていない気がする。まるで、入れる気がしねぇ。何かが足りてねぇ……常時フローに入れれば強そうだが……そういう思考も邪念か。……今この場における最適な目標……

 

「後半も勝ちに行くよ。油断して負けるのは御免だからね」

「無論だ。敗北は許されねぇよ」

「うん!勝ちに行くよ!」

「俺もベンチから応援させてもらうぜ!」

 

 とにかく敗北は許されねぇ。今は目の前の試合だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方……

 

「ダメ、監督にも円堂くんにも繋がらない!」

「どうする?そろそろ港に行かないと船が間に合わなくなるけど……」

「……行くしかないだろ」

 

 オレたち5人が知らないところで、イナズマジャパンは移動をしているのだった。向かう先は――




 ちなみに影山は十六夜がファイアードラゴン戦・ナイツオブクイーン戦で1号を使ったことを知りません……と言うより、見ていたとしても近い技認識で本物だとは思っていまい。だって、封印した禁断の必殺技をノーダメでポンポン撃つヤツが居るなんて……ね?


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VSチームK ~模倣と代償~

 ライアー・ライアーの最新刊面白かった……!いやぁ……アニメを見ながら9月の短編集まで待ちですね。
 そして、作者夏休み突入……ただし、研究に休みという概念はないため……はい。とりあえず、溜めてたゲームしたいんですが……お盆前まで夏期講習ですので……忙しい今日この頃です。
 そんなこんなで今回です。どうぞ。


 後半はオルフェウスのキックオフで試合が開始される。

 

「アヤト!」

「ああ、行くぞ」

 

 ボールが十六夜に渡る。ハーフタイム中、後半の最初の攻撃は任せて欲しいと十六夜が頼んだので、その通りに動いてもらっているのだ。

 

「鬼道、頼むわ」

「任せろ」

 

 そして、鬼道にボールを渡して、十六夜は前線へと走る。鬼道と不動が、中盤を支配をコントロールしてゴール前へと走っている十六夜へと返してくれる手筈になっているのだ。

 

『キラーフィールズ!』

 

 鬼道と不動の必殺技がボールを奪いに来た相手を吹き飛ばす。そのまま、ボールは十六夜の元へと返ってきた。

 

「先に謝っとくわ。ごめんな」

「「「は?」」」

 

 ピーー!

 

 ボールを受け取った十六夜は5匹のペンギンを呼び出した。ペンギンは宙を舞い、ボールの周りを飛ぶ。ボールには赤黒い力が込められていき、十六夜の右足へと食いついた。

 

「「「なっ……!」」」

 

 その動きにはチームKとオルフェウスの面々に衝撃が走る。そして……

 

「皇帝ペンギンX!」

 

 十六夜はシュートを放った。

 

「お前のシュート、(もら)ったから」

 

 試合の最初にデモーニオが円堂からゴールを奪ったシュートが真っ直ぐ相手ゴールへと迫っていく。

 

「ふ、フルパワーシールドV3!」

 

 キーパーのインディゴは動揺しつつも必殺技を放つ。だが、ペンギンたちがシールドを突き破り、シュートはゴールに刺さった。

 

「な、何故ヤツがあの技を使える……!?」

 

 威力はデモーニオの放った皇帝ペンギンXと同等……十六夜の放った皇帝ペンギンXにはミスターKも驚きを隠せなかった。

 

「アレがお前の策か?不動」

「まぁな。十六夜と付き合いの長い鬼道クンなら、アイツの強みが分かるだろ?」

「……必殺技や必殺タクティクスを分析し、攻略法を見出すこと……違うか?」

「その通りだ。アイツは確かにドリブルの技術は俺たちより飛び抜けてるし、DFとしての能力もたけぇ……だが、一番恐るべきは分析力だ」

「未来を作るなんて恐ろしいことが出来るほどだからな……お前はその力に新たな可能性を見つけたってわけか」

「いいや。自覚してないだけで、それもアイツの力ってだけだろーな」

 

 頭を軽く掻きつつ、十六夜の方を見る不動。

 

「必殺技を分析しているアイツなら、攻略するだけじゃなく模倣も可能だと考えただけだ」

「高い分析能力で、相手の必殺技をコピーするということだな?ファイアードラゴン戦で、十六夜は豪炎寺のファイアトルネードを見せた……やろうと思えば他の技もコピー出来る可能性はあるだろう」

「所詮はコピー……普通ならオリジナルは超えられねぇ。だが、ペンギンが関われば別だろーな。アイツは皇帝ペンギン1号をノーリスクで打てるバケモノ……そんな男だったら、デモーニオの皇帝ペンギンXも模倣出来るって思った。まぁ結果は見ての通り……想像以上だ」

「あれはただの模倣じゃない。あの一発でアイツは皇帝ペンギンXを習得した……相手の必殺技をコピーじゃなく、奪って自分のものにしたんだ。……十六夜という男の進化の可能性ってところだろうな」

 

 高い分析能力で相手の必殺技を分析し、相手の必殺技を破るのではなく自分のものにする……やっていることはネオジャパンに通ずるものがあるが、見ただけで自分のものに出来るという能力。この世界に来たばかりの十六夜では絶対に不可能な成長で、新たな選手としての進化の可能性…………なのだが、

 

「いやー度肝を抜くっていいな。最高に気分がいい」

「すっげぇな十六夜!やっぱり、お前はすげぇよ!」

「「…………」」

 

 本人がまったく関係ない感想を抱いていて、頭を抱える鬼道と不動だった。

 

「……そういや、あのアホ。この策聞いて、面白そうとか抜かしてたな」

「……あの意味不明なところが、十六夜綾人って男なんだろ」

「やれやれ、まさか敵の技を奪うとは、流石に予想外だ……尚更負けていられないな。俺たちも完成させるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半開始早々、4-1で点差を広げたオレたち。オレが放った必殺技は敵(と味方の大半)に大きな衝撃をもたらした。

 

「お、俺の究極のシュートが……!」

 

 特に自分の必殺技に自信を持っていたデモーニオには衝撃が大きかったようで、膝をついて空を見ている。

 

「さてさて、自称究極くんはどうするのやら」

 

 このまま絶望するか、あるいは……

 

「まだだ……!」

 

 そう言って立ち上がるデモーニオ。

 

「ボールを寄越せ!俺こそが究極なんだ!」

 

 叫ぶデモーニオ。チームKのキックオフで試合再開され、ボールはデモーニオに渡った……だが。

 

「…………?」

 

 デモーニオにパスが通る……強すぎず弱すぎない、あくまで普通のパスだ。そのパスをあろうことかデモーニオは取れなかった。いや、それだけじゃない眼をゴーグル越しに押さえて……何かを探している?

 

「ボール……ボールは何処だ!」

 

 ……何を言っているんだアイツは……ボールは外に出てすぐそこに転がっているというのに……一体何が……

 

「お前……まさか目が……!」

「……っ!見えていないのか?」

「拒絶反応が出たか」

 

 オレたちがデモーニオに起きていることを知ると同時に、ベンチから影山が声を出す。

 

「お前には鬼道を超える力を持つようにプログラムを与えた。だがお前には過ぎた力のようだったな」

「影山……!」

「そこまでするかよ……」

「一体、人を何だと思っていやがる……!」

「大丈夫です……まだやれます!」

「もうやめろ!アイツはお前を利用しようとしているんだぞ!」

「構わないさ!総帥のためだったら、この程度……!」

「この程度って、何がそこまで……」

「お前たち持っている側の人間には分からないのさ。俺たち持たざる者の気持ちはさ!」

 

 持たざる者……代表の選考に選ばれず、それどころか、サッカーをまともにできる環境がなかったデモーニオたち。そこに影山が手を差し伸べ、力を与えたと言う。

 

「……やっぱり、影山の野望を打ち砕くには……決めるしかないな」

「だな。与えられた力に溺れ、身体が壊れることも厭わない姿は……これ以上見てられない」

「見せつけてやろうぜ。人に与えられた力じゃ強くはなれねぇってことをさ」

 

 そんなデモーニオの話を聞いて思いを固める鬼道たち。確かに同情はする……だが、

 

「円堂……勝つぞ」

「ああ……この試合、負けたらアイツらは影山の力なしでは生きていけなくなる。必ず勝とう、十六夜!」

「もちろんだ」

 

 これ以上失点させずに……とか何とか考えていたがやめだ。アイツらの目を覚まさせねぇと……正しい敗北を与えないと力に溺れたままだ。

 中断していた試合は、こちらのスローインで再開する。

 

「マルコ!フィディオだ!」

「分かった!」

 

 ボールはフィディオに渡った。

 

「俺は究極なんだ!究極の存在なんだ!」

 

 立ちはだかるのはデモーニオ。……さっきの話を聞いてからは、可哀想な被害者にも思えてしまう。そして今の姿は、失望した影山にもう一度信じて欲しいと思っている……そんな姿だ。捨てられた主人に振り向いて欲しい……だが、捨てた主人が主人である以上、そんな血迷った考えは捨てさせなければならない。

 

「究極なものなんて存在しない!」

「なに!?」

「皆、究極のプレーを目指して努力する!努力するからこそ進化するんだ!自分を究極だと思ったら……進化はそこで終わるぞ」

「黙れぇっ!」

 

 デモーニオが咆哮をあげながら突進していく。だが、フィディオはそれを簡単に躱した。

 

「……いいこと言うな、フィディオの奴。お前が気に入るのも分かるよ、十六夜」

「だろ?だから、アイツとのサッカーは楽しいんだ。それに、お前も気に入ってるだろ?」

「もちろん!」

 

 どれだけ周りから凄いと評価されていても、アイツはその評価に甘んじることなく、ひたむきに努力を続ける。だから、アイツとサッカーを続けたし、このFFIでアイツと試合をしたい。世界一を目指す好敵手(ライバル)として、アイツと向き合ってみたいんだ。

 

「フィディオ!鬼道たちにまわしてくれ!」

「分かった!頼むよ、キドウ!」

 

 ボールは鬼道に渡った。

 

「行くぞ!これが俺たちの必殺技……」

 

 鬼道はボールを軽く上にあげると、自身も跳躍する。続いて、不動、佐久間も跳び上がった。

 

 ピーー!

 

 上空でペンギンを呼び出す鬼道。出て来たペンギンは1号の赤と2号の青を混ぜたような紫色のペンギン。そんなペンギンが5匹現れる。

 ボールを中心に鬼道、不動、佐久間の3人がまわり、その外側を5匹のペンギンが飛んでいる。

 

『皇帝ペンギン3号!』

 

 そして、3人が同時に踵落としをボールに喰らわせる。紫色のオーラをまとった強烈なシュートはゴールへと飛んでいく。

 

「皇帝ペンギンX!」

 

 シュートコースに現れたのはデモーニオ。皇帝ペンギンXで皇帝ペンギン3号を打ち返そうとする……が、

 

「な、何ぃ!?」

 

 シュートの威力には勝てず、デモーニオは吹き飛ばされる。その勢いで、キーパーも一緒にゴールへと押し込んだ。

 

「なんてシュートだ……」

「すっげぇ!やったぜアイツら!」

「鳥肌立ったわ……!」

 

 皇帝ペンギン3号によって5点目を決めたオレたち。……ほんと、なんてシュートを撃つんだよ……

 

「十六夜の発言のおかげだな」

「オレか?……あの単純な発想のヤツ?」

「ああ、3人で同時に打てばいいってな。でも3人で打つ上で、ペンギンも加えようとすると、地上で打つんじゃ無理があった」

「そこでオーバーヘッドペンギンが鍵になった。空中で打つ……皇帝ペンギン2号が2次元の技なら、そこに高さを加えて3次元の技にすればいいってな」

「あはは……でも、それを完成させたのはお前らだろ。凄いな、マジで」

 

 そして、チームKのボールで試合再開。ボールはデモーニオに……だが、

 

「今度はなんだ……?」

 

 デモーニオの足にボールが当たる……が、反応しない。そして、そのまま膝をついてしまった……

 

「力を与えられた者の末路か……」

「……あーそういう」

 

 鬼道たちの皇帝ペンギン3号は皇帝ペンギンX……彼が影山に与えられた究極のシュートを超えていた。……自分が究極になれなかったことを、あのシュートを受けて身に染みて分かったわけか。

 

「戻ろう、デモーニオ」

 

 そんなデモーニオに声をかけたのはフォワードのビオレテだった。

 

「力なんてなかったけど、俺たちのサッカーが出来ていたあの頃に!」

 

 その言葉に思うところがあったのか、デモーニオはチームKの面々を見渡して、マントを脱ぎ捨てた。

 

「……デモーニオ・ストラーダの本来のプレーってとこか?」

「そうだな!フィディオ!鬼道!ディフェンスラインを固めろ!」

 

 ゴーグルを外し、髪を束ねていたヘアゴムを外したデモーニオ。

 後半残り半分……5-1でリードしているが、面白くなるのはここからのようだ。




習得必殺技

皇帝ペンギンX
シュート技
デモーニオの必殺技。不動の策により、十六夜が見て盗んだ必殺技。なお、デモーニオと同等以上の威力で撃てる。これには影山も驚くしかない。

多分、十六夜くんが影山の手駒だったら最強だったんだろうな……だって、禁断の技である皇帝ペンギン1号を何発でも打てるバケモノだし(なお、本職はDFだが)


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VSチームK ~それぞれの進化~

『ねぇねぇ、綾人』

「なんだ?ペラー」

『面白いモノ出来たから見ててよ』

 

 イタリアで修行していたある時。ペラーが面白いモノを見せてくれるというのでそれを見る。

 

「ちょ、お前、それって……!」

『ふっふーん。どう?この一発芸の完成度?』

「一発芸かよ!いや、本物そっくりですげぇ驚いたっていうか……え?ペラーさんいつの間に?」

『綾人を驚かせたくて練習したんだ』

「それだけの為に!?いや、すげぇ驚いたけど……」

「アヤト……」

 

 と、そこに現れたのはフィディオたちだった。

 

「今の見てたよ」

「おぉ、見てたのか?いやーこいつらの凄い一発――」

「中々の完成度じゃないか。まだ実戦で使うには物足りないけど……」

「――芸って……はい?実戦?」

 

 実戦って何だろう?何と戦うんだろう?

 

「おいおい、アヤト。お前の技のレパートリーは本当にすげぇなおい」

「うん!次から次へと出てくるよね!」

「えっと……ブラージさん?アンジェロさん?」

「だが、その完成度じゃまだ足りねぇ」

「いや、一発芸としては十分な完成度だったんだけど……」

「僕らにもその技を完成させるのを協力させて欲しい。呼び出すペンギンにあそこまでの動きを仕込む……うん。そんな技見たことない」

「いや、オレも見たことないし……なんならもう芸としては完成していたような……」

「よぉし、お前ら!ちょっとアヤトの必殺技完成に力を貸そうじゃないか!」

「「「おぉ!」」」

「ゑ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チームKのキックオフで試合再開。ボールはデモーニオが持った。

 

「見せてみろデモーニオ。お前のサッカーを」

「ああ、行くぞキドウ!」

 

 ブロックに行ったのは鬼道。すぐ近くには不動も待機しているが……

 

「へぇ……」

 

 先ほどとはプレースタイルが違う……本来のデモーニオのプレーか。鬼道のプレーの感じは一切ない……情報を修正しないとマズいか……

 

「ビアンコ!」

「ああ!」

 

 隙を突き、パスを受け取ったのはビアンコ。近くにはビオレテがいて、そのままシュート体勢に入った。

 

『ツインブーストF!』

 

 2人の必殺技ツインブーストFが飛んでくる……さっきまではデモーニオがフィニッシュを決めてきたが……拘らなくなったか。究極という存在に取り憑かれていた亡霊だったからか……きっと、本来の彼は自分のゴールに拘る選手(ストライカー)ではないのだろう。

 

「いかりのてっつい!」

 

 そこを円堂はいかりのてっついでゴールを守る。ボールは地面に埋まった。

 

「良いシュートだ!」

「次は決める」

「だな、戻るぞ!」

 

 心なしかチームKの雰囲気が和らいだように思える。デモーニオが本来の姿に戻ったこと……そして、チームKのメンバー全員が影山から離れ、本来のプレーをするようになったからか……

 

「多分、イタリア代表を賭けた戦いって本来の目的は消えたんだろうな」

 

 影山がまだベンチに残っているのは気がかりだが、彼らから代表を奪う、こちらを倒すという意思は感じない。純粋にサッカーを楽しみたい……攻防の間にも、さっきまではなかった笑顔が見える。

 

「オーバーヘッドペンギン!」

 

 と、そんな中で鬼道がシュートを放った。不動と佐久間にマークがついていたからか、1人でシュートを放つ鬼道。

 対して、キーパーのインディゴは両手を合わせて前へと突き出す。手の合わせ方が、両手の付け根と、親指以外の指先を合わせて……正面から見ると口みたいだ。そして、合わさった右手を上に、左手を下に持って行くと背後には大きな口を開けた鮫が現れた。

 

「ザンネ・ディ・スクアーロ!」

 

 鮫の牙がシュートに食い込む。やって来たペンギンを喰らい、ボールは彼の両手に収まった。

 

「あれは……ビーストファングか?」

 

 ビーストファング……確か、源田が使う禁断の必殺技だったか?ただ、キーパーのインディゴにダメージを負っている様子はない。

 

「出来た……!出来たぞ、デモーニオ!」

「流石だ、インディゴ!」

 

 えっと……

 

「どういうこと?」

「アレはミスターKがインディゴに教えた……皇帝ペンギンXと同様、禁断の必殺技を改良したものらしい」

 

 と、オレの呟きを拾ってくれたのはビオレテだった。

 

「ただ、インディゴは思うように習得できなかったが……アイツ、こんなところで完成させるとか……」

 

 ……つまり、この試合の中で習得したと。正確には、鬼道のシュートを止めるために、未完成の技を土壇場で完成させた……と。……マジか、彼らの空気が緩和されただけじゃなく、進化してくるとか……

 

「デモーニオ!」

「ああ!」

 

 ボールはデモーニオへと渡った。彼の本来のプレーにより、ダンテとマルコを突破してくる。

 

「通さないぞ」

「本来のプレーを見せてあげるよ」

 

 そう言った通り、やはり鬼道の真似をしていたときとはプレースタイルが異なる。

 

「こっちの方が強く感じるな」

「……これでも突破できないか……」

「デモーニオ!あれをやろう!」

「あれ……か。今の俺たちなら出来るかもな!ビオレテ!ビアンコ!」

 

 あれ……が何を指すか分からないが、デモーニオはボールを後ろに下げ、自身は他の2人と一緒に中央へと走って行く。

 

「円堂、構えろよ」

「おう!」

 

 何をするか……少し興味がわく。現在進行形で進化している彼らが魅せるプレーに興味を抱いたオレは、円堂に託して見届けることにする。……まぁ、本来なら舐めプにあたるんだろうが、今回ばかりは許して欲しい。だって……ねぇ?こんな空気の中止めたら、オレが悪役みたいじゃん。もう試合の勝敗はアレだから気にしないってことで……

 と、内心で誰に向けてかよく分からない言い訳を並べる中、ボールを受け取った選手はボールを氷付けにした。そして、その氷を何回か蹴ることで回転させながら形を整える。最後に回し蹴りをしてロングシュートを放った。その氷のシュートは空高く上っていき、大きな弧を描くようにしてゴールへと向かう……

 

「あれは……デスゾーンか!?」

 

 そんな中、ボールの向かう先では、3人のフォワード陣が、デスゾーンによって生まれる紫の三角をいくつも生み出していた。その生み出した三角形の中心をシュートは通っていき……

 

『デスクラッシャーゾーン!』

 

 ボールが自分たちに追いついたタイミングで3人同時にボールを押し出す。幾重にも重なる紫の三角を背景に、まるで槍のように鋭いシュートはゴールへと向かう。

 

「イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 円堂が必殺技を放つ。彼の生み出した半球のオーラに彼らの紫のオーラが突き刺さる。

 

「なに……!?」

 

 ボールの軌道を変えて、ゴールから逸らす必殺技……だが、軌道を変えられず、突き刺さった部分から徐々にヒビが入っていき……

 

「よっしゃあああ!」

 

 半球は音を立てて崩れ落ち、シュートはゴールの中へと吸い込まれていった。

 

「デスクラッシャーゾーン……デスゾーンの新たな進化系か……」

「まさか、4人がかりでやって来るとは……面白いじゃねぇか」

「見事な連携必殺技だな」

 

 そのシュートに鬼道、不動、佐久間の3人は称賛を表す。かく言うオレも、今のシュートには鳥肌が立った……息が合ってないと出来ない必殺技……少なくとも、皇帝ペンギンXよりもこっちの方がすげぇだろ……そう思わずには居られない。

 

「デスゾーン?何だいそれは」

「帝国学園という俺たちと縁のある学校の伝統的な必殺技のことだ」

「まぁ、その伝統的な必殺技にしたのはそこに居る影山だけどな」

「ふむ……だったらアヤト。君のデスゾーンを撃ったらどうだい?」

「「「はぁ!?」」」

 

 と、イナズマジャパンのメンバーが驚いたような顔で見てくる。思わず目を逸らす。いやー……

 

「フィディオ……何度も言ったけど、アレはペラーたちの一発芸で……」

「いいや、あんな完成度の必殺技……封印するなんて勿体ないよ。君のことだから完成させたんだろ」

「ま、まぁ、そうだけど……」

「だったら見せてよアヤト!あんな凄い必殺技隠すなんて勿体ないよ!」

「そうだそうだ。結局俺たちは完成したアレを見せてもらってないぞ」

「撃ってくれよアヤト。ほら、予選リーグではこんなお願い出来ないからさ」

 

 何だろう……オルフェウスの面々の凄い期待されている眼差し。そして、鬼道たちのどういう事だという眼差し……はい。

 

「……分かったよ。見せてやるよ」

「よし、キドウ。次は俺たちに渡してもらっていいか?」

「あ、ああ……」

「へぇ、十六夜のデスゾーンねぇ……パートナーは?誰が一緒に撃つんだ?」

「いや、オレの単独技だから……」

「3人必要なところを1人技に変えたのか……どんな成長をさせたのか楽しみだな」

「あはは……」

 

 何でこんなに期待されてるの?いや、完成はさせたけど……一発芸が元って言われると……ねぇ。何か申し訳なく感じるよ。特に帝国の面々に対して。いや、影山には特に何も感じないけど……ねぇ?

 5-2でオルフェウスボールで試合再開。

 

「アヤト!ゴールへ!」

「ああもう、やってやるよ!」

 

 半ばやけくそ気味で前線へと走っていく。オルフェウスの面々がパスを繋いで相手を翻弄し、オレのもとまでボールを繋げる。

 

「見せてやるよ……!」

 

 ピー!

 

『オッケー!アレだね!』

 

 オレはペラーを含む3匹のペンギンを呼び出す。そして……

 

「行ってこい」

『あいさー!行くよ皆!』

 

 ボールを蹴り上げると3匹のペンギンは、空中にあるボールの近くで回転を始めた。

 

「あれは……!?」

「デスゾーン!?」

「それをペンギンで!?」

「アイツってなんなんだ……?」

 

 ペラーたちの回転により、デスゾーンの三角形の力場が生まれ、ボールには紫のオーラが……ただ、人間ではなくペンギンと言うことで、三角形とオーラの大きさは小さい。回転の最中にオレはボールを越えて空高く跳躍する。

 一発芸ではその後、一度ボールの近くに集まって再び広がってもう一回集まって撃つ……要はデスゾーン2をペンギンたちがやってみたって感じだったが、技を完成させるにあたって少し改良を加えた。

 

『ゴー!』

 

 ペラーの合図でペンギンたちは一度ボールの近くに集まって再び広がる。ボールに集まっていたパワーは一気に増幅され、ボールを纏うオーラは一際大きくなる。

 

「デスゾーンペンギン!」

 

 そこに錐揉み回転をしながら落下し、ドロップキックを喰らわせる。ボールはゴールへと向かい、ペラーたちは錐揉み回転をしながら、ボールの近くを三角形の力場を維持するように飛行する。

 

「ザンネ・ディ・スクアーロ!」

 

 デスゾーンをサメが喰らい尽くそうとする。だが……

 

「な、何だこのパワー……!?」

 

 ボールに突き刺さろうとするサメの牙を弾き返し、ボールはゴールに刺さった。

 

「やったなアヤト!凄い完成度だ!」

「本当に凄いよ!ペンギンにあそこまでの芸を仕込むなんて!」

「ああ、タイミングも完璧だ」

「ありがとな……お前たちのお陰で完成できた技だからな」

 

 もっとも、あの時にお前たちが来てなければ、一発芸で終わったんだがな。

 

「な、何だあの技は……!?」

 

 ふとベンチの方を見ると、さっきまで涼しい顔をしていた影山が凄い驚いていた。いやぁ……まぁ、そうなるよな。確かデスゾーンが意志の統一とか、デスゾーン2が個性のぶつかり合いとか何とか聞き覚えがあるけど、少なくともペンギンでやることじゃねぇもんな。分かりますよ、その気持ち。でもあなた、オレのシュート全部驚いていませんか?

 

「デスゾーン2をペンギンたちがやるとは……なんて発想だ」

「ああ。ペンギンにあんな動き……普通は無理だろ」

「ペンギンに関しては本当に異次元だな……おい」

「十六夜!?何でこんなすげぇ必殺技まだ隠していたんだよ!」

「あー……サプライズ?」

「「「嘘だろ」」」

「……へい、デモーニオ。まだホイッスルは鳴ってないぜ」

「ああ、そうだな!次は俺たちからだ!いくぞ!」

「「「おぅ!」」」

「逃げたな……アイツ」

「どうする?捕らえて吐かせるか?」

 

 およそ、仲間に対してかける言葉には思えないことが聞こえてくる……よし、気にしたら負けだな。




オリジナル・登場必殺技紹介

ザンネ・ディ・スクアーロ(鮫の牙)
キーパー技・キャッチング
1人技
ビーストファングの鮫版。ビーストファングを改良した技である。
不完全様より頂きました。ありがとうございます。


デスクラッシャーゾーン
オリオンでの必殺技。この作品では、チームKの選手が使う模様。


デスゾーンペンギン
シュート技 属性 林 成長タイプ 真 1人技
帝国学園の代名詞と言うべきデスゾーンをペンギン達と一緒に再現した必殺技。いわば分身デスゾーンのペンギン版だが、仕上げについてはアレンジが入っている。
指笛でペラーを含めた三羽のペンギンを召喚し、ボールを上空に蹴り上げてから三羽にデスゾーン2を発動させる。なおデスゾーン系に特有な三角形の力場とボールを覆うオーラの大きさはペラー達の体格に応じて小さくなっている。仕上げはペラー達がボールから離れた後にボールより更に上に飛び上がった十六夜の錐揉み回転付きのドロップキックで行う。十六夜がボールを蹴り出した後、ペラー達は錐揉み回転しながらボールの側で飛行、三角形の力場を形成した状態でゴールまで突撃する。因みに、この技にペンギン達の指揮者であるペラーが直接参加しているのは、基となったデスゾーン2の発動には指揮者の存在が不可欠である為。

この必殺技、実は十六夜を驚かせる為にペラーが仲間と一緒に練習したその場限りの一発芸が基になっている。ただ、一発芸とはいえ威力はともかく技自体の完成度がかなり高く、更にその一部始終をたまたま通りがかったフィディオ達に目撃されてしまった事でその完成度に感心した彼らの善意からの協力によって実戦でも使用できるレベルにまで改良されてしまったという経緯がある(フォディオ達はあくまで十六夜の新技開発における試行錯誤の一環だと思っている)。その為、フィディオ達は十六夜がいつこの技を使ってくれるのかとワクワクしながら待っている模様。

h995様より頂きました。ありがとうございます。


次回、チームK戦後の話。


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最悪の罠

 ピ、ピー!

 

 試合終了のホイッスルが鳴った。結果は最後にフィディオがシュートを決めて、7-2でオルフェウスの大勝。無事、イタリア代表の座を賭けた試合に勝利をおさめることが出来たのだった。……まぁ、無事というか、試合が始まる前には想像もしてなかったくらい丸く収まったな。あと、点差がえげつない。

 デモーニオたちチームKとオルフェウスの選手たちの仲も深まり、鬼道とデモーニオも互いに声をかけあっていた。本当に全てが丸く収まった……そう思っていた。

 

「約束です、ミスターK。イタリア代表の座は俺たちのものです」

「好きにしろ。だが、イタリア代表の監督は私だ。お前たちが私の理想とする完璧な選手にならなければ、お前たちは用済みだ。分かったな?」

 

 なんと言うか……本来であれば影山もここで退いて、前の監督が復帰して万事解決……が最高なんだけど、そこまで上手くは行かないらしい。この試合はあくまで代表のメンバーをどうするか決める試合で、監督に関しては何も言ってなかったからな……

 

「話は変わるがイナズマジャパンの諸君。君たち日本代表の選手がこんなところにいていいのかね?」

「どういう意味だ!」

 

 鬼道さんが初手から怒ってる……のは置いておくとして、どういうことだろうか?

 そう思っていると、さっきまでチームKとオルフェウスの試合の得点を表していた電光掲示板の映像が切り替わる。何処かのグラウンド……そこに集まっている観客たちだろうか?

 

「豪炎寺……?」

「それに……テレスたちアルゼンチン代表?」

 

 映っていたのは豪炎寺たち日本代表イナズマジャパンとテレスたちアルゼンチン代表ジ・エンパイア……え?

 

「何だって!?」

「ヤマネコスタジアムで試合?それって……」

「明日のはずだ……」

「クソッ!どうなってやがる!」

「まさか……!」

 

 と、ここに来て理解してしまった。辿り着いた答えが正しいなら……

 

「試合は15時からだ」

 

 ああ、そういうことか……電光掲示板の映像に映る時計は14:12を表示している。……今から約50分……!もう1時間を切っている……!

 

「まさか影山!お前が試合日程を!」

「フッ」

 

 その質問に答えることなく去って行く影山。

 

「とにかく急ごう!まだ間に合うはずだ!」

「俺も協力する!こうなったのは俺たちが巻き込んだからだ」

「フィディオ……ああ!急ごう!」

 

 走り出そうとしたオレたち……だが。

 

「……っ!誰だ!お前ら!」

 

 よく分からない男たちが、目の前に立ちはだかった。

 

「そこをどけ!」

「「「…………」」」

 

 通そうとしない……ッチ!念には念をってか?

 

「……ヤバいな……!」

 

 話を聞く連中じゃない……こちらを妨害する意志を感じる。かと言って、暴力に任せて通ろうものなら……確実に問題になるだろう。下手しなくても日本が不利になる……最悪なトラップだ。会場の映像が流れたままってことは、試合が終わるまで大人しくここに居ろっていう影山からのメッセージってことか……!

 

「時間がない……!」

「クソが……!」

「力を貸してあげるよ」

 

 と、聞こえてきたのは女の声だった。後ろを振り返ると、フードを被った2人組がそこに居た。

 

「誰だ!?」

「影山の刺客か!?」

「あんなのと一緒にしないでくれよ」

 

 と、男の声……男女のペアか?……すっげぇ怪しさ満点だけど。

 

 ピーー!

 

 すると、指笛を鳴らすフードの人物。そして……

 

「インビジブル・ペンギン」

 

 小さくそう呟いた。声的に女の方が使ったのか?それにインビジブル……invisible?その意味は……

 

「……っ!お前ら突っ切るぞ!」

「で、でもこいつらが!」

「こいつらは動けねぇ!行くぞ!」

「インビジブル……そういうことか!」

 

 オレが先頭で突っ走ると、その後を鬼道、不動、佐久間、円堂、フィディオが走る。妨害しようとした奴らは動けない……やっぱりか。

 

「よく分からんが恩に着る!ありがと!」

「…………」

 

 振り返って礼を言うと、フードの片方が手を振る……というか、一体誰なんだ?アイツら……

 

「十六夜!どうして通れたんだ!?」

「あのフードの奴が、見えない――透明なペンギンたちを、妨害している奴らの周りに呼び出したんだ」

「透明なペンギン!?…………え?そんなの居るの?」

「実際に居たからしょうがねぇだろ!?」

「でも、透明なのによく気付いたな」

「……まぁ、ペンギンだからな……ただ、何者だアイツら?」

 

 ……フードを被っていて怪しいが……アイツ、10匹以上は余裕で呼び出していたな。1人1人の動きを制限するために……何匹ものペンギンを使って拘束していた。ただえさえ、ペンギンの数も相当なのに透明って……ペラー風に言うなら、器がデカいってことだろう。……本当に何者だ?アイツら……

 

「フィディオ、ここからどう行けばいい!?」

「バスを呼んだからそれに乗るんだ!」

 

 アイツらに関して考えている時間はないらしい。今は試合に間に合うことが優先。ということでやって来たバスに乗り込む。そんな中、フィディオは何処かに電話をかけ、話をしていた。

 

「分かった。ありがとう」

 

 どうやら次に出る14時35分の船が試合開始の15時に間に合う最後の船らしく、それを逃せばもう試合が終わるまで、ここから船は出ないそうだ。現在の時刻は14時20分前……バスなら十分間に合うらしい。

 

「助かるよフィディオ。本当にありがとう」

「ありがとうって……俺たちが巻き込まなければ、こんなことには……」

「それは違うぞ。これは最初から仕組まれていたことだ」

 

 ……仕組まれていたこと……何か引っかかるんだよなぁ……

 

「それより、イタリア代表の監督は影山のままだ。気を付けてくれ……また、今回のようなことが起きないとも限らない」

「ありがとう……でも、俺は思うんだ。ミスターKのサッカーに対する深い憎しみの裏には、何か別の感情があるんじゃないかって」

「別の感情?」

「それが何かは分からないけどね。……見せつけてやるんだ。ミスターKに俺たちのサッカーを」

 

 と鬼道とフィディオが話しているのを聞きつつ、引っかかってる点を考えていく……

 

「何難しい顔してるんだよ、十六夜」

「ああ……」

 

 影山がそんな試合を1日繰り上げるとか……そこまでの権限を持っているのか?持っていたとして、運営のお偉いさんは疑問に思っていないのか?……何かが引っかかっている……それにさっきの道を塞いでた方も助けてくれた方も結局何者か分かんないな……知らないところで何かが動いている……

 

「「「……っ!」」」

 

 思考を進めているとバスが急停車する。

 

「何が起きた!?」

 

 バスの運転席から見えるのは……渋滞?いや、その先には……パトカーのサイレンか?パトカー……渋滞……

 

「おいおいまさか……!」

「どうやら事故みたいだ。バスは動けない……」

 

 嘘だろおい……!アイツらを突破すると見越して影山が……?いや、アイツらを突破したところを影山は見てねぇはずだ。しかも、映像を見せた理由が、大人しくしてろってことなら突破できると踏んでないはず。……じゃあ、どうやって?……いや、それを可能な手はある……今は14時30分……オレたちが突破したところを誰かが見ていて、約10分の間にここを封鎖した。……でも、そんなこと……!

 

「走るぞ!」

「マジかよ」

「港は目の前なんだ!」

 

 確かに渋滞の先……この一本道の先には港が見える。……だが、オレたちが走ってつくかはギリギリ……こんなところでそんな賭けはしたくねぇ。

 やりたくねぇが、アレをやるしかねぇようだ。

 

「円堂、鬼道!」

「何だ?十六夜」

「先に行く!」

「どうやって……っ!アレか!」

「イビルズタイム!」

 

 周りの動きが止まり、時間が停止する。……これなら確実に間に合う。オレが間に合えば、説得して少しくらいは船を止めてもらえるだろう。

 

「ッチ……!」

 

 走り始めて体感で3,4分だろうか?流石にイビルズタイムの長時間連続使用は体力を持ってかれる。……その上でダッシュしているためか、いつもより体力の消耗が激しい。……クソッ、こっちは1試合()った後だっての。だが……!

 

「これが最善手なんだ……!たとえ、監視がついていようが時を止めれば関係ねぇ……!」

 

 妨害する側にとっては事故のせいで間に合わないと踏むはず。だけど、間に合う素振りを少しでも見せれば、そこで手を打つはず……この技だったら、相手にとっては瞬間移動してきたのと同じこと。余計な手を打たれずに船に乗り込めるはず……

 

「解除!」

 

 イビルズタイムを解除する。船は港に停泊している。急いで船を運転する船長に声をかけに行くことに。

 

「すみません!後、4人この船に乗らないといけない人たちがいるんです!そいつらを待ってくれませんか!」

「そうしたいんだが……」

 

 帰ってくるのは渋る声……クソッ、やっぱり、こっちの事情を説明しないとダメか……!

 

「……この船は出せなくなったんだよ」

「はぁ!?どういうことですか?この船は14時35分発のヤマネコ島行きじゃ……」

「そうなんだけど、エンジントラブルだよ。原因が分からない……船が出せるようになるまで時間がかかりそうなんだ」

「嘘だろおい……!?」

「すまないね……朝点検したときには何も問題なかったんだが……」

「じゃあ、どうすればヤマネコ島に……っ!こういう時は、代わりの船とかありませんか?」

「それが……こっちですぐに用意できる代わりの船が今日に限ってないんだよ。いつもは不測の事態に備えて残っているはずなのに出払ってしまっていてね。だから、悪いんだけど、次の船まで待ってもらわないと……」

「……っ!」

 

 思わず拳を握り締めてしまう。

 

「……クソがっ!ここまで読んで、手を打っていたのかよ!」

「き、きみ……?」

 

 地面に拳を叩きつけ、悔しさを叫ぶ。そんな中、こちらに向かって走ってくる5つの影が見えた。

 

「よかった!間に合った!」

「すみません!この船に乗せてください!」

「お願いします!」

「き、君たち……それが……」

「エンジントラブルでこの船は動かねぇってよ」

「なっ……!それじゃあ……!」

「アルゼンチン戦に……ヤマネコスタジアムにオレたちが行ける手段はなくなったんだよ」

「「「…………っ!」」」

 

 絶望の知らせ……全て、掌の上で転がされたってことか。

 時刻は14時35分を過ぎる。船は港から動かない。オレたちは港から動けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいね、シスターが面倒ごとに手を貸すなんてさ」

「そう?まぁ、確かにそうかもね」

「そうそう、こいつらを押さえたところで、どうせ手は打たれる。意地でもこいつらは、十六夜綾人たちを試合会場に行かせないよ?」

「そうでしょうね」

「……もしかして、()()()のかい?」

「さぁ?とりあえず、私のやりたいことは終わったし……時間ね。帰るわよ、ブラザー」

「相変わらず自由だな……分かったよ、シスター」

「また会いましょう。十六夜綾人」

「ちょっとシスター?オレたちが彼と会う予定はないはずだけど?ちょっ、これ以上何をするつもり?ねぇ、シスター、ちょっ……」

「ブラザー、うるさい」




 誰がゲーム版とアニメ版の妨害を組み合わせた上に更なる妨害をしろと頼んだんだ?きっと、全ては影山のせいです。そうです、影山のせいなんです。前の話までの仕返しをしたんですよきっと。
 というわけで次回はアルゼンチン戦……の予定ですが、どうなることやら。ちなみにフードの2人組はオリキャラです。


オリジナル必殺技紹介
インビジブル・ペンギン
???技・1人技
使用者 ???
透明なペンギンを呼び出すらしいが……?


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VSジ・エンパイア ~不落の要塞~

 14時55分……

 

「監督も円堂くんたちも来ない……」

「キャプテンたち、試合日程の変更を知っているんでしょうか?」

「…………」

 

 焦るイナズマジャパンのメンバー。そんな中で八神は静かに腕を組んでいた。

 

(クソッ……十六夜のヤツが、問題(トラブル)に首を突っ込むと分かっててトラップを……しかも、相手はオルフェウス。アイツがチーム単位で関わっていたであろう相手……知ってしまえば見捨てる選択なんて取れないことを踏んで……いや、それだけじゃない。円堂たちも、影山が関わっているなんてことを聞いて黙っていられないことを分かって……十六夜だけでも止めるべきだったか……!)

 

 14時56分になる。だが、誰も来ない……そのまま1分経って14時57分に……

 

「ふぅ……皆、そろそろ準備を……」

 

 なろうとした瞬間、何の前触れもなく、1人の男がフィールドに現れた。

 

「「「えぇっ!?」」」

「わりぃ、待たせた」

 

 十六夜綾人、フィールドに突如として現れる。

 

「い、十六夜!?」

「どこから現れたんですか!?」

「い、いきなり現れたでヤンス!?」

「と言うかどうしたんだその汗の量は!?」

「かなり無茶した……ごめん、水分を」

「ほら」

「ありがと」

 

 チームメイトからの驚きを無視して、十六夜は八神から投げ渡されたドリンクを一気に流し込む。

 

「ふぅ……サンキュー。生き返った」

「生き返ったって……あれ?キャプテンは?それに鬼道さんたちも……!」

「アイツらは来れねぇ。いろいろあってオレだけ何とか来た」

 

 その返答に戸惑う選手たち。汗だくの十六夜は1回深呼吸をし、まわりを見渡す。

 

「話し始めたらキリがねぇ。時間ねぇし、とりあえず監督たちは?」

「本部に呼ばれたっきりだ」

「クソッ、最悪だな」

「十六夜」

 

 そんな十六夜に渡されたのはキャプテンマーク。

 

「お前たちに何があったかは知らない。だが、俺たちは監督たちや円堂たちが居なくても試合に出る」

「風丸……お前らの意志は固まってるわけか」

「当たり前よ!こんなとこで棄権なんて選択は取れねぇっての!」

「キャプテンはお前に任せるぞ」

「任された。スターティングメンバーは?」

「まだ決めてない」

「そうか……」

 

 そして、キャプテンマークをつけながら、もう一度まわりを見渡す。

 

「覚悟十分……オーケー、こうしようか。FWは中央に豪炎寺、左右に染岡と虎丸の3枚。MFは中央にヒロト、左右に風丸と土方の3枚。DFは左から綱海、壁山、オレ、飛鷹の4枚。最後、GKは立向居。木暮、栗松はベンチスタート。異論あるヤツ居るか?」

「ないな。お前たちも行けるな」

「「「はい!」」」

「いいかお前ら。ジ・エンパイアの守備は予選を無失点でおさえているほどの堅さ。勝つカギはその守備を破ることにある。攻撃陣、任せたぞ」

「任せとけ!」

「ああ!」

「さぁ、行くぞ。勝つのはオレたちだ」

「「「おう!」」」

 

 掛け声と共にフィールドに入っていくイナズマジャパンのスターティングメンバー。

 

「ふぅー……」

「本当に大丈夫なのか?十六夜。もう息があがっているが……それにその汗の量も……」

「心配いらねぇよ。なんとかする……そのために無理やり来たんだからな」

 

 十六夜はコイントスをするために、審判のもとへ行く。

 

「見たところ、監督も居ないようだし、この前のヤツもいない……お前も相当消耗してバテているけど、何かあったか?」

 

 すると、既に待ち構えていたテレスが声をかける。

 

「ちょっと、キツめのウォーミングアップをしてきただけだ」

「ふぅーん、まぁいい。全力で捻り潰してやるよ」

「ハッ、こっちこそ、お前らの守備を突き破ってやるからよ」

 

 コイントスが行われ、イナズマジャパンボールで試合が開始されることが決まった。

 

「ふぅー……行くか」

 

(体力をかなり消耗してしまっている……が、負けられねぇ。絶対に勝ってやる……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船の待合室にて……

 

「良かった……辿り着いたみたいだね」

「それに何とか間に合ったみたいだな」

「流石は十六夜だ!」

「にしても、よくあそこから間に合う策を出したな。鬼道クン?」

「策ってほどでもない。ただ、全滅するよりアイツだけでも行った方が戦力になると思っただけだ……まぁ、しかもアレは十六夜しか出来ない博打だったが、何とか勝ったようだな」

 

 十六夜が試合会場に間に合った理由。それは……

 

「アヤトの必殺技ライド・ザ・ペンギンで海を渡ってヤマネコスタジアムに行くとは……中々の強行だね。普通は船で行くところを自力で行ったんだから」

「船長さんに、おおよその方角を教えてもらって、フィディオの持ってきた地図をインプットしたからな……下手したら漂流ものだったが」

「そこは十六夜のペンギンたちが上空を飛んでカバーしたんだろ?そして万が一、十六夜が体力切れで必殺技が使えなくなったか遭難した場合は、ペンギンの世界に逆召喚させて、メハト?ってヤツにこっちに召喚してもらうよう頼むんだったよな?」

「まさか、ペンギンを呼び出すだけでなく、呼び出されることも出来るとは……つくづく規格外のヤツだな。聞いたこともねぇけど?」

「それが十六夜綾人って男だ。ペンギン使いとしての高い実力と器の大きさ、そして信頼関係がないと出来ないって十六夜のペンギンが言っていたな」

「まぁ、多分ってつけていたけどな」

「そして、島についたらイビルズタイムでの瞬間移動……これで妨害されることなくグラウンドに到達できる」

「まぁ、影山は十六夜が空を飛べることも時を止められることも知っているんだろ?それに、アイツが無理やり海を越えようとしたことは何かしらでバレているだろうしな。だから、島中に警備を置かれたり、スタジアムの警備員を買収されたりしている可能性がたけぇ」

「ああ。そして、警備に見つかり次第、こじつけで何処かに監禁するくらいやってのけるだろうな。その点、島に到達からグラウンドまで時を止めてやり過ごし、そいつらより先に観客の目やカメラに映ってしまえば下手に手出しできないはずだ」

「確かにな。試合が始まってから、何かしらの手で妨害出来るんだったら、こんな回りくどいことせず俺たちをスタジアムに行かせてもいいはずだしな」

 

 あらゆる可能性を考慮した結果、十六夜は島の目立たない場所に着くと同時にイビルズタイムで時を止めてグラウンドで解除することにした。これは十六夜にしか出来ない芸当で、かなりの博打要素が絡んだ策だったが、無事に時間までにたどり着く事に成功した。

 

「ただ、イビルズタイムは消耗が激しい技と聞いてる……アルゼンチン戦でアイツはほとんど動けない可能性だってある」

「ああ。実際、相当消耗しているようだな……息が上がって、顔に余裕がないし、汗の量もテレビ越しに分かるほど」

「あそこまで疲弊しきっているなんて最初の合宿の夜くらいだろうな」

「大丈夫さ!それを承知の上でアイツは行ったんだ!信じようぜ!アイツなら必ず何かを起こしてくれる!それに他の皆だって、俺たち抜きでやってくれるさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に、短い時間の間に無茶をしすぎたらしい。イビルズタイムを使用しすぎて、マジで立っているのがやっとレベルの状態。既に息はあがっていて、足取りも重いものになってる。視界はふらついて、頭はぼーっとして……コンディションは最悪と言っていいだろう。

 

 ピーー!

