萌え声クソザコ装者の話 (青川トーン)
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加賀美詩織(かがみ しおり)

 

年齢15

 

身長155cm

 

6/21日生まれ

 

体重(結構頻繁に変わる)

 

 第4号シンフォギア「イカロス」の装者でリディアンに通う生徒。

 

二課にスカウトされ、「データ取り」の仕事をする。

 

 風鳴翼のファンであり、彼女との距離が近くなると緊張して弱気になる。

 

 また動画配信者「おりん」でもあり、彼女の配信は一部に謎の人気がある。

 

 特技は「萌え声」と家事全般。

 

 

 

 

 

 両親からネグレクトを受けており、自己評価がかなり低い。

 

 他人からの評価を恐れている一面もあり、メンタルはお世辞にも強いとはいえない。

 

 立花響の善意満点な存在を「眩しい」と思うのも、これまで生きていく中で他人を利用してきた。という後ろめたさの様なモノを感じるからである。

 

 

 

 

 

 翼を崇拝するのは彼女の歌を「この世で初めて一番綺麗なもの」だと思ったから。

 

 

 

 また、自分を日陰者と呼ぶのは小学生の頃の教師の心無い一言からである。

 

 現在は逆に自虐やネタとして使う程度には受け入れている。

 

 

 

◆イカロス基本形態

 

 

 

 

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 蝋で羽根を固めた、人工の翼。

 

 神ではなく人の手で作られた聖遺物の為、元々の出力は大した事がないが、空を飛べるという特性を持つ。

 

 加賀美詩織がギアとして纏った際の絶唱特性は「開放」

 

 

 

 武装は可変飛行武装「フェザークローク」および「機銃」「レーザーキャノン」

 

 

 

 元となった聖遺物の「イカロスの翼」としては、元々人間にはない「翼」という器官を自由に扱う為に「蝋」で擬似神経を作り出し脳と接続するのだが、これが脳へと過剰な負荷をかけ、異常な「万能感」「高揚感」「傲慢さ」などとして発現する。

 

 そして伝説の元となったイカロスが墜落した原因ともなった。

 

 

 

 櫻井了子ですら知らない事であったが、詩織の適合率が今より低ければこの「蝋」による侵食が始まる筈であった。

 

 

 

■イカロス侵食形態

 

 

 

 フィーネとの戦闘で「死亡」した加賀美詩織、彼女を蘇生したのはイカロスの翼の原料として使われていた

 

 「フェニックスの羽根」であり、最も近くにあったイカロスの「蝋」を素材とした。

 

 

 

 結果、加賀美詩織は融合症例として復活するに至るが、全身を蝕む「蝋」による不安、全世界にその姿を晒された際の恐怖、そしてイカロスの蝋そのものによる脳へ負荷などで加賀美詩織の心をも蝕んだ。

 

 

 

 融合症例としての症状としては「非人間」への変化、立花響のモノとは違い「死」には至らないが、あらゆる人間性を失っていく筈だった。

 

 

 

 しかし「人格」を失う前に「神獣鏡」によって詩織が「二度目の死」を迎えた事でそれは防がれた。

 

 

 

■フェニックスの羽根

 

 

 

 

 

 異端技術によって作られたモノではなく、伝説上の生物の一部である。

 

 その力は「再生」であり、歴史上に存在した「不死者」の逸話の元ともなったかもしれない。

 

 しかしあくまで「力の欠片」でしかない為「完全な不死」には至らない。

 

 

 

 イカロスの羽根の欠片としてシンフォギアシステムに混入し、「3度」に渡り詩織を蘇生、再生させた。

 

 3度目の再生において、詩織の一部と見なされていた「シンフォギア」が消失していた為、シンフォギアそのものとなって再生した。

 

 

 

 しかし、その再生で得た力には「対価」が必要で、ギアとして纏う度に今度こそ「詩織という存在」を燃やしていく。

 

 

 

・フェニックスギア

 

 

 

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シンフォギア・イカロスと同様に空戦能力を持ったシンフォギア

 

アームドギアは「炎」

 

装着時には左目が赤く変色する。

 

他のシンフォギア同様に歌う事でフォニックゲインを発生させる事が出来るし、通常のギアよりは性能は高いが詩織の心臓と一体化している為に改修が不可能な為

 

緊急時以外の使用は控える様に言われていた。

 

 

 

またシンフォギアそのものであるが、エクスドライブ状態になる事がない

 

//

 

平行世界のフィーネにより改修され、バリアコーティングの強化と最適化が行われた。

また外付けの強化を行えるようにペンダント型ストレージも与えられた。

 

 

・ユナイト

肉体をアームドギアである炎に変換する事で他の装者のギアと「合体」する。

装者同士の「ユニゾン」に近い状態を引き起こし、ギアの性能を上昇させる事が可能。

 

 

 

 

 

 

 

■イカロス・ブレイズ

 

 

 

 エルフナインによりイカロスの「蝋」の侵食を防ぐ為の処置と再生を施されたイカロス、装甲は赤くなっており、「焼却」によって増殖する「蝋」を燃やす事で出力も上昇しているが、5分以上使用すると焼却が蝋の増殖より早く行われて中の蝋が失われてしまう。

 

 故に「カートリッジ・システム」によって中の蝋を交換して「全焼」を防がねばならない。

 

 現在の所交換の際に発生する「隙」は1秒程度、その間ダメージを受けない様に立ち回らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

8/28 ボンバさんから素敵なファンアートを頂きました。原作風絵のおりんです。ディティールがいい!

 

 

 

 

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8/29 海鷹さんから素敵なファンアートを頂きました。アニメ設定画風のおりんです。今にも動き出しそう!

 

 

 

 

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9/2 222+KKKさんから素敵なファンアートを頂きました。ジャケット風でかっこいい!

 

 

 

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9/6 海鷹さんから再び素敵なファンアートを頂きました。

 

 

 

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1/9 ボンバさんから素敵なファンアートを頂きました。フェニックスギアの詩織!凛々しく儚さが出てて感情がデカくなる

 

 

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蝋翼のイカロス 萌え声生主「おりん」

「大丈夫?」

 

「大、大、大、大丈夫です」

 

 大丈夫、私の心臓はそろそろ爆発する、死ぬ。

 

 中学時代、人気(比較的)萌え声生主「おりん」としてゲーム実況をメインに生きてきた私「加賀美詩織(かがみしおり)」は私立リディアン音楽院高等科に進学した。

 それはこの生まれ持った萌え声という武器を生かす為に歌を学ぼうと思ったのだ。

 

 

 それがまさか、あの「風鳴翼」さんに手を引かれ、夕陽に照らされている廊下を共に歩く事になるなど……。

 真夏の道路の上のミミズの様な気分である。

 

 私は翼さんのファンである、ツヴァイウィングではなく、翼さん単推しのファンである。

 

 

 というか翼さんの手ぬくぬくすぎでもうこのまま燃えて死んでしまう、そういえばカエルは人肌に触れすぎると火傷するらしい、私はカエルだ。

 

 

「その、本当に大丈夫?とてもその、震えている様だけど」

 

「大丈夫です、私はクソザコプリンなので震えるものなのです」

 

「そのクソザコプリンとは何かわからないけど、その急に呼び出してごめんなさい、けれど大事な事なの」

 

「大丈夫です、誰にも言いませんし、この事は心に秘めて墓場にまで持っていく覚悟です」

 

「妙に覚悟が決まってるわね」

 

 

 大事な事、大事な事ってなんだろう、まさか一目惚れ……いや無い無い無い、いやでもどうして手を繋いでるんでしょうか?

 まあそれはそれとして肌すべすべだけど力強さも感じる翼さん手がヤバい、配信で自慢したいけど身バレするから話せねぇ!

 

 

 と、気が付くと見知らぬ廊下、リディアンから出てない筈なのにこんな研究所みたいな場所あったっけ?

 

「来たわね」

「来たわよ」

「来たのね」

 

「何をしてるんですか二人とも……」

 

 急に知らない女の人に話しかけられたのでつい配信で使っている定型文が飛び出してしまい、翼さんに呆れられた、というかこの人今私の配信で使ってる定型文に対応しなかった?

 

「ようこそ加賀美詩織ちゃん、それとも「おりん」ちゃんの方がいいかしら?」

 

 身バレしてた。

 

「何が目的ですか!お金ですか!体ですか!オフコラボですか!」

 

「まぁ体がお目当てでもあるけれど、落ち着いてね」

 

「体ですか!で、どちら様でしょうか?」

 

「私は櫻井了子、日本政府所属の組織「特異災害対策機動部二課」に所属する研究者よ」

「えっ日本政府……?特異災害……?もしかして私モルモット……に?」

 

「人聞きの悪い事は言わないで頂戴、ただこのリディアンで貴女に「あるもの」の適性があったから協力をお願いしてもらいたくて来て貰ったの」

 

 あるもの?適性?

 

「魔法少女とか変身ヒロインみたいな?」

 

「あら正解」

 

「それマですか~?」

 

 いや~変身ヒロインは無いでしょう~

 

「まぁ、身辺調査が終わったからこうして呼んだのだけれど。両親共働きで姉妹兄弟無し、やや借金あり、小遣いは月1000円、機材はポンコツ……もし協力してくれればお給料も出るし、学校の授業も一部免除、あなたにとっても利益になるはずよ?」

 

 ヴッ……それは……。

 

「その、少し気になったのですが櫻井女史」

「なぁに翼ちゃん」

「さっきリスナーと聞こえたのですが、加賀美さん、あなた「配信」をしているの?」

「し……してますね……」

 

 アッ!!!!!翼さんには、翼さんには聞かれとうなかった……!!!

 

 

「そうね~そこそこ人気のあるラジオ番組みたいなものを配信してるそうよ~」

「すごいですね、今度少し聞かせて貰いましょうか」

 

 アッー!アアアアーッ!!!!このアマァア!!!余計な事を!!!

 

 

 

 

 私「加賀美詩織」は「おりん」の名でネットラジオを配信している、しかしその、内容が下品だったり、媚媚だったり、アホなものである。

 とてもではないが親にも聞かせられたものではない。

 さらには絶対に翼さんに聞かれてドン引きでもされたら生きてはいられない。

 

「その、ですね!話に戻りましょうか!内容次第では前向きに検討させていただきましょう!ええ!そうしましょう!」

「あら、やる気があるわね、いいわよ、私そういうポジティブな子は好きよ」

 

 この櫻井了子とかいう人、絶対わざと逃げ道塞ぎやがったな……絶対ラジオで告発してやるからな~?

 

「あ、でもこの先は国家秘密、もし漏らしたりしたら……少し怖い目にあうから気をつけなさい?」

 

 ヒ……ヒェ……

 

「かしこま……」

 

 

 どうして……どうして……。

 

 

///////////////////////////////////////////

 

 第4号シンフォギア「イカロス」、現状唯一無二の飛行型シンフォギアシステム。

 このシンフォギアというものに適合する人間はとても少なく現状翼さんと、私だけ。

 

 何が凄いってこのシンフォギア、あの「ノイズ」に対して効果があるという事だ。

 

 ノイズの猛威と戦うことはできない。ノイズが向かってきたら、逃げなければならない。

 だが、シンフォギアを纏えばノイズと戦うこともできるし、勝つこともできる。

 

 簡単に言えばこういう事だ。

 それはそれは超革新的なモノであるが、どうにもこれが現行憲法に抵触する恐れがあるらしく、計画は極秘のモノらしい。

 

 で、私のやる事はノイズと戦う事…ではない、適合者としてのデータ取りである。

 

 毎日授業後、16時から18時までシンフォギアを纏い、色々な訓練を行う、それだけである。

 

 それだけで、10万!ウッハウッハである。

 

 ただ、翼さんのおじさんである司令さんのスーツはダサかったな。

 

 と、今日一日を振り返る。

 

 

 

 頭がプリンにでもなったのかな?色々ありすぎてもう処理限界だよ、なんですかノイズと戦う為のシステムって、しかもそれが選ばれたものにしか使えないって、ちょっと欠陥過ぎません?

 

 とにかく配信しよ。

 

『こんばんおりん~』

 

 今日のリスナーは開始時1200か~平日だしもう新年度始まったしな~20時じゃこんなものか。

 

『今日はちょっと脳味噌を酷使する事が多くて疲れちゃったよぉ~』

 

 「おりんに脳味噌入ってたのか…」とかいうコメントが多々流れてくる、クッソ……こいつらよく見てやがる……確かに私はバカだよ……。

 

『ヒドイヨ!!確かにプリンくらいの容量しか入ってないけどおりんも考える事は考えてるんだよ!』

 

 「プりん」「かわいい」知ってる、私はかわいいんだ。

 

『とりあえず先にご報告、しばらく夕方の雑談配信枠はおやすみにして夜のゲーム実況枠をメインにしていきたいと思いマース!ちょっと機材のアテが出来たのでもしかしたらバイノーラル配信もできるかもね~』

 

 「おりんの小遣いでバイノーラルマイクが買えるわけないだろ!」「おりん、まさかついに枕営業…?」「いや企業所属になるのか!?」とコメントが一斉に流れてくる。

 

『誰が枕じゃい!普通にお仕事だよ!コンプライアンス的に話せないけどちゃんとお仕事なので安心してくたばって欲しい』

 

 普通のお仕事ではない、けど仕事には変わりない。

 

 だがそういえば、両親には話してもいいんだろうか?まぁ明日聞いてみようか。

 

 とコメントを見ているとなにやら「へんなもの」が見えた。

 

 とりあえずは無視して何時もの如く「お歌」で誤魔化していたが、段々無視できなくなってきた。

 

 っていうかコメントが騒然としている。

 

 

 何でって、「風鳴翼」が公式アカウントでコメントしやがってるんだよ!!!

 

 

 歌手という仕事上、時々やはりネットなどで発信する事もあるだろう、けれど!!!よりにもよって公式アカウントで私の配信に来るな!!滅茶苦茶リスナー増えてる!!!6000ってなんだ!?

 

 「いい歌だった、また聞かせてほしい」

 

 ありがとう!!!!!!!!!!クソッ!!!!!

 

 

『なんか、変な人が見えましたが、私疲れてるのでしょうか、ちょっとはい、ハイハイハハイ……とにかくですね!皆さん明日は一身上の都合でゲーム配信にさせていただきます』

 

 とにかく1時間、毎日のノルマとして自分に課している配信時間を過ぎたので即座に定時終了し、布団に飛び込む。

 

 これは悪い夢である、朝起きたらきっといつも通りの日常が――――

 

 

 

 SNSで話題になってた(最悪)

 

 

 

 『萌え声おりんのラジオにあの風鳴翼が!』『萌え声おりんis何者』『5分でわかる「おりん」よくばりセット』と次々と新しい記事が出来ていく、私は死んだ目で学校に向かう。

 

「おはよう、おり……」

「加賀美です、ネットリテラシーというものはないのですか!翼さん!!!」

 

 すると門の前で翼さんが待っていましたのでつい突撃してしまいました。

 

「ネットリテラシー?」

「翼さん、公式アカウントじゃなくて自分の個人アカウント使いましょう?」

「あっ……すまない……けど大丈夫じゃないのか?別に他のアーティストのライブを見る事だって普通だろう?」

「知名度の差ですよ!来てくれたのは嬉しかったんですが!滅茶苦茶話題になってて今日の配信滅茶苦茶怖いんですが!普段のリスナー数は行っても2000くらいなのに終盤7000超えしてましたよ!」

「そ、それはいいことなのでは?」

「私のクソザコ力嘗めないでください!心臓が爆発しそうですよ!!!7000人を前に歌えって無茶を仰るな!」

 

 

 とつい早口になってしまったが、そこで私は気付きます。

 

 

 周囲の人達に滅茶苦茶見られてる、やばい。

 

「ねぇ、あの子誰?」

「確か一年の子よね?」

「あ、可愛い声でちょっと話題になってる加賀美さんじゃない?」

「翼さんと一体どんな関係が…」

 

 

 オイオイオイ、これは死んだわ私。

 

 



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日陰の少女

 

 

 私は日の当たる場所が嫌いだ。

 周りの人に自分の弱くて醜い部分を見られたくは無い、けれど自分を隠し続けるのもまた心が息苦しい。

 

 だから静かに一人で孤独で心安らぐ闇が好きだ、闇の中なら弱い自分でいる事が許される。

 けれど人間である以上どうしても「ひだまり」の中に引っ張りだされる事もある。

 

 ラジオ配信を始めたのもそれが理由だ、顔を隠して弱くて醜い自分を曝け出せる場所、それが「日陰」なのだ。

 

 私のリスナーはそんな私の闇を笑ってくれる存在だ。

 けれどそれは、彼らも同じ闇を持っているから成立する事であり、私と50歩100歩の存在。

 

 変な同情はいらない、変な哀れみはいらない、けれど何も知らないヤツには笑われたくない。

 

 故に翼さんが理由で大量に流入してくるであろう新規・初見の存在が非常に気になる。

 

 一つ分のひだまりに二つはちょっと入れないのと同じ様に、日陰にも限度があるのだから。

 

 

 今日もまた配信を始める。

 

 手にしたゲームは名作FPS、これで初見を振り落としていく所存だ。

 

 学校での出来事はどうしたかって?

 

 思い出させるな。

 

 今日の待機人数は12000人、クソッ多いな。

 

『こんばんおりん~今日はねぇ初めての人を振り落とす為にバンバン攻めていきますからね、ここから先は闇の世界だと知るがいい』

 

 初見コメントに紛れ「きたないおりんだ!」「萌え声に釣られた人間よ知るがいい、これがおりんだ」「汚りん」とのコメントが流れる、私の萌え声と闇の融合こそがリスナーを引き付ける。

 

 ゲーム開始と共にゾンビの頭を粉砕する、R-17指定だけあってとてもグロい、これでまず何人かはブラウザバックした筈だ。

 

『私の~暴力性をですね、皆さんに御見せしようと思いまして、ええ、こうしてこうしてやりますからね』

 

 次から次へと出てくるクリーチャー達をちぎっては投げちぎっては投げ、画面酔いなど無視する勢いでピョンピョン高速で移動していく。

 

 気付けば0時を過ぎ、残っているのは10000人程、まだこんなに残ってるのか。

 

『私はただの萌え声生主じゃあありません、闇の萌え声生主です。石の下のダンゴムシ達の為の日陰、太陽の下に生きる者には不要な存在です』

 

 「俺達はダンゴムシだったのか…」「おっそうだな」「今日は翼さん来なかったな」等のコメントが見受けられる、翼さん目当てで来てるヤツ多いな……。

 

『それと先日の翼さんの件はちょっと抗議しましたからね!期待しても無駄ですからね!』

 

 「抗議していくのか(驚愕)」「DEEP†DARK†ORIN」「翼さんに媚を売れ」これでもまだ1万から減らない、意外に闇の住人が多かったのかな?

 とにかく、ゲームもキリのいい所まで進んだので終わりの挨拶に入る。

 

 まさか3時間も1万もの人間が付き合ってくれるとは思ってくれなかった、まだ現実感がない。

 

『まぁ今日はこんな時間まで一万ものダンゴムシさんがね、付き合ってくれましたが、このバズりが落ち着くまで振り落としていくから覚悟しとけよ~?』

 

 「ふりおとさないで」「よく訓練されたダンゴムシが残る」「草」「自分からリスナーを減らしていくのか(困惑)」所詮私は色物配信者だ、多少はヨゴレみたいなネタを使っても痛くも痒くも無いというか、そもそも私の心は汚れてるからな。

 

『じゃあ次回はBLゲー実況すっか~!!』

 「やめて」「ゆるして」「やめてくれよ」「勘弁してくれ」「翼さんに汚いものをみせるな」コメントが統一された、人の心が繋がる瞬間を見た。

 

『じゃ、覚悟しとけ~?』

 

 と配信を終える。

 

 

 

 はぁ、と溜息をついて布団に倒れこむ。

 

 今日一日を振り返る。

 

 シンフォギアシステムというものはなかなかに凄かった。

 空を自由に飛べる経験なんて一生ないだろうと思っていたけど、あんなに自由に飛べたら通学もお出かけも自由に出来るだろう。

 

 それに歌いながら動くというのも中々に新鮮で気持ちがよかったが、とても疲れる、あれは続けてやるもんじゃないな、と思った。

 

 

 でもあれだけで一日10万も稼げるってのはホントいいね、サイコーだね。

 これなら月末にはいい感じの配信環境が手に入りそうだ。

 

 

 そして翼さん、今日は放課後に会う事はなかったが、どうしているだろう、今日の配信も見てくださりやがってたのだろうか。

 もう昨日の時点であのとても見せられたものではないものを見られた時点で開き直る事にしたが、ドン引きされてないだろうか今更心配になってきた。

 

 明日学校で「うわっ」って目で見られたら不登校になるかもしれない。

 ならないかもしれない。

 

 なんていうか翼さんに汚いものを見るような目で見られるのもなんか興奮するかもしれない。

 

 私ちょっとマゾの気あるかもしれんな……。

 

 あ、でもクラス全体からそんな目で見られたらさすがに心が折れるかもしれない、こう好きな人からのそういうのは嬉しいけど好きでもないヤツからのは全然嬉しくないしな……。

 

 

 と色々と考えてたら、日が昇ってた。

 

 まずい、寝ていない。

 

 学校だ。

 

 

 

 

 

 今日は、門の前で翼さんと会うような事はなかった、おかげで「今日は」クラスでも特に注目される事もなく、無事居眠りも出来た。

 

 

 

 そして今日もお仕事の時間だ、エレベーターを使って地下の二課の施設へと向かう。

 

「こんにちわ、翼さん」

「……ああ、加賀美か」

 

 するとそこには翼さんが居たが、なにやら少し怒ってらっしゃる?

 

「何かあったんですか?」

「いや……加賀美が気にする事じゃない、これは私の問題よ」

「そ、そうですか……では私はデータ取りに向かい……」

 

 聞くのも悪いし、さっさと行くに限る。

 

「あ、詩織ちゃん。来て貰って悪いけど今日のデータ取りは中止よ」

「えっそうなんですか」

 

 すると向こうからやってきた櫻井さんに中止を告げられた、なんだよ……ついてねぇじゃねぇか……。

 

「昨日新しい子が入ってね、その子の検査とかもあるからちょっと私が見てあげなきゃいけないの」

 

「そう、ですか……では私は今日はこのまま帰る事にします」

 

 ええ……適合者ってそう簡単には増えないらしいから安泰だと思ったんですがねぇ……まさか一日で新しい適合者が出てくるとは……まぁ知りませんけど。

 

「ごめんね、でも明日はあるからちゃんと来てね?」

「了解です」

 

 はぁ、ついてねぇ~~とりあえず帰ったら予告どおりBLゲーの配信しよ。

 

「あ、それと司令が明日のデータ取りのプログラムは格闘と射撃だって言ってたわよ、あなたの配信でセンスを感じたらしいわ」

 

「アアアーッ!!?昨日の配信みられてたんですか!?」

 

 嘘でしょう?ただのゲームですよ!?エイムはそこそこ自信あるけどリアルでやれって言われて出来るわけないでしょう!?

 

「なかなかの反射神経だって褒めてたわよ~?ただいかがわしいゲームは程々にしなさいとも……」

「ハハッ……はい……」

 

 まじかぁ……まじかぁ……。

 

 



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陽キャは天敵

 早いもので、私がこの仕事を始めて一ヶ月が経った。

 しかしまだまだ慣れないモノで実際に武器を持って標的を攻撃するのも一苦労。

 これじゃあ実際のノイズと戦うなんてとてもできない。

 最も私は実戦担当ではなく後方のデータ取り担当なので関係はない筈だけど……。

 

 

 はぁ、今日も早く終わらせて配信をしたい、最近のリスナー数は5000前後、結構定着してしまった様だがあからさまに翼さん目当てな人達はいなくなった様だ。

 純粋に私の配信を楽しんでくれる闇の住人が増えたのはいい事だ。

 闇から始まり、闇に還るのだ……。

 

 …………

 

 現実逃避はここまでにしよう。

 

 

 私には今、悩みが二つある。

 

 

「詩織さん!」

「あ、うん。どうしたのですか立花さん」

「今日も訓練ですか!私もご一緒して……」

「いや私のはデータ取りですから……」

「?」

「つまり仕事です」

「そ…そうですか?」

 

 

 一つ、新しい装者がどうしようもなく陽キャ野郎である事。

 名前は立花響、滅茶苦茶絡んでくる。

 本人は間違いなく善意で来ているのが丸分かりなのだが、あまりにその、眩しくて勘弁して欲しい。

 

 

「私は彼女を認められない。彼女は戦いを甘く見ている」

「え、まあ……わかります。なんていうか……そうですね」

「あなたは自分の役目に真摯に向き合っているのに彼女はどうして……」

「(いや、私も稼ぎのいい仕事くらいにしか……)でも彼女もちゃんと自分に出来る事を探してがんばってますし…」

「……でも奏の代わりとは認められない」

 

 

 二つ、翼さんの機嫌が悪い。おまけに何故か私が翼さんの愚痴を聞く事になってしまったのだが、あの陽キャが「奏さんの代わりに頑張る」みたいな事を言ったらしくそれが翼さんの逆鱗に触れたそうで。

 つまり職場の人間関係のもつれに絡まっちまったわけだ。

 

 普段から色々と行動している二人と違い私は基地勤務。どちらか片方、あるいは両方と遭遇する事が一番多く、両方から相談されたり……

 

 …………

 

 私もただの石の下のダンゴムシだよ!!!そんな有名歌手やノイズと戦う秘密の戦士のお悩み相談なんて聞いてられるか!!

 

 あまりにも二人が私を頼りにして来て潰れそうなので司令に抗議に行ったのだが……

 

「ありがとう加賀美くん。君の仕事ではないというのに君が二人の間に入ってくれているおかげでどちらも潰れずに済んでいる。この分はボーナスに上乗せさせて貰う」

 

 給与に反映されてしまって逃げ難くなってしまったんだが!?

 これが大人のやり方かよ!?給与で誤魔化されんぞ!

 

「そうだ、君の配信機材だが、もしよければこちらで用意しよう」

「あ……いえ、あんまりいいものを貰っても腐らせてしまいそうなので……自分の身の丈にあったものを……探そうと……」

 

 善意だろうけどさー!配信の話題出すのやめてよ!心臓が爆裂しそうだよ!!

 

「む……そうか。そういえば君にオススメのゲームがあってな、今日持ってきていたんだった」

「そ……それは…ありがとう……ございます」

「うむ、今日のデータ取りが終わったら渡そう」

 

 いや本人は話題合わせようとしてくれてるのわかるし、善意なんだろうけど!その善意が眩しいし「どうせモノで釣ろうとしてるんだろ!」って思ってしまう自分が醜く見えるからやめてくれよ!

 

 結局、抗議は出来ずに仕事開始。終わる頃にはくたびれて抗議する元気もない。

 だいたいこんな感じである。

 

 故に。

 

『はい、始まりました。ブラックおりんラジオ。今日のお題は「人間関係」のお悩み、皆さんありますよね。おりんもねー普段は人間界で生きてるからあるんだ悩み〜』

 

 ラジオでネタにして吐き出さなければやってられない。今日は翼さんが歌のレッスンの予定入って見れないって言ってたから存分に吐いてやる。

 

『おりんのね〜職場のね先輩と後輩が少し仲違いしててね〜両方から相談されてもう、ただのクソザコなおりんは心がもう軋みを上げてるんですよ!わかりますか!』

 

 「俺はおりんが働いてる事に驚愕した」「大丈夫?おりん職場で迷惑かけてない?」「えらいぞおりん、人の為に頑張ってるなんて、パパも鼻が高いよ」親面するな、私だってなー!働くんだよ!

 

『ということで最初のお便り、ラジオネーム「机の下のダンゴムシ」ダンゴムシのリスナー多いですね。リスナーの総称をダンゴムシに変えたほうがいいでしょうか。「最近おりんさんを知った新参ダンゴムシです。私の人間関係での悩みなんですが、私は両親と上手く行ってません。大学卒業後就職したはいいんですが私のオタク趣味を両親が認めてくれずグッズを捨てろといわれる始末……どうすればいいでしょうか」なるほどですねーこれは一人暮らしを始めるのが一番です。

 うちはまだ実家暮らしですが、両親は殆ど家に居ないです。殆どの家事は私がやってますから二人共私には逆らえません!おまけに最近は収入が入ってきて発言権がますます大きくなってるのでそのうち私は一人暮らししてやりますよ!ハッハッハ!聞いているかダンゴムシくん!君はこの萌え声生主おりんより下にいる!悔しければ一人暮らしをするか家での発言権を大きくするかしたまえよ!!!次!』

 

 このラジオのお題コーナー、実は私がマウントを取る事で悦に浸り回復するコーナーなのである。

 

 「イキリん」「おりん家事できたのか」「嫁にほしい」「徹夜配信でゲロを吐いた女だぞ」「やめとけ」私が女子力アピールすると即座に私の過去の失態や悪行が晒し上げられ相殺される。これでいいのだ。私なんぞにガチ恋するんじゃない。

 

『次のお便りは「定年退職マジカ」お勤めご苦労様です。「私はもうすぐ60にもなるのですが独り身です。このまま孤独に生き、孤独に死ぬのでしょうか?」ガチな悩みを送ってくるんじゃありませんよ!しかし恐れる事はありません!こうして私の配信に来ているでしょう!その間はあなたは孤独ではありません!等しく影に蠢く闇の住人です!視聴者欄を見てみなさい。こんなただのクソザコ萌え声生主の配信に5000人も闇の者がいるのです。あなたは孤独ではない。私はオフで会うつもりはありませんが、リスナー同士でオフ会でもすればいいじゃないですかね?次』

 

 「我らはレギオン、大勢であるが故に」「確かにおりんの配信毎日見てる時点でダメ人間だな!」「良い事言ってるように見えて無責任で草」「世の中、色んなダメ人間が居るんだな」「そういう君もな」一部コメントで煽り合いが始まってるが無視。よくある事である。

 

 こうして人の闇を笑う事で私も回復するし、闇を吐き出す事で楽になる人がいればwin-winである。

 これで明日からもまた頑張れる。

 

 

 だが翌日。

 

 

 翼さんが重傷を負って入院した事を、私は知る事になる。



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血を吐くホトトギス

 シンフォギアには「絶唱」という決戦機能が搭載されている、これは増幅したエネルギーをぶつける代わりに自分にも大きな負荷がかかる諸刃の剣、それを翼さんが使ってしまったという。

 

 そもそも何故、翼さんがその絶唱を使うに至ったかといえば完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」、シンフォギアより強いらしい装備を着た少女によって「特別な装者」である立花さんが拉致されそうになり、彼女を救う為に使う事となったらしい。

 

 翼さんが重傷を負った事はショックだった、だが同時に命を懸けて立花さんを守ろうとするくらいには翼さんは彼女の事を認められる様になっていた事だ、最初の頃は「戦ってわからせたい」なんて物騒な事を言っていたぐらいだった、私の気苦労は無駄ではなかった様だ。

 

 ただこれは問題だ、装者を狙ってきた相手が居る、おまけに翼さんが重傷でしばらく戦えない。

 

 

 今居る装者は二人。

 

 つまりこれは……

 

「加賀美くん」

 

 おっちょうどいいところに司令がきたぞ~……赤紙(徴兵)かな?

 

「な、な、なんでしょうか」

 

「昨日の件はもう聞いているな」

 

「は……はい」

 

 これはまさか~?

 

「立花くんを狙った謎の少女が君を狙わないと限らない」

 

 その可能性は聞きとうなかったよ。

 

「だからしばらくの間、授業とデータ取りの代わりに自衛の為の力をつける為に特訓を受けてもらう。ちなみに立花くんも参加するぞ」

 

 ぐえーっ!!!立花さんまでいるのかよ!陽キャ二人に挟まれては死んでしまう!

 

「きゅ……給料はでますか……」

 

「ああ、そうだなそれはキチンと出るぞ」

 

「し……しかたありませんね、では……よろしくおねがいします……」

 

 

 その日から私の地獄の日々が始まった。

 

 

 何時もの様に学校に登校する、午前は授業、午後からは特訓。

 教師は風鳴司令、まずは走り込みから始まり、私は瀕死。

 次に体操、格闘戦の訓練、そして組み手に始まる実践編。

 立花さんに15回、司令に25回の計40回放り投げられて全身が悲鳴をあげる。

 そして再び走り込みで一日が終わる。

 

 満身創痍の私は這いずりながら帰宅し、家事をこなすとなんとかパソコンの前まで移動して配信を始める。

 

『本日からは予告通り「お歌」配信をお送りします』

 

 それでもリスナーを心配させたくない、というか吐き出さないと私が持たねぇ!ので30分だけ配信をする。

 

 そしてそれを終えると布団に倒れ泥の様に眠る。

 

 夢を見る事すら忘れ、日が昇ると共に目覚め、家事をする。

 

 

 これは、死ぬな?と一日目で確信した。

 

 二日目も同じように走り込みから始まり、走り込みに終わる、間に挟まるは地獄の様な訓練、私は一体何をしているのだろうか、私は誰だ、私とは何だ、自我が持たない。

 

 

 三日目、私は休んだ。

 

 

 四日目、死にそう。

 

 

 五日目、立花さんから悩みを相談された、親友に装者である事を隠していて、色々な誘いを断って特訓をしているせいかギクシャクし始めたそうだ。

 

 

 知るか!こちとら、生まれてこの方!友達がいないんだぞ!

 

「なら休んでそっちへいけばいいでしょう」

 

 リア充はなぁー!!!リア充らしく生きてればいいのだ!!!

 

 

 

 司令とマンツーマンで特訓を受ける事になった。

 

 私は後悔した、立花さんの無駄な耐久力の高さにこれまで救われていたとは……。

 

 その日は配信を休んだ。

 

 六日目、今日は特訓はない。

 なにやら「デュランダル」という聖遺物を移送するのに立花さんが護衛につくらしい、司令も仕事だ。

 

 私は即座に家に帰り、侘び配信をした。

 

 七日目、移送が失敗して中止になったらしい、詳しくは知らない。

 そして再び特訓再開、地獄だ。

 

 特訓後、立花さんは翼さんの見舞いに行ったらしい、私は普通に帰った。

 

 八日目、特訓前に立花さんから翼さんと仲直りした事を聞かされた、それはよかった。

 

 

 九日目、また立花さんが特訓を休んだ、と思いきやまた襲撃されたらしい、特訓は中止、司令が仕事に戻り、私は家に戻って配信をした。

 

 

 

 

 そして十日目、翼さんが復帰し、特訓は終わった、だがまた立花さんに相談された。

 襲撃者である少女とわかりあいたい、親友とまた険悪な関係になった。

 

 知らんがな!!こちとら人間関係弱者やぞ!!!!!

 

「私に聞かないでください!それはあなたの出す答えです!」

 

 ついに我慢の限界を超え、突き放した応えをぶつけてしまったが、私は悪くねえ!

 私は悪くねえ!!

 

 

『はぁーい……おりんでーす、ようやく地獄の研修が終わったので久しぶりの雑談配信です……』

 「おりんに覇気がない」「おつおりん」「おりんが死んでおられるぞ!」もはや自分がそこまで疲れやつれ果ててるという自覚すらなかった。そんなにか。

 

『もうですね、体力が限界ですよ。上司は3日続ければ慣れるっていってましたけどねぇ!!そんなパワーがあれば私は今頃コミュ強陽キャのリアリアリア充ですよ!ナメクジをいくら鍛えたってナメクジに変わりは無いんです!』

 「ついにダンゴムシからナメクジに退化したのか……」「おっ待てい生物学的ツリー的に関係はないから変化だゾ」「どちらにしろ石の下の生き物には変わりないんだな」「おりんは一体どんなブラックな所で働かされてるんだ」言われて見れば最初こそホワイト職場に思えたが今ではとんだブラック職場である、命の危険もあるし。

 

『おまけに先輩が入院して不在だったせいで後輩がどんどん私に相談してきてですねぇ!それは上司に聞けや!って事まで聞いてくるんですよ!もう先輩退院しまして復帰しましたけど、おまけに私抜きで勝手に仲良くなってやがって!もう涙溢れ出ますよ!』

 「なかないで」「なくな」「はなをすするな」「遠慮をしろ」うるせぇ!この畜生どもめ!

 

 『ひでぇ!私には泣く権利もないのかい!しかもなんですか!「おりんが十日研修で御(お)臨終(りんじゅう)」誰が上手い事言えといったこのクソダンゴムシ!お前なんかクソダンゴムシで十分だよ!』

 「草」「草草の草」等コメントに笑いが満ちる、私の闇を笑え貴様ら。

 

 しかしこれでようやく特訓期間が終わり、翼さんも復帰、立花さんも襲撃者を撃退できるぐらいのパワーを得た……で、私は何を得た?

 

 ……………

 

 

 

 もしかして、くたびれただけでは?

 

 

 その日は一晩中愚痴った。



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無理な生き方は寿命を縮める

 

 体を壊した、文字通り無理が祟って高熱を発している。

 このザマでは配信もままならないので今日は大人しく休む事にする。

 

 こうして一人で静かにしているのは久しぶりな気がする。

 

 配信をしているとはいえ、私は一人、生まれてこの方友達なんていないし、両親も私を見ている余裕はあんまりない、でもそれでいい、それで落ち着く。

 

 首を動かして部屋の中を見れば、翼さんのCDが目に入る、今の私と翼さんとの関係って何だろう?

 学校での後輩、装者としての後輩、それだけだろうか。

 翼さんの「立花さん関係の愚痴」を聞いていた頃があったけれど、私は翼さんのプライベートなんかをあんまり知らないし、あの頃は更に愚痴の原因たる立花さんにも絡まれててそれ所じゃなかった。

 

 立花さんに関してもそう、彼女が親友と仲違いしたり悩んだりしているのは知ってるがその親友が誰かは知らないし、立花さんが今までどういう生き方をして来たかも知らない、そしてどうして装者になったかも知らない。

 

 

 結局、会話する事は出来ても、相手の事を深く知る事はない。

 

 私に友達が居ない理由。

 

 

 無駄に知りすぎて幻滅したくない、知られすぎて幻滅されたくない。

 例え私の全てを曝け出しても受け入れてくれたとして、私が相手を受け入れられないかもしれない。

 

 こうやって言い訳を考えてるが結局の所、一人で傍観している時が一番落ち着くのだ。

 

 

 一人では生きられないけれど一人でありたい、という矛盾。

 

 

 

 そういえば、自分を変えてみようと人付き合いをしていた頃もあったなと思い出す、結局あの時もクラスの委員の仕事なんかを抱え込んで最終的に潰れてやめたんだった。

 私の許容量はそんなに多くない、だから今している事もキャパオーバーなんだろう。

 

 この仕事、もう少ししたらやめよう。

 

 

 そして配信に専念しよう、そうしよう。

 

 

 そうと決まれば体を治すに限る、早く治して、やめる事を伝えよう、確か一ヶ月前までにやめる事を伝える必要があるんだっけ、機密保持の契約とかもあるから色々大変そうだけどやめるべきときはキチンとやめるべきだ。

 

 私は仕事の為に生きているのではない、生きるために仕事をしているに過ぎない。

 

 自由に生き、自由に死ぬのだ。

 

 ならばとりあえず退職願だけは書いておこう、結構ふらつくが起きられない程ではない。

 パソコンを立ち上げ、退職願のフォーマットを探してテキストを打ち込んでいく。

 

 肉体的、精神的に限界である事を告げれば問題ないだろう。

 

 簡単に書き上げた文章を印刷し、封筒に「退職願」の文字を書く。

 これで過労生活から脱却する為の準備は整ったと布団に戻ろうとした時、滅多にならない筈のインターホンが鳴る。

 

 居留守を使う。

 

 またインターホンが鳴る。

 

 居留守。

 

 インターホンが鳴る。

 

 居留守。

 

 …………もう鳴らない、帰ったか。

 

 と二課で支給された端末に着信が来た、相手は……翼さんだ。

 

「はい……?」

『加賀美……良かった呼び鈴を押しても出ないから心配したわ』

「へ?」

 

 は?なんで?なんで翼さんがウチを知ってるの?というかウチに何の用?

 

「すいません、何の用事ですか?」

『見舞いよ、体調を崩したって聞いて』

 

 見舞い……?翼さんが?……なんで?

 

「すみません、今扉を開けに行きます」

 

 とりあえず翼さんを外に待たせたままにする訳にはいかない、体に力を入れて玄関へと向かう。

 しかし何故、突然翼さんが見舞いに来たのだろう?翼さんが入院した時はこちらから見舞いに行く事もなかったのに。

 

 陽の者の考える事はわからない、まったくわからない。

 

「すまないな、休んでるところを」

「いえ、少し起きてましたから」

「む……その割りには呼んでも出なかったわね?」

「来客の予定はなかったので」

 

 とりあえず翼さんに家に上がって貰って……は?

 

 

 ……あの、あの、風鳴翼が私の家に……?

 

 

 

 とりあえず落ち着け、体調が悪いのに「素」に戻るのは危険だ。

 今までもそうしてきただろう?翼さんの愚痴を聞いているときも「雑」に振舞って乗り切っただろう?

 

 雑に対応しろ、加賀美詩織、認めてしまえばお前は死ぬぞ。

 

「私はやっぱ装者には向いてないみたいですね、これぐらいでもう音を上げてしまって」

「そんな事はない、加賀美は……」

「いいんです、翼さん……私は装者を辞めようと思ってるんです、もう退職願も用意しているんです」

「どうして……」

「私はあなた達についていけません、戦えなくて足手まといになるくらいなら自分から離れるべきなんです」

 

 そうだ、今は謎の敵対者もいる。

 争い事に巻き込まれるのは御免被る。

 

 そういう事にしておこう。

 

「加賀美」

「なんですか?」

 

 ん?体が動きませんね?

 

 

 なんか圧迫感ありません?

 

 なんかホットな感じがしませんか?

 

 翼さんに抱きしめられてませんか。

 

「ちょ……っと……はな……はなしてください」

 

「加賀美は全部一人で背負い込もうとしてる、少し前の私みたいに」

 

「ちがっ……ちがいます!無理なんてしてません!ただ私は私の身の丈にあった行動をですね!?」

 

 は……やば、翼さんめっちゃあったかい、それにやわらかさと力強さが合わさってこれは……天国かな?

 しかも翼さん背高いから胸に当たって……いけない……これ以上は。

 

 

「加賀美…?加賀美!?」

 

 鼻から熱いモノが出た。

 間違いない、鼻血だ。

 

「かひゅ………つ…つばさ…さんちょっと……離れて……おちつかせて……」

 

 

 うぐはぁ……私の汚い血ならぬ地がつい露出してしまった……。

 今間違いなく私は「欲情」していた、このクソナメクジめは翼さんの抱擁で達しかけていました。

 

「大丈夫!?すぐに病院……いや二課の医療施設に!?」

「大丈夫です……あんまり大丈夫じゃないですけどそこまでじゃあありません、体温高まりすぎると鼻の血管が破れやすい体質なんですよ」

「そ……そうなの!?本当にそれだけなの!?」

「そうです、そうです」

 

 くそう、認めたくないけど、認めたくないけど……慌てる翼さんかわいいし……甘えたい……でもダメなものはダメだ、このナメクジ以下の私で翼さんの手を汚させるわけにはいかない……。

 

 

 はぁ、今すぐ蒸発してしまいたい……。

 

 

 

 なんとか落ち着いて止血、鼻に保冷剤を乗っけて翼さんに膝枕をしてもらう私。

 

 さっきと状況あんまり変わってなくないですか?死にますよ私これ。

 

「加賀美は私の愚痴を嫌な顔もせず聞いてくれた、それに本来私が支えるべきだった立花を支えてくれた。感謝してもしきれない」

 

「私に出来るのはそれくらいです、共に並んで戦えるのは立花さんですからそっちの方を気にしてあげてください」

「そんな寂しい事を言わないで欲しい」

「はぁ……はぁ。とにかくお礼は受け取りました、明日には体調を戻しておきたいのでそろそろ休ませてくれますか」

 

 とにかくまた脳味噌が沸騰して爆裂する前に身を起こし、翼さんにはお引取り願う事にした。

 これ以上居られたら寿命はいくらあっても足りない。

 

「すまない、でも忘れないで欲しい。助けが必要なら私はいつだって駆けつけるから」

 

 助け、助けか……今すぐにでも欲しい、この現実から助けて欲しい。

 

 ドアを開けると、夕陽が逆光になる。

 翼さんが私に振り返って微笑みかける。

 

「だからまた明日」

「ええ、また明日」

 

 ドアが閉まるのを見届け、私は崩れ落ちる。

 

「やば……やば……ですね」

 

 陰の者があまりに美しき陽の者に近づきすぎると「やば」しか言えなくなるのは本当の様だった、やば。

 

 

 結局、休みをとったのにまったく休まった気がしなかった。

 



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しっとりダークネス

 闇はウェットティッシュの様にしっとりとしたものだ。

 

 ぴったりと肌にへばりつくような感覚、視線を下に落とせば、そこには制服越しに私に絡みつく「ノイズ」。

 

 黒く闇と同じように染まっていく私の体、そして。

 

 

 

 最悪な夢だった。

 

 これは装者をやめるなという警告なのだろうか。

 

 肌身離さず持っているイカロスのペンダントを手に取る。

 

 はぁ。

 

 

 バーカ!!滅びろノイズ!!!

 

 

 最悪な目覚めだ。

 

 退職願をゴミ箱に叩き込み、着替えて身支度を始める。

 

 退職はやめだ、ノイズに遭遇して死ぬのはやはり怖い、シンフォギアがあればノイズと遭遇しても生き残れる。

 何事も結局生きてこそだ、私はまだ死にたくない。

 例え体調を崩しても無様さらしても生きる為ならば必要経費だ。

 

 

 決めた、この「イカロス」は絶対に手放さない、これが在る限り私はノイズという恐怖から逃れ続けられる。

 

 生きる為に強くなろう、程々に。

 

 朝食の片付けを済ませ、制服に袖を通す。

 

 いつも通り誰もいない家から学校へ向かう。

 

 

 

 いつも通りが一番だ、いつも通りの授業、いつも通りの孤独、いつも通りの二課への出勤。

 

「詩織さん!」

 

 うわ……いつも通りの陽キャだ、しかもめっちゃウッキウッキだし……。

 

「なんですか立花さん」

 

「私、詩織さんのおかげで大事な親友と仲直りできました!」

 

「……それはよかったですね」

 

「はい!だから詩織さんにも紹介したいと思うのですけど!今度のお休み大丈夫ですか!」

 

 やめろ!3人とか絶対私があぶれて気まずい奴だ!!!

 

「ごめんなさい、その日はちょっと用事があるの。それに私はしばらく自己鍛錬が必要なの、特訓で力不足を思い知らされたから」

 

「そ……そうなんですか……」

 

 めっちゃしょぼれくれてやがるけど知ったことか!陽キャの集まりになんて出られるか!私はデータ取りに行かせてもらう!

 

「ごめんなさいそういう事だから……ってあっ司令」

 

 ナイスタイミングだ司令、今日は久しぶりにデータ取りだ!

 

「ああ加賀美くん、丁度よかった、今日のデータ取りは中止だ。了子くんが来てないのでな」

 

 なんてタイミングだ指令、おのれ櫻井了子!なぜ仕事をサボった!

 

「じゃあ!詩織さん!今からなら大丈夫ですか!?」

「司令、訓練つけてもらっていいですか」

 

 お断りだ!!!陽だまりに引きずりだされるくらいなら私は特訓を選ぶぞ!!!

 

「むっ、随分積極的だな加賀美くん、立花くん」

「えっ」

「はい、力不足を思い知らされたので」

 

 オラッ!お前も来るんだよ!アホ面晒しやがって!立花響!貴様も一緒に連れて行く!

 

「叔父さ……司令、立花と加賀美も……訓練ですか?」

 

 トレーニングルームへ向かうとそこには翼さんが居た、熱心だなぁ。

 

「ええ、翼さん。私も弱いままでは……ダメだと思ったので……」

 ウソではない。

 

「加賀美……貴女は……」

「昨日は弱気になってしまいましたけど、私も私に出来る事をしようと思いまして」

 

 これで表面上は完璧だ、これで表面上は私の評価も上がる!筈!

 

「……なら私が手取り足取り、しっかり教えるから!それでもいいでしょうか司令!」

「うむ、やる気十分だな!」

 

 ウッ!……なんかめっちゃ特訓つく事になってるが……仕方ない、生きる為……。

 

「まずはどれだけやれるか、模擬戦でその力を見せてもらいます」

 

 模擬戦……組み手……投げられ……ウッ頭が……。

 

「はい……詩織、胸をお借りする気で行きます……」

 

 この後滅茶苦茶ボコボコにされた。

 

 

 

『辛い時~辛い時~何故か、何故かもっと辛い事がやってくる~辛い時~辛い時~3人でお出かけを提案された時~あぶれる私~』

 「おりんの謎歌だ!」「世知辛い」「余りん」おりんラジオは悲しみに満ちた歌から始まる。

 

『辛い時~辛い時~陽キャにめっちゃ絡まれる時~めっちゃ逃げたい私~辛い時~辛い時~疲れている時に限ってかかってくる職場の先輩からの電話~』

 「つらい」「つらい」「わかる」「つらい」最近あった事を歌にする、久しぶりにまともな配信が出来る気がする!

 

『というわけでおりんラジオ、開幕です。昨日は体調崩して今日は病み上がり即重労働で私の体はボロボロですよ、労働者のみなさんの気持ちよくわかりましたよ』

 「世知辛い」「やめやめろ!」「萌え声で生きていけ」等の元気な悲鳴があがる、噴出する闇の気配は最高だ。

 

『今日のテーマは、貧乳と無乳です。ちなみに職場の先輩は貧ですね、あれ。さて一通目、リバーシブルボディさん、背中かな?「私には乳がありません、乳が憎いです」凄い憎しみですね、あ、ちなみに私はあります、残念でしたね』

 「うそつけ絶対虚無だぞ」「おりんがマウント取りに来てるという事はおりんは普通にあるぞ!」鋭い、私は並にある、あの陽キャの立花さんはめっちゃデカかったが。

 

『次は……ルナーさん「私の方がおっぱい大きいわ!男だけど!」胸筋かな?贅肉かな?次、荒野のヒップさん「尻ならある」胸はないんですね』

 「なんで男なんだ」「尻は大事だぞ」「わかる」というかうちの配信、地味に女性リスナー居るのビックリだよね、少し前までダンゴムシ野郎しか居ないと思ってたけど。

 

 

 

 ってさっきからまた変なコメント見えるな~。

 

 

 うーん、翼さんかなぁ…翼さんだなぁ……。

 

 公式アカウントだよぉ……またアーカイブ残せない奴じゃん!!

 

『あのですねー翼さん、また公式アカウントになってますよ!』

 「翼さん来てるん!?」「ウェルカムトゥアンダーグラウンド」「闇の中へようこそ翼さん」「翼さんに媚を売って行け!」ええいアホダンゴムシどもめ、食いつきやがって!翼さんに無礼の無い様にしろ!

 

 

>@風鳴翼【公式チャンネル】:おりんさん、コラボ放送しませんか?

 

 は?

 

 は?

 

 なにいってんですかこの人。

 

『え、マ~?マジでいってますか翼さん、ちょっとこの石の下のダンゴムシみたいな配信者とコラボって……ちょっと私の方が炎上してしまいますよ!?』

 「炎おりん炎」「炙りおりん」「オファーキター!!」「おりんが遠くに行ってしまう…」「行かないで」コメントが阿鼻叫喚の地獄と化す、とにかく場を収拾しなければ。

 

『私はですね~皆さんの日陰なんですよ、私がひだまりになってしまったらダンゴムシさん達が焼け死んでしまいます、だからこの話はですね~』

 と思ったら「いけ、おりん!」「おりんが高みに昇れば日陰はもっと増えるはずだ!」「おりんが居る場所が日陰だよ…」うわっこのダンゴムシども面白半分で私を持ち上げてやがる!?こいつら私を翼さんとコラボさせるつもりだ!

 

『だっ……だめですよぉ!私なんて日の下出てはいけないしっとりとした闇なんですよ!』

 

>@風鳴翼【公式チャンネル】:私も、海外への挑戦を考えています、今までのファンも大事にしつつ、新しいファンを増やす。おりんさんもそういうチャレンジをしてみませんか?

 

『そんな重大情報場末のラジオで流さないでくださいよ!?私にフロンティア精神はありませんって!?』

 「おりんがクソザコと化してるぞ!」「というか翼さん海外チャレンジマジか!?」「おりんも世界に羽ばたくのか……胸が熱くなるな!」「でも今日のお題貧乳と無乳だったぞ」なんかコメントの殆どが私のコラボに乗り気になってるんですけど!?!?

 

>@風鳴翼【公式チャンネル】:おりんさん、だめですか?

 

『だっ…』

 断固拒否しようと、口を開こうとした時、一瞬「断るなんて幻滅しました、おりんのファンやめます」なんて文字が見えた気がした。

 

 幻滅されるのは、やだなぁ……。

 

『くそっ……一回だけですよ、たった一回!通話配信!それ以上は妥協しませんからね!!!!』

 「キター!!!」「おりん、ナイスガッツ!」「伝説に立ち会ってしまった」「祭りだ!祭りだ!」コメントの速度が尋常ではない、しかもよくみたらまたリスナー1万超えてる……私の許容量はどこ?ここ?

 

『とにかく日程合わせるために翼さんは後程メールフォームからメッセージください、申し訳ないですが今日のおりんラジオはここで終了です!まさかこんな事になるなんて想定してませんでしたからね!おい!ダンゴムシども!私には構わないけど翼さんに無礼なコメントするんじゃないぞ!以上!ラジオ終了!』

 「おつおりん!」「安心しろ、おりん」「おりんがこんなに大きくなって俺も鼻が高いよ」親面するな。

 

 

 

 配信を終了し、布団に倒れこむ。

 端末にメールが届く。

『楽しそうだったから、急にごめんなさいね。次の日曜日とかどうですか?』

 翼さんからだった。

 

『わかりました、翼さんも何か一つ企画持ち込んでくださいね。配信時間は二時間程予定で』

 

 即座にメールの返信をする。

 

 溜息をつく。

 

「なってしまったなぁ……とんでもない事……」

 

 私の安らぎの場が失われるような気がした。

 

 その日はまた、寝付けなかった。



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陰の国の姫と、歌姫

 夢を見た、私が舞台で衣装を着て歌って踊る夢を。

 

 目が覚めて死ぬほど動悸がした。

 

 

 もしかして翼さんに、外堀埋められてる?気のせい?

 

 私が舞台に立つ?いやいやいや無理無理無理ねぇ無理、勘弁して欲しい。

 

 SNSを開く、通知がヤバい事になってる……。

 内容は当然ながら翼さんとのコラボ配信だ。

 おまけにネットニュースの芸能にまで出てる……。

 

 私の闇が……安楽の闇が……消えてしまう……これは、面倒な事になった……。

 

 なんで断らなかった昨日の私、なんで許可した昨日の私。

 

 

 とにかく、だ。

 翼さんに会って、詳細をつめないと……やると言ってしまった以上楽しみにしているリスナーを裏切りたくはない。

 

 というか翼さんPCスキルどれくらいあるんですかね、通話配信とか出来るかな……。

 

 …………嫌な予感がするぞぉ……これは……とりあえずメールで翼さんと待ち合わせの連絡を入れる。

 

 身支度をし、ようやく通学に慣れてきたリディアンへ辿り着く、そして少し人気の少ない場所へと向かう。

 この場所こそ、私の様な陰キャの楽園、昼休みの逃げ場所だ。

 

「待ちましたか翼さん」

「いや、今来た所よ」

「翼さんはどれくらいパソコン扱えます?ネット通話とか出来ます?」

「……その全然」

 

 やっぱりかぁ、やっぱり通話配信きついかぁ……。

 ……あっ!そうだ!

 

「そういえばマネージャーさん居ますよね、男の人の」

「そうか!緒川さんに頼めばいいのね!」

 

 ……って、そういえば。

 

「所で、私の配信コラボ、マネージャーの……緒川さんの許可貰ってやってます?」

「いや、私の自由にしていいと言っていたから……貰ってない……」

 

 貰ってないんかい!とにかくまずはその緒川さんに連絡だ!

 

「緒川さんに連絡してください」

「わかったわ」

 

 と翼さんが端末を取り出す、そういえば緒川さんも二課の人だったね……。

 

「……その、加賀美……ごめんなさい、私の家のPCではダメみたい」

 

 ダメかぁ……これはもしかして機材を買いに行く所から始めなきゃ……

 

「だからスタジオに一緒に来て配信する様にして欲しいと」

 

 は?えっ?スタジオ収録?

 

「翼さんとオフで会ってる事がバレたらマズくないですか?私炎上しちゃいませんか?」

「緒川さんと話しますか?」

「ちょっと借りますね、もしもし加賀美詩織ことおりんです」

 

 翼さんから端末を受け取り、電話の向こうのマネージャーさんに挨拶する。

 

『こんにちわ、翼さんのマネージャーの緒川です。今回は翼さんとのコラボにOK出してくださってありがとうございます』

「いえいえ、それむしろこっちのセリフです。よくコラボ許可だしましたね、私もただの配信者ですよ」

『基本的に翼さんがやりたい事を応援したい、というのがスタンスなので。それでコラボ配信の件ですがもしよければ「スタジオを借りて」やりませんか?一応、こちら側から誘ったという形なので問題は無い筈です』

「いえそれはいいんですけど、いいんですか?知名度的に私は無名もいい所ですよ、それがいきなりこんなコラボ……ちょっと私側が燃え上がりそうで怖いんですけど」

 

『その件は大丈夫です、前に翼さんが公式アカウントであなたの配信を見に行った事は周知の事実、翼さんが興味を持った配信者なら、翼さんのファンの方も納得してくれますよ』

 

 よかった、嫉妬で燃やされるおりんはいなかったんや……とふと思った、私の配信……二課の方々にどのくらい見られてるの?

 

「一つ、気になったのですが私の配信ってその……どのくらい監視されてるんですか……」

『監視って程じゃないですが、一応私は見れる分には見てますよ、アーカイブも含め。なんせ翼さんが興味を持った方ですし、二課に所属する装者でもありますからね』

 

 …………やば。

 

「その、私のその……暴言や、愚痴みたいなものは……」

『大丈夫です、おりんさんは十分マナーがいいですよ、機密の漏洩所か愚痴や暴言にも入りませんよあんなもの、ただ翼さんとの放送では全年齢対象ゲームにしておいてくださいね?』

 

 よかっ……よかねぇよ!全部見られてたじゃん!?

 

「はい……おりん、善処します……スタジオ収録を前提に企画を考えておきますので……ありがとございます、失礼します」

 

 

 とりあえず焼きおりんになる心配は置いておくとして、どうしたものか。

 

「という事で翼さん、通話配信じゃなくてスタジオ配信になりましたので公式コメントに入れておいてください。私も告知を変更しておきますので……」

「そうか、でもうれしいな……私も加賀美の様に楽しく話せるかな」

 

 翼さん超ウッキウッキだし……というか翼さん自分でラジオ番組持った方が早くないですか?

 

「思ったんですけど、何故私とコラボなんですか」

「その……やっぱり知っている相手の方が安心するから……」

「そ……そうですか」

 

 普通に現実的な問題だった、しょうがねぇな!

 

 こう人の闇とかダメな所を見つけると安心しませんか、コイツも所詮は私達と変わらぬ人間よぉ!ってな感じで……。

 

「で、もう一つなんですけど、翼さん。海外チャレンジするんですか?」

「ええ、まだ何処と契約するかまでは決まってないし、卒業後にはなるけれど……」

「……何か切っ掛けでもあったんですか」

「……ええ、自分の気持ちの区切りと再確認が出来たから」

 

 

 

 ああ、やっぱり眩しいですね。

 翼さんは、私とは違って世界を照らせる光になれる人です。

 

 私とは全然違う綺麗な輝き、だからこそ、だからこそファンになった。

 

 

 

「なら私も陰ながら応援しておきます、私は闇の住人だから同じように舞台に立つ事はないですけどね!」

 念のため、ちゃっかり一緒に舞台で歌う事は拒否しておく。

 

「そうだ、今度のライブ。見に来てくれる?」

 そういえばもうすぐライブもやるんでしたね、でもどうしようかな……今からじゃチケットきつくない?

 

「でもチケット無いですよ?」

「その、VIP席を一つ取れるの」

 

 ファッ!?

 

「いいんですか?」

「その、お礼というか、いつもよくしてもらってるから……」

 

 よくしてる?どうして?

 

「どういう…?」

 

「私も、その人付き合いは多くないから……今度一緒に遊びにと立花に誘ってもらったぐらいで……後は緒川さんと、あなたぐらいだし……」

 

 翼さん、立花さんの誘いに乗ったのか……私が不参加にしたあの誘いに……。

 しかし驚いた、翼さんの交友関係とかもっと広いのかと思ってた……、光の中に闇を見るとちょっと嬉しくなる。

 

 って私…?

 

「えっ……その翼さん、聞いていいですか……」

 

「……?どうしたの?加賀美」

 

「翼さんは、私をどういう存在だと思ってるんですか……?」

 

 やばい、ちょっと動悸がやばい、顔が熱くなってきた、というかこれ答えがなんでも私死なない?

 

「仲間で……」

 

「よかった仲間」

 

 そ、そうだよね装者の仲間だもんね!

 

「とも……だち……だよ?」

 

 え。

 え。

 

 やば。

 なんで顔赤らめてんの翼さん。

 「だよ」って何だ!?かわいすぎかよ!?私死ぬよ!?死んでしまう!!!!!!!

 

 

 

「その、どうして。とも……だち…?」

「とも……だち……じゃないのか?私だけなの?」

「びっくり…して…ちょっと……えっ……えぐっ……」

 あ、あかん涙出てきてちょっとやばい、声もでねぇ。

 

 あの翼さんが、私を友達と…………ダメ限界すぎる、ただのファンだったんだぞ!私は!ただの限界オタクの陰キャのクソザコナメクジを!翼さんが!友達と呼んでくれたんだぞ!!!

 

「だ……だいじょうぶ!?加賀美!?」

 

「ごめんね、ごめんね、私予想外な事が起きると、たまに泣いちゃうから、ちょっと待ってね、待ってね」

 

 おちつけ加賀美詩織、友達が0から1に増えただけではないか、四捨五入してもまだ0だ、うるせえよ馬鹿、浅い関係の友達100人より翼さん1人の方が大事だわ!

 

 ふぅ、ふぅ、はぁ。

 

「落ち着いた?」

 

「落ち着きました、さて……いつからその翼さんは……私を友……達と……」

「退院した頃から、ね。落ち着いて考えてみれば親身に愚痴を聞いてくれたり一緒に居てくれたから……これはもう友達だって……」

 

「ふぐはっ」

 また鼻血出た、翼さんは私を色々な意味で殺そうとしているのでは?

 

「加賀美!?」

 

「大丈夫です、大丈夫。加賀美詩織は、大丈夫。……私は……そう、その、普通に「装者としての」仲間だと思ってて、ちょっとごめんなさい、ひどいよね、私もずっと友達がいなくて、友達ってどういうのか分からなくて」

 

 また涙出てきた、鼻血に涙って最悪じゃない!泣きっ面に蜂だよ!

 

「とにかく落ち着いて加賀美、顔凄い事になってるから」

 

 あっ!翼さんの手を汚させてはならぬ!ハンカチ、ハンカチだ!

 

「ふぅ、顔から流れるものは全部流れたので、落ち着きました……でその、私も……翼さんを友達だと思って……良いんですか?」

 

「……ええ、これで私達はあらためて「友達」、そうよね加賀美」

 

「だったら、詩織って呼んでください……加賀美だとなんだか……」

 

「……し…しおり!」

 

 翼さんが顔を赤くして俯く、私の視線が傾く。

 

 あれ、これもしかして私、倒れてる?

 

 頬に感じる痛みと冷たさ、そして床。

 

 これは限界迎えてるな?

 

 

 

 限界オタク詩織、ここに死すかな?

 

 



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【風りんコラボ】おりんラジオ/最後の審判【風鳴翼さん】

 息を吸う、息を吐く。

 

 心臓に手を当てる、生きている事を確認してみる。

 

 

 この世に生まれた事が消えない事実なら、生きる事はその証明だろう。

 

 

 「翼さんの……友達になっちゃった……」

 

 私なんかが友達になってよかったんだろうか、怖がって誰の手も取らなかった私なんかが。

 

 ……これはあれだろうか、「もう逃げ道はない」という奴だろうか?逃げ続けてきた人生と向き合う時が来てしまったのだろうか。

 

 告知を更新する。

 

 

 「スタジオ配信マジで!?やったな!」「お昼時点で翼さんの公式告知で出てたぞ」「おりんがんばれ、超がんばれ」「おりんもデカくなったな」「大丈夫?おりん生きてる?」「おりん翼さんのファンだったもんね、よかったね」「でもおりん絶対クソザコ状態になってるぞ」「イキれないおりんが楽しみだ」

 次々とリスナーからのコメントが寄せられる、その多くは応援のメッセージだった。

 思わずまた泣きそうになるけれど堪える、このダンゴムシども如きにまで泣かされてたまるか。

 

 「いくらおりんが遠くに行こうともおりんの影に俺達はいるぞ!」「おりんの居る場所がスタジオやステージになっても、おりんがいるならそこは日陰だ」「だから安心して行け!おりん!」

 

 散々、闇の住人なんて馬鹿にしてきたけど……なんですかあなた達は、いつも人を馬鹿にしているくせに肝心な時に応援する様な、そんな奴らでしたか?

 

 涙がボロボロ零れてくる、くっそ、今日はずっと泣きっぱなしだ。

 

 顔を拭い、ボイスチェック、配信を開始する。

 

『これから大きな舞台に立つ私でも、変わらずに日陰と思ってくれるならば、いつも通りあなた達は私の闇を笑え、それが私の救いで、一番の応援だ』

 「おりんポエムだ」「おりんは日陰、俺達ダンゴムシ」「しめっぽくするな」「気取るな」「イキるな」配信開始時は応援の声ばかりだったが段々といつもの私を馬鹿にするコメントが増えてくる。

 

 よし、と笑う。

 

『という事で君達には死んでもらう、今日はBLゲー配信だ、今日は女装少年モノだぞ!』

 「ウワーッ!」「ウワーッ!」「やめて」「ゆるして」「待ってた」「ノンケを引きずり込め」「急に汚りんになるのやめろ」一瞬で感動的だったコメント欄が地獄へと変わる、湧き上がる悲鳴、そうだこれでいいのだ。

 

 

『ちなみにコラボラジオのタイトルは風鳴翼さんと私の名前からとって「風りんコラボ」おりんラジオ/最後の審判で日曜日の20時半から部屋を立てますからよろしく!』

 

 

 さぁ、闇を引き連れて行こう。

 私こそ日陰なり、私こそ萌え声生主おりんなり。

 

 

 まだ少し現実を受け入れられないけど、私には闇がついている。

 

 

 

 

 放送当日まで、何事もなく過ごした。

 嘘、何事も無かった訳ではない、櫻井了子さんが最近来ない、故に立花さんと共に司令に特訓をつけて貰ってる。

 最近はイカロスを纏った私の相手をして貰ってる、相変わらず司令がおかし過ぎる……なんですかゴム弾とはいえ機関銃を全部弾くって……。

 

 私のイカロスが発現しているアームドギアは3つ、一つ目は「フェザークローク(命名)」

 これは全身を包む小型の飛行ユニットと兼用の装甲、任意に切り離して飛ばしたり出来るため司令に掴まれた時に即座にパージして投げられるのを回避したりするのに使って褒められた。

 しかもこれは消費した側から再展開できる、聖遺物の力ってすげー!でも司令に軽く殴られただけで砕け散った、無念。

 

 二つ目の武装は「内蔵機関銃」肩に二門、腕に四門の機関砲、フルバーストすればトラックを10秒で鉄屑に出来る優れものだ!ちなみに立花さんはパンチ一発でトラックを粉砕してた!私はゴミだよ……

 

 そして三つ目「マルチランチャー」私のメイン武装、スモークグレネードやトリモチ、そしてガス缶を発射できる。

 ノイズ相手にはクソの役にもたたなさそうだけどこれがあの司令や立花さん相手によく効いた!

 トリモチではあの司令を5秒も足止めできたし、スモークで立花さんから初めて一本取れた。

 

 ちなみにガス缶だけどこれは着火して爆発するモノなので模擬戦では使わず、廃車両に対するテストで使っただけだったがとんでもない威力だったので市街地では使えないし、多分出番は永遠に無いだろう。

 

 ……立花さんから一本取ったけど一日5本で3日間で15本の内の1本で不意打ち初見殺しである。

 

 残りは全敗している、私はザコだよ……。

 

 

 それはそれとして待ちに待った日曜日である、前日はなにやら立花さんとその友達と翼さんの3人で遊びに行ったらしい。

 翼さんからのメールで知った。

 

 …………実はあれから翼さんと顔を合わせて話していない、全部メールや電話でのやり取りである。

 

 都合が合わない訳ではない、私から避けているのだ。

 

 …………まだ怖い、まだ不安が消えない。

 

 でも今日、翼さんと一緒に配信をする、全ては今日という日に決まる。

 

 

 スタジオへ向かう足取りが石の様に重かった、何度も立ち止まり、何度も引き返しそうになった、けれど進んだ、闇を胸に抱きしめて。

 

「こんばんは、翼さん」

「待ってたわ……詩織」

 

 スタジオについて、真っ先に翼さんと顔を合わせる、そして翼さんは手を差し出してくれる。

 

 私はそれを、とれなくて。

 

 俯く。

 

 そうしたら翼さんが私の手に触れてくれて。

 

「大丈夫、詩織が少し内気なのはわかってる、だから私が引っ張って行く」

 

 私はその言葉に顔を上げる、そこには優しい笑顔を見せる翼さん。

 

 

 

 やば、また死ぬ。

 

 

 初めて見る表情、私ちょっと無理かも、死んでしまうよぉ……。

 

「あ……アッ……そう……そうですね!行きましょう!時間はもうすぐです、光と闇のラジオを始めましょう!」

 

 こんないい笑顔をしている翼さんを曇らせたくない一心で、このクソザコハートを燃やす、命を燃やせ。

 

「ふふっ」

 

 やめてくだされ、やめてくだされ、私をまた尊死させるつもりですかこの歌姫様は。

 

 

 

『おりんラジオ、最後の審判』

『ゲストは私、風鳴翼でお送りします』

 「はじまったぞ!」「おりんがイケボを演じているぞ」「萌え声を捨てるな」「マジで翼さんだ!」「というかスタジオ配信っておりん何者なんだ」「余計な詮索は寿命を縮めるぞ、主におりんの」コメントがこれまでに見たことの無い速度で流れていく、視聴者数5万以上って何これ。

 緊張のあまりイケボになるんじゃが。

 

『ええ、私も何が起きたのかさっぱりわかりませんがね、翼さんのお誘いで何故かスタジオで配信してるんですよ、人生何が起きるかわからないから一日一日を噛み締めて生きるんだぞみんな、ところでなんで翼さんは私とコラボしたいなんて思ったんですか?』

『リスナーの皆さんと楽しく話しているのを見たの、それを見て楽しそうだな~私も混ざりたいな~と思って。ところでおりんさんは私のファンという事だけど、私のどういう所を好きになってくれたのかな?』

 

 アッアッアッアッやめてくだされやめてくだされ、むごい事を聞きなさる。

 

『あっあっ……アノデスネ……私にはない輝きが、翼さんという光の輝きが……あまりに綺麗に見えたからです……』

 「クソザコナメクジ」「終身名誉陰キャ」「非イキリ萌え声生主」「人気生主」等の罵倒が私に向けて無数に飛んでくる、それが良く見るといつも罵倒してくる奴らのアカウントで何だか安心する。

 

『ふふっかわいいわね、おりんは……という事で最初の企画、私の持ち込み企画「おりんの可愛い所を上げてこう」これは私のマネージャーと私が過去のアーカイブやログから独断と偏見で選んだおりんの可愛い所をピックアップしてくコーナー』

『ウワァーッ!!!なんて企画持ってきてるんですかね翼さん!?』

 「翼さんおりんを呼び捨てだーッ!」「仲良し」「おりんは可愛さを売って行け」「BLゲームで地獄を見せた女とは思えない」私の可愛さなんて声だけでいいんですよ!私に萌えるんじゃない!私の声と翼さんに萌えていけ!

 

 というかこの最後の審判ってタイトルにあわせてこの企画持ってきたんですか翼さん!?

 

『おりんの可愛い所その一「声」その可愛らしい声を巧みに使い分けていく』

「確かに」「それに釣られたのが俺達だ」「基本よね」ま、まぁわかるけど……。

 

『おりんの可愛い所その二「イキリ失敗」頑張って強がって見せるけど強がれてない所』

 「クソザコおりんの代名詞」「おりん惨敗シリーズ」「わかる」いきなり突っ込んでくるな!というか翼さんにも私のイキリ失敗を見られてたのか……。

 

『おりんの可愛い所その三「緊張するとふにゃふにゃになってしまう所」普段からおりんと接してるとよくわかるけど私の前だとすぐに弱々しくな……』

『ワァーッ!翼さんちょっとまっ』

 「『普段』から!?」「まっておりんとリアルで繋がりあり!?」「いや待ておかしくないぞ、おりん……萌え声……全ては繋がった!」「音楽系でつながりねーなるほどなるほど…!?」ヤバしヤバし身バレしちまうーッ!炎上しちまうーッ!

 

 「まぁ、別に不思議じゃないよね」「むしろおりんのトークスキルとかから只者ではないと感じていた……」「でもおりんの闇は本物だから……」「クソザコ化がリアルでも発動している時点で……」あれ?予想していた反応と違うぞぉ?

 

『こんな風に心配性な所も可愛い所ね』

 「わかる」「翼さんにならおりんを任せられる」「おりんをいじっていけ翼さん」あれー?もしかして……。

 

 「最初から心配しているのはおりん一人だったというオチでは?」

 

 …………ウワーッ!!!!!!

 

『とこんな所ね、さて私の持ち込み企画はここまで、次はおりんの企画だけど大丈夫?』

 

 すっごいいい笑顔でこっちを見てくる翼さん、このっ…このっ……!!!翼さん!!!

 

 そんないい笑顔しても……許す!!!!!!!

 

 「悲劇のライブ」の日からずっと見れなかった、優しい笑顔を翼さんがしている。

 

 それだけで私の生まれてきた意味はあったのだろう。

 

『翼さんの笑顔に免じて……許します……ですが、その代わり私のワガママを一つだけ聞いてもらいます』

 

 一度思い浮かべて、すぐに「無い」と封じた企画。

 それが喉元まで上がってくる。

 

『たのしみね、おりんの企画』

 

 私は、息を呑み、笑顔の翼さんに伝える。

 

『いっ……一緒に歌って欲しいんです!!!』

『ええ、一緒に歌いましょう』

 「おりん、良く頑張った」「泣いた」「大 勝 利」「おりん優勝シリーズ」「ありがとう翼さん」私の気持ちを代弁するようなコメントが流れていく。

 

 私は今日という日を絶対忘れないだろう、こんなに楽しい気持ちで、こんなに嬉しい気持ちで歌う事が出来るなんて。

 私は半ば涙声になりながら『ORBITAL BEAT』を共に歌った。

 

 この曲を選んでくれたのは翼さんだった、私は負けない様に必死に歌った、私の全てを懸けて歌った。

 

 この時を7万以上の人が見ていてくれたのがとても、嬉しかった。

 

 

 

 こうして私達の初めてのコラボ配信は無事に終わった、いつか第二回の約束も交わして。

 

 

 

 ただ翌朝、おりんメトロノームというタイトルで私達の昨日の配信の切り抜きと私の醜態を交互に見せていく動画が動画サイトで日間一位になっていて、恥ずか死しそうになった。



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変わらなければいけない事

 私達の配信のネット上での反応は好評だった、多少私の正体を探る様なものが増えてしまったとは言え「たのしそうな」翼さんを見れただけで大きな価値があったようだ、私もそう思う。

 

 私のアカウントへ寄せられるコメントも荒らしが殆ど湧かず、むしろ徹夜FPSでゲロ吐いた時よりは少ないレベルである、あの時はひどかった、10割私の落ち度だったが、汚い音を音MAD素材にされた時はちょっと泣きそうになった。

 

 さて、エゴサーチエゴサーチ、一に二にエゴサーチ三四にエゴサーチである。

 

 私はあくまで闇の者、光に当たりすぎて干からびたナメクジになってはいけない。

 しっとりヌメヌメ暗黒ナメクジであり続ける事が私に求められている事なのだ。

 

 ちなみに昨日はかわいいに振りすぎたのでしばらくは容赦なくブチかましていくつもりであり。

 

 それにしても、とても美しいものを見られた。

 

 私にとってこの世で最高に綺麗な存在とは翼さんである、その翼さんの笑顔は最上である。

 

 

 その笑顔を守る為にならやはり、私も努力しなければならないのだろう。

 とはいえ具体的に何をすればいいのかわからないので司令の所でいつもの様に特訓を受けるつもり……でも司令もなんか時々用事で出掛けてしまう事があるし、そういう時はどうしよかと考える。

 

 私も時々は出掛ける、それは機材の入手や、日用品の入手の為……せっかくだからバイノーラルマイクでも買おうか。

 

 とATMで通帳の残高を確認する。

 

 ビビる。

 額が凄い事になってた。

 

 とりあえず必要な分だけ下ろし、一度家に戻る。

 

 そして「男装」し、再び家を出る。

 

 

 私はナンパが嫌いだ、マジで滅びろと思うぐらいに嫌いだ、故に街に出る時は絶対に男装をして女らしさを出さない。

 声も相応に「少年」らしさを出す、いわゆるイケボだ、これも練習した、萌え声と違って結構苦労した。

 

 変装は完璧、いざ買い物へ。

 

 

 街の様子は普段と変わらない、凄く平和、昔の私ならば街の様子なんて気にもとめなかっただろう。

 今は違う、この平和は翼さんや立花さん、それに二課の皆さんが守りたいモノなんだと思う。

 

 ノイズ、私が今、何よりも嫌いな存在。

 こいつらが存在するから、翼さんは笑顔で歌い続ける事が出来ない、こいつらが存在するから立花さんも戦い続ける事を選ばされる。

 

 私はどうだろう、何が出来るだろう。

 ノイズと戦う力を持っていて、何もしない、なんて、もう出来ない。

 

 私も戦えばいいのだろうか、翼さんが皆の笑顔を守る為に戦うなら、私が翼さんの笑顔を守る為に戦う、それが私に出来る事、なんだろうか。

 

 …………。

 

 でも死ぬのも、傷つくのも怖い、それよりも、私が傷ついて翼さんの笑顔が曇るのはもっと嫌だ。

 

 私は何もせずに、ただ日々を繰り返していればいいのだろうか?

 

 ……いやそれは許されない、私は。

 

「っと!危ねぇぞ!」

 

 思考に呆けていたせいで危うく川に落ちる所だったが寸前の所で誰かに引き止められる。

 

「ああ、ありがとう。考え事をしてて」

 

 その少女は凄く、その、酷い格好をした少女だった。

 

「礼ならいい、次から気をつけろよ」

 

 可愛らしいのに、なんでそんな格好をしているのか、家出……?いや家出にしてはあまりに手荷物も無いし……。

 

「ちょっと失礼」

「なっなにすんだ!?」

 

 いやでも、ちょっとお手を拝借、肉付きはちょっと悪いし傷だらけ。

 でも普段から虐待されてるならもっと酷い状態の筈、前にテレビの特集で見たのとは違う。

 

 とにかくこのワケあり少女には恩がある、川に落ちずに済んだという恩が。

 

「ちょっと時間があるなら食事と風呂と着る物を用意してあげるけど」

「ッ!!アタシに体を売れってか!?ナメんじゃn」

「ごめんごめん、私も女だよ。男避けの男装だよ」

「びっくりさせんな!このバカ!」

 少女に思いっきり頭をひっぱたかれる、ちょっと痛かったぞ今のは。

 

「私は加賀美詩織、今さっき川に落ちそうになってたのを助けてもらった恩により助太刀申す」

「助太刀ってなんだよ!?」

「まぁ、その格好的に行き場所がないんでしょ?ワケありなんでしょ?」

「……まぁそうだが」

 

 これは濃い闇の匂いを感じる、いやこの少女が匂うというわけではなく、なにやら事件の香りである。

 

 こういう時は大人を頼るに限る、がその前にこの格好ではかわいそうなので……。

 

 

 

 …………はて、私はこんな事をするようなキャラでしたっけ?

