ガチ勢 (効果音)
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番外編
Dream fall(友希那誕生日記念)


急いで書いたのでクオリティと文章量は気にしてはいけない、だって地の文全然書いてないですし…


「…あちぃ」

 

 先程自宅に押し掛けてきた友希那さんが持ってきた紅茶を飲んでから身体が熱くて思考がボヤけてきた。

 

「…カズ、少し横になったら?顔赤いわよ」

 

 てかさっきの紅茶出してきたのこいつだし…確信犯だろ、こいつ媚薬か何か入れやがったな…

 

「あのさ…」

 

「何?」

 

「本当に今?」

 

「…え?」

 

 彼女は俺をソファーに寝かせようとするというか、馬乗りしてきた。

 

「明日も休みとはいえ、何でこんなぐいぐい来るの?そろそろ寝たいよ、うん、寝たかった」

 

 もう外は暗いし、このまま寝てしまうのは全然ありだ。

 

「それで?」

 

「だから馬乗りするのやめてくれませんかねぇ!」

 

 完全に隠す気ないだろ…いやさ…嫌じゃないけど…

 

「やっぱり嫌だわ!お前で捨てるのが何か嫌だわ!」

 

「じゃあ目隠しでもする…?」

 

「そこじゃねぇ!てかゴム持ってんの?」

 

「…」

 

「おい、黙るな、そこで黙るな!頼むからそこで黙るなぁっ!」

 

 既成事実でも作ろうとしてたのか…それとも知識がないのか…

 

「わかった、わかったよ…最悪事に至るのは良いよ?もう遅かれ早かれ貞操を狙ってくるのはわかったから、でもね、でもその前に一つやることがある」

 

「キス…?」

 

「そうじゃねぇ!確かに今までキスすらしたことないけどさ!そこじゃねぇんだわ!」

 

「…一体何が?」

 

「コンビニ行くぞ!!!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 コンビニで滅茶苦茶緊張してコンドームを買ってきた家に帰って来た訳だが…

 

「対局、よろしくお願いいたします」

 

「待って、何で将棋…?」

 

 だって萎えちゃったし…寝る気も無くなったからこうしてベッドの上に将棋盤を置いたのだけど

 

「ごめん、萎えた」

 

「…今までのやり取りはなんだったのかしら?」

 

「だって仕方ないじゃん!コンビニまで行って店員に変な顔で見られて会計した時点で萎えない方がおかしいわ!」

 

「私のSanctuaryがこんなにも熱色スターマインしてNeo-aspectを見せてLegendaryを生み出そうとしているのに…?」

 

 なんだそのポエムは…

 

「謝れ!Roseliaのメンバー全員に謝れ!頼むから謝って!ファンにも謝れ!」

 

「貴方とONENESSしてLOUDERをBLACK SHOUTしようとして喉の準備は万端だったのだけど…」

 

「はっ倒すぞ!酒でも飲んでんのか!」

 

「飲んではいないわ、未成年だもの」

 

 あー、無理今の会話で完全に萎えた、こいつ抱いても途中で変な事言われそうだもん

 

「…無理、今日は寝る。しんどい、生殺しだわ…お休み」

 

「………お休みなさい」

 

 友希那さんに背中を向けて横になって寝る事にした。

 

 

 

 

 

 もぞもぞする、良い感じに寝れそうだったのに腕の中に人間特有の重さと温もりと柔らかさを感じる。

 

「んっ…」

 

 腕の中に居る人物によって俺の手が今まで触れたこともない人間の部位に触れた。

 

「…待て待て待て…いや、待て」

 

 目を開けて腕の中でトンでもない事をしていた服が少しはだけている友希那さんを突き放す。

 

「…何よ」

 

「…あのさ、いくら何でもこれはないだろ」

 

 濡れた指をティッシュで拭いてから彼女を押し倒した。

 

「…貴方が、あそこまで拒むからよ」

 

「そりゃあんな事されれば拒むわ!そもそも俺達キスすらした事ないんだぞ!」

 

 腹が立つ

 

「…私に言わせるつもり?」

 

 確かにさ、女の子にキスしてとか言わせるのは紳士的ではないかもしれないけどさ…だからと言って…あんなのはないだろ

 

「言わせるとかじゃなくて…単純に言い出せなかっただけで…」

 

「だけで…?」

 

「…俺だって、男なんだぞ」

 

 彼女の頬に右手を添え

 

「か、カズ…?んっ…!?」

 

 無言で彼女の唇を貪ると、彼女に抱き締められた。

 

「…んふ…う…っ…」

 

 舌を絡める度に艶かしい声が彼女から漏れてくる。孤高の歌姫、そう言われてる彼女の喉を蹂躙していると考えると興奮が収まらない。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 夢だった、軽く昼寝してたらあんな夢を見てしまった。

 

「死にたい、何であんな女とあんな事しなきゃいけないんだ」

 

 いや、もう、本当に勘弁してくれ、ムカつく寝起き過ぎるだろ、とにかく機嫌が悪くなってきた。そもそもあの人とああなる訳がない、姉貴となった方がマシ。それはそれで嫌だけども

 

「はー、クソが…漫画買ってからゲーセン行こ…」

 

 財布とスマホを持って家を出た。




誕生日記念なだけで誕生日回は書きません(鋼の意思)

感想ありましたらぜひよろしくお願いいたします


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Everlasting Sky
Bumpy ride heart


嘘みたいだろ、これ初期プロットはオリ主と母のギャグものだったんだぜ


 何故か周辺地域に女子校ばっかりなせいで、電車で数十分掛けて行く筈の所をとある理由で徒歩か自転車で来てるよ、アホか。

 

 こうなった理由は入学当日に我が家の暴君、もとい覇王の母から言った事が原因だった。

 

「アンタ、電車禁止で通学ね」

 

「え? マジ?」

 

「マジよ、その代わり月5万は小遣いをくれてやるわ」

 

 バイトしなくてよくなるな……ありだな

 

「マジ?」

 

「え、その話乗るの?」

 

 姉貴に心配された、まぁ、運動不足解消されそうだし大丈夫だろ。

 

「母さん、そのお金は誰が出すのかな?」

 

「そりゃ勿論、父さんよ」

 

「だよね。うん、知ってた。なぁカズよく考えてみろ? あの母さんの言う事だぞ」

 

 お金を出すのが嫌なのか心配で言ってくれてるのか……だがしかし、自分の妻をあのとか言うのか父さんよ。

 

「確かに、お前は今井家の中の蛙だから「カズ」って名付ける母さんだけども」

 

「え、そんな理由だったの?」

 

 マジか……と母の方を見るとケロっとした顔をしていた。

 

「忘れた」

 

「こ、い、つぅ……まぁいいや、やるよ」

 

 この後死ぬほど後悔した。

 

 そんな感じで高校生活、初見電車禁止縛りが始まってしまった。

 初日は大丈夫だろうと高を括っていたが登り坂がものすごく多いし信号待ちも多いしでものすごく後悔したから母に敗北宣言しようとしたら。

 

「お前が電車禁止を辞めるのは勝手よ。けどそうなった場合、誰が代わりに電車禁止をすると思う?」

 

「代わりとかあんの?」

 

「父さんよ。父さんは今回の件でお前に負い目を感じているはずよ。だからお前がやらなきゃ、自分から手を挙げるでしょう。けど、今の父さんじゃ年波には勝てない。そうなれば、会社の連中はよってたかって遅刻する父さんを責める。お前がやるしかないのよ」

 

 なんつー理屈だ、別に父さんそこまでしないよ。

 

「あと言った事は曲げるんじゃないわよ、男でしょ」

 

 とか言われたのでお金を出してくれる父さんに申し訳なくなるので続ける事にした。

 

 閑話休題

 

「はぁ、学校が巨大ロボットに変形して地元に来てくんないかな」

 

「お前……そんな事ある訳ないだろ」

 

「うっせぇ! お前に何がわかるって言うんだ!」

 

 教室で項垂れて戯言を口にしてると前の席の《浅川裕司》がツッコミを入れてきた。

 

「まぁ……お前が生まれてきた土地が悪い。それよりさ、昨日買ってきたこれ見てくれよ!」

 

 顔を上げて裕司が出して来た物を見ると今話題沸騰中のガールズバンドグループ《Roselia》の特集が組まれた雑誌を広げていた。そいや、最近姉貴がライブやるとか言っていた。

 

「んで、そのRoseliaがどうした?」

 

「最近知った事なんだけどよ、ライブが隣町であるみたいでな」

 

「それで? 行きたいと?」

 

「そうだよ、察しが良くて助かる。どうだ? チケットは2つあるんだ」

 

「お前さ、俺が断ったらどうするつもり?」

 

 そもそも、何で2つ用意してあるのか? そう訪ねると、裕司はfxで全財産を溶かしたような顔をした。

 

「中学卒業まで付き合ってた彼女と別れたから一枚余ってんだよ! クソが! お前の鼻に綿菓子詰め込むぞ! だから断るなよ……マジで、頼むよぉ……マジでぇ」

 

 可哀想になってきた。でも、姉貴から来るかどうか聞かれて断っちゃったんだよなぁ……そんとき興味ないから良いやとか言っちゃったし。

 

「どうどう……別に嫌とは言ってないだろ、だけど俺はバンドには興味はないからな」

 

「よし、じゃあ次の日曜日な」

 

 切り替え早いな……とツッコもうとしたら授業が始まり教師が教室に入ってきた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 放課後、ある意味ここから俺の戦いが始まるのかもしれない。

 

 部活にはまだ入るかどうかも考えていないから適当に勧誘を断って自転車で自宅に帰る、この時にはもう疲れきって部屋でゴロゴロしたいのだけど。

 

「ただいま」

 

「あぁ、カズ、丁度良いところに帰ってきたわね」

 

「おつかいしろと?」

 

「あら、もう順応してきたかしら?」

 

 高校生になってからほぼ毎日これである、家に帰ったら即買い物を頼まれるので別の服に着替えて家を出た。

 

「流石に慣れたとは言えこれはなぁ……」

 

 ぐだぐだと商店街を歩く生鮮食品とか冷凍物を頼まれる事はないので帰りにゲーセンとかに行っても全然怒られないのだが買い物中に近所の女子高生とエンカウントするのが最高に嫌いだ。

 

「カズ、最近この道で貴方を見るのは気のせいかしら?」

 

 会いたくないランキング一位でお隣さんでバンドRoseliaのボーカルの湊友希那にエンカウントしてしまった。

 

「買い物、親に頼まれただけなんで……」

 

 正直に言えば友希那さんの事は苦手だ、彼女が音楽活動を始めてから雰囲気変わったし姉貴もそれに付きっきりになったり……まぁそれだけの事なのだが。

 

「そう……学校にも行っているか怪しいとも聞いたのだけれどそれはどうなのかしら?」

 

 どっから沸いた嘘なのだろうか、そもそもな話学校行ってるんだが?

 

「は? 何それ?」

 

「噂に聞いたら朝早くに出掛けて家に帰るのも遅いと言ってたわ」

 

 段々と友希那さんの顔が険しくなる、確かに学校に行ってないと言う所以外間違いじゃないけどかなり理不尽な勘違いだ! しかもこういう時って話聞いてくれないし……今度姉貴に文句いわにゃならんか

 

「姉貴に確認取ればわかる事でしょう」

 

「リサは……貴方を庇うわ、それでは意味がないわ」

 

 うわ、面倒くせぇ。

 

「俺、買い物あるんで」

 

「待ちなさい!まだ話は……!」

 

「俺に構う時間で練習したらどうなんですかね、というか構わないで結構なんで」

 

 そう吐き捨ててゲーセンの中に入る、某ロボット2on2対戦ゲームはここには二台しかないので取り合いなのだ、今日はも相方待たせてるし申し訳ないが話すのは今度にしてもらおう。

 

「……何であの人の前で態度悪くなるのかな、俺」

 

「何の話だ?」

 

 ゲーム筐体の席に座ったら今日は空いていたらしく隣の筐体に相方のいっちーさんが座っていた。

 

「お隣の姉貴の友達がうるさいって話…あ、乗るのはいつもので」

 

「ふぅん、お前何かやったのか? 不登校児って噂立ってるみたいだけど」

 

 二人でやる時に一番上手く行きやすい組み合わせでネット対戦に繰り出す。

 

「あー、それね。普通に学校行ってるぞ俺は」

 

「じゃあ私服で朝早く家を出るって言うのは?」

 

「俺の通ってる学校私服ありなんだよ」

 

「帰るのが遅い、のはこれやってるからか」

 

「お前のせいぞ」

 

「違ぇわ! ま、お前が不登校じゃないなら良い」

 

「お、ツンデレか?」

 

「はぁ!?」

 

 いっちーさんがゲーム内でガードに失敗するしてそのまま倒された。

 

「おいおい、頼むぜいっちー覚落ちしないのは良いけどさ」

 

 ニヤニヤしながらいっちーに足を蹴られつつ相手の着地を狩ってそのまま無事にゲームには勝利した。

 

「お前のせいだ! お前の! 後ツンデレじゃねぇ!」

 

「痛い痛い! ゲーセン内での暴力はやめれ」

 

「ったく! 心配してたんだぞこっちは」

 

「リアル引きこもりに心配されたかねぇな」

 

「ほっとけ! 後もう引きこもりじゃないぞ? 同じ学校のやつとバンド始めたからな、学校にもちゃんと行ってんだからな!」

 

 そう、いっちーさんは引きこもりで最低限しか学校に行ってない様だ、たまたま俺が休みでいっちーさんがサボりの時にゲーセンで出会ってこうして週3位でゲームをやるに至る訳だ。

 

「どいつもこいつもバンドって流行りなの?」

 

「さあ? 知らんけどライブやる時呼ぶからな」

 

「空中分解しなきゃなー」

 

「喧嘩売ってんのか!?」

 

 こんなやり取りをして連勝上限で強制ゲームオーバーになったので解散になった。

 

 

 時刻は19時そろそろ姉貴が帰って来て飯の時間になるのだけど、それまでは数十分だけど寝る。週の半分はこの生活になる。最近は本格的に授業も始まってそれなりの課題も出てるし終わらせないと。

 

「あー、だる……課題とか全て消え去れ」

 

 課題に手を着けてから数分後、部屋のドアがノックされた。

 

「どうぞー」

 

「あ、起きてた。ちょっとお姉ちゃんお話があるんだけどいい?」

 

「どうせ、友希那さんの事でしょ。熱々だねぇ」

 

「そういうの良いから……友希那が怒ってたんだけど何かしたの?」

 

 二重の意味でやっぱりその話題かと思い微妙な顔をする。

 

「心当たりあるんだ……」

 

「何か俺ってこの街だと不良的な噂立ってるらしいんだけど、姉貴から友希那さんに説明しといて」

 

 姉貴は庇うとは言ってたけどあの人が姉貴の言う事は無下にはしないだろうし、どうせ俺から説明しても信じないだろうから。

 

「えー、嫌かな」

 

「何でさ」

 

「んー、自分で考えな。それより今度のライブ、ホントに来ないの?」

 

 姉貴が少し考えた後断られた、多分考えた振りだろうな……

 

「んあー、それ……学校の友達と行く」

 

「え? ホントに!? 何かあったの? 前にバンドの話題出したら凄く嫌そうにしてたのに」

 

「友達が彼女と行く予定だったのに別れたと聞いて悲しくなったから」

 

「それは……まぁ、置いといて。そっかー……カズが来るのかー」

 

 何でそんなウッキウキなんだよ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

──Roseliaのライブ当日のCiRCLEにて

 

 

 裕司にペンライトを渡されてから思い出した、今日ゲームのイベント日やんけ!

 

「なぁ、裕司」

 

「何だ? トイレなら済ませておけよ?」

 

「ちげーわ、俺やっぱ帰って良いか?」

 

「お前この期の及んで言う? Roseliaの事になるとお前露骨にテンション低くなるけど何かあんのか? そういやベースの今井リサと名字が同じだけどもしかして……」

 

 今か、今気づくか? それ。

 

「違う、かんけーねぇよ。ただただバンドってのが好きじゃないだけだ」

 

「ふーん、じゃあ何で今日来てくれたんだ?」 

 

「それは…まぁ、誘ってくれた訳だし」

 

 そう言うと裕司は呆れたのかにやついてるのかよく分からない顔をしていた。

 

「何だよ、その顔」

 

「ツンデレさんめ」

 

「誰がツンデレだ! 誰が!」

 

「はいはい、そろそろ始まるから黙っとけ」

 

 くっ、少しだけいっちーさんの気持ちが分かった気がする!

 

 確か最初の曲は──

 

「それでは一曲目、BLACK SHOUT」

 

 その後、アンコール含めて9曲程の演奏だった。アンコール前のトークのせいでキーボードの人がパンにマーガリンを塗りながら魂のルフランを演奏していた。

アレは何だったのだろうか。

 

 それはともかくとして裕司が感想を語りたいと言い出したので適当なファミレスで飯を食うことになった。

 

「裕司、ホントにこのファミレスで良いのか?」

 

「別に有名チェーンだしハズレとか無いだろ、てかもうドリンクバー頼んじゃっただろ」

 

 なったんだけど、このファミレスは嫌だったな!ここは姉貴からの連絡で打ち上げをここでやるから来ても良いと聞いたのでエンカウント率がとても高いのだ。

 

「ま……いっか」

 

「おう、じゃあドリンクバー取ってきてやるよ」

 

「変なの入れてくんなよー」

 

 裕司がドリンクを取りに行ってる間に親に今日は飯はいらないと連絡を入れておく。

 

「よいしょっと、さて感想を語ろうぜ!」

 

「あー……うん、カバー多かったな」

 

 あとはちらちら姉貴がこっち見てたなぁと何でバレた。

 

「だよなー、多分アレはりんりんかあこちゃんの趣味だ! 俺個人としてはりんりんの趣味であって欲しい」

 

 こいつ、知らないとはいえそのメンバーが居る中でよくもそんな事が言えるな。

 

「メンバーの話かよ、曲の話しろよ」

 

 多分本人らもそっちの方が嬉しいだろうし。

 

「曲かぁ、マーガリンが良かったよなぁ」

 

「それ、ホントに曲の話か?」

 

 魂のルフランのアンコールじゃなくて茶番みたいなもんだろ。

 

「良いだろ、メンバーが居てこそ曲が奏でられるんだからさ!」

 

「まぁ、その通りなんだけどさ……」

 

 はぁ、とため息をついて少しだけ顔を横に向けたら少し離れた席に姉貴が居て、目が合ってしまった。

 

「推しが悩ましいなぁ、クール系の友希那さんと紗夜さん、大人しい系のりんりん、元気っ娘のあこちゃん、ギャル系のリサさん……あー、でもリサさんはちょっとなぁ」

 

 あ? 今お前なんつった? 