 

 そんな中、イナズマジャパンボールで試合が開始された。上手くパスを繋いで攻め上がっていく……だが、

 

「戻れ!」

 

 パスカットをされ、ボールは10番に渡った。

 

「通さん!ブレードアタック!」

 

 そこを土方の必殺技ブレードアタックで何とか防ぐ……

 

「豪炎寺!」

 

 すかさず豪炎寺へとパス。だが……

 

「そんなノロマなパスが通るかよ」

 

 相手の9番がダッシュしてカットする。……速いな……アイツらの動き。

 

「まるで獲物を狙うオオカミ……!」

 

 ドリブルし、そこから11番へとパスを出す。そこをカットしたのは染岡……

 

「ジグザグフレイム!」

 

 4番がジグザグに進みながら、炎を出している……そのまんまだが、染岡はボールを奪われ、炎の勢いで飛ばされた。

 強力な必殺技……それに素早い動き……予想以上に厄介な相手だ。

 

「十六夜さん……大丈夫ッスか?」

「……ギリギリってとこだな」

 

 試合開始数分……まだディフェンス陣までボールが来ていないのに、息が上がって立つのがやっとの状態になっているオレを心配するチームメイト。クソッ……ここまでキツイとは思わなかったが……想定が甘かったな……

 その後も試合展開は徐々にジ・エンパイアのペースになっていく……精神的支柱と司令塔の不在、自分がなんとかしなければという強い思い……あらゆる状況が選手たちを焦らせ、攻撃が噛み合わない。

 

「ペースが……完全に相手のものだな……」

 

 前半も半分を過ぎる頃には完全に相手のペースに飲まれてしまった。

 

「十六夜くん。上がれる?」

「……かなりキツいな」

「そうだね……今までに無いくらい疲労しているもんね」

 

(こういう時に起爆剤になりそうな十六夜くんが攻撃に参加できない……か。皆も円堂くんや鬼道くんが居ないこと、十六夜くんの消耗が激しいことに気付いている……)

 

「気付いてるか……ヒロト」

「うん……皆、自分が何とかしようとして、まわりが見えていない。本来のプレーが出来ていない」

「ああ……こういう時は、誰かが指揮を執らねぇと……飲み込まれて試合が終わる」

「指揮を執る……そうだね。そうするしかないよね……十六夜くんはそのまま待機で。何とかしてみるよ」

「分かった……頼むわ」

 

 そう言ってヒロトは前線へと戻っていく。ボールは壁山が持って上がっていく。

 

「染岡さん!」

「こっちだ壁山くん!」

「え?」

「上がれ風丸くん!」

 

 ヒロトが間に入り、指示を出すことでパスを繋げていく……

 

「風神の舞!」

 

 風丸が守備を躱して隙を作る。そして、豪炎寺にパスを出した。

 

「爆熱スクリュー!」

 

 豪炎寺の渾身の必殺技が炸裂する。だが……

 

「アイアンウォール!」

 

 テレスがシュートコースに立ちはだかり、鉄の壁を生み出す。ボールは壁に激突……数秒後、ボールは弾かれテレスの足元におさまった。

 

「アレが……アンデスの不落の要塞……!」

 

 そしてテレスがシュートを止めた時、ジ・エンパイアの空気が変わる。全員が前のめりな姿勢になる。

 

「上がれ!」

 

 そしてテレスからのロングパスが通った。速いパス回しで一気にイナズマジャパン陣内へと切り込んでくる。

 

「戻れ!体制を整えろ!」

「遅い!ドッグラン!」

 

 相手の必殺技、ドッグランによりオレの足元をボールがまるで生き物のように駆け回る。……っ!ダメだ、思うように身体が動かねぇ……反応できない……!

 

「悪い立向居!そっち行った!」

 

 そしてボールは10番に渡る。

 

「ヘルファイア!」

 

 急停止した10番はボールを軽く蹴り上げ、ボールの下を蹴る。ボールは炎と共に激しい回転を見せ、その隙に10番は一回転し、ボールをゴールに向かって蹴る。

 

「ムゲン・ザ・ハンドG5!」

 

 立向居のムゲン・ザ・ハンドG5がボールを止めようと放たれる。しかし、その手を砕いてシュートはゴールに刺さった。

 

『決まったぁ!先取点はジ・エンパイアだぁ!』

『これはイナズマジャパンにとって重い1点が入りましたね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ……未だ無失点を誇る相手に先取点を取られてしまった……これは大きいですよ……!」

 

 ようやくチームとしての歯車が噛み合い出した矢先の失点……しかも相手は守備が堅い。

 イナズマジャパンボールで試合が再開される。ボールは染岡が持った。

 

「染岡くん!」

 

 ヒロトのパスを要求する声……だが、聞こえなかったのかそのまま突っ込んでしまう。そして……

 

「ジグザグフレイム!」

 

 相手の必殺技の前に簡単に取られてしまった。素早いパス回しで、ボールは10番レオーネが持った。一気に切り込んでいく10番……そして、

 

「ヘルファイ――なにっ!?」

 

 ボールは外に出た。

 

「十六夜!大丈夫か?」

「ああ……」

 

 シュート体勢に入った10番……1回目に蹴った後、十六夜がダイビングヘッドで飛び込んで、ボールをクリアした。

 倒れた十六夜を風丸とヒロトが支えて起こす。

 

「その身体でどうやって……!?」

「ピンポイントで……読み切りゃいいだけの話だろーが」

「……なるほどな」

「はぁ……はぁ……わりぃけど……簡単には打たせねぇよ……」

 

 両膝をおさえ、既に肩で息をしている十六夜……ただ、目は死んでいなかった。

 

「やっぱり、油断は出来ないか……だが、その身体じゃ無理だ」

 

 十六夜の様子を見て、相手のキャプテンであるテレスが指示を出す。

 そのままジ・エンパイアのスローインで試合再開。ボールは10番が持った。

 

「いかせねぇぞ……!」

「突破する気はないさ」

「ッチ……!」

 

 大きく逆サイドへとボールを蹴った10番。拾ったのは11番だった。なるほどドリブルじゃなくてパスを主体か……普段と違って走りに行けない。仮に、ブロックで時間を稼がれても、今の十六夜じゃフォローが間に合わないと踏んでか……!

 

「ヘルファイア!」

 

 そして、11番がシュートを放つ。……まさか、11番もヘルファイアを打てるのか……!

 

「魔王・ザ・ハンド」

 

 立向居の後ろに何かが現れたと思ったら、すぐに消えてしまう。そして、シュートは立向居ごとゴールに入った。

 

『ジ・エンパイアの追加点!2-0と差を広げました!』

 

 ……0-2……攻略法を一切見出せていない状況で、2失点はかなり大きい……

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。

 

「……ダメだ、どんどん焦りが出ている」

「確かにそうですね……」

 

 失点を取り返さないといけない……その思いが強くなってしまい、再びまわりが見えていないプレーに戻ってしまう。……頼れる人間の不在と消耗……これ程までにチームに影響を与えてしまうのか。

 

「怖がってんのか!」

「えっ?」

 

 そう声をあげたのは飛鷹だった。その声の先には立向居が居る。

 

「失敗したって良い!お前の全部をぶつけるんだ!」

「失敗してもいい……俺の全部をぶつければ……」

 

 そんな中、ボールは11番に渡る。先読みした十六夜がブロックしに行ったが、すぐさま逆サイドにいる10番へとパスが通った。

 

「ヘルファイア!」

 

 3度目のヘルファイアがゴールを襲う。

 

「これが俺の全部だぁ!」

 

 そう言った立向居の後ろには紫色の魔神……否、魔王が現れた。

 

「魔王・ザ・ハンド!」

 

 魔王が両手でボールをキャッチする。

 

「やったでヤンス!」

「遂に必殺技が完成したんだね」

「凄い!凄いです!」

 

 ベンチに居た栗松、木暮、音無が喜びを見せる。フィールドでも壁山と綱海が喜びを分かち合っている。この土壇場で成長を見せた……だが、2失点した事実は変わらない。得点する手段がなければ……このまま敗北してしまう。

 

「へぇ……シュートを止めたか。面白い……お前ら!アレをやるぞ!」

 

 テレスが指示を出す。そしてボールを持っている豪炎寺を7人の選手が囲んだ。

 

「な、何ですかアレは!」

「まるでありじごく……」

 

 豪炎寺の足元には砂が……そしてパスコースを完全に塞がれ、ドリブルしか選択肢がなくなる。

 

「必殺タクティクス、アンデスのありじごく」

 

 足元の砂は一定方向に流れ、周りの選手も豪炎寺を囲うようにして自陣へと戻っていく。そして、ありじごくを抜けた先で、豪炎寺はシュートを放った。

 

「爆熱スクリュー!」

「アイアンウォール!」

 

 しかし、それをテレスによって止められる……せっかく、シュートを止めたのに、点を取る活路が見えない……

 

「一体、どうすれば……」

 

 前半終了は刻一刻と迫ってくるのだった。 




 ということで、十六夜くんは無茶して間に合ったけど、代償に体力切れを起こしています。十六夜くんの能力のせいで皆間に合うor皆間に合わないの2択で大きく割れていた印象ですが、正解は1人だけ間に合うでした。ゲーム風に言うと、十六夜くんのGPが0の状態から試合スタート(回復アイテム使用不可)です。体力が馬鹿みたいに多いと言っても、流石に無限ではないので……尽きた状態でのスタートですね。ただ、ゲームと違うのは動かなければ少しずつ回復する点でしょうか?



 ちなみに、不動と鬼道の推測は正しく、船を止めた工作員によって十六夜が海を渡ろうとしたことが伝わり、スタジアムの出入口ならびに島中に警備員が配置されていました。捕まれば適当な理由で試合終了まで拘束、監禁されましたね。だから、もし十六夜以外のメンバーも行こうとしていたら、間違いなく捕まっていましたね(十六夜以外に時を止められないのと、流石に上空から目立つ入り方はしないため)。全ては影山のせいです。


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VSジ・エンパイア ~ダイヤモンドの攻め~

 ピ、ピー!

 

 前半終了のホイッスルが鳴った。あれから前半が終了するまで、相手はボールを奪うと、こちらに渡す。そして、アンデスのありじごくによってボールを奪う……その繰り返しだった。こちらの攻撃が通用しない……そう思わせることが狙いなんだろう。

 

「どうすればいいんだよ、あんなの!」

「アンデスのありじごくは、7人の選手がドリブルしている選手を囲って、テレスの正面へと誘導する必殺タクティクス……」

「ああ……テレスの圧倒的な守備力、そしてアイアンウォールがあるからこそ出来る戦術……」

 

 イラだつ染岡に対し、ヒロトと豪炎寺が答える。

 確かに、並のディフェンダーでは、あんなことをしても脅威にならない。だが、相手は今大会でも屈指のディフェンダーであるテレス……アイツだからこそ成立する必殺タクティクスだ。

 

「十六夜……お前、後半は大丈夫か?」

「……舐めプしている間は……な」

 

 豪炎寺が心配するが……いつまで持つか。一応、微々たるものだが少し回復できた……が、この舐めプもいつまで続くか分からない。しかも、このまま後半を迎えれば敗北は濃厚。何かを起こさなければ、勝ち目はない。

 だが、問題を抱えているのはオレだけじゃない。

 

「……風丸。足、痛めただろ」

「……っ!」

「「「え……?」」」

「前半の途中から庇うように走っていた。無理して悪化されては困る」

「……ははっ、お前にはバレてたってわけか……木暮、すまない。交代だ」

 

 風丸が走れなくなっている……あの必殺タクティクスを破るには、アイツら以上のスピードを持つ選手が突破するのが一番だ……だが、それも風丸を交代する以上不可能だろう。風丸以外に現メンバーでそれが可能な選手はいない。

 

「……やるしかない……か」

「十六夜……?」

「2回だ。2回だけチャンスをくれ……オレが点を取る」

「何を言ってるんだ十六夜!いつものお前ならともかく、今のお前は立っているのがやっとじゃねぇか!」

「そうですよ!今の十六夜さんじゃ絶対に無理ですって!」

「……勝算はあるのか?」

「豪炎寺!」

「豪炎寺さん!」

「ああ」

「……そうか……なら任せる。いいだろ?染岡、虎丸」

「……分かったよ。2回な」

「豪炎寺さんが言うなら……」

「お前らには、アンデスのありじごくの攻略法を見つけて欲しい」

「え?それって……どう言う……」

「頼んだぞ」

 

 そう言ってベンチに座ろうとする……ずっと立ちっぱなしでそろそろ限界だ。

 

「十六夜、そこにうつ伏せになれ」

「いきなり何を……」

「少しでも回復させる」

「……なるほど。悪い……頼むわ」

 

 八神の行動の意図を理解し、指示に従うことにする。

 

「ペラー、アイシングをしたい。氷を」

『お任せあれ』

 

 何故か、ペラーが八神の指示で出て来たが今更だろう。ついでに言うと、手には氷の塊を持っていて……

 

「冷たっ!?」

「じっとしてろ。ペラー、タオルに包んでおくといい」

『ほいほい』

「とりあえず、慣れないがやってみる」

 

 そう言って、足のマッサージをしてくれる。

 

「……ちょっといいか」

「何だ?十六夜」

 

 それを受けながら彼女にあることを頼むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムが終わり、ポジションにつく選手たち。風丸と木暮を交代し、木暮はDFに、十六夜をMFにポジション変更をした。

 

「十六夜さん……どうやって点を取るつもりなんでしょう?」

「えぇ。ですが、彼の言った意味が分かりませんね……」

「アンデスのありじごくの攻略法を見つけて欲しい……攻略できたから点が取れるんじゃないの……?」

「何にせよ、十六夜くんはどうするつもりなんでしょう?」

 

 ベンチに漂う不信感と不安……私はそれらを無視して十六夜を見る。ハーフタイムの短い時間の中で、私に出来る最大限の回復をさせたが……あそこまでのレベルの疲労はほんの少し軽くなったが精々か……

 

『あっとイナズマジャパン!風丸を下げて木暮を投入するようです!』

『そして十六夜選手がポジションをあげましたか……何かするつもりなんでしょうか?』

 

 ピーー!

 

 ジ・エンパイアボールで後半戦が始まった。攻め上がってくる相手選手。彼らに対して……

 

「悪いけど、時間ねぇから」

 

 素早いチェックで詰めていき、そのままボールを奪い去った十六夜。

 

「面白い、お前が来るかアヤト!」

 

 そして、そのまま1人で突っ込んでいく。1回目のチャンスを使ったということだろう。

 

「その挑発……乗らせてもらうぜ!テレス!」

「アンデスのありじごく!」

 

 そんな十六夜を前に必殺タクティクスが発動する。7人の選手によって囲まれ、足下には流砂が表れる。

 

『出たぁ!ジ・エンパイアの必殺タクティクス、アンデスのありじごく!イナズマジャパン!後半開始と同時に十六夜が嵌まってしまったぞ!』

 

 しかし、そんなことお構いなしなのか、そのまま真っ直ぐ前へ……っ!

 

「そういうことか……!」

 

 ベンチに居た私は思わず立ち上がる。

 

「どうしたんですか?」

「あのバカ!アンデスのありじごくを破るつもりなんて更々ない!」

「「「えぇっ!?」」」

「じゃ、じゃあ、どうやって……」

 

 周りを見ずに前へと進んでいく。

 

「おいおい、バカ正直に突っ込んでも破れないぜ?その必殺タクティクスは」

「別に破る必要ねぇだろ」

 

 そのまま7人の選手の間を抜け、テレスの正面に出る。

 

「勝負だテレス・トルーエ!お前をぶち抜いて、シュートを決めてやる!」

「そういうことかよ……いいぜ!来いよイザヨイアヤト!ここでお前を止めてやる!」

 

 そして、テレスと1対1になる十六夜……

 

「ま、まさか……あのテレスと1対1になるのが目的ですか!?」

「そうなるな。あの必殺タクティクスは、ボールを持っている選手を一番後ろに居るテレスの前へと誘導する戦術」

「そうか!彼さえ抜けば、キーパーと1対1になるのね!」

「でも、それが出来ないから皆苦労して……」

「だからそれをやるつもりなんだ……テレスとの1対1に勝って、シュートを打って、ゴールを決める」

 

 相手の土俵に乗った上で勝ちに行く……だからか。自分でも無謀な策だと思っているから、必殺タクティクスの攻略法を見つけて欲しいって言ったのはそういうことか。

 

『激しい応酬です!突破しようと試みる十六夜をテレスががっちりブロックしています!』

『凄いですね……テレス選手が優勢に見えますが、十六夜選手もまだボールを奪われていません。どちらが勝利を掴むのか……』

 

 テクニックで翻弄しようにも抜くことは出来ず、パワー勝負に持ち込んでも突破出来ない。

 

「どうしたアヤト!あの時の方が厄介だったぜ?」

「言ってろ!絶対突破してやるからよ!」

 

 フィールド上での1対1……誰も手が出せないような接戦になっている。だが、誰かが割って入って2対1にしなければ、勝負に決着はつかない状況……と、ここまでならエドガーの時と同じように見える。だが、接戦に見えたのは最初だけで、十六夜がどんどん追い込まれている。このままじゃ確実に負けてしまうのは誰が見ても明らか……

 

「何で誰もフォローに行かないんだろう?」

「簡単な話だ。……十六夜のヤツが邪魔するなって空気を出している。チャンスをくれって言っていたし、そのことに気付いているんだろうな」

「でも……いつもの彼ならともかく、今の彼じゃ……」

 

 周りも躊躇している。フォローに行きたい……いや、行くべきだが、下手に手を出せない。チャンスをあげたが、どうしたらいいものか分からない。この場には鬼道や不動と言った、十六夜のプレーを汲み取り指示をしてくれる選手が居ない。

 どう動けばいいのか分からない選手たちをよそに十六夜はサイドへと追い込まれていく。

 

「「……っ!」」

 

 そんな中、何かに気付いたヒロトと豪炎寺があたりを見渡す。そして、2人は顔を見合わせ頷くとそれぞれ走り出した。

 

「十六夜くん!こっちだ!」

 

 ヒロトが声を出しながら十六夜とテレスの居るサイドの方のギリギリ……ライン際を走る。

 

「はぁ……今更フォローなんて……」

 

 その声を聞いたテレスがヒロトの方を向いた瞬間、何かに気付くようにして慌てて逆サイドに目を向ける。

 

「……っ!10番だ!」

「一手遅い!」

 

 そして、何かに気付いたテレスが声を出すと同時に、十六夜は逆サイドへと大きくパスをあげる。そこにはフリーの豪炎寺が走り込んでいた。

 

「爆熱スクリュー!」

 

 受け取った豪炎寺は空へと打ち上げ、彼のシュートが炸裂する。

 

「そういうことですか!十六夜くんの目的はテレスに1対1で勝つことじゃない!ジ・エンパイアの選手たちの注目を自分に向けさせること!」

「シュートコースにテレスは居ません!」

「これは決まったでヤンス!」

 

 ベンチが盛り上がる中、相手のキーパーはシュートの正面にまわると……

 

「任せろ!ミリオン・ハンズ!」

 

 手のひらの壁……というべきか、その壁でシュートを弾き返した。ボールは外に出る。

 

「まさか、全部演技とはな。してやられたぜ」

「なわけねぇよ。本気でお前を突破する気だったっての……最初は」

「途中からお前は執拗にサイドから攻めようとした……俺を引き寄せることが目的だったんだろ?周りから見れば、俺にサイドへと追い込まれた構図。正面突破は出来ず小細工が通じずずるずると……だが、実際は違った。最初からそれが狙いだった。俺たちのチームの油断を誘うことと俺の目を他に向けさせないことが狙い……とんだペテン師だぜ」

「嬉しい評価だな。……お前のディフェンスが信頼されているから、オレに突破できるわけがない。その油断でお前の仲間が何もしなかったのは想定通りだが……肝心のお前を突破できるビジョンは見えなかった。だから、合理的な選択を採らせてもらったが……たく。お前さえいなければ、点が取れると思ったが……見込みが甘かったな」

「それは甘過ぎだろ。うちのキーパーも選ばれた精鋭……舐めんなよ」

「ハッ、そっちこそうちのエースストライカー舐めんな。……それに、次はオレが点を取る。覚悟しておけ」

「言ってろ。何があっても破らせねぇぜ?」

 

 そのまま十六夜とテレスは別れる。代わりに十六夜のもとにやってきたのは豪炎寺とヒロトだった。

 

「ナイス(デコイ)だヒロト。それにナイスシュート、豪炎寺」

「いいや、それほどでもないよ」

「すまない、十六夜。絶好のシュートチャンスを……」

「気にすんなよ。想定よりもあのキーパーが手強かっただけだろ?」

「……なるほどね。テレスを出し抜いても、あのキーパーだけでも相当強固なようだね」

「でしたら豪炎寺さん!ヒロトさん!俺たちの新必殺技の出番ですよ!」

「ああ、そうなんだが……多分、次は通用しない」

「そうだね……テレスと十六夜くんの1対1に皆が注目して、その死角をついて豪炎寺くんがフリーでシュートを撃てる位置に動けた」

「それにヒロトが一瞬とは言えテレスの注意を引いてくれたのもデカい。アレで十六夜がテレスより早く俺の位置を確認する隙が生まれた……だが」

「……だがって……もしかして、次は……」

「間違いなく、他の選手がケアしにくるだろうな。そう簡単にフリーにはさせてくれない」

「うん。それに3人も集まれば嫌でもバレるしね……少なくとも、この方法じゃダメだってことだよ」

「ああ……って、聞いてるか?十六夜」

 

 顔を上げず、うつむいたままの十六夜……

 

「ああ、わりぃ……何も聞いてなかった……」

「……今のでかなり消耗しただろ。いけるのか?」

「ははっ……もう1回だけ頼むわ……」

 

 十六夜がふらふらになりながら自陣へと戻っていく。誰の目から見ても限界だと分かるその姿。たった1回の全力のプレーで回復させた体力を使い果たしたようだ。

 悔やまれる……もっと技術があればもっと動けただろうのに……付け焼き刃ではやはりダメか……

 

「体力の限界……交代させるべきでしょう」

「ですね……」

「ダメだ」

「でも、このままじゃ……」

「アイツは2回チャンスをくれと言った。後1回、チャンスが残ってる」

「ですが……」

 

 アイツは2回やるまで、何があっても交代しないでくれと言ってきた。意地でも交代させないでくれと。いつになく真剣な、必死な表情で頼んできて……そんな目で頼まれたら断れないことぐらい知ってるだろうに。

 

「いいんじゃないか?俺は信じるぜ。それに、十六夜を下げたところで状況が好転するとは思えないしな。だったら、アイツが何か起こすことに賭けた方が良い」

「……それに、今の彼はお父さんも下げないと思う」

「そうなの?」

「うん。何というか……絶対下げるな、ここに居させろ、って訴えかけてる気がする」

「ほんと、死んでも下げるなって言っているみたいだ。……栗松、いつでも出られるようアップだけしておいてくれ」

「わ、分かったでヤンス!」

 

 そして、イナズマジャパンのスローインで試合再開。

 

「遊びは終わりだ!上がれ!」

 

 ジ・エンパイアがトドメを刺そうと上がっていく。……さっきまでの舐めプをやめたようだ。ボールは相手に取られてしまう。

 

「クソ……ブロックしにいかねぇと……!」

「十六夜さんはそこに居て欲しいッス!」

「壁山……?」

 

 ブロックしに行こうとする十六夜を止めたのは壁山だった。

 

「俺、信じているッス!十六夜さんなら必ず何とかしてくれるって!だから、十六夜さんは体力を温存して欲しいッス!ゴールは俺が必ず守るッス!」

 

 不安な様子を感じさせない。今までに聞いたことのないような自信に溢れた宣言。

 

「ハッ、言うじゃねぇか……悪いけど、頼んだわ」

 

 その言葉を受け、十六夜がサイドのライン際まで歩いて行き膝をつく。邪魔にならないような位置に移動した……どうやら、アイツは壁山の言葉を信じ、動く気はない。回復させることに全力を注ぐようだ。

 

「言うじゃないか、壁山の奴……」

「壁山くん……!」

「ファイトよ!壁山くん!」

「行くでヤンス!」

 

 壁山がボールを持っている相手選手に向かっていく。

 

「俺たちを止めようってか?」

「絶対止めるッス!ザ・マウンテン!」

「なに!?」

 

 壁山が必殺技でボールを奪う。そして……

 

「ヒロトさん!」

 

 ヒロトへのパス……だが、その前にカットされてしまう。

 

「アイツだけじゃねぇぞ!」

 

 カットした選手にぶつかりに行ったのは綱海だった。

 

「綱海さん!」

「壁山!お前の熱い思いガツンと伝わったぜ!ただなぁ、俺がじゃねぇ!俺たちで守るんだ!イナズマジャパン(俺たち)の意地、舐めんじゃねぇぞ!」

 

 強引に奪ってパスを出す……が、パスを出した先で奪われる。

 

「旋風陣!」

「木暮くん!」

 

 その選手にいち早くブロックしに行ったのは木暮。そのまま、必殺技でボールを奪うことに成功する。

 

「へっ!十六夜さんがいなくても俺たちだけで守れるんだよ!お前らの攻撃なんか俺たちだけで十分なんだよ!」

 

 そして、パスを出す……が、またしても奪われてしまう。

 

「真空魔!」

「飛鷹!」

「俺だってイナズマジャパンの一員だ!これが今の俺に出来る全力だ!」

「ブレードアタック!」

「土方!」

「へっ、いいなその熱!いい熱さじゃないか!俺も全力で手を貸すぞ!」

 

 飛鷹、土方と奪ってパスを出し攻め上がるも、シュートまで持ち込めない。

 

「すごい気迫……皆、必死に守ってる……!」

「十六夜くんを休ませるために……十六夜くんなら何とかしてくれると信じて……!」

「十六夜のヤツはチームに円堂とはまた違った影響を与えるな……」

 

 ベンチまで伝わってくる気迫。前半には……いや、今までに感じたことがないような熱……自分たちで絶対に守り抜く。誰かがじゃなくて、自分が守る。そして、守り抜けば、十六夜なら何とかしてくれると信じてプレーしている。

 

「ヘルファイア!」

「魔王・ザ・ハンド!」

「立向居くん!」

「イナズマジャパンのキーパーは俺だ!もう点はやらない!円堂さんが居ないこのゴールをこれ以上やるわけには行かないんだ!」

 

 その熱がキーパーに伝わり、そして……

 

「ゴールは任せてください!代わりに攻撃はお願いします!」

「ああ!行くぞ、お前たち。俺たちは要塞攻略だ」

「はっ!十六夜抜きでも点を取ってやるよ!」

「そうですよ!十六夜さんが復活しなくても俺たちだけで決めてみせます!」

「うん!行くよ、皆!」

「「「おう!」」」

 

 その奮闘は前線のメンバーにも伝わっていく。相手の猛攻……そのすべてを十六夜抜きでも完璧に防いでる。司令塔が居なくても、守護神が居なくても、得点を与えない。そして、前線のメンバ-も、アンデスのありじごくを、相手のディフェンスを攻略しようと何度も挑み続ける。

 

「……残念だな」

「テレス?」

「惜しいチームだ。体力切れを起こしているエース(アヤト)を信じ、俺たちが防げばエース(アヤト)が何とかしてくれると信じる守備陣とエース(アヤト)が居なくても点を取りに行こうとする攻撃陣。確かに1人1人は脅威じゃねぇ……が、何度折ってもそれでも向かってくる精神。……ほんと、こいつらが万全な時に戦いたかった」

「お前がそんなことを言うなんて珍しいな」

「……だが、これは公式の試合だ。万全な状態に持って行けなかったアイツらが悪い。……そろそろ折りに行くぞ。無駄だと見せつけてやる」

「ああ、そうだな」

 

 そして、十六夜が動かなくなって何分か。戦況が動き出す。

 

「おいお前ら!俺に渡せ!」

 

 テレスがボールを要求し、そのままドリブルを始めた。

 

「なっ……!?」

「クソッ……!」

 

 そして、そのまま宇都宮と染岡のブロックを躱す。

 

「ディフェンスだけじゃないんですか!?」

「す、凄いテクニックです!」

「思い出した……」

 

 そのままテレスは単独で土方と飛鷹を躱す。そんな中、木野が何かを思い出したようだった。

 

「何を思い出したんですか?」

「うん。十六夜くんがパーティーをサボった時、テレスくんもその場に居たの。確かに、彼のドリブルの技術も他の選手には少し劣ってたけど、全然凄かったなって……」

「そ、そんな!?ディフェンスでさえ厄介なのに、ボールを持たせたら止められないってことでヤンスか!?」

 

 そして、壁山、綱海、木暮と言ったディフェンス陣も抜き去った。

 

「おいおいどうしたイナズマジャパン!この程度か!」

「たく……お前が出て来たらオレも動かざるを得ないじゃねぇか」

 

 キーパーである立向居と1対1……そこに割り込んだのは十六夜だった。

 

「十六夜さん!戻っていたでヤンスか!」

「凄い……さっきまで動けなかったのに……」

「テレスがFW陣を抜いた瞬間には動いていたな……おそらく、止められなくなることが分かっていたんだろう」

 

 ギリギリ回復が間に合ったか、無理やり動いたか……

 

「来たか……やっぱお前を倒してこそだよな!アヤト!」

「ハッ!このシチュエーションじゃ負ける気は微塵もねぇよ!」

 

 さっきと立場逆転、今度は攻めるテレスを十六夜がブロックしている。凄まじい迫力がここまで伝わってくる。

 

「テレスのフェイントのキレはさっきまでと段違いです!ですが、流石は十六夜くん!しっかり対応できています!」

「流石だな。あのブロックを躱すのは相当苦労するはずだ」

「いや、あくまで防いでいるだけ……まだボールを奪うことが出来ていない……!」

「そ、そう言えば……!いくら体力が限界とはいえ……」

「十六夜くんがここまで苦戦するのって……やっぱり、世界トップレベルは凄い……!」

 

 相手の本職はDF……DFであるはずの相手からボールを奪えていない。エドガーもだったが、世界トップレベルともなれば、自分の専門外もある程度は出来るってことか……

 

「やっぱ、堅いな!」

「それほどでも!」

 

 ゴール前での戦い……テレスからボールは奪えてないが、テレスも攻めきれない。一進一退の攻防は……

 

「ヒロト!そこだ!」

「うん、分かってる!」

 

 テレスが出したパス……その先では10番がシュート体勢に入っていた。だが、そこに走り込んだのはヒロト。足を伸ばしてパスをカットし、ボールを外に出した。

 

「……ッチ、やっぱりワザと空けていたんだな」

「これ以上1対1に拘らないと思ってな。出しやすいようにパスコースを空けておいた」

「まぁいい。どうせ、俺は必殺シュートなんて持ってねぇ。撃ったところでテメェのとこのキーパーからゴールは奪えねぇっての」

「それで持っていたら厄介過ぎだっての。絶対フィニッシャーは別のヤツだと思ったから防げたってのに」

「まぁいい。……来るんだろ?次も止めてやるから覚悟しろ」

「ははっ……次は決める」

 

 そう言い残してテレスは元々のポジションまで下がる。

 

「助かったヒロト。よく気付いたな」

「まぁね、十六夜くんが何かを探しているようだったから」

「誰かそこを押さえてくれって思っていたけど、ナイスタイミング。マジで助かったわ」

「で、次はボールくれってことでいいかな?」

「ああ、よく分かったな」

「鬼道くん程じゃないけど、かなり掴めて来たからね。もっとも、君を扱うことは出来ないだろうけど」

「じゃあ、頼むわ……そろそろ休ませてくれたお前らへの礼をしないとな」

 

 相手のスローインで試合再開。ボールは……

 

「そこだろ」

「なっ……!?」

 

 11番がトラップした瞬間に突っ込んでボールをかっ攫う。そして、反転し単独で敵陣へと突っ込んでいく。

 

「ここは通させない!」

「るっせぇ、邪魔だ。道開けろ」

「嘘だろっ……!?」

 

 ブロックに来た10番を軽々突破する。

 

「アンデスのありじごく!」

 

 そして、必殺タクティクス、アンデスのありじごくが発動する。

 

『あぁっと!これは後半最初と同じ局面!十六夜VSテレス!今回はどちらに軍配が上がるのか!』

 

 それを突破し、テレスの正面に躍り出た。

 

「さぁ、第三ラウンドと行こうぜ!」

「ああ、やろうじゃねぇか!」

 

 再び十六夜とテレスの攻防戦が始まる……

 

「ダメです……!他の選手が、こちらの選手をしっかりマークしています……!」

 

 やはりと言うべきか、パスが貰える位置に動くこちらと、それを阻止する相手……先ほどのようにはいかないか。

 

「テレス、お前を抜くことは万全であっても厳しいだろうな……すげぇディフェンダーだよ、お前は」

「そうかよ……じゃあ、どうするつもりなんだ?大人しくボールを渡してくれるってか?」

「ははっ……笑える冗談だな。……正直、もう疲れて考えたくもねぇんだわ……だから、力業で突破する」

「なるほど……な。ならこっちも力業で防がせてもらう」

 

 少しテレスと距離を置いた十六夜はシュート体勢に入った。

 

「オーバーサイクロンP!」

「アイアンウォール!」

 

 そして、十六夜渾身の必殺技がテレスのアイアンウォールと激突する。だが、十六夜が消耗し過ぎているためか、その必殺技は前に見たものより弱々しい。

 

「ハッ、これじゃあアイアンウォールは破れないぜ?」

「昔、円堂が言っていた……」

「ああ?」

 

 十六夜はアイアンウォールとぶつかっているシュートに向かって走る。

 

「鉄壁を破るにはダイヤモンドの攻めをすればいいって……」

「お前……っ!?まさか!」

「ムーンフォースV3!」

 

 そして、止められているシュートに、必殺技を叩き込む。

 

「その時は馬鹿だろって思った。意味不明だってな。……でも、今ならなんとなく分かる気がする。アイギス・ペンギンV2!からのミサイルペンギン!」

 

 そして、アイギス・ペンギンの障壁をミサイルペンギンで突撃するペンギンたちが支える。自由に動かせる障壁を足場にして、次々と必殺技を放つ。

 

「真皇帝ペンギンO!オーバーヘッドペンギンV3!スナイプ・ザ・ペンギン!ヴァルターペンギン!皇帝ペンギン1号!皇帝ペンギンX!」

「くっ……!」

 

 何度も何度もアイアンウォールで止められているボールに蹴りを叩き込んでいく。

 

「何かちゃっかり新必殺技混ざってませんでしたか!?」

「うるさいぞ目金」

「ムーンフォースV3!真皇帝ペンギンO!オーバーヘッドペンギンV3!スナイプ・ザ・ペンギン!ヴァルターペンギン!皇帝ペンギン1号!皇帝ペンギンX!」

 

 必殺技の度に増えていくペンギン……その数は10を越え100を越えた。……どんどん増えていくペンギンたち……そんな大量のペンギンがアイアンウォールを砕くため突撃していく。

 

「テメ……!そんなことしても無駄だ!さっさと諦めろ、アヤト!お前の身体は限界なはずだ!」

「人の限界勝手に決めてんじゃねぇよ!限界なんか知らねぇ!そんな限界(カベ)ぶっ壊さなきゃ決められねぇ!ここで決めなきゃ無理やりこの試合に出た(オレがここにいる)意味ねぇだろうが!」

「だったら、挫いてやるよ!今のお前じゃこの壁は破れない!この壁は誰にも破らせねぇぞ!」

 

 テレスが再度踏ん張り力を入れる。破れる気配のない鉄壁相手に更に必殺技を放ち続ける十六夜。体力の限界なんてとうに超えているだろう。身体も悲鳴を上げているだろう。だが、それでも……

 

「この鉄壁(カベ)をぶっ壊すまで攻めるのをやめねぇ!撃つのをやめねぇ!」

 

 それでも十六夜綾人は叫ぶ。崩れる気配が未だに見えなくとも、決して止まろうとしない。止めようとしない。

 アイツは覚悟を決めた……だったら、

 

「決めろ十六夜!そんな壁なんてぶっ壊せ!」

 

 せめて、今出来る精一杯の応援をする。ベンチでただ見ているだけなんて、自分自身が許さない。

 

「八神さん……そうね。頑張って!十六夜くん!」

「そうですよ!ぶちかましちゃってください!十六夜先輩!」

「負けないで!十六夜くん!」

「そんな壁ぶっ壊せ!十六夜!」

「そうでヤンス!決めてくださいでヤンス!」

「ここまで来たら壊してください!」

 

 ベンチにいるメンバーも声を出し始める。

 

「十六夜さんはそんな壁に負けないッス!」

「おうともよ!ぶっ壊せ!十六夜!」

「行けー!十六夜さん!」

 

 フィールドのメンバーも声を出す。イナズマジャパンのメンバーが総出で声を出し、その声を受け十六夜は……

 

「ハッ!いいねいいなおい!盛り上がってんなぁコラァ!上等だテメェら!もっともっとぶち上げて行くぜ!」

 

 攻撃の激しさを増していた。苦しいはずなのに口角を上げ獰猛な笑みを浮かべて苦しみを隠し、限界を迎えたはずなのに一層ペースを上げ限界を感じさせない。そして、そんな十六夜に呼応するように、ペンギンたちが流星のように壁に次々と突撃していく。

 

「何度も言わせんじゃねぇ!こんなことをしても無駄だって言ってん……なっ!?」

 

 諦めの悪い十六夜の猛攻を前に、ついにアイアンウォールにヒビが入った。生み出された亀裂は徐々に広がっていき……

 

「喰らいやがれ!これがオレのダイヤモンドの攻めだあああああああぁぁぁっ!」

「ぐあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして、そのまま砕け散った。吹き飛ばされるテレスとシュートと共に突撃する無数のペンギン。

 

「テレス!?み、ミリオン・ハン――っ!?」

 

 すかさずキーパーが必殺技を発動しようとするも、発動が間に合わない。大量のペンギンがボールをキーパーごとゴールにねじ込んだ。

 

『ご、ゴール!衝撃のゴール!な、なんとイナズマジャパン十六夜綾人!テレス・トルーエの必殺技アイアンウォールを正面から突き破ってのゴールです!アンデスの不落の要塞を正面から打ち破りましたぁ!こ、これは如何でしょう?』

『そうですね……あのテレス選手を正面から打ち破る十六夜選手。小細工抜きの真っ向勝負……しかし、まさかそんな力業で破るとは……』

 

 予選では無失点を誇り、この試合でもその実力を遺憾なく発揮していたジ・エンパイアから1点を奪い取った十六夜のプレー。

 

「……(グッ)」

 

 フィールドでは、十六夜が右手のグッと握り、そのまま右手を空高く掲げる。

 

「すっげぇなおい!マジでやりやがった!」

「そうですよ!何てゴール決めてるんですか!」

「ナイスゴールだ、十六夜」

「流石の一言に尽きるよ、十六夜くん」

 

 十六夜の周りにチームメイトが集まり、声を掛ける。このゴールに、彼らを応援する観客は悲鳴を、日本を応援する観客は歓喜の声をあげる。

 

「凄いです!本当に点を取りましたよ!」

「えぇ!流石は十六夜くんね!」

「全くだ。アイツなら何とかしてくれる」

「うん……!凄いね、彼って」

「そうでヤンス!強力なシュートも打てる最強のディフェンダーでヤンス!」

「最近までディフェンダーじゃなかった気がしますが関係ありません!凄まじいシュートですよ!」

「あの言葉を実践するとか……流石だな、十六夜」

 

 有言実行……本当に1点を取ってきた。あんな状態で点をかっ攫うとか……

 

「……ハッ、今のは効いたぜ、アヤト」

 

 チームメイトが自身のポジションへと戻ろうとする中、吹き飛ばされたテレスが十六夜の下へとやってくる。

 

「……わりぃ、やり過ぎた。大丈夫か、テレス」

「全く、お前は無茶苦茶なヤツだな。こんなゴリ押しで破ろうとするヤツなんて見たことねぇぞ。そして、そのゴリ押しで破ったヤツもな。……ホント、どれだけ諦めが悪いバカなんだよ」

「ははっ……バカ……か。アイツと同じで嬉しいような……ムカつくような……いや嬉しくはねぇな……マジでムカつく……ほんと、ムカつく。……つぅか、チームのために、こんなクソみてぇな自己犠牲するなんて……らしくねぇんだよマジで」

「……まぁ、なんだ。やりあって分かるが、テメェにはチームのためになんて向いてねぇ。そんな綺麗事より自分のためってエゴを剥き出しにする方がよっぽど、お前らしいんだろ。……今回はお仲間がテメェのために頑張ったから、お仲間がテメェに精一杯の声援(エール)を贈ったから。その頑張り、期待、信頼、思いに応えたかったんだろ?柄にもなくな」

「うっせぇ……見透かしたように……言うんじゃねぇよ」

「そりゃ失敬。さっさと試合再開(リスタート)するぞ。まだ終わっちゃいねぇ」

「ああ、そうだ……」

 

 ドサッ

 

 歩き出そうとした瞬間、崩れ落ち倒れ込む十六夜。

 

「……っ!おい!アヤト!しっかりしろ!」

 

 即座にテレスが近寄り声を掛ける。

 1-2と希望が見えた矢先、十六夜が倒れ込んだまま動けなくなってしまった。




 な、何か皆の声援で力を貰って限界を越える正統派主人公ムーブしているんだけど……?
 もしかして、今回最終回だったか?十六夜くん死ぬのか?次回から主人公交代か?



 という色々は置いておいて、ちなみに言っておくと、シュートを撃って着地からテレスとの話のキリがつくまで、十六夜くんは一歩も動いてません。文字通り立っているのがやっとでしたね。


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VSジ・エンパイア ~アンデスのありじごく~

 十六夜がヒロトと豪炎寺の肩を借りてベンチに運ばれてくる。

 辛うじてテレスが支えてくれたおかげで地面に伏すことはなかったが、ガス欠を起こしている。一歩も動けない状態に陥ってしまった。

 

「情けねぇな……動けねぇとか。……わりぃ……後、頼む」

「は、はいでヤンス!」

 

 代わりに入ったのは栗松……飛鷹をMFにあげ、DFに栗松を入れた。

 

「それとヒロト……」

「うん。しっかり受け取ったよ」

「お前のゴール、無駄にはしない」

 

 キャプテンマークを受け取ったヒロトと、豪炎寺がフィールドに戻っていく。

 

「ほら、ドリンクとタオルだ」

「…………」

 

 ベンチに座った十六夜……その表情は何処か悔しそうだった。……いや、当然か。試合の途中で下がる嵌めになり、しかも、まだ勝ち越せていない……最後まで立てなかった。最後まで戦うことが出来なかった。覚悟していても悔しさはあるのだろう。

 だが……これは聞いておかないといけない。

 

「…………なぁ、十六夜。お前が円堂たちと試合をしたことは知っている。だがあれ程の消耗度合いは流石におかしいだろ。一体、何をしていたんだ……?」

 

 来たときには既に体力が底をつきかけていた。前半ほとんど動けなかったのがその証拠。そして……後半は少し息を吹き返したものの、こうしてベンチに下がらないといけない状況になってしまっている。

 試合が再開している中、タオルを頭に被った十六夜が質問に答え、静かに言葉を紡いでいく。

 

「影山の策に嵌められた……オレも、円堂たちも」

「嵌められたって……どういうことだ?」

「影山が姿を見せたのはわざとだったんだ……アイツが姿を見せれば、必ず鬼道が食いつくと知っていた」

「じゃあ、狙いは……お兄ちゃんだったんですか!?」

「恐らくそうだろうが、それじゃ足りない。……最初からオレを含めた5人が狙いだったんだ。オルフェウスの選手を6人になるように怪我させたのは、オレたち5人が入れば丁度11人になるから……イタリア代表の座が本当の狙いじゃない。本当の狙いは――」

 

 ――オレたち、イナズマジャパンの敗北だ。そう怒気を込めて言った。

 確かにそうだ、監督たちが居ないのも偶然じゃない。その上、キャプテン、副キャプテン、司令塔と言った主要メンバーを欠けさせる……全員揃っていたとしても、確実に勝利できるような相手じゃない以上、これだけ削ればイナズマジャパンの敗北は濃厚だろう。

 

「でも、十六夜くんはギリギリ間に合ったんだよね?試合を抜け出してきたの?」

「いいや……試合は14時過ぎに終わったんだ」

「試合開始1時間前ですか……でも、1時間もあれば間に合ったんじゃ……」

「ああ、普通はな。……立て続けに妨害されたんだ、オレたちは。まずグラウンドから出られないように謎の集団が現れた。それを突破しバスで港に向かおうとすれば、道中交通事故を起こしていて渋滞が出来て足止め。それを乗り越え船にたどり着けば、ここに着くはずの船がエンジントラブルで替えの船もない状況……」

「徹底的に、お前らをアルゼンチン戦に参戦させないようにしているな……」

「あれ……?」

「どうしたの?冬花さん」

「それじゃあ、十六夜くんは……どうやってここにたどり着いたんですか?」

「……必殺技だよ。ペンギンたちに運んでもらった……それに加えて、イビルズタイムで時間を止めてここまでたどり着いた」

「まさか……!お前、イビルズタイムを長時間使用したのか……!だからガス欠寸前に……」

「どういうことですか?」

「十六夜の使うイビルズタイム……超がつくほど強力な反面、実は体力の消費が著しいんだ」

「そんな技だったのか!?」

 

 詳しい理由は分からないが、イビルズタイムの体力の消費の仕方は()()だ。消費の公式は基本値×時間×運動量と言っていたか。ただその基本値と言うのが、体力の割合になるらしく……例えば、MAXの体力が100のヤツは10に対し、1000のヤツだと100になる。体力をつけたとしても、その分消費量も上がってしまうというよく分からない技らしい。……こいつの話と状態を察するに、会場には体力が尽きた状態で来たと考えていい。

 

「コイツは、この技を強すぎることを理由に封印している。だが実際、こんな技は連発出来ないだろう」

 

 試合中に使う状況としては、アフロディみたく、相手も時を操れてイビルズタイムを使って互角になる時くらいだろう。他は十六夜の裁量だが……とにかく、そんな体力消費の激しい技の長時間使用に直前の試合……そしてこの試合。さっきまで戦えていたのが不思議なくらいだ。

 

「……そういや、監督が居ない理由を教えてくれ」

「大会本部に呼び出されたんですよ。理由は分かりませんが」

「そうか……」

 

 そして、十六夜は静かになる。話疲れた……ということだろうか。そのまま十六夜は、タオルを被りながら真剣な目つきでテレスの動きを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合は徐々に押されていった。十六夜の得点で1点を返すも、あの破り方は十六夜だから出来たこと……他のメンバーの参考にはならず、時間だけが過ぎていった。立向居をはじめとした守備陣の奮闘により、失点は免れているも攻略のきっかけがない。

 

「……こんな時……円堂君が居てくれたら……」

 

 精神的支柱の不在。突破口が見つからず、いいようにやられているだけ。十六夜の得点、及びその前のことで指揮は上がっていたものの、あの得点はチームで取ったというよりは、たった1人でこじ開けたのが大きい。そして、指揮が上がるきっかけになった男も今ではベンチに下がってしまっている。

 勝つための希望が見えない……時間が経つにつれ、皆の指揮が下がっている。せっかく上がった指揮も下がってしまっていた。

 

「十六夜……声を掛けなくていいのか?」

「…………」

 

 あれから一言も喋っていない十六夜……おそらく、コイツの頭の中では……

 

「自分が動く必要はない……ということか?」

「…………」

 

 言葉に無反応だった。既にハーフタイム中にヒントは示していたし、私にも2回のチャンスを貰うまでは絶対交代するな……それだけを伝えてきた。その後、どうなるかは薄々予想できていたのだろう。いや、流石に予想できないわけがないか。この試合を最後まで戦うことができない可能性を考慮し、自分が抜けた後は他の面々に任せるしかない……そんなある種のピンチ。その状況をコイツは……

 

「誰かが欠けていて不安になる……誰かが居ないから実力を出せないようじゃダメだ。もし、このまま何も出来ずに負けるんだったら……それがイナズマジャパンというチームなんだろうな」

「なるほどな……まるで試しているみたいだな」

 

 きっと、利用している。イナズマジャパンを試し……この先も一緒に戦えるチームメイトかを考えている。サッカーにおいて、ある種の冷酷さも持ち合わせているコイツなら……ここまでの試合で信じ始めた気持ちを、この試合の結果次第で閉ざすことぐらい容易だろう。それが、いくらさっきまで自身を助けてくれた仲間であっても。積み上げることは難しくても壊すことは容易なのだから。

 ボールが外に出て試合が止まる。そんな中、マネージャーである久遠がベンチから飛び出した。

 

「みなさんどうしたんですか!まだ試合は終わってないですよ!なのに、諦めるんですか!」

 

 久遠にしては、珍しく大きな声で、そして言葉に強い意志を感じる。

 

「何があっても諦めない!それがイナズマジャパンのサッカーじゃないんですか!」

 

 その言葉がフィールドに居る11人へ、そしてベンチに居る私たちへと届く。

 1人、また1人とその言葉を受け前を向き始めるイナズマジャパン。

 そして、試合が再開する中、風丸が十六夜に声を掛ける。

 

「十六夜、お前のことだから、アンデスのありじごくの攻略法を分かってるだろ?」

「ああ……最初はお前のスピードで、囲まれる前に突破を考えたが、それは出来なくなった」

「そうだな。それに、お前がやったのも攻略じゃないだろう?どうすれば出来るんだ?」

「……まぁ、アイツらには聞こえてないし、そろそろ気付いたからいいか……ありじごくから抜け出せばいいんだよ」

「抜け出す?」

「あれはテレスの前にボール保持者が来るようになっている。……テレスのところに引きずり込まれているんだ。……だから、それに抗うようにして走ればいい……あんな風にな」

 

 と、十六夜が指をさした先では、木暮がありじごくに嵌まり、両サイドに栗松と壁山が走っていた。木暮がテレスの元によらないよう、2人が両サイドからどうなっているか教えているらしい。

 

「いいよ!木暮くん!」

 

 そのまま木暮がバランスを崩しながらも、壁山へとボールを繋げた。

 

「……そうやって、引きずり込まれないようドリブルをしていれば、必ず隙が生まれる……それまで耐えて、パスを出す」

「でも、パスを出された奴もアンデスのありじごくに……」

 

 壁山が囲まれ、アンデスのありじごくにはまってしまった。

 

「いや、それでいい。少しずつでいいんだ……相手にアンデスのありじごくを攻略している……そうやって焦らせるんだ。しかも、ここで決められれば同点になる……主要メンバーの大半が欠いているチームにやられてると、焦らせて相手を誘い込む……そうすれば必ずエースストライカーに繋がる道が出来るはずだ」

 

 エースストライカーへの道……豪炎寺の近くには宇都宮とヒロトがスタンバイしていた。

 

「皆、豪炎寺くんたちに繋ぐために……!」

「頑張って!壁山くん!」

 

 そして、パスは栗松へと繋がり、3度目のアンデスのありじごくが発動する。

 

「右に行くでヤンス……!」

「栗松くん……!」

「ほら、だいぶ見えてきただろ?」

「そうだな……豪炎寺たちとキーパーの間にテレスという障壁が消えつつある」

「じゃあ、ここが大事ってわけか……」

 

 必死にアンデスのありじごくから抜け出そうとする栗松……が、ボールを奪われてしまう。

 

「絶対に繋ぐでヤンス!」

 

 しかし、相手がパスを出そうとしたところに飛び込み、豪炎寺へ繋げた。

 

「繋がった!」

「任せろ、行くぞヒロト!虎丸!」

 

 そして3人がシュート体勢に入る。

 

「グランド――」

「ファイア――」

「――イグニッション!」

 

 そのシュートはフィールド全てを焼き尽くす炎のシュートだった。シュートコースに割り込んでくるテレスやディフェンス陣を、技が発動される前に吹き飛ばし……

 

「ミリオン・ハンズ!」

 

 キーパーの必殺技をも弾き飛ばした。

 

『決まったぁ!同点ゴールだぁ!』

 

「すげぇな……いつの間にあんな必殺技を……」

「十六夜……お前、最近の練習に参加してないことがバレる発言だぞ、それ」

「あはは……ここ2、3日は、立向居くんたちが何かやってたように、あの3人も一緒に練習していたからね……皆知ってるよ」

「…………今の失言、カットで」

「「「はぁ……」」」

 

 なんというか……十六夜の自由さには困ったものだ。

 

「決まりましたね、豪炎寺さん!ヒロトさん!この調子でもう1点取っていきましょう!」

 

 ピ、ピーー!