 

 ……でも翼さんなら絶対見捨てないだろうし、見捨てたらとてもじゃないけど顔向けできないよね。

 

 平和への道も一歩から、私に出来る事をしていこう。

 

 

 

 少女、雪音クリスを家に招く、ボロは始末し、着ていた服は洗濯、風呂に入らせて、私の着替えを与え、簡単な料理を出す。

 

「わりいな!飯まで食わしてもらって!」

 

 食べ方が汚い。

 

「まぁ、がっつくのもいいけど、その、詰まらせない程度にね。食事は大事だ、おいしいものを食べれば気持ちが楽になる」

 

「同感だな!」

 

 とりあえずクリスさんが料理を食べ終わるのを待って私は問う。

 

「私は詳しい事情は聞かない、けれど。これから先何が欲しい、何がしたい?それを教えて欲しいなって思う」

「聞いてどうするんだよ」

「私に出来る事をする」

「簡単に言ってくれるな」

「聞くだけならタダだし、なんだったら食事だけでも来たらいつでも出してあげる」

「それでアンタに何の得があるんだよ」

 

「私は何かがしたい、大事な人の為に努力しなきゃいけないって気持ちになって、ずっと答えが出ない、あなたを助けたらその手がかりが掴めるかもしれないと思ったから……そんな打算だよ」

 

 警戒心を解くには善意だけではダメだ、闇や影も見せる事が一番だ、陰キャは闇に惹かれるのだ。

 

「……あたしは、自分のした事の尻拭いをする、それだけだ」

「そっか、それは一人でしなきゃダメな事?一人で出来る事?」

「しなきゃダメなんだよ、アタシは……」

「あなたがそう思うなら、私は応援する。罪というのは最後に許せるのは自分だけだから」

「押し付けないんだな、アンタは」

「私も日陰の住人だからあんまり押し付けの善意をやられると日に炙られるミミズみたいになっちゃうから」

「アイツとは逆だな」

 私とは逆、何故だか立花さんの姿が浮かんだ。

 

「そのアイツっていうのが誰かわからないけど、私の近くにも善意モリモリの陽キャがいるからね……」

「ああ、でもアンタは話しててなんか安心する。まるでベッドの上に寝転んで、電気を消した時みたいな安心感だ」

 

 よく日陰みたいな安心感とは言われるがここまで言われたのは久しぶりだ、よっぽど穏やかな闇が好きらしい。

 

「闇はいいぞ~クリスさん、光は眩しく熱くなりすぎて辛くなるときがあるけど闇は相手にも自分と同じダメな所があると教えてくれる」

「そんなのがいいのかよ」

「いいの、そうすれば相手を許せる気になってくるから」

「ふ~ん、そういうものかよ」

 

 そうだ、誰しも闇は絶対に持っている、それを隠し続けるとむしろ何を考えてるのかわからなくて私は怖くなる。

 私が立花さんとか司令が苦手な理由はこれに近い、立花さんは闇を隠そうとしすぎ、司令はそもそも闇が筋肉でみえねぇ。

 

 翼さんは、時折悲しそうな顔をする、それはやっぱり「奏さん」関係の所なんだなって予想はつくから、ちょっと闇が分かる。

 

 目の前のクリスさんは今の所、闇ばっかりだけど自責の念が強く出てる感じがする。

 

 だから自分を許して前に進める様にしてあげれば、多分、クリスさんの問題は解決すると思う。

 

 

 多分。

 

 自信はあんまりないかなぁ……。

 

 でも、なんだか私は元気が出てきた気がする。

 

「まずは誰かを許す、そして次に自分を許す、そしたら多分、クリスさんのやりたい事は叶うんじゃないかな?」

「……そうかよ」

「少なくとも私はクリスさんと話が出来て、自分の考えが纏まった気がする。ありがとうね」

「………そうかよ」

 

 そして夕暮れ頃、クリスさんは我が家を後にした。

 一応連絡先は教えておいたのでまたいつでもウェルカムとだけ伝えておいた。

 

 私も、歩み寄るフェーズに差し掛かってるのかなぁ……恐れるだけじゃダメかな。

 

 

 滅茶苦茶汚れたテーブルを片付けながら、今日の配信のテーマを考える。

 

 そうだ、今日はせっかくだからバイノーラル懺悔室をやろう。

 

 罪の告白に対して許しを与えていく、これ完璧だ。

 

 

 

 

『あなたの罪、許します。まず一件目「白状します、おりんの吐いた音で音MADを作りました」てめぇかよ!!!絶対許さねぇからな!?』

 「鼓膜を破壊するな」「許してなくて草」「いつものおりんだ」やっぱり許せねえわ……。



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あなたの歌を守りたい

 遂に翼さんのライブの日が来た、入場までまだまだ時間があるので街を散策する、当然ながら男装である。

 

 今日は配信は休み、翼さんのライブを楽しむ為だけに全ての用事はキャンセル、あるいは始末してきた。

 

 

 会場は、かつてあの「惨劇」があったあの場所。

 

 ツヴァイウィングの片翼である「天羽奏」が死んだ場所。

 

 そこで歌うという事は、翼さんはあの惨劇を、奏さんの死を乗り越えたのだろうか。

 その答えはきっと今日の翼さんの歌でハッキリするだろう。

 

 

 

 私は天羽奏という人をよく知らない、ツヴァイウィングとしての彼女、ガングニールの装者だった彼女、そして死んでしまったという事、そして立花さんが装者になる理由となった事、それぐらいしか知らない。

 

 だから私が彼女の事を話題として出す事はない、翼さんを傷つけてしまう事が怖いから、翼さんに嫌われる事が怖いから、彼女の話題は私の中ではタブーの様なモノになってしまっている。

 

 

 

 …………。

 

 いつも考え事をしながら歩くと人気の無い場所に向かうのは私の悪い癖だ、まだまだ17時、時間には余裕がある、いざとなればタクシーを呼んでもいい、それだけの財力は今の私にはある。

 

 

 打ち捨てられたベンチに腰をかける、これ以上フラフラして迷子になって翼さんのライブに間に合わなくなろうものなら後悔しても仕切れない、多分しばらく寝込むだろう。

 

 ……私にとって相変わらず翼さんは、輝くステージの上の存在だ。

 でも翼さんは私に何処に居て欲しいのだろう?

 

 傍観者、配信者であった私にとって「友達」とは未知の距離、一体何処を歩けばいいのだろう。

 

「隣、いいか?」

 

 ふと聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げる。

 

「クリスさん、また会いましたね」

「おう、何か悩んでるみたいだったからな」

「それじゃまるで私の悩みを聞きに来たみたいじゃないですか」

「あるんだな、悩み」

「常にありますよ、人は悩みと闇からは逃げられませんからね」

 

 今日はそんなに汚れも傷もない様な格好をしている、少し安心する。

 この謎の少女は一体どんな理由でさまよっているのだろう。

 

「じゃあ、お悩み交換会でもしましょうか」

「なんだよそれ」

「私、配信をやってるんだけど、よくダンg……リスナーの皆と悩みを打ち明けたり、一方的にぶつけたりして発散してるんだ」

「あんたのリスナーってなんだか迷える子羊みたいなイメージがあるな」

「ただのダンゴムシですよ、石の下にいる様な日陰の生き物みたいな奴らです」

「すげぇ例えだな……じゃあアンタの悩みを打ち明けてみろよ、言いだしっぺの法則って奴だろ」

 

 すごいコミュ力ですよねクリスさん、たった二回会っただけでグイグイ距離詰めて来ますね、これはきっと根は陽キャなんでしょう。

 今はきっと大きな闇を抱えているだけで、彼女の本当の居場所は「ひだまり」な気がしますね。

 

「私、友達って分からないんですよ。憧れの人にせっかく友達と呼んでもらえたのに、何処に居ればいいのかまったくわからないんです。はっきり言って、その人の隣に居るに相応しいだとか相応しくないだとか考えてしまうんです」

「難儀な奴だな、アタシに今こうしてるみたいに隣に居てやればいいんじゃねぇか?」

「それはあなたとの関係がそんなに深くないから出来ているんです、私が怖いのは幻滅、あの人に嫌われたら生きていられない、かもしれません」

「……わからなくもない、な」

「私は吐き出しました、次はクリスさんの番ですよ」

 

 それにしても、私らしくもありませんね。

 やっぱり翼さんや立花さんと出会って、私も変わったか……それとも変えられたのかもしれません。

 昔の私なら最初にクリスさんと出会った時、そのままその場を後にしていて、こうして二度も関わりを持つ事もなかったし、こうやって悩みを打ち明けあうなんて、とてもしなかったでしょう。

 

 私も変われるのだろうか、臆病なままではなく、勇気を持った人になれるだろうか。

 

「アタシは、迷ってるんだ。差し出された手を取ってしまうか、それともこのままで居るか」

「取ってしまえばいいんですよ」

「簡単に言うなよ」

「だって現状詰んでるじゃないですか、衣食住足りてないんですよ、礼儀だとか思想なんてものは足りてる時にやってしまえばいいんです」

 

 私が小学生ぐらいの頃、両親が食べ物を家に買い置きしてない時期があった、そのせいで夜遅くまで飢えに苦しませられる様な時代があった、その頃はまともに思考もできず、まるで檻に入れられて飢えた獣みたいな生活でした。

 

「そんな、簡単な事かよ」

「なんなら、私の上司に言って色々用意できますよ。こう見えて国がバックについてるので」

「はぁ!?ナニモンだよお前!?」

「表の顔はただの学生、裏の顔は人気配信者、そしてその正体は正義のヒロイン」

「いや、わけわかんねぇからさ……」

「とまあ冗談は置いておいて、大人は信用できませんか?」

「……ああ」

 

 うーん、やっぱり大人への不信感かー、虐待かそれに近い状態ですよねぇ……。

 やっぱり司令に仕事でも斡旋してもらって……自立・あるいは独立して貰うのが一番でしょう!

 

「なら大人になってしまえばいいんですよ、どうせ人間いつかは歳を取って大人になるんです。私も仕事してますし、そういう法に詳しい人が知り合いにいるからまずは自立した生活できる様になりましょう?それから悩みに向き合っていけばいいんです」

 

 解決できない問題は先延ばしにしてもいいと思う、大事なのはやっぱり今生きる事だよ。

 

「アンタ、どういう生き方して来たんだよ……」

「ぶっちゃけ両親に放置され気味で何度も死に掛けたのでとっとと一人で生きれる様になりたかったんですよ、中学生の頃から既に配信で稼いでましたからね、私」

 これはちょっとしたイキりだ、アフィリエイトとか投げ銭で自分の小遣いは賄ってました。

 

 両親から放置されてる件は、まぁ、うん、今も解決してないけど。

 

 とまあ話し込んでいたらこんな時間だ、そろそろ会場に向かわないと。

 辺りは大分暗くなってしまっているし……。

 

「ッ……!?」

 するとクリスさんが何かに気付いたらしく、私の腕を掴んだ。

 

「どうしました?」

「炭だ、ノイズが近くに居やがる」

 

 確かによく見ると風に乗って黒いモノが舞っている。

 

 てか、はぁっ!?なんでこんな時にノイズ!?待ってこれじゃあ翼さんが「戦わなきゃいけない」じゃん!!!

 翼さん、これからライブなんだぞ!?

 

 ありえない、せっかくの翼さんのライブが見れないとかマジでない。

 

 …………それに、ライブを楽しみにしているのは私だけじゃない、大勢のファン、それに翼さん自身。

 この間、チケットを渡してくれた時、とっても嬉しそうにしてたんだよ!!!

 

 それをこの空気の読めないノイズどもは……。

 ノイズ……。

 

 そうだ、あるじゃないか、私の手には。

 

「ごめん、クリスさん、ちょっと内緒にして欲しい事があるの」

「こんな時になんだよ、危ないから逃げるぞ」

 

「私、ノイズと戦えるの」

 

 私の端末に着信が入る、それは二課からの連絡だ。

 

『はい、加賀美です』

『加賀美くん、すぐにその場から離れろ!ノイズの反応を検知した!』

『司令、私。戦います』

『加賀美くん!!』

『翼さんはライブを楽しみにしてました、いつも守られている分、今日くらいは私が守ってもいいじゃありませんか』

『待て、加賀美くn』

 

 端末の電源を落とし、胸のペンダントを手にする。

 

「おい、アンタ……それは……」

 クリスが私の腕から手を離す。

 

「表の顔はただの学生、裏の顔は人気配信者、そしてその正体は正義のヒロイン、さて……この中で嘘はどれでしょう」

 

 イカロスの聖詠を唱える、闇の中、更に黒い闇が私に纏わりつき「月」の様な灰銀の装甲を纏う。

 

「正解は人気配信者、所詮はちょっと最近流行ってるだけの配信者にすぎないの」

 

 これは私なりのジョーク、クリスさんを安心させたいが為の。

 

 果たして私にクリスさんを守りながら戦う、なんて事が出来るかはちょっと不安ですが。

 

「大丈夫……大丈夫です、クリスさんは私が守りますし、ノイズは全部倒しますから……」

 

「何が大丈夫なんだよ、震えてるじゃねぇかよ」

 

 すると再び、クリスさんが私の手を取る。

 

「アタシも戦うよ」

 

 するとクリスさんが「その歌」を口ずさむ。

 

 眩い光と共にその姿を現したのは、間違いない、私達と同じシンフォギア。

 

 

 ――その子もシンフォギアを持っていたの

 

 それはいつだったか、立花さんから聞かされた相談事、敵対していた少女がシンフォギアを纏っていたという話、その時はハイハイと聞き流していたが。

 もしかして、それってクリスさんの事だった……?

 

「大丈夫だ、アタシはお前を信じる。大人どもみたいに私に変な同情だとかで近づいたんじゃないって、だからとっととノイズ共を倒しちまおうじゃねぇか」

 

 ……そうですね、今はそんな事はどうでもいいんです、翼さんのライブを、翼さんの歌を守る為に。

 

 私は戦うんです。

 

 

 



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今、飛び立つ時

 

 

 

 夜の闇に紛れ、二人、空を飛んでいた。

 

「本当にやれんのかよ?無理があんじゃねぇか?」

「飛べてはいるから大丈夫な筈です」

 

 フェザークロークをクリスさんのギアと連結、つまりは二人羽織状態で、ヘリでロボットを輸送するかのごとく飛行する。

 

「足元が無いから不安なんだが」

「クリスさんの頭が胸に当たって違和感がありますけど、大丈夫です……っう」

「お前今「くさい」って感じの声出しただろ!?」

「なんでそんなに鋭いんですか!確かにちょっと匂うなって思いましたけど」

 

 今からとても戦場に向かう様なやり取りじゃない気もするが、無駄に緊張しない分いいかもしれない。

 なんでこんな奇妙な格好で戦う事になったかというと、純粋に私の火力不足である。

 

 私のメインの武器はゴミの様な威力の機関銃のみ、ぶっちゃけノイズとやりあうには不安がある事を正直にクリスさんに話したら、こうなったのだ。

 

 

「っと敵が見えてきたぜ、撃ち始めるけどしっかりと飛んでくれよ!」

「じゃあ、しっかり当ててくださいね」

 

 通りを好き勝手に暴れるノイズ共が眼下に見える、クリスさんの腰のアーマーが展開し、次々とミサイルが飛び出し、4門のガトリングがノイズを爆発と共に黒い炭へと還していく。

 

「もうちょっとスピード上げても狙えるな!」

「撃ち漏らしは勘弁してくださいよ!」

 

 まるでシューティングゲームの自機になった様な気分だ、パイロットが私でガンナーがクリスさん、いつだったかリスナーの方とやったSTGの協力プレイを思い出す。

 

 クリスさんのギア、イチイバルは広域殲滅が得意、けれど撃ってる間は移動が疎かになって隙が出来る、それを私のイカロスが足となる事で動きながら撃つ事が出来る。

 とても合理的だ。

 

 っと目の前の要塞の様なノイズが私達目掛けて砲撃を仕掛けてきたので、それを回避、回避、両腕の機関銃で迎撃――

 

「うるせぇ!撃つなら一言先に言え!」

 怒られた、よく考えたら確かに頭の上で急に銃声がなったらびっくりするわな。

「すみません、しかし手持ち無沙汰だったので」

 

 地上から対空砲火の如く飛び上がってくるノイズを次々と撃ち落していくクリスさん、私は要塞ノイズから発射される砲弾を機関銃で撃ち落していく。

 

 しかしあの要塞ノイズ、先ほどからちょくちょくクリスさんがミサイルを撃ち込んでいるというのにびくともしません。

 

「何か火力のある武器はないんですか、あれ効いてませんよ」

「うるせえわかってんだ!あるっちゃあるが姿勢のせいで撃てねえんだよ!背中から肩が自由になんねぇと」

「だったら体位変えますか、ちょっと体真っ直ぐにしててくださいね」

「こうか?」

 

 フェザークロークを伸ばし、私とクリスさんが向き合う形で羽織る、なんというか……そのクリスさんの大きな胸が当たってやわらかくて、ちょっと恥ずかしいんですが!!この際気にしない事にします。

 

「って、アタシ前見えねぇじゃねぇかよ!!」

「大丈夫です、私が発射タイミングを指示するんで武器の用意とトリガーを引くのはお願いします」

 

 要塞ノイズの砲撃を回避しながら、バレルロールをする。

 飛行訓練で散々練習したおかげで多少クルクル回ってももう酔わなくなりました、本当に司令には感謝しかない。

 

 だが。

 

「うぇっ………」

 

 下を見るとクリスさんの顔色がよくない。

 

「ごめんなさい、酔った?」

「な……なめんじゃねぇ……ぞ!」

 

 どうやら大丈夫そうだった、4機の巨大なミサイルを腰のハンガーから展開するクリスさん、私は高度を上げ、要塞ノイズの真上を取る。

 

 そして、真っ逆さまに落下を開始する。

 

「今です!」

「ぶっ飛べ!!!」

 

 そうクリスさんが叫ぶとミサイルは凄まじいスピードで次々とノイズに突き刺さり、大爆発を起こした。

 

 私は爆発の炎を回避し、勝利の旋回、そして地面に両足でランディングし、フェザークロークを解除……

 

「うっ……うおえっ!」

 ってクリスさんが■いたァーッ!!!!!!

 嘘でしょー!?ありえんって!!!

 

「なんてことしやが、ウォェっ……」

 

 即座にクリスさんをクロークから切り離すと私は地面に膝と手をつき――■いた。

 

 貰っちまったぜ、キツい奴。

 

 こうして、私の初めての戦いは勝利と最悪の結末を迎えた―――。

 

 

 

 シンフォギアのストレージ機能とバリアコーティングには本当に感謝しかない、汚いキラキラを浴びてもギアを解除すれば綺麗さっぱりだ。

 

 端末を起動して時間を見れば、もう翼さんのステージは終わってしまっていた。

 

「あー……最悪だよお前、人をブンブン振り回しやがって……」

「すみませんって……私はいけると信じてやったんですよ」

 

 さっきからクリスさんが恨めしげな視線とボヤきを向け続けてくるがとにかく勝利の為の必要な犠牲だった。

 いわゆるコラテラルダメージです。

 

「で……どうすんだよ、あたしを無理矢理にでも連れて行くか?」

「しませんよ、そんなこと」

 

 私がクリスさんが敵対していた装者だと気付いた様に、クリスさんも私が二課の装者だと気付いた。

 けれど私はクリスさんを拘束して二課に連れて行くつもりはない。

 

「私は貴女の意思を尊重します、クリスさんが来たいと思った時にでも来てください」

 

 一緒に戦った仲ですし、そもそも私が無理にクリスさんを連れて行こうにも返り討ちにされるのがオチです。

 

「お前、本当に変わってんな。アイツらの仲間なら無理にでもアタシを追っかけてくると思ったんだがな」

「私を立花さんみたいな陽キャと一緒にしないでくださいよ、私は自分からそういうグイグイいける性格じゃありません」

「あんなに熱くなってたのにかー?」

 

 確かにちょっと、私らしくなく、熱くなってしまってましたがそれは。

 

「それは……大事な人の晴れ舞台を潰されたくなかったから……」

「ははーん、アイツだな。風鳴翼」

「っ!?」

「図星かーそっかそっかぁお前の言っていた友達っていうのは風鳴翼の事だったかぁ~そりゃ立ってる場所が違うわな~」

 

 ……そうだ、翼さんはとっても有名な人だ、沢山のファンがいて、私なんかが……。

 

「でも、だからこそ横に居てもいいんじゃねぇか?」

「えっ」

「なんでもねぇ、ただちょっと……一人は寂しい、だろうなって思っただけだ」

「クリスさん……」

 

 ……彼女が前に言っていた尻拭いとは、二課と敵対していた時の事なんだろう、最初はノイズを操っていたらしいけど、今は逆にノイズと戦っている。

 それはきっと「仲間」を裏切ったか、捨てられたか。

 

 ならば、私も勇気を出してみようと思う。

 

「クリスさんも、一人が嫌になったなら、いつでも……私の所に来てくれてもいいんですよ?」

 

「はっ、んな事できるかよ、これ以上お前に迷惑はかけたくねぇ」

「そんなに迷惑に思ってない、むしろ私の知らない所で死なれてたりしたら……」

 

 ……ふと力が抜けて尻餅をついた、戦いが終わって、安心したのかな?

 

「大丈夫かよ?」

 

 ……私、死ぬ所だったのかも。

 

「ごめんごめん、これが初めての戦いだったから、ちょっと気が抜けたら、急に……怖くなって」

「……だから無理すんなって言ったんだ」

 

 はぁ、とクリスさんが溜息をつき、再び聖詠を唱えてギアを纏った。

 

「家まで送ってやる、しっかり掴まってろ」

 

 すると私を抱え上げ、まるでお姫様抱っこみたいで……これは……恥ずかしいッ!!

 

「……クリスさんはこれからどうするの」

「これから考えるさ」

「また会える?」

「……その気になりゃあな」

 

 夜空を飛ぶ、まるで夢の様な時間。

 

「思うんだけどよ、アタシとこんなに話せるなら、大丈夫だろお前」

「でも……」

「もっと自信を持てよ、あんたのお友達だってこうやって話したいと思ってるかもしれないぜ?」

 

 ……そうかな。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎる、見慣れた我が家の前についてしまった。

 

「んじゃ、アタシはここで失礼させてもらうぜ」

「ありがとうね、クリスさん」

「……いいってことよ、んじゃ」

 

 それだけ言うとクリスさんはまた高く跳んで、去っていく。

 

 私は端末を手に取り、二課に連絡を取る。

 

『加賀美くん!無事だったか!』

 通信に出たのは司令だった。

 

『はい、勝手な行動をしてすみませんでした……この処罰は受けるつもりで……』

『いや、それはいい、君の行動のおかげで確かに救われた者はいたからな……それよりも一人で大丈夫だったのか?』

『いいえ、さっきまで雪音クリスさんと行動を共にしてました、彼女と共同でノイズを倒しました』

『そうか、彼女が……とにかく無事でなによりだ、今は何処だ?』

『家の前です、それより翼さんのライブは』

 

 そうだ、それが一番気がかりだった。

 

『大成功だった、彼女の笑顔を守ってくれた事、感謝する。けれど次からはもっと慎重に行動するように、報告連絡相談は大事だぞ』

『……はい』

 

 よかった、私は見れなかったけど……。

 

 …………。

 

『ああ、そうだ。翼のライブの録画を送っておこう、君も楽しみにしてたものな』

 

 ……司令、めっちゃ気遣いの民じゃん……ありがとう……ありがとう……。

 

 はぁ、今日はなんだか色々あって疲れてしまった。

 

 けれど、なんというか。

 

 

 悪い気分ではない、かな。

 



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一人だけの時間、二人だけの時間

 

 今日は少しばかり気分が優れず、学校を休む。

 原因はまぁ、なんというか。

 

 

 翼さんのライブを会場で見れなかった事だ。

 確かに司令が録画していてくれたおかげで中身を知る事は出来た。

 だがそれ故に、それ故に、尚の事、会場で見れなかった事が悔やまれ。

 なによりも誘ってくれた翼さんに申し訳ない気持ちが山積みとなって仕方が無い。

 

 ぶっちゃけ、翼さんに会うのが怖い。

 

 所謂、逃げの休みである。

 

 

 相変わらずこういう所は変えれない、変われないなーと思う。

 自分の気が進まない事は後回しというか、逃げれる限り逃げてしまうのは性分か。

 

 さっさと翼さんに会って謝った方が絶対楽だろうけど……それが出来たら私は陰キャじゃない。

 

 

 せっかくだから休もう、最近は色々あって心がもう息苦しい、やっぱり一人でいる時間は大事ですね。

 本当に最近はクリスさんや翼さん、立花さん……他にも多くの人と話す機会が多くて疲れます。

 

 話す事自体は嫌いじゃないんですが、脳を使わない脊髄トーク、ゲーム配信の時の様なものがやりたい。

 

 机を見れば積みゲーがいつの間にか増えている、装者を始めてからゲームをしている時間も減ってしまった、四六時中戦う事だとか皆の事だとかで脳を埋め尽くされて……はぁ。

 

 

 

 やるか、サボりゲリラ配信。

 

『おはおりーん、こんな時間に見ている貴様らは何者だ~?おりんは今日はちょっと休みをとったよ』

 「サボりん」「夜勤だゾ」「ニートォ!」いつもより遥かに少ない1000人程度のリスナー、そうそうこれだよこれ、懐かしの少人数配信だ。

 

『いや~昨日の翼さんのライブは凄かった、感動したねぇ……っと今日はゲーム配信、積みゲー消化をするよ』

 「おりんなら行っていると思った」「昨日は配信がなくて寂しかった」「何のゲームかな」ちょっと刺さる言葉もあったが、とにかく気を取り直し、積んでいるゲームから一本選ぶ。

 

『BLゲーはもっともがき苦しむ人達が多い時にやりたいから、今日はSTGかな~』

 なんだか昨日の戦いを思い出しますが……まぁそれはそれとして、比較的好きなジャンルです、スコア稼ぎで行くか、縛りで行くか。

 

『よし、今日はボム無し機銃縛りでやっていこうと思います』

 「久しぶりにおりんのSTGだ」「これボム縛りって死なない?」「機銃縛りのがスコアは取れる、難易度は……うん」今日やるゲームはスタンダードなタイプのSTGだからアイテムを取って敵に撃ち込んだ分がスコアになる、威力が上がってしまうと敵に撃ち込める数が減ってスコアも減ってしまう。

 

 初見プレイだけど、鍛えてきたこの動体視力でェ~!!!!!!

 

『いかんいかん危ない危ないなんでいきなり寄せてくるんですかこいつ』

 「初見かよ!?」「イキりん失敗」「草」「避けれるのか(困惑)」敵がレーザーを出したまま近づいてくるのを必死に回避しながら弾を撃ち込んで行く。

 

『オラッ!この距離なら拡散角度足りないだろ!おら!』

 「他人との距離は詰められないのに敵との距離は詰められる女」「肝が据わりすぎ」「追い詰められたおりんは凶暴だからな……」コメントが目に入らないくらいゲームに熱中する、今の所ノーミス、さすが私だ。

 

 ……滅茶苦茶アイテム取りこぼししてるせいでスコアが全然伸びてないのは見ない事にする。

 

『あ、無理ですボム解禁します』

 「やっぱりな」「それでもミスしてないの頭おかしいよ……」「ボムを使うな」しかしちょっと無理が出てきたのでボムを使う事にした、このゲーム……なかなかやりおる。

 まぁSTGは動体視力も大事ですが基本は敵の配置覚えないといけないから初見は厳しいんですよねぇ。

 

『滅茶苦茶楽になったんですが、なんですかボム強すぎませんか?力に取りつかれてしまいませんかこれ』

 「ダークサイドに墜ちるおりん」「元からおりんは闇だろ!」圧倒的パワーでゴリ押し、ようやくボスを倒し一周完了です。

 

『さてノーミス完走した感想ですがこれボム無し無理ですね、ボム前提難易度ですよこれ……』

 「いったろボム無し無理だって!」「でも初見ノーミスっておかしいって!」「おつおりん」意外とエキサイトしてしまったが為に疲れました、とりあえず昼間の配信はここまでにしましょう。

 

 

 はぁ、たまにはこういう騒がしくない配信も悪くないですね、昔を思い出します。

 

 まだ私が中学生で、配信始めたての頃、リスナー数なんて100いれば上等、酷いときには10人しか居ませんでした。

 あの頃は媚媚のキャピキャピなキャラで売り出してリスナー数を稼いで、まるで所謂オタサーの姫みたいな奴でしたけど……投げ銭で機材更新してからは正体を現してゲーム配信とラジオ配信を始めて一気にリスナー数2000まで駆け上がりました。

 おかげで「正体現したね」だとかいわれましたけど、本性を剥き出しにしてからは随分たのしくなりました。

 

 取り繕う必要がないというのはいいものです、そのままの自分でいれる事の幸せ、はぁ闇はいいぞぉ……。

 

 

 すると、まだお昼だというのにインターホンが鳴る。

 居留守です。

 インターホンが鳴る。

 居留守。

 電話が鳴る。

 出る。

 

『詩織、大丈夫?』

『え、翼さん?』

『また居留守使ってたわね』

『今出ます』

 

 バカな、なんでこんな時間に翼さんが……というか翼さんかぁ……。

 

 その会うの怖いなぁ……。

 

「次からは最初から電話する事にするわ」

「そうしてください、うちはセールスの対応とか面倒なので基本インターホンじゃ出ないので」

 

 勇気を出してドアを開け、翼さんに家に上がってもらう。

 

「今お茶出しますから」

 

 一体何をしに来たのだろう、というか学校どうしたのだろう。

 

「その前に」

 

 えっ。

 

 なんで私。

 翼さんに抱きしめられているんですか。

 

 しかも正面から。

 

 え、ちょっと。

 抱きしめられる理由を!!

 

「ありがとう、詩織。私の事を、私の夢を守ってくれて」

 

「エッ…・・・アッ……わ、私としてはですね!?当然というか!……大事な人のッ夢を守るのは当然です!」

 

 いかんいかん変な声でてる、上擦りすぎ!

 翼さんあったかすぎ!

 

「でもそのせいで楽しみにしてたライブ見逃したでしょ?」

「……はい」

 

 いじわるな笑みを浮かべる翼さん、なんだ!?何を思いついたんだ!?

 というか顔と顔が近い!翼さんの顔が近い!!!!

 

「だから、歌いに来たんだ。詩織の為だけに……ね?」

 

 ね?って何……かわいすぎかよ……また鼻血噴出す所でしたよ……。

 

「が……がっこうはどうしたんですか」

 

「サボって来ちゃった」

 

「来ちゃったじゃありませんよ!?何してるんですか!?」

 

「それとも詩織は聞きたくないの?私の歌」

 

 困ったような表情をする翼さんに私は、私は……。

 

「き……聞きたいです……」

 

「わかってたわよ。ふふっ……」

 

 つ……翼さんのい……いじわる……私が翼さんのあらゆる事を断れないって分かってやってるでしょう!?

 

「でも、本当に嬉しかったけど、同時に心配したのよ、あなた実戦初めてだったじゃない。だから今のは私を心配させた罰、もう少しこのままで居て」

 

 アーッ!だめですだめです……もう全面降伏です、私は翼さんには一生勝てませんよこれ。

 

 こんないたいけなクソザコをいじめて楽しむ翼さんは本当に酷い人です!

 

「詩織は体温が低いのね」

「あっあっあ……つ……翼さんが熱すぎるだけです!」

「急に熱くなったわね」

 

 アッ……アア……ちょっと翼さん、それわざとやってるんですか!?

 私の心を弄ばないでくだされ!!

 

「そうね、このまま歌いましょうか」

 

 えっ…・・・えっ!??!!??!?!

 

 翼さんの顔が私の耳元に……

 

 ―――!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 だめです、これは死んでしまう。

 腰が抜けてしまいました。

 

 翼さんが私の耳元で歌をフルで囁いて、私の脳味噌は多分今9割死滅しました。

 

「その、大丈夫?詩織?」

 

 床にへたり込んでしまった私の隣に座る翼さん、というか翼さんの声が聞こえるだけでまだゾクゾクする。

 

「つ……翼さんは、ひどいひとです、どこでそんな技を……」

「詩織のバイノーラル囁き配信を参考にしたの、初めて聞いた時は私もすこし背筋がゾクゾクしたわ」

 

 あ……あれかぁ~墓穴掘ったぁ~~~。

 

「多分、ですね……私は今その数千倍ぐらいの威力を受けました、瀕死です、ちょっと、ちょっと休ませてください」

 

 本ッ当に翼さん、とんでもない事してくれますね、ええ。

 

 私の脳味噌がプリンからシェイクになってしまいました、体中熱いし、もう散々ですよ。

 

「ふふっ……本当に詩織は私の歌が好きなのね」

「……はい、でもその歌の使い方は危険なので勘弁してください、壊れちゃいます」

「壊れたらどうなるのかしら」

「……私にもわかりません」

「じゃあ壊しちゃおうかしら」

 

 あっえっ、もしかして。

 

「じゃあ歌うわよ」

 

 また抱きしめられて……えっ。

 

 エッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 幸せというのも度を越すと、死にますねこれ。

 

 さっきから鼻血がボタボタと……。

 ああ……とうとう翼さんの服を私の血で汚してしまいました……。

 

「そんなに喜んで貰えて、私もうれしいわ」

 

「翼さん」

 

「なぁに?」

 

 なぁにじゃあありませんよ!!!!!かわいすぎか!?

 

「本当にいじわるな人ですよ、あなたは」

 

 

 結局、今日は夜の配信も休む事になった。

 

 翼さんの歌がずっと耳から離れなくてとても他の事に手が付かないようになってしまったのですから。

 

 

 でも、とっても幸せなひとときでした。

 一人では絶対に知る事の出来ない、二人だけの時間。

 

 



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簡単な失墜、あるいは失敗

 私が装者となってもう二ヶ月、色んな事がありました。

 

 本当に色んな事がありました。

 

 

 放課後に一人、校舎の屋上に佇む。

 

 全ての始まりはここでしたね。

 

 一人、何も考えずにここでぼうっとしてた所に翼さんが来て、急に手を握られて付いて来て欲しいと言われて。

 

 あの時は訳も分からず付いていって、装者になって……。

 

 気がつけば随分遠くまで来た気がします。

 

 

「ここに居たの」

「ええ、学校だとここが一番落ち着きます」

「私もそう思う」

 

 いつの間にか翼さんに背中を取られてました、相変わらず私は翼さんに対して弱すぎる。

 

「翼さんと違って、私には夢がありませんでした」

 

「今は違うのか」

 

「……だけど翼さんと出会えたおかげで、探してみようと思えたんです。私の夢を」

 

「見つけた時は私にも聞かせてくれないかな?詩織の夢を」

 

「……はい、必ず」

 

 端末の呼び出し音が鳴る、それは私のだけではなく翼さんのもだ。

 

『ノイズが現れた!翼はそっちに向かってくれ、加賀美くんはリディアンで待機だ』

 

 私はまた留守番か。

 

「そういう事だから……行って来るわ」

「はい、じゃあ私は何時もの様に帰りを待ってますよ」

「そう拗ねるな、詩織のしている事も立派な仕事だよ」

「……無事に帰って来てくださいね」

「当然よ」

 

 私は翼さんを信じて見送る。

 

 もう何度も見送った。

 何度も帰りを迎えた。

 

 だから、今回だって変わらない筈。

 

 すると再び、私の端末が鳴った。

 

『なんですか、司令』

『加賀美くん、もしもの場合……君にも戦ってもらう必要があるかもしれない』

『……何故ですか?』

『今、4体のノイズがスカイタワーへ向かっている。おそらくそれは陽動、もしもこのリディアン……いや、二課本部がノイズに襲われた場合……』

『わかりました』

『いいのか、加賀美くん』

『いいんです、これもお仕事……いえ私のやりたい事かもしれませんね』

 

 通信を切り、空を見上げる。

 白い鳥達が飛び立つ。

 

「翼さんが皆を守るなら……私が翼さんを守れる様に……」

 

 胸のイカロスを握り締め、強くそう思った。

 

 

 

 突然の爆発音と共に巨大なノイズが現れる、司令の予想は当たっていた様だ。

 

 私は聖詠を唱え、灰銀のイカロスを纏い、飛び立つ。

 

 

 眼下では特異対策機動部一課の人々が生徒のシェルターへの避難誘導をしている、まずは彼らの近くに居るノイズを機関銃で掃射する。

 ノイズには位相差障壁と呼ばれるものがあり、それを抜けて攻撃できるのはシンフォギアのみ。

 

「避難誘導に集中してください!!ノイズは私が引き受けます!」

 

 ノイズを私に集中させれば、それだけ死なずに済む人間が増える。

 今使えるメインの武器は機関銃だけだが、小型ノイズを散らすだけならこれで十分、問題は大型ノイズ。

 

 私がイメージするのは「一振りの剣」だ、フェザークロークの配置を変更し、一本の「ブレード」を形成し「機首」に見立てる。

 

「昨日やったSTGにありましたね、ブレード」

 

 巨大なイモムシの様なノイズの横腹に機銃を集中砲火し、ダメージを与え、私はそのまま回転し、加速する。

 

「くたばってくださいよおおおおお!!」

 

 激突の寸前、追加のブースターを「開放」、ノイズの胴体をえぐり、貫通する。

 

「これで一体!」

 

 巨大なノイズは後2体、腕を下に向けて機銃の対地攻撃で再び地上のノイズを減らしていく。

 

「っぶない!」

 

 しかし、巨大ノイズもただボーっとしていてくれればいいものをこちらに向けてブーメランみたいなものを飛ばしてくる。

 危なげなくそれを回避してやり、今度はノイズの「口」に機関銃を叩き込む、すると今度はブレードで突撃するまでも無く爆発してくれた。

 

 だが、最後の巨大ノイズの方を見た時、私は叫んだ。

 

「逃げて!!!」

 

 目の前の巨大ノイズに向けて銃を撃つ機動部隊員達、その後ろから小型のノイズ達が一斉に飛び掛り。

 

 

 

 彼らは皆、炭へと変えられてしまった。

 

 

 

「ッッ……!!!」

 

 初めて見る、目の前での人の死。

 私は、彼らを救えなかった。

 

 足りない。

 

 力が、力が欲しい。

 

 もっと力を!

 

 その思いに答えたのか、イカロスのフェザークロークの肩部の機関銃がパージされ、新たな武装が「開放」された。

 これが足りなかったんだ、私には力への渇望が、足りなかった、思いが足りなかったんだ。

 

 両肩の「砲口」にエネルギーが流れ込むのが分かる。

 

「消しッ飛べ!」

 

 「開放」された蒼白のエネルギーが拡散して、光の矢となって小型のノイズを纏めて貫きながら湾曲し、巨大なノイズに突き刺さっていく。

 

 そして大爆発を引き起こし、周囲からノイズは消え去った。

 

 

 私は地上に降りる、そこは先程まで人だった炭の山が辺り一面を覆い尽くしていた。

 

「ごめん……なさい……助けられ……なくて」

 

 私はその炭を手に取る。

 

 これは私が救えなかった人達。

 私がもっと強ければ、もっと戦えれば救えた筈の人達。

 

 でもここでずっと立ち止まっている訳にはいかない、まだ校舎内にノイズがいるかもしれない。

 

 私は校内をスピードを極力落としながら飛ぶ、するとエレベーターのドアが「抉じ開けられた」様な壊れ方をしていた。

 

 ……敵が居る……?

 

 私はそのままエレベーターシャフト内へとイカロスで進入する。

 

 すると天井が破壊されたエレベーターが止まっている階層を見つけ、そこへと入っていく。

 

 

 破壊、戦闘の痕跡、そして大量の血痕。

 

 間違いない、ここで何かあった。

 

 私は端末を手に、ロックされた扉を解除し、その先へ進む。

 

 

「まだ追いかけてくるか、しつこい奴らだ」

 

 するとそこには金色の鎧を纏った「聞き覚えのある声を持った」何者かが居ました。

 ……でもこれって間違いなく、敵ですよね。

 

「動かないでください、動けば撃ちます」

 マルチランチャーを構え、その「女」に警告する。

 

「飛べるだけしか取り得の無い玩具、耐久性も他に比べて劣る、おまけに装者はただの小娘」

 

 やっぱりこの声もそうだし……イカロスの特徴を言い当てる、さらにあの二課の頑丈だというセキュリティを容易く抜ける、つまり彼女は……。

 

「櫻井……了子……!」

「加賀美詩織、命が惜しければその来た道を引き返し、怯えてなさい」

 

 彼女はこっちを向く事もなくモニターに向かい、何かを操作している。

 しかし私の目に入ったのはカプセルに入った「剣」、確か聞いた事がある……二課には今「デュランダル」と呼ばれる凄い力を持った聖遺物があると。

 

 彼女はそれを目当てとしている。

 

 私は。

 

 私は腕の機銃を掃射し、周囲の機材を片っ端から壊していく。

 

「貴様!!」

 

 それに巻き込まれまいと櫻井了子が跳んだ。

 

「あなたのせいで大勢の人が死にました」

「くだらん正義感で死に急ぐか!」

「いいえ、これは私のエゴです!」

 

 マルチランチャーからスモークグレネードを発射、即座に視界を奪い、私はフェザークロークを展開し「サーモモニター」に切り替え、櫻井了子の姿を捉え、トリモチランチャーを三度発射する。

 

「ちぃっ!小賢しいマネを!」

 目の前の彼女はその内一発が当たったのか機材に右手を固定された様だ、姿勢が固まったまま動かない。

 

「投降してください、次は……命を奪います」

 

 ……撃てる訳ない、だからこれはただのハッタリだ。

 

「甘いな、本当に甘い、お前は戦いを知らな過ぎる」

「何を言いますか」

 

「お前には撃てない」

 

 ……煙が晴れる、そこには確かに右腕をトリモチで固定された櫻井了子が居た。

 

「撃ちますよ……」

「本当に甘いよ、お前も奴も……だから勝てない」

「何を……ッッぐ!」

 

 痛い。

 熱い。

 お腹が、熱い。

 

 鎧から伸びるピンクの鞭が……そうか。

 

 私に刺さってるんですか。

 

「大人しくしていれば死なずに済んだものを、これは私の邪魔をした罰だ」

 

 落下防止用の手摺に持たれかかる私の側まで彼女は歩いてきて。

 

「……ぐっ」

 

 私は痛みを堪え、あの「うた」を……。

 

「さようなら、加賀美詩織」

 

 蹴りが私のお腹を貫いて、私は落ちる。

 

 深く。

 

 

 深く。

 意識も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が聞こえる。

 暗闇の中、血に塗れてもまだ私は生きていた。

 

 イカロスが、その装甲を溶かし、私の傷を埋める。

 この激痛が、私を生きていると証明してくれている。

 

 だから歌が聞こえる方へ、飛んで行く。

 

 翼さんの歌が聞こえる方へ。

 

 



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はじまりの時

 私は本当の愛を知らない。

 両親の間に愛はなかった。

 両親は私を愛さなかった。

 

 先生達は私を現代社会が生んだ「闇」だと言った。

 だから私は闇らしく生きた。

 

 でも私は愛を知りたかった。

 そんな時、私は彼女を知った。

 その日から世界はまるで見違える様に色を変えた。

 

 この世界には闇だけではない、光もある。

 闇が強ければ強いほど、光もまた輝く。

 

 光輝く彼女の歌が私に「存在しよう」という意思をくれた。

 

 

 

 

 だから私はまだ死なない。

 

 

 

 

 瓦礫を押しのけ、私「達」は地上に這い出した。

 

 空を見上げる、「欠けた」月が見えた。

 何が起きたかは知らない、ただ今は……

 

「翼さん……」

 

 意識こそないが、まだ胸の鼓動は止まっていない、私も、翼さんも。

 

「行って来ますね」

 

 

 

 彼女の身を横たえ、私は眼下に「アイツ」を見下ろす。

 倒れる立花さんの側に立つ櫻井了子。

 

 そして私は歩み始める。

 

「加賀美……詩織……生きていたとはな、だがせっかく拾った命、また散らすだけだぞ」

「詩織……さん!?」

 

 向こうもこちらに気付いた様で、彼女は死んでいなかった私に驚いた様だ。

 まさか自分の作ったモノが私の命を永らえさせたとも知らないようだ。

 

「私はまだ、何も見つけていません、まだ、何も始めていません」

 機銃をパージし、フェザークロークも捨てる、武器は拳だけ。

「何の事だ?」

 

「だから私達の明日は、終わらせはしません!」

 

 一気に踏み込み、その露出した腹にブーストで加速した一撃を叩き込んでやります。

 

「ぐぅっ!?」

 不意打ちでしたがこれで吹っ飛ばせました、すぐさましゃがみ、立花さんの様子を確認します。

 そこまでダメージはない、様です。

 

「何を寝ているのですか、まだあなたも戦えるでしょう」

「でも……クリスちゃんも、翼さんも……」

 

 クリスさん、彼女も来てたのですか。

 …………。

 

「それが?それが何ですか?まだ私達は生きています、なんで戦わないんですか?」

「っ……!」

「いつもはグイグイ来るくせに、肝心な時は怖気づく、それが立花響という人間ですか?」

「ちがっ……」

「冗談です。弱気な、あなたの姿を見れて、あなたも「闇」を抱える人間である事を実感できて嬉しいですよ。無理そうなら今は少し休んでいてください」

 

 立花さんだって人間だもの、弱気にだってなる、だから今日は私が強気になる。

 

「ほう……一度死に掛けて覚悟が決まったか?だがお前は私には勝てない、しかも無手とはな嘗められたモノだ」

「違いますね、この無手はあなたの腸を引きずり出して顔面を叩き潰したいが為の無手ですよ」

 

 何か危ないお薬でもキマったかの様にテンションが上がってきてます、これが「怒り」の力でしょうか。

 

「ほざけ!」

 薙ぎ払う鞭の一撃、それを受ける、腕の装甲にめり込む、がそれで止まる。

 溶けた装甲が鞭に絡み付いている。

 そのまま鞭を掴み、そのままブーストを噴射し大回転、彼女を振り回す。

 

「幾ら強固な鎧を纏っても!中身までは守れませんよね!」

 

 局地的な竜巻を発生させる勢いでアイツを振り回してやります、さすがに遠心力で目が回って来たようで、二本目の鞭の狙いが合ってません、ざまぁみやがれです。

 

 そのまま跳躍し、地面に叩きつけてやりました。

 

「ッッ!!この小娘がッ!逆鱗に触れたな!」

「私みたいなヘタレに一撃入れられたくらいでキレるなんて更年期ですか?それとも器量が小さいのですかねー!」

「ほざくな!!!」

 

 っと一瞬で距離を詰められましたね、すごいパワーです。

 見えました、右フックですn……

「ぐっ……え……」

 

 速すぎですね、見逃しました、滅茶苦茶深々と刺さりましてクソ痛いです。

 クソ痛い、それだけです。

 

「つか……まぇました」

 私のお腹に刺さった腕を掴み、私は笑う。

 

 この瞬間を待っていました。

 

「Gatrandis babel―――」

 

「まさかッッ!?」

 

 絶唱、私の出せる最高火力という奴です。

 

「させるものか!!」

 

 私の唄の邪魔をしようともう一撃繰り出してきますが、逆に私は距離を詰めて差し上げる。

 そして地面に押し倒してやりました。

 

 これで逃げ場所はありません。

 

 イカロスの内側で増幅されたエネルギーをそのまま開放する。

 

 

 凄まじい衝撃と激痛が私の体を襲う、だけど、それは向こうも同じ、苦痛に歪む表情、それが見たかった!!

 

 

 

 

 エネルギーの放出が終わり、体から力が抜けていく、おまけに血反吐まで吐いてしまいました。

 しかし、痛そうな顔をしているだけで櫻井了子はまだ生きてる様ですね。

 

 これは……

 

「Gatrandis babel ――」

 

 二度目ですね。

 もう一発、もう一発だけ撃ち込める気がします。

 

「死ぬ……気か!」

 

 さすがにこれにはビビッたようですね、フラフラの頭で笑ってやります。

 

 

 ですが、私の歌に被せる様に、何か歌が聞こえてきます。

 

 やさしくて、たのしくて、眩しい、輝く様な歌声が聞こえてきます。

 

 それにとても穏やかな気分にさせられて、私は絶唱を止めてしまいました。

 

 

 輝きが昇る、暖かな光が辺りを包む。

 

 

 

 私はそれに身を委ね、意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたか!加賀美くん!」

「司令…?」

 目を覚ますとどうやら司令に抱きかかえられていたらしい。

 

「詩織!」「起きたのか!」

 翼さんとクリスさんも駆け寄ってきました、それに遠くには立花さんも見えます。

 

「おはようございます、みなさん……お揃いで」

「よかった、詩織だけ私達と入れ違いで倒れて目を覚まさなかったから……」

「それはご迷惑を……で、もしかして全部終わってしまったんですか?」

 よかった、翼さんが元気そうならなんでもいいや。

 

「いや……まだだ、あの月の破片が落ちてくる」

 しかし、クリスさんが深刻そうにそう告げる、確かにあれだけ大きいものが落ちたら大変だ。

「だから少し行って来るから、詩織はまだ休んでいて欲しい」

 

 はぁ、また留守番ですか。

 

「……いってらっしゃい、翼さん」

「ええ、行って来るわ詩織」

 

 私はいつもそうだ、いつも翼さんを見送る事になる。

 

「必ず帰って来てくださいね、影は光があってこそ、なんですから」

 ……少しは頑張ったんです、これくらいのワガママを言っても許されますよね?

 

「ええ、必ず」

 

 翼さんの笑みを焼きつけ、再び私は意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はーい、あらぁ~わかっちゃったぁ』

 「うそつけ、絶対分かってないゾ」「わかった(わかってない)」「おりんに謎掛けをやらせるな」何時もの如く罵倒が飛んでくる。

 

『はぁ!?なんでダメなんで……ああそういう事~完全に理解しました』

 「ダンゴムシ並の知能」「壁にぶつかってようやく曲がる女」「翼さんにやってもらえ」クソ……言いよるわこいつら。

 

『おりん、そろそろ私が代わるわ』

『えーっ後少しの所でしたのに!』

 「やった!翼さん来た!これで勝つる!」「おりんは大人しくしてろ」翼さんが操作を交代した瞬間コメントが歓喜に満ちる、くそっ私より皆よろこんでやがる!

 

『ん?ああ……わかったわ』

 「わかった(わかってる)」「やっぱり翼さんがナンバーワン」「おりんは歌だけ歌ってろ」「翼さんもゲーム配信やって」

『いやいや、私の本業は歌手ですから。でもおりんの歌がいいのは同意しますね』

 あの翼さんがウチのダンゴムシどもをすっかり手懐けています……というか馴染みすぎでは!?まだ第4回だよ!?

 

『私のラジオが……奪われている……これは面倒な事になった……』

 「がんばれおりん」「クソザコナメクジ」「人気配信者」罵倒と励ましが半々で来る、乾いた笑いしかでねぇ。

 

 

 ルナアタック、例の事件からもう随分経った。

 月こそ欠けたけど世界は今日も回っているし、私も変わらず闇の中の存在。

 

 変わった事もある。

 まずは独立して一人暮らしを始めた、ここまで育ててくれた両親には感謝して借金を帳消しに出来るぐらいのお金を渡した。

 

 翼さんが自分のチャンネルでラジオを始めた、そこにゲストとして私が呼ばれたり、逆に私のラジオに翼さんが来たり。

 立花さんとその友達である小日向さんに私が「おりん」である事がバレたり、クリスさんもネットに歌を投稿しだしたり。

 

 …………。

 一つだけ皆に隠し事が出来てしまった事。

 

 私はイカロス無しでは生きられない体になっていた。

 ギアの生命維持機能の暴走によって体中が蝕まれて、傷だけじゃなくて多くの臓器が侵食されてしまっている、だから無理にギアを引き剥がすと、私は長く持たず死ぬ。

 

 それを伝えているのは司令と緒川さんだけ、他の皆には伝えてない。

 

 でもそんな事はどうでもいいのだ。

 

 

『おりん、そろそろ時間よ』

『そうですね、じゃやりますか、アレ』

 「来たのか!」「来た!」「お歌の時間だ!」

 ラジオで二人が揃った時、いつも一緒に歌う。

 

 これが私の幸福な時間の一つ、翼さんとパート分けした歌をそれぞれ交換しながら歌ったり、視聴者からのリクエストに応えた歌を歌ったり。

 おかげで私単体でも視聴者が1万人オーバーするようになってしまったが、まあそれはしかたない、コラテラルダメージというワケダ。

 

 

「配信お疲れ様です、翼さん」

「今日も楽しかったわ」

「そうですね」

 

 そしてもう一つの幸福な時間、それは翼さんと一緒に居る時間。

 

 

 まだ、それははじまったばかりだ。



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侵食のイカロス オリン・イン・ザ・ダークネス

 原点回帰という言葉がある。

 

 闇から始まった私は闇に戻る。

 

 

「よう詩織!一緒に飯食おうぜ」

「あ、雪音さん、私もいい?」

「ああ、いいぜ。いいだろ詩織?」

 

 …………。

 

 最近、クソ陽キャと化したクリスさんのせいで私の周りに人が滅茶苦茶集まる。

 

「……あっ……はい」

 

「やっほー!クリスちゃーん!」

「あっバカが来た」

「バカっていわないでー!」

 

 おまけに立花さんまで来よるわ、もう散々である。

 

「…………あっちょっと用事思い出したから職員室いってくるね」

「おう、わかった」

 

 当然用事なんてない、騙して悪いがこの空気に耐えられんのでな。

 

 

「また逃げ出したの、詩織」

「翼さん……」

「ダメよ、逃げてばかりじゃ」

 新しい校舎になっても屋上が開放されていたおかげで相変わらず私の避難場所はここだ、しかし翼さんに先回りされている事も多い。

 

「翼さんやクリスさんはひだまりの中で生きていける生き物ですけど、私は違うんですよ」

「またそんな事言って、雪音が落ち込むわ」

「……「アタシにひだまりに出る為の勇気をくれたから今度はアタシがひだまりに連れ出してやる」」

「一字一句違わず覚えてるわね」

「真面目な顔で言われましたからね、でもそれやられると私干からびて死にますって」

 

 結構付き合いも長くなってきて、翼さん相手にはマトモに話せる様になってきて、自分の心の内側も曝け出せるようになった。

 けれど、クリスさんや立花さん相手にはまだそれが出来ない。

 

「私の心の闇はですね、人に解決されたくないんですよ……自分で答えを出して、自分で選んだ道を行きたいんです。確かに手を取ってくれるのは嬉しいんですけど私は私でありたいんですよ」

「その気持ちも確かにわかるけれど……難儀ね」

「この面倒な生き方こそ私ですからね」

 

 そうだ、私はねっとりとしたダークネス、こびり付いた闇みたいな生き物、納豆のフィルムに付着したねばり。

 

 

 ふと、翼さんが距離を詰めて来る。

 

 あっこれは……

 

「なら……私がこうしてもダメ?」

 

 ひはっ!?私の顎をクイッってしないで!?っていうか!?

「ど……何処で覚えてきたんですか!?!?」

 

「ふふ、小日向の読んでた本に書いてあったのよ」

 

 あんの所構わず立花さんとイチャイチャしてる陽キャ陸上部~~!!!

 

「あ……あ………やめてください……目を覗き込まないでください……」

 

 翼さんの瞳から逃れらない!!!!見透かされてるみたいで!

 これダメですダメです!ヤバいですって!!!

 

「ふふ、相変わらず詩織の反応は面白いわ」

 

「わ、私の心を弄ばないでください!!」

「でも遊びじゃないよ」

「アッ……ア!」

 

 心臓爆発するからホントやめてくだされ!!

 

 

「流石にこれ以上はまた鼻血噴いちゃいそうね」

「はぁ…う……」

 

 私は相変わらず翼さんに弱い、というか翼さんがますます強くなってる。

 何処からともなく仕入れてきた知識で私をからかって弄ぶのがすっかり癖になってしまっている。

 

「翼さんはひどいひとですよ!ほんとに!」

 

 はぁ、本当に翼さんはひどい人です。

 今の私は翼さんに依存してしまっています、翼さんがいなくなってしまったら私はきっと生きる意味を見失います、けれど翼さんに近づかれ過ぎると今度は心が痛くなって、苦しくなる。

 

 本当に、ひどい有様ですね。

 

 

 

 放課後、今日も私は二課に出向。

 新しい本部は「船」、揺れこそ少ないけれど……私……乗り物酔いが酷いんですよねぇ。

 だから本部召集はちょっと気が乗らないんですよ。

 

 それに今日の目的はメディカルチェック、主に私と立花さんのだ。

 立花さんも私とはまた少し違う形だけど体内に聖遺物がある状態、いわゆる融合症例と呼ばれている状態にある。

 立花さんが第一号、櫻井了子……私達と戦った「フィーネ」が二号、そして私は第三号。

 

 私の場合は機能の停止した臓器、損傷した臓器などをイカロスの生命維持機能が無理矢理に修復して動かした結果の融合症例、つまりは足りない部分を補う形での融合。

 その為、切除すれば遠からず私は臓器不全で死にます。

 更に言えばイカロスのコンバーターを遠ざけるだけで不調を来たす可能性もあるので、かなり重症らしいです。

 

 しかし同時に「生体」を「聖遺物」で補うという新しい医療の可能性も秘めているが為に、私の症例は非常に大きな関心が持たれているらしく、こうやってメディカルチェックや特殊な検査を受けるだけでもお金が貰えるのである。

 

「ちゃんと動いてるんですよねぇ」

 

 鼓動を打つ心臓、しなやかに動く筋肉、全て「生体」と変わらない動きをし、「代謝」まで再現をする。

 これは恐らくフェザークロークの再生機能と同じような原理で行われており、今の所「拒絶反応」も無し。

 

 

 まぁ、今更に悩んでも仕方ありません。

 本来ならあの時、櫻井了子を、フィーネを撃てなかった時点で私は負けて死んでいたのです。

 

 命があっただけよかったと思うしかありません。

 

 

 そんなこんなで機械に横たわり、全身をくまなくスキャンされる。

 イカロスの蝋は、蝋と呼ばれますが実際にはナノマシンの様なモノで、結構これが重いらしく、私の体重が+10%くらいされています。

 おまけに通常の代謝が行われている部分に入り込むせいでその侵食率が少しずつ増えている、というのも少し気になる所です。

 

 ……そのうち、体の全てがイカロス由来のモノに置き換えられてしまったなら、私はどうなるのでしょうか?

 

 

 まぁそんなテセウスの船の様な疑問ですが。

 人間の体は代謝によって常に生まれ変わり続けている、結局その材質が変わるだけで本質は変わらない、と思いたいですね。

 

 

 

 

 今日の仕事を全て成し終えて、家に帰り着く。

 もはや帰ってくるのは私一人の、小さな部屋。

 変わらず一人、せいぜい家事の量が少なくなっただけの生活。

 

 それと防音設備が整って楽器が弾けるようになったぐらいか。

 

 パソコンを立ち上げて、配信の準備をしながら最新の動画をチェックする。

 「うたずきん」ことクリスさんが新しい動画の告知をしているのでそれを拡散する、翼さんの次回ラジオの予定の告知も拡散、そして私は配信枠を取り、開始時間を宣言。

 

 クリスさんは「うたずきん」の名で次々と新曲を世に送り出す期待の新人として話題になって、おまけに翼さんのラジオにもゲストとして呼ばれ、今後が期待されています。

 一方で私は話題も落ち着き、人気配信者の地位を得ましたが、相変わらず「音MAD素材」やら「歌だけが清楚な女」「頭おりん」「クソザコダンゴムシ」と呼ばれています。

 

 というか最近では翼さんやクリスさんの放送や動画でも何か比べる時に「基準はおりん」などとされてちょっと腹立ちますね、ちなみに謎解きゲーでの「1おりん」は「15分」らしいです、クソッタレ。

 

 腹が立つので今日は何をしましょうか。

 

『こんばんおりん~今日もおりんゲーム実況はじまるよ』

 「謎解きはやめろ」「謎を解け」「謎を解いたり解けなかったりしろ」「翼さんに解いて貰え」この間の謎解きゲーが効いたらしい、皆必死に謎解きをしろだのするなだの言ってますね。

 

『じゃあ今日はメック落としまーす』

 「メックフォールが来た」「今日はパイロットか」「ロボを労われ」メックフォールとはロボに乗れるFPSである、私の好きなゲームの一つでもありますが、私のプレイスタイル的に一通り暴れたらロボを自爆させるので「クソブラックパイロット」なんて言われてます。

 

『部屋は立てたので入ってきてもいいです、今日はメックフォールなんでミュートはしてもしなくてもお好きにどうぞ』

 「イキりおりん」「まあメックなら配信聞いててもわからないしな…」「ムームの配信で隠れてる場所ばれてたのは草だった」そうだ、対戦ゲームだと配信で現在地がバレたりもするので結構慎重にするべき所もあるけれど、メックなら別に聞かれていても特に問題はない。

 

『じゃあルールは消耗戦、メックは今日はサムライで行きます』

 「脳死自爆やめろ」「薩摩やめろ」「自爆しもす!」サムライは耐久力が低い代わりにスピードと火力の高いメック、メイン武器のソードは実は必殺時以外はあまり威力がないのでサブの銃を使ったほうがいい。

 

 開始から数分はいつも通りの動きでスコアを稼ぎながらメックを呼び出す準備をする、そして準備が整ったらすぐさまメックに乗り、まだメックに乗れてないプレイヤーを虐殺していく。

 

『養分のみなさーん、たのしんでますかー!』

 「相変わらず性格の悪い動きだ……」「弱者にイキる姿はまさにおりん」「悪役ムーブがうますぎる」散々な言われようである。

 

 するとさすがに準備が整ってきたのかメックが次々出てきて袋叩きにされる、サムライの装甲じゃ2対1だと一瞬でスクラップだ。

 

『そろそろヤバイので自爆しまーす』

 ダッシュで敵に近づき、脱出ボタン、メックが光り輝き大爆発を起こし敵を巻き込む。

 

『やりました。』

 「やりやがった!」「メックを労われ」「知恵捨て」スコアこそ滅茶苦茶稼いで優位取っているのに罵倒が次々飛び出す、ほんとこいつら遠慮ないな!

 

 

 結果は早々にスコアを稼いだおかげで圧倒的勝利、今日の配信はここまでだ。

『おつおりーん、とりあえず告知だけど「うたずきん」さんの新しい動画が近々あがるのでお楽しみに~』

 「身内の告知をする配信者の鑑」「うたずきんすこすこのすこ」「翼さんとうたずきんと三人で歌え」

 

 クリスさんは基本的に生放送はしない、意外な事にあやつはネット上では恥ずかしがりなのである。

 その為、翼さんがやりたいと言っていた「うたずきん×おりん×風鳴翼/お歌コラボ」はまだ実現していない。

 

『んじゃ、明日はBLゲームをやるよ』

 「お ま た せ」「清楚になれ」「うたずきんを見習ってお歌を歌え」「助けて翼さん」今日も悲鳴を見ながら配信を閉じる。

 

 

 パソコンの電源を落として布団に倒れこむ。

 

 最近は何だか通学が憂鬱である。

 

 原因は立花さんとクリスさんをメインとした陽キャ軍団。

 皆そろいもそろって私を光の中に引っ張り出そうとする。

 

 素直に「影」に居たいと伝えられたらどんなに楽だろう。

 

 はぁ。

 

 …………。

 

 こんな日々がいつまで続くのかな?

 

 明日はどんな日になるのかな……?

 

 そんな事を思いつつ、目を閉じる。

 

 全ては闇の中、である。



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感情の距離

 

 いつも通り教室から逃亡して屋上で休んでいたはずなのに。

 

 何故か翼さんに壁ドンされている、誰か助けて欲しい。

 

「だから翼さん、そういう事をされると貧弱な私は消滅してしまうのでやめてくださいって」

「むぅ、小日向に教えてもらった本にはこうする事でもっと距離を詰められると書いていたのに」

 またあのリア充の片割れか!翼さんになんてもの見せてるんですか!

 

「いやいやいや、どうして距離を詰める必要があるんですか!?今まで通り程々の距離でいましょうよ!」

「詩織が歩み寄って来ない限り、私達が歩み寄っていくしかないじゃない」

「いやそれとこれの関係性がですね!?」

「それもあるけど、こういう事されて嬉しいんじゃない?」

「う…………うれしいですけど!!!」

 

 本当に私は翼さんの全てを拒めないクソザコである……。

 けれど!!

 

「でもそれよりも静かに一緒に居るほうがもっと嬉しいです!!」

 

「っ!!」

 

 翼さんが怯んだ!

 やった!初めて翼さんに勝った!!!

 

「触れ合うだけが幸せの距離じゃないんです。近すぎちゃ見えるものも見えないじゃないですか」

 

 ははっ!勝てている!勝てている今こそ言ってやります!

 

「私は翼さんの全部が好きです、だから翼さんの一面だけしか見えない距離は嫌……」

 

 …………私何言ってるの?

 

 翼さん、顔真っ赤にして俯いてどうしたの?

 

 …………。

 

 アワッ……アワワワワワ…………!!!

 

 わ、私余計な事を言って……

 

「詩織、ごめんね……」

 

 あ……翼さんを謝らせてしまった、私は。

 

 私は……そんなつもりじゃ……!

 

 

 えっ?

 

 あれ?なんで圧迫感?

 どうしてまた私抱きしめられてるの。

 

 翼さんに。

 

 …………。

 

 耐えろ、加賀美詩織、もう何回目だ?

 やばですね。

 

「でもたまにはこうやって距離を詰めさせて欲しいわ、私だって詩織の事好きだもの」

 

 えっ。

 えっ。

 

「詩織といると落ち着く、言うなれば私にとっての日陰、時には貴女の側で休ませて欲しいと思う」

 

 あ……アアアアア……!!

 

「く……口説くのは……ひ、卑怯です!」

 

「そんなつもりじゃなくて、私の本心、一人は寂しいもの」

 

 あああああああ!!

 やば、やばですって!!!

 

「く……くぅ……ホントに!翼さんはずるいです!勝てっこないですから!」

「詩織が弱すぎるだけよ」

「小日向さんとかにもやってみてください、絶対私みたいになりますから」

「しないわ、やっていい相手とダメな相手ぐらい弁えてるわ」

「私はいいって言うんですか!?」

「そうね」

 

 本当に、本当にいいんですか。

 私が、こんなに幸せでいいんですか。

 

 誰かの幸せを奪ってたりしませんか。

 

 なんだかとても怖くなってしまいます。

 

 翼さんの「ひだまり」あるいは「日陰」に入っていても。

 

「詩織は分かりやすいわね、そうやって不安になったりすると黙り込む癖」

「なっ……なにをいいますか!」

「安心して、詩織を知る人は皆気付いてるから、そういう癖」

 

 は、初耳です……。

 

 今度から気をつけてみよう……。

 

 

 

 

 

 森の中、気配に意識を向ける、気配がばらける、その一つ一つを追うのではなく、一番大きな気配を追う。

 

「21番の方向!」

「惜しいですね、19番の方向です」

「ダメかぁ~」

「でも大分良くなって来てますよ」

 

 19と書かれた木の後ろから緒川さんが現れる、不正解だったか~。

 

 最近、私は緒川さんから訓練を受けている。

 私のイカロスの戦闘スタイルを活かすには司令より緒川さんの技術の方が向いていると判断された為だ。

 

「次は加賀美さん、実際に分身を自分流に「再現」してみてください。ギアの機能を使っても大丈夫ですよ」

「はい、では行きます」

 

 まず意識を集中する、イカロスの表面の蝋を薄く、全身に纏う様なイメージ。

 

 そしてそれを崩さないまま、後ろに静かに急加速!

 

「これは……!」

 

 緒川さんの驚く声が聞こえる。

 私達の目の前には灰銀色の人型、一瞬風が吹いた事ですぐに崩れてしまったが。

 

「どうです?」

「分身というか空蝉ですね」

 

 そりゃそうです、セミの抜け殻をイメージしてやったんですから。

 

「分身作って動かすのはちょっと無理そうですね、でもこれなら連続でやれそうです」

 

「そうですね、それにこれなら若干の質量や熱量もある為、視界だけではなくレーダーやセンサーを誤魔化す事も出来そうですね」

 崩れた分身の残骸を二人で触ってみたりして使い方について考える。

 

「問題点としてはやっぱりすぐ崩れる事でしょうか?」

「そうですね、後は移動方向の「面」は形成しなくていいでしょう、そうすればもう少し早く形成できる上に持続時間も長くなるのではないでしょうか?」

「やってみます」

 

 二度目のチャレンジ、今度は反復横跳び、それぞれ進行方向の側の蝋を形成せずに、跳ぶ!跳ぶ!

 

「思ったとおりです、やっぱり移動の際に引っかかって崩れていた部分が無くなった事で加賀美さんの移動速度も上がってますし、これを基準として訓練していきましょう」

 

 

 フィーネという敵が居なくなってもこうして訓練を続けるのはノイズと戦う為、だけではない。

 ……この先、もしかしたら一生、この「イカロス」とは付き合っていく事になる。

 おまけに私は「検体」としても重要らしいので、ガードこそ付いているが。

 いざという時に自分の身を守れるだけの力を持っておく事に越したことはない。

 

 しかし。

 

「これで後は最低でも「影縫い」と「雲隠れ」だけですね。特に影縫いは加賀美さんにピッタリな技なので」

「いつも気になるんですけど、あれ一体どういう理屈で相手の動き止めてるんですか」

「それは加賀美さん自身の目で確かめ、自分で再現してください」

 

 司令の特訓もそうですけど緒川さんの特訓も大概難易度高いんですよ。

 

 本物の忍術の深遠を覗く様な訓練に、まるで私の闇はタンスの上の埃ですよ。

 

 

 

 

 緒川さんの特訓を終え、くたくたになって家に戻る。

 今日で終わりではない、たった一日で忍術が身につけば「耐え忍ぶ」みたいな言葉はない。

 これからしばらくこれが続くのだ。

 

 おまけに宿題として出された寝る前の筋肉トレーニングもある。

 

 若干げんなりしながらもパソコンを立ち上げる。

 

 配信だ、配信こそ私の安らぎだ。

 

『ドゥードゥやります』

 「おりんの声がし……死んでる……」「萌え声を出せ」「萌え声で殺意をばらまけ」うるせぇ!今日も今日とて滅茶苦茶疲れてんだ!好きにさせろ!

 

 ゲームを立ち上げデータをロード、即座にチャプター再開で走り出す。

 ドゥードゥは爽快系FPS、銃!敵!射殺!だけだ、難しい事は何も無い。

 

『オラッ顔面粉砕させろ!死ね!』

 「死ねとかいっちゃいけない……」「おりんのリミッターが外れている」「敵の顔面を的確に破壊しながらスライドホップする様はまごうこと無き変態」暴力はいいぞぉ、全てを解決してくれる。

 

『なぁにが地獄のデーモンですか!こちとら闇そのものだぞ!』

 「デーモン相手にイキるな」「やっちまえ!」「闇(ただの陰キャ)」うるせぇぞ!

 

『はぁ、ステージクリアまで14分34秒、これならまだまだ進めそうですね』

 「キルスコア相変わらず頭おかしくて草」「片っ端から殺してたからな……」「おりんはパリピデーモンを生かしてはおけないからな……」そうですね、人肉パーティするデーモンを許す理由はない。

 

 ……実際この世界にデーモンみたいな怪物が侵略してきたらどうなんでしょう、やっぱり私達の出番になるんでしょうか、ノイズを相手にするみたいに。

 

 有り得ない話ではない、月が欠けたり、先史文明があったり、何万年も転生する女がいたり、もう何が起きてもおかしくはない。

 それこそ次は月が落ちて来る、なんていうのもあるかもしれない。

 

 そうなったらどうするんだろう。

 

『もし月が落ちて来るとしたらどうしたらいいんだろうねー』

 「地球外脱出」「月を破壊!」「月にブースターをつけて軌道を戻す」「何?月が綺麗だねって?(難聴)」誰が愛の告白じゃい、とはいえどれも現実的じゃないなぁ。

 

『脱出って、やっぱりあれだよねぇ、脱出船に乗れるのは選ばれた民だけだとか……』

 「おりんも俺達も乗れない奴だな」「俺達はおりんと運命を共にするよ」「世界最後の日を配信しろ」そうだよねー、私は乗りたいとは思わないかな。

 でも翼さんには脱出船に乗ってて欲しいと思う。

 

 私のいなくなった後でも、翼さんに生きていて欲しいと思う。

 

 あーなんか湿っぽい事考えてしまうなー。

 

 やっぱりこの体のせいかなぁ。

 

『ちなみに話変わるけど、おりんとて永遠の命を持っている訳ではないのでいつか死ぬ日が来るだろうけど、その時皆はどう思う?』

 「おりんより先に死んでるだろうから関係ない」「先にあの世で待ってる」「あの世でも配信しろ」配信しろ兄貴はそれしか言えんのか!まったく!

 

 「ぶっちゃけおりんが死ぬビジョンが見えない」「おりんならゴキブリよりしぶとく生き残るよ……」「死にそうなら助けを求めろよ」全く、無責任な事を言ってくれる。

 

 

 少し気が楽になった。

 

 



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ひだまりとひかげ

「加賀美さん、こんにちは」

 放課後、そろそろ装者特権の免除もヤバくなって補講を受けた帰り、翼さんに余計な事を教えまくる例のあの子に遭遇した。

 

「ああ、小日向さんですか…………今日は一人で?」

「はい、響を待ってて」

「立花さん、私以上に補講あるって言ってましたしね……」

 

 ルナアタック後、置いてけぼりを食らった私と違い事後処理の為にしばらく学校にこれなかった立花さんは事件前のも含めて補講が凄い量になってました。

 

 そういえば小日向さんと知り合ったのもルナアタック後でしたね。

 

 あの頃の小日向さんはまさに全てを失った様な感じでした、私以上の「虚無」を感じましたね。

 それで結局一ヶ月ぐらいでもうこれはヤバそうだってなって司令に報告して立花さんと再会させましたが。

 

 出会った当時は「陰キャを超えた虚無キャ」みたいなイメージでしたが、立花さんと再会した瞬間に「陽キャリア充」に変身してビビりましたよ、キャラ変わりすぎですよ。

 

 人ってやっぱり「大切なモノ」を失うと誰しも「虚無」に包まれるんだと思った、それは闇とはまた違う。

 闇はあくまで暗いだけのもの、虚無は本当になにもない、希望も絶望も感じないそんなものです。

 

 本当に「死んでるように生きている」って感じでした。

 

 私は闇ですけど、死んでる様には生きたくありません。

 闇は闇なりに、影は影なりに生きたいと思うのです。

 同時に私は陽キャのノリや空気にこそついていけないから避けていますけど、決して陽キャに不幸になって欲しいとも思いません。

 

 陽キャは陽キャらしく、陰キャは陰キャらしく「好き」に生きればいいのです。

 

 

 

「……やっぱり、加賀美さんって変わった人よね……ラジオの時と普段で雰囲気が随分違うというか」

「当然ですよ、それは。素面で日の当たる場所に自分を曝け出すなんてとてもやってられませんよ」

「でもクリスや響はそれを望んでますよ」

「……二人とも勘違いしてるんですよ、私は好きで一人日陰にいるのに……」

「翼さんとは大丈夫なのにですか?」

 

 あっそうだ。

 

「そうですよ、翼さんになんてもの教えてるんですか!!!あんなの他の人に見られたらスキャンダルですよ!?私も学校に来れなくなりますよ!」

「えっ……あれ翼さん本当にやったんですか!?」

「えっじゃありませんよ!!翼さんに顎クイだとか壁ドンだとか!!」

「……ごめんなさい」

 翼さん、変な所で思い切りがいいから!本気で私を堕としに来てたし!

 

「とりあえず、翼さんにはですね、そういうヤバなのは教えないでくださいね!何故だか全部私相手に実行してくるんで!」

 というか何で小日向さんそういう知識集めてるんだ?……ああ……そっかぁ。

 

「もし次やったら、やられた事、あなたに仕返しますからね、具体的には立花さんにやって貰いますから!あの人滅茶苦茶純真だからきっと私が唆せばごく普通に実行しますよ」

 

 つまり小日向さんは「むっつり」だ。

 

「そ……それはぁ……ちょっと嬉しいけど……恥ずかし……」

 

 顔を赤らめて逸らす小日向さん、やっぱりなぁ。

 

「あなたがやってるのはそういう事です!私もですね、翼さんの友…だち……ですけどそれ以前に一人のファンでもあるんです!本当に心臓がもたないんですよ!」

 

 小日向さんは基本陽キャだけど、やっぱり心に「闇」を飼っている。

 それは私が翼さんに向けるモノに似ているようで少し違うもの。

 

 友情・親愛、それに関わる闇。

 

 だからでしょうか、比較的、ですが小日向さんとは話がしやすいです。

 

 ああ、でも。

 基本的に立花さんとセットなのでこういう機会でもなければ話す事もないでしょうけど。

 

 

「さて、私はこの辺りで失礼させて貰いますよ。立花さんに絡まれるとまた疲れるので……」

 

 未だちょっと妄想から戻ってきてない小日向さんを放置し、帰路につく。

 

 

 はぁ。

 

 

 

 

 かつて私が翼さんに抱いていたのは「憧憬」崇拝や讃美と言った、理解・親愛から最も遠い感情でした。

 

 私にとって翼さんは神様の様なものでした。

 

 なのに、彼女は私の側に降りてきて来てしまった。

 

 

 ……直接聞いた話じゃないけれど、あのフィーネもその「愛」が行動の原因だったらしいです。

 

 

 愛とは厄介なものです。

 

 あれも、これも愛、傷つける事も癒す事も、不定形で不安定、憎しみに裏返る事もある。

 

 

 私が翼さんを独り占めしているような事は許せない気分になる。

 翼さんが本当に輝いてるのは彼女が自分の夢を追って、ステージの上で歌っている時。

 

 ああ、ダメですね……愛を身近に感じると私の闇が強くなります。

 

 

 街を行く。

 

 今話題のマリア・カデンツァヴナ・イヴのポスターが目に入る、確か近々来日して翼さんと一緒にライブをするんでしたっけ。

 

 翼さんが世界に羽ばたく為の第一歩はもう直ぐ、翼さんは学校を卒業したなら海外へ行ったりで忙しくなって、私は翼さんとの距離が開く。

 

 それでいい、そうして翼さんは世界を輝きで照らしてくれればいい。

 私は闇の中でそれを見ていて、かつての様な憧れで見ていられる。

 

 だというのに、寂しさと、胸の苦しさを覚えるのは……本当に厄介です。

 

 

 愛を知らなければこんな想いをする事なんてなかった、でも愛を知ったから私は今ここに居る。

 

 世界とは不思議なものです。

 

 

 

『――今日はお歌配信です』

 緒川さん経由で作曲家さんに発注してた「ポストロック」の「曲」が届いたので今日はこれを歌いたいと思う。

 

 ポストロックとはロックのようで一言でロックとは言い切れないとてもめんどくさいジャンルの曲である。

 とにかく定義付けが結局歌う側の私にすら出来ないモノなんですけど。

 

 それでも大好きなんですよね。

 

 演奏は苦手で、作詞とボーカルだけやる形なんですが、とにかく綺麗な曲に仕上がってるので。

 楽しみにしてたんですよね、これ。

 

『ポストロックで作曲・演奏は翼さんとこのマネージャーさん経由で紹介してもらった「ナイトクラウド」さんで、ボーカルと作詞は私おりん。「影月」』

 「夜雲まじか」「おりんガチ曲マジ!?」「カラオケじゃない……だと……!?」騒然とするコメント、それもそうだ「夜雲」さんはマジのプロである、依頼も次々入ってて忙しい中、私の声のサンプルだけで凄まじくエモい曲を作ってくださった、本当に感謝しかない。

 

『ハロー ハロー 夜が来た 灰色の月が昇って来た 夜の影月が

 太陽(あなた)の居ない夜が来た 薄暗い穏やかな夜 静かな闇に包まれた部屋で

 未完成な夜空に 星を描いていく』

 「エモさが尋常でない」「歌詞おりんってマ?」「おりんにそんな才能があったのか」「おりんポエムが曲になった……」「イケボおりん」今日は萌え声じゃない、少年ボイスである。

 

『ハロー ハロー 太陽(あなた)が昇る 輝くあなたの側に 影の様に 僕はいる

 それでいい あなたが輝いているなら 僕はそれでいい 青空に溶けていく』

 「888888」「いい曲だった」「さすが夜雲さんだ」「CD発売まだ!?」無事歌い終えると拍手喝采が飛び交う。

 

『CDは発売予定ないですけど、今後収録したバージョンを私のページで無料でダウンロード可能にする予定はあります』

 「タダでいいの!?」「金を払わせろ」とてもじゃないが私の歌じゃ、まだお金を取れる「自信」がない。

 だから今回はタダだ。

 

『だったら来月の夜雲さんとこのアルバム買ってどうぞ、オフボーカル版のインストアレンジ「影月」が入りますんで』

 「買うわ」「あの、予約終わってるんですがそれは」あ、しまったなぁ。準備始めたのが結構早かったからなぁ……。

 

『まぁ、これから先またオリジナルのお歌が溜まったらCD出すかもね』

 「メジャーデビューか!!!!」「嗚呼、おりんが行く……」「おりん、舞台に立てるの?」いや、舞台に立つつもりはないのでもしも仮にメジャーデビューしても収録したものの販売だけに留めるつもりだ。

 私は翼さんと違って舞台に立つ勇気なんてないのですよ。

 

 

 配信を終了し、新しい曲の作詞をする。

 

 なんだかんだこうやって新しい創作活動に手を出すのも楽しいものだ。

 聞いてくれる人がいるからだろうか。

 

 

 そんな夜にも月は浮かんでいた。



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嵐が来る

 

 月が欠けて100日、ノイズを操る完全聖遺物「ソロモンの杖」の輸送が行われた。

 道中、ノイズの襲撃などもあったが結果は無事輸送は完了。

 

 これから先、これが研究される事でノイズによる被害は完全に無くなっていく。

 

 

 と思われていた矢先に輸送先である岩国の米国基地が壊滅、ソロモンの杖も失われた。

 

 

 一応はこんなナリでも、二課の装者だ。

 司令から最新の状況は聞いている。

 

 

 翼さんが、かのマリア・カデンツァヴナ・イヴと共演するライブステージ「QUEENS of MUSIC」を前に私は不安を隠しきれない。

 今度こそは生で見たいと取っていたチケットは「一般席」、本当は招待席があったのだけど、そっちには立花さん始めリディアンの生徒も何人かがいるが故に、あえて一般席を取ったのだけど……。

 

 ……何も起こらなければそれでいいのです、でももしもの時は。

 

 

 

     ――――

 

 

 

 一曲目「不死鳥のフランメ」が終わる。

 

 会場の熱狂はもはや最高潮、私の心ももうウッキウッキである。

 

 ステージの上の翼さんは本当にカッコイイ……。

 

「歌には力がある」

「それは、世界を変えていける力だ!」

 

 放送で見る以上に、この演出はとても凄い、キラキラして。

 

 ちょっと涙出てきます……。

 

 これが世界への第一歩、翼さんの夢への……

 

 

 ……!