 

「は?」

 

「え?」

 

 自分でも予想してなかった程低い声が出た。

 

「いや、続けろ」

 

「あー、えーと、リサさんはアレだよ、お前が原因で推しにくい」

 

「悪い、足が滑った」

 

 無性にイラついたので裕司の弁慶の泣き所を全力で蹴った。

「あがひゃ!?」

 

「で、俺が何だって?」

 

「お、お前……大したことじゃないけど、ほら友達と名前が一緒のアニメキャラが出てくると何か変な気分になるだろ? それと一緒だよ」

 

「なるほどな、一理ある」

 

 俺もそのせいで見るの止めたアニメとかあるし。

 

「あ、もしかしてお前、リサさん推しか? お前ああいうのよりツンデレっぽいのが好きそうな気が……あだだだだだだ!?」

 

「それ以上言ったらお前の弁慶の泣き所を凹ませるぞ」

 

「そんなに!? まぁ、お前の推しはいいや」

 

 そういえば元々来る予定だった元彼女にこの話題をするつもりだったのだろうか?

 

「俺からしたら、メンバーも曲もどうでもいい……」

 

「えー、つまんねぇの……はぁ」

 

 ため息をくきながらコーラを口に含む裕司、ため息をつきたいのはこっちだ。さっきついたけど。

 

「いや、俺は元々興味ないって言っただろ」

 

「そうね、興味の無い人間に聞いて貰う程、Roseliaの歌は安いものじゃないわ」

 

「ぶほわっ!?」

 

 いつの間にかこちらの席に近づいてわざわざ文句を言いに来たらしい友希那さんを見て裕司がコーラを吹き出して、全部俺にかかった。

 

「……俺は余ったチケットで来ただけでわざわざ来てやる程じゃないっつうの」

 

 何で無視してくれれば良いのに近寄ってきたかな、お互いイラつくだけだろ。こんな時に姉貴はどこに…あ、席に居ないしお手洗いか?

 

「なおのこと来て欲しくないわね」

 

「あっそ、じゃあ近づくな、隣町でライブでもやってろ」

 

 俺はエンカウントすらしたくないんだ。いっそのこと国外でやってくれ、頼むから。

 

「ちょ、ちょっと、何でカズも喧嘩腰になってんだよ。お互い落ち着いて」

 

「貴方は黙ってて、大体貴方みたいのが居るからカズがこうなるのよ……!」

 

「裕司は別に──」

 

「いや、カズは関係ないでしょう?」

 

「……え?」

 

 急に裕司の声色が低くなった、少し呆気に取られた。

 

「俺とかカズとか関係なく貴女個人に何があったか知らないけど、貴女がカズの事が嫌いなだけでしょう!」

 

「……っ! ……それは……」

 

 裕司は友希那さんが怯んだ隙を逃さなかった。

 

「ほら、店の迷惑だしもう出るぞ!」

 

 そのまま彼に首根っこ捕まれ、会計を済ませ店員に二人で頭を下げて店を出た。

 

「なぁ、裕司……その……」

 

「ん? あー、悪いな。今タオル渡すよ」

 

「いや、そうじゃなくて……タオルはありがたく使わせて貰うけど」

 

 受け取ったタオルで濡れた所を軽く拭くだけで済ませておく。

 

「全く、友希那さんがあんなだったとはなあ、場所を考えろって話だよな」

 

「なぁ、裕司、何も聞かないのか?」

 

「何の事だ?」

 

「そりゃ……俺と友希那さんの事に決まってるだろ」

 

 詮索されないのはありがたいけど、俺一人だったら多分もっと酷い事になってたし……

 

「やっぱそれ? 聞くだけなら良いぞ」

 

「助かる、ちょっと適当なとこで座って待ってろ」

 

 近くの自販機で飲み物を2つ買って片方を裕司に渡して公園の滑り台に座る。

 

 あーあー、話すつもり全然っっっなかったのになぁ。

 

「さて、話すとしたらまず俺とRoseliaの話をしようか」

 

「……あんまり長いと寝るぞ?」

 

「……ぶっ飛ばすぞ」

 

「さっきのしんみりムードはどこに!?」

 

「俺な、今井リサの弟なんだよ……それで友希那さんはお隣さん」

 

 缶コーヒーを一口煽って様子を伺う。

 

「あ、そっち? ……てか何でそれ先に言わないんだよ!」

 

「お前がRoseliaの話題を振ってこなきゃいつかしてたわ」

 

「そうか……で揉める原因は?」

 

「俺、何か不良と勘違いされてるみたいなんだ、理由は知ってる通りだけど」

 

「あー、ここから朝早く時間掛けて来てそれで部活無しで帰るんだっけか」

 

「でも、多分これが要因だけど切っ掛けじゃないと思う」

 

 これだけであそこまで怒るのは何かおかしい気がする。

 

「まだ何かあんの?」

 

「友希那さんは元々一人で音楽活動しててそこからRoseliaが結成された訳なんだけどさ……」

 

「それで?」

 

 これ話したくないんだよなぁ、絶対弄られるし。

 

「それをRoselia結成前から姉貴が友希那さんを心配しててさ」

 

「お、おう? 何故リサさん?」

 

「あんまり俺に構ってくれなくなったんだよ」

 

「ぶほっ!」

 

 裕司が吹き出した、本日二度目だ。

 

 笑いを堪えて肩がピクピクしてるのが目に見えてわかる

 

「お、お前さ……それマジ?」

 

「……口縫い合わすぞ」

 

「いやいや、いや……姉ちゃんが構ってくれなくなったからその原因に冷たくしてそれであそこまで拗れるってお前……草しか生えんぞ、マジ」

 

「一つ言っとくがな、別に友希那さんに取られたからって訳じゃないからな!」

 

「手遅れ! 思いっきり手遅れ! てかアレかさっきお前、リサさんの話題出したら蹴ってきたのって……」

 

 お互い飲み物を飲み終えてるのを確認して行動に移った、まずは滑り台から飛び降りて足払いで裕司の足を持っていき腕を掴んで胸に当てて

 

「腕挫ぎ十字固めじゃボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「アーッ!!!」

 

 この後散々シスコン呼ばわりされて解散した。




これはジャブです
感想がありましたら是非お願いします
更新に対するモチベーションが上がります


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Tear drops

今回NFOが出てきますが、原作とは似て非なる何かです。
ここからカズ君がぶっ壊れていきます


 翌日、祝日で親は出掛けているので溜まったアニメ見るぞって感じでリビングに出たら姉貴に正座させられた。

 

「あのねぇ、事情話せとは言ったけど何も友達を巻き込んで喧嘩しろって言ってないでしょ!」

 

「…姉貴が悪い」

 

 色んな意味で

 

「えぇー…アタシが間に居ないとダメ?」

 

「…こっちにその気は無いのに向こうから突っかかって来るんだからクッションは必要でしょ」

 

 向こうがいつからああかは知らないけど。

 

「友希那の態度に心当たり無いの?」

 

「無い」

 

 とは言いきれない。

 

「じゃあ、カズが友希那に冷たくしたのは何で?」

 

「……答えたくない」

 

「それじゃ話進まないでしょー!」

 

 肩を捕まれて前後に思いっきり揺らされた。だって姉貴に言うのはちょっと……

 

「……だって、ねぇ」

 

「どうしても訳は話せない?」

 

「うん」

 

「そっかー……そうだよねー、去年辺りから顔を合わせると喧嘩するなんて無かったよね」

 

「そうだっけ?」

 

「流石にお母さん達の前ではしないけど、居なかったら口で牽制し合う位にはギスギスしてたよ」

 

 気に食わない相手がイライラしてるのは愉快だし、簡単に挑発に乗ってくれるんだから面白いったらありゃしない。

 

「…姉貴はさ、友希那さんの事どう思ってる訳?」

 

 何でこんな事を聞いてしまったんだろうか

 

「え? アタシ? うーん、ほっとけなくて可愛いくて大切な幼なじみかなー」

 

「……さいですか」

 

 そっかぁ、はぁぁぁぁ。

 

「で、それがどうかしたの?」

 

「何でもない…」

 

 やっぱり友希那さんは敵なんじゃないだろうか? 

 

「友希那も突っかかっる感じじゃ無かったのになー」

 

「この前断ってたけど姉貴からも友希那さんに言っといてよ、誤解は誤解なんだし」

 

 まぁ、その方が姉貴は安心するだろうし。

 

「なら、これで誤解が解けなかったら手伝うけど自分で誤解を解くきなさいよー」

 

「わかってる…」

 

「じゃあ、アタシはバイト行って来るから留守番よろしくねー」

 

「はーい」

 

 我が家は母の「帰宅した時に誰かが迎えてくれるのは良いこと」というお言葉のせいで家族全員で出掛ける以外は誰かしら留守番してなければならない掟があった。確か俺に1人暮らしをさせない理由もそれだった。

 姉貴が支度してるのを尻目にテレビで録画していたアニメを垂れ流す。

 

「今期は、あまり見るのねぇな…」

 

 来期は殺戮の天使があるから姉貴に見せるか、姉貴の反応が絶対面白い。

 

「これで、よし…じゃあいってきまーす」

 

「いってらー」

 

 わざわざ、俺の事待ってたのかな。結構急いで支度してたけど。

 

「だとしたら悪いよなぁ」

 

 見終わったアニメを削除しては次のアニメへ、という工程が二回程行われた時に携帯が震えだした。裕司からだ。

 

「はい、もしもし」

 

『おはよう、今大丈夫か?』

 

「通話位なら全然」

 

『そうか、昨日帰った後とか大丈夫だったか?』

 

「別にお隣とかでも毎日会うって訳じゃないからな」

 

 姉貴の部屋の真反対に友希那さんの家の部屋があって俺の部屋が姉貴の部屋の隣にあるのでカーテン閉めてないと顔を会わせる事は多々あるけど

 

『やっぱりアレか? あの後お姉ちゃんに甘えさせてもらったのか?』

 

「…切って良いか」

 

 逆だわ、逆……寧ろ甘えるとか、ねぇ。

 

『悪い、悪い…あとさっきから何か咀嚼音がヤバいから食べるの止めろ』

 

「勝手なやつだな。んっく……げふ」

 

 ポップコーンの袋を手放してコーラを飲み干す。

 

『お前にこの会話録音して聞かせてやろうか!?』

 

「すまん、今のはコーラが悪い」

 

『十割お前だよ!電話しながら飲食すんな!』

 

「んで、何の用だよ…もしかして俺の声が聞きたいとか言うんじゃないよな?」

 

『様子を知りたかっただけだよ、あんな事の後だしな』

 

 割りと純粋に心配されてたみたいだ、何でこいつ彼女と別れたんだ……理由は察するけど。

 

「俺なら大丈夫だよ。家に籠ってればあいつと会う事もないからな」

 

『…そっか、また困った事があれば相談しろよー、また明日な』

 

「ああ、また明日」

 

 通話が終わったので時刻を確認すると11時位だった。

 

「そろそろログインしてるか」

 

 昨日イベントが始まった《Neo Fantasy Online》略してNFOで待ち合わせがあるのだ。

 

「ぱぱっとログインしちゃうか」

 

 パソコンを立ち上げてNFOにログインしてネットで攻略情報を調べてギルドメンバーを待つことにした。

 

「うえ、今回物理高めかぁ……タンクは辛い事になるよなぁ」

 

 ボスの周回方法を考えている間にギルドチャットに通知が来て俺のアバターの《イケナシエル》に女性キャラが二人近づいてきた。

 

RinRin『こんにちはー(^^♪』

 

聖堕天使あこ姫『こんにちは!』

 

イケナシエル『こんー、今回のイベントボス物理耐久高いってさ、今回のジョブは魔戒剣士で行くかな』

 

RinRin『らしいですね(-_-;)』

 

聖堕天使あこ姫『じゃあ今回あこは耐えてれば大丈夫かな? 』

 

イケナシエル『半年に一回は俺の素材庫が消し炭になるよな』

 

 物理耐久特化だと面倒臭い理由としてはこのゲームの攻撃魔法は例外を除いて仕様上あまり強くないのだ。攻撃魔法に人権は無いと言われるくらいに

 なのにRinRinさんは攻撃魔法を完璧に使いこなしているのでユーザーから神か変人扱いされている。

 

イケナシエル『イベント終わったらまたソウルメタル集めか』

 

RinRin『足りなければ何個かなら渡せますよ(*^_^*)』

 

聖堕天使あこ姫『あこも渡せますよ!』

 

イケナシエル『このイベント終わるまでなら耐えられるから大丈夫』

 

 俺のメインジョブの魔戒剣士は全ユーザーがそこそこ必要となるアイテムを一つのジョブを最大強化するのに必要な数の5倍以上の素材毎戦闘要求される、しかも戦闘開始してからスキルリキャストが始まり数分はロクに戦えない上にそもそもジョブ取得条件と強化条件を満たすのにどんな廃人でも数年掛かるのだ

 その代わりこのゲームの魔法で反則レベルに強い魔法攻撃が使用できたりゲーム内最高ステータスが得られたりする

 

イケナシエル『たまに魔戒剣士が周回で必須になるイベント開催する運営ほんとトチ狂ってるわ』

 

RinRin『素材集めは課金しても効率は大して変わらないですよね(-_-;)』

 

聖堕天使あこ姫『それをイベント始まる前に使う分を毎回集めてるイケさんがおかしいよ…』

 

イケナシエル『ま、まぁ…逝くぞ』

 

聖堕天使あこ姫『さぁ、ラグナロクを始めようぞ!』

 

 こうして何度目かの俺の素材庫と運営の戦い(ラグナロク)が始まった

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 あの後十回位イベントを周回して二人が落ちた後、少しだけ素材集めをして切りが良くなったのでゲームをログアウトした

 

「そろそろ姉貴が帰って来る頃か」

 

 俺が留守番してる時は姉貴が帰ってくる前にお茶の準備をしておく、今日は少し暑いから麦茶とおせんべいでも用意しておこうかと色々準備しているとインターホンに呼び出されたので玄関を開ける。姉貴が帰ってくるには少し早い

 

「はーい」

 

「…今は貴方一人なのかしら?」

 

「…何か都合が悪い事でも?」

 

「いえ…その…昨日の事で少し話があるわ」

 

「…あっそ、好きにすれば」

 

 友希那さんだった、一体どういう風の吹き回しだ、お隣とは言えわざわざお説教しに来たのかこの人? 

 予定変更。ミルクも砂糖も切らしているから出す飲み物はコーヒーだ。

 門前払いしても良かったけど姉貴にああ言われた後だ、少しなら話を聞いてやらんでもない。家の中に戻ってコーヒーの準備を始める

 

「…お邪魔するわ」

 

「それで…話は?」

 

 コーヒーカップを友希那さんと自分の分を用意してテーブルに置く

 

「それは貴方の話をまともにしてなかったと思ったから話をしに…「どうせ姉貴に言われたんでしょ」違うわ!」

 

「どうだか…」

 

 ああは言うものの見た感じいつもの友希那さんと変わりはない。

 

「昨日の事は…私のせいで貴方の友人にまで迷惑を掛けたわ、本当にごめんなさい」

 

 本音を言えば俺じゃなくて裕司に謝っていただきたいな、アイツの方から誘ってくれたライブだったし

 

「…で、話はそれだけですかね」

 

 こんなだらだらやってたら姉貴帰って来て面倒臭くなるなぁとか考えながらコーヒーを啜る。

 

「…一つだけ聞いて良いかしら?」

 

「内容によるとしか」

 

 何かデジャヴだ

 

「貴方はリサの事をどう思っているの?」

 

「ごっ…!? うっ…ん」

 

 せんべいを噛ってたらむせかけた、さっき似たような質問を姉貴にしたぞ

 

「どう思ってるのかしら?」

 

「聞こえてますから…」

 

 そりゃ…色々思ってるけど…何の意図が? 

