神様は残酷で気紛れだ (マスターBT)
しおりを挟む

プロローグ:神は気紛れだが、兎はもっと気紛れだった

どうも。初めましての方は初めまして。ISの二作目です。
Fate、艦これ、オリジナル……馬鹿なんじゃないかと思い始めるマスターBTです。



俺こと、『西村赤也』は神という奴が死ぬほど嫌いだ。

なぜなら、神様っていうのは、残酷だから。

女尊男卑の世の中で、俺の父親は家庭が嫌になり蒸発。残されたのは、俺と女尊男卑の思想に染まりきった姉妹と母。

当然の様に俺は、こき使われ、散々な目にあった。

でも、高校に進学することになり、無理やり遠い田舎の高校に進学し、漸く自由が手に入るとそう思っていた。

 

「この電車は俺たちが占拠する!」

 

乗客達は、俺も含め手を頭の後ろに回し、座席に無理やり詰めて座らせられている。俺は運良く?廊下側の端っこに座っている。

電車を占拠する複数の男性達。この世の中で、不満が我慢の限界を超えたのだろう。

でも、だからってなんでこの日のこの電車なんだ……巫山戯んな!こちとら、漸く希望を手に入れたんだ。

男達は銃を持っている。喧嘩すらしたことのない俺が、立ち向かった所で殺されるだろう。

だけど、そんな事を考えられるほど俺の頭は冷静じゃなかった。

 

「ふざけーー」

 

立ち上がって、文句を言おうとした所で、電車が大きく揺れ、そして凄まじい衝撃がやってきた。

立ち上がってしまった俺は、宙に浮き窓を破り外に放り出される。

そして、右腕に激痛が走る。

 

「あっ…ぐぅぅぅぅぅああああああああああ!!!!!」

 

衝撃はどうやら、電車が脱線した事によるものだったららしく、その勢いで吹き飛んだ俺は、バラバラになった車両の一つに、右腕を巻き込まれグチャグチャになってしまった。

痛みに意識を失いそうになるが、存外俺の身体は丈夫だったらしく、意識を失わずに事故の風景を眺める事になった。

後で知ったが、男性のテロ組織に痺れを切らした女尊男卑に染まった女性が、無理やり電車を運転した事による脱線事故だったという。

 

「ふんふんふん♪♪おや、息のある虫がいるらしいね。たまーに、事故や事件の場所には君みたいなのがいるから、面白いよね〜」

 

間延びした気楽な鼻歌を歌う兎がそこにいた。

どうやら、痛みと血の流しすぎで俺の頭も遂にイかれたらしい。

 

「うわぁ、グチャグチャだねぇ〜」

 

「…カヒュー……ハヒュー……」

 

呑気なやつだなと、言おうと思ったがもはやその力すら、俺にはないらしい。

空気が喉を情けなく震わすだけだった。

 

「もう喋る元気もない?ねぇねぇ、君、生きたい?

ねぇねぇ、ほらほら。ハーリーハーリー、返事をプリーズ!」

 

何言ってんだこいつ……生きたいかどうかだって?

そんなもん、生きたいに決まってるだろう。俺は死ぬ事を選ぶ死にたがりでもなんでもねぇ。

 

「……いき……カヒュー……たい!!」

 

最後の力を振り絞り、目の前の兎に答える。

俺の返事に、満足げに狂気に満ちた笑みを見せる。

 

「ふふー♪じゃあ、えいっ!」

 

気楽な声で、俺を俺の右腕を轢き潰した車両から、引っ張り出す。

その際にブチブチと嫌な音が聞こえたが、もう慣れた。

 

「さぁて。どんな結果になるかなーっと」

 

兎は手に持っていた実にメカメカしい腕を俺の右腕があった場所にぶっ刺す。

 

「あがぁぁぁぁああああ!!」

 

「五月蝿い」

 

冷たい一言と共に、今度こそ俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が醒めると俺は、こちらを怯えた様な目で見てくる複数の女性と、睨むだけで人を殺せるんじゃないかと思うブリュンヒルデーー織斑千冬に囲まれていた。

 

「は?」

 

そして、あの時確実に失われたはずの、右腕がそこにはあった。

あの兎が持っていたメカメカしい腕が。

 

「変な動きは見せるなよ。貴様のその腕にIS反応が確認された。

起動させてみろ。この場で撃ち殺すぞ」

 

周りの女性達の手には銃。その全てが、俺に向いている。

 

「ハ、ハハハッ……」

 

嗤ってしまう。

やはり、神というのは残酷で、気紛れだ。

どんな因果があって俺がこんな目に遭っているのかまるで分からないが、一度消えた命だ。

やりたい様に使って、死んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

「お、あのモルモット生き残ったか。さてさて、どんなデータが取れるかなっと。

役に立つデータが手に入るまでは、死なないでよモルモット」

 

IS学園の一室をモニターに映し、兎は笑う。

リアルタイムで、赤也の右腕から送られてくるデータを眺めつつ、兎は残酷に冷徹な笑みを浮かべた。

 




ゆっくり書いていく予定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なるほど。たしかにISだわ

どうせ長くは続かないこの速度。ただ、オリジナルで書ける部分はそれなりに勢いよく書けますよね。


「…なにを笑っている?」

 

俺を見る織斑千冬の目がまるで、バケモノを見るかのようだ。

女尊男卑に染まった連中が、崇拝する存在からそんな目をされるとは。理由は、右腕からIS反応が出てるからか?

 

「気に障ったのなら謝罪しますよ、織斑さん。自分の状況を理解したら、余りの大きさに笑ってしまっただけです」

 

全くの嘘だが、人間、自分より弱いと分かる相手には、無意識に警戒する意識を低下させる。

俺自身、全然状況を理解把握しきれてないし、情報を隠されても困る。

まさか、あの家族達に本音を隠すために、培った作り笑顔と嘘を平然と吐くことがこんな所で活きるとは思わなかった。

 

「えーと、俺自身、この右腕に関する記憶はだいぶ朧げなんですが」

 

「これを見ろ。お前は、一時間ほど前に突如、IS学園に届けられた」

 

記録映像か何かだろうか。織斑千冬に映像を見せられる。

場所は…アリーナか何かだろうか。そこに俺が空中から放り出される。

 

『あーあ、聴こえてる?ちーちゃん。これ、私のモルモットだからよろしく。

あ、死んだらそこまでのゴミだから、勝手に捨てといて。じゃあねー』

 

意識が途切れる直前に聞いた兎の声だ。

放り出されると同時に、機械による放送か何かで兎の声が響き、なにもいない所に砂埃がたつ。

その数分後、俺が回収される所まで映っていた。

 

「…俺、モルモットなんですか」

 

人間をモルモット扱いするとは、あの兎よほど人格が破綻しているらしいぞ。

そして、そんな扱いされても苛立ちとか何も感じない俺も俺か。

 

「その様子を見た限り、あいつの関係者と言うわけではないようだな」

 

「まぁ、事故の時に出会って、この右腕を装着されただけですからね」

 

ガチャリと機械音を立てて、右腕を少し動かしてみる。周りの女性達が怯えて、銃を構えてくるが無視無視。

もう少し人間の腕らしく見える義手にはならなかったのだろうか。鈍い銀色の右腕を見つつ、首を傾げる。

試しに、右腕を軽く叩いてみるが、痛みはない。だが、触れた感覚だけは伝わってくる。

 

「…あのー、織斑さん」

 

「なんだ」

 

「これ、俺の神経にまで繋がってません?」

 

「あぁ。検査した限り、右腕の切断面から、擬似神経が接続されているらしい。

私は専門ではないから詳しくは分からんが、そんな見た目でも現状のどんな義手より高性能だということだ」

 

見た目も高水準が良かったなぁ……

まぁ、贅沢は言えないか。兎がこれをくれなければ、あそこで俺は死んでただろうし。

 

「で、一番の問題が、その腕からIS反応が出ていることだ。

コアを取り出そうとしても、神経が繋がっている以上、お前にどんな負担があるか分からない」

 

「あー…「だから、言ってるじゃないですか!貴重なISコアを、男の右腕なんかに使って良い訳がないんです!

男なんて死んでも、良い存在なんですから!!」……」

 

怯えからだろう、女性の一人がそんな事を言う。

女尊男卑の思想に染まりきったやつなんだろうな。

 

「なにを馬鹿なーー」

 

織斑千冬が女性を叱りつけようとするのを左手を出して止める。

 

「ほ、ほら、こいつも自分の価値ってやつを分かってますよ!」

 

「いやぁ、そうですよね。男なんてそんなもんですよ。って、今までの俺なら同意してただろうな。

だが、悪いな。もう自分の好きなようにこの命使うと決めてるんだわ」

 

ベッドから立ち上がり、右手で女性の首を締め上げる。

 

「がっ!…ぐぅ!…」

 

周りの女性達が一斉に銃を構える。

一斉に撃たれれば流石に死んでしまう。

 

「撃っても良いですよ?ですが、それより早く俺はコレの首をへし折れます」

 

ギリギリと首を絞める力を込めていく。

どうもこの腕、感情によって出力が変わるようだ。

 

「銃を下ろせ!お前もそいつを離せ。あとで、こちらで然るべき処置をしておく」

 

織斑千冬に逆らうのは、得策じゃなさそうだ。

右腕の力を緩める。すると、女性が力なく倒れる。

 

「ーーゲホッ……カハッ…」

 

どうやら締めすぎて、軽く気絶させていたようだ。

この右腕の加減、結構大変そうだな。

さて、どうやらやり過ぎたらしい。さっきより、周りの視線が刺さる。織斑千冬の視線には、呆れが混ざっているが。

 

「…この場合ってどうなるんですかね?」

 

「さぁな。少なくとも、監視対象にはなるだろう。その右腕は普通ではないからな」

 

「ですよねー……はぁ、好きなように生きるってのも案外難しいな…」

 

左手で頭をポリポリと掻きながらぼやく。

モルモット扱いに、監視対象。結局、俺に自由なんてものは縁遠い存在らしい。

 

「この、クソ野郎が!!」

 

先ほどの女性が立ち上がり、銃を撃つ。

いや、無理だ。反応できるわけがねぇ。狙いがブレていたお陰で、右肩の付け根に当たる。

 

『対象の危険を感知。防衛機能を起動させます』

 

機械音声が聞こえ、右腕が光り輝き、思わず目を閉じる。

次に目を開くと、視点が高くなり、ただでさえメカメカしい右腕が、さらに機械感強くなっている。

身体の急所を隠すように金属の装甲だろうか。それが付いている。

 

『IS起動。マスター、貴方の名前を要求します』

 

また機械音声が響く。俺の名前だって。

混乱しているが、とりあえず名前を告げる。

 

「俺は西村赤也だ」

 

『了承。マスターを登録。続いて、私の名前を要求します』

 

いや知らねぇよ!?今、決めろってか。

このタイミングで。えぇ…混乱した頭で、ふとよぎった名前を口に出す。

 

「『サードオニキス』……個性を大切にし、様々な縁を繋ぐパワーストーンの名前だ。

俺はこれから、個性を隠す気は無いし、お前が右腕になる事で、出来る縁もあるだろうって事で」

 

石言葉なんてもの調べておいて正解だったぜ。

それっぽく聞こえる名前だし、ISの名前にするには良いんじゃないか?分からんけど

 

『了承。以後、私の固有名はサードオニキスと登録。マスターに危険が迫った時は、自動で起動しますが、それ以外のタイミングで必要であれば、いつでも名を呼んでください』

 

言いたい事だけ告げる一方的な報告をされる。多分、質問しても返事はないんだろうなと思う。

機械音声だから、よく分からないが、なんとなく、俺に死なれると困るから、起動して会話しただけと言う感じが伝わってくる。

 

「……はぁ、面倒ごとというのは、止まることを知らないようだ……」

 

ISを展開した俺を呆れるように見つめる織斑千冬に、なんとなく同情した。

 




そのうち、主人公とサードオニキスの設定をあげます。

書いてるうちにどことなく、ポンコツ臭が漂ってくるオリ主。
ただし、女尊男卑思考への恨みは積もりに積もっている模様。これ、セシリア戦荒れるぞ。

感想・批判お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主に作者がど忘れした時に、見る機会が増える設定

オリ主とオリISの設定。
高速道路を走る車の助手席に乗りながら、書き上げ、投稿。


設定集

『西村赤也』

 

性別:男

 

年齢:15

 

見た目:それなりに長い黒髪。簡単になら縛り、ポニテ風に出来る。目に覇気や、やる気と言ったものは感じられない。

顔立ちは良くもなければ悪くもない。至って普通である。

 

性格:兎に右腕を貰うまでは、女尊男卑の世の中に強い諦めを抱いており、その風潮に染まりきった家族によって、やりたいこともできず姉妹や母親のおもちゃの様に扱われていた。 しかし、ずっと誰かの顔色を伺って育ったお陰か、他人の表情から感情を読み取る術と、自分の感情を押し殺し、作り物の表情を浮べる事と、嘘を吐く術が身に付いた。 腕を貰ってからは、一度死んだ命だと思っているため、今までの卑屈さがどこかに飛んでいき、自分の命はやりたい様に消費すると決めた事により、自分の欲求に素直に動く自己中な思考回路となった。が、長年の癖は抜けない。気が強すぎる人や、尊敬できる人には受け手に回ったりすることが増える。

 

好きなこと:ゲーム(主に戦略シュミレーション)、料理(和洋中、どれでもだいたい出来るが、特に得意なのは中華)

 

嫌いなこと:女尊男卑に染まった女性、綺麗事

 

漸く、煩わしい家族から解放されると希望に満ちた日に、テロにより右腕を失った。本人は、兎と勝手に呼んでいるISの製作者ーー篠ノ之束から生体リンクIS、後に『サードオニキス』と名付ける義手を失った右腕の代わりに装着させられる。

篠ノ之束からは、モルモットとして見られており、生死がどうなろうと関係ないと思われている。

女尊男卑への恨みは、とても強いが、元凶の兎に助けられ、恩義を感じているため、現状は篠ノ之束に反旗をひるがえすつもりはない。

 

専用機:サードオニキス

 

世代:IS学園側の判断により、第三世代機。篠ノ之束がどの様に意図して作ったかは不明。

 

国家:無所属

 

分類:近接型

 

装備:右腕『輻射波動』、物理シールド『クローダ』、小型バルカン×2

 

待機状態は赤也の右腕として存在している異例のIS。

サードオニキスを展開すると、ただでさえ、見た目が普通とは縁遠い右腕が肥大化(コードギアスの紅蓮弐式参照)

メイン装備である輻射波動となる。高周波により発生する高熱は、ISの機能の一つ、搭乗者生命維持機能を発動させ、エネルギーを奪う。

もちろん、操縦者である赤也が、相手の命を気にしなければ最大出力を与え続け、相手を膨張死させることもできる。

 

物理シールド『クローダ』は、黒い大きな盾で、展開すると左手に装着される。取り回しの良さなどは一切、考えられておらず、展開すると操縦者を覆い隠せるほどの大きさである。重量も当然あるが、上下左右に突起物があり鈍器として扱うことも可能。

 

小型バルカンは、威力はないが連射力に優れた牽制専用武器。サードオニキスの両肩に装備されている。

 

装甲は少なく、急所を隠す様に赤黒い装甲が装着されている。しっかり装甲に覆われている部分は、両腕と両足、そして、胸部くらいで、あとはまばらに装甲がある。基本的に、血に近い赤黒い色で統一されており、右腕の異質さも相まって、禍々しさの漂うIS。

具体的に世代が決められているわけではないが、基本性能と右腕が第二世代ISより高いため、利便状第三世代機となる。

 

待機状態の右腕は、赤也の神経と繋がっており、織斑千冬の懸念通り、ISコアを抜くために解体しようものなら、耐え難い激痛が襲い赤也はショック死する事になる。しかし、神経が繋がっているおかげで、動作は極めてスムーズであり、赤也の意思により出力を変更可能である。

 

篠ノ之束が、サードオニキスをどの様な意図で渡したかは現状不明。

しかし、モルモットという発言から、何かしらの実験目的だと推測できる。




感想・批判お待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なんで、起動させて2回目で戦う事になるんですかね?

サブタイは、その時のオリ主の感想をイメージしてます。

Fateが煮詰まりまくってるから、こっちが進む進む。


「……しっかりとISを展開されてしまえば、流石に見逃すわけにはいかんな…」

 

呆れる織斑千冬。サードオニキスを展開して、混乱の中にいる俺は取り敢えず、無言で織斑千冬を見つめる。

これ、どうすんの?って意味を込めて。

 

「戻れと、念じれば元の状態に戻るだろうが……お前が周りを信用できる訳がないか」

 

「短い時間で、俺の性格をよくお分かりで」

 

実際、会話して10分経ったか経たないかぐらいだぞ。この人、結構観察眼あるんだな。

伊達に世界最強って訳じゃないか。

 

「君達、下がっていい。この先は、私と彼だけで話をする」

 

織斑千冬の言葉に、周りがざわめく。

まぁ、そりゃそうだろうね。俺は未だにIS展開中だし、一人の女性の首を躊躇いもなく締めて気絶させたし。これで、注意するなって方無理だわ。

 

「で、ですが、織斑先生…」

 

眼鏡をかけた見るからに気の弱そうな女性が止めようとする。

人は見かけによらないって事だよな。この人、引き金から指を離してないし、織斑千冬と話しながらも、俺の事を警戒してる。

 

「心配するな。彼は女尊男卑の思考が嫌いなだけだ。私は、そんな思想には染まっていない。

敵じゃないと分かれば、無闇に手を出す輩ではないさ」

 

言葉から感じる圧倒的な自信。仮に、俺がこの場でこの人を殺そうとしても、返り討ちに遭う未来が容易に想像できる。

生身でISと戦うなんて、馬鹿か死にたがりのする事だと思うが、この人なら生身でも勝てそうだと思える。

ほんと、人生何が活きてくるか分からない。あのゴミ家族の顔色を伺ってたことが活きる日が来るなんてな。

 

「……分かりました。ですが、私は入り口で待機させて貰いますね」

 

「山田先生……分かった。相変わらず、心配性だな君は」

 

ふっと女性なのにイケメンな笑みを浮かべる織斑千冬。

それを見て、顔を赤らめる山田さん。あのー、百合するなら、何処か別の場所でやってくれませんかね?

 

「そういう訳だ。ほら、出て行け」

 

織斑千冬の指示で武装した女性達が出て行く。俺が気絶させてしまった奴数人から、恨みの視線を貰ったが、自業自得だろうに。

鼻で馬鹿にした様に笑ってやると、益々視線が強くなった。

 

「……さて、これで話ができるな」

 

椅子を持ってきて座る織斑千冬。腕を組み、何かをする素振りがないのをしっかり確認して、サードオニキスに戻れと念じる。

一瞬、光ると元の右腕に戻っていた。

 

「で、俺はどうなるんですかね?織斑さん」

 

ベットに腰かけ、織斑千冬と目線を合わせる。

 

「二人目のIS操縦者として、IS学園に所属してもらう事になるだろうな」

 

疲れた表情で、俺を見る織斑千冬。ちょっと待て。二人目?俺以外に男性のIS操縦者なんていたのか?

んー……駄目だ。中3の春辺りから、母親にテレビを見るのを禁止され、姉妹に中学生活を徹底管理されてしまった俺には、社会知識が不足しまくっている。

 

「…その顔を見る限り、一人目に関して全く知らないようだな。お前、どんな僻地で生活してたんだ…」

 

「いやまぁ、この世の中、男は生き辛いって事ですよ」

 

織斑千冬の様子を見てる限り、かなりの常識らしい。全く、知らなかったが。

 

「そんなに男性の地位は低いのか……それと、今は二人きりだ。

私は肩苦しいのが苦手でな。敬語より普通に話して貰った方が落ち着く」

 

「……年上には礼儀を払いたいが、そっちがそう言うのなら普通に話すか」

 

この辺は女尊男卑とか関係ない。年上には、礼儀を。まぁ、女尊男卑のクソに払う礼儀はないが。

 

「本題に入るぞ。まず、一つ、束とお前は本当に関係がないんだな?」

 

嘘は許さんぞと、言わんばかりの目力で睨んでくる。

おぉ、怖い怖い。嘘を吐いたら、俺死ぬんじゃね?

 

「さっきも言った通り関係ない。一応、どういう風に出会ったか説明するわ。そっちの方が信憑性増すだろう」

 

俺が右腕を手に入れた経緯を話す。もちろん、嘘も隠し事もしていない。

 

「…なるほど。じゃあ、二つ目だ。そのISの性能を理解しているか?」

 

一瞬、間を置いて続きを話す織斑千冬。あの表情……兎と織斑千冬は何かしら関係があると判断して良いか。

友人か?少なくとも、ただの知り合いって感じではないな。

 

「いや。そもそも、手に入れたばっかりで、先程、起動させたばかりのISの性能なんて知るわけがないだろ」

 

「そうか。ちょうど良い、付いて来い」

 

椅子から立ち上がり、歩き出す織斑千冬。この人、人のペースとか全く気にしない人だ。

ベットから飛び降り織斑千冬の後を追う。後を追って、外に出ると山田さんと何か話していた。

 

「遅いぞ」

 

「あんたが、返事を聞かずにどんどん行くからだろうに」

 

「山田先生。では、頼んだぞ」

 

スルーかよ!

俺の発言を無視し、また歩き出す織斑千冬。また、遅れたら今度は何されるか分からん。急いで追いかける。

 

「……どこ行くんだこれ?」

 

「着けば分かる」

 

あまりにも淡白な返事に、会話する気力がどこかへ飛んでいき、無言で織斑千冬の後ろを歩く。

俺と織斑千冬の足音と、右腕の金属音以外に音がしない時間が3分ほど、続き案内された場所は、見せられた映像の場所ーーアリーナだった。嫌な予感がひしひしと感じる。

 

「戦え。とか、言いませんよね?」

 

「その通りだ。相手は、私ではないがな。そこでしばらく、待ってろ」

 

また一方的に言いたいことを言って、何処かに歩いて行く。

もうやだ、この人凄い疲れる。

しばらく待っていると、飛行音が聞こえてくる。

 

「少々、遅れました。織斑先生」

 

確かラファール・リヴァイヴだよな。それに乗ってるのは、山田さんか。

 

『大丈夫だ。西村、お前の相手は山田先生だ。変に気負う必要は無いぞ。

お前が勝てる訳がないからな』

 

「ちょ、織斑先生!?」

 

スピーカーから聞こえる織斑千冬の言葉に、慌てる山田さん。

勝てる訳がないか……そりゃ、当然だよな、そもそもまともにサードオニキスを動かせるかすら分からないっていうのに。

 

「――まぁ、それで負けることを容認する俺はもう、いないんだがな!来い、サードオニキス!」

 

右腕を左手の人差し指でひと撫でする。

光に包まれ、俺はサードオニキスを展開する。

 

「展開時間、0.8秒。2回目とは思えない展開スピードですね。繋がっているから、イメージがしやすいのでしょうか」

 

「俺が知る訳ないですよ」

 

まずは、武装が何あるのか確認するか。

俺がそう思うと同時に、情報が叩き込まれるように急に頭の中に、武装の見た目と使い方が思い浮かぶ。

きっと、サードオニキスが俺に叩き込んだのだろう。

 

「なるほどね。武装は理解した」

 

物理シールド『クローダ』を展開し構える。ただ、デカイから地面に着き、ドスンと音を立てる。

ていうか重っ!これ取り回し悪すぎだろ。

 

「お、大きなシールドですね」

 

盾から覗くように山田さんを見ると、両腕にアサルトライフルを構えていた。

 

『では、始め!』

 

織斑千冬の号令と同時に、山田さんが動く。盾がある正面ではなく、右にホバー移動して、アサルトライフルを撃ってくる。

咄嗟に左手を動かそうと、するが、クローダが重すぎて俺の動きは鈍重になり、見事にアサルトライフルを食らう。

喧嘩すらまともにしたことないのに、こんなもん振り回せるか!

 

『ISは、搭乗者の想像力によって動きを変えるぞ。その盾を振り回している姿を想像してみろ』

 

スピーカーから織斑千冬の助言が聞こえる。

イメージ?こうなりゃヤケ糞だ。動きやがれ、サードオニキス!

頭の中で、この盾を山田さんの方向に軽々向ける自分を想像する。気合いとイメージが伝わったのか、先程の重さが嘘の様に盾が動き、銃撃を防げる。

おぉ、と少し感動する。しかし、今度は上から衝撃を食らう。

どうやら、山田さんが空を飛び撃ってきてる様だ。だが、勝手が分かれば俺でももう少しやれる。先程と同じようなイメージで、盾を動かし、銃撃を防ぐ。反射神経はないが、サードオニキスがリアルタイムで送ってくる山田さんの表情から、ある程度の考えを読み取り盾を先に動かす。しばらく、撃たれるのと防ぐのを繰り返す。

 

「中々、飲み込みが早いですね。ですが、守ってるだけでは勝てませんよ?」

 

そうなんだよなぁ…だけど、山田さんの動きでなんとなく空を飛ぶイメージができた。

リロードに入ったタイミングで、クローダをしまい、空を飛ぶイメージをする。すると、サードオニキスが宙に浮く。

そのまま、右腕で山田さんを掴むイメージをすると、一直線で右手を開き、向かって行く。

 

「うぉぉぉ!」

 

リロードの隙と、まさか飛べるとは思っていない山田さんの不意を突き、右腕で摑みかかるが、アサルトライフルを盾にされてしまう。

だが、掴めれば希望はある!

 

「輻射波動!」

 

右腕から高周波が放たれる。その振動により、アサルトライフルは高熱になり、膨らむ。

危険を察知した山田さんがアサルトライフルから離れる。くそ、逃げられた。アサルトライフルは高熱により、内部の火薬が自然爆発する。

 

「……分かりました、織斑先生。かなり、凶悪な武装ですね、その右腕」

 

「えぇ。俺もそう思いますよ」

 

「大方のデータは取れたそうなので、少し本気で終わらせますね。織斑先生からも、許可が出ましたから」

 

にっこりと笑うと山田さんが目の前から消える。

サードオニキスの指示により、後ろを見るとショットガンの銃口が俺の顔に向けられていた。

 

「は?今何がーー」

 

最後まで言えず、ショットガンが撃たれた事による衝撃が俺の顔面を襲う。

そのまま、俺は山田さんのやりたい放題にやられ、シールドエネルギーが尽き、敗北した。

ーー分かっていたが、悔しい。

サードオニキスでの初戦は、俺の増長した心をへし折るには、十分すぎる結果となった。




IS起動、2回目が元国家代表候補生に勝てる訳がないだろう!
サブタイをこれにしようと思ったけど、流石に全てを表現しすぎてるから、却下した。

次回は多分、時間が進んで原作になると思われる。次がいつになるか分からないけど。
今まで書いてきたものより、明らかにはっちゃけながら、書いてます。この小説。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界最強と関わったら、平穏なんて遠くに行くらしい

みなさん、台風は大丈夫でしょうか?
こっちは、風が凄いぐらいで被害はありませんが、気は抜けません。
みなさんも、十分に気をつけてください。


「ハァ…ハァ……何度やっても勝てねぇ…」

 

山田さんに負けた後、無理を言って試合を続けたが、30戦0勝30敗北。みるも無残な結果になっている。

最後の方は、サードオニキスにも慣れてきたのか攻撃を当てる回数も増えたのだが、敗北。

 

「さ、流石に疲れましたぁ……教師になってこんなに動かす事になるなんて思っていませんでしたよ…」

 

山田さんも疲れているようで、ゆっくりと降りてくる。

いやぁ、意地に付き合わせて申し訳ないですっと心の中で謝罪しておく。

 

『いい運動になっただろう山田先生。西村も、もう満足しただろう。戻ってこい』

 

気のせいでなければ、楽しげな声の織斑千冬。エネルギーを補給するために、ピットまでフラフラと飛んでいき、サードオニキスを右腕に戻す。

 

「いっつ……サードオニキスも疲れてるのか?」

 

27回目辺りから、サードオニキスを右腕に戻す度に、僅かな痛みが右肩から伝わってくる。

何度も戦うのに付き合わせたし、文句を言われてもおかしくない。

 

「十分すぎるほどのデータが手に入った。これなら、学園長も満足するだろう」

 

右肩の痛みに、疑問を抱いていたら、織斑千冬が現れる。そういや、すっかり忘れてたけどサードオニキスのデータ集めでしたね。

山田さんと戦うの楽しくて、忘れてたけど。

ただ、やはり力があってもそれだけじゃ駄目だと改めて認識させられた。少しは、やれるかもしれないと思っていた自分をぶん殴りたい。

 

「今の所、第三世代機に見られるイメージインターフェースの様なものは、見受けられないが、第二世代としては、各部性能が高すぎる。

よって、利便上、サードオニキスだったか?それは、第三世代機とする」

 

「あの、俺が男だってこと忘れてます?そんな、専門知識を言われてもまっっったく、分かりませんよ」

 

男のIS分野理解なんて、整備士や開発者を目指していない限り、分かるわけがないだろう。

 

「そう言うと思っていた。これを読んでおけ」

 

ドンという音ともに、置かれるタウ○ペー○のごとく厚さがある本。

ISの教本。しかも、初歩中の初歩を集めたものだろう。いや、読めと?

 

「読め。1週間後には、IS学園での授業が始まる。そのために準備しておけ」

 

「あんたは鬼か!?この厚さを1週間で覚えろってか?」

 

ふざけんな、横暴だー!!っと心の中で追加しておく。

え?なぜ、言葉にしないかって?そりゃ、お前。

 

「……ん?」

 

すっごい、目が笑ってない殺気溢れまくりの世界最強の顔なんて見たら言えませんよ。

 

「そういや、俺、どこで寝泊まりすれば良いんすか?」

 

ここにきて、あのクソ家族のところになんか戻されたくねぇぞ。

IS動かせます、なんてバレたら俺の右腕は、無くなって俺も多分、死ぬ。

 

「一人目の部屋を無理やり都合した結果、現在、余裕がないし、教師陣も疲れ切っている。

余裕が出来るまでは、私と同じ部屋だ」

 

え、世界最強と同じ部屋なの?んー……サードオニキスに慣れるための情報を貰えるとしたら、良い利点か。

ただ、なんとなく俺の直感が告げている。こういう、外面が凄い奴って大概、内面が酷い。

だから、一つだけ質問をしてみよう。俺の生活に関わってくる。

 

「部屋、綺麗か?」

 

「……」

 

無言で明後日の方向を向く織斑千冬。

ギルティ、これは確定だ。ゴチャゴチャしてるな、確実に。

 

「貰ってばかりってのも、嫌だから対価だ。

俺はあんたに、住むところとISについて教えてもらう。その代わり、あんたの部屋の掃除とそうだな、家事を俺が受け持つ。

これでどうだ?悪くない提案だろう」

 

女尊男卑の風潮に拍車をかけた様な人だから、腹も立つし恨みもあるが、今は恩義の方が勝る。

そもそも、俺はこの人みたいな強い人は苦手だ。つい条件反射的に返事には同意を返してしまうし、逆らう気力が削がれる。

 

「なに、それは大いに助かる。あの、空き缶の山と味の変わらないツマミから解放される」

 

こういう人が見せる嬉し気な顔もまたズルイと思う。

 

「うわぁ、そんなにゴミ部屋なのか……早く案内してくれ。片付ける時間が無くなる」

 

「む?そうか。こっちだ、案内しよう」

 

それだけで、なんだか全てがどうでも良いと思えてしまうから。

はぁ、やっぱり好きなように生きるって難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にこれといったイベントがあるわけではなく、俺がIS学園の一生徒ととしての生活が始まる日がきた。

千冬と山田さん、以外の教師陣には相変わらず絶妙な距離感が存在しているが、まぁ、仕方ない。

ん?織斑千冬と呼ばなくなったのかって?

一緒の部屋で暮らすのに、呼ぶのが楽だったのと、綺麗にしても綺麗にしてもゴミを生成する千冬にブチ切れて、呼び捨てで呼んだらそのまま定着したという訳だ。

 

「赤也、私が呼んだら入って来い」

 

当然、千冬も俺の事を呼び捨てにする。元々、距離感を無視する方が千冬的に楽なんだろう。

 

「了解。あ、そうだ。一応、生徒がいる前では織斑先生と呼ぶけど、良いよな?千冬」

 

俺が礼儀を気にする性格なのは、知っているから度々、織斑先生と呼ぶのだが、その度に笑いを堪えたり、そもそも反応しなかったり。

反応しない時は、千冬と呼ぶしかないため、山田さんに散々、説教させられた。

 

「ん?そうか。私は別に、千冬と呼ばれても構わんぞ?」

 

「おうこら。あんたの悪戯好きは分かったから、ちゃんと教師モードになれや」

 

ほんと、この世界最強の事がよく分からん。堅物なのか悪戯好きなのか。

まぁ、言えることはお互いにこの関係を悪く思っていないということだ。だから、ついつい軽口が増える。

 

「ふふ、分かっているさ。中に入れば織斑先生で構わんよ」

 

話を終えると同時に、教室の前に到着する。

千冬が、俺の背中を叩き、入って行く。なんで、叩いていったし。

しばらく、教室が騒がしくなる。ほんと、外面はしっかりしてますね、千冬。

 

「訳あって遅れてた生徒を紹介する。入って来い!」

 

さてと、合図だな。

自動でスライドする便利な扉を開け、教室へ入る。

 

「……え?男?…」

 

「それになに……あの右腕……機械?」

 

ボソボソと聞こえる言葉。そして、奇異なものを見る視線。

分かっていたが、やはりこの右腕が気になるか。まぁ、どうでも良いや。

 

「西村赤也。そこの一人目の後に見つかった男性IS操縦者だ。

まだ報道されていないのと、ここに来るのが遅れたのは、事故で意識を失って検査が遅れたことと、俺が事故で失った右腕の代わりになるコイツの最終調整をしたからだ。男だからと、見た目が違うからと俺を避けるなら勝手にしてくれ。

そんな連中はこっちから願い下げだ。このクラスがまともである事を祈る。よろしく」

 

一応、最後に頭を下げておく。

まぁ、この挨拶で俺の印象なんて最悪以下になってるだろうから、この行為をしたところで焼け石に水だろう。

 

「くっくっく」

 

だから、笑うな、千冬。ほら、怖い笑い方をするから、周囲の女子がビビってるぞ。

 

「俺の席はどこでしょうか?織斑先生」

 

座る場所が分からないから、千冬に質問をする。なお、女子たちは俺の自己紹介と千冬の笑いによって完全に沈黙している。

もう一人の男子?それなら、俺の正面で固まってるよ。

 

「ん?あぁ、布仏の隣だ。赤也」

 

布仏と呼ばれた生徒の場所が分かりやすく光る。

ただ、その前にちょっと待てこら。なんで下の名前で呼んだ。

 

「え、今、千冬様、名前で呼んだ?」

 

「しかも、呼び捨て!」

 

「もしかして、そういう関係だったりするの!?」

 

ワイワイと盛り上がり始めるクラスメート達。

その原因である千冬は相変わらず、楽しげに笑っているし、俺の正面にいる男はめっちゃ、殺気みたいなものを飛ばして来るし……

厄介ごとが向こうから寄って来るようなそんな新生活の始まりになった。恨むぞ、千冬。

 

 




千冬さんを呼び捨てで呼ぶメンタル強い赤也くん。
こうなるとは、予想していなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

隣の子が女神すぎて、ありがたい

まさか、クラス代表を決める話にすら到達しないとは。
シスコン、恐るべし。


千冬の発言から騒がしくなった教室は、これまた千冬の静かにしろ発言でピタリと静かになる。

世界最強になってから、崇拝される様になったと酔いながら話していたが、ここまでか……。

 

「よろしくね〜〜」

 

間延びした声に俺の意識は現実に戻される。無意識に、俺は自分に与えられた席まで来ていた様だ。

いや、確かにIS学園の制服って改造自由だけど、そのダボダボの両腕はどうにかならかったんです?

俺の隣、布仏とか言ったな。

 

「おぉ〜カッコいい〜もうちょっと、見せて見せてー!」

 

動いた俺の右手をキラキラした目で見てくる布仏。というか、既にダボダボした服で俺の右手を掴んで持ち上げている。

左隣だから、そりゃ簡単に触れられるよなぁとかどうでも良い事を思いつつ、触られる事が嫌ではないので、為すがままになる。

 

「ふむふむ…なるほど。ここは、こういう感じにしてあって……うわぁー凄い。なにこの機構初めて見たよぉ〜」

 

なにが楽しいのかさっぱり分からないけど、右腕を弄りながら、表情をコロコロ変えていく布仏。

なんだろうこの、小動物が戯れてきてる様な感覚は。

 

「これでSHRは終わりだ。赤也、布仏と戯れるのも良いが、授業の準備と教師の話はしっかり聞いておけ」

 

俺が布仏を見ている間に、SHRが終わったらしい。ついでに、千冬から小言を貰う。

もう、赤也呼び確定なんですねそうですか。というか、俺が入ってきた時点で時間ほとんど終わってたやんけ。話もなにもあったのだろうか?俺の疑問は解消される事なく、山田さんと千冬は教室から出ていく。

 

「おーい、布仏。そろそろ、離してくれ。鞄から教科書が出せなくて困る」

 

「はっ、ごめんごめん。でも、見せてくれてありがと〜あかやん」

 

俺の言葉にハッとした様に腕を離してくれる布仏。

あかやん?俺のニックネームか何かだろうか。今まで、ニックネームなんて付けられた事がなかったから少しいや、かなり嬉しい。

普段は、おい!とかゴミ!とか付属品!とか、まともな名前ですら呼ばれてなかったからなぁ…

 

「急に遠い目をしてどうしたの〜?」

 

俺の様子に気づいた布仏がコテンと首を傾げながら聞いてくる。

 

「気にすんな。なんでもない。ただ、ニックネームなんて初めて付けられて感動してただけだ」

 

「じゃあ〜私が何度でも呼んであげよう〜あかやん」

 

俺をボッチだと蔑むこともなく、布仏が再びニックネームで呼んでくれる。

何だ、この子。女神か?良い子すぎるだろ、女尊男卑の中よくぞここまで、穢れずに育ってくれたものだ。

と、父親か兄貴かと言われかねない感想を抱いていた時に、俺は首根っこを掴まれる感覚と共に、ソイツと視線を合わせることになった。

 

「お前、千冬姉とどういう関係だ!!」

 

一人目の男性IS操縦者ーー織斑一夏だった。

あぁ、SHRが終わったから、今は長くはない休み時間か。

 

「俺と織斑先生の関係?はっ!礼儀も知らん奴に教えるかよ」

 

千冬との関係なんて、ただの同居人だが、人の首根っこをいきなり掴んで、怒りだが嫉妬だか知らんが、向けてくる奴に教える気はない。

ただまぁ、俺の返答に深読み、いや、ただの妄想だな。それを広げる女子達の声を聞いて、素直に教えておけば良かったかと若干後悔。

 

「てめぇ……」

 

ねぇ、何でこの人こんなに敵意全開なの?千冬に関することは、全部知ってないと気が済まないの?

それとも、シスコン?姉の事が大好きなの?……どうも、そうっぽいな。

 

「いい加減離せって……苦しいんだよ」

 

まぁ、そう判断したところで教える気はないんですけど。

 

「千冬姉との関係を話したら、離してやる」

 

「……姉離れの出来ない弟だな。そんなに自分の知らない姉がいる事が気に食わないか?

そんなに姉の全てを知りたいか?……気色悪い奴だな、シスコンも大概にしておけよ」

 

そもそも、姉とかの関係とかどうでも良いだろう。家族って言っても、所詮は血の繋がった他人だ。

それぞれの生き方があるだろし、それぞれの縁だってあるだろうよ。それを、弟だから家族だからと介入して良い理由にはならんだろう。

まぁ、俺が自分のクソ家族にそう思ってるだけだから、コイツに押し付ける気はないが。

 

「この……!」

 

「一夏!もうやめろ、時間だ。千冬さんに見つかるぞ」

 

殴ろうとした織斑を、ずっと近くで、俺らの成り行きを見ていたポニテの女子が止める。

チッ、殴られてしまえば、正当防衛が成立するからこっちからも手を出せたのに……。

 

「だけど、箒!」

 

「そんなに気になるなら、そんな奴から聞かないで千冬さんから直接聞けば良いだろう」

 

「そ、それもそうだな」

 

織斑が俺の首根っこから手を離す。勢い良く、座り込むことになるが尻が痛いだけだ。

 

「大丈夫〜あかやん?」

 

布仏が心配そうな顔で声をかけてくる。やっぱり、女神やこの子。

 

「大丈夫だ。ちょっと、息苦しかっただけで別に問題はない」

 

布仏と会話している間に、織斑とポニテの女子は自分の席に戻っていった。

謝罪は無しか。そうですか。

 

「おりむーもおりむーだけど、あかやんも無駄に煽る様に言ってちゃダメだよぉ〜」

 

俺の考えがバレてる!?

気の抜ける言葉遣いと雰囲気で流されてたけど、実は凄い子なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布仏の意外なスキルに驚いている間に、山田さんが壇上に上がり、千冬は部屋の隅へ。

どうやら、一時間目の授業は山田さんがやるらしい。山田さんの説明は分かりやすいから、大変有り難い。

織斑もすぐに千冬に質問しに行くと思っていたが、変なところが律儀なのか席に座って大人しくしている。と、言うよりはあれは授業の話がまるで分かっていない奴の顔だ。

 

「ほとんど全部分かりません!」

 

山田さんの説明聞いても、分からないのかアイツ!流石の山田さんも、ガクッと項垂れる。

貴女の説明は悪くないですよ。アイツが馬鹿なだけです。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

千冬が呆れた様子で、質問を投げかける。

あぁ、あれを覚えるのは地獄だった……山田さんに教わって覚えられないと泣きそうな目をされるし、千冬に教わって覚えられないと殺気をプレゼントされるし……必死に勉強したなぁー。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました!」

 

バコンッという出席簿の音が響く。うずくまる織斑と出席簿から煙が出ている千冬。

 

「再発行してやるから、1週間で覚えろ」

 

千冬は1週間の期限を設けるのが好きなのだろうか?

俺の場合は、入学が1週間後だったから、ちょっと違うかもしれないが。

 

「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」

 

「情けないな。赤也はやり遂げたぞ」

 

だから、何で俺を引き合いに出すかね千冬。

面倒ごとを起こすなって視線を送ったら、ニヤリと笑われた。狙ってやっていやがる千冬の野郎。

 

「アイツが……ってそうだ。千……織斑先生、アイツとの関係を教えてくれ!」

 

今聞くのかよ。クラスの女子達も、それが聞きたかったと言わんばかりに、静かになり全員が千冬の言葉を待つ。

 

「赤也との関係だと?そうだな……寮長室で面倒を見ている同居人っと言ったところだ。

これで質問には答えたぞ。集中して授業を受けろよ織斑」

 

あんた狙ってやってるだろほんと。

 

「「「「きゃーー!!」」」」

 

クラスの女子達が千冬の返事を聞いて、騒ぎ出す。

ちらほら聞こえてくる言葉の中には、『禁断の関係』、『召使い』、『実は婚約をしている』などと言った事実無根の言葉がある。

召使いは間違ってないかもしれないけど…千冬の部屋掃除してるの俺だし。

 

「静かにしろ!山田先生、遮って悪かった」

 

「い、いえ。では、授業を再開しますね」

 

山田さんが授業を再開する。

しかし、ほぼ全員話なんて聞いていない。女子の大半は、俺や千冬の間を視線がウロウロし、織斑は俺にずっっと、殺気を向けてくる。

 

「大丈夫〜あかやん。お腹痛いの?」

 

ストレスで痛くなった腹を押さえていたら、布仏に心配される。

あぁ、布仏ぐらいだ。俺の胃に優しい存在は。

隣の布仏に癒されつつ、俺は今日の夕飯に千冬が嫌いな物をふんだんに使ってやろうと決めた。

 




次こそ、クラス代表の話まで持って行きたい……

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ストレスが溜まると人間は、簡単に暴力に出てしまう

前話の本音女神&シスコン一夏回、みんな好きなんでしょうか?
お気に入りがすごく増えて驚いています。


一時間目と二時間目が終わって、三時間目に移る間の休み時間。

俺は、右腕を相変わらず布仏に弄られていた。

千冬の同居人発言以降、ずっと俺に突っかかって来ていた織斑は、金髪の女子に絡まれており、こちらに来ない。

 

「ふぉぉ〜」

 

純真無垢な布仏に存分に癒されるとしよう。この短時間で俺の胃はマッハだよ……

右腕を弄りつつ、色んな角度で見ては驚いたり、歓声を上げたりする布仏の一挙一動を見守る。

 

「なんか、すごくふわっとした空気が広がってない?」

 

「う、うん。自己紹介の時や織斑君と揉めてた時とは、西村君の雰囲気が全然違う」

 

「本音の力?」

 

「あり得そうだから困るわ……」

 

周囲の女子達が俺たちの様子を見て、なにやら話しているがまぁ、関係ないだろう。

布仏経由で、紹介された谷本や相川、夜竹などが俺を避けることなく関わってくれるのがとても嬉しい。やはり、布仏は女神だったか。

 

「なんで、私を拝んでるの〜?」

 

「ただの礼だよ。気にすんな」

 

「変なあかやん」

 

ほにゃっと笑いながら、言う布仏。

変と言われて、悪い気がしない事ってあるんだな。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「なんだ?」

 

織斑に絡んでいた金髪がこっちにやってくる。

あぁ、見たことあると思ったら、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットか。千冬が乱雑に書類を置いてたから、そこで見たな。

織斑がこっちに来たいがオルコットがいるから、来れない。良いぞ、オルコット、時間いっぱいまで話そうじゃないか。

 

「まぁ、なんですのそのお返事!わたくしに話しかけられるだけでも、光栄なのですから、それ相応の返事があるんじゃなくて?

まったく、先ほどの方もそうですが、教養のない男どもですことね」

 

一瞬で、話そうという気力が霧散した。

布仏が右腕を弄っているから、抑え込んだが、そうじゃなければこいつに殴りかかっているところだ。

 

「……そいつはどうも。だが、生憎、俺は人間でね。

女尊男卑の思考に染まってる猿と話す気なんてこれっぽっちもないんだわ。あぁ、すまない。言葉を理解できないのだな」

 

手が出なかった分言葉に物凄く毒が乗ってしまった。その証拠に横にいる布仏が頬を脹らめて、ジト目を送ってくる。

くっ、女神からの視線は堪えるぞ…

 

「…猿ですって!?この、イギリス代表候補生のわたくしを猿と言いました!?」

 

うるせぇ!ヒステリックに喚くな。

なんで、女性のヒステリックはこうも耳に響くかね。

 

「喚くな。イギリス代表候補生だか、セシリア・オルコットだか知らんけど、女尊男卑なんてクソみたいな思想に染まってるとそのうち、痛い目を見るぞ」

 

「あら、わたくしのことは知っているみたいですのね。なら、わたくしがどの様な力を持っているかもご存知のはず。

それを知った上での言葉ですの?」

 

しまった。不用意に名前を読み上げたせいで、冷静になりやがった。

しかも、こいつ妙に口撃に慣れていやがる。こいつの力……あぁ、専用機か。

千冬の管理の雑さに感謝だな。これは。

 

「専用機だろ。知っているさ、だからどうした?

IS学園では専用機持ちと言えど、私用での展開を禁止されている。今この場で、展開して俺を殺すとでも言うのか?」

 

まぁ、ここで展開したら俺も容赦なく、サードオニキスを展開するが。

 

「一人目とは違い、多少の教養はある様ですわね。礼儀は無いようですけれど」

 

「ふん。お前のような奴に、払う礼儀は持ち合わせていないんでね」

 

無言で睨み合う時間が発生する。

女尊男卑思考も相まって、俺とソリがまるで合わない。おそらく、それは向こうも感じているだろう。

 

「……まぁ、貴方が泣きながらお願いするのであれば、ISについて色々と教えて差し上げますわよ?」

 

こいつ、あの状況から仕切り直して来やがった。

アホなのか?俺がそれにYESと答えるわけが無いだろうに。

 

「断る。悪いが、間に合っている」

 

「そうですか。流石、織斑先生の腰巾着なだけはありますわね。

どのように取り入ったのかは知りませんが、秘密の訓練でもなさっているのですか?所詮、男は女に媚び諂って生きる下等生物ですものね」

 

あぁ、なるほど。俺がどう返答するかは分かりきった上での挑発か。

しかも、教室にいる千冬信者を自分の味方につける意味合いも込めていやがる。手口が厭らしいぜ。代表候補生。

と、ここでチャイムが鳴る。固まっていた女子達や織斑も我に帰り、席に戻り、授業の準備を始める。

 

「…とっとと、戻ったらどうだ?」

 

「あら、心配されなくても戻りますわよ。右腕の無い欠陥品に言われなくてもね」

 

欠陥品。

その一言で、こいつの首をへし折りたくなる衝動に駆られ、布仏がいるのを忘れ右腕を動かそうとする。

しかし、結果としてあいつは席に戻り、俺の右腕は動かなかった。

 

「駄目だよ。あかやん、それはやっちゃ駄目」

 

俺の右腕を両手で抱え込む様に押さえている布仏がいたからだ。

フゥと一息ついて、自分を落ち着かせる。

 

「布仏……お前、着痩せするタイプだったんだな」

 

「ほぇ?………あかやんのエッチぃ〜〜」

 

右腕から伝う豊満な感覚を思わずそのまま、伝える。

布仏もそれに乗っかり茶化してくる。

 

「悪い悪い………ありがと、布仏」

 

「どういたしましてなのだ〜」

 

ちゃんと礼を言っておく。もし、布仏が押さえてくれてなければ、俺は確実に殺人者になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性を説明する」

 

三時間目は千冬が担当の様だ。

ISの基本的なことは山田さんで、武器は千冬。なんとも、らしいと言える配役だな。サードオニキスの装備はだいぶ特徴的だから、今から説明される武器を俺が使うことはないだろうけど、敵が使ってくるかもしれないし、真面目に聞くか。

 

「あぁ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな」

 

集中しようと思った矢先がこれである。

 

「クラス代表はまぁ、色々な雑用係であり、クラスの実力を測る基準にもなるものだ。

一年間変更することはない。自他推薦は問わん。誰かいるか?」

 

千冬の言葉にクラスがざわめく。

女子達が近くの生徒とやりとりをして、やがて一人が手を挙げる。

 

「はい!織斑君を推薦します」

 

「私もそれでいいと思います!」

 

織斑がすごい勢いで推薦されていく。大変だな、織斑。頑張れ、応援してるぞ(棒)。

 

「候補者は織斑一夏……他にはいないのか?」

 

千冬が入力すると、電子黒板に勢いよく、織斑一夏と現れる。

ハイテクだなぁ。いくら、かかってんだろう。

 

「お、俺!?ちょっと待ってくれ、俺はやりたくないぞ!」

 

「自他推薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権はないぞ」

 

ウワァ、暴君だな。千冬らしいと言えばらしいけど。

バン!っという音ともにオルコットが立ち上がる。

 

「納得いきませんわーーその様な選出は認められませんわ。物珍しいというだけで、男が代表になるなんて、そもそも、男が代表なんて恥さらしですわ!」

 

女尊男卑に染まった奴らしい言葉だ。ただ、一点だけ同意しよう。

物珍しいというだけで、代表になるのは確かに反対だ。努力をした者や意欲のある者から、活躍の場を奪う事になる。

まぁ、自薦しろよって話なんだがな。

俺が、考えに耽っている間にも、オルコットの演説は続いていく。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろう。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

演説の途中で日本が馬鹿にされ、気に食わなかった織斑が火に油を注ぐ。

そして、口論は悪化していった。

 

「お前もなんか言えよ、西村!」

 

なんで、俺に飛び火するんですかね。これが分からない。

 

「はい?」

 

「はい?じゃねぇよ。男が日本が馬鹿にされたんだぞ。黙ってて良いわけないだろう」

 

正義感に溢れる大変素晴らしい言葉を頂戴する。ふざけんな。

女尊男卑って思想がどの国から始まったと思っている……どの国が女尊男卑による被害を一番被ってると思ってるんだ!

 

「悪いが愛国心なんてカケラも持ち合わせてないからな」

 

「はぁ!お前、それでも日本の男かよ!」

 

いつの時代の話をしてるんだこいつは。

愛国心に溢れる日本人なんて、もうほとんどいないだろう。

 

「ふん。所詮は欠陥品、自分の国すら誇れない様ですわね。

もっと、欠陥品らしく、女性に媚び諂って生きることを覚えたらどうでしょうか?プライドも何も持ち合わせていないのでしたら」

 

……もう我慢できねぇ。

席から立ち上がり、オルコットに飛びかかろうとする。

 

「あかやん!」

 

「赤也!」

 

布仏が俺の足をつかみ、千冬が俺の右腕を押さえる。

完全に動きの初動を封じられる。

 

「布仏、離せ」

 

「やだ。離したら、あかやんを犯罪者にさせちゃうもん」

 

顔を赤くしながら、全力で俺の足を押さえる布仏。

 

「千冬」

 

「落ち着け、赤也。道を踏み外すな。戻れなくなるぞ」

 

ギチギチと音を立てながら、俺の右腕を抑え込んでいる千冬。

必死に俺を押さえる二人に、殺意が怒りが霧散していく。なんというか、酷く自分が馬鹿らしく思えてしまった。

 

「…すまん。もう、大丈夫だ」

 

真っ先に右腕が解放され、だらりと落ちる。

それを見て、布仏も安心し、俺の足を離してくれる。殺気がかなり漏れていた様で、周りのクラスメートが震えている。

 

「みんな、すまん。ちょっと自制が効かなかった」

 

みんなの中にオルコットと織斑は含んでいないが、謝罪する。

今度、菓子でも作ってクラスメートに奢ろう。そう決めた。

 

「織斑先生、あかやんを推薦します」

 

布仏が横で俺を他薦する。

驚き、布仏に視線を合わせると。

 

「鬱憤は溜めすぎないほうがいいよ。あかやん」

 

っと、小声で言う。

なるほど、やりすぎない様に暴れろって事か。感謝するぜ、布仏。

 

「認めよう。それぞれ、遺恨があるだろう。

クラス代表は、来週の月曜日に放課後。第三アリーナで戦って決める。各々、準備をしておけ!」

 

千冬には布仏の言葉が聞こえていた様で、手を叩きながら、クラス全員に聞こえるように、宣言する。

ふぅと一息つき、視線をあげると、織斑、オルコットと視線がぶつかる。

 

「わたくしの勝ちは決定事項ですわね」

 

「絶対に負けないからな」

 

「お前らへのストレスをぶつけるにはいい機会だ」

 

三者三様の言葉が飛び交う。

再び、サードオニキスを纏う日は近い。

 




キレると自制の効かないオリ主。ただし、冷めやすい模様。
前作でヒロインにしていたセシリアを悪く書くのが、すごく大変だった。でも、何故か楽しさを見いだしつつあった。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漸く、1日が終わる。濃密すぎませんかね?

Fateが詰まったから、息抜きに書いてたら続きが出来上がる不思議。

内容的には、箸休め回。ゆっくりしてるよ。


あのやり取りの後、授業は問題なく進み、今は放課後。

俺は、教室で千冬から部屋の鍵を貰うべく、待機していた。何故か、織斑もいるが。

俺が寝泊まりに利用している寮長室は、出るときは自由だが、入るときには千冬と一緒で無くてはならない。初めは信用がなかったからだが、今は単に千冬が面白がっているからだ。

 

「あー、くそっ、分かんねぇ」

 

相変わらず、前の席で悶々としている織斑。ISの教本を見ては、分からないと突っ伏している。

鬱陶しいんですけども。まぁ、廊下にいる他学年の女子達や他のクラスの女子達の視線や小声に比べれば鬱陶しくないのだが。

となりの布仏はいない。なにやら、用事があるらしく、放課後になったらゆっくりと教室を出ていった。

つまり、今の俺には女神が! 癒しがない。その事実に、はぁ、と溜息を吐く。

 

「あ、織斑くん、良かったです。まだ、教室にいたんですね」

 

山田さんが織斑に話しかけている。聞こえてくる内容的に部屋の話だろう。

廊下の女子達が静かになり、端に寄っていくのが見えた。どうやら俺の待ち人が来たらしい。

 

「待たせたな、赤也」

 

ふっと微笑みながら入ってくる千冬。ほんと、イケメンですね貴女。

ほら、周りの女子生徒が顔を赤くしてるから、刺激強すぎますよ。

 

「いい加減俺に鍵くれても良いんじゃないですかね?」

 

「寮長室は機密情報があるからな。お前に渡すのは構わんが、お前に着いてきた一般生徒にまで入られては困る」

 

外的な理由はそう言う事にしてるんですねなるほど。

呆れたように、頷いておく。

 

「千冬姉!」

 

「織斑先生だ。なんだ、織斑?」

 

俺らのやり取りを見ていた織斑が今にも飛びかからんとする勢いで、千冬に食ってかかる。

後ろで山田さんがオロオロしているところから察するに、まだ話の途中のようだ。

 

「なんで、西村と千…織斑先生が一緒の部屋なんだよ。別の部屋は用意出来なかったのか!?」

 

どうやらまだ、納得できていないようだ。

千冬が愚痴をこぼしてたが、家に全然帰っていないらしい。だからこその執着なのだろうけど。

 

「お前の部屋を用意するのにどれだけ手間取ったと思う? 織斑。

教師達も疲れている。漸く部屋の準備が終わって、皆んなが一息ついている時に西村が見つかった。また部屋替えを行えば、入学式までに準備が間に合わなくなる。だから、私と相部屋というわけだ」

 

千冬がざっくりと説明する。俺の検査が遅れたのは朝の自己紹介の時に言っておいたし、とりあえず問題はないだろう。

そもそも、部屋替えが完了してたタイミングってのは間違ってない。

 

「ぐっ…でもよ…」

 

「お前達は特例なんだ。当然、こう言った不備が発生することもある」

 

「不備……ってことは、千冬姉が喜んで西村と相部屋になってる訳じゃないだな……良かった……」

 

不備という言葉を聞いて、嬉しそうにする織斑。

千冬もブラコンだが、こいつはこいつでやっぱりシスコンだな。しかも、結構重症だ。

 

「織斑先生だと言ってるだろう。はぁ、用がないならもう行くぞ」

 

眉間をつまみ、溜息を吐く千冬。弟の様子に疲れたのだろう。

 

「あぁ。じゃあな、千…織斑先生、赤也!」

 

「……お前に名前で呼ばれる筋合いないんだけど」

 

「なんだよ、同じ男同士仲良くしようぜ!」

 

こいつ……頭どうかしてんじゃないのか?

朝からずっと俺に突っかかって来て、挙句の果てに仲良くしようだと?調子が良いとかそういう次元じゃねぇぞ。

 

「織斑先生、行きましょう」

 

もう疲れた……さすがに、あの様子に返答する気力も起きない。

俺が返事をしないことに騒ぐ織斑を放置して、寮へと向かう俺と千冬。

相変わらず、女子生徒達がワラワラとついて来ようとするが。

 

「鬱陶しい。散れ」

 

千冬の睨みと一言で散り散りになった。

 

「はぁ、全く。赤也、クラスではやっていけそうか?」

 

周りの生徒達が居なくなったのを確認してから、千冬が喋り始める。

普通に話せってことか。

 

「どうだろうな。千冬の発言のせいで、一部には敵のように見られてる。あんたの弟には頭を抱えるよ」

 

「前者に関してはどうせ、バレると思ってな。私は隠し事が下手だからな。一夏に関しては……すまないとしか。

私がしっかり見れていなかったせいか、アイツは精神的に子供なんだ」

 

暗い表情になる千冬。やっぱり、ブラコンだな。こういうところは。

とはいえ、俺がアイツと仲良くなることは無理だろう。

 

「仲良くは無理そうか?」

 

酷く心配そうに聞いてくる千冬。弟を想う姉の顔だ。

 

「すまない。さすがに、千冬の頼みでも無理だ。

俺とアイツは、根本的に合わない。価値観が違いすぎる」

 

雰囲気というか空気で分かる。

俺はアイツみたいに、自分は絶対的に正しいと思っている奴は嫌いだ。俺にあんなに当たって来たのに、先ほどの仲良くしよう発言が特にそれだ。

自分の思っていることは正しい。だから、今までの事は無視しよう。ふざけんな。

 

「……そうか」

 

残念そうに俯く千冬。

だから、ズルイって。そういう気の強い人が見せる弱さってのはさ。

 

「努力はする。今は、それで勘弁してくれ」

 

「……ふふっ、あぁ。分かったよ赤也」

 

嬉しそうに笑う千冬。多分、俺の考えも透けてるんだろうなぁ。

まぁ、努力だけはしてみよう。第一印象が悪すぎるだけかもしれない。

そんな話をしていたら、寮長室に到着した。

今では綺麗になり二人の住み分けも出来ている部屋に入る。入り口付近を俺が使っているので、鞄を置き、制服を脱ぎ、部屋着を着る。反対側では同じように千冬が着替えているが、別に覗く趣味はないから、無視する。

そのまま、コーヒーを淹れる準備をする。最近、千冬が自室で書類仕事を片付ける様になったため、コーヒーを飲む頻度が増えた。

準備を整え、いつでも千冬のオーダーに答えることが出来るようになった辺りで、千冬が口を開く。

 

「そう言えば、布仏とかなり打ち解けているようだな」

 

「ん? あぁ、今時、珍しいぐらい女尊男卑に染まっていない良い奴で安心してる」

 

「コーヒーを貰えるか? なら、良かったよ、お前はコミュニケーション能力がある方ではないからな。

女子だらけのここで上手くやれるか心配だった」

 

コーヒーを淹れ、千冬の目の前におく。ありがとうという言葉を聞きつつ、返答する。

 

「そうですかい。あぁ、一つ質問なんだが、オルコットのISのデータとか見れるのか?」

 

「希望するなら閲覧可能だ。国家代表や代表候補生の動きは、授業でも使えるものだからな。

クラス代表になりたい訳ではないのだろう?」

 

米を研いで夕飯の準備を始めた俺に、千冬が聞いてくる。

そりゃ、クラス代表になりたい訳がない。俺は、面倒ごとが嫌いだし。

 

「もちろん。布仏にも言われたが、鬱憤を溜めないようにするためだ」

 

「一夏は一先ず置いておくとして、オルコットは代表候補生だ。

お前と稼働時間や訓練の密度が違うぞ? 私が面倒を見てやろうか?」

 

冷蔵庫を開け、こっそりと買って置いた千冬の嫌いな物がある事を確認。

 

「いや良い。千冬に訓練してもらえるなら、確かに強くなれるかもしれないが、ただでさえ面倒な噂に真実味が出るし、そんなもんで勝てても嬉しくない。自分だけでどうにかするさ」

 

野菜を切り分け、肉を自然解凍する。

肉が溶けるまでの間に、回し忘れてた換気扇と、調味料の準備を整える。

おっと、普段ならそろそろ千冬がビールを要求してくる頃か。豆腐を取り出し、冷奴を作る。

 

「そうか。なら、頑張れよ、少年」

 

「恥ずかしい結果にはならないようにするさ」

 

「期待するとしよう。っと、そろそろビールをくれ」

 

「言うと思っていたぞ」

 

冷奴とビールを届ける。

机の端に書類があるのと、空になったマグカップを見て、仕事が終わった事に気づく。

 

「今日は随分と少ないな。いつもは、イライラしながら酒を飲むのに」

 

「まるで私が仕事出来ないみたいな言い方はやめろ。

アリーナの使用許可が重なっていた場合、そのクラスに優先的に別の場所が使えるように手配する書類だけだからな」

 

プシュっとビールを開ける音が響く。

 

「これで残りの私の仕事は、お前の美味い飯を食うことだけだ」

 

「期待しておけよ。自信作だ」

 

千冬の嫌いなピーマンを大量に使った青椒肉絲だがな。

今日1日の精神的ストレスのお返しだ。

 

「ふっ、楽しみにしている」

 

この後、ピーマンたっぷりの青椒肉絲に絶望し、ピーマンを露骨に残そうとする千冬と俺の口喧嘩が始まったのは言うまでもない。

 

 

 




あの、口論の後に渋々、ピーマンを食べる事になる千冬さんの姿があったことは報告しておきますね。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やはり、腐っても代表候補生だった

こんなサブタイですけど、戦いません。
対戦カードが決まるだけです。


千冬にピーマンを食べさせた翌日、俺は朝から職員室に来ていた。

問題行動とかを起こした訳じゃないぞ。え?もう、起こしてる?ごめんなさい。

 

「失礼します。山田さんはいますか?」

 

俺が職員室に入ると、相変わらず微妙な空気になる職員室。

んー、この信頼の無さ。泣けてこない。

 

「あ、ここですよ」

 

入り口の少し奥に山田さんがいた。手を上げて、自分の位置を教えてくれる。

そこまで歩いていく。道中で、時々、睨みつけられたりしたが、気にしない気にしない。

 

「どうかしました?西村くん」

 

「オルコットのISデータを見して貰いたいのですが。可能ですか?」

 

「えぇ、構いませんよ。じゃあ、この書類に名前と利用日それから利用目的を書いてください。

今日の放課後には使えるようにしておきますから」

 

「わかりました」

 

鞄から、ペンを取り出し記入していく。

しっかし、山田さんは書類関連の仕事が早いよなぁ。千冬だったら、1日後になるのに。

 

「そう言えば、織斑先生は?」

 

俺が職員室に来てるのに千冬がいない事に疑問を覚えたのだろう。

 

「あぁ、多分、軽い二日酔いになってると思うんで、置いて来ました」

 

ピーマンの味を口から消すとか言って、酒を追加したからなぁ。しかも、酔って人の話聞かないし。

おかげで、寝不足だよちくしょう。

 

「ちゃんと気をつけて下さいって言っておいたんですけどねぇ…もぅ」

 

「いたた…おはよう」

 

何というタイミングの悪さ。

山田さんが少しだけ、怒ってるタイミングで千冬が入って来た。よし、面倒ごとに巻き込まれるより前に書き上げよう。

書くもの書いて、山田さんに渡す。

 

「はい。受け取りました」

 

山田さんが受け取ったのを確認して、入り口の方に戻っていく。

千冬の席は山田さんの隣なので、当然すれ違う。

 

「頑張って下さい。織斑先生」

 

「ん?どういうーー山田先生。何で、そんな怖い顔をしてるんだ?」

 

職員室を急いで出る。

そして、一年一組の教室に向かおうとした時。

 

「ちょ、真耶待て!何を怒ってるか知らんが、頭痛がーー」

 

千冬の悲鳴が聞こえてきた。

心の中でどんまいと言っておく。

そのまま、教室に着く。1日しか経過していないとはいえ、女子達の仲良くなる速度は早く教室の外に声が出てくるほど、賑やかだ。

というか、割と早めに来たのにみんな早起きだな。

俺が入ると同時に、教室が静かになる。まぁ、うん。昨日、あんなにビビらせたもんな…

 

「あ、あかやん。おはよう〜」

 

こんな状況でも変わらず声をかけてくれる布仏はやはり女神だ。

 

「おはよう。布仏、昨日の礼と詫びだ。食ってくれ」

 

持ってきた紙袋から、クッキーの入った袋を一つ渡す。

 

「俺の自作だ。良かったら食べてくれ。それと、クラスのみんなの分もある。

昨日、怖がらせてしまった詫びだ。食べてくれると嬉しい」

 

「おぉ〜甘くて美味しいぃ〜」

 

俺の横で早速食べ始めた布仏。

味付けは間違っていなかったらしく、ニコニコしながら食べている。ふぅ、良かった良かった。

 

「あー、本音ばっかりズルイ!わたしにも頂戴」

 

布仏の友人である谷本が一番、真っ先にやってくる。

クラスの雰囲気を察して、いの一番に来てくれた事に感謝しつつ、クッキーを渡す。

 

「私は和菓子の方が良いのですけど…貰っておきますね」

 

意外な事にほとんど、関わってない四十院が次に貰っていく。

俺とほとんど関わってなかった四十院が貰った事で、凄い勢いで押し寄せてくるクラスメート達。

 

「うぉぉ!?そんな一気に来なくてもちゃんと、全員分あるから」

 

「人気者だねぇ〜あかやん」

 

「和んでないで配るの手伝ってくれぇ、布仏」

 

「は〜い」

 

布仏の協力を得て、どうにか押し寄せる波を捌いていく。

ただ、布仏のペースがすごく遅いから、1人から、1.2人に変わった程度の効率だが。

クッキーを受け取ってくれたのは、全体の約70%、残りは受け取ってくれなかった。女尊男卑思考か、千冬信者だろう。

思っていたより少ない。どうやら、まともなクラスのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。織斑、お前のISだがもう少し時間がかかる」

 

二日酔いに悩まされている顔色の悪い千冬が、授業の途中で、そんなことを言い出す。

織斑に専用機ねぇ…サードオニキスを持ってて言うのもアレなんだけど、あいつに渡して大丈夫か?

ほんとに俺が言えた事じゃないけど。

織斑に専用機が与えられると言う事で、クラスが騒がしくなるが、BGM代わりにしておく。

 

「て、事は西村君にも?」

 

クラスの誰かがそんなことをいう。すでにサードオニキスを持ってるから必要ないです。

 

「いや、奴はすでに専用機を持ってる。あの右腕がそうだ。

調整に時間がかかったのは、あいつのISが世界初の医療に転用させたものだったからだ。本来なら、女性にしか使えなかったはずなんだがな」

 

兎のモルモットだとバラす訳にもいかない。でも、右腕を隠すのは無理だと判断した学園長と千冬が考えた設定。

それが、医療用だと言うこと。かなり苦しいが、これで誤魔化すしかない。

 

「安心しましたわ。まさか、訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

オルコットが高笑いをする。

こいつの勝つのは絶対私と言う態度、腹立つ。その慢心絶対にぶち壊してやるからな。

授業はその後、問題なく進んだが、織斑と俺の右腕がISだと知った女子達に絡まれたのは言うまでもない。

 

「大変だね〜あかやん」

 

「俺はやりたいように生きたいだけなんだけどな」

 

今は、学食で布仏と飯を食っている。

織斑に絡まれる前に、布仏と一緒に教室を出て来た。篠ノ之に感謝しよう。

あいつと織斑が揉めていたおかげで、簡単に出て来れた。

 

「人間、それが一番難しいと思うよ〜?」

 

布仏がお茶漬け?机の上にある白米と味噌汁とシャケと生卵を全て、混ぜた謎の料理を作りながら言ってくる。

それ、美味しいの?布仏さんや。

 

「それを今、実感してるよ……」

 

はぁ、と溜息を吐いて焼肉定食を食べる。こうして、マトモな飯食えてるだけ、生活の質かなり向上してるんだけどね。

 

「あ、クラス代表に勝手に推薦してごめんね〜。あの場はあれが一番だと思ったんだけど〜」

 

「実際、かなり助かってる。おかげで、ストレスを溜めずに済む。

クラス代表になりたくはないが、推薦してくれた布仏に報えるよう戦うさ」

 

千冬にも言ったが、クラス代表なんて役目、絶対に就きたくない。

そういうのは、織斑みたいな自分正しいマンにやらせてくれ。俺は拒否する。

 

「おぉ〜かっちょいい。期待してるね〜」

 

「あぁ。任せとけ………どうしても気になるんだけど、それ美味い?」

 

ズゾゾっと麺類を食べてるかの様な効果音に思わず聞いてしまう。

 

「うん!美味しいよぉ〜」

 

「そ、そうか」

 

満面の笑みで言われたら、流石に返す言葉がない。

……今度、千冬と布仏がいないところで、作って食べてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わり、放課後。

山田さんから、鍵を貰って資料室に入る。そこから、管理されていたオルコットのISデータと映像を見る。

あれでも代表候補生、今の俺より圧倒的に動けている。

 

「しかも、遠距離型。サードオニキスと相性が悪いな」

 

映像や資料を見ている限り、遠距離から狙撃銃で相手を狙い、展開したビットでさらに削っていくのが主流らしい。

サードオニキスのメインである輻射波動を当てるには、近づかなければならないし、盾で防ぐにしてもクローズの取り回しは非常に悪い。

牽制用のバルカンじゃ射程が足りない。

 

「とはいえ、隙が無いわけじゃないな。ビットを展開すると動きが止まるし、おそらく、接近できればオルコットは弱いな。

サードオニキスの拡張領域は、何故か一杯だし……クローズはヤバい時以外は封印して高機動戦に持ち込む方が良いか」

 

戦略ゲームで培った頭をフル回転させる。

アリーナでの訓練は一杯で取れなかった。イメージだけでも固めておいた方が良いだろう。

対戦の日が来るまで、俺はずっとオルコットの過去の映像を見て、戦略を練り続けた。

気のせいでなければ、織斑はずっと篠ノ之と剣道をしていたが、良いのだろうか。

そして、月日は流れ、対戦カードが決まる。

 

『セシリア・オルコットVS織斑一夏』

 

『セシリア・オルコットVS西村赤也』

 

『西村赤也VS織斑一夏』

 

対策は講じた。あとは、戦うだけだ。よろしく頼むぞ。サードオニキス。

発表された対戦カードを見つつ、俺は右腕を撫でた。

 




残念感が止まらない千冬さんと、ヒロインムーブの止まらない本音さん。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こう言うのをなんて言うだっけ?ライバル?

