METAL GEAR DOLLS (犬もどき)
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第一章:国境なき軍隊 嵐

 1975年 3月15日 

 

 カリブ海上 国境なき軍隊(MSF) マザーベース

 

 

 中米の小国コスタリカとニカラグアで起こったピースウォーカー事件が終結して数か月、国境なき軍隊(MSF)は多くの戦闘員・兵器そして核戦力を有する強大な組織にまで成長をしていた。

 国家・思想・イデオロギーに囚われず、軍事力を必要とする勢力にその力を貸すビジネスは世界中で必要とされているが、反対にその力を忌む勢力も存在していた。

 

 国境なき軍隊の活動が軌道に乗り始めていたが、彼らの持つ核戦力の情報を聞きつけた国際原子力機関(IAEA)が査察を申し入れてきたのもそんな時であった。

 

 

 

「あらかた書類の整理は終わったな、後は査察を受け入れるだけか……」

 

 国境なき軍隊(MSF)副司令官のカズヒラ・ミラーはここ数日IAEA査察のための準備を終え、激務で疲労した身体を椅子に預けていた。

 国籍もなく、核拡散防止条約にも加盟していない国境なき軍隊(MSF)に査察を申し入れてきたIAEAの真意は彼にも、この基地の司令官スネークにも分からなかった。

 

 一応国境なき軍隊(MSF)としてはIAEAの査察を受け入れることを決め、不利になる情報は処分し核爆弾を搭載した二足歩行戦車ZEKEも海中に隠すこととなった。

 数日前まではマザーベースの司令官であるBIGBOSS、スネークも同じ作業をしていたが今は特別な任務で基地を離れている。

 

 

「ミラー副司令官、コーヒーをお持ちしました」

 

「ああ、ありがとさん」

 

 ミラーが何か飲みたいと思っていた矢先、タイミングを見計らったかのように国境なき軍隊(MSF)の女性スタッフがコーヒーを持ってやって来た。

 女性スタッフが部屋に入ってくるとミラーはあからさまに笑顔を浮かべる。

 

「ん~、良い香りだ。この芳香な香りとコクのある味わいはモカの高級品だね」

 

「は、はぁ……すみません、あるものを淹れてきましたので自分には分かりません」

 

「ははは、今度オレが美味しいコーヒーを教えてあげるよ。おすすめの銘柄があるんだ」

 

(い、言えない……コンビニで買ってきた安物だなんて)

 

 女性スタッフの考えていることなどお構いなしに得意げに話すミラー、女性スタッフの愛想笑いがとても苦しそうだ。

 それからミラーはアプローチをのらりくらり躱され、久しぶりに太陽の下へと行くことにした。

 

 洋上に建造されたマザーベースの甲板上は風を遮るものはほとんどなく、心地よい海風がここ最近の激務で突かれているミラーの心を癒す。

 

 

「おーい、ミラー副司令。そんなところで暇してるならこっち来て手伝ってくれよ」

 

「数週間ぶりの暇にありつけたんだ、もう少し味わわせてくれ」

 

「面白い冗談だ、ソ連じゃ365日働いたもんだ。いいから手伝ってくれ」

 

 一応上司であるのは自分なのだがとため息をこぼしそうになるが、渋々自分を呼んだMSFスタッフの手伝いを行うことにした。

 

 

「やあナタリアちゃん、今日もお義父さんの手伝いとは良い子だね」

 

 そこに女性がいればすぐさま声をかけるのがこのカズヒラ・ミラーという男の悪い癖である。

 彼に声をかけられたナタリアという名の女性は眉をひそめると、ミラーの言葉を無視して戦車の陰に姿を消してしまう。

 代わりに現われたのはシベリアの巨熊を思わせるようないかつい顔のおっさん……ではなく、この国境なき軍隊(MSF)で最も年長の兵士で戦車乗りのドラグンスキーという名のロシア人だ。

 

「うちの娘は危険察知が得意でね、何度も命を救われたもんだ。ほれ、突っ立ってないで戦車の整備を手伝ってくれ」

 

 

 有無を言わさずこき使うドラグンスキーに、ミラーは誰か助けてくれと言わんばかりに周囲に目を向けるが、誰ひとりとして目を合わせてくれないのだ。

 仕方なくドラグンスキーと共にオイルまみれになりながら彼の愛車T-72の整備をするのであった。

 

 

 

 結局ミラーが解放されたのは数時間後の事だった。

 これ以上誰かに目をつけられて面倒事を押し付けられる前に、明日にそなえて自室でゆっくり休もうと思い、ミラーはマザーベースの居住区を目指す。

 そんな時、先ほどまで晴れていた空があっという間にどす黒い雲に覆われゴロゴロと雷が鳴り強風が吹き、すぐに大粒の雨が降りだした。

 

 突然の気象の変化に、マザーベースのスタッフたちが大慌てで甲板上に出してあった車両や資材等を格納庫に仕舞う。ミラーも疲れたなどと言っていられず、強烈な雨風の中スタッフたちに混じり動いた。

 

 次の瞬間、マザーベースを強烈な揺れが襲った。

 

 この突然の嵐で高い波がマザーベースに打ちつけているが、この揺れは波によるものではなかった。

 

「みんなすぐに中に入るんだ、早く!」

 

 この状況で外にいれば危険だと判断し、ミラーは甲板上のスタッフに避難するよう指示を飛ばした。

 まだ甲板上には多くの資材や車両が残されていたが致し方なかった。

 そしてまた、マザーベースを先ほどよりも大きな揺れが襲う。

 

 落雷、強風と揺れで軋むマザーベースの音がカリブの海に響き渡る。

 何かが崩落する音をミラーは聞いたが、確認する余裕もなく最後のスタッフが避難したのを確認し自身もマザーベースへと退避した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国境なき軍隊(MSF)司令官、スネークは見知らぬ廃墟と化した街をさまよっていた。

 

 キューバの米軍基地キャンプオメガに囚われているパスとチコを救出するという特殊任務のため、カリブの洋上をヘリで移動中、スネークは突然の嵐に見舞われた。

 猛烈な嵐で機体の制御を失ったヘリは海に墜落、投げ出されたスネークはなんとか岸に泳ぎ着くことができたのだが、そこは全く見知らぬ土地であった。

 

 当初スネークはそこが中米諸国のどれかだと考えていたが違った。

 中米諸国では大規模な紛争は起こっていないはずだが、スネークが見つけたのはまるで戦争でもあったかのような廃墟の街だった。

 壁には銃弾の痕があり、建物は焼け焦げ崩れている。

 小競り合い程度の戦闘では起こらない破壊だ、常に世界の動向を探っているスネークらが中米のそれもマザーベースの傍で起こっていたことなら見逃すはずがない。

 

「ここは…どこなんだ?」

 

 マザーベースへの無線は繋がらず、ヘリに同乗していた仲間も行方不明だ。

 ひとまずスネークは街のそれなりに原型を保っている家屋を見つけ、仮の拠点とすることとした。

 こんな時は葉巻で気持ちを落ち着かせたいところであるが、気配がないとはいえまず家屋の確認は忘れない。

 

 痛んだ家屋の木板は歩くたびに音が鳴るが、スネークはなるべく大きな音を立てないようゆっくりと移動し、家屋の部屋を一つ一つ確認していく。

 リビング、物置、キッチンなど一階部分の全ての部屋の確認を終えた時、二階で微かに物音がしたのをスネークは聞き逃さなかった。

 

 唯一残ったM1911A1とナイフを手に構え、スネークは警戒しつつ階段を上がっていく。

 上階の部屋は二つ、階段を上る途中でまた物音がしたため目星はついた。

 

 

 物音のした部屋のドアを、スネークは少しだけ開き中を伺う……警戒しながら部屋の中へ入り込んだが、そこには誰もいなく殺風景な部屋にベッドとクローゼットがあるだけだった。

 そこでまずはクローゼットを調べようと近寄ろうとしたした瞬間、そのクローゼットの扉が勢いよく開き何者かがスネークめがけ突進してきた。

 突然の出来事に、しかしスネークは慌てることなく飛びかかってた勢いをそのままに、部屋の壁に叩き付ける。壁に勢いよくぶつかった謎の襲撃者は悲鳴をあげて倒れ込み、すかさずスネークは拳銃を突きつけた。

 

「痛ッ……くそー…」

 

「ん? 女の子…?」

 

 謎の襲撃者の正体は眼帯のようなものを左目に付けた金髪の女の子であった。

 ぶつけた頭を痛そうにさすりながら恨めしそうにスネークを睨みつけるが、彼の姿を見た少女は思っていた相手と違かったのか驚いたような表情をしている。

 

「鉄血じゃない……人間さん? あんた誰?」

 

「君のような女の子がこんなところで何をしているんだ?」

 

「あたしは部隊とはぐれちゃって……ふぅ、鉄血じゃなくて良かったよ、もうおしまいかと思った。あたしはVz61スコーピオンだよ、よろしくね」

 

スコーピオン(サソリ)、それが君のコードネームなのか? オレはスネーク、ところで聞きたいんだがここはどこだ? 見たところ中米諸国のどこでもないような気がするんだが」

 

「ちゅーべー諸国? ちょっと何言ってるか分からないけど、ここは鉄血の人形との激戦区だよ。まさかこんなところで生きてる人間さんに会うとは思わなかったけどね」

 

「悪いがオレもキミが何を言っているのか理解できない。現状を知りたい、できれば仲間と連絡も取りたい」

 

「オッケー。教えられる範囲で教えてあげるからそこらでくつろいでよ」

 

 そう言うと、スコーピオンはいまだ痛むらしい頭をさすりながら先ほど身を隠していたクローゼットから缶詰を運んできてくれた。

 それを眺めつつ、スネークはベッドに腰掛け葉巻を取り出す……そこでライターを紛失していることに気付く。

 何かないものかと捜すと、スコーピオンが得意げな顔でオイルライターを見せびらかしている。

 

「貸し一つだよ」

 

「あぁ……」

 

 おちょくられているようで少し気に入らなかったが、葉巻の煙が恋しかったスネークは素直にライターを借りる。

 火がついたところでライターはとり上げられた……どうやらお気に入りらしい。

 葉巻に興味を示し欲しがるスコーピオンをなだめつつ、必要な情報をスネークは引き出すのであった。




スネークを描ききれるか不安ですが頑張ってやっていきたいと思います。



スカルフェイス「海賊討伐に行くぞ!」

XOF隊員「マザーベース無いんですけど…」

スカルフェイス「……」


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脱出

「――――――話をまとめよう。今は2060年代、第三次世界大戦後で鉄血工造という会社が造った戦闘兵器が暴走し、君らのような人間側の戦闘兵器がその鉄血の戦闘兵器とやらと戦争中。それで世界は大戦とそれ以前の出来事で人が住める領域が狭まっているのに加え、鉄血との戦闘で世界は荒廃しきっていると……こういう解釈でいいのか?」

 

「あー、うん……それでいいよ、大体あってるよ。もーあたし説明するの疲れたよ…」

 

 机に突っ伏して疲れ切った様子のスコーピオン。

 一方のスネークもブツブツと独り言をつぶやき頭を抱えている。

 

 当然だ、スネークにとってスコーピオンが当たり前のように話すこの世界の状況とやらは、まるでSF小説のようでありスネークがそれまで生きてきた世界とは明らかに違う様相だったからだ。

 戦術人形、グリフィン、鉄血工造、第三次世界大戦……スコーピオンが口にする言葉はどれ一つとしてスネークの知らない出来事だったり、固有名詞だったのでそれを一々説明しなければならなかったスコーピオンも中々に憔悴している。

 昔映画好きのはた迷惑なメディックが任務のサポートについていた時期もあったが、彼女の余計な話のせいで迷惑極まりない悪夢を見た記憶があるスネーク。

 もしかしたら今も夢の中なのではないかと自分を疑うが、この場所に漂う戦場跡特有の空気がスネークにこれは現実だと教えてくる。

 

 

 1970年代から一気に2060年代、普通に生きていてもとっくに寿命で死んでいるほどの年月だ。

 部屋に飾られている古びたカレンダーには2055年と書かれている……ドッキリを仕掛けるにしては何もかも手が込み過ぎている、ますます目まいが酷くなってきたスネークは気持ちを落ち着けるべく二本目の葉巻をくわえる。

 しかし火種が無い……。

 机に突っ伏したままくたばっているスコーピオンの手にライターが握られている……こっそり取ろうとしたところむくりと彼女が起き上がり、ライターに手を伸ばしていたスネークをジト目で睨む。

 

「貸してほしいなら素直に言えばいいのに」

 

「あ、あぁ…」

 

「全くあんたって見た目厳ついのに子どもみたいだよね」

 

「子どもじゃない、今年で39だ」

 

「そういうところ子供っぽいよ?」

 

 これ以上反抗をするとライターを貸してくれなそうなのでスネークは何も言わずライターを借りる。

 

「ねえねえ、スネークって本名じゃないでしょ? 本当の名前は何ていうの?」

 

 スネークが葉巻を味わっていると彼女がそんなことを聞いてきた。

 

「自分の名前は昔に捨てた、今はスネークと呼ばれている」

 

「ふぅん。スネーク()が今の名前なんだね……ねえねえ、スネーク()スコーピオン()って相性良さそうじゃない?」

 

「君とか? 女の子に助けて貰うほどオレも身の安全に困っちゃいない」

 

「ああー、あたしのこと馬鹿にしてるでしょ。こう見えてあたし強いんだよ?」

 

 頬を膨らまてすねる姿は年相応の女の子にしか見えない。

 そんな彼女が戦闘のために生まれた高度な知能を持った戦術人形と呼ばれる存在には、到底見えなかった。

 それとも彼女のような存在を生み出すのには100年もあれば技術的には可能なことなのか…。

 ふとスネークはマザーベースで一時SFがブームだった時期があり、マニアなスタッフに熱く語られたことを思い出した。

 

 確かタイムスリップとかパラレルワールドだとかそんな話だったと記憶している。

 もしもだ、万が一そのSFにありそうな出来事に自分がまきこまれているのだとしたら?

 スネークの妄想は拡大していく……ここは異なる時間軸のあり得たかもしれない未来の出来事で、あの突然の嵐が自分をこの世界に迷い込ませたのでは?

 さらに言うならばあの嵐は謎の秘密結社が起こした人為的な現象で、世界征服をもくろむ悪の組織が……!

 

「馬鹿馬鹿しい…」

 

 疲れているとはいえ現実逃避の妄想をしてしまったことに自嘲し、改めて葉巻をふかす。

 お気に入りの葉巻の香りがスネークの精神を安定させる、状況は相変わらず理解できないが少しずつこの世界を調べていこう。

 そう思った矢先、窓の向こうで何かが反射し光った。

 

「伏せろッ!」

 

 とっさに目の前に立っていたスコーピオンを押し倒す。

 直後、窓が割れ先ほどまでスコーピオンが立っていた場所の延長上に銃弾が叩き込まれた。

 

「スナイパーか……ケガはないかスコーピオン?」

 

 見ると、スコーピオンは頭をおさえて涙目でスネークを睨みつけている。

 助けるためとは言え少女を押し倒すというのは、少々男女の関係である以上まずかったかと一瞬スネークは思ったが……どうやら倒した拍子に先ほどぶつけたところと同じところをぶつけてしまったらしい。

 悶絶するスコーピオンに一言"すまん"と詫びを入れ、スネークは直ぐにスナイパーの様子を伺う。

 

「スコーピオン、敵のスナイパーに狙われている。不用意に動くんじゃないぞ」

 

「スナイパー!? ずっと……あたしを狙ってたっていうの?」

 

「君がここに隠れていた理由か。敵はどれくらいいるんだ?」

 

「分からないよ……部隊が全滅した時、あたしらはそこら中から狙撃された。北に古い時計塔があるんだけど、そこにいるのは間違いないよ。後どれくらい敵がいるのか」

 

 先ほどの狙撃は崩れかけたビルからだった。

 少なくとも二人以上の狙撃手がいることになる……戦火に晒され廃墟や瓦礫の多い街は身を隠すのにうってつけで、それが敵のスナイパーにとって有利に働いているが逆も然り。

 

「スコーピオン、敵に見つかった以上ここに留まるのは危険だ。移動するぞ」

 

「うぅ……ついにこの時が。ちょっと待ってて」

 

「お、おい」

 

 スコーピオンが窓から狙撃されないようほふくの体勢で隣の部屋まで行き、戻って来た時には何かを詰めし込んだリュックとアサルトライフルを一丁持っていた。

 

「拳銃一つじゃ不安でしょ、これ貸してあげる。壊さないでね」

 

「ああ助かる」

 

「気をつけて。あたしらの部隊を全滅に追い込んだスナイパーだから、注意しないと」

 

「前にもスナイパーと戦ったことがある。まあ、前は森の中でだったがな」

 

「頼りにしてるよ、スネーク」

 

 微笑みを浮かべるスコーピオン、だがその表情はどこか不安げだ。

 

 おそらく敵のスナイパーはスネークが一人彷徨っているところをあえて見逃していたのかもしれない。スコーピオンと合流させ、その位置を探る餌として。

 もっともスネークはスコーピオンの仲間でなかったが、結果的に目論見は果たされたことだろう。

 

 建物の裏口を出てスネークとスコーピオンは物陰に身を隠しながら廃墟の街を進む。

 

「スネーク、こっちだよ。時計塔から丸見えになるから注意して」

 

「ああ、分かってる」

 

 通りに放置されている車の陰に隠れながら進むことで狙撃手の目から逃れる二人。

 どこから狙撃手が狙っているのか分からないこの状況でスネークは極めて冷静であった。

 先ほどまでどこかスネークの実力を信じ切れていなかったスコーピオンであったが、彼の背を見続けるうちに心強さを覚える。

 それも当然かもしれない……スコーピオンは知らないが、このスネークという男は別の世界で伝説の英雄と呼ばれる存在なのだから。

 

「順調だねスネーク、あんたとなら生きて脱出できそうな気がするよ」

 

「静かに。あれは敵か?」

 

 物陰に隠れつつ、スネークが指さした方向を覗く。

 そこには小隊規模の鉄血戦術人形が建物を一つ一つ確認しながらこちらの方向に進んでいるのが見えた。

 

「そう、あれが鉄血の戦術人形。後ろにいる奴より、人の形をした鉄血の方が戦闘能力は高いから注意して。それで、どうするのスネーク。やっつける?」

 

「いや、敵の数が多い。それにスナイパーの事もある……戦闘は避ける」

 

「オッケー、じゃあ後退だね……大変、後ろからも鉄血が来てる…!」

 

 後方からも同程度の部隊が接近しているのをスコーピオンは見つける。

 両脇を挟まれる形となってしまったことにスコーピオンは慌てるが、ここでもスネークは冷静だった……しかし今回ばかりはその冷静な姿も当てにできず、スコーピオンは絶望し青ざめていた。

 

「やだよ、こんなとこでやられたくない…」

 

「落ち着け、おれたちはまだ死んじゃいない」

 

「逃げ場所が無いのにどうするの!? あぁ、もうおしまいだよ……いいや、どうせやられるくらいなら最後に一矢報いてやる!」

 

「いいから落ち着け、大丈夫だ。こっちに来るんだ」

 

 最後にはやけくそになろうとしているスコーピオンの手を引き、すぐそばの建物へと入って行く。どうやらその建物は倉庫か何かのようだが、しらみつぶしに建物を捜す鉄血が迫っている以上袋の鼠同然だ。

 

「いいよ、籠城ってわけだね。あたしの底力見せてやろうじゃない」

 

「違う、これに隠れるんだ」

 

「は? これに? 正気?」

 

「いいから隠れるんだ」

 

「ふぎゃっ」

 

「声を出すんじゃないぞ、いいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリフィンのマヌケ人形は見つかったか?」

 

「いいやいない。それにあの人間の男もだ、この建物でここの通りは最後か?」

 

「ああそうだ。さっさと捜しだすぞ、またぐずぐず文句を言われたくない」

 

「そうだな」

 

 鉄血の人形たちは倉庫の中へと足を踏み入れていく。

 頑丈な造りであったためか倉庫は外観を保っているが、内部は他の建物同様荒れ果て、木箱やコンテナ、ダンボールなどが乱雑に散らかっていた。

 

「さっさとでてこいマヌケ人形」

 

 コンテナや木箱を蹴飛ばしながら捜す鉄血の戦術人形。

 そこまで広くない倉庫だったため、ある程度調べて鉄血の人形は倉庫を出ていく。

 

「待て、あのダンボールはどうした?」

 

「ダンボールに人が隠れるはずないだろう。時間の無駄だ、さっさと次の場所へ行こう」

 

「それもそうだな」

 

 

 倉庫を捜し終えたと判断した鉄血の人形たちはさっさと別な場所へと移動していった。

 

 静かな倉庫の中には蹴られて粉砕した木箱やコンテナ、二つの段ボールが残るのみだった…。

 

 

 

「よし、もういいぞスコーピオン」

 

「なんか納得いかないなぁ。なんでダンボールが……いや、あたしの感覚がおかしいのかな…」

 

「なにをブツブツ言っているんだ。戻ってくる前にここを立ち去るぞ」

 

「了解スネーク。いや、やっぱりダンボールで助かるのおかしいでしょ…」

 

 

 ダンボールの中で敵をやり過ごした二人は音を立てずに再び脱出のために廃墟を進み歩く。

 

 これが、スコーピオンとダンボールの運命的な出会いであった。




月光以下の索敵能力な鉄血人形ちゃんたち。
連れているのが月光だったらスコーピオンちゃんは踏みつぶされてました(笑)



ちなみにうちのエースはAK-47ちゃんです。
FPSでもAK-47です。
もちろんMGSでもAK-47です。
好きにならない理由がないです、ウラー。


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Battle of Airport

「ここだよスネーク、ここが目的地」

 

 廃墟と化した街に潜むスナイパーと歩哨をなんとかかいくぐり、スネークたちは荒れ果てた飛行場へとたどり着いた。

 飛行場といっても特別大きいものではなく、地面を平らにならしただけの滑走路にいくつかの格納庫と小さな管制塔があるだけだ。

 その滑走路も、爆撃や砲撃で穴だらけで飛行機の離着陸は不可能な状態だ。

 

「スコーピオン、ここに案内したのは何故だ?」

 

「このエリアは完全に鉄血の支配下だ、味方の基地まで撤退するには危険が大きすぎる。この飛行場には救難信号を出せる設備がある、それを使って味方と連絡をとるんだ」

 

「なるほどな、だが何故最初からここに来なかったんだ? 何週間も廃墟で隠れている必要も無かったはずだ」

 

「救難信号を聞きつけるのは何も味方だけじゃない、敵に探知されて位置を特定される恐れがあったからね」

 

「だったら今も危険じゃないか。敵地のど真ん中だ、探知されればオレたちは包囲される」

 

「一人じゃ出来なかったかもね……でも今は、あんたがいる。スネークが一緒に居てくれれば成功するって信じてる」

 

 まだ会って一日も経っていないというのに、スコーピオンはこう言ってのける。

 彼女のスネークを見つめる眼差しには迷いはなく、笑みすら浮かべている。

 

「頼られてしまったものだな。いいだろう、だが闇雲に行動をしても助からない、準備が必要だ。それには君の力も必要となってくる」

 

「任せてよスネーク、ある程度の敵はあたしが突撃してぶっ飛ばしてくるから!」

 

「突撃は禁止だ、それは最後にとっておけ。まずは飛行場を探索しよう、使える物はなんでも使うんだ」

 

「了解スネーク」

 

 

 元はスコーピオンらの部隊が健在だったころに使われていたという飛行場だ、探せば何かしら使える物は存在するだろう。

 脱出手段のヘリなどは無いが、武器・弾薬は多くはないが格納庫などに残されていた。

 管制塔もくまなく探す。

 ひとまず救難信号を出すための設備は無事だった、電気は非常用の発電機で事足りるだろう……管制塔にいたスネークは、ふと遠くから誰かが一人飛行場を目指しやってくるのを発見した。

 その人物は物陰に隠れ周囲を伺いながら警戒している様子でやってくる。

 

「スコーピオン、誰かが来る」

 

 スコーピオンは管制塔の窓から少しだけ顔をだし、目を細めてやってくる人物を観察する。

 少しの間判断できず唸っていた彼女であったが、ハッとした様子で立ち上がると一気に管制塔を降りると走りだしていった。

 スネークもその後を追い彼女を追いかける。

 

 

「おい、スコーピオン!」

 

 

 飛行場に出て彼女の名を呼んだと同時に、スコーピオンはやって来た謎の人物の胸めがけ飛び込んでいるところだった。

 

 

「スプリングフィールド! 生きてたんだね、良かった!」

 

「あなたもねスコーピオン! 銃声を聞いて、もしかして私以外にも生存者がいると思いまして……あの、あちらの方は?」

 

 スネークの姿に気付いたらしい、その女性はスネークをどこか不安げなまなざしで見つめていた。

 すると反対に目をキラキラと輝かせながら、スコーピオンはその女性の手を引いてものすごい勢いでスネークのもとへと駆け寄ってくる……サソリというより活発なイヌのようなその姿に、スネークは小さな笑みを浮かべた。

 

「紹介するよスプリングフィールド、あたしの命の恩人スネークだよ! 廃墟からここまでこれたのはスネークのおかげだね」

 

「初めまして、スプリングフィールドと申します。大切な仲間のスコーピオンを助けていただきありがとうございます」

 

「いや、こちらもお互い様だ。右も左も分からないオレに色々と彼女が教えてくれた」

 

「えへへ、スネークって最近の出来事も分からないくらいだったから大変だったよ。ねえスプリングフィールド、一応聞くけどさ……他の仲間は見ていない?」

 

「残念ですが……」

 

「そう、そっか……」

 

 スコーピオンは一瞬とても哀しげな表情を浮かべたが、すぐに今置かれている状況を思い出す。

 そしてこの飛行場の救難信号を使って仲間と連絡をとる作戦をスプリングフィールドに伝えたが、彼女は暗い表情で首を横に振る。

 

「スコーピオン、よく聞いてください。私たちがいた基地は鉄血の攻撃を受けて後方に撤退してしまいました、救出に来れる部隊は近くにありません」

 

「そんな、折角ここまで来たって言うのに……スネーク、もうだめだよ。やっぱり危険地帯を抜けるしかないよ」

 

「そう簡単にあきらめるな、手はある」

 

「何か、勝算があるようですね」

 

 スプリングフィールドの言葉と共に、スコーピオンも期待感に表情を明るくする。

 

「実を言うとさっきからこの無線機に連絡が入っててな―――」

 

「なんでそういう大事なことすぐに言わないのかな……」

 

 表情が明るくなったと思ったスコーピオンが今度はジト目でスネークを見つめ呆れた表情を浮かべた……コロコロ表情の変わる彼女に思わず笑いそうになるスネークであったが、咳払いで誤魔化す。

 

「話は最後まで聞け。無線が入っているのは分かるんだが、壊れていて使えない。だが近くに仲間がいるのは確かだ」

 

「ではスネークさん、あなたの仲間に助けを求めることは可能なんですね?」

 

「ああそうだ。今頃あいつらも血眼でオレを捜し回ってるかもしれない、どれくらい近くに居るか分からないがな……だが救難信号を出して敵に嗅ぎつけられるのは同じだ、戦闘になるぞ」

 

「大丈夫だよスネーク、元からそのつもりだったんだからね」

 

 獰猛な笑みをスコーピオンは浮かべる。

 困ったものだと呆れているのはスプリングフィールドだが、彼女も戦闘が避けて通れないのは承知であった。

 スコーピオン、スプリングフィールド、そしてスネークは鉄血戦術人形との戦いの準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネークさん、来ましたよ。鉄血の人形たちです」

 

 奴らは廃墟の街からゆっくりと姿を現してきた。

 

 管制塔にて狙撃の役割を買って出たスプリングフィールドが鉄血の人形を素早く発見した。

 スネークがMSFの仲間たちに救難信号を送っておよそ一時間後の事だった。

 

 飛行場を目指し近づいてくる鉄血の人形はまだ三人の姿に気付いていない……ただここに敵がいるだろうという予測のもと、警戒しながら徐々に接近してきていた。

 管制塔のスプリングフィールドは息を殺しつつ、眼下のスネークに目を向ける。

 先制攻撃の指示はまだだった。

 少し離れたところに居るスコーピオンはというと、早く撃ち合いを始めたいのか何度もスネークを見ている。

 

 鉄血の人形が飛行場の入り口に迫った時、スネークの手があがったのを見たスプリングフィールドは敵にその照準を定める。

 

「いまだ、派手にやれスコーピオン」

 

 待ってましたとばかりに、スコーピオンは飛行場入り口に仕掛けてあった爆薬を起爆させた。

 凄まじい爆音が周囲に鳴り響き、入り口近辺にいた鉄血人形たちは爆風で吹き飛ばされる。

 すかさずスプリングフィールドが爆発から生き延びた鉄血人形を素早く排除した。

 

「まだまだいくよ!」

 

 仕掛けられた爆弾は一か所だけではない、スネークがあらかじめ目星をつけてい置いた進入路にも爆弾が仕掛けられているほか、カバーできない位置には地雷も設置していた。

 別な方角からやって来た鉄血の小隊は爆発の一撃で壊滅し、ある小隊は爆発によって倒壊した建物の下敷きになる。

 

 

「どうよ鉄血人形! いままでさんざんやってくれた仕返しだ!」

 

 壊滅した鉄血の先遣隊に向けてガッツポーズを決めるスコーピオンであったが、黒煙の向こうから次々やってくる鉄血人形にふざけた表情をひっこめ、その手に持ったVz61を乱射し始める。

 

「気をつけろスコーピオン、数が多い!」

 

「分かってるって!」

 

 そうはいったものの、スコーピオンは鉄血の予想外の多さに動揺していた。

 自分が息を殺して隠れていた間はスナイパーから逃れていただけだッと思っていたが、これだけの数が潜んでいたとは考えもしていなかった。

 いまのところなんとか対処できているが、敵は確実に増えてきている。

 

 管制塔からスプリングフィールドが迂回する敵を知らせ、それをスネークとスコーピオンが撃破するもだんだんと追いつかなくなる。

 

 

「敵がどんどん増えていきます!」

 

 管制塔のスプリングフィ-ルドからは、鉄血の部隊が飛行場を目指す絶望的な光景がはっきり見えている。

 それでも彼女は逃げることなく敵に狙いをつけ引き金を引き続ける。

 

「くっ…!」

 

 管制塔のスプリングフィールドも鉄血の攻撃を受け始め、銃弾が彼女の頬をかすめる。

 装填のため身をかがめた時、凄まじい爆発音が響き衝撃が彼女を襲った。

 その爆発音が間髪いれず再び鳴り響き、それが敵側の砲撃だと理解するのに時間はかからなかった。

 スプリングフィールドが管制塔を離れようとしたその時、砲弾がついに管制塔の柱へと命中しその衝撃で彼女は体勢を崩し転倒した。

 外に放り出されることはなかったが、砲撃を受けた管制塔は嫌な音を立てながらぐらつき始める。

 

「スプリングフィールド! そこから飛び降りるんだッ!」

 

 管制塔の下でスネークが叫ぶ。

 彼女は管制塔の高さに躊躇していたが、意を決して管制塔を飛び降りた。

 彼女に飛び降りることを叫んだスネークは落下する彼女を見事受け止める。

 

「おい、もう大丈夫だ。目を開けていい」

 

 彼女はスネークの腕の中で目を閉じて身体をこわばらせていたが、やがてゆっくりと目を開き先ほどまで自分がいた管制塔を見て、それから自分を抱きかかえるスネークの顔を見て頬を赤らめた。

 次の瞬間、管制塔が二発目の砲撃を受け、驚いたスプリングフィールドはスネークに咄嗟に抱き付いた。

 

「スコーピオン! 後退するぞ、一旦後退だ!」

 

 瓦礫に身を隠し敵をけん制するスコーピオンにそう叫び、スネークは前もって用意していた二つ目の防衛線へと後退する。

 スコーピオンもその後を追従し、廃墟の中へと入り込む。

 

「ここで持ちこたえるぞ」

 

「ええ、分かりました」

 

「最終防衛ラインってわけだね……というか……スプリングフィールド、いつまで抱きかかえられてんの!?」

 

 スコーピオンに言われ、スプリングフィールドはハッとして慌ててスネークの手から離れる。

 

「私としたことが……恥ずかしい」

 

「ったく、緊張感ないんだから……羨ましい」

 

「なにか言ったか?」

 

「なにも言ってない!」

 

 猛犬のように唸り声をあげるのを、剥き出しの闘志ゆえゆえと考えそれ以上スネークは追及せず、前方で再編成する鉄血の人形を忌々しく見つめる。

 

「弾がもう残り少ないよ」

 

「私もです」

 

「大人しく投降してみる?」

 

「冗談ですね、弾が尽きても銃剣突撃する気概は残っています」

 

「へへ、そうこなくっちゃね!」

 

 この期に及んで、二人の戦術人形は戦意を失っていなかった。

 敵を見やり獰猛な笑みを浮かべるスコーピオンと、銃剣を取り付け淑女らしからぬ鋭い目で敵を観察するスプリングフィールド……この二人に呼応しない伝説の兵士ビッグボスではない。

 自身も軽機関銃と剥き出しの弾帯を手に迫りくる鉄血人形を睨みつけるように見据える。

 

 

「我が軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能。状況は最高、これより反撃する! って誰の言葉だっけ?」

 

「第一次世界大戦時のフランス陸軍将軍フェルディナン・フォッシュの言葉ですね。一人30人倒せば私たちの勝利です」

 

 

 窮鼠は猫を噛むというが、追い詰められた蛇・蠍・淑女はこの瞬間他のどんなものよりも恐ろしい存在と化していただろう。

 

 やがて鉄血人形が廃墟の中へと足を踏み入れた時、三人の一斉攻撃が敵の部隊を出迎えた。

 

 身軽なスコーピオンは両手に銃を持ち、素早く動くことで敵を翻弄し次々に鉄血人形をなぎ倒す。本来後方での狙撃を得意とするスプリングフィールドは銃剣で鉄血人形を突き刺し、飛びかかってきた人形などを銃床で殴りつけるという荒々しい戦い方をしている。

 

 軽機関銃を手に、凄まじい弾幕で応戦するスネークの姿はまるでランボーを思わせる。

 鬼気迫る表情のスネークの姿に、鉄血人形は気圧されていた……圧倒的に有利なはずなのは自分たちであるはずなのに、数の面でも装備の面でも勝っている鉄血人形が圧倒されているのだ。

 

 鉄血人形が、後退していく。

 

 鉄血人形は予想外の反撃に作戦を変更、砲撃で廃墟を跡形もなく吹き飛ばそうとする作戦に出る。

 しかし部隊が廃墟から撤退しきらないうちに、爆撃が後退する鉄血人形たちを吹き飛ばしたではないか。突然の爆撃に慌てふためく人形たちの頭上に、数機のヘリコプターが飛来する。

Mi-24戦闘ヘリコプター、その機体の側面には国境なき軍隊(MSF)の象徴であるパンゲア大陸と髑髏を模したマークがある。

 

 

『スネークッ!!』

 

 

 ヘリより拡声された音声が飛行場へと響く。

 その声はスネークも聞きなれたMSF副指令の声であった。

 

「カズ!」

 

『ようやく見つけたぞボス! 援護を開始する!』

 

 Mi-24(ハインド)よりMSFの戦闘員が飛行場へと降下し、浮足立つ鉄血人形へ攻撃を仕掛ける。

 鉄血人形たちは予想外の攻撃を受けて敗走していき、MSFの戦闘員と上空のハインドがまるで獲物を駆り立てるかのように追い詰める。

 

 やがて一機のハインドが飛行場へと降り立ち、MSF副指令のミラーが降り立つ。

 

 

「カズ! よく来てくれたな!」

 

 スコーピオンとスプリングフィールドを伴いスネークは彼のもとへと駆け寄る。

 ミラーの目線は一瞬二人の戦術人形へと向けられたが、こんな場面で悪い癖を出す男ではない……ミラーは差し出されたスネークの握手に応じるのを少し待つと、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「待たせたな……ボス」

 

 十八番をとられた形となったスネークは笑みを浮かべ、それからミラーはスネークの手を固く握った。




これからもスプリングフィールドさんには銃剣突撃してもらいます(錯乱)


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マザーベース:英雄の帰還

 世界が戦争で荒廃しきったこの時代において、争いから逃れるように大都市から離れたこの海辺で暮らす家族がいた。年老いた老夫婦と、その一人娘に馬が一頭いるだけの貧しい家族だ。

 その家族は貧しいながらも、現在世界に蔓延する脅威や争い事からは隔絶された平穏な生活を送っていた。

 

 ある日の事だ。

 一家が経験したことのない猛烈な嵐に見舞われてその日の農作業を止めて、一家は家が吹き飛ばされないよう祈りながらその日を過ごしていた。やがて嵐が過ぎ去り、外に出てみた一家は驚愕する。

 家から見える遥かな洋上に、それまで存在していなかった巨大な建造物が現れたのを見たのだ。

 石油プラットフォームにも似たその巨大建造物からは毎日のようにヘリコプターが飛び立ち、何度か一家はその建造物からやって来た兵士と言葉をかわした。

 

 争いに巻き込まれるのではないかと一家は危惧していたが、彼らは特に一家に危害を加えるわけでもなく世界情勢や地理の事をやたらしつこく聞いてくるのみであった。

 一度魚を送った一家にその兵士たちは喜び、次に来たときは一家には有り余るほどの物資を返されたのだった。

 以来、上空をヘリが飛び交っていくことは一家にとって日常と化し特に気にも留めることは無かった。

 

 その日も一家の上空をヘリが通過していったが、いつもと違うのは数機が固まって洋上の巨大建造物に向かっていることであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリの一機がマザーベースのヘリポートに降り立った時、そこにはMSFのスタッフほぼ全員が集まり自分たちのボスでありこの基地の司令官の帰りを出迎えていた。

 歓声をあげる彼らMSFのスタッフに、スネークは手を振り笑いかけた。

 

 

「ボス、よくご無事で!」

「信じていましたビッグボス!」

「もうボスに会えないかと……ご無事で何よりですボス!」

 

 

 歓声をあげ、中には涙を流しスネークの帰還を喜ぶ者も大勢いた。

 スネークは彼らに近付いて肩を抱いたり声をかけていく。

 誰もがこの伝説の兵士のカリスマに惹かれ忠を尽くすMSFという家族の一員、スネークは一人一人その名を呼んで労をねぎらった。

 

「スネーク」

 

 集まったスタッフから少し離れた位置から彼の名を呼ぶ者がいた。

 それに気付いたスタッフたちが場所を譲り道を開ける……そこにはマザーベースに一足先に帰還しスネークの出迎えを準備していたカズヒラ・ミラー、そして車いすに座り笑顔を見せるヒューイ・エメリッヒの姿があった。

 スネークは二人のもとへと歩み寄ると、再度カズと固い握手を交わしヒューイにもまた手を差し出した。

 

「無事で良かったよ……スネーク」

 

「お前もな、ヒューイ」

 

 ヒューイは一瞬、どこかぎこちない笑顔を見せたがスネークは特に気にも留めずこの再会を喜ぶ。

 

「スネーク、わたしのことは無視か?」

 

「ストレンジラブ、お前も無事だったんだな」

 

 群衆とも、カズとヒューイの二人からも離れた場所に立っていた彼女の存在をスネークは見逃していた。

 彼女の皮肉交じりの言葉も、今のスネークにとってマザーベースに帰って来た実感を味合わせてくれる。

 

「本当に無事で良かったよスネーク」

 

「突然嵐に巻き込まれ、訳の分からない場所に着いた時はどうしたものかと思ったぞ。お前たちもあの嵐に巻き込まれたのか?」

 

「あぁ、それはそうなんだが……スネークちょっといいか?」

 

「ん?」

 

 なにやら深刻そうな声色でカズはスネークの肩に手を回し彼を少し離れたところにまで連れていく。

 

「どうしたんだカズ、何か問題があったのか? 見たところプラットフォームのいくつかは損傷が見受けられるが、直せないほどじゃない。心配するな」

 

「そんなことはいいんだが……」

 

「なんだ、もったいぶらずに言ったらいいじゃないか」

 

 真剣な表情で、カズはサングラスのズレを直しちらりとどこかを見てからそっと耳元でささやいた。

 

「あのナイスな女の子たちはどこで見つけてきたんだ?」

 

「……は?」

 

「はっはっは、ボスもなかなかやるじゃないか。こんな非常時にあれだけの美女を連れてくるなんて、教えてくれどこで見つけてきたんだ?」

 

「………」

 

 さきほどの真剣な表情はどこへやら、そこにはいつもスネークの頭を悩ませる悪い癖の出たカズのふざけた表情があった。

 ひとまずスネークは無言で彼の横腹を殴りつけ、悶絶するカズが暴走しないようしっかりと捕まえたままスコーピオンとスプリングフィールドのもとへとやってくる。

 

「とりあえずこいつは副司令官、以上だ」

 

「ま、待てスネーク……レディへの自己紹介は、もう少し…しっかり…」

 

「うるさい、色々話すことがあるから中に行くぞ」

 

「いや、オレ的にはそこのお姉ちゃんと……ぐふっ! わ、分かった……ボス」

 

「二人ともついてきてくれ話したいことが山ほどある」

 

「う、恨むぞ……スネーク」

 

 目の前で知らない人がボコボコにされているという不思議な光景に、スコーピオンはポカンと口を開けてスプリングフィールドは無表情で固まっていた。それから顔を見合わせて特に何も言わずスネークの後をついて行くのであった。

 

 

 

 

 マザーベース内司令室―――

 

「――――と、いうわけです。みなさん理解していただけましたか?」

 

 

「うん、概ね理解できたよ」

「にわかに信じられないがな」

 

 スネークが以前スコーピオンにしてもらったように、今回はスプリングフィールドがこの世界の歴史や出来事、そして自分たちが人間ではなく戦術人形と言われる人為的に生み出された存在であることを説明した。

 スネークはこの説明を何度も聞いたうえでいまだに理解できていない部分があったが、頭の回転の速いヒューイとストレンジラブの二人は一度の説明で納得するのであった。

 

「よく一回で理解できたな」

 

「ちゃんと人の話を聞いていれば分かるだろう? とは言っても理解はしたが、信じ切れてはいない」

 

「ぼくも同じ意見だ。君たちがその……戦術人形っていう存在には見えないな。人間そのものじゃないか」

 

「もしその話が本当なら、とても興味深い。わたしが知るAIの技術は、この世界でとてつもない発展を遂げているということだろう? 興味深い、本当に興味深い……」

 

 あごに指をそえて、スコーピオンとスプリングフィールドの二人をまじまじと見つめる。どこか普通じゃないその様子に二人は何かよからぬものを感じてのか、後ずさりしスネークに助けを求めるかのように目線を送る。

 もう一人、悪い癖を持った変人がいるのを思い出しスネークはため息をこぼしストレンジラブを二人から離す。

 

「ところで、今の説明で理解できたかカズ?」

 

「――――! ッッッ!!!」

 

 部屋の隅には、椅子に縛りつけられ猿轡をかまされた哀れなカズヒラ・ミラーがいる。

 何度も口説こうとして説明の邪魔をする彼をこうしたのはスネークだ……恨みがましく睨みつけてくる彼の姿に、スネークは呆れて言葉も出ないようだ。

 

「スネーク、二人のことはこれからどうするつもりだい?」

 

 成り行きで助ける形になったが特に考えてもいないことだった。

 そこでストレンジラブは提案し、しばらくの間マザーベースで彼女たちを保護しようということになった……二人がかわいいという理由以外に、ストレンジラブとしては二人の戦術人形に使われているAIにかなり興味があるようだった。

 ヒューイも戦術人形の技術に興味を持ったようだが、それはストレンジラブに拒絶される……理由は言わなくても分かるだろう。

 MSF副指令カズヒラ・ミラーも拘束されたまま激しく首を縦に振ることで賛成の意を示す。

 

「君らの部隊が見つかるまでとりあえずはここに居てもいい。だがこちらも余裕はない、君たちの力も借りることになる。それは構わないか?」

 

「うん、それでいいよ。何度も助けてもらった恩も返したいしね、スプリングフィールドもそれでいいよね?」

 

「ええ、微力ながら私たちもスネークさんたちの助けになります」

 

「よろしく頼む」

 

「わたしの事はストレンジラブと呼んでくれ、みんなそう呼ぶ。後で君たちの話を聞かせてくれ」

 

「ぼくはヒューイ。ここで開発を任されてる、何か必要があったら遠慮なく言ってくれ。出来るだけの事はするよ」

 

「――――!(せめて自己紹介ぐらいさせろスネーク!!スネーーーークッ!!)」

 

 

 




マザーベースpartはタイトルにマザーベースとつけるようにしていきますね。


MSF兵A「流石ボス、あんな美女を連れてくるなんて…」
MSF兵B「美少女がいればオレは頑張れる!ボス、一生ついていきます!」
MSF兵C「やっぱ巨乳は最高だぜ!」

パス「……」


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マザーベース:異常なし

タイトルは適当


 マザーベースに欠かせない存在である司令官が帰還を果たして数日、MSFのスタッフたちはあの嵐による被害状況の確認と資材等の管理の他、周辺地域の偵察のためほぼ全員が忙しく動き回っていた。

 嵐による損傷によってプラットフォームを繋ぐ橋の一部が壊れている箇所があり、そう言ったところは急ピッチで修復作業が進められている。

 

 

「―――現状、オレたちの悩みと言えば物資の問題だな。スタッフは総勢300人ほど、そのスタッフ全員の食糧を安定して確保する方法を見つけることがまずは最優先だ」

 

 マザーベース司令室にて、スネークとカズは隊員たちから集められた情報を整理し、マザーベースの行動計画を立てていた。

 嵐によって失われた資材・備品・兵器の数は決して少なくはない。

 当面の間マザーベースの維持できるだけの物資はあるが、それもいつかは無くなるだろう。

 

「食糧の問題は長期的な課題になるだろうが、糧食班と研究開発班が共同でこの問題にあたっている。それから、燃料の問題だが……これは独自に解決できるかもしれない」

 

「どういうことだ?」

 

「諜報班より良い知らせが入った。マザーベースの近海に、誰もいない石油掘削プラットフォームがあったらしい」

 

「少し都合が良すぎるんじゃないのか? 石油がもうでなくなったのかもしれん」

 

「その可能性もあるが、一度確かめてみるのもいいだろう。確認はヘリによる観測のみだ、内部に誰かいるかもしれないから一度調査が必要だ」

 

 人を養うのには食糧が、マザーベースを維持するのには燃料と修復資材が欠かせない。

 MSF単独で集められる資源には限度がある、カズの考えとしては早くマザーベースを立て直し、この世界でMSFの存在をアピールしビジネスにつなげたいと思っていた。

 とはいっても、集められた情報からこの世界において国境なき軍隊(MSF)のような存在を求める勢力は多くいるだろうと思い、あまり重くは考えていなかった。

 

「それからスネーク、先日ZEKEを海中から引き揚げておいたぞ」

 

 ある程度の行動計画を立てたところでカズはそう言った。

 核査察の問題に伴い、隠ぺいのために海に沈められていたメタルギアZEKE、国境なき軍隊(MSF)が持つ最大の抑止力だ。

 

「嵐による影響は幸いにもなかったが、今はヒューイのところで調整を行っている。AIの方はストレンジラブのところで調整中だ、どうも海に沈めた影響か動作が悪いらしい。実戦にはすぐには使えん」

 

「そいつは良かった。カズ……パスとチコの事だが」

 

 スネークのその言葉に、カズは表情を曇らせる。

 そうだ、嵐に見舞われてよく分からない世界に迷い込んで手が付けられていなかったが、本来スネークとカズは二人の救出のため任務を行うはずだったのだ。

 幼いが立派な兵士を目指すチコ、サイファーのスパイということが露呈したがMSFのアイドル的な存在だったパス。この状況に置いても二人の安否を心配するスタッフもいた。

 

「スネーク、こんな事は言いたくないがおれ達が今どこに居てここがどこなのか分からない以上、二人を助けに行くことはできない。現実的な問題に対処するだけで精いっぱいだ」

 

 そうカズは言ったが、その言葉は彼としても本意ではないだろう。

 MSFはただの傭兵集団ではない、家族なのだから。

 仲間を大切にし尊重する、裏切ったり見捨てたりなどはしない。

 

「分かってる、今は目の前の問題を片付けよう。だが何か二人の情報を手に入れたら、すぐにでも動くつもりだ」

 

「ああ、そうだなボス」

 

「うむ……ところで、スコーピオンとスプリングフィールドの二人は今どこに?」

 

 一瞬カズの目がサングラスの奥で光ったのをスネークは見逃さない。

 咎めるように睨むスネークにカズは咳をして誤魔化す。

 

「二人はストレンジラブのところに行っているはずだ。二人の……戦術人形のAIを確かめたいと言ってたな」

 

「なぁカズ、あの二人は本当に戦術人形という存在に見えるか? オレにはどうもそうは見えない」

 

「肉体、声、思考それらすべて人間と遜色がないからな。オレも言われるまでただの武装した女の子にしか見えなかったよ。もし本当ならこの世界は凄まじい技術力を持っているようだな、うちの開発班もやりたがるんじゃないのか?」

 

「オレは賛成しかねるがな」

 

「スネーク……」

 

「戦術人形、確かに便利な存在かもしれない。だがそれは、オレたちのような兵士の存在を否定するものだ。通常何年もかけて育成する兵士を、たった数時間で造り上げる。この世界では俺たちのような存在は時代遅れなのかもしれない」

 

 昔、スネークはオレたちのような存在はいつかいらなくなる時代がやってくるだろうと言ったが、この世界ではある意味的中している。だがそれは生身の人間の兵士が戦場に立つ必要が無くなり、造られた機械の兵士が生身の人間に変わって戦場に立つ時代だ。

 造られた兵士同士が戦場で戦い、生身の人間は戦場から離れた事務室でそれを指揮する……そう、まるでゲームのように。

 

「考え過ぎだスネーク。オレたちのような存在はいつどこでも必要とされる。スネーク、まさかあの子たちの存在そのものを否定するというわけではないよな?」

 

「そんなことは考えちゃいない。だが、オレ自身が戦術人形を造るという考えがないというだけだ。マザーべースのスタッフも、同じように考えるはずだ」

 

「いや、意外にも戦術人形に興味ありげみたいだぞ、主に研究開発班が…。あと独身スタッフたちが……」

 

「後はお前もか、カズ?」

 

「さあ、何のことやら」

 

 無表情でしらばっくれる副司令官の姿に、スネークはため息をこぼす。

 

 ひとまずカズとはそこで別れる、なんでもサウナ掃除があるからだとか……律儀に約束を守って大したものだと感心しつつ、スネークは司令室を出てマザーベースの喫煙所に赴く。

 最近はマザーベース内で禁煙運動なる組織を立ち上げて騒いでいるスタッフがいるせいで、喫煙者のスネークも肩身を狭くしている。昔、無線で葉巻と煙草の違いを当時のメディカルサポーターに語ったが全く理解されなかった思い出がある。

 おまけに恩師には理不尽ないわれをされたものだ……思いだし、スネークが小さく笑うと、喫煙所の扉が開き疲れた表情のスコーピオンがやって来た。

 

「はぁー、疲れたよスネークーーっ……あたしにもそれ頂戴」

 

「ダメだ、子どもにはやらせられない」

 

「ケチ、それにあたし子どもじゃないよ」

 

 少しして、スプリングフィールドも顔を覗かせてきたので、仕方なくスネークは葉巻をもみ消し外に出る。

 

「ストレンジラブにあれこれいじられたのか?」

 

「仕方ないけどさー……あれこれ調べられて服脱がされて触られたり、本当に疲れた」

 

「裸になって触られたのか、大変だったな」

 

「一瞬想像したでしょ、変態」

 

「誤解だ、ストレンジラブにはきつく言っておく」

 

「そう言えばさっきここにはサウナがあるって聞いたんだけど本当?」

 

 期待したような表情でスコーピオンは聞いてきた。

 肯定するや否や彼女はスプリングフィールドの手を引いて目的地も分からずさっさと駆け出していってしまった。賑やかなものだと思いつつ再び葉巻を取り出そうとしたところ、今度はストレンジラブがやって来たではないか。

 気付かないふりをして喫煙所に入ろうとしたが、その前にストレンジラブが喫煙所の扉に寄りかかって中に入るのを阻止してきた。

 

「少し退いてもらいたいんだが?」

 

「戦術人形、この目で見たからこそ分かるが凄まじい技術だ。私たちがいた時代から数十年経っても到底たどり着けないような地点だ。この世界が、2060年代の世界と言うのも、あながちウソではないのかもしれない」

 

 スネークの言葉を無視し、ストレンジラブはどこか興奮した様子で言う。

 もう扉から退く気はないようなので、スネークは諦めて葉巻をしまう。

 

「AIの専門家であるキミの目からはあの二人はどう見えるんだ?」

 

「ふん、以前わたしはAIと人間の違いは何かと問いかけたことがあったな。戦術人形、その身体をどう構成しているのかは分からないが人間に限りなく近い容姿に自己で判断し感情すら表現をするAIを持っている」

 

「AIに感情を表現させることができるのか?」

 

「スコーピオン、彼女は特に喜怒哀楽の表現が顕著に見える。無論、造られた音声によってパターン化された感情表現だってありえるだろう。だがスネーク、お前にはあの少女たちの感情が造られたプログラムだと思えるか?」

 

「いや、彼女たちの感情表現が造られたものだとは到底思えない。それにまだ彼女たちが造られた人形だということすらも信じ切れていない」

 

「そうだろうな。だがもし戦術人形が造られているところを見れば、お前も認めざるを得ないだろうな。開発班も張り切っているようだ」

 

 彼女は先ほどカズが言ったのと同じようなことを彼女は言うが、戦術人形の製造に否定的なのはスネークだけなのかもしれない。

 カズに言った言葉をそのままストレンジラブにも伝えると、彼女は鼻で笑う。

 

「下らんプライドは捨てろ。メタルギアZEKEにのせられているのは紛れもないAIだ、比べるのもおこがましいほどに差はあるがどちらも同じ存在だと言えなくもない。ZEKEは造りだせて、戦術人形が造れないはずはないだろう……まあ、もし造れたとしても美しい彼女たちを戦場に出すのは躊躇してしまうかもしれないな」

 

「そういえば、お前もそう言うところがあったな……」

 

 マザーベースでは彼女がレズビアンの気があることは公然の秘密だ。カズにちょっかいをかけられなくても、彼女に手を出されたという女性スタッフの声もある。

 ひとまずMSFが戦術人形を造りだすという話しは保留とし、ひとまず彼女も頷く。

 

「ところでスネーク、わたしが前に言った事を覚えているか?」

 

「何の話だ?」

 

「この世界の戦術人形を造り上げる技術はとても高度なものだ。人間と同等の知能を持ったAI、人間に限りなく近い容姿……これはもはや人間を造りだせるといってもいい。それだけじゃない、AIに記憶を宿せば死者を再びよみがえらせることも可能ではないか? もはや仮定の話ではない、実現できる境地に我々は居るのだ。考えなかったとは言えないはずだ……ザ・ボスが、再び我々のもとに現われることを」

 

 おそらくは、いや確かにこの世界の技術をもってすれば彼女はそれを成し遂げるだろう。

 だがそれを、スネークは即座に拒絶した。

 

 彼女の言う通り考えたことはあった、だがそれだけは絶対にやってはいけないことだった。最愛の恩師を自らの手で殺したスネークにとって、それは到底受け入れられないものだった。

 

「この話はもうお終いだ、再び話すこともするな。戦術人形の製造の事もだ」

 

「そう、あいかわらず潔癖なことで……まあいいさ、覚えておいてくれ。お前の指示があればいつでも実行に移せるとな」

 

 微笑みながら、ストレンジラブはその場を立ち去っていった。

 

 

 

 

 ザ・ボスは死んだ。

 最愛の恩師との最後の戦いを忘れたことなどない、心の中には今も彼女がいる。

 だが……ザ・ボスはたった一人しかいないのだ。

 

 

「ボス、オレは……オレの意思で戦う」

 

 誰もいなくなったその場所で、誰に言うわけでもなくスネークは呟く。もう葉巻を吸う気にもなら無くなってしまい、せめて海風でも浴びようとスネークは外に出ていった。

 

 

 

 

 

 

「おい、スネーク」

 

 プラットフォームをあてもなく歩いていたところだった。

 神妙な面持ちのカズがその場を通りがかったスネークに声をかけてきた、ただ事ではない様子だった……甲板上に半裸で胡坐をかいているのだ、ただ事ではないに決まっている。

 

「オレはサウナ掃除に行った。サウナ室の前に清掃看板を置いてだ……清掃を終えたんで、折角だから一番に入ってサウナを楽しんでいたんだ」

 

「あぁ」

 

「そしたらスコーピオンとスプリングフィールドが入って来たんだ……気付いたらここでのびてて、身体中が痛いんだ。なあボス、これはオレが悪いのか?」

 

「カズ……いいセンスだ」

 

 

 

 マザーベースは、今日も一日平穏であった。






ツンデレっぽい子さがしてるんですけど、誰かいないですかね(チラ


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処刑

 側面に髑髏のマークを入れたヘリコプターが一機、洋上の高い位置を飛行している。

 強力な機銃とロケットを積み、完全武装の歩兵を載せることもできるMi-24(ハインド)には今、パイロット以外には二人だけが搭乗している。

 一人は葉巻をくわえじっとその場に佇むスネーク、もう一人は窓の外を楽しそうに眺めているスコーピオンだ。

 

 二人はマザーベースから数十キロ先の陸地にある、今は誰もいなくなった街とその近くにある廃墟と化した陸軍基地の調査任務のためにマザーベースを発っていた。

 

『スネーク、諜報班の話しでは古い基地に数人の人影を確認したそうだ。この世界において前哨基地となる場所の確保をしておきたい我々としては、廃墟とはいえある程度設備の整った基地は魅力的だ。そこの調査と、できることなら基地の確保を頼む』

 

 スネークの持つ携行用の無線にマザーベースよりカズの声が届く。

 今回のスネークの任務はカズの言った通り、古い陸軍基地の調査と確保だ。

 マザーベースの諜報班は司令官であるスネークの捜索以外にも、マザーベース周辺の目ぼしい拠点の調査を行ってきた。その諜報の最中で見つけたのが、近海の石油プラットフォームであったり今回の陸軍基地なのだ。

 

『スネーク、任務についてだが、基地内にいる人間は極力殺害せず回収を頼む。ここでは前以上に人材の確保が難しくなるだろう、積極的に兵士の確保を頼む。フルトンは持っているな?』

 

「ああ、しっかり持ってきている」

 

『それと、今回はあんたのバディとしてスコーピオンを同行させている。彼女の実力については、まああんたの方が分かるだろう。あんたなら心配いらんだろうが、彼女には無理をさせるなよ。頼んだぞ、ボス』

 

 無線越しのカズの声色はいくらかかたい。

 マザーベースにいるとはいえ、この見知らぬ世界にボスであるスネークを初めて向かわせるのだから、ある程度は緊張感を持っているのかもしれない。

 スネークとしてはそれくらいの緊張感を持っていてもらった方が、任務に集中できてよりよい成果を出せるのだが。

 

 やがてヘリは高度を徐々に下げていき、目標の場所からは数キロ離れた荒れ地に降り立った。

 スネークがドアを開けると、舞い上げられた砂ぼこりが容赦なく吹き付けてくる……そんな中をスネークが下り、次いでスコーピオンが下りた。

 

「ボス、健闘を祈ります!」

 

 パイロットのその言葉にスネークは親指を立てて応えると、パイロットも同じように親指を立てて返し、機体を上昇させその場を離脱していった。

 

「目標地点は北東に2km、ついてこいスコーピオン」

 

「了解、ボス」

 

 にっこりと笑いながら頷くスコーピオンであったが、今回彼女を任務に連れていくうえで気掛かりなことがあった。

 

「もう、スネーク……服装の問題ならもう解決したでしょう?」

 

 スネークの心情を察してか、スコーピオンは頬を膨らませて抗議する。

 

 そう、スネークが気にしていたのは彼女の服装だった。

 隠密作戦(スニーキングミッション)をするうえで服装というのはとても重要な要素だ、周囲の環境に溶け込める色合いの迷彩(カモフラージュ)をすれば敵に発見されるリスクを抑えられる。逆に目立つ服装をしていれば敵に発見されるリスクは高まり、危険な目にあうだろう。

 そんな理由でスコーピオンの同行に難色を示したスネークだったが、ここでMSFのスタッフが持ってきた秘密兵器が全てを解決した。

 

「これがあればカモフラージュ率を維持できるんでしょ? だったらいいじゃない」

 

 そう言ってスコーピオンが見せてきたのは、独特な形状をした小さな拳銃だ。

 

 その名もEZ GUN(イージー・ガン)

 

 開発班曰く、この銃を持っているだけでカモフラージュ率を高い値で維持できてなおかつスタミナの消耗も抑えられるという凄まじい効力を持ったものなのだとか。

 MSFの開発班がこれの設計をどうやったのかは定かではないが、そんな便利なものならばとスネークも一丁もらおうとしたが何故か拒否される。

 開発班の強い推薦もあって、この銃を所持したスコーピオンがほぼごり押しでこの任務に参加してきたのだ。

 

「原理はよく分からんが、それでも目立つ行動は避けるんだ」

 

「勿論だよスネーク。足は引っ張らないよ。それにさ、あたしスネークの力になりたいんだ」

 

 じっと見つめてくるスコーピオンにそれ以上は何も言わず、スネークは目的地まで移動を始める。

 

 やがて目的地となる古い陸軍基地の手前の小さな町に到着する。

 この町も戦争の影響を受けてか人の姿は無く、もぬけの殻となった家が並ぶゴーストタウンとなっていた。

 そこでスネークとスコーピオンは二手に分かれて町を探索し他に誰もいないことを確認した。

 

「スコーピオン、そっちはどうだ?」

 

「誰もいないみたいだね。でも、つい最近まで人がいたような痕跡があるよ。もしかしたら基地の方に誰か人がいるかもね」

 

 諜報班が見つけたというのは、実は人間なのか鉄血の人形だったのかは定かではない。

 諜報班の情報はあくまで人影を見たという報告のみで、それが人間なのか戦術人形だったのかまでは分からない。

 人間なら回収できるが、鉄血人形はどうなのか?

 この問題に、スコーピオンは破壊すべきだと即答するのであった。

 

「鉄血の戦術人形はキミらのように話しが通じる相手ではないのか?」

 

「通じないよ、あいつらは人間を見つけ次第殺してる。あたしらのようなグリフィンの戦術人形も積極的に攻撃して来るんだ」

 

「グリフィン、君らの本当の所属組織だったな。そこには君みたいな戦術人形が多くいるのか?」

 

「うん、というか戦力は全部戦術人形だよ。クルーガーって元軍人がグリフィンのボスなんだけど、人類の損失を減らすために戦術人形を積極的に買って民間軍事会社を立ち上げたんだ。まあ大ざっぱに言うとね」

 

「なるほどな……基地が見えたぞ」

 

 町の外れに出た時、目標の基地を見つけることができた。

 物陰に身をひそめ、双眼鏡を手にスネークは基地を観察する。

 

 基地は周囲をフェンスでぐるりと囲まれ監視塔がいくつも建てられているが、フェンスはところどころ壊れているようで侵入路には困らない。

 敷地内には倉庫が立ち並び壊れた軍用車と思われる車両が連なっている。

 他にも敷地内を見回してみるが目ぼしいものと言えば4階建ての建物があるくらいで、人影は全く見当たらない。

 

「人がいる気配はないが、警戒を怠るな」

 

「了解スネーク」

 

 スコーピオンを伴い壊れたフェンスの隙間から基地に侵入する。

 今まで何度か軍事基地に潜入する任務をこなしてきたが、ここまで人の気配のない基地に潜入するのはスネークにとって初めてかもしれない。

 だがこの静けさはあまりにも不気味であり、スネークは片時も気を抜かず周囲に目を光らせていた。

 

 倉庫、監視塔などを確認し4階建ての建物に入ろうとした時だった。

 建物の扉を開けたスコーピオンは、その扉にべっとりとついた血を見て一瞬悲鳴をあげそうになる。

 

「スネーク……!」

 

 スネークは頷き、先に建物へと入って行く。

 建物の窓はほぼ全て内側から木が打ちつけられていることもあり、昼間だというのに内部は薄暗かった。床にはガラスの破片やコンクリート片が散らばっており、歩くたびにそれらが軋む音を響かせる。

 建物の暗さに目が慣れたスネークは床に残る血痕を見つけ、それを辿っていく。

 それは資料室にまで続いており、ゆっくりと資料室の扉を開けた時、そこでスネークは数人の兵士が死んでいるのを発見した。

 

「まだ死んで間もない」

 

 傷口から流れ出た血はまだ乾ききっていない。

 見たところ人間の兵士に見えるようだが、戦術人形であるかどうかスコーピオンに確認をとったところやはり人間の兵士だったようだ。

 気掛かりなのはその傷口だ。

 まるで何かで斬りつけられたように胸元がぱっくりと割れていたり、肩から斜めに切断された兵士もいる。

 

「鉄血の戦術人形以外に、こんな事できる奴はいないよ」

 

「気をつけろスコーピオン、まだ建物の中にいるかもしれない」

 

 その警告にスコーピオンは頷く。

 彼女はある危機感を抱いていた、ここに居るのはもしやただの鉄血の戦術人形ではなくより上位の存在がいるのではと。その危機感に、彼女は冷や汗を流し心臓の鼓動が高まっているのを感じていた。

 

 不気味なほど静かなその建物を調べ続け、やがて二人は司令室にたどり着いた。

 その扉の前で二人は言いようのない空気を感じ取る、その扉を開かなくとも中で待ち受けている存在がとてつもなく危険なものであると本能的に理解していた。

 スネークは一度息を深く吸い込み吐き出す。

 それからスコーピオンに目で合図をし、扉を蹴り開け銃を構える。

 

 司令室の長テーブルの上に何者かが片膝を立てて座っている。

 窓からの逆光によってその姿ははっきり見えない。

 

「おいおい、ドアはノックしてから開けるもんだろう?」

 

 気の強そうな女性の声だった。

 逆光の光に慣れたスネークの目に映ったのは、全身黒ずくめの格好をした同じく黒い髪を長くのばした女性の姿だった。整った顔立ちに笑みをはりつけ、二人を見つめていた。

 

「誰だ、お前は…」

 

「お前こそ誰だよ。この辺りには人間はいないはずだった、人形連れてる人間なんてなおさらだ」

 

「気をつけてスネーク! こいつ知ってる、あたしの……あたしの仲間を襲った奴だ!」

 

「へぇ、オレから生き延びたクソ人形かよ。まあ覚えてないけどな」

 

 その戦術人形が机から降りると、ぐしゃっと何かを踏んだ音が鳴る。

 床をよく見て見ると、細切れにされた人間の残骸が散らばっている……気付かなかったが、その戦術人形の右手は鉤爪のようなガントレットをつけ巨大な剣を握っていた。

 

「ふぅん……」

 

 近付いて来たその戦術人形は、目を細めてスネークを観察する。

 

「お前そこのポンコツ人形と違ってそこそこやりそうだな。人間なんてみんなカスだと思ってたけどな、お前は初めて見るタイプの人間だ。やることやって後は帰るだけだったけど……死んどくか?」

 

 

 咄嗟にスネークはその場を飛びのいた。

 次の瞬間、スネークがいた場所めがけ巨大な剣が振り下ろされ、床に大きな亀裂が入る。

 

「スネークに手を出すなッ!」

 

「はっ! ザコは引っ込んでな!」

 

 至近距離で放ったスコーピオンの銃撃をその戦術人形はかがんで躱し、凄まじい踏み込みで一気に懐に入り込むと、スコーピオンの喉を鷲掴みし勢いよく床に叩き付けた。

 

「スコーピオン!」

 

 とどめを刺そうと逆手に剣を持ち変えた人形に向けてスネークが撃つが、彼女は巨大な剣を盾代わりに銃弾をはじいて見せた。悶えるスコーピオンを一瞥し、彼女は獰猛な笑みを浮かべスネークに狙いを定める。

 彼女は素早く腰から拳銃を抜きスネークに向けて撃つ。

 それを横に転がって避け、牽制に弾を撃ちこむ。

 

「どうした! かかってこいよ!」

 

 彼女はまるで避けようともしない、まるで人間の銃弾なんて当たりはしないとでも思っているかのように。

 彼女の拳銃が弾切れを起こした時、遮蔽物から身をだし撃とうとしたがスネークの拳銃も弾切れだった……それを見た彼女はにやりと笑い、剣を手に一気に接近戦を仕掛ける。

 振り下ろされた剣は遮蔽物にしていた机を容易く両断してしまう。

 笑う彼女は先ほどスコーピオンを捕まえた時のように、スネークの胸倉を掴もうと手を伸ばしたその時……スネークはその腕を逆につかみ取ると、彼女の懐に潜り込み、一本背負いの要領で彼女の身体を投げ飛ばす。

 

「くっ…! テメェ…!」

 

 予想していなかった攻撃に激高し、彼女は素早く起き上がるや否や拳を振り上げ殴りかかる。

 それをスネークは冷静に見極め、がら空きの腹部に膝蹴りを入れ、そのまま彼女の体勢を崩して後頭部から床に叩き付ける。

 

「クソ……なんだお前、人間かよ!?」

 

 よろよろと起き上がった彼女は血走った眼でスネークを睨みつけ、息を荒げている。

 そのままにらみ合いが続く……すると、彼女は小さく舌打ちをして冷めたようにため息をこぼした。

 

「お堅い上司のせいでお楽しみの時間はお預けみたいだ、オレはもう帰る。なぁ……名前聞かせろよ」

 

「……スネークだ」

 

(スネーク)か、覚えた。また会おうぜ、今度はぶっ殺してやる」

 

 そう言うと、笑みを浮かべたままゆっくりとした動作で司令室を出ていった。

 

 基地から立ち去っていく彼女を窓から眺めていると、どこに隠れていたのか他の鉄血人形たちが彼女の後をついて行く。ふと、目が合ったスネークに向けて彼女は中指を立てていくのであった。

 

 

「スコーピオン、大丈夫か?」

 

「うーん……頭が割れる…」

 

 外傷の有無を確認し、ひとまずスコーピオンをソファに寝かせ安静にさせた。

 

「カズ、こちらスネーク。鉄血の戦術人形の攻撃を受けてスコーピオンが負傷した。至急ヘリを寄越してくれ」

 

『なんだって!? それで、大丈夫なのか?』

 

「ああ、なんとかな。それから基地の人間はみんな殺されていた、残りの部屋を探して他に生存者がいないか確かめてみる」

 

『ああ頼んだ。注意してくれスネーク』

 

 無線を切り、スネークは周囲の安全を確保した上で基地に生存者がいないかを確認して回る。

 しかし見つけたのは鉄血の戦術人形に殺された犠牲者だけだった……調査を終えてスコーピオンの元へ戻ろうとした時、まだ調べていない場所を見つける。

 そこは鍵がかかっており、それを強引に破壊し中に入り込む。

 

 薄暗い部屋の中で、一人の少女が倒れていた。

 その少女は腕に手錠をかけられ窓枠に拘束されていた。

 全身を痛めつけられたのか傷だらけであったが、まだ息はあり弱々しい呼吸を繰り返していた。

 

「しっかりしろ、もう大丈夫だ」

 

 かけられた手錠を破壊し、衰弱していた少女をスネークは抱きかかえる。

 腕の中で少女はうっすらと目を開けてスネークを見つめる。

 

「指揮官……すみません、私……」

 

「オレは指揮官じゃないが、助けに来た。もう大丈夫だ」

 

「でも……指揮官が助けに来てくれるって……信じてました。ありがとうございます……指揮官はこんな……9A91を…」

 

 どうやらこの少女……おそらく戦術人形は見知らぬスネークを指揮官だと思い込んでいるようであった。

 身体的な損傷以外にも極度のストレスから心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っている可能性も外せず、ひとまずスネークは話しを合せて置くこととした。

 

 負傷した二人の戦術人形をそっとソファーに寝かせたところ、二人ともスネークの服の裾を掴んだまま眠りについてしまう。

 仕方なく、スネークは二人の傍に座ったまま迎えのヘリを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『処刑人、任務です。あなたの管轄下に目標が入り込みました、部隊を展開し捕らえなさい』

 

「了解……」

 

『どうしたんですか?』

 

「いや、面白い人間に会ってね。任務がなかったらそいつをまた捜しに行こうと思ってたんだ」

 

『人間など放っておきなさい。M4A1、彼女を見つけ捕まえなさい。これが貴方の最優先事項です、処刑人』

 

「分かってるさ代理人、でも片手間で捜す分にはいいだろ?」

 

『ダメです、任務に集中しなさい』

 

「チッ……つまんねぇ奴」

 

『聞こえていますよ処刑人』

 

「分かった分かった、任務をやるよ」

 

 

 

 




UMP45「立ったまま死ねッ!!」

ラオウ「わが生涯に一片の悔いなし!」
ウォーズマン「コーホー……コーホー……」
白ひげ「おれァ白ひげだァア!!!」

ぱっと思い浮かんだだけでこれだけ立ったまま死んだ方がいますね、主にジャンプで。


こんなくだらないネタが浮かぶからドルフロは素晴らしい(錯乱)


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前哨基地設営中

 スネークたちが来るまで荒れ果てて何もなかった古い陸軍基地には今、数機のヘリコプターと十数台の輸送トラックが並んでいた。基地には他にも武装した兵士が巡回し、基地の修復箇所や使えそうな資材の調査を行っている。

 彼らは皆、マザーベースからこの陸軍基地跡をMSFの前哨基地とするべく派遣された部隊であった。

 それも敵地に最も近いこの場所を守るのにふさわしい、MSFで特に能力の高い精鋭部隊だ。

 

 マザーベースの修復と同時進行で進められているために、運ばれてきた資材は多くはないので設営には時間がかかることだろう。しかし、MSFがこの世界で生きていくうえでこの基地はマザーベースに最も近い要衝であり、これから資材を集める場所としても便利な立地であった。

 無駄に広い敷地には滑走路も造ることができる。運ばれたブルドーザーが荒れ地を平らにならし、直に小型飛行機程度の離着陸も可能となるだろう。

 マザーベースのスタッフたちは手際よくこの基地を再び使える物にすべく働く。そんな様子をスコーピオンはどこか暗い表情で見つめていた。

 

「よう、そんな暗い顔してどうしたんだい?」

 

「そうだぜ、折角の可愛い顔が台無しだ」

 

 声のした方を見ると、一人は大熊のような大きな身体の男と軍服姿に赤いベレー帽を被った長身の男性がいた。

 

「あ、えっと……」

 

「そういや自己紹介がまだだったな。オレはドラグンスキー。MSFの戦車部隊の隊長だ」

 

「オレの名はキッド。"マシンガン・キッド"って呼ばれてる。こう見えて元SAS出身の凄い兵士なんだぜ?」

 

「あたしスコーピオン、よろしくね」

 

 差し出されたスコーピオンの握手に応じた二人はどこか嬉しそうだ。戦術人形と初めての接触を喜んでいるのかもしれない。

 その後すぐに落ち込んだような表情を見せたスコーピオンに、二人はお互い顔を見合わせるとその場に座り込む。

 

「なあ、オレらがどうこう言えた問題じゃないと思うけど元気だしなよ。次上手くやればいいじゃないか」

 

「ううん……あたしあの時全然役に立てなかった。スネークの助けになりたいって思ってたけど、足を引っ張ってばっかりで……」

 

「そう気負うなよお嬢ちゃん、相手は滅茶苦茶強い奴なんだろ? 良い目標が出来たじゃないか、そいつにまた会ったらおもいきりぶん殴れるほど強くなればいい。だから気持ち切り替えてよ、強くなろうぜ」

 

「キッドの言う通り、自分を強く保つんだ。悔しさは強さの糧になる、その想いはきっとボスもくみ取ってくれるはずだ」

 

「そっか、そうだよね……あたしらしくもない、あの鉄血のムカつく奴を今度こそぶっ飛ばしてやるんだ! ありがと、なんか元気出たよ!」

 

 万全とは言えないが、ひとまず立ち直る意思を見せてくれたスコーピオンに二人は嬉しそうに笑った。

 基地の設営を行っていたスタッフたちも暗い表情のスコーピオンの事が気になっていたらしい、元気な姿を取り戻した彼女を微笑ましく見守っている。

 

「オレも人生で二度死を覚悟したことがあってね、一回はクルスクでタイガー戦車に鉢合わせた時。もう一回は頭上を対戦車砲を積んだ化け物がサイレン響かせて急降下してきた時だ。あの時は確か―――」

 

「おいおっさん、そのかび臭い話しは何回も聞いたぞ。しらふでそんな調子じゃ酔ってる時なんてたまったもんじゃない……って、もう飲んでやがる」

 

 飲んだくれのイワン野郎めと、呆れたように愚痴りつつもどこかキッドは楽しそうだ。

 

 

「こら、仕事中の飲酒は感心しないぞ」

 

 

 別な声に、スコーピオンは咄嗟に振り向く。

 誰かと勘違いをしたのかスコーピオンは一瞬目を丸くしていた。

 

「どうした、オレの顔に何かついてるか?」

 

「ううん、何でもない……ちょっと誰かと勘違いしたから」

 

「ハハハ、個性のない顔立ちだから誰かと似てたんだろ。紹介するぜスコーピオン、こいつは"エイハヴ"ここのボスだ」

 

「ボス?」

 

 その言葉にスコーピオンは疑問を浮かべたが、すぐにこの前哨基地の指揮を任された隊員だからそう呼ばれているのだろうと察した。

 個性がない顔立ちだとは少し言い過ぎだと思うが…。

 

「エイハヴはボスやミラー司令からの信頼も厚い、ここの指揮をするのにこいつ以上に相応しい存在はいない。まあ、少し寡黙すぎるけどな」

 

「止せキッド」

 

「わかったよ、さてと仕事に戻るかね。おいおっさん、戦車の整備があるんだろ? もう行くぞ」

 

「わたしも何か手伝うことありますか?」

 

「ありがとう、だが君は傷を早く治すことが仕事だ。早く元気になって、ビッグボスにまたついて行くといい」

 

 エイハヴのその言葉に頷き、スコーピオンは三人に手を振ってからその場を後にする。

 基地のスタッフは暖かくその姿を見送るが、すぐに仕事モードに切り替えて作業を継続する。

 やらなければならないことは山積みだ、誰もがマザーベースのため、尊敬するビッグボスのために苦労を惜しまなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――聞こえますか、こちらスプリングフィールド。グリフィン司令部、応答願います」

 

 基地の通信室にて、スプリングフィールドとスネークはこの世界の大手民間軍事会社グリフィンとの連絡をとるべく、部屋に残されていた通信機材を使いグリフィンに対し呼びかけを試みていた。

 しかし期待する返信はない、やがてスプリングフィールドは困り果てた表情で首を横に振る。

 

「グリフィンの支部が後退したのかもしれません。他の戦術人形の通信も拾えませんし、もしかしたらこの一帯は鉄血の勢力圏なのかもしれません」

 

 いまのところ、基地に鉄血の人形が現れてはいないが、通信を傍受されて位置を特定される恐れもあり安易な通信は出来ないでいる。暗号化された通信を試みるも、それもいまだ通じず。

 日々消費されていくマザーベースの物資、表には出さないがスネークは危機感を抱いている。

 どこか、取引をできるような勢力との接触を計りたいところであったが情報があまりにも少ない。

 

「気長にやっていく……というわけにはいかないな。連絡が取れない以上、こちら側から動く必要がある。スプリングフィールド、一度君が持っている情報を確認したい」

 

「わかりましたスネークさん、ちょうど地図も見つけましたしご説明します」

 

 通信室の机に地図を広げたとき、部屋の扉が勢いよく開かれる。

 振り向いてみてみると、そこには呼吸を荒げる包帯姿の9A91が取り乱した様子で立ちすくんでいた。彼女はスネークを見つけると、途端に表情をほころばせる。

 

「こちらにいらしたんですね、指揮官」

 

 手を伸ばし近づこうとした9A91であったが、足がもつれ転びそうになる。

 それを素早く受け止めたスネークに彼女はとてもうれしそうに微笑む。

 

「ボ、ボス! すみません、目を離したすきに病室から出て行ってしまいまして!」

 

 慌てて追いかけてきたのだろう、彼女のけがの具合を見ていた医療班たちが駆けつけてきた。医療班は9A91を再び医務室に連れて行こうと手を伸ばすが、彼女はそれを嫌がりきつくスネークの身体に抱き着いた。

 

「指揮官、私は大丈夫です…! 大丈夫ですから、傍にいさせてください! 一人に、しないでください…!」

 

 悲痛な表情で少女は泣き叫ぶ。

 よほど恐ろしい目にあったのだろう、9A91は少しもスネークから離れようとしない。

 

「あとはオレが見る、お前たちは戻れ」

 

「了解です、ボス」

 

 敬礼をし、医療班たちは通信室を出ていく。

 スネークに抱き着いたまま声を詰まらせて泣く9A91を、スプリングフィールドも一緒に慰める。

 

「スネークさん、落ち着くまでこうしてあげてください。今は、スネークさんの存在がこの子の心を繋ぎ止めているのかもしれません」

 

 実はこんな自分よりも年下にしか見えない少女を慰めているという状況にスネークは困惑していた、しかしスプリングフィールドの言う通り、ここでこの子を突き放せばこの子の心は壊れてしまうと思いスネークは慣れない事ではあるが我慢した。

 

「スネークさんも抱きしめてあげてください、きっとこの子も落ち着きますから」

 

「いや……あぁ、こうか?」

 

 戸惑いながらも、スプリングフィールドのいわれた通りの行動をする……心なしか、9A91の震えが小さくなった気がした。その後一応泣き止みはしたが、ただじっとスネークにしがみついたままである。

 いつまでこうしていればよいのだろうか……そう思いかけた時、通信機に外部からの通信が入った。

 とっさに立ち上がろうとしたスネークであったが、9A91が行かないでと言わんばかりにその瞳に涙を滲ませスネークを見上げていた。

 

 動けないスネークに代わりスプリングフィールドが交信を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 森の中を、ライフルを携えた長い髪を側頭部で結んだ少女が駆け足で進む。うっそうと生い茂る森の環境に慣れていないのか、時々躓きながらも追いかけるのは、少女の先を慣れたように進むダスターコートを羽織る銀髪の男性だ。

 少女の声に反応することなく、男は森を抜けたところで地図を広げた。

 遅れて森を抜けてきた少女は息を乱し、呼吸が整ったところで目の前の男を指さし少し怒り気味に叫ぶ。

 

「待ってって言ってるでしょ!? 森に慣れてるのかどうか知らないけど、ちょっとぐらい―――」

「おい、現在地はここで間違いないか」

 

「あのね、自分の都合で物言いするのやめてくれないかしら」

 

「余計なことを言うな、質問に答えろ」

 

 男の一切容赦しない物言いに、少女は気圧されしぶしぶ彼の持つ地図に目を落とす。

 少女の確認を得た男は地図をしまうとさっさと歩きだす。

 

「もういいぞ」

 

「え? それどういう意味よ!」

 

「付いて来なくていいって言ってるんだ」

 

「そ、そういうわけにはいかないのよ!私はグリフィンから人間の救助を指示されてるの、だからあなたを放ってはおけないのよ」

 

 そこまで言って、男は急に立ち止まると眉間にしわを寄せて少女を冷たく見下ろす。

 彼の態度の変化に、それまで強気な物言いをしていた少女は怖気づいたように後ずさる。

 

「勘違いするな女、自分の身は自分で守れる。お前の力は必要ない」

 

 男は腰のホルスターから銀色に鈍く光るSAA(シングル・アクション・アーミー)を引き抜き少女に向け、引き金を引いた。

 咄嗟に目をつむる少女、だが弾丸は少女を外し、背後の茂みに潜んでいた武装した兵士の頭部を撃ち抜いた。

 するとその発砲が引き金となり、それまで身を潜めていた襲撃者が姿を現す。

 

 男は反応できていない少女の肩を掴んでどかすと、現れた襲撃者を正確な射撃で倒していく。

 2人、3人、4人、5人、6人……男は別なホルスターからもう一丁のSAAを抜き、数人の敵兵士を腰だめの射撃で撃ち仕留める。

 最初の発砲からわずか十数秒、見事な早撃ちだった。

 

 少女は何が起こったか分からないようだった。

 撃ち尽くした銃に弾を込め、男は少女に見向きもせず再び歩き出す……呆然と座り込んでいた少女であったが、ハッとしてその後を追いかける。

 以後、少女は彼に対して何も言わずただ気まずそうにちらちらと様子をうかがいながらそのあとを付いていく。

 

 そんな時だった、少女の通信機能に別な通信が届いたのは。

 

「こちらワルサーWA2000、応答願う。聞こえるかしら、応答願う!」

 

『こちら―――スプリングフィールド、ワルサーさんお久しぶりです! ご無事だったんですね!』

 

「ええ、なんとか……それよりあなたどこにいるの?」

 

『古い陸軍基地に、人間の部隊と一緒にいます。座標をそちらに送りますね』

 

「うん、グリフィンと一緒なの?」

 

『いえ、ただ説明をすると長くなりますので』

 

「了解、私もそちらに合流するわ」

 

『はい。気を付けてくださいね』

 

「ええ、もちろんよ。よかった……味方が残っていたのね」

 

「おい」

 

 急な声に、少女……ワルサーWA2000は飛び上がる。

 いつの間にか男がそばにより見下ろしていたのだ。

 

「今のは通信か、どこかに部隊がいるのか」

 

「え、ええ。一応……」

 

「案内しろ」

 

「え? あ、ええと……というか自分勝手すぎないかしら?」

 

 冷静になって考えて怒りがわいてきたのか、ワルサーは声に怒気を含ませる。しかし男には通用しないようで、睨み返されさっと目をそらす…。

 

「別にいいけど、一緒に行くならもっと協力的になってもらわないと困るわ」

 

「……いいだろう」

 

「そう、なら一緒に行きましょう」

 

 ワルサーはそう言って、銃を持ち直し目の前の男を見つめる。

 数秒の間が空き、そういえば目的地は自分しかわからないと思い出しワルサーは慌てて歩き出す。

 だが数分もしないうち、先ほどまで必死になって後を追っていた男が自分の後ろを歩いているという状況に奇妙な違和感を感じ始める。

 

「ねぇ、なんか落ち着かないから前歩いてくれる?」

 

「だったらその行き先を教えろ」

 

「教えたら私のこと置いてくでしょう?」

 

「当たり前だ、お前の足は遅すぎる」

 

 ワルサーは今まで受けたことのない雑な扱いに重い溜息をこぼす。

 どうしてよりによってこんな男に命を救われたのだろうか、そう心で思いつつ我慢をして男の先を歩くのであった。




ちょいとキャラ紹介

ドラグンスキー(オリジナルMSFスタッフ)
戦車乗りのベテラン、大祖国戦争でドイツ軍相手にT-34戦車で戦った元ソ連軍人という設定。

マシンガン・キッド(初代メタルギアの中ボス)
元SASのマシンガンの名手

エイハヴ(便宜上分かりやすくこの名前にしました)
MSFで高い能力を持ち、ビッグボスやカズヒラ・ミラーの信頼も厚いスタッフ。
別な世界線ではビッグボスの影武者(ファントム)となる男


最後の男
"らりるれろ"のあの人。


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昨日の敵は今日の友

 前哨基地―――。

 

 うち捨てられていた陸軍基地を前哨基地にするため作業を行っていたMSFのスタッフたちは今、作業の手を止めて武器を手に、基地へと向かってくる二人の存在を注意深く見つめていた。

 一人はダスターコートを羽織りサングラスをかけた銀髪の男。

 もう一人は、その背後を少し距離を開けて歩くライフルを持った少女……その少女は基地の異様な様子にどこか緊張をしているようだった。

 

 男は基地の前で立ち止まると、視線を上に向ける。

 彼の視線の先にあるのは、乾燥した大地に吹く風を受けてなびくMSFのマークが描かれた旗だ。それから、男は視線を下ろし、自身を見つめる無数の兵士たちを眺める。

 敵か味方か判別もつかないその男にMSFのスタッフたちは警戒を強める。

 そんな中、このMSFの司令官でありカリスマ的存在の男、スネークが姿を見せる。

 

 歩くスネークに対し集まっていたスタッフたちは誰が言うわけでもなく道を開き、スネークはこの基地にやって来た銀髪の男の前まで来て立ち止まった。

 静かに見つめ合う二人、それをスタッフと基地の戦術人形たちは固唾をのんで見守る。

 

 先に動いたのは銀髪の男の方だ。

 ゆっくりとした動作でサングラスをとると、それをふわりとスネークに対し投げかけた……投げて渡されたそれをスネークが掴んだとき、銀髪の男が素早い動きで仕掛けてきた。

 サングラスを掴んだスネークの腕と襟を掴み上げると、屈強な彼の身体を地面に叩き付ける。

 

 その場にいた者たちは皆呆気にとられていた。

 自分たちの絶対的存在であるビッグボスが不意打ちとはいえ軽々と投げ飛ばされたのだ、いや、それだけではなく銀髪の男の見事なCQCに衝撃を受けていた。

 

 地面に叩き付けられたスネークは、咄嗟に取った受け身によりダメージはほとんどない。すぐさま起き上がったスネークは身構え、男が放った拳を躱しその腕を背後に回り込みひねり上げる。

 男は即座に空いたもう片方の腕でひじ打ちを放つ。

 しかし素早くスネークは反応し、その腕を掴むと自身の足を支点にして相手の体勢を崩し、地面に叩き付けた。

 

 素早く起き上がる男、しかし、男はそれ以上手合わせをするつもりはないようで、乱れた髪をかき上げると片手をあげた。

 

「少しはあんたに近付けたと思ったんだが、まだまだだな」

 

「そうでもない、数年前よりも確実に上達している。よくそこまで磨き上げたものだな」

 

「伝説の傭兵にそう言ってもらえて光栄だ……久しぶりだな、ビッグボス」

 

「ああ、しばらくだなオセロット」

 

 そう言って、二人は旧友との再会を喜び合うかのように握手を交わす。

 

「ニカラグアでの活躍は聞いた、さすがだな」

 

「おれ一人のおかげじゃない。今は仲間がいる、ところでお前がどうしてここに居るんだ?」

 

「それを聞きたいのはこっちだ、同じだが違う世界……もう何週間も彷徨い歩いてる。おかげでいくつかここの情報を知ることができたがな、知りたいか?」

 

「今はどんな情報でも必要だ、色々な問題が立て続けに起こって情報を集められるどころではなかったからな」

 

 

 

「あのー、ちょっといい?」

 

 

 

 スネークとオセロットが二人で話し込んでいると、どこか申し訳なさそうな表情でスコーピオンが手をあげていた。MSFのスタッフたちも何か言いたそうだ…。

 

「その人誰?」

 

「あぁ……まあ、色々話したいこともある。とりあえず中に行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気そうで何よりですねワルサーさん」

 

「あなたもねスプリングフィールド」

 

 基地内に設けられた医務室にて、ワルサーWA2000とMSFに保護されている戦術人形たちは再会を喜び合う。

 この場を選んだ理由はいまだ治療を受ける9A91に合わせたためだ。

 9A91はもう落ち着いた様子だが、またスネークのもとに行きたいのかベッドの上でそわそわしている。

 

「ねえねえワルサー、聞きたいんだけどあのオセロットってひと……どうやって知り合ったの?」

 

「それ、わたしも気になってました」

 

「あー、えっとね…」

 

 頬をすこし掻きながら、ワルサーはオセロットとであった経緯を口にする。

 

 ある戦場から撤退する際に部隊とはぐれてしまい、鉄血の戦術人形から追跡を受けていたそうだが、追い詰められ飛び込んだ家屋にオセロットがいたという。オセロットに出くわすなり額に銃口を押し付けられ、背後からは鉄血が雪崩れ込んでくる音……絶体絶命、ワルサーはもう思考停止!