 

「優しくて面倒見が鬱陶しい姉…」

 

「……また素直じゃない事を…面倒見を鬱陶しいと言い出す人、初めて見たわ」

 

 何かよく分からない間があったけどどうでも良いか、姉貴早く帰ってこないかなぁ

 

「さいですか、さっさと飲まないとコーヒー冷めますよ」

 

「…砂糖とミルクが欲しいのだけど」

 

「生憎、今の今井家には砂糖もミルクもない」

 

「………そう」

 

 そこから友希那さんは十分以上掛けて顔には出さないものの苦しそうにコーヒーを飲み干した。嫌がらせで出したのに、昔から何故か普段頼まないブラックコーヒーも俺が出す時だけは変な意地張って飲むんだよな、この人…

 

「私が音楽活動を始めてからよね、貴方がそういう態度を取るようになったのは」

 

「それが何か?」

 

 イラつく、コーヒーを飲んだならさっさと帰ればいいのに

 

「その理由は何なのかしら?」

 

「嫌です、自分の胸に聞いてください」

 

「……そう…貴方は変わってしまったわね」

 

 我慢の限界だった、何ださっきから今まであんな人の話なんて聞かなかったのに、今更そんな事を友希那さん(元々優しかった人)に言われたせいでカチンときてしまった

 

「貴女が…それを言うのか!よりにもよってアンタが!」

 

「っ……そうね…私が言う事じゃなかったわね」

 

 ああ最悪だ、こんな事を言うつもりは俺だって無かった。でも言ってしまった。

 

「アンタらの音楽ごっこで周囲を振り回すな!迷惑なんだよ!」

 

 次の瞬間、俺の頬を叩かれた。

 

「たかが一度ライブを聞いただけで私はともかく他のメンバーを侮辱しないで!」

 

「一回聞いてわかるほどバンドになってないって言ってんだよ!」

 

 今度は逆の頬を叩かれた。しかも、彼女の頬には水滴が流れていた。

あーあ、もうどうにでもなれ

 

「もう一度、言ってみなさい…リサや他のメンバー全員の前でもう一度全部言ってみなさい!」

 

「二人共!何やってるの!?」

 

「…っ失礼するわ!」

 

 最悪のタイミングで姉貴が帰ってきた、それに気づいた友希那さんは逃げるように外に走り去った。

 

「カズ、今のどういう事?」

 

「…ごめん、全部俺が悪い」

 

 姉貴が怒ってるのを見るのは、多分生まれて二回目位だ

 

「誰が悪いとかじゃなくて!どうしてこうなったか聞いてるの!」

 

「今、俺も冷静じゃないから、友希那さんの方に行って…ほっといて…頼むから!」

 

「わかった…後でカズにも聞くから頭冷やしといて」

 

 そう言って姉貴は友希那さんを追った。

 

「アホ!アホかぁ!あそこはせめて表面上だけでも仲直りするチャンスだっただろ!」

 

 自室に入ってから数十分程ベッドに頭を打ち付けた。本当に下手を打った、姉貴にあんな事を言われたのに仲直りするどころか、悪化させてしまった。

 

 悪化させた事で姉貴との約束を破ったという事も精神に響いていた。

 

「最っ悪だ…あー…何もやる気でねぇ」

 

 何かSNSに連絡が入ってたから内容を確認しておく

 

「いっちーか。ゲーム以外でなんて珍しい…『来週にライブやるから金曜日にとりあえず次の住所まで来い、席はお前の好きな姉の分まで取ってあるぞ』って…姉貴とは行けねぇよ…少なくとも今は…裕司でもさそうか、好きそうだし」

 

 裕司にこの事を連絡するのは…明日でいいや

 

 気を紛らわす為にNFOにログインしても結局手に着かずボーっとしていたら姉貴が家に戻って部屋に入ってきた。

 

「ごめんね、さっきは怒鳴っちゃってさ」

 

「別に姉貴が悪いわけじゃ…」

 

「それより、友希那にも聞いたけどどうしてああなったの?」

 

 姉貴もある程度落ち着いたのか声色は優しく微笑んでいた、けどそれが逆に辛かった。

 

「…俺が子供だった」

 

「…何で友希那の音楽活動を遊び扱いしたの?」

 

「音楽活動を始める前はあんな性格じゃなかったあの人に俺が変わったって言われて頭に血が上った」

 

「そっか、それは確かにカズが子供だね…今すぐ謝りに行く?」

 

「…ごめん、まだ無理」

 

「そうだよね、ゆっくりで良いから必ず謝りなさいよ?」

 

「うん…」

 

「よし、じゃあこの話は終わり。夕飯作るから待っててね」

 

「…料理、手伝わないと」

 

 キッチンに向かった姉貴の後を追って料理を手伝う事にした。

 

「あ、手伝うなら、食材切るのお願いねー」

 

「ん…」

 

 受け取った食材は鶏肉、こんにゃく、人参、ゴボウ、里芋…ってこれ筑前煮作れって事か

料理を始めたのは去年からで多分一番得意なのは筑前煮、理由は…

 

「そういえば去年辺りから急に料理始めたけど何で?」

 

 手元が狂って思いっきり指を切った。

 

「大丈夫!? 切ったの親指だけ?」

 

 姉貴が大慌てで救急箱を持ってきて手当をしてくれた。

 

「ごめん、考え事してた」

 

「もう、前から考え事しながら料理しちゃダメって言ったじゃない」

 

 あんだけタイミングよく聞ける姉貴は心を読んでるとしか思えない。

 

「母さんが居たら俺が筑前煮されてた」

 

「あー…確かに、良かったね二人が今日遅くて」

 

 ホント良かった…確か昔指切った時は次から食材が切られた状態で料理させられたなぁ、何も練習にならないからやめてほしい

 

「はぁ、今日はお姉ちゃんが腕によりを掛けてお料理してあげるからおとなしくしときなー」

 

 良かったかもしれない…とりあえず姉貴が料理してる間に姉貴が盛り付けするだけで良い所まで準備を進めておく

 

「準備早いじゃん、やるねー」

 

「まぁ。これ位は…」

 

「そっか偉い偉い」

 

「何だよ、その子供を褒める時みたいな言い方」

 

 もうちょっとあるだろもう高校生なんだし

 

「アタシからしたら全然子供だよ。冷めない内に食べよっか」

 

 心の中でため息を合わせるのと同時に二人共手の平を合わせた。

 

「「いただきます」」

 

 昔から母さんがどんなに状況でもいただきますとごちそうさまは言えって言われていたせいで二人とも癖になっていた。忘れるとトリコの漫画版を読破の刑だった。

あと、食事の時は辛い事は忘れろとも言ってた、多分姉貴さっきの事を口にしないのはそれの影響だ。

 

 特に食事中に会話らしい会話は無く姉貴が一方的に話して俺はたまに返事をして食べ進めていた。

 

「「ご馳走様でした」」

 

「そういや、来週新しいバンドのライブ見に行くことになった」

 

「また? 何だかんだでバンドに興味あるじゃーん、今度アタシ達のライブある時はチケット渡すから来なさいよー」

 

「…あんな事言った手前行けないよ」

 

「途中で帰っても良いから、少しは聞いて欲しいんだけどなぁ」

 

 また友希那さんと会う確率を高めるとなると物凄く嫌だ。

 

「…行けたら、ね」

 

「それで誰かと行くの? 裕司君?」

 

 その他に友達居ないみたいな言い方やめて!

 

「そうだけどさ…」

 

「そっか、大切にしなさいよー。同性の友達少ないんだから」

 

「はいはい…それより俺さ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「何? 出来る範囲なら聞いてあげるよ」

 

「いや…何でもない」

 

 Roseliaメンバーに謝りたいと思ったけどそもそもRoseliaメンバーに会うって事は友希那さんも居るし今彼女と対面したらまともに喋れる気がしない…

 

「気が変わったらまた言いなさいよ、カズはここぞって時で引いちゃうんだからさ」

 

 全くその通りだよ…

 

「あーうん…その内」

 

「それにしても新バンドかぁ、ライブの場所ってどこ?」

 

「確か流星堂」

 

 あそこって市ヶ谷さんって良いとこの人が住んでるって聞いたけどよく借りれたな

 

「あそこってライブする設備あるの?」

 

「さぁ? やるって言ってるんだからやるんじゃん?」

 

「まぁ、そうだよね…行ったらどんなバンドだったか教えてね? 最近ガールズバンド増えてきてライバル多いんだよねー」

 

「ん、俺はもう寝るよ…おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

 この日は全く眠る事はできなかった

 




仲良く喧嘩しな

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Yukina Origin

これはカズとの喧嘩の後に友希那が見た、遠い日の記憶


 俯瞰で昔の今井家を見ていた、この時点で夢だと気づいた、確か赤いランドセルを私とリサが背負ってそれをカズが羨ましそうに見ていた…多分この頃は小学生になりたての頃でお互いの両親が入学祝いの買い物をしていた筈。

 

「なんでお姉ちゃんたちは小学生なんだろう」

 

「カズが弟だからでしょ」

 

「…ズルい」

 

 夢の中なので変な気はするがソファーに座って三人を見守っていた。

 

「♪~」

 

 夢の中の小さい『わたし』が歌っていた、この頃はまだお父さんがミュージシャンとして活動していてわたしも歌うことが好きなだけだった。そして

 

「ゆきなお姉ちゃんの歌好き!」

 

「…ん、ありがと」

 

 歌っている私の背中にカズが突進にも近い勢いで抱き着いていた。

 

『どうしてああなったのかしら…』

 

 自由度の高い夢だった様で誰にも聞こえていないけど思った事が口に出てしまった。

 

「えー、この前あたしの事好きって言ってくれたじゃん」

 

「今はゆきなお姉ちゃんの歌がいい」

 

 昔はこんな感じでリサと二人でカズを取り合っていた、こうして見ると自分も随分子供っぽい所もあったと思った。

 

「…公園いきたい」

 

「お留守番しててってお母さんに言われたからダメでしょ」

 

「リサ、私も行きたい」

 

 あぁ…この日なのね、あんな喧嘩を彼とした後にこの日の夢を見る事になるとは運が悪いとしか言えない。

 

「ゆきなも我慢してよー!」

 

「でも、カズくんもう行ったよ?」

 

「え?」

 

「わたしも行く」

 

「え?」

 

 わたしもカズに付いて行って外に飛び出して、慌ててリサも飛び出し鍵を閉めずに全員が飛び出してしまった。

 

「ちょっとー!二人ともどこー!」

 

『不用心ね…』

 

 この話の終わりは知っているから無駄だと分かっていても鍵を閉めてからわたし達を追う事にした。

 

『…やっぱりここに居た』

 

 家のすぐ近くの公園を少し離れた所にわたしとカズが居た。先に公園に着いていた二人はあの猫との初めて出会って戯れていたら公園にリサを置いて行ってしまった。小さい頃は少しの距離でも大移動した気分だった。例えば隣の駅まで行っただけなのに別の県に出た様に、別の県は外国の様に……

 

「ねこかわいい」

 

「うん、かわいい」

 

 ここからすぐ公園に戻ればわたし達を探しているリサが居て三人で仲良く戻るだけで無事戻れる、だけどこの時はわたしが小学生になった事で何でもできる気になっていたせいわたしが居れば大丈夫と思っていたのだ。

 

「ちょっとおさんぽしてからもどろ」

 

「リサお姉ちゃんは?」

 

「お留守番してるよ」

 

 していない、わたし達のせいで彼女も別で迷子になっている。出来る事なら二人に話しかけて家に帰したいけど、物に触れられる癖に人には干渉できない不器用な夢だった。

 

「…♪~♪~」

 

 わたしとカズが手を繋いで当時流行っていたアニメかドラマの主題歌、それかお父さんの歌を歌いながら猫の後を付いて行くわたしとそのわたしの手をちょこんと掴んで少し後ろを歩くカズ

 

 数分はこんな調子で散歩していたのだけど、公園を出てからは家と真逆に進んでいったせいで全く知らない場所に行ってしまい、最初は自分が成長したと勘違いして、知らない物に対しての好奇心の両方で迷ったとは微塵も思っていなかった。

 

「ゆきなお姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「もう帰りたい」

 

「…そっか、帰ろ」

 

 だけど二人の前にはいつの間にかガイド役の猫は居なくなっていて、周りには知らない世界が広がっていた。

 

「ここどこ…?」

 

「…わかんない」

 

「どうしよう…」

 

 ここでわたしは泣き出してしまった。この状況でカズは泣いていないのに声をあげて泣いたら彼まで泣いてしまうかもと意味のない強がりをしていた。

 

「ゆきなお姉ちゃん、こっち」

 

 この時だ

 

 年上の自分は泣いてしまったのに、カズは泣かずにさっきまで自分より後ろを歩いていたのに、彼はわたしの前を歩いた。

 

 その姿が自分より小さい背中なのに頼りがいあって、ありふれた言い方をするとカッコよく見えてしまったのだ。

 

『…今見ても、感じる事は変わらないのね』

 

 数分後、わたし達は無事にお互いの父とリサに発見された。

 

「ゆきな~!カズ~!」

 

 泣き止んでいたわたしとカズに泣きじゃくるリサが抱き着いてきた、そのせいで無事に戻って来れた事に安堵してわたしがまた泣いていた。

 カズはと言うと全く泣く気配もなく

 

「カズは泣かなかったんだな、そこだけは偉いな」

 

「だって、ゆきなお姉ちゃん泣いてたし」

 

「今日はごちそうの予定だったけどお母さん達に頼んでピーマン多めにして貰おうか、な?友希那」

 

「カズくん、もっかいおさんぽいこ」

 

 わたしはピーマンと聞いただけで逃げ出そうとしていた。けど結局はお父さんにおんぶされて家まで強制的に帰る事になった。

 

 全員が今井家に入るのを見て私はリビングの中が覗ける窓の方へ向かった。

 

「カズ、正座」

 

「うん、かあさんなに?」

 

「今日、お散歩行ったんだってね?」

 

「行ったー!」

 

「お母さんお留守番してーって頼んだよね?」

 

「リサお姉ちゃんにでしょ?」

 

「いや、カズもよ」

 

「……盲点だった」

 

 ここもよく覚えている、カズが叱られているのをリサと一緒に見てたのだ

 

「カズ、覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 母の雷には流石に勝てずカズが泣くのがこの迷子騒動の話である。

 

 

 それを見届けた私の顔が窓に映ると、いつもより柔らかい表情だったのが自分でもわかった




どうしても最後の一文で締めたくて分割にしました

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百式機関短銃様
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mocca様
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Yukina Trouble

同日投稿なので見てない方は前話も必ず見てください、重要回なので必ず

今回はファミレスからの友希那視点でお送りします


 やってしまった、少なくともリサが戻って来てから話し掛けようとしなければこうはならなかった筈

 

「湊さん、今のは…」

 

 立ち尽くしているとRoseliaのギター担当、氷川紗夜に声を掛けられてやっと我に返った。

 

「あの二人はどこに?」

 

「帰りました。あの二人と何かあったんですか?」

 

「首を掴まれてた方がリサの弟のカズよ」

 

「そういう事ではなく、何か因縁でもあるんですか?」

 

「詳しくは話せないけど…あるわ」

 

 私が音楽活動を始めてから彼は露骨に態度が悪くなった。理由は…知ってはいるけれど

 

「お待たせ~…ってこれは…やらかした感じかな?」

 

 リサがお手洗いから戻って来て今日は解散となり、帰り道は家が隣同士なので必然的にリサと一緒になった。

 

「友希那。やっぱりカズ本人から感想聞きたかったの?」

 

「…そうね、彼がライブに来るとは思わなかったから…」

 

「それでどうしてああなるかなぁ」

 

「彼は学校にも行かずに遊んでいるらしいわ、それを優先しなさいと言おうとしただけよ」

 

 白状してしまえば異性として彼の事は好きだ。きっかけは今は置いとくとして、だからこそ逆に少し嬉しい事ではあるけれど、やはり学業は優先して欲しい物だわ

 

「あー…その噂、ねぇ。実際にそれについて話してみた?」

 

 そう言われれば話していなかった事に気づいた、彼の前になると冷静さを欠いてしまうのは私の悪い癖ね

 

「…してなかったわね」

 

「やっぱりかぁ、私が明日バイト行ってる間に話してきなー、どうせ暇だろうし」

 

 という事で、翌日に彼の家に話に行ったのだけど

 

「…砂糖とミルクが欲しいのだけど」

 

「生憎、今の今井家には砂糖もミルクもない」

 

「………そう」

 

 私がブラックコーヒーが苦手なのは彼は知っている筈なのだけど、多分嫌がらせね…無論、彼から出された物なら飲むので問題ないわ

 

 そこから時間を掛けてコーヒーを飲み干した私は話を切り出す事にした。

 

「私が音楽活動を始めてからよね、貴方がそういう態度を取るようになったのは」

 

「それが何か?」

 

「その理由は何なのかしら?」

 

「嫌です、自分の胸に聞いてください」

 

 まだ答えてはくれそうにないわね…結果を急かしすぎたかもしれない

 

「……そう…貴方は変わってしまったわね」

 

「貴女が…それを言うのか!よりにもよってアンタが!」 

 

「っ……そうね…私が言う事じゃなかったわね」

 

 どうやら地雷を踏んでしまったらしい…私が変わったと言うと…恐らく--

 

「アンタらの音楽ごっこで周囲を振り回すな!迷惑なんだよ!」

 

 この言葉を聞いた途端に冷静ではいられなくなってしまい彼の頬を叩いていた。

 

「たかが一度ライブを聞いただけで私はともかく他のメンバーを侮辱しないで!」

 

 私の数年の努力を彼の一度で『ごっこ』扱いされたくはない

 

「一回聞いてわかるほどバンドになってないって言ってんだよ!」

 

 今度は逆の頬を叩いた。リサは勿論紗夜やあこ、燐子の事まであんなどうでも良さそうな顔をしていた彼に否定されるのは許せなかった。

 

「もう一度、言ってみなさい…リサや他のメンバー全員の前でもう一度全部言ってみなさい!」

 

 歌う以外で大声を出すのも瞳から熱い物が込み上げてくるのはいつ振りだろうか

 

「二人共!何やってるの!?」

 

「…っ失礼するわ!」

 

 彼がリサが帰宅した事で気を取られた瞬間に私は今井家を飛び出していて気がついたら昔三人で遊んでいた公園のブランコに腰を掛けていた、多分みっともない顔をしていると思う。

 

「にゃーお…」

 

 猫だ、昔からここに住み着いていてカズが拾おうとして母親に諦めろと言われていた野良で私がこの公園で見かけた時は世話をしている内の一匹だった。

 

「…アナタに出会ったのもここだったわね」

 

「んなーご」

 

 ブランコから腰を上げて猫の下顎を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らした。

 

「友希那!こんな所に…探したよ」

 

 息を上げたリサがやってきた。多分彼の事だからあの状況でリサと二人きりになるのを嫌ったのかもしれない

 