 悲鳴!?

 

『うろたえるな!!』

 

 そんな馬鹿な。

 

 ……ノイズッ!!

 でもこれはまるで操られているようで……!

 

『私達はノイズを操る力を以てして、世界に要求する!』

 

 ノイズを操る力……やはり、そうですよね……「ソロモンの杖」!

 

 そして、あの「ガングニール」!!

 

 

『私は、私達はフィーネ。終わりの名を持つ者だ!』

 

 またしてもあなたですか!!!また翼さんの夢を阻むのですか!!!

 

 

 

 

「何だ!?」

「あの子飛んでるぞ!?」

「トリックじゃないのか!?」

 

 やってしまいましたね。

 怒りのあまり、イカロスを展開してしまいました……

 

 やってしまった以上やりきるしかない。

 

 

 

 イカロスのセンサーを脳に接続。

 

 意外にこうしてみれば世界が広く見えますね。

  

 会場内のノイズ総数54、ロックオン完了。

 ホーミングレーザーを開放。

 

 ノイズの掃討を完了、観客に被害は、無し。

 

「私は日本政府、特異災害対策機動部所属のシンフォギア装者!加賀美詩織!この事態の収束の為、観客の皆さんは冷静に、迅速に避難してください!」

 

 まずは観客を排除する事を優先、またノイズを出されては邪魔になります。

 こういった冷静な名乗りは混乱を防ぐ効果があります、よく災害現場で行われているモノと同じです。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ!あなたをテロの現行犯で拘束します!武器を捨て大人しくしてください、さもなくば」

「さもなくば!何かしら」

「射殺します」

 

 既にレーザーのロックオンは完了しているが分かりやすく両腕の機関銃を見せ付ける。

 

「あら、随分と自信がお有りのようだけど、私はフィーネよ?勝てる自信が?」

「貴女がフィーネだろうとフィーネであるまいと、地獄に送ってあげます、あなたの罪は重い」

 

 この挑発と投降勧告の間も観客の避難は進んでいる。

 

 今の私の視界は360°全て、目の前の私しか見えていないあなたとは違う。

 

 現にあなたの意識は突然現れた私に釘付け。

 

 同じステージに立っている翼さんにも意識が向いていない。

 

「最終通告です、投降してください。さもなくば、排除します」

「随分、冷徹なのね。あなた」

 

 またノイズを呼び出した!?観客の避難は……まだ!?

 人質だと言うのか!!!……けれど目の前に「ソロモンの杖」は無い。

 つまり敵は「まだ居る」

 

「……あなたほど、クズじゃありませんよ」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ、私は貴女に失望しました。

 先程の世界を沸かせる様な歌も全て冷めてしまいました。

 

「負け惜しみね、地に降りてギアを解除しなさい」

 

 私はゆっくりと地上に降りつつも。

 ノイズへと再びロックオンを行う。

 あなたは気づいて無い。

 

 私は「イカロスと一つ」なのだ。

 

 表面のギアを解除。

 すると私の周囲をノイズが囲む。

 

 

「詩織!」

 

 翼さんが叫ぶ、しかし心配は無用ですよ。

 

「そう、それでいい。ギアをこちらに投げ渡しなさい」

 

 私は胸のペンダントを手に取る。

 そして投げると同時に、「背中」からホーミングレーザーを開放しつつ走り出す。

 逃げ遅れた観客達を人質にしていたノイズを無事に消し飛ばす。

 

 そして目の前のノイズに向かって飛び掛かる。

 

「死ぬつもりか!!!」

「やめろ!詩織―ッ!!!」

 

 目にモノ見せてやる。

 

 ノイズを踏み台にして、更なる跳躍、そしてペンダントを掴み、再びイカロスを纏う。

 

「バカな!?何だお前は!」

 

 簡単な事だ、私は最初から「バリアコーティング」も「アームドギア」も解除してない。ストレージから服を出し、体の中にアームドギアを展開していただけの話だ、もっともペンダントがないと新たなアームドギアの展開は出来ないですけどね。

 

 おかげで出掛け用の服がレーザーで消し飛びましたが!裏をかけました!

 

 そして跳躍の勢いのまま!

 

「きゃあ!」

 

 そのアホ面に!拳を叩き込む!!!

 

「ようやくそのクソッタレな面に一撃入れられましたね、フィーネ」

 

 吹っ飛び転ぶフィーネの姿にスカっとした気分です、タイミング良く観客の避難も終わりましたしね。

 

「バケモノね、あなた……でもその代償は大きかったみたいよ」

「何の事ですか」

「あなたは世界を前に自らの姿と名前を晒した、私と同じ様にね……あなたはもう普通の生活に戻れない」

 

 ……確かに勢いに任せて全てを曝け出してしまいましたね。

 

「で、それが?どうしたのでしょうか?私は闇に生き、闇に還る。それは今までと同じ、私には失うモノなんてない」

 

 そうです、私は闇の中の存在、人質にされる家族もなければ、友はそこにいる翼さんだけ。

 

「……ッ!随分と寂しい人ね」

「まぁそんな事はどうでもいいのですよ、現行犯で拘束……ッ!!」

 

 突然空から降ってきた無数の丸鋸を機銃で迎撃する、新しい「装者(てき)」ですか!

 

「調!切歌!」

 

 しかも二人ですか!これはもう手加減している場合じゃありませんね。

 

「さて、もう警告はいいでしょう。私ももう手加減している余裕はないので、あなた達を殺すつもりで行かせて貰います」

 

「……偽善者の仮面を取り繕う事もない!」

 黒髪の少女が何やら睨み付けてきますが知ったことですか。

 

「知った事ですか、やらない善よりやる偽善、少なくともノイズで観客を人質に取るあなた達より覚悟はキマってますけど~?」

「ムカつくデス!」

 

 ムカつくはこっちのセリフです、それにですね!

 

「翼さん!もうカメラはありません!やっちまいましょう!」

「詩織……」

 

 緒川さんでしょうか、放送を切断してくれたようです、これで思う存分戦える筈です。

 

「いいんですよ、翼さん。私は所詮影に生きる存在です、今までよりより深い影にでも隠れてればいいんです、それよりも今は翼さんのライブを台無しにしてくれたこいつらを捕まえる、それが大事でしょう?」

 

「……そうだな……」

「させるかデス!」

 

 緑のギアを纏った方の少女がこっちに向かってきますね、ロックオンは既に出来てます。

 

「消し飛んでください」

 

 容赦はしない、レーザーを放つ。

 

「切歌!」

 しかしその間にフィーネが割り込み、マントでレーザーを消してくれましたね。

 

「美しい仲間意識ですね、ならどっちも!」

 

 今までは拡散で撃っていたレーザーを収束へ変更、再びチャージをする。

 

「させない!」

「邪魔です!」

 飛び上がったさっきの丸鋸少女に機銃掃射を浴びせてやりました、悲鳴を上げて落っこちて無様ですね!迂闊なジャンプは狩られるだけですって習いませんでしたか!?

 

「詩織、仕掛けるぞ!」

「はい、翼さん」

 ようやくギアを纏えた翼さんと共に並ぶ、こうして二人で並んで戦うのは初めてですね。

 こんな時でなければ、いい気分でしたが――

 

「よくもやってくれたわね、覚えていなさい」

 

 はぁ?

 

「逃げるんですか?いや、逃がすとお思いで……?」

 

 どうやらフィーネの一味は逃げるつもりらしいですが、させる訳ありませんよ。

 

 と、また新しいノイズですか、今更高々一山幾らのノイズで私達の足止めが――

 

「自分達で呼び出したノイズを攻撃した!?」

 

 は?

 

 飛び散るノイズ、私は視線でそれを追う。

 ああ、これ「増えてますね」

 

「翼さん、ちょっとマズイかもしれません、こいつら増えてます。どうしましょう」

「なんだと!?」

 

 マズイですね、さすがにモリモリ増殖するノイズを放っておくわけには行きません、会場から溢れ出たら大惨事です。

 

「命拾いしましたね、フィーネ。ですが必ず私達はあなた達を地の果てまで追い詰めて今日の事を後悔させてやりましょう」

 

 仕方がないのでフィーネは見過ごす事にした、それにどのみち「ソロモンの杖」をあの三人は持っていなかった。

 まだ見ぬ敵が居るはずです。

 

 

 この後、合流したクリスさんと立花さん、そして翼さんが「絶唱」を「束ね」ノイズは撃退しましたが。

 

 

 二課本部に呼び出された私は。

 拘束されました。



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私の還る場所は

 二課到着後、特別室で一夜を明かし。

 

 今、拘束具を着せられ、面接室に私は居る。

 対面には司令、後ろには黒服の方が二人。

 

「何故こうして拘束されているかはわかるな」

「……はい」

 

 一時の怒りに任せイカロスを使った事、考え無しに飛び出した事。

 

「加賀美くんが思っている以上に事態は深刻だ、確かに君が行った事は「救助活動」であり、最善であったかもしれない。しかし、観客を安心させる為とは言っても名乗ったのは不味かった」

 

 日本政府はシンフォギアそのものの情報は開示した、けれど装者に関しては別だ。

 

「すみません……」

 

「確かに大勢の人間を救った事は賞賛されるだろう、現に日本政府に感謝や賞賛の言葉が届いている。だが同時に君にとって本当にマズい事になった」

 

 私にとってマズい事?

 

「君が、加賀美詩織が装者である事と同時に配信者「おりん」である事が世間に知られてしまった」

 

 は?

 なんで?

 

「……情報の出所は翼のファンだ、主要メディアは既にこれをニュースとして取り上げてしまった」

 

 ………あぁ……そっかぁ……。

 

「コラボラジオよくやってましたからね……声でバレましたか」

 

「現在、君のチャンネルの登録者数が凄まじい勢いで増えている」

 

「いっそ殺せ!?」

 

「そう言うと思って、この拘束をさせて貰った」

 

 これは、本格的に終わりましたね……。

 ちょっと好き勝手やったツケが回ってきたという奴ですか。

 

「いっそ殺してくださいよぉ……」

 

「更に君にとって悪いニュースがある」

 

「まだあるんですかぁ……?」

 

 というかおりん身バレ+装者身バレ以外に何かありましたっけ?

 

「内閣が君に会見配信を求めている」

「は?なんでですか……」

 

「……賞賛と感謝と同時に君の安否を問うコメントが世界中から来ている」

「?なんでですか普通に公表すればいいだけじゃないですか?」

 

 

「……つい先程、政府は君を「特異災害対策機動部」の公式広報として使う事を決定した」

「え」

「君は否応が無く、表に立たなければならなくなったという事だ」

 

 なんで……

 

 なんで?

 

「政府の一部では最初から「戦力として使えない」君を「広告」として利用するという声があった、それが今回の件で正体を明かしてしまったが故にその声が再び上がり、高度な政治的判断でそれが採用されてしまった」

 

 はぁ……確かに、そうですよね。

 イカロスと融合した貴重な「検体」でこそあれど、私に払われているお金はそこそこの額になるし、ぶっちゃけると貴重なシンフォギアを一個無駄に遊ばせているようなもの。

 使わない手はないといった所か。

 

「で、何時何処でやるんですか、配信」

「今日の正午、政府の公式チャンネルでやる事になった、配信機材は既に用意されている所だ」

 

 ……ダメですね、一時の怒りに任せて行動するのは。

 

「で、何を発信すれば?」

「記者会見の様なモノだ、現在まとめている最中ではあるが、寄せられている質問に答えていく形になる。他に質問はあるか?無ければ拘束を解いてすぐさま準備に向かってもらう事になるが」

 

 これも私のやらかした事、責任は取らなければなりません。

 

「他に私への罰は?」

「安心しろそんなものはない、強いて言うならこれから忙しくなる、それだけだ」

 

 ……そんなバカな、それだけで済む筈が。

 

「そんなバカなと思っているだろうが、安心しろ。俺達は何があっても君を守る、だから君は安心して配信に臨んでくれ」

 

 は?

 え?

 

「強いて言うなら「広報」となる事が君への罰になる、世間からの悪意、他国の思惑、そんなものには君を巻き込ませてたまるか」

 

 ……はぁ。

 

「手ひどくやらかしたというのに、私は守ってもらえるんですか?」

「当然だ」

 

 困りましたね。

 こうまで言われると、私もやるべき事を果たさねばいけません。

 

 

「わかりました、では……それと最後に」

「なんだね?」

「給料は出ますか」

「当然」

 

 

 

 私も覚悟を決める。

 

 

 

 

 最後の晩餐、いえ朝餉ですね、カツサンドと麦茶を胃に入れて、車でスタジオへ向かう。

 

 今までと大きく違うのはカメラがある事。

 

 マイクと共に渡されたのは一枚の紙、それに目を通す。

 報告は2つ答えるべき質問は3つ。

 

 

「もうすぐ開始ですが、大丈夫ですか?」

 オペレーターのあおいさんが一応の同行者として来てくれて、私の隣に座ってくれる。

 私はこの人とは殆ど話した事がないが主に戦闘に出る装者のサポートをしてくれているらしい。

 

「大丈夫です、配信は慣れているので」

 

 大丈夫だ、加賀美詩織、うまくやれ。

 

「開始2分前!」

 

 もうすぐ全てが始まり、全てが終わる。

 

 3……2……1

 

『こんにちは、皆さん。私は特異災害対策機動部に所属するシンフォギア「イカロス」の装者、加賀美詩織と申します』

 「やっぱりおりんだ!」「無事でよかった」「助けてくれてありがとう」「こんな若い子が戦ってるのか」「広報担当じゃないの?」最近の会見はコメントを採用しているのか、なんかダンゴムシが何匹か交じってるのが見えますね。

 

『まず昨日のライブでの事件の報告です。「QUEENS of MUSIC」で突如発生したノイズを利用したテロ、主犯と見られる「武装組織フィーネ」およびマリア・カデンツァヴナ・イヴの身柄はまだ確保できていません』

 「取り逃がしたのか」「税金泥棒」「でも死人を出さなかったのは凄いよ」「人質を助ける事を優先してたから仕方ない」「翼さんも無事でよかった」多少心無い言葉も見えるが、まぁそんなものでしょう、実際仕留められなかったのは痛手です。

 

『またマリア・カデンツァヴナ・イヴが言った「ノイズを操る力」ですが、実在します。同日、ノイズ研究の為に岩国の米軍基地へ護送された「ノイズを制御する道具」が奪われ、基地もまた壊滅しています。政府はこれを武装組織フィーネの仕業と見ています。』

 「そんなものがあるのか」「マズくないそれ」「とんでもない事になったな」確かにとんでもない事です、あのクソッタレのフィーネが再びソロモンの杖を手にしたという事はまた月を穿つ様な事を考えているのでしょう。

 

『現在、国連と協力し、この事件に対応していく事が決定した所で、私からの報告は以上となります。ここからは多く寄せられた3つの質問に関して答えていきます』

 「ついに明かされるのか」「おりん……」「これマジ?」「声からしてもう……」

 

 さよなら、配信者としての「おりん」。

 これからの私は装者「加賀美詩織」です。

 

『私個人の事になるのですが、私は配信者「おりん」としてネット上で活動していました。これは事実です。昨日の事件の現場にも風鳴翼の一人のファンとして居合わせていました』

 「うわああああおりんだぁああ!!!」「おりんはかわいいぞ!!」「翼さんのライブを守ろうとしたのなら泣ける」「本当におりんだった」「おりんの仕事ってこれだったのか……」「ありがとうおりん」全く不思議な事に私に対する罵倒の様な言葉は見当たりませんでした、フィルターでもされているのでしょうか。

 

『次に、装者としての活動ですが。これは今年の4月からです、適性によるスカウトです。本来はデータ取りの為でしたが、緊急時などには対ノイズ戦も経験しています』

 「命を大事にして」「あなた達がもっと早く動けば、死なずに済んだ人がいる」「おりんに救われた命があるのか」「ありがとう」「ノイズを滅ぼせ」コメントの中には、やはりノイズへの憎しみや、ノイズに大事な人を奪われその行き場のない怒りを私へ向けようとしている人も見受けられた。

 

 これは私の背負うべき十字架なのかもしれない、ただ適合して、ただデータを取るだけの簡単な仕事だと、装者である事に責任を持とうとしなかった私への。

 

『最後に、今後の「おりん」としての活動ですが……』

 「やめないで」「やめるな」「程々にやれ」

 

 …………なんですか、あなた達は。

 

 「お前の戦場はネットだぞ」「闇の中で待ってる」「おりんのラジオで救われた人間もいる事を忘れるな」

 

 無責任な事を言いますね。

 

 「自分の清楚さは捨てられる癖に命は見捨てられない女」「暗黒の聖女」「陰キャ救世主伝説」

 

 それにこのカンペも無責任ですよ。

 

――この回答は本人の意思を尊重する。

 

『……私が望むので、まだしばらくは続けたいと思います』

 

 

 私の還る場所は、ここにあったんですね。

 

 



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心を癒す、日陰たれ

小説トップにおりん妄想図を置いておきました


 聖遺物との融合の進行。

 

 身元バレ、広報就任のドタバタでうやむやになっていたと思っていました。

 

 翌日、再び呼び出された私はメディカルチェックを受けさせられ、またもや面接室に呼び出されました。

 

「加賀美くん、君はもっと自分を大事にしろ!」

 

 理由は「脳へのセンサーの直結」と「脊髄を侵食し尽くしたイカロス」、そして「未知の神経伝達物質の採取」。

 

「いや、ですね。その、別に異常はないんですよ?多少視野が広くなったり感覚が鋭くなっちゃったくらいで……」

「それを異常というんだ!それにだ!背中からのアームドギアの展開は確かに強力かもしれないが肉体を改造してまでするものか!おまけに生身でノイズに触れて無事だったという映像の問い合わせまで来ている!」

「あー。うん、そのですね。行けるって気がしたんですよ……」

 

「やる奴があるかバカ!」

 

 ライブ会場でのアレコレにお叱りを受ける事になってしまいました……。

 

「それでも本当に私は平気なんですって、むしろパワーアップですって!」

「脳にまで異常が出てるのに平気な訳ないだろ!」

 

 レントゲンには脊髄から広がる様に脳にまで達する侵食の図、本当に私は不便してないから大丈夫ですのに。

 

「とにかくだ!広報部に所属する事になった以上、体の異常には今まで以上に気をつけねばならない!それにだ、君に何かがあったら俺達も、翼達も、悔やんでも悔やみきれない」

 

 ……そこまで言われてしまうと、言い返せませんけど……。

 

「わかりました、出来る限りは通常のシンフォギアの運用をします。でも本当に緊急の時は、手段は問いません。やっぱり私は皆さんより経験が浅く弱いので」

 

 そうだ、多少感情の昂ぶりや無理を言わして身を削ればあの時の様に大暴れできるが、基本的に私は4人の中で最も弱い。

 

「そもそも、これから君は広報と開発部での活動がメインになる。実動班としての仕事はもう振られる事はない」

「でも緊急時や距離が近ければ戦ってもいいんですよね」

「あくまで救助を目的とする限りは、な」

 

 そう、広報部に異動させられたが故に私が戦場に立つ機会は強制的に減らされた。

 これから先もどんどん戦いの経験は置いていかれそうである。

 

「広報部繋がりなんですけど、問い合わせフォームはやっぱり特異災害対策機動部の公式ページで設置してくれるんですか?」

「ああ、君個人の問い合わせフォームを閉じてもらった理由だが」

「わかってますよ、中傷・個人攻撃を避ける為ですよね。その点は感謝してますよ、さすがに世界の人間全ての不平不満、やり場の無い怒りを受けきるくらい私は頑丈ではありませんから」

 

 今まで私が連絡用に使ってたメールフォームや伝言掲示板は閉じさせられる事となった、やはり人間70億もいればいい人ばかりではない。

 

「あーでもですね、一つか二つぐらいなら「キツいの」も質問返答分に混ぜておいてくださって大丈夫だと伝えておいてください」

「何故だ?」

「やっぱり広報として、ノイズと戦える「希望」として、人々に安心を与えるのも、私の仕事でしょう?行き場の無い怒りだって誰かに知ってもらう事で少しは癒えるでしょう」

 

 そうです、人とは不和を持つ事さえあれど、共感の生き物、痛みを知ってくれる人が居ればきっとそれだけで救われる人も居ます。

 

「……兄貴が君を広報部に異動させるのを賛成した理由がわかった気がする」

「兄貴って……つまり翼さんのお父さんでしょうか?」

「そうだ、「風鳴八紘」翼の父であり、内閣情報官だ。二課の後ろ盾として色々と便宜を図ってくれている。当然ながら君のこれまでの人間性などの調査書なども送っている、君の配信もその資料として……どうした?」

 

 ああ、翼さんのお父さんにまで私の配信見られてたんですか……。

 

「いえ、なんでもありませんよ……ちょっとこれからの配信について考えてました」

 

 そうですよね、世界に立つ広報となってしまった以上ヘタな配信はもう出来ませんよねぇ。

 

「そうだな、君にとってはそれも大事な事だったな。しばらく落ち着くまではゲーム配信は出来そうに無いのは覚悟しておけよ」

「わかってますって、しばらくはお悩み相談か歌で凌がせて貰いますが……どの程度までなら「シンフォギア」の事を触れていいんですか?マニュアルとか出来ません?」

「……そうだな、基本は君の立ち位置ぐらいにしておけ、それ以上はマニュアルが出来るまでは答えられないと言っておけ」

「了解です」

 

 はぁ、それにしても大変な事になったものです。

 

 完全に日陰の存在だった私がこうして広告塔みたいなモノになってしまうとは。

 

 

 

 面談を終えて、ようやく昼食を摂れると食堂に行くとそこには翼さん達が居ました。

 

「詩織さんッ!」

「な……なんですか、立花さん」

「よかった無事だったんですね!ずっと心配してたんですよ!」

 立花さんに抱きつかれました、ちょっと翼さんとは違うドキドキが襲ってきますけどなんでしょうこれ……。

 

「おっさんにたっぷり叱られたか詩織?」

「ええ、二日かけて叱られてもうくたくたです」

「ならアタシからは何もいわねぇ、ただ……よかった」

 

 クリスさんも、何処か嬉しそうな表情でこっちを見てきますが……

 翼さんの様子がすごく変です、というかこれ、滅茶苦茶落ち込んでますよね。

 

「はぁ、翼さん……そう落ち込まないでくださいよ。悪いのはフィーネ、そうでしょ?」

「落ち込んでなんか……それよりも詩織は、広報の仕事など本当に大丈夫なの?」

「……大丈夫、とは言い切れないけど、やりますよ私は。それに」

「それに?」

「なんだかやっと私らしい戦い方を見つけた、様な気がしないでもありませんから」

 

 そうだ、情報もまた武器、私が表に立つ事で世間の目から翼さん達を守る。

 これ以上無い役目かもしれませんね。

 

「そうです、翼さん達を世間の心無い言葉や中傷から守る避雷針として、私は皆の日陰を守る存在になれるチャンスかもしれませんから」

 

「……っ!」

 少しばかり立花さんが身を震わせる、そういえば立花さんはあの惨劇の「生き残り」でしたね、やっぱりあの頃の「攻撃の対象」にされた事もあるんでしょうか。

 

「当然立花さんも、守りますよ。あのライブの惨劇の様なあんなクソみたいな事は二度と起こさせません」

 

「えっ」

 

 なんですか、結構……私にもやれる事……あるんじゃないですか。

 本当に私にピッタリですね、この仕事。

 

「皆さんはノイズと戦ったり人を守ったりする。私はそんな皆さんを守る、それでいいじゃないですか」

「それじゃ詩織が守られてねぇじゃねぇか」

 クリスさんがそう言いますが、私はチッチッチと指を振って笑います。

 

「守られてますよ、司令や二課の人達、それに皆さんにも」

 

 これが「信頼」というモノでしょうか、結構悪いものじゃないですね。

 

「だから、任せてください。前みたいにただただ風に流されるだけの私じゃありませんから」

 

 これが「大人の力」みたいなモノな感じですかね、司令が私や皆さんを守ろうという気持ちが少し分かった気がしないでもないです。

 

 

 

 家に帰ると私は自分のホームページなどを最新情報に更新していく。

 

「さよなら、おりん」

 

 「おりん」というハンドルネームに別れを告げ「特異災害対策機動部所属装者 加賀美詩織」の名を刻む。

 

 そして最新のニュースを確認しながら、配信の準備をする。

 どうやら私の予期せぬ飛び出しのおかげで「世界への宣戦布告」を失敗したフィーネがネット上に再度「犯行声明」を上げた様だ、だが嘗めるなよ、世界を敵に回したお前達と違って私達は世界と手を繋いでやる。

 

 

 配信を開始、視聴者数はもう20万を超えていて、もはやタダの配信ではなくなってしまった。

 

 初めてのカメラ目線に若干戸惑いながらも、挨拶から入る。

 

『こんばんは、配信者「おりん」改め、シンフォギア装者「加賀美詩織」です。皆さんお待たせいたしました』

 「配信者おりんは死んだのか…」「萌え声なのに見た目もかわいい-114514点」「詩織……死おりん、しおりん!」「なんだ結局おりんじゃん!」「ゲロを吐いた口で歌って人を救う女」「マジかぁ。昨日の会見マジかぁ……」「もうBL配信できないねぇ」「BL配信しろ」「配信してないでノイズと戦え」こんなナリになってもまだおりんと呼んでくれるのか……感謝しかねぇな!

 

『今日はですね、私の立ち位置やこれまでの活動について報告しようと思います、許可が下りた分だけですけど』

 「マジか!」「国家機密じゃないの!?」「おりんの歴史がまた一ページ」「シンフォギアってなんだ」「櫻井理論概要とシンフォギア概要は特異災害対策本部のページで公開されてるのでそこを見ろ」さすがに皆うろたえている、いきなりぶっこんでくるとは思わないだろ。

 

『私はかつて適性があったのでスカウトを受けて、あくまでデータ取りの為に装者になりました。基本的な仕事は歌って、武装を展開して、細かい数字を出すそんなものでした、毎日2時間だけの仕事でした。しかしある時からノイズが異常に出現する様になり、「実動班」と呼ばれる方々だけでは対処できず、私も戦線に参加する様になった次第です。そして先日のライブでその姿を公開してしまったが故に広報に正式に異動となった訳です』

 「実動班がいるのか」「そらそうよ、自衛隊でも事務とかもあるんだろうから」「おりんの仕事は戦う事じゃなかったのか」「でもライブの時の動き凄かったよね」皆さんある程度予習はしてきていたらしいですがコメントは様々、まぁこんなものでしょう。

 

『こうしてノイズと戦うとやはり目の前で救えなかった命なんてものもあります、私が最初に救えなかったのは同じ機動部の1課の隊員さん達でした。避難通路の確保の為に命を張っていた方々でした。いくらノイズと戦えるとはいえシンフォギアは現状、ごく限られた数しか存在しません。やはり間に合わない時もあります、救えない人も居ます。ですけど、装者の方々を責めるのはやめてください、皆、等しく命を張って戦ってます。不満ややり場の無い怒りは私が受け止めます、それが私の、広報としての、「日陰を作る者」の務めです』

 「おりんが、ここまで大きな存在になるとは思ってなかった」「すごい覚悟だ」「日陰はもう俺達だけじゃなく、皆のものでもあるんだな……」……そうです、もう小さな日陰ではいられません。

 多くの人の日陰であるために大きくならなければいけません。

 

『同時に装者の方々だけではなく、皆さんの命を守り、安心させる事も私の役目です。いかにして特異災害対策機動部は皆さんの安全を守るかも、いずれは紹介していく次第です』

 「対策マニュアル皆も読もうな」「近場のシェルターや避難方法も確認していけ」「子供にばかり頼るんじゃねぇぞ」……こういう時、こんな子供で良かったと思います。

 庇護欲というのでしょうか、それとも見栄っ張りかな、コメントの中でも私に負けまいと頑張ってる人も見受けられます。

 

 

 それが自尊心を満たすためのモノであっても、誰かの為になるなら、偽善でもなんでも構わないと私は思います。

 

 

『ありがとうございます、今日の配信は一曲歌って終わりにしたいと思います、これは特異災害による犠牲者の皆様への鎮魂歌として「やすらぎ」を』

 「ありがとう」「これからも続けて欲しい」「たまには息抜きな配信もして」「平和になったらBL配信を復活させろ」「もうゲロは吐くなよ!」「これからも応援していく」「(更に応援していく方向に)切り替えていく」「最後までイキり生き続けろ」「再びおりんとしてイキれる日を待ってる」

 

 

 そして私の「日陰」を与える者としての、新しい戦いの日々が始まった。



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決意の代償

 フィーネの宣戦布告から一週間。

 

「おかしい、動きが無さ過ぎる……」

 

 布団に横たわり、端末を手にする。

 

『今日も動きは無し、加賀美さんは安静にする様に。明日はメディカルチェックの為、8時には出られる様に』

 二課からのメールを見て溜息をつく。

 

 

 恥ずかしながら、ちょっと調子に乗って夜更かしをしたら体調を崩した。

 

 ………そしてもう一つ、リディアンでの授業が全免除となりテストを受けるだけで高卒資格を得る事が出来る様になった。

 学校に行く理由がなくなってしまった。

 

 

 …………。

 

 決して行きたくなかった訳ではない、でも、今更どんな顔をして行けというのだろう。

 それにもしも行ったとして、名前も知らない相手に直接悪意を向けられたら、と思うと少し気分が落ち込む。

 

 それに現状、学校に行っている場合ではない。

 

 体調は不全、背負った役目は重い、責任を果たすまではそれどころではないだろう。

 

 

 ……孤独、というか、孤高というか。

 

 

 いざ大きな存在となってみると、自分と並ぶ者が見えなくて不安になってくるものですね。

 ……いや、今でさえ心はちっぽけな存在のつもりです、けれど、こうやって広告塔となってみると、少しばかり寂しくなる。

 

 ふとパソコンが目に付く。

 

 

 いつもなら、サボり配信が出来るって喜ぶ所なのに。

 今はもうサボってはいけないんですよね。

 

 今日の配信予定は体調不良により延期、と告知する。

 

 イキったり、失敗したり、闇を笑われたり、闇を笑ったり、もう出来ないのでしょうか。

 

 ………悲観的になりすぎですかね。

 

 

 平和が戻れば……いつ戻るのだろう。

 

 

 気がつけば既に月が昇る。

 

 不安を抱えたままの夜、たまにはこういう時もある。

 

 そう自分を納得させて、目を閉じる。

 

 

 

 

 夜が明ける。

 

 相変わらず体調は悪いけれど、最悪ではない。

 

 もう「慣れた」迎えの車に乗り、二課本部へ向かう。

 

 

「おはようございます、司令」

「おはよう、加賀美くん」

「状況は動きましたか?」

「ああ、昨晩。武装組織フィーネ、いやF.I.S.のアジトを特定して装者三人による突入を試みた」

「終わったと言わないという事は逃げられたんですね。それで、F.I.S.とは何ですか?」

「彼女等は米国の聖遺物研究機関に所属していた、日本の情報開示以前から存在し、おそらく……フィーネが米国と繋がっていた際に出来た研究機関だったそうだ」

「なるほど、ちなみにこの辺りの情報はまた発表とかやるんですか?」

「いや、その必要はまだない……それよりも、体調は大丈夫か?」

 

 動きはあった様です、アジトを一つ潰せたとはいえ、あのフィーネ、あとどれくらい隠し玉を持っているやら……。

 あの女がまだ存在するというだけで気が重くなります。

 

「はぁ……そこそこ悪いです、なんていうか体が重いですね」

「……今日はギアを展開した場合のデータも取る、君の場合はそこが関係するかもしれないからな」

 

 

 メディカルルームへ向かい、医師達の指示に従い全身をチェックされる。

 いくら医療目的といえどやはり他人に体を見られるのも恥ずかしいし、気が重い。

 

「ギアとの適合率が下がっていますね……」

「そうですね、体調が良かった時と比べると確かに」

「臓器もギアと考えると、適合率の低下がそのまま体調不良に繋がっている可能性があります」

「確かに、少し侵食されている臓器の動きも悪いですね」

 

 医師達が議論を交わしてるのを聞きながら鏡で自分の体の現状を見る。

 

 肌の色がイカロスの侵食によって所々灰色になって、まるで蝋人形の様です。

 

 適合率の低下が体調不良に繋がっているというのなら、逆に上げれば体調はよくなるんでしょうか。

 それとも体調が悪いから適合率が下がってるんでしょうか。

 

「結論が出ました、侵食率は変わらず、しかし適合率の数字がやはり気になります。この結果は司令にお伝えしましょう」

「適合率ですか……」

「ええ、臓器の動きや神経物質の量などもギアを纏っている時とそうでない時で変わっています、おそらくですが、イカロスを纏う事で改善する可能性があります」

「確かにギアを纏ってから少し楽になった気もしますが……」

 

 そうかぁ、悪い所をイカロスを活性化させて作り直す……ですか。

 

「ならちょっとやってみますか」

 

「加賀美さん!?」

 

 私はそのままイカロスを展開し、歌を歌い始める。

 気付きましたが、私……今「聖詠」無しで展開しましたね?

 

 そろそろ本格的に一つになり始めてますね。

 

 意識を集中させ、内臓の動きを確かめる様に、這わせる様に……力を通す。

 

「適合係数上昇、各種機能値も正常値に戻っていきます!これは!?」

 

 やっぱりですか。

 私の体そのものがアームドギアの様に「フォニックゲイン」を求めている。

 

「信じられん……まるで生体機能そのものがシンフォギアと一体に……これは新たなブレイクスルーを起こすかもしれん……」

 

 と、私はふと気になりました。

 私の体に繋がっている「ケーブル」にまで感覚がある様に感じます。

 

 それを手繰る様に……ッッ!?!?

 

「脳波に異常!加賀美さん直ぐにギアの展開を中止してください!!」

 

 ……頭が痛いです、ですがもう少し、もう少しです。

 

「観測機器が勝手に!?一体何がッ!?」

 

「私が……やってます」

 

 間違いありませんこれは、「ハッキング」いえ「操作」です。

 

「馬鹿な……これは、とんでもない事だぞ!?一体どうやって!」

 

 ふぅ、落ち着きました。

 

「イカロスの「蝋」を染み込ませて手繰ってみました、ちょっと頭に負荷が掛かりましたが……案外すんなりいけるものでしたね」

 

 染み込ませた蝋からギアにするのと同じように「意思」を送り込み操作しようとしましたが、少しばかり負荷が掛かったので「演算装置」を優先して侵食しました、これのおかげで頭への負荷も直ぐに消えました。

 

「イカロスは技術の象徴、そういう特性があるのかもしれん……しかし……」

 

「わかってます、下手に使わない方がいいでしょう」

 さすがにこれ以上負荷を増やす能力を使うとまた司令に叱られますし……。

 

「それだけではない、この事はここだけの秘密とする。司令には伝えるが記録には残さない」

「どうしてですか?」

「君の能力はあまりに危険すぎる、悪意ある者がこれを知ればあらゆる手段を使って君を狙うだろう」

 

 ……確かに冷静になってみれば、あらゆる電子機器へのハッキングとは現代社会を支える技術基盤への「ジョーカー」。演算装置と意識さえ足りれば無限に連結できそうな気もします。

 

「この力は、人の身には過ぎた力だ。それを忘れてはいけないぞ、加賀美くん」

 

 念を押すように、医師が言った。

 

 

「全く、また厄介なモノを出してきたな」

「すみません、やれると思ったので」

「やれると思った事を実行する前に相談をしろ!」

 

 司令に結果を伝えたらまた叱られた。

 

「でもこれ他の装者の皆さんの役に立つ能力だと思ったんですよ」

「頭をイカロスに侵食されすぎていないか?本当に大丈夫か?」

「酷い事言いますね!?」

「加賀美君があまりにどんどん人間離れしていくから俺も頭が痛い」

 

 司令に人間離れしていくって言われるのって心外なんですが!!

 

「これ開発部に持っていきましょうよ~櫻井理論解明の役に立ちますって!」

「だから何故そうも嬉しそうなんだ!」

「かっこよくないですか!?」

「重大な問題をかっこよさで語るな!」

 

 司令が深い溜息をつく。

 

 でも本当にこの力、かっこいいし絶対役に立つし……何だか全能感に満ちて……あれ……?

 ……私どうしてこんなに気分がいいんでしょう?

 

 あれ?

 

 どうして?

 

 

「いいか、伝承では太陽に近づきすぎたイカロスは蝋を熱で溶かされて墜ちた。過ぎた思い上がりは……」

 

 ああ、そうか。

 

「司令、ちょっと既にヤバいかもしれません」

「……何?」

「今すごい全能感でした、本当に脳やられてるかも」

 

「何……だとォ!?」

 司令が凄い顔で叫んだ。

 

 この後再びメディカルルームに叩き込まれ、安静を言い渡された。

 

 

 ………。

 

 結果として、脳の感情を司る部分にまで侵食が入ってました、体の侵食率と適合率と体調の関係ばかり見てて見落としてた形でした。

 

 どうやらこれも体調と同じく適合率で変わるようで、体調不良時は80%を下回っていた適合率が、この全能感に溢れている時は99%を叩き出してました。

 

 

 ちょっとこれはいよいよヤバいかもしれない。

 



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闇を纏いて、運命に抗う

『ギャルゲやります』

「は?」「ええ…(困惑)」「なんで?」「一週間持たなかったのか……(困惑)」「今日もおりんはかわいいなぁ(白目)」「ギ ャ ル ゲ 配 信 す る 国 防」「ク ソ ザ コ 生 主」「元 は 税 金」コメントが困惑に満ちる。

 それもそうだろう、国民の安心を背負って立つと言った女がたった一週間でギャルゲをしだしたら私だって困惑する。

 

 まさかこんなに早くゲーム配信を再開できるとは思いませんでした。

 これには訳がある。

 

 シンフォギアの完全侵食率が50%を超えた今、私の体にはどんどん面白能力が発現している。

 肉体の変化としては機械との接続が可能になったり、生体部分が聖遺物由来のモノに置き換えられたり。

 適合率の低下による生体機能の低下、適合率の上昇による異常な「万能感」を始めとした精神の高揚。

 

 異常事態が多発する今だからこそ、かつての平凡な少女だったころの生活を送り、精神状態を維持する事。

 精神状態の維持は適合率の維持にも繋がる、故に。

 

『あのですね、最近「適合率」っていうんですけど、シンフォギアとの相性が急激に上がったり下がったりで体調が崩れたりするんで、研究者一同に「精神を安定させて」適性値を維持しろって言われまして。私の精神安定剤代わりの配信なんで今日はぶっちゃけ、まともな話も何も出てきません、それでもよければどうぞ』

 「ええ…(困惑)」「上げたり下げたりして適性値を維持しろ」「ク ソ ザ コ メ ン タ ル」「所 詮 は お り ん」「帰ってきたおりん」「世 界 を 救 う ギ ャ ル ゲ が あ る」私を笑うコメントが噴水の如く噴出する。

 

 好き勝手やっていいという許可が下りたという訳だ。

 

『で、今日やるギャルゲは「2枚目のジョーカー」所謂泣きゲーらしいです』

 「メンタル維持するのに泣きにいくのか(困惑)」「おい適合率の話嘘だろ!」「嘘だゾ絶対ただの趣味だぞ」「これだからおりんは」「名作じゃねぇか!!!」「今、関連商品欄から買った」「滅茶苦茶売れてるじゃねぇか!」「これR-15だぞ」「エロゲじゃないので問題ない」とりあえず今日は5万人くらいがこの放送を見ている様だ、開始時は13万人居たので実に8万人帰った計算になる、すごいふるい落としだ。

 

『適合率の話は一応公開されてる櫻井理論にも書いているんですけどシンフォギアが武装機能つかったりする時にどうしても「反動」がくるんですよ、適合率が高ければ高いほどこの反動は小さくなり、低いほど反動は大きくなる、あまりに低いと体動かすだけで全身に負荷がかかるんです。実動班の方々がつい先日その適合率の問題で少しダメージを負ったので、それのデータ取りのもあるんですよ』

 「ちゃんと仕事だったのか……」「戦ったり戦わなかったりしろ」「シンフォギア装者って大変そう…」そうですよ、大変なんですよ、私なんてまともに戦ってもないのにこの有様ですからね。

 

『まぁ、それは置いておいて。開始していきたいと思います』

 

 私の姿が映るワイプを端っこに寄せて、ゲーム画面を起動。

 オープニングを鑑賞し、セーブデータを作る。

 

 そしてゲームスタート。

 

 「2枚目のジョーカー」は恋愛ゲーだ、選択肢の分岐でエンディングを選ぶタイプの奴で間違えれば死んでゲームオーバーだったりまだ取り返しがついたりもする。

 今の私も、こういう風に選択肢を選ばされている様な気もします。

 

『これがヒロインのはじめちゃんですか、ハートモチーフの服がかわいいですね』

 「おまかわ」「せっかくだからシンフォギア着て配信して」「しおりんも変身して」「今日こそシンフォギア見せて」ええい、アホどもが私にシンフォギアの展開を要求してきます。

 

 そうなんです、配信始めてから事ある事に私にギアの展開を求めてくるんですよ。

 でもギア纏う瞬間、一瞬ストレージに服を仕舞うので裸になるので絶対目の前で展開はしたくない。

 

『ははは、こやつらめ。シンフォギアは展開したら独特の信号が出て本部に連絡が行くんですよ、こんな事で展開したと言える訳無いでしょうが、ライブの時の動画と公式ページの私の動画で見なされ』

 「残念だ」「失望しました、おりんのファンやめます」「あの鉄壁スカートはすごい」「STG自機みたいな姿になるよね」「ホーミングレーザーは卑怯だと思う」「ノイズだけ狙い撃ちしたのはすごかった」そうです、まるでゲームキャラのプロモーションムービーのごとく私の「イカロス」だけ公式ページにて「実動」している動画があるのです。

 武装紹介や、遊覧飛行、特殊機動などをまとめた全12分の動画として投稿している。

 

 そんな事を言いつつもゲームを進める、主人公の「かずま」とヒロインである「はじめ」先輩である「さくや」後輩である「むつき」の4人がストーリーの主役、メインとなるキャラが章毎に変わり、そこでの行動の結果でエンディングが変わる。

 

『なんでカードが一枚も無いのにこんな強敵に立ち向かうんですかホント命知らずですよねこの主人公』

 「ライブの会場で人質取られてノイズに突っ込んでいったお前が言うな」「ノイズを踏み台にした女」「ノイズにマウントを取る女」実はあのライブで生身でノイズ踏み台にしたのもまた世界に流れてた様で、あの私の勇姿(不本意)もよく話題に出てくる。

 

『気合で勝ちましたね……というかトランスデバイスシステムってシンフォギアと似てますよね、適合率で能力変わるとか……』

 「そうなのか」「気合のなさそうなおりんは弱そう」「おりんは覚悟を決めると強いから…」好き勝手言いますね……。

 

 私は覚悟を決めてもそんなに強くなれる気がしません、私の力に必要なのは対価、身を捨てて削ってようやく、並べる様な……。

 やめておきましょう、またむなしくなります。

 

『だからなんで「さくや」も初期状態でラスボスに挑むんですか、むしろ飛ばない方が強いまでありますよ』

 「弱フォーム」「おりんも飛ばずに敵を倒せ」「格闘縛りをしろ」「ああ、ルート決まったぞこれ」先輩キャラを攻略するルートを選ぶ気でちょっと推してたんですが、先輩強すぎ問題。

 

『えっ!?さくや!?』

 「落ちたな…」「おめでとうトゥルールート入った」「初見でトゥルーに行くのか……(困惑)」ええ……死ぬんですか先輩……。

 

 

 先輩のさくやはまるで翼さんみたいでした、ちょっと不器用で、大切な人を失ってて、でも本当に大事に時には強くて。

 

 その先輩が死んだ事で、私は翼さんがいなくなってしまったら。

 なんて考えてしまいました。

 

 多分、こうやって必死に取り繕う気力はなくなりますね。

 きっと待つのは破滅でしょう。

 

 

 少し休憩を挟みます、カップうどんにお湯を入れようとポットの給湯ボタンを押し……アッ熱ッ!!!

 

 お湯が手に掛かって……カップを落としてしまいました……。

 

 よかった、中身は零れてないですね……でも蓋になにかヌルヌルするものが……

 

 あ。

 

 

 これ、蝋ですね……。

 

 私の手の表面、ちょっと溶けてますね……。

 

 

 …………。

 

 はぁ。

 

 本当に聖遺物ってなんなんですかね。

 

 私ってなんなんですかね……。

 

 ちょっとこれじゃあ誰かに触られてヌルヌルベタベタするって言われたらちょっと嫌ですよ。

 

―「わぁーっ!?詩織さんの手がヌルヌルする!?」

 何故だか一番最初に浮かんだのは立花さん、あの人体温高そうですしね……。

 

 ……もう熱いものはやめておきましょう。

 

 汚れたカップうどんは捨て、冷凍焼きおにぎりを取り出す。

 

 

『ただいまー』

 「まて、その手に持っているものはなんだ」「ほう、冷凍焼きおにぎりですか。夜食にバランスもいい」そうとも、冷凍焼きおにぎりは手軽だ。

 

『まぁですね、おにぎりでも食べながらラストスパート行こうと思いますよ』

 「夜食配信だぁああ!」「帰った奴らー!帰った奴らみてるかー!」「女の子の食事を見れるとは夜更かしした甲斐があった」深夜0時過ぎ、視聴者は2万まで減って私の気も大分楽にはなりました。

 

『はむっ……ぐっ』

 「は?」「えっ」「なんで…?」ん?なんか困惑のコメントが……

 

『どうしました?』

 「おりん……おまえ……」「そんなに思いつめてたのか…」「冷凍焼きおにぎりを温めない女」「冷凍焼きおにぎりを凍ったまま食う女」「冷徹女」ああ、冷凍焼きおにぎりが凍ったままな事ですか。

 

『やりませんか?冷凍食品そのまま食べるのって』

 「ええ……(困惑)」「ええ…(ドン引き)」「おりんお前…本当にお前…」「心配して損した」「冷凍食品を温めずに食べる国防女」「装者のエネルギー源」「草」「草」なんか滅茶苦茶笑われたり引かれたりしてるんですが……。

 

『いつも配信の時の間食こんな感じですよ』

 「今までもやってたのか!?」「まってスナック菓子かと思ってたんだが!?」「アイス食べてるのかと……」え、そんなにドン引きしないでくださいよぉ!

 

『と、とにかくですね。続きやってきます』

 「草」「草」「おりんの変なトコみちゃった……」「この国の行き先を憂う」「こんなのに守られてたのか」うるせぇ!

 

 

 最後の敵を倒してエピローグかと思いきや、始まる最終章、怒涛の展開、ヒロインとの敵対、世界の破滅、そして明かされる主人公こそが「2枚目のジョーカー」である事、ちゃっかり生きてた先輩。

 

『ああ、タイトル……ここで回収するんですか』

 「タイトル回収」「おつかれ」「感動のエンディングだぞ、泣け」「おりんの冷凍おにぎりのせいで台無しだよ!」「感動を冷ます女」ひどい言い様である。

 

『これでトゥルールートはクリア、今日の配信はここまでにしたいと思います』

 「おつおりん」「毎日冷凍食品を温めて食え」「明日も配信しろ」「冷凍食品を温めろ」最後の方はもう私の冷凍焼きおにぎりの話題で持ちきりでしたね……

 

 配信を切り、ゴミを捨てて布団に転がる。

 

 よくみればマウスもテカテカに光っている、蝋のせいだろう。

 

「あー私人間じゃなくなっちゃいましたよー」

 

 別に人間である事にこだわりなんて無い。

 多少ふざけた体質になってしまっても生きていれば。

 

「生きてればなんとか、なりますかね」

 

 久しぶりの好きな配信で少し心が落ち着いた、やはり効果はあり。

 

 明日の司令への報告を考えつつ、私は目を閉じる。

 

 

 翌日、二課本部に向かったらいつものメディカルルームが立花さんに占領されてた。

 何故だ。



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あなたで居られなくなる前に

素敵なファンアートを頂いたので小説トップに貼ってあります、見ろ。


 立花さんにメディカルルームを占領されていたので司令に話を聞いた。

 

 どうやら融合症例が進行してとんでもない事になっているらしい。

 

 しかもそれは私と違い、近い将来「死」という形で立花さんに跳ね返るというもの。

 

「どうしたものですかね……」

 

 私も検査でまた新しい症状が発覚、分泌物、主に汗なんかが「イカロスの蝋」に置き換わっていて、肌をコーティング、高熱などに反応して融解して剥離する事で私の身を守るというまたしても面白要素が加わってしまいました。

 

 しかもこれ、ある程度自分で制御して分泌したり、溶かす事で床を滑るみたいな使い方も出来てびっくりです。

 

 それはともかく。

 

 

 立花さんが死ぬ。

 

 それは嫌だ。

 彼女だって大事な仲間だ。

 

 ちょっと陽キャが過ぎて、眩しくて、ノリや空気が苦手だけど。

 彼女がいなくなったら、なんて考えたくない。

 

「詩織……」

「翼さん」

 

 休憩室で何が出来るだろうかと考えていると翼さんと会いました、久しぶりです。

 

「翼さんも何か悩み事ですか……」

「そういう詩織も、よ」

「立花さんですか」

「っ……!詩織も聞いたの……?」

 

 やっぱりですかぁ……。

 

「そりゃあ、メディカルルーム占領されてて何事かと……」

「……前から気になっていたけど……詩織は、何故いつもメディカルルームに?」

 

「データ取りですよ、忙しい翼さん達と違って私の時間は有り余ってますから」

 嘘ではない、私も「融合症例」として多くのデータを提供している。

 けれどそれは伝えない、ただでさえ立花さんの事もあるのだからこれ以上余計な心配は増やしたくない。

 

「……私はどうすればいいのかな……」

「難しいですよね、こういう時程、天才的な頭脳が欲しくなります」

 

 もし私に聖遺物に関する知識があったなら、こんな問題をさらりと解決できるだけの力があれば。

 なんて思ってしまいます。

 

 自分の手を見る、今こそ蝋は目に見えない程薄く、肌の上を覆っている。

 だから見た目を変える程ではないけれど、背中やお腹の一部の皮膚の様に肌が全部灰色になったらどうしよう。

 流石に不気味ですよねぇ。

 

 しかし天才的頭脳があれば、これもパパッと解決……できればいいですねぇ。

 

 でもそれが出来ないから、私達は私達に出来る事をするしかない。

 

「とにかくまず出来るのはやっぱり立花さんを支える事、じゃないですかね」

「支える事……」

「そうです、心を支える事は重要だと思います」

「そういう詩織はどうなんだ」

「私は、大丈夫ですよ。広報のストレスで体調崩したら司令から「ゲーム配信」の許可がおりましたからね。大分楽にはなりましたよ」

 

 適合率による体調不良と「万能感」は黙っておく事にします、これもまた心配させたくありませんから。

 

「……そうやってスラスラと話せる時程、詩織は何かを隠してる」

 

 はぁ、なんでこう翼さんは変な所で鋭いんですかね。

 

「そりゃ隠し事も出来ますよ、広報になった事で色々厄介事や余計な秘密も出来ます。でもこの程度昔に比べたら大した事じゃありません。私だって日々成長しているんですよ」

 

 だから下手に隠し事が無いなんて嘘はつかない。

 白でも黒でもなく灰色であれ、それが今の私に必要な事。

 

 そうです、完全な白にも黒にも、眩しいひだまりでも暗い闇の底でもない、薄暗い日陰でなければならない。

 

 高く飛ぶな、太陽に焼かれて溶けるぞ。

 低く飛ぶな、海の水で羽が重くなって落ちるぞ。

 

 まさにイカロスに相応しく、私は中空を飛ばねばなりません。

 

「それよりも立花さんです、あのウキウキ陽キャお嬢さんが戦いから遠ざけられたりしようものなら直ぐに気に病みます。ここは素直に立花さんの身を案じつつ、ちゃんと理屈と感情の両方で押しとどめながら支えてあげましょう、その為にも私は明日からリディアンへの登校を再開します」

 

「詩織!?」

 

「言ったでしょう、翼さん達が皆を守るなら、私達が翼さん達を守るって」

 

 そうですね、私に出来る事は少しでも心の支えになる事。

 

 立花さんだけじゃなくて、翼さんやクリスさんの助けにも。

 

 私が皆の日陰になれたなら。

 

 その思いで、私は戦う事を決めたのだから。

 

「ちゃんと、今ここに居ないクリスさんにも伝えておいてくださいね」

 

「詩織、あなたは本当に変わった」

 

 翼さんが困った様な顔で笑う、釣られて私も笑う。

 

「やりたい事が見つかったから、ですね」

 

「でも忘れないで欲しい、詩織が私達を想ってくれてるように、私達も詩織の事を想っているから」

 

 翼さんが差し出した手を私は両手でとる。

 

 命の「あたたかさ」が伝わってくる。

 

 ……わかっています、この想いは互いに繋がってる。

 

 立花さんがよく言っていた「手を繋ぐ事」それが私達にとって一番大事な事。

 

 

 さぁ、明日からまた忙しくなりそうです。

 

 

 

『明日から学校に復帰するので、ちょぉーっと今日の配信で気合入れようと思います』

 「おりん復学マジ!?」「おりんと生で会える子がうらやましい」「気をつけて行ってね、おりんを狙う奴がいるかもしれないし」「いやおりんに返り討ちにされるだろ」「国防少女やぞ」「学校から配信しろ」「がんばって頭おりんから卒業しろ」心配をする声も多いが、応援する声もちらほら。

 

 さぁ今日も配信だ、これは自分を勇気付ける為のモノ、決してやましい理由からではない。

 

『じゃあ今日は「さやかの唄」をやります』

 「あっ(察し)」「純愛ゲーや!」「開幕グロ肉やめろ」「おまえーっ!」「グロ注意やぞ」「リンク貼ってるから概要欄見て、察して」噂に聞いてた凄い奴、ずっとやりたかったんだよねぇ。

 

 ストーリーは事故に遭って後遺症で感覚がおかしくなってしまったバイオリン演奏者の少年が「人魚姫」と出会う話だ、そうだ、超たのしみである。

 視聴者数がモリモリ減っていくのも楽しい、ふるい落としである。

 タイトル画面を立ち上げるまでに4万人減った。

 今居るのは5万のダンゴムシ予備軍であり、多分終わる頃には1万くらいになってそうだ。

 

 このゲームもR-15、グロ注意である。

 

『うわぁ…景色がグロ肉に見えるってキツいですね』

 「俺には普通にしか見えない…」「早速おりんが狂気に入り込んでいる」「はて病室にしか見えませんが(白目)」このゲームも結構前の作品だ、実はある程度ネタは知っている。

 

 正しい世界が狂って見えて、おぞましい怪物が美しく見える。

 

『これがさやかちゃんですか、デザインが秀逸ですねぇ』

 「ラスボスきたな……」「メインヒロインや!」「これが美少女に見えるなんて精神状態おかしいよ…」「おっそうだな(撲殺)」「冷凍弾を出せ……」メインヒロイン登場と同時に混沌に包まれるコメント欄、冷凍弾は確かEDの一つでしたっけ。

 

『……私も孤独な世界でただ一つ美しいものを見つけたなら、惚れますね』

 「翼さんのことかな?」「翼さんに惚れてるのか」「翼さんに告白しろ」「翼さんとコラボ再開しろ」「翼さん最近忙しいらしいからな…」いやなんで急にそんな翼さんを推して来るんですか!?

 

『いやいやいや、私は確かに翼さんの事は好きですけどそういう感情ではありませんって!』

 「嘘つけ、コラボの時ウキウキだったゾ」「のろけ配信のログもある」「翼さんのただのファン」「いいや!よく訓練されたファンだね!」そうです、そうです、仲間で、友達で、ファン、それだけですよ!

 

『それにこのゲームの時に出す話題じゃありませんよ!知ってるんですよ!ヒロイン死別か離別か心中しかルート無いって!』

 「あっ(察し)」「おりん……お前消えるのか?」「おりんは翼さん置いて死にそう」「不穏な事いうのやめろや!おりんはマジで命張ってるんだから!」「正直すまんかった」

 

 はぁ……まったくこのアホどもは、私と翼さんの関係をなんだと思ってるんですか!

 

 

 

>@風鳴翼【公式チャンネル】:おりんにとって私は遊びだったの!?

 

 

 何をアホなコメントしてるんですか、翼さん。

 というかなんでこんなアホな配信を見ているんですか。

 

『いや、翼さんねぇ……遊びじゃありませんけど。誤解を招く事はですね』

 「ここに塔を建てよう」「やば……」「翼さーん!翼さーん!見てますかー!フラーッシュ!」「キテル……」ああもう、滅茶苦茶ですよ!

 

 たった一言のコメントでもう流れは翼さん一色、何かイベントがある毎に私と翼さんに結び付けてきます。

 

 辿り着いたエンディングは共に雪の中で手を伸ばし事切れる「ガラスの幸福」エンド。

 

『めっちゃ美しい、しんどい……』

 「俺達もつばおりで妄想したらしんどくなった」「翼さんは意地でも守れ」「ライブの時に翼さんを守る為に飛び出したおりんの映像で100回泣いた」「親友の為に世界にその身を晒した女」「一生世界の宝物」「一生翼さんの友達でいろ」ま、まったく余計なお節介です!

 

 

 

 配信を終了し、電源を落とす。

 

 翼さんの友達、私はいつまで彼女の友達でいられるのでしょうか。

 

 

 でも、この命尽きるまでは、翼さんを追って生きたい……かな。

 

 十分に気合は入った、後は明日から動くだけ。

 

 うまくやれ、加賀美詩織。



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日の試練

 さぁて、どうしたものか。

 

「いやぁー面目ありませんねー!詩織さん!」

「いいって事です、これも仕事ですからね」

「詩織さん、変わりましたね」

「まぁ、変わらざるをえませんでしたから」

 

 今日は立花さんと二課から同伴で学校に向かう。

 それは護衛としてであり、監視でもある。

 

「とりあえず今朝説明された通り、今立花さんの中のガングニールは不安定です。ですから安定させる方法を確立するまでは戦闘は禁物、もし戦いに巻き込まれそうなら私が翼さん達の到着まで時間を稼ぎます」

「……うん」

「いつも立花さんは頑張っています、だから時には休んでいいのです。私が立花さんを信じる様に、立花さんも私を信じてください」

「……はい!」

 

 立花さんにはこういう明るい前向きな言葉が有効だと私は推測します、それは彼女のポジティブさ「責任感」の様なモノに対する答え。

 きっと下手に突き放す様な言葉は余計に彼女の心を締め付けます。

 

 これは司令や翼さん、クリスさんと話し合って決めた事です。

 

「よう、案外元気そうじゃねぇか」

「いやぁ~ご心配おかけしまして~」

「ああ、安心したぞ立花。だが油断は禁物だ、しばらくは様子見、戦うのは私達に任せろ」

「……わかりました!」

 

 途中で合流した翼さん達もきちんと言い聞かせる感じで立花さんに接してくれてます。

 

 とりあえず一先ずの目標は達成、これからは様子見をしながら、自分の面倒も見る必要が出てきます。

 

「…あれ、もしかして…」

「加賀美詩織さんだ……」

「復学したんだ……」

 

 皆から離れ、一人別の教室に向かうと遠巻きに私を観察する様な視線を感じるし、小声で話しているのも聞こえる。

 これが有名人という奴の気分ですか。

 

「…話しかけても大丈夫なのかな?」

「ちょっと怖いよねぇ」

「そんな事言っちゃダメだよ、私達の為に戦ってくれてるんだから」

「いやいや加賀美さん自体じゃなくて後ろの政府とか……」

「その前に加賀美さんめっちゃ勉強してるんですけど……話しかけたら迷惑じゃない?」

 

 ……思ったより、好奇の目で見られるのは…堪えますね。

 早く授業始まりませんかね……。

 

「あのっ!加賀美さん!」

 

 と思いきや随分思い切りのいい人も居たものです。

 

「なんでしょう?」

 きちんと笑顔で対応、あんまり無愛想にすると広報としてはダメですからね。

 

「この間のライブの時は助けてくださってありがとうございます!ノイズが現れた時はもうダメだって……」

「私は私に出来る事を、すべき事を、やりたい事をやっただけです。お気になさらず」

「それでも、ありがとうございます!」

「……感謝は受け取っておきましょう」

 

 ……こう率直に感謝をぶつけられるのもまたちょっと恥ずかしいですね……。

 

「あの!」

 と、ファーストペンギンが飛び込んでくれば次から次へと来るものですね。

「なんでしょう」

「おりんさんのファンです!サインください!」

 

 は?え?

 

 色紙とサインペン渡されても…ええ……。

 

「ええと、なんて書けばいいんでしょう。サインなんて初めて書きますよ」

「ホントですか!?じゃあ私が世界で初めておりんさんのサインを得たファンになるんですか!じゃあ「ファーストダンゴムシさんへ、おりんより」でお願いします!」

「ええ……」

 

 私のファンの総称ダンゴムシなんですか……?

 えぇ……。

 

 仕方ないのでデフォルメしたダンゴムシを描いて、私の名前を書く。

 

「ありがとうございます!一生宝物にします!お歌も!お仕事も!配信も頑張ってください!応援してます!」

 

「え……ああ、ありがとうございます」

 

 いや、ちょっと……困惑ですね……これは。

 

「すみませーん!この教室に加賀美さんが居ると聞きまして!」

「おりんさん!サインください!」

「あ!本当におりんさんだ!」

 

 すると今度は上級生の方々まで来た……。

 

 ダンゴムシは身近に潜んでいたのか……。

 

「あ、あのですね!もうすぐ授業なので続きは昼休みに来てください、ここで待ってますので……」

「あ~!生よわよわおりんです!」

「生よわよわって何ですか!私はつよつよですよ!」

「本当におりんだぁー!!」

 

 熱心なファンが近いって厄介ですね!

 

「あ~ダメですよ!おりんさんは日陰の住人ですから囲っちゃダメですって!」

「いやいやおりんさんは私達の日陰、こうしておりんさんの側で安らぐのはオッケーだって言ってましたでしょう!?」

「おりんさんの生歌ききたーい!」

「わかるー!」

 

 いやいやいやいやいや、待って待ってくださいって、何時の間に女子高生リスナー増えたんですか!

 

「いやーおりんさんって凄いですよね、私達とそんなに変わらないのに!」

「あのトークスキル!歌うま!しかも戦える!」

 

 えっえっえっえっ……ちょっとなんか気付けばさっきまで遠巻きに見てたクラスメートまで近寄ってきてますし!

 

「あのですねぇ!私を褒めても萌え声しかでませんよホラ!」

 

「かわいい!」

「アニメ声やってみて~」

 

 ウッ!!!これは陽キャのノリです!しまった!囲まれたぞ!

 どうやらそのようですね!

 既にリディアンも陽キャの巣窟と化してましたか!

 早く脱出しなければ!

 

「ていうか、加賀美さん肌つやすっご!!」

「マジで!?ていうか触っていいですか!?」

「ホントだ!何つかったらこんなにつやつやになるの!?」

 

 うわぁ!腕触らないでくださいよ!ほっぺもだめです!服の中に手を入れたの誰ですか!?

 お……おどりゃこの陽キャども~!!このか弱いダンゴムシをいじめてたのしいか!

 

「はーい!授業はじまりますよー!席に戻ってくださーい!後明るい皆さんが加賀美さんを囲ったら加賀美さん弱っちゃいますからねー!」

 

 た、助かった……。

 

 有名人って……大変ですね……。

 

 それにしても授業も、久しぶりに受けてみればすんなり頭に入ってきます。

 やっぱり勉強しなさすぎもダメですね。

 

 ……体を触られた時、蝋の事を上手く隠せてよかったです。

 それにちゃんとイカロスに侵食されて灰色になってる部分にきちんと「色を塗って」来てよかった、色落ちもなさそうですしこれからもそうしましょう。

 

「加賀美さん、授業についてこれてますか?」

「大丈夫です」

「わからない事があればすぐ言ってくださいね」

 

 大丈夫、まだ大丈夫……ちゃんと予習してきた範囲だ。

 もう頭おりんとは言わせない……。

 

「じゃあこの英文読んでみてください」

「――Trust me.」

「はい、正解……じゃありません!」

 

 英語は苦手なんですよぉっ!!!

 単語なら何とかなりますけどねぇ!英文なんて訳せますかぁ!

 

 

「ぷっ……」

「英語よわよわ……」

 

 くそっ笑ったな貴様ら!顔覚えたからな!

 

 はぁ……早く授業終わりませんかね……?

 

 

 

 なんとか授業をやりすごし、休み時間をやり過ごし、放課後。

 

「はぁ、お好み焼きですか?」

「そうなんだ、皆で食べに行く事になって。詩織さんもどうです?」

「私、死ぬほど猫舌なんですよね……」

 

 今朝、いつもの癖でコーヒーを飲んだら口の中の蝋がぬるぬるしてあんまり味分からなくなってちょっと辛かったんですよね。

 どうしましょう。

 

「ふらわーのお好み焼きは少しぐらい冷めてもおいしいよ!」

「そうですね、たまには付き合って行くのもいいでしょう……」

 

 響さんがどうにもお友達に誘われ、お好み焼きを食べに行く事になったので護衛たる私も行く事になりました。

 

 というか人と一緒に外食なんて初めてですね、自分で稼ぐようになってから一人焼肉はよく行ってましたが、後一人回転寿司。

 なんか緊張しますね。

 でもまぁ、なんとかなるでしょう。

 

 

 

 なんとかならなかった……響さんのお友達は皆滅茶苦茶元気だし、そういえば二課の事知ってる人達だったし、私がことごとく誘いを断る事を知ってたから、この機会に色々聞き出そうと、もう大変だった。

 

 しかも緊張して熱いままのお好み焼きを口に入れたせいで、溶けた蝋が溢れて「加賀美さん涎凄い事になってる!」なんて言われてしまいましたよ。

 

「私、お好み焼きが大好きなんですよ」

 

 咄嗟にそんな嘘をつく事にもなりましたし、本当に散々でした……やっぱ陽キャの群に突っ込まれるのは無理ですって!

 

「加賀美さんの隠された一面が沢山みれて良かったです」

「そうだね、それにビッキーも元気でたし」

「誰かさんが滅茶苦茶心配してたもんね」

「えっ……」

「鈍感だな~ビッキーは」

「もちろんヒナだよ」

「未来が?」

 

 でもこの帰り道、とても女子高生って感じがします。

 私には無縁だと思っていた様な日常。

 

 これも、私達が守らなければいけない世界の日常。

 

 

 だけど。

 

 目の前を凄い勢いで走り去った3台の車、そして続く爆発音。

 

「ッ!!」

 

 響さんが駆け出したので、私も置いていかれない様に駆け出す。

 

 その先で見たのは、炎、炭の山、そして。

 「ソロモンの杖」を持った男。

 

「ドクター……ウェル……!!」

「ああ、あの裏切り者ですか……!」

 

 ……響さんを戦わせる訳にはいかない。

「私に任せ」

「ひぃ!なんでお前がここに居るゥ!?ウ……ウワーッ!!」

 

 突然叫びだしたあのクソ野郎がソロモンの杖を振り、ノイズが飛び出してきた。

 まったくなんだというんですか!

 

 この勢いだと聖詠は、間に合わない……!

 後ろには……皆がいる!

 

 ならば。

 

 私は聖詠を口ずさみつつも、前へと踏み出す!

 

「待って!詩織さ……!」

 

 右手を「蝋」で固定、ノイズに衝突と同時に「剥離」させ隙間を作る。

 

 ノイズとてこちらを攻撃する時には「当たる」。だからこそ、ノイズの動きが止められる。

 おまけに私の体は「シンフォギア」だ。

 

「詩織さぁん!!!」

「人の身でぇ……ノイズに触れたァッ!?」

 

 おどろけ、私だってシンフォギア装者だ、これくらいやってみせる。

 

 イカロスを纏い、腕の機銃を「接射」しノイズを蹴散らす。

 

「私の身も、私の心もシンフォギアです!」

 

 さぁて、この手でぶっ潰してやりますよ、この裏切り者野郎。



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溶け落ちる現実

「はぁ――ッ!」

 

 心は―安定してる、まだ自制が利いている。

 体も―安定してる、ちゃんと動く。

 

 イカロスのギア形成もいつも通り、万全です。

 

 とりあえずは――

 

「ドクターウェル、ソロモンの杖を捨てて投降してください。さもなくば命の保証はしません」

「だぁれが!するものか!僕はこの力で英雄になる!」

「英雄になる?バカですね。英雄は結果です、目的としてる様な奴にはなれません」

「うるさぁあい!!」

 

 ソロモンの杖を確保しましょう、このイカレ野郎は……まあ……。

 

 黒い炭と化した者達を見る、彼らだって、生きたい筈だったんですよ。

 

 

「死んでも、知りませんから」

 

 呼び出されたノイズ全てを即座にロックオン、ホーミングレーザーで始末。

 

 機関砲で目の前の男を撃つが――。

 

 新たに現れたノイズに阻まれましたね。

 

「お前も僕の邪魔をするのかぁ!加賀美詩織!」

「ええ、しますね。あなたは人を殺した、その罪は償わせます」

 

 当然でしょう、人の命を奪う奴なんて野放しに出来るわけ無い。

 それにこいつを始末して、ソロモンの杖を取り戻せば。

 世界が平和に近づく筈なんです。

 そしたら後はフィーネを始末して……。

 

 皆がもう戦わなくていい世界を。

 

「僕を殺せば人殺しになるぞぉ!」

「咎は受けますよ、あなたを始末した後ですがね!」

 

 エネルギーチャージ完了、再度ロックオン、レーザー開放。

 

「月の落下を!防げるのは僕達だけだぞォ!!世界を滅ぼすつもりかぁ!!」

 

 はっ笑えますね!そんなお題目を上げるならもっとマトモにやるんでしたね!

 

「じゃああなたを始末した後にゆっくり考えますよ!」

 

 今度こそ、始末してあげましょう。

「殺しちゃダメです!詩織さん!」

 立花さんが何か言ってますけど――……別にどうでもいいでしょう。

 

 ロックオン

 

 ――開放。

 

「うわ……ウワアアア!!!」

 地獄で後悔しろドクターウェル。

 これで、平和に一歩……

 

 

 

「間一髪……デース!」

「なんと、丸鋸……」

 

 近づきませんでしたか、クソですね。

 赤い丸鋸にレーザーを防がれてしまいました。

 

 この間のシンフォギア装者二人ですか。

 

 

 

 こいつらもフィーネの仲間、それだけで生かしておく理由は。

 

 ありませんね。

 

 

 

 ロックオン

 開放。

 

「待ってください!詩織さん!ダメです!」

 

 

 しかし防がれてしまいましたか、レーザーの出力よりあの二人のアームドギアの方が硬いという訳ですか……。

 

「容赦ない……ッ!」

「血も涙もない冷血女デース!世間様にあれだけアピールしても!所詮は偽善者だったんデスね!」

 

「私は善人でもなんでもないですよ、ただ平和が欲しいだけ、それだけ」

 

 ロックオ……

 

 何で私の前に立つんですか。

 

「立花さん、邪魔です」

「ダメです……ダメですよ!詩織さん!どうしてしまったんですか!!」

「そいつらは平和の敵です、さっさと始末してしまえば、立花さん達が戦わなくて済みます」

「それでも!」

 

 立花さんはおかしくなってるんですかね、もう何度も戦っている相手でしょう。

 それに、生かしておいてもまた罪を重ねる――だから私が終わらせ――。

 

 何で、こんなに傲慢になってるのですか私は――。

 

 まずいですね、怒りで適合率が上がって制御が利かなくなっている?

 

「わかりました、殺しはしません……でもですね捕まえる必要は……」

 

 冷静になるんです、加賀美詩織、適合率を下げろ、歌を一度止めろ。

 確かに殺してしまえばフィーネの居場所はわからなくなるし、司令も悲しむ。

 

 それに死んだ者は帰ってこない、生きて罪を償わせるのが一番です。

 

「もう一度警告します、武器を捨て投降してくださ――」

 

「Gatrandis babel―――」

「Gatrandis babel―――」

 

 目を離した隙にこれですか。

 もう、本当に頭にきましたからね。

 

「調ちゃん!?切歌ちゃん!?どうして!!」

 

「立花さん、どいてください」

 

 ここにいては立花さんが巻き込まれます、立花さんの腕を掴んで私の後ろに投げ飛ばす。

 

 

 二人分の絶唱ですが、対抗できるでしょうか。

 いえ対抗できますね、私なら――!

 

「Gatrandis babel―――」

 

 イカロスの絶唱は「力の解放」、この出力でやるとアームドギアこそ吹き飛びますが……二人始末するぐらい余裕ですね。

 

「Gatrandis babel―――」

 

 ――?思ったより出力が上がらな…

 

「出力が上がらない!?」

「減圧!?」

 

 

「立花さん、何をしているんですか」

 

 絶唱のエネルギーが奪われていく、立花さんによって束ねられて。

 

「立花さん、そんな事をしなくても二人始末するぐらい……」

「ダメ……ですよ!詩織さん!……いつもの優しい詩織さんに戻ってくださいッ!」

 

 ……そうだ、私は何をしているんですか!?

 立花さんを守る為に、戦っているのにどうして!

 どうして立花さんがその身を削ってるんですか!?

 

「私は……違う!ダメです!立花さん!!」

 

「セット!ハーモニクス!!!」

 

 立花さんの放つ凄まじい熱気にイカロスの蝋が溶け出し――。

 

 

「二人にも……詩織さんにも絶唱は使わせないッ!!」

 

 天に向かって吹き荒れるエネルギーの嵐に、私の体が弾き飛ばされ。

 

 

 この痛み――……しばらく忘れてましたね……ッ!

 

 地面に叩きつけられたおかげか正気に戻りました、が!

 

「立花さん!立花さ―ッ!!」

 とんでもない高温!

 近づけない!今にも倒れそうな立花さんを支える事も、出来ない!

 

 でも、私のせいなんだ!

 私のせいで立花さんは――ッ!!

 

「今なら……やれるデスよ……!」

「なのに戻らなきゃいけないの?」

 

 くっ!!それにソロモンの杖だって!!

 全部、全部私の手から零れ落ちてく!!

 

「響!」

 小日向さんの声が聞こえる。

 

 そうだ、それでも立花さんだけは!!!

 

 蝋が溶ける……ッ装甲も……だけど!

 冷却――どうする……探せ、水道管――通ってない!貯水タンク……あった!

 

 私は彼女を失いたくない!だから力を、力をもっとよこせ!イカロス!!

 アームドギアをパージ、バリアコーティングに全部回す!

「――ッ!!」

 

 溶ける様に、焼ける様に熱い!けど掴んだ、立花さんの手…!

 

「イカロォオス!!!」

 

 そしてもう片方の腕の機銃でタンクに穴を開け、水の溢れ出す方に立花さんを引っ張って!

 

 

 

 

 

 

「響!加賀美さん!」

 

「………」

 

 私のせいです、私の思いあがりが、立花さんを傷つけた。

 私のせいで、立花さんが……死ぬ?

 

「加賀美さ――ッ!?顔が!!」

 

「おいッ!大丈夫か!詩お――ッ!」

 

「私の、せいです。なにもかも」

 

 立花さんの胸の傷から飛び出した結晶。

 私がもっと冷静に立ち回れば、立花さんがこんな事になる事なんてなかった。

 

「いや……加賀美さん!響ーッ!」

 

 ――私には、誰も守れない?