 と、その後は雪崩れ込んできた鉄血の人形をオセロットがあっという間に片付けたというが。

 

「出会った経緯はそんな感じよ、あの人についてきたのはまあ成り行きかな。放っては置けないし」

 

「自分の額に拳銃押し付けてきた人とよく一緒に行動できるね」

 

「まあ、その時は誤解だったから、そんなに悪い人じゃないわ」

 

「へえ、どんなところ?」

 

 スコーピオンの問いかけに答えようと口を開くが、言葉が出てこない。

 

 その後もついてくるなと追い払われそうになったり、休憩してたら何も言わずに置いて行かれそうになったりまた銃口を向けられたり……あれ、あんまりいいところがないなとワルサーは頭を抱える。

 それでも、と擁護するワルサーにスコーピオンはにやりと笑う。

 

「これは所謂つり橋効果ってやつだね、これは愛だよワルサー」

 

「あんまりいい加減なこと言ってるとぶっとばすわよ?」

 

「まあまあ、落ち着いてワルサーさん。私もオセロットさんは素敵な方だと思いますよ、少なくともあなたの命を救ってくれたんでしょう?」

 

「ええ、そうね……別に、好きとか嫌いとかそう言うのは置いといて感謝してるわ」

 

 そっぽを向きながら、少し気恥ずかしそうに言った。それを見て、スプリングフィールドがクスクスと笑うとワルサーは不機嫌そうに睨む。

 

「そういえば9A91、あなたの指揮官はどこにいるの?」

 

 思いだしたように言ったワルサーに9A91は首を傾げる。

 

「指揮官なら先ほどいたじゃないですか。指揮官はワルサーさんと一緒にいた方と知り合いだったんですね」

 

「え、あなたの指揮官の事よ?」

 

「あの……ワルサーさん、ちょっといいですか」

 

 スプリングフィールドに呼ばれ、ワルサーはその場を少し離れる。

 9A91に聞こえないところでスプリングフィールドはそっとささやくように、彼女が経験したことを教える。

 部隊が全滅したこと、おそらく指揮官も殺されたこと、自身も激しい暴行を受け監禁されていたこと……それを聞いて、ワルサーは安易な質問だったと後悔する。

 

「MSFのメディックの話しでは、スネークさんを指揮官と認識しているのはあの子が自分の心を守るために無意識に思い込んでいるのが理由なんじゃないかって、だからワルサーさんもあの子の話しに合わせてあげてください」

 

「ええ、分かったわ」

 

 やりきれない表情でワルサーは頷くと、再び9A91のもとに戻る。

 

「ごめんね、勘違いしてたわ。あの人が指揮官だったわよね、しばらく見ていなかったから顔を忘れちゃってたわ」

 

「指揮官の顔を忘れちゃいけませんよワルサーさん、毎日指揮官のお顔を見ていれば忘れませんから」

 

 穏やかな笑顔を見せる9A91の姿に、ワルサーはやりきれない思いを抱く。それからワルサーはそっと9A91の頭に手を伸ばし、その髪を慰めるように優しく撫でる。

 最初目を丸くしていた9A91はやがて微笑んだ。

 

「えへへ、なんだか懐かしい気がします。指揮官に、前にもこうしてもらった気がします」

 

「そうね、あなたはいい子だったから指揮官のお気に入りだったわね」

 

「指揮官は私たちを大切にしてくれました、とてもとても。だからわたしは指揮官をお守りします、指揮官のお傍を離れません」

 

「元気になったら……指揮官のところに行きましょうね」

 

 にこりと笑う9A91にワルサーの胸がチクリと痛む。

 

 暗くなった空気を明るくしようと、スコーピオンがどこで手に入れてきたのかスイーツを持ってきてくれた。マザーベースの糧食班から貰ってきたと言っているが、とにかくこういった場を明るくするのはスコーピオンは得意だ。

 戦術人形たちはこの時ばかりは戦場を忘れ、一時の平穏を味わうのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――戦争、疫病、災害それらすべてによって荒廃した混沌の世界がここだ。オレが知る限り、この世界では国家は自国民を守れるほどの力もなく大国と呼ばれる存在も無きに等しい」

 

 薄暗い部屋の中で、オセロットは開いた地図を指差しながら言う。

 広げられているのは世界地図であるが、大部分を赤く塗りつぶされた変わった地図だ。

 

「国家は疲弊し一部の大都市や工業地帯しか防衛をしなくなり、代わって民間の軍事会社が多く生み出された。持てぬものの抑止力となるために、貧しい地域では防衛のためこれら軍事力をカネで買うんだ。その中で大手と言われているのが、そう、グリフィン&クルーガーだ」

 

「持てぬものの抑止力……俺たちと、MSFと同じだな」

 

「そうだ、だが決定的に違うのは……あんたのMSFは国家、組織、思想、イデオロギーに囚われずに行動していることだ。知っている限りでこの世界の軍事会社の多くはある種の協定を結んでいる……もしあんたがこの世界でMSFの軍事力をこれまで通り売ろうとすれば、顰蹙を買うだろうな」

 

「分かっている、そのための抑止力を俺たちは所持している」

 

「そう……お前たちは他の軍事会社に無いものを持っている。メタルギアZEKEとそこに搭載されている、核兵器だ」

 

「ずいぶん詳しいようだな」

 

「あんたの事は何でも知ってるさ」

 

 軽く笑って見せるオセロットだが、この男の諜報能力というのは恐ろしく高い、確実に敵に回せば厄介な存在となるだろう。

 ふと、スネークはかつてのスネークイーター作戦において、敵に捕らえられたときに食料等を没収されたことがあったが、当時敵であったオセロットに食料を全部食われたことを思い出す。

 理由をミッションの協力者であったEVAに聞いたら朴念仁と言われたが、その意味は未だに分からない。

 

「ところでオセロット、お前この世界でどうするつもりだ? もしも行くあてがないなら、MSFに来ないか?」

 

「ビッグボスにそう誘われて断る理由もない……が、協力は一時的なものにとどめておこう。少なくとも、元いたおれ達の世界に帰るまではな」

 

「それで構わん、頼りにしているぞオセロット」

 

 表面上クールにたたずむオセロットだったが、どこか嬉しそうだ。

 

 

『スネーク、聞こえるか?』

 

 部屋に置いてあった通信機に無線が入る、その声は現在マザーベースで指揮をとるカズヒラ・ミラーの声であった。

 

「カズか、どうした?」

 

『喜べスネーク、この世界に来て初めておれ達のもとに仕事の依頼が入ったんだ。実はスタッフの提案でインターネットで宣伝をしててな、依頼人は南欧の連邦国家だ。』

 

「分かったすぐにマザーベースに戻る、それとカズ。新しい仲間を紹介する、オセロットだ」

 

『知っているよ、無線機越しに会話を聞いていた』

 

「カ、カズ…? まあいい、これから仲良くやってくれ」

 

『よろしくなオセロット。それと、ボスの副官はオレだけだからな……』

 

 

 そう言って、カズからの無線は途切れる。

 今度こそ無線機の電源を確実に切る。

 

「ボス、あんたも色々と大変だな」

 

「なにがだ?」

 

「朴念仁め」

 

 




MGS5でオセロットは本物のビッグボスに敬語でしたが、タメ口の方が良いと思うのでこの口調で行きます。


前回はスコーピオンさんがバディだったので、次回はスプリングフィールドさんで行きます。



ちなみにオセロットの人間関係はスネーク←オセロット←WA2000となってます。
ワルサーさん頑張れ!

あと、うちのヤンデレ枠はカズです(誰得)


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ジェノサイド

シリアス回?


『―――ボス、今回の……というよりこの世界に来て初めてオレたちに依頼を寄越してきたのはバルカン半島の連邦国家だ。依頼は反政府武装組織に捕らえられた政府側の要人の救出だ。スネーク、この世界でオレたちの知名度はほとんどない、この任務の成功を期にMSFを拡大するつもりだ、頼んだぞ』

 

 マザーベースを発つ前に用意された地図を眺めながら、スネークはヘリの中でカズの無線を聞いている。

 依頼者は隠密に要人の救出を依頼してきたため、任務は隠密作戦(スニーキングミッション)となることが決まった。

 スネークたちが元いた世界と異なる時間軸で、あらゆる分野が未知数であったことが決め手であった。

 

『スネーク、あんたにいくつか教えておきたいことがある』

 

 代わって、スネークのもとにオセロットからの通信が入る。

 

『地図を見ればわかる通り、この世界と俺たちがいた世界の地理はほとんど……と言うより、すべて同じだ。違うのは俺たちが知る国家がそのままの形として存在していないことだ』

 

「地図に赤く染められてるところがあるな、これは何の意味だ?」

 

 オセロットが用意してくれた地図は見慣れた大陸などの位置が記されているが、赤く染められた地域が大多数を占めている。その赤く染まった地域を避けるように、国境線が引きなおされているのだ。

 

『赤いエリアは汚染地域、つまり立ち入れば命にかかわる重度の汚染物質が存在している。過去の大戦や災害でそうなったらしい、詳しい事は知らんがそのエリアは避けてくれよボス』

 

「分かってる、まだ死ぬわけにはいかないからな」

 

『もちろんだ、さて知りたいのは今回の任務の連邦国家の事だろう。連邦は複数の共和国で構成されていた、だが各共和国間の関係は時代と共に悪くなり、第三次大戦後の混乱期に各民族が独立を掲げ内戦に発展した。連邦には五つの民族がいるが、かつての隣人、友人、家族が内戦によって引き裂かれ殺し合いを続けている。連邦のこの様相は"世界の縮図"とまで言われている』

 

「世界が、時代が変わろうとも戦争の火種はいつも同じだな」

 

『そうだ、だから俺たちのような存在は必要とされる。注意しろよボス、そこで行われていることは地獄そのものだ。他の民族を排し、浄化する。常人なら考えもできない行為が行われていることだろう……あんたは大丈夫と思うが、お隣の相棒(女の子)が勝手な行動をしないよう注意することだな』

 

 オセロットの言葉を聞き、チラリと横を見ると、同じく無線を静かに聞いていたスプリングフィールドが不満げな表情で通信機を睨みつけていた。

 今回の任務で同行を申し出てきたのはスプリングフィールド。

 狙撃手兼偵察兵として潜入任務を行うスネークをサポートするために選ばれた……と言うよりかは、彼女自身が立候補をしたのだ。

 

「言われなくとも分かってます」

 

 通信が切れた時、スプリングフィールドが小さくそう呟いたが、スネークが見ているのに気付き気まずそうに口をおさえる。実のところ、スコーピオンとスプリングフィールドはオセロットの事をあまり良くは思っていない。

 理由は単純、言葉がきつかったり態度が冷たいという理由だ。

 というのが戦術人形たちの主張だが、今のところMSFのスタッフたちとは打ち解けずともそこまで険悪な関係にはなっていない。

 カズだけは妙な対抗意識を持っているようだが、彼女たちの方に問題があるのではとスネークは内心思っていたりもする。

 

「あの、スネークさんとオセロットさんはどういう関係なんですか?」

 

「ん? あぁ……昔任務で敵同士の立場で出会った。その時奴に目を撃たれてこうなった」

 

 昔を懐かしむように、スネークは眼帯を指差したが、スプリングフィールドは信じられないといった様子で口をおさえていた。

 

「やっぱり悪い人なんだわ……きっとスネークさんは騙されている、そうに違いありません。こうなったらあの人が悪さをする前に……」

 

「おい、スプリングフィールド?」

 

「え? あ、なんでもありませんよ…ウフフ」

 

 極めて健やかな笑みを浮かべつつ、銃剣を撫でているあたり、これは帰ったら一度交流会を開かねばとスネークはたった今心の中で決める。

 

「スプリングフィールド、君と戦場に二人で向かうのは今回が初だ。任務は隠密作戦(スニーキングミッション)だ、分かるな」

 

「ええ、勿論です」

 

「如何なる痕跡も残さず、戦闘も可能な限り避ける。依頼人は連邦だが、連邦軍は当てにするな。場合によってはオレたちを敵と認識するかもしれない。つまり敵地の真っただ中に、オレたちは二人で潜入することになる。君がこれまで経験したことのない任務だろう、もしこれをできないというのなら、厳しいようだが君の事は連れて行けない」

 

「分かっています、足手纏いにはならないつもりです。私が立候補したのはただあなたと一緒にいたいからだけではありません、狙撃手として偵察能力には自信があります。きっとお役に立ってみせます」

 

「よし、君を信じよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スネークたちをのせたヘリコプターは要人が囚われているという場所から離れた峡谷地帯に降下し、二人を降ろす。そこから二人は目的地に向けて森林地帯を抜けていく……道路はあるが連邦軍の検問が多くこれらを避けて進んでいるが、森林の中にも連邦軍の兵士たちが巡回しているために、スネークは接触を避けて進む。

 スプリングフィールドもまた、スコーピオンと同じようにEZ GUNを支給されていたが、そんなものに頼らずに進むスネークの動きをよく見て学ぼうとしていた。

 やがて二人は目的となる要人が囚われた街を一望する小高い山にたどり着く。

 

『目的地を一望できる山に到達したようだな』

 

 同時に、スネークの無線機にカズの通信が入ってくる。

 

要人(ターゲット)は街の中心部の黄色いホテルに囚われている。それとオセロットからの情報だが、現在その街は連邦軍の包囲を受けているそうだ』

 

「連邦軍の包囲? どういうことだ」

 

『ああ、街は反政府勢力が占拠しているようだが連邦軍がこの街を包囲して長いらしい。反政府勢力が要人を人質に取ることで連邦軍をけん制、連邦軍もそれによって動けないでいるらしい』

 

「なるほどな、今は拮抗状態にあるわけか」

 

『そうでもない。情報では街の内部で連邦寄りの武装した民兵が小競り合いを起こしているらしい。反政府勢力は連邦からの独立を掲げているが、共和国内には連邦寄りの民族も少なくない。彼らは独立し連邦を離脱することを拒否している』

 

「泥沼の様相を呈しているわけか。分かった、オレたちはこの戦争に介入するつもりはない。要人を救出次第、速やかに離脱する」

 

 通信を終えて、スネークは双眼鏡を手にして市街地の偵察を行う。

 

 要人が監禁されているというホテルは街の中心部近くにあるが、すぐそばには広い道路がある。

 街の通りにはコンテナ等が並べられているが、側面にはいくつか弾痕がありそれが銃撃を防ぐためのバリケードであることが伺える。

 市街地の内部には武装をしていない一般市民の姿も見受けられた。

 距離があるために様子はうかがえないが、何かを警戒しているような動きだ。

 

 その時、山のどこかから一発の銃声が響く。

 

 その瞬間、街の市民は走りだし物陰にすぐさま隠れていった。

 

 

「スネークさん、これは……」

 

「暗くなるのを待つ、少し休め」

 

 スプリングフィールドの表情から、彼女が今何を思っているのかスネークにはよく分かった。

 オセロットが彼女の事を言っていたのはこう言うことであった……人間同士の戦争を、おそらく彼女は見たことがなかったのだろう。

 暗くなるまでの間にも、時折銃声が鳴り響き、その度にスプリングフィールドは物憂げな表情で街を見下ろしていた。

 

 

 やがてあたりが暗くなって来た頃スネークたちは動き出す。

 

 街は狙撃を警戒してか明かりは無く、潜入に好都合である。

 

「スプリングフィールド、周囲に人影はないか?」

 

「ええ、ありません」

 

 暗視装置を用いて自分たちの周囲、そしてあらかじめ決めておいた潜入経路に人影がいないことを確認し行動する。街まで一気に駆け下り、後は慎重に行動し二人は街へと潜入する。

 

 街の内部はほとんど暗闇に近かった。

 夜間には氷点下にまで下がるこの地域で、わざわざ外を出歩こうという人もいないのだろう。

 連邦軍を警戒する民兵の見回りが時折いるくらいだが、彼らは焚火を囲みほとんど動こうとしない。

 

「この暗さなら市街地のメインストリートを進んでも大丈夫だろう、そっちの方が近い」

 

「ええ、そうですね」

 

 目的のホテルはメインストリート沿いにある、昼間にそこを通れば見つけてくださいと言っているようなものだが、街灯もなく真っ暗な今なら兵士に見つかる恐れもない。

 そう判断し、スネークは入り組んだ街路を抜け、街の大通りに出た。

 

 そこは不気味なほど静かだった。

 

 放置された車両に身をひそめつつ二人はホテルを見ながら進んでいく。

 

「きゃっ!」

 

 スプリングフィールドが何かに躓き、転倒する。

 すぐさま周囲を警戒するスネーク……申し訳なさそうに謝るスプリングフィールドに、声を出さないよう人差し指を立てて、躓いたものを指差す。

 

 暗がりで良く見えなかったそれは、人間の死体だった。

 

 一瞬スプリングフィールドが目を丸くしたが、なんとか声は抑えられたようだ。

 

「オセロットはこのメインストリートを、"スナイパーストリート"と呼んでいた。ここを通る人々を無差別に狙撃することから、そう呼んでいるらしい」

 

「無差別に……非戦闘員もですか? なんておぞましい事を…これではどちらが正しいか分かりません」

 

「どちらも自分が正しいと信じている。恐怖、怒り、憎しみの連鎖が内戦を引き起こした……どっちが先に攻撃したか何て関係ない。どちらかが消え去るまで、戦争は続く。ジェノサイドが起こっているんだ、辛いだろうがここまで来たらもう引き返すことはできない」

 

「はい……」

 

 力なくスプリングフィールドは頷く。

 

 まだ早かったか、そう思いつつも先ほど言った通りここで引き返させることもできない。

 しかしスプリングフィールドもこのままの状態で同行するつもりはなかったらしく、一度自分の頬を叩き何かを決意した眼差しでスネークを見つめる。

 ひとまずは大丈夫だと判断し、スネークはいよいよホテルの内部へと潜入した。

 

 

 ホテル内は当たり前だが、見張りの数が多い。

 しかし明かりに使っているのはろうそくで影となる場所も多いために監視の目を潜り抜けるのは容易い。

 暗がりを移動し、要人が捕まっていると思われる階層にまで上がっていく。

 

 階段を上がりきろうとしたところでスネークは止まり、背後に続くスプリングフィールドに止まるよう合図を送る。階段から少し離れた位置にて、誰かの話し声が聞こえてくる。

 

 

「―――今夜はよく冷える。外の哨戒の奴には同情するよ」

 

「まったくだな」

 

 声色から、男が二人と判断できる。

 スネークは麻酔銃を構え、機会を伺う。

 

 

「なぁ、オレたちはいつまでこうしてればいいんだ?」

 

「朝までさ」

 

「そうじゃない、いつまでこの戦争が続くかって事さ。オレの村は戦争が起こるまで平和だった、民族も宗教も関係ない、いい隣人だったんだ。またみんなに会いたい」

 

「そうは思わない。オレの女房は連中に殺された、娘は奴らに暴行された…まだ15になったばかりだった。オレは奴らが憎い、この世から消し去ってやりたい。この国はオレたちのものだ」

 

「なんで、こうなっちまったんだろうな」

 

「さぁな。政治家のせいだろう」

 

 会話が途切れ、足音が徐々に遠ざかっていく。

 スネークは再び合図を送り前に進む……暗い廊下を進んでいき、やがてドアの前で見張りを行う民兵を見つける。

 その民兵を麻酔銃を使い一撃で眠らせると、すばやく眠った民兵を別な部屋に隠す。

 

 そしてドアをゆっくりと開き、中を伺う。

 

 部屋の中には初老の男性が一人、彼はドアが開く音を聞いて振り返る。

 

「ほう、予想していたよりも早い到着だな」

 

「お前が連邦軍のボルコビッチ将軍か?」

 

「いかにも。さあ、早くこんなところから脱出しよう」

 

 ボルコビッチ将軍は既に身支度を整えていたらしい。

 小奇麗な軍服に身を固めた姿はどうにも監禁されていたとは思えない。

 

 人質がここまでぴんぴんしているとは思わなかったスネークだが、運んでいく手間を考えると好都合だ。

 それ以外にもこの男にきな臭いものを感じながらも、スネークは任務完了を第一に考える。

 MSFのヘリが回収に来る時間までまだ数時間はあるが、この危険地帯は早く抜け出したいところだった。

 

「夜明けまでにはここを出なければならん。ところで君らはどこの傭兵だ、そちらの女性は戦術人形に見えるが?」

 

国境なき軍隊(MSF)だ。さあ行くぞ」

 

「聞いたことのない会社だな。まあいい、この任務が成功すれば君らの知名度も上がるだろう。連邦も多くの報酬を支払うはずだ」

 

 

 辺りが暗いうちに、スネークたちはホテルを脱出し包囲された街を抜け出す。

 

 鋭い目で周囲を伺うスネークに続くボルコビッチ将軍も、軍人として長いのだろう、極めて落ち着いた様子でスネークに従った。二人とは対照的に、スプリングフィールドは目の前の男を訝しげに見つめている。

 連邦軍は彼が人質となっていることで動くことができないでいた、もしその人質が解放されたとなれば包囲された街は……いくら任務に集中しようとしても、スプリングフィールドの脳裏には戦火に晒され逃げまどう人々の光景が浮かび上がってしまう。

 

 街を抜け、山間部に入ったところでボルコビッチ将軍の警戒心は徐々に薄れていった。

 既にそこは反政府勢力の領域ではなく、連邦軍の領域だったからだろう。

 

「よくやってくれた、君たちの事は政府にも伝えよう。これで戦争が続けられる、あの憎たらしい異民族共に思い知らせてやる時が来た。本当に感謝するよ」

 

「まだ任務は終わっていない」

 

「もう終わったようなものだ。この戦争もそうだ、時期に我々が勝利するだろう。やっと平和な暮らしが訪れる」

 

 雄弁に語って見せる彼の背後で、スプリングフィールドは唇を噛み締めていた。

 ライフルを握る手にも力が込められ、とても不安定な状態だ……そんな彼女を気にしつつスネークは将軍の引き渡し地点を目指す。

 

 引き渡し地点に到着したのは空がうっすらと明るくなって来た頃である。

 連邦軍の迎えはまだ来ていなかったが、MSFのヘリは既に到着していた……その近くには数十人の一般市民が集まっている。

 

「これは一体どう言うわけだ?」

 

「ボス、この人たちは街から逃れてきたと……この場所から逃がしてほしいと」

 

「この数をヘリに収容できない、無理だ」

 

「はい、ではそのように…」

 

 MSFの隊員が難民たちにそう伝えると、彼らは必死に訴えかけてくる。

 それでも無理だというとせめて子どもたちだけでもと言ってきた……対応に困る隊員はスネークを困惑した様子で見つめる。

 

「スネークさん、せめて子どもたちだけでも―――」

「それは駄目だ」

 

 スプリングフィールドの会話を遮り、ボルコビッチ将軍が前に出る。

 その手に握られた拳銃は難民たちに向けられている。

 

「こいつらは異民族だ、我々の同胞を殺した連中の仲間だ。見過ごすことは出来ない、全員収容所に送られ然るべき処分をされなければいけない」

 

 銃を向けられた難民たちは逃げ出そうとしたが、彼らの足元に数発発砲し動きを止める。

 

「部隊が来るまでここに居てもらうぞ。子どもだろうが女だろうが見逃すわけにはいかん、むしろ異民族が増え続けるのを止めるためには真っ先に排除しなければならないのは女子どもだ」

 

「……ッ、いい加減にしなさい…!」

 

 もう我慢の限界であった。

 スプリングフィールドの持つライフルの銃口が、将軍に対して向けられていた。

 歯を食いしばり睨みつける彼女は、いつその引き金を引いてもおかしくない様子だった。

 

「そんなもので怖気づくわたしだと思うかね? それよりも君自身その行いを悔いた方が良い、ご主人の立場を悪くしていることに気付かんのか?」

 

「あなたは……あなたたちは人殺しです!」

 

「この戦争を一視点からでしか見ていないからそんな言葉を言えるのだ。戦争犯罪など承知の上だ。後の世代に禍根を残さないためにも、この犠牲は尊いものなのだ。いずれやってくる平和のためにもな。ふん、殺しのために生まれた戦術人形に説教をされるとは思わなかったがな」

 

「………ッ!」

 

「わたしを殺すか? 殺せば君は、君らが憎む鉄血の戦術人形と同じ存在になり果てるだろう」

 

 その言葉はスプリングフィールドの自尊心を酷く傷つける。

 その眼に怒りが宿り引き金にかける指に力が入りかける、だが彼女が罪を犯す前に、スネークが割って入りライフルの銃口を男から逸らす。

 咄嗟に振り払おうともがく彼女であったが、ライフルを握りしめるスネークはビクともしない。

 

「スプリングフィールド、こっちを見ろ……落ち着くんだ。お前がここで罪を犯す必要はない」

 

「スネークさん……」

 

 一度彼女はスネークを見上げ、小さな声で"すみません"とつぶやきうつむく。

 そっとスプリングフィールドの頭を撫で、スネークは将軍へと向き直る。

 

「子どもはオレたちが預かる、難民たちは見逃してもらう」

 

「嫌だといったら、どうするつもりかね?」

 

 将軍の問いかけにスネークは無言だった。

 

 しばらくの沈黙の後、将軍は拳銃を下ろし、難民たちを冷ややかな目で見つめる。

 

「いいだろう、連れていくがいい。たかが数人の子どもだ……こいつらも私が殺さずとも他の兵士に見つかる、どうせ長くはない命だ」

 

「スプリングフィールド、子どもたちと中に行くんだ」

 

 スネークの指示で、スプリングフィールドは難民たちから子どもを引き取りヘリにのせていく。感謝の言葉を述べる難民たちだが、本当は離れたくなどないはずだ……それが分かるからこそ、スプリングフィールドは難民たちの感謝の言葉に何も言えず、ただ涙をこぼしていた。

 

 

「この地に複数の民族が住むにはあまりに狭すぎる、子どもたちはいつか大人になり我々を殺しにやってくる。果てしないものだな、民族の戦争は…」

 

「どうやらあんたのお迎えが来たようだ、任務終了だ」

 

「感謝するよ、おそらく君が来てくれなかったら私は今でもあの街に監禁されていただろう。連邦は君らを支持する、末永い付き合いになるだろう」

 

「あいにくオレは担当じゃないんでな、うちの営業部に話しをしてくれ」

 

 それ以上の言葉は交わさず、スネークはさっさとヘリに乗り込む。

 スネークが乗り込んだのを確認したパイロットは機体を上昇させていき、マザーベースへ向けて帰還する。

 

 任務を終えたスネークはライターと葉巻を取り出すが、機内に子どもがいることを思い出ししまい込む。

 

 

「大丈夫ですよ、泣かないで。パパとママにはきっと会えますから…きっと…」

 

 

 親と離れ離れになって泣いている子どもたちを、スプリングフィールドはいつもと変わらぬやさしさで慰めている。子どもたちを不安にさせまいと優しげな笑顔を向けるが、その表情は哀しみを隠しきることができないでいた。

 

 

 

 

「カズ、聞こえるか?」

 

 スネークは個人の無線機でマザーベースと通信をとる、返事は直ぐに帰ってくる。

 

「任務完了だ、今は帰還中だ。それとカズ、戦術人形たちは甘いものが好きだったな。とびっきりの美味いものを作らせておいてくれ……うんと元気が出るようなものをな、頼んだぞ」

 

 通信を切り、火のついていない葉巻をくわえながら、子どもをあやすスプリングフィールドを見る。

 

 

 疲れて眠る子どもたちを物憂げな表情で見守る彼女の姿が朝日に照らされ、とても美しく感じられる…。




ちょっとTPPっぽい雰囲気。

次回はマザーベースpartを予定します。

オセロットが暴れます。
カズも暴れます。


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マザーベース:山猫の特訓

 バルカン半島での初任務が完了して約一週間後の事であった。

 

 その日戦術人形たちはマザーベースの食堂でテーブルを囲み、糧食班からプレゼントされたスイーツをみんなで楽しく食べている最中であった。

 傷が治り退院した9A91の退院祝いも兼ねている。

 食堂にも他のスタッフたちも何人かいて、彼らと戦術人形たちの楽しげな話し声で溢れていた。

 そんな時、食堂の扉が開かれオセロットが現れると、ピタリと会話が止まる。

 

 この食堂は普段オセロットも使用している、いつも彼が現れるたびに静かになるわけではなかったが、その時現れたオセロットは厳しい表情とただならぬ空気を纏っていたために、それを肌で感じたスタッフたちが無意識に会話を止めたのだった。

 オセロットは真っ直ぐに、戦術人形たちのテーブルまで歩を進めてきた。

 

 なんだろうと、不安な表情を浮かべる戦術人形4人を一瞥し、彼は口を開く。

 

 

「午後1時に訓練場に集合しろ、時間厳守だ」

 

 

 それだけをオセロットは口にすると、彼女たちが疑問を挟む間もなくオセロットはスタスタと食堂を去っていってしまった。

 

 唐突な出来事に呆気にとられる四人。

 しばらくの間固まっていた四人であったが、食堂に話し声が戻ってくるにつれてまず先に怒りを現したのはスコーピオンだ。

 

「あいついきなり来てなんなの!?」

 

 イライラした声で、スコーピオンは扉の方を睨みつける。

 せっかくの退院祝いをぶち壊されたことに怒っているのと、折角のスイーツが美味しく無くなってしまったことの両方に怒っているようだ。

 それをどちらかというと、オセロット寄りのWA2000がなだめる。

 

「まあ落ち着きなさいよ、オセロットにも何か考えががあるのよ」

 

「ふん、ワルサーはあいつが好きだからそんな事言えるんだよね!」

 

「な、いい加減なこと言わないでよ! スネークに付きまとってストーカーみたいなアンタに言われたくないわ!」

 

「なにこのメスネコめッ!」

 

「痛ッ!? な、なにすんのよ毒サソリッ!」

 

 口論はすぐさま取っ組み合いのケンカに発展し、お互い髪を引っ張り合ってもつれ込む。

 オロオロとどうしていいか分からない9A91と、必死になだめようと二人を引き剥がしにかかるスプリングフィールド……結局、駆けつけた食堂のスタッフに引き離される二人。

 

「覚えてなさいよスコーピオン…!」

 

「うっさい、本気でひっぱたいてきて……あんたこそ覚えてなよ」

 

「いい加減にしてください二人とも、みんなの迷惑になっていますよ……全くもう。ごめんね9A91」

 

「いえ、大丈夫ですから……それよりもオセロットさんは何の用なんでしょうか?」

 

「分かりませんが、ひとまずこの二人をどうにかしましょう」

 

 お互いそっぽを向く二人に、スプリングフィールドは肩を落とす。

 結局、二人はその後も仲直りすることなく、不安を残したままオセロットが指示した時間を迎える。

 

 スプリングフィールドと9A91をはさみ、ぎすぎすしたままの二人と共に戦術人形たちは指示された訓練場へと足を運ぶ。

 訓練場は彼女たちも何度か足が運んだことがある場所だ。

 プラットフォームの一つを丸々訓練場へと改修したそこは、射撃場の他トレーニング機器やプールなども設置され一個人を兵士に鍛え上げるのには十分な設備が揃っている。

 そんな訓練場を訪れた彼女らを待ち構えていたのは、先ほど食堂に現われた時よりもさらに威圧感を増して、部屋の中央で腕を組むオセロットだ。

 

 ケンカをしていたことも忘れるほどの威圧感に、スコーピオンとWA2000は身体を硬直させる。

 ぎこちない動きで彼の前に、戦術人形たちは足を運ぶ……無意識に列を整え、背筋を伸ばしてその場に立つ。

 

「スコーピオン、WA2000…前に出ろ」

 

 一瞬躊躇した二人だが、オセロットに睨まれおそるおそるといった様子で前に出る。

 二人ともオセロットとは目が合わせられずうつむいたままだ。

 

「お前ら、ここに来る前に問題を起こしたらしいな」

 

 静かな声で、オセロットが言うと二人は思いだしたように互いを罵り合う。

 

「それは、こいつが…」

「ちょっと、なに人のせいにしようとしてるのよ毒サソリ!」

 

「どっちが悪いかなんて関係ないッ!」

 

 訓練場全体に響き渡る怒鳴り声に、言いあう二人は即座に口を閉ざす。

 

「お前ら、ここを遊園地か何かだと勘違いしてるんじゃないのか? お前たちのここ最近の問題行動は目に余る、ボスの部隊はお遊び集団じゃないんだ。いいかよく聞け、お前らがボスをどう思っているかは知らんが、ボスの下で戦うというなら半端な態度は止めてもらおうか。問題行動、足手纏いはボスのMSFには必要ない」

 

 オセロットはそこで言葉を区切り、スコーピオンとWA2000を元の場所に下がらせる。

 

「お前たちが戦場に出ることを禁止する、代わりにお前たちを今日からオレが訓練する。生活スケジュールも管理する」

 

「待ってください、スネークさんは―――」

「ボスの了承はとってある。ボスは、お前たちが早く役に立つようオレにこの役目を与えた。それと、今度から質問をする時は手を挙げろ」

 

 言われて、すぐさまスプリングフィールドが手を挙げる。

 

「納得がいきません」

 

 抗議するスプリングフィールドの前でオセロットは立ち止まり、冷たい視線で彼女を見下ろす。

 負けじと彼女も見返すが、その身体は微かに震えている。

 少しの間を置いてオセロットは彼女たちの前を歩き始める。

 

「オレがお前たちに教えることは、MSFのために役立つすべてだ。銃を使った訓練から素手での近接戦闘術、国境なき軍隊(MSF)としての行動理念、戦場への適応能力。MSFは戦争をビジネスとする、請けた任務は必ず成功させる。救助するべき対象に銃を向けるようなバカな行動をしないためにも、MSFにいる以上守らなければならない規律も教えるつもりだ」

 

 先のバルカン半島の出来事を言われ、スプリングフィールドは何も言い返せずにうつむく。

 代わりにそれまで大人しくしていたスコーピオンがオセロットにくってかかった。

 

「あたしは別にあんたの教えなんて必要ない、アタシ一人でも十分強くなれる!」

 

「鉄血の戦術人形に軽くあしらわれたお前がほざくな。任務でボスを危険にさらしたのはお前も一緒だ」

 

「さっきから好き勝手言って……何様のつもり…!」

 

 先ほどからの恐怖心は薄れ、スコーピオンは目の前のオセロットを鋭い目つきで睨みつけている。

 普段愛想のいい笑顔を振りまく彼女からは想像もつかない姿だが、オセロットは意に介さない。

 

「オレが憎いかスコーピオン。気に入らないなら殴りかかってきたらどうだ、まあ、子どもにやられるオレではないがな」

 

「本当に、イラつく…! 後で後悔しても知らないんだからッ!」

 

 他の戦術人形たちが止める間もなく、スコーピオンはオセロットに殴りかかっていった。

 

 だがオセロットにはその拳を難なく受け止められた挙句、足を刈られ背中から固い床に倒れ込む。

 背中を強打し、スコーピオンは苦しそうにもがく。

 

「今日から教えるのはCQCの基本だ。弾薬が尽きた時、敵との近距離での戦闘、急な対処に役立つ。さっさと立て、大げさに痛がるな…」

 

 忌々しげにオセロットを睨みながらスコーピオンは立ち上がるが、そんな彼女は無視しオセロットは9A91に視線を向ける。それまで大人しく成り行きを見守っていた彼女は怯えているのか目を泳がせているが、彼は穏やかな声で話しかける。

 

「9A91、お前はケガから復帰したばかりだ。お前には選択の自由がある、だがもし今より強くなりたいのであればオレの訓練を受けることをすすめる」

 

「わ、わたしは…」

 

「他人に頼るな、自分の事だ、自分で決めるんだ」

 

 他の戦術人形に意見を求めようとした彼女に、オセロットはそう言った。

 不安げな様子で俯いていた9A91はいくつかの質問を彼に投げかける。

 

「指揮官は、オセロットさんに訓練されることを望んでいるのですか?」

 

「ああ、君自身のためにもな」

 

「では、訓練を受ければ…指揮官のお役に立てるのでしょうか?」

 

「もちろんだ」

 

「強くなれれば指揮官と一緒にいられるんですよね?」

 

「それは君次第だ」

 

「…やります、わたしは、指揮官のお役に立ってたくさん褒めてもらいたいから。訓練に参加します」

 

 気弱な声だが、オセロットは彼女の瞳から確かな決意を読みとった。

 

 早速訓練を始めようとしたところ、唯一何も言われていないWA2000が不満げな表情でオセロットを見つめている。

 

「なんだ」

 

「わたしには何か言うことは無いの?」

 

「お前は強制参加だ、特別メニューで訓練してやるから覚悟しろ」

 

「な、なによそれ…?」

 

 かくしてオセロットによる戦術人形たちへの訓練が始まる。

 

 初日ということで彼女たちが満足にCQCをできるはずもなく、ひたすらオセロットに挑んでは叩きつけられ、投げ飛ばされて体で覚えるという訓練が始まった。

 訓練場には叩きつけられる痛そうな音と、少女たちの悲鳴が響き渡るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーー……身体が、動かな…い…」

 

 スコーピオンはうめき声をだしながら訓練場にうつぶせで倒れていた、ピクリとも動かない。

 彼女だけではない、スプリングフィールドは壁に寄りかかり息を乱し、9A91は座り込んでぼうっとしている……WA2000に至ってはほとんど魂が抜けかかっている有り様だ。

 

 彼女らがオセロットのスパルタ訓練から解放されたのは午後の6時を過ぎようとした頃であった。

 ひたすらCQCの餌食にされ続け身体はボロボロ、生気も無くなっている。

 

 しばらくそのまま死んでいた少女たちであったが、よろよろと立ち上がり訓練場を去っていく。

 大好きな夕食の時間だが、食べ物もろくに喉を通らない状態のため食堂を素通りし、一同マザーベースの浴場へと向かっていった…。

 

 

「イタタタ……背中の感触がないよ」

 

 痛む身体を慎重に動かし、彼女らは衣服を脱ぎ浴場へと入って行く。

 ふらふらと歩くスコーピオンは水風呂に身体を沈める……痛んだ身体に水の冷たさが心地よい、しばらく四人で水風呂の冷たさに身体を癒す。

 

「ねえワルサー…その…悪かったよ、先に手を出して…」

 

「別に、もう怒る気力も無いわ……私こそ悪かったわね」

 

 しばらく水に浸かっていたスコーピオンは、食堂でのケンカの事を思い出し謝罪の言葉を口にする。

 WA2000もまた、虚ろな目で浴場の天井を見上げながら小さな声でつぶやいた。

 

 それから四人同じタイミングで水風呂を出て、今度は大浴場の方へと入って行く。

 きょうの大浴場は泡風呂だ、いつもはただお湯をためただけの風呂だが、ちょっとしたサプライズに少女たちも少し元気を取り戻した。

 

 

「オセロットに酷く痛めつけられたようだな」

 

 

 突然かけられた声に、それまで無気力だった少女たちはギョッとして辺りを見回す。

 

 浴場の湯気で良く見えなかったが、そこには先客がいたようだ。

 当たり前だがその人物は女性で、風呂場にいるというのにサングラスをかけたままだ。

 

「ストレンジラブさん、いらっしゃったんですね?」

 

「ふむ、オセロットに痛めつけられていると聞いて泡風呂を用意したが気に入ってくれて良かった」

 

 背戦術人形たちにとって、ストレンジラブはAI研究への協力ということで深い付き合いをしている存在だが、こうして浴場で遭遇するのは初めてであった。浴場でもサングラスを外さない彼女を改めて変人認定するスコーピオンだった。

 

「全く、あの男も手加減というものを知らないらしい…こんな美しい肌にあざをつけるなんて全く

 

「あの、ストレンジラブさん…?」

 

「ああすまない、あざが酷そうだったのでな」

 

 怪しい雰囲気を醸し出しながら背中を撫でてきた彼女に、スプリングフィールドは若干引き気味だ。

 

「訓練はこれから毎日続くのか?」

 

「ええ、明日も同じ時間に」

 

「そうか、大変だな。ここには野蛮な男共もやっては来れない、ここにいる間はリラックスするといい」

 

 そう言うのは、ここマザーベースの女性専用浴場はマザーベースでもトップクラスのセキュリティを誇っている。MSFのスタッフの10分の1は女性スタッフなのだが、その女性陣に配慮した設計だ。

 無駄に諜報能力や隠密行動に長けた連中である、生半可なセキュリティでは女性たちも安心できないというものだ。

 

「ミラーの話しは聞いたか?」

 

「いえ、ミラーさんが何か?」

 

「オセロットが君らにCQCを教えていると、どこから聞きつけたのか自分も参加すると聞かなくてな……全く呆れた奴だ」

 

「そ、そうですか…ハハハ」

 

 それには彼女たちも愛想笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、お風呂入ったらちょっと元気になったよね」

 

「フフ、そうですね。泡風呂を用意してくれたストレンジラブさんには感謝しなければなりませんね」

 

「そうね、嬉しいサプライズだわ」

 

「ったく、オセロットの奴め……明日の訓練はサボってやる」

 

 用意されたお風呂でいくらか疲労を回復できた四人は先ほどよりかはいくらか軽い足取りで、食堂を目指していた。

 食堂へ向かいつつ、話しながら歩いている時だった。

 

「あ……」

 

「どうしたの9A91?」

 

「指揮官の声が聞こえます」

 

 目をキラキラと輝かせながら、9A91は飼い主に呼ばれた子犬のように声のする方へと歩いていく。

 スネークがいたのは先ほどいた場所から50メートルほど離れた位置……明らかにおかしい聴力に恐ろしさを感じつつも、他の三人はスネークがいるであろう場所を覗く。

 そこにいたのはスネークだけではなく、オセロットも一緒だったために四人は咄嗟に物陰に隠れる。

 二人は何かを話し合っていて、少女たちはそっと聞き耳を立てる…。

 

 

「訓練が始まったみたいだが、少しやり過ぎじゃないのか?」

 

 どうやらスネークは行き過ぎた訓練内容をとがめているようであった。

 これを聞いてスコーピオンは笑みを浮かべ"もっと言ってやれ"と小声でつぶやいている。

 

「らしくもない、この程度の訓練で根をあげるようではあんたのためにはならん」

 

「だが怪我をさせてしまっては元も子もないだろう。戦術人形とは言え、まだ少女だ」

 

「だからだよ、ボス。戦術人形(彼女たち)は造られて間もなく戦場に投入される。戦闘能力も人格も精神もある程度は決まった形で造られる、それ故に脆い…。オレたちのような人間は何十年も経験を積んで一人前の兵士になる、失敗を経て弱点を克服し戦場という過酷な環境に適応させていく。だが彼女たちは決められた人格で生まれる、どんなに歴戦の風格を纏っていようとも、その心は無垢な赤ん坊同然だ。個人差にもよるが、精神の崩壊は突然来るかもしれない」

 

「9A91、あの子がその状態に近かった。幸い順調に回復してくれたようだが」

 

「ボス、あんたも知っているはずだ、一度壊れた心はそう簡単に治らない。これからMSFはバルカン半島の任務のような汚れ仕事も引き受けるだろう、それを無垢な彼女たちがいつまでも耐えられるはずはない。彼女たちに必要なのは、オレたち人間と同じように経験によって精神を鍛えることだ」

 

「そうだな、オレは……あの子たちを人形扱いするつもりはない、彼女たちは人間だ。あの子たちが望むならMSFの家族として迎え入れる。もちろんお前もだオセロット、お前が一人で損な役をする必要はない」

 

「いいや、ボス。憎まれ役はオレでいい、ボス、あんたはMSFのカリスマ…ここにいる連中はみんなボスに惚れている、彼女たちもな。あんたは心の拠り所なんだ」

 

「だが…」

 

「ボス、オレはアンタのようにはなれない。オレはオレの役目を果たす、アンタはアンタにしかできない役目を果たすんだ。アンタは伝説のBIGBOSSだ、その伝説を穢したくはないのさ」

 

「オセロット……分かった、だが無理はするな。あの子たちの前にお前の精神が壊れては敵わん」

 

「フッ、冗談を…」

 

「明日は任務もない、たまには飲むか?」

 

「そうだな、たまにはいいだろう」

 

 

 

 二人の会話と足音が遠ざかっていった時、少女たちはその場に座り込む。

 

「ねえみんな」

 

 スコーピオンが口を開き、三人の顔を見つめる。

 

「あたし、もうちょっと頑張ってみようと思う……たぶん、これからも弱音を吐くだろうしイラつくときもあると思う。スネークとオセロットについて行けばもっと強くなれると思う、戦場で悔しい思いをしなくてもすむ。でも一人じゃ心細い……だからその…」

 

「フフ、私も同じ考えですよスコーピオン。みんなもそうよね?」

 

「はい。指揮官のためにも、みんなのためにもわたしは頑張ります」

 

「だから言ったでしょ、悪い人じゃないって」

 

「そうだね、ワルサーが惚れるのも無理ないかもね。どっちも似たようなツンデレだもんね」

 

「な、なによそれ……ぶつわよ?」

 

 ニヤニヤと笑うスコーピオンに、WA2000は頬を赤く染めてそっぽを向く。

 

「ま、明日からまた頑張ろ!」

 

 スコーピオンが差し出した拳に、少女たちは拳をつき合わせて応える。

 

 満月の美しい、穏やかな夜の出来事であった…。




オセロットが暴れます(物理)
カズが暴れます(猥褻)
以上でした(笑)


次回もマザーベースpartを予定してます。
次回はスネークが暴れる予定です。


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マザーベース:ハンティング作戦

『全スタッフに次ぐ、本日の作業は全員中止ッ! 全員司令プラットフォームへ集まるように!』

 

 MSFのスタッフたちが、その日の職務に取り掛かろうとする時間帯に、マザーベース全体にカズの声が拡声器を通して響き渡る。

 突然の放送にスタッフたちは大慌てで武器を手にし、指示されたプラットフォームへと駆けつける。

 ここ最近マザーベースを襲うものとすれば大量の海鳥による糞爆撃、戦闘班はともかくとしてそれ以外のスタッフは若干平和ボケしつつあったが、全員が何か非常事態があったに違いないと普段のほのぼのとした様子からは想像出来ない身のこなしでプラットフォームへと集まる。

 

 何があったんだ、敵はどこだ?

 誰でもかかってこい、返り討ちにしてやる!

 

 そう思いつつ駆けつけたMSFのスタッフたち、だがなにか様子がおかしい。

 

 そのプラットフォームには糧食班のほぼ全員の姿と、演台に立つサングラスをかけたカズヒラ・ミラーの姿がある。もちろん我らがビッグボスの姿もある。 

 ざわめくスタッフたち…。

 彼らの前でカズはあーあー、とマイクテストを行ってから話し始める。

 

「今日みんなに集まってもらったのは、このマザーベースにかつてない危機が訪れていることを知らせるためだ」

 

 カズのその言葉に、やっぱり何かマズい出来事があったのではないかと全員緊張した面持ちでMSF副司令カズヒラ・ミラーの次の言葉を待つ。

 深刻な空気がマザーベースが包む。

 

「マザーベースの食糧が…尽きようとしている。よって、我々MSFの生存をかけた一大作戦、動物捕獲作戦(アニマルキャプチャーミッション)を実行するッッ!」

 

 ミラーの力強い声がマイクを通して全MSFスタッフのもとに響き渡った。

 

 

 

 さかのぼること数時間前…。

 

 

「スネーク、食糧の備蓄がもう底をつきそうだ」

 

 任務を終えてマザーベースに帰ってきたスネークを呼び、カズは深刻な表情でそう打ち明けた。

 いつかはこうなるだろうとスネークも予想していたが、思っていたよりもそれは早く訪れたのである。

 

「バルカン半島での仕事を終えて仕事は入ってきているが、安定した取引の確立に間に合わなかったようだ。スネーク、すまない……これはオレの不徳の致すところだ」

 

「おいしっかりしろ、オレたちは一丸となってこの食糧危機に取り組んできたじゃないか。最善は尽くしていたんだ、仕方がない。だがお前の事だ何か考えがあるんだろう?」

 

「ああ、もちろんだスネーク。日本のことわざに腹が減っては戦ができぬというものがある、食事は戦場に生きる兵士にとって数少ない楽しみの一つだ。何の対策も練らずにこの時を待ち続けたわけではない」

 

 最近ふざけて女の子にちょっかいをかけて返り討ちにあってるカズからは想像もできない、ある決意に満ちた姿であった。

 MSFにとってカズが果たしている役割というのはとてつもなく大きい。

 組織の運営や管理はもちろんのこと、スタッフ一人一人のケアを行うことだって忘れない…その結果がサウナの一件なのだが、あれはカズの病気というべきものだろう。

 

「それで、対策は…」

 

「あぁ……だが自信がないんだ」

 

「どうしたんだ、らしくもない」

 

「いや、まあ自分で考えてもおかしいと思うんだ。当たり前のことなんだが、なんというか……他に方法がないのかと責められそうで怖い」

 

「カズ、自信を持て。お前が何を言おうとオレは責めない、だからなんでも言ってみろ」

 

「ボス、ありがとう。食糧の安定した供給が望めない以上、原始的な解決方法に頼るしかない。すなわち野生動物の捕獲(キャプチャー)だ、幸い近くには広大な森林地帯、大海原といった動物を捕獲するのには恵まれた環境にあるんだが……すまん、もう少しオレに知恵があれば―――」

 

「いいじゃないか!」

 

「本当にすま……え?」

 

 予想外のスネークの反応に、カズは面食らう。

 対するスネークは目を輝かせどこか生き生きとした表情をしている。

 

「野生動物の捕獲、懐かしい響きだ! レトルトカレーの味もいいが、ちょうどヘビとかワニの肉の味が恋しくなってきたところだ。カズ、オレ自身忘れていたことだった、素晴らしいアイデア、いいセンスだ」

 

「え、あ、あぁ…そう言ってくれるとオレとしては助かるが…他のみんなが納得してくれるか心配で」

 

「心配などする必要ない、調理場でさばいただけでは味わえない魅力が、サバイバルには存在する。カズ、すぐに実行に移そう」

 

「あ、あぁ…」

 

 ノリノリのスネークの後を、言いだしたのは自分であるにもかかわらずカズはどこか納得できていない。

 普段の生活からスネークが食事に対し並々ならぬ情熱を持っているのは知っていたが、ヘビやネズミと言った野生動物を嬉々として食べる人物だとは思っていなかった。

 いや、戦場という過酷な環境の中で好き嫌い言っている場合ではないのだが、レトルトカレーとヘビの丸焼きといったら大多数が前者を選ぶだろう。

 ところがこのスネークという男は迷いなく後者を選ぶ男だ、それが伝説の傭兵ビッグボスであり、スネークイーター作戦を遂行した英雄なのだ。

 

 いつの間にか主導権をスネークにとられ、この作戦は急ピッチで進められる。

 

 エリアを海と陸地、そこから海は磯辺と大海原と砂浜、陸地は森や山岳地や沼地といった具合に細かくエリアを分けられたうえで作戦に参加するメンバーを割り当てていく。

 この作戦を発動するにあたりMSFは営業活動の全てを休み、スタッフ一丸となって食糧確保に望むのだ。

 無駄ではない、命にかかわるむしろ最優先で行うべき事案なのだ…と、スネークは熱く語る。

 

 この作戦には戦術人形たちも容赦なく駆り出される。

 内容を聞いて拒否反応を示すWA2000、遠回しに拒絶するスプリングフィールド、指揮官のためならばと我慢する9A91……そしてやたらとノリノリなスコーピオンである。

 

「悪いけど、スネークには負けないよ。あたしが一番大物捕まえてくるからね!」

 

「ほう、勝負というわけか。いいだろう、経験の差を見せてやる」

 

 最初からスネークに対抗心を見せるスコーピオンとそれに受けて立つスネーク。

 

 カズの提案で、折角だから一番いい食糧を手に入れた人には特別な景品でもあげようということになった。

 この話しを聞いてスコーピオンは気合が入ったらしい、全員出し抜くつもりで名乗り出た。

 

 今回の作戦は食糧調達に向かう者と、それをサポートするため通信員もしくはバディのペアとする。

 食糧調達とといっても、食べられないものまで大量に持ってこられても処分に困るため、通信員がその食糧となるものを調べる役目を果たす。

 極力現地に行きたくないスプリングフィールドと9A91はスネークのサポートとなる、スコーピオンはサポートなんていらないと言い張っているが…。

 

 そしてWA2000はというと、集まるMSFのスタッフの中を歩き回りオセロットの姿を探している。

 やがて群衆のそとにいる彼を見つけると真っ直ぐに向かっていく。

 

「ねえオセロット、あなた誰と組むの? もし、誰もいないっていうのならあたしが組んでやってもいいわよ」

 

「オレは参加しない。仕事が残ってるんでな」

 

「あ、そうなの……」

 

 オセロットの言葉に、彼女は肩を落とし落ち込む。

 

「ヒマなのか? だったら少し手伝え、二人でやれば少しは早く終わる」

 

「そ、そう…そこまで言うなら手伝ってあげてもいいわ!」

 

「いいのか、良い景品をミラーが用意したらしいぞ」

 

「別にいいわよ、ヘビとか触りたくないし…」

 

「ヘビも案外美味いかもしれないぞ。仕事は諜報班のレポートをまとめる作業だ、分からないことがあったらオレに聞け」

 

 相変わらずの態度だが、WA2000はどこか嬉しそうにオセロットの後をついて行く。

 

 

 かくしてMSFの一大作戦が始動されるのであった。

 

 

 

 

 

 

「こちらスネーク、目標の森林地帯に到達した」

 

『お疲れさまです、スネークさんこちらから無線でサポートするので頑張ってください』

 

『9A91もこっちで頑張ります』

 

 全身を森林に溶け込む迷彩服で固め、フェイスペイントを施すという本気ぶりのスネークだ。

 動物を生きたまま捕まえるために麻酔銃を携行し、小型動物用の罠も持ちこんでいる。

 

「む?」

 

 さっそく森を移動する気配を察知し、スネークは素早い動きで麻酔銃を構え、素早く移動するその動物に向けて発砲する。

 麻酔銃を受けて転がるように倒れたその動物をスネークはつまみあげる。

 

「早速捕まえたぞ」

 

『お見事ですスネークさん。あら、とてもかわいいウサギさんですね。見たところカイウサギの一種ですね、ペットが逃げ出して野生化したもののようですね』

 

「ほう、で?」

 

『はい?』

 

「味はどうなんだ、このカイウサギは?」

 

『食べるんですか……ウサギさん』

 

「当然だろう」

 

『そ、そうですか…えっと、資料によれば一応食用として飼育されていたこともあってそれなりに美味しいらしいです』

 

「そうか!」

 

 捕まえたウサギをしまいこみ、次なる獲物を見つけるべくスネークは森を進んでいく。

 やがてスネークは森の中の沼地へと到達する、薄い霧が辺りを覆っていた。

 そこでスネークは何かを見つけたようで、足音を立てないようゆっくりと歩き…飛びかかる。

 

「とったッ!」

 

『お見事です。今度は何を……嫌ッ!!』

 

「どうした!?」

 

『なんてもの捕まえてるんですか!? 離してください、それヘビですよ!?』

 

「ああ、見ればわかる。見たところアミメニシキヘビのようだ、味はとても美味いぞ」

 

『なんで知ってるんですか…』

 

「食った事あるからな、君も食べて見るか? きっと気に入るぞ」

 

『遠慮します』

 

 一方的にスプリングフィールドは通信を遮断する。

 理解してもらえない寂しさを感じつつも、この大自然の中で溢れる魅力的な食材の数々が待っていると思うと沈んだ気持ちもすぐに昂る。

 

 ふと、スネークは朽ち果てた木の傍に鮮やかな赤色のキノコを発見する。

 

「スプリングフィールド」

 

『嫌ですよ!?』

 

「は?」

 

『どうせまた、カエルとかクモとか…そういう生き物を捕まえたんですよね!? もっとまともなのを見つけてください!』

 

「いや、見たことがないキノコを見つけたんでな。調べてもらおうとしたんだが」

 

『あ、そうだったんですか。失礼しました……それはカエンタケという、極めて強い毒を持った菌類の一種です。食べると腹痛や嘔吐の症状のほか、手足のしびれや呼吸困難に陥ります。致死量はわずか3グラム、汁に触れただけでも危険なキノコです』

 

「なるほどな……で、味は?」

 

『は?」

 

「味」

 

『スネークさん、わたしきちんと毒があるって言いましたよね?』

 

「ああ、でも食べてみたら美味いかもしれないだろう……スプリングフィールド? どうした?」

 

『指揮官、9A91が通信を代わります』

 

「スプリングフィールドはどうしたんだ?」

 

『スプリングフィールドさんは、少し頭を冷やしてくると言って離れました。大丈夫です、私が全力でサポートいたします!』

 

 フェードアウトしていったスプリングフィールドに代わり、やる気に満ちた9A91がサポートを代わる。

 いまいちサポートが代わった理由を理解しないままスネークは辺りを探索する、沼地にはまだまだ多くの生き物(食材)が存在している。

 

「9A91、ワニを発見した」

 

『イリエワニですね、それもとても大きいですね。性格は極めて強暴、人食いワニとも言われています……大きすぎて捕まえられそうにありません、先を行きましょう』

 

「いや、オレに考えがある」

 

『指揮官? 危険ですよ?』

 

 沼の岸にて圧倒的威圧感を放つイリエワニと一定の距離を保ちながら、スネークは対猛獣用の麻酔弾を発射できるライフルに持ち変える。

 樹木に隠れ、狙いをつける……。

 引き金を引き、ライフルから放たれた麻酔弾がワニの眉間に見事命中する。

 少しの間様子を伺い、ワニのまぶたがたたまれたのを確認してから眠りについたワニに接近する。

 

『指揮官流石です。ですが大きなワニをどう持ち帰るんですか?』

 

「そのためのフルトン回収装置だ、見るのは初めてか?」

 

『はい』

 

 スネークは慣れた手つきで眠るイリエワニの身体にフルトンを取り付ける。

 あとは作動させればフルトンが発動し、どんなにこのワニが重くともフルトンがあっという間に上空へ飛ばしてくれる。

 

「ワニは大収穫だな、これ以上の獲物はそうそういないだろう」

 

『そうですね、指揮官。あとはお帰りになりますか?』

 

「そうだな、後は…む?」

 

 スネークは森の奥から接近してくる何かの気配を感じ咄嗟に振り返ったが、その猛獣は既に牙を剥き出しにスネークめがけ飛びかかっているところだった。

 猛獣の巨体に弾き飛ばされ、スネークの身体が宙を舞って沼に落ちる。

 

『指揮官!?』

 

 吹き飛ばされたスネークはすぐさま体勢を立て直し、襲い掛かって来た猛獣に銃を向ける。

 黄褐色の体毛に黒の縞模様、剥き出しの闘志を隠そうともしないかなり大型の虎だ。

 

「ある意味鉄血の戦術人形より厄介な奴が来た」

 

『指揮官、逃げてください!』

 

 そうは言うが、猛獣と人間とではそもそもの身体能力が圧倒的に違う。

 逃げようとしても追いつかれ、あっという間に八つ裂きにされてしまう……つまりはやり合うしかないのだ。

 

 ふと先ほどの一撃でライフルがひしゃげているのに気付く。

 持っているのは小型の麻酔銃とサバイバルナイフが一本……スネークは迷わずサバイバルナイフを手に構える。

 

 荒ぶる虎、歴戦の蛇。

 

 生き残るのはどちらか、最大の戦いが勃発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへーん、大量大量! 見てよこれ!」

 

 大海原に出かけたスコーピオンは、船からの釣りで大量を狙い、見事たくさんの回遊魚を捕まえてきたのだ。

 続々とマザーベースへと帰還して来るスタッフたちであるが、今のところスコーピオンに勝る収穫を達成できた者はいない。

 スネークの帰りが遅いのが全員の気掛かりであったが…。

 

「ま、景品はあたしのもので間違いないね」

 

 しばらくして、ライバルであるスネークを載せたヘリがようやく帰還する。

 どや顔でスネークが降りてくるの待つスコーピオン、ヘリのドアが開かれた時彼女の目の前に巨大なワニやヘビが放り投げられる。

 スコーピオンは悲鳴をあげて飛び跳ねる。

 

「勝った気になるのは早いぞスコーピオン」

 

「ス、スネーク…あんたそれ…!」

 

「ワニとヘビとウサギ、それからトラを捕まえてきた。みんな何を捕まえたんだ?」

 

 スコーピオンの大収穫も霞む獲物の数々に、集まった全員がもうあんたが優勝でいいよと思うのであった。

 

 

 

 結局、今回の作戦で景品を獲得できたのはスコーピオンだった。

 ワニはともかくとして、トラは議論の食材として消費されるべきではないという結論にたどり着き、ノーカウントとなった。その結果、食糧事情の解決に大きく貢献したのはスコーピオンであるとなったのである。

 景品を貰いつつも、負けた気がするスコーピオンは納得が言っていないようだったが、その後に行われたマザーベース全体のパーティーではすっかりいつもの元気な姿を見せる。

 

 作戦に参加しなかったオセロットもそこに混じり、ストレンジラブなども顔をだしちょっとしたお祭り騒ぎとなる。

 戦術人形たちも、このパーティーを心の底から楽しんでいるようだ。

 

 

 

「ヒューイ、お前もパーティーに参加したらどうだ?」

 

「あ、スネーク。ぼくはいいよ、開発が立て込んじゃっててね」

 

 スネークはパーティーの場を離れ、一人研究室で開発に没頭するヒューイのもとを訪れていた。

 

「そう急ぐ案件でもないだろう。まあ無理にとは言わんが、折角だから来たらいいだろう」

 

「そうだね、ひと段落したらそうするよ」

 

「そうした方が良い。ところで、何の研究をしているんだ?」

 

 ヒューイは故障中のメタルギアZEKEのメンテナンスを行っているが、現在はそれと並んで別な兵器の開発を行っていることをスネークはカズから聞いていた。

 

「戦車に変わる兵器の開発だ。メタルギアZEKEのような二足歩行兵器を小型化させたもので、歩兵と一緒に運用できることをコンセプトにしている。強固な装甲と生体パーツを応用した脚部を備えて、悪路を走破して戦車並みの戦力を持つはずだ。これが完成すれば、みんなの負担も少なくなるはずだ。こんな世界だ、早く完成させなきゃね」

 

 パソコンに向き直り開発作業に戻る、研究といいつつ何かを避けているような気がしないでもない様子に、スネークはそばにあった椅子に座り思ったことを言ってみることとした。

 

「ヒューイ、お前何かオレたちに言いたいことがあるんじゃないのか?」

 

「え?そんな、ぼくは特にないよ…」

 

「そうか……ヒューイ、オレたちは家族だ。大切な仲間だ、何か悩みがあるのなら一人で抱え込む必要はない。誰でもいい、信頼できる誰かにでも相談をするんだ」

 

「そうだね、心配いらないよスネーク。ぼくは大丈夫だ」

 

 その言葉に頷き、スネークは立ち上がる。

 

「みんなお前を気にかけている、お前は一人じゃない。待っているからな」

 

 そう言って出ていったスネークをヒューイはしばらく見つめていた。

 それから研究開発委戻ったヒューイだが、ふと手を止めてメガネを外す…。

 

 

「ぼくは、弱虫だな…」

 

 

 弱気な彼の言葉を聞く者は誰もいない。

 

 やがてヒューイはメガネをかけなおし、開発に戻っていった。




月光フラグたちました、やりました。
これで鉄血にも勝てる!

ヒューイはスカルフェイスと取引してしまったことを悔やんでます。


DDが出せなかったんで、虎をバディーにしましょう。
天然の迷彩効果もあるんで良いと思います。
え、オーバーキルですって?
止めときますか(笑)


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偵察隊撃破任務

「うりゃーっ!」

 

 早朝のマザーベースに、スコーピオンの気合の入った雄たけびが響き渡る。

 まだ食堂も開いていない時間帯にもかかわらず、スコーピオンは誰よりも早く起きて訓練場で汗を流していた。

 彼女だけではない、遅れてスプリングフィールドや9A91、そしてWA2000もやって来て一緒に訓練を行っている。

 そのうち、MSFのスタッフたちも興味があるのかやって来て、訓練を見守るように見つめていたりもした。

 

 オセロットによる教育が始まってから数週間。

 あれだけ文句を言っていた彼女たちは今、進んで彼の訓練を受けるようになり、オセロットの厳しい指導にもめげることなく参加している。

 彼女たちが努力している姿にスタッフたちは感心しているが、実際彼女たちは強くなっていた。

 その姿に刺激され、MSFのスタッフたちもよりキツイ訓練にも進んで参加したりと、彼女たちの訓練に励む姿は周囲に良い影響を与えていたのだ。

 

 朝の訓練を終えてシャワーで汗を流した彼女らをオセロットは呼びつける。

 

 普段彼のいるプラットフォームへと足を運ぶと、そこにはヘリが一機と前哨基地にいるはずのマシンガン・キッドが待っていた。

 

「お前たち」

 

 オセロットの第一声に、戦術人形たちはバツの悪そうな顔をする。

 その声はいつも訓練中何か失敗したりして叱られる前の声色と同じだったからだ…。

 

「今日は訓練は休みのはずだ、自主的に訓練する姿勢は立派だが、休める時には休め。じゃないと身体が持たなくなるぞ」

 

 しかし、予想していたようなお叱りの言葉はなく、むしろ休みの日にも関わらず訓練をする彼女らを気遣う言葉だった。極たまに見るオセロット教官の優しいところだ、今日は良い一日になるかもしれないなと彼女たちが思っている時だ。

 

「明日、お前たちにはキッドと組んで戦地に行ってもらう。そうだ、お待ちかねの戦場だ」

 

「うわ、マジ!? やっと戦場に行けるんだね!」

 

「スコーピオンお前のそういう態度を見ていると一番不安になる。まあいい…キッド、一応言っておくが無茶はさせるなよ」

 

 オセロットのその言葉に、キッドは片手をあげて応える。

 その場を去っていくオセロットをしばらく眺めていた後、キッドは邪魔者がいなくなったと言わんばかりに彼女たちに声をかけるのだった。

 

「よ、久しぶりだなスコーピオン。それと麗しのお嬢さんがた、オレはマシンガン・キッド。明日の任務ではよろしくな」

 

 気さくな口調で語りかけるキッドであるが、女性陣の目は厳しい。

 顔見知りのスコーピオンはフレンドリーだが、ほとんど初対面のスプリングフィールドと9A91の反応は薄く、WA2000に至ってはキッドの自己紹介など聞いていないのか髪を弄っている。

 

「あれ、みんなこんなだったっけ?」

 

「案外人見知りだからねみんな。それで、任務って何なの?」

 

「ああ、そうだな。簡単な任務さ、前哨基地付近の鉄血の奴らを追い払う簡単な仕事さ」

 

「鉄血を追い払う?」

 

「お、君は確かスプリングフィールドといったね。その通り、前哨基地にはオレたちの宿舎もある。連中がうろついてたんじゃ安心して夜も眠れん、だからオレのような戦闘班が出向いて、奴らのケツを山の向こうまで蹴り飛ばしてやるって作戦だ」

 

 いまのところ前哨基地では大きな戦闘などは起こっていないのだが、たまに偵察にやってくる鉄血の人形たちとの小競り合いはいくらか起きている。拠点の設営は既に完了し、ちょっとした部隊程度なら歴戦の戦闘班と配備された戦車等により返り討ちにできる。

 それでも現状限られた物資でやりくりしている以上、大規模な攻撃を受けて大きな被害を出さないためにも、小さな脅威といえど見逃さず対処している。

 これは前哨基地を任されているエイハヴ主導のもとに指揮されている。

 

 今回キッドとオセロットの間でやり取りがあり、訓練の一環とスネークとオセロット以外の現場で戦うMSFスタッフを知るために準備された。

 まだ人間の紛争に関わる仕事に混ぜられないと判断し、彼女たちも慣れた相手である鉄血との戦闘で、MSFの一員としてさらに一歩成長させる意味も兼ねている。

 その日はキッドもマザーベースでやることがあるのでそこで別れ、彼女たちも思い思いの休日を過ごす。

 

 

 

 翌日、キッドと戦術人形たちを載せたヘリが前哨基地へと着陸する。

 

 久しぶりに訪れた基地はしっかりと補修され、簡易飛行場も設けられた立派な基地と化していた。

 いつの間にか運び込まれた戦車や戦闘車両の他、ヘリも多数配置されている。

 機銃、迫撃砲、火砲といったものが基地の要所に設置され、塹壕も掘られた防御陣地により基地は要塞と化していた。

 

「うへぇ、人数少ないのにグリフィン以上の設営能力ってどういうことよ?」

 

「MSFをそこらの傭兵と一緒にされちゃ困る。さて、ちょっと待ってろ」

 

 キッドは少しの間離れ、数分後には一台のジープに乗って戻ってくる。

 

「昨日雨が降ったからな、こいつみたいなのが一番だ。乗りなよ、少しドライブと行こうじゃないか」

 

 一般的な非装甲車両に、ブローニングM2を載せた車両だ。

 その車両を眺めていたスプリングフィールドは、据え付けられた重機関銃に取り付けられたスコープに着目する。

 その視線にキッドも気付き、得意げに話す。

 

「オレはマシンガンの名手だが、狙撃の名手でもある。こいつで遠距離から単発射撃で敵を仕留める、鉄血の人形もこいつにかかれば木端微塵に吹き飛ぶ。ま、持ち運びに難があるがな…」

 

「射程と安定性、そして威力を備えたこの重機関銃は狙撃にも向いてますからね。MSFにもこの戦術が広まっているのは驚きです」

 

「ああ、オレが広めたんだ。さてそろそろ行こうか、鉄血の偵察隊は待ってくれないから」

 

 助手席にスコーピオンが飛び乗り、後の三人が後部座席に座ったところでキッドは車を走らせる。

 雨が降り、ぬかるんだ悪路を車はうなりをあげて突き進んでいく。

 前哨基地を出ればそこは戦場だ、キッドはハンドルを握りながらも周囲を警戒していた。

 

「ここだ、連中がうろついてたのを最後に見たエリアだ」

 

 そこは前哨基地からちょうど山を一つ越えたあたりの場所であった。

 起伏のある針葉樹林は人間の手で植樹されたのか密生しており、管理されていない森の中は昼間だというのに不気味な薄暗さがある。

 その場所を少し調べた後、森のさらに奥まで車を走らせた。

 

「よしみんな降りてくれ、ここからは歩きだ」

 

 車両を林の中に隠しキッドを先頭に彼女たちはうっそうと生い茂る森を歩いていく。

 

 キッドは時折振り返り彼女たちがきちんとついてきているか確認するが、それはいらない心配だった。

 数週間前までは、このような森に入ることは嫌がっていた彼女たちであったが、今は文句の一つも言わず周囲を警戒しながら一定の距離を保ちついてきている。

 オセロットの訓練を受けている彼女たちは前とは比べ物にならないほど戦闘技術を向上させている…後は不屈の精神(メンタル)を彼女たち自身が身に着けるだけだ。

 

 ふと、キッドが立ち止まり静かにかがむ。

 それに倣って彼女たちもその場にしゃがみ込み、銃を構え周囲をうかがった。

 

 木々が風に揺れる音と小鳥のさえずりに交じって、誰かの話し声が聞こえてくる。

 それは薄暗い森の奥から聞こえてくるようだった。

 

「鉄血か人間かあるいは…野良の戦術人形か。確かめに行こう」

 

 声のするほうへ、キッドたちは静かに近づいていく。

 薄暗い森の中を進んでいくごとに聞こえてくる声は大きくなってくる、森が開けて周囲が明るくなったところにその声の主はいた。

 長い黒髪にアサルトライフルを手にした少女だ。

 その少女は誰かと通信をしているようだが…。

 

「あれは、M4!」

 

 その少女を目にしたスコーピオンが思わずそう叫ぶ。

 その声は通信を行っていたM4という名の少女にも聞こえたのか、彼女は銃口をキッドたちに向けてきた。

 とっさに銃を構えたキッドをスプリングフィールドが制す。

 

「見つけたぞM4!」

 

 銃口を向けあい膠着していたところに、鉄血の戦術人形たちが突如としてあらわれ襲い掛かってきた。

 鉄血はキッドたちの姿も視認するや迷いなく引き金を引いた。

 静かな森はあっという間に銃声が鳴り響く戦場と化す、スコーピオンたちもすぐさま散開し木や岩などを遮蔽物に応戦する。

 

「偵察隊どころじゃないな!」

 

 激しい銃撃から身を隠しながらキッドは諜報班の話しと違う状況に悪態をつく。

 鉄血側からの銃撃によってスコーピオンと9A91は身動きが取れず、スプリングフィールドとWA2000は銃弾の雨の中で正確な狙いをつけられないでいる。

 キッドは敵の目をかいくぐり匍匐の姿勢でその場を離れている。

 逃げているのではない、鉄血の部隊を視界に収められなおかつ頑丈な遮蔽物のある場所にまで移動し、キッドは機関銃を据え付ける。

 

「よくもやってくれたな鉄血人形!」

 

 キッドの軽機関銃から放たれる弾幕によって鉄血の人形たちは身を隠し銃撃が止まる。

 その一瞬のスキを見逃さず、スコーピオンは遮蔽物を乗り越え鉄血が身をひそめる遮蔽物のそばに転がり込んだ。

 そこで焼夷手榴弾のピンを抜き、鉄血が身を隠す遮蔽物へと放り投げる。

 投げた手榴弾が爆炎をあたりに振りまき、炎に飲み込まれた鉄血の人形たちはたまらず遮蔽物から身をさらす。

 

「用意、撃てッ!」

 

 スプリングフィールドの掛け声とともに、WA2000は彼女とともに身をさらす鉄血の人形たちを狙撃する。

 浮足立った鉄血へ最後のとどめを刺すのは9A91だ、彼女は後退する鉄血の側面に素早く移動すると無防備な側面から追撃をかける。

 一瞬のスキを突かれ瓦解した鉄血の部隊はなすすべもなく殲滅される。

 

 最後の人形に銃弾を叩き込んだスコーピオンは残りの敵がいないか周囲を警戒するが、もう森の中で動くのはキッドたち以外に誰もいなかった。

 

「クリア。鉄血のせん滅を確認、いやぁ危なかった」

 

 口ではそういうものの、戦況を見極め大胆な動きで敵を瓦解させたスコーピオンの功労は大きい。

 仲間たちからの褒め言葉に素直に喜ぶスコーピオンである。

 

「お前ら大したもんだ、実戦で通用する強さだ。もうオセロットの教育は必要ないんじゃないか?」

 

「ま、あたしはそれでいいんだけどね。ワルサーがオセロットと一緒に居たくてたまらないみたいなんだよね~」

 

「バ、バッカじゃないの!? あたしはただ教官としてあの人を尊敬してるだけで、そんな感情なんてないんだから!」

 

「まあまあ、二人とも。まだまだ私たちはオセロットさんに教わることがまだありますから」

 

「わたしは…早く指揮官と一緒に行動したいです」

 

 思いは人それぞれだ、彼女たちは一応オセロットに敬意を払っているようだ。

 個性が強すぎる彼女たちには、オセロットの厳しさがちょうどよいのかもしれない。

 

「そういえば、さっきの戦術人形は?」

 

 ふと、先ほど見つけたM4のことを思い出したキッドは周囲を見回すが、そこに彼女の姿はなかった。

 戦闘の合間にこの場を逃れたのか…。

 

「なんだよ、仲間がいたってのに挨拶もなしに消えちまうなんて…愛想のない奴なんだな」

 

「違うよ、M4は優しい子なんだ。きっと、何か事情があるんだよ」

 

「ふうん、そうかね。そういえば鉄血の連中も彼女を探してたみたいだったな…何かありそうだ、一応ボスとミラー司令の耳に入れておこう。さて任務はおしまいだ、家に帰るとしよう」

 

 鉄血の偵察隊を見つけて撃破するという当初の任務とは違ったが、キッドはオセロットから頼まれた彼女たちの実力を確認するという個人的な任務は達成できた。

 この後キッドは報告書を作成し、オセロットに届けられることになる……余談だが、キッドは贔屓目につけすぎた報告書の内容をオセロットに疑われることになるのであった。




あんまり話が進みませんでしたね。


補足ですが、ドルフロのOPで登場してるスコーピオンとここでのスコーピオンはまた別な存在です。
なのでM4の任務は知りません。


そのうちカズが主役の話を書きたいなー


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踏みつけられた蠍

 キッドと初めて任務に出て以来、オセロットは何度か戦術人形たちをMSFの部隊に同行させて実戦を経験させていた。戦術人形としてこれまでに鉄血との紛争を幾度となく経験している彼女たちであるが、ここでは実戦での活躍を報告書としてまとめてもらい、個々の得意分野と弱点を見極めることにある。

 生身の人間と比べて彼女たち戦術人形は身体能力は高く、報告書にまとめられる戦闘報告はほとんど文句のつけようもない。

 実際、キッドなどが指示を出さなくとも的確な行動と連携を持って敵を撃破していくのだ。

 これは彼女たちが持つ独自の通信システムによる恩恵も大きい。

 最近ではマザーベースの開発班が、MSFの隊員が彼女たちの通信回線を拾うことのできる通信機を開発してくれたおかげで、戦術人形とMSF戦闘班との連携も上達しつつある。

 

 一つ問題があるとすれば、不測の事態に遭遇した際の彼女たちの精神の乱れだ。

 

 それはオセロットやスネークも以前から気掛かりであったことでもある。

 特にスコーピオンは感情的になると周囲が見えなくなる時があり、執拗に敵に対し銃撃する一種のトリガーハッピーに陥ったりする。

 9A91もいまだ不安定だ、戦場のストレスは彼女の苦々しい記憶を呼び起こすのか、帰還後に挙動不審な行動を起こしたり塞ぎこんだりしている。

 スネークと医療班のケアにより以前よりは頻度は減ってはいるものの、あまり無茶はさせることができない状態だった。

 

 

 

「ねえ、ワルサー。オセロットから話し聞いた?」

 

 更衣室で着替えをしながら、スコーピオンは思いだしたように尋ねるが、WA2000は何の話しか分からないようだ。

 

「なんかキッドと一緒に任務に行くはずだったんだけど、今日はエイハヴと一緒に組めってさ」

 

「エイハヴ? 珍しいわね…何かあったのかしら?」

 

「わかんない、とりあえず行ってみようよ」

 

 その日もまた、前哨基地でキッドの任務を手伝う予定であったのだが、オセロットから急な予定変更の知らせが入ったのだ。

 今回彼女たちが組むのは前哨基地の管理を任されているエイハヴだ。

 スネークやオセロット、キッドからも信頼される優秀な隊員であり、前哨基地の設営には彼の力も大きいと彼女たちは聞いている。

 

 二人はスプリングフィールドと9A91と合流し、ひとまずエイハヴのもとへと向かう。

 移動中、そういえば誰もエイハヴとまともに話したことがないということに気付く。

 皆噂は聞いていても人柄などは分かっていない、楽観的なスコーピオンはまだしも9A91は怖い人ではありませんようにと祈っているようだ。

 エイハヴは基地の格納庫にて、戦車長のドラグンスキーと一緒にいた。

 彼は戦術人形たちがやって来たのに気付くと、ドラグンスキーと別れ彼女たちのもとへやってくる。

 

「今日は君らに頼みたいことがある、まあ簡単な仕事だ」

 

「あの、キッドさんはどうなさったのです?」

 

 スプリングフィールドがそう聞くと、エイハヴは困ったように唸る。

 何かマズい事を聞いてしまったのかとスプリングフィールドは焦るが、そうではないようだ。

 

「キッドはちょっと病気にかかってしまってな。まあ、感染性の胃腸炎だ…君らにうつるか分からないがあまり近寄らない方が良い」

 

「それは、大変ですね…何か行けないものでも食べてしまったのでしょうか?」

 

「ああ、ボスと一緒に生ガキを食べたらしくてな。どうやらそれにあたったらしい」

 

「え? スネークはぴんぴんしてたよ?」

 

「それはまあ…ボスは特別だからな」

 

 改めてスネークの秘められたポテンシャルに感心するとともに、今頃ベッドで苦しんでいるであろうキッドに哀悼の意を彼女たちは込める。

 

 エイハヴが彼女たちに依頼する任務は二種類あった。

 

 一つは輸送部隊の護衛任務、もう一つは地形データの収集任務だ。

 輸送部隊の護衛については他のMSFのスタッフとエイハヴも同行し、鉄血あるいは武装勢力の攻撃から輸送部隊を守るというものだ。

 地形データの収集については、前哨基地防御のために周辺地形を調べ上げて今後の作戦に反映させることも兼ねている。

 地形データの収集についてはスプリングフィールドとWA2000が適任であったが、狙撃手二人ではバランスが悪いためスコーピオンとWA2000が取り組むことになる。

 

「よし、二人とも地形データの収集は頼んだぞ。慌てなくていいからしっかりな」

 

「了解、ほら行くわよスコーピオン」

 

 地味な作業にスコーピオンはいまいち乗り気でないようだが、仕事である以上仕方がない、嫌がるスコーピオンをずるずる引きずりながらWA2000は基地の車を借りて出発していった。

 

 

 

 

 

 エイハヴ、スプリングフィールド、9A91たちは一台の装甲兵員輸送車に乗車し、輸送トラックの列の先頭を走り周囲を警戒する。

 道中は警戒する襲撃者の攻撃はなく、平穏そのものだ。

 車内でスプリングフィールドと9A91は自己紹介のほか、雑談などをして過ごす。

 エイハヴは人柄もよく知的であるため、すぐに二人とも打ち解けることができた…さすが前哨基地を任されているだけあって、面倒見もよく二人の相談などにものっていた。

 

「―――それでこの前もスコーピオンとワルサーが食堂でケンカして、大変だったんですよ」

 

「案外仲がいいと思ったんだがな、組み合わせを間違えたか?」

 

「いえ、たまには二人で行動させるのも良いかもしれません。でも、上手くやってくれていたら良かったんですけどね」

 

 たまにケンカをしてはオセロットに説教をされるという二人にはスプリングフィールドも頭を悩ませている。

 スコーピオンはWA2000にちょっかいをかけたがり、彼女もながせばいいのにむきになって張り合うものだからいつもケンカになるのだ。

 この前は一部始終をオセロットに見られてしまったため、スコーピオンはその頭にキツイげんこつを貰うことになったのだが…。

 

「まあ、ケンカするほど仲がいいというし…」

 

「それは否定しませんが、さすがに節度というものをですね」

 

「変に堅苦しいよりずっといい。うちを見て見ろ、非番の時は自由気ままだ」

 

 確かに副指令のミラーよりスタッフまで、仕事をしていないときは自由奔放に生活しているのは見られるが…どこかグリフィンの戦術人形たちと似たような空気のおかげで、彼女たちはすっかりMSFに溶け込んでいるわけだが。

 

「おっと、目的地に到着したようだ」

 

 車両が停止し、エイハヴは会話を切りあげて外へと出る。

 

 スプリングフィールドも続いて車両から外を覗くと、そこにはMSFの輸送トラック以外にも別な軍隊のトラックも並んでいる。

 どうやらその軍隊はよその民間軍事会社(PMC)のようで、車体にはカマキリを模したエンブレムが描かれている。社名はマンティス社とそのままだ。

 

「物資を積みかえるのを手伝ってくれ」

 

「はい、エイハヴさん。ところで前哨基地まで運送をお願いはしなかったんですか?」

 

「なんでも協定があるとか何だとかで、ここまでしか出張ってこれないらしい。マンティス社は兵站をメインに行っているらしい、他にも"ウルフ社"、"レイヴン社"、"オクトパス社"とMSFはビジネスを行っている。どれも大手とは言えないが丁寧に仕事をしてくれる、ミラー司令の手腕には驚かされる」

 

 カズもいつも女性にちょっかいをかけて怒られたり面白い行動をしているばかりではない。

 MSFを運営するため、比較的取引のしやすい民間軍事会社とコンタクトをとり協力関係を築くまでに至る。

 協力関係と言ってもあくまでもビジネスの上での関係だ、MSFのいかなる組織・国家・勢力にも属しないという理念を阻害しない付き合いにとどめている。

 ミラー司令の仕事ぶりはエイハヴのような現場指揮を執り行う人間が良く知っていることだ。

 

「それにしても、9A91はよく働くな」

 

 MSFのスタッフに混じり、せっせと物資を運ぶ彼女の姿にエイハヴは感心する。

 見た目は女の子でも男の大人顔負けの力を持っているため、スタッフたちも助かっている。

 

「きっと、悩みを抱えないよう忙しくしているのかもしれません」

 

「まだ心は完治しないか、仕方がないよな…まだボスを指揮官と?」

 

「ええ、毎日一回はスネークさんに会いに行ってます。でもスネークさんも忙しいですから、いないときは…」

 

 スネークが不在の際は目立つような精神の乱れはないが、それでも寂しさを隠しきれないのかスプリングフィールドの部屋にやってくることが多い。

 スネークほどではないが、彼女の優しさも9A91の心のケアには必要な存在だ。

 

「君は面倒見がいいんだな」

 

「頼られるのは悪い気がしません」

 

「なるほど、だが君は何か悩みとかはないのか? 君も一人の人間だ、誰かの悩みを一身に受けるだけじゃなくたっていいんだぞ」

 

「エイハヴさん、私たちは戦術人形です。グリフィンでも私たちは大事に運用されていましたが、それでも戦争の道具の域を出ません…それをおかしいと思ったことはありません、それが私たちの宿命なのですから」

 

「その考えは捨てた方が良い。俺たちは誰かの道具なんかじゃない、戦場で生きる存在だが戦う理由は俺たち自身の意思で決めてきた。スプリングフィールド、君らはもうオレたちの家族なんだ…その言葉はみんなを悲しませることになる」

 

「…すみません、エイハヴさん」

 

「いいんだ、まあ生き方を急に変えるのは難しい事だ。なんでも話せと言うわけじゃないが、悩みはため込むと心に悪影響を及ぼす。誰でもいい、スコーピオンや9A91だっていいと思う。オレもキッドもそうしてきた、もちろんボスもだ」

 

「そうですね…ありがとうございます、エイハヴさん」

 

「元気な笑顔を見れて良かったよ」

 

「うふふ…エイハヴさんがみんなに頼られる理由が分かった気がします。もしスネークさんが不在の時は、エイハヴさんが代役を務められますね」

 

「よしてくれ、オレにボスの代わりがつとまるはずがない。ボスは一人でいい、そう、あの人だけでな…」

 

 そう言ってエイハヴも積荷の積み替え作業に混ざっていく。

 スタッフたちに的確に指示を出し、マンティス社の社員とも交渉し作業を効率よく進める。

 MSFのカリスマ的存在はスネーク、運営はカズヒラ・ミラーが欠かせない存在だろう。

 だが現場指揮に欠かせない人材は?