 

 盛り上がってきたところで、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

『ここで試合終了です!イナズマジャパンとジ・エンパイアの勝負は引き分けで終わりましたぁ!』




 ちなみにイビルズタイムが進化すると技の威力が上がるのではなく、体力消費の基本値が下がりますね。


 最近、アレス・オリオンルートをふと考えてみたりしたんですけど、どんなに頑張っても日本代表の一員としてまともに出場するビジョンが見えないんですよね……記憶を失ったままならともかく、記憶が戻っている本編みたいだと……ねぇ?ちなみに、必殺タクティクスのザ・ジェネラルで皆は受け取っているのに、十六夜くんだけ何も起きず「え?何かした?」って本人も周りも困惑しているのは確かです。
 個人的には、アレスの裏で海外に留学して、帰って来ない気がします。……多分、その国の代表に潜むオリオンからの刺客と敵対しながら他国代表として出場してますね、はい。
 いや、ヒロインを八神さんにするには意地でも永世学園行きにしないといけないんですが、武者修行とか言い出して海外行く方があっているんですよね……そもそも、十六夜くんと永世学園を組み合わせると、雷門が永世学園に勝てるビジョンって、十六夜くんを出場させない上でアニメ同様怪我人続出じゃない限り、あまり見えてこないんですよね……
 とまぁ、こんな感じですね。元がアレなせいでもしかして吹っ切れてもいいかもとか何とか……まぁ、今は本編ですね。……気付けばこの週1投稿1年以上続いているってマジですか?現段階だとユニコーン戦がどうなるか状態なので……いつまで続くかですが、確実に週1投稿を世界編終了まで続けるのは厳しいですね。


 世界編で前々からやりたかったことは前話の最後の得点です。……見返して思ったのは1期の千羽山前の台詞って伏線じゃないの?ってことから生まれましたね……はい。アルゼンチン戦もやりたいけど、チームK戦もやるってなった結果(十六夜くんが)無茶しましたね。RTAなら再走案件ですかね……?まだタイム大丈夫かな……?

 とにかく、テレスも微妙に強化されている?って感じのジ・エンパイア戦も終わりですね。まぁ、ここから先に待ち受けている試合たちの方が、神様強化の影響を色濃く受けていたりいなかったりなのですが……

 次回、試合終了後とそして……


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試合終了後と協力者

 試合終了後……

 

「うぅ……勝てなかったでヤンス……!」

「すまない、円堂。勝てなくて……」

 

 円堂たちがスタジアムに合流してくる。

 

「いや、俺たちこそすまなかった。試合に出られなくて……」

「事情は十六夜くんにすべて聞いたよ。あれじゃ、しょうがないよ」

「すみません……!俺がイナズマジャパンのゴールを守れていれば……!」

「何言ってるんだよ!勝てなかったけど結果は引き分け!後2戦残ってるんだぞ!」

「ああ、そうだ。2試合を終えて勝ち点4……残りの2試合に勝てば勝ち点10で確実に決勝トーナメントに出られる」

「それに、やったじゃないか立向居!新必殺技で、アイツらのシュートを止めていたじゃないか!壁山たちも、俺たちが居ない中、立向居とゴールを守ってくれた!十六夜抜きでも相手に得点を与えなかった!」

「円堂さん……」

「キャプテン……」

「ああ。何より鉄壁の守りを誇る奴らからお前たちだけで1点取れたのは大きい。この1点は次へと繋がる1点だ」

 

 あはは……オレの分が除外されてるわ。まぁ、アレは1発限り、たった1人のものだからな……

 

「おい、イナズマジャパン!」

 

 と、そんな中でテレスの声が響き渡る。

 

「今度こそは絶対に負けねぇ!俺たちが勝利をもぎ取る!覚悟しておけよ!」

「テレス……ああ!次に勝つのは俺たちだ!」

「ふんっ、今度こそ点はやらない!」

 

 そして、引き返していく……と、途中でオレが座っているベンチの前で立ち止まり、こちらにやって来る。

 

「アイアンウォールを破ってゴールを決めたのはお前が初めてだ……次は必ず防いでやる」

「こっちこそ、次はお前のディフェンスを正面から抜いて点を決めてやる」

 

 立とうとするがそれを止めてくる。代わりに手を差し出し……

 

「次はしっかり整えてから戦えよ」

「言われなくても」

 

 握手を交わす。そして、歩いて去って行く……なんと言うか、テレスもイナズマジャパンを正式に認めてくれたって感じだな。

 

「……今の会話を聞くだけだと、お前ってFWみたいだな」

「……それを言わないでください、八神さん」

 

 にしても、試合も終わり緊張の糸が解けたせいか……

 

「そうだ……これは言っておかなくちゃな」

「何をだ?」

「ハーフタイムではありがとな。お陰で本気のプレーが出来た。……それと、お前の声、しっかり届いたから……ありがとう」

「フッ……そうか」

「……八神?」

 

 少し笑顔を見せる八神が手をオレの側頭部に持ってきて、そのまま頭を自身の膝……太股の上に乗せる。

 

「眠いんだろ?膝貸してやる」

「ありが…………すぅ」

「……秒だったな。……まぁいい。お疲れ様、十六夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の宿舎に帰ってきたオレたち(なお、オレは気付けば食堂に運ばれていたが)。夕食が作られる中、オレは外に出てある人と会っていた。

 

「……という感じですね。鬼瓦刑事」

「なるほどなぁ……響木たちにも話を聞いていたが……これは、運営が怪しいな」

「同意見です。影山1人にこんなこと出来るとは考えにくいです」

 

 メールで呼び出され、今回の件の話を聞きたいと言うことで合宿所を抜け出した。体力は少し戻ってきた。やっぱり、睡眠って大事なんだなと思いましたね、はい。

 

「それにしても、謎の集団に、交通事故での足止め、更には船のエンジントラブル……都合が良すぎるな」

「そうなんですよね……」

 

 分からないことだらけ……ってとこだな。

 

「それで、さっきの話で出て来たデモーニオという子だが……能力複製プログラムを受けていた可能性がある」

「能力複製プログラム……?確かに、デモーニオにはプログラムを与え、それに耐えきれず拒絶反応が出たと言っていたけど……」

 

 能力複製……まさか、鬼道の能力をコピーしようとしていたのか?でも、それなら影山の発言も納得できる。

 

「優秀な選手の能力をコピーした選手を作り、そいつらでチームを組めば強そうですね……ただ」

「ただ……何か気になることが?」

「はい。そのプログラムには拒絶反応を起こすリスクがある……それに、複製の元となった選手と同じ能力を持つって……リスクを負ってまでやる意味はあるのでしょうか?」

「何かしらの意味はあるんだろう。詳細は分からずじまいだがな。結局、響木たちも何で呼ばれたかうやむやらしい」

 

 ふむ……色んな選手の能力を……例えばイナズマジャパンなら、円堂と鬼道と豪炎寺を組み合わせれば、頭の回転が早い司令塔で、守護神としてキーパーにも君臨できるし、エースストライカーとして点を決めることが出来る……みたいな選手もできるだろう。

 だが、1人の選手を複製するのに拒絶反応というリスクを負う……何かコスパが悪いというか……試行錯誤で実験をしているように感じるな……

 

「……最後に、お前さんに言うかどうかは迷ったんだが……まぁ、どうせお前さんならすぐに気付くだろうしな」

「はい?」

「……影山と謎の男が会って話していた……そういう証言が得られている。ただ、信憑性はそこまでなんだが……」

「今回の件を考えると、そういうヤツが居ても不思議ではない……と」

「そういうことだ。じゃあな、また何かあったら連絡してくれ」

「はい」

 

 そう言って去って行く鬼瓦刑事。

 

「オレも戻るか……」

 

 ということで宿舎に戻る。そして、自分の部屋に戻ると……

 

「……なんだこれ?」

 

 1枚の紙切れが置いてあった。あれ?誰かが置いたのか?表には『十六夜綾人様』と書いてある。で、裏には……

 

『エントランスエリアの砂浜で待つ。

 ただし、1人で来ること。

 誰かにこのことを伝えた場合、破棄したものとみなす』

 

 ……差出人の名前はない……か。

 

「……誰が呼び出したんだ?というか……どうやってここに置いたんだ?」

 

 試合終了後に(ペラーと円堂たちが)イタリアエリアで荷物を回収して、(ペラーと円堂たちが)荷物を部屋に置いてから、オレは鬼瓦刑事と出会っている。(他の奴らが)荷物をこの部屋に置いたときには何かあったなんて聞かなかったぞ?それに、その前後にも誰からもこういうのが来てたって話も今のところ聞いてないし……

 

「罠の可能性か……」

 

 差出人不明の呼出状……呼び出す内容も時間も不明……ただ、しっかり脅しの一文はある……か。

 

 コンコン

 

「十六夜、ご飯だぞ」

「悪い、すぐ行く」

「後、監督から明日の朝は病院行きだと」

「うへぇ……」

 

 ここ最近、試合が終わる度に病院行きじゃないか?3試合連続なんですけど?え?疫病神でも()いているか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、夕食も食べ終わり、諸々と落ち着いた頃、オレは宿舎を抜け出して、紙に指定された場所へと向かう。

 

「というか、時間くらい指定しておけよ……まぁいいけどさ」

 

 夜風が頬を撫でる。差出人は不明……どころか、マネージャーズや八神にも軽く聞いたが、オレ宛の紙なんて届いてないし、居ない間も特になにもないって言っていた。じゃあ、どうやって差出人はオレの部屋に置いたのだろうか……?

 

「世界大会に潜む闇……か」

 

 それに、この島では何かが起きようとしている。今回は円堂たちを巻き込まないといいけど……アイツら、トラブルに首を突っ込みがちだからな……(特大ブーメラン)

 その前にオレが何とかしないと……

 

「やっぱり、来てくれたんだ」

 

 と、声をかけられる。この声は……

 

「昼間の女か」

「そうだよ」

「改めて感謝する。ありがとうな」

「別に、気にしなくていいよ」

 

 現れたのはフードを被った女だった。ただ、1人だけのようで男の方は一緒じゃないらしい。

 

「まぁ、十六夜綾人なら必ず来るって知ってたけど、一応言っておくわ。来てくれてよかった」

 

 ……ん?ちょっと待て?

 

「お前、何者だ。イナズマジャパンの関係者じゃないだろ?」

「そうだね」

「……どうやってこの紙をオレの部屋に置いた?」

 

 八神たちを経由して置いたわけではない。……じゃあ、コイツが置いたって話だが、どうやって侵入した?というか、どうやってオレの部屋を数ある部屋から特定した?しかも、部屋に置いた時間は、皆が宿舎内で自由にしていた時間……明らかに外部の人間が入ってくれば気付くだろ。誰にも気付かれず、オレの部屋にピンポイントに……

 

「その質問、意味ある?」

「オレの疑問が解決される」

「じゃ、どうでもいいよね?結果的にその紙は誰にも知られずにあなたの手元に渡って、あなたはここに来た。それでいいでしょ?これ以上、答える義理はない」

 

 フード越しで分からないが……どうやら、答える気は微塵もないらしい。

 

「……分かった。じゃあ、呼び出した理由を教えてくれ」

「あなたは、隠された闇を暴く覚悟はある?」

「はぁ?」

「あなたたちの多くは影山を基準に考えている……でもね、本当は違うの。影山はあくまで駒……そんなボスと対峙する気はある?」

「…………」

「どうせ、あなたのことだから、『何で影山のことを知っている?』とでも聞きたいんでしょう?でも、答えてあげない。だって、面倒だもん。知っているものは知っている……過程はどうでもいいでしょ?」

 

 1人で話を進めているが、それはオレが聞きたいと思ったことと合致している。……なんだ、この得体の知れないヤツは。

 

「……お前はそのボスとやらを知っているのか?」

「知っている。でも、教えてあげない」

「はぁ?」

「私が提案するのは、あなたがそのボスへ辿り着く手助けを私がすること。あなたが受けた時の条件は、私のことを他言しないこと……どう?受ける?」

 

 何を言っているんだ?敵の正体を知っているが教えない。でも、辿り着くための補助はする……意味が分からない。分からないが……何でこんなに、コイツの言葉は信じられるんだ?コイツはボスに関することを何一つ喋っていない。なのに、何でオレはコイツならボスを知っていると確信できているんだ?

 

「……断ればどうなる?」

「いいえ、あなたは断らない。だから、その質問は無意味……だけどそうね。あなたが1人で動いてバレて失敗。消されて終了でしょうね」

「……消される……か」

「当たり前でしょ?影山を駒として操るほどのヤツが、自分のことを嗅ぎまわる邪魔者を野放しにしておかないでしょう?」

「……じゃあ、お前が協力するメリットはなんだ?お前と居ても危険な橋を渡るだろ?」

「それは簡単、さっき言ったことを防ぐためだよ。私が協力すれば、あなたがバレずに秘密を入手できる確率が一気に上がる。そして、得たものをうまく使えば、事は上手く運ぶでしょうね」

「…………」

 

 なるほどねぇ……よくは分からねぇが、確かにそうか。表立って行動するわけにはいかないし、かと言ってただのサッカー選手が潜入調査しても捕まって消されるのがオチ……成功率が低いか。

 少し考えるが、1人で行動して成功するビジョンは見えない……別にその手のプロじゃないんだし、敵の強大さを考えると失敗して終わりか。そして、その失敗は命取り……

 

「いいだろう。受けてやるよその協力」

「そう来るのは知っていた。でも、ありがとうと言っておくね」

 

 そう言って、フードを取る女……いや、子どもか?

 

「失礼。今のあなたと同い年」

「ああ……って子どもじゃねぇか」

 

 それになんというか……見覚えがある雰囲気の女だな……初対面の気がしないが……まぁいい。

 

「お前のことはなんて呼べばいい?」

A(エー)。私のことはAと呼んで」

「A……ねぇ。コードネームってとこか?」

「どうでもいいでしょう?」

「1ついいか?」

「何?」

「お前はオレの味方か?」

「さぁ?あなたの選択次第で味方にも敵にもなる。でも、今は協力者……味方ってことじゃない?」

 

 ……イマイチ掴めないな、コイツ……

 

「じゃあ、明日の夜9時、雷門中の正門にて」

「いやちょっと待ておい!雷門中って……!」

「えぇ、あなたが想像している通り日本よ。来なかったら協力破棄と見なすから」

 

 そう言って何処かに消えていくA……

 

「…………」

 

 嘘だろ……初手が日本に帰るって……

 

「……でも、オレ1人がやれば、危険なことに巻き込まなくて済む……か。それに……」

 

 やれやれ、アイツの掌の上ってところか。どうやら、選択肢はすでにないらしい。さて……

 

「どういう言い訳をして日本に帰国しようか……」

 

 空を見上げると、月が空に浮かんでいた。




~オリキャラ簡易説明~

名前 ???(A(エー)
性別 女
所属 ???
年齢 今の十六夜と同い年
ポジション ???
備考 透明なペンギンを呼び出せる怪しい少女。一応、協力的だが……?

簡易過ぎて情報のほとんどが分かってないとかマジで?



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動く者たち

ライアー・ライアーのアニメで推しが喋ったぞぉおお!
スパイ教室のアニメで推しが格好いいぞぉおお!
以上、今週のアニメの感想です。尚、語り始めたらかなりの文量になりそうなので、2行にまとめました。
ということで、本編どうぞ。


 次の日の早朝……

 

「……ということです。監督」

「そうか……」

 

 オレは鬼瓦刑事と話したことを伝えつつ、日本に一旦帰国したい旨を伝える。もちろん、Aのことは伏せてだ。

 

「私も影山の後ろに誰か居るかもしれないとは聞いている。だが、お前はイナズマジャパンの選手だ。選手であり、子どもでもあるお前が、これ以上この問題に首を突っ込むべきではない」

「…………」

 

 ……やはり、説得は無理そう……か。さてさて、どうやって交渉したものか……

 

「行かせてやったらどうだ?久遠」

「響木さん……」

 

 と、隣で聞いていた響木監督が思わぬ助け船を出してくれる。てっきり、響木監督も反対すると思っていたのに……

 

「コイツは信用できる男だぞ。それに実績もある」

「……確かにエイリア学園の一件で、彼が解決に多大な貢献をしたことは知っています。ですが……」

「なぁに、日本で少し調べ物をして帰ってくるだけなんだろ?今は影山やその仲間、その怪しいと言われているヤツも、全員がこの島に居る……日本に危険はないはずだ」

 

 そう言われて少し考え込む久遠監督。

 

「…………分かりました。十六夜、アメリカ代表との試合前には帰ってくるように。それと、お前にはある指令の為に日本に一時帰国したという体を取る。いいな?」

「分かりました。ありがとうございます」

「イナズマジェットの手配は俺がやろう。ついでに鬼瓦もお前の話を聞いて帰るって言ったしな」

「ありがとうございます」

 

 ということで、久遠監督は指令書を書く。

 

「失礼しました」

 

 そのまま自室に戻って、帰国の準備を進める。後は、病院に行く準備も……

 

「……子どもに危険な橋を渡らせることになってしまうとは……」

「アイツが自分からやると言ったんだ。……なぁに、考えがあっての行動……鬼瓦もついているし、危険はないだろう」

「そうですね……」

「遊びに帰るわけじゃないんだ。行かせる以上、うまいこと理由は考えてあるんだろ?」

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのかい?お前さん」

 

 朝一に病院に行って、そこでの検査結果は普通。疲労が少し溜まってるくらいで至って健康体。そして、昼前にはイナズマジェットの中で、オレと鬼瓦刑事は日本に向けて飛んでいた。

 

「えぇ。鬼瓦刑事の言うようにフットボールフロンティアインターナショナル……この大会は、ただの中学生の世界一を決める大会じゃなくなってるんです。運営側に、何かよからぬ野望を持ったヤツがいる……」

「だから、それは俺たちの仕事だと……」

「嫌なんですよ。そういうクソッタレに、世界一になるって夢を潰されるのは」

「お前さん……怒っているのか?」

「当たり前ですよ。オレたちは奴らのせいで、アルゼンチン戦をまともに戦えなかった。勝てなかったから言ってるんじゃないんです。世界の強豪にオレたちは全力でぶつかることを許されなかった。貴重な機会を、熱くなれるはずの1戦を奪われた。よく分からねぇ奴らの、分かりたくもない企みのせいで」

「……なるほどな」

「それだけじゃない。チームK……奴らは利用されて捨てられた。キャプテンのデモーニオは失明の危機に陥りかけた……嫌なんですよ。これ以上、そんなクソ野郎の掌の上で踊っていたくない。はっきり言ってムカつく……利用されて、妨害されて……これ以上、余計な邪魔を入れて欲しくない。だから、戦う覚悟は出来ていますよ」

「……そりゃ、響木も行かせるわけだ……これだけサッカーと向き合ってるお前さんからすれば、サッカーを奪われることは我慢ならないってことだな」

「……でも、危険なことに変わりは無いんです……だからオレがやるんですよ。円堂たち(アイツら)を巻き込まないために」

 

 そのための糸が見えた。……その糸がどこに続くかは分からないが……今はそこに縋ってやる。オレ一人の能力じゃ、黒幕を見つけ打倒なんて出来ないんだから。

 

「ところで、お前さんが日本に帰る名目ってなんだ?まさか、円堂たちに日本に帰る理由を、調査のためなんて言うわけでもあるまいし……」

「アイツらには伝えてませんが、聞かれたら吹雪士郎以下数名の現状報告って言うことになっています」

「……えっと……それで納得できるのか?」

「このFFIは代表交代制度がありますので……その確認と思えば……まぁ、監督の使いって言われればアイツらは納得するしかないですから」

 

 もちろん、これはついでに頼まれたおつかいみたいなものだ。恐らく()()()が外されるからその代わりに誰を入れるかだろうな。怪我が完治していれば吹雪が招集されるだろうし、治っていなければネオジャパンと緑川の内の誰か。個人的には吹雪が来て欲しいが……一旦、私情は置いておこう。

 こんなおつかいは日本に居る別の人でも出来ること。……だから本命は調査、もといAとの接触。これはオレがやらなければならないことだ。

 

「とりあえず、影山が日本で起こした事件の洗い直しですね。あとは理事長と接触して、雷門夏未が調査していることも知れたら尚良しですか」

 

 アメリカ戦まで数日の猶予……さぁ、どこまでやれるか。

 そして、その日の夜。

 

「あなたなら来ると思ってた。ああ、安心して。日本でやることは、アメリカ戦までには終わらせるから。あなたがドジを踏まなければ、アメリカ戦には問題なく出られるよ」

「ドジ……ねぇ」

「じゃあ、始めよ?ボスへ近づくための第一歩を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜帰国の翌日……十六夜が急遽日本に帰ることが昨日の昼食の時、監督を通して伝えられた。監督曰く、監督が頼んだおつかいをしてくるそうだ。

 

「全く……あの自由さはどうしようもないな……」

「まぁまぁ、監督のおつかいって言ってたし……」

 

 練習の休憩中、2人で話すヒロトと八神の姿があった。

 

「流石に怪しすぎるだろ!アルゼンチン戦で影山の罠にかかって、翌日には監督のおつかいで日本に行く!?で、昼食の場で監督が言った時には既に飛行機の中!?どう考えても、私たちに日本に戻る理由を聞かれたくないからの行動だろ!?」

「あはは……八神を巻き込みたくなかったんだよ。大切な人だからさ」

「だとしても一言ぐらいあるだろ!?昨日の午前中、病院に一緒に行ったら、『あ、用事があるから先に宿舎に戻っててくれ』って言ったんだぞアイツ!まさか、そのまま空港行って飛んでいるとは思わないだろ普通は!?」

「あ、あはは……」

「大体、チームメイトの受け入れ早過ぎないか!?特に円堂とか豪炎寺とか鬼道あたりの『まぁ、アイツなら大丈夫だろ』という謎の信頼!あのバカは今まで何をやらかしたらそうなるんだ!?」

「そりゃあ……ねぇ?エイリア学園の件で八神に誘われて、俺たちのところでスパイ活動していたし……ライオコット島に来てからも、パーティーサボり、誰よりも早くイタリア代表決定戦に関与……そして、日本に帰国だからね……今のところ試合前に必ず何かをしでかしているね」

「今更だが何者だアイツは!?」

「え?八神の彼氏でしょ?」

「何かしていないと死ぬのか!?何でここまで皆と行動できないんだ!?」

「うーん……協調性がないから?ああ見えてマイペースだからね……だって、俺たちのところに居たときは、ふら~っと滝に行ってうたれてたんでしょ?」

 

 練習以外、どこどこ行ってくるわーって言ってふらふらして問題を拾ってきていた光景が、八神の中で思い返される。そして、頭を抱える。

 

「いやいや度が過ぎるだろう!?いくらなんでも意味が分からないぞ流石に!?」

「でも、八神に言ったら、絶対八神はついて行くでしょ?」

「うっ……」

「引き止めるというより、八神なら『それなら私も連れていけ!』って絶対言うでしょ?だから、十六夜くんは何も言わなかったんじゃない?」

「そ、それは……」

「彼女なら、その巻き込みたくないっていう彼氏の思いを汲んで、構えていたらいいんじゃない?」

「……でも……もし、帰ってこないって思うと……」

「大丈夫大丈夫。だって、十六夜綾人は俺たちの常識で計れないからね……絶対に帰ってくるよ」

「…………分かった」

「うん。にしても八神と話すと十六夜くんの愚痴ばっかりだね……八神、十六夜くんのこと好き過ぎでしょ」

「う、うるさい!」

「もっと普段から好きって言えばいいのに……あ、ごめん。今のナシにするから、シュートをこっちに打たないで。十六夜くんじゃないから多分死ぬ……」

 

 と、そんな中、1人の選手がグラウンドに入ってきた。

 

「ふふ、あいかわらずだね」

 

 吹雪が日本エリアのグラウンドに入ってきたのだった。

 

「ただいま、みんな」

「お帰り!吹雪!」

「吹雪、よく帰ってきてくれた。怪我はもう大丈夫なのか?」

「予定よりかなり早い回復……リハビリを頑張ったようだな」

「うん……世界で戦う皆を見ていて、何もできない自分が悔しかったんだ。だから早く皆と合流して、一緒に戦いたくてね」

「おう!一緒に戦おうぜ!お前が帰ってきてくれれば百人力だ!」

 

 と、吹雪帰還の喜びを示す中……

 

「へっ、喜んでいる場合かよ。こいつが代表に戻されるってことは誰かが落とされるってことだぜ?」

「あっ……」

「ま、まさか十六夜さんが日本に帰ったのって……!」

「十六夜くんとは昨日の午後に日本で会ったよ。代表交代制度を使うから、代表メンバーに入る選手の見極めを久遠監督の指示でしているって。僕を含めて数名分報告したって言ってた」

 

 半分嘘だな……と八神は思った。それだけが理由なら吹雪と共に帰ってくるはずだし、何より十六夜がやる必要が無い。……が、黙っていることにした。

 

「なるほど……そして、お前が……」

「うん。昨日の夜に久遠監督から電話がかかってきてね。代表メンバーに入るのはお前だって感じ」

「そっか!……って、そうなると……」

「一体、誰が外されるんだ……?」

「…………」

 

 と、皆が吹雪の発言を気にする中、監督が現れた。

 

「発表する。吹雪に代わり、代表から外されるのは栗松だ」

「そ、そんな!久遠監督は今までの栗松の頑張りを見ていなかったんッスか!?」

「世界で勝ち抜くための判断だ。栗松、帰国の準備をしろ」

 

 そう言って去って行く久遠監督。

 

「栗松、お前からも頼むッス!」

「やめろ!」

 

 同情する壁山に対し、染岡が静止の声を上げる。

 

「栗松に必要なのは同情じゃねぇ。とっとと日本へ帰ることだ。さぁ、練習再開だ!」

 

 そう言って走り始める染岡。

 

「そ、染岡さん!どうしてそんな冷たいことが言えるんッスか!?」

「……染岡だから言えるんだ。アイツは最初代表に選ばれなかった。でも、そこから努力を続けたんだ。十六夜も言ってたけど、デザートライオン戦の前での実力は、代表選考の時と比べて凄かったって。諦めず、必死に努力したからこそ、アイツは久遠監督に認められて代表に選ばれたんだ」

「……っ!」

「それに、お前の怪我は軽くない。しっかり、日本で治療してくるんだ」

「やっぱり、鬼道さんにはバレていたでヤンスね……」

「く、栗松……お前……!」

「実はアルゼンチン戦でちょっと……でも、それだけじゃないでヤンス!日本に戻って、怪我をする前よりパワーアップして、イナズマジャパンに帰ってくるでヤンス!」

 

 こうして、栗松は代表を外され、帰国することになったのだった。




 協調性皆無のトラブルメーカーな彼氏と何だかんだ言ってた心配性の彼女とその彼女の愚痴を聞く心優しき友人……この3人の関係は良好ですね。

 エイリア学園に潜入という前例があるから割と大人たちからも、他の子なら危険で止めるけど十六夜なら何とかするか、みたいな信頼が出来ている模様。そして、十六夜が動いているせいで栗松が代表を外されたのがおまけ扱いになっている感じが……ちなみに当然ながら見送りの場に十六夜くんはいません。もっと言うと、代表交代制度を使うって言われた時に栗松が外されるんだろうなって、この主人公気付いていますね。いや、ほんとにこの主人公は……

 吹雪と栗松ではスペックの差が相当あるため、流石に吹雪を戻さず栗松続投という選択肢はなかったですね。ちなみに、十六夜と栗松だったとしても、ここまでの展開で十六夜を斬って栗松を残す理由が協調性云々以外にないっていうね。他のキャラもわざわざ展開変えてまで栗松を残せるほど、強化されていないので……すまない栗松。この世界線じゃ君を救えなかったよ……それどころか、実はこの作品だとアルゼンチン戦含めアニメより不遇って言うね。


 そう言えば英雄たちのヴィクトリーロードのPV3弾が公開されていましたね。個人的には、ストーリーも期待できそうで楽しみです。ゲームのシステムも凄く面白そうですね。
 円堂守の息子、ハルくんを見ていると、十六夜くんの息子(娘)はどちらかのタイプだとイメージしてますね。両親譲りの負けず嫌いで、父親を超えるために日々努力する努力家か、天才的な才能を持っているけど父親には勝てずに折れてしまい、サッカーから離れてしまう天才少年(少女)か。良くも悪くも十六夜くんの影響が強そうです。そして、十六夜くんの奥さんは息子(娘)を表に出すかどうかはともかく溺愛してそうです。

 とそんなこんなで次回は十六夜くん……ではなく、彼が居ない間の練習風景です。


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越えるべき壁

「今日の練習はここまで」

 

 十六夜が所用で帰国、更に代表交代で栗松が帰国した次の日……

 

「円堂、ちょっといいか?」

「どうした?豪炎寺」

「シュート練習に付き合ってくれないか?」

 

 多くの者が自主的に残って練習する中、豪炎寺は円堂を誘っていた。

 

「もちろんだ!やろうぜ、豪炎寺!」

 

 場所を移動し、ゴールを守る円堂と1対1になる。

 

「行くぞ」

「来い!」

 

 そして、1本、2本とどんどん撃っていく。

 

「凄い気合い入ってるな!」

「まぁな」

「やっぱ、次は一ノ瀬たちと戦うからか?」

 

 イナズマジャパンの次の相手はアメリカ代表ユニコーン。かつて共に戦った仲間である一ノ瀬や土門が所属しているチームだ。

 

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

「いや、どっちだよ」

 

 と、ここで豪炎寺はシュートを撃つのを中断する。

 

「アルゼンチン戦……お前もテレビ越しに見ていただろ?」

「おう!」

「どう思った?」

「そりゃあ、勝てなかったのはすげぇ悔しいけどさ。皆凄かったじゃないか!十六夜がほとんど動けない中、立向居や壁山を中心に守って、皆で攻めて……十六夜や鬼道抜きでも、1点を奪えたんだぜ?あの時は見ていてすげぇって……」

「……そうか」

「……一体、どうしたんだよ」

「俺は……凄い悔しかった」

 

 ここで、豪炎寺の手が硬く握りしめられていることに気付く円堂。

 

「やっぱり、勝てなかったから?」

「違う。俺のシュートはテレスに止められた。相手のキーパーにも止められた。……でも、十六夜は1人でそいつらの守りを崩してみせた」

「で、でも!お前だって点を決めたじゃないか!」

「あれはヒロトと虎丸が協力したからだ。……俺のシュートはアイツらに通用しなかった」

「…………」

 

 誰が見ても分かる事実だった。豪炎寺のシュートはキーパーに止められた。ディフェンダー1人に止められた。対して、十六夜のシュートはそいつらの守りをたった1人でぶち抜いた。自分が誰かと協力しないと破れなかったものを1人でぶち壊した。

 

「1点取った……結果を見れば一緒だ。でも内容はまるで違う。3人で協力して、ようやく点を取れた俺と、たった1人で全てを変えたアイツじゃ、全然違うんだ」

「……確かにな。十六夜のヤツはすげぇ……俺だってエドガーに通用したはずのイジゲン・ザ・ハンドが簡単に破られたときにはちょっと引いた……もっとやれるって思ったんだけどな」

「あーあの時か」

 

 イギリス戦の次の日、1日オフということでほとんどの選手・マネージャーがこの島で休暇を満喫していた。円堂も豪炎寺も、そして十六夜もその1人。……まぁ、十六夜がお土産を買うという概念がなくて、代わりにおもりを買ってきたときは全員がドン引きしたが。

 その日の夕食前、円堂は十六夜と勝負をしていた。正義の鉄拳、いかりのてっついに続く3回目となる勝負。イジゲン・ザ・ハンドという相手のシュートを止めるのではなく逸らすことによって、ゴールさせない必殺技。今までの弾く、叩きつけるとは違う選択肢……しかし、十六夜のシュート……オーバーサイクロンPは軽くイジゲン・ザ・ハンドを破ってみせたのだった。その時には多くの面々が目を点にしていたが……

 

「あれは技の特性の問題……って、分析で終わらなかったか?」

 

 その後、十六夜、鬼道、不動、豪炎寺の話し合いにより、イジゲン・ザ・ハンドという必殺技はあくまでコースを逸らして受け流す性質が強く、直進してくるパワー重視の技には強い。ただ、あのオーラそのものの強度は決して強くない。だから、十六夜のシュートのように純粋なパワーではなく、貫通力に優れてしまうと受け流す前に壊れてしまい、ゴールに刺さってしまう。

 

「でもさ、同時に思ったんだ。次は絶対十六夜のシュートを止めてやる……あのシュートは止められない完全無欠のシュートじゃないんだ。だから、絶対に止められるようになる……」

「円堂……」

「俺もお前と同じだぜ?すげぇ悔しい……俺の技はアイツに通用しない。でもさ、それって、この大会に参加しているヤツの中にも、軽く突破してくるヤツが居るってことだろ?立向居が一皮剥けたように、俺ももっと強くなりたいんだ」

「……フッ、立場は違うだけで……近い悩みかもな」

 

 十六夜のシュートを超えられない豪炎寺と、十六夜のシュートを止められない円堂。どちらも十六夜の得点力が絡んでいることに間違いは無い。

 

「アイツって何だろうな」

「俺もよく分かんないな!」

「分からないって自信を持たれてもな……」

「あはは……だって、エイリア学園の時もさ。鬼道とアイツってよく分からないなーって話をしていたんだ。確か、お前と綱海が鉄塔広場で特訓している裏だったかな?」

「あの時か……確かに。あの時のアイツは敵として現れてみれば今度は味方とか、潜入捜査なんてよく分からないことしていたな。ついでに今も日本に帰ったしな」

「それだけじゃなくて、アイツってさ。留学から帰ってきてからプレースタイルというか、性格というか、雰囲気がすごく変わった気がする」

「……そうだな。帰ってきてからは今までより1人が多くて、それでいてつまらなさそうだったな」

「そうそう。で、最近も何というか……日々変わり続けている気がする。留学で何があったか分かんないけど、少なくとも留学前のアイツから大きく変わっている」

「確かにな。今までも何かズレているところがあるとは思っていたが……あくまで感性の問題であって、それとは別にあそこまで自分をっていう選手だとは思わなかった」

「そうなんだよ!なんて言うか、今のアイツは『オレはこうしたい!』みたいなのを凄い前面に出している感じがするんだ」

「それはよく分かるな」

「それで一人で突っ込むけど、実はしっかり考えていて、周りも見れている。未来視なんてさ、チームのことも分かっていないと出来ない凄い芸当も身に付けて……アイツの勝ちたいって気持ちは一緒なんだなって思った。きっと、やり方や考え方は違うってヤツなんだな」

「ある意味、お前とは対極なんだよ」

「え?」

「これは俺の主観だが、お前は皆で何とかが多いけど、アイツはマイペースで個人行動が多い。仲間を見ているお前と相手を見据えるアイツ。……お前が太陽のような明るさで皆を照らして先導するなら、アイツは月のように皆から一歩引いたところを動いている。光と闇、陽と陰……お前たちは対極なんだよ」

「お、おぉ……」

「でも、2人とも互いに影響を受けている。アイツは何だかんだ言ってもお前に背中を預けている。お前は堂々とアイツに背中を預けている。……そして、チームの皆もお前たちには影響を受けている」

「え?そうなのか?」

「お前たちが思っている以上にな。少なくとも俺はアイツのお陰で明確なビジョンが持てている」

「めいかくな……びじょん?」

「ああ、アイツを超えるストライカーになること。アイツは俺のことをエースストライカーって認めてくれている。それなのに、エースストライカーがソイツより得点力が低いのは問題だろ?」

「……そうだな。俺だって、ゴールを託してくれているのに、託した側が破れるようじゃ、安心できない……うん。やろうぜ、豪炎寺!俺たちで十六夜を超えるんだ!」

「ああ!」

 

 と、2人しか居なかったところに……

 

「へっ、お前らだけでなに熱くなってるだよ」

「そうですよ!俺も混ぜて下さい!」

 

 染岡と虎丸の2人がやって来る。

 

「俺だって、あの試合で十六夜のシュートを見て、悔しいのは一緒だっての」

「十六夜さんより点を取る力がない……それを痛感したのは豪炎寺さんたちだけじゃないです!俺の超えるべき目標は豪炎寺さんです!でも、十六夜さんを超えないと俺が胸を張ってこのチームのストライカ-だって言えないじゃないですか!」

「同感だ。アイツが託したくなるようなストライカー……今の俺じゃそこまでの実力はねぇ。それに、世界にはアイツよりすげぇストライカーは沢山居るんだろ?だったら、十六夜は世界で通用するストライカーが超えるべき壁だ」

「十六夜さんが託したくなるストライカー……いいですねその表現!」

 

 会話のほとんどを聞いていた2人……十六夜の姿を見て、話を聞いていて熱くならないわけがなかった。

 

「誰が十六夜さんを超えられるか勝負ですよ!」

「はっ、面白ぇじゃねぇか!」

「フッ……十六夜のヤツが聞いてたらどう思うだろうな」

「やってやろうぜ!アイツを超えるぞ!」

「「おう!」」

「って、円堂はストライカーとしてじゃないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい空気だね……十六夜くんが超えるべき壁。目指すべき目標になっている……監督の言ったとおりの存在になってるね」

「監督が?」

「うん。韓国戦の時に言ってたんだ」

「あの十六夜が暴走した試合か……」

 

 少し離れた場所で4人を見つめる3人の陰があった。

 

「確かに、アイツには足の速さじゃ負けないけど、それ以外で何が勝てるって言われても疑問だしな」

「うん。僕も同感だよ」

「風丸くんや吹雪くんと違って、俺だと全部が上位互換に思えるけどな……」

「何言ってるんだよヒロト。アイツより協調性はあるだろ」

「あはは……それ言うとこのチームの皆に当てはまりそうだね」

 

 風丸と吹雪の必殺技の特訓に付き合っていたヒロト。3人が練習を切り上げようとしたときにたまたま4人の姿が見えたのだった。

 

「十六夜くんはあの試合から少しは吹っ切れたみたいだね……イギリス戦も見てたよ。きっと、彼なりに答えが出たのかな?」

「答え?」

「ううん、こっちの話」

 

 韓国戦のハーフタイム……吹雪は十六夜の話を聞いただけだったが、その時より何かは変わったんだろう。本人が気付いているか気付いていないかは定かではないが……

 

「そう思うと、十六夜くんはイギリス戦で何か掴んだみたいだしね」

「そうなのか?」

「うん。エドガーとのマッチアップの中で何かを掴んだ様子だったよ」

「確かに、あの時のアイツはやばかったよな……」

「尚のこと負けられないね。僕も、復帰したからには強くなったところを見せないと」

「そうだな。次は一ノ瀬と土門が相手……アイツらにも強くなったところを見せ付けないとな」

「しかも、次の相手はディランとマークって言う、世界トップレベルプレイヤーが2人も居る。エドガーやテレスレベルが2人……厳しい戦いになるね」

「十六夜くん1人じゃ絶対に勝てない戦い……だからこそ、僕たちも1人1人が頑張らないといけない。やっぱり、世界大会本戦は違うね」

「ああ。それに、決勝トーナメントに出るって意味でも落とせないんだ……もう少し練習していくか?」

「そうだね。ヒロトくんは?」

「俺はアメリカ代表の分析かな。十六夜くんが忙しそうだし、俺も頭に入れておかないと」

「そう思うとアイツって何者だ……?相手の分析に、練習量も人一倍って……」

「だから化け物って言われるんでしょ。……でも、化け物にも限界がある」

「だね。僕らが支える……ううん。隣に立てるようにならないと」

「ああ」

 

 十六夜という選手と共存するために……もっとレベルアップしないといけない。

 

「よっし!次!」

「おう!」

 

 円堂たちの練習を見ながら、決意を固め、それぞれのやることへと戻るのだった。




 円堂と十六夜は対極の存在って言うのはチームメイトも薄々気付いていたり、いなかったり。ただ、どちらも影響を与える存在であることは間違いなさそうですね。
 次回、過去編。ある意味激動と諸々判明?