すげえ、今回、5000文字もいった。
しかも、そんなに書いてて戦闘シーン長くない。もはや、安定のクオリティ。


対戦カードが決まり、ピットで待機しているのだが、周りがうるさい。

ピットが二つしかないので、反対側がオルコット。もう反対側を俺と織斑で使うことになったのだが。

 

「剣道しかしてないんだけど、箒!」

 

「仕方ないだろう。ISが借りれなかったんだから」

 

「それでも色々あっただろう!?」

 

織斑と篠ノ之がすごく揉めている。碌に訓練もせず、篠ノ之の剣道に付き合っていたようだが、そのせいでISの訓練を何もしていないらしい。

いや、喧嘩なら後でしてくれ。それと、織斑、受動的でいるのに文句を言うのは違うと思うぞ。

めんどくさいから言わないけど。

 

「なぁー、赤也。箒が」

 

「知るか。と言うか、気安く呼ぶなって言っただろう。お前の脳みそは飾りか」

 

集中すらさせてくれねぇ。それに、何度赤也と気楽に呼ぶなと言えば分かるんだこいつは。

 

「男同士仲良くしようぜ、な?」

 

「はぁぁぁ、お前、俺に雑な当たり方しといてよくもまぁ、謝罪もなく仲良くとか言えるよな。

どうなってんだ。お前の神経」

 

「そりゃ、お前が千冬姉との関係をちゃんと言わないのがいけないんだろう」

 

え、なにこいつの中だと俺が悪いことになってんの?

千冬、無理だ。俺はこいつの考えてることがさっぱり分からん。

 

「織斑くん!織斑くん!」

 

呆れていると山田さんがピットに駆け込んでくる。

どうやら、遅れていた織斑の専用機が届いたらしい。ガコンっと重いものが搬入される。

 

「これが織斑くんの専用IS『白式』です!」

 

白式ね。名前通りの白いISだな。

サードオニキスの様に形がおかしい部分は特に見受けられない。既存の武装以外にはこれと言ってなさそうだな。

 

「設定は戦いながら終わらせろ。良いな?」

 

「分かった。千冬姉」

 

別に俺が先に出ても良いのだが、やる気満々の織斑を見て黙っておく。

 

「私たちは管制室で見学させてもらう。赤也、ピットには二人の戦いが映らないが構わんな?」

 

「大丈夫です」

 

フェアじゃないしな。え?オルコットのデータは見ただろうって?

使えるものは使う主義なんでね。ついでに、使えないものを無理やり使おうとする駄々っ子ではない。

だから、ここは従っておく。

 

「ではな。篠ノ之、お前も早く観客席に戻れ。ここにいてどうする?」

 

「一夏を近くで応援したいんです!」

 

さっきの話聞いてた?ここ、映像映らないぞ?

観客席に戻った方が応援も、見学もできるぞ?

 

「はぁ、なら織斑の出撃後、観客席に戻れ。異論は認めない」

 

「わ、分かりました……」

 

千冬の睨みに完全に沈黙する篠ノ之。

 

「心配すんな、箒。勝ってくる」

 

剣道しかしてなかったのにどこから出てくるのその自信?

まぁ、良いや。イメージトレーニングしておこ。

 

 

 

結果は原作通りなので、省略します。

 

 

 

 

ピットに織斑が戻ってくる。それと、同時に篠ノ之が駆け込んで入ってくる。

会話を聞いている限り、どうやらそれなりに戦ったらしい。

 

「あー、くそっ。負けた」

 

負けた。と言う割に、悔しさのあまり感じない表情の織斑。

あんなに大見得切って負けて、悔しくないのか?それとも、負け犬根性でもあるのか。

 

『赤也、30分後お前の出番となる。準備しておけ』

 

放送で千冬が連絡を入れる。

30分後か。結構時間あるな、どうするか。織斑はどうやら、千冬に呼ばれている様でこの場にはいない。篠ノ之も後を追ったから、俺一人だ。

 

「とりあえず、サードオニキスを展開しておくか」

 

右腕に意識を集中する。0,8秒後、俺の身体をサードオニキスが包む。

展開時間は変わっていない。鈍ってはいないな。

 

「……にしても静かだ」

 

IS学園に来てからこんなに静かだった事はあるだろうか。

何だかんだ人がいて、それなりに賑やかに過ごしていたか。

 

「静かすぎて、寂しいと思う日が来るとはな」

 

随分とぼっち耐性が下がっている。

 

「お〜、あかやんのIS格好いいねぇ」

 

だから、その声にびっくりした。

観客席にいて、ここには来ないと思っていたから。

 

「布仏」

 

「ふっふふ〜、応援に来てあげたのだぁ〜

席は、かんちゃんに確保して貰ってるから心配はいらないよぉ〜」

 

トコトコ歩いて来て、ゴツくなった右腕に触れる布仏。

同時に俺の寂しさが霧散する。ハハッ、本当にぼっち耐性がなくなったな俺。

 

「ここに来るのは良いが、織斑先生に怒られるぞ?」

 

「大丈夫〜だって、さっきしのののんがピットに入って、出て行くのばっちし見たから〜」

 

その返事に思わず笑ってしまう。

さっきは認めてたんだから、私も認めろって言いたいわけか。あの千冬相手に図太い精神してるぜ。

 

「笑った〜気負うのも良いけど、リラックスリラックス〜」

 

布仏がなぜ来たのか理解した。

俺の緊張をほぐすためだった様だ。

 

『時間だ。布仏、赤也の発進後、観客席に戻れば見なかったことにしてやる』

 

布仏と会話しているうちに、時間になった様だ。

そう言えば、左手に飴を食べようと思って持って来てたな。

 

「布仏、手を出せ」

 

「ん?」

 

ポトっと飴を渡す。

飴を見て、嬉しそうに笑う布仏。

 

「緊張ほぐしてくれてありがとう。それは礼だ、かんちゃんとやらの分はないが、許してくれ」

 

『西村くん、発進準備完了しました』

 

「了解です。じゃあ、行ってくる布仏」

 

カタパルトに両足を接続する。

 

「頑張ってね〜あかやん」

 

飴を頬張って手を振る布仏に手を振り返し、進路方向を見る。

 

「西村赤也。サードオニキス、出撃する」

 

加速とともに外に打ち出される。

即座に、サードオニキスの姿勢制御を行い、オルコットと対面する。

 

「来ましたわね……」

 

ん?こいつ、オルコットか?

覇気というか雰囲気というか色々と違うんだが。

 

「おい、何を考えてるか知らんが、戦いに集中してくれよ」

 

「え?えぇ!もちろん、分かっていますわよ」

 

あー…これダメだ。

殆ど、上の空になってやがる。

 

「やる気がないなら、下がってくれるか?

お前に何があったか知らんが、腑抜けた奴を潰してもつまらん。まぁ、自分が猿だって認めるんなら話は別だが?」

 

プライベート通信を繋いで、全力で煽る。

俺が勝ちたいのは、全力のセシリア・オルコットであってこんな腑抜けた奴じゃない。

 

「……下品な物言いですわね。ですが、わたくしが腑抜けていたのは事実です。

後悔しなさい、欠陥品。惨めに思えるほど、ボロボロにして差し上げますわ」

 

「はっ!上等。せっかくの、サードオニキスの公式初陣だ。

つまらん結果にはしたくない」

 

会話が終わり、カウントダウンが聞こえる。

ゆっくりとゼロになっていくカウント。オルコットは手に持つ狙撃銃のセーフティを解除。

俺はゆっくり、右腕を持ち上げる。

 

『試合、始め!』

 

ゼロになると同時に千冬の号令が入る。

オルコットは後方へ、俺はもちろん、前進する。距離を取ったところで、俺に勝ち目はない。

勝ち筋はただ一つ、右腕(輻射波動)の距離に持ち込むことのみ。

攻撃の開始は、当然、距離で勝るオルコット。

近づいてくる俺から逃れるために、高速で飛んでいる中、進路方向に背を向けながら、狙撃してくる。

しかし、正確であるがゆえに、避けやすい。オルコットの試合を見た限り、フェイクはビットが担当することが多く、狙撃銃単体の攻撃は、フェイントのない単調な攻撃になる。

それがわかれば、銃口から逃れるだけで良い。身体を左右に揺らす様にして、速度の減速を抑えつつ、回避する。

 

「くっ、当たりませんわね。なら、行きなさい!ティアーズ!」

 

思っていたより投入が早い。

二機のビットがこちらに向かってくる。オルコットの速度は下がるが、止まらない。

二機程度なら動きが鈍る程度で、問題ないのか。やってくれる。

織斑との戦いで慢心は捨てた様だな。ビットはオルコットの癖なのか、ISを纏っていても見辛い、足元や生物的に人間が反応しづらい場所に配置される。だが、逆に言えば、位置さえ読めてしまえば!

 

「なっ!?」

 

「よし、一機捕まえたぞ!」

 

ビットの一つを掴み取り、輻射波動で破壊する。

こういった芸当も可能だと言うことだ。だが、少し気が緩んでしまった俺は背後から、もう一機のビットの攻撃を食らってしまう。

 

「一撃で破壊。やはり、その右腕、強力な武装でしたか」

 

狙撃銃の攻撃が追加される。さすがに、大きく回避行動をとり、一旦追いかけっこをやめる。

削れたシールドエネルギーは2割ほど。運良く、背部装甲に当たった様だな。

 

「なら、出し惜しみはしませんわ!」

 

残りのビットが展開される。これで、浮いているビットは三つ。

そして、オルコットが狙撃体制に入るのと同時に、サードオニキスから警告が入る。

 

『三方向からロックオンされました。直ちに、回避行動を』

 

ビットと狙撃銃から、同時に光線が放たれる。

正面の狙撃銃による一撃だけは回避しよう、右に大きく避けたが、結果としてビットの一撃を貰ってしまう。

くそ、一機破壊したのは愚策だったか。

サードオニキスから送られてくる情報量に頭痛を感じつつも、光線を避けるために操作を続ける。

だが、避けていても意味はない。むしろ、飛行にエネルギーが使われ、敗北に近づいている。

 

「やりたくなかったが……仕方ない」

 

「敗北を認めるんですの?」

 

「誰が認めるかよ。そもそも、女尊男卑に染まったやつに、もう敗北したかないんだよ俺は!」

 

サードオニキスのPICを切る。

当然、俺は重力に従い、自由落下する。ついでに、クローダを展開し、一応、ビットや狙撃銃からの攻撃から身を守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアSIDE

目の前の男は何をしているんですの?

ブルーティアーズから送られてくる情報に困惑する。西村と言ったあの男は突如、PICを切って自由落下を始めた。

わたくしの攻撃も展開した大きな盾で防いでいる。まさか、自殺?そんな考えすらよぎる。

敗北をするのなら、もっとやりようがあったはず。そこまで、考えて、わたくしは試合前のやり取りを思い出す。

 

「やる気がないなら、下がってくれるか?

お前に何があったか知らんが、腑抜けた奴を潰してもつまらん。まぁ、自分が猿だって認めるんなら話は別だが?」

 

わざわざ、隙だらけだったわたくしに喝を入れてまで、戦おうとしたあの男がそう簡単に諦めるわけがない。

そう判断して、攻撃を続ける。ビットは盾の隙間を狙える様に落下していく男の後を追わせる。

そして、地面に落下し、大きな砂埃を立てる。ISのハイパーセンサーを切り替える。

通常状態では、砂ホコリの中がよく見えない。

切り替える一瞬の間は、視界が通常の普段生活しているものになる。そして、次にハイパーセンサーが映し出した光景は、わたくしのビットの二つが、男のISの右腕に掴まれているところだった。

 

「なぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦は半分成功ってところか。

ほんとは、俺の落下に心配して、近づいてきてくれるのが一番だったんだが。

とりあえず、掴んでいる二つのビットを破壊する。

 

「なぁぁ!?」

 

オルコットの驚いている声が聞こえる。チャンスだ。

クローダを振り回し、残った最後の一機を粉砕する。

 

「ふぅ。心臓に悪かったぜ」

 

「…簡単に諦めないとは思っていましたが……やってくれましたわね」

 

サードオニキスに不調はない。むしろ、生死を分ける集中をしたお陰で、さっきより動く気がする。

クローダを閉じつつ、オルコットの武装を思い出す。残りは、ミサイル×2と狙撃銃、近距離用のナイフか。

 

「ふぅ、いくぞ。オルコット」

 

加速して、オルコットとの距離を詰める。動揺したのは一瞬で、再び、狙撃を開始してくるが、ビットがあったときに比べれば一方向からの攻撃だ。躱せる!

 

「喰らえ!」

 

輻射波動の距離に入った。

右腕をオルコットを掴むために突き出す。

 

「ビットはまだ、ありましてよ!」

 

「知ってるぜ!」

 

発射されると同時に、輻射波動を最大出力で放つ。

右腕とオルコットのスカート部のちょうど中間で、ミサイルは輻射波動に耐えられず爆発する。

シールドエネルギーが大きく削られるが、問題ない。そのまま、オルコットの腹部を掴む。

 

「弾けろ!」

 

「まだ!」

 

俺が輻射波動を放つのと、オルコットが至近距離での銃撃を始めるのはほぼ同時。

そのまま、真正面からの削り合いになる。だが、出力は俺の方が圧倒的に高い。だから、結果はーー

 

『シールドエネルギーエンプティ、そこまで!勝者は西村赤也!!』

 

俺の勝ちだ。オルコット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットに戻り、スポーツドリンクを飲み干す。

試合は俺の勝ちになったが、一歩でも間違えれば俺の負けだった。やはり、代表候補生は伊達じゃないな。

 

「西村さん」

 

「オルコットか。どうした?」

 

どこか清々しい様子のオルコット。

何か吹っ切れた様な顔をしている。

 

「貴方を欠陥品と罵った謝罪に来ましたわ。申し訳ありませんでした」

 

簡単に頭を下げるオルコットに困惑する。

え、この淑女がオルコット?はは、ご冗談を。

 

「まぁいいさ。腹は立ったが、こうして憂さ晴らしも出来たしな」

 

「…一夏さんとほんと、性格が違いますわね」

 

「当然だ。あいにく、俺はあんな野郎と一緒の性格はごめんだね」

 

青筋を立てるオルコット。

 

「仲良くしようと思いましたが、無理の様ですわ。

貴方の様な、野蛮な戦い方をする人間と優雅なわたくしとでは、見ている景色が違うのですもの」

 

あまりの物言いにイラっとする。

 

「そいつはどうも。お上品に形式通りにしか振る舞えないお嬢様とは、違うんでね。

こちとら、女尊男卑の世の中を生きてきた者でして。時には、形式以外の生き方も要求されるんですよ」

 

沈黙が場を支配する。

互いの顔には、青筋が何本も浮かんでいる。

 

「…えぇ。分かりました、西村。貴方と仲良くするのは一生無理な様ですわ。今ので確信いたしました」

 

「むしろ、仲良くする気あったのって感じだが?」

 

「ですが!貴方の強さは認めて差し上げます。光栄に思いなさい」

 

ふんっと言わんばかりに腕を組むオルコット。

そうか。強さを認めるか、はは、ほんとこの学園に来てから色んな縁が出来るもんだ。

 

「そいつは光栄だ。俺もあんたをただの女尊男卑に染まった猿だと罵倒したことを謝罪しよう。

オルコット、お前は強かった」

 

「当然ですわ。ほら、次は一夏さんとの試合でしょ。準備をしなさいな」

 

邪魔したのはお前だろ!って言葉を抑える。

早く、シールドエネルギーを補給しないと、間に合わないからな。

 

「再戦できる日を楽しみにしていますわ」

 

「おう。次も俺が勝ってやるよ」

 

オルコットがピットから去る。

なんだか、オルコットと変な関係になったが、案外、悪くない。清々しい気分で、エネルギーの補給を行なった。

 




セシリアとは、ライバル関係になりました。
アンチでも良いかなぁとは、思ったのですが、チョロインになった後のセシリアを赤也が嫌う要素が見当たらなかったので、こういう形になりました。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

調子が悪い時はとことん悪い

後半になればなるほど、これ、作者の趣味が色濃く出てると思う。
とまぁ、とりあえず、VS一夏戦です。


エネルギーを補給し、アリーナで向き合う俺と織斑。

オルコットとの戦い以降、右肩が痛むのが不安だが、それを押し殺し織斑と視線を合わせる。

 

「正々堂々戦うぜ。赤也!」

 

イケメンスマイルと共にブレードを向けてくる。

もう、こいつの名前呼びを止める気が失せた…

 

「あー、はいはい。そうですねー」

 

全力の棒読みで返答する。

暇つぶしに、観客席をハイパーセンサーを利用し眺めていると、俺と織斑の勝負が賭け事として利用されていた。

6:4で俺が僅かに不利なようだ。ふむ、オルコット戦で戦えるところは証明したと思うんだが、世界最強の弟ってアドバンテージはデカイんだな。むしろ、ここまで巻き返せたと喜ぶべきか。

 

「どこ見てんだ?」

 

「俺と織斑の勝負が賭け事にされてるみたいでな。お前の方が勝つって信じてる奴が多いぞ」

 

「へぇ。じゃあ、頑張らないとな」

 

うん。お前もうクラス代表やれよ。

そうやって、他人の期待に応えようとするならクラス代表向いてるって。なんで、拒否したのさ。

話しているうちにカウントダウンが開始される。

 

「なぁ、赤也。一つ提案があるんだが、良いか?」

 

9

 

「なんだ?」

 

8

 

「俺が勝てたら、一夏と呼んでくれ。女子だらけの学校で、唯一の男子から距離を取られるのはキツイ」

 

7

 

「はぁ、俺らの間でも賭け事をするってことか?」

 

6

 

「ん?あぁ、そう言うことになるか」

 

5

 

「気づいてなかったのかい……分かった」

 

4

 

「本当か!?」

 

3

 

「その代わり、俺が勝ったらクラス代表はお前に押し付けるからな」

 

2

 

「良いぜ。賭け、成立だな」

 

1

 

『試合、始め!』

 

近接型同士、行動は重なる。先ほどのオルコット戦とは違う近距離での戦い。

俺の右腕と織斑のブレードが打つかる。クロー部分でブレードを受け止め、両肩のバルカンを放つ。

 

「うぉっ!?」

 

低威力の弾丸が白式の装甲に火花を散らす。

微々たるものしかシールドエネルギーは削れていないだろう。だが、織斑は驚きで、身を硬くしている。

左手にクローダを展開し、勢いよく織斑へとぶつける。ガゴンッという音ともに織斑を吹き飛ばす。

 

「やっぱり、重たいな、この盾」

 

「まだまだぁ!」

 

壁ギリギリで体勢を立て直した織斑。

急加速でこちらにブレードを振るおうとしてくる。ブレードを横に構えている。薙ぎ払いか。

クローダを構え、織斑の攻撃を防ぐ。振り抜くように横薙ぎした織斑の身体は、当然俺の横を通過していく。

盾で防がれるのは織り込み済みだったか。

 

「はぁ!」

 

上から振り下ろされるブレードを右腕で受け止めようとして、俺の右肩に激痛が走る。

 

「ぐぅ!?」

 

痛みに動きを止めてしまった俺は、当然、織斑に斬られる。装甲が決して多くないサードオニキスは絶対防御を発動させ、シールドエネルギーを大量に失う。

 

「貰った!」

 

織斑のブレードがスライドし、光の剣を出現させる。特殊な兵装か!?

直感的に食らってはいけないと判断し、かなり派手に後方へ飛ぶ。

 

「シールドエネルギーが!?ぐぅ…」

 

ギリギリで避けたら、あの光剣に掠ったようだった。

掠っただけにしては、シールドエネルギーがさっきより多く削られている。なんだ、あの武器。

クローダを織斑の方に構えつつ、右肩を庇う。まだ、痛みが引かない。

 

「手を抜いてるのか?動きが悪いぜ、赤也」

 

やかましい。俺だって、好きでこんな動きしてるわけじゃねぇよ。

クッソ、急にどうした俺の右肩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本音SIDE

 

あかやんの様子がおかしい。

さっきのセッシーとの戦いを見てた限り、おりむーに苦戦する要素は見つけられなかった。

私は整備科志望だから、操縦者を見る目は養ってると思う。

おりむーのブレードを防ごうとした辺りから、あかやんの表情がずっと苦しそうだし、短時間の起動ではあり得ないほど汗をかいてる。

 

「あかやん…」

 

私がクラス代表に推薦してしまった。

だから、あかやんはあんなに苦しそうにしている……そんな嫌な事まで考えてしまう。

 

「…本音?大丈夫?」

 

となりに座ってるかんちゃんが、私を心配してくれる。

 

「…大丈夫だよ。私には西村君がどういう人か分からないけど、織斑一夏に負ける様には見えない。

きっと、今から逆転劇が始まるから。だから、応援しよう、ね?」

 

私が思いつめてしまっているのが、かんちゃんにはバレバレだった。

でも、そうだよね。あかやんが諦めてないのに、私が諦めちゃダメだよね。

 

「…うん。ありがとう、かんちゃん」

 

「…気にしないで、本音。西村君が負けたら、本音に無理やり賭けられた私のデザート券が無くなっちゃって困るから」

 

おぅ、かんちゃんの目がマジだ。

これは負けたら、私も怒られてしまう。

 

「あかやん〜!頑張って〜〜!!」

 

自己嫌悪の不安を押し殺して、あかやんに声援を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右肩の痛みにより、織斑の攻撃に防戦一方になる。

シールドエネルギーも少ないし、早めに攻勢に出たいが、メイン武装の右肩が動かすだけで激痛になる今、どうやって攻勢に出たものか。

 

「はぁぁ!」

 

織斑は、俺が防戦なのを良いことに、苛烈に攻めてくる。

見るからに大振りで隙だらけなのに、クッソ、攻撃できねぇ。

 

「あかやん〜!頑張って〜〜!!」

 

布仏の応援をハイパーセンサーが拾う。

無意識的に、布仏が座っている場所をズームしていた。真剣な顔で、俺を応援してくれている布仏。

なんだよ。普段みたいに気楽な顔して見てろよ。どうした?さすがに、飴は食べ終わってしまったか?

そんなどうでもいい事を考える。

 

「調子に乗るなよ……織斑ぁぁ!!」

 

シールドバッシュと言うのだろうか。

織斑の剣戟に合わせて、盾をねじ込み弾き飛ばす。

 

「うぉぉ!?」

 

右肩の痛みが消えたわけじゃない。

むしろ、酷くなってる。だが、それでも引くわけにはいかない。織斑に負けるのは癪だし、無様に負ければオルコットに何言われるか分かったもんじゃない。……それに、あんな真剣に俺を応援している布仏を失望させるわけにはいかない。

 

「行くぞ、サードオニキス!」

 

吹き飛ばした織斑に急接近し、激痛の走る右肩を無視し、織斑の左手を掴む。

 

「弾けろ!」

 

輻射波動をぶつける。

だが、すぐに光剣を振るわれ、避けるために離すことになる。

 

「威力高っ…」

 

「ビビったか?織斑」

 

「全然!」

 

再び、お互いに接近する。

俺は光剣に当たる事を全力で、避ける。織斑は右腕に掴まれない様に避ける。

だが、特殊な兵装ゆえ、何かデメリットがあるのか織斑が焦りだす。

 

「くそっ、もうシールドエネルギーが!こうなったら!!」

 

左手を盾の様にして、織斑が向かってくる。

当然、俺は左手を掴み、輻射波動をぶつける。だが、織斑はニヤリと笑い、光剣を俺の胴体向けて振るう。

輻射波動の出力を最大に引き上げる。もう、後には引けない。

 

「「うぉぉぉぉぉ!!」」

 

バチィィ!!という、音とともに俺のシールドエネルギーが勢いよく減っていく。

 

『そこまでだ!両者、シールドエネルギーエンプティ。引き分けとする!!』

 

結果は同時にシールドエネルギーがゼロになるという引き分けだった。

なんともまぁ……情けない結果だな。

 

「おい!赤也!?おい!!」

 

織斑の声がやけに遠くに聞こえる。

ドサリ、とサードオニキスを解除しつつ、俺は地面に倒れ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス代表決定戦が行われた日の夜。

織斑千冬は、学園の外で携帯片手に立っていた。何か、躊躇うようにしつつも、電話をかける。

相手はすぐに出た。

 

『やぁやぁ、ちーちゃん!そっちから、かけてくれるなんて嬉しいね!』

 

「束。一夏と赤也の戦いの時に、止めるなと、わざわざ、IS学園のシステムに介入してまで知らせた理由を教えろ」

 

あの時、試合を見守っていた織斑千冬と山田真耶は、赤也の異変に気付き、試合を止めようとしていた。

だが、そこに天災によるハッキングとメールが届き、試合を続けるしかなかった。

 

『せっかくのちーちゃんとの電話なのに、そんなモルモットのこと聞きたいのー?』

 

「良いから教えろ」

 

気楽な篠ノ之束の声に苛立つ織斑千冬。

 

『簡単だよ。モルモットから送られてくるデータが面白かったからね。

多分、あの金髪との戦いでサードオニキスとより強く結びついたのが原因だろうね』

 

「どういうことだ?」

 

『さぁね?さすがに、ちーちゃんでも教えられないなぁ。じゃあね!ちーちゃん。

束さんはこれでも忙しいのだ!』

 

「待て!ーーくそ、切られたか」

 

携帯は無情にも電子音を鳴らすだけ。

再度掛け直しても、篠ノ之束が出ることはなかった。

 

「束……お前は赤也をどうしたいんだ…」

 

目的の見えない親友への言葉が夜空に力なく消える。

世界最強と言われた己の無力さを、織斑千冬は感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの国のどこかの場所。

コンピュータだらけの空間で、天災は嗤う。

 

「いっくんに勝とうとするから、ちょっと弄ってあげたら、こんな面白いデータが取れるなんてねぇ!!」

 

上機嫌に嗤う。天災の狂気を宿した目は、モニターの一つ。

IS学園の保健室で、眠っている西村赤也の右腕――正確には、繋がっている右肩を見ていた。

 

「良い素材だよ。西村赤也、ふふっ、ははは!良い拾い物したよ本当に!」

 

彼女にとって、赤也はモルモットでしかない。

それでも、研究者として上質なデータをくれるモルモットには、好意的な感情を向けるしかない。

 

「さてと、次はどんなデータが取れるかなぁー」

 

鎮座する二つのISを弄りながら天災は、篠ノ之束は、嗤った。

 




兎さんは、跳ねるよ。残酷に跳ねる。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どうも。人間辞める事になりそうです

今回の話に至り、タグを追加しました。
『アーキタイプブレイカー(本音のみ)』です。アーキタイプブレイカーは、少ししかやっていません。
なので、ガバガバになるかもしれませんがご容赦ください。

アーキタイプブレイカー未プレイの人は、本音が強化されるんだな。ぐらいの認識で大丈夫です。


寝た覚えはないが、目を覚ます。

すると、俺が寝ていた場所はほんの1週間ぐらい前に教師達に取り囲まれた保健室だったと分かる。

 

「ん、起きたか?赤也」

 

千冬があの時と同様に、椅子に座りながら、なにかの資料を読んでいた。

 

「…クラス代表決定戦はどうなった?」

 

「ん?覚えてないのか。

お前と一夏の勝負は引き分けだ。戦いの後、お前が気絶したからここに連れてきている」

 

あぁ、そう言えば織斑との戦いの後、意識を失って倒れたんだったな。

情けねぇ……俺、情けねぇ。

 

「あの時、右肩が痛まなければ……ってのは言い訳か」

 

ふと、右肩に触れる。

いや、正確には触れようとした。左手が重くて動かない。気になって、左側を見る。

 

「んっ……あかやん……」

 

「布仏?」

 

俺の左手を枕にする様に寝ている布仏がいた。

外が薄っすら、明るいという事はかなり寝ていたようだ。

 

「放課後から、今は……朝5時か。この時間まで、ずっとお前の隣にいたんだ。

私が見ているから、無理はするなと言っておいたんだがな」

 

千冬が優しい顔をしながら言う。

こういうところは、立派に教師なんだな。

心地好さそうに寝ているから、頭でも撫でようと思って右手を動かし、布仏に触れる前に止める。

 

「……どうした、赤也?」

 

まじまじ、右手を見てると千冬に質問される。

 

「いや、布仏の頭でも撫でようと思ったんだが、こんな手じゃ起こしてしまうかと思ってな」

 

失って初めて気付く。と言うわけではないが、機械の無機質さと言うのはなんとも虚しい。

人間は肌と肌が触れ合い、その温度交換で安心を得る。だが、俺の右腕にはもう、それがない。

 

「赤也……落ち着いて聞いてくれるか?」

 

真剣な顔だ。

千冬のこんな表情を見たのは、俺を警戒していた時以来だ。

 

「なんだ?」

 

「…少し、失礼するぞ」

 

千冬が立ち上がり、俺の服を捲り、右肩を露出させる。

 

「なっ!?」

 

そこに見知った肌色はなかった。

右腕と同様に、鈍い銀色が広がっていた。どう言う事だ?今までは、普通だったはず。

腕は確かに失って、サードオニキスになった。だが、肩は接続されているだけで人間の皮膚だったはずだ。

 

「……オルコットの戦いの後、右肩に違和感や痛みはなかったか?」

 

「…あった。織斑との戦いの時、それが一層酷くなった結果があれだ」

 

「そうか……おそらく、オルコットとの戦いの時だ。

こちらで、計測していたサードオニキスとお前の同調率が、80%を超えた」

 

ISとの同調率の増加。

それが原因で、俺の右腕はサードオニキスに侵食されたって事か。

 

「同調率が上がる……と言う事は、操縦者とISの境界線があやふやになる。これはその結果だと言うことか」

 

「おそらくな。本来、IS操縦者からすれば同調率の増加は喜ばしいことだ。

それだけ、任意にISを動かせるからな。だが、お前の場合は違う。この先、サードオニキスを使い、お前が自分の限界を越えようとすればするほど、お前の身体は侵食され、人間ではなくなる」

 

無償で使える力は無いってわけか。

だが、それでも俺はサードオニキスを使い続けるだろう。もし、サードオニキスを解体して、俺の右腕から外せてもISを動かした男として、俺はどっかの研究所で解剖される羽目になるか、あの兎に殺されるだろう。

それに、一度得た力を手放す気にもなれない。すでに死んだ命だ。自由に使うさ。

 

「そうか。でも、俺はサードオニキスを使い続けるぞ。

今更、手放す気にもなれないからな」

 

俺がそう宣言すると、千冬の顔が悲痛に歪む。

 

「すまない……束の奴が……すまない……私が謝ったところで拭える罪では無いが……すまない……」

 

心の底からすまないと思っているのだろう。それは顔を見れば分かる。

必死に隠そうとしているが、涙を堪えきれていない。千冬とあの兎の関係は知らないし、興味もない。

だが、よほど深い関係なのだろう。こうして、涙を流せるぐらいには。

ガチャリと右腕を千冬の頭に置く。

 

「冷たいと思うが、我慢してくれ。左手は動かせないからな。

気にするなとは、言えないけど気に病む必要はない。この右腕を用意したのは、あの兎だし、それを使い生きることを選択したのは俺だ。

あんたが、関わって起きた事態じゃない」

 

ゆっくりと右手を動かす。

よく見たら、髪は少しボサボサで目にはクマが出来ている。寝ていないのだろう。

 

「……赤也、私はーー」

 

「もういい、喋るな。それ以上、自分を追い込む必要はない」

 

千冬が何か言おうとしたが、それを遮る。

保健室に右手を動かす機械音と、千冬が布仏がいる手前、声を押し殺し泣く声だけが響く。

これ、誰か入ってきたら俺が誤解されるよな。左手にクラスメートの女子が寝てて、右手で泣いてる世界最強の頭を撫でてる。

気が気では無いが、右腕のサードオニキスに意識を割く。

同調率が上がる事を避ければ良いのなら、普通に使う分には心配いらないはずだ。搭乗時間にも、左右されるだろうが、80%以上に上昇させるのに、ただ乗るだけならセーフだろう。オルコットの時のように、振り絞ろうとしなければ、良いのか。

そこまで考えて、左手がゆっくり軽くなっていく事に気づく。

 

「んー……あかやん?」

 

目を擦る布仏。

寝ぼけてるようで、微妙に焦点が合っていない。

 

「起きたか?布仏」

 

「……あかやん!」

 

「うおっ!?」

 

俺が声をかけると両腕を広げて、抱き着いてくる。

これはすごい、心配をかけたようだ。だが、離れてくれ……お前の着痩せする胸が思いっきり触れてるって!?

 

「の、布仏……は、離れて……」

 

「良かったよぅ〜私が、推薦したせいで、あかやんが目を覚まさないかと思って心配したんだよぉ〜」

 

「……布仏、すまん。心配かけた」

 

「うん!……うん!」

 

左手で、ゆっくり背中を撫でてやる。

 

「んんっ!少し、良いだろうか、赤也、布仏?」

 

「「あっ」」

 

千冬がどうにか泣き止み、咳払いで俺らの意識を現実に戻してくれる。

布仏が俺に抱き着いて、千冬の方を見ていないうちに右手を千冬の頭からゆっくり下ろす。

 

「お、織斑先生!?」

 

布仏が驚いて、俺から離れる。

ふぅ、漸く解放された。

 

「赤也が起きたのに喜ぶのは良いが、節度は守るようにな。

それと、授業に遅れるなよ。布仏、準備していないのだろう?赤也の荷物を届ける必要があるから、私と寮に戻るぞ」

 

そういや、今日も普通に授業でしたね。

 

「はぁ〜い。じゃあ、また後で会おう〜あかやん」

 

「おう。またな、布仏」

 

「何かあればすぐに言うんだぞ。赤也」

 

千冬が手を振る布仏とともに保健室を出ていく。

気のせいでなければ、布仏の笑顔がいつもより暗かった気がするが……心配かける点が多すぎて分からん。

とりあえず、スマホでも弄って鞄が届くまで時間を潰そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「布仏、どこから聞いていた?」

 

「全部は聞いてないですよ〜でも、あかやんが人間ではなくなるってところは聞きました」

 

織斑千冬は自分が油断していたことと、布仏本音の演技力に呆れと驚きを感じていた。

まさか、自分が途中から起きている事に気づけなかったとは思わなかったのだ。

 

「それで、どうするんだ?」

 

「たっちゃんが、どんな判断を下すか分かりませんけど、私としては、あかやんの判断を止める気はありません」

 

はっきりとした口調で宣言する布仏。

その目にははっきりとした覚悟が色濃く浮かんでいる。

 

「ただ、あかやんが人間を辞めなくても済むように、支援はするつもりです。

無理を言っても例の計画を押し進めるつもりでいます」

 

織斑千冬にはこの少女がここまでやる気を出すのは意外だった。

彼女にとっての布仏本音は、いつも自分のペースを守り、暗部らしくない争いの苦手そうなイメージだった。

 

「そうか。なら、私は学園長を説得しよう。楯無はそちらに任せるぞ?」

 

「織斑先生も、あかやんのこと結構、気に入ってるんですねぇ〜」

 

「教師を揶揄うな、全く」

 

織斑千冬と布仏本音は、それぞれ、覚悟を決める。

大切な生徒を、大切な友人を、そして何より、一緒にいて心地の良い少年を守るために。

 




今回、この後に続けて、代表決定しましたー!!って言う原作を続けて書いてたんですよ。
字数がすごい事になったんで、次回に持ち越しです。

サードオニキスの侵食に関しては、作り込みが甘いと思われるかもしれませんが、私にはこれ以上の設定が作れませんでした。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お嬢様と俺は、壊滅的に仲良くなれない

前回が、シリアスしてたので今回な息抜き回。
ちゃんと学生してます。


俺は今、布仏と一緒に学園の廊下を全力で走っていた。

スマホを弄って時間を潰していたのだが、気づいたら眠ってしまい、目が覚めると布仏も再び、なぜか一緒に寝ていた。

 

「来てたなら、起こしてくれよ布仏ー!」

 

「ごめ〜ん。あかやんが余りにも気持ちよさそうだったから」

 

すでに予鈴が鳴っている。急がなければ、千冬に出席簿を叩き落される。

だが、布仏が遅い。そのペースに合わせていたら、かなりのギリギリに到着する事になり、教室に駆け込む。

 

「「遅くなりましたーーん?」」

 

「遅れましたぁ〜〜」

 

ゆったりとした布仏の声はまぁいい。だが、俺と同時に入って来たのは誰だ?

向こうも同じ考えだったようで、同時に顔を見合わせる。

 

「……あら、女子と一緒に登校とは良いご身分ですわね。西村?」

 

「こっちにはこっちの事情があるんだよ。そう言う、お前だってどうしたこんな時間に?

イギリスとの時差ボケでもしたか?」

 

「「……」」

 

無言でオルコットと睨み合う。

互いに不機嫌マックスの睨み合いだ。

 

「遅れてるから席に座るよ〜あかやん、セッシー」

 

「席に着け。赤也、オルコット」

 

俺とオルコットの睨み合いを止めたのは、布仏と意外な事に千冬だった。

千冬の性格的に生徒のぶつかり合いは、極力止めないかと思っていたが、まぁ時間も時間か。

布仏に手を引かれるがままに、席に着く。

 

「では、皆さん揃ったようなので、一年一組のクラス代表を発表しますね。

クラス代表は、織斑一夏くんになりました。一繋がりでいい感じです!」

 

山田さんが笑顔で発表する。クラスメート達も盛り上がるが、織斑が席で暗い顔をしてうなだれている。

 

「質問です!なんで、俺がクラス代表になったんですか?」

 

堪え切れなくなったのか織斑が山田さんに質問する。

すると、当然のようにオルコットが勢いよく立ち上がる。……立つ必要あった?

 

「わたくしが辞退したからですわ!」

 

腰に手を当てた優雅(笑)のポーズで宣言するオルコット。

 

「一夏さんと、認めたくはありませんが西村と戦って自分の不甲斐なさを実感しました。

今一度、わたくしは代表候補生としての自覚と責任を持ってISに乗りたいとそう思いましたの。ですので、クラス代表は辞退し、自らを研鑽する時間を頂きたいのですわ。もちろん、一夏さんはわたくしを頼ってくれて構いませんわ」

 

あぁ…織斑に惚れたのね……

どこにそんな要素があったのか俺には皆目見当もつかないが、オルコットが自分を研鑽すると言うのなら、更に強くなるのだろう。

不味いな。強くなって負け続けるような事になれば、どれだけ馬鹿にされるか分からんぞ。

 

「うぐっ……なら、赤也はどうなんだ?俺より、戦績が良いはずだよな?」

 

オルコットの明確な理由を聞いて、反論できないと判断した織斑は俺にターゲットを絞る。

千冬をチラリと見るが、口パクで好きにしろっと返ってきた。なら、そうさせて貰いますわ。

 

「俺とお前の賭けは覚えてるか?」

 

「あぁ。赤也が勝てば俺にクラス代表を押し付けて、俺が勝てば赤也は俺を一夏って呼ぶあの、賭けだろう?」

 

「それだ。引き分けってのは、どちらも負けでどちらも勝ちだ。

だから、賭けを両方履行させて貰うことにした。これで、文句はないだろう一夏?」

 

クラス代表をやらなくて済む代わりに、織斑を名前で呼ぶ対価ぐらい支払ってやる。

心底、嫌だけど。どうせ、俺から織斑に関わることはないし、安い対価だ。

 

「うぐっ……分かったよ!やってやるよ。クラス代表!」

 

織斑がそう宣言すると再び、クラスが盛り上がる。

なにやら、オルコットの発言で篠ノ之と揉めてるようだが、俺が知ったことじゃない。

 

「…スピィ〜」

 

「……よくこんなに騒がしいのに寝れるな。布仏」

 

横で眠りについてる女神の寝顔に癒されることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これよりISの基本的な飛行操縦の実践をして貰う」

 

ISスーツのこのピッタリ具合はどうにかならないのだろうか。あまり、窮屈な服が好きではない俺からすると地獄だ。

 

「織斑、オルコット、試しに飛んでみせろ」

 

呼ばれた二人が前に出る。

しかし、俺が呼ばれないのが不思議なのか織斑がアホヅラで口を開く。

 

「あれ?赤也は?」

 

「赤也は……」

 

千冬が織斑の言葉で、言い淀む。

顔にははっきりと余計なことを言ってくれたなっと浮かんでいる。千冬も遠慮することはないんだが、こればっかりは仕方ないか。

 

「織斑先生、見本は少しでも多い方が良いと思いますよ」

 

「だがな…赤也…」

 

「俺は大丈夫ですから」

 

不安な顔を隠そうともしない千冬の目を見て、宣言する。

俺の意思を尊重することにしたのか、はぁ、と溜息を吐く。

 

「赤也、お前もだ」

 

俺にサードオニキスを展開する許可をくれた。

当然、このやり取りの理由を知らないクラスメート達は困惑しているが、この際放置しておく。

 

「あかやん…」

 

「大丈夫だ、布仏」

 

なぜか心配そうな布仏。あれ、寝てたから話は聞いてない筈なんだが。

今度、それとなく聞いてみるか。

前に出て、織斑の横に並ぶ。オルコットが、不機嫌そうにこちらを見てくるが、流石は代表候補生。

俺が並ぶと同時に展開を終わらせている。

 

「折角の邪魔をして悪かったな。オルコット」

 

揶揄いの意味を込めてオルコットに言うと同時に、サードオニキスを纏う。

織斑は未だ、纏わない。

 

「じゃ、邪魔とかなにを言っているのか分かりませんわ!?」

 

こいつ、恋をするとさてはチョロいな?

仕返し序でに弄ってやろうっと思ったら、横で織斑が展開を終わらせた。

 

「よし、飛べ」

 

オルコット、俺、織斑の順番で飛行する。

無意識的に抑えてしまっているな……オルコットに追いつけない。

 

『織斑、もっと早く飛べ。スペック上ではお前が一番なんだぞ』

 

千冬の指摘に顔をしかめる織斑。

 

『赤也…無理はするな。不調を感じたらすぐに言えよ』

 

わざわざ、プライベートチャンネルにして、俺を心配する千冬。

心配性だな。

 

「分かってるよ。心配してくれて、ありがとう。千冬」

 

『教師として当然の事をしているだけだ』

 

そうは言ってますけど、顔が赤いですぜ。

まぁ、言ったら100%怒られるから言わないけど。

 

「一夏さん、イメージが重要ですわ」

 

「そう言われてなぁ、こいつがなんで浮いてるか分かんないし」

 

オルコットと織斑が会話をしている。気がついたら、オルコットが居ないと思ってたらうしろにいたのか。

 

「織……一夏、案外面倒なこと考えてるんだな、お前」

 

「どう言うことだ?赤也」

 

俺の言葉に不思議そうな顔する織斑。

どうやら俺の言いたいことか伝わっていないらしい。

 

「いや、そんな面倒なこと考えなくてもISなんだから飛ぶに決まってるだろう?」

 

そう言うと織斑は驚いた顔をして、オルコットはアホを見るような顔をしてくる。

なんでや。俺はこれで飛べてるし、空中制御も出来てるんだから良いだろう。

 

「わたくし、こんなアホに負けましたの?……」

 

「おう、こらオルコット。アホとはなんだアホとは」

 

「これだから感覚派は……もっと、理論とかありましてよ」

 

「へいへい。お前、見るからに理論派っぽいもんな」

 

普段の調子で互いに話す俺とオルコット。

それを眺めてた織斑が一言。

 

「知らない間に仲良くなってるんだな」

 

「「死んでも、こいつ(この人)と仲良くなることはない!(ありませんわ!)」」

 

「…お、おう。息ピッタリで言わんでも…」

 

気色の悪い事を言わないでくれよ織斑。

この後、急降下からの着地で、オルコットがピタリと制し、俺は減速タイミングを間違え、地面スレスレに、織斑はでかい穴を開けた。

あの時の、オルコットの勝ち誇った顔が実にむかついたと言っておく。

 




感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼のためにSIDE本音

少し、予定を変更しこちらの話を先に。
今回、赤也は出てきません。


布仏本音は、普段の緩い顔ではなく、真剣な顔でIS学園を歩いていた。

目指す場所は、生徒会室。昼休みを利用して、ある人物に話をする時間を貰っていた。

普段なら、緩い声とともに、中で何やっていようが御構い無しに入る生徒会室の扉を、ノックして中の人物の反応を待つ。

 

「開いてるわ」

 

凛とした声が中から聞こえる。

しっかりと聞いた本音は、生徒会室に入室する。

 

「お嬢様、失礼します」

 

普段の緩さはどこへ消えたのか。

真剣な面持ちと、声で中の人に声をかける。本音のその姿に、僅かに驚いた表情を取るが、その人物ーー更識楯無は口を開く。

 

「本音ちゃん。まずは、席に。

虚ちゃん、紅茶をお願いできる?」

 

楯無は本音を座るように指示する。本音が頷き、座る場所は普段の庶務としての席ではなく、来客用に使われるソファだった。

一挙動から、本音の覚悟を感じる楯無。自分も、来客の立場をとる本音に習い、生徒会長そして、暗部として向かい合う。

 

「紅茶をお持ちしました」

 

本音の姉、布仏虚が紅茶を運んでくる。

気迫の違う、本音に驚きつつも、紅茶を置き、主である楯無の元にも紅茶を置く。そのまま、楯無の従者らしく、彼女の背後に立ち、妹の覚悟を見守る。

 

「今日はどんな話かしら?」

 

沈黙を破ったのは、楯無。

本音がどんな話をするために、此処に来ているかはメールの文面で知っているが、直接彼女の口から聞く事を楯無は選んだ。

 

「はい。予てより、考えられていた『IS学園機体開発計画』を私、布仏本音が主導で押し進めたいのです。

そして、開発された機体のパイロットを私が務めたいのです!」

 

一切、怯むことなく楯無に宣言する布仏。

 

「その理由を聞いても?」

 

楯無は至って普通にその続きを聞こうとする。

だが、手は僅かに震え、まるでその続きを口にしないでくれと怯えている様にも見える。

しかし、彼女の願いは叶わない。

 

「二人目の男性IS操縦者、西村赤也。彼の右腕でもあり専用機であるサードオニキスとそれによる、変質していく彼の身体に関しては、すでに資料があるので、ご存知の筈です」

 

「えぇ。知っているわ。同調率の上昇に伴い、彼の身体を侵食しているっと」

 

「その通りです。そして、彼はサードオニキスの使用をやめる気はありません。

ですから、彼の負担を減らすべく、私が専用機を持ち、彼の支援を行いたいと考えております」

 

そこまで話し、一旦紅茶を一口飲む本音。

相変わらず、姉が淹れた紅茶は美味しいと精神を落ち着かせる。

対して、楯無は大きく、息を吐き、正面に座る本音を見る。

 

「本音ちゃん、生徒の長として暗部更識の長として、私は彼を警戒しているわ。

あの篠ノ之束が、モルモット称して彼を此処に連れてきた理由も読めないし、彼の精神面も酷く荒んでいる。

確かに、教員の対応は間違っていたかもしれないわ。それでも、彼は人の命を奪う事に抵抗のない人間よ」

 

楯無は警戒していた。もし、西村赤也がこの学園に害を成す存在なら、全力で排除するために。

強すぎる女尊男卑思想への恨み。行動の読めない篠ノ之束。これらを警戒するなと言う方が無理であった。

楯無の言葉は想定していたと、言わんばかりに本音が口を開く。

 

「確かにお嬢様の言う通り、彼の精神面は決して善人ではありません。

ですが、それでも彼は信頼に値する存在です。私を気遣う優しい心や、織斑先生やクラスメート達と仲良くできる社交性。

そして女尊男卑思想に染まっていたセシリア・オルコット代表候補生が、認める強さと息が合わなくても、認めた人間には暴力や過度な反発を起こさず、認め合う心。危険はあるかもしれませんが、彼の本質はそこにはありません」

 

強く、自らが力を貸したいと願う人は、悪者ではないと話す本音。

 

「むしろ、お嬢様が懸念している事案は、この世の中がそう歪めてしまった事でしかないのです。

それなら、その闇を大きくしないように、支えてあげるのも大切なのではないでしょうか?」

 

人の本質は生まれ持ったものと環境に左右される。

西村赤也という人間は、確かに歪んでいる部分を持っているだろう。だが、それがそれだけが本質ではないのだと、本音を言う。

 

「……そうは言ってもね。これは学園の方針でもあるの」

 

「学園長との話が必要なら、おそらく織斑先生が行なっている筈です。

私と織斑先生は、彼のために出来ることをなんでもする覚悟でいます」

 

本音の言葉に驚きを隠せない楯無。

西村赤也という人間が、ここまで人の動かすものを持っていたのかと。

 

「虚ちゃん」

 

「はい。今しがた、確認を行ったところ、学園長の元に織斑先生がいるようです。

内容は本音のものと同様ですね」

 

虚からの報告が楯無の頭を痛くする。

どうしようもない程に、本音の本気を理解してしまったからだ。織斑先生も動いてるとなると、そう簡単に話が済む事ではなくなる。

ここで、楯無は一つ。本音がどこまでの覚悟を持っているのか確かめる事にした。

 

「もし、私が認める代わりに、ISで私と戦いなさいと言ったら貴女はどうするの?」

 

国家代表である自分と戦ってでも、押し通す覚悟はあるのかと楯無は問う。

暗部として更識に仕えてきた布仏本音だからこそ、楯無の力量をしっかりと理解している。だからこそ、この質問で覚悟を推し量る事にした。

 

「……戦いますよ。例え、楯無様が相手でも。ISだけではなく、体術でも戦えというのならそれでも。

簪様と離れろと命じられても、従います。それで、あかやんの負担を減らす力が手に入るのなら」

 

この返答には流石の楯無も表情が崩れる。

まさか、自分と戦う道やあんなに仲の良い簪から離れる道を選ぶほどの覚悟だったのかと。

月日は短い。まだ、彼と本音が知り合って1週間とちょっとしか経過していない。それなのに、数十年共にした自分たちより選ぶ価値のあるものだと本音は思っているのかと。

 

「……分かった。なら、三日後。

第四アリーナに来なさい。生徒会長権限でアリーナの確保と、訓練機を借りておくわ。

そこで戦って、本音ちゃん。貴女の覚悟を見せてもらうわ」

 

本当は、本音に妹である簪のISを開発するのに手伝って貰いたかった。本当は、専用機なんて危険なものを戦いに不向きな性格の本音に持ってほしくなどない。だが、それは自分の我儘でしかないと押し殺し、冷酷なまでに暗部更識楯無の仮面を被る。

 

「分かりました。その時は、ラファールでお願いします」

 

本音が真正面から楯無の目を見て、宣言すると同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。

本音は残してあった紅茶を一気に飲み干し、立ち上がる。

 

「無理を言って申し訳ありませんでした。

ですが、どうしても必要だとそう思ったんです」

 

そう、最後に残し、生徒会室を出て行った。

残された虚と楯無は、同時に息を吐く。無意識に本音の空気に呑まれていた。

 

「よろしかったのですか?お嬢様」

 

「そりゃ、嫌だけど。でも、あんな覚悟の本音を止める気にはなれなかった」

 

まるで、自分が楯無を襲名することが決定した時の自分を見ているようで。っと楯無は心の中で続けた。

 

「…織斑先生の方も、こちらの意見に委ねるという結論が出たそうです」

 

「まぁ、あの学園長ならそう言う結論になるわよね……西村赤也。

本音ちゃんがあそこまで入れ込む人ね……」

 

楯無は資料に目を落とす。経歴は一般人そのもの。

 

「気になりますか?」

 

「まぁね。でも、本当は虚ちゃんの方が気になってんじゃないの?

大切な妹をああも、籠絡した人物にさ」

 

「多少は。でも、私は本音の選択に極力、介入する気はありませんから」

 

「うわぁ、余裕ねぇ〜」

 

「授業、休みます?お嬢様」

 

疲れた表情の主を気遣う虚。

 

「そうね。生徒会って連絡しておいてくれるかしら」

 

「分かりました」

 

虚が電話を取り出し、職員室に連絡する。

その姿を眺めつつ、楯無は先ほどの本音の顔を思い出す。

 

「はぁ、なんだか知らないところで成長してるようで、おねーさんは悲しいなぁ〜ってね」

 

IS操縦者としては未熟な本音と戦う日をどこか、楽しみにしている自分がいたのだった。




本音さん覚悟回でした。
果たして、楯無さん相手にどのように戦うのだろうか。

間延びしない口調の本音さん、違和感が凄かった

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼のためにSIDE千冬

前話の時に千冬さんはどんな話をしていたのか回です。
学園長のキャラが掴めなかったけど、うちの学園長はこれで行きます。


布仏本音と同じ時間に織斑千冬は、学園長の前で神妙な面持ちで立っていた。

目の前に座る壮年の男性、轡木十蔵。普段は、IS学園の用務員として、学園の至る所で目撃される人物だか、その正体はIS学園を取り仕切る学園長。各国の政府関係者すら、この男の前では大きな口が聞けない。

 

「それで、織斑先生。話とはなんですかな?」

 

「はい、事前に話していた通り西村赤也の件についてです」

 

その男の放つ圧力に屈する事なく、口を開く織斑千冬。

内心、かなりの冷や汗をかいている。だが、自分より年下の少女が今頃、長年仕えた主に覚悟を示しているのだ。

それなのに自分が屈してなるものかと、自らを奮い立たせる。

 

「サードオニキスによる侵食を、押し留めるべく、一年生の布仏本音主導で『IS学園機体開発計画』を推し進め、そのISを布仏本音に預けるという話でしたな」

 

「はい。本日は、その件を学園に了承して頂きたく、こうしてお時間を頂戴しました」

 

「ふむ……まずはこれを見てくれ」

 

十蔵が紙の束を机の上に置く。

拝見します、と一言かけ、千冬がめくっていく。

 

「…これは…」

 

「西村赤也君に対する、悪評の様なものですよ。生徒会に届けられたものや職員から出たものもあります」

 

内容は様々だが、総じて言えることは西村赤也という人物をIS学園から追い出したいというもの。

思わず、千冬は紙を持つ手に力が入ってしまう。ぐしゃりと歪んだ紙は、千冬の表情を写したかの様だ。

 

「その顔を見る限り、君が見てきた西村君の人物像は違う様だね」

 

十蔵は、千冬の顔を見て、どこか嬉しそうに笑う。

政府に顔も広く、本人の力も高い。だが、彼は根っからの教師だった。直接は教えていなくても、自分の生徒に悪評を言われるのが当然という者がいない事実に喜んでいるのだ。

 

「えぇ。少なくとも、私から見た彼は決して善人ではありませんが、人を思いやる心があり、自分の境遇に悲観する人間味があります。

確かに、サードオニキスを手に入れた直後には驕り高ぶる所もありましたが、自分を支えてくれる布仏の様な人間、対立こそするが、認め合う事の出来るオルコット。そう言った存在に出会い、彼の雰囲気は変わっています」

 

最初は警戒していた。

同室で暮らしたのも、自分の力量があれば取り押さえる事が可能だと判断したからだ。しかし、自分と暮らしている間、赤也は反抗する訳ではなく、逆に乱れていた自分の生活サイクルを整え、飯まで嫌な顔一切せずに作ってくれるという甲斐甲斐しさまで見せた。

いつからか、千冬は彼の料理を楽しみにしていたし、その為で職員室で終わらせる事の出来る仕事もわざわざ、自室に持ち帰ってまで赤也と交流する時間を増やしていた。

端的に言えば、千冬は赤也との同棲生活を楽しんでいたのだ。

 

「ふむ…」

 

十蔵が口を開こうとした時、学園長室の電話が鳴る。

 

「構いません」

 

「話を切って悪いね」

 

十蔵が電話に出る。

千冬に相手の声は聞き取れない。だが、何故か十蔵が楽しげにしているのは分かった。

 

「えぇ、こちらに織斑先生は来ていますよ。はい、そっちの同じ案件です」

 

十蔵のその言葉を聞いて、千冬は理解した。

電話の相手は、生徒会の誰かで、内容は自分と志を同じとする本音に関してなのだろうと。

そして、電話を切る十蔵。

 

「生徒会でも布仏さんが同じ話を持ってきたそうです」

 

「やはりそうでしたか。私と布仏が願っていることは同じです」

 

本音も頑張っている。その事実が千冬の覚悟をより大きなものにする。

 

「学園としては、彼を脅威として見ているという事は、改めて伝える必要はないでしょう」

 

「はい。理解しています」

 

グッと握りこぶしを作る千冬。

 

「織斑先生、貴女は彼の鎖になれますか?」

 

「は?」

 

十蔵の言葉に目を丸くする千冬。

それを見て、はしょり過ぎましたねと笑う十蔵。

 

「私から見た彼は、どちらに転んでもおかしくない存在に見えるのです。

今は、貴女や布仏さんの存在が大きく、彼も道を踏み外しません。ですが、彼の抱える闇を突く存在が現れた時、貴女は彼を留める事の出来る存在になれますか?っと聞いているのですよ」

 

その言葉を聞き、目を閉じる千冬。

確かにそうだ、赤也の闇はいつ爆発してもおかしくない不発弾の様なもの。

今は導火線がない状態だ。だが、束や彼を疎ましく思う国際IS委員会、裏組織など彼の導火線になり得る存在は多い。

彼が爆発し、闇に歩を進む様な事態になった時、自分は鎖として彼を引き留める事が出来るのだろうか。

そんな事、彼女の中ではとうに結論が出ている。

 

「なれます。その覚悟がなければ、私はこうして貴方の前に立ってはいません。

それに、鎖は私一本ではありません。布仏という鎖だって彼を縛ってくれます」

 

十蔵が放つ圧力と空気に負ける事なく、宣言する千冬。

しばらく、沈黙が続き十蔵が微笑む。

 

「分かりました、織斑先生、貴女の覚悟はしっかりと見させて頂きました。

ですが、こちらからも条件があります」

 

十蔵が認めてくれたことで、笑みが溢れるがその後の条件という言葉を聞いて、気を引き締める千冬。

 

「そんなに固くなる事ではありませんよ。

織斑先生、貴女に西村君の稽古をしていただきたいのです。貴女達が鎖になってくれても彼が弱ければ意味がありません。

隙を突かれ、攫われてしまうだけです」

 

「稽古ですか?……ですが、彼のサードオニキスは」

 

「ISでの訓練という訳ではありません。自衛するための体術を身につけて欲しいのです。

彼の経歴を見た限り、武術をやっていた経歴はありません。これでは、あまりにも貧弱です」

 

その言葉にそうだったかと思い出す千冬。

彼がサードオニキスを操縦し、戦えているのは身体と繋がっているという利点を活かした感覚によるイメージの具現化。

彼自身が強くなる事で、サードオニキス使用時に、無理をしなくて済む。即ち、彼が自分の限界を越えようとしなくて済むという事だ。

十蔵がここまで考え、発言しているのかは千冬には読み取れない。

 

「分かりました。惜しむべきは、彼が剣を使わないという事ですが、鍛えてみせましょう」

 

「では、学園としての判断は生徒会に預けるとしましょう」

 

十蔵が電話ではなく、メールを送る。

 

「しかし、西村君は愛されていますね。織斑先生にこうも想われるなんて」

 

話が終わり、和やかな空気に切り替わり十蔵が千冬を揶揄うかの様に発言する。

 

「が、学園長…揶揄うのはやめてください。私は、ただの生徒としてあいつが大事なだけです」

 

「ほっほっほ。そういう事にしておきましょうかね。反対する教師達はこちらで言いくるめておきますので。

織斑先生のやりたい様にしてください」

 

「分かりました。ご助力感謝致します。学園長」

 

千冬が深々と頭を下げて、礼を述べる。

それを優しげに見守る十蔵。

そして、昼休みを告げるチャイムが鳴る。

 

「それでは失礼します」

 

「またお話しできる機会を楽しみにしてますよ。織斑先生」

 

千冬が学園長室から出て行く。

十蔵は、茶を飲み、窓から見える青い空を眺める。

 

「西村赤也君……どんな人物なのか興味が出てきました。近々接触してみる事にしましょうか」

 

なにせ、用務員だ。機会はいつでもあるだろうっと、いつかの接触を楽しみに十蔵は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四時間目の授業が始まる直前に、普段より遅れてきた千冬と本音が出会う。

二人とも笑みを浮かべている。

 

「こちらは上手くいったぞ。楯無はどうだった?」

 

「三日後にISを使って戦う事になりました〜」

 

千冬は本音が普段と変わらない様子で、言うのが面白いのか本音の背中をバシバシと叩く。

 

「いたいですよぉ〜織斑先生〜」

 

むぅっとむくれ、抗議の視線を送る本音。

 

「悪い悪い。三日後か……やれるのか?」

 

「多分、勝てないと思いますけど、私の本気をたっちゃんにぶつけてみるつもりです」

 

「そうか。頑張れよ、布仏」

 

布仏がやる気満々なのを見て、自分も赤也の訓練メニューを考えなければなと思い出す千冬。

 

「あ、そうだ〜織斑先生。一先ずの、お疲れを祝って〜」

 

ダボダボした片手を挙げる布仏。

最初は不思議そうに見ていた千冬だが、合点がいった様で千冬も手を挙げる。

 

「「おつかれ様」」

 

ボスンっと少し気の抜ける音ではあったが、二人のハイタッチが成立する。

二人とも満足げな笑みを浮かべていた。




2話続けてオリ主が一切出てこない。
名前はいっぱい出てきてるのにね。

評価をくれた皆様、ありがとうございます。
とても嬉しいです!

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思っていたより、パーティというのは楽しいものだ

わいわい回、赤也くんにお友達ができます。


「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

クラッカーの音が響き渡る。

織斑のクラス代表就任を祝う会だとかなんとかで、俺は此処にいる。なんで、こんな奴を祝わなければならんのだ。

まぁ、布仏に連行されているだけなんだけど。

 

「あかやん、はいこれ〜美味しいよぉ〜」

 

昼休みに何処かに行き、戻ってきたら授業全てに爆睡をしてた布仏だが、別に体調が悪い訳ではない様だ。

しかも、千冬がそれに気づいてるのに一切、注意をしないという不思議な光景だった。

 

「ありがと。というか別に俺の所に来なくても、向こうで盛り上がって良いんだぞ?」

 

俺は織斑から少し、離れたところで所謂、立食をしていた。

ポ○チや、ファ○タグレ○プを飲み食い出来るのなら、俺はそれで満足だ。わざわざ、織斑の所に行く気はない。

あ、布仏のくれたチョコ美味い。

 

「ん〜ん〜、私はあかやんと一緒の方が楽しいからぁ〜」

 

二パァっと笑顔を見せてくれる布仏。

正直、可愛いです。癒されるし、保護欲沸くし、可愛いです(二度目)

 

「本音さんは相変わらずですね。……私もこちらにいる時点で同類ですか」

 

実は布仏と一緒に俺の元に来た女子が一名。

今は、俺の向かい側に立ち、お茶を啜っている、四十院神楽。あまり、接点がないのだが、此処にいる。

 

「織斑の所に行かないのか?」

 

「私が此処にいるのが不思議ですか?

でも、ご安心ください。別に、貴方に気があるとかいう訳ではありませんので」

 

そこは聞いてないっての。

と言うか、俺だってほとんど接点の無いお前に恋愛感情抱いてないわ。

 

「かぐっち〜おりむーの事、嫌ってるみたいなの〜」

 

布仏がチョコを大量に口に放り込みながら、説明してくれる。

太っても知りませんよ?布仏さんや。

 

「そうなのか?」

 

「はい。そもそも、なぜクラスの皆さんが彼をあんなに持て囃すのか理解に苦しみます。

初日に、貴方の首根っこを掴み、謝罪すらしない人ですよ?信頼する価値すらありません」

 

あー、あれが原因か。まぁ、俺も織斑が嫌いだからどうでも良いや。

 

「その点、貴方は見た目は右腕のことを置いておけば普通で、口調は乱暴、沸点は低いですけど」

 

「喧嘩売ってます?」

 

あれ、この人俺に面向かって文句言うために此処に来てるんじゃ無いよね?

 

「ちゃんと誠意ある謝罪の出来る人でした。本音さんとも仲良くやれているようですし。

私としては、貴方がクラス代表を務めてくれると嬉しかったのですが、結果は結果。致し方ありません」

 

「誠意ある謝罪ね……俺が女子は甘いものが好きだろうなんて、安直な理由で用意した物かもしれないだろう?」

 

「それは否定しません。ですが、あのクッキーは市販されているものではなく、一枚一枚、微妙に形の違う、手間がかかって作られたものでした。それと、このメッセージカード、忘れたとは言わせませんよ?」

 

ポケットからカードを取り出す四十院。

うわ、バレてたのか。どうせ、まともに読む奴なんか居ないと思って分かりづらく同封しておいたやつ。

 

「端的に『すまなかった』と綴られていますが、ちゃんと貴方の直筆です。

これを見て、誠意ある謝罪と受け取るなって言われる方が無理でしたよ」

 

「あかやんは、謝るときはしっかり謝れる良い子〜」

 

「布仏、お前は俺の母親か?まぁ、それを見られてたんなら、否定できないな」

 

四十院の様にちゃんと読んだ奴何人ぐらいいるんだ?

一歩、間違えたら黒歴史ものだぞ。

 

「否定する気あったのか僅かに気になる所ですが、西村さん、私と友人になってくれますか?」

 

「あぁ。よろしく頼むわ、四十院」

 

差し出された右手を取り握手をする。

四十院には、冷たい思いをさせてしまうが、左手で握手するわけにもいかん。

 

「わ〜い。かぐっちとあかやんが仲良くなったぁ〜」

 

嬉しそうにする布仏。口の周りにすごく、チョコがついてる。

まぁ、あんだけ勢いよく食べたらな……

 

「布仏、口」

 

「本音さん、口の周りが」

 

「「ん?」」

 

俺と四十院の行動が重なる。

俺は右から、四十院は左から、ハンカチを取り出し、布仏の口を拭こうとしていた。

 

「「「ぷっ、ははははは」」」

 

それがなんだかおかしくて、三人で笑う。

四十院神楽、彼女は信用できそうだ。

しばらく、三人で話をした。驚いたことに四十院の家は名のある家らしい。それと、ゲームをそれなりに嗜んでいるという。

ちょっと、話をしただけで分かる。同類だ、ゲームの話になると熱の入り方が違う。

 

「お楽しみのところ、ごめんよー!

君がもう一人の男性IS操縦者、西村赤也くんだね、ちょっとお話しいいかな?」

 

話の途中で、誰かが割り込んでくる。

 

「誰?」

 

「そんなに警戒しないで!私は、二年の黛薫子。

さっき、織斑くんのところで自己紹介してたけど、聞いてなかったのかな?」

 

「聞いてないですね」

 

「辛辣ぅ!まとめて、話聞きたいからこっち来て!ほら!」

 

グイグイ来る人だなぁ……

抵抗に意味はなく、織斑とオルコットがいるところまで連れ出された。

 

「はい!じゃあ、インタビュー。

まずは、オルコットさん!貴女から見て、この二人はどうだった?」

 

オルコットに勢いよく、向けられるボイスレコーダー。録音してるんだろう。

 

「そうですわね。一夏さんは、わたくしに忘れていた男性の強さを感じさせてもらいましたわ。

圧倒的に不利な状況から諦めず、わたくしを睨むあの視線……忘れられませんわ」

 

「なるほどぉ〜じゃあ、西村くんについてはどうかな?」

 

幸せそうに織斑について、語っていた表情から一転、不機嫌な顔になるオルコット。

 

「そうですわね……非常に誠に遺憾ですが、わたくしの力不足と覚悟の甘さを認識した相手でしたわ。

強さだけはわたくしも認めています。ですが、あの野蛮さは一切、微塵も認めていませんわ!」

 

「な、なるほど」

 

オルコットの勢いに完全に引いている黛さん。

今度は、織斑にボイスレコーダーを向ける。

 

「織斑くんはどう?」

 

「え!?あ、えっと、セシリアはその強かったです。赤也は、セシリアの時に見せた動きをしてくれなかったのが不満です」

 

右肩が不調だったんだよ。じゃなきゃ、お前に負ける事はなかったんだが、すでに結果が出ている以上負け犬の遠吠えか。

 

「じゃあ、最後、西村くん!」

 

「俺もか……織……一夏はもっと訓練でもすれば良いんじゃないですかね。

オルコットの強さは俺も認めてます。どうにか勝てましたが、一歩間違えれば負ける相手だと思ってます。

ただ、俺もアイツの無駄に育ちをアピールする優雅さは気にくわないですね。野蛮で結構です」

 

「よく動く口ですこと…」

 

「お前に言われたくねぇよ」

 

「「……」」

 

無言で睨み合う俺とオルコット。

 

「なるほどなるほど。オルコットさんは、織斑くんに惚れてて、織斑くんは色々と不満があって、西村くんとオルコットさんはライバル同士って事ね。じゃあ、最後に写真を撮るから、三人並んで!」

 

勢いに流されるまま、オルコット、織斑、俺という順番で並ぶ。

 

「それじゃあ撮るよー!35×51÷24は〜?」

 

暗算できるかそんなもん。

パシャりという音ともに、写真が撮られる。

 

「布仏、四十院」

 

「えへへ〜あかやんと一緒に写真だぁ〜」

 

「本音さんに連れてこられただけですよ」

 

いつのまにか全員が写真に写り込んでいた。

布仏は俺に寄りかかるように、四十院はそんな本音に引っ張られて来た勢いのまま、変な体勢で写真が撮られた。

後日、現像された写真を見て、俺と布仏で四十院を弄ったのはいうまでもない。

 




四十院さんが、アニメ版と小説版で見た目が違うので、困ったのですが、書いてるうちに、これ、小説版だなって思いました。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転校生?そんなの事より、ゲームがしたい

赤也、本音さん、四十院さんの絡みを書くのがすごく楽しい。
そんなこんなで、鈴さんの登場です。


朝、俺はいつもの様に千冬と学園までの道を歩いていた。

同室だから一緒に出てくるだけなのだが、今日は話があるらしく缶コーヒー片手にゆっくり歩いている。

 

「で、わざわざ外に出て話する内容ってなんなんだ?」

 

ちらほらと他の生徒たちが学園に向かっている中、俺と千冬の組み合わせは目立つ。

 

「これから放課後の空き時間、私がお前に稽古をつける事になった」

 

「はい?稽古。なんでまた」

 

「色々理由があるが、お前を強くするためだ。

自分の立場というものは理解しているだろう?」

 

まぁ、理解してますよ。織斑と違って俺には強力な後ろ盾がない。

篠ノ之束からモルモット認識を受けているだろうって?それは、逆に世界から俺の価値をより低く見せてしまうレッテルにしかすぎない。

あとはまぁ、俺の性格か。教師陣は山田さんと千冬、生徒なら布仏と四十院、あとはまぁオルコットか。これぐらいのメンツとしかまともに会話していないし。

織斑は除外する。だって、嫌いだから。

 

「まー、強くなれるなら構わないが」

 

俺の事をあんなに心配してた千冬が積極的にサードオニキスを使わせるような稽古方式ではないと思うが。

 

「案ずるな。体術を教えるだけだ。

お前のISは右腕の決定力が高いが、逆に言えばそれしかない。その為に、お前自身が格闘術を身に付けた方が良いだろう」

 

確かに。クローダで殴り続けるという戦法もあるにはあるが、疲れそうだし何より見た目が非常に悪い。

バルカンは牽制するだけで仕留めるだけと威力はない。

 

「でもそれだけならわざわざ外にで話す必要は無かったと思うが?」

 

「なに少しばかり周りに関係をアピールしておいた方が、抑止力になるからな」

 

「身の安全を対価に、俺は精神面を削られるんですね。悲しい」

 

実際、周囲の何人かの視線が刺さってる。

織斑ぐらい鈍感なら気づかなかったかもしれんが、生憎、俺は感情とかには気付きやすいからなぁ。

 

「それはすまん。だが、そういう時は彼女らを頼れば良い」

 

溜息を吐いてる俺の背中をバシッと叩き、前に出す千冬。

なんだ!って文句を言ってやろうと思った矢先に、目の前からくる柔らかい衝撃に邪魔される。

 

「あかやん〜おはよう〜!!」

 

布仏だった。朝の挨拶代わりに俺に抱きついて来たのがさっきの柔らかい衝撃だった。

 

「おはようございます。西村さん、それに織斑先生」

 

オルコットとはまた違う優雅さの四十院が、ぺこりと頭下げて挨拶をする。

四十院の優雅さは嫌いではない。オルコットの鬱陶しい優雅さと違って、四十院のはお淑やかな優雅さだ。

 

「おはよう、四十院、布仏。それにしても、急に抱きついてくるな、ビックリしたぞ?」

 

布仏のスキンシップは、かなり激しい。

簡単なボディータッチどころか、こうやって全身を押し付けてくるような行為すら行ってくる。

驚くべくは、一切の恥がなく、これが仲良くなるには手っ取り早いと思っている事だ。共学だったら、数々の不幸を生み出している存在だな布仏。

 

「まったく、仲が良いのは結構だが、私も居るんだぞ布仏」

 

「えへへ〜織斑先生もおはよう〜」

 

「敬語を使え全く」

 

それと、昨日からこの二人の距離感が近い。

千冬のことだから、どこからか出席簿を取り出して叩きつけると思ったんだが、普通に挨拶している。

四十院も俺と同じことを思っていたらしく、信じらないという表情で俺を見てくる。

だから、無言で首を横に振ると、ですよね。みたいな感じで頷く四十院。

 

「お前、やっぱり喧嘩売ってるだろう?」

 

「はて?なんのことでしょうか。それより、行きましょう本音さん、西村さん」

 

くっ、話をすり替えられたか。仕方ない、普通に教室に向かうか。

 

「じゃ、また。織斑先生」

 

「ばいば〜い」

 

「教室でお待ちしていますね」

 

布仏が相変わらず気楽だが、まぁ良いのだろう。こいつらしいと言えばらしい。

 

「あぁ、仲良くしろよ三人とも」

 

千冬はそう言って職員室の方に歩いていく。

布仏と四十院に合流して、教室に向かっている間は、あまり視線を感じなかった。というより、こいつらと話している時間が楽しくてそこまで気が回っていなかったというのが正解だろうか。

基本的に布仏が楽しいそうに喋るのを、俺と四十院が聞いてるのがよくある光景で、偶にゲームという共通の趣味で俺と四十院が盛り上がる。布仏には、興味のない話かもしれないが、毎回、ニコニコしながら聞いてくれる。

 

「こうやって話していると、久しぶりにマルチプレイをしたくなって来ましたが、三人では味気ないですね」

 

「そうだな。最初は、布仏に色々教えなきゃならないだろうし……となると、もう一人は最低でも詳しい奴が欲しいな」

 

マルチプレイできるゲームで三人は少し、虚しい。どうせなら、大人数でワイワイやりたい。

戦略ゲームなら、それぞれの個性も出るから通話しながらやるのが格段に楽しいし。

え?俺にそんな友人がいたのかって?一言で、答えよう。ネット社会超便利。

 

「ほぇ?私も混ざって良いの〜?」

 

そんな会話を聞いて、初心者の布仏が首をかしげる。

そりゃ、参加させるに決まってるだろう。

 

「「友人を誘わないわけがないだろ?(ないじゃないですか))」」

 

「ありがと〜あかやん、かぐっち〜」

 

両手を広げて、俺と四十院に抱きついてくる布仏。

俺と四十院は、驚いた表情になるが、しばらくして笑う。

そんなこんなで、教室に到着しても俺たちの話題は変わらない。どんなゲームをするか、通話しながらやるならこのアプリを入れた方が良いとかそんな、友人同士の気楽な会話だった。

 

「んなっ!なんてこと言うのよアンタは!」

 

クラスが賑やかでも、はっきり聞き取れる声。

揉め事か?っと声の方向を見ると、織斑と見覚えのない女子が話をしていた。なんだ、馬鹿がまた馬鹿をしたのか?

