愛とは理解することである (サモエド陸也)
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はじまり

(ネットでは)初投稿です。



分からない、解らない、理解らない---。

人は理解と許容、幾許かの妥協で行動する生き物だ。

ならば、なればこそ。

 

 

俺は人では無いのだろう

 

 

 

 

「人理継続保証機関フィニス・カルデア、ですか」

「そうよ。あなたには来週から其処へ出向いて貰います」

 

毎度の如く唐突に呼び出され、急に海外へ行けと命じる目の前の初老の女性に対して疑問を持つことは有れど、その事について言及はしない。

 

「…分かりました。しかし、来週と言われましても学校や役所などにも連絡をしないといけないのでは…」

「学校でしたらもう此方から自主退学、という形で退校させて貰う連絡をして受理して頂いたわ。

荷物といってもどうせ必要の無いモノばかりでしょ?あちらで処分して貰う様申請しておきましたからね」

 

唖然。

しかし表情に浮かべてはいけない。

息をついてもいけない。

何か不平、不満があるという事が目の前の女に知られるといけない。

勤めて平静を保ち、心を落ち鎮める。

 

「…はい、手続きまでして頂きありがとうございます。

来週という事は月曜日に出立すれば宜しいので?」

「そうよ。航空チケットや業務内容についての書類なんかはあなたの机の上に纏めておきましたから、目を通しておきなさい。

くれぐれも、アニムスフィア家に目を付けられる様な真似は厳として慎む様に」

 

アニムスフィア家というと、英国にある魔術師の総本山である時計塔の中でもロードと呼ばれる上位階級の内の一つであったと記憶している。

 

「アニムスフィア…という事はカルデアとは魔術師の機関なのですか?しかし私は魔術は…」

「向こうの言い分では魔術回路よりもある適正が有るかどうかの方が重要らしいわ。それに、向こうで行う活動の内容如何によっては命を落とす可能性も少なくは無いそうよ。

そんなところに我が家の大事な跡取りを向かわせられるもんですか、だからあなたが丁度良いのよ。予備とは言え貴重な刻印を移す前の話で助かったわ」

 

な、るほど。

久し振りに怒りとも悲しみとも、憎しみとも言える感情でどうにかなりそうになるが、今まで通りの、何時ものことだ。

落ち着け。

 

「…そうですか、分かりました」

 

 

 

「あっ」

 

階段を降りようとしたところで、背後から気配がする。振り向くと実に愉快そうな顔で此方を見ている女と目が合う。

気付かない振りをすれば良かったかもしれない。

 

「聞いたわよ、アンタこの家出てくんですってねぇ」

「…はい、来週に」

 

先程の女を若くした様な女が、面白くて仕様のない顔をしながら尋ねてくる。

 

「フフフフッ!ねえ嬉しい?やっとアタシ達から離れられるって事になって、嬉しい?でも残念。

契約期間が終われば、またこの家に戻される事になってるのよ、アンタ」

 

聞いてもいない事をまくし立てた後、勝手にこちらが絶望すると思っている女はそれが楽しくって仕方ないといった様子で揶揄ってくる。

 

「卒業したら出て行こうと色々コソコソやってたのバレて無いとでも思ってたんでしょ?

でもアンタが必死で貯めてたお金、もしかしたら今頃何処かの空き巣に盗られちゃってるかもね〜?」

 

階段を駆け下りる。

そんな、まさか。

だって、何年も気付いた素振りなんて誰も無かったじゃないか。

有り得ない、部屋だって荒らされた形跡なんて無い、何時もの質の悪い冗談だ。

だから、いつもの隠し場所に在る筈だ、引き出しの鍵を開けて二重底を見ればーーー。

 

無い。

今朝方に一度確認した筈なのに、其処には何も無かった。

突然の事に思考すらも無く崩れ落ちる。

 

「あら〜?冗談で言ったつもりだったんだけど、まさかマジで空き巣にやられたの〜?

何盗まれたか知らないけどお気の毒様〜、お・に・い・ちゃん♡

アタシの部屋の物も盗られてるかも知れないから見てこよーっと、プフッ」

 

 

 

 

どれくらいの時間、そうしていたかは覚えていない。

ただ0時を告げる時計の音で自分が数時間に渡って意識を手放していた事は朧気な頭でも理解した。

 

(腹、減った…)

 

だが自分が勝手に台所の食材を使うと後が面倒だ。夕飯の残りなんて気の利いた物すら、有る訳が無い。

空腹で眠れそうに無いため防災鞄に入っていた乾パンで凌ごう。

 

(結局、何もかも無駄だったって事か)

 

これ以上起きていると碌な考えに至らなさそうなのでさっさと寝てしまおう。

寝て忘れた振りさえすれば、大丈夫だ。

 

 

 

 

 

翌週。

 

家を出る当日。

あんなに夢見ていた行動なのに、其れが期限付きだという事と望まぬタイミングという事で、こんなにも浮かばれぬ気持ちになるとは。

物置で埃被ってたスーツケース1個で事足りてしまった荷物を引き空港へと向かう。

彼奴らに見つかると何を言われるか知れたもんじゃ無いから明け方より前に出る。

が、そんな俺の考えなんぞお見通しと言わんばかりに、玄関には見たく無かった顔その2と3が並んでいた。

 

「私の言った通りでしょ、この男の事だから誰にも気付かれ無い様に払暁より前に出ようとするって」

「フフフフ、お姉様の言う通り。コイツもそうだけど、どうしてこう男って分かりやすい行動しかしようとしないのかしら、アタシ不思議でしょうがないわ」

「あらそんな事を言ってはいけないわ。きっとこの男だけが特別分かりやすいだけなのよ、じゃないと世の男性に種以外価値が無くなってしまうわ」

 

どうしてこう、世界ってのは俺の行動に対して悉く裏目を引かせようばかりするのだろうか。

深夜や明け方程度だともしかしたら誰か起きている可能性が有ると考えたからこそこの時間帯に出ようとしたのに、そんな忸怩たる思いを極力表に出さないようにしながら感情を乗せず声を出す。

 

「…公共の交通機関を使えないので、徒歩で空港まで行こうとするとどうしてもこの様な時間帯になってしまいました。

もし私が立てた物音で目を覚ましてしまったのなら申し訳御座いませんでした、ご容赦ください」

 

咄嗟に出た言い訳に自分でもよく出来たと自画自賛したいところだ。

 

「あら、違うわよ。これから旅立つ貴方にちょっとした贈り物をしようと、ね」

 

嫌な笑い方だ。

この女の笑い方はまるで獲物を前にした蛇のそれだ。

この家の女達は揃ってこの様な嫌な笑い方をする。

そのせいで、俺は物心ついた時から蛇が心底苦手なのだ。

 

「態々アンタの為にお姉様と相談したんだから、感謝なさいよね」

「お心遣い、痛み入ります。ですが私の為に御二方にそこまでして頂かなくとも…」

 

嫌な予感がする。

この二人が相談までしてまで俺を苦しませようとするのだ、きっと碌な品では無い。

 

「大丈夫よ、贈り物と言っても実際には物品を渡すとかではないから」

「移動の荷物は少ない方が良いでしょ?」

「…そういうことでしたら、ありがたく」

 

何だ。

こいつらは一体、何をしようとしている?

 

「ええ、貴方が疑問に思っているであろう事を餞別に教えて差し上げようかと思って、ね」

「疑問、ですか」

「ねえおにいちゃん、何でアンタがカルデアに向かわなきゃいけないか、知ってるぅ?」

「それは、私に適性が有り、命の危険性も孕む為だと、当主様から…」

 

そうだとも。死ぬかも知れない任務?

だがそんな事はこの家を期限付きとはいえ出られる事に比べれば、リスクですら無い。

それに此奴らに無くて俺にその適性があるからこそスカウトされたのだ、そこに奇妙な優越感があった事も否定しない。

他の誰でも無いこの“俺”が選ばれたのだ。

アニムスフィア家は俺だからこそカルデアに招聘しているのだ。

 

「そう、次期当主である私とその補佐を務め分家を興すこの子。

そんな二人をいくら時計塔のロードからの誘いとはいえ簡単には乗る訳にはいかない」

「でも提示された見返りには断るには惜しくなるくらいの金額的支援や有名な血筋の家との縁談の斡旋も含まれていたのよ」

 

なにを、いっている?

支援?斡旋?