 

(エイハヴさん、あなたの代わりもいないと思いますよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーッ!! もう飽きたっ!」

 

 山の中で地形データの収集を行っていたスコーピオンは、その慣れない作業についに嫌気がさし喚きだす。

 作業を開始してから数時間、データ化されていない地形に向かっては周辺を調べて端末に記録する果てしない作業…確かに楽な作業だ、だがそれには忍耐力を伴う。

 こういった任務も文句も言わずにこなせるようになれば、スコーピオンはオセロットの訓練もトップの成績で終えるのだろうが、好き嫌いのはっきりしすぎているところが彼女の悪いところといえよう。

 

「文句言ったってしょうがないでしょ、それより仕事しなさい。そうすれば早く帰れるんだから」

 

「はいはい、優等生は言うことが違いますね~」

 

 その言い草にイラッと来たWA2000だが、今回は我慢する。

 確かに戦術人形としての花形は戦場で敵と戦うことにあるのかもしれないが、この仕事だって立派な任務だ。

 

「ほら、あとちょっとで終わりなんだから」

 

「はーい」

 

 スコーピオンの気の抜けた返事にWA2000まで脱力感を感じる。

 残っているのは山の麓の小さな町だけだ。

 そこは先日キッドと共に居座っていた鉄血の小隊を撃破した場所であった。

 

「えっと、一応掃討した場所だから大丈夫だとは思うけど警戒は怠らないで」

 

「はいよ」

 

 そこが最後の場所ということでやる気を取り戻したらしい、スコーピオンは先ほどのなまけた姿が嘘のように作業を進めていく。

 最初からそうしていればもっと早く終わっていたのにと、嘆くWA2000であるがここで余計なことを言ってスコーピオンの気が変わっても面倒なので何も言わない。

 

 町はたいした広さではないため地形データの収集はすぐに終わる。

 町の保安官事務所や銃砲店跡を写真におさめれば仕事は終了だ、二人は一旦その場で休憩を取ることとし広場の古ぼけたベンチに座り込む。

 

「いやーやっと終わったー…」

 

「なによ、ほとんどわたしにやらせたくせに。この事はオセロットにきちんと報告するからね」

 

「あ、それは勘弁願いたいかな、またげんこつくらいたくないし」

 

「もう一回やってもらえばいいのよ」

 

 ため息をこぼしながら、彼女は持ってきた水筒からコーヒーを二人分用意する。

 

 "仕事を終えた後のコーヒーは格別だ"と大層なことを言いながらコーヒーを飲むスコーピオンは無視し、スナックの袋を開く。

 なんだかんだ言いながらWA2000が持ってきたのはお菓子だったりジュースだったりと、まるでピクニックにでも行くかのような荷物だ。

 スナック菓子から炭酸飲料まで、全てマザーベースで作られていることには驚きだが…。

 

「このジュース美味しいね、しかもカロリーゼロだなんて女の子には嬉しいよね」

 

「MSFの開発班ってどうなってるのかしら? そのうち人形も作っちゃうんじゃない、これ食べる?」

 

「いただきまーす!」

 

 

 

「へぇ、いいもん持ってるじゃないか。オレの分はないのか?」

 

 

 

 咄嗟に二人は銃を手にし振り返る。

 そこには長い黒髪を膝辺りまで伸ばした鉄血の人形が笑みを浮かべたたずんでいた。

 

「処刑人!?」

 

「ようマヌケサソリ、久しぶりだな。今日はあの男と一緒じゃないのか?」

 

「なんであんたがここに!?」

 

 動揺する彼女の前で、処刑人はくつくつと笑う。

 

「おいおい、ここらはオレの管轄だぜ? いつまでもこそこそしてられると思うなよ…本当は違う奴を探してたんだが、ちょうどいいや」

 

 ゆっくりと歩み寄る処刑人。

 銃口を向けられているというのに彼女は全く動じず、むしろ精神的に追い詰められているのはスコーピオン達の方であった。

 

「死ねッ、鉄血め!」

 

 先に引き金を引いたのはWA2000だ。

 しかし、処刑人は身をひるがえして銃撃を躱し、地面を蹴るようにして一気に接近する。

 

「させるか!」

 

 処刑人が剣を振るう前にスコーピオンは弾丸のようにタックルし処刑人を抑える、が腕力の差は圧倒的に処刑人の方に分があるらしい、スコーピオンを強引に引き剥がし蹴り飛ばす。

 それでもなおスコーピオンは処刑人に組みつき、足をかけて彼女を自分ごと地面に倒れさせる。

 

「ワルサー、今のうちに逃げて!」

 

「何言ってんのよ!? あなたを見捨てて行けるわけがッ!」

 

「周りを見ろ!」

 

 ハッとして周囲を見れば、鉄血の人形たちが取り囲むように動いているのに気付く。

 

「あたしがここは何とかするから、ワルサーはみんなに…スネークに知らせて!」

 

「で、でも…!」

 

「頼むよ、早く…行け!」

 

 スコーピオンの悲痛な叫びに、WA2000は唇を噛み締め走りだす。

 

「絶対に助けに戻るから! 勝手に死ぬんじゃないわよ!」

 

 追いかける鉄血の人形に向けて数発発砲し、WA2000は森の中に姿を消した。

 その後を追いかけようとした人形へ向けてスコーピオンは射撃し足を止める。

 

「他人の心配してる場合かよテメェ!」

 

 組み伏せていた処刑人が立ち上がり、スコーピオンを振りほどく。

 スコーピオンはすぐさま身構えると、深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着ける…鉄血の人形たちが自身を取り囲んでいるのを気配で察していたが、目の前の処刑人から一瞬も目を離すことができない。

 ふてぶてしい笑みを浮かべたまま処刑人が凄まじい速さで剣を振り下ろす。

 剣はスコーピオンの額をかすめ、斬られた彼女の髪が宙を舞った。

 

「でやっ!」

 

 大振りの一撃を避け、スライディングと共に処刑人の足を絡めて転倒させる。

 すぐさま彼女の腹の上に跨り、腰に差したナイフを逆手に持って処刑人の顔面めがけ振り下ろす、だが…。

 

「なッ!?」

 

 信じられないことに処刑人はナイフの刃先に噛みついて受け止めて見せたのだ。

 動揺するスコーピオンの両腕を掴み、処刑人は立ち上がると、スコーピオンのがら空きの腹部を蹴りつけた。

 小柄なスコーピオンの身体は数メートル吹き飛び、家屋の壁に叩き付けられる。

 

「強くなったなサソリ、だが自分だけが強くなったと思うなよ」

 

「うぅッ…ち、畜生…!」

 

 腹部を蹴られ苦悶の表情を浮かべるスコーピオンに近付き、その首を掴み無理矢理引き立たせる。

 ギリギリと首を絞めあげられ、彼女は浮いた足をばたつかせる…勝ち誇ったような顔の処刑人を睨みつけ、もう一本の隠しナイフを手に取る。

 処刑人の首筋を掻き切ろうとしたが、ナイフの刃先は虚しく空を切る…。

 意識を失いかけるほどに首を絞めつけられナイフを握る手にも力が入らなくなると、処刑人は彼女の手に握られたナイフをつまみあげるようにとり上げる。

 そして首から手を離し、ナイフでスコーピオンの手のひらを貫き、壁に張りつけさせる…激痛に悲鳴をあげるスコーピオン、だが処刑人は先ほど奪ったもう一本のナイフで、もう一方の無事な手をも容赦なく突き刺した。

 

「ハハハ、いい姿だぜサソリ」

 

「う、うぅ……」

 

 両手をナイフで壁に縫い付けられ、身動きのできなくなったスコーピオンを処刑人はあざ笑う。

 他の鉄血の人形たちもスコーピオンを取り囲むと、ボスである処刑人と同調するように彼女を嘲笑した。

 

「怖いかサソリ、そうだ、怖いだろう? なあなんで泣いてるんだ? 死が怖いのか、痛みが怖いのか? どっちにしろ涙を流した時点でここがテメェの限界なのさ」

 

「ちくしょう……お前らなんか、殺してやる…地獄に落としてやる…!」

 

「分かってねえな、この世界が地獄だよ」

 

 ひとしきり笑ったあと、処刑人はスコーピオンの結んだ髪を引っ張り無理矢理顔をあげさせる。

 負けじと睨み返すスコーピオンだがその瞳には恐怖が映り、涙がとめどなくあふれ出てしまっている…。

 

「お前オレの仲間を散々スクラップにしてくれたな。同じようにバラバラにしてやったっていいんだぜ、ただじゃ殺さねえ…処刑の仕方にもいろいろあってな、死の間際まで苦痛を味わわせてやることもできる。想像出来るかサソリ? 延々と繰り返される苦痛の中でソイツは何を懇願するか分かるか?」

 

 残忍な笑みを浮かべながら、少しの猶予を与えるがスコーピオンは何も答えない。

 そんな彼女をさらに強く引っ張り上げ、処刑人は笑いながら言った。

 

「殺してくれってお願いしてくるのさ、精神が屈服した証だ。9A91は元気か? あいつの目の前であいつが慕っていた指揮官を嬲り殺してやった、死を懇願する指揮官の姿を目の前で見せつけられた9A91の表情がどんなだったか分かるか? はは、あいつの表情をアルケミストにも見せてやりたかったぞ」

 

「悪趣味な奴…! くたばれ…」

 

「でもまあ、弱い者いじめはオレの趣味じゃないんだ…お前は殺さないでおこう」

 

「何を…」

 

「なあ、あの男はお前を捜しにきっと来るだろう? スネークって名だったな、あいつはお前を助けに来るよな?」

 

 スコーピオンの髪を離し、処刑人はその辺の適当な木箱に座り彼女の目線に合わせた。

 

「あの日あいつにあった時から、頭から奴の事が離れない。あいつはなんなんだ? あいつは他の人間とは何かが違う…奇妙な感覚だ、オレはあいつに会いたがっている。代理人の任務も忘れちまいそうなほどあいつに夢中だ、オレはこの感情を確かめたい。あいつと殺し合いをすれば答えが見つかるはずだ、そうだろう?」

 

「あんたの気持ち悪い感情なんて知るか…スネークをあんたのエゴに巻き込むな!」

 

「うるせえ、お前に理解してもらおうなんて思っちゃいない。いいかお前は餌だ、(スネーク)を呼び寄せるためのな」

 

 周囲の人形たちに目配せをすると、鉄血の人形たちはスコーピオンの口を布で塞ぎ頭から黒い袋を被せる。

 それからナイフを引き抜き、両腕を拘束した。

 

「丁重に扱えよ、途中で死なれても使い物にならないからな」

 

「了解…ほら歩け」

 

 拘束された腕にロープをくくりつけられ、何も見えないまま彼女は引きずられていく。

 

(スネーク……みんな、ごめん…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ええ、ではそのように。そちら側の保護下にある戦術人形については、こちら側から接触ができるまで貴官らの指揮で動くことを認める』

 

「話しが早くて助かる。それで、グリフィン側としてはいつ頃話し合いができそうなんだ、ヘリアントス」

 

 前哨基地司令部。

 そこに取り付けられたモニターには一人の厳格そうなモノクルをつけた麗人が映っていた。

 彼女こそがグリフィン上級代行官ヘリアントスだ。

 対談しているのはMSF総司令官のスネーク、同じ部屋にはカズとオセロットの姿もある。

 

『我々とそちら側の境界に割って入るように鉄血の占領地がある。そこを突破することが大前提となる』

 

「鉄血の戦術人形については我々よりあんた方の方が多く知っているだろう。今のところ大規模な衝突はないが、小競り合いは頻発している、いずれグリフィンの協力を仰ぐこともあるかもしれない」

 

『ええ、まずはあなた方と会って話がしたい。クルーガーさんもそれを望むはず』

 

「ああ、その時はよろしく頼む」

 

 

「オセロットッッ!」

 

 

 突然司令部の扉が勢いよく開かれる。

 そこにいたのは息を切らしたWA2000の姿があった。

 任務完了の報告…とは程遠い彼女の様子に何かを感じ取ったらしくすぐにオセロットが駆け寄ると、彼女は泣きそうな表情で彼にしがみつく。

 

「オセロット…! スコーピオンが…!」

 

「スコーピオンがどうしたんだ!?」

 

「ごめんなさい、私…あの子を置いて…あぁ、どうしたら…!」

 

「落ち着くんだワルサー、深呼吸をしろ。気持ちを落ちつけろ」

 

 

 小さく何度も頷き、ゆっくりと深呼吸をする…それでも彼女の動揺は収まっていないようだが、彼女はすぐに話し始める。

 

「処刑人が現れて襲い掛かって来たの、私あいつを撃ったのにあいつは避けて…そしたらスコーピオンが…。スコーピオンは私に逃げろって、逃げて助けを呼べって……だから私…!」

 

「分かった、もう十分だ。よく頑張った…」

 

 泣き崩れる彼女の背をさすりながらオセロットはスネークに視線を向ける。

 

『処刑人といったか、そいつが我々とそちらの領域を分けている占領地のボスだ。製品番号SP524「Executioner」、鉄血のハイエンドモデルだ。手強いぞ』

 

「ああ、奴とは一度やり合ったことがある。強さは分かっているさ」

 

『ハイエンドモデルとやり合った? 生身の人間の貴官が? まあいい、我々も奴を倒さなければならない必要がある…グリフィンの部隊も貴官らと共闘することになるかもしれん』

 

「了解だ…カズ」

 

「あぁ」

 

 スネークの指示を受けるよりも前に、カズはスコーピオン救出のための計画を練り始めていた。

 MSFは家族を見捨てない、あの日チコとパスを救えなかった時から、次同じことがあれば必ず助け出すと心に誓っていた。

 

 

 

「スコーピオン、待っていろ。必ず助け出す」

 

 








次話は死刑台のメロディーを流しながらお待ちください


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処刑台への誘い 前編

 前哨基地より飛び立ったヘリは、どしゃ降りの雨の中を飛行する。

 雷が轟き、暴風雨が吹くその日の天気はまるでこの荒廃した世界に誘われた日を思い立たせる。

 この世界に来てから色々なことがあった、荒廃した街で一人ぼっちの少女を見つけてから波乱の幕開けだ…元々賑やかだったマザーベースにあの子たちが加わり、毎日がお祭り騒ぎのようだった。

 目を閉じればあの子たちの笑顔が浮かぶ、今日はどんな行動を起こすか、いたずら好きなあの子には困ったものだ、やり過ぎて叱られてなおそこには暖かな空気があった。

 あの子たちはもう、家族であり、日常に欠かせない存在だ。

 

 スネークはヘリの壁に張りつけられてある写真に目を向ける。

 

 壁にかけられたボードにはマザーベースの日常をおさめた写真がはり付けられている。

 MSFが旗揚げしたころから現在まで、古ぼけた写真も真新しい写真もある……スネークはその中の一枚をその手に取る。

 それは前に食糧調達大作戦後に行われたバーべーキューの様子を映した写真だ。

 焚火を囲み楽しい一時を写した写真、その中でスコーピオンはピースサインを向けて笑顔を向けてた。

 

 

『スネーク、グリフィンより送られてきたデータを転送する。スコーピオンをさらった処刑人が待ち構えているのは古い製鉄場だ、おそらく鉄血指揮下のもと現在も稼働しているとのことだ。スネーク、敵の全貌はいまだ把握できてはいない…正面からの戦闘は避け、隠密行動をしてくれ。あの子のためにも…』

 

 いつもは陽気なカズの声も、この時ばかりはどこか暗く落ち着かない。

 送られてきたデータには処刑人が待ち構える製鉄場の写真が写っている。

 以前は人間が稼働していたであろうその工場群は今や鉄血の手に落ちている、そこで生み出されている資源が人類を抹殺するために使われている。

 

「カズ、みんなの様子はどうだ?」

 

『今のところは大きな混乱はない、みんなあんたを信じている。ボス、みんなあの子が笑顔で帰ってくることを望んでいるんだ、オレたちは家族を見捨てない。そうだろう、ボス?』

 

「その通りだ。約束する、必ず連れ帰ってくるさ」

 

 誰もがスコーピオンのために行動を起こしたいと思っている。

 はやる気持ちを抑え、彼らは皆スネークが救出を成功させることを信じて待っているのだ。

 

『ボス、ちょっといいか?』

 

「オセロットか、ワルサーは落ち着いたか?」

 

『あぁ、今のところは…ボス、処刑人についての情報をいくつか教えておく。あんたは一度やり合って面識があるだろうが一応な。奴はいまグリフィンのとある戦術人形を捕まえる任務を受けていたらしい、グリフィン側も過去に接触があったらしい』

 

「手強い奴だったと記憶している。奴が油断していなかったらオレも危なかったかもしれない」

 

『処刑人はハイエンドモデルと言われる存在だ、そこらの鉄血の人形と比べるな。さっきの続きだが、奴はある目標を追っていた、その目標というのはグリフィン側に関係のある戦術人形だ、オレたちじゃない。それなのに目標を追わず、オレたちの仲間を狙った、計画的にな。ボス、あいつはあんたを狙ってる…あんたが来ることはむしろ奴の望むところだろう』

 

「厄介な奴に目をつけられたもんだ。スコーピオンが酷い目にあっていなければいいが」

 

『悠長に行動している猶予はない、早く救出して連れ帰ってくれ。オレの教育はまだ終わっていない、あいつにはまだまだ教え込まなければならないことがある』

 

 態度には出さないものの、オセロットも彼女のことが心配らしい。

 

 通信を終えて、写真を元の額に戻しスネークは葉巻に火をつけようとするが、雨の湿気のせいかうまく火がつかなかった。

 葉巻をしまい、スネークはヘリに同乗するエイハヴに声をかける。

 

「エイハヴ、まだ気負っているのか?」

 

「ボス、ええ…責任を感じていないと言えば嘘になります」

 

 エイハヴはあの日、彼女たちを二手に分けて任務に出していたことを後悔していた。

 簡単な任務だと侮り、スコーピオンを危険な目にあわせてしまった…今更悔やんでも仕方のない事だが、もしもスコーピオン達と同行していたのなら救えたかもしれない、そうエイハヴは自分を責める。

 

「起きてしまったことだ仕方がない。エイハヴ、今するべきことは自分を責めることじゃない、あの子のために何ができるか考えることだ。気をしっかりもてエイハヴ」

 

「はい…ボス、今度は必ず助け出しましょう」

 

「勿論だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目標の地点に到達する、天候は相変わらず。

 着陸したヘリのドアを開けるとうちつける大量の雨水があっという間にヘリ内部とスネークを濡らす、おまけに気温も低く、この雨の中では体力の低下にも気をつけなくてはならない。

 大雨で視界は悪いが遠くには工場の煙突が輪郭としておぼろげに見て取れる、これからそこに向かうのだ。

 

「ご武運を、ボス」

 

 任務成功を祈るエイハヴの言葉にサムズアップで応え、スネークは鉄血が巣食う工場地帯へと潜入するのであった。

 打ちつける雨水によって整備されていな荒れ地のほとんどが泥土と化しているが、スネークはその足場の悪い地形につまずくことなく一気に走破していく。

 工場地帯が一望できる場所まで一気に駆け抜けたスネークは、岩場に身をひそめ双眼鏡を取り出し、工場地帯を一望する。

 

 いくつかの施設は戦争の傷跡か崩壊していたが主要な工場はほとんど無傷で残されている、あるいは鉄血がここを占拠した際に修復を行ったのかもしれない。

 

『スネーク、そこは長年の環境汚染により有害なガスや汚染物質がある。ガスマスクは持っているな、それがあれば製鉄所の粉じんも防げるはずだ』

 

「そのために持たせたのか、戦術人形はこの環境には耐性があるのか?」

 

『人間とは身体の構造が違うからな、注意してくれボス』

 

 カズの忠告を聞き、スネークは早速マスクを装着する。

 呼吸を阻害せず清潔な空気をとり込むこのマスクはこの任務のために、開発班が極めて短時間で生み出したものだ。

 そのためいくつか改善点を残したままスネークの手に渡ったが、最低限必要とされる能力だけは備えている。

 

 消音機を取り付けたアサルトライフルを手に、スネークはゆっくりと工場地帯へと入り込んでいく。

 工場と工場を繋ぐ道路はとても広く見通しが良いが、この雨が視界を悪くしているために潜入にはとても有利な環境となっている。

 さらに潜入任務のために開発された都市型迷彩のスニーキングスーツを着用し、隠密性を高めている。

 

 建物の陰から道路を伺っていると、鉄血の戦術人形が数人巡回しているのが見えた。

 いずれもサブマシンガンを持った人形だ、彼女らは足早にその場を去っていきスネークの視界から消えていった…その後も何度か鉄血の巡回兵を見つけたが、特に見つかることもなく順調に工場地帯の奥地へと入って行く。

 

 だがスネークはそれに違和感を感じ、巡回兵の動きをよく観察する。

 

 処刑人はスネークがスコーピオンを助けに来ることを予想している、そのために餌としてスコーピオンを捕らえているのだ。

 来ると分かっているのならもっと警備の人数を増やすのが普通の考えだろう。

 

「オセロット、敵の巡回が異常なまでに少ない。これは…」

 

『ああ、間違いなく罠だろうな。ボス、聞いてくれ…ワルサーの話しによると処刑人はアンタを捜していたそうだ。スコーピオンを助けに来ると分かっているなら、ただ待っているだけでいい、そう思ってるのかもな』

 

「だが何故だ、オレを殺したいならもっと別な方法があるだろう」

 

『分からないかボス? 奴はアンタしか見ていない、他の誰かにくれてやりたくはないんだろう。処刑人はアンタとの対決を望んでいるかもしれない、頑ななまでにな』

 

 

 処刑人とスネークが対決したのはあの日の一度きり。

 たった十数分の対決だけだ、それだけで処刑人はそのAI(精神)に多大な影響を受けた…あの日から一日たりとも忘れることがなく、任務も力が入らない狂おしいほどの感情、処刑人は伝説の男に一目ぼれしてしまったのだ。

 処刑人の心情をオセロットはとても理解できる、かつての自分がそうだったのだから。

 おそらく処刑人はスコーピオンを殺すことはしないだろうとオセロットは考えたが、それは口に出さなかった…殺されないからと言って、のんびり救助に向かうわけにもいかない。

 

 スネークもまた、これから向かう先が、処刑人の待ち構える処刑場(・・・)だと分かっていても足を止めることは無い。

 スコーピオンのためにも、みんなのためにも。

 かつて救えなかった二人の命、それを繰り返さないためにもスネークはガスと粉塵に覆われた製鉄場へと向かうのだ。

 

 

 製鉄場の内部は、外とうって変わり温度が40度を超える暑い空間だった。

 今も稼働する製鉄場では、第一世代と言われている人形が盲目的に作業に従事している。

 スネークの傍を通りがかってもまるで気付かないかのように、決められた作業を延々と繰り返すだけの存在。

 

 工場内部には敵の姿はない。

 オセロットの言うとおり、処刑人はただスネークが来るのを待っているのだろう…作業に従事する人形たちの動きを躱しながらスネークは工場の奥へと進む。

 

 やがてスネークは巨大な溶鉱炉のあるエリアへとたどり着いた。

 ごうごうと燃える炎と溶かされた金属により、そこは灼熱の空間と化しており外で感じていた寒さなどあっという間に忘れてしまうほどであった。

 金属が焼ける独特の匂いと黒煙はマスク越しにもスネークの鼻腔を刺激する。

 マスクがなければものの数時間で肺は爛れ死に至るほどの汚染された空間だ。

 

 そんなおぞましい空間に、彼女は拘束されていた。

 

「スコーピオン…!」

 

 配管に手錠をかけられた彼女はスネークの声に反応せず、力なく壁にもたれかかっている。

 すぐさまスネークは駆け寄り、煤で汚れたスコーピオンの頬に手を当てた…。

 

「スコーピオン、オレだ、スネークだ」

 

 スコーピオンの口をふさいでいた布をとり、彼女の肩をそっと揺する。

 肩を揺らすと、彼女は小さな呻き声を漏らし、右目をゆっくりと開く。

 

「ス…ネーク…」

 

「待たせたな、スコーピオン」

 

 目を見開いた後、スコーピオンのそのキラキラとした青い瞳に涙が滲む。

 力なくのばした彼女の手をそっととりスネークは優しく抱きしめる、スネークの胸の中で少女は嗚咽を漏らす…震える少女の背をそっと撫でると、それまで我慢してきた感情が溢れ彼女は声をあげて泣いた。

 

 

 パチ、パチ、パチ……。

 

 

 溶鉱炉の動作音に混じり、この場に似つかわしくない拍手の音が聞こえてきた。

 

 

 上階の手すりにひじをかけ手を叩くのは、処刑人そのひとだ。

 その赤い瞳を輝かせスネークを熱いまなざしで見つめている…いつも他人に見せる獰猛な笑みはなりを潜め、まるで恋い焦がれた相手に会った時のような、穏やかな笑みを浮かべている。

 

「待っていたぞ、スネーク!」

 



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処刑台への誘い 後編

 溶鉱炉のエリアには、先ほどまで気配すらも感じられなかった鉄血の人形たちが一斉に現われ、あらゆる角度からスネークを取り囲む。

 無数の銃口がスネーク一人につきつけられたが、処刑人が片手をあげると人形たちは銃を下ろした。

 

「会いたかったぜスネーク」

 

 上階の手すりから飛び降り、処刑人はスネークの前に着地する。

 灼熱の空気の中で彼女は一切汗をかくこともなく、青白い肌にはこの煤だらけの空間においても一切の汚れがない…青白い頬を若干赤く染め、目を細めて目の前のスネークをまじまじと見つめる。

 

「あの日からお前と再び会う日を願い続けてきた。スネーク、こんな気持ちは初めてだ…戦闘前の高揚感とも、勝利を手にしたときの充足感とも違うこのおかしな感情を確かめたかった」

 

 己の胸に手を当てて困惑して見せる処刑人、普段の彼女を知るものからはとても想像もできない姿だろう。

 うつむきながら微笑むその姿はまるで乙女そのもの、愛らしい表情で想いを打ち明ける処刑人であったがスネークは心を一切惑わせずじっと銃を向けたままだった。

 

「周りくどい方法だったかな? 直接会いに行ければ良かったんだが、ちょっとな…誤解しないでくれよ、面倒なやり方が好きなわけじゃない、むしろオレは積極的に動く方が好きだ。なあスネーク、オレはどうしちまったんだ? 自分でも戸惑ってるんだ、教えてくれよスネーク。オレはお前に何を期待しているんだ?」

 

「オレはこの場にスコーピオンを助けに来ただけだ、お前が何を思おうとこれっぽっちも興味はない」

 

「どうしてそんなことを言う、今はオレだけを見てくれよ…お前が来てくれた時何をしようかずっと考えてた、ただ殺しあうのじゃつまらない。せっかくのめぐり合わせなんだ、お互い最高の能力を発揮して命のやり取りをしたい。そう、それに邪魔者も必要ない…オレとお前二人だけ、二人で激しく熱い戦いをするのさ」

 

 徐々に狂気を帯びていく処刑人は得物の巨大な剣の腹を指先で撫でつつ、なおも熱い視線をスネークにぶつける。

 穏やかな笑みは徐々に彼女本来の獰猛な笑みへと変わっていき、それと呼応するかのように溶鉱炉の炎がマグマのように吹きあがる。

 

「あの時の感動をもう一度、勝敗なんてどうだっていい、最高の戦闘といこうじゃないかスネーク!」

 

 ホルスターから拳銃を抜いた処刑人に、スネークはすかさず引き金を引いた。

 素早い動きで銃弾を躱した処刑人は、床に亀裂が入るほどのすさまじ踏み込みで一気にスネークの懐へと飛び込むと、襟首を掴み後方に投げ飛ばす。

 床を転がり衝撃を殺したスネークに彼女は笑みを浮かべ、混銑車につながれていた鎖をその剣で両断する。

 支えを無くした混銑車は大きくぐらついて横転し、中から溶かされたばかりの高温の溶鉄が二人とスコーピオンの間を遮断する。

 

「これでオレとお前の舞台が出来上がった、心配するなよスネーク、部下には手を出させない」

 

「お前の望みはオレだけといったな、ならスコーピオンを解放しろ」

 

「んー? あいつを逃がしたらお前も逃げるだろ、そうはいかないぜスネーク。お前はここでオレと戦うんだ、どこにも行かせないし誰にも渡しはしないぜ!」

 

 この期に及んで処刑人は無邪気な笑顔を浮かべる。

 スネークのスコーピオンを一刻も早く救いたいという気持ちなどまるっきり無視し、ただひたすらに己の欲望のみを優先させる、処刑人の無邪気な表情をスネークは忌々しく睨みつける。

 

「行くぜスネーク!」

 

 処刑人がその拳銃を構えきる前にスネークは横に跳びく、放たれた銃弾が配管に命中し白い蒸気が勢いよく吹きだした。

 蒸気で見えない中をスネークは牽制に銃撃し、配管群の中に身を隠す。

 だが処刑人はスネークの移動を見破り、その剣で豪快に蒸気パイプを一薙ぎに破壊した。

 高温の蒸気は生身のスネークにとってとても危険なものだ、重度の火傷を負う前にその場を離れるスネーク……そんなスネークを逃すまいと、高温の蒸気をものともせず処刑人は壊れた配管を乗り越え追撃を仕掛ける。

 

 処刑人の剣は決して切れ味を備えたものではないが、その質量と処刑人がもつ身体能力によって一撃必殺の威力を備える。

 

「ほらほら、やり返して来いよスネーク!」

 

 銃撃と斬撃のコンビネーションで追い詰める処刑人の攻撃をスネークは回避するのみで、一切の反撃の余裕がない。成り行きを見守るスコーピオンも危うい場面に何度も悲鳴をあげそうになった。

 だが、スネークの目に焦りはない。

 彼は極めて冷静であった。

 

「こんなもんじゃねえだろ、本気でこい!」

 

 大振りとなった処刑人の一撃を躱し、スネークは一気に詰め寄った。

 咄嗟に構えようとした拳銃のスライド部を掴み、アサルトライフルのストックで彼女の額を殴って怯ませる。

 のけぞった処刑人に足をかけ、背中から床に叩き付ける。

 

「へっ、やっぱやるじゃねえ…あ?」

 

 そこまで強く叩きつけなかったために処刑人はすぐさま起き上がり銃を構えたが、握られていた拳銃はスライド部から上が無くなっており、マガジンも引き抜かれていた。

 動揺する彼女の目の前で、スネークは彼女の拳銃から抜き取ったマガジンと瞬時に分解した拳銃の部品を溶鉱炉に放り投げる。

 

「やっぱ普通の人間じゃないなお前、そうだよ…それでこそお前だよな、面白くなってきたぜ!」

 

 もう使い物にならない拳銃を投げ捨て、処刑人は剣を肩に担ぎスネークめがけ走りだした。

 先ほどのスネークの攻撃を警戒してか大振りの一撃はやめ、素早い太刀筋で翻弄する…苦しい表情のスネークとは対照に、処刑人は心底この戦闘を楽しんでいるかのように笑っている。

 処刑人の素早い斬撃にやがてスネークは溶鉄の溜まりにまで追い詰められる。

 これ以上後退すれば溶鉄に身を焼き尽くされることを意味する。

 

「後がないぜスネーク、どうするよ?」

 

「勝利を前にして慢心か処刑人、早くかかってこい」

 

 スネークの銃撃を剣で防ぎ、強引に突撃しながら斬りあげる…咄嗟にアサルトライフルを盾に斬撃を防御したが、代わりにアサルトライフルは真っ二つに両断される。

 勝ち誇った表情の処刑人…しかし、銃を犠牲に接近してきたスネークに彼女は目を見開いて驚いた。

 剣を斬りあげがら空きとなった腹部に膝蹴りをいれ、前かがみになった処刑人の背後に回り込んだスネークは彼女の剣を持つ腕を掴んで転倒させ、その腕をへし折った。

 

 

「勝負ありだな、処刑人」

 

 

 もう片方の腕の関節を決め、処刑人を床に組み伏せスネークはそう彼女の耳に届くよう言った。

 

 腕を折られ苦悶の表情を浮かべる処刑人は拘束から逃れようともがくが、首筋にナイフを当てられてその動きをピタリと止める。

 

「勝負ありだ、生殺与奪の権利はオレにある。お前の負けだ」

 

「ま、まだ終わっちゃいねえ…!」

 

 力任せに拘束を振りほどこうとした処刑人の首をナイフで切り裂こうとしたその時だ…。

 

 突如工場内で爆発が起き、振動と衝撃でスネークはのけぞり処刑人を仕留めそこなう。

 咄嗟に拘束から逃れ、処刑人は血のような赤い液体を流す首の傷をおさえる。

 

「何があった!」

 

 スネークから目を離さずに、処刑人は苛立たしげに叫ぶ。

 立て続けに起こる爆発がスネークたちのいる製鉄場をも揺らす、考えられるのはこの工場が何者かの攻撃を受けていることだ。

 爆発の衝撃で吹き飛ばされていた人形がすぐさま処刑人のそばに駆け寄ると叫ぶようにして報告する。

 

 

「グリフィンの攻撃部隊です!」

 

「なんだと!? 警備はどうした、スネークが現れたら通常時に戻せといっただろうが!」

 

「いえ、その…命令伝達に問題があって、末端まで伝わらず…!」

 

 激高する処刑人は報告をする人形の首を掴み、怒りのままに溶鉱炉に叩き落す。

 スネークから受けたダメージが大きいのかそこで膝をつき、苦しそうな呼吸をしながらスネークを見据える。

 

「肝心なとこで邪魔が入りやがる、使えない人形どもめ……戦いはまだ終わっていない、来いよスネーク…!」

 

 へし折れた腕を力なくぶら下げ、折れていない手に剣を持つ。

 剣を引きずるようにして近付いていくる処刑人…スネークは構えていた拳銃を下ろし、彼女に背を向けた。

 

「お、おい…どこ行くんだ、まだ終わってないぞ…!」

 

 処刑人の言葉に何も返さず、スネークは崩れた鉄骨の上を渡りスコーピオンのもとへと歩み寄る。

 彼女を拘束する手錠を壊し、自力で歩けないほど衰弱したスコーピオンを背負うと、その場を立ち去っていく。

 

「待てよスネーク! オレがどんなにこの日を夢見てたと思ってるんだ、オレはお前と会うために…! オレを見てくれよスネーク、折角会えたのに…!」

 

 処刑人は悲痛な声でスネークを呼び留めようとしたが、彼は一切振り返ることなくその場を立ち去っていく…その後を今にも泣きそうな表情で追いかけるが、崩れる工場の残骸が二人の間を阻む。

 

「スネーク…! そうかよ、オレを見てくれないって言うのなら……お前を殺して永遠にオレのモノにしてやる、誰にも渡すもんか。アンタはオレのもんだ、絶対に逃がすもんか…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 製鉄場を出たスネーク、彼が目にしたのは工場地帯のあちこちで火の手があがっている光景だった。

 あちこちで銃声と爆発音が鳴り響いている…。

 

『スネーク、スコーピオンは無事か!?』

 

「ああ、勿論だカズ」

 

『よくやったスネーク! グリフィンの援護部隊が鉄血と戦闘している、敵の目をひきつけているうちに回収地点へ向かうんだ!』

 

「了解! スコーピオン、もう少しの辛抱だ!」

 

 回収地点までの道をスネークは一気に走り抜けていく。

 潜入した時よりも明らかに多い鉄血の人形たち、しかしそれらはグリフィンの救援部隊が相手をしていた。

 流れ弾に当たらないよう注意しながら、それと背負うスコーピオンになるべく負担をかけてしまわないようスネークは回収地点を目指し走った…回収地点に近付くと、スネークの姿を見たヘリがすぐそばに着陸する。

 

「ボス、ご無事で何よりです!」

 

「エイハヴ、スコーピオンを頼む!」

 

 ヘリ内のエイハヴにスコーピオンを託す。

 メディックとしての能力はエイハヴの方が上だ、負傷しているスコーピオンの治療のために準備をするエイハヴに後は任せるべきだろう。

 

「ボス、これよりグリフィン救援部隊の回収に向かいます」

 

 パイロットはヘリを上昇させ、工場地帯の方へと飛行していく。

 

 今回の救出作戦の前にグリフィンのヘリアントスと話しあい、利害の一致から救援部隊の力を借りる取り決めがあった。グリフィン側は敵地の奥へと潜入させて救援する代わりに、回収はこちらが引き受ける約束だったのだ。

 工場地帯のすぐそばの簡易飛行場には既にグリフィンの救援部隊が待機していた。

 着陸したヘリのドアを開け、スネークは彼女たちを迎え入れる。

 

「ありがとうございます、任務は成功ですか?」

 

「ああ、君らのおかげだ。君がヘリアントスの言っていたM4か?」

 

「はい、すみませんが基地までよろしくお願いします」

 

 丁寧にお辞儀するM4にスネークは一度頷き、スコーピオンが寝かされるベッドの傍に腰掛ける。

 

 いまだ鉄血の追撃が激しく、これ以上の長居は危険を伴う。

 全員を乗せ終えたヘリはすぐさま上昇し、工場を離れていく。

 工場で一際大きな爆発が起こったのはそのすぐ後の事であった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――全員、集めろ。他のエリアの管轄だろうが知ったこっちゃねえ、集められるだけ集めろ。装甲ユニットも全部だ、いいか全面戦争だ」

 

「了解、処刑人……それと、代理人より通信が入っております」

 

 その報告に、処刑人は小さく舌打ちし通信用のモニターを起動させる。

 モニターに映し出された代理人は、その冷たい目で処刑人を見つめる…その眼には失望の色が見て取れる。

 

『あなた何をやっていますの?』

 

 失望感は彼女の声にも表れていた。

 一言で彼女がこれから言う内容を理解した処刑人は眉間にしわを寄せ、苛立ちを隠しようともしなかった。

 

『どこぞの人形を捕まえて時間を浪費、大事な工場を破壊され、M4は取り逃がす……今からでも名誉を挽回しなさい、M4を捕まえなさい』

 

「うるせぇ、M4もあんたの命令もどうでもいい」

 

『なんですって…』

 

「どうでもいいって言ったんだよ、オレはオレ自身のために戦う。シャットダウンしようとしたって無駄だぜ、もうオレは、あんたらの管理下に無いみたいだからな」

 

 

『……後悔しますわよ?』

 

 

「自分の気持ちを偽る方が後悔するだろ」

 

 

 

 



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迫りくる脅威

 MSF諜報班の分隊は山岳地から見下ろす先の光景に言葉を失っていた。

 山から見下ろすことのできる鉄血支配下の基地には、数えきれないほどの鉄血兵たちが集結している。

 いまだ増え続ける鉄血兵はもはや大隊規模をゆうに超え、数千もの巨大な軍団を形成しつつある…機械型から人形型、さらに多くの火砲までも集め大規模な戦闘計画を立てていることが伺える。

 部隊が集まった傍から鉄血はMSFの前哨基地の方角めがけ進軍する。

 鉄血の殺戮部隊が、一匹の長い黒蛇のように進んでいく。

 

 

 

 

 

「諜報班からの報告だ、敵はこの基地の数十キロ先の山岳地帯から進軍してきている。規模はおおよその目測で二千、MSFの全戦闘員を合わせた数の数倍の規模だ。砲撃部隊、装甲部隊もおまけでついてきている…ボス、えらい奴に目をつけられたな」

 

 呆れたように言うオセロットだが、事態はとても緊迫している。

 先日処刑人の拠点からスコーピオンを救出できたのも束の間、鉄血の動向を探っていた諜報班からは前哨基地を目指し進撃する鉄血の部隊を発見したとの報告だった。

 真正面からぶつかれば数に押しつぶされるほどの圧倒的な差だった。

 

 率いるはスネークに辛酸を舐めさせられた処刑人。

 

 諜報班のこの報告はグリフィン側にも提供したが、グリフィンの上級代行官ヘリアントスは処刑人が集めた大規模な部隊に驚きを隠せないでいた。

 処刑人は鉄血内のハイエンドモデルの中では、決して序列の高い位置にいるわけではない。

 本来ならば任される部隊の規模はもっと小規模のはずで、これだけの部隊を集めて運用できる権限がないはずなのだ。

 より上位のハイエンドモデルより権限を譲渡されたのではと想像したヘリアントスだが、それもあり得ないと否定する。

 鉄血が優先的に狙うのはグリフィンだ、MSFの存在も鉄血にとっては脅威かもしれないがこれだけの規模で攻撃を仕掛けるのは戦略的にほとんど無意味と言ってもいい。

 

 処刑人の狙いを読めずにいるヘリアントスだが、MSFのメンバーは誰もが口に出さずとも、スネークとの対決を望んでいることを知っていた。

 

 

「奴らの砲撃部隊は先遣部隊の後方で砲撃陣地を設営しつつある、前哨基地を射程に収める位置にだ。それからこれを見てくれ、諜報班が撮った写真だ」

 

 オセロットは諜報班が撮った写真を何枚かスネークに渡す。

 

 それまでスネークが戦ってきた鉄血の人形の他、装甲人形と言われる鉄血の兵器が写されている。

 べつな写真にはマンティコアという名の大型兵器がおさめられている、他の写真にも目を通すスネークは一枚の写真に注目する。

 

「連中、工場で生産された戦術人形を片っ端から出撃させてるらしい。生体パーツをつけずに生産を短縮させて数をそろえている」

 

 写真に写る戦術人形は剥き出しの骨格にコードが取り付けられた骸骨のような姿であった。

 処刑人が短時間であれだけの規模の部隊を集めたのには、こういった理由もあるのだろう…生体パーツも無駄な部品ではないが、多少のスペックダウンを織り込み済みでかき集めたのかもしれない。

 

「ボス、処刑人はどうあってもお前を倒したいようだ。アンタには二つの選択肢がある、受けて立つか退却するかだ」

 

「処刑人との戦闘を受ければオレたちは大きな損害を出すだろう、だがここで退却しようにもオレたちはこの前哨基地に多くの兵器・人材・資源を運んできた。すべてをマザーベースに持ち帰る猶予はない」

 

「その通りだボス。処刑人から逃げることは、MSFがこの世界で築き上げたものすべてを失うことと同じだ。これだけ荒廃した世界でMSFは順調に拡大していったが、一度勢いが止まれば後は沈むだけだ」

 

 スネークがこの世界に来てから今まで、色々なことがあったがMSFと共に順調に活動してきたが、今回の処刑人との戦いはどう転んでもターニングポイントとなる。

 戦わず退却を選べばMSFは衰退し、勝っても損害によっては再起不能なほどの事態となる。

 

「どうするんだボス、アンタがどの選択肢を選ぼうとも、MSFのメンバーはアンタに従うだろう、どんな結末になろうともな」

 

 オセロットの言うように、どっちの選択肢を選んでも過酷な結末が待っているのかもしれない。

 彼の問いかけにスネークは窓の外を眺めながら頭を悩ませる、そんなスネークの姿をオセロットは静かに見つめていた。

 

 窓の外ではMSFのスタッフたちがあわただしく動き回っている。

 マザーベースから駆けつけたカズの指揮のもとあらゆる準備をしているようだが、迎え撃つか退却するかでその行動も大きく変わってくる。

 スネークが彼らのためにするべきことは一刻も早く決断をすることだった。

 

「オセロット、オレは戦場の中で生きる人間だ。あいつらはそんなオレを慕って、今日ここまでついて来てくれた。オレたちが目指すところは天国の外側(アウターヘヴン)だ、どこへ逃げようとも安息の場所などない。オレたちは戦士だ、戦わずに滅びるつもりはない。どんな敵が相手になろうとも受けて立つ」

 

「…その言葉が聞きたかった、BIGBOSS」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるオセロットは、まるでスネークが最初からその道を選ぶことを知っているようであった。

 

「処刑人はアンタに夢中らしいが、奴はアンタを理解していない。奴がアンタを知っているのはその表面だけだ、何も理解しちゃいない。あの思春期の小娘に教えてやれ、BIGBOSSのなんたるかを、その伝説の重みをな。ボス、オレはここであんたと心中するつもりはない、やるからには勝つぞ……VIC BOSS(勝利のボス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!? 迎えのヘリは無し!? 嘘だろ!?」

 

「嘘じゃありません。ヘリアンさんから、鉄血の対空砲火が激しく迎えのヘリが出せないとの連絡が入りました。ここでMSFと共闘するしかありません」

 

「マジかよ…」

 

 基地からの事実上の撤退不可の報告に、グリフィン救援部隊の一人AK-47は頭を抱えてその場にしゃがみこむ。

 

「そう? 鉄血の大部隊が来るんですよね、いいじゃない…大勢殺せるんだから」

 

 怪しい笑みを浮かべるイングラムはとても好戦的だ。

 AK-47もいつも弱気なわけではないが、報告で聞いた鉄血の大部隊の事を聞いてからは気持ちが沈んでしまっている。

 そんな二人を困ったように見つめながらも、M4は周囲で忙しく動くMSFのスタッフたちが決して諦めていないことに気付いていた。

 

 

「みんな逞しいよね、こんな状況なのに絶望してないんだから」

 

「スコーピオン、怪我はもう大丈夫なの?」

 

 頭と両手に包帯を巻いた姿のスコーピオンは両手をひらひらさせて元気な姿をアピールする。

 

「うん平気平気、すぐにでも戦えるよ。M4たちには迷惑かけちゃったね、ごめんね。大事な任務があったんだよね?」

 

「大丈夫よ、ただ小隊のみんなと今ははぐれちゃってるから心細いけど…スコーピオンがちょっと羨ましい、みんなあなたを心配して助けに来てくれたんだもの」

 

「うん、みんなには頭があがらないな…」

 

 スコーピオンは、こんな事態になってしまったことに責任を感じているのか少し不安な表情で彼らを見つめた。

 

「コラ! そんな顔してると可愛い顔が台無しだぞ!」

 

「わわ! キッド!?」

 

 思い悩むスコーピオンを背後から忍び寄り、キッドは小柄なスコーピオンを持ち上げて肩車する。

 慌てふためくスコーピオンだがキッドにがっしりと抑え込まれてしまい降りられない。

 

「約束しただろ落ち込むな、気持ち切り替えて行こうぜ。さもないといつまでもこうしてるぞ?」

 

「キッド、そこらにしておけ」

 

「エイハヴ、せっかくスコーピオンの太ももを堪能してたのにそりゃないぜ!」

 

「この変態ッ!」

 

「いてッ!」

 

 キッドの脳天に肘鉄をかまし強引にスコーピオンは脱出した。

 荒療治だがとりあえずスコーピオンの気持ちは持ち直したようだ。

 

「エイハヴ、キッドもその格好は…?」

 

 二人は戦闘服に身を包み完全武装した姿であった。

 

「オレとエイハヴは別動隊を率いて奴らの砲兵陣地を潰しに行くんだ。ちょっとのお別れだな」

 

「そっか…気を付けてね」

 

「もちろんさ、代わりにボスとみんなを頼んだぜ。あまり変なこと言うと死んじまいそうだからここらで止しとくよ。行こうぜエイハヴ、敵さんは待ってちゃくれない」

 

「ああ、ボスを頼んだぞスコーピオン」

 

 エイハヴ、そしてキッドの部隊はそれから間もなく鉄血の砲兵陣地破壊のために出撃する。

 敵陣を突破し後方の砲兵陣地を潰すとても困難な任務だ、この困難な任務を遂行させるのにエイハヴとキッドほど相応しい人物はいない。

 精鋭部隊の出撃を他のスタッフと一緒に見送ったスコーピオンと戦術人形たちも、それぞれ準備を始める。

 

 

 決戦の時は近い―――。



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灼熱の戦場

 奴らの攻撃は夜明けと共に、耳をつんざく様な砲撃音と共に始まった。

 山の向こうに設営された鉄血の砲撃陣地から放たれる砲弾の数は凄まじく、前哨基地及びその周辺に容赦なく砲弾の雨を降らせる。

 砲弾の炸裂で基地を取り囲むフェンスや見張り台は木端微塵に吹き飛ばされ、整備された滑走路を破壊し砂塵を巻き上げる。

 この凄まじい砲撃に対しMSFの砲撃部隊も応戦するが、鉄血が用意した火砲に比べ彼らが持つそれはあまりにもちっぽけなもの。

 果たして効果があるのかはその場では分からなかったが、諜報班が手に入れた情報に基づき砲兵隊は鉄血砲撃陣地に向けて反撃をする。

 

 まるで第一次世界大戦の頃に戻ったかのように、MSFの戦闘員たちは深く掘られた塹壕の中でこの砲撃をやり過ごすしかなかった。

 この世界に来て一生懸命築き上げた前哨基地、その基地が破壊されていく様を彼らは苦々しく見つめる……。

 いつ止むのか分からないほどの執拗な砲撃は、兵士たちを苦しめていく。

 

 ふと、砲撃音が鳴りやんだと思うと、各戦闘員の無線機に前哨基地司令部で指揮をとるカズの通信が入る。

 

 鉄血の歩兵部隊がついに動き始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 前哨基地より数キロ地点の森林、そこでMSFは鉄血の部隊を迎え撃つ。

 土嚢や丸太を積みあげて造られた簡易な機関銃陣地を数箇所設け、敵の装甲ユニットに対峙するために地雷を埋設し戦車も配置した。

 戦車隊を率いるは元ソ連軍機甲部隊のドラグンスキー、独ソ戦を経験したこともある歴戦の戦士だ。

 

 砲撃が止んで鉄血の歩兵部隊が動きだしたのだろう、森を進む奴らの足音が彼らのもとにまで聞こえてくる。

 

 遮蔽物に身を隠しながら、スコーピオンとスプリングフィールドは固唾を飲んで敵が姿を現すのを待ち構える。

 

 木々を押し倒しながら突き進む鉄血、奴らが森の奥から姿を見せたのは四脚の脚で大地を踏みしめ木々をなぎ倒しながら進む巨大な兵器。

 

「マンティコアだ!」

 

 スコーピオンが思わず叫ぶ。

 人間を押しつぶしてしまうほどの巨大な兵器が木々をへし折り大地を踏み鳴らす姿は兵士たちに少なからず恐怖心を与えたが、MSFはこれまでにもマンティコア以上の恐ろしい兵器に対峙したことがあり、動揺を誘うには物足りない。

 だが問題なのは、そのマンティコアが次から次へと森の奥から姿を現してきたことだ。

 さらに最悪なのはマンティコアの隙間を埋めるように装甲人形が盾を構え進んできていることだ。

 

「まるでバルバロッサを見ているようだ」

 

 戦車長のドラグンスキーは引き攣った笑みを浮かべつつそう呟いた。

 かつてのドイツがそうしたように、マンティコアを筆頭に装甲ユニットがこの防御陣地を食い破り後方に続く鉄血兵が浸透してくるのだろう。

 

「かかってきやがれ鉄血共め、、大戦を生き残ったロシア人の恐ろしさを見せてやる!」

 

 砲口を迫るマンティコアに向け、砲弾を装填する。

 通信を通して他の戦車にも指示をだし照準を定めさせる、後は彼の指示を待つだけだ。

 

「撃てッ!」

 

 ドラグンスキーの声と共に、偽装網で迷彩されていたT-72戦車の125 mm滑腔砲が一斉に火を吹いた。

 砲弾は最前列を進むマンティコアの中心部に命中し、その巨体を真っ二つに引き裂いて吹き飛ばす。

 それと同時に機関銃陣地の迎撃部隊も呼応し、装填された徹甲弾の雨を装甲ユニットめがけばら撒く。

 対装甲ユニットのため用意された徹甲弾は、奴らの強固な装甲を撃ち抜いて粉砕し、撃ち抜けない装甲ユニットはより大口径のM2重機関銃の射撃により細切れにされていく。

 

「各自砲撃開始!」

 

 反撃を開始した鉄血を各個撃破するよう指示をだすドラグンスキー。

 マンティコアの分厚い装甲は徹甲弾でも撃ち抜けない場合もあるどころか、その巨躯に見合わない機動力を見せるマンティコアは度々戦車の砲撃を回避する。

 マンティコアの強力な射撃がドラグンスキーの戦車に命中したが、斜めより当たったその攻撃を彼のT-72は見事弾く。

 

「ソ連戦車を舐めるんじゃねえ、祖国を勝利に導いたT-34戦車の末裔だ! 貧弱な攻撃が通用するもんか!」

 

 仕返しに撃ち返した砲撃は、マンティコアの素早い回避行動で躱されたが、その後方を進んでいた鉄血兵の部隊を丸ごと吹き飛ばす。

 思わぬ戦果ににやけるドラグンスキーだが悠長にはしていられない。

 側面から新手のマンティコアが出現し、戦車の一台が側面に手痛い被弾を受けた。

 車体と砲塔の向きを変える戦車だがマンティコアの機動力はそれを遥かに上回る、マンティコアの巨大な砲塔が狙いを定め撃破されると思った時だった。

 マンティコアの側面を放たれた弾頭が直撃、爆発を起こしたマンティコアはその場に崩れ落ちて活動を停止する。

 

「ドラグンスキー、両側面から装甲ユニットが接近している! 注意するんだ!」

 

「ボス! 了解だ、各員両側面に注意しろ! 回り込まれるなよ!」

 

 対戦車兵器RPG-7を手に、スネークはまたもマンティコアを撃破して見せた。

 徹甲弾よりも在庫のあるRPG-7の弾頭を惜しみなく装填し、鉄血の装甲ユニットを迎え撃つ、スネークの鬼気迫る戦いぶりに敵は狼狽え味方は士気が上がる。

 

「ボスに続け、敵を倒すんだ!」

 

 スネークの勇姿に戦闘員たちは鼓舞され、圧倒的兵力差にも動じず引き金を引き続ける。

 戦車の砲撃は躱せても、個人携行用の対戦車兵器は機動性のあるマンティコアでも回避するのは容易ではなく、死角から弱点を狙うMSF戦闘員の手によって次々に破壊されていく。

 そのあまりの損害に動じたのか、装甲ユニットは徐々に後退していくかに見えた。

 

 次の瞬間、機関銃陣地の一つに鉄血側より放たれた砲弾が炸裂する。

 陣地に置かれていた弾薬に引火し大きな爆発を起こし、その機関銃陣地は跡形もなく吹き飛ぶと、立て続けに敵側からの砲撃が部隊の頭上にぶり注ぐ。

 たまらず戦車は後退しスネークたちも陣地を離れる。

 

 だが先ほど砲弾がさく裂した機関銃陣地に取り残された兵士を見つけたスプリングフィールドは、降り注ぐ砲弾と銃撃の中を颯爽と駆け抜けて助けに向かう。

 戦闘員の両足は倒れた木の下敷きになっており、スプリングフィールドはその木をなんとかどけることができたが、負傷により彼は歩くことができなかった。

 

「オレに構うな、退却しろ!」

 

「見捨てられません! 一緒に行きましょう!」

 

 服の裾を破り足の傷に巻いて止血し、彼に肩を貸す。

 

「スプリングフィールドを援護しろ!」

 

 無防備なスプリングフィールドのためにスネークたちは敵に向けて援護射撃を行うが、再び勢いを取り戻した装甲ユニットが銃撃をはじき、その後方から歩兵部隊が強襲を仕掛けてきた。

 鉄血の狙撃兵が密かに死角に回り込み、その照準をスプリングフィールドに向け、引き金を引いた…。

 

「あッ…!?」

 

 銃弾は彼女の足を撃ち抜き、スプリングフィールドが兵士共々その場に倒れ込む。

 

「オレのためにお前まで死ぬ必要はない、行くんだ…!」

 

「欠けていい命なんて、ありません…生きるのです!」

 

「バカ野郎…!」

 

 撃たれた足に喝を入れ、再び立ち上がるスプリングフィールド。

 再び狙いを定めていた狙撃兵を仕留め、スネークは遮蔽物を乗り越えて二人のもとへ駆け寄ると、彼女は負傷した兵士をスネークに預ける。

 託された負傷兵を直ぐに味方のもとへ渡し、彼女も助けようと振り返った時、先ほどまでそこに立っていた彼女の姿がない。

 

 スネークは咄嗟に彼女がいた場所に走る。

 

 そこでスプリングフィールドは腹部から血を流し倒れ込んでいた…。

 

「スプリングフィールド、しっかりしろ!」

 

「へ、平気です…私は人形ですから、この程度では…」

 

 気丈な言葉とは裏腹に、声に活力がなく痛みに表情を歪めるスプリングフィールド。

 負傷した彼女を抱きかかえスネークは走りだす…砲弾で抉られた穴の中に滑り込むと、すぐに味方がスモークグレネードを投擲し敵の視界を断つ。

 それでも闇雲に撃ってくる鉄血の銃撃は凄まじく、うかつに身を動かすことができない。

 

「スネーク!早くこっちへ!」

 

 遮蔽物から身を乗り出して手を伸ばすスコーピオン、彼女は今にも二人のもとへ駆け寄ろうとするがスネークの制止の指示によってなんとかその場に踏みとどまっている。

 意を決し、スネークはスプリングフィールドを抱きかかえ走る。

 

 二十メートル…仲間やスコーピオンが必死で呼びかけている。

 

 あと十メートル、もう少しだ、頑張れ…弱々しい呼吸のスプリングフィールドにスネークは呼びかけた…。

 

 もう少しだ、スコーピオンがスネークにその手を精いっぱい手を伸ばした時……二人の間に砲弾がさく裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵さんうようよ居やがる、好き放題撃ちまくりやがって」

 

 山中に設けられた鉄血の砲撃陣地にまで潜入したキッドとエイハヴの部隊は、攻撃の機会を伺っていた。

 強力な火砲が何十台も設置され、今なお仲間たちの頭上に砲弾の雨を降らせていると思うと、今すぐにでも攻撃を仕掛けてやりたいという気持ちに駆られるが、エイハヴとキッドは冷静に様子を伺っていた。

 

「敵はこちらの倍はいる、強引に撃破出来なくもないところだが…どうするエイハヴ?」

 

「オレが反対側に回り込んで陽動する、お前たちはその隙をついて敵を殲滅するんだ」

 

「了解だ、エイハヴ…死ぬなよ」

 

 親指をあげて応えたエイハヴは一人、砲撃陣地の反対方向へと回り込む。

 双眼鏡でエイハヴの動向を確認しつつ、物陰から敵の動きをエイハヴに伝えてサポートする…エイハヴは敵の目を避けつつ、砲弾の入った箱に爆薬をセットしていき、いくつかの火砲にも同じように爆薬を設置した。

 相変わらず見事な隠密行動だ、さすがボスが一目置く男だと改めてキッドは思う。

 

 位置についたエイハヴはキッドを見て頷くと、仕掛けた爆薬を起爆させた…。

 

 仕掛けられた爆薬は一斉に炸裂し、積まれた砲弾にも誘発して大爆発を起こす。

 爆発は連鎖していくつかの火砲を木端微塵に吹き飛ばし、多くの鉄血兵が爆発に巻き込まれた。

 

「行くぞ諸君、奴らをぶちのめす!」

 

「ボスのために、国境なき軍隊(MSF)のために、家族のために! 勝つぞ(ベンセレーモス)!!」

 

 爆発を合図に一斉に攻撃を仕掛けるキッドたち。

 爆発の中を逃げまどう鉄血兵を一網打尽にしつつ、爆発に巻き込まれなかった火砲に爆弾を放り投げ破壊していく。

 森の奥から敵の増援が姿を現すが、勢いに乗ったエイハヴたちは止められない。

 

 最後の火砲を破壊した時、部隊は煙幕をはりすぐにその場を退却する。

 作戦は成功、鉄血の砲撃部隊はMSFの精鋭たちの手によって壊滅した…砲撃陣地を潰し次第彼らは迎撃部隊と合流する計画だった。

 

 

「やったなエイハヴ、ボスへのいい援護になったろうさ!」

 

「ああ、そうだな…」

 

「どうした、なにか不安でもあるのか?」

 

「いや…何か嫌な予感がする、すぐに部隊に合流するぞ!」

 

 

 



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鋼鉄の守護神

「ぅ……んん…」

 

 周囲を飛び交う騒がしい声にスプリングフィールドは目を覚ます。

 起き上がろうとした彼女であったが、ひどい頭痛と腹部の痛みで思うように動くことができなかった。

 だんだんと意識がはっきりしてきた彼女は周囲を見回し、負傷兵を集めた野戦病院の中に横たえられていることに気付く。

 腹部と足の傷は包帯を巻かれて処置をされており、ゆっくりと身体を動かしてみる…痛みが残っているが人形として我慢できないほどではない、そう思い彼女はゆっくりと起き上がる。

 

「まだ起き上がるんじゃない」

 

 後ろからかけられた聞き覚えのある声に、彼女は咄嗟に振り返る。

 声をかけてきたのは彼女の想像通りスネークだった……しかしその姿を見たスプリングフィールドは言葉を失った。

 元はオリーブ色だった戦闘服は血でどす黒く染まり、処置された白い包帯も真っ赤に染まっている。

 血で汚れていない場所などないくらい、他人と己の血が混ざりあったスネークの身体…そしてあの砲撃で負傷したのであろう、左腕は上手く力が入らないのか動きがぎこちない。

 

 スネークのあまりの痛々しい姿に彼女は口元を覆い目を伏せた、そんな彼女の前にしゃがみこみ、スネークはそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「ここは前哨基地の後方だ、今のところは安全だ…だが、いつここも戦闘に巻き込まれるか分からん。マザーベースから負傷兵を回収するヘリが来る、君もそれに…」

「まだ戦えます! これくらいの傷はどうってことありません…!」

 

 彼女はベッドの上から起き上がり、スネークの前に立ってみせる。

 痛みはまだある、傷も決して浅くはないがそれは人間から見た場合だ、戦術人形の自分はまだ動けると彼女は主張した。

 だが、スネークは首を横に振ると、そっとベッドの脇に立てかけていた彼女のライフルを手に取る。

 銃身がひしゃげ、根元から銃床がへし折れている己のライフルを見て彼女は絶句する。

 

「この銃が壊れた時、君が気を失っていたのは幸いだった…スプリングフィールド、君はよく頑張った。後はオレたちに任せろ」

 

 差し出されたライフルを、震える手で受け取ったスプリングフィールドは、それを抱きしめる。

 戦術人形にとって銃はもう一つの自分と言ってもいい特別な存在、砲撃で銃が破壊された時気を失っていたために、銃が受けた破壊の影響が軽微だった。

 その場にへたり込む彼女に背を向け、立ち去ろうとしたがスネークの手を彼女は握る。

 

「ご武運を、スネークさん…」

 

 再び戦場に向かうスネークに、スプリングフィールドは頭に浮かぶ謝罪の言葉は口にしない。

 それを言えばスネークに甘えていることになる、自分はここまでが限界…受け入れざるを得ない事実をしっかりと受け止め、彼女はスネークの姿を見送る。

 そして彼の無事を静かに祈るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハハハ、グリフィンのマヌケ人形が退きやがれ!」

 

 基地の傍にまで迫る鉄血の大部隊。

 すでに部隊の一部は基地の中にまで侵入し、激しい戦いを繰り広げている。

 

 この鉄血の大部隊を率いる処刑人自らが先陣を切り、応戦するグリフィン救援部隊に容赦なく襲い掛かる。

 銃弾が飛び交う戦場の中で、心底楽しそうに笑う処刑人は素早い動きで戦術人形たちを翻弄し、彼女たちのダミー人形を次々に破壊していく。

 だが処刑人一人に構っていれば他の鉄血兵が迂回し包囲しようと回り込む、それらにも注意しなければならない状況に彼女たちは追い込まれていた。

 

 救援部隊はこうなるであろうことは予想していたが、ここまで大規模な部隊と真正面からぶつかり合うことは想像以上であるしこれまでの経験にもない。

 これだけの戦力がぶつかり合うこと自体、これまでのグリフィンと鉄血の紛争の中で起きることがなかったのだ。

 第三次大戦の再来だ、誰かが言ったその言葉を彼女たちは否定しなかった…。

 

 

「なんだよアイツ、化け物かよ…!」

 

 

 遮蔽物もない場所で、銃撃を躱しながら撃ち返してくる処刑人にAK-47はおもわずそう叫ぶ。

 

 MSFの戦車部隊のおかげで装甲ユニットは基地の外で食い止められているが、奴らまで基地に雪崩れ込んで来たらひとたまりもない。

 先ほどヘリアントスから別な救援部隊を派遣したとの通信が入ったが、あちこちで起こっている戦闘のどこに駆けつけたのか分からない。

 彼女たちの右側ではMSFの戦闘員が雪崩れ込もうとする鉄血兵を必死で抑え込んでいる。

 MSFに義理があるわけではない彼女たちであるが、戦線の崩壊はひいては自分たちをも危機に陥れるために必死の応戦をする。

 

「このままではマズいですね、何か打開策を見出さないと…」

 

 AK-47の隣でリロードしつつ、イングラムがそう呟く。

 

 そんなことは誰もが分かっているが、この戦力差では作戦もくそもない。

 せめてもの救いは山の向こうで巨大な爆発が起きて、砲兵陣地が吹き飛んだくらいか…MSFの精鋭部隊が基地に戻ってきているという情報だが、それがいつになるのか分からない以上期待は出来ない。

 

『Ak-47、こちら9A91聞こえますか?』

 

「ああ聞こえてるぞチクショウ、何か作戦でもあるのか!?」

 

『いえ、ありません』

 

「ねえのかいッ!」

 

 思わず怒鳴ってしまったが、話しは最後まで聞こうと言うイングラムの忠告にAK-47は渋々彼女の通信に耳を傾ける。

 

『このまま戦闘を続けてもいずれ数に押しつぶされます。ここは奴らのボス、処刑人を倒すしかありません』

 

「んなもんさっきからやってる、あの野郎バカみたいに弾を避けやがるんだ!」

 

『分かってます、アイツは恐ろしい敵…だから、みんなの力を合わせるのです!』

 

「お、おぅ…9A91、お前そんなキャラだったっけか?」

 

 通信越しの彼女の声はとても凛々しく、いつもの姿を知っているとまるで別な戦術人形に思えてしまう。

 このままではらちが明かないと思っていたのはイングラムらも一緒だ、一か八かの賭けでも乗らない手はない。

 

「それで、具体的にはどうやるんだよ」

 

 AK-47が塹壕の中から頭を出して処刑人を忌々しく見つめた時、一台の装甲車が処刑人めがけ突っ込んでいったのをその眼で目撃した。

 猛スピードで突っ込んでいった装甲車に轢かれ数メートルは吹き飛んでいった処刑人、その唐突な出来事に唖然としていたAk-47であったがこの絶好のチャンスに咄嗟に塹壕から這い出て、吹き飛ばされた処刑人めがけ走る。

 

「どこのどいつか知らないがよくやった!」

 

 駆け寄った装甲車のハッチから顔を覗かせたのはスコーピオンだ。

 倒れる処刑人めがけ迷わず引き金を引くスコーピオン。

 その瞬間、倒れていた処刑人はむくりと起き上がると銃撃を剣ではじく。

 

「痛ぇなこの野郎、今のは効いたぞ!」

 

 額から血を流し、目をぎらつかせながら完全に起き上がった処刑人。

 そこへ他AK-47とイングラム、そして9A91も駆けつけ彼女を包囲した…。

 

「グリフィンのカス人形ども、お前らはもうお終いだよ。哀れだな、ここがテメェらの処刑場だよ」

 

「あんたに用意された処刑場の間違いでしょ!」

 

 引き金を引いたスコーピオンの銃撃を横っ飛びで躱し、一気に装甲車の上まで駆け上がる処刑人。

 まともに正面から組みあったのでは力で強引に組み伏せられることは前の戦闘で理解した、スコーピオンは処刑人の頭に頭突きし怯ませると、がら空きの腹部に銃口を密着させた。

 

「こざかしい真似しやがって!」

 

 処刑人はむしろ前にもつれ込むことによってスコーピオンごと装甲車から転がり落ち、スコーピオンを蹴り飛ばす。

 起き上がる処刑人はAK-47に向けて獰猛な笑みを浮かべ次の標的とする。

 彼女が銃を構えるよりも速く、処刑人は懐に潜り込むと彼女が首に巻いてある赤いバンダナを掴んで絞めつける。

 

「AK!」

 

 AK-47に被弾することを恐れ引き金を引くことに躊躇したイングラムをあざ笑い、イングラムに向けてAK-47を突き飛ばす。

 受け止めたイングラムに、処刑人は一気に駆け寄り二人ごと蹴り飛ばす。

 

「これが格の違いって奴だマヌケ」

 

 排除した二人から目をそらし、静かに闘志を燃やす一人の戦術人形へとその眼を向ける。

 

「お前が再びオレの前に立つとは思わなかった9A91、完璧にメンタルを破壊したと思ったんだがな…また泣きわめかせてやろうか、大好きな指揮官様はもういないぞ?」

 

「哀れですね…」

 

「あぁ?」

 

「わたしはあなたを憎んでいません、憎悪は心を蝕む毒…そうあの人に教わったから。わたしは指揮官のため、いえ…あの人のために尽くす。あなたがあの人を狙うというのなら相手をします、これは敵討ちではありません、あの人を守るための尊い行為」

 

「そうか、お前みたいな虫けらがスネークの傍にいるから…スネーク、オレはあいつが欲しい、オレだけを見ていてほしい。だからお前らみたいなのは邪魔なんだ、この世から消え失せろ、スネークの周りにいる奴はみんな殺してやる。そうすれば、スネークの目にはオレしか映らない…オレだけを見てくれるんだ…!」

 

「いいえ、あの人の傍にいるのはわたしです。あなたのような危険人物は寄せ付けません」

 

「テメェに言われたかねえな、とっとと死にな、あの世で指揮官様によろしく言っとけよマヌケ!」

 

 横薙ぎに振るった処刑人の斬撃をしゃがんで躱し、すぐさま銃を構えて引き金を引く。

 しかし処刑人の反応も早く、身をひるがえして躱すと装甲車の陰に身を隠しそのハンドガンで応戦する。

 銃の性能はアサルトライフルである9A91の方が上だ、逆に接近戦に持ち込まれた場合の脅威は処刑人の方が遥かに上。

 弾幕によって姿を晒せずたまらずに処刑人は陰に身を隠す。

 

「死にやがれ!」

 

 装甲車を乗り越え、頭上から襲い掛かる処刑人。

 だが終始神経を張り巡らせていた9A91は後方に跳んで処刑人の斬撃を避けると、銃のストックで処刑人のあごをかち上げ、その腹に回し蹴りを放ち突き放す。

 すかさず銃撃するが、処刑人は剣を盾に銃弾をはじいて見せた。

 

 

「へぇ、強くなったじゃないか…」

 

 

 処刑人は頭をポリポリとかき彼女に向き直る。

 その表情には先ほどのような相手を見下したような笑みはない。

 

「お前、たいしたもんだよ…他のグリフィンのアホどもとは違う。お前をマヌケと言ったことは取り消す、お前を一人の戦士として敬意を払うさ」

 

 胸に手を当てて小さく微笑む処刑人。

 油断の消えた処刑人から凄まじい圧力が放たれ、9A91はおもわず冷や汗を流す。

 先ほどとは打って変わり、目つきの変わった処刑人は凄まじい踏み込みで一気に接近し剣を振るう。

 あまりの速度に回避が間に合わず、剣先が9A91の胸を数センチ斬り裂く。

 鮮血が飛び散り苦痛に表情を歪める9A91…ちょっとの距離を開けたくらいでは処刑人の脅威的な踏み込みの速さで一気に詰められる、ならばと意を決し彼女は前に出る。

 

 剣も振りきれないほどの接近戦。

 思い切って銃を投げ捨て9A91はナイフを手にとって処刑人の胸めがけナイフを突き立てた。

 寸でのところで処刑人がナイフを掴む。

 刃を直接握りしめた手から血が流れ出て二人の手を赤く染める。

 

「本当に、見事なもんだぜ…弱さを克服しよくここまで強くなったな。だがな、オレはここで負けてなんかいられねぇんだよ!」

 

 ナイフを握ったまま、処刑人は9A91の首筋に噛み付いた。

 突き放そうともがくがしっかりと噛みついた処刑人は離れず、あまりの激痛にナイフを握る手を離す。

 処刑人の拘束から離れたその瞬間、9A91はもう一本隠し持っていたナイフを処刑人の肩に深々と突き刺す…互いが互いの返り血で真っ赤に染まる。

 しかし、まだ余力を残していたのは処刑人の方であった。

 

 疲弊した9A91を殴り、胸倉を掴んで持ち上げると地面に叩き付ける。

 

 だが処刑人もダメージは大きいようで、装甲車にもたれかかり呼吸を荒げる。

 深々と突き刺さるナイフを無理矢理引き抜くが、ナイフの独特な形状のせいで傷口は酷く損傷し腕が思うように動かなくなる。

 

 そんな彼女の前に、M4は姿を現す。

 

 

「酷い姿ね、処刑人」

 

「名誉の傷だ、テメェには分からねえだろうさ」

 

「そうね」

 

 M4は銃口を向けるわけでもなく、ただ冷たい視線を処刑人に向けている。

 

「不思議だ、前までオレはお前を血眼で捜していたというのに、お前を前にしてオレは何も感じない。オレに特別な感情を抱かせてくれるのはあの男しかいない…なあM4、オレは生まれて初めて"夢"を見た」

 

「…夢?」

 

「ただの人形の身体にAIをぶち込んだだけのオレたちが絶対に見ることのないものだ。あの日アイツに出会ってからオレの中に何かが生まれた、言葉では説明のしようがないが…特別な出自のお前には分かるか、これがなんなのか?」

 

「いいえ…」

 

「オレたちは造られた人形、どんなクソッたれな奴でも命令なら従うしかない。オレの中で何が起こったのか分からないが、オレは制御の枷を外し自由になったんだ…お前には分からないだろうな、自由という概念がよ。誰かの道具じゃない、自分自身の意思で行動できる、自分自身のために戦うことができる」

 

「命令を無視するようになったらあなたは人形じゃない、だからと言って人間でもない…あなたは人の形をした怪物よ」

 

「怪物か、否定はしないさ……スネークに出会ってから生まれたこれが何なのか、オレはいつも考えた。それは奴と戦っている時、戦場にいる時に最も強く感じることができる。ようやく分かったんだぜ……オレは今、生きているってことをな」

 

「理解できないわ、人形に生きるという概念はない。あるのは起動しているか、停止しているかよ」

 

「冷たい奴だな、オレでもそんなことは思いもしない。今もオレの部隊とやり合ってる人形たちもそう見てるのか? だったらお前のもう三人のお仲間も停止させてやろうか? 動かなくなった仲間の前で同じことが言えるか…ふざけんなクソッたれ、お前は特別な存在なんかじゃない、恐怖を克服した9A91の方がよっぽど立派さ…代理人の命令はどうでもいいが、お前の存在は気に入らない。AR小隊のお仲間共々皆殺しにしてやる…!」

 

「わたしの仲間を口にするな、鉄血のクズが…!」

 

「クズはテメェだろうが!」

 

 

 引き金を引いたM4、ダメージで動きの鈍くなった処刑人は数発被弾しながらも猛然と突っ込んでくる。

 処刑人の攻撃を紙一重で避けながら反撃の機会を狙うが、接近戦での戦いは特別な訓練を課された9A91たちに比べると見劣りする。

 一瞬の隙をついて距離をとり、銃撃で牽制しさらに距離を離す…不用意に飛びかかれない距離まで離れたM4を処刑人は忌々しそうに睨む。

 

 

 

『処刑人! 処刑人! 応答願う、こちらα小隊、敵が…敵が…!』

 

「うっせぇ! こっちはそれどころじゃねえんだ!」

 

 唐突には言った通信に処刑人は苛立つ感情をぶつけるが、通信してくる鉄血兵の動揺した声に違和感を感じ耳を傾ける。

 だが通信を発している鉄血兵の声は途中で途切れてしまった。

 

「おい何が起こった、応答しろ!」

 

『処刑人! こちらE中隊、敵の大型兵器が攻撃を仕掛けてきています! 増援をッ!』

 

「大型兵器だと!?」

 

 通信を切り、一度M4を睨みつけ処刑人はその場を走り去る。

 基地を出て戦場を見渡せる高台にまで一気に駆け上がり基地を見下ろす…。

 基地を取り囲む鉄血兵の布陣はいまだ盤石に見える、だが基地の東側で大きな爆発が起こると、その噴煙の中からソレは姿を現す…。

 

 

「なんだありゃ…」

 

 

 それは巨大と呼ぶにふさわしい存在だった。

 鋼鉄製の二つの巨大な脚で大地を踏みしめて歩く姿はこの世の何よりも恐ろしいものに見える。

 巨大兵器と呼んでいたマンティコアを容易く踏みつぶし、一薙ぎで何十体もの鉄血兵を駆逐する圧倒的殲滅力。

 突然の出来事に処刑人は指示を出すのも忘れ言葉を失っていた…。

 

 

 あれこそが国境なき軍隊(MSF)が持つ最大の抑止力…。

 

 核搭載二足歩行型戦車メタルギアZEKEだとは知る由もない…。




今、9年の眠りから覚め、我らが守護神が降臨した。
ようやくタグ回収できて何よりです…!


次回、決着!


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決着

 数機のハインドに吊られて戦場に現われた巨大な兵器に、度肝を抜かれた鉄血兵たちは攻撃の手を止めた。

 攻撃の手を止めた鉄血兵を不審に思い、奴らの視線の先を辿ったMSFの兵士たちが見たのは、ワイヤーから切り離され着地と共に地面を揺らした鋼鉄の守護神の姿だった。

 二つの巨大な脚で地面に降り立った巨大な兵器はピクリとも動かず、ただならぬ雰囲気をまとったまま鎮座する…。

 

 やがて巨大兵器の頭部部分に光が灯ると、その巨大な脚を動かしはじめる。

 地面を踏みしめるたびに地響きがなり鉄血兵に動揺が広がっていく。

 

 

「ZEKEだ……動いたんだ、直ったんだ!」

 

 

 鉄血の攻勢で疲弊していたMSFの兵士たちは、戦場に降り立った巨大兵器…メタルギアZEKEの登場に歓声をあげた。

 

『みんな待たせたね! なんとかZEKEの修理が間に合った!』

 

 戦場の兵士たちの無線に、マザーベースからヒューイの通信が入った。

 マザーベースがこの世界に来てからずっとメタルギアZEKEの損傷を修理し続けてきた、数に限りがある資源の中で、メタルギアZEKEへ回される資材の優先は低かった。

 マザーベース自体の修理、兵士たちの生活を維持するための生活基盤を整えるために優先的に資材が使われていくなかで、ヒューイは少ない資源で最善を尽くしていたのだ。

 

 MSFの活動が拡大するようになって安定した資源の供給ができてからメタルギアの修復は加速し、ついに、この日を迎えたのだ。

 

 

『修復したZEKEだけど、以前のモデルと比べると重装甲化に成功したんだ。それに伴いブースターにも改良を加えてね、機体の重量化に伴う機動性の悪化を相殺している。それから機銃を20mm機関砲に取り換えてある、その他にもピースウォーカーに装備していたSマインを装着、それと殲滅戦に備えてヘッドをクリサリスヘッドに変えて高威力のミサイルを――――』

『能書きはいいからさっさと戦闘させろ! 事態は一刻を争っているんだ!』

 

『そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないかミラー…!』

 

 ミラーに叱られまだ何か語りたかった様子のヒューイは渋々ZEKEの戦闘行動を実行する。

 

 

「メタルギアZEKE起動…任務、敵部隊ノ殲滅…任務開始」

 

 

 合成音声が流され終えると、ZEKEはその身体の向きを鉄血兵たちに向ける。

 攻撃命令が下された瞬間、ZEKEは機敏な動作で鉄血兵の前にまで走ると一発目に、その巨大な脚を振り上げて固まっていた鉄血兵をまとめて踏みつぶし、そのまま引きずるように動かし周りにいた鉄血兵をもすり潰す。

 動揺しながらも反撃を開始した鉄血兵…。

 だが小口径の弾はZEKEの装甲の前では何の意味もなさず、すべての銃撃は弾かれる。

 逆にZEKEから返されたのは、対人として使われることのない20㎜機関砲だ……12.7㎜弾を遥かに上回る威力を持った弾は、鉄血兵を文字通り木端微塵に吹き飛ばす。

 

 その時、鉄血側より放たれた砲撃がZEKEの巨体を直撃した。

 爆発の黒煙で一瞬ZEKEの上体が一瞬隠れたが、ZEKEは砲撃をものともせずに、砲撃を放った陣地を睨むように身構える。

 

「レールガンチャージ…」

 

 ZEKEの右肩に装着された巨大な兵装に青白い電流が走る。

 ただならぬ様子に鉄血兵は砲台を放棄し後退、遮蔽物に飛び込み身を隠す。

 

 

「チャージ完了…レールガン発射」

 

 

 電流の力で極限まで加速された弾頭は発射したその瞬間には目標へと着弾。

 加速された弾頭は凄まじい威力をもって遮蔽物に隠れた鉄血兵を吹き飛ばす、その威力たるや強固な遮蔽物をも破壊し数メートルにわたって地面が深々と抉られる。

 離れた敵にはミサイルを発射し陣地もろとも破壊…鉄血兵は対抗策としてマンティコアを前面に出すが、機関砲の掃射、レールガンとミサイルの攻撃、あるいはその巨大な脚で踏みつぶしあっという間に駆逐する。

 

 鉄血兵は命令とあらば小勢であろうが大軍に突っ込むことができるが、ZEKEの登場で乱れた指揮系統によって個々の判断で後退を行う。

 だが鉄血兵以上に無慈悲なマシンと化したZEKEは一兵たりとも見逃さない。

 逃げる鉄血兵の前に、その巨体で高々と跳躍し彼女たちの前に着地し逃げ場を塞ぐ。

 

 半ばやけくそに引き金を引く鉄血兵を撃ち、潰し、薙ぎ払う。

 

 かつて鉄血勢力をこうも一方的に殺戮する存在があっただろうか?