「ごめんなさい…私には無理だったわ」

 

「とりあえず、経緯を教えて」

 

 私はリサに今回の事を全て話した。

 

「あー…今回はカズが悪いかもしれないね」

 

「私も私よ…」

 

「私からカズには自分で謝るようにさせるからそれで許してあげて?」

 

「…勿論よ」

 

「友希那、カズの事嫌いになった?」

 

 何を分かり切ってる事を…でも意地悪な事をするのが彼女だ。

 

「……姉がそういう事を聞くものなの?」

 

「ほら、確認的な」

 

「…嫌いではないわ」

 

 リサから顔を逸らして口にしたら別に好きと言ったわけでは無いのに体温が急上昇して行くのが分かる、彼女がそれを見てニヤニヤしていることも

 

「そっかぁ、カズにも春が来るかぁ」

 

「…何でそうなるのよ」

 

「そりゃ元々は仲良かった二人が仲違いしたままなんて嫌だもん」

 

「リサらしいわね」

 

 それが彼がシスコンを拗らせる原因でなければ喜ばしいのだけど

 

「あっはっはーそれほどでも…そろそろ戻ろっか、カズも落ち着く頃だと思うし」

 

「そうね…私は自分の家に戻るわ、彼が落ち着いたのにまた怒らせたら悪いわ」

 

 そう言って自宅までの帰り道は昨日と違ってリサは不機嫌そうで会話が無かった。

 

 この日は現実に反比例して良い夢が見れた、そのおかげで調子は悪くない。

 

 翌日の放課後、私はここ去年からの日課をこなす事にした。

 

「これ位で良いかしら」

 

 NFOと言うゲームをカズがプレイしていると聞いて、もしも話を振られた時の為に私もプレイしている。と言っても彼が他人とプレイしてるのを見て遠回しに支援する位で、そもそも現実で彼とはあの様だ。多分このゲームの話はしないだろう

 

「まずはカジノね」

 

 彼がよく足りないと言ってる物はカジノのギャンブルやミニゲームで溜まるコインと交換で手に入る物、らしいので私が稼いで彼の手に渡る様にしている。

 

「確かもうそろそろログインする頃ね」

 

 彼のアバターがログインして私のアバター《イユ・マキナ》に近づいてきた。

 

イケナシエル『あ、また会いましたね』

 

イユ・マキナ『えぇ、この時間はいつも余裕があるの』

 

イケナシエル『まぁ俺も人の事言えないか…さてソロで素材集めるとしますか』

 

イユ・マキナ『待ちなさい、これを持って行きなさい。』

 

 彼のアバターにアイテム交換機能でコインを必要な分渡す。

 

イケナシエル『またですか?何でそんなにこれくれるんですか?』

 

イユ・マキナ『私には無用の長物よ』

 

イケナシエル『じゃあ他のコンテンツやりましょうよ…』

 

イユ・マキナ『私はこれが好きなのよ』

 

イケナシエル『はぁ…ならありがたく貰いますけど』

 

「そもそもイケナシエルって何なのかしら…」

 

 一度チャットで彼に聞いたもののはぐらかされた。

 

「もう少しやっておきましょう」

 

 どうやら私は純粋にギャンブルが少し好きらしい

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 前回のライブが終わってから初の練習があった。

 

「今日はここまでにしましょう」

 

「皆お疲れー、友希那今日は調子良かったけど良い事あった?」

 

「いつも通りよ」

 

「湊さんはいつもより歌声に感情が乗っていましたよ」

 

「今日の友希那さんいつもよりキラキラーって感じでした!」

 

「私も…今日の友希那さんはいつもより綺麗だと思いました…」

 

「…急に何よ、皆して」

 

 リサに続き、紗夜、あこ、燐子にも言われてしまった。

 

「皆、友希那の事が心配だったって事!」

 

「そう…悪いわね、心配掛けて。私は心配ないわ」

 

「じゃああこ、この前の男の事聞きたい!」

 

「あ、あこちゃん、それは友希那さんに悪いよ…」

 

「私も気になります、何度か今井さんから聞いた事はありますけど湊さんから彼の事を聞いてみたいです」

 

「…良いわよ、新曲の演奏を初合わせであこがミスしなければだけど」

 

「何であこだけ!?」

 

「あこ責任重大だねー」

 

「リサ姉助けてー!」

 

 結成当時に比べるとメンバー同士の会話も増えた随分増えた。

 

 

 

 帰り道、リサは少し用事があると言って別行動になったので私1人になり、本屋に音楽関係の雑誌を買いに言った途中近所の女子校の生徒に声を掛けられた。

 

「あ、あの!Roseliaの友希那さんですよね?」

 

「そうだけど、貴女は?」

 

「あ、市ヶ谷有咲です…」

 

「そう、花女の生徒が何か用かしら?」

 

「イケナシエルについて話したい事があるんですけど」

 

「その、イケナシエルの事を私は知らないのだけど?」

 

 勿論知っている。けどあくまで他人の振りをした。

 

「あー…本名は知らねーんだけど名前はリサさんの弟の事」

 

「詳しく聞かせて」

 

 話を聞く以外に答えはない。

 

 こうして新しいガールズバンド『Poppin'Party』のメンバーらしい、市ヶ谷さんと近くのカフェで話す事になった。

 

「それで、カズがどうしたの?」

 

「アイツの事何か勘違いしてるって聞いたんすけど…」

 

「その事ね、機会を作って…今度こそ話し合うわ」

 

「なら良いんですけど…」

 

 そもそも彼女はイケナシエルとして知っているだけで何故そこまで彼を心配しているのだろう?それより今は聞きたい事がある。

 

「イケナシエルの名前って何が元なのかしら…?市ヶ谷さんは何か知っているかしら?」

 

「あー…あんまり良いもんじゃないですけど知ってますよ」

 

「是非教えて頂戴」

 

「え?あ、はい」

 

 ずっと気になっていた事だ、勢い余って両手を取ってお願いしてしまった。

 

「まぁ…あいつシスコンなんでリサさんの名前を使ってるみたいで…」

 

 ペーパーナプキンに何やら単語を書き始める市ヶ谷さん、イケナシエルのどこにもリサとは入らない筈なのだけど何なのかしら?

 

「まず、姉貴の事をネキと呼ぶネット用語がありまして、それでリサネキ。それをローマ字で分解して『Lisaneki』それを逆読みすると…」

 

「イケナシL、ね…何故Lがカタカナなのかしら」

 

「天使の名前にエルが付くからとか言ってましたよ、聞いた時は流石に引いた」

 

 カズらしい…それよりここまで来ると彼を振り向かせられる自信が無くなる。私も人の事は言えないHNだけど

 

「成程…市ヶ谷さんありがとう、お代は払わせて貰うわ」

 

「そんな悪いっすよ!私から声掛けて先輩に奢らせるとか!」

 

「情報料よ」

 

「あんな気持ち悪い情報に払うつもりですか!」

 

 説得されて会計はお互い半分ずつになった。

 




イユ・マキナの由来

イマイ・ユキナ→(交互にして)イユマキイナ→(まだそうではないので一文字抜かして)イユ・マキナ


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百式機関短銃様
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Awkward senior

日刊53位になったり好評価いただきました!
☆10 kuro@ルーミア推し( ˇωˇ )様 KIRAMERO様
☆9 アイリP様 羽乃 秦御様 妖魔夜行@様
☆8 かきたま様
お気に入り登録者様の皆様ありがとうございました!


 あの一件以降姉貴に気を使われているのがよくわかる。露骨に友希那さんとRoseliaの話をしなくなった。

 俺も何度か彼女の元へ謝りに行こうかと考えた、けどその度に彼女の泣き顔が脳裏にちらついて、その足を止めた。

 

「なぁ、俺ら何に来たんだっけ?」

 

「ライブだろ?」

 

「でも、ここライブハウスじゃないだろ」

 

 話題は変わるが金曜日になり流星堂に裕司と来ていた

 

「…で、ピンポン押せよ」

 

「え、俺が押すの?本来招待されてないのに?てかインターホン無くね?」

 

「裕司はそういうの得意そうじゃん」

 

「どういう意味だよ!」

 

 ピンポンダッシュしてそうじゃん

 

「…いや、漫才やってないで入れ」

 

 流星堂からいっちーさんが出てきた。あ、いっちーさんのいっちーて…そういう

 

「HN雑過ぎないか?」

 

「お前の意味わかんねーのよりマシだ」

 

「因みに何なんだ?」

 

「イケナシエル」

 

「何だよ、イケナシってしかもエルって天使か何かか?」

 

「聞かない方が良いぞ、呆れるだけだし…それより付いて来い」

 

 そういや、いっちーさんに出会ったばかりの時に聞かれたから言ったな

 

「お前…何の意味を込めたんだよ…」

 

「深くは無いんだけどな」

 

「…まぁそんな事よりさ」

 

 いっちーさん…もとい、市ヶ谷さんの後ろに付いて行く途中、裕司の顔が何時にも増して真剣な顔をしていた。何か悩みでもあるのだろうか?

 

「何だよ?」

 

「お前いつこんな美少女と知り合った?」

 

 小声で聞いてきた、まぁ本人の前だし当たり前か

 

「ゲーセン…」

 

「ハイスコア的な出会いか?」

 

「いや…別にそう言う訳じゃ…」

 

 急に市ヶ谷さんが蔵の前で止まった

 

「おい、カズ。俺らが招待されたのライブだよな?」

 

「…その筈」

 

「それは発案者に言え、私だって聞きたい位だ。ちょっと待ってろ」

 

 こうしてまたされる事、数分後。市ヶ谷さんに呼び出されて蔵の中に入る。

 

「皆ー!盛り上がってるー!」

 

 ネコミミの髪型の女子が声を上げた。

 

「…マジでライブだ!」

 

「裕司、そこじゃない!」

 

「私達!」

 

「「「「「Poppin'Party!」」」」」

 

 市ヶ谷さんはどうにでもなれって顔をしていた、他のメンバーはノリノリだけど…

 

「まずは一曲目行くよー!」

 

「流れで始まるのか!流れで!」

 

 何ともアクが強いバンド、Poppin'Partyのライブが始まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 二人しか観客が居ないのにライブは続き途中でメンバー紹介も含みつつ、無事に終了してしまった。

 

「……えーと、これはどういう事だ?」

 

「クライブ」

 

「そうじゃない!てかクライブって何!?」

 

「蔵のライブ」

 

「そうじゃねぇぇぇぇ!」

 

 ギターの花園たえに翻弄されていると裕司が肩に手を置いてきた。

 

「お前こんな良いライブにケチ付けんなよ」

 

 手遅れだった!こいつ頭Poppin'Partyしてやがる!

 

「クオリティの話じゃなくてな…色々ツッコミどころが多すぎてヤバいんだよ!」

 

「うーん、おたえに一々ツッコミ入れてたら持たないと思うよ?最初なんてそれで有咲も過呼吸気味だったし」

 

「途中で対処法を編み出さなかったら私の胃が危なかったな…」

 

「おい、メンバーがそれ言っちゃうのか!」

 

 ドラムの山吹沙綾とキーボードの市ヶ谷さんまでそんな事を…そこからの記憶は思い出したくない。だって、6対1とか勝てる訳がないだろ?

 わかった事はPoppin'Party…略してポピパのライブリハーサルだった事だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 頭Poppin'Party事件が終わってから裕司を駅まで送って、公園のベンチで小休止していた。

 

「どうしてバンドってのはああなのか…」

 

「んなー」

 

 昔からこの公園に住み着いてる猫が近寄ってきて膝の上に乗ってきた、一度はこいつを飼おうとしたら父さんが猫アレルギーだったので許可されなかったのはショックで未だに覚えてる。

 

「おーよしよし」

 

「みぎゃー」

 

「お前いつまで生きてんだよ、猫的にはもうお爺ちゃんだろうに」 

 

 なんかこいつと出会った日に何かあった気はするけど…何だったかな?

 

「にゃっ」

 

 頭を撫でたやったら手を右手で引っかいて下顎を出してきた。

 

「いって…なんだよ、急に」

 

「んにゃ」

 

 よく見ると下顎に何か着いてるので取って見ると毛が付いていた、恐らく人の髪の毛

 

「誰かこいつと会ってたのか、変な奴…いてて!」

 

 今度は噛まれた、今日のこいつは何なんだ…えらく暴力的だ。

 

「みゃーお!」

 

 お次は付いて来い、と言わんばかりに膝から降りてどこかへ向かい出した。少ししてピタリと止まったと思いきや商店街方面の道で立ち往生だ。

 

「年取って耄碌してきたのかな…」

 

「にゃー…」

 

「商店街に行きたいのか…それとも…」

 

「けけけッ…」

 

 何かを見つけたらしく駆けて行った。何だその鳴き声、と思いながら後を追うと姉貴が居て少しだけ安心した。

 

「カズじゃん。ポピパのライブどうだった?」

 

「あー…何か勢いがあった…てか姉貴もメンバーに一回は会った事あるんじゃないの?」

 

 スタジオで練習する時に入れ違いでとかあるだろうし

猫は姉貴を見てこいつじゃないといった感じでどこかに行った

 

「うん、会った事あるよー」

 

「じゃあ俺に聞く必要ないじゃん」

 

 姉貴も帰りなので久しぶりに二人並んで帰る事になった。姉貴がバンドを始めてからは初だ

 

「ねぇねぇ、有咲とはどんな関係なの?」

 

「…普通にゲーム仲間だけど?」

 

「ホントにー?それだけでライブに呼ぶかな?」

 

 何か姉貴の機嫌が悪くなった気がする。リハーサルだったから深い意味は無いと思うんだけど

 

「姉貴は勘繰り過ぎなんだよ、ラブコメじゃないんだからさ」

 

「でもわざわざ女の子が呼んでくれたんだから何かお礼はしときなさいよ、わかった?」

 

「わかったよ…ところでさ姉貴聞きたい事があるんだけど」

 

「改まって何か聞く事って何?好きな人でも出来た?」

 

 どの口が…いや、そう言う好きじゃないけども

 

「姉貴さ、また辛くなってない?」

 

 姉貴は一度挫折して音楽から離れた事があってその時は色々大変だったのだ。

 

「大丈夫だよ、今度は」

 

「なら良いんだけどさ…」

 

「というか」

 

 頬を引っ張られた。割と力強く

 

「いふぁいいふぁい」

 

 数秒つねって満足したのか放してくれた。

 

「アンタは他人の事より自分の事をどうにかしなさい」

 

「…わかってるけどさ、俺完全に嫌われてるだろうし話し合いにならないと思うんだけど」

 

「こらこら、やる前から諦めない。昔みたいに友希那お姉ちゃんって呼べとまで言わないからさ」

 

「それいつの話…」

 

 確かに大昔はそうだったけど…そもそも姉は姉貴が良いというか…

 

「最低限でも普通に会話する位にはなりなさいよー」

 

「…そこまで言うなら、まぁ」

 

 死んでも今の友希那さんと仲良くするなんて嫌だけど…姉貴の頼みならそこまで言うなら

 

「じゃ、頑張りなー」

 

 その後は雑談をして無事帰宅、何もなく一日が終わった。

 

 

 翌朝、時刻は6時。携帯に通知が来て目が覚めた。

 

「誰だよ、この時間に…」

 

 中学の時の知り合いの上原ひまりだ、紹介したい人が居るから昼に指定の場所に来いとの事らしい

 

「もうちょい寝てたかったんだけど…はぁ」

 

 二回の自室からリビングに降りて朝食の準備をしていると父さんが降りてきた。

 

「おはよ、父さん」

 

「おはよう、珍しいねカズがこの時間に起きてるなんて」

 

「目が覚めちゃってね、それより父さんは今日も仕事?」

 

 パンをトースターで焼いている間に目玉焼きを父さんと自分の好みに合わせて焼く、ベーコンは品切れしていた。

 

「そうだね、昨日の夜に母さんに文句言われたけど…」

 

 そう言いつつも隔週で夫婦でどっかに出掛けてる辺り仲が良いのだろう

 

「いつもの事じゃん?」

 

「それより学校の方は大丈夫か?こっそりバイトして電車使っても良いんだぞ?」

 

「あー、それね。慣れて来ちゃってさ、止め時が見つからなくてさ」

 

 皿に父さんの分と自分の分を乗せてテーブルに置く

 

「コーヒー淹れといたぞー」

 

「ありがと…」

 

 適当にトーストを食べている途中に父さんは出て行き、時刻は9時もう良い時間なので姉貴を起こしに行く、母さんはこういう時に起こすなと言われているので起こさない。

 

「姉貴ー、起きてるー?」

 

 念のため姉貴の部屋をノックして起きてるか確認する。大体は起きていないから面倒ではあるけど一応だ。数秒待って返事が無いので部屋に入る。

 

「…姉貴ー、もう9時」

 

 姉貴の寝顔を見ていたい気もするけど、起きてもらう

 

「…んぅ、あと5分…」

 

「そう言って起きないやつが大半なんだけども?てか今日は用事無いの?」

 

「…13時からバイトー」

 

「今14時だけど?」

 

「ホント!?遅刻じゃん!」

 

 姉貴は寝間着のまま部屋を飛び出して身だしなみを整えに行った。引っ掛かるかぁ…大嘘こいて起きてくれるのはありがたいけど

 

「俺はゆっくりしよ…」

 

 リビングに戻って優雅にコーヒーを飲んでると姉貴が背中に寄っかかってきた。普通にドッキリするからやめてほしい

 

「まだ午前中じゃない、騙したわねー!このこのー」

 

「いや、13時にバイトならもう起きとけよ…」

 

「そこはありがたいけどさー、朝ご飯食べた?」

 

「父さんと一緒に食べた。姉貴は適当に食べといて」

 

「はーい」

 

 ようやく離れてくれて自分の分の朝食を準備しに行った。そこからは特に何もなく集合時間の30分前に指定のバーガーショップに来て適当にドリンクを飲んで待っていると何か見覚えのある二人を連れたひまりが来た。

 

「お待たせー、待った?」

 

「待ってないけど…」

 

「あれれ?今日は妙に不機嫌だね」

 

「お前、呼び出したの何時だよ」

 

「6時だよ?」

 

「速いよ!寝てるよ!休日のこの時間は流石に寝てるよ!」

 

 おかげでちょっと眠い、裕司からの連絡だったら既読無視して寝てた。

 

「そう?ちょっと早く目が覚めるとあれ位の時間なんだけどなぁ」

 

 だからってあんな時間じゃなくても良いだろ…挨拶と自己紹介も程々に今回の要件を聞く事にした。

 

「それで何で紹介しようと思った訳?」

 

「うーん、リサさんの弟だから?」

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

 帰って良いか…

 

「リサちーの弟ってイケイケな人かと思ったらそうでもないんだね」

 

「そうそう、友希那さんと喧嘩してたのがあのリサ姉の弟って言うのが意外だよ!」

 

「そういう話は後にして今回の本題はこれ!」

 

 バァン!と言う効果音がなりそうな程ドヤ顔をして謎のパネルを出したひまり。そのパネルに書かれた文字は

 

「「「姉について?」」」

 

 ひまり以外でハモる、ああ…なんか嫌な予感が…

 

「と言うか、バンドやってる姉が居る訳でもなく年上じゃないひまりが仕切るんだな」

 

「一応Afterglowのリーダーだからね!」

 

「そこ関係あるのかなぁ?」

 

「良いの!はい、日菜先輩からどうぞ!」

 

 最近あんまりリーダーぽくないとか言われたんだろうか…

 

「うーん、あたしかー、最近は特にお姉ちゃんとは話せてないから何でだろうなぁって位なんだよねー。あこちゃん何かRoseliaであたしについて何か言ってない?」

 

「うぇっ!?その…たまーに聞きますけど…」

 

 これもしかしなくても地雷だろ!どうすんだこれ!俺は紗夜さんの事知らないから何とも言えないし、中三の子が高二の先輩から姉について聞かれる状況が不憫だ!この状況を打開するためにひまりにアイコンタクトを送ると

 

「…こひゅー…こひゅー」

 

 鳴らない口笛を吹いていた!自分でも不測の事態なのかよ!ある程度そこら辺把握しとけよ!