そんな事は書類には一文も…

 

「ああ、ごめんなさい。もう少し分かりやすく説明してあげれば良かったわね。つまりね、貴方は…

 

 

私達の身代わりとして売られたのよ」

 

 

「アンタだけが選ばれたから行く事になったと思ってたでしょ?私達二人のどちらかに最初はオファーが来てたのよ」

 

絶句。

思わず動揺が僅かながら表情として出てしまう。

その変化を蛇が見逃す筈も無かった。

 

「あら、やっぱりそう考えていたのね。良かったわ、勘違いさせたまま出国させたらあまりに哀れだもの」

「お母様の差配に感謝なさいよね、じゃなきゃアンタみたいな役立たずにロードから誘いが来るなんて、間違いでしかないんだから」

「フフフ、でも良いわ。その顔が見れた事で無様な勘違いをしていた事を許してあげましょう。

ああ気分が良い、弟の貴方の動揺が見れたなんて何時以来かしら?そうね、折角だから家令に車で送らせるわ、そこで待ってなさい」

「かしこまり、ました。感謝致します…」

 

そう、か。

そうだよな。

わかっていた事じゃないか。

だから怒る必要も、悲しむ必要だってない。

許容も、否定すらも。

ただ俺が

少し、理解出来てなかっただけなのだから。

 

 

 

 

 

 

人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理ーー人類の航海図。

これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 

だが、人の理は人に適用されるものだ。

人して扱われず、人を理解出来ないと思う者に

人理を護り、保証出来る事など。

誰が、保証してくれるのだろうか?




お時間を割いて閲覧して頂きありがとうございました
ご指摘、感想お待ちしてます


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紹介

バックボーンというか設定というか


・犬井 一(いぬい はじめ) 18歳

オリ主。日本では江戸時代後期から続く憑依系魔術の家系の長男。

当主は代々長女が継ぐ為男として生まれたら割と詰み。

長女一人だけなら分家を興すなり婿に行くなり生き様はワンチャン有ったが妹が生まれた為ガチで要らない子扱い。

刻印は移植されなかった為自前の少ない魔力と道具で生き残りを図らせる。

女性に対して極度の偏見と敵対精神を持つがそれを表に出すと生きてこれなかった為表向きは比較的紳士的態度。

まともな価値観を持つ女性が世の大勢を占める事は理解はしているが実感出来ていない。

男子校に通っていてそこで親友とはいかなくとも軽い相談事に乗ったり乗られたりする程度の友人達が居たが別れの挨拶すらも出来ず退学、なお彼等が居なかったら真面目に屋上からアイキャンフライしていたためかなりギリギリだった模様。

カルデアに関しては今の所人買いの連中の集まりだと思っている。

フォウ繋がりでマシュとは目が合えば二言三言挨拶を交わす様になる。マシュは天使、ハッキリ分かんだね。

偶にレフから妙な視線を感じる。

※本文では読み違いするかもなのでハジメと表記する。

 

 

 

 

 

 

・藤丸 立香♀(ふじまる りつか) 17歳

主人公その2

ヒロイン、の予定。

コミュ力激高の鋼メンタル。

父、母、祖母、兄と暮らしていた一般人。

ひょんな事からカルデアの一般公募枠に奇跡的に選考されてしまったガチの魔術素人。怪しいメルマガには注意しよう。

基本的に合わない人種がほぼ居ない完璧八方美人、どこだろうと自然とカーストの最上位として行動するのでまず敵が出来ない。出来たとしても周りが勝手に立香の知らない所で消す。

天然の人誑しなので好意的な感情には慣れているが主人公から感じ取れるよく分からない感情に興味を持つ。

男鯖で乙女ゲーやらせるか主人公と絡ませるかガチで悩むキャラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・マシュ

ヒロイン候補その2。

紛う事なきメインヒロイン。

しかし主人公と絡ませるか立香とゆるゆりさせるか未だに悩まさせられる子。

時系列的には立香の前よりハジメと出会ってはいる。

何故かフォウに懐かれるハジメを見て悪い人間では無いと理解している。

フォウが居ない時は大抵ハジメの所に居るので探しに行く時に軽い会話をする様になる、恐らくカルデア内ではロマニとレフの次に親しいと言える男子のハジメによく分からない感情を持つ様になっていく。

偶に泣きそうな顔をしているハジメの事を見かけてからは何とかしてあげたいと考え始める。




なおここの設定が活かされることはほぼ無い模様。


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出会うということ

(女性と付き合った事なんか)ないです。


カルデアという組織は、感じた事を簡潔にまとめるならば人種の”るつぼ“である。

国連直属でありながら、しかし独立しているという此処はアニムスフィアが世界中から選りすぐった専門的な知識を抱える多くのスタッフ達と、それぞれの部門を纏める幹部。

そしてアニムスフィア家当主であるというオルガマリー・アニムスフィアが所長を務め、自分を含めた48人のマスターがカルデアを構成している。

当然世界各国から人間が集まるのだからサラダボウルと揶揄される事もある米の国とはレベルが違う。行った事なんぞ無いが。

此処はどうやら何処かの高山地帯に建設されている為普通では隠匿されるべき魔術的な実験や行為もここではむしろ当たり前の事として認識されている。

下界に戻ったら認識を戻すのに苦労しそうだと思った事は親しい相手が居ないので未だに秘密である。

 

「フォーウ」

「ん?…あぁ、お前さんか」

 

ふと聞こえる妙な鳴き声に耳を傾けると、すっかり見慣れた美しい毛玉が足元を這っていた。

 

「フォウ、フォーウ。ファー」

「相変わらずお前さんの言う事だけは上手く聞き取れないんだよなぁ」

「フォー…」

 

初めて見た時はその非現実的な美しさを持つ毛並みのこの小さい獣をぬいぐるみと勘違いしてしまったのも懐かしい話だ。

 

「それで、今日はどうしたよ獣殿」

 

家の魔術の特性からか、俺は動物霊を憑依させる事で様々な動物との意思疎通がある程度まで可能となっている。

初めて人間の霊を憑依させた時にとんでも無い事になって以来低級の動物霊しか憑依させない事にしている。

そこに来てこいつだ。本来ならば動物と会話など出来ないのが当たり前ではあるが此処はある程度のトンデモならば何であろうが魔術で通ってしまうクレイジータイムなマッポー世界、異常である事こそが正常なのだ。

動物と話せる事が正常である俺からしてみれば、突如として湧いた新種のコイツには手を焼かされて来た。何せ対応する言語が存在しないのだから。

だがしかし、これこそが本来の形なのだ。

普通は動物とガチ会話なんざ出来るわきゃ無ぇだろ。

この異常とも呼べる空間で唯一俺が正常を感じられる物が、まさか正常な世界では異常とも言えるこの珍獣なのだから。

しかしどうやら、コイツはコチラの言っている事が何となく理解出来ている節があるのだ。

それになんかコイツ妙に人間臭い行動もする事があるから、「中に誰か入ってんじゃねーの?」と思うことも多々有るが、今の所チャックは何処にも見当たらない。

 

「フォーウ、ファッファッ」

「あー…誰かが俺を探してる、か?」

「フォッ!」

「マジか…」

 

コイツと幾度と無く行ってきた会話?のキャッチボールは実を結び、最近では俺も何となくこの毛玉の言っている事が理解出来るようになってきたのだ。

普通ならば誰にも言えないが誇らしい出来事だと思うが、此処は魔境カルデア。俺なんかレベルを遥かに上回る奴も居る。

 

「フォウさーん、どちらに居ますかー?」

「フォーウ!」

「あぁ、やはりハジメさんの所に居たんですね。お疲れ様です、ハジメさん。フォウさんが何かご迷惑を掛けておりませんでしたでしょうか?」

「お疲れ様です、キリエライトさん。大丈夫ですよ、むしろ彼には私の会話相手になって頂いてますから、迷惑だなんてそんな」

 

それが彼女、マシュ・キリエライトである。

何と彼女は長年の動物会話の経験と勘でフォウと会話擬きをする私を差し置き、完璧な意思疎通を彼と図る事が出来るのだ。

 

「フォウさんと会話、ですか?まさか私以外でその様な方がいらっしゃるとは。何となく、その、嬉しく思います」

「あぁいえ、会話と言っても貴女の様にキチンとした物ではなく何となく彼が何を言っているのかが薄っすら分かる程度のものでして」

「それでも、ですよ。因みに先程はどの様な事を仰ってましたか?」

「あー…、何だっけ?」

「ファッファッ!」

「そうだそうだった、どうも彼が言うには誰かが私の事を探しているらしいのですが、その肝心の相手が解らず仕舞いでして…」

「あ、それはきっと私です」

「キリエライトさんが?どの様なご用事で?」

 

なるほどね、こうして会話して引き留めておけば自分を探しに来るキリエライトさんと俺が鉢合わせするって寸法だったわけだ。お前さんマジで中身とか無いよね?