 ところで、最近は夏に始まった作品が最終回を迎えはじめ、ちょっと気分が下がり、秋に始まるアニメへの期待でちょっと気分が上がり、気分の上下が激しいですね。
 ちなみに、作者は秋は「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「SPY×FAMILY」の2期などを見る予定で、夏よりは少ないです。(夏は結局12作品くらい追った。秋は半分以下だと思いたい)
 そんな、秋アニメで1番期待しているのは「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」という作品です。友人に勧められ、この夏で一気にハマった作品です。どうせありがちなラブコメだろ、あータイトル的にハーレムものか、って思っている人はPVだけでいいから見て欲しい(出来ればキャラのやつも)。
 ネタバレかは分かりませんが、まだ原作でさえメインヒロイン100人全員登場していないので、アニメで人がたくさんでゴチャつくみたいな心配はないと思います。そもそも100人登場するのか、どんなヒロインが登場するのかと友人と盛り上がっております。


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過去編 ~1年生の終わり~

いやぁ……葬送のフリーレン良かったですね(バイトでリアタイ視聴は出来なかったが後で見た)秋アニメのワクワク感が高まっていきますね。
それにスパイ教室の最終話も良かった……!本当に推しが可愛いです。最新刊が1ヶ月延期になったけど、しっかり待たせて貰います。

と、過去編も気付けばその4ですね。その10までに……終わる気しないけどなぁ……まぁいっか。というわけでどうぞ。


 冬休みに入る直前の12月中旬。十六夜綾人、自宅にて……

 

「それで綾人さん。私は一ヶ月程海外出張ですので、年末年始はお1人ですが、大丈夫ですか?」

「問題ない。で、いつも通り父さんは赴任先から帰ってこねぇんだろ?」

「えぇ、その通りです。あの人もお忙しいのでしょう」

 

 十六夜はリビングにて、母親と話をしていた。

 

「1年生も終わりに向かっていますが綾人さん?()()は覚えていますね?」

「……覚えている」

「それなら結構。それが私があなたにサッカーを許可している条件ですからね」

「……分かってるよ」

「定期考査で総合学年3位以内。受ける全ての模試で各教科偏差値60以上が最低条件です。もし、守れなかった場合はサッカーは即座にやめてもらいますから」

「何度も言わなくていい」

「そうですか。綾人さんは興味のないことはすぐに忘れてしまいますので、何度も言わないといざという時、約束を覚えていないなどと主張されては困りますので」

「……アンタの前で約束を反故する命知らずな真似はしねぇよ」

「あら?どういう意味でしょう?もし、よければ教えてもらえますか?」

「…………」

 

 十六夜母は笑顔だった。ただし、眼鏡の奥の瞳は一切笑っていなかったが。

 

「これでも譲歩した方です。本来なら高校入学時点でサッカーをやめてもらう予定だったんですから」

「…………」

「第一、綾人さん。あなたは協調性がない。協力することが嫌い。他者と手を取り合うのが苦手。……あなたの性格上、サッカーというチームスポーツとは根本から合っていない。それなのにまだ続けるのですか?」

「……悪いかよ」

「いいえ、悪いとは思いません。ですが、時間の使い方の問題です。あなたのサッカーはあくまで趣味の範疇に留めておくのがよいでしょう。練習に時間を費やすだけ費やして、あなたは何もなしていない」

「…………」

「中学から現在に至るまで、試合に出場していない。練習とは本番があるから行うものではないのですか?そして、サッカーにおいては試合のために練習をしているのではないのですか?それに加えてあなたは何も目指していない」

「…………」

「あなたがサッカー選手を目指すのなら話は別です。研鑽を積み重ねる必要は当然あるでしょう。ですが、あなたはそういうわけではない。サッカーで職を得る、お金を稼ぐわけではない以上、これ以上あなたがサッカーに費やすのは無駄と言わざるを得ない。それなら、別のことに費やした方が効率的で賢明です。……違いますか?」

「……反論はねぇよ」

「私も鬼ではないですので、勉強の息抜き程度なら許容してもよいと思っています。……ですが、あなたのこれまでを考えると中途半端では意味が無いですので、禁止に踏み切っていることを理解してください」

「……分かってる」

 

 そう言って十六夜は立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「時に綾人さん。志望する大学及び学部等は決めましたか?」

「決めてねぇよ」

「そうですか。一度、進路については話し合った方が良さそうですね」

「今度にしてくれ」

「分かりました。では、またの機会にしましょうか。これも何回か言っていますが、私はあなたがどの進路を選ぼうと口出しはしません。理由さえあれば文句は言いませんし、金銭面は心配しなくても大丈夫ですよ」

「分かった」

「……ですが、先に言っておきます。高校の時の選び方ではいずれ後悔しますよ」

「…………」

「他人が敷いたレールを歩くなんてつまらない。流されるまま生きる、自分の意思がないなんて以ての外。……何かを選択するとき、自分の考えがないと、あなたはその選択に絶対後悔しますよ」

「……説教か?」

「いいえ、そんなつもりはありません」

「……なら、自分の話か?」

「えぇ。私は今まで多少の後悔はありますが、選択自体に後悔はありませんので」

「……あっそう」

 

 そのまま部屋に戻っていく。そして、部屋に戻ったことを確認すると、十六夜母は眼鏡を外して電話する。

 

『もしもし?どうしたんだい?』

「いや、綾人と話してよぉ……サッカーとか進路とか。ただ、上手く話せなくてなぁ……」

『あはは……本性出てるよ?』

「あ?それがどうしたよ」

『全く……その状態で綾人と話せばいいのに』

「……こっちだと制御効かねぇんだよ。熱くなりやすいからな……そのまま喧嘩になりかねねぇ」

『やめてよ?綾人も高校生だし、流石の僕たちでも殴り合いじゃ勝てないよ?』

「息子を殴る親に成り下がりたくねぇよ。そして、勝手に負けるって決めつけんな。悪いけど、アイツとは場数がちげぇんだ。ただ運動神経の良くて頭の出来た高校生くらい圧勝してやんよ」

『そこは張り合うんだ……いい歳なのに現役男子高校生に対して張り合うって……』

「つぅか、アイツに熱くぶつかってもどうしようもねぇだろ。殴り合って和解できるなら苦労してねぇっての。どこまでも冷めてるんだから」

『そうかな?綾人もきっと応えると思うよ。だから一回、本気で正面から向き合うことも必要だと思うけど……』

「テメェに言われたくねぇよ、ちっとも帰ってこねぇし」

『それはゴメンって……』

「……とりあえず、頭冷やしてくる。しばらく海外に出るからそこで考えるわ」

『それがいい。僕もその内帰るから……』

「……テメェのその内は一体いつになるんだろうなぁ?」

『うぐっ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日……世間で言うところのバレンタインというヤツである。

 

「へい綾人~!チョコは何個貰ったんだい?」

「10個以上」

「そうかいそうかい……え?10個も?え?以上って言った?」

 

 その放課後。十六夜が自主練習する中、いつもよりテンションが壊れた陽向がやって来た。

 

「ど、どうして……?え?おかしい……ボクの分析では綾人の貰えるチョコの数は0のはず……い、一体何処で計算が狂ったんだ……!?」

「…………」

 

 と、何か考え込んだ彼女を無視して十六夜は練習を続けた。

 

「はっ!もしかして、母親からもらう分を計算し損ねた……?いや、もっと別の要因が……?」

 

 十六夜は陽向と接する時は本音、本性で接している。しかし、この男は他の人が相手だと優等生を演じているのだ。つまり、優等生を演じて真摯な姿を見せることが多く、コミュニケーション能力が高くて頭が良く、割と何でも出来るタイプだと周りから認識されている。

 

「な、何故だ……!何故綾人がそんなに貰えているんだ……!」

 

 十六夜は陽向と過ごす時間は長いが、24時間ずっとと言うわけではない。1人の時間も当然存在している。陽向と過ごしていない時間の中で、他の人の手伝いなり勉強を教えたりなど、如何にもな優等生を演じた結果、義理チョコが貰える程度には交友を深めていた……が、

 

「おかしい……まさか、このマイペースでサッカー以外録に興味ないくせして頭と顔がちょっといい男が何故貰えるんだ……!性格は悪いんだぞ……!?スペックは良くても、差し引きしたらマイナスなはず……い、一体どういうことなんだ……!?」

 

 そんなある種の理想の十六夜綾人を、4月の最初の段階で崩された陽向にとっては、いつもの十六夜のイメージが先行して計算に入ることがなかったのだ。

 

「うぅ……ボク以外には貰えないって思っていたのに……え?綾人って意外に人気なの?え?え?」

 

 困惑している彼女を無視して、練習を続ける十六夜。

 

「ま、まさか脅して……!?い、いやそれならもっと問題になっているはず……!?どういうこと……いや、本当にどういうこと……!?もしかして、騙されて……ハッ!見栄を張っているのか!0個なのに見栄を張って貰えたと……そうなんだろ綾人!そうだと言って下さいお願いします!」

「いや、何の話だよ。というか、鞄の中見れば一発だろ」

 

 サッと十六夜の鞄を奪い去り、ガバッと開ける。そこには教科書たち以外に包装された何かがいくつも……

 

「うええええええええええええええええええええええええええええん!」

「……え?……え??」

 

 急に泣き出した陽向を前にとうとう困惑を隠せなくなった十六夜。

 

(どうしようか……今朝からコイツのテンションおかしいんだよな……話し掛けると何処かに逃げていたくせして、そう思えばさっきは変なテンションで絡んできて、挙げ句泣かれたんだけど……え?マジでどういうこと?情緒不安定過ぎて怖いんだけど?)

 

「あー……神奈さん?えーっと……オレ何かした?」

「してないけどした!」

「どっちだよ!?」

 

 唐突に泣き出した友人を前に、十六夜が狼狽する。というのも、何が原因で泣かれて、自分はどうすればいいのかさっぱり分からないのだ。

 

「チョコ!」

「チョコを貰ったのが原因なのか!?はぁ!?意味分かんねぇって!?……と、とりあえず落ち着け?ほら、ハンカチ貸すから涙拭け?な?何かオレが泣かせたみたいになるからとりあえず、涙拭いてくれ?」

「ぐすん……」

「ほら、スポドリだけど飲むか?それともお茶の方がいいか?」

「お茶……」

「はいはい……」

 

 そう言って鞄から自分の水筒を取り出し、一杯注ぐ。

 

「ほら、熱いから気をつけろよ」

「うん……」

 

 息を2、3回吹きかけ、そして一杯飲む。

 

「落ち着いたか?」

「うん……」

「で?どうしたんだよ……」

「綾人……そのチョコどうやって貰ったの……?」

「どうやってって……普通に手渡しだな。日頃の感謝~とか、義理チョコあげるね~とか」

「ボク知ってるもん!よく見るパターンだもん!義理って言っておいて本命を渡したパターンなんだもん!絶対そうだもん!うわああああああああああああああん!」

「えぇぇぇぇっ!?何でまた泣き始めたぁ!?ちょっ、神奈さん!?落ち着いて?な?」

 

 彼女は知識が偏っているオタクだった。十六夜が貰ったのは正真正銘の義理チョコなのだが、二次元だと割と見かける、義理だと言って実は本命というパターンだと信じて疑わなかったのだ。

 そして、十六夜はその思考が理解出来ないため、この男も内心半泣き状態であった。何が原因か分からず、そしてどこを進んでも何かの地雷を踏み抜きそうで、もう八方ふさがりではないかと思っていた。

 

「とりあえず落ち着いて……な?」

「うぅ……」

「ほら、ティッシュ」

「うん……」

 

 そんな内心の動揺を隠し、彼女が落ち着くよう宥める十六夜。流石の彼でも狂乱状態の彼女を放置してサッカーの練習に戻ることは出来なかった。

 

「落ち着いたか?」

「うん……」

「えっと……その……一緒に帰るか?というか、家まで送る」

「うん……」

 

 もうサッカーどころではない……十六夜は陽向の不安定さが心配になって、家まで送ることにする。

 

「今日はどうしたんだよ……」

「……何でもない」

「何でもって……そんなわけないだろ。何かあったんなら話聞くぞ?」

「…………綾人は……その……他の子からチョコ貰えてどう思った?」

「どうって……意外と貰えたなって」

「そう言いながら嬉しいとかそういうのもあるんでしょ!」

「と言われてもなぁ……まぁ、一切嬉しくないって言ったら嘘になるのは確かだな。ただ、義理だし、オレにも配ってくれただけだろ?そんなに気にすることか?」

「き、気にする……じゃ、じゃあさ。ボクからもチョコあげるって言ったら……嬉しい?」

「…………まぁな」

「今変な間があった!ほんとは嬉しくないんだ!ほんとはいらないんだ!」

「被害妄想激しいな!?何で今日はこんなにめんどくせぇんだ!?」

「めんど……ひぐっ……」

「泣くなって!ああもう、素直に認めてやるよ!お前から貰えるなら嬉しい!これは嘘じゃねぇよ!」

「……ほんと?」

「ホントだ」

「えっとね…………はい」

 

 彼女の鞄から出て来た小さな包み。

 

「ありがとな」

「……うん」

 

 包みを受け取る十六夜。

 そのまま、いつもに比べるとぎこちない帰り道。そして、神奈の家の前まで到着する。

 

「じゃあ、また明日な」

「うん……あ、えっとね……綾人。耳貸して」

「何だよ」

 

 耳を傾ける十六夜にそっと陽向が呟く。

 

「ボクのチョコ……本命だから」

 

「……っ!」

 

 そう呟くと逃げるようにして、家の中に入る陽向。

 

「…………」

 

 そして、足早に自宅へと向かう十六夜。その頬は紅く染まったいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3月……それは春休み前のことだった。

 

「ねぇ、綾人」

「なんだ?」

 

 陽向の部屋でラノベを読む2人の姿があった。

 

「ボクらの関係って何?」

「友人かコマとプレイヤー」

「後者の関係が歪過ぎる!?ぼ、ボク的には相棒とか格好良くていいんじゃない?ほら綾人もノってるとボクのこと相棒って言ってくれるじゃん!」

「うーん、結構的確だと思ったが……」

「って、そうじゃない!綾人……えっとね……ゴメン、深呼吸していい?」

「どうぞ」

「……すーはー……すーはー……すーはー……」

「…………」

「えっとね……ボク気付いたんだ」

「何をだ?」

「いや、正確には気付いていたんだよ?うん、ずっと前から気付いていたんだ。ただどうしても言い出す勇気が出なくてそのここまでずるずる来たと言うかこの関係性が壊れてしまうんじゃないかってでもやっぱりこのままじゃ」

「前置きが長い」

「……綾人のことが好きなんだ」

「…………」

 

 ラノベを読んでいた手が止まる。十六夜が顔を上げるとそこには……

 

「…………」

 

 耳を真っ赤にし、持っていた本に顔を埋める陽向の姿があった。

 

「……だからその…………ボクと付き合ってくれませんか?」

「…………」

「や、やっぱり忘れて!今のなしなし!」

「……そうか」

「うん…………」

「じゃあ、神奈。オレと付き合ってくれないか?」

「ふぇ……?」

「お前って、テンションの上下が激しく情緒不安定だし、絡みが面倒くさいところあるし、天才故に意味分からん発言するし、というかムカつく発言を何度も何度もしてくるし、恐怖というか無茶苦茶怖く感じるときあるし、ついでに運動音痴だし……」

「泣くよ!?期待させておいてボクのダメなところ挙げるとかキミは鬼畜か悪魔か!?」

「……でも、お前のこと好きなんだよ。オレに対して、真正面から意見をぶつけてくれて、傍に居て応援してくれる。……お前のお陰でオレは独りじゃない……だからさ、付き合ってくれよ」

「…………」

 

 本を置き、陽向と向き直る十六夜。

 

「綾人はさ……凄い負けず嫌いで勝負ってなると熱くなりやすくて、面倒くさがりで冷たくあしらうこともあって、八方美人というか二面性みたいなものもあって、優等生に見せているけど誰にも心を開こうとしないような一匹狼で、暴走すると手に負えなくて……」

「そうだな」

「……でも、誰よりも努力家で、何だかんだで折れてくれて、一緒に付き合ってくれて……そして、ボクを救ってくれた」

「…………」

 

 陽向も本を置き、十六夜と向き直る。

 

「……こんなボクでよければ……よろしくお願いします」

 

 そして、十六夜はそっと陽向の頬に手を延ばす。陽向もこれからすることを理解し、そっと目を閉じる。

 

「「…………」」

 

 そのまま2人の唇が重なる。そっと離れて……

 

「あれぇ!?思ったより短い!?」

「あぁ?10秒くらいしてなかったか?」

「いやいや、ボク的には一瞬だったかと」

「そんな一瞬ではなかったと思うけどな」

「でもでも、ラブコメのキスシーンはもっと長いと思います。ほら、もう一回しよ!」

「へいへい……っておかしいだろ」

「何が?」

「こんないつものノリでキスってするものか?」

「……確かに。キスの価値が下がる気がするね」

「雰囲気とか空気感とか……もっとこう、何かあるんじゃないか?」

「だね……じゃあ、ディープな方をもっと雰囲気のある……って綾人の変態!そういうのはボクらにはまだ早いよ!」

「1人で言って1人で突っ込むな」

「うぅ……でも、もう1回したいもん……」

「……たく」

 

 30分後……

 

「よ、よし!じゃあ、これから2人で過ごす時間を増やすためにも色々と見直すよ!」

「分かったよ。……そうなると、分析力の練習時間を増やして、サッカーの練習は少し減らすとかか?」

「ボールを使ったり、筋トレだったりの時間をもっと効率的にしよう!……ってよく考えるとその時間も2人だけど……うん!それから勉強方法も少し改善したらどうかな?」

「どうかな?と言われましてもねぇ……お前のスケジュール通り動いているんだけどな」

「もっと、効率化出来るはずだよ!例えば、昼休みの雑談タイムを勉強時間に変えるとか。休み時間も勉強するとか……」

「ただ、クラスが別になると中々大変そうだな……」

「ふぇ?何を言ってるの綾人。ボクらって2年次理系のトップクラス志望でしょ?」

「あの難関大学進学を目指すヤツな」

「それって1クラスしか出来ないから自動的にボクらは同じクラスになるよ!」

「と言っても希望が通るか……いや、通るに決まっているか。お前ってこう見えて学年トップだったわ」

「おいこら!そっちこそ、学年2位の癖に!ずっとボクのお尻を眺めている位置に居るくせに!」

「待てコラ!それだとただの変態だろうが!つぅか、学年末は総合得点1点差だったろうが!」

「フッフッフッ、綾人の詰めが甘かったんだよ!大体全国模試もボクの方がちょっと高かったしね!」

「次のテスト覚えてろよ……次こそ勝つ……!」

「ボクこそ、キミという好敵手のお陰で勉強しているからね……負ける気はないよ!……ってそうじゃない!」

「はい」

「例えばだけど、授業を受ける。その後の5分でその授業をまとめる。午前中の分は昼休みに共有して教え合う。午後の分は部活に行く前に教え合うってやって、土日のどちらかで1週間分をまとめて……ってやればよさそうじゃない?ボクが勉強を口実に綾人の傍に居られる!」

「お前は勉強を口実にしなくても傍から離れないだろうが」

「えへへ……」

「……まぁ、いいんじゃないか。やってみて適宜修正……だろ?要は普段の勉強時間を少し減らす代わりに効率を上げていくって話だ」

「うん!それと分析力の練習は……そうだなぁ。先生の行動を見てみるのも追加はどう?」

「……なるほど。HRとかそういうくだらない時間を有効活用しようと」

「……綾人ってそう考えていたんだ……うわぁ」

「引くな」

「目標はイチャつく時間とデートの時間の確保だよ!というか、何で青春物のカップルはそういう時間を平然と作れるんだ……!?」

「彼女がオタクじゃないから」

「むかっ!彼氏がサッカーバカじゃないからだよ!そんなんだから彼女出来なかったんでしょ!」

「いや、一応出来たぞ」

「え……?」

「サッカーを優先すると大体怒られて、興味ないって言ったら何か言ってきて別れたんだけどな」

「……うわぁ……でも、綾人に彼女居たんだ……ボクが初めてじゃないんだ……」

「……ある意味初めてだけどな。……サッカーより優先しようと思えるヤツなんて」

「た、確かに……!()()綾人がボクとの時間を作るためにサッカーの練習を減らすって言うんだもん!……綾人ってボクが思っている以上にボクのこと好きでしょ?」

「……るっせぇ」

「えへへ……ボクも綾人のこと大好き。もうずっとこのまま離れないもん」

 

 こうして2人は付き合うことになり、そのまま春休みに突入したのだった。




 韓国戦での回想が、十六夜が陽向が泣いたのが始めてと言っていましたが、あくまでその時点で思い出せる記憶の中では、過去に彼女は泣いていないって言う意味ですね。もっとも、あまりにも陽向の情緒が不安定すぎて忘れたかったというのもありますが……
 また、十六夜が親が居ないことに慣れているのは、父親は単身赴任で母親は出張が多く、家に誰も居ないことが多かったからですね。それと、主に母親や父親とのコミュニケーションがうまく行っていないっていうのもあります。


陽向神奈
 情緒不安定なオタク。色々と面倒な部分がある残念な少女。十六夜の前でしか、あそこまで取り乱す姿を見せない……が、彼に取り乱す姿を見せすぎて心配されている。恋愛関係……もとい、勉学面以外の知識は二次元からが多いため偏っている部分がある。
 春休み前に十六夜と付き合い始めた。

十六夜綾人
 成績優秀、運動神経抜群、コミュ力高めで、何事にも動じず、困っている人に手を差し伸べ、他人の相談を受けたり、問題を解決したりで奔走する優等生……という演技をしていて、一部を除く周りからもそう思われている。サッカー中は黙っていれば、努力を重ねる真面目な努力家に見られているため、今のところはプラスに働いている。
 家族との関係は良好とは言い難い。反抗期……というわけではないが、本音で話すことがそこまで出来ていない。ちなみに両親が元不良であることは知っている。
 サッカーをやる理由を負けたくない以外に見つけられていない。一応、中学から現時点までで、公式戦出場回数1回で未だにフル出場は愚か、録に試合にすら出ていません。練習試合は何回か出ている模様。
 春休み前に陽向と付き合い始めた。

十六夜母
 知的で冷徹な印象を受ける。ただし、割と暴力的で凶暴な面があるが、十六夜には手を上げない。息子に手を上げるような親はクズだと思っている。
 元不良で中学・高校時代は喧嘩に明け暮れていて、喧嘩ではほぼ負けなし。息子に対しても敬語と堅い言葉を使うが、緩んでしまえば荒れた凶暴な姿を見せてしまうため彼女なりに気を使っている。十六夜と本音で話すことがほとんど出来ていない。
 基本的には納得できる理由があれば味方になってくれる存在。十六夜にサッカーを続けるための条件を出しているが、十六夜やサッカーのことが嫌いではなく、本人のやりたい思いが強くないことを問題視しているためである。
 ちなみに陽向の存在を知らない。

十六夜父
 単身赴任中で家にほとんど帰ってこない。運動神経は良く、頭も良い。
 今でこそ温和で尻に敷かれているが、元不良で中学時代は喧嘩に明け暮れる。高校時代には足を洗うも、暴力沙汰に巻き込まれがち。ちなみに、十六夜母に喧嘩をふっかけられて、喧嘩に勝つ。そこから交流が始まり、喧嘩を通して和解し、現在に至る。
 不器用な母と息子のやり取りを電話越しに聞いている。自分もなんとかしたいが中々帰れず、息子には避けられているわけではないが、踏み込んだ話が出来ていない状態。
 ちなみに陽向の存在を知らない。


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過去編 ~自覚なしで興味なし~

豚のレバーは加熱しろってアニメですが、豚の声と絵と内容が色々と重なって笑ってしまう……豚……豚が……でも、ただのギャグアニメじゃないらしいので、しっかり見ていきたいですね。
ちなみに、ぐらんぶるの最新刊を読みましたが……やってましたね。笑いが止まりませんでした。

と、そんなこんなで過去編も5話目で、遂に高校2年生になりました。十六夜くんの高校2年生は彼にとっても大きな年ですからね……


「へい綾人!今年も同じクラスでよろしくだぜ!」

「ハイテンションだな、お前」

 

 4月……2年生になった十六夜と陽向。そんな初日の放課後……

 

「やっぱり一緒のクラスだと分かって嬉しいんだもん!また1年一緒に居られるね!」

「まぁ、このクラスはそのまま3年も持ち上がりだろうから、来年も一緒だろうな」

「おぉっ!じゃあ、高校生活ずっと一緒だ!えへへ……」

「じゃあ、帰るぞ……放課後はオレの家で勉強だろ?」

「うん!ついでに綾人は筋トレね」

「へいへい」

 

 帰り道……リフティングをしながら帰る十六夜に対し、陽向は質問をしていた。

 

「そういえばずっと気になっていたんだけどさ」

「何だよ、寝癖でもついてたか?」

「ううん、ついてないよ。綾人って、サッカー凄く上手いじゃん?でも、中学時代はサッカー部の顧問、無能で使えなかったんでしょ?」

「ドストレートだなおい。まぁ、事実なんだが」

「高校も進学校だからか、そこまで力入ってないしさーそう思うと、どうして綾人ってそんなに上手いの?」

「別に上手いとは思っていないけどな」

「またまたーってなると小学校の時かね?どんな感じでサッカーやってたの?」

「どんな感じって……普通じゃないか?」

「詳しく教えてよ!綾人の普通って大体普通じゃないからさ!」

「ひでぇなおい……と言ってもなぁ」

 

 そう言いながら小学校時代のサッカーについて話す十六夜。それをリアクションをとりながら聞く陽向。そして、大体話し終えると……

 

「ふむふむ……これが綾人のプレーの起源か……そのコーチも面白いことを考えるね。個の能力のみを重視し、繋がりは無視して、すべてのステータスが高い選手を育成するか……」

「そんな感じ」

「いいね……1つの武器を極めた達人もその武器で勝負しなければよさそうだし……相手によって自分の武器を入れ替えて戦うか」

「まぁ、オレたちは真っ向から行くヤツが多かったから、そんな器用なこと出来なかったけど」

「それに一騎当千な選手が11人集まれば敵なしか。ふぅむ……真の力を引き出すには指揮する人が求められるね。全員が全ポジションをそつなくこなせるのも、変幻自在な戦い方が出来るし凄い戦術とか取れそう」

「確かになぁ……全員が全ポジション出来るから、フォーメーションも組み合わせれば、膨大な量のパターンが考えられるからな」

「けど、惜しいね。小学校6年……ああ、5年だっけ?そんな期間だけじゃなくて、小学校に入る前から社会人になるまで、その人に徹底して教えてもらえれば最強の選手……そのコーチが求める選手たちが誕生しただろうね。成長、発達段階に応じて、指導方針を調整できたらもっとよかっただろうね」

「……肯定的なんだな。お前は」

「うん、ボク自身は賛成よりだね。後はあれだ。多分、コーチは能力……要は武器の質を重視したんだ。でも、そこに武器の使い方……要は頭脳だね。そっちをもっと伸ばせると凄い選手が出来ると思うな。……まぁ、闘争心剥き出しの小学生に、頭の方も鍛えるってのはちょっと無理かな?」

「さっきも言ってたけど、試合ではコーチが全部指揮を執っていたからな……今思えば、仮に分析力が凄くてもそこまで評価されてなかっただろうな」

「ある意味コーチの実験なんだろうね……コーチの思う最強の選手を育成する実験。そして、綾人たちは替えの効く実験体(モルモット)……潰れたらそこまでって感じだね」

「替えの効くモルモット共が、替えの効かないオンリーワンを目指して潰し合うか……まぁ、オレとしては望むところだな。どうせ、仲良しサッカーなんて出来ないし、やるなら徹底的に潰し合いたい。相手だろうが味方だろうが、そんなの関係ねぇ。オレにとっては全員が潰し喰らう相手だな」

「……そう」

 

 一瞬、陽向が悲しそうな表情を向けるも十六夜は気付かない。

 

「今の話のお陰でもっと綾人の事を知れたよ~ありがと」

「へいへい。そういや、お前の話は何かないのか?」

「ぼ、ボクの話!?ボクは至って平凡だよ!?」

「チェスで日本1位になっておいてよく言うわ……まぁ、話したくねぇなら無理に聞かないけど」

「う、うん……ひゃい!?」

「どうした、奇声を発して」

「て、手が……」

「ああ、お前がずっと手を繋ぎたそうにふらふらさせてたからな。嫌だったか?」

「い、嫌じゃないよ……でもリフティング中だし……」

「安心しろ。いいハンデだ」

「勝手にハンデ扱いしないでよ!?」

「じゃ、ドリブルに変えるわ」

「そもそもボール蹴るのやめた方が良いと思うけどな……ほら、万が一車とかに当たったら面倒だよ?」

「それもそうだなっと」

「お、凄い。ボールを蹴って綺麗に鞄の中に入れた……じゃないよ!?手を使え手を!キミの手は何の為にあるのさ!」

「神奈と手を繋ぐため」

「あ、綾人……!…………騙されないからね?」

「ッチ」

「舌打ちした!酷い!最低!」

「もう遅い」

「でしょうね!」

 

 全く……そう思いながらふと疑問が出てきた陽向。

 

「そう言えばさー。綾人って、何でDFやってるの?」

「はぁ?」

「いや、キミのプレースタイル的にさ、別にFWでもMFでもいいわけじゃん?寧ろ点を取りに行くんだったらFWでいいし……というか、サッカーってスポーツでキミが1人で勝つなら点を取るのは守ること以上に必要だし。さっきの話を聞いていてもよく考えたらDFやってる理由は言ってなかったし。何でDF志望なの?」

「それは……」

「それは?」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「………………………………」

「………………………………」

「……………………そういや、何でオレはDFをやりたいんだ?」

「…………(ガクッ)」

 

 長考の末に出した結論に対し、コイツダメだ……って目を向ける陽向。一方の十六夜は繋いでいない方の手を顎にやって真面目に考えていた。

 

「え?嘘でしょ?」

「割とマジだ」

「何か憧れの選手が……とかもいないの?」

「いない。つぅか、興味ない」

「いつからDFを希望していたかは?」

「中学に上がる前には。特に覚えていない」

「……もしかして、思い当たる理由が無いの?」

「ああ……神奈、知らないか?」

「知らないよ!?流石のボクでも本人が知らないことまで分かるわけないよ!?」

「いや、お前って割とオレが気付いていないこと気付くし……それに……ほら。超常的な何かで……それかその凄まじい洞察眼と分析力で……」

「ボクのこと何だと思ってるの!?流石に無理だよ!?どんなに分析してもキミがDFをやりたいかなんて知らないよ!?」

「本当に?嘘をついていないだろうな?」

「うぐっ……」

 

 と、何故か陽向が図星を突かれた人みたいな反応をする。

 

(ん?何でコイツ、本当は知っているみたいな反応をするんだ?……もしかして、本当は知っていて、ここまでの流れは全部演技だったのか?)

(ま、マズいマズい……ボクの分析ではなんとなく答えが出ているんだけど……流石に本人の知らない本人のことを知っていますなんて言ったら引かれそうだし……本当に合っているかって言われたら綾人のことだから9割以上合っている自信があるけど、万が一外れた時に信用が落ちるし……だから、答え合わせしたかったけど……こ、ここは何も知らないことにしておくんだ。ボクは何も知らないボクは何も知らないボクは何も知らない……)

 

 妙な沈黙が2人を支配すること数十秒。沈黙を破るように十六夜が切りだす。

 

「……まぁ、冗談は置いておこう」

「うん……ん?何処から冗談だった?」

「お前に知らないか?って聞いたところ」

「じゃあ、理由は?」

「ガチで分からねぇ」

「…………もしかしたら、綾人はバカかもしれない。ボクはそう思ったが声には出さなかった」

「思い切り聞こえてるぞー」

「綾人が読心術を身に付けた……!?ボクは驚きを隠せなかった」

「変なスイッチ入ったな。待ってろ、今ハンマーを取ってきてやる」

「やめて!?綾人の冗談って冗談に聞こえないから!ちょっとした悪ふざけなんです……!」

「やらねぇよ……精々、レンチで殴るくらいだ」

「ハンマーどこ行った!?と言うか死んじゃうからね!?シャレにならないからね!?」

「ははっ!やっぱ、からかうと面白いわ」

「うぅぅ……!…………で、本当に理由が見当たらないの?」

「今、頑張って思い出している」

「頑張れ♪頑張れ♪頑張れ♪」

「うっせぇ気が散る」

「……ぐすん。彼女の声援を容赦なく一刀両断するなんて……酷いけどこれが綾人か」

「早い。立ち直って諦めるまでが秒だな」

「ふっふっふっ……伊達に綾人の彼女をやっていませんので」

「どういう意味だコラ」

「綾人が鬼畜であることは前から知っているからさ!」

「よし、今からお前を監禁するわ」

「それは本当に鬼畜!?というより警察案件になっちゃうよ!」

「大丈夫大丈夫。お前のご両親には2泊3日の部活の合宿にでも出掛けたと伝えておくからさ」

「思いの外監禁時間が長い!?……で、でも、綾人とずっと居られるならそれもありかも……ずっと綾人と2人きりで……誰にも邪魔されず……えへへ」

「…………お前って怖い時があるんだけど……大丈夫か?悩みあるなら聞くぞ?」

「悩みは綾人がボクに好意全開なアピールが少ないことです。もっとたくさん好きって言って欲しいです」

「悪い、この辺電波障害起きているみたいだわ。うまく聞き取れなかった」

「いやこの距離だけど!?何、それっぽいこと言って誤魔化そうとしているのさ!」

「……で、何の話だっけ?」

「綾人がボクのこと好きって言うことが少ないって話だよ!」

「そうか……それは深刻な悩みだ。オレじゃ解決できねぇわ」

「キミしか解決出来ないんだよバカ綾人!リピートアフターミー、好きです」

「リピートアフターミー、好きです」

「何でそこからリピートするのさ!?」

「ほら、家着いたぞ。とりあえず、勉強だな」

「そうだね……あ、勉強頑張ったらご褒美欲しいなぁって」

「お前、勉強嫌いなキャラじゃねぇだろ」

「えぇー」

「……まぁ、何か考えるわ」

「やったー!綾人に沢山甘えよーっと、あ、お邪魔しまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜綾人!私と勝負しなさい!」

 

 2年生になって1週間くらいが経過したある日の放課後。部活もなく、珍しく教室に残って陽向と勉強していると声をかけられる十六夜。

 

「…………」

「おーい、綾人?お客さんだよ?」

「…………」

「十六夜綾人、聞いてるの?」

「…………」

 

 この瞬間、十六夜は考えていた。

 

(外、雨降ってるなー……)

 

 なんとなく面倒くさい予感がする。だから無視しようと、全く違うことを考えていたのだ。

 

 ツンツン

 

「…………」

「あ、この反応は聞いてるから大丈夫だよ」

「そう?じゃあ、遠慮無く言わせてもらうけど……」

「待てコラ。人の意見スルーすんな」

「喋ってなかったじゃない」

「というか、名乗るのが礼儀だろ?お前、誰だよ」

「「……え?」」

 

 と、ここで固まる女性陣。そんな反応に対し、頭に疑問符を浮かべる十六夜。

 

「ちょ、十六夜綾人?冗談よね?仮にも同じクラスの人間なんですけど?」

「いや、1週間でクラスの人間の顔と名前一致させることなんて出来ねぇだろ」

「そもそも、綾人さんは興味の無い人間は覚えていないよねー」

「いやいや、私って一応生徒会副会長に就任していて、ほら選挙もやってたでしょ?」

「興味なかった。覚えてねぇ」

「それに、癪だけど。非常に癪だけど、テストとかでは私学年3位よ?常にあなたの一個下に名前を連ね続けているんだけど?」

「そうなんだ。初めて知ったわ……で、3位って誰だっけ?ごめん、名前知らねぇわ」

「屈辱……!私は敵として認知さえされていなかったなんて……!私はこんなにあなたを敵として認め!倒そうと研鑽を積んできたのに……!」

「そういうこともある。お茶いるか?」

「いらないわ……」

「じゃ、今日はこの辺で……」

「って帰さないわよ!」

「……ッチ」

「舌打ちした!?もしかして、あなた相当性格悪いわね!」

「はぁ……で?お前、誰?」

美空(みそら)(ゆき)よ」

「はぁ……で、美空。何か用か?」

「宣戦布告しに来たのよ」

「丁重にお断りします」

「ふっふっふっ、十六夜綾人。学年次席に位置し、運動神経抜群の優等生」

「聞けよ、人の話」

「あなたの存在は私にとって目の上のたんこぶなのよ!」

「どこがだよ」

「あなたは常に私の上に居る……!この前の全国模試も総合偏差値70越えだったのに、何故か校内順位は3位!自己最高なのに……ぐぬぬ……!」

「すげぇじゃん。あの模試の結果で70越えとか凄いと思うけど?」

「それは自慢のつもり?あなたの方が良い結果だったのは知ってるのよ!」

「いやいや、ここにオレ以上のバケモノいるから。存在感消してるけど、コイツが校内順位1位だから」

「えへへ……」

「いえ、陽向さんは私にとって敵ではないわ」

「なぬ……!?」

「何故オレが敵判定されて、コイツはされてねぇんだよ……」

「いい?私は頭がいいって言われてるの。少なくとも、私が通っている塾では常にトップの成績を納めているの。それに、運動神経もそこそこいいの。スポーツは何をやらせても、ある程度出来る自信があるわ。そして、何より生徒会副会長の座につき、優等生として通っているの。分かる?あなたと私では被っているのよ」

「どこがだよ」

 

 十六夜は思った。何でオレに絡むヤツは変人しかいないのだろうか、と。

 

「それは綾人が変人だからです!」

「…………」

 

 十六夜は思った。ナチュラルに心を読まないで欲しい、と。

 

「あなたは私より頭がよくて!私より運動神経抜群で!何より、私と遜色がないレベルで優等生として知れ渡っているのよ!」

「はぁ……」

「それに比べ陽向さんは、頭はいいけど、運動神経皆無で、何よりコミュ障なのか他の人と喋らない!優等生として知れ渡っていないのよ!」

「ひぐっ……」

「え?あ、陽向さん?何で泣きそうに……」

「あーあ、神奈を泣かしたな」

「ううっ……ボクは運動音痴でコミュ障で陰キャでオタクでチビで貧乳でぼっちで人見知りだけど……!」

「「誰もそこまで言ってない」」

「い、一応彼氏持ちなんだよ!」

「初めて知った」

「彼氏に裏切られた!?……ぐすん」

「え、えっと……泣かせるつもりはなかったんだけど……」

「責任取れよなー」

「あなたがトドメを刺したんでしょ!?」

 

 本格的に泣き始めようとする陽向を前に困惑している美空。そんな彼女は一つの答えにたどり着く。

 

「……あ!そうだ、陽向さん。私とお友達にならない?」

「いや、何でだよ」

「え?いいの?」

「いや、いいのかよ」

「うん……私って近づきにくいのか分からないけど、何故か友達と呼べる人この学校に居ないから」

「哀しいなぁ。お前もぼっちやってたのか?」

「おい、十六夜綾人。言葉に気を付けろ」

「そーだそーだ!ボクらはぼっち同盟を組んだんだぞ!」

「勝手に組んでろ」

「「え?綾人(あなた)もぼっちでしょ?」」

「……で?本題は?」

「私と勝負しなさい!」

「断る」

「勝負内容は6月の中間考査での点数勝負。各科目で点数を比べ、勝ち数が多い方の勝利」

「聞けよ、面倒だからやらねぇって」

「勝った方が負けた方に命令できる!これでどう!」

「却下」

「……陽向さん。この男ってどうやったら勝負の土俵に上げられる?」

「うーん……脅す、とか?」

「およそ彼女がするとは思えない提案だな」

「さっき、およそ彼氏がするとは思えない裏切りがあったので仕返しです」

「そうか……じゃあ、もう1回裏切るか」

「何故まだ争おうとする!?」

「え?やられたらやり返すのは当然だろ?」

「それじゃ終わらないんだよ!」

 

 陽向と十六夜が言い合いを始める中、美空は何かを思いついたようにぽんっと手を打つ。

 

「なるほど……ちなみに弱みの種ならあるけど?」

「しかもあるのかよ……ん?おい待て、どういう弱みだよ」

「ま、まさか……綾人浮気していたの!?それは最低な行為だよ!?あわわ……ど、どうしよう……こういう時はとりあえず包丁を……」

「してねぇっての。勝手に浮気した前提で話を進めるな。というか、浮気未遂で包丁を持ち出すんじゃねぇ」

「だってだって、こういうときは包丁で刺してからお話を……」

「刺されてから話が出来るわけねぇだろ」

「……こほん。続けていいかしら?」

「「どうぞ」」

「弱み……それは、あなたの中学時代の話よ」

「…………」

「あなたは手のつけられない素行不良な生徒だったとか。あなたがサッカー部を潰したとか。およそ、今の良い噂が多いあなたとはかけ離れた中学生活を送っていたとか。……さぁ!こんなことを話されたくなかったら――」

「別に話せば?」

「――え?」

「お前が何を知ってるか知らねぇし、何で知っているかも興味ねぇ。……だけど、その程度の真偽も分からない話に踊らされる奴らなんか、相手にする価値ねぇよ」

「あ、ちなみにボクは綾人の中学時代の話は知ってるよー」

「あの……動揺とかしないの?えっと……あれ?」

「それにさぁ……お前の知っているオレが本当の姿なら、オレは性格最悪の素行不良な問題児なんだろ?」

「え、えっと……十六夜さん?あの……」

 

 十六夜が立ち上がり、ゆったりとした足取りで美空に迫る。そして、そのまま壁際まで追い詰めると。

 

 ドンッ!

 

 彼女の脇腹の数センチ横を蹴り抜く十六夜。

 

「ひぃっ!?」

「うん、気が変わった。勝負しようぜ、美空。オレが勝ったら……どうなるか分かるよな?」

 

 そして、彼が出来る最高に嗜虐的な笑みでそう言ってのけた。

 

「ま、まさか綾人!ボクの前で浮気する気なの!?」

「いや、何でそっちに走るんだよ。今、結構いいところだから静かにしてくれない?」

「あ、じゃあやり直しを……って今の壁ドン!?もしかして、伝説の壁ドンってヤツじゃ……!あわわ……このまま2人はキスを……」

「よく考えろ?今までの流れから、どう考えてもここからそんな展開になるわけないだろ?」

「その……私、初めてだから……」

「お前まで何でボケに走ってるんだ」

「あわわ……ほ、包丁とカメラを……」

「マジでやめてくれ?何に使うか聞きたくねぇけど、本当にやめてくれ?」

 

 この後、何故か精神的な疲労を覚えた十六夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい綾人!今度の休みにデートしよう!」

 

 とある日の放課後、いつになくテンションが高い陽向が十六夜に声をかけていた。

 

「分かったよ」

「ほら~そう渋らずに……え?あの綾人が即答でオッケーした?どうした?風邪でも引いたかい?」

「うっせぇ。お前のことだからオッケーするまで泣きついてきて放さないだろうが」

「な、泣きつかないし!ちょっと、手が綾人の服の袖から離れないだけだし!」

「……で?どこ行くんだ」

「水族館!」

「待ち合わせ場所は何処にする?現地集合現地解散か?」

「何で道中を一緒に楽しもうとしない!?」

「じゃ、迎えに行くから。いいよな?」

「へ?あ、えっと、待ち合わせしてみたいなぁーって。そっちの方がデートみたいじゃん!だから、集合場所と時間はね……」

 

 そして、なんだかんだあって当日。水族館にて……

 

「やっぱり、ペンギンは見ていて癒される……」

「お前、本当にペンギン好きだよな。もう水族館なのにペンギンしか見てねぇよ」

「うん!ほら、あの子の顔とか可愛くない?」

「どれも一緒だろ……」

「綾人正座!」

「はぁ?」

「そんなバカなこと言って!綾人は何も分かっていない!いい?ペンギンは1匹1匹当然ながら違うんだよ!人間が皆違うのと一緒だよ!」

「…………」

 

(そうなのか?興味ないヤツなんてどいつもこいつも一緒に見えるんだけどな……)

 

「綾人正座!」

「はぁ?」

「つまりキミはペンギン(あの子)たちに興味が無いわけだね!いいでしょういいでしょう!ボクが語ってあげるから」

「勝手に人の心読むんじゃねぇ」

「こほん、まずあの子はね……」

 

 ここからお昼までの3時間。十六夜はペンギンコーナーの前で陽向の語りをひたすら聞かされていた。

 

「ボクは異世界に行ったらペンギンと会話できる能力が欲しい!」

「唐突だな」

 

 そして、昼食……陽向が唐突にそんなことを言ってのけた。

 

「それに弱くねぇか?せめて、ペンギンを使役するくらいじゃねぇと……」

「使役なんてとんでもない!友達になりたいんだ!」

「……お前って天才だけどバカだよな」

「うっさい!……だ、だって、ペンギンと友達になれるんだよ?少なくとも欲しい能力トップ3に入るんだよ!ちなみに他には、小動物と話せる能力も欲しいかな?」

「異世界行ってペンギンと友達とか……しかも、動物と話したいって……ねぇ」

「ぶーぶーじゃあ綾人はどうなのさ?」

「オレか?そうだな…………空を飛ぶ能力か?それか時間を止める能力」

「え?意外……どうして?」

「人混みに巻き込まれない。周りを気にせず自分のペースで歩けるから」

「うわぁ……綾人らしい。…………ん?も、もしかして、空を飛べたり、時間を止めたらすぐにボクの所へ駆け付けられるから?」

「何でお前限定なんだよ……って、くっつくな暑苦しい」

「えぇーほんとは嬉しいくせにー」

「……うっせぇ」

「綾人がデレた!」

「バカやってないで飯食い終わったんだろ?じゃあ、行くぞ。餌やり体験するんだろ?」

「うん♪」

 

 

 

 

 

 時は流れ、夕暮れ時の帰り道……

 

「いやぁ、楽しかったね♪また来よう!」

「そのうちな……と言うか、9割ペンギンで終わった気がするのは気のせいか?」

「ほぇ?水族館(ペンギン館)だから良いんじゃないの?」

「勝手にあそこをペンギンしか居ない場所に変えるな。普通に別の海洋生物も居たわ」

「うーん、もしかして他も見たかった?」

「特には。オレとしてはテンションが上がっているお前が見れて満足」

「一体、水族館に何を見に来たんだキミは!水族館を何だと思っているんだ!」

「お互い様だろ……まぁ、ちょっとはペンギンの良さも――」

「え?え?目覚めた!?目覚めてくれた!?じゃあ、ボクの秘蔵のペンギンフォルダからピックアップして1000枚ほど写真を……」

「――それされたら萎えるからマジでやめてください」

 

 ツッコミが追いつかず、謝罪しか出来なかった十六夜。もう秘蔵のペンギンフォルダって何だよとか、何でピックアップして1000枚になるんだよとか、単位がおかしいだろとかを考える気力も言う気力も失せていた。

 

「それより、ほら」

 

 そう言って自身のバックから取り出したのは小さな袋。

 

「え?何々、開けて良い?」

「どうぞ」

「わーい……おぉっ!ペンギンのストラップだ!可愛い~!しかもコレってボクが見てたヤツじゃん!」

「土産屋で見てたからな。大方、欲しいけど今月は趣味(二次元)の出費がヤバい……ってところだろ?」

「うぐっ……よ、よくお分かりで……」

「昼食代を少しでも削ろうと苦心していたからな。……まぁ、小遣い貰っても使い道ねぇし」

「ありがと綾人!大好きだよ!」

「ちょっ、抱きつくな!」

 

 往来での抱擁。引き剥がそうとする十六夜と抱きついたまま離れない陽向の戦いは数分に及び、結果手を繋いで歩く形で十六夜が折れて決着を迎える。

 

「そう言えば、もうそろそろだっけ。サッカーの試合」

「そうだな。もうすぐそこそこ大きめの大会があるな」

「今年から顧問の先生代わったからね~あの先生なら綾人も出してもらえるんじゃない?と言うか十中八九出すでしょ、あの感じなら」

「勝ちに行くって言ったからな。まぁ、期待せずにいるよ」

「またまた~勝ちに行くのに綾人を使わない道理は、協調性ゼロって点以外ないんだから~と言うか、そのマイナスを加味しても綾人の能力がずば抜けているから使わない選択肢はないよ」

「へーへー、こっちは能力の高さを打ち消すレベルの協調性のなさですよ」

「まぁ、ゼロはゼロでも暴走しなければ良さそうだからね。とにかく、本能はまだ封印だよ。いい?封印するんだよ?考えず動くのはダメだからね?それと、荒れた口調も禁止だよ?分かってる?絶対絶対絶対ダメだからね?ちなみにここまで念押ししているけどやれってことじゃないからね?」

「そこまで言われなくても、理性だけでやらせてもらいますよ。もっとも、出番があればだけどな」

 

 この時の十六夜は知らない。その大会で再会を果たすことになるなんて……




 ちなみに十六夜くんが最初にペンギンをイメージできたのは陽向による布教があったからです。いやー記憶を失ってもまさかペンギンが染みついているとは……一種の洗脳か?

 そして、最後の引きに対し、次回からは本編に戻ります。理由は過去編は読まなくても本編に大きな影響はないですが、本編の時間軸に沿って、十六夜が思い出していることになるので、ユニコーン戦前はここまでしか思い出していません。それが何に関係するのかは……どこかで分かるかも?

陽向神奈
 十六夜相手なら読心術も余裕な分析家。ペンギン狂である。ペンギン大好き少女でペンギンのことなら何時間でも語れる。彼女と水族館に行くと、真っ先にペンギンのところに行きそこから離れない。他の海洋生物が好きなら彼女と一緒に行くのはお勧めしない。ちなみに、ペンギン好きと公言したら最後沼に嵌められるので、安易に公言しない方が良い。

十六夜綾人
 誰かさんに常に内心で思っていることを見透かされている。誰かさんのせいでペンギンが頭から離れない。何故か変人ばかり寄ってくる自称苦労人。
 DFをやりたい理由に自覚なし。彼女は分かっているらしいけど、本人は分かっていない。と言うか、この男は自覚がないことが多すぎる。反省して欲しい。

美空(みそら)(ゆき)
 相手にしてはいけない男に宣戦布告してしまった少女。2年生からは十六夜たちと同じトップクラスに在籍する。生徒会副会長で成績は学年3位と陽向、十六夜につぐ実力者。また運動神経はよく、どんなスポーツもそつなく熟すと、文武両道で容姿端麗な優等生。真面目な性格で、そのスペックから近づきにくい存在とされている。ただ、十六夜に対しては熱くなりやすく、好戦的で目の敵にしている。
 十六夜綾人の中学時代を知っている。理由は単純なのだが……


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深まる謎

 過去編をやると何故か一気にお気に入り登録者数が減っていく現象……謎だなぁ。まぁ、最新話投稿すると大体その日はお気に入り登録者数減っているので今更ですが。
 ちなみに、作者はお気に入り登録者数とかほとんど気にしていないです。減ったなー増えたなーって感じですね。気にしているんだったら、前書きと後書きで遊んでいません。お気に入り登録したい人がする。したくない人はしない。それでいいんです。

 ということで君のことが大大大大大好きな100人の彼女は1話から面白かったです。(どういう流れだよ)いや、本当に原作で流れを知っていても笑いましたね、はい。本当にぶっ飛んでいる作品ですので、観て欲しい。現時点の最推しもアニメに登場するので、マジで観て欲しい。ちなみにサッカー要素は現時点ではなかったはずです。

 とまぁ、こんな感じですが本編戻ります。


「ねぇ」

 

 日本に帰った次の日の昼。昨日は帰国後、久遠監督の指令を終わらせ、夜には行動を起こしていた。

 自宅の自室にて、パソコンを見ていると背後から声をかけられる。声を聞いて思わず振り返ると……

 

「…………不法侵入って知ってるか?」

「知ってる。正当な理由がなく、他人の土地・住居・建造物などに侵入すること」

 

 声の正体は現在協力してくれているAと名乗る少女。

 

「おう、知ってたか」

「常識」

「お前がやってることは?」

「正当侵入?」

「侵入している時点でアウトだわ。どうやって侵入した?」

「何でもいいでしょう?」

「何でもよくねぇよ」

 

 窓は全部閉まっているし、玄関には鍵も掛かっている。招き入れた記憶が無いと言うより、そもそも論として彼女に家の場所(ここ)を教えた記憶が無い。どうやって侵入した以前にどうやってこの家(ここ)を突き止めたのか……恐怖しかない。

 

「お前……まさか、ストーカーか?」

「そんなわけない」

「…………」

 

 本当は鬼瓦刑事(知り合いの刑事さん)に引き取って貰いたい。だけど、ここで彼女を失う訳にはいかないのは事実。考えても仕方ないし、受け入れるしかない。そう思って色々なことに目を瞑ることにする。決して、誰かに言ったところでどうにもならないんじゃないかと思ったわけではない。

 

「ユニコーンの分析は順調?」

「あ、ああ……一応、ユニコーンの出場した試合で、手に入ったものは見ているが……」

 

 オレがやるべきことは事件の調査もだが、次のユニコーン戦への準備もある。勝つためにも彼らの分析を疎かにすることは出来ない。一応、他の奴らから聞けばいいんだけど……どうにも100%信用出来ない自分がいるからな。やっぱり、自分も実際にやって、その上で共有ならいいんだけど、自分が何もやらず結果だけはどうにも受け付ることが出来ない。

 

「そう……1ついい?」

「何だよ」

「あなたって目が悪いの?視力を上げる方法とか調べていたけど……」

「お前ほんとにいつからいたんだ!?それ1、2時間前の話だぞ!?」

 

 さっと距離を置こうとする。え?オレに気付かれずにずっと背後に居たってことか?え?その気になれば、オレは余裕で殺されていたってこと?嘘だろおい?