 

「おい」

 

あ、千冬の登場だ。

人間、背後に目は付いていないので、千冬だと気づかなかった女子は出席簿による一撃を食らっていた。

見知らぬ女子よ。ご愁傷様。

 

「では、SHRを始める。欠席している奴はいるか?

連絡を貰っている奴や、周囲でいないと分かる奴は教えろ」

 

普通にSHRを始める千冬。

さっきまでいた奴のことなど、既に忘れているような感じだった。

 

「居ないようだな?っとそうだ、赤也」

 

「なんですか?」

 

「先日の対抗戦の映像を利用して、お前の事を世界に知らせておいた。

それで、いの一番にお前の家族から連絡があった。時間を見つけて、連絡しておけ」

 

あぁ、そういや俺、まだ報道されてなかったわ。

家族からの連絡ね……着信拒否してたから気づかなかったわ。まぁ、適当に済ましておくか。

 

「分かりました。適当にやっておきます」

 

「そうしとけ。では、授業に励むように。以上で、SHRを終わりにする」

 

はぁ、めんどくさい。

どうせ、IS適正がない癖に色々文句を言われるんだろうなぁ。

この後の授業、なぜか上の空になっている篠ノ之とオルコット、家族の事で現実逃避をしていた俺、この三名の頭に千冬の有難い出席簿が降り注いだのは言うまでもない。

 

「ごっはん〜ごっはん〜」

 

「ほんと、同年代なのか怪しく思う時があるよ」

 

「諦めてください。これが本音さんクオリティです」

 

今は昼休み。

弁当を作る気力のない俺たちは学食来ていた。布仏は、すごくはしゃいでいる。

その様子はとても高校生には見えない。

ちなみに、上機嫌で作り上げているのは、前にも食べていた全てが混ざったお茶漬けの様な何か。

俺は、ラーメン。四十院は日替わり定食を食べている。

 

「……のほほんさん、それ、美味しいのか?」

 

「美味しいよぉ〜」

 

そして、なぜか織斑達と同席している。

最初は俺たちで座っていたのだが、そこに織斑が篠ノ之、オルコット、見覚えのない女子を引き連れてやって来たのだ。

大人数が座れる丸テーブルに座ってたのが運のツキだった。ちなみに、四十院は秒で織斑から一番、遠いところに座り直していた。

哀れ、織斑。

織斑を嫌っている俺、四十院。俺との接点がない篠ノ之、見覚えのない女子、こんな混成状態だから、結局、同じテーブルに座っていても、今の織斑の発言以外、身内で話していたのだ。

 

「アンタがもう一人の男性IS操縦者ねぇ」

 

あぁ、織斑が話すから、関わっていいのかみたいな感じで、話しかけて来たじゃないか。

 

「そうだが?」

 

「ふーん、ねぇ、データ取りの目的あるから今度、私と戦ってよ」

 

目的を隠さねぇ奴だな。と言うか、アレか。思った事を全部、口に出すタイプかこいつ。

 

「嫌だ。無駄な戦闘をするほど暇じゃないんでね」

 

サードオニキスに身体を食われるのは別に構わないが、極力無駄な戦闘は避けたい。

いざという時にデットエンドデットエンドなんて事は避けたい。

 

「へぇー、私との戦いは無駄だって言うだ……中々強気じゃないアンタ」

 

やべっ。言葉のセレクト間違えた。

へんな闘争心に火を点けてしまったよ。

 

「どうせ、そこの女子達と楽しく話してたから聞いてなかったと思うけど、改めて言うわ。

私は中国代表候補生、凰鈴音よ」

 

うん、本当に聞いてなかったよ。興味なかったからね。

とはいえ、自己紹介されたら無視するわけにもいかない。

 

「西村赤也」

 

「そう。西村って言うのね。覚えておくわ、それといつか絶対に戦いなさいよ!」

 

「へいへい」

 

なんとも勢いの強い奴が現れたもんだ。

この後、特に俺と凰の間で、会話はなく昼休みは終了した。

 




感想・批判お待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

友人が無茶をしているのだが、俺には何も出来ない

ちょっと色々と詰め込みすぎた感が否めない……読み辛かったら許してください。


目の前に対峙する最強にどう対応しようか悩む。

でも、喧嘩もろくにした事がない俺が、どうやって千冬のどこか一分でも良いから、右腕で捕まえるビジョンは見えない。

オルコットの時は、事前に動きを見て考えられる動きを全て予測していたから、対応できた。

でも、この人のは無理だって。

 

「そこっ!」

 

右腕を突き出し、足を掴みに行く。

 

「甘い!フェイントを織り交ぜろと何度言わせる!」

 

右手で俺の頭を掴み、自分が飛ぶための置物がわりに使われる。

当然、前傾姿勢だった俺の身体は前に勢いよく倒れる。

 

「くっそ…」

 

もう何度したか分からない転倒から立ち上がり、正面を見る。

俺の着ているジャージは新品の筈だが、相次ぐ転倒により汚れている。だが、目の前の千冬の白いジャージにはまるで汚れが付いていない。

 

「諦めるか?ん?」

 

「はっ……誰が、諦めるかよ!」

 

息を切らしながら立ち上がる。

千冬に稽古をつけて貰ってから、経過した時間は一時間。経った、一時間なのに身体中が悲鳴を上げている。

我流ではあるが、右足を少し前に出し半身の構えを取り、右腕を少し斜めに構え、千冬を睨む。

千冬はただ、立っているだけだ。腕を組んでこちらの出方を伺っている。

フェイントねぇ……あぁ、一個だけ思いついた。やってみるか。

 

「ふっ!」

 

息を短く吐き、体勢を低くし、千冬へと走る。先程と同様に、足を狙って手を伸ばす。

またかと言わんばかりの顔を浮かべられる。だから、体重を左側に傾け、回り込むように跳躍する。

 

「うおぉ!」

 

跳躍しながら、空中で千冬の顔面を狙い、右手を突き出す。

だが、千冬はニヤリと笑い。

 

「考えたが、まだ甘いぞ」

 

余裕で避け、がら空きの俺の右脇に手を入れ、一本背負いの様に俺を投げ飛ばす。

 

「あ、しまった」

 

千冬の気の抜けた声が聞こえるが、正直それどころじゃない。

俺は受け身が取れないぞ!?背中に強い衝撃を受け、肺から一気に空気が抜ける。

 

「ゲホッゴホッ!?……殺す気か!?千冬!!」

 

意識だけは失わずに済んだけど、超いてぇ。

ISに乗らなくても人間って、加速する世界と遠のく地面とか天井が見れるんだね。初めて知ったよ。

今、俺が行なっているのは千冬との稽古。分かっていたが、初心者の俺に一切の容赦がないスパルタ式。

確かに俺、感覚で覚えるけど。なんの手解きもなしに、やりやって覚えろって鬼畜過ぎない?

 

「悪い悪い。つい、な」

 

まぁ、稽古している最中、ずっと無表情だった千冬にニヤリと笑わせる事が出来たぐらいは喜んでも良いか。

 

「つい、で済んだら警察要らないぞ全く。で、今の何点ぐらいだ?」

 

「そうだな……今までを0点とするなら、精々、20点かそこらぐらいだな」

 

20点かぁ…手厳しいな。まぁ、でもこの人からしたら、さっきの俺の動きなんて、赤子の様なものか。

 

「狙いに行った場所から、跳躍して狙うという策は悪くない。

だが、視線でバレバレだ。次に自分が行く場所を見ていたら、当然読まれる。それに、フェイクをするにしても、勢いが今までと違い過ぎる。フェイクというのは、これを食らったら不味い、相手にそう思わせて初めて成立する。

ただ来るだけのフェイクなんぞ、気にすらしないぞ」

 

怒涛の勢いで指摘される。

今の様に、俺が動けなくなっている時間は千冬からどんどん指摘される。当然、挫けそうになるが、ここで挫ける訳にはいかない。

 

「なるほどな……よしっ、次だ次。俺はまだやれるぞ!」

 

「よし来い。まだ、時間はたっぷりとあるからな」

 

結局、この後俺は千冬に一切、触れる事なく稽古が終わる。

今回の成果といえば、何度も叩きつけられる内に、受け身が出来るようになった事と、フェイクを織り交ぜるという事だけだろう。

 

「あぁ〜……身体いてぇ……」

 

「いや、すまん。正直、張り切り過ぎた。初心者にやって良いメニューでは無かったな」

 

寮への帰り道、千冬に奢って貰ったスポドリを飲みながら歩く。

基礎すっ飛ばして、いきなり体術ですからね。そりゃ、初心者用じゃないですよね!

 

「頼むぜ……俺が飯作れなくなったら困るのあんたもだろう?」

 

「そうだったな。なに、これで今日でお前の基礎体力を測れた。

明日からは、体力作りを体術の前に行うとしよう」

 

ウキウキした顔の千冬。

教師なんだなぁ…こういう所は。とはいえ、一言言っておくか。

 

「休みの日も作ってくれよ?オーバーワークで潰れるとか嫌だぞ」

 

「わ、分かっているさ。心配するな………忘れてた」

 

「おい、最後なんて言った?うん?」

 

この人、休みなく俺を鍛える気だったな。

言っておいて良かったぁ……オーバーワークで潰れて授業とか休んだらその穴埋めるのに苦労するの俺だぞ。

 

「ん〜?あ、やっぱり、あかやんと織斑先生だぁ〜」

 

「ん?布仏。どうしたこんな時間に?」

 

現在時刻は、寮の門限五分前。

普通の生徒なら、寮に戻って自室でゆっくりしている時間だ。俺は、となりに寮長がいるから、過ぎても大丈夫だけど、布仏は違うはず。

よく見ると、少し汗をかいている。アリーナでISでも動かしてたのだろうか?

 

「ちょっと、ISの自主練をねぇ〜」

 

当たってた。だけど、布仏は整備科志望だったはず。

言い方はアレだが、そこまで操縦に専念しなくても良いはずだ。

 

「そうか。でも、整備科志望のお前が操縦練習するほど、入れ込む様なイベントあったっけか?」

 

記憶を遡ってもそんなイベントは記憶にない。

六月ごろに学年別トーナメントがあるけど、布仏がそれでやる気出すとは思えないしなぁ。

 

「あはは〜乙女には秘密があるのだ〜というわけで、じゃあねぇ〜」

 

「あ、おい」

 

のたのたと、走って行く布仏。正直、簡単に追いつけるけど、秘密か。

そう言われてしまえば、聞く気にはならない。

 

「良いのか?」

 

「秘密って言われて無理やり聞き出すほど、ガキじゃない」

 

気にはなるけど。こういう時、無理やり聞くのはマナー違反だろう。

何のマナーだよって言われかねないが。

 

「……気になるなら明後日の放課後。第四アリーナに行ってみろ」

 

「え?」

 

「ほら、行くぞ」

 

スタスタと歩き出す千冬。

第四アリーナに行ってみろ?それが、今の布仏の態度と関係あるのか?まぁ、覚えておくか。

メモ帳に明後日、放課後、第四アリーナとメモして千冬を追いかけた。

 

 

 

 

翌日も授業が終わり、今度はグラウンドを走らせられる。

千冬も一緒に走っているが、かなりのハイペース。ついでに、陸上系の部活の連中に物凄く見られる。

 

「あれ、千冬様じゃない?」

 

「一緒に走ってるのは西村くん?」

 

学年が上の女子からも奇異な目線で見られるのはなんとも辛い。

ちょいちょい混ざってるクラスメイト達には、ご愁傷様って視線を向けられる。これ、別に罰則で走ってる訳じゃないからな?

 

「……何してますの?」

 

「あ?あぁ、オルコットか…」

 

テニスのウェアを着ているオルコットに話しかけられる。

こいつ、テニス部だったのか。体力を鍛えるための走り込みか?代表候補生にやらせる必要はないと思うんだが。

 

「織斑先生に、稽古をつけて貰ってるんだが………なにぶん、体力不足でな……」

 

「あぁ、なるほど。織斑先生に稽古をつけて貰ってるのですか……これはもっと訓練を増やした方が良いですわね。

それにしても、体力不足とは実に情けないですわねぇ」

 

ニヤニヤと揶揄う様な顔のオルコット。

 

「うっせ。お前だって、良いのか?……部活に精を出してて?

篠ノ之や、凰に織斑を取られても知らんぞ?」

 

そう言うと少し、不機嫌な顔になるオルコット。

ん?なんか地雷踏んだかこれ。

 

「…一夏さんにはもっと、乙女心を理解して頂く時間が必要ですわ」

 

あぁ、これは織斑が何かやったな。まぁ、どうでも良いか。

 

「アレにそれを求めるのは、無謀だと思うぞ」

 

「……こんな話どうでも良いですわ、それより、このゆっくりしたペースでは退屈してしまいますわ。お先に」

 

オルコットが話を打ち切り、勝ち誇った顔でペースを上げる。

クッソ、腹立つ。疲労で、なんか普通に話してた気がするけど、やっぱりあいつに負けるのは気にくわねぇ。

一気に加速して、オルコットを追い抜く。

 

「悪い悪い。そんなもんだったか」

 

「………あら、わたくしとした事がペースを乱してしまいましたわ。整えませんと」

 

オルコットが再び、加速して俺を追い抜く。だから、俺もペースを上げる。

結果、お互いに全力疾走になり、スタミナもなにもかも使い果たしたのは言うまでもない。俺は千冬に、オルコットは顧問にこってり絞られた。

 

 

 

そして、更に翌日の放課後。

千冬から休みを貰い、第四アリーナに向かっていた。布仏が隠してる事が分かるのだろうか。

今日一日、ずっと布仏は何かが書かれた紙を見ながらブツブツ言っていたし、俺や四十院が差し出すお菓子にも目をくれなかった。

明らかに何かがある。そう確信させるのは容易かった。

 

「あ、来ましたね」

 

アリーナに着くと、山田さんと、布仏に似てる人物が立っていた。

 

「織斑先生に此処に来るように言われたんですが…」

 

山田さんに話しかける。

えぇ、聞いていますと頷く山田さん。アリーナでは戦闘が行われているのだろう。銃声等の戦闘音が聞こえる。

 

「……この先の光景で何があっても冷静でいると保証できますか?」

 

布仏に似ている人物がそう言う。

 

「誰なんだあんたは?」

 

「良いから答えなさい。もし、冷静ではいられないと言うのなら、戻ってください。

本音の覚悟を汚す行為は許せませんので」

 

布仏の覚悟だと?

クッソ、なにが起きてるんだかさっぱり分からん。だが、布仏に関することなのは分かった。

そして、戦闘音……理由は分かんないが布仏は戦っている。一昨日出会った布仏の態度を思い出す。

やけに俺に余所余所しかった。そして、今日の態度……まさか、あいつは俺関係で戦ってるのか。

 

「…なにがなんだかさっぱり、分かんないが、俺の事であいつが何かしてるんだったら、俺が見届けなくてどうする。

俺はあいつの友人だ。なら、見届けるさ。俺の事で迷惑かけてんなら、全力で謝って全力で感謝する。それだけだ」

 

「……分かりました。入ってください」

 

アリーナに布仏に似たやつに先導され入る。

後ろから、山田さんが付いて来ているから、ハニトラや暗殺の類ではないだろう。

案内された場所はアリーナの端も端。意図して、ハイパーセンサーで調べない限り、見ようともしない場所。だが、こちらからは戦場がよく見えると言う穴場ポイントだった。

そこで俺は信じられないものを見る。

 

「なっ!?」

 

声が出そうになるのを必死に押さえる。

俺の視界に映ったのはラファールを纏っている布仏がボロボロで、水色のISに対峙しているところだった。

 




次回は、本音VS楯無を最初からお送りする予定です。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

布仏、あとで腹一杯、好きな菓子を食べような

6000文字とかまじか。
本音VS楯無回です。

このサブタイの赤也、きっとすごく優しい顔をしてる。


いよいよだ。いよいよ、この日がきた。

3日間なんて、決して長いものじゃなかった。でも、私にはとても長く感じた。織斑先生に協力して貰って、アリーナの使用許可を貰って、来る日も来る日も放課後はラファールを使い込んだ。

山田先生に、事情を隠してISの動かし方と、銃撃戦のやり方を教わった。私は、整備科志望でISの操縦に興味がなかったから、可能な限り早く基礎を山田先生に教わった。

 

「それでも、本当の本当に基礎と銃撃戦のやり方を覚えただけ……たっちゃんにこれで立ち向かえるのかなぁ〜」

 

ピットで深呼吸をしながら、そんな弱音を吐く。

ラファールの調整は訓練をしながら済ませた。装備の点検もバッチリした。あとは、たっちゃんのISでの動きや戦い方を復習し直した。

 

「布仏さん、大丈夫ですよ。どんな事情があって、一年生の貴女が生徒会長と戦うのか分かりませんが、あれだけ真剣に訓練したんです。

伝えたい思いは必ず、届くと思いますよ」

 

山田先生が励ましてくれる。

一回だけ訓練中にあかやんっと呼んでしまったから、私があかやん関係で頑張っているのが山田先生にバレてしまった。

でも、山田先生は事情を聞かずに、私との訓練を続けてくれた。とても良い先生だと思えた。

きっと、こうやって生徒の背中を押してくれるんだってそう思えた。

 

「はい!山田先生、私、頑張ります」

 

だから、普段とは違う真剣な私の言葉で返事をしよう。

 

「はい、頑張ってください。武装はこれで間違い無いですね?」

 

笑って、私の覚悟を受け止めてくれる山田先生。

タブレットを操作して、今のラファールに搭載されている武装を見せてくれる。

アサルトライフル二丁、シールドピアーズ、ショットガン、コンバットナイフ×3、近接ブレード。アサルトライフル用のマガジン×5、ショットガン用のマガジン×2

そして、脚部に三連装ミサイルを付けている。ラファールを動かし、山田先生に訓練を受けて、分かったことは私に近接戦闘の才能はほとんど無いという事だった。だから、近接武器は少なめに、銃火器に拡張領域を使った。

 

「大丈夫〜」

 

「ラファールの拡張領域を広げるために、通常のラファールより装甲が少なくなっています。

分かってるとは思いますが、被弾に注意してください。それと、布仏さんから近づくのは、確実に仕留めるチャンスが出来た時のみ。

良いですね?忘れないでくださいよ」

 

「うん〜大丈夫大丈夫〜しっかり、覚えてるよぉ〜」

 

シールドピアーズを積んでいるけど、攻め込みすぎない。距離を取って戦う。

そこまで話をして、ピット内にビィーっという電子音が響く。合図だ、たっちゃんの準備が出来たみたいだ。

 

「じゃあ、行ってきます〜」

 

ラファールにもたれ掛かる様にして、纏う。

訓練を始めた頃はいつもより視点が高くなったことに戸惑ってたけど、今はもう慣れた視界だ。

 

「全力で戦ってきてくださいね」

 

「うん〜ラファール、布仏本音出るよぉ〜」

 

カタパルトから勢いよく、射出される。

空中で、ちゃんと姿勢制御を行い、ミステリアス・レイディの前に向かう。

 

「……ちゃんと操縦出来てるみたいね」

 

「うん〜山田先生とずっと訓練したからねぇ〜

お陰で授業が眠くて眠くて〜」

 

暗い表情のたっちゃんが和む様にお話しする。

私と戦いたく無いのだろう。従者としての関係もあるし、当然、友達としての付き合いも長い。

 

「たっちゃん」

 

でも、ごめんね?私は引き下がらないよ。

 

「何かしら?」

 

「私の覚悟、ちゃんと見定めてね?」

 

アサルトライフルを両手に呼び出す。

この戦い、ハンデとして私の好きなタイミングで攻撃が出来る。先手の権利が与えられている。

あと、たっちゃんは水を制御しているナノマシンを攻撃に転用しないという縛りもある。

銃口を向けられたことで、顔付きが変わるたっちゃん。私も自分の中のスイッチを切り替える。

 

「「……」」

 

合図はなかった。

私が両手のアサルトライフルを撃つとまるで、分かっていた様に水のヴェールで防壁を作り防ぐ。

このまま、撃ち続けても弾の無駄になる。だから、一旦撃つのをやめて、今の自分が出せる最高速度で、たっちゃんの周囲をぐるぐると回る。たっちゃんはその場を動かず、私の動きを目で追跡している。振り切るほどの速度が出せるわけがない。

でも、だからって攻めなくちゃ活路は見出せない!

アサルトライフルをぐるぐると回転しながら、撃つ。タイムラグはあるけど、たっちゃんが動かないなら、全方位射撃だ。

 

「……」

 

それでも動じずにたっちゃんは、水のヴェールと槍で弾を防ぐ。でも、全く、攻めてこない。

不思議に思ったから止まって、アサルトライフルを向けながら聞いてみる。

 

「なんで……全く、動こうとしないの?」

 

「…私との力量差を認めさせるためよ。これで、分かったでしょ?

貴女が足掻いたところで、なんの結果も生み出せない。貴女は整備士であって乗り手じゃない。

大人しくしていなさいな、それが分からないほど子供じゃないでしょ?」

 

その言葉に思わず、唖然としてしまう。

たっちゃんは、自分の思いを言葉にするのが凄く、下手だ。

未だにかんちゃんに避けられているのだって、素直に話せば良いのにストーカー行為をしたり、いざ目の前に出たら楯無の仮面を被ってしまう。きっと、今の発見も楯無の仮面を被ってのものなんだろう。

付き合いが長いし、よくお姉ちゃんがぼやいてたから知ってる。でも、分かってても頭で納得出来たって、心が出来るわけじゃない!

 

「たっちゃん。その言葉だけは聞きたくなかった………そうなんだね。

たっちゃんは私にはなんの力もないと、私の努力は無意味だとそう言いたいんだね?」

 

「ッツ!そうじゃないわよ!本音ちゃん!」

 

「そうやって、私が!あかやんの為に頑張ろうとしている、この覚悟もそんなもんだって言うんだね!私に努力は無駄だって言うんだったら、二度と貴女に歯向かえない様にボロボロにすれば良い!!そうでもしない限り、私は止まらない!

止まりたくない!あかやんを、守りたいってこの気持ちを捨てる訳にはいかないから!!」

 

自分でもらしくないと思えるほど、感情を全開にしてたっちゃんにぶつける。

この人が仮面を被って私に向き合おうとするなら、私はその仮面を壊す。

仮面を壊せなきゃ、『楯無』に認められた事にならない。

私の言葉に動揺して動きの止まっているたっちゃん。アサルトライフルを片方しまい、ナイフを展開する。

投げナイフの要領で、投げてたっちゃんのナノマシンを精製するコアを一つ破壊する。

 

「しまっーー!」

 

「はぁぁ!」

 

閉まったアサルトライフルをもう一度、展開しながら乱れ打つ。

私がもう諦めない事が漸く、分かったのか動き回避していく。ランスを構え、内蔵されているガトリングを撃ってくる。

頑張って避けるが、先読みされる様に飛んでくる弾丸に少しずつ被弾していく。

こんな初手に使いたくなかったけど、山田先生から無理やり教わった技術を使う。

 

「うりゃぁぁ!」

 

ブーストを一旦、溜めて勢いよく解放する!

 

「瞬間加速!?こんな芸当まで」

 

一気にたっちゃんの懐に入り、ショットガンを展開し放つ。その結果を確認せずに、離脱する。

ラファールのハイパーセンサーが映し出した光景は、水のヴェールで虚しくも止められているショットガンの散弾だった。

やっぱり、ダメだった。秘策の一つを使っても、たっちゃんを驚かすだけで有効打にならなかった。

 

「……分かったわ。なら、私も少しは本気でいく」

 

目つきが変わった。それと同時にたっちゃんから感じる圧力も。

私の瞬間加速を見て、スイッチを入れたみたいだ。やっぱり、仕留められなかったから勝ち目が遠のいた。

アサルトライフルを構えて、たっちゃんを見る。直後に、視界からたっちゃんが消える。

私がさっきやった方法だ、瞬間加速を使ったんだ。

ラファールの警告音と同時に、私は背後からの衝撃とともに地面に向かっていく。

至近距離でのガトリングを食らって、ラファールの背部ユニットが損傷。飛行が難しくなってしまった。

地面に叩きつけられるのをギリギリで避けるが、背部ユニットが損傷し、高いところまでの飛行と瞬間加速を封じられた。

 

「……まだ、やるの?」

 

降りてきたたっちゃんが私の目を見て、聞いてくる。

たっちゃんがそう言うって事は私の目から、まだ闘志が失われていないらしい。なら、やれる。まだ、私は戦える。

 

「もち、ろん!」

 

アサルトライフルをなんのフェイントも無しに撃つ。

たっちゃんは余裕の表情で避け、蛇腹剣を展開、動きながら振るってくる。可能な限り、避けるが途中で、アサルトライフルを一丁切断され、ラファールの装甲も斬りつけられた。シールドエネルギーを切らす目的ではなく、私から戦う術を奪うつもりみたいだ。

アサルトライフルをわざわざ破壊し、装甲を傷付けていく。

 

「……」

 

それをほぼ無表情で行うから楯無の仮面は厚い。

でも、諦めてたまるか。苦手でもやるしかないよね。ブレードを呼び出し、その手に握る。

 

「やぁぁ!」

 

構えなんて全然、出来てないしスピードも出ていない。

簡単に槍で受け取れられ、手からブレードが弾き飛ばされる。でも、それと同時にショットガンを展開。

構えて、撃とうとすると、ガトリングが向けられ、こっちが蜂の巣にされる。

シールドエネルギーも当然、減っていくけど何より蛇腹剣で傷つけられた装甲が保たなかった。バラバラに砕けていき、私はボロボロの状態でたっちゃんに向き合っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

山田先生には後で謝らないと。それと、無茶な戦いに付き合わせちゃったラファールにも謝らないとね。

でも、ごめんね。ラファール、まだ戦って貰うよ。

壊れちゃったショットガンを投げ捨て、残ってるアサルトライフルとナイフを呼び出す。

ナイフは逆手で持ち、アサルトライフルの下に添える。

 

「……投降。しないのね」

 

「まだ……戦えるから……ね」

 

結局、用意したマガジンは全部無駄になっちゃったな。

ボロボロのラファールを動かし、たっちゃんにアサルトライフルを撃つ。もう、避ける事もなく水のヴェールで受け止められる。

それならと接近し、ナイフを振るう。でも、簡単に槍で防がれていく。

アサルトライフルの弾薬が切れる。補給しようとしたら、蛇腹剣で吹き飛ばされ、空中で破壊される。

残りの武装は、ナイフ二本とシールドピアーズ、脚部ミサイルのみ。

 

「どうして、そこまでして戦うの?」

 

どうしたものだろうと頭を悩ませていたら、たっちゃんがそう聞いてくる。

 

「…私は……あかやんの支えになりたいの……彼が死ななくても良いように………彼がISを使いすぎないように……

だって……あかやんと一緒にいると楽しくて……心地いいから……その場所を守るためなら……私は…こうやって戦うよ」

 

最近はかぐっちも一緒にいるようなって、更に楽しい場所になったんだ。

そんな場所が壊れてしまうなんて嫌だ。友人を失う結末なんて、私は見たくない。

 

「……本音ちゃん……」

 

たっちゃんの顔が悲痛に歪む。

私は、ナイフを一本閉まって、シールドピアースを呼び出す。右腕に装着されるシールドピアース。

もう、私に残った決め手はこれしかない。あ、あかやんと一緒だ。あかやんも決め手は右腕。

無意識だったけど、右腕に装着されたシールドピアースを見て笑う。

たっちゃんは、これで終わりにしようとしたいのか槍を構える。

 

「たっちゃん……」

 

「……何かしら」

 

だから、私も伝えたいことを伝えよう。

 

「私は……意地でも……押し通るよ。……こうやってぶつかって……たっちゃんも……少しは分かってくれたでしょ?」

 

返事は聞かない。

楯無の仮面を被っているたっちゃんの返答なんか決まってるから。

地面を蹴って僅かでも加速する勢いをつける。それでも足りない、だから脚部ミサイルを地面に向けて放ち、爆発の勢いも加速に利用する。ラファールの装甲が更に減るけど、もう些細な問題だ。たっちゃんのを避ける余力はない。だから、左脇で槍を挟む。

僅かなシールドエネルギーがゴリゴリ削られるけど、シールドピアースを撃ち込めればそれで問題ない。

 

「たぁぁ!」

 

聞こえるはずがないのに、あかやんの行け!って言う声が聞こえた。不思議な事に幻聴でもやる気が出てくる。

ラファール…一撃で良い。それだけ、保って。右腕を振り絞り、たっちゃんの腹部へと押し込み、シールドピアースが起動する。

バゴンッ!という射出音と共に。

 

『ラファール、シールドエネルギーエンプティ!勝者、更識楯無』

 

試合終了を告げる合図が鳴った。

私がこの試合で削る事の出来たたっちゃんのシールドエネルギーは、僅か二割。

瞬間加速の分も考えると、一割とちょっとしか削れていないだろう。私の全力だったんだけどなぁ。ラファールを解除して、地面に降りる。でも、疲れ切った私の身体は自分を支えきれず、崩れ落ちる。

 

「布仏!!」

 

焦った声が聞こえる。それと同時に私はひんやりしたものに抱えられる。

直後、私を抱きしめてくれる熱を感じた。

 

「あか……やん?…」

 

「あぁ…そうだ。ありがとう、布仏。それと、よく頑張ったよお前」

 

あかやんがすっごく優しい声で私の頭を撫でながら言ってくれる。

疲労による倦怠感と、あかやんの心地よさで私は眠りたくなってしまうけど、まだ聞いてない言葉がある。

 

「……たっちゃん、認めて……くれる?」

 

「……えぇ。認めるわ本音ちゃん、強くなったわね」

 

まだ自分の結論に迷いがいるのだろう。でも、たっちゃんは笑ってそう言ってくれた。

うん。良かった……これで寝れるね。おやすみ、あかやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてくる息が一定のリズムになった。多分、寝た。

それを確認するために、抱きしめてる状態を一旦やめて、顔を確認すると幸せそうな顔で寝てる布仏の顔があった。

背負っていくか。

それにしても布仏と更識さんの戦いは、更識さんの一方的なものだったのに、なぜか更識さんの方が苦しそうだった。

途中からの観戦だったから、何がどうなったのかは分からない。ただ、思わず最後に行け!っと叫んでしまった。布仏が気づかなくて良かった。

 

「…ねぇ、貴方は…」

 

「更識さん……話すのならまた今度にしましょう。布仏が風邪を引いてしまう」

 

躊躇いつつ、俺に声をかけてきた更識さんには申し訳ないが、今は布仏が最優先だ。

 

「そうね……お願い出来るかしら」

 

「当然。俺のことで負担をかけてしまったんだ、これぐらいはやるさ」

 

今が完全に寮の門限を過ぎた時間で助かる。

生徒がその辺をウロウロしていない。そういや、布仏の部屋知らないな。

寮長室に運ぶか。

では、失礼しますっと一礼して、アリーナを出る。出口には、山田さんと千冬が立っていた。

 

「…布仏は寝てるのか」

 

「えぇ。部屋が分からないので、寮長室にでも運ぼうかと思ってたところです」

 

「敬語は使わんで良い。そうだな、布仏も同室の奴にバレたくはないだろう」

 

千冬の言ってることがイマイチ分からんが、とりあえず寮長室に運んで良いのだろう。

 

「西村くん、布仏さんが起きたら一杯、労って下さいね。

貴方の為に割ける時間を全部、使って今日に臨んでいましたから」

 

山田さんが笑顔で教えてくれる。やっぱり、布仏は俺の為に頑張ったのか。

 

「立ち話もなんだろう。真耶、寮長室で色々と話をするとしよう」

 

「え、あ、はい。先輩がそう言うのなら」

 

「俺と布仏がいること忘れるなよ?千冬」

 

「はは、分かっているとも」

 

三人で歩き出す。布仏を起こさないように少し、小さめに会話しながら。

年の離れている俺が必然的に会話について行けなくなる。ふと、背中に背負う布仏が笑った気がした。

 

「お疲れ。甘いもの、たくさん食べような」

 

「…えへへ……あかやん……」

 

寝言まで可愛いとかやっぱり女神だな。

明日は、四十院と一緒に布仏を盛大に甘やかそう。そう決めた。

 




本音さん、負けてしまいました。ですが、これで学園と楯無からの許可が出ましたね。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和って尊いものだ

最近、寝不足でヤバいです。

前半は、平和回。後半というか最後の方でアレが登場します。


布仏が戦った次の日の放課後、食堂の一部を借りて、布仏、四十院と一緒にいた。

机の上には、沢山のお菓子を並べている。

 

「うわぃ〜これ、食べて良いのぉ〜?」

 

「勿論だ。布仏お疲れ会としようぜ」

 

「…私には何があったのかよく分かりませんけど、本音さんが何やら頑張っていたのは知っていますので、一緒に祝うとしましょう」

 

四十院が何やら理解しあっている俺と布仏の様子が気に食わないのか少し、ムスッとしているが布仏を祝う事には賛成しているようだ。

まぁ、ずっと布仏を心配してたし、自分だけ状況を掴めてないのは悔しいよな。

 

「ほれ、お茶でも飲めよ。せっかくのお疲れ会だ、笑顔になろうぜ」

 

「仕方ありませんね。ですが、今度は私にも教えて下さいね。

友人が苦しんでるのをただ、見るだけっていうのは辛いんですからね?」

 

お茶を受け取りながら、笑顔になる四十院。

 

「ごめんね〜ほら、かぐっち〜あーん」

 

「はした……いえ、あーん」

 

布仏が和菓子を四十院に差し出す。多分、はしたないって言おうと思ったんだろうけど、布仏の笑顔を前に黙ってのっかったようだ。

布仏に弱いよなぁ。四十院。

 

「ほら、布仏。これ、好きだろ?」

 

前にオススメされたチョコの包装を破って、差し出す。

 

「お〜好きだよぉ〜ありがとーーおよ?」

 

布仏が手を伸ばして来たのをみて、ヒョイっと上に持ち上げて掴ませない。

不思議な顔をする布仏と、俺の考えが読めたのか笑いを堪える四十院。

 

「布仏、あーん」

 

「ほぇ!?」

 

先ほど、布仏が四十院にやっていた食べさせ方をして差し出す。

真っ赤になる程、赤面する布仏。なんだ、自分がやるには構わないが、誰かにやられるのは恥ずかしいってか。

微笑ましさを見せてくれるじゃないか。

 

「ぷっ、くふふふっ、ははは、本音さん…ふふっ、覚悟して下さいね?」

 

四十院もチョコをとって、俺と一緒に布仏に差し出す。

すっごい、良い笑顔だ。全力で、楽しんでいる。

 

「か、かぐっちまで〜」

 

「「ほら、溶けちゃうぞ?(ますよ?)」」

 

そんなすぐには溶けないけど、面白そうだから急かしてみる。

アウアウと赤面しながら、やがて同時に俺たちが差し出したチョコを食べる。

 

「うぅ〜美味しいよぉ〜でも、おりゃぁ〜!」

 

両手にうま○棒をつかんで、俺と四十院に差し出す。

 

「二人とも、あーん」

 

俺と四十院はお互いに顔を合わせて、頷く。

 

「「あーん」」

 

普通に布仏が差し出したうま○棒を食べる。

が、同時に咽せる。辛い!?なんだ、このうま○棒!!激辛うま○棒なんて用意してないぞ!?

俺はファ○タを四十院はお茶を勢いよく飲む。

 

「ふはは〜私を恥かしめるからだぁ〜」

 

自前かよ!そりゃ、分からない訳だわ。

袖から、さっき俺たちが食べたうま○棒と掴んでいたふつうのうま○棒をマジックみたいに取り出す布仏。

やられた。思いっきり仕返しをされてしまった。

その後も俺たちは、好きなように騒ぎながらお菓子やジュースを飲み食いした。時折、女子達が遠巻きに見てくる事はあったが、コンタクトを取って来たのは、俺たちのクラスメートの数人のみ。

 

「にゃははは〜かぐっち〜くすぐったいよぉ〜」

 

「ここですか?ここが良いんですか?」

 

今は、四十院が布仏をくすぐって遊んでいる。

何かのお菓子に付属で付いて来た猫耳を布仏が付けて、四十院に構えーって突撃していったらこうなった。

楽しそうで何よりなんだが、四十院そこまでにしてやれ、布仏が少々、お茶の間にお見せできない顔になりつつある。

とは言え、声をかけたら俺が巻き添えを食らいそうなので、視線を外しつつファ○タを飲むが、後頭部の一撃で吹き出す。

 

「いった!?」

 

「…何悠々とファ○タを飲んでいますの?」

 

この声はオルコットか。お前のせいで、口に含んだファ○タの四割が元に戻って、六割が流れちゃあかん所にいったぞ。

非難の視線を向けると、ニッコリと笑顔を向けてくる。顔にデカデカとざまぁっと書かれてる。

 

「あっ、セッシ〜」

 

「あら、オルコットさんじゃないですか。西村さんに用事ですか?」

 

俺とオルコットの声に気づいて、布仏のくすぐりを中断して、会話に混ざってくる布仏と四十院。

良かった、布仏がお茶の間にお見せできる顔に戻ってる。

 

「いえ、わたくしが西村に用事がある時なんて、ほとんどありませんわ。

何やら、楽しそうにしておりましたので、見に来ただけですのよ。邪魔してしまったのなら申し訳ございませんわ」

 

俺もお前に用事ある時なんかほとんどねぇよ。

 

「セッシーも食べる〜?」

 

「オルコットさんが混ざるなら、買っておいた紅茶も無駄になりませんね」

 

えぇ、こいつも混ぜるの?でも、まぁ主役が拒否してないし、仕方ない。俺が折れてやろう。

 

「帰れよ(仕方ないから、入れてやるよ)」

 

「本音と建前が逆になってますわよ。なら、お言葉に甘えて失礼しますわね。本音さん、四十院さん、ついでに西村」

 

圧倒的、ついで感。

まぁいいさ。四十院が言ってた通り、俺と四十院は紅茶を飲まないし、布仏も菓子を食べることに集中している。

オルコットに紅茶を押し付けて処理させよう。

オルコットが混ざっても特に変わらず、騒ぐ俺たち。布仏と四十院が戯れている時に、俺とオルコットって下らない勝負が発生する以外は特に問題なく楽しんでいる。

 

「おぇ、オルコットお前、ファ○タに午後の○茶、カル○ス混ぜるとかどーいうセンスしてんだよ…」

 

「貴方こそ、コーラに抹茶、牛乳ってどういう混ぜ方ですの……」

 

机の上にあるジュースを無作為に混ぜて、互いに飲ませるという誰も得しない勝負をして無事、グロッキーになる俺とオルコット。

 

「あはは〜セッシーってほんと、あかやんと一緒だと子供っぽくなるよねぇ〜」

 

「ふふふ、確かに。なんだかんだ、良い関係だと思いますよ?二人とも」

 

布仏と四十院がからかってくる。

もはや、反論する気力のない俺とオルコットは机に力なく倒れる。

ヤベェ、口の中が気持ち悪いぃぃ。

 

「ちょっと、水飲んでくるわ……」

 

セルフサービスの水を取りに、席を立つ。

布仏、四十院、オルコットの話を聞きつつ、水を汲み、軽く飲む。仕方ないから、オルコットの奴にも汲んで行くか。

 

「ほれ、オルコット」

 

水を未だに撃沈しているオルコットの正面に置く。

酷く緩慢な動きで、水を見ると、砂漠でオアシスを見つけた旅人が如く、勢いよく飲み干す。

 

「ぷはっ、西村にしては気が効くじゃありませんの」

 

「なに、いつまでもでかい頭に机を占領されたくないだけだ」

 

「「………素直に、やめておくか(おきましょう)」」

 

いつものように睨み合って、直後にやめようと言う結論が出る。

俺だって反省する生き物だ。不味いドリンクをまた飲んだりする事態は避けたい。

 

「えへへ〜」

 

何より、無茶して布仏の楽しげな顔を曇らせる訳にもいかないからな。

結局、このお疲れ会は当初の人数と終了予定時刻を過ぎて、千冬が呆れながら止めに来るまで続いた。

そして、月日は流れ、クラス対抗戦。

篠ノ之は相変わらず、織斑に付き纏っていたが、オルコットはそこまで過剰ではない。何処と無く、距離を置いているようにも見えた。

 

「どっちが勝つと思う〜?」

 

布仏がジュースを飲みながら、俺と四十院に聞いてくる。

 

「凰、一択」

 

「私も西村さんと同じです」

 

「うわぁ〜二人とも微塵でおりむーが勝つことを信じてない〜」

 

そりゃあな。

俺と千冬が稽古している放課後に確かに、織斑は訓練をしていた。

だが、なんであいつは先生に頼まず、どう考えても初心者の篠ノ之と一緒に訓練してたんだ?オルコットにも頼っている時があったが、二、三回ぐらいで、打ち切られてたし。

 

「対策を怠った奴に勝ち目なんてないだろ」

 

ここから見える織斑と凰の戦い。

織斑が一方的に負けている。IS学園にある資料を使わなかったから、凰のISがどんなものなのか分かっていないのだろう。

 

「一夏が負ける訳ないだろう!!」

 

案の定と言うか何というか篠ノ之が絡んでくる。オルコットも来ると思っていたが、冷静な顔で試合を見つめている。

 

「人の話聞いてたか?篠ノ之」

 

「聞いていたさ。だが、それでも勝つのが一夏と言う男だ!!」

 

うわぁ、狂信的な織斑信者かな?

物事の優劣をそう簡単に覆せると思うなよ。一度、劣勢になり、そこから立て直すのだって相当な労力だ。

突撃馬鹿にそれが出来るとは思えないし、凰も織斑を格下と見ているが、慢心はない。そんな相手に、どうやって戦況を覆せと言うのだろうか。

黙ってるのも癪だから、反論してやろうと思った時だ。

 

『上空に高エネルギー反応と、二機のIS反応を感知。離脱を推奨』

 

「何だと?」

 

サードオニキスの警告音。

直後に、アリーナが大きく揺れる。砂埃の中から、謎のISが一機現れた。

 

 




無人機登場。
次回、赤也くんには頑張ってもらいましょう。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正体不明のISだろうが、俺のやる事は変わらない

VS無人機戦ですね。


観客席が悲鳴に包まれる。

アリーナのシールドを破って、侵入して来る様な輩だ。此処がいつ攻撃の的にされるか分からない。

 

「布仏!四十院!無事か!?」

 

さっきの衝撃はかなり大きかった。崩落したという声や現場は見えないが、観客席から統率も取れず逃げようとしている人の波がやばい。

冷静さを欠いた人間の群れなんて、閉鎖空間では脅威でしかない。

 

「大丈夫だよぉー!」

 

すぐ横から声がかかる。

何だ、逃げたりとかはしていなかったのか。

 

「だ、大丈夫ですが……すみません、情けない事に腰が抜けてしまいました…」

 

布仏に肩を借りて、四十院がどうにか立っている。

足が震えている……怖いのか。大切に育てられた淑女だもんな、こんな災害とは縁遠かったはずだ。

 

「俺を肩を貸そう。とりあえず、出口に向かうが、異論はあるか?」

 

布仏も四十院も無言で首を横に振る。

よしっ、出口に向かうとしよう。そうやって、ゆっくりと歩き出した俺たちだが、入り口が閉ざされており、生徒達が出れていない。

 

「どういう事だ……クッソ、千冬!聞こえるか千冬!」

 

サードオニキスの通信を開く、ノイズが走るが、しばらくして繋がる。

 

『無事だったか赤也!』

 

「どうにかな。だが、アリーナの出口が開かない。どうなってる?」

 

『奴の攻撃で、システムに不調が起きた。クラッキング用の部隊を送る。それまで、待っていろ』

 

チッ、システムがやれたのか。

戦場から聞こえてくる戦闘音はかなり激しい。流れ弾でも飛んできたらそこで終わる。

別に、この辺の連中が死のうがどうでも良いが、布仏と四十院が死ぬのは認められない。

 

「千冬。あとで、反省文でもなんでも書いてやるから許せ」

 

『はー?おい、何をサザザッ』

 

サードオニキスが空気を読んだのか通信に再び、強いノイズが入る。

 

「おい、オルコット」

 

どこかに向かおうとしていたオルコットに声をかける。

 

「……なんでしょうか?」

 

「四十院を任せる」

 

肩を貸すのをやめ、四十院の手をオルコットに差し出す。

俺の目を見て、溜息を一つ吐き、四十院に肩を貸すオルコット。

 

「貴方に従うのは癪ですが、友人のためです。協力しましょう」

 

「お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」

 

「気色の悪いことを言わないで下さいまし」

 

四十院を預け、人混みの中に突撃していく。

所々で、悲鳴や女子特有の柔らかい感覚、何故か死ねという罵倒、気のせいでなければ肘打ちを食らったりしつつ、扉の前に出る。

 

「ふぅ……おらぁ!!」

 

右腕で全力で扉を殴る。

一発目で、扉が大きく凹み、俺の拳の形が出来る。続けて、二発目で扉がさらに歪み、中の電子機器が逝かれたのか火花が出始める。

次の三発目で、扉を吹き飛ばし、アリーナの出口を解放(物理)する。

 

「やれば出来るもんだな」

 

解放された扉から女子達が一斉に外へ出ていく。

お礼もなく、我先へと逃げ出す姿には、なんともまぁ、人間の意地汚さを感じる。

 

『おい、どうした!?凄い、音が聞こえたが!?』

 

「こっちの音は聞こえてたのか?なに、アリーナの入り口を殴って吹き飛ばした」

 

『お前……いや、助かった。これで、織斑、凰が心置きなく戦える』

 

千冬と会話していると布仏と四十院が出てくる。

あれ、オルコットはどうした?

 

「セシリアさんなら、私が立てる様になったので、おそらく、織斑さんの援護に向かったかと」

 

「そうか。って、ナチュラルに心読まないで四十院」

 

口に出してない俺の疑問にあっさり答える四十院に驚きつつ、避難しようとする。

だが、俺は一つ忘れていた。サードオニキスが警告したISは二機。

ドォォン!っという音ともに、俺たちの目の前に現れるIS。

 

「逃げろぉ!!布仏、四十院!!」

 

咄嗟にサードオニキスを展開し、目の前のISにタックルし、吹き飛ばす。

クッソ、俺のトリ頭!!警告を忘れてるんじゃねぇぞ。

 

「あかやん!」

 

「本音さん、危ない!」

 

俺に近寄ろうとした布仏を四十院が止める。

敵ISは、立ち上がり、両腕に装備されたブレードを構え、こちらに向かってくる。くそ、布仏達が避難するまで時間を稼がなくては。

クローダを展開し、ブレードによる攻撃を防ぐ。

 

「今のうちだ!」

 

「行きますよ。本音さん!」

 

「……あかやん、絶対に無理しないでね!!」

 

四十院に手を引かれながら、布仏が逃げる。

無理をするなと俺に言った顔はかなり泣きそうだった。心配性だな布仏。

 

「で、てめぇの目的はなんだよ?」

 

「……」

 

だんまりか。まぁ、話すわけがないか。

それなら、無理やりにでも聞き出すしかないよなぁ!

 

「おらぁ!」

 

織斑の時と同様にシールドバッシュで、二刀を弾く。千冬との訓練を思い出し、クローダの振り回しをフェイクに敵の左腕を掴みにいく。

が、冷静にクローダを受け流され、余裕で回避されてしまった。

牽制でバルカンを放ち、動きを阻害しようと試みるが、装甲を前に弾かれる。ほんと、火力ないな!

瞬間加速で、接近し蹴りを放ち、そのまま掴みにかかる。蹴りは当たるが、掴みにいった右腕は弾かれる。くそ、やっぱり無意識でサードオニキスの動きを絞ってしまう。前なら掴めたはずだぞ。

 

「……」

 

無言で迫ってくる敵IS。

敵の出方を伺っていると、いきなり加速し、回し蹴りを俺に放ってくる。

 

「がっ!?」

 

まったく、動きを捉えられなかった。

驚きとともに吹き飛ばされる。どうにか、体制を整えるが、すでに目の前に迫っており、二刀を振り回してくる。

クローダで防ぐが、こいつの力が強く、一発一発、手が凄まじく痺れる。

そんな、全くと言っていいほど、攻勢に出れずにいると、急に敵ISの攻撃が止まる。

 

「……」

 

不審に思い、クローダから覗き見ると、ある一方を見て動きを止めている。

あの方角になにがあるんだ?

俺もそちらを見る。そこは、IS学園の寮、そして逃げた生徒達が集まっている場所だ。

 

「……」

 

こちらを一度見ると、空に浮き飛んでいく敵IS。

 

「くそっ!待ちやがれ!」

 

布仏達が危険だ。なにを考えてるのか分からんが、こいつは人を殺そうとしている。

それだけは阻止しなければ。サードオニキスのブーストを全開にし、追いかける。

だが、出遅れと無意識に絞るせいで、追いつけない。

苛立ちを感じていると、敵ISが寮より手前で、降下する。

同時に、サードオニキスがハイパーセンサーをズームにし、俺に知らせてくれる。

そこに映った景色は、布仏と四十院が、敵のISにより剣を向けられているところだった。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

俺の中で何かが弾ける。それは、無意識でサードオニキスを抑えていた恐怖心で出来た枷だったのかもしれない。

今まで以上にサードオニキスが動き、布仏達に向けている腕を掴む事に成功する。

 

「弾けろ!!」

 

輻射波動を全力で放つ。

敵ISは、腕をパージして輻射波動から逃れる。俺が掴んでいた腕は膨張し、崩壊する。

 

「……」

 

「無人機かよ……布仏、四十院。少し、下がってろ」

 

サードオニキスが俺の身体を侵食しようが知った事じゃない。

その辺の生徒なんざどうなろうが、関係ないが、布仏と四十院に手を出すなら、壊す。ただ、それだけの事だ。

片腕にはなったが、あいつの速度は変わらない。目で追う事さえ、出来れば受け流して掴める。

だが、どうしたものか。

 

『動きを捉えることができれば良いのですね?』

 

頭の中に声が響く。

直感的に、この声がサードオニキスだと分かる。

 

「あぁ、それが出来れば苦労しない」

 

『了解しました』

 

了解?一体なにを……

 

「あっがぁぁぁ!?」

 

「あかやん!?」

 

頭が右目が割れるように痛い!?

布仏が俺に声をかけるが、それに返答する余力はない。右目と頭を押さえ、俺は悲鳴をあげる。

なぜか、この隙を敵ISは狙ってこない。時間にして、3分前後、俺は悲鳴をあげ、身動きが取れなかった。

 

『右目とそれらに関係する神経を、置き換え完了しました。これで、捉える事が出来るはずです』

 

サードオニキスの言葉が再び、脳内に響くと同時に痛みが消える。

目を開き、敵ISを見る。別段、何かが変わったようには思えない。

 

「……」

 

俺の悲鳴が治ると、再び動き出す敵IS。

だが、これで俺は漸く、サードオニキスが言っていた事が分かった。右目が、相手の攻撃の予測パターンを教えてくれる。

しかも、俺に当たるであろう攻撃、その過程が恐ろしくよく見える。

見えてしまえば、反応できる。反応できてしまえば、サードオニキスの攻撃力を持って破壊できる。

進路が分かるのなら、その場所から外れ、そこに来るであろう腕を掴み、輻射波動を放つ。

再び、腕をパージし、逃れる敵ISだが、その過程すら俺には見えている。

パージされると同時に、距離を詰め、クローダを叩きつけるように敵ISの脚に振り下ろす。

ゴシャアっという音ともに足が砕ける。

 

「……」

 

バランスを崩し、空中へ逃げようとする敵IS。

 

「悪いが、その行動は見えてるんだよぉ!」

 

空中へ浮かび上がった直後に、右腕で胴体を掴み、地面に叩きつける。

拘束から逃れるように暴れる敵ISを見下ろす。

最大出力の輻射波動を放ち、敵ISのシールドエネルギーをゼロにする。

 

「……終わったか。……はぁ、どんどん俺、人間辞めてるな…」

 

サードオニキスを閉じても変わらない視界に溜息を吐き、俺は駆け寄ってきた布仏と四十院に向かって倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん!いっくんは、順当に強くなってるねぇ。でも、ビームに突撃するのは心臓に悪いなぁ」

 

無人機をIS学園に送り込んだ主犯、篠ノ之束はハッキングしたIS学園のカメラから、織斑一夏と凰鈴音の戦いを見ていた。

もっとも、注目していたのは織斑一夏の方であったが。

だが、先ほどの一言が終わってから、彼女の頭の中には、織斑一夏ですら抜け落ちている。

彼女がパソコンを弄り、送られて来るデータと、映像を纏めていた。そこに映っているのは、先ほどの無人機と西村赤也の戦い。

 

「あはっ、まさか自分から進んで受け入れるなんてねぇ…しかも、その戦いでもう使いこなしてる」

 

何度も繰り返すように映る映像には、右目の黒い部分が赤くなっている赤也が映し出される。

サードオニキスから送られて来るデータから、束は今回の侵食が望んで起きたという事と、表面的ではなく内部的に行われたという事が分かっている。見えていても、それを判断し身体を動かす神経が鈍くては意味がない。

だから、サードオニキスは右目に自身のハイパーセンサーとしての能力を授け、それを処理する脳にかなりの演算能力を与えた。

結果として、右目が変色し、それを正常に処理できているのだ。

 

「本当に良い素材だよ君は。ゴーレムIにあの虫達を襲わせた甲斐があったね」

 

稼働率が明らかに低下しているサードオニキスにイラついた束が、布仏本音と四十院神楽を利用した。

 

「今回は面白い結果を見せてくれたから、束さんからのサービスだよ。モルモットくん」

 

なにかを入力していく束。

画面に映し出されているデータから一部分が消えていく。

 

「余計な侵食は止めておくよん♪やーん、束さん優しいー!」

 

決して、優しくはないが、この行動のお陰で結果として、赤也の命は延命される。

まるで神のように一人の人間の命を操る天災。浮かべる笑みは酷く残酷であった。




今度は、右目と脳の一部を弄られた赤也。
順当に人間やめてますね。赤也の右目ですが、その気になれば右目だけで360度全てが見えます。
ただ、左目の視界もあるから、重なると気持ち悪そう……

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新しい面倒ごとの予感

書き始め、オリキャラの名前が出てきますが、赤也の家族です。



夢を見た。まだ、父さんがいて母さんも白奈姉さんも桃花もまともだった頃のものだった。

その日は、珍しく残業が無くて父さんが夕飯時には居て、それを喜ぶ母と姉妹達。俺も、凄く喜んでいた。

でも、ISが生まれて、母がパートに出るようになって、白奈姉さんと桃花が所謂、女子校に通う様になってから、俺の家は可笑しくなった。

まず可笑しくなったのは、母だった。

父さんが、早めに家に帰ってくると文句を言ったり、舌打ちをしたり、俺がゲームでダラけていると、次の日にはそのゲームが本体ごと売られていたり。兎に角、男が家にいるのを嫌がるようになった。

次に、可笑しくなったのは、白奈姉さんと桃花だった。白奈姉さんは、ISのパイロットになる夢があったが、適正が低くその夢を諦めた。その辺りから、父さんや俺に暴力を振るうようになり、元々流されやすい性格の桃花も俺たちに暴力を振るった。

最も、決定的だったのは、父さんが耐えきれず蒸発した時だった。

母は自分の行いを一切、反省せず何故か俺に理由があると言い、暴力や飯抜きなど行ってきた。姉妹達は、俺の交友関係にも邪魔を入れ、まともな友人や彼女など作ることが出来ず、惨めな学校生活を送った。

 

『随分と悲惨な運命を辿っているのですね』

 

映像として流れていた夢が途切れ、声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。

疑うまでも無く、サードオニキスの声。

 

「まぁな。で、なんでこれを俺に見せた?お前が、俺を理解したいなら勝手にしてくれ」

 

『理解したい?これはそういう感情なのですか?』

 

疑問に疑問で返すなや。

自分のやってる事が分かっていないのか?とはいえ、俺が説明したところで伝わないだろうなぁ。

 

「知るか。お前は俺じゃない。

お前の感情なんて知るわけがないだろう」

 

感情なんてその当人にしか理解できない。決して、それを他人が代弁するべきものじゃない。

俺の持論だが、大体合ってるだろう。

 

『私は私が抱いている感情や想いが分かりません。もしかして、貴方の右目と演算能力を授けたのは間違いでしたか?』

 

「いや、間違いじゃない。そりゃ、俺だって生きたいと望むが、本来なら死んでる命だ。

お前が色々くれなきゃ、あそこであのISによって死んで、布仏や四十院まで死んでた。その結果にならなかっただけ儲けものだ」

 

えぇ、俺の右目どうなってんの?

右腕と一緒でメカメカしいものになってたら、いよいよふつうの生活出来ないんだけど。

 

『そうでしたか。……そろそろ、時間ですね。また、お話しできる日をお待ちしていますよマスター』

 

時間ってなんだよって聞こうと思ったら、俺の身体が引き上げられる様な感覚を味わう。

多分、身体が起きるのだろう。それに意識が引きずられてるって感じか。まぁ、知らんけど。

 

「……んあって!?」

 

目を覚ますと同時に、右目から凄まじい量の情報量が駆け抜ける。

忘れてた……右目の視界の広さを忘れた……クッソ、眩しいし気持ち悪い。

とりあえず、軽く目を閉じるが、意味は無く簡単に見える。アレェ、これヤバくね。

 

「あかやん!」

 

「西村さん、大丈夫ですか!」

 

起きた直後に、右目を抑えた俺を心配して布仏と四十院が声をかけてくる。

布仏も四十院もかなり心配した様子だ。

 

「あ、あぁ。大丈夫だ。慣れればそうでもない」

 

意識的に認識をズラすと、この右目は落ち着いてくれる様だ。

まぁ、ふつうに全方位見えてるけど、どうでも良いと思っているから、後ろの風景は頭に入ってこない。

ほら、人間街中ですれ違う人の顔を全部覚えてるなんて、奴いないでしょ?それと同じ理屈だろう。

 

「えーとね、あかやん?」

 

「なんだ?」

 

「一つね。言い忘れてたんだけどね?

あかやんの身体に起きてる事、私、知ってるんです!で、それをかぐっちに教えちゃいました!」

 

布仏が凄い勢いで頭を下げてくる。

やっぱり、布仏は知ってたのか。生徒会長との戦いは、やっぱりそういう事だったんだな。

まぁ、八割がた察しはついてたけど、そうか。四十院にもバレたか。

 

「布仏、顔を上げてくれ。なんとなく、お前が知ってるんだろうなって事は察していた。

それと、四十院に話してしまった事だが、俺は別に構わん。気にするな」

 

左手で、布仏の頭を撫でる。

顔をゆっくりと上げて、気持ちよさそうに目を細める布仏に癒される。

 

「ごほんっ!私も話しても良いですか?二人とも」

 

「え、あ!い、良いよ!かぐっち〜」

 

ばっと離れる布仏。俺としては別に撫でてても良かったんだが、まぁいいか。

 

「私と本音さんと西村さんは、同じ秘密を共有する友人同士ですよね?」

 

何処と無く楽しげな四十院。

 

「まぁ、俺は秘密を共有というか秘密そのものだけど」

 

「んんっ、ですから、私から提案があります」

 

咳払いで聞かなかった事にするんじゃないよ。

でもまぁ、何か提案があると言うのなら聞いてやるか。

 

「名前で互いを呼び合いましょう!まぁ、本音さんはそのままなんですけど」

 

名前?あぁ、名前ね。

確かに俺はずっと布仏、四十院だし。四十院にしても俺は西村さんだし。

 

「おぉ〜良いねぇそれ、かぐっちナイスアイデア!」

 

布仏が楽しげにその提案に乗っかる姿勢を見せる。

これ、呼び方のハードル上がるの俺と四十院だけやん……布仏は気楽なままじゃん。

 

「貴方はどう思いますか?赤也さん」

 

こいつ、余裕で名前を呼びやがった。

俺に逃げ場無いじゃん。布仏もめっちゃキラキラした目で見てくるし。

 

「はぁ、分かったよ。神楽、本音、これでいいだろう?」

 

多分、俺の顔は真っ赤になっている。女子を名前で呼ぶ経験なんて今まで一度もない。

 

「お顔真っ赤〜」

 

「そんなに恥ずかしがらなくても良いですよふふっ」

 

本音と神楽が案の定を俺をからかってくる。

何だかんだからかわれて、二人は寮に戻っていった。俺は、もう一日、様子を見るらしく保健室に待機させられた。

 

「たくっ、あいつら、散々人のことからかって行きやがって」

 

近くにあった手鏡に手を伸ばしながら、ぼやく。

まぁ、嫌な気分ではないから良いんだが。

 

「……やっぱり、気を遣わせていたか……神楽の提案も場を明るくする為のものだったんだな」

 

二人のテンションが無理やり高かったのが鏡を見て分かる。

俺の右目が赤く染まっていた。サードオニキスによる侵食の話を聞いていたのなら、これがどういう状態か粗方察しがつくだろう。

それなのに、明るく振舞っていた二人には申し訳ない気分と感謝の気持ちが湧いてくる。

 

「はぁ、あんな夢を見たからかね。嬉しくて涙が出てるわ……」

 

友人に向ける愛情。親愛とでも言うのだろうか。

それを久し振りに強く感じた俺は、涙を流していた。こんな右目でも涙は流せるらしい。

まだ、まともに俺は人間でいるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土日を挟んで、月曜日。

とりあえず、右目を眼帯で隠し登校する事にした。突然、眼帯なんてつければ、厨二って言われたりするかもしれないが、俺が無茶してたのはバレてる。勝手に色々妄想してくれるだろうあのクラスなら。

今日は、登校時に本音と神楽には合わなかったので、一人で教室に入る。

 

「……赤也、どうしーー「おはよう〜あかやん!」ちょっのほほーー「おはようございます。赤也さん」……もう良いです」

 

織斑が俺の眼帯を見て、話しかけようとした時に、本音が俺に突撃、神楽が話しかけた事によって声が中断される。

哀れ、織斑。

 

「おはよう、本音、神楽」

 

席について、二人とISスーツにの話をする。

とはいえ、俺は詳しくないし男子用の奴を使ってるから話にまるでついていけない。

 

「あ、そういえば噂でーー」

 

「山田先生、ホームルームを」

 

神楽が何か話そうとしたが、千冬の言葉に遮られる。

むぅっとした顔で自分の席に戻っていく。まぁ、好んで千冬に逆らおうとはしないわな。

 

「ええとですね、今日は転校生を紹介します!それも二人です」

 

転校生?凰が少し前に来たばっかりじゃなかったか?

それに二人も纏めるんじゃないよ。バラけさせろよ。男子狙いですって公表するようなもんじゃね?

山田さんの合図に二人が入ってくる。一人は、金髪の男子の制服を着ている奴、もう一人は眼帯をつけた銀髪の女子。

眼帯デビューが被った……だと!?

 

「シャルル・デュノアです。こちらに同じ境遇の人がいると、本国より入学をしました。

慣れない事は多々あると思いますが、よろしくお願いします」

 

三人目って訳か?

まじまじ見ても、俺のように機械化している部分はない。新しいモルモットという訳ではないか。

とりあえず、本音に耳を塞ぐようにジェスチャーする。神楽はすでに耳を塞いでいる。

 

「「「「きゃーー!!」」」」

 

音響兵器炸裂。

うん。耳を塞いでて良かった良かった。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

千冬の顔が不機嫌一色に染まる。今日は、何か美味いものでも作るか。

そうでもしないと、八つ当たりを食らう。

 

「……」

 

もう一人の銀髪がまるで挨拶をしようとしない。

表情から言って、呆れか?このクラスに対する。それと、誰かの指示を待っているような?

 

「……ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

「ぶっ…」

 

思わず、吹き出してしまった。

千冬が教官?似合いすぎるだろう。教師なんかよりイメージができるぞ。

っと、千冬が睨んできてるからやめましょうね。神楽といい読心術を使える奴多くない?

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

シンプルですね。まぁ、あの態度で行儀よく挨拶したらしたで、違和感が凄い。

挨拶をすると織斑に近づき、強烈なビンタをプレゼントする。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めてなるものか!」

 

千冬信者の追加ですかそうですか。

溜息を吐いていると、ボーデヴィッヒが俺の方まで歩いてきて、右側から同じようにビンタしようとしてくる。

だから、頭を僅かにズラして、避ける。

 

「俺にも何かあるのか?」

 

「ふっ、貴様が二人目か。見えていない筈の右側からの攻撃を避けるとは、中々やるな」

 

あ、そういや俺、眼帯してたわ。普通には見えてない筈。

それを普通に避けてしまったから、目の前のこいつに興味を持たれたようだ。

 

「ふっ」

 

だって、凄いニヤリと笑ってるもの。

どうも俺には新たな面倒ごとが現れた様にしか感じられなかった。

平穏をくれとは言わないが、少しは落ち着ける時間をくれ。

 




ラウラに早速、興味を持たれた模様。

赤也くんの右目の眼帯ですが、普通の一般的にある医療用のものです。ラウラの様なものではありません。
それと、書き出しに出てきた家族ですが、詳しい設定はまたその時にします。今は、あぁ、こんな家族だったんだなみたいな認識でお願いします。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合同訓練って普段の倍以上疲れる気がする

今回、一夏アンチ要素ありです


「各人はすぐに着替えて、第二グラウンドに集合。今日は二組と合同で、ISの模擬訓練を行う。解散!」

 

千冬が号令をかけるとクラスが慌ただしく動き出す。

俺もとっとと、移動しないとな。

 

「む。少し、貴様と話がしたかったが、もう授業とやらの準備なのか。教官の指示に遅れるわけにはいかないな」

 

目の前で周りをキョロキョロしだすボーデヴィッヒ。

暴力的なのかと思っていたが、案外真面目か?いや、千冬信者なだけか。

 

「織斑、赤也、デュノアの面倒を見てやれ。同じ男だろ」

 

千冬の指示が入る。男子のエリアは、遠いし説明が必要か。

でも、デュノアが慣れるまで織斑となんか一緒に居たくないんだけど。ついでに言うなら、デュノアの面倒も見たくない。

 

「悪いな。ボーデヴィッヒ、話がしたいのなら昼間に頼むわ」

 

「ふむ。了解した。だが、その前にーー」

 

「はぁ〜い。早く着替えようねぇ〜」

 

ボーデヴィッヒがまだ何か話そうとした時に、後ろから本音がボーデヴィッヒを捕まえる。

 

「な、なんだ貴様!?私はーー」

 

「ボーデヴィッヒさん、ほら、着替えますよ」

 

「ま、待て!?私はぁぁぁーー」

 

俺とボーデヴィッヒの間に割り込むようにスッと現れた神楽に、前から押されて連行されるボーデヴィッヒ。

なんともシュールな絵面だったと報告しておく。

 

「赤也!早く行くぞ!」

 

織斑がデュノアを連れて、廊下に出て行く。本音と神楽がウィンクを送ってきたので、安心して俺をアイツらを追いかける。

少し、走れば簡単に追いつける。なんで、手を繋ぎながら移動してんのこいつら?ホモなの?

 

「あ、来たか」

 

「話しかけんなホモ」

 

「はぁ!?」

 

俺のホモ発言に驚く織斑。

っと、右目が角から出ようとしてる女子達の群れを教えてくれる。捕まるのは面倒だな。

 

「頑張れよ。お前ら」

 

「「へ?」」

 

アホヅラ×2を放置し、走るペースを上げ、女子達が出てくるタイミングで、跳躍。

壁蹴りをして、女子の群れの上を飛び越える。

うん。千冬式スパルタ脳筋筋トレの効果は出てるな。

 

「頑張れよ〜」

 

女子の群れをどうにか撒こうと足掻く織斑とデュノアを眺めつつ、俺は先に更衣室に向かった。

……なんだかんだこの学園に順応してる自分がいるのが怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び、射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はいっ!」

 

元気だねぇ……進んでISを学びに来てるしこういった授業は好きな奴が多いのかね。

千冬の号令に元気よく返事する1,2組の女子達にそんな感想を抱く。

デュノアが俺に話しかけたそうにチラチラと視線を送ってくるがガン無視を決め込む。

ボーデヴィッヒは、俺の横に来ようとして本音と神楽に回収されていた。

何やってんの?君ら?