 

「はい、既にご連絡は行っているかと思いましたが、既読のマークが付いてないと所長が先程…、それで確かハジメさんは余り普段からデバイスを持ち歩かないと記憶しておりましたので…。所長からの業務連絡の言伝を承って来ました」

「それはまた…、申し訳ない。私の不精の所為でキリエライトさんにご迷惑をお掛けしてしまうとは…。本当に申し訳ない」

「あっ!いえ!だ、大丈夫です!私も用事は有りませんでしたし、それに本当は私から申し出たんです。ハジメさんに私から伝えてきます、と…」

「そうでしたか、ありがとうございます。

それでその業務連絡とは一体?」

 

俺はどうしても不意打ちの様にポケットで震え出すあの類の機械が苦手なのだ。普段は滅多なことでは着信なぞ来ない癖に忘れた頃に今回のような全体送信に反応して震えるのだ。好き好んであれを四六時中持ち歩くというような考えにはどうしてもならない。

 

「はい、えっと、『本日正午に最後のマスター候補生が到着する為、本日1500に顔合わせとブリーフィング、その後それぞれのグループに分かれてミーティングを行い1700より指示を受けた班から各自、レイシフトを実行する』との事です…ハジメさん?」

 

 

遂に、か。

 

 

「…了解しました。私は準備を行うのでここで。キリエライトさん、ありがとうござました」

「あっ…え、えと。こ、こちらこそありがとうござました!」

 

何でこの子は態々迷惑掛けられた相手に感謝してるんだ?

 

「…何故キリエライトさんがお礼を?」

「そっ、その…えっ…と。フ、フォウさんを見つけてくれたお礼です!」

「いえ、それは偶々で…」

「そ、それと…、今日はいつもよりハジメさんとお話し出来ましたので!……その、だから、ありがとう、ございます…」

「はぁ…?」

「あっ。いえっ、そのしっ、失礼します!」

「ファーウ!」

 

…あの子には今後余り近づかない様にしよう。ここまで親しくなるつもりなど無かったのだが、出会った頃のまるで人形の様な彼女を知っている所為かつい構いすぎてしまった。

どうしても、あの頃の彼女はあの家で過ごしていた自分と違う筈なのにダブって見えるように感じてしまうのだ。

しかし、これからはもう会話する機会も減るだろう。彼女はエリート組が集められたAグループに所属し、片や自分は素人、落ちこぼれを寄せ集めた斥候・探索組という別名『何か有った際の殿、捨て駒班』なのだから。今日到着したという人も恐らく此処に組み込まれるであろう。

既にグループ形成は済んでいるのだ、数ヶ月掛けて慣れたグループに新しい人員なんぞ人手が足りないという理由以外では是非ともお断りしたい事柄なのだ。

その点捨て組ならば最初からチームプレイやまともな成果なんぞ期待されておらず、新人一人ぐらいなら突っ込んでもええやろみたいな感じになるに違いない。

さりとてこちらとしても黙って死んでやる訳にはいかぬ。

先ずは準備だ。事を成すにはそこまでどれだけ積み上げて来たかによって決まる、特に自分の様な世界から弄ばれている系の人間には結果よりも過程を重視しなくてはならない。それでも裏目ることが大半だが。

自室に戻りさっさと準備してしまおうと踵を返すと、

 

 

 

 

 

物陰に隠れた糞ダサハット被ったモジャモジャと目が、合った。

 

 

 

 

 

 




次回

人理レ◯プ!人外タラシと化したオリ主!?
モテ系=天敵
人肉シェイクセール

の3本でお届けする予定です


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同病哀憐れむ

(一回寝たので)初投稿です。


叫び声を上げなかっただけでも褒められると思う。

想像してご覧?全身抹茶コーデにまるで散髪嫌いの天パがどこまで伸ばせるかチャレンジしているかの如き頭髪。福本漫画の登場人物の様な「それブリッジでも埋設したんスか?」と聞きたくなる鼻、常に人間味の無い薄ら笑いを浮かべてるアンパン中毒者みたいな歯をした大男が半身を覗かせながら無表情で此方をジッ、と見つめていたのだ。

やべぇよやべぇよ…。何だよあの人…偶にああやって魚みたいな目でこっちを見ている事はあったけど、今回みたいにガッツリ見てる所目が合ってバレるなんて真似してこなかったじゃないですか…落ち着け、動揺を悟られるな。きっとキリエライトさんと同じで俺に用事があったのを会話が終わるまで待っててくれたに違いない。あからさまな不審者でもこのカルデアの顧問を務め多くの職員から人望のある一廉の人物だ。

気付いた以上は此方から話しかけないと失礼かもしれん。

 

「おやライノール魔術顧問殿。何かご用事でも?」

「やぁ犬井君。いや何、用事と言うほど大した事ではないのだがね、この後レイシフトを控えたマスター達に個人的に激励を送ろうかと思ってね。残るは君だけだったので探していたのだが、先程マシュと会話しているところに出くわしてしまってね、邪魔をするのも何かと思ってこうして待っていた所なのだよ」

 

話しかけた途端いつもの胡散臭いアルカイックスマイルを浮かべながらこちらに近づいてくる。演技なのか素なのか分からんが、もう少しバレない努力をして欲しい。

 

「それはそれは、態々私の様な者にまで気を配って頂けるとは、感謝の念を禁じ得ません」

「何、そう自分を卑下するものではないよ。確かに君はあまり此処での成績が奮わないようだが、それ以外の面では実は私は君の事を高く買っているのだよ」

 

実力こそが全ての組織で実力以外の評価を下されても、その何だ。困る。

 

「君は普段から他人との接触を自分から避けている様に見えるが、見えない所で班員の為にシミュレーションルームの予約を入れていたり、自分から他人同士の諍いを見かければ率先して仲介をする。その実本人達の居ない所では決して陰口など叩かない。知っているかね?他の40数名のマスター候補達からは君の陰口や不満を私は聞いた事がない」

 

何で自分から嫌われる必要なんかあるんですか(正論)

人として当たり前だと認識していることをしているだけなのに褒められるって此処小学校だったのかな?ていうか何でこの抹茶スーツは人が目立たない様にしてた行動を知ってるの?ストーカーなの?

つーか何だって?俺の悪口を聞いた事がないだって?そりゃそうだろう。目立たない様にしてるのだから「アイツ?あー、まぁ良い人なんじゃないかな?」と思われる様に行動してるだけだ。ぶっちゃけ名前すらもちゃんと覚えられてない気がする、知らない奴の悪口なんか率先して言いふらす暇人なんか居ないだろうしその所為だろうな。

 

「いえ、そんな。シミュレーターの件は自分が使用しようとした時に所用が入ってしまい他の班員に譲っただけの事ですし、それに陰口云々に関しては、私なぞの事など上位の方が態々話題にすることも無いからでしょう」

「そう謙遜をするでは無いよ。ただ私個人が君のそれを好ましいと思うというだけさ。それに、理由はどうあれこの様な状況下でむしろそういった行動や言動が出来るというのは中々出来る事では無い。人とは得てして己の良心の呵責よりも自身の欲を優先する気来がある、それは物欲や出世欲という形で時に他者を蹴落としてでも叶えようとするのが世の大半を占める。それがこういった閉鎖的な空間で尚且つ実力に寄ってカーストの様に位階が決められる場所であるならばそれは尚更だ。だが君はそういった軽率な行動に傾くを良しとせず、更には他者の争いや諍いまで治めようとする。誇りたまえよ、だからこそ君は此処ではある意味一番『人間』らしいとも言える」

 

人間らしい、ね。

俺としては自分がそういった扱いを受けない辛さを誰よりも理解しているつもりだからそうしているだけなのだが、しかしこれがキリエライトさんやDr.ロマニからの賛辞ならば泣き出していてもおかしくは無いくらいに嬉しいが、如何せん相手がサイコストーカーでは喜ぶに喜べんわ。

 

「だからこそ…」

「?何か仰いましたか」

「ああいや、何でも無いよ」

 

会話の途中でボソッと聞こえないけど聞こえるレベルで喋るのやめてくれませんかね?会話の線が切れて気不味くなっちゃうだろうが。

 

「では励みたまえよ犬井候補生。陰ながら君を応援している人間がいるという事も有るのだと認識したまえ」

「心遣い、重ねて感謝致します。それではミーティングの準備が有るので、ここで失礼します」

「ああ、(らしく無いな、どうせこいつもこの後殺してしまうのに、何だ、この不快感は)」

 

なんか苦しそうな表情し始めたけど何だコイツ。時間も無いしさっさと部屋に戻って準備せな。万が一遅刻なんぞしようものならヒス所長からどれだけの罵詈雑言飛んでくるか、考えるだけで胃が痛んでくる。

しかし、陰ながら応援してくれる人も居る、と来たか。

もし本当に居るなら面と向かって応援して欲しいと思うのは俺のエゴなのだろうか。

 

 




思っていたよりサイコホモ書くのが楽しくて筆が滑ったので予定していた3本立てはキャンセルです。

閲覧ありがとうございます。


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出会いの結末は別れである

男が男の内面書けばそりゃホモ臭くもなりますよね?