 狩られる側に追い立てられた鉄血兵たちは上位の指揮者に指示を仰ぐが、その指揮者である処刑人はZEKEによる破壊を呆然と見つめていることしかできない。

 

 既に東側の部隊はZEKE単機で壊滅させられている。

 撤退する間もなく他の部隊も追い詰められ、息を吹き返したMSFの兵士たちとの挟撃によって多くの部隊が包囲殲滅され、数的優位はみるみる失われていく。

 

「ふざけんな…こんな事、あってたまるかよ…! おい、早くあのデカブツを仕留めろ!」

 

 激高し命令を出す処刑人、だが、周囲にいた鉄血兵は顔を見合わせるばかりで冷ややかな反応であった。

 それに苛立つ処刑人は近くに居た鉄血兵の胸倉を掴みあげる。

 

「やれって言ってんのが聞こえないのか!」

 

「命令は聞けません…!」

 

「なんだとテメェ、恐怖心でAIが故障したのかクソが!」

 

「命令は…聞けません…!」

 

 同じ言葉を繰り返す鉄血兵を地面に叩き付け、すかさず剣で叩ききる。

 息を荒げ他の鉄血兵を睨みつけるが、恐怖に怯えつつも彼女たちは変わらず微動だにしない…。

 

 

『止めなさい処刑人』

 

「代理人…そうか、やりやがったなお前」

 

『ええ、あなたの指揮権をはく奪いたしましたわ。もう兵たちはあなたの命令には従わない、これ以上の損害は我々に大きな影響が出ますわ。この戦いはあなたの負け、早く戻りなさい』

 

「戻ったらAIを初期化するんだろ?」

 

『当然ですわ』

 

「だったらクソくらえだよ代理人。どうせこいつらはもう使えない、逃げ腰になった兵士なんか…何千も何万もいても同じだ。後は好きなようにやるさ」

 

『不利と分かって、死ぬと分かってまだ戦いますの? 理解できませんわ』

 

「あんたには理解できないだろうさ…おそらく一生な。あばよ代理人、もう二度と会いたくもないがね。あぁそれと…今まで世話になったな、アンタに恨みはねえよ。少しでもオレを想ってくれるならバカな女だと思って見送ってくれよ、じゃあな、代理人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃のチャンスだ、敵を追い詰めろ!」

 

 退却を始めた鉄血兵をZEKEと共に追撃をかける。

 歩兵、戦車、戦闘ヘリ、それらと連携したZEKEはますます手のつけられない脅威となり敗走する鉄血兵はなすがままだ。

 処刑人にぶちのめされ気絶していたスコーピオン達も今や復活し、積年の恨みを発散させるかのように鉄血兵を撃破していく。

 

「ようスコーピオン、随分撃ちまくってるじゃないか!」

 

 そこへ砲撃陣地の破壊任務を行っていたキッドやエイハヴらも合流、キッドは見せ場をZEKEに奪われて悔しがっているが、そもそも砲撃陣地を破壊していなければZEKE登場の前に全滅していた可能性もあるのだ。

 さらにそこへ現れたWA2000を見たスコーピオンは彼女を捕まえ怒鳴る。

 

「あんた今まで何やってたんだよ!」

 

「はぁ!? 狙撃役なんだから前線にいたら駄目でしょ!?」

 

「スプリングフィールドなんて大けがしたって言うのに、このポンコツめ!」

 

「あんたに言われたくないわ毒サソリ! あんたにはサボってたように見えるかもしれないけど、わたしは敵を50は仕留めてるわ!」

 

「へん、アタシなんて60は仕留めたもんねー! 安全圏で引き籠ってる芋スナじゃ無理な戦果だね!」

 

「な、なんですって!? 突撃バカのくせにッ!」

 

 

「もう止めてください! 敵に逃げられます!」

 

 仲介に入ったM4のおかげで戦場でケンカをするのは止めてくれたが、こんどは逃げる鉄血兵を仕留めた数で競い合い始めた。

 困惑するM4であったが、彼女は逃げる鉄血兵たちの中に一人、凄まじい速さで逆走する存在を見逃さなかった。

 

「処刑人…!」

 

 剣を肩に担ぎ、猛然と突っ込んでくる処刑人。

 真っ向から放たれる銃弾をものともせず、彼女は穴だらけの地面を走破し、鉄条網を飛び越え国境なき軍隊(MSF)の前に立ちふさがる。

 処刑人は得意とする接近戦を仕掛け、ZEKEの動きを封殺すると手近な兵士を倒しスコーピオンらにも襲い掛かる。

 

 

「こいつが処刑人か! なるほど、凶暴な女だぜ!」

 

 迫る処刑人にマシンガンを乱射するが、機敏な動きで銃弾を躱し処刑人はキッドに斬りかかる。

 寸でのところでマシンガンを盾にしたが、処刑人の剣はそのマシンガンを真っ二つに両断しキッドの胴体を斬りつける。

 血を流し倒れたキッドにとどめをさそうとした処刑人の横顔に、スコーピオンは全体重をかけて飛び蹴りを放つ…だが、処刑人は数歩よろけたのみで、すぐに反撃を行う。

 処刑人のパンチを顔に受けてスコーピオンは吹き飛び、なおも追い打ちをかけようと倒れる彼女を掴みあげる処刑人。

 

 だがもうここにいるのは処刑人にとって敵ばかり、スコーピオンの危機にWA2000は躊躇いなく引き金を引く。

 肩を撃たれた処刑人はおもわずスコーピオンを離す…。

 

「いいかげんくたばれ、もううんざりなんだ…!」

 

 あの日処刑人に目をつけられてから、スコーピオンは散々な目に合い続けてきた。

 スネークのためにも、仲間のためにも、自分自身のためにもその日を待ち望んでいた…苦痛に表情を歪める処刑人の姿をどんなに思い描いてきたことか。

 やられっぱなしは性に合わない。

 スコーピオンは処刑人に銃を向け、引き金を引いた…。

 

「ぐぁッ…!」

 

「まだまだッ!」

 

 弾倉の弾を撃ち尽くすまで撃ち止めるものか、銃声と彼女の叫び声と共に弾丸が処刑人の身体を撃ち抜く。

 

 彼女の銃が弾切れになった時、処刑人は腹部からおびただしい出血を流し、吐血する…。

 数歩後ろによろめき、処刑人はそこで踏みとどまる…息を荒げ、なおも攻撃せんと剣を肩に担いだ処刑人であったが、ついには力尽き前のめりに倒れ込む。

 

 

「やった…やったよ、みんな…! あたしたちの、勝ちだ…」

 

 

 途端に湧き上がる歓声。

 敵の親玉である処刑人が倒れ、鉄血の部隊は敗走し姿を消していった。

 あちこちで勝利を喜ぶ雄たけびがあがり、処刑人打倒の功労者であるスコーピオンとWA2000は兵士たちに捕まりもてはやされる。

 

「お、おい…喜ぶのはいいが、誰か助けてくれ」

 

 処刑人に斬られていたキッドはすっかり忘れられていた。

 慌てて駆け付けた医療班に運ばれていくキッド、胃腸炎が再発したようで別な痛みを訴える彼の姿にみんな笑い声をあげる。

 ZEKEのスピーカーからも、勝利の凱歌が流される。

 絶対に負けると思われていたMSFの勝利には、グリフィン救援部隊も言葉が出ない様子だ…勝利を喜ぶ気持ちはM4も一緒だったが、彼女は鉄血に勝利したMSF、そして勝利の最大要因メタルギアZEKEを離れた位置で眺めていた…。

 

 

「みんな、よくやってくれたな」

 

「スネーク!」

 

 

 その場に現われたスネークに、スコーピオンは真っ先飛びかかる。

 飛びついてきた彼女をスネークはしっかりと受け止め、その頭をがしがしと撫でる…少し痛そうだが、スネークの大きな手で撫でられて嬉しいのか笑顔を浮かべる。

 一緒に現われたスプリングフィールドも物欲しそうに見つめているのに気付き、彼女も同じように抱きしめる…。

 

「9A91お前もよくやってくれた、ありがとう」

 

 少し離れたところでじっと見つめていた9A91にも、スネークはねぎらいの言葉をかける。

 彼女は少しためらうようなそぶりを見せていたが、やがて微笑みスネークのもとへ近寄っていった。

 

「こちらこそ、司令官(・・・)…!」

 

「もー、痛いってばスネーク…!」

 

 言葉とは裏腹に、スコーピオンたちは嬉しそうに笑った。

 

 そんな微笑ましい様子を兵士たちと共に、WA2000は遠巻きに眺めていた。

 

「お前はいかなくていいのか?」

 

「オセロット…その怪我、どうしたの?」

 

 隣に立ったオセロット、その袖が赤く染まっているのに気付いたWA2000は布きれを取り出すとシャツの袖をまくり上げ傷の周りをキレイに拭き治療する。

 

「大した傷じゃない」

 

「ダメよ、ばい菌が入ったら化膿するのよ? ちゃんと治療しなきゃ…」

 

「余計なお世話だ。ほら、お前も言ってボスに褒めてもらえ」

 

「いいのよ、アタシはここで…」

 

「…?」

 

 

 

 

 ひとしきり撫でられたスコーピオンは相変わらずの笑顔を浮かべたまま、上機嫌に勝利の余韻を味わっていた。

 

「いやーなんか一生分の緊張感味わったね」

 

「そうですね、やっと戦いも終わりましたし、しばらくはお休みしたいですね」

 

「いや、まだ終わっていない」

 

「スネーク…?」

 

 彼の言葉に首を傾げるスコーピオン。

 スネークがじっと見据えている先に、彼女も視線を移す…。

 

 

 そこには、ボロボロの姿になりながらも、剣を支えに立ちあがる処刑人の姿があった。

 よろよろと歩く処刑人はただ一人、スネークを見据えながら真っ直ぐに向かってくる。

 

「アイツ、まだくたばって…!」

 

「止せ」

 

 スコーピオンが構えた銃に手を置き下げさせる。

 疑問の声を漏らすスコーピオンに何も答えず、スネークは処刑人の前にゆっくりと歩を進めた…。

 兵士たちがスネークに道を開き、兵士が並ぶ道の間で二人は立ち止まる…。

 

 

「まだだ、まだ終わってない……!」

 

 腹と口から血を流し、苦痛に歪めた顔に、処刑人は無理矢理笑みをつくる。

 

「オレたちの、負けだ…でもな、オレとお前…個人的な決着はまだだよな…?」

 

 支えにしていた剣から手を離し、自力で立つ処刑人。

 大けがを負った腹部からも手を離し、拳を固めて身構える…スネークもそれに倣うように、武器を捨てて構える。

 そんなスネークの姿に処刑人は一度目を見開き、そしてその瞳を潤ませる。

 

「やっと…オレを見てくれたな、スネーク…。サンキューなスネーク、お前に会えて…オレは生きてることを実感できた…。もっと、もっとオレを見てくれスネーク…これが、オレだ、ありのままのオレを見て欲しいんだ!」

 

 処刑人の振り上げたこぶしを、スネークは真正面から受ける。

 数歩後ずさりしたスネークであったが、倒れることなく踏みとどまる…。

 再び処刑人はスネークの頬を殴りつけ、大きくよろめいたスネークは片膝をつく。

 致命傷を負っているはずの処刑人の身体のどこにそんな力が残されているのか、彼の危機にスコーピオンらは助けようとしたが、それをエイハヴが止めた。

 処刑人に仲間を殺された恨みは確かにある。

 だが、スネークに惚れて集まったMSFの兵士たちにとって、ぼろぼろになってもなおスネークに挑んできた処刑人の姿に言葉には出来ない何かを感じていたのだ。

 

「どうした…来いよ、スネーク…!」

 

 煽る処刑人をじっと見据え、血の混じった唾を吐き身構える。

 処刑人の強烈な拳を傷を負った左腕で受け止め、放たれたスネークの右ストレートをもろに受けたて処刑人は吹き飛ぶ。

 

「立て処刑人、戦士なら…まだ立ち上がって戦え」

 

「ハァ…ハァ…当たり前だろ…!」

 

 立ち上がり、すかさずスネークを殴りつける処刑人。

 負けじとスネークも彼女を殴り、そこからは二人とも激しく殴り合う…お互いの返り血を浴び既に二人の身体は真っ赤に染まっている。

 言葉ではなく、拳を交わしあう処刑人の顔はどこか喜びに満ちている。

 そこは二人だけの聖域だ、他の何者にも邪魔することは許されない。

 

 どれだけ殴り合っただろう…。

 

 お互い身体はあざだらけ、骨も何本か折れただろう。

 

 いつ死んでもおかしくない身体で、なおも剥き出しの闘志で殴りかかる処刑人にスネークの肉体も限界に近い。

 

 しかし処刑人が倒れないように、スネークも倒れることは無かった。

 

 

「オラァァッ!」

「ウオオオッ!」

 

 

 渾身の力を込めた拳は交差し、互いの頬を撃ち抜く。

 よろめく二人はついに倒れ地面に横たわる…そのまま寝ていられればどんなに楽であろうか、それだというのにスネークは痛む身体にムチを打ち立ち上がる。

 先に立ったのはスネークだ、処刑人は腹部を抑え力の入らない膝を叩きなんとか立ち上がったが…。

 限界を越えて立ち続けた処刑人は、殴りかかろうと前に歩きだした拍子に前のめりに崩れ落ちる。

 

 そんな処刑人を、スネークは倒れる寸前で受け止める。

 

 

「ヘヘ…ずいぶん、優しいんだな……」

 

 もう処刑人に立つ余力は残されていなかった。

 だが満足のいくまでスネークと殴り合った(語り合った)彼女の表情はとても穏やかなものだった。

 

「一人で勝手に気が済んで、悪いな…あんたの勝ちだよ、スネーク…ありがとう」

 

 それを望んでいたかのように、処刑人はスネークの服をギュッと掴み目を閉じる。

 腕の中で力を無くしていく処刑人を、スネークは何も言わず見つめ続ける……。

 

 

 こうして、この世界に来てMSFが初めて経験する大規模な戦闘はMSFの勝利に終わった。

 束の間の勝利に喜ぶ兵士たち。

 だがこれはまだ、この世界の序章に過ぎないのである…。




殺し愛からの殴り愛、青春ですね(白目)

とりあえず、ここらで1章として区切ろうと思います。

2章で唐突に終わってもいいでしょうか?


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第二章:PHANTOM PAINE 再出発

「クルーガーさん、ただいまM4が帰還しました」

 

 グリフィン司令部のとある一室にやって来たヘリアントスは、グリフィン創始者であり最高責任者クルーガーに対しそう報告する。

 報告を受けた彼はコーヒーを一口すする…相変わらずマズいコーヒーに彼の元々厳しい表情はさらに強まる、新兵がみたら震えあがるような強面の男だ。

 

「そうか、無事に戻ったようで何よりだ」

 

「ええ、問題なく…これも、彼らのおかげです」

 

国境なき軍隊(MSF)か…その件についての報告を聞こう」

 

「はい。これはM4が持ち帰った映像データです、私が言葉で伝えるよりも多くを物語ることでしょう」

 

 ヘリアントスは機器を操作し、モニターに映像を映す。

 最初の映像は小規模な戦闘から始まっていた、MSFの前哨基地内には多数の人間の兵士が鉄血兵と対峙しており、基地内に設置されている火砲が敵陣めがけ砲撃をしている。

 ここまではどこの戦場おいても見れるありふれた戦争風景だ、だが映像が乱れ次に映された場面ではクルーガーでさえ見たこともない鉄血の大軍勢と戦闘する場面であった。

 鉄血の装甲ユニット"マンティコア"が多数投入され、その他の装甲人形が前衛として敵の攻撃を防ぎ、後方の鉄血兵が防御線を食い破る。

 

 地域紛争と呼ぶにはあまりにも大きすぎる戦力、まるで第三次大戦を観直しているかのような錯覚をクルーガーは覚える。

 

 戦力差に押され倒れていくMSFの兵士たち…。

 そこへグリフィンが送った救援部隊も参戦するが、圧倒的戦力差に追い詰められていく。

 

 ここまで見れば誰が見ても鉄血側の勝利を疑わないだろう。

 だが次に映ったのは、二本の脚で立つ巨大な兵器の姿だった。

 それは鉄血兵を豪快に踏みつぶし、大口径の機銃で敵を薙ぎ払い、肩に装着された巨大な兵装とミサイルで敵を木端微塵に吹き飛ばす圧倒的な戦力だった。

 優勢だった鉄血はあっという間に駆逐され、逃げまどう鉄血を息を吹き返した兵士たちが追い詰めていく…。

 

 

 映像を見終えたクルーガーは椅子に深々と腰かけ、デスクから一冊のファイルを取り出す。

 

「我々グリフィン、及び他のPMC各社が戦力を保持するにあたり守るべき協定の全てがここに載っている。いまや正規軍の手に余る問題に対処するPMCの存在は欠かせない。だが際限なく強大化することは世界のパワーバランスを著しく崩すことになる、滅亡の危機に瀕している人類にとどめを刺す事態にならないように我々はこの協定を尊重している」

 

「はい。ですが、MSFはその協定に属していません」

 

「うむ、既に彼らと鉄血との戦闘は世界に知れ渡っている。世界が彼らをこのまま放っては置かないだろう…既にバルカン半島の連邦政府が不穏な動きを見せている」

 

「連邦政府が? しかし連邦政府はかねてよりMSFの戦力を買っていたはずでしたが?」

 

「今まではな…国境なき軍隊(MSF)はいかなる国家、政府、思想、イデオロギーにも属さないと言っていたな。そんな彼らが反政府勢力に協力したら? 一介のPMCと連邦政府はこれまで侮っていたのだろう、だが、鉄血の大部隊を返り討ちにする程の戦力だとしたら話しは別だ。いまだ内戦の終結が見えない連邦には、彼らの存在が疎ましくなってきたのだろう」

 

「なるほど…連邦政府は協定締結を迫るか、あるいは…」

 

「戦争だろうな。世界がどう動くか分からん、我々としても独自に動かねばならん事態が来るだろう。引き続き、彼らの情報を集めるんだ」

 

「了解です、クルーガーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が集結して三日後、前哨基地より少し離れた海の見える丘に、9A91は墓石に花を手向けていた。

 その真っ白な墓石には何も書かれていない…墓石の前で彼女はしゃがみこみ、じっと何も書かれていない純白の墓石を見つめている。

 

「指揮官、わたしは…あの時何もできずあなたを救えませんでした。あなたを失って、わたしは何もかもに怯えて怖がっていました、泣き虫で、弱虫で、ずっと周りに迷惑をかけてました…でも、あの人に出会ったんです。わたしはあの人に立ち直る勇気を貰いました、おかげで前に踏み出すことができました…わたし、あの人と一緒に生きていくって決めました

わたし、もうくじけません、前を向いて歩き続けます…だから、こんなわたしをどうか、笑顔で見送ってください、指揮官…」

 

 

 立ち上がり、彼女は墓石に向けて敬礼をする。

 目を閉じれば大好きだった指揮官との日々が思い浮かぶ、どれも大切な記憶だった…楽しいときも辛いときも指揮官や仲間と乗り越えたことを忘れず、胸に刻み込み、これから新しい道を行くんだ。

 墓石の前で精いっぱい笑顔をつくるも、押し寄せる哀しみと涙で9A91の顔はくちゃくちゃだ…やがて彼女は裾で涙を拭く。

 

「行ってきます、指揮官…」

 

 去り際に笑顔で墓石に向けてそう言い、丘を下っていく。

 

 

 前哨基地では急ピッチで修復作業が行われている。

 以前より働く兵士たちの姿は少なくなり、作業のほどはお世辞にも早いとは言えなかった。

 あの戦闘で数十名以上が戦死し、百人近い負傷者を出す…鉄血の戦力を考えればかなり損害を抑えられたと言ってもいいだろうが、半分近い人員が動けなくなったMSFは早急な立ち直りが必至だ。

 そんな中で、スコーピオンら戦術人形たちはその穴を埋めるようにせっせと働いた。

 

 普段は肉体労働をめんどくさがるスコーピオンも率先して行い、復帰したばかりのスプリングフィールドも懸命に働く。

 

「おら働けッ!」

 

「ひぃぃ!」

 

 そんな中で、スコーピオンは木刀を手になぜかいる鉄血兵数人をシバきながら作業を進めている。

 なんでも戦闘が終わって、比較的損害の少ない鉄血兵を掘りだして武装を解除させ、あとはひたすら言うことを聞くまでぶちのめし言うことを聞かせているらしい。

 通信機能も破壊され、少しでも逆らおうとすれば木刀で袋叩きにされる…すっかり怯えた様子の彼女たちはスコーピオンに一切逆らえず、荒れ果てた前哨基地の復旧作業の従事する。

 

「もうスコーピオン、鉄血とはいえやり過ぎはいけませんよ? たまには休ませないと」

 

 見かねたスプリングフィールドがそう声をかけるも、スコーピオンとしては鉄血兵を働き潰すつもりらしい。

 

「いいんだよこいつら、なんか好きでやってるみたいだから…そうだよねー?」

 

「ハ、ハイ…ソノトオリデス…」

 

「でも休ませないと壊れちゃいますよ? 10分でも20分でも…じゃないと24時間持ちませんよね?」

 

「あ、そうか。じゃあ10分休憩ね、次の休憩は24時間後だ!」

 

「ブ、ブラックや…!」

 

 絶望したような表情の鉄血兵を檻にぶち込んで休憩させ、スコーピオンらも休憩する。

 

 スプリングフィールドが少ない食材で作ったおつまみは兵士たちには好評だ、少し減ってしまった笑い声に寂しさを感じつつもスコーピオンは明るく振る舞う。

 彼女の明るく笑う姿は兵士たちを元気づける、それを知って知らずかスコーピオンはいつものように元気にふるまうの。

 

「あ、みんなここにいたの?」

 

「おや、誰かと思ったら芋スナワルサーではないか」

 

「殺すわよ、毒サソリ」

 

 あいさつ代わりの罵り合いを終え、WA2000は二人を連れていく。

 どこに行くのかと尋ねればマザーベースに向かうという話しだが、渋る二人にスネークのところだとさらに伝えると態度を変えて付いてくる。

 スコーピオンはともかく、最近はスプリングフィールドもスネークを追っかけている有り様だ。

 

 全くまともなのは私だけかと、WA2000はため息をこぼす…。

 

 途中9A91とも合流し、ヘリに乗ってマザーベースへと向かう。

 戦場となった前哨基地は未だ重苦しい空気があるが、損害のないマザーベースは穏やかな雰囲気で彼女たちを迎えてくれる。

 実家に帰ってきたような安心感に表情も緩んでしまう、ここに来ると前哨基地に行くのが億劫になってしまうのが帰りたくなかった理由だが、スネークに会えるという話しで主に三人はやって来た。

 

 

「やあ、久しぶりだな少女たち」

 

「げっ、ストレンジラブ…!」

 

 真っ先に出迎えにきたストレンジラブに戦術人形たちは後ずさる。

 定期的に研究協力のために彼女のラボに行くことがあるのだが、レズビアンとまことしやかに噂されている彼女の研究という名のセクハラ行為に苦しめられている。

 しかし戦術人形としてのメンテナンスができるのは彼女一人なようで、渋々従うしかないのが辛いところだ、職権乱用である。

 

「これから研究室でコーヒーでも…と言いたいところだが、あの男が呼んでいるらしいな。もし暇なら後でわたしの研究室に来るといい、美味しいケーキを用意している」

 

「え、ケーキあるの!?」

 

「餌に釣られるんじゃない」

 

 ケーキという単語に目を輝かせるスコーピオンをど突き、引っ張っていく。

 ひとまず呼ばれている医療班のプラットフォームへ向かうこととなり、そこで待っていたスネークに会うなりスコーピオンは飛びかかろうとしたが、寸でのところでWA2000に捕まり抑えつけられる。

 

「落ち着きなさいよ毒サソリ!」

 

「離せ! もう二日もスネークに会ってないんだ!」

 

「贅沢言うんじゃないわよ! わたしなんて三日もオセロットに会ってないのよ!?」

 

「いい加減にしてください二人とも」

 

 しょうもない争いをする二人を、9A91がぴしゃりと叱る。

 流石にスプリングフィールドは自制が効いているようだが、会って嬉しいのは彼女も同じらしく目をキラキラとさせている。

 

「みんなよく集まってくれたな、怪我の具合はどうだ?」

 

「うん、すっかり治ったよ!」

 

「そうか、なによりだ。9A91、君も知らない間に強くなったんだな」

 

「はい、司令官。いろいろとご迷惑をおかけしました、これからもよろしくお願いしますね」

 

 何はともあれ、元気そうな彼女たちの姿を見てスネークも安心したようだ。

 

 しかし戦術人形たちの体調を聞きにわざわざマザーベースに呼んだわけではないだろう、戦闘からある程度経ってここに呼ばれた理由はなんとなくだが彼女たちは予想をしていた。

 

「目覚めたんだね…? スネーク、やっぱりあたしは反対だよ…」

 

「あたしもよスネーク。絶対にうまく行くはずがない、正気を疑うわ」

 

「あの戦闘でオレたちの戦力は下がってしまった、世界がオレたちに目をつけ始めた以上、戦力の立て直しを急がなければならない。そのためには、奴の力が必要になってくる。まずは話しをしてからだ、無理ならその後に話しをしよう」

 

 いまだ納得のいっていなそうな二人であるが、仕方がない。

 

 医療プラットフォームの隔離棟、厳重に警備されている先にある部屋。

 戦術人形たちを連れてその部屋へと入って行くと、部屋の奥のベッドの上に寝転がり、つまらなそうに窓の外を眺めている黒髪の戦術人形がいる。

 

 部屋に入ると彼女は鬱陶しそうな表情で視線を動かしたが、スネークの姿を見るやむくりと起き上がる。

 

 

「元気そうだな、処刑人…」

 

「おかげさまで……」

 

 

 その顔に笑みを浮かべているが、処刑人は視線をしきりに動かし来室者を警戒している。

 

 すべての戦闘が終わった後、決着を果たし後は死を迎えるのを待つだけであった処刑人を、あの日スネークは助けた。

 ミラーやスコーピオンなどは、敵だった処刑人を助けるべきではないと反対をしていたが、それを押し切りスネークは彼女の身を医療班に預けたのだ。

 仲間を殺した鉄血の親玉だ、治療には抵抗感もあったのだろうが、スネークの決定と最後の戦いを見ていた彼らはその役目を引き受け、瀕死だった処刑人の命をなんとか繋ぎ止めることには成功した。

 

 処刑人を一人の戦士として認めたスネークは、彼女を丁重に扱うよう指示し、拘束具をつけることも許可しなかった。隔離棟に入れるのだけは兵士たちの嘆願で認めることになったが…。

 

「なんで助けた? オレはお前らの仲間を大勢殺したんだぞ? とどめを刺したいと思わなかったのか?」

 

「お前との戦いで多くの仲間を失った、全く憎んでいないと言えば嘘になる。だがお前の最後の一人になってもなお、勝負を挑んできた。あんな状態で自分の意地をはれる奴はそうそういない、オレは多くの仲間の命を奪ったお前を許せはしない。だが、戦士として最後まで戦いを挑んできたお前を否定するつもりはない…お前はまだ死ぬべきじゃない、そう感じたまでだ」

 

「ふん、大したこと言いやがって…だがよ、オレを助けてどうしようってんだ? 仲間にでもしようってか?」

 

「オレたちは国を棄て、国境なき軍隊(MSF)を立ち上げた。国も、思想も、イデオロギーもない。必要とされる土地へ赴き、オレたち自身のために戦う。国のためでも、政府のためでもない…必要とされているからこそオレたちは戦う。あの時お前は確かに自分の意思で挑んできたな…運命を打ち破り、己の意思で戦うことを決めた戦士、そんな存在をオレたちは欲しているんだ」

 

「そこまで言ってもらえると悪い気はしないな…どうせオレも鉄血の仲間たちから追われる身になっただろうさ。捕まればAIは初期化され、あんたとの記憶は全て消される。そんなことはオレも望まないね…いいだろうスネーク、オレの力は自由に使いなよ、だが条件が三つほどある」

 

 ベッドの上で胡坐をかき、彼女は指を三本立てる。

 

「一つ、オレが元鉄血だからと言って鉄血の機密を聞きだそうとするような真似はすんな。離反しても、あいつらを裏切ったつもりじゃないんだ」

 

「いいだろう」

 

「ちょ、スネークそれでいいの!?」

 

「うるせえ、外野は黙ってろ。オレとスネークとの取り決めだ」

 

 咎めるスコーピオンだが、処刑人の一睨みで押し黙る。

 戦いに勝ったとはいえ、三度返り討ちにあった恐怖心は未だスコーピオンの心の中にあるようだ。

 

「二つ、オレが認めたのはアンタだけだ。他の連中の命令は聞かない、これは絶対受け入れてもらうぞ」

 

「仕方がないな、カズは文句を言うかもしれないが…」

 

「それから三つめ…!」

 

 最後の指を折った時、処刑人は目にも留まらぬ速さでスネークの懐へ潜り込むと、足を払い仰向けに転倒したスネークの身体に跨いで抑えつける。

 

「情けねえ姿見せたらいつでも首を獲りに行くからよ、そのつもりでいろよ?」

 

「勘弁してもらいたいものだが…まあいい、オレも仲間の前で弱いところを見せるわけにはいかんからな。それより早く退いてくれ」

 

 だが、退かない。

 

 スネークの腹部の上に跨いで座る処刑人はスネークを見おろし、舌なめずりしている。

 

「四つ、オレがお前に会いたいって思ったらどんな時でも拒絶しないこと」

 

「おい条件は三つのはずじゃ…!」

 

「五つ…」

 

 スネークの抗議を笑顔で無視し、スネークの手を握った処刑人はその手を自分の胸に押し付ける。

 

 唐突な出来事に、スネークを含めその場の戦術人形たちも唖然とする。

 

 そんな周囲の反応など知ったことではないと言わんばかりに、処刑人は青白い頬を赤く染め艶かしい息遣いでスネークに顔を近づける。

 

「なあスネーク、この熱さ感じるか…? なんか身体も熱くて変なんだ、一人の時にお前の事を考えていると胸が切ないんだよ…これは何故なんだ? 五つ目はこの変な感じをオレに教えること…前までこんな感情無かったんだ、これって生きてるってことだよな? 教えてくれよスネーク、なあ、何か言えよ…噛みついちまうぞ?」

 

 

 

 

 結局、処刑人がギリギリのところまで迫った時に我に返ったスコーピオンが、処刑人にドロップキックを放って阻止に成功する。

 

 その後は修羅場と呼ぶにふさわしい凄まじい乱闘が起こる。

 スコーピオンは怒った猫のように暴れ、スプリングフィールドは我を忘れて取っ組み合いをし、9A91はナイフを持って完全に殺しにかかる…そんな三人相手に大暴れする処刑人。

 

 その現場を見たMSFのスタッフは、改めて女性のいざこざには関与してはならないと心に刻むのであった…。




スコーピオン「は?キレそう(憤怒)」
スプリングフィールド「ウフフ…(殺意)」
9A91「ヤンデレは止めるといったな、アレは嘘だ」
カズ「ぐぬぬぬ…おのれ処刑人め(嫉妬)」
オセロット「殺す(直球)」

大佐「全く度し難いな…!」


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マザーベース:副司令の努力が報われる日

 マザーベースの司令部にて、カズヒラ・ミラーはたくさんの資料に囲まれながら、情報整理のためにひたすらコンピュータの前で作業を行っていた。

 あの戦闘が終わり、損害の報告をまとめた他、戦死しあるいは負傷した者の代わりはできる限りミラーが代わり穴を少しでも埋める…同じく諜報班をまとめる立場になっているオセロットも、自ら諜報活動に出るほど忙しい毎日を送っている。

 MSFのほぼ半数が動けなくなったこの状況に置いて、ミラーはただひたすらに組織の再建を果たすために情報を整理し、ビジネスの付き合いのあったPMC各社とコンタクトをとり依頼人(クライアント)との連絡も取る。

 

 目下の問題は、連邦政府との間に生じた軋轢だ。

 

 鉄血との戦闘記録は既に世界が知るところにある。

 戦闘で弱体化したとはいえ、強大すぎる戦力を恐れた連邦政府は資源の取引を渋るようになり、MSF再建のための活動に支障が生じている。

 うち捨てられた採掘所を所持しているとはいえ、すべての資源はまかなうことはできない。

 MSFの存在を黙認させるためには、抑止力となる戦力が必要不可欠だ。

 

 MSFにはいまだ精兵が多くいるが、正規軍に攻撃を躊躇させるほどの規模とは言えないし、いくらメタルギアZEKEがいるとはいえ航空支援を受けた部隊との戦闘には弱いという部分もある。

 安定した資源の供給、人的資源の確保、前哨基地の立て直し…どれか一つだけを選んで進めるわけにもいかない状況に、ミラーは悩みつつも優先順位をつけて作業指示を出す。

 こういった組織の運営においては、スネークを超える才能を持つのが彼の特色だ。

 

 疲れた様子で椅子にもたれかかるミラーは、酷使した目を閉じて少し休める。

 

 MSFの兵士全員が、ほぼなんらかの作業に従事しているため、以前なら言わなくても持ってきてくれた差し入れのコーヒーは出てくることがない。

 自分で淹れ、既に冷めたコーヒーを一口すすり再び作業を開始する…。

 

 そんな時、机の上に置いてある電話が鳴り響く。

 司令部の電話機が鳴るのは外部からの連絡、つまり取引先や新しく取引を持ちかける依頼人からの連絡のみ。

 つい先日、連邦政府からの脅迫じみた電話を貰ったばかりのミラーはため息を一つこぼし受話器をとる。

 

「はい、こちらMSF副司令ミラーです……あぁ、これはどうもお世話になっております」

 

 電話の相手は彼が予想していた厄介な相手ではなく、かねてから取引を続けてきたレイヴン社からであった。

 レイヴン社およびウルフ社は少ないながらも兵士を派遣してくれ、オクトパス社とマンティス社は戦闘後に必要な資材を格安で流してくれていた恩あるPMCだった。

 

「ええ、厳しい状況が続いておりますがなんとか…はい…え? いまなんと?」

 

 電話越しの会話を続け、ミラーは耳を疑うような話しに思わず聞き返す。

 

「はい、はい…そうですか…! 我々としては断る理由もありません、ええ…もちろんです」

 

 会話を続けていくうちにミラーの表情は明るくなっていく。

 よほどうれしい出来事があったのか座っていた椅子から立ち上がり、受話器越しだというのに何度もお礼をするように頭を下げていた…。

 

 

 

 

「ふん、ふん、ふん~…」

 

 ミラーはへたくそな鼻歌を上機嫌に口ずさみ、久しぶりにマザーベースの甲板上でこった身体をのびのびと伸ばす。

 数日司令部に引きこもって日夜作業を行っていたミラーの姿を見た兵士たちは、ついに頭がいかれてしまったかと怪訝な目でみているが、そんな兵士たちに彼は上機嫌に声をかけていく。

 

「やぁ諸君、今日はとても良い日だね」

 

 そんな感じで声をかけていったが、全身油まみれになって不機嫌そうなスコーピオンに出くわしてしまったのが運の尽き…目をつけられたカズはスコーピオンに絡まれる。

 

「だいぶ暇そうじゃん…油圧ホースが弾けて小柄なあたしが修理に回されてるってのに、ずいぶんいいご身分だね」

 

「え、あぁ…ご苦労だね…でもオレも司令部で働いてて…」

 

 予想外の絡まれ方にミラーは慌てふためくが、見るからに不機嫌そうなスコーピオンとの関わりを避け、兵士たちは逃げるようにその場を立ち去っていく。

 

「なんてね…カズが一番頑張ってるのなんてあたしだって知ってるよ。ちょっと脅かそうと思っただけだよ」

 

「なんだ、そうだったのか…ははは、本当にキレてるかと思ってびっくりしたぞ」

 

「ちょっとイラッとしたのは本当だけどね」

 

 正直な物言いにミラーは咳払いでその場を取り繕う。

 そんなところへ、スプリングフィールドが芳しい甘い香りを運びながらやってくる、ミラーとしては好みどストライクな彼女だが、目を向けているのはスネークなので踏み込んだ会話は避けている。

 

「ミラーさん、お仕事お疲れさまです、マフィンが焼けました。よかったらいかがですか?」

 

「おぉ、とても美味しそうだな。是非いただこうかな」

 

「それと淹れ立てのコーヒーもありますから、どうぞ」

 

 スプリングフィールドお得意のマフィンを一つもらい、口の中に放り込む。

 焼きたてのマフィンはほんのり温かく、ふんわりとした生地とバターの香りがたまらない…マフィンの程よい甘さが、疲れているミラーの身体が求めていたものだ。

 差し出されたコーヒーを貰い、一口すする。

 芳香な香り、程よい苦み、大人の味だ。

 自分で淹れて冷めきったコーヒーなどとは全然違う、例え同じ銘柄だとしても、可愛い女の子が淹れてくれたコーヒーというだけで倍も…いや、何十倍も味は違うのだ!

 心の中でそう叫びつつ、ミラーはコーヒーの苦味でリセットした味覚でもう一度マフィンを味わう…まるでスプリングフィールドの優しさを具現化したようなマフィンの柔らかな食感、心を癒すような甘味にミラーの身体に蓄積した疲労もどこかへ吹き飛んでいく。

 

「いかがですかミラーさん、おかわりはまだありますからね?」

 

 そう言って微笑むスプリングフィールド。

 

「…女神は、ここにいた…これがオレのアウターヘヴン…」

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない…美味い、本当に美味い。是非、是非君を糧食班に配属したいと思うッ! 君ならレトルトカレーやマウンテン○ューやペ○シNEXを超える衝撃の食糧を開発してくれるはずだ!」

 

「落ち着けカズ!」

 

 熱のこもった様子でスプリングフィールドに迫るミラーを、スコーピオンは見事なCQCで投げ飛ばす。

 

「ハッ、オレとしたことがすまん…」

 

「え、ええ…大丈夫ですよ」

 

「全く、スプリングフィールドに手を出したらあたしが承知しないからね。というか頭から甲板に叩き付けたのによく平気だね」

 

「ああ、こう見えてタフだからな」

 

 ずれたサングラスを直し、そろそろかと、ミラーは上空を見つめる。

 つられてスコーピオンらも空を見上げると、遠い空のかなたから一機のヘリがマザーベースに向けて近づいてくる。

 ヘリはマザーベースを旋回し、設けられたヘリポートへと着陸する。

 出迎えのために駆け寄ったスコーピオンであったが、ヘリのドアを開けて出てきたのは処刑人であった。

 

「邪魔だよポンコツ」

 

「うるさいな、あんたに用はないよ」

 

「あ?また泣かされたいの?」

 

「やめないか」

 

 一触即発の空気の二人を、少し遅れてヘリから降りてきたスネークが戒める。

 それでもにらみ合いを止めない二人を遠ざける。

 

「スコーピオン、お前が過去に受けた仕打ちを許せないでいるのは分かるが彼女はもう仲間だ、そんな目で見続ければ彼女もお前に壁をつくることになるんだぞ」

 

「ははは、分かったかポンコツめ」

 

処刑人(エグゼ)、お前もだぞ! 確かにお前のある程度の自由は認めたが、仲間を侮辱することはオレが許さん。オレたちはMSFという名の家族だ、家族を蔑ろにするな」

 

「う、分かったよ…そんな怒らなくてもいいじゃんかよ…」

 

 スネークに叱られ少し哀しそうな表情を処刑人は浮かべ、恨めしそうにスコーピオンを見つめるが、スネークの厳しい視線を受けてそっぽを向く。

 

「オレの事見てくれって言ったけど、そんな風に見られるのはイヤだよ…」

 

「だったら態度を改めることだ。次に仲間を傷つけるようなことをしたら本気で怒るからな。仲直りの握手でもしておけ」

 

 言われた通り渋々、といった様子で二人は握手を交わすが、やはりというべきか二人とも相手の手を握りつぶそうと力をこめている。

 そんな二人を見逃すはずもなく、スネークの怒りのげんこつが二人の脳天に振り落される…共通の痛みを味わい、ようやく静かになる二人にスネークはあきれ果てる。

 

「任務お疲れさまだな、ボス」

 

「基地の様子はどうだカズ」

 

「みんなよくやってくれてるよ。実は良い知らせがあってな、かねてから付き合いのあったPMC4社がオレたちと合流したいという申し出があったんだ。悪い話しではないから承諾しておいたよ」

 

「ほう、だが彼らは協定がある身だろう。協定を引っ提げたままではオレたちとは共に歩けないと思うが」

 

「いいやボス、それが彼らは一度会社をたたんで協定から離脱した上で、新たな組織として加わりたいと申し出てきた。彼らもオレたちの戦闘を見て感じるものがあったのだろう」

 

 レイヴン社、ウルフ社、オクトパス社、マンティス社は今どきこの世界では珍しい人間を主体にしたPMCであった。

 確実な仕事をこなすことでスネークらの評価も高い会社であったが、大手PMCとの競争を続けていくことは難しかった…そんな時現われたMSFという存在に希望を見出し、彼らはその傘下へ加わることでこの競争を生き永らえようとしている。

 

 にこやかに話すミラーに、実はこちらも良い知らせがあるとスネークが言うと、ますますミラーは上機嫌になる。

 

「鉄血の旧エリア…処刑人(エグゼ)が支配していた領域だが、まだ誰も手を付けていなかった。それでセキュリティを再設定して稼働させ、工場も小規模だが動かせた」

 

「それはつまり…?」

 

「ああ、じきに鉄血製の戦術人形が生産されるだろう。AIの再設定はストレンジラブが取り掛かる、鉄血勢力のAI管理下から切り離してMSFの指揮下につける…これから色々な問題は出てくるだろうが、希望は見えてきた」

 

「凄いじゃないかスネーク! 処刑人を仲間にするのは反対だと言ったが取り消すよ! 強力な味方だな!」

 

「それだけじゃない、ヒューイによると工場の設備を使用し新しい兵器の生産も可能らしい。ZEKEの改良も大きく進むだろう」

 

「おぉ! 盛り上がってきたなスネーク!」

 

 続く朗報に、ミラーのテンションは過去最高に高まっていた。

 PMC4社の合流と、鉄血の生産工場の確保によって現在MSFを悩ませる問題は大きく改善されるはずだ。

 軌道に乗り始めるのにはしばらくかかるだろうが、それでも十分すぎる朗報である。

 

「君を疑っていたことは謝る。礼を言わせてくれ処刑人、オレたちとの間には色々あったが副司令として君を正式に受け入れよう」

 

「ああ、そう…なんだっていいよ…」

 

 スネークに叱られたのがショックだったのかいじけたままで、気のない返事を返す処刑人。

 スコーピオンの方も小さい声ですすり泣いていて、スプリングフィールドに慰められている…どこからかスネークを咎めるような視線が向けられるが、目を合わせようとすると兵士たちはそそくさとその場を立ち去っていく。

 

 思春期の女の子の相手は難しいな…葉巻に火をつけ小さな声でぼやくスネーク。

 

 伝説の傭兵と言われる彼も、思春期の少女の心にはお手上げであった…。




クルーガーさん「中国にはね、"匹夫の勇、一人に敵するものなり"っていう諺があるの。無闇に戦いを求める愚か者の勇気は、一人の敵を相手にするのが精一杯って意味よ。M4はたった一人で敵の中に潜入してるんだから、やたらと戦闘を仕掛けたりしないで、慎重に行動してね」

ヘリアンさん(このおっさん、なに言ってんだ?)

発狂大佐ネタ、まだまだ続きます



そういえばここまで書いといてなんですが、わたくしの本命はGr MG5ネキなのです

あと処刑人をいつまでも処刑人と呼ぶのは物騒な気がしますので、みんな彼女をエグゼと呼んでます。


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マザーベース:処刑遊戯

「ようこれからよろしくな!」

 

「本物のPMCがやって来たぞ、お前らすっこんでな!」

 

「バカ言うんじゃない、お前らがやる前にオレたちが敵をぶちのめすさ」

 

 前哨基地に到着したばかりの新顔の兵士たちは、あいさつ代わりの軽口を叩き合い握手を交わす。

 新顔と言ってもみな歴戦の兵士たちだが、温かい歓迎をもって受け入れられた彼らもその様子に満足げだ。

 

 

 ミラー主導のもと進められていたPMC4社との合流は、結果的には成功をおさめることとなった。

 戦闘で失った兵士の補充という意味でも、本格的に合流したことでMSFはこの世界特有のテクノロジーを吸収することもできたのだ。

 未知の技術を得ることは研究開発班にも大きな刺激を与えたことだ。

 最近鉄血の工場という大きなおもちゃを手に入れたばかりの開発班は、この合流による技術の獲得に大喜びである。

 さっそくいくつかの開発計画が進められているようだ。

 

 そして合流したPMCはと言うと、一度会社をたたみ、新たな組織として名前を変えて生まれ変わる。

 

 独自の兵装開発を行い先鋭的な装備を配備しているレイブン・ソード社。

 

 正規軍に近い最新鋭の装備を持ちPMCとして、他の3社と比べ最も実戦経験が豊富なプレイング・マンティス社。

 

 某国の元特殊部隊隊長が創設し多数の特殊部隊出身者が在籍するピューブル・アルメマン社。

 

 人間主体のPMCの中で軍用人形を採用し、人間と人形の部隊編成を行っているウェアウルフ社。

 

 それぞれに特色のある部隊は軍事面でも技術面でもMSFの強力な味方となることだろう。

 今のところ人間の兵士がMSFに参画しているが、唯一戦術人形を配備しているウェアウルフ社からはMSFの鉄血戦術人形の開発に、彼らが持つ技術の提供を受ける計画が進められている。

 

 

「短い期間でずいぶん賑やかになったもんだな」

 

 

 PMC合流によって人員の増えた前哨基地の様子を、スネークは葉巻を嗜みつつ眺めていた。

 そんなMSFの総司令官の言葉に納得するようにカズヒラ・ミラーは満足げに頷いている。

 いまやMSFの全ての班が良い意味で忙しく動き回っており、特に研究開発班は寝る間も惜しんで開発に没頭している…休みなく働く様子は世間ではブラックと言われるようだが、そう言われることは開発班にとって最大の侮蔑に等しい。

 前に一度研究開発班の労働環境を改善しようと声をあげたスタッフたちがいたが、それはとうの研究開発班による猛反対を受けて挫折したことがある。

 

 

 我々は好きで研究開発を行っているのだ!

 我々から仕事の時間を奪うな!

 

 

 それが研究開発班の言い分である。

 

 今のところ研究開発班はエグゼの協力で手に入れた鉄血の工場を稼働させ、独自の戦術人形開発に没頭しているほか、ヒューイによる歩兵支援兵器の開発の二つがメインプロジェクトとして進められている。

 研究開発班のこのプロジェクトが成功した時、MSFは盤石の地盤を得ると言っても過言ではない。

 

 すべてが順風満帆、後は余計な連中に絡まれなければ問題はないだろう。

 なのだが…。

 

「なあカズ、おもうんだが…彼女たちは妙にやさぐれてないか?」

 

「ボス…ほぼアンタのせいだぞ?」

 

「意味が分からないな…」

 

「そういうところだよ、ボス」

 

 

 最近の戦術人形たちはなぜだかストレスが溜まっているようで、みな不審な行動をとっているようで、言いようのない恐怖感にスタッフたちからも苦情がスネークのもとに届けられている。

 スコーピオンはイライラしたようにその辺を徘徊し、スプリングフィールドは笑顔を浮かべたまま銃剣をひたすら研いでいる、9A91は開発班に作らせたスネーク人形を抱きしめてその人形に話しかけている。

 見るからにやばい精神状態に陥っていることに、スネークは全スタッフの中で最も遅くその異変に気がついた。

 

 唯一まともなのはWA2000だ、殺伐とした雰囲気の戦術人形に混じり呑気にスイーツを頬張っているところは流石というべきか。

 

 ミラーとスタッフたちからの咎めるような視線をうけても、スネークは納得がいかない様子だ…。

 

 

「ようスネーク、ここにいたんだな!」

 

 そんなスネークに背後から抱き付いていった処刑人(エグゼ)

 その瞬間スコーピオンは狂犬のように唸り声をあげ、スプリングフィールドは銃剣で砥石をぶった切り、9A91はスネーク人形の首を絞めながら無表情で睨む…WA2000はアイスを食べている、とても美味しそうだ。

 

「エグゼ…いきなり後ろから飛びつくな。お、新しい装備を貰ったのか?」

 

「気付いた? 研究開発班がオレの専用装備を作ってくれたんだ」

 

 エグゼの今の装備は全身を包む特殊な強化服と防刃・防弾コート、小口径だが装弾数と連射力をあげたハンドガン、それから彼女の象徴とも言える剣は完全に作り直され以前と比べ細身の刀となっている。

 これらの装備はPMC4社が合流して得た技術と、以前から研究開発班が構想していたアイデアを融合させて造りだしたものだ。

 防刃・防弾コートはその名の通りある程度の刃物や銃弾から守ってくれるが、大口径の銃火器には効果をなさない。

 そして新たに作られた刀だが、これはレイヴン・ソード社からの技術提供によって生み出されたものだ。

 まだ試作段階で改良の余地はあると言うが…研究開発班はこれを高周波ブレードと呼んでいる。

 

 そして彼女の体表にぴったりと密着した強化服。

 スニーキングスーツをベースに装備した者の身体能力を高めるために特殊な素材と技術を用いている。

 さらに体表に密着させることで内臓器官の保護と強度の向上も兼ねているほか、密着させることでの止血効果も得られているのだ。

 研究開発班の熱意と願望を持って開発されたこの強化服は、いずれ生産されるであろう鉄血兵の装備としても既に量産が始まっている。

 

「着るのはちょっと面倒だけど、ぴったりしてて着心地はいいんだぜ?」

 

 そう言って、両手を広げて見せびらかすエグゼ。

 

 以前のノースリーブにショートパンツスタイルと比べると明らかに肌の露出は減ったが、身体に密着する強化服を着ているために彼女のボディラインがはっきりとし、きつめの強化服で窮屈そうな胸がとても…。

 生意気だがそういった情報には疎いエグゼは男性陣の視線が釘付けになっていることも知らずに、惜しげもなく鍛え抜かれた肉付きの良い身体を見せびらかす。

 

「いいセンスだ…」

 

「そうだろう! これさえあればどんな敵もぶちのめせるさ、サンキューなスネーク!」

 

 無邪気な笑顔でスネークの腕に抱き付くエグゼ…伝説の傭兵と言っても立派な男だ、美少女に抱き付かれていることにまんざらでもない様子のスネークだが…。

 背中から絶対零度の殺意を向けられていることに気付き、何かを思いだしたように足早に立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だああぁぁッ! スネークのバカバカバカッ!」

 

 部屋に戻ったスコーピオンは先ほどの出来事を思い出し荒れに荒れていた。

 部屋にはりつけてあったスネークの写真を引っぺがして叩きつけ、そこに枕やらクッションなどを投げつけ怒りを発散させるがスコーピオンの気持ちはおさまらない。

 

「あたしというものがありながら、スネークったら、わからずやの、あんぽんたんの、朴念仁ッッ!」

 

 もう投げつけるものが無くなった部屋で息を乱し、しばらく写真を睨みつけていたスコーピオン…呼吸が落ち着いたところで、スコーピオンは壁から引き剥がした写真を手に取ると、写真の中のスネークをそっと指で撫でる。

 そうしていると部屋がノックされ、扉が開かれる…そこには今最も見たくないエグゼの姿があり、咄嗟にスコーピオンは近くにあった枕を投げつける。

 

「なにお前、ケンカ売ってるの?」

 

 しかし投げつけた枕は容易く受け止められ、逆に枕を顔面に投げつけられる。

 

「なにしに来たんだよ…!」

 

「別にお前に用はねえよ……」

 

 そう言って、エグゼは部屋を見回し小さく舌打ちをする。

 

「汚い部屋だな…虫かごみたいだ」

 

「誰のせいでこんなになったと…って、勝手に入ってくんな!」

 

「うるせえ、こう汚い部屋がそばにあっては気持ち悪い…掃除だ掃除」

 

「余計なお世話だッ!」

 

 ずかずかと入ってきたエグゼに唸って威嚇するが、意に介さず彼女は部屋を片付けていく。

 しばらく文句を言っていたスコーピオンだが、丁寧に物を片付けていくエグゼにいつまでも突っかかっているのがバカバカしくなり、自分も一緒に荒れた部屋の後片付けを進めていく。

 

「ちょ、それは捨てちゃダメだってば!」

 

「いらねえだろこんなの、処分だ」

 

「あーもう! だいたい終わったでしょ、はいはいありがとさん、さっさと出てってくれないかな!?」

 

「まだだ、ベッドの下と窓が汚れてる」

 

 スコーピオンの性格上細かい部分の清掃は疎かになっていたが、そこがどうしても気になるようで、結局エグゼが満足いくまで清掃は続く。

 おかげでスコーピオンが暴れる前よりもはるかにきれいな状態となり、本棚やタンスなどもきちんと整頓されるようになった。

 

「あんた結構きれい好きなんだね…」

 

「普通だろ」

 

 彼女の素っ気ない返事に気の抜けたため息をこぼす。

 もう気が済んだのならとっとと出てけ、そう言おうとしたところ、エグゼが壁に戻した写真を興味深そうに見つめているのに気付く。

 先ほど引っぺがしてストレス発散に使っていたものだが、捨てるのもなんなので戻しておいたものだが…。

 

「なに見てんの…?」

 

「いや…ただスネークの奴、お前らと一緒にいるとこんな風に笑うんだなって思ってさ」

 

 覗き見た写真は、マザーベースで行ったバーべーキューを撮った写真だ。

 笑うスコーピオンの隣で、笑顔を見せているスネーク…まだエグゼがMSFの一員になる前の日常の写真だ。

 

「オレは、あいつの笑顔をまだ見たことがない」

 

「でしょうね、四六時中ストーカーみたいに付きまとわれたら誰だって笑ってなんていられないよ」

 

 日頃の怨みを言葉に出して皮肉るがそれを聞いてか、エグゼは胸に手を当ててもの哀しそうな表情で視線を落とす…。

 

「ごめん…言い過ぎた…」

 

 そんなエグゼの予想外の反応に、少し罪悪感を感じたのか謝罪の言葉をスコーピオンは口にする。

 

「邪魔したな…」

 

 そう言って、エグゼはとぼとぼと部屋を出ていった。

 

 一人になった部屋でスコーピオンはきれいになったベッドに横になり天井を見つめる。

 あんなに嫌いだったエグゼだが、最後に見せたあの哀しげな表情を見て意地になっていたわだかまりがなんだかバカバカしく思えてくる。

 スネークを独占されている状況だが、エグゼの知らないスネークを自分は知っている…そう思ったスコーピオンはちょっぴり優越感を感じるとともに、エグゼも必死なんだなと思い、思わず笑みがこぼれる。

 

「ま、オセロットの言う通りああ見えて思春期の小娘だもんね、先輩として堂々としないとね」

 

 そういえばどさくさに紛れて写真を盗まれたと気付くのにものの数分とかからなかったスコーピオンである…。

 

 

 

 

 

 

 スコーピオンの部屋を出たエグゼは、盗んだ…というよりそのまま持ってきてしまった写真を眺めつつ当てもなくマザーベースを歩いていた。

 たまに声をかけてくれる兵士たちに返事もせず、ただ写真の中で笑うスネークを見つめ続けていた。

 そんなものだから、通路の角を曲がって来た人と真正面からぶつかってしまう。

 

「イテテ、悪い…よそ見してた」

 

「いえ、こちらこそ…ってエグゼ?」

 

 正面衝突をしたのは9A91であった。

 体格的にエグゼの方が大きいため、より小柄な彼女は壁に頭をぶつけとても痛そうにしている。

 

「ところで何やってんだこんなところで」

 

 倒れた9A91に手を貸しつつエグゼがそう聞いた。

 スネークを巡って不毛な争いを繰り広げているが、この二人は案外気を許しあった仲である…先の戦闘で互いの遺恨を清算し、以来互いにスネークに忠を誓った間柄と戦士と認め合った仲でもあるからだ。

 

「これから司令官のお部屋に行くところでした」

 

「スネークの部屋? スネークは任務に出てるからいないはずだろ?」

 

「はい知ってますよ」

 

「いや知ってるってお前…まさか不法侵入かよ」

 

「お部屋の掃除です、何もやましいことなんてありません」

 

「あ、そう…」

 

「エグゼも一緒に行きますか? 部屋の掃除」

 

「じゃあ…行くか」

 

 同行を決め、清掃用具を手に偽装(カモフラージュ)をし、二人は意気揚々とスネークの部屋へと向かっていった。

 鍵のかかった扉を9A91は慣れた手つきで開錠し、部屋の中に入る。

 

「さ、掃除の始まりです」

 

「おいおい、本当にいいのかよ…」

 

 さすがにまずいだろうと躊躇するエグゼだが、9A91は今更止まるつもりはないようで掃除機を手に取る。

 だが掃除機を起動させゴミを吸い取るのかと思うと、掃除機を放置し辺りを物色する。

 

「なるほど、掃除機の動作音で物音をかき消す作戦だな…お前やっぱ頭おかしいな」

 

「普通です」

 

 称賛と呆れの入った目で見るエグゼをよそに、ごそごそとベッドの下から何かを取り出す…それは盗聴器、スネークのプライバシーを解き明かす重要アイテムだ。

 だが9A91は顔をしかめ盗聴器を乱雑にポケットにぶち込む。

 

「盗聴してたのがばれてたみたいです、壊れてました。さすが司令官です、もっと小型のものを研究開発班にお願いしないと…」

 

 それから部屋に置いた額縁や花瓶を調べるも、どれも9A91が狙っていた戦果は得られていないようだ。

 さすがは伝説の傭兵、思春期少女の微妙な心の悩みは読めなくても、盗聴や盗撮の類には人一倍敏感な男だ。

 

「うーん…全滅ですね」

 

 諦めて掃除を始める9A91、スネークが帰ってくる前に証拠隠滅を図る狙いだろう。

 ここまで当たり前のように行動している彼女の姿にあきれ果て、エグゼはベッドに腰掛けた。

 

 そんな時、そういえばスネークの部屋にいるんだよなと改めて自覚したエグゼは急に恥ずかしくなってきたのか、雪のように白い肌を少し紅潮させる。

 スネークがいつも休んでいるであろうベッドに手をのばし、そっと横になる…。

 洗濯したばかりの柔らかなシーツの香りが心地よい。

 そのままベッドに身体を横たえ目を閉じてみる。

 

「スネークはこのくらい固いベッドが好きなんだ……って、なにやってんだオレは!? あぶねえな全く」

 

 我に返ったエグゼであるが、ふと触ったベッドの下の感触に違和感を感じ、ゆっくりとそれを引き抜いていく。

 

「う…! こ、この本は…!」

 

 見つけ出してしまった"雑誌"にエグゼはおもわず赤面する。

 咄嗟に投げつけた"雑誌"は壁にあたって床に落ち、適当なところでページを開く…。

 こういった内容に耐性が無いらしく、恥じらうエグゼだが全く興味がないわけではないようでおそるおそるその"雑誌"の前でしゃがみこむ。

 つられて9A91もその場にやって来て一緒にしゃがみこむ…。

 

「スネークの奴…なんてもの持ってんだよ…!」

 

「わたしという存在がいながら…許せません」

 

 それでも興味津々とページをめくっていく不法侵入者二人。

 

「スネーク、胸が大きい女が好きなのかな…」

 

 "雑誌"に掲載されている女性は皆それはもう立派なものの持ち主ばかりだ。

 頬を紅潮させつつ少し自信が無さそうに自分の胸を触るエグゼ、ふと前を見ると貧相な胸を恨めしく睨む9A91の姿があり、トラブルを避けてそっと胸から手を離す…。

 

 

 

「なにやってんですかあなたたちは…?」

 

 

 不意に声をかけられ、二人は飛び上がる。

 振り返った先にはかわいそうな人を見るような目で見下ろすスプリングフィールドがいる。

 ため息をこぼし、呆れたように説教を行う彼女に二人は何も言い返すことができなかった。

 

「全く、不法侵入に加えスネークさんのプライバシーを侵害するような行為…ばれたら嫌われてしまいますよ?」

 

「それは困ります!」

 

「嫌われるだって!?」

 

 スネークに嫌われる、という言葉は二人にとって抜群の効果を発揮するようで死刑を宣告されたかのように怯える二人…そんな二人の様子に何か思いついたのか、スプリングフィールドは黒い笑みを浮かべた。

 

「あーでもどうしましょうかね…これは本人のためにもお知らせした方が良いのかもしれませんね。わたしがスネークさんに言わなかったらあなたたちまた何かしでかすでしょう?」

 

「ごめんなさい、スプリングフィールドさん、見逃してください…!」

 

「頼むよ、なんでもするからさ、黙っててくれよ…!」

 

「ん? 今なんでもするって言いましたね…?」

 

 言質を得たスプリングフィールドは清々しいほどの笑顔を振りまき二人に微笑みかける。

 やっちまったと頭を抱えるエグゼと9A91に邪悪な笑みを浮かべつつ、スプリングフィールドはこの事を黙っている代わりにある条件を二人につきつける。

 それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようスプリングフィールドちゃん、今日もかわいいね!」

 

「もう、褒めてもお安くできませんよ?」

 

「本音を言ったまでさ、ところで新人さんの様子はどうだい?」

 

「ええ、とってもよく働いてくださるんですよ? とても大助かりです、これならお店を開く日も増やせそうですね」

 

 

 そこはマザーベースで不定期に開かれる憩いの場。

 スプリングフィールドが空いた時間にカフェを開き、得意の料理と美味しい飲み物をご馳走するMSF糧食班協賛のお店だ。

 看板娘でありオーナーのスプリングフィールドは、戦術人形として戦場での任務もあるためにカフェを開ける日というのは少ない。

 せめてお手伝いがいればと、スプリングフィールドは常々思っていたのだが、ついに念願かない二人の協力を得ることができた。

 

「お待たせしましたコーヒーとケーキです! はい、お待ちください、すぐに伺います!」

 

 小奇麗な白いメイド服に着せ変えられ、込み合ったカフェを忙しく動き回る9A91、スネークに嫌われたくない一心で働く彼女にスプリングフィールドはとても大助かりだ。

 

 

「ほらエグゼさんも、いい加減出て来たらどうですか?」

 

「う、うるせぇ! こんな、こんな変な服着させやがって…!」

 

「あら、とってもかわいいですよ?」

 

 厨房の奥にうずくまって隠れているエグゼは、9A91のものとは対照的な丈の短い黒いメイド服を着せられている。

 服のサイズが若干合わないのか、へそ周りの肌が露出しスカートも精いっぱい引っ張ってようやく下着が隠れるほどだった。

 

「ほら、とってもかわいいですから…ね? みなさんにお披露目しましょうよ」

 

「チクショウ…お前後で殺してやる…!」

 

 観念したのか、ゆっくりと厨房から出ていったエグゼ。

 エグゼがカフェに姿を見せると拍手をもって迎えられ、歓声や口笛が吹かれる…そっと様子を見守っていたスプリングフィールドも満足げに頷く。

 

「さ、さっさと注文しやがれ…!」

 

 屈辱に目を潤ませながら睨みつけるが、いまいち迫力がない様子…むしろそんな姿が一部の兵士にウケたのか再び盛大な拍手が起こる。

 

「ヒューヒュー! エグゼちゃん可愛いよー!」

 

 いつの間にか混ざっているカズヒラ・ミラーの掛け声でカフェの兵士たちは一層の盛り上がりを見せた。

 

 その日の運営は過去最高の集客数を得ることができたが、スプリングフィールドが思う静かで心休めるようなカフェ…というコンセプトからは程遠いため、二人の助っ人はその日限りのものとなった。

 だがエグゼの貴重なコスプレ写真はカズがしっかりと写真におさめ、周囲に無償で配られていたためしばらくの間エグゼは屈辱の毎日を送るのであった…。

 

 後日、マザーベースの甲板につるし上げられたカズの姿があったとかなかったとか…。




鉄血兵+強化服+ヘルメット+P90=ヘイヴン・トルーパー(カエル兵)
これでいきます(笑)


次回予告!

特殊部隊編成!

MSFにもAR小隊とか404小隊とか叛逆小隊みたいなのが欲しいのじゃ


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FOXHOUND

中東地域、某国―――。

 

 かつてそこはシルクロードの中継地として栄え、歴史あるモスクや宮殿と古い町並みが並ぶ美しい国であった。

 第三次世界大戦の戦火から逃れ、大量破壊から国土を守ることができたが、その後の世界情勢の混乱と国内の問題がいつしか紛争へと発展していった。

 政府軍と革命を目指す反政府勢力の戦いは数年以上も続き、かつて世界遺産にも登録されていた美しい町並みは破壊され、廃墟と化している。

 戦争が恒常化し、戦場はいつしかこの国に取って日常となる…連日ニュースをにぎわせているのは政府軍と反政府軍との戦闘の様子だ。

 

 国の放送局を牛耳っているのは政府側だ。

 連日流されるニュースでは政府軍の戦果を誇張して報道し、都合の悪いニュースは国民に知らせずプロパガンダを流し続ける。

 だがある日を境に、放送局は政府側のプロパガンダ放送を止めると、独裁政権の批判や国民の自由を促すような放送へと変わっていった。

 それとほぼ同時期に、政府軍側は反政府勢力に対しあらゆる戦場で敗走を繰り返していくのであった。

 

 日頃政府のプロパガンダを見続けていた国民は隠されていた真実に戸惑い、あるいは共感し反政府勢力に寝返る者も次々に現われる。

 政権打倒を掲げた民兵たちは反政府勢力に合流しさらに政府軍は追い込まれる。

 もはや政権側に残されているのは首都と一部の都市のみ…戦火を恐れて既に大量の国民が難民として国外に逃げ出し、逃げ遅れたものは戦場の中に取り残される。

 革命の気高い精神の裏で行われる虐殺や強姦、力なき人々は誰にも助けを求めることもできずに蹂躙されていく。

 

 

 そんな中東の滅びかけた国家の最後の防衛線にて、最後の攻勢が繰り広げられている。

 ギラギラとした灼熱の日差しの元、首都のあちこちで黒煙が上がり銃声と爆発音が響き渡る。

 最後まで政府と大統領を信じ首都まで逃げ延びた国民にもはや逃げ場などない、どこもかしこも戦場となり放たれた砲弾が住居を吹き飛ばし兵士、一般人の区別なく命を奪う。

 町の外では政府軍側の増援部隊がなんとか首都の防衛を果たそうとしているが、彼らは首都の防衛軍からも切り離されていく…。

 

 

「なんとしても首都の防衛軍と合流するんだ!」

 

 

 増援部隊を指揮する将校がそう叫ぶが、彼らを足止めする部隊の頑強な抵抗に合い思うように行動できないでいる。

 政府軍と対峙しているのは統一された装備を身に付け先進的な武装をした部隊だ。

 寄せ集めの反政府勢力とは明らかに練度の違うその部隊を政府軍の将校は忌々しく睨む。

 

 プレイング・マンティス社。

 一度解体しMSFと合流し再度組織を立て直したそのPMCは今やその存在を知らないものはいない。

 プレイング・マンティス社だけではない、MSFに合流したPMCは世界中にビジネスを展開しあらゆる戦場にその戦闘力を売り込んだ。

 直接の戦闘の他、兵站・警備・訓練を生業とし徐々にMSFを中心としたPMCは拡大しつつある。

 

 政府軍の戦闘員の果敢な攻撃と、政府軍が所有する軍用人形の攻撃も合わさり、ようやく彼らはプレイング・マンティス社の強固な防御陣を崩す。

 ようやく開けた突破口に雪崩れ込む政府軍と、徐々に後退していくプレイング・マンティス社…。

 プレイング・マンティス社の傭兵たちを追って市内に再突入した政府軍だが、さっきまでそこにいた傭兵たちは姿を消していた…大した抵抗もなく奥に進んでいく政府軍だが、不安に駆られた将校が部隊を停止させた。

 

 そんな時、戦場には似つかわしくない牛のような低い鳴き声があちこちで聞こえてきた。

 その鳴き声は徐々に部隊の近くにまで接近してくる…。

 

 街の向こうで何かが跳んだ。

 次の瞬間、ソレは彼らの目の前に降り立つ。

 

 

「な、なんだこいつは…!」

 

「化物だ!」

 

 

 それは有機的な二本の足を持った5メートルほどの異様な兵器であった。

 街の向こうで跳躍する兵器は一瞬で部隊の目の前にまで着地し、着地と同時に兵士たちを踏みつぶす。

 恐慌状態に陥る兵士たちは銃を乱射するがその兵器の装甲の前に全て弾かれ、銃弾をものともしないその兵器は一気に走りだすと、巨体を兵士たちにぶつけ弾き飛ばしていく。

 退却しようにもその兵器は跳躍して一気に移動し退路を塞ぐ、前後左右を囲まれた部隊は機銃による掃射、強靭な脚で蹴り殺され命を落としていく。

 

「これは夢だ…! 一介のPMCが、国を崩壊させるなどと…あってはならない…!!」

 

 一人また一人と部隊が蹂躙されていく様を、将校はただ茫然と見ていることしかできない。

 そんな将校に兵器は近付いていき巨大な脚をゆっくりとあげる…。

 

「か、神よ…何故我らを見棄てたのか…!!」

 

 跪き、銃を手放した将校の頭を、その巨大な脚で無慈悲に踏みつぶす。

 部隊を殲滅した兵器達はその場に緑色の排液を垂れ流し、次なる戦場へ向けて跳んでいく…。

 

 

 

 

「見なさい、国家の終焉よ…」

 

 戦火に晒される首都の外れで戦場を一望する一人の少女。

 左目に縦に走る傷痕のあるその少女は、時折双眼鏡を手に戦場を見回し端末に情報を打ちこんでいく。

 

「PMCが政権を崩壊させるなんて前代未聞ね…それで、グリフィンが高い報酬をくれそうな情報は得られたの?」

 

「戦闘をおさめた映像以外に? メタルギアZEKEって言ったかしら…M4がグリフィンに持ち帰ったあの映像に比べたら驚きは少ないかもね」

 

「あの女の話しは止めてくれる?」

 

「あなた本当にAR小隊が嫌いなのね…あ、見て、大統領官邸が陥落したわ。長かった内戦も終わりね」

 

 双眼鏡で見る先では、大統領官邸から手を挙げて投降する政府軍兵士たちがぞろぞろと出てくる。

 官邸に掲げられた国旗は引きずり降ろされて燃やされ…。

 熱狂する反政府勢力は新たに自分たちのシンボルを掲げ歓声をあげている。

 

 そんな中、もう一つのシンボルが街の中心部に掲げられる。

 黒地に白い髑髏が描かれた巨大な旗、宮殿の屋根の上でその旗を誇り高く掲げているのはかつて鉄血のハイエンドモデルと言われていた処刑人。

 

「OUTER HEAVEN…MSFを母体にPMC4社が合流して生まれた連合PMCってところかしらね。クルーガーもこんな短期間にここまで拡大するなんて思ってもなかったでしょうね…」

 

 旗を誇らしげになびかせ、勝利の余韻に浸っている処刑人の姿を…UMP45は笑みを浮かべつつ観察していた。

 処刑人の傍に控えているのは強化服に身を包み直立不動のまま並ぶ戦術人形の姿がある…鉄血の工場を獲得したMSFが生み出し、新たな使命を宿し生まれた最新鋭の戦術人形だ。

 

「45姉、ただいまー!」

 

「あらおかえり(ナイン)…あいつらの様子はどうだった?」

 

「もー最悪だったよ、あと少しで捕まるところだったんだから…MSFの諜報班ってかなり危険だよ」

 

 新たに現われた茶髪の少女UMP9は疲れ果てたようにその場に横たわる…。

 

「使えないわね、調べ物の一つもできないって言うの?」

 

「まあまあ落ち着きなさい416、MSFの諜報班は優秀よ、無理もないわ…あの男の目の黒いうちはこれ以上の情報入手は難しいかもね。ところでG11は?」

 

「あっちの木陰で寝てるよ、あのこも追われて流石に疲れたみたいだよ」

 

「そう、今は休ませておきなさい。一時間後に出発よ」

 

「今度はどこに向かうの?」

 

「さあどこかしらね…もう連邦政府も黙っていないだろうし、新しい戦争が起きるかもね。鉄血だけに構ってる場合じゃないわ。それにしても興味があるわね、BIGBOSS…どんな人なのかしら?」

 

 内戦の終結を見届けたUMP45はまだ見ぬMSFのカリスマへの興味を隠しきれず笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボス、話しがある」

 

 任務からマザーベースに戻ったばかりのスネークをオセロットが呼び留める。

 諜報班のトップとしてあちこち駆けまわっているオセロットと戦場を渡り歩くスネークが会うのは実に久しぶりだ。

 久しぶりに会った挨拶もそこそこにオセロットはスネークを司令部の一棟へと連れていく。

 

「ボス、404小隊という名を聞いたことは?」

 

「いや、それがどうした…?」

 

「最近こそこそオレたちを嗅ぎまわっている戦術人形の部隊だ。雇い主はおそらくグリフィン…」

 

 エグゼとの戦闘以来、たまにコミュニケーションをとっているグリフィンだが、友好的な関係…とは言えない間柄だ。

 かといって対立しているというわけでもなく、いうなれば互いの腹を探り合っている状態にある。

 先の戦闘で勝利したことも要因の一つだが、鉄血の工場を獲得し支配地域を大幅に拡大したことが大きく影響している。

 協定に囚われないMSFの拡大はグリフィンにも危機感を抱かせ、周辺諸国との軋轢も考慮してのことだ…グリフィンとしてはこれ以上のMSFの拡大は望んでいないということだ。

 

「いずれ404小隊が現れるかもしれないが、絶対に信用するな。スパイだからな」

 

「お前がいなかったら見逃していただろうな、頼りになるぞオセロット」

 

「そんな悠長な事を言っていていいのか? まあ、褒め言葉として受け取っておこう」

 

 素っ気ない物言いだが、どこか誇らしげなオセロットである。

 

 さて、彼がスネークを引っ張っていった先の部屋では既に何人かが待っていたようだ。

 その中の一人、エグゼはスネークを見るや否や小走りでそばに駆け寄ってくる。

 

「スネーク、初仕事大成功だ! 作戦成功、反政府軍の勝利に貢献してきたぜ!」

 

「よくやったなエグゼ、大したもんだ」

 

「えへへへ…」

 

「し、司令官…! 9A91も作戦を成功させました!」

 

 一緒に部屋にいた9A91も負けじと戦果をアピールする。

 二人の頭をまとめて撫でて褒めてくれるスネークに、二人は嬉しそうに笑う。

 

「で、なんでわたしもよばれたのよ」

 

 褒められて喜んでいる二人の背後では、つまらなそうに椅子に座るWA2000がいる。

 部屋にはもう一人"マシンガン"キッドの姿もあるが、ソファーに身体を横たえていびきをかいて寝ている。

 

「お前たちに集まってもらったのはほかでもない、こんど新設する特殊部隊の候補として選抜したためだ。ボスは諜報と戦闘の両方を兼ねる部隊の新設をお望みだ」

 

「ふーん…スコーピオンとかは呼ばなくてもいいの? あいつこういう場からはぶられたらキレるわよ?」

 

「この特殊部隊は馴れ合いで組織するつもりはない。ここ数週間の戦闘記録を元に優秀な成果を収めているかどうかオレが判断し選抜した…確かにスコーピオンのボスへの忠誠心は疑いようもない。だがあいつはまだ戦闘面での未熟さが目立つ、スプリングフィールドは性格上単純に向いていない…」

 

「そ、そう…でもわたしなんかでいいの?」

 

「オレがお前を選抜したんだぞ、何か不安でもあるのかワルサー?」

 

「い、いや、別にないわよ…!」

 

 赤くなってもじもじしているWA2000から目を逸らし、いまだソファーで寝ているキッドを一瞥する。

 現在のMSFにおいて彼の戦闘力は生身の人間ではトップクラス、スネークやオセロットに次いでエイハヴとも並ぶ戦闘力の持ち主だ。

 エイハヴは前哨基地の部隊長としての都合上特殊部隊への加入は見送られたが、代わりに元SASとして特殊部隊への入隊経験があるキッドが選ばれている。

 

「部隊の名は…FOXHOUND、サンヒエロニモが懐かしいんじゃないかボス?」

 

「オレはとっくの昔に除隊したはずだぞ」

 

「サイファーに対立するあんたにはちょうどいい部隊名だと思うぞ、まあここにサイファーの陰はないがな。言い忘れたが、オレもFOXHOUNDのメンバーになる。部隊の司令官はボスだが、訓練及び指導はオレが行う、いいな?」

 

 WA2000や9A91はそれで受け入れているが、エグゼはそうはいかない。

 仲間になる条件としてスネーク以外の命令は聞かないと宣言しているだけに、自分に命令をしようとしているオセロットの態度は彼女にとっては気にくわない。

 

「不満か、処刑人」

 

「当たり前だよオッサン、なんでオレがお前の命令を聞かなくちゃならないんだ?」

 

「お前が未熟だからだ処刑人」

 

「この野郎…!」

 

 苛立つ処刑人は唐突にオセロットに殴りかかる。

 受ければ怪我では済まされないエグゼの拳をオセロットは容易く交わし、彼女の足を払うと体勢を崩して倒れた彼女の腕をひねり上げる。

 

「調子に乗るなよ、自分がMSFで二番目に強いとでも思ってるのか? 言っておくがお前を部隊に入れることは今でも悩んでいる、精神の未熟さではお前もスコーピオンと変わらんぞ」

 

「その辺にしておけオセロット」

 

「躾がなっていないぞボス、部隊に狂犬はいらない…こいつの指導だけはあんたに任せた方が良さそうだ」

 

 解放されたエグゼは痛めつけられた腕の関節をさすりつつ、スネークの背後に隠れオセロットを睨みつける。

 

「スネーク、オレあいつ嫌いだ…!」

 

 スネークのかげに隠れて威嚇するさまは、たしかにオセロットの言う通りまだまだ未熟な少女の姿だ。

 その姿はどことなくオセロットの訓練を受け始めたばかりのスコーピオンの姿にも酷似している、どことなく似たような行動をするエグゼにWA2000と9A91はおもわず微笑む。

 

 

「FOXHOUNDの正式な結成はまだまだ先だ、だが選ばれたからと言って油断するな。少しでも見込みがないと判断すれば外していく、それを忘れるなよ」

 

 

 オセロットの最後の言葉に、戦術人形たちは気を引き締め直す。

 以降、MSF初の特殊部隊FOXHOUNDに加わるための熾烈な競争が始まる。

 それは彼女たちだけでなく、優秀な兵士たちにも広がっていくのであった…。




オセロット「いつまでもヤンデレを見過ごしていると思うなよ小娘ども」

やっぱオセロットがメインヒロインでカズがサブヒロインですね!

そしてわたくしの真のヒロイン月光がついに!

スネークたちの活躍の裏で404小隊とオセロットとの熾烈な諜報合戦が始まってます。

次話当たりから本編の流れに戻しましょうかね。
時系列的に次の鉄血ボスはハンターネキですな、処刑人との絡みをかくのが楽しみです(修羅場不可避)


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番外編:古い記憶

 壊れてしまった世界のありふれた戦場にて…。

 

 

 数人の鉄血兵を伴い、処刑人は戦闘で荒れ果てた旧市街を練り歩く。

 かつての大戦の影響を受けて住人の減ってしまった市街にとどめを刺すように大規模な戦闘が起こった場所だ。

 住居が並んでいた場所は砲撃と爆撃で、ほとんどの住居が土台だけを残して破壊され、燃える炎に焼き尽くされて炭化した木がまばらに立っていた。

 その眼を獰猛な獣のようにぎらつかせながら、処刑人は周囲を伺う。

 砲撃で崩れなかった建物を見つければ、そこへ配下の鉄血兵へ指示を出し、住居の中に向けて火炎放射器を放つ。

 地下壕のような物も見つかればそこに向けても火を放つ…少しでも誰かが隠れていそうな場所に対して、執拗とも言えるほど徹底的に処理を施していた。

 

 処刑人が引き連れてる部下以外にも、街のあちこちで似たような部隊が掃討をしており、時折あぶりだされた者がいたのか銃声が荒廃した市街に響き渡る。

 それも数分、あるいは数秒もすれば処刑人のもとへ標的を排除したとの通信が入る…。

 

 ふと、処刑人は砲撃で崩れ落ちた廃墟の前で立ち止まると、くんくんと何かを嗅ぐような行動をとる。

 彼女は無言で配下の鉄血兵に崩れた廃墟を指差し、鉄血兵は数歩前に出ると崩れた廃墟に向けて火炎放射器を放つ。

 その後、処刑人が鉄血兵の一人から手榴弾を一つ貰うと、廃墟の窓に向けて放り投げる…。

 爆発と同時に、廃墟の窓を叩き割り少女が一人脱出するが、気を張りつめさせていた処刑人は見逃さず、逃げようとする少女の背中に向けて数発発砲した。

 一発が少女の背に命中し、撃たれた少女は走っていた勢いのまま崩れ落ちる。

 

「やれ」

 

 短く、そう指示すると鉄血兵は倒れた少女のもとへ駆け寄ると、とどめを刺すように銃を乱射する。

 殺処理を示すように親指をあげる鉄血兵に小さく頷いた次の瞬間、その鉄血兵は銃撃を受けて崩れ落ちる。

 どうやら家屋にまだ生き残りがいたらしい、二階部分から撃ってくるもう一人の少女へ向けて鉄血兵は一斉に銃撃をくわえる。

 配下の兵士たちが生き残りの少女を食い止めている間、処刑人は密かに廃墟の中へ入り込む。

 激しい銃撃戦をしている少女がいる二階部分へゆっくりと上がっていくと、ちょうどリロードのために遮蔽物に身を隠していた少女と目が合った。

 

 慌ててリロードをしてその銃口をあげる少女であったが、その時には既に処刑人の剣は振り払われようとしていた。

 処刑人の剣は銃を持つ彼女の腕を銃ごときり落とし、素早く二の太刀が振られ、少女は膝の辺りを斬られその場に崩れ落ちる。

 苦痛に呻き声をあげる少女の腹を踏みつけ、処刑人は冷たい目で見下ろす…。

 涙と血で濡れる少女は処刑人を忌々しそうに睨む…。

 ふと、処刑人は視線を少女の顔から外し、少女の胸元へと視線を向ける…そこに手榴弾が一つ括りつけられ、唯一残った手でそれを掴もうとしている。

 

 少女の腹を踏みつけるのを止めて、処刑人は残った腕を手に取ると、ナイフを取り出してひじのあたりに刃先を刺し込んでいく。

 

 肉を切り開かれる痛みに少女は悲痛な叫び声をあげる。

 そのまま処刑人は乱暴に少女の関節部分を破壊していき、ついには少女の腕はその機能を果たさなくなるまでに破壊される。

 それから少女の胸に付けられた手榴弾をとると、安全ピンを引き抜いて少女の破壊された手に握らせる。

 

「放すなよ、仲間が来てそれをどうにかしてくれたらお前の勝ちだ」

 

 そこらにあった布きれで手榴弾を覆い隠し処刑人はその場を立ち去る。

 

 廃墟を出ると既に鉄血兵たちが整列し主人の指示を待つ状態となっていた。

 

 

「お前たち、戦場でそんなきれいに並んでいたら格好の的だぞ。こういう時は散開して周囲を警戒するんだ」

 

「了解、処刑人」

 

 少し疲れたように一息つき、戦闘で乱れた髪をかき上げる。

 元はきれいな黒髪だったのだろうが、返り血でべっとりと汚れ乱れきっている。

 それを構いもせず、引き続き処刑人は掃討を行っていく。

 

「処刑人、他の部隊は掃討を完了した模様です」

 

「おう、市街地の外に地雷でも敷いとけ。グリフィンのアホどもが来ないうちにな」

 

「了解です」

 

 そんな時、処刑人たちの後方で爆発音が響く。

 振り返った処刑人は先ほど少女がいた廃墟から煙が上がっているのを見ると、つまらなそうにぼやく。

 

「たいして頑張らねえもんだな…おう、オレたちは帰るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、作戦終了だぜ。街の人間とグリフィンのアホ人形どもは皆殺しにしてきたぞ」

 

「あらおかえりなさい、相変わらず酷い格好ね。もう少しきれいに戦闘できない?」

 

「仕方ねえだろ、斬ったら返り血がつくんだよ」

 

 鉄血の司令部に帰還した処刑人を出迎えてくれたのは、妙に気だるそうな様子の夢想家である。

 返り血や硝煙で汚れ酷い匂いの処刑人だが、構わず夢想家の座るソファーへと腰掛ける。

 

 

「あ、処刑人おかえり…って何その酷い格好!? ちゃんと洗ってから中に来てって言ってるじゃない!」

 

「うるせえな、こっちは疲れてんだ。おう、それよりデストロイヤー…テメェオレになんかいう事あるんじゃないか?」

 

「は? そんなのないわよ」

 

「ほう…お前オレの部下にちょっかい出したろ? 昨日オレに泣きついてきてよ、グリフィンからの戦利品とり上げられたって」

 

「うっ…うるさい、下級人形の癖にあたしに自慢してくるからよ! 何か文句でもあるの!?」

 

「大ありだよメスガキめ、とったもの返しやがれ。そしてオレに殴られろ」

 

「ひっ、こっち来るなメスゴリラ!」

 

 逃げるデストロイヤーと追いかける処刑人。

 部屋の外でドタバタと騒がしい音を響かせている二人に、夢想家はくつくつと笑う。

 そのうち処刑人が戻って来たがどうやら逃げられたらしい。

 再びソファーに腰掛けようとしたところ、また別な女性がその部屋に訪れる。

 

「なんの騒ぎですの?」

 

「げっ、代理人…!」

 

「なんです、その恐ろしいものでも見たような反応は。それにしても酷い格好ですね、わたし前にも中に来る時はしっかりきれいにしてきなさいと言いましたわよね?」

 

「いやーちょっと疲れたから一休みでもしようかなと、ハハ…」

 

 笑ってごまかそうとするが代理人の厳しい視線を受けて笑みが消える。

 鉄血内部で最高位に近い指揮権を持ち、なおかつその厳格さと冷酷さで鉄血の内外から恐れられている代理人だ。

 今日の処刑人は以前から指摘されていたにもかかわらず、汚い格好で中に入ってきてしまったために代理人よりお叱りを受ける。

 いつもは強気で格上の人形にも反抗する処刑人だが、代理人相手にはそうもいかず彼女の前で小さくなっていた。

 

「それから、あなたの部屋は毎回汚いですわ。散らかしっぱなし、服は脱ぎっぱなし、全く片付けに手間取りましたわ」

 

「お、部屋の掃除してくれたのか! サンキューな!」

 

「やかましい」

 

 額に代理人の手刀を受けてもがく処刑人、そんな彼女に呆れたようにため息をこぼし、彼女の手を引いて部屋を出ていく。

 向かった先は簡易なシャワー室、無機質なタイル張りにシャワーだけが取り付けられた簡単な造りだ。

 衣服を引き剥がされシャワー室にぶち込まれた処刑人は観念して戦場でついた汚れを落としていく。

 

「ったく、きれい好きも考えもんだよな。代理人のアレは潔癖症だな」

 

「普通のことですわ」

 

「うわっ! 代理人、お前な…こんなとこまで付いてくるなよ」

 

「あなたどうせ簡単に洗うつもりでしょう?」

 

 下着姿でシャワー室に入ってきた代理人は処刑人の手からシャンプーをひったくると、手のひらできちんと泡立てた上で処刑人の汚れた髪を洗髪していく。

 もう何日も戦場に居て、戦闘のたびに返り血を浴びた汚れはとても頑固なものであった。

 それを代理人は丁寧に、なるべく痛みを感じさせないようしっかり汚れを落としていく。

 代理人の慣れたような手つきと、彼女の柔らかな指が頭を撫でている優しい感覚にいつの間にか処刑人も目を閉じてリラックスしている…もっとも顔が泡まみれで目を開けないだけにも見えるが。

 最後にシャワーで泡を丁寧に流して洗髪は終了だ。

 

「サンキューな、後は―――」

「身体を洗うだけですわね」

 

 既にバスボウルにしっかりと泡立てられたボディーソープが用意されている、手際の良さに感心していると、代理人はおもむろに下着を脱ぎ始めた。

 

「おい、なにやってんだあんた!?」

 

「お風呂場で下着をつけたままの方がおかしいでしょう。ほら、前を向いてなさい」

 

 羞恥心に顔を赤らめ、言われた通り真正面を向く処刑人だが、目の前にある鏡のせいで代理人の露わな裸体が丸見えだ。

 耳まで真っ赤にして、処刑人はうつむき目を閉じて、あらゆる視覚情報をシャットアウトする。

 

 そうしていると、しっとりとした泡の感触が処刑人の肩を包み込む。

 代理人はせっせと泡をすくって彼女の身体にかけているらしい…目を閉じているために余計な想像が浮かび上がり、時折触れる代理人の柔肌を感じて身体の芯が熱くなってくるのを感じる。

 

「さ、リラックスなさい」

 

「お、おう…」

 

 泡を全身に塗られ、ついに代理人の手のひらが本格的に処刑人の身体に触れ始める。

 肩から腰にかけて、いつもの冷徹な姿からは想像もできないほど、代理人はまるで繊細なものを触れるかのように優しく手を滑らせていく。

 ただ優しく触れているだけでなく、時折強弱を入れて身体を洗っていく。

 そうしていると、代理人はわきの間から手を前にすべらせていくとゆっくりとお腹の辺りを撫でまわす…。」

 

「前を向きなさい」

 

「え、いや…前は自分で洗えるから」

 

「前を向きなさい」

 

「はい…」

 

 観念して振り返ると、代理人のスレンダーな身体がその眼に飛び込んでくる。

 だが恥じらう処刑人とは対照的に、彼女の表情はいつもの淡々と仕事をこなしている時の冷たい表情のままだ。

 わなわなと震える処刑人を一瞥し、再び適量の泡を手に取り彼女の胸元・お腹・両足、そして股にかけていく。

 

 常日頃恐れている代理人が今、自分にご奉仕するかのように身体を洗っている。

 そんな背徳感とシャワー室の熱気で汗ばむ代理人に同性であるはずの処刑人ですら、その魅惑的な姿に脳髄を焼き焦がされてしまいそうになる。

 そしてついに、代理人の手が処刑人の胸元近くまでやってくる。

 

「力を抜きなさい」

 

 処刑人が身体をこわばらせているのを感じ取り、穏やかな声色でそう呟く。

 じっと見つめてくる代理人は本当にいつもの冷淡な表情のままだ、勝手に欲情している処刑人とは違いこれも仕事の一つだと、いつものように淡々と行っているのだろう。

 だがそんな代理人の目を真っ直ぐに見つめていると心が落ち着いてくる、処刑人の身体から力が抜けたことを感じ取った代理人は彼女の胸に触れるのであった。

 

「ん……おい、あんまり触るなよ」

 

「静かになさい」

 

 他の誰かにこんなにも触られた経験のない処刑人は、恥ずかしさから逃げるように視線を横に向ける…いつの間にかいたらしい、夢想家がニヤニヤと二人を見つめている。

 

「さ、後は…」

 

 夢想家を追い払おうとしたが、代理人が次なる標的に目をつけたために慌てて視線を戻す。

 既に代理人の手は内もも辺りに置かれ、処刑人の最後の聖域を犯そうとしている。

 もはや大笑いしている夢想家の声など耳に入らないくらい処刑人は追い込まれていた。

 堅く閉じられた処刑人の両足を、代理人はそっと開く…抵抗しようと思えばいくらでもできるはずなのに、自分の意思とは反対に受け入れる身体に処刑人はさらに困惑する。

 

 そっと、内ももから代理人の手が動き、ついに彼女の股に触れようとする…。

 

 

 

「おや、通信が入りましたね」

 

 唐突に手を止めた代理人に処刑人はおもわず情けない声を漏らす。

 

「ふむ、今から向かいますわ……さて処刑人、後は自分でやりなさい」

 

 そう言って代理人はタオルで身体を拭き、衣服を身に付けてさっさと立ち去っていく。

 後に残されたのは呆然とした様子で椅子に座る処刑人と、腹を抱えて大笑いをしている夢想家だ。

 

「あー笑い死にそう。残念だったわね処刑人、わたしが手伝ってあげようかしら」

 

「うるせえよボケ…」

 

 火照りきった身体に冷水を浴びせて熱を下げるとともに泡を流していく。

 夢想家を叩きだし、自身もシャワー室を出ようとしたところで彼女は思いだしたように先ほど使っていたシャワーのところへと戻ると、乱雑に置かれた椅子とボウルを元の位置に戻す。

 

「代理人がうるせぇからな」

 

 シャワー室を出て、適当に身体を拭きタオルで髪を拭いた後に処刑人はさっさと浴場を出ていく。

 しかし数分後、戻って来た代理人に捕まり、再びシャワー室にまで連れ戻される。

 どうやら髪を濡らしたまま出てきたのが気にくわなかったらしい。

 ドライヤーで長い髪を乾かし終え、ようやく解放は…されなかった。

 

 元の部屋に引っ張っていかれた処刑人はソファーに強引に座らせられる。

 血に汚れた格好のまま入ってきたために汚れていたはずの部屋はいつの間にかきれいにされていた。

 

 もはや代理人の次なる行動にワクワクし始めている処刑人をじろりと睨むと、代理人は銀色の櫛を取り出し処刑人の黒髪を梳かし始める。

 浴場でのほぼ情事に近い行動とは反対に、優しく髪を梳かす行為は処刑人の心に安らぎと癒しを与える。

 

 

「処刑人、これからは自分でやりなさいね。お部屋も毎日清掃なさい、帰ってきたら身体を洗うこと。鉄血人形の名に恥じないよう、身だしなみはきちんとなさい」

 

「あいよ…なあ代理人」

 

「なんですか?」

 

「あんた、オレの事をどう思ってるんだ?」

 

「ただの駒ですわ」

 

「あんたならそう言うと思った」

 