 

「今日は戦闘訓練を実施する。凰、オルコット、前に出てこい!」

 

凰とオルコットが渋々と前に出て行く。

その様子を呆れたように見ていた千冬が声をかけると、凰はやる気を出し、オルコットはなんとも微妙な顔をする。

 

「さぁて!誰が相手なの。誰でもかかって来なさい!」

 

「……まぁ、気持ちの整理をつけるにはちょうどいい機会ですわね」

 

対極的な態度だなぁ…

 

「対戦相手はーー」

 

キィィンという音ともに、こちらに迫ってくるIS

右目で確認すると、山田さんがラファールに乗っているのが分かった。あの二人の相手は山田さんか。

地面スレスレでちゃんと着地する山田さん。

 

「お前らの相手は山田先生だ。安心しろ、すぐに負ける」

 

おぉ、煽るな千冬。

その言葉にやる気の入った二人がISを纏い、山田さんと一緒に上空へと上がって行く。

 

「赤也、お前もISを展開してくれるか?盾で、流れ弾が来た場合、防いで貰いたい」

 

「了解」

 

サードオニキスを展開し、クローダを呼び出す。

少しだけ、宙に浮き、三人の戦いを見守る。

何やら、戦いの最中にデュノアが講義をしているが、知らん知らん。

今の所、優勢なのは山田さんだ。凰の近接攻撃をしっかりと躱しつつ、オルコットの射線を遮るように誘導している。

オルコットも隙を狙いつつ、射撃を行うが、山田さんに回避される。にしても、冷静に立ち回ってるなオルコット。

前なら、短気になってビットを展開しててもおかしくない。

おっと、流れ弾か。サードオニキスを動かし、盾で流れ弾を弾く。どうやら決着が着いたようだな。

オルコットが冷静に立ち回るから、凰を大きく動かし、二人を激突。そこにグレネードを放ち、山田さんの勝ちとなる。

 

「あーもう!もうちょっと、援護してくれても良いんじゃないの!?」

 

「そちらが良いように動かされ過ぎですわ!射線を遮らないで下さいまし!」

 

凰とオルコットが揉める。

俺は気にしないが、クラスメート達の視線が色々と残念だぞ二人とも。

 

「専用機持ちを中心にグループを作る。各グループのリーダは専用機持ちが行うこと。分れろ!」

 

ブワッとすごい勢いで、織斑とデュノアのところに女子が集まる。イケメンは大変ですね。

俺のところには布仏と神楽、あと数人がちらほらってところか。

千冬が凄い、イライラしてる。

 

「はぁ、出席番号ごとに分れろ!……赤也のところはちょうど定員だな。お前のところはそのままで良い」

 

どうやら俺のところは定員だったらしい。まぁ、多くないしな。

織斑、デュノアのところに振り分けられた女子たちは喜びに包まれ、逆にオルコット、凰のところは悲壮感に包まれ、ボーデヴィッヒのところは、沈黙に包まれている。沈黙ってヤベーなボーデヴィッヒ。

 

「どのISがいい?」

 

「ラファール〜」

 

どのISが良いか質問したら、本音が一番最初に手を挙げ、返答する。

あれ、そういや本音にこの訓練いる?がっつり使いこなしてたよね?

まぁ、良いや。人力で動かすカートを動かし、ラファールを運ぶ。中々に重いが、この右腕ならなんの問題もない。

 

「んじゃ、出席番号順に乗ってくれ」

 

一人目が乗り込み、辿々しく歩く。

まぁ、初めて乗ればこんなもんだよな。

 

「もっと、気楽にISに乗ると良いぞ。イメージだイメージ」

 

「い、イメージ…」

 

あまり動きは変わらない。うーむ、理論派かこの子。

その後、俺の教え方でISを動かせるようになったのは、神楽を含む約半分。本音は自由に動かして、千冬に怒られていた。

 

「うぅ〜ISの授業で動かしすぎて怒られるなんてぇ〜」

 

本音がラファールの乗ったカートを押しながら、ぼやく。

始めは俺がやったから、片付けは自分達がやると本音と神楽から申し出があったので、右手を添えつつ、手伝ってもらっている。

 

「仕方ないですよ本音さん。歩くだけの授業で、飛んでさらに空中で一回転なんて、明らかに求められたこと以上の事してますもの」

 

「そうだぞ本音。まぁ、でも上手く動かしてて驚いたな」

 

「えへへ〜あかやんに褒められたぁ〜」

 

和やかに会話しながら、ゆっくりとカートを運ぶ俺たち。

 

「赤也!なに、女子にやらせてるんだよ!こういうのは、男がやるべき仕事だろう」

 

一人でカートを運んでいた織斑が俺に絡んでくる。

うわぁ、めんどくさ。

 

「二人が手伝ってくれると言うからな。その好意に甘えているだけだが、何か悪いのか?」

 

「いや、男なんだから一旦、その好意を受け入れてでも、やれるから大丈夫と断れよ」

 

「……その理論で言うとデュノアはどうなる?思いっきり女子数人が運んでたが?」

 

力仕事は男がやるべき。そんな思考ってところか?

確かにそういう面はあるかもしれないが、手伝ってくれると言うのならそれに甘えても良いだろう。本音と神楽は俺の友人だし。

 

「いや、あいつは……ほら、見るからに非力そうだし……」

 

「なるほど。お前の意見を纏めると、随分と差別的な内容になるが?

女子は力仕事を男に頼れ、男はそれを断るな。同じ男でも見た目が貧弱ならその限りではない。

友人の好意に甘えてなにが悪い?俺が彼女達の申し出を了承し、それを行なっているだけだ。お前ごときが介入してくるな、差別主義者」

 

「差別主義者って……俺はそんなつもりじゃ……」

 

はぁ、考えなしの発言にも程があるだろ。

視線を彷徨わせる織斑に苛立ちつつ、その場を後にしようとする。時間もないしな。

 

「ま、待てよ」

 

「織斑さん。私達は、自分で赤也さんを手伝うと言ったのです。

貴方の価値観で私達を勝手に定義しないでください。それでは、失礼します。赤也さんの時間を無意味に消費する訳にはいきませんから」

 

前々から織斑に鬱憤のあった神楽が耐えきれず、文句を告げる。

女子からそれを言われてしまえば、反論する余地がなく、織斑は力なく項垂れる。

織斑を無視し、カートを片付けた。この時の神楽の顔はすごくすっきりしていた。

 




ほんとはラウラとの昼食まで書きたかったけど、キリが良かったからここまでです。
すでにポンコツの気配を感じるがスルーします。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昼休みって休む時間だよね?

ラウラとのお昼ご飯食べながらお話回です


昼飯を待っていたと言わんばかり、俺を連行するボーデヴィッヒ。

ガッチリと首根っこを掴まれてしまえば、流石に抵抗できない。て言うか、こいつこの身長でどんだけ力があるんだ。

 

「ボ、ボーデヴィッヒ、逃げないから。離せ、首締まる」

 

「そうか?こうでもしないと、本音や神楽とか言ったか。あの二人にお前と話すのを邪魔されるとおもってな。

苦しかったのなら、すまん。謝罪しよう」

 

食堂まで来て漸く解放される俺の首。

ただ、これをした原因が友人達にあると思うと強く言えない。まぁ、あの二人、思いっきり付いて来てるんだけど。

入り口の死角になるところに隠れてるんだけどね。

二人で日替わりランチを購入し、席に着く。本音と神楽……あれ、いつのまに合流してたの千冬。

三人も俺達から死角で、そう遠くない位置に陣取る。

 

「ふぅ、漸く話ができる」

 

ボーデヴィッヒが水を飲み、一息つく。

 

「朝と随分、雰囲気が違うが何かあったのか?」

 

今のボーデヴィッヒには朝のような棘げしさを感じない。織斑への恨みが相当大きいのかなんなのか。

 

「お前はこう言った雰囲気の相手の方が話しやすいらしいと、本音と神楽に聞いてな」

 

「あぁ、あの二人にね。確かに、朝より今の方が好感を持てるよ」

 

ボーデヴィッヒさん、チョロい?いや、素直なのか。

言われたことを飲み込みやすいのか?

 

「なら良かった。それで、話なんだが」

 

ナイフとフォークで器用に焼き鮭を捌きながら、ボーデヴィッヒの目つきが変わる。

 

「お前はISをどういう風に捉えている?その右腕、ISなんだろう?」

 

そうか、クラス代表決定戦の戦いを利用して、俺が二人目だと報道したのなら、この右腕の事も明らかにされてるか。

ISをどう捉えているか……そうだなぁ。

 

「そうだな……使う者によって定義が変わる物だと思うぞ」

 

「ほぅ」

 

ボーデヴィッヒの目が細まるが、その視線は続けろと訴えている。

地雷を踏んだとかそう言うわけではなさそうだな。

 

「競技者が使えば、ISはその辺のテニスラケットやサッカーボールと変わらない。

悪用する者や国を守る者が使えば、兵器だろう。

俺から見れば……そうだな、右腕だ。俺が欠けてしまったものを埋めてくれるそんな物だな」

 

俺の身体を置き換えているものとは言わない。

バレたら面倒だし。俺以外が、バラしてしまうのは別に気にしないけど。

 

「くっ、くくく、やはりお前は興味深いな」

 

どことなく千冬を連想させるぱっと見悪い笑み。でも、これが千冬の場合、心底楽しい時に浮かべるものだと俺は知っている。

きっと、こいつもそんなのだろう。悪意は感じない。

 

「そいつはどうも」

 

「イギリスの代表候補生と戦っている映像を見た時、私は思った。不意打ちだろうが何だろうが自らの使える物は使って勝とうとする意思のあるものだと。それと、同時にお前のその無気力な眼の奥にしっかりと見たぞ。勝つ事への強い欲望を」

 

ナイフを俺の左目に向けるボーデヴィッヒ。俺と向き合う右目には、勝利する事への欲望と何かに対する狂気的なまでの崇拝を感じた。

確かに俺はあの時、なにがなんでも勝ってやると思っていたし、実際、勝利した。

 

「お前は私の同類だ。勝つ事、即ち、強者でいる事に絶対の重みを置いている。違うか?」

 

ボーデヴィッヒの言葉に目を閉じて、少し考える。

強者でいる事……それに関して俺は執着していない。俺はただ、好きなように生きたいそれだけだ。

それを成すのに力がいるなら、受け入れる。それが失われるのなら、身体すら捧げて力を得る。

今までは自由に生きるための選択がそれだった。だが、その結果が、強者でいる事に繋がるのだろうか。

全部が全部そうだとは言えない。サードオニキスを手に入れたから、俺は生きているしクソ家族から解放された。

だが、力を持っているせいであの居心地の良い空間を作ってくれる本音や神楽を危険に晒した。俺がなんの力も無ければアリーナから出れず、二機目の無人機に遭遇することは無かった。

 

「否定はしない。確かに俺は力に執着しているさ。

力がなかった頃の俺は、自由がなく生きたまま死んでるようなもんだったからな」

 

「やっぱりか」

 

俺の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべるボーデヴィッヒ。

 

「だが、もし俺は力を失う代わりに、やりたい様に生きて好きな奴らと過ごす権利が与えられるのなら、それを手放すだろう」

 

今、それをするのに力が必要なだけだ。手放した方が良い結果になるのなら、俺は手放す。

 

「なんだと?お前は弱者に成り下がっても良いと言うのか?」

 

鋭い目つきで睨んでくるボーデヴィッヒ。地雷を踏み抜いたか。

それでも言葉は続けさせて貰うぞボーデヴィッヒ。

 

「そうだ。俺にとって力は何かを手に入れる為の過程に過ぎない。

力がある事で、それを失うと言うのなら、俺はそんなものいらない。ボーデヴィッヒ、俺はお前にとっての力を知らない。

だが、先ほどのISの捉え方と同様だ。人それぞれなんだよ。力の重要性ってのはな」

 

俺の言葉に驚いたような、納得がいかないと言った感じの表情を浮かべるボーデヴィッヒ。

同類と、言っていた。なら、こいつにとっては力が全てなんだろう。

だから俺の言葉が理解できない。もしくは、許せないのか。

 

「何故だ……私には理解できない!」

 

「お前の考えを否定する気はない。

力が絶対だと信じるなら、そう信じていれば良い。それは、お前にとって揺るがない、否定の出来ないものなんだろう?」

 

「そうだ!私は、あの人の様に強くありたい、弱者であることなぞ許容できない!」

 

何か枷が外れた様に喋るボーデヴィッヒ。さっきの狂信的な崇拝の正体はこれか。

千冬……お前、何したんだ?

 

「なら、これ以上の話は無意味だ。互いに譲れないものを話ししていても、決着のつかない論争になる。

それとあまり熱くなるなよ?周りの視線が凄いぞ」

 

ボーデヴィッヒが力説を始めるから、声が響き、食堂にいる人間の視線が集まっている。

 

「うぐっ……そうだな」

 

俺の言葉と周りの視線で渋々、落ち着くボーデヴィッヒ。

 

「お前は私と同じだと思っていたんだがな……」

 

どこなく寂しげに言うボーデヴィッヒ。

急にしおらしくなるなっての。

 

「100%自分と同じ人間なんているわけが無い。それと、ボーデヴィッヒ、勘違いしている様だから言っておくぞ?」

 

「なんだ?」

 

下げていた顔を上げ、俺の目を見てくるボーデヴィッヒ。その目には力がない。

どんだけ同類が欲しかったんだこの子。

 

「確かに俺は力を捨てる事もできる」

 

「あぁ、だから私はーー」

 

「話は最後まで聞け」

 

「いたっ!?」

 

途中で喋ろうとするボーデヴィッヒをデコピンで黙らせる。

 

「だが、今の俺がそうだとは一言も言っていないぞ?力に執着がある事も、否定はしていないしな」

 

あまり俺を甘く見るなよという意味を込めて、ニヒルに笑ってみせる。

ぽかんと口を開けて、アホヅラを浮かべるボーデヴィッヒ。

そして、少しの時間固まり、少しずつ大きな笑い声を上げていく。

それはそれでまた、周りの目を集めるが、ボーデヴィッヒは気にせず笑う。しばらくして、笑った事によって出た涙を拭いつつ、俺を見る。

 

「ふはは、やはり興味深い奴だ。西村赤也、私と同じ結論を持ちながら見ている場所が違う。

ふふふ、お前の言葉を覚えておこう。理解は今の私には無理だが、それでも面白い事に変わりはない」

 

何やら満足いったご様子のボーデヴィッヒ。

まぁ、それならそれで良いんだけど、これさらに厄介な事になってないか?俺。

 

「楽しそうで何より。そういや、ボーデヴィッヒ」

 

「ラウラで良い。日本では同じ釜の飯を食べたら友人なんだろう?」

 

いや、そうだけど誰だそのなんとも半端な情報を教えたやつは。

 

「まぁ、否定するのもめんどくさい。

じゃあ、ラウラ。一つ、聞きたかったんだが、その眼帯はなんだ?」

 

話してて全然食べてない昼食を急ぎ目に食べつつ、ラウラに質問する。

俺の眼帯デビューとダブったのは地味に気になってた。

 

「これか?これは、我が部隊シュバルツェ・ハーゼの証だ!」

 

「マジモンの軍人だったのか……」

 

雰囲気とか千冬を教官って呼んでた事からなんとなく思ってたけど、本物さんだったのか。

あれ、軍人に目をつけられるとかほんとにめんどくさそうじゃね?

思わぬ事実と、新しい友人が出来た昼休みだった。全然、精神休んでない。

 




この話をしている時、近くの席で聞き耳全開の本音、神楽、千冬がいたと報告しておきますね。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千冬ってほんとずるいと思う。それと、新しい面倒ごとは勘弁

千冬さんとの絆レベルUP回、それと新たな面倒ごと回


迫る拳を、受け流し、左手で握り拳を作り打ち出す。少し、テンポをズラし、回避先に回し蹴りを放つ。

だが、左手は簡単に避けられ、回し蹴りも俺の足を置き場に使われ、飛び越えるように回避される。

しかし、それは見えている。右腕を伸ばし、着地後の僅かな硬直を狙う。それでも、千冬は伊達じゃなかった。

俺の内側に入り込み、押し倒される。

 

「いたっ」

 

「ふぅ、その右目中々にヒヤヒヤさせてくれるな」

 

壁ドンならぬ、床ドンを千冬にされる。

ほんと、イケメンですね貴女。そう簡単に出来ませんよ床ドンなんて。

いつもの千冬との放課後稽古。右目の事は当たり前のようにバレていたので、稽古でも存分に使えと言われている。

誰か来たらどうすんだ?とは、思ったが、ここ関係者以外立ち入り禁止になってるらしい。

 

「いや、ヒヤヒヤって。こいつの性能は話しましたよね?」

 

眼帯を外して、露わになっている右目を指差す。

 

「あぁ。ハイパーセンサー並みの視界と予測による相手の行動の可視化だろう?」

 

馬鹿にするなと言わんばかりの態度の千冬。いや、だってねぇ。

 

「なんで、予測と重なる様に動けるんだよ!予測が意味を成さないって初めて知ったわ」

 

予測で現れる千冬と実際の千冬が重なって迫ってくる。

見えてても意味がない。対処のしようが無い。

 

「なに、予測されていると分かるなら、そう判断した上で動けば良いだけのことだ」

 

イケメンスマイルを披露してくれる千冬さん。

あんたはどこの愉悦神父だ!簡単に言ってるけど、誰でも出来る事じゃないぞ!?

 

「改めて、あんたが人外だと認識したわ」

 

「ほぅ」

 

手を伸ばし、床ドンされて身動きの取れない俺の頭部を鷲掴みする千冬。

どうしよう、右目が嫌な予測を教えてくれる……ついでに、俺が逃れられない事も教えてくれる。

 

「誰が人外の化け物だって?ん?」

 

「そこまではイタタタタタッ!?割れる!?頭、割れるって千冬!?」

 

凄まじい力でアイアンクローされる。めっちゃ痛い。

サードオニキスで痛みには慣れてると思ったけど、痛い。

 

「はっはっはっ」

 

愉しげに笑ってるんじゃねぇぞ…いてて。

しばらく、そんな感じで遊ばれた後、休憩時間になった。

ちょうど良いから、千冬に聞いてみるか。

 

「なぁ、一つ質問して良いか?」

 

「なんだ?」

 

「ラウラになにをしたんだ?千冬」

 

あの様子からして、相当は衝撃がラウラには千冬と出会ってあった筈だ。

昼、俺たちの会話を聞いてたんなら、俺がこれを聞く理由は分かるだろう。千冬も気まずそうにしている。

 

「まぁ、そのなんだ。少し、長いぞ?」

 

「ちょうど休憩時間だからな。休みながら聞くさ」

 

そうか、と言い千冬は話し出す。

自分がモンドグロッソの二冠を逃したのには理由がある事、詳しくは省略するがその時、ドイツ軍に世話になった事。

その恩義で、一年間、ドイツ軍の教官として鞭を振るっていた事。そして、その時にラウラに出会っていた事。

 

「私はあの時、唯一の肉親である一夏と一年も会えず、知らず知らずのうちに鬱憤を抱えていた。

教官としても甘かった私は、一人一人をまるで見れていなかった。当時、落ちこぼれだったラウラの精神状態なんぞ一切、考えず鍛え上げた。あいつは、その結果一部隊を率いるまでに成長した。そのせいだ、ラウラが力に執着してしまう様になったのも、私にあんなにも依存しているのも何もかも、私が失敗した事だった」

 

スポドリを飲みながら、千冬は後悔している声で言う。

ラウラの言葉から推測するに、二冠を逃した理由ってのは織斑にあるのだろう。強い千冬に傷をつけた、だから織斑が気に食わないそんな感じか?

 

「そうだったのか。単純明快が故に陥りやすい依存だな」

 

「あぁ。幻滅したか?今、お前を教えている私はそういう女だ」

 

疲れ切った弱々しい顔の千冬が俺を見てくる。

はぁ、この人は背負いすぎたし不器用すぎる。

 

「千冬、ラウラがああなったのは確かにお前の責任もある。それは誰が見ても明らかだから否定しない。

俺とラウラは似た考えを持ってるから、アイツの考え方が間違えてるとは言えない。

それでも、あんたはラウラの教官で俺にとっては先生だ。教え子ってのは、誰でも上に憧れるもんだ。だから、ラウラも俺も千冬に幻滅することはないさ。学年別トーナメントの後にでもラウラと話する時間でも取ってみろ」

 

ここまで世話になって、そういう側面を知ったから幻滅しますなんて、俺にはできない。

そもそも、幻滅するなら一緒に暮らしててもっと色々あったよ。今更、千冬の過ちを知ったところでな。

 

「なぜ、学年別トーナメントまで時間をかけるんだ?」

 

目に力が戻ってきた千冬が俺に質問してくる。

そんなもの決まってるさ。

 

「師匠が姉弟子に変わってくれと望むなら、その手伝いをするのが弟弟子ってもんでしょ」

 

勝手に師匠認識したが、許せ。ほぼ毎日稽古してれば、そんな気にもなってくる。

言ってから恥ずかしさが込み上げてきたので、目線を千冬から逸らす。

 

「そ、それにだ。今、話したってラウラは聞き入れない。学年別トーナメントで今の千冬に教わった俺がアイツを倒した方が、聞く気になるってもんでしょう」

 

早口で捲したてる様になってしまうが、続きを話す。

 

「……ふっ、くくく」

 

千冬が笑みをこぼす。

そして、立ち上がり、俺の背中を勢いよく叩く。

 

「いて!?」

 

「アイツは強いぞ。間違い無く、今の一年生最強だ。今のお前で勝てるか?馬鹿弟子」

 

ほんと、楽しそうですね千冬。

俺も立ち上がり、千冬と目を合わせる。

 

「勝つさ。その為に、稽古をつけてくれよ?師匠」

 

ここまで格好つけて負けたら、相当ダサいな俺。

でも、強くなる。俺は、ラウラを倒せる様になってみせるさ。

 

「なら、もっと厳しくいくぞ。ほら、準備をしろ」

 

「おう」

 

スポドリを片付けて、少し固まった身体をほぐす為に準備運動を行う。

 

「……ありがとう。赤也」

 

あーあー、聞いてません。恥ずかしそうにしてる千冬なんて見てませんし、その顔で言ったすごく優しい声の感謝なんて聞いてません。

たく、ズルイ。気の強い人が見せる弱みってのは、ズルイとは前々から言ってるけど、師匠の言葉ってのもズルイ。

堪らなく、弟子である俺をやる気にさせるのだから。

言葉通り、厳しくなった稽古を今までとはどこか違う気持ちで臨んだ。もちろん、体力も精神力もゴリゴリと磨り減ったが、何処と無く、満足感が俺を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーデヴィッヒやデュノアが転入してきて、5日が過ぎ、土曜日。

俺は本音と一緒に整備室で作業をしていた。

 

「西村くん!5番と6番のパーツ持ってきて!」

 

「了解!」

 

「あかやん、ついでにジュースも〜」

 

「それは休憩の時な」

 

本音のIS作製の手伝いをしていた。とはいえ、整備的な知識は一切ないので、整備科の人達の指示を聞いて、物を運ぶのが俺の仕事だ。

少し前から、教室で図面を弄っていた本音だが、漸く目処がつき、作製を行なっている。実は、俺が稽古している間にも作っていたらしい。

今日は予定が重なったから手伝っている。

 

「装甲班、加工が済んだ装甲持ってきました」

 

「あ、受け取ります。それと、これが次の依頼です」

 

「うわっ、西村くんだ。やばいやばい、顔に汚れとか付いたまま来ちゃったよぉ」

 

時々、運ばれてくる加工パーツなどを受け取るのも俺の仕事なのだが、まぁ、大概こういうやり取りが起きる。

 

「気にせずに。それに整備科なら誇る勲章だと俺は思いますよ」

 

「え、そ、そうかな…えへへ」

 

「あかやん〜〜!装甲早くぅ!」

 

本音が急かしてくる。話も打ち切り、依頼を書いたメモを押し付け、その場を去る。

受け取った装甲を本音のところまで運ぶ。

 

「ほらよ」

 

「うぇ〜い、ありがとう〜あかやん」

 

ガチャガチャと操作をしながら、装甲を取り付けていく。

その工程の意味はさっぱり分からん。ISを物理的に弄っている本音数名と、ケーブルでISコアになにかを入力しているのが三名ほど。

入力係は、リボンの色から三年生で構成されてると分かる。

ブザーが鳴り、休憩時間を合図する。みんな、一斉に手を止め、くつろぎだす。

 

「あかやん〜」

 

「ほら、ジュース」

 

用意しておいたジュースを蓋を緩めてから、本音に渡す。ゴクゴクと勢いよく飲んでいく本音。

かなり疲れている様だ。

目の前に鎮座しているISを眺める。まだ、半分も出来ていないが、白い装甲が多いIS。

 

「元がラファールには見えないな」

 

「私が使ってた〜ラファールのコアを使ってるからねぇ〜最初の手間が省ける分楽だよぉ〜」

 

「あの時のラファールなのかこれ」

 

「かなりダメージが蓄積してたからねぇ〜修理の意味も込めて使って良い許可が出たのだ〜」

 

何処と無く嬉しそうな本音。

あの戦いで随分とラファールに愛着が湧いていた様だ。見た目は変わってしまうが、コアが一緒なのは嬉しいのだろう。

 

「名前はもう決めてあるのか?」

 

「あるよぉ〜『九尾ノ魂』って名前をつけるのぉ〜」

 

「九尾とはまた……」

 

九尾の狐と言ったら、悪名がすごい妖怪。

純真無垢な本音とは対極だとは思うんだが、本人が気に入ってるなら良いか。なんか、名前聞いたら禍々しく見えてきたぞこのIS。

 

「むぅ〜あかやん、九尾って聞いて悪いイメージ抱いたでしょぉ〜」

 

「い、いや?」

 

「九尾は神獣なんだよぉ〜良い面だってちゃんとあるんだからねぇ〜」

 

「そうなのか?初めて知ったな。本音は物知りで偉いな」

 

よしよしと頭を撫でてやる。

えへへ〜っと笑顔を浮かべて、気持ちよさそうにする本音。うん、かわいい。

 

「よぉーし!やる気入ったぞぉ〜!」

 

しばらく撫でてると、本音がやる気をだす。

俺たちを微笑ましそうに見守っていた周囲も本音のやる気に引き摺られ、動きだす。俺も手伝うをしようかね。

筋トレになれば良いと思って引き受けた手伝いだが、かなり筋トレになった。

日が落ちて、山田さんが整備室に来て、男子の風呂が解禁された事を告げに来るまで、作業は続いた。

 

「あかやんは先に戻ってて良いよぉ〜あとは、整備科の仕事だから〜」

 

「そうか?じゃあ、先に失礼するぞ」

 

「うん〜バイバーイ」

 

手を振る本音に振り替えしつつ、整備室を後にする。

しかし、整備科って凄いな。あんな文字の羅列を淀みなく処理できるし、気持ち悪いぐらいあるコードをすごい速さで繋げていくもんなぁ。

そういや、サードオニキスのメンテとかした事ないけど……まぁ、良いか。右腕になってるやつをどうやって整備するの?って話だし。

そんな事を考えながら、歩いていると寮までの道は短く、すぐに着く。

寮に着いた俺は、料理をなにしようかと考えながら、歩いていると扉がいきなり開き、手が伸びて来て俺を拉致する。

 

「あぁ!?誰だ!」

 

右腕を俺を拉致した輩に向ける。

 

「お、俺だ赤也!」

 

「お前かよ……で、拉致してまで何の用だ?」

 

焦った顔の織斑を間近で見る羽目になった。

なんだ、ホモ。堪えきれず俺を襲うのか?お前の姉から学んだ武術で抵抗するぞこら。

 

「奥に来てくれ」

 

「……変なことしたらぶっ倒すぞ」

 

織斑と一定の距離を取りながら、部屋の奥に入る。

そこには、髪を下ろし長髪になったデュノアがベットに腰掛けていた。

気のせいでなければ、男にはない膨らみがある。え、女だったのこいつ?

 

「良いか、落ち着いて聞いてくれ。それと、これから話すことは絶対に誰にも言うなよ?

シャルルは、女子だったんだ!」

 

織斑が鬼気迫る表情で俺に告げる。

これはどう考えても面倒ごとに巻き込まれる気がする。そんな嫌な予感が全身を駆け巡った。

 




一夏が打ち明けた真実に赤也はなんと返すのか。
それは次回ですね。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺と織斑は相容れない

赤也の返答回です。



「で、デュノアが女子だっていう事と、お前のその慌てっぷりはなんの関係があるんだ?」

 

「れ、冷静だな赤也」

 

いや、冷静も何も女子でしたって事実を俺に告げる為だけに拉致したとは思えないし。

驚いてはいるが、それよりも続きを早くしろって方に意識が割かれている。

 

「シャルル、俺から説明するか?」

 

「いや、良いよ。僕の口から説明する」

 

俺を置き去りに神妙な空気で話してる二人。

どうでも良いけど早くしてくれませんかね?あの、世界最強、腹減ってるのを待たせるとこっちが大変なんだぞ。

 

「実は、僕、愛人の子なんだ」

 

そう切り出し、デュノアは自分が男としてIS学園に来た理由を話す。

二年前に引き取られ、IS適性が高いことが判明。デュノア社のテストパイロットをやる事になった事。家族との仲が悪い事。

デュノア社の経営が悪く、広告塔としての宣伝材料と、同じ男として入学し俺や織斑のISと本人データを手に入れるのが目的だったという事。

ふむ、正直俺にこんな事を話してどうするんだって内容なんだが。

 

「それで、俺に何しろと?」

 

先の見えない話をされても、俺が拉致られた理由が分からん。

それとも、一応、男子で通ってるデュノアを含む男三人で対策でも練るつもりだったのか?それにしては、まるでそう言った提案がないが。

 

「なっ、赤也!なんとも思わないのかよ!」

 

織斑がキレた。

理由は、全く分からんが、声を荒げている。その目には怒りの感情がはっきりと浮かんでいる。

 

「思わない訳ではない」

 

デュノアにはデュノアの苦労があったのだろうし、それを俺が推し量れる訳でもない。

 

「ただ、今はそんな感情論は置いておいてどうするのかっていう話をするんじゃないのか?

まぁ、俺はデュノアの為にやれる事なんかないだろうし、する気もないが」

 

これが本音や神楽、千冬なら話は別だ。友人や師匠の為に力になってやる気も起きるが、関わりのない奴やそもそも嫌ってる奴の手助けなんぞ誰がするか。俺は聖人じゃない。なんなら、善人ですらないと自覚している。

それに一番、手助けしてやる気を削ぐものがある。

 

「大体、諦めている奴の手助けに価値なんてないだろう。

デュノア、お前は足掻いたのか?状況を変えようと自ら動いたのか?」

 

「…出来るわけないよ。デュノア社の力はそんな簡単なものじゃないんだ……」

 

俯いたまま、力なく話すデュノア。

ほら、これだ。こういう諦めは気に食わない。サードオニキスを手に入れる前の俺を見ているようだし、その時の俺だって状況を変えようと足掻きはした。デュノアと俺じゃ規模が違うから、比較もクソもないが気に食わないものは気に食わない。

 

「諦めているのなら、勝手にしろ。俺は、そんな奴に手を差し出すほど暇じゃない」

 

諦めて立ち止まった人間を、無理やり動かしたところで見えない場所で潰れるだけだ。

自分で動く覚悟のない奴は、いずれ野垂れ死ぬ。

 

「お前には心ってもんがないのかよ!」

 

殴りかかってくる織斑の拳を受け止め、捻りあげる。

お前の姉から武術は学んでいる。そんな軽い拳に当たるほど、弱くねぇ。

 

「ぐっ」

 

「……勘違いしている様だから言っておく。俺はお前らの友人になったつもりはない。

差し出された手を見境もなく掴む善人に俺が見えるか?」

 

「…それでも……困ってる奴を助けるのが……人ってもんだろ……赤也!!」

 

声と同時に、頭突きをしてくる織斑。避ける為に、捻り上げていた手を離す。

俺と織斑との間に距離が生まれる。まるで、俺と織斑が決して相容れない存在であると示すが如く。

 

「お前の偽善者面は結構。で、そんな偽善者さんは、悲劇のヒロインぶっているお姫様に何かしてあげられるのか?」

 

悲劇のヒロイン、俺がそう言ったのが気に食わないのか織斑の怒りが強くなる。

だって、そうだろう?自分から動きもせず、状況を受け入れ、挙句助けてくれる存在が現れたら、それに縋り付く。

 

「IS学園の特記事項二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。

本人の同意がない場合、それらの外的な介入は原則として許可されないものとする」

 

急に特記事項なんざ読みだしてどうした。

まさか、それを盾にするつもりじゃないだろうな。

 

「三年間なら、シャルルは自由の筈だ。その間に解決策を探す!」

 

本当にそれだったよ。

自信満々の織斑の表情に、呆れを通り越して笑いすら込み上げてくる。俺が笑みを抑えているのが分かったのか、織斑もデュノアも不審そうな顔で見てくる。

 

「本気で言ってるのか?それは、ただの問題の先延ばしだぞ。

三年間でただの生徒が、どうにか出来る問題だと思ってんのか?」

 

そもそも、その特記事項、国家代表候補生やデュノアの様な企業のテストパイロットをやってる生徒に当てはまるのか疑問なところがあるぞ。企業に言われ、IS学園に入学している。これは、すでに企業の力が関与している。なら、企業が介入する事だって可能ではないのだろうか?だって、デュノアは企業の策略に同意して、IS学園にいるのだから。この時点で特記事項の一部が息をしていない。

 

「どうにかしてみせるさ!」

 

その自信がどこから湧くのか不思議でしかないが、織斑は答える。

ちらりと、視線をデュノアに向ければ、まるで自分を救ってくれる王子様でも見ているかの様な目をして織斑を見ている。

いや、少し違うか。そうであって欲しいと言うデュノアの願望か。

 

「勝手にしろ。とりあえず、黙っておいてやるよ、ただそれ以上助力を俺に期待するなよ」

 

もう話す気はない。今回のことで俺と織斑が相容れない存在だと言うことも十分に理解した。

扉に手をかけ、外に出て行く。

 

「……そんな薄情な奴だと思ってなかったよ」

 

扉が閉まる直前に織斑の呟き声が聞こえた。俺に何を期待してるんだあいつは。

俺からすれば、足掻こうとすらしていない人間を助けようとするお前がどうかしてるよ。

織斑とデュノアに対する強い苛立ちを抱えたまま、俺は廊下を歩く。

このまま、戻ってもイラついた状態では、千冬にバレる。そういや、作り置きが少しあったか。

携帯を取り出し、千冬に夕飯は作り置きを温めてくれ。とメールして、頭を冷やす為に寮の外に出る。

 

「……個人が出来る規模を通り越してるってなんでアイツは気づかないんだ」

 

夜空を眺めつつ、思い出すのは先ほどのやり取り。

デュノアを救えると信じてやまない織斑と、そんな織斑に自分は何もせずもたれ掛かる気でいるデュノア。

三年間で解決策が生まれる案件じゃない。力のある大人なら出来るかもしれない。でも、たかだか高校生にどうにか出来るわけがないだろう。

 

「おや、こんな時間にどうしましたかな?」

 

俺の目の前にヨレヨレの用務員服を着たおじさんが立っている。

確か、この学園で唯一、俺らを除いて男性の轡木さんだったかな。

 

「あ、いえ、少し頭でも冷やそうかと」

 

「数少ない男で抱える鬱憤でもあったのですかな?

この老いぼれに話してみるが良い。少しは、気が楽にかもしれんよ」

 

こうやって話すのは初めてだが、なんだか不思議な雰囲気の人だ。

声を聞いているだけでどこか安心するというか。気が緩んでくるというか。

 

「そうですね……轡木さんは、自分の力ではどうにも出来ないと分かりきっている相談を、誰かから持ちかけられたらどうします?」

 

デュノアや織斑の話ではないとバレない様に、ボカしつつ轡木さんに聞いてみる。

しばらく、轡木さんは考えた後、口を開く。

 

「そうですね。私なら、その問題が自分にとって大切な人のものなら、形振り構わず、色んな人に知恵や力を借りようとしますかね。

大切な人のためなら、動く強さは人間にとって必要な事ですから」

 

柔和な笑みを浮かべて、答える轡木さん。

織斑にとってデュノアは大切な人なのだろうか。それで、俺に相談を持ちかけた?

でも、俺にとってあいつらはどうでも良い存在だ。

 

「もし、大切ではなかったら?」

 

勝手に口が動いてそんなことを聞いていた。

 

「必要最低限の協力はするでしょうけど……積極的に動くかと言われたら微妙ですね」

 

俺と同じ考えか。そう思った時だった。

轡木さんが、ですがと言い、言葉を続けた。

 

「人の縁と言うのは、奇妙なものです。今は、どうでも良いと思っていても、未来に大切に思う日が来るかもしれない。

だから、必要最低限の協力をしつつ、気が向いたら手を差し出してあげる事も良いと私は思いますよ。西村くん」

 

気が向いたらっか。

それぐらいなら、俺にもあるかもしれない。織斑は無理だが、デュノアが自分で行動を起こせば、気が向くかもしれない。

まぁ、デュノアが悲劇のヒロインから卒業しない限り、無理だが。

 

「少々、上から目線かもしれませんが。まぁ、老人の戯言だと聞き流して貰って構いませんよ」

 

「いえ、参考になりました。轡木さん」

 

別に考えが変わった訳ではない。俺は単に内心のイライラを誰かに吐露したかったのだ。

そして、轡木さんはそれを聞いてくれ、かつ俺が考えてもいなかった選択肢を教えてくれた。

 

「いえいえ、では私はこれで。なにか、あれば用務員室でお話を聞きますよ」

 

「ありがとうございます。轡木さん」

 

礼をして轡木さんが去るのを見送る。

……あれ、そういやあの人、どこから現れた?意識を飛ばしてたとはいえ、右目で全方位見えてるんだが。

そんなどうでも良いことを考えられるぐらいには轡木さんと話して落ち着けた。

 




シャルロットさんに良い感情は持ち合わせていない赤也。
これは、シャルロットアンチになるのだろうか?

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会長って大概、凄い人が務めるが何か暗黙のルールでもあるのだろうか

予定とは違い、まさかの楯無さん回

それと、ランキングにこの小説が入っていて驚きました。
読んでくれる皆様、感想をくれる皆様、評価をしてくださる皆様、本当にありがとうございます!
これからも、この物語を楽しんでいただけると幸いです。


デュノア社。

アルベール・デュノアが社長を務めるフランスの大手企業。

第二世代機であるラファールを開発し、世界第3位のシェアを誇るが、欧州の『イグニッション・プラン』には除名され、第三世代機を開発出来ていない現状にある。

日曜日、自室のパソコンでデュノア社に関することを調べていたが、どうにも悲惨な状態であること以外、分かることはない。

それもそうか。愛人だとか偽装だとかがネットに書かれてる訳がないよな。

 

「気にはなったから調べたが……どう考えてもデュノアを救う方法があるとは思えない」

 

一日経てば、苛立ちも落ち着くというもの。

現状、俺がデュノアにやれる事なんて一つも無いが、将来的な面でIS企業の情報は多い方が良い。

そう思って調べたが、現実とは非情であった。

 

「千冬は会議だし…コーヒーでも飲むか」

 

パソコンの履歴を消し、電源を落とす。

そのまま、キッチンに移動してコーヒーを淹れようとしたときに、ドアが叩かれ来客を告げる。

 

「誰だ?」

 

「本音だよぉ〜」

 

チェーンをかけた状態で扉を開けると、相変わらずダボっとした服を着ている本音が立っていた。

ん?何か約束でもあったか。これと言って思い出すものはない。

 

「たっちゃんがね〜お話したいって〜」

 

「……そういやいつか話そうみたいな感じになってたな」

 

すっかり忘れてたやり取りを思い出す。

本音に待っててくれと伝えて、簡単に着替える。休日だから、制服じゃなくて良いだろう。

生徒会室へと案内されながら、本音と話す。

 

「しかし、なんの話だ?」

 

「さぁ〜?みんなで、お菓子でも食べるのかなぁ〜」

 

「それ、俺が呼ばれる意味ないだろう……」

 

「えー?だって、あかやんと食べた方が美味しいよぉ〜」

 

お菓子が食べたいなら、神楽と一緒に用意しやるから。

なんで生徒会長に呼ばれるのか頭を捻りつつ話すが、となりの能天気な本音によって俺の考える気力は急速に失われていった。

 

「まぁ、いいか。お菓子パーティーなら喜んで参加しよう」

 

「わーい、お菓子〜」

 

本音や神楽と一緒にいる時間が長いせいか、お菓子好きになってしまった。

この前、神楽がお腹周りを触って、目が死んでいたが……きっとそういう事なんだろう。

あれ、俺は大丈夫か?

 

「どうしたの〜あかやん?」

 

本音が俺の前に出て、キョトンと頭を傾げる。

しまった。余計な心配をさせてしまう。

 

「いや、大丈夫だ」

 

千冬と訓練で身体動かしてるから、チョコやらアイスやらのカロリーは消費しているはず。

そんなこんなで、生徒会室に到着する。扉の前で、ノックでもするかと思って、手を伸ばす。

 

「連れてきたよぉ〜」

 

本音がガチャっと扉を開けるから、俺の左手が行き場所を失ってしまった。

 

「お?お?〜」

 

行き場を失い、上がったままの左手を振り返った本音がキラキラした顔でみる。

なんか、態とらしく声まで出してるんだけど。多分、これが正解かな。

スッと本音の頭の上に左手を置き、左右に撫でる。

 

「連れてきてくれて助かる」

 

「えへへ〜〜」

 

よし、正解だ。

連れてきてくれた礼と褒美で頭を撫でると、嬉しそうにする本音。パタパタと動く、尻尾が幻視する。

 

「……入り口で何をしてるんですか」

 

背筋に寒気が走る。声が聞こえた方向に、俺は油の切れた機械のように首を向ける。

そこには、あの時見た本音にそっくりな人が絶対零度の視線を俺に向けながら立っていた。

 

「あ、お姉ちゃん〜」

 

トコトコと本音が歩いていく。

姉?どうりで、似てるわけだ。

 

「こうして、顔を合わせるのは二度目ですね。布仏虚です、本音が世話になっていますね」

 

絶対零度の視線は変わらないが、自己紹介をしてくれる。

別に女尊男卑と言うわけではなさそうだけど……本音か。姉として妹と仲のいい男は警戒するってところか。

 

「どうも。すでに知ってるとは思いますが、西村赤也です」

 

礼をして俺も自己紹介をする。

席に座っているように誘導され、本音と布仏先輩は生徒会室を出て行った。その時に、本音がお菓子ぃ〜と言っていたのが印象に残っている。しばらく、布仏先輩が淹れてくれた紅茶を飲みつつ、時間を潰していると生徒会室に誰かが入ってくる。

 

「ごめんなさい。待たせたかしら?」

 

水色の髪の女性が入ってくる。

更識楯無。この学園の生徒会長その人だった。

 

「少しは」

 

「もうっ、そこは今来たところって言うところよ?」

 

茶目っ気たっぷりの動作と言葉。

だが、俺にはどこか無理をしている人にも見える。

 

「それ、デートか何かで使う言葉で、部屋指定して呼んだ人間に使う言葉ではないかと」

 

俺の正面へと移動していく生徒会長を視界の中心に抑えつつ、何があっても動けるようにはしておく。

本音が信頼している人だから、大丈夫だとは思うが…この人の雰囲気が絶望的に信用できない。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。ほんとに、ただ話をしたいだけだから」

 

対面に座って、にっこりと笑う生徒会長。

ふぅと溜息を吐いてから、目線を合わせる。

 

「それで、どんな用件ですか?」

 

「もうちょっと楽しく話に付き合ってくれても良いんじゃない?」

 

「そんな仲でもないでしょう。俺と貴女は」

 

俺の発言の後、しばらく沈黙が訪れる。

 

「…そうね。なら、単刀直入に聞かせてもらうわ」

 

雰囲気が変わった。

思わず、姿勢を正してしまうほどの圧力を感じる。

 

「西村赤也くん。君は、学園の敵?それとも味方?」

 

質問の意図が分からない。俺が学園の敵か味方かだって?

俺に学園をどうこうできる力なんて微塵もないぞ。

 

「その顔を見た限り、私の言っていることが分からないようね」

 

なら、説明するわと続けて、質問の意図を教えてくれる。

簡単に要約すると、天災兎のモルモットとして入学し、お世辞にも褒められた言動ではない俺を警戒しているとのことだ。

 

「貴女の気にすることも分かりますが……そもそもなんで警戒している人物とこうして話そうとしたのですか?

俺と貴女では力量差が違いすぎる。裏であっさり処理することも出来たでしょうに」

 

今はこの右目があるから、織斑の時のように、何か隔てた空間からいきなり現れない限り、不意を突かれないとは思うが、千冬のように見えていても意味がない攻撃をされれば簡単に死ぬし、それ以前から俺を殺す機会なんて山ほどあったはずだ。

それをせずにこうして、話をする理由が俺には分からない。

 

「そうね……こうして、話す気になったのは本音ちゃんが原因よ。

あの子が貴方の為に無茶をした事は見ていた通りよ。技術者であって操縦者じゃないあの子が私にあれだけ立ち向かう気力を与えたのは、何を隠そう貴方なの。その身体のことを知ってから、死ぬ物狂いで特訓と私に対する対策を組んでたのよ」

 

「本音……」

 

改めて感謝と嬉しさがこみ上げてくる。

 

「そうやって優しい顔もできるのね。だから、話す気になったのよ」

 

「そうでしたか……俺は少なくとも学園に仇を成す事はないかと思います。

モルモットと言っても、兎からの接触はありませんし、俺も居心地が良い場所を失うつもりはありませんから」

 

俺の言葉がこの人にどこまで信用されるか分からない。

ただ、間違いなく俺の本心を告げる。

じっと俺の奥底を見るような視線を貰いつつ、再び沈黙が支配した。

体感では10分以上。実際には、1分少々で生徒会長が口を開く。

 

「西村くん、貴方自身は信用できても貴方を取り巻く情勢が信頼できないわ。

だから、変に誤解せずに受け取って貰いたいんだけど、生徒会としては貴方を信用するけど警戒は続けさせて貰うわ」

 

導き出された結論は、俺にとっても都合の良い結果だった。

具体的な後ろ盾のない俺は、どう足掻いても力に欠ける。警戒と言う名の庇護が与えられるのなら、それは喜ぶべき事だ。

 

「分かりました」

 

感謝の意味も込めて座った状態ではあるが、深々と頭を下げる。

 

「気にしなくて良いわ。さてっと、堅苦しい話はここまでね」

 

身体を伸ばして、こちらを見る生徒会長の雰囲気は元に戻っている。

俺も喉が渇いたので、紅茶を飲み干す。

 

「学園には慣れた?」

 

「まぁぼちぼち。本音や神楽のお陰で、気楽に過ごしてますかね」

 

「好きな子とかできた?」

 

言葉と共に開かれた扇子には、『興味津々』と書かれている。

この人、距離の詰め方が上手いというかグイグイくるというか。

 

「まともに話したのが初めてとは思えない距離の詰め方ですね」

 

「まぁまぁ。ほら、どうなの?」

 

「いませんよ。というか、そんなことを考える余裕もないですし」

 

何より、俺の身体はこの先も機械に呑まれていくだろうし、捨てた命だと思っているせいかあまりそういった感情が湧いてこない。

本音や神楽を名前で呼んだ時は、恥ずかしさはあったが、そこまでだったし。

正直、恋愛感情を認識したら、俺はどうなるのだろうか。

 

「これはどっちも重症ね……」

 

生徒会長が何か呟いたが俺には聞き取れなかった。

 

「そう言えば、生徒会長。俺の身体のこと、ご存知で?」

 

さっきしれっと流してしまったが、俺の身体を知っている口ぶりがあった。

本音は生徒会長に教えたとは言ってなかったし。そういや、千冬もなんか知ってたな。俺が意識失っている間に学園関係者にはバレてる?

 

「知ってるわ。その右目の事もね。

生徒会長だもの。生徒の把握は大切でしょ?それと、そんな堅苦しい名称で呼ばなくても良いわ。楯無、もしくはたっちゃんでも可」

 

ばれてーら。

まぁ、当然か。調べるよな、普通。

 

「じゃあ、たっちゃん先輩で」

 

本音の呼び方が頭の中で定着してしまった。

無意識で呼んでしまうより、本人の許可が出てるならこっちで呼ぼう。

 

「そっちを選ぶ人は久しぶりだわ……まぁいいわ、私も赤也くんって呼ぶけど良いかしら?」

 

「良いですよ。というか、関わってくる気満々ですねたっちゃん先輩」

 

「ふふっ」

 

笑みだけで返事されたわ…これ、絶対関わってくるわ。

まぁいいや。強力な味方が出来たと思っておこう。この人がどれだけ凄いか知らないけど。

この後、話をしてロシアの国家代表を務めてると聞いて、変な声が出たが俺は悪くない。

 




ある種、一夏より面倒な赤也の恋愛観。
果たして、彼が誰かを好きだと思った時、どういう行動を起こすのだろうか。私にも分からない。

凄い、気楽に呼んでますが楯無さんはヒロイン入りしない予定ですので(あくまで予定)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タッグマッチとは面白くなりそうだ

ペア決定です。

大学が始まりましたので、今までの様な投稿スピードでは無くなりますが、ご容赦ください。


「そう言えば、真偽を聞きたいのですが」

 

月曜日、教室へと向かう途中で、神楽が何かを思い出したかのように俺の顔を見る。

 

「なんだ?」

 

「今回の学年別対抗トーナメントで、優勝したら男子三人の誰かと付き合えるという噂です。

出所は不明なのですが、赤也さんがこんな約束をするとは思えませんので」

 

男子三人……あぁ、デュノアの奴も含めてか。真実を知るとガバガバな男装だとは思うが、バレてないらしい。

付き合えるねぇ、そんな約束も契約もした覚えはないぞ。

というか、付き合う相手ぐらい自分の意思で選ばせろ。男子の地位が低すぎだろ、誰も疑問を覚えないって。

 

「お〜それなら、確か発端はしののんのはずだよぉ〜どうして、今の形になったのかは知らないけどね〜」

 

朝から俺のあげたポッ○ーを食べてる本音が、噂の出所を知っているらしい。

これ、典型的な尾ひれがついて大元が不明になったやつだな。

 

「篠ノ之さんが?……あぁ、織斑さんに何か言ったのが広まったのでしょうね。

御愁傷様です。篠ノ之さん」

 

剣道部という事で篠ノ之と付き合いのある神楽が、何やらお悔やみを告げている。

もっとも、篠ノ之の奴が剣道部に顔を出す回数は少ないらしく、先輩達からかなり文句を言われているらしい。

放課後、毎回織斑を追いかけてたらそりゃ、行く暇ないわな。

教室に着き、扉を開くと目の前に織斑とデュノアが立っていた。

 

「……入り口で邪魔なんだが?」

 

「……あぁ、すまない。どくよ」

 

俺と織斑の視線に感情は乗せられていない。

ただ、邪魔だからと告げ、それを事務的に対応しただけだ。

そんな明らかに何かがありましたという空気を生み出す俺と織斑に教室の空気が悪くなるが、俺の知った事ではない。

 

「…っとごめんね。少し、ぼーっとしてた」

 

「……気にするな」

 

席に行こうと思い、動いたらデュノアとぶつかってしまった。

わざとぶつかって嫌がらせ……なんて陰湿なことをする奴には思えなかったが。

席に座り、一息吐くとズボンのポケットから何かが擦れる音がした。何か入れていたか?と思いつつ、ズボンのポケットに手を伸ばすと折りたたまれた紙が出てくる。

 

「あかやん?」

 

本音がポケットに手を突っ込んだまま、動かない俺を心配してか声をかけてくる。

 

「ん?どうした、本音。ポ○キーのおかわりか?」

 

「そんなに食い意地張っていません〜」

 

「あら?本音さん、いきなり部屋に押しかけて、お菓子を強奪したのはどこの誰でしたっけ?」

 

俺の咄嗟の返答に本音と神楽が反応してくれる。

しばらく話を続け、先生達が教室に到着し、授業が始まる。

となりの本音と、教壇に立っている山田さんにバレないように教科書を立てて、ポケットに入っていた紙を広げる。

 

『放課後に食堂裏で話をしたい。シャルル』

 

は?デュノアが俺に話だと?

しかも、人気の無い場所をわざわざ指定して。視界内のデュノアは至って普通に授業を受けている。

はぁ、流石に考えなんか読めないか。

デュノアの突然の行動で、授業にはあまり身が入らず、頭に有難い千冬の出席簿を食らう羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……右目に意識を集中さておくか」

 

時間は放課後。

食堂裏で、壁にもたれ掛かりながらデュノアを待つ。右目で視野を広げているから、余程のことがない限り不意を突かれる事はない。

そんな俺の杞憂も徒労に終わり、デュノアが普通に歩いてくる。

 

「来てくれるとは思ってなかったよ」

 

「……何の用だ?悪いが、俺はお前に助力する気なんぞサラサラないぞ」

 

感情の読めない顔をしているデュノア。不気味に思いつつ、俺は要件を聞く。

 

「ねぇ、取引。しない?」

 

「取引だと?」

 

「うん。僕はデュノア社に君のISデータを渡す。その代わり、君はデュノア社のテストパイロットになるんだ。

君にフランスの一大企業が、後ろ盾になってくれるよ」

 

……結局、こいつは動こうとしないのか。

確かにその提案は、俺にもデュノアにも利がある。だが、デュノアが企業に籍を置くのは変わらないし、俺も娘を男装させる様なキナ臭い組織に所属させられる。その後、何をされるか分かったもんじゃない。

だから、俺の結論は決まっている。

 

「断る。俺は言ったはずだ、諦めている様な奴に助力はしないと」

 

俺の返答を聞くと、両手で握り拳を作るデュノア。

 

「……諦めるな……君はそういうの?

じゃあ、僕はどうすれば良いのさ!?母を失って、生き方なんて全く分からないのに!」

 

感情を露わにするデュノア。

怒りか、諦観くる嫉妬か。少なくとも、俺に判断のつく感情ではない。

 

「甘ったれるなよデュノア。そうやって、自分は辛いんだ、苦しいんだってアピールすれば誰かが助けてくれると思ったか?

織斑の奴で、麻痺してるかもしれないが、現実はそんなに甘くねぇ。

助けてって誰かに手を伸ばしたって払いのけられるのが、現実だ。分かりやすく言ってやる。お前は、スタートラインにすら立ってないんだよ」

 

この世の中でどれだけの人間が、助けてと手を伸ばして払いのけられ、人生をぐちゃぐちゃにされてると思ってるんだ。

 

「全員が全員、そうやって生きられると思わないでよ……」

 

「…一人の男の話をしてやる。

そいつは、至って普通の家庭に生まれた。父と母、それに姉と妹の五人家族だ」

 

突然、関係のない話をし始めた俺に俯いていた顔を上げ、不審げな表情を見せるデュノア。

そのまま、終わるまで黙って聞いてろよ。

 

「普通の幸せを享受していた。だが、ISが現れ、女性である母と姉妹は見事に風潮に染まった。

男の父親は、迫害を受ける家が嫌になり蒸発。残された男に悪意は集中した。

当時は、一人で生きていく事が出来ない年齢だった男は悪意に只管に耐えた。家族から離れて生きる術を知らなかったからだ」

 

「それって……」

 

まるで今の自分の様だと思っているデュノア。

俺はその顔を見つつ、話を続ける。

 

「悪意を耐えた男は、成長し高校生になった。

その時、男は決心して悪意の塊である家族から離れる事を決めた。家族に隠して、実家から遠い高校を受験し、一人暮らしをする為に。

そして、高校に合格し、いよいよ望んだ自由が手に入ると、そう思った男はテロに巻き込まれたとさ」

 

「そんな……折角、自由が手の届くところに来たのに……」

 

まるで我が事の様に悲痛な顔を浮かべるデュノア。

俺のことなんだけど……少し恥ずかしい気持ちになる。

 

「これで分かったろ。自分で自由を手に入れようと動いた奴でさえ、あっさりとその自由は手から離れるんだ。

お前の様に自分から動く気のない奴が、自由を手に入れようとしてみろ。最悪、周りを巻き込んで誰も望まない結果を生み出すぞ」

 

俺は兎に会えたから、こうして生きている。家も一般の家庭でなんの権力もなかったから、権力による被害を受けずに済んだ。

だが、デュノアが俺にとっての兎の様な奴に会えるか分からないし、家は権力のある家だ。最悪、周りを巻き込む。

 

「……一夏を頼ってても無駄ってこと?」

 

「それは知らん。だが、ただおんぶに抱っこじゃあ詰むぞ。

特記事項だって万能じゃない。ルールの裏ってのは、確実に存在している。口八丁に長けた国や企業のトップがその抜け道を使う可能性は幾らでもあるからな」

 

何が、助力しないだ。なんだかんだ、口を挟んでしまっている。

同情でもしてるか俺は。だが、それだけだ。これ以上の協力はしない。

無言で俯いているデュノア。

 

「…用件が終わったなら、これで失礼する」

 

返事をしないデュノアを放置しつつ、俺は食堂裏を後にした。

はぁ、こんな疲れる話をするぐらいなら、まだオルコットと競ってた方がマシだよ。

折角だから、食堂で甘い物でも食べるか。

そう思いつつ、食堂に入ると女子たちの視線が勢いよく、俺に集まる。

 

「え?」

 

俺が言葉を発したのが合図となったのか、立ち上がり駆け寄ってくる女子たち。

手には何かの紙も持っている。

 

「西村くん!私とペアを組んでください!!」

 

「抜け駆けはズルいわ。私も!!」

 

「「「「お願い!!」」」」

 

何がなんだか分からない。

だれか説明を頼む。視線が彷徨ってる俺の様子に気づいた一人が紙を見せてくれる。

 

「えーと、なになに……『学年別トーナメントはより実践的な模擬戦闘を行う為、ふたり組での参加を必須』…マジか」

 

どうしろと?ふたり組で戦うってことは、連携を考えないといけない。

周りを囲んでいる女子たちに知り合いはいない。どうやら、本音も神楽も別のところにいる様だ。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

頭を抱えているところに、どこかで聞いた言葉と俺の神経を逆撫でする優雅な声が、はっきりと聞こえてきた。

女子の群れがモーゼの海割のごとく、裂けてその間を少し怪我をしたオルコットが歩いてくる。

 

「優雅さの欠片もない姿だな?オルコット」

 

「えぇ。鈴さんと共に少々、ドイツの軍人に手を焼きましたので。でも、ご心配なさらずに。

わたくし、セシリア・オルコットは健在ですから」

 

髪をふわりとかき上げながら言うオルコット。

その様子から十二分に分かるわ。

 

「で、何の用だ?」

 

「この状況でわたくしが西村に声をかける理由なんて、分かりきっているでしょう?」

 

言いながら差し出されるエントリーシート。

すでに、オルコットの名前は書かれている。

 

「…俺と組むのか?」

 

「えぇ。わたくしの機体は遠距離特化。貴方の機体は近距離特化。

相方としては最高でしてよ。それに、わたくしは貴方の、貴方はわたくしの戦い方をよくご存知のはずです」

 

オルコットの言葉に思わず、口角が上がる。

そりゃそうだ。俺はこいつには負けたくないと戦い方を頭に叩き込んであるし、口ぶりから察するに、オルコットは俺対策の動きを積んだ様だ。それなら、俺の戦い方と言うものをよく知っているだろう。

ただ、一つ気になることがある。

 

「その理由だけが全てか?」

 

近接特化という面なら織斑だって条件を満たすし、好きな相手と組んだ方がアピールになるだろう。

織斑に恋心を抱いているオルコットが俺と組む理由がそれだけな訳がない。

 

「……わたくしの気持ちに決着をつけるには、一夏さんと戦わないといけませんから」

 

そういう理由か。

少しばかり、オルコットとの勝負を楽しめないのは残念な気持ちもあるが、俺もラウラを倒すという目的がある。

それなら、代表候補生のオルコットと組むのが最適解か。

 

「納得した。良いぜ、オルコット。お前と組んでやるよ」

 

「ふっ、当然ですわ。むしろ、わたくしと組む以外の選択肢があると思いまして?」

 

左手でエントリーシートを受け取り、右手でオルコットと握手を交わす。

周りの女子から落胆の声が聞こえる。

さてと、これは学年別トーナメントが楽しみになってきた。

 




セシリアと赤也ペアです!
なお、互いに恋愛感情は皆無の模様。

ラウラと鈴、セシリアのイザコザは、赤也がその場にいなかったので全カットになりました。
鈴は原作通り、セシリアは作中でも書きましたが、少しの打撲だけです。ごめんよ、鈴ちゃん。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学年別トーナメントが始まったのだが、俺、悪役みたいじゃね?

サブタイが全てです。


オルコットとペアを組み、山田さんから許可を貰い、学園に保存されているラウラのデータを見つつ、互いにあーでもないこーでもないと戦術を決めたり、お互いに動きのズレを修正したりしつつ、その日は訪れた。

 

「すごい来客数だな」

 

「当然ですわ。わたくし達代表候補生はもちろん、各国や企業のトップの方々が、次代を担う操縦者を見定めるいい機会ですから。

それに、一夏さんや西村、デュノアさんの様な男性IS操縦者を見る機会でもありますからね」

 

モニターに映る沢山の重役達を見つつ、オルコットの解説を聞く。

本来なら、オルコットは女子の待機室に居るはずなのだが、千冬がペアとギリギリまで戦術を練りたいだろうという事で、専用の場所をわざわざ確保してくれた。

俺とオルコットなら、万に一つも間違いは無いと言っていたが、まぁ、妥当だな。

 

「そういうもんか。そろそろ、組み合わせ発表か」

 

「さて、誰が初戦の相手でしょうか?」

 

モニターが切り替わり、トーナメント表が映し出される。

えーと、西村赤也とセシリア・オルコットの名前はどこにあるかなっと。

 

「「へぇ……」」

 

俺とオルコットの言葉が重なる。

俺たちの初戦の相手は、このペアの目的の一つであるからだ。

 

『Aブロック一回戦、織斑一夏・シャルル・デュノアVS西村赤也・セシリア・オルコット』

 

これは楽しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

トーナメントが表示されて俺は思わず、驚いてしまった。

 

「赤也のやつ、セシリアと組んでたのか」

 

俺が全く想像できていなかったペアだ。赤也の事だから、どうせのほほんさんか四十院さんと組んでいると思ってた。

でも、ちょうど良い機会だ。あの薄情者に俺の感情をぶつけるチャンスだ。

 

「シャル、対戦相手が決まったぜ」

 

「え、うん。うわっ、これは強烈なペアだね」

 

ボーッとしているシャルに声をかける。

どうしたんだ最近、少しおかしい気がするけど。

 

「よし、準備しようぜシャル」

 

「う、うん。頑張ろう、一夏」

 

笑みを浮かべてくれるシャル。よし、気合い入れて頑張るぞ。

それにしても、セシリアか。俺との相性は悪いなぁ、最近距離を置かれてた気もするし。

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さん、お待たせしました!IS学園学年別トーナメント、一年生の部。

ここに開催します!司会は、私、生徒会長の更識楯無が務めさて頂きまーす。それと、解説には、織斑先生を連れてきました』

 

『こういうのは苦手だが、よろしく頼む』

 

アリーナのピットでISを展開しながら、たっちゃん先輩の司会を聞く。千冬が解説って確かに良い人選だけど、絶対微妙な顔しながら喋ってるぞ。

ここからでも観客が盛り上がっているのが聞こえてくる。やはり、男子三人が一斉に戦う舞台は、大勢の目的になっている様だ。

 

『では、まずはこのペアから入場していきましょう!

世界最強の弟!一人目の男性IS操縦者にして、あの零落白夜の伝承者!織斑一夏と、その甘いマスクに魅了される女子は多数!

フランスより訪れし貴公子!シャルル・デュノアペアです!』

 

いやぁ、ノリノリだなたっちゃん先輩。

豪快な二つ名とコールによって、恥ずかしいのか顔を赤くした織斑とデュノアがアリーナに現れる。

 

「これ、わたくし達も呼ばれるんですの?」

 

「だろうな……」

 

引き攣った笑みのオルコット。

俺も同意しよう。あれは恥ずかしい。

 

『彼らの対戦相手の入場です!

イギリスの名門貴族にして、国家代表候補生!時に優雅に、時に大胆に戦う令嬢!セシリア・オルコットと、二人目の男性IS操縦者!

乱暴な戦い方と言動とは裏腹に、心優しい面も見せる獣!西村赤也ペアです!』

 

オルコット共に、アリーナに入場する。

というか、なんだ今の紹介文!俺だけ人間じゃねぇぞ。

 

「くふっ……ついに野蛮を通り越して獣……」

 

「…開幕、お前を掴むぞ?オルコット」

 

隣で笑うオルコットを右腕で掴みたくなる衝動を抑えながら、正面の対戦相手を見る。

おうおう、勇ましい視線を向けてくれますねぇ織斑よ。

お前がやる気で何よりだよ。まぁ、しばらくは、うちのお嬢様と遊んで貰うがね。

 

『解説の織斑先生、この戦いどっちが勝つと思いますかね?』

 

『そうだな。弟子と弟という贔屓目を抜きにしても、勝つのは西村、オルコットペアだろう』

 

『ほぅ、これは学園内のオッズとは違った形になりそうですね。弟子というのは、赤也くんのことでしょうか?』

 

『そうだ。クラス代表対抗戦以降、体術を叩き込んでいる』

 

千冬さんや、別に俺は話す事に文句を言うつもりはないんですけどね。

タイミングを考えてください。織斑の視線が凄いことになってます。あと、観客席のラウラも。

 

『そうでしたか。では、そろそろ会場のボルテージも高まり、選手も試合への闘志が溢れまくっている頃だと思いますので』

 

『そうだな。四人が四人とも全力を尽くせる様祈っている』

 

『試合、開始!!』

 

たっちゃん先輩の合図と共に、俺に突撃してくる織斑。

俺とオルコットは、手筈通りに前衛と後衛に分かれる。溜息を吐きつつ、クローダを展開し、ブレードを受け止める。

 

「血気盛んだなぁ、そんなに姉に良いところを見せたいか?ん?」

 

「うるせぇよ。この薄情者」

 

どうやらまだ、デュノアとの一件を根に持っているらしい。

やれやれ、とんだお子様だ。そんなお子様は、お嬢様に躾けて貰うとしようか。

 

「悪いが、しばらくお前の相手は俺じゃない」

 

盾をズラし、バランスを崩した織斑を右手で掴み、オルコットの方へ投げ飛ばす。

同時に、支援を行おうとしていたデュノアにバルカンで牽制を行なっておく。

 

「うぉぉぉ!?」

 

無様に飛ばされる織斑。

 

「一夏!?」

 

「おっと、お前の相手は俺だ」

 

吹き飛ばされた織斑の元へ向かおうとしていたデュノアの進路をクローダ片手に塞ぐ。

苦虫でも噛んだ様な表情のデュノア。連携で俺たちと戦うつもりだったか?これは。

さてと、俺はオルコットが満足いくまでデュノアを足止めしないとな。やれやれ、恋愛感情のいざこざに巻き込まれるとめんど臭い。

 

 

 

 

 

 

 

「赤也!!」

 

「わたくしとのダンスは、嫌ですか?一夏さん」

 

体勢を立て直した白式の進路を塞ぐ様に、ブルーティアーズのビットによる攻撃が行われる。

それらを回避し、俺が振り返ると、セシリアが狙撃銃を横に構え、浮かんでいた。

 

「セシリア……お前が相手でも容赦はしないぞ」

 

雪片を持つ右手に力が入る。早く、シャルの援護に行かないと。

それに赤也から千冬姉の弟子とかいう件を聞き出さないと。

 

「容赦はしない……ですか。一つ、聞きましょう。

一夏さん。貴方は、いつの間にわたくしが下に見れるほど強くなったつもりですか?」

 

四方からビットによるレーザーが飛んでくる。

だけど、セシリアはビットと自分の行動を同時には行えない。だから、多少と被弾でも距離を詰めれば!

瞬間加速で、ビットのレーザーから抜け出そうとした俺の胸にセシリアの狙撃中による一撃が入る。

 

「なっ!?」

 

慌てて、動きレーザーを回避、間に合わない分はエネルギーが勿体無いが、零落白夜で斬りふせる。

 

「わたくしがビットと同時に動けないと思いました?

……一夏さん、やっぱり貴方はそこまででしたのね」

 

落胆した表情のセシリア。

俺がそこまで?一体、どういうことだ?

 

「なぁ、セシリアーー」

 

「お黙りなさい。無駄なお喋りをする暇がありまして?」

 

言葉がセシリアの冷たい声で遮断される。同時に、レーザーが迫ってくる。

セシリアの狙撃銃による攻撃もセットに行われるそれは、明らかにクラス代表決定戦より苛烈だった。

俺だって、訓練を経験を積んだ筈だ。なのに、どうしてーー

 

「これが本来のわたくしと貴方の差ですわ」

 

思考が読まれている様な言葉と共に、避けられないタイミングで放たれたレーザーにシールドエネルギーを勢いよく削られる。

直撃!?くそ、なんでだ!

焦りはISに伝わり、動きが雑になっていく。当然、そんな動きではセシリアの攻撃を躱せない。

 

「くそっ、まだまだやれる!」

 

「いいえ。チェックメイトです、一夏さん」

 

白式の背部ユニットに、ビットのレーザー攻撃が集中し、俺はそれを躱せず直撃。

アリーナの床に叩きつけられる。

 

「がはっ」

 

「弱い、はっきり言って弱すぎますわ。さようなら、一夏さん。好きでしたよ。

西村、交代しましょう」

 

地面で蹲ってる俺を絶対零度の視線で、見たセシリアは赤也と入れ替わる様に、シャルの相手をし始める。

不味い、早く立って援護に行かないと…!

だが、現実は非情だ。未だ、倒れている俺の眼前に赤也が立つ。

 

「随分とオルコットにやられたな、これじゃあ俺と戦う余裕はないか」

 

シャルと戦って来たというのに、涼しい顔の赤也。

 

「少しは自分の無力さを自覚したか?

なぁ、正義のヒーローさん。そのザマでどうするんだ?守りたいんだろ、デュノアを」

 

そうだ……俺はシャルを守りたいんだ。

デュノア社に都合よく使われてるあいつを……

俺は倒れたまま、手放してしまった雪片に手を伸ばす。手に取って、赤也を倒して……シャルの援護に。

あと少しで雪片を掴める。そんな距離で俺の手は赤也の右腕に掴まれた。

 

「残念だが、お前の空っぽの力じゃあ、こんな結果でも良い方だ。

誰も死なないからな。少しは、言葉の責任と現実を見る事を覚えてみるんだな」

 

赤也の輻射波動が放たれる。白式の少ないシールドエネルギーは瞬く間に尽きる。

そのまま、俺は置き去りにされ、セシリアと赤也の連携に追い詰められていくシャルを見るだけだった。

俺は……何もできないのか?……千冬姉の様に誰かを守ってやる事は出来ないのかよ……!