 

 

 

 

 

 

 ……意識が戻ると、そこは見慣れた二課のメディカルルームでした。

 

 鏡を見る。

 

 顔の半分が、灰色に染まっていた。

 

「とうとう、ここまで来てしまいましたか」

 

「いつから、だったの」

 

 丁度鏡とは逆の向きに翼さんが居ました、全く気付かないとは……私も重症ですね。

 

「ずっと前から、私は一度フィーネに殺されて、イカロスのおかげで生きてる様に振舞えた」

「どうして黙ってたの?」

 

「余計な心配はさせたくありませんでした」

 

 翼さんに正面から抱きしめられている。

 だというのに、心が痛い。

 

「お前も、立花も!大馬鹿だ!いつも自分を大事にしない!そうやっていつか、奏みたいに私の前から消えてしまう!」

 

 翼さんが泣いている……。

 

「私は翼さんと出会った事、少しだけ後悔しています」

「――ッ!」

「私が死ぬ事で、傷つく事で翼さんを悲しませてしまう、私はそれが悔しいんです」

 

 もしも、出会わなかったなら、こんな痛みも感じずにいられたのかもしれません。

 もしも、出会わなかったなら、こんな辛さも感じずにいられたのかもしれません。

 

 

「詩織はいつもそう、そうやって私から離れようとしていた、いつも孤独であろうとしている様に見えた」

 すると翼さんが悲しげに笑った。

 

「だから私は、抱きしめてでも、隣で歌ってでも繋ぎ止めようと思った」

 

「どうしてですか」

 

「奏が、私にしてくれた事を。今度は私が誰かに返したかった。最初はそれだけだったのかもしれない」

 

 ………。

 

「でも今は、詩織だから繋ぎ止めたい。私を想ってくれるファンで、友達で、仲間である詩織だから、死なせたくない、孤独にもさせたくない」

 

 翼さんは私の事を、そう想っていてくれたんですか。

 

「私は、皆さんに「ひだまり」に引き摺り出されて、最初は少し迷惑に思ってました」

 

 それが今はどうですか、私はそのひだまりを失いたくないと思って、こうやって命を張る様にまでなった。

 

「でも翼さんや立花さん、クリスさん、司令、緒川さん、皆さんに出会ってからは、変わりました。私は誰かに守られるだけじゃなくて、守れる存在になりたかった」

 

 でも、私の力じゃ届かなかった。

 

「だから、焦った。取りこぼした。思いあがりが、全部を台無しにした」

 

 私もイカロスの運命から逃れられなかった、のかもしれません。

 

 

 

「それでも、まだ何も終わって無い!終わらせない!立花も、詩織も死なせない!絶対に!」

 

 私を抱きしめたまま、翼さんが叫んだ。

 

 まだ、終わってない。

 

 まだ終わらせない。

 

「この命がまだあるじゃないか!」

 

 私はまだ、生きている。

 翼さんはそう言った。

 

 



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心はテセウスのパラドクスを乗り越えるか

 私は、響さんを戦わせたくなかった。

 融合症例でこれ以上の進行は命に関わるであろうという事を伝えられ。

 初めて誰かを失う事を恐れた。

 その恐れが私から冷静さを奪って、自制を奪った。

 私の知るべき事、するべき事をも無視して、無謀な行動に走らせた。

 結果としてそれは響さんに重くのしかかり、更には自分自身にも跳ね返ってきた。

 

 FISの事だって伝えられていた、月の落下を阻止する事を題目としている事。

 だけどそのくせ進んで人命を損なう様な事をしている事。

 戦うにしても、司令に指示を仰ぐべきだったのかもしれない。

 

 

 メディカルルーム、私と同じように仕切り一つ挟んだ向こうに、立花さんがいる。

 

「立花さん、あなたに私は謝らなければならないし、お礼もしなきゃいけない、それに聞きたい事もあります」

 

「……私はいいんですよ、詩織さんが無事なら」

 

 立花さんは、私のこの現状を見てはいない。

 

 侵食率94%、脳の一部を除いてイカロスに侵食されてない部分はない。

 もう私は、私でなくなっているのかもしれない。

 

 けれどこの「想い」は、加賀美詩織の「想い」だけは本物だと信じてる。

 

「私が先走ったせいで、立花さんの融合深度が更に進む事になってしまいました。あの時、私は自分勝手な「守る」という選択ではなく、「共に戦う」事を選んでいたなら、こんな事にはならなかったのかもしれません」

 

 ドクターウェルの殺害、ではなく無力化を行うだけなら、ノイズを立花さんに任せ、私が速攻で拘束に向かう、それだけでよかった筈、そうすれば短期決戦、あの二人の装者が到着する前に片付いたのかもしれません。

 

 それに、もう一つ。

 

「私は、立花さんがどういう気持ちで戦っているのかも知らなかった、知ろうともしなかった、だからどういう気持ちで戦ってたのか、聞かせて欲しい」

 

 ただ力で脅威を排除する事しか考えてない私と違って、立花さんは対話で解決しようとしていた。

 

「私は、誰も殺したくない、殺して欲しくない、殺されて欲しくない……それにだって、調ちゃんや切歌ちゃんが楽しそうに歌っていたのも見たし、誰かの為に戦ってるのはわかってる……私のワガママかもしれないけど……」

「ワガママ、だっていいじゃないですか。私だってワガママで戦ってるんですから、それに調に切歌というのですね、あの子達は……私は名も知らない彼女達を、何も知らずに殺そうとした」

 

 理解せず、対話を拒み、一方的に排除しようとした。

 私の一番嫌いな行為を自分でしていたのです。

 

「その点でも、ありがとうございます立花さん。私を人殺しにならない様にしてくれて、それに命だって助けて貰った」

 

 あの時こそ、二人の絶唱を迎え撃つ「自信」はあった、けれど二人分の絶唱を無傷でやりすごす事は難しいだろうし、絶唱のバックファイアで私自身も死ぬ可能性があった。

 

「っ……詩織さん、はどうなんですか」

 

「まぁ、よくはありませんよ。立花さんをそんな状態にして、名も知らない相手を殺そうとして、暴走して、気分は最悪です。けれど……立ち止まっている訳にはいきません」

 

 そうです、まだ何も終わってはいない。

 

 相変わらずフィーネ達は健在、こっちは立花さんこそ戦えなくなったけど、私はまだ動けるはず。

 

 

 いや、私自身の責任で果たさなければいけない。

 

 

 鏡に映る「灰色」になった私の顔。

 たとえ、異形のバケモノになっても、私は果たさねばなりません。

 それがこの命がまだ、ここにある理由なのかもしれません。

 

 

「詩織さんも、私と同じ融合症例なんですか」

「ええ、でも立花さんと違って、体が置き換わっていく形、ですけどね」

「それって……」

「でも、生きている」

「生きて……?」

「立花さんと違って命には関わらない、だから心配しないで欲しい」

 

 嘘だ、命には関わらないだろうが、完全に侵食されてしまえば元の「加賀美詩織」としては「死ぬ」だろう。

 でもこれはあくまで物質面で見た時の考えです。

 

 

 私の覚悟は、もう決まっていたのかもしれませんね。

 

 

 

「立花さん」

「なんですか、詩織さん」

「私の歌、聴いてもらっていいですか」

「……いいですけど、どうして突然」

「そんな、気分なんです」

 

 

 聖詠無しでギアを纏う、アームドギアの展開は不要。

 

 私は今日限りで「ヒト」をやめる。

 ただただ、物質としてのヒトにこだわるより、「ヒト」の心の形でありたい。

 

 

 

 愛を知らなかった人形 愛を知りたかった人形

 薄暗い部屋の中で一人 生きている振りをしていた

 だけど愛を知って ひだまりの中で 生きる事を知って

 誰かを愛する事を知って 誰かに愛される事を知って

 人形は空を飛びたいと願う

 古いパーツを捨てて 新しい身体になって

 どこまでも 自分を愛してくれた人の為に

 飛びたい 飛びたい ありたい と願う

 たとえ 姿が変わっても 心だけは本物だと信じて

 信じて 願って 祈って

 

 

 侵食していない部分も全て、イカロスに置き換える。

 鏡に映る姿は、もはや人でない。

 肌も全て灰色、瞳は鈍い光を放ち。

 

 脳へ侵食していく感覚、視界は回り、音は耳鳴りのようで、肌に触れる大気も熱いのか冷たいのかもわからない。

 

 そして全てが置き換わった時、私の息が詰まる。

 

 鼓動だけが響く。

 強い鼓動だけが、心臓が動く感覚だけが残る。

 

 熱い、熱い、熱い。

 

 熱い、鼓動。

 

 感覚が生き返っていく。

 肌に亀裂が入るような、まるで殻を破るような。

 そんな感覚と共に吐き気がした。

 

「う……うぇ……」

 

「!?大丈夫ですか!?詩織さ――!」

 

 口から溢れるのは熱いなにか、そしてさっきまで皮膚を覆っていた何かが剥がれ落ちた。

 

「……っはぁっ!」

 

 吐き出したモノを見るとそれは灰色の蝋。

 

 そして、剥がれ落ちたものもまた灰色の蝋。

 

 鏡を見る。

 

 そこには。

 

「詩織さん!大丈夫ですか!」

「大丈夫です……が……これは……」

 

 

 引き篭もり特有の少し白っぽい肌、くせ毛が少し目立つ髪、ブラウンの瞳。

 かつての姿と変わらない、人間らしい姿をした私の姿があった。

 

「……詩織さん、何を……したんですか」

「私の侵食してない部分を全部、捨てたんですよ」

 

「-ッ!?」

 

「案外、思い切ってやってしまえば楽になりました」

 

 これは私が償う為に必要な事。

 

「加賀美くん!」

 司令が慌ててメディカルルームにやってきて何事かと思いましたが。

 そうですよね、私に繋がれていたバイタルチェックの為の機器も全部蝋にまみれて滅茶苦茶です。

 

「司令、心配事一つ。減らしました」

 

「その姿は――……まさか君は……」

 

「はい、全てをイカロスに置き換えました」

 

「何故だ!何故いつも相談をしない!何故いつも君はそうやってッ……!」

「そうやって、生きてました。そうやってここまで来てしまいました。それは私の悪い所ですね……結局それは最期まで治る事はありませんでした」

 

「君は、本当に加賀美くんなのか……」

 

「さぁ、わかりません。私にも誰にも、私が加賀美詩織だと証明する事は難しいと思います……でも、この想いだけは嘘じゃありません」

 

 そうです、加賀美詩織が死んだとしても、生きていたとしても変わらないものがただ一つ残った。

 それだけで十分なんです。

 

「詩織さん……」

 

「立花さん、私はあなたを守ります。翼さんも、クリスさんも、だから、信じてください」

 



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「詩織」の心

 サンドイッチを食べる、――の味がする。

 コーヒーを飲む、――の味と香りがする。

 

 テレビを見る、動く映像と光の形が見える。

 窓から景色を見る、きちんと青い空と、灰色の街と、白黒の木が見える。

 

「大丈夫、もう無くすものは、ない」

 

 広報としての活動も、しばらく休み。

 

 せっかく広報用に用意した持ち運び用のカメラ付きのパソコンも出番はしばらく無し。

 

 

 …………。

 

 適合率100%、侵食率100%、私は名実共にイカロスと一つになった。

 もはや頭を悩ませていたリスクは何処へ消えたのやら。

 

 自由自在に蝋は溶けたり固まったりを繰り返し、血や肉の様に動く。

 融点も自由に変えれるから前みたいに熱いモノを飲んでも勝手に蝋が剥がれたりしない。

 

 体は不調にならなくなったし、心も変な「万能感」に支配されなくなった。

 

 これ以上の事はない。

 

 

 

 私はこれ以上なく「完全」、いいえ「完成」した。

 もう成長する事も体重の事で頭を悩ます事も、肌のケアなんかを気にする事もなくなった。

 

 ある意味、永遠の若さみたいなものを手に入れた。

 

 パソコンだって、自由自在に操作出来る様になった。

 絵心はなかったけれど、マウスを動かす事なく絵を描くことも出来た。

 

 

 何もかも満ち足りているのに、この空虚さは。

 

「謹慎かぁー」

 

 何もする事がない、それ即ち暇である。

 まさか生涯のうちで謹慎を味わう日が来るとは思わなかった。

 

 

 …………。

 私が悪い事をしたのは事実。

 でもじっとしているのもまた苦痛。

 

「しますか、配信」

 

 有線カメラを接続、一部操作はやっぱり体でやった方が早い。

 

 体は大丈夫か、変な事になってないかも鏡でチェック。

 

「ゲームは、どうしましょうかね」

 

 せっかくなんだから、人間の限界を超えたプレイをしたい。

 

 この体で出来る事を確認しておくのも大事です。

 

『はぁい、ゲーム配信です。ゲリラです』

 「告知しないなんて珍しい!」「うわ!おりんだ!」「しばらくぶりのおりんだ!」「大丈夫?」休日の昼間だというのにリスナー数が瞬く間に5000を超える。

 

『今日はストライクファイターのネット対戦やります、パスはかけません、好きにどうぞ』

 

 ストライクファイターは格闘ゲーム、そんなに難しい操作はないが相手の動きをいかに見切れるかが鍵になる。

 

 さすがにイカロスの蝋とはいえネットワークの中にまでは進入できないので、進入先はコントローラーまで。

 今とても悪い事をしている気分だ。

 

『じゃあキャラはザンで行きます』

 

 投げ技の得意な重量級ファイターだ、すると対戦相手が入ってくる。

 

『なんで的確にメタりに来るんですか!』

 「イキりん失敗」「おまたせ」「20年変わらぬ戦術」「伝統芸能」

 

 相手はガイ、技の出が早い上に飛び道具の無いザンの天敵だ。

 

『ええい、やってやりますよ。今日の私は阿修羅すら凌駕しますから見ててくださいよ!』

 

 コントローラーを掌握、このメタりに来た奴をボコボコにして格ゲーうま配信者の名を手にいれてやります。

 

 レディ、ファイト。の文字が映った瞬間に距離を詰める様に入力する。

 

 画面を移動するザン、しゃがむガイ、遅い、このスピードなら技を出されるよりも速く……

 

『なんでぇ!今技出たじゃん!』

 「判定負け」「やっぱりな」「キャラ相性の差は……」「イキり失敗配信者」うるせぇです!スタートダッシュは失敗しましたが、今度はイカロスの能力使って見切ってやりますからn……

 

『飛び道具やめえや!起き上がりに重ねてくるな!』

 「入力遅すぎィ!」「あっ(察し)」「そら(起き上がるのが遅いと)そうなるわ」あっクソ起き上がり狩られてラウンド落とした!

 

『ぐっ……ストライクファイターやめてドンパチやります』

 「えぇ…(困惑)」「諦めが肝心」「格闘で勝てないから射撃で勝とうとする女」「CPUにしかマウントを取れない女」ええい、格ゲーはやめです!相手の読みに勝てません!

 

『ドンパチ2周目指します』

 「果たしてイキれるのかおりん」「おりんの腕なら二周は出来るでしょう」「ノーミスで一周はいくと見た」一応STGは得意です、やってみましょう。

 

 再びコントローラーに意識で操作するが……。

 

 これ、普通に体で操作したほうが、普通に反応いいですね……。

 

『はい、一周目アイテム取得、1ミスでクリアです』

 「イキりん」「序盤の動きが悪かった様だが」「慣れてなかったんでしょう」さすがにイカロスの能力で操作してたとはバレませんでしたね、というか能力より体使ったほうがマシって……。

 

『え、二周目こんなに弾幕濃いの?』

 「即堕ちイキり配信者」「あっ(察し)」「これは……ダメみたいですね」クソァ!!

 

『えっあっあっ……終わった……』

 「クソザコナメクジ」「やっぱりおりん」「所詮はおりん」「機械にもマウントを取られる女」

 

 難易度があまりに高すぎてあっけなく終わった、これは痛い……。

 

 時間もまだまだダダあまり。

 

 何か少し――そうだ。

 

『じゃあ残った時間、空中散歩と行きましょうか』

 「えっ」「えっ」「マ!?」「まさか!」

 カメラ付きPC一つを手に、私は窓に足をかける。

 

 なんだか、少し悪い事をしたい気分です。

 

 

 背中には蝋で出来た羽、超常の揚力と推力によって飛行を可能とする、人にはないモノ。

 シンフォギアシステムとしての展開ではないので波形で特定される事もない筈。

 

 流石に人に見られても大丈夫な様にキチンと「外装」はシンフォギアのモノへと変え。

 

 いざ行かん、空中遊覧配信。

 

『そーらはきれいだなー皆さんもそう思いますよね』

 「いかんいかん危ない危ない……」「やばいて!」「高所はやめてクレメンス…」はっはっは見てください、高所から望む絶景。

 

 カメラとパソコンをイカロスで繋いでやっているおかげで両手はあいてるので、指差したり、曲芸飛行したり。

 いい気分です。

 

 いい気分……本当に。

 

 …………。

 

 わかってる、この空虚さも、胸の苦しさも、全部知っている。

 

 翼さんに泣かれた、立花さんに泣かれた、クリスさんも俯いて泣いてた。

 「私の心は死んでないよ」と言っても、皆泣いていた。

 

 早まったかなぁ、それとも、結末は変わらなかったのかなぁ。

 

 その時だった。

 

 「おりん!スカイタワーから煙でてる!」「マジだ!」「仕事の時間だぞ!」

 コメントが流れてきたので、私はスカイタワーの方を向く。

 

 確かに、黒い煙が上がっているのが見える。

 

 これは、見過ごす訳には行きませんね。

 

『報告ありがとう、今すぐ向かいます』

 

 そのまま、私は聖詠無しでイカロスを「シンフォギア」形態に移行する。

 

 以前にも増したスピード、安定した出力なら40秒もかからない。

 センサーでまずは周囲を様子を窺い……ノイズですか!

 

 タワーの周囲を囲うノイズの群、カメラと放送は……切ってる場合じゃないですね。

 つけたままでいいでしょう。

 

 ロックオン、レーザー開放。

 

 これで外側のは大方、やれた筈。

 しかしタワーの中にもノイズが居るのが見えますね。

 

 そのまま突入します、破壊された外壁から進入、ノイズに機関銃を撃ち込む。

 やはり適合率が100%となった事で威力は上がっています。

 秒間発射数も、貫通力も!

 

 っと、上からノイズがすり抜けて来まし……

 

「ハァッ!!」

 

 黒い風がノイズを切り裂いた?

 いやアレは……。

 

「マリア……いやフィーネ!!」

 

 あれはフィーネの筈、だけど何故ノイズを攻撃した?

 それに抱えている女性は誰だ?

 

「貴女は……加賀美詩織!」

「警告します、速やかに投降してください。そうすれば命の保証は……」

 

 

「きゃあ!助けて!!」

 人の悲鳴、私はすぐさま全方位視界に変更し、後ろを確認する――がそれよりも早くフィーネが動いた。

 

 その槍の一撃は、寸分の狂い無くノイズを貫く、何故?

 

 どうしてノイズと戦っている?

 

「早く避難しなさい!」

 

 それに、人を守ってる?どういう事?

 

「フィーネ、どういうつもりですか」

「………どうもこうも無いわ、ただ私は私の……」

 

 

「居たぞ!撃て!」

 っと!次から次へと訳の分からない事態が襲ってきますね!!

 今度はどこの奴らですか!

 

 しかも私ごと、撃って来ました!

 イカロスのフェザークロークを防御モードで展開、目の前のフィーネもマントでそれを防ぐ。

 

「うわぁああ!」

 

 だが逃げ遅れていたであろう人が、撃たれた?

 

 こいつらは、敵という事でいいのですか?

 

 なら。

 

「そこの集団、私は日本政府の――」

「構わん撃て!!」

 

 腹に5発、頭に2発、胸に4発、当たってしまいましたね。

 

 随分殺意満々じゃないですか……!

 

「おかげで蝋が垂れてきちゃったじゃあないですか……!」

 一部は肉を突き破って刺さったが、私を殺すには至りません。

 

「バ……バケモノだ!!」

 

「あなた達よりは人らしいですよ!!」

 

 久しぶりのマルチランチャーを展開「ネット」で謎の武装集団まとめて捕まえる。

 

 さて、残るは……。

 

「私の……私のせいだ……」

 ……撃たれて倒れた人を見てそんな事を呟くフィーネ……違いますね。

 

 フィーネならそんな事はしないでしょう。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、どういう状況か。教えてもらいましょうか」

 

「……マリア、屋上から脱出を」

 その時、マリアに担がれていた女性が初めて言葉を発した。

 彼女もまたマリアの仲間なのだろうか。

 

「待ってくださ……!」

 止めようとした瞬間、目の前の床が盛り上がり、崩れ始めた。

 

 マリアは放って置いても大丈夫そうですが、目の前の確保した「テロリスト」をみすみす死なせる訳には行きません。

 

「くそったれですね」

 とりあえずネットで纏められたテロリストどもを回収して、突入した場所と同じように脱出する。

 

 するとスカイタワー上部が爆発、本当に……。

 

 まったく、訳の分からない事ばかりおきまs……。

 

 しまった……。

 

 配信続けたままでした。

 

 

 ……これはお叱りで済みますかね……。



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静かな時

 あかんかったぁ……。

 

 独断に次ぐ独断、無断行動に無断行動を重ねてついに拘束された。

 二課仮設本部で常に誰かしらの監視付きの反省室行き。

 

 司令の話では、私が捕縛してきた「奴ら」も大問題だし、そいつらがした事も大問題、おまけにカメラに収められたフィーネ改め…マリアの行動もまた議論の対象になって政府も世間も大騒ぎ。

 その対応の為に指示をしてる暇もなく、しばらくは二課は独自行動を許される代わり、「加賀美詩織」を保護観察処分にしなければいけなくなった。

 

 ちなみに世間には私が撃たれて「破損したシーン」はシンフォギアの「機能」と説明され、現在「療養中」という形で私の拘束は隠されているらしい。

 

 おまけに小日向さんが行方不明、改め何者かに拉致されて、気落ちしていた立花さん達を元気付ける為に司令は外出中。

 

 

 これは……。

 

 暇というか、退屈というか。

 

 何もする事が無いというのは苦痛ですね。

 

 

「なんかないんですかぁ、緒川さぁん」

「なんかないんじゃないですよ、反省してください」

 

 今の時間の監視は緒川さん、反省室に書類を持ち込み、仕事をしながらの監視である。

 

 ちょっとやりすぎたせいか、いや……慌しさのせいか、皆さん少し言葉に棘があるようで……。

 

 いえ、まぁ私のせいなんですが……。

 

「ここの所、加賀美さんは問題を起こしすぎです。前からはとても考えられませんよ」

「すみません、しかし毎回何かしら選ばざるを得ない状況ばかりなので」

「選ぶ前に相談する癖をつけてください、本当に取り返しのつかない事になりますよ」

「……ごめんなさい」

 

 現状はまだ取り返しがつく事なのか、は微妙ですが。

 確かに私は何もかも捨てて、皆の為にある事を望んだのです。

 

「それに加賀美さんは自分を責めすぎです、もっと誰かを頼ってください。その為に僕らもいるんですから」

「誰かを頼る、ですかぁ」

 

 …………。

 

 一人で生きてきた、一人で死んでいくつもりだった。

 

 誰かに頼る、そんな生き方は出来ないと思っていた。

 

 一人だから全てを背負っていける、そんな事を思っていた。

 

 

「もし、も。もしも、ですよ。私の謹慎中に皆がピンチになったら、私を出してくれる様にお願いしてもいいんですか?」

「それはちょっと……」

「やっぱダメじゃないですかぁ!」

 

 相変わらず――の味がするコーヒーに口をつける。

 灰色の部屋の景色、モノクロの視界。

 かろうじて青色だけが色を残している。

 

「皆を信じてないわけじゃありません、でも、皆を守りたいと思う気持ちは……止められないんです」

「その為に、何もかも捨てちゃったら元も子もありませんよ」

「はぁ……もし、私のお父さんが司令や緒川さんみたいな人だったら私もこんなメンドクサイ性格にならずに済んだかもしれませんね」

「あなたの父親にはなれませんが、相談にはいつだってのりますよ」

 

 結論、結果、それだけが全てじゃない。

 手段、道のり、その過程でありうる事、それも含んでこその「辿り着く答え」。

 

 父も母も結果だけを見ていた、当然ながら、私のそこまで歩んできたモノには興味も示さなかった。

 だから私も結果に辿り着いた報告だけをして生きていた。

 

 

 それに今現在も内緒で進めている事がある。

 

 艦内のプラグに「蝋」を糸の様に張り巡らせ、通信を傍受できるようにしている。

 

 正直、担当が緒川さんだから動きでバレないか心配ですが、現在60%、パソコンを経由して二課本部内の全てのカメラやセンサーを見る事が出来ます。

 

「はぁ、加賀美さん」

「なんでしょう」

「あなたのその心配性はわかりましたので、セキュリティに引っかからない程度なら見逃します」

「え」

 

 なんで?どうしてバレたんですか?

 

「司令にあなたの特性は聞いてますよ、電子機器へのイカロスを介したハッキング。この部屋のプラグは二つ、その内一つをベッドを移動して隠している」

「単純な所からバレましたね……」

「これは司令に報告しますからね」

「はぁい……」

 

 やっぱり二課の大人は侮れない……。

 頼ってもいいのかなぁ……。

 

「私も早く大人になりたいですねぇ」

 

「まずは落ち着きと本物の「責任」の扱い方を覚える事ですね」

 

 時間はそうして過ぎていく――。

 

 

 

 

 

 足音。

 現在、見張りはいない。

 

「よぉ、随分と暇してる様だな」

「ええ、暇してますよクリスさん」

 扉越しに話しかけてくるのはクリスさん、この反省室だけは外からでも話が出来る様に廊下側に小窓がついている。

 

 今、二課仮設本部は近海でノイズに襲われている米軍艦の救助に向かっている。

 現場への到着まで、まだ時間は掛かる。

 

 当然ながら勝手に「聞き耳立てて」得た情報だ。

 

「ったく、でもお前はそうでもしないと勝手に突っ走ってくだろ。どっかのバカみたいに」

「そうですね、皆さんのピンチともなれば体が動いてしまうのが私ですからね」

「詩織は心配性だなぁ……」

「そうですね、皆さんを信じてこそいますけど。私にも力がありますから、いざとなれば扉を抉じ開けて出て行きますから」

「やめろよ、絶対やめろよ。後でおっさんに怒られるのはお前なんだからな」

 

 ……まぁ抉じ開けてまではいきません、ちゃんとハッキングして開けますから。

 

 私を動かすのは、私の心だけ。

 

 私を動かしたければ私の心を動かしてみろって事です。

 

 まぁ、反省室に入れられているのは。

 私の本心からの申し訳なさですけど。

 

「クリスさん」

「なんだ」

「心配事でもあるんですか」

「……いや、そう……だなぁ」

「あるんですか」

 

 珍しい、こういう風に歯切れが悪いクリスさんは滅多に見られません。

 

「こうやって戦いを前にすると、もし、もしかしたら、二度と会えなくなる。かもしれねぇって考えちまう」

「そりゃ戦いますからね、死ぬ事もありましょう」

「それでもアタシらは行く、アタシらの想いを持って」

「でしょうね、私も同じです」

「だから確かめておきたかった。アタシの想いが何の為かってのを」

 

 自分の気持ちを確かめるのは大事です。

 それは――私が心のないマシンにならない様にしている事でもあります。

 

「クリスさんの想いはクリスさんの想いです、他の誰のモノでもない、だから自分を信じればいいと思います。それでも不安なら心の中にある歌を信じてやりきる。それしかありません」

「ありがとな詩織、アタシも覚悟は決まった」

 

 クリスさんは、何かをするつもりなんでしょう。

 そういえば聞いた話ではソロモンの杖を起動させたのはクリスさんの歌。

 それが今は敵の手に渡って、私達を苦しめている、その事で何か想うところがあったのかもしれません。

 

「まぁ、困ったときは誰かを頼りましょう、誰かを信じましょう。特に私なんかだったらすぐに飛んでいけますからね」

「そうさせて貰うよ、程ほどにな。っていうかまず詩織に言われたくはねぇよ。詩織こそ人を頼りやがれ」

 

 まったく、クリスさんまでそういう事言うんですか。

 

「じゃあ、そろそろ準備の為に行くよ」

「行ってらっしゃい、クリスさん」

 

 そうしてクリスさんを見送って、行ったのを確認すると。

 私は通信機で翼さんに連絡する。

 

『もしもし翼さん?』

『……どうしたの?詩織』

『クリスさんが何か思いつめてたから、少し相談』

『……詩織が相談なんて珍しい……少し驚いた』

『私は謹慎中で出れないから、クリスさんをお願い』

『……任された』

 

 最近の翼さんの仕事時の口調もいいですよね。

 

『翼さん』

『何?』

『他の皆に接する時みたいなカッコイイ感じの口調で私に話しかけてくださってもいいのよ』

『はぁ……詩織はきちんと謹慎していろ、間違っても戦場(いくさば)に出てこようとは考えるな』

『ん、いいですね。なんていうか頼れる感じがします』

『詩織の口から「頼れる」なんて言葉が出てくる様になるなんてね』

『私も日々、変わりますから』

 

 このヒトならざる身となってもただ一つの道標(アリアドネの糸)だけ頼りに。

 

『頑張ってきてください、翼さん』

『行ってくる』

 

 私は二人を見送る、きっと無事に帰ってくる事を願って。



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アリアドネの糸

2回目の更新です


 

 回帰、全ては一つの場所へとやがて辿り着く。

 やがてそれは「想い」を起源へと導くだろう。

 

 

 

 目を閉じれば、モニターに映るべき景色が私の頭の中に直接入ってくる。

 圧倒的な力、無垢にして苛烈な歌。

 

 小日向未来は、立花響の「ひだまり」は今、「シンフォギア」を纏わされ、敵として戦わされている。

 

 そのギアから放たれる光は聖遺物由来のモノを分解する、対シンフォギアに特化したモノ。

 

 だが、そこに私は「可能性」を見た。

 

 

 

 クリスさんは、ノイズと戦っていて手が出せない。

 翼さんは、相手の装者と戦っていて手が出せない。

 

 そして、小日向さんは何処かへと向かっている。

 

 行けるのは、私と「立花さん」だけ。

 

『あのエネルギー波を利用して未来君のギアを解除するだとォ!?』

『私がやります!』

 

 司令と立花さんの会話が聞こえてくる。

 

『現在の響ちゃんの活動限界は2分41秒になります!』

『たとえ微力でも響ちゃんを私達が支える事ができれば、きっと』

 

 そうだ、支える。

 支えるんです。

 

『司令、私も行きます。こういう時に支えあうのが仲間、でしょう?』

『加賀美くん!聞いていたのか!!』

『今日ばかりは、ちゃんと事前相談して、頼って、ちゃんとやりとげますよ』

 通信機で会話で私も混ざる。

 

 

『待って、どうやって聞いていたの?』

『まぁ、その辺りは私の秘密ですよ……それよりも、立花さんをサポートする事に徹します。それならいいですよね?』

 さすがに通信傍受というか、聞き耳立ててたのは秘密だ。

 

『……勝算はあるのか、響くん!加賀美くん!』

『思いつきを数字で語れるかよ!』

『信念を持って、やり遂げるまでです』

 

 私の居る反省室のロックが解除された。

 

『ありがとうございます』

 

 ………私の考えは、こうだ。

 小日向さんが纏っているギアは聖遺物を分解できる。

 あのエネルギー波で小日向さんのギアを解除するのはもちろんだが、同時に、立花さんの体を蝕む「ガングニール」もまた除去できる筈だと考える。

 

 そうすれば、立花さんの命は助かる筈。

 まさに「死中の活」ですね。

 

 ですが、それと同じく。

 私があのエネルギー波にあたればどうなるか。

 それはわかりません。

 完全にイカロスと同化した私は、消えるのか、それとも……。

 

 

 まぁ、いつもの事です。

 死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。

 何よりも、何も成さずして死ぬよりは良し。

 

 私は私の心に従って、好きに生きる。

 

「立花さん」

「詩織さん」

 

 廊下を移動し、艦上に上がる為のハッチの前で合流しました。

 

「まずは呼びかける、対話フェイズAでしたね」

「詩織さんそれといい……どうやって聞いてたんですか?」

「しおりイヤーは地獄耳ですよ」

「あはは……」

「まあそれはともかく、前とは違って今度は二人で行きましょう。そうすれば勝算も二倍、お楽しみも二倍ですよ」

「なんですかお楽しみって!?」

「それは、お楽しみだからお楽しみなんですよ」

 私は笑う、釣られて立花さんも笑う。

 

「じゃあ、いきましょうか詩織さん」

「はい、いきましょう、立花さん」

 

 ハッチを開け、差し込む光の方へと歩いていく。

 

 

「一緒に帰ろう!未来!」

 私達の視線の先には――色のギアを纏った小日向さんの姿。

 破壊された米国の艦隊から黒い煙が青い空に立ち昇る。

 

「帰れないよ、だってわたしにはやらなきゃならない事があるもの」

「やらなきゃいけないこと……?」

 

「このギアの力で、響がもう戦わなくていい世界をつくるの、平和で穏やかな世界を作るために私は……」

「でも未来!こんなやり方で作った世界は本当に暖かいのかな?私の望む世界は、未来が居てくれる暖かいひだまりなんだ」

 

 ひだまり、立花さんにとっての帰るべき場所、それは小日向さん。

 私の帰結するべき場所、それは。

 それは――。

 

 きっと皆がいる世界を見ていられる場所、なのでしょう。

 

「――私は響を戦わせたくないの」

「ありがとう未来、でも私……戦うよ」

 

 対話フェイズをAからBへ移行。

 

 さあ、イカロス。

 

 私達の役目を、果たしましょう。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron…」

 立花さんが、ガングニールを纏う。

 後ろに控えていた私は、聖詠無しでその姿をイカロス形態へと移行する。

 

「立花さん、合体です」

 

 私にはもう生身の体はない、だから全身をアームドギアにだって変える事が出来る。

 立花さんのガングニールの背中に、武装として被さる事だって出来る。

 

「詩織さん……!これは……!」

 

 立花さんから発せられる余剰エネルギーをこちらで再利用させてもらう、そして発せられる高熱を放射し、立花さんへの負荷を減らす。

 

「空中機動と防御は任せてください、立花さんは小日向さんへ想いを伝える事だけを考えればいいのです」

 

 タイムリミットは2分41秒、だから私も最初から本気でいかせてもらう。

 

 LOCK ON- TARGET ×1

 狙いを定めて、まずは初手でエネルギーを開放、牽制に拡散レーザーを射出。

 

 DISCHARGE

 

 立花さんが跳躍する。

 

「どうしてわかってくれないの、響」

 

 立花さんの余剰エネルギーによって瞬く間にエネルギー許容量が最大になる。

 故に小日向さんのギアから放たれる「聖遺物殺しの光」といえども「純粋なエネルギー」をぶつける事で、こうして。

 

 DISCHARGE

 

 二つの光がぶつかり爆ぜる。

 

 「相殺」できる。

 

 

 拳と、扇状のブレードが激突する。

 立花さんの攻撃に、あわせてくる小日向さんですが……彼女にここまでの戦闘技術は無かった筈。

 つまりギアからのなんらかの補助を受けている?

 

「ぐぅっ!」

 

 

 っと、立花さんが刺突で被弾、私へのダメージは無いですが、距離を開けられました。

 小日向さんのギアの両肩の「鞭」の様なアームが振るわれますが、させません。

 

 LOCK ON TARGET ×2

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 開放したホーミングレーザーを小刻みにぶつける事で弾く、立花さんが体勢を整えるまでの隙を私がカバーする。

 

「はぁッ―!」

 両足のバンパーで船体を叩き、ジャンプしつつ跳び蹴り、命中。

 対象へのダメージ、軽微。

 

 対象、エネルギーをチャージ。

 正面から撃ちあうには――不利ですね。

 

 

「詩織さん!」

 立花さんの声に答え、私は空中機動を始める。

 

 バレルロールにてエネルギー波を回避。

 

 対象、小型のミラーを展開し、拡散レーザーの射出を開始。

 推奨行動、回避、迎撃、迎撃。

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 被弾。

 

「詩織さん!大丈夫ですか!」

「問題なし」

 

 推奨、撹乱。

 

 蝋による「保護膜」の構築、そして剥離。

 

 有効、「空蝉」に攻撃が集中した瞬間を狙い機銃でミラーを撃墜していく。

 

 緒川 さんに、学んだ技が、役に立ち まし たね。

 

「立花さん、構えてください20秒後に、突撃を開始します」

 

 タイミリミットは1分を切る、これ以上は立花さ ん の身が もた ない。

 

「わかりました!詩織さんを信じます!」

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 迎撃、迎撃、新たな飛翔体を確認。

 

 リフレクターと認識。

 TARGETのエネルギー波を反射、回避。

 回避。

 

「舌を噛まないで、くださいね」

 

 計算完了。

 TARGET TARGET LOCK ON LOCK ON

 リフレクターの展開位置から、収束を予測。

 

 被弾、被弾。

 直進ブースターに異常。

 

「立花さん――」

 

 ブースターをレーザーキャノンで代用。

 

「はい!」

「行きましょう」

 

 これ以上の連続開放は破損の危険あり。

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 私達は、突撃 す る。

 

「未来!」

 

 対象を捕捉、距離0。

 

 タイムリミット12秒、エネルギー収束地点、距離300m。

 

「離して!」

 

「嫌だ!」

 立花さんが――叫ぶ。

 

「もう二度と!離さない!!」

 

 それで― ―い いの です。

 

 アームドギア耐久限界、次の開放が――

 

 

「立花さん――」

 

 DISCHARGE

 

 エンジンユニット、発火。

 ブースター破損、目標距離、エネルギー波、到達まで2秒。

 

 

 これで、よかったのです。

 

 

 

 

 GOOD LUCK MY FRIEND

 

 

 

 

 

 

 光が、全てを覆う。

 青い海も、青い空も。

 

 エネルギーの波に分解され、感覚が消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……けほっ」

 久しぶりに、空気を吸った気がする。



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影月の残照

『――ノイズの発生源とされるバビロニアの宝物庫は破壊封印され、その鍵であるソロモンの杖も消失。現在の所新たなノイズの出現は確認されていません』

 「ついにノイズは滅んだのか」「これで犠牲者も浮かばれる」「でもまだ安心するには早い、まだ生き残りがいるかもしれないからな」

 

『また月軌道は正常化、皆さんがご存知の通り。マリア・カデンツァヴナ・イヴとこの地上に住まう人々の思いが一つとなった奇跡の結果です』

 「不思議な気分だった」「全世界に裸を晒した女」「おりんの新しい仲間が決まったな……」

 

『それでも彼女はテロリストとして世界に宣戦布告した身、今後国連の会議にて彼女の処遇が決まる予定です』

 「無罪放免とはいかないしな」「彼女の不本意とはいえ巻き込まれて死んだ者もいる」「功は称えられど、罪は償われるべきだ」

 

『以上をもって、報告を終わりとさせていただきます。続きましては私の「特異災害対策機動部広報」としての活動ですが、二課の国連への編入・再編成を機に終了とさせていただきます』

 「お疲れ様」「また別の広報に変わるのかな」「再編後も配信しろ」

 

『個人としての活動については、続けさせていただく形です』

 「そっちは聞いてない」「言われなくても知ってた」「翼さんとコラボしろ」「マリアもコラボさせろ」

 

『それでは、ごきげんよう。』

 

 広報としての最後の配信を終える。

 

 私のあの「証拠映像」と「捕縛した武装集団」のおかげで、マリア達の処遇を決めるのは日本政府の意思が少しばかり融通されそうだ。

 

 ぶっちゃけ、目が覚めてからも彼女らとは会っていないので、どう、と言われても「うーん…」としか言えないけれど、響さん達と和解して、世界を救ったなら……私に関しての事は水に流しても良いとは思っている。

 そもそもあんまり私は根に持つつもりは無いし、初対面で顔殴ったり殺しかけたので……。

 

 

 

 私が目を覚ましたのは一ヶ月以上後だった。

 あの光に巻き込まれた後「黒い繭」で仮死状態で眠っていたそうです。

 

 その成分は相変わらず蝋、イカロス由来のモノだったそうです。

 

 最後まで、ずいぶんと私のワガママというか、暴走に付き合ってくれたというか……そもそも暴走した原因もお前だよな!?って気分でした。

 

 ですが、いざ無くなると寂しい気分です。

 

 黒茶色のコーヒーを飲む、香ばしさと苦さが口の中に広がる、もう口の中で蝋がドロドロに溶ける事も、あの虚無感みたいな味も感じる事もない。

 

 私の体は「あるべき形」に戻りました。

 それは同じ光を浴びた立花さんも同じで、彼女の命を蝕んでいたガングニールも消失。

 

 これで融合症例二人が両方完治した形になります。

 

 部屋から眺める景色はちゃんと色鮮やかなモノで、青だけじゃなく緑も赤もきっちり見えるし、画面も「光の動き」ではなく映像として見える。

 

 

 半分に割れたペンダント、結果としてこのイカロスは私の命を守ってくれた。

 散々、周りに迷惑を掛け、私を狂わせ蝕んでくれやがってこのクソやろうって気分もありますが。

 

 そもそも、最初にフィーネに隙を見せてやられなければ、ちゃんと通信して連絡を取り合っていれば、あんなことになる事もなかった。

 そうです、フィーネが全部悪いってことでいいんですよ。

 そもそも最初に私を二課に引き込んだのもアイツですし。

 

 はぁ。

 

「本当に自由でしたよね、あなた」

 

 ……正直、自信が無いので、誰にも話してませんが。

 この「イカロス」には意思があったのではないかと思います。

 「不器用」ながら私を守ろうとしてくれた、その結果、滅茶苦茶な事になってしまいましたが。

 きちんと「本当の体」に戻れた今はもういいのです。

 

 それに、結果として私はまた少し変われた。

 

 

『はーい、もしもーし、うたずきんさーん聞こえてますかー?』

『きこボボボボえ…てボボボボ』

『マイクおかしいですよー!?』

 「草」「おりんが来るまでも緊張してたし」「クソザコ感染してない?大丈夫?」「現れるだけでうたずきんのマイクを破壊する女」あらぁ、クリスさん、あなた…あらぁ……。

 

『うたずきんさーん、ちょっとー?』

『だ、大丈夫だ!!』

『あ、よかった……という訳で皆さんご存知の通りうたずきんさんの初生放送にゲスト兼サポートとしてお呼ばれした「おりん」です』

『きょ……今日はよろしく』

『はぁーいよろしく』

 「イキりおりん」「後輩にイキるな」「調子にのるなよおりん」「歌でマウントを取り合え」「うたずきんかわいい!」フフ……今の私がクリスさんに勝ってるのは配信の年季とリスナー数だけ、音楽の再生数では瞬く間に抜かされ、おまけに話題までかっさらわれました。

 

 というのも、クリスさんが翼さんとコラボ曲動画をアップして、将来的にデビューを目指して練習を開始したそうです。

 まったく私も負けてはいられません。

 

『というわけで今日は一緒にゲームをやっていきたいと思います』

『今日やるゲームは「パイロット&ガンナー」二人で戦闘機を操作する、ゲームだけど大丈夫かぁ?アタシ自信ないぞ……』

『うたずきんさんは撃つだけでいいんですよ、パイロットは私がやりますから』

 「おりんの動きを信じろ」「実質音ゲーじゃないか!」「これガンナーの方が難しいんじゃ……」「うたずきんのゲーム配信初めてがこれか……」「おりんは歌いながら操縦しろ」無茶振りが飛んできましたね。

 

『はぁい、じゃあおりんは歌いながら操縦します』

『はぁ!?「うたずきんも歌いながら撃って」って無茶振り……んの……そんな事言われた……退けねえじゃねぇか!』

 「ツンデレうたずきん良い……」「照れずきん」「おりんもかわいい事しろ」「語気が強いのにかわいい女」くっ!可愛さでも完全にクリスさんに全部持ってかれてます!

 

『じゃあ、即席デュエットしながらの「パイロット&ガンナー」皆さんお楽しみください』

 

『武器は……ウェポン1がワイドショット……2が機銃、3がロックオンミサイルで行くぜ』

『はい、じゃあ私はフレア・バレルロール・オプションで』

 

 

 

 楽しい時間はすぐに過ぎる。

 

 

 

『畜生!コンテニューだ!クソッタレ!』

『これでクリアしましょうね、うたずきんさん』

 「がんばれ」「後少しだ」「ゲームに集中してるのに歌えるの凄すぎる」「初プレイで4コンテニューか、まあまあだな!」「おりんが足を引っ張りすぎる……」「イキり失敗シリーズ」「おりん惨敗シリーズ」「また音程を外して撃墜されてて草」

 うっ!仰るとおりです……私が音程を外して、クリスさんが迎撃タイミングをミスって撃墜される。

 それを何度もやらかした、けどステージ5まで来るとタイミングをクリスさんがあわせてくれる様になって私も音程を外さないようになった。

 

 そして、最後のボスを撃破し、ゲームセット。

『はぁ~お疲れ様でした!うたずきんさん!』

『お疲れ、楽しかったな!』

『はぁい、本当に……音程外したりして最初はアレでしたけど』

『けど段々とどう合わせればいいか分かってきてからは爽快だった!またこういうのやろう』

『ありがとうございます、では私は今日はこの辺りで』

『お……おつおりーん!』

 「おつおりーん!」「かわいい(確信)」「この後おりんもう一回放送あるんだよな……」「過労死しない程度に配信し続けろ」

 

 どうにかクリスさんの初配信を事故にせずに済みました。

 

 無事にマイクを切ると、次の配信の準備をする。

 

 すると、端末に翼さんからメールが来る。

 

 今、翼さんは海外ライブに向けて忙しくて最近は会えてませんが。

 こうして頻繁にメールのやり取りをする。

 

『雪音と随分お楽しみだったようね、ところで時間が空いたからこの後ゲストとして行っても?』

 

 断れるとでも……?

 

『仕方ありませんねぇ……予定を変更してラジオで?』

『何を言ってるの、ゲーム対戦よ』

 

 最近、翼さんのゲームの腕が上達してきている。

 と言うか元々反射神経とかいいから、格ゲーとかではもう勝てないんですが……。

 

『それじゃ、楽しみにしてるから』

 

 楽しい時間はまだまだ終わらない。



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一つの終わり、次への一歩

 あらゆる数値に異常は無し、概ね健康体。

 

 イカロスを失っても、私の仕事は終わらない。

 

 あの「異常」な状態から普通の人間に戻れたとはいえ、後遺症がないとも限らないし。

 本当にただの人間なのか、ある日突然「異形のバケモノ」に変わらないか。

 それを確かめ続ける必要がある。

 

 あの聖遺物殺しのギア「神獣鏡」の光を受けたのは私だけではない、立花さん、小日向さん、共に定期的にこうやってメディカルチェックを受けている。

 それぞれが受けた時の身体的状態が異なり、立花さんと私に至っては人間から逸脱した状態にあった。

 

 結果こそ最善のモノとなったが、あの神獣鏡の特性が「ただの聖遺物殺し」だったのかそれとも「あるべき姿へ戻す」ものであったのか……肝心のギアが吹き飛んでしまったので今はもう確かめる術はない。

 

 

 吹き飛んだといえばイカロスもだ。

 

 貴重なシンフォギアを一個、使い物にならなくしてしまった。

 これは非常な痛手だ、FISから回収した二つのギアがあるとは言え、実動させられるギアを壊してしまったのは本当に申し訳ない気持ちしかない。

 正規適合者としてデータを取れるのは翼さんとクリスさんだけになってしまい、これから先のシンフォギアの解析にも少し影響が出るだろうし。

 

 私のしでかした事はかなり重大である。

 

 真っ二つに割れたペンダントは回収され、修復可能か、不可能でもなんらかのデータを得られないかと解析班へと回された。

 

 

 マリアのガングニールを受け取った立花さんと違い、もう纏うギアの無い私は新しく再編された二課「国連タスクフォースSONG」の所属ではなく、協力者という扱いになる。

 故に多くを知る事も出来なくなったし、行動する権限も失った訳である。

 

 でもそれでよかったのかもしれない。

 

 私はどうしても考えるよりも先に結果を出そうと動いてしまう、組織に属するのは向いていなかったのだろう。

 

 そんな訳で、私の装者としての戦いはここで終わり、残るのは……加賀美詩織の人生である。

 

 随分と世界に顔を晒してしまったが故に、きっと引く手数多かもしれないし、そうでもないかもしれない。

 

 

 この先の事を考える。

 私は何になるのだろう、何をして生きていくのだろう。

 

 実に普通の若者らしい悩みを抱える事になりました。

 

 コーヒーの苦い味が私の思考を冴えさせる。

 

 

「難しい事を考えても仕方ありませんね……」

 

 それはそれとして。

 

 配信しよう。

 

『おはりーん』

 「ウワッ!おりんだ!」「おはりーん」「タスクフォースから追い出された女」うるせぇ!

 

 実は二課のタスクフォース編入に当たって私は外される事がバラされた、出所は私が散々悩ませた日本政府である。

 「加賀美詩織はその功績と体調を鑑みて名誉除籍とする」

 おかげでネットで「タスクフォースに入れなかった女」「国連が最も恐れた女」「終身名誉装者」「世界の萌え声配信者」などと好き勝手あだ名を付けられた。

 

『今日は耐久雑談配信、つまり私が飽きるまでやる』

 「俺達を拘束するな」「俺達を解放しろ」「お前に逮捕権はもうないんだぞ!」このかつて装者だったというだけで永遠にネタに出来そうな定型文がどんどん出てくるのは本当に卑怯だと思う。

 

『まず最初の話題だけど、私の将来の話。政府のおかげで顔が売れたけど私自身、将来の夢とかがなくてどうしようかなーって思ってるんですよ』リスナー数は5000、こんなに「ダンゴムシ」が居れば、何かアイデアの一つか二つくらいは出てくるだろう。

 集合知というものは非常に強い、もはやただのクソザコ元装者たる私にとってこれ以上の味方はない。

 

 「歌え」「配信で生きていけ」「芸能界に行け」「カフェを開け」「頑張って国連に就職しろ」「広報に返り咲け」「国を作れ」「うちでは養いたくない」まともな意見が出てこねぇなお前らな……。

 

 

『現実的な答えを求めてるんですよぉーいくら財産が多少あるとはいえ、目減りしてやがては尽きるだけですよぉ』

 「そらそうよ」「国からせびれ」「元は女子高生」「親の脛をかじ……ダメだ、おりんの親は借金こさえるようなダメ親だったね……」「聖遺物専攻で科学者になれ」「おりんに科学者になれるだけの知能があるわけないだろ!」役に立たねぇなコイツら!そらそうだったわ……闇の住人だもの。

 

『まだ時間はあるとはいえ、悩ましいですねぇ』

 「そうだ、学生生活に戻れ」「勉強をしろ」「勉強してやりたい事をみつけろ」「進路相談室を使え!」あぁ……やっとまともな意見が出てきましたね。

 

『復学ですかぁ……めっちゃ陽キャだらけなんですよね……うちの学校……』

 「なんでそんな所に進学したんだ(呆れ)」「元は陰キャ」「たしかおりん女子高って言ってたから……あっ(察し)」ちょくちょく、暇を見ては行ってはいるんですよ。

 立花さんとクリスさんはいいんですよ……。

 問題は行っても仕事の関係上で翼さんが居ないんですよね。

 もう卒業式ぐらいまで翼さんが来る予定が無いっていうのが……。

 

 逃げ場のないひだまり、夏の道路の上のミミズ。

 

 ……ああ、そうですね。

 翼さんと距離が離れていくんですよね。

 

 少し憂鬱な気分になってきました。

 

 「しょげた顔をするな」「翼さんの海外進出を思っている顔だ!」「おりんの表情がわかり安すぎる」「夢を応援してるといっても友達との距離が開くのは寂しいからな……」

 最近はカメラで顔を映して配信している、というのも結構黙り込んでしまう癖がついてしまったからです。

 

 

 そういえば学校で思い出しましたが、あの「調」と「切歌」が保護観察処分となった事でリディアンに編入する……いやもうしたんでしたっけ。

 顔を合わせるのもちょっと憂鬱ですね、なんかお互いに気まずい雰囲気になりそうです。

 

 「あっ!おりんの顔が死んでゆく……」「陰キャに戻るな」「草」「草」「草」「今にも死にそうな顔をしておられる……」

 

『世の中、ままならない事ばかりですねぇ』

 「わかった気になるな」「知ってる」「でもそれだけじゃないだろう」「それだけじゃない事をおりんは証明しただろう」……そうです、私は多少世間を変える事が出来た。

 

 少し前までただの萌え声配信者だった子供が、少しは世界と戦える事を証明した。

 そうですか。

 

『戦います……か』

 「何を思いついた」「間違いねえ碌でもねえ事だ」「おりん、やるのか」「嫌な予感しかしねぇ」

 

 

『私、有名配信者として世界のトップを取ります』

 「草」「草」「草」「それでこそおりんや」「英語を鍛えろ」「英語だ!英語を覚えろ」「変な声と変な叫びを出せ」「歌とゲーム配信で世界を取りにいく女」

 

 決めました、収入が途絶える前に、萌え声配信者としてデカくなってやります。

 

 一先ずはそれを目標として生きていきましょう。

 

 そうしましょう。



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熾天のイカロス 纏うは、偽りの

 コスプレ衣装製作会社に発注してた「イカロス」の「アームドギア」が届いた。

 お値段34万、製作期間2週間。

 用途は配信用衣装である。

 

 これでも安くなったものである、最初は試算すると47万であったが、「衣装モデル」になる事とサイン入り写真を店頭に置く事を条件に13万円引き。

 それで私のギアのインナースーツ衣装も付属。

 着心地こそ、まぁ本物とは違うけれど、デザインの再現度は非常に高く、アームドギア部分も頑丈に出来ていて、さすが職人の技である。

 

 今回利用したコスプレ衣装製作会社はヒーローショー用の動かす衣装を作ることを主な仕事としているので「個人」との取引はとても珍しいそうだ。

 

 それはさておき、久しぶりに「イカロス」を纏い配信の準備、と行こうとしたら電話が鳴る。

 

『はい、なんでしょう翼さん』

『ちょっと近くまで来たから寄って行こうと思って』

『はいはい、大丈夫ですよ。もう着きますか?』

『もう家の前に居るの』

『はやいっすね……』

 

 電話を切る、格好は……少し驚かせてあげましょうか。

 

 ドアの前で唱えるは「聖詠」。

 もちろん意味はない。

 意味はないが。

 

 扉を開ける。

 

「そ……それはまさかイカロス!?どうして!?」

 

「翼さん……」

 

「まさか、完全に除去しきれて……いえ、違う……それは衣装!?」

 

「そうですよ~発注してたのが届いたので」

 

「紛らわしい事をしないで欲しい!本当に心臓に悪い!」

 

 とりあえず初見では引っかかる事が分かりましたね、こんどクリスさんや立花さんが来た時もやりましょう。

 

「で、何の為にそんなに精巧なイカロスの衣装を……」

「配信の為ですよ~私、配信で世界を獲る事を決めたので」

「それはまた……」

「あっ今ちょっと笑いましたね」

 

 久しぶりに翼さんと会えた、配信している時間もいいですが……やっぱりこの時間だけは、特別です。

 

「まぁ、上がってくださいよ。コーヒー淹れますから」

 

 とりあえずアームドギア部分だけ取り外して置き、台所へコーヒーを淹れに行く。

 私の数少ない特技、市販のコーヒーをおいしく淹れる事が出来る。

 だから来客時にはこうやってコーヒーを出す。

 

 来客といってもクリスさんか翼さんしか居ないんですけどね!立花さんはまだ家に呼んだ事ありませんし。

 

 夕陽に照らされる部屋の中、こうして二人静かにコーヒーを飲む。

 

 私の、至福の時間です。

 

「最近、忙しかったからこうするのは久しぶりですねぇ」

「ああ、あっという間だ、けどようやく私の夢にまた一歩近づけた気がする」

「私も嬉しいですよ、翼さんの夢が叶うのは」

 

 そうだ、どんなに距離があっても。

 距離があるからこそ、かもしれませんね。

 

「そういう詩織の夢は、見つかった?」

「まだまだ、です。でも時間もまだまだありますし、ゆっくりと見つけていきますよ」

「私も詩織が夢を見つけるのを応援してるし、夢を見つけられたならそれを聞かせてほしい」

「ありがとうございます」

 

 そういえばこんな言葉がありましたね「別々の道を共に立って往けるのが友達だ」と。

 私は日陰の様なネット世界、翼さんは輝く舞台、それぞれ違う道だけどお互いを応援できる。

 

 翼さんが夢へと進んでいくのを見て、負けてられないな、と思える。

 

「そういえば、最近学校に来てないと雪音や立花が心配してたけれど……」

「あーそれですか、自分の趣味に没頭しててサボり癖がついちゃいまして」

「む、それはよくない。きちんと学校には行ったほうがいい」

 

 うーん……翼さんに言われてしまうとなぁ……行かなきゃいけない気になりますね……。

 

「仕方ありませんねぇ……明日から登校再開といきますかなぁ……」

「……不安な事でも?」

「あの二人ですよ、切歌と調でしたっけ?ちょっと気まずいんですよね」

「でも、会ってみなきゃ何も進まない」

「そうですよねぇ」

 

 こうやって不安を吐き出せる相手なんて今まで居なかったから、こういう事を言ってもよかったのかなとも思うけれど、翼さんは真摯に答えてくれる。

 私はそれがとても、とても嬉しい。

 

「まぁ、明日行って挨拶だけでもしてきますよ」

 

 私も本当に変わった。

 

 

 

 

 

 翼さんが帰った後、今度こそ配信をしようとして考える。

 何を配信したものか。

 

 こういう時は、ゲームかな。

 

『おりんりーん』

 「えっ!?」「シンフォギア着てる!?」「ファッ!?」「まずいですよ!」ほほう皆の者慌てておるな?

 

『正義の装者、イカロスが今日は戦争を止めて見せますからねぇ』

 「正義(独善)」「正義(暴力)」「正義(個人の感想)」うるせぇ!正義なんて人それぞれなんだよ!

 

 今日プレイするゲームはFPS「War Rider 4」シリーズ物の王道なシングルプレイFPSです。

 

 さっそくストーリーモードで始めましょう、難易度はノーマル、チャプター1くらいなら1時間で終わるかな。

 オープニングムービーで説明される世界観とストーリー、このゲームの目的はテロリストに占領された「宇宙エレベーター」と「対隕石迎撃システム」を取り戻す事。

 

『平和の為に作った技術がこうやって兵器利用されるのってやっぱ嫌ですねぇ……』

 「おりんが言うと重みがやばい」「シンフォギア纏いながら言うと不吉だからやめろ」「というかそれコスプレか!今来てびっくりしたわ!」今来たさん、あらいらっしゃい。

 

 それにしてもシンフォギアも考え方によっては兵器利用とかされそうですよねぇ、しかも纏えるのは少女だけ。

 自動的に少年兵が使うシステムですよ。

 そう考えると運用してたのが二課で本当によかった。

 

 ……FISの元となった米国の組織が何のためにシンフォギアを研究してたかは考えない事とする、本当に辛くなる。

 

 

『さて、ゲームスタートです。初期武器はアサルトライフルで行きます』

 FPSならグレネードランチャーとショットガンを使うのが得意なんですが、このゲーム初期選択のショットガンがしょぼいらしいので途中で敵から奪ったのを使うほうがいいらしいんですよね。

 

『序盤の敵なんてねぇ、大体的なんでここは強行突破して後ろから殲滅します』

 所詮は難易度ノーマル、敵のエイムはそこそこ、遮蔽物を盾にしながら一気に駆け抜け威力の高いライフルを持ってる敵から殲滅していきます。

 

『フロア制圧、まあこんなものでしょう』

 「イキりん」「おりんのエイムが相変わらず早い」「そらおりん歴戦だし……」歴戦といってもゲームの仕様でエイムが付けにくい時もあるので割と得意不得意も分かれるんですけどね。

 

『次のフロアは、シールド持って死んでる奴いますねあれ貰いましょうか』

 「容赦なく追剥」「バンデット」「グロ死体に動じない女」

 多くのFPSは倒した敵の武器を奪う事が出来る、このゲームは味方の死体からも武器を取れる。

 

 このゲームのシールドはバリアの様なもので、持ち運びして地面に設置して使える。

 その代わりエネルギーが切れると使えなくなるので程々に交換が必要です。

 

『階段の上取られてますね、シールド投げて直接キルしましょう』

 「容赦ねぇ!」「冷徹女」「見ろ、この冷静さを。これが本物の戦場を歩いた女だ」

 シールドは発生時だけ攻撃判定があるので投げて敵にぶつけてキルを取れる。

 これで階段を確保しつつ移動。

 

 フロアを次々制圧していき、時に作業用通路などで迂回して裏を取って襲撃。

 

『さて、通信が入りましたけどこれボス戦ですよね。作業重機が乗っ取られてるって』

 「そうだよ」「操縦席を狙うんやで」「うそつけ無人機やぞ」「ボスのアームは即死やぞ」たまにこういうコメントは嘘が混じってるので自分で見た物だけを信じる事にしている。

 

『なんですかあの虚弱な足の付け根は、狙ってくださいっていってるものじゃないですか』

 「草」「こマ?」「もう弱そう」「強敵やぞ」「いやそうでもないです……」凄まじく戦闘には向いてなさそうなのが出てきて思わずびっくりです、私がイカロスを纏ってたら即ホーミングレーザーで始末できそうですね……。

 

『とにかくアーム怖いので、懐入りまして……ってこれ格闘押せって出て……あっ』

 「容赦無く破壊して草」「たかが歩兵一人に破壊される重機の屑」「鉄屑」「がらくた」特殊なモーションが入り、扉を抉じ開ける為のブレードで作業重機の足の付け根を破壊、瞬く間に無力化しました。

 

『道中の歩兵とドローンの方が強かったですね……今日はこの辺りにしましょう』

 「実際こんな事件が起きてもおりんがシンフォギア纏ってたら何とかなりそうですね……」「おりんを対テロ部隊に編入しろ」「ダメだろ、おりんは独断先行するタイプだ」「つまりワンマンアーミーなら……?」

 

 というかリスナーにすら独断先行を言われるのはちょっとキますね……。

 

『確かに私は独断先行するので、本当にこういった事件とかを解決するのには向いてないかもしれませんね……こういうのはやっぱ専門家がいますので……』

 「まあ元気だして」「タスクフォースにはぶられた女」「そのうちいい事あるって」「というかそのシンフォギアのコスプレは許可貰ってるの…?」

 

『はぁい、では今日はこの辺りで配信終わり!閉店!』

 

 配信を終わり、重かったイカロスのアームドギアを外す。

 結構長時間着るには重いですねこの衣装。

 

 次からアームドギア着けずに配信しましょう。



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兎にも角にも進めよ乙女

 悩んでいても進まない。

 結局、最後に全てを決めるのは自分の意思。

 何もせずに後悔はするな。

 

 と覚悟を決めて学校へ行く。

 

「おっはよー!加賀美さん!」

「加賀美さん久しぶりー!」

「昨日の配信の衣装凄かった!今度生で見てみたいんだけど!」

 

 実は話題が落ち着いた後も気がつけば学校にも私に絡んでくる人が3人程出来てまして……。

 うん…………。

 ごめんね、実は自己紹介の時とか居なかったから実は私皆さんの名前を知らないのですよ……。

 

「衣装なら……その、次来る時にでも持って来ますけど。フェザークローk……装備の方は重いのでちょっとご勘弁願います」

 

「やったー!」

「やった!優勝した!」

「優勝って何ですか」

「特にありませんけど優勝です!」

「ええ……」

 

 女子高生って何でこんなにハイテンションなんでしょうかね……。

 

 まぁ名前知らないといえば、画面の向こうのリスナーも知らない人ばかりですけど。

 そうですよね、そういう対応をすればよいのではー?

 

「まぁですね、あの衣装結構しましたからね。34万で作ってもらえましたけど」

「生イキリんだ!」

「私もあの衣装欲しいと思って探したけど背負い物付きだと平気で70万したのに!?」

「そりゃほら、本物の加賀美さんに着て貰えるってだけで宣伝になるから」

 

 良く考えればそりゃそうである、本人お墨付きの衣装なんですから、なんなら店頭にサイン入り写真もありますし。

 

「気がつけば、随分有名人になってましたねぇ、私」

「でもその重圧に潰されない加賀美さんはやっぱり素質があるよ~」

「そうそう、私達だったら絶対もう学校これないもん」

「メンタルつよつよおりんさんですよ」

 そうでしょうか、まぁ私も顔割れてからは何度も学校に来たくないとは思いましたが……。

 

 ……いわれてみれば随分図太くなったものですね、私も。

 

「ま、まま待つデース!まだ心の準備が」

「響さん……ちょっと」

 なんだか久しぶりに聞いた声ですね、それにあの変なデースは間違いありません。

 

「翼さんから今日は詩織さんが来るって……あ!居ました!おはようございます詩織さん!」

 立花さんに連れられてきた例の調ちゃんと切歌ちゃんですね。

 

「あっ立花さんだ、おまけに編入生の子」

「そういえば加賀美さんって翼さんはもちろんの事、立花さんや雪音さんともよく居ますよね~」

「後小日向さんも、どういう関係か気になりますねぇ~」

 困りましたね、これは……とりあえず無難に答えておきますか。

「立花さんとクリスさんは翼さん経由で、小日向さんは立花さん経由で知り合いました。翼さんについては知っての通りのコラボする程度の関係なんですが、最初に学校で私の声が「おりん」だとバレましてそれからの付き合いですよ……っと向こうの二人も注目されて恥ずかしそうなので、ちょっと行って来ます」

 

 さすがにここじゃ二人も話しづらいし、私もちょっと面倒だ。

 

「そうなんだ~」

「いってらっしゃい加賀美さーん」

 

 とりあえず教室を後にして、廊下に出て3人と合流して中庭に向かう。

 

「はぁ、そちらから来なくても昼には行きましたのに」

「いやーごめんごめん、でも早いほうがいいかなって」

「全く……立花さんも、翼さんも心配性ですねぇ……」

 

 とりあえず私にも心の準備というものがあるからこうやって突っ込んでくる立花さんは相変わらず天敵なんですよねぇ。

 

「あ……あの!加賀美さん!ごめんなさい」

「前はその偽善者だとか冷徹だとか言ってごめんなさい!」

 調ちゃんと切歌ちゃんが頭を下げる、が。

 

「こちらこそ、ごめんなさい。あの頃の私はそっちの事情なんて知ろうともしてなかった……」

 

 そう、あの頃の私を満たしてたのは焦燥の様なモノ、何かを果たさねばならないというそんな気持ち。

 

 イカロスが無くなってからはそういうものは無くなりましたけど、間違いなくあの頃の私はおかしくなってましたからね……。

 

 

「とはいえまぁ、お互い、それ以上特に言う事がなければそれでいいんです。私も根に持つつもりはありませんし、世界を救ってくれて感謝してるくらいですからね」

 

 そう、結局世界を救う為の最終決戦に行ったのは立花さん達やFISの方々、ただただ暴走して迷惑を掛けてただけの私は寝てましたし。

 

 

「……本当にいいのデスか?」

「いいも悪いも、全ては結果です。私だってやり方を間違えたし、あなた達だってやり方は強引でした。ですが今お互いここに居て、生きている、それだけで私は許せるんですよ」

「……なんだか、変わった人」

「あはは……詩織さんはいつもこうなんですよぉー」

 

 そう、許せないのは過去の自分くらい。

 だからこの話はもう終わり。

 

「それじゃ、これからよろしくね。お二人さん」

「よ……よろしくデース!」

「よろしく…お願いします」

 

 恐らく、だけど、私が抜けた分は彼女らがSONGの仕事を請ける事になるだろう。

 それは彼女等の贖罪の機会であり、彼女等が自分を許せる様になる為の……。

 とはいえ、もうノイズはいない筈だからそう危険な仕事に駆り出される事もなさそうですし。

 

「それでは、私は教室に戻りますので。お三方も遅れない様に」

 

 とにかくこれで不安がまた一つ減りました。和解というか、遺恨がない事を確かめたぐらいですけど。

 別に来る者は拒みませんし、去る者を追う事は私はしません。その人が決めたのなら。

 

 

 ……やっぱり薄情ですかねぇ……。

 昔ならこのスタンスでも全然心が痛まなかったんですけどね……。

 今は本当にそれでいいのか、と自分の中の誰かさんが問いかけてくるんですよねぇ。

 

「あ……それとまぁ、暇でしたら……私の配信だったりを聞いてみてくださってもいいですよ」

「配信……?」

「……デスか?」

 

 だから去り際に振り返って、二人にそれだけ告げる。

 

「詳細はクリスさんか立花さんにでも聞いてください、それでは」

 

 私から、歩み寄る。

 

 とても重く、難しい一歩だったけど。

 

 それに意味があったならいいかな。

 

 

 

「やっぱり加賀美さんって変わりましたね」

「最初は本当に無口で何考えてるかわからない!って感じだったよねー」

「まぁ……その自分でも変わった、いえ……変えられたんでしょうね」

 そう、変えられた。

 翼さんや立花さん、クリスさんや小日向さん……他にも多くの人と関わって私は変えられた。

 ……きっと今のこの状態こそ、幸せ。と呼べるものなのかもしれません。

 

「明日も、こんな日が続くと良いですね」

 

 ふと口からそんな言葉が出た。

 

「加賀美さんの口からその言葉がでると滅茶苦茶重みが違う……」

「……まあ私じゃなくて実動班の人達が作った平和ですけど……」

 そうです、私は平和にそこまで貢献出来た気がしない。

 

 少し目立って、世間の目を私に集中させる事で他の皆さんに非難が行かない様に、出来てたらいいな……くらいでした。

 ……本当に、私は誰かの役に立ててたのでしょうか?

 

 まぁ、全部終わった今、後悔こそありますが、平和になった、それでいいじゃないですか。

 

 

 もっと楽観的に、もっと前向きにいきましょう。

 

 

 ひだまり、というものも。

 やっぱり悪くは無いですね。



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炎の記憶

 炎があがる。

 肉の焼ける匂いがする。

 

 

 それはそうだ、肉を焼いているのだから。

 

 一人で。

 

 

 ちらちら見られているだとか、店員さんの笑顔が引き攣っているだとか知らない。

 

 焼肉をする時はですね、一人でいいんですよ。

 自分で焼いて、自分で食う、それ以上の事は無いんですよ。

 

 他人に奪われる事も無ければ、他人の為に焼く事もない、己の為だけに在れる安息の時間なんです。

 

 肉ばっかり食べてるだとか、野菜が無いだとか知りませんよ、野菜なんてですね、家で幾らでも食べられるんですから。

 ハラミ、タン、ハツ、カルビ、ミスジ、レバー、ホルモン、カイノミ、あらゆる肉を好きなだけ食べられる時間なんです。

 

 白いご飯にレモン汁につけたタンを乗せて口に運ぶ、「舌が肥える」と言うくらいに、脂肪の乗った霜降り、溢れ出る肉汁とレモン汁のすっぱさがベストマッチ。

 お米の甘さも加わると非常にやばいです。

 

 次はタレ付けのホルモンです、こいつは固くて何時呑み込めばいいのかいつも迷いますが、焼き加減で脂を調節できるし、味がいつまでも出てくるので嫌いにはなれないんですよ。

 

 続いてミノ、こいつも固い、ひたすら固い、味が染み出る、おいしい。

 

 そして楽しみにしていたハツ、心臓というだけあってやっぱり「命」の力強さを感じるようなコリコリ感、この部位が一番好きなんですよねぇ。

 

 

 

 いや、こうやって焼肉を楽しむのもいいのですが、それ所でもないんですよねぇ……。

 

 最近、「企業案件」が私に依頼される様になってきた。

 

 それはかつて「広報」をやっていた実績からか、世界の救世主たる装者の一人であるからか。

 大中小、様々な案件があります。

 

 それこそ大企業に年棒幾らでしっかり独占契約する物から配信動画内で宣伝をする様な簡単な物まで。

 とはいえ、今の所その全ては断らせて頂いている、それは「まだ全てが終わったとは言い切れない」あるいは「まだSONG協力者としての立場がある」など。

 現状が、本当に全て解決している状態とは言い切れないからである。

 

 「イカロス」も国連の技術チームがコンバーター機能の一部復旧に成功し、今度私が再び起動できるか試験する予定も入っているし、それが成功すればまた私に仕事が振られる可能性もある。

 

 そうすれば企業案件を受けている暇も無くなるかもしれない。

 

 配信者として食っていくのもいいのですが、やはり聖遺物研究、特にシンフォギアシステム「イカロス」の解析に当たっては適合者も必要だろうし……。

 

 そうなると私の仕事な訳で。

 

 ……いっそ、研究チームに入れる様に頑張る、なんてのもいいかもしれません。

 その、報告連絡相談は苦手ですけど、研究者なら結果を出して、データを渡せばいい!みたいな所もありますし。

 

 網の上で燃え上がるホルモンの脂を落とし、タレにつけて鎮火する。

 

「難しい所ですねぇ」

 

 米が冷めない内に程々に肉を焼いては口に運ぶ。

 

 おいしい。

 

 

 …………もしイカロスが再び纏える様になったなら、私はどうするんだろう。

 もう、戦う敵はいない。

 災害救助目的として活動。

 ……私の直情的な行動ではきっと皆の足を引っ張る。

 

 ……どうして私は自分勝手に動いてしまうんだろう。

 

 実際にそれで死に掛けて、迷惑掛けて、厄介な事を抱え込んで。

 

 私の命は私の物なのだから自由に使いたい、けれど、私が死ぬ事で悲しむ人が居る、私が死ぬ事で迷惑を被る人が居る。

 

 これもまた、一人で無くなってしまって、変わった所なんだろう。

 

 一人じゃない、それは幸せであり。

 一人じゃない、それは足枷でもある。

 

 網の端で燃え尽きて炭と化した肉の欠片を見る。

 

 ただ燃え尽きていくだけの生き方は、もう出来ない。

 

 

 皿に載った肉を食べ尽くし、口の中の脂をコーラで落とす。

 

 ただの、愛も知らなかっただけの子供に出来る事はなんだろう。

 

 

 ちょっと食べ過ぎた、会計が思ったより重かった。

 

 少し歩きましょう。

 

 

 

 仮に「イカロス」が復元出来て、再び私が装者として纏える様になるとする。

 その時は私はおそらく、SONGの所属になるだろう、とはいえ前科というかこれまでの活動から仕事を割り振られるだろう。

 しかしその仕事ぶり次第では、任を解かれる可能性もある。

 新しい仕事はきっと「ノイズと戦う」みたいな私達にしか出来ない事ではないだろうから。

 

 それは私がキチンと自分を律して、組織に属するに相応しくあれれば、解決できる問題でもある。

 

 ……それよりも、だ。

 

 再び、イカロスによる侵食が起こったならどうなるのだろう。

 前は「神獣鏡」のおかげで奇跡の様に助かった。

 

 けれど、次は違うかもしれない。

 今度こそ本当に人間でなくなるかもしれない。

 そうすれば私はどういう扱いをされるのだろうか。

 

 人として認められるのか、それとも自律するだけの聖遺物と見られるのか。

 

 それに、今度も死なずにいられるのだろうか。

 

 そういう意味では、一部復旧したイカロスの起動試験も……少し怖い。

 

 

 だけど、これは私にしか出来ない事だ。

 何者にもなれず、ただ世界の日陰で沈んでいくだけだった私に与えられた使命の様なモノ。

 私に付随する存在価値。

 

 配信者としての価値もあるかもしれないが、それよりも重く、今の私を不安定にする価値。

 

 ……今でこそ、イカロスが破損した事は世間では公表されていない。

 だけどイカロスを失った事を皆が知れば、私に失望するのではないか。

 イカロスを纏えない私に価値はないと皆が離れていくのではないか。

 

 そんな不安もある。

 

 

 ………。

 

 それでも。

 

 変わらない事だってある。

 

 翼さんは今も変わらず友達と呼んでくれる。

 立花さんだって、クリスさんだって仲間と呼んでくれる。

 

 司令や緒川さんだって、ちょっとした悩みを聞いてくれたりする。

 

 ……ああ。

 

 それに、未だにしぶとく私のリスナーなんてやってくれてる人々もいる。

 

 

 それは私の標。

 

 気がつけば一人では無くなっていた。

 4月のまだ寒い空の下、一人笑う。

 

 人を信じられる、こんな幸福が近くにあったなんて知らなかった。

 

 気がついていた筈なのに、すっかり忘れていました。

 

 

 おかげで気分は晴れました。

 

 これなら今日の配信も、それなりにいい気分でやれそうです。

 

 久しぶりに歌枠にでもしましょうか。

 

 そうして、私は帰路につく。



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飛び立つ貴女へ

 イカロスの起動試験が中止になった。

 

 司令がいつまで経っても上がってこない生化学研究所からの「イカロスの蝋による肉体への作用」の報告の遅れに痺れを切らし、独自調査を行った所。

 研究所が「モルモット」での実験結果を黙秘・偽造し、私の安全性を度外視していたのが発覚したからだ。

 

 司令から聞いた話だと、私が融合症例だった頃に発生させた大量の「蝋」は様々な視点から研究されていて、イカロスのシンフォギアが作られた時に使われた「イカロス」の欠片と「同じ」聖遺物の欠片として扱われている。

 神獣鏡によってペンダントが破壊された際に中にあった「元々の欠片」は特異性を失ったが、「蝋」を新たに入れ替えた事で「機械起動」では反応を示した。

 しかし、それで私がシンフォギアとして纏えるかどうかのテストを行うに当たって、安全性はどうなのか、再び侵食は起こらないのかと可能な限りの調査をしていた所。

 生化学研究所の実験結果の黙秘・偽造が発覚したという訳である。

 

 

 実験内容、それはイカロスの蝋を使ったモルモットへの「侵食・融合・癒着」の試験。

 10匹中7匹蝋により中毒を起こし死亡、残った3匹は他の個体から移植された欠損部位、移植した「鳥の羽」「機械部品」などと「生体適合」を起こしたが、「抑制」が利かなくなり、研究員に襲い掛かったという。

 

 その報告書を緒川さんが忍び込んで持ち出してこなければ、「偽」の報告書が提出され、私のイカロス起動試験は行われる所であった。

 当然ながら司令は大激怒、研究所には国連と日本政府両方の捜査が入り関係者は全員拘束された。

 

 私もそのままイカロスの起動試験が続行されていたらと思うと冷や汗が止まらない。

 

 「イカロスの蝋」が「神経や臓器を始めとした生体」に影響を与える事と「抑制」を奪う事。

 かつての私の融合症例であった頃のデータ、更にその前の融合前のデータとも照らし合わせると、やはり合致する部分があり。

 

 実際に纏う事で再び侵食が始まる可能性を考慮し、実験は中止。

 

 さらにシンフォギアシステム4号「イカロス」は封印を決定された。

 

 

 これによって私が装者として復帰する可能性は無くなった。

 

 だけど、それに安心する私も居て、私がまた人の身を外れる事が無い様に案じてくれた司令やSONGの皆さんへの感謝もある。

 

 しかし、それはそれとして。

 共に戦って来たイカロスが、人を守る為に作られた力が、危険な物とされ、封印されるのはやはり寂しい気持ちがある。

 

 だから、せめて残った蝋だけでも何かに役立てられるモノである事だけを願うばかりである。

 

 

 それはさておき。

 

 翼さんがもうすぐ日本を離れイギリスへ向かう。

 ようやく、翼さんの夢が本格的に動き出す。

 

 とても嬉しいニュースである。

 嬉しい……ニュースだ。

 寂しくないといったら、寂しくなんかない。

 

 今の時代ネットだってあるし、なんなら互いに番号やアドレスを知っているんだから……。

 

 …………。

 

 

 当たり前ですよ、寂しいに決まってるじゃないですか。

 今まで以上に遠くに行って、気軽に会えない。

 それが寂しくないわけ、ないじゃないですか。

 

 でも、ですね。

 私は翼さんの友達でもあるし、ファンの一人でもある。

 翼さんの夢を応援するに決まっているじゃないですか。

 

 

 だから今日は、今日は応援配信と行きます。

 

『こんばんおりーん』

 「ウワッ!おりんだ!」「ノイズを滅ぼした女」「世界の日陰者」「国連が唯一恐れた女」次々と挨拶代わりのあだ名が飛んでくる。

 

『今日はお歌配信、翼さんの海外デビューを応援する為に、私も歌おうって企画です』

 「清楚おりんが来た」「ただのファン」「翼さんのファン」「寂しさを殺し、応援する友人の鑑」「強がりおりん」強がってなんかいませんよ、ええ、寂しくたって、私は生きていける。

 

『まずは一曲目――FLIGHT FEATHERS』

 

 思えば、あの頃からでしたか。

 私が変わり始めたのは。

 

 翼さんのライブに合わせたように現れたノイズ、それの迎撃に一人で行こうとしたのは。

 それより前の私なら「仕事」だとはいえ命を危険に晒すのは「割に合わない」なんて言って断りそうですね。

 

 それから、翼さんとの距離が少し縮まったりして。

 クリスさんと出会って仲良くなったり。

 立花さんを信じる様になってきたり。

 

 少しずつ少しずつ何かが変わっていく。

 それまでただの人形の様だった私が「人間」になれた。

 

 もしも、シンフォギアと出会わなければ、翼さんと出会わなければ。

 私は今もただの人形の様に「生きている振り」をするだけの存在だったかもしれない。

 

 そう思えば、今歌う中で感じる「胸の痛み」も、生きている証に感じられる。

 

『ご清聴ありがとうございます』

 「翼さんへの執着を感じる」「おりんの愛が重い」「なお本人に聞かれるとクソザコと化すのは変わらない模様」

 

 そうですね、応援配信だから、あくまで翼さんに聞かせている訳じゃないから、歌えるのであって。

 でも翼さんに聞いてもらいたい、って気持ちもありますけど、やっぱり恥ずかしいし……。

 

『次は……オリジナルで行きましょうか「影月」』

 

 そう思えばイカロスも、随分と「濃い」付き合いだった気がします。

 最初のうちはまったく言う事を聞いてくれないじゃじゃ馬でしたが、機動になれてみれば凄く気分のいいものでした。

 自信を得られたのも、またイカロスのおかげでもあります。

 イカロスがなければ、今の私は無かったでしょう。

 

 変わる為の勇気をくれた、開放してくれたのは間違いなくイカロスだと思います。

 

 

『3曲目、演奏無し。アカペラになりますがこれもオリジナルで「イカロス」です』

 

 だから3曲目は、「彼」あるいは「彼女」かもしれない「イカロス」を想って歌う事にしましょう。

 

 イカロスと共に戦う時に歌っていた「歌」を思い出しながら、聖詠の始まるメロディを紡いでいく。

 

 間奏にあたる部分には「絶唱」のメロディを混ぜ、最後は自分の考えた、自分のメロディで閉じる。

 

 これは「レクイエム」か、それとも「カノン」か。

 

 私としてはいつか「イカロス」が生まれ変われる事を願って「カノン」としたいです。

 

 

『はぁ……少し休憩です、歌うとやっぱり体力使いますね』

 「鍛えろ」「いい歌だった」「おりんもCDをだせ」「メジャーデビューしろ」「相棒への想いを感じる」感想を見ながら休憩、評判は良いようで、リスナー数4万ちょい。

 

 何だか随分多いですねぇ。

 

 しかし、これでクソザコにならない辺り、私もやっぱり成長したようです。

 

『こんなに多くの人に歌を聞かれるなんて、昔の私に言っても信じてもらえそうにありませんよ……まったく、ただの萌え声生主が随分遠くまで来たものです』

 「元は萌え声生主」「まだまだ進み続けろ」「止まるんじゃねぇぞ」「喜べ、お前の行く先は未来のスターだ」随分とポジティブなコメントばかり、あのうじうじしたダンゴムシどもは何処へ……。

 

 これじゃあ私もうじうじしては居られません。

 

『さて4曲目、最後としますが、実はこれ……作曲も自力でやってみたんですよね……だからちょっと聞き苦しい部分もあるかもしれませんが……』

 「もったいぶるな」「萌え声で中和しろ」「お前の歌を信じろ」「信じて!」

 正直、別の歌を出そうかと思ったんですが、多分ここでしか歌えるタイミングがない、と思ったので出す事としましょう。

 

『「飛び立つ貴女へ」……こっぱずかしいんですが……翼さんへの応援歌です……』

 「皆の者!録音の準備は出来ているか!」「全部録音してるに決まってる」「後でまとめてアップしろ」

 

 とても、とてもじゃありませんが!翼さんの目の前で歌えと言われたら多分恥ずかしくて爆発してしまうので、こうして配信で歌う事にします。

 

 それは、翼さんの夢を応援する歌、ただそれだけです。

 

 音楽ファイルを開き、作曲し、演奏ソフトで完成させたモノを再生する。

 そしてそれに合わせて、私は歌う。

 

 世界を照らす光となる翼さんを私はどこまでも見守りたい。

 

 たとえ進む道が違っても、光と影と立つ場所が違っても。

 何処までも友として、ファンとして。

 

『以上、です……っと最後に……私は、翼さんの夢を応援します。きっと今までみたいに配信でコラボする機会も減ったりするでしょうけど、リアルで会う機会が減ったりもするでしょう。でも翼さんが笑っていられるなら、それが私の幸せです……!』

 「よく言った!」「ファンの鑑」「見守りつつも自分も進む事を忘れるな」「おりんも夢を見つけて」

 

 どうにか、歌いきりました。

 

 配信を閉じ、布団に倒れこむ。

 

 するとメールの着信があった。

 

 翼さんからだった。

 

『ありがとう、詩織』

 

 それだけ、それだけの内容ですが、翼さんに今の配信を見られていたのを確信し、私は転げ回る。

 

 恥ずかしい、でも嬉しい、翼さんに私の想いを聞いてもらえた事が。

 

 

『がんばってください!いつだって、私は翼さんを応援してます!』

 



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新しい事を始めよう

 時が流れるのは早いもので、もうすぐ夏が来る。

 

 だが、その前に。

 

 明日、翼さんの初の海外ライブがある!

 またもやマリアとのユニットである。

 

 マリアといえば、あの事件の後、最終的に国連のエージェントとなる事が着地点となった。

 きっとこれから色々な事があるだろうが、それが彼女の償いになるというのなら、救いにもなるだろう。

 

 ちなみに会場の場所はイギリスなので、流石に行く事は出来ないけれど。

 

 きっちりインターネット配信で見るので問題はない予定だ。

 案の定、いつものメンバーに一緒に見ようと誘われたけれど、やっぱり翼さんのライブはゆっくり見たいのでそれを説明して断った。

 

 というか3回目なので今度こそきっちり見たい、もしもこの後何か事件があってライブ中止とかになったら私は自分を抑えきれないかもしれない。

 

 未来永劫呪い尽くしてやる。

 

 それはさておき、私は今日も配信予定。

 当然ながらイカロス衣装、アームドギア部分は棚の肥やしとなっているがきちんと手入れは欠かさない。

 

 今日は何をするか考える、たまには新しい事に挑戦してみたいと思う。

 

 

 ふと他の投稿者の動画を見る。

 

 料理配信、ですか。

 

 

 

 

『はーい、今日のおりん放送は「台所」からいきたいとおもいまーす』

 「ウワ!おりんだ!」「イカロス衣装にエプロンで草」「シンフォギアを料理に使う女」「櫻井了子の最大の誤算」告知どおりに料理配信を開始する、ノートパソコンに設置型のカメラを繋ぎ、挨拶。

 

 事前告知のおかげで視聴者数3万、やりました。

 

『皆さん、私が料理を出来るという事をご存知かと思いますが、それを疑ってる人も居るのが現状、なので私が料理を出来る事を証明していきたいと思います』

 「イキリん」「雑な飯が出てきそう」「台所は綺麗だが……」「機材洗った?」機材は洗えねえよ……。

 

『今日はそうですね、手始めにオムライスとナポリタンでも作りますか』

 「お子様ランチかな?」「無難だ……」「難しくねーじゃん!」「失敗する方が難しい」「オムライスでマウントを取りに来るな」うるせえ!結構こだわると難しいんですよ!