 

「いつからって……3時間くらい前?」

「…………」

 

 え?全く気付かなかったんだけど?もしかして、忍びの方ですか?

 

「まぁ、いいや」

「何もよくねぇよ。オレの精神衛生上何一つよくねぇよ」

「本題は別にあるから」

「……何だよ、本題って……」

「お腹空いた」

「マイペースか」

「何か作って」

「女王様か。どっかで食べて来い」

「そんな気分じゃない」

「…………」

 

 まるで駄々を捏ねる子どもみたいだ。いや、子どもの方がマシなんだけど……仕方ねぇ。

 

「オムライス」

「…………は?」

「『その問答が面倒くせぇし。適当に作るけど何がいい?』って言おうとしていたから先に答えた」

「…………」

 

 こえぇよ。もはやコイツとの会話には怖さしかねぇよ。いや、存在自体恐怖しかねぇよ。え?何なのこの自由人、怖すぎなんだけど?

 

「卵がふわふわなやつ」

「……その前に買い物に行かねぇと材料ねぇんだよ」

 

 米は昨日買ったヤツがあるけど、生憎材料はねぇ。いくら神様が建てた都合のいい家でも、家電製品とかはあくまで普通のやつだからな。

 

「うん、行こう」

「へーへー」

 

 パソコンを閉じて出かける支度をする。

 

「ずっとおもりをつけてるんだね。昨日寝ているときからつけてたでしょ?」

「まぁな。可能な限りつけている…………って待てコラ。何で寝る前からつけてること知ってるんだ?」

「……じゃ、走ってスーパーまで行く。その方が練習になるでしょ?」

「無視すんな。結構大事なことだぞ?オレはお前を謎の協力者からイカレストーカー女に認識を改めざるを得なくなる」

「酷い。あなたほどいかれていない」

「いや、お前に言われたくないんだが……」

「とにかく行く。ご飯が遅くなる。ちなみに夜ご飯はハンバーグがいい」

「なんで夜ご飯もお前に作ることが決定しているんだよ……ああもう、分かったよ。で、お前、どれだけのスピード出せるんだ?」

「ライド・ザ・ペンギン……私はこれで追いかけるから。お好きなようにどうぞ」

「あ、はい」

 

 もはや、普通にペンギンを呼び出せて普通に乗っていることには疑問を抱かない。透明なペンギンって意味の分からないのを出せるからな。

 

 

 

 

 

「まだ?」

「もう少し待ってろ」

「分かった」

 

 あれから近くのスーパーで買い物をして、買ったものはA(のペンギン)に運んでもらってオレはダッシュで帰宅。そこから料理をしているんだが……

 

「ほら、出来たぞ」

「いただきます」

 

 ……よく分からない感情だ。コイツは協力者……数日前に初めて出会ったはず……そして、今日もとんでもないことを何度かしでかしているはず……なのに。

 

「どうしたの?」

「……いや、何でもねぇ」

 

 何というか……買い物中も思ったが、親近感が湧くって言うのか?根本から嫌いになれねぇというか、突き放せないというか……そうだな。まるで家族みたいに感じると言うか……

 

「子どもを見守る親の気持ちってこんな感じか?」

「……むっ。失礼、今のあなたと同い年」

「はいはい……で?何しに来たか、そろそろ目的ぐらい話してもいいじゃねぇのか?」

「居候」

「は?」

「半分冗談。向こうに戻るまでの間だけ」

「いや、許可してないけど?家主、許可してないけど?」

「でも、許可しないとあなたが困る。ユニコーン戦に間に合わなくなるよ?」

「……なかなか響く脅しじゃねぇか」

 

 間に合わせたいなら要望を聞けってことだろ?アルゼンチン戦が不完全燃焼なのに、アメリカ戦もってのはいただけないな。

 

「へいへい、分かったよ」

「うん、そう言うと思って荷物は既に運んである」

「……そうかよ」

「適当な部屋使わせて」

「後で案内する……ところで、もう片割れは?そいつも泊まるのか?」

「ブラザーのこと?彼はやるべき事があるから別行動」

「やるべき事……ね。で?もう一回聞くけど肝心の目的は?少しくらい話しても良いと思うんだけど?居候させてやるんだから」

 

 と言っているけど、見方を変えるとオレも神様の家に居候している立場だからなぁ。そんな上から言う資格ないよな。

 

「……そうだね。十六夜綾人はバカじゃない。それに、ただただ大人しくついてくるとは思えない。理解できるかはともかく少しくらいなら話す」

 

 コップに入った水を飲み干し、空になったコップを置くと告げた。

 

「未来を変えに来たって言ったら信じる?」

「内容次第」

「信じないとは言わないんだね。どうして?」

「この流れでくだらねぇ嘘をつくならそれまでだ。オレは二度とテメェを信用しねぇ」

「頭ごなしに否定するんじゃなくて、あくまで聞いてから判断か……らしいと思うよ」

「で?お前は未来を知っていて変えようとしている……なんて、面白いこと言いに来たのか?」

「そうだね」

「…………」

 

 未来を知っている……ね。まぁ、何というか……目が本気だな。言葉は淡々としているし、無表情だが騙そうとする意図を感じない。それに何より、目から偽りの色を感じない。

 

「変えたい未来がある。だから……」

「それ以上はいい。どうにもテメェは本気らしいから」

 

 二度と信用しない……協力者としての最大限の脅しを吹っ掛けたがまるで動じなかった。

 

「もし、それがデタラメな嘘なら見抜けなかったオレが悪い。それに未来を変えたいってのが本気なら理由も、背景も、きっと何も理解できないだろうし、やれることも限られているだろうからな。気になることはあるけど、全部説明されたところで3割理解出来ればいいだろう」

 

 仮にそれが本当なら、聞いた時点でオレはコイツの問題に足を踏み入れることになる。影山の裏に潜む黒幕打倒に世界大会本戦……そこにコイツの抱える問題とかはっきり言って割く余裕がない。コイツはコイツの目的があって動いている。それさえあれば十分だ。互いの利害が一致し、利用し合う……それが協力関係として正しい姿だろう。

 

「そう……じゃあ2つだけ。1つはあなたの脅しは効果的。あなたに私が必要なように、私もあなたには協力してもらわないと困る。端から見れば私が上であなたが下の協力関係でも、実際はあなたが思っている以上に対等な協力関係なの」

「そうかよ……実感湧かねぇし、その割にはのびのびやってくれてるみたいだがな」

「もう1つは既に変わっていること。私たちが介入したことで少しずつ未来が変わっている」

「だろうな。お前たちが本来なら関わることのない相手だとしたら、オレがアルゼンチン戦に間に合うことはなかった。あのままイタリア代表のグラウンドで一歩も動けず試合を眺めていただろうな」

「そうだね。そのままイナズマジャパンは敗北していた」

「たとえ、未来が変わっていても本来の未来を知らない以上、オレ視点では何も分からねえよ」

「そうだね。だから、別に気にしなくていいと思うよ」

「そうか……ただ1つだけ言っていいか?」

「どうぞ」

「……その変えたい未来が、お前の都合の良いように変える……そのためにオレを巻き込んだのなら、オレを操りたいなら精々計算間違いしないようにな」

「と言うと?」

「オレはオレのやりたいようにやる。誰かが敷いたレールの上をただ歩くなんてしねぇってことだ」

「だろうね」

 

 誰かの敷いたレールを歩くなんてつまらない真似はしない。オレの未来はオレが決める。

 

「ごちそうさま。とりあえず食器はシンクに入れておいてくれ。まずはお前の荷物からだ」

「うん。ここから忙しくなるから覚悟して」

「上等……というか、サッカーの練習時間はあるのか?」

「安心して。それは確保する」

「ならいい」

 

 流石に疎かに出来ないからな……こうして、昼はサッカー、夜は調査の生活が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから時は流れ、アメリカ戦前日の夜。ライオコット島に戻ってきて、調べたことを監督たちに報告していた。

 一応、オレが居ない間にあった大きな出来事は吹雪の帰還、栗松の離脱、冬花の入院だろうか?吹雪と栗松に関しては知っていたが……冬花が入院しているとは思わなかった。何でも、倒れて病院に運ばれたとかなんとかで……こっちの事件に関係はないよな?

 

「――――ということで、40年前の円堂大介の事件から、影山には協力者が居るのは濃厚。今回の協力者が、影山に力を貸していた可能性が高いですね」

「そうか……」

「それで、怪しい人物の見当はついているのか?」

「流石と言うべきかなんと言うべきか……相手もバカじゃないんで、そんな証拠は綺麗に消されていますね。ただ……」

「ただ?」

「鬼瓦刑事にも話したんですが、一番怪しい人間をあげろと言われたら……ガルシルド・ベイハン。このFFIを開いた主催者であり、大会の会長……彼が怪しいと睨んでいます」

「……そうか」

「ですが、根拠も乏しいですし、もし彼が黒幕なら……この島にいる警察も何も信用できなくなってしまいます」

「会長が相手なら、権力でどうとでもなる……か。で?どうするんだ、お前は」

「ガルシルドが黒幕であれどうであれ、まずは黒幕の目的の把握。後は黒幕を含める敵の正体と証拠を掴み、潰す算段をつける……でしょうか。流石に子どもじゃどうしようもないですので、権力者たちの力もお借りしたいと思いますが……」

「そうか……試合はどうする?十六夜」

「どうする……とは?」

「敵は強大……そんな相手を片手間に相手できるほどお前は強くない。それに、サッカーも同じだ。世界の壁は、それ以外のことに注力していて超えられるほど低くはないぞ」

「……なるほど。黒幕打倒に全力を注ぐか、全てを警察に任せ試合に注力するか……ですか」

「ああ」

「……オレは両方やります。こんなことをしているヤツを野放しにしたくない。だけど、世界一を競うのも諦めたくない。わがままな返答ですが、どちらかを切る選択はないです」

「そうか」

「監督はもしオレが試合に集中できなかったり、技術が及ばなくなったりしたら遠慮なく切ってください」

「……いいだろう。それがお前の覚悟なんだな」

「はい。では、失礼します」

 

 そう言って部屋を出て行く。

 

 

 

 

 

「響木さん。どう思いますか?十六夜の話は」

「確かに、ガルシルドが黒幕なら辻褄が合う……それに40年前の大介さんの事件は影山1人では不可能なことは前々から分かっていた。ただ決定的な証拠がない。……俺たちは何も知らない体で行くべきだろう。影山を疑いはするも、世界一を目指している……相手に悟らせないことが重要になってくる」

「そうですね……ただ、そこまで行くとやはり子どもを巻き込むべきではないと思いますが……」

「心配するな。アイツに無茶はさせない」

 

 

 

 

 

 自分の部屋に戻ると月の光でカーテンにシルエットが浮かんでいた。

 

「協力関係継続でいいよね?」

「ああ」

 

 窓際に背を向けて立つ。

 

「全部話さなかったでしょ?」

「聞いてたのか?」

「ううん。でも、分かる。刑事さんにすら話していないことを、あなたが話せるとは思えないから」

「…………ほんと、お前は何者だよ」

「協力者A。それ以上でもそれ以下でもない……明日はやめ。試合でしょ?」

「助かる」

「……明後日からいよいよメスを入れ始める。いいね?」

「下準備は済んでる……始めるぞ。奴らに気付かれる前に……」

「心臓を潰す武器を手に入れる……でしょ?」

「言い方が物騒だな……おい」

「…………ちなみに今ならまだ引き返せるけど?」

「アホ抜かせ。引き返す選択肢なんてねぇよ」

「そうだね。そう言うって知ってたけど確認だよ」

「はいはい……頼りにさせてもらうからな」

「こっちこそ頼りにするから。足引っ張らないでよ」

 

 そう言って気配が消えた。協力者A……交流を通して改めて分かったが、ヤツは全てを知っている。……ただ、

 

「どこでヤツは事実を知ったんだ……?」

 

 それに未来を変えに来たという発言……一体、何でヤツは未来を知っているんだ?気になる点はあるものの……とにかく、明日の試合に意識を切り替えようか。ただ……

 

「影山が金を送り続けている謎の存在『R』で、相手の居場所はイタリア。……何か思い出せそうなんだよな……」

 

 Rと聞いてピンとくるような来ないような……それに、

 

「小野正隆……久遠冬花の本当の父親……冬花と話したかったが、今日はかなわないらしいな。……ただ、これは限りなく事実に近い……だとすれば、円堂。お前の爺さんは……」

 

 オレはある人物にメールを送ると、その日は眠りにつくのだった。




 この主人公、愛想はよくなく見えるけど押しに弱いですね……いや、何しているんだよ。

 協力者Aについて補足しておくと彼女(ともう1人)は神様が弄った(ルナティックモードに突入した)影響で(目の前に)現れた存在です。2人とも転生者ではありません。
 一応、現時点での彼女たちが関わらなかった世界線(ノーマルモード)との違いとしては、

・アルゼンチン戦に十六夜参戦、その影響で試合結果が変更(敗北→引き分け)
・アルゼンチン戦後に病院送り、またユニコーン戦前に帰国(2つとも元々の世界線では発生しない出来事)
・十六夜がユニコーン戦前に黒幕の正体を知る(元々の世界線では、円堂たちとほぼ同じタイミングで知ることになる)

 ここから先も徐々に乖離していきます。
 そして、次回よりユニコーン戦です。


登場必殺技
ライド・ザ・ペンギン
使用者 A
もはや便利な移動技である。一応ドリブル技なのだが……


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VSユニコーン ~翔けるペガサス~

 『薬屋のひとりごと』のアニメが始まりましたね……予想以上に面白くて続きが楽しみです。いやぁ……今期もアニメが面白いです。今期は7作品追うことにしつつ、今までの作品も見れたらいいなぁ……多分、難しいだろうなぁ……


 土門も一ノ瀬も出会いはフットボールフロンティアの時だった。

 土門はFFの始まる前に、一ノ瀬は全国の準決勝前に出会い加入したメンバーで、今のイナズマジャパンのメンバーと比べても知り合ってからの月日は長い部類に入るだろう。

 土門に関しては最初は新入部員だくらいの感じで深く考えなかった気がする。帝国学園のスパイ問題が大きな転機だったが、土門飛鳥という選手を果たして意識したことはあっただろうか?記憶を遡ってもあまりなかったというのが本音ではある。しかし、エイリア学園の戦いにおいても最後までスタメンの1人として戦っていたこと。そして、一緒にだけではなく外から見た印象も踏まえるなら、凄く目立つことはそこまでなくても実力を発揮し、仕事をしていた印象だ。

 一ノ瀬に関しては最初に勝てないと思わされた記憶がある。勝てるビジョンが見えなかったのは本音だ。それほど、最初は格上だと思っていた相手だ。じゃあ、今は格下かと言われると、もちろんそうは思わない。彼のプレー技術やテクニックは、身体能力に差があったエイリア学園との戦いでは目立っていないように思えたが、要所要所でおさえるところはおさえていた印象だ。

 雷門中のメンバーもだが、オレがFF後に一緒に戦った試合や期間は短い。そのため、オレが居ない間の進化を感じる場面がそんなになかったかもしれない。それに加えてアメリカで何処まで伸びているか……試合を分析したとしても、最後は()ってみないと分からない。

 ただ1つ言えることは、オレはディランとマークと戦うのも楽しみではあるが、彼らと戦うことにも楽しみを覚えていることだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、十六夜。起きろ」

「あ、ああ……」

 

 長い夢と言うか、懐かしい夢を見ていたと言うか……とりあえず、

 

「着いたか?」

「そうだな。船から降りるぞ」

 

 翌日、コンドル島のコンドルスタジアムにオレたちは移動していた。

 

「んーやっぱり、船での移動は楽でいいな。前回のヤマネコスタジアムの移動とは大違い」

「アレはお前だけだし、帰りは寝てただろうが」

「あはは……」

 

 そりゃ、どっかの誰かが使える船をなくすから……ねぇ?オレは悪くないと言うか、アレに関しては被害者だ。

 

「疲れでも溜まってるのか?昨日帰ってきたばかりだろう?」

「問題ねぇよ。コンディションは整えている」

「そうか?」

 

 八神と話しながらスタジアムを目指す。流石に調べ物して帰国してコンディションが落ちています……なんて本末転倒なことはしない。試合に全力で挑めるよう最大限の調整はしている。

 

「ここが今日の会場か……」

「だな!ワクワクしてきたぜ!」

「待ってたよ、円堂」

 

 と、スタジアムに着いて、そのままグラウンドに入っていくと、既にアメリカ代表ユニコーンの姿があった。

 

「昨日は楽しみで眠れなかったぜ」

「いよいよイナズマジャパンと戦えるんだね」

「どれほどのものか、見せてもらおうじゃないか」

 

 一ノ瀬、土門、ディラン、マーク……アメリカ代表の中でも、こちらも知っている・関わっているメンバーたちが声をかけてくる。その中には……

 

「お前らだけで盛り上がるのもいいけど、俺のこと覚えているか?」

「西垣!?西垣じゃないか!」

 

 真っ先に反応したのは風丸。染岡も心なしか驚いていて……あぁ、そうか。西垣とはダークエンペラーズの時が最後で……えっと……その後、どうしたんだ?と言うか、よく考えたらオレもさっさとイタリアに行ったせいで、あの後円堂たち含めどうしていたかよく知らないんだよな……

 

「なるほどな、お前もアメリカに渡っていたんだな」

「だが、前回の試合まで姿が見えなかったけど……」

「FFIの予選が始まった段階では、俺の実力はアメリカ代表に選ばれるほどではなかった。そこから努力を重ねて、ついに選ばれたんだ……前までの俺だと思ってたら、痛い目見るぞ」

「ちなみに、俺も……いや、俺たちも進化しているからな?」

 

 と、土門も声をかけてくる。アメリカ代表に選ばれるほど実力をつけたこいつらと再戦か……

 

「わくわくしてくるな、円堂」

「ああ!今日は全力でぶつかりあおう!」

「そうだね、じゃあまた後で」

 

 そう言って一ノ瀬と土門がベンチに下がっていく。

 

「へい、アヤト。それにイナズマジャパン。今日の勝負はミーたちがもらうよ!」

「キミと戦えるのを楽しみにしてたよ、アヤト」

「オレもディラン、マーク……お前たちと戦えるのを楽しみにしてた。今日はよろしくな」

「よろしく!」

「ああ!」

 

 マークとディランもベンチの方へ戻っていく。

 

「さぁ、ウォーミングアップだ!」

「「「おう!」」」

 

 そして、ウォーミングアップが始まる。終わり際に監督が招集をして、今日のスターティングイレブンが発表された。

 

「FW、豪炎寺、染岡。MF、風丸、基山、鬼道、宇都宮。DF、綱海、十六夜、壁山、吹雪。GK、円堂」

「「「はい!」」」

 

 スターティングメンバーが準備を始める。かく言うオレも……

 

「八神、これ置いといて」

 

 ドサッ

 

 20kgのおもりが足下に落ちる。

 

「ふぅーやっぱり、外すと身体が軽いな」

「……お前、まさかこれ付けてウォーミングアップしてたのか?」

「???何を言ってるんだ?当たり前だろ?」

「「「…………え?」」」

 

 八神が苦笑いで回収していく中、皆が何故か何処か引いた感じで見てくる。彼らは何を見て驚いているのだろうか?

 

「……いつから付けてたんだ?」

「え?今朝起きてからずっと」

「あれ?お前、朝ランニングしていたよな?そのときも?」

「もちろん」

「朝食作っていなかったか?まさか……」

「当然だろ?」

「さっきの移動中も?」

「まぁな。試合中以外、極力つけるようにしているからな」

「「「…………」」」

 

(((ぜ、全然気付かなかった……)))

 

 何故か皆がオレから距離を取った……が、そんなことを無視してグローブをつける。

 ユニコーンはジ・エンパイアと違って攻撃力に定評がある……それに一ノ瀬を中心として、中盤を支配してくる力も。彼らもこの大会中に進化していると見ていい。まずはしっかり守って、その上で攻撃にも参加して点を決める動きが必要か……ただ、向こうにはDFである西垣が加わった。彼の現状は知らないが、土門もいるし……恐らく守りも堅くなっていると踏んでいい。……ナイツオブクイーンやジ・エンパイアより強い相手だと思う。……これは厳しい戦いになるだろうな。

 

「今日の一ノ瀬は、前の試合までより気迫が段違いだな」

「そうだね……ちょっと怖いぐらいかも」

 

 そして、フィールドにて挨拶をかわす。そこで相対して改めてユニコーン側の……特に一ノ瀬からの熱を感じる。

 

「お、俺……一ノ瀬さんを止められるか心配になってきたッス……」

「何言ってんだよ。向こうが気合い十分で臨んでいるんだ。気持ちで負けてたら、そのままやられるぞ?」

「それに大丈夫さ!気迫には気迫でぶつかるんだ!それが戦うってことなんだからな!」

「円堂らしい言葉だな」

「さぁ、皆行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 コイントスの結果、ユニコーンのキックオフで試合は始まるそうだ。

 

 ピーー!

 

 審判のホイッスルが鳴り響き、試合が始まる。ボールは一ノ瀬が持ったが……

 

「最初からフルスロットル……ってところか」

 

 ドリブルで攻め上がり、風丸、ヒロトを一瞬で抜き去った。

 

「行かせないよ!」

 

 吹雪がブロックに行くも突破されてしまい、壁山も突破された。

 

「凄いテクニックだな」

「抜かせてもらうよ、十六夜」

「悪いけど、簡単には行かせない」

 

 早くもゴール前での攻防……ここで抜かれれば円堂と1対1になってしまうな……

 

「腕を上げたね」

「そっちこそ」

 

 フェイントで抜こうとする一ノ瀬と阻止するオレ……

 

「へい、カズヤ!」

 

 と、そこにディランがパスを要求する。パスかドリブルでの突破かの2択……ここは、

 

「パスだろ!」

 

 足を伸ばしてパスカットをする。カットしたボールが転がった先には……

 

「受け取れ!カズヤ!」

「読まれていたか……!」

 

 味方のパスをカットしてくると予想しての動き……完全に読まれていたか……!

 

「円堂!行ったぞ!」

「ああ!来い!」

「行くよ円堂!これが俺の必殺技!」

 

 そう言って両足でボールを挟む一ノ瀬。そのままバク宙の要領でボールを上にあげ……

 

「ペガサスショット!」

 

 ボールを蹴った。後ろには青いペガサスが現れ、シュートと共にゴールを目指す。

 

「イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 円堂の必殺技が発動する。だが、ボールは上に登っていくことはなく……

 

『決まったぁ!一ノ瀬のゴール!アメリカ代表、ユニコーンが先制しましたぁ!』

 

 ボールは円堂が作り出した半球を破って、ゴールへ突き刺さった。

 

「なんてシュートだ……!」

「へぇ……イジゲン・ザ・ハンドを破るか……」

 

 イジゲン・ザ・ハンドはボールを半球の面に沿わせて、シュートをゴールから逸らす技……パワーだけのシュートには滅法強いんだが、今みたいに力だけじゃない、貫通力があるようなシュートは必ず逸らせられるわけではない。逸らす前に半球が壊れてしまうからだ。

 

「よぉし!こっちもレベルアップしたところを見せてやろうぜ!」

「「「おぅ!」」」

 

 ただ、何だろう……一ノ瀬のプレーの感じと言うか……空気と言うかが変わった感じがするな……

 

「どうした?十六夜」

「……円堂、何か気付いたか?」

「何をだ?」

「……悪い、気のせいだ。それなら大丈夫だ」

「???」

 

 それだけアイツのこの試合に賭ける思いが強いだけか。まるで命が掛かっているような……今までの試合には見られないレベルの熱さだ。

 

「情報を書き換えないとな。やはりと言うべきか……警戒すべきはディランとマークだけじゃねぇな」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開、得点は0-1……

 

「フレイムダンス改!」

 

 早々に一ノ瀬が、必殺技で豪炎寺からボールを奪い取る。

 

「反撃だ!」

「行かせるか!」

 

 反撃と言って攻め上がってくる一ノ瀬にブロックに行ったのは風丸。肩をぶつけ合いながら、ボールを奪い合う……そして、その勝者は……

 

「鬼道!」

 

 風丸だった。ボールを鬼道に向かって大きく蹴る。

 今のプレーはテクニックじゃなくてパワーで押していた……やはり、ボールコントロールの技術が上がっただけじゃないのか。

 

「豪炎寺!」

 

 そこから前線へ走る豪炎寺に繋がった。

 

「爆熱スクリュー!」

 

 豪炎寺の必殺技が相手ゴールへと迫る……が、そこに走り込む2人の影。

 

「アクアリングカット!」

 

 1人目は西垣。スピニングカットと同じモーションで放たれた技だが、現れたのは炎ではなく水の壁。新必殺技だろうか……水の壁が豪炎寺の必殺技と衝突する。その水の勢いによって豪炎寺の必殺技の炎が消火されてしまった。

 

「ボルケイノカットV2!」

 

 そして2人目は土門。地面から吹き出す炎の壁がシュートと衝突する。水の壁を突破したシュートはかなり威力が下がっていて、炎の壁を突破することはかなわなかった。

 

「おっしゃぁ!」

「うっし!」

 

 一ノ瀬の熱のせいか、西垣や土門も今まで見たことのないくらいの熱を感じる。そして、その熱がアメリカ代表にも伝わっている……

 

「かなり熱い試合になりそうだな」

「ああ!俺たちも熱さなら負けていられないぜ!」

 

 0-1……イナズマジャパンが1点を追う形で試合は始まるのだった。




 私事ですが、修士の1年生ですので、もうそろそろ就活も本腰を入れないと……セミナーが毎週終わらねぇ……アニメ観たいラノベ小説読みたい漫画読みたいゲームしたい……取りたい資格の勉強が……バイトが行き帰り寒くなってきた……って感じなので、執筆時間が減っております(絶対関係ないヤツ混ざっている)。2年生になると修論を書かないと……というか、本当に修論なんて書けるのか?と、卒業を心配している今日この頃です。多分やります。というか、何で卒論やべぇ、教育実習が……って言っている時にこの週1投稿やってたんだ……?
 世界編始まる前みたいに、一気に間が空くことがあるかもしれませんが、キリの悪いところ(例えば、何かの試合中とか)では、空けないようには気を付けたいです。
 とりあえず、ユニコーン戦はしっかり毎週投稿するので安心してください。何かをやらかさない限り、来週に次の話です。この週1投稿はどっかで途切れたら察して下さい。……というか、この毎週投稿1年以上続いているなぁ……よく頑張ったなぁ……



オリジナル必殺技紹介
アクアリングカット
ブロック技 属性.風
進化タイプ.V 『シュートブロック可』

モーション
普通のスピニングカット(無印版)に水の力?を混ぜスピニングカット(無印版)の様に放つ技。威力は無印版?のスピニングカットより少しだけ高いが、ファイアトルネードやアトミックフレア、ヒートタックルなど火や炎が出現する技にたいしては威力はかなり上がる。衝撃波?の色のイメージは濃い青色。
やまちゃん様より頂きました、ありがとうございます。


ちなみに活動報告で募集しているヤツは締め切りとかないんでご自由にどうぞ。
必殺技に関しては……絶対に全部採用されるわけじゃないことと、特にペンギン技は都合上、十六夜君が全部習得するのは難しいので、使用者が変わるかもしれないことを許していただければ幸いです。


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VSユニコーン ~止まらない止められない~

「さてさて、どう切り崩したものか」

 

 前半が始まって10分……試合は白熱していった。特に一ノ瀬が、攻守に貢献し、ユニコーンから未だ得点を奪えない状況が続いていた。

 

「……恐ろしいな……」

 

 縦横無尽に走り回っている。今までの試合の運動量に比べても遙かに多い。試合の始まる前も思ったが、この試合に懸けている思いの強さが()()と言ってもいいレベルに感じる。円堂を始めとした元雷門、元地上最強イレブンのメンバーとの試合だからという理由だけでは、理解できないレベル……

 

「あそこまでの気迫だと……逆に心配してしまうな」

 

 最近、問題に首を突っ込みすぎたせいか、どうにもあそこまでの気迫……元々のプレースタイルを知っているからこそ、心配してしまう。なんというか……何かを隠しているのではないかと。その隠していることが、今の彼のプレーに繋がっているのではないか……と。

 

「試合後にでも聞いてみるか……」

 

 ただ、それと試合結果とかは関係ない。たとえ彼が何かを抱えていようと、このフィールドに立って戦っている以上、手を抜いて良い理由にはならない。心配という感情はあるが、それを切り捨てる。試合中に相手のことが心配で、手心を加えるようなことは、何より彼が望んでいないし、彼を侮辱していることになるからだ。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 染岡がボールを持って攻め上がる。一ノ瀬は躱したようで少し後ろに居るようだ。

 

「土門!」

 

 自身じゃ追い付けないと思ったのか土門に声を掛ける。

 

「おうよ!ここで止めるぜ、染岡!」

「いいぜ!止められるものなら止めてみろ!」

 

 そう言うと土門は染岡の前に躍り出る。跳び上がると……

 

「ボルケイノカットか!?」

「ボルケイノデルタ!」

 

 ボルケイノカットのように足に炎を纏わせ衝撃波を生み出す。ただし、1度ではなく3度。その衝撃波で染岡を囲うように3つの辺が地面に刻まれる。その三角形の中心にいる染岡は次の瞬間、下から噴き出たマグマによって吹き飛ばされた。

 

「これが対選手に特化させたボルケイノカットだ!」

 

 なるほど……今までのボルケイノカットはその性質上、躱されれば弱いしシュートブロックの方が使い勝手がよかった。それを改良させて進化させたのか……

 

「カウンターだ!」

 

 土門からのロングパス。ボールは相手のMFに通るが……

 

「ナイスカットだ!虎丸!」

「はい!」

 

 虎丸がパスカットをする。そして、そのまま攻め上がる。

 

「風丸さん!」

 

 一ノ瀬がブロックに行くのを確認しつつ、逆サイドへと流す。

 

「おう!」

「通さないぞ!」

 

 ボールを受け取ったのは風丸。そこに、ブロックに行ったのは西垣だった。

 

「スピニングエッジ!」

 

 回転したまま上空に上がり、そこから青い衝撃波を3発放つ。その青い衝撃波はボールを持っていた風丸に直撃し……

 

「くっ……!」

 

 3発目で吹き飛ばした。ボールは着地した西垣の下へと飛んでいく。

 

「どうだ見たか!これがスピニングカットの進化、スピニングエッジだ!」

 

 おいおいマジか……習得したのはアクアリングカットだけじゃねぇのか。派生させて、どんどん改良し、使いやすいように変えていく……必殺技だけ見てもここまで進化しているのか……!

 

「一ノ瀬!」

「ああ!」

 

 そして、西垣から一ノ瀬へとパスが通る。

 今この瞬間、フィールドで一番厄介な存在は誰かと言われれば間違いなく一ノ瀬だ。アイツのプレーはオレたちにも影響を与えているが、それ以上にアメリカ代表のプレーに影響を与えている。

 

「ジリ貧だな……」

 

 攻撃が通用していない。仮に一ノ瀬を越えたとしても、土門と西垣のダブルディフェンスを中心に、向こうのディフェンダー陣がオレたちをシュートまで到達させてくれない。どうやってあの守備を越えるか……

 

「壁山、来るぞ」

「今度こそ止めるッス!」

 

 隣に立つ壁山が意気込む。そして……

 

「ザ・マウンテン!」

 

 壁山の必殺技が発動する。それを見た一ノ瀬はボールを空に向かって……山を越えるように蹴る。

 

「だと思った」

 

 壁山の作った山を使って、頂上でやってくるボールをカットする。この技を正面から打ち破ることはしないという読みが的中した。

 

『ジ・イカロス!』

「行け!マーク!」

「悪いけど想定内。取らせてもらうよ」

「なっ!?」

 

 一方の地上では、土門がマークの腕を掴んで回転し、空高く投げ飛ばす……本来はドリブル技であるそれを、空中にいるオレから奪うために使ったのだ。で、肝心の一ノ瀬はシュートを打てる位置で、フリーな状態でいる。

 

「カズヤ!」

「円堂!来るぞ!」

 

 空中に居るオレでは止められない。パスを出されることを察知し、円堂に声をかける。

 

「ペガサスショット!」

 

 試合の最初にイジゲン・ザ・ハンドを打ち破った技が放たれる。

 

「イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 これを円堂はイジゲン・ザ・ハンドでシュートを外させに行く……が、再び破られてしまった。

 

「おりゃあああああ!」

 

 そこに飛び込んだのは綱海。ボールを上に弾くと、弾かれたボールを円堂がキャッチする。

 

『一ノ瀬のシュートを円堂と綱海の2人で防ぎましたぁ!さぁて、前半もそこそこ時間が経っていきますが、現状はユニコーンが優勢に見えますが如何でしょう?』

『そうですね。一ノ瀬選手の動きが、チームにかなり影響を与えていますね。過去最高と言っても良いコンディションのユニコーンに対し、イナズマジャパンはどう反撃するのか見物ですね』

 

 やはり、外側から見てもユニコーン側の動きは今までの試合より数段良いか。データ修正はある程度出来ているが、もう一段階あげておいていいかもな。

 

「サンキュー綱海!助かった!」

「おう!いいってことよ!」

「よし、頼むぞ十六夜!」

 

 円堂からボールを受け取って攻め上がる。

 

「ユーは行かせないよ!」

「ああ、ここで止める!」

「やっぱ、すぐにブロックに来るよな……!」

 

 どうやら、オレはディフェンダーだと言うのに攻撃面で物凄く警戒をされているらしい。マークとディランの2人がすぐにブロックに来た。

 

「さて……どこから攻めるべきか……」

 

 距離をある程度開けていることから、ドリブルはさせないけど、パスはご自由にって感じか?ボールをキープしつつ次の手を考える……何処がいいかな……っ!?

 

「危なっ、っと」

「よく反応したね」

 

 一ノ瀬からのスライディングタックルが来た。見えていたから躱せたが……危ない。気付くのが1秒遅れていたら奪われていたな。そう思いながら、逆サイドを駆け上がっていく吹雪へとパスを出す。

 

「パスを出させることが目的か?」

「まぁね。君が持っているのが一番厄介だ」

「そんなこと言っていいのか?……悪いけど、オレより厄介なヤツに渡ったぜ?」

 

 ボールを受け取った吹雪は持ち前のスピードで、相手のディフェンダーを置き去りにしていく。その後ろにはそのスピードについていける風丸が走っていた。

 

「風丸くん、行くよ!」

「アレをやる気か!」

「うん!」

「いいぜ、乗った!」

 

 吹雪と風丸の走る速さ……あのスピードはオレにはない武器。一度、スピードに乗せてしまえば、あの2人を止めるのは至難の業だろう。

 

『ザ・ハリケーン!』

 

 そして、吹雪がエターナルブリザードの要領で、ボールを回転させ吹雪を起こす。そこに風丸が風を纏いながら吹雪に突撃、ボールに蹴りを加えた。蹴られたことで物凄いスピードで、ゴールへと突き進んでいく氷の弾丸。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 相手キーパーは何とか反応して拳をぶつけるも弾ききれずにゴールに刺さった。と言うか、映像で分析してても思ったが、カウボーイっぽい見た目なのにやることボクシングなんだな。ボールにアッパーを喰らわすとか……

 

『ゴール!吹雪と風丸の連携シュートが決まったぁ!イナズマジャパン!同点です!』

 

 2人のスピードを掛け合わせたシュートで1点をもぎ取った。

 

「やったぞ!吹雪!風丸!」

「上手く行ったね。風丸くん」

「ああ、この調子でもう1点だ」

 

 1-1の同点になったことで盛り上がるイナズマジャパン。その盛り上がりも一段落したところで、ユニコーンのキックオフで試合が再開する。

 

「土門!西垣!」

「ああ!」

「おう!」

                                                                                   

『おっとユニコーン!ディフェンダーの土門と西垣が一気に前線へと駆け上っているぞ!一体何をする気だ!』

 

 一ノ瀬と土門と西垣……?何でこの3人で攻め上がってくるんだ?DFが2人も上がってくることで、MFが下がり気味になっているが、何故わざわざ……?

 

「……っ!止めるんだ!」

「気付いたようだね、鬼道。でも遅い!」

 

 そう言って3人はスピードに乗りながら1点で交わり、炎を纏った鳥……不死鳥が現れる。

 

『ザ・フェニックスV3!』

 

 進化した不死鳥がこちらゴールへと飛んでくる。

 

「壁山!十六夜!」

「分かってるッス!ザ・マウンテン!」

 

 鬼道の声に答えるようにして、壁山が必殺技でブロックしようとする……が、シュートは山を越えてやって来る。

 

「迎撃させてもらう。ミサイルペンギンV3!」

 

 とは言えまだゴールまで距離がある。十分間に合うため、進化したミサイルペンギンで迎撃しようとするも……

 

「はぁっ!?」

 

 炎の鳥目がけてペンギンは突撃していく。的がデカくスピードも速くない。全弾命中……というより、全ペンギンを命中させることは容易だった。だが……

 

「進化したザ・フェニックスは誰にも止められないよ」

「不死鳥は決して堕ちない!」

「このシュートは止まらないぜ!」

 

 ペンギンたちは炎の鳥を貫通するだけだった。フェニックスの身体に風穴が開くもすぐに炎が再生する……それどころか、突き抜けたペンギンたちが燃え落ちる始末だ。

 

「……っ!炎で出来た鳥……まさか、ボール以外に実体がねぇのか!」

 

 その上、ボールがどこにあるのか分からねぇ……!ダメだ、全ペンギン同時に突撃させてボールの居場所がないくらいにしないと……いや、そんなの動いているヤツ相手に出来るか?……そんな練習積んでねぇし成功させられる気がしねぇ。それにあの炎で燃やされたら終わり……クソッ、今のオレじゃ止められねぇシュート……!

 

「円堂!」

「任せろ!イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 円堂が必殺技を発動する……が、シュートは正面からぶつからなかった。真上から一度突撃して離れると……

 

「おいおい……意志を持ってるのかよあのシュートは……」

 

 まともにぶつかっては破れないと悟ったのか、不死鳥は大きく飛び上がり、回転を加えながら急降下していく。

 

「えっ……!?」

 

 普通のシュートじゃあり得ない位置から円堂の必殺技が崩されていく。

 

『ゴール!決まったぁ!一ノ瀬、土門、西垣の3人によるシュートがイナズマジャパンゴールをこじ開けた!』

『どんなシュートブロックも意味を成さないシュートですか……こんな必殺技を持っていたとは驚きですね……』

 

 円堂の生み出した半球は、衝撃に耐えきれず砕け散る。そしてボールは一度地面に着いたかと思うとゴールに向かって跳ね、ゴールの中へ。

 

「すげぇ……何て進化を遂げたシュートだ!」

「ほんと……頭抱えるシュートだよ」

 

 まるで命を持っているかのように躍動する……まではいい。いや、良くないけど。その時点で良くないけどあんまり人のこと言えないから置いておこう。問題はその身体が炎で出来ているせいで、こっちのブロックが一切通用しねぇし、炎がすぐに再生するとか……まさに不死鳥ってことかよ。何でもありなのか本当に?

 

「十六夜、あのシュートは俺に任せてくれないか?」

「風丸?何か策でもあるのか?」

「試したいことがある」

「そうか。なら、そっちは任せるわ」

「綱海!ちょっと来てくれないか?」

「ん?何か呼んだか?」

 

 風丸が綱海と話している……まぁ、あのシュートの対処は風丸に任せるか。オレはとりあえず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪、ヒロト。ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「何かな?」

「オレたち3人で攻めるぞ。具体的には……」

 

 十六夜が吹雪とヒロトを呼んで何かを伝える。

 

「……練習なしにそんなこと出来るかな?」

「そこそこ難しい要求をしてくるね……」

「やってみる価値はある。お前らならオレの意図を汲み取ってくれるって思っているから……無理そうならこの話はなしだが」

「いや、そこまで言われたなら応えないとね」

「うん。やってみようか」

 

 そして、鬼道も呼んで一言二言話すと4人がポジションにつく。そして、

 

「十六夜!」

 

 イナズマジャパンのキックオフでボールは鬼道から十六夜に渡った。

 

「行くぞ!オレのイメージに喰らいつけ!」

「「うん!」」

 

 十六夜がボールを持って運ぶ。その前には吹雪とヒロトが居る……一体、何をしでかすつもりなんだ?

 

「キミのブロックは……」

「ミーたちがするから覚悟するんだね!」

 

 と、そんな十六夜に素早くブロックしに行くマークとディラン。十六夜にボールを持たせないようと警戒されているな……

 

「予想は出来ていた。吹雪!」

 

 ディランとマークが詰めて来る前に十六夜はパスを出してボールを放す。

 

「ヒロトくん!」

「十六夜くん!」

「吹雪!」

 

 十六夜、吹雪、ヒロトの3人でパスを回して攻めていく……何も特別なことはしていない。だが……

 

「凄い……3人で翻弄している」

「でも何でですか?何であそこまで向こうは苦戦しているんですか?」

 

 一ノ瀬や他の選手が取りに行こうとするも、パスを出して躱していく。吹雪とヒロトはドリブルはするもフェイントで仕掛けることはしない。相手がやってくる、詰められる前にパスを出している。十六夜はディランとマークの2人が警戒しているためか、キープすることはなくワンタッチ……ダイレクトプレーをしている。

 

「なるほどねぇ」

「何か分かったんですか?不動さん」

「中々面白いことするなって。なるほど……そりゃ、納得の人選だな」

「僕らにも説明して欲しいんですが」

「簡単な話だ。十六夜が基点となって、吹雪、十六夜、ヒロトの3人でトライアングル……三角形を形成している。その三角形でパス回しをしているだけだ」

「しているだけって……それであんなに簡単に突破できるんですか?」

「いいや、ただトライアングルを作ればいいってものじゃない。吹雪とヒロトの2人が十六夜の意図を汲み取り、相手チームに生まれた隙をつくように動く必要がある。あの2人は十六夜のプレーを理解できる側の人間……だから出来ているんだ」

 

 そう言って見ると、吹雪かヒロトがボールを保持すれば、相手ディフェンダーと対峙する直前に、持っていない方が空いているスペースに走ってパスの選択肢になっている。十六夜は2人のブロックをギリギリまで待って、空いたスペースに出されたところに走ってダイレクトでどちらかに出している。簡潔に言えばそれを繰り返しているだけだが……

 

「十六夜は2人のブロックを惹きつけ、ギリギリのタイミングで動き、吹雪はそのスピードで動き回って翻弄。ヒロトはそんな相手選手たちをかき乱す2人に合わせてバランスを取って、最適なポジションを取る。あの3人で組んだから厄介になっている」

 

 各々の特長を理解し、そのプレーを理解しながら進んでいる。だから止められない。

 

「それに加え、鬼道クンが良い指示を出している。鬼道クンがパスの相手を指示しているが、十六夜たちはそれを無視している。だが、相手からすれば鬼道クンの指示した相手も警戒しないといけない。警戒しなければ、ソイツに出される可能性があるからな。……もちろん、やばくなったら3人もソイツに出すだろうから、絶対に出さないと切り捨てることも出来ない」

 

 ボールを運ぶのは十六夜たち3人。だが、鬼道がその3人以外でパスを出せる相手をその都度指示することで、警戒すべき対象を増やしている。人数をかけたいがかけ過ぎると簡単にやられてしまう。

 

「そろそろ来るぞ……しびれを切らした相手は……」

 

 十六夜が飛び出してその行く先にボールが飛んでいく。ディランとマークの2人は十六夜の後ろを追っていて……

 

「トニー!」

「おう!」

 

 目の前に立ちはだかった相手が必殺技の体勢に入る。

 

「パワーチャージ!」

 

 そして、必殺技を放った。

 

「ボールを受け取った瞬間に、必殺技で刈り取ろうとする」

 

 必殺技によるタックルが十六夜を襲う。このままではボールが取られる……

 

「なっ……!?」

「プレゼントだ。ディラン、マーク」

「「…………っ!?」」

 

 やってきたタックルを正面からぶつかるのではなく、受け流す十六夜。相手選手は自身の勢いを止められず、止まるのに何歩か歩いてしまう。しかも、その先には味方であるディランとマークが居て、2人は味方同士の接触を避けるために、慌てて躱す。……相手の必殺技のタックルの勢いをただ躱すのではなく利用して、相手選手にぶつけようとするとか……なんて戦術を取るんだあの男は。

 

「ようやく保持できたな。行くぞ」

 

 大きな隙が生まれる。ユニコーンの選手たちの連携が一気に乱れたのだ。そして、そんな隙を見逃すほど甘くはなかった。十六夜は中央に向けてドリブルでの突破を試みる。ディランとマークの2人から離れたことで自由なスペースが生まれた。

 

「ここは通さない!」

 

 そこにカバーに入ったのは一ノ瀬。その後ろには西垣と土門……十六夜の突破と中央に居る選手たちを警戒している。

 

「ナイス(デコイ)だ。十六夜」

 

 不動がそう呟く。フィールドの選手たちは中央に固まりつつあり、十六夜を防ごうとしている。……そんな中で吹雪とヒロトがそれぞれ、必殺技を放った選手の後ろにできていた広大なスペースに向かって走っていた。

 

「必殺技を使って止めようとする……だが、それは諸刃の剣だ。成功すれば奪えるが、失敗すればソイツの後ろに大きな隙が生まれる。そして、十六夜という男のせいで、その大きなスペースは放置されたままになる」

「違う!アヤトじゃないね!」

「サイド2人走ってる!」

「「「……っ!」」」

「決めろよ、お前ら」

 

 走り込む2人に向けてボールをひいて、軸足の後ろを通してインサイドでパスを出す。十六夜には突破力も得点力もある。フリーになった十六夜への警戒が強くなったためか、空いたディフェンダーの分のフォローが間に合わない。ディランとマークの2人が気付いたが、既に手遅れ……誰も対応できない。

 

「行くよ!吹雪くん!」

「ここで決めるよ!」

 

 2人がボールを挟むようにして立つ。そして、ヒロトが赤の、吹雪が青の、ボールが緑のオーラを纏いながら、ボールを中心にして螺旋を描くように昇っていく。

 

『ザ・バース!』

 

 そして、2人同時にシュートを放つ。絡み合う赤と青のオーラ、そしてその中心を射貫くように緑のオーラを纏ったボールがゴールへと突き進む。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 拳との激突……相手キーパーのアッパーを弾き返して……

 

『ゴール!吹雪と基山の連携シュートがユニコーンゴールを貫いた!同点!再び同点に追いつきましたイナズマジャパン!』

 

 ゴールへと突き刺さった。

 

「やったね、吹雪くん!」

「うん、そうだね!」

 

 ヒロトと吹雪がハイタッチを交わす。

 

「ナイス連動。ヒロト、吹雪」

「十六夜くんも流石だ」

「お陰で決めれたよ」

「決めたのはお前らの実力あってのことだっての。ナイスシュートだ」

「でも、まだ終わりじゃないよ」

「だね。この勢いで勝つよ」

「ああ」

「うん」

 

 2-2の同点。激しい点の取り合いが続く前半戦。

 

「……やっぱり強いな……でも、そうこなくっちゃ」

 

 試合の熱はまだまだ熱くなっていくのだった。




 ザ・フェニックス鬼強化……こんなのどうやって止めろと……?