ボディプレート、前後共良し。

レガース、良し。

バックパックの中身、良し。

武器、メインサブ共に良し。

全部よしっ!

時間は…後20分くらいか。そろそろ向かった方が良さそうだな、早すぎても駄目だしギリ過ぎても駄目だ、変に目立つのは好ましくない。

 

あの後マスター候補達が集まり所長()のありがたい訓示が下された後、班員達との取り敢えず最低限のミーティングを先程済ませた今は装備のチェックが終わった所だ。

お国柄とでも言えばいいのだろうか、こういった集合時間に関しては日本人の血が10分前到着をしなくてはいけない気分にさせる。

目当てのコフィンルームに気持ち早歩きで向かっていると見覚えのあるピンクブロンドの頭とカルデア支給の魔術礼装を着ているが見覚えの無い女子が目に入る。

 

「おやドクター。もうすぐレイシフトの時間だというのに何故居住区に?それとそちらの女性は…」

「ああ、君は、えっと、犬井君か。いや、別にサボって空き部屋でうたた寝してたらレフからの通信で起こされて慌てて管制室に向かってるとかでは無くてね、天候不順で到着が遅れたこの子に道すがら説明しながら向かってた所なんだよ」

 

医療部門のトップが堂々とサボってんじゃねーよ、アンタ居ない時に非常事態が起きたらどうすんだ。

 

「あぁ、本日到着する予定だったという最後のマスター候補生ですか。先程の所長の演説の時に居なかったのですっかり忘れてました。

始めまして、私は犬井一。このフィニス・カルデアでマスター候補をさせて貰ってる、まあ貴女の同僚と言った者です」

「こちらこそ始めまして!あたしは藤丸立香です!今日からここでお世話になります!宜しくお願いしますね、センパイ!」

 

あ、駄目だ。この子俺が苦手なタイプのパーソナルスペースがめっちゃ狭い人だ。しかも多分所謂クラスの人気者といった感じの、一人でいる人を放っとかない面倒臭いタイプの良い人だ。あと声でけぇよ、2mも離れてないのになんでそんな軍隊式みたいなデカい挨拶かましてくるの?

 

「はい、恐らくドクターから説明は受けているとは思いますが、貴女は私が班長を務める班に入る事になっているので後で細かいルールというか行動概要を説明しますね。それとドクター、医療部門トップである貴方が居ないといざという時の判断を下せない立場の人達が困ります。休むなとは口が裂けても言いませんがせめてこういった重大事項の時くらいは…」

「あー、う、うん。そ、それよりもさそろそろ遅刻しそうだから早く向かわないかい?」

「?確かにもうすぐレイシフトですが、まだ時間に余裕はあるはずですが?」

「え?だって今もう16:58だよ?君も遅刻しそうだから急いでたんじゃないの?」

 

は?16:58?そんな筈は無い。だって俺の時計はまだ16:38を表示してるんだぞ、居住区とコフィンルームのある区画は離れてるから余裕を持って部屋を出たんだ。きっとドクターの時計がズレてるに違いない。

 

「あー、あたしの時計も16:58ってなってますね。いま59分になりましたけど」

「走りましょう!!」

 

馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!あり得ない‼︎さっきまで時間は合ってた筈なんだぞっ⁉︎なんで急に20分もズレるんだ⁉︎それよりも早く向かわないと!ウチの班は斥候班だから一番最初にレイシフトするんだぞ!もし予定時刻によりによって班長がばっくれるとか悪目立ちするにも程がある!ああ、畜生!時よ止まれ、お前は美しい!ああもう間に合わない‼︎

 

 

 

 

 

振動。

 

轟音。

 

もう駄目だと絶望しかけたその瞬間。足元を掬われる程の揺れと、耳が駄目になりそうな爆発音がカルデア全体を軋ませた。

 

「うぉ…っ、ぐっ…。ふ、藤丸さん、ドクター。無事ですかっ⁉︎」

「あ、あたしは、なんとか…耳キーンってしてますけど…」

「い、一体、何が……、ッ!管制室!こちらロマニ・アーキマン!謎の爆発が発生!そっちは平気か⁉︎管制室!応答せよ!」

 

ドクターが通信機に向かって吠え立てる。が、機械は砂嵐のような音を発するだけで返事は一向に帰ってこない。

 

「…爆発音は向こうから聞こえて来ました…、ということは、もしかしたら管制室が爆発に巻き込まれたのかも知れませんね…」

「っ!君達はコフィンルームへ向かってくれ!僕はこのまま管制室へ向かい、全体の把握をした後救助者の捜索をする!」

「了解しました。気を付けて下さい。藤丸さん、立てますか?」

「は、はい!大丈夫です!早くその何とかって所に行きましょう!」

 

あれだけの揺れがあったのに誰も怪我しなかったのは奇跡だな。てっきり俺か彼女か足首でも挫いて動けなくなる展開かと思ったのだが。

 

 

「………酷い」

 

確かに、これは酷いとしか言い様が無いな。見渡す限り瓦礫の山と炎の嵐しか無い。

 

「誰かー!誰か居ませんかー⁉︎誰か無事な人ー!」

 

藤丸さんが声を上げながら生存者を探そうとしているが、この有様じゃ誰も生き残っちゃいないだろうな。おっと、瓦礫から腕がはみ出てるがこれは藤丸さんには見せられないな、埋めとこう。

 

『二人共、聞こえるかい⁉︎こちら管制室のロマニだ!聞こえたら応答してくれ!』

「ドクター、ご無事でしたか。犬井、藤丸共に無事です。今コフィンルームに着いたのですが、この有様では恐らく生存者が居るのは絶望的かと…、そちらの状況は?」

『こっちも似たようなもんさ、管制室も爆破されてそこら中もう滅茶苦茶だよ、それにどうやら主電源もダウンしているみたいなんだ。今は副電源でなんとか施設は維持出来ているけど、これが予備電源に切り替わると警戒装置が作動して各区域に隔壁が降りてしまい閉じ込められてしまうんだ。僕はこの後発電機の所に行って何とか出来ないか試してみる。二人はそこに閉じ込められない様に早く安全な場所へ避難するんだ!』

「了解しました。直ちに避難します」

 

管制室も落とされた上に主電源もだと?こりゃ事故じゃなくひょっとしたら誰かがテロった可能性が出て来たな。となるとグズグズしてられん、早く逃げないと。

 

「センパイ!来て下さい‼︎こっちに生きてる人が居ます!」

「何だと⁉︎すぐ行く‼︎」

 

この状況で生きてる奴が居たのか、避難するのに怪我人を連れて行ったら足手まといにしかならんが、見つけちまったものはしょうがない。

 

「藤丸さん!何処だ⁉︎」

「こっちです!」

 

ああ、そこに居たのか。これだけ動かれると余りに目を離さない方が良さそう…だ………

 

「センパイ!この子瓦礫に挟まれちゃってるんです!早く助けてあげないと!持ち上げるの手伝って下さい!」

 

ああ、そうだよな。

そういえばお前さんもマスター候補の一人だもんな。そりゃここにいるに決まってる。そりゃ爆発に巻き込まれるに決まってる。

何でこんな簡単な事に気付かなかった?

 

「キリエライト…さん…」

「う…あ…、ハジ、め、さん…?」

「喋らないで!今助けてあげるよ!センパイ早く‼︎」

 

駄目だ。その大きさの瓦礫じゃとても二人掛かりでは持ち上げられないし、何よりこの様子と出血量では、もう助かりようが無い。生きてるのが不思議なくらいだ。

 

「センパイ何してるんですか⁉︎早くしないとこの子死んじゃいますよ!さっさと手を貸して下さい‼︎」

「………駄目だ」

「ハァ⁉︎」

「このまま二人掛かりで救助しても共倒れになる。俺が彼女を救助するから、君は早く避難しろ」

「避難って…センパイとこの子置いてあたしだけ逃げろって言うんですか⁉︎嫌ですよ!それにセンパイ一人だけで出来るわけな…」

「大丈夫だ、俺には秘策がある。だから早く避難しろ、このままここで押し問答してたら3人共死ぬ。隔壁が降りる前に君だけでも逃げろ。これは班長としての命令だ」

「だから嫌ですって!それに何ですか秘策って⁉︎こんな時にふざけてる場合じゃ…」

「いいから早く逃げろ!じゃあハッキリ言おう、お前が居ても邪魔なだけだ!さっさと避難しろ!これだから女は強情で嫌なんだよ…!」

「なっ…このっ…、くっ、分かりました…。その代わり!絶対その子連れてセンパイも避難して下さいね!じゃないと怒りますからね‼︎」

 