 

『じゃあですね、オーソドックスにチキンライスのオムライスにしようと思います。まず材料は既に切ってあります』

 「鶏肉の切り方が雑」「グリンピースを取り除け」「ミックスベジタブルじゃん!」「ベーコンを使え」「俺はコーンが嫌いだよ」「にんじんいらない……」うるせぇな!お前ら!子供か!

 

『あらぁ~好き嫌いしてたら大きくなれないわよ~?』

 「お前の子供になった覚えはない」「ママ^~」「母親面するな」「草」「新素材」「母性が欠片も感じられない」ひどい言われようである。

 

『じゃあまず鶏肉に火を通しまーす、そして火が通ったら昨日の残りの冷や飯をですね、フライパンに投入、次にレンチンしたミックスベジを入れてトマトソース入れて炒めます』

 「手際よくて草」「はえーよ」「時間短縮が過ぎる」「手馴れてるな!」そら自分で飯作ってるからな!慣れてしまうんですよ。

 

『そしたら出来上がったチキンライスを深皿に入れて冷まし、フライパンは洗わずそのままナポリタンを作ります。麺は太麺、茹で上がったものがこちらとなります』

 「茹でからやれや!」「はしょるな!」「冷蔵庫から出てきて草」「ナポリタンは麺を休ませてつくるとうまくできるから、これおりんが正しいぞ!」そうだそうだ、ナポリタン普通につくるとベチャベチャになるんだよ!

 

『茹でマッシュルーム、タマネギ、ピーマン、ベーコンを油で炒めながらもう一個のフライパンで麺を温めます』

 「当然の様に二枚目のフライパン」「おりんは随分キッチンの道具が充実してるな……」「うちなんてフライパン小さいの一個しかない……」調理器具は予備のもあるとやっぱり便利なんですよねぇ。

 

『そしてソースですけど、ケチャップにウスターソース混ぜた奴でいいです、なければトンカツソースとかでも代用可能です。スパイス感のある奴がいいんじゃないでしょうか?私もネットで調べて知りました』

 「確かにナポリタンソースは使い道がナポリタンしかないからな…」「ピリ辛ナポリタンすき」「甘いナポリタンの方がすき」「安っぽさのあるナポリタンいいよね」「夕飯ナポリタンにしよ……」コメントがナポリタンの話題で埋まる、やっぱり皆好きなんですよねえ。

 

『具材炒めたフライパンを半分あけて、ソース投入、水気を少し飛ばしてから具材と混ぜます。そして具材と混ぜたら少し煮詰めて温めた麺を投入します。そして麺にソースを絡ませてしばらく余熱で焼いてナポリタンは完成です』

 「早い」「簡単だ……」「なんか量多くね?」「明日の朝ごはんでしょ」「ナポリタンは冷めてもおいしいからな」

 

『後はオムライスの続きです、麺を温めたフライパンにバターを溶かして、普通にオムレツを作ります、当然半熟です』

 「待って」「当然の様にオムレツを作る手際がいい」「効率重視だ……」「おりん、喫茶店開いて」「おりんが作った料理がおいしそう」「雑に見えて、合理的」ほらもっと私を褒め称えろ。

 

『で、チキンライスの上に乗せて、ケチャップをかけて完成です』

 「ん?」「えっ」「チキンライス全部使うの?」「それ全部一人で食べるの?」「多くね……?」

 

 

『では出来上がったものを頂いていきましょう』

 「えっ……」「ええ……」「おりん、もしかして健啖家?」「嘘だろ!?」「そんなに」皆が驚いているが別におかしい所ないですよね、米1合のオムライスに200グラムのナポリタン。

 

『これぐらいならいつも食べますよ?むしろ朝とかがっつり食べないと動けないじゃないですか?昼とか鞄の容量の問題上そんなに食べれませんし……』

 「ええ……」「なんで太らないの…」「もしかしておりん、実はそうとうムキムキなのでは……」「燃費が悪い……」「栄養吸収しきれてないのでは……」そんな事はない、筋肉だってうっすらしかありませんし、二の腕だってつまめますし……。

 

『えっおかしくありませんよ!だって二課に居た頃の実動班の装者の子とかもっと食べてましたって!好きなものはごはん&ごはんとか言ってましたし』

 そうそう、立花さんの方が絶対量食べてますって!あの筋肉量と運動量だと絶対に食べないと死にますって!

 「装者は大食いなのか……」「シンフォギア装者のイメージがムキムキのゴリラウーマンになってきた」「おりん以外全員ゴリラなのでは?」そんな事はない!翼さんは抜き身の刀の様なよく鍛えられた無駄の無い体をしてるし、クリスさんは胸にちょっと栄養行き過ぎだし体力も私と変わらないし、マリアさんも恵まれた体形してますし、切歌ちゃんと調ちゃんはちんまいですし。

 

『まあ個人情報なので詳しくは言及しませんが、皆体形は普通ですよ!それよりも司令がヤバすぎる』

 「国連に編入された時の放送の赤いスーツの人か」「ガタイが良すぎて笑った」「もう司令が戦えばいいんじゃないかと思った」「見た目で既に強い」確かに司令は見た目から強すぎる。

 

『ごちそうさまです』

 「はえーよ!?」「もう食ったのか!?」「人間火力発電所」「ブラックホールかな?」「歌はエネルギーを使うからな……」ひどい言われようだ。

 

『という訳で第一回、料理配信どうでしたでしょうか?』

 「おりんの食べっぷりが全部持っていったよ……」「咀嚼速度が早すぎる」「歌で鍛えられているだけある」「口に入ったものが消えるのが早すぎる」「どこに消える、カロリー」「特異点」「推定米一合とパスタ200グラムを食べる女」「虚無への回帰」なんで?どうして私の合理的クッキングが話題にならないの……。

 

 どうして……どうして……。

 

 

 結局はその日は寝るまでちょっとへこんだ。



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不死鳥

「ニグレド(腐敗)」(Nigredo)黒化(腐敗) : 個性化、浄化、不純物の燃焼
「アルベド」(Albedo)白化 : 精神的浄化、啓発
「ルベド」(Rubedo)赤化 : 神人合一、有限と無限の合一


 イカロスの翼、蝋で固めた「羽根」の集合体。

 ならば、「羽根」の元となった「鳥」がいるのも当然の話だったのでしょう。

 

 それが、これまで私の身に起きた異常「全て」の答えだったと私は知る。

 

 

 

 

 全くもって、運が悪いというか、翼さんのライブを平和に見れないとか、私は呪われているのではないでしょうか。

 

『藤尭さん!次どっちのルートで!』

『次の曲がり角を右に!』

 

 なるべく人の居ない場所へ、なるべく被害の出ない場所へ、私は「彼女」を引き連れて逃げる。

 

 

「巻き込んでしまって……ごめんなさい!加賀美詩織さん!」

「謝るのは逃げ切ってからにしてください、本当に!」

 

 遮蔽物にしていた塀がもう持たない、そろそろ走り出さなきゃマズい。

 銃声は聞こえないのに飛んでくる「弾丸」のおかげで、掠った左手はもう血塗れ。

 

 

 

 事の始まりは、ライブ鑑賞前の買出しの帰り、金属が「はじける」様な音に気付いた事。

 追われるハレンチルックの少女、上から見下ろし「何か」を「撃ち出して」いる者。

 間違いなくただ事ではない、と私は「SONG」に連絡し追跡を開始、車の爆発の衝撃で吹き飛んだ少女「エルフナイン」を助け起こし、共に逃走劇を開始。

 申し訳ないけれど正式に「援軍」を要請しつつ人気の無い所へ向かっている所である。

 

「で、エルフナインちゃんはその箱をSONGに届けたい訳だけど、中身は何ですかねぇ」

「聖遺物……ダインスレイフの欠片です」

『だ、そうですよ。これは厄いですねホント……』

『とにかく無理はするな詩織くん!今クリスくんと響くんを向かわせている!』

『でもちょっと無理しないと、壁にしてる塀がそろそろ無理になってきてるので、ちょっと動きます!通信が切れてなければ生きてますから!』

 

 私だって一応鍛えている、平和になってからも、SONGからハブられて協力員になってからも、緒川さんとやったトレーニングを思い出してみたり、知り合いの「忍者」の人からも簡単な護身を教えてもらった。

 

 ハンカチで左腕の応急処置は完了、さて……行きますか!

 

「さて、いきますか。エルフナインちゃん」

「……はい!」

 

 再び私はエルフナインちゃんを抱えて走る。

 

 完全ではないけど、忍びの「分身」の動きで、素早く、敵に動きを読まれないようにィッ!!

 

 痛ッぁあああい!また掠りましたよ!くそ!付け焼刃の忍術じゃダメですか!

 

『次の分かれ道を左に!その先の公園へ!』

 あおいさんからの通信を何とか聞き取り、ギリギリまで相手を引き付けて左へ!

 

 しばらく進むと確かに公園がありました、海辺の公園ですから、この時間は確かに人はいない。

 

『後、何分持ちこたえれば!?』

『後5分持たせろ!二人がもうすぐ……何ィ!敵襲……だとォ!?』

 

 茂みの中に飛び込み、とにかく「見下ろせる場所」から見えない様に逃げる。

 やっぱり!

 敵は「一体」ではなさそうですね!

 

 

『敵襲て、ちょっとマズそうですね!どっちかだけでも来れませんか!?』

『響くんが残って対応した!クリスくんが遅れて7分で到着できる筈だ!それまで何とか凌げ!』

 

 クリスさんなら、最悪ミサイルにでも乗ってやってきてくれる……もっと早く来てくれるかもしれません。

 

「はぁ……さて、エルフナインちゃん……敵の詳細とかわかるかなぁ?」

「敵は……敵は錬金術師……キャロル」

 

 錬金術……錬金術ってアレですか、よくファンタジーなのに出てくる……?

 

『錬金術……だと』

『科学と魔術が分かれる前の技術体系……シンフォギアとはまた違う異端技術……』

 

 通信機の向こうで司令と藤尭さんの会話が聞こえる、異端技術って他にもあったんですねぇ……。

 

「で、今追ってきてるのは?」

「……オートスコアラー、錬金術によって作られた自律駆動する人形です」

 

 あ、そこはオートマタじゃないんだ……スコアって事は多分「譜」ですよね、つまりは……歌と関係でもあるんでしょうか?

 

「それで、後5分。なんか持たせられる案ありますか?」

 

 茂みの中で息を潜め、小声でやりとりをする。

 

 コツコツと足音が聞こえてくるからして、敵は間違いなく近づいてきてるし、自動人形とかロボみたいなのに限って「生命反応」とかでこっちを追ってくるんですよねぇ。

 

「……ごめんなさい」

 

 さて、音から推測するに距離は50mあるかないかでしょう。

 

 これ以上逃げるのは……正直、体力的にキツイところもあります。

 そもそも、エルフナインちゃんも足を怪我してもう走るのはキツそうです。

 

 ただ、相手はこちらを「殺そう」とはせず、あくまで無力化しようとする感じで追いかけていました。

 という事は、目的は「生け捕り」。

 

 うまく立ち回れば、時間を稼げます。

 

 距離20m、姿が見えてきました。

 ちょいと派手な格好をした女、の様な人形ですか。

 やるしかありませんね。

 決めるぜ、覚悟。

 

「エルフナインちゃんは隠れててください、最悪の場合……もう少し頑張って耐えて走ってください」

「加賀美詩織さん……何を」

 

 止血、ヨシ!

 覚悟……よし。

 さらば茂み。

 

「さて……逃げるのはやめにしましょう、そこのド派手なお方」

「派手、とは言ってくれる。地味に追い詰めたつもりなのだがな」

「地味?いえいえ、爆ぜる金属音、砕ける音、派手な音楽ですよ」

「まあいい、加賀美詩織、お前の後ろに隠しているモノを渡してもらおう」

「随分、私も有名人になったものですね」

「派手に世界にその名を晒したからな、それとも戦うか?シンフォギア無しで」

 

 ……私にシンフォギアが無い事は、まぁさすがにバレてますね。

 あったならとっくに応戦してますし。

 

「戦う、でしょうね。何せ私は正義の味方ですから」

 

「気取ってくれる……が、それだけ」

 

 キラリとあいつの手が光る、何かを持ってる、アレが武器なら。

 

 「金属音」が聞こえるより早く身を屈めた。

 

 おかげで致命傷は、免れましたね。

 

 右肩を何かが貫通しました、が。

 

 あまりにダメージが大きすぎると痛みじゃなく熱しか感じませんね。

 

 まぁ、またちょっと興奮している分もあるんでしょうけど。

 

「次は頭と心臓を打ち貫く、死にたくないなら」

「死にたくは、ありませんね……」

 

 さすがにこれがちょっと限界です。

 ちらりと通信機に目を……

 

「時間稼ぎか」

 

 時間確認できませんでしたね、後何分持たせれば……。

 

「無駄な事だ」

 

 再び聞こえる金属音、そして砕け散る通信機と。

 

 目の前に噴出した血。

 

 あ、やられましたね。

 

 これ。

 

 

「詩織さん!!!」

 

 まったく、逃げろといったのに、エルフナインちゃんは……。

 

 

 これじゃ、死ねない。

 じゃないですか。

 

 そうですよ、こんな所で、死ねる訳が無いじゃないですか。

 

 

 終われる訳が。

 

 

「派手に血を撒き散らして、まだ立つか」

「そりゃ立ちますよ、生きてますから」

 

 おかしいですね、随分と体が熱いです。

 まるで燃えているような。

 

 そんな気分、いえ本当に燃えてますねこれは。

 

「これが……イカロスとの完全な融合……その状態から完全な「人間の姿」で「繭」から再生した……」

 

 後ろでエルフナインが何やら言ってるがちょっと聞き取れませんね、まあ……。

 

 

 

 

 

 まぁ、覚悟はしてましたよ。

 

 本当にあの状態から人間の形に戻れたのも不思議でしたし。

 

 

 

 

 

「加賀美詩織、お前はやはり人間ではない」

 

「ええ、まぁ……そりゃ血塗れ状態から燃えて立ち上がる面白人間はいませんよね」

 

 ただ燃えるだけじゃない、これは私の「羽根」だ。

 

 じゃあ私は何だ?

 

 鳥ですか?

 

 

 火の鳥、まさか。

 

 

「イレギュラー……早めに見つけておいてよかったと喜ぶべきか……了解……マスター。始末しましょう」

 

 っと何か来ましたね。

 

 あれは……ノイズ、でしょうか。

 滅んだと聞いてましたけど……まだ残ってましたか。

 

「――唄え 謳え 詠え 火 赤き 赤き 命」

 自然に口から歌が紡がれる。

 

 これはまるで「シンフォギア」を纏っている様な。

 

 いえ、この炎が、私の体から溢れるコレは間違いありません。

 シンフォギアそのものです。

 

 ならば、やれる筈です。

 

 ノイズを、倒せる筈です。

 

 ―バーニング・ブラッド

 

 纏う炎で飛びかかって来たノイズを纏めて焼き払う。

 

 ですが肩に一発頂いてしまいました、赤く光って「分解」されますが、その部分を「自切」して難を逃れます。

 どうやら、このノイズには「バリアコーティング」が効かないようです。

 

「生 死 生 我は 不死 不死なる 鳥よ」

 

 イカロスの翼を作った人も、櫻井了子…フィーネも、まさか「不死鳥」の羽根が紛れ込んでるだなんて、思ってなかったでしょうね。

 

 そしてそれが、私の「死」をトリガーに動き出した。

 一度目の死は「フィーネ」の手によるもの。

 再生はイカロスの蝋との融合。

 二度目の死は「神獣鏡」。

 再生は黒い繭からの誕生。

 

 そして三度目の死は目の前の「オートスコアラー」によるもの。

 三度目の再生でようやく、不死鳥に近づいたのでしょうか?

 

「派手な炎だ……全く厄介だ」

 

 そう言うと、目の前の敵は光と共に消える。

 

 どうにか、退けられましたか。

 

 

 私は炎を「解く」と膝をつく。

 

 とはいえ、私は完全な不死……ではなさそうです。

 すごく痛いし、炎を燃やす分だけ私の中の何かが「なくなっていく」感覚がしました。

 

「詩織さん!」

 

 駆け寄ってくるエルフナインちゃんの声が遠い。

 

 

 

 少し休ませてもらいますか。

 

 



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再生

 

 こういう無茶をした時は大体、長い間寝てる気がします。

 体は……万全、自切したはずの肩も無事だし、何処にも余計な穴は開いてない。

 私が起きた時には、翼さんやマリアさんは日本に帰って来てるし。

 エルフナインちゃんも無事二課もといSONGが保護、聖遺物の欠片も無事に届いた。

 

 しかしイガリマとシュルシャガナ、つまりは切歌ちゃんと調ちゃんのギア以外が新しい敵……アルカノイズとオートスコアラーによって使い物にならない状態にされてしまい、強化改修の計画が立った事。

 

 そして私と入れ替わりで立花さんがメディカルルーム入り。

 

 というかこのメディカルルーム……いつも私か立花さんが入ってますよね。

 そろそろ私物とか置いたほうがいいんじゃないでしょうか。

 

 と近くに居たスタッフに私が聞いた説明はここまで。

 

「詩織!よかった、目を覚ましたんだな!」

「ええ、ちょっと無事じゃありませんでしたけど無事に復活しました。しかし翼さんも大変でしたね……」

「……ああ」

 

 せっかく平和になって夢を追えると思った矢先にこれですからね、ホントに。

 許すまじアルカノイズ、許すまじオートスコアラー、許すまじキャロル。

 

「起きたか、詩織くん」

「いやはや、随分長く寝てました……で簡単な状況は聞いてます。で、私の状態は体は万全ですけど、色々話をしなきゃならなさそうですね」

 

 今、この場所に居るのは司令、翼さん、クリスさん、そしてエルフナインに……画面に向き合ってる藤尭さんとあおいさん。

 

「詩織さん……あの時は巻き込んでしまってごめんなさい……でもおかげで無事にここまでこれました」

「まあ巻き込まれたのは自分からですから、気にしないでください」

「それでも……」

「まぁ感謝だけは受け取りますよ」

 

 エルフナインちゃんも無事でよかった、それで十分だ。

 

 っと一人滅茶苦茶バツが悪そうな人がいますねぇ。

 

「なぁーにショボくれてんですかクリスさん」

「……ショボくれてなんて……ただアタシが間に合わなかったから、ノイズなんかに遅れを取ったから……」

「じゃあ、罰として今度ホラゲー配信で許します」

「はぁっ!?今はそれどころじゃ」

「なんですか怖いんですか」

「こ……こわかねぇ!けどここで言うような事じゃねぇだろ!?」

「まぁ、クリスさんへの罰はそれで十分でしょう。むしろクリスさんが無事だったのでオッケーです」

 

 ぶっちゃけると、目が覚めた時。

 あのアルカノイズの攻撃がシンフォギアの防御を無効化した事を思い出して、背筋が凍る様な思いをした。

 

 もし、誰かが居なくなっていたならどうしよう。

 そんな不安で一杯でしたが、皆無事……いや立花さん病室送りになってますね……。

 

 はぁ、それもそうですが……。

 

「司令、エルフナインちゃんから聞いてますか?私の事」

「…………ああ」

「死の淵から炎を纏って復活、まるで……いえ、そのままフェニックスです」

「その件は、もう決着がついている」

「どういう形で?」

「……SONG協力員である君が救助中にエルフナインくんが持っていた聖遺物の一つを使って倒れた、という事になった」

 

 ……そういう、決着になったのですか。

 

「私のギアの事は」

「そんなものはない」

「……戦う力は戻りました」

「そんなものはない」

「今だって炎を出そうとおもえb」

「ふざけるな!!!!」

 

 ……ッ!!

 

「君のメディカルチェックの結果は「人間という事になっている」!これ以上自分を削るな!命を大切にしろ!これ以上……これ以上ッッ!」

 

「なぁ……どうしたんだよ!オッサン!?」

「司令、いえ叔父様、一体……」

 

「………すみません、司令……でも確認しておく必要があるんです」

 

 司令が、こんなに怒りをあらわにするのなんて、初めて見ました。

 翼さん達も、驚いています。

 それ程の事なんでしょう。

 

「………君は、詩織くんは……検査の結果……「シンフォギア」そのものとなっている」

 

 シンフォギア、そのものですか。

 

「基本となる身体機能は人間と変わらない、だが心臓に融合した「赤い羽根の様なモノ」を収納した結晶が完全にシンフォギアシステムと一致、アウフヴァッヘン波形も検知されている……」

 

「そう、ですか……覚悟はしてましたからそこまでダメージはないですが……やっぱり私、人間じゃ」

「人間だ!誰が何を言おうと!君は、君は普通の少女だ!」

 

 ……そうですね、心までは人間である事を捨てたつもりはありません。

 

「すみません、そしてありがとうございます」

 

「これは、極秘中の極秘、決して口外するな、この場に居る者だけの秘密とする」

 

 ……本当に司令は、優しい人だ。

 優しすぎて、どうしようも出来ない自分に怒りを感じてしまってる。

 

 そんな人の重荷になってしまってる自分が少し嫌になりますが、それでも。

 

「この胸のシンフォギア、いえ区別する為に「フェニックスギア」とでも呼びましょうか……これは私の命そのもの、みたいです。炎を使った時「何かが減る」感じがしました、だからもう使う事はしません、それは約束します、絶対にです」

「詩織くん……」

 

 この胸のギアで戦うのは、本当に最後の手段とします。

 おそらく、このギアを使い続ければ私は「今度こそ、確実に死ぬ」。

 

 

 だけど、この現状で「戦える」のは。

 

 

「ですが、代わりに再び「イカロス」を纏う事を許してもらえますか?今、マトモに動けそうなのはアレだけでしょう」

「しかし……アレは侵食への対策も、完全な修復も出来てない!」

「動けるかどうかだけ……」

 

 さすがに「私そのもの」を使うに比べれば、司令も「少しだけマシ」と反応をしてくれました。

 

「それならすぐにどうにか、出来るかもしれません」

 

 と思わぬ答えが来ましたね、エルフナインちゃんから。

 

「侵食と修復のどっちですか?」

「おそらく両方、です。ただ強化改修までは行かない事を前提とすればですが」

「そんな事が出来るのか……!?」

 

 司令も驚きの声を上げる、確かにアレがどうにかなればイカロスは貴重な戦力になる。

 

「はい、天羽々斬、イチイバルと共に見させてもらったイカロスとその「蝋」のデータから、侵食が始まる前に「焼却」してエネルギーへ再変換すれば、侵食は防げますし、出力自体の上昇にも役立ちます……ただ」

「ただ……なんですか?」

「その焼却が長く続けばイカロスの中の聖遺物の欠片である「蝋」までもが焼却されてしまい、ギアとしての装着が出来なくなります」

「どのくらいの時間だ?」

「まだそこまではわかりませんが、そう長くは持たず完全に中の聖遺物が燃え尽きてしまいます」

「……そういえば、「蝋」の予備なら沢山あるじゃないですか」

 

 そこかしこにサンプルとしてばら撒く程の予備があるんです、どうにか使えないでしょうか?

 

「それなら……それをカートリッジとして「交換」できれば、継戦時間は上がりますね……改修の際に取り外し可能に出来ないか試してみます」

 

 やっと使い道が見つかりましたね、いやよかったよかった。

 

「それが可能なら、状況は少しはマシになるかもしれんな!急ぎイカロスの封印指定の解除申請を行う!エルフナインくん……プロジェクト・イグナイトに続き、頼めるか!」

「はい!」

 

「なぁ、詩織……色々話がぶっとんで付いていけなかったんだけど……結局またイカロスを纏うってのか?」

「はい」

「詩織……あれは一度は貴女の身を蝕んだギアだ、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫になる、と思います」

「思いますってなぁ……」

 

 やってみなきゃ結果はわからない、だから……。

 

 

「果報は、特訓でもして待ちましょう」

 

 

 二度も人間やめりゃ、慣れるってものです。

 でも、前と違って簡単にこの命、使いませんよ。

 

 

 私は、生きます。



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もう一度、はじめまして

 聖詠と共に纏うは「真紅」のギア。

 

 

 

『イカロス、展開成功。「蝋」の増殖は抑えられています』

 藤尭さんからの通信を聞きながら、安堵の溜息を吐く。

 

『標的を出してください、数はおまかせします』

 

 さて、ここからが本番だ。

 

 歌い始める事でエネルギーが蓄積していき、力が漲る。

 前の様な「異常な高揚感」は感じられない、いたって冷静、きちんと制御できている。

 

 目の前に現れる多種多様なノイズの群、今回はまだデータが少ないが設定を「アルカノイズ」に寄せている為、被弾はアウトだ。

 

『「焼却現象」を確認!計測開始します!』

 

 この試験の目的は私の戦闘スキルを「取り戻し」つつ、イカロスの活動限界を測る事。

 

 ノイズから放たれる弾丸、それを低空機動で回避しつつ、機銃を展開、狙いを正確に――。

 

 あくまでトレーニングルーム内なので実弾ではなく、威力の低いビームで放つ。

 

 着弾と共に破裂、直撃してないノイズまで炸裂したビームで穴だらけ。

 

『威力を絞っても十分以上です、もっと量とノイズの耐久性を』

 

『わかりました』

 

 いくらシンフォギアの攻撃力の前ではゴミクズの様に消し飛ぶノイズとはいえ、多少は耐久度の差はある。

 

 なので全ての敵の設定耐久値を上げてもらう。

 

 しかし、トレーニング用に威力を落としてもこの破壊力、実戦で使う時は誤射や流れ弾にも注意しなきゃいけません。

 

 

 戦闘開始から2分半、「空蝉」を盾にし被弾を回避しつつ、拡散レーザーでノイズを纏めて焼き払う。

 敵があまりに多い時はやはりロックオンより拡散の方がいいです、むしろ融合していた頃のどんなに多くてもロックオンしていたのがおかしいのです。

 

『詩織さん、焼却現象がイカロスの蝋の増殖率より早くなっています。この計算ならば残り3分で活動限界です』

 あおいさんからの通信でようやくイカロスの継続戦闘時間が判明した。

 

 これなら5分程度、ですか。

 

『「カートリッジ」の交換のテストを続けて行っていいですか?』

 エルフナインちゃんが実装してくれた「カートリッジ」は簡単な構造で、現状3つ、シンフォギアのストレージ内に入っている。

 これをマイクユニットを操作する事で切り替える事で「蝋」の完全焼却を防ぎ、再利用できるようにしている。

 

『わかりました、しかし実戦では交換の間の隙があります。ですからこのままノイズは出現したままにします』

 

 と、続けてノイズが新たに出てきて対空砲火が激しくなりました、これを潜り抜けながらの交換となりますが。

 

 実戦はもっと激しい筈。

 

 私は考える。

 

 動きを止めずにカートリッジを交換するには…。

 

 フェザークロークとブースターを分離合体させ、「ライドモード」に切り替える。

 「ライドモード」は立花さんのアームドギアと合体した時をイメージし、アームドギアを独立した支援武装にする形態。

 

 「ライドモード・イカロス」の上に膝のアーマーを接続し、体を固定、なるほどこれなら手も空くし、動きも止まらない。

 

「カートリッジ・リロード」

 音声入力と、マイクユニットの周囲を覆う様なリングを回転させ、「カートリッジ」を入れ替える。

 

『イカロスからのバリアコーティングへのエネルギー供給が0.4秒停止、気をつけてください』

 

 藤尭さんがギアからのデータを読み上げる、だいたい1秒は防御も危なくなるって事ですか。

 

 っと「ライドギア」が被弾したのでパージして乗り捨てる、再びアームドギアを展開し飛行。

 

『焼却反応はリセット、カートリッジ内の「欠片」は無事です』

 ホログラムのノイズ達が一斉に消え去り、景色が戻る。

 これで一安心、新しいイカロスのデータ取りは一通り終わりました。

 

 着陸してギアを解除、体にも異常は感じられません。

 

 まったく、エルフナインちゃんには感謝です。

 

 これ程のモノをたった二日で仕上げてくれました。

 

 

 この二日間の間に私は家の整理としばらくの「配信活動」の休止、あらゆる準備を終わらせ。

 日本政府から出向した「特別協力員」の立場を与えられて。

 今はこの停泊しているSONG本部にて待機している。

 

 

 期間はエルフナインちゃんによるギアの強化が終わり、最低でも2基の「イグナイト」ギアが完成するまで。

 

 その為、私はしばらくここで寝泊りと訓練を繰り返すだけ。

 

 

 休憩室の一角を占領して、ネット検索にふける。

 内容は世界の伝承に関わるもの、主に私が調べているのはフェニックスと錬金術。

 

 フェニックスは「賢者の石」と同一視される事もあり、錬金術とも関わりがある。

 そもそも「賢者の石」とは何かですが「完全物質」と呼ばれるモノらしく、黄金の練成や不老不死の薬を作るためにも使われる、だそうです。

 

 っと誰か来ましたので視線をやると、そこにはマリアさんが居ました。

 

「ああ、こんにちは。マリアさん」

「貴女は……加賀美詩織……!」

「これで会ったのは3回目ですね」

 

 最初は敵として、次はよくわからない共闘相手として、そして3回目でようやく仲間ですか。

 奇妙な関係ですね。

 

「……貴女はギアを失って戦線を退いた筈じゃ……」

「今日からギアが復旧してイグナイトギアの完成まで戦線復帰です」

「そう……なの」

 

 そう、一応ではあるけれど。

 私の復帰はあくまで「強化改修」が終わるまでの間、それ以降は事件解決まで予備戦力として本部で待機です。

 

「…………」

「…………」

 なんだか気まずい沈黙ですね。

 

「……ごめんなさい」

「何をいきなり言うんですか」

「ずっと謝りたかった、貴女を世界の目に晒し、貴女から平凡な日常を奪ってしまった事」

 ああ、そういえばそんな事もありましたね。

 

「許しますよ、当初こそアレでしたけど、結果として知名度上がって色々出来たので」

「……それに、貴女の撮った「証拠」のおかげで助けられた」

「こっちこそ、立花さんの友人の小日向さんを助けてくださってありがとうございます。とりあえず全部終わった事なので貸し借りは無しにしません?というか、ここで「はじめまして」にしましょうよ。私全然あなたの事を知らないので……」

 

 そう、よく考えればマリアさんの事は全然知らない、たまに切歌ちゃんと調ちゃんが話題にするくらいですし。

 

「随分、思い切りがいいのね。翼が言ってた通りだわ」

「という事でお互い知らない事ばかりなので、これからよろしくお願いしますね」

「ええ、よろしく。加賀美詩織」

「詩織でいいですよ」

「じゃあそう呼ばせて貰うわ」

 

 よく考えるとこれで、過去の精算は大体終わりましたね。

 

「……そういえば、貴女に一つ言いたい事を思い出したわ」

 っとマリアさんが何かを思い出したようですね。

 

「なんでしょう?」

「貴女……「配信」で、切歌と調に変なモノ見せたでしょう!」

「変な……モノ?」

「そうよ!二人ったら貴女の配信を見てから「暗闇の中からずっと後ろから赤い布を被った男に見られてる気がする」ってくっついてくるのよ!」

 

 あっ……あぁ……「アレ」を見たんですか。

 

「ホラーゲーム配信、そんなに怖かったんですかぁ……」

「調べたけど、アレ本当に怖すぎてアメリカで問題になった作品じゃない!どうしてあんなものを二人に見せたの!」

「いや、事前に忠告しましたよ?本当に怖いので苦手な方は見ないほうが良いって」

「おまけに貴女の顔を見る度にその時の配信で「取り憑かれた様な笑顔」を思い出して怖いって!」

「あれはファンサービスでやっただけであって、私のせいじゃありませんて」

「それだけじゃないわ!」

 

 この後もマリアさんに散々文句を言われた。

 意外と子煩悩というか過保護というか……。

 

 新しい一面を知れた、やはり相手を知る事は大事だなと思った。

 



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守るべきひだまりは

 休憩室の片隅を占領して4日目、調べ物の最中でまたもや寝落ちてました。

 

「ん……」

 

 っと何故かクリスさんまで私にもたれかかって寝てますし……。

 

 これは……動けませんね。

 何時の間に来たのでしょうか……。

 

 

「……ぁ……」

 っと起きたクリスさんとばっちり目が合いましたね。

 

「おはようございます」

「……おう、おはよう……」

 

 小声でそう呟いて顔を赤くして逸らすクリスさん、流石に寝顔を見られるというのは恥ずかしいですからね。

 私はもう寝落ち常習犯なんで慣れましたが。

 

「さて、なんで私の横で寝てたのか……説明してもらいましょうか」

「……だって、ここ最近、ずっと本部で待機しっぱなしで学校にも来ねぇし、配信も出来てねえだろ……だから心配で……」

「心配て」

 

 思わず笑う。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「多少配信できなくても、学校に行けなくても、本部に待機しっぱなしでも死にはしませんよ」

 

 昔の私なら気分が沈むくらいはありましたが、今の私は違います。

 心に余裕ができた、というか、成長したというか。

 

「だけど、今戦えるのは……」

「私だけ、だからこそです。どんな敵が来ても慌てない、そして皆のギアが完成するまで時間を稼ぐ、考えるべきはそれだけだからこそ、落ち着いていられるのです」

 

 私が倒れたらそれで全ては終わる、だからこそ、落ち着かなきゃいけない。

 だからこそ、私はその為に全てをそこに注ぎ込んでいる。

 

「はぁ……いっつもそれだな、詩織は」

「そうですか?」

「そう、お前はいつだって自分より他人を優先しようとする」

「でも結局自分の為ですよ?誰も失いたくない、だから戦う」

「それでも、詩織がいなくなっちゃ意味ねーだろ」

 

 私は、そんなつもりはないんですがねぇ……。

 

「そうそう死にはしませんよ私は……これまでだって」

「これまでだって全部、何もかも紙一重だった」

「はぁ……」

 仕方ないので、横に座るクリスさんの肩を抱く。

 

「ゎっ…うぁっなな何すんだお前!?」

 立花さんの言ってた通りクリスさんはこういうスキンシップをするとうろたえる。

 ちなみに多分同じ事を翼さんにやられたら今の私でも結構うろたえそうだ。

 

「皆がいたから、紙一重でも生きていられた。意地でも帰ってきた、だから大丈夫ですよ」

 

 私が今ここに在る意味も、今ここに在る理由も、皆がいたからだと思う。

 

 たとえ「フェニックスの羽根」によって生かされた命であっても、生きたいと思った意志は確かに私のものだ。

 

「………」

 クリスさんが静かになっちゃいましたねぇ。

 

「私だって死にたくはありませんよ、ここの所、翼さんのライブ毎回見逃すか途中でトラブルあるかでまともに見れてませんし、まだまだ配信でマウント取りたいし、クリスさんをからかって遊ぶのもやめられませんし、立花さんが無事に目を覚ますのも見届けたいですからね」

 

 はぁ、気がつくと私もすっかり陽気に毒されてますね……。

 ここいらで弱音を吐いて陰の者である事も程々に思い出さないといけませんね。

 

「不安といえば、不安はいくらでも出てきますよ。でも陰気になっても自分のモチベーション下がるだけですからね……」

「……よかった、本当に前みたいにおかしくはなってないんだな」

「ええ、中身はいつも通りのクソザコナメクジですからね。翼さんに抱きしめられただけでアップアップになるくらいの」

「その割にアタシにこういう事しても平気なのは何でだよ」

「普通に友達ですからね、何度でも言いますけど私は翼さんの友達でもありますけどファンでもありますからね」

「そういや……そうだったな」

 

 そうそう、崇拝対象に抱きしめられたら普通沸騰しますよ。

 

 尊死しちまうぜ!

 

「なぁ、詩織」

「なんですか」

「アタシのファンにはなってくれないのか?」

 

 はぁ……そういうのズルイですって!

 

「クリスさんの歌は好きですけど、崇拝対象じゃなくて応援って感じですからね……」

「崇拝って何だよ……」

「簡単に説明すると、私が初めて「綺麗」だと思った存在が翼さんだったって事です」

「アタシも人の事言えないけどどんな生き方をしてきたんだ」

「無味無臭、本当につまらない生き方をしてたんですよ」

 

 そうそう、今と違って愛もなく、夢も無い、死んでる様な生き方です。

 

「でも、まぁ喜んでくださいクリスさん。貴女は私の生涯で翼さんを除けば一人目の友達です、ちなみに二人目は立花さんです」

「いや本当にどういう生き方してきたんだお前……ってアタシら、意外に詩織について知らない事が多いな!」

「そりゃ本当に知ってもつまらないものですからね……ネグレクト受けてて冷凍飯食べながら配信始めて、翼さんと出会って、若干生きる希望を得て、リディアンに入って、シンフォギア装者になって皆と出会って……という感じなので本当に翼さん居なけりゃ私も存在してなかった可能性がありますね」

「嘘だろ……」

 

 思い返せばこの一年程が今まで生きてきた中で最高に輝いてますね。

 というか本当に密度が濃い。

 

「リディアン入るまでは本当に死んでる様なものだったので実質私の年齢1歳みたいなもんですよ」

「だからって生き急ぐなよ、お前が死んだらアタシは立ち直れないからな」

「なんでですか、ちゃんと立ち直ってくださいよ。私の死を無駄にしないでくださいよ」

「バカ」

 むっ……バカとは何ですか、バカとは。

 

 そういう事言うならこっちにも考えがありますよ。

 次のコラボ配信、ウチでやる時に「あのホラゲー」やらしてやりますから。

 

 とクリスさんがぎゅっと私を抱きしめてきた。

 

「本当に、何処にもいかないでくれ」

 

 はぁ……やっぱりイチイバルがないから不安になってるんでしょうね。

 

「心配しないでクリスさん、私は何処へもいかない」

 

 だから、本心からの言葉で返す。

 

 それは私自身にも言い聞かせる言葉、私の帰って来るべき場所はもう「ここ」にある。

 

 

「デェース!?調!スクープデスよ!」

「切ちゃん!静かに……」

 

 と休憩室の入り口に二人ほど影が見えますね、あのちんまりシルエットは紛れも無く奴らだ。

 

「まったく、クリスさんは甘えん坊ですねー」

「うるせーお前の側がやたらに落ち着くんだよ」

 

 私にもたれかかり目を閉じるクリスさん、そういえば前にも言ってましたね、私の側が薄暗くて落ち着くって。

 

 私、意外にそういう包容力はあるタイプなのでは?

 

 くいくいと手招きをするとこっそりこっそりと二人がこっちへやってくる。

 そしてクリスさんとは逆側に来て貰う。

 

「あれ?寝ちゃいました?」

「……んぁ……寝てねーよ」

 

 更に翼さんとマリアさんも休憩室を開けて私達の様子を見て何かを察した顔をしてゆっくりと無音で近づいてくる。

 

 装者勢ぞろいです。

 

「じゃあクリスさんの帰ってくる場所もここですねー、皆がいるひだまり」

「ったりめえだろ……そこには皆いなきゃ意味がねぇ……アタシだって皆を守りてぇ」

「翼さんやマリアさんも?」

「当たり前……だろ……あのチビどもだって、今は寝てるバカだって……それに詩織の事だって」

 

「だ、そうですよ。皆さん」

 

「はぇ?」

 

 はてー私、こんなにいたずら好きでしたっけ、まぁ……面白い状況になったのでいいとしましょう。

 

「雪音がそういう事を思ってるとはな」

「案外素直じゃないわね」

「クリス先輩!」

「クリスさん!」

 

「なっ……な!」

 唖然とするクリスさんの表情にもう笑いが堪えきれない。

 

「そんなわけで、私も自分を大事にしますよ、皆いなきゃ意味が無い……ですからね」

 

「そう……だな」

 

 この言い知れぬ勝利感もいいものです。



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歩んできた道

(激戦過ぎて書けなかったのでこの書き方は)初テストです。


 病室で「特別協力員」としての日本政府への報告書を用意されたフォーマットに従い入力する。

 

 右足の骨にヒビが入っているし、全身くまなくボロボロ、体も気分も若干重い。

 

 でもまぁ、これも名誉の負傷、と受け入れるしかない。

 といってもこのダメージの3割は私のミスなのだけど。

 

 撤退時にイカロスのカートリッジを全焼させて着地失敗した足のヒビを含むダメージが3割、残りはオートスコアラーのミカにバリアの上からボコボコにされた分。

 

 こうして病院で報告書を書いているという事はつまり生きているという事。

 まぁ、私は「時間稼ぎ」を全うできました。

 

 といっても私一人の力ではありません、切歌ちゃんや調ちゃんの加勢が無ければ間違いなくダメだったでしょう。

 

 敵は停泊中のSONG本部と同時に各地の発電所を攻撃、こちらの退路を断つ形で攻めて来ました。

 せまりくるアルカノイズに私が対応、しようとしたのですがオートスコアラーのミカが私狙いで攻めてきたので防戦に手一杯で、とてもではないですがアルカノイズにまで手が回らない状態。

 

 そんな中で切歌ちゃんと調ちゃんの二人が適合係数を上げる薬「リンカー」を使って参戦して、アルカノイズを引き受けてくれました。

 

 おかげで私は目の前の敵にだけ集中できたのですが。

 

 恥ずかしながら私は皆さんほど戦闘経験は無いので、まともに攻撃を当てる事ができませんでした。

 とはいえ、緒川さんから習った忍術も、イカロスの機能もフルで活用して最初の5分を凌ぎ、空中でイカロスのカートリッジを交換して戦闘続行。

 

 途中でアルカノイズを片付けた二人が参戦してくれたおかげで、勝てる……気がしたのですが。

 二人のギアが破壊されてしまい一転窮地、またもや現れるアルカノイズ、二人を守る為に陸戦を余儀なくされマイクユニットへの直撃を避けてカートリッジを交換しながらの防御へ徹する。

 その時のフェザークロークの再生能力は本当に有り難かったです、アルカノイズの解剖器官との接触を身代わりしつつ自切可能、故に紙一重の防御が続けられました。

 

 とはいえ、とんでもないパワーを持つミカに殴られ続け私の体はどこもかしこもボロボロ、本当に今度ばかりはダメかと思いましたが、時間を稼いだ甲斐がありました。

 

 完成した強化型シンフォギアを纏った翼さんとクリスさんが参戦、私は切歌ちゃんと調ちゃんを連れて撤退。

 そのままイカロスの欠片を全焼させて倒れた、という訳です。

 

 

 その後ですが、キャロル本人が出張ってきたらしく、一度は「イグナイト」の使用に失敗した二人ですが遅れて参戦してきた立花さんのおかげで今度は「イグナイト」の発動に成功、無事にキャロルを「撃破」したそうです。

 

 しかし、キャロルは自害、オートスコアラーのミカは撤退。

 残り3体のオートスコアラーの行方も不明。

 全てが終わった訳ではなさそうです。

 

 はぁ、と溜息をつく。

 とりあえずこれで報告書として出すと、これまでの分の給金が一気に発生する形になります。

 私はSONG所属ではなく、日本政府所属という少し面倒くさい立場なのがアレですが。

 これも司令の兄であり翼さんのお父さんである人が何やら精一杯の手回しをしてくれた結果なのです。

 

 いつか会う機会があればお礼を言わねばなりません。

 

 とにかくこれで私の役目は一応終わりました、残りは日本政府の指示が無ければ余程の事でも無ければ戦う事もないでしょう。

 

 っと来客ですね。

 

「調子はどう?」

「そこそこですよ」

 

 翼さんが見舞いに来てくれました、ありがたいです。

 とはいえ面会許可が下りたという事はこれから皆さん次々と見舞いに来るでしょうね……。

 病室がうるさくなったら叩き出される可能性もあるので、程々にしてもらいましょうかね……。

 

「だけど……本当に無事でよかった……それに本当によく頑張った」

「まぁ、私としてはやるべき事を果たしたという感じですよ。それに翼さん達が絶対に来てくれると、エルフナインちゃんが強化型ギアを完成させてくれると信じられたから戦えたんです」

 

 もしも、完成がまだ遠く、どうしようも無かったのならば、私は躊躇い無く「フェニックス」を使い、明日の為の礎となる覚悟を決めていたでしょう。

 ですがエルフナインちゃんの覚悟とその信念を私は信じた。

 それだけでありません、当然ながら切歌ちゃんと調ちゃんの覚悟だって、私を救ってくれた。

 だから最後まで諦めずに、生き残る為に戦えた。

 

 生きるという意志こそが明日を切り開く。

 

 

「とはいえ、本当によかったです。状況は巻き返せました、これで私も安心して退場できますよ」

「寂しい事を、言うな……詩織がここまで守ってくれたから私達も戦えた」

 

 とにかく、これで状況はよくなった筈です。

 後は残りのオートスコアラーを片付けつつ敵の拠点を割り出して後始末する感じですかね。

 ……でも色々と気になる所はあるんですよね、翼さんがロンドンで襲われた時はギアだけ破壊して撤退だし、クリスさんは切歌ちゃんと調ちゃんに救われた、立花さんもたしかギアだけ壊されて撤退。

 先日の決戦でもイグナイトの発動に失敗した二人を尻目に街を攻撃しはじめたと聞くし。

 

 ……はて、本当に何を考えていたのやら、あの錬金術師様は。

 

 

「それより詩織は大丈夫なのか、その……胸のアレは」

「胸のアレですか、ちゃんと「使ってません」よ。本能的にヤバイ感じなのでそのまま抱えて生きてくつもりです」

 

 そう、胸の中のフェニックスは使わない、アレは間違いなく私の「全て」を犠牲に力を得るモノだ。

 だから使わない、けれど捨てる事もできない。

 

 これのおかげで「死なず」には済んだのですから。

 

「……いつも思う、もしも私があの日詩織を二課に連れてこなければと」

「どの道、フィーネに連れて来られたでしょう。ひどけりゃクリスさんみたいに連れ去られる可能性もありましたし、私が連れて来られたのがここで、かつての二課で本当によかったのです」

 

 私も非日常に足を踏み入れてから、何度も死を前にして、何度も傷ついて、何度も苦しんだ。

 けれど、その全ては結局の所は私が歩んできた道、変わらない現実と過去。

 

 もしも仮に装者とならなくてもノイズ災害に巻き込まれるか、変わらない日常の中でゆっくり心をすり減らしていくだけだった。

 

 そう考えると今まで歩んできた道は無駄ではなかったとわかる。

 

「それに、大切な友達もできましたし」

 

 命を懸けてでも、守りたいものなんて、私にはなかった。

 

 それがあるだけで、やはり私は。

 

「今の私は幸せですよ」

 

 幸福なのだろう。



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やるべき事、出来る事、やりたい事

「詩織、切歌と調を守ってくれてありがとう」

「別にいいって事です、もう本人達からお礼の言葉は頂いてるので」

 

 翼さんがクリスさんと共に「イグナイト」の影響を調べる為に出てった後、今度はマリアさんが見舞いに来た。

 

「それでも、よ」

「……はぁ、受け取っておきますよ」

 

 私が装者になってから学んだ事は、お礼の言葉はもう素直に諦めて受け取るべきだ。という事。

 誰も彼も「別にいいって事です」と言ってもそれでも引いてくれませんからね。

 

「でも、実際は私の方が助けられた様なモノですよ?オートスコアラー相手にマトモに防衛もできず、アルカノイズにまで手は回らない、そんな状態でしたから二人の加勢は本当に助かりました」

 

「それは二人に言ってあげて頂戴、それよりも……足の方は大丈夫?」

「大丈夫ですよ、着地失敗とはいえただのヒビですよ、しばらく固定してれば消えますよ」

「そう、でも無理は禁物よ。何か立ち歩きたい時も誰かに声をかけてから……何ならしばらく面倒を見るわ」

「いやいや過保護すぎますって!?母親にだってそこまでされた事ありませんよ」

 

 過去に骨折した時は非常に面倒だった、誰も私を手伝ってくれやしないから痛みに耐えつつも悪化しない様に無理をする必要があった。

 おかげで一時期腕の筋肉が凄い事になりましたよ。

 悪い意味で。

 

「母親に、面倒を見られた事がない……」

「あっ」

 しまったぁ、失言でしたかね……。

 

「ごめんなさい、そういえば貴女の両親は……」

「いや別に私は気にしてないので、ついでに言えば死んでもないですし」

 

 っと……なんか覚えのある温かさと圧迫感を感じますね……しかし翼さんには無いやわらかさも感じます。

 なんでマリアさんに抱きしめられてるんでしょうねぇ……。

 

「ちょぉっと……何してるんですかね……」

 

 さすがにちょっとドキドキします、なんていうか翼さんとはまた違う温かさで。

 

「前に翼が言ってたのを思い出したの、「いつも詩織を繋ぎ止めるのには苦労する」って」

 

 なぁに言ってくれてるのですか翼さん……でこれと何の関係が……。

 

「大事にされた事がないから、自分を大事に出来ないのね」

 

 …………まぁ、当たらずとも遠からず、じゃないでしょうか。

 

「そうやって生きてきましたから、でも今はそんなつもりじゃないですよ?」

「ええ、皆も貴女を大事に思っているし、貴女も皆を大事に思っている」

「そうです」

「でもこうでもして「示してあげないと。詩織はすぐに離れていく」とも翼は言ってたわ」

 

 そんな事まで言ってましたかぁ……翼さんには筒抜けじゃないですかぁ。

 

「……まったく、世話焼きさんの多いひだまりですね……昔だったら眩しいだなんて言って逃げてましたよ」

「でも、あなたの「日陰」というものも悪いものじゃないわ。時々は静かに居たい時もあるものね」

「そうです、賑やかな「ひだまり」を静かな「日陰」から眺める、相変わらずそういうのもいいものですよ……これが私達の守った世界なんだって」

 

 まだ今回の件は決着がついていない、けれど当面の危機は脱して穏やかな時間を過ごせる程度にはなった。

 前回は月の落下に加え、立花さんの融合症例もありましたし、全く気が休まらなかった……様な気もしますね。

 それに私自身もおかしくなってましたし。

 

「で、いつまで私を抱きしめてるんですかマリアさん」

「ダメかしら」

「ダメですね、そろそろ恥ずかしくなってきたので」

「残念ね」

 

 っとやっと開放してもらえました。

 

「それはそうと、前ほど急ぎじゃないですけど他のギアも強化型に改修途中なんでしたっけ」

「ええ……」

「よかったですね、マリアさんのアガートラームも再び使えるようになるって。これで不安も一つなくなりますでしょう?」

「何を……」

「マリアさん、いつも「自分だけ力になれない」みたいな顔してたの私、知ってますよ?」

「……ッ!」

「あまりそういう時は声を掛けずにそっとして置きましたけど、答えは出ましたね」

「そうね……」

「まぁ、無理をしない程度にがんばってくださいよ。こっそり日陰から応援してますから……なんでしたら私だっていますから」

「でも、貴女のイカロスは強化こそされるけれど「イグナイト」は搭載されないらしいじゃない」

「そうですね、でも無くたって私に出来る事をするだけです」

「出来る事……」

 

 そう「やるべき事」だけだといつか自分を使い潰す、だから「出来る事」をする。

 私が皆と一緒に居て学んだ事です。

 尤も、本当に「やるべき時」は遠慮なくやりますけどね。

 

「そうそう、マリアさんは優しすぎて背負い込みすぎるとも切歌ちゃんや調ちゃんもよく言ってましたしね」

「あの子達ったら……」

「私も皆を頼る、マリアさんも皆を頼る、それでいいんじゃないでしょうかね」

 

 こういう時、いつも立花さんの言葉がチラつきますね。

 

「手を繋ぐってヤツですよ、あの立花さんのお得意な」

「そう、よね。それに私だって救われた」

「私もですよ、しぶとく手を繋ごうとしてくれたから、ここにいられる」

 

 あのバイタリティの高さは本当に見習いたい、立花さんの太陽的なパワーを得れば、おりんの暗黒パワーと合体して無敵となれる、対消滅するかもしれない。

 

 まぁそれは、それとして。

 

 明日にはもう動ける筈ですから、明日の配信の予定でも考えておきましょうかね。

 

「それでは、そろそろおやすみするのでこの辺りで切り上げさせて貰っても?」

「ええ、長く居座ってごめんなさい、ゆっくりと休みなさい」

 

 マリアさんが病室から去るのを見届け、私は携帯端末で調べ物を始める。

 

 まだ体調が万全ではないからゲーム配信は無し、とすると雑談配信かお歌か。

 

 雑談配信にしましょう。

 

 せっかくなんで告知と共に「錬金術に自信ニキ求む」とも書き込む。

 

 最近、少し錬金術に興味を持ち始めた。

 それは敵である「キャロル」の技術だから、「勝つ為にはまず敵を知れ」とも言うけれど、純粋に錬金術のパワーもなんだかよさそうな感じがした。

 もしもこれで私も錬金術を詳しくなればエルフナインちゃんの手伝いも……いや出来るかなぁ?

 

 ……いやちょっと、ですね?

 むかーし見た漫画のカッコイイ魔法だとかの再現が出来るんじゃないかなという下心もあるんですが、実際錬金術をこちらの戦力に組み込めたり、解析して技術として取り込めれば、と思うんですが。

 

 

 私が思いつくくらいですからもうとっくに試されてるだろうし……なんだったらエルフナインちゃんの手が空いた時にでも聞いてみましょうか。

 

 と、ふと、気になる記事を見つける。

 

 『おりん活動休止、またもや世界を揺るがす事件か?』

 

 はぁーまさか私の活動休止から察する者がいるとは。

 

『本日、活動再開を告知したおりんこと加賀美詩織。皆様知っての通り彼女は装者である、我々が知りえない色々な事情で再び戦場に出ているのではないでしょうか』

 

『根絶されたかにみえたノイズの目撃例の増加、それに数々の不審な事件、人知れずまた彼女らが戦う事になっているのではないでしょうか?』

 

『我々には彼女達を応援する事しかできない、けれどいざ事件や災害に巻き込まれた際にすぐさま避難を出来る様にして犠牲を出さない事、それぐらいは出来るようにしておきたいものです』

 

 応援、ですか……。

 

『後、これは応援ソングです。おりんを含む、装者一同への励みとなれば幸いです』

 

 と、付属した音楽ファイルを再生する。

 仮にも病室なのできちんとイヤホンをする。

 

 

「明日の配信は、これですね」

 

 

 私だけじゃなくて、他の装者達への感謝の気持ちが伝わる様な歌で少しばかり、嬉しい気持ちになった。



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萌え声クソザコ装者の話

 

 退院後、司令に許可を貰って「新イカロス」のテスト稼動時の映像の使用許可を問うとOKを貰えた。

 と言ってもぶっちゃけると見た目だと色が赤くなって動きがよくなっただけなので、イグナイトの事だとかは秘密とする。

 

 なので「世界初・パワーアップシンフォギア先行公開」を今日の配信の告知とした。

 

 政府のお金で手に入れた動画編集ソフトで一時停止とエフェクト、そして武器の説明を簡単に入れて、放送用の1分動画が完成。

 

 政府の「最新版特異災害対策・情報」へのリンクをクリップし、「広報アカウント」でログインする。

 

 日本国内ではまだ公式見解としての「特異災害」の「終息宣言」は出されていない、しかし「アルカノイズ」の情報もあくまで「ノイズ残党」の様なモノとして認識されている、なので今日の配信に合わせて世間に発表する事を「政府」に問い合わせたら「公式会見」の許可を貰えた……というか「押し付けられた」。

 

 という事なので、今日の発表で公開するのは。

 

『アルカノイズがこれまでのノイズと特性が違う』

『その為、シンフォギアを改修する必要が出た』

『一応の発生源は絶ったが、まだどの程度残ってるかは不明』

『これまで通り発生した場合はきちんと避難をする事』

 などである。

 

 今日の配信スケジュールを組む。

 

 ただ悪いニュースだけではなく良いニュースも入れる事にする。

 

 特に新型シンフォギアの情報は『「櫻井理論」解明への一歩を踏み出した』という意味でも良いニュースになる。

 それに「1/12の私フィギュア」の発売が決定した事も良い?ニュースだ、売り上げの一部は特異災害被災者などへの義捐金になるチャリティグッズだ、私には1銭も入ってこないけど。

 

 …………実は、ただの政府広報として活動してた「シンフォギア装者」としての知名度が上がってきて、今「イカロス/詩織」グッズが微妙に流行になってる。

 ちなみに企業から出ているモノは全部政府を通しているので売り上げは国家予算になったり、防衛費に充てられてる、おかげで付いたあだ名は「国防ヒロイン」。

 

 …………おまけに、子供達にはまるでテレビの中の正義の味方が現実に現れたかの様に映るのだろうか、最近では公園で「歌いながら戦う」ごっこ遊びする子供をよく見かける………ちょっと恥ずかしくて死にそうな気分になる。

 

 実は「朝のヒーロー番組」からのオファーも来ている、当然ながらイカロスの衣装を纏って戦う「ノンフィクション系番組」としての番組である。

 

 これはまだ平和には少し程遠いが故に断らせていただいて「演者」さんに託したけれど、いつかまた平和になったらそんな仕事を請けても………いややっぱ無理だわ!

 

 

 

 でも。

 

 翼さんも、こんな気持ちなんだろうか?世界の傷を癒していくあの美しい歌とは少し違うかもしれないけれど、世界に平和を届けていく、そんな役目を背負う気持ちが少しだけ分かった気がした。

 

 

 

 さて、とそろそろ配信である。

 政府広報チャンネルは国内外含めれば5000万人もの人がチャンネル登録する巨大なチャンネルです、ぶっちゃけ視聴者数は目に入らないようにしている。

 幾分か図太くなったつもりではあるが恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

 

 スイッチを切り替えよう。

 

 配信スタートの許可が下りた、さあ行きましょう「加賀美詩織」。

 

『こんばんは、皆さん。政府広報でありシンフォギア装者の加賀美詩織です。もうこのチャンネルで配信する事はない、と思っていましたがやはり現実はそうそう簡単にはいかないモノで活動を再開させていただきました』

 「ウワッ!広報おりんだ!」「政府広報に返り咲いた女」「発生件数減ったけどノイズはまだ根絶できてなかったか……」「政府公式も一時間前に更新されているので要チェック」配信開始と共に沢山のコメントが激流の如く流れる。

 

 やっぱり緊張しますね、こういう所は。

 

『今日の報告ではまず、新種のノイズ「アルカノイズ」と呼ばれるモノについて報告させていきます』

 「まさか吹き飛ばそうとしたのが不味かったんじゃ……」「新種!?」「ただでさえ種類が多いのにまた増えたの!?」「ノイズって不定形だからぶっちゃけ種類訳しても無駄じゃ……」新種という言葉に困惑のコメントが多いです。

 

『既存のノイズと違い「錬金術」と呼ばれる「異端技術」によって「作られた」ノイズです、これは国連に所属する事になった協力者の「錬金術師」によってもたらされたモノであり、まだ未解明の部分もありますがこれまでの戦闘によって判明した部分を説明していきます』「錬金術!?」「錬金術ってなんだ!?」「魔術と科学が同一視されていた時代の遺物が!?」「異端技術やべえな……」「錬金術に詳しい人を募集してたのはそれが理由だったのか……」

 

『アルカノイズの最大の特徴は防御性能を捨てて「分解」に特化している事です。この分解は人体だけでなくあらゆる物質を分解します。「解剖器官」と呼ばれる発光する部位は特にその特性が強く、その破壊力はシンフォギアのバリアコーティングすら「分解」します』「えっ」「シンフォギアってノイズに防御力あったんじゃないの!?」「それってマズくない!?」「まさか最近配信が無かったのって……」戸惑いやその危険性に対するコメント、きちんとそのヤバさに気付いてくれて嬉しいです。

 

『なので、シンフォギアを「強化改修」する事でアルカノイズへの対策を施しました。これは同時に「櫻井理論」解明への一歩にもなりました』「おおお!!」「安心した」「有能組織」「これがシンフォギア強化の理由だったのか」「どう強化したんだ……」歓声と驚きの声が多い、がまだ疑問の声もありますね、ここから説明していきましょう。

 

『まず、シンフォギアのバリア機能を純粋に強化しました。これによってアルカノイズに触れられても「分解」されなくなりました。次に新しい聖遺物を搭載する事で「出力」の上昇を施しました……ここで、その戦闘の様子を、私のモノですが公開いたしましょう』「イカロスがパワーアップしたのか!」「これが世界初公開か!」「進化したシンフォギアの力を見せてもらう」

 

 

 キーボードを操作し、画面を切り替える。

 

 協力・国連タスクフォース「SONG」の文字と共に関係各所のロゴを映した後、BGMと共に私の「戦闘テスト」の映像が始まる。

 

 それはイカロスを改修した最初のテスト稼動時の映像を切り貼りしたもので「高機動による回避力」「パワーアップした武装」などをピックアップしたものになる。

 

 コメントとしては「赤い」「前より速くなったけど編集じゃないの?」「茹でたカニ」「茹でイカロス」「ファイヤーおりん」「すごいパワーだ」「純粋なパワーアップ」「でもデザイン変わってない……」「カラバリ商法が捗るな」「機銃は実弾の方がすき」「ミサイルを搭載しろ」「格闘戦をしろ」「ビームとレーザーばっかりじゃないか!」「相変わらずフェザークロークの使い捨て加減で草」「カットインの技名がダサい」「質量を持った残像とでもいうのか!」………。

 

 …………。

 

 ………クソ!!!!散々な言われようだよ!!!

 

『ご覧頂いたように、私のイカロスは改修にあたりカラーが赤に変わっています。他のギアに関してはそこまで変化はありませんでしたが一撃の破壊力が今までより遥かに上昇しています。私のギアの特性上あまり防御する場面は見せられませんでしたが、強化によって防御力も皆上がっているのでご安心ください』「イカロスが一番最初に改修されてそう」「もしや実験体じゃな?」「おりんの長期休業はテスト時の墜落」「おりんならやる」「テスト時にイキって負傷する女」「強化されたギアにおりんがついていけてない」………。

 

 ………。

 

 憶測でそういう事を決め付ける奴らなんなの!?

 

 別に私の負傷はテスト時の事故じゃないし!!!ちゃんと戦っての負傷だし!!

 墜落だって仲間を守る事を優先した結果だし!

 

 ………とはいえ、皆を心配させる必要はないし。

 

『えっとですね、私の長期の休業の理由はですね、強化されたギアへの慣熟訓練がありました。確かに実動班の方々に比べれば私はそこまで強くないので……それに他のギアの改修完了までやはり戦闘できるのが「私」しか居ない時間もありました。ですのでその間の待機業務もありました。ですが現在は全員分のギアの改修が完了したのでご安心ください』「おりん……」「やっぱりついていけてないんじゃ……」「そりゃ広報は最弱って相場は決まってるし」「強けりゃ実動班で引っ張りだこよ」「クソザコ装者」「クソザコおりん」「萌え声クソザコ装者」「萌え声クソザコ装者とかいうひどすぎるあだ名」「萌え声クソザコ装者で定着しよう!」

 

 なんなん!?

 お前ら!私を何だと思ってるの!?

 

 最高出力では確かに最弱ですけど!私は弱く……弱いわ……。

 

『………それはさておき、現在の所「アルカノイズ」は「自然発生」する事はなく、何者かによって操られたモノだけと思われています。もしもノイズ出現などの警報が出た場合はこれまで通り落ち着いて避難する様にお願いします。現在、製造元は絶ったと思われていますが、やはり完全に根絶したとは確信できていないので、引き続き国連や各国政府は対策を行っていく予定です』「この先ノイズを使ったテロだとかが現れるかもしれないかも」「今後タスクフォースは災害だけじゃなくてテロ鎮圧なども仕事として入ってくるかもしれない」「でも子供に人間相手に戦えってのもひどいよな……」「それでもノイズが相手な以上シンフォギア装者が出張らないといけない現実」……やはり、不安の声は多いです。

 

 それもそうです、人の手で、悪意を持ったノイズが運用される。

 不安に思うのも仕方ありません……。

 

 でもただ不安で終わらせるのは3流配信者です、一流なら。

 

『私も含め、装者全員、今後も特異災害と戦っていきます。それだけでなく「通常災害」においても装者による救助活動の試験運用も行われています、実際にニュースで救助現場に響く「歌」を聞いた方もいますでしょう。彼女達の……私達の歌はただ戦う為のモノだけではない、平和の為にあるモノです。そこで、ここで初告知となるのですが私「加賀美詩織・シンフォギア/イカロス」のフィギュアが発売となります。これは売り上げが特異災害被災者などへの義捐金となるチャリティ商品となります、私には1銭も入らないので安心して買ってください』「人間の加賀美」「国防ヒロイン」「平和の為の礎」「予約する」「金を払わせろ」「俺達の金で飯を食え」とりあえず不安感に満ちたコメントは一瞬で拭えましたのでヨシとしましょう。

 

 

『今日も最後までご覧頂きありがとうございました。今日公開した映像や情報は政府公式のサイトでも公開・更新される予定ですのでそちらも合わせてご覧ください。それでは、ごきげんよう』

 

 

 無事、配信を終えて一息。

 

 司令と担当者の方からは「お疲れ様」の労いのメッセージが届いた。

 

 

 そして「特訓」の予定のメールも届いた。

 

 え、私も参加ですか……?

 

 

 …………。

 

 ちょっと傷がまだ………。

 ダメですか?

 ダメですか………。

 

 はい……。



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砂上の真実

 強い日差し、潮の匂い、白い砂浜、青い海。

 

 今、私達は筑波の政府所有地に来ている。

 

 目的は当然「特訓」……ではなく「レクリエーション」である。

 

 

 ……ええ、分かっていましたよ、まだ体が万全ではない私が呼ばれた事に加えて、「水着」の用意、そしてエルフナインちゃんの参加、つまりは「息抜き」の為の行事である。

 

 当然ながら、日焼け止めにパーカー水着、パラソルの準備も万端、ついでに言えば私は特に日光に弱いのでサングラスも持参。

 重い荷物にさらに「スイカ」も加えられる事となり当初、車で迎えに来てくれたマリアさんに「貴女ウキウキすぎよ」と言われた。

 

 

 ………とはいえマリアさんもサングラスかけてるし、復活した「アガートラーム」の力を使いこなしたいと張り切っているので、ウキウキしすぎなのはお互い様である。

 

 

 で、実際に着いてからなんですが。

 

 これは……暑い。

 

「大丈夫か詩織?」

「あんまり」

「やはり体調が万全では……」

「いえ、夏の日差しの下に出る機会がこれまで全くといってなかったので……」

「もっと外に出た方がいい」

 

 拝啓 視聴者様、萌え声クソザコ装者と名付けられた生き物は、早くもパラソルの下でくたばっていて翼さんに心配されている始末です。

 仕方ないでしょう、私はガチガチのインドア派、夏はクーラー、冬は暖房、適温と適度な湿度の中でしか快適に生きられない生き物なんですよ。

 

 というかそれよりも翼さんの肉体美が半端無いです、マリアさんの恵まれた体形もいいですがやっぱり翼さんの鍛えられた剣の様なスリムな体がとても美しいと思います、ええ……本当に美しい。

 

「というか、私はまだ足のヒビがあるので一部しか参加できないので翼さんはしっかり楽しんできてくださいよ」

「楽しむって、これは特訓」

「特訓なワケないですよ、レクリエーション……息抜きです。最近ずっと皆気を張りっぱなしだったから司令が気を利かせてくれたんですよ」

「そ……そうだな!」

 さっき小日向さんとクリスさんが翼さんだけ気迫が違うみたいな事をこっそり耳打ちしてくれたおかげで気付きましたが、翼さんはガチで特訓だと思って来てたらしいです、指摘したら少し恥ずかしそうにしてて……これは……尊死……しますね、やっぱり翼さんの恥じらい顔もいいと思います、ええ。

 

 ただ、でも事前連絡では一応キチンと特訓もやると言ってたので、その時は私も覚悟を決めねばなりません。

 というか特訓本当にキツいですよねぇ、特に体力の無い私は司令が付けてくれた特訓メニュー大体ノルマこなせてませんし。

 緒川さんが稽古付けてくれたりする時は少し遠慮というか、手加減してくれるのでそっちの方がいいですが生憎今日の緒川さんはお仕事で研究所の方に行ってるんですよねぇ。

 

 パラソルの下、ビーチチェアに背を預け、クーラーボックスからコーラを取り出す。

 

 そういえば……皆、お昼ご飯とかどうするつもりなんだろう……確かこの辺りって政府の所有する土地だから海の家だとか売店なんかもありませんし………。

 

 ………。

 

 マズイですね、これは多分買出しのジャンケンだとかに巻き込まれるパターンです……覚悟しておきましょう。

 

 

 

 はぁ……。

 

 

 平和です、穏やかです。

 

 こうやってパラソルの日陰から元気に遊ぶ皆さんを見ていると本当に平和って感じがします。

 これが、私達が欲しかったもの。

 

 本当に。

 

 

「あて」

「ごめんなさいデェェス!!」

 

 ぼーっとしてたせいで飛んできたビーチバレーのボールが顔面に直撃しましたが、まぁよしとしましょう、今のは回避できなかった私が悪い。

 

 とりあえず、向こうにサーブで打ち返すとしまsy……

 

 落とした………。

 

「詩織ィ!なぁにやってんだぁ!」

「うるさいですね!クリスさん!もう一回です!」

 

 意識を集中させ、もう一度上へと投げ、下から打ち上げるようn……

 

 失敗した……。

 

「詩織ぃ……」

 

 かわいそうなものを見る目でクリスさんから見られてますね、これ。

 

「ええい!哀れむな!私を哀れむなァッ!!」

 

 仕方ないので普通に投げた。

 

 

 運動に関してはゴミですからね、私。

 イキれません。

 

 

 と、私の方も準備を始めるとしましょうか――。

 

 ビニールシート、スイカ、棒、目隠し用のアイマスク。

 

 やる事はただ一つ、スイカ割りだ、予備のスイカは3つ、滅茶苦茶重かったけれど楽しみだったんですよねぇ。

 

 

「皆さーん、ちょっとこちらへー」

「おお!詩織さん!それはまさか!

「まさかのスイカ割りデス!?」

 

「やけに荷物が多いと思ったら、三つもスイカを持ってきてたの!?」

 マリアさんに呆れられましたが、とりあえず概ね好評そうなので、この辺りで発表しておきましょう。

 

「このスイカ割りのルールは少し変わってましてね、15メートル先から「目を回して」貰ってからのスタートなんですが、それに追加して、方向を指示する人はくじ引きで選ばれた方にやって貰います」

 

 こういうのは皆でワイワイ指示を出すのもいいですけど、あえて一人だけにした理由、それは。

 

「で、もう一人、今度はウソの指示を出す人をくじで決めます。ウソか真実か、どっちを信ずるかは貴女次第!という事です」

 

 つまりは一人が指示を出し、もう一人がウソの指示を出す、目隠しされた人はどっちを信じるか選ばなければならない。

 

「ちなみにですね、やる順番はエルフナインちゃん、切歌ちゃん、調ちゃん、立花さんに小日向さん……まあつまりは誕生日順で、私は最後です」

 

「ボクもやるんですか!?」

「せっかくなんで楽しんでください」

 

「たのしみデス!」

 

 ……実はこのルール、ネットで見つけたモノなのですが結構奥が深いらしいです、互いに信じあってる仲である程「ウソ」をついてもバレるだとか、信じて騙されるだとか。

 ………いや性格悪いと自分でも思いますけど、これくらいやらないと装者の感覚じゃきっと一瞬でスイカ割られちゃいますからね。

 

 そしてエルフナインちゃんには目隠しをしてもらい、スイカから離れてもらう。

 

「まあ最初は年長者と企画者でやり方を見せるという感じで」

「……少し気が引けるわ」

「あ、ちなみにきちんとウソの人が騙し通せずスイカを割られた場合、罰ゲームがあるので……」

 こうして釘を刺しておかないと、つい情に負けて手を抜いてしまうのでね……って私本当に性格悪いですね!いやこのルール作った人の性格が悪いのですか!

 

「偽りを……貫き通せ!」

 

 

 あっ、マリアさんが覚悟を決めましたね、Are you ready?

 

 

 …………。

 第一回は練習もかねて私が真実の指示で、マリアさんがウソの指示、ですが後少しの所でエルフナインちゃんが転んでダメでした。

 

 第二回の結果は調ちゃんのウソとクリスさんの真実、結果は切歌ちゃんが海にドボンしたので調ちゃんの勝利。

 

 第三回は調ちゃんが打者で立花さんがウソ指示でマリアさんが真実指示、これはなんというか結果が分かりきっていたというか……立花さんのウソがヘタクソな上にマリアさんの「うろたえないで!」で完璧に勝負が決まりました、スイカが一個破壊され、立花さんの罰ゲームが決定しました。

 

 第四回は立花さん、切歌ちゃんの真実指示と翼さんのウソ指示……これも翼さんがウソをつけなくてダメでしたけど、立花さんの渾身の振り下ろしがハズれたのでセーフでした。

 

 第五回は小日向さん、エルフナインちゃんの真実とクリスさんのウソ、これはなかなかいい勝負でした、途中「ボクを信じてください」「アタシを信じろ」と煽り合いが発生して中々見ごたえ抜群でした、スイカこそ破壊できませんがいい所まで行きました。

 

 第六回はクリスさん、翼さんの真実とマリアさんのウソ、またもや言葉での戦いが発生し、騙されたクリスさんが浮き輪を叩いたのでマリアさんの勝利でした。

 

 第七回は翼さん……エルフナインちゃんが真実、私がウソ……。

 

「詩織」

「なんですか」

「信じてる」

 

 あああああ!!!

 やめてくださいよ!そういう情に訴えかけるヤツ!

 

 

 

 

 ……結果、割られて私も罰ゲームが確定しました。

 

 第八回はマリアさん、切歌ちゃんが真実で、私がまたウソです、ええ……容赦なく騙してボールを叩かせてあげましたよ。

 

 

 最終的に二周目のクリスさんでスイカが全部破壊されゲーム終了。

 

 

 罰ゲームが私、立花さん、翼さんの3人に決まりました。

 

 意外とクリスさんとマリアさんがこういう所で強いとは思いませんでした…。

 ですがとても楽しかった、それはそれとして用意してきた罰ゲームのジンギスカンキャラメルは最悪の味でした。

 

「うげぇーなんてもの用意するんですか詩織さん!」

「詩織、こんなものを……」

「皆さんが食べて驚くのを見たかっただけなのに……」

 

 

 まだ今日のお楽しみはこれからです。



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向き合う勇気と加賀美詩織の人生哲学

 時間は永遠ではありません、逃げる事だって決して悪い事だとは言いませんが、時間一杯逃げ続けても最後には詰みだけが残るモノです。

 

 故に人はいつか立ち向かい、向き合う覚悟を決めなければなりません。

 

 

 先日のレクリエーションの後、オートスコアラー・ガリィの二度の襲撃があり、それをマリアさんが撃破しました。

 それはいいんです、がその後が問題です。

 

 どうにも、立花さんが昔夜逃げ同然に出て行った父親と再会してしまった様で。

 とても闇の気配というか、凄まじい負の感情を放っていてなんともいえませんでした。

 おかげで帰りがとても気まずくて仕方ありませんでした。

 

 立花さんの境遇は、知っています。

 あの「惨劇」の後に起こった、世間からの謂れの無い誹謗中傷の被害者。

 当然、本人だけではなく、家族にもソレは向いた筈です。

 

 一番支えて欲しかった時に、家族を捨てて逃げていった父。

 

 私は両親を心の支えにした事などないのでよくわからないのですが、やはり許せないもの、なのでしょうか。

 

 愛されてたから、愛していたから余計に辛いというものなのでしょうか。

 

 こればかりは本当に、私にはわからないモノなので相談に乗ろうにも乗れそうにもありませんし。

 

 困ったものです。

 

 

 それはさておき。

 

 楽しい時間を過ごした対価に私も向き合うべき時が来たようです。

 

 

 体調崩しました。

 

 ウキウキビーチで陽キャの様にはしゃぐだけで即体調崩すってなんなんでしょう。

 もしかして私は遺伝子レベルの陰キャダンゴムシなんでしょうか、こうやって皆さんと遊ぶ事が罪だとでもいうのでしょうか。

 

 くそったれ。

 

 仕方ないので家で安静にしながらも宿題を続けている訳ですが。

 あー。

 

 やっぱり立花さん心配ですよねぇ、しかも父親ともう一回会って話をするらしいですし……少し前みたいな空元気状態とかみたいな事にならなきゃいいですけど……。

 

 私もですが、精神状態安定しないと突っ走り気味になる人間が装者には多いですよね……こればっかりは私達がどうしても揺れ幅の大きい「子供」であるのが原因なんでしょうか。

 だとしたら、大人になる事でそれは解消できるのでしょうか。

 

 ………でも、立場だけ大人になっても中身は子供みたいな人間は沢山いますしね、難しいものですね、大人になるって事は。

 

 『完璧な人間なんていない、居るのは不完全な自分と向かい合って受け入れて、うまく付き合っていける人間だけ』

 

 誰の言葉だか忘れました、そんな事を言っていた人が居た様な気がします。

 

 やっぱり難しいですね、人間って。

 

 

 宿題は、もう片付けるのを諦めて学校で聞くとしましょう。

 

 やりたい事、出来る事。

 

 何か無いかな。

 

 

 ここ最近まともに自分の為だけの配信が出来てませんね。

 

 

 サボり、いえ療養配信でもしましょうか。

 

 となればさっそくパソコンを起動して、カメラを確認。

 

『あー、おはようございます。体調不良のおりんです』

 「サボり配信だ!」「ねてろ」「ねてろ」「ウワッ死に掛けのおりんだ!」平日昼間だというのに結構人がいますね、皆さん一体何をしているのでしょうかねぇ。

 

『つい先日、装者の特訓とレクリエーション参加してウキウキしてたらこのザマです、畜生』

 「貧弱すぎる」「やっぱり萌え声クソザコ装者だったのか…」「戦闘外で不調を起こす女」「とっとと寝て体治せ」

 というか思い返してみれば戦闘外で勝手にダメージ受けてる事多いですよね私。

 人間関係、慣れない事、慣れない事……。

 やっぱりもう少しアクティブに動かないと改善しないモノなのでしょうか。

 

『で、なんですが今日は人生哲学みたいなモノでも語りながら雑談でもしようと思いましてハァイ』

 「おりんの人生は鮮烈がすぎる」「デビューして3年」「そろそろ4年目やぞ、ご長寿が過ぎる」そうですか、もう4年ですか……確かに私が配信を始めたのは中2の頃でしたからね。

 まさかこんなに長く続けるとは思わなかった、というか時の流れが速すぎる。

 

『私の人生の大半はまぁ、結構味気ない、無味無臭な、それこそモノクロなモノだったんですよ。それが翼さんのファンになって色付いて、配信始めて広がって、装者となって、世界に名前が知れて、最近なんかじゃ微妙に子供のヒーローみたいな扱いになっちゃったりして』

 「翼さんに救われた女」「おりんの人生を聞くのは4回目だよ…」「おりんの配信で救われた人間もいるぞ」「翼さんと別ベクトルで世界レベルの女」「世界レベルの萌え声」「俺にとってもヒーローやぞ」「おりんのフィギュア3個予約したぞ」何度か配信で自分の人生については語っているので、結構既に知っている方も多いけど、最近私の配信を見始めた方は知らないので毎回、こういう話をする時は自分の人生を振り返る事にしている。

 

 好き勝手に生きていた男と女が、愛も無く、特に何も考えず私を産んで、とりあえず籍を入れる事で色々な手当てを受けながら、変わらずに好き勝手に生きて、私も倣って好き勝手に生きた。

 けれど愛の無い生き方は本当に虚しいだけで、モノクロで冷たい、生きている振りだけの様で。

 

 でも翼さんと、世界で一番綺麗な存在と出会って、それを「愛したい」と思って。

 愛を知るには、愛されるには、愛するにはどうすればいいか考えて、それで配信を始めた様な感じで。

 それから歌を覚える為にリディアンに行って、何故だか装者になって、出会って、戦って、出会って、死んで、生き返って、おかしくなったりしながらも今日まで生きてきて。

 

 本当にこの一年半だけで、色んな事がありました。

 

『やっぱ、ですね。私のこの16年程度の人生ですが、大事なモノはやはり「愛」ですね、これがなければそもそも私は生きている振りをしているだけの人形でした。でも愛を知って変わった、片道でも愛する事は人を変えられます、人を好きになる事で、いつかは人からも愛される様になる、私はそれを知りました』

 「翼さんやうたずきんと一緒に話してるウキウキおりん本当に好き」「そうだね」「おりんファンの集いで友達が出来た」「俺が好きなのはおりんだけだよ……」「おりんだけ好き兄貴、俺もソーナノ」「おりんだけ好き兄貴はもっと他人を好きになってあげて」「おりんだけ好き兄貴は自分を大切にしろ」

 

『なんか、私だけを好きでいてくれる人でコメント賑わいすぎですよ!まったく、じゃあ私だけ好き兄貴は翼さんやマリアさん、うたずきんさんの事も好きになってみてはどうでしょう、好きな人が沢山居るっていう人生も悪くないものです』

 「浮気者かな?」「友情でしょ」「付き合ってないからセーフ!」「浮気する奴はみんなそういう」

 浮気じゃねぇよ!!

 

 それはともかく、好きな人、大事な人が沢山居るというのはやはり、幸福だと思います。

 …………本当に。

 

『誰かに愛された事がないなら、誰かを愛してみる事から始める、愛し方がわからないなら、まず簡単に相手を応援してみる、というだけでいいのです、それでゆっくり学んでいけばいいのです。それが多分、きっと、人生への向き合い方……みたいなモノじゃないでしょうか?』

 「おりんの成長が著しい」「ただの翼さんが好きなだけの萌え声生主が、ここまで来たんやな……」「おりんが死にそうな事を言ってる……」「死なないで」「死んでも配信しろ」死なないよ!