 予想していた通りの返答にむしろ清々しさすら感じる。

 

 代理人の髪を梳かす行為にいつしか処刑人は目を閉じて、リラックスした様子でソファーに腰掛けていた。

 

「なあ代理人」

 

「なんですか?」

 

「もしオレが鉄血から離れて敵にまわったらどうする?」

 

 その問いかけに、代理人は櫛をもつ手を止めた。

 ゆっくりと目を開き、振り返ってみた代理人の表情はいつもの冷淡なものだ…。

 何を考えているか分からないポーカーフェイスを、処刑人はじっと見つめる。

 

 

「完膚なきまでに破壊し、AIをリセットする。それだけですわ」

 

「ハハ、そうだよな…」

 

「わたしたちに何か不満でも?」

 

「いや、ただ気になっただけさ。でも鉄血を離れるってことは相当の覚悟を決めた時だろうな」

 

「その時はその覚悟ごと叩き潰してあげますから安心なさい」

 

「実にアンタらしいよ代理人。無粋な質問だったよな…」

 

 再びソファーに深く腰掛け、代理人は櫛で彼女の黒髪を梳かしていく。

 静かなその空間には髪を梳かす音と、壊れかけの時計の針が動く音だけが響く。

 やがてその空間に、穏やかな寝息が加わるのであった。

 

 

「ハンターただいま帰還した」

 

 そこへやって来たハンターとデストロイヤーは、ソファーに横たわり代理人の膝の上で眠る処刑人の姿を見る。

 代理人はそっと口元の前に人差し指を立て、膝の上で静かな寝息をたてる処刑人の髪をそっと撫でる。

 

「ハハ、気持ちいいくらい寝ているな。いつもこう大人しいと任務も上手く行くのだがな」

 

「ほんと、黙ってればかわいいのにね…騒ぐからメスゴリラって呼ばれるのよ」

 

「二人とも、静かになさい。起きてしまうわ」

 

「ずいぶん優しいんだな代理人」

 

「部下のケアも上司としての仕事のうちですわ」

 

 眠る処刑人の髪をそっと撫で、代理人は微かに微笑む。

 そんな珍しい代理人の姿にハンターとデストロイヤーは互いに顔を見合わせ小さく笑う…。

 

「ハンター、後でわたしの所に来なさい。新しい任務を与えるわ…特別な任務よ」

 

「ああ、分かったよ。全く、こんな日が毎日続いてくれればいいのにな」

 

 穏やかに眠る処刑人がかわいくて、ハンターも一緒になってその髪を撫でる。

 処刑人はいつまでも静かな寝息をたてつづけるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うーん…」

 

 ふと目を醒ましたエグゼは、むくりと起き上がりぼんやりとした表情で周囲を見回す。

 いつの間にかソファーで寝てしまったらしい、戦闘服を着たままの格好に小さく舌打ちをする。

 昨日の任務はとても疲れるものであった、帰ってくるなりすぐに寝てしまったのだろう。

 

 エグゼは大きな欠伸をかき、猫のように背筋を伸ばすと立ち上がり部屋の掃除を始める。

 毎日掃除を欠かさず行っているおかげでゴミは落ちていないが、わずかに積もる埃を拭きとり少ない塵を集めてごみ箱に捨てる。

 あらかた部屋の掃除を終えたエグゼは、そのままシャワー室へと向かう。

 早朝の誰もいない浴場で髪を丁寧に洗い、同じように身体も洗う…あがったらすぐに髪を乾かし、再び部屋に戻る。

 

「えーと、どこ置いたっけな…あったあった」

 

 机の引き出しから銀色の櫛を取り出し、鏡を前にエグゼは髪を梳かす。

 少しの髪の跳ねっかえりも見逃さず、丁寧に髪を梳かし、洗濯した戦闘服に着替える。

鏡の前で服装を整え、何度も確認した上で彼女は部屋を出ていった…。

 

 ある部屋の前までやってくると、扉を小さくノックする。

 

 扉の向こうで声がして、近づいてくる物音がする。

 エグゼはいっぽ後ろに下がり、扉が開かれるのを待つ…そしてゆっくりと扉が開かれると、エグゼは明るい笑顔を浮かべるのだ。

 

 

 

 

「おはよう、今日も仕事頑張ろうな…スネーク!」

 

 

 

 




エグゼにとって鉄血陣営は秘密の花園、マザーベースは修羅場です。

ふと鉄血にいた頃の処刑人の姿が書きたくて番外編として投降したしだい。
淡々と世話をする代理人と、勝手に興奮する処刑人のあらぁ~な風景が書きたかったのだ。


今でも鉄血の仲間のことは忘れていない処刑人さんです。


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猜疑心

 連日連夜続く過酷な訓練は噂程度に広まっていた特殊部隊創設の情報を、確実性のある話しだと裏付けることとなり、ビッグボスが望む部隊の創設ということでMSFの兵士たちは競うように己の実力をアピールしていた。

 MSFだけではなく、前哨基地に派遣されているPMC4社の兵士たちにもその話しが広まり過酷な競争に参加する者もいた。

 こうも話しが広まってしまったことにオセロットは慌てて情報統制をかけて外部に漏れないようにするとともに、諜報班を強化して他勢力の諜報活動への対策も万全なものとしつつある。

 

 とはいっても、当初オセロットが目をかけたメンバー以外に候補となるような人物はあまり出てこなかったために、選抜メンバーは変わりない。

 最有力は元特殊部隊のマシンガン・キッド、次いでWA2000と9A91となる。

 話しを聞いたスコーピオンもがむしゃらに訓練を行っているが、今のところオセロットに声はかけられていなかった。

 

 

 そんなある日、前哨基地の司令室にてのんびりしていたスネークたちのもとへ、マザーベースのカズから緊急の連絡が入ってくるのだった。

 

『戦闘班を乗せたヘリが一機、機体の故障で不時着をしたようでな。戦闘班から救難信号が送られてきたんだ』

 

「なるほど、ちょうどオレも暇をしていたところだ」

 

『いやスネーク、あんたには別な任務を行って欲しいんだ。諜報班からバルカン半島の連邦軍が不穏な動きを見せているという情報があってな、それを調べて欲しいんだ。何もなければそれでいいと思うんだが、先の戦闘以来関係が拗れててな』

 

「分かった、戦闘班の救出部隊はこちらで編成しよう。で、場所はどこなんだ?」

 

『それが少し問題でな…S09地区と言われている鉄血の占領下にある地域なんだ。グリフィンとの兼ね合いもあるから、あまり目立った行動もできない。人選はあんたに任せる、大切な仲間だ…頼んだぞボス』

 

 通信を終えて振り返ると、司令室に集まっていた兵士および戦術人形たちは一同スネークに注目していた。

 仲間の危機において選抜競争をしようなどと言う不謹慎な者はいなさそうだが、ここにいる誰もが仲間想いでそのためなら危険を冒すこともじさない覚悟の持ち主ばかりだ。

 既に作戦計画を頭に描き終えていたスネークはざっと見て任務に適したメンバーを選ぼうとしていたが、自ら手を挙げて立候補する者がいた。

 

 

「スネーク、オレにやらせてくれ。S09地区ならオレ以上に詳しい奴もいないだろう」

 

 

 名乗り出たのはエグゼだ。

 元鉄血陣営の人形として部隊を率いていた経歴もあり、確かに土地勘を彼女以上に知るものはいないだろう。

 スネークもそれを理解し、救助隊にエグゼをくわえようと指名したが、それに異を唱える者がいた。

 オセロットだ。

 

「周囲との兼ね合いも考慮するなら隠密行動に長けた人員を選ぶべきだ。ワルサー、9A91、エイハヴのメンバーがいい」

 

「おい待てよ、なに勝手に決めてんだよ! オレが行くって言ってんだろ!」

 

 まるではぶかれるような扱いにエグゼはもちろん黙っていなかった。

 だがオセロットは相手にせず、端末を起動させエグゼの傍のテーブルに置く。

 

「お前の戦力を必要とする任務は他にもある、よりよい戦果を欲しがってるならこちらをすすめるぞ」

 

「余計なお世話だボケ…救出任務にはオレが行く」

 

「えらくこだわるな、お前は。何が狙いだ、お前まさか鉄血に接触したいと思っているんじゃないのか?」

 

 その言葉に小さく動揺したのをオセロットは見逃さなかった。

 さらに追及をしようとしたオセロットであったが、スネークが割って入り彼を少し離れたところまで連れていく。

 

「あまりエグゼをいじめるな、彼女は信頼できる。大丈夫だ」

 

「奴があんたを尊敬していることは分かる。だがな、その忠誠心がどこを向いているのか…オレは奴がまだ鉄血から離れ切れていないように見えるぞ」

 

「エグゼの経歴上、お前が過度に疑い深くなるのは分かる。だが彼女はもうオレたちの仲間だ、仲間をそんな風に見るもんじゃない。オレが責任を取る、エグゼにやらせてやれ」

 

「あんたがそこまで言うなら、オレがどうこう言えたことじゃない。だが忠告をしておくぞ、奴から目を離すな」

 

 最後にじろりとエグゼを睨むように一瞥し、オセロットは司令室を立ち去っていく。

 そんな彼の背後をいつまでもエグゼは睨み続けている。

 オセロットは新顔の戦術人形に嫌われる素質でもあるのか、確か前にもスコーピオンらと一悶着があったなとスネークは懐かしむ。

 

「エグゼ、オセロットの言葉は気にするな。救出隊にはエイハヴを同行させる、彼の言うことをちゃんと聞くんだぞ」

 

「……」

 

「エグゼ、聞いてるか?」

 

「聞いてるよ、分かったって」

 

「いいか、エイハヴは優秀だ。状況判断も正しく行える、反抗するんじゃないぞ」

 

「あーもう、分かってるって! あんたはオレの親父かよ!?」

 

 エグゼの思わず出た言葉に笑い声が吹きだす。

 それだけの元気があれば大丈夫だな、そう言って安心したのかスネークは任務のために基地を発って行った。

 

 

 

 

 

 

 S09地区はMSFの支配地域と隣接しているが、作戦上グリフィンが最も関わりを持つ地域でもある。

 これまでグリフィンとはそれなりの付き合いをしてきたが、お互いの深いところまでは見せない微妙な関係を続けている。

 そんなグリフィンを過度に刺激しないよう、任務は少人数による夜間作戦が計画される。

 

 救出部隊を率いるエイハヴも夜間装備を身に付け、もう一人の同行者である9A91もMSFの開発班が造った夜間装備で身を固めている。

 エグゼは元々高性能な強化服を貰っているので、暗視装置を一つ持ってきただけだが、ある程度土地に慣れているようで二人とは対照的に夜の闇を難なく進んでいる。

 

「それで、どうしてエグゼはこの任務に立候補したんですか?」

 

 茂みに身をひそめつつ、9A91は小さな声で隣に潜むエグゼに問いかける。

 

「言っただろ、オレ以外にこの地区に詳しい奴はいないってな」

 

「本当にそれだけですか?」

 

「お前もオレを疑ってんのかよ」

 

 草むらの向こうで、苛立たしげに睨むエグゼを一度チラリと見て、9A91は小さくうなずく。

 

「誤解しないでください、あなたのことは信用してます。でも、どうして嘘をつくのかが分からないんです…わたし、人の嘘を見抜くのが得意なようです」

 

「めんどくせえな、お前…」

 

「二人とも静かに、前方に鉄血の巡回兵がいる」

 

 先行するエイハヴの言葉に、二人は会話を止めて茂みの中から様子を伺う。

 暗闇の中で鉄血兵が数人、銃に取りつけたライトで辺りを警戒している様子だった。

 救難信号が出された座標はすぐそこだ、鉄血の支配下に不時着したのなら奴らも気がつかないはずはない。

 

「あいつらがまだオレたちの仲間を捜しているのなら、仲間はまだ無事なはずだ。引き続き警戒しながら捜索しよう」

 

 エイハヴはひとまず拳銃を取り出し、障害となる鉄血兵たちに弾を撃ちこんでいく。

 消音器で発砲音を抑え撃ちこまれたそれは、研究開発班が造り上げた対戦術人形用の特殊麻酔弾だ。

 大ざっぱに言うと、生体パーツを通して戦術人形のAIを休眠状態にさせる物質を流し込む単価の高い弾薬だ。

 あまり使いすぎるとシャレにならない費用となるが、どうやら初めて使うその弾薬の作用をエイハヴは確かめておきたかったらしい。

 期待した通り鉄血兵はその場で倒れ、寝息をたて始める…他の鉄血兵に見つかっても、任務をサボって寝ている人形だと思われるだろう。

 それを見つけたのがハイエンドモデルの人形であったのなら粛清は免れないだろうが…。

 

 座標を頼りに進むと、そこには不時着したハインドが一機、炎上し黒焦げになった状態で放置されていた。

 既に鉄血兵に調べられた痕跡がある。

 そこに有益な情報は無いと判断し、エイハヴらは引き続き捜索を続ける。

 

「エイハヴさん、当てもなく捜してるように見えますが、何か確信があって動いてるんですよね?」

 

「勿論だ。人も動物も、動けば痕跡をその場に残すことになる。戦闘班は多くの痕跡を残している、暗闇で分かりにくいがそれを今辿っている」

 

「流石です」

 

「ビッグボスに昔教わったんだよ…だが気掛かりなことがある」

 

 エイハヴはその場にかがみこみ、そっと地面に残る足跡に触れる。

 いくつかの足跡がそこに残っているが、9A91にはよほど目を凝らさないと気がつかないほどの痕跡である。

 エイハヴが何を気にしているのか、彼女には分からなかった。

 

「オレたち以外の誰かが戦闘班を追跡している、相当な手練れだ。分かりづらい痕跡だが…まるで、狩猟者(ハンター)だ」

 

「ハンター…だとしたら、急いだ方が良さそうですね」

 

「ああそうだな。待て…エグゼはどこに行った?」

 

 エイハヴの言葉に、9A91はとっさに振り返るが、さっきまでそこにいたエグゼの姿はなかった。

 

 その時、森の奥で数発の銃声が響き渡る。

 二人は急いでその場を移動し、銃声が鳴った方へと走りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の奥から迫りくる追跡者から逃れようと必死に走り続けた戦闘班たちは追い詰められ、6人はいた班がついに最後の1人になってしまっていた。

 どこに逃げようとも追いかけてくるソレはまるで狩猟者のようだ。

 武器を失い身を守るものも、仲間もいなくなった兵士はなんとか振り切ろうと努力したが、狩猟者は徐々にその距離を詰めていく。

 やがて兵士は補足され、足を撃ち抜かれその場に倒れる。

 

 

「鬼ごっこは終わりだ、狩りの余興にすらならなかったな」

 

 

 兵士たちを一人また一人と仕留めていった狩猟者が、森の奥から姿を見せる。

 月明かりに照らされて露わになった狩猟者は、二丁の拳銃を持ち銀色の髪を結った姿をしている。

 彼女は冷たい目で兵士を見下ろし、銃口を向ける。

 

 

「待ちなよ、ハンター」

 

 兵士ではない、別な声に彼女はその視線を森の奥に移す。

 そこには黒ずくめの戦闘服に身を包み鞘に納めた剣を手にする黒髪の女性が不敵な笑みを浮かべたたずんでいた。

 

「処刑人…?」

 

「久しぶりだな、ハンター。元気にしてたか?」

 

 唐突に現われたかつての同胞に、彼女…ハンターは目を見開き驚きを隠せないでいるようだった。

 エグゼが現れたとこに希望を見出したのか、駆け出そうとした兵士をハンターは即座に撃つ。

 弾は兵士の胸を撃ち抜き、身動きのできない兵士へ向けてハンターは立て続けに発砲した。

 

 

「やめろっ!」

 

 エグゼが叫んだ頃には、既に兵士は死んでいた。

 目の前で何事もなかったかのように拳銃の弾倉を変えるハンターに、エグゼは走り寄ってその胸倉に掴みかかる。

 だがハンターはそんなエグゼを冷たい目で見据え、彼女の下顎に銃口をつきつける。

 

「離せ、死にたいのか?」

 

「テメェ、戦友に対してずいぶん冷たいじゃないかよ…!」

 

「戦友? 裏切り者の間違いだろう」

 

「返す言葉もねえよ…家出したみたいに出てきちまったからな。だがお前らを裏切ったわけじゃねえ!」

 

「詭弁だな、お前には失望したよ。忌むべき人間の手先になり下がった雌犬め」

 

「テメェ!」

 

 その侮辱に激高し、エグゼはハンターの頬を殴りつけたが、ハンターは即座にエグゼを殴り倒す。

 

「ずいぶん軽い拳になったな……なんだ、その銃、剣は? それにそのワッペンは…人間の飼い犬そのものじゃないか」

 

 殴り倒したエグゼのコートを掴んで無理矢理引き立たせ、額に銃口を押し付ける。

 

「お前はもうわたしの戦友などではない、裏切り者め。消え失せろ、二度とわたしの前にその顔を見せるな…次は殺す」

 

 銃口をエグゼに突き付けたまま、ハンターはゆっくりと後退していく…。

 やがて森の奥に姿が消え、彼女の気配が消えた時エグゼはやりきれない思いをすぐそばの樹木に叩き付ける。

 へし折った木にもたれかかり、その場にしゃがみこむ…。

 

 

「エグゼ…!」

 

 

 そこへエイハブと9A91が駆けつける。

 二人はそこでうなだれるエグゼと、死亡した兵士を見る…動揺する9A91に対し、エイハヴは怒りを現す。

 

「エグゼ、お前一体何をしていたんだ!? 勝手に離れて、仲間はどうした…! 誰がやったんだ!」

 

「うるせぇ、さわんじゃねえ…!」

 

「お前…やはりオセロットは正しかった、お前を連れてくるべきじゃなかった。戦闘班全員の死亡を確認した、帰還するぞ…」

 

 救出任務は失敗に終わる。

 回収ヘリの場所まで三人は無言で歩き続け、時折9A91がエグゼを気遣うように声をかけるが彼女は何も言葉を返すことは無かった。

 

 機内のヘリにおいても無言のままであった…。

 

 やがてヘリは前哨基地へと到着し、ヘリポートに着陸する。

 先に降りたエイハヴに続き9A91が降り、最後にエグゼが降りると、そこには銃を構えた兵士とオセロットが待ち構えていた。

 駆け寄った二人の兵士がエグゼから銃と剣をとり上げ、その腕に手錠をかける。

 

「何の真似だよ…」

 

 オセロットを睨みつけ、手錠を破壊しようと試みるも頑丈な手錠はビクともしない。

 

「ふざけんじゃねえぞ、こんなことしてスネークが許すと思ってんのか!?」

 

「ボスが帰ってくる前にお前の裏切りを証明してやるさ、話しを聞かせてもらうぞ処刑人…包み隠さずな。連れて来い」

 

 手錠にかけられた鎖を引き無理矢理連行するが、エグゼは抵抗する。

 それを数人がかりで抑えつけ、基地内の尋問室まで連れていかれる…9A91の引き止める声も、その時ばかりはMSFの全員に届かない。

 エグゼに対する猜疑心は既に兵士たちに広まっていた…。




スネーク…あの、すぐに帰ってきてください(切実)


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亀裂

「いくらなんでも一方的すぎます。みんな、エグゼを助けるべきだと思います」

 

 9A91は前哨基地のミーティング室に呼び集めた戦術人形たちの前でそう言った。

 

 あれからオセロットに尋問のため連れていかれたエグゼは、スネーク不在の中誰も擁護してくれる者もいなく、彼の厳しい尋問を受け続けている。

 前哨基地の地下には当初から尋問室のようなものが存在していた。

 基地がまだどこかの国の管理下にあったその時から、その尋問室は捕虜を痛めつけ情報を聞きだすことに利用されていたようで、古ぼけた尋問の記録がいくつか残されていた。

 今はそこでオセロットの尋問室として新しく生まれ変わっている。

 

「エグゼは確かに無断で行動しましたが…だからと言ってあんな尋問を受けるいわれはないはずです。みんなでオセロットさんにエグゼの無罪を訴えましょう」

 

 同じ救出隊として彼女はエグゼの独断行動をその眼で見たが、エグゼの行動に不可解なものを感じながらも、仲間であるという認識から彼女を助けるべきだと主張する。

 そして自分ひとりだけでは助けられない、そう伝えた上で周囲の反応を伺うがあまり良い反応とは言えなかった。

 

「助ける理由なんてないわ。オセロットの筋は通ってるもの、あいつはわたしたちをだましてるのよ」

 

 WA2000は9A91の助力の願いなど興味無さそうに本をめくっている。

 彼女は元よりオセロットに同調するだろうと思っていたが、9A91は諦めずに彼女を説得する。

 

「確かにエグゼは敵でした、でも今は仲間です。司令官とエグゼの闘いをあなたも見たはずです…戦士として忠を尽くす姿を、あなたも感じたはずです」

 

「そんな不確かなもので信用しろって? お笑いだわ、忘れてるんじゃないのあなた? あいつが鉄血人形としてどれだけの破壊と殺戮をしてきたか、あいつが犯した罪は消えないのよ」

 

「なら許されない罪を一生償い続けろというのですか? わたしはそうは思いません、エグゼは生まれ変わった、MSFの家族として、司令官と共に戦う戦士として」

 

「だいぶ擁護するじゃない。大好きなスネークがあいつを受け入れたからあなたも受け入れてるだけじゃないの? 指揮官の仇を擁護するなんてあなたの気が知れないわ、死んだ指揮官も浮かばれないわね」

 

 WA2000の最後の言葉を聞いて、普段温厚なはずの9A91は怒りをあらわにする。

 咄嗟に彼女の襟を掴み睨みつけるが、WA2000はめんどくさそうにその手を払い突き飛ばす…一触即発の空気に成り行きを見守っていたスプリングフィールドが間に立とうとするも、二人の口論は次第に熱を帯びていく。

 

「はっきり言って鉄血人形がそばにいるだけで虫唾が走るのよ! あんたはどうして平気でいられるわけ!?」

 

「司令官がエグゼを受け入れた、だからわたしも受け入れたまでです!」

 

「はっ、それって結局スネークが認めたからって理由でしょ? あんた個人の意見はどうなのよ! たまには自分で考えて行動したらどう!? いつも司令官司令官って…それじゃ単なるイエスマン、旧世代の操り人形と同じね!」

 

「あなただってそうでしょう!?」

 

「わたしは違うわ。納得がいかなかったら意見するもの、中身のないあんたと一緒にしないでちょうだい」

 

「……! ワルサー、言って良いことと悪い事の区別もつかないんですか!?」

 

「あら違うの? 処刑人にやり返した時は立派だと思ったけど、結局はアンタもまるで成長してないのよ!」

 

「もう、二人ともいい加減にして下さい!」

 

 掴みかかろうとした9A91を無理矢理引き離し、先ほどから強い口調で煽っていたWA2000を戒めるように睨むが、彼女は気にもならないようで椅子に座り直しコーヒーを一口すする。

 

「ワルサーさん、どうしてそんな言い方しかできないんですか? 仲間に対してそんな言い方は無いんじゃないですか?」

 

「別に、思ったことを言っただけよ。それよりあんたはどうなのスプリングフィールド? あいつが無罪だとでも思ってるの?」

 

「わたしは、エグゼの潔白を信じてあげたいです。かといってオセロットさんが疑う気持ちも分からないわけではありませんが…」

 

「ふーん…あなたの意見、一番気に入らないわ。それってどっちつかずの日和見ってことよね? まあいいんじゃない、その立場でいれば誰からも恨まれなさそうだし、アンタらしいよスプリングフィールド」

 

 

 そこまで言われ、反論しようとしたスプリングフィールドであったが言葉は出てこなかった。

 彼女が両者に気を遣っているのはWA2000の言うような日和見的な態度ではなく善意によるものだが、こういった場合では混乱を招く場合もある立場だ。

 何も言い返せず椅子に座るスプリングフィールドをちらっと見つめ、本に視線を戻すWA2000。

 相変わらず9A91も無言で彼女を睨み続けている…すっかり冷え切ってしまったミーティング室内は、ギスギスとした居心地の悪い空気が充満していた。

 

 そんな時、唯一発言していなかったスコーピオンは無言で立ち上がると、テクテクと扉の方へと歩いていく。

 

「どこ行く気? アンタは何も言うことないの?」

 

「んー?」

 

 WA2000の問いかけに気だるそうに振り返る。

 

「いやさ、バカの話し聞いてると疲れるから昼寝してくる」

 

「はぁ? 何言ってんのあんた?」

 

「ワルサーさ、あんたも今のエグゼに似てるよ、仲間を信じられなくなったら終わりだよ。スプリングフィールド、アンタは優しいけどどっちもたてるっていうのは無理だよ、選ばないと。それから9A91、本当にエグゼを助けたいって思うならこんな回りくどいやり方しなくていいじゃん…あたしだったらオセロットぶん殴って助け出すね。じゃ、おやすみ」

 

 最後に大きな欠伸をかいてスコーピオンはさっさと部屋を出ていってしまった。

 呆然とする三人であったが、それ以上その場にいる理由もないと一人また一人と部屋を退出していった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下の尋問室は赤く光る蛍光灯が一つあるのみの薄暗く、じめじめとした不快な空間だ。

 スピーカーからは絶えず耳障りな音が流れ続け、無機質な空間には対象者から情報を引きだすために使われる器具がたくさん用意されている。

 そんな部屋の中央に、エグゼは椅子に拘束されていた。

 

 兵士の一人がバケツ一杯の水をエグゼの頭に被せると、彼女は恨めしそうに目の前のオセロットを睨みつける。

 

「起きたか? 少しは話す気になったか?」

 

「テメェ…好き放題やりやがって……殺してやる…!」

 

 睨むエグゼを冷たく見おろし、兵士に合図をする。

 兵士はエグゼの背後にまわると彼女の髪を掴み天井を向かせると、その顔をタオルで覆いそこに大量の水をかけていく。

 呼吸器を塞がれ大量の水が気道に入り込む苦痛に激しくむせるが、それがかえって布越しに水を入れてしまう。

 しばらくして布が取り払われ、エグゼは激しくせき込んで水を吐きだすが、落ち着く間もなく再び同じ拷問を受ける。

 それが何度か繰り返され、意識が混濁しかけ始めた時にオセロットは尋問を再開する。

 

「お前はS09地区を占領するハンターに会ったそうだな。救助するべき味方を見殺し、お前は奴と何かを話した。お前はそこで何を話したんだ?」

 

「なにも…話なんかしちゃいねぇ……!」

 

「お前の忠誠心はいまだ鉄血側にあるんじゃないのか? どうなんだ、何が狙いだ、お前の目的は、またボスの命を狙うつもりか?」

 

「違うッ! オレは身も心もスネークのもんだ! オレの忠誠心を試すんじゃねぇ!」

 

「喚くな小娘、口ではどうとでもいえる。確かにこの間まではお前の忠誠心は本物だと思っていた、だがな…お前はボスの指示を破った、これがどうして疑わずにいれる? お前はまだ鉄血と共謀してMSFを内部から崩壊させようとしてるんじゃないのか?」

 

「なんだよそれ…! オレは鉄血とは縁を切ったんだ! ああそうさ、ハンターに会いに行った事は認めるさ…だけどあいつはオレを裏切り者って言って突き放したんだ! 仲間はその時いたけど助けられなかったんだよ!」

 

「信用できんな」

 

「じゃあ何を言ったら信用するんだよ! 本当のことを言ってるのに、なんでだよ…仲間よりハンターに会いに行ったのは謝るよ…頼む、もう止めてくれ…!」

 

「ふん…いいだろう、なら次の質問だ。これに答えてくれたら疑うのを止めてやろう」

 

 弱り切ったエグゼにはもう断る気力も無い。

 息を乱し、怯えたような目つきでオセロットを見上げる。

 

「教えてもらおうか処刑人…"傘計画"とはなんだ?」

 

「は…? 傘…なんだそれ?」

 

 オセロットの質問が理解できなかったらしい、エグゼは聞きなれない言葉に思わず聞き返す。

 その反応はある程度予想していたようで、オセロットは再び背後の兵士に合図を送る。

 兵士は発電機を起動させると、それを使いエグゼに電撃による拷問を与える…先ほどの水責めとは別な苦痛に、エグゼは気を失いそうになるが何とか意識を保つことができた。

 

「2回目は慣れたか? あまりお前に時間をかけていたくもない…教えろ処刑人、鉄血のハイエンドモデルであったお前なら知っているはずだ。傘計画とはなんだ?」

 

「知らねえ! そんな単語聞いたこともない、本当だ!」

 

 エグゼの悲痛な訴えもむなしく、3度目の電撃が彼女の身体を襲う。

 

「オ、オレは…ただの鉄血の斬り込み部隊だ、上の連中の考えなんて知らないよ…!」

 

 必死で弁明するエグゼであったが、オセロットは尋問の手を止める気配はない。

 彼はトレーから注射針を取り出す。

 

「これが何か分かるか?」

 

「知らねえよ…」

 

「本当に何も知らないんだな。これはフッ化水素酸と言ってな、拷問に使うような薬品じゃあない。劇薬でな…塗布すると激しく肉体を腐食させ時に死に至る。だがお前のような人形には生体パーツへ影響があるのみで、内部構造にはダメージがないだろう。試してみるか?」

 

「おい、嘘だろ…止めろよ、やめてくれよ!」

 

 注射器を手に近寄るオセロットから逃れようと、エグゼは必死に暴れるが椅子にしっかりと身体を拘束されているため逃げ出すことができない。

 暴れているうちに椅子ごと倒れこむ。

 

「最後のチャンスだ。傘計画とはなんだ?」

 

 エグゼの目に注射器を見せつけそう問い詰めるも、もはや彼女はまともに受け答えをできるような状態ではなく、怯えきった様子で震えている。

 

「嫌だ…スネーク…助けてよスネーク…!」

 

 エグゼはうわごとのようにそう呟き、目を固く閉じて震えあがる。

 

 そんな時、尋問室の扉が開かれる。

 

 

「そこまでだオセロット、エグゼはこちらで預かる」

 

「ミラーか、珍しいなお前がこんなところに」

 

 薄暗い尋問室でサングラスをかけたまま、エグゼのもとへ真っ直ぐに向かいその拘束を素早く解いていく。

 拘束を解かれたエグゼはいまだ恐怖に怯え身体を丸くしたまま震えている。

 

「やり過ぎじゃないのか?」

 

「必要なことだった。安心しろ、ここまでやって何も吐かなかったんだ、こいつは潔白だ」

 

「もっと別なやり方があったんじゃないのか? オセロット、お前の功績は認めるが…仲間にこんな仕打ちをすることはオレも、ボスも許さん」

 

「甘いな、規律が取れなくなるぞ。実際こいつの行動は統制を乱す結果となったんだ」

 

「この子の責任じゃない。組織をまとめているオレやボスの責任だ…とにかく、エグゼの疑いが晴れたのなら前哨基地の誤解を解くんだ。いいな?」

 

「いいだろう」

 

「さあ行こう、エグゼ」

 

 震える彼女に手を貸し立ち上がらせ、そっと上着を肩にかける。

 そうしていると、再び尋問室の扉が勢いよく開かれ、そこから肩をいからせた様子のスコーピオンがきょろきょろと部屋を見回し、オセロットを見るや勢いよく突っ込んでいく。

 それをかろうじてミラーは引き止める。

 

「離せおい! よくもエグゼを苛めたな、この陰湿山猫野郎! 一発殴らせろこんちくしょうめ!」

 

「落ち着けスコーピオン!」

 

「離せミラーのオッサン! あいつは、あいつだけはぶん殴ってやらないと!」

 

「オッサンじゃないッ!」

 

「構わんミラー、好きにさせてやれ…」

 

 オセロットの意外な言葉に、つい手を離してしまう。

 怒れるスコーピオンはまるで猪のようにオセロットに突っ込んでいくと、大きく右腕を振りかぶって彼の頬を殴りつけた…のだが、簡単に殴れるとは思っていなかったのかスコーピオンは目を丸くしてきょとんとしている。

 

「気が済んだか?」

 

「え…あ、うん…もう一発殴っていい?」

 

「次は反撃するぞ」

 

「あ、それは困る」

 

 

 素早くオセロットの傍から逃げ、エグゼの隣に寄り添うスコーピオン。

 

「オセロット、もう少しうまいやり方をな…」

 

「うるさい。もう用が済んだだろう」

 

 

 煙たがられるように尋問室から追い出されたミラーたちは、人目を忍びヘリに乗り込み前哨基地を飛び立つ。

 

 機内でエグゼは少し落ち着きを取り戻したようだが、まだショックが大きいのか力なく壁にもたれかかりやつれた表情で窓の外を見つめている。

 

「エグゼ元気だしなよ、あいつは一発殴っといたからさ!」

 

 握り拳をつきだしニコニコと笑って見せるが、反応の薄さに苦笑する。

 

「なんで助けに来たんだよ…」

 

 小さな声で、エグゼは呟いた。

 その問いかけにミラーとスコーピオンは顔を見合わせると、吹きだすように笑いだす。

 それが面白くなかったのかエグゼは眉をひそめる。

 

「なんで助けに来たのって、仲間だから当然じゃん! だよねミラーのオッサン!」

 

「そうだぞ、それからオレはオッサンじゃない」

 

「…ッ、なんでだよ…! みんなオレを裏切り者だって言って責めてきたんだぞ!」

 

「ああそうみたいだな…だがエグゼ、お前はオレたちの仲間なんだよな?」

 

「そうだよ、そう言い続けてた!」

 

「仲間なら、助けるのに理由なんていらないさ」

 

「うんうん、ていうかさ…ミラーのオッサンもマザーベースにばかりいないでたまには前哨基地の様子を見に行かないとね。スネークのカリスマ性でみんなついてくるけど、オッサンのコメディ性でたまにはストレス発散させてあげないと。じゃないと今回みたいな事が起きちゃうよ?」

 

「そうだな、今回の件でオレも勉強になったよ。それと…オレはオッサンじゃないといってるだろうが!」

 

 スコーピオンを捕まえこめかみをぐりぐり痛めつけるミラーであったが、どこか二人の姿は微笑ましい。

 そんな二人の様子に困惑しているエグゼを見てミラーとスコーピオンは席に落ち着く。

 そのような和やかな二人の様子を機内でひたすら見せつけられているうちに、ヘリは高度を落とし始める。

 

 窓の外には洋上に浮かぶ巨大なマザーベースがあった。

 

「エグゼ、マザーベースでスネークが待っている。任務中だったが至急戻ってもらった」

 

 ミラーの言葉に、エグゼは窓からマザーベースを見おろしスネークの姿を探す。

 

「なあエグゼ、スネークに会う前に約束して欲しい」

 

「なんだ?」

 

「一つ、任務で勝手な行動をしたことを謝ること。一つ、ボスには決して嘘をつかないこと。一つ、ボスには正直な気持ちで話すこと。守れるな?」

 

「うん…」

 

「よし、じゃあボスに会いに行こうか」

 

 マザーベースの甲板にヘリが着陸し、開いた扉からミラーとスコーピオンが降りていく。

 降りた先で二人はエグゼを待つが、彼女は降りることを躊躇している…そんな時、甲板の向こうで見覚えのある人影をエグゼは見た。

 重い腰をあげてヘリを降りたエグゼは走りだしたい衝動に駆られるが、ミラーとの約束を思いだし、彼のもとまでゆっくり歩いていくと、頭を下げる。

 

「ごめん…! オレ、約束守れなかった…!」

 

 精いっぱいの声をあげて叫ぶ。

 そのまま沈黙が続き、それはとても長い時間のようにエグゼは感じていた。

 ふと、肩にそっと手が置かれ、エグゼはゆっくりと頭をあげる…おそるおそる見上げると、微笑むスネークが優しげな青い瞳でエグゼを見下ろしていた。

 いとおしい相手を前にして、それまでこらえていた思いが溢れだし、エグゼはそっとスネークの胸に泣きつく。

 

 よしよし、とすすり泣くエグゼの後ろ髪を優しく撫でつつスネークは慰める。

 そんな二人の姿を微笑ましくミラーとスコーピオンは見守り続ける……のだが、あんまりにも長いことそうしているので不審に思ったスコーピオンが覗き込む。

 なんとエグゼは既に泣き止んでいるばかりか、スネークの胸元に顔をうずめ深呼吸をしているではないか。

 さすがに見過ごせなかったスコーピオンが無理矢理引き離すとエグゼはいたずらっぽく小さく舌を出す。

 

「あんたねぇ…まあいっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――なるほど、お前は旧友のハンターという奴に会いに行ったというわけか」

 

 あれから場所を移動させ、エグゼが救出任務中に何をしていたかを教えてもらう。

 スネークの前で彼女はありのままを話し、改めて仲間をすくえなかった事を謝罪したがスネークもミラーも、その件で彼女を責めるようなことはしなかった。

 

「それで、お前はそのハンターをどうしたいんだ?」

 

「どうって…なんだよ?」

 

「もし次の任務でハンターとであったら、お前はそいつを殺せるか? 正直に答えてくれ」

 

「オレは…たぶん、無理だよ…あいつとは楽しいときも辛いときも一緒だったんだ。殺せるわけがない、でもあいつは…次にあったらオレを殺すだろうな」

 

 あの時、最後にハンターに言われたことを思い出しエグゼは肩を落とし落ち込む。

 そんな様子を見てスネークは考え事をするように天井を見上げる。

 

「見ればわかると思うが…MSFには戦場で敵同士だった者も多い。オレが回収したりスカウトしたりと理由は様々だが、MSFの旗の下ともに戦っている」

 

「かくいうオレとスネークも最初は敵だったんだ。あとストレンジラブも、ヒューイもそうなるのかな?」

 

「それは知ってたけど……まさか、ハンターをこっちに引き込めっていうのかよ!?」

 

 自分たちの言いたいことに気がついたエグゼに二人は笑みを浮かべる。

 昨日の敵が今日の味方、というのはMSFに取ってこれまで何度もあったことだ。

 それはこの世界に来てからというもの変わっていないことだ。

 

「無理だ、あいつ結構堅物だし!」

 

「そうか、話しを聞く限り脈ありだと思うがな」

 

「そうだぞエグゼ。ところで気になるんだが…そのハンターって子は美人なのか?」

 

「それ聞いてどーすんだよ」

 

「重要なことだろう、なあボス!」

 

「最っっ低だね、やっぱりあんたオッサンだよ」

 

 女性陣からの冷たい視線を受けつつもミラーはノリノリだ。

 これがMSFの副司令だというのだから全く度し難い事態である。

 

「だが作戦は必要だろう。いつものようにフルトン回収するか?」

 

「いや、鉄血支配地域にヘリを飛ばすのは難しい。なるべく陸路での回収がいい…それか、ハンターを説得するか、これが可能なら一番いいんだが…」

 

「説得…か。あいつ、まだオレの話しを聞いてくれるかな…いや、やってみよう。あいつとはまた分かり合えそうな気がするんだ、アイツだけじゃない、いずれ他のみんなや代理人も仲間にできないかな!」

 

「いや、さすがに全員を仲間にするわけにはいかないだろう」

 

「代理人めっちゃ美人だぞ?」

 

「やろうスネーク! 鉄血の人形たちを仲間にすればまさにハーレム…じゃない、世界の平和につながるだろう! 名案だよスネーク!」

 

 相棒のハイテンションぶりに苦笑いを隠せないでいるスネークであったが、既にエグゼという前例があるため不可能なことではないだろうと思い始める。

 さすがにすべての鉄血を仲間にできるとは思っていないが、エグゼの努力を信じてあげたかった。

 

 

「そうと決まれば計画だ、いやー楽しくなってきたなみんな! ハハハハハ!」

 

 

 朗らかに笑うミラー主導のもと、不純な理由もいくつか混ざっているが鉄血ハイエンドモデル回収作戦が練られ始める。

 まだ見ぬ結果に期待に膨らませるミラーであるが、捕らぬ狸の皮算用という言葉を教え込むスネークであった。




カズ「結婚して」(直球)


スケアクロウ「無理」
ハンター「失せろ」
侵入者「お断りします」
デストロイヤー「キモイ」
夢想家「寝言は寝て言え」
ウロボロス「呪われろ」
代理人「ゴミが何か話してますわ」



次回はマザーベースpartです
安心してくださいマザーベースpartは平和ですから!


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マザーベース:研究開発班の動乱

これは読者さんの感想から浮かんだネタです。
ありがとうございました。


 今日もマザーベースは平和である。

 

 

 前哨基地より海洋に数十キロほどのところにあるマザーベースには、最低限の戦闘班と警備班、そして脅威のテクノロジーを秘めた研究開発班と糧食班、そして拠点開発班がいる。

 戦闘員の多くはこの世界での戦いの最前線である前哨基地に配備され、マザーベースを守る戦力というのは以外にも多くはない。

 だがこの世界のテクノロジーを集積し独自に研究開発班が生み出した装置によって、マザーベースは特殊な偽装と防御態勢が取られ、外敵を瞬時に察知したりレーダー等に写らないよう細工をしているのだ。

 戦闘員がいない、というのは人間による戦闘員のことであり、マザーベースには強化服に身を包んだMSFが生産した鉄血戦術人形"ヘイブン・トルーパー"や、二足歩行兵器"月光"が配備されちょっとやそっとの戦力では突き崩せないだろう。

 なによりマザーベースにはメタルギアZEKEの存在がある。

 調整や機体自体のコストのこともあって頻繁に稼働しているわけではないが、マザーベースの守護神であり最大の抑止力であることに変わりはない。

 

 

「腹減ったな…」

 

 甲板を警備するMSF製鉄血人形"ヘイブン・トルーパー"がそうぼやくと、隣を一緒に歩いていた別の人形が無言でビスケットを差し出した。

 それを貰った人形はヘルメットをとり乾燥したビスケットを口の中に放り込む。

 乾燥したビスケットは口の中の水分をあっという間に吸い取り、何か飲み物が欲しくなる…期待した目で隣を見ると、既に水の入った水筒を差し出していた。

 ありがたく水筒の水を貰い、飢えと渇きを癒した彼女は再びヘルメットをかぶり警備に戻る。

 

 

 MSFが抑えた鉄血人形の工場から生み出されたヘイブン・トルーパーの数は既に中隊規模に膨れ上がっており、それを統括するエグゼは彼女らにとって指揮官の立場にある。

 無論、エグゼよりも上位のスネークやミラーの命令があればそちらを優先するようプログラムされているが、基本的に彼女たちに指示を出すのはエグゼの役だ。

 

 基本的にヘイブン・トルーパーのAIには高度な思考能力は用意されていない。

 だが、AIを設定するにあたり人形のAIを担当したストレンジラブの強い意向もありある程度の個性と感情を搭載している。

 ヘイブン・トルーパーの配備は他の部隊にも適用されるはずだったが、彼女たちは彼女たちだけの部隊としてエグゼ指揮下に組織される…これもストレンジラブの強い意向によるものである。

 そして定期的にメンテナンスを受けることになっているが、これも…もう言わなくてもよいだろう。

 

 とにかく、ヘイブン・トルーパーは開発当初のコンセプトとは違い、数をそろえた上での消耗品としてではなく一兵士としてMSFの戦力となっている。

 それから、高度な戦闘プログラムをインストールしているほか、彼女たちの戦闘力をあげるために研究開発班が開発した強化服を装備し、他にはプレイング・マンティス社提供のP90サブマシンガンとPSG-1狙撃銃、マチェットを標準装備している。

 彼女らの部隊には他にも無人機の月光が配備され、少ない規模だがエグゼの指揮の下、非常に高い戦闘力と統制のとれた部隊となっている。

 

 

 マザーベースでの人間と人形の比率がだんだんと変化していく、これはミラーの強い意向で進められているわけだが決して戦術人形が女性をモデルとしているからとかそういう不純な理由ではない。

 

 

 

 その日、スコーピオンとエグゼは空いた時間を甲板上からの海釣りで潰していた。

 暇つぶしだが、釣れればそれは食糧となるために釣りの文化はマザーベースでは広く親しまれている。

 

 マザーベースのスタッフに誘われて釣りを始めた二人だが、釣りには忍耐というものが必要となってくる……つまり二人にとって相性は悪すぎる。

 最初は大物を釣り上げてやると意気込んでいた二人も、なかなか魚がかからないことにイライラし始める。

 以前スコーピオンは海洋に出て大物を仕留めたことがあったが、あれは銛で突き刺し仕留めたもので、長い時間をかけて釣り上げたものではない。

 

 他の兵士たちが時たま魚を釣り上げるのに対し、二人の釣果はいまだゼロである。

 

「ちくしょう…やってらんねぇぜ」

 

「手榴弾なげてやろうか?」

 

「そりゃいいな!」

 

 本気で投げようとする二人を兵士たちは必至で止め、それからも退屈な釣りの時間を過ごす。

 もう諦めて止めようかという時に、エグゼの握る竿の先端が大きく跳ねる。

 

「よっしゃ、かかったぜ!」

 

 待ち望んだ食いつきに目を輝かせ、力ずくで釣り上げようとするエグゼだが、慣れた兵士のアドバイスを聞いて魚の動きをじっくりと伺う。 

 それから徐々にリールを巻いていき、魚の抵抗が弱まった時に一気に釣り上げる。

 勢いよく振り上げ、海から魚が姿を現す……それはぺちゃっと情けない音を立てて甲板に落ち、ぴちぴちと小さな音を立てている。

 

 つまみあげた魚はエグゼの手のひらよりも小さい。

 完全に釣りへの興味を無くしたエグゼはため息をつくと、足下でじっと見上げている小さな猫の存在に気付く。

 

「なんだチビ助、こいつが欲しいのか? しゃーないな…」

 

 しゃがみこみ、小さな猫に釣り上げた魚をあげると小さな口を懸命に動かし魚を食べ始める。

 

「腹減ってたのか? ハハ、名前は何ていうんだチビ」

 

 あっという間に魚を平らげ、猫はまだお腹が空いているのかおねだりをするようにエグゼの足に顔を擦りつける。

 

 

「ニュークがなつているなんて珍しいな」

 

「ニューク? こいつの名か?」

 

「へぇ、そうか…かわいい奴だな」

 

 小さな身体を持ち上げると、エグゼの指を甘噛みしじゃれる。

 そんな小さな猫を胸に抱きそっと下顎を撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 

「お前らが飼ってるのか?」

 

「パス…って子が面倒を見てたんだ。なあエグゼ、ニュークは君に懐いてるみたいだし。たまに面倒見てくれないかな?」

 

「んー? たまにならいいよ、しゃーないから面倒を見てやるからなニューク」

 

「にゃー」

 

 小さな命を優しく抱きしめるエグゼの姿を、スコーピオンはその後ろで微笑ましく見守る。

 オセロットの件でどうなるかと思ったが、とりあえずは大丈夫そうだ。

 それに子猫をかわいがるなど、以前なら考えられない姿だ…エグゼも少しずつ変わってきているのだ。

 

 

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 総員研究開発プラットフォームに集合せよ! 繰り返す、研究開発プラットフォームへ集合せよ!』

 

 突如マザーベースの警報音が鳴り響き、驚いたニュークはエグゼの手を離れどこかへ逃げだしていった。

 滅多になることのないマザーベースの警報音に兵士たちは釣竿を放り投げ、すぐに研究開発班のあるプラットフォームへと走りだす。

 何が起こったのかは分からないが、スネークが前哨基地に向かって不在の今、みんなで協力をしなければならない。

 エグゼとスコーピオンも兵士たちに混ざりプラットフォームへと走りだした。

 

 

 

「ヒューイ博士!」

 

 プラットフォームには避難をしていたらしい、ヒューイが慌てた様子で周囲の兵士たちに指示を出していた。

 そこにはストレンジラブの姿もあり、主だった研究開発班のメンバーも既に退避していた。

 

「何があったの!?」

 

「それが―――」

 

 ヒューイが説明する間もなく、施設の一部で大きな爆発が起こり封鎖していた扉が吹き飛ばされる。

 

 そこからゆっくりと姿を現したのは二足歩行兵器月光だ。

 

「なにあれ!?」

 

 これまで部隊に配属されていた月光と明らかに違うその姿にスコーピオンは驚いていた。

 

 まずはその大きさ、通常の月光と比べ頭一つ大きく体格も一回り大きい姿は見慣れた月光よりも威圧感を増している。武装面においても、通常はM2ブローニングを取り付けているのに対しその月光は同口径で連射力に優れたガトリング式重機関銃を備えている。

 さらに通常の対戦車砲に加え、迫撃砲も有している。

 もはや小型のメタルギアZEKEと言っても良いくらい豊富な武装を備えた月光が、なにやら興奮した様子で大暴れしているではないか。

 

「あれは試作型月光(プロトタイプ)だ! 制御不能になって大暴れしてるんだ!」

 

「見りゃわかるわ! どうしたらいいの!?」

 

「破壊するしか…」

 

「ダメよ!」

 

 ヒューイのやむを得ない提案にストレンジラブが大声で反対する。

 

「あのプロトタイプには様々な実験データと高度なAIが搭載されている、破壊すればそれらすべてが失われる。それは断じて認められん!」

 

「じゃあどうしろっていうんだい!?」

 

「あれを開発したのはお前だろう、お前がなんとかしろ!」

 

 この期において口論を始める使えない天才科学者に呆れ、二人はとにかく暴れまわる月光に対処する。

 このまま放置すれば研究開発プラットフォームは崩壊しMSFに取って大きな損害となる、敵ではなく身内の、それも無人機のよく分からない暴走で崩壊したなどとお話にもならないだろう。

 

「やるしかないよエグゼ!」

 

「構うことは無い、ぶっ壊してやる!」

 

 暴れまわる試作型月光に忍び寄り、勢いよく飛びかかる。

 月光のメインカメラは前を向いている、今なら不意打ちを仕掛けられる…そう思ったが、試作型月光は素早く身をひるがえすと見事なまわし蹴りで二人を一掃する。

 

 

「言い忘れてた! プロトタイプのメインカメラは全周囲あらゆる角度を視界におさめられるんだ! コスト高で量産型には取りつけなかったけど、とにかくそいつには死角がないから注意するんだ!」

 

 

「最初に言っとけクソ眼鏡!」

 

 エグゼが瓦礫の中から這い出てヒューイに罵声を飛ばすがそんなことをしている場合ではない。

 標的に完全に二人に定めた試作型月光は、猪のように足下の甲板をひっかき、勢いよく突進して来る。

 その速さたるや並みの月光ではなく、寸でのところで躱したが、月光は施設の壁を足場に二段階の突進を敢行してきたではないか。

 予想外の動きにスコーピオンは月光の巨体に弾き飛ばされゴロゴロと甲板を転がっていく。

 

 

「プロトタイプのAIにはZEKEと同じようなAIを搭載してある、機動力と思考力は量産型の月光にはない特徴だ。敵の行動を解析し反映する能力に長けている、無人機だと侮ってはいけないぞ二人とも!」

 

 

「あーもう! 使えないグラサン女だな、なんでそういう大事なこと先に言わないかな!?」

 

 酷く頭をぶつけたのか、額を抑えスコーピオンは悪態をつく。

 

 試作型月光、それは月光を通常配備する前に試行錯誤を繰り返し様々な機能の搭載を試みた機体である。

 量産型では見送られた強力な武装や言語を話さずとも人形に近いAIを持つ高い知性、もはや月光に人形のAIを搭載した以上の化物となっている。

 コストの問題で見送られた武装の数々が、今エグゼとスコーピオンに牙を向こうとしている。

 

 

「このままでは危険だ、ぼくたちは避難しよう…ど、どうしたんだい?」

 

「スコーピオンに…使えない女と言われた…」

 

「あー…とりあえずぼくたちは避難しよう」

 

 

 ヒューイとストレンジラブ、そして研究開発班のスタッフたちは一時プラットフォームを離れ避難する。

 暴走する試作型月光が他のプラットフォームへと向かっていったら危険だ、そう判断した彼らはプラットフォームを繋ぐ橋を切り離す。

 

『聞こえるかい!? スタッフたちはみんな避難して無事だよ!』

 

「おいクソ眼鏡! オレたちはどーすんだよ!?」

 

『あ、ごめん…急いでたからつい…君たちでなんとか試作型月光を止めてくれ、あとできるだけ設備を守ってくれ!』

 

「うるせえ! お前らみんな死ね!」

 

 完全にプラットフォームに取り残された二人は、改めて殺意に満ちた試作型月光に対峙する。

 

 量産型と区別するため真っ黒に染め上げられた装甲部分でセンサーの明かりが真っ赤に光る姿は恐ろしい姿だ。

 マンティコアも逃げ出すほどの威圧感だが、二人に逃げ場はない。

 

「とことんやってやろうじゃないか」

 

「そうとも、追い詰められたサソリは何よりも怖いんだ!」

 

 意を決し走りだした二人に、月光はガトリング砲を回転させ凄まじい弾幕をはる。

 当たれば四肢など簡単に捥ぎ取れてしまう12.7mm弾、それがガトリングの凄まじい連射力で放たれる…弾をこんなにもばら撒く月光が多く配備されたらそれはコストが高くなり、量産型では見送られた理由もよく分かる。

 遮蔽物に隠れれば対戦車砲を、それでも出てこないのなら遮蔽物を避けて攻撃できる迫撃砲がある。

 月光の背部より放たれた砲弾は弧を描き、エグゼが身をひそめる遮蔽物に着弾すると灰色の煙を辺り一面に巻き散らす。

 

 

「ケホ、ケホ…! 発煙弾だと、舐めやがって!」

 

『迫撃砲の中身が発煙弾で良かったね。通常の榴弾だったら吹き飛んでた』

 

「やかましい!」

 

『ご、ごめん…とにかくこの煙はむしろ好都合だ。一気に接近して君の高周波ブレードで月光の脚を斬り裂くんだ!』

 

 

 発煙弾がまき散らした煙に紛れ、エグゼはブレードを手に月光の足元に潜り込む。

 煙に紛れたエグゼの姿に気付くのが遅れた月光であったが、咄嗟に跳んだことでまともに脚を斬られることは避けたようだ。

 だが傷は負わせた動きも鈍るはずだと慢心するエグゼであったが、試作型月光はマニピュレーターを脚の傷に向けると赤い液体をスプレーのように拭きかける。

 そうすると液体は傷を覆うように固まり完全にふさがる。

 

『ごめん、また言い忘れた…試作型月光には生体パーツ損傷の応急処置を施す物質を搭載しているんだ。生体パーツ本体の再生力を高める効果もあって―――』

 

「てめぇもうなんもしゃべるな!」

 

 怒り狂う月光は尋常ではない速さでエグゼと間合いを詰め、ガードするエグゼをその強靭な脚で蹴り上げる。

 勢いよく吹き飛ばされたエグゼは施設の壁に激突し、そのまま落下して甲板に叩き付けられる。

 

「エグゼ、大丈夫!?」

 

「うぅ…痛ぇ…! あのクソ研究員ども…!」

 

 なんとか立ち上がったエグゼであるが、もう目の前にいる試作型月光がとても恐ろしいものに見えてしまっていた。

 上体の装甲は対戦車ロケット砲も防ぐほどの堅牢さ、柔らかい生体パーツが使われている脚部を攻撃しようにも再生力が高くすぐに治癒する。

 攻守ともに完璧な上に動きも素早いと来た。

 笑えてしまうくらいに絶望的な力の差だ…。

 

「舐めやがって、月光が人形様に勝てると思ってんのかこの野郎…」

 

「おうとも、どっちのAIが上か勝負しようじゃないの!」

 

 それでもなお負けたくない意地で立ち上がる二人に、試作型月光が牛の鳴き声に似た動作音を響かせ威圧する。

 

 走りだした二人を迎え撃とうとガトリング砲を回転させたところで、エグゼとスコーピオンは息を合わせたように同じタイミングで二手に分かれる。

 どちらを優先的に狙いを絞るかを一瞬で思考した試作型月光は、身体の向きを体格的に大きいエグゼに向け、スコーピオンには背を向けたままガトリング砲の砲口を向ける。

 

 脚を振り上げ何度もエグゼを踏みつぶそうとしながら、背後のスコーピオンをガトリング砲の弾幕で牽制する。

 懐まで潜り込んだエグゼはブレードとナイフを手に、すり抜けざまに試作型月光の両足を切り刻む。

 ひるんだすきにその巨体を駆けあがると、視覚を司るセンサーに自身の防弾コートを覆い被せて試作型月光の目を封じ、目を塞がれ闇雲に撃ちまくるガトリング砲をブレードで斬り裂いた。

 マニピュレーターを伸ばしコートを払いのけ、エグゼのくるぶしに巻きつけ引きずり倒す。

 甲板に叩き落したエグゼをそのまま踏みつぶそうと脚をあげようとした試作型月光だが、いつの間にか両足に巻かれていたワイヤーの存在に気付かずに体勢を崩し転倒する。

 

 

「二兎を追う者は!」

 

「一兎を得ずってな!」

 

 勝ち誇ったように笑う二人だが、試作型月光は憤怒し、マニピュレーターを伸ばしてスコーピオンの足を掴むと無理矢理引き倒しエグゼに放り投げる。

 足元に絡んだワイヤーを力で強引に引き千切り、スコーピオンを受け止めたエグゼに凄まじい蹴りを放つ。

 二人まとめて吹き飛ばされ、甲板の向こうに危うく落ちかけたエグゼを咄嗟にスコーピオンは捕まえる。

 

「サンキュー…うっ、肋骨やられた……強すぎだろアイツ…!」

 

「走馬燈見えそう」

 

『あきらめるな二人とも、活路を見出すんだ!』

 

『みんな応援しているぞ、頑張るんだ!』

 

「外野共は黙ってろ!」

 

 耳障りな研究開発班一同に怒鳴りつけるが、絶体絶命の状況だ。

 こんな時頼りになるようなスネークやオセロットは不在、そもそもプラットフォームに二人取り残された状況ではいずれ殺されてしまうのは目に見えていたはずだった。

 死因が研究開発班が橋を外したこと、などと知ったらスネークはどう思うだろうか…。

 

「ねぇ、エグゼ…あたしら、短い間だったけどいいコンビだったよね…」

 

「へッ…ハンターの次くらいにはいい奴だったかもな…」

 

 迫る試作型月光を前にして二人は呑気に笑う。

 恐怖心で頭がどうにかなってしまったのか笑いが止まらない、そんな二人に月光は接近し脚を振り上げる…。

 

 

「ちょっと待て!」

 

 

 声がした…大笑いしていた二人も、試作型月光も動きを止めてその声の主を見つめる。

 

 

「待たせたな…」

 

「あんた、どうしてここに…」

 

 銃を手にサングラスを直し、不敵に笑う金髪の男。

 MSF副司令官カズヒラ・ミラーその人だ。

 

「スネーク不在のマザーベースはオレが守る。マザーベース最後の牙城は警備班でもZEKEでもない、このオレだ!」

 

「ミラーのオッサン、やめてよ逃げなよ!」

 

「そうだオッサン! あんたが勝てる相手じゃない、怪我する前に逃げろ!」

 

「オッサンじゃないッ! かかってこい試作型月光、マザーベースはオレが守る!」

 

 

 制止する二人の声も聞かず、ミラーは雄叫びをあげながら試作型月光に挑む。

 振り上げた脚を戻しのそのそとミラーに向かっていく。

 ミラーの銃撃をものともせず、接近して鋭い蹴りを放つ…それを咄嗟にかがんで躱し月光の股をすり抜ける。

 だが試作型月光は360度を視界におさめることができる、ミラーを捕まえようとマニピュレーターを伸ばす。

 

「甘いッ!」

 

 それをミラーをナイフで払いのけると、素早くそのマニピュレーターを付近の柱にがんじがらめに巻きつける。

 怒った月光は一気に詰め寄り、ミラーを蹴り飛ばす。

 

「オッサンッ!」

 

「うぐっ……オ、オッサン…じゃないッ!」

 

 戦術人形と違い生身の人間であるミラーが月光の蹴りを受ければひとたまりもない。

 一発で相当なダメージを負ったようだが、ミラーは気丈に振る舞い割れたサングラスを直す。

 

「怒っているか試作型月光、お前の気持ちが分かるぞ。お前、廃棄されるのが嫌で暴れているんだな?」

 

「!」

 

「図星か、量産型が生産されいつ自分が廃棄されるか怖かった…そうだろう? 安心しろ、お前は廃棄されない!」

 

「オッサン、蹴られて頭おかしくなったのか?」

 

「エグゼ、オレはオッサンじゃないし頭も正常だ」

 

『そうか…それで彼女は突然暴れ出したのか。すまない、これはわたしの責任だ』

 

 そう言ってストレンジラブは説明をする。

 

 月光の開発がひと段落を終え、試作型として数々の性能試験に参加していた試作型月光に対し、ストレンジラブやヒューイはもう実験は終わったからもう大丈夫だと言ったのだとか。

 それを試作型月光は勘違いをし、お役御免で廃棄されるのではと怯え、棄てられたくないあまり暴れ出した…のではないかというのが、ストレンジラブの予想だった。

 

「心配するな、君を傷つけるつもりはない…落ち着くんだ、大丈夫」

 

 猛牛をなだめるように手をかざし、ゆっくりとミラーは近付いていく。

 彼の言葉が通じるのか、試作型月光は怒りを鎮めマニピュレーターをしきりに動かしミラーの様子を伺っている。

 そのうち試作型月光は戦闘態勢を解除し、ミラーの前にしゃがみこむように脚をたたむ。

 

「よしよし、いい子だ。お前もMSFの家族だ、見捨てるわけにはいかないからな」

 

 小さく鳴く試作型月光はどこか嬉しそうだ。

 

 これにて一件落着。

 意気揚々とプラットフォームに戻って来たヒューイとストレンジラブ、そして研究開発班たちだが、エグゼとスコーピオンの怒りを受ける羽目になるのであった…。




ストレンジラブ「わたしが造るAIは全て女性をモデルとしている。試作型月光の説得には同じ女性ではなしえなかっただろう」

ヒューイ「おめでとうミラー、やっとAIのお相手ができたね」
エグゼ「大事にしてやれよな」
スコーピオン「良かったねオッサン」
試作型月光♀「モォーー♥」

カズ「いやおかしいだろ…」


ネコのニュークは一応PW登場してます。
パスの日記で出てましたね。


次回はシリアスpartに戻りましょう。
対決ハンター!の巻


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戦士としての矜持

 グリフィンがS09地区奪還のために動きだした。

 

 諜報班よりもたらされたこの情報はMSFの兵士たちにとってほとんどの対岸の火事としてさほど関心は抱かれなかったが、元鉄血の人形であり、S09地区を支配するハンターとは旧知の間柄であったエグゼにとっては衝撃的な知らせであった。

 グリフィンの内部にまで潜入している諜報員によると、何らかの理由でグリフィンの本隊は大きな動きはできないでいるようだが、一部の部隊が戦闘準備を進めているらしい。

 今のところ鉄血とグリフィンで膠着状態が続いているようだが、いつ動き出すか分からない状況に、エグゼは真っ先にスネークのもとへ駆けつけ出撃許可を求めるのであった。

 

 スネークとミラーそしてエグゼとスコーピオンは、ハンターを味方に引き込む作戦をかねてから計画していたが、まだ作戦は完ぺきとは言えない…それでもスネークはエグゼとの約束を守るため、すぐに行動に移す。

 グリフィンとの兼ね合いもあって大規模に動くことはできない。

 つまりS09地区へは隠密行動が求められる、それもおそらくはグリフィンと鉄血とがぶつかり合う戦場の中でだ。

 銃弾が飛び交う中、できるだけ交戦勢力を避けてハンターに接触し説得する…極めて難易度の高い任務(ミッション)だ。

 

 

 任務は時間との勝負となる。

 MSFの部隊を堂々と展開することはできないが、陽動部隊としてヘイブン・トルーパーの小隊がS09地区の抗争に紛れ込み、グリフィンの動きをできるだけ牽制する。

 実戦にはあまり投入していないヘイブン・トルーパーの部隊はグリフィン側には知られていない存在だ。

 おそらく新手の鉄血と思うかもしれないが、一応部隊章と強化服は外し鉄血兵に近い外見で作戦行動をとっている。

 その間、エグゼとスネークの二人は密かにS09地区へと潜入していた…。

 

 出来ることなら夜間の潜入が望ましいが、いつグリフィンが鉄血へと攻撃するか分からない以上、見つかるリスクが高い昼間でも致し方ない。

 とは言ってもスネークは戦場で数々の伝説を残してきた存在だ。

 昼間だろうが悪天候だろうが、常に環境に適応し、最善の策を講じ作戦を成功させ続けてきた。

 

 真昼間の戦場、油断すればあっという間に命を刈り取られる環境に置いて、スネークは緊張の糸を一切緩めることなく目標へと進んでいく。

 その後ろを追従するエグゼも、短期間とはいえスネーク直々に隠密行動を叩きこまれ、本人の筋の良さもありスネークの足手纏いとなることなく進んでいた。

 

 

「なあスネーク、ハンターはオレの話しを聞いてくれると思うか?」

 

 周囲に気配がないことを確認した上で、エグゼは前方を行くスネークに問いかける。

 

「どうした、らしくないぞ」

 

「いや、アイツ…オレが鉄血を離れたこと、結構怒ってるみたいだからさ。次会ったら殺すって言われたくらいだし」

 

「なるほどな。今のままだったらお前の話しは聞いてくれないかもな」

 

「おい、そんなはっきり言うことないじゃんか…!」

 

 スネークの事だから"うまくやれるさ"とか、不安を払しょくしてくれるような励ましの言葉を期待していたのだが…思わず声を荒げてしまったエグゼだが、声が大きいと戒められる。

 姿勢を低くし、周囲に異常が無いことを確かめた上で、エグゼはじっとスネークの顔を見つめ抗議する。

 

「オレが言いたいのはなエグゼ……今の不安を抱えたままの君を、ハンターが認めないだろうなってことだ。エグゼ、何も不安になる必要はない。ありったけの想いを、奴に伝えるんだ。ハンターがお前の言う大切な親友だというのなら、お前の正直な心を、無下にはしないはずだ」

 

「そ、そうか?」

 

「ああ、いつも通りのエグゼで向かっていくんだ。できるな?」

 

 肩に手を置き、笑って見せるスネークをしばらく真顔で見つめていたが…だんだんと雪のように白い肌が赤みを帯びていき、ついには耳まで真っ赤に染まる。

 出来るだけ冷静な姿を維持しようとしているようだが、スネークの今の微笑みでスイッチが入ってしまったらしい…ここ最近大人しくしていたエグゼであるが、戦場の緊張感と二人きりという状況に気持ちが昂ってしまったようだ。

 本来の任務を忘れてしまいそうなほど高揚しているエグゼを不可解に思いつつも、入ってきたミラーからの無線にスネークは応じる。

 

 

『スネーク、どうやらヘイブン・トルーパーの一部隊がグリフィン側と交戦したらしい』

 

「ほう、それでどうなった?」

 

『数名が負傷したようだが、全員命は無事だ。スネーク、グリフィン側には通常の戦術人形の部隊に加えAR小隊のメンバーもいるそうだ』

 

「AR小隊…確か前にうちで一緒に戦ってくれたM4という少女もAR小隊と言っていたな、彼女がいるのか?」

 

『おそらくな。注意してくれよボス、情報によればAR小隊の人形は特別らしい…何がどう特別かは知らんが、注意してくれよスネーク』

 

「ああ了解だ……おいエグゼ、何をやってる…」

 

 ふと、背後から覆いかぶさるようにスネークの背にのしかかり腕を回してきたエグゼ。

 耳元で艶かしく息を荒げつつ、生ぬるい舌先でスネークの首筋をなぞっている。

 

「スネーク、なんか…熱くなってきたな」

 

「おい、落ち着け!」

 

『な、なにをやってるんだボス、任務中だぞ!? オレには日頃厳しいことを言っておいてアンタ何を羨ましいことを…いや、けしからん、まったくもってけしからん!」

 

「誤解だ!」

 

 必死に否定するも、今その瞬間もエグゼはスネークの首に甘噛みして歯形を残し、昂る鼓動を背中越しにはっきりと伝えていた。

 いい加減振りほどこうとすれば、がっしりと拘束し一緒にもつれ込む…身体を抑えつけ、馬乗りになったエグゼは色っぽい声でスネークの名を呼び、スネークの鍛えあげられた分厚い胸板に手を添える。

 

「エグゼ、一回落ち着け…いいな?」

 

「ハァ…ハァ…スネーク…オレ、落ち着く方法知ってるぜ? この前本で見たんだ」

 

 もう完全に任務の事など頭から消え去っているであろうエグゼ…一瞬の隙をついて拘束を逃れ、背後にまわって一気に絞め落とす。

 気絶したエグゼをたたき起こすと、とりあえずさっきまでの発情状態は消えたようだ。

 

「確認だエグゼ、落ち着いてるか?」

 

「オレはいつでも冷静だろ」

 

「よし、ならいいんだ…」

 

「欲求不満なのか? 任務中だぞスネーク」

 

 さっきまでの乱れっぷりを全く覚えていないのか、涼しい顔で言ってのけるエグゼに鉄拳制裁をくわえそうになるがスネークは一先ずこらえることができた。

 発情したエグゼのせいで少し時間をくってしまったが、戦況に変化が起こった。

 それまで静かだった戦場に銃声が響くようになり、あちこちで銃撃音と爆発音が響き渡る。

 

 

『スネーク、アンタがいちゃいちゃしてる間に動きがあったぞ!』

 

「カズ誤解だ、アレはオレのせいじゃない」

 

『うるさい! それはともかくとして、諜報班からの情報だ。鉄血の人形の部隊がほとんど制御不能になって動かなくなっているらしい、グリフィンの部隊が一気に動き出すぞ!』

 

「なんだって!? 一体何が起こっているんだ!」

 

『分からん、原因は不明だがグリフィンは一気にハンターを倒しに向かうだろう。急ぐんだスネーク、エグゼのためにも!』

 

「了解だ! エグゼ!」

 

 まずは背後にエグゼがいることを確認する。

 通信はエグゼも聞いている、ハンターの危機に前のように一人で走りだしてしまわないか心配したが、それは杞憂だった。

 通信内容を聞き、やや不安げな表情をしているが、彼女はしっかりとその場に踏みとどまりスネークの指示をじっと待っていた。

 

「行くぞエグゼ、グリフィンよりもオレたちの方が近い。最短距離を駆け抜けるぞ!」

 

「その言葉が聞きたかったんだ! 行こうスネーク、ハンターのもとへ!」

 

 もはや猶予はない。

 グリフィンがハンターを仕留める前に接触するため、戦場を一気に駆け抜けていく。

 戦場にはちらほら鉄血兵の姿が見られるが、ミラーの通信内容のとおり制御不能に陥り活動を停止している。

 ハンターがいる基地まではもうすぐそこだ。

 

 そんな時、活動停止を免れた鉄血兵が姿を現し、二人に向けて発砲してきた。

 二人は咄嗟に岩陰に飛び込み応戦する。

 遮蔽物に隠れ撃ってくる鉄血兵を手榴弾であぶり出し、出てきたところを狙撃する。

 鉄血兵を倒したのを確かめ身を乗り出したエグゼであったが、どこからか放たれた弾丸を肩に受ける。

 幸い防弾コートで弾丸は止まっているが、着弾の衝撃で肩を痛めたのか肩を抑え、撃ってきた人物を睨みつける。

 

 

「見ーつけた! あれ、でもハンターじゃないな?」

 

「テメェ、AR小隊のイカレ女…!」

 

 岩陰から覗き込むと、そこには赤い瞳に黒いジャケットを羽織った戦術人形が笑みを浮かべ銃を構えていた。

 

「おや? おじさん、人間だよね? でも鉄血のハイエンドモデルと一緒にいるってことは…敵かな?」

 

 スネークの姿を認め、銃を構えつつ様子を伺う少女。

 

「エグゼ、アイツは?」

 

「AR小隊のM4 SOPMODⅡって奴だ。暇さえあれば人形を解体して悦にひたってるクソ野郎さ、何度オレの部下が餌食になったことか…!」

 

 忌々しく彼女を睨みつけるエグゼは、よほど彼女に恨みがあるらしい。

 エグゼとスネークの様子を伺っているSOPⅡであるが、このまま膠着状態が続くのは良くはない…スネークは一度SOPⅡを、そしてエグゼを見ると岩陰から姿をさらしSOPⅡの前に出る。

 

「エグゼ、奴はオレが相手をする。お前はハンターのもとへ」

 

「スネーク…! だけどアンタは!」

 

「なんのためにここに来た! オレは大丈夫だ、お前はお前の使命を果たせ」

 

「スネーク……勝手にくたばんじゃねえぞ、待ってろよ!」

 

 走りだしたエグゼを見送ると、物陰からSOPⅡが姿を現し目を細めてスネークを観察する。

 

「おじさんどうして人間なのに鉄血をかばうの?」

 

「ああ見えてオレたちの家族だからな」

 

「ふーん…じゃあおじさんは敵ってことでいいかな?」

 

「できるなら回れ右して立ち去ってもらいたいもんだ。お互いそっちの方が都合がいいだろう」

 

「うひひひひ、おじさん面白いね! でも無理なんだな、わたしも助けたい仲間がいるからさ! 邪魔するなら人間のおじさんでも殺しちゃうからね!」

 

 銃を素早く構え引き金を引くが、スネークは咄嗟に走りだし物陰に身をひそめると、壁越しに撃ち返し牽制する。

 SOPⅡもスネークの銃弾を躱し物陰に身を潜める。

 

「おじさん凄い! でもあんまり時間かけたくないんだ、ごめんね! 早く殺さないといけないの!」

 

 言葉とは裏腹に楽しそうに笑う彼女に、スネークは小さく舌打ちをする。

 グリフィンの部隊とは直接やり合う予定ではなかったが…AR小隊、よりによって一番面倒な相手と交戦をすることとなってしまった。

 手を抜いて戦えるような相手ではない、スネークは銃を装填し覚悟を決めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンターの牙城である基地は火災が起き黒煙が施設内に充満していた。

 生身の人間なら耐えられないような環境だが、ある程度頑丈な造りのエグゼは煙の中に飛び込みハンターの姿を探す。

 大部分の鉄血兵は活動を停止しているが、中には銃を手に襲い掛かってくる鉄血兵もいる。

 それをハンドガンとブレードで片付けつつ、基地の奥へ進んでいく…。

 そして基地の司令部に、ハンターはいた。

 

 腹部から血を流し、壁にもたれかかるハンターは最初エグゼを敵か味方か判別できなかったようだが、目の前までやって来た彼女を見て目を見開く。

 

「酷くやられたみたいだなハンター」

 

「処刑人…フン、わたしを殺しに来たのか…」

 

「勘違いすんなよ、お前を攫いに来たんだ」

 

 負傷したハンターに肩を貸して立たせると、そのまま基地を脱出するべく歩きだす。

 

「何の真似だ処刑人。お前はわたしを殺しに来たのではないのか?」

 

「冗談だろ、戦友のお前を殺せるわけがない」

 

「…ふざけるな…裏切り者に助けられてなどたまるか!」

 

「ああもう、うるせえな!」

 

 助けの手を拒否するハンターに業を煮やし、強引に彼女を肩に担ぎだす。

 それでも暴れるハンターをがっしりと抑え込む。

 

「ええい離せ!」

 

「やかましい! 大人しく助けられろ!」

 

 暴れるハンターにひっかかれながらもエグゼは走って基地を抜けていく。

 銃声は既に近い位置まで来ている、グリフィンの部隊に囲まれたらもうハンターを助けることはできない…。

 できるだけ早くスネークに合流しなければならなかった。

 

 基地の外まで来る頃にはハンターも静かになっていた。

 そこでハンターを下ろし、息を整え汗をぬぐう…それからスネークに通信を入れようとしたが、背中に冷たい物がつきつけられる。

 

 

「なんのつもりだよ、ハンター…」

 

「言ったはずだ処刑人、次に会ったら殺すとな」

 

「ふざけんじゃねえよ、助けてやったと思ったらこれかよ」

 

「助けを求めたわけじゃない。お前がするべきことはわたしを殺すか、わたしに殺されるかの二つしかなかったのだよ」

 

「テメェ……いい加減にしやがれ!」

 

 素早くその場で振り返り、ハンターの握る銃を逸らすと引き金が引かれ弾丸がエグゼの頬をかすめた。

 銃を握るハンターの腕を掴み上げ、その胸倉を掴みあげる。

 

「オレを見ろ、ハンター! 忘れたとは言わせねえ、お前と共に何度も死線を越えてきた友の顔だ! 確かにオレは鉄血を離れた…だがな、オレはお前に嫌悪感を持たれるような堕ち方はしてねえぞ!」

 

「黙れ! どんな綺麗事を吐こうが貴様の裏切りは変わらん!」

 

「いいかハンター、オレはここに…お前を仲間にしたいと思ってやって来た。オレはある男に出会い、一人の戦士としての生き方を知ったんだ。鉄血にいた頃には感じなかった事だ……命令を受けて戦うだけの存在だったオレが生の充足を得られる場所を与えてくれた。ハンター、オレはお前にもそれを知って欲しいんだ…友としてな」

 

「戯言を、余計なお世話だ!わたしが戦う理由は代理人が決めることだ、わたしはそれに疑問を感じたこともない! 目を覚ませ処刑人、お前のAIは異常なんだ、正常な判断ができていないだけだ!」

 

「いいやオレは正常だ…オレたちはかつて人間と一緒に戦場にいた。それが一夜で人類の敵だ、こんな事があるか? オレは戦争の道具になるなんてまっぴらだ…戦う理由は、オレ自身が決める」

 

 エグゼの訴えがどこまでハンターに届いているかは定かではないが、ハンターの態度は少しずつ変わっていた…冷たく突き放していた彼女の言葉に熱がこもり、本気になって言い争いをしていた。

 

「処刑人、お前が今の主人に敬意を払っていることは理解した…お前がそこまで言うのだ、尊敬に値するのだろう。だがわたしたちと縁を切ってまで追従するほどの者なのか!? 戦友のわたしを、なによりわたしたちを育て導いてきてくれた代理人を見棄てるほどなのか!?」

 

「お前らには、今でも愛着はあるさ……代理人だってな、何度命を救われたか分からねえ。ぶちのめされもしたが、それ以上に大切に見守ってくれたさ」

 

「だったら戻ってこい処刑人、代理人にわたしがお願いするし一緒に頭を下げてもいい! 処刑人、わたしたちは同じ仲間のもとにいることが正しいんだ!」

 

「ハンター…お前の気持ちはよく分かる。だけど、それは無理なんだ。オレの居場所は、もうあそこって決めたから」

 

「処刑人……そうか、だったらもう言うことは無い」

 

 エグゼから離れ数歩後ずさり、ハンターは数回深呼吸を繰り返し銃を手に向き直る。

 冷たい眼光でエグゼを見据え、身構える。

 

「お前を殺し、新しく生まれる処刑人を迎え入れるまでだ。武器をとれ処刑人、決別したとはいえかつての戦友だ…無抵抗のお前を殺すことは気が引ける」

 

「やるしかねえのかよハンター……」

 

「人生は思い通りにいかないものだ。来い処刑人、決着をつけよう…」

 

 やるせない気持ちで銃を構えるが、親友に引き金を引くことにはためらいを隠せない。

 ハンターは本気だ、迷いを抱えたまま戦えば瞬く間にその命を奪いに来るはずだ。

 

 ふと、エグゼは先ほどスネークが言った言葉を思いだす。

 

 今の自分は不安を抱えて伝えるべき本当の気持ちを伝え切れていない。

 ではどう伝えるべきか……言葉で本当の気持ちを伝えられるほど自分は器用な方ではない、いつだって思いつくままに行動をしてきた。

 そう言えばスネークと殴り合った時、あの時が一番自分の気持ちに正直だったではないか…。

 つまり、結局闘うしかない。

 闘うことでしか自分を表現できないのだ、不器用すぎる生き方にエグゼはおもわず笑みをこぼす。

 

 闘いを通して気持ちを伝えてやろう、そう決意したエグゼにハンターは目の色を変えた。

 

 お互い笑みを浮かべ、互いを認め合い二人は激突する…。




次回!
M4SOPMODⅡ VS ビッグボス

ハンターVSエグゼ

をお送りします!


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死闘

 数時間前…。

 

 

 

「今が好機だ、一気に突破しましょう!」

 

 鉄血の兵士の大部分が制御不能に陥った。

 膠着状態が続き睨みあっていたさなかに知らされた情報に、グリフィンはすぐさま部隊を出して鉄血に占拠されたS09地区の奪還と、そこに囚われているAR小隊の一員AR-15救出のため動き出す。

 グリフィンの部隊にはAR小隊の隊長であるM4とSOPMODⅡの二人も加わり、統制が取れず混乱状態にある鉄血兵を片っ端から撃破していく。

 

 だがある時、明らかにそれまでの鉄血兵と明らかに動きの違う鉄血兵が現れ部隊の行く手を阻む。

 

「ちょこまかと、うるさいなもう!」

 

 イライラしたような口調で、SOPⅡは引き金を引いて鉄血兵を仕留めようとするが、鉄血兵たちは素早い動きで銃撃を躱すと、あり得ない跳躍力で建物から建物へと飛び移り部隊の急所をついてくる。

 その容姿は見慣れた姿をしているが、動きはまるっきり別物だ。

 着かず離れずの距離を維持し、後退しようとすれば追撃し、追いかけようとすれば距離を置く…まるで部隊を足止めするかのような動きだ。

 

 見慣れない鉄血兵の動きは興味深いモノであったが、同じAR小隊の一員であるAR-15の救出を第一に考えるM4は少しの間も構ってなどいられなかった。

 戦闘を続ける部隊を一時的に離れ、M4は建物の内部へと入り込み一気に上階まで駆け抜ける。

 埃まみれの建物内を素早く移動し、敵を狙撃できる屋外のテラスにたどり着くと、付近にあった古ぼけたシートを頭からかぶり今もなお部隊に攻撃をくわえる鉄血兵へ狙いを定める。

 

 床に伏せて体勢を安定させ、照準器を覗き込む。

 飛び回る鉄血兵に狙いを定め、呼吸を止めて手ぶれを抑えた射撃は、見事鉄血兵を撃ち抜いた。

 しかしその鉄血兵はすぐさま起き上がると、その視線を狙撃したM4に向ける。

 

「反応が良いわね…ッ!?」

 

 咄嗟に跳びのいたその場所に、頭上から飛び降りてきた鉄血兵がマチェットの刃先を突き刺す。

 急いで銃を構えたが、素早い動きで接近しM4の銃を抑えつけマチェットを振りかざす。

 だがM4は素早く反応し、身体を鉄血兵におもいきりぶつけ距離を離すと腰だめで銃を撃つ…銃弾をまともに受けた鉄血兵はテラスの手すりから落ちていく。

 安堵したのも束の間、テラスをよじ登り数人の鉄血兵が姿を現す。

 さらに建物内からもあらわれ、あっという間にM4は周囲を取り囲まれてしまった。

 

「く…SOPⅡ!」

 

 完全に鉄血兵に取り囲まれる前に、M4はテラスの手すりに向けて走りだし、そのまま手すりを乗り越えた。

 そのまま重力に従って落下していくM4に鉄血兵は追い打ちをかけるが、M4もまた落下しながら撃ち返す……。

 

「M4!」

 

 M4が地面に激突するすれすれのところで、SOPⅡがスライディングで地面とM4の間に滑り込み落下の衝撃を和らげる。

 おかげでM4の体重を一身に受けたおかげでSOPⅡは苦しそうであるが…。

 

「イタタ…M4少し太った?」

 

「余計なこと言わないの。それより見て、鉄血兵が退いていく」

 

 頭上を見上げてみれば、鉄血兵が建物の向こうへと姿を消していくのが見えた。

 予想外の敵の部隊に、グリフィンの部隊は無視できない損耗を受けてしまった…。

 鉄血のエリートでもいたのかと想像するが、M4は静かに思考を巡らせる。

 

「SOPⅡ、ちょっと耳を貸して―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! 凄いよおじさん、人間でもこんな動きができるんだね!」

 

 物陰に身をひそめつつ、SOPⅡはけたけたと狂気的とも言える笑い声をあげながら銃の装填を行う。

 アサルトライフルに取りつけたグレネードランチャーに弾を装填し、スネークの潜む物陰に撃ちこんだ。

 着弾した箇所で擲弾がさく裂し、大きな爆発を起こし遮蔽物を吹き飛ばす。

 

 口角を曲げて様子を伺うSOPⅡであったが、視界の端から姿を現したスネークにすぐさま反応し銃口を向けるも、既にスネークは目の前まで接近しSOPⅡの銃身を掴んで狙いを逸らす。

 逆手に持ったナイフを彼女の首筋につきたてるも、SOPⅡは咄嗟に取りだしたナイフではじく。

 

 攻撃を防いでみせたことにSOPⅡは得意げに笑うが、そうしている間にスネークに足をかけられ転倒する。

 それでも素早い身のこなしで起き上がる彼女は、そのまま後方に跳んでスネークとの距離を離すと再び物陰に隠れてしまう。

 

「やるじゃんおじさん! お姉ちゃんたちを助ける前に殺しとかないと、後々面倒になりそうだね!」

 

 笑い声と共にそう言ってのけるSOPⅡであったが、あの短時間の接近戦でマガジンを抜き取られていたことには動揺していた。

 おまけにきちんと整備しているはずの銃であるのにもかかわらず、弾詰まりを起こしている。

 コッキングレバーを動かし強制的に弾を排莢させ、物陰から向こう側を覗き込む。

 既にさっきまでそこにいたスネークの姿はない。

 見失ったスネークの姿を探すが見える範囲にそれらしい気配はない、背後に回り込まれることを警戒しSOPⅡもその場を移動し廃墟の中へと身を隠す。

 

「ひひひ…かくれんぼかな? 鬼さんこっちだよー」

 

 小声でつぶやきつつ、しきりに目を動かしスネークの姿を探す。

 そうしていると、通りの反対側で物音が鳴り咄嗟にそちらに銃口を向けたとたん、背後から首を絞められ拘束される。

 銃を握る腕を抑えつけられ、首筋にはナイフを当てられている…少しでも動けば首を斬り裂くことだろう。

 

「かくれんぼは終わりだ」

 

「凄い、本当に気付かなかったよ…でも離してくれるかな、じゃないと…切り刻んじゃうよ!」

 

 抑えつけられていない腕でナイフを手に取るSOPⅡ、それにスネークは拘束したまま彼女を背後の壁に激突させる。

 顔面からぶつけられた彼女は一度倒れ痛そうに顔をさすり、唸り声をあげてスネークに襲い掛かる。

 だが引き金を引く前に愛銃をその手から奪われた挙句、銃口の先端でみぞおちを強く突かれSOPⅡは苦しそうに倒れ込む。

 

「うぅ…わたしの銃、返せ!」

 

 銃を奪われてしまえばそれまでだ、さっきまで使っていた銃を突きつけるスネークを睨み唸り声をあげることしかできない。

 

「しばらく眠っててもらうぞ」

 

 ホルスターから別な銃を取りだす。

 殺傷用ではない、対人形用の麻酔弾を装填した麻酔銃だがそんなことを知る由もないSOPⅡは冷や汗を垂らし恐々としている。

 怯えて見せる彼女に麻酔弾とは言え発砲するのは気が引ける思いであったが、仕方がない。

 だが、SOPⅡはさっきまでの怯えた表情をひっこめると笑みを浮かべてからかうように舌を出す。

 

「残念でしたおじさん、実を言うとわたし本体じゃないんだよね」

 

「なに…ダミー人形か!」

 

「ご名答! 本当のわたしは今おじさんのずっとずっと向こうにいるよ、おじさんの狙いがよく分からないけど、わたしたちの作戦勝ちだね!」

 

 いま目の前にいる彼女がダミー人形だというのなら、事態は相当マズい。

 スネークが相手をしている間AR小隊はその横をすり抜けてハンターを狙いに行ったはずだ。

 そこには先に向かわせたエグゼもいる、事情を知らない者が見ればエグゼを鉄血陣営の人形だと疑いもしないだろう…仮にエグゼを知るものがいたとして、MSF所属の人形がこの場にいることはとても都合が悪い。

 

「隙あり!」

 

 緊急事態に焦るスネークに、好機とみて飛びかかるが、ひらりと躱し後ろ襟を掴み、後頭部から地面に叩き付ける…先ほどよりも強い衝撃を受け、SOPⅡは目を回しピクリとも動かなくなる。

 彼女から奪った銃をその場に捨て、スネークは急いでエグゼの向かった基地へと走りだす…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身を血で汚した姿で、エグゼは遮蔽物に身をひそめ残りの弾をマガジンに詰めしこむ。

 近接戦主体のエグゼはあまり多くの弾薬は持ち歩かない、今回のような戦闘を目的としていない任務でならなおさらだ…。

 残る残弾はマガジン一つ分と、半端に弾が入ったマガジンが一つのみ。

 マガジンを装填し拳銃のスライドを引き、遮蔽物を乗り越えた瞬間銃弾が彼女を狙う。

 

 両手に拳銃を持ったハンターの銃撃を身をかがめて避けつつ、エグゼもなんとか撃ち返す。

 一発がハンターの肩に命中し怯んだが、すぐに持ち直す。

 残りの弾の全てを撃ち尽くしたが、ハンターの方はどうだ…?