 

「そもそも日菜さんは音楽とかやってるんですか?」

 

「んー、最近るんって来てるのがギターかな?何となくオーディション受けたらしてみたら受かっちゃったんだよねー」

 

 ギター…ギター?確か紗夜さんってギター担当だったな?

 

「…もしかしてそれって紗夜さんに話しました?」

 

「うん、そしたらね!酷いんだよ!「あなたは私からギターまでも奪うのか」って言われて喧嘩になっちゃったんだー」

 

 アウトっ…!あこの冷や汗かいて「あははぁ…」とか苦笑いしてるし話題変えないと不味い

紗夜さんと正反対の性格って時点でちょっと嫌な予感したけどなんてこった。

 

「と、とりあえずギターの話じゃない話題で会話してみれば良いんじゃないんですか…?」

 

「じゃ、じゃあ次!ひまり!さっきから主催者が黙ってるんじゃないよ!」

 

 強引に話題をひまりに振る。

 

「私は普通かなぁ、たまにお姉ちゃんが私のプリン食べて喧嘩する位かなぁ」

 

「そういうの良いなぁ、あたしのおねーちゃんの場合一緒にパピコ食べようって言っても断れらるもん」

 

 もうダメだ…!何話しても日菜さんと紗夜さんがあんまり仲がよろしくない方向になる!

 

「あ、あとは…うーん特にないかなぁ」

 

「じゃ、じゃあ次宇田川さん…」

 

 目が泳ぐひまり、だ、ダメだこいつ使い物にならねぇ…

 

「あこのお姉ちゃんはすっごくてね!こう、ババーンって感じでドガーって感じでね!」

 

 自分のお姉ちゃんの話しろって言われたら嬉しいよね!その無邪気さがまぶしいけど今はやめてー!

 

「と、巴は…そんな感じだよねぇ」

 

 ひまりも同じバンドやってるから話せる事あるだろうけど適当な同調しかしてねぇ…彼女までこの話で盛り上がったら終わりだけど…とりあえず二人にはその話をしておいてもらって日菜さんに肩をつつかれた。

 

「ちょっと飲み物買いに行こうか、あたし喉乾いちゃった」

 

「あ、はい」

 

 謎の圧力で断り切れずに二人を置いてカウンターへ向かった。

 

「リサちーからさ、おねーちゃんとあたしの事何も聞いてない?」

 

 やっぱりそういう事か…思い返しても基本友希那さんの事だった。腹立たしい

 

「いや、あんまり…俺はRoseliaからはちょっと距離取ってるんで…」

 

 主に友希那さんからだけど…

 

「敬語とかそういうの良いよ、メンドーだし」

 

 待って結構この人怖い、何か急に声低くなってるんだけど

 

「…ならお言葉に甘えるけど、俺が聞いた話だと紗夜さんは犬が好きって事位しか…」

 

「あー、それなら知ってる。隠さないでも良いのにねー」

 

「まぁ…ああいう人は自分のイメージ崩したくないんでしょ」

 

「そうかな?」

 

「日菜ってあんまり人の事考えないだろ」

 

「あたしはあたしだし、考えたところで意味無くない?」

 

 やっぱそういう人だよなぁ…適当にやって際限なく成功できる人、対して紗夜さんは姉貴目当てで見たRoseliaの記事で彼女は結構努力をするタイプの人に見えた。確か「練習は本番のように、本番は練習のように」とか言ってたし、多分あの人からしたら日菜みたいな人は…鬱陶しく見えたのだろう

 

「でも紗夜さんは紗夜さん何だからお前が良くてもあっちは気に入らないかもしれないだろ…」

 

 絶賛喧嘩中で何言ってんだか、死んでしまえ

 

「うーん、やっぱわかんないや」

 

「だろうな」

 

 話してる内にレジが開いたので四人分の飲み物と適当にポテトを買って席に戻った。

 

「あ、ようやく戻って来た次はカズ君の番だよ!後飲み物ありがとう!」

 

 こんにゃろう、こっちがどんな思いして買って来たと…

 

「姉貴の話ねぇ…」

 

「リサ姉!Roseliaだと結構カズさんの話しますよ!歩きで隣町の学校行ってるとか色々!」

 

「…あー、そっちではそうなのか…」

 

「リサちーと同じ羽女は無理でも近くに高校なんて一杯あるし、何でそんな面倒くさい事してんの?」

 

「歩いて行けばバイトしないで金くれるって言われたから」

 

「それってリサ姉に言われたからですか?」

 

 むしろ姉貴に言われてたら金貰わずにやる…というのはさておくとして

 

「母親だよ、出来なければ途中でやめればいいやって思ってたけど無理だった」

 

「そういえば中学時代に羽女の高等部が共学になんないかなぁってずっと言ってたよね?」

 

「おい、やめろひまり」

 

「後はねぇ」

 

「それ以上言うなぉ!」

 

 この後滅茶苦茶暴露された。




多分次回リサ視点です。

感想や批判がありましたら是非お願いします


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Sister anxious

今回は3000文字程度です、カズ視点以外はこれ位の方針で行きます

28日の日間ランキング、29位に乗りました!ありがとうございます!

☆10 ひかりな様
☆9 匠.様 パスタにしよう様 噂のあの人様


高評価ありがとうございます、お気に入り登録者様もこれからもよろしくお願いします!


 アタシの悩みは親友と弟の仲が悪くなってしまった事だ。昔はそうではなく弟が親友を姉として慕う位の仲ではあった筈なのだけど、親友が音楽活動を本格的に始めてから仲が悪くなったらしいけどそれが直接の原因ではないらしい事がまたややこしい所だ。

 

「お、アンタまだ居たんだねー」

 

 部活の練習の帰りに近所の公園近くで昔からここら辺に住み着いてる猫が寄ってきた、カズが家で飼おうとしたけどダメで友希那がちょいちょい面倒を見ているらしいけど自分で餌とか取れてるのかな?

 

 猫が来た方に戻ってどこかに行ったのを見送ると入れ替わりでカズがそこに居た。

 

「カズじゃん。ポピパのライブどうだった?」

 

「あー…何か勢いがあった…てか姉貴もメンバーに一回は会った事あるんじゃないの?」

 

 かなり渋い顔をしている…まぁ確かにポピパのメンバーは独特だから振り回されたんだろうなぁ、アタシも会ったのは少し前だけど

 

「うん、会った事あるよー」

 

「じゃあ俺に聞く必要ないじゃん」

 

「ねぇねぇ、有咲とはどんな関係なの?」

 

 少し話した事はあるけど、何か引っ掛かるんだよねぇ

 

「…普通にゲーム仲間だけど?」

 

「ホントにー?それだけで自分のバンドのライブに呼ぶかな?」

 

 そもそも友希那の気持ちを知ってて応援しているアタシとして彼女の恋を応援したい気持ちもあるし、カズが選んだ相手なら良いという気持ちの狭間で数年悩んでいるのだ…姉のアタシが出てきて良い話かわからないけど

 

「姉貴は勘繰り過ぎなんだよ、ラブコメじゃないんだからさ」

 

「でもわざわざ女の子が呼んでくれたんだから何かお礼はしときなさいよ、わかった?」

 

 恋愛抜きで礼儀としてそれはしっかりして欲しい

 

「わかったよ…ところでさ姉貴に聞きたい事があるんだけど」

 

「改まって何か聞く事って何?好きな人でも出来た?」

 

 そうだとしても絶賛拗れ中の友希那ではないんだろうけどさ…

 

「姉貴さ、また辛くなってない?」

 

 あー…カズ的にはまだ気になるとこなんだね、Roseliaを結成する前に一度友希那についていけなくなったアタシはベースを辞めた。その時の事を未だに気にしてるんだね

 

「大丈夫だよ、今度は」

 

「なら良いんだけどさ…」

 

「というか」

 

「いふぁいいふぁい」

 

 頬を引っ張った。うまく発音できていない所が面白い

 

「アンタは他人の事より自分の事をどうにかしなさい」

 

 あんまり友希那との事は口を出したくないけど、少し位なら、ね

 

「…わかってるけどさ、俺完全に嫌われてるだろうし話し合いにならないと思うんだけど」

 

「こらこら、やる前から諦めない。昔みたいに友希那お姉ちゃんって呼べとまで言わないからさ」

 

 結構考え方が後ろ向きなんだよねぇ…昔はもっと無邪気で普通に可愛かったのになぁ…今はツンデレっぽい可愛さだけど

 

「それいつの話…」

 

「最低限でも普通に会話する位にはなりなさいよー」

 

「…そこまで言うなら、まぁ」

 

 ぶっきらぼうな言い方は相変わらずだけど素直に聞いてくれる所も相変わらずだった。

 

「じゃ、頑張りなー」

 

 ホントに友希那の為に頑張って貰わないと困る。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日、バイトのシフトが後輩の青葉モカと被って二人きりになった。

 

「お客さん来ないっすね~」

 

「ま、土曜のこの時間だしね」

 

「弟さん、どうなりました~?」

 

「あ、あ~…あんまり好転してないかなぁ…むしろ悪化してると言うか…」

 

「大変そうですね~」

 

 さてはあんまり大変そうに思ってないな?

 

「いつからああなったかなぁ」

 

「そもそもいつからカズの態度の変わったんですかー?」

 

「うーん…中二の時かその前か…それかアタシがRoseliaに始めてからか…」

 

 その時期にアタシに色々あったけどそれでカズと友希那の仲が拗れるのはよくわかんないなー

 

「リサさんも罪作りな女ですね~」

 

「え?なんでアタシ?」

 

「そういうとこですよ~これ以上、モカちゃんは何も言いませんけど~」

 

 どういう事なんだろう?友希那に聞けばある程度わかったりするかな?妙にモヤモヤしながらバイトをすることになった。

 

 その後にRoseliaの練習で友希那が約束通りあこがミスしなかったので友希那がカズの話を…とはならず、少しミスをしてしまった。

 

「う~友希那さんからカズさんの事聞けると思ったんだけどなぁ」

 

「アレ?あこ、カズの名前知ってたの?」

 

 確かRoseliaでカズの事を話す時に名前は出したことなかったんだけどな

 

「この前会ったんだ~それで色々話すことができたんだけど…リサ姉の事ばっかになっちゃって…カズさんからは聞き出せないかなーってリサ姉から話してよー!」

 

「前も言ったけど、アタシはそんなに二人の関係に詳しい訳じゃないんだよねぇ…」

 

 友希那がカズをどう思ってるかは知ってるだけど、カズから友希那をどう思ってるかは…純粋に嫌いなだけなら良いんだけど…ねぇ

 

「そもそもこの間のライブの時、彼の近くに行って感想を聞く必要、なかったですよね?」

 

「…それは、彼の言う事がメンバーに影響しない様に─」

 

 友希那の言葉を紗夜が遮る

 

「誰かも知らない人に何を言われても私は気にはしないし、気にしたところでRoseliaには関係ない…宇田川さんのやる気に繋がっていたので今までは言いませんでしたが--」

 

 紗夜の問いに答えられない友希那、答えられる筈が無い。だって自分の歌を好きだと言ってくれた人で好きな人の評価が気にならない訳がない。だから友希那はあの時アタシというクッションが居なくても今のカズに感想を聞こうとなんてしない…と思う。

 

 そんな友希那に援護射撃を飛ばす為に紗夜の言葉をアタシが遮った

 

「ま、まぁ…紗夜もそこまでにして練習の続きやろうよ!アタシから言っておくからさ」

 

「姉である今井さんがそう言うなら…次は無いと思ってください」

 

「……分かっているわ」

 

 この日、友希那と紗夜に少し溝が出来たのかもしれない。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「…私は、どうするべきだったのかしらね」

 

 家の目の前で友希那がそう呟いた、練習している特に様子はおかしくなかったけどさっきの時の事を気にしているらしい。

 

「アタシは友希那の好きにすれば良いと思うよ?今までもそうしてきたじゃん」

 

 うん、悪い方向に行っちゃうかもって思うけど…やっぱり友希那が始めた事だし、アタシはそれを応援する…友希那が昔みたいに笑ってくれるようになるんだったらアタシは何だってするそう決めたんだ。

 

「…そう、よね」

 

「うん、じゃまた明日ね」

 

「ええ…また明日」

 

 結構遅くなったなぁと思いながら自分の家に帰ってみたらリビングでカズがうつ伏せで唸ってた。

 

「う~~~ひまりのやつ復讐してやるから覚えとけよ…」

 

「ただいま~…って母さんと父さんは?てかフローリングの上で寝そべるのやめな」

 

「おかえり…母さんは風呂、父さんは部屋で仕事」

 

 カズはそう言うと起き上がってわざわざ二人分の飲み物を持ってきてくれた。

 

「サンキュ」

 

 受け取ったスポーツドリンクを一口飲んでソファーに腰を掛けると、妙に離れた距離にカズが座った。

 

「どしたの?そんなに離れて?」

 

 バイトと練習の後だったから臭かったかな?

 

「別に…深い理由はないけどさ……」

 

「無いの?それはそれで気になるけど…そういえばさっきひまりがどうとか言ってたけど何かあったの?」

 

「大した事じゃない…それより紗夜さんってさ、ストイックで努力家な人だよね?」

 

「うん、そうだけどそれがどうかしたー?」

 

 珍しく自分からRoseliaの事を聞いてきた。

 

「…話、する機会があるかもだからさ」

 

 急に?…もしかして…いや、確かに友希那と紗夜って似てる所多いけど……

 

「ダメ!お姉ちゃんそんなの許さないんだからね!」

 

「は?何言ってんの?姉貴大丈夫?」

 

「いや、急に会った事が無い姉の知り合いの話しだす方が心配だからね?」

 

 そう言うと少し悩んでからカズが口を開いた。

 

「…日菜から紗夜さんと仲が良くないって聞いたから、何となく」

 

「あ、そう言う事…」

 

 いつの間に日菜と知り合ったのか…あことも知り合ってたしその時なのかな?

 

「まぁ…でも…そうだよなぁ…めんどくせ」

 

「いや、アタシにそう言われてもなぁ、そもそもカズはあの二人をどうしたいの?」

 

「家族内でそれに双子で仲悪いって気持ちい話じゃないと思って…」

 

 そういう考えが出来るのに何故幼なじみとの関係はああなのか…昨日似たような事言ったばっかなのにこの子は…

 

「あー…うん…アタシもあの二人の事はどうにかしたいと思うけどさ、もうちょっと本人達に任せたら?」

 

「…俺より二人に詳しい姉貴がそういうならそうしとくけど」

 

 納得してくれた様で何よりだ。さてファミレスでの事を注意し--

 

「あ、そうだ。明後日裕司のデートについてくことになった」

 

「ふーん…うん?」

 

 今ちょうどボーっとしていたせいか正確に聞こえてなかった、もう一度聞こう

 

「ごめん、もう一度言って」

 

「明後日」

 

「日付じゃなくて内容」

 

「デートに行くことになった」

 

 カズに近づいて胸倉を掴んだ

 

「誰!?もしかしてアフロ!?ポピパ!?Roselia!?」

 

「何でバンド連中なんだよ…」

 

 カズの知り合いが居るバンド名を上げたけど違うみたいだ…なら誰?

 

「じゃあ誰なの?」

 

「元カノ?」

 

 友希那の恋が負け戦になりそうでアタシは膝から崩れ落ちた。




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Red rice

☆10
kajyuu0%様 もこもこさん様 アイガイヲン様  エビハウ様
☆9
榛東様 ハイパー扇風機様 はいふりおじさん様 特にはない様

高評価ありがとうございます!