 

 これが、私の「人生への向き合い方」だと再認識、出来た気がします。

 

 今まで通り「翼さんのファン」であり皆さんの友達であり、仲間であり、誰かを「想い」続ける人間である事、それが私の有り方。

 

 翼さん、クリスさんや立花さん、小日向さんに二課からの付き合いの皆さんをはじめとして、まだ出会って日の浅いマリアさん達やエルフナインちゃんの事だって応援して、もっと仲良くなっていきたい。

 

 もっと皆の側に居たい、ひだまりになれなくても、日陰として皆が落ち着いて話せる存在になりたい。

 

 少し、ワガママがすぎる気もしないでも無いですが。

 

 当然ながら、愛するべき者の中には顔も知らないリスナーさん達だって、入ってるつもり、です。

 

『装者や友達の皆さんもですが、やっぱりリスナーの方々や私が守るべき人たちの事だって好きでいたい。と思います、私は』

 「聖母」「日陰であってくれ」「でもおりんの愛って微妙に重い」「萌え声クソザコメンヘラ装者」「萌え声クソザコ聖母」「ママ^~」「俺を養ってくれ」「ママになってくれ」でもお前らの母親になったつもりはありませんから!

 

『私を心の支えにするのはいいですけど、基本は自力で生きるんですのよ!!さすがに画面の向こうまでは手が伸ばせないので!』

 「大丈夫だ、問題ない」「そんな~」「生きるよ……」「生きルルォ!!」「おりんも頑張って生きて」「イキろ」

 

 そうです、自分で生きる事も大事です。

 いくら愛していても最後に答えを決めるのは自分なのですから。

 

 

『あ、それはそうとして時間が滅茶苦茶あるので久しぶりにBLゲーやります』

「ウワッ!!!」「いきなり逆方向にハンドルをきるのやめろ」「最悪だ……」「逃げルルォ!!」



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未だ、夢の途中

 世に名を馳せれば、自分を良く思わない人間が居ると知る事になる。

 

 私もそうだった、配信を始めて2年も経てばアンチスレも立ち、そこを覗けばやれ妬み疎み、私の何処が気に入らないやら……おかげで一時期体調を崩して配信をやめようかとも思った事も何度もある、けれど考えてみれば当然の事だった。

 

 私の配信はクセが強いし、やるゲームにだってファンとアンチがいる、そうすれば、そのゲームのファンというだけでアンチになる者もいる。

 更に言えば、私自身はそうでもないが私のリスナーのノリなどが気持ち悪くてアンチになる人間だっているし、私が日陰者から一気に日の下に引き摺り出され有名人になった、というだけでファンからアンチになった者もいるし、逆にこれまでアンチだった者が私がシンフォギア装者だと知って逆にファンになった事もあった。

 

 全ての人間に等しく絶対に愛される者なんていない、私にだって嫌いな奴の一人二人はいる。

 とりあえず「ゲロ音MAD」でミリオン再生取った奴とドクターウェルはまだ許していないからな。

 

 それに誰とは言わんが毎回政府の方からでも私に嫌味や文句ばかり言ってくる奴もいる。

 

 いや、政府公式のチャンネルの方で間違えてBL配信やって世界中から「ワォ……」だとか「クレイジーシンフォギアガール」「日本政府最大の誤算」「新しい時代を切り開く女」だとか爆笑されてしまった上にネットニュースのトップに来てしまった件については非常に申し訳なく思うが。

 

 後、私を広報に推薦した翼さんのお父さんにも少し申し訳ない気持ちになるが……まぁ、年頃の乙女のお茶目な所だと見逃してもらえないだろうか、もらえなさそうだなぁ……。

 とはいえ、まだ何も言われて無いので、とりあえず言われるまでは黙っている積もりである。

 

 ……今、私達は翼さんの「実家」に来ている。

 

 経緯を説明すると、どうやら竜脈や地脈など総称して「レイライン」と呼ばれる「地球のエネルギーの流れ」を敵が利用しようとしているらしい、先日のオートスコアラー・ミカの襲撃や各地の神社や寺など「要」となる施設の破壊などから割り出された、次に襲撃されると予測される場所。

 

 それが海底にある聖遺物保管施設と翼さんの実家の二箇所になった訳である。

 オートスコアラーのミカに関しては調ちゃんと切歌ちゃんが始末したらしいが、立花さんが検査入院で不在の為、人手が不足しているので代打で私が翼さん、マリアさんと共に翼さんの実家に向かう事になった。

 聖遺物の保管施設に関しては、場所が場所な上に私の「イカロス」は閉所で戦うのには向いてないので、消去法的に切歌ちゃんと調ちゃんとクリスさんの3人になった。

 

 そして、辿り着いた翼さんの実家であるけれど、私の挨拶の途中で現れたオートスコアラーのファラによって防衛目標である「要石」を破壊されてしまった上に翼さんもダメージで気を失ってしまった。

 

 あのクソ人形、おまけに「翼さんが起きたらまた来る」などとほざいてたので、次に来たら絶対バラバラにしてやるから覚悟しとけ。

 

 

 …………さて、本題に入りましょうか。

 

 翼さんが起きるまで、待機と思いきや、私だけ呼び出されて話をする事になりました。

 

 何しろ、私は日本政府所属ですからね、やっぱりそういう所で何かあるんだろうなと予測はしていました。

 

「君の活躍はもう知っている、相変わらず好き勝手に動き回ってくれてるな」

「……ハイ」

「おかげで政府側でも君をよく思わない人間が少ないが存在する」

「まぁ、はい……人に絶対好かれる、なんてのはありえませんから……」

「だが君のおかげで世間のシンフォギア装者についてのイメージは概ね良い物となっている、これからも「人の側にある形」で続けてくれ。ただ……」

「ただ……?」

「この間の様なモノは自分の所でしてくれ、各国政府関係者から同情の言葉が届いている」

「……はい、以後本気で気をつけさせていただきます……」

 

 本当に疲れたような顔で呟く翼さんのお父さんに本気で申し訳なくなった。

 

「それはそれとして、だ。翼の様子はどうだ?」

「……翼さんですか、何時頃からの様子ですか?」

「……君が見てきた中で感じたモノを正直に話して欲しい」

「……どうして私なんですか、翼さんに直接……」

「いいから話したまえ、君は近くでよく翼の事を見ている」

 

 父親と娘の関係、ってよくわからないからアレですけど……たまに目にするのは娘の反抗期やら、父親の恥ずかしがりとか、そういうのでしょうか。

 

「最近だとやっぱり、せっかく海外デビューとまで行ったのに、またこの騒ぎで呼び戻されてから、少し辛そうですね。ようやく夢を追いかけられるって所でまた戦場に戻らざるを得なくなったのはやはり堪えるものだと思います」

 ……私が翼さんが日本に帰ってきた事を素直に喜べなかった理由はそれだ。

 海外で名が広まって、世界を照らしての凱旋なら、私だって両手を挙げて喜んでいた。

 けれど現実は戦場への帰還、再び戦う為に夢を置いて戻ってきた。

 

「そうか。聞きたい事は聞けた、時間を取らせた」

「いえ、その……翼さんの事を想ってらしてるのですね」

「……この事は他言無用だ」

「わかりました」

 

 その後、夕方頃に目を覚ました翼さんとマリアさんを呼んで「アルカノイズ」についての調査の結果の報告が行われた。

 そこで聞いた赤い塵の正体が「プリマ・マテリア」と呼ばれる万物の根源物質である事やキャロルの錬金術の目的が「分解」と「理解」で止まっており何を「再構築」しようとしているのか、など新たな謎が出来た。

 のは私にはどうしようもない事として、マリアさんが翼さんのお父さんの、翼さんへの「冷たく見える」態度についてキレてたり、翼さんが冷たい言葉をそのまま受け取っているのが少し胸にチクっと来た。

 

 翼さんの体の調子を心配して、早く次の仕事に向けて休む様にと言いたかったのでしょう。

 ですが翼さんのお父さんはとても、とても不器用な人の様です。

 

 

 ……でも私は黙っていろと言われているので、余計な事は言いません。

 

「詩織も聞いているの!?」

「あ、すみません……ちょっと考え事をしてまして」

「まぁ、マリア……あれが私とお父様の関係なのだ、それよりも話の続きは私の部屋で……」

 

 開かれた扉、塵一つない癖に派手に散らかったままの部屋。

 

「敵襲!?」

「いや……その恥ずかしながら私の……だがしかし、10年もこのままにしておくのは……」

「十年もですか!?」

 

 やべぇ、とんでもない事に気付きましたよこれ。

 

「昔は、お父様に流行の歌を聞かせた事もあった……」

 

 ……あのお父さん、冷たい仮面の下はとんでもない親バカですよ!!

 三人で部屋の片付けしててマリアさんも気付いたようですけど、10年前の状態を維持したままに部屋を綺麗にするって、どんだけ不器用で器用なんですか!

 

 マリアさんと目が合いましたが間違いなく同じ事を思ってますね。

 

「……翼さん、いつから、どうしてお父さんとの仲が?」

「……こうして防人として居れば、聞きたくない事だって聞こえてくる事がある……私とお父様の血は繋がってない、私の祖父、風鳴訃堂が後継者として、お父様の妻、私の母上に産ませたのが……私だ」

 

 ……とんでもない奴ですね、風鳴訃堂というジジイは。

 うちの親よりもクソったれだと思います。

 そうなると、翼さんのお父さんの態度も、わかる気がします。

 実の子ではない、妹の様で、でもそれでも……。

 

「だから、私は愛されてなくてもいいのだ」

 

「翼さん、それは……」

 

 違う。

 と言い掛けたその時、爆発音がしました。

 

 まったく「無粋」な人形ですよ。

 わざわざ来なくても、本当にいいのに。

 

 親子の絆に咽び泣く私が、クソッタレ人形をぶち壊してやりますよ。

 

 

 

 

 

 ぶち壊せませんでした……全然良いトコ見せられなかった上に着地失敗してまた足をやっちまいました。

 

 ですけど、良い物が見られました。

 

 翼さんの窮地に駆けつけたのは翼さんのお父さん、翼さんの夢を諦めるなという言葉。

 それに応えて「剣」ではなく、夢を見る「翼」として過去を乗り越えていく、翼さんのそんな姿を見る事が出来ました。

 

 そして撃破したオートスコアラー・ファラ、ですが……。

 

 

 ………まったくもってお喋りが過ぎますね。

 6人の装者にイグナイトモジュールを与え、わざと自分達を破壊させる事で「呪われた旋律」を各地のレイラインに刻み、世界破壊の為に利用、その上用済みとなれば自爆で諸共に吹き飛ばそうとして来た上に、おまけに通信妨害のチャフまで……。

 

 本当に最後までクソッタレ人形でした。

 

 

 おそらく、クリスさん達も向こうでイグナイトによる「呪われた旋律」を刻まされている……。

 きっともう間に合わない。

 

 これは……嵐が来ますね。



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奇跡を刻む

 

 

 嵐は去った、傷跡は大きいですが。

 

『――以上を以て72時間前に発生した都庁周辺での爆発事件の説明と、今回の「錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイム」との決着を報告します』

 

 今日は、コメントを非表示とし、配信を終える。

 

 

 装者達の活躍とエルフナインちゃん……そして命を賭したドクターウェルの犠牲のおかげで、キャロルの錬金術は世界を壊す事無く、私達は今日を迎えられた。

 

 さすがに、死んだ者を恨む事は……本物の英雄になった者を憎む事はすまい、静かに奴に感謝と冥福を祈る。

 

 本当に奴のおかげで、命拾いした。

 ……私も、とてもではないけれど無事ではないけれど、ドクターウェルが「やらかしていてくれなければ」私も間違いなく死んでいた。

 

 あの日、都庁で合流した私達はダウルダブラのファウストローブを纏ったキャロルと対峙した、その力は圧倒的で全ての攻撃がまるで絶唱そのもの、私達の歌を軽く塗りつぶすようなものだった。

 その歌に反応するチフォージュ・シャトーによる世界の分解、それを食い止める為にシャトー内部に突入するマリアさん達の援護をした。

 

 つまり私達4人での絶望的なまでの戦い、おまけにキャロルは私など眼中にないとばかりに立花さん達を狙う。

 

 わかっていた。

 一番どうでもいい存在は、一番ちっぽけで、取るに足らない、最も弱い装者は私だった。

 機銃も、ホーミングレーザーも、収束照射もまるで効かない、ただの賑やかしにしかならなかった。

 

 それに私のイカロスは、時限式。

 燃え尽きるまでに勝負を決めねばならない。

 

 爆風とエネルギーの濁流に巻き込まれない様に立ち回りつつもカートリッジの交換を重ね、ただひたすらに攻撃を撃ち込み続けるが、気を引くことすら出来ない。

 

 やがて立花さんも、翼さんも、クリスさんも傷つき立ち上がるのがやっとな状態になって。

 そこで状況が動いた。

 

 キャロルは私を狙い始めた。

 目の前で全ての「奇跡」を折ると言った。

 

 「三度、死から蘇った「私」という奇跡を踏みにじる事で、世界が裂ける祝いの悲鳴を聞かせろ」といった。

 

 だから、歌ってやった。

 油断した横っ面に「絶唱」を一発、叩き込んでやった。

 おかげでイカロスのカートリッジは全焼、戦闘続行は不可能となった。

 

 キャロルもこれで大きなダメージを受けた筈だと思った。

 

 でもそうはならなかった、満身創痍の私の前で平然と立つキャロルの前に心が折れかかった。

 シンフォギアのパワーアシストで無理矢理動かしていた体のせいで足もまともに動かない、逃げる事もままならない。

 

 全身を糸で吊り上げられ、締め上げられ、私は苦痛に叫んだ。

 翼さん達が必死に私を助けようとするけれど、糸を断つ事もできない。

 

 だから、私は「唄った」。

 このまま、ただ死ぬよりはいいと思って「フェニックス」の封印を解いた。

 

 それは弱っていた私の命に力を満たした。

 体から放つ熱は糸を溶かし尽くし、「古き唄」を口ずさみ、キャロルに再び立ち向かった。

 

 フェニックスから放つ熱はまさに私の生命を「焼却」してエネルギーに変えていた、それはキャロルが「想い出」を焼却してエネルギーに変えていた様に。

 だからキャロルの力に対抗する事が出来た。

 

 しかし、数百年も生きた錬金術師の記憶と、たかだか十数年生きただけの人間の命では重さが釣り合わない。

 戦い続ければ先に私の命が尽きる。

 

 だから一撃に全てを賭し「世界の明日の礎とならん」としたその時、チフォージュ・シャトーが光を放った。

 それは世界を再構築する光、キャロルは錯乱したのか私には目もくれずシャトーを攻撃して、破壊してしまった。

 

 おかげで世界は救われたが、マリアさん達が犠牲になってしまったと思った。

 残された私達は叫び、キャロルに最後の投降を呼びかけた。

 

 けれど、彼女の返答は「世界への復讐」だけ。

 私が稼いだ時間とマリアさん達の戦いを見て奮起した立花さん達がイグナイトの2段解除で再び立ち上がった。

 

 4対1、私は「歌った」分によるフォニックゲインだけならいつも通りのイカロスと同等、命を「燃やせば」その分だけキャロルと近い、まるで絶唱と同じだけのエネルギーを出せる。

 

 でも立花さん達はそれを許さなかった、皆で生きて帰る事を前提とした戦いを望んだ。

 

 だから私もそれに懸けた。

 

 キャロルの一撃を立花さんが束ね、それをエネルギーとしてトライバースト、絶唱三重奏並の威力を撃ち返す。

 

 

 しかし、その作戦は破れ、今度こそ、私は覚悟を決めた。

 だが、私の命はそこで終わらなかった。

 

 

 マリアさん達の絶唱が響いた、ドクターウェルの犠牲によって救われたマリアさん達がシャトーを脱出して、戻ってきた。

 立花さん達も再び立ち上がって絶唱を唄う。

 私も、そこに歌声を合わせて共に立った。

 

 そしてキャロルのこれまでの中で最大の攻撃を受け止め、それを立花さんが束ね、マリアさんが再分配し、奇跡を必然へと変えた。

 これまで奇跡の様な状況でしか発現しなかったエクスドライブモードへの移行を人為的に起こした。

 

 ただ、私の「イカロス」に関しては既に中身が全焼、「フェニックス」に関しては力が溢れ、「命を燃やす必要が無くなった」だけで、エクスドライブに移行する事はなかった。

 

 やはり「フェニックス」は「シンフォギアでありながらシンフォギアではない」私の命の一部なのだと確信した。

 

 その後の戦いはただ激戦だった、無数に現れたアルカノイズを焼き尽くす、私の「フェニックス」はバリアコーティングが強化されてないが為に被弾を回避する必要はあったが、フォニックゲインを代用して炎を燃やせるおかげで、ノイズ焼却し放題であった。

 

 しかし、ノイズを全滅させても私達の勝ちではない。

 

 全ての想い出を焼却し「切り札」として「機械の獣」を完成させたキャロル、その一撃はまるでプロミネンスの様に全てを焼き尽くして、地表を抉り取った。

 

 エクスドライブ状態となった皆の攻撃も散発するだけでは通らない、だから一つに束ね、立花さんがキャロルの攻撃を受け止めている間に撃ち込む事とした。

 

 しかしそれでもキャロルを仕留めるには到らず、ですが、響さんの拳に、皆のギアの力を託し、ようやく穿ち貫く事が出来た。

 

 

 

 決着が着いてなお、立花さんはキャロルを確保・捕縛……いえ救おうとしました。

 それが、キャロルと同じ記憶を持つエルフナインちゃんが望んだキャロルへの答えだったから。

 

 機械の獣の爆発は小型の太陽の如く、つまりは核爆発に近い破壊力を以てして私達に襲い掛かりました。

 

 私も爆発に巻き込まれましたが、生憎「炎」なものでダメージはまるでなく、自分で自分の命を燃やした分と多少の蓄積ダメージの方が大きいぐらいでした。

 当然皆も無事、遅れて遠くまで飛ばされた立花さんも回収されましたが、キャロルの行方は不明。

 

 しかしあれだけの力を出すために記憶を焼き尽くした、という事は生きていたとしても……おそらくはもう何も覚えてない、かもしれません。

 

 戦いの後に、「そこまで」命を燃やしてない筈の私ですら衰弱して二日間、生命維持装置に繋がれて、現在ですら退院どころか、部屋を出る事が許されてないのですから。

 

 これからおそらく、長くて1ヶ月程度、私もこの病室から出る事を許されなさそうです。

 隣の病室のエルフナインちゃんの見舞いにすらいけそうにないレベルです。

 

 生命の焼却は、当然ながら私に甚大な負荷をかけた。

 病院に運ばれた当初は闘病によって弱った末期がん患者と同レベルの生命維持しか出来ず、まさに風前の灯の様な状態で、二日経った今でも回復こそしたけれど、本調子には遥かに遠い。

 

 まったく、この調子では夏休みも、何もする事無く終わりそうです。

 

 …………。

 

 

 ただ、世界が残って、本当によかった。

 

 

 生き残れてよかった。

 

 私はこの奇跡、いえ……この運命に感謝したい。

 

 皆といられるこの時間をありがとうございます。

 

 



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Alive

 

 前回配信から10日、まだ私は退院できていない。

 エルフナインちゃんですらもう退院したのに……。

 

 いや、エルフナインちゃんの場合は状態が治ったというかキャロルの体に入れ替わってリセットしたというか。

 皆が真夜中に駆け込んできた時はびっくりしたし、キャロルの姿でエルフナインちゃんが入ってきた時はびっくりした。

 

 そんなこんなで、皆が代わる代わる見舞いに来てはくれるけれど、未だ私は部屋の外に出る事すら許されず。

 

 仕方ないので一人の時はネットを見て時間を潰す、この間は「広報の仕事」だったから病室配信が許されたけれど、ここは病院なのだから基本配信もできない。

 

 そういえば、どうにもこの間の寝起きの広報配信が話題になってしまった。

 

 この前の萌え声クソザコ装者呼ばわりされていた配信の時はそこまでダメージがなかったが、事件後の配信であまりにも痛々しい姿に見えたらしく、政府宛てに私への見舞金とか見舞いの品を贈れないかみたいな問い合わせが山盛り来たらしい。

 とりあえず、その件については私の公式コメントとしては「私はいいから復興支援とかに回して欲しい」とだけ発表しておいた。

 

 実際、体の「損傷」と呼べる程度のダメージは治っている。

 後は現代医学だけではどうにもならない「生命力」という部分を養う必要がある、それだけ。

 

 だけど、これを測るのがバイタル値だけでは完全ではない。

 科学が発展しても人類は未だ完全な「生命学」を修めるに至ってないのである。

 故に経過観察も含めてこうやって安静にする事を強いられている。

 

 

 ……とにかく今回の件で分かったのは、私はもう前に出ない方が良い事。

 司令にも、政府からも「戦闘に出るのはもうやめろ」と言われた。

 

 イカロスは時限式、フェニックスは「通常運用」する限りは他のギア同様に「歌」で動かせる、けれどそもそもの基本となる出力自体が低く、アームドギアもない、エクスドライブにもなれない、イグナイトもない、その上、私の心臓に埋まっているが故に改良もできない。

 唯一の切り札となるのが「命の焼却」による特攻のみ。

 

 本当に、肝心な時に役に立たない……。

 

 まったくもって巡り合わせが悪いというか、ノイズと戦えるだけマシというけれど、もう少しなんとかならないのか。

 それともなんともならない奴らだからこそ、私なんかでも適合できたのか。

 

 まったく、一番新しいギアの癖に本当に根性の無い奴らです。

 誰に似たのでしょうか。

 

 ………。

 

 本当はわかっています。

 別にただ戦闘に参加するだけが戦いじゃない、私の戦いはデータ取りや広報としての仕事がメイン。

 命を危険に晒すような事をするべきじゃない。

 

 私が死ねば悲しむ人達が出来てしまった、私も命を賭してでも守りたい人達が出来てしまった。

 

 本当に、本当にこんな事になるなんて、あの頃は思っても無かった。

 

 

 戦いたい、戦える力が欲しい、もっと強い力が欲しい、生きて、皆と共に戦える力が欲しい、そんな気持ちが止まらない。

 

 まったく、変わってしまいました。

 

 いらない、持たない、夢も見ないそんな加賀美詩織はもういない。

 

 欲しい、持ちたい、夢だって見つけたい、今の私は随分と欲張りになってしまいました。

 

 でもそれでいいのでしょうか、過ぎた欲は身を滅ぼします。

 何処か、落とし所を見つけなければ待っているのは破滅、それは嫌です。

 

 生きていたい、まだ皆の側に居たい。

 

 

 何処かに、強くなるための答えなんてもの、落ちてませんかね。

 心も体も、強くなりたい。

 

 

 その為にも、今はこの無駄な時間をどうにかしないといけません。

 

 錬金術の勉強は既に諦めました、エルフナインちゃんに頼んで教えてもらった基礎入門編ですらハイレベルな数学と科学を必要とするし、そもそも機材なんかもここには用意できない。

 

 となると、トレーニング……といいたい所ですが、全身に機材付けられて身動きも取れないです。

 

 必然的にパソコンを使ったモノになるのですが、役に立ちそうなもので思い当たるものがまるでありません。

 

 

 配信すら許されない生活がこんなに退屈で苦痛なモノだとは思いませんでした、少なくとも後5日は退院できなさそうなので、本当にどうしましょうか。

 

 

 

 

 

 誰かが泣いている、誰かが叫んでいる。

 私の体には力が入らない、それは当然だ、もう首は断たれ、手足も引き裂かれて、心臓は抉り出された。

 

 もう歌う事もできなければ、皆を守る事も、何もできない。

 

 私は死んだ。

 

 いや、違います。

 これは夢です。

 

 蝋によって自我が塗りつぶされて、人形の様に振舞う私の姿が見えた。

 ただただ、武器として、兵器として守る為に戦う、やがて、必要とされなくなり封印された。

 

 フィーネの元へ向かわず、皆を待った結果、一度も死ぬ事なく、人間として普通に生きて過ごしてきた結果、あっけなく死んだ私だ。

 

 これは世界に姿を晒され、心の闇の行き場所を失って、心が壊れて廃人となった私だ。

 

 これはもしもの私達だ。

 

 選択されなかった無数の運命の上に、今の私が居る。

 

 皆の存在によって生かされてきた私が、ここにいる。

 

 

 目が覚めた、なんだかとても、皆さんに会いたい気分になった。

 

「……詩織」

「……翼さん」

「見舞いに来たけれど、寝ていたから起こしては悪いと静かにしていたけれど……」

「いえ、全然大丈夫です……むしろ安心できました、心細かったので」

 

 選択を間違えば、夢の中で積み重なる屍になるのは今まで生きてきた私。

 そう思うと、とても心細かった。

 

 だから翼さんが、ここに居てくれたのは本当にうれしかった。

 

「……まだあのギアの影響が抜け切っていないのだな」

「ええ、命を燃やすという行為がまさかここまで体を衰弱させる事だとは思ってませんでした、はっきり言うと絶唱よりも体には悪いですね」

「でも本当に完全に無事とは言えないが……よかった、倒れたきり目を覚まさない詩織を抱き上げた時、私は奏の最期を思い出して、取り乱しそうになった」

「…………」

「私も、もう誰かを失うのは嫌だ。立花も雪音も、マリアも月読も暁も、そして詩織も失いたくない」

 

 私は、翼さんにとっての失いたくない存在になっていた。

 この燃やし尽くそうとした命は私だけのものではない。

 

「私は……皆が笑っていられる明日の為になら、この命を礎とする事なんて容易いものだと思ってました。けれど、私だって死にたくないです。翼さん達とまだ一緒に居たい、翼さん達に笑顔で居て欲しい、だからこの命を使う事は、しないと決めた筈だったんです」

「………」

「でもそれが叶わない程、私は弱くて、命を燃やす事でしか、皆を守れない……だから強くなりたい、なんて事だって思いました」

 

 運命も残酷な現実もねじ伏せるだけの力が欲しい。

 けれどそれよりも大事な事を忘れてました。

 

「……それでも翼さんを、皆を悲しませるのは違う。それを思い出せました……だから今はもういいんです」

 

 静かに翼さんの手を握り、私の胸にあてる。

 

「ちゃんと、私は生きてます」

 

 それは自分に言い聞かせる言葉、翼さんにも確認して貰いたかった言葉。

 

「ああ、生きてる。詩織は生きてる」

 

「よかった」

 

 安堵からか、目蓋がまた重くなってきた。

 今度は悪い夢を見ずにすみそうです。



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【広報装者】加賀美詩織スレのログ

初めての掲示板形式の話です


 

【広報装者】加賀美詩織スレ

 

//画像は削除されました//

■南無 Name無明 削除申請

本文無し

 

■南無 Name無明 削除申請

痛々しいから本当にやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

死んだばあちゃん思い出してつらくなった

 

■南無 Name無明 削除申請

お隣のおりんスレが滅茶苦茶辛い

 

■南無 Name無明 削除申請

こんな子が命削ってるの本当に辛い

 

■南無 Name無明 削除申請

>関係者へのインタビューによると今回の加賀美詩織の戦闘での負傷はそこまでではないが

>限界を超えた能力を出したが故の負荷によって大きく衰弱していると発表された。

また無茶をしたのか……

 

■南無 Name無明 削除申請

詩織は自分の限界をコントロールできない

 

■南無 Name無明 削除申請

生命維持装置必要なレベルの負荷って何……

 

■南無 Name無明 削除申請

これは広報外された上にタスクフォースから蹴られたのも納得だわ……自分を犠牲にする子とか絶対周りの大人からしたら胃痛の種にしかならない

 

■南無 Name無明 削除申請

そもそも世界にその姿を晒した時から覚悟が決まりすぎてる

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんスレからいつもの引用だけど

>両親からネグレクトを受けて育つ

>風鳴翼のファンで、彼女の歌が一番この世界で綺麗だといつも言っている

>そんな彼女に興味を持って貰えて、友達となる

>装者としてイカロス適合、ノイズと戦い始める

>フロンティア事変でその姿を世界に晒される

>特災広報として起用

激動の人生すぎる……本当に生き急いでる

 

■南無 Name無明 削除申請

そもそも世界に姿晒したの自体、大好きな翼さんの為だし

 

■南無 Name無明 削除申請

泣く

 

■南無 Name無明 削除申請

もう装者としてはいいから普通の女の子として生きて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

でも詩織ちゃんは最後まで広報やめない気がするし、装者もやめないと思うよ……

だってやめたら翼さんを守れなくなるとか絶対言うよあの子

 

■南無 Name無明 削除申請

平和の為の礎になる為に生まれたような…

 

■南無 Name無明 削除申請

>平和の為の礎になる為に生まれたような…

冗談でもそういう事いうのやめろ

本気であの子なら最後まで戦いそうだから

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんスレから引用

>おりんの性格は自己評価が低く、ヤケになったり開き直るとかなり危ない、自分を犠牲にしやすい

>交友関係はうたずきんと翼さん、うたずきんにはイキるけど、翼さんにからかわれるとクソザコ化する

>放送中にうたずきんのアンチコメ書いた奴(配信者)を晒し挙げて登録アカウント凍結させた

身内には甘いけど、敵と自分には容赦ないタイプなんだよねおりん

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんアンチスレ、いつもなら配信後滅茶苦茶伸びるのに最近まったく書き込み自体がない……

 

■南無 Name無明 削除申請

そらそうよ、傷だらけで命張った奴に罵声食らわそうものなら袋叩きに合うからな

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんは気に入らないけど、加賀美詩織は好きだよ

命懸けて人を守ろうとしている子を嫌いにはなれない

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんも加賀美詩織も嫌いだよ

自分の命を大切にしないし、翼さんを悲しませるから、嫌いだよ

 

■南無 Name無明 削除申請

俺もおりんが嫌い、でも死んだらうたずきんちゃんが泣いちゃうだろうから

生きてて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

俺はおりんは好きだけど加賀美詩織は嫌い、でも詩織が死んだら永遠におりんの配信見れなくなるから嫌

 

■南無 Name無明 削除申請

とりあえず本当に装者である事をやめて広報だけに集中して欲しい……

 

 

 

 

 

 

【加賀美詩織】おりんアンチ総合スレ【装者】

 

■南無 Name無明 削除申請

本当に自己犠牲を美化するのやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

実動班に任せてひっこんでろ

 

■南無 Name無明 削除申請

広報は広報だけしてて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

なんでただの子供が命張ってんだよ、子供らしく学校に行ってろよ

 

■南無 Name無明 削除申請

確かに加賀美詩織が広報となったおかげで装者やノイズ、それの被害者について世間にきちんと知らしめる事は出来たんだろうけど

彼女を前に立たせる大人達の神経がわからない、子供なんだぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

特異災害被害者への差別は本当になくなったけど、持ち上げられすぎ、おまけにしょっちゅう怪我するし、見ててハラハラする

 

■南無 Name無明 削除申請

加賀美詩織には感謝してる、ライブでノイズが目の前に出てきた時は本当にダメかと思った、けど自分を低く見すぎてるの本当に嫌い

きちんと体調を整えて、見てるこちらが心配しない姿で出てきて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

最初は配信者としてのアンチスレだったのにどうしてこんなことになったのだ……

 

■南無 Name無明 削除申請

本当に命を燃やしてる正義の味方のアンチなんて出来るわけないんだよなぁ……

 

■南無 Name無明 削除申請

俺は配信者のおりんのアンチで居続けるよ……でも加賀美詩織には全うに幸せに生きて欲しい

 

■南無 Name無明 削除済み

このレスは削除されました

 

■南無 Name無明 削除申請

↑アホ

 

■南無 Name無明 削除申請

アンチスレでもそんな事書いたら削除されるに決まってるだろマヌケ

 

■南無 Name無明 削除申請

不謹慎

 

■南無 Name無明 削除申請

IP出るまで削除申請を叩き込め

 

■南無 Name無明 削除申請

お前も俺達もノイズには無力なんだよ

 

■南無 Name無明 削除申請

ここはあくまでおりんに対するアンチを含む意見のスレだ

特異災害被害者と遺族に謝れ

 

■南無 Name無明 削除申請

もうヤツは書き込みできないよ……アク禁判定喰らってる……

 

■南無 Name無明 削除申請

あくまでこのスレは同調圧力に潰されない意見を出すスレみたいなものだかんな

 

■南無 Name無明 削除申請

それを言うとおりんのファンのスレは定型しかなくて気持ち悪いよ……

 

 

 

 

 

 

 

【配信者】おりんスレ【イキリヒロイン】

 

■南無 Name無明 削除申請

重複してない?

 

■南無 Name無明 削除申請

重複したから消した、このスレで進行しよう

 

■南無 Name無明 削除申請

まったくおりんはそそっかしいなぁ……遠くにいかないで……

 

■南無 Name無明 削除申請

いかないで

 

■南無 Name無明 削除申請

大丈夫だよ、いつものおりんだから……

 

■南無 Name無明 削除申請

俺はおりんが10回死んでも死なない奴だって信じてるから…

 

■南無 Name無明 削除申請

公式ページから問い合わせした回答が来た

>現在、加賀美詩織への見舞金などの受付は行っておりません。

クソァ!!!!!!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

もう10日、おりんが居なくて息苦しいよ

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんちゃんも来なくて息苦しい

 

■南無 Name無明 削除申請

もしかしてうたずきんちゃんは装者実動班……?

 

■南無 Name無明 削除申請

余計な詮索は消されるゾ

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんちゃんがゴリゴリウーマンなわけないだろ殺すぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきちゃんはふにふにガールだって信じてるからな!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんちゃんのお口ぺろぺろしたい

 

■南無 Name無明 削除申請

キチガイ3連オオカミさんきたな……

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんは、うたずきんスレで

 

■南無 Name無明 削除申請

いいだろ実質姉妹だろ

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんが長女、おりんが次女、うたずきんが三女

 

■南無 Name無明 削除申請

大好きなおねえちゃんと妹の夢を守る為に世界を守る次女

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんの心配は加賀美詩織スレへ!

 

■南無 Name無明 削除申請

真面目な意見は加賀美スレ、厳しい意見はアンチスレ、ここは平常運転でいく

 

■南無 Name無明 削除申請

そうときまれば追悼ゲロMADだな……

 

■南無 Name無明 削除申請

ゲロ吐き音声で興奮してる奴もいることを忘れないで欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

変態兄貴は頼むから平和の為の礎になって

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんだけ好き兄貴のヒッターが死んでる……

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんだけ好き兄貴有名人になったな……

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんファンが配信者になる流れなんで定期的に起こるの?

 

■南無 Name無明 削除申請

そりゃおりんがクソザコすぎて俺達にだって出来る事がある!って気にさせてくれるからだよ…

 

■南無 Name無明 削除申請

でも俺達じゃノイズと戦えない……

 

■南無 Name無明 削除申請

美少女になってノイズと戦える体が欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

錬金術なら賢者の石で完全な体も作れるらしいぞ!つまりは完全な美少女ボディだって得られる

 

■南無 Name無明 削除申請

マジかよ錬金術始めるわ、元手どれくらい必要だろうか

 

■南無 Name無明 削除申請

とりあえず土地が必要だな

 

■南無 Name無明 削除申請

それは錬金術違いなんだよなぁ……

 

 

 



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【退院祝い】復活のおりんラジオ【完全復活】

 

■南無 Name無明 削除申請

スレ立て、もうすぐはじまるよ!

 

■南無 Name無明 削除申請

半月ぶりのおりんだ!

 

■南無 Name無明 削除申請

19時から!

 

■南無 Name無明 削除申請

ようやくおりん退院したか……

 

■南無 Name無明 削除申請

広報じゃなくて個人の方?

 

■南無 Name無明 削除申請

そうやぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

そうやぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

そうやぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

三連そうやぞ並列化でダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

はじまった!顔色戻ってる!

 

■南無 Name無明 削除申請

顔色がいい!高評価!

 

■南無 Name無明 削除申請

相変わらずおりんはかわいいなぁ!

 

■南無 Name無明 削除申請

元気そうでよかった

 

■南無 Name無明 削除申請

顔がいい!

 

■南無 Name無明 削除申請

今日は何分枠?

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん復活!復活!大復活!

 

■南無 Name無明 削除申請

>今日は何分枠?

おりんが飽きるまで

 

■南無 Name無明 削除申請

>今日は何分枠

飽きるまで

 

■南無 Name無明 削除申請

つまり徹夜配信になる可能性が?

 

 

 

 

 

■南無 Name無明 削除申請

>この放送は政府によって監視されてます

ダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

保護観察喰らっててだめだった

 

■南無 Name無明 削除申請

長くやりすぎると怒られるのか

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん監視お疲れ様です

 

■南無 Name無明 削除申請

【画像へのリンク】

 

■南無 Name無明 削除申請

雑談とゲーム少々

 

■南無 Name無明 削除申請

雑談とゲームか

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんの雑談!高評価!

 

 

 

 

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん単位落としたの!?

 

■南無 Name無明 削除申請

単位落としてて草

 

■南無 Name無明 削除申請

そらそうなるわ

 

■南無 Name無明 削除申請

命張ったのに単位落とすのは本当に草

 

■南無 Name無明 削除申請

単位を犠牲に世界の明日を勝ち取った女

 

■南無 Name無明 削除申請

光に巻き込まれた時本当に死んだと思った、けど俺が生きてるのもおりんが単位を落としてくれたおかげなんやなって……

 

■南無 Name無明 削除申請

明日の地球を投げ出せなかったけど、単位は投げ出した女

 

■南無 Name無明 削除申請

補習の代わりに山盛りの課題出されてて草

 

■南無 Name無明 削除申請

課題量が多すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

まって何でそんなに課題あるの!?

 

■南無 Name無明 削除申請

入院中にやれや!!

 

■南無 Name無明 削除申請

なんで入院中にやらなかったの……

 

■南無 Name無明 削除申請

どうして入院中にやらなかったのですか?

どうして……

 

■南無 Name無明 削除申請

送り先ミスか

 

■南無 Name無明 削除申請

家に帰ったらポストに入っている山盛りの課題

 

■南無 Name無明 削除申請

恐怖体験すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

入院から解放されたおりんを待っていたのは、また地獄だった

 

■南無 Name無明 削除申請

先生も入院してるの知ってるんだから病院におくれや!!

 

■南無 Name無明 削除申請

先生のミスかよ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん不憫伝説

 

■南無 Name無明 削除申請

歴史はなんだかんだ単位取ってるのか

 

■南無 Name無明 削除申請

あと音楽も単位取れてるぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

音楽と歴史とパソコンについてはきちんとやれてるんだな

 

■南無 Name無明 削除申請

でも数学と科学と英語が壊滅的すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

数学1 科学1 英語1 国語3 美術6 社会(歴)6 PC10 音楽8 まぁまぁだな!

 

 

 

 

■南無 Name無明 削除申請

オリンポス!

 

■南無 Name無明 削除申請

オリンポス!

 

■南無 Name無明 削除申請

オリンポス!!

 

■南無 Name無明 削除申請

新しい聖地かな?

 

■南無 Name無明 削除申請

自分の名前だからそこだけ覚えてるのは草

 

■南無 Name無明 削除申請

地理もダメじゃねぇか1!!

 

■南無 Name無明 削除申請

地理なんて塵ですよ

 

■南無 Name無明 削除申請

地理なんて塵

 

■南無 Name無明 削除申請

地理なんて塵ですよ

 

■南無 Name無明 削除申請

激ウマギャグやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

聖遺物関係じゃなくて名前で覚えてるのは本当にダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

イカロスの出所のギリシャ神話ゆかりの地やぞ!

 

■南無 Name無明 削除申請

伝説は調べても単語は忘れる女

 

■南無 Name無明 削除申請

これはダメみたいですね……

 

 

■南無 Name無明 削除申請

インターホンなった!?

 

■南無 Name無明 削除申請

来客!?

 

■南無 Name無明 削除申請

客フラやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

着信もか

 

■南無 Name無明 削除申請

まさか政府関係者?

 

■南無 Name無明 削除申請

え!?

 

■南無 Name無明 削除申請

!?

 

■南無 Name無明 削除申請

!?

 

■南無 Name無明 削除申請

この声は!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

まさかの声!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

何故そこでうたずきん!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんもいるじゃん1!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんだ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたつばキテル!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

オフラインコラボ!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

突発オフ!

 

■南無 Name無明 削除申請

リア友だもんね

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん慌てるな

 

■南無 Name無明 削除申請

まておりんカメラを消せ!

 

■南無 Name無明 削除申請

カメラを消すな!

 

■南無 Name無明 削除申請

カメラを消せ!

 

■南無 Name無明 削除申請

まさかうたずきんの顔がみれるのか!?

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんが顔バレしちまうー!!!!

 

 

■南無 Name無明 削除申請

ナイスおりん!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

用意してたのか!周到だな!!

 

■南無 Name無明 削除申請

これおりんの服だよね

 

■南無 Name無明 削除申請

白ウサミミパーカー

 

■南無 Name無明 削除申請

この!!ウサギ仮面!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

仮面を外してくれ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

かわいい仮面

 

■南無 Name無明 削除申請

顔バレ対策に使ってた奴だったね

 

■南無 Name無明 削除申請

確か昔プラモ作成実況で間違って顔映したらマズいからって用意してたマスクだね

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんのあのクソダサ白ウサギパーカーがこんな役に立つなんて

 

■南無 Name無明 削除申請

エッッッッ!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

エッッッ!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

ヌッッッ!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

胸がでか過ぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

大いなる胸には大いなる責任が伴う

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんちゃんのおっぱいデカすぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

胸がデカすぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

ガチ恋しちまうー!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんの姿初公開がまさかおりんラジオだとは

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんが可愛すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

あ、翼さんだ

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんは顔バレしても問題ないからね……

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんにも友達が出来て俺もうれしいよ…

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんの胸がなさすぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

おい!うたずきんと翼さんの胸を比較するな!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

大 中 無

 

■南無 Name無明 削除申請

大 中 無

 

■南無 Name無明 削除申請

大 中 無

 

■南無 Name無明 削除申請

比較的無だろ!ぶちころすぞ貴様ら

 

■南無 Name無明 削除申請

コメントも大 中 無で埋まっててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんキレた

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんキレててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

何のあてこすり!!

 

■南無 Name無明 削除申請

何のあてこすり!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

何のあてこすり!!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきん恥ずかしがってるのかわいい

 

■南無 Name無明 削除申請

そういうのはやめてくれよな!

 

■南無 Name無明 削除申請

あざとい

 

■南無 Name無明 削除申請

あざとい

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんもかわいい反応をしろ

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん、やさしい目をするな!

 

■南無 Name無明 削除申請

笑いを堪えるな!

 

■南無 Name無明 削除申請

キテル……

 

■南無 Name無明 削除申請

でも好きですよ、翼さんの胸

 

■南無 Name無明 削除申請

そうだね

 

■南無 Name無明 削除申請

そうだね

 

■南無 Name無明 削除申請

そうだね×000

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんは貧乳が好きなのではない、翼さんの胸が好きなのだ

 

■南無 Name無明 削除申請

まあおりん普段巨乳趣味だし……

 

■南無 Name無明 削除申請

でもおりんも胸ある方だよね?

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんPAD

 

■南無 Name無明 削除申請

エッ!?!?!?

 

■南無 Name無明 削除申請

エッッッ1!!?!?!?

 

■南無 Name無明 削除申請

PADを取り出すな!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんPADつめてたの!?

 

■南無 Name無明 削除申請

パッドを出すな!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

2枚盛ってたの!?

 

■南無 Name無明 削除申請

ギアにもパッドついてたのかよ!!?!

 

■南無 Name無明 削除申請

 

■南無 Name無明 削除申請

 

 

■南無 Name無明 削除申請

あっ

 

■南無 Name無明 削除申請

 

■南無 Name無明 削除申請

 

■南無 Name無明 削除申請

 

■南無 Name無明 削除申請

BLゲーだあああああ!!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

予想外の動きをするな!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんとうたずきんに汚いモノをみせるな!!!!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんてめええ!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

今日もBL配信やるつもりだったのかよお!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

不意打ちやめろお!!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

いつもの

 

■南無 Name無明 削除申請

信じられん事をするな!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

テスラアア!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

女装レズはやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

女装レズ学園かよ!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

こ…これは衆……道!

 

■南無 Name無明 削除申請

これは衆…道!

 

■南無 Name無明 削除申請

衆道!

 

■南無 Name無明 削除申請

衆道!

 

■南無 Name無明 削除申請

BLを衆道って呼ぶ人はじめて見た

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんがBL配信に困惑してて草

 

■南無 Name無明 削除申請

衆道配信

 

■南無 Name無明 削除申請

タイトルが衆道配信に変わっててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

【衆道配信】おりんラジオとゲーム【うたずきんちゃんと翼さんもいるよ!】

 

■南無 Name無明 削除申請

開き直るな!

 

■南無 Name無明 削除申請

開きなおっててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんをBL沼に引きずり込むな!!

 

■南無 Name無明 削除申請

さっきからうたずきん沈黙しててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんがうろたえてる

 

■南無 Name無明 削除申請

うろたえるな!!

 

■南無 Name無明 削除申請

そういうのは!一人の時にやれ!

 

■南無 Name無明 削除申請

そういうのは……一人でやれ!

 

■南無 Name無明 削除申請

正論すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

そりゃそうだ!

 

■南無 Name無明 削除申請

恥じらいうたずきんがかわいい

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんも恥じらいを持て

 

■南無 Name無明 削除申請

続行するのかよ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

だからやめろつってんだろ!!

 

やめろ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

ウワッ!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

ウワッ!

 

■南無 Name無明 削除申請

ウワーッ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

よりによってベッドシーン在る奴かよ!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

やめろこんなものーっ!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

両サイドにアイドルを置いて衆道配信する女

 

■南無 Name無明 削除申請

ウワアアーッ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

アンチスレが爆伸びしてて草

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんとうたずきんのファンに怒られろ1!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんも顔真っ赤にして画面から目を逸らしてる!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん!!おまえーー!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

こいつを病院に叩き込め!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

もう一ヶ月入院してろ1!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

翼さんナイスゥ!!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

なんでもいい!ゲーム画面を消すチャンスだ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんがクソザコ化したぞ!今だ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

ナイスゥ!

 

■南無 Name無明 削除申請

ホモの悪夢が百合に浄化される

 

■南無 Name無明 削除申請

浄化ァ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

浄化!

 

■南無 Name無明 削除申請

恥らうおりんかわいい!

 

■南無 Name無明 削除申請

クソザコあわあわ装者

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんもクソザコ化してるじゃねぇか!!

 

■南無 Name無明 削除申請

そういう事を私の前でやるなァ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

そういう事を私の前でやるな!!

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんがウブすぎてかわいい

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんスレまで浮上してるじゃねぇか!!

 

■南無 Name無明 削除申請

急上昇三位がこのスレ・うたずきんスレ・おりんアンチスレでダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

失望したぞ!うらやましけしからん!

 

■南無 Name無明 削除申請

失望しましたおりんのファンやめて翼さんのファンに専念します

 

■南無 Name無明 削除申請

かつてないカオスにスレが埋まる!!!

 

 

 

このスレは書き込み上限に達しました。これ以上は書き込めません。



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【衆道】おりん感想スレ【つばうたコラボ】

■南無 Name無明 削除申請

おりん感想戦スレ、ひどかったね衆道配信

 

■南無 Name無明 削除申請

アンチスレがアホみたいに伸びてて最終的に上昇1位に来ててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

終始おりんのテンションが高すぎだった

 

■南無 Name無明 削除申請

そら翼さんとうたずきんも居たからな!

 

■南無 Name無明 削除申請

途中からコラボ配信スレになっててダメだった

 

■南無 Name無明 削除申請

今帰ってきたけど、突発コラボってマジ!?

 

■南無 Name無明 削除申請

ログをみろ

 

■南無 Name無明 削除申請

はやく配信ログをみろ

 

■南無 Name無明 削除申請

単位落としからのアホアホおりん、つばうた突発オフコラボからの衆道、3人イチャイチャコラボは最高だった

 

■南無 Name無明 削除申請

この後、お泊りなんだよね……

 

■南無 Name無明 削除申請

キテル……

 

■南無 Name無明 削除申請

ついに来た3人コラボが突発オフとは思わなかった

 

■南無 Name無明 削除申請

もう一人仲のいい子がいるけど、その子は配信してないから参加できなかったらしい

いつか配信者になってもらいたい

 

■南無 Name無明 削除申請

でも配信者は難しいからね……

 

■南無 Name無明 削除申請

今度3人やる時にゲストで呼んで欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

顔バレはよくないから仮面をつけてな

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきん顔バレならずは惜しかった

 

■南無 Name無明 削除申請

うたずきんのおっぱいは凄かった

 

■南無 Name無明 削除申請

大 中 無

 

■南無 Name無明 削除申請

だから翼さんを無扱いするのやめろや!!

 

■南無 Name無明 削除申請

友達子ちゃんのおっぱいも楽しみすぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

画面のうるささが本当に心地よかった

 

■南無 Name無明 削除申請

もう一人加えるとカメラに映りきる?大丈夫?

 

■南無 Name無明 削除申請

とりあえず次回の配信は4人希望のお便りを出そう

 

■南無 Name無明 削除申請

なぁ皆の衆、何かわすれとらんか

 

■南無 Name無明 削除申請

言うな

 

■南無 Name無明 削除申請

それ以上言うなー!!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりん明日もBL配信

 

■南無 Name無明 削除申請

二回攻撃やめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

衆道リベンジやめろ

 

■南無 Name無明 削除申請

まぁ今日は翼さんとうたずきんちゃん来たから出来なかったし……

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんは趣味が広すぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

命は大事にしてほしいが友達二人の前で衆道始めるのは控えめに言ってもう一週間病院に叩き込まれてろと思った

 

■南無 Name無明 削除申請

今日一番被害を受けたのは翼さんだろう

 

■南無 Name無明 削除申請

風評被害が過ぎる……

 

■南無 Name無明 削除申請

これはおりんのお友達集合配信がたのしみですね……

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんにこんなに優しい友達が居て俺も嬉しいよ

 

■南無 Name無明 削除申請

世界一の友達ですからね!

 

■南無 Name無明 削除申請

世界一の友達ですからね!

 

■南無 Name無明 削除申請

最後のイキリおりんは本当に泣いた

 

■南無 Name無明 削除申請

あんなん告白やろ

 

■南無 Name無明 削除申請

孤独だった少女が友を得て、友を守る為に戦う、本当に文字にするとアニメみたいだけど

現実はそこまで甘くないので本当におりんには命を大事にしてほしい

 

■南無 Name無明 削除申請

ただの女の子なんだよね、おりんも

 

■南無 Name無明 削除申請

ちょっと変わっただけの女の子だから本当に皆おりんを大事にしてあげて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんのおかげで大学の研究頑張ろうと思った

 

■南無 Name無明 削除申請

来学期から大学の聖遺物学取るよ……

 

■南無 Name無明 削除申請

学生どもは単位を落とすなよ

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんみたいになるなよ

 

■南無 Name無明 削除申請

なりたくてもなれねえよあんなバケモノ配信者

 

■南無 Name無明 削除申請

>なりたくてもなれねえよあんなバケモノ配信者

削除申請ぶちこまれたいのかな?

 

■南無 Name無明 削除申請

さわるなさわるな

 

■南無 Name無明 削除申請

本日最大の危機は衆道配信でもうたずきん顔バレでもない、おりんがテンション上がりすぎて泣き出して吐きそうになってたことだ

 

■南無 Name無明 削除申請

えずきだした時はあわや大惨事かと思った

 

■南無 Name無明 削除申請

事故らなくてよかったよ

 

■南無 Name無明 削除申請

アイドルの前で吐く女の名を頂くところだった

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんのゲロ音MADは面白いけど画像入りはNGだよ!!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんのえずきを切り出して興奮してる

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんはかわいいであってエロさは求めてない……

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんエロいだろ!シンフォギア衣装とか!

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんフィギュアそういえばそろそろだね

 

■南無 Name無明 削除申請

フィギュアおりん、思ったより安くてビビった

 

■南無 Name無明 削除申請

そらおりん側の取り分考慮しなくていいからな……

 

■南無 Name無明 削除申請

版権フリーで売り上げの1%だっけ寄付

 

■南無 Name無明 削除申請

可動の奴以外も発売予定ラインナップ各社で出てるからな

 

■南無 Name無明 削除申請

デフォルメおりんには嘔吐顔をつけて欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

ドヤ顔もだ!

 

■南無 Name無明 削除申請

シンフォギア衣装ってみんなあんなエロなん?

 

■南無 Name無明 削除申請

それはわからない、けど基本となるインナーの色つき部分はスケスケらしいな

 

■南無 Name無明 削除申請

配信衣装のは透過してないけど色つきスケスケはやば過ぎる

 

■南無 Name無明 削除申請

塗装で再現しよう!スケスケインナー!

 

■南無 Name無明 削除申請

エロやぞ!

 

■南無 Name無明 削除申請

エロで加速するな!

 

■南無 Name無明 削除申請

でも中身は

 

■南無 Name無明 削除申請

天才美少女配信者

 

■南無 Name無明 削除申請

(平然とBLゲーはやるし、ゲロも吐く)

 

■南無 Name無明 削除申請

一番将来楽しみな人間

 

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今一番世界で名前の売れてる女子高生らしいな

 

■南無 Name無明 削除申請

ここは世界一のおりんファンサイト

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんのファンwikiが多すぎて情報が統括できてない!

 

■南無 Name無明 削除申請

ところでおりんの学校どこだっけ

 

■南無 Name無明 削除申請

リディアン、と思われる

理由は翼さんが在籍してたから

 

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公式発表ないけどリディアンっぽい、歌勉強するって言ってたし

 

■南無 Name無明 削除申請

リディアン制服いいよね

 

■南無 Name無明 削除申請

わかり

 

■南無 Name無明 削除申請

制服配信もして欲しい

 

■南無 Name無明 削除申請

そういえばおりんはテレビ出ないの?

 

■南無 Name無明 削除申請

出ない、公式配信か翼さんとうたずきんのチャンネル以外は出ないって明言してる

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんを扱えるテレビ局なんてねーだろ!放送事故の塊やぞ

 

■南無 Name無明 削除申請

そういえば政府に監視されてる報告はどうしたの…

 

■南無 Name無明 削除申請

政府に監視されながら衆道配信した

 

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そもそも今回は個人チャンネルだから向こうは何もいえない

 

■南無 Name無明 削除申請

広報チャンネルで間違えて衆道したのは耐えられなかった

 

■南無 Name無明 削除申請

5年後には歴史の教科書に載ってそうな女

 

■南無 Name無明 削除申請

本当におりんは現代の偉人だよ

 

■南無 Name無明 削除申請

中身はただの凡人だけどな!

 

■南無 Name無明 削除申請

俺達は今歴史が動く所に立ち会ってるのかもしれない

 

■南無 Name無明 削除申請

とんでもねー奴と同じ時代に生まれちまったもんだ

 

■南無 Name無明 削除申請

(政府公式チャンネルで衆道)

 

■南無 Name無明 削除申請

もうBLが衆道で定着してるので草が止まらない

 

■南無 Name無明 削除申請

公式ヒッター、翼さんのマネージャーさんがコメントしてて笑う

 

■南無 Name無明 削除申請

さすがに声明出すわあんな放送事故

 

■南無 Name無明 削除申請

>翼さんが楽しそうでなによりです

絶対苦笑してるわ

 

■南無 Name無明 削除申請

おりんがヒッターで謝ってて草

 

■南無 Name無明 削除申請

>許してください、まさか二人が来るとはおもわなんだでした。

友達だから退院祝いに来るぐらい予想しとけや!

 

■南無 Name無明 削除申請

いい友達を持ったな、おりん

 

 



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番外編:終着点/フェネクス/風鳴翼から見た加賀美詩織

せっかくなのでいつもと違う書き方をさせていただく!


 

――終着点――

 

 その男は、まともではなかった。

 その女は、善良とはいえなかった。

 

 そんな二人の間に生まれた娘は、愛を知らず、いずれ全てに絶望して死ぬ運命にあった。

 

 だけどそうはならなかった。

 「世界で一番綺麗な歌」が、彼女に生きる意志を与えた。

 

 

 

 興味すら持たなかった娘がいつの間にか、大きな存在となっていた。

 世界にその姿を晒し、世界に真実を示し、世界を少しずつ変えていく存在となった。

 

 だがそれでも父には娘などどうでもよかった。

 彼の愛するものは娘でも妻でもない、そして己でもない。

 過去に失った憧れの人に未だ囚われ、今日にも未来にも生きていない。

 

 想い出に縋り、ただ無気力に存在しているだけでしかない。

 

 

 女にとって、娘は正直疎ましい存在だった。

 それは自分を捨てて逃げた母を思い出すから、孤児院で疎まれながら育って、無価値だと思い知らされたから。

 娘が命を懸けて、戦っている事も知っていた。

 それが余計に疎ましく思えた、自分に何の価値もないと余計に思わされるから。

 

 彼女は自分に価値を見出せなかった。

 

 

 加賀美詩織の両親は、どちらも生きている振りをしただけの死人であった。

 

 過去に囚われて、何も見なくなってしまった、亡霊でしかなかった。

 

 

 

 詩織と違って、二人はもう前に進む事もできない。

 

 

 

「まさか、こんなに早く両親の墓を見る事になるなんて思いませんでした」

 

 6月の雨の日、一人で詩織は両親の墓の前に立っていた。

 二人が失踪して一週間、車で練炭自殺していた所を山中で警察に発見された。

 それを政府関係者経由で知った詩織が二人の墓を建てた、無縁塚に送られる事だけは避けたかった。

 

 葬儀は行えなかったけれど、それでも自分をこの世に生み出した両親だったから。

 すくなくとも、生存させてくれた両親だから。

 

 大切な友と出会う理由をくれた両親だから。

 

 愛はなかった、ただ惰性で生かされていた、だけど。

 

「恨みますよ、本当に」

 

 胸が痛くなった、両親に愛する事を教えたかった、生きる事はこんなに嬉しいんだと教えたかった。

 

 だけど、それはもう叶わない。

 

 生きている振りをしていた亡霊達は静かに居なくなっていた。

 本当の意味で死んでしまったのだ。

 

 自分の生まれた日に、一人で両親の墓参りに来る虚しさに詩織は溜息をついた。

 涙は流れなかった、両親の死は一生、ただ一人覚えていればいいと思ったから。

 

「私は、生きます……あなた達と違って、死んでる様には生きませんから」

 

 それが彼女が決めた両親への、唯一の恨みの晴らし方。

 ――最期の時も笑顔でいてやる。

 

 そう心に決めて、彼女は墓場を後にした。

 

 

 

 

 

――フェネクス――

 

 喉が痛い。

 ひどい声が出る。

 自分のいつもの「可愛らしい声」が出せない。

 

 歌声もひどいもので、誰もが耳を塞ぐ。

 

 

 ひどい夢をみた。

 フェニックスについて調べていた詩織がふと見つけた項目に「悪魔」の文字があった。

 

 ――序列37番の大いなる侯爵、詩作に優れ、話す言葉も自然に詩になるが、人間の姿を取った時は、耳を塞ぎたくなるほど聞き苦しい声で喋るという。

 

 

 「まったくもって嫌なモノを見た」と詩織は思った。

 自分をここまで生かしてくれた「この声」を奪われるのはかなり堪える。

 

 それが3度の死を覆してくれた対価であっても、少しばかりキツさが違う。

 仮にフェネクスの概要どおりになるとして、人間の姿を捨てるか、声を奪われるか、まるで人魚姫の選択だ。

 

 でも声を奪われるのは勘弁願いたい、姿ばかりが人間じゃない、「私の心」を届けたる声だけはこのままでありたい。

 もしも、異形の姿になってしまっても皆は私を受け入れてくれるだろうか、いや……受け入れてくれるだろう。

 たとえ、世界からバケモノだといわれようと皆は受け入れてくれる。

 そんな確信が詩織にはあった。

 

 悪魔の姿でも、人の心のままで歌い続ければ、いつかは届くと信じている。

 

 人を人たらしめるのは心である、それだけは3度死んで蘇っても、捨てたくはない。

 

 

 

――風鳴翼から見た加賀美詩織――

 

 彼女が自分を見る目は、いつも輝いていた。

 二課に装者候補として連れて行く時も、立花響への愚痴を零す時も、初めて友と呼んだ時も。

 

 最初の頃は歌女としての風鳴翼に目を輝かせてるだけだと思っていた、だが長く付き合っていくと多くの事を知る。

 

 彼女は配信者だ、自分の様に少しでも誰かに幸せを与えたいと思いつつも、それによって自分自身が救われる事も知っていた。

 彼女は「風鳴翼」という人間そのものを崇拝している。

 幻滅される事を恐れ、距離を置こうとする。

 一人で全てを背負い込もうとする。

  

 だからあらゆる手段で繋ぎ止めたいと思った、そんな寂しいだけの生き方をさせたくないと思った。

 かつて天羽奏によって貰った様に、彼女にも人を信じる強さを、友がいる喜びを教えたいと想った。

 

 だから友として側に在ろうと思った。

 奏の様に彼女に多少強引だけれど距離を詰める様な事をしてみた。

 小日向未来の冗談を真に受けたフリをしてからかってみた。

 彼女の配信に姿を出して、彼女と共に配信をしてみた。

 共に歌った。

 

 

 そのおかげで、彼女は変わった。

 

 皆の為に「生きよう」と変わった。

 

 

 だけど運命は残酷だった、彼女は世界にその姿を晒した、観衆の前で装者としての姿を晒せない自分に代わり戦った。

 その結果、彼女は「広報装者」として世界と向き合っていく事になった。

 当然、二課の大人達が彼女を支えようとするけれど、悪意全てを防ぐ事は叶わない。

 でも彼女は悪意さえ受け止めようと強くあろうとした。

 

 慣れない人目に体調を崩そうと、皆の為にあろうとした。

 

 けれど重ねて残酷な現実が続く。

 立花響の融合症例の進行を防ぐ為に戦おうとして、隠していたイカロスの侵食さえ晒す、やがて人間の体さえ捨ててまで皆の為にあろうとした。

 そんな彼女の姿に心が苦しくなった。

 

 

 結果として「奇跡」に彼女は救われた、神獣鏡の光によって蝋の怪物へ変わる運命は避けられた。

 

 それでも、完全に安心は出来なかった。

 侵食したイカロスは失われたけれど、彼女の心臓には「異物」が残っていた。

 皆、それを知っていて隠していた。

 

 やがて、3度目の命の危機で彼女はそれを知る。

 「命」を対価として力を得る事が出来ると。

 

 彼女は皆の力になろうとした、皆を守ろうとした。

 シンフォギアを纏えない自分達の代わりに、限界まで戦った。

 けれどそれは、自分達が必ず助けてくれると信じてたから出来た事だと彼女は語った。

 

 いつの間にか、守るべき存在と思っていた彼女は自分達と共にある存在に変わっていた。

 

 それは世界と向き合う「広報」としての彼女も同じで、彼女のおかげで世界が自分達に向ける目も変わっていた。

 ただ歌を武器としてノイズと戦うだけの存在でないと、何度も語りかけ、犠牲者を減らそうと何度も対策などを語り、時に向けられる世間の悪意を盾となって受け止める。

 

 本当に頼れる仲間になっていた。

 

 でも、同時に変わらない所だってあった。

 相変わらず風鳴翼という存在の為なら自分を投げ出しかねない危うさ。

 

 自分を大切にする事を覚えたとはいえ、やはり不安な部分は残っている。

 キャロルとの決戦においても、結局イカロスが使えなくなって「命」を燃やして対抗しようとした。

 

 結果、なんとか生き残ったがそれでも「彼女には自分を大事にして最後まで生きて欲しい」と思った。

 

 ただそれだけじゃない。

 どんなに信頼と絆を重ねても、歌女としての風鳴翼のファンの一人であり、友であり、仲間であり、夢を応援してくれる。

 

 「自分が見てないと確信している配信」の時は少しばかり恥ずかしいぐらいに語ってくれるのを知っている。

 

 

 風鳴翼にとって、加賀美詩織とは頼れる仲間であり、危なっかしい友であり、自分のファンである。

 それはこれからも変わらないと信じている。

 

 信じている。



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番外編:先輩と後輩の雑談配信

ビッキー誕生日おめでとう(さっきの更新で入れ忘れた)
(なおこれはクリスきりしらがメイン)


 ――最近、切歌と調が詩織の影響か、配信をやりたいと言い出した。

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴには悩みがある、それは月読調と暁切歌がネットで生配信をやりたいと言い出したのだ。

 原因は加賀美詩織と風鳴翼、そしてうたずきんこと雪音クリスの3人だ。

 

 普段から3人の生配信でのゲーム実況や歌の投稿やラジオトークなどを見ている二人だが、詩織の退院祝い配信コラボを見てから二人で配信をしたいと言い出した。

 

 当然ながらマリアは反対した、おっちょこちょいな二人ではうっかり身元をバラしてしまう可能性があるし装者としての秘密事もある、さらに自分達はかつて「テロリスト」だったのだ、何処からそんな情報が漏れるかわからない。

 

 立花響と小日向未来は過去の経験から「自分の知らない不特定多数の目に触れる事」の危険さを知っているし、自分や翼は元より有名人、クリスはいつかのデビューに向けての下積み、詩織に関しても「広報」なので世界に姿を晒している。

 

 それに二人はまだそういう事に疎い。

 

 世間の悪意に晒され、せっかく明るくなってきた二人がまた心を閉ざしてしまうかもしれない。

 そう考えるとマリアは気が気でなかった。

 

 

 とはいえ、二人がやりたいという事なら出来ればやらせてあげたい。

 

 考え抜いた結果、マリアが出した答えは。

 

 

 

「なんでアタシが引率をやらなきゃならねえんだ!?」

「だって貴女、二人の先輩でしょ?」

「いやそれはそうだけど、こういうのはもっと向いてる奴が居るだろ!?」

「だって彼女、危なっかしいじゃない!この間だって、貴女達が居るというのに突然、あんな教育に悪いゲームを始めたじゃない」

「いや、あれは事故だって!アタシらが来るとは思ってなくて準備してたのをそのまま出しちまってパニックになってただけだって!」

 

 マリアが選んだのは、雪音クリスの配信のゲストに切歌と調を出して貰う事だった。

 

「そもそもアタシは生配信じゃなくて編集した動画を上げるのがメインだっての!」

「いいじゃない、たまには生配信だって」

「よくねぇよ!そもそも名前どうすんだ!実名で出すわきゃいかねえだろ」

「それもそうね、そこは二人に聞いてみましょう」

「いや、まだアタシは引き受けるって言ってねえ!」

 

 詩織に任せるとどんな事故を引き起こすかわからない、翼はあまりに名前が大きすぎる、響と未来はそもそも配信をしていないしお目付け役として「配信に出るのは少し怖い」と言っていた、自分も名前と「声」が知れ渡りすぎている。

 

 だから確定事項なのだ、クリスに引き受けさせるのは。

 

「でも、切歌も調も……とてもやりたがってるのよ……私としては応援してあげたい、けれど二人だけじゃ本当に心配なのよ」

「……あーもう、これで断ったらアタシが悪者みたいじゃねぇか……しょうがねえな、一回だけだぞ!」

「ありがとう、クリス」

「ただし、30分の雑談だけだ!それ以上の枠はアタシがもたねえ!」

 

 そういう訳で2日後、告知されたのは「先輩後輩の雑談」。

 「え、大丈夫なの!?」と詩織と翼は心配になりつつも、響と未来は「クリスなら大丈夫」と信じて配信を見る事となった。

 

 

『よ……よぉ!皆!今日もうたずきんの配信に来てくれてありがとな!今日はちょっと特別ゲストをだな』

『もう喋ってもいいデスか!?』

『まだだよ!座ってろ』

 「うたずきんの後輩ちゃんかわいい声だな!」「落ち着きがない」「大丈夫?うたずきん引率できる?」「後輩ちゃんて学校のかな」「うたずきんちゃんはこう見えてかわいいツンデレだからな……後輩に頼まれたら引き下がれないかもしれない」

 

『はぁ……という訳で自己紹介しろお前ら!』

『はぁい!ジュリエットデース!』

『……し…シンデレラです』

『という訳で、アタシの後輩だ。ちょっとこいつらだけで配信させるのは間違いなく危ないという事なんで、アタシの配信で少しだけ体験をさせる事になった』

 「面倒見がいいうたずきんちゃんすこ」「シンデレラちゃんはダウナー系?」「ジュリエットちゃんテンションたけーな!」「うたずきんちゃんの母性がすごい」

 

 ――母性ってなんだよ、母性って

 クリスは思わず溜息をついた。

 

『今日は先輩の配信にお邪魔させていただき感謝デース!こうみえて私、常識人なのでぇ?あ、そこの所ヨロシクデース!』

『き…ジュリエット……そんなに大声出したらみんなびっくりしちゃうよ、私はシンデレラ。特技は家事、よろしくね』

『アハハ、こんな感じで私達は仲良しデース!』

 「なるほど、おてんばとしっかりもののコンビか!やりおる!」「かわいい先輩にはかわいい後輩がついてくるんだな!」

 

 凄まじい速度で流れてくるコメントにすっかりテンションをあげてご機嫌な切歌とまだ若干緊張気味の調、クリスはいつでもマイクを切れる様に、戦闘中のごとく意識を研ぎ澄まし、二人の配信を見守る。

 

『てなわけで先ずは最初の話題を拾っていくか』

 

 クリスの配信スタイルは基本的にコメントを拾って、そこから話題を繋いでいくタイプ。

 ちなみに詩織は自分の用意した話題やコメントから広げていくマルチなタイプで、翼は募集した便りから読み上げていくラジオタイプだ。

 

 おかげでクリスが話題を拾う宣言するとコメントの速度が一気に加速する。

 

『ウワッ!見えないデース!』

『すごいスピード……これが先輩の配信……!』

 

 装者である二人の動体視力も常人より鍛えられているとはいえ、いざこういった初めての試みになると別だ、まるでコメントを追えてない。

 

『っと、そうだな。まずは学校でのこいつ等か!きちんと馴染めてるぞ、でも勉強はアタシと違ってからっきしだけどな』

『デ!?デース!?』

『……今何処のコメントを拾ったの!?』

 「うたずきんは賢いからなぁ…」「成績優秀な先輩」「歌も勉強も両方できるからな…」

 

 だが無数の敵を瞬時に狙い撃てるクリスの動体視力は的確に話に繋げられる話題を見つけ出す、とはいえ余計なコメントも見えてしまうのが玉に瑕だが。

 

『き……きちんと課題は終わらせたデスよ!?それが私達の配信する為の条件でしたから!』

『うんジュリエットの言うとおり、必死になって終わらせた』

 「一気にまとめて片付けるより継続して勉強した方が身につくゾ」「おりんみたいに単位落とすなよ」「そう考えると勉強もアイドルも出来てた翼さんヤバい」「勉強は大事だ、俺みたいにはなるな!」

 

 コメントは二人の学力を心配する声に埋まる、意外にクリスのリスナーは社会人が多い。

 

『そうだぞ、勉強しねーとあのバカみたいになるからな。っとお前達の先輩のバカは二人いたな』

『バカ二人ってもう一人は誰の事デース!?』

『バカ一号はもうわかってると思うが、バカ二号は詩織の事だかんな、あいつも勉強できねえから』

『……私達も気をつけようね、ジュリエット』

『そうデスねシンデレラ』

 「そうそう、おりんみたいにはなるな」「奴は特別だからな……」「バカ一号はそんなになの!?」「バカ一号……一体どんなツワモノなんだ……」

 

 

 

 ――えっ、切歌ちゃんにも私バカって認識されてたの!?