習得技紹介
ボルケイノデルタ
新必殺技……に見えて、実はAC版のボルケイノカットのことである。アニメで登場した記憶がなく、アーケードゲーム(だと思われる)で登場しているか、作者は教えてもらうまで存在を知らなかった。
名前の案はh995様よりいただきました。ありがとうございます。

スピニングエッジ
簡潔に言うと名前が変わっただけのアレス版スピニングカット。
こちらも名称の案をh995様よりいただきました。ありがとうございます。


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VSユニコーン ~魔術師VSペンギン使い~

 それはエイリア学園の戦いも終わって1週間と少しが経過したある日のこと。吹雪を始め、地上最強イレブンの何人かが地元に帰り、十六夜がイタリアへ留学に行った後のこと。

 

「話って何だよ、一ノ瀬」

 

 土門は一ノ瀬に呼ばれて河川敷に居た。

 

「本当に……終わったんだな」

「エイリア学園のことか?まぁ、なんつぅか、今思うと夢みたいだったよな」

「宇宙人と戦うって、昔の自分に言っても信じないだろうね」

「あんなの信じられるわけねぇーっての」

 

 そこから2人は先日までの激闘を振り返る。学校破壊から宇宙人と戦うため、地上最強イレブンを作るために日本を巡ったこと……少し前なのに昔に感じるような濃厚な出来事。

 2人はそんな非日常を思い返しながら話を弾ませる。そんな話が一段落したタイミングで一ノ瀬が本題を切り出す。

 

「俺、アメリカに戻るよ」

「中々唐突だな……」

「この戦いで痛感したんだ……俺は弱いって。北海道で参戦した吹雪、強くなって帰ってきた豪炎寺」

「…………」

「俺は彼らには勝てない……いや、彼らだけじゃない。鬼道や円堂……他の皆にも勝てるとは言い難い」

「そんなこと……」

「そんなことないって?確かに、一緒に戦って一緒に強くなってきたから、俺も最初に比べれば強くはなっているんだろうね。でも……いや、だからこそって言うべきかな?俺はさ、向き合ってみたいんだ。一緒に戦った彼らと、今度は真正面から本気で……」

「……たく、お前は言い出すと聞かないんだよな……分かった!俺も付き合うぜ、一ノ瀬!」

「ありがとな」

「じゃあさ、西垣にも声掛けておこーぜ!アイツも一緒に戻らないかって聞いてみる!それから……」

「秋は誘わないよ」

「どうしてだ?あの頃の4人で……」

「俺のわがままだよ。強くなった俺を見せて驚かせたいんだ」

「なるほどな……それなら分かったよ」

「ありがとう」

「いいってことよ」

 

 土門もアメリカに渡る決意を固める中、話題が変わる。

 

「話は変わるけどさ。イタリアに行った十六夜は何処まで強くなると思う?」

「十六夜か?そりゃ、アホほど強くなるだろ。ただでさえ、豪炎寺なんて帰ってきたらバカほど強くなっていたし……」

「……俺さ、十六夜を初めて見たとき、上手い方だなと思っていたんだ。チームの中心になれるような能力を持つ選手で……でも、円堂や鬼道、豪炎寺の方に目が行って正直そこまで気にしなかったんだ」

「へぇ……俺は同じDFとして、アイツのヤバさには最初から目をつけていたけどな。DFとしてのレベルたけぇのに、攻撃力も凄まじいとかもはやチートだって思ってるね」

「そうだね。多分だけど、本能的に避けていたんだと思う。もし、彼とぶつかれば彼が勝ってしまう……そう本能で感じ取っていたんだと思う」

「そうなのか?と言っても……確かにお前って、円堂たちと比べると十六夜とそこまで絡んでいなかったな」

「あくまでチームの一員……それ以上でもそれ以下でもなかった。でも……エイリア学園との戦いで思い知らされた。彼は恐ろしいほどに強い。遙か先を行っていたんだって」

「なるほどねぇ……吹雪や豪炎寺より、十六夜の方がお前的には今回のアメリカ渡航の決め手になったのか」

「ああ……このまま突き放されたくない。それに……彼とは一度本気でぶつかってみたいんだ。自身より格上相手に何処までやれるか……挑むために、俺はもっと強くなる」

「ハハッ!何だよ熱いじゃねぇかこの野郎!よっしゃ、その熱が冷めねぇ内に準備しようぜ!善は急げだ!」

「ああ!」

 

 数日後、一ノ瀬は土門、西垣と共にアメリカに渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユニコーンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「取られたら取り返すだけだ!」

「俺たちのシュート見せてやるぜ!」

 

 一ノ瀬が持ち、その両隣を土門と西垣が走る。もう一回あの必殺技を放つつもりなのだろう。あの必殺技なら、飛ばせる前に堕とせば良さそうだが、それをしたところであまり意味は無いだろう。

 

「早いな……風丸、行けるか?」

「ああ!任せておけ!」

 

 自信満々に答える風丸。その隣には綱海が並んでいる。やはり、撃たせた上で通用しないことを知らしめる方が、次から撃ちにくくなるだろう。

 

『ザ・フェニックスV3!』

 

 そんな中シュートが放たれた。炎の鳥……フェニックスはオレたちのゴールへと飛翔してくる。

 

「スピニングフェンス!」

 

 そのシュートを前に風丸は5人に分身し、5人が回転し竜巻を起こす。そして、5つの竜巻は1つになり……

 

「へぇ……やるじゃん」

 

 巨大な竜巻が生まれ、そこにフェニックスは閉じ込められる。流石に飛ぶスピードが速い訳ではないので回避はされなかった……だが、

 

「炎の竜巻!?」

 

 フェニックスの炎は吹き飛ばされるどころか、更に燃え盛り、炎が渦を巻く。

 

「火災旋風……ってヤツみたいか」

 

 発生のメカニズムとか色々と違うし、この事を言い表すのに適しているかは分からん。ただ、火災旋風というのは一言で言うと、元の世界で発生しようものならとんでもねぇ被害をもたらす現象だ。

 

「ま、マズいッスよ風丸さん……!」

「な、何かとんでもないことになっていません!?」

 

 今は動いていないからいいが、あんな竜巻が押し寄せてこようものなら止められないだろうな。というか、あんなの迫ってこられたら割とどうしようもなくねぇか?だが……なんで、まだ動いていないんだ?向こうが竜巻を支配下に置いたならゴールに進んできてもおかしくはないはず……

 

「……ああ、2重構造か」

「へ?にじゅーこうぞう?」

「簡単に言うと、あの竜巻は2つ……小さいやつの周りに大きいやつがあるんだよ」

「へぇ……ん?」

「あくまで燃え盛っているのは内側の竜巻だけ。まだ、外側の竜巻まで炎は広がっていない」

 

 炎の竜巻を覆うようにもう1つ竜巻がある。そいつのせいで進めていないが……それでもやはり時間の問題に感じる。ん?いや……

 

「だからこその綱海か」

「本当にお前の頭の回転はどうなってるんだよ……行け!綱海!」

「おう!十六夜!ペンギン貸してくれ!」

「ほらよ」

 

 オレがペンギンを呼び出すとそれに乗る綱海。そして、そのまま外側の風の流れに乗る。ペンギンをサーフィンのボードに、風の流れを波に見立てている……そのまま彼はぐんぐん上がっていき……

 

「ザ・タイフーン!」

 

 彼の通った道には水が現れる。大量の水が彼の後に出来て、それが渦を巻いている。

 

「水の竜巻だと!?」

 

 炎の竜巻を覆うようにして出来た水の竜巻。その水の竜巻が炎の竜巻を押しつぶしていく。それにより、炎は一気に消火されていき……

 

『防いだぁ!止めることが不可能だと思われた必殺シュートを止めてみせたぞ!』

 

 ボールは風丸の足下に収まった。その隣には綱海が着地する。……相手が炎で出来ているからこそ、風と水で止めた……か。

 

「規格外なことするなぁ」

「それ、お前には言われたくないぞ」

「え?」

 

 流石にオレだってあそこまでのことはしねぇっての。

 

「鬼道!」

 

 そしてボールは鬼道へと渡る。

 

「行かせないよ!」

 

 素早く一ノ瀬が切り替えて鬼道と1対1になる。

 

「フッ、面白い」

「取らせてもらうよ」

 

 テクニックで突破を図る鬼道とそれを阻止する一ノ瀬の激突。

 

「おっと、アヤトは行かせないから覚悟するんだね!」

「ああ。キミに自由は与えないよ」

「ッチ……やりにくいな……!」

 

 ボールを持っている……ある意味で光側の1対1が行われている中、ボールを持っていない……ある意味で闇側の戦いが始まる。鬼道のフォローに動き、ボールをもらうスペースに動こうとするオレとそれを阻止するディランとマーク。

 

「そんなステップじゃ抜けないよ」

「さぁ、どうやって突破する?」

「クソッ……!」

 

 2人の動きを予測して、未来を視ようとしてもそれを置き去りにされる。片方だけ注視して出し抜いても、もう片方のカバーが正確でそれでいて早過ぎて意味が無い。完封されている……なんてコンビだよ……!

 

(十六夜が2人を引き剥がせていない。ディランとマーク……エドガーやフィディオ、テレスと並んで世界トップレベルのプレイヤー。徹底的に十六夜に仕事をさせないつもりか……!)

 

「どうした鬼道?十六夜が心配かい?」

「フッ、どうだろうな」

「いくら十六夜がバケモノみたいな強さでも、ディランとマークはそれぞれが十六夜と同レベル以上だからね」

「裏を返せば、十六夜のお陰であの2人を押さえられていることになる。だったら……!」

 

 鬼道はオレと逆サイドに居た虎丸にパスを出す。

 

「アイツを使わずに俺たちだけで攻める」

 

 そう宣言して、攻め上がる鬼道と守るために戻る一ノ瀬。

 

「ナイスな判断だね!」

「無理にアヤトを使わない。良い判断だ」

 

 確かに冷静で合理的な判断だ。オレ1人という戦力でディランとマークという世界トップレベルの選手2人を押さえる。人数だけでも1人で2人抑えられていて1人分お得。しかも、もしカウンターされても、オレがこの2人を押さえられれば懸念材料が多少は減る。リスク管理までされた良い判断だ。

 そこまで分かった上で言えるのは、オレにこいつらを出し抜ける能力がないと判断されていること。そして、実際にこの2人を出し抜くことが出来ていないこと。

 

「…………」

「おぉ、怖い目だね!……でも、ユーから目は離さないよ」

「ああ、キミはフリーにさせると何をするか分からないからな」

 

 ムカつくくらい良い連携、良いコンビだ。どっちかが全体を見渡し、どっちかがオレを監視する。試合の流れを把握しつつ、オレを封殺しに来てる。

 2点目の時(さっき)は流れができていて、オレの近くも常に人の位置が変わっていて、目まぐるしく変わる状況で2人の間に何度か隙が生まれ、そこで出来る隙をついて動けた。あくまで流れがあってその中で2人を躱せたに過ぎない。だから今のように流れがない……無の状態から彼らを躱すのは出来ていない。余裕のある2人を突破することは実質不可能……

 

「行かせねぇぞ!」

「鬼道さん!」

 

 土門がブロックしようと立ちはだかると、鬼道にボールを戻す虎丸。

 

「虎丸!」

 

 そしてもう一回虎丸に出そうとする。

 

「だから行かせねぇ……っ!しまった!」

 

 虎丸が内側へ走り込もうとし、土門も虎丸を行かせないようそちらに身体を向ける。だが、ボールは虎丸を通り越して外側へ……

 

「俺が道を開く!」

 

 そこに走り込んでいたのは風丸。ボールを持つと最高速でライン際を駆け上がる。そのスピードには誰もついて行けない。

 

「染岡!」

 

 ディフェンス陣が布陣を崩すのを見逃さず、フリーになった染岡へとクロスが上がった。

 

「ドラゴンスレイヤー!」

 

 そして、染岡がダイレクトで必殺技を放つ。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 そこに相手キーパーが反応し、必殺技をぶつける。結果は……

 

「フッ……」

 

 ボールは拳によって空高く弾かれた後、相手キーパーの手元へと落ちた。それを難なくキャッチする。

 

「ナイスシュートだ!染岡!」

「おう!次は決める!」

「ディフェンスだ!戻れ!」

 

 攻守が切り替わる。ディランとマークがそれぞれ動き出し、オレも最善手を打つために行動する。

 

「やっぱ、すげぇ連携だな……」

 

 相手が素早いパス回しで攻めてくる。鬼道が指示を出すも、それより早くパスが出される。でも……

 

「ここだろ」

 

 それくらいなら読める。

 

「来るのは知ってたさ」

 

 一ノ瀬にボールが渡った瞬間に詰めに行った……が、反応を見る限り予想通りだったらしい。

 

「勝負だよ、十六夜!君を突破してみせる!」

「やってみろよ、一ノ瀬。簡単には抜かせねぇよ」

 

 一ノ瀬からパスコースは見えない。ディランとマークは一ノ瀬より後ろに居る……パスを待っているわけではないし、フォローに動いている感じはしない。一ノ瀬がオレを突破することを信じているのか?いや違う、そうじゃない……

 

「俺のわがままさ。十六夜と1対1で勝負させてくれってね」

「……そういうこと」

 

 オレを騙すためのブラフ……ではないらしい。彼自身のテクニックで翻弄しようとしてくる。やはり、彼からのパスコースは一切見えない。

 

「……やっぱり、君は強いね……!」

「そりゃ、どうも」

 

(ダメだ……全部読まれてる……!俺のドリブルじゃ抜けないのか……!クッ……分かっていたけど、十六夜は強いな……!)

 

 ……ノイズが入る。僅かに一ノ瀬の動きがオレの読みとズレる。それは一ノ瀬の動きが速くてズレたんじゃなくて……

 

「なっ……!」

 

 一ノ瀬の動きがオレの読みより遅く、キレが悪くなったのだ。試合最初からとばしたせいでガス欠でも起こしたのか?まぁ、原因は何でも良い……

 

「オレの勝ちだ」

「じゃ、次はミーたちが相手だね」

「ああ。行くぞ」

 

 ボールを奪った次の瞬間、ディランとマークのダブルディフェンスがやって来る。

 

「……っ!?」

 

 ちょっと待て、いくら何でも()()()()。まるで、一ノ瀬が負けると分かっていたような……

 

「カズヤの指示さ!もし、自分が負けた時はすぐにプレスをしてくれってね!」

「ああ!個人で負けてもチームとしては負けないってな!」

「クッ……!」

 

 ダメだ、今までと違って距離を詰められた後だ。完全に向こうの間合いの中……クソが……!奪われないよう、キープするだけで精一杯……!やってくれた……!この2人は状況を見て、冷静に一之瀬が負けると分析して、奪った瞬間に詰める……完全に嵌められた……!

 

「戻せ十六夜!」

「こっちです!十六夜さん!」

 

 綱海と虎丸の声が聞こえてくる。場所も把握できてる。でも、ダメだ。そこはワナだ。出したらすぐに取られてしまう……そんな相手によって無理やり出されたパスなんて意味がねぇ……!取られないパスコースが見えない……!突破口も見えない……!

 

「優しくねぇな……マジで……!」

「褒め言葉だね!」

「奪わせてもらうぞ!」

 

 何て連携、何てプレッシャーだおい……!本当に2人の人間か?動きが噛み合いすぎている。クソッ……1人だけでも厄介なのに2人同時に詰めてくる……!ドリブルもパスも封じられているし……辛うじてキープ出来ているだけの状況……!ヤバい……打開出来る未来が視えねぇ……!何とかしねぇと……何とか……

 

「真フレイムダンス!」

「なっ……!」

 

 避けられなかった。ディランとマークの2人は見えていたのか避けられたが、2人に思考のほとんどを割かれていたオレは、思考の外からの一撃に一切反応が出来ず、吹き飛ばされてしまう。

 

「ディラン!マーク!」

「オッケー!」

「決めるぞディラン!」

「通さないッス!」

「行かせねぇぞ!」

「ここは通さない!」

 

 一ノ瀬からディランにボールが渡る。壁山、綱海、吹雪がブロックに行くもマークとのパス交換で簡単に躱されてしまう。そして……

 

『ユニコーンブースト!』

 

 2人のツインシュートがゴールへと向かう。シュートの後ろには紫色のユニコーンが走っていて……

 

「イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 ユニコーンの角が円堂の生み出した半球を貫いた。

 

『ゴール!ディランとマークのシュートがイナズマジャパンゴールに突き刺さった!』

 

 ピ、ピー!

 

『ここで前半終了!3-2!ユニコーンの1点リードで前半戦が終わりました!』

 

 ……クソッ……今の失点はオレの失態が招いたモノ……!致命的過ぎるミス。完全に相手の術中に嵌まってしまった。

 

「やっぱり強いね、十六夜」

「一ノ瀬……」

「今の君には俺一人じゃ勝てない……でも、負ける気はないから」

「……お前も十分強いだろ」

 

 敗北を認め、自分の方が弱いことを悟った上で、それでも強者に喰らいつき出し抜く。オレからすれば一ノ瀬は十分強い。

 

「この試合は負けられない。君がどれだけ上手くなっていても、どれだけ強くとも俺たちは絶対に勝つ」

「それはこっちのセリフだ」

 

 2-3と1点差で前半が終了する。ただ、点差以上に前半はしてやられたのが正直な感想だった。




登場必殺技紹介

スピニングフェンス
オリオンの風丸の必殺技。無事に習得した模様。


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VSユニコーン ~全力の友情~

 今週の金曜日は『推しの子』と『スパイ教室』の最新刊に『ペルソナ5タクティカ』の発売とイベントが重なるな……!それなのにバイトで発売日に読む余裕が……あぁ……
 ちなみに現在、『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』を頑張って進めております。少し前にようやく手をつけ始めた作品ですが……何故過去の自分は触らなかったんだ?という疑問が……『シカトリス』然り、何故封印していたのだろう……?
 100カノも最新話時点で1番好きなヒロインが出て来て……いいですね。アニメのクオリティも満足しています。
 後は最近、ROF-MAO……通称、ろふまおというにじさんじのユニットの動画を見始めました。面白くてついつい見ちゃっています。
 いやぁ……ね。こう思うと趣味が充実していますね。読みたい漫画、ラノベ、観たいアニメに動画、そしてやりたいゲーム……時間が足りないですね。と、そんな中であとがきでなんかやってます。この作品に関係していることなので、興味があれば見て下さい。
 それでは本編どうぞ。


「前半はまずまずと言ったところだな」

 

 ハーフタイムにて久遠監督から前半の反省をし、後半の動きの確認を終える。

 

「そうだな……」

「その割には不服そうだな」

 

 鬼道が見透かしたように言ってくる。

 

「当たり前だろ……こっちはいいようにやられっぱなしだからな」

「ディランとマークの2人か?」

「ああ。アイツら2人だけでも厄介なのに、そこに一ノ瀬が加わって正直厳しい」

「お前がそんな弱音を吐くとはな……」

「弱音って言うか、至って冷静な現状分析だっての。アレを楽勝なんて言えるほど楽観的なバカじゃねぇよ」

「そうだな。まず間違いなくお前の攻撃力を潰しに掛かっている。前半最後の攻防が顕著だ。お前にボールを持たせるつもりはないらしい」

「それが基本的なスタンス。そして、仮にボールを持てばすぐに詰め寄り、パスコースすら封じて孤立させ奪いに来る……」

 

 正直、普通の選手がやるダブルブロックならそんなのお構いなしで終わるんだが……流石にアイツら相手では分が悪い。あの2人には隙らしい隙が見当たらねぇし、連携もかなりのもの。その上で1人1人が強い。何とか1対1に持って行ったところで、もう1人が立て直す前に突破できるとは言い難い……ダブルディフェンスなんてしなくても、マンマークで十分だろうに、ほんとやってくれる。

 

「ただでやられるつもりはねぇよ。つぅか、やられっぱなしは性に合わねぇ」

「それでこそだな」

「お前なら何とかするだろ」

「雑な信頼ありがとな……と言うか豪炎寺」

「なんだ?」

「お前、かなり大人しくねぇか?」

「まぁ、そう見えるだろうな」

 

 前半は豪炎寺の存在感がかなり薄かったように思える。シュートどころかほとんどボールすら持っていないのではないだろうか?…………あんまり人のこと言えないけど。

 

「西垣も土門もレベルアップしている。その2人に目をつけられているから大人しく囮を引き受けている感じか?」

 

 前半を見る限りでは、土門と西垣をはじめとした向こうのDF陣の注意は豪炎寺に1番向いていたように思える。これは過去に味方として、或いは敵として戦ったからこその警戒だろう。まぁ、豪炎寺が居るという存在感だけで、2人を含めたDF陣を引きつけているから、まだ他の奴らが撃ちやすかったんだろうが……それにしたってだ。

 

「安心しろ、俺は囮だけでこの試合を終えるつもりはない」

「なら証明して見せろよエースストライカー?」

「お前こそ、さっきの言葉は嘘じゃないって見せてみろよ?」

「上等」

「フッ、2人とも熱くなっているな。円堂も……」

 

 鬼道がそう言って周りを見ると、気付けば円堂が居なくなっていた。

 

「居ないな……トイレか?」

「そんなことより十六夜」

「何だ?」

「1つ考えてることがある」

 

 そう言った豪炎寺の考えを聞く。

 

「中々面白いこと考えるじゃねぇか」

「だろ?乗ってくれるか?」

「やってやろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……予想よりアヤトのキープ力が凄いな」

「だね!いやー彼からボールを奪うのは至難の技だよ」

 

 一方のユニコーン側のベンチにて。こちらも前半の反省と振り返りを行っていた。

 

「虎視眈々と俺たちの間に生まれる歪みを狙っている。今は上手く封じ込めているが……」

「少しでも油断すればボンッ!その歪みを強引に喰い破って来るね!」

「ああ。そして、彼が攻撃参加すればイナズマジャパンの攻撃力は爆発的に増える。向こうの2点目が良い例だ」

「アヤトはストライカーでもやっていけそうだからね!」

「ディランが認めるほどなのか……」

「まぁ、アイツならあり得るだろ」

 

 と、その会話に入って来たのは西垣と土門。

 

「あの攻守の万能さには苦労させられた記憶があるが……やっぱり、アイツは強いんだな」

「そりゃそうだろ。ディフェンダーとしてもフォワードとしてもかなりの実力。どのポジションでも大丈夫なオールラウンダー選手だぜ?」

「確かに。この大会中で既に全ポジション経験しているんだったか?」

「ほんとにファンタスティックだね!キーパーも出来るなんてアンビリバボーだよ!」

「下手なチームに入ればエースストライカー、ゲームメーカー、ディフェンスリーダー、守護神……全ての座を奪いそうな勢いだからな」

「ワオ!それはとても面白そうだね!」

「面白いというか……怖いの一言だな」

「まぁ、ミーと一緒のチームならエースストライカーの座は奪わせないけどね!」

「ははは……そういや、向こうのエースストライカーが大人しいな」

「ゴウエンジだね。確かに、シュートも前半最初の1本だけで、ほとんどボールを持っていない……か」

「俺たちの警戒がきつくて動けないとかか?俺たちが重点的に意識しているから……」

「それはそうだが、あの豪炎寺だぜ?絶対にこんなとこじゃ終わらない……気を抜くなよ。アイツは十六夜より危険なストライカーだ」

「……そうだな。よし、後半も気を抜かずに行くか!」

「そうだね!カズヤも……ってカズヤは?」

「さぁ?トイレじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムも終わり、両チームがポジションに着く。イナズマジャパンのキックオフで後半開始……だが、

 

「真フレイムダンス!」

 

 一ノ瀬の必殺技によっていきなりボールが奪われてしまった。

 

「いきなりサプライズだ!」

「ああ、見せてやろう!」

 

 マークとディランが前線へと上がっていく……あの2人が並走しているってことは……

 

「ディフェンス!マンツーマンだ!」

 

 鬼道の指示で壁山と吹雪がそれぞれディランとマークに対し、ブロックに行く……が、それより早く、ボールは大きくあげられてしまった。

 

『一ノ瀬からゴール前に大きくボールがあがった!そこにディランとマークがあわせている!』

 

 そして、同時にジャンプする2人……

 

『ユニコーンブー――』

「させねぇよ。ライド・ザ・ペンギン」

 

 ツインシュートを放とうとしたタイミングで、空中に居る彼らからボールを奪い取る。

 

「前半のお返しだ」

「こんなところで割り込んでくるとは……」

「中々エキサイティングなプレーだね!」

『何とシュートを放とうとしたところに割って入ったのは十六夜だ!シュートを未然に防ぎました!』

 

 前半で点を取られた必殺技だ。撃たれたら止められる保証がなかった。

 

「行けるか?ペラー」

『当然!』

 

 そのまま着地することなく、更に上空へと上がっていく。……さてと……

 

「誰がいいかなーっと……そこだな」

 

 オレは上空からオーバーヘッドキックをしてパスを出す。その先にいたのは……

 

「合わせろよ、円堂」

「おう!メガトンヘッドG2!」

 

 キーパーの円堂。オレのパスに対し、ダイレクトでメガトンヘッドを放った。

 

『な、なんと!キーパー円堂の超ロングシュートだ!』

「やらせるか!ボルケイノ――」

「いや、これはシュートじゃない。アイツからのパスだ」

「――なっ!?」

 

 土門がシュートだと思い、ボルケイノカットでブロックを狙ったが、その前にメガトンヘッドを止めたのは鬼道だった。鬼道はそのまま土門と、現れた炎の壁を越えるようなループパスを放る。

 

「行くぜ!頼むぞ豪炎寺!」

「ああ!行くぞ染岡!」

 

 それを受け取ったのは染岡。彼の隣には豪炎寺が走っていた。

 

「ドラゴン……!」

 

 染岡が背後にドラゴンスレイヤーの進化したドラゴンを呼び出し、ドラゴンがその巨大な羽根を羽ばたかせボールと共に進んでいく。向かう先はゴールではなく空……

 

「トルネード……!」

 

 そのシュートに対し、豪炎寺が炎を纏いながら空へと上がっていく。その炎はドラゴンの色を紅く染めていく。そして、爆熱スクリューの要領でシュートを放った。

 

R(リバース)!』

 

 炎により紅く染まったドラゴンのブレスがシュートと共にゴールへと放たれる。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 そのシュートは相手キーパーを弾き飛ばして、ゴールに突き刺さる。

 

『決まったぁ!後半開始早々にゴールをもぎ取ったぞイナズマジャパン!同点!同点だぁ!』

 

 ドラゴントルネードの進化。染岡と豪炎寺のそれぞれが進化し、その進化を掛け合わせ、前の必殺技を世界にも通用するようにしたか……

 

「ははっ……まさか、エンドウのシュートをパス代わりに使うとはね……」

「まぁな。円堂のシュートを知ってる土門なら確実に防ぎに来ると踏んでの策だった」

「なるほど、キミたちの策通り、上手くやったってことだね……やっぱりキミたちは一筋縄ではいかないか」

「そういうお前らもだっての」

 

 これで同点、振り出しに戻した。

 

「…………僕は不満です……!」

「どうしてですか目金さん?同点に追いついたんですよ?」

「何で皆さん新必殺技に名前をつけちゃっているんですか!?それは僕の役目でしょう!?」

「「「…………」」」

 

 と、ベンチでは雰囲気が可哀想なことになっていたが……気にしないでおこう。あれは触れてはダメなやつだ。

 ユニコーンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「来いよ、次は完璧に止める」

「行くぞ!十六夜!」

 

 一ノ瀬、ディラン、マークの3人が運んできて、一ノ瀬が持った状態で相対する。前半終了間際と同じシチュエーション。

 

「……俺との1対1に拘らないつもりかい?」

「そういうわけじゃねぇよ」

 

 さっきと違うのはオレが一ノ瀬よりディランとマーク、他の選手の動きを注視していること。

 

「なら、意地でも俺しか見えなくしてあげるよ!」

 

 一ノ瀬のフェイントのキレが増している。揺さぶりをかけ、オレを翻弄しようとしてくる。だが……

 

「今!」

「……っ!?」

 

 ボールが足から僅かに離れたタイミングで、強引に身体を入れてボールを奪う。そして、踵で一ノ瀬の股を通して突破する。

 

「行かせないよ!」

「奪わせてもらう!」

 

 ディランとマークが反応する。だが、少々強引に奪ったため、さっきよりは詰めるまでに僅かな時間が生まれる。

 

「ぶち抜く!」

「「……っ!」」

 

 そんな2人の間を通すように、前線へと大きくパスを出す。

 

「だが、パスコースには誰も居ない……!」

「そうさ!あのまま行けばドモンが先に追い付く!」

「フブキが速くても、アレには届かない!」

 

 致命的なパスコースは辛うじて塞がれていた。オレのパスの先……ボールに向かう選手の中で取れる可能性があるのは土門と吹雪の2人。ボールの落下点には僅かに先に土門が到達するだろう。流石に地面に着く前には取れないが、1回バウンドした後に取れる。だからこそ、周りはこのパスを強引に出した、或いは出させられたパスだと思い込む。

 

「もう一回立て直……なっ!?」

 

 ボールが地面に着く。そして、土門は気付いた。ボールには強烈な回転……バックスピンが掛けられていたことに。ボールは跳ねると吹雪の方に飛んでいく。

 

「ナイスパスだよ!」

「ナイスラン!」

 

 そのことに動揺することなく、ボールをダイレクトで更に前へと送る。一見すると、自分が追いつかないようなデタラメなパス……一瞬でも迷い、速度を落とせば吹雪だとしても追い付かなかっただろう。だが、そんなパスを送らないと正しく意図を理解してくれた。

 

「流星ブレードV3!」

 

 そのパスを受け取ったのはヒロト。ボールを落ち着かせると必殺技を放つ。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 しかし、シュートは相手キーパーの必殺技を前に上空に弾かれ、キーパーの手元に収まることに。

 

「くっ……」

「ナイスシュート!」

「ナイストライだ」

「ドンマイドンマイ!次決めようぜ!」

 

 防がれてしまったか。破るにはパワーが足りない……流石に甘くなかったか。

 

「こっちだ!」

 

 マークが自陣へと戻りパスを要求する。攻守が切り替わる。一ノ瀬の場所は……

 

「おっと、ユーは行かせないよ!」

「避ける方針か……!」

 

 既にオレとは離れた場所にいてパスを受け取る。冷静な判断だ。ここでユニコーン側がスピードに乗って攻めることが出来れば、こっちは吹雪やヒロト抜きで守ることになる。カウンター失敗……その影響でブロックにかけられる人数が減っていて、こっちも対応できることが限られてくる。

 

「ミケーレ!」

 

 そして、ミケーレにパスを出し、一ノ瀬に戻す。時間をかけずゴール前へと運んでいき……

 

「これで突き放す!ペガサスショット!」

 

 一ノ瀬の必殺技が炸裂する。

 

「俺はお前と全力でぶつかる!それが全力の友情だ!」

 

 円堂が半球を生み出す。そのオーラはさっきまでより力強いもので……

 

「イジゲン・ザ・ハンド改!」

 

 友を思い、全力で戦うという決意が必殺技を進化させる。シュートは半球に沿って進みバーに当たる。跳ね返ったボールを円堂はキャッチした。

 3-3の同点……後半戦、互いを思う気持ちが試合の熱を加速させていく。




オリジナル必殺技紹介

ドラゴントルネードR(リバース)
シュート技。[ドラゴンスレイヤー]&[爆熱スクリュー]
染岡が雷門の点取り屋として成長し、豪炎寺が雷門の一員として認められ、チームが大きく前進した証である合体技の再誕。進化した灼熱竜のブレス、刮目せよ。

不完全様より頂きました。ありがとうございます。

 ここから下は長いので興味があれば見てください。今までの試合のゴール数とアシスト数を集計してみました。
ゴールアシスト数集計
ルール
・ゴールは基本的にシュートを決めた本人をカウント。連携必殺技やシュートチェインでの得点は関わった全員をカウント。
・アシストは基本的にラストパスを送った選手。ただし、その後にドリブルとかしていたらカウント外。また、描写が明確でない場合やラストパスを送った選手が連携必殺技やシュートチェインに関わっている場合もカウント外。微妙なヤツはフィーリング。アシストは人によって上下しやすいので目安感覚で許して。
・シュートを放って、相手キーパーなどに弾かれたヤツを押し込んだ場合(ナイツオブクイーンの染岡、虎丸のアレ)とかは、最初に打った人(十六夜)にはアシストはついていない。(実際のところその場合はどうなるんでしょうかね?多分、一定の評価とかはされてもアシスト扱いにはならないのかな?)
・相手チームの得点、アシストは除く。大変になるので……いや、ほんとね。
・集計ミスあっても許して……

アジア予選
・ビッグウェイブス
ゴール
十六夜 1G(ヴァルターペンギン)
綱海 1G(ザ・タイフーン)
豪炎寺 1G(爆熱スクリュー)
アシスト
風丸、十六夜、虎丸 1A

・デザートライオン
ゴール
風丸 1G(バナナシュート)
鬼道 1G(オーバーヘッドペンギン)
十六夜 1G(アストロペンギン)
緑川 1G(アストロペンギン)
虎丸 2G(タイガードライブ×2)
アシスト
ヒロト、十六夜 1A

・ファイアードラゴン
土方 1G(サンダービースト)
吹雪 1G(サンダービースト)
十六夜 4G(ヴァルターペンギン+流星ブレード、ムーンフォース、オーバーヘッドペンギン、オーバーサイクロンP)
ヒロト 1G(ヴァルターペンギン+流星ブレード)
緑川 1G(アストロゲート)
風丸 1G(たつまき落とし)
壁山 1G(たつまき落とし)
虎丸 1G(タイガーストーム)
豪炎寺 1G(タイガーストーム)
アシスト
不動 2A

本戦
・ナイツオブクイーン
染岡 2G(ドラゴンスレイヤー、竜虎相搏)
虎丸 3G(グラディウスアーチ、竜虎相搏、タイガーストーム)
豪炎寺 1G(タイガーストーム)
アシスト
豪炎寺、鬼道&不動 1A

・ジ・エンパイア
十六夜 1G(諸々)
豪炎寺 1G(グランドファイア)
虎丸 1G(グランドファイア)
ヒロト 1G(グランドファイア)
アシスト
栗松 1A

・ユニコーン(前半終了時点)
吹雪 2G(ザ・ハリケーン、ザ・バース)
風丸 1G(ザ・ハリケーン)
ヒロト 1G(ザ・バース)
アシスト
十六夜 1A

その他(FFIでの正式ではない試合)
・選考試合
両チームの得点カウント
ヒロト 1G(流星ブレード)
豪炎寺 1G(爆熱ストーム)
染岡 1G(ワイバーンクラッシュ)
吹雪 1G(ウルフレジェンド)

・ネオジャパン
アニメ版と同様
豪炎寺 2G(爆熱ストーム、イナズマブレイク)
円堂 1G(イナズマブレイク)
鬼道 1G(イナズマブレイク)
アシスト
風丸 1A

・チームK
フィディオ 3G(オーディンソード×2、シュート)
十六夜 3G(皇帝ペンギン1号、皇帝ペンギンX、デスゾーンペンギン)
鬼道 1G(皇帝ペンギン3号)
不動 1G(皇帝ペンギン3号)
佐久間 1G(皇帝ペンギン3号)
アシスト
十六夜 1A
フィディオ 2A

通算(上からゴール数順。ゴール数が同じ場合はアシスト数が多い順。0G0Aは省略)
アジア予選
十六夜 6G2A
虎丸 3G1A
風丸 2G1A
豪炎寺、緑川 2G0A
ヒロト 1G1A
綱海、鬼道、土方、吹雪、壁山 1G0A
不動 0G2A

世界大会本戦(ユニコーン戦前半終了時点)
虎丸 4G0A
豪炎寺 2G1A
染岡、ヒロト、吹雪 2G0A
十六夜 1G1A
風丸 1G0A
鬼道、不動、栗松 0G1A

世界大会(ユニコーン戦前半終了時点)
十六夜 7G3A
虎丸 7G1A
豪炎寺 4G1A
風丸、ヒロト 3G1A
吹雪 3G0A
染岡、緑川 2G0A
鬼道 1G1A
綱海、土方、壁山 1G0A
不動 0G3A
栗松 0G1A

3章試合全部(ユニコーン前半終了時点)
十六夜 10G4A
虎丸、豪炎寺 7G1A
ヒロト 4G1A
吹雪 4G0A
(フィディオ 3G2A)
風丸 3G2A
鬼道 3G1A
染岡 3G0A
緑川 2G0A
不動 1G3A
綱海、土方、壁山、佐久間、円堂 1G0A
栗松 0G1A


 率直な感想として、この集計方法だと公式戦のみは虎丸のゴール数1位タイなんだけど?というか、ゲーム仕様でゴール数考えても多分多い。風丸も何気に決めているし、不動も試合出場数の割にアシスト数が多いですね。地味に栗松が載っていて……公式非公式戦で未登場は飛鷹と立向居の2人だけか……うん。DFとGKだから載らなくても違和感ないな。
 そして、よく考えると公式戦非公式戦全試合出場は居ないな……チームK戦とジ・エンパイア戦に両方出場というある種の快挙を成し遂げた十六夜くんは、ネオジャパン戦蚊帳の外だったので……
 何気に恐ろしいのは集計外だけど、十六夜くんが得点のきっかけを作った回数もずば抜けてそうなんですよね……お前、本当にDFか?というか、集計していてそんなにゴールを決めてて引いた。(大半はファイアードラゴン戦とチームK戦だったけど)
 さて、FFI終了時点ではこの結果はどうなるんでしょうかね?あとは興味があればFF編とエイリア編も作ってみたいですかね。まぁ、エイリア編は主人公の動きがアレなので、集計基準とか諸々やばそうですが……


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VSユニコーン ~面白いこと~

 進化したイジゲン・ザ・ハンドが一ノ瀬のペガサスショットを完璧に止めてみせた。

 

「よし!十六夜!」

「鬼道任せる」

 

 そこから十六夜に渡るもダイレクトでパスを出す。ボールを保持しようとしないあたり、ディランとマークが警戒していたから取られる前にってことだろう。

 

「鬼道!」

 

 豪炎寺がボールを要求する。しかし、近くには土門と西垣と言う2人のディフェンダーが張り付いている……

 

「風丸!」

 

 風丸にパスが渡った……そこからドリブルをするも、疲れているのかいつもより遅く感じる。普段の試合よりも走っているからだろうか。

 

「吹雪!」

 

 そして後ろから追い越すように走ってきた吹雪にパスを出す。これは……

 

「止めるんだ!」

「俺が行く!」

 

 こちらのシュートを警戒して土門がブロックに行こうとする。彼のスピードには見るからにパワータイプのディフェンダー、トニーでは相性が悪いと判断したのだろう。

 

「今だよ。反応しているよね?」

 

 吹雪から中央にボールが上がる。それは西垣の方に……

 

「しまった!」

「行け!豪炎寺!」

 

 行く手前で鬼道がダイレクトで更にサイドへと流す。吹雪と風丸の突破に気を取られた一瞬、豪炎寺が彼らの視界から消えるように移動していた。

 

「行くぞ!ヒロト!虎丸!」

「うん!」

「はい!」

 

 すぐ傍にはヒロトと宇都宮もいる。これは……

 

『グランドファイア!』

 

 現イナズマジャパンが誇る最強のシュートがゴールへと向かっていく。

 

「これは決まりましたよ!」

 

 そのシュートはあのジ・エンパイアのキーパーからも点をもぎ取った。これで得点だと誰もが確信していた。

 

「ジャックポットキャッチャー!」

 

 そんな中、相手キーパーの背後に現れたのは巨大なスロットマシン。そのスロットが勢いよく回転し、左が止まって7を、真ん中が止まってこちらも7、そして最後の右も7で止まる。3つの7が揃った瞬間、大量のメダルの波が発生する。その波はシュートを巻き込み……

 

『な、なんと防いだぁ!ゴール確実だと思わせるイナズマジャパンの放った強烈なシュート!それをたった1人で防いだぞぉ!』

 

 シュートはメダルの波によって勢いを殺され、ボールは相手キーパーの手中に収まった。

 

「おいおい……何だよありゃ……」

「アレがウチの最終兵器さ」

「最終兵器?」

「どんな必殺シュートも止める無敵の必殺技だよ」

「え?マジで?…………ん?じゃあ、何で最初から使わないんだ?」

「簡単な話さ。アレは7が3つ揃えば、どんなシュートも止める無敵の必殺技になるが、揃わなければ何も起きずにシュートが決まってしまう諸刃の剣……最強にも最弱にもなる必殺技さ」

「…………いや、おいコラ。格好良く言ってるだけでただの運ゲーじゃねぇか」

「せめてギャンブルって言って欲しいね」

「何で中学生からギャンブルに走っているんだよ。将来大丈夫か?」

 

 何か十六夜がマークと話しているが……いや、十分強力だろ。本来なら止められないシュートも止めることが出来る可能性を生み出せるんだからな。

 

(ッチ、厄介な必殺技だな……本当に止められないと判断したときに使ってくるか……しかも、本物と違うだろうからどれだけの確率で揃うか分からねぇし、その確率を知るために試行回数を重ねるような余裕なんてねぇ。というか、フラッシュアッパーで止められないって確信しているときに放つだろうから……クソッ、ある意味外してもノーダメで、当たればラッキーの博打。本当にどうしようも出来ねぇ必殺技じゃねぇかおい……!)

 

 十六夜が何かを考えながら自陣の方へと戻る中、一ノ瀬、マーク、ディラン、ミケーレのユニコーンの前衛たちが何故か相手自陣の奥深くまで戻る。

 

「マーク!ディラン!ミケーレ!」

 

 そこで一ノ瀬がボールを受け取ると先の4人が同時にイナズマジャパン陣内に切り込んできた。

 

「速い!?」

「何ですかあのスピードは!?」

 

(何だよこれ……!?読みが追いつかねぇ……!ッチ!速過ぎて先が読めない……!)

 

 そのスピードは今までの攻撃と次元が違う。言うなれば、前半で見せた十六夜、吹雪、ヒロトのパスでの突破に近いが……速さが段違い。あまりの攻撃のテンポの差に対応できず、気付けば4人の選手によってペナルティーエリアを囲われてしまう。

 

「行くぞ!必殺タクティクス!ローリングサンダー!」

 

 そう叫ぶ一ノ瀬がシュートを放つ。そのシュートを弾いたのは、4人の選手によって閉じ込められた綱海。

 

「マーク!」

 

 弾かれた先にはマークが。マークがダイレクトシュートを放つと、今度は綱海と同じく閉じ込められた壁山が弾く。

 

「ディラン!」

 

 弾かれた先にはディラン。ダイレクトでシュートを放つと今度は綱海が……

 

「こ、これじゃあキリがないじゃないですか!」

 

 そう、閉じ込められた2人が必死にクリアしようと、クリアした先には必ず4人の誰かがいる。そして、間髪を入れずにシュートを放ち続けている。

 

「しかも、他の選手によって割り込むことが出来ません!」

 

 更に、他のユニコーンの選手がイナズマジャパンのDF、MF陣を進ませないようにマンツーマンでブロックしている……そのため、ペナルティーエリア内は孤立し、シュートの嵐に晒されている状態だ。

 

「お前たち準備しろ」

 

 その状況を見て、久遠監督が指示を出す。

 そして、シュートを受け続けたせいで、体力を奪われた壁山と綱海。ついに、よろけてバランスを崩してしまった。

 

「行くぞ!」

『グランフェンリル!』

 

 キーパーと1対1……いや、1対4という状況で、放った必殺技グランフェンリル。マークがボールを蹴り、ディランと一ノ瀬の2人が同時に蹴り上げる。そしてそのボールを再びマークが蹴ってゴールへ向かっていく……そしてその後ろを獣――フェンリルが疾駆する。

 

「イジゲン・ザ・ハンド!」

 

 円堂のイジゲン・ザ・ハンドが発動する……だが、破られてしまいゴールを奪われる。

 

『ゴール!膠着状態を破ったのはアメリカ代表ユニコーン!イナズマジャパンを放す1点が入りましたぁ!』

 

 必殺タクティクス、ローリングサンダーからの必殺技、グランフェンリルによる失点。3-4と再びユニコーンがリードする展開になる。

 

「不動、行けるな?」

「ローリングサンダーを破ればいいんだろ?」

「破ればいいって、攻略法が分かったんですか?」

「フン」

 

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。こちらの意図に気付いた鬼道がボールを外に出す。そして、そのタイミングで3人の選手を交代する。風丸に代わり不動、壁山と綱海に代わって土方と木暮だ。

 

「おい、アホペンギン」

「何だい?アッキー」

 

 すると不動はフィールドに入って十六夜と会話する。大方、あのローリングサンダーを破る方法についてだろう。

 そして、試合が再開する。

 

「ローリングサンダー!」

 

 ボールを奪われてしまうと再びユニコーンの必殺タクティクス、ローリングサンダーが発動する。そして、さっきと同じように木暮と土方の2人がペナルティーエリアに取り残され4人によってやられるだけ……何か策があるんじゃないのか?