……行ったか。

これで良い。これで彼女は無事に避難出来る。

後は…

 

「大丈夫か、キリエライトさん?」

「ハジメさん…どうして…?」

「さてな、自分でも良く分からん。何でお前さん置いて逃げなかったんだろうな…悪いな、秘策が有るとは言ったが、ありゃ嘘だ。本当はちゃんとした魔術の一つや二つ使えればこんな瓦礫どかしてやれるんだがな」

「いえ…もう助からないのは、自分が良く分かってます…もう胸から下の感覚が、ありませんし…」

「そうか…」

「それより、ハジメさん。どうしてここに残ったのですか…?」

「言ったろ、自分でも良く分からんってな。だが、その、なんだ。ここで唯一親しくなった人間を見捨てて一人で死なせる程、俺は“人間”ってやつが出来ちゃいないらしい」

「そう、ですか……ふふっ」

「なんだよ、可笑しいか?」

「いえ、口調が…」

「口調?あっ…」

 

しまった…慌ててた所為で素が出ちまってたか。どうもさっき藤丸と口論した辺りから出てたみたいだな。

だが、もう最後だ。これくらい別に構いやしないだろう。

 

「そうだよ、この横柄な感じが俺の本来の喋り方だ。普段から敬語で話してる所為かガラの悪い感じに聞こえるらしいから男友達以外にゃ使わなかったんだが…クソッ、動揺してボロが出るとは俺も甘いな…」

「そんな事ないです、なんだかその方が、ハジメさんらしくて良いと思います…」

「そうか…他の連中には内緒にしてくれよ?」

「はい……、あ、それなら、ハジメさん…?ひとつ、お願いがあるのですが…」

「交換条件ってことか、なんだ?」

「はい…あの…よろしければ、名前で、呼んでいただけないでしょうか…?いつも私だけ、名前で呼ばせていただいてたのに、ハジメさんはずっと、私のことをキリエライトさんとしか、お呼びになりませんでしたので…」

 

なんだ、末期の願いが名前で呼んで欲しい、か。欲があるんだか無いんだかよく分からん奴だな。

 

「それくらいで良いならいくらでもいいさ、マシュ」

「あ…、やっと、ハジメさんに名前を言ってもらえました…ふふふっ、多分私がここでハジメさんに名前で呼んでもらった初めての人なんじゃ、ないでしょうか…?」

「そうだな、他の連中は親しくなる必要が無いと思ってたからな。マシュが初めてだよ」

「嬉しいです……あの、ハジメさん。もうひとつ、お願いが、あるのですが…」

「良いぞ、なんだ?」

 

今までこの子にはここで随分と世話になった。自分でも知らない内に、俺はこの子との会話を楽しみにしていた節がある。それがあったお陰で、俺はこの組織でなんとかやっていけてたのだから。

 

「えっと、今後は…私にはその口調で、会話してもらえますか…?」

「あー、まぁ、そうだな。分かった。ただし、フォウの奴もそこに入れてやってくれないか?」

「そうですね…考えてみれば、ハジメさんは、フォウさんとだけ、ずっと…」

「…マシュ?」

「………ハジメ、さん…さいご、に、もうひとつ、だけ…おねがい…して、も…いいです、か…?」

「何でも良いぞ。何だ?瓦礫はどかせんがそれ以外なら何でも聞いてやる」

「て、を…にぎってて…もらえ…ないでしょう、か…」

「それくらいで良いなら、喜んで」

 

俺も丁度誰かと手を繋ぎたいと思ってたところなんだ。

瓦礫が崩れ始める。

 

「………ハジメさん…」

「何だ?マシュ」

 

隔壁の降りる警報が聞こえる。

 

「ありがとう、ござい、ます…」

「こっちこそ、感謝してもしきれんくらいだ」

 

一人で死ぬ人生だと思ってたが、こんな良い奴と最後を共に出来るんだ。

未練はあっても、悔いは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コフィン内マスターのバイタル 基準値に達していません。

レイシフト 定員に 達していません。

該当マスターを検索中………発見しました。

適応番号36 犬井一

適応番号48 藤丸立香 を マスターとして 再設定します。

アンサモンプログラム スタート。

霊子変換を開始します。

レイシフト開始まで3、2、1____。

全工程 完了。

ファーストオーダー 実証を 開始します。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
皆さまに今後の内容についてお知らせがあります。
今後は鯖との関係を重点的に書いていきたいので今後の特異点攻略などの内容を省略する事があります。
ifのFGOのお話を楽しみにしていただいている読者の方には申し訳ありませんがここからは只ひたすらにオリ主を甘やかし、時にシリアスで試練を与えていくつもりです。
勿論物語の内容の描写を手抜きにするつもりはございません。あくまでテンポを重視した時にカットしなければ私の貧弱な脳味噌だといずれネタが尽きてしまう恐れがあるためです。
最後まで書いていくため努力は惜しみませんが、何卒ご理解の程をご了承賜りたく存じます。
皆様の感想や評価、お気に入りの数字が私の励みになります。
どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。


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個人的ママランキング2位登場

日間ランキング1位ってどういう事ですか…(震え声)
な、何が望みなんですか?金か?貞操?
危うく心不全起こす所でした


熱い。暑いではなく熱い。

まるで火に炙られる様な感覚に思わず目を開ける。

 

「何だここ…何処だ?俺は確かあの時……ッ、マシュ⁉︎」

 

辺りを見渡すが誰も居ない。

あの時の光景と同じく瓦礫と炎しか見当たらない。いや、違う。

 

「外…なのか…?いつの間に外に、いや、今はそんな事はどうでも良い。俺が無事ならば、マシュも何処かに居るかも知れん」

 

取り敢えず探索をしながら装備の確認をする。武器防具、バックパックの中身も無事な様だ。

 

「しかし、一体此処は何処なんだ?ビルの残骸があるって事は現代のどっかなんだろうが…」

 

手近な廃ビルのエントランスで休息をいれ一息付ける。何か無いかと探してみると、破れた週刊誌を見つける。

 

「日本語、って事はここは日本なのか…?日付は…はぁ⁉︎2004年だと⁉︎」

 

奥付を確認してみるとそこには10年以上前の日付が印刷されていた。

 

「あり得ん。タイムスリップでもしたというのか?だが2004年にこれだけの災害が起きた記憶なんぞ無いぞ…?」

 

どうにか記憶の底を漁り思い出そうとするがやはり記憶に無い。いくら10年も前の記憶とはいえ日付を信じるならばもう小学校に上がった後なのだ、何らかのニュースを必ず見た筈なのだが微塵も覚えがない。

 

「どうなってやがる…取り敢えず、これだけの火災が起きているのに此処まで誰とも遭遇しなかったという事は近隣の住民はとっくに避難しているに違いない。ならば長居は無用だ、早くマシュの手掛かりを見つけんと…」

 

そこまで口にしてからふと気付く。

自分は何故さもマシュが生きてて当然といった考えでいるのだ?彼女はあの時既に致命傷を負い、助からなかった筈だというのに。あのままならば生きてはいない筈なのだ。

そこで妙な事が起こる。今まで気付いてなかったが、自分の右手に赤い紋章の様な刺青から何故かマシュの気配のようなもの感じるのだ。

 

「これは、確か令呪、だったか?しかし何故俺に?いつか聞いた説明通りならばサーヴァントと契約する為に必要なものだったと記憶しているが…これの所為か?」

 

サーヴァントと呼ばれる英霊を使役する為のある種の魔術刻印。マスターの魔術回路と繋がることでサーヴァントに対する命令権を得る契約の証、それがこの令呪だ。

 

「しかし何故こんなものからマシュの感覚が…?」

 

何だか分からんが、これの感覚を信じるならば彼女は無事なのだ。ならば早く捜しださねば。もし奇跡的に助かっていたとしても、あれ程の重傷を負っていたのだからもしかしたら今尚危険な状態かも知れない。

 

「初めて出来た親しくなりたいと思った子なんだ…早く捜さないと」

 

ビルを抜け出し、炎の勢いが強い場所を避け移動していく。もしこの災害が地震などによるものならば、避難場所として選ばれるのは学校や役所などの大きく頑丈な建物だ。人が居ればこの状況の把握も容易になるに違いない。そう考えながら暫く移動すると、人影が建物の陰から見えた気がした。

 

「人影、か?丁度良い、この辺りの人間なら緊急の避難場所を知ってるかもしれん、おーい!待ってくれ!」

 

人影が見えたビルの角を曲がった所に、“それ”は、居た。

 

「…は?」

 