 この言葉にひっそりとショックを受ける立花響であった。

 

 

 

 そんなこんなでクリス+二人の配信は30分間無事に続いた、終了の挨拶までトラブルもなく、二人のミスもなく、なんとかやりきった事で画面に食らいつく様に見ていたマリアは安堵の溜息を吐いた。

 

「さすがね、クリス……貴女はやはり切歌と調の先輩よ」

 

 直接言えばいいものの、独り言を呟くマリアであった。

 

 

 

 

「は、つ……疲れたデース!」

「大変だったねジュリエ……切ちゃん」

「そうデスね、これをいっつもやってる先輩達はスゴいデス!」

 

「ったく、大変だったのはアタシだよ!!ただでさえ生は緊張するのに!お前らヒヤヒヤさせすぎだ……ったく……でもちゃんとリスナーの皆は喜んでくれてた、その点はよくやったな」

 

「皆が……」

「よろこんでたデスか」

 

 楽しそう、それだけの理由で二人は配信をやりたい、と思っていた。

 だが思い出した、リスナーであった自分達もクリス達の配信を楽しんでいた事を。

 

「詩織が言うにはそれは中々出来る事じゃねー、自分も楽しみつつも皆にも楽しんで聞いてもらうのが大事な事だ」

 

「まだまだ勉強不足デスね私達」

「次にやる時は、もっと皆を楽しませられるようにしようね、切ちゃん」

 

 決意を新たにした二人が再びクリスの、うたずきんの配信にジュリエットとシンデレラとして登場するのはまた別の話。



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番外編:立花響と加賀美詩織/加賀美詩織を見る者

今日は二本立て、少し短いです


 

――立花響と加賀美詩織――

 

 夕暮れの校舎の屋上、設置されたベンチに二人の少女が腰掛ける。

 

「こうして、二人だけで話すのは久しぶりですね」

「いやびっくりですよ、まさか詩織さんから誘ってくれるなんて」

「そういえば立花さんとも付き合いは長いけれど、こうして二人だけで話す機会があんまりなかったなと、思ったので」

 

 立花響と加賀美詩織は真逆の様で何処か似ている。

 

 

 家族の愛を知って、再び共に歩みだした響。

 家族の愛を知らず、もう共に歩めない詩織。

 

 深く自分を知らない者達の悪意に晒されて傷ついた響。

 深く自分を知らない者達の悪意をも受け入れ立つ詩織。

 

 ひだまりと共にあったから生きてこれた響。

 自らひかげとなって生きる道を探した詩織。

 

 絶対生きるのを諦めない意志。

 仲間の為に在ろうという意志。

 

 信じられる「友」と「仲間」と共に、困難を乗り越えて来た二人。

 

「何よりいつまでも「立花さん」呼びより、「響さん」と呼べるようになりたい……と思いまして」

 

 共にある事で互いに変わった。

 過去を乗り越えて、明日へと歩いていく事が出来る。

 

 立花響も加賀美詩織も、自分自身に「出来る」事を知った。

 

 「誰かを守る事」

 響はシンフォギアと、その拳の力で。

 詩織はシンフォギアと、その言葉で。

 

「詩織さん……!!」

「響さん、話でもしましょうか」

 

 同じ道を行くだけが友ではない、互いに違う道を歩いていても応援できるのも友である。

 

「最初の頃、私は響さんが苦手でした。私にはない明るさや人と分かり合える強さを持っていると、避けていました。それは自分の弱さが明るみに晒され、思い知らされる……そんな勝手な思い込みです」

「私だって、詩織さんはいつだって弱みを出さない強い人だって思ってました……でも」

「お互い、一緒に居て互いを知った」

「響さんだって辛い過去や今を生きる悩みを抱えていた」

「詩織さんだって同じだった」

 

 正反対の様な二人だって、同じ様な悩みを抱えている。

 

「私は響さんが正直うらやましいです、戦う力があって、手を繋ぐ強さを持っている」

「私も詩織さんがうらやましいです、とても多くの知らない人の前に立って、世界を前にして戦ってる」

 

 立花響にとって、加賀美詩織とは「世界と向き合う強さを持っている人間」だ。

 加賀美詩織にとって、立花響とは「現実と向き合う強さを持っている人間」だ。

 

「戦えない私が守れない「皆」を守ってくれませんか。響さん」

 

 詩織にはまともに戦闘できるだけの力がない、だから、一番強いと思う響に打ち明けた。

 

「わかりました……!でも私が守る皆の中には詩織さんもいますからね!」

「……なら、私は響さんを含む皆を、私に出来る形で守りたいと思います、それが私が、出来る、やりたい事なのですから」

 

 私に出来る事を、私達に出来る事を。

 加賀美詩織は、いつの間にか強さを手に入れていた。

 立花響はいつの間にか、もっと強くなっていた。

 

 違うけれど、似ている、そんな二人だった。

 

 

 

 

 

――加賀美詩織を見る者――

 

 彼にとって加賀美詩織とは悩みの種だ。

 

 日本政府に所属する装者であり、「S.O.N.G.結成」でようやく追い出せたと思ったのに、仲間の危機に再び装者として「広報」に返り咲きつつも「特別協力員」であり「日本政府の特務員」という新たな肩書きまで持ってしまった。

 おまけに「護国災害派遣法」という、頻発する特異災害、超常の脅威に柔軟に対応する為の法が設立されてしまったおかげで、彼女にこそ知らされていないが「加賀美詩織」は非常時に自衛隊などの「指揮を執る」事が出来る様になってしまった。

 

 数ヶ月、いや一年程度前までただの子供であった筈の少女が随分と大きな立場になってしまったものだ。と男は溜息を吐いた。

 

 彼は、日本政府が用意した「加賀美詩織」の監視員。主な仕事は彼女が放送中に何かやらかさないかの監視、そして何をしたかを記録する事、そしてS.O.N.G.からの彼女の活動記録を受け取り纏める事である。

 

「まったく、さっさと石の下のダンゴムシに戻ってくれやしないものか……」

 

 それは叶わぬ願いである、広報装者としてあまりに名が知れすぎてしまった、世界はあまりに彼女を知りすぎた。

 だがそのおかげか彼女を狙う者はそうそう居ないし、そもそも彼女に付けられている他の監視員が指揮する警護によって、彼女は、彼女達は守られている。

 

 同じ年頃の娘がいる身として、正直彼にとっては加賀美詩織は見てられない存在だ。

 あまりに危なっかしく、あまりに献身的で、そしてあまりに儚い。

 

「にしても、あのバカ親共ときたら……本当に自分勝手だ、あの親からどうしてこんなに健気な子が生まれるのか、まったくわからんね」

 

 彼女を残して自殺した両親を極秘裏に埋葬しようとする意見を押し留め、彼女に両親の死を知らせたのも彼だ。

 彼女には何も知らないままで居て欲しくなかった、せめて向き合うチャンスを与えたいと思ったからだ。

 

「……ブッ!?!?風鳴翼!雪音クリス!何故そこで来る!?」

 

 監視中の【退院祝い配信】への予期せぬ来客、思わず茶を噴出す。

 

 彼は元々二課のサポートにあったが故に、装者達の個人情報をそこそこには知っている、しかしその動向までは知らない。

 まさか退院即日の配信にやってくるとまでは想定していなかった。

 

「まったく!元気にやってやがる!」

 

 とはいえ、少し安心した部分もあった。

 加賀美詩織にも彼女を想う友が居る、信じられる仲間が居る。

 監視員の男には娘を見守る親の様な笑みが浮かんだ。

 

 

『衆道……だと!?』

 

 だが、切り替わる画面と配信によって聞こえてきた翼の声にその笑みは一瞬で無表情に凍りついた。

 

「またか!またやるのか!もう勘弁してくれ!何が悲しくてこんなものを見せられなきゃならんのだ!」

 

 加賀美詩織の監視員の彼の受難はまだまだ終わらなさそうである。

 



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番外編:ごはん&ごはん、課題&課題

 現実とはいつだって「こんな筈ではなかった」に溢れている。

 加賀美詩織と立花響が夏休みだというのに学校に来なければならなかった。

 

 世界を救ったというのに、少女達の手には重い「荷物」があった。

 

 追加課題が出されたのだ。

 

 

「ありえません……まさか歴史まで……」

「あはは……出席日数免除じゃなかったんだ……」

 

 テストで数字こそ出したものの、二人は「欠席」があまりに多すぎた。

 それが「仕事」の都合でも、免除される事はなかった。

 響達は元から課題の免除自体がなかったが、詩織は一度「広報」の仕事を降りる事となった為、免除が取り消しとなったのだ。

 

 

「というか響さん、休みましょう、暑すぎます……」

「詩織さん……大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないです……そもそも今日朝から呼び出しが来るとは思ってなくて寝てないんですよ」

「徹夜はダメだよぉ!いくら夏休みでも!」

「オンラインマッチ立てたら思ったよりリスナーの集まりがよくて、なかなかゲームを終われなかったんですよぉ」

 

 詩織は入院中に配信を出来なかった憂さを晴らす様に毎日夜遅くまで配信を続けていた、その内容はゲーム、ゲーム、ゲームひたすらゲーム、オンライン対応で視聴者参加型にしてプレイするのはメックフォール2、発売から2年経ち国内プレイヤーが減ってきた所にやってきた70%オフセールで907円、詩織はこれをチャンスとメックフォール2の布教を開始。

 

 そのおかげでいつもプレイするには人数が少ないルールまでプレイが出来ると、張り切りすぎた結果がこの徹夜明けである。

 

 

 徹夜明けというのは想像以上に少女の体には負担が大きい、かつて詩織が徹夜配信中に嘔吐したのも体に掛かる負担と脳に掛かる負担の両方が限界を迎えた結果だ。

 

「いいですか響さん、徹夜は結果なんです。寝るだとか、起きるだとか、そういう結果の為に徹夜するんじゃないんですよ」

「詩織さんが何言ってるのか全然わかりません!」

「……脳が限界そうです、とりあえず栄養補給しながら休憩しましょう」

 

 夏の暑さと増える課題、そして徹夜明けという現実に加賀美詩織の脳は限界だった。

 

 リディアンに通う生徒がよく利用するハンバーガー店も、夏休みという事で人は少なかった、二人はレジでメニューを見て朝食を選ぶ。

 

「ハンバーガーセット2個、アップルパイ4個ください、飲み物は両方アイスコーヒーで」

「えっ!詩織さん?私自分で」

「懐には余裕があるので、響さんも好きなものを頼んでください」

「え……」

 

 響は気付いてしまった、ここのハンバーガーセットはそこそこボリュームがあり、よく食べると自負している響ですら1個で十分だというのに、詩織は二つも頼んでいる。

 

「詩織さん……二つも食べるんですか……?」

「当然でしょう、後3セットは入りますよ。それより早く選ばないと他のお客さんが並んでしまうでしょう」

「……じゃ……じゃあ私もハンバーガーセットで、飲み物はコーラで……」

「ちゃんと食べてるのですか?夏バテ気味ではありませんか?」

「あ、朝はちゃんと食べてるので!」

「そうですか、ならいいです」

 

 詩織から見ると、ハンバーガーセットの一つなど軽食にも入らない、おやつみたいなモノだ。

 だから「好きなものはごはん&ごはん」と言っていた響はもっと食べると思っていた。

 だが、そうではなかったので「調子が悪いのかな」と詩織は心配になったが、きちんと朝食を食べてきたという言葉に納得して、追加注文はしない事にした。

 

 詩織はかなりの健啖家である。

 それこそ一ヶ月で米を一袋消費するレベルの。

 育ちの影響もあるが、彼女の胃の許容量の大きさが最大の原因である。

 

 おまけに栄養吸収効率が悪いのかふとらない。

 

 

「とまぁ、課題増えましたけど。響さんはどの程度進みました?」

「2……2割……」

「私は配信中にもやってるので今4割ですね……そういえば切歌ちゃんと調ちゃんはもう課題終わらせてましたね……」

「はぁあ……気分が重いですよぉ」

「正直、響さんより課題量が多いので……ぶっちゃけ私は終わる気がしませんよ」

「詩織さんって勉強できるイメージがありましたけど」

「得意教科は得意ですよ?ダメな奴が多いだけで」

「あっ……」

 

 響は授業中に上の空になったり、寝てしまう事が多いだけで、頑張れば出来ない事もない。

 けれど詩織は違う、興味の薄い事は頭に入ってこないし、すぐに忘れるのだ、おまけに出席数も少ない。

 そのおかげで響より詩織の方が課題量が多い。

 

 力のバカ1号「立花響」技のバカ2号「加賀美詩織」雪音クリスが彼女等の成績を評価する時に思い浮かんだ言葉だ。

 

 

「それにくらべて翼さんもクリスちゃんもすごいね……」

「翼さんはアーティスト活動と装者としての活動も両立してましたし、クリスさんはてっきり勉強は苦手だと私も思ってましたよ」

「それがまさか裏切られるなんてぇ……」

「裏切ったのはクリスさんじゃありません……私達の努力の足りなさです……」

「まぁそうですよね」

 

 詩織は話しながらも凄い勢いでテーブルの上のハンバーガーを処理しつつ、ポテトを摘む。

 その速度に若干引きながらも、響も頼んだセットを食べ進める、正直朝食を食べてきているのでキツさがあるのは秘密だ。

 

「とはいえ、ちゃんとわからない所とか小日向さんには聞けてます?」

「あ、あはは……やる時は聞いてるかなぁ」

「私はリスナーに解かせてますね」

「それズルいよ!?」

「いいんですよ、課題なんてそんなので。頼れるものは頼る!それが人間ですよ」

「詩織さん……」

 

 いい話風にまとめているが普通にダメである。

 ゲーム配信を開始する前にごく自然にリスナーに問題を解かせる詩織、当然ながらこの事を学校は把握している。

 学期が始まれば今以上の課題と補習が詩織に降りかかる事を、彼女はまだ知らない。

 

「結局卒業できりゃいいんですよ!それより先の事なんて今考えても仕方ありませんて」

「それもそ……いえいえいえ、将来の夢だとかはないんですか詩織さん!?」

「ありゃしませんよ、まぁ何も無いといえばウソですが」

「その夢の為に努力するとかないんですか!?」

「じゃあ聞きますけど響さんの夢には勉強いります?」

「た……多分!要る!と思う!」

 

 少しブーメランが刺さった感じの響であったが詩織のあまりもの適当さに「将来的に勉強はやはり必要になるのでは?」と少し考え直し、課題はきちんとやろうと決意した。

 

「ふーん、そうですか……ちなみに私は必要になったらやると思います」

「……詩織さんの夢、聞いてもいいですか?」

「まず夢を見つけるって夢ですね、それで翼さんにいの一番にその夢を聞いてもらう事、それが私の今の夢です。まぁ……まだまだ何がしたい、だとか決めてはないんですけどね」

「いいと思います、夢を見つける事が夢っていうのも」

 

 かつての詩織には何もなかった、夢も、明日も、考える事すらなかった。

 けれど今は違う、何が出来るか、何がやりたいか、そんな事を考えるようになった。

 

「まぁ、その為にもまずは一にも二にも課題を終わらせて無事進級する事ですね、留年しようものなら目も当てられません。私なんか世界に留年がバレますからね」

「ひぇ……恐ろしいですね……」

「恐ろしいですよ「世界の明日の為に留年した女」なんて呼ばれたりしようものなら傷ついちゃいますよ」

「……詩織さんは怖くないんですか?そうやって世界に何もかもを知られる事って」

 

 いつも響は思っていた、配信をやる事、それは世界に自分の事を知られるという事で、かつて自分達に心無い言葉なんかを投げつけてきた者達の様な悪意にも触れる事になるのではと。

 

「ええ、ぶっちゃけ麻痺してる、というのに近いんですけどね……ある程度大きくなると一定数の「悪意」はいつだって感じます、でも今は「それで?」ってなってしまうんですよね。「私にはそれ以上の味方がついてるぞ、もし味方がいなくても私は皆の為戦うぞ」ってなるんです。響さんも戦ってればそう思う事ありません?」

「……あるかも」

「はっきりいって、参考になるかわかりませんけど。自分の為だけじゃなくなったから怖くなくなった……みたいな所はありますね、大義名分という奴です」

 

 詩織はただの配信者であった頃はやはり、あまりに多くの目に触れる事は怖かった。

 けれどこうして「戦い」である事を意識する様になってきて、それ以上のやりがいを感じてきた。

 

「だからでしょうか、今は怖くない、怖くはないんですよ」

 

 だから今日も笑って配信できる、ただ配信する前にちゃんと寝て体力回復しよう。と思う詩織であった。

 

 

 

「うっ……」

「どうかしました詩織さん?」

「やばいです、詰め込みすぎて気分が……」

「えっえっえ……もしかして……」

「吐きそう……」

 

 

 徹夜明けに胃にモノを詰め込むのは、危ないのでやめよう。

 さもなくば地獄を見る事となる。

 詩織さんの様に。

 

 一つ学んだ響であった。



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IF:ロード・フェニックス

捏造とIFと考察の塊です、おりんの未来の姿。


 

 砕けた月が照らす瓦礫の街、漆黒と黄金が激突し、ヘドロの様に黒い血と赤い血が飛び散る。

 

「はぁあ゛っ!ははっ!……その程度ですか!ガングニール!!その程度では私は殺せませんよ!」

 

 濡羽色の装甲を纏い、赤い目を輝かせるのはかつて「加賀美詩織」と呼ばれた少女の成れの果て。

 

「もうやめてください!翼さんだってこんなことを望んでません!!!」

「だから何度だって言ってるじゃないですか!私が望んでいる事なんですよ!この世界を焼却して、世界をやりなおす!その為の力だって私にはある!」

 

 かつてアダム・ヴァイスハウプトやパヴァリア光明結社の錬金術師、そして風鳴訃堂が求めた神の力。

 それは今、力を求めた者達の誰の手でもなく、一人の少女の身に宿ろうとしている。

 

 復活したレイラインと、パヴァリア光明結社の残党、さらには風鳴訃堂さえもを利用し、加賀美詩織がその身に宿そうとしている。

 

「響さん、貴女の神殺しはとても厄介です!だからここで私は貴女を殺すと……そう決めたのです!」

 

 詩織の腹を貫通する響の拳に「黒い蝋」が纏わり付く、それは再び「融合症例」になった詩織のイカロスの蝋だ。

 

「こんな!こんなもの!!」

 

 ガングニールのガントレットを回転させ蝋を粉砕し、響は詩織の腹から拳を引き抜くが、同時にそれは詩織に自由を与えてしまう事でもある。

 

「せっかく得た有利を手放しましたね!!」

 

 イカロスの優位、それは飛行により一方的に相手を撃ち下ろす事が出来る事。

 ギアに搭載された「焼却」システムと融合症例によってフォニックゲインと共に増殖し続ける蝋による組み合わせで詩織は今、イグナイトを使う事が出来なくなった響を圧倒している。

 

「させない!」

 だが詩織が飛ぶよりも早く、響は地を蹴り詩織に体当たりをする。

 

 やはり、戦闘経験の差は埋めがたい。

 無理と矢理で力を得ている詩織より、技と力を持った響の方が強い。

 

「そうです!!私は殺さないと止まりません!殺すつもりでこないと死にますよ!あなたも!皆も!」

 

 仰向けで響に馬乗りになられていても、詩織の顔から余裕の笑みは消えない。

 詩織は腕に仕込んでいたジェムを破壊して「アルカノイズ」を召喚、咄嗟にそれに反応して手を離した響に向けて至近距離から機関砲を撃ち込む。

 

 弦十郎や緒川がここに来れない理由はこれだ、詩織はアルカノイズを手に入れた、装者よりも厄介な相手をよく分かっているからだ。

 

「全部この手で犠牲にしました!配信者おりんも、正義の味方の加賀美詩織も、クリスさんも、私を信じてくれた人々も……だからこそ成さなきゃいけないんですよ!!私の願いを!!」

 

 神の力を手に入れる為には人の身を残しておかねばならない、だから詩織もこれ以上のダメージを負う事で全身をイカロスに変えるわけにはいかない。

 

 響がアルカノイズと戦っている間に体を起こした詩織はギアを解除するでもなく、聖詠を唱えその上から更に重ねる形で「フェニックス」を纏う。

 二つのギアの同時展開など、想定されている筈もない、互いに干渉して拒絶反応を起こす可能性だってあった。

 

 だがイカロスとフェニックスは相性がいい、蝋を薪とし、フェニックスはより強く炎を纏う。

 

 

 

 加賀美詩織は、神の力を「制御」できる。

 それは「フェニックス」が「賢者の石」と同一の存在たる「完全生物」であり。

 賢者の石そのものが「神人合一」を成す為の「鍵」なのだから。

 かつてサンジェルマンが自らを「神の力」の寄り代としたのもそれが理由、自らの体に宿して制御できる自信があったのだ。

 

 「フェニックス」の一部を心臓に取り込み、ニグレド・アルベド・ルベドと「大いなる業」を経た加賀美詩織の胸に宿るソレもまた「賢者の石」そのものと言える。

 

 それが現在、本部でエルフナインが解析と推測によって出した答え。

 

 

 

 

「さあ、そろそろこの世界を終わらせなければいけません……覚悟はいいですか、響さん」

 

 加賀美詩織が成そうとしているのは「神の力」による「世界の焼却」とそのエネルギーによって白紙となった世界への「平行世界の転写」。

 

 

 

 だが、そこに加賀美詩織の居場所も、存在もない。

 

 

 完全なる神人合一は、加賀美詩織という一人の人間の運命と因果にはあまりに重過ぎる。

 達成された暁には、神の力諸共に「加賀美詩織」という存在は解けて消える。

 

 そこには「加賀美詩織という存在が無かった世界」が生まれる。

 

 加賀美詩織の本当の目的はそこにあった。

 

 許せなかったのは世界じゃない。

 自分自身だった。

 

 

 勝ちも負けもない。

 立花響の手で殺されても、神の力を得て新しい世界を作り出せたとしても、彼女は自分を殺せるのだ。

 

 

 

「ははっ……さぁ、私にこれ以上罪を重ねさせたくないと思うなら殺して止めてくださいよ!響さん!」

「どうして……どうしてッ!!」

 

 生命力など、もはや有って無い様なモノ。

 生きても死んでもどちらにしても終わりなのだ。

 

 焼却するのは命だけじゃない、計画遂行の為の「最低限」以外は記憶さえも焼く。

 

 周囲には詩織のフェニックスが使いきれないフォニックゲインが溢れ、光が舞う。

 

「エクスドライブでもしてみたらどうですか!じゃなきゃ貴女も死にます!私のせいでね!!」

 

 フェニックスの炎を纏った拳は一方的に響の体に痛みを与えていく、けれど本当に限界を迎えそうなのは響の心だった。

 

 詩織の攻撃は、あまりに、素人がすぎる。

 響が一撃、その胸に一撃与えるだけでその命を奪う事さえ出来る程に隙だらけだ。

 

「もう……もうやめてください!詩織さん!」

「やっと出てきた言葉が……!それだけですか……!恨み言の一言でも吐けないんですか!」

 

 さっきと違い、もう攻撃すらしてこない響に詩織の怒りもまた限界だった。

 

「翼さんを死なせた私を!クリスさんを殺した私が!憎くないのですか!!」

「二人だって、詩織さんを憎んで欲しいと思ってないってわかる」

「なら、貴女の「ひだまり」を今から焼き尽くし奪うとして、それでも私を憎まずにいられるか!」

「……詩織さんには出来ない」

「……もう私は加賀美詩織ですらない!だからやれる!」

「だったら、貴女は誰なんですか……!!」

 

 

「加賀美詩織は、あの日私が殺した!私は……私はロード・フェニックス!運命を支配する者!」

 

 顔も、瞳さえも覆い隠す様な仮面を形成し、鳥の怪人の様な姿となり詩織、ロード・フェニックスが叫ぶ。

 

 それは詩織が神の力を得る為に暗躍する為に使っていた姿であり、加賀美詩織が自身を殺す為に選んだ姿。

 

 




詩織の「世界再生」の理論はAXZのディバイン・ウェポン、神の力の用語説明から想像したアイディアです。

この世界の詩織はAXZでアダムに唆され神の力の器になりかけたりしてるので、神の力について詳しいです。


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話題の正義の味方と怪しい錬金術師

 夏の夕暮れ、連日の配信で課題のズルをしすぎたあまりに配信中の通話で翼にすら「それでは為にならない」と苦言を呈されてしまい、ついに自力でやらざるを得なくなってしまった加賀美詩織、優しく迎えてくれるのはカラスだけなのか。

 

「はぁ……やば……ヨーロッパ史わかんね……」

 

 選択授業で「楽そう」とばかりに歴史を取ったはいいが、滅多に授業には出ないわ、単位取得に必要な提出物は出さないわで前日の詰め込みによるテストの点数だけで乗り越えた詩織には追加課題が出されている。

 

 それは詩織の為を思ったものであるが、詩織にとってはただの地獄である。

 

 とはいえこの課題はキチンと課題の付属資料を見ればわかる様にはなっている、少し考えれば簡単にできるモノなのだ。

 だが詩織のやる気がこの簡単な課題の難易度を高くしているのだ。

 

 

 そんなこんなで逃げてきた現実と向き合うハメになっている詩織だが、意外と進捗は悪くない。

 この調子であれば、配信でズルをする事をやめた事も既にリディアンは把握しており、追加課題は免れそうである。

 提出できれば、だが。

 

 

 赤い夕陽に照らされ「そろそろ配信の準備したい……」という欲が湧いてきた頃、インターホンが鳴った。

 

「はて、クリスさんでしょうか?」

 最近は警護の関係もあり、契約しているマンションもセールスなんかの立ち入りを拒否している。

 故にマンションの管理人か、政府関係か、身内か、詩織の家を訪れる者はその3択に絞られている。

 来訪者が翼やマリアならインターホンより先に電話が鳴る、響や切歌と調ならそもそも来る前に連絡が来る、だとしたら消去法でクリスか、マンションの管理人か、政府関係か。

 

 

「はいはーい」

 

 

 詩織に油断があったのは否定できない、平和ボケしていたのだろう。

 

 

「ハァイ、詩織ちゃん」

 

 詩織の表情が笑顔のまま固まった、相手は全く知らない女、おまけに少しばかり巨乳で仮面まで被っている謎の変態だ。

 

 詩織は無言でそっとドアを閉めようとした。

 

「待って待って!怪しいものじゃないから!」

「怪しいものに限ってそういうんですよ!!」

 

 

 だが寸前に女はドアの間に足を挟み、詩織の退路を塞ぐ。

 さすがに無理矢理閉めるのは詩織のパワーでは無理だ。

 

「そもそもどうやってここまで来たんですか!警護の人とか居たでしょう!」

「それについても話すからちょっとお時間ちょーだい!!」

 

 詩織の警護についている者達も「プロ」だ、変な者はすぐに捕らえられる、だがこの女はそれをすり抜けて来た、つまりただものではない。

 

 とにかく今すぐ害をなす者じゃない、害をなす気なら今の一瞬でやれた、と詩織は冷静になる。

 

「はぁ……」

 

 とりあえずただものではないこの変な奴をどうしたものか。

 詩織はいつでもイカロス、またはフェニックスのどちらでも動ける様に警戒をしつつも目の前の女を見る。

 

「まぁまぁ、貴女にとっても悪くない話になるから。あーしは錬金術師……名前はそうね、カリオストロとでも名乗っておきましょうか」

「錬金術師……!」

「そう、貴女が戦った「キャロル」と同じね」

 

 錬金術師、すくなくとも現時点ではキャロルとエルフナインの二人しか知らない存在、もっとも二人は一人になってしまったが、とにかく、尚の事この瞬間にも自分を害す気なら害せる相手が話しをしたいとここに来た。

 

「はぁ……コーヒーしかでませんよ、それでもいいなら上がってください」

「あら、ご親切にどうも」

 

 「とりあえずコイツが帰ったら即司令に通報しよ……」と心の中で溜息をついた詩織だった。

 

 と、成り行きでカリオストロを名乗る不審な女を家にあげる事となってしまった詩織、となればコーヒーを淹れるしかない。

 慣れた手際で市販のコーヒーを「うまく」淹れる。

 

 

「あら、結構おいしいじゃない」

「それはどうも」

 

 カリオストロと名乗った女もまさか市販のコーヒーをここまで「上手」に淹れるとは思っても無かったのか驚いた様に言う。

 

「で、その錬金術師さんが何の御用ですか?」

「世間で話題の正義の味方さんがどんな子なのか見定めに来た……というのは冗談で、貴女のその胸に宿る「輝き」について知りたくて来たの」

「シンフォギアシステムの事なら政府やSONGにでも……私は詳しくないので」

 

 ここに来てそれか、と詩織は頭を抱えた。

 遅かれ早かれシンフォギアについて接触しようとしてくる者はいると思っていた、自分は世界に名が知れているのだから、異端技術を持った勢力が接触を目論んでもおかしくはない。

 とっとと叩き出すか、お引取り願うかと内心思い始めた詩織だったが。

 

 

「貴女、体を作り変えた事……いえ作り変えられた事あるでしょ?」

「今、何と?」

 

 

 カリオストロの口から言葉に詩織は目を見開いた。

 

「やっぱりね、遠目だけど貴女を一目見た時からそう感じてたの。錬金術的に貴女は「完全な体」を持ってる。錬金術師でもないのにね」

「まるで……まるで「完全な体」とやらを見た様な口ぶりですね。ですがこの世に完全なんてものは……」

「あくまで「錬金術的」によ、そりゃ完全な人間なんていないわよ。完全だったらあーしも貴女を見に来ないし、貴女もあーしに隙を見せなかった」

「……質問には未だ答えてもらってません」

「あーしのこの体も、貴女と同じ「作り変えられた」モノ、だからわかった。でもね、この完全な体は錬金術師しか作れない。錬金術の「れ」の字も知らなさそうな貴女がどうやってその体を手に入れたか、どうしても知りたいの」

「研究者気質とやらですか」

「まぁね~……それで、あーしが推測するに……貴女は「ラピス・フィラソフィカス」つまりは「賢者の石」を持っている、あるいはソレに等しいモノを宿している」

 

 カリオストロの鋭い推測に、詩織は無言になる。

 それは「フェニックスの羽」の存在が間違いなくバレていると気付いたからだ。

 あまり伝承には詳しくない、が故に調べた結果知った「フェニックスと賢者の石の同一性」。

 

 とはいえ、奪う気ならこの瞬間にも奪いに来ている、なら何が目的だ。と詩織は考える。

 

「図星ね、まぁ安心して、取ったりはしないわ。ここからは貴女の利益と貴女の命を守る為になる質問だからきちんと答えてね。貴女はそれを使って「自分の命を燃やした?」」

「……はい、かつてキャロルと戦った時に」

「やっぱり、ね。それは紛れも無く「賢者の石」ね、使い続ければ貴女の命を間違いなく焼き尽くす」

「それは……知っています、ですがそれしか道は」

「まぁまぁ、世界をバラバラにする……なんて言われたらあーしだってそーするかもね。で、ここからは貴女の利益になる話」

「利益……?」

 

 詩織はカリオストロがことごとく自分のしてきた事を言い当てる事に驚く、この「胸の輝き」の事はSONGの中でもトップクラスの機密であり、政府にすら秘匿されている。

 唯一、エルフナインの感覚を盗み見て、更には発現した最初の時と最後の戦いで直接見ていたキャロルだけが外部で知っている存在の筈だった。

 

「そう、利益。これはあーしにとっても、貴女にとっても利益となる事」

「貴女の利益?」

「貴女が風鳴翼を好きな様にあーしにも好きな人が居る、その人には笑顔でいて欲しい」

 

 人を好きでいる事、その大事さは自分だって知っている。

 その人の為に何かしたいという気持ちも。

 

 詩織は、目の前の女を真剣な眼差しで見つめる。

 

「聞きましょうか」

「単純明快、貴女には強くなって欲しいの。将来的にあーし達が所属する組織のトップがお世辞にも信用に値する人間じゃない人でなし。そいつにあーしの好きな人を使い潰されたくない」

「何故私なんですか、それなら最初からSONGにでも接触すれば」

 

「だって、貴女が一番隙だらけだもの」

 

 しまった、と詩織が思った時には既に遅かった。

 既にカリオストロが身を乗り出し、テーブルを挟んで向こうにいた詩織の胸に指を当てていた。

 

 展開される光の術式、詩織は突然の事に声も出せないまま固まる。

 それは「拘束」の為の麻酔の様なモノ。

 

「ごめんなさいねぇーでも全部ウソではないから、互いの利益にもなるのは本当よ?それに別に貴女を連れて行くだとかどうとかはしない、ちょっとばかり隅々から調べる……そのデータは、そうね「写し」を置いておくから「目が覚めたら」貴女達の組織にでも持っていくと良い」

 

 薄れる意識の中、このクソッタレという目で詩織はカリオストロを睨んだ。

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 翌朝、目が覚めると、詩織は布団の上に寝かされていた。

 自分の体に異常は感じられないし、イカロスも手の中にある。

 

 起き上がって家中を探すがカリオストロの姿はない、丁寧に鍵は閉められてポストの中に入れられていた。

 

 そして机の上には「まるで自分の字で解かれた課題」と「メモ書き」が置かれていた。

 

 メモ書きには「命は大事にしなさい」「錬金術師でもないのに賢者の石を手に入れるなんて嫉妬しちゃうから皆には黙っててあげる」「ヨーロッパ史は面白いわよ、しっかり勉強しなさい」の三つだけが日本語で書かれていた。

 

「はぁ……利益ってコレですか?」

 

 綺麗に「詩織の字」で解かれた課題に思わず頭を抱えつつも、詩織は通信端末でS.O.N.G.に連絡を入れる。

 

『どうした、詩織くん』

『すみません司令、なんというか錬金術師に一杯食わされました。どうやら私の体を勝手にチェックされた様です……とりあえず、これから検査を受けさせてもらっていいですか……』

『何だと……!わかった!すぐに迎えを寄越す!だが大丈夫なのか!?』

『とりあえずは、私は無事……ぽいです、今の所分かってる損害はコーヒー一杯と時間と配信一回分くらいでしょうか』

『損害……なのか?』

 

 詐欺師の様な女「カリオストロ」、今度あったらどうしてやろうかと詩織は頭を抱えた。

 

 この後、メディカルチェックを受けつつ、エルフナインの協力まで取り付けて家の隅々まで盗聴器や「錬金術」による細工がないかの調査、さらには念を入れての「しばらくクリスの家への避難」まで取り付けられて恥ずかしい思いという損害を追加で受けた詩織だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだったカリオストロ」

「そうねーまー……「加賀美詩織」はあーし達の「敵」にはならない、ってトコかな」

「で、サンジェルマンにはどう報告する?」

「ただの聖遺物、あーしらのラピスには及ばない……とだけ」

「まったく、嫉妬しているワケダ」

「あら、バレちゃった?」

「腑に落ちないという顔をしている」

「そりゃねぇ、でも乙女の秘密を暴くのはいい女じゃないから」

「そういう事にしておく」



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IF番外編:幻想を追うもの

 

 私の血には歌が流れている。

 

 今はもういないあの人がくれた歌に、私は生かされている。

 

 ならば、私が成すべきは――

 

 

 

 

-Blue Cyclone-

 

 ノイズを打ち上げ、微塵に切り裂いていく青い光の竜巻の中から少女が飛び出す。

 

「お前で最後」

 

-Ray Blade Rain-

 

 右腕に固定された剣を振るえば、巨人の様なノイズに光の刃の雨が降り注ぎ、次々と突き刺さり、やがて形を維持できなくなったノイズは砕け散った。

 

 全ての敵を打ち倒し、地に降り立ったのは一人の少女、褪せた青のギアを纏ったその瞳に光はなく。

 勝利したというのに、その顔に喜びも安堵もなく、ただあるのは落胆のみ。

 

――さて、今日は「黒い奴」がいなかったけれど……

 

 瓦礫の山となった街を見渡す、積もった黒い炭はノイズのモノだけではない、今日も多くの者が死んだ。

 その事実に、自分自身の弱さに少女は溜息をついた。

 

『ご苦労様です、詩織。貴女のおかげで今日も人々の平和は守られました』

『そのつもりはない、ただ私はノイズを始末しただけにすぎません』

『それはそうと、今日こそは「本部」に寄ってくださいよ、そろそろ「除去」を行わないとマズいでしょう?貴女の代わりはいないのですよ』

 

――まったく、あのクソ野郎め……

 心の中で詩織はどくづく。

 

『今度は何人犠牲にした』

『6人、まぁ大義の為の仕方のない犠牲です』

『私も、貴方もろくな死に方はできそうにないですね』

 

 詩織はそれだけ言うと通信を切る。

 

 加賀美詩織、風鳴訃堂によって「再建」された特異災害対策機動部二課に所属するただ一人の装者であり。

 あの「惨劇」のただ一人の生き残りであり、天羽々斬の融合症例。

 

 そして現状「カルマ化」した黒いノイズを倒す事の出来る、ただ一人の存在。

 

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 二課本部、風鳴訃堂を最高責任者とし、その傀儡と大義の為ならば多少の犠牲を厭わない者達によって構成された掃き溜めの様な組織の、最も不快な場所。

 正直言えば、詩織はこの場所が嫌いだった。

 

 自分もまた、大義の為の犠牲を厭わない「弱者」の一人にすぎない、と思い知らされる、そんな気がして仕方が無かったからだ。

 

 カラカラと「荷物」の様に運ばれていく「被検体」の成れの果てとすれ違う。

 

――私もいつかああやって死ぬのか、それとも戦いの中で死ねるのか

 

「おや、意外に早い到着でしたね」

「着替えぐらいしてから出てきてはどうですか、ウェル司令」

 

 ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス司令、かつてアメリカのF.I.S.に所属する研究者であったが、旧二課が壊滅した後に日本に密かに研究成果と共に亡命し、二課再建の際に司令の座にまで上り詰めた男だ。

 とはいえ、彼が行うのは主に司令としての仕事ではなく、研究者・技術者として聖遺物、特にシンフォギアシステムの解析と運用・開発を行う事。

 

 二課の壊滅の被害は二人の装者「ツヴァイウィング」の死だけではなく、開発者であった櫻井了子の死も含まれていた。

 

 「カルマノイズ」とよばれる黒い変異体ノイズはそれほどの傷跡を残したのだ。

 

 

「確かに、君の施術に余計な混じり物があっては大変ですからね、英雄さん」

「その呼び方に悪意しか感じません、不快です、死にますよ」

「それは勘弁願いたい、完全な融合症例は貴女一人しかいないのですから」

 

 今、二課で行われているシンフォギアの研究開発方針は、生体との同化運用。

 つまり融合症例を人為的に作り出す方向だ。

 

 その為に日夜、孤児や「ホムンクルス」を被検体として実験を進めるが、何が悪いのか破損したガングニールや天羽々斬の欠片に適合する者は現れず、ただ死体が増えるだけ。

 

「それで、ホムンクルスを使った量産はどうなんですか」

「ホムンクルスへの刷り込みでもやっぱりダメですね、今回の分は全滅です。やはりきちんとした「愛」がなければ」

 

 シンフォギアへの適合は奇跡ではない、それぞれの適性と意志こそが適合を成す。

 

 そしてその根幹となるものが「愛」。

 

「そう!詩織さんの風鳴翼への想い程に強い愛があれば、間違いなく成功するというのに!」

「まぁ、そんな事はどうでもいいんです、さっさと除去作業して次に備えましょう、量産に成功しようがしまいが、私は死ぬまで戦う、それだけです」

「んもーつれない人ですね」

 

 詩織はウェルの戯言に付き合うつもりはない、と話を切り上げて施術室へ向かう。

 

「そう、私は死ぬまで戦う。それしか出来ないのだから」

 

 

 融合症例は、正規のシンフォギアとの適合と違い、適性を少しばかり緩くする事ができる。

 オマケに爆発的な適合係数と出力の上昇、そして負荷の軽減が期待できる。

 それはかつて二人の装者の命を奪った「絶唱」を発動しても、命にまったく係わらない程に。

 

 だが良い事ばかりではない、聖遺物が肉体を侵食し、最悪命を奪うというリスクも伴う。

 故にアンチリンカーと呼ばれる薬品を元に作られた除去剤で神経や臓器の命に係わるレベルでの侵食を除去しなければならない。

 

 おまけに除去を行えば行うだけ副作用として体に甚大な負荷もかかる、故に詩織は定期的に、大きな負荷になる前に除去を行う。

 しかし目下最大の問題は、その処置が出来るのがウェルしかいないという事。

 

 詩織はウェルの事がとてつもなく嫌いだった。

 それは、彼こそが己の、ただ一人の理解者だから。

 

 そしてただ一人の「仲間」だから。

 

 

 風鳴翼という「理想」の幻想を追い続ける子供。

 英雄という理想を追い求め続ける幼稚な男。

 

 

――まったく、気に入らない。

 施術台に横たわり、詩織は溜息をついた。

 

 





【挿絵表示】

ハバキリおりん、この世界のおりんは配信をやってません。
思いついたら続きます


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IF番外編2:KARMA

前の続きです、IFなので好き勝手やってます


 カルマノイズには確認されているだけで四つの特性がある。

 一つ、一方的に、無尽蔵に人間だけを炭素変換できる。

 二つ、高い再生能力を始めとしたこれまでのノイズを超越した戦闘能力。

 三つ、周囲の人間に破壊衝動を植え付け、殺し合わせる「呪い」。

 四つ、時間経過によって自壊する事なく、倒すまで何度でも現れる。

 

 つまりは、一度現れると凄まじい数の人間が犠牲となるという事だ。

 

――間に合わなかったか!

 

 二課本部の上層にある基地に辿り着いた詩織が見たのは、大量の黒い塵の山と二体の黒いノイズ、そこに「ガングニール」は居ない。

 

 

 ようやく見つかったガングニールの融合適合者、だが基地に居た者達は自らの「保身」の為、時間稼ぎの為に適合者をそのまま実戦投入した。

 

 その結果がこれだ。

 

『ウェル司令、到着したけど生きてる?』

『んがあああ!!せっかくの適合サンプルがあああ!だから投入は待てと言ったんだ!!』

 

――はぁ、元気そうで何よりだ

 

 どうやらサンプルの犠牲のおかげでウェルを始めとした二課の者は無事な様だ、詩織は安堵と呆れの溜息をつき、目の前の敵に向き直る。

 

 敵はたった二体、されど二体。

 

 カルマノイズは通常のノイズより遥かに強い。

 それこそ、ただ普通に戦えば決して勝てる相手ではない。

 

 だから切り札を使う。

 

「ゾアテックスモジュール、起動」

 

 アームドギアが変形し詩織の姿が変わる、青白い装甲が逆立ち、まるで獣の様な姿へと変わる。

 

 

 ゾアテックスシステム、融合症例であるが故にシステムの改良、戦闘力の向上を見込めない詩織に与えられた強化デバイス。

 「ダインスレイフ」と「ヤントラサルヴァスパ」を搭載し、シンフォギアの暴走を意図的に利用する為の「錬金術」由来のシステムだ。

 

 それは身に秘めた「獣性」を開放し、制御する為の力。

 前身である「イグナイトモジュール」はカルマノイズが持つ「呪い」によって理性を失ってしまい敗北を喫する事となった。

 その時は「テレポートジェム」によって難を逃れ、対抗策としてダインスレイフによって引き出すモノを「破壊衝動」ではなく「獣性」へと変える事となった。

 

 当然、強力な力にはリスクが伴う。

 「ゾアテックス」発動中は目に映る者全てを敵と認識する、それは強力な理性を以てしても制御できない、おまけに発動時間300秒の間は解除もできない。

 

 つまり完全な獣となるわけだ。

 

 だが、それは一人で戦う詩織にとってリスクとなりえない。

 

 

 手を前足に変え、四足の機械の獣として地を駆け、カルマノイズとの距離を詰める。

 頭部に左右上下一対として展開されたブレードが青い輝きを放ちだす、それを見てか一体の蛸足のノイズは後ろへと下がり、もう一体の人型ノイズが構えを取って前に出る。

 

「GRUUAAAAAAAAA!!!」

 

 咆哮をあげ、カルマノイズに飛びかかり、その胴にアームドギアで「喰らいつく」。

 

 そして自身の体を捻り、回転を加える、それはまるでワニが喰らいついた獲物の肉を「デスロール」でもって引き千切る様な動きで、ノイズの体をズタズタに破壊していく。

 

 -Ray Blade Fang-

 

 バラバラになったノイズの体が爆発四散、その衝撃を推進力とし、もう一体のカルマノイズ向けて空中を駆ける。

 

 それに対してカルマノイズもやられているだけではない、獣と化した詩織を迎撃しようと触手を伸ばすが、それは尽く「噛み千切られ」無力化される。

 さすがにまずいと感じ取ったのかカルマノイズが姿を消そうとするが、それよりも詩織が早かった。

 

 カルマノイズの頭に喰らいつき、そのまま前方向に推進、前転の形で別次元に逃げようとしたカルマノイズを引き摺り出した。

 

 そして、牙たる剣を輝かせて必殺の一撃を放つ。

 

-Plasma Roar-

 

 それはアームドギアの共振反応によって「プラズマ化した歌」を放つ、いわば簡易絶唱だ。

 

 光によって焼き尽くされたカルマノイズは粉々に砕け、塵と化す。

 

 

「Aoooooooooooooooooo!!!」

 

 そして勝利の咆哮をあげ、詩織は今日も「カルマノイズ」に勝利した。

 

-----

 

「で、申し開きはありますかウェル司令」

「どうもこうもないだろ奴らが勝手にサンプルを投入しただけの話!僕に落ち度はなっぁああい!」

「はぁ、貴方が司令でしょう、止める権限もないのですか」

「知ったものか!とにかくあの無駄飯喰らいどもを僕は許さんぞ」

「はぁ……わかりました……それじゃ始末します……「ノイズとの戦い」で死んだなら報告は必要ないでしょう?」

 

 加賀美詩織にはもう一つの顔がある。

 それは内部粛清を行う「執行者」としての顔。

 

 人格的に問題があるウェルが司令となり、行動に問題のある詩織が独自行動が許される理由。

 風鳴機関、特に風鳴訃堂の手先として、日本政府に不利な存在を消し去るという仕事。

 

 それをこなしつつも、利益となる事を続けている、だから二人は自由な狂人として行動できる。

 

「相変わらずおっかない……そんなにサンプルを潰された事にお怒りなのかい」

 

 その姿に思わずウェルは真顔になり、それに詩織は首を縦に振る。

 

「私はですね、大義の為の犠牲は認めます……けれど保身の為の犠牲は許さないんですよ」

「おお怖い怖い、僕も気をつけとこ……おっとこんな所に嫌な奴らのリストが~」

 

 メモ用紙を取り出し、ウェルはその場で3つの名前を書く。

 

「はぁ、また奴らですか……「錬金術師」なら自己防衛くらいしてもらいたいですね」

「役に立たないくせに声だけはデカイ、まったくもって邪魔なのになんで置いておくんだろうねぇ」

 

 現在、二課には複数の錬金術師が所属している。

 数年前、内部崩壊を起こした「パヴァリア光明結社」に所属していた錬金術師達を迎え入れたのだ。

 

 だが彼らの多くは大した貢献もせず己の保身と私欲の為に費用を貪り続ける寄生虫だ。

 貢献しているのは一部の者だけ、故に詩織もそろそろ「人員調整」を行おうと画策していた。

 

「今日の襲撃のノイズが基地に入り込んでいた、彼らは偶然それに遭遇してまった哀れな犠牲者」

 

 光のない瞳で、詩織は笑った。




元ネタ解説
・ゾアテックス
「ヘキサギア」に出てくるシステム、機械に動物っぽい動きをさせられる。


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IF番外編3:最後の審判

 最後まで戦う、私の成すべきはそれだけ。

 

 

 

 ソロモンの杖を取り込んだカルマノイズにより、バビロニアの宝物庫は開かれ、無尽蔵に溢れ出すノイズを前に世界は破滅の危機を迎えていた。

 

 

「座標はまだ出ないのかぁ!?このままじゃ人類平等に全滅だ!」

「やれるだけはやっている!黙して見ていろ!」

 

 位相空間の狭間にある居城「チフォージュシャトー」そこにいたのはウェルと詩織、そして金髪の錬金術師少女キャロル。

 

 かつて非道な研究さえも良しとした二課も既に壊滅し、残っているのは持ち出せるだけ持ち出したリンカーと除染用の道具一式、そして天羽々斬の欠片の予備だけだ。

 

 崩れた壁から外の様子を伺いながら、詩織は静かに胸の傷跡をなぞる。

 

 ――きっと、これが私が生かされてきた理由なのかもしれない

 

 このままいけば、後3日も経たずに人類は死に絶え、世界は滅ぶだろう。

 その前にソロモンの杖をカルマノイズから奪還し、バビロニアの宝物庫を閉ざす。

 

 この世界で今、カルマノイズと戦えるのはただ一人、

 

「加賀美詩織、お前も休んでおけ、これが正真正銘最後の休息になるだろうからな」

「……最後ですか」

「……ああ、勝つにしろ、負けるにしろお前は生きて帰れない」

 

 そして、カルマノイズの居るのは別次元にある「宝物庫の中」だ。

 

 キャロルが立案した作戦はただ一つ「テレポートジェム」の応用によって不安定な場所から宝物庫の内部へと「チフォージュシャトー」で突入する、そして内部に隠れているカルマノイズを始末する。

 その後、取り戻したソロモンの杖で内側からゲートを閉じた上でチフォージュシャトーの「解剖装置」としての機能を暴走させ、宝物庫を破壊するのだ。

 

 あらかじめシャトーの暴走は定められており、タイムリミットは15分、失敗すればシャトーの暴走に巻き込まれてこの世界も甚大な被害を受け、恐らく滅ぶ。

 制御装置としてヤントラサルヴァスパを使用する為、ゾアテックスモジュールも使用できない。

 

 だから、リンカーを持ち出してきた。

 

 作戦開始と同時に詩織に12本のリンカーを投与、融合症例を進行させて無理矢理に出力を上げて、カルマノイズに立ち向かう。

 

 いくら負荷を抑えたリンカーとはいえ過剰投与の結果として待つのは確実な死、そうでなくとも融合症例としての侵食の悪化でも間違いなく死ぬ。

 

 

「文句一つ言わないのだな」

「別に死ぬ事は怖くない……それよりも、私が居なくなった後の世界を頼みます」

「当たり前だ!滅びかけの世界を復興するのも英雄の役目だからなァ!」

 

 この危機を前にまったくもって元気な二人の姿を見てキャロルは呆れた。

 かつて父を奪ったこの世界への復讐などどうでもよくなる程に世界は壊れてしまった。

 

 世界を分解するつもりが、世界を救うハメになるとは。

 

「ああ、任せろとも……しっかりとお前の死に様を伝え語りついでやる」

 

 作戦の成功率は1割を切っている、はっきり言ってしまえば詩織は無駄死に、シャトーの自爆で世界も滅ぶ。

 それが一番ありえる可能性。

 

――奇跡でも起こらない限り、この世界は終わる

 

「オレが奇跡なんぞに頼るなど……」

「それは取り消してもらいましょうか、奇跡なんかではなく、この意志でやり遂げて見せるので」

「そうとも、英雄に不可能はーッ!無い!」

「やかましい、それにウェル、お前は何もしてないだろう!」

「失礼な!」

 

――釣り橋効果か、それともヤケになったか、少しばかり面白いじゃないか

 

 思わずキャロルは笑った。

 

-----

 

 半日かけ、ようやく「座標を設定した」シャトーが動き出す。

 詩織の体内の聖遺物の量も限界まで除去し、活動可能時間を増やす施術も完了。

 

 つまりは全ての準備が整った訳であった。

 

「さぁ、世界最後のショーのはじまりだぁ!」

 

 この後、ウェルとキャロルはテレポートジェムで別の拠点に退避し、シャトーと共に宝物庫に突入する詩織だけが残る。

 

「……最後ですし、せっかくですが言っておきますか……これまでありがとうございましたウェル司令」

「はぁっ!?」

「あなたが居なければ、私はここまで来れなかった……一足先に地獄で待ってますのでごゆっくり」

「急に殊勝な態度になるんじゃない気持ち悪い!いつも通り生意気な態度でいろよ!」

「そうは言われましても、最後ですので」

 

 たった2年程度の付き合いだが、少なくとも詩織にとっては理解者であり、恩人であり。

 

 ただ一人の友だと思っていた。

 

「……ならキチンと成し遂げろ、そしたらお前も英雄だよ」

 

 はぁ、と溜息をつき、ウェルはこれまでに無い程真面目な顔をしてそう言い放った。

 

「はい、必ず」

 

「悪いけどお先に避難先に行かせて貰う」

 

 それだけ言うと、ウェルは背を向けて振り返る事もなくテレポートジェムで先に避難した。

 

「まったく、素直でない……偏屈な男だな」

「同感です、だから最後まで信じられた」

 

 その様子を見てキャロルは呆れながら笑った。

 

「そうだ、これは餞別だ……少し身をかがめろ」

「なんですか……?」

 

 言われるがままに身を屈める詩織、するとキャロルが近づき。

 その唇にキスをした。

 

「な……なにをなさるのですか!?私にそういう趣味はありませんて!?」

「馬鹿者、頭に「術式を思い浮かべてみろ」」

「……!?」

 

 キャロルが今の一瞬に施したのは「記憶の転写」だ。

 完全な転写にはかなりの時間がかかるし、精度も荒くなる、だが、ほんの一部だけならば容易い事だ。

 

「そいつは「焼却」だ、生命・想い出、お前の全てを力に変える為のモノだ、これで勝率は少しは上がるはずだ」

「もっとマシなやり方がなかったのですか!」

「うるさい!そういうものなのだから仕方ないだろう!」

 

 二人して顔を真っ赤にして、言い合う様は他人から見れば微笑ましいものだったろう。

 

「……ですが、ありがとうございます。キャロルさんもここまで協力してくれて」

「世界を解き明かす、それが錬金術師であるオレの命題……それをこんな事で潰されたくなかった、それだけだ」

 

 短い時間、世界の危機だったが故に共に手を取り合えた。

 平時なら決して交わる事のない道だった。

 

「だから世界を救って見せろ、お前の歌で」

 

 それだけ言うとキャロルもテレポートジェムでシャトーを去る、残ったのは詩織一人。

 

 

「……これが最後、私は少しでも……あなたに近づけた、でしょうか?」

 

 手を血で汚し、無数の犠牲の上でも、それでも人を守りたいと、彼女の様に人を守る者になりたいと願った。

 

 

 シャトーの音叉が「終わりの始まり」を告げ、床や壁をすり抜けてノイズ達が侵入してくる。

 

 

「さぁ、行きましょう天羽々斬……私達の最後の戦いです」

 

 

 12本のリンカーを注射し、聖詠を唱える。

 眩暈も吐き気も、全て押し殺し、詩織は駆け出した。

 

 

 

-----

 

 世界を脅かしていたノイズの大群は、突如として姿を消した。

 生き残った者達はその静けさに困惑しつつも、助かったのかと安堵する。

 

 これからも多くの困難がこの世界を襲うかもしれない。

 しかし、どうやらこの世界はまだ続くようだ。



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ロード・フェニックス 炎との邂逅

新章です


 灰色の空の下、何処までも何処までも続く白い砂漠を一人で歩いていた。

 いつもの様に眠りについた筈が、気がつくと色の無い世界。

 

 肌身離さず持っていたイカロスもなく、あるのは胸の中の「フェニックスギア」だけ。

 

「何処まで……何処まで続くんですか…?」

 

 砂の感触、「太陽の無い」が故の肌寒さ、そして聞こえる風の音が、これが現実であると示す。

 既に三時間近くは間違いなく歩いている、けれど一向に変わらない景色に詩織は一つの選択をする。

 

「やるしかない……ですか」

 

 使うな、と散々言われ続けている胸の中にあるギア、その聖詠を唱える。

 

 光ではなく赤い炎が詩織の体を包み、プロテクターを形成、背中からは羽根の様に絶え間なく炎が燃えている。

 詩織は力強く砂の大地を蹴って跳躍して一気に灰色の空に飛び立ち、背中から噴き出す炎を推進力と変え、ロケットの様に地平線の向こうを目指し空を駆ける。

 

「光……?」

 

 そして地平線の向こう砂の山を越えた先、日の出の様に白い光が広がって。

 

 

 気がつくと詩織は夜の街の上を飛んでいた。

 

 真っ先に目に付いた「スカイタワー」のおかげで、そこが見覚えのある街であると詩織は安堵した。

 だが、今の景色は一体なんだったのか、そして何故自分は飛んでいるのか。

 謎が謎を呼ぶが、今はとにかく家に戻って、それからS.O.N.G.に連絡を入れるべきだ、と詩織は地上へ降りようとするが――

 そこで「家の鍵」がない事に気付いた。

 

 ならば行き先は、クリスの家かと方向転換する。

 

 

 だがそこで違和感に気付く、空がやけに明るい。

 夜空を見上げるとそこには――

 

「月が……何で欠けてない……!?」

 

 ルナアタック、フィーネにより一部を破壊された筈の月が、丸々と完全な円を描いていた。

 

 詩織はある「可能性」を感じて、リディアンへと向かう、それは新校舎ではなく、二課本部のあった旧校舎の方だ。

 

「やっぱり……!校舎が移転してない…!街も壊れてない……!」

 

 過去に来てしまったか、あるいは別の世界に来てしまったと詩織は確信する。

 

――さて、どうしましょうか、原因を探るも大事ですが、今は一文無しで居場所もない、何処を拠点としようか……

 

 1年も非日常に身を置いていたおかげで、詩織は冷静に次の行動を考える。

 二課、あるいはS.O.N.G.との接触は避けられない、この超常に対応できるのは同じ超常を扱う者だけだ。

 最悪の場合ではあるが、もし二課に相当する組織がなければ他の組織なんかを捜すしかないが……そこに関しては詩織は不安であった。

 理由はマリア達が居たというアメリカのF.I.S.など、非人道的な組織等であった場合、まず敵対する事になる。

 詩織の目的はあくまで「帰還」だ、拘束される様な事は避けたい。

 

「……行って、見極めるしかないですね」

 

 リディアン、特異災害対策機動部二課本部。

 詩織は「始まりの場所」へと舞い降りた。

 

-----

 

「未知の波形パターンを検知!データに合致無し!」

「リディアン内に降りてきました!映像でます!」

 

「やはりこれは」

「シンフォギア、ね……私達の知らない」

「とはいえ「ここ」の存在を知っている、とはな……」

 

 

「あたしに任せな」

 

「……穏便に頼む、まだ敵だとは決まっていない」

「わかってるよ、ただ向こうがやる気なら別だけどよ」

 

 

-----

 

 詩織はまた一つ、問題に直面していた。

 校舎の何処も開いていない上に、二課本部にアクセスする為の手段がない。

 端末やカードキーなど本部に立ち入る為に必要なアイテムが何一つないのだ。

 

 故に途方に暮れながら歌うしかない。

 

 歌ってギアの装着を継続していれば、もしも二課があるならアウフヴァッヘン波形を検知して接触してくれる、そう信じて歌う、おまけにギアを解除すると部屋着になるので、靴もないのだ。

 

「―いつか、彼方、神様も知らない世界で君と歌えたなら」

 

 フェニックスギアも、シンフォギア同様に歌を力と変える事ができる。

 こうして基本性能で使う限りは命を燃やす事もない。

 

 額から伸びる二つの「フェザーセンサー」が周囲の気配が増えていく事を感知する、皆、物影からこちらをうかがっている。

 それを確認し、ここがますます自分が居た世界でないと思い知らされた。

 

「奏で響き、翼の音、無垢たる独奏の調べ歌う……」

 

「いい歌だな」

 

「ありがとうございます」

 

 ようやく接触してきたのは一人の少女――詩織が知っていた者だった。

 

「天羽奏さん……で、間違いない……でしょうか?」

「ここだけじゃなくてあたしの名前まで知ってるのかよ……」

 

 燃える様なイメージを持った、ツヴァイウィング、風鳴翼の片翼、そして死んだ筈の装者。

 

「……ええ、色々知ってますが、それが正しいとは限りません」

 

 天羽奏はガングニールの装者であった、だが適合率が低く、リンカーという薬品で無理に動いている様な状態だったとそう詩織は「聞かされていた」本来ならこんな、未確認な相手との接触に出てくるべきではない。

 もしも正規装者がいるのなら、そちらが出てくる筈、少なくとも元居た世界ではマリア達よりも先に響達が出る。

 

 故に、詩織は「ここに翼はいない」か「出てこれる状態でない」とあたりをつける。

 

 

「で、アンタは誰で何が目的だ?」

「私は加賀美詩織――目的を率直に言えば、私が帰還するのを手伝って欲しいのです…自力で帰れない場所から来たのです」

 

 死んだ筈の者と、ありえなかった筈の可能性。

 出会う筈のない二人が、ここに出会った。

 

 

-----

 

「すると君は、違う世界の二課と、国連のタスクフォースに所属していたのか」

「はい、リディアン入学後にイカロスの装者として適合し、データ採取を行って、色々訳があり現在は融合症例という状態です」

 

 風鳴司令、その姿はよく知るもので、オペレーターの人達も見知った顔がいくつかある。

 けれどそこには翼さんの姿も、クリスさんの姿も、響さんの姿もない。

 

「……それにこちらでは大きな事件は無い、様ですね」

「ああ、月は欠けていないし、落下する事もない、おまけに錬金術師との戦いもない」

「それよりも気になるのは貴方のそのギア、一体何かしら?私の知らない聖遺物!」

 

 おまけに「櫻井了子」……つまり「フィーネ」が居る。

 

「……イカロスを纏っていた頃に私は一度死んでいます、その際にイカロスの素材として使われていた欠片の羽根……フェニックスの羽根と便宜上呼びますが、それが私を蘇生し、心臓でギアの特性を持って再生したモノで……意図せず完成したシンフォギア「フェニックスギア」と呼んでいます」

「フェニックス!ソレは凄いわ!ぜひ研究させて欲しいわ!」

 

 ……研究させていいものか、それはこの世界のフィーネを強化してしまうのでは?

 それよりも私は「帰らなければならない」、あまり長居も、したくは無い。

 

 もしこの瞬間も元の世界の時間が流れていたらどうしよう、皆を心配させたくない、何より私が翼さんが、皆が居ない世界で生きていられる自信がない。

 

 

 この世界では、風鳴翼が天羽奏の代わりに死んだ。

 

 黒い、カルマノイズと呼ばれるノイズの変異体と戦い死んだそうだ。

 

 私の居た世界にはいなかったノイズの変異体、それだけでも十分不安要素なのだけれど、更に不安なのは、この世界に居る装者が奏さん一人だという事だ。

 

 

「とにかく、元の世界に帰る手段を探す間、互いに利益をもたらす形で協力しましょう、その中にはノイズとの戦いやこのギアの研究なんかも含みます。代わりに私の一時的な拠点や所属の証明などをお願いできないでしょうか?」

 

 この世界に私を知る者は誰も居ない、私は孤独。

 

「いいだろう、明日には二課のセーフハウスの一つを貸し出せる様に手配しよう。二課は君を歓迎するぞ、加賀美詩織くん」

 

 けれど、世界が変わっても司令はいい人です、やっぱり。

 

-----

 

「話は終わったのか?」

「ええはい……」

「……あんたの世界じゃ、あたしはどうだった」

 

 扉を出て休憩室を向かおうとすると、外で奏さんが待っていた。

 

 おそらくこれを聞きたいが為に、ずっと待っていたのでしょう。

 

「……奏さんとは話した事がありませんでした、私が装者となった時にはもういませんでした」

「そうか、それで翼は」

「……翼さんは、居ます。今も戦っています……夢を追いながら」

 

 これは話すべきか、迷った、けれどやはり伝えるべきだと思った。

 それが残酷な事であっても。

 

「……よかった」

「……翼さんは向こうの「天羽奏」の想いを胸に抱いたまま進む事を決めました」

 

 でもそれは響さん達が居たからであって、この世界の奏さんは一人ぼっちだ。

 司令達が居るとはいえ、共に戦う仲間は、いない。

 

「……何かまた聞きたい事があったらいつでも聞いてください、話せる限りは話します」

 

 今の私に出来る事は……これだけです。



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ブレイズ&フェニックス

 

 

「……争った痕跡もなく、靴もそのまま、それに彼女の枕元にはイカロスのペンダントも置きっぱなし、まるで寝ている間にそのまま消えたような状態だった」

「ンな縁起でもねえ事を言うんじゃねえよ!オッサン!!どうせ前に詩織に手え出した奴に決まってる!」

「クリスちゃん!落ち着いて!」

「……確かにその可能性もある……警護を増員したとはいえ、その件が解決するまでの間は翼かクリスの側を離れない様に指示すべきだったのかもしれない……」

「師匠……」

「わりぃ……気が気ではないのはオッサンもだよな……それよりも……」

「ああ……翼には緒川がついている、この状況で一人になるのは得策ではないからな」

 

 

 

 

「詩織、無事でいてくれよ……」

 

 

 

-----

 

 「平行世界」へと迷い込み一日、詩織は貸し与えられたセーフハウスの窓から月を見上げる

 ここは自分の知らない世界、自分を知らない世界。

 

 今日得た情報は三つ。

 

 一つ、「この世界の加賀美詩織」は割と早死にしたらしく、6年前に両親からのネグレクトが原因の餓死。

 故に平行世界の自分と会う事はなかったが、複雑な気持ちでもあった。

 

 二つ、今の所「他の世界を繋ぐ」聖遺物は日本政府の記録にはない。

 

 三つ、カルマノイズという黒い特異体はライブの惨劇、風鳴翼が戦死した時のみ観測されている。

 

 対して詩織が開示した情報は二つ。

 

 一つはフェニックスギアの基本的な稼動データの開示。

 

 もう一つは向こうの世界では天羽奏が生存せず、風鳴翼が生存した事だけで、他の装者の存在はまだ明かしていない。

 

 それには理由があった、櫻井了子……フィーネの存在である。

 

 もしもこの世界にもマリア達が居るとして、フィーネの手駒として操られる可能性があり、現状において二課側の装者が奏と自分しかいない所を力押しで攻められると非常にまずい。

 おまけに居るかどうかは不明だがクリスもフィーネの手駒として居る、と想定しておくと。

 

 仲間にもなりえるが敵にもなりえる存在は出来るだけ増やさない方向がいいと、詩織は判断した。

 当然、仲間になる可能性、ノイズと戦える者が増えるという可能性を摘む事にもなりかねないが、ただでさえ知らない世界なので不安要素はできるだけ削りたい。

 

 詩織の目的はあくまで「元の世界に帰る事」だ。

 

――でも、そんな薄情な事は……したくないですね

 

 しかし可能性があるなら、出来るだけの事はやるべきだ。

 可能な限りの幾つかの情報は明かすべきだ、とも考える。

 

 

 だが一にしても二にしてもまず警戒すべきはフィーネ、次にこの世界だけの未知の事象「カルマノイズ」。

 

 

 

「ままならないものですね……」

 

 頼れる仲間は、誰もいない。

 リスナーも、装者も、大人達も。

 

 一人になってしまえば、自分の非力さを余計に思い知らされる。

 戦力としてもイマイチ、かといって頭もいうほどキレない。

 

 現実に抗うには、程遠い。

 

 

 この世界で新しく借りた端末から電子音が鳴り響く。

 

『加賀美くん、ノイズが現れた』

 

 どうにも悲観に暮れている時間もないようだ。

 

「わかりました、任せてください」

 

 誰かが助けを呼んでいる、ならば手を差し伸べる。

――きっと皆だってそうする。

 戦う理由はそれで十分。

 

 詩織は炎のギアを纏い、飛び立つ。

 

 

-----

 

 位相差障壁だけではなく、ノイズ自体も多少は再生する。

 それこそただの炎であればノイズは平気で突っ込んでくるだろう。

 

 だけれど、この炎は別だ。

 

 歌を炎に変えて、全てを焼き尽くす暴力と化す。

 避難誘導は順調でノイズ達は全て詩織めがけて迫ってくる、巻き込む者も居なければ安易に広範囲攻撃が出来るわけである。

 大気が揺らめき、火の粉が舞う、意志によってその流れをコントロールされた劫火がノイズを呑み込み、塵すら残さずに消していく。

 

――久しぶりですね、こうして一人で戦うのは

 

 仲間が居ないなら、仲間が居ないなりに戦えばいい。

 当然命までは燃やさないし、守るべきは力の無い人々。

 余計な所まで焼き尽くさない様には気をつける。

 

 殲滅だけを考えて力を振るうのは如何に楽な事か。

 

 今までフェニックスギアでの戦闘はたったの二回、一度目はアルカノイズ相手、二度目は全力のキャロル、故にその性能をまともに出す事が出来無かった。

 

 だがこうして落ち着いて制御して使えば――

 

「強い――」

 

 同じく飛べるイカロスよりも出力は高く、意志のまま動く炎はノイズを大小問わず纏めて焼き尽くす。

 そのリスク故にこれまで無理に使わない様にしていたが、最初からこの力を使いこなす方向こそが正しかったのではないだろうかと詩織は思わざるをえなかった。

 

――けれど過ぎた事は仕方がありません、これから慣らしていけばいいのです

 

 目の前に居るノイズの一団を消し去り、見える限りの殲滅を終える。

 

『こちら加賀美詩織、目標を排除しました。次の指示を』

『よくやってくれた、悪いがまだ奏の方が終わっていない。援護を頼む』

『わかりました』

 

 詩織はビル群よりも高く飛翔し、奏の戦闘する区域へ向けて飛ぶ。

 

――そういえば、奏さんの戦い方は……まあ邪魔にならなければいいでしょう

 

 奏が戦っている姿を詩織は見た事がない、故にかつてマリアがガングニールを纏っていた頃の戦い方を思い出すが、ノイズ相手ではなく装者相手に戦っている姿しか思い出せず諦めた。

 

 

 空を飛ぶノイズを通り過ぎざまに焼き払いながら、巨大なノイズを熱線で焼却処分する。

 ガングニールは一撃に特化している、と響を思い出し、ならばと小型のノイズの群を炎で包む。

 

「……ッ!なんだッ!」

「小物は受け持ちます、大型のノイズの始末をお願いします」

「いきなり来て上から指図かよ!」

 

――まあ、予想は……してましたけど

 

 奏は詩織と違ってずっと一人で戦って来た。

 よくよく考えればフォーメーションもコンビネーションもない。

 

 あったとして、それは今は亡きこの世界の翼とのもの。

 

 ゆっくりと地面に

 

「言い方が悪かったですね、互いに知らない事が多い、だから少し測り合いましょう――という事で」

「っ!言ってくれるな」

 

 煽るような形になってしまったが、詩織は一先ずノイズを倒す事だけを優先する為の提案をする。

 

――うまくはいかないものですね……

 

 ここに翼や響達が居たのならもっとうまくやれたのだろうか、と叶わないもしもを考えながら詩織は目の前の現実(ノイズ)を赤い炎で照らした。



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塵の一瞬の舞う朝陽に

しばらく書いてなかったのでリハビリなのでちょっと短いです
それと設定にフェニックス追加しました

【挿絵表示】



 

 朝陽に照らされ舞い散る塵が光を反射する、炭素分解された者の黒い塵と並ぶ様に、白い砂の様な塵の山が混じる。

 

「これは……?」

「念の為、回収班に回しておけ「例のもう一人」に関係あるかもしれない」

 

 まるで灰の様なソレは特異災害対策機動部一課から、二課の解析班の手に渡る。

 当然、櫻井了子の手にも。

 

------

 

 

 ノイズの犠牲となった人々の為に祈る。

 私の居た世界だってまだ完全に平和になった訳ではないし、いつどんな戦いが起きるかわからない。

 

 だけどノイズが現れる事はもうなくて、それだけ悲しむ人が現れなくて済む。

 

 けれどこの世界は違う、まだノイズの脅威は健在のままで、なによりノイズと戦う事の出来る者は一人。

 

 

「……何やってんだ」

「祈っていました、私が救えなかった人達の冥福を」

 

 この世界で、奏さんはどれだけ失ってきたのでしょうか。

 どれだけ救えなかったのでしょうか。

 

 世界に一人だけで、何時終わるとも知れない戦いの中に身をおく。

 

 奏さんは翼さんを失ってからも、ノイズと戦う心を失わず、ここに立っている。

 

「この世界で一人で戦って来たんですね」

 

 もし私だったら――

 ここまで戦い続けられるだろうか。

 

「……だったらどうした」

「一人で、多くの人を守ってきたんですね」

 

 ノイズとの戦いは誰かを守る事。

 

「同じ装者として、私は奏さんを……」

「今のあたしはそんなキレイなもんじゃない……あるのはノイズへの復讐心だけ、それだけだ」

「……奏さんがどう思おうと、私の主観では――奏さんは人を守れる防人に見えます、自分なりに翼さんの想いを……」

「お前がアイツの何を知って……」

「この世界の翼さんの事は知りませんが、私の世界の翼さんの事ならよく知っているつもりなので、こう見えても私の人生は翼さん無しに語れませんからね!」

 

 奏さんは、きっと自分を許せてないのだと思います。

 私がもし、翼さんを……誰かを犠牲に自分だけ生き残ってしまったなら、自分を許せないから。

 

 縁の深い筈である、翼さんや響さんではなく、何故私がここに来たのか、まだわからない、だから私に出来る事をやろうと思う。

 

「……はぁ、なんていうかお前……」

 

 そのつもりで真っ直ぐ奏さんを見つめると、奏さんが諦めた様に溜息をつく。

 が、その目は。

 

「なんですか、そのあほの子を見るような目は」

「お前、翼の事になると早口になるよな」

 

「エッ!?」

「気付いてなかったのかよ……」

 

 は……恥ずかしいわ!気をつけよう……。

 

 ともかくして。

 

「……それはそれとして!私がここに居るのは間違いなく「翼さん」の意志が介在するのです!故に!私は奏さんの助けになってみせます、私の意志として!」

 

「どういう事だよ」

 

「一緒に戦うだけじゃなくて、出来る限り何でも奏さんを助けます」

 

「正気かよ」

 

「正気です、こう見えて無茶振りには対応してきたので~あ、余裕ですよ!」

 

 とりあえず、まず私の活動方針が一つ決まりました。

 

 第一作戦「奏さんの心を支え隊(総勢一名)」

 

「なんか……テンション違くないか?」

「こっちの方が素ですよ、配信とか特異災害対策機動部の広報装者もやってたので」

「はぁ!?向こうじゃ秘匿されてねぇの!?」

「装者として顔出ししてるのは私だけですけどね!」

「ありえねぇ……正気かよ」

 

 呆れた、というより「マジかよ」って顔で苦笑いしている奏さんですが。

 

「ようやく笑いましたね」

「くっ……いやいや、そのセリフの使いどころじゃないだろ……」

「『やはり奏には笑顔が似合う』」

 精一杯の翼さんの声真似で追撃をする、こうみえて翼さんの声の出し方なんかも研究していたのが役に立つとは。

 ついでに表情も出来るだけ翼さんがよくやるように似せる。

 

「ぶっ……今の翼のマネかよ!?」

「よくわかりましたね」

「でも何かおかしくねえか?なんか翼はそんなキリっとした感じじゃなかったし……」

「こっちの翼さんは先輩として頼れる感じになりたいとキリっとしてますよ、防人ッシュな感じで、でもたまに武士道な感じなセンスが出てきたり」

「……やっぱりそりゃ違うな……でも何処か不器用な所は、変わらない」

 

 世界が違っても、翼さんはそんな人だった様で、なんだか安心した。

 

 おかげで初めて奏さんの笑う顔を見れた。

 

「もっと聞かせてくれよ、翼の事とか」

「はい、それはもう沢山語れる事はあるので」

 

 これでフェーズ1、取っ掛かりは完璧です。

 

 



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きらめき

 

 向こうにはどんな装者が居る、かですか

 この世界でも同じ様に適合できるとは限らないし、皆ワケ有りなので少し名前は伏せさせて貰いますが

 そうですね、例えば……

 

 繋ぐ手の彼女は、凄く強い人です、実際に装者としてもなんですけど、何度だって諦めずに手を伸ばし続ける人助けのプロみたいな人です……

 それに心の強さでは、はっきりいって敵う気がしません、ただし勉強はダメですね私と同レベルです

 

 銃使いな彼女は、そうですね……結構言葉が強いというか典型的なツンデレですね、意外と話しやすい相手です

 ただ突っ走りがち……いや、私達全員どこか突っ走りがちな面があるんですけど、結構繊細なんですよね

 でも将来は歌で世界を平和にしたい、なんて夢を持ってたり、表面だけで判断してもらいたくない子筆頭ですね

 

 銀の手のあの人は、母性ですね、母親ってああいうのをいうんでしょうね……私はよくわからないんですけど

 悪い事以外なら何でも出来る凄い人ですよ、あの人は……でもトマト嫌いだったりちょっと子供っぽい所もあったりするんですよね

 

 鎌のあの子は、常識人と自称してるものの結構お馬鹿……恥ずかしながら私同様に装者学力テストをすると下半分に入る子ですね、おまけに語尾にデスっていう安易なキャラ付けですよ

 でも底抜けに明るくて、元気なので子供らしい子供って感じますよねそこだけは

 

 鋸のあの子は、無口でクールで、鎌の子の相棒というかストッパーって感じですね、でも見た目クールでも心の中に熱いものをもってるのは皆と同じですね

 

 そして最後に、翼さん

 あの人がいなければ私がここに今生きている事もなかったでしょう

 勇気を、生きる希望を、世界に色をくれた

 世界に希望を届ける為に日夜装者としても、歌手としても活動してて

 海外進出まで果たしたんですよ?

 

 それでですね、何より向こうだと翼さんの方から私の事を友達だ、って言ってくれて

 もう、本当に私は翼さん無しでは生きていけないんですよ

 

 あ、また早口で気持ち悪くなってましてたかすいません

 

 とにかく皆、頼れる仲間です

 

 で、私なんですがそんな皆の活動を知ってもらう為に、世界に皆を応援してもらう為に広報をやっていました

 

 最初は流れでそうなってしまったんですけど、世界の為に戦っている人達が居ると知ってもらいたい

 いつか困った時に手を貸してまでは行かなくても、応援してくれる人が居るっていいじゃないですか?

 

 まぁ私個人の想いなんですけど、一緒に歌ってくれれば万々歳ですね

 歌は私達、装者の力でしょう?

 

 

-----

 

「お前がお仲間さんを大事に想っているのはよく伝わったよ、羨ましいよ……まったく」

「それは、まあはい……」

「……もし叶うなら会って見たい、かな」

「……叶う可能性は0ではありませんね、こうして私が居る様に、何かしらの理由で向こうの世界と繋がって、会える可能性もありますよ、むしろ繋がってくれないと、私が困るんですけど」

「そういやそうだな」

 

 いっそのこと、二つの世界が一つになってくれればいいのに。

 

 奏さんが生きてて、皆も生きてて、ノイズはいなくなって。

 でもそれはきっと無理だ。

 

 こっちで死んでいて、向こうで生きている人、こっちになくて、向こうにあるもの。

 沢山矛盾がある。

 だから多分無理だ。

 

 でも、私が帰ったなら、また奏さんは一人で。

 

 …………

 

 結局は、全部エゴで、何が正しいだとか何が間違ってるかなんて、結果でしか語れませんよね。

 

 無責任かもしれないけれど。

 

「もし奏さんがいいなら、私と友達になってくれませんか」

「……なんだそりゃ」

「ずっと一人で戦って来た奏さんを少しでも元気付けられる様にと……」

 

 

 

「無理だな、だってお前は元の世界に帰るんだろ?そしたらまたずっとお別れだ、あたしは……もう失いたくない」

 

 

 少しの沈黙の後に、奏さんはそう答えた。

 

 ……全部が全部上手く行くとは限らない、ですね。

 

「……すみません、変な話しちゃって」

「いいんだ、お前がなんだかんだあたしの事を気遣ってくれてるのはよく伝わった、でもこれはこの世界のあたしの問題だ、いつか自分で解決するさ」

 

 やっぱり私に出来る事は、少ないですね……私は無力、です。

 

 

「でも、仲間にならなってやらなくもない」

「えっ」

「帰るまでは、一緒に戦ってくれるんだろ?」

「はい」

「じゃあ仲間だ」

「はい……はい!」

 

 ……結局、私は自分が心細いから、誰かを求めていた。

 それだけなのかもしれません。

 

 気遣うつもりが、気遣われて……まったく私はダメな子ですよ……

 

-----

 

――まったく、世話の焼ける奴だ

 

 奏は内心溜息をつく、目の前の少女は誰に似たのか不器用で、積極的で。

 その誰とは言われなくても翼だ、翼に影響されてる、しかもその翼は別の世界の奏の影響で変わった翼だ。

 だからなんとなく分かる、分かった。

 

 まるで預けられた親戚の子を見ている様な気分、が近いと奏は感じた。

 

 だけど、まるで知らない環境にいきなり放り込まれたなら、こうもなるとも感じる。

 本当によく似た違う世界から来ているのなら、いや未知のあのシンフォギアと話から間違いなく違う世界の住人だとは確信していたが、不安にもなるだろう。

 

 一人ぼっちで、帰る場所もない少女。

 

――放っておいたら、翼になんて言われるかわからないからな

 

 ずっと、ノイズへの復讐だけを考えてた筈だった、戦う事以外を全て捨てて、歌う事さえ捨てた自分の姿なんて見て欲しくなかったと思っていた。

 

 だけど無くした何かを思い出した様な、そんな気がした。

 



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カルマの影

 

「それで、その灰の正体は分かったのか?了子くん」

「ええ、やっぱりこれはただの灰ではなかったわ……第一質料「プリマ・マテリア」つまりは世界の万物を構築する根源物質とされるものよ」

「つまるところ、彼女が?」

「そうね、十中八九、彼女が作り出したものでしょうね。ノイズを逆にプリマ・マテリアに分解しているとみて間違いないでしょう」

「それで、何かまずい事があったのか?」

「そうね……強いて言うなら敵となればシンフォギアのバリアコーティングすら抜けてくる対処不能の相手となるわね」

「……彼女に限ってはそうではないと信じたいが」

 

「彼女自身にそのつもりはなくても、誤射、洗脳されたり暴走したり、いくらでも考えられる危険性はあるという事よ」

 

 

-----

 

 次から次へと新しい敵がやってくる。

 

 あまりものノイズの数に奏の姿も見えなくて、遠くで響く破壊音だけまだ戦っている事を知らせてくれる。

 

「――ッ!!塵と消えろ!!」

 

 歌を炎と変えて、地面に叩き付ける事で炎の津波を起こして周囲のノイズを纏めて焼き尽くす――。

 

 だが無理が祟ったのか、ついに力が抜けて、詩織は膝を突いた。

 

――まだ、まだやれる……!

 

 それをなんとか無理を言わせて、立ち上がろうとして、詩織は前のめりに倒れた。

 

 まるで自分を支えていた何かが失われた様に崩れ落ちたが故に、詩織は自分の足を見た。

 そこには灰色に変色してプロテクター諸共に崩壊した右足と塵の山があった。

 

――っ!!

 

 咄嗟にそれが、自分の末路だと詩織は理解した。

 

 これが力の対価なのだと。

 

 

「嫌です……私は……私は帰るんです……翼さんの、皆の所に……」

 

 顔をあげれば、目の前にはまだまだ大量のノイズが居て。

 容赦なく距離を詰めて来る。

 

「私は……死にたくない!こんな所で!まだ!!」

 

 まだ動く腕を振るい、炎を操って、ノイズを焼き尽くしていくが、指先から段々と感覚が消えていく。

 

「帰るんだッ!!!翼さんの所にッッ!!」

 

 腕を振るった勢いで、右腕が根本から崩れて落ちた。

 

『おい!しっかりしろ!』

 

 ノイズの群を切り裂いて奏がこちらに向かって走ってくる、だがそれよりも早くノイズが近づいて来て。

 

 

 

 

『おい!目を覚ませ!』

 

 

 

 遠くに居た筈の奏が、すぐ側に居て、詩織を抱き起こしていた。

 

 

「か……奏さん、私、私死にたくない……!」

「大丈夫だ……お前は生きてる」

 

 崩れて落ちたはずの詩織の手足は元に戻っていて、段々と視界もはっきりしてくる。

 

 無数に居た筈のノイズは存在せず、景色も違う。

 そこは詩織がセーフハウスとして借りている部屋だ。

 

「……私、生きてる……?」

「ああ、しっかりとな」

「はは……よかった……でもどうして……あれ?」

 

 目が覚めると、ゆっくり詩織の頭が正常に動き始める。

 朝にノイズとの戦いを終えて、奏と話して、それから別れてから一度セーフハウスに戻って体を休ませようとベッドに倒れこんだ。

 

「今のは、夢……?」

「ああ、夢だ」

「でもなんで奏さんがここに?」

 

 セーフハウスの場所は知らされていた筈だが、合鍵はまあ持っているだろう。

 だが奏は何の用事で来ていたのだろうか。

 

「連絡しても出ねえって事で近くに居たから様子見てくれって言われたんだよ、そしたら部屋の前でお前の叫び声が聞こえたんだよ」

「……すみません、お見苦しい所を……」

 

 どうやら端末の連絡に気付かず寝ていた挙句に魘されていた様だ、と奏に抱きかかえられたまま詩織は顔を真っ赤にした。

 

「……あの、もう大丈夫です」

「……」

 

 転げ落ちただけでなく、夢の中と連動して這い回った様でベッドからは距離があり所々ぶつかった様で全身が痛いが、詩織は大丈夫と言う。

 

「……そろそろ離して貰えると」

「本当に大丈夫なのか」

「とびきり悪い夢を見ただけです」

「帰れずに死ぬ夢か」

「はい……」

 

 奏が聞いた詩織の叫びは、彼女が夢の中で叫んだものと同じだった。

 

「私は、帰りたい……皆のいる世界に帰りたいです……でも、どうすれば帰れるんでしょう……?どうやって来たのかすらわからないんですよ……」

 

 詩織の不安に、奏はどうしてやればいいのか考えた、どう答えてやればいいのか。

 

「あたしにはその答えはわからない、けど生きるのを諦めるな……!そうすればチャンスは必ず来る筈だから」

 

 生きてさえ居れば、可能性はゼロじゃない筈。

 奏の答えは目の前で不安に怯える少女を勇気付けてやる、それだけだと思った。

 

――そうだろ?翼……!

 

「お前は絶対死なせない、だから諦めるな」

 

 もう何も、奪わせるものか。

 

 

-----

 

「奏さん、さっきはありがとうございます」

「あたしがしてやれるのは、お前が死なない様に守ってやる事だけだ」

「……私も、諦めない様にしようと思います」

「それでいい」

 

 二人は二課本部の廊下を歩いていた、理由は「呼び出し」だ。

 どうにも到着してから話すらしく、何の用件なのかは詩織は知らなかった。

 

「よく来てくれた加賀美くん、さっきは大丈夫だったか?」

「ご心配おかけしました、やはり超常的な目にあえばやはり不安になるもので、悪い夢を見てました」

「そうか、そんな君に一ついい知らせがある、了子くん」

 

 風鳴司令の合図に櫻井了子はモニターを切り替える。

 

「これって、アウフヴァッヘン波形?」

 

「半分正解で半分外れよ、これが三日前、貴方が現れた時に観測された「時空の歪み」の波形パターンよ」

「時空の歪み?」

 

「そう、ノイズが現れる時のエネルギーパターンに近いわね、そしてこの波形パターンは……過去に数回観測されているわ」

 

 了子の言葉に詩織は目を見開く。

 

「つまり、きちんと帰れる可能性はあるって事かよ」

「そうね奏ちゃんの言うとおり……でも一つだけ悪いニュースもあるわ」

 

 そう言って、もう一度モニターを切り替える。

 そこに映ったのは黒いノイズ、そして崩壊したライブ会場。

 

 

「観測された中で、一番直近なのが詩織ちゃんの来た歪みとして、その次に近かったのが」

「カルマノイズ……ッ!あの惨劇だと!」

 

 奏が叫んだ、それはこの世界の風鳴翼の命を奪った事件だから。

 

「もしかしたら、もしかしたらの段階だけどカルマノイズと何かの関係があるかもしれない……それだけは頭に入れておいてね」

 

「カルマ……ノイズ……」

 

 詩織は、言い知れぬ不安と共に、恐らく近いうちにこの敵と出会うであろう確信を抱いた。

 

 モニター越しの過去のデータからも感じられるその禍々しさに、詩織は手が震えるのを感じた。

 

 だがその震えは別の要因で止められた。

 

「安心しろよ、何が来ても絶対お前を守ってやる」

 

 奏が詩織の手を握っていた。

 

「必ず、お前を元の世界に返してやる」

 

「奏さん……」

 

 その言葉に詩織は、安堵の笑みで返した。

 



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ユナイト・フェニックス

 風鳴翼は、戦場に立っていた。

「馬鹿な!バビロニアの宝物庫は閉じられた筈では!」

 

 剣を煌かせ、群がる「ノイズ」を蹴散らす。

 そう、ネフィリムの爆発、ソロモンの杖の消失により完全に封印されたと思われたノイズが街に溢れる。

 

「何が、何が起きている!!」

 

 更に異常事態は重なる。

 ノイズを前にして人々は逃げ惑う事なく、まるで暴動の様に理性を失い、人間同士で傷つけあう。

 

 翼はノイズと戦いながら緒川と共に暴徒と化した人々を影縫いで止めていくが、それでも限度がある。

 

「翼さん!」

 

 故にそのノイズの接近に気付くのに遅れた。

 

「なッ!!」

 

 黒い「少女型」のノイズの腕の半ばで一閃が防がれ、噴出した炎がギアの一部を焦がすが、翼は間一髪直撃を避ける。

 

「なんだこれは!!」

 

 暗闇の様に黒い、顔の無い少女の形、今まで見た事のない敵はバリアコーティングをも突破してくる炎を操る。

 

 そして、そのシルエットは。

 

 

 

 

 彼女(加賀美詩織)の姿によく似ている――。

 

 倒されたノイズの炭が燃え、白い灰が立ち上がり、新たなノイズを形成する。 

 

 

「一体……何が起きている……ッッ!」

 

 

 

 

---------------------------

 

 

 詩織がこの世界に来て5日が経った。

 ノイズが新たに現れる気配もなく、同時に帰る見通しも手がかりも新たに得るモノもなかった。

 

「やっぱり世界が違うと街も細かい所は違いますね、あの電気屋、向こうだと潰れてました」

「そうなのか、というか何で電気屋ばっかりに詳しいんだ」

「そりゃ私のパソコンの機材を買い揃えたりゲームしてましたし」

「通販は使わないのか?」

「ある程度使い慣れてるモノの予備を買うときなんかは使いますけど実際足を運んでみると新しい発見があって楽しいものですよ」

 

 故に時間も余るというもので、持て余した時間を有効活用しようという事で詩織は奏と行動を共にしていた。

 だがどちらかというと、何もせずにいれば元の世界の事ばかり考えてしまうので何かで気を紛らわせようという方が正しかった。

 

 故に少し遠出をして買い物に出かける事にしたのだ。

 ちなみに詩織の小遣いは司令が出してくれた。

 

「そういや広報としてだけじゃなく配信もやってるって言ってたな」

「はい、私だけじゃなく翼さんもネットラジオの配信をやったりしてましたよ」

「マジかよ……」

「ちなみに私の配信中に突然電話で凸して来たりもしましたね」

「……そうか」

 

 奏が少し寂しそうに笑う、それに詩織はしまったと思った。

 この世界では翼は死んでいるのだ、それも奏の目の前で。

 

 いくら別の世界の可能性だとはいえ、生きている可能性を嬉々と語られればどうなるか。

 同じ様な事を自分がやられたらどう思うか、と考え詩織の表情が曇った。

 

「……すみませ」

 最後まで言い切る前に詩織の頭の上にやさしく手が置かれた。

 

「別にお前は悪くないよ、むしろ翼が元気に生きてる世界があるって知れただけであたしは十分だ、それよりお前自身の事とかもっと聞かせてくれよ」

 

 と言われても、と詩織は少し困る、というのも詩織の人生は殆ど翼無しでは成立しない、どこかで翼が絡んでくるのだ。

 

「あー……そうですね私の配信者としての話なんてどうですかね、向こうじゃ「おりん」なんて名乗って歌ったり、ゲームプレイ配信したり、料理作ったりもしてましたし」

「歌えるのか?」

「はい、まだ全然勉強中ですけど少しは」

 

 それこそ自信ありげ、という感じに詩織が笑い、奏は興味深いという顔をする。

 

「そうか……それは」

 

 聞いてみたいな、奏が言葉の続きを紡ごうとした時、爆発音と共に悲鳴が上がった。

 遅れて警報が鳴り出して、二人は顔を見合わせると無言で現場へと向かう。

 

 逃げ惑う人々を避け、詩織が目にしたのは人々を襲うノイズの群れと、ノイズが迫ってるにもかかわらず殴りあう人々の姿。

 

 何が起きているのかを調べるよりも、目の前に敵がいるならばやる事は一つだった。

 

 聖詠。

 体を炎が包み、赤きフェニックスのギアを纏うと詩織はノイズの群れに炎を纏わり付かせ、焼却していく。

 

「なにやってんだお前ら!こんな事をしてないでとっとと逃げろ!」

 

 同じくしてガングニールを纏った奏が避難もせずに争う人々を止めようとするが――

 

 人々は止まる様子もなく、その目も正気のものではなかった。

 

「何が起きてやがる!?」

「奏さん!ノイズは私が引き受けま――」

『気をつけろ!ノイズだけではない!何かいるぞ!』

 

 ノイズを焼き尽くす炎が、渦巻き、一点に収束すると爆発する。

 そんな操作をしていないと、詩織が驚き視線を移すと――。

 

 そこには黒い少女の様な人型の「ノイズ」が立っていた。

 

 

『波形パターン照合……カルマノイズだとォッ!!?』

 

「あれがカルマ……ノイズ!」

 

 炎が舞い瓦礫を呑み込み、白く輝く灰が降る。

 そして降り注いだ灰が白いノイズの群へと姿を変え。

 理性を失って争っていた人々へと襲い掛かる。

 

「させるか!!」

 

 奏はガングニールのアームドギアである槍を振るい、白いノイズを切り裂く。

 詩織も負けじと炎で通常のノイズを焼き尽くしていくが――

 

「――」

 

 カルマノイズが一気に詩織に距離を詰めて、炎を纏った鉤爪を振るい、炎のプロテクターを引き裂く。

 

「ぐぅーッ!?」

 

 強化されていないとはいえバリアコーティングを貫通分解し詩織の腕から血が噴き出す。

 

「詩織ッ!」

 

 次から次へと灰から生まれるノイズは数を減らす事はなく、さらには暴徒と化した者達が次々と倒れ出す。

 それは肉体の限界を超えた為であり、つまり。

 

「また……またあたしの前で人が死んでいくッ……!!!」

 

 失血、全身の打撲、さらにはノイズにまで向かって飛びかかるなど、次々と人が死んでいく。

 

 そしてその瞬間にも、詩織を狙ってカルマノイズが猛攻を続ける。

 

「焼いても焼いてもッ!!」

 

 バリアコーティングさえも貫通する攻撃を紙一重で回避しながら、炎を纏った掌でカルマノイズを焼き尽くそうとするが、ダメージを与えるそばから回復され、決定打にはならない。

 

 更に。

 

――死ね、加賀美詩織

 

 自分の声で、詩織の中に「何か」の怨嗟が聞こえる。

 

――いなくなれ いなくなれ 消えてなくなれ

 

「消えるのは……お前だッッ!!!」

 

 

 このままでは「死ぬ」。

 死ぬよりは、良いと詩織は禁じ手を使う。

 

 

――命を、燃やせ!