8月31日に日間14位でした!これからもよろしくお願いいたします!

ロクにチェックできてません()


「裕司を殺さなければいけないかもしれない」

 

 昼休み、学校の屋上で真剣にそう思った。

 

「ふぁっ!?急にどうしたお前」

 

「お前のデートの話をしたら姉貴が滅茶苦茶ショック受けてた」

 

「何でリサさんがショック受けてんだよ…もしかして俺の---」

 

「必殺…浅川裕司暗殺拳」

 

「…違うよなぁ!知ってた!だから落ち着け!そしてなんだそのピンポイントな技!」

 

--説明しよう!浅川裕司必殺拳とは特効対象範囲が狭ければ狭い程威力が上がる物とするなら個人に向けた特効にすればとんでもない威力が出ると言う最高に頭の悪い考えで生まれた必殺技である!

 

 裕司がさっきからかなり焦ってる。そんな事言うからだろうに

 

「俺の中だと裕司を殺すか裕司が殺されるかのどちらしか残されてないんだけど」

 

 姉貴に彼氏出来たらコンクリに沈めてやる。絶対にだ!

 

「デッドオアダイじゃねぇか!そもそもお前なんて説明したんだ?」

 

「明後日裕司のデートについてくことになった」

 

 一昨日の会話を思い出す、確かあの時はひまりのせいで疲れてたな…裕司がため息をついて呆れてる。

 

「聞き返されたりは?」

 

「した」

 

「…そん時に何て言った?」

 

「明後日、デート相手は元カノ…て感じで」

 

 そんな感じだった気がする。何であんな動揺してたのだろうか?

 

「それ、元カノって言う前に知り合いの名前挙げられなかったか?」

 

「お前凄いな、なんで分かった」

 

「…はぁ……お前が悪い」

 

「は?何で?」

 

「知らね、知らね…俺は自分の事で一杯一杯だ」

 

 知らねって…こいつ雑になりやがって。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 週初めの月曜日の放課後に自分の元カノとデートをしているところを友人に見守ってもらいたいというのだから裕司のワガママは、はた迷惑な話である。

 

そのせいで俺は学校最寄りの駅のカフェ…の向かいのカフェで裕司のデートを見守ることになったのだ。

 

「ったく…何で友達が元カノと復縁するのを見守らなきゃいけないんだ…」

 

 頼んだコーヒー啜りながら愚痴をこぼしていると向かいのカフェに裕司が彼女を連れて来た。

 

「名前は…愛香だったっけ」

 

 確か彼女の事を書いてある紙を渡されたていたので鞄からメモを見ると

 

・身長:可愛い

 

・学力:可愛い

 

・特徴:可愛い

 

・髪型:可愛い

 

 そこまで読んで紙をしまった。使い物にならないアイツが変な事やって別れたに違いない

 

 裕司には携帯の通話アプリをオンにしっぱなししてもらって俺はその音を聞いている。

 

『なぁ、愛香…俺達y』

 

『すみません、ジャイアントココナッツデカプリオフラペチーノとアイスコーヒーください』

 

 何だそのメニュー、ゲテモノ過ぎるだろ

 

『なぁ、愛香…俺達やり』

 

『裕司、うるさい』

 

『……はい』

 

 あの調子で何で一回でも付き合おうと思ったのか?

 

『ほら、飲みなさいよジャイアントココナッツデカプリオフラペチーノ』

 

 向こうが注文した物が運ばれてきた、そういえばさっき裕司は注文してなかったと思ってたらやっぱりそういう事なのか

 

『あのー…これカップル用ストローが刺さってて1人じゃ飲めないんですが…』

 

『だって、それで?』

 

『ちっくしょぉぉぉぉ!!』

 

 気合いでハート型のストローを一人で吸い出した裕司、その眼は激情か悲しみか…

 

「お客様、こちら相席で宜しいでしょうか?」

 

「あ、大丈夫です」

 

 相席か…相手に怪しまれない内に場所を変える必要がありそうだな…

 

「…アレがリサの言っていた貴方の元彼女かしら?」

 

 やたら不機嫌そうな友希那さんが正面に座った。多分また喧嘩するだけだしさっさと場所変えるか

 

「…帰ります」

 

「待ちなさい、少しで良いから話を聞きなさい」

 

 立とうとしたら腕を捕まれた、まぁ…聞くだけなら…聞くだけだから…落ち着け。そう言い聞かせてイヤホンを外した。

 

「…因みに今日ここに来た理由は?」

 

「ここのスタジオに用事があっただけよ?」

 

 嘘ではないな…この人昔から嘘だけは上手くない人だから信用はある。

 

「…さいですか、一応訂正しておきますけど…アレは俺の元カノじゃなくて裕司の元カノなんで」

 

「あぁ…そういう事なのね…安心したわ」

 

 何でそこでアンタが安心する。そもそも勘違いしたっぽい姉貴があんな事してたら彼女なんて出来る訳もないし作ろうとも思わないっての…

 

「それで、話って何です?」

 

 早く謝れ、それだけでまだ俺の心はマシになるんだから、謝れ俺

 

「改めてRoseliaについてどう思って聞かせて欲しいわ」

 

「…その前に一つだけ良いですか」

 

「…良いわよ」

 

「…その、この前は」

 

 心臓がうるさい、周囲の喧噪も自分の息遣いも何もかも聞こえない。

 

「…この前は…すみませんでした…思慮が足りてなかったと思います」

 

 言えた、少しだけ気持ちは軽くなった気がする。

 

「そう、貴方がそう言うなら…私はもう気にしないわ」

 

「……そうですか」

 

 少しだけ空を見上げて息を吐く、多分これで俺がよっぽど頭に血が上らなければ喧嘩にはならない筈…

 

「それでRoseliaについて貴方はどう思っているの?」

 

 そういえばそんな話だった、Roselia以外のガールズバンドだとアフロとポピパ位しか知らないけど…

 

「…ただただ咲くだけで届かない空に、頂点を目指そうとする歪な花」

 

 こんなポエムめいた言葉しか出てこなかった。 

 

「…えらく詩的な表現をするのね」

 

「…聞いたのはそっちでしょう」

 

「…まぁ、貴方の言いたい事はわかったわ」

 

 片耳だけイヤホンを付けて傍聴を再開する。

 

『ねぇ、裕司。私本屋に行きたいんだけど』

 

『あっ…はい』

 

 死にそうな顔で会計している裕司が向こう側には居た。

 

「…移動します、さよなら」

 

「私も行くわ」

 

「は?」

 

 何で付いて来ようとするかな、帰れば良いのに

 

「だから私も行くと言ってるのよ」

 

「何で…」

 

「気になるからよ」

 

 この人、他人の恋路とか興味あったのか意外だ

 

「…さいですか」

 

 会計を済ませて二人で後を追う事にした、正直な所。友希那さんが居た方が怪しまれない確率が高くなるからそれでも良いのかもしれない。

 

「あの二人は何を話しているのかしら?」

 

 近場の本屋の中で適当に雑誌コーナーから裕司達を観察する事にした。

 

「女の方はバンドを始めた、男の方もう相槌しかしてない」

 

 アイツ、尻に敷かれてたんだろうなぁ…そもそも馴れ初めが気になる。

 

「…バンド…こっちでも流行りなのかしら」

 

 知らん、うちの近所で25人もバンドやってる方がおかしいんだ。

 

『裕司、お友達とバンドのライブ行ったんだって?』

 

『そうだけど…それがなんだよ』

 

『ふーん…それってもしかして例のバンド?ロゼなんとか』

 

『Roseliaな…』

 

 なんで急にその話を…?

 

『バンドを始めた今の私はどうかしら?』

 

『え、それってどういう事?』

 

 もしかして、ガールズバンドを熱弁されたから自分もバンド始めて裕司に…って事か?

 

『…そういう所よ裕司』

 

 何かこのまま聞くのは彼女に申し訳ない気がしてイヤホンを外した。

 

「もう傍聴は良いの?」

 

「…帰ります」

 

 後で裕司に謝っておけば良いだろう…

 

「そうね…アレは見ていて良いものではないでしょう」

 

 本屋を出て、駅とは逆の方向に行こうとしたら友希那さんに腕を掴まれた、一々掴まないとコミュニケーションが取れないのかこの人は

 

「駅はこっちなのに何故逆に行こうとしているの?」

 

「俺、徒歩で帰るんですけど」

 

 そう言うと友希那さんが額に手を当ててため息をついた。

 

「それ、本当だったのね…その件で勘違いしていた事は謝るわ…ごめんなさい」

 

 何を今さら、俺は貴方が俺に干渉せず姉貴に迷惑掛けなきゃそれで良いんだ、さっさと帰らせて欲しい。

 

「……とにかく帰りますから」

 

 友希那さんの手を叩き落として、彼女を置いてきぼりにして帰った、子供じゃあるまいし帰れるだろうけど

 

 そこから歩くこと十分頃に携帯に母さんからのメッセージが届いた。

 

『今日はカズの好きなお赤飯よ、ありがたく思いなさい』

 

「いや…好きじゃねぇし」

 

 何で年末年始でもないのにお赤飯なんか…普通に白米が食べたいんだけどな

 

「コンビニで何か買ってこ…」

 

 不本意ながら近かったコンビニに入ると見覚えのある店員が居た。

 

「いらっサンシャイン~」

 

「おい、真面目に仕事しろよ…」

 

 青葉モカだ、アフロの連中は中学時代になんやかんやで知り合ったのだけど、モカが一番アクが強い気がする。

 

「いや~最近語感が似てればバレないって気がして~」

 

「遊ぶなよ…」

 

 やっぱりこいつが居るとツッコミに回らざるを得ないなぁ

 

「そういえばリサさんとはどうなのさ~」

 

「…何で姉貴の話になった」

 

 適当に家族の分の飲み物とごま塩を取ってモカの居るレジに持ち込む

 

「お姉ちゃん大好きなカズの事だからね~」

 

「別に、大好きじゃないって」

 

「でも中学時代にリサさんに~」

 

「わかった、やまぶきベーカリーのパンで手を打とう」

 

「話がはやーい」

 

 嫌な約束をしてモカを黙らせて会計を済ませてようやく家に帰ると

 

『おめでとう!初デート記念!』

 

 と書かれた横断幕がリビングに飾られていた。

 

「いや、何これ?」

 

「父さんは止めたんだぞ。父さんは…」

 

「えー、だってカズの初デートだよ?アタシは嬉しいんだけどなぁ」

 

 何か変な流れになってる、どこでこうなった。

 

「あのさ、全員ストップ。俺はデートしてきてないんだけど」

 

「「「え?」」」

 

 全員の動きが止まった、うん、この人達は…ホントにもう

 

「まずな、デートしたのは裕司な」

 

「あら、薔薇かしら?」

 

 おい、今なんつった母さん、自分の息子を薔薇って言ったぞこの人

 

「で、でもカズが元カノとデートって言ってたじゃん!」

 

「それは裕司の元カノが裕司とデートする話だってば…何か姉貴の様子が一昨日から変だと思ったらやっぱり勘違いしてたのか!」

 

 裕司が学校で言ってた事はこういう事か!確かに言葉足らずかもしれないけど!

 

「まぁ、でも裕司君の祝いで良いじゃないか」

 

 横断幕の『初デート』の前に裕司君のと無理矢理書き足そうとする父さん、実はこの人楽しんでやがるな…

 

「それで、カズは貴方は何してきたの?母さん2対1のデートは許さないわよ?」

 

「俺?俺は遠くから裕司を見守ってただけだな…」

 

 そういえばあの店のコーヒー良かったな…今度豆買って家で飲んでみよう

 

「へ、へー…その時友希那と会ったりしてなかった?」

 

 急に目が泳ぎ出した姉貴、やっぱり友希那さんに勘違いしたまま話しただろ、また面倒臭い勘違いが増えかけてたと思ったら…!

 

「…会ったけど?」

 

「い、いやー…妙に友希那と普通に話せてたからお姉ちゃん嬉しいなーって」

 

「もしかしなくても姉貴見てたでしょ」

 

 何でそこまで知ってるの、と言うかボロが出過ぎてる…

 

「だってアタシの知らない所で彼女作って別れてたって思うと心配で心配で…」

 

「と思いつつも?」

 

「ちょっと面白そうかなぁとか…」

 

 本性現したな!この姉貴何かもうダメだ!その横で母さんが何だダブルデートかつまらんみたいな雰囲気を醸し出した。

 

「…で、結局今日の飯は赤飯な訳?裕司の復縁祝して?」

 

 頭が痛くなってきた、こんなの初めてだ。

 

「仕方ないじゃない!もう私が赤飯九合炊いちゃったんだから!」

 

「炊きすぎ!?」

 

 確かに今井家は姉貴が一番食べる量が少ないけど一般女子高生よりは食べる位な食欲旺盛な家庭とは言え!炊きすぎ!

 

「そもそもどこにそんな大容量の炊飯器あったの!?」

 

「お鍋を2,3個使ったに決まってるじゃない!」

 

 何故ベストを尽くしたのか!ダメだ…この家終わってる…今井家って地獄なんだなぁ…

 

「よし、出来たぞ」

 

 いつの間にかカラーリング豊かに『裕司君の監視ついでにカズの』と横断幕に書き足していた。

 

「だから!何でこうもどうでも良いことに本気出すの!?」

 

「まぁまぁ、座りなさい、今日は私が腕によりを掛けて作った料理出すから」

 

 こんな感じで今日の夕飯が始まってしまった、何でこうなった。どこで狂ったか今井家

 

「まずは普通に赤飯ね、これと言って特に手間は無いわ」

 

 それで良いのか母よ…まぁマシな方だと思っていると次々に皿が運ばれてきた。

 

「次に赤飯せんべいよ、薄くして焼いて醤油塗っただけよ」

 

「雑!母さん一応主婦だよね?」

 

 一口噛ったら地味に美味しいのが腹立つ

 

「次は赤飯をアンコで包んだアレよ」

 

「おはぎ!おはぎって言いなさいよ!」

 

 俺がツッコミに疲れて息が切れしているのを見ると母さんは不敵な笑みを浮かべた。

 

「カズが赤飯を食べないのは勝手よ、でもそうなったら誰が赤飯を食べると思う?」

 

「またか!またそれか!食うよ!お腹空いてるし!九合は無理だけど食うわ!いただきますぅっ!」

 

 この後気合いで四合分食べたけどそこで力尽きた、俺以外が三合食べたので残り二合余った。

 

「もう当分赤飯いらね」

 

 母さんがキッチンで新たな赤飯レシピを考えているけどそれを放置してソファーに座ってお腹を落ち着ける事にした。

 

「いやー、良かったぁ、カズに元カノが居なくて…ホントに」

 

 姉貴がお茶を持って隣に座った。地味にそれもドキッとするからやめて欲しいんだけど…言ってもやめないしなぁ

 

「何で姉貴が安心してんだよ…」

 

「アタシの知らない所でカズの彼女ができるとか何か嫌だもん…それに友希那とちゃんと話せてたし」

 

「そんな心配せんでも…」

 

「アタシあそこでまた喧嘩したらカズのベッドの下の物、友希那に渡そうと思ってたんだけど…」

 

 心臓を掴まれる気持ちとはこの事だろうな、とこの日思い知った




今井父が一番書いてて楽しかったです
感想がありましたら是非お願いいたします


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Cloudiness

ねむネコ様 イズミ/羽沢珈琲店勤務様 ジャンヌゥゥゥゥゥ様
星9の評価ありがとうございます!