“それ”は、一言で言うなら人間の骨だった。

それならばまだいい。

しかしその人骨は、あろう事か二本足で確かに立っていたのだ。

しかも本来であれば動く事の出来ないそれは、ゆっくりとこちらを向き、眼球の無いその空虚な眼窩で、こちらを確かに認識している様に感じ受けられたのだ。

予想していなかった状況に混乱していると、そいつはこちらに向かって動き出したのだ。

あまりの出来事に動けずにいると、そいつはどうやって保持しているのか、手に持ったまるで石を削って出来た刀の様なものを振りかぶってきた。

 

「ッ、クソ!」

 

そこまで来て漸くこちらも放心から抜け出す。振り切られた剣を避ける際、感じられる風圧が、この異常事態が現実であると無理やりにでも認識させられる。

 

「なんだこいつは…?なんで現代日本の街中に骸骨の化け物が出るんだよ…!」

 

ぼやきながら装備していた武器を抜く。

資材課に要請して用意して貰ったサブマシンガンを、目の前の骸骨剣士に向かって人の形を一応はしているが、躊躇なく放つ。

が。

 

「あまり効いてる様には見えないな…対人用鈍器なんぞ重過ぎて装備候補から外してるっつーのによぉ!」

 

斥候には身軽さが求められる。それ故もっと威力のあるアサルトライフルや長物なんかは装備していなかったのが今回は間違いだったと言えた。また世界からの選択肢を間違えたかのような錯覚に陥るが、決してそれは間違いではない。ただこんな相手を想定しろと言う方が間違っているのだ。

敵の頭部が無くなるまで銃弾を叩き込むと、漸く相手が崩れ落ちる。

 

「ハァ、ハァッ…死んだか…?クソッ、マガジン1本分ぶっ放してやっと倒せるとかダメージレートどうなってんだよこいつ…残りは…後6本か」

 

どうやって稼働していたのか、今はバラバラになり動く気配すら無くなった骸骨を前に息を吐く。

しかし、繰り返すが世界とは残酷な面を容赦無く浴びせ掛ける事が多々有る。自分は本来ならば戦うべきでは無かったのだ。斥候の仕事とは敵の殲滅では無い、あくまで敵の有無。地形の把握などが己の仕事であった筈なのだ。己の分を履き違えた罰だとでも言われるかの如く、炎が、揺れた。

 

「ッ!しまった!」

 

炎の向こうから新たな人影が歩み出る。その数、5。

決して油断はしていなかった。だが自分はすぐにこの場を離れていなければならなかったのだ、敵は1体だけとは限らない。あれだけの戦闘音を出せば周囲の敵が誘き寄せられるのは当然の帰結と言える。しかも場所が悪い。道路の反対側は瓦礫で封鎖され、逃げようとすれば敵の真横をすり抜ければならないのだ。そしてそのまま、敵はまるでこちらを囲むかのようにこちらに近づいてくる。

 

「囲まれた⁉︎クソがッ、こいつらまさか知恵があるってのかよ!」

 

ジリジリと距離を詰めてくる敵を見やると全員が武器を手にしていた。今倒したばかりの骸骨と同じ剣持ちが2体、槍のような先端が鋭い長物を構えた奴も2体。

厄介なのが弓を構えた奴が離れた場所からこちらを狙っているのだ。もし敵とは反対の瓦礫の方向に逃げようとすれば、よじ登っている間にアレに背中を撃ち抜かれる事は容易に想像できる。

 

「逃してくれる、わけ無ぇよな…」

 

そう言っている間にも近接武器を持つ骸骨がこちらににじり寄ってくる。手持ちの武装で倒しきれる可能性は十分あるが、無傷で切り抜けられるという訳にはいかないだろう。加えて、こいつらが先程倒した骸骨と同じ程度の強さだというならば、手持ちの弾薬がほぼ尽きてしまう事になる。

逃げられる筈も無く、かといって戦っても勝ち負けに関わらず自分は無事では済まない。明確な詰み、とも言える絶望的な状況に思考は段々と黒い泥に呑まれる様に冷めていく。

 

(どうするどうする⁉︎敵の横をすり抜けるか?いやそれだとすれ違いざまに斬りつけられるかも知れないしあの弓持ちをどうにかしないと後ろから撃たれる!瓦礫の方向に…駄目だ、とてもじゃないがあの高さを撃たれる前に登り切るのは無理だ!クソッ、クソッ、クソッ!やっと生き残ってマシュも生きてるかも知れないのに、ここで終わりだっていうのかよ⁉︎こんな何処か知らない所で独りで化け物に殺されるのが俺の最後だと?ふざけるなよ!俺があの時悔いなんか無いって考えたからわざわざ生き返らせて独りで失意の内に死なせるってか⁉︎冗談じゃねぇ、折角生き返ったのにこんな所で殺されてたまるか!俺は死なねぇぞ!)

 

「死んでたまるか!俺は生きる、誰にも俺を殺させやしねぇ‼︎俺を殺そうってんならテメェらから殺してやる」

 

皮肉と言うべきか、彼はこれまでの人生を何時でも終わっていい無意味な物であると考えていた。友と呼べる存在は居たが彼の苦悩は殆どが家に関する事であった。その為誰かに相談など出来る訳も無く、彼は生きるという事に空虚な考えしか抱かなくなっていたのだ。

体感的には一度死に、この様な異常な状況で更に命の危機に瀕する事で生への渇望を得たのだ。そこに誰かの為に生きる、といった考えが浮かばないあたり、悲しい渇望ではあるが。

 

「そこを退けぇぇぇぇッ‼︎」

 

傷を負う事を厭わずに敵に向かって突貫しようとしたその時、背後の瓦礫の上から新たな人影が飛び出る。

 

「ハジメさん!下がってください!」

 

乱入者は敵では無かった。それは、何処か騎士の様な印象を受ける防具に身を包み、大楯を構えたマシュであったのだ。

 

「マシュ⁉︎マシュなのか⁉︎どうしてここに、何だその格好⁉︎」

「はい!マシュ・キリエライトです!細かい事は後で説明します!今は敵の殲滅を最優先とします!」

「あ、ああ!わかった!援護する!先ずはあの弓の骸骨から片付けろ!前衛は俺が抑える!」

「はい!マシュ・キリエライト、突貫します!やあぁぁぁっ!」

 

身の丈を越える盾を構えながらも、それを意に介さず素早く敵に接近した彼女は、自分が先程あれだけ苦労した敵をその盾の一振りで粉砕する。

一瞬唖然とするが、マシュの方が脅威だとでも感じたのだろうか、彼女に向かって走り出した骸骨達を見て意識を戻し、銃弾を放つ。

倒せずとも銃弾を受ければ奴らは多少動きを止める。彼女を奴らに攻撃させない事が自分の今やるべき事だ。

まるで長年付き添った兵士の様に動く二人に、多少動けるとはいえ一撃で砕ける骸骨達が抵抗出来る事も無く、殲滅は完了した。

 

「ハジメさん!ご無事ですか⁉︎」

「ああ、奴らにやられる前にマシュが来てくれたから何とも無い。それよりマシュは大丈夫なのか?あの時確かに瓦礫に潰されてたのに何故どこも怪我してないんだ?その格好はどうしたんだ?」

「えっと、実はあの時にですね…」

「おーい、マシュー!待ってよー!置いてかないでー!」

「マシュ!貴女私達を放って急に走り出して何だと言うの⁉︎こんな素人と二人きりでもし私の身に何かあったらどうするつもりなの⁉︎」

「藤丸さん⁉︎それに所長まで!ご無事でしたか!」

「貴方、確か犬井候補生だったかしら?無事なもんですか!足元が急に爆発したと思ったら急にこんな所に放り出されて、カルデアとは未だに連絡が取れないし、この女はこの状況で能天気な事しか口にしないし、もう散々だわ‼︎」

「ちょっ、所長⁉︎能天気ってひどくないですか⁉︎あたしはただ場を和ませようとしただけで…あー!それよりもセンパイ!あたし言いましたよね⁉︎二人共無事に帰って来なきゃ怒るって!あの後あたし瓦礫に足取られて転んで頭ぶつけて気絶してもう大変だったんですからね⁉︎見てくださいよこのたんこぶ!」

「わ、悪かった。そんな事になっていたんですか、それよりもそんな畳み掛けられたら混乱してしまいます。一体何があったか順序立てて一人ずつ説明して貰えないでしょうか?」

 

それから四人の持つ情報を繋ぎ合わせあの時カルデアで何が起き、今のこの状況になったかを推理した。

あの時の爆発は管制室とコフィンルームで起きた事。

藤丸は避難しようとしたところ瓦礫に頭をぶつけ気絶してしまいコフィンルームに閉じ込められたので巻き込まれてしまった事。

アンサモンプログラムによって自分達は恐らく今回調査しようとしてた特異点にレイシフトしてしまった事。

マシュは実はデミ・サーヴァントという英霊の魂を宿した存在で、今まではその英霊の力は発揮出来ないていたのだが、あの時死に瀕した際に宿る英霊から力を譲り受けた為無事であった事。