 

「不動くんが笑ってます……けど」

「アレじゃさっきと同じですよね……?」

 

 木暮と土方は相変わらずシュートを弾いているだけ……不動を含めた他の選手もさっきと一緒。彼と話していた十六夜も動きを見せな……

 

「……いや、違う」

「どうしたんですか?」

「……十六夜がフィールドに居ない……!」

 

 その事に気付くと同時に、木暮と土方がそれぞれ倒れる。ボールはマークが持っていた。

 

『グランフェンリル!』

 

 再びグランフェンリルが放たれる。マークがシュートを放ち、ディランと一ノ瀬がそのシュートを同時に蹴り上げる。そして、そのボールを……

 

「グランフェンリル!……って感じで後よろしくー」

 

 ()()()()上空で待機していた十六夜が相手ゴールに向けてシュートを放った。

 

「十六夜先輩!?いつの間に……!」

「最初からだ。ローリングサンダーが発動した瞬間、ヤツはペラーに乗って遙か上空へ飛んでいた。そして、徐々に降りてきていたんだ」

「で、でも誰も……」

「気付かないだろうな。前のテレスとの1対1でも同じだったが……ローリングサンダーが発動している間、シュートを撃っている4人はもちろん、残りの選手も自分のマークしている選手しか見ないんだ。誰も気付かない……それに加え、不動が気付かせないように、選手の位置をコントロールしていた。これで気付けという方が無理があるだろう」

 

 シュートは相手ゴールに迫っていく。いくらグランフェンリルのおいしいところを持っていったとはいえ、超ロングシュート……流石に威力は落ちる。しかも……

 

「アクアリングカット!」

 

 割り込んだのは西垣のシュートブロックだった。

 

「お前にはそれで1回やられているからな……!クッ……!」

 

 シュートはブロックを貫いた。だが、そのせいで威力は更に下げられる。

 

「行け!豪炎寺!」

「分かってる!」

 

 そのシュートに向かって跳んだのは豪炎寺。

 

「爆熱スクリュー!」

 

 そして、爆熱スクリューをシュートチェインすることで、落ちていた威力以上のパワーをボールに与える。

 

「フラッシュアッパー!」

 

 炎を纏った獣……そのシュートを止めることはかなわず、ボールはゴールに刺さった。

 

『決まったぁ!イナズマジャパン!カウンターシュートからのシュートチェインで同点に追いつきました!』

『まさか、ローリングサンダーが発動した瞬間に、上空に居たとは……とんでもないことを考えますね……』

 

 これで4-4の同点に追いついた。追いついたんだが……

 

「……何か……昔もこういうことありませんでした?」

「木戸川清修戦ですよ!トライアングルZで、十六夜先輩が最後においしいところを持って行ったヤツです!」

「よくやるよ……というか、そのせいで西垣には覚えられて反応されたし……それでも豪炎寺も鬼道もよく反応できたな……」

「まぁ、付き合いが長いッスからね……十六夜さんは何しても不思議じゃないッス」

「何だよお前らばっか知った感じで!」

「そ、そうですよ!とんでもないことしませんでしたか!?」

 

 ベンチでは、その光景を知っている人物が懐かしい気持ちにさせられる。ただ、知らないヤツにとっては困惑物だが。かく言う私もその試合、その光景は知っているわけで……ほんと、アイツの頭の中ってどうなってるんだろうか?グランフェンリルを途中まで敢えてやらせて、それをシュートとして自分が撃つとか……ちょっと間違えれば戦犯ものだろ。

 

「グランフェンリルを止める策ってこういうことかよ、アホペンギン」

「ははっ、まぁな。でも、アッキーが言ってたカウンターに弱いって弱点のお陰で思いついた。ありがとな」

「けっ。お前が跳ね返ったボールを、上空から確保しに行って、前へデカいの送れば済む話だったのによぉ。あと、アッキー言うな」

「あはは……土方と木暮はちょっと走らせすぎたと思ってる。じゃあ、アホペンギン変えてくれよ」

「安心しろ。早い段階で倒れて限界迎えたフリしろって言ってある。嫌だよ、アホペンギン」

「流石だな。だったら、アッキー継続で」

 

 ところで、何でアイツらは相手の呼び方に関して試合中に揉めているんだ?頭が良いのにバカなのか?それともアイツらなりのコミュニケーションなのか?喧嘩するほど仲が良いのか?

 

「フッ……十六夜っていう選手の使い方が分かってきたようだな」

「流石の俺でも、鬼道クンたちみたく、グランフェンリルを撃つのは読めなかったけどな」

「まぁ、なんというか……十六夜の目が面白いこと思いついたって目をしてたからな」

「え?そうか?」

「大抵そういう時は想像の斜め上のことをするからな」

 

 ……面白いという理由だけで出来たら苦労してないだろうな……

 そして、ユニコーンのキックオフで試合再開。ローリングサンダーは通用しないとみたか、純粋に攻めてくる……が。

 

「……一ノ瀬の運動量が落ちている?」

 

 前半に比べると格段に落ちていた……前半から飛ばしすぎてガス欠を起こしたのだろうか?……そんな疑問を余所に、ボールはラインを割り外へ……

 

『あーっと!ここでユニコーン!選手を交代するようです!』

 

 交代を指示されたのは一ノ瀬だった。




習得必殺技

グランフェンリル
シュート技
パートナー ディラン、マーク、一ノ瀬
いつぞやと同じでいいとこ取りをした。


登場必殺技

ジャックポットキャッチャー
キャッチ技
後ろに現れたスロットマシンが抽選を開始し「777」が揃うと大量のメダルの波が発生してボールを止める技
(揃わなかったら何も起きない)

Nynpeko様よりいただきました。ありがとうございます。


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VSユニコーン ~トリガー~

 4-4の同点……ユニコーンとイナズマジャパンの試合が熱くなっていく中、一ノ瀬が交代されることが宣言される。

 

「イチノセ、交代だ」

「えっ……?」

「監督!なぜカズヤを下げるんですか!?」

「そうです!ギンギンに攻めているところだというのに!」

「監督お願いです!最後まで戦わせて下さい!」

 

 ユニコーンの監督の交代に対し、異を唱える選手たち。確かに、彼の運動量は前半に比べると落ちていたが……それでもここで交代とは……

 

「お前はずっと全力の戦いをしてきた。疲労が激しいはずだ」

「大丈夫です、まだやれます!今日は特別な試合なんだ……俺は最後までピッチに立っていたい!」

「…………私には選手を守る責任がある。もう交代は認められた」

 

 選手を守る?……一ノ瀬の身体に何かあった……か。そう思って、周りを見ると円堂と木野、土門、西垣の4人が何か思い当たることがあるような感じの反応を見せていた。

 

「……後は頼む」

「一ノ瀬……」

 

 一ノ瀬がベンチに下がり、試合が再開する。

 試合終了まで後半も半分を切った。そんなある意味衝撃的な交代があった……しかし、一ノ瀬が下がった後のユニコーンのプレーは彼の分まで応えようと更に熱いものになっていた。

 

「これって……」

「……一ノ瀬の気持ちはまだピッチにあるんだ。だったら、俺たちはそれに応えよう!」

「ああ……そうだな!」

 

 不思議だな。円堂の言うようにベンチに下がっているはずなのに、一ノ瀬はまだピッチに居るみたいな感じがする……本当に不思議な感覚だ。これがアイツの思いってところだろうか?

 

「十六夜!行ったぞ!」

「ああ、分かってる」

 

 ボールを持っているのはマーク。

 

「勝負だアヤト!」

「ここは通さねぇよ」

 

 フェイントで突破しようとしてくるのを前に進ませないようにブロックする。ショルダータックルをしてくるのをタックルで弾き返そうとする。

 

「なかなか突破させてくれないな!」

「そっちこそやるじゃねぇか」

「だが、悪いけど突破させてもらうよ!」

 

 すると、別の選手がマークに近づき、マークの腕を持って回転、空へと飛ばした。

 

『ジ・イカロス!』

「それは通用しない」

 

 この技は目の前の相手と太陽の間に自分を挟み、太陽の光で目潰しを仕掛ける技。何故か羽が生えてるいるように見えるけど……

 

「知ってるか?イカロスは最後、羽を失って墜ちるんだぜ?」

「それは神話の話だろう?俺たちは墜ちない!」

 

 跳び上がって、空中にあるボールをかっ攫おうとする……が、

 

「行け!ディラン!」

「オーケーマーク!」

 

 奪う直前に踵落としで強引に地面に向けボールを叩きつけた。

 

「来るぞ!円堂!」

「おう!来い!」

「行くよ、ミスターエンドウ!」

 

 そのボールを受け取ったのはディラン。そのままヒールリフトでボールを浮かせ、頭越しに移動させると共に足を止める。円堂から背中が見える程に体を捻りながら利き足を限界まで振り上げる。……ちょっと待て……確かあの技は別の試合でも使ってた……!

 

「円堂必殺技!そのシュートは……!」

「気付いたようだね!でも、もう遅いよ!」

 

 ボールが足元に落ちてくると同時に貯めに貯めた捻りと力を解放して力強くシュートする。

 

「トランザムマグナム!」

 

 瞬間、ボールは軌跡すら残さない程の圧倒的な速さでゴールに向かって飛んでいく。

 

「イジゲ……なっ!?」

 

 その圧倒的な速さを誇るシュートがペナルティーエリア手前から撃たれたんだ。当然ながら……

 

『ゴール!4-5!キーパーの円堂が反応できない一撃がゴールに突き刺さったぁ!』

『あれはディラン選手の必殺シュートですね。予選並びにこの本戦でも既に何回もゴールを奪っているシュート……圧倒的な速さで相手キーパーに反応させない一撃です。あのレベルのシュートを持っている選手はこの大会でも少なく、アレをあの距離で止められるキーパーは果たして居るのか……止めるのは至難の業ですよ……!』

 

 必殺技が発動する間もなくゴールに突き刺さる。円堂が必殺技を発動しようとしたときには既にゴールの中に入っていた。

 エドガーのエクスカリバーが、距離があればあるほど威力の上がる意味の分からないシュートなら、ディランのコレはシュートを見てからでは間に合わないシュート。それが近くから撃たれれば反応すら出来ない一撃となる。

 

「この試合はカズヤが特別視していたからね!封印していたんだけど、こんな熱い試合に封印するなんてもったいないね!」

「封印って……よく言うぜ。一ノ瀬の影に潜んで、オレを抑える役として、お前はエースストライカーとしての存在感を消していた。誰もが油断したこの瞬間を静かに待ち望んでいたんだろ?」

「まぁ、ディランはこう見えて強かなプレイヤーだ。ハッタリもコイツの十八番だからな」

「こう見えては酷いね!」

「やっぱ、お前ら一筋縄じゃいかねぇよ……つぅか、熱過ぎなんだよこの試合」

「なら、もっと熱くしてあげるよ!」

「そして、勝つの俺たちだ!」

「ハッ!いいぜ、ぶっ潰しがいがあるってもんだ!」

 

 おもしれぇ、なら今度はこっちが見せる番だ。

 イナズマジャパンのキックオフで試合再開。ボールは不動が持つ。

 

「潰す……!壊す……!不動!着いてこい!」

「命令すんじゃねぇよ!」

 

 そして、オレがボールを持つ。

 

「ここは通さないよ!」

「もう1点奪う!」

「ハッ!ぶっ壊してやんよ!」

「「……っ!」」

 

(何だ……アヤトのプレーの質が変化している?さっきまでの冷静さを感じないが……焦っている感じもしない?どちらかと言うと凶暴で荒々しく……?……一体、何が……?)

(なるほどねぇ……エドガーの時に近い感じか。ノロノロ思考してからじゃ間に合わねぇと踏んで、本能でプレーしようとしているわけか……なら、合わせてやんよ!そのプレースピードに!)

 

「不動!」

「ここに居るっての!」

 

(十六夜がディランとマークを背中越しに抑えて、近くにやって来た不動にバックパスを出した?でも、あんな近場じゃ……)

 

「行け!十六夜!」

「マジ、タイミング神!」

「「なっ……!」」

 

(マークとディランを抑えるのをやめて反転し、2人の間を強引に突破しようとする……そんな十六夜に強烈なシュート性のパスを出す不動。そして、そのパスを全くボールを見ずにヒールで自身の頭を越えさせて前に送り、2人に反応する隙を与えずに突破する十六夜。不動の声かけでタイミングを測っていたが、互いに言葉をほとんど交わさなくても通じ合ってる……!)

 

「ここは行かせない!パワーチャージ!」

 

 ディランとマークを突破すると、ディフェンスが思い切りタックルをしてくる……だが、

 

「っ!?吹き飛ばない……!?」

「ハッ!軽いなおい!こんなタックル、()()()に比べりゃ弱ぇんだよ!」

「なっ……!」

 

 相手のタックルに肩でぶつかる。数秒の拮抗の後に弾き返すと倒れ込むディフェンス。そんな彼を無視して進もうとすると……

 

「あぐっ……!?」

 

 一瞬、頭に電撃が走ったような強烈な痛みがした。……あれ?

 

「トニー!?」

「トニーのパワーチャージを真正面から……!?」

「フィジカルもバケモノかよ!?」

「フィジカルモンスター!?」

「本当に何なんだアイツは!?」

 

 相手側(と何故か味方からも)が何処か困惑した感じを出しているが、一切気にしていられなかった。

 

「今……誰のことを……?」

 

 オレは今……誰と比べて弱いって思ったんだ……?無意識に出てたけど……アイツって……

 

「隙を見せたな十六夜!スピニングエッジ!」

 

 数秒試合から意識が逸れていた。いつの間にか目の前に居た西垣が必殺技を発動する。回転したまま上空に上がり、そこから青い衝撃波を3発こちらに向けて放ってくる。

 

「……っ!」

 

 その衝撃波が当たる前に、オレは右サイドへとパスを出す。オレが吹き飛ばされる中、そのボールは……

 

「パスミスだ。このボールは……なっ!?」

「ううん、僕のスピードなら追い付ける」

 

 駆け上がっていく吹雪が掻っ攫い、そのスピードのままディフェンダーを突破する。やっぱりだ。吹雪のスピードなら追いつける……()()()と比べて遜色ない……いや、超えているかもしれない足の持ち主なんだから。

 

「……っ!?……今も……」

「ウルフレジェンド!」

 

 吹雪が必殺技を放つ中……オレは誰と比べていたんだ?誰のスピードと比べていたんだ?

 

「フラッシュアッパー!」

 

 そこに相手キーパーの必殺技が放たれる。ボールは空高く上がっていき、そのまま落下。相手キーパーの手中に収まる……そう誰もが思っていた。

 

「うおおおおおおおぉぉっ!」

「なっ……!?」

 

 落下するボールを受け止めようとするキーパー……だが、そこに走り込みオーバーヘッドでボールをゴールにねじ込んだ選手がいた。

 

『な、なんと言うことだぁ!吹雪の必殺技が止められた次の瞬間!豪炎寺が飛び込み、ジャンピングボレーでボールをゴールにねじ込んだぁ!再び同点!同点ゴールだぁ!』

『ストライカーの意地……豪炎寺選手から意地でも決めると言う執念を感じるような素晴らしいゴールでしたね』

 

 ゴールへの嗅覚、反応……そして絶対に決めるという強い意志。やっぱり豪炎寺は()()()と同じ最高のストライカーだな。

 

「すげぇ!すげぇよ豪炎寺!」

「何だよ今のシュート!滅茶苦茶熱いシュートじゃねぇか!」

「フラッシュアッパーで止められたボールが打ち上げられた後、相手キーパーの手中に収まるまでには時間がかかる。俺はその隙をついただけだ」

「ついただけって格好つけやがってこの野郎!何が何でも点を取るって執念を感じたぜ!」

「そうだぜ豪炎寺!やっぱりお前がこのチームのエースストライカーだよ!」

 

 円堂と染岡が豪炎寺の下へ駆け寄る中、吹雪と鬼道がやって来る。

 

「確かに豪炎寺のシュートも凄かったが、その前の十六夜が敵を吹き飛ばしたパワープレーも、キラーパスに対応した吹雪も見事だった」

「十六夜くんなら見えていたって思ってね……でも、十六夜くん大丈夫?もしかして、相手の必殺技で何処か痛めた?」

「あ、ああ……悪い考え事してた。大丈夫、問題ねぇよ」

「考え事って……まぁいい。まだまだ点を取りに行くぞ」

「うん」

「ああ」

 

 今のもだ……誰なんだ?オレは……誰かを忘れているのか?中学時代のチームメイト?それとも高校時代の?……いや、そうじゃない。多分、元の世界でオレが仲間と認めていた数少ない存在で……一体誰なんだ?

 

「ヒュー凄いゴールに対しての執念だね!」

「だな。あんなプレーをするなんて……」

「……なるほどな」

「ヘイ、マーク。何が分かったんだい?」

「そうだな……ドモン、ニシガキ。お前たちはイナズマジャパンのエースストライカーは誰だと思う?」

「そりゃあ豪炎寺しか居ないだろ」

「ああ、次点で吹雪か染岡かだが……豪炎寺が頭一つ飛び抜けているように思える」

「お前たちならそう答えるだろうな。だが、そうやって答えるのはゴウエンジたちを前から知っているヤツらだ。この大会だけ見れば……」

「そうか!豪炎寺の印象は強くない……」

「むしろ、十六夜の方が……」

「そうだ。イザヨイアヤト……あのテレスを破って点を奪った男だ。それに彼のプレーがイナズマジャパンの決定機に繋がったシーンも少なくなかった」

「なるほどな……つまり、エースストライカーとしてのプライドってことか?」

「ああ。このチームのエースは自分だと。言葉ではなくプレー……ゴールで知らしめるわけだ」

「イナズマジャパンのエースストライカーはアヤトじゃないって見せつけたんだね!いいねいいね熱いエースストライカーだよ!」

「ふっ、じゃあこっちのエースストライカーも見せてやらないとな」

「オフコース!そして最後に勝つのはユニコーンだよ!」

 

 さっきの不動からのシュート性のパス……()()()ならもっとうまくコントロール出来たのか?出したパスも()()()ならもっと綺麗に……アイツって誰なんだ?オレは誰を忘れてしまっているんだ?心の何処かでは覚えていて……でも、今まで露ほども思い出せなくて……一体、オレは誰を……

 

 パンッ!

 

 自身の頬を両手で叩く。

 

「……切り替えろ。今はこの試合だ」

 

 過去はいつでも振り返られる。でも、この試合は今しかないんだ。余計な思考は排除しろ……

 

「円堂、ちょっといいか?」

「なんだ?十六夜」

 

 5-5の同点、試合は最終局面を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~NGシーン(ネタ)~

 

「ここは行かせない!パワーチャージ!」

「ハッ!こんなもん正面から吹き飛ばしてやんよ!」

 

 向かってくるタックルに対し、十六夜もタックルで返す……が、

 

「ぐふっ……」

「「「え?」」」

 

 大見得を切った割に呆気なく吹き飛ばされる十六夜。宙を舞うと、思い切り地面に叩きつけられた。

 

「「「…………」」」

 

 あまりのことにフィールド全体が一瞬にして固まってしまう。えっと……

 

「な、中々やるな……!」

 

 と、そんな微妙な空気の中、ゾンビのように立ち上がる十六夜。だが……

 

 ピー-!

 

「ちょっ、血!頭から血が出てるって!」

「顔が真っ赤に!?誰か救急車!」

「十六夜!?ちょっ、大丈夫かお前!?」

 

 頭から血を流し、既に顔の上半分は赤黒く染まっている……一種の狂気を感じる状況。審判もその状況には試合を中断させる。

 

「ハッ、大丈夫に決まってるだろうが……」

 

 バタッ

 

 一歩進むと倒れ込む十六夜。

 

「「「何も大丈夫じゃねぇ!?」」」




 久々のNGシーン……フィジカルが足りなかった時の十六夜くんですね。
 この後、彼は一ノ瀬よりも先に病院送りになったとかなっていないとか……何て悲しいんだ。

 さてさて、十六夜くんが少しだけ本能でのプレーをしましたが……何かに引っかかった様子ですね?
 次回、決着。



登場必殺技紹介

トランザムマグナム 属性 火 成長タイプ V ロングシュート可 使用者 ディラン
ミスターゴールの異名を持つディラン・キースが放つ、渾身の必殺シュート。
ヒールリフトでボールを浮かせて頭越しに移動させると共に足を止めて、GKから背中が見える程に体を捻りながら利き足を限界まで振り上げる。ボールが足元に落ちてくると同時に貯めに貯めた捻りと力を解放して力強くシュートする。ボールは軌跡すら残さない程の圧倒的な速さでゴールに向かって飛んでいく。
持てる力を限界まで振り絞った事でセンターライン上からでも直接ゴールを狙える程の威力と飛距離を有しており、マークとのコンビプレイが主体であるディランの最大の切り札である。その一方でハッタリの類も得意である彼は時に相手の隙を作る為の見せ札としても使用している。
なお、技名に入っている「トランザム」は「TRANS AMerican(アメリカ大陸横断)」の略語であり、技名全体の意味合いとしては「アメリカを席巻する弾丸シュート」になる模様。


h995様よりいただきました。ありがとうございます。


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VSユニコーン ~エースストライカー~

 ユニコーンのキックオフで試合再開。ボールは……

 

「じゃあ撃っちゃうよ!」

 

 ディランが持ち、シュート体勢に入る。まだセンターライン付近だと言うのに撃つというのか……!?

 

「撃ってみろよ。隙もコースも与えねぇぞ」

「おぉ?」

 

 それを阻止すべく立ち塞がったのはDFである十六夜……

 

「って十六夜さん!?いつの間にあそこまで移動を!?」

「いや、十六夜のやつ最初から前に居たな。こうなることを見越して……」

 

 キックオフの時には既にセンターサークルに近いところに居た十六夜。これなら、確かにボールを持った瞬間詰められるが……

 

「ヘイアヤト!ユーがここまで来ていいのかい?」

「かまわねぇよディラン。ユニコーン側にお前以外、点を取れるヤツはいねぇからさ」

 

 あっさりとシュートを撃つのをやめて、ボールをキープするディラン。

 一ノ瀬がベンチに下がり、マークには個人でのシュート技がないという分析で、ディランだけを警戒しているということか?

 

「ハハ、ミケーレもマークも居るのに、そんなこと言っていいのかい?」

「ウチのキャプテンが止める。他の奴らが止める。だからオレはお前だけ撃たせねぇようにすればいい。お前のシュートはオレが潰す」

「なるほど、美しい信頼だね!行くぜ!アヤトを超えてミーが決めるよ!」

 

 ディランの足下にあるボールにパワーが集まっていく。

 

「まさか、別の必殺技ですか!?」

「他にも隠していたのか!?」

 

 しかし、それを見ても十六夜に動じた様子がない。それどころか淡々と……

 

「ハッタリだろ、それ」

 

 そう言ってみせた。

 

「ワオ!初見で見抜くとは驚きだね!」

 

 そして、ディランは何食わぬ顔でシュートを撃つ素振りをやめ、十六夜と向き合う。

 

「試合終盤の大事な局面。流石にこの状況で強引に撃つことはしないだろ?だからそれはフェイク。本物だと思って阻止しようとすれば、オレを抜いてさっきのをぶち込むつもりだった」

「エクセレント!パーフェクトだよ!」

「そりゃどうも。駆け引きなら負けねぇよ」

 

 いや待て、十六夜のヤツ……今のは嘘が混ざっている。ディランの動きを注意し、ディランだけを自由にさせないようにしている……つまり、見抜いていたわけではない。さっきの技を撃たせないようにしているだけで、今のが本当にフェイクかどうかなんてあの瞬間には分からなかったはずだ。

 

「って言うのはやっぱり冗談(ジョーク)!行くぜ、ライアーショット!」

 

 しかし、一息ついたのも束の間、ボールにパワーを集めて足を振り抜いた。思わずボールの行方を見る私たち。

 

「……え?」

「シュートじゃ……ない……?」

 

 ボールはふわりと上がり、その軌道は弧を描いているようだった。そして、そのまま地面に向かう……

 

「これで棒立ちになったところを突破するってか?」

「やっぱり、ユーに必殺技は通用しないね……!」

「そりゃどうも!」

「うぐぅ……このパワーならトニーを吹っ飛ばしたのも分かるね……!」

 

 ボールの落下地点では十六夜がディランをおさえて先回りしていた。私たちがボールの行方を見ている間に、既に地上で2人の戦いが起きていたらしい。

 

「でも、ミーの相棒を舐めないでよね!」

「ナイスパスだディラン!」

「ッチ」

 

 ディランが前線に走り出す。ボールを取り合うを諦めて……そして、その直後に十六夜もボールの落下地点からディランを追いかけて走り出す。気付けば、ボールは地面に着地する前にマークが空中で拾っていた。……なるほど、マークに奪われるのが分かったから、ディランに向かって走って行ったと。

 

「やっぱり、ディランを警戒しているか。そして、俺はご自由にって訳か」

「そんなわけないだろう?」

「お前の相手は俺たちだ!」

 

 そんなマークに立ち塞がったのは鬼道と土方の2人。

 

「なるほどな。でも、通させてもらうぞ!」

 

 そう言ってフェイントを仕掛けてくるマーク。最初こそ余裕そうについて行けている2人だったが……

 

「このタイミングだな!」

「うぉ!?すまん鬼道!」

「……っ!いや、大丈夫だ」

 

 マークの仕掛けたフェイントはタイミングが絶妙で、ボールの位置も巧妙だった。そのせいで、鬼道と土方は同時にボールを取ろうとして連携が乱れ、土方と鬼道がぶつかってしまう。体格差もありバランスを崩す鬼道とそれを支えようとする土方。そんな大きな隙を見逃すはずもなくマークは突き進んでいく。

 

「ミケーレ!」

 

 フォローしようと木暮が走るも即座にミケーレにパスが渡る。ディランの方には十六夜がついており、パスコースを塞ぐように吹雪も居る。流石に強引に出すことはしないらしい。

 

「マーク!」

 

 ミケーレはダイレクトでマークに返す。やはり、ディランを防いでいるのが大きいのか、攻撃力が大幅に下がったように感じる。

 

「このままズルズル引き分け……なんて性に合わないな!行くぞ、ミケーレ!」

 

 マークは何かを決めたようでミケーレに声を掛ける。すると、ディランも何かに気付いたようで移動し……

 

「シュート警戒しろ!」

「おう!来い!」

 

 十六夜が声を出しながらディランに着いていく。

 

『真レボリューションV!』

 

 マークとミケーレが必殺技を放つ。……一ノ瀬やディランが居なくても撃てる必殺技を隠していたのか……!

 

「イジゲン・ザ・ハンド改!」

 

 そんな必殺シュートに対して、円堂は必殺技を放つ。ボールは僅かな拮抗の後にゴールの上を飛んでいった。

 

「クッ……アヤトの言う通りということか……!」

「力不足……!」

問題なし(ノープロブレム)!ミーが意地でも決めるからね!」

 

 残り時間はほとんど残っていない。ユニコーン側にとってもこの攻撃で点を取れなかったのは大きいだろう。

 

「よぉし!頼むぞ十六夜!」

「ちょっ、バッ……!」

 

 十六夜が何かを言いかけたが、そんなことお構いなしに円堂から十六夜にボールが渡る。そして、十六夜がボールをトラップした瞬間、ディランとマークのダブルディフェンスが迫る。

 

「取らせてもらうよ!」

「この試合はミーたちが貰うね!」

「ク……ソッ……!」

 

 ディランとマークの連携プレスを前に、十六夜はボールをキープするのに精一杯になった。

 

(雰囲気が戻っているか。この状態の彼なら思考時間を与えたくないな……)

 

「ディラン!」

「テンポアップだね!ガンガン行くよ!」

「……っ!冗談キツいって……!」

 

 しかも、相手のプレスが激しくなる。ここで奪えば、シュートを撃てる。点を取れれば残り時間での逆転は実質不可能になることが分かっているのだろう。

 

(どうする……本当にどうする!?ゴールまでたどり着けるビジョンが全く見えねぇ!パスコースも潰され、ドリブルでの突破は厳しい状況……!残り時間もあとわずか……!ここで決めなきゃ勝利はねぇ……!)

 

「マズいです……!試合終盤で延長戦もない……勝負を仕掛けに来ましたね……!」

「ヤバいな……!アイツら、ここに来てプレーの質が上がっている……!」

「……後数秒。……何も起きなければ、数秒後には……」

「そんな……!」

「だが、十六夜だからその数秒が生まれる」

 

 十六夜単独での勝ち筋が見えない……間違いなくこのままだと奪われる。

 

(クソッ!どんなに思考を張り巡らせてもゴールまで到達出来る道筋(ルート)がねぇ!パスは全部取られて反撃をもらう確率が高い!ドリブルでの突破のビジョンも見えねぇ!状況が好転するまでこのままキープする選択肢は存在してねぇ!……パス、ドリブル、キープ……畜生が……どの選択も詰んでいやがる……!)

 

「十六夜くん!」

 

 そんな中、吹雪が走って行く……それは3人も見えていた。

 

「彼にパスは出させない!」

「ここで奪って逆転だよ!」

 

(勝算が低いとこに賭けるか?いやそれは最終手段……!状況は少しずつ変化しているんだ……その全てを整理して考えろ……ここで最適解を見つけなきゃ勝てねぇんだ……!勝つために……!オレが今取れる選択はなんだ……!クソ、時間がねぇ……!全ての情報を叩き込め思考しろ判断しろ……!ゴールに繋がる道筋(ルート)は何処に…………っ!?)

 

 と、十六夜が何かを思いついたように目を見開き、首を素早く振ってフィールドを見渡す。

 そして、一瞬吹雪の方に目を向けると……

 

「吹雪!オレを殺せ!」

「「「はあああああああああああぁぁっ!??」」」

 

 十六夜がとんでもないことを言い出した。予想外どころか、この場において出てくるとは思えない、予想も出来ない一言が、多くの者を震撼させた。

 

「スノーエンジェル!」

「マっ……!?」

「しまっ……!」

 

 そんな十六夜の言葉を受け、吹雪が必殺技で十六夜を凍りづけにしてボールを奪う。近くに居たディランとマークの2人もこの襲撃は避けきれず、一緒に氷の中に閉じ込められた。

 

「吹雪!」

「豪炎寺くん!」

 

 前線を走る豪炎寺へ吹雪からボールが上がった。

 

「そうか!味方に必殺技をぶつけて、味方からボールを奪うなんて発想は彼らにはありません!パスでもドリブルでもキープでもない選択なら、彼らを出し抜けます!」

「出し抜けるって……そんな打ち合わせいつ……!?」

「あの一言……自分を殺せって言うその一言に含まれた意味に吹雪が答えたのだろう」

 

 たとえ死んでもボールを繋げる。そして、吹雪の必殺技なら自身を巻き込んででも最短で、確実に突破できると判断した。どんなに絶望的な状況でも思考を止めなかった末に見つけ出した解答か……

 

「虎丸くん!行くよ!」

「……え!?あ、はい!」

「お前らも攻め上がれ!最後の攻撃だ!」

 

 当然、そんなプレーには困惑する者も現れる。だが、その数秒が命取り……それを分かってか衝撃を受けなかった者たちが切り替えるように促す。

 

「鬼道!」

「ああ!行くぞ!不動!」

「分かっている!」

『キラーフィールズ!』

 

 ボールは鬼道に渡り、鬼道と不動の必殺技が道を切り開く。そして、再び豪炎寺がボールを持ち、その傍にはヒロトと宇都宮が走っている。

 

『グランド……』

「やらせるか!アクアリングカット!」

「撃たせねぇよ!ボルケイノカットV2!」

 

 シュートを放とうとした瞬間、3人の前には水の壁とマグマの壁が現れた。そのせいでシュートを中断する。

 

「シュートを撃っても減衰され、真正面からドリブルでの突破は不可……さぁ、どうする?」

 

 徐々に自陣ゴールへと戻っていくユニコーン。一度仕切り直そうにも、戻してしまっては折角のリズムが崩れてしまう。それに、時間も残されていない……

 

「ど、どうしましょう!?無理やり撃つしか……!」

「いやダメだ。確実に決めるにはこの壁を越えないと……」

「で、でもどうやって……!?」

「……っ!ヒロト!合わせてくれ!」

 

 ボールをヒロトに預けると、豪炎寺が単独で水の壁に向かって突っ込んでいく。

 

「ご、豪炎寺さん!?何処に行くんですか!?」

「合わせてくれって、一体……っ!」

「ど、どうしましょうヒロトさん……」

「頼んだよ!2人とも!」

「ちょっ、ヒロトさん!?」

 

 いきなりヒロトが空高くボールを蹴り上げた。誰もが理解できない行動……一体、何故そんなことを……?

 

『突然、基山が空高くボールを蹴り上げたぞ!この土壇場で闇雲に蹴ったか!?』

 

「その執念は流石だな!行くぞ!」

「ハッ!ただの死に役で終わるかよ!」

 

 そのボールに向かって、跳び上がっていた陰が2つ。ヒロトからこのパスが通ると分かっていたようで、ボールとほぼ同じスピードで上がっていく。

 

「合わせろ十六夜!」

「合わせてやるよエースストライカー!」

 

 その陰は足に炎を纏い、回転しながら徐々に近付いていく。

 

『いいや違う!そのボールに反応しているのは豪炎寺と十六夜だ!2人がそれぞれ足に炎を纏い、回転しながら上がっていく!』

 

 そして、ボールが最高到達点に達したとき……

 

「「ファイアトルネード!」」

 

 2人のファイアトルネードが同時に放たれた。即興でやったはずなのに、2人のタイミングは完璧に合っている。その証拠に、炎は1人1人が単独で撃つよりも何倍もの勢いになっていて、炎の塊が激しく火を噴きながらゴールへと飛んでいく。

 

「ジャックポットキャッチャー!」

 

 相手キーパーは直感でフラッシュアッパーでは止められないと悟ったのだろう。背後に現れたのはスロットマシン。スロットが勢いよく回転し、左が7、真ん中が7と揃い……

 

『ご、ゴール!逆転ゴールだぁ!十六夜と豪炎寺のダブルシュートがゴールに刺さったぞ!』

 

 ……右が1を指し、7が3つ揃うことはなくメダルは出なかった。そして、スロットマシンは霧散し、ボールはゴールの中へ突き刺さる。

 

「素晴らしい!ファイアトルネードを同時に放つ……2人の息が合わないと出来ない技!その名もファイアトルネードD(ダブル)D(ドライブ)!」

 

 2人は着地し、ハイタッチをかわす。

 

 ピ、ピーー!

 

 そして、試合終了のホイッスルが鳴り響く。

 

『ここで試合終了!6-5!熱い激戦を制したのはイナズマジャパンだぁ!』

『最後の一瞬まで目を離せませんでしたね……!』

 

「ナイスシュート、豪炎寺」

「ああ、いいシュートだった。即興(アドリブ)でやった割にはよく合わせたな」

「まぁな。ハーフタイムで構想は言われていたから合わせた」

「合わせたって簡単に言うな……お前は」

「すっげぇぞ豪炎寺!十六夜!くぅ……最高のシュートだな!」

「息ぴったり。凄い連携シュートだね」

「そうだな。俺も予想以上だ」

「と言うか、その前のはよく反応してくれたな、吹雪」

「うん。アイコンタクトもあってしっかり伝わったよ」

「それにしても、あれは結構な無茶をしていたな」

「でも、十六夜くんならあれぐらい何ともないと思ったからね」

「あんなの、切羽詰まってなければ二度とやらねぇよ」

「……あれ?でも、何でお前だけ追いつけたんだ?」

「それはね、キャプテン。僕が必殺技を発動するときに、十六夜くんは相手ゴールの方を向いて走り出そうとしていたんだ。だから氷が砕けた瞬間に、2人より2、3歩早く走り出せた」

「それだけ貰えれば、追いつかせねぇよ。向かうべきポイントにまっすぐ全力で走ればいいんだからな。それにしても豪炎寺のタイミングも最適だった。早かったら追いつけねぇし、遅かったら邪魔が入ったかも」

「お前が走るのが見えたからな。やるならあのタイミングしかないと思った」

「やっぱりお前らはすっげぇぜ!」

 

 フィールドでは円堂、豪炎寺、吹雪、十六夜の4人が盛り上がっていた。ベンチのメンバーや他のメンバーもこの勝利に喜びを表していて……こうして、ユニコーンとの激闘は幕を閉じるのだった。




 ということで、一ノ瀬、土門強化+強化西垣加入+ディラン、マークなどの強化……とナイツオブクイーン、ジ・エンパイアに比べると破格の強化を受けたユニコーン戦でした。まぁ、一ノ瀬たち十六夜の強さ知っているしね。そのレベル目指していた彼らに影響を受けて全体的にレベルアップしていましたね。

 ちなみに、お気付きかは分かりませんが、このユニコーン戦はこの世界編で十六夜くんが初めてまともに一試合戦った試合です……って言うと誤解されそうなので、今までの試合を振り返ります。

代表選考試合、ビッグウェイブス、デザートライオン→本気出していない。(本気出していたら……ねぇ?)
ネオジャパン→出番なし。(終始ベンチ、それどころか途中から蚊帳の外)
ファイアードラゴン→治療の為、一時的にベンチに下がっている。(そもそも途中までキーパーと諸々の制約を受けている)
ナイツオブクイーン、ジ・エンパイア→後半途中で交代している。(気絶と体力切れ)
チームK→途中から本気を出していない。(チームKの雰囲気を壊さないように)

 と、今までの試合と比べるとようやく最初から最後まで本気で戦っていましたね……いや、世界編始まってから、何でこんなにベンチに下がってばっかりいるんだ?この主人公、公式戦フル出場出来ないどころか、イナズマジャパン入りするオリキャラの中で、ベンチに居る時間一番長い説ある?非公式戦含めると出場していない試合まであるし……

習得必殺技紹介
ファイアトルネードD(ダブル)D(ドライブ)
使用者 豪炎寺
パートナー 十六夜
登場すると予想できていた人が多いと思われる必殺技。無事に習得したもののぶっつけ本番で出来たよう。その理由は一体……?


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幕引きと始動

「勝利おめでとう、円堂」

「一ノ瀬……」

「……最後までピッチに立っていたかったけど、出来なかった……」

「お前がベンチに下がった後も、ピッチにはお前の気迫が残っていた。だから俺、最後までお前と戦っていた気がする」

「……ベンチに下がって俺、心の底から思ったんだ。サッカーがしたいって。……俺は諦めないよ。もう一度サッカーを取り戻してみせる。……絶対に!」

「一ノ瀬……ああ!俺たちも待っている!また一緒にサッカーやろうぜ!」

「円堂……ああ、またサッカーをやろう。一緒に」

 

 試合終了後、円堂と一ノ瀬が、2人で約束を交わしていた。

 

「全く……カズヤの奴、こんな大事なことを黙っていたなんて……」

「え?お前らにも黙ってたの?オレも知らなかったけど……」

「そうなんだよ!ミーたちは何も聞かされてなかったのさ!」

「これは手術が終わったらお説教だな」

「ほどほどにしてやれよー」

「そういう時のマークは厳しいからねー」

「お前な……それに、アヤト。キミとも戦えてよかったよ」

「そうだよ!まさか、ミーたちのユニコーンブーストとグランフェンリルを止めちゃうなんてアンビリーバボーだよ!」

「それにラストは俺たちのブロックを突破されたんだ。まさか、味方に奪わせるとは思わなかったけど」

「オレの方こそ、お前らの連携にはいいようにやられた。結局正面から勝てなかった……いい勝負だったよ」

「ああ!またサッカーやろうな、アヤト!」

「もちろんだ」

「約束だよ!次はユーに勝つからさ!」

 

 その裏でディランとマークと話をして別れる。

 

「なんかいいな……」

「急にどうした?」

「何かさ、この世界大会でオレは好敵手(とも)が増えた。サッカーを通じて、世界中に競い合う相手(仲間)が出来ている」

「まぁ、お前はどんどん有名になっているからな。知ってるか?イナズマジャパン含め、十六夜個人もテレビでプレーが紹介されているぞ。Aグループのダークホースだって」

「え?そうだったのか?」

「……お前がどっか行っているから知らないんだろうが」

「いやー……それを言われると弱い」

「気付けば私を追い越して、遙か先に居るんだな……」

「八神……」

「今度は私が追い越す番だからな。……だから、さっさとサッカー以外のことを片付けろ。モタモタしていると置いてくぞ」

「あはは……」

 

 これは完全に、オレが裏で色々とやってるのバレてるわ……

 

「でも、そうだよな……」

 

 どの国の選手も純粋に世界一を目指して、サッカーをしているんだ。……それを汚そうというヤツは許せねぇ。

 

「というか、十六夜。1つ聞いていいか?」

「何だ?」

「お前、途中で自分の頬叩いてなかったか?何かあったのか?」

「あー……目を覚ますため、かな?」

「???」

「まぁ、気にしなくて大丈夫だ」

 

 ……思い出せる……って思ったけど靄がかかっているだけだ。忘れるはずのないのに…………オレの元の世界での仲間でありライバル…………居たのに……確かに居たのに分からない……お前は……いや、お前らは誰なんだ?

 そんなモヤモヤを抱えながら控室に戻ると、一通のメールがきていた。差出人は……

 

「……よし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。オレはセントラルエリアにやってきていた。

 

「待たせたかしら?」

「今来たとこだ……雷門」

 

 雷門夏未……FFIが始まったときに海外留学に行った彼女が現れた。

 

「悪いな、こんな時間に」

「えぇ。でも、こんな時間くらいしか都合の良いときがないから仕方ないでしょうね。それにしてもこのメールアドレス……お父様から聞いたのね」

「まぁな」

「それで?時間も限られているから率直に聞くけど、呼び出して話とは何かしら?」

「円堂大介は生きている。そして、円堂大介はすぐ近くに居る……そうだろ?」

「…………」

「お前が円堂大介について調べるために、海外へ飛んだのは理事長から教えてもらった。これはまだ推測の域を出ないが……コトアールの監督。あの爺さんが円堂大介じゃないのか?」

「……はぁ」

 

 雷門はため息をつくと、辺りを見渡す。

 

「念のため聞くけど、あなた1人よね?」

「そうだな。誰も連れてきていない」

「分かった……それなら認めるわ。その通りよ」

「やっぱり……円堂大介は生きていたんだな。表では死亡扱いされていた……が」

「それはカモフラージュ。円堂大介を生かそうとしてくれた組織のお陰で、円堂大介は海外へ飛んだの」

 

 調べた通りの事を言ってくれたが、円堂大介が何処に居るか所在までは分からなかった。だが、雷門がコトアールのマネージャーになったという情報から、コトアールの関係者だと睨んだが……これで確証が持てた。

 

「相変わらず、あなたはよく知っているわね。……私だけで十分だったのに」

「オレも同感だ。円堂大介の生存及び行方に関しては、雷門1人で事足りるだろうな。それに……」

「それに?何かあるのかしら?」

「お前が行った後に入ったマネージャー……久遠冬花が居るんだが」

「えぇ、名前は知っているわ。確か、久遠監督の娘さんでしょう?」

「……久遠監督は実の父親ではない。冬花の実の父親は小野正隆という男だ」

「???何かしらの事情でもあったのかしら?で、その人がどうしたの?」

「簡単に言うと、影山を裏切って、円堂大介の逃亡に手を貸した1人だ」

「……っ!じゃあ、久遠冬花さんは円堂大介が生きていることを……」

「知らない」

「え?」

「まだ話していないが……久遠冬花はある事故の影響で記憶喪失になっている可能性がある。そうじゃなきゃ、円堂大介の孫である円堂守を知らないって言うのは変だと思う。その上、円堂の方は幼い時に出会ったって言ってるから尚更な」

「……そう……なのね」

「明日、久遠監督に許可取って冬花の面会を頼んである……もっとも、答えられる状態にあるかは分からないが」

「……その、久遠さん?の事故って何なのかしら?」

「交通事故だ。冬花の目の前で本当の両親が死んでいる……これ以上は分からないが、影山を裏切ったことで消された可能性も否定できない」

「…………まだ被害者はいたのね……」

 

 影山の……いや、その上のヤツに被害を受けた人の名簿を作ったらキリがないだろう。日本だけでもそれくらいの悪事を働いている。

 

「……雷門。お前の手に入れた情報を教えてくれ」

「あなたになら構いませんが、何をするつもり?」

「オレは影山の裏に居る本当の黒幕……ソイツを潰しに行く」

「っ!?……あなた、それは本気で言ってるの?」

「本気だ。ヤツは既にこの大会に関わっている……そして、オレたちに妨害をしてきた」

「この前のアルゼンチン戦ね。円堂くんたちが出られなかったのは妨害を受けていたから……」

「ああ。それに、このままだと円堂大介にも被害が行くかもしれないんだろ?さっさと手を打たないと手遅れになるかもしれないし」

「だからって……いくらあなたでも、流石に今回ばかりは相手が強大で凶悪過ぎる。危険だわ」

「そうだな。無策で突っ込めば勝機はない。それに、相手の強大さから通報して終了……なんて甘い展開は期待できない」

「えぇそうよ。そんな小物相手だったら、大介さんが何年も身を潜めることになっていないわ」

「ああ。だから、リスクを負う必要があるだろうな」

「リスク?」

「物証を押さえに行く。相手を潰すための武器を取りに行く」

「……それが出来たら誰も苦労していないのだけど……」

「安心しろ。取りに行く算段はついている」

「……前々から思うけど……あなたって何なの?」

「ただの中学生」

「嘘おっしゃい」

「…………というわけで雷門。万が一失敗したら、その時は円堂たちによろしく言っておいてくれ」

「…………はぁ。1つだけ命令します、必ず無事で帰ってくること。……いいわね?」

「……お前の命令かぁ……それは雷門中学校のサッカー部部員としては聞くしかないな。……お前も危険な綱渡りはするなよ?円堂たちが悲しむ」

「あなたが1番危険なところに居るのに……まぁいいわ。何かあったら教えて頂戴。大介さんに伝えることは出来るから」

「ありがとな」

「やれやれ……あなたは問題に首を突っ込むことが特技かしら?それで?イナズマジャパンの関係者はこのことを知っているのかしら?」

「あはは……」

 

 目を逸らす。いやー……ねぇ?察して下さいってやつだ。

 

「まぁいいわ。私も人のこと言える立場じゃないもの。……またね、十六夜くん。健闘を祈るわ」

「またな、雷門。近日中に良い報告を持って行く」

 

 そのままお互いに別れる。

 

「さて、今日は帰って休むか」

 

 明日に向け、今日は早めに眠るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 それは、ユニコーン戦の帰りの船でのこと。

 

「つぅか、円堂。最後のパスはどういうことだよ。あそこで取られていたら終わりだったぞマジで」

「どういうことって、いつも通りフリーだったお前に渡しただけなんだけど……?」

「フリーって思い切りディランとマークの2人が近くに居たっての。思い切り2人が警戒していた……フリーに見せかけていた罠だったんだよ」

「えぇ!?そうだったのか!?」

「そうだわこのアホ。だから、ボール来た瞬間に詰められたんだよ。……たく、あと少しで戦犯ものだったろうが」

「そ、そうだったのか……でも、やっぱりお前に渡して正解だった!」

「いや、それは結果論だろうが……」

「違う違う。だってお前、ボールくれって訴えかけていたぞ?」

「マジ?そんな空気出した記憶ねぇんだけど?」

「出してたって!何というか……こう、このまま終われねぇ!やり返さないと気が済まねぇ!って感じの空気を感じたというか……」

「もし、本当にそうなら無意識だな……って、まさかそれに応えたって言うのか?」

「おう!もちろんだ!」

「もちろんって……お前なぁ。だとしても、あそこでオレに渡すのは1番勝率が低い、愚策中の愚策だろうが……」

「でも勝っただろ?」

「結果はな。でも、合理的に考えればあそこは……」

「えぇーあの場面は、お前しかいないと思ったんだけどな……」

 

 と、円堂と珍しく起きている十六夜が、帰りの船の中で意見をぶつける。監督も他のメンバーも試合の反省会ということで止めることはしない。

 

「本当にあの2人は真逆だな」

「だね。感情を切り捨て、合理性で考える十六夜くんと、合理性関係なしに感情を優先するキャプテン。個人的にはどっちも間違ってはいないと思うけど、考え方が対極だから……」

「とか言いつつ十六夜も、ディラン以外は撃たれても円堂なら止められるって、根拠のない、合理性のないこと言っていたけどな」

「そうだね。まぁ、本人からすれば分析した結果導き出したものなんだろうけど……ある意味、キャプテンなら何とかしかしてくれるって感情から来ていたかもね」

「まぁ、違う視点からキャプテンと副キャプテンがチームを見られるのはいいことか」

「同じ目線じゃなくて、違う目線だからこそ生まれるものがあるってことだね」

 

 今も尚、あくまで合理性、戦術面で話す十六夜と感情や直感で話す円堂。どこまでも平行線で議論の決着がつきそうにないが……

 