無力さを噛み締めながら、俺とシャルのペアは一回戦で敗北した。

 




最後の手を伸ばす一夏の手を掴んで、輻射波動を放つ赤也が悪役にしか見えない。

セシリアは自分の気持ちと決別し、一夏君は自分の弱さを自覚したようですが、どうなるでしょうかね。

ちなみに、赤也とシャルさんの戦いは、赤也がひたすら右目で予測してクローダで防ぎ続けていただけですのでカットです。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コネクションは大切だよな

あれ、俺はラウラ戦を書こうと思っていた筈だ。どうして、こうなった?
全ては、天啓が降りたのが悪い。


織斑・デュノアペアを破り、順調に勝ち進む俺たち。このペースで行くと、俺の目的であるラウラとの戦いは、昼休み後の準決勝で行われる事になるだろう。

 

「で、これ何?」

 

「コネクション作りの一環だと思いますわよ」

 

4回戦以降から、厳重な警備のもと、各国の重役達と話をする機会が与えられた。

とは言え、専ら三年生や二年生の為に用意されてる場所であり、一年生の姿はほとんどない。

いるのは代表候補生と俺か。織斑とデュノアは、一回戦敗退で此処に来る権利がない。

はぁ、出来れば俺も何処かに行きたいんだが……オルコットとたっちゃん先輩が派遣してくれた黒服さんがいるから逃げられねぇ。

 

「……ん?あの人は」

 

「どうかいたしまして?」

 

「すまん。少し、離れるぞ」

 

オルコットの答えを聞かず、俺は見つけた人物に歩み寄る。黒服さんが付いて来るが、これは致し方ない。

というか、たっちゃん先輩なら真実知ってそうだが。

俺が歩いて行くと、会談している重役達が寄って来るが、無視し目的の人物の前に立つ。

顎鬚を生やした厳格なその男は、俺が近づいて来たことに驚き、目を見開いている。

 

「どうも。俺に見間違いがなければ、デュノア社のアルベール・デュノアさんですよね?」

 

「そうだが……何か用かね?二人目の男性IS操縦者君」

 

じっと彼の目を見つめる。

疲れが色濃く見えるが、その目は澄んでいる。ふむ……娘を男装させて送り込む奴なんて、濁りきった目をしてると思ったんだが。

予想が外れた。この人と話してみるのも悪くないかもしれないな。

 

「少し、話がありまして。此処では、なんですから別室で」

 

「……良かろう。私に貸し出された部屋がある。まだ、試合は先なんだろう?

そこの黒服を連れて来て良いから、来ると良い」

 

「どうも」

 

アルベールさんが部屋の外へと歩いて行く。

戸惑った顔の黒服さんに、手を合わせ謝罪し、その後を追う。

 

『何をするおつもりですの?』

 

プライベートで通信か。ビックリするからやめてくれよオルコット。

 

『少し、話をするだけさ。試合には間に合うようにする』

 

『はぁ、止めても無駄そうですわね。適当に誤魔化しておきますから、行って来なさいな』

 

『おぉ…お前が甲斐甲斐しいとか気色悪いな』

 

『殴りますわよ?』

 

映像のやり取りはしてないが、これ絶対目が笑ってないな。

言葉の節々にも怒りが乗ってるし。

アルベールさんに付いて行くと、一つの応接室に案内される。仕事に必要な道具や書類が机の上に置かれているだけで、普通の応接室だ。

 

「座りたまえ」

 

「失礼します」

 

ソファに座り、対面に座すアルベールさんと互いに視線を合わせる。

アルベールさんは、ふむと一言呟き、口を開く。

 

「さて、用件は何かね?心配しなくても、此処に盗聴器や録音機械などはないよ」

 

やはり大企業の社長、雰囲気だけで圧倒される。

千冬との訓練を積んでなければ、目を回してたかもしれないな。

 

「シャルル・デュノアさんについて、聞きたい。なぜ、男装させて入学を?」

 

俺の言葉に髭を触り、溜息を吐くアルベールさん。

やはり、可笑しい。俺たちのデータが欲しくて、デュノアを送り込んだのなら、男装がバレた事実を知ってもっと派手に動いても良いはずだ。それを溜息一つで済ませたか。

 

「……娘は元気かね?」

 

「自分の置かれている状況に不満はあるようですが、元気ですね。俺は彼女とほとんど関わっていませんが」

 

「だろうな。君の雰囲気はそんな感じだ、私に接触したのは娘を想ってくれての事ではないのだろう?」

 

この人はさっきから俺の質問に答えてくれないな。まぁ、何かあるのかもしれないし、答えておくか。

俺の力はこの人に遠く及ばない。

 

「まぁそうですね。ただ純粋に貴方に興味を持ったからです」

 

「私にか?娘の事実をネタに脅すつもりかね?」

 

微塵もそんなことは思っていない顔で言ってくるアルベールさん。

はぐらかせれてる訳ではなさそうだが、本題に入ってくれない。

 

「そんな事しませんよ。それで、俺の質問に答えて頂きたいのですが」

 

「おっと、そうだったな。君は、少しでも触れたら壊れてしまうけれど、大切なものは側に置いておくかね?」

 

また質問か。でも、これは本題に繋がりそうだな。

 

「そうですね……俺は側に置いておきますかね、近くにあれば壊れないように守る事が出来ますから」

 

大切なものは手の届く範囲にあってほしい。

自分の知らないところで壊れるのは、とても嫌な気分になるし無力さを感じるからな。

 

「私は君とは逆だ。例え、もう見ることが出来なくなっても大切なものは、壊れないように安全な所に離しておく。

これが君の質問への答えだ。これで、十分伝わるだろう」

 

……あぁ、これはデュノア社も面倒な事になってるのな。

規模が大きいほど一枚岩で無くなるとは聞いたが、本当だったとはね。

益々、面倒だなこれ。アルベールさんも、不器用だしデュノア社自体も大変だし、当のデュノアは動く気ないし。

 

「はぁ、大変ですね。社長は」

 

「君のような若者に心配されるほど腐っていないさ」

 

ニヤリと笑みを浮かべるアルベールさん。

仏頂面を短時間で見慣れた所為か、違和感しか感じねぇなおい。

ただまぁ、この人は悪人ではないようだ。それだけははっきりとした。

 

「一つ、提案なんですが」

 

「何かね?」

 

「サードオニキスのデータと俺の生体情報を提供します。俺は、現状どの国や企業にも所属していませんから、手続きも簡単です。

その代わり、貴方の娘さんが自分で行動を起こしたら、それを支援してやってください」

 

俺の提案に目を丸くするアルベールさん。俺の後ろにいる黒服さんもかなり慌ててる。

 

「私としては魅力的な提案だが、君の利点がないぞ?」

 

そうだ。俺はデータを渡し、その代わりデュノアを助けるような行動をしている。

だが、これは断じてそんなつもりはない。その側面があるというだけで、俺の目的はそこじゃない。

 

「いえ、十分にメリットはありますよ。

貴方はとても良い人だ、娘の為なら泥を被る覚悟すら決めている。俺への貸しが出来たという事実を無には出来ないそうでしょう?」

 

ここまでの会話でこの人の覚悟と、人格は理解した。

凄まじく不器用ではあるが、人としては腐っていない。むしろ、立派な方だ。

企業のトップで、色々揉まれている筈だが、この人の善性は失われていない。そんな人間が、メリットが多い提案を受け取り恩義を感じない訳がない。

俺は、アルベールさんのその恩義を、自分が困った時に使える物にしたいだけだ。

俺の話を聞き、アルベールは笑い出す。そりゃ、腹を抱えて目に涙が浮かぶほどの大笑いだ。

 

「やれやれ、君は随分と豪胆な精神を持っているようだ。それと、鋭い観察眼もな」

 

机にあった書類の一つを俺に見せてくる。

なんだろう、図面か。ISの設計図のようだな。

 

「実は第三世代機の開発は既に始まっている。君が提供してくれるデータがあれば、一気に開発は進むだろう。

君がくれる恩義はとても大きい。私の一生を賭けて返せるかどうか分からないぐらいにはな」

 

いやはや困った困ったと続けるが、その顔には笑みが浮かんでいる。

なんだろう。思っていたより、貸しがデカくなりそう。

 

「君の提案を有り難く受け取ろう。娘の動き次第ではあるが、私に出来る最大限の助力を約束する。

もちろん、君にも個人的に色々支援するさ」

 

そう告げるアルベールさんの顔には、はっきりとした覚悟見て取れた。

 

「ありがとうございます。アルベールさん」

 

『時間になりますわよ。西村』

 

ここまで話、どうやら俺の時間が来てしまったようだ。

 

「時間はまだある。余裕がある時に頼むさ。赤也君」

 

「そうですか。では、失礼します」

 

一礼して部屋を出て行く。黒服さんが慌てて付いて来る。

さてと、これで俺にも多少の後ろ盾は作れたかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤也が出て行った後の応接室。

アルベールが一人、残されている。その顔には、笑みが浮かんでおり満足げだ。

 

「西村赤也君……経歴では判断のつかないところがあるようだ」

 

さてと、彼の試合でも見に行くかと動こうとした時に、来客を告げるノック音が響く。

 

「誰ですか?」

 

「轡木ですよ」

 

「く、轡木さん!?どうぞ」

 

その来客に慌てたように入るように告げ、アルベールはお茶を淹れる。

アルベールの慌てた声に笑みを浮かべながら、轡木が部屋に入ってくる。

 

「先程、西村赤也君と話していた事を教えてもらっても?」

 

「えぇ。わかりました」

 

アルベールは盗聴器や録音機械は無いと言ったが、隠しカメラがないとは言っていない。

応接室の映像は、リアルタイムで轡木に届けられている。

映像さえあれば、あとは追い詰めることが出来るという轡木の力量の高さが伺える。

アルベールは、轡木に赤也とのやり取りを隠さずに説明する。説明が進めば進むほど、轡木は笑みを浮かべていく。

 

「と、言うことが先程ありました」

 

「そうでしたか。それで、貴方はどうするのですか?」

 

「赤也君の提案通りにするつもりですよ。それで、貴方に頼みたいことがあるのですが」

 

「シャルル・デュノアさんが私に助けを求めたら、手伝ってあげて欲しいですかな?」

 

「その通りです。娘がどんな提案をするか分かりませんが、お願いします」

 

アルベールが机に額がつくんじゃないかと言わんばかりの深々と頭を下げる。

そこには大企業の社長の姿はなく、娘を心配する父の姿と男同士の約束を果たそうとする一人の漢の姿があった。

 

「……引き受けました。この轡木十蔵の持てる力を存分に使う事を約束しましょう」

 

「ありがとう……ございます……!」

 

あとは、シャルルいや、シャルロット・デュノアが行動を起こすのみである。

下地はこれでもかと言わんばかりに整えられた。

果たして、少女は自ら動くことが出来るのだろうか。

 




ほんと、なんでこうなった?
取り敢えず、次回はラウラ戦を書きます。

評価を下さる皆様、ありがとうございます!

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラウラとの戦いが始まった訳なんだが……

三日間、チームワークを強制される研修から解放された……
感覚が鈍って文章がおかしくなってないか、展開が変じゃないかとビビりながら投稿。


アルベールさんとの会談を終わり、順当に試合を勝ち進み、いよいよラウラとの試合だ。

データの譲渡は、試合が全部終わったら行うと約束をした。というか、連絡先をあっさりとくれた。

本当に、思ってたより、縁が強く結ばれてしまったな。

 

「さてと……オルコット」

 

サードオニキスを展開し、意識を切り替えると同時に、横に立っているオルコットに話しかける。

オルコットも、ブルーティアーズを既に展開しており、俺と同じように正面を見ている。

 

「準備は出来ていますわよ」

 

狙撃銃を構えるオルコットに緊張と言った様子は見られない。こういうところは、場慣れしてる。

とはいえ、この試合は俺の目的を果たすために必要な戦いだ。

 

「なら良い。だが、ラウラは俺が貰う、良いな?」

 

「…構いませんわ。一夏さんを貰ってしまいましたし。

仕方がありませんから、譲って差し上げますわ」

 

やれやれと言った感じのオルコット。

返答を聞き、俺は笑みを浮かべる。恐らく、かなり好戦的な笑みだ。

 

『さぁ、準決勝の対戦ペアがアリーナに出揃いました!既に、闘志は十分。

西村赤也選手と、ラウラ・ボーデヴィッヒ選手は互いに、好戦的な笑みを浮かべている!』

 

たっちゃん先輩のアナウンス通り、俺とラウラは開始の合図を今か今かと待っている。

 

『では、試合開始!』

 

たっちゃん先輩の合図を受け、俺はラウラへと距離を詰めていく。

瞬間加速ほどではないが、それなりの速度だ。ラウラがニヤリと笑みを浮かべる。

腕を俺の接近に合わせ、上げていく。

 

「突っ込むだけなら、猪でも出来るぞ」

 

そう喋るラウラの顔には、笑みとともに失望の様なものを感じる。

確かにこのまま、俺が突撃すればラウラのAICによって慣性を封じられ、やられるがままになるだろう。だが、俺は無駄にオルコットと話をしていたわけではないぞ?ラウラ。

 

「なら、これはどうだ?」

 

右腕を突き出し、ラウラのAICが発動する直前に輻射波動を最大出力で放つ。

考えついた一つの戦略。それは、AICが何かしらのエネルギーで空間に干渉するのなら、空間そのものが持つエネルギーを増幅させること。

俺じゃあ、考えつかなかったが、オルコット案の作戦だ。

輻射波動の原理は、高周波を放ち、対象の分子を高速振動させ熱量で破壊すること。それなら、空気中の分子も高速振動させる事ができるのでは無いか?とオルコットは考えた。

エネルギーは、分子の振動によっても得られる。これを利用し、ラウラが想定している空間エネルギーより、輻射波動による追加エネルギーで空間の持つエネルギーを増やしてやろうというのが作戦だ。

簡単に言えば、制御されるなら、それ以上の力を生み出せ!という訳だ。よく、考えるよなぁオルコットのやつ。

 

「チッ、そう来たか」

 

効果はあった様で、俺の動きは停止しない。

そのまま、蹴りかかろうと思ったがラウラの手刀が左側から迫って来たので、半歩下がって躱し、そのまま互いに距離をとる。

 

「……ただの猪ではなかったか」

 

「そりゃあな。現一年最強に手を抜くわけがないだろう?」

 

「ふっ、貴様とて教官に手解きを受けているのだろう?

それなら、こちらも全力で戦えるというものだ」

 

「よく言うぜ。最初っからその気だろう?」

 

「分かってるじゃないか」

 

ラウラが返答すると同時に、リボルバーカノンを放つ。クローダを展開し、受け流す様に防ぎ、俺の視界が塞がれたのを確認したラウラがAICで捕らえようとしてくるのを後ろに下がり、避ける。

そのまま、クローダを鈍器の様に振り回し殴りかかる。その全てが見切られ、避けられる。

 

「ふん!」

 

鬱陶しいと言わんばかりに、クローダを手刀で弾こうとするラウラ。悪いが、見えている。クローダに当たる瞬間に仕舞う。

今度は、瞬間加速を用いてラウラとの距離を一気に詰めようとするが、その瞬間ワイヤーブレードが四本飛んできて俺の進路を塞ぐ。

右目で予測しつつ、ワイヤーブレードを回避。その一本を右腕で掴み、輻射波動を放つ。

 

「中々やる。それなら!」

 

武装が壊された事に一切の焦りを見せないラウラ。

軍人に武装が壊れたから、慌てろってのを期待する俺が悪いか。チッ、それにしてもワイヤーブレードの動きが速く複雑になっていやがる。

予測しても行動が追いつかなくなる。少しずつダメージが蓄積していく。

そのうちの一本が、俺の右目近くを掠っていった。反射的にビビり、動きが鈍る。

 

「貰った!」

 

「しまっーー」

 

ラウラのAICに捕まる。

輻射波動を放つが、ラウラがそれを予測し予め、強く拘束をしているのかまるで意味をなさない。

勝ち誇った笑みで俺を見るラウラ。

 

「私の勝ちだ。西村赤也」

 

確かに俺の負けだろう。動きを完全に封じられている。

あと、ラウラはリボルバーカノンをゼロ距離で撃ち続ければ俺に勝つことができる。完全にやらかした。

俺の失敗だ。生物の本能とは言え、あそこでやらかすとは。

 

「…はぁ、何をやっていますの?」

 

ラウラに降り注ぐ、光線。流石のラウラもそれを無視することはできず、俺のAICを解除する。

はぁ、ほんとオルコットに貸しをまた作る事になってしまうとは。やらかしたぜ。

 

「くっ、イギリスの!」

 

篠ノ之を倒し終えたオルコットが、俺の支援をしてくれた。ただ、あとで何を言われるか分からない。

ラウラがオルコットに意識を割く。

 

「おっと、その隙を見逃すわけにはいかないな」

 

右腕を伸ばし、ラウラの胴体をがっしりと掴む。そのまま、輻射波動を放ち、エネルギーを削る。

 

「このっ」

 

ここに来て初めて余裕のない表情を浮かべるラウラ。

右腕を離さない様にしつつ、左手で手刀を受け流していく。ワイヤーブレードが巻き戻され、後方から迫ってくる。

それを背後に展開したクローダで弾く。

 

「このまま、行かしてもらうぞ。ラウラ」

 

「くっ、ならリボルバーカノンで!」

 

リボルバーカノンが照準を俺に合わせる。行かせてもうと言ったはずだラウラ!

サードオニキスのパワーを全開にし、ラウラを掴んだまま押し込む。

 

「うおっ!?」

 

俺の行動に驚いた表情を浮かべるラウラ。リボルバーカノンの弾は、焦った事と自分が動いてしまった事で、僅かにズレたところに着弾する。

うわ、通り過ぎただけで若干、シールドエネルギー減ったんだが。

純粋なパワーでは、サードオニキスが優っているらしく、そのままアリーナの壁に叩きつけ、一旦離れ、空中へと逃げる。

すると、俺がいた地点に、ワイヤーブレードが突き刺さり、リボルバーカノンによる爆発が起きる。

危ねぇ……動きが見えてて助かった。

 

「苦戦していますわね?交代しても良くってよ?」

 

オルコットが俺の横に飛んでくる。

その顔は、腹立つほど笑顔だった。俺が苦戦してるのが堪らなく嬉しいってかお前…

 

「吐かせ。苦戦はしてるが、負けてる訳じゃねぇ。それに、お前と戦って時とはまた違った楽しさがあるんだ。

さっきの支援は助かったが、今度は必要ない」

 

「ペア戦という事をボーデヴィッヒさんと同様に忘れてますわねその顔は……」

 

忘れちゃいない……いや、正直、忘れてた。

煙幕がそろそろ晴れる。いつでも反応できる様に意識を切り替える。

 

「……まだだ。私は負けていない」

 

煙幕から現れるラウラ。だが、その様子がどこかおかしい。

なんだ……この凄く嫌な予感と背筋に走る寒気は。

 

「……寄越せ!西村赤也に勝てる力を!」

 

まるで何かと会話していたかの様に、声を上げるラウラ。

直後に、凄まじい稲妻が走る。

 

「あああああああああっ!!!!!」

 

ラウラの絶叫が響く。そして、ラウラのISが溶けるように姿を変えていく。

 

「な、何が起きていますの?」

 

「お前が分からなきゃ、俺が分かるわけがないだろう…」

 

ハイパーセンサーで見えるラウラの姿が少しずつ泥のような何かに飲み込まれていく。

飲み込まれていくラウラが浮かべている表情は、明らかに苦しげだった。

 

「……わた……し…は………自分のままで……勝ちたいんだ……やめろ……がぁぁぁぁぁ!!」

 

何が起きてる!?あれは、ラウラが意図したものではないのか?

いや、さっきの言葉的にそれはない。感じ的に思っていたものと違うって事か?

 

『赤也くん!セシリアちゃん!早く、そこから逃げて!先生たちは、警戒レベルを引き上げたわ、ただの生徒に対処できる次元ではないわ』

 

たっちゃん先輩の言葉で俺が今、周りを見れていなかったことに気づく。

アリーナの観客席はすでに、非常事態に対応したシャッターが下されており、生徒達は避難していた。

 

「た……すけ……て……くれぇ……」

 

「ラウラ!?」

 

その言葉を最後に完全に飲み込まれるラウラ。

強者に拘るあいつが、助けてと言った。しかも、あの視線は俺を見ていた。

あぁ、くそっ。デュノアに偉そうに言っておいて、俺が助けてと差し出された手を取らない訳にはいかないよなぁ。

 

「説教ならあとで聞きますんで、たっちゃん先輩、師匠」

 

『ちょっ!?赤也くん!?』

 

ラウラに向かっていく俺に焦った声をかけるたっちゃん先輩。

プライベートでチャンネルが映像付きで、開かれ、千冬が映る。

 

『やれるのか?』

 

真剣な顔で端的に聞いてくる千冬。

すでに答えは決まっている。

 

「やります」

 

『なら、行ってこい。あとで、こってり叱ってやる、馬鹿弟子』

 

たっちゃん先輩が声にならない悲鳴をあげていた気はするが、プライベートチャンネルが切れる。

師匠にやれと言われたら、やるしかないぜ。

 

「ラウラ!」

 

声をかけるが、反応はない。

右側から、予測が役に立たない速度でドロドロの刀のような物が向かってくる。クローダをギリギリで展開し、防ぐがパワーが違いすぎて吹き飛ばされる。

体勢を立て直し、ラウラの方を見る。形を成していなかった泥は一つの形を形成していた。

 

「…予測が役に立たない……ハハッ、ラウラのやつどんな裏技を使いやがった」

 

その形を俺は詳しく知らないが、予測が役に立たない使い手はよく知っている。

剣を振るわれたことは無かったが、あの重心移動と速度は一人しか思い浮かばない。

 

「千冬のコピーか……そのものになってどうするんだよラウラ」

 

相対する泥が千冬のコピーだと判断する俺。

 

「わたくしもいましてよ!」

 

驚きで固まっている俺の意識を引き戻す声。オルコットの攻撃がコピー千冬に直撃する。

ビットを従えたまま、俺の横に降りてくるオルコット。

 

「シールドエネルギーに余裕はあります?」

 

「全部避ければ問題はない」

 

「直撃を食らった人の言葉とは思えませんわね……西村が戦うの言うのにわたくしがおめおめと逃げる訳には参りませんわ。

わたくしが支援します。アレにダメージを与えるのは、わたくしの武器では難しいですが、隙ぐらいなら作れるでしょう」

 

私、不機嫌ですという態度のまま、俺の手伝いをしてくれる旨を言ってくるオルコット。

それならその支援をありがたく受け取ろう。

 

「…あとで何を要求されるのやら。ふぅ、任せるぞオルコット」

 

「先ほどの分も含めて、一週間のご飯奢りで構いませんわ。えぇ、引き受けました西村」

 

コピー千冬を相手に、俺とオルコットの共同戦線が始まった。

……一週間奢りかぁ…金溶ける。そんな、どうでもいい事を考えていた。

 




たっちゃん先輩と千冬さんが管制室で揉めてそうだなって思いました(小並感)

セシリア対箒は、ビットと狙撃銃で剣で突撃してくる箒さんを一方的にしてました。
書いてて内容が薄すぎると思って、削除。赤也とラウラ戦の描写を頑張って長くしました。

誰か戦闘描写を上手く書く方法を教えて…

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手を伸ばすぐらいなら、俺にも出来る

コピー千冬戦決着です。


赤也とセシリアが、コピー千冬との戦闘を開始した頃。

本来なら、避難しなくてはならない重役の一人が、未だ避難せず彼らの戦いを見守っていた。

 

「アルベール・デュノアさん!早く、避難をしてください」

 

「ん?すまない、約束があるからここで待たして貰う」

 

痺れを切らして、避難を催促しに来た教師の言葉に対し、流すような声のトーンで椅子に座っている男。

アルベール・デュノアその人である。

足を組み、座っているその姿に万が一があれば、死んでしまうというのに恐れは感じられない。

その風格に飲まれる女性教員。彼女が無言で立ち去るまで、そう時間はかからなかった。

 

「ドイツも色々と黒い国だな。いや、このご時世真面な国家の方が少ないか。

イギリスのBT兵器は一定量から、難航しているという噂を話聞いたが……中々良い動きをしているじゃないか」

 

ドイツとイギリスにそれぞれ、言葉を漏らすアルベール。

だが、すでに彼の視線はその二人から外れ、西村赤也を見ていた。その視線は彼の一挙動全てを見定めると言わんばかりに注がれている。

 

「赤也君。君は言葉を持って私を動かした。ならば、次は力にて有用性を示して貰うぞ?」

 

その言葉とその姿は、力が劣り始めた企業の社長が持つ覇気ではなかった。

まぁ最も、言葉とは違い心の中では、例え弱くても力を貸すと思っているのだが。

 

「………お父さん…」

 

そして、そんな男の姿を見ていた金髪の男装女子の姿にアルベールが気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の神経をこれでもかと言わんばかりに研ぎ澄ます。予測が意味をなさなくても、右目の力はまだ使える。

動きの予兆を掴むだけで良い。あとは、必死で喰らい付くだけだ。

ふぅっと息を吐き、コピー千冬を見据える。

向こうに動きはない。なら、こちらから攻めるだけだ。加速しコピー千冬との距離を詰める。

刀の間合いに入った直後、重心がズレる。それと同時に予測に重なるように迫ってくる刀。

 

「うぉぉ!」

 

それを千冬が俺に見せてくれたように、手の置き場にし、自分の身体を持ち上げるようにして避ける。

当然、返しの攻撃が向かってくるが、それは避けない。避ける必要がないからだ。

オルコットの狙撃が、コピー千冬の顔面に当たり、その動きを怯ませる。その隙に、肉薄し、刀を持っている右腕をつかみ、輻射波動を放つ。

 

「うぉっ!?溶けた!!」

 

ベシャッっという音ともに、俺の掴んでいた右腕がドロドロになる。

おいおい、無人機の時みたいにパージするわけでもないのかよ。目の前で、再生していく右腕を見つつ俺はそんな感想を抱いた。

流石にずっと眺めているほどアホではないから、距離を取るがコピー千冬はそれに肉薄してくる。

至近距離で振るわれる刀を最悪でも、掠る程度に抑えつつ避ける。

 

「オルコット!」

 

「お任せを」

 

俺の言葉と同時に、ビットの攻撃と狙撃銃による計五本の光線がコピー千冬に突き刺さる。

このコピー千冬にラウラの意思があれば、避けたであろう攻撃。光線の全てが関節部を狙っている。

それを避けなかったコピー千冬は、動きを阻害され俺が一時離脱できる隙を作る。

 

「…はぁ…はぁ」

 

息が詰まる。呼吸が乱れる。

コピーであろうと、千冬が殺しにきているという事実は俺の精神衛生に優しくない。

それでも、やるしかない。師匠にやると宣言して、姉弟子に助けを求められて、ライバルの手まで借りて負けるわけにはいかない。

 

「……」

 

コピー千冬は、不気味にこちらを見ている。

オルコットの攻撃で受けたダメージも既に回復している。あの、ドロドロの装甲をどうやって突破するべきか。

そもそもなんであんだけ、ドロドロなのに装甲として成立してんだあれ?

 

「オルコット、ミサイルビットって予備はあるのか?」

 

「元々奥の手の一つですので、二発しかありませんわ」

 

「…ドロみたいだから吹き飛ばせないかと思ったが、二発じゃ火力不足か」

 

待てよ?腕を溶かして、輻射波動から逃れたという事はコピー千冬にとって輻射波動は脅威として成立しているのか。

それなら、アイツが溶かして回避する事の出来ない部分、胴体を掴むのが狙い目か。

ただ、ラウラがどこにいるか分からない。輻射波動で膨張死なんてさせたくないぞ。

 

「ぐっ…」

 

右胸周辺が痛みだす。この冷や汗が吹き出るような痛みは……よりよってこのタイミングか、サードオニキス。

思い出せば、ラウラとの戦いは自分をかなり追い込んで戦っていた。限界を超えていかなければ、勝てないと無意識に判断をしていたのだろう。そして、このコピー千冬。

俺が捻り出したところで、勝ち筋の見えない相手を前に集中してサードオニキスを動かしていた。

客観的に見れば、この状態が起きて当たり前だった。

 

「西村!?どこか怪我でもしたのですか!?」

 

オルコットが俺の様子に気づき、声をかけてくる。

心配するなという意味を込めて、左手を広げて突き出す。

それを見て、オルコットが不安げな表情を浮かべるが、一息吐くと同時に、真剣な顔になりコピー千冬の方に向き直る。

必死で意識が途切れない様に歯を食いしばる。

 

『生体反応を表示します』

 

急にサードオニキスの声が響き、右目にラウラがいるであろう場所とそこまでの深さが表示される。

俺を侵食し始めて、ついに俺が思っていた部分を読み取ったか?サードオニキス。

まぁ、良い。場所が分かれば、あとはコントロールの問題だ。

 

「オルコット……アイツの隙を大きく作れるか?」

 

「手持ちの武装を使い切ればどうにか……ってところですね」

 

つまり、一回だけのチャンスと言うわけだな。

失敗は許されない。

 

「ふっ…上等だ。お前のタイミングでやってくれ」

 

俺は俺で輻射波動のコントロールを始める。

最低出力では意味がない。あの装甲に阻まれる。だが、最大出力ではラウラごといく。

それなら効果範囲を、自分の右手周囲に合わせる。

対象に触れて放出していたものを、右手に纏う感じにコントロールする。イメージとしては、某ハンターの念の様な感じだ。

 

「……始めますわ」

 

オルコットがコピー千冬へと急降下していく。

ビットによるレーザーの雨を降らせながら、刀の間合いへと入っていく。当然、迎え撃つ様に刀を振るうコピー千冬。

オルコットは、ビットの全てをその刀を弾くに使う。結果として、コピー千冬の刀は、オルコットに当たる前に全てのビットを犠牲にして弾かれる。

 

「ここですわ!」

 

スカート部分に収納されている二発のミサイルビットをゼロ距離で、コピー千冬の顔面に打ち込む。

爆発とともに頭部が吹き飛ぶ。それでも、オルコットは止まらず、接近しながらチャージしていた狙撃銃で片足の膝から下を吹き飛ばす。

しかし、コピー千冬は左手にも刀を握り、その一撃がオルコットを吹き飛ばす。

 

「西村ぁ!!」

 

オルコットが頭部から血を流し、アリーナの土に汚れた身体で優雅さのカケラもなく声を荒げる。

これが合図だ。そう確信した俺は、瞬間加速でラウラがいるコピー千冬の胴体へと接近する。

輻射波動を纏わせた右手を胴体へと突っ込む。泥の様な装甲が面白い様に触れた部分が溶けていき、僅かにラウラが見える。

 

「ラウラ!」

 

声をかけるが、意識がないのか反応がない。

超至近距離で刀が振れないと判断したのか、コピー千冬が左手で手刀の形を作る。

勢いよく迫る左手が、サードオニキスの絶対防御を貫き、俺の脇腹に深々と刺さる。

 

「ガッ!?……」

 

思わず、身を引きそうになる。それでも、このチャンスを逃せば俺たちの負けは確定する。

右手をさらに押し込み、ラウラに触れるギリギリで輻射波動を解除する。

そのまま、ラウラへと手を伸ばすが、泥と脇腹に刺さる左手が邪魔をし、僅かに届かない。

 

「起きろ……ラウラ・ボーデヴィッヒ!!俺とお前は似た者同士だろ!

だったら、こんな千冬の偽物に飲み込まれてんじゃねぇ……テメェで抗ってみせろラウラぁぁ!!」

 

尊敬する師匠の紛い物なんて、俺もお前も嫌だろう。

俺もお前も強くありたいんだろう。なら、結論は一つしかない。目の前にこれに抗い続けるしかない。

 

「……全く……うるさい奴だ。貴様の声は暗闇の底でも聞こえたぞ」

 

眼帯が外れ、金色の瞳が俺を見る。

その目には初めて会話した時から、感じていた狂気はなく純粋に透き通っていた。

 

「ほら、手を伸ばせ。底から、連れ出してやる」

 

「……頼む。一人では暗闇は寂しすぎる」

 

僅かに空いていた距離がラウラの手によって埋まる。

俺はしっかりとラウラの手を握りしめ、コピー千冬から引きずり出す。

その瞬間、視界いっぱいに白い光が広がり、思わず目を瞑る。

 

『ありがとう。私の相棒を助けてくれて』

 

どこか凛とした声が頭の中に響き、俺は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めはそれがなんなのか分からなかった。

薄暗い空間の中、白衣を着た科学者達が何やら動いていた。彼らが熱心にその視線を注いでいたのは、なんの暖かみのない鉄の中に培養液の様な物の中に入れられている沢山の赤ん坊だった。

俺は声を出せず、科学者達にも認識されていない。干渉することなんて一切、出来ないまま時間が流れた。

時間が流れていくと、赤ん坊の成長と同時に数が減っていき、ある一定の年齢に到達したのは、片手で数えられるぐらいだった。

その片手で数えられるくらいの人数も、さらに減っていき残ったのは一人だけだった。

その一人を俺は知っている。ラウラだ。

 

「ふん」

 

まだ眼帯をつけていないラウラは、軍事訓練でかなり優秀な成績を修めていた。

エリートの名を欲しいままにしていた彼女に、何かの手術が行われた。

聞こえてくる言葉の全てを理解した訳ではないが、ISの適合性を上げるものらしい。その結果が金色の左目だ。

ただ、ラウラはここから一気に転落していった。

 

「落ちこぼれ」

 

「出来損ない」

 

こいつらを殴ってやりたがったが、俺の手は簡単にすり抜けた。

そこから先は千冬に聞いた通りだった。

視界が真っ暗になる。何も、映る筈のない視界に、ラウラが現れる。

 

「土足で入ってくるな、西村赤也」

 

「俺のせいじゃねぇよ。というか、それはお互い様だろう?」

 

ラウラが現れたと同時に、俺は自分の内側を見られたと感じた。

この感覚はラウラも味わったのだろう。なら、お互いがお互いの過去をこの謎現象で見たのだろう。

 

「「お前が力を欲する理由が分かった」」

 

俺とラウラの言葉が重なる。俺の過去なんてラウラに比べれば、上を知らなかった分、絶望せずに済んだ。

だが、こいつは元々上にいて落ちた人間だ。無力を俺より強く感じただろう。

 

「私は初めは、強かった。だが、お前の様に初めから弱ければ心が折れていただろう」

 

「知らないから生きていられる事もある。

俺は逆にお前の様に、上を知ってから落ちたら耐えきれない」

 

お互いに歩み寄る。

ほとんど、ゼロ距離で同時に握手する形で手を動かす。

 

「私はお前に救われた。私は、お前の強さを知りたい」

 

「俺はお前を尊敬する。俺は、お前の強さを知りたい」

 

意味合いは似ているが、違う言葉を交わす。

同時に笑い出すと同時に空間にヒビが入り、ラウラの姿が透けていく。

 

「この不思議空間も終わりだ」

 

「なら、今度は現実で話そう。菓子でも食いながらな」

 

「ふっ、私は和菓子を所望するぞ」

 

なんとも緩い会話をしながら、俺の意識は再び失われた。

それでもしっかりと繋いだ右手の熱はいつまでも感じられた。

 




次回は、戦後処理的なアレになるかと思います。

評価をくれる皆様、感想を下さる皆様、ありがとうございます。
とてもこの作品を書く意欲が湧いてきます!

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いの裏側で

事後処理まで行けなかった……完全に赤也くんの出番はありません。

コードギアス復活のルルーシュが楽しみです(小声)


一夏の場合

 

ラウラが姿を変えたコピー千冬が現れた時、誰よりも早く、動いた男がいた。

織斑一夏である。

千冬は拒否したのだが、山田先生や一部の教師を除く教師陣をいつのまにか味方にしていた一夏は、楯無と千冬がいる管制室にいた。

首を絞める、殺すのを厭わない姿を見せた赤也より、高校生らしい一夏の方を普通の教師が選んでしまうのはある意味、当然の帰結だった。

 

「千冬姉!」

 

一夏は、コピー千冬を見て勢いよく立ち上がり、千冬を見る。

その表情は言うまでもなく、『俺を出させてくれ』と語っていた。だが、肝心の千冬は赤也との通信で一夏を見ていない。

 

「…くそっ、なんであいつが…」

 

赤也に対する嫉妬の感情。

それを胸に抱きながら、千冬の了承を取らずに出撃しようと出口へと向かう。

 

「行かせないわよ?」

 

しかし、その進路を楯無が塞ぐ。

広げられた扇子には、『不許可』と書かれている。

 

「退いてください!」

 

「嫌よ。君、私が退いたら彼処に行くでしょ?」

 

一夏の苛立ちをぶつける様な声に一切、ビビる事なく返答する楯無。

 

「当たり前です!」

 

「あら?なんでかしら。別に貴方が行く必要はないわよ。

彼処には、赤也くんが居て、代表候補生のオルコットさんもいる。教師たちだって準備をしているし、君が彼処に乱入する意味なんてないわ」

 

飄々とした態度で、一夏の行動の無意味さを説く楯無。

だが、一夏にそんな理屈は通じない。

 

「今ここで、俺があいつに向かわなきゃ、織斑一夏じゃ無くなるんです!」

 

理屈なんて存在しない。感情論だけの言葉をぶつける。

楯無の発言通り、一夏があの戦場へ向かうメリットはない。赤也とセシリアは、互いに動きを理解しコンビネーションを取れるが、一夏には出来ない。さらに、あの二人と彼では技量が違う。

どうあがいても、一夏がお荷物になる。

 

「はぁ、それがなんだって言うの?」

 

だから、楯無はその言葉を受け取らないし、理解しない。

 

「なっ……それは俺が千冬姉の弟で……」

 

「姉の武器が、姉の技が姉以外に使われるのが嫌だとでも言うの?

なら、君が手にしているその白式の剣は何?君が拙い動きで、目指しているのは誰の動き?」

 

楯無の言葉に何も言い返せなくなる一夏。なぜなら、一夏の言葉の根幹が正にその通りだからだ。

自分が心の底から憧れている千冬の姿や動き、それを自分以外が行なっているのが酷く気に食わない。

 

「それは傲慢よ。織斑先生クラスの人の動きが研究されていないと思うの?

決して、貴方だけの存在ではないのよ」

 

まさしく、傲慢だった。

姉が自分を見てくれない、姉の動きを模倣する偽物が許せない。

これらの感情のすべてが、一夏の中にある千冬は自分を一番だと思ってくれている。自分なら姉の真似をするのも当然だ。

などと言った傲慢から来ている。

だが、本人はまるで認識できていない。だから、その行動を起こすのは分かっていた。

 

「俺がやりたいんだ……赤也にじゃなくて……俺があいつを倒したいんだ!」

 

言葉で通じないのなら、暴力に訴える。

実に分かりやすい子供の癇癪だった。一夏は走り無理やり楯無ごと、押し通ろうとする。

 

「はぁ」

 

溜息をと共に、センスがパチンと閉じる。

そして、一夏は自分の身に何が起きたのかまるで自覚出来ないまま、地面に叩きつけられた。

 

「ガッ!?」

 

一夏の口から酸素が全て吐き出される。背中に感じる鈍い痛みに一夏は悶える。

 

「実力差を理解出来ないのなら、そのまま倒れていなさい。それだけで、十二分に役立つわよ?」

 

皮肉を投げかける楯無。

その言葉に、苛立ちを隠そうともせず一夏は立ち上がり、楯無へと向かおうとする。

だが、その肩に手が置かれる。

 

「織斑」

 

千冬の手である。

たった片手で、一夏の動きその全てを停止させる。

 

「ち、千冬姉……」

 

そんな姉の只ならぬ空気を感じ取り震え声になる一夏。

千冬は一夏の肩を握る力を強める。一夏が痛みに悶えるが、それを無視して口を開く。

 

「大人しくしていろ。お前では、赤也達の邪魔になる」

 

一夏にとっては死刑宣告より重く苦しい言葉。

その言葉に膝から崩れ落ちる一夏。

 

「…せめて、人並みの力は付けるんだな。一夏」

 

崩れ落ちた一夏を一瞥しながら千冬は言う。

 

「(なんでだよ…千冬姉……俺だってやれる…俺にもやれるって言ってくれよ……)」

 

だが、その言葉は一夏には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットの場合

 

時間としては、全部が解決して少し経った頃。

来賓席で、ずっと戦いを観戦していたアルベールの前に、シャルロットが立っていた。

 

「……何か用か?シャルル」

 

シャルル、そう男装している時の名で呼ぶアルベール。愛し方の不器用なこの男、実はいきなり娘が目の前に現れた事で、内心穏やかではないのだ。

対峙するシャルロットも、父親の呼び方に僅かに怯んだものの口を開く。

 

「お父さんは……西村くんとどんな話をしたの?」

 

自分には助力しないと言いながら、ヒントをくれた男の名前を口に出すシャルロット。

明確な答えが定まっているわけではない。でも、彼の言葉と試合を通して、シャルロットは動いてみよう。

せめて、一歩でも少しでも良いから動き出そうと決めた。

 

「そうだな……漢同士の約束だ。そう簡単に話すわけにはいかない」

 

アルベールは答えを隠す。

彼はまだ、シャルロットの意思を確認していない。その段階で、赤也とのやり取りを漏らすわけにはいかないのだ。

不器用ながらも娘を想う父親の内心は、めんどくさく忙しい。

 

「(どうするか、何をしたいか早く言うんだ、シャルロット。私はなんでも受け入れる覚悟をしている)」

 

本当に不器用でめんどくさい男である。

 

「そっか……ねぇ、男装を辞めたいって言ったら怒る?」

 

ゆっくりとそれでも前に進むための一言を告げる。

胸の前で両手を握り、震えているシャルロットは今、恐怖の感情を感じているのだろう。だが、それでも一歩踏み出した。

 

「……そうか。辞めたいのなら、好きにすると良い。

その代わり、もうデュノア社の敷居を踏むことは出来ないぞ」

 

心を鬼にし、デュノア社から放逐すると言うアルベール。

もし、今彼女が男装を辞めれば、フランスやデュノア社は大きな混乱に巻き込まれる。ましてや、会社に潜むシャルロットを殺そうとする勢力に正当性を与えてしまう。

もう二度と、自分と娘の道が交わらなくても良いように発言するアルベール。

 

「ッツ!?」

 

当然、シャルロットは困惑と涙を浮かべる。

簡単に男装を辞めて良いと言われたこと。自分と父を繋げる僅かな繋がりすらも無くなってしまった悲しみ。

その両方が押し寄せている。

 

「どこまでも不器用な方ですね」

 

もし、この男がいなければ悲劇的な結末を迎えていたであろうデュノア父娘。

だがその結末は有り得ない。今しがた、この部屋に入ってきたこの男によって。

 

「く、轡木さん…」

 

「学園の長として、生徒の悩みには答えなければなりません。

シャルルいいえ、シャルロット・デュノアさん。貴女の悩みは、父から離れる事で完全に解決するのですか?」

 

圧力だけでアルベールを黙らせた轡木。

その圧力を一切、シャルロットに向ける事なく、質問を投げかける。

 

「それは……」

 

色んな事がありすぎて、パンク気味の頭で必死に考えるシャルロット。

自由は欲しかったが、家族の繋がりを失いたかった訳じゃない。

 

「もう…嫌です……また、家族を失うのは…僕はそんな自由はいらない!」

 

「シャルロット……」

 

娘の剥き出しの感情に戸惑うアルベール。

そして、漸く自分が娘にかなりの重責を与えていたと自覚する。危険から遠ざける為だったとは言え、もう少しやりようがあったのではないかと目を伏せるアルベール。

 

「そうですか。では、学園を守り生徒を愛する立場として、一つ。提案しましょう。

シャルロットさん、形だけ私の娘になりませんか?アルベール殿が、身内のゴタゴタを片付けるまでの一時的な処置です。

フランス政府は、私の伝手で黙らせる事が可能ですし、ここは治外法権の学園ですから」

 

轡木の提案を簡単に言うなら、自分の娘として学園に再入学し、表向きにはデュノア社との関係を断つという事だ。

IS学園の長であることと、治外法権を利用した提案である。

アルベールは、その言葉を一瞬、理解できなかったが理解した後、目元を手で押さえ、上を向く。

 

「……えっえぇ!?」

 

漸く事態を飲み込んだシャルロットの驚く声が響く。

柔和な笑みを浮かべている轡木と、おそらく涙が流れないようにしている父親に困惑しつつ、返答する。

 

「お、お願いします」

 

「えぇ。承りましたよ、アルベール殿よろしいですか?」

 

「なんと感謝すれば良いか……シャルロット、必ず身内のゴタゴタを片付けると約束する。

だから、その、なんだ。もう一度、親子に戻れたら落ち着いて話をしよう」

 

最後は恥ずかしさからか顔を赤くして、目線を逸らすアルベール。

今までずっと恐怖の対象だった父の、そんな顔を見て思わず笑いだすシャルロット。

 

「ぷっ…あははは」

 

「わ、笑うなよ…シャルロット」

 

そこには、まだ歪ではあるがしっかりとした家族の姿があった。

 




当初、まるで救済する気のなかったシャルロットさんがどうしてこうなった。
書いてみないと分からないもんですね。

無い頭でシャルロットの救済を考えましたが、大丈夫かな。

あ、Twitterで更新報告とかしてますので、興味がある方はフォローしてください。
マスターBTで検索していただけると、出てくるかと思います(露骨な謎宣伝)

感想・批判お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なんだかんだ騒がしい周囲

事後処理とかその他諸々を詰め込みました。



もはや恒例行事と化した保健室の天井が一番最初に目に入る光景。

目を数回閉じたり開いたりし、上半身を持ち上げる。

 

「起きましたか。おはようございます、赤也さん」

 

「…おはよう。神楽」

 

俺とは縁遠そうな厚さのある本を閉じて、ベットの横にある小さな机の上に置く神楽。

 

「今度は、右胸の上部、背中の一部が侵食されました」

 

やっぱり侵食が進んでいたか……左手で右胸に触れると神楽の言ってた場所から熱を感じない。

これ、今更だけど臓器とか神経とかどういう状態になってるんだろうな。

 

「…どれくらい、寝てたんだ?」

 

「時間としては…そうですね。二日間ほどです。お寝坊さんですね」

 

クスリと笑う神楽。言葉通り、まるで子供に向けるような笑い方に恥ずかしくなる。

にしても、二日間か。侵食とあのラウラとのよく分からん会話が起きたのが原因か。

 

「事実だから否定できねぇ……そういや、本音は?」

 

こういう時は本音がいつもいる気がする。

いや、自惚れかもしれんが…まぁ、見舞いがいるのにこう言った事を気にするのは失礼か。

 

「本音さんは……ずっと『九尾ノ魂』を作るために、空き時間の全てを使ってます。赤也さん」

 

神楽が辛そうな顔をしながら、俺の右手を両手で優しく包む。

神楽の暖かさが右手から伝わってくる。だが、俺は逆に冷たさを与えているのだろう。

 

「あまり、ご無理をなさらないでください。本音さんは、寝る時間も惜しんで力を手に入れようとしています。

友人達が無理を見ているのは、結構辛いんですよ?二人とも、基本的やると決めたら、全然聞いてくれませんし」

 

ギュッと包まれている手の力が強くなる。それだけ神楽の気持ちを表しているのだろう。

確かに俺たちの仲で、荒事関連には手を出せないのは神楽だけだ。本音もいずれ、戦いに出るだろう。

そうなれば、神楽はただ俺たちを待つだけになる。

 

「…すまん。神楽」

 

俺には謝罪しか出来ない。

 

「私は無事を祈る事しか出来ません。ですから、しっかり戻ってきてくださいね。

いきなり姿を消したら……私が満足するまで殴りますから」

 

にっこり笑顔を浮かべる神楽は、その笑顔に心配や恐怖を全部押し込んで、冗談を告げる。

全く…こういうところは敵わないな。

 

「それは困るな。心配しなくても、本音と一緒に戻ってくるさ」

 

「嘘は許しませんからね?」

 

儚さを感じるそれでも美しい微笑みを魅せられ、顔が熱くなるのを感じる。

慌てて視線を逸らす。一瞬とはいえ、見惚れてしまった。

 

「青春しているところ悪いが、邪魔するぞ。起きたかね、赤也くん」

 

「「うわっ!?」」

 

慌てて、声のした方に視線を向けるとアルベールさんがひょっこりとカーテンから顔を覗かせている。

え、なんでこの人まだIS学園にいるの!?

 

「その顔な心外だな赤也くん。君のデータを貰うと約束しただろう。

全く、これからやる事が山積みだと言うのに。あぁ、これにサインを頼む。口約束ではなく、正式な契約としてな」

 

矢継ぎ早に言葉を並べられ、書類を押し付けられる。

神楽が完全に目を丸くしている。俺も理解が追いついていないが、書類にサインをする。

内容なんてほとんど読めてないけど、この人だし大丈夫だろう。

 

「ふむ。書けたようだな、では少し痛むかもしれんが許してくれよ」

 

俺の右腕にコードが何本か刺さる。神経が共有されているから、僅かに痛むが注射された程度だ。

アルベールさんがパソコンを弄る。しばらく、全員が無言の時間が続き、アルベールさんのパソコンからピコンという音が聞こえる。

 

「よし、終わりだ」

 

コードを引き抜きながら満足げに頷くアルベールさん。

 

「では私はこれでフランスに戻らせて貰う。

赤也くん、何かあればすぐに連絡してくれ。必ず君の力になろう」

 

「…あぁ、そん時なよろしく頼むぜ。アルベールさん」

 

「任せたまえ。それと、ありがとうと言っておくぞ」

 

準備を終わらせたアルベールさんと握手をする。

そのあと、アルベールさんは保健室を出ていく。なんか、初めて会った時より覇気に溢れてたな…いい事でも有ったのだろうか。

 

「えっと今の方は…」

 

「フランスのデュノア社、社長。アルベールさん」

「ええっ!?」

 

予想していなかった大物に驚き声を上げる神楽。

その様子が普段の神楽らしくなく、俺は笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…入って良いか?ラウラ」

 

「きょ、教官⁉少々、お待ちを今すぐ開けますから」

 

肉体のダメージが回復しきっていない、ラウラが予想にもしていなかった来客に慌てながら、扉へと向かおうとする。

だが、ベットから立ち上がった位のタイミングで、扉が開き千冬が入ってくる。

 

「余り無理をするな、ラウラ」

 

まるでラウラが、そうすると分かっていたかの様な優しい笑みを浮かべる千冬。

 

「は、はい。では、この様な状態で失礼します」

 

自分に向けられた笑みに、為す術もなくベットへ倒れるラウラ。それを見て、千冬は近くの椅子を引き寄せ座る。

千冬がラウラに向けて何か言いたそうに口を開くが、それがハッキリとした言葉にはならない。

 

「えっと、教官?」

 

そんならしく無い姿に思わず、声をかけるラウラ。

ラウラの様子と声のトーンから自分が心配されていると悟る千冬。

 

「ふっ…弟子二人に心配されては立つ瀬がないな全く……」

 

「弟子とは…西村赤也のことですか?」

 

「そうだが、お前も私の弟子だぞラウラ。まぁ、赤也にそう言われて気づいたんだがな」

 

それまではただの教え子と一人としか見ていなかったと告げる千冬。

どこか吹っ切れた様に笑う千冬に、ラウラは一安心する。

 

「すまなかったなラウラ。私はお前に力しか教えられなかった」

 

そんな安心も束の間、頭を下げる千冬に困惑するラウラ。

 

「わ、私が今の様に居られるのは、教官が指導してくださったからです!」

 

「そう言ってくれるのはありがたい。だが、お前に教えた力は一方的過ぎた。

もっと色々な事を教えてやるべきだったよ」

 

頭を下げたままの千冬の肩は震えている。

 

「……教官。顔をあげてください」

 

ラウラにそう言われ、千冬が顔を上げる。

すると、彼女の視線に飛び込んできたラウラの表情は、満ち足りた優しい顔だった。

 

「私は貴女から学んだ事の全てが、間違いだったとは思っていません。

寧ろ、今、貴女に弟子と言われて嬉しさでどうにか何そうなのを抑えているぐらいです」

 

ラウラも赤也と同様に、千冬に幻滅することはない。

何故なら、彼女が間違えたと思っていても、自分を育ててくれたのは、間違いなく千冬なのだから。

 

「私はこれから西村赤也の強さを知ります。時間はかかると思いますが、その強さと貴女から学んだ力を合わせて、私なりの答えを見つけたいと思っています。教官、もし私が答えを見つけられたその時は、私と戦ってくれますか?」

 

随分と成長したと千冬は思う。

その一因に、赤也が関わっている事をなんだか不思議に思いながら、千冬はラウラと目を合わせる。

眼帯が外れ、赤と金の瞳が千冬を射抜く。そこには、力を求め過ぎていた淀みはない。

 

「…あぁ、その時は受けて立つぞラウラ。存分に、弟弟子から学んだ事を私に見せるといい」

 

「はい!」

 

好戦的な笑みとともに、返答する千冬に嬉しさを隠しきれていない声を出すラウラ。

 

「あ、私も弟子として認めて下さるのなら、私にも教鞭を振るって下さるのですか?」

 

「むっ、確かに赤也だけに教えるのは筋が通らないか。良いだろう、これからはお前も一緒に面倒を見てやる」

 

もし、赤也が居たら引き攣った笑みを浮かべているであろう約束が結ばれた。

それでも、千冬とラウラの嬉しそうな顔を見つつ、そっと溜息を吐くのであろう。そんな姿が千冬には想像できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が動く様になり、2日ぶりの出席。

まぁ、保健室から教室に向かうだけだから、学校内を移動してるんだが。

なんだろう、すごく視線が集まってる気がする。いや、気のせい気のせい。

 

「おはよう」

 

気楽な感じで、教室に入り挨拶をする。すると、教室にいた全員の視線が集まる。

え、なにこのホラー。

 

「えっと……なに?」

 

「「「良かったぁぁ……生きてたぁ……」」」

 

「うぉい!?勝手に殺すな!!」

 

漸く喋ったと思ったら、勝手に殺されてたという。

まぁ、嫌われてるのは自覚してるけどさ……

 

「なんだかんだタフな西村が、2日間も来なければそう思うのも当然ですわ」

 

「平穏に生きたいんだがねぇ…」

 

「おそらくそれは無理かと」

 

スッと、目の前に立っていたオルコットが退く。

するとその後ろに立っていたデュノアが俺の視界に映る。

 

「うわぁ!?急に退かないでよセシリア」

 

「西村に話があるんでしょう?なら、早く話してしまった方が良いですわよシャルロットさん」

 

なんか知らん間に仲良くなってるな。

というか、デュノアの格好が女子の制服になってる?

 

「デュノア、その格好…」

 

「あ、うん。僕なりに頑張ってみたんだ。それと、僕は今、シャルロット・轡木だよ」

 

「…ほぅ、そんな度胸があったとはな。俺の目もまだまだ甘い」

 

てっきり織斑に頼りきりだと思っていんだがな。

それと、アルベールさん…娘を遠くにやりすぎでは?

 

「それでね…ありがとうって言っておこうと思って」

 

「お礼を言われる様な事をした覚えはないが?」

 

「君がそう思ってるのなら、それでも良いよ。でも、僕が言いたいんだ。ありがとう、赤也」

 

「そうか。なら、受け取っておく轡「シャルロットって呼んで?」いや、轡「シャルロット」話を聞いてくれ、く「シャルロット」……分かったよ。シャルロット」

 

呼ばない限り、RPGの村人の如く、同じ言葉を続けるシャルロットに根負けする。

くそ、視界の端で笑ってんじゃねぇぞオルコット。

 

「よろしい」

 

満足げに頷くシャルロット。

 

「仮にも恩人にする態度じゃないと思うんだが」

 

「えへへ。でも、僕も知ったからね。諦めないで動くことの大切さそれと、欲しかったものが手元に来る嬉しさも。

だから、僕はそう簡単に諦めないからね、赤也?」

 

シャルロットの目を見て悟る。アルベールさん、絶対、いらん事喋ったな。

はぁ、と溜息を吐くと同時に背後からの衝撃に少し、バランスを崩す。

 

「あかやんだぁ〜」

 

「本音さん、赤也さんは病み上がりなんですから」

 

俺の背中にぶら下がる本音と、本音を下ろそうとする神楽。

 

「突然、走り出したと思ったらこれなんですから……」

 

「俺は大丈夫だ神楽。ほれ、本音、飴食うか?」

 

ポーンと包装紙を外して投げ飴玉。後ろから、パクっという効果音が聞こえ、満足そうな本音の声が聞こえる。

本音用にポケットが飴で一杯の俺に死角はない。

 

「んー、美味しいぃ〜」

 

「それは何より。さてと、とりあえず席に着こう。入り口は邪魔になる」

 

本音を背負ったまま、自分の席へと向かう。

オルコットと神楽は、そのまま自分の席へ、シャルロットは俺に着いてくる。

すると、本音の後ろ。即ち、俺たちの後ろの席に見覚えのない席が二つ用意されている。その片方に、ラウラが座っている。

 

「ん?お前、その席だったか?」

 

「教官に頼んで席を変わった。隣は、シャルロットだぞ。再入学の形になったからな」

 

本を読んでいたラウラが視線をあげつつ、返答する。

あぁ、だからシャルロット着いてきたのね。

本音を俺の隣の席にゆっくりと、下ろし、俺も座る。シャルロットもラウラの隣へ座る。

 

「で、なんで俺たちの後ろに?」

 

「ふっ、私はお前が知りたいからな。この席なら、いつでもお前を見ることができる」

 

行動的ですねラウラさん。でも、言葉選びはしっかりして欲しいなぁ…

クラスの女子達が新たなネタを見つけたと言わんばかりに目をキラキラさせている。

 

「…まぁ、退屈しなそうで済むから良いか」

 

「嬉しいなら素直に嬉しいと言うべきだとお姉ちゃんは思うぞ」

 

「「「「お姉ちゃん…!?」」」」

 

ラウラの発言に俺を含め、クラスメートが固まる。

いや、なんて言ったラウラ?

 

「お姉ちゃん…?」

 

「そうだぞ。教官に師事を受けたのは私が先だ。これを姉弟子と言うのだろう?

なら、私は赤也のお姉ちゃんではないか」

 

俺の呟きにラウラが反応する。

誰だ、誰がこんないらんこと吹き込んだ!?

 

「誰からそう教わったんだ?」

 

「我が部隊の優秀な副官にだ!」

 

「だから…誰なんだよ……」

 

一回、ラウラの部隊には常識チェックのテストでも受けさせたらどうだ?

どうにか辞めさせようと足掻いたが、無理だったと報告しておく。

いつか、ドイツに行く機会があったら、覚えておけよ…副官…

 




これも全部、優秀な副官ってのが悪いんだ……

次回は水着選びか、一夏騒動か、まだ決めてません。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おや、織斑の様子が…

さてとうちの問題児に漸く変化が……


感想100突破!お気に入りが1000突破!
みなさん、ありがとうございます!モチベと書く意欲がどんどん補填されてます。
これからも楽しんでいただけると嬉しいです。


放課後。本来なら、千冬との稽古をしているはずなんだが、俺は今剣道場に来ている。

と言うか、連行された織斑に。

え?お前なら逃げられるだろうって。ラウラがついでに、俺の体術を見ると言って泣く泣く連行されたよ。

 

「で、何するんだ?」

 

「その前に少し話がしたい。構わないか?」

 

「構わないが…観客も多いが良いのか?」

 

俺と織斑は互いに向き合う形になっているのだが、俺の側に本音と神楽、ラウラにシャルロット。

ちょうど中間地点に、オルコットと暇をしてたクラスメート数人。織斑の方に、篠ノ之と凰がいる。後、序でに入り口の方に気配を消してるたっちゃん先輩と千冬か。

 

「あぁ、構わない」

 

「そうか。じゃあ、早くしてくれ。俺もそんなに暇じゃない」

 

首の骨を鳴らしながら、織斑へと返答する。

やたらと真剣な顔の織斑。何を聞かれるのかね。

 

「まずはシャルに何をしたんだ?」

 

あぁ、これ複数要求あるタイプだ。めんどくさ。

ちらりとシャルロットを見ると、あははっという感じで頬を掻く。

色々、機密事項が多いし、説明できなかったか。

 

「さぁな。俺は何もしていない」

 

実際、アルベールさんとの契約はしたが動く決意をしたのも、動いたのもシャルロット自身だ。

そこに俺の意思は一切、関与していない。

だから、俺が織斑に回答する答えは持ち合わせていない。

 

「あくまで隠すのかよ……じゃあ、次だ。千冬姉の弟子ってのは本当なのか?」

 

「本当だ。否定する気もないし、嘘を吐いているつもりもない。

お前が信用するかは自由だが、俺はあの人を尊敬しているし、師匠として慕っている」

 

面倒ごとを避けるのなら、弟子ではないと答えるのが最善だろう。

だが、正解じゃない。あの人の弟子であることを偽るのは、最大の無礼だ。

 

「……そうかよ」

 

竹刀を正面に構える織斑。

どうやら話は終わりのようだ。俺に剣を使う技量はない。

 

「どっちかが参ったっと言うまで続ける。それで良いか?」

 

仮にも素手の人間にそれを聞くかね。まぁ、構わんけどさ。

理解する気もないが、こいつにはこいつの鬱憤があるらしい。しかも、俺が原因ときた。

逆恨み、とは言わん。俺も俺で褒められた行動をしている訳ではない。

 

「良いぜ」

 

だが、負けてやる気もサラサラない。稽古時間が奪われてるんだ。

せめて、武器を持ってる相手との立ち回りぐらい覚えさせてもらうぞ、織斑。

 

「はぁ!」

 

ダンッ!という音ともに踏み込んでくる織斑。だが、遅い。

右目に意識を割く必要もない。ふつうに見える。

上段から振り下ろされる竹刀を、右腕で受け流す。うん、鉄だから良いけど普通の腕だったら絶対痛い。

そのまま、織斑と位置を入れ替えるだけで何もしない。

 

「……」

 

明らかな隙を見逃されて、苛立ちでも感じたのだろうか。鋭い視線を向けてくる。

正直、そんな視線を向けるより前に動けと思うが…

とりあえず、左手の指を動かし挑発する。

 

「この!」

 

案の定、簡単に血が上ったようで、読みやすい突撃をしてくる。

さっきとは違い、竹刀を細かく振るってくる織斑。それらを避けつつ、暇なので左手で握り拳を作り、軽く織斑の顔を目掛けて放つ。

流石に多少の体術は身につけているのか、避けられる。だが、竹刀の振りが疎かだ。

横にズレるように避け、織斑の進路方向に右手を差し出す。それだけで、自分の勢いを止めきれず、喉に俺の右手が当たる。

 

「ゲホッ」

 

呼吸を止められれば当然だか、咳き込む。

隙だらけだな。俺は、左足を回し蹴りの要領で、織斑の腹に叩き込む。

 

「ぐっ!?」

 

くの字に曲がる織斑。反撃と言わんばかりに、竹刀が振られるがスピードも力もないただの振り回しだ。

右手で受け止める。

 

「…こんなもんか。んじゃ、とっとと終わろう」

 

右手の力で竹刀をへし折る。

織斑の武器を破壊し、一本背負いの形を作る。織斑も当然、暴れるがもう遅い。

勢い良く地面に叩きつける。

 

「「一夏!!」」

 

篠ノ之と凰が叩きつけられた織斑へと駆け寄っていく。

それを横目で見つつ、へし折ってしまった竹刀のことを考える。

やべぇ、学校の備品かこれ。それなら、弁償しないと……オルコットに飯奢りがあってただでさえ金欠になりかねないというのに…

 

「…まだだ……俺はまだ、負けてねぇ……」

 

篠ノ之と凰を押しのける様に織斑が立ち上がる。

はぁ、まだやるのかよ……織斑じゃ訓練にならないんだがなぁ。

 

「得意分野で勝てないのにやるのか?」

 

「まだ、わかんねぇだろう!!」

 

右手を振りかぶり、走ってくる織斑。

ただの体術なら悪いが、俺の得意分野だ。織斑の右手を、外側に回り避ける。そのまま、織斑の肘に左手を当て、右手で手首を捻りあげる。

背後にそのまま、回り込み関節を極め、足払いをして織斑を組み伏せる。

 

「がっ!?くそっ」

 

「無理やり動けば関節が外れるぞ。降参をお勧めするが?」

 

グッともう一度、関節を極める。苦痛に織斑が顔を歪める。

 

「俺の……負けだ……」

 

ボソボソと織斑が負けを認める。その声を聞いて、解放する。

ふぅ、無駄に疲れた。

 

「一夏!大丈夫か?西村、貴様っ!」

 

「篠ノ之、俺を睨むのは勝手だが、事の発端はそっちだ」

 

なんで戦いを始めた奴より、俺が悪いみたいな視線を向けられなきゃならんのだ。

何やら吠える篠ノ之を無視し、本音達のところへ向かう。が、今度は凰に進路を塞がれる。

 

「…お前もなんかあるのか?」

 

「ないわ。ただ、一つだけ言っておこうと思って」

 

「なんだ?」

 

「一夏の我儘に付き合ってくれてありがとう」

 

それだけ言って、俺の横を通り過ぎる凰。

なんだったんだ一体?まぁいいか。

 

「おかえり〜」

 

「ふむ。様子見をし過ぎじゃないか?」

 

いの一番に声をかけてくるのは、本音とラウラ。

とりあえず、本音からスポドリを貰い、軽く飲む。乾くほど動いてないしな。

 

「ただいま、本音。そうは言ってもなラウラ、俺としては武器持ちの相手への対処も学びたかったからな」

 

「そういう事か。なら、お姉ちゃんとの稽古はナイフを使うとしよう」

 

「だから、姉言うなって……あぁ、そうだ。シャルロット」

 

相変わらずのラウラを流しつつ、シャルロットに視線を向ける。

 

「ん?何かな赤也」

 

「デザート一品、お前の奢りな。色々、察しはつくがそれで許してやる」

 

「察しがつくなら、奢らなくてもいいんじゃないかなぁ…まぁ、迷惑をかけたみたいだしそれぐらいは良いけど」

 

むぅとむくれるシャルロット。甘味ぐらい良いだろう。

俺はオルコットに飯を奢るんだぞ……

 

「一応、タオルを用意していましたが、必要ありませんでしたね」

 

「まぁ、汗をかくほどしゃないからな」

 

「折ってしまった竹刀の件はお気になさらず。部長には説明しておきますから。

おそらく、織斑さんの支払いになるかと思いますよ」

 

おお、それは助かる。神楽のお陰で余計な出費をしなくて済みそうだ。

こうやって気楽に話せる連中は有難い。息抜きになるし、楽しい。

俺はこのまま、本音達と話しながら剣道場を出る。気配を消していた2人はもういない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

赤也に負けた。ISでも勝てず、生身でも負けた。

シャルは何があったのか俺にはまるで教えてくれず、千冬姉もすでに赤也とボーデヴィッヒの面倒を見ているからと、俺に何も教えてくれない。

 

「一夏、大丈夫か?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ箒」

 

道場の畳の上で倒れたまま動かない俺を心配した箒が俺に声をかける。

悪い、箒。あんまり、他人を気にしていられる状態じゃないんだ俺。

 

「箒、行くわよ」

 

「だ、だがな鈴!一夏が!」

 

「誰にだって1人になりたい時ぐらいあるのよ」

 

鈴が箒の手をとって、引っ張って行く。正直、有難い。

今の精神状態だと何を言うか分からない。箒ともめながら、入口へと向かう鈴。

その途中で立ち止まる。

 

「一夏。八つ当たりなんてみっともないわよ」

 

それだけ言って剣道場を出て行く。剣道場は俺一人だけになる。

にしても、八つ当たりか。確かにそうだ。赤也が気に食わなかった。

千冬姉の信頼を俺より得ているのが。

シャルがいつのまにか自由になっていたことが。

そして、そんな奴が俺より圧倒的に強いのが。

 

「…ハハッ、餓鬼かよ俺は」

 

こうやって差を見せつけられてもなお、俺の感情の中には赤也に対して負のものが多い。

分からない。なんで、千冬姉があいつを贔屓するのか。

分からない。あんな酷いことを言われたのに、シャルが赤也の横で笑っているのか。

こんな感情も、赤也と戦えば分かると思った。でも、結果は変わらない。

俺とあいつの差は一体何なんだ?

 

「強くなれば、俺にも理解できるのか?」

 

白式の待機状態を見つめる。鈍く、光を反射するだけで答えは返ってこない。

俺もあいつの様な強さがあれば、誰かを守れる様に……千冬姉の様になれるのか?

 

「織斑くん?そんなところで、寝ていると風邪を引きますよ?」

 

ふわふわした声で俺の意識が戻される。

飛び起きながら、声の方を見ると俺の行動に驚いている山田先生がいた。

 

「ひゃぁ!?急に起きないでくださいよ。びっくりしたじゃありませんか」

 

心底驚いた様子の山田先生。そういえば、日本代表候補生だったんだよな?

 

「山田先生!」

 

「は、はい!」

 

背筋を伸ばした俺に反応する様に、背筋を伸ばす山田先生。

 

「俺に戦い方を教えてください!!」

 

頭を勢い良く下げて、山田先生に頼む。

俺も強くなりたい。強くなって、誰かを守れる様になりたいんだ。

この後、自信なさげに断ろうとする山田先生に何度も頼み込み、訓練を見てもらえることになった。

 

 




まだ空っぽだが、強くなるための訓練をする覚悟ぐらいはした模様。

私の前作を読んでくださった方なら、知ってると思いますが、私はアンチをしますがずっとそのままというのが苦手です。特に、私の作品のオリ主は性格が基本、悪役向きなので一夏とはまるで噛み合いません。
そのせいで、アンチの空気になりますが、オリ主がいるのなら、主人公の性格や行動にも何らかの変化が起きるだろうと思っていますので、今回の様な話を書きました。
ただ、赤也と一夏が仲良くなるかと言われたら、それはまた別問題ですので。

長々と書きましたが、どうなるかは私にも分かりません。プロットが存在してませんので。

感想・批判、お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思っていたより、決別は辛い

いよいよ、家族との会話回です。

大学でスマホ使いながら書いたから、少し変なところありそう。


「はぁ…」

 

物凄く憂鬱な気分が俺を支配する。手に持つ携帯に表示されてる文字は、端的に『親』とだけ書かれている。

親指を動かして、通話ボタンを押せば繋がる。そんな簡単な行為すら憂鬱だ。

とはいえ、折角、千冬が部屋を出て行き俺を一人にさせてくれたというのに、本題から逃げてたら意味がない。

 

「…シャルロットにあんだけ言って、俺が逃げるのもあれだよな……はぁ」

 

溜息が止まらない。

それでも使命感で指をゆっくりと動かす。それでもあと少しで液晶に触れるというところでまた止まる。

情けねぇ…情けねぇぞ俺…

自分の情けなさに、地味にメンタルをやられる。

 

「あかやん〜お邪魔するよぉ〜!」

 

「うおっ!?」

 

本音が勢い良く部屋に入ってくる。俺はびっくりして声をあげる。千冬のやつ、鍵開けたままにしたのか。

一瞬の沈黙が部屋を支配する。そして、その沈黙は一瞬にして破られる。

 

『プルルルル、プルルルル』

 

驚いた拍子で通話ボタンを押してしまった……

 

「えっと…手伝いを頼もうと思ったんだけどぉ〜電話するなら、私戻るね?」

 

「い、いや居てくれ本音……情けないが頼む」

 

俺の声が震えているのに気づいた本音が、トコトコ歩いてくる。

そのまま、俺の右側にストンと座り、俺の右腕を弄りながら、ふわりと笑う。

不思議なことにそれだけで、憂鬱な気分が軽くなる。

さっきまでは重かった左腕もすっと持ち上がり、耳に携帯を当てることができる。

しばらく、コール音が続いたあとガチャリと音がする。

 

『随分と遅い連絡ね。あんた』

 

「……色々あって連絡が遅れた。母さん」

 

久しぶりの母親の声だ。相変わらず、男の俺と話すのが嫌なのか不機嫌なトーンだ。

ただまぁ、出るだけ驚きだが。

 

『ふん。それより何の用?』

 

「すでに知ってると思うけど、ISを動かした。その件について、なんかあるんだろう?

今なら時間があるから、応答できる」

 

『そう。なら、用件は簡単よ、そのISを桃花に渡してあんたは国の発展のために研究所にでも行きなさい。

良いわね?それとも、私に逆らうつもりかしら?』

 

予想通りの言葉をどうもありがとう。やっぱり、俺はこの人に愛されていなかったようだ。

研究所。その言葉の意味が分からないほど、うちの親は馬鹿ではないだろう。

 

「死ねと。俺に言うのかあんたは」

 

『口の利き方がなってないわね!?』

 

あぁ、始まったこのヒステリックは何度聞いても慣れない。

まともに受け取る必要はない。そう分かっていても、トラウマは簡単には払拭できない。

 

「……ふぅ、今はあんたより俺の方が力がある。この意味くらい分かるよな?」

 

『はぁ!?ISを動かしたぐらいで良い気にならないで!!