マシュが令呪の魔力を辿り藤丸と合流した後、敵に襲われていた所長を発見し三人で行動していた所に何故かもう一つの令呪の流れをマシュが感じ取り、恐らく味方なのではないか、もし味方ならば探して合流するべきなのではないか、魔力を辿ろうという事を話し合っていると強大な魔力を持つ敵からの狙撃を受けた事。

狙撃手に対して攻めあぐねていると何者かが狙撃手に向かって魔術を放ちこちらを援護してくれた事。

もしかしたら令呪を持つ者が味方してくれたのではないかという結論を出し、探索しているとマシュが急に走り出して自分を見つけて今の状況に至る。

今後はどうするべきかと所長に判断を仰ぐとカルデアとの通信を復旧させる為、レイラインと呼ばれるこの地の霊脈に陣を敷くべきとの指示を受ける。

霊脈探索の際に敵性サーヴァントから奇襲を受けた所、先程の狙撃手を撃退したサーヴァントであるサーヴァント・キャスターが味方をしてくれこれを撃破。所長が軽く漏らしかける。

キャスターが言うにはこの地の異常の原因は汚染された聖杯に依る聖杯戦争が発端であるとの事。

汚染された聖杯持つアーサー王が自分以外のサーヴァントを降し、味方に付けた事。所長が発狂しかける。

もしこの特異点が汚染された聖杯に端を発するものだとすればセイバーであるアーサー王を倒せばこの特異点は攻略でき、自分達はカルデアに帰れるかも知れないとの事。

 

そして現在霊脈が有ると言う協会の跡地にてマシュの盾を媒介にしてカルデアとの通信を試みている状況である。

 

『やっと繋がったか!こちらロマニ・アーキマン!聞こえますか⁉︎』

「ええ、聞こえているわ。こちらオルガマリー・アニムスフィア。それとマスター候補2名。現在特異点と思しき場所から通信しているわ

。カルデアの状況はどうなっているの?」

 

カルデアとの通信に出てきたのはドクターだった。彼が言うには現在カルデアは大混乱に陥っており、無事な人員で最上位の権限を持つ人間がドクターしか居ないという報告を受け所長が倒れかけるが、まだ死んでない人間が居ると報告を受けると何とか持ち堪え、治療よりも冷凍保存による延命措置を指示するとそこで座り込んでしまう。ボソボソとライノール顧問の名前を呟き始めたのでそっとしておく。

その後キャスターから戦力を増強した方が良いと提案を受け、この陣の上ならば新しく英霊を召喚出来るというドクターからの説明される。

現在のカルデアからの魔力供給によるリソースでは自分と藤丸が1回ずつしか召喚出来ないとの忠告を受け先ずは自分から召喚を試みる。

 

(なるべく話が通じる奴が来てくれると良いんだが…頼むぞ)

 

説明された術式の為の詠唱を行い、荒れ狂う魔力による光の奔流に思わず顔を庇う。

やがて光が収まり、そこに立っていた人物がこちらを見定め、発声する。

 

「サーヴァント・アサシン。マタ・ハリが通り名よ。宜しくね、マスター」

 

 

 




やっとママが出せました…
戦闘描写書くのすごく辛い…


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見慣れない未知

大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
拙作を楽しみにしていただいていた皆様に対しては申し開き様も御座いません。
しかし、もしもまだ読んでやるよ思っていただけるのであれば幸いです。
最後まで書き続けていくつもりですので宜しければどうかお付き合い下さい。


(アサシン。それもよりにもよって女の、か)

 

出来得るならば近接戦闘を熟せるサーヴァントが呼べれば良かったのだが、遺物も土地にも頼れない縁召喚ともなれば贅沢は言えない。

むしろ呼びかけに応えてくれただけでも御の字なのである、とは言え人間の欲というのは果てが無い。

クジ引きで当たりを引けたと言われてもそれが最低限の己が欲しかった物とは別の物を渡されても満足出来ないのが性である。

満足とは言えないが十分ではある、やらなければならないのだ。

やらねば、成らぬのだ。

 

「召喚に応じてくれて感謝する、私がマスターの犬井だ。いきなり不躾な質問をして申し訳ないが、貴女は何を得意とするサーヴァントなのか教えて欲しい」

 

不満は無いとは言えないがこの状況ではそんな事を気にする余裕は無い、有る手札で乗り切らねば生き残れないのだ。

 

「えぇっと、折角のお呼び出しを受けたけれど、ごめんなさいね。私、サーヴァントとはいえ戦闘は正直最低限も良いとこなの。強いて言えば諜報が得意な事くらいかしら」

 

目眩がする。

戦闘要員が欲しくて召喚したのに己の呼び出しに対応してくれたのがただの諜報員ときた。

どれだけ自分は世界に嫌われているのだろう、こっちだってお前の事なんか大っ嫌いだ。

 

『マタ・ハリ…19世紀ごろのフランスでスパイとして活躍したとされる女性だね、世界で最も有名な女スパイとも言われる人物だ。確かにアサシンとしての適正は有るかも知れないけれど…えっ』

「えっ、世界で一番有名な女スパイって不二子ちゃんでしょ?」

「あの、センパイ?実在した人物で、というお話だと思うのですが…」

 

何とか平静を保とうと必死こいてるとドクターから彼女についての説明が飛んでくる、が。

 

「あの、ドクター?『えっ』て何ですか?これ以上何か有るんですか?」

 

正直これ以上何があろうとももう平気だが。

 

『えぇ…?うん、えっとね?サーヴァントにはクラス毎にクラススキルっていうそれぞれの特色に合ったスキルを有しているんだけどね?彼女はアサシンだから「気配遮断」っていう隠密行動に長けたスキルを持っているんだけど…持ってると思うんだけど…』

 

まって

ちょっとまって

 

「…アサシン、ひとつ聞きたいのだが、今話に上がった気配遮断。…ひょっとして、持っていない、とか?」

「無いわよ?そもそも私、隠れながらこそこそやるってタイプでは無かったし。あ、こそこそヤったりはお仕事でした事はあるけどね?」

 

えーと、つまり、だ。

三流魔術師の斥候モドキと戦闘出来ない&隠れられないアサシン。

戦闘向きじゃないクソ雑魚メンタルの一流()魔術師の所長に本人曰く本職では無いというキャスター。

魔術って魔法とどう違うの?とか抜かす素人JKに盾しか持ってないマシュ。

このパーティで世界的知名度によるブースト&聖杯からのバックアップによりほぼ無限の魔力補給を持つセイバー、アーサー王を倒せと。

 

アッハッハッハッハ

 

「マスター⁉︎」

「うわー⁉︎先輩が血ぃ吐いてぶっ倒れたー⁉︎」

「は、ハジメさーん!お気持ちお察ししますが気を確かにー!」

「ちょっとロマニ!ドクターなら何とかなさいよ⁉︎」

『画面の向こうからどうにかしろとかとんでもない要求するね⁉︎そんな技術あったらマギ☆マリとどうにかしてるよ僕!』

「おい漫才やってねーで早くそいつ何とかしてやれよ!顔色ドブみてーになってんぞ⁉︎」

 

あーもう滅茶苦茶だよ。

 




正直間が空きすぎたので主人公のキャラがブレてて違和感が有るかもしれません、が。
それもこれもコヤンスカヤとかいうエロ狐の仕業です。
感想・批評お待ちしてます。


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閑話:ギル祭におけるif

本編をお待ち頂いてる皆様に対しては申し開き様も御座いません…
だけどあの流れで「ウチの主人公ならこれキレるな…」って思いついたらどうにも止まらなくなりまして…面目次第もありません。

また、このお話はあくまでも作者の脳内妄想による補完で無理矢理オチを付けられたイベント後という設定になっております。
読んでいて不愉快に感じる方に関しては申し訳ありません。

ですがそれでも寛大なお気持ちで「まぁ暇潰しに流し見してやるよ」と思って頂けるなら幸いです。

再度申し上げますがこのお話は本編時空での「if」のお話です。
此処で書いた出来事が必ずしも本編で書かれるとは限りません。


それでも構わないという方はどうぞ宜しくお願い致します。


あぁ、お疲れ様。もうシフト交代の時間か、私もそろそろ一息入れるとするかな。

うん?ああ先日の大停電の理由かい?そういえばあの時は管制室以外だと何が起きているか分からなかったね。

んー、まぁ話しても良いけど…あまりみだりに吹聴しないでおくれよ?