 裕司のデートから数週間位は特にこれと言った事も無く、いつもの如く市ヶ谷さんとゲームをしていた。

 

「なぁ、市ヶ谷さんって誰かを許せなくなったりどうしようもなく嫌いになったりとかある?」

 

「はぁ?お前急にどうした?」

 

「…いや、別に…」

 

「当ててやろうか?」

 

「姉貴の事じゃないからな」

 

 そもそも、そんな姉貴に対してそうなる訳がない

 

「そりゃお前と話してればお前がお姉ちゃん大好きなのはわかるからそこは心配してない」

 

「…じゃあ何だと思ってんだよ」

 

「友希那さんの事だろ?」

 

「…何でそうなる」

 

「そもそもお前の人間関係なんてその位しか知らねー」

 

「…だろうな」

 

 結局ポピパのライブに誘われた所で以前と関係は変わらないのだからお互いの事はあまり知らないのも当たり前だ。

 

「で、何だっけ?誰かを嫌いなったとかか?私はねーけどそういう時は話し合えば良いんじゃねーか?」

 

「話し合うのも嫌なんだよ」

 

「じゃあ諦めろ。そもそも相手が許せないなら許さなくて良いだろ」

 

「おっしゃる通りで」

 

 ガキか、俺は。嫌だ嫌だと言うだけなら五歳のガキだってやれる事だ。

 

「何か悩んでんなら私じゃなくてもっと居るだろ、そもそも男友達居ただろ?ライブに連れてきた奴」

 

「アイツはなぁ、何だかんだ異性の扱いクソだからなぁ」

 

 例の彼女とは何だかんだ上手く行っているらしい、最近その話ばかりされて飽き飽きしている位だ。

 

「それホントに大丈夫なのか…?」

 

 有耶無耶になってしまったがこの間と一応相談に乗って貰ったお礼としてテキトーにクレーンゲームの景品を渡して今日は解散となった。

 

 そして家に帰ると姉貴が少し落ち込んでいた。

 

「姉貴、最近いつもより帰ってくるの早くない?」

 

「んー…Roseliaでちょっとね…」

 

 せっかく、姉貴がまた楽しそうにベースをやっていたと言うのに…最近落ち着いてきていた怒りが込み上げてきた。

 

「…俺、わざわざどうしたのとか聞かないから」

 

 どうでも良い、あの女がそうやって自滅するならどうにでもなれ

 

「そう言わずにさぁ、少しで良いから聞いてよ」

 

 だだをこねる子供みたいに姉貴が自室に籠ろうとした俺の背中にのし掛かってきた。

 

「姉貴、重い。普通に重い」

 

「聞いてよー聞いてくれたら何か奢るからさー」

 

 これは…面倒臭いやつだ、どうせRoseliaで何かトラブルがあってそれをどうしようって話すだけだ。こういう時の姉貴が一番面倒臭いんだ。

 

「…聞くだけだから」

 

「そういうと思った。友希那がね…」

 

 内容は友希那さんだけスカウトされたらしくそれを隠していたけど、それが原因で遅刻し、練習中に友希那さんと紗夜さんが揉め、スカウトされた所を見ていたあこと燐子さんがそれを暴露、そこでまた揉めて練習が中止になったらしい。

 どうでも良い、わざわざ姉貴からあの人の話をされる時は心が死んでいくのがよくわかる。

 

「それで?姉貴はどうすんの?」

 

「…うーん、とりあえず友希那と一度色々話そうかと思ってる」

 

 なら、こんなことやってるんじゃないよ…

 

「あっそ、そろそろ退いて。俺課題やんなきゃだから」

 

「あ、ごめん」

 

 姉貴の腕を剥がして自室に戻る。

 

「はぁ……」

 

 課題をやりながらRoseliaの曲が録音されたCDを再生する。何で持っているかと言うと姉貴が渡してきて感想を聞かれるせいで渋々聴いている。そもそもRoseliaが解散するかもしれないのに聴く必要があるかは疑問はあるが…

 

「感想なんて特にわかないけど…」

 

 音楽に詳しい訳じゃないし、楽器はよくわかんないし、歌は…友希那さんの歌は昔から聞いてたから昔とどう違うかはわからなくはないけど…

 

「やる気出ねぇわ…NFOやるか」

 

 サビの途中で何だか萎えてきたのでCDの再生を止めて、ゲームをやりだす。最近はこの前のイベントも特に無く、また素材集めをしてそれをイベントで吐き出す日々だ。そろそろ新しい職業に手を出すのもアリだなと思っている、素材と時間が足りないけど…

 

『リサはなんでいつもそうなの!なんで優しくするの!』

 

 少し窓を開いたままゲームをプレイしていると友希那さんの声が聞こえてきた。

 

「…うるせ」

 

 わざわざゲーム中にあの人の声を聴きたいと思う程物好きじゃないので窓を閉じようとすると

 

『バンドもフェスも…お父さんの事もカズの事だって!悪いのは全部私っ…!なのにリサは!』

 

 そこから先は聞かない事にして、窓を閉めた。

 

「……だから嫌いなんだ」

 

 誰に届く訳でもないけどそう言わざるを得なかった、嫌いな理由なんていくらでもある。

 

「…やめだ、考えて解決する事じゃないんだから」

 

 NFOもログアウトして課題も終わってないけど母さんに飯はいらないと言って寝た。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日、学校で妙なモヤモヤを抱えていた。

 

「カズ、お前なんか悩んでないか?」

 

「別に…悩んでない」

 

「そうか?まぁお前の悩みって言ってもどうせわかり切ってるけどなー」

 

「姉貴の事じゃないぞ」

 

 そう言うと裕司が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。こいつが俺の事をどう考えてるかよくわかった。

 

「熱でもあるのか?大丈夫か?」

 

「あったら学校来てない」

 

「だよな…さては友希那さんの事か?」

 

「…どうしてそうなる」

 

 確かに裕司には少しだけ友希那さんの事は話したけどそんな簡単に察する物なのか

 

「お前の事だからそうだと思っただけだよ、悩んでる時はリサさん本人の事かそれに関する事のどちらかだからなー」

 

「…それで?」

 

「直接はどうもしないよ、お前が話すなら聞いてお前のやりたい事を手伝ってやる位だよ」

 

 これだからこいつは…ズルいよなぁ

 

「…相手の事をどうしても許せない時ってどうすれば良いんだろうな」

 

 何で許せないかも許してもその後の事は何もわからないけど…友に話せば少しは何か変わるかもしれない

 

「単純な事だろ、言うのも馬鹿馬鹿しいね」

 

「お前、さっきの手伝う発言は何なんだよ?」

 

 急に手のひらを返しやがって…

 

「悪いけど無しで、友人でもそこは自分で解決して欲しいな」

 

 結局何一つ解は得られずに1日が過ぎて行った。週末なので帰りにレンタルDVDショップで映画を数本借りて家に帰った。

 

「ただいまっと…」

 

「おかえりー…」

 

「姉貴、今日は練習とか言ってなかった?」

 

「中止だって…今週以降の練習はまだ入れてなかったからもしかしたら解散しちゃうかもしれない…」

 

 また姉貴が落ち込んでた、最早ため息すら出なかった。友希那さんが何がしたいのか、もう理解したくもない、少しでも話し合おうとか考えてる場合じゃなかった。

 

「姉貴…映画見よう」

 

 気持ちを抑える為に借りてきた映画を見よう。

 

「え?またどうせホラー物だったりしない?」

 

「違う、今回の映画は《キング・アーサー 英雄転生》だよ!」

 

「…どっかで聞いた事があるタイトルなんだけど…」

 

 気にしない!だってパク…元ネタとは似ても似つかないし!

 

「前みたいに変なグロ描写はないから姉貴でも大丈夫」

 

 多分、と心の中で付け加えておく

 

「なら、良いけど…」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 視聴後に姉貴に耳を引っ張られた。どうやらお気に召さなかったらしい

 

「何最後のあの巨大ロボ?」

 

「メカモルガナ」

 

「最後のやりとりが無ければ聖剣を聖杯に戻して手当て出来たよね?」

 

「あの時は聖剣のエネルギー的な物がメカモルガナに吸われてたんじゃない?」

 

「好意的解釈過ぎる…というかツッコミ所はそれだけじゃないからね?」

 

「例えば?」

 

「モードレッドが対話で解決しようとしてたのにファッションセンスをバカにした一般人を殺しちゃう所とか」

 

「愛嬌じゃない?」

 

「そんな物騒な愛嬌はないから…」

 

 うるさい姉だ、次の映画にDVDを変える。

 

「一応確認するけどホラーじゃないよね?」

 

「アクション映画だし変に怖い要素は無いけど?」

 

「タイトルは」

 

「ジェイソンX 13日の金曜日」

 

「うん?ジェイソン?あのジェイソン?」

 

 リモコンをなるべく遠くにぶん投げた。

 

 この後ジェイソンがひっそりと出てきて人の首を折るシーン辺りで滅茶苦茶怒られながら映画鑑賞は寝落ちするまで続き、翌朝姉貴に叩き起こされて某バーガーショップに連れて行かれた。

 

「ねみぃ」

 

「シャキっとしてよー、今日はテキトーにされると困るんだから」

 

 何か嫌な予感しかしないんだけど

 

「そもそも何で俺は連れてこられた訳?」

 

「うーん、この前奢るって言ったのとちょっと会って貰いたい人が居るからかな」

 

 確かにそう言ってたけど金使う趣味も今はやってないから奢られなくてもいいや位だったんだけどな

 

「それでその人は?」

 

「もうそろそろ来るよー、アタシはバイトだから抜けるけどね」

 

「えっ…?」

 

 姉貴がコーヒーを飲み切ってどこかに行ってしまった。

 

「ホントに置いてかれた…」

 

「…貴方が今井さんの?」 

 

 呆けていると紗夜さんがこちらに向かってきた。この人面倒臭そうなんだよな…

 

「そうですけど…まさか姉貴の言ってた人って…」

 

「私です…今井さんに呼ばれたのですが」

 

「…本人がどっか行ったんですけど」

 

「…その様ですね」

 

「…」

 

「……」

 

 沈黙、そりゃそうだ。向こうからしたら打ち上げ中に変な揉め事を起こした相手だし…俺からしても苦手なタイプなんだから会話が弾む訳もない。

 

「…貴方と湊さんの関係って一体なんです?」

 

「もしかして…今Roseliaが活動してない理由って俺も関係あります?」

 

「その通りです、彼女は貴方からの評価を気にしている節がありました」

 

「……何でそんな」

 

 理由はわからないけどそうじゃなきゃ時間の無駄って言われて帰えられてそうだし、俺は何かしら今回の事で無関係な訳ないか…

 

「…お互いにお互いの事が嫌いなだけです、この前の打ち上げの時は…すみませんでした」

 

 どう思われてるかは知らないけど頭を下げた。友希那さん関係で下げたりするのは死んでも御免だけど自分のせいで迷惑を掛けたなら関係者には謝らないと…

 

「それだけでああなるものかしら…」

 

「…きっかけ自体は四年前の事です」

 

 思い出すだけでも吐き気がする、あの時も今もあの人が原因だ。

 

「…友希那さんの行動がせいで姉がベースを一度辞めたのが俺が彼女を嫌いになった理由の一つです」

 

「…それはつまり-」

 

「俺からはそれだけです。あの人からどう思われてるか、なんてもう今の彼女からは全くわかりませんよ。それよりも俺も話したい事があるんですけど」

 

 何か良くない事を悟られそうだったので遮った。気になる事もあるし、話を変えよう

 

「妹さんの事なんですけど…もうちょっと話し合ってみては?」

 

「…貴方に私の何が分かると言うのかしら?」

 

 一気に不機嫌になった紗夜さん。ただ姉が居る者同士として何となく日菜に対するフォローがしたいだけだ。それでいい

 

「いや…知らないから言うんですけどね…妹とか弟って姉とか兄大好きなんですよ。だから好きな物を共有したくて真似するんですよ、妹弟はそういう生き物なんです…」

 

 俺には兄は居ないけど、多分そんなもんだと思う。昔ベースやろうとしたけど自分に合わなくて辞めてしまったけどそう思ったのは嘘ではないから。

 

「だから何?」

 

「…もうちょっと、ほんの少しで良いから我慢して話して向き合ってあげても良いと思います…妹さんも紗夜さんの事は好きだと思うんですよ」

 

「貴方も日菜の肩を持つのね…」

 

「そんなつもりが無いとは言いませんよ…だけど、せっかく双子の姉妹で同じ楽器をやれるなら…勿体無いと思いますよ」

 

 言いたい事はこれだけ、三年前に俺もベースを触ってたらあんな事にならなかったか…なんて事はわからないけど、姉貴の事を少しは支えられたかもしれない。

 

「…言いたい事はそれだけ?」

 

「…はい、すみません。偉そうな事言って」

 

「…ところで、貴方は日菜とどういう経緯で知り合ったのかしら?」

 

 何か急に謎の圧が発生した気がする。そもそもこの人さっきからポテト食べる手が止まってないんだけどどんだけポテト好きなの?真面目な話が終った途端にそういう事するの心臓に悪過ぎるんだけど!

 

「え…あー、中学の時の知り合いがバンドやってる妹弟って括りで集まろうって理由であこと妹さんと知り合ったんですけど…」

 

「私の事は何か言ってましたか?」

 

 やっぱり気になるのか…それをさあ、本人の前で言おうよ…

 

「紗夜さんの事ばっか話してたんで本人から聞けば良いんじゃないですかね…」

 

「…練習に行きます」

 

 ポテトを完食して彼女は店を出た。

 

「…あのポテトLサイズだったよな?」

 

 まぁ、そこはどうでも良いかと思って自分の分を食べ切って散歩する事にした。

 

 散歩と言ってもコースは適当で本屋で立ち読みして買った本を喫茶店で読む位で、実質商店街巡りみたいな物だ。

 

「次はどこに行くかな……ってアレは」

 

 例の猫だ。ここまで人が多い所に来るなんて珍しい

 

「お前、ここまで来るなんてどうかしたか?」

 

「んにゃあ」

 

 いつもの様に下顎を撫でようとしたら公園の方に走って行った。

 

「何だよ…連れないな」

 

 何となくで追いかけると友希那さんが居て、またクソエンカウントを引かされたと思わざるを得なかった。

 

「…最近よく会うわね」

 

 こっちからしたら会いたくも無いんだ、勘弁してくれ。姉貴の落ち込んでる顔を見た後に原因のアンタの顔なんて見たくも無いんだ。

 

「よくもまぁ、話し掛けられますね…四年前と今、何が違うんですか?」

 

 喧嘩腰になってしまった。

 

「…そうね。私は何も変わってないわ」

 

「…自覚があるなら何で治そうとしないんですか!アンタのせいで!姉貴だけじゃなくて事情も知らない人も巻き込んで!何がしたいんだ!」

 

 わからない、この人がどうしたいのか、父親の敵討ち以外で何で歌っているのか。それがわからない

 

「…貴方の言う通りよ、周りを振り回すだけの私はこれを機に歌うのを辞めるべきなのかもしれないわね」

 

 彼女にも思う事はあるのだろうけどその言葉は逆に許せなかった。

 

「そこで辞めてどうするんですか…そこで辞めたら!姉貴の頑張りは!友希那さんの歌が好きだった俺は!何だったんですか!」

 

 もう何を言ってるかもわからない位頭がぐちゃぐちゃするし頬に熱い液体が垂れてきてるし最悪だ。

 

「…貴方、今なんて──」

 

「っぅ…!?Roseliaでも何でも辞めれば良いでしょう!」

 

 今言った事を彼女に指摘されたら何もかもが嫌になる気がして走って家に帰った。

 

──本当に何がしたくて、何が嫌いなんだ、俺は




いつも思う事なんですけど展開が強引過ぎたりしませんかね?大丈夫ですかね?
もう二、三話で第一章は終わる予定です
リクエストがありましたら感想か活動報告にお投げください
感想がありましたらお願い致します


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One step ahead

☆10 つみれ@インド産様 ひかりな様

☆9 鳥籠のカナリア様 倉崎はあるちゅ〜様 だいたい四人の公王様 Zeru様 峰風様 メロノス様

高評価ありがとうございます!

前回の更新で9月11日の日間ランキングで10位に乗ったそうです。

正直ここまで行くとは思ってませんでしたが応援ありがとうございます!




 四年前、友希那さんの父親、友哉さんが音楽を辞めた事を姉貴から聞いた。

 

 理由は自分で作曲した音楽をアレンジされた結果、《Future world fes》と言う音楽の頂点を決めるフェスでその曲でファンが離れ、その批判に耐えられなくなってバンドを辞めたらしい

 

 それから友希那さんの音楽に対する取り組み方と性格が変わった。それまでは楽しそうに歌っていたのに苦しそうな顔で歌うようになったり、静かだったけど優しい性格から冷たくて近寄りがたい性格になった。

 

 俺はそれが嫌だった。表情が読みにくくても楽しそうに歌っていて姉貴と楽しそうに音楽をしていた彼女が好きだったのに、真逆の方へ向かおうとする彼女が嫌いになる一番の理由だった。

 

「友希那さん、少しいいですか…?」

 

「…無駄な時間を取らせないでほしいのだけど、何か用かしら?」

 

「また…あの頃みたいに一緒に」

 

 今思えば言い方が悪かったかもしれない

 

「今はもうあの頃じゃない…!それがわからないなら貴方一人で勝手にしてればいいわ、私は貴方に構ってる場合じゃないの」

 

「ごめんなさい…もう、いいです…」

 

「無駄な時間にさせないで、と言ったばかりなのだけど…はぁ、もういいでしょう」

 

 胸が痛くなった。多分、俺にはどうにかできる物じゃない。そうやって諦めてしまって、孤独に歌う彼女の背中を見送る事しかできなかった。

 

 ほぼ毎日スタジオに行って練習していた彼女を追って話せば昔の彼女に戻るかもしれないと思っていた。

 でも話し掛ける前に、何も言えずに家に帰る事が大半だ。

 

 姉貴に相談した事もあった。けど姉貴は友希那さんの味方で、相談しても大した意味は無かったし、なんか腹が立っただけだった。

 

 そんな状態で中学生になってからは友希那さんと揉める事も多くなったり姉貴が彼女について行けなくなってベースを一度辞めた事もあって彼女を嫌いになったのだ。

 

 その光景が薄れだして、いつもの天井が見えた。夢か

 

「あー…クソ、変な事を思い出した」

 

 最悪だ。あんな事の後に昔の事を夢で思い出すなんてつくづく運がないと思う。最近あんまり寝れてないのに余計疲れが抜けない。

 

 とりあえず身体を起こして学校に行く支度をする。今日の朝食は母さんが作る筈だからおとなしくリビングのソファーで待つことにした。

 

「そもそもエンカウント率高過ぎるだろ」

 

「いや、何の話よ」

 

 独り言を母さんに聞かれていたらしい

 

「あー…最近妙に友希那さんと鉢合わせする」

 

「ふーん、最近仲悪いのに不幸ね」

 

 物凄く雑な母である。

 

「不幸て…確かにそうだけどさ」

 

「そもそもカズと友希那ちゃんの仲が悪かろうと知ったこっちゃないわよ。それはそうと今日はアンタと友希那ちゃん二人で過ごしてもらうから」

 

 いや、なんてタイミングで何言ってくれてるの?この悪魔

 

「ツッコミどころが多過ぎるから一つずつ聞く…何で!?姉貴は!?」

 

 父さんと母さんは家を空ける事は少なくないからわかるけど、姉貴が帰ってこない理由がわからない。

 

「リサは友達の家でやる事があるって言ってたわね。帰って来るのはアンタは寝てる時間になるとか」

 

 そんな時間まで何するつもりだよ…明日も普通に学校だろうに

 

「じゃあ次、何故友希那さんが出てくるんだよ…」

 

 そもそも仲悪いのわかっててそうするって…この親、性格最悪か?