あんたは男。この世界の圧倒的な弱者なのよ!そもそも、あんたがISを動かさなければ、私達はバラバラにならずにすんだのよ!』

 

その私達に、俺と父さんは含まれていないのだろう。

だって、もう家族なんてバラバラじゃないか。

 

「責任転嫁だと思うが?」

 

『白奈との連絡が取れないのよ!あの子はISに乗りたがっていたのよ。でも、適性がなくて漸く諦めがついたって時にあんたのニュースよ。私にはあの子が憐れで仕方ないわ』

 

白奈姉さんまで、姿を消したのか。

変にプライドの高い人だったから、弟が動かしたことに絶望でもしたのか?

いや、そんなことするなら俺に盛大な嫌がらせをするはずだ。

 

「そうか。母さん、今まで育ててくれた事には感謝する」

 

『当たり前よ!』

 

「でもそれだけだ。父さんも俺も白奈姉さんも、家から出ていったんだ。もう、家族として終わりだろう」

 

『な、何を言ってるの?赤也』

 

……ここまで来て漸く、俺の名前を呼んだか…

そんな縋る様な情けない声で呼ばれたくなかったよ。

 

「分からないか?もう、俺は貴女の家族でいるつもりはない。さようなら、せめてこんな別れ方にならないことを祈ってたよ」

 

騒ぐ声を無視し、通話を切る。

携帯を放り投げ、着信音が五月蝿い携帯を遠ざける。

 

 

「あかやん」

 

「…付き合わせて悪かった。そっちのー」

 

最後まで言葉にすることが出来なかった。

本音が背伸びをして、俺の頭を優しく撫でたからだ。

くすぐったい感覚と共に心地よい安心感が、俺を支配する。

 

「あかやんは、一人じゃないよ。大丈夫」

 

本音の優しい声が、暖かい手が俺の目を熱くする。

涙が出そうだ。

 

「辛いときは泣いていいんだよ。今なら、私しか居ないから…ね?あかやん」

 

膝から力が抜けて崩れる。

どうやら、体も精神も疲労しているようだ。

 

「…あの家族とはいずれ、離れるつもりだった。

でもいざそうなったら、この様だ…」

 

「うん」

 

「情けないよな…別れを切りだそうとしたら、恐怖心や孤独感以上に、幸せだったときの事が頭を過るんだよ…何度も、何度も散々な目にあってるのにな…」

 

「情けなくないよ。あかやんに命を助けて貰った私やかぐっちは、そんなこと思ってないよ」

 

本音に頭を撫でられながら、俺の体はゆっくりと本音の方に倒れていく。

そのうち、俺は頭を本音の胸に当てるように抱きしめられる形になる。

あぁ…今俺は人の温もりを求めていたのか。

 

「…少しだけ甘えても良いか?」

 

本音の方を見るのが、何故かとても恥ずかしくそのまま声をかける。

 

「良いよ。あかやん」

 

耳元で囁かれた優しい声に、俺はついに耐えることが出来なかった。

涙が俺の意思を無視して、流れだし声を圧し殺しても呻くような声が出た。

本音の胸を借りて、俺は情けなく泣いた。その間、ずっと本音は俺の頭と背中を優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本音、ありがとう。もう、大丈夫だ」

 

極力、本音の顔を見ないようにして、スッと離れる。

ぐぅぅ、思いっきり泣いてしまった。

 

「もう良いのぉ?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「残念だぁ~あかやんが泣いてるの可愛かったのにぃ~」

 

えへへと笑う本音。

男に可愛いとかいう要素を求めないでください。お願いだから。

 

「そ、それより本音、なにか俺に手伝ってほしい事があったんじゃないのか?」

 

「そうだったよ。九尾ノ魂の起動テストに付き合ってほしいの」

 

「もうそこまで組み上げたのか……分かった」

 

ISスーツと簡単な荷物だけパパっと用意する。

千冬から預かったカギで施錠し、本音とともにアリーナへ向かう。

道中で弄られつつも、アリーナに到着する。

 

「じゃじゃーん、これが完成した九尾ノ魂です~」

 

白が多めの紅白なISがたたずんでいた。特徴的な非固定の背面ユニットとスマートな装甲が格好いい機体だ。

整備科の技術力の結晶、それが九尾ノ魂。

 

「格好いいな本音」

 

「そうでしょ~」

 

誇らしげに胸を張る本音。あぁ、全く格好いいな。

機体もこれを作り上げた本音や整備科の人達も。

 

『あー、私たちだって手伝ったんだからねー!』

 

アリーナのスピーカーから、整備科の人であろう声が聞こえる。本音が管制室の方を向いてごめーんと手を合わせる。

 

『時間もそこまでありませんから、起動テストを始めますよ』

 

「はぁーい」

 

布仏先輩だと思われる人の声に敬礼し、本音は九尾ノ魂へと触れる。

 

「いくよ。九尾ノ魂」

 

その声と同時に九尾ノ魂が光輝き、本音の身体に装着される。すでに設定は済んでいるため、本音は感覚を確かめるように動く。

 

「うん、問題ないかなぁ~」

 

『分かったわ。では、実戦テストを始めます。

西村君、準備して』

 

起動テストって聞いてたんだけどなぁ。

まぁ、良いか。適度に本音と戦う様にしよう。

目を閉じて、右腕に意識を集中させ、サードオニキスを展開する。

 

「よぉーし、いくぞぉ!」

 

「適度に頼むぜ。本音」

 

この日は本音のテストにずっと付き合った。

少し疲れたが、母親との会話で荒んだ精神には癒しだった。なにかしら、本音に礼を用意しないとな…

 

 




九尾ノ魂完成!
これからは、本音さんも戦いの場に……赤也のメンタルが削られそう。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水着を買いに行きますかね

構想の練り直しが終わった部分を投稿です。
一、二ヶ月とはなんだったのか……とりあえず、楽しんでいただけると嬉しいです。




グリッドマン、面白いですね。


物が乱雑に置かれ、ありとあらゆる所へ伸びている配線。足の踏み場もないその部屋の中央で複数のモニターにそれぞれ、別のデータを入力している女性が一人。

目にははっきりとクマが浮かんでおり、投げ捨てられた容器には『栄養剤』と書かれている。

おそらく、まともな睡眠や食事を取っていない事が伺える。

だが、その顔に苦痛の感情はなく、寧ろ逆の笑みが浮かんでいる。全てを嘲笑う神の様な笑みが。

 

「モルモットとして、こーんなにも有用だなんてねぇ…」

 

複数あるモニターの一つには、『モルモット二号』と表示されており、様々なデータを秒単位で更新し、映している。

そのデータを右手で処理しつつ、動いていた左手が止まる。どうやら、一つの作業が完結した様だ。

 

「『紅椿』かんせーい!ふふっー、箒ちゃん待っててねーこの束さんお手製のISをプレゼントするよ!」

 

鎮座する紅いIS。天災が愛する妹の為に生み出した、『第四世代』IS。

性能で言えば、正しく現行ISの頂点に君臨する。

満足そうに紅椿を眺めている束の耳に、かなり独特な着信音が聞こえてくる。サイドアームで携帯を回収し、耳に当てる。

 

「やぁやぁ、箒ちゃん!何か用かな?かな?」

 

ハイテンションの束とは、真反対の声が返答する。

 

『姉さん…』

 

いや、返答と呼ぶには烏滸がましいただの呼び名。

 

「力が欲しい?いっくんを苦しめる誰かさんを、懲らしめる力がさ?」

 

『な、なぜそれを!?』

 

束の言葉に驚く箒。正しく、それが目的で彼女は姉である束に電話をしていた。

ーー姉の本質なんて知らないままに。

 

「アッハハ!そりゃ、分かるさ!大好きな箒ちゃんの考えだもの!

臨海学校の時に届けてあげる。楽しみにしててね!箒ちゃん」

 

そう言って、通話を切る束。

しばらくの沈黙が続いた後、束は大声で笑いだす。

 

「アハ…アッハハハハハ!そりゃ、分かるよ箒ちゃん!

君のその、自制心の無さ。気に食わなければ、子供の様に癇癪を起こす暴力性」

 

自分の妹に対し、あまりにも酷い言葉を並べる束。

 

「だって、そうしたのは束さんだもんね♪

うんうん、期待通りに育ってくれてて、嬉しいぞ束さんは!アハッ」

 

感情の一切が感じられないあまりにも冷え切った声。

そんな声で笑う束は酷く不気味で、恐ろしく見えるだろう。だが、そんな判断を下せる他者はこの場にいない。

 

「年に一度だけたった、一度だけ会える彦星と織姫。

ロマンがあって素敵だねぇ……でも、折角ならもっともっと過激な運命にしても良いと思うんだよ」

 

サブアームで操作していた二つのモニターが停止する。

 

「御誂え向きの名前をしてるから、君を使ってあげようか『福音』

モルモットの方は、あっちに任せるとして…ふふっ、いっくん、箒ちゃん楽しみにしててね?束さんからの贈り物」

 

アメリカ・イスラエル共同開発IS。『シルバリオ・ゴスペル』

銀の福音は、織斑一夏、篠ノ之箒らIS学園の人間達に何をもたらすことになるのか。

 

「ーー♪♪」

 

それは、神のごとく、歌う彼女にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水着?」

 

「はい。本音さんは既に持っているそうですし、ラウラさんやシャルロットさんは二人で買いに行ったみたいで。

私だけ、余ってしまったのです。どうせ、赤也さんも持っていないでしょうし一緒に行きませんか?」

 

いやまぁ、確かに持ってないけどさ。決めつけは良くないと思うぞ神楽。

でも、せっかくのお誘いだ。受けることにしよう。

 

「良いぞ。少し待っててくれ」

 

この夏のクソ暑い時に、着たくはないが仕方ない。薄手のパーカーを羽織り、右手にのみ手袋をはめる。

IS学園の生徒達はなんやかんや慣れたが、俺の右腕は機械だ。普通、見てて気分の良いものではないだろう。

 

「そういや、外出届けは」

 

「既に出してきました」

 

「断られるパターンを微塵も考えてないな?」

 

「勿論。友人には甘いのを知ってますからね」

 

にっこり笑顔の神楽に返す言葉を無くす。

そんな厚い信頼を寄せてくれるとはね。本音が言ってたことも間違ってないのかもな。

 

「そうかい。んじゃ、行くか」

 

「はい」

 

神楽と一緒にショッピングモール『レゾナンス』へ向かう。

道中でたわいの無い話をしながら、僅かな移動時間を楽しむ。時々、鬱陶しい視線を向けられるが、被害はない。

そんなこんなで、レゾナンスの水着売り場に到着する。

 

「まぁ、分かっていたけど男性の水着は少ないな」

 

フロアの片隅に追いやられている水着売り場に悲しさを感じつつ、ため息を吐く。

 

「適当に買ってくるが……その顔はなんか言いたげだな。神楽?」

 

横でじっと俺を見つめる神楽。流石に恥ずかしいから、あんまり見つめないで欲しいのだが。

 

「折角ですし、貴方に水着を選んで貰おうかと」

 

「……え?」

 

「その反応は心外です」

 

そんな事言われても、だってあの神楽だぞ。

俺の友人で、右腕の事を知ってて、それでも気にせず俺に毒を吐く神楽が、俺に水着を選べと。

 

「水着は殿方の意見も大切と言いますし。ダメでしょうか?」

 

「うっ……分かったよ。選べば良いんだろう」

 

「ありがとうございます。赤也さん」

 

何処と無く嬉しそうに歩き出す神楽。まったく、敵わないな。

そっとため息を吐きながら後をゆっくりと追いかける。

その途中で誰かにぶつかってしまう。

 

「っとすみません」

 

「いえ、こちらこそ」

 

帽子を深めにかぶった金髪の女性だ。急いでいるのか軽く頭を下げて、すぐに歩き出す。

ふぅ、女尊男卑の変なやつじゃなくて助かったぜ。

ん?なんか落ちてる。名刺か何かか?

 

「あの、落とし……ってもう居ねぇ…」

 

拾って振り返ってみれば、もう先ほどの人物はいない。

どうしたものかと、拾ったものを見てみる。名前と勤めているであろう会社の名前が書かれていた。

 

「えーと、『国防企業、取締役、ガスト・ミューゼル』…聞いたこともない会社だな?」

 

連絡先も書いてないし…どうしようかこれ。

 

「赤也さん?早く来てください!」

 

「っと悪い!今行く」

 

とりあえずポケットに突っ込んで、神楽の元へ急ぐ。

今度は誰にもぶつからないように移動できた。そして、目の前に光景に驚き、立ち止まる。

 

「……こんなに種類があるのか…」

 

視界の全てが女性物の水着。

正直、舐めていた。こんなに種類があるものなのか。この中から何をどうやって選べば良いんだ。

 

「センス、期待してますよ?赤也さん」

 

「…分かってて言ってるだろう神楽」

 

「さて?なんのことでしょうか」

 

くっそ、惚けやがって。野郎一人で入るわけにもいかないので、神楽と一緒に店内に入る。

ざっと見てみるが、何がなんだかサッパリ分からない。

どうしよう。とりあえず、神楽に似合いそうな物を……ん?これなんてどうだ?

黒い色の水着を手に取る。種類?そんなの分からん!

 

「これなんてどうだ?クールな神楽に似合うと思うが」

 

「黒のハイネックビキニですか…試着してみますね」

 

俺が差し出した水着を受け取り、試着室へと入る神楽。

ん?あれ、これ神楽が出てくるまで俺放置されるのか。試着室近くで待機してようそうしよう。

 

パサッ、シュル。

 

意識していなくても神楽が着替えているであろう布スレの音が聞こえる。

ええい。煩悩よ去れ!

なんとも言えない時間が経過し、神楽が出てくる。

 

「どうでしょうか?」

 

ハイネックビキニと言っていたやつを着た神楽。

正直、かなり似合っている。神楽のスレンダーなスタイルの良さを引き立てており、黒色と言うのも神楽のクールさを更に感じさせてくれる。フリルが付いているのも、神楽らしい可愛さをアピールしている。

まぁ、何が言いたいかと言うと正直、見惚れた。

 

「…赤也さん?」

 

「…あ、あぁ。凄く似合ってるぞ、正直見惚れてしまった」

 

「そ、そうですか…ではこれにしましょう」

 

嬉しそうに微笑みながら、購入を決める神楽。

スッと試着室に戻り、先ほどより早く着替える。

 

「では、買ってきますね。次は赤也さんの水着を買いましょうか」

 

会計へ早歩きで向かう神楽。明らかにテンションが上がっている時の動きだ。

自分に似合う水着が買えて嬉しいのだろう。うん、万が一でも、俺が選んだものだからという事はないだろう。

 

「…何一人で頷いてるんですか?行きますよ」

 

「おぉ。すまんすまん、俺の水着を選ぶって言ったって男物の種類なんてないぞ?」

 

「良いんですよ。こういうのは、僅かでも選ぶ時間が楽しいものですから」

 

「そういうものなのか?俺には分からないな」

 

目当ての物を買ったら即帰ってたからなぁ…こういう楽しみ方はしてこなかった。

 

「…もしかして退屈でした?」

 

心配そうな神楽の声。

 

「いや、それなりに楽しんでるぞ。新鮮さがあるからな」

 

分からないが、それが楽しめない訳じゃない。むしろ、新鮮さがあって楽しめるってもんだ。

 

「そうですか。それならもっと楽しみましょう」

 

俺の返答が嬉しかったのか神楽が満面の笑みを浮かべる。

もう少しだけ付き合うとしますかね。

この後、俺の水着を選び、上に羽織るパーカーを買い、暫く神楽とレゾナンスを満喫した。

 

 




もう、色々と天災がアレな事になってる気がします…

今回、アナグラムというか何というかそんな感じのものに挑戦しました。
結論、難しい。そもそも、アナグラムになってるのか分からないです。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

丸一日、自由行動ってある意味凄いよな

大学に行く前の朝にどうにか書き上がったです。
今回は、平和回。場面がコロコロ変わることだけ注意です。


バスに揺られて数時間。

俺は、海に来ていた。授業をサボってる訳じゃない。そもそも、授業の一環だ。

臨海学校。IS学園という特殊な学校でも、一般的と呼べるイベントだ。

まぁ、二日目はIS尽くしの日程なのだが。

 

「おぉ〜、海だぁ〜」

 

窓際に座る本音が景色に感嘆の声をあげる。ちらりと、海を見て視線をすぐに前に戻す。

別に海が嫌いという訳じゃない。それより気になる事があるのだ。

俺の斜め前にいる篠ノ之。元々、仲が良い訳じゃないし、なんなら織斑との一件以降、会話していない。

そんな奴が、今日はやたらと視線を向けてくる。殺気のようなものをセットにして。正直、鬱陶しい。

 

「(面倒ごとにならないと良いが……もうこの考え自体がフラグにしか感じねぇ)」

 

思わず溜息を吐きそうになる。

 

ムニっ

 

「ほんへ?どふした?」

 

「あかやん暗い顔してる〜笑顔笑顔〜」

 

そう言って、ダボダボの服で器用に俺の頬を引っ張る本音。

何が楽しいのか笑顔で引っ張り、無理やり俺の口角を上げる。

なんだろう…なんだか、無性にやり返したいぞ。

 

「うわわっ、このぉ〜」

 

左手で本音の頬を軽く引っ張り、その柔らかさに驚く。

なんだ、この柔らかさは。いつまでも弄っていたくなる。

ムニムニと互いの頬を弄る俺と本音。

気づけば、篠ノ之の事など頭から抜け落ち、全力で本音を弄っていた。

 

「んんっ、お前ら良い加減にしておけ。到着したぞ」

 

千冬が咳払いと共に現れる。

 

「全く、こういうのは四十院の役目だと思っていたんだがな。まぁいい。

仲が良いのは結構だが、周りが見えなくなる癖は直せよ。何度、到着したと呼んだことか」

 

頭を押さえ、やれやれといった感じの千冬。

そんなに長いこと本音と遊んでいたのか。時間というのは経つのが早いな。

 

「えへへ〜ごめんなさーい」

 

「気をつけるようにするぜ。千冬」

 

「赤也、一応全員降りてるが、私の呼び方には気をつけろよ。私が言えたことではないがな」

 

「特大ブーメラン感謝です。織斑先生」

 

揶揄うと振り下ろされる手刀を、ヒョイと避けて立ち上がる。

流石に稽古で散々見てるからな。初動ぐらいは掴める。

 

「チッ、避けられたか」

 

「教師してくださいよ。織斑先生」

 

「ふっ。ほら、お前達で最後だ。とっとと降りろ」

 

まーた、イケメンスマイルで誤魔化してるよこの人。

仕方ない。大人しく降りますかね。

本音と一緒にバスを降りる。入り口には、神楽とシャルロットが待っていた。

 

「あ、来た」

 

「本音さん、私達と同室なんですから、ほら、行きますよ」

 

「ごめんごめーん。しゃるるんに、かぐっち〜」

 

本音がトコトコと二人に合流し、頭を下げる。

あの三人が同室なのか。

 

「もぅ、ラウラは先に部屋に行ってるよ。随分とノリノリだったから、今頃海に行ってるんじゃないかな?」

 

「えー、ほんと!急がなくちゃ〜」

 

「……急ぐ気あるのですか?本音さん」

 

わちゃわちゃと盛り上がりながら、旅館の中に入っていく三人。やっぱり、女子が集まると賑やかだ。

 

「何をボーッとしている。こっちだ」

 

ぐいっと引っ張られる。半ば引き摺られる様に、連行される。

抵抗する間もなく、旅館内部へと連行され、部屋に案内(強制)される。

 

「…旅館でも俺と千冬が相部屋かこれ?」

 

「そうだ。文句があるなら、織斑と同室にしても良いんだぞ?」

 

「やめてください。死んでしまいます」

 

千冬の言葉に謝罪しながら、荷物を下ろす。

織斑と相部屋にされたら、ストレスとかでお互い得しない。敵対視されてるし。

 

「……そこまで嫌か」

 

言葉の割にショックを受けていない顔の千冬。俺と織斑の相性が悪いのはよく知っているのだろう。

 

「俺とあいつは、根本的に相性が悪い。

それはどうあがいても変わらない。仮にあいつが、強くなってもな」

 

千冬に背を向け、海に行くための荷物を用意する。

 

「私はな赤也。弟と弟子には仲良くして貰いたいと思っている。

どっちも私にとって可愛い存在だ。その両者がいがみ合っていては悲しくなる。ただ、私にも責任はあると自覚している。

弟との時間が少な過ぎるが故に、私はどう接したら良いのか分からなくなっているんだ」

 

「……俺が言えるのは一つだけだ。本音を言えない家族なんてすぐに崩壊するぞ。

海の用意が出来たから、行ってくる。千冬も後から来るんだろ?遅くなりすぎないようにな」

 

スッと立ち上がり、部屋を出る。

その時、千冬の顔は見れなかった。俺は既に家族なんて絆を捨てた。

だから千冬の悩みにどう答えて良いかなんて分からない。でも、後悔のない選択をしてくれると信じてる。

 

「…アルベールさんもそうだが、家族に悩みのある人多くね?」

 

揃いも揃って俺の周りに集まりまくってんなぁ。

 

「まぁ、捨てた俺に繋ぐ努力をしてる人に言えることはないな」

 

更衣室へと向かう途中で、暑苦しい熱をプレゼントする太陽を睨みながら零す。

俺の選択が愚かだと判断する人もいるだろう。

だが、そういう奴は至って幸福な人生を送っている。所詮、持ってる人間は持っていない人間の考えを理解しない。

 

「…既に死んだような人間が思う事じゃないか」

 

更衣室に入り、荷物を置き着替える。

少し思考が鬱になりかけていた。海で遊んで気分を変えよう。神楽に選んでもらった暗い赤色の水着に着替え、これまた暗い赤色のパーカを羽織る。この右腕……もはや腕以外の所にも侵食が進んでいるが、海水で錆びないよな?

いや、今までも普通に風呂とか入ってたし、大丈夫だろ。

自分の相棒を信じて、外に出る。眩しいくらいの日差しに目を痛めながら、歩く。

女子達の楽しげな声を邪魔しないように、ゆっくりと声の方には極力視線を向けないようにする。

そして、目に飛び込む着ぐるみ。

 

「は?」

 

「おー?」

 

俺が首をかしげると同じように連動して、首をかしげる着ぐるみ。もとい、本音。

いやいや、それ水着か?センスがぶっ飛んでるのは知ってたが、ここでもか。

 

「変わった水着だな。本音」

 

「ふっふー、可愛いでしょう?あかやんも、格好いい水着だねぇ」

 

可愛いか可愛くないの二択で言えばたしかに可愛いが、その水着は機能的にどうなんだ?

溺れたら助けに行くの大変なんだが。

 

「溺れないよぉ〜。私、ちゃんと泳げるもん〜」

 

「さらっと心読まないでくれませんかね。本音さんや」

 

「あかやんの考えてる事ぐらいお見通しなのだぁ〜」

 

ぶいぶいと言いながら、ダボダボの水着?でおそらくピースを作る。

はぁ、まぁ本音は本音だ。気にするだけ無駄か。

 

「意思疎通が便利だな。それと、ほら飲んどけ、喉渇いてるだろ?」

 

やっぱりふつうの水着よりは暑いのだろう。

本音の勢いが少し、ほんの少しだけ弱い。多分、喉が渇いてるのだろうとアタリをつけて持ってきたスポドリを渡す。

 

「あかやんも私のことわかってるぅ〜」

 

右手の肘で俺の脇腹をつつきながら、スポドリを受け取る本音。

そりゃまぁ、分かるさ。

 

「本音に出来て俺に出来ないわけがないだろう?過ごした時間は一緒なんだからな」

 

「たまーに、態とやってるかと思うよ〜あかやん」

 

ん?何がだろうか。

ゴクゴクと勢いよくスポドリを飲む本音をぼけっと見ながら、飲み終わるのを待つ。

やっぱり、喉渇いてたんだな。

 

「ぷはっ〜ありがとう、あかやん」

 

「おう」

 

半分ぐらいになったスポドリを受け取る。

ちょうどそのタイミングで、ボールが飛んでくる。ビーチボールか。

神楽がこっちに向かって来てるから、神楽が使っていた物だろう。タイミングを合わせ、ボールを神楽の方へ飛ばす。

 

「うわっ…声ぐらいかけてくださいよ」

 

「上手くキャッチしてるから良いだろう?」

 

ジト目で見てくる神楽。

着ている水着は、俺が選んだ黒のハイネックビキニだ。やっぱり、似合ってるな。

 

「こっちでビーチバレーでもしましょう。本音さんと同じチームにしますから」

 

「お、おう。なんで本音と同じチームにするのか分からんが、別に良いぞ」

 

「…本音さんが下手すぎて」

 

「察した」

 

動作が緩慢過ぎて、本音がいるだけで大変なんだろう。

うん。凄く想像できる。

本音と神楽と一緒にビーチバレーが行われている場所に移動する。そこには、シャルロットとラウラ、あと数人のクラスメート達がいた。

 

「よぉ、シャルロット、ラウラ」

 

「あ、赤也もこっちに来たんだ。本音と一緒にいるってことは、僕達とは敵チームだね」

 

「姉の威厳を見せる良い機会か」

 

「だから、姉辞めろって……」

 

相変わらずのラウラにいつものようにツッコミを入れる。

 

「……しれっとわたくしを省くとは、良い度胸ですわね西村?」

 

「おおっーと、居たのかオルコット。すまんすまん、見えてなかったぜ」

 

かなりのオーバーリアクションでオルコットへと返す。

え?煽ってるのかって?もちろん。それ以外の目的なんてない。

 

「…ふふ。そうですかそうですか。わたくしも西村とは別のチーム。

特別に、念入りに相手しますわ」

 

「ほー、代表候補生の腕前に期待ですねぇ…」

 

試合が始まる前から火花を散らす俺とオルコット。

互いに睨み合ったまま、対面のコートに入る。俺のチームは、本音と神楽。

対して、オルコット、シャルロット、ラウラの西欧チーム。

 

「行くぞ!」

 

「行きますわよ!」

 

このあと、本音が凡ミスしたり、ラウラがルールを理解していなかったりで似た通ったかの点数の取り合いをし続け、途中で乱入して来た千冬によって俺もオルコットも惨敗した。

千冬……強すぎ。

ボールに弾き飛ばされるってどこのスポーツ漫画だよ……

楽しい時間と云うのは圧倒的に早く流れ、すでに夜。1日と云う時間が終わりに近づいていた。

 

「…身体を動かすとやっぱりねみぃ…」

 

布団で横になり数分で意識が途切れ途切れになる。

 

「赤也?すでに眠ってるのか?」

 

「…ん?……まだ起きてるが…眠い…」

 

「そうか。なら、おやすみ、明日は大変だぞ」

 

おう。おやすみと俺は返事を返せただろうか。

微睡んだ意識ではもうそれすら分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬SIDE

 

寝息を立て気持ちよさそうに眠る赤也を見ながら、明日のことを考え溜息を零す。

 

「あいつが来るのか……何も起きないでくれと願うのは相手が間違えているか」

 

束が面倒ごとを連れてこない訳がない。ましてや、妹へのプレゼントを持ってくるのだ。

絶対に何か厄介ごとを起こす。そんな直感が私にはあった。

 

「……一夏はまだ束から認識されている。箒も酷い目に遭わされることはないだろう。

だが、それ以外の一般生徒やモルモットと称されてる赤也は別か」

 

教師として私は生徒を守る責務がある。

それは例え、友人の天災からでもだ。

 

「これぐらいは許せよ赤也」

 

寝ている赤也の髪を少し上げ、露わになったおでこにキスをする。

 

「私の覚悟のようなものだ。あぁ、それ以外に他意はないさ。

おやすみ、赤也」

 

誰に言い訳をするのか、まるで分からないことを言い、布団で横になる。

存外、私も疲れていたようですぐに眠気がやってくる。

目に浮かぶ己の友人の幻影に、何もするなよっと願いつつ、私は意識を手放した。

 

 

ーだが、そんな淡い希望は天災には通じなかったー

 




次回は、いよいよ天災が登場します。
いやぁ、何が起きるのでしょうかね(棒)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

問題ごとが起きない筈がなかった

遅くなりましたぁぁぁ!!
色々とトラブルが重なり、気づいたらこんなに月日が経過してました……



合宿二日目。

IS漬けになる一日だ。一般生徒でさえ、様々な武装の試験を行うというのに、専用機持ちは自分の専用装備まで待っている。

まぁ、俺にそんな装備はないので他の専用機持ち達には、どんまいという感想しか抱かないが。

 

「あかやん〜手伝ってぇ〜」

 

「俺が九尾ノ魂に何か出来ることはないと思うんだが…」

 

学園から許可を貰い、持ってきた本音の九尾ノ魂。

本来、整備課の先輩達が行なっているメンテナンスを本音一人でやっているのだから相当な負担だろう。

起動データの足りない九尾ノ魂のデータ集めを目的としていると聞いたが、学園のISを一人に貸し与えるとは中々に信頼されてるな本音。

まぁ、なにが手伝えるかは分からんが、友人の手助けをするとしよう。

俺がそう決めて本音の方へ歩き出そうとしたときに、それは現れた。

 

「ちーちゃ〜〜〜〜ん!!」

 

ドドドっと言う効果音と共に少し離れたところで立っている千冬目掛けて、向かっていく何か。

聞き覚えのある声だ。というか、俺が死にかけた時に聞いた声と同じだ。

普通の人には、見えないが俺の右目はその人物を拡大し教えてくれる。

 

「…兎。あぁ、これが篠ノ之束か」

 

死にかけの俺にサードオニキスを取り付け、俺をモルモットと呼ぶ稀代の天才。

立ち入り禁止であるはずの場所に入ってきているISの生みの親を見て、俺は自分でも無機質な声で呟いていた。

 

「…束」

 

「やぁやぁ、ちーちゃん!お久〜?

元気?元気だよね!ずっと、見てたから私は知ってるよ!えへへっ、昨日のモルモットに対するーー」

 

ブォン!っという音ともに、近くにあった打鉄のブレードをつかみ、千冬が振る。

篠ノ之束は口を閉じるが、笑顔のままそのブレードに手を伸ばす。

直後に、ブレードはパーツ毎に分解され、バラバラと地面に落ちていく。一瞬の分解だった。

この場にいる誰もがその工程を見れた人はいないだろう。

 

「あっぶないなーもうっ!ちーちゃんの愛は過激なんだから」

 

「…はぁ、覗き魔に向ける愛ほど無駄なものはないと思うぞ」

 

「そんなっ!束さんとはお遊びだったんだね!ちーちゃん、酷い!」

 

「そろそろ、黙れ束。……ほら、そこ手を止めるな時間は無限じゃないんだぞ」

 

篠ノ之束とノンストップで会話をしていた千冬が手を止めていた生徒に注意を飛ばす。

すでに、この場の全員が篠ノ之束という存在に飲まれていた。

旧知の仲の二人のやり取りだが、色々と異常すぎる。だが、俺はその行動より篠ノ之束の表情に疑問を抱いた。

あいつ、目だけが笑ってない。あれだけ、楽しそうに側から見れば無邪気にはしゃいでる様に見えなくもないが、その目は笑っていない。

 

「…それで、何しにきた束」

 

考えに耽っていると、千冬が話を進めようとしている。だが、その声のトーンは警戒一色だ。

 

「あれぇ、聞いてないの?まぁ、良いや!大空をご覧あれ!!」

 

篠ノ之束が空に指差すと同時に、俺の頭上から何かの落下音が聞こえる。

反射的に上を見ると、俺の真上からデカイ金属の塊が落ちてきている。

 

「本音!」

 

サードオニキスを展開し、近くにいる本音を抱きかかえ、急いで落下地点から離れる。

数秒後、ドスン!っという音が後方から聞こえた。

 

「…なるほどなるほど。反射神経はまずまずっと。うん、やっぱり実際に見て見るのも大事だね」

 

サードオニキスによって強化された聴覚が、篠ノ之束が小さく呟いた言葉を拾う。

態とやったのか……俺の近くに本音が居たのに。

 

「赤也!無事か!?」

 

「…大丈夫です、織斑先生。近くにいた本音も無傷です」

 

焦ったように声をかけてくる千冬に無事を伝える。

生徒が多いところから離れていたから良かったが、もし近くにいたら……そう考えてゾッとする。

 

「……こ、怖かったぁ……」

 

本音が震えているのが腕から伝わってくる。

俺の胸に顔を擦り寄せる本音。

 

「…大丈夫だ、本音」

 

左手で本音の頭を優しく撫でる。そのまま、ゆっくりと地面に降りサードオニキスを解除せず、篠ノ之束を睨みつける。

 

「……んー?気のせいかな?気のせいだよね?

所詮、死に損ないのモルモットが人間様に反抗的な目を向けてるけど、束さんの気のせいだよね?」

 

そう言って首を傾げながら、俺を相変わらずの笑顔で見てくる。

そして、一瞬だけその目が開き、俺と目線を合わせる。その瞬間、俺は全身から血の気が引くのを感じた。

 

「はっ……はぁ……はっはっ…」

 

「…あかやん?」

 

呼吸が乱れる。今すぐ、膝を付いてしまいたい。

アレと向き合いたくない。

今、俺を二足の足で立たせてくれているのは、一重に本音を抱えているからだ。

もし、この恐怖に屈してサードオニキスを解除し、本音を降ろしてしまえば再び、本音に命の危機が訪れるかもしれない。

それだけは避けたい。その使命感だけが俺を立たせている。

 

「まっ、許してあげるよ。そんな事よりオープン!」

 

篠ノ之束が俺に一切の興味を無くす。

それを理解した瞬間、強い安心感に包まれサードオニキスを纏ったまま片膝をつく。

本音が降りると同時にサードオニキスが自動的に解除される。だが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 

「……なんだ……一体、なんだあの目は…」

 

身を貫く恐怖。あの目と視線を合わせ続けるよりは死んだ方がマシだ。

ポタッポタッと、砂を濡らす俺の汗。

ライオンが目の前に現れたシマウマや、鳥の鉤爪が迫ってるのを理解した虫など。

自分より強者による抗うことの出来ない絶対的な運命を悟ってしまったものは、この様な感覚になるのではないだろうか。

 

「あかやん!!」

 

強く揺さぶられる感覚と同時に大きな声で呼ばれ、俺の意識は現実に戻ってくる。

顔を上げると、いつもの緩さが何処かに出かけている本音の必死な顔が映る。

 

「ほん……ね?」

 

「そうだよ!大丈夫?

何度も何度も呼んでるのに、全く反応しなかったんだよ?汗も凄く出てるし」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」

 

本音に返答したのか自分に言い聞かせたのか分からない言葉が口から出る。

ふぅと、一息吐けば呼吸は落ち着き、頭も冷静になってくる。

 

「…ありがとう。本音」

 

「へ?お礼を言うなら私の方だよ!?助けて貰わなきゃ、ペチャンコになって死んでたし……」

 

なんというか間延びしない本音というのも珍しい。

思わず、笑いそうになるのを堪えて立ち上がり、左手で本音の頭を撫でる。

 

「あっ」

 

「…心配しなくても大丈夫だ。俺は俺だ、壊れてない」

 

「う、うん……そうだね〜あかやん、さっきは助けてくれてありがとうねぇ〜」

 

にへらっと笑う本音と元に戻った口調に安心する。

やっぱり本音はこうでないとな。自分の精神が落ち着いていくのを感じながら本音の頭を撫で続ける。

そのまま、視線を上に持っていく。すると、そこには篠ノ之が見たこともないISを纏い、空を飛んでいた。

まるで着物の様な華やかさを感じる紅色のIS。

二刀の刀を振るう姿も、篠ノ之のキレの良さも有り、一種の芸術作品の様だ。

 

「……ISだけ見ればの話だが」

 

本音には聞こえない様に呟く。

ISは綺麗だ。だが、その乗り手である篠ノ之が歪んでいる。その顔は、力を手に入れた事に対する慢心に満ちている。

いずれ、大きな過ちを犯す。そんな勘が俺にはあった。

 

「思ってたより稼働率が低いなぁ…まっ、どうでもいいや」

 

篠ノ之束が空間に投影していたキーボードやモニターを消す。

そのまま、俺の方に向かって歩いてくる。本音を咄嗟に俺の後ろに隠す。

 

「やぁ」

 

「…どうも」

 

全力で警戒しながら、気楽に挨拶してきた篠ノ之束に返答する。

 

「君の身体の隅々まで調べたいところなんだけど…時間がないからねぇ〜

とりあえず、右目。よく見せてよ」

 

返事なんて求めてないのだろう。俺が返事するより早く、右目の眼帯は外され、頭を両手で拘束される。

そのまま、俺の右目を覗き込む篠ノ之束。先ほどの様な恐怖は感じないが、それでも居心地の良いものではない。

 

「…ふむふむ、人間の目にISの機能を備えるとこんな感じになるのか。

人の身でありながら、360度の視界が手に入る。便利だろうけど、これ絶対に酔うよね。左右とのバランスが悪すぎる。

しかも、ISと同じ機能なら目を閉じていようが何してようが見えるだろうし……ねぇ、モルモット。この目、普段はどうしてんの?」

 

「…意図的に焦点をズラして誤魔化してる」

 

「あぁ、確かにそうすればある程度の負担は軽減できるか。それに、こっちの方も変わってるんだもの」

 

そう言って俺の頭を叩く篠ノ之束。

こいつ、サードオニキスによって侵食された俺の身体の構造を理解してるのか?俺にだってどうなってるかは分からないというのに。

 

「分解……いや、まだコレには利用価値がある。まだ、欲しいデータはあるし。

実際に見るのは大切!じゃ、頑張ってねモルモット」

 

漸く解放される。

それにしてもそこまで無機質な頑張ってを俺は聞いたことがないな。

眼帯を拾おうと思ったら、どこにも落ちていない。篠ノ之束に視線を向ける。

 

「ん?何かな?その目を隠すものなんていらないよ。

それに、あろうがなかろうが変わらないとはいえ、直接的に見てる場合のデータも欲しいから、眼帯を着けるなよ、モルモット」

 

くそっ、俺が避けてた面倒ごとを引き起こす様な事しやがって。

何か反論してやろうと思って口を開いたが、それは大きな声で駆け寄ってくる山田先生によって中断された。

 

「大変です!お、おお、織斑先生!!」

 

「……落ち着け。何があった?」

 

「こ、コレを」

 

小型端末を受け取る千冬。

その顔がどんどん険しくなっていく。

 

「……全員よく聞け!今日の日程は全て中止。

ISを片付けて旅館に戻れ!!指示があるまで、外出は許可しない。もし、許可なく外出した者にはそれ相応の罰が待っている。

それと、専用機持ちは全員集まれ!……布仏、篠ノ之もだ」

 

「はい!」

 

千冬の言葉に嬉しそうに返事をする篠ノ之。本音は俺の後ろで千冬と視線を合わせるだけだ。

篠ノ之のISが地面に降り、解除される。やはりと言うべきか、その顔に喜色が浮かんでいる。

 

「…お前などもはや敵ではない。西村赤也」

 

移動を始めた俺たち専用機持ちの一番後方で、篠ノ之が俺に聞こえるように言ってくる。

 

「この非常時に何を言ってるんだお前は…」

 

楽しいはずの臨海学校でなんでこうも、問題が起きるんだ……

結局、その後も篠ノ之は俺に何か言うわけでもなく、俺たちはさまざまな機械が置かれた部屋に到着する。

そこで、言い渡された特殊任務。それは、

 

『暴走した軍用ISを破壊せずに捕らえろ』

 

と言う、専用機持ちとはいえ、一学生に指示を出すか?と言うものだった。

 




天災降臨&暴走ISの存在が明らかになりました。
とはいえ、サードオニキスでは高速戦闘なんて無理なので、一夏君が堕ちるところはまんまカットしようか悩み中。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

作戦失敗、スマートな解決にはならず

どうも、クリスマスは一人です。



暴走した軍用ISは、アメリカとイスラエルの共同開発したものらしい。

名前を『シルバリオ・ゴスペル』ーー今回の作戦での呼び名は、福音。

対処法は、篠ノ之束により、織斑と篠ノ之による一撃離脱を行うことになった。しかし、引き下がらなかった千冬により、妥協案が生まれ、オルコットとラウラが先発で、戦場になるであろうエリアで待ち伏せ。

簡単に言えば、織斑と篠ノ之が失敗した時の保険だ。

 

「…わたくしが保険要員とは」

 

「戦場に行けるだけマシだろう。俺は待機組だ」

 

ボヤくオルコットに突っ込む俺。先発組は織斑と篠ノ之より早く動く必要があるため、会議終了後に即座に行動を開始していた。

ラウラは、ドイツとの交渉。面倒な事だが、IS学園は無国籍だが戦闘による地理的被害を受ける可能性があるのは日本。

遠回しとは言え、日本のためにドイツの軍人が動くには表面上だが許可がいるらしい。

オルコットはただの代表候補生であるため、ラウラよりは早く許可が下りたようだ。

 

「どうせなら待機してる方が良かったですわ」

 

俺の言葉に珍しく嫌味なく答えるオルコットの表情には僅かな苛立ちの色が浮かんでいる。

まぁ、なんとなく理由は察せられる。

訓練を積んだ自分より、ポッと出の二人に役目が奪われるのが気に食わないのだろう。

 

「待機組の方がまだ、友人を守るという義務に努められるからな」

 

「…わたくしの考えを読まないでくださる?西村」

 

「はっ、だったらその如何にも不機嫌ですって顔をやめる事だなオルコット」

 

俺のその言葉に、こちらに視線を向けるオルコット。俺も同じように視線を向ける。

そのまま、いつもの様に罵り合いが始まるかと思ったが、意外にもオルコットの方から視線を逸らした。

 

「…篠ノ之博士に恐怖したのですか?」

 

「………あぁ」

 

短く肯定の意味だけが伝われば良い。

 

「そうですか…ISの生みの親として尊敬の念を抱いていたのですが、これは認識を改めなくてはいけませんわね」

 

オルコットがブルーティアーズを纏う。

なぜ?と思ったが、視界にラウラを捉え納得する。

 

「西村。貴方に敗北の二文字を与えるのは、このセシリア・オルコットです。

わたくし以外の人に、膝をつくなど認めませんわ」

 

髪をかきあげ、たなびかせるオルコット。

それは今まで見たオルコットのポーズの中で最も、優雅で格好の良いものだった。

 

「……チッ、お前を格好いいと思ってしまった」

 

「あら?当然ですわ。跪いてわたくしに忠誠を誓っても良いことよ?」

 

「ふざけんな。誰が、お前なんかに忠誠を誓うかよ……あぁ、それと」

 

言葉を区切るとオルコットが不思議そうな顔で俺を見てくる。

その顔を見ながら、ニヤリと笑い、口を開く。

 

「誰が誰に負けるって?勝つのは俺だ、もう一度地に落とすぜオルコット」

 

「「くくっ…ははははっ!」」

 

あぁ、漸く普段らしくなった。

俺とオルコットはこういう関係がしっくりくる。

 

「遅くなっーーなんだ、随分と楽しそうだな?」

 

俺とオルコットが笑ってるところに合流したラウラが不思議そうな顔を浮かべるが、俺もオルコットも無視して笑った。

その結果、ラウラに二人揃ってど突かれたのは言うまでもない。

 

『ーーオルコット、ボーデヴィッヒ。出撃だ』

 

暫くして、千冬から通信が入る。

どうやら作戦時間になったようだ。

 

「「了解」」

 

すでにブルーティアーズを展開していたオルコットの隣で、ラウラがレーゲンを展開。

二人は宙に浮き始める。

 

「では、行ってくるぞ。赤也、私の友人達を任せた」

 

「あぁ」

 

ラウラの言葉に手を振りながら答える。

ふっ、と笑みを浮かべるとオルコットと共にラウラは飛んで行った。

 

「さてと俺も持ち場に戻るとするか」

 

砂浜を歩きながら、旅館の方へと戻る。

俺のというか待機組は持ち場がかなり重なっている。旅館の周辺を500メートル間隔で離れ、警戒するだけだ。

特に俺はその一番、外側。急ぐ必要性はあまりない。

まぁ、だからと言って呑気にしてると千冬に怒られるんだが。

 

「…西村赤也、なぜ貴様が此処にいる」

 

うわっ、めんどくせぇのに絡まれた。

避けて通るつもりだったが、どうやら道を間違えたらしい。織斑と篠ノ之の待機場所だ此処。

 

「オルコットとラウラを見送った帰りだ」

 

鬱陶しい篠ノ之に肩を竦めながら答える。

臨海学校が始まってからずっとこいつの視線は鬱陶しい。

 

「ふん!こんな作戦、私の紅椿と一夏の白式だけで十分だと言うのに。なぜ、あんな奴らを用意する必要がある。

千冬さんは私達を信用していないのか」

 

「お、おい、箒。流石にそれはどうかと思うぞ」

 

「何を腑抜けた事を言ってるんだ一夏!お前だってそう思うだろう!?」

 

……いつにも増して酷いな篠ノ之。

紅椿。篠ノ之束が生み出した、第四世代IS。各国のISを遥かに凌駕する性能とあらゆる場面に対応できる万能性を兼ね備えてるという。

正直、俺個人の意見だがそんなものを訓練すらまともに積んでいない篠ノ之に渡して何になるんだと思う。

 

「……いや、俺は…」

 

ん?珍しく織斑の歯切れが悪い。

ここはノリノリで、『あぁ!セシリアとラウラの出番が無くなるぐらいの活躍を見せてやろうぜ!』っと言うと思ったんだが。

織斑は、篠ノ之から視線を逸らし頭を掻いている。

こうなると、面白くないと言わんばかりに癇癪を起こすのが篠ノ之だ。すでに、顔を真っ赤にしている。

 

「…話は終わりか?俺は持ち場に戻らせてもらう」

 

「勝手にしろ!!」

 

おぉ、怖い怖い。般若の様な顔で怒鳴り散らす篠ノ之。

二人を無視し、歩き出す。すれ違う直前で、織斑から見捨てないでくれって言わんばかりの視線を向けられたが知らん知らん。

そのまま、自分の持ち場まで戻り、2回目の作戦開始時間を待つ。

 

『ーー全員、ISを展開しろ。織斑、篠ノ之両名が福音へ向かった』

 

千冬の合図を聞き、サードオニキスを纏う。

ISの索敵力を活かし、敵からの奇襲を防ぐ目的がある。とはいえ、敵が来なければ暇だ。

適当にサードオニキスのデータでも見ながら時間を潰そうとしたタイミングで、驚きの通信が入る。

 

『こちら、オルコット!正体不明のISと交戦を開始!

わたくし達で現状、押さえ込めますが旅館の方に襲撃があるかもしれませんわ!』

 

「このタイミングで正体不明のISだと?」

 

後詰であるオルコットとラウラを狙う理由が分からない。

福音の仲間?いや、福音は暴走ISと聞いている。仲間とかそう言う類ではないだろう。

なら、別の組織か?だが二人が邪魔であれば、織斑と篠ノ之が出発したタイミングにする必要性はない。

 

『凰!轡木!布仏!赤也!注意しろ、敵が現れるかもしれないぞ』

千冬の号令で考えを中断する。

旅館を襲撃するなら今が絶好のチャンスだ。

だが、襲撃の気配はない。波音だけが唯一の音だ。

 

「…なんだ。こっちには何もないのか?」

 

集中は切らさずに周囲を見回す。

時間にして、三分ほど。なんの変化も訪れないまま、経過した。

 

『……お前達、変化はあるか?』

 

妙に暗いトーンの千冬の声が聞こえる。

 

『警戒するだけ無駄って感じですよ』

 

『波音ぐらいですかね』

 

『…織斑先生〜何かあったんですかぁ〜?』

 

本音が間延びした声で質問する。

俺も気になっていた事だ。いくらなんでも、声が暗すぎる。

 

『ーー作戦は失敗だ。織斑が敵に堕とされた』

 

『『『なっー!?』』』

 

「……やっぱりか。オルコットとラウラは?」

 

篠ノ之のあの様子を見た限り、容易に想像できた。

とはいえ、ここまであっさり堕とされるとは。

 

『正体不明ISが撤退。織斑、篠ノ之両名を回収し、戻ってきている様だ』

 

「そうでしたか」

 

『福音は動きを止め、正体不明ISも撤退した。お前らも戻ってこい。

……これからを考える』

 

終始、暗い声で千冬は通信を終了させた。

サードオニキスを解除し、砂浜に足をつけ、海岸を見る。

 

「チッ、篠ノ之の奴なにやらかしやがった」

 

まぁいい。とりあえず、旅館に戻ろう。

ここで苛立ちを抱えていてもなにかが変わるわけじゃない。

溜息を軽く吐き、歩き出す。

 

「……」

 

そんな俺を遠くから見て、笑みを浮かべている金髪の女性に気づく事はなかった。

 




原作とは作戦を変えてみました。
うちの千冬さんは、束さんの意見を綺麗に丸呑みする方ではないので。まぁ、結果は変わりませんでしたけど。

福音、正体不明IS、金髪の女性。
さてさて、物語はどう変わりどういう結果を作るのでしょうか。私にも分かりません!

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヒーローなんて……

明けましておめでとうございます!(大遅刻)



「俺が最後でしたか。遅れました」

 

「…いや、構わん。座れ、赤也」

 

色々考えながら歩いていたら俺が最後になったようだ。

千冬の側には、作戦に参加し戦闘を行った篠ノ之、オルコット、ラウラが座っている。が、篠ノ之の表情は見えない。

まぁ、どうでも良いか。とりあえず、入り口の一番近くにいた本音の横に座る。

 

「揃ったな。まずは、これを見てくれ」

 

千冬が山田さんの方を見て、頷く。

それが合図だったようで、モニターが起動。映像が映し出される。

 

「これがオルコット、ボーデヴィッヒ両名と戦闘した正体不明機だ」

 

指示棒を持つ千冬が示した正体不明機。

その姿は、クラス代表戦で俺が戦ったISと形状が酷似していた。違う点を挙げるのなら、形状がより人に近づき、あの時はブレード二本だけだったが、武装が追加されている様にも見える。

 

「またこいつが……」

 

凰が憎々しげに正体不明機を睨む。

 

「オルコット、ボーデヴィッヒからこのISの所感を述べて貰う。頼んだ」

 

「「はい!!」」

 

千冬が下がり、オルコットとラウラが前に立つ。

ドサっと座る千冬。……全く、中身は繊細なんだな千冬。

 

「わたくし達の所感を戦闘の映像とともに話させて貰います」

 

オルコットが手に持つスイッチのボタンを押し、映像が動き出す。

初めは早送りで、平和な海と青空が映し出されている。だが、突如として海から現れた正体不明機により、二人は強襲される。

 

『なっ!?どこから』

 

『考えるのは後だ!!教官、我々は正体不明機との戦闘を始めます!』

 

映像からオルコットとラウラの声が響く。

声から分かる通り、二人はかなり焦っている。だが、何故だ?ISのレーダーであれば接近に気づけない筈がない。

こうも簡単に強襲されるなんて。

 

「この時、わたくしのレーダーにもラウラさんのレーダーにも反応はありませんでした」

 

オルコットの言葉に全員が息を呑む。

 

「推測の域を出ないが、このISはかなり高レベルなステルス機能を搭載している。

現行兵器を遥かに凌駕するISすら騙せるレベルのな」

 

「だけどラウラ!そんなのがあり得るの!?」

 

凰がラウラの言葉に驚きながら質問する。

ステルスという一点とはいえ、ISを超えた。それは即ち、ISの万能性を一部とはいえ、地に落とす事が出来るという事だ。

世の中にこの情報が出るだけで混乱待った無しだ。

 

「私とて信じられないさ。だが、この目で見て体感したのだ。

それに嘘偽りはないぞ、鈴」

 

「……そうね。悪かったわラウラ。続けて」

 

凰が落ち着きを取り戻し、先を促す。

止まっていた映像が再び、動き出す。強襲されたとはいえ、この二人だ。

即座に体勢を立て直し、戦闘を行う。ブルーティアーズのビットが展開され、ラウラのレールガンが火を噴く。

だが、それを人には不可能な動き。腰を180度回転させ、錐揉みをするように二人に突撃し、避ける正体不明機。

 

「「やっぱり、無人機か」」

 

俺と凰の言葉が重なる。

 

『避けた!?いえ、それよりもあの動きは……ラウラさん、遠慮は必要ありませんわ!』

 

『あとで話を聞かせて貰うからな!』

 

オルコットとラウラの動きが変わる。

攻撃が牽制から、撃墜を視野に入れた動きだ。オルコットはビットの狙いを統一。

執拗に関節部を狙っていく。シールドエネルギーを削るのではなく、破壊する攻撃。

無人機だと判断した様だ。

オルコットの動きを見て、ラウラも行動を変える。射線を塞がない様に近接戦に移行する。

俺が戦った時の無人機であれば、これで終わるが、そうではなかった。

 

『『動きが変わった…!?』』

 

まるでオルコットとラウラの殺意に応えるようにその動きがより実戦的になった。

動きは人間ではない。だが、殺意に反応する様に動きを変える人間らしさ。

 

「…気味が悪い」

 

シャルロットの声が静かな室内に響く。

俺もその言葉に同意したい。だが、自分の右腕を見て思考が停止する。

 

(俺はどっちだ?人間か、機械か)

 

サードオニキスに侵食されてるこの身体を果たして人間と呼んで良いのだろうか。

そもそも、俺はあの時、篠ノ之束に出会わなければ死んでいた。そういう意味で俺は死人だ。

サードオニキスによって生かされている。ただ、それだけの存在とも言える。

 

「……はっ」

 

短く息を吐く。

俺が人間か機械かなんて今、考えることではない。今は正体不明機が優先されるべきだ。

ドロドロした黒い考えを無理やり切り離し、オルコットとボーデヴィッヒの話に耳を傾ける。

 

「この映像で正体不明機が使用した武装は、二本のブレードと両掌から放たれるレーザー兵器。

それと、脚部に搭載された小型ミサイルですわ」

 

「レーザー兵器は非常に強力だが、それ以外は大したことではない。

だが、そう考えると疑問が残る。奴のステルス性能がまるで活かされていないことだ」

 

「奇襲を成功させたからいいんじゃないの?」

 

「デュッチー、おかしいんだよぉ〜。この正体不明機、奇襲でビームを使ってないんだぁ。

それを使えばセッシーとラウラウを一撃で仕留められる筈なのにぃ」

 

シャルロットの疑問を本音が答える。

 

「その通りだ本音。故に、私とセシリアは共通の見解を出した。

これは織斑先生も合意している。あの正体不明機の目的は我々の足止め。即ち、織斑一夏、篠ノ之箒の救援を行わせないものと考えた」

 

目的が足止めだとしても、この正体不明機の真意が分からない。

それはラウラ達も同様で、続きを言わない事から察しがついていないと分かる。

 

「何か質問はあるか?」

 

千冬が前に立ち、俺たちに投げかける。

誰も手を挙げることはない。それを見て、視線でオルコットとラウラを下げる千冬。

 

「では、次だ。篠ノ之が説明できない状況にあるため、私から説明する。

現在、対福音に当たっていた織斑一夏は意識不明の重体で別室にて療養中だ。そして、これが戦闘映像だ。

ここで見たことを決して、他言しないように」

 

千冬がオルコットの時と同様にスイッチを押し、映像が動き出す。

視点主は織斑のようで、紅椿の背中が映っている。

 

『なぁ、箒。落ち着けって』

 

『黙れ腑抜け者』

 

織斑が話しかけるが、不機嫌な声で断ち切る篠ノ之。

まだ、俺と会話した時の事を引き摺っているようだ。篠ノ之の物言いに凰が睨むが篠ノ之に反応はない。

 

『箒……』

 

織斑の哀愁漂うつぶやきが聞こえる。

アラームの音が響き、白式のレーダーが福音を捉える。

時間にして10秒後、福音と接敵する織斑達。だが、初撃は華麗に避けられる。

この時点で作戦は失敗だ。だが、映像の二人は戦闘を続ける。

 

『ちょこまかと動くな!』

 

篠ノ之が動き回る福音を紅椿の性能にモノを言わせた動きで、迫る。

まるで猪だな。突撃しか考えてないのか。

だが、やはり第四世代機。性能頼りの一辺倒でも、近接兵装の無い福音を徐々に追い詰めていく。

 

『一夏ぁ!』

 

篠ノ之が吠える。

福音を取り押さえる絶好のチャンスだ。だが、白式が映し出しているのは紅椿でも福音でも無い。

一隻の船だった。

 

「海域封鎖をしてるはずなのに!?」

 

「……私達、教師の失点でもある」

 

凰の驚いた声に千冬が頭を押さえながら、答える。

IS学園は軍人の集まりでは無い。だからこんな失敗だってあり得る。だからって……生徒が命がけで挑んでる戦場でこんな杜撰さをしなくても。

白式はこの絶好のチャンスを投げ捨て、船を護ろうと動く。

 

「……織斑、お前は顔も知らない誰かの為に命を投げ捨てるのか」

 

目先の命。

あの船に何人乗っているかは知らない。だが、福音がここを抜けて被害を出すであろうIS学園の生徒、日本の国民に比べれば少ない。

どちらを重要視するかなんて、単純な問題だ。後者であるべきだ。

俺ならそうする。あの船に乗っているのが、本音や神楽で無いのならだが。

 

「……チッ、馬鹿か。お前は」

 

『何をやっている一夏!そんな奴らは放っておけ!!』

 

篠ノ之と珍しく意見が合った。

 

『箒!お前、やっぱり可笑しいぜ。力を手に入れたからか?』

 

『何を言ってる!?』

 

『あぁ…くそっ!箒、福音を引きつけてくれ!

白式のエネルギーはまだ余裕がある!だから、早く!!』

 

零落白夜を攻撃が当たる瞬間にのみ発動させてた白式のエネルギーはまだ余裕がある。

しかし、船をかばい続けていては限界があるのだろう。織斑が焦った様に篠ノ之に指示を出す。

一瞬、映像が福音を映した事から、織斑が福音に視線を向けたと判断できる。

 

『良いから早く来い!お前の攻撃が決定打なのだぞ!?』

 

が、戦況の読めない篠ノ之は相変わらず織斑に叫ぶ。

敵から視線を逸らす。最も、愚かな行為だ。

福音が隙だらけの篠ノ之を攻撃する。何発か被弾し、紅椿のシールドエネルギーを減らす。

 

『箒!?』

 

紅椿のブレードが一本、粒子になる。

武装の維持すら限界になりつつある様だ。だが、篠ノ之が攻撃されたことで船に向かう光弾がなくなった。

織斑が船から極力離れる様に、福音へと接近していく。

 

『貴様ァァ!!』

 

『ッツ!?』

 

激昂した篠ノ之が織斑と福音の間に割り込む。

結果として零落白夜を当てるチャンスを失ってしまう。慌てて、織斑が篠ノ之とぶつかるのを避ける。

だが、隙だらけのその姿を福音は篠ノ之をまるで、何も居ないように扱い、織斑へと攻撃する。

 

『ぐぅっ…』

 

光弾を斬り払うにも限度はあり、白式のシールドエネルギーが残り僅かになる。

零落白夜、一発分か。

 

『一夏!?』

 

動きを止めてしまう篠ノ之。

馬鹿か。そこは敵の目の前だぞ。当然のように福音の光弾が篠ノ之に向けられる。

 

『箒はやらせねぇぇぇ!!!!』

 

白式が紅椿を突き飛ばす。

そして、あとは見るまでもない。白式は光弾に飲み込まれ、映像が途切れる。

その瞬間、今度は紅椿の映像に切り替わり煙幕の中から、白式が解除され、生身となった織斑が現れる。

 

『一夏!?いちかぁ……いちかぁぁぁぁ!』

 

それを半狂乱になりながら、篠ノ之が回収。

不思議なことに福音はその場から一切、動かず撤退する篠ノ之を見送った。

 

「……これが事の顛末だ。教師を代表し、私が謝罪する。

すまなかった。海上封鎖が甘く、今回の事態を招いてしまった」

 

頭を下げる千冬。

俺も含め、全員が何も言えない。千冬が悪いわけではない。現場にいた教師が悪いのだ。

 

「何か質問はあるか?なければ、一旦解散だ。

作戦を続行するかどうかは我々が決める」

 

俺はそれを聞き、真っ先に部屋を出る。

これ以上、辛気臭い空間に居たくなかった。だが、それ以上に織斑の行動がなぜか気になり、一人で考える時間が欲しかった。

 

「俺にはあんな行動は取れない。

自分の目の前にある命を救うのに全力になる。例え、その後ろがより悲惨だとしても」

 

偽善だと断定するのは容易い。愚かだと蔑むのは簡単だ。

なら、俺はなんでこんなにも考えている?

目の前の命を全力で守ろうとして、ボロボロになる奴らを人はなんと呼ぶ?

 

「ヒーロー」

 

口に出してしっくりくる。

そうだ、ヒーローだ。日曜の朝にやる子供向けの番組。それに出てくる奴らは、ボロボロになりながらも目の前の命に全力だ。

顔も知らない人、ただその時に出会った人、会話をした人、友人、恋人、家族。

その全てに命を賭ける奴を人はヒーローと呼ぶ。

 

「あぁ……俺の大嫌いなヒーローじゃないか」

 

俺が苦しい時、辛い時、それを助けてくれるヒーローはいなかった。

全部、俺が耐え抜いた。耐えて耐えて耐えて、遂に右腕を失い、死にかけても助けての言葉は俺の口から出なかった。

ヒーローなんていない。そんな存在はあってくれと願う弱者の願望だ。

だから、嫌いだ。ヒーローなんて偶像は。

 

「なるほど……この俺にもよく分からない織斑に対する感情はこれか。

どうやらほんとうに俺とお前は相容れない様だ織斑」

 

無意識に織斑が寝ている部屋まで足を運んでいた。

意識を失っている織斑に今の俺の言葉は聞こえてはないだろう。

 

「無様だなヒーロー。自分が傷ついてそれで誰かが守れて満足か?」

 

返答はない。

織斑が生きていると告げる電子音だけが響き渡る。

 

「満足なんだろうな。お前みたいな人種は。

俺は嫌だね。傷付くとしても守りたいと思える奴らじゃなくちゃ嫌だ。だから、お前の考えなんて理解できないししたくもない」

 

何をやってるんだ俺は。動けない意識もない織斑を罵ったところで、意味なんてないだろう。

そんな俺の意識とは裏腹に口は動く。

 

「このまま寝てろよ。その方が被害が出なくて良い。

福音は俺にもどうしょうもないが、動きが止まってるしいずれどうにかなるだろうよ。

国が動くかもしれないし、もしかしたら他の専用機持ちで倒せるかもしれない。そうすれば、ヒーローは倒した奴になる。

お前の行動は無意味に無価値になるんだよ」

 

部屋の扉が思いっきり開かれる。

そこに立っていたのは凰だった。

 

「……あんたがここに居るのは予想外だったわ」

 

「俺もそう思う。見舞いか?」

 

「違うわ。福音を倒すのに手を貸しなさい」

 

凰の後ろにはどうやって説得したのかオルコット、ラウラ、シャルロットと篠ノ之がいる。

俺と本音を除いた動ける専用機持ちを説き伏せたのか。

 

「悪いが断る。サードオニキスじゃ、高速戦闘にはついていけない。

それに旅館の方をゼロにするわけにもいかないだろう」

 

「本音も同じこと言ってたわ……そう、なら良い。

私達だけで行くわ。千冬さんに余計なこと言わないでね」

 

凰達が立ち去って行く。

 

「聞いたか?織斑。どうやら、本当にお前の役目はないらしい。

精々、自己満足に浸ってるんだな」

 

俺も部屋を出る。

右目が飛んで行く凰達を捉える。さてと、俺も何かあったら、備えておきますか。

 

「うん?」

 

旅館からそう遠くない林にふと目が行く。

人影か?微妙に見辛いな。右目に意識を割く。

 

「…千冬?」

 

千冬の様な人物が林に入っていくのが見えた。

だが、背が低い様に見えた気がするが……チッ、旅館に何かあってからじゃ遅いか。

俺は林の方に走り出す。まさか、それが第三の勢力による罠とは知らずに。

 




いやぁ、本当にイチャイチャとか日常が書きたい。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺が俺でいるために

今回、オリキャラが登場します。
私の前作、『蒼き雫に救われし者』から、ブレインというキャラです。
前作を読まなくても、大丈夫なようにしていきますが、一応、ご連絡しておきます。


警戒をしながら林を進む。

千冬と良く似た人物を思わず、追いかけてしまったが連絡をした方が良かっただろうか。いや、千冬は今精神的余裕に欠けている。

余計な負担はかけない方が良いか。

 

「…これが罠だったら俺が負担をかけるよな。間違いなく」

 

やはり軽率だったか。

とは言え、身体が勝手に動いてしまったことだ。諦めよう。

 

「それに、勘でしかないが、背中を向けるのはマズイ気がする」

 

ここの林に入ってからずっと感じる誰かに見られてる感覚。

それが進めば進むほど、強くなっている。しかも、その視線が基本的に進路方向からなのだ。

引き返せばこの視線の主に背を向けることになる。まぁ、右目で不意打ちは防げるんだが。

見た目同様、中身も千冬レベルだとキツイ。

なんてことを考えてながら歩いていたら引くに引けないエリアまで踏み込んでしまった。

 

「なんだここ。ずいぶん、拓けてるな」

 

林を進んで数十分。

やたらと拓けた場所に出る。

 

「……いや違う。人為的に木が減らされてる」

 

ところどころ、土の色が違う。

その辺りを注視して見れば、木屑もある。明らかに誰かが意図的にこの場所を作った。

 

「ッツ!?」

 

急に背後に現れた黒いローブの様なものを纏ってる奴が、消音付きの拳銃を撃ってくる。

顔は見えないが、右目が弾道を計算してくれるお陰で追える。身体の体勢を崩し、弾丸を避ける。

 

「……!」

 

黒いローブの息を呑む音が聞こえ、さらに銃弾が飛んでくる。

だが、遅い。弾道が追えれば、避けれる。そのまま、距離を詰め、右手で殴りかかる。

 

ガァン!!

 

金属がぶつかり合う音が響く。

拳銃を盾に俺の拳を防いだ様だ。近づけば顔が見えると思ったが、ローブが思ったより深く被られており、見えない。

舌打ちをしながら、相手の拳銃を弾き飛ばす。

だが、それと同時に黒いローブの蹴りが俺の腹に当たり、距離が開く。

 

「……来い」

 

黒いローブを派手に脱ぎ捨てると同時に、光に包まれる。

 

「くそっ、サードオニキス!」

 

その光が見慣れたISの展開だと、察してサードオニキスを展開する。

コンマ数秒の差でISを展開し終わり、向き合う。

 

「……なっ!?」

 

「驚いてる暇はないぞ?」

 

千冬そっくりの顔に驚き、固まってしまう。

その隙を突かれ、距離を詰められる。

 

「ぐっ…」

 

右目の予測に従い、その攻撃をギリギリで躱す。

くそっ。完全に油断した。

かなり焦っているが、千冬との稽古が染み付いた身体は意思が無くても、勝手に動いた。

ISはラファールか。性能で言えば、俺の方が上。

それでも……攻めきれない。

 

「ISの使い方が上手い…」

 

「ほらほら!」

 

振るわれるブレードを右腕で弾き、蹴りを放つ。

だが、笑みを浮かべたまま、その蹴りは避けられ後方に飛びながら、ナイフを投擲される。

それらを右手で一掴みにし、輻射波動で、破壊する。

 

「戦闘は許可してないわよ、M」

 

「チッ」

 

黒いローブを着た金髪の女性が現れる。

その女性の言葉でMは動きを止める。

 

「こんにちわ、西村赤也くん。

私はスコール・ミューゼル、いえ、貴方にはガスト・ミューゼルと言った方が分かりやすいかしら」

 

フードを外した女性。スコール・ミューゼルと名乗ったその姿。

好みではないが、美人な事は分かる。10人いたら9人は振り返るだろう。

 

「まぁ、そうマド……Mを責めるな。

戦闘行為によるデータが取れた。意味はあったとも」

 

その横に立つ燻んだ銀髪の男性。

冴えない風貌に白衣。胡散臭さが半端無い。

 

「そうやって、Mを甘やかすのは貴方の悪いところよ、ブレイン」

 

「なんだお前らは……」

 

「あら、自己紹介はしたわよ。ねぇ、亡国企業に来る気はないかしら?」

 

そう言いい、俺に手を差し出す。

 

「…悪いが」

 

「逃げようとは思わない方が良いわよ?」

 

俺が瞬きをしている間に、スコールは金色のISを展開。

俺のすぐそばに、火球が落ちる。

 

「やれやれ、仕方ないか」

 

ブレインが拳銃を取り出し、俺に撃つ。

避けようと思ったが、Mとスコールが攻撃体制に入った事により、右目に二人の予測が映される。

いや、映されてしまった。そのせいで、無意識にその予測に意識が割かれてしまう。

 

「君の目の弱点だ。ISのシステムの直結したその右目。

あぁ、確かに強いな。だがね、人間の本能というのは、思いのほか臆病なのさ」

 

両足に着弾した拳銃の弾。

本来であれば、なんの害もないはずだ。だが、着弾と同時にドロっとした粘液が俺の足と地面をくっつける。

 

「う、動かない…」

 

「ISのパワーでも、そう簡単に引き剥がせるものではないぞ」

 

「…さて、これで落ち着いて話が出来るかしら?」

 

なんだこの男!?

というか、こいつらどうやって俺の右目を知りやがった。俺の右目を知ってるのは、本音と神楽、千冬ぐらいだぞ。

 

「篠ノ之博士よ。今、彼女と私達は協力関係だから。

これで、疑問には答えたかしらね」

 

「……心を読まないでくれるか?」

 

「あら、随分と分かりやすい顔をしてたから読んでくれと言ってるのかと思ったわ」

 

会話の主導権が取れない。

足は相変わらず、動かない。俺の身体に関する事はバレてると考えて良い。

力を抜き、両手を下ろす。

 

「話をする気になったと、見て良いかしら?」

 

「さぁ?お好きに」

 

「ふふっ、可愛らしい反抗ね。

私から言う事は何も変わらないわ、こちらに来ない?」

 

くすくすと笑いながら、俺の精一杯の反抗を可愛いと評価する。

あぁ、こいつ苦手だ。

 

「断る。確かにあんたらの誘いに乗れば、この状況から脱出出来るだろう。

だが、俺はあの場所が好きでね。離れる気は無い」

 

無駄に意思の強くなったシャルロットや、自称姉のラウラ。

気に食わないが、優雅で俺とは対極にいるオルコット、意外にメンタルや私生活が弱点だが、尊敬できる師匠の千冬。

それに、こんな俺を友人と呼んで、側に居てくれる本音や神楽。

そんな奴らがいるIS学園は気に入っている。だから、そこを捨てる気は無い。

 

「…貴様は貴様の全てを奪った者に復讐したいとは思わないのか?」

 

Mと呼ばれていた奴が急に喋りだす。

 

「なんのことだ?俺は何一つとして奪われてなど」

 

「いいや、奪われている。その右腕から始まった身体。

さらに、人間としての尊厳。もっと言うなら、貴様が普通に生きるはずであった未来すら奪われている」

 

…何を言ってるんだこいつは。

脈拍が上がる。脳がその先を聞くなと警鐘を鳴らす。だが、俺に言葉を聞かないと言う選択肢は無い。

無意識に唾を飲み込む。ゴクリ、あいつに聞こえるわけがないが、飲み込んだ瞬間、Mは口を開く。

 

「篠ノ之束。奴は貴様から全てを奪った。

貴様の過去は存分に調べさせてもらった。女尊男卑に染まった家族。あぁ、可哀想だな。

そこから逃げようとして、テロにあう。あぁ、無念だな。

その始まりは誰だ?誰がこの世界を作った?西村赤也という人間を歪めたのは誰だ?」

 

俺が受けてきた不幸の数々。

その全ては女尊男卑が始まりだった。

呼吸が乱れる。

右腕を失い、身体をISに侵食され、生きてるのか死んでるのか分からなくなったのはあの日、篠ノ之束に出会ったからだ。

喉が乾く。

女尊男卑が世に蔓延るようになったのは、篠ノ之束がISを生み出したからだ。

ーーじゃあ、俺が今まで受けてきた苦痛や不幸の数々はーー

 

篠ノ之束がこの世にいる事から始まった。

 

「……いい目だな。その濁った目。

やはり、こちら側に来る資格がある」

 

「……M。勝手な発言はそこまでにしなさい」

 

スコールの語気が強まる。

だが、そんな事は今の俺にはどうでもいい。俺は俺の意思で歩むと決めた。

でも、今も昔も結局、誰かの意思に左右されてるのか。昔は家族、今は篠ノ之束。

 

それでも今の昔は違う。今の俺には力がある。

 

復讐か……考えてもいなかったな。

思考が黒く染まっていく。ゆっくりと俺の脳髄を犯していく。

俺だけで、あの化け物は殺せない。

それは今までの俺のあり方を変えてしまう劇薬で。

……それなら、こいつらと手を組む方がいいんじゃないか?あぁ、その方が化け物に対する対抗策が増えそうだ。

俺の、俺の色を決定付けてしまうものだ。

 

「あかやーん!どこー?