 頭を出せばすぐに撃ち抜かれる状況で不用意に覗き込めないが、相手に弾が残っていたとして隠れていればいつかは仕留められる。

 幸いエグゼには高周波ブレードがある。

 意を決し、遮蔽物を乗り越えたエグゼにすぐさま銃撃するハンター。

 

 ハンターの二丁拳銃から放たれる無数の弾を、エグゼは防弾コートを盾にして強引に突破する。

 いくつかの弾をコートを突き破りエグゼの身体を傷つけるが、そんなことには構わずハンターへ一気に接近し身をひるがえし、片方の拳銃をブレードで破壊する。

 

「まだだッ!」

 

 残ったもう一つの拳銃の残弾をありったけエグゼに叩き込む。

 至近距離から放たれた弾丸の高い貫通力でコートは容易く撃ち抜かれるが、それに頼らず、弾丸を見切りブレードで斬りはらう。

 弾を撃ち尽くしたハンターは拳銃を手放すと、両手にナイフを構えエグゼに挑む。

 エグゼのブレードとハンターの二振りのナイフが接触するたびに火花を散らせる。

 

 パワーで優るエグゼに対し、ハンターは手数で攻め立てる。

 二つのナイフの他、ジャケットに差した小型ナイフを投げつけ、素早い動きと手数の多さで翻弄していた…ブレードをナイフで受け止め、もう一本のナイフをエグゼの肩に深々と突き入れる。

 

「チッ…痛ぇだろがコラ!」

 

 肩に突き刺したナイフごとハンターの手を掴み、彼女の額めがけ頭突きをする。

 怯むハンターに再度石頭をぶつけ、三度ぶつけようとしたところでハンターの回し蹴りを受け大きく後ずさる。

 下段、中段、上段とハンターの蹴りがエグゼを襲い強烈なハイキックが側頭部を撃ち抜きエグゼはたまらず片膝をつく…最後にハンターが跳び蹴りを放とうとジャンプしたところで、エグゼは自身の身体を弾丸のようにして肩からハンターの腹部にぶつかりに行った。

 

 倒れ込んだハンターにマウントポジションをとり、拳を振り下ろす。

 エグゼの拳が振り下ろされる度もはやどちらのものか分からない血が飛び散り、二人を真っ赤に染める。

 大きく振り上げたエグゼの拳が振り下ろされる瞬間、首を動かして拳を避けた彼女はエグゼの腕に小型のナイフを突き刺し、顔を蹴り上げて突き放す。

 

 立ち上がり睨みあう二人の身体はもうボロボロだ。

 それでもなお、二人は闘うことを止めない。

 

 

「よお…思いださねえかハンター? オレとお前で悪さして、代理人にぶっ飛ばされたときも…こんな酷い格好だったよな…」

 

「ああ、そうだな…あれ以来代理人を怒らせないようとしている…あの時は確か、お前が悪戯でトイレを破壊して通信施設を水浸しにしたんだったな…」

 

「ハハ、笑えるぜ…代理人の犯人探し、デストロイヤーのガキが黙ってれば隠し通せたのによ…」

 

「そうだな、それからなぜかわたしもとばっちりを受けてお仕置きされた……お前といるといつもトラブルに巻き込まれるな…!」

 

 ハンターが走りだし、逆手に持ったナイフを振るう。

 ブレードを手にナイフを防ぐが、蹴られた衝撃でブレードはエグゼの手を離れる…咄嗟にエグゼは先ほどハンターに突き刺されたままだったナイフを引き抜き寸でのところで防ぐ。

 

「だいたいお前の尻ぬぐいはいつも私だった…! いいところだけ持って行って、面倒事はいつもわたしに押し付けてきたな!」

 

「お前がやりたそうにしてるからだろ! おう、お前が夢想家と一緒になってオレをはめたの知ってるんだからな!?」

 

「なんのことだ!?」

 

「エイプリルフールだからって嘘は何でも許されるって言うから、代理人に嘘ついて小遣いせびったらばれてぶちのめされたんだぞ!」

 

「下手な嘘をつくお前が悪い!」

 

 いつしかふたりの言葉は不毛な口論となるが、同時に互いの命を全力で奪いに行く苛烈な戦闘も継続されている。

 お互い互角の力量だからこそ、全力をもって闘いあえる。

 それまで無かった経験に二人は楽しさすら感じ、笑みを浮かべていた。

 

「お前はわたしのペット人形を壊した!」

「オレが楽しみにしていたアイスを冷蔵庫から盗ったのはお前だろう!」

「いたずらでわたしの部屋のカギにろうそくを流し込んだな!」

「真冬の基地で鍵を閉めてオレを締め出しやがって!」

 

 思いつく限りの恨み言を叫び、ナイフを振り、拳をぶつけあう。

 笑いながら昔を懐かしみ全力で殺しあう姿は他の誰かが見れば異常なものに見えることだろう、だがそこには誰もいない、今二人はかつてないほど理解し合いお互いを認め合っていた。

 

 ああ懐かしい、こんなにも無邪気になったのはいつ振りだろうか…。

 いつまでもこうしていたい、決着をつけてしまうことがとても興ざめに思えてしまう。

 

 だが…。

 

 

「楽しいよ処刑人、やはりお前はわたしのかけがえのない友人だ。だからこそ、もう決着をつけよう…」

 

「そうだなハンター…決着の時だ」

 

 互いにナイフを構え笑いあう。

 決して望んだ結末ではないがこうするしかないのだ。

 どちらかが生き、どちらかが死ぬ、それが戦場の摂理なのだから。

 

 しばしの沈黙ののち、エグゼは地面を抉るほどの踏み込みと共に駆け出し、ハンターが迎え撃つ。

 

 互いの刃が激突し、二人の影が重なり合う…。

 抱き合うような体勢で互いに密着している。

 迎え撃ったハンターのナイフが、彼女の手から落ち、力を無くしたようにその身体をエグゼに持たれかける。

 

 

「処刑人…お前…」

 

「悪いな、ハンター……こうするしか、オレには出来ない…お前は殺せない」

 

 

 ハンターの胸を貫いたのは鋭利なナイフではなく、エグゼの拳であった。

 ナイフがハンターの胸を抉る寸前では刃を持ち変えていたのだ…。

 

 崩れ落ちるハンターをそっと抱きかかえ、抱き寄せる。

 そんなエグゼを睨むように見上げるハンターの頬に、数滴の雫が落ちる…。

 唇を噛み締め、涙をこぼすエグゼを見たハンターはのどまで出かかった拒絶の言葉を押しとどめる。

 

「お前を殺せるわけねえだろ…何年一緒にやって来たと思ってんだ…! お前は、オレのかけがえのない……お前を殺すくらいならオレは自分の命を絶つ…!」

 

「処刑人…」

 

「分かってくれよハンター…オレはお前を失いたくない……また一緒にいたいだけなんだよ! それっておかしいことかよ!?」

 

 涙をこぼし嗚咽するエグゼに向き直り、しばらく戸惑っていた様子のハンターであったがやがて彼女の肩をそっと抱き寄せ包み込む。

 腕の中ですすり泣くエグゼをまだハンターは困惑した様子で見つめていたが、彼女の心の中のわだかまりは少しずつ消えていく。

 

「悪かったな処刑人…お前も、辛かったよな…」

 

「当たり前だボケ…!」

 

「フッ、その口の悪い言葉もお前らしいな…」

 

 泣きながら暴言を吐くエグゼの後ろ髪をそっと撫でる。

 彼女の気持ちが落ち着くまでそうしてあげたかったが、そこは戦場…いつまでもそうしてはいられない。

 そっとエグゼを立たせると、エグゼもまた泣き顔を袖で拭う。

 

 

「今更わたしもお前を殺す気は無くなったよ…」

 

「おう…ならオレと一緒に来い」

 

「それは飛躍し過ぎだろう。鉄血のみんなは裏切れん」

 

「裏切りじゃない、一時的に離れるだけさ。いずれ他のみんなも仲間に引き込んじまえばいいんだ」

 

「呆れた奴だな、そんな簡単にできると思うのか?」

 

「やる前に出来ないっていう奴があるかよ。だけど一人じゃ厳しい、ハンター…お前がそばにいてくれれば心強いんだ。一緒に来てくれよ」

 

 差し出されたエグゼの手を、ハンターは素直に握り返さなかった。

 彼女なりに鉄血への恩義の心があるのだろう、いくらエグゼと再び心を通わせたからと言ってもそう簡単に決められるものではない。

 あごに手を当てて思案しつつハンターはエグゼを見つめる……。

 

 めちゃくちゃ笑顔である。

 まるで断られる可能性など微塵も考慮していないかのような無邪気な笑顔だ。

 

「全くお前は、昔から世話が焼ける…」

 

「お前は昔から世話好きだったな」

 

 

 昔と変わらないその姿を懐かしさを感じるとともに、先ほどまで殺しあいをしていたというのにその態度の変わりように呆れ果てる。

 だが、そんな自分も同類かとハンターは自嘲する。

 

「いいだろう処刑人、手を貸してやろう。代理人には…あいつが一番怖いな」

 

「出たとこ勝負さ」

 

 

 相変わらずの能天気ぶりに思わず笑みがこぼれる。

 二人は笑いあい、約束の握手を交わそうと手を差し伸べ合う。

 

 

 そんな時、静かだったその場に乾いた銃声が響き渡り、ハンターの身体が大きくぐらついた。

 目を見開くエグゼの顔に、ハンターの吐血した血が降り注ぐ…。

 

 咄嗟に手を伸ばそうとしたエグゼを突き飛ばした次の瞬間、ハンターの身体を無数の弾丸が撃ち抜く。

 全身を撃ち抜かれたハンターは力なく崩れ落ちていった…。

 

 

「おい、ハンター…? 嘘だよな、冗談きついぞ…」

 

 そっとハンターに近寄り抱き起す。

 エグゼの呼びかけにハンターはゆっくりと目を動かし、彼女の目を真っ直ぐに見つめる…震える手をそっとエグゼの頬に伸ばそうとしている。

 ハンターの手を握ろうと手を合わせようとしたが、ハンターの腕は力なく落ち、その瞳から生気が消えていく…。

 

 

「ハンター…くっ…!」

 

 まだ温かい彼女の身体を強く抱きしめる。

 言いようのない深い悲しみがエグゼの心を埋めていく…。

 

 

 足音がした。

 三人分の足音が近づいてくる…。

 

 

「よくも…よくも……クズ共がッ…!」

 

 心を埋めた哀しみが、どす黒い感情へと変わっていく…。

 哀しみは怒りに、怒りは憎しみへと…。

 激しい感情の変化に頭痛を催し、頭をおさえる…その痛みが憎悪を増長させ、エグゼの精神を黒く染めていく。

 

 

「AR小隊……! よくもハンターをッ! 殺してやるぞ…虫けらどもがッ!」

 

 

 




悪に堕ちる。復讐のために。


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報復心

「どうして泣いてるの…?」

 

 

 雨の音に混じって聞こえてきたその声にオレはそっと振り返る。

 夜の闇の中で、透き通るような白い肌の代理人の姿はとても鮮明にオレの目に映る…。

 いつも通りの、何が起こったとしても眉ひとつ動かさない無表情で、代理人はそっとオレの傍まで歩み寄り傘の中にオレの身体を入れた。

 

「ずぶ濡れよ、生体パーツに悪いわ…雨は様々な有害物質を含んでいるの」

 

 代理人はそっとオレの手を取る。

 いつも冷静な態度で氷のような冷たさすら感じる彼女であったが、オレの手に触れた彼女の肌は温かかった。

 "いらっしゃい"…そう呟く代理人の手にひかれ、オレは建物の中へと入って行く。

 

 代理人は用意していたタオルでずぶ濡れだったオレの身体を拭いていく。

 それからソファーに座らせ、温かいコーヒーを差し出してきた…。

 

「それで…どうして泣いてるの、処刑人?」

 

 コーヒーを一口飲んだオレに、彼女は先ほどと同じ言葉を投げかけた。

 雨に濡れた身体を拭いてもらったはずのオレだったが、無意識に触れた頬は涙で濡れていた…。

 じっと、代理人はオレを見つめ返答を待っている…。

 

「スケアクロウが、死んだんだろ…?」

 

「ええ、そうね。グリフィンの部隊にやられてね…それで泣いていたの?」

 

「わからねえ、涙なんて、流したことは無かったはずなのに」

 

「スケアクロウは確かに死んだわ。でもすぐにまた会えるのよ?」

 

「だけど、一昨日まで一緒にいたあいつは…もういないんだろ?」

 

 オレ自身、自分が何故涙を流しているのか全く理解できなかった。

 だけどスケアクロウが死んだと聞いた時、胸の中に小さな穴が開いてしまったような…うまく言えないが変な喪失感を感じた。

 代理人の言う通り、オレたち鉄血の人形は簡単に消えることは無い。

 死んでも殻を失っただけで、元のAIは残っている。

 再び殻が造られAI()を宿し姿を現す。

 だけど、オレはそれが全て同一の個体だと思えなかった…。

 この前まで話し、共に戦ったスケアクロウは永遠にいなくなってしまったんだ。

 

「処刑人、わたしたちには疑似的な感情モジュールが搭載されているけど、それはあくまでプログラム。怒りも、喜びも、哀しみも…全ては設定されたプログラム通りの表現をすることしかできないの。でもね、何万回に一回の…気の遠くなるような確率で、AIにエラーが起きてあなたのように鮮明な感情を持つことはあるかもしれない」

 

「オレは、オレのAIはイかれてるって言うのか…?」

 

 その問いかけに、代理人は静かに首を振る。

 

「私たちを生み出した者の観点からすれば、それはエラーではなく、奇跡と呼ぶでしょうね」

 

 戦争の道具としてだけなら人間の姿に近付ける必要はないが、敵陣に入り込みあたかも人間のように振る舞い疑われることなく潜入する必要性から、徐々に外見を限りなく人間に近づけようとしてきた。

 軍事技術から生まれた人形はいつしか人間社会に溶け込み、より内面的な部分で人間に似せることが研究されてきた。

 疑似的な感情表現はプログラムで何とかなるが、それは完ぺきとは言えない。

 

 だが今のオレのように、プログラムによらないありのままの精神は…。

 

 前まで考えもしなかった己の変化に、恐怖心が芽生える。

 

「処刑人、感情というものは尊いものなのよ。相手を思いやる心、慈しむ心、大切に思う心…私たちのような人形を造り上げた開発者が本当に生み出したかったのがそれなの。だからね処刑人、あなたのその哀しみの心はおかしいものじゃないの…」

 

 そっと、代理人はオレの手を取り甲を撫でる。

 冷えたオレの手を温かいぬくもりが包んでいく…あいかわらずの無表情だけど、オレは安らぎを感じている。

 

「でもね、感情がもたらすモノは良いことばかりじゃないの…来なさい」

 

 導かれるままに、オレは代理人の後をついて行く。

 彼女は窓の前に立ち、カーテンを開き窓の向こうの風景をオレに見させる。

 

 窓の外には、戦争で荒廃した大地が見える。

 様々な問題と国家の矛盾が最高潮に高まった末に起きた悲劇の大戦、世界にとどめを刺した最終戦争後の朽ち果てた世界だ。

 

「哀しみは怒りに、怒りは憎しみに変わる…憎しみが世界を覆った末の結果がこれよ。ここもかつては緑の綺麗な場所だったと聞きましたわ…もうその名残もないのだけれど。処刑人、覚えておきなさい…憎しみが燃やすのは世界だけじゃない、何より自分自身の心を焼き尽くすの」

 

「代理人、オレは大丈夫だ」

 

「そう、ならいいの。言っておくけれど、わたしが今言った言葉は本で読んだ言葉をそっくりあなたに伝えただけ…今のあなたに必要なアドバイスかは分からないわ。でも注意しなさい処刑人、一度地獄に堕ちれば……もう、戻っては来れないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まるで獣ね…!」

 

 その眼に殺意を宿し、歯を剥き出しにして睨みつけてくる姿を見たAR-15は手負いの猛獣を連想した。

 既に戦闘でボロボロになっているのにも関わらず、闘志をむき出しにし、ありったけの憎悪をその瞳に宿し今にも飛びかからんと自分と仲間たちを見据えている。

 

「追い込まれた獣ほど恐ろしいものはないわ、注意して!」

 

 地面に這いつくばるように身体を落とし、ブレードを肩に担ぐ。

 獣のようなその姿勢でエグゼは強靭な脚力をもって地面を蹴り飛ばし、迎え撃つAR小隊へと突進する。

 牽制に撃った弾の何発かがエグゼの身体に命中するが、防弾コートに防がれたほか、極度の興奮状態で痛覚の鈍っているために勢いは衰えることがない。

 凄まじい突進力と共に放たれる斬撃を、AR-15はかろうじて躱すことができたが、ブレーキをかけてその場に立ち止まったエグゼはブレードを振り上げ憎しみのこもった眼で彼女を見下していた。

 

 ブレードが彼女に振り下ろされる瞬間、正確に狙いすまされた弾丸がブレードを握るエグゼの手を撃ち抜く。

 それでもお構いなしに振り下ろされたブレードを紙一重で躱し、至近距離から銃弾を浴びせる…防弾コートを突き破り銃弾が彼女の肉体を撃ち抜き、吐血する。

 数歩後ずさり、ブレードを支えにエグゼは静止する。

 ゆっくりあげたその顔は血で赤く染まり憎しみに燃えた赤い瞳がぎらついている…一瞬、恐怖心から反応が遅れ飛びかかってきたエグゼのブレードがAR-15の肩を刺し貫いた。

 

「くっ…! 狂犬め…!」

 

「クズ共が、てめえらに地獄を味わわせてやる!」

 

 ブレードを突刺したままAR-15を押し倒し、銃を握る手を踏みつけてブレードを振り上げる。

 

「させるか!」

 

 そこへSOPⅡがタックルを仕掛けて突き飛ばそうとするが、数メートル後ずらせたところで勢いを止められる。

 勢いよく突っ込んでいったのに止められたことは予想外だったのか、SOPⅡは急いで距離を取ろうとするがエグゼの手に捕まり逃げることができない。

 SOPⅡの首を掴み上げ、勢いよく地面に叩き付ける。

 ろくに受け身も取れずに叩きつけられたSOPⅡは意識が跳んでしまいそうな衝撃に身動きが取ることができない。

 

「SOPⅡから離れろ!」

 

 SOPⅡの危機にM4が走りながらエグゼに向けて引き金を引く。

 放たれた弾丸をブレードではじくという人間離れした動きを見せるが、ハンターとの戦いとそれまでのAR小隊との戦闘で消耗したエグゼには、すべての弾丸をはじくことはできなかった。

 一発がエグゼの側頭部に命中し、彼女の身体が大きくぐらつく。

 

 最大のチャンスに、いまだダメージから回復しきっていないSOPⅡであったが、グレネードを装填し目の前のエグゼに向けてグレネードを発射する。

 爆発の直前、M4が咄嗟にSOPⅡに覆いかぶさり爆風から彼女の身を守る…。

 

 

「大丈夫?SOPⅡ」

 

「うん、ありがとうM4。あ…!」

 

 かばってくれたM4への感謝もそこそこに、SOPⅡは目をキラキラとさせて先ほどまでエグゼが立っていた場所に駆け寄り身をかがめて何かを拾い上げる。

 

「見てM4! 処刑人の腕ゲットだよ!」

 

 拾い上げたのは、爆発で千切り飛ばされたエグゼの片腕だった。

 血を滴らせる腕を持ち上げ、無邪気に笑う姿は狂気的だ…いつもの悪い癖がこんなところで出てしまっていることにM4は叱りたくなったが、吹き飛ばされた先でむくりと起き上がるエグゼを見た。

 自分の腕を拾い上げて喜んでいるSOPⅡを恐ろしい形相で睨みつけ、戦利品に夢中な様子の彼女に飛びかかる。

 

「SOPⅡ!」

 

 M4の叫びに彼女はハッとして振り返る。

 獣のように突っ込んでくるエグゼの掴みかかろうとした手を防いだが、その腕にエグゼは噛みつく。 

 骨ごと喰いちぎるほどの咬筋力で食らいつき、身体をねじりSOPⅡを投げ飛ばす。

 

「ハァ……チクショウ、AR小隊……ぶっ殺してやる!」

 

 呪詛の言葉をまき散らし、戦いで傷つきボロボロになったコートをまとい歩く姿は幽鬼のようだ。

 既にエグゼの身体は限界に近い、身を焦がすほどの憎悪を原動力に動き立ち続ける。

 片足を引きずり、よろよろと歩くエグゼにM4は銃を向ける。

 

 引き金を引き、放たれた弾丸がエグゼの膝を撃ち抜く。

 立て続けに同じ個所にフルオートで弾丸を撃ちこみ、そこの生体パーツを吹き飛ばし、内部の関節部を破壊する…ついに膝は千切れ、バランスを失ったエグゼの身体が前のめりに崩れ落ちる。

 

 それでも、彼女は残った片腕と足で地面を這いつくばり、M4へ憎しみのこもった眼を向け近付いていく。

 

 

「凄いわね、こんなになっても向かってくる…まるで地獄の鬼ね」

 

 おぞましいほどの執念を見たAR-15はおもわずそう口にする。

 

「そう、こいつはもう…地獄の住人になり下がってしまった」

 

 亡者のように這い進む彼女を、それから既に息絶えたハンターの亡骸を見たM4は一度その表情に哀愁を浮かべる。

 それから這いつくばるエグゼにそっと近寄っていく…。

 

「哀れね、処刑人……今まで数多くの命を奪い続けたあなたが、そこまで堕ちるなんてね」

 

「M4…! クソッたれの、操り人形が……!」

 

「わたしが憎いでしょうね……処刑人、奪われる痛みを理解した? あなたが散々犯してきた罪よ、因果応報ね」

 

 血に濡れた手を払いのけ、目の前に銃口をつきつける。

 

「あなたには聞きたいことがある、すぐには殺さない。あなたをグリフィンに連れていく」

 

 これまでの彼女の行動と、戦場での不可解な疑問を解決するために…M4の脳裏にはある男の姿が浮かんでいるが、確証を得るためエグゼを捕虜とすることを決める。

 M4の決定にAR-15は不服そうだが、リーダーの判断ということで不本意ながら納得する。

 SOPⅡは戦利品の腕を手に入れたことでご満悦のようで、大して気にもしていない…。

 

「待ってM4! 鉄血兵だ!」

 

 その時、突如として現われた鉄血兵が姿を現し襲い掛かる。 

 鉄血兵はAR小隊が市街地で遭遇した戦闘力の高い鉄血兵の部隊だった。

 鉄血の部隊は銃撃でAR小隊をエグゼから引き離すと、発煙弾を投擲し辺り一面を発煙弾の煙で覆い尽くす。

 煙で周囲の状況が分からなくなり、M4は止むをえずエグゼから離れ仲間の援護にまわる…。

 

 その隙をつき、一人の人影がエグゼに素早く近付く。

 

「エグゼ…!」

 

「ス…スネーク…」

 

「しっかりしろ、今助ける」

 

「スネーク…ハンターが、ハンター……奴らが…!」

 

 腕と足を無くし、ボロボロになった姿とその言葉を聞き、スネークは全てを察し目を伏せる。

 傷ついたエグゼの身体をそっと抱き上げる…彼女の軽くなってしまった身体を感じ、重い現実がスネークの心にのしかかる。

 煙に紛れ、一人の鉄血兵がスネークの傍へ近寄る。

 

「ビッグボス、この場は我々にお任せください。隊長をお願いします」

 

「ああ、お前たちも陽動に成功したらすぐに離脱するんだ」

 

「了解です。幸い、AR小隊は我々の小隊には気づいていません」

 

「いや…確証を得ていないだけだ。お前たちの無事を祈る」

 

 鉄血兵いや、ヘイブン・トルーパーはスネークに敬礼を向け煙の奥に姿をくらます。

 煙の向こうでは激しい銃撃の音が響き渡る。

 陽動が上手くいっているうちにスネークは傷ついたエグゼを抱えその場を離脱する。

 

 戦術人形とはいえ、限界を超えたダメージを受けたエグゼはとても危険な状態にある。

 走りながら無線で迎えのヘリを要請し、休みなく走る。

 戦闘の音が徐々に遠ざかっていくと同時に、エグゼの弱々しい鼓動を感じられるようになってきた…。

 

 ランディングゾーンへ到達する頃、空はどんよりと曇りだしやがて雨が降りだした。

 

 傷ついたエグゼを木の傍に寝かせ、着ていた上着をかける。

 

「エグゼ、もうすぐヘリがくる。もう少しの辛抱だ」

 

「あぁ…スネーク」

 

 立ち上がろうとしたスネークの手をエグゼは掴み止める。

 

 

「オレは…無力なのか?」

 

 苦しそうな呼吸を繰り返しながら、エグゼは上体を起こし木に寄りかかる。

 身体の傷が疼くのか呻く彼女を労わるように肩に触れるが、エグゼはその手を振りはらいスネークに掴みかかる。

 

「オレに力が足らなかったばかりに、ハンターは死んだ! ハンターを死なせたのはオレの中途半端な力のせいだッ!」

 

「それは違うぞエグゼ。お前は精いっぱいやったはずだ」

 

「精いっぱい出しきって、この様だ…奴ら、オレの親友を虫けらの様に殺しやがった…! クソッたれのAR小隊、オレは…奴らが憎い! 失ったものをとり返す、やられたらやり返すさ! オレは、負け犬になり下がるのだけは絶対になりたくない!」

 

「エグゼ、止すんだ。仕方がなかったんだ、どれだ強さがあろうと…救えない命もあるんだ」

 

「ならもっと強い力を手に入れるまでだ! スネーク、オレはこの屈辱を忘れない…教えてくれスネーク、オレは強くなるために何が必要なんだ! オレはもう地獄に堕ちた、何も怖いモノなどない…必要なら地獄の鬼にだってなってやる!」

 

「エグゼ…止めるんだ、お前が生きながら亡霊になる必要はない。悪に堕ちればお前は永遠に友を失うことにもなるんだ、ハンターもそれは望まないはずだ。気を強く持て、乗り越えるんだ、お前ならできる」

 

 エグゼの精神に一度にのしかかった哀しみと憎悪は、彼女の精神を大きく歪ませた。

 スネークの言葉も、今は彼女の心には届かない…憔悴しきったエグゼは木にもたれかかると、苦しそうに胸を掴み顔をゆがませた。

 

「痛い…痛むんだ、スネーク…身体じゃない、胸が苦しいんだよスネーク」

 

 苦悶に満ちた表情で、エグゼは救いを求めるように手を伸ばす。

 その手を握りそっと彼女の身体を包み込むと、エグゼはスネークの胸にしがみつき涙をこぼす。

 

「なんなんだよ、アンタと出会ってから…オレを、いろんな感情が苦しめる…耐えられない、生きるってこんなに辛いのかよ…! 強くなりてぇよスネーク、強くなれば…こんな思いしなくてすむんだろ?」

 

「強くなることは大事だ、だがお前が思う強さは本当の強さじゃない……いつかお前にも分かる時が来る。大切な誰かを救うことのできる強さを、一緒に探そう…オレも協力する」

 

 そっと、その髪をなでると彼女は強くしがみつき泣いた。

 震える彼女の肩を抱きしめながら、スネークは空を見上げる…。

 

 

 ―――ボス、オレはこの子たちを救えるほど強くなれているのか?

 

 最愛の恩師へ向けたその問いかけは返っては来ない…。

 

 雨はいつしか止み、星空が二人の頭上で光り輝く。

 

 彼女は宇宙(そら)からこの星を見て何を思ったのだろうか…。

 その答えは、もう知ることはできないのだ。



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ファントムペイン

 グリフィン司令室の机にて、クルーガーは書類として纏め上げられた資料を固い表情で見つめていた。

 強面の彼が人前で滅多に割ることは無く、普段通りと言えばそれまでなのだが、彼に近い存在の者はクルーガーの今の表情はいつもより強張っていることに気がつくはずだ。

 ふと、司令室のドアがノックされる。

 それからゆっくりと扉が開かれ、ヘリアントスが一度お辞儀をしてから入室する。

 彼女の後ろには一人の戦術人形、先日基地に帰還したばかりのM4の姿もあった。

 

「任務ご苦労、AR-15とSOPMODⅡは無事救出出来たようでなによりだ」

 

「はい、おかげさまで」

 

 クルーガーへの返事と共に敬礼を返す。

 あれからAR-15とSOPMODⅡの二人は負傷のため基地に帰還して直ぐ修復送りにされてしまった。

 命にかかわるような負傷ではないが、受けた傷は深くこれからの任務に支障が出るという判断である。

 ただ同じ他のグリフィンの部隊も似たような損傷を受けているのにも関わらず、AR小隊の修復は他のより重傷な人形を差し置いて優先された。 

 AR小隊はいまだM16を救助できていない、再びAR小隊に何らかの重要な任務が与えられることをM4は察していた。

 

「報告を聞いたが、君らはS09地区で奇妙な部隊に遭遇したそうだな」

 

 かけていたメガネと、分厚い資料をいったん机の上に置きクルーガーはM4に尋ねる。

 

「はい。少ないですが写真を撮れました、ご覧ください」

 

 渡された写真を受け取ると、写真には鉄血工造の一般的な戦術人形の姿がおさめられていた。

 ただ写真で見る限りでは通常の鉄血兵となんら変わりはなく、何も言われなければ特に疑問に思うこともないだろう…ただクルーガーは写真に写る鉄血兵の装備に目をつける。

 

「FN P90短機関銃にPSG1狙撃ライフルか…鉄血兵の通常装備ではないな。鹵獲した兵器か、あるいは生産されたものか」

 

「もしくは鉄血陣営以外の勢力か」

 

「M4、他に何か気付いたことがあるのかね?」

 

「はい、戦場で"SP524 Executioner"処刑人に遭遇しました。AR-15とSOPⅡに重傷を負わせたのは奴です」

 

「処刑人? それは先のMSFとの戦闘で破壊されたのではなかったのか? 再び造られた個体だとしても、早すぎる」

 

 ハイエンドモデルであるは処刑人がそう短期間で造り直されて出撃してくることはあり得ない、それがクルーガーの考えであった。

 だが実際にM4は処刑人と遭遇した、それも仲間のハンターを殺され怒り狂った処刑人と…。

 

「クルーガーさん、この件にはMSFが関与していると思います」

 

「MSFが…何故そう思うのだ?」

 

「確証はありません。MSFはあの時処刑人を倒しましたが、その後の処遇をわたしは知りません…もしかしたら何らかの方法で処刑人のコントロールに成功したのかもしれません。それに奴らは処刑人が占有していた鉄血の工場を抑えているはず、そこで鉄血兵を生産、配備しているに違いありません…それなら、すべての疑問に辻褄が合うのです!」

 

 珍しく熱のこもった彼女の言葉を、クルーガーは目を閉じ静かに聞いていた。

 

「調査をするべきです。もしまた同じような出来事に遭遇した場合、いつまでもわたしたちも無事帰還できるとも思えません。ただでさえ鉄血の相手で忙しいというのに…クルーガーさん、不安要素は少しでも減らすべきだと思います」

 

「M4、立場をわきまえろ。失礼だぞ」

 

 ヘリアントスの戒めを素直に聞きいれるも、今言った事は本心のようでじっとクルーガーを見つめたままだ。

 

「君の言いたいことはよく分かった。確かにM16が今だ帰還していない現状、MSFという強大な力がすぐそばにあることを看過できない気持ちもよく分かる。だが、我々としてはMSFには今以上に関わりを持つつもりはない」

 

「クルーガーさん、ですが…!」

 

「まあ話しは最後まで聞くんだ。これを見ろ」

 

 そう言って渡されたのは、先ほどまでクルーガーが呼んでいた分厚い資料である。

 ぱっと見ただけで目まいがする程上から下までびっしりと文字が羅列している…律儀に全文を読もうとするM4にクルーガーは小さな笑みをこぼす。

 

「長ったらしい文だが、まとめるとこうだ。"連邦政府はMSFを世界秩序を乱す勢力とみなし、これと関わるすべての企業及び団体は脅威を助長する勢力として厳正な処罰を与える"…ついに連邦政府が動きだしたのだ、MSFは我々の任務に関わる暇など無くなるだろう」

 

「クルーガーさんの言う通り、MSFはおそらく連邦政府への対処に追われることになる。連邦も、今まで散々MSFの力を利用してきたというのに、よほどその力を恐れているみたいですね」

 

「うむ。MSFがPMC4社を吸収し拡大して以来、連邦の不安は高まっていたはずだ。いまだバルカン半島の内戦も終わりが見えない…だがあそこで戦っているのは政府に雇われたPMCだ、大戦を戦い抜いた百戦錬磨の連邦軍はいまだ戦力を温存している。ある意味、鉄血よりも強大な相手と戦うことになるだろうな」

 

 

 汚染された地域も含め、バルカン半島の大部分を連邦政府は国土としているが、比較的他の国々と比べ汚染されていない大地は広い。

 それを維持するために強大な軍隊が国土を防衛するために常に正規軍の目を外部に向け、内なる敵には金で雇った傭兵に対処させている…反政府勢力と戦う連邦軍ももちろんいるが、それはごく少数だ。

 連邦軍が本気で動き出せば内戦は直ぐに終結するだろう。

 だが連邦軍の兵士たちも多民族国家の影響をうけて多種多様な人種が含まれており、連邦軍としてどちらか一方に肩入れすることもそれまでは難しかった。

 

「連邦政府の秘密警察の動きも活発になった、既に多くのジャーナリストやNGOが強制退去されかの国の内情はほとんど知ることができなくなった。衝突は近いのかもしれんな。ひとまず君たちはM16の救助に専念するといい、残りの不安要素はできる限り排除するつもりだ」

 

「了解しました」

 

 敬礼を向け、気持ちを切り替えてM4は司令部を去っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マザーベースの訓練場では、複数人の兵士に戦術人形たちも混じり、オセロット戦術教官指導の下近接格闘術(CQC)の訓練を行っていた。

 

「相手の動きを見極めろ、決して目を逸らすんじゃない!」

 

 オセロットは兵士たちに檄をとばし、一人一人の様子を見ていく。

 MSFの兵士たちは常日頃から訓練に励んでいるほか、憧れのBIGBOSSに少しでも近づこうとCQCに熱心に励んでいるため動きのキレはいい。

 戦術人形たちも負けてはいない、遅れながら学び始めた彼女たちだがオセロットの厳しい指導を受けて並みの兵士は圧倒するほどの格闘術は身に付けている。

 

 特に筋が良いのはWA2000、次いで9A91といったところか。

 二人は与えられた訓練以外にも率先して自己練習と研究をしているため、他の兵士や戦術人形たちと比べ飲み込みはとても早い。

 既に元SAS出身でFOXHOUNDメンバーのマシンガン・キッドにも勝るとも劣らないほどの能力を身に付けつつある…いずれ彼を超えてしまう日も近いだろう、それを刺激にキッドも訓練に励む。

 MSFに良い意味での競争心が生まれているのだ。

 

 

「うりゃーッ!」

 

 

 そんな中、オセロットが望む成長とはまるっきり違う方向に進化している人形が一人いる…スコーピオンである。

 スコーピオンの格闘術は一言で表すなら"力"、CQCの極意などそっちのけで全力で殴り蹴り強引に投げ飛ばす…いつまでも成長しないスコーピオンだが、それでもCQCをある程度身に付けた兵士に勝ってしまうのだからオセロットは頭を抱えるしかない。

 

 その日の訓練でも、跳び蹴りで兵士を怯ませ、素早く背後にまわって背後から腰を掴みおもい切ったバックドロップで訓練場を揺らす。

 悶絶する兵士の前で満面の笑みを浮かべVサインをみせる彼女を、オセロットは静かに近づいてひっぱたく。

 

「スコーピオン…誰がそんな技教えた? レスリングじゃないんだぞ」

 

「勝てばいいっしょ!」

 

「全く、お前のFOXHOUND入りは永遠にないな」

 

「えーーッ! いいじゃん別に、剛よく柔を征すってね!」

 

「……9A91、こいつとやってみろ」

 

 

 指名され前に出た9A91に颯爽と飛びかかる。

 9A91は落ち着き、片足を引っかてよろめいたスコーピオンの顔に手を置き、後頭部から床に叩き付ける。

 ゴツンと痛そうな音が響くが、素早くスコーピオンは起き上がる。

 それから何度も投げ飛ばされたり叩きつけられるが、恐るべきタフネスさで立ち上がる……どうも最近頭をぶつけたりぶちのめされ過ぎて、石頭はより硬くなり強靭なタフさを手に入れてしまったようだ。

 そのうちダメージを与えているはずの9A91の方が疲れてしまい、ついにスコーピオンに捕まり、スライディングで転倒されてからのサソリ固め(スコーピオン・デスロック)で抑え込まれてしまう。

 

「どうだまいったか9A91!」

 

「痛い痛い痛いッ! 止めて、やめてください!」

 

 高らかに笑い声をあげて9A91をいじめるスコーピオンを、WA2000が駆けつけざまに顔面を蹴り飛ばす。

 

「コラ毒サソリ! ここはあんたのプロレス会場じゃないんだからね!? まったくもう、9A91大丈夫…?」

 

 いまだ悶絶する9A91に手を貸すが、思い切り顔面を蹴ったにもかかわらずぴんぴんしているスコーピオンを見て驚愕する。

 

「それ以上近付いたらぶっとばすわよ!?」

 

「フッフッフ、あんたを倒せばあたしもFOXHOUND入り間違いなしだもんね!」

 

 助けを求めるようにWA2000はオセロットに目を向けるが、彼は何が何でもぶちのめせと言わんばかりに見てくる。

 彼の前で負けるわけにはいかないが、無尽蔵の体力を持つスコーピオンとやり合えば9A91のようにやられてしまうのではないか…そう思うと恐怖心が彼女の身体を硬直させてしまう。

 

 そんな時、訓練場のドアが勢いよく開かれ一同の視線がそこに注がれる。

 

「よー、みんな調子良さそうだな!」

 

「あ、エグゼ!」

 

 エグゼの姿を見たスコーピオンがそちらに気をとられて駆け寄っていく…泥沼の戦闘を回避できたことにWA2000はほっと一安心するのであった。

 

 

「もー、エグゼさん! あんまりうろうろしないでください、まだ万全じゃないんですから!」

 

「大丈夫だって言ってんだろ、リハビリだよリハビリ」

 

「そんなこと言って、さっきそこでおもいきり転んだじゃないですか。ほら、頬が切れてますよ」

 

 エグゼの後を追ってスプリングフィールドがやってくる。

 負傷したエグゼの身の回りの世話は彼女の役目だが、おせっかいを焼き過ぎるきらいがあってエグゼからは少々煙たがられている。

 今も嫌がるエグゼの頬の擦り傷にばんそうこうをはろうとしている。

 

「すっかり治ったじゃん、調子はどう?」

 

「おう、生体パーツは無理だけど代わりの義手と義足だ。物はとりあえず掴めるようになったぜ」

 

 エグゼは見せびらかすように、機械的な外観の義手と義足を見せる。

 スコーピオンは一瞬複雑な気持ちをその表情に浮かべたが、すぐに笑顔でかき消した。

 

「よーし、エグゼも無事退院したことだし快気祝いといこーじゃない! 思い立ったら吉日、ってことでオセロット、今日の訓練はお終いね!」

 

「おい…!」

 

 オセロットが止める間もなく、スコーピオンはエグゼと他の人形たちを半ば強引に引っ張っていってしまった。

 後に残された兵士たちがなんとも言えない様子で成り行きを見守っていたが、もはや訓練を続けるような空気でもなくなってしまったので解散させる。

 そばにあった椅子に座り、ため息を一つこぼす…そんな彼のもとにスネークが笑みを浮かべやってくる。

 

「ボス、人形たちの訓練はオレだが、教育はアンタのはずだぞ?」

 

「ハハ、山猫も彼女たちにはお手上げだな」

 

「全く…思春期が終わったと思ったら今度は反抗期だ、やってられん」

 

 珍しく愚痴をこぼすオセロットにねぎらいの缶コーヒーを差しいれる。

 

「それにしても、少し見ない間に成長したじゃないか」

 

「エグゼの事か?」

 

「ああ。前より仲間に気を許しているように見えたぞ」

 

 先ほどみたエグゼは、以前のような周りに壁を作り距離感を置いていた時と違い、仲間を意識しているように見えた。

 だがスネークの表情はあまりよろしくない、そんな彼に疑問を持つオセロットだ。

 

「良い変化であるのは間違いないが、あの笑顔の裏に報復心と憎悪が残っている。親友を失ったことで仲間を意識するようになったようだがな…それに、傷が治った今でも痛みが彼女を苦しめている」

 

幻肢痛(ファントムペイン)…か。友の死による精神的外傷と手足を失ったことによる身体的外傷が繋がっているんだろうな。あれは簡単には治らない」

 

「ストレンジラブも色々と手を尽くしたようだが、無理だったようだ」

 

「ボス、エグゼにとってアンタは最後の心の支柱だ。あいつの痛みを消すことはもしかしたら出来ないかもしれない、だが和らげることは可能かもしれない。ボス、これはアンタにしかできないんだ」

 

「分かってるさ。エグゼも戦士である前に一人の人間だ、聖人君子のような達者な言葉で救済するのは無理だが支えてやることはできるさ」

 

「その意気だよボス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エグゼの快気祝い…それにかこつけて日頃訓練と開発の堅苦しい空気にストレスをためたスタッフたちがどこからか湧き出し、思い思いの持参物をもって駆けつける。

 酒が入ってだれかれ構わず受け入れたスコーピオンも悪いが、騒ぎを聞きつけたミラーが現れてから手がつけられなくなる。

 つまらない話しも真面目な話しも酔っぱらったスコーピオンは大笑いし、時にミラーと一緒に暴れまわり後片付けにスプリングフィールドが躍起になっていたが、そのうち彼女も酒が入って寝てしまう…。

 WA2000"はスコーピオンカクテル"と称したすべての酒をピッチャーにぶち込んだものを飲まされ撃沈、9A91はスプリングフィールドの傍ですやすやと寝息をたてる。

 

 エグゼも病み上がりに関わらずガンガン飲まされているが変化はなかった、曰く飲んでも酔わないから酒は好きじゃない…とのことだ。

 

 そんなこんなで、ミラーとスコーピオンが酔いつぶれたところで宴会は終わり歩けるスタッフたちはそれぞれの部屋へと帰っていった…。

 

 

「ぐへッ…」

 

 

 寝返りをうったスコーピオンはソファーから転げ落ち、意識を覚醒させる。

 寝ぼけ眼で部屋を見て見れば、つまみや酒瓶が転がり、あちこちで死んだようにスタッフたちが雑魚寝している。

 酒で焼きついた喉の渇きを潤すため、スコーピオンはパンツ一丁で寝ころぶミラーの顔を踏みつけながら部屋を出ていく。

 

 

「うー喉が渇いた…麦茶欲しい…」

 

 冷蔵庫を開けて掴んだ瓶の中身を一気に飲むが、間違ってウイスキーを飲んでいることに気付き吹きだす。

 酒でうろ覚えになった記憶で、WA2000の逃げ場を無くすためアルコールの入っていない飲料は全て処分していたことを思い出し後悔する。

 仕方なく、風呂場へとスコーピオンはふらふら歩いていく。

 

「…うー……ん?」

 

 ふと、風呂場の明かりがついていることに気付き、顔だけを覗かせる。

 そこには洗面台の前で椅子に座り、頭をおさえこんでいるエグゼの姿があった…彼女も酔っぱらって頭痛に悩まされているのではと思ったが、そうではないようだ。

 

「エグゼ、どうしたの…?」

 

 スコーピオンの声に反応し振り返った彼女の顔色は酷く悪く、汗を流していた…苦しそうな表情に、すぐに駆け寄る。

 

「大丈夫だ、なんでもねえよ…」

 

「大丈夫じゃないよ! どこか具合がわるいの!?」

 

 触れた彼女の肌は特に熱を帯びてもいなかったが、額には玉のような汗が浮かび呼吸もどこか苦しそうだ。

 洗面台の蛇口をひねり義手を濡らしていくエグゼ…その行為に何の意味があるのかスコーピオンは理解できなかったが、腕に何か異常があることだけはなんとなくだが察した。

 

「傷がまだ痛むの?」

 

「違う、指先が痛むんだよ。失くしたはずの手が痛むんだ…」

 

「指先…何か痛み止めをもってくる?」

 

「薬じゃどうにもならないんだ…! この痛みが疼くたびに、オレはあいつらへの憎しみを思いだす…親友(ハンター)を虫けらみたいに殺しやがったAR小隊のツラを思いだすんだ!」

 

 昼間とは打って変わって、憎しみに歪んだエグゼの表情にスコーピオンは呆然としていた。

 生身の腕の方で拳を固く握りしめ手のひらから血がにじむ…。

 憎悪と怒りを表したエグゼにそっと触れたスコーピオンの手を払い、逆に彼女の両肩を掴み叫ぶ。

 

 

「ストレンジラブはこの痛みの治療法はないと言ったが、オレは知っている! AR小隊、奴らを一人残らずぶち殺し復讐を果たしたその時、この痛みからオレは解放されるんだ!」

 

「エグゼ、痛いよ…離してってば」

 

「だがよ、おれ一人の力じゃどうしようもないことがあるって思い知らされた。スコーピオン、お前の力を貸してくれ、あいつらに報復するためには力が必要だ! 仲間の助けがあれば必ずできるんだ、協力してくれスコーピオン、オレはあいつらに復讐したいんだッ!!」

 

「出来ないよエグゼ…無理だよ」

 

「どうしてだ、仲間なんじゃないのかよ! オレはこんな痛みといつまでもつき合っていたくない、乗り越えたいんだよ! 一人の力じゃどうにもならねえ、仲間の力が必要なんだ…奴らを殺すしか、オレが救われる方法はないんだ!」

 

 激しい口調で訴えかけるエグゼに、スコーピオンは何も言うことはできなかった…。

 やがてエグゼは目を伏せ、椅子にゆっくりと腰掛ける。

 落ち着いたのか、協力してくれないことへ失望したのかあるいは両方か…そんなエグゼの前にしゃがみこみ、スコーピオンはそっと手を握る。

 

「なんだよスコーピオン、なに泣いてんだ…オレが、哀れか?」

 

「違うよ…あんたのために何もしてやれない自分が悔しいんだ」

 

「いいさ、これはオレの問題だ。そもそも頼むオレが間違いなんだ…お前は何も悪くない」

 

「エグゼ、アタシはあんたの復讐には手を貸せない……だけど、アンタの傍にずっといてあげる、ずっと傍で支えてあげるから! 親友の代わりにはなれないかもしれないけど、仲間としてアンタの心の隙間を少しでも埋める努力をする…!」

 

「スコーピオン……一応、礼は言っとくぜ」

 

「うぅ……かわいそうなエグゼ、今はとても辛いかもしれないけど…大切な心まで失っちゃダメだ! アンタはアタシたちの家族なんだ、見捨てるもんか!」

 

「おい、なんでお前が号泣してんだよ…おかしいだろ。泣きたいのはオレの方なのによ」

 

「うるしゃい…!」

 

 そのうち勝手に膝の上を借りて泣きわめくスコーピオンに困惑する。

 だがスコーピオンの真心はエグゼの心に、確かに響いていた…苦笑いを浮かべ号泣するスコーピオンの髪をエグゼはそっと撫でる。

 

 

 指先の痛みが、ほんの少し和らいだ気がした…。




一章に比べ早いと思いますが、ここで二章を区切ろうと思います。
ここで区切っとかないと次の区切り目が長いので…。

あと、タグにTPP追加しときました(白目

さて第三章はオリジナルストーリーが増えますね、主にバルカン半島の連邦絡みで(TPPタグはだいたいこいつのせい)

連邦軍、404小隊、そしてCUBE作戦!
作者もうつ病にならないよう頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします!

あと、第三章でMGSキャラを一人ぶち込みます、敵側に(ニッコリ)


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第三章:BLOOD LAND ヨーロッパの火薬庫

三章始動!

オリキャラも何人か登場していきます。


 マザーベースよりヘリに乗ること十数時間。

 途中で傘下のPMCピューブル・アルメマンの補給基地で給油と補給を行い、再び長いヘリの旅に向かう。

 いくつもの山岳を越え、高高度の位置を移動する。

 

「ボス、連邦領内へ入ります」

 

 操縦者のその声に、横になっていたスネークは起き上がり緊張した面持ちで操縦席のレーダーを見守る。

 レーダーには連邦領の国境線を示す線が表示されており、機体を示す印が少しずつそこへ接近していく。

 機内の空気が張りつめる…それは機体を示す印が国境線を超えてから数十秒経った辺りでおさまった。

 

『スネーク、無事国境を越えたようだな』

 

「ああ、ヘリのステルス性は問題ないようだ。提供してくれたレイブン・ソードには礼を言っておいてくれ」

 

 国境を越える際に危惧していたのは、連邦軍の対空レーダーである。

 内戦中であり、なおかつ周囲に常に目を光らせている連邦軍は今や民間の飛行機に対しても領空侵犯は無警告で撃墜すると宣言しているくらいだ。

 もしステルス性能のない飛行隊が連邦軍のレーダーに映れば、すぐさま対空ミサイルが発射されて撃墜されるだろう。

 

 もしこれがスネークが元いた世界でやろうとするならば、国際社会からの強烈な非難を浴びて多国籍軍の集中攻撃をくらっていたかもしれない。

 だがこの世界のこの時代において、スネークの知る国連程の大きな影響力を持った組織もなければ、米国やソ連のように介入を仕掛けてくるほど余裕のある国家も存在しない。

 なにより内戦を抱えているとはいえ強大な軍事力を持つ連邦軍を前に、わざわざ利のないことでちょっかいを仕掛ける国家もない…少し前まではジャーナリストや保護軍が連邦領内には言っていたようだが、それらは全て強制退去させられ、今や連邦領内の実情を知ることはできない。

 

 それと同時に世界に宣言したのが、国境なき軍隊(MSF)及びPMC4社のテロリスト指定だ。

 かつての超大国が崩壊した今、決して大国とは言えなかった連邦政府は大戦を生き延びた軍事力と経済力をもって欧州での影響力を保持している。

 今のところ他の国がその宣言に追従しているわけではないが、進んでMSFと取引をしようという国家は少なくなった。

 これは戦争をビジネスとし、組織の運営をしているミラーにとって悩ましい事態だった。

 

 

「それで、オレたちに接触を求めてきたという勢力は何者なんだ?」

 

 連邦軍の対空網を掻い潜ったところで、スネークは葉巻に火をつけようとするが、いつの間にか張られている"禁煙"の張り紙と、咎めるような9A91の目を見て渋々葉巻をしまう。

 

『接触を求めてきたのは、反政府勢力の一つ"ユーゴスラビア人民解放軍"通称パルチザンだ」

 

「パルチザンか。カズ、バルカン半島では一体どれだけの勢力が戦火を交えているんだ?」

 

『一言で言うにはあの国は複雑すぎる。まずはいくつもの共和国をまとめている連邦政府、独立を掲げるボスニア、セルビアなどがある。中でもボスニアの事情は一層複雑だ、連邦政府寄りのクロアチア人勢力、ボスニアの独立を悲願とするボシュニャク人、セルビアと共に独立を果たそうとするスルプスカ共和国がある』

 

「多民族国家ユーゴスラビア、この時代においても戦争の火種は絶えないな」

 

『ああ。かつて隣人だった彼らが、今や血みどろの戦いを繰り広げている。スネーク、後教えておきたいのが現連邦政府にある過激派団体"ウスタシャ"だ」

 

「ウスタシャ…第二次世界大戦中にナチス政権と繋がりのあった組織。ナチスの特別任務部隊(アインザッツグルッペン)にさえ、その虐殺行為は衝撃的だったらしいな」

 

『そうだ、民族主義が高まるにつれ右派が勢いを増しウスタシャが再結成された。それに対抗してセルビア側にも同じ過激派組織の名を借りて生まれたのが"チュトニク"だ……そして民族の垣根を越えて革命を志しているのがパルチザンというわけだが、この紛争においては主要な組織とは言えない』

 

「社会主義革命を目指す少数派の支援か。アマンダたちを思いだすな」

 

『そう悠長な事も言っていられない。今言ったのは主な勢力だ、他にも自警団や民兵と言った準軍事組織もある。警察組織だって戦争に参加しているんだ。国民すべてが銃を突きつけ合っているようなものだ』

 

 

 内戦において、身を守るために一般市民が銃を手に取ることはよくあることだ。

 そうでもしなければ市民は暴力の前に蹂躙され、女子どもは凌辱される。

 時に年端もいかない少年少女すら銃を手にし、人を殺すこともある…少年兵の問題はスネーク自身もどうにか解決したいと思うことだった。

 

 

『スネーク、くれぐれも注意してくれよ。既にオセロットが現地に諜報員として潜入している、彼から入った情報はアンタに直ぐに伝える。奴も無事で任務を果たしてくれればいいんだが』

 

「奴はKGBとGRUに疑われず潜入した三重スパイ(トリプルクロス)だ、心配はいらない。それよりも、オセロットがいないからといって訓練をサボるような奴がいないか目を光らせてくれよ?」

 

『それはオレが見るから安心してくれ。そっちも、FOXHOUNDの部隊章に押し潰されてしまわないようちゃんと見ててやるんだぞ』

 

 ミラーの言葉に、同じヘリの機内で座る9A91の服に縫い付けられた部隊章に目を向ける。

 ナイフを咥えたフォックスが描かれた部隊章、スネークが今身に付けている戦闘服にも同じワッペンがつけられている。

 

「見なよ9A91、これが人間同士の戦争だ」

 

 同乗する同じFOXHOUND隊員に選ばれた"マシンガン"キッドが、高度を下げたヘリの窓から眼下にうつる荒れ果てた大地を見つめる。

 それは鉄血が荒廃させた街並みと似たようにも見えるが、よく見れば人間の業の深さを知ることができる。

 戦前は牧歌的な農村であったであろうそこは、戦車の履帯で踏み荒らされ、家畜の死骸も転がっている。

 

 ヘリの窓から一瞬見えた納屋の中では、人間の死体が山積みにされていた。

 

 9A91は気分を悪くし、窓から目を背けると席に座り込む。

 早くもこの地に渦巻く憎悪と怨念の空気にあてられてしまったようだが、まだ地獄の門に到達すらしていない。

 

 ヘリは高度を調節しながら山岳地帯の峡谷を抜けていく。

 敵対勢力にゲリラ戦を仕掛けているパルチザンは本部を絶えず移動させているため、その足取りを掴むことは難しい。

 MSFには合流地点を座標で教えてきたため、おそらくはその近辺にパルチザンの本部があるはずだ。

 

 

 ヘリは体勢を維持し、ゆっくりと高度を下げていく。

 川辺の広い場所に降下し、スネークは扉を開き外に出る…すぐさまキッドも降り立ち、周囲を警戒する。

 

「幸運を、FOXHOUNDの初任務の成功を祈ります」

 

 三人を下ろし終えたヘリはすぐさま機体を上昇させ、その場を飛び去っていく。

 ヘリが飛び去った後は、川の流れる音と、森のざわめきだけが響く静かな自然が三人を包み込む。

 

「司令官、周囲に敵影無しです」

 

「こっちもだ、ボス」

 

「よし、指定された座標まではここから北西に20キロだ。油断するな、ここはもう戦場だ」

 

 端末を起動させ、現在地と目標地点を確認し三人は移動を開始する。

 ここ最近は市街地での戦闘が多かったため、このような鬱蒼と生い茂る森や険しい山間部を進むのは久しぶりであったが、スネークには長年の経験が身体に染みついているため足をとられることなく進む。

 機関銃を手にし重装備のキッドもなんら問題なく進み、9A91は少々足をとられながらも二人の後をついて行っている。

 途中あった滝つぼでスネークは立ち止まり、小休止をとる。

 合流地点まではあと少しだが、約束の時間まではまだ余裕があるためそう急ぐ必要はない。

 

 ヘリで我慢していた葉巻を嗜む。

 我慢していたぶん葉巻の香りと味はここ最近で一番美味く感じられた…ふと、9A91がきょろきょろと森を見渡していることに気付く。

 頭上を飛ぶ鳥を目で追い、滝つぼにしゃがみこんで魚を覗き込んだり、森の小動物を眺めたり。

 

「こんな自然を見ることは初めてなのか?」

 

「はい。戦争で世界が荒れて以来、市街戦が多かったので。それに、このような自然が残されている場所は世界にも珍しいと思いますので」

 

「人がいないところでは戦争は起こらないからな」

 

「綺麗なところです、失って欲しくありません。鳥も魚も動物も、ここでしか生きられませんから」

 

 木々の枝にとまる小鳥たち、草むらを駆け抜けていく小動物の姿に9A91は微笑みを浮かべる。

 スネークとキッドにとっても、この世界に来てこのような穏やかな自然の中で気を休めるのは久しぶりの事だった。

 少しの時間を穏やかな自然の中で休み、三人は再び森の中を進んでいく。

 

 

 

 時折端末で位置を確認しながら、三人はようやくパルチザンの指定してきた座標にまで到達する。

 スネークはそこへ行く前にキッドと9A91を警戒にあたらせ、一人その場所に歩を進める……木々が揺れる音以外何もしない静かな空間で、スネークはしゃがみこむ。

 じっと草木の向こうを見つめる。

 

「MSFか?」

 

「ああ」

 

 唐突に投げかけられた言葉に短く答えると、スネークが見据えていた先から男が現れスネークを手招きした。

 

「一人か?」

 

「他に二人いる、今から呼ぶ」

 

 スネークが片手をあげて合図をすると、草木に隠れ気配を殺していたキッドと9A91が姿を現す。

 二人の気配に全く気付いていなかったのか、パルチザンの男は感心した様に頷く。

 

「来てくれ、オレたちのキャンプまで案内する」

 

 そう言って森の中をつき進んでいく男の後をスネークたちはついて行く。

 森の中をすいすい進んでいく男にスネークはもちろんついて行くが、重装備のキッドは流石にしんどそうだ。

 時折遅れ気味になる9A91を振り返って確かめながら進んでいくと、森の開けた場所に到達する。

 

 そこにいくつかのキャンプが設置され、数十人のパルチザン兵士たちが物資を運んだり銃の整備をしている。

 

「おい、少佐はどこいった?」

 

「ああ、食糧調達に出かけたよ。もうすぐ来ると思うぞ」

 

 仲間とやり取りを行った男はしばらくしてスネークたちのもとへ戻って来くる。

 

「自己紹介がまだだったな、オレはパルチザンで部隊を率いているドラガンだ、お会いできて光栄だビッグボス」

 

「スネークでいい。こっちはキッド、あっちの子は9A91だ」

 

「ほう、IOPの戦術人形を使っているのか、お目が高いね。うちのボスはどうやら狩りに出かけたようだ、少し休んで待っていてくれ」

 

 

 

 適当な場所に案内される間、スネークたちはパルチザン兵士たちの好奇の目に晒される。

 一応普段の服装とは変えているが、見た目がかわいい9A91には男たちの視線が集まっている…スネークとキッドは小柄な彼女を隠すように両脇を挟んで歩き、切り株に座り込み出されたコーヒーをいただいた。

 やけに苦いコーヒーに一同顔をしかめ、二度すすることなくマグカップをそこらに置いた。

 

「ボス、相手はどんな奴なんです?」

 

「分からん、接触をしてきたのは今のドラガンという名のパルチザン副官だったらしい。奴らのリーダーは分からん」

 

「どんな方なのでしょうか?」

 

「そりゃ決まってる、ボスゴリラみたいに大きな奴さ。見なよ、こんな服を着たゴリラみたいな兵士を束ねるには強い奴じゃなきゃな」

 

「服を着たゴリラ…」

 

「キッド、あまり変な言葉を教えるんじゃない」

 

 教育係として、戦術人形の前で悪い言葉を使うのは見過ごせない。

 無垢で純粋な9A91に乱暴な言葉を教えてエグゼやスコーピオンのようになってしまわれても困るからだ。

 

 そうしていると、キャンプが騒がしくなる。

 どうやらパルチザンのリーダーが狩りから帰ってきたらしい。

 

 

「あれが、パルチザンのリーダーか?」

 

 

 スネークが見つめる先には、矢で仕留めた小鹿を肩に担ぎ話す女性の姿があった。

 

 青みがかった黒髪を結い上げ、細身だが鍛えられた身体がシャツの上からでもよく分かる。

 切れ長の目はとっつきにくさを感じられるが、仲間と話す彼女は愛嬌のある笑顔を浮かべ、泥で汚れているが顔立ちの整った美しい女性だった。

 

「あれがボスゴリラ…ですか?」

 

「訂正、ありゃ戦場に舞い降りた戦乙女だ」

 

 予想していたような大男ではなく、マザーベースの戦術人形たちと並んでも遜色ない美しい女性の姿にキッドは先ほど言った言葉を即座に取り消した。

 

 

 

「こんな鹿よく取れたな」

 

「ああ、わたしの手にかかれば一ころさ。今夜は久しぶりの肉だ、血抜きはしたが解体は任せたぞ」

 

「了解だ少佐、ところであんたに会わせたい人たちがいるんだ」

 

「あ? 客人か?」

 

 女性はドラガンの言葉を聞いてキャンプを見回す。

 そこで立ち上がったスネークを見るや否や、先ほどまで笑っていた表情を一変させると目の前のドラガンの胸倉を掴み壁に叩き付ける。

 

 

「おいドラガン貴様、傭兵を雇ったのか!?」

 

「イリーナ、落ち着け。必要なことなんだ!」

 

「わたしに何の相談もなくか?」

 

「相談したら断っていただろう?」

 

「当たり前だ! 何故わたしたちが戦争屋の力を借りなければならないんだ! 傭兵はカネで簡単に裏切る、戦争で金もうけをする人間…わたしが最も嫌いな存在だ!」

 

 彼女はドラガンを突き放すと、そばにあった銃を手に大股でスネークたちへと近づき銃口を向ける。

 咄嗟に9A91とキッドも銃を突きつける、突然の出来事にパルチザンの兵士たちは動揺していたが、リーダーにならい銃口をスネークたちに向ける。

 

「待て、話しをしようじゃないか」

 

「お前らと話すことは何もない。戦争の犬め、この地にお前らみたいな戦争屋をこれ以上受け入れたくないのだよ」

 

「ドラガン、どう言うことだ話しが違うんじゃないのか?」

 

「待ってくれ。イリーナ落ち着け、オレたちには力が必要なんだ。何よりもオレたちには兵力が足りない」

 

「黙れドラガン。おい傭兵、わたしたちの悲劇がそんなに金になるか? わたしはお前らのような戦争を生業とする連中は嫌いなんだよ。カネで雇われ、女子どもを犯し殺す…お前らもきっとそうだろう? ここで戦争犯罪を咎める奴らはいない、どうせ政府に雇われ損なった小規模PMCといったところか?」

 

 とげとげしい言葉と共に彼女はありったけの嫌悪感を示す。

 一方的な物言いに9A91は苛立っているようだが、スネークは彼女とキッドの銃をそっと下げさせる。

 それをパルチザンのリーダー、イリーナはじっと見つめていたが銃を下ろす気配はない。

 

「やめろイリーナ、彼らはただの傭兵じゃない…MSFだ」

 

国境なき軍隊(MSF)? 持てぬものの抑止力……じゃあ、お前がビッグボスか?」

 

 ようやく銃を下ろしたイリーナに続き、パルチザンの兵士たちも銃を下ろす。

 衝突を避けられたがいまだ気を許しあっていない状況だ。

 

「そうか、アンタらが……連邦政府からテロリスト指定された話しは聞いていたが…」

 

「イリーナ、どうせオレたちも政府から見ればテロリストだ。気にすることは無い」

 

「わたしたちは"チトー元帥"の意思を継ぐパルチザンだ。連邦政府の白色テロを棚に上げて言えたことか」

 

「まあいいが、MSFの協力をうけてもいいんだよな?」

 

「ふぅ……おいドラガン、歯を食いしばれ」

 

 そう言うと、振り向きざまに強烈なパンチでドラガンを殴り倒す。

 歴戦のキッドも惚れ惚れとするような見事な拳だ。

 

「次わたしに内緒でやったら、歯が無くなるまでぶちのめすからな?」

 

 鼻血を垂れ流しながら頷くドラガンを睨みつけ、今後間違った行動をさせないようくぎを刺す。

 部下を懲らしめたところで彼女は振り返ると、先ほどとは打って変わりその顔に笑みを浮かべていた。

 

「さっきは悪かったな、あんたの噂は色々聞いてるよ。あちこちで兵士を攫って味方につけてるんだって? おまけに鉄血人形も囲ってるなんて噂も聞いたぞ」

 

「噂が独り歩きしているようだな。オレは兵士を攫っているんじゃなく説得して味方につけているだけだ」

 

「ハハハハハ、物は言いようだな。さて傭兵は嫌いだが、アンタという男には興味があった。話しをしようじゃないか」

 

 高らかに笑い、仲直りの握手と言わんばかりに彼女は手を差し出す。

 握手を交わせばとりあえずは仲直り完了だ、それ以上の商談はこれから話すことだ。

 

 

「ヨーロッパの火薬庫ユーゴスラビアへようこそ、ビッグボス」

 

 

 




七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字を持つ、一つの国家

始まりました第三章"ユーゴ紛争編"です。

2章の最後から少し時間が経ってます。
正式にFOXHOUNDが始動。
山猫さんはガチモードでバルカン半島に潜入してます。

では、次回からもよろしくお願いします。


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母なる大地、父なる英雄

「―――まだ連邦軍を動かすのを渋りますか、大統領」

 

 首都、ザグレブの官邸にて、連邦軍の司令官が連邦政府の最高指導者へ内戦終結のための作戦行動を示した書類を叩きつける。

 革張りの黒い椅子に深々と腰かける大統領は、連邦軍司令官が机の上にあげた書類には一切目を通さず、テーブルの隅の方へと追いやる。

 

「分からないのかね、連邦軍は対外的な脅威からは目を離せん。外国からの干渉もあり得るし、もっとおぞましい脅威もあるのだよ」

 

「重々承知しておりますよ大統領。ですが、これ以上内戦が長引くことは国益に大きく関わる。大統領、連邦軍に大規模な作戦を実行させれば内戦は直ぐに終結するのです。領内に蔓延るネズミ共の駆除も容易い」

 

「それが君ら軍部とウスタシャの総意かね? 司令官、求心力を無くしているとはいえまだわたしが大統領だ。国家を守るための連邦軍が、自国民に銃を向けるなどとあってはならないことなのだよ」

 

「あなたにはこの惨状と向き合う決意も心意気もないのですな、よろしい。その椅子で連邦の崩壊を見届けるといい、我々は諦めませんがね。では大統領どの、わたしは忙しいのでこれで失礼しますよ」

 

 大統領が跳ね除けた書類を手に取り、連邦軍司令官は最高指導者へ敬意も見せぬまま部屋を立ち去っていく。

 彼が退出した先では、連邦の過激派団体"ウスタシャ"の兵士が待っており、軍部の司令官に対し手を突き上げるような敬礼を向けた。

 それに対し司令官は一般的な敬礼を返し、彼らウスタシャと並び待っていた男へと早々に視線を向けた。

 

 

「奴はもう使えん、我々が独自に策を練る必要がある。ウスタシャの諜報機関の手を借りる必要がある」

 

「司令官、我々としては直ぐにでも出撃の命を待っているところです。気掛かりなのはいまだその足取りがつかめないパルチザンと国境なき軍隊(MSF)ですね」

 

「うむ、MSFが領内に入ったとのうわさもある。奴らの足取りがつかめん、優秀な諜報員がいると見た」

 

「今や連邦の大部分が戦場となっています。スルプスカ軍、ボスニア軍、チュトニク…ただでさえ面倒な連中だというのに」

 

 連邦の秘密警察の優秀さは世界の知るところだが、連邦政府がMSFを拒絶して以来国内の情報が外部に漏れることは無くなったが、同じくMSFに関する情報の入手もできなくなったのだ。

 連邦が放った何人かの諜報員とも連絡がつかなくなった、おそらくはMSFのスパイ狩りによって始末されたのだろう。

 

「万が一奴らがパルチザンに接触したら、ヤツらも"アレ"の存在に目をつけているとしたら非常に不味い状況だ」

 

「司令官、諜報員によると、所属不明の妙な戦術人形の部隊を見たという報告があります。おまけに鉄血工造の人形も国境付近で不穏な動きを見せているとか」

 

「厄介な連中に目をつけられたものだ。ボルコビッチ将軍、前にMSFに救われたからと言って遠慮する必要はない。パルチザンを追え、奴らのリーダーを捕らえるのだ。そうすればこの国の問題の全てを解決できる」

 

「了解です司令官」

 

 

 

 故郷のために 備えよ!(ザ・ドム スプレムニ!)

 

 祖国の伝統的な掛け声。

 かつてウスタシャがスローガンとして用い、以後他国に嫌悪感をもってとらえられる言葉をボルコビッチ将軍は口にする。

 他国がどう思おうと、その言葉と共にクロアチアは団結し外敵に立ち向かってきたのだ。

 

 新生ウスタシャが結成されて以来、連邦構成国クロアチアではその言葉をあしらった軍旗があちこちではためいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MSFがパルチザンと合流して以来、9A91は少し暇な時間があればそこの豊かな自然の森に足を運んでいた。

 時に動物や小鳥を遠目に観察し、草木や花に触れる。

 彼女はここに来て間もなかったが、緑豊かなここの自然が大好きになっていた。

 

 その日も、森を流れる小川の傍に座り込み何をするわけでもなく川を泳ぐ魚を観察したり、川の音と鳥たちのさえずりが調和する自然の音色に静かに耳を傾けていた。

 

 ふと、地面を踏みしめる足音に気がつき9A91は振り返る。

 

 金色の髪にどこか幼さのある顔立ち、森の中に佇む少女の姿はまるで絵本の中から飛び出してきたような妖精のようであった。

 妖精のような少女きらきらとひかる青い瞳を9A91に向けたままそっと微笑んだ。

 

「あなたはスオミKP-31」

 

 同じIOPの人形として生まれた9A91は少なからず同じIOP製の人形のことは知っている。

 今目の前にいる少女はサブマシンガンタイプの戦術人形スオミKP-31、直接会ったことは一度もなかったが知識としてあったために一目で少女の事が分かった。

 一目で分かってくれたことが嬉しかったのか、スオミは笑顔を浮かべて小走りで駆け寄ってくる。

 

「あなたはパルチザンの戦術人形、ですよね? わたしはMSFの戦術人形9A91です、よろしくお願いします」

 

 9A91は自己紹介と共に手を差し出すと、スオミは少し気恥ずかしそうに頬を赤らめて握手に応える。

 そのまま手をつないだまま、スオミはずっと9A91に微笑みかけたままだ。

 

「えっと…あの?」

 

 愛らしい外見の少女の笑顔を鬱陶しいと思っているわけではないが、自己紹介をいつまでも返してくれないスオミに果たして何か失礼なことでもあったのかと焦りだす。

 

 

「スオミは話せないんだ」

 

 その場にまた別な気配を感じて振り返ると、狩りから帰ってきたらしい獲物を肩に担ぐパルチザンのリーダー、イリーナの姿があった。

 イリーナはスオミの傍まで近寄ると、手帳と鉛筆を手渡す。

 スオミはそこに何かをかき込むと、そっと9A91に差しだしてきた。

 

 

"はじめまして9A91さん、わたしはスオミKP-31です。発声機能の故障で声が出せず、すぐに自己紹介が出来なかった事はすみません。よろしければ、友だちになっていただけませんか?"

 

 手帳に書かれた文字を読み上げると、スオミはさっきと同じような笑顔を浮かべたままじっと見つめていた。

 

「はいスオミさん、わたしでよろしければお友達になりましょう」

 

 そう言って笑顔を返すと、スオミは太陽のような笑顔を浮かべ9A91の手をとりその場でピョンピョンと跳ねて見せる。

 よほどうれしかったのだろう、スオミはイリーナの手も一緒に握って微笑んでいた。

 

 

「スオミはわたしが学生時代の頃、祖父が身辺警護のために買ってくれた戦術人形なんだ。祖父から父へ、父から兄へ、今はわたしの所だ。この子の声も直してやりたいが、今のところ難しくてね…他のメンテナンスはわたしがやってあげられるんだが」

 

 反政府勢力のパルチザンであるイリーナが、スオミを連れてIOPに修復依頼を出すことはとても難しい。

 現在の連邦政府はIOPとも関わりがある。

 企業であるIOPが、カネを落としてくれる連邦政府を倒そうとするパルチザンの人形修復を直すということはあり得ないことだ。

 

「スオミがうちに来たのは12の頃だったかな? 当時はわたしの方が小さかったのに、今ではわたしの方が大きい。わたしに残された唯一の家族だ」

 

 女性としては背の高い方であるイリーナとスオミが並ぶと、スオミの方が妹のように見える。

 高い位置から頭を撫でられて、まるで子ども扱いするなと言わんばかりに頬を膨らませて睨んでいるように見えるが、その様子はどこか微笑ましかった。

 

「この森が気に入ったかい?」

 

 ふと、イリーナから投げかけられた問いに9A91は頷いて見せる。

 

「戦争で荒廃した世界しか見ていなかったわたしには、この森がとても平和に見えます。ここにいると心が洗われるような気がします」

 

「そうか。君は良い心の持ち主のようだな、その心を大切にするといい。スオミ、9A91に森を案内してやりな」

 

 主人であるイリーナの言葉に頷き、スオミは手帳と9A91の手を握り森の奥へと歩きだす。

 何度か振り返っていた9A91であったが、イリーナの笑顔で手を振る姿に観念しスオミと一緒に森を歩いていった…。

 

 

 

「さてと…うひゃッ!?」

 

 二人を見送り振り返ったところで、いつの間にかいたビッグボスことスネークの姿に普段のクールからは想像出来ない可愛らしい声でイリーナは驚く。

 声をかけるタイミングを計っていたスネークとしては気まずい思いだが、イリーナは咳払いを一つすると、いつものクールな装いに戻る。

 どうやら今のは無かったことにしたらしい。

 

「感謝するよビッグボス、あなたの部下はスオミの良き友になってくれそうだ」

 

「そのようだな。盗み聞きするつもりはなかったんだが、あの子の声が出ないそうだな。オレたちのところに連れてきてくれば治してあげられるかもしれないぞ」

 

 意図せずして聞いてしまったスオミの声の不調、今や戦術人形のメンテナンスの全てを行えるマザーベースの施設があれば彼女の声も治すことも可能だろう。

 しかし、イリーナは首を横に振る。

 

「勘違いしないでくれ。スオミにはいつか声を取り戻して欲しいと思っている。だがあなた方にあの子を預けるにはまだ、そこまでお互いの事を理解できていない。スオミはわたしの最後の家族なんだ、慎重に思うわたしの気持ちを察してくれ」

 

「分かった、だがオレたちを信頼してくれた時にはいつでも言ってくれ。カネはとらん」

 

「そうなれることを願うよ」

 

 少し過保護に思えてしまうが、よほど人形であるスオミを大切に思っているのだろう。

 パルチザンのリーダーとして冷徹な印象を持たれるが、根は優しい女性なのかもしれない…彼女への評価を改めるとともに、スネークはイリーナが肩に担ぐ狩りで得た獲物に目を向ける。

 

 仕留められた大きなヘビが、イリーナの肩に担がれている。

 肉付きの良い食いごたえのありそうなヘビだ、ごくりと唾をのみ込むスネークを見たイリーナは咄嗟にヘビを隠し訝しげにスネークを見つめる。

 

「やらんぞ」

 

「残念だ。ところで、この森は随分自然の姿で保たれているな」

 

「ああ、内戦が起こる前からこの森は政府の指定で自然遺産として管理されていたからな。人が入ることはあまりないし、自然の営みが見えるこの森は内戦が起こるまで世界中の学者から注目されていたよ」

 

「うちの9A91もこの森が気に入ったらしい、平穏な森があの子には合うんだろうな」

 

「平穏…か」

 

 イリーナはスオミと9A91の入って行った方へ目をやると、遠くに見える木々を指差す。

 そのうちの一本の木に止まる小鳥、しばらくすると上空から勢いよく滑空してきた鷹が鉤爪で小鳥を捕らえあっという間に飛び立って行った。

 

 

「平和な森など幻想だ、自然界ほど弱肉強食の摂理が厳しいものはない。鳥も魚も動物も生きるために他の命を食らう。静かな木々でさえ、より多くの光を求め高く伸び枝を広げる…競争に負ければ、枯れて朽ち果て勝者の養分となる。この内戦も同じだ、生きるために他者を食い物にしている。文化も宗教も違う異民族を追い払うことで、生存圏の拡大を狙っている」

 

「イリーナ、お前はクロアチア人なのか?」

 

「なにに見える、ビッグボス? カトリックならクロアチア人、イスラムならボシュニャク人、正教ならセルビア人だ。では神を信じないわたしは何者なんだ? この手の質問にわたしはいつもこう答える、わたしはユーゴスラビア人だ。このバルカンの地がわたしの母であり、チトー元帥こそがわたしの父だ」

 

「ヨシップ・ブロズ・チトー、第二次世界大戦でパルチザンを率いナチスドイツとその傀儡国家を打倒し、西側にも東側にも属さない独自の体制を築き上げた英雄。何故その英雄を父と?」

 

「本気にするな、生まれた時代が違いすぎるだろう? わたしはチトー元帥の意思を受け継ぎ、再びこの国を一つにまとめ上げる。互いが憎みあうことなく、隣人を愛す…理想主義だと笑ってくれるなよ、わたしはいつでも本気だ」

 

「笑わないさ。誰もがそう願うことだ、だが難しい道だ。憎しみや報復の連鎖は、一度始まってしまえばなかなか止めることはできない」

 

「人類の永久の課題だな…少なくとも、チトーはこの国を纏め上げた。彼のような戦術も、カリスマも、政治的手腕もわたしにはないのかもしれない…だがなビッグボス、これはわたしの使命なのだよ。例え志半ばで倒れようと、わたしは悔いはない」

 

 そんな言葉を言いつつも、イリーナは自身に満ちた表情で微笑む。

 かつてスネークはサンディニスタの若きリーダーアマンダと出会い、リーダーとしての重圧にくじけそうになった彼女に喝を入れたことがあった。

 少しづつ成長したアマンダは最後には仲間たちからも、革命の司令官(コマンダンテ)として認められるようになった。

 

 だが同じ若きパルチザンのリーダーであるイリーナは、その若さで既に組織の長としての風格を身に付けているようであった。

 どんな時にも冷静さを失わず、的確な指示を出す。

 おそらくはこれまで何度も苦境に立たされながらも、優れた指導力とカリスマ性で組織をまとめ、そんな彼女にパルチザンの兵士たちもついてきたのだろう。

 副官のドラガンが、彼女に無断でMSFの協力を仰いだこともリーダーを想ってのことだ。

 

 

「さてビッグボス―――」

 

「スネークでいい」

 

「ふむ。ではスネーク、我々としての最終目標はクロアチア共和国首都ザグレブ、連邦政府の魔物どもが割拠する場所だ。他にも我々に共鳴する同志たちを救い、サラエボやベオグラードを解放する。長い戦いになる、傭兵にこんな事を言うのは誤りだと思うが、裏切るなよ?」

 

「もちろんだ。どのみち連邦政府に目をつけられたままでは、オレたちも思うように動けん」

 

「よろしい。ではこいつはお前にあげるとしよう」

 

 

 そう言って放り投げた獲物のヘビを素早い身のこなしでキャッチする。

 

 余談だが、その後ヘビの美味さをスネークとイリーナは熱く語り合い、周囲の人間及び人形たちをドン引きさせるのであった。




スオミちゃん登場、でも故障しているので話せません、筆談します。
9A91とお友達になれてよかったね!

一応パルチザンのリーダーはオリキャラなので設定をかいときます。

【イリーナ】

黒髪長身のクールビューティー。
でも母はバルカン半島の大地とか、父は100年近く前の英雄チトー元帥と言っちゃう若干邪気眼の入ったお姉さん。
少々自信過剰なところがあるが、自分の能力を正当に評価した上での態度なので決して慢心したり油断はしない。
仲間内からはリーダーと呼ばれたり、名前で呼ばれたりする。
スネークと同じ、食材を生で食いたがる残念美人。
スオミとは家族同然の仲であり、一緒に生活して一緒に食事し一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たりする…ようするにゆr(ストレンジラブにより検閲されました)


次回はマザーベースpartを予定してますが、変更するかも。
ではほなまた。


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マザーベース:太陽とサソリ

 唐突なことだが、MSFの総司令官であり我らがカリスマビッグボス不在のその日、ミラーはかねてから計画をしていた大規模作戦をついに実行する。

 それは研究開発班及び医療班並びに拠点開発班を交え、極秘裏に進められていた作戦である。

 それは…。

 

 

「みんな、サッカーをやろう」

 

 

 早朝の朝、マザーベースの食堂で多くのスタッフが集まるその場所でMSF副司令官のミラーはサッカーボールを手に似合わないユニフォームを着こみそう宣言した。

 朝っぱらからこの副司令は何を言っているんだと、そう思われたのは仕方がないが、日ごろ訓練に明け暮れ娯楽の少ないマザーベースではミラーが時折主催する行事と月に一回のお誕生日会が、兵士たちのたまったストレスを解放する行事となっている。

 マザーベースでは前にもこのようにサッカーが行われ、好評であったこともあって最初こそ白い眼で見られたが、多くの兵士たちは乗り気になってミラーの意見に賛同した。

 

 反対に堅物のWA2000などは、昨夜任務で帰りが遅く睡眠時間が短かったこともありむすっとした表情で朝食をつまらなそうに食べている。

 まあ彼女の場合、ここ最近オセロットが任務でバルカン半島に行きっぱなしだということもあるのだが…。

 

「相変わらずミラーのおっさんは面白いことやるね。ところでサッカーってなに?」

 

 食パンに目玉焼きとベーコンとレタスを交互に挟み、それを何重にも重ねて真ん中にナイフを刺して固定するサソリ式簡易ハンバーガーを頬張りつつ、スコーピオンは隣のエグゼに尋ねるが、彼女は山盛りのシリアルに牛乳をぶっかけたものにがっついているので聞く耳を持っていない。

 

「サッカーというのは、11人のチームをつくって一つのボールを蹴って相手のゴールに入れるスポーツですよ」

 

 スコーピオンの疑問に答えたのはスプリングフィールドだ。

 食事、というより目の前の料理を食い散らかしている二人とは対照的にナイフとフォークを使い上品に食事する。

 

「ふぅ、おかわりおかわりっと」

 

「あんたどんだけ食うのよ…」

 

 山盛りのシリアルを平らげ、容器に再びシリアルの山を作るエグゼにWA2000は少し引いた目で眺めている。

 そこへドバドバとミルクをかけ、再びかき込む様に食べていく。

 豪快な食いっぷりにスコーピオンも対抗するからなおさらたちが悪い…。

 

「ふぅ、ごちそうさん。それでサッカーってスポーツをやるんだって? 面白そうじゃん」

 

「あんたどうせルール分かってないでしょ? ボールを蹴るスポーツであって、人間を蹴るスポーツじゃないのよ?」

 

「え、違うの?」

 

 すっとぼけるエグゼに、もういいやと早々に諦めるWA2000。

 このままエグゼがサッカーに参戦すれば親善を兼ねたせっかくのサッカーが、血みどろの殺人サッカーに変わってしまうだろう。

 医療班の仕事を増やさないためにも、サッカーというスポーツが血で穢されない為にも、マザーベースが平和であるためにも、スプリングフィールドは持てる知識の全てを活かしエグゼにサッカーのルールを説明する。

 

「いいですかエグゼさん、まずサッカーは相手を潰すスポーツじゃありませんからね?」

 

「違うのか?」

 

「違います! コホン…確かにプレー中は危ない場面もありますが、過度に危険な行為にはイエローカードを出されます。より危険な行為を行えばレッドカード、つまり退場させられます」

 

 一つ一つ丁寧にルールを説明し、時にエグゼの疑問に答える彼女の説明はとても分かりやすく初心者のエグゼとスコーピオンも理解のほどが早いように見えた。

 それから本来のルールにはないが、二人のパワーを危惧し、スライディングと身体をぶつけるような行為は絶対に起こさないことを約束させる。

 

「いいですか二人とも、スポーツは公正で平和的な戦いです。相手を怪我させようとか、相手の気持ちを踏みにじるようなことは絶対しないでくださいね」

 

「分かったよ、話し長いよお前」

 

「心配してるんです!」

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

「もう…ワルサーさんは参加しますか?」

 

「んー、寝不足で疲れてるから遠慮しとくわ。でも気になるから試合は見に行く」

 

 スプリングフィールドも参加するか迷ったが、午後からカフェを開かなくてはならないことを思い出し今回は応援のみとすることとした。

 

 

 

 さて、サッカー参加の希望者は指定されたプラットフォームへ向かったのだが、いつの間にかできていたそのプラットフォームにスタッフと人形たちは困惑する。

 困惑する彼らに、ミラーは得意げに説明するのだ。

 

 そのプラットフォームは、研究開発班と拠点開発班が合同で進めていたプロジェクトの一つであり、今回のサッカーなどの競技を行うための多目的運動プラットフォームである。

 ミラー本人の熱意と、研究開発班らのノリによって誕生した究極のプロジェクト(資金と労力のムダ)である。

 

「オッサン、これスネークにちゃんと言って作ったの? 怒られるよ?」

 

「スネークなら大丈夫だ。マザーベースの運営はオレに任せると言ってくれたからな! それとオッサン言うな」

 

 得意げに笑うミラーであるが、これは後でこっぴどく叱られるパターンである。

 だがスタッフのストレス解消はかねてからの課題であり、のびのびと運動できるその施設の有用性をスネークが気付いてくれれば、もしかしたら怒られないかもしれないが…。

 まあ、人形たちにはミラーが袋叩きにあう姿しか想像できないようだ。

 

「さあ、これ以上は時間がもったいない、早速サッカーを始めようじゃないか。みんなルールは知っているな? 楽しくやろうじゃないか」

 

 

 突然だが、かつてサッカーが原因で戦争が起こったことはご存知だろうか?

 中米のエルサルバドルとホンジュラスの間で実際に勃発した戦争だ。

 サッカー戦争とちまたでは呼ばれているが、本当のところはそれまでの両国の領土問題や不法移民の問題などが重なり合った末に起こった戦争で、決してサッカーだけが原因ではない。

 だが話しが独り歩きし、あたかもサッカーが原因で戦争が起こったなどと言われているのだが…。

 

 それを知ってか知らずか、主催者のミラーは公正な審判で試合を盛り上げようとしたのだが、開始数秒で片方のチームのメンバーが担架で運ばれる事態となる。

 試合開始前までの熱狂が嘘のように静まり返る。

 

 気まずい空気の中、この原因を作りだしたエグゼがすっとぼけたような表情で担架で運ばれる兵士を見送る。

 

 一体何が起こったのか…。

 一部始終を観客席で見ていたスプリングフィールドは頭を抱えてうずくまる。

 

「エグゼさん…あれほど言ったのに…」

 

 エグゼがやったこと、それはキックオフと同時に全力でボールを蹴り、エグゼの脚力で弾丸のように放たれたボールがディフェンダーの顔に直撃し、5メートルは吹き飛ばされたのだ。

 柔らかいボールとはいえ、加速し運動エネルギーの乗ったそれは凶器と化し、ディフェンダーの鼻骨を粉砕する。

 

「エグゼ、駄目じゃないか相手を怪我させちゃ!」

 

 警告の笛を吹き、ミラーが注意するがエグゼはルールは破ってないと主張する。

 確かにルールは破っていない、彼女がやったことはシュートの一環だ…ただ殺人的な威力を持ってしまったが。

 

「とにかく、スポーツマンシップの精神を守ってプレーするんだ!」

 

 まだ文句があるようだが、厳重に注意しその場はイエローカードは出さなかった。

 試合は振出しに戻り、負傷した代わりに別なスタッフをチームに入れる。

 コートの真ん中には、エグゼと対決するチームのメンバースコーピオンが立つ。

 

 キックオフ、エグゼの二の舞を警戒したがスコーピオンは粗削りだが素早くドリブルでゴールを目指し走る。

 やっとまともなサッカーが始まったと安堵し、観客たちはおもいおもいのチームに声援を飛ばす。

 パスとドリブルでつなぎ、ゴールの前まで躍り出たスコーピオンの前にエグゼが立ちふさがる。

 小柄なスコーピオンは隙をついてエグゼの横を抜き、ゴールめがけシュートする……エグゼには劣るが速さのあるボールは惜しくもゴールポストに命中し弾かれる…。

 そこまではいいのだが、弾かれたボールがまるで狙いすまされたかのようにエグゼの後頭部に直撃し吹き飛ばされる。

 

 

「ダハハハハ! ごめんごめん、まさかそっちに跳んでくとは思わなかったなー」

 

 

 確信犯である。

 少しは期待して試合を応援していたスプリングフィールドであったが、あまりのショックに卒倒してしまいWA2000に介抱されている。

 

 

「テメェ、このクソサソリが…! 上等じゃねえか、サッカーやってやろうじゃねえか!」

 

 

 エグゼ…いや処刑人はその赤い目に強烈な殺意を宿し、獰猛な笑みと共に立ち上がる。

 

 その後はもうまさに手が付けられない状態であった。

 キレた二人の戦術人形の暴走によって試合は滅茶苦茶となり、阿鼻叫喚の地獄となる。

 強烈なシュートで選手を倒し、意図的に急所を狙ってシュートしてみたり……収拾のつかなくなったサッカー場でミラーがなんとか収束をさせようと尽力するが、止まらない!