 

「湊さん家も朝早くから親が家を空けるからよ」

 

「別に一人で留守番させときゃ良いだろ。ガキじゃあるまいし…」

 

「いやー…私もそう思ったけどあの友希那ちゃんが一人で料理できると思えないし」

 

「…それでうちも朝早いから料理するやつが居ないと?」

 

「その通りよ」

 

 母さんがしてやったりみたいな顔をしているあたりわざだという事がわかる、何が知ったこっちゃないんだか…

 

「俺、あの人の面倒見るの嫌なんだけど」

 

「諦めなさい、もうそういう話になってるんだから」

 

 えぇー…適当に外食させれば良いだろ。そもそも今日オフ会に誘われてるから帰るの遅くなるし…

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「やべぇってやべぇってマジヤバい!」

 

 下校時にゲリラ豪雨が発生して傘を持っていなかった俺はずぶ濡れになって走っていた。途中でタオルや着替え、それに傘を買って着替えてから、待ち合わせに指定されてた。ファミレスで待っていると見覚えのある女の子二人が近づいてきた。あことRoseliaのキーボードの白金燐子だ。

 

 あことは面識があるせいか彼女はかなり驚いていた。

 

「カズさん何でここに居るんですか!」

 

「NFOのオフ会なんだけど?」

 

「あこ達もオフ会なんですけど、もしかしてカズさんって!」

 

「あー…HNイケナシエルです」

 

「「えぇーーー!?」」

 

 二人して驚いていた。まぁ…そりゃそうかあこの方は面識あるけど白金さんの方は多分一方的に知っている位だろうし

 

「…まさか、あのリサさんの弟がNFOをやっているだなんて」

 

「まぁ…とりあえず座りましょうよ」

 

 二人が向かい側の席に座ってから軽い自己紹介をした。

 

「世間狭すぎない?ネトゲのオフ会で全員地元が一緒で一応接点があったとか」

 

「…あの、一つ聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

 

 白金さんがちょこんと手を挙げた。

 

「姉貴の事ですかね?」

 

「…あ、そっちの方じゃなくて友希那さんとの事なんですけど…」

 

 そっちか…あんまり話したくはないんだけどな…

 

「あこも気になります!」

 

「そう言われてもな…幼馴染だけど仲悪いし会うと喧嘩ばかりするだけだし…」

 

 そんなの向こうも知ってるだろうしなぁ…

 

「でも、友希那さんもリサ姉も話してくれないし…あこ達それがわからずにRoseliaが解散なんて嫌だよ」

 

「それ、俺関係あるの?」

 

 なんとなく落ちは読めてるけど、話を逸らすために乗っておくけど

 

「…今のRoseliaの状況ってわかりますか?」

 

「解散しかけてるって言うのは姉貴から聞きましたけど…それ以外は特に」

 

 後は昨日会った、友希那さんが何か悩んでそうではあったけど

 

「Roseliaの雰囲気が悪くなったのってカズさんの話題で友希那さんと紗夜さんが言い合いになったのがきっかけで…」

 

 続く話を聞くとそこから徐々に雰囲気が悪くなった時に、友希那さんが一人だけフェスのオファーを受けていた事で喧嘩別れの様な状態になってしまっているらしい。

 

「なるほどな…でも、これって俺の事がわかっても変わらないだろ」

 

「…確かに…逆にカズ君はどうすれば良いと思いますか?」

 

 Roseliaの事なんてあのライブ位しか知らないしな…メンバーの事も紗夜さんと白金さんの事は特に知らないし

 

「まず、二人がどうしたいか。じゃないですかね…」

 

 そこがわからないとアドバイスのしようがない。

 

「あこはRoseliaでまた集まって音楽がしたい!」

 

「…私は、私を変えてくれたあの人達ともっと音楽をやりたいです」

 

 じゃあそうすれば良い。って言うのは違うよなぁ…根本的な解決になってないし。言葉でどうにかなるなら解散間近になんてなってないだろうし

 

「それを何か別の形で伝える…とか?」

 

「…っ!それだ!それだよ!カズさん!」

 

 急に立ち上がって俺を指さすあこ、周りの人がこっちガン見してるから止めなさい。

 

「いや…何が?」

 

「あこがRoseliaに入る時にりんりんが言ってくれた事!」

 

「あ…音で伝える…それなら」

 

 白金さんがスマホを取り出して一つの映像を見せてくれた。

 

 その映像はRoseliaの全員がスタジオで演奏している映像だった。

 

 映像の中だと姉貴は今までに無い位楽しそうだった。

 

 他のメンバーも良い顔をしていた。あの友希那さんさえも

 

「これをRoseliaの皆に!」

 

 何か解決しそうで何よりだ…

 

「じゃ、お悩み相談は終わったみたいだし俺は帰るとするか」

 

 オフ会と称して来たもののRoseliaの話をされても困るし、逃げるが吉だ。

 

「あ、カズさん待ってくださいよ!まだ友希那さんとの事聞いてないです!」

 

 こっそりお金を出して帰ろうとしたらあこに止められた。やっぱ覚えてたか…

 

「はぁ…話せって言ってもな…あんまり気持ちの良い話じゃないし…俺から話す事じゃない気が…」

 

「でも気になりますよー!」

 

 これは…話さないと帰らせてくれなさそうだな…

 

「俺は…友希那さんの事が嫌いな事は確かだよ…四年前位からだけど…」

 

「…何で四年前?」

 

 そういえば、裕司以外にこの話をするのは初めてか

 

「元々姉貴は友希那さんの歌に合わせる為にベースをやってたんだけど友希那さんが中学生になってから色々あってベース辞めた、って言うのが丁度その頃。後は友希那さんの性格が変わったのもそれ位の時期」

 

 そう言うと二人が若干引いていた。あこに関してはお姉ちゃん居るからわかると思ったんだけどな。

 

「あの…それ友希那さんが嫌いになった理由、ですよね?」

 

「そうだけど?」

 

「…じゃあ今井さん…リサさんがベースを辞めたから…でも、今はRoseliaでベースやって…」

 

 白金さんが良くない事に気づこうとしていた。止めてくれ、その話に持っていかれたら俺は

 

「どうしたのりんりん?」

 

「…何でもないよ、あこちゃん。質問を変えますけど…友希那さんって元はどんな人、だったんですか?」

 

 絶対感づかれてるだろ。これ…変な汗がさっきから止まらないのは気のせいだと思いたい。

 

「…それは…昔はもっと歌う事を楽しんでいたというか…もっと優しい人だったというか…」

 

「えー?友希那さんって昔からクールな感じじゃなかったんですか?」

 

「別に…そういう感じじゃなかったと思うけど…」

 

 あの頃の友希那さんは…いや、あの頃は姉貴も友希那さんも友哉さんも皆楽しそうだったな…

 

「…っ」

 

「…どうかしましたか?」

 

 また一つ嫌な事を思い出した。違う、俺は彼女が嫌いなんだ。あの頃を否定した。あの人が!

 

「いや、何でも…ちょっと冷や汗が止まらないかなーって位で…あと、雨直撃して来たから…もしかしたら体調悪くなってきたかも」

 

 若干服が汗ばむくらいには汗が止まらない。というか何か空調効きすぎじゃね?寒いんだけど?

 

「体調悪いのに来たんですか!?というかそれなら今日は中止とか連絡してくれれば良かったのに!」

 

「いや、今日家に帰りたくないし…」

 

 家に帰ったらあの人の世話しないといけないのは物凄く嫌だ。裕司の面倒を見た方がマシだ。

 

「…そんな事言ってる場合じゃないと、思うんですけど…本当に汗凄いですし…帰った方が良いと思います」

 

 やめろ、体調悪いって自覚が芽生えるとそっから一気に崩れるんだから…あー、ボーっとしてきた。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…お金置いて行きますね…」

 

 千円札を置いてファミレスから出るまではまだ普通に歩けたけど、そこから若干ふらつきながら歩いて帰ると家の前に友希那さんが居た。彼女の顔を見た途端に緊張で体調不良が気にならなくなった。昨日あんな事になったのになんでこうなるかな。

 

「遅かったわね…」

 

「何してようが俺の勝手でしょう、どっかのボーカルさんみたいに」

 

「…良いから、鍵を開けなさい」

 

 乗ってこないか、何かあったんだろうか

 

「言わなくても開ける」

 

 ったく、一々イラつく言い方をする。

 

 玄関の鍵を開けてとりあえず荷物を置いてリビングに降りた。

 

「勝手にくつろいでて、俺の部屋に入らなきゃ何してても良いから」

 

「言われなくても入らないわよ…」

 

 雨で濡れた服を洗濯する為に、洗面所の洗濯機に車を詰め込んでいると寒気が増してきた。多分気のせい

 

「シャワー、浴びておくか…」

 

 給湯器のスイッチをオンにして別の着替えを部屋から取ってきてから洗面所に行こうとした時視界が揺らいだ。

 

「…いって」

 

「カズ…?」

 

 結構下の段からだけど階段で転んだ。立ち上がろうとしても何か力が入らない。

 

 友希那さんが近くによって来て、肩を揺らしてきた。

 

「…何でもない」

 

「顔色が悪いように見えるのだけど?」

 

「…気のせいだろ」

 

 何とか立ち上がってまた洗面所に足を入れた時また転んだ。今度は立ち上がれそうにないかもしれない

 

「…っ!?カズ!」

 

 やたらドタバタと音を立てて友希那さんが近づいて来るのはわかったけどそこで意識が途切れた。




次回第一章最終回の予定です。

第一章が終わったら番外編をやるつもりなので感想や私の活動報告にリクエスト箱が置いてあるのでリクエストがありましたら、そちらにお願いします。

感想がありましたらお願い致します


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Bloom someday that day flower

☆10 カルルス様 貧乳PT様

☆9 金剛石@石ころ様 親指ゴリラ様 八坂未来様 夜刀神 愛里紗様

高評価ありがとうございます

皆様のおかげで前回の更新でも日間ランキングに乗せていただきました。ありがとうございます


「…ん」

 

 目が覚めたらソファーの上で毛布を掛けられた状態で横になっていた。恐らく友希那さんがやったのだろう、勝手に部屋に入られたのはかなりイラつく

 

 身体が重くて起き上がるのも辛かった、飯は最悪の場合はデリバリーでも取らせるか、遅くでも配達やってるピザ屋の広告のチラシ来てたし…

 

「NFO…ログボ貰わないと…」

 

 動き回るのも起き上がる以上にキツかったけど、飲み物と体温計を持って、自室に戻りパソコンを起動しNFOにログインした、因みに体温は38.2℃だった。

 

「…今日からイベントだったわ」

 

 ログイン・ボーナスを受け取ってから曜日クエストの初回クリア報酬を貰ってカジノで交換アイテムを消化していたらあこと白金さんに見つかってPKされかけたからログアウトしたら体調が悪化したのでベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 数十分後、夢を見た気がした。

 

「カズ、起きたのね…」

 

 友希那さんの声が聞こえた、現実とは違ってやたらと優しい声色だった。正直なところ絶賛喧嘩中の彼女がこんな声で話しかけてきたら悪夢も良いところだ。

 

「…Roseliaの…事…リサ姉…の事…あなたの歌の事…アレで…諦めたら…許さない…」

 

 まぁ、でも…どうせ、夢だ。言いたい事は全部言ってしまえ、吐き出そう

 

「…っ!?」

 

 動揺する彼女、さっきから夢の中なのに身体が重い、夢の中くらい体調不良は引き継がなくて良いだろうに

 

「…ここで…止まったら…好きな…理由も…嫌いな…理由も…今まで…全部失くすから…」

 

 俺が嫌いな今の友希那さんも、俺が好きなあの映像のRoseliaの音楽も…

 

「…俺が…見たいのは…今の…友希那さん…じゃないから…」

 

「そう…そう、だったのね…なら、待っていなさい。それを見せる為にも私にも、Roseliaにもまだ時間が必要だから…」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翌日、友希那さんは俺が風邪で倒れている間に、勝手に飯も食べて、朝になったら学校に行ったらしい。俺は目が覚めたら風邪がぶり返してきたので学校を休み、風邪薬を飲んでおとなしく寝ていたら気が付いたら夕方になっていた。

 

「ただいまー」

 

 少し体調が落ち着いてきたからリビングに降りると何故か冷蔵庫にスポーツドリンクが大量に入っていたり、料理慣れをしてない人間が料理した痕跡が残っていたり、軽くホラーな状態だった。

 まぁ、多分姉貴が飲み物を買ってきてくれて、父さんが朝食を作ったんだろうと思って呆けていると、姉貴が帰ってきた。今日はバイトも部活もない日だった筈なのにやたら遅かったな…しかもやたら上機嫌だ。

 

「おかえり」

 

「お、体調良さそうじゃーん、それなら来週の日曜日も大丈夫そうだねぇ」

 

「来週の日曜日って…何の話?」

 

「アレ?友希那から聞いてない?」

 

「何も?そもそも昨日はぶっ倒れて何も出来てないんだけど?」

 

 アレレー?と首を傾げる姉貴。そんなに不思議そうにされても知らない物は知らないのだが…

 

「そっかぁ…はぁ…まだまだ遠そうだなぁ…」

 

 勝手に納得されてもなぁ…こういう雑な所は絶対母さん似ただろ…

 

「だから、何の話なんだよ…そういえば飲み物。ありがと…あんな大量にはいらないけど」

 

「それ、アタシじゃないよ?」

 

「は?」

 

 じゃあ、父さんか…?いや、でも…たまにボカをやらかす父さんだけども…

 

「あー…それもわかってない感じかぁ…なら、なおの事、来週の日曜日ちゃんと来なさいよー」

 

「さっきから来週の日曜日って…何の話?」

 

 結局、全部はぐらかされてしまってずっとモヤモヤすることになってしまった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、その例の日曜日に姉貴に呼び出されたので差し入れを持って指定されたライブハウスにやってきた。

 

 看板には《Future world fes》の予選コンテストとか書いてあった気がするけど…まさかRoseliaのメンバーがまた集まったのか…?

 

「まぁ…姉貴のテンション高かったし、そうだろうとは思ったけど…」

 

 やっぱり、ああいう姉貴を見ているのが一番だけどRoseliaが復活してそうなるのは腹立たしい所ではある。

 

 それ程大きいハウスではないからか立ち見だけどRoseliaの番は遅くはなさそうだから彼女達の番が終わったらさっさと帰ってしまおう。そう思っていた。

 

 

『それでは…聞いてください』

 

 そう思っていたのに曲が始まった途端そんな事はどうでも良くなっていた。

 

 素人目だからか凄いとは思うけど、演奏がどう変わったとかはわからなかった。けどRoseliaそのものは前に見た時とは違っていたと思う。前は全員ただ必死なだけに見えたけど、今は全員この前白金さんが見せてくれた映像の時以上に楽しそうだった。

 

 その姿と音楽に見惚れていたら、いつの間にかコンテストは終わっていて会場から出ていた。

 

「あ、良かったーまだ残ってた、ちょっとこっち来な」

 

「え、ちょっ何…?」

 

 急に会場内から出て来た姉貴に引っ張られてスタジオがあるブースまで連れて来られた。

 

「ちょっとセッティング終わるまで待っててねー」

 

「…いや、何がなんだか…」

 

「先週振り…かしら」

 

 急な事過ぎて呆気に取られていると、友希那さんがスタジオから出て来た。

 

「…何の用ですかね、わざわざ呼び出しておいて」

 

 やっぱり、彼女の顔を見ると少しイラつく

 

「…先週の事は覚えてないでしょうけど、ありがとう」

 

「先週って…俺ぶっ倒れただけだなんだけど…」

 

 しかも覚えてないってなんだよ、そんなに俺が倒れる所を見て楽しんでたってか…

 

「そう言うと思ったわよ」

 

「姉貴といい、友希那さんといい…何なんだよ…」

 

 俺が寝てる間に二人で何かあったのは間違いないんだろうけど…

 

「まだセッティングに時間が掛かりそうね…Roseliaの事だけど…貴方の言う通り私達は、咲くだけで届かない空に、頂点を目指そうとする歪な花、なのかもしれない。だけど」

 

 彼女は少しだけ、目を伏せてから俺の前に来て顔を上げ、その瞳はまっすぐこちらを見つめた。

 

「だけど、不可能でも歪でも貴方の前では咲き誇れる花になってみせる。だから待っていなさい」

 

 俺の考えはさておくとして、あんな物を見せられて、こんな柔らかい表情を見せられて、手を両手で握られたら、返す言葉は一つだった。

 

「期待しないで待ってる」

 

「……そう言うと思ったわよ」

 

 声のトーンがそう思ってなさそうな感じだったけど…何を期待しているのだろうか?俺はまだ友希那さんの事は好きになれそうにはない。

 

「セッティング終わったよー?って手なんか繋じゃって二人ともどうしたの?」

 

「「何でもない」」

 

 中から出て来た姉貴にわかりやすくからかわれ、ハモってお互いに手を引っ込めた…何で俺まで引っ込めたのかはわからない

 

「二人ともわかりやすいなぁ…」

 

「それよりセッティングが終わったならやるわよ」

 

「OK、カズも一曲聞いていきな」

 

 帰ろうかと思ったけど、待たされるだけ待たされて帰るって言うのも嫌だし聞くか…そういえばこの人達、コンテストの後に練習しようと思うなんてどんだけストイックなんだろうか

 

 部屋の端に置かれたパイプ椅子を彼女らの前に持ってきて、それに座った。

 

「今日のコンテストの結果は残念な結果にはなったけど、私はこれで良かったとも思っているわ」

 

「それでも私は…いえ、私達はあんな結果に満足せず、上を目指すために…」

 

「アタシは友希那にも紗夜にも…皆にもっともっと楽しいと思ってもらいたいから!」

 

「結果はすっごい悔しかったけど、でもあこ、それがどうでもなる位すっごい楽しかったから…!」

 

「目指してきた今までが…とても…楽しかったから…」

 

 各々がポジションに着いてこれからの意気込みを口にし、友希那さんがマイクを握った。

 

「まず、一曲目《Everlasting Sky》…行くわよ!」




これにて完結です。

あまり後書きで語るのは得意でもないので活動報告で語ります

感想がありましたら是非お願い致します。


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