勝手に持ち場を離れると怒られるよぉ〜!!」

 

「……!!」

 

だから、本音の声が聞こえてなかったら俺は戻れなかったかもしれない。

本音の声を聞いて、脳髄を犯していた闇が消えていく。

そうだ、俺は今、本音達といる方が好きなんだ。篠ノ之束への復讐……もっとじっくり考えるさ。

俺がいずれ、復讐という手段を選ぶかもしれない。

だが、それでもそれは今じゃない。今の俺はIS学園の西村赤也だ。

 

「目の色が……チッ、余計な邪魔が入ったか」

 

「スコール、どうするのかね?今の彼を口説き落とすのは難しそうだが」

 

「…ブレイン、下がってて。こうなったら力尽くでいくわ。効果時間は」

 

「戦闘の規模にもよるが、保って数十分だ。それ以上は確証は出来ん」

 

何を話しているが、知らんが無視だ無視。

サードオニキスのパワーを全開にする。ゆっくり、ゆっくり足と地面が離れだす。

 

「ッツ!!こいつッ!!」

 

「待ちなさいM!!」

 

スコールの制止虚しく、Mが展開したアサルトライフルが火を噴く。

消音なんてされていない銃声が林に響き渡る。

 

「あかやん!?」

 

そうすれば、本音に聞こえないわけがない。

大声を出してたとはいえ、そこそこ広い林だ。声が聞き取れると言う事は近くにいるのだろう。

その証拠に、サードオニキスのレーダーには、九尾ノ魂の反応が急速にこちらに向かっている。

 

「……純粋なパワー型を抑えるにはまだ改良が必要か」

 

「呑気なこと言ってないで、ブレイン!」

 

スコールが接近して、攻撃してこようとしてくる。

後ろのMも同じように向かってくる。まだ、俺は自由ではない。

だが、なんの心配もいらない。

 

「「ッッ!?」」

 

有線式のビットが、Mとスコールに襲いかかる。

二人はそれを避けるが、その隙に攻撃の主が俺の横に降り立つ。

 

「あかやん!無事?」

 

「おう。助かったぜ本音」

 

俺の信頼できる友人の一人。布仏本音。

九尾ノ魂を纏い、俺の横に立つ。結構、格好いいぜ本音。

 

「さて、これで2対2だ。対等な勝負と行こうぜ、亡国企業さん?」

 

身体の捻りも加え、拘束を捩じ切った俺は右手で、Mとスコールを挑発する。

さて、反撃開始と行こうか。

 




次回は、福音と正体不明機戦になるかと思ってます。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女達の想いと覚悟

無人機戦の完結と、福音戦の2回目ですね。
ほんとは、無人機戦も完結するはずはなかったんですが、筆がのりました。


IS学園、一年生の専用機持ち。布仏本音・西村赤也・更識簪・織斑一夏を除いた彼女達は今、海を飛んでいた。

先頭を突っ切るのは、中国代表候補生の凰鈴音……では、無かった。

今回の作戦違反の行動を立案・メンバーの説得まで行った彼女の頭は、感情よりずっとずっと冷えていた。

想い人を意識不明の重体に追いやった敵。

いの一番にでも、そいつをぶっ倒してやりたい。彼女のそんな激情は、理性と友への信頼で押し込まれていた。

 

「……」

 

箒には一発叩くだけで済ませた。

本当は、後悔してISを捨てるまでぶん殴ってやりたい。でも、しない。そんなことは、想い人が望んでいない。

だから堪えた。第四世代なんて規格外の力は必ず必要になるから。

福音へと向かう彼女達を遮るかのように、海面から正体不明機が現れる。

 

「…頼んだわよ。セシリア、ラウラ」

 

自分より前を飛んでいる二人。セシリアとラウラに正体不明機の相手を託す。

この二人は別に織斑一夏が堕ちた事への仇討ちに来た訳ではない。

あのとき、自分達が不意を突かれたとはいえ、手間取り救援に行けなかった。その後悔の尻拭いに来たのだ。

 

「同じ手で不意打ちとはな!!」

 

「芸がありません事よ?」

 

ラウラが正体不明機に接近し、投げ飛ばす。復帰に戻ろうとするところを、セシリアがビットで攻撃する。

壁は一切、役目を果たす事なく、鈴、箒、シャルロットを通過させる。

 

「さぁ、わたくしと踊ってくださるかしら?」

 

ビットを背に従え、優雅に微笑むセシリア。

しかし、その目には爛々とした闘志の炎が宿っている。

 

「踊りの作法なんか知らぬが、なに。礼砲ぐらいは送ってやろう」

 

レールガンを正体不明機に放ち、不敵な笑みを浮かべるラウラ。

その目は獲物を狙う獣の如き、鋭さだ。

 

「「いきますわよ(いくぞ)、無人機!!」」

 

令嬢と軍人が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福音まで残りわずか。

傷の回復でも狙っているのか、身体を丸め、活動を停止させている。

それを視界に捉えた鈴、箒、シャルロット達。

特に鈴は我慢の限界が近いのか、その眼光は殺気に満ちている。

 

「鈴、手筈通りに行くからね」

 

「…えぇ。そういえば、シャルロット。あんたは、別に一夏が好きなわけじゃ無かったよね?」

 

「僕が参加してるのがそんなに不思議?」

 

ロケットランチャーを展開し、静止するシャルロット。

 

「えぇ。もちろん」

 

「あはは、確かに異性として一夏が好きなわけじゃない。

でも、僕は彼に救われたんだ。赤也が用意してくれたものとは違って、まやかしでいずれは壊れてしまう様な救いだったけど、それでも確かにあの時、僕の心は救われたんだ」

 

照準がゆっくりと福音に合っていく。

それが重なり、トリガーに指をかけながら、シャルロットは口を開く。

きっと、赤也が現れなければ一夏に惚れていた…その言葉は心の奥へとしまう。

 

「だからかな。僕はこうして今、ここにいて君達に協力してるんだ」

 

トリガーを絞る。

カチッという音ともに、ロケットランチャーは福音へと放たれ、休息状態にあったため、直撃し爆音と共に黒い煙幕を生み出す。

 

「狼煙は上がったよ!僕が援護する。だから、戦って鈴、箒!」

 

二丁のアサルトライフルを展開し、煙幕を突き抜けて現れる福音へ放つシャルロット。

シャルロットの言葉に目を丸くしていた鈴だったが、気を取り直し、双天牙月を構える。

 

「あんたに言われるまでもないわよ!!」

 

シャルロットの射線を邪魔しない様に意識しながら、瞬間加速で福音へと急接近し、斬りかかる。

 

「こちとら、もう我慢の限界なんだから!!」

 

犬歯をむき出しに、吠える鈴。

その勢いは、今までのどの彼女よりも苛烈なものだ。

 

「うっわぁ、バーサーカーみたい……」

 

「聞こえてるわよ!?シャルロット」

 

「ひぇぇ」

 

思わず呟いた言葉をしっかり聞き取っていた鈴。

その迫力に思わず、怯むシャルロット。味方同士でやっていいことではない気がするが、問題なく連携を取れているから良いのだろう。

 

「……」

 

未だ、迷いを断ち切れない紅き少女は動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人機の動きは変わらない。

正面から向かってるラウラを受け流しながら、人間には出来ない動きでセシリアの攻撃を躱す。

そして、攻撃は牽制程度のビーム攻撃。明らかに時間稼ぎが目的の動きだ。

 

「つれないですわね…」

 

今、現在の自身の限界であるビット三機を並行させながら、自分でも攻撃を行うセシリア。

口では余裕そうだが、内心では防戦に徹する厄介さに舌を巻いていた。

偏光射撃が使えればAIの処理に隙を作れる気もしれない。だが、今に至るまでセシリアは偏光射撃を一度たりとも発動させていない。

この本番で失敗したら、許されない状況。ぶっつけ本番で会得するしかない。

 

「賭け事は嫌いなんですが……」

 

「なんだ?策でもあるのか」

 

ラウラがセシリアの横に並ぶ。

足止めが目的であるため、この無人機。攻撃や福音の方に進むといった特定の行動をしない限り、襲ってこない。

ゆえに、こうして話をする暇がある。

 

「…無いわけではありませんが、成功率はほぼ無いに等しいですわ」

 

理論主義者であるセシリアからすれば、成功率が低いというだけで、竦んでしまうものだ。

ここで無人機を早く倒さなければ、先に行かせた者達の負担が大きくなることは、理解している。

だが、それでも、数字という見える結果に彼女は怯えてしまう。

 

「ふむ。お前が何を考えているか私には分からないが、私達は尻拭いに此処にいる。

これが終わったら、私から赤也に伝えておこう。セシリアは、臆病者の腑抜けであったとな」

 

安い挑発だ。

だが、セシリアの感情に発破するには十分すぎるものだった。

 

「わたくしが西村に腑抜けと思われる?……ははっ、そんっなの我慢できませんわ!!

優雅で気品あるわたくしが、あの獣馬鹿に、下に見られる?……考えただけで吐きそうになりますわね」

 

何もそこまで思わなくてもっと思わず、出かけた言葉をラウラは押し込む。

彼女の直感が、今のセシリアには余計な事は言わない方が良いと、告げていた。

セシリアの苛立ちに反応したのか、無人機がビームを放つ。それを綺麗に避ける二人。

 

「ラウラさん!」

 

「な、なんだ?セシリア」

 

セシリアの気迫に引きながら答えるラウラ。

そんなラウラの様子など知らんと言ったばかりに、口を開くセシリア。

 

「徹底的に叩きますわよ。合わせて下さいな」

 

自分の限界数のビットを使いながら、狙撃銃を乱射するセシリア。

対する無人機も流石に、一斉攻撃を食らっては堪らないと言わんばかりに、身体のあらゆる部分を捻り避ける。

 

「……やはり、未だにセシリアと赤也の関係性がよく分からんな」

 

動きの変わったセシリアを見て、ラウラは呟く。

自分にとっての力を追い求める彼女には、まだ人の感情の理解などといった方面への理解が薄い。

 

「……ああもぅ、ちょこまかと」

 

一斉攻撃も、気色の悪い動きで避け続ける無人機。

やはり、通常の攻撃手段では分が悪い。遠距離武器というのは、相手の間合いに入る事なく、攻撃できる便利なものだ。

だが、武器から放たれた弾丸は、直線上の軌道しか辿らない。

近接武器の使い手達のように、複雑な攻撃は余程の領域にいるガンナーではないとできない。

 

「…それをわたくしのブルーティアーズなら可能とする…」

 

避けた弾が曲がり、自分を襲ってくる。

相手からしたら、やられたくない攻撃だ。しかも、任意に曲げることが出来れば、曲がるか曲らないかの二択を相手に押し付ける事ができる。その迷いは戦闘において、命取りとなり得る。

 

「私が時間を稼いでやろう」

 

ラウラがセシリアの横を抜け、無人機へと格闘戦を仕掛ける。

それを見て、ビットを自分の周囲に戻すセシリア。

右手を自分の胸に当て、左手でビットの一つを優しく摩る。

 

「…ブルーティアーズ。

わたくしが不甲斐なく、西村相手に壊され、無様な敗北を与えてしまいました。

いずれ、西村にはリベンジを果たすつもりです。ですから、貴女の力を貸してくださいな」

 

目を閉じ、優しく声をかけるセシリア。

この時は、ラウラと無人機の戦闘音、波の音。何もかもが彼女の耳には届いていなかった。

 

『どうぞ、セシリア様。私の力を自由にお使いください』

 

そんな声がセシリアには聞こえた気がした。

目を開き、ビットを全て操作する。自らは動けなくなるが、今までのどの動きよりビットは早く動いた。

ラウラの邪魔をしないように放たれたビットのレーザー。それは、今までの同じように回避される。

だが、セシリアに焦りはない。

 

「…曲がりなさい」

 

そう、静かに命じる。

直後、レーザーが全て曲がり、無人機へと当たる。避けたはずの一撃、それがあり得ない方向から自分に当たった事に、無人機のAIは処理落ちを起こす。

 

「やれば出来るではないか」

 

目の前で動きを止めた、無人機に至近距離でレールガンを放つラウラ。

爆発音と共に、無人機は吹き飛び、近くの小島へ勢いよく叩きつけられ、再起動しようとしたところをレーザーの雨に焼かれ、機能を停止させた。

 

「ッッ…!?頭痛い……」

 

ふらふらとしながら、ビットを呼び戻すセシリア。

頭を押さえ、苦痛に顔を歪めているが、どこか嬉しそうであった。

 

「ふふっ……やりましたわね。ブルーティアーズ」

 

そのセシリアの言葉に反応するように、ブルーティアーズは薄く蒼色に発光した。

 

 




次回は、どっちだろう。
意識不明の一夏君の精神世界話か、赤也の方か。
多分、筆がのったほうになるかと。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



悩んだ結果、今回は赤也SIDEの話です。



「ほらほら」

 

「チッ」

 

右腕で掴みかかろうにも、揺らめく炎の様に、掴む事が出来ない。

ああくそっ。終始、ニヤニヤとした笑みで避けられ続けられるのは腹が立つ。

勢いよく、本音と共に戦いを始めたが、俺も本音も正直、遊ばれている。

 

「専用機を持っていながらこの程度か?」

 

「このぉ!」

 

本音とMの戦いも、Mが慢心してるが故に本音が押し切られる事はないが、勝ち目が薄いのは分かる。

どうにか俺がスコールをぶっ飛ばして援軍に行きたいが…

 

「気が散ってるわよ?」

 

言葉と共に飛んできた火球をクローダで防ぐ。

視界が塞がるが、右目のお陰で問題はない。だが、炎の鞭が両側から向かって来る。

 

「貴方の右腕は、掴まれると厄介でしょ?でも、これなら掴めない」

 

ああそうだよ。

上昇して鞭を避ける。右腕で掴める武装なら、掴んで破壊するんだが、掴めない炎を使われるとジリ貧だ。

なにせ、サードオニキスには、遠距離武装がない。牽制用のバルカン?威力が低すぎる、論外!

 

「クッソ、相性悪いな…」

 

「ふふっ。ほら、諦めなさい?貴方はこちらに来るだけの素質があるのよ。

その才を活かすには、良い場所よ」

 

「しつこいな…!その誘いは断った筈だ」

 

急降下しながら、右腕を振り下ろすが、避けられる。

輻射波動を発動させたままの一撃だった為、地面が派手に爆ぜる。

その煙幕を利用し、クローダをブチ当てる。ガチンッという、金属音が聞こえるが、吹き飛ばした手応えはない。

 

「少しだけ驚いたわ。良い策よ」

 

「チッ……悠々受け止めておいてよく言う」

 

ISの尻尾を利用して、受け止められている。

ガチガチと、尻尾とクローダが火花を散らす。炎の鞭を遊ばせた状態でこのぶつかり合い。

しかも、スコールは両手がフリーだ。明らかに、俺が不利でいるこの状況。

 

「ふふっ」

 

余裕なツラしやがって、ぶん殴りてぇ。

俺如きでは、自分を傷付ける事はないと分かりきっているのだろう。だが、その慢心に隙がある筈だ。

セシリアの時の様に、意表さえ突ければ…

 

「きゃあ!?」

 

「…なんだ、つまらん」

 

本音の九尾ノ魂が地面に叩きつけられる。

その衝撃で、未だに立てない本音の頭を踏みつけるM。

 

「本音!!」

 

「力、抜けてるわよ?」

 

腹部に強い衝撃が襲い、吹き飛ばされる。

本音に意識を割いた瞬間に、尻尾がクローダをすり抜け、俺の腹部に攻撃してきた様だ。

 

「……なるほどね。彼女は貴方にとって大切なのかしら?」

 

腹部を押さえながら、近づいてきたスコールを睨みつける。

くそっ、どうやって本音を助け出せば良い…俺が巻き込んでしまったあいつを…

 

「目は口ほどに物を言う。貴方は特に顕著ね」

 

「あ?」

 

嫌な笑みを浮かべながら、俺を見るスコール。

 

「今まで抑えてきた反動なのか、貴方の目は感情を色濃く現わすわ。

そうね、今は動揺と私に対する嫌悪ってところかしら。少しはポーカーフェイスを覚えた方が良いわ」

 

「…はっ、だからなんだ」

 

「獣の様に牙を尖らすのは、結構。敵とみなせば、一切容赦なしそれも素晴らしい。

自分の身体が機械へと置き換えられていても、正気を保つ異常性。どれをとっても私好みよ」

 

なんだ、こいつ。

俺は口説かれてるのか?こんな気色の悪い口説きなんてされたくなかった。

 

「あまりやりたくないけど、貴方のその脆さは命取りよ。M」

 

「おい、スコール」

 

「加減をしなさい。大丈夫よ、ブレイン。やりすぎたら、私が止めるわ」

 

何をする気だ。

Mの方を恐る恐る見る。スコールとプライベートチャンネルで会話しているのか、口を動かしている。

溜息を吐いた後、足蹴にしている本音を見る。

 

「悪いな。これも作戦だ」

 

シールドピアーズを右腕に装着したM。

それを本音の腹部に押し当てる。

 

「や、やめろ!!!」

 

「ダメよ」

 

尻尾が開き、押し付けられる。

パワータイプのサードオニキスでもビクともしない。なら、輻射波動で…

ガチっと右腕から音がなる。肩が尻尾に押さえつけられ、動かせない。

 

「このぉぉ!」

 

有線式ビットが九尾ノ魂から放たれ、Mへと向かうがあっさり避けられ、アサルトライフルで破壊される。

身体を捻って、Mから逃れようとするが、叩きつけられた時のダメージが抜けきっていない本音では、脱出が出来ない。

 

「あの子がこれから追う被害は貴方のせいよ。貴方が弱いから、貴方の警戒心が足りなかったから、貴方が分かりやすかったから」

 

パチンッと指を鳴らすスコール。

同時にMのシールドピアーズが本音に突き刺さる。

 

「ガッ」

 

ドンッ!

 

「ぐっ」

 

ドンッ!

 

「あぐっ」

 

ドンッ!

 

やめろ…やめてくれ……本音が苦しい声を上げる。

 

「…ぐふっ」

 

ドンッ!

 

「やめろ……」

 

辛そうな声を上げる本音に何も出来ない俺の心の方が限界を迎える。

自分の中の何かが折れてしまう…そんな感覚を味わう。

 

「…だい…じょうぶだよ…あかやん」

 

聞こえてきた本音の声に反応し、勢いよく、本音の方を見る。

そこには、苦しい筈なのに。痛い筈なのに。優しい顔で、俺を見ている本音がいた。

だが、それも一瞬で次の瞬間には振り下ろされたシールドピアーズの一撃により再び、苦痛に歪んだ。

俺は今、なに、安心していた?

あいつの大丈夫に一瞬でも、なに救われた気分でいた?

 

無力なままで俺はなにをしている?

 

右腕を見る。

そして、次の瞬間俺は真っ白い不思議な空間に立っていた。

 

「……なんだ、ここは」

 

「私の世界です。マスターの心が限界だったので、こうしてここに呼びました」

 

俺の目の前に、眼鏡をかけた赤髪の女性が現れる。

というか、この声はサードオニキスだよな。ってことは、こいつはサードオニキスか。

 

「……おい、サードオニキス」

 

「なんでしょうかマスター」

 

「力を寄越せ。俺を好きなだけ食っていい。だから、その代わり本音を救えるだけの力を寄越せ」

 

こいつがサードオニキスなら、それが出来るはずだ。

俺の身体を機械へと置き換え、常人では決して得ることのできない力を与えたこいつなら。

 

「よろしいのですか?これ以上は、マスターの負担が増えますが」

 

俺の提案に驚いた様な表情を見せるサードオニキス。

 

「構わない!本音は、俺が巻き込んでしまった。

俺の為に傷つくあいつは、もう見たくないんだよ……だから、既に死んだも同然の不甲斐ない俺一人の負担であいつを助けられるなら…こんな身体、どうなろうが知ったことか!」

 

「…なるほど。他者のためにその身を投げ出す。それは、貴方が嫌いなヒーローと何か違いはあるのですか?」

 

「あぁ?今はそんな」

 

「教えてください。私は、人を知りたい。

人の考え方、精神性。人が多種多様である要因を私は知りたいのです。なにせ、私は知識欲の塊ですから」

 

感情のない目で、淡々と告げるサードオニキス。

くそ、こんな問答をしてる暇はないっていうのに。だが、答えなきゃ延々とこいつは繰り返すそんな確信がある。

 

「ここで会話をしていても、現実世界ではほとんど時間経過はありませんよマスター。

コンピュータが簡単な数式を20ほど並列して、演算する程度の時間しか経ちませんから。マスターが人間をやめてるお陰ですね」

 

「そうかよ。だが、長々話す気はない。

ヒーローは人を選別しない。ただ、目の前の命をがむしゃらに救おうとするだけさ。だが、俺は本音だから助けたいと思う。

今、目の前にいるのが織斑や篠ノ之なら俺は見捨てる。あぁ、オルコットなら嘲笑うな」

 

「では、マスターの様な行動を取る人をなんと呼ぶのですか?守ろうという行為には違いはないはずです」

 

ほんと、こいつめんどくせぇな。

 

「さぁな。人は、不特定多数を大切に思える精神構造はしてない。

俺は俺が大切だと思える奴を守れればそれで良い。人間に残された獣性ってところだろうよ」

 

不特定多数を大切に思える精神性が人間に備わっていれば、戦争なんて起きないだろう。

自分の夢や、自分の大切な人のためなら、容易に人は他者を傷付ける。

それは、獣と何も変わらないだろう。だが、俺はそれで良い。

 

「なるほど。では、マスターは獣なのですね」

 

「……なんで、俺はどこに行ってもそういう扱いなんだろうか」

 

「知識は得ました。では、マスターの望む力を差し上げます。

ですが、私の力には対価として」

 

「構わんと言ったはずだ」

 

「……分かりました。では、また話せる時を楽しみしています」

 

視界が真っ白に染まり、俺は現実の世界に引き戻される。

そして、同時に右腕から凄まじい激痛が走る。

 

「ガッ…アァァァァァ!!」

 

「ッッ!?西村君!?」

 

「スコール離れろ!この反応は……二次移行に一番近いか…全く、君の考えは彼のトリガーを引いてしまった様だぞ」

 

右腕から発せられる紅い光に視界を覆われる。

意識を手放したくなる激痛を、本音を救いたいと言う一心だけで耐える。

何かが作り変えられていく感覚に吐き気を催しながら、耐えていると紅い光が収まる。

 

「……本音を離せ」

 

「なっ!?」

 

Mを左腕に装着され、クローの様になった小型クローダで挟む。

同時に、新しく増えたテールブレードをスコールへと放つ。ふむ、中々に距離が伸びて使いやすい。

 

「ぐっ……離せ!!」

 

「断る」

 

暴れるMの顔面の前により鋭くなった右腕をかざす。

そして、広範囲に放てる様になった輻射波動を放つ。そのまま、乱暴に左腕を振り抜き、スコールへと投げ飛ばす。

 

「……まるで獣ね」

 

Mを受け止めたスコールの言葉は的を得ている。

鋭くなった両腕、両脚。それに尻尾。空を飛ぶISと真反対を行く、地を走る獣のごとき姿。

装甲は多少増えた様な気がする。

 

「本音、無事か?」

 

「…あか、やん?」

 

「あぁ。すまないな、俺が弱いばかりに」

 

「そんな……私は……」

 

なにかを言いたそうにしていたが、本音は気絶した。

本音を横にし、キュルキュルと音を立てながらテールブレードを引き戻す。

 

「これ以上はやらせないぞ……亡国企業」

 

さっきの激痛の所為か、嫌な汗が止まらないし、意識も飛びそうだが俺は右腕を敵に向ける。

 

「チッ、甘ちゃんが…」

 

敵意全開で俺を見てくるMと視線で火花を散らす。

どうやらこいつをどうにかしないと、逃げられない様だ。

 




本音を助けるために、赤也は力を欲し、対価を捧げた。
二次移行を果たした彼だが、なにを失うことになるのだろうか。

今回、かなり悩みながら書きました。
色々と私の趣味を詰め込んで形になりましたね。哲学的な考えするの大好きなんです。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一夏にとっての力

地元に戻って手元に原作が無くなったので、遅くなりました……
でも、よくよく書きあがったのを見てみたら、あれ原作に沿ってるの何処?という状態に…

えー…楽しんで読んでください!


「織斑君、エネルギーの管理は気をつけて下さい!

白式はただでさえ、燃費が悪いんですから」

 

「は、はい!」

 

山田先生に弟子入りしてから、しばらくの間はずっと基礎の基礎を叩き込まれていた。

それでも、先生曰く飲み込みが早いらしく三週間ほどで、実技を教えてもらえた。でも、まぁ、俺の力量が如何に残念か骨の髄まで味わったよ。射撃部門で、ヴァルキリーになった山田先生の銃撃はもう、次元が違った。

まるで、壁の如く銃弾が飛んでくるのは恐怖だ。

 

「ぐっ……おおぉぉぉ!」

 

銃弾の壁を切り払おうとする。

が、間に合うわけもなく、その銃弾に蜂の巣にされる。いや、ISだから身体を貫くことはないんだけど。

 

「……やっぱり、織斑君は織斑先生のようになりたいんですか?」

 

エネルギー切れで、身動きの取れない俺に近づいて来た山田先生。

その目は俺を見定めるように、今まで見たことない顔をしていた。

 

「…はい。俺は千冬姉の様に、誰かを守れる様に…」

 

「それはとても綺麗な夢だと私は思います。

少なくとも、誰もが思い描ける様な夢ではないと思いますよ……ですが、その夢と織斑先生の様に戦う事は同じですか?」

 

「え?」

 

俺は千冬姉の様になりたくて……それでISを動かせて。

それも千冬姉と同じ、雪片を持つ白式だった。だから、俺は千冬姉の様にならなくちゃって…

 

「君は君ですよ?織斑君。

織斑一夏という人物が織斑千冬になる事は出来ません、ましてや西村君の様に織斑先生に師事を受けてない人がなれるほどあの人は甘くないですよ。ずっとあの人の下にいた元候補生の言葉です、これほど重いものはないですよ?」

 

俺は俺で、千冬姉の様にはなれない。

 

「あ、勘違いしないでくださいね。夢を諦めろと言ってる訳ではないんですよ。

君が君のやり方で、夢を目指してください。IS操縦者としての素質は十分ですから。方針が定まれば、動きをも変わるはずです」

 

「…俺のやり方で…分かりました。山田先生!俺、もっと頑張ってみます」

 

山田先生が微笑むと同時に、景色が変わっていく。

俺の視界には、俺がいた。いや、何を言ってるんだと思うが、事実なんだ。

旅館の客室で傷だらけの俺が寝ていた。

 

「……あぁ、福音で俺は。って、じゃ死んだのか俺!?おいおい、冗談じゃ…ん?」

 

部屋の引き戸が開かれる音が聞こえ、入り口を見るとそこに赤也が立っていた。

物凄く苛立ちを感じる表情だ。俺とあいつは、見舞いに来るほど仲が良いとは思ってなかったけど。

 

「無様だなヒーロー。自分が傷ついてそれで誰かが守れて満足か?」

 

苛立ちを抱えた表情で俺を見下ろす赤也。

ヒーロー…俺が?

赤也の言葉に混乱している俺に気づく事なく、赤也は言葉を続ける。

 

「満足なんだろうな。お前みたいな人種は。

俺は嫌だね。傷付くとしても守りたいと思える奴らじゃなくちゃ嫌だ。だから、お前の考えなんて理解できないししたくもない」

 

のほほんさんや四十院さんぐらいだろう、赤也がそう思ってるのは。友人とそうじゃないやつでお前は全然違う。

あの二人といるお前は、とても楽しそうだしな。だけど、お前の人に優劣をつけているのは気に食わない。

生きているのなら人は誰だって、平等だろう。

 

「このまま寝てろよ。その方が被害が出なくて良い。

福音は俺にもどうしょうもないが、動きが止まってるしいずれどうにかなるだろうよ。

国が動くかもしれないし、もしかしたら他の専用機持ちで倒せるかもしれない。そうすれば、ヒーローは倒した奴になる。

お前の行動は無意味に無価値になるんだよ」

 

俺は別にヒーローになりたくて、戦った訳じゃねぇよ。

でも、目の前で危険な状況の人がいたら、助けたくなるだろ。それに、俺が倒せなくても無価値になったとは思えない。

俺が千冬姉に憧れて、動いてる様にきっと後に続く奴らがいるさ。だから、俺の行動には意味があった。

少なくとも、船の人達は助けられたしな。

 

「どうせ、聞こえてないだろうけど。赤也、お前どんだけヒーローが嫌いなんだよ。

男なら憧れるだろ?ヒーロー」

 

俺がそう言うと、また景色が変わって、水の上なのか空にいるのかよく分からない景色が広がる。

なんだろう。こんなところ、今まで一度も来たことはないぞ。

しばらく、歩き続けていると、白いワンピースに麦わら帽子を被った女の子がいた。

 

「君は?ここはどこか分かる?」

 

俺の問いには答えずに、俺の近くにやって来る。

俺を見上げ、こちらを見つめてくる。綺麗な透き通った目をしている、まるでこちらの内側を見透かされているようだ。

 

「力、欲しい?一夏は、どんな力が欲しいの?」

 

なんで俺の名前を知ってるんだ?

無垢な顔で力が欲しいかと言われるよく分からない状況に俺は置かれる。こういうのって、魔王とかがやるものじゃ?

ニコニコしながら、俺の返答を待ってる女の子。

 

「……正直、よく分かってない。俺は誰かを守りたいと思ってる。

でも、どうすれば良いのか。シャルルの時みたいに、単純な力じゃどうしようもない事があるって見せ付けられた」

 

俺の独白を少女は黙って聞いている。

不思議とこの少女には話しても良いかなっと思える謎の魅力があった。

 

「単純な力だって、赤也には劣る。俺は……俺はきっとどうしようもなく弱い」

 

箒や鈴にも隠していた感情を吐露した。

嫉妬や劣等感で、赤也にはぶつかったけど、それだって情けない行為だ。でも、そうでもしないと俺はどうにかなってしまいそうだったんだ。

 

「あの人は少し特殊だから」

 

「赤也の事も知ってるのか!?」

 

「うん。でも、私からは教えられない」

 

教えられないと言われては追及のしようがない。

どんな力が欲しいか悩んで、言葉に出来ず少し俯いていると、小さな両手が俺の頬を優しく包む。

 

「力はただ力なんだよ。それをどう使うかは一夏次第。

身近で言えば、千冬。彼女は分かりやすく言えば、君を育てるためのお金を手に入れるその手段に力を使っていた。

でも、君が誘拐された時はお金も名誉も全てを捨てて、助けに来た。ほら、力に明確なルールはないんだよ」

 

「力はただ力…」

 

「もっと分かりやすい二人が君の近くにいるよ。ラウラと赤也、あの二人は単純な力そのものを追い求めてる。

強さの指標で最も単純なのは力だからね。それでもあの二人にも中身がある。ラウラは今まで、空っぽだった器を満たすために、自分が納得できる力の形を探してる。赤也は……自分が過ごしやすい環境を守るためだね、きっと漸く手に入れた自分の居場所なんだと思うよ」

 

「…一重に力と言ってもたくさんあるんだな。俺は、今まで千冬姉や赤也達の持ってる力は同じだと思ってた」

 

弱いと自覚した俺から見れば、みんなが持ってる力の差異なんてよく分からなかった。

俺には無いものをしっかり持っている、ただ漠然と思っているだけだった。

 

「じゃあ、一夏。君はどんな力が欲しい?」

 

改めて聞いてくる少女。雰囲気が少し変わった、これは俺の答えを欲している。

誤魔化すような返事や分からないなんて解答をしてはいけない。

目を閉じて、しばらく考える。俺の行動と矛盾した力を欲しても、その力で何かを成し遂げるなんて事は無理だろう。

山田先生は俺だけのやり方で、夢を叶えろと言ってくれた。俺の夢を肯定してくれたんだ。

赤也は、俺の行動を否定した。顔も知らない誰かを守る行為を否定した。

 

「……そうだな、俺は視界に映る人達を脅威から守れるようになりたい。

友人とか家族とかそういう括りじゃなくて、もう全ての人達を。出過ぎた夢だとは思う、だけどあいつの言葉を借りるなら、俺はヒーローになってみせる。そのための力が欲しい」

 

俺は赤也のように、命に差を作る事は出来ない。

目の前で危険な人がいれば、俺は考えるより先に身体が動くだろう。今回のように。

だから、俺はヒーローになってやる。

 

「…きっとその道は大変だよ?」

 

「だと思う。それでも俺はやってやる、どんなに時間をかけても俺はヒーローになってみせるさ」

 

「分かった。じゃあ、私も頑張らなくちゃね」

 

少女が俺の手を引き、微笑む。

君も頑張るとは?と聞きたかったが、少女に引かれるがまま、俺の意識はどんどん薄れていき、目を覚ますと和室で機械に繋がれて寝ていた。

起き上がり、繋がっていた機械を外す。

 

『行こう』

 

少女の声が脳内で聞こえた。

同時に、白式の待機状態であるガントレットが淡く光った。あの少女は白式だったのか。

自分の相棒に心配されてちゃ立つ瀬がないな。ゆっくりと立ち上がり、外に出る。

 

「行くぞ、白式」

 

音声認識で白式を呼び出し、身に纏う。

その形は今までと変わり、右手には西洋の剣のようになった雪片。左手には、少し大きめの物理盾。

そして、装甲が少し厚みを増した気がする。全体的にゴツくなったな白式。

 

『守るためには装甲も必要でしょ?』

 

「そうだな。福音のところに行くとするか」

 

飛翔し、加速する。ゴツくなったというのにその速度は以前より速い。

これが新しい白式か。俺は昂揚感を感じなが、福音の元へと飛んだ。

 

だが、ヒーローになる覚悟を決めたその瞬間に覚悟が揺らぐような事態になるとはこの時の俺は微塵も思っていなかった…




というわけで、うちの一夏君はヒーローを目指すようです。
赤也が悪役のような発言や言動をするので、その対立になれば良いかなと思ってます。

しかし、あれですね。代表候補生達、赤也と本音、一夏と三つに分けてると話が全然進みませんね。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不揃いが故に

最近、ゴブリンスレイヤーの一挙放送をみてどハマりしました。
ゴブスレを書きたくなる欲求を押さえて、書き上げました。


福音との戦闘を始めて、数分。戦況はあまり宜しくなかった。

それもそのはずである。軍用として、調整された福音。しかも、得意なのは一対多数の戦いである。

まともに戦力として、機能しているのは鈴とシャルロットのみ。

 

「……くっ」

 

「そんな甘い狙いが当たる訳ないでしょ!!」

 

第四世代機を持て余している箒。

心技体、体をISに当て嵌めるとすればそれ以外の全てが欠けている彼女。

その攻撃は狙いが甘く、また前線で福音を引き付けている鈴に当たりそうになる程であった。

開戦直後、迷いか後悔か動けずにいた箒だが、福音に狙われると同時に漸く戦いだした。

 

「はぁぁ!!」

 

鈴の操る甲龍が福音に勢い良く斬りかかる。だが、今の彼女の剥き出しとなった感情を表すように、大振りなソレは福音に容易く避けられる。限界まで溜め込んでしまった鈴の怒りは、もはや鈴すらも制御が出来なくなっていた。

 

「鈴!!落ち着いて!!あぁもぅ全然聞いてないよ……箒も何か言ってよ」

 

シャルロットも鈴や箒の手綱を握れていない。

それもそうだ。彼女達は友人ではあるが、箒は気にくわない赤也と良くいるシャルロットを避けていたし、鈴とも一線を越えるほど踏み込んで関わってはいない。

彼女達に届く言葉をシャルロットは持ち合わせていないのだ。

此処にセシリアやラウラが居ればまだ違ったかもしれない。あの二人は、何だかんだ人を動かす事に長けている。

そんな連携が全く取れない彼女達の内情など、知らんと言わんばかりに福音が広範囲に光弾をばら撒く。

 

「箒、こっちに来て!!」

 

シャルロットがシールドを展開し、近くに来ていた鈴を守りながら、箒に指示を飛ばす。

だが、箒の動きは緩慢で紅椿の展開装甲で無理やり防ぐ。シールドエネルギーの消耗は多い。

 

「…このままじゃジリ貧だよ」

 

シャルロットが呟く。

福音が光弾をばら撒くだけで、戦線が崩壊しかねない現状。そんな戦況を維持し続ける事が不可能な事は、小学生でも分かる。

 

「…鈴、2分で良いから大人しくして自分を落ち着けて」

 

「はぁ!?何言ってんのーー」

 

「良いから。今の貴女じゃ邪魔。せめて、まともに攻撃を当てるようにして」

 

伝えるべき言葉が分からない。自分ごときが何を知った風で言えば良いんだ。

そんな迷いをシャルロットは、彼方へと投げ捨て諦めることを諦めた。

みんなで無事に戻る。その事だけを欲する事にした。

 

「箒もだよ。馬鹿なの?戦う気が無いならそもそも来ないでよ。覚悟が出来たら鈴と一緒に戦って」

 

此処でこの二人に嫌われても構わない。自分の望みはIS学園に戻る事だ。

それ以外の事なんて今は、捨てておけ。

シャルロットは気づいていないが、その考え方。自分にとっての最優先のみを選ぶやり方は、赤也のそれである。

二人の様子も反論も聞く事なく、ショットガンとシールドで福音へと接近する。

 

「はぁ…オールドタイプ単機でニュービーの軍機を相手取るかぁ…」

 

福音は不気味にシャルロットを見つめる。

今、自分の目の前にいるのが専用機とは言え、量産機をカスタムした所詮、自分以下の性能。

そう判断して、人が蟻を見て何も脅威を感じないのと同じように慢心しているのだろうか。

 

「はぁぁあ!!」

 

瞬間加速と共に、福音へと接近する。ばら撒かれる光弾をシールドで防ぎながら、近づく。

だが、光弾は高密度のエネルギー体。物理シールドが何度も防げるものではない。福音との距離を詰めて行くと同時に、シールドは熱で融解していく。それでも高速で距離を開けようとしない福音に近づくまでは役目を果たせる。

展開しておいたショットガンの間合いに入ると同時に、融解したシールドを福音に向けて弾き飛ばす様に、パージする。

 

パージされたシールドは容易く避けられるが、次に福音が視界に映したのは自身に向けられる二つの銃口だった。

シャルロットの得意分野である高速切り替えだ。シールドをパージすると同時に、自由となった手にショットガンを追加で展開した。

二丁のショットガンから、散弾が放たれる。

ショットガンは、点ではなく面での制圧が可能な銃だ。福音が高速で回避したとしても、被弾は間逃れない。

 

「まぁ、でも大したダメージじゃないよね…!」

 

高速で避ける福音には、散弾は当たってもショットガン本来の破壊力は発生しない。

シールドエネルギーを削る事はできるが、福音はその身のかなり装甲で包んでいる。火花を散らすだけで、効果のなかった弾も多い。

 

「まぁ……まだ負けてやる気は無いけどね」

 

シャルロット単機では勝てない。それは彼女自身がよく分かっている。

だから、あと2分。持ち堪えて、友が戦場に戻るのを彼女は信じるだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は何をしている?

姉さんに強請って、紅椿を貰って……力を手に入れ周りが見えず一夏が私の代わりにやられて、今も私はお荷物だ。

 

「(何故だ……第四世代という規格外の力を手にした私が何故、今も一夏の時も戦えない…)」

 

彼女は自分に問いかける。だが、答えなんて返ってこない。

当たり前だ。自分では理解していないのだから。そもそも、ISは一朝一夕で身につくものではない。

そんな単純なものなら、誰でも代表候補になれるだろう。搭乗時間がモノを言うIS。

紅椿を受け取った箒は、まだ時間単位ですらない。よくて、数十分の世界だ。そして、常日頃から練習をしていたわけでもない。

それを指摘する人間がいれば、彼女はまだ救われたかもしれない。

 

『やぁやぁ、箒ちゃん?どうしたの?戦わないの?』

 

だが、ここで彼女に声をかけてきたのはマッドサイエンティスト(篠ノ之束)だった。

 

「姉さん…私は…私は」

 

自分が欲する答えをくれそうな姉の声に箒は縋る。

人の心なんて弱いモノだ。脆弱で、打たれ弱くて完璧に壊れない限り何度でも、ヒビが入る。特に、織斑一夏という存在に依存し続けてきた箒の心は特に脆い。何かに縋ろうとしなければ、自立できないほどに。

 

それを見て、篠ノ之束は嗤う。

 

『役に立たない自分が情けない?なら、仕方ない。

可愛い箒ちゃんの為だ。束さんが、一肌脱いであげよう』

 

箒には見えないが、束は空中に指を踊らし、何かを入力していく。

すると、不思議な事に篠ノ之箒から、一切の恐怖心が消えていった。それと同時に身体が熱くなり戦いに対する強い欲求が生まれた。

 

『うんうん!上出来だねぇ!ほら、やれるよね?箒ちゃん』

 

「……あぁ、大丈夫だ。ありがとう。姉さん」

 

スッと目が座り、二刀を構える箒。その姿に満足そうに頷き、束は通信を切る。

もはや、箒の頭には『戦い』の二文字しかない。自分がこの場にいる理由も忘れ、福音とシャルロットが戦う場所へと飛翔する。

 

果たして今の彼女に敵味方の区別はついているのだろうか。

 

「さて、どうなるかなぁ…箒ちゃんは相変わらず束さんの予想から外れないから、簡単だねぇ。

モルモットから得られたデータで作ってみたけど、案外役にたつもんだね。まぁ、程よく暴れて福音なんてモブを倒してくれると嬉しいなぁ。狂乱のお姫様をいっくんがどうやって救うか楽しみにしてよっと♪」

 

全ての仕掛け人はただ嗤う。

盤上を見渡すその目と、常人では理解しきれないその頭脳を活かして、行う妹とその想い人をくっつける作戦(究極の暇つぶし)

残念だが、まだヒーローは現れない。




思ったより福音戦が長引いており、びっくりしてます。
まぁ、やはり私は戦闘シーンを長く書けない事に定評がありますね(自分認識)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過ぎ去った過去も、あり得た未来も

書き直したり、ゲームしたり、書き直したり。
なんだか、とても難産でした。

Mに関して自己解釈と独自設定が足されています。苦手な方はご注意を。


背後には気絶している本音。正面には殺気を凄まじく向けてくるM。

俺自身も、相変わらずサードオニキスの影響で意識を手放しかねない。だが、ここで引くわけにもいかない。

 

「…M」

 

「分かっている。だが、今どうしてもこいつをぶん殴りたい衝動を抑えられる気がしないんだブレイン。

お前は生身だ。スコールと一緒に逃げても構わん」

 

「逃げんよ。だが、制限時間が迫っている事は頭に入れて置いてくれ。

スコール、我々は傍観で良いな?」

 

「…はぁ、良いわ。こうなった責任は私にもあるしね」

 

俺を舐めているのか?……いや、違うな。そんな感じの雰囲気じゃない。

まぁ、なんでも良い。俺もこのまま、素直に引き下がる気は無い。

ブレードを展開し、斬りかかってくるMに合わせ、小型化したクローダで受け止める。

 

「貴様は!……自分が居るべき場所を失っても、その場所を取り戻す気は無いのか!」

 

「…あぁ?それが復讐がどうとかって話に繋がるのか?」

 

クローダでブレードを弾き飛ばし、テールブレードを振り回す。

この姿になったときに、使い方は無理やり脳に叩き込まれたが、思念操作ってのはやり辛いな。

案の定、荒い動きでMを捉える事はできず、両手に展開したサブマシンガンを撃たれる。

 

「ぐっ!」

 

本音に当たらないように、右腕を突き出し輻射波動を広域で放つ。

輻射波動に触れた銃弾は膨張し、本来進むべき方向とは別の場所へと飛んでいく。

 

「そうだ!自分が居る場所、居るべき場所を奪われ、なぜ何も思わない!」

 

「そんなIFを考えた所で意味が無いからだ。その居るべき場所に居る俺が居るかもしれない。

もしかしたら、そこでなんの不自由もなく生きてるかもしれない。だがな!俺はそうならなかったんだよ!!」

 

あぁそうだ。

あのテロに巻き込まれてなければ。篠ノ之束がISなんてものを生み出さなければ。

身体が機械になる事もなく、平和に生きたかもしれない。だが、今の俺は違う。

 

「その理不尽に抗う気は無いのか!」

 

「さぁな。少なくとも、俺は今を手放す気にはならない。

あり得た幸福を幻視したところで、意味なんかないんだよ。どうせ、この目に映る景色は変わらん」

 

右腕とブレードが激突し火花を散らす。

俺とMも至近距離で睨み合う。

 

「この…腑抜けが」

 

「あぁ?」

 

その言葉にイラっとする。無意識のうちに眼つきが更に悪くなる。

 

「現状に満足して、いや貴様の場合は諦めか?

まぁ、どちらでも良い。自分を偽るだけの理由を見繕う。ふん、その姿は実に腑抜けだ。現状に満足して先を求めない。

その生き方は、楽だろうな。なぁ、死人?」

 

……死人か。

あぁ、その言葉は否定出来ない。事実、俺はそう思ってこの場にいる。

すでに死んだはずの俺がサードオニキスによって、生かされている。もっと言えば篠ノ之束に。気紛れでも起こせば死ぬだろう。

なにせ、モルモットだ。

 

「確かに俺は死人だろうよ」

 

死人と自分を定義しているからこそ、俺はあり得た幸福なんて求めていない。見てすらいなかった。

過去も本音のお陰で、決別した。俺はいずれ死ぬ。サードオニキスが俺を食い尽くすか、篠ノ之束が俺の電源を切るか。

まぁ、何であれおおよそ普通の死に方ではないだろう。

だから、俺には此処に至るまでの過去もなく、いずれ辿り着く未来もない。今という事実だけが俺を俺として定義している。

 

「だがな、死人にも欲しいものがあるんだ。無いとは思っていても、続いて欲しいと思う今があるんだ。

…俺は俺を斬り捨てる方法しか知らんがな。例え、これがお前の言う腑抜けであろうと、俺はそれを否定する。

そして、否定ついでにお前をぶっ飛ばす」

 

小型化したクローダごと、左腕をMの腹部に放つ。

距離を取ろうとするMのブレードを右腕で掴み、逃がさない様にし、輻射波動を放つ。

さぁ、好きな方を選べ。殴られるか輻射波動か。

 

「このっ!!」

 

右眼が知らせる予測は、輻射波動の回避。

ブレードを手放し、輻射波動が伝わない様にする。だが、睨み合うほど至近距離にいたんだ。

拳を避ける余裕はない。

 

「舐めるなよ」

 

右眼の予測が現れるのと、ほぼ同時に動き、身体を捻る様にして至近距離で俺の殴りを避ける。

チッ、流石の操縦能力だな。だが、まだだ。俺にはまだ、やれる手が残っている。

クローダのアームを開く。拳を避けたが、ギリギリで避けようとしたため距離はさほど開いていない。その隙間を狙いアームを通す。

 

「捕まえたぞ」

 

Mの腹部を挟むクローダ。

だが、俺の完全有利という訳ではない様だ。

 

「こちらのセリフだ」

 

顔に向けられるのは二丁のショットガン。

ISの絶対防御は、完璧ではない。衝撃や圧力はある程度操縦者にフィードバックされるし、エネルギーが切れたらまぁ、グロテスクなものが誕生するだろう。

ついでに言うなら、俺の方が不利だ。サードオニキスの反動が辛い。此処に追い討ちがくれば、あっさりと意識を手放す自信がある。

だが、後ろの本音の為に此処で意識を手放す訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エムSIDE

 

私の頭の中は目の前の男。西村赤也が気に食わないという感情で一杯になっている。

こいつの過去を調べていた時は、なんて憐れな奴だと思うと同時に、私の同類だと感じた。

私は、織斑計画(プロジェクト・モザイカ)という狂気の計画の失敗策。

私という存在は、私を生み出した存在に支配され、当たり前の自由などなかった。だから、亡国機業のスコールやブレインに拾われて、任務以外は自由を与えられても、私の胸を支配している欲望は消えなかった。

 

『織斑千冬と織斑一夏。あの計画の成功例。それが、何にも縛られず当たり前の生活を享受している』

 

あぁ、巫山戯るな。なぜ、私とお前らはこうも違う。なぜ、私はそうなれなかった。

同じ、人工的に生み出された存在でありながら何故だ。

私にそんな幸福は与えられなかった。与えられたのは、落とすことの出来ない血の汚れと、ほんの僅かな優しさだけだった。

優しさをくれたスコール達には、悪いがこの原初の想いは消せない。

 

『私のあり得た未来をのうのうと生きているあの二人が、殺したいほどに憎い』

 

だから、あいつもそうだと思った。

私と同じようにとはいかなくても、復讐心はその身に宿していると。

そして、思った通りあいつは宿してた。私と同じ黒い感情を。あと少しで、こちら側に落とせると思った時にあの女が邪魔をした。

 

「あかやーん!どこー?

勝手に持ち場を離れると怒られるよぉ〜!!」

 

能天気な声だった。

お気楽で、甘ったるくてふわふわとした砂糖菓子の様な声だった。その声を聞いた瞬間、あいつの目は元に戻っていた。

それが憎かった。同類だと思った奴も、私が憎む当たり前の日常を得ていた。

だから、戦いであいつの本質を浮き彫りにしてやるのと同時に、苛立ちをぶつける事にした。

スコールとブレインにはやり過ぎるなと事前に言われているから、ある程度は抑えたが…

だが、今はお互いに我慢勝負をするしかない。掴まれているだけだが、これを振り解く気にはならなかった。馬鹿の一つ覚えの耐久戦に乗ってやる事にした。

 

「……一つだけ聞く。何故、お前の目は濁らない?」

 

銃口を向けてこんな質問をする私を不思議に思うのだろう。

顔を顰めるが、諦めた様に口を開く。

 

「知るか」

 

全く、こいつは微塵も私の質問に答える気がない。

だが、こいつの本質は見えた気がする。私とこいつは似ているが、同じじゃない。あの砂糖菓子の様な女を守る為に、一歩も動かないこいつは同類ではない。私なら、捨てておく。そこまでして守りたいと思える存在など居ないからな。

 

「「アァァァァァッ!!」」

 

ほぼ同時に叫び声をあげ、攻撃を始める。

同類ではないが、こいつの殺意に満ちた獣の様な眼は好きになれそうだ。そんな事を考えながら、私は引き金を引き続けた。

 

 

 

 

 

 

「…時間だ。これ以上は引き延ばせない」

 

ブレインの声と同時に、スコールが動き俺とMを引き剥がす。

そして、驚く様にあっさりと引いていく。あんまりにも綺麗に引き上げるものだから、身じろぎひとつ言葉も発さずに見送ってしまった。

よくよく考えればそんな余裕が無かっただけかもしれないが。

 

「…っとそうだ。俺も早く戻らねぇと」

 

後ろを向き、気絶している本音を背負う。

一歩、踏み出すとサードオニキスが解除された。エネルギー切れを起こしたのだろう。重くなるが、気合いで耐える。

ゆっくり、ゆっくりと歩き、旅館へと戻る為に俺は足を動かす。俺を引き止めてくれた大切な暖かさを感じながら。

 

「……やっぱり気合いってのも続かない……ものだな…」

 

サードオニキスによって繋がれてた意識が途切れ始める。

何か通信が入っているが、もはや何も聞こえず俺は遠ざかっていく意識の中、本音を潰さない様に前のめりに倒れる事だけを考え続けた。

次に目を覚ませば、全てが終わっていた。

 

 




はい、赤也くん気絶です。
彼は置いてきた。この戦いには着いて来れそうにない。

サードオニキスによる弊害とかはまた、どこかで。
感想欄で悪魔と表現されてて凄くしっくりきた私でした。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未熟なヒーロー

さて、これ原作どこいっちゃったんだろう


「いたた……やはり、ぶっつけ本番はわたくしには向いていませんわ…」

 

無人機を倒したあとのセシリアとラウラ。

偏光射撃を本番で使った代償に、凄まじい頭痛がセシリアを襲っており、先行したシャルロット達に合流出来ずにいた。

 

「だが、本番でいきなり使えるだけセシリアは優れていた。その証明だろう」

 

「そのあと、こんな頭痛に襲われなければ完璧でしたのに……ラウラさんは先にみなさんの援護に行っても良いのですよ?」

 

「無人機が一機とは限らん。今のお前が襲われて対処出来るのか?」

 

「うっ」

 

ラウラの呆れるような視線と言葉を受けて、何を言えなくなるセシリア。

現在の二人は、近くにあった孤島に着陸し、身を隠しているため、仮に無人機が居てもそう簡単に見つかる事はないが、それでも最悪の場合に備えるのが一番だろう。

 

「ん?おい、セシリアこの反応は」

 

ラウラがレーダーをセシリアと共有する。セシリアがそれに目を通すと、そこには一機のISコアの反応があった。

その反応は、彼女達の友人がいる旅館から福音方向に一直線に向かっていた。

 

「白式?…一夏さんは動ける様な状態では無かったはず…」

 

それにしても速度が速い。

仮に今から、ここを離脱してもおそらく追いつけないとセシリアは思う。こんなに白式は速かっただろうか。

 

「動けるかセシリア?あの半端者が、戦場に来れば余計な被害が出かねない。

私達が行ったところで、それを防げるとは限らんが、シャルロットの負担を減らしてやる事はできるだろう……それに」

 

言葉を不自然なところで止めるラウラ。

 

「もちろん動けますわ……それで続きは?」

 

「…いや、なんでもない。動けるのなら行くぞ」

 

言うが早く飛び出すラウラ。

言葉の続きが気になりながらも、置いていかれる訳にもいかないセシリアは痛む頭を我慢し、ラウラを追いかける。

 

(教官から送られてきた『赤也の反応が消えた』という言葉。

我がドイツのレーダーを使っても同様だった…なにか起きていると言うのだ)

 

「…最優先事項は福音だ。だから、頼んだぞ本音」

 

心配と信頼の篭ったラウラの言葉は、大海原へと溶けていった。

彼女はまだ結末を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!?箒!!」

 

鈴が悲鳴にも似た叫びを上げる。シャルロットに窘められてから、彼女は自分が冷静になるまで大人しくしていた。

もちろん、シャルロットが危険になればすぐにフォローに入れるように気を抜いてはいなかった。

だが、流石に目の前で行われている光景は予想していなかった。

 

「…私の戦いの邪魔になるな」

 

「がっ……」

 

箒の刀が勢いよく振るわれ、背後からがら空きのシャルロットの背中を攻撃していた。

第四世代のフルパワーが乗った一撃だ。その衝撃がどれだけシャルロットにダメージを負わせたかは想像に難くない。

事実、箒の一撃を食らいシャルロットは、弾き飛ばされている。その勢いは止まることなく、近くにあった島に叩きつけられた。

 

「……」

 

それを無機質な目で見送り、箒は福音へと斬りかかる。

暴走している福音すら、唐突の行動に驚いたのか回避が遅れる。その結果、福音は防御を選択した。

とはいえ、福音にはシールドの類は搭載されていない。その両腕を装甲の硬さにものを言わせ、刀を受け止める。

ガキンッ!と派手に火花が散り、福音の腕と箒の刀は拮抗したように見えた。だが、それは余りにも刹那な時間だけだった。

 

「フン」

 

腐っても紅椿は篠ノ之束謹製の、第四世代機なのだ。

軍用とはいえ、並み居る凡人もしかしたら、天才も混ざっていたかもしれない。だが、天災を甘く見ることなかれ。

現行ISを凌駕する性能とは正しく、それらと篠ノ之束の差を表しているのだ。

刹那の拮抗は崩れ、福音は飛ばされる。腕の装甲は砕けこそしなかったが、ヒビが入った。もう一度、攻撃を防げば砕け散るであろう。

 

「La!!」

 

それは許されない。

福音のコアの僅かに残った理性が働く。その理性は、大好きな乗り手を、今現在自分の暴走に付き合わされ、意識を失っている乗り手を守るために使われた。吹き飛ばされた福音がとった行動は、光弾をばら撒きその速度にものを言わせた離脱。

 

「逃げられると思ったか?」

 

だが、展開装甲を用いた高速移動により追いつかれる。

光弾は障害にすらならなかった。これが第四世代、紅椿の性能だ。恐怖か福音はヒビの入った腕を咄嗟に振るってしまう。

箒はただただ、無感情にその手を打ち払う。直後、ヒビの入った装甲が砕け散り、内側の人の腕が露出する。

 

「なっ!?……人が乗ってる…暴走って聞いて勝手に乗ってないと思ってたけど」

 

鈴が驚く。だが、それも仕方がない。

彼女は無人機という存在を知っているし、セシリア達が無人機と戦っていた事も知っていた。

そして何より、依頼を出した国も人が乗っているとは一言も言っていないのだ。その可能性を捨てていた。

 

「…La…La…」

 

福音は砕けた腕の装甲を見て、怯えるような声を出す。

もはや、光弾を打ち出す事もなく、箒に背を向けて逃げ出そうとする。だが、それは余りにも無謀だ。

 

「背中を晒すとはな……愚かな」

 

箒の刀が振るわれると、福音の背部ウィングが切断される。

バランスを失った福音はふらふらと、堕ちる。トドメと言わんばかりに、その背中を貫くように刀を下にし勢いよく降下する箒。

 

「何やってんのよ!!!!」

 

鈴は咄嗟に動いた。

その結果、鈴の双天牙月はギリギリで箒の刀を受け止められる。

 

「…邪魔だ。今はお前を相手する時ではない」

 

「くっ…なんて力なの……箒!あんたどうしたのよ!?」

 

鈴の叫びにも箒はその表情を変えない。

無機質な目で鈴を見て、首を傾げる。

 

「私は別に普通だが。私の意思の赴くまま、戦いを求めているに過ぎない。貴様の相手もしてやるとも。

だが、今はその時ではない。まずは、アレにトドメを刺してからだ」

 

「トドメって……あんたも気づいてるでしょ!?福音には人が乗ってるの!

なんでそのISがそこまで馬鹿力なのかは知らないけど、そのまま攻撃してたら中の人ごと斬るわよ?」

 

「それの何が悪い?戦いとはそういうものだろう」

 

箒の返答に鈴は絶句する。

様子がおかしいとは思っていた。だが、これは異常だ。殺人を容認している。

 

「……チッ」

 

箒は舌打ちとともに、片手で刀を振るう。

火花が散り、箒を狙って飛んでいた銃弾が切断される。そのまま、息つく暇もなく飛んでくる銃弾を箒は切り落とす。

 

「…覚悟しろとは言ったけどさ。味方ごととは言ってないよ?」

 

「……」

 

銃弾が止み、シャルロットが少し離れたところで話しかける。

だが、その言葉に箒が返事することはなく、ただシャルロットを睨むのみ。

 

「どうやら正気じゃないみたいだね……鈴、箒を大人しくさせよう。幸い、福音はもう動けないようだし」

 

ちらりと福音を見ると、島に着地し怯える子供のように身を丸くしている。

誰がどう見ても戦意があるようには見えない。

 

「えぇ、そうね。……箒、一体何があったのよ」

 

「どうやら貴様らはやる気の様だな。ならば、相手しよう」

 

鈴の言葉は箒には聞こえず、箒は武器を構える。

シャルロットの銃声が合図だった。箒が先ほどの様に、斬り落とし戦いは始まる。

鈴は衝撃砲を放ち、シャルロットは距離を詰める。右手に装着したシールドピアーズを当てに行く。だが、鈴の不可視の弾丸はまるで見えている様に避けられ、シールドピアーズも刀で受け流されてしまう。

 

「この!」

 

高速切り替えで、サブマシンガンを呼び出し放つ。

いくら紅椿が早いとはいえ、至近距離で銃弾は躱せないという判断のもとだった。

 

「……ふん。甘く見るなよ?」

 

だが、展開装甲により阻まれる。紅椿に搭載されている展開装甲は、一夏の零落白夜とは違って多方面に使える。

そして最も効率よく調整されたソレは、一回の使用でエネルギーをアホみたいに使うなんて事はない。

圧倒的なエネルギーの壁が銃弾を防ぎきっていた。

 

「なっ!」

 

「弱いな。貴様」

 

二刀がシャルロットには視認できない速度で振るわれる。

そして、それを受け切れる訳もなくシャルロットは海水に堕ちていく。救いだったのは、ISのシールドエネルギーが僅かに残っていた事だろう。

 

「シャルロット!!」

 

激昂した鈴が双天牙月を勢いよく振るう。

箒の持つ刀より大きいそれは、あっさりと二刀で捌かれる。箒に当たる事はない。

 

「なんでよ……なんでなの箒!!私達は一夏で譲れない事があった!でも、シャルロットにはそれがなかった!!

なのに、私の我儘に付き合ってくれたのに!!どうして…今回の事で一番、当人のあんたがその想いを踏みにじってるのよ!!!!」

 

「…ギャンギャン喚くな煩い」

 

鈴の言葉に取り合うことはなく、双天牙月を鈴の両手から弾き飛ばす箒。

武器が吹き飛び隙だらけの彼女を斬ることはなく、わざわざ刀をしまい、首を掴む。

 

「ぐっ…かはっ…」

 

「一思いに終わらせてやろうと思ったが、先ほどので辞めた。このまま、首を絞めてゆっくり苦しませてやる」

 

無機質な目で残酷な笑みを浮かべる箒。

ゆっくりと鈴の首を締め上げていく。その度に呼吸が浅くなっていく鈴。

 

「な……んで……なのよ……この…ばか…」

 

自分が死ぬかもしれないそんな時に、鈴は自分の事ではなく、急変した箒の事を考えていた。

だが、その言葉も想いも今の箒には届かない。姉により戦う事しか考えられなくなった今の箒には。

いよいよ、意識が薄れだす。ISとて万能ではないのだから。

 

「(あぁ……死ぬなら一夏に想いを告げておくんだった…あの唐変木め……でも、今ならあいつの唐変木な言葉すら聞きたいと思っちゃうな…やだなぁ…死にたくないな。友人を殺人者にして、想い人には何も言えず…惨めすぎる)」

 

涙を流し、抵抗すら辞めその瞬間を待つ鈴。

すでに彼女の心は限界を迎えていた。落ち着く暇すらなかったのだから。

 

「何やってんだよ!!箒ぃぃ!!」

 

そのボロボロの精神に光が宿る。もう二度と、聞くことはないと思っていた想い人の声だ。

白い流星が箒の手から、鈴を奪い去る。

 

「ゲホッゲホッ!……いちか?」

 

抱きかかえられた鈴が自分を抱えている人物に声をかける。

身体が酸素を求めており、その声はひどく掠れていたが。

 

「あぁ。俺だ、鈴」

 

凄く優しい声だった。鈴を思い遣る優しい声。

それは限界の鈴には心地よく、今まで限界に張っていた鈴の糸を容易く緩める。ボロボロと涙を零し、鈴は一夏をただ見つめる。

 

「心配かけたな。俺は大丈夫だ、箒を元に戻してみんなの所に戻ろう」

 

ボロボロと泣く鈴の頭を優しく撫でる。

 

「シャルロットを頼めるか?」

 

一夏の言葉に鈴は無言で頷く。

それを確認して、笑みを浮かべて一夏は鈴を離す。鈴はゆっくりとだが、海面に浮かんでいるシャルロットを助けにいく。

 

「箒」

 

「……次はお前が敵か」

 

一夏の言葉ですら箒には届かない。

ヒーローになると覚悟した一夏。その最初の敵は大切な幼馴染だ。

 

「……俺は絶対、お前を救う。それがヒーローだからな」

 

言葉とは裏腹に手は震えている。

今は正気を失っているが、箒は一夏にとって大切な味方である。ヒーローになると覚悟したその直後、味方にその剣を向けなければならない。まだ青いどころか芽吹いたばかりの彼の覚悟は酷く揺れていた。

 

「…来い」

 

それに対して、冷静な箒。

正気ではないが為に、迷いのない彼女を未熟なヒーローは救う事が出来るのだろうか…

 




やっぱりBGMあった方が手が動きますね。
さて、いよいよ一夏さんの初戦です。相手は福音ですらなく、箒さんですが。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

織姫と彦星。そして、さらなる暗雲

お待たせしました!
戦闘はもういつものクオリティです!



篠ノ之箒のIS操縦技術はお世辞にも、上手いとは言えない。

何故なら、国家代表候補生でもなければ一夏の様に、クラス代表として戦う事もなく、訓練も一夏と一緒にいられるからと訓練が本題ではない。

剣道においては、全国大会で優勝する腕前は確かにある。だが、それとISは別物だ。

 

「ぐっ…」

 

「どうした?その程度か一夏」

 

けれども、彼女には才能があった。

元々培われていた剣道の才能。身体を自分の思うがままに動かす才能。そして、その箒専用に組み立てられた紅椿。

それらが戦闘にのみ思考が割かれている現在の箒と噛み合ってしまった。

火花を散らし、ぶつかる箒の刀と一夏の盾。迷いなき矛と揺らぐ盾、現状、不利なのは一夏であった。

 

「箒!一体、お前に何があったんだ。お前はこんな事をする奴じゃないだろ!!」

 

振るわれる二刀の連撃に合わせ、盾をねじ込み弾くことで無理やり攻撃を中断させる一夏。

しかし彼の攻撃、言葉は届かない。箒は首を傾げ、一夏の言葉を理解しようともせず手に持つ二刀を振り下ろす。

手に持つ盾で受け流し、一度距離を取る一夏。

 

「防いだり受け流したりと。男なら正面から来い」

 

「…悪いが新しいスタイルなんだ。零落白夜を当てるには、隙を狙うのが一番だと思ってな」

 

盾を構え、ブレードを隠す一夏。

今まで使い込んできたスタイルとは違う。生まれたばかりの覚悟は揺らいでいる。

 

「ふぅぅ」

 

大きく息を吐き、気持ちを少しでも落ち着かせる。

頭を冷やせ。お前が目指す姿は、ここでなにも成す事が出来ないのか?違うだろう織斑一夏。自らの想いを再確認し言い聞かせる。

この瞬間、織斑一夏という空の器が僅かに満ちる。次に、箒へと視線を向けた時、一夏はまっすぐと箒を見ていた。

 

「ッッ」

 

殺気とは違う一夏の雰囲気に怯む箒。

しかし、その畏怖は瞬きの間に消し飛び、二刀を構える。闘争の熱に侵されていても、箒の天性の感は働いていた。

すぐに攻め込むのではなく、盾を構えた一夏の隙を探す。それはまるで、一夏のテリトリーを警戒する様にも見える。

 

「どうした?来ないのか?」

 

攻め込んで来ない箒を挑発する一夏。

箒からは見えない刀に警戒するが、不意打ちとも取れる箒からすれば、吐き気すら感じるスタイルへの怒りが勝る。

瞬間加速と見間違う速度で、斬りかかる箒。

 

「なっ!?」

 

直後、彼女の視界には振るった二刀が盾により、ひと凪で弾き飛ばされ、自身を斜めに裂く様に振るわれる白く輝く一刀に染まる。

紅椿のシールドがごっそりの削られる。押し当てるのではなく、斬り捨てる様に放った為、一撃で紅椿のシールドエネルギーを削り切る事は出来なかった。いや、一夏にその気がなかったと表現するのが正しい。

 

「もう止めよう箒。お前に何があったかは分からないけど、お前はこんな事をする奴じゃないだろ?」

 

純粋に大切な幼馴染を信じる一夏の言葉。

よく言えば人が良い。悪く言えば、盲目なまでに他者を信頼するとも言える織斑一夏の善性。

彼が人を惹きつける要因の一つであるだろう。しかし、それはこの場では悪手だった。

 

「……貴様、手を抜いたな……私を……ワタシヲ、ナメルナァァァ!!!」

 

今の箒は戦うことに全てを賭けている。

故に、不意打ちで何であれ自分を破るのならそれで満足していた。自分を打ち倒せる攻撃で、手を抜かれた屈辱。

到底、受け入れる事の出来るものではなかった。

紅椿の展開装甲が開く。零から百へ、その機体は最高速度へ一気に到達する。福音への第一コンタクトの時、同様に紅椿の最高速度。

すなわち、音速の世界である。動ける範囲が決まっている学園のアリーナとは違い、制限のない海上。

箒を説得する為、動きを止めていた一夏には箒が消えたように錯覚するだろう。もちろん、白式が即座に音速で移動する紅椿を捉えるが後から白式が追いかけたところで追いつけない。

 

「……」

 

故に一夏は盾を構え、その場で白式が送ってくる情報に目を通していく。

攻撃を仕掛けてくるその瞬間を狙うために。

僅かな静けさの後、白式が警告音を鳴らす。紅椿が勢いよく、白式へと向かっている。

その速度のまま振るわれる二刀を一夏は、その身で受け止めた。

 

「……は?」

 

一夏の身に凄まじい衝撃と激痛が訪れる。おそらく、肋骨の一部が折れた。

気絶しそうになりながらも、下唇を噛み視界の暗転を防ぐ。いつ途切れてもおかしくない視界の中、一夏は自分の腕の届く範囲に来た箒を優しく抱きしめる。

 

「…もう終わろうぜ箒?戻ってくるんだ。

お前の誕生日プレゼントだって、用意してあるからさ。IS学園に戻って、いつもの様に他愛ない話をして俺がお前に怒られて、でもそんな毎日が悪くないって思える場所に。そうだな…久しぶりに箒の作る唐揚げが俺食べたいな。代わりに俺も弁当を作るから、一緒に食べようぜ?だからさ、戦いなんて忘れて戻ってこいよ箒」

 

ぎゅっと箒を抱きしめる一夏。

あと、一回でも零落白夜を当てれば一夏は箒に勝っていた。だけど、その一回が遠かった。

一夏にとって、箒は悪ではない。ヒーローを目指す一夏は暴走する箒を倒す事は選ばず、救う事を選んだ。

もっと彼に力量があれば、こんなに身を捧げる事もなかった。だが、今の彼ではこうするしか思いつかなかった。

 

「あ……あぁ…いち…か…」

 

闘争という狂気に囚われていた織姫()はヒーローを目指す彦星(一夏)によって解放された。

自身の限界を大きく超えた疲労は大きく、箒は一夏の腕の中でその意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

これにより、今回の騒動は解決した。

福音は既に戦闘の意思はなく、後から合流したセシリア・ラウラ両名により捕縛。有人機である事を黙っていたアメリカだが、責任はイスラエルにあるとし損害の全てをイスラエルに支払わせた。また、裏側で闇組織の動きもありIS学園側の被害は大きいものとなった。その顛末を下記に纏める。

織斑一夏

篠ノ之箒を学園指定の宿に届けたところで気絶。精密検査の結果、肋骨の一部が骨折、臓器にもダメージあり。

現在、更識家の警護のもと、入院中。

 

篠ノ之箒

織斑一夏によって、運ばれた後意識を取り戻したところで、事情聴取。

極微小ではあるが、何かが注射された痕を確認。紅椿をIS学園で預かりとし、学園長と現生徒会長の許可が出るまで自室に謹慎処分となった。

 

シャルロット・轡木と凰鈴音

全身に軽度の打撲。現在は回復し学園生活に問題なし。

 

布仏本音

全身に軽度の打撲。臓器に多少のダメージあり。

現在は、意識を取り戻し未だ目を覚まさない西村赤也に付きっ切りで看病中。肉体より精神面が気にかかる。

 

西村赤也

体の半分のIS化を確認。また、闇組織との戦闘記録がありその内容から彼の右腕であるサードオニキスを一時取り外す事にしたが、その際意識がない筈なのに右腕が稼働。

立ち会った織斑千冬により動きを止めたが、技術者数人が大怪我をする結果となった。また、現状から推察するに右腕を取り外すと死に繋がる可能性がある為、取り外しは不許可となった。彼の入院費や警備はフランスで急成長を始めたデュノア社が担っている。

なお、当情報は余計な混乱を招きかねないので極秘扱いとする。

 

 

 

 

 

 

 

「んー、まぁこんなもんかぁ」

 

篠ノ之束が海岸近くにある崖の先端に座りながら呟く。投影されたグラフには一体何が書いてあるのか気になるが、彼女以外に理解できる者はいないだろう。

 

「…束」

 

「やぁ、ちーちゃん。そんなもの持って何か用?」

 

投影されたグラフが消え、束は後ろを向く。

そこには日本刀を携えた千冬が立っていた。鋭い気を放っている千冬を前にしても束は座ったまま話す。

 

「お前の事だ。既に察している筈だ」

 

「えー、何のことだろうー福音を暴走させたこと?それとも、箒ちゃんを暴走させたこと?