 

簡潔に言ってしまうと「犬井くんがブチ切れたから」なんだよね。

え?…そうか、君は第三特異点攻略後に復帰したんだったね、ならば普段の彼しか知らないのも無理はない。

今の彼からは想像も付かないだろうが、当初はサーヴァント達の事をクラス名でしか呼ばなかったんだよ?勿論複数該当した場合には真名で呼ぶ事もあったが、それでも徹底して距離を置いていたんだ。

特に女性サーヴァント相手だとその傾向が顕著でね、あのマシュでさえもあの頃は少し距離を置かれていたんだ。

そんな風に普段から徹底している彼だが3回だけ、本気で怒りを露わにした事がある。

 

そう、特異点Fを除く各特異点でそれぞれ1度ずつだ。

その時の詳細は彼の為に伏せておくが、まぁ、そうだね。察しの通りフランスで清姫に、ローマで女神ステンノ。最後は本人も抑えてたつもりらしいが、オケアノスで女神エウリュアレにキレた。

…恐らくだが彼女達は彼の触れてはいけない部分を逆撫でしたんだろうね、そりゃもう凄い剣幕だったさ。

だけどそれ以来彼が彼女達に対して怒りを表す事は…あぁ、いや、いつだか清姫が彼の部屋に忍び込んだ時に彼が清姫に何かを言ったらしいが、それ以降清姫が部屋に忍び込まなくなった事を鑑みるに、そういう事なんだろうね。

 

…話が逸れたね。つまり彼は滅多な事では怒らないが、今回はその「滅多なこと」が起きてしまったのさ。

 

今回起きたニューヨークでスペースイシュタルを名乗る存在による特異点ジャック。それだけならまだ特異点攻略に於ける只の障害物にしか過ぎなかったが、彼女はあろうことか「マスターの身柄を要求」し「多数のサーヴァントを宝石化し人質」にした挙句、彼も密かに楽しみにしていた「お祭りを台無し」にした。

まぁ、控え目に言ってもギルティだよね。その時のオペレーターを務めてた皆も

「オイ オイ オイ」

「死ぬわ、イシュタル神」

ってなってたよ。

 

英雄王と共に一時退却して来た時はまだ普通に見えたのだけれどもね、この時疑問に思わなかったあの時の私の頭を引っ叩いてやりたくなるよ。

だっておかしいと思わないかい?女神にここまでされたら今までの彼なら激昂してる筈なんだぜ?なんで落ち着いていられるのかってね。

だけど彼は落ち着いている訳じゃあ無かったんだ。

その時のバイタルを後で確認したら、彼の脈拍と血圧が異常値を示していたんだ。

人間ってね、抱えきれない感情を抱くと一周回ってひどく落ち着いて見えるのさ。

この時側で英雄王が怒りを表してくれなかったら彼、どうなってたんだろうね…ある意味では彼の代わりにあそこで怒ってくれた可能性もあるかもだけど、今となっては誰にも確かめようがないことさ。

 

その後の彼の動きをこちらで把握出来なかったのは今でも慚愧の念に駆られるよ。

彼はまずイシュタルの宝石化を免れたサーヴァント数人に声を掛けた、簡潔に「手伝って欲しい」と言われたそうだよ。

内訳はそれぞれ凸カレを持たされた孔明とアステリオス、凸金鯉をスカディに持たせて、最後にランサーのスカサハに凸黒聖杯を預けて吶喊したのさ。自分は戦闘服に着替えてね。

 

うん、あれは確実に仕留めるつもりで選んだんだろうね。もし先の面子の内誰か一人でもイシュタルに宝石化されていたらまた結果は違ったのだろうけども、そうはならなかった。

その後に出撃ゲートへ向かう彼を運悪く見つけてしまったのが、ちびっこ達を連れた立香ちゃんさ。

時間的にも夕食を取ろうとしたんだろうね、見かけた彼も誘おうと声を掛けようとしたんだが、どうにも様子がおかしい。

段々と彼の顔が確認出来る距離まで近づいた時点で子供達は大号泣だったらしい。

子供達をあやすのに手一杯だったのもあって声を掛けられる頃にはもう出撃してしまった後だったとさ。

何で子供達が急に泣き出したのかって?普段は自分達に優しい彼がとても怖かったから、らしいよ。

後で立香ちゃんにどんな様子だったのか聞いたんだよ。

 

「私もセンパイと知り合ってからそこそこ経ちますけど、あんな風になったセンパイは初めて見ましたね…

怒りとか憎しみ、悲しいってのを通り越して…何て言うか…ちょっと上手い言い方が見つからないんですけど…敢えて言うなら[血でパンパンになった破裂寸前のマスクメロン]、ですかね。

うん、自分で言っても何ですけどこれが一番しっくり来る感じですね、すいませんちょっとエチケット袋取って下さ(自粛音)」

 

まあ是非も無いよね、そりゃ血圧の上が200超える訳だよ。

それでその後最初にそれに気付いたのは管制室に居たロマニだった。

英雄王が待ち構えていた屋上、イシュタルの船の真下だね。そこに犬井くんとサーヴァントの反応に気付いたロマニは直ぐに彼に通信を繋いで聞いた、「何をしているんだい犬井君⁉︎」ってね。

その問いに答えず彼はロマニに言ったんだ。

「必要最低限を残し、カルデアの全リソースを魔力に変えて寄越せ」

 

まあ無茶な話だよね、急にそんな事言われても時間も無いしやる必要も無い。普段の彼ならそんな無茶は止める側なのにさ、だからロマニも何とか説得して一旦戻って来るように言ったんだけど一言

「やれ」

って言われたらしくてね、本人曰く「鞭打食らった範馬勇次郎みたいな顔されたら断れないよ…」だってさ。あのチキンめ。

 

あとは君も当時聞こえたかも知れないけれどもロマニが緊急警報を発令してね。「3分後に一部を除く全施設の電源を一時的に落とすから全員その場で安全確保の後動かない様に」、ってね。

事前に知らせたお陰でデータの破損や怪我人なんかは出なかったのが幸いだったよ、被害らしい被害と言えばヘッドホン付けて集中してた刑部姫の原稿データが吹っ飛んだくらいだね。

 

ん?「そんな大規模な魔力を彼はどうやって運用したのか?」

まあ、そうだね。確かに彼の魔術回路はお世辞にも多いとは言えない。そんな大量の魔力を一度に流そうとすれば一瞬で自爆さ。

じゃあどうしたかって?ほら、例の新宿で見つかった「アレ」だよ。

どうも致死量ギリギリまでぶち込んだ様でね、そのお陰と言って良いのかは別としてそれで無理矢理運用したみたいだね。

更にそれでも足りないと思ったのか、彼は令呪まで3画全部使ったんだ。

私も工房から慌てて管制室に向かって着いたのがこの時でね、諸々限界まで注ぎ込んだスカサハの宝具がイシュタルの宇宙船?を貫くシーンをギリギリ見れたのさ。

ほら、こないだレクリエーションルームで観てたあの映画。「イ○ディペンデ○ス・○イ」、あれのラストの数十倍はスカっとしたね。思わず勝鬨挙げたらロマニに睨まれたけど。

 

 

 

 

 

ここでめでたしめでたし、ってなってたら良かったんだけどね。

当然そんな無茶をした犬井くんは一時を争う状況になってた。

「アレ」の効能は確かに凄まじい。普通の人間に打っても並の魔術師くらいにはなれるんだから、じゃあ魔術師に打ったらどうなるかなんて子供にだって分かるさ。そんな劇物を彼は己に打ち込んだのさ、後先なんて考えずにね。

速攻で婦長と天の杯の宝具マシマシで処置したお陰で何とか一命は取り留めたが未だに衰弱して意識不明の重体、と言ってもちゃんと回復はしてるから後2、3日もすれば目を覚ますだろう。

 

え、その後スペースイシュタルと宝石にされたサーヴァント達はどうなったのかって?

宝石にされてた皆はなんと無傷!

どうもあの謎光線って宝石型の固有結界擬きに閉じ込める代物の様でね、そのせいかスカサハの宝具を食らっても平気だったようだよ。

で、当のスペースイシュタルは何とか消滅は免れたみたいだけれども随分ズタボロになっててね?

ミンチより酷い状態のまま謎のXXに引き摺られて連行されたよ。

 

さて、そろそろ休憩の時間も終わりだ。君も持ち場に戻りたまえ。

ところで何でこんな事今更気になったんだい?

 

ふむふむ、「ここ何日かイシュタル神が廊下でウルクコンビに正座させられてたから気になった」と。

まぁ、あれだ。

 

残当、って奴かもね。

 

 

 




此処までお付き合い頂きありがとうございました。
遅筆ではありますが本編の方も進めていく所存ですのでどうか宜しくお願いいたします。

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