「何というか、楽しそうだね」

「ああ。十六夜も円堂が合理性をそこまで考えないのは知っているし、円堂も最近の十六夜が感情をあまり考えないのも知っている。お互いが逆なのを何となく分かっているからな」

「言い争いって感じよりは、本当に簡単な反省会なんだろうね。じゃあ、僕も混ぜてもらおうかな?何というか……この試合は十六夜くんに走らされてばっかりだった気がするし」

「フッ、それなら俺も言いたいことはあるな。主にグランフェンリルの無茶ぶりについて。久々に昔の十六夜みたいな、ある種のバカなプレーがあったからな」

 

 この後、宿舎につくまで他のメンバーを巻き込んだ大反省会があったとかなかったとか。




 いやー十六夜くんが何かしでかすようですね。そして、アメリカ戦前日の夜に送ったメールの相手は雷門夏未でしたね。
 と言うかこの日は日中にユニコーン戦で、夜は密会……しかも、ライオコット島に戻ったのは昨日で……なんてハードスケジュールなんだ……


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記憶

 雷門と別れ、合宿所の自分の部屋で寝ているときに不思議な夢を見た。

 

「ここは……何処かの豪邸……?」

 

 何処かの豪邸に忍び込んでいくのはオレとA……その様子を2人の後ろから見ている。今の自分の身体はまるで幽霊になったようで、地に足がついている感じはせず、ふわふわと浮いている感じがする。

 目の前に居る2人は何かを話しているようだが……上手く聞き取ることが出来ない。そんなオレの姿に気付かずに、2人は玄関からまっすぐ進んでいき、突き当たりまで進む。そして、左側の部屋に入る……そこには……

 

「監視カメラの……映像か?」

 

 豪邸内の映像が映る部屋だった。オレたちは2人は監視している2人をそれぞれ気絶させ、何やら操作をする。管理用パスワードが必要だったもののAが打って開いた。……指の動きでパスワードは分かったが……

 

「へぇ……こんな感じで使うんだ。というか、コイツは何でパスワードを知ってるんだ?」

 

 まぁ、夢だからか。そう納得していると、2人は部屋を出る。すると別れて別々の場所に向かって進んでいく。自分がどっちについていこうかと考えていると……

 

「……っ!」

 

 視界が急に変わる。瞬きして確認するが、目に映るのは部屋の天井だった。間違っても豪邸ではない。

 

「ああ……なんというか、不思議な夢だったな……」

 

 時刻は早朝か。……まぁ、夢の内容をここまではっきり覚えているのって貴重だな。それに夢だと自覚して割と自由にできたのも。

 

「早いけど起きるか」

 

 ということで準備をして部屋を出る。食堂で水を貰おうと立ち寄ると……

 

「久遠監督。おはようございます」

 

 久遠監督が食堂の椅子に腰掛けていた。何か本を読んでいるようだが……

 

「十六夜か……早いな」

「はい。何か不思議な夢を見て、それで目が覚めて……」

「……そうか」

 

 それにしてもこの人の朝は早いな。この時間で既に起きているとは……

 

「次はイタリア戦だ。今までのどのチームよりも強敵となるだろう」

「そうですね……アイツらの強さはよく知っています」

「だが――」

「ですが、イナズマジャパンが決勝トーナメントに出場するためにはぶっちゃけ()()()()()()

「――そうだな。状況が理解出来ているようで話が早い。で?お前の意見は?」

「勝つ一択しかないですよ。負けてもいいなんて()()()()こと言ってたら世界一になんてなれやしない。だから、アイツらに勝つことしか見えてねぇですよ」

「そこまで分かってるならいい。……今、グループBのスペイン代表と交渉している。イタリア戦前に練習試合を組む予定だ」

「スペイン……確か、彼らは決勝トーナメントに出るためには、次の試合は勝つ必要があるチームですね」

「ああ。そこで十六夜。お前はその練習試合に出る余裕はあるか?」

「イタリア戦までに……って考えると、正直ないですね」

「そうか。それならベンチからも外しておこう」

「ベンチって……それって、出たいと言ってたら……」

「元々、お前を出す予定はない。ベンチに入る気があるかの確認だ」

「なるほど……どのみち出られない、と」

「出す予定がないだけだ」

 

 確かにスペインと戦える貴重な機会……だが、今のオレにとって、それより重要なことがある。……まぁ、出すつもりないと言われたし、お言葉に甘えるか。

 話が一区切りしたので水を一杯貰って、そのままランニングをしに外へ出て行こうとする。

 

「……十六夜。……冬花のこと、私は――正しかったと思うか?」

 

 と、そんなオレにさっきとは全く別の話を切り出す久遠監督。

 

「……冬花は記憶を取り戻しつつある。恐らくだが……直に全てを思い出すだろう」

「……そして、再び記憶を消すかどうかってことですか?」

「ああ」

「……正直な話、オレは正しいかなんて分かんないです。……確かに冬花にも、両親を失って凄い悲しい気持ちはあるでしょう。……でも、記憶を消すって、その悲しさと同時に楽しかった思い出も消してしまうんですよね?」

「…………」

「辛い記憶、悲しい記憶……そういう記憶だけを消すことが出来る。そんな魔法みたいなことは現代医学では出来ない」

「そうだな」

「……円堂を見ていれば分かります。あいつは冬花と楽しい思い出を持っている。……でも、冬花はそれを持っていない。ただ、それを思い出してしまえば、同時に辛いことを思い出してしまう。……なんというか、悲しい記憶を消すためにその他の大事な思い出を消すか、それとも大事な思い出を忘れない代わりに辛い記憶を抱えるか……このどちらを選ぶのが正しいかなんて正直オレには分からないです」

「……そうか」

「ただ、なんていうか……消された本人は、心に穴が空いた感じになるんじゃないですかね。でも、穴が空いていることに気付けない。色んなことがあったはずなのに抜けてしまっている。しかも、その抜け方は自然の忘却じゃなくて歪な形で……どれだけ大きい穴なのか分からない。大切な存在なはずなのに、忘れるはずがない存在なのに思い出せない。でも、思い出せないことが分からない。どれだけ重要か分からない。……もし、仮に断片的に思い出したとしても、まるで靄がかかったように全部は分からない。1つ1つが点で存在して、繋ぐことが出来ない……この記憶はなんだ……お前は一体誰なんだ……自分は何を忘れているんだ……自分は一体何者なんだ……これが本当の自分なのか……って、全部オレの想像ですけどね」

「…………今日、冬花の面会に行くんだろう?」

「そうですね」

「もし、面会中に冬花に何かあったら教えてくれ。すぐに向かう」

「はい」

 

 そう言って久遠監督は本を閉じ、何処かに行った。

 

(今の十六夜の話……想像にしては感情が籠もっていたな。()()()自分のことのような話ぶり……いや、流石にそれはない……のか?円堂たちや響木さんが、留学前後で人が変わったみたいと言っていた。…………まさか……な)

 

「記憶を残すか消すか……か」

 

 オレも前世の記憶があるから、色々とあったけど……もし、前世の記憶を完全に消していたら……今のオレはあったのだろうか?……それに……

 

「オレの前世の記憶は……完全じゃない……忘れるはずのない奴らのことを思い出せない……でも、何で……?」

 

 完全に消されていないが全てが残っているわけでもいない。今まで気にしてこなかったが、どうにもFFIが始まってから徐々に思い出している……今まで欠けていたパズルのピースが埋まってきて……でも、それはまだ全部埋まっていないことが感覚的に分かってしまっている。まだ大切なピースが欠けている……でも、いくつ欠けているか、そして、いつ埋まるのかが分からない。もし、全部が埋まったときオレは……

 

(十六夜綾人……やはり、ただの中学生とは思えない。一体、お前は何者なんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面会に行くと、ベッドで眠る少女がいた。

 

「やっぱり、話せる状態にねぇか……」

 

 近くにあった椅子に腰掛ける。……ダメ元だったが、まだダメのようだな。

 

「…………」

 

 今まで分かってることを整理する……が、さてさていつ円堂に話したものか……もちろん、話せる分をだが。

 そんな感じで10分が経っただろうか……

 

「これ以上居ても意味はないか……」

 

 そう思い立ち上がって出て行こうとすると……

 

「……お父さん……?」

「冬花、起きたのか?」

「あれ……十六夜くん……?」

「お前が倒れたって聞いてな。昨日まで行けなかったから来ていたんだが……」

「そう……なんだ……十六夜くん。お父さんと守くんを呼んでくれる……?」

「オッケー。ちょっと電話してくるから待ってろ」

「うん……」

 

 病院を出て行き一旦外に出る。そして、監督に電話を掛けた。

 

『どうした?十六夜』

「冬花が目を覚ましました。監督と円堂を呼んで欲しいとのこと」

『分かった。すぐに向かう』

 

 電話が切れる。ということで、病院に入っていくと……

 

「響木監督?」

「十六夜か……どうしたんだ?」

「冬花の見舞いですよ。監督は……」

 

 さりげない動作で後ろに何かを隠した。……病院で何かを隠したって……

 

「薬……ですか?」

「ちょっと腰を痛めてな。朝から医者にかかっていたんだ」

「…………」

 

 なんと言うか……嘘をついている。そう感じ……っ!?

 

「十六夜?どうした?」

「あっ……ぐっ……!?」

 

 なんだコレ……何か映像が見える……っ!ここは……宿舎……?皆が集まって……その部屋で響木監督が倒れている……?

 

「しっかりしろ、十六夜」

 

 映像が途切れ、目に飛び込んでくるのは病院の待合……

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 不思議と息切れがする……それに何故か目が熱い気がする……

 

「大丈夫か?」

「……ふぅ……もう大丈夫です」

「連日の疲労が出たのか?」

「かもしれないですね……戻りますわ」

 

 何だったんだ今の映像……何かが見えたんだが……

 

「今のアイツの目……何かおかしな力を感じたような……」

 

 後ろから響木監督がこちらを見ている気がするが、とりあえず冬花の病室に戻る。

 

「おかえりなさい」

「ただいま。すぐ来るってさ」

「ありがとね……」

「気にすんなよ」

 

 夢といい今のといい一体なんだ?……そろそろ本格的に動き出すのに、幻覚を見始めるとか……正直、倒れてなんか居られねぇんだが。

 少し世間話をしながら、2人の到着を待つ。

 

「ふゆっぺ!大丈夫か!?」

「円堂、ここ病院だぞ」

「って十六夜!?なんでここに!?」

「なんでって……冬花に頼まれて、監督とお前を呼んだのオレだぞ?」

「えぇっ!?……そ、そうだったの?」

「十六夜は朝から面会に行っていた」

「あーだから練習に居なかったのか……」

「それで……」

「私……思い出したの。全部、思い出したの……」

 

 そう言うと2人の表情が変わった。……円堂も冬花が記憶喪失って知っていたのか?それとも、どういうことか分かっていないって表情か?

 

「冬花……っ!先生を呼んでくる」

「やめて、お父さん」

 

 病院の先生を呼びに行こうとする監督を止める冬花。

 

「……私、もう忘れたくないの。……もちろん、悲しいこともいっぱい思い出したけど、でも守くんや素敵な仲間のことをもう忘れたくないの」

「忘れたくないって……どういうことなんだよ?」

「…………」

「監督、話したらどうですか?円堂には知る権利があると思いますよ」

「……だが……」

「守くん、私はね……記憶喪失だったの」

「ええっ!?記憶喪失!?」

「私の本当の名前は小野冬花。そうでしょう?お父さん」

「……その通りだ。私は冬花の本当の父親ではない」

 

 そこから久遠監督が冬花の父親役になった理由を話していく。……久遠監督は桜咲木中の事件の後、とある小学校にて、冬花の担任になった。……しかし、半年後に事件が起きる。冬花の両親が目の前で交通事故でなくなってしまったのだ。

 そこから冬花は塞ぎ込むようになってしまう。元々の明るかった性格は鳴りを潜め、沈んだ様子を見せた。……そして、ショックのあまり心を閉ざし、一切の食事を摂らず日に日にやつれていってしまう……このままでは生命の危機だった。そこで、紆余曲折あって、彼女の記憶をなくして、久遠監督が父親だと思わせた……それが当時の久遠監督の決断だった。

 

「ごめん!」

 

 その話を聞いて円堂から出て来た言葉は謝罪だった。

 

「俺、バカだった!ふゆっぺが苦しんでいるのに、気付かなくて……」

「ううん。私が記憶を取り戻せたのは守くんのお陰なの。昔からサッカーをする姿が変わっていなかったから……」

「ふゆっぺ……」

「そう言えば、十六夜くんは驚かないんだね……」

「あぁーなんていうか……知ってたから、だな」

「えぇっ!?お前、気付いてたのか!?」

「……オレがアメリカ戦の前に日本に帰ってたのは知ってるだろ?」

「う、うん……吹雪たちと会ってたんだよな?」

「あれは表向きの理由。裏で影山について調べ直していたんだよ……そこで知ったんだよ。冬花の本当の両親が亡くなったことを。そして、この事を」

「そ、そうだったんだ……あれ?何でそこで繋がるんだ?」

「それは……」

「……多分、私のパパが守くんのお爺さんと……そして影山って男と関わりがあったからじゃないかな?」

「えぇっ!?」

 

 驚く円堂……まぁ、そうだよな。この流れで、円堂の爺さんの登場は読めないよな。というか、病院に来てからずっと驚いてばっかりだな、コイツ。

 

「『大介さんは素晴らしい人だ。あの人ほど、サッカーを愛している人はいない……だから自分は影山を裏切って大介さんを助ける』って」

「裏切るってどういう……」

「オレから話すわ。40年前の円堂の爺さんの事件は知ってるだろ?だが、あの事件では円堂大介を匿い国外に逃亡させ、世間的……表では死んだことにした組織があったんだよ。……その組織は影山の仲間であったが、悪行を止めようとヤツを裏切った人の集まり……その組織に居たのが小野正隆という……冬花の本当の父親だ」

「バカな!そんな話は聞いていない!」

 

 ガラッ

 

「ああ、俺もだ……」

「えぇっ!?ひ、響木監督!?」

「すまんな、円堂と久遠も見えたもんでついてきたが……入るタイミングを失ってな」

 

 おっと、マジですか……いやまぁ、響木監督なら聞かれていても問題ないだろうけど……

 

「だが、それが事実なら大介さんは……」

「生きてるんだ!やっぱりじいちゃんは生きてるんだ!」

 

 喜ぶ円堂。だが……

 

「……ちょっと待ってくれ。じゃ、じゃあふゆっぺの両親を交通事故で殺したのって影山……」

「と言いたいんだが、それはまだ分からない。その辺の事実関係は鬼瓦刑事が調べてくれている」

「そ、そうなんだ……」

 

 ……まぁ、言えないよな……影山さえも操るくらいの強大な何かが動いているって。

 

「じゃあ、久遠監督。それに響木監督も。オレはこれで失礼します」

「……ああ」

「分かった」

「あれ?練習は?」

「……悪いな。しばらくパスでよろしく」

「そ、そうなんだ……」

 

 一足先に病院を出て行く。……早く手を打たないといけないんだが……

 

「さっきの映像が未だに焼き付いてるな……」

 

 よく分からない感覚を覚えながら、病院を出て行くのだった。




 すみません、鬼瓦刑事……十六夜くんに出番取られて本当にすみません。
 というか、十六夜くん……これがRTAなら余計なイベントを回収しすぎだよなータイムロスしすぎているんだよなーまぁ、今に始まったことではないですが。


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潜入作戦

 病院から戻った円堂の話だと、冬花は今日は念のため病院で過ごす。明日、医者の許可が貰えれば、退院できるそうだ。……まぁ、入院理由が記憶を取り戻しつつあった時の副作用的な感じで倒れた……みたいな感じ……だから、多分大丈夫だろう。曖昧なのは、冬花が倒れた時に日本に帰っていたため、その時のことを詳しくは知らないからだ。

 

「じゃあ、行こっか。ガルシルド邸に」

「ああ、乗り込もう」

 

 その日の夜……セントラルエリアにて落ち合ったオレとAはブラジルエリアの外れにあるガルシルド邸に向けて歩いていた。

 

「とりあえず、最終目標の確認ね。誰にもバレずにハッキングし、データをコレに移すこと」

「2本あるから、片方はお前、片方はオレ用ってことか?」

「後で分かるわ。潜入作戦だけど、至極単純。あなたの必殺技、イビルズタイムを使って、まずは監視室をおさえる」

「そこで監視カメラに細工する。その後はデータベースに侵入し、データを奪う。計画自体はシンプルだが……お前、一体何者なんだ?」

「協力者よ」

 

 ……この作戦を聞いたときに、オレはあることを聞き返した。そして、実践をしたが……まさか、イビルズタイム中に動ける人間がいるとは思わなかった。いや、正確にはオレ以外の人間が()()()()()()()動けるとは思わなかったと言うべきだろう。動くだけならアフロディが必殺技を使えば出来るわけだし……

 

「一応、潜入するときはローブのフードも被ってね。正体がバレないように」

「万が一、ガルシルドがシロならオレたちはヤバいからな……まぁ、クロって確信はしているんだが」

「それもあるし、真っ黒ならデータを奪った私たちを絶対に許さない……でしょ?」

「クロでもシロでも、どのみち身バレは避けたいってことだろ?」

「とりあえずガルシルド邸までは普通に。そこからはローブを羽織っていくよ」

「……お前、心なしか楽しんでないか?」

「そう?でも、こんなこと滅多にないから面白いと思うけど……そういうあなたも楽しんでいるでしょ?」

「楽しむというか……まぁ、いいわ」

「さぁ、行くわよ。心臓を潰すキーを手に入れに行きましょう」

「分かってるっての」

 

 もし、ガルシルドが本当にクロなら、ブラジルの選手たちが危険だ。情報によれば、ブラジルの監督はガルシルド……黒幕が監督のチームなんて、何かされていてもおかしくはないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……あのバカ。抜け出したな……」

 

 一方その頃のイナズマジャパンの宿舎。もぬけの殻となった十六夜の部屋を見て、ため息をつく八神の姿があった。

 

『まぁ、最近は忙しいみたいだしね』

「ペラーか。十六夜にかまってもらえなくて暇なのか?」

 

 そして、ペラーが看板を持って八神に伝えた。……まぁ、この世界の必殺技に関わるペンギンが主人の許可無く出歩き、剰え暇だと言うにはいささかおかしいのだが、今更である。

 

『そーなんだよ。綾人がずーっと忙しそうにしてさぁ。最近は全然話せてないんだよー』

「ほんと、お前たちは親友みたいだな」

『みたいじゃなくてそうなんだよ!ただ……』

「ただ……?」

『なんというか……綾人、最近おかしな力に目覚めたかもしれないんだ』

「おかしな……力?…………まさか、あのエイリア石に飲まれかけた時のか?」

『そうとも言えるし……そうとも言えない。オレじゃよく分かんないんだよねー』

「そうか……」

『よし!考えても分かんないし、姐御の練習に付き合うか!』

「練習に付き合うって……いいだろう。私も最近は十六夜が相手してくれなくて暇なんだ」

『まぁ、代わりにオレがやりますよーっと』

 

 そう言うとペラーは八神の頭に乗る。

 

「行くか」

 

 そして、宿舎を出てグラウンドに降り立つ……すると、

 

「誰だ?」

 

 1人の少年がボールを蹴っていた。

 

「あ、やっと来た。やっぱりシスターの言う通りだったよ」

「何の話だ?」

「オレは……そうだな、シスターに習ってL(エル)とでも名乗っておこうかな。八神玲名、君に会いに来たんだ」

「私に?」

「うん。あ、その頭に乗せてるのって、十六夜綾人の相ペンのペラーだよね?いやーシスターが勝手なことしてゴメンね」

『シスター?……もしかして、最近綾人が一緒に行動してる女子のことかな……?』

「そうそう。その人がうちのシスターなんだ」

『……っ!?』

「どうした、ペラー?」

『この人、話が通じてる……』

 

 看板で状況を伝える。そして、そのことに驚きつつ……

 

「……何者だ貴様。見るからにただ者じゃないが……」

「おぉ、面白いこというね。でも残念。オレはあくまで君とサッカーがしたいだけのただの少年さ」

「どういう事だ?」

「それ以上でもそれ以下でもない存在ってこと。さぁ、サッカーしようよ」

 

(なんだ……この今までに無い異様な雰囲気は……そして……この男……)

 

『どうしたの?姐御』

「……いいだろう。私の練習相手になってもらう」

「うん、よろしくね」

 

(……初対面のはずなのに、何故こんなに見覚えがあるんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず感覚で木を伝い、塀を飛び越え中に潜入した。……いや、ほんと身体能力高いな……何でとりあえず感覚で侵入できてるんだろ?前の世界なら絶対無理だぞ?

 

「ここからは?」

 

 近くの茂みに隠れながら状況を確認する。

 

「まず、あなたのイビルズタイムでは止まっているものを動かせない。それは生物も無機物も一緒。でしょ?」

「そうだな」

「だから、まずは侵入するために、鍵が空いてるところを見つけましょう。なければ私がなんとかするわ」

「オッケー」

 

 そう言ってオレたちはガルシルド邸の窓を全てチェックする……が、

 

「ダメだな。後は正面玄関だが……」

「監視カメラがある以上、確認するだけ無駄ね」

「で?どうするんだ」

「こうするのよ……」

 

 ピーー

 

 静かに指笛を鳴らす彼女。

 

「インビジブル・ペンギン」

「なるほどな……」

「理解が早くて助かる。よく見ておいてよ?」

「分かってる。1回で成功させる」

 

 オレは玄関を注視する……そして、

 

「イビルズタイム」

 

 指を鳴らして時を止める。

 

「透明なペンギンに呼び鈴を鳴らさせて、鍵を開けて外に出てきたところを時を止めて侵入か。考えたな」

「理解が早いね。……監視カメラに何も映っていないのに、呼び鈴が鳴れば不審がって絶対に開けると知っていたけど……行くわよ」

「ああ、さっさと終わらす」

 

 と、ガルシルド邸に入ると……

 

「……っ!」

「どうしたの?」

「何でもねぇ……」

 

 何故か、今になって今朝の夢を思い出す。……何でこのタイミングで……?

 

「監視室は……」

「この通路を真っ直ぐ行って、突き当たり左側の部屋……」

「よく知ってるわね。その通りよ」

 

 彼女が教える前に口から出た言葉に自分で驚く。あれ?オレは何で知ってるんだ……?

 そんな疑問をよそに、オレたちは監視室の扉の前……

 

「カメラの死角はここね。私が開けるから……」

「すぐにイビルズタイムで止めて状況整理……だろ?」

「行くわよ。カウント、3……2……1……」

「解除」

 

 近くに人が居ないため分かりにくいが、イビルズタイムを解除したことで時が正常に進み出す。Aが何の苦も無く、扉を人が1人分通れるだけ開けたのを見て……

 

「イビルズタイム」

 

 再び時を止める。そして2人で中に入った。

 

「監視室ね」

「監視してるのは……2人だけだな」

「あなたはコイツを、私はアイツを気絶させる。渡したモノは持ってるわね?」

「ああ……てか、何だよコレ」

「スイッチを押すと相手を気絶させる魔法の道具」

 

 そう言ってスイッチを押して見ると……ん?

 

「何も起きていない?壊れてるのか?」

「電気がバチバチ出るとか針が出て薬品を打ち込むとか思った?」

「まぁ、そんなところだが……」

「安心していいよ。しっかり、気絶させることは出来るから」

「その発言に何一つ安心できないんだが?」

「さぁ、やるわよ」

 

 魔法の道具を相手の首筋に合わせる。向こうも合わせたようで。

 

「カウント、3……2……1……解除」

 

 解除と同時にスイッチを押す……すると、座っていた男はもたれかかるように、立っていた男は普通に倒れた。

 

「うわっ、何で倒れたかさっぱり分からねぇ」

「とにかく、これで10分は起きないわ」

「へいへい。じゃあ、さっさとハッキングするぞ……というか、今更ながらこの発言もやべぇな」

「本当に今更ね」

 

 ということでAがキーボードに触れていく。

 

「管理者パスワードは……」

「こうだろ?」

「ありがと」

 

 パスワードを入力する画面で、オレはキーボードに手を触れ、自然にパスワードの入力を終えていた。

 

「……ん?」

 

 あまりにも自然な流れ過ぎて気付かなかったが……何でオレはそんなもの知ってるんだ?というか……今朝見た夢と一致している?監視室の場所も、パスワードも……

 

「何してるの?ハッキングは完了したわ」

「あ、ああ……イビルズタイム」

 

 そして、時間を止める。

 

「これで今から数分間、全てのカメラの映像は、ジャミングが入って上手く流れなくなるわ」

「ウイルスに近いものを送り込んだのか?」

「そうね、そういう認識でいいわ。それで?データ室の場所は分かった?」

「問題ない。……確かに時を止めたままだとデータ室でデータのダウンロードが出来ないか。だから、監視室(ここ)は絶対に抑えないといけない」

「じゃあ行くわよ。ここから一旦二手に別れるわ。それぞれの場所でデータを手に入れるわよ」

「……は?聞いてねぇんだけど?」

「相手もバカじゃない。大事なデータ……私たちが欲しいデータは一ヶ所で纏めてないみたいよ。だから、あなたはデータ室をお願い。私は別の場所に行く」

「分かったよ。イビルズタイムの解除と使用のタイミングは?」

「解除は今から1分後。使用のタイミングは、私がインビジブル・ペンギンを飛ばすから肩にペンギンが触れた段階で、あなたの作業が終わっていればそこで。終わっていなければ、あなたの方が終わってからね」

「落ち合う場所は、監視室(ここ)の前でいいな?」

「じゃあ、今から60秒後にスタートよ。カウントスタート」

 

 そう言ってそれぞれの場所目指して走って行く。……今更だが、何か凄いことやってねぇか?しれっと凄いことをたくさんやっているような……いや、そんなことはないだろう。うんそうだ間違いない。

 

「……59……60。解除」

 

 解除と同時に部屋の扉を開けて中に入る。そして閉めてから、近くのパソコンにUSBメモリを差し込んだ。

 

「さてさて、データはを拝借拝借……っと。ああ、なるほどなぁ……こりゃ、クロ確定だわ」

 

 とんでもねぇデータの山だなおい。一言で表すなら……

 

「ガルシルドが世界征服を企んでると分かるデータか」

 

 オイルカンパニー……ガルシルドの会社のデータに、そこでの油田状況。更に、ガルシルドが保有している兵器の数々に、その兵器による実験データ。

 

「FFIが始まってから裏で紛争とか各国の小競り合いが起きているとは聞いていたが……戦争を起こし、兵器を売りつけ莫大な利益を得る。そして、疲弊した国を乗っ取って……か」

 

 つぅか、このデータでもヤバいのにまだヤバいデータが隠されているのかよ。

 と、時間が少し経つと扉が少し開き、肩に何かが触れた。……向こうは終了したみたいだな。

 

「こっちも終わりっと」

 

 扉を開け、外に出てから閉める。

 

「イビルズタイム」

 

 そして、時を止めて移動する。そのまま予定通り、監視室前で合流した。

 

「このデータは明日の夜確認しましょう」

「オッケー」

「預けておくわ」

 

 ということで、渡されたUSBメモリをしまう。

 

「さぁ、出るわよ」

「何処から?」

「無難に使われてなさそうな部屋の窓でいいでしょ?戸締まりを忘れたとでも思うはずだもの」

 

 侵入した痕跡を全て消している……どころか、ほとんどの時間を時を止めた中で過ごしていたからバレる余地がないか。

 念の為、1階ではなく一番上の階の隅の部屋から出ることにした。そして、無事窓を開け外に出ると、Aのペンギンに乗って塀の外へ降り立った。

 

「潜入作戦完了ね。じゃ、また明日の夜、同じ場所で」

「またな」

 

 そう言ってオレたちは別れて帰路につく……後は何食わぬ顔で戻って寝るだけだな。というか……

 

「やっぱ、イビルズタイムは疲れるな……さっさと寝よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、シスター。どうだった?」

「見た通り過ぎてつまらないわ」

「そう……」

「ああでも、十六夜綾人が力に目覚めたのは朗報ね。……もっとも、まだまだ不安定で、私には遠く及ばないけど」

「え?それ、聞いてないんだけど……ま、まさか、シスターの目的って……」

「さぁ?」

「……私にはって、十六夜綾人はシスターと同じ力に目覚めたの?あのオレたちの中でも一際異質な……」

「そうね。でも、本来は逆なんだけど。私が十六夜綾人と同じ力を有してる……まぁ、そんなことはどうでもいいわ。ブラザーはどうだったの?八神玲名との接触は」

「うーん、予想通りって感じ。でもまぁ、つまらなくはないかな?面白そうってのが本音だね」

「そう。じゃ、眠いし帰るわよ」

「分かったよ」




お察しの方も居るとは思いますが、今年の投稿はこの話で最後になります。
……まさか、今年1年毎週投稿が続けられるとは思いませんでした。割と驚いています。
皆様、よいお年をお過ごしください。作者はまだ冬期講習が残っていますので頑張ってきます。


~オリキャラ簡易説明~

名前 ???(L(エル)
性別 男
所属 ???
年齢 今の十六夜と同い年
ポジション ???
備考 ペンギンと会話できる怪しい少年。Aと共に十六夜を助けた経験あり。一応、協力的だが……?

こちらも簡易過ぎて情報のほとんどが分かってないとかマジで?


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次のステージ

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。


 ガルシルド邸潜入を終え、翌朝……

 

「おはよー……八神?」

「…………」

「あのー八神さん?」

「…………」

 

 八神の機嫌が悪かった。……あれ?もしかして、抜け出したことバレた?

 

「ああ、十六夜か」

「そうだけど……どうした?なんかあったか?」

「別に。なにもない」

 

 怒ってるんですけどこの人……!?朝からマジでやらかした……?え?思い当たる節が大量にあってヤバいんだけど?どうする?今までのやらかしを誠心誠意込めて謝罪をするべきか?

 

「練習に付き合え」

「……はい?」

 

 そう言うとそのまま歩いて行く。こっちの返答を待たずにだ。

 

「……一体、何があったのやら」

 

 心当たりはあるけど。いや、ありすぎるけども。ありすぎて正解に悩むけど。……でも、よく考えれば八神はオレが裏で動いてること知ってると思うし……多分。それじゃなければなんだ?一体、何が原因だ?

 

『負けたんだよ、昨日の夜ね』

 

 と、頭の上に乗っかったペラーがそう答えた。

 

「……負けた?」

『うん。Lって名乗る男が現れてね。姐御とサッカーの勝負をしたんだ』

「それで?」

『Lが姐御を軽くあしらえる実力者でね……あっさり負けちゃったんだ』

「……っ!?」

 

 おいおい……あの八神が簡単に負けるだと?練習相手になってもらっているオレから見れば、今の彼女は贔屓目抜きでもかなりのレベルだぞ?少なくともジェネシスに居たときよりはレベルが上だし、もしFFIが少年の大会じゃなく、少女もオッケーな大会なら日本代表に選ばれていてもおかしくないレベル。下手しなくても、今のイナズマジャパンのメンバーとほぼ同格だぞ……?

 

『何度も挑んでいたけど、一度も勝てなかったんだ』

「Lって何者だ?」

『分からないけど……少なくともこの島に居る10ヶ国のいずれの代表選手でもない』

「代表選手って……」

『うん……綾人たちと同年代だよ』

 

 同年代……代表でもないのに、その実力か……

 

『それと、綾人が最近行動している相手をシスターって言ってた』

「……おいおい、心当たりは……あるとしたら、アイツくらいしか……」

 

 Aと共にオレたちを助けてくれたフードの少年……Lと名乗っていることからもあり得ない線ではないだろう。

 

「それで、八神がアレか……負けず嫌いだもんなぁ……」

『綾人も人のこと言えないけどね』

「うっ……」

『ただ……Lってヤツは綾人よりも強いと思う。……ううん。この大会に出ている誰よりも……』

「……少なくとも大会参加者じゃないんだったら、オレたちと試合する……みたいなことはねぇんだろ?立ちはだかる相手ではない。とりあえず行こうぜ、八神に怒られる」

 

 もし、Aと共に居たヤツなら、今は味方なはずだ。だから倒す……ってことは考えなくていいはずだ。……ただまぁ……

 

相棒(ペラー)の言うことは疑わねぇけど……オレでも勝てないほどの実力か」

 

 相手は同年代で、直接相対してないのに、その評価を下されていることにはムカつきを覚えるな。

 

『……それに、Lは……ううん、いっか。彼から敵対心は感じなかったしね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日中は八神の特訓に付き合ったり、個人練習をしたりして過ごして、夜になった。

 

「なるほどねぇ……こっちのデータもヤバいな」

 

 昨日盗んだ2つのデータをAと一緒に見ている……が、ガルシルドって男は予想以上に危険な男らしいことが分かった。

 

「RHプログラム……強化人体プログラムか。……複製プログラムの比じゃねぇだろこれ……」

 

 諸々の身体能力アップは当然として、精神すらプログラムの授けた人間が操れるとんでも代物。

 

「……RHプログラムで人間兵器を造り出して、そいつらを兵士にして戦争を優位に進める……とんでもねぇことをやろうとしてるな。デモーニオはこの実験台ってことかよ……」

 

 誰かのコピーを作るなんて次元じゃない。ただの人間を兵器に変える。ジェネシスのハイソルジャー計画を凶悪にさせたようなプログラム。しかも、このプログラムを完成させるまでに既にかなりの人間が犠牲になっている。そんな犠牲の山の上に作られた最悪のプログラム……か。

 

「……やっぱりつまらないわね」

「…………」

「ただの人間をいくら強化しても、人智を超える力を持つ特別な存在には勝てないというのに……」

「…………?」

 

 よく分からないがAがとても冷めた目をしていた。

 

「で、この後はどうするの?これをこの島の警察に出す……なんて愚かな真似はしないでしょ?」

 

 オレの視線に気付いたのか話を進めようとしてくる。

 

「まぁな。この島に在住する警察は恐らくガルシルドの手の者だ。全員が全員そうとは言えないが、トップが買収されていて出したとしてももみ消される可能性は十分ある。それに、大会運営者が真っ黒なら、運営委員会も真っ黒だろう」

「よく分かっているじゃない」

「その辺は考えがある……明日からしばらく出掛ける日々が続くな」

「そうね」

「それと……これだな。RHプログラムと一緒に奪ったデータ……これが事実かどうかを確認する」

「ブラジルエリアへ潜入でしょ?ザ・キングダムの選手たちが人質を取られている……それを確かめるために」

「ああ。そして事実なら、早急にガルシルドを失脚させないとマズい。……ほんと、予選リーグでザ・キングダムと一緒じゃなくてよかった。こんな事が起きているなんて知ってたら、アイツらが戦えたか分かったもんじゃねぇ」

「グループBで今のところザ・キングダムは全勝……決勝トーナメント進出はほぼほぼ決定しているものね。あなたたちも上がって、このまま戦うことになったら、イナズマジャパンは戦えなさそうだからね」

「まぁな。だから、その前に食い止める」

 

 ブラジルエリアへ潜入と、手に入れた武器を使える人たちへのお願い……間に合うといいんだが……とりあえず、明日から行動開始だな。……で、Aが居るうちに……

 

「ん」

「……サッカーボール?どうした急に?」

「次にあなたが言うことは『そういや、昨日の夜に日本エリアに来たLと名乗る少年はお前の知り合いで合ってるか?』で、『お前も強いのか?』という流れになる」

「…………」

 

 前々から感じてはいたんだが……コイツ、オレの行動、言動をどこまで見透かしているんだ?ここまで来ると恐怖でしかねぇよ。

 

「あなたは勝負を受けないと引き下がらない……そのやり取りが面倒。だから、勝負してあげる」

「へぇ……随分自信があるな」

「自信?だって、あなたが私に勝てないのは必然……決定事項なんだから」

「…………言ってくれるじゃねぇか」

「私、1対1なら無敵だから」

 

 そう言って線を引き始める……これは……

 

「フィールド?」

「一応ね」

「ルールはどうする?」

「オフェンス側とディフェンス側に分かれて1対1をやる。オフェンス側はそこに引いた線からドリブルを始めて、反対側のあの線をドリブルで超えたら勝ちになる」

 

 そう言ってAは指をさす。長方形のフィールドの端から端までドリブルしろってことか。

 

「ただし、サイドの線は超えてはダメ。その線をボールが超えるかオフェンス側の足がついたらディフェンス側の勝ちになる。もちろん、ディフェンス側がオフェンス側から奪っても、ディフェンス側の勝ちね。後、必殺技は使用可能。ただし、試合でファールになるようなプレーの禁止。……こんな感じでいい?」

「ああ」

「あなたがオフェンスで1本やって、その後ディフェンスで1本。それを3セット繰り返す。オフェンスで勝ったら1点。ディフェンスで勝っても得点は入らない。3セットやって最後に得点が多い方の勝ち」

「分かった。もしも引き分けなら?サドンデスでもやるか?」

「意味のない質問。面倒だからあなたの勝ちでいい。……そして宣言してあげる。この勝負は3-0で私の勝ち」

「…………」

 

 オレはボールを受け取りスタート位置につく。

 

「その言葉、後悔させてやるよ」

「御託はいいからやってみたら?」

 

 ボールを足裏で転がしながら状況を整理する。フィールドのサイズ感的に、サイドの間隔は広すぎず狭すぎずという感じ。基本的には相手とマッチアップして正面からぶち抜くことが想定されている。足下が砂浜だからボールが止まる可能性を考慮しないといけないが……

 

「様子見?」

「まぁな」

 

 大前提として、オレはコイツに関するデータが揃っていない。どんなプレーをするかさっぱり分からない以上、無策で挑むのは危険だ。

 

「そう」

 

 しかも、Aのヤツは構えていない。ただそこに立っていて、隙だらけに見える。それなのに、オレの中のセンサーが警戒レベルを上げろと催促している気がする。

 

「焦らしてる?時間制限でもつければ良かったかしら?」

「それは必要ねぇよ。そろそろ腹括るから」

 

 大体の感触は掴めた。この一本はとりあえず……

 

「無駄」

「……っ!?」

 

 フェイントを仕掛け、相手の出方を伺いつつ隙を見出して突破する……そう思っていた。

 

「これで私の勝ち」

 

 Aの横を突破する瞬間、彼女は足を伸ばすと横からボールに当て、ボールだけを外へと弾き飛ばす。そして、伸ばした足をオレに当てないようにオレの進行方向にあわせて一回転した。

 

「フェイントのキレは申し分ないし、タイミングも良かった。私以外には通用したと思うよ」

 

 くるっと回り伸ばした足を地面につけるとそう言う。そのまま茂みの方に飛んでいったボールを取りに歩いていった。

 

「……何だ今の……?」

 

 オレとしてはミスしたわけでも、隙を作ったわけでもないはずだ。いや、そう思っているだけか?そう思っているだけで何かミスをしたのか?……なんだこの気味の悪さ……あんなにあっさり奪われた……?あんなタイミング完璧で、ピンポイントにボールだけを弾き飛ばしてきた?タイミングが少しでもズレていれば、オレの足に当たっていただろ。避け方まで完璧で……賭け(ギャンブル)に勝った?いや、あれは賭け(ギャンブル)じゃない、決まると分かった必然でやっている気がする。だが、そんなこと……何が……一体、何がどうなっている……?

 

「準備できた?」

「……っ!ああ……」

 

 切り替えろ、次はディフェンスだ。この勝負の後に考えればいい。まずは様子見だな。

 

「……目に紫色の炎?が灯っている……のか?」

「ああ、これ?炎じゃなくてオーラだけど……まぁ、気にしないで」

 

 相対して気になるのは、彼女の目には紫色のオーラが炎のようにゆらゆらと揺らめいている。そう言えば、さっきもこんな感じで紫色のオーラが出ていたな。必殺技なのか?彼女は何か必殺技を使っている?でも、そんな目に現れる必殺技なんて今まで見たことねぇし、必殺技だとしたら一体何なんだ?

 

「中々のキレだな」

「どうも」

 

 必殺技の正体は分からないが、彼女の技術レベルはそこそこ高い。……だが、何かがおかしい。1対1なら無敵と言う割には、彼女の技術レベルはそんな高すぎるほどじゃない。フィジカルもオレよりあるとは思えないし、スピードで突破なら今こうしてフェイントを仕掛けている理由が分からない。

 見て分かるパラメータだけだと、オレは彼女に負けているとは思えない。能力値だけで見たらコイツに負けていないはずだ。……だからこそ、この気味の悪い感覚が拭いきれない。

 

「……おっと」

 

 そんな疑問と分析を進めながら突破させないように相対する。そんな中、フェイント中にボールが砂に取られて転がらなくなる。フィールドが砂だから予想はできていても、それが起きたときに即反応出来るかは別。見せた隙……仕掛けるなら今……!

 

「なっ……!?」

「ごめんね。本当だけど嘘だから」

 

 ボールと彼女の間に割り込むため、足を伸ばして身体を割り込ませようとする。対してAは冷静にポンとボールを蹴って、オレの股下を通過させ、自身もオレを躱す。

 

「クッ!まだ……!」

 

 伸ばした足を地面につけ、反動をつけて勢いよく反転。まだ線を超えていないこととドリブルのスピードからギリギリ追いつく……

 

「追いつい……は?」

「このタイミングで来るって知ってたから」

 

 オレが彼女の前に出たと同時にボールはオレの顔の前を通り、頭上を超えていく。Aはオレを躱して直進し……

 

「私の勝ち」

「…………」

 

 振り返ったときには彼女はラインを超えていた。……いや待て、どうやって分かった?アイツは振り返っていない、こっちを見なかった。それなのにオレが目の前に現れるタイミングをどうやって計った?どうやってオレの現れる位置まで把握していた?あの瞬間、どうしてオレの目の前にボールはあった?

 

「さぁ、2ターン目だね」

 

 一体、何をしたんだこのバケモノは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでいいでしょ?3-0で私の勝ち」

「……何者だよ、お前?」

「あなたの協力者で、サッカーが上手い女の子」

「…………」

「ああ、悔しがらなくていいよ。どうせ、この世界に私に1対1で勝てる人なんていないんだから」

 

 あの後もオフェンスは2回ともボールを弾かれ、ディフェンスでも止められなかった。

 

「何かの必殺技か?」

「さぁ?それならあなたの得意分野でしょ?」

「可能性があるとすればお前の目のオーラの正体……今は見えないことからアレが何か関わっている。だが、結局見破れなかったし、対策も出来なかった。オレの負けだ」

「潔いわね」

「……次は勝つ」

「面倒……勝負はこの一度きり。もう一度受けて欲しかったら、さっさと問題を解決することね」

「分かったよ。解決したら相手しろよな?」

「覚えていたらね……ただ、1つだけ不要だと思うけどアドバイスしてあげる。あなたの使える未来視は便利なモノじゃないから」

「……と言うと?」

「答えは自分で見つけて。……じゃ、私はこれで。明日の午前9時、ここで会いましょう」

 

 そのまま帰るA……なんというか……

 

「必殺技……それだけじゃ説明がつかないんだよな……」

 

 アイツが呼び出せる透明なペンギンも居なかったし、目からあのオーラを感じただけで、動きに特別なものは感じなかった。オフェンスもディフェンスも技量は確かにある。……だが、敗因が説明できない。必殺技だけでも、技量だけでもない。ただ、感じたのは……

 

「久々に感じた……この感覚は()()()()近い。未来を握られている感覚。一体何者だよ……1対1なら無敵な少女さんは」

 

 言い方は置いといて、Aがこんなヤベぇレベルのヤツなら、一緒に居るLとやらもヤバいレベルなのは頷ける。

 

「こんなヤツがまだ居るとか……この世界ヤバすぎだろ」

 

 上には上がいる……その言葉を体現しているな、マジで。……だが……アイツに今のままだと勝てるビジョンが見えなかったのは事実。

 

「もっと、強くなるしかねぇ……か」

 

 そう宣言してオレは戻るのだった。それにしても、未来視は便利なモノじゃない……か。

 

「……そういや、準備よすぎじゃねぇか?アイツ……まるで、今日この展開になると分かっていてサッカーボールを持ってきていたような……」

 

 これは偶然か、或いは必然か……まぁいい。明日も早いし、今日は帰って寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、シスターは世界最強だからね……誰も勝てるわけないってのに。でも、シスターがあわせて6本も相手するなんてね。シスターの勝利は決定していたんでしょ?」

「ただの気まぐれよ」

「もしかして……十六夜綾人ならシスターに勝てる可能性があったから?覆して、勝てる未来が存在したかもしれないから?だって、同じ力を持っているんだから……」

「……ブラザー。力ってのは持つ人次第よ。自分の力をまだコントロール……いえ、認識すらしてないなんて、力を持つだけ無駄よ」

「厳しいね……仕方のないことだとは思うけど?……それで?何度も接触して、十六夜綾人を早く覚醒させて、一体何がしたいの?」

「いずれ分かるわよ」

「いずれ……ね。出来れば教えて欲しいんだけど……」

「面倒」

「はいはい。じゃあ、これだけ答えてよ。十六夜綾人の未来視が便利なモノじゃないってどういうこと?」

「まず、アレが効果的に発揮できるのは1対1じゃなくて、もっとゴチャゴチャした戦場。こういう1対1では十分な力を発揮できない」

「そうなの?相手の取る選択を読めたら強いと思うけど……」

「そうね。でも、相手が実力者だったら読み合いになるだけ。お互いの先を読む、突破のために思考する……こんなこと感覚派以外、皆やっていることだわ。だから、ちょっと読み合いに強いだけであって、絶対に勝てるわけじゃない。相手にタネが知られていたらなおさらね」

「確かに、未来が読まれている前提で動く……なんてし始めたら終わりがないもんね」

「それに、もう1つの方が致命的。未来視が使えるのは相手のことを分析出来ているときだけ。つまり、分析できていない間は未来視を使えない」

「……なるほど。確かに初対面の相手の未来は見えない……か」

「えぇ。未来を見ると言うのは十六夜綾人の場合、相手の能力とフィールドの状況を踏まえて、相手が取る確率の高い選択肢を見ているだけ」

「だから、実際に未来を見ているわけではない。相手が手を抜いたり、隠していたりして実力を詐称されたら確実に騙される」

「だから彼の使っている未来視は便利なモノじゃないし、万能なモノでもない。まぁ、いいわ……そんなこと言わなくても気付いているだろうし」

「でも、仮にその弱点を克服する新しい何かを見つけたり身に付けたりしたところで、シスターには絶対に勝てないのにね」

「さぁ?勝てる可能性は他の人よりあるんじゃない?……負ける気はしないけど」

「何気にシスターも負けず嫌いだからね……」




 と、新年一発目からですが、しばらく投稿お休みします。
 理由としては凄く単純で、ストックが尽きたからが大きいですね。
 一昨年の夏から始めたこの週1投稿。ストック分を推敲・手直し、余裕があると新しい話を書くという形で投稿を続けていましたが、流石に追いつかれました。いやぁ……始めたときはファイアードラゴン戦終わりまでを見ていたのですが、まさかここまで行くとは……(もちろん、一昨年の夏の段階ではここまで書いていない)。去年一年間毎週投稿出来たのが恐ろしいです。
 一応、8月頭まではお休みになりそうです(理由は8月頭に資格の試験があるため)。そう言っておいて3月くらいには再開しているかもしれませんし、この話が今年最後かもしれません。つまり、未定ですね。(特に今年は修論とか就活とかやばそうで割と執筆時間厳しめ……)
 投稿はしばらく休むと思いますが、感想はそこそこの頻度で返すようにします。また、活動報告も随時募集していますので、遠慮なく質問とかアイデアとかあれば送ってください。質問は都度返したいと思います。(必殺技の案とかも全て目を通していますので、返せていないのはご容赦を……!)また、この作品関係なく話したいって人も個別でメッセージを送っていただければ返していきます。
 こんな感じですが2024年もよろしくお願いします。


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