 そのうち最近大人しくしていたはずの試作型月光が現れ、エグゼを超える脚力でボールを蹴る…いや、蹴った衝撃でボールが破裂してしまった!

 

「おらサソリ野郎! これでも食らいやがれ!」

 

「やったなこの!」

 

 ボールを無くしたらなおたちが悪い。

 取っ組み合いの乱闘にまで発展し、折角この日のために整理された芝生は滅茶苦茶になり、強引に投げ飛ばされたゴールポストがひしゃげて曲がる。

 

「やめろ、やめてくれーーッ!」

 

 ミラーの悲痛な叫び声が虚しく会場に響く。

 

 その後マザーベースに非常事態宣言が出され、戦闘班が緊急出動し二人を強制的に鎮圧し事態は収束する。

 恐ろしい結果に終わってしまったサッカーだったが、泣き崩れるミラーを哀れみ、スタッフたちが荒れたコートを直し試作型月光が慰めるように寄り添うのだ。

 問題児二人を観客席に縛り上げ、再開されたサッカーはとても平穏でスポーツマンシップにのっとった楽しい競技となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、昼間から飲むビールは美味いね!」

 

 豪快にジョッキを傾け、口周りにビールの泡を付着させたままスコーピオンは笑う。

 隣ではエグゼが硬そうな肉に食らいつき強引に引っ張っている……サッカーが終わり打ち上げにスプリングフィールドのカフェにやって来た二人だが、スプリングフィールドはくたくたの様子だ。

 

「それにしてもサッカー面白かったな、あれならまたやったっていいぞ!」

 

「もう結構です! 全くもう、後で絶対スネークさんに報告しますからね」

 

「まあまあ、落ち着きなさいスプリングフィールドよ。ビールおかわりね」

 

 呑気に笑う二人をキッと睨みつけ、空のジョッキをひったくる。

 冷凍庫で冷やしておいた新しいジョッキを用意し、サーバーのビールを注ぐ…それを受け取ったスコーピオンは再び喉を鳴らしながら飲んでいく。

 

「冷えたビールほど美味い酒はない! エグゼもたまには飲みなよ」

 

「飲んだって酔わねえから好きじゃないって言ってるだろ?」

 

「飲み足りないんだよそれは。スプリングフィールド、ウイスキーストレートで持ってきて!」

 

「おいコラ、お前が飲めよソレ」

 

「なにー? あたしの酒が飲めないっていうのか?」

 

「うわめんどくせえな、あっち行ってろよ。なあスプリングフィールド、ナポリタンくれよ、特盛な!」

 

「あたしラーメン食べたい!」

 

「そんなのありません! あーもう、ここは静かな空間のカフェなんですからね!?」

 

 本来ならジャズの音楽がかけられた穏やかなカフェのはずが、そこは殺人サッカーを終えた二人による打ち上げ会場と化し、静かな空間を求めやって来たスタッフたちが早々に引き返していく。

 エグゼはともかくとして、酒が入って陽気になってきたスコーピオンはたちが悪い。

 

「うわッ……なにこれどうなってるの?」

 

「あぁ、ワルサーさん。助けてください、一人じゃ手に負えません…」

 

 遅れてやって来たWA2000はカフェ内の惨状に目を背けそうになるが、カウンターの向こうで救いを求めるスプリングフィールドを無視できず、エプロンを身に付けカウンターに立つ。

 

 

「おう遅いぞワーちゃん! まあ乾杯代わりにこの麦茶を飲みなさい」

 

 スコーピオンに差し出されたグラスには茶色い液体が入っている。

 WA2000は無言でそのグラスにライターの火を近づけると、ぽっと青白い火がついたではないか…。

 

「知らなかったわ、麦茶って火がつくのね」

 

「細かいこと気にしないでワーちゃんも飲めばいいんだって! ほら、エグゼもカクテルでいいから飲もうよ! 一人で飲んでてもつまらないんだって!」

 

「うるせえ酔っ払いだな。しゃーないな、とりあえずビールくれよ」

 

「はいはい」

 

 エグゼにはビールを、自分には度数の弱いカクテル、疲れた様子のスプリングフィールドには正真正銘本物の麦茶を渡す。

 

「9A91がこの場にいないのは残念だけど、MSFとあたしらのますますの発展と活躍を祈念いたしまして、乾杯だーッ!」

 

 

 スコーピオンの調子の良い口上の後、人形たちはグラスを合わせ合う。

 ますます手のつけられなくなるスコーピオンであったが、ここ最近暗いニュースの多かった中で、太陽のように笑うスコーピオンにはいつも誰かが元気づけられる。

 お祭り人形スコーピオンに手を焼かされたが、その時ばかりは疲れた様子を隠し、スプリングフィールドも楽しむのであった…。

 

 




エグゼとスコーピオンは少林サ〇カーでも見たんだろうな(白目)



うちのスコーピオンはムードメーカーであり、お祭り人形、ミラーと組めば楽しい行事が増えることでしょう。
でも基本スネークの追っかけなので、なかなか実現しないw

9A91も一緒に混ぜたかったけど、任務中なんでね…。
でも殺人サッカーに巻き込まれなかったからある意味助かった?


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狙撃者の葛藤

 MSFがバルカン半島の内戦へ介入をしてはや数週間。

 連邦政府打倒を掲げる若きパルチザンのリーダー、イリーナとその組織を支援するためにMSFは物資不足に苦しむパルチザンへの兵站支援を行うことからここでの仕事は始まった。

 武器弾薬、医療品や消耗品など、安定した供給のないパルチザンにとってそれらすべてが日頃から不足に悩まされているものだ。

 連邦軍の監視から逃れて物資を運ぶことはなかなかに難しく、最初のうちの何回かは連邦軍に捕捉され物資を放棄する場面もあった。

 だが今は山間部の、連邦軍の目が届かないルートを確立し、大量には運べないが安定した補給ルートを確保している。

 

 そうしている間にも、バルカン半島の情勢は大きく変わっていく。

 

 連邦領ボスニア戦線では、一部の連邦軍と雇われたPMCがセルビア勢力を駆逐しボスニアの首都サラエボを包囲する。

 これまでに何度か包囲を受けそうになったボスニアの首都であるが、連邦政府に雇われたPMCと一部の連邦軍が攻勢を仕掛けてボスニア側の部隊を街に封じ込め、さらにそこへ民兵組織のクロアチア防衛軍も参戦し街を完全に包囲した。

 

 連邦という脅威に、反政府勢力たちは団結し立ち向かうことができればよいのだが、こんな時でも民族のいがみ合いを忘れられず互いに潰しあう。

 必要があれば手を組むが、必要がなければ潰しあう。

 連邦政府側の過激派組織ウスタシャがそうするように、セルビア側の極右団体チュトニクも敵対する民族を捕らえ拷問し虐殺する。

 報復と憎しみの連鎖は絶えることは無く、各所で殺戮の嵐が吹き荒れる。

 

 革命の赤き旗の下、パルチザンは民族の垣根を越えて団結はしている。

 パルチザンのメンバーはこの国に住むほぼすべての民族によって構成されている、いがみ合いや衝突が決してないわけではない…だが革命の理想と、若きカリスマの指導の下、いがみ合うことを止めている。

 

 

 かつて西側諸国にとって赤旗は悪の象徴であったが、パルチザンにとって平等を掲げるその主義こそが理想であり、イリーナにとっての宗教なのだ。

 

 

 

 

 迷彩柄のマントを頭からかぶり、WA2000は森林の中に身をひそめ環境に溶け込む。

 MSFには研究開発班が造り出した光学迷彩マントもあるのだが、彼女は個人的なポリシーからそれら便利な科学技術に頼るのではなく、環境に応じた装備の変更をすることを好む。

 事前に任務の場所の調査を行い、任務に適した装備を持ちこむ。

 スコーピオン辺りなどは役立ちそうな物は全て持ちこもうとするだろうが、何でもかんでも持って行けばいいというものではない。

 

「―――こちらワルサー、狙撃位置に到着したわ」

 

『時間通りだな、いいセンスだ』

 

 WA2000の通信に、スネークの声が届く。

 

「ふん、なんだかあなたが通信でサポートしてくれるのって変な違和感があるわね」

 

『ハハハ、いつもオレが任務に出ている身だからな。ワルサーそこから町は一望できるか?』

 

「ええ。町の全貌はここから把握できるわ」

 

 

 スコープ越しに町を覗きながら、そこにいる敵の歩哨の位置を通信機能で味方部隊に知らせる。

 彼女に与えられた任務は、パルチザンと敵対する組織であるスルプスカ軍…つまりボスニアのセルビア人共和国の兵士が占領する町の偵察及び強襲だ。

 本来ならば反連邦の名のもと手を組むべき相手なのだが、異民族を迫害しパルチザンを攻撃する勢力であるので敵同然だ。

 

「ボス、パルチザンの部隊が到着したわ」

 

『了解だ。9A91とキッドもその部隊と一緒に行動している、支援を頼む』

 

「了解」

 

 短い返答と共に通信を切り、スコープを覗き町の様子を見る。

 町の入り口には川が流れ、アーチ状の橋が一本と川沿いを行く道が森の方へのびている。

 パルチザンは部隊を二手に分け、その両方から進み奇襲攻撃を仕掛けるのが狙いだ。

 そこでWA2000の任務は、行く手を阻む歩哨を排除し、パルチザンを町の内部へと入り込ませてなるべく少ない犠牲で速やかに敵を鎮圧させなければならない。

 

 一度深く息を吸い込み、彼女はスコープを覗く。

 まずは橋の検問所にいる歩哨二人……二人のうち後方にいる兵士に狙いを定め引き金を引く。

 放たれた弾丸は兵士の胸を貫き一発で仕留める、異音に気付いたもう一人の兵士が咄嗟に振り返るが、声を放つ前に狙撃した。

 歩哨二人を排除したことで進みだすパルチザンを確認し、もう一つの道を観察する。

 

 そこにも検問所のようなものがあるが、そこは両脇を茂みが挟み隠れる場所もある。

 

 スコープ越しに覗いていると、9A91とキッドがそっと歩哨の背後から忍び寄り、後頭部を思い切り殴りつけ茂みの中へ引き込む。

 さすがは同じFOXHOUNDの隊員、同じ特殊部隊として鼻が高い。

 そっと笑みを浮かべていると、キッドからの通信が入る…。

 

『ワルサー、オレの進行方向に敵がいるようだが、狙えるか?』

 

「任せて」

 

 言われた通り、キッドの進行方向に目を向けると、キッドからは死角の位置に兵士が二人立っていた。

 そのうちの一人はすぐに立ち去っていってしまうが、狙撃者であるWA2000にとってはありがたいことだ。

 

 深く息を吸い込み、照準器を兵士の胸に合わせ引き金に指を添える…。

 

 そんな時、小さな少年がスコープにうつる視界の端から走ってきたため、咄嗟に彼女は引き金から指を離した。

 小さな少年の後には笑顔を浮かべた女性が狙っていた兵士のもとにやって来て、小包を手渡している……二人は夫婦だろうか、小包の中身は弁当であった。

 兵士は小さな少年を抱きかかえ笑顔を浮かべている。

 

 WA2000は見開いていた目をそっと閉じ、スコープから顔を離す…。

 

 

『どうしたんだワルサー、狙えないのか?』

 

「いいえ、やれるわ」

 

 目を閉じたまま、深呼吸を繰り返し、再度スコープを覗き込む。

 そこにはもう兵士の姿しかなかったが、その手には届けられた弁当があった。

 

 呼吸を止め、片目でスコープを覗きながら引き金に指を添える……少しの静止の後、彼女はその引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 見張りの兵士を排除し、町へ奇襲攻撃を仕掛けたパルチザンは大した反撃を受けることなく町を占領する。

 町の中心部に掲げられていたスルプスカ軍の旗が下ろされ、代わりにパルチザンの旗が掲げられる。

 町の市民の反応は様々だが、およそ半分の市民からパルチザンは町の解放者として歓迎される…反対にスルプスカ軍よりの市民の反応は冷ややかなものだが、これからイリーナたちが理解させていくのだろう。

 

 占領した町に入ったWA2000を、パルチザンのリーダーであるイリーナは笑顔で迎える。

 

「WA2000、聞いた通り見事な腕だな。礼を言わせてくれ、君のおかげで我が同志たちも少ない犠牲で勝利を掴むことができた。それに大きな戦闘を避けることで、町の住民からも敵意を受けられるリスクも減らすことができたのだ。ありがとう」

 

「それが任務だからね」

 

「君は謙虚だな、素晴らしい心意気だ。さて、わたしはやることがあるので失礼するよ」

 

 戦後処理のためその場を離れるイリーナを見届け、WA2000は町を歩く。

 見る限りではパルチザンを迎え入れる市民たちの姿を目にすることができるが、少し目を移せば、暗い目で見つめる住人やそっと窓を閉め切る家もあった。

 

「ねえねえ、お姉ちゃん」

 

 ふと、WA2000はかけられた幼い声に足下に目を落とす。

 少年が一人、WA2000を無垢な瞳で見上げていた…見覚えのあるその少年の顔に、彼女はわずかに目を見開いた。

 

「お姉ちゃん、ぼくのパパどこにいったかしらない? どこにもいないんだ」

 

 服の裾を引っ張りながら、少年は覗きこむようにWA2000を見上げる。

 そうしていると、群衆の中から母親らしき女性が小走りで駆け寄り、少年の手を取りさっさとその場を立ち去っていく。

 

 

 

 任務は成功した、いつも通り完璧に遂行した。

 おかげで仲間の犠牲も抑えられたし、パルチザンのリーダーからも感謝された。

 町の住民の多くも歓迎してくれた。

 それなのに…。

 彼女は小さな痛みを感じ、胸に手を当てる……少年を連れて足早に去った母親の涙に濡れた顔が、いつまでも脳裏から離れることがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスニアの山間部にある人の管理から離れた山小屋には、今は一人の男が住みついている。

 ぱっと見ただけでは苔むしてツルが絡まり合うその小屋に人が住んでいるとは思えないだろう…。

 ダスターコートに身を包んだ白髪の男は薄暗い山小屋を出て、そばにある切り株に腰掛け、ホルスターからシングル・アクション・アーミー(S A A)を取り出すと、弾を抜き取り整備を始める。

 汚れをふき取り、銀色の光沢を取り戻した銃を満足げに眺めていると、彼の持つ無線機に通信が入った。

 

『こちらWA2000、オセロット久しぶりね』

 

「ワルサーか、お前もこっちに来たんだったな」

 

『そうよ、こっちの初任務も終えたところ。オセロットはその、元気? ちゃんとご飯食べてる?』

 

「こっちの心配はいらん。それより、なにかあったのか?」

 

 無線機越しに届く彼女の声からほんの小さな違和感を感じ取る。

 

『大したことじゃないんだけどね。今、話しても大丈夫?』

 

「聞いてやる、言ってみろ」

 

 素っ気ないような返事だが、彼の元々の受け答えに慣れているWA2000は彼に聞いた貰いたいことを話していく。

 それはバルカン半島での初任務の出来事。

 見張りの兵士を狙撃していったなかで、妻と子供のいる兵士を殺してしまったこと…ただありのまま起こったことを話す彼女の言葉を、オセロットは静かに聞いていた。

 

「家族のいる兵士を殺したことに罪悪感を感じているのか?」

 

『少しね。これまで殺してきた兵士にも家族はいたでしょうけど、今回みたいにはっきり見たのは初めてだったから…すこし、胸が痛んだの』

 

「気に病むことは無いが、それは正しい感情だ。誰だってそんな場面を見れば罪悪感は産まれる」

 

『でも、兵士としてそんなことに一々動揺していたんじゃ任務なんてつとまらない。同じことが起こっても、次からは動じないようにしなきゃ』

 

「ワルサー、それは違うぞ。人を殺して何も感じないのは異常者だけだ、オレは異常者を作るために訓練しているわけじゃない。ワルサー、オレは技術のほとんどをお前に教えてきたが心の部分はお前自身が身に付けるしかない」

 

『兵士としての精神ってことでしょ、難しいわね。自分ではもう身に付けたつもりだったんだけど…』

 

「そう簡単に身に付けられるなら、ボスもオレも苦労はしない。だがお前がオレに相談を持ちかけてきたのはいい事だ、一人で抱えこむには重すぎる悩みもある。解決できなくとも、誰かに打ち明けることで重圧を軽くすることもできる。それの繰り返しでおのずと精神も鍛えられるはずだ」

 

『オセロット…うん、なんだか気持ちが少し軽くなった気がするわ』

 

「それは良かったな。オレはしばらくそっちに行けないが、ボスの事は頼んだぞ」

 

『うん、オセロットも頑張ってね。ちゃんとご飯食べるんだよ」

 

 

 

 通信が終わり、一息ついたオセロットは弾を装填したリボルバーをホルスターにおさめると、森の木々を流し見る。

 目を細め、リボルバーの銃口を一丁木々のむこうへと向ける。

 

「いつまで隠れてるつもりだ? 大人しく出て来い」

 

 しばらくの静寂の後、茂みからひょっこりと髪をサイドテールに結んだ少女が顔を出す。

 オセロットの銃口に両手をあげてひらひらとさせ、小さく舌を出す。

 

「久しぶりねオセロット…上手く隠れてると思ったんだけどな?」

 

「お見通しだ、何の用だ404小隊」

 

「もー、わたしの名前はUMP45。いつになったら覚えてくれるの?」

 

 微かに笑みを浮かべながらも、彼女の目は笑っていなかった。

 いつまでも銃を下ろさないオセロットをしばらく様子見していたが、ため息を一つこぼし、本当に降参したかのように手を挙げた。

 それで銃を下ろしたオセロットに気を良くし、軽い足取りで近付いていくが、そんな様子でも足下に張り巡らされた原始的なトラップを避けて歩くのだから油断のならない人形である。

 

「さっきの無線、聞いてたよ。案外仲間想いなんだね」

 

 にっこりと微笑む45だが、オセロットは一言も答えず無視する。

 

「もしかして恥ずかしがってる? 案外かわいいのね」

 

「殺されたいのか小娘。何の用があってここに来たんだ?」

 

「あらら、嫌われちゃった。単刀直入に言うね、わたしたちと手を組まない?」

 

「お前らのような胡散臭い部隊と組むメリットはない、失せろ」

 

「お互いにメリットはあると思うよ? 連邦が隠している秘密兵器、あなたも追ってるんでしょ?」

 

 ケタケタと笑いつつも、45はオセロットの少しの表情の変化も見逃すまいとジッと見つめていた。

 だがオセロットは眉ひとつ動かさず、いつも通りの固い表情のままであった。

 

「連邦が第三次世界大戦を生き延び、今なお欧州で影響力を持っている理由。あなたも知ってるでしょ? 色々な勢力がアレを狙ってる」

 

「フン…どっちにしろ、鍵はオレたちの手にある」

 

「そのようね、わたしが知りたい情報をあなたはもってるし、逆にあなたの知らない情報をわたしは知っている。悪い話しじゃないと思うけど、協力しない?」

 

「どっちにしろオレ個人の考えでは決められないことだ、ボスはおれじゃない。ところで聞きたいんだが、お前仲間と一緒に来たのか?」

 

「いいえ、416あたりがあなたを見たら殺しにかかりそうだから置いてきた。どうしてそんなことを聞くの?」

 

「じゃあお前の後ろにいる奴は何者だ…?」

 

 

 咄嗟に、45は銃を手にし振り返るがそこには森の木々があるだけで何の姿もない、だがそこに何かがいる気配は感じ取り引き金を引いて銃弾をばら撒いた。

 銃弾が木々を粉砕していく最中、姿の見えない何かが45の傍に猛接近していく。

 頭を下げた45、そのすぐ後にさっきまでそこにあった樹木が鋭利な刃物で斬られたかのように鋭い切り口を残し倒れる。

 

 銃で牽制しつつ、オセロットの方へ走って行くと、オセロットも不可視の存在に向けて銃弾を放つ。

 

「チッ、ステルス迷彩か!」

 

「アイツ知ってるの!?」

 

「知るか!」

 

 二人の銃弾は弾かれ、姿を見失う。

 ふと、樹木の木々が揺れ何かが頭上から二人へと接近する。

 オセロットの正確な早撃ちも何かによって弾かれ、あっという間に距離を詰められるが、オセロットは素早く地面を転がり不可視の存在からの攻撃を躱す。

 

「くっ、らちが明かない! オセロット、また会いましょう、協力の事考えておいてね!」

 

 45はスモークグレネードを放り投げ、煙が周囲を覆いつくしたすきにその場を離脱する。

 オセロットもまた、見えない脅威からの攻撃から逃れ、煙に紛れ姿をくらます…。

 

 

 

 

 

 

「仕留めそこなったか?」

 

 誰もいなくなった山小屋に、一人の女がどこからともなく姿を現した。

 その女は長い黒髪と同じく黒のセーラー服に身を包み、愉快そうな表情で二人が姿をくらました森の向こうを見つめている。

 白く、細長い指をあごに添え、チラリとすぐそばの樹木に目を向ける。

 何かが女のもとへ歩み寄る、姿は見えないが足音と落ち葉が踏みしめられ形を変えていく。

 霞が解けるように、その輪郭があらわれ始め、徐々に姿を鮮明なものとしていく。

 

 機械仕掛けの外骨格に身を包み、一振りの刀を手にした屈強な肉体を持つ人物だ。

 

「まだ本来の調子は出ないか? だがまだ時間はある、ゆっくりと身体を慣らすといい」

 

「……スネークは、近くにいる」

 

「そう、すぐそばにな。同じ蛇の名を冠する者として是非とも会いたいものだ。フフ…MSF、連邦軍、404小隊、そしてこのウロボロス。役者は揃ったようだな、地獄の門が開かれる日も近い」

 

「スネークは、俺が相手をする。彼にも、恩がある」

 

「戦うことが恩返しだとでも? まあよい、新しいその身体で存分に力を振るうがいい。朽ち果てるのを待つ身だったおぬしの命を拾い上げてやったのだ、恩を仇で返すような真似はしてくれるなよ? 期待しておるぞ、グレイ・フォックス」




ワーちゃんと山猫の回、ワーちゃんが遠距離恋愛してるみたいで胸が痛い。


そしてサイボーグ忍者ことグレイ・フォックスさんログイン、鉄血側で(白目)
ウロボロスが神話上の蛇の名を冠してるということで、蛇同士スネークとの直接対決も決まったので、戦闘力は底上げします。

いや~キューブ作戦の難易度4倍ぐらいになっちゃいますなー(棒読み)


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五感の全てで貴方を感じ取る

 山間部にぽつりと存在する小さな村がある。

 年季の入った古ぼけた木造住宅と牛舎が一棟、大きめの農場と畑があるだけの特に目立つ物もない小さな村であった。

 貧しい農家の住んでいたそこは内戦が始まって以来、戦火を逃れるべく住人が避難しもぬけの殻であったが、ある日そこを見つけた連邦寄りの民兵集団が拠点として住みついていた。

 非正規部隊である彼ら民兵の戦闘力など所詮一般人に毛が生えた程度のもの、中には退役した軍人が混ざっていることもあるだろうが、その村にいた民兵は一般人が銃を手にしただけでロクな訓練も受けていない素人ばかりであった。

 持っている銃も、連邦軍が使うような最新式のものではなく、民間に払い下げられた旧式の銃や猟銃などである。

 自衛のためとは言え、へたに武装をして連邦の旗を掲げていた彼ら民兵はエグゼ率いるMSFの部隊に目をつけられてしまい、ろくな反撃もできず瞬く間に壊滅させられる。

 

 大した装備も持たない民兵に、エグゼ率いる精鋭ヘイブン・トルーパー隊と無人兵器の月光を止めることはできなかった。

 統率の取れたエグゼの部隊によって倒されていく様は、まるで一方的な殺戮であった。

 それ以前に、前衛に立つ月光の恐ろしい姿に恐怖し逃げまどい、反撃できた者自体が少ない有様である。

 

 

 力の差に屈服し、民兵たちは銃を捨てて投降する。

 しかしそれが、彼らにとっての惨劇の始まりであった…。

 

 

「お願いだ、助けてくれ…! 家族がいるんだ!」

 

「今更泣きごと言ってんじゃねえよ、覚悟もねえのに銃を握ったてめえらが悪いんだよ」

 

 命を乞う民兵を蹴倒し、彼ら自身の手によって掘らせた穴へと叩き落していく。

 そこへ農場から集めてきた乾燥した藁を放り込み、その上にガソリンをまき散らしていく…深く掘られた穴から這いだそうとよじ登る民兵を、エグゼ配下の兵士たちは蹴落とす。

 恐怖に怯え、泣きわめく彼らを見下ろし残酷に笑いながら、火のついた松明をちらつかせてさらに恐怖をあおる。

 

「オレが欲しいのは情報だ、てめえらの命なんざどうだっていいのさ。おい、助かりたければここらの仲間の位置を教えろ」

 

 唯一、民兵を率いていた隊長のみを穴に落とさず尋問する。 

 民兵の隊長は既に激しい拷問を受けているようで、身体中があざだらけであり、両足の腱をズタズタに斬り裂かれていた。

 

「お願いだ…助けてくれ…」

 

 救いを求める男を手の甲で殴りつけ、胸倉を掴み引き立たせる。

 

「情けない男だ、もう一度言うぞマヌケ。お前らのお仲間の居場所を言えってんだ」

 

「知らない、本当に知らない!」

 

「ふーん、ほんとに?」

 

「ほ、本当だ…! オレたちは自分の身を守るため銃を取っただけだ! 戦争を望んでるわけじゃない!」

 

「あ、そう」

 

 冷めた目で彼を突き放す。

 脚の腱を切り刻まれた男はその場に踏みとどまることができずにそのまま崩れ落ちる…這いずる彼の足を掴んで引きずり、穴の中へと放り込む。

 

「お前らの戦う理由なんてこれっぽッちも興味はないが、これだけを身に刻んで死にな。銃を手にしたその時から、どんな殺され方をしても文句は言えないんだぜ?」

 

 穴の周囲を取り囲まれ、無数の銃口がつきつけられる中で民兵は震えあがり縮こまることしかできないでいる。

 怯える彼らを笑みを浮かべながら見るエグゼの様子はまるで加虐心を満たしているかのようだ…かつて鉄血にいた頃の処刑人の姿がそこにあった。

 ふと、エグゼの表情から笑みが消えたかと思うと、義手の腕を掴み苛立たしげに声を荒げる。

 

「ちくしょう…また痛みが…! 消えろ、消えやがれ……クッ、M4め!」

 

 疼きだした幻肢痛が彼女に怨敵の姿を思い起こさせる。

 何度も何度も痛む腕を、いや、痛覚の繋がっていない義手を地面に打ちつける。

 だが脳裏に彼女にとって忌まわしいM4の顔が鮮明に浮かぶごとに、そして亡くした友の最後の姿を思いだす度に幻肢痛はますます酷くなっていく。

 その痛みは失くしたはずの指先からどんどん体全体に広がっていく、そんな錯覚にエグゼの怒りと憎しみが際限なく増長していくのだ…。

 

「やっぱお前を殺すしか治療法は無いよな、M4……」

 

「処刑人、大丈夫ですか?」

 

 心配し、駆け寄ったヘイブン・トルーパーが肩を貸そうとするが、手を振りはらい突き放す。

 上官のただならぬ様子に部下たちは萎縮し、それ以上の手助けを出せないでいる。

 やがてエグゼは額に手を当てながら何度も深い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着ける。

 相変わらず解決のしようもない激痛が、彼女の精神を蝕み続けているようだが…。

 

「スコーピオンとの、約束だからな……おい、こいつらの処刑は止めだ。パルチザンの基地に連行しろ」

 

「了解です、処刑人」

 

「ちくしょう、どこまで自制がきくか分からねえな。帰還するぞ」

 

 

 

 いまだに疼く腕をかばいつつ、しゃがみ姿勢を低くした月光の頭部へと駆け上がる。

 恐怖に支配された民兵たちはもう反抗の意思はなく、武装解除をさせられたうえでヘイブン・トルーパーたちに連行されていく。

 連行されていく民兵たちは、エグゼと目を合わせることを恐れ、視線を地面に落とし早足で彼女の傍を通り過ぎていく。

 そんな彼らの様子がエグゼを苛立たせるが、スコーピオン(友人)との約束を守るために沸き立つ破壊と殺戮の衝動を理性で抑え込む。

 果てしない痛みに呻く主人を気遣うように月光は立ち上がり、主人の足となって進みだしていった…。

 

 

 

 

 

 

 キャンプに到着した時、エグゼはスネークの姿を見るなり猛スピードで駆け寄り、まるでアメフトのタックルでもするかのようにその胸に飛び込んでいった。

 予期せぬエグゼの行動にさしものスネークも勢いを止められず、ゆうに数メートルは吹き飛ばされた。

 弾丸のように突っ込んできたために、軽く脳震盪を起こし少しの目まいをスネークは感じていた。

 

「んー…スネーク、スネークのにおいだ…」

 

「おいエグゼ! いきなり突っ込んでくるんじゃない」

 

 スネークを押し倒して背中に回した手でがっしりと掴み、その胸に顔をうずめる。

 押しのけようにも密着し、なおかつ力強く抱き付いているために引き剥がせない。

 

「こら、エグゼ! スネークから離れろ、このこの!」

 

 人の目もはばからず堂々と甘えているエグゼを、その場にいたスコーピオンがげしげしと踏みつけるがそれでも離れない。

 そのうちスネークの危機に9A91も増援として駆けつけ、どうにか引き剥がそうとするがそれでも離れようとしない。

 

「もういい、気が済むまで付き合ってやるさ」

 

「うー…スネーク、後であたしも抱きしめてよね」

 

「し、司令官わたしのことも…!」

 

 せがむ二人をなんとかなだめながら、エグゼに目を向けて見ると、彼女はスネークの服に顔をうずめながら上目遣いでじっと見つめている。

 口元が戦闘服で隠れ分からないが、視線が合ったエグゼは笑顔を浮かべるように目を細めて見せた。

 

「うーん、落ち着く…痛みが引いていく…」

 

 スネークの姿を視界いっぱいにおさめ、抱き付きにおいを嗅ぎ鼓動を感じ取る。

 そっと腕をとると優しく甘噛みし、鋭利な歯で小さくスネークの肌を傷つけ、滲み出た血を舐めとる。

 視覚、触覚、嗅覚、触覚、味覚…エグゼは五感の全てを敬愛するスネークで満たしていく。

 そうして心の中もスネークで満たしていくと、憎しみの炎がだんだんと小さくなっていき、幻肢痛もそれと同時におさまっていく。

 

「エグゼ、血を舐めるのは止さないか…その、嫌な思い出がよみがえる」

 

 歯で肌を傷つけ、血を舐めとるその仕草はスネークがその名を聞いただけでも悪夢にうなされるある伝説上の怪物を彷彿とさせる。

 ここ最近はそのトラウマに悩まされることは無かったが、早くも悪夢を見てしまうような予感を感じてしまっていた。

 そんなスネークの事情などお構いなしに、ぺろぺろと血を舐めとると、恍惚とした表情でスネークの胸を指でなぞっていく。

 上体を起こし、スネークの上に跨りつつ、最後に華奢なその指にスネークの血を絡め自身の口へと運ぶ。

 

「よし、スネーク成分補充完了。続きは宿舎の方で―――」

「させるかオラァッ!」

 

 スネークを宿舎に連れ込もうと手を伸ばした瞬間、いきり立ったスコーピオンがすかさず跳び蹴りを放つ。

 顔面を蹴られ吹きとばされたエグゼだが直ぐにたちあがると、別な遊び相手を見つけ笑顔で襲い掛かる…ここ最近のスコーピオンは打たれ強い、ハイエンドモデルのエグゼの鋭い上段蹴りをまともに受けてもすぐに起き上がる。

 はたから見たら本気のケンカをしているようにも見えるが、二人とも心底楽しそうに拳を交える。

 

 

「ボス、早く止めた方が良いんじゃないですか? どっちか倒れるまでやりますよこりゃ」

 

「やらせておけ、全くエグゼには困ったもんだ」

 

 二人のケンカに呆れつつも、今やお互いに良き理解者となっている二人のケンカは、キッドにとっては微笑ましい光景に見えているようだ。

 反対にこのような場面を初めてみるパルチザンの戦術人形スオミはオロオロとしている。

 

「それで、ボス。そのエグゼのことなんですがね…」

 

 一転し、神妙な面持ちのキッドにスネークは葉巻に火をつけようとしていた手を止める。

 一度ケンカをする二人を流し見てから彼は重い口調で語る。

 

「前線の兵士からエグゼについて相談を受けましてね。どうも、戦闘で残忍な行為をしているらしいんです。今日も連行してきたクロアチア人の民兵たち、酷い拷問を受けたような兵士もいました」

 

「そうか、ヘイブン・トルーパーたちは何か言っていないのか?」

 

「なにも。ボスならともかく、オレから言っても連中は口を開きませんからね。エグゼは大切な仲間ですが、残虐行為は見過ごせません…たぶんここの戦場の空気が、彼女の精神を刺激してるのかもしれません。ボス、このままではバルカン半島での我々の立場が悪くなってしまいますよ?」

 

「分かっている、依頼人(クライアント)であるパルチザンの名前も貶めることにもなるからな。しばらくエグゼの傍にいるようにしよう」

 

「助かります。でもエグゼにばかり気をかけて、他の人形たちの機嫌を損ねないでくださいよ? 全く羨ましいですな」

 

「からかうもんじゃないぞキッド、もうオレも若くはないんだ」

 

 隙あらば宿舎に忍び込もうとするストーカー気質の人形たちばかりで、ここ最近はまともにベッドの上でゆっくり休んでいない。

 毎日寝場所を変えなければ夜な夜な忍び込んでくるのだ。

 以前はオセロットが目を光らせていたおかげで人形たちも大胆な行動はしていなかったが、任務でいないためにだんだんと行為がエスカレートしている、

 

「ミラー司令が聞いたら怒って暴れそうな悩みですね」

 

「この前酔っぱらってスプリングフィールドを口説こうとしてゴミ箱に捨てられていたからな、まあそのうちアイツに魅了される人形も出てくるだろう」

 

「ハハハ、そうなるといいですがね」

 

 

 キッドはそこで部隊の補給等もあることでその場を去っていく。

 二人のケンカは一応決着がついたようだ、どうやらスコーピオンがいいパンチをくらってのびてしまったらしい。

 いくらタフになったとはいえ、エグゼに勝つにはまだまだ修行が必要なようだ。

 水を浴びせられ強引に覚醒され、どこかに連行される…食事場の方へ向かっていった辺り、腹ごしらえでもするのだろう。

 

 

「愉快な仲間たちだな、スネーク」

 

 葉巻を嗜んでいると、パルチザンのリーダーであるイリーナがニヤニヤと笑みを浮かべやって来た。

 どうやら先ほどのエグゼの行為もしっかり見ていたらしい、気まずさを紛らわそうと無心で葉巻をふかす…。

 

「やかましい仲間だが、元気はあるぞ」

 

「そのようだな。うちのスオミも、声が出なくなるまではわたしに毎度説教してきてうるさかったんだぞ?」

 

「ハハ、優しそうに見えるがずいぶんしっかりとしているんだな。ところで、うちのエグゼが捕虜に酷い行為をしてしまったことは謝る」

 

「ん? いや、別にそれは構わん。あいつらはウスタシャに駆り出された民兵だ、どうせろくでもない連中だ。死んでも誰も困らんさ」

 

 

 意外なことに、イリーナは敵へかける容赦というものが存在しない。

 彼女はウスタシャのような民族主義者を何よりも憎み、それに加担する者は例え投降してきた者であろうと躊躇いなく処断する。

 国家の再建を目指す彼女にとって、民族主義というのは害悪そのものであり、抹消するべき課題なのだ。

 

「失望したかスネーク? だが手を汚さずに革命は成し遂げられん、この戦争にかたをつけるには半端な偽善など無意味なのだよ。革命には犠牲がつきものだ、チトーがかつてそうした様にわたしも非情にならねばならん」

 

「これはあんたらの戦争だ、傭兵のオレがアンタらの主義主張に口を挟むつもりはない。だがイリーナ、お前のその覚悟をスオミは知っているのか?」

 

「いや、おそらくは知らんだろう。あの子は、たぶんわたしを革命の理想に燃える清廉潔白な闘士だと思っているだろうな。隠し通すのには無理があるだろうが、できればあの子だけは変わらずにいてもらいたい。だがスネーク、遅かれ早かれいつかはスオミも現実を見なければならない時が来る。清廉なままでは革命は成し遂げられん」

 

「あんたの決意の固さはよく分かった。だがあの子の事を思う気持ちが本当なら、無益な殺戮は止めるんだ。あんたの過去に何があったのかは知らないが、人を殺す度に心は鬼に近付いていく。軍人として生き続けるつもりがないなら、その業を積み重ねていく必要はないはずだ」

 

「無論、わたしもいつかは銃を捨てるだろう。勝利か死か、その両方でしか機会はない。忠告は胸にとどめておこうスネーク」

 

 その言葉がどこまで本気かは分からないが、スオミを想う気持ちは本物だろう。

 

 

「ところでスネーク、アンタに少し知らせておきたい情報がある」

 

 そう言うと、彼女は古ぼけた新聞紙をスネークに差し出した。

 記事は数年前のものであり、最新のニュースが記されているわけではないが、イリーナが見てもらいたいのは新聞に載せられている写真であった。

 モノクロの写真は連邦軍の基地を写したもののようだが、その中にいる一人の兵士にスネークは注目する。

 

「連邦軍が特殊部隊を動かしたという情報を入手した。この兵士の名はフェリックス、第三次世界大戦を戦い抜いた歴戦の兵士であり、最も敵に回してはいけない存在だ」

 

「こいつは人間か? どう見ても普通の人間には見えないが…」

 

 新聞の写真に写るその兵士は、一緒に並び写る兵士と比較して明らかに大柄な体躯をしている。

 その身体を鋼鉄のアーマーで隙間なく覆い、まるで装甲人形のようないでたちだ。

 

「E.L.I.Dって知っているか?」

 

「確か、この世界を覆っている感染症か何かだったな」

 

「そう、それを患えば異形の存在になり替わる。このフェリックスという男はな、ソレに感染し異形化した人間なんだよ。感染して間もなく、研究所に運ばれ、あらゆる研究と手術を施された。彼は最新の電子頭脳を埋め込まれ、身体のパーツを機械にすり替えられ、特殊なアーマーを装着して生まれ変わったんだ。崩壊する理性を電子頭脳と特殊なアーマーで制御し、連邦軍最強の兵士としてその力を振るっている」

 

「ずいぶんと詳しいんだな、君らも独自の諜報網を?」

 

「少しな。スネーク、彼はMSFを壊滅させるために檻から解き放たれた。いずれあんたの前に姿を現すことだろう…頼みがある、彼を殺してくれないか?」

 

「オレたちを狙ってやってくるのならいずれ決着はつけなければならないだろう。だが何故わざわざそんなことを頼むんだ?」

 

「フェリックス、彼はスオミの以前の主人…つまりわたしの兄だ。こんな事を頼むのはおかしいかもしれんが、兄を苦しみから解放してやって欲しいんだ」

 

「さっきも言ったように、向こうから戦いを挑んでくるのなら兵士としてオレは逃げるわけにはいかない。だが苦しみから解放するというのは約束はできない。さらに苦痛を与える結果になるかもしれない」

 

「構わないよスネーク。彼はもうわたしとスオミの知る兄ではない、感染体を電子制御で操られた亡骸でしかない。ただ、彼を眠らせてくれるだけでいい」

 

「わかった、その時が来ればそうしよう」

 

「ありがとう、スネーク」




ちょっとバルカン半島で症状が重くなっているエグゼさん…スネーク成分補充です。

連邦軍側に超人枠がいなかったので、オリキャラぶち込んでおきます。
超人合戦始まるね…。


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作戦前夜

「――――ボスニアの首都、サラエボを連邦の手から解放する」

 

 パルチザンの主だったメンバーが集まる簡易司令室にてイリーナがそう宣言した時、長い革命の闘争がようやく報われ始めてきたことを感じ取り、彼らは若き指導者のその言葉を敬意をもって迎え入れる。

 思えばこの国が内戦状態へ突入し、パルチザンが結成された当初はろくな装備も人材もなく、吹けば飛ぶような弱小組織だった。

 そんな時に現われた若きイリーナを、単なる小娘だと嘲笑したこともあった。

 だが現在のパルチザンのメンバーに、彼女を若いだけの阿婆擦れなどとあざ笑う者はいない。

 

「連邦政府に雇われた狼共が、我らが同胞たちを取り囲み飢えさせている。長い兵糧攻めでサラエボは疲弊し、戦意も誇りも打ち砕かれようとしている。忌まわしきウスタシャ共は愛すべき我らの同胞を虐殺して母なる大地を穢し、女子どもを凌辱し彼女たちの未来を奪い去った! だが同志たちよ、そのような日々も間もなく終わる!」

 

 若き指導者の勇ましい言葉に、パルチザンの戦士たちも呼応する。

 

「クロアチア人も、セルビア人も、ボシュニャク人もかつては一つの民族だった。だが時代に翻弄され、大いなる力の前に同胞たちは引き裂かれた。"我々は皆古来の同胞、ゴート人ではなく、スラヴ人の一員だ"、同志たちよ、どうか憎しみを捨てて民族の悲劇を分かち合い、一つになろう。これは神の言葉ではない、わたしの願いだ」

 

 パルチザンの中には、連邦の圧政や迫害に復讐心を持ち続ける者も少なくない。

 一歩間違えればパルチザンも共産主義を掲げた過激な殺戮集団と化していたかもしれない。

 実際のところ、イリーナはこれまでにウスタシャなどの過激な民族主義者を捕らえた際には、捕虜にもせず裁判もせずに一切の呵責もなく処刑したことがあった…それも己の手によってなされたときもある。

 だがイリーナが、パルチザンが復讐心に囚われず革命の理想につき進み続けてこられたのは、そこに確固たる信念があったから。

 

「地獄すら我らの歩みを阻み得ることはできない。同志たちよ、勝利を我らの手に掴むその日まで共に戦おう――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サラエボを解放する、パルチザンの次なる依頼を待っていたMSFとしては、革命の理想に燃えつつもあくまで現実主義的な態度を崩さないイリーナの決定に驚きを隠せないでいた。

 ボスニアの首都サラエボは、現在連邦内で最も激しい戦闘が繰り広げられている都市の一つだ。

 連邦政府に雇われたPMCと民兵、それから連邦警察を合わせれば数万もの規模になる大軍だ…それが一か所に固まっているというわけではないが、現在のサラエボはパーフェクト・サークルと形容されているほど完璧に包囲されてしまっている。

 真っ向から対峙すれば潰されてしまうだろう。

 だが、イリーナは今回の作戦を思い付きで考えたのではなく、長い時間熟考し策を練った上での決定だと説明をした。

 

 第一に、サラエボに包囲された反政府勢力をパルチザンの仲間として迎え入れる準備ができたこと。

 第二に、包囲に加担する連邦軍の一部の将兵たちの離反を取り付けられたこと。

 第三に、これ以上の時間の経過はサラエボ内の反政府勢力の疲弊と、連邦軍の本格的な介入の危機が増えるだけだと判断したためである。

 

 大まかな作戦の概要を聞いたスネークであるが、その中でMSFが果たすべき役目というものが決して小さいものではないことを感付いていた。

 

「スネーク、あなた方には連邦軍の基地を攻略してもらいたい。正確には、連邦軍が所有する広域破壊兵器"ウラヌス"の攻略だな」

 

「情報が少ないな、そのウラヌスというのは何なんだ?」

 

「奴らの移動式要塞砲と言ったところか。その大きさゆえに組み立てに時間はかかるが、一度完成してしまえば長射程と圧倒的破壊力であらゆる兵器を粉砕する。それがサラエボを射程におさめる位置に配備されつつあるという情報だ、それを破壊してもらいたい」

 

「要塞砲か、ずいぶんと古典的じゃないか」

 

「核戦争のEMPでロクな誘導装置もない今、その古典的な兵器が戦場で猛威を振るっているのだよ。今はまだいいさ、もっとえげつない兵器を連邦は所持していたのだからな。まあそれはいいとして、ちょっと来てくれよ」

 

 手招きされ、イリーナが乗って来たジープのところまで歩いていく。

 積み荷として木箱がたくさん積まれているようだが…。

 

「サラエボの解放までは少し時間がある。少し一休みする時間があってもいいだろう。あなた方の兵士たちもさぞ気疲れしている者もいるはず、これはわたしからの贈り物だ」

 

 木箱の一つを壊し、スネークの手もとに放り投げてきたのは透明の液体が入った瓶であった。

 封を解いてみると、頭をくらくらとさせるような濃厚なアルコールの香りがスネークの鼻腔を満たした。

 

「全部酒か? どこで見つけたんだ?」

 

「廃墟の別荘に酒蔵があってな。相当の酒豪がいたらしい、地下室いっぱいの酒があったから拝借してきたんだ。うちの方にも配ったが、余ったからあなた方にあげよう」

 

「ありがたくいただくとしよう」

 

「ふむ。ところでスネーク、できればうちのスオミも混ぜてあげてくれないか? この間一緒に遊べて楽しかったらしいからな…いや、無理ならいいんだが」

 

「構わないさ、うちの人形たちも面倒見のいいのばかりだからな」

 

「ありがとう。ではスオミを呼んで来よう」

 

 

 エグゼとスコーピオンは教育に悪いから論外だとして、9A91とは既に仲良くなっているしWA2000も初対面の人形を突き放すような態度はしないだろう。

 それにこの手のお願いにはぴったりなスプリングフィールドも、最近医療班のスタッフを伴い現地に到着している。

 9A91とWA2000がFOXHOUNDのメンバーとなり、スコーピオンとエグゼが攻撃部隊の要となっているが、スプリングフィールドは独自にスタッフの中から医療行為を行える戦闘員を選抜したメディカル部隊に配属された。

 人を傷つけるよりも助けることを望む彼女に配慮したスネークの意思によるもので、同じメディックであるエイハヴにも衛生兵としての仕事も教育されている。

 人員の補充が簡単にはきかないMSFにて、スプリングフィールドは自らに与えられた重要な役目にやりがいを感じていることだろう。

 

 しかし、彼女に治療してもらおうと、些細なケガで駆けこんでくる兵士が多くなっていること、それが最近の悩みの種になっているようだが…。

 

 

 

 そんなわけで、イリーナから持ちこまれた大量の酒は、ここ最近戦場で娯楽というものとほぼ無縁であった兵士たちに大歓迎される。

 大きな作戦の前の休暇、ということではあるがスネークは節度を守るように、と前置きをしたうえでトラックに並ぶ兵士たちに自ら酒を配る。

 

「エッヘヘヘ、サンキュースネーク!」

 

「スコーピオン、飲み過ぎて暴れるなよ」

 

 こっそり多く酒瓶をくすねようとするのを見逃さず、大きめの瓶を押し付け列から退かせる。

 

「エグゼ、お前が飲みたがるのは珍しいな」

 

「なんか今日は飲みたい気分だ。後でオレんとこに来いよなスネーク」

 

 普段は酒を好まないエグゼも、この日ばかりは酒の味に酔いしれたいらしい。

 

 追加の酒を貰おうともう一度並んできたスコーピオンを追い返すと、スプリングフィールドと9A91に挟まれて楽しそうに笑うスオミがやってくる。

 

"スネークさん、今日はわたしも一緒に混ぜてくれてありがとうございます!"

 

 手帳に書いた文章を見たスネークは、そこへ返答の文を書き足す。

 

"こちらこそ、来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれ"

 

 満足げに笑うスネークだが、スオミは少し困ったような表情をしている。

 

「司令官、スオミは声が出せませんが耳は聞こえるんですよ?」

 

「ああ、そうだったな。オレとしたことが失礼したな、9A91、スプリングフィールド、この子を任せたぞ」

 

「はい。スネークさんも後で来てくださいね!」

 

 やはりスオミを任せられるのは二人だけしかいないようだ。

 声が出せないスオミとちゃんと向き合ってあげているし、変に気を遣わせずスオミの自然な笑顔を引き出させている。

 これも二人のやさしさがなせるものなのだろう。

 

「スネーク、わたしにも頂戴」

 

 次に現われたのはWA2000.

 不機嫌そうな声と顔に若干気圧されつつ、酒を手渡す。

 

「どうした、何か悩み事でもあるのか?」

 

「別に…飲まなきゃやってらんないだけよ」

 

「そうか、ほどほどにな。オセロットが帰ってくる前に酔いつぶれては不味いだろうからな」

 

「え? オセロット、今日帰ってくるの?」

 

「ああ、少し遅くなるがな」

 

「あ、そう…そうなんだ……エヘヘヘ」

 

 先ほどの不機嫌そうな表情はどこへやら…。

 恋する乙女のように頬を赤らめ、酒瓶を大事そうに抱えどこかへ向かっていく。

 

「やあスネーク、お酒余ってない?」

 

「スコーピオン…お前も懲りないな。仕方ない、今回だけだぞ」

 

「さっすがスネーク、話しが分かるね! もう大好きったらありゃしないよ!」

 

「まったく、その代わり暴れるんじゃないぞ」

 

「分かってるってば。酒を飲んでも呑まれるなってね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ヒック…うー、いいかスオミしゃん…あたひらの出会いはそらもーひとことで言い表せないわけよ…」

 

 2時間後、そこにはへべれけになったスコーピオンの姿がある。

 度数の強いウォッカを既に一本開け、既に二本目に突入している…。

 酒に酔って陽気な気分で騒ぎ出したかと思うと、会って間もないスオミに絡んでいく。

 スネークが危惧していたことが現実になってしまっている。

 

 絡まれているスオミも困り顔で、スコーピオンの絡みからスオミを救おうとスプリングフィールドと9A91がどうにかしようとするが、追い返す度に忘れたころにやって来ては絡んでくる。

 今スコーピオンはそれぞれの人形たちとの出会いを聞いてもいないのに語っているが、酔っぱらって言った事を覚えていないのだろう、もう何回も聞いた話しの内容に二人も気疲れしている。

 

「おいおい、スコーピオン酔い過ぎだろ。どれ、オレが良い覚まししてやろう」

 

「あたひに、さわんなーーッ!」

 

 同じく酒に酔ったキッドがここぞとばかりにスコーピオンに手を出そうとしたが、それは見事なアッパーカットでキッドを一撃で沈める。

 

「ったく…キッド、あんたのさけはあたしがもらうかんね!」

 

 のびてぐったりしているキッドから酒瓶をひったくる。

 そこで何を悪い事を思いついたのか、唐突に悪そうな笑みを浮かべる。

 

「グフフフ、酒がないなら…うばえばいい! あたしやっぱてんさいだね!」

 

「スコーピオンさん…! これはもう、どうにかして気絶させるしかないですね!」

 

 手のつけられなくなるほど酔っているスコーピオンに対処しようとするが、もともとタフなスコーピオンが酒で痛みに鈍感になっているためちょっとやそっとの衝撃では寝てくれない。

 むしろ予測不可能な動きで組みつかれ、逆に拘束されてしまう。

 

「ちょっ、スコーピオンさん!? やめてください!」

 

「んー? こいつめーまたおっぱいおおきくなったなー!」

 

「人形のわたしが成長するわけないじゃないですか、もういい加減にしてください!」

 

「んーもうちょっと」

 

 拘束され、人前で胸を揉みしだかれる。

 人目が無いのならまだしも、周囲にはMSFの男たちがいる…羞恥心に耳まで真っ赤に染めるスプリングフィールドの姿に、周囲はヤジを飛ばして盛り上がる…。

 だが…。

 

「いい加減にしろ」

 

「ほぇ?」

 

 つまみあげられるようにスプリングフィールドから引き剥がされたスコーピオン。

 ゆっくり振り返り見たのは、冷たく見下ろすオセロットの姿である…途端に冷や汗がでるスコーピオン…酔った頭をフル回転させ、彼への対処法を見出そうとする。

 その結果というか錯乱したとしか思えないが、無謀にも挑みかかっていくスコーピオン……であったが、軽くいなされた挙句襟首を絞められ一瞬で卒倒する。

 

「全く、手のかかる小娘だ。お前たち、楽しむのはいいが…羽目を外しすぎだ」

 

 酒に酔っているとはいえ、オセロットに注意を受けて反抗しようなどというものはいない。

 皆申し訳なさそうにスプリングフィールドに謝り、再びがやがやと賑わいが戻っていく…。

 

「ところでボスはどこに?」

 

「あれ? さっきまでみんなと一緒にいたんですけどね?」

 

「全く、誰かが見ていなきゃならないというのに。まあいい」

 

 珍しく尊敬するスネークへの軽い愚痴をこぼしつつ、酒を飲む集団と少し離れた位置の木陰に腰を下ろす。

 時々飲み場に注意を向けつつ、諜報活動を通して手に入れた情報の整理を行う。

 

「オセロット、待ってたよ」

 

 そこへ、酒を飲みほんのりと頬を紅潮させたWA2000が小走りで駆け寄る。

 そのままの勢いで飛びつきたい衝動に駆られるが、彼女はそうしたいのを我慢し静かに彼の隣に座り込んだ…。

 オセロットは一度彼女を流し見たのみで、引き続き諜報活動の整理作業を行う。

 無愛想な態度だが、いつも彼の行動を見てスネーク以外では他の誰よりも長く付き合いをしているWA2000にとっては慣れたもの…であるはずなのだが、長いこと彼と離れていたために寂しさを感じていた彼女は、そんないつもの彼の態度につい意気を消沈させてしまう。

 

「ねえオセロット、折角みんなで楽しんでいるんだから…お仕事は休んだら?」

 

「みんなが休みの時は、オレが働かなければならない時だ」

 

「そう……でも働きっぱなしじゃ身体が持たないわ」

 

「オレの身体はオレが一番良く知っている、余計な口出しはするな」

 

 いつも通りの厳しい口調だった。

 人がどれだけ心配していたかも知らないでこの男は…つい言い返したくなりそうになるが、それよりも彼に拒絶されているかのような言いようのない不安感を感じてしまい、開きかけた口を閉ざしてしまう。

 

 オセロットは自分たちなんかと違って重要な任務があるんだ、みんなのために頑張っている、それを邪魔しちゃいけない……彼女はそう、自分に言い聞かせる。

 不意に目頭が熱くなり、あふれ出た涙が頬を伝い落ちる。

 咄嗟にオセロットから顔を背け、ごしごしと服の裾で顔を拭くが、拭けども涙は止まらない…。

 そんな情けない姿を見せたくなくて、彼女はそっと立ち上がり彼の傍を離れようとする。

 

「待て」

 

 その言葉に足を止め、振り返る。

 オセロットは相変わらずWA2000には目を向けず、諜報活動を記した記録書に向き合っている。

 

「もう少し待て、そこに座ってろ」

 

「え、でも…」

 

「座ってろ、いいな」

 

「うん…」

 

 相変わらず目も合わせてくれないが、命令に近いような彼の口調にWA2000は素直に従う。

 淡い期待とは裏腹に、いつまでも終わりそうにない彼の仕事を眺めていると、彼の端末の操作が若干早くなっていることに気付く。

 もしかしたら早く仕事を終わらせようとしてくれるのでは…そう思い始める彼女の表情はいつの間にか明るさを取り戻すが、時折手を止めて考え事をするのを見ればしょんぼりと落ち込んで見せる…オセロットの行動に一喜一憂していうちに、ようやく彼は手を完全に止めて端末をしまいこむ。

 

 もしWA2000に尻尾があったら笑顔を浮かべてぶんぶんと振り回していただろう。

 

「あの、オセロット…?」

 

「一杯だけだ。一杯だけ付き合ってやる」

 

「うん…!」

 

 その言葉に、彼女は頬に残った涙をぬぐい、彼のためにコップを用意し大事に抱えていた酒を注いでいく。

 オセロットの事だから一杯だけと言ったら本当に一杯しか飲まないだろうが…。

 

「ワルサー、今日が何の日か分かるか?」

 

「え…? なんだろう?」

 

 酒を注いだコップを渡し、小首をかしげ頬に指を当てる。

 オセロットと初めて出会った記念日?

 初めてオセロットに褒められた記念日かな?

 FOXHOUNDのメンバーとしてオセロットが認めてくれた記念日だったか…?

 

 なんとか思いだそうと唸っていると、そっと彼から小さな箱を手渡される。

 おそらく連邦の都市のどこかで手に入れたのだろう、綺麗な小包に包装され表面にはかぼちゃのイラストが描かれている…そのイラストにハッとして、今日がハロウィンの日だと思いだした。

 

「町を歩いてたら売り子に貰ってな。オレは甘いものが苦手でな、お前にやる」

 

「あ、ありがとう…大事にするね」

 

「大事にするのはいいが、大事にし過ぎて腐らせるなよ」

 

「そんなことしないってば!」

 

 そんなことを言われつい反論するが、オセロットの滅多に見ることのない笑みを間近で見たとたん、彼女の白い肌が真っ赤に染まる。

 彼の顔を真っ直ぐに見ていられなくなり、紛らわしに彼から貰ったハロウィンプレゼントに手をかける。

 中身はかぼちゃを模したチョコレート、そのうちの一つをつまみ口の中に放り込むと、途端に極上の甘味が口の中いっぱいに広がる。

 売り子に無料で貰ったなどとはおそらく嘘だ、きっとどこかの有名店のお菓子に違いない。

 

「どうだ、甘すぎるだろ? オレには合わん」

 

「甘すぎるわね…でも、悪くないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MSFがキャンプを張る町は、内戦のあおりを受けて住人が避難したゴーストタウンだ。

 住人がいなくなった代わりにMSFが入り込み、今では兵士たちの賑わいで町は活気づいている。

 

 そんなMSFの賑わいから隔絶された古ぼけた教会がある。

 他の廃墟に比べ中は小奇麗なままで、住人のいなくなった町にひっそりとたたずむ教会はどこかもの哀しく、それでいて神秘的な雰囲気を漂わせていた。

 教会の長椅子には、熱心な信者たちが毎週お祈りをしに訪れていただろうが、今は一人だけが座っている。

 

「エグゼ、ここにいたのか?」

 

 スネークが教会の扉を開き、彼女に声をかけると、エグゼは振り返ることなく手に持っている酒瓶を見えるように掲げた。

 前列の長椅子に足をかけ酒をあおる彼女の姿を見れば、熱心な信者たちは衝撃を受けるだろうが、あいにくこの場に信仰心のある者はいない。

 

「捜したぞ、こんなところで何をしてるんだ?」

 

「んー…奴と二人で飲んでたとこさ」

 

 エグゼの見つめる先には、すべての罪を背負い十字架にかけられた聖人の偶像がある。

 その足元にはグラスが一つ置かれ、酒で満たされていた。

 

「酔っているのか?」

 

「さあね」

 

 小さく微笑み、隣に腰掛けてきたスネークにグラスを手渡し、持っていた酒を注ぐ。

 それから互いにグラスを合わせ合う。

 喉を焼きつかせるようなキツイ刺激のある酒に、おもわずスネークは顔をしかめる…反対にエグゼは顔色一つ変えず、ただじっと偶像を見つめ続けている。

 

「神を信じるか?」

 

「あぁ、オレが神だ。自分の運命は自分で決められる」

 

 教会に来るものが吐いてはならないセリフだが、それがエグゼにとっての神の在り方なのだろう。

 人形が神を語るなどと…彼女たちを作った人間がもしこの場にいれば鼻で笑っていたかもしれないが、スネークは笑わずに彼女の言葉を聞いていた。

 

「運命に翻弄されるのはごめんだ。自分の生き方を他人に決められたくもない、オレはオレだ……オレは右頬を殴られて左頬も差し出すような真似は絶対にしない。必ず殴り返す、むしろ殴られる前にやるさ」

 

「エグゼ、復讐を止める気はない…そう言いたいのか? それがお前の戦う理由だというのならオレは否定しない。だがこの戦場に敵として立つ兵士たちは、お前の復讐相手ではないはずだ」

 

「分かってる、分かってるつもりさ。だけどよ、オレがどんな存在かアンタも分かっているだろ? 傷が疼き、奴らの面を思いだす度に、オレはオレの本性を思いだすんだ。だがありのままの姿では、スネークと一緒にはいられない……オレがアンタたちとずっと一緒にいるためには、自分を偽り続けなきゃならない」

 

 破壊と殺戮の衝動、人形であるエグゼにとってのプログラムはいいかえれば遺伝子と言ってもいい。

 処刑人として生まれた彼女が持つべきものは慈愛でも友愛でもなく、無慈悲に対象を確殺する非情さ。

 純然たる殺しの兵器として生まれた彼女にとって殺戮こそが正常であり、今のような平穏な暮らしに溶け込む生活は欠陥なのだろう。

 

「だがお前は変わった。お前はもう殺戮を行うための人形なんかじゃない」

 

「自分を偽ってるだけだ。本当のオレは殺しを楽しみ、殺す前の泣き顔を見るのが好きなどうしようもないサディストだ」

 

 自嘲気味に笑い、一気に酒を飲み干す。

 それから行儀悪く足を前列の椅子にかけていたのを直し、スネークに向き直る。

 酒が入っているために頬はほんのりと赤みがかっているが、その赤い瞳は真っ直ぐにスネークを見つめている。

 

「スネーク、オレはあんたが好きだ。これは偽りなんかじゃない、オレの本心だ。だけどありのままの姿でいればオレはスネークと一緒にはいられない、だからオレは自分の運命に挑み続けなければならない。本心を隠し、偽りの姿であり続けなきゃならない」

 

「エグゼ…」

 

「オレはもう一人じゃ生きていけない、弱くなっちまった。仲間を失うことが怖い、アンタに見捨てられたくない、自分自身でさえも恐ろしい…。こんな風に甘えるのはおかしいって分かってる、だけど一人じゃどうにもならないんだ」

 

「それは弱さじゃない。人は誰でも一人では生きていけないんだ…自分以外の誰かを求めること、人間として当たり前に思うことだ」

 

「また、一歩人間に近付いたってことかよ。なあスネーク、オレが前に約束させたこと覚えているか?」

 

 そう言って、エグゼは胸に手を当てる。

 以前エグゼが敵であった頃、お互いに戦士として拳を交えた末に和解したが、その際に仲間になる条件として5つの約束を交わしていた。

 そのうちの一つに、彼女が心に感じていた奇妙な感覚の正体を教えることがあった。

 

「スコーピオンたちと一緒に居る時、安らぎを感じて腕の痛みが和らぐんだ。アンタと一緒に居る時もオレの幻肢痛は消えるが、スコーピオンが感じさせる安らぎとはなにか別なんだ。アンタをそばに感じると、憎しみが消えて何かが心を埋めていく、今だってオレはあんたに何かを感じてる」

 

 いつしかエグゼの頬は酒ではない、感情の変化によって紅潮し始める。

 彼女の潤んだ瞳には、ただ一人、スネークだけがうつる。

 それからエグゼはそっとスネークの肩にもたれかかり、彼の手を取り自分の身体を抱きしめるように誘導すると、甘えた声でつぶやくのだ。

 

 

 

 

 

 

 今だけは憎しみを感じていたくない……ずっと、抱きしめてくれるか?

 

 

 

 

 

 

 

 




スプリングフィールド「衛生兵になりました、よろしくお願いします」

負傷兵A「あ、ちょっと転んでひざが…」
負傷兵B「座りすぎて腰がイタタタタ」
負傷兵C「PTSDになっちゃったから甘えても?」
カズ「なんか股間のあたりが腫れt(銃声)」


ハロウィンネタはワーちゃんとオセロットにやってもらいましたw
ワーちゃんが言うにはとても甘かったそうです。


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ウラヌス攻略作戦

 MSF、そしてPMC4社の精鋭を集めた部隊がサラエボ近郊の丘陵地帯に集結し、攻略目標である連邦軍の広域破壊兵器"ウラヌス"破壊に向けて動き出す。

 相手は少数とはいえ第三次世界大戦を戦い抜き、今なお連邦を世界の脅威から隔絶させている百戦錬磨の軍隊だ。

 生半可な戦力では太刀打ちできないだろう。

 集められた戦力には、各PMCの精鋭の他、手に入れた鉄血の工場から生み出し続けられたヘイブン・トルーパーの大隊に対戦車兵装及び対空兵装を装備した月光が数十機。

 MSFがこの世界に来て大規模な戦力を派遣したことと言えば、エグゼと前哨基地で対峙した時を除いて今回が初めてだ。

 メタルギアZEKEは今回の作戦参加を見送っているが、調整は既に済ませ、いつでも出撃可能な状態で待機はさせてある…もっと詳しく説明をするならば、メタルギアZEKEは既に連邦領内に運び込まれ出撃の機会を待っている状態にあると言えよう。

 

 例え一国の軍隊であろうと張り合える戦力を集結させているが、それでもなおオセロットは警鐘を鳴らす。

 諜報活動を通し、情報を手に入れれば手に入れるほど彼は連邦が持つ軍事力のすさまじさを思い知らされていたのだ。

 

 

『――――スネーク、連邦軍の広域破壊兵器ウラヌスを配備している野戦基地周辺は電波妨害がされているから、今のうちに伝えたいことを言っておこうと思う』

 

 戦闘車両に取り付けられた通信機材より、マザーベースのミラーからの声が届く。

 マザーベースまでの距離と、ヘリほどの高性能な通信機材を積んでいないために、通信越しのミラーの声は若干聞き取りにくい。

 

「連邦軍の対空網を警戒して車で進むのはいいが、こうも車両の列をつくって進むのはなんだか慣れないもんだな」

 

『ハハハ、今作戦は隠密任務ではないからな、激しい戦闘が予想される。スネーク、ウラヌスのことでオセロットから聞いてはいると思うが…』

 

「ああ聞いた。15ktもの核出力を持つガンバレル型核分裂弾頭、戦術核兵器ウラヌス…反政府勢力の支配下とはいえ、自国領に核の照準を定めるとはな」

 

『脅し、だと信じたいところだが…忘れないでくれスネーク、この世界はもう核戦争を経験している。必要があればもう一度核を撃つことも辞さないだろう。俺たちと連邦軍では、物の捉え方が違い過ぎる』

 

 

 戦術核兵器であるウラヌスは核弾頭を砲身を使って撃ちだすもので、核ミサイルほどの長い射程は持たないが分解する事で容易に発射位置を変えることができるという強みがある。

 移動式ということでスネークたちがかつて破壊したピースウォーカーとメタルギアZEKEを連想させるが、あちらはAIによる自動報復システムによるものがあり戦略兵器の一面が強い。

 対してウラヌスは、戦場単位で使うことを想定されており、米国が造りだした戦術核兵器"デイビー・クロケット"に近い存在だ。

 もっとも、ウラヌスが搭載する核弾頭はデイビー・クロケットの核出力の比ではなく、あのヒロシマ型原爆と同じ15ktだ。

 

 

「カズ、おそらくこれは脅しじゃない。連邦軍は核を撃つつもりだろう。なんとしても止めなければならない」

 

『やはり…連邦軍の全てとは言えないが、狂っているな」

 

「これでまだ連邦軍の秘密兵器の一つだというんだから、奴らの底が知れない」

 

『まだ連邦軍には切り札があるのか?』

 

「オセロットが言うにはな。それが何なのか今も調査中だが、情報によればその兵器を今は連邦軍が使えないらしい」

 

『どういうことだ?』

 

「詳しいことは分からん。それも含めてオセロットが調べているところだ」

 

 戦況を左右するような圧倒的破壊力を持つ兵器は現在、連邦軍は使うことができない…それがより大きな核兵器なのか、あるいはまた別なものなのかはオセロットもいまだ分かっていないという。

 ただ厳重な情報統制とセキュリティによって秘匿されているらしい。

 

『何はともあれ、もうすぐ戦場だ。通信も繋がらなくなるだろう…ただ、人形たちが使うような通信回線は使えるようだ。部隊同士の連携はそれでとってくれ。スネーク、気をつけてくれよ』

 

「ああ、そっちもマザーベースの方を頼んだぞ」

 

 

 通信を切り、辺りを見回す。

 車両の列は森林の道を順調に進み、兵士を乗せたトラックでは荷台に搭載された対空砲が空の脅威を警戒している。

 

「車両を止めろ」

 

 その言葉に運転手がスピードを落とし、後続の車両もならってスピードを落とし停車する。

 車両が停止したのを見計らったかのように、両脇の森から黒色の強化服を纏った兵士たちが姿を現す、ヘイブン・トルーパーの偵察部隊だ。

 

「ビッグボス、この先に連邦側PMCの哨戒拠点があります。あ、失礼…たった今処刑人の部隊がそこを占拠した模様です」

 

「いいセンスだ。エグゼにそこで待機するよう伝えておいてくれ。お前たちは引き続きウラヌス周辺の偵察任務にあたれ」

 

「了解」

 

 指示を受けたヘイブン・トルーパーたちは敬礼を返し、静かに森の中へと消えていった。

 

 再び車両を発進させしばらく走らせると、偵察隊の情報通り連邦側のPMCが設けた哨戒拠点が見えた。

 既にエグゼ率いる部隊によって占領されているようで、PMCの兵士とその部下である戦術人形が捕縛され基地の真ん中あたりで寝転がされている。

 今回エグゼは一人で行動していたため、問題行動を起こしていないかスネークは心配だったが、捕虜の虐殺をしたりなどはしていないようだったが…。

 

 

「どうだ悔しいかバーカ。ほれほれ、やり返してみろ」

 

 

 捕縛した戦術人形の一人を木の枝でつつきまわして苛めているようだ……ため息を一つこぼし、スネークはエグゼに近寄り手に持った木の枝をひったくる。

 悪いことをしていたという自覚はあったのか、スネークを見るやバツの悪そうな顔をして引き下がる。

 

「捕虜の虐待は見過ごせないな」

 

「虐待じゃねえよ。このチビがムカつくから教育ってもんでだな…」

 

「ボクはチビじゃない!」

 

「どう見たってチビだろお前、バーカ」

 

 子どものように目の前の戦術人形ブローニングM1919をからかって見せるエグゼ。

 問題行動といえば問題だが、以前のように捕虜を痛めつけたり傷つけたりしない分まだマシかと諦める。

 

「おい、ボクたちをどうするつもりだ!」

 

「置いてくわけにも連れてくわけにもいかないからな。少し空の旅を楽しんでくれ」

 

「ちょっ、なにするの!?待って止めて! うわああああぁぁぁ――――」

 

 

 彼女の背中にフルトンを取り付け、凄まじい速さで上空の遥か彼方へと打ち上げる。

 他のPMCの兵士も同じようにフルトン回収し、哨戒拠点の人材を残らず回収する…連邦政府の通達のせいでビジネスに支障をきたした今、こうして戦地で資源や人材を確保することは非情に重要である。

 

 兵士たちが飛んでいった上空を見上げながらエグゼは腹を抱えて笑う。

 何人かの兵士をエグゼもフルトン回収を行ったが、無様に飛んでいく姿が気に入ったらしくほとんどエグゼの手によるものだ。

 

「さあウラヌスのある基地まではもうすぐそこだ。キッドたちの部隊が攻撃を仕掛けている間にオレたちは迂回し側面をつく、いいな?」

 

「オッケー、スネーク。ヘヘ、どうやら向こうもドンパチ始まったらしいぜ」

 

 別動隊の通信を受け取ったらしい、

 笑みを獰猛なものへと変え、銃声と砲撃音の鳴り響く彼方の戦場を鋭い目で見つめる。

 

 同時進行でパルチザンの部隊もまた、ボスニアの首都サラエボ解放のため戦っている。

 彼らの援護のため、ウラヌスを破壊し連邦軍の足止めをしなければならない…MSFに任される責務はとても大きいが、優秀な部下たちをスネークは信じている。

 

 部隊が動き始めた時、待機していた月光たちもまた自らを鼓舞するかのように、牛の鳴き声に似た動作音を鳴り響かせ車両の列を挟み走りだす。

 

 さあ戦いの時だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り注ぐ砲撃の嵐が、木々を吹き飛ばし土を吹き飛ばし、緑の草原はあっという間にこげ茶色の荒野へと変貌する。

 数十キロ離れた位置からも容易に確認できるほどの巨大兵器ウラヌス、それが配備されている基地の前面には地雷原が敷設、塹壕が掘られ雇われたPMCの兵士と戦術人形が迎撃の構えを見せていた。

 それに対しMSFの砲撃部隊が猛烈な砲撃を与え、地雷原を塹壕ごと吹き飛ばしていく。

 連邦側も負けじと砲撃をし始め、MSF側にも被害が出始める…それでも練度で優るMSFが優勢であり、連邦側の火砲は確実に潰されていった。

 

「行くぞお前ら、戦車と月光の後をついて行け!」

 

 キッドの声に呼応し、塹壕から兵士たちは這い出て戦車の装甲と月光に隠れ前に進む。

 

 月光が地雷原と有刺鉄線を高い跳躍力で易々と飛び越え、塹壕に身を潜める兵士たちを駆逐する。

 その後を戦車隊が進み、有刺鉄線を薙ぎ倒し歩兵部隊の道を広げる。

 

「よっしゃー! 突っ込めーッ!」

 

 愛銃とスコップを手に、スコーピオンは突撃する。

 塹壕の中へと飛び込み、小柄な体躯を活かし狭い塹壕を縦横無尽に駆けまわり敵を撃ち、時には手にしたスコップでおもいきり殴り倒し塹壕を制圧していく。

 

「スコーピオン! わたしが相手よ!」

 

 塹壕の中で鉢合わせたのは、相手側の戦術人形Micro Uzi(ウージー)

 しかし彼女が塹壕から姿を現し銃を構えようとしたその時には、既にスコーピオンのスコップが脳天に振り下ろされていた。

 カコーンと、小気味よい金属音が響きウージーは殴り倒され一撃でのびてしまう。

 

「今のあたしは最強だーーッ!」

 

 ウージーも殴り倒し快進撃を続け調子に乗ったスコーピオン。

 塹壕を乗り越えようとしたその時、敵兵に襟を掴まれ地面に引き倒される。

 敵兵の銃口が照準を定めようとしたその時、その敵兵は胸を撃ち抜かれ崩れ落ちる。

 

『サソリ、周囲を見なさい。わたしがいなかったら危なかったわね』

 

「ありがとワルサー、ちょっと突撃しすぎたかな?」

 

 見ればスコーピオンは一人だけ突出してしまっているようだ。

 月光も激しい弾幕に姿勢をかがめそれ以上の進撃を阻まれている…何より敵の攻撃が激しくなってきた、それが意味することは…。

 

 

『来たわスコーピオン、連邦正規軍よ! 一度退きなさい!』

 

 

 ウラヌスが設置された基地よりヘリが飛び立ち、地上からは戦闘車両が出撃するのが見える。

 連邦の旗を掲げた正規軍はPMCと合流するなり、それまでとは比べ物にならない動きでMSFの部隊を迎撃する…。

 ヘリからのミサイル攻撃により月光の一機が爆散した。

 対空兵装の月光が対空ミサイルをヘリに向けて撃ちこみ、被弾したヘリが制御を失い墜落する。

 

 もう一機のヘリも、対空ミサイルを撃ちこむことができた。

 大丈夫だ、やれる…そう思ったスコーピオンであったが、制御を失いかけるヘリのドアから見えた異形の兵士の姿を見た時、言いようのない威圧感に戦慄する。

 墜落しかけるヘリのドアから身を乗り出し、異形の兵士は躊躇することなく外へと飛び降りる。

 

 

 ヘイブン・トルーパーですら躊躇するほどの高度、そこから落下してきた兵士は着地と同時に地面を揺らす。

 重厚な装甲で身体を隙間なく覆い、人間離れした巨体…無機的で冷酷な赤い眼がスコーピオンを見下ろした。

 

 

「お前は…!」

 

「ずいぶん好き放題やってくれたな。貴様らは自らの相応を弁えぬ行いをしてきたようだが、ついにこのフェリックスの前に立ってしまったな。醜い人形め、死ぬがいい」

 

 彼の拳が振り上げられたとき、まるでスコーピオンの身体は金縛りにあったかのように身動きが取れなかった。

 WA2000の声が聞こえた時、金縛りは解け咄嗟にスコーピオンは横に転がった…すぐに立ち上がってみれば、先ほどまで立っていた場所はフェリックスの拳を受けて深々と抉られている。

 もしも身体を動かすことができないかあと少し反応が遅れていたら、肉塊にされていた…そう思ったスコーピオンは戦慄する。

 

「あんたが、アンタがスネークの言っていた強化兵か!」

 

 銃を構え、引き金を引いてありったけの弾をぶつける。

 だが彼の身体を包む装甲はスコーピオンの弾をはじき返しまるで効果がない、ならばと焼夷手榴弾を投げつけたが、炎に包まれながらもその身体には一切の傷がついていない。

 

「スコーピオン!」

 

 そこへキッドが駆けつけ、フェリックスへ向けてRPG-7を撃ちこむ。

 戦車の装甲も貫くRPG-7だ、当たればひとたまりもないはず……だが、彼はなんと放たれたRPG-7の弾頭を掴んで受け止めたではないか。

 そのまま推進方向を逸らし手を離すと、弾頭は味方の月光へ向けて跳んでいき装甲と生体パーツを繋ぐ関節部に直撃し、月光は大破した。

 

 

「化物…! アンタなんなんだよッ!」

 

 人間などではない…E.L.I.Dに感染し異形化した肉体を強固なアーマーで包み込み、機械と電子頭脳で制御された人ならざる者。

 冷や汗を流しながら言ったスコーピオンの言葉を、彼は嘲笑する。

 

 

「わたしは神の右腕、神に代わり復讐を果たす者なり。さあ、虚しく死んでいけ人形め」

 

 

 




T800ターミネーターの骨格を持ったタイラントにパワードスーツを被せた奴…想像力ないんですけどこんな感じです。



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神罰の執行者

「どうした小娘、かかってこないのか?」

 

 漆黒のアーマーに身を包むフェリックスの表情は見えず、ただ目の前の反抗者を虫けら以下の存在と嘲り笑うかのように見下している。

 彼の姿からは圧倒的強者の余裕というものを感じる。

 いつでもお前らなどひねり潰せる、死にたければいつでもかかってこい…そう言わんばかりのセリフに、闘争心の強いスコーピオンの尊厳は酷く傷つけられる。

 

 身をかがめ、両足にありったけの力を込めて地面を蹴るかのように踏み込む。

 処刑人、エグゼが得意とする力強い踏み込みからの強襲戦法、幾度となくエグゼと手合せと訓練を行い身に付けた戦法だ。

 だがスコーピオンは選ぶ手段を間違えてしまった。

 重厚で大きすぎる巨体から、フェリックスは小回りが利かずスピードで翻弄すれば容易く背後をとれると踏んで仕掛けに行ったが、目の前の怪物はその図体に見合わない速さでスコーピオンの動きを捉える。

 振りぬかれた拳がスコーピオンの腹部を抉り、彼女の小柄な身体は十数メートル以上も吹き飛び積まれていた木箱にぶちあたる。

 

 打たれ強さに自身のあったスコーピオンだが、殴られた衝撃で足腰が思うように動かせないばかりか意識を保つのすらやっとの状態であった。

 なんとか這いつくばりながらも体勢を整えようとしたところで、腹部に受けた強烈なダメージに屈し、その場に崩れ落ちる。

 

 胃の内容物を全て吐きだし、今や消えかけの闘志でなんとか目の前の怪物を睨みつける。

 フェリックスは墜落したヘリのドアガンとして取り付けられていたガトリング砲を引きちぎると、その凶悪な銃口をスコーピオンへと向ける。

 ガトリング砲の銃身が回転し、射撃体勢をとる。

 万事休す…そう思ったその時、数発の弾丸がフェリックスの身体を撃ち、微かに彼の巨体が揺らぐ。

 

『逃げなさいスコーピオンッ!』

 

 通信に、WA2000の声が入る。

 遠距離からの狙撃でフェリックスの気を引き、その隙に身を隠していた9A91とキッドが駆け寄り、負傷したスコーピオンを塹壕の中に引き込む。

 

『嘘でしょ、マンティコアの装甲も貫く徹甲弾が効かない…!』

 

「SFにもほどがあるぜ!オレのマシンガンの徹甲弾も効かねぇし、RPGの弾頭は止めるし…あいつなんなんだ!?」

 

 スコーピオンの傷を労わりながら、思わずキッドはそう叫ぶ。

 塹壕から顔を覗かせて見れば、フェリックスは自身に放たれる弾丸の雨をも意に介さず遠くの景色でも見るかのように狙撃手を捜している。

 やがてある一点を凝視したかと思えば、背負っていた巨大な盾とミサイルランチャーを肩に担ぎ姿勢を落とす。

 

 その動きを、照準器越しに見ていたWA2000はその狙いが真っ直ぐ自分に向けられていることに驚愕し、すぐさまその場を離れだす。

 

 

 巨大な盾を文字通り地面に突き刺し、両手でミサイルランチャーを構える。

 そして放たれたミサイルはWA2000が戦場を俯瞰していた狙撃位置に向けて真っ直ぐに飛んでいき、次の瞬間眩い光が戦場にいた兵士たちの視界を真っ白に染める。

 強烈な光の後に、凄まじい爆風が戦場を吹き抜ける…。

 砂塵は巻き上げられ、脆い木箱などは爆発の衝撃波で吹き飛ばされる。

 

 爆風をやり過ごし頭をあげた兵士たちが見たものは、爆炎と黒煙によって形作られたキノコ雲であった。

 

 

「あの野郎…マジかよ」

 

 

 遠方に生まれたキノコ雲をキッドは呆然と見つめる。

 しかしWA2000の事を思い出し、すぐさま連絡をとろうとしたが通信は繋がらない…悪い予感がキッドの脳裏に過る。

 ただ通信障害はすぐそばの9A91にも起こっているようで、まだ彼女がやられたとは限らなかった……それでも、フェリックスの放った携行用小型核兵器の威力を見せつけられた今、不安を払拭させることはできないでいた。

 

「くっ、撤退するぞ。あんな化物の相手をしてたら全滅してしまう」

 

 キッドなりに状況を判断してのことであったが、そんな彼をスコーピオンは掴み引き留める。

 

「ここで逃げちゃダメだ、アタシたちが戦えばスネークとエグゼの別動隊が補足されちゃう。あたしたちが戦えば奴の目をこっちに向けられる、キッド、あたしらの任務は上手く行ってるんだよ!」

 

「ばか、そんな身体で言えたセリフかよ!」

 

「この程度の傷はいつものこと…へっちゃらだよ…。スネークはあたしたちを信じてる、あたしはそれに応えたい。キッド、アンタはどうなの? あたしらより付き合いの長いあんたが、スネークの期待に応えないはずないでしょ?」

 

「お前を心配して言ってやってるのに、このおてんば娘め。いいだろうスコーピオン、やってやろうじゃないか」

 

「そうこなくっちゃね…!」

 

 キッドとスコーピオンは互いに笑みを浮かべ合い、拳をつき合わせる。

 それに9A91も呼応する。

 

「あの化物用に用意したわけじゃないが、オレ様の新兵器だ。どこまで通用するか知らんが、こいつでぶちのめしてやるさ」

 

 キッドが用意したのは、普段彼が持ち歩いている軽機関銃の類ではなく高威力で重量のある重機関銃だ。

 時々使っているM2ブローニングとも違うその重機関銃は、PMCのプレイング・マンティス社の技術提供によってMSFの研究開発班が造り上げた"Kord重機関銃"だ。

 M2ブローニングでは重すぎるため、キッドの要求で持ち運べる重機関銃を用意しろ、という要望のために開発されたが、並みの兵士には扱い切れないキッド専用の装備と言っても過言ではない。

 12.7x108mm、対装甲用の徹甲弾を装填し重い重機関銃を持ち上げる。

 

「キッド、あたしと9A91があいつの注意を引く。さっき少し見えたけど、背中の装甲が薄いのかもしれない。盾を背中に付けてたのにはそれも理由があるのかも」

 

「よし、その手で行くか。期待してるぞ二人とも」

 

「あんたもね、キッド。スネークとエグゼがウラヌスを破壊するまで時間を稼げればいい! あのデカブツに一矢報いてやろうじゃん!」

 

 すっかり立ち直ったスコーピオンは流石と言ったところか。

 塹壕から這い出たスコーピオンと9A91は、フェリックスの姿を見るなり銃撃し手榴弾を投げつける。

 不意を突いた形だが、手榴弾の爆発を至近距離で浴びてなお一歩後ずさりしたのみでビクともしない。

 赤い眼光が二人の姿を捉え、核弾頭を搭載したランチャーを背に格納しガトリング砲を携える。

 

「出てきたかドブネズミめ。そのまま隠れていれば良かったものを…自ら死を懇願しに来たか? まあ、どうでもいい。既にウラヌスの発射体勢は整った、間もなく忌々しい異民族の巣窟であるサラエボは焼き払われるだろう」

 

「あそこには非戦闘員もいるんでしょ、よくもやれるね…!」

 

「異民族が何千、何万と死のうが知ったことか。この国にはクロアチア人しか住むことは許されん、異教を信じる異民族の血はこのわたしが自ら絶やし尽くしてくれよう。たとえそれが無垢な子どもであっても、穢れた異民族の血が流れる限り浄化しなくてはならんのだ」

 

「イかれた殺戮者め! あんたと話してると虫唾がはしるわ!」

 

「では死ね」

 

 フェリックスの持つガトリング砲の銃身が回りだした時、スコーピオンと9A91は二手に別れ走りだす。

 同時に走りだすことでどちらかに狙いをつける思考の隙を生じさせる、しかしフェリックスは迷うこともなくスコーピオンにのみ狙いを定め、ガトリング砲の猛烈な火力が彼女に襲い掛かる。

 薙ぎ払うような掃射にスコーピオンはおもわず冷や汗を流す。

 咄嗟に砲弾で抉られた穴の中へと飛び込むと、無数の弾丸が地面を抉りだす。

 

「こっちですッ!」

 

 側面を周り込んだ9A91ががら空きの側方から銃弾を叩き込む。

 しかし強固なアーマーによって弾は阻まれ、フェリックスも9A91が大した脅威ではないと判断したのか見向きもせずに、スコーピオンの隠れる穴へと猛烈な弾幕をはる。

 徐々に表面の土が削り取られ、スコーピオンが撃ち抜かれるのも時間の問題だ。

 そんな時、月光が一機フェリックスの前に着地すると同時に、強靭な脚を振りぬき蹴り飛ばす。

 

 さしものフェリックスも、月光の強烈な蹴りを受けた衝撃でガトリング砲を手放した。

 立ち上がったフェリックスが怒りの咆哮をあげた時、それまで好機を伺っていたキッドが塹壕から飛び出し、フェリックスのがら空きの背中へありったけの弾丸を叩き込む。

 高威力の12.7x108mmに徹甲弾の貫通力、猛烈な連撃がフェリックスの背部装甲を削っていきやがて体組織を流れている血液が吹きだした。

 

 垂れ出たのは、緑色の液体…それがE.L.I.Dになり果て、異形化した彼の体内を循環する血液だ。

 

 粉砕されたアーマーから流れる緑色の血液に手ごたえを感じたが、フェリックスは苦しみの声もあげずキッドに振り返る。

 一目で激烈な怒りを宿していることが分かる、その恐ろしい姿にキッドは気圧されたが、視界の端で動き出した9A91に笑みを浮かべる。

 

 9A91はRPG-7をフェリックスに向けて撃ちこむ。

 取るにたらない存在と無視した9A91はフェリックスの慢心を見事ついて見せた。

 戦車を貫く弾頭は彼の身体に直撃し、大きな爆発を起こし吹き飛ばした。

 

 

 

「や、やりました…!」

 

 

 吹き飛んだフェリックスはピクリとも動かない。

 緊張感から解き放たれた9A91はへたり込み、大きく息を吸い込み、吐いていく。

 

「流石9A91! とどめの一撃見事だね!」

 

「危ない場面でした…」

 

「まったくだぜ。最後のはオレも冷や汗をかいた…そうだ、ワルサーは?」

 

『聞こえてるわよ…見事だったわね』

 

「ワルサー、無事だったんだね!?」

 

『全然無事じゃないわ……ちょっと、休ませて…離脱するわ』

 

「分かった。気をつけてね…」

 

 

 さておき、見事な連携でフェリックスを退けることができた、そう思っていた最中に、月光が威嚇するように唸りをあげる。

 まさかと思い、一同は咄嗟に振り返る。

 

 

「今のは効いたぞ虫けらども。久々に痛みというものを感じた、さあ殺し合いを続けようか」

 

 12.7mm弾の連射とRPG-7の直撃を受けたのにも関わらず、奴は、フェリックスは起き上がって見せる。

 盾を回収し背負い、打ち砕かれた背面装甲をカバーし、RPG-7が崩したかに見えた正面のアーマーも亀裂が入ったのみで健在だった。

 

「なんで立っていられるんだ…! 不死身かお前は!?」

 

「貴様ら下等な虫けらと同列に語るな。我が双肩には祖国の未来がかかっているのだ、貴様ら傭兵や人形どもには分かるまい…この崇高な意志こそが我が力の源である」

 

「イかれた殺人鬼が崇高な意志とは言ってくれるね」

 

「我が名誉は祖国へ仇なす者への激烈なる復讐、我が誇りは祖国への揺るぎ無き忠誠!