 

 フェニックスの力によって「命」を焼却し、力へと変える。

 

 輝く右手でカルマノイズの胴を貫き、命の炎によってカルマノイズを焼き尽くす筈だった。

 だがカルマノイズの姿は炎と掻き消え、詩織の後ろに回りこんでいた。

 

「な……ッ!」

 

 振り返るよりも早く、鉤爪が振り下ろされ、詩織の胸から脇腹に掛けて右から左へと一閃。

 一瞬遅れて、血が噴き出す。

 

「てめぇえええええ!!!!」

 

 奏が怒りのまま投擲したアームドギアがカルマノイズの左肩を抉り、吹き飛ばす。

 

 カルマノイズも片腕を破壊された事によりバランスを崩して後退り、後ろに倒れる詩織を奏が抱きとめる。

 

「詩織ッ!!!」

 

 血に染まった胸はまだ上下している、か細いながら詩織はまだ息をしていた。

 

 夕焼けに照らされるその光景はまるでいつかのフラッシュバックの様で。

 

「ダメだ、生きるのを諦めるなッッ!」

 

 必死に語りかける奏の手に弱々しく、詩織の手が重ねられる。

 

「かな、でさんは……にげ……て」

 

 詩織の視線は奏ではなく、左腕を欠損しながらもまだ健在なカルマノイズに向けられていた。

 

「出来るかよ……ッ!そんなことッ!!もう……もう何も奪わせるものか!!」

 

 片腕に詩織を抱きながら、奏はもう片手にアームドギアを構えて、カルマノイズ向けて駆け――。

 カルマノイズから放たれた炎を切り払おうとした。

 

 だが無双の一振りである筈の槍は脆く砕け、奏はかろうじて身を捩った事で致命傷を逃れたもののプロテクターを抉られて大きなダメージを負った。

 

「あたしは……ッ!あたしには何も出来ねえのかよ!あたしには何も守れないのかよ!!」

 それでも、詩織を離す事はしなかった。

 

――死にたくない、ここで終わりたくない

 

 詩織はぼやける視界で奏の顔を見る。

 

――私も、まだ死にたくないよ

 

―――生きる事を諦めないで

 

 

 ここに居ない仲間の声が聞こえた気がした。

 

――そうだ、私達はまだ、まだ終われない

 

――まだ何も始めてない!

 

 

 詩織の胸のギアが輝きを放ち二人を包む。

 

 

 そして光が止んだ時、そこにはガングニールの上から更に炎の鎧を纏った奏が立っていた。

 

「これは……まさか!」

 

――奏さん、まだやれますか

 

 詩織が、かつて響相手にやった様にその姿をアームドギアへと変えたのだ。

 

「ああ、なんとか……な!」

 

 受けたダメージがなくなった訳ではない、けれど立つだけの力は再び得た。

 

「いくぞ、詩織!」

――はい!

 

 二人で一人となり、カルマノイズが率いる白いノイズの群へ向かって奏達は炎の槍を振るう。

 

 先程まで倒しても倒しても灰から再生したノイズ達が、今度は塵も残さずに蒸発していく。

 

 それに対してカルマノイズは巻き込まれまいと、後ろに飛び、姿を消した。

 

 それまで無数に居た筈の白いノイズはたったの一撃で一体残らず燃え尽き、消え去る。

 

「やった……のか?」

 

 再びギアが輝き、二人のギアが解除され、光から詩織の体が再構築されて現れる。

 

「ッ!詩織!」

 

 力なく倒れる詩織の体を支える奏は、その呼吸と心拍から生きていると確かめるが、詩織の意識はなく、また先程まであった大きな傷も、流れた血も消えていた。

 

「生きてる……よかった……」

 

 それは詩織に向けたモノだけではなかった。

 

 奏は、自分がまだ生きている事に安堵した。

 

 

 日が没して、月が昇り、二人を静かに照らしていた。



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 黒いノイズの左腕が突然「自壊」して消失、周囲の白いノイズもまた突然蒸発した事で翼は難を逃れた。

 

 それから一夜が明け、装者一同はのS.O.N.G.の本部に居た。

 戦闘によって得たデータから可能な限りの解析が終わった為である。

 

 要点を纏めると

・黒いノイズを始めとしたノイズはこの世界のモノではなく、バビロニアの宝物庫由来のノイズ・アルカノイズとは違った出現パターンを持ち、黒いノイズ自体から時空の歪みが検知されている

・周囲の人間がおかしくなっていたのは黒いノイズが放つ波長が人間の精神に影響を与えていた為

・黒いノイズの放つ炎はアルカノイズ同様に解剖器官として機能している、白い灰の様なモノはプリマ・マテリアである、バリアコーティングを突破して来たのは純粋にエネルギー量の違い

 

 エルフナインと他のスタッフが「解析」できたのはここまでだ。

 

 残りは推測となる。

 

「まだ推測なのですがあのノイズは、二つの世界にまたがって存在すると考えられます」

 

 エルフナインの言葉と共に、モニターが切り替わり三つのアウフヴァッヘン波形が表示される。

 

 一つは翼のアメノハバキリだ、あの場で直接黒いノイズと戦っていたのは翼一人だった。

 

「これって……まさか!」

「私達が纏っていた……」

「ガングニール!?」

 

 響とマリア、そして翼はこの波形に見覚えがあった。

 

「はい、ガングニールです。これは黒いノイズが突然ダメージを受けて崩壊した際に、数秒間だけ検知されたモノです。当然ながら響さんがまだ現場に到着していなかった為、これは響さんのモノではないと思われます……そして三つ目ですが、これは「詩織さんのギア」の波形パターンです」

 

「詩織のッ!?」

 エルフナインの言葉に翼が驚きの声を上げる。

 

「はい、これまで完全に秘匿されていたデータですが、これは詩織さんのギアの波形パターンです……これも微弱ですが何度か検知されています。おそらく、翼さんが見たという突然のノイズの自壊は別の世界で詩織さんと、もう一人……誰かがこのノイズと戦っていた為に起きたと考えられます」

 

「つまりは……どういう事?」

 響はさっぱりという顔をする。

 

「簡単に言ってしまえばあのノイズは巨大な壁の様なもの、僕らの世界の側から見ると裏側は見えない、けれど裏側は存在しているのです」

 

「……あ!裏側から詩織さんと誰かがノイズに攻撃をしたから穴が開いたという事!?」

 

「そういう事です、二つの世界の壁に穴があいたが為に向こう側のアウフヴァッヘン波形が検知できた、という事です」

 

「待て、それではまるで詩織は「別の世界」に居る事に……」

 

 エルフナインの説明に翼が気付き、他の装者達の表情が曇る。

 突然消えた仲間が、別の世界に居る。

 今まで超常と戦って来たがそれはあくまでこの世界の中での事だ、別の世界となればどうすればいいのかなど分からない。

 

 

「……行ったのなら、帰ってこれる筈」

「そ、そうデス!調の言う通り!バビロニアの宝物庫に入った時みたいに入り口があるなら出口もあるはずデース!」

 

 そんな中、調と切歌が自分達が過去の戦いで体験した事を思い出す。

 

「でも、あれはソロモンの杖があったから出来た事……何か鍵となるモノがあれば……」

 

 ネフィリムとの戦いの際、実際にソロモンの杖を使い宝物庫への扉を開いたマリアが考える。

 

「つまりよ、そのノイズが鍵なんじゃねぇか?」

「どういうことだ雪音……?」

「黒いノイズは自壊せずに「逃げた」つまりは世界を渡る力を持ってる訳だ、ならそのノイズを使えば世界を渡れるんじゃねぇか?」

「だがどうやって?ソロモンの杖の様にノイズに命令する事が可能なのか?」

「そりゃ……わかんねえけど……」

 

 翼とクリスのやりとりを聞いてエルフナインが閃く。

 

「可能性は、あります……!ノイズを扉として扱う事が出来れば世界を渡る事が出来るかもしれません!」

 

「なんだと!?それは本当か!」

 

「はい、しかしそれには大きなリスクが伴います、もしかしたらこちらから行ったきりで戻って来れなくなる可能性も、それに詩織さんの居る世界に辿り着けるという保証もありません」

 

 

 

 

-------

 

 カルマノイズとの戦いから一日、詩織はまだ目を覚まさない。

 

「なあ了子さん、ちゃんと詩織は起きるんだよな……?」

「ええ、ひどく消耗こそしているけど命に別状はない筈よ……ただ、アームドギアそのものになる事で他者と「合体」してギアの出力を飛躍的に上昇させるなんて、とんでもない機能……いえ能力というべきなのかしら」

 

 加賀美詩織とフェニックスギアは一体である。

 その力を得た詳しい経緯などはまだ語られていないが、少なくとも開発者である櫻井了子をして理論も不明、再現性もない力だ。

 

「…………了子さん、あのカルマノイズにあたしだけで勝てるかな」

「難しいと言わせて貰うわ、それに……あのカルマノイズと戦っていて何か気付く事はなかったかしら?」

「何って……やたら強くて、ギアのバリアを貫通する炎なんて使ってきて……炎?」

「そう、あの炎は……詩織ちゃんが使う炎と全く同じモノなのよ……これはどういう事かしらね」

「何が言いたいんだ了子さん」

 

 櫻井了子にとっても、フィーネとして生きてきた過去の歴史の中でもカルマノイズはここ最近現れた未知の存在だ、おまけに突然現れた異世界の、自分の知らないシンフォギアシステムの装者まで現れ、それが同じ能力を持っている。

 

「これまでただ一度しか確認されなかったカルマノイズが、この子がこの世界に迷い込んできて再び現れた、そして同じ力を使う、何の関係もないなんてありえない。つまり何かの繋がりがある筈なのよ」

 

 何者かの思惑などではない、ただ何かの事象が連続して繋がっている、了子はそう確信している。

 

「とにかく、カルマノイズに挑むとしても詩織ちゃんの回復を待ってからの方がいいわ、その方が確実だわ」

 

 

 二課のメディカルルーム、了子が去り、奏と残るのは眠ったままの詩織だけ。

 

「……こうしてると、翼と居た頃を思い出すな」

 

 誰に語りかける訳でもなく、呟く。

 

「あいつよりむしろあたしの方が無茶をして……」

 

 俯いて、拳を握り締める。

 

「あたしは……あの頃から、一歩も進めちゃいない……」

 

 



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残り火

 

 降り注ぐ灰を吸い込み、げほげほと咳をする。

 

「ここは…?」

 

 体に積もる白い灰を崩しながら身を起こしたのは詩織だ。

 

「ッ!!」

 

 空はまるで夕焼けの様に赤く染まり、街は見渡す限り黒い焦土と化していた。

 スカイタワーもまるで飴細工の様に溶けて倒れ、地獄としか形容できない景色。

 

 

「そうだ……奏さんは……ッ!二課の皆さんはッ……!?」

 

 詩織は貸し与えられた通信端末を手にするが、それさえも黒い炭と化していた。

 

 

「そんな……一体どうして……」

 

 身に纏ったギア一つ、それ以外には何も無い。

 

 頭をよぎるのはあの黒いノイズ、だがそれならば何故自分だけは無事なのか。

 

 

 

「どうして……私だけ?」

 

 

「それはお前が、許されない存在だから」

 

 

 よく知る声だった、人生と同じだけ付き合ってきた声だった。

 

 鳥を模した仮面、砕けて半分露出した部分から見えるのは紛れも無く。

 

「わ…たし…?」

「そうだ、私は未来の加賀美詩織。仲間を殺し、信じてきた者を殺し、全てを殺したお前自身だ」

 

 もう一人の加賀美詩織だった。

 

「違うッ……!私が皆を殺すなんてありえない!お前は私じゃない!!」

 

「……それでもお前は私になる、それは避けられない運命……だから私はお前を……加賀美詩織を殺しに来た」

 

 何処までも深く、何処までも暗い絶望と怨恨、そして後悔の篭った声に詩織は反射の様に炎を収束させ、槍として目の前の「鏡写し」の自分目掛けて放つ。

 

 だがその炎はすり抜け、霧散する。

 

「――とはいっても、既に私自身も「残照」に過ぎない。あれだけあった「神の力」もお前に直接干渉できる程も残っていない」

 

「何を訳の分からない事ばかり並べて!結局何をしに…!」

 

 

「そう、お前に忠告に来た……というよりは、お前が心安らかに死ねる様に説明に来た。あの黒いノイズ……カルマノイズには私の「残り火」を与えている、あれには「神の力」が宿っていてな……詳しい理屈を説明してもお前にはわからんだろうが、結論から言うとお前が死ねばカルマノイズは消え、私自身も完全に消えるだろう」

 

 仰々しく、身振り手振りを交えながら目の前の「壊れた」詩織が笑う。

 

「お前は、風鳴翼を犠牲に生き残り、雪音クリスを騙して殺し、暁切歌を死なせ、月読調の喉を焼き、マリア・カデンツァヴナ・イヴの心を折り、最後には立花響の願いをも砕き、世界を焼き尽くした……だからこの世界で死ぬべきなのだ、この世界で死んで、居なかったことになれ、そうすれば……」

 

 まるで祈るように、まるで願うように。

 

「そうすれば、皆が救われる」

 

 かつて詩織だった女は、それが最後の希望だと告げた。

 

 

 

「そうですか」

 

 だが詩織はそれを冷ややかな目で見返した。

 

「確かに、私が思いつきそうな事ですね……私も皆を犠牲にしたらお前みたいになるのでしょう」

 

 

「わかってくれたか」

 

「でもお前の思い通りになるつもりはありません」

 

 

 詩織は再びフェニックスの炎を纏い、それを収束させる。

 

「だが、カルマノイズを倒したとしてお前は元の世界には帰れない」

 

「いいえ、帰ります。私は必ずあの日の続きに帰ります……私は皆を信じています」

 

「信じたとして!お前はここで一人朽ちる!」

 

「いいえ、一人ではありませんね、この世界には奏さんもいる、それにまだ私の知らない人達だっている、だから」

 

 繋ぐ手、立花響が、風鳴翼が、雪音クリスが、皆が教えてくれたひだまりのあたたかさを失わない為に、右手に「太陽」を握り。

 

「私はお前にはならない!」

 

 目の前の虚像を燃える拳で打ち抜き、景色諸共に焼き尽くす。

 

――その甘さが!絶望を招くと知れ!そして後悔するがいい!その時、お前は私となる!

 

 まるで負け惜しみの様に劫火に焼かれ、「亡霊」が燃え尽きる。

 

 

 そして世界がガラスの様に砕け―――

 

 

------

 

「ここは……」

 

「詩織!ようやく目を覚ましたか!」

 

 目を覚ました時、そこは二課のメディカルルームであり、そばにいたのは奏さんでした。

 

 あの光景、あの亡霊の様な存在は夢――……の様でしたが、まるっきり夢と断言するには少し無理がありそうです。

 拳を握れば力が漲ってくる、フェニックスの力の使い方が少し理解できた気がする。

 

 

 

 ひだまりのあたたかさを忘れないための手。

 

 

 拳を開いて右手を奏さんの手に重ねる。

 

「……あたたかいですね、奏さんの手」

「……どうしたんだ詩織?もしかしてまだ寝ぼけて……」

「いえ、自分から手を繋ぐのって初めてだなって思って」

「やっぱり寝ぼけてるんじゃねえか」

 

 確かに寝ぼけているかも、でも。

 

 どうして今まで気付かなかったんでしょうか。

 ……いえ、遠くなったからこそ、一度見えなくなったからこそなんでしょう。

 

 私はいつだって皆と一緒に居た、皆に支えられて生きてきた。

 それがようやくわかった気がします。

 

 だから。

 

 だからこそ、私に出来る事を、私のすべき事を。

 

 



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私に出来る事を

「詩織ちゃん、二人だけで話したい事って何かしら?」

 

 私に出来る事を考えた、私一人の手では届かない事を知った。

 

 だから考えた、どうすればそれが叶えられるのか。

 

「あなたにしか、お願いできない事があるのです了子さん……いえ「フィーネ」」

 

「……やはり知っていたか、何故今まで黙っていた?」

 

「こちらのあなたとは敵対していませんから、それに「二度目」なので勝てる算段はあったので」

 

 キャロルやドクターウェルなど何処にいるのかも分からない相手と違い、一人だけ、確実な天才がいる。

 本当に勝てる自信は無い、利用する……といっても策謀など私に出来る筈もない。

 

 だから。

 

「本当に自信があるなら脅迫でもするだろう、それで何を求めている?帰る手段と言われても知らんぞ」

 

「私の望みは、この世界でのシンフォギア装者の強化です。カルマノイズという目先の強敵もありますが……私の居た世界では多くの事件がありました、その中には地球そのものを滅ぼそうとした錬金術師……キャロルとの戦いなんかもありました。だからそれに備えてこの世界の戦力を強化したいんです」

 

 世界はいつだって試練に満ちている、私と奏さんだけで乗りこえらるとは限らない、それに私が居なくなった後もこの世界は続く。

 

 

「なるほどな、確かに世界に滅びられてしまってはお前も帰る所ではないな、それに私にも無関係ではない……それでお前は何が出来る?何を知っている?」

 

「……この世界でも同じとは限りませんが、適合者と聖遺物をお教えします、他にも聖遺物起動の為のフォニックゲインの供給、それと……私の胸を切り開いて中のギアを調べる事を」

 

 正直言って、フィーネ相手にこの情報を与える事は後々奏さん達にとって害を為すかもしれない。

 奏さんと他の皆が戦う事になるかもしれない。

 

 けれど私は信じている、皆が手を取り合える事を。

 

 

 それはそれとして保険として、後で司令と奏さんにだけはメモを渡しておく積もりでもある。

 

「私がお前の胸のギアに細工をするなどと考えないのか?」

 

「正直、迷いました。けれど……あなたを信じる事にしました、かつて私の友があなたを信じた様に」

 

 この命を他人の手に、よりによって一度は私を殺したフィーネに委ねる、というリスクはある。

 けれどシンフォギアについては誰よりも彼女が良く知っている。

 

「……馬鹿げているな」

 

「あまり信用していないのですがカリオストロを名乗る錬金術師曰く、私の心臓は「賢者の石」に近いモノ……だそうです」

 

「おい、まだ協力するとは言っていないぞ」

 

「あの炎を使うカルマノイズ、あれは未来の私が係わっている様で、私を殺す事で歴史を変えたいそうです」

 

「……それがどうした」

 

「私は……私に出来る事を、私がすべき事を成す、それが皆のいる世界に帰る事に繋がると信じています……その為にどうか協力してくれませんか、フィーネ」

 

 

 

 

「……もし断ったら?」

 

「……あなたの気が変わるまで、待ちます」

 

「……私を動かすのだ、高くつくと思え」

 

 賭けには、勝ちました。

 これでようやくスタートライン、ですね。

 

「ありがとうございます」

 

「せいぜい私の気が変わらない様に役に立ってみせろ、使えないとなれば即座に切って捨てる」

 

 

 まさか仇敵と手を取る日が来る、とは思っても見ませんでした。

 

-----

 

「おいおい、もう大丈夫なのかよ詩織」

 

「まあまあ大丈夫といった所ですね、やり方はわかったので次は勝てますよ、あのカルマノイズに」

 

「そうじゃなくて、体の方だよ!ずっと眠ってたんだ心配もする!」

 

「ああ、よくある事なので……体が100%聖遺物になった時よりはマシですし」

 

「んなバカな事があるか!もうちょっと大人しくしてろって」

 

 トレーニングルームでギアを纏って力の制御の練習をしていたら奏さんが来た。

 そういえば、随分と心配させてしまいましたね。

 ……相変わらず、私は他人を心配させる事ばかりだ。

 

「そうですね……じゃあ今日はこの辺りでやめておくとしましょう、せっかくですし、少しお話しましょうか」

 

 

 リディアンの近くの喫茶店に場所を移し、私は手帳を鞄から出す。

 

「なんだその手帳」

 

「もしも了子さんが敵対した時の保険です」

 

「はぁ?どういう事だよ」

 

「こっちの了子さんがやるとは限りませんけれど、残念ながら私達の世界だと了子さんと敵対する事になってしまいました、詳しくは全部この手帳に書いてあります、これを二冊用意しました、片方は司令に渡していただけると幸いです」

 

 

 奏さんがいぶかしげに私が用意した手帳の中を確認する。

 

「……とりあえずさ、色々突っ込みたい事があるんだけれど……了子さんがその、古代の巫女で何度も転生を繰り返してるって本当かよ」

 

「はい、ちゃんとこの世界でも確認は取れましたよ、それはそれとして協力も取り付けましたけど」

 

「聖遺物があるって事はこの世にも不思議な事はあるってのは理解してるよ?だけどよぉ……受け入れられる情報量にも限度があるんだよなぁ」

 

 確かに私も後々フィーネの情報を聞いた時、リーンカーネイションって何だってなりましたし……。

 

「まぁ……それは了子さんが不審な事をしだした時の保険なんで本題じゃないんです」

 

 そう、フィーネの件は本題ではない、私が情報を与えた事でフィーネが連れてくる方が問題なのだ。

 

「もし将来、新しい装者が出てきた時、仲良くしてあげて欲しいんです、最初は気が合わなかったり、了子さんがなんか裏で糸を引いて操ってたりして敵対する事があるかもしれませんが、それを乗り越えれば頼れる仲間になれる子が、この世界にも居るかもしれないんです」

 

「……それはあんたの世界の装者の事か」

 

「はい、手帳に出来る限り情報を載せておきました、もしもこの世界でも皆が居て、装者となったなら、もし私が知らない誰かが装者になった時、最後まで「手を繋ぐ」事を諦めず、対話を諦めず、歩み寄ってあげてください。私達の世界では、それが正解でした……といっても私はあまり何も出来てなかったんですけど」

 

 思えば、皆を繋いだのは響さん、でしたね。

 

 私は響さんの様にはなれないかもしれない、でも響さんのやり方を広める事はできる。

 

 

 

「……この世界はあんたの居た世界と同じとは違う、だから気楽に「わかった」とは言えないけど、もしそんな未来が来たら、まぁ考えとくよ」

 

 

 

 私に出来る事、やるべき事はこういう事かもしれない。



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繋がる世界

お久しぶりです。
最近は某エミカスとかよんでました。
詩織もピロシキにしたいなと思いました。


 東京番外地、かつてフィーネとの戦いで大きな被害を受け、いまだ復興されていない場所で「黒いノイズ」の出現パターンを検知し、ヘリで6人の装者達は現場へと向かいながら「最後の打ち合わせ」をしていた。

 

「もう一度確認するわ、私と雪音と立花の3人で絶唱を「束ね」て、アガートラームの力であの黒いノイズで「ゲート」を開く、作戦時間は60秒、もしそこで詩織を見つけられなければ捜索は中止、戻ってきてもらう事になるわ」

 

「……」

 

「翼、もしも詩織が見つからなくてもこれが最後という訳ではないの、だから絶対に帰ってきて。もしも別の手段で詩織が帰ってこれたとしても貴女だけがいなくなってたら、彼女がどう思うか、貴女ならわかるでしょう?」

 

「なんなら代わりにアタシが行ってやってもいいんだぜ?」

 

 この作戦で自由に動く事が出来る装者はクリスと翼の二人のどちらかだけだ。

 鍵となる響とマリアは外せないとして切歌と調は「ゲート」を開いている間、無防備となる3人の装者を守らなければならない、そしてゲートを開く為には最低でも3人分の絶唱のエネルギーがなければ厳しい。

 

 つまり一人しか行けないのだ。

 

「冗談はよせ雪音、詩織を助けに行くのは私の役目だろう、私は大丈夫だ……心配するなマリア、必ず詩織を連れて帰ってくるさ」

 

 

 翼の心の中には不安があった、だがそれ以上に、大事な友を失う事が耐えられなかった。

 

 

「そろそろ着くわ、まずはノイズを減らさなきゃ始まらない、切歌!調!お願いね」

 

「任されたデース!」

「マリア達の邪魔は絶対させないから、安心して」

 

「詩織を助ける為とはいえ無茶すんじゃねえぞ、特にお前が倒れたら話にならないんだから!」

「わ、わかってるよクリスちゃん」

「絶唱の負荷はアタシも背負えるわかってるなら、それでいい」

 

 

 「詩織奪還作戦01」これが最後の希望ではない、けれどチャンスではある。

 必ずその手を掴んでみせるという想いを込め、翼は聖詠を唱える。

 

 

---------------------

 

 

 同じ頃、詩織と奏も出現したノイズの迎撃へヘリで向かっていた。

 「向こうの世界」とは違い、廃墟となっていた街もこちらでは繁華街、日暮れが近く帰宅ラッシュと重なったせいで人に溢れていた。

 

 一刻も早く到着し、ノイズを倒さなければならない。

 

「本当に大丈夫なのかよ」

「大丈夫ですよ、私のギアも強化されたので」

「そうじゃなくてよ」

 

 ここ連日、詩織は二課において聖遺物「ブリージンガメン」の起動の為のフォニックゲインの供給、裏ではフィーネの手によって胸の切開による「フェニックスギア」の物理的摘出の上でバリアコーティングの強化まで行っていた。

 

 そのおかげでつい昨日には奏のガングニールのバリアコーティングの強化にも成功したが、詩織の体にはかなりの負荷が掛かっている。

 

「この世界で、槍と炎を携えているのは私達だけです」

 

「……ッ!」

 

 その言葉はかつてのライブ会場での再現の様で、奏は思わず後退る。

 

「私は信じてますよ、二人なら今度こそあのカルマノイズを倒せるって……だから」

 

 だがその手を詩織が掴む。

 

「信じてください、奏さん。そして乗り越えていくんです、過去を」

 

 前に進む勇気を、それは詩織も同じであった。

 カルマノイズは帰る為のただ一つの手がかり、けれど放っておけば多くの人が犠牲になる。

 故に倒さなければならない。

 

 もしも帰れなくなってしまっても、この世界で生きていく覚悟を。

 

 

------

 

 鋸と鎌がノイズを切り裂く。

 

「今更ノイズ、ものの数じゃないデース!」

「油断は禁物だよ!ほら!」

 

 破壊したノイズの残骸から新たに灰のノイズが立ち上がる。

 

 敵の数が多い、再び現れた少女型の黒いノイズは破壊された片腕が再生していないらしく積極的には動かないが、とてもではないが絶唱を打ち込めるという状態でもない。

 

「クソッ!とにかくノイズを片付けないと話が始まらねぇ!」

 

 ガトリングの掃射で灰のノイズを蹴散らすが、その数は一向に減らない、こうしている間にも「向こう」からの攻撃で黒いノイズを倒してしまう可能性もある。

 

 この作戦には一つ大きな問題がある、それは詩織と向こうにいるガングニールの装者が黒いノイズを倒してしまう事。

 そうなってしまう前にゲートを開かなければならない。

 

 故に。

 

「マリアさん、クリスちゃん……翼さん…!」

 

 響が作戦開始の合図を出すと同時に灰のノイズが突然崩壊し始める。

 

「向こうでもおっぱじめてやがるな!」

 

 どうやら灰のノイズも、向こう側の世界の影響を受けるらしく、突然崩壊する事がある。

 それは向こうでの戦端が開かれた事を意味する。

 

「頼むぞ、マリア……雪音……立花……!」

 

 

「時間は」

「私達が稼ぐデース!」

 

 

 Gatrandis babel―――

 

 響を中心に前にマリア、後にクリスが並び、三人の絶唱が重なる。

 

「セット!ハーモニクス!」

「S2CA!トリニティトルネード!」

 

 切歌と調が黒いノイズまでの道を切り開き、三人のアームドギアをフレーム状に連結させ、クリスがミサイル四機をブースターとし。

 一番前にいるマリアが左手を黒いノイズの中心に突き立てた。

 

「開けェエエエエ!!!」

 

 するとまるで爆発の様の様にノイズの体が膨張変形し、円形の灰色の鏡面が出現した。

 

 

「行ってください!翼さん!」

 

 

「ッ!待ってろ……!詩織!」

 

 

 そして、開かれた鏡面のゲートに翼が飛び込む。

 

---------------

 

 振りかざせば、炎が舞い、灰のノイズが跡形もなく消滅していく。

 

 しかし、劣勢だ。

 

 

 

「くそっ!随分あたしらも人気になっちまったな!」

――そうですね、でもノイズはノーサンキューですが!

 

 その場に立っていたのは一人、奏だけ。

 詩織はやはり肉体的なダメージが大きく、早々に奏のガングニールにアームドギアとして「ユナイト」し、サポートに徹する事になっていた。

 

 劣勢の理由は単純だ、カルマノイズがもう一体増えたのだ。

 

 前回戦った個体はどうやら前回のダメージが残ったままで積極的には動かないが、もう一体はそうではない。

 触手を持ったタコ型のノイズは積極的にこちらへ攻め立ててくる。

 

――とにかく、まずはあのタコを殺りましょう、あの人型がやる気になる前に!

「おう!」

 

 奏の歌をメインに、詩織があわせて合いの手を入れる。

 リハーサルは無しの「即興のデュエット」。

 

 シンフォギアは共鳴する事でより強力になる。

 

「炎を!」

『燃やせ!』

 

 灼熱を纏ったガングニールの一撃がノイズの触手を吹き飛ばし、賑やかしの様な灰のノイズを炎が呑み込み、破壊が辺りを覆う。

 

「命を!」

『燃やせ!』

 

 詩織が飛び込んでくるノイズを炎を操って迎撃し、防御する。

 奏が逃げ腰のカルマノイズを追撃し、攻め立てる。

 

『ここにいる』

「だから」

『絶対に!』

「生きる事を!」

「『諦めない!』」

 

 そしてついにタコ型のカルマノイズをガングニールが貫く、そして突き刺したままのアームドギアの刀身が開いて基部から赤い閃光が放たれた。

 

 内部から焼かれたカルマノイズが耐え切れずついに爆発四散。

 

「残りはアイツだけだ……」

――……行きましょう

 

 この調子なら、あのカルマノイズも倒せる。

 

「本当に、いいのか」

――振り出しに戻るだけ、生きているのだからそれでいいのです

 

 

 カルマノイズを倒してしまえば、帰る為の手がかりは無くなってしまう。

 それでもいいと、詩織は言う。

 

 覚悟を決めて、カルマノイズにアームドギアを向けたその時、突然カルマノイズが膨張し――その姿を灰色の鏡面へと変えた。

 

 そして。

 

 青い影が飛び出した。

 

「な……!」

――どうして……!?

 

 その姿を二人は知っていた。

 

 そして彼女もこちらを知っていた。

 

「奏……!」

 

 今、世界が繋がった。



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ツヴァイウィング

 もう一度だけ、死んだ者と言葉を交わせるのなら。

 

 あなたは何を伝えたい?

 

 

 赤い夕焼けに照らされ、向かい合うのは翼と奏。

 

「つば……さ?」

「奏ッ……!」

 

 

 互いに未練のまま死に別れた、ツヴァイウィングの再会。

 

 それは望んだ事ではなかったが、起こってしまった現実。

 

 突然の再会に、互いに固まったまま動けなくなってしまう。

 

「翼さん!」

 

 奏のガングニールが纏っていた炎が分離し、詩織が姿を現す。

 そこで翼は我に帰る。

 

「詩織!!またお前は……妙な無茶をして!それより時間がない!マリア達がこのゲートを開いていられる時間はそう長くない!話は帰ってから聞く!」

 

 自分の役目を思い出した翼は詩織の元に駆け寄るとその手をとる。

 

 

 だが詩織は、素直に「はい」と頷けなかった。

 

「でもそれじゃ奏さんが……!」

 

 突然、「鏡面」になったカルマノイズを倒さずに帰っていいのか。

 せっかくまた出会えたツヴァイウィングの二人が言葉を交わす時間もないのか。

 

 

「行けよ、詩織。皆が待ってるんだろ?」

 

 だがその背を押したのは奏だった。

 

「奏さん……」

 

「カルマノイズはあたしがなんとかする、それに翼の事なら沢山聞けたからな」

 

「奏、すまない……せっかくまた会えたのに何を伝えたらいいのか……」

 

「そんな事言うなよ、二人揃ってツヴァイウィング、あんたとあたしの仲だろ」

 

「……そうだな、ならただ一つだけ、ありがとう」

「ああ、どういたしまして。そっちでも元気でな」

 

 

 多くを語る時間はなかった、けれど多くを通じ合うには時間はいらなかった。

 

「奏さん……!ありがとうございました!どうか、どうか元気で!」

 

「おう!あんまり翼を心配させんなよ!」

 

 

 本当に短い時間だった。

 40秒にも満たない、短いやり取り。

 でもその間だけで二人は通じ合っていたと、詩織は信じる事にした。

 

 

「ありがとうな、詩織」

 

 翼と詩織は世界を分かち、繋ぐ鏡面のゲートに向けて駆ける。

 

 信じているから、振り返る事はない。

 そして鏡面との距離が0になり。

 

 ガラスが割れる様な音と共に二人が姿を消すと、そこには片腕の欠けたカルマノイズが立っていた。

 

「さぁて、この世界を守らなきゃな。あいつらも頑張ってるんだから」

 

 奏が手にしたのは聖遺物「ブリーシンガメン」。

 

「派手にやるか!」

 

 

--------------------

 

 勢いあまって転んで、空を見上げれば欠けた月が浮かんでいた。

 

「帰ってきたんだ……」

 

「感慨に浸ってる暇はないぞ詩織!まだカルマノイズが残っている!」

 

 翼の声に飛び起き、詩織は戦闘態勢に移る。

 

 少し離れた場所ではマリアとクリス、そして響が膝を着いて呼吸を整えていて、3人を守る様に切歌と調がカルマノイズに応戦していた。

 

 ならばやるべき事は一つ。

 

「翼さん、ユナイトを使います、少しびっくりするかもしれませんが多分すぐ慣れます」

 

「ユナイト…?まさかさっきの…?」

 

「そういう事です」

 

 詩織が再び姿を炎へと変え、翼のアメノハバキリに纏わりつく。

 

 青と白の装甲に星空の様な紫と夕焼けの様な赤が加わり、その姿が変わる。

 

 

――とにかく、いつもの様な感じで行ってください!援護しますから!

「また妙な事をして……帰ったら話を聞かせてもらうからな!」

 

 揺らめく炎を纏いながら翼が翔ける。

 

 切歌と調を弾き飛ばしたカルマノイズが翼の方を向き炎による攻撃を仕掛ける……が、突然カルマノイズの腹部に「穴」が開き動きが止まる。

 

 それはつまり、向こう側で奏がカルマノイズと戦っているという証でもあった。

 

「生きる世界が違っても、二人なら……飛べる!」

 

 炎を纏った刃がカルマノイズの残っていた腕を切断し、焼き尽くす。

 

 そして、翼の二つ目の太刀がカルマノイズを左側から袈裟斬りにする、と同時に右側からも同じ様な傷跡が出現し。

 ノイズはクロスする形で斬り裂かれた。

 

 

「―――――!!!!!」

 

 全身から炎を噴き出し、カルマノイズは天を仰ぎながら断末魔をあげて爆発した。

 

 すると周囲にいたノイズも、灰のノイズも次々と自壊をはじめ、姿を消していく。

 

 

 

「終わった、か」

 

「ええ、どうやらそのようですね」

 

 ユナイトを解除し、翼の側に詩織が現れる。

 フェニックスギアは既に解除しており、続いて翼もギアを解除する。

 

「詩織!」

「詩織さん!」

 

 ギアを解除し、響とクリスが駆け寄ってくる。

 

「クリスさん!響さん……!」

 

「まったくよぉ!心配かけやがってこの!」

「よかったぁ!本当によかった!」

 

 見慣れた顔、親の顔より見た仲間の顔。

 

 

「ただいまです、皆さん」

 

 気がつけば、涙が流れていた。

 

――皆が居る「ここ」へ帰ってこれた、こんなに嬉しい事はない

 

 

 

----------------

 

 約二週間、加賀美詩織がいなくなっていた時間はなかなか長く、帰ってきた私を待っていたのは向こうの世界に関するレポートの作成だった。

 

 平行世界論の実証をしてしまったのである、それはもう世紀の大発見もいいところでしょう。

 

 改めて、あの世界での出来事を詳細に書き起こすと、私は今この場所に居る奇跡に感謝する。

 

 あの世界での私は死んでいた、この事件を引き起こしたであろう「未来の私」は全てを失ったと言っていた。

 翼さんが居て、皆が居て、辛い事も苦しい事も沢山あったけれど、それ以上に幸福を得ていた。

 

 故に考える、私は皆に幸せを貰って生きている。

 ならば、私は皆に幸せをあげられているのかと。

 

 私が去ったあの世界での奏さんはどんな道を辿るのだろう。

 

 そして私が居るこの世界はどんな道を辿るのだろう。

 

 

 願わくば、皆が生きる世界に幸せがある事を。



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エピローグ

 

『私ですね、異世界行ってたんですよ』

 「ウワッおりんだ」「生きていたのか!」「でたわね。」「ついに頭がおかしくなったのかな?」「草」「草」

 

 カリオストロの件も含めて三週間も配信休んで音信不通になっていた謝罪配信を開始する。

 

 8月も半分が終わりそうで、宿題はともかくまったく遊べていない、というか皆には本当に申し訳ない気持ちになる。

 せっかくの夏休みだったというのに私の行方不明案件に係わる事になるなんてまったくついてないというか……。

 

『ええー今回の件につきましては本当に皆様にご迷惑とご心配をお掛けしました事を深くお詫びいたします。まったくの不可抗力というか、本当に私に落ち度はないんですけど、目が覚めたら平行世界だったんですよ。装者の皆とS.O.N.G.の皆さん、そして向こうの方々のおかげでなんとか帰ってこられましたけど』

 「各方面に迷惑を掛ける女」「ついに世界を越えた女」「さすがにウソでしょ」「いやおりんの事だから想定の斜め上を行く」

 

 ともあれ、こうして再び自宅のパソコンの前でこうやって配信をしている現実に安心する。

 

 戻れなければ、こうやって罵倒交じりの「おかえり」さえも知れなかった。

 

 まあ、それはそれとして。

 

『今日はですね、ここしばらく配信出来てなかったのでアレやりたいと思います』

 「異世界の話はないのかよ!?」「アレってなんだ」「まさかアレがくるのか」「あっ…(察し)」

 

 

 画面を切り替えた瞬間、コメントが絶望の悲鳴に塗れた。

 

 

『新作衆道耐久配信(しょうもうせん)です!』

 「あっ…(絶望)」「(視聴者が)消耗戦」「やめてくれよ……(絶望)」「異世界から帰ってくるな」「異世界のおりんと交換して」

 

 お前たちのその声が聞きたかったんだよ!

 

--------------

 

 

 フィーネの技術を以ってしてもフェニックスギア、私の心臓と一体化していたギアを摘出する事はできなかった。

 しかし基本のバリアコーティングも強化されたし、改造やアップデートが可能な様にギア拡張用のペンダントが異世界土産としてやってきた。

 

 おかげでイグナイトモジュールの搭載も出来る……となるはずだったのだが、エルフナインにフェニックスギアへのイグナイト搭載を拒否されてしまった。

 

 でもよく考えればそれはそうだ、他の皆のギアはあくまで外付け、私だけは内蔵型。

 暴走した時のリカバリの利きにくさを考えるとそうなる。

 

 結果としてだが向こうでの経験と改修によって、私の普段使い……メインのギアであるフェニックスの使用許可が下りた。

 

 一応、「向こうで手に入れたギア」という建前で日本政府に申告し、今後はペンダントを使ってギアを起動している……様に見せかける予定だ。

 

 ちなみにだがイカロスはまた技術検証用にエルフナインの手でバラされている、というかキャロルとの戦いの時でももう全然ついていけてなかったし性能も安全性もフェニックスに劣ってしまっているので、もし使うとしても大幅な改修が必要だとの事だ。

 

 他にはマリアさんのアガートラームの新しい運用法が見つかったり、今回の件は全体としてみれば労力に対して得た物の多い一件となった。

 

 

 

 

 でも得たものばかり、という訳ではない。

 

 代わりに失ったものもある。

 

 

「アハハ!やべーデース!」

「ぬぁぁぁ!切ちゃんッッ!その暴れでゴリ押しするのやめてよ!」

「ゲームシステムだから知らないデース!」

 

 私の家に切調コンビが引っ越してきた。

 

 というのも私が家に一人でいると何かしら巻き込まれる事案が二度も続いてしまったが故に警備体制の見直しがあり、監視も含めて切歌ちゃんと調ちゃんが私の家に移動となった(おまけに前の借家は防音設備がそこまでだったのではしゃげなかったとも言っていた)。

 

 

 おかげで私一人の城がなくなってしまった……しかもごく自然に私が留守の間に届いたゲームやってるし……これでは通販でBLゲーが買えないではないか。

 

「詩織さんもやるデース!たのしいデスよ!」

「ぐぬぬ……切ちゃんがクソゲーを押し付けてくる……助けて詩織さん……」

「はいはい、でもチーム制は無しね、どっちかに加担したくないから」

 

 別に嫌な訳ではないが、もっと適切な人選が……いや翼さんと同居とか私が絶対限界になる(色んな意味で)し、響さんは……未来さん怖いし、マリアさんはまあ忙しいから仕方ないし……そうだよクリスさ……あ、ダメだ仏壇買ったりして結構クリスさんの荷物とか多くて置ききれないわ……。

 

 

「ちょ詩織さんキャラ性能でゴリ押しやめてくださいデスよ!?」

「知りませんね、ゲームシステムとしか答えられません」

「因果応報……」

 

 でも楽しい。

 

 こういうのも悪くない。

 

「まずいよ切ちゃん、この人もクソゲーを押し付けてくる!力を合わせよう!」

「さっきもそういいながら裏切ったのは調デース!!その手にももう乗らないデスからね!」

 

 

-----------------------

 

『まあ一度ある事は三度あるというか、私一人にしておくと何が起こるかわからないという事で監視員二人が新しくウチに駐在する事になりました……衆道配信を楽しみにしていた方々には申し訳ないです……』

 「やったぜ。」「ありがとう監視員さん……」「衆道配信を怖れていた方々には申し訳ないとは思わないのか……」

 

 切調コンビの教育に悪いとの事でマリアさんにお叱りを受けるBLゲーはしばらくお預け、清楚なゲームをやる事となった。

 

『そういうわけで今日はフレンズの森をやります』

 「うそやろ!?」「馬鹿なまともにかわいいゲームが出てきた」「これは…ありがたい……!」「うそつけ絶対開始数分で清楚が剥がれるぞ」

 

 スローライフ系のゲームをやるのは実は初めてだ、私のやった事のある森は食人鬼の住む森だけだし、家具は骨で出来たオブジェだし。

 

 

 とはいえ、このゲームもエグくないですか?

 なんで開幕借金を?何故引越し資金そんだけ?無賃労働では……?

 

『くそこの狸!ヤクザか何かですか!?搾取を許すな!』

 「ええ……」「草」「やっぱりな」「なんでスローライフゲーでこんな熱くなってるの……?」

 

 とにかくとっとと借金とはおさらばして、自由なスローライフを謳歌せねば!

 

 

『改築?は?望んでないんですけど!?なんで勝手に増築するんですか!?この狸逮捕しろ!!!』

 

 

 

 

----------------

 

「それで、詩織とは誰なんだ?奏」

「あんたらとはまた別の世界の装者だよ、ついこの間まで居たんだ」

「私達の知らない装者……という訳ね」

「どんな人だったんですか、奏さん?」

 

「まぁちょっと目の離せない危なっかしい奴だったよ、まあおかげで色々助かった事もあったんだがな……それにしてもギャラルホルンかー、そいつを使えばいつかまた会える事もある、かもな」



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灯火のフェニックス バルベルデ地獄変

ボンバくんにファンアートを貰ったぞ!

【挿絵表示】

設定の所にも置いてあるけどとても凛々しく儚げなおりんに興奮する

XVが延期したのでAXZ編入ろうと思います…


 

 登校日、私はなんとか課題を提出できていたが響さんは提出できずになんとか始業式まで期限を延ばしてもらっていた。

 というか原因が「私」なのでとても申し訳ない気分になる、とはいえ本部で待機している間とかやっていればよかったのではとも思ったが……過ぎた時は戻らない、とにかく始業式までに終わらせればなんとかなるので頑張れとしか言えないのだ。

 

 こっちに戻ってきてからは切調コンビに監視しつつされつつ時々クリスさんがやってきて、それにプラスして響さんと未来さんが加わる感じ。

 

 マリアさんは「仕事」でイギリス行き、翼さんも事件解決直ぐにイギリスに行ってしまった。

 

 でも向こうで会った奏さんの事は多く伝えられた。

 

 奏さんも元気でやってるといいな。

 また、会える……かな?

 

 

 

 

 そして私が平行世界から帰って来て数日、休む暇も無く次の戦いがやってきた。

 

 

 

---------------------

 

 バルベルデ共和国、軍事政権が独裁を敷くこの地に私達は来ていた。

 

 目的はいくつかあるが、その内の一つは武力介入。

 

 はっきり言ってしまえば戦争だ。

 

 

 どうにもフロンティア事変・魔法少女事変に係わり、なおかつ今現在の欧州を混乱に陥れたとされる「パヴァリア光明結社」を追っていた中、どうにもこのバルベルデで錬金術によって作られた「アルカノイズ」の軍事利用がされているとの情報が出てきたのだ。

 

 

 いくら他国への内政干渉、しかも武力介入が忌避される事でも、こればかりは放っておくわけにはいかない。

 

 速やかにアルカノイズを打倒・無力化しつつ、政権によって弾圧されている人々を救い。

 そして、謎多き「パヴァリア光明結社」についての情報を得る事。

 

 その重要さは私にだってわかる。

 

 

 必要ならば人間と戦う事になる事も。

 

 

 とはいえ私は基本的に本部で待機だ。

 人間相手に向ける力としては私のギアは加減が利かない、そして何よりS.O.N.G.へ出向しているとはいえ私は「日本政府」の人間なのだ。

 国連の大義名分の下に居るとはいえ、日本政府所属の人間が他国の人間に武器を向けるのはマズい。

 

 

 なら何故ここにいるのか?

 

 一言で言えば、監視だ。

 装者全員が日本から動く以上、私だけ日本に残るとまた何か事件に巻き込まれる可能性が高い。

 故に一番安全な移動式の本部にいるのが一番マシというもの。

 

 

 モニター越しに響さん達がアルカノイズを倒し、現地の戦力を無力化していく姿を眺める。

 

「昨晩見た対戦車用の映画の効果は覿面です!」

 

 ………。

 いや、対戦車用の映画って何ですか……。

 そういえば昨日はブリーフィングとかなんとかで翼さん達がなにやら集められてたのは知っていましたけど。

 

「司令、いつも思うんですけどどうして司令を含む皆さんは映画でパワーアップできるんですか」

「鍛えてるからな」

 

 答えになってないですよ……。

 

 いやまあ、前にクリスさんや響さんの真似して色々と映画を借りて見てたんですけど、私にはまるで効果がなかったんですよ。

 響さんはカンフーなんか、クリスさんだとガンカタとかでしょうか、映画の影響かそんな戦術を編み出していたのに、私はまるで変化がなかったんですよ。

 

 ギアの相性でしょうか?それとも映画と私の相性なんでしょうか。

 

「この任務が終わって日本に帰ったら久しぶりに特訓をつけてやろうか?」

「いえ……特訓なら緒川さんに忍術教えてもらいたいと思います」

 

 

 司令とのトレーニングは地獄だから……それだったらまだ緒川さんに忍術教わるくらいがいい。

 とはいえしばらくトレーニングサボってたから厳しいかもしれない……。

 

 

 思い返せばあの頃は大変だった、今も大変さはそんなに変わらないが、体力がついた事で少しはマシになった。

 

 

 突然現れた空中要塞を響さん達が瞬く間に片付け敵を壊滅させた事で国連軍が難民キャンプの展開を開始する。

 

 

「とりあえず、まずは一歩だな」

 

 この国では人々が奴隷の様な扱いを受けている。

 危険な化学兵器工場などでの作業に従事させられているなどとも聞いている。

 

 この機会に、彼らが自由に、平和に生きられる様になって欲しいと思う。

 

 ただ、力で押さえつけていた政府が消えたからといって直ぐに平和になるとも限らない。

 この混乱に乗じてまた他の組織が台頭して、もっとひどくなるかもしれない。

 

 答えは、どこにあるのだろう。

 

 

--------------

 

 

 

「おかえりなさい、翼さん」

「ああ、ただいま」

 

 

 次の作戦の為に皆が戻ってきた、当然翼さんも。

 

 ……こうして皆が無事に帰って来て安心する。

 キャンプ地の中継映像では大勢の人が痛々しい姿をしていたから。

 

 誰かを心配しながら待つ気分がよくわかった。

 

 

 

「気分は大丈夫ですか?」

「……あまりいいとは言えんな、いくら悪政が相手とはいえ……この力を向けるというのはやはり気分がいいとはいえない……それに弾圧されていた人々を見るとな……」

 

 そう言いつつも誰一人、相手を殺す事も大きな傷を与える事も無く無力化した皆はやはり凄い。

 私は……昔よりはマシになっただろうが、それでも相手の事を考えながら戦うなんてできるだろうか。

 

「私も色々、思います。正直……これまでこんな世界があるだなんて気にも留めて来ませんでした、だから色々思うところはあります……でも今はただ……皆さんが無事でよかった、皆さんのおかげで救われた人々がいる、とだけ伝えたいと思います」

「……ああ、そうだな」

 

 翼さんの手をそっと両の手で握る。

 

 シンフォギアの力があれば、あれだけの相手を容易く蹴散らす事が出来る。

 

 だけどシンフォギアを纏っていない時を狙われたら。

 

 

 この温かく柔らかい手を握ると、そんな心配ばかりが湧き上がってくる。

 

「大丈夫だ、詩織。常在戦場……どんな時も不覚を取るような事は」

「私の側ぐらいは戦場じゃないといいな」

 

 ………って何言ってるんですか私は!?

 

「あ、とえとですね、これはですね、つまり戦い続けてるとやっぱり休息も大事というかなんというか」

 

「はぁ、詩織」

 

「……はい」

 

 翼さんに頭を撫でられた……。

 

「何が言いたかったは分かってる、つまりは気負いすぎるなという事だろう?」

 

「まぁ……はい、大体そんな」

 

「『日陰』として、誰かの休める場所でありたい。だったな……今でも十分、皆の支えになってくれている、当然私の支えにも」

 

 

 あぁ、やっぱりかなわないなぁ。

 

「……まぁそういうことで」

 

 

 かなわない。

 

 



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炎は舞い降りた

 現在、S.O.N.G.はいくつかのチームに分かれて活動している。

 

 

 

 本部で待機しているのは風鳴司令、エルフナインちゃん、そして私。

 

 川を遡上して化学薬品工場で囚われている人々を解放する為に行動しているのが、響さん・翼さん・クリスさん・緒川さんの4人の班。

 

 適合係数を上げる為のLinkerの残りが「二度」分しかないが故に装者として前に出れないが後方支援をしているマリアさん達の班。

 

 そして、藤尭さんと友里さんが指揮する班ですが。

 

 

「強力な電波遮断か……これは当たりを引いたかもしれん」

 

 

 数分前、バルベルデ政府要人が立てこもっているらしい施設に進入してから完全に通信が途絶えた。

 突入前からも電波妨害なのか通信状況が悪かったのですが、いよいよ怪しい感じになりました。

 

「本当に私が出なくていいのですか……?」

 

「心配するな、ああ見えて友里も藤尭も修羅場はくぐっているからな、アルカノイズが出てきた場合も考えてマリア達を向かわせている」

 

「……それはそうですけど……Linkerの節約の為にもやっぱり私が」

 

 マリアさん達はギアを使う為にはLinkerで適合係数を上げなければいけない、けれどその数は限られているし、作れる者が、今は居ない。

 

 

「すみません……僕がLinkerのレシピを解析できていれば……」

 

 ……しまった、そのことを私より気にしている人がいるのを忘れていた。

 

「ごめん、エルフナインちゃん。私そんなつもりじゃなくて」

 

 私の異世界行き事件のせいで解析や研究の時間どころかまともな休みすら取れてない、そんなエルフナインちゃんを落ち込ませてしまい、本当に申し訳なくなった。

 

 というか向こうにはLinkerを作れる「フィーネ」が居たのだから1セットといわず1ダース……いや製造法を貰って帰ってくれば現在みたいな状況になってなかった筈なのに。

 

 

「まったく、二人とも気負いすぎの心配性だ。もっと仲間を信じてやったらどうだ?」

 

 二人して司令に頭を撫でられた。

 

「それに詩織くんはそもそも自分の事で精一杯、エルフナインくんも他の仕事で手一杯だったんだ、過ぎた事を気にするよりこれから先の事を考えた方が建設的だぞ」

 

 私達の考えもお見通しだったようだ……。

 

 

 

 

 

『本部!応答願います!』

 

 アラートと共に通信が回復した、モニターに映ったのは「巨大な蛇」の様な怪物に追われる藤尭さん達だった。

 

「装者達は作戦行動中だ!マリア達が向かうまで耐えるか振り切るかしろ!」

 

 最後尾を走っていた車両が怪物の攻撃を受けて脱落したのを見て私は。

 

「ダメです、詩織さん」

 

 抜け出して向かう事は許されなかった、エルフナインちゃんに手を掴まれていた。

 

 そうこう言っている間にももう一台車両が脱落した。

 

 

 

 ……私の好き勝手の積み重ねが、また人を見殺しにしている。

 もしここで動く事を許されるだけの信頼を重ねておけば。

 

 

 

『――貴方達の命、世界革命の礎とさせて頂きます』

 

 そして藤尭さんと友里さんの乗った車両がクラッシュしとうとう追いつかれた。

 

 モニターに映るのは「3人の錬金術師」、その中の一人の姿に既視感を感じた。

 

 

 私は、奴を知っていた。

 

 あの髪型、体形、しぐさ。

 

 

「錬金術師カリオストロ……!!」

 

「何だと!?」

 

 まさか私を騙してくれた奴がパヴァリア光明結社の一人でしたとは。

 

 

 

 ……前に私に接触してきたのは先制を取る為だった……?

 

 

 

 

「行きます、借りは返さないと……」

「ダメだ!なおさらお前を出す訳にはいかなくなった」

 

「どうしてですか!」

 

「お前の手の内は相手には割れている、つまりお前の知りえない弱点を知られている可能性もあるんだ」

 

 

「……」

 

 ……それでも、私は奏さんと一緒に戦ってきて前より強くなった筈……。

 

「それに大丈夫だ。今は仲間を信じろ」

 

 

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 

 通信機越しに聞こえてきた聖詠は、マリアさんのアガートラーム……そうですか。

 

 マリアさん、切歌ちゃん、調ちゃんの三人が間に合った。

 

 

 私は……。

 

 

-------------

 

 

「全く、貴女も随分分かりやすいわね」

 

 何も出来ない、何もしない事に耐えられなくなって、私は自分の部屋の隅で小さくなっていた。

 

「……私は、何の為にここにいるのでしょうか。戦う事も、誰かを助ける事も出来ないのに」

 

「典型的な症状ね、私にも心当たりがあるわ」

 

 マリアさんが私の頭を撫でる。

 

 

 無事に帰って来てくれたのは嬉しい、それにこんな私を気遣ってくれて。

 

「私は後悔してます、もっと皆と協調できるように振舞ってくればこうやって一人で残される事なんて」

「……貴女の自由奔放さと我慢弱さは確かに貴女を今、縛る事になっているわね」

 

 ……そうです、私は我慢弱い。

 ただ黙っているだけではいられない。

 

「でもね、貴女のその性格に救われた人がいる事も忘れないで欲しいわね」

 

「……?」

 

「貴女が馬鹿みたいな遊覧飛行放送をしなければ私の立場はもしかしたらもっと悪いものになってたかもしれないわね」

 

 ああ、そんな事も……ありましたね。

 あの日、偶然にもスカイタワーでの騒動に私が首を突っ込んだから、マリアさんの処遇について米国が多くを口出しするのを防げた。

 

 でもそれは。

 

「それは……結果論です」

 

「そうね「結果」よ、今ある事全て、でも結果ばかり見ててもどうにもならない。それに司令もいつまでも貴女の感情を無視して閉じ込めておく様な事はないと断言できるわ」

 

「……それは」

 

「信頼は勝ち取る事が出来る、今からでもね」

 

 ……そうですね、ただ黙っているだけじゃ何も変わらない。

 私に出来る事は、すべき事は一つだけじゃない。

 

 

 

『マリアくん、エスカロン空港にアルカノイズが出た。切歌くん達と共に出撃してくれ。そして、詩織くん……まだ空港には要救助者が多く残されている筈だ、わかったな?』

 

「詩織、こうして縮こまっている時間はなさそうよ?」

 

「……はい!」

 

 

 私に出来る事を。

 

 

 

-------------------

 

「こいつら味方じゃなかったのかよ!」

「どうみても味方って見た目じゃな――!」

 

 兵士達を囲っていたアルカノイズが熱線と共に吹き飛ぶ。

 

「死にたくなければ建物の方に逃げる事です!」

 

 フェニックスギアはヘリよりも速い、そして三人までなら、運べる。

 

 詩織はマリア達を連れて空港まで飛び、二手に分かれる。

 やるべき事は救助活動、正面切って戦うのはマリア達の役目だ。

 

「ノイズ相手なら、手加減は無用ですからね」

 

 滑走路を破壊しない様に、炎を収束させて剣へと変えてノイズを切り捨てていく。

 まだ人が残っているであろう建物の壁面に張り付くノイズを炎の鞭で叩き落し、炎上させる。

 

「鬱憤を晴らさせて貰います!」

 

 これまで何も出来なかった分の憤りを込めて、巨大なノイズを殴りつけ、爆発させる。

 

 

 そこで詩織は気付いた。

 

 

「うわ、マジですか……?」

 

 別のターミナルから、滑走路を加速中の航空機。

 

 しかも向きはマリア達の方向で、その後ろにはアルカノイズの群。

 

 

 やるしかない。

 

 

―Laevateinn―

 

 航空機を庇うようにノイズの群に立ちはだかり、炎の剣を横薙ぎに払った。

 

 だがノイズを蹴散らした事で安心したのが悪かったのだろうか。

 

 

 詩織が振り返ると、車輪を片方失った航空機の姿と、それを下から支える切歌と調の姿。

 急いで航空機を追いかけ、

 

「何してるんですか!?」

 

「こっちは何とかするのでマリアの加勢に行ってほしいデース!」

 

「何とかなるの!?」

 

「何とかするよ!」

 

 

――仲間を信じろ。

 

 

「わかりました!」

 

 

 

 詩織は、すぐさま加速する。

 

 そして、右手に炎を纏わせて、マリアの背後を取っていた小柄な錬金術師、プレラーティにぶつけた。

 

「加勢します!」

「……助かるわ!」

 

 既にマリア達のLinkerの効果時間は限界に近い、適合係数も大きく下がり始め、このままではギアの展開もままならないだろう。

 

 ここが引きどころだろうが、それは出来ない事はマリア達にも。

 詩織にも分かっていた。

 

 だから。

 

「踏ん張りどころですからね、派手にやりますよ!」

 

 マリアが必殺の一撃を繰り出す為の時間を稼ぐ。

 

「久しぶりねぇ、どうやらあーしの忠告は無駄になったみたいで残念だわ」

「生憎、私は誰かに生き方を決められたくないので!」

 

 錬金術師カリオストロに距離をつめ、詩織は小回りの利く二本の炎のショートソードで連撃を繰り出す。

 

 

 ここまで来る間に、話に聞いていた「無敵の怪物」を召喚させない為に相手の意識を釘付けにする必要がある。

 

 もう一人の錬金術師であるプレラーティに向けても、詩織は湾曲する熱線を背中から放ち、狙撃を続けている。

 

 

 意識が薄れそうな程、脳を酷使している感覚に詩織は今にも倒れたい程だったが、それでも。

 

 大勢の人が乗った航空機を脱出させようとしている切歌と調が居る。

 決着をつけるために切り札を切ろうとしているマリアが居る。

 

 何よりも、何も出来ない自分に負けたくない。

 

「詩織!」

「はい!」

 

 純白の光が輝く。

 マリアのアガートラームが必殺の一撃を放つのを見て、詩織は空へと飛び上がる。

 

 そして凄まじいエネルギーを伴った一撃が二人の錬金術師を巻き込んだ。

 

 

 

 それと同時に、遠く飛んで行く航空機が見えた事で切歌達もしっかりやりきった事に詩織は安心した。

 

 だが。

 

「ここまでね」

「流石にこれ以上は無理デース」

 

 マリア達のギアが限界を迎えて解除された。

 そして。

 

 

 

「さすがにビックリしたわ」

「でも、一歩届かないワケだ」

 

 煙が晴れたそこには、無傷とまでは行かないがそこまでダメージを受けていない二人の錬金術師の姿があった。

 

「……時限式ではここまでなの…!」

 

 こうなれば、もうできる事はただ一つだ。

 

「ここから先は私が相手をします、マリアさん達は下がって」

 

 

「さて、おいでませ。無敵のヨナルデパズトーリ!」

 

 そこに追加で巨大な蛇の様な怪物が現れる。

 

 それはマリア達が一度対峙した「無敵の怪物」。

 

 

「私が、やります!」



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明日なんて見えない、だけど踏み出せる


 解せない。

 

 私がメディカルルーム常連なのはいいとして、いやよくはないが。

 

 

「なぁにやってんだ」

 

 クリスさんにめっちゃアホを見る顔で見られているのが解せない。

 

 

 パヴァリア光明結社が繰り出した「無敵の怪物」は響さんによって倒された。

 そして奴らは手札が破壊された事でそのまま撤退、そして無事バルデルデでの案件は終わり、今は帰国の途。

 

 

 私のアームドギアである「炎」は私の意思で自在にコントロールできる……収束も拡散も自由、だけどその分頭を酷使する。

 そのせいでまたもや私は倒れてしまったのだ。

 

 どうにもイカロスと同じ動き……主にホーミングレーザーみたいな技をフェニックスでやるとギアの補助が無いので私の脳を使うらしく、その過労が原因と聞いた。

 

 

「いや、すみませんマジで油断してました。次からは気をつけます」

 

 翼さんとマリアさんはバルベルデに残り調査を続けるらしく、今この本部には居ない。

 

「ったく、突然何も無い所で倒れるから本気で心配したんだぞ。また無茶ばかりしやがって……倒れる辺りあのバカよりひどいぞ」

 

 確かに無茶をやるのは響さんの特権ですね……私も別にやりたくて無茶をやってる訳でもないんですが。

 

「……それで、クリスさんも大丈夫なんですか?」

「何の事だよ」

「言わなくてもわかってるでしょうに」

「……」

 

 バルベルデは、クリスさんにとって因縁の深い場所だ。

 かつて両親を失った場所であり、かつて親しかった人の弟をアルカノイズの分解から助ける為とはいえ傷つけてしまったという事まではもう聞いている。

 

「弱音を聞きましょう、ほらほら」

 

「……ったく……なんでお前はそう変なトコで首を突っ込んでくるんだ」

 

「なんというか相談係というポジションが確立されている気がしたので」

 

「一番相談しないのはお前じゃねぇか」

 

「相談しないんじゃありません、気がついたら行動に移してる事が多いだけです」

 

「余計にダメじゃねぇか」

 

「私の事はいいんです、というか私達の仲じゃないですかとにかく吐いちまった方が楽になりますよ、初めて一緒に戦った時みたいに」

 

 

「そっちの吐くはダメな方じゃねぇか……まったく……確かにアタシにも思うところはある、ステファン……ソーニャの弟の足を撃ったのは仕方のない事だった、同じ状況なら何度でもアタシは同じ選択をする……」

 

 確かにアルカノイズに接触した以上、接触部分を切り離すしか助かる道はない。

 クリスさんは確かに最善の選択をした。

 

「うーん、確かに……私でも多分同じ事をしますね。それで関係が拗れたのも分かる気がします」

 

「どうしようもなかった、でも……」

 

「確かに割り切るの難しい問題ですよね、確かに片足を失うのは大きな痛手かもしれませんが。本人がどう思っているのかって結局まだ聞いていないですよね」

 

「……ああ、病院に搬送してからは会ってない」

 

「ステファンくんの気持ちを聞いて、向き合っていく方向しかないんじゃないでしょうか。結局当事者はクリスさんと彼なんですし、許す許さないは彼に聞くしかない。その上で償うなら償う、背負うなら背負うしかありません」

 

「……そうか」

 

「まあ、まずは落ち着いてからその二人にコンタクト取る感じでしょうか?確か国連預かりの重傷者でしょう?司令に話を通しておきましょうよ。そういう気持ちの問題も戦っていく中では大事な部分ですし、仮に同じ状況が起きて躊躇って死なせてしまったなんて起きたら取り返しがつきません、割り切りましょう」

 

「……わかった、そうしてみるよ……確かに吐いちまえば少しは楽になるもんだな」

 

「まあ私もこんな勝手な事を言ってしまいましたが結局どうなるかはその二人とクリスさんの気持ち次第ですから……ダメだったらダメだったで、私も背負いますよ」

 

「背負うって……」

 

「仲間として、友達として私にも出来る事ですから」

 

 戦う事で避けられない痛みが生まれるなら、それを共に背負う事を出来るようになりたい。

 

「はぁ……お前はいっつもそうだ」

 

「あだっ」

 クリスさんに頭を小突かれた。

 

「お前こそどうなんだよ、いっつも気がついたら厄介事を抱えてるしよ、おら吐け」

 

「あででほっぺ引っ張らないでくださいな」

 

「前々から言っておこうと思ったんだがお前はお前で他人の問題に首を突っ込んでおきながら自分だけ突っ込まれないと思ってる節があるからな、ほら吐け」

 

 まったく、私のほっぺが赤くなってしまうではないですか。

 

「わかりました、わかりましたから……私は後悔してるんですよ、装者として真面目にやってこなかった過去を」

 

「それって何時の話だよ……?」

 

「装者になってすぐの頃からの話です、私はイカロスの適合者としてのデータ取りの為に始めたという話は前にしましたね?」

 

「ああ、そうだったな。最初は戦うつもりなんて無かったってな」

 

「……こうして誰かの為に戦う様になって、もっと戦いの経験だとかを積んでいれば……今みたいに力不足で悩んだりしなかったんじゃないかって」

 

 戦う事を避けてばかりだったあの頃の自分、傷つく事を怖れていたあの頃の自分。

 もしも、もっと強くあれたら。

 

 

「……ったくお前もバカだなぁ」

 

 ……どうして頭を撫でてるんですかクリスさん?

 

 

「なら今日からやりゃいい、明日に強くなりゃいいじゃねえか」

 

 …!

 

 

「そう、ですかね」

 

「よく考えてみろよ、たった15年程度の昨日までとこれから生きて続いてく人生、どっちが長いかなんて一目瞭然じゃねぇか」

 

「……クリスさん、そんな事言うキャラでしたっけ?」

 

「うっせえな!お前の為に態々こんなクサい言葉考えてやったんだよ!感謝しやがれ!」

 

「あだだだほっぺはダメ、ほっぺはダメですって!」

 

 

 バイオレンスとやさしさを交互に振るのはやめて欲しい、暴力系ツンデレはいまどき流行りませんよ!

 

 

「そんな訳だから、うだうだ悩むより建設的な事を考えるんだよ……アタシもお前も」

 

 今のは自分自身に向けた言葉、でもあったんですね。

 

 

「そうですね、となると……気は進みませんが司令のトレーニングも受ける事を視野にいれますか……当然クリスさんも一緒ですよ?」

「オッサンのトレーニングはなぁ……」

 

「お?逃げるんですかクリスさんは?」

「ありゃトレーニングっていうかオッサンのハチャメチャじゃねぇかよ」

 

 確かに司令のアレはハチャメチャですけど、なんであの人はシンフォギア相手に生身で圧倒してくるんでしょうかね。

 

「っていうか普通にアタシらのトレーニングに交ざるだけでいいんじゃねぇかな……」

「それもそうですね……」

 

 いきなりそんな超高カロリーな司令のトレーニングより、標準的な皆のトレーニングから始めた方がいいかも……。

 

「んなわけで、まずは体と頭を休めるこったな、言っとくがアタシらのトレーニングも楽ではないからな」

「……そうですね……でも、ありがとうございます。悩みが少し軽くなった気がします」

 

「気にすんな、アタシも少しは気分が晴れたからよ」

 

 

 ……そうですね。

 昨日までの私より、今日の私。

 そしてそれよりも明日の私。

 

 こんな単純な事、だったんですね。

 

 そうだ、明日から頑張ろう。



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炎の大怪獣

息抜きというかリハビリに短めのを…


 

「悪い待たせた」

「そんなに待ってませんし大丈夫ですよ」

「……久々にその格好見たな」

「それは、まあわた…いえボクは有名人ですから……?後ナンパ対策」

 

 クリスさんと二人ですからね、ナンパされると面倒ですし、そもそも私も随分有名になってしまいましたから。

 久々の男装ですから、少々気合を入れて来ましたよ。

 

 それにしても……日本に戻ってきて早々特訓をすると聞いていたんですが、何故街に出るんでしょうか?

 

「んじゃ、それっぽく腕でも組んで行くか?」

「それはお断りしますよ!それで何処に行くんですか?」

「なんだよつれねえな……まずは映画館だよ」

「『特訓』ですよね!?なんですか映画館って……で、デートじゃないんですから……」

「……いや特訓だぞ?」

「ちょっと司令に毒されてませんか?普通の人間は映画を見ただけでパワーアップできませんて!?」

 

 確かにシンフォギアシステムは「イメージ」が大事です、アームドギアの形成なんかは心象が影響されるのはよくわかりますよ。

 分かりやすいのは響さんのガングニールが槍ではなく拳だったりするのとか。

 クリスさんも心境の変化で最近は「弓」を使う様になってるのも知ってますし……そういう私自身もコロコロとアームドギアを変えてますけど……。

 

 

「詩織のアームドギアのコントロールにピッタリな映画を見つけてな」

 

 せ……洗脳されてる……。

 

 

 

-----

 

 

「もっとこう広範囲に向けて吐けないのかよ?」

「クリスさん……私は大怪獣じゃありません、女の子です」

 

 見せられたのは空飛び火を吐く大怪獣同士の戦いでした……。

 

 確かに炎のイメージにはピッタリでしょう、ですが私は女の子です……口から火を吐く大怪獣じゃありません。

 

「だって詩織、吐くの得意じゃん」

「なんて失礼な事を言うんですか!?」

 

 私のギアの特性上、本部でのホログラムを使った訓練が出来ないので政府が所有する屋外訓練施設を使わせてもらっている。

 おかげで気兼ねなく熱線も撃ちまくれるし、クリスさんが着地できないように地上を地獄にすることも出来る。

 

 

「『置き技』は卑怯だろ!?」

「卑怯もクソもありませんよ!焼けたくないなら降参したらどうですか!」

「そんなに怒る事ねーだろ!?」

「怪獣扱いされたら私だって怒りますよ!」

 

 流石にクリスさんが本当に焼けてしまっては事なので炎を退かして、地面を元に戻す。

 

「ふー…さすが大怪獣おりんだ」

「クリスさん、豚の丸焼きをご存知ですか」

「冗談、冗談だ。それはともかく、戦い方の練習にはなったろ?」

 

 

 なったといえばなりましたけど。

 

「それはそれとして、クリスさんを燃やしたい気分なので後で配信で「うたずきんにセクハラされた」と言っておきます」

「そっちの燃やすのは勘弁してくれ」

 

 

 

 

----------

 

 

『かわいい声をしてますけどねぇ!私の事を火を吐く大怪獣扱いしてるんですよ!あのうたずきんちゃんはぁ!』

 「吐くのはおりんの十八番」「一理有る」「草」「消化液は吐かないの?」「人にアドバイスを求めておきながら文句をいう加賀美詩織とかいう女」

 

 さすがに無い事を言うのはあれなので「うたずきんにアドバイスを頼んだら怪獣扱いされた」という真実だけ伝える事にしたのに、どうして誰も私を庇ってくれないの……どうして……。

 

『私だって女の子なんですよ!?怪獣扱いされたら傷つきますよ!?』

「いまさら」「いまさら」「女(として)死(んでる)力」「やっぱ嘔吐が悪いよなぁ」「嘔吐怪獣おりん」「街を燃やすんじゃねえぞ……」「でも女子力なら間違いなくうたずきんの方が上だし…」

 

 

『きさまらァ……!!』

「おりん激おこで草」「まぁ知名度怪獣みたいなもんやし…」『うたずきん>おりんムキムキで草^^』「うたずきん居て草」「笑われてて草」

 

 

 結局今日一日は、クリスさんに煽られ倒されてた気がする。

 私クリスさんに何かしたかな……。



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番外編:大義

XVまで後二ヶ月だ!!!!
ということでエタってない証明の為にちょっとした番外編をば


 

 

 人は誰も傷つけず、何も奪わずには生きられない、どんなに頑張ってもちょっとした事で誰かを傷つけてしまう事だってあるし、大事な何かを奪われない為に相手と戦わなければいけない時だってある。

 

「やめろー!」

「ヴァッハッハッ!ブゥゥウウン!!」

「悪の天才科学者め!」

 

 

 そろそろ夕焼けが赤くなってきた河原でヒーローごっこをする子供達を眺めてながら自分の正義を今一度考えた。

 

 未来さんと響さんが戦った時の事を思い出す、あの時の自分は少しイカれてしまっていたし、未来さんも正気ではなかったが。

 

 もしも、皆を救う為に「敵」になる事になったら私はその時、戦えるだろうか?

 

 例えば身近というか、ありえる想定として「イグナイトが暴走した」時に打ちのめして、正気に戻すぐらいなら私はいける気がする……というか最悪司令が叩きのめして終わりそうな気がする。

 

 だがそう、マリアさん達がF.I.S.として月の落下を止める為に世界と敵対した様に……「正義の為の悪を貫く」事は私には出来るだろうか?

 

 ……そうなる前に相談しろと言われそうだけど、それでも考える。

 

 

 きっとその時の私は選んでしまうだろう、それが皆を傷つける事になっても、皆を助ける為に自分を生贄にする事を選べてしまうだろう。

 

 それは皆が私の裏切りと死という傷をいつか必ず乗り越えて、前に進めるであろうという「信頼」と私の独りよがりな「願い」の上で成し遂げられる。

 

 

 だが皆の進むべき道の礎となり、忘れられない何かになれるならそれもありかと思ってしまった。

 

 我ながら最低な発想だ、いくら皆の事が好きだからといってこれは愛の歪みが大きすぎる、修正が必要だ。

 

 

 

 それはそれとして、皆とそれ以外の人達を選べと言われたなら私はどっちを選ぶだろう。

 

 例えば、翼さんがピンチな一方でこの間のバルベルデの時みたいに大勢の人を乗せた飛行機が狙われているとなった時。

 

 

 私は……翼さんが望まない事だと知っていても翼さんを助ける為に大勢見殺しにする。

 それを背負うのは私一人だけであるならまだしも、きっと翼さんの大きな重石になってしまう。

 

 なら、翼さんを犠牲に大勢救うかとなれば……。

 

 それは私がきっと耐えられない。

 

 だからきっとそんな状況になったら両方助ける為に自分を犠牲にするだろうし、最悪両方助けられずに自死する。

 

 

 

 

 何が楽しくてこんなクソみたいな想定をしているんだろう。

 

 あーシンフォギア装者になんてなれなければー!ただの配信者であれればー!

 ……なんて思う事もあるけど充実はしているんだよなぁ。

 

 私は自分の運命を見つけてしまった、どうあがこうと昔みたいな無価値で、無意味で、何もない自分には戻れない。

 

 「戦う」選択をするだけの力を得てしまって、私が死ねば悲しむ人達だって出来てしまったし、命を捨ててでも守りたい人達だって出来てしまった。

 

 これが人生の重さかぁ~!ろくでもないな。

 

 

「何を転がってるんですか詩織さん!?」

 

「あっ響さんと未来さんじゃん」

 

 横ローリングしながら河原の土手を転がっているとどうやらお出かけの帰りらしき響さんと未来さんに見つかった。

 

「いやーちょいと自分の人生について考えてましたらろくでもないな~ってなりまして転がってた次第で」

「どうしてそこから転がるんですか!?」

「そこに斜面があるから」

 

 とはいえこんなクソみたいな想像は聞かせるもんじゃありませんし適当に誤魔化して忘れるに限る、響さんと未来さんの仲のよさで浄化されたい。

 

「最近分かってきたけれど詩織さんも時々響みたいに突飛な事するね……」

「未来!私は詩織さんみたいな変な事しないよ!?」

「今なんかとても失礼な事が聞こえたんですが」

 

 未来さんはともかく響さんにまで変人と思われているとは心外ですよ。

 

「だって詩織さんは文句のつけようもなく変な人ですし……普通の人はシンフォギアを纏った状態で料理の配信なんてしませんよ」

「響、普通の人はシンフォギアを纏えないし。それを言ったらシンフォギアを纏える皆が変な人みたいだよ」

「アレはコス衣装の方です!それにコスプレ料理配信は普通!普通の文化です!」

 

 確かに言われて見れば装者皆どっか変な所あるかも……。

 

 翼さんは防人だし。

 マリアさんはアイドル大統領だし。

 クリスさんはやっさいもっさいだし。

 切歌ちゃんはデスデスデースだし漢字かけないし。

 調ちゃんはめっちゃ無口だし。

 響さんはこのザマだし。

 

「いやいや~それはないない」

「ないよね」

「いーや!あります!アメリカの料理バラエティ番組とか重火器で料理してますよ!」

「それはバラエティだからだよ!?」

「いいですか!一年後にはオリジナルシンフォギア衣装を着たアイドルとか絶対出てきますから!シンフォギア衣装は一般性癖です!」

 

 そうそう、あのシースルードスケベインナーもなれればカッコイイですし!調ちゃんと切歌ちゃんの体のラインとかめっちゃスケベ。

 

「あの詩織さん……性癖に一般も何もないと思うよ……普通にアウトだよ」

「うん……さすがの私もちょっと性癖発言はちょっと引くよ……そういう目で見られてたってちょっとショックだよ」

 

 アッ!!!!違う!いつもの癖で定型が出ただけなんです!

 

「あの違うんです聞いてください距離をとらないで」

「詩織さんこわいね未来」

「そうだね響」

 

「ごめんなさい!!違うんです!すまんなんです!!」

 

 

 この後、なんとか誤解を解いたが。

 私は心に消えない傷を負った。



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