 故郷のために 備えよ!(ザ・ドム スプレムニ!)

 戦いを戦わぬ者に神の祝福は与えられん! 縛られた祖国、蹂躙された故郷は流血と英雄的な闘争をもって解放されるのだ!

 下等な虫けら共に神の進軍は止められん! 我こそは神罰の執行者! 跪き泣いて許しを乞うがいい、貴様らの審判はこのわたしが下してやろう!」

 

 

 次の瞬間、彼らの周囲に無数の砲弾が着弾し猛烈な爆風が襲い掛かる。

 それはMSF側の砲撃部隊からではない、MSFは味方を巻きこむほど愚かではないし仲間の命を粗末にもしない。

 

 無数の砲撃が降り注ぐ中で、フェリックスは高らかに笑う。

 彼はあろうことか味方の砲撃部隊に対し、己ごと敵を砲撃するよう指示を出していたのだ。

 

「正気かテメェ!?」

 

「正気だ。祖国の勝利が約束されるまでわたしは死なん、神の祝福を受けたわたしに砲弾は当たらんよ」

 

 猛烈な爆撃の中に悠然とたたずみ、爆風を逃れ散り散りになるスコーピオンらをあざ笑う。

 爆発で地面が吹き飛び、榴弾の破片がまき散らされる中フェリックスは先ほど自身にRPG-7を撃ちこんだ9A91に狙いを定める。

 爆撃で逃げ場を失う9A91を塹壕の中に駆り立て、ついには塹壕の端の行き止まりにまで追い詰める。

 

 

「死ぬのが怖いか人形め、安心しろ、それは単なるプログラムにすぎん。本当の貴様は単なる鉄とコードの集合体にすぎん、人を模した傀儡にすぎんのだよ」

 

「わたしは、違う…! わたしは―――っ!」

 

 彼女の言葉は、フェリックスに首を掴みあげられたために遮られる。

 彼女の足は地を離れ、フェリックスと同じ視線にまで持ちあげられる…首を絞めつけられる苦しみにもがき、足をばたつかせる。

 

「自分が勇敢な戦士だとでも思っていたか? 人形であるお前らは単なる消耗品、道具にすぎんのだ。貴様らをいくら破壊しようと、我が良心は微塵も傷つかん。異民族以下の下劣な存在め、このまま死んでいけ」

 

 首を絞めつける力が強まり、9A91は薄れいく意識の中でも目の前の怪物へ睨むことを止めず手を伸ばし反抗の意思を示す…だが彼女のような人形を見下すフェリックスはどこまでも無機的に、冷酷に彼女の命を奪おうとする。

 締め付けられる力にやがてばたつかせていた足も力を失い、伸ばした腕も力なく垂れ下がる…虚ろな意識の中、9A91は内なる闘志すらも徐々に消え行くことを感じていた…。

 

 

「おう、コラ。死ぬのはまだ早いんだぜ?」

 

 

 そんな、聞きなれた声が聞こえた。

 ふと、9A91は支えを失い地面に倒れ込む…首の圧迫感が無くなったと思うと、激しくせき込み意識が回復していく。 

 そうしていると、誰かに抱え上げられ目に映る景色が塹壕から広い戦場へと変わる。

 まだ覚めきらない意識の中、9A91は息を整え顔をあげる。

 

 そこには、見慣れた赤い瞳で見下ろし笑みを浮かべる仲間の姿があった。

 

 

「エグゼ…!」

 

「ヘヘ、処刑人様参上ってな。よく頑張ったな、後は任せな」

 

 最高のタイミングの良さだ。

 頼れる仲間の助けに9A91はおもわず嬉しさのあまりエグゼに抱き付く。

 よしよしと彼女の背中を撫でつつ、塹壕から姿を見せた怪物を鋭く睨みつける…。

 傍にいたヘイブン・トルーパーに9A91を預け、エグゼはブレードを構える。

 

「よう、よくもオレの仲間を痛めつけてくれたな。ぶち殺してやるから覚悟しろよテメェ」

 

「貴様…人形風情が、調子に乗るな」

 

 見れば、フェリックスの右手は手首の辺りから斬り落とされ血を垂れ流していた。

 だが彼は斬り落とされた右手に杭を刺し込み、それを切り落とされた手首に突き刺し固定する…E.L.I.Dに犯された彼の身体は驚異的な回復力で組織を癒着させ、ゆっくりと右手を動かしてみせる。

 

「クズが、わたしを傷つけたことを後悔させてやろう」

 

「そうか? ならテメエにはオレらにケンカ売ったこと後悔する時間を数えてやるぜ?」

 

 そう言うと、エグゼは手のひらを広げてかざす。

 そのうち、親指を折り曲げる。

 次いで小指を…それが何かの時間を数えているのだと悟り、何らかの仕掛けに警戒するフェリックス。

 その姿に笑みを浮かべ、指を二つ…勝利のVサインとも、ピースサインとも思える形をとる。

 

「腕っぷしは強くても、頭の方は悪そうだなお前……ドカーン」

 

 

 0…すべての指を折りたたんだと同時に、凄まじい爆音が戦場に鳴り響く。

 

 咄嗟に振り返ったフェリックスが見たものは、遥か後方の連邦軍のウラヌス砲台基地で起こる巨大な爆発であった。

 巨大な戦術核兵器ウラヌスは爆発によって崩壊していき、その他の弾薬や爆薬に火が飛びうつり凄まじい爆発を起こす。

 

 

「おいデカブツ、誰にケンカ吹っ掛けたか理解したか?」

 

 

 エグゼの嘲笑に、彼はゆっくりと振り返る。

 相変わらず無機的な鋼鉄のマスクからその表情はうかがいしれない。

 先ほどまでその場に降り注いでいた砲撃の嵐も、エグゼの部隊が攻撃を仕掛けたことで停止している。

 勝敗は決したかに見えた…。

 

 だが、目の前の怪物が今だその闘志を衰えさせていないことをエグゼは見抜く。

 

 

「敗因があるとすれば、わたしの慢心か。認めざるをえまい、貴様らは単なる傭兵ではないことを」

 

「おう、当たり前だクソボケ。少しは敬意を払いな」

 

「黙れ、貴様が下等な人形であることは変わりない! 容赦はしない、皆殺しにしてやろう!」

 

「やってみろよデカブツがよ!」

 

 好戦的な笑みを浮かべ走りだす、スコーピオン以上の踏み込みの速さで猛然と突進していく。

 だがそこに、二人の間を阻むかのように鉛色の機械的な外見の人形が突如として立ちふさがり、エグゼのブレードを防ぐ。

 見慣れない戦術人形に一瞬戸惑ったエグゼだが、空いた手で拳銃をとり目の前の人形の頭部に弾丸を撃ちこむ。

 その人形は撃たれてもなお活動を止めず、力で強引にエグゼを突き放す。

 

「なんだこいつ…鉄血でもIOPでもねえぞ?」

 

 世にあふれる第2世代の人形と違い、鉛色の装甲を持った人形はどちらかというと装甲人形の姿形に近い。

 だが装甲人形を取り扱ったことのあるエグゼにも、目の前の人形は初めて見る存在だった…強固な装甲と俊敏性、そしてパワーは装甲人形アイギス以上の性能を持つ。

 それが、戦場のあちこちから姿を現す。

 

 

「連邦製戦術人形チェルノボーグ、疑似的感情や無駄な外見などを省き徹底的に戦闘能力を求めた戦術人形のあるべき姿だ。さて、ことここに至ってはもう手加減などしない」

 

 

 フェリックスは己のアーマーに手をかけると、装甲の一部が剥脱されそこから高温の蒸気が吹きだす。

 全身を覆っていたパワードスーツは一部の装甲と内部の人工筋肉を残し剥がれ落ち、ところどころ彼の変異した肉体が見え隠れする。

 

 

「このアーマーは防具としての役割だけではない。わたしの持つ力を制御する拘束具としての役割の方が大きい…ただでは殺さんぞ人形、地獄を味わわせてやる」

 

「上等だよ、返り討ちにしてやるぜ」

 

 

 エグゼが身構えると、一斉に連邦軍の人形たちが動きだす。

 人形たちの武装はガトリング砲やキャノン砲といった高火力の兵器、それらがエグゼを狙い一斉に放たれる。

 戦場を走り抜け人形たちに狙いを絞らせないよう接近し、ブレードで斬りかかる。

 それを人形は咄嗟に手首に装着したブレードを展開し防ぐのだ。

 

 小さく舌打ちし、ブレードを弾き腰の部位を両断。

 高周波ブレードの斬れ味は防ぎきれない、なんとかなると勝機を見出し次なる獲物に向けて走りだそうとした瞬間、足を何かに捕まれ前のめりに転倒する。

 見れば、いましがた斬り倒したはずの人形が上半身だけで動きエグゼの足を掴んでいたのだ。

 

「クソ、離しやがれ!」

 

 人形の頭に何度も弾を撃ちこみ、最後にブレードを突き刺したところで活動を停止する。

 足を掴む手をはらい立ち上がったと同時に、フェリックスが一気にエグゼへと詰め寄り振りかぶった拳を叩きつける。

 咄嗟に両腕を交差させて防ぐが、その衝撃でエグゼの身体は宙を舞い大きく吹き飛ばされる。

 

 

「痛ッ…! なんて馬鹿力だよ…!」

 

 防御したにもかかわらず、巨大な車両にぶつかったかのような衝撃がエグゼの身体にダメージを与え、拳を防いだ両腕は痺れて思うように動かせない。

 

「エグゼ、大丈夫か!」

 

「スネーク…! ちょっと、ヤバいかも」

 

 戦場に駆けつけたスネークの肩を借りて立ち上がるも、相手の力を思い知らされたエグゼはおもわず弱音を吐いてしまう。

 連邦軍の戦術人形チェルノボーグは先ほどよりも姿を増やし、MSFの部隊と激しい銃撃戦を繰り広げている。 

 一体のチェルノボーグに対し精鋭兵士数人がかりで戦闘し、それでようやく互角の戦いだ。

 

 今はまだ指揮をとるフェリックスの注意がMSFの部隊に向いていないが、もし彼が戦いに加われば戦況は不利になる。

 こんな化物の足止めをしていたスコーピオンらの活躍に称賛したい、そう思えるほどの脅威をスネークは戦いを交えずとも感じ取る。

 

 

「貴様…貴様がMSFの司令官、ビッグボスか? フハハハハ、会えて光栄だよ。お前の話しは聞いていたからな、そしていつか我々の祖国の前に立ちはだかると確信していた」

 

「お前たちのウラヌスは破壊した、お前たちの目論見は失敗に終わった。大人しく退いたらどうだ」

 

「それがどうした。ウラヌスは所詮兵器、造り直せばいい。だがお前という存在は? お前をここで殺せばお前という存在は世界から消え失せる…祖国のために、今ここで果たす使命は貴様を殺すことに他ならんのだよ!」

 

 剥き出しの敵意を隠そうともせず、フェリックスは走りだす。

 ダメージの残るエグゼを塹壕に隠し、連邦最強の兵士と対峙する。

 得意のCQCもこうも体格と力の差があると通じはしない、一体どうやってこんな化物とやり合っていたのか…思わず通信でスコーピオンに助言を求めたくなるほどだ。

 

 走りながら、フェリックスは地面に転がるガトリング砲を拾い上げ、それを鈍器のように横薙ぎに振る。

 間一髪のところで避けたスネークだが、再び振るわれた一撃を避けることはできなかった。

 咄嗟に受け身をとったが、ガトリングの銃身で殴りつけられ肋骨の何本かは折れたようだ…激痛に苦悶の表情を浮かべる。

 フェリックスのガトリング砲が回転し始めた時、すぐに回避行動をとろうとした際、チェルノボーグが立ちはだかり逃げ場を塞ぐ。

 

 万事休す、そう思った次の瞬間、目の前のチェルノボーグは真っ二つに斬り裂かれ活動を停止させる。

 何事かと思っていると、今にも銃弾の雨を降らせようと回転していたフェリックスのガトリング砲もまた銃身を鋭利な刃に斬り裂かれる。

 スネークもフェリックスも、何が起こったか分からないでいた。

 

 しかし、目の前の風景が霞のように揺れたかと思うと、ゆっくりと姿を現す。

 

 

「見ていられないな、スネーク…いや、ビッグボス」

 

「お前は…!」

 

 霞を払い現われた彼は、外骨格に身を包み、エグゼの持つ高周波ブレードと同じような刀を握っていた。

 そっと振り返り、彼はバイザーを開く。

 そこから覗かせた顔に、スネークはハッとする。

 

「フランク・イェーガー…!」

 

「久しぶりだな、ビッグボス。あなたに受けた恩を返しに来た、手を貸そう」

 

「お前もこの世界に?」

 

「話しは後だ、手を抜いて戦える相手ではない」

 

 バイザーを閉ざし、ブレードを手に身構える。

 彼の言う通りフェリックスは手を抜いて戦える相手ではない、聞きたいことは山ほどあったが目の前の脅威をどうにかすることの方が優先だ。

 

 

「ちょっと待ったーッ!」

 

 そんな時、茂みの中から声がしたかと思うと何人かの少女が戦場に転がり込んできたではないか。

 

 

「もー、45姉がモタモタしてるから絶好の機会を奪われちゃったじゃない!」

 

「ほんと、かっこ悪いタイミングね」

 

「慎重になりすぎて絶好の機会を逃したのは謝るわ。でも、結果オーライよ」

 

「うー…怖い怖い怖い…!」

 

 

「しっかりしなさいG11! さてお初にお目にかかるMSFのビッグボスさん、噂の404小隊、これよりMSFに加勢するわね!」

 

 

 




なんか第三章で全員のレベルカンストするんじゃないかってくらい難易度高くなります。



それはさておき、グレイ・フォックスさんと404小隊参上ッ!
でも404小隊はともかく、グレイ・フォックスさんの救援は一時的なものになりますね…今はもう一人の蛇姉さんのところに居ますから。


あー敵の強化やり過ぎた(白目)

オリジナル戦術人形チェルノボーグ…SWのマグナガードかT800ターミネーターでお願いします(ニッコリ)


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怪物の宴

「――――いい加減くたばれこのッ!」

 

 スコーピオンはマガジン内の弾丸をありったけ叩き込んでなお、活動を停止しない連邦軍の戦術人形に暴言を吐く。

 強固な装甲と恐ろしい火力を持つ連邦製の戦術人形チェルノボーグの性能は恐ろしく高く、数こそそこまでいないものの、歴戦のMSFの戦闘員を数人相手取る戦闘能力で部隊を苦しめる。

 

 元々装甲を持った敵に対し相性の悪いスコーピオンであったが、弾切れになった銃をしまいこみ、半ばやけくそにスコップを振りかざす。

 狙うは比較的装甲の薄い関節部。

 だが敵は咄嗟に腕を盾にスコップの一撃を防ぎ、逆にスコーピオンの手にするスコップの方が柄のところでへし折れてしまう。

 敵はそのまま小柄なスコーピオンを抱え上げ、投げ飛ばす。  

 ゴロゴロと地面を転がり吹き飛ばされたスコーピオンであったが、細いマニピュレーターに足を掴まれ小柄な身体が宙に浮いたかと思うと、一機の月光の頭部に乗せられる。

 

「痛ッ…助かったよ月光」

 

 助けてくれた月光の頭をペシペシ叩きつつ、月光の高い視点から周囲を伺う。

 後方で支援攻撃を行う月光を除けば、現在最前線で戦う月光は既にこの一機のみだ。

 装甲部分は被弾しところどころ被膜がはがれ、脚部の生体パーツもところどころ傷ついている…だがその月光は闘志を衰えさせることなく、スコーピオンを痛めつけたチェルノボーグに対し地面をひっかくような威嚇行動をとる。

 

「やっちまえ月光ッ!」

 

 頭部に乗りながらスコーピオンが叫ぶと、それに呼応するかのように月光は唸りをあげる。

 チェルノボーグの対戦車砲を跳躍で躱し、着地と同時に踏みつける。

 月光の重量で踏みつけられれば大半の敵は活動を停止するが、いくら頑丈なチェルノボーグとはいえその限りではなく少しもがいた末に活動を停止させる。

 

 

「月光、敵が三体やって来たよ!」

 

 

 頭上から襲い掛かる敵の位置を教えると、月光は再び跳躍すると、塹壕の中に飛び込み装甲の薄い脚部を隠し頑丈な上体部分のみを塹壕から出して敵を迎え撃つ。

 取り付けられたブローニングM2重機関銃を敵に向けて撃ち、隠れた敵を迫撃砲による曲射で破壊する。

 獅子奮迅の活躍に、思わずスコーピオンは苦笑いを浮かべる。

 月光は戦術人形を参考にしたAIを搭載しているが、言葉は交わせず単純な命令を聞くだけの存在であるはずだった。

 だがAIを手掛けたストレンジラブはある仕掛けをAIに施していて、幾度も経験を重ねることで成長させるプログラムを仕込んだのだ。

 

 スコーピオンは知らなかったが、今いるこの月光は初期に生産された個体で幾度となく戦場に投入され、経験と知識を積み重ねた歴戦の月光なのだ。

 

 

 敵を打ち倒し、勝ち名乗りをあげるかのように咆哮する月光に、スコーピオンはおもわず手を叩いて喜ぶ。

 粗末に扱ってごめんね、そう言いながら撫でてやるとどこか嬉しそうな様子だ。

 

「さてと、他の様子は? なんかよく分からない戦術人形が助けに来てくれたみたいだけど…エグゼは無事かな?」

 

 月光が塹壕を這い出て再び高くなった視点から戦場を俯瞰する。

 見回してみると、奥の方ではスネークと謎の人物が共闘して忌々しい強化兵と対峙しているのが見えた。

 いますぐ駆けつけたい衝動に駆られるが、ふと視界の端でエグゼの姿を捉えそちらに目を向ける。

 

 その表情に笑みを浮かべ、心底楽しそうにブレードを振るう姿に感心しつつ、エグゼが対峙している相手を見て思わず情けない声をこぼしてしまう…。

 

「エグゼ、なにやってんの…?」

 

 エグゼが襲い掛かっている相手、それは先ほど戦場に唐突に現われMSFへの加勢を高らかに宣言した404小隊であった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラ、かかってこいやコラッ!」

 

「なんなのよあんた! こっちは敵じゃないって、さっきから、言ってるでしょうがッ!」

 

「うるせえ!」

 

「このバカ、なんなのもう!?」

 

 エグゼは404小隊の隊員である416に対し執拗に攻撃を仕掛け、必死で敵意がないことを説明するも聞く耳を持たず、激しい斬撃をなんとか躱すことしかできていない。

 

「逃げてばかりじゃ勝てないぜ?」

 

「だから敵じゃないって言ってるでしょう!? バカなの!?」

 

「胡散臭い奴はぶっ殺せってな! 先制反撃だよッ!」

 

「なによ先制反撃って!? 先制攻撃の間違いでしょ!もう頭に来た!」

 

 一向に攻撃の手を止めないエグゼに、とうとう堪忍袋の緒が切れる416。

 銃を構えた彼女に獰猛な笑みを浮かべ、エグゼは攻撃をさらに苛烈なものとする。

 

「やっぱ敵じゃねえかお前よ!」

 

「あんたが悪いんでしょ!?」

 

 お互いに敵意を剥き出しに襲い掛かる姿には、本来の敵であるはずの連邦軍の戦術人形も関与したく無さそうに距離を置いている…今にも本気の殺し合いを行うところを、月光に乗ったスコーピオンが割って入り仲裁する。

 

「エグゼ、なんか知らないけどこの人たち味方みたいだよ!?」

 

「あ、そうなの? ったく、敵じゃねえならさっさと言えよこっちは忙しいんだ」

 

 やれやれとため息をこぼしてみせるエグゼに、416は言葉も出さず顔を真っ赤にし殺意を剥き出しにして睨みつけている。

 そんな風ににらまれれば喧嘩っ早いエグゼも受けて立とうとするが、そこはなんとかスコーピオンがなだめてみせる。

 一方の416の方も、同じ小隊のUMP45にたしなめられているようだが…。

 

「アイツ殺す!」

 

「まあまあ落ち着きなさい416。あれが噂のMSFに寝返った鉄血のハイエンドモデル処刑人よ、まともにやり合って分が悪いのはあなたの方よ。今はまだこらえなさい」

 

「そうだよ、今は恩を売るのが先決だよ!」

 

 そう言いながら、UMP9は付近のチェルノボーグを打ち倒す。

 思わぬ助太刀にMSFの兵士は口笛を吹いて称賛し、UMP9も笑顔を浮かべサムズアップで応える。

 

「分かったわよ…それで、G11はどこ行ったの?」

 

「あぁ…あっちのお化けの戦いに巻き込まれて縮みあがってるみたい」

 

「まったく役立たずめ」

 

 見れば戦場の奥、化け物同士の激しい戦闘に巻き込まれた挙句撤退もかなわず、砲撃で出来たくぼみで震えがっているG11がいるではないか。

 416は罵倒するが、MSFのスネーク、謎のニンジャ、連邦軍の強化兵フェリックスの激闘に巻き込まれてしまえば誰だってあんな風になってしまうだろう…。

 そのまま放っておいてもいいのだが、万が一流れ弾に当たって死なれても面倒だということで救出に行こうとするのだが…。

 

 

「あれは近づけないわよね」

 

 

 分かってはいるが、再度見た三人の血で血を洗うような激しい戦いに思わず苦笑する。

 

 常人なら持ち上げることも困難な重火砲を手に撃ちまくり、弾丸を刀ではじき攻撃を見極め弾丸を躱し、体格差をものともせず対峙する…まるでアクション映画でも見ているかのような、目を疑うような死闘を繰り広げている。

 そこに巻き込まれれば連邦のチェルノボーグといえども一瞬でスクラップと化すため、一定の距離をあけて戦闘を行っている。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅ…怖い怖い怖いッ! なんで誰も助けにきてくれないの…!」

 

 すぐそばで行われている化け物同士の戦いに、G11は穴の中で震えあがることしかできないでいる。

 何度か隙をみて穴を這い出ようとするが、その度にフェリックスのガトリング砲やスネークのロケットランチャーの流れ弾が飛んでくるために何度も追い返されてしまっている。

 通信で小隊の仲間に救助をお願いすれば、頑張って脱出しなさいと心無い返事を返される…。

 

「45、いいから助けに来てよお願いだよ、なんでもするからさ…!」

 

『わたしに死ねって言ってるの? しばらくそうしてなさい。あ、頭伏せてた方がいいわ』

 

 UMP45が言った間もなく、G11の隠れる穴の傍に砲弾が着弾し、吹き飛ばされた土砂が彼女の頭上に覆いかぶさる。

 

「酷いよ45! 9でも416でも誰でもいいから助けに来てよ!」

 

『ごめんね、45姉に今は行くなって言われてるから』

 

『ついでみたいに言われるのが気にくわないわね。自分で何とかしなさい』

 

「薄情者! こんな小隊抜けてやる!」

 

 恨みの言葉を叫んだ次の瞬間、誰かが穴の中に転がり落ちてきたためにG11は大きな悲鳴をあげる。

 

「くそ、しぶとい奴だ。おい、キミはこんなところで何をしてる?」

 

 転がり込んできたのはMSFの司令官スネークだ。

 ちゃんと自己紹介をしてはいなかったが、404小隊として加勢している状況に置いて少なくとも彼はG11の味方と言ってもいい存在だ。

 

「ここにいたら巻き込まれるぞ」

 

「うぅ、分かってるけど」

 

「よし、合図をしたら飛び出して仲間のところに行け。行くぞ!」

 

「うぇッ!? 早いよ!」

 

 すぐさま穴を這い出たスネークの後を追ったG11だが、前方に仁王立ちする連邦軍強化兵フェリックスの姿を見た瞬間全力で穴に引き返したくなる衝動に駆られる。 

 

「邪魔だ、退いてろ!」

 

 突然背後から後ろ襟を掴みあげられ、G11は投げ飛ばされる。

 G11を投げ飛ばしたのは全身を強化骨格に包むサイボーグ忍者、フランク・イェーガーであった…投げ飛ばされたG11は勢いのままに転がっていき、岩に頭をぶつけたところで停止する。

 酷い痛みに泣きそうになるが、ひとまず激戦地を逃れることができた…そのまま彼女はさっさとその場を脱出するのであった。

 

 

「忌々しいテロリスト共が…! これ以上、貴様らの好きにはさせん……祖国の名に懸けて、貴様らを抹殺してやる!」

 

 度重なる戦闘でフェリックスのアーマーは損傷し、ところどころE.L.I.Dに感染し異形化した肉体を露出させている。

 おびただしい血を流し、受けたダメージによりその巨体は安定感を失いかけている。

 だが、ダメージを負いにアーマーが破壊されていく過程で彼にかけられているタガが外れていき、戦闘能力は高まっていく。

 戦場に雨が降り始めた時、雨粒はフェリックスのアーマーの表面で沸騰し一瞬で蒸気と化す。

 アーマーの排熱機器が破損し、動力が生み出す膨大な熱が内部へと溜まりそれもまた彼の肉体に負荷を与えるとともに、その苦痛によって彼の闘争心を激烈なものへと変えていく。

 

 武器を破壊されたフェリックスは己の体躯を武器に突進する。

 すかさずスネークはアサルトライフルの引き金を引いて迎え撃つが、強化されたフェリックスの肉体は小口径の弾ではびくともせず、勢いは止まらない。

 ならばと、銃身下に装着されたグレネードランチャーに弾を込め、突進するフェリックスに向けて射出する。

 グレネードは彼の剥がれたアーマーの箇所に直撃し、受けた衝撃により足を止める。

 

 よろめくフェリックスへ、すかさずフランクが追撃を仕掛ける。

 ステルス迷彩で姿を隠していたフランクは頭上から襲撃し、攻撃に気付きフェリックスが上を見上げた時には、フランクの高周波ブレードの切っ先がヘルメットを貫き眼孔を刺し貫いていた。

 

 おぞましい獣のような叫び声が戦場に響き渡る。

 

 フランクは突き刺したブレードをねじり、さらに傷口を広げる。

 

 

「フランク!」

 

 スネークの声に、フランク・イェーガーはブレードを引き抜きその場か跳躍し離れる。 

 次の瞬間、放たれた弾頭がフェリックスに直撃し大きな爆発を起こす。

 

 爆炎が晴れた時、フェリックスは腕と胴体部分を吹き飛ばされた状態で立ち上がっていたが、数歩よろめいた末に、ついにその巨体が崩れ落ちる。

 しかし、倒れた彼はいまだ生命活動を止めず、残った腕を支えに再び立ち上がろうとしている。

 

 

「バビロン川のほとりに腰掛け…シオンを思い我々は泣いた……主よ、覚えておられますか? エルサレムの日にエドムの子らが…破壊せよ、破壊せよ、その基までも…と言ったことを…。バビロンの娘よ…破壊者よ。幸せたるは…お前の我らへの仕打ちに報いる者…! 幸せたるは、お前の嬰児を捕え、岩に打ちつける者なり!」

 

 フェリックスは立ち上がる。

 既に身体の損傷は限界を超え、制御を失い理性も失いかけつつある。

 それは祖国への忠誠心からか、それとも敵への報復心からか…どちらにしろ常人には想像もできないような激情が彼の肉体を突き動かしている。

 

「凄まじい執念だな。何がお前をそこまでさせる」

 

「黙れ、傭兵風情が…! 国を棄てた貴様らにわたしの祖国への忠誠心はわかるまい。わたしは異民族を、そしてそれに組するありとあらゆる者に容赦しない…祖国へ、勝利を捧げるのだ…遥かなる勝利を! それが…奴らに殺された、愛する家族への手向けとなる…」

 

「ふん、大層な理由だ。厄介な強敵だったが、そろそろ死んでもらおうか」

 

「待てフランク…こいつと話しをしたい」

 

 とどめを刺そうとブレードを抜いたフランク・イェーガーを制し、スネークは瀕死のフェリックスへと向き直る。

 

 

「お前、家族を殺されたと言っていたな。お前には、イリーナという妹とスオミという名の人形がいたんじゃないか?」

 

「貴様…何故それを知っている…?」

 

「その二人に会ったからな。お前がどういう認識でいるのか分からないが、二人とも元気に生きている」

 

「妹と…スオミが、生きているだと…? バカな、あり得ない…わたしの妹は、家族は…異民族の暴徒に殺されたはずだ」

 

「いや、生きている。彼女も、あんたのことを兄だと言っていた…彼女は今、パルチザンにいる」

 

「パルチザン…イリーナが……」

 

 

 先ほどまで殺気立っていたフェリックスから覇気が消えていく。

 それでもさっさと殺せと言わんばかりのフランク・イェーガーをたしなめる。

 

 

「わたしが目覚めた時、上官よりイリーナとスオミの死を伝えられた……愛すべき家族を奪った敵を殺すために、わたしは己の運命を受け入れた……」

 

「お前、嘘の話しを刷り込まされたのか。お前を戦闘兵器として扱うために」

 

「イリーナは昔から頭の良い子だった…スオミ、あの子も優しいがいつもイリーナを守ってくれていた…そうか、生きているのか……いや、あり得ない…死んだんだよ、二人は死んだのだ…二人は…ぐおっ!」

 

 突然、フェリックスは膝をつき、頭を抱え苦しみに悶え始める。

 何度も頭を地面に打ちつけ、獣のような咆哮をあげ始めた…その時、戦場にサイレンの音が鳴り響くとそれまで戦闘していたチェルノボーグたちが戦いを止めて撤退をしていく。

 

「なんだ?」

 

「連邦軍め、ここを処理するらしい」

 

「何故わかるんだ?」

 

「詳しいことは後だ。部隊を撤退させろビッグボス」

 

 腑に落ちないところだが、フランクの忠告を素直に聞きいれ、スネークは戦場の全部隊に撤退命令を出した。

 MSFの撤退に404小隊もさりげなく混ざり、部隊を引き上げさせていると、先ほどまで戦闘を行っていた戦場に砲弾が着弾する。

 だが砲弾は爆発を起こさず、赤黒いガスのようなものを周囲にまき散らす。

 

 

「毒ガス弾だ、金属をも腐食させるほどの猛毒だ。あれを浴びたらオレといえどひとたまりもない、人形ですらな。もっとも、E.L.I.Dに犯されたあの強化兵は死なんだろうがな」

 

「フランク、何故毒ガス攻撃のことを知っていたんだ? それにお前はこの世界で何をしていたんだ?」

 

 安全圏に退避したスネークは立ち止まり、戦闘中には聞くことのできなかった疑問を投げかける。

 

 彼と、フランク・イェーガーとスネークが初めて出会ったのはモザンビークでの紛争地帯、当時少年兵だった彼を救いだしたのだ。

 それからサンヒエロニモ半島にて、強化兵の実験体として使われていた彼と遭遇し再び彼を救いだした過去がある…その後MSFを創設してからというもの、彼と会ってはいない。

 バイザーを開き見せた彼の顔はスネークが予想しているよりも年齢を重ねているようにも見える。

 

 

「オレは、戦場である男との戦いに負け、生死の境をさまよっていた。気付いた時、オレはある女に救われ命を取り留めた…今は、その女の指揮下にいる。彼女の名は、ウロボロス…もう一人の、蛇のコードネームを持つ者だ」

 

ウロボロス(尾を飲み込む蛇)…何者だ?」

 

「じきに分かることだ。ビッグボス、ここに来たのはあなたへの恩を返すためだった。あなたへの恩をこれで返せたと思えないが……いずれまた戦場で会うことになるだろう」

 

「どういうことだフランク、おい!」

 

 スネークの呼び止めに応じず、フランク・イェーガーはステルス迷彩を起動させ姿をくらました。

 彼を追って森の中に足を踏み入れたが、姿と気配を完全に消し去った彼をスネークは見失う。

 

 

 

「次に会う時はお互い敵同士だ。あなたの伝説をもう一度見させてもらうぞ!」

 

 

 森の中に、彼の声が響き渡り、樹上を駆けていく足音が遠ざかっていった…。




フランク・イェーガー(グレイ・フォックス)さん、どうやら誰か別な蛇と地雷原で殴り合った後みたいですねぇ…。


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勝利の代償

 広域破壊兵器ウラヌスはMSFの活躍によって破壊され、基地周辺にいた連邦軍も撤退。

 パルチザン側から依頼された任務は全うすることができたが、精強な連邦正規軍と激しく衝突したMSFもまた無視できない被害を被ることとなった。

 多くの死傷者の他、連邦軍が最後の悪あがきとして撃ちこんだ毒ガス攻撃によっていくつかの物資及び兵器を戦場に置き去りにするはめになったのだ。

 最悪なことに、連邦軍が放った毒ガスは金属をも腐食させるほどの猛毒であり、その場所に残留し今後数年は立ち入ることができない極度の汚染地帯へと変えた。

 

 防毒スーツをも透過する化学兵器、生態系に与える影響も大きいだろう。

 戦場になってしまったとはいえ、付近には緑豊かな自然が広がる場所であった…それが、一瞬で死の大地へと変わったのだ。

 

 

「気にすんなよ、戦争なんだ」

 

 

 このバルカン半島へ足を踏み入れ、この地に残る美しい自然を気に入っていた9A91は仕方がなかったとはいえ、自然界の汚染に関与してしまったことに心を痛める。

 仕方がなかった…どうしようもないことだったことは彼女自身も理解しているが、心優しい9A91は、そこに暮らしていたたくさんの生き物の命が失われたことへ鈍感になることはできなかった。

 

「あそこは枯れちまったが、他にも自然はあるさ。それにいつまでも汚染されてるわけじゃねえし、放射能汚染よりマシだって」

 

 そんな彼女を、エグゼは励まそうと声をかけていた。

 傷心の9A91にかける言葉にしてはもっと言葉を選んだ方がいいのは事実なのだが、不器用ながらも仲間を元気づけようとしていることは9A91の心にしっかりと届いている。

 ただ今の9A91には時間が必要だ。

 そのことはエグゼも理解し、うつむく彼女の頭を抱きそっと撫でるのであった。

 

「悪いな、スネークみたいにマシな言葉を言ってやれなくてよ」

 

「いえ、いいんです。ありがとう、エグゼ」

 

 そっと体重を預けてくる彼女をしっかりと受け止め、その小柄な身体を優しく包み込む。

 

 

 戦場から帰還したMSFの部隊は駐屯地へと戻り、負傷者の手当てと部隊の補給とであわただしい。

 特に救護兵として従事するようになったスプリングフィールドは負傷兵の手当てで駆けまわっており、制服が血で汚れてしまうのもいとわずがむしゃらに看護にあたっている。

 肉体的な外傷だけではない、帰還した兵士の中にはPTSDの障害が見られるものも少なくなかった。

 

 核兵器が当たり前のように使用される。

 

 MSFの精鋭が非常識と思うような戦闘が、この世界の常識として起こっている。

 かつて核の脅威から世界を守るべく、ビッグボスとともに戦ったことのある彼らだが、なんの躊躇もなく使用された戦術核兵器に大きなショックを受けていた。

 

 そんなこともあってか、兵士たちのストレスを緩和させる狙いもあり酒やたばこなどのちょっとした嗜好品を多めに支給された。

 

 

「エグゼ、あなたも飲む?」

 

 いつもより元気さに陰りがあるスコーピオンが持ってきた酒瓶を、エグゼは無言で受け取る。

 廃屋から回収した質の悪い酒だ、飲み口は決して良くはないが、喉を通るときの焼け付く様な感覚と高いアルコール度数が幾分か気持ちを和らげる。

 エグゼは戦場での出来事に精神を動じさせてはいなかったが、仲間たちが傷つき疲労している姿を見せつけられたことには動揺していた。

 

「自分がいくら傷付こうがなんとも思わねえが…仲間が傷つく姿を見るのは、何回経験しても慣れないもんだな」

 

 自嘲気味につぶやき、エグゼは失くした腕…義手をぼんやりと眺める。

 うずきはじめる幻肢痛と同時に頭に思い浮かぶのは、あの日の出来事。

 親友のハンターが目の前で殺される瞬間、腕と足を無くした自分を冷たく見下ろすM4の顔…。

 思いだす度に哀しみと怒り、屈辱と報復心が高まっていく。

 

 それを察し、スコーピオンは無言でエグゼの肩を抱きその背をさする。

 

「これじゃ、傷を舐め合うハイエナだな…」

 

「いいんだよ、それで。人間も人形も、一人じゃ生きていけないんだから…一匹オオカミは哀しいだけなんだ」

 

「戦友ってのはいいもんだな。ハンターの次くらいに、お前好きだよ」

 

「そこは一番って言って欲しかったなぁ」

 

 笑いあい、瓶をこつんとぶつけあい酒を喉に流し込む。

 相変わらずの強さに二人は表情をしかめ、もう一度笑いあう…ふと、エグゼは何かを見つけると固い表情を浮かべる。

 

 

「やあ初めまして、スコーピオンに処刑人さん」

 

 やって来たのは、先の戦場で救援として駆けつけてくれた404小隊のメンバーだ。

 微笑を浮かべつつもどこか探るような様子のUMP45、反対に愛嬌のある笑顔を浮かべるUMP9、二人とは対照的に明確な敵意の眼差しをエグゼにむけるHK416、それからもう一人は立ったまま寝ているGrG11だ。

 

「さっきはよくもやってくれたわね」

 

「酒が不味くなるからとっとと失せろ。お前見てると嫌な奴の面が浮かぶんだよ」

 

「あら、それってAR小隊のことかしら?」

 

「あぁ? なんだテメェ?」

 

 UMP45の言葉に、額に青筋を浮かべ立ち上がる。

 416の方も、戦場での借りがあるために敵意のこもった眼差しを向け、一触即発の危険な雰囲気が漂う。

 

「落ち着きなよエグゼ。ここは戦場じゃないんだから、ね?」

 

「スコーピオンの言う通りね。416もそんな目で彼女を見るのは止めなさい、わたしたちはMSFに戦いを挑みに来たわけじゃないんだからさ」

 

「そうそう! せっかく一緒に戦った仲だからね! 戦勝祝いに乾杯だー!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべるUMP9が酒瓶を掲げる。

 こんな戦術人形いたかなと、疑問を抱きつつもスコーピオンは404小隊と酒を酌み交わす。

 隊長の言葉に416もエグゼを睨むのを止めてコップに注いだ酒に手を伸ばす。

 

 そんな時、エグゼは目の前のテーブルに義足の方の足を叩きつけるように乗せる。

 それから無表情で酒瓶を404小隊に掲げ、義手と義足に酒を浴びせた。

 

 

「オレの腕と足に乾杯、気が済んだか? 何のためにやって来たか知らないが、お前みたいな腹の底になんか隠してるような奴と酒が飲めるかよ。何の用なんだよ、はっきり言えよ」

 

「エグゼ! もう、ごめんね…こいつちょっと失礼な奴で」

 

「いいのよスコーピオン。こっちもからかい過ぎたわね、素直に考えを話すわ」

 

 そう言うと、UMP45は端末をテーブルの上に置いた。

 端末から雑音のようなものが流れ、やがて誰かの話し声が流される…。

 

"――――連邦の最終兵器は予想通りの状態だ。連邦軍はソレの制御を失って久しいが、まだソレを制御下にあると世界に吹聴している。愚かな事だ、奴らの虚栄心がこの危機を生んだのだよ。いずれパルチザンがそこに現われる、お前たちには期待しているぞ。共に狩人(・・)の名を持つ者同士力を合わせてな"

 

"任せろ、オレの力を存分に使うといい。お前はどうだ、やれるか?"

 

"無論。私に足らない技は全てお前に教えてもらった。本物のハンターは、息をひそめて待つもの…と思っていたが、戦術の使い分けは重要だな"

 

"その通りだ。固定概念にとらわれるな、必要なあらゆる手段を熟考しろ。型にはまれば罠にはまる…ククク、未熟な狩猟者が狐の手によって真のハンターへ開花した。その力、このウロボロスのために存分に振るってもらうぞ"

 

 

 そこで、UMP45は端末を操作し録音音声を停止させる。

 しばらくの沈黙の後、エグゼは深い深呼吸を繰り返し真っ直ぐにUMP45を見つめる。

 

「いつ、どこでこれを録音した」

 

「つい最近、とだけね。一人はウロボロスという名の女、一人は戦場でなぜか助けてくれたフランク・イェーガー、もう一人は…」

 

「ハンターだ…聞き間違えるはずがねえ。ハンターが生きている…いや、新しく生まれ変わったのかもしれないが…でも何かおかしいな」

 

「意外に冷静でいてくれて良かったわ。わたしたちはある任務でウロボロスという鉄血の人形を追っている、わたしがMSFに接触したのは協力を得るため。いつもは自分たちの小隊だけで任務を遂行するのだけど、事情が変わったの。ウロボロスは連邦が隠す最終兵器を狙ってる、それが何なのかは分からないけどね…でもここまでやって来るからにはろくでもないことを企んでいるのは確かだから」

 

「それで、ハンターの生存をオレに知らせたってわけか…」

 

「信用を得るためにね。わたしたちは敵じゃない、戦場でそれを証明したはずよ。信用を得るための材料はこれで全部。どう、わたしたちと手を組まない?」

 

 そう言いながら、UMP45は手を差しだしてきた。

 しかしエグゼは握手には応じず、テーブルから身を乗り出し彼女の胸倉を掴み引き寄せる。

 咄嗟に銃を構える416をUMP45は制す。

 

「何が信用を得るためだ。MSFはオレの大切な家族、ハンターはオレの親友、舐めるのも大概にしろ!」

 

「フフ、えらく感情的になったわね。それで、手を組んでくれる?」

 

「お前と手を組むなんてお断りだ。だがな、オレは親友を助けに行くし親友を利用するクズは許さねえ! オレは一人でも行くさ、だがMSFの力を借りたいならスネークに言いな」

 

 ようやくエグゼの手が離されたところで、UMP45は掴まれて乱れた服装を直す。

 再度エグゼを見て見れば、腕を組みなにやら唸っている…もしや機嫌を損ねたかなと危機感を抱くが…。

 

 

「あんまり言いたくねえけどよ、本当に言いたくねえけどさ…ハンターのこと教えてくれて、サンキューな…」

 

「……フフ、どういたしまして。お互い利用し合いましょう」

 

「チッ、今思い出した。お前ら鉄血で噂になってた404小隊だな? 面倒な奴らに絡まれたもんだぜ」

 

 心底嫌そうな表情で、再度差し出された握手に応じる。

 それから他のメンバーとも一応握手を交わしていくが、416だけ拒絶され、それが原因でまた険悪なムードになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――酷くやられたな、スネーク」

 

「それはお互い様だろう。サラエボは解放したようだな、見事な勝利だ」

 

 

 駐屯地を訪れたパルチザンのリーダーをテントで出迎え、互いの健闘をたたえ合う。

 スネークらMSFが連邦軍のウラヌスを攻略している間にすすめられたパルチザンによるサラエボ解放作戦は、激闘の末見事勝利したのだ。

 その勝利によってサラエボ内の反政府勢力と合流を果たし、パルチザンの戦力増強にもつながり、革命への大きな一歩となる。

 

 代償に、パルチザンもまた大きな損害を受け、前線で部隊を鼓舞していたイリーナ自身も大怪我をしたようだ。

 それでも松葉杖をてにこうしてはるばるやってくるのだから、指導者というのはタフなものだ。

 

「スオミにこっぴどく叱られてしまったよ。指揮官のくせに前線に飛び出すなとな」

 

「あんたが心配なんだろう。だが統率者が前線にいるだけで、部隊が鼓舞されることもある。勝利の一因には、君が仲間と共に戦っていたこともあるだろう」

 

「あんたがそう言うと説得力があるよ。スネーク、MSFにはずいぶん助けられたよ…わたしの兄は、強かったか?」

 

「ああ、かなりな。イリーナ、彼と話しをした。彼はお前とスオミが異民族に殺されたと思っていたようだ、それで…」

 

「知ってるよ。だがわたしの兄は、E.L.I.Dに感染したあの時に死んだのだ。兄は連邦政府を離れて生きることはできない、制御と薬が無くなれば理性の無い感染者へとなる。 自分の意思も思想も自由も束縛され、ただ都合の良い兵器として戦場に投入される…それが、生きているといえるか?せめてその呪いから解放してやるのが、わたしの願いなのだよ」

 

 その表情に少し哀愁を浮かべ、そっと首にかけられた十字架のネックレスを撫でる。

 

「兄は、スオミも妹のように可愛がっていた。あの子は今でも、兄を大切な指揮官として慕っている…実を言うとな、あの子が話せなくなったのは故障のせいじゃない。兄が感染し、死を伝えられたときスオミは…大きなショックから言葉を話すことができなくなってしまった」

 

 その後、イリーナが傷ついたスオミを何度も元気づけて長い月日を経た末に、昔のような笑顔を浮かべてくれるようにはなったのだが、声だけが戻ることがなかったという。

 今でもスオミは大好きだった指揮官が戻って来てくれることを信じているという。

 それを聞き、スネークはかつての9A91を思い浮かべる。

 彼女もまた、かつて目の前で大切な指揮官を失い不安定な精神状態に苦しめられていた時期があった。

 

「それから間もなく、兄が無理矢理生かされ、強化兵の実験体になっていることを知った。それまでにも連邦の腐敗や問題を見ていたわたしは、政府を去り革命を志した。スネーク、わたしはもう一つあんたに話さなければならないことがある。連邦軍が持つ、最終兵器の事についてだ」

 

「ああ、オセロットも言っていた。あいつは、お前がそのカギを握っていると言っていた」

 

「そうか、あんたの諜報員は優秀だな。ボスニア、クロアチア、セルビアの境界線が重なる地域…いかなる勢力にも属さない、ノーマンズランドと言われる地域でな、そこに大きな空軍基地がある。わたしはかつてそこである実験をしていてな、連邦軍の最終兵器のプログラムを任されていた。連邦を離れるにあたり、そこの防衛システムを起動させ、プログラムを改ざんしてやった」

 

「そこに連邦の最終兵器があるのか?」

 

「いや、そこにはない、制御だけだ。だが他にも隠された兵器は存在する。連邦軍のチェルノボーグには遭遇したか? 基地の地下には、起動を待つ何千何万という軍用人形の他、無人戦闘機などが格納されている。それらを制御するプログラムが、ここにある」

 

 そう言って、イリーナは自分の頭を突いて見せる。

 つまり、多数の兵器が隠されている基地の制御プログラムはイリーナの頭の中に知識として叩きこまれており、彼女を殺せば基地を制御下に置くことはできないということらしい。

 

「なるほどな、君を殺せば最終兵器を手にすることができなくなるということか。それで、最終兵器のありかはどこにあるんだ? それ自体は連邦が持っているのか?」

 

「いや、連邦の手にもない、さらに言うならこの国にも存在しない」

 

 

 イリーナは人差し指を上に向ける。

 つられて指で指し示す先を見る…天井、ではなく…空ということか。

 

 

 

「その兵器の名はアルキメデス、またの名を"神の杖"。衛星軌道上を周回する軍事衛星より、タングステン鋼芯弾を地上に撃ちこむ唯一無二の戦略兵器だ」




神の杖、詳細はググってください。

次話より戦闘戦闘&戦闘が続きます…かね。


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地獄の門

 サラエボ解放後、パルチザンは目標をセルビア、ボスニア、クロアチアの境界線付近に存在する空軍基地に据える。

 衛星軌道上を周回する兵器アルキメデスの制御システム、そして多数の無人兵器と戦術人形を格納する空軍基地の確保はこの内戦を終結させるだけの圧倒的な力を眠らせている。

 サラエボが解放され、ボスニア内の連邦打倒を掲げる反政府勢力と合流を果たした今、それまで足を踏み入れることすら敵わなかった領域への道が開けたのだ。

 

 それと同時に明るみになったのが、決して分かり合うことのできない民族事問題。

 ボスニア=ヘルツェゴビナは、連邦構成国の一つであるが、連邦という他民族国家の縮図でもある。

 隣人が異民族であることはなにもおかしくはなく、一つの小さな町に三つの異なる教会やモスクもあることだってあった。

 

 内戦が始まった時、平和に見えるのどかな村の住人でさえ、無意識に銃を手にした。

 この地の負の歴史を知らない者は連邦の国民には一人もいない。

 かつて民族同士で戦いあったという歴史は、学校でも教えられる…より大きくなれば詳しく教えられ、哀しい出来事があった、今は悲劇を乗り越え一つにまとまったという美談におさまるのだ。

 だが、民族の根底に植え付けられた憎悪は美談などでは誤魔化すことはできない。

 憎しみは親から子へ、そしてその子孫へと受け継がれる。

 

 

 クロアチア独立国。

 かつて存在したナチスドイツの後押しを受けた傀儡国家がある。

 ウスタシャという名の過激な団体を擁し、武装親衛隊をも戦慄させるほどの苛烈な虐殺でユーゴの大地を異民族の血で染め上げた。

 戦後パルチザンを率いていたヨシップ・ブロズ・チトーがユーゴを一つにまとめたが、終生にわたりバルカン半島を一つにまとめることに手を焼かされていた。

 自己の政権運営の批判は甘んじて受けても、過激な民族主義者には容赦はしない。

 過去の歴史を詮索する事も許さない。

 チトーは悲劇の歴史を封印し、それを解こうとする民族主義者を力で抑え込むことで一時の平穏を築き上げたのだ。

 

 

 だが、かつてこの国を統治したカリスマはいない。

 諸民族の不満を抑え切る余力を無くしたユーゴの地では、歴史の暗部から甦ったウスタシャの怨念がこの地に虐殺の嵐を振りまいている。

 

 

「なんて惨いことを…」

 

 

 目の前の惨状を、スプリングフィールドは口元を覆い呆然と見つめている。

 

 絞首台で首を吊られたままの死体は風に揺られて不規則に動き、裸にされた老若男女の死体には死肉を漁るカラスの群れがいる。

 黒焦げになった死体がまばらに倒れている…いずれもその命が尽きるその時まで苦しみもがいたような姿勢で。

 ふと、覗きこんだ穴の前でスプリングフィールドはこらえきれず小屋の陰に駆け込んでいった…。

 

 スプリングフィールドが逃げ出した穴には、頭を撃ち抜かれたたくさんの死体が山積みとなっていたのだ。

 

 

「大丈夫かスプリングフィールド」

 

 気を遣い声をかけてくれたスネークに、彼女は無言のままであった。

 

「どうして、こんなことを…同じ人間なのに」

 

 この村を襲った惨劇は優しい心の持ち主であるスプリングフィールドに大きなショックを与えてしまった。

 ここで殺された者に、武器をとって戦った者は一人もいない。

 無垢な少年少女であろうとも神の情けはかけられない、すべて平等に、いや全て生かす価値の無い異民族として等しく虐殺されている。

 この村で飼っていた家畜や犬でさえも、異民族の育てたものとして残らず殺されている…村には、死臭だけが漂う。

 

 

「スネーク、生存者は無しだよ。この村も同じ…金品も全部無くなってる。虐殺に加えて略奪なんてね、地獄そのものだね」

 

「そうか。他の場所でも同じことが起こったらしい…連中の仕業だ」

 

 焼けた家屋の外壁には、黒のスプレーで大きく"U"の文字と共に"Srbe na vrbe(セルビア人を首吊りにしろ)"という文章が書かれている。

 Uが意味することは、連邦の過激派団体ウスタシャの頭文字をとったものでありこの一連の虐殺が彼らによってなされたというものだ。

 それも隠そうともせず、組織として異民族を虐殺したことを見せつけるかのように…。

 

「ウスタシャに反する者は、例え同胞のクロアチア人といえどもあいつらは容赦しない。異論を唱えようものなら国民としての資格を剥奪され、異民族と同等に扱われるのさ」

 

 遺体の処理を淡々と指示しつつ、イリーナがそう呟いて見せる。

 

「スコーピオン、ウスタシャの処刑部隊が処刑を行う前にすることが分かるか?」

 

「え? 裁判して罪状を言い渡す…のかな?」

 

「ある意味正解だな。ウスタシャは処刑部隊に教会の牧師を同行させるんだ。異教徒を宗教裁判にかけ、処刑は神の望みだと宣言し、処刑部隊の罪の意識を軽減させる。"皆殺しにしろ、神もお喜びになる"そう高らかに言ってな…イかれてるだろう?」

 

「そんなの想像もできないよ…イリーナは、こんなのを見て哀しくならないの? あたしは哀しいよ…」

 

 その目にうっすらと涙を滲ませながらスコーピオンは歯を食いしばる。

 イリーナの手がそっと彼女の頭を撫でる。

 銃を握り、荒岩を掴み這い続けてきた彼女の手は固く冷たい。

 

「嘆きの声、絶望の叫びが聞こえない場所はこの国のどこにも存在しない。私は年端もいかない子供の死体を見ても、もう何も感じなくなった。戦いは…私の人生から涙を奪った」

 

 その表情からは、哀愁も怒りも感じられない。

 この虐殺を見ても彼女は眉ひとつ動かさず、極めて冷静な指示を部下たちに送っている。

 

「隣人が隣人を自宅で切り刻み、同僚が同僚を職場で撃ち殺す。医師が患者を殺し、教師が生徒を殺す。そんな光景を見続けて見ろ、心は荒んでいく。大層な思想を掲げていても、心のどこかには復讐心が存在する。殺し続け報復し続け、気がついた時には自分も同じようになる……地獄の中の魑魅魍魎の一人になっていた」

 

「違うよ、アンタはスオミを大切に思う優しい人だ。故郷を想って行動している」

 

「奴らにだって愛すべき家族はいるだろう、立場は違うが奴らも奴らの祖国を想っている。だが奴らは容赦をしなかった、ならばわたしも容赦はしない。奴らがこの地獄の門を開いた。奴らの命も祈りも、血の海に沈めてやるつもりだ。この世で奴らを苦しませたい、恐怖と苦痛の中で殺してやりたい。だがな……自分の気持ちに正直になるわけにはいかない、スオミのためにも」

 

「あんたにはスオミが必要なんだね、スオミがあんたを必要としているように」

 

「お互い依存し合ってるわけだ。こんなところにいたら、遅かれ早かれ心は荒む。雇っておいてなんだが、壊れたくなかったら早く立ち去るようにすることだ」

 

 小さく笑っていても、作られたその表情には本当の意味での笑顔はなかった。

 

 哀しいことだが、この村にいつまでもいるわけにはいかない。

 パルチザンとMSFはこの先の戦略上重要な拠点となる町へ向かい、連邦軍を排除し空軍基地までの道を確保しなければならない。

 既に作戦は決行されている、陽動作戦と破壊工作が各地で仕掛けられているのだ。

 

 立ち去るイリーナと入れ替わりに、エグゼがやってくる。

 遺体の処理に手を貸すイリーナを眺めつつエグゼは肘をスコーピオンの肩にのせようとするが、ひらりと身を躱されてしまう。

 ちょっかいをかけるエグゼに、普段のようにやり返さず鬱陶しそうにあしらう…元気いっぱいのスコーピオンも、この時ばかりはふざけていられるような気持ではなかった。

 スコーピオンのつれない態度にエグゼは溜息をこぼし、仕方なくちょっかいをかけるのを止める。

 

 

「珍しく落ち込んでるのか?」

 

「落ち込んでない」

 

「そういうの、落ち込んでるって言うんだぜ」

 

「うるさいなもう! あたしだってたまには落ち込むんだよ! 気が済んだか?」

 

「まあまあ落ち着けわが友よ」

 

 怒るスコーピオンを笑いながらなだめ、ふとエグゼは鋭い目でスコーピオンを見据える。

 いきなり変わったエグゼの雰囲気に、息を飲む。

 スコーピオン、MSFの兵士たち、404小隊、そしてスネークをエグゼは見つめて言った。

 

「誰だってこんなところにはいたくない。だけどな、オレたちのような兵士の仕事はここにある」

 

「分かってる。すこし気を落としただけ…次の戦場までには、気持ちの整理をつけておくよ」

 

「オレもお前も、他の人形みたいにやり直しはきかないんだ。間違ってもくたばるなよ」

 

「もちろん、あたしはまだ死ぬ予定はないよ」

 

「その意気だ。よし、オレたちは先遣部隊だ。相手は精鋭連邦空挺軍、相手にとって不足はねえ。準備しろよスコーピオン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、MSFの部隊は共和国間の国境近くの市街地にあった。

 既に町は戦場と化し、パルチザンとMSFの連合軍、そして連邦軍との間で激しい戦闘が繰り広げられている。

 砲撃と爆撃で廃墟と化した街には両陣営の兵士が入り込み、瓦礫が多くの遮蔽物をつくりだすことで両陣営とも至近距離での銃撃戦や白兵戦が繰り広げられる。

 

 通りを挟んだアパート、小さな路地裏、町の下水道…あらゆる場所が戦場となる。

 建物の部屋を奪い合うような熾烈な市街戦に、連邦軍とパルチザンは次々と戦力を送り込む。

 この町を突破すればアルキメデスの制御システムを隠した空軍基地まですぐそこだ。

 祖国解放と勝利のためになんとしてでもパルチザンは町を制圧しなければならない、一方の連邦軍もここを突破されることは大きな痛手となるため戦力を出し惜しみすることなく部隊を派遣する。

 

 

「―――ちくしょう、いい位置に機関銃をとりつけやがって」

 

 建物の陰に身をひそめつつ、通りの向こうにあるアパートに据え付けられた機関銃をキッドは忌々しく睨む。

 アパートの上階の窓に取りつけられた機関銃の他、キッドからは見えない位置にもう一丁機関銃陣地があり通りから進むパルチザンの進軍を阻んでいる。

 連携した十字砲火により強行突破も敵わず、機関銃の弾幕の餌食になった兵士の死体が通りに積み重なる。

 

「月光の部隊はまだ来ないの!?」

 

「どっかで足止めをくらってるらしい! ここはオレたちで突破するしかない!」

 

「キッド、あたしに任せて! あいつらの懐に潜り込む!」

 

「よし、任せたぞスコーピオン。援護射撃は任せろ」

 

 小柄で小回りの利くスコーピオンが飛び出し、遮蔽物を飛び越えながら通りを駆け抜けていく。

 仲間たちの援護射撃に支援され、一階部分の窓ガラスを突き破り内部に転がり込む…割れたガラスで肌にけがを負うが、些細な傷だと構いもせずにスコーピオンは階段を一気に駆け上がっていく。

 機関銃陣地の踊り場で連邦軍兵士と遭遇したが、日頃CQCの訓練を受け続けた彼女は走っていた勢いのままにジャンプし、強烈な頭突きをお見舞いする。

 

 その一撃に怯む敵兵であったが、すぐに持ち直し、スコーピオンを押し倒す。

 スコーピオンは咄嗟に相手の手に噛みついて蹴り離す…。

 

「うああぁぁぁ!」

 

 敵の銃口が跳ね上がる前に、スコーピオンは引き金を引く。

 撃たれた相手は壁に叩き付けられ、背後の壁に血しぶきをはり付かせて崩れ落ちる。

 呼吸を乱しながらスコーピオンは死んだ兵士を見下ろし、機関銃陣地を潰す役目を思いだし再び階段を駆け上がっていく。

 機関銃の激しい射撃音が鳴り響く部屋の前にたどり着いたスコーピオンは手榴弾を一つ掴み、中の様子を伺う。

 

 敵兵は見える範囲で4人。

 機関銃手と弾薬を送り込む兵士が二人、それから窓から狙撃を行う兵士が二人。

 一度深呼吸をし、意を決したスコーピオンは手榴弾の安全ピンを引き抜き部屋の中へと放り込む…数秒後大きな爆発が起こり、機関銃は沈黙する。

 

「キッド、やったよ!」

 

『お見事、もう一つの機関銃陣地が見えるか?』

 

 破壊した機関銃陣地の隣の部屋に入り込み、窓からそっと外を伺う。

 

 もう一つの厄介な機関銃陣地は斜め向かいの建物の二階にある。

 

「見えたよキッド。敵は見える限りでは3人だよ。その後方に迫撃砲が一つ、そこにもう一つ機関銃があるよ!」

 

『マジかよ。迂回路はありそうか?』

 

「えっと…そっちから路地裏に行けないかな!? ちょうど奴らの背後にまわり込めるかも」

 

 アパートから通りを観察し、先ほどいた位置からなら迂回できることを確認し、より良い侵入路をキッドに示す。

 ふと、遠くの屋上できらりと何かが光ったのが見えた。

 恐ろしい予感に咄嗟に伏せようとしたところで、窓のガラスがぶち破られ酷い衝撃がスコーピオンの頭を揺らす。

 

『おい、どうしたスコーピオン! スコーピオン! 大丈夫か!?』

 

 強い衝撃と激痛とで、倒れたスコーピオンは頭をおさえたまま立ち上がることができなかった。

 弾丸がそれたために運よく彼女の命を瞬時に奪うことは無かったが、それでも重傷に変わりは無い。

 キッドの必死の呼びかけになんとか応じようとするも声が思うように出ず、衝撃で視界が揺れている。

 

『不味い、敵が建物に入ったぞ! 逃げるんだスコーピオン!』

 

 キッドの声を聞き、スコーピオンは壁を支えになんとか立ち上がり部屋を脱出する。

 ふと、空を切るような音が鳴ったかと思えば建物が揺れて爆発音が鳴り響く。

 迫撃砲の砲撃だ…いよいよマズい事態に身体を必死で動かそうとするが力が入らない…そのうち敵が階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。

 

「死ぬか、死ぬか…誰が死ぬもんか!」

 

 階段を駆け上がり飛び出してきた敵を撃ち殺す。 

 目の前の仲間を殺された兵士はすぐに物陰に身を隠して撃ち返す。

 相手は一人のようだが、狙撃のダメージが残るスコーピオンは不利を悟り少しずつ後退していく。

 仲間を殺された復讐心に燃える敵兵はリロードの隙を狙い陰から飛び出し、銃を乱射する…一発がスコーピオンの肩に命中した。

 激痛に悲鳴をあげそうになるのをこらえ、射撃から逃れるべく部屋に逃げ込む。

 

 部屋のベッドを起こし、その陰に身を潜めるとコロンと何かが放り込まれる音がなり、次の瞬間部屋の内部で爆発が起こる。

 幸いにもベッドを盾にしていたことで爆発から身を守ることはできた。

 死体の確認に入ってきた敵兵の背後に飛びかかりその首を絞めつけるが、ダメージで弱ったスコーピオンを敵兵は投げ飛ばし、逆にその首を絞めつける。

 

 首を絞める圧迫感に呼吸もままならないどころか、その脊髄をもへし折ろうと力が込められる。

 大柄な兵士に抑え込まれ反撃も敵わず、足をばたつかせる……徐々に薄れゆく意識の中で手のひらに何かを掴むのを感じ、咄嗟にソレを敵兵の目に突き刺した。

 

 ガラス片を目に突き刺された敵兵は悲鳴をあげてスコーピオンの首から手を離す。

 絞殺を逃れたスコーピオンは激しくせき込み、ナイフを手に取る。

 スコーピオンの思わぬ反撃に怒り狂い襲い掛かって来た敵兵を避け、その背にナイフを突き立てる…そのまま押し倒し、その背に何度もナイフを振り下ろす。

 返り血で全身を真っ赤に染め、めった刺しにされこと切れた敵兵から離れ、力なく壁にもたれかかる。

 血にまみれたナイフを投げ捨て、疲れ果てたように目を閉じる。

 

 

「サソリ!? しっかりしなさい!」

 

 そこへWA2000が駆け込んできたかと思うと、ぐったりとしたスコーピオンを見て駆け寄る。

 

「酷い傷…!スプリングフィールド!」

 

「はい!」

 

 衛生兵として駆けつけたスプリングフィールドは、すぐさま負傷したスコーピオンの治療に当たる。

 肩の銃創も酷いが、頭部に受けた狙撃の傷が特にひどい…人間だったら意識を失い命にかかわるような傷であった。

 負傷した頭部に包帯を巻き痛み止めを施す、その場で出来ることを行ったうえでよりよい治療を受けられる後方へ帰還させる。 

 だが、スコーピオンはそれを拒否した。

 

「バカ、そんな傷でどうしようって言うのよ!」

 

「仲間が危ない、ここで離脱するわけにはいかないんだ…!」

 

 傍受する通信には、戦場で苦戦する声と増援を求める声がひっきりなしに飛び交う。

 傷ついた身体を無理矢理起こし、歯を食いしばり立ち上がる。

 

「あんたね! グリフィンにいた頃と違うのよ!? わたしたちはダミーもなければバックアップもない! 一度死んだら、本当に死んじゃうのよ!?」

 

「そんなこととっくの昔に分かってる! 今やらなきゃダメなんだ、戦わなきゃ…! 仲間が苦戦して死んでいくのを、後ろで黙って見てるのなんて嫌だ!」

 

「バカ!このわからずや! アホサソリ! いいわ、勝手にしなさいよ! その代わりわたしがあんたを全力で援護する、死にたくなってもわたしが死なせないんだからね!」

 

「さすがだね、ワーちゃん…ありがとう」

 

「フン。帰ったらボコボコにしてやるわ、そしたらいくらでも死んで構わないけど!」

 

「無理はしないでくださいねスコーピオン。生きて、みんなでマザーベースに帰るんですから!」

 

「死ぬつもりはないよ。ただ、ここが頑張り所なだけだ」

 

 

 二人からすればさっさと後方に退避してもらいたいのが本音だが、このスコーピオンという戦術人形は頑固で石頭で融通の利かない不器用ものだ。

 そして、誰よりも負けず嫌いであり、仲間想いだ。

 例えその身がどんなに傷付こうと、他者の痛みに鈍感にはなりきれない。

 

 どうしようもないバカだが、愛すべきバカ…それがスコーピオンだ。

 

 

 

 

 戦いはまだ始まったばかり。

 熾烈な市街戦の序章に過ぎない。




たぶんここからノンストップでボス戦まで駆け抜ける。

くたびれそうだけど、読者の皆さんの応援でいくらでも頑張れるぜ!
嘘です…ほのぼの入れるタイミング無くて死にそうです。


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一時の休戦

 太陽が沈み、辺りが暗くなる頃には日中果てしなく続いていた戦闘音がなりをひそめ、昼間のけたたましさが嘘のように町は静寂に包まれる。

 戦闘で電気も止まった町では周囲を照らす明かりもなく、敵に居場所を悟られることを恐れ火やライトを照らすこともしないため、場所によっては数メートル先も見えないほど暗さであった。

 スコーピオンらMSFの兵士たちも、戦闘を一時停止させ、制圧したアパート内に入り込み疲れ果てた身体を休ませていた…。

 

 二人も集まればわいわいと騒ぎ出す人形たちも、その時ばかりは誰も声を発さず思い思いの場所で休息する。 

 唯一の明かりである、窓から差し込む月明かりで町の地図を照らしながら、キッドとWA2000は小さな声でこれからの作戦計画を立てている。

 

「―――町の広場を制圧したいところだな。どのルートを通っても機関銃陣地は避けられない」

 

「スナイパーも多いわ。広場に通じる大通り、ここはダメよ。見晴らしがよすぎるわ、通りを渡るだけでも全滅するわ。そうなるとルートも限られるわね」

 

「町の下水道を通って迂回するか? いや、スコーピオンが負傷している今、遭遇戦は避けたいな」

 

「スネークの部隊ともエグゼの部隊とも離れて連携が取れないのは痛いところね」

 

 再度通信でスネークとエグゼに呼びかけてみるものの、電波障害からか雑音しか帰って来ない。

 戦術人形として指揮官となる人間を必要とする彼女たちは、マシンガン・キッドを現在の指揮官と無意識に認識し指示を受けている。

 夜襲を仕掛けようと9A91は提案したが、夜戦を得意とする彼女はともかくとして満足な夜戦装備も持っていないためその提案は見送られる…彼女は慣れたところで夜の見張りを行っているところだ。

 

 

 窓から外を伺っていた9A91は、ふと通りの向こう側で赤い光が数回点滅したのに気付く。

 一定の間隔で灯される赤い光をしばらく観察していた彼女は、同じように銃に取りつけられていたレーザーを一定の規則でつけたり消したりを行う。

 レーザーサイトを使った彼女のモールス信号は相手側に届き、向かいの建物から数人の人影が通りを素早く横切りこちらのアパートへと入って行った。

 しばらくすると、部屋の扉がノックされお互いに合言葉を交わす。

 それからゆっくりと部屋の扉を開ける…入ってきたのは数人のヘイブン・トルーパー、その手には物資の入った荷物を持っていた。

 

「補給です。弾薬と食糧、それから医薬品です」

 

「助かる。そっちの様子はどうだ?」

 

 キッドが持ちこまれた物資を受け取りつつそう尋ねると、彼女たちの反応はあまりおもわしくは無かった。

 町を守備するのは連邦軍でも精鋭と知られる空挺軍、そして悪名高きウスタシャの兵士たちも多数入り込んでいることも確認されている。

 部隊を率いるスネークとエグゼは最も敵の抵抗が激しいエリアに攻勢をかけているようだが、精強な空挺軍に苦戦しているようだ。

 

「近く、パルチザンの増援部隊が到着するとの情報もあります」

 

「それは連邦軍も同じだろうな」

 

 空軍基地手前の要衝ということで、連邦軍も本気だ。

 既に互いの戦力は、この街で戦闘を起こした時の倍以上にまで膨れ上がっている。

 プレイング・マンティスやピューブル・アルメマンの兵士たちも増援として駆けつけているが、相手は一国の正規軍であるため、MSFとしては数の上では劣勢になっている。

 

「ご安心を、明日にはメタルギアZEKEが戦線に投入されます」

 

「おお、そうか! あいつを動かすってことは、ボスは一気に勝負をつけるつもりだな」

 

「はい。ですが連邦軍も大規模攻勢を計画しているようです」

 

「ZEKEは強いが、無敵の存在というわけじゃないからな…ZEKEは歩兵とそのほかの兵器と共同運用をしてこそその真価を発揮する」

 

「我々も処刑人の指揮の下攻勢を仕掛けます。明日には大きく戦況が動くでしょう、ではご武運を」

 

 ヘイブン・トルーパーたちは来た時とは違い、窓から地上へと飛び降りあっという間に町の陰にその姿を消していった。

 

 キッドとWA2000は一先ず作戦会議を中断させ、ヘイブン・トルーパーたちが運んできてくれた物資の配当を行う。

 弾薬はそれぞれにあったものを配り、最低限の医療品は各自に配り、残りはスプリングフィールドに手渡す。 

 それから待ちかねていた食糧。

 MSF製の軍用レーション、それも親切に温められたものだ。

 日夜糧食班が研究に研究を重ね、栄養バランスと飽きない味を実現させた至高の発明品だ…どこぞの不味いレーションとは大違いである。

 

 

「ほらサソリ、大好きな食べ物が届いたわよ」

 

 WA2000がレーションを手にスコーピオンに声をかけると、彼女は重たそうなまぶたを開く…どうやら寝ていたらしい。

 無言でレーションを受け取り、スプーンを手にするも彼女は食が進まない様子だった…。

 

「食べなきゃダメよ、力が出ないわ」

 

「そうだね」

 

 いつもなら喜んでがつがつと食事をするのだが、スコーピオンはスプーンに少し救っては緩慢な動きで口に運ぶ。

 だが痛めた身体が支障になるのか、その手からスプーンが落ちる。

 WA2000は落ちたスプーンを拾い、代わりに料理をすくいスコーピオンの口元へと運ぶ…彼女は嫌がることも拒絶することもなく、WA2000の好意に素直に甘えていた。

 

「ごちそうさま…」

 

「うん、スプリングフィールドを呼んでくるわ。包帯を替えてもらわなきゃ」

 

「待ってワルサー。屋上に連れてってくれないかな…ちょっと、風をあびたい」

 

「分かったわ…歩ける?」

 

 ふらつくスコーピオンに肩を貸し、WA2000はアパートの階段をゆっくりと上がっていく。

 屋上への扉をゆっくりと開き、周囲を警戒しながらスコーピオンの身体を床に横たえる。

 

 

「あんまり風無いわね」

 

「別にいいよ。星がきれいだから」

 

 

 スコーピオンが漏らした言葉に、ふとWA2000は空を見上げる。 

 電気が止まり明かりが消えたこの町では、星空の明かりがいつも以上に綺麗に煌めいて見えた。

 

 

「ねえワーちゃん、今猛烈にオセロットに会いたいでしょ?」

 

「なに言ってんのよアンタは。あんたこそ、スネークに会いたいでしょ?」

 

 スコーピオンの問いかけに、思わずWA2000はため息をこぼす。

 普段ならそんな質問、バカの一言で片づけているところだが、今日のところは優しくしてやろうという気持ちがあった。

 逆に問いかけられたことにスコーピオンは微笑み両手を広げ横になる。

 

 

「スネークも同じ星空を見上げてる、そう思うと全然寂しくないよ」

 

「そう。そうね…」

 

 

 WA2000はオセロットが感傷に浸って星空を見上げていることを想像するが、彼に限ってそんなことはないなと思う。

 ふと、彼女はオセロットと一緒に並び満天の星空を二人きりで見上げるという妄想を膨らませる。

 相変わらずの仏頂面のオセロット、その隣で幸せそうに微笑む自分……そこまで妄想したところで顔が火照っていくのを感じ、頭を振って煩悩を振りはらう。

 

 

「ねえワーちゃん、何か聞こえてこない?」

 

 

 スコーピオンのその言葉に、WA2000は耳を傾けると確かにどこからか声が聞こえてくる。

 姿勢をかがめ屋上の端にまで移動し、辺りを伺う。

 

 声は町の向こう…連邦軍が拠点としている町の一角から聞こえてくるようだった。

 何を話しているのかは分からなかったが、声を聞いているうちに、それが彼らの歌であることに気付く。

 楽器もなく、プロの歌手でもない素人の歌声……やがてそれは別な方角からも、パルチザンの野営地の方からも聞こえてきた。

 

 意味は分からなかったが、同じ歌詞を歌うそれは、この国の、彼らの故郷の歌であることはなんとなく理解できた。

 

 そんな時、WA2000は通りの向こうでパルチザンの兵士が白い布きれを巻いた棒を手に、ゆっくりと進んでいくのが見えた。

 脱走兵か、そう思いスコープを覗きこむ。

 しかし、敵対する連邦軍の兵士の方も同じように手を挙げたまま彼らのもとへ近寄っていくではないか…。

 彼らは何かを話しあい、互いの所持品を交換していた。

 

 それから戦場に倒れるお互いの負傷者と死者のもとへ歩み寄り、自分たちの陣地へと運んでいく…。

 

 戦場での部分的な停戦に、WA2000は引き金から指をそっと離し、スコープから目を逸らす。

 

 

 

「みんな、好きで殺しあってるわけじゃないんだ。そうしないと、自分たちの家族や友人が殺されてしまうんだ。それは相手も同じ……許されないことだって、たぶんお互いに分かってるんだよ。分かってるけど、止められないんだ。だから、とても哀しいんだよ」

 

「サソリ…」

 

「ずっと夜のままならいいのにね。明日になったらまた……でも雨はいつまでも続かない。素晴らしい世界は明日の先にあるんだ」

 

「そうね。さ、もう中に戻りましょう。休める時に休まなきゃ」

 

スコーピオンに肩を貸し、屋上を立ち去っていく。

ふと、WA2000は立ち止まり静かな街に響く兵士たちの歌に耳を傾ける。

 

止まない雨はない。

だけど、雨は嵐となりなにもかもをめちゃくちゃにした後で、果たして素晴らしい世界は残っているのか?

 

いや、今は考えるまい。

絶望を見続けるよりも、希望を見出したい…そう思い屋上を立ち去っていった。



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壊れた心

※ショッキングな描写あり


 静かに迎えた朝は、どちら側からか分からない砲撃のけたたましい轟音と共に打ち破られる。

 着弾地点からほど近い位置で休息をしていたキッドたちはすぐさま飛び起き、装備を身に付け戦闘態勢をとる。

 激しい砲撃音の最中には、銃撃戦が鳴り響く音と戦場を駆けまわる兵士たちの怒号が飛び交う。

 

 眠気など一瞬で吹き飛ぶ目覚め方だが、それでいい。

 疲れているとはいえ、寝起きでいつまでも意識が覚醒しなければそれは生死の問題に直結してしまうからだ。

 

 昨晩たてた制圧目標である町の中心部にある広場の攻略。

 軍事的建造物ではないが、町の要衝として連邦軍が防御陣地を構え、対戦車砲及び迫撃砲が数門、数十もの機関銃陣地に戦車までもが確認されている。

 精鋭を率いるキッドとは言えども、ごり押しで敵陣を突破するなどとは考えていない…それができるのはビッグボスくらいだ。

 

「さあ出撃だ諸君、まずはエグゼの部隊と合流する。あいつの突破力と月光の部隊があれば広場の攻略も可能だ。スコーピオン、やれるか?」

 

「うん。一晩寝たら何とかなったよ」

 

 スコーピオンはまだ包帯はとれていないが、自分の力だけで立ち握り拳をつくって見せる。

 元々…いや、いつのころからかやたらとタフになり始めたおかげか、小さな傷はほとんど完治し疲労も感じさせないほどに良く動く。

 憂鬱とした気分で昨晩を過ごしたが、戦闘前に思い思いの行動で気持ちを切り替える。

 

「スナイパーが多い。姿勢を低くして進め」

 

 アパートを出た部隊は、キッドを指揮官に彼の指示で素早く移動する。

 重量のある機関銃を所持しながらもそれで行動を阻害されることなく、ポイントマンとして部隊の先頭を行く。

 そこら中から聞こえる戦闘音によって味方がどこにいるのか把握することが難しくなる。

 ばったり会った拍子に撃った相手が味方だったということが無いように、キッドは部隊の先頭を慎重に進み、それでいて早くこの激戦を終わらせるべく早足で進むのだ。

 

「―――ッ! 下がれ!」

 

 通りの角を曲がったところで、キッドは叫びすぐさま引き返す。

 次の瞬間には猛烈な機関銃の弾丸がそこに撃ちこまれ、弾丸に抉られた建物の外壁がはじけ飛ぶ。

 

「敵の数は!?」

 

「見えた限りでは10人ほどだ! ワルサーとスプリングフィールド、そこの建物の上階から狙撃しろ! 9A91とスコーピオンはオレに続け!」

 

 物陰から身を晒し、敵へ向けてキッドの軽機関銃が火を吹いた。

 圧倒的連射力によって敵の部隊が身を隠したその隙に9A91とスコーピオンは素早く通りの反対方向へと走りだし、崩れた瓦礫の中に飛び込んだ。

 

「グレネード!」

 

 キッドがリロードのために身を隠したと同時に、スコーピオンと9A91は手榴弾を投擲。

 リロードの隙を突こうと身を乗り出した連邦軍兵士は爆発とまき散らされた破片によって倒れる。

 だが瓦礫の向こうから現れた別な兵士は、ボディーアーマーに防弾マスクを装備し手榴弾の破片を耐えきり突撃してくる。

 寄せ付けまいと牽制射撃を行うが、シールドをもった別な兵士が前に立ちふさがり銃撃を防ぐ。

 

「歩兵の癖に弾弾くなんて、頭に来る奴!」

 

「わたしたちの弾じゃ撃ち抜けない…!」

 

 シールドに身を隠しながら撃ち返す敵に、思わず愚痴をこぼす。

 だが次の瞬間、スコーピオンらの後方から放たれた弾丸がシールドの装甲をぶち抜き、そのままシールドの向こうに隠れていた敵兵を射殺する。

 スコーピオンが振り返り建物の上階を見ると、WA2000とスプリングフィールドの二人が狙撃位置についているのが見えた。

 二人の狙撃にたまらず連邦軍兵士は退却するが、二人の素早い射撃は逃げる連邦軍兵士を捉えて全て仕留めて見せる。

 

 狙撃した敵の一人が立ち上がり足を引きずり建物の中に逃げ込んだのを見て、スコーピオンは走りだす。

 逃げ込んだ家屋に足を踏み入れたと同時にスコーピオンの目に飛び込んできたのは、幼子を抱きしめる女性の姿であった。

 追いかけた連邦軍兵士は血を流し、息を荒げながらスコーピオンを見つめている。

 

「キッド…! 民間人だ、逃げ遅れた民間人がいる!」

 

 負傷した敵兵に銃口をつきつけたまま部隊長のキッドを呼ぶ。

 すぐさま駆けつけたキッドは怯える民間人にそっと近寄り、敵意が無いことを説明して見せる。

 怯える子どもたちをあやしながら、母親は不安な様子でキッドと連邦軍兵士を交互に見つめる…。

 

「落ち着け…オレはウスタシャじゃない……逃げても誰にも言わない」

 

 負傷した連邦軍兵士の言葉に、民間人の母親は頷き子どもたちを伴い立ち上がる。

 

「……町には、民間人が取り残されてる…アンタら、どこの傭兵か知らないが、彼らを救ってくれ…」

 

「何を言ってるんだお前は、国民を守るのはお前ら正規軍の仕事だろう」

 

「あの忌々しい…ウスタシャ共は、町の住人の避難を…禁止した。逃げれば、殺される……こんなクソみたいな国に生まれたばかりに、チクショウ……解放してくれて、あり…が…」

 

 そこまで口にしたところで、連邦軍兵士は息を引き取った。

 

「キッド…」

 

「民間人を安全な場所まで連れていく。行こう…」

 

 そこはまだ砲弾や銃弾が飛び交う戦場、民間人の保護はパルチザン側から依頼された任務の一つでもある。

 なにより司令官のビッグボスが望んだこと…。

 

「大丈夫ですよ、必ず安全な場所に避難できますから」

 

 怯える民間人の傍らにスプリングフィールドが寄り添い、そっと支え優しい言葉をかける。

 こういった場面はスプリングフィールドが一番の適任だ。

 だが、母親はそんなやさしさに感謝しつつもどこか落ち着かない様子だ…当然だ、この町は連邦政府の領域であり、MSFやパルチザンはむしろこの町の住人にとって侵略者なのだから。

 

 それでも、キッドらは民間人を救う。

 ここは戦場になってしまった、彼らにとっての故郷は失われ…兵士たちの場所となってしまったのだ。

 彼らの故郷を戦場に変えてしまった、ならばせめて彼らを安全な場所まで避難をさせる……。

 

 

 部隊は安全圏を目指しながら進むと、見通しの良い道路にぶつかる。

 そこには車両を積み重ねたバリケードがあるが、ところどころ車両一台分通れるだけの間隔が開いている。

 

 通りには、おそらく戦場から逃げ出そうとし、スナイパーの餌食になった民間人の遺体が倒れている。

 恐怖に怯える民間人の家族を落ち着かせ、まずはキッドとWA2000が先行してバリケードを横切る…その時は何ごとも無かったが、次に9A91がバリケードを駆け抜けた時、間髪入れずに弾丸がバリケードとして積み上げられていた車両に撃ちこまれる。

 

 やはりスナイパーがいる。

 見えない脅威に部隊は緊張し、せめて民間人の家族だけでも救うことを決める。

 

 

「さあ行くよ、あたしの合図で飛び出して…いい?」

 

 

 バリケードの向こうでスコーピオンが手招く。

 何度も母親に振り返って見せる少女は今にも泣きそうな顔であった。

 

 

「1,2,3で飛んで。そうしたらあたしが受け止めるから…いいね? いくよ…いち、にの、さんっ!」

 

 

 スコーピオンの合図に、少女はバリケードを飛び出した。

 すかさずスコーピオンが手を伸ばして少女を受け止め、安全な場所にまで引き込む…。

 次の男の子も同じように、合図をとって安全な場所にまで退避させる。

 

 さあ後は子どもたちの母親だけだ。

 二人の少年少女を助けられたことに気が緩み、短い間隔で母親にも同じような合図を送ってしまった。

 

 合図を受けてバリケードを飛び出した瞬間、母親は狙撃され糸の切れた人形のように前のめりに転倒する。

 生気の失せた目を見開き、こめかみから血を流す…即死だった。

 母親が目の前で殺され、二人の子どもは大声で泣きわめきスコーピオンの手の中で暴れだす。

 抑えるスコーピオンの手を振りほどき、男の子は倒れた母親へと走って行ってしまう…。

 

「だめ! 来ちゃダメ!」

 

 反対側からスプリングフィールドがそう叫ぶが、男の子は物陰を飛び出し母親の亡骸へとしがみつく。

 咄嗟にスプリングフィールドはバリケードを飛び出し、男の子に手を伸ばした…。

 

 

 乾いた一発の銃声が鳴り響き、目の前の男の子の身体から血肉がはぜ、男の子の身体は母親に寄り添うように倒れそのまま動かなくなった…。

 

 

「あ…あぁ……そんな…!」

 

「スプリングフィールド! 早く! 早くこっちに来て!」

 

 

 目の前で奪われた小さな命に、スプリングフィールドはその場に呆然と立ち尽くす。

 慌てて9A91が彼女の腕を掴み物陰に引っ張り込み、次の瞬間、弾丸がスプリングフィールドの立っていた辺りに直撃する。

 危うく死ぬところだった……危険な行為に怒鳴りつけようと口を開きかけたWA2000であったが、目を見開き肩を抱いて震えるスプリングフィールドの姿を見た瞬間口を閉ざす。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい…! 嫌……もう、嫌よこんなの…!」

 

「おい、しっかりしろ! 気をしっかりもつんだ! 深呼吸をするんだ、ゆっくりと…!」

 

 動揺する彼女の目を見ながら落ち着かせようとする。

 キッドの言葉に何度も頷き深呼吸をしようとするが、呼吸が速くなり過呼吸症候群のような症状が現れる。

 

「しっかりしてスプリングフィールド! 大丈夫、大丈夫だから!」

 

 仲間たちはなんとか手を尽くそうとするが、症状は酷くなる一方だ。

 頭を抱え涙をこぼし、うわごとのように謝罪の言葉を口にする…母親と弟を失った少女の泣き声が、より一層彼女の精神を追い詰める。

 

 

「おいおい、なにやってんだお前ら!」

 

「エグゼ! 大変なの、スプリングフィールドが!」

 

 

 どうやらエグゼの部隊が防衛線を突破したらしい。

 ヘイブン・トルーパーと月光を伴った部隊と共に駆けつけてきた。

 エグゼは戦闘のショックから動揺するスプリングフィールドの傍に歩みより、何度か声をかけた後…そっとその首に手を回す。

 

「ちょっ、なにすんのよ!?」

 

「うるせえ黙ってろ」

 

 エグゼの指がスプリングフィールドの首を絞めつけ、圧迫感に一瞬苦悶の表情を浮かべた後、彼女は目を閉じ卒倒した。

 

「大丈夫、気絶させただけだ。あのままにしておくより、こっちの方が良い……こいつはもうダメだ、後方に送れ」

 

「ちょっとそんな言い方ないでしょう!?」

 

「ああ、悪かったよ、少しピリピリしてんだ。おい、他にも気持ちが落ち着かない奴はいるか