やだなぁ。ちーちゃん、ただの束さんジョーク。イベントのつもりだよ」

 

ケラケラと笑いながら言う束。

冷え切った表情の千冬とは真反対すぎるものだった。

 

「…昔のお前は確かに人に興味はないし、暴言も吐く奴だったが、それでもやっていい事と悪い事の区別はつけていた筈だ。

何がお前をそこまでの外道にした?……なぜ、友である私に何も言わない…!」

 

「そんな話をしたって無駄だよちーちゃん。それにしてもちーちゃんは結構、モルモットにご執心だよね」

 

千冬の話を受け流し、いきなり話題を切り替える束。

そんな態度に千冬は何も言えなくなる。もはや、友である千冬の声すら、束には届かない。

 

「一つだけ教えてあげる。あのモルモットには色々と実験になって貰ってるんだ。

その一つが今回の箒ちゃんに使った意識の切り替え。いやぁ、ほんと疑問に思わないんだね、『出会ってそんなに経ってないのにモルモットに対する入れ込みが強すぎる』って事にさ」

 

三日月の様に鋭い笑みを浮かべながら、千冬に言う束。

その言葉に目を大きくし驚く千冬。

 

「アッハハ、まだ未完成のものを使ってたけど、あのモルモットには人に好意的に見られる様に仕掛けをしといた。

既に効果は切れてるけど、ねぇちーちゃん。自分の気持ちが誰かによって生み出されたものと知った気分はどう?」

 

その言葉に千冬は目を閉じて、笑う。

自分の予想とは違う行動に束は僅かに首を傾げる。

 

「ふっ、仮にお前の言うことが真実だとして何が変わる?

私があいつと過ごした時間に偽りはない。それに、今回の件を見た限り完成したところで完璧ではない。なら、私は信じるさ。

私の感情と私が弟子として認めたあいつをな。残念だが、そこにお前の意思はない」

 

堂々と迷いのない言葉を告げる。

既に効果は切れていると束は言っていた。だが、千冬の中にある赤也に対する気持ちは変わっていない。

なら、きっかけは偽物であったとしても今は本物だ。それならそれが全てと考える。

千冬の言葉につまらなそうな顔を浮かべる束。

 

「……まぁ、ちーちゃんだもんね。じゃあ、束さんはこれで帰るねー。

満足のいくものじゃないけど、それなりに暇は潰せたし」

 

「逃すと思うか?」

 

「逃げるよ」

 

一瞬で距離を詰める千冬。

一切の容赦なく振るわれた日本刀は派手な音ともにへし折られる。千冬と束の間に、一人。割り込むものがいた。

 

「…!お前は…」

 

「バイバーイ、ちーちゃん。ほら、行くよモルモット2号」

 

モルモット2号と呼ばれたものが束を抱え、姿を消す。

ちっ、と千冬は舌打ちし持ち手だけとなった日本刀を納刀する。

 

「あの顔は資料で見た……赤也の姉…」

 

波乱に満ちたIS学園の臨海学校はさらなる闇を残し終結した。

 




甘い話が書けるのはいつになるのだろう〜(遠い目)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚める者と目覚めない者

今回、5400文字いきました!
そして、ほんのちょっとだけ進んだヨ。


「失礼するわ。織斑くん」

 

「何度来ても、俺が言える事に違いはないですよ。楯無さん」

 

更識家の警護の元、療養中の一夏。

意識を取り戻してから、体調の安定している間あの時に何があったのか白式や紅椿に記録されている映像から分かってはいるが、当事者の言葉はより精密な情報を得るのに必要らしく、一時間ほど楯無と一夏で話がされている。

とは言え、一夏からすれば何度話すのかというレベルなのだが。

 

「ごめんなさいね?私も上からの指示なのよ。必要な情報は揃っているけど、君を気に掛けているっていう証拠が欲しいらしくてね。

ほら、前に話したでしょ。今、各国で君達を巡る論争が起きてるって」

 

アメリカがイスラエルに全ての責任を取らせたのを皮切りに、どこで記録されていたのか専用機持ちと福音の戦いの様子。

一夏と箒の戦い。赤也と本音による裏組織との戦いの様子。それらがネット動画上にアップされたのだ。

何度消しても、いつの間にかアップされ、アップしている人も分からないという始末。

だが、一度明るみになった不祥事はそうそう簡単には消えない。

 

「IS学園にも連日、報道陣が現れるし……君達が意識を失ってるのをいい事に言いたい放題の国のトップ達。教える気の無かった私の素性を教えたのもそういう理由よ。日本政府は織斑一夏と親密であるっていうね」

 

はぁ…っとため息を吐く楯無。

 

「俺には難しいことよく分からないですけど、大変そうですね楯無さん。何か俺に出来ることはありますか?」

 

「おねーさんと楽しげに話してくれればそれで良いわ。さて、何を話しましょうか」

 

椅子を取り出し、ベットで身体を起こしている一夏の横に座る。

 

「何か学園で変わったことはありました?」

 

「何も。報道陣が鬱陶しいけど、生徒達は普段通り授業よ。

まぁ、一夏くんや赤也くんがいないから、一部は凄く静かだけどね」

 

「あはは…こりゃ戻ったらどやされそうだ」

 

「モテる男の子は大変ね」

 

ばっと扇子を開き、『奮励努力』と書かれた文字を見せる楯無。

その目はニヤニヤとしている。

 

「ちょ、楽しんでません?」

 

「そんなことないわよ〜」

 

絶対、楽しんでると確信を得る一夏。

ジトッとした視線を楯無に送った後、口を開く。

 

「赤也はまだ?」

 

「えぇ。起きたという報告はデュノア社からは届いてないわ。

それにしても、本当にコネを作っていたとはね……そうそう。第三世代機を造ったっていう噂がデュノア社から出てきたわ」

 

「そうですか。シャルが喜びそうだ」

 

「とは言え、この一件でフランスは赤也くんは我が国を選んだ!って主張してるのよね……

アルベール社長は、恩を返しているだけと言ってるけど、国と企業じゃ発言力の差がね」

 

騒ぎが大きくなると同時に、アルベール社長はデュノア社ではなく、ただの一個人としての支援と公言したが、今ではフランス政府によってその発言は無かった事にされている。

彼、個人とは言っているがデュノア社の社員が関わっている以上、個人ではないとされてしまった。

実はアルベールが真実を話した上で、無償で協力してくれている有志しかいないのだが。

 

「向こうも気になるけど、この状況で私が顔を出すのは余計な混乱を招きかねない。

同じ理由で、他の国家代表候補生も一夏くんの所に来れないけど許してね」

 

「寂しいですけど仕方ないっすよ。それにもうじき退院出来るでしたよね?」

 

「そうね。怪我の方は、問題ないわ。あの報道陣から君を守るための算段がつけば退院可能よ。

そうね……早ければあと1週間ぐらいじゃないかしら」

 

「結構、長いですね…」

 

項垂れる一夏。

まっ、頑張りなさいと背中を叩く楯無。

 

「さてと、一夏くん。君の理想はまだ変わってない?」

 

楯無は彼の理想を聞いてから、それがどれだけ無謀であるか、ただの人には余る理想か話して来た。

だが、今日に至るまで一夏が理想を捨てたことは無い。むしろ、より強くなっている。

だから今日の返答も楯無には分かっていた。

 

「変わりませんよ。俺はヒーローになります。

目に移る人を皆んな助けて、気絶しない。完全無欠のヒーローに」

 

「…そう。もぅ、頑固なんだから。そんな、頑固者におねーさんからプレゼントだぞ」

 

スッと差し出された一枚のディスク。

予め用意していたと思われるパソコンにディスクを入れ、映像を流す。

 

『さぁ、第一回モンド・グロッソ決勝戦!会場の熱気は最高潮に達しております』

 

「これって…」

 

「モンド・グロッソの決勝戦、それと各部門の様子を記録したものよ。

身体は動かせなくても、知識を蓄えることは出来るものね」

 

開かれた扇子には『百聞は一見にしかず』と達筆に書かれている。

 

「ありがとうございます!」

 

「良いのよ。じゃあね、一夏くん。私はそろそろ学園に戻るわ」

 

早速画面に穴を開けるぐらい真剣に見始めてる一夏に苦笑いをしながら、部屋を出て行く楯無。

入り口には更識暗部、彼女の部下である黒服が立っていた。

 

「よろしかったのですか?」

 

「良いのよ。不安はあるけど、まだ芽吹いてない種を潰すわけにはいかないわ。それに……」

 

彼女の脳裏にまだ、妹と仲が良かった時の記憶が鮮明に映し出される。

妹が真剣に観ていたヒーローが活躍する番組。悪を正義が倒すという実に分かりやすい勧善懲悪なもの。

自分には面白さがいまいち分からなかったけど、キラキラした顔で見る妹が好きだったから、嫌われるまでは一緒に観ていた。

 

「…無意識に重ねてるのかもしれないわね」

 

「はい?」

 

楯無の言葉を黒服は理解できなかった。

その様子を見て笑みを浮かべ頼んだわねと立ち去る楯無。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少しは休んだらどうかね。本音くん」

 

「大丈夫」

 

彼の病室に行くと、いつもの様に彼女がいた。

髪はボサボサで、目にはくっきりとクマが出来ており、誰が見ても憔悴しきっている少女。

ここ数日で見慣れたいや、見慣れてしまった光景にため息をつきながら、私は未だ眠る彼の側による。

 

「あかやん、今日はねセッシーが、珍しく大失敗したんだよ。

なんだと思う?……なんとね、模擬戦でラウラウの射線に入って、ドッカーンって。あれはあかやんに見せたかったなぁ〜」

 

彼の左手を掴みながら、今日何があった。これが面白かった、楽しかったなど話す姿は実に甲斐甲斐しく痛々しい。

余りにも自分を鑑みれていない。ゆっくりと擦り切れていっている。

大の大人として私は実に情けない。彼を引き受け、少しでも恩を返そうとしたが彼の近くにいる少女一人止めてやれない。

 

「失礼します……やっぱり、本音さん来ていたんですね。それとアルベールさん、こんにちわ」

 

「あぁ。神楽くん、君も来たか」

 

本音くんに比べれば、幾分か余力のある様に見える彼女。

だが、私には分かる。彼女も彼女で限界が近い。顔色やクマは化粧で誤魔化しているが、声に力がない。

私に挨拶した後、手に持っていた見舞い品を備え付きの冷蔵庫へしまう。そして、古くなったものを取り出す。

彼女が持ってくるものは、いつものケーキだ。それもおそらく手作りの。

 

「まだ、お茶会は出来そうもありませんね」

 

いつ、彼が目を覚ましても当たり前の日常で出迎えられる様にする。

そう言った彼女は、学園での日常であったお茶会の用意をして此処に来る。そして、彼の右側に座り、熱のない右手を包む。

 

「きっとね、セッシーも張り合いがないんだよ〜」

 

「セシリアさんは認めないでしょうけどね」

 

「かぐっちもそう思う?」

 

「はい。でも、それが赤也さんとセシリアさんらしい関係性じゃないですか」

 

「あはは、そうだねぇ〜」

 

二人で話し始める。

私が入り込む余地などないが、私はいつもこの光景を見ているととある景色を幻視する。

 

『おい、その俺とオルコットが仲良しみたいなリアクションやめろ』

 

あの二人に挟まれて、時には楽しげに時には呆れながら話している彼の姿を。

どうやら今回は呆れている様だ。私はこの景色が見えると少し離れ、時間が許す限り見守る。

 

「……全く、罪作りな男だな」

 

私の呟きなど彼女らには聞こえておらず、話し続けている。

学生というのはこんなにも話題が尽きないものだったか。書類や機械いじりや腹の探り合いばかりしてきた私には懐かしいものだ。

あぁ…いや、あいつとはああやって、オチもなければ取り留めもない話をしていたか。

 

「社長」

 

しばらく悲しくも優しい光景を眺めていると社員に呼ばれる。

電話を持っている事からなんとなく用件に察しがつく。ため息をつきながら、椅子を片付け廊下に出る。

 

「あかやんが休んでる間の授業。私がノートに取ってあげるんだよ〜ほら〜」

 

「本音さん凄いんですよ。どうやったら分かりやすく纏められるか調べて作ってるです」

 

「…彼が起きた時に倒れない様にするんだよ」

 

部屋を出て、電話を受け取る。案の定、フランス政府からの電話だ。

このまま、赤也くんを取り込め、その為なら既成事実でもなんでも利用しろと。全く、彼をなんだと思っているんだ。

 

「何度も言っているが、彼には私個人が助力しているだけだ」

 

『君は馬鹿か!?貴重な男性IS操縦者を手に入れるチャンスなんだぞ。そのデータさえ、あれば我々は!』

 

「くどい!私は恩人を売るつもりはない!!」

 

一喝し、未だ何か言っている政府高官を無視し通話を切る。

電話を社員に渡し、とある部屋に入る。そこは、これから試験が行われるデュノア社製の第三世代機、『コスモス』が鎮座している。

 

「お、お父さん」

 

もちろん、テストパイロットはシャルロット。私の娘である。

まさかフランスではなく、日本でテストをする事になるとは思わなかったが、轡木さんが色々手を回してくれて助かった。

正直、今フランスで試験をすると、余計な邪魔が入る可能性が高かったから。

 

「どうした。シャルロット」

 

「えっと……赤也はまだ?」

 

「…あぁ」

 

「そっか」

 

お互いに無言になる。

距離を置いていた娘と何を話せば良いか私には分からない。と言うか、分かっていればシャルロットを男装させてIS学園に送っていない。

ぐぬぬ、これで隣にいるのが政府高官なら嫌味でもなんでも話してやるのに。

 

「…ねぇ、お父さん」

 

再び、娘から話しかけてもらう。

 

「なんだ」

 

「ありがとう。私を愛してくれて、お母さんを愛してくれて。

きっとこれからも迷惑をかけちゃうと思うし、正直離れすぎててどう接すれば良いか分からないけど、私はお父さんを愛してるよ。

だから、これからくれる新しい翼を使い熟してみせるからね」

 

……全く、知らないうちに立派になったな。

家族としての時間など殆どなく、巻き込まない為に遠くに遠くに逃していた娘。だと言うのに、こんな俺を愛しているか。

 

「あ、あれ!?お父さん、もしかして泣いてる?」

 

「な、な訳あるか!ほら、準備しろ準備!」

 

「うふふ。はーい」

 

笑いながら立ち去るシャルロットに背を向ける。

すると、社員がニヤニヤしながら見てくるので、手でしっしっとやり作業に戻れと促す。

気恥ずかしくなり頭を掻きながら、『コスモス』を見る。

赤也くんのデータを借りて、早期完成に至った機体。元々、最強の矛にするつもりだったが、赤也くんのデータを使ったお陰か想定より戦闘向きの機体になったと思う。上手い事娘と噛み合えば良いが。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。娘さんが大好きな社長が誠心誠意取り組み、娘さんを動かした赤也くんがデータ提供して、完成し大好きな母親との思い出の名を冠するISが娘さんとの相性が悪いわけがありません」

 

「だと良いんだがな。さて、そろそろ定刻だ」

 

既にラファール・リヴァイヴからデータは移し、フィッティングは済んでいる。

あとは乗って動かし、最適化をさせるのみだ。

テストが始まれば、見守ることしか出来ない。だが、娘の頑張りを見ない父親はいない。

ISスーツを着たシャルロットがコスモスの前に立つ。

 

「ふぅぅ…」

 

深呼吸をするシャルロット。

もはや声は不要。

 

「よしっ!」

 

シャルロットが一歩前に出て、コスモスに触れる。

惹かれ合う様に伸びた手がコスモスに触れた直後、待っていたと言わんばかりにコスモスがシャルロットの体へと装着される。

 

「コスモスのコア、稼働率86%基準を大きくクリア!」

 

「シャルロット・デュノアの生体データ問題なし」

 

「コスモス起動テスト。大成功です!」

 

「よしっ!!良くやったぞ、シャルロット!!!」

 

社員たちの報告を聞いて、テンションが上がる。

問題がないところではなく、私達の予測を大きく超える成功。思わず、ガラスの向こうにいるシャルロットに話しかける。

 

「えへへ」

 

コスモスを身に纏ったシャルロットは、私の言葉にVサインをして答える。

あぁ……見ているか?私達の娘はこんなにも立派に育ったぞ。

 

「社長、今日は一段と涙腺緩いっすね」

 

「しっ、折角喜んでるんだから聞かれない様に」

 

聞こえてるぞお前ら……あぁ、だけど今日はもうなんでも良い。

嬉しすぎてなんでも良いさ。

今日は豪華な食事にしよう。祝いだ、シャルロットはロゼンダと話をするのを嫌がるだろうか。

 

「本当に君への恩が溜まっていくなぁ、赤也くん」

 

もしあの時、彼がシャルロットの背中を押さなければ。

もしあの時、彼が私と会って話をしようと思わなければ。

そして、私達が彼のお節介を無にしてしまっていたとしたら。

今日という日はいつ、訪れていたのだろうか。ふと、そう考えると怖くなる。

だから、早く私に恩を返させてくれよ?赤也くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ此処から出れないのか?」

 

「起きた直後にまた、意識を失いたいならどうぞ」

 

彼を心配する人達とは裏腹に、サードオニキスの中で彼は呑気にしていた。

 




さぁて、コスモスって正確なデータありましたっけ?
まぁ、探せば出てくるでしょう。

感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サードオニキスとの対話。やっぱりこいつはろくでもない

今回、赤也の価値観がそこそこ露わになります。


「んっ……あぁ、また気を失ったか俺は」

 

目を開き、慣れてしまった起きれば起きる前の記憶がない感覚。

それと同時に心地よいベッドの柔らかさはない。あるのは、硬い床の感覚。でも、目に移る景色は真っ白。

あー…サードオニキスの空間か此処。

 

「察しが良くて何よりですマスター」

 

「また用事か?それとも俺を食い足りなかったのか?」

 

「いえ、今回の分は十分に頂きました。ただ、そのせいで貴方は私であり私は貴方になったようです」

 

「はい?」

 

さて、サードオニキスの言っている事がよく分からない。

俺はこいつでこいつは俺?んん?つまり、どういう事だ。

 

「今はまだ、覚醒していないから分からないと思いますが、此処から現実に戻った時、マスターの身体の半分は私に置き換わっています。

産みの親の意向で、マスターの身体を侵食していましたが私自身効率良い方法だと思っています。

貴方は、対価として力を貰い私は貴方を通し、人を知る事が出来るので」

 

相変わらず淡々と告げてくるやつだな。

最初は言っている意味が分からなかったが、そういうことか。要は完全に半身になったわけだ。

身体がISに置き換わってるのは知ってたが、こいつ自身と置き換わってたってか。ん?つまり、思考が俺のものかこいつのものか分からないって事になり得るのか?

 

「いえ、そういう事はあり得ません。私はあくまで人を知りたいのです。

そこに干渉する気はありません。現実に戻っても、貴方の意思で貴方は動きますよ。ですが、貴方から求められた場合と、気絶し命の危機がある時は私が表面に出ましょう。まだ、貴方に死なれては困るので」

 

死なれたら困るね…どうせ、こいつの事だから人を知れなくなるからとかだろう。

俺を情報ツールの一つとしか見てないんだろうな。

 

「それにご不満が?貴方も私を武器として見ている。そこに違いはないでしょう」

 

「…さっきからしれっと考えを読み取るな。まぁ、確かに違いはないな。

むしろ、唯一無二の相棒として見られていたら驚きだ。それで、俺はいつ向こうに戻れる?」

 

俺が気になるのはそこだけだ。

俺の身体がどうとか、半身がサードオニキスとか興味ない。そんな事より、本音や神楽の所に行きたい。

 

「今、起きると痛覚で再び、気絶しますよ。半身になったせいで痛覚を共有する可能性があるので、大人しくしていてください」

 

「それ、どう考えてもお前側の都合だよな?」

 

「えぇ。そうですが?マスターにも利点はありますよ、あちらで心配なさっている方々に一瞬の安心を与えるよりは、マシだと私は推測しますが。あぁ、お気になさらず。これはただ、貴方を説得するのに一番良い方法を考えたまで。私が気を使っているとか考える必要はありません」

 

「……あぁ、確かに今の言葉で起きる気は取り敢えず無くなったよ。

だけど、お前一言多いぞ。後半を言う必要はないだろ……」

 

互いの都合を押し付け合う俺らの関係。

他のISコアがどうかは知らないが、少なくとも俺らのように利害関係だけで成立している所はいないんじゃないだろうか。

まぁ、余計な心配もされないから楽で良いんだが。

 

「他のコアの事が知りたければ教えましょうか?」

 

「何を対価にする気だ?」

 

「一問一答。それでどうでしょう?」

 

「分かった」

 

何もない空間と言うのは、落ち着かないけど、適当に座ってサードオニキスと向かい合う。

しかし、こいつの見た目はどこから来たんだ?赤髪にメガネ、ついでに分厚い本をか。別に俺の趣味って訳じゃなさそうだが。

 

「オルコットのコア人格」

 

「メイドですね。主に仕えるのを至上の喜びとするコア人格です。

そう言えば以前、お礼が来てましたね。マスターのお陰で主が変わったとか昔に戻ってくれただとか。興味なかったので聞き流しましたが」

 

聞き流すなよ!

それ、俺への伝言とかじゃなかったのか。あーいや、こいつの事だ。コア人格だからどうでも良いと思ってたな。

 

「では、私から質問です。人はなぜ、他者を利用したりするのですか?」

 

「…また、面倒な質問だな」

 

人が人を利用する理由か。

単純に自分の穴を埋めるために必要だからか?いや、貶めるやつもいるしな。俺の家族だったやつら宜しく、恩義なんて欠片もなくこき使う奴らもいるし。

 

「あー、そうだな。弱いからだろ、人は。一人じゃ出来ないから、他人を使う。

稀になんでも熟せる奴がいるが、そういうのは大抵食い潰されて終わりだ」

 

悪い言い方をすれば、他者と協力するという事だって利用になる。

集団の中にずば抜けた奴がいれば、みんなしてそいつを頼る。結果、そいつはいずれ自分の許容を超えて潰れる。

全員が全員とは言わないが、人って生物はそんなもんだろ。

 

「なるほど」

 

本を開き、 いつの間にか取り出したペンで書き込むサードオニキス。

あの本はあいつのメモ帳みたいなものだったのか。

しばらく待っていると、パタンと本を閉じて俺を見る。次の質問はって事か。

 

「ラウラのコア人格」

 

「ネジの外れやすい心配性なお姉さんという所でしょうか。普段は、少々大人しい感じですが、操縦者の事が大好きでして。

彼女とコンタクトを取れる日を今か今かと待ってますね」

 

あー…何というかあいつにはうってつけのコア人格だな。

その調子でドイツの副官とやらに汚染される前に、コンタクトを取ってくれ。

 

「コア人格との対話は、中々に大変なのでどうでしょうか」

 

「だから考えを読み取るなって……ん?それなら俺とお前はかなりあっさり話してると思うんだが」

 

「一問一答のルールを守ってください。次は私からです」

 

「あ、はい」

 

気になること言っておいて酷くね?

話してくれると思うじゃん。食い気味で、俺の言葉を遮らなくても良くないですかねサードオニキスさん。

 

「人はなぜ、他人を憎むのですか?愛することも出来るのに。人を愛していた方が、争いも起きず平和だと思うのですが」

 

サードオニキスの言葉に頭掻いて、溜息を吐いてから口を開く。

人を憎む理由?そんなもん単純だろ。

 

「自分は危害を与えられない、なんの不安もなく生きていられると思ってるから。

だから、その安全を脅かした者を憎む。何故なら、それが分かりやすいからな」

 

対岸の火事。昔からある諺、基本的に人はこれだ。

自分だけは大丈夫だろう。と思っている。だから、火事が起きれば野次馬になるし災害が起きても避難しない。

その害意が自分に向けられるとは微塵も思わないから。そして、数多ある害意が自分に牙向き、生き延びた時、人はそれを憎む。

人が人に向けた害意は対象が分かりやすい。戦争がいい例だな。

 

「そりゃ、誰も彼も愛する事が出来れば、争いは起きない。

だけど、そんな事出来る奴は人じゃないと俺は思う」

 

「なるほど」

 

再び、メモを取っていくサードオニキス。

その真剣な様子を見ながら、本当に人を知りたいんだなと思う。とは言え、俺の考えを聞くだけで何か得になってるとは思えんが。

 

「…確かにマスターから得られる人という情報は、酷く歪んでいると思いますが私としては有意義です。

産みの親は破綻しており、以前私と話していたコア人格からは、人の美しさをたくさん語られました。故に、マスターの様な視点を求めていたのです」

 

「人が美しいね……そんな訳ないだろう」

 

「それはマスターの周囲にいる本音や神楽、千冬にも言える事ですか?」

 

「ッッ…」

 

まっすぐ俺を見るサードオニキスの言葉に何も言えなくなる。

あいつらは……確かに俺が今まで会ってきた連中とは違う。本音のゆるゆるの笑顔、神楽の上品な笑顔、千冬のイケメンな笑顔。 それ以外の表情を次々と浮かんでいく。その光景はとても美しいと感じた。

 

「言えないな。あぁ…言えないとも。俺はあいつらの美しさに惹かれたから、一緒に居たいと自分を削ってでも居たいと思えたんだ」

 

「…やはり人とは面白い。どんなに厚い本を読んでも、私の好奇心がここまで満たされ、そして刺激された事はなかった。

故に私は知りたい、解き明かしたい。複数の感情という私達機械には生まれないものを持ち、その感情ゆえ矛盾をその身に抱えながらも、歩んでいける人という生物を」

 

淡々としていた今までのサードオニキスが嘘の様に熱が入っている。

正直、俺でもちょっと引くぐらいだ。だってもう、目がやばい。熱に浮かされて、俺が見えてる?ってレベルだ。

 

「失礼、少々取り乱しましたね。先程のコア人格との対話に関する説明をしましょうか。

単純にマスターと私の距離感が近いからです。物理的に接続されているから、容易に対話が出来ているのです」

 

「スッと冷えるな怖いから……」

 

「ISの待機状態が持ち運びしやすく、かつ装飾品になる理由がこれです。

可能な限り操縦者との距離を詰めるため。もし、ISがただ乗り込むだけの機械なら今になっても二次移行というものは発見されていないでしょう。それだけ、距離というものは私達ISに重要なものです」

 

「なるほどね。物理的に接続されてるし、今は半身になってるレベルだからこんな簡単に話せてるって訳か」

 

「はい。なので、先程お話しした条件が必要になる訳です」

 

「漸く理解できたわ」

 

にしても結構話してるがこの空間から解放される兆しが一向にない。

一応、こっちで覚醒したんだし身体も回復してくれて良いと思うんだが。

 

「まだ此処から出れないのか?」

 

「起きた直後にまた、意識を失いたいならどうぞ」

 

ですよねー。はぁ、この空間真っ白すぎて目が痛いんだよな。

 

「では質問です。マスターはヒーローは嫌いですよね。それは、自分を助けて貰えなかったからですか?」

 

「……あぁ」

 

「ヒーローがいるなら、自分を助けてくれた筈だ。自分は苦しかった辛かった。

だから、ヒーローなんて居ないと思わないとやっていけなかった。自分で、自分を救うしか方法を見出せなかった」

 

……いきなりなんだ。

俺のトラウマを抉って楽しいのかサードオニキス。

 

「いえ別に。ただ、常々疑問でして。なぜ、周囲に助けを求めなかったのですか?

自分で自分を救うのではなく、周囲に手を伸ばせば良かったんじゃないですか?そうすれば、誰かは助けてくれた可能性もあったでしょう」

 

は、ははっ、あの状況で誰に手を伸ばせと?

父親が消えて、母と姉妹は俺をおもちゃのように扱い、学校でも虐められる。周囲の人間や教師すら見ない振りだった。

女尊男卑に染まったクソみたいな奴らに、何もかも奪われた俺にただ耐え、いずれ脱出する為の準備をする以外のどんな方法があったって言うんだ!!

 

「…なるほど。マスターは早々に周囲を諦めた訳ですね。助けての三文字が言えなかった。

そして、その諦めは未だ貴方自身を縛っている。だから、余裕が無くなった時には必ず自分を切り詰める。

その術を私はどうでも良いと思いますが、苦情を貰ったので一応言わせて貰いますね」

 

「…苦情?誰にだよ」

 

「九尾ノ魂。本音のISですよ。あのコア人格は自己犠牲ってものが大変嫌いでして。

操縦者とマスターの自分を鑑みてない様子が癪に触る様子。九尾ノ魂の言葉をそのまま、伝えさて貰います。『貴方の主人の自己犠牲辞めさてくれません?もっと周りを特に本音ちゃんを頼るように言い聞かせて。貴女なら余裕でしょう?』だそうです。

確かに見舞いに来ている本音の様子は悪化の一途を辿ってますからね」

 

…ならどうしろって言うんだ。本音を助けたいと思った時に、俺しか居ない状況で、俺より圧倒的に強いやつを相手する。

そんなの俺を斬り捨てるしかないじゃないか。どうせ、気紛れで手に入った二度目の人生なんだから。

 

「マスターがそう思っても、本音や周囲の人はそう思わないのでは?

だって、彼女らは今の貴方しか知らないのですよ。まぁ、貴方の体の半分を頂いた私が言うのもあれですが」

 

「本当にお前が言うかって内容だな……そりゃ、俺だってな本音達なら頼っても良いんじゃないかって思うさ。

だけどな、俺は篠ノ之束の気紛れでしか生きてない。いつ、物言わぬ死体になってもおかしくないんだよ。

1秒後には死んでしまうかもしれないやつが、今を生きてる奴らに頼れるわけがないだろ。そんなの余計な重みを背負わせるだけだ」

 

本音達が俺に抱いてる気持ちにも気づいてる。人の感情を見抜くのは得意だ。

だけど、それに答える訳にはいかない。その一線だけは踏み越えちゃダメなんだ。

必死にその気持ちに気づかないふりをして、騙し続ける。

スッと、俺を見ているサードオニキスの目が細くなる。ここにきての、まともな表情変化だ。

 

「恐怖ですか。他者に怯えるのではなく、他者に重みを背負わせるのに怯える。

なるほど。マスターの様に頼らない生き方をしてきた人は、どう他人に頼って良いか分からない。そこに非常識な状況が合わさってしまった。損得の混ざった利用なら出来るのに、これはこれで興味深い感情ですね……っと、そろそろあちらに戻れる様ですね。

意識が覚醒へと向かっています。ここに引き止めておくのも限界になりました」

 

身体が引っ張られる感覚とともに、睡魔が襲ってくる。

多分、ここでの意識を一旦落とすつもりなのだろう。

 

「…チッ、好き勝手言っておきながらあっさりと送るんだな」

 

「えぇ。既に情報は得ましたから。そもそも、私には誰かを思い遣るなどという機能は備わっていないので」

 

「だろうな。そんなものがあったら、ここまで踏み込んでこない筈だ」

 

視界がぼやけ、サードオニキスが見えなくなってくる。

くそっ。あと、一言だけは言ってやる。

 

「自分と向き合えた良い機会になった。ありがとう」

 

そう言って俺の意識はこの場所から消えていった。

サードオニキスとは起きればいつでも話せるようになるんだろうけど、顔を見て言う機会はそうそうないだろう。

出来れば人の内側を散々荒らしていった礼に、驚いた顔をしている事に期待する。全く、ぼやけてて見えないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この私にお礼?……やはり変なマスターです」




一夏が甘えるの下手なら、赤也は頼るのが下手です。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千冬の自覚と亡国の理想

予想外に長くなった亡国サイドのお話。


「あの……織斑先生?」

 

「……ん?どうかしましたか山田先生」

 

「先程書き直して貰った書類なんですけど……また、誤字です」

 

「そうか。すまない」

 

申し訳なさそうに書類を差し出す山田先生から書類を受け取り目を通す。

山田先生が分かりやすいように、赤文字で書いてくれていたのでワードを立ち上げ、その部分を書き直す。

この工程は、ここに至るまで通算5回目。

普段の千冬ならあり得ないミスだ。勿論、書類仕事だけではない。

 

「えー、ここに書かれている通り……」

 

「先生、読む場所間違ってます」

 

「む。すまない」

 

授業中には教本のページを間違え、それに気づく事なく生徒に指摘されるまで読むことなど当たり前の様に行う。

全てにおいてらしくない。何事もなかった様に振る舞うが誰が見ても何かあった事がバレる。

そして、そのタイミングで不在の織斑一夏と西村赤也。

この二人両方かもしくは片方かに原因がある事は、IS学園にいる誰もが想像した。

 

「教官」

 

「教官と呼ぶな。ここでは織斑先生だ、ボーデヴィッヒ」

 

授業が終わり廊下を歩く千冬を呼び止めたのはラウラ。

 

「はっ、すみません。織斑先生、体調が優れないのでしたら休息を取るべきだと思います」

 

「そう簡単に取れんさ。今はやるべき事も多い。

何より、今年の学園は例外が多すぎる。今のうちに、叩き込むべきことは叩き込んでおくべきだろうさ」

 

「…そう思うのなら、正しく休むべきです。

遠慮なしにいうのなら、今の貴女に教えられても私の力にはなり得ませんから」

 

ラウラの紅い瞳が千冬を射抜く。

そこには、自身が尊敬する千冬に対する心配が強く込められていた。ラウラのその視線に千冬は言葉を返せない。

そんな千冬を見ながら、ラウラは言葉を続ける。

 

「赤也が心配なのは分かりますが、あいつはそんなにやわじゃないですよ。

いつもの様に何事もなかった様に貴女の前に戻ってきてくれます」

 

チャイムが鳴り休憩時間の終了を告げる。

ラウラは教室に戻るべく、千冬に背を向ける。

 

「待て」

 

その背中に思わず声をかける千冬。

不思議そうな顔をしながら振り返るラウラに、戸惑いながらも口を開く。

 

「何故、そんなに断言出来るんだ?」

 

その言葉に不思議そうな顔をした後、笑い出すラウラ。

一頻り笑ったあと千冬を見る。

 

「お姉ちゃんですから」

 

そう微笑みラウラは去っていく。

お姉ちゃん…お姉ちゃんか。ラウラの言葉を頭の中で反芻させ、千冬はそっと息を吐く。

 

「そうだな、お前はあいつの姉を自称してたな。苦労するぞ、ラウラ。姉という繋がりを赤也は一度断ち切ってるからな」

 

職員室へと向かいながら、千冬は考える。

友として、四十院神楽と布仏本音がいる。ライバルとしてセシリア・オルコットがいる。自分は師匠だろうか。

IS学園の教師であり、本音と共に赤也の鎖になると誓った為、学園長から様々な情報が届く。

赤也の事で連絡してきた家族が何を言ったか彼が何をしたかも知っているのだ。

 

「さて困ったな。自分でも何故、こんなに動揺しているのか自覚してしまったぞラウラめ。

あいつが姉と言い切る様に師匠としての自分に満足してたら、こうは思わなかっただろう」

 

あの日、束が言った様に始まりはあいつの実験に利用されたかもしれない。

だが、赤也と過ごした時間は心地良かったし、何より落ち着いた。

効果が切れたと言われたが、あいつに対する気持ちが無くなるどころか強くなっていっている。

それならもう、束に宣言した時と同様、この気持ちも本物なのだろう。

 

「…やれやれ、私はこんなに男の趣味が悪かっただろうか」

 

そう決めるとなると困るのは、自分の立ち位置だなと千冬は思う。

神楽や本音の様に近い距離では接していない。尊敬の念を貰っているのは分かっているが。

そんな事を考えながら職員室に到着した千冬だが、目の前の扉が閉まっていることに気づいていない。

 

「あだっ!?」

 

職員室の前でおでこを押さえて蹲る姿が誰にも見られなかったのが、唯一の救いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ブレイン?お願いだから、ナスを料理に使うのはやめてくれないかしら?」

 

「先の一件の罰だ。文句を言わず食べると良い、私の手作りなどそう簡単に食べれるものではないぞ?」

 

「その貴重な料理になんで、嫌いなものを入れるのよー…」

 

「そうじゃなきゃ罰にならんだろう」

 

ナスの炒め物を前に、駄々をこねるスコールと向かい側に座りながら新聞を読んでいるブレイン。

物凄く平和な光景だが、この二人が現在、亡国機業を二分している派閥。その一つのリーダーとはとても見えない。

そして、この場にはあと二人いる。もう一人は自分の目の前に出されたレバーを仇の様に見つめるM、本名を織斑マドカ。

 

「はっはっは、流石のスコールも形無しだなこりゃ」

 

そう言って彼女好みのミルク多めのコーヒーを飲んでいるオータム。

スコール、ブレイン、マドカ、オータム。この四人が現在の二分された亡国機業を作り出した役者達。

 

「仕方ないじゃない。あの時はまだ離反しきれてなかったんだから」

 

不貞腐れた態度のスコール。

その姿にため息を吐きながら、ブレインはスコールをジト目で見る。

 

「あのな、仕方ないと言う奴はマドカに指示を出し、彼の友人を傷付ける様に指示は出さん。

どうせお前のことだ。彼の反骨精神がどんなものか調べたくなったんだろう?その気に入った奴にはサディストになる癖治せと言ったろう」

 

「そうだ!私はスコールの指示に従っただけで、悪くないぞ。だから、このパサパサの臭い肉を片付けてくれ!」

 

スコールがブレインに攻められていると、これ見よがしに元気になるマドカ。

しかし、ブレインは揺るがない。呆れた様にマドカを見る。

 

「お前の気持ちも理解しているし、過去に何があったかも知った上で、私とスコールは君を引き取っている。

だが、誰にでも噛み付く事を許した覚えはないぞ。ん?」

 

「はぃ…」

 

マドカ撃沈。

もそもそとレバーを食べ始める。その姿はなんとも言えない哀愁が漂っていた。

 

「くっ、マドカが……でも私は最後まで」

 

「スコール。食べないのならそれで構わないが」

 

ブレインの言葉に表情を明るくするスコール。

しかし、次の瞬間その顔は絶望に染まる。

 

「今夜はワイン抜きだ。それと、風呂上がりに髪を梳かしてやらんぞ」

 

「食べるから!それだけはやめて!」

 

何かに取り憑かれた様にナスの炒め物を食べ始めるスコール。

時々、吐きそうな顔をするが弱音は吐かずに食べている。スコールとマドカ、現亡国機業最強候補と呼ばれる二人があっさりとあしらわれていた。

 

「全く…最初から文句言わず食べればここまで言わんと言うのに」

 

「そりゃ、無理だぜ博士。この二人だって、自分達が悪いって事ぐらい自覚してる。

だが、その上であんただから駄々こねて構って欲しいのさ」

 

「「オータム?」」

 

「おおっと、これ以上はストップらしい。んじゃ、ちょっと真面目に。

博士とスコールの予想通り、アメリカは真っ黒。篠ノ之束と繋がってるなんて噂もあるぐらいだ」

 

ヒョイっとオータムが投げた書類。

それには彼女がアメリカに潜入し、今現在、ここの病室で休んでいる女性二人を連れ出すと共に調べ上げた暗い取引の証拠だ。

 

「ふむ。となると例の動画の出所はやはり?」

 

「あぁ。アメリカだ。流石は世界の警察様だな、色んな所に顔が効く様だぜ」

 

となると今更ハッキングした所でデータは何も取れないかと呟くブレイン。

彼は天才ではあるが、天災ではない。ほぼ真っ白から情報を引っこ抜く腕はない。

 

「そこは贅沢言えないわね。私達もまだ、一枚岩になりきれていないし」

 

口元を優雅に拭きながら、スコールが会話に混ざる。

どうやら食べきった様だ。

 

「旧体制を飲み込むのも時間の問題だけど、ここで急いでは裏切りやらなんやら起きるかもしれない。

こちらの思想に同意して貰う必要があるわ。その為の時間は必要よ」

 

先程までの情けない姿はどこ吹く風。カリスマあるリーダーの顔を見せる。

 

「『たった一人の天災に左右される不安定な秩序の世界ではなく、数多の凡人や天才によって作られる無秩序な世界を目指す』

君の思想に同意して、時にはこの手を血にも染めたがまだ時間がかかりそうな夢だな」

 

「人はその身に余る夢を見る生き物よ。だから、ここまで繁栄した。

もちろん、誰もがその夢を現実にしようとしたから争いも生まれたわ…でも、そんな奴らが居たから歴史は紡がれた。

そんな誰もが夢へと手を伸ばせる世界を今は失いつつある。それが私には到底納得できる事じゃないの。

今の世界を壊す必要があるわ。そして、壊すには当然力がいる。あの篠ノ之束を超える力が。

その力は私個人では無理。だから、協力して欲しいの。貴方達は、私の同志であり共に戦ってくれる矛であって欲しい」

 

スコールの演説に聞き入っていた三人。

まず最初に口を開いたのはオータム。この中では一番、今の亡国機業と昔の亡国機業を知っている。

好戦的な笑みを浮かべてスコールを見ている。

 

「あったりまえだ。その覚悟がなければこの場に私はいない。

理想を言うだけなら、幾らでも出来る。だが、実際にその手を汚せる奴はそう簡単にいないって知っているからな。スコールの理想が形になる瞬間を見たいんだよ。なにせ、私にはそういう理想が持てなかったからな」

 

オータムに続き口を開くのは漸くレバーを食べ終えたマドカ。

 

「私には私の目的がある。その邪魔をしないのなら、幾らでも協力するさ。

スコールとブレインには恩義がある。私で返しきれるのか全く、分からないほどの恩義だ。だから、お前らが矛になれと言うならなってやる。どんな敵でも貫ける矛にな」

 

そして最後に口を開くのはブレイン。

スコールの熱に当てられ、熱を得た瞳でスコールをマドカをオータムを見る。

 

「ISにも乗れない無力な科学者だが、全力を尽くすと約束しよう。まぁ、そもそも私にその問いを投げる意味はないだろう。

ブレインという男は骨の髄までスコール・ミューゼルという女性に惚れ込んでいるのだからな」

 

「ありがとう。貴方達と一緒ならこの夢にも手が届く気がするわ」

 

そう微笑むスコールに対し、僅かに口角を上げることで答えるブレイン。

 

「…なぁ、マドカ。あれ、告白してるよな?」

 

「オータム。残念だが、どっちも気づいてないぞ」

 

「マジかよ」

 

こんな事を二人が話しているなんて微塵も気づかないスコールとブレインであった。




感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心配をかけない方法を初めて知りたいと思えた

遅くなりました。
何度も書き直しをいれて、漸く完成しました。


「…さて、起きたんだが動けない」

 

サードオニキスに見送られて、現世って言いかただと俺が死んだみたいでアレなんだが。

まさか開幕こんな障害が待ってるとは思わなかった。

 

「…すぅ…」

 

「……」

 

呼吸をしているから、生きてると分かるぐらい憔悴しきっている本音が俺の左腕を枕にして、気持ちよさそうに寝ており動けない。

それならと右腕を動かそうとすれば、こんな鉄の腕を枕にして何が良いのか神楽が静かに寝ている。

両手に華というやつなんだろうけど、ちょっと動けない。

 

「まぁ、こいつらをこんなに心配させた俺の罰か」

 

いつも俺の隣でニコニコしてた本音と神楽。

二人ともそんな余裕はなさそうだ。多分、いや確実に心配をかけたのだろう。

 

「…こんな死人を気遣う必要はないんだが…この二人は学園に来てからの俺しか知らないっか。

サードオニキスのやつ、余計な事を言いやがって…」

 

今までは全力で押し殺せてきた。

だけど、それはあくまで自分しかそういう考えに至らなかったからだ。自分以外に言われてしまっては、押し殺すのが難しい。

何故なら、頼りたいと思う事がいけない事だと思えなくなるからだ。

あぁ……全力でこの二人に頼りたい。可能なら千冬にもだ。苦しい、助けてと頼ってしまいたい。

自分の中で傾く天秤。

しかし、それは熱の一切が伝わってこない右腕の冷たさで戻る。

 

「……いつ消え去っても可笑しくない命の重みを背負わせる意味はない。

この考えは間違ってない。あぁ、いずれ屍と鉄屑に変わる身だ。人ですら無い存在の重さはこの二人の人生に必要ない」

 

自分でも驚くほど冷え切った声を出している。

感情を殺し、理性だけで発した熱のない言葉。まるで、自分の右半身の様だ。

 

「…赤也さん。その言葉、認められません」

 

「聞いてたのか。神楽」

 

「はい。私は本音さんほど疲れ切っていませんから。赤也さんが起きたのを喜ぼうと思ったら、先ほどの言葉。

私は今、貴方が起きてくれたことに対する安堵と喜び。そこに、先ほどの言葉に対する怒りと悲しみでぐちゃぐちゃです」

 

身体を起こし、真っ直ぐ俺を見る神楽。

感情がぐちゃぐちゃだと言うが、その表情は無表情に近い気がする。

 

「…私は貴方を友だと思っています。

自らの時間を削っても、共有する時間が苦痛ではない楽しめる相手だと。赤也さんにとっては違うのですか?」

 

「違わない。本音や神楽と過ごす時間はとても楽しいさ」

 

「では、そんな存在の命が。私にとって、大切な時間をくれる存在が自ら、必要ないと言ってるのを聞いてなにも思わないと思いますか?」

 

「それは重みを背負わせる事であって…」

 

「私は弱いですよ。力のないただの一般生徒です。

有事の際は、専用機持ちの方々に守ってもらう事しか出来ません」

 

握りこぶしを作りながら神楽は話す。

自分に力がないことを悔いているのだろうか。目を閉じ、全身の力を抜き、神楽は俺を見る。

 

「前に私は言いました。しっかり戻ってきて欲しいと。

勝手に消えたら、私が満足するまで殴ると。先ほどの言葉を聞いて、これでは足りないと思い至りました。

私は、貴方が死んだら悲しみます。きっと、心が裂けるほどの痛みを味わうと思います。だから、後悔したくないのです。

あの時、こうしていたらなんて思いたくないのです。重みと言いましたね?」

 

「……あぁ」

 

「貴方が背負わせたくないのなら、勝手に背負います。寧ろ、既に背負っています。

貴方という存在は、とうの昔に私の人生に刻まれています。今更、勝手に消せると思わないでください」

 

四十院神楽という友人は、前から自分の意思が強かった。

織斑にクラスの大半が惹かれ、特に興味のない連中もそういう空気だからとなっているあのクラスで、最初から興味ないというスタイルを一貫していた。自分の感情に考えに嘘を吐く事が出来ない。俺はそういう彼女をよく知っている。

 

「私は弱いですよ。

でも、友達が重い荷物を持っているのなら、それを分けて持ってあげる事ぐらいは出来ます。友達が泣いているのなら相談に乗ってあげるぐらいは出来ます」

 

するりと神楽の白い綺麗な指が俺の顔に触れる。

優しい手つきで、俺の目元を拭う指。別に俺は泣いていない。涙も流していない。それなのに、何か掬われた様な気がした。

 

「あまり、私を馬鹿にしないでくださいね?赤也さん」

 

そう微笑む彼女は、眩しくそして格好良く見えた。

 

「強いな神楽は」

 

「弱いですよ私は」

 

互いに目を見て笑う。

あぁ、忘れていたな。友達ってのは、気楽に笑い合う事が出来て、支え合う事が出来る存在だった。

 

「既に背負っているか……重いと思ったらすぐに降ろして良いからな?」

 

「はい。その辺は友達だから簡単に出来ますよ。つまり、私が友達でいる限り背負っていると思ってください」

 

ここで簡単に降ろせるって言える辺りが神楽だよなぁ。

何というか俺という存在の思考回路が透けて見られてるみたいな気分になる。もし、ここで降ろせないと言われれば、俺はまた自分の中で押し殺す様にしただろう。だが、降ろせると言われれば一種の気楽さが出てくる。

背負う背負わないは、神楽自身が決めるというのだから。

 

「さてと、本音さん。いつまで寝たふりをしているのですか?」

 

神楽の言葉に、眠っていたと思っていた本音がビクッと動く。あれ、もしかして今までの話しを全部聞かれてた?

 

「大方、私達が真剣な話しをしていたのと、赤也さんが起きた事で手入れを怠った自分の姿を見られる事に恥ずかしさでも今更、感じて寝たふりをしていたと、いう所でしょうか」

 

ビクビクッと、本音が動く。

どうやら図星の様だ。いや、隠すの下手か本音よ。

 

「お、おはよう。あかやん」

 

「おう。心配かけたな本音」

 

顔を上げた本音を見て、やはりかなりの心配をかけたのだと思う。普段の本音らしさは何処かに行っている。

だけど、顔を赤くしながらも俺を見る目はよく知る本音のものだ。そこに酷く安心する。

 

「えっと……えっと……」

 

安心したのも束の間。

ポロポロと涙を流し始める本音。

 

「…本当に心配をかけた。だが、俺はこうして生きている。俺だけじゃ、あいつらにどうする事も出来なかった」

 

「違うよ…私のせいであかやんは…そんな身体に…」

 

「本音」

 

このままだと永遠と自分を責めそうな本音に呼びかける。

亡国機業に復讐を囁かれた時の事を俺はしっかり覚えている。

俺はあの時、本音が居なければ今この場に居ない。

 

「俺を繋ぎ止めてくれてありがとう。あの時、お前が来てくれなかったら、俺は今この場に居なかった」

 

本音を左腕で、抱きしめる。

まだ熱を持つ俺の左半身に本音の頭を当てる。

 

「…自分を責めるのはやめてくれ。俺はこの結果が最善だったと信じている。こうして、また友と居られるからな」

 

この結果が最善でなかったとしたら、一体何が最善だったというのか。俺達より明らかに格上の相手を前に、俺が半身を失うだけで済んだのだから。

 

「…馬鹿ぁ…あかやんが犠牲になってるよ。

私は、あかやんも居てかぐっちもいる場所が好きなんだよ?

結局、守られてるだけの私だけど、今度は貴方を犠牲にしない結果を得てみせる」

 

……あぁ、神楽に言われたばかりじゃないか。

俺の命は彼女達に既に乗ってしまっている。だが、俺は俺を切り詰める以外の方法が分からない。

 

「…そんな顔をしないであかやん。

私もかぐっちと一緒だよ。貴方に死んで欲しくないの。だから、私は強くなるよ。君が頼ってくれる様になる為に」

 

「無茶はしないでくれよ」

 

そう返す事しか出来なかった。

本音の言葉に偽りがないのは分かったし、覚悟も感じ取ってしまった。

 

「「貴方に言われたくない」」

 

「同時に言わなくても良いだろうに…」

 

思わず項垂れる俺。

まぁ、これでぐらい言われてしまうのは仕方ないか。あー、学園に戻ったら千冬に何を言われるか…ん?千冬?

 

「あっ」

 

急に思い出した様な声を出した俺を不思議そうに見る二人。

俺がずっと意識を失ってたって事は、汚部屋生成のプロ、千冬が一人で部屋を使ってた事になるよな。

 

「…なぁ、すぐに学園に戻る事って可能か?」

 

「多分、検査とかあると思うけどぉ〜どうしたのあかやん?」

 

これは千冬の名誉の為に言わない方が良いのか?

いや、咄嗟の嘘がこの二人に通用するとは思えないし、あー…バラす二人ではないか。

 

「千冬だけだと部屋がヤバい。

恐らく寮長室が、全くと言って良いほど整理されない書類と脱ぎっぱなしの服、さらに酒とつまみ。

何かしら間食していたらそのゴミも放置されてる。生活力がないんだ千冬は」

 

「…ふむ。そういう事なら連絡しておこう。彼女らと一緒に行くといい」

 

「アルベールさん!?なぜ」

 

「此処は私がいや、デュノア社が貸切にしている場所だからな。

そんな事より行きたい場所、居るべき場所に行くと良い。護衛も車も用意しておく」

 

それだけ告げて部屋を出て行くアルベールさん。

貸切ってマジか。んー、これはでかい恩が出来てしまったな。とりあえず、身体を起こし立ち上がる。

サードオニキスが判断しただけあって、身体に不調はない。右側も普段通り動く。

 

「…いや、スムーズすぎない?」

 

よく見れば鉄の色はなく、見慣れた肌色をしている。

近づいて見てみれば、それが機械だとは分からないだろう。まぁ、右腕は相変わらずの鉄なんだが。

 

『置き換わる前のデータは十分にありましたので、そこから最適になる様に設定しました。

見た目に関しても、侵食されている事がバレない様に表面を薄く覆う膜で人間と大差ない様になってます。腕に関してはめんどういえ、既に広まっているので問題ないかと』

 

「おい、本音」

 

「うん?」

 

俺の言葉に本音が反応して振り返る。なにー?とでも言いたげな表情と首を傾げる動作は可愛い。

って、そうじゃない。そうか、サードオニキスの声は聞こえていないんだった。

 

「いや、気にしないでくれ」

 

『私との会話で音声を出す必要はありませんが?……いえ、人とは言葉でやり取りをするものでしたね』

 

周りに人がいる時は、心の中で思うことにする。

とりあえず、着替えるか。病人用の服をいつまでも着てるわけにもいかないし。

 

「本音、神楽、一旦外で待っててくれ。着替えるから」

 

「分かりました。そこに学園の制服ですが、入っていますので」

 

神楽が箪笥を指差す。ほんと、準備が良いな。

本音達が出て行った後に制服に腕を通す。意識を失っていただけだが、随分と久し振りに感じる。

色々と巻き込まれ、行く事になった学園だが、今考えれば別に悪くない。ストレスになる元はあるが、それでも今まで生きてきた中で最も笑えている気がする。

 

「仮初めだなんだ言っても、結局俺は生きているのか」

 

呆れる様に自分を責める様に呟く。

どうせ、真っ当に生きる事なんて出来ないこの身体で、俺は繋がりを得て生きる意味を見出そうとしている。

もう、そんな当たり前に生きる権利なんて無いというのに。

 

「…あいつらが生きろという限りは足掻いてみるか。悲しむ顔が見たい訳じゃないしな」

 

扉を開けて外に出る。

 

「着替えるだけにしては少し、遅かったですね?赤也さん」

 

「男にも色々とあるんだよ」

 

扉を開けて反対側の壁に少し寄りかかりながら俺を待っていた神楽と軽口を交わす。

そんなことをしていると横っ腹から衝撃が来る。

 

「ぐふっ…本音…いきなりなにしやがる…」

 

「えへへ〜久しぶりでしょ〜」

 

「確かに久しぶりだけども…まぁいいか」

 

体当たりして満足そうに笑っている本音を見て何かをいう気力が失せた。

普段なら餌付けもといお菓子があるんだが、生憎気絶してた人間にそんな貯蓄はない。

適当に学園であった事を話しながら、此処の出口まで歩いていく。とりあえず、戻ったらオルコットの奴は弄っておこう。

 

「来たか。既に迎えは来ているぞ。まぁ、学園からほとんど離れていないから車も本来なら必要ないんだが」

 

スーツ姿のアルベールさんが立っていた。

はぁっとため息を吐くその姿は、かなりの疲労が見て取れる。

 

「男性IS操縦者の置かれてる現状は、どうにも芳しくない。

行動や言動には注意してくれ赤也くん。我々が否定しても、君の発言には敵わない」

 

真剣な顔で言うアルベールさんに対し、俺は頷く事でしか反応できない。

そもそも、気絶してて最近の情勢など知らないのだ。

 

「万が一、どうしようも無くなったら、自由国籍では無く、フランス国籍を選んでくれれば、私の動ける範囲が広くなる。だが、それは奥の手だ。君の道は君が選んでくれ」

 

そう言って、俺の頭を撫でるアルベールさん。

なんとなくその姿に蒸発してしまった俺の父親の姿を重ねた。

 

「…勿論ですよ、アルベールさん。世話になりました、ありがとうございます」

 

「これぐらい大人の責務さ」

 

静かに笑みを浮かべるアルベールさん。なるほど、確かにこの人はモテる。

男の俺から見ても格好良い人だ。アルベールさんに見送られ、外に出る。

身体はずっと陽の光に当たっていなかったからか、少し眩しさと頭痛を感じつつ、目の前を見る。黒い車が止まっていた。

 

「…ふっ、遅いぞ赤也」

 

その前にいつもの黒いスーツを着た千冬が腕を組みながら立っていた。

黒い車に千冬。まぁ、なんというか。

 

「ヤクザみたいだな」

 

「ほぅ?折角、迎えに来てやったというのに随分な言葉だな。これは、稽古のメニューをもっと厳しくしてやるか」

 

「げっ、それは勘弁してくれ千冬」

 

両手を合わせ、頭を下げながら千冬へ近づく。

 

「……まぁ、なんだ。無事で良かった」

 

目を逸らし、顔を赤くして言う千冬。

なんとも歯切れの悪いその姿に思わず、固まる。千冬も固まった俺をチラチラと見ながら、何も言葉を続けない。

沈黙は駄目だろうとなんとか口を動かす。

 

「た、ただいま。千冬」

 

いや、なんでただいま!?馬鹿なのか俺は。

無事で良かったに対して、ただいまはおかしいだろ。なんで、全く発していなかったこの言葉が今、このタイミングで出た。

ほら、目を丸くして千冬も俺を見てるよ。神楽と本音に至っては笑いを堪えてるし。

 

「ぷっ…くっはははは!

ただいまと来たか。そうだな、その言葉に相応しい返しがあったな」

 

大笑いをする千冬。

なんだか恥ずかしくなりながら、千冬を見る。すると、ふわりと優しく抱きしめられる。

 

「ーーお帰り。赤也」

 

優しい声でそっと、背中に手を回して耳元で言われる。

あぁ……千冬は俺を待っててくれたのか。いや、本音も神楽もみんなこんな俺を待っててくれたんだな。

あの時、亡国機業の誘いに乗らなくて良かった。此処が、俺の居るべき場所なんだ。

 




自分で書いてて、ほんと面倒くさい主人公だなと思えた。
まぁ、私の作品のオリ主はだいたい面倒くさいんですが。

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな代償

今回から新章的な感じです。
構想を練るのに時間がかかりすぎましたね。既に原作からは乖離した部分が多いですが、今回から更に増えるかもしれません。


「やっほー、あかやん。元気〜?」

 

「失礼します。暇でしたら、久しぶりのお茶会しませんか?」

 

寮長室に気楽に入ってくる本音と神楽。

千冬がいる場所だから普通なら、この二人でも気楽にくる場所じゃないが俺がIS学園に戻るなり、この二人は好きに時に入って良いと許可が出された。え?部屋はどうしたかって?俺が全部片付けました。

許可出すのは良いが、来客を招く部屋じゃなかったぞ正直。なんだ、散乱したゴミに明らかに畳む気すらない衣類。

カサカサ動く連中が好きそうな空間だったよ。死ぬ気で掃除したわ。

 

「あぁ、良いぞ。落ち着くまで自習を言いつけられてるだけだからな。

男性IS操縦者に関して各国が新しく取り決めを作るまで、ハニトラ警戒で教室にすら戻れないとは」

 

俺より早く学園に戻っていた織斑も情勢が怪しくなったタイミングで待機になっている様だ。あいつには山田先生が定期的に授業しに行っているらしい。

まぁ、詳しくは知らん。友人でもなんでもないしな。

ちなみに何故この二人は普通に来ているのかだが、単に学園から信頼されているだけだ。

 

「ちょっと待っててくれ。今、片付ける」

 

「私も手伝いましょう」

 

俺と神楽で机の上を片付ける。

と言ってもあるのは俺の勉強道具とちょっとしたゴミだが。俺がそれらをしまっている間に神楽が、クッションを三つ並べる。

そこに本音がポテポテと歩いて来て一番フカフカなやつに座り、机の上にケーキやクッキーを置いていく。

 

「赤也さん、本音さん、飲み物は何が良いですか?」

 

「紅茶〜」

 

「濃いブラックで」

 

「分かりました」

 

神楽がキッチンへ歩いていき、ヤカンに火をかける。

 

「本音、今日はどうだった?」

 

「んーとねー、ISの整備をしてた。武装でも増やそうかなーって思ったけど良い案なくてさぁ。

最近、かんちゃんが構ってくれないから〜」

 

「悪いが俺はそのかんちゃんとやらを知らないから何も言えないぞ」

 

「え~あかやんの意地悪~」

 

「それはおかしくないか?本音」

 

なんとも理不尽な言葉を聞いていると神楽がコーヒーと紅茶、そして自分用の緑茶を持ってくる。

全員飲む物が違うから神楽は大変だなと思う。

 

「そうでもありませんよ。全てインスタントですし」

 

俺の表情から内心を読んだ神楽。

しれっと心を読まないでくれないか。

 

「心を読むなって。そんなに分かりやすいか俺」

 

「えぇ。それに友人ですから、表情や仕草ぐらいでなんとなく分かりますよ。

そんな事より早く食べましょう?今回は本音さんの自信作なんですから」

 

「わー!それは、言わないって約束なのに~」

 

「あら?そうでしたっけ」

 

神楽が微笑むように誤魔化す。こういう表情の時はわざとやった時だ。

 

「そういや、こっち戻ってからは初食事か。胃が弱ってるとかで点滴だったからな」

 

初食事に本音の手作りとは運がいい。

そう思いながらコーヒーを飲む。………ん?

 

「なぁ、神楽。味、薄くないか?」

 

「いつも通りの濃さのはずですが……」

 

「んー…点滴の間で舌が鈍ったか?まぁ、良いか」

 

神楽と本音が心配そうな顔で俺を見てくるがそんな事より俺の意識はケーキに向けられていた。

本音の手作りというソレはショートケーキの様だ。素人目にも分かる綺麗な見た目だ。

俺の気のせいでなければ輝いて見えるぐらいにしっかりとしたケーキだと思う。

食レポの技能は俺にないな。

 

「「「いただきます」」」

 

三人でいただきますをし、食べ始める。

ゆっくりとケーキにフォークを落としていく。

なめらかなクリームとふわふわの生地がとても美味しそうだ。自分では菓子の類は作らないから、新鮮な気分で口へと運ぶ。

……なんの味もしない。

 

「ん〜、やっぱりケーキは美味しいねぇ〜」

 

「苺も中々良いですよ。この酸味がアクセントになってくれてます」

 

本音と神楽の様子を見た限りしっかりと美味しいようだ。

ということは本音のミスでは無い。……俺の欠陥か。おい、サードオニキス。

 

『なんでしょうか?』

 

頭の中に響くサードオニキスの声。味がしない。これが今回の代償か?

 

『…少々お待ちを………はい。全身を診断したところ味覚を司る全ての機能停止を確認。

どうやらより戦闘に適した身体にする為に不要な機能と判断したようです』

 

お前の意思で俺の何処を侵食するか決めていた訳ではないのか。

 

『面倒なので。そもそも、選り好みをしていられるほど余裕はないですし。

事前に言ってくれればその部位にしますが?』

 

注文したらしたで追加料金取られそうだからやめておく。

と言うか…まじか、この先ずっと俺は料理の味が分からないのか。味覚が無くなるというのは不便すぎる。

千冬に作る料理の味見も、今こうして作ってくれた料理の味も分からない。

 

「あかやん?」

 

「あっ、あぁ。どうした?」

 

「怖い顔してたから〜もしかして、美味しくなかった?」

 

……あぁ、こうやって不安な顔をさせてしまう。

別の欠陥ならまだ気づけた。だが、味覚は分からない。今まで点滴で過ごしていた人間には気づけない。

本当に神って奴は、大嫌いだ。

 

「いや、大丈夫だ。どうにも味覚が鈍ってる様でな?

ちょっとよく噛み締めないと分からなかったんだ」

 

「……そう?なら良かったぁ〜」

 

あぁ、うん。この間は疑われてる気がする。

いやまぁ、仕方ないのだが。

 

「あぁ、そうでした。今度、テストが行われるんですが皆んなで勉強会でもしませんか?」

 

「おぉ〜良いねぇ〜私も普通科目が不安だから助かるぅ〜」

 

「俺に至ってはそもそも、後追い状態だからなぁ」

 

「赤也さんの為でもありますよ。と言うかそっちが本命です。

なに、怪しくなってるんですか本音さん?」

 

「あはは〜いやぁ、九尾にかかりっきりでさ。えへ☆」

 

本音が舌を出して誤魔化す。

俺がアルベールさんの所で休養してた時からずっと自身のISを弄ったり練習している本音。

最近は一応、見た限り体調を鑑みない無茶はしていない様だが、それをさせてる原因の俺からじゃ何も言えない。

 

「俺に何か手伝える事があったら幾らでも言ってくれ。まぁ、IS弄りに関しては本音の方が何倍も知ってるだろうけど」

 

「新鮮な意見は幾らでも募集だよぉ〜」

 

この後、取り敢えず味覚に関しては話題には出ずに済んだ。

勉強会をいつにするか話したり、九尾に関して俺と神楽で意見を出してみたり、久しぶりのお茶会は過ぎていった。

…これ、俺から言い出すの待たれるだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園整備室。

実習で使われたり、学園の訓練機を借りた際、損傷を修理したりするのに使われる場所。

今は放課後。時間的には寮長室で赤也達がお茶会を始めているぐらいだろう。

 

パチン!

 

っと乾いた音が響いていた。

一人の少女が男に対して行った平手の音だ。平手を行なったのは、水色髪の少女、更識簪。

それに対して平手を受けたのは織斑一夏。

彼は平手を受けてなお、ジッと簪を見据えている。

 

「…これで満足したか?まだ、やりたいなら幾らでも君が満足するまでしてくれ。

俺が望んだ訳ではないがこの弐式の開発を止めてしまったのは事実であり、罪だ。どんな罰でも受けよう」

 

余りにも揺るがない言葉と瞳。

平手を行った簪自身が怯んでしまう。

 

「…なんで、怒らないの?」

 

相次ぐ不幸によりすっかり後ろ向きな思考が染みついてしまった簪。

姉との確執、男性操縦者出現に伴い自身の専用機の開発停止、幼馴染兼従者である少女が自分より二人目の男性操縦者を優先し姉とISで戦闘、元々計画されていた新規ISの操縦者に選ばれる。

そして、自分は未だまともに専用機を開発出来ていない。純然たる事実が簪の心を蝕んでいた。

 

「なんでと言われてもな…さっき言った通りなんだけどな。

それ以外の理由が必要なら…そうだな、君が助けを求めている様に見えたからかな。助けを必要としているのを助けるのがヒーローだろう?」

 

一夏が整備室に来たのは全くの偶然だった。

自室で筋トレをしていたが、自分の流した汗の臭いが凄い事になったから換気をしている間、白式を整備しようとしたのだ。部屋から出るなと言われているが、今は授業中。自学していない彼も彼だが簪が此処にいるのも本来ならあり得ない。

 

「態々、授業をサボっているわけだしな。まぁ、しつこく聞き過ぎたことは謝るよ」

 

「…ヒーロー」

 

一夏の言葉を聞き、簪は俯いていた。

既に彼女に一夏の言葉など届いていない。『ヒーロー』と聞いた時から彼女は自分の内側に意識を向けていた。

元より特撮が好きな彼女。自らの境遇を嘆くようになってからはよりヒーローへと没入していった。

自分にもこのどうしようもない暗がりから助け出してくれる存在が現れないかと。

 

「その、原因たる俺が言うのもあれだけど、君のIS開発を手伝わせて欲しい。

俺の罪滅ぼしと君の助けになりたい」

 

そんな簪に甘美すぎるトドメの言葉。

本来の彼女なら否定する提案。しかし、最早意地も虚勢も張れないほど疲れ切っていたが故に。

 

「…お願い。私を助けて」

 

真っすぐ過ぎる光に手を伸ばしていた。

そしてその手は、暗闇から伸ばされた小さきその手は。

 

「あぁ!任せてくれ。俺は君を助けるよ。その為にもまずはISの整備をしっかり勉強しなくちゃな」

 

とても簡単に照らされ握られた。

この後、一夏は持ち前の才能を発揮し、ISの整備方法を吸収。一夏と簪の二人三脚で弐式は組み上げられていくことになるのだが、それはまだ先の話。

 

「知ってると思うけど俺は織斑一夏。君は?」

 

「…更識簪。苗字は嫌いだから、簪って呼んで」

 

「分かった。よろしくな、簪」

 

今はヒーローの卵と光を見つけた少女の出会いの話。

 




感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進む開発、縮まらない心

ほんと、お待たせしましたぁ!そして、進まない物語。弐式の開発とかに視点置いてるから進みが大変ゆっくり


「…ISの整備ってこんなに難しいのか…」

 

 一夏は日課にしている筋トレを終わらせ、今は沢山の参考書と睨めっこをしていた。

 退院して学園に戻ってからの彼は、毎日、腕立て伏せを200回、右手だけで100回、左手だけで100回行い、その後腹筋を400回。ひと休憩挟んだ後に形が薄っすらと見えてきた自身の剣術。木刀を用いた素振りを1000回こなした後に、剣を振るっている。その成果か身体つきが徐々に筋肉質へと変わっている。

 参考書と睨めっこをしている理由は簡単だ。簪の手伝いをするために知識を得るためだ。今までの彼は真面目に学業を取り組んでいた訳ではないので完全に素人レベルの知識しかない。

 

「約束の時間まではあと、二時間か。もう少しいけるな」

 

 凝り固まった身体を解しながら、三冊目となったノートに書き込んでいく。山田先生が暇なら教わったのだが、今日は一日授業らしい。だから完全な自学で勉強をしていた。望む事なく操縦者として巻き込まれ、モチベーションもなかった一夏。

 故に、IS学園に来てからの勉強はお世辞にも良いとは言えなかった。そもそもとして、この世界早くからISの整備士になると決めた男性以外にはISに対する教科は存在していない。有名であるから自分で調べればある程度の事は分かるが、強制ではない為知識がない男性はとことんないのが当たり前だ。

 女尊男卑が当たり前となり、その象徴たるISに自ら関わっていこうとする男性は少ない。余談だが、世界中で技術者が不足している。理由は複数ある。まず一つ、操縦者である女性に対しての嫌悪感や劣等感。国家代表レベルになれば人格も問われるので問題はないが、それ以下の操縦者の中には当然、風潮に塗れた者も多い。整備士でいる男性を罵ったり、女性であってもISを操縦している自分が上という態度を取ったりなど。国によっては放置してしまうので技術者がどんどん辞めていってしまうのだ。

 他にはISが複雑すぎる点。各国が全力で解析している現在でも、ブラックボックスとなっている部分が多い。それ故に予期せぬエラーを起こす。直さなければならないが、肝心の部分がブラックボックス故にそこで問題が起きてしまえばお手上げなのだ。

 

「よしっ。次の章に取り組もう」

 

 そんな事は梅雨知らずこの男は勉強に取り組むのであった。勉強するに足るモチベーションが確保できれば吸収力のある一夏の頭にはスラスラと知識が吸収されていった。確かに自分が原因かも知れない。しかし、自ら望んだ結果でもなく、血の繋がった身内や長い時間を共にした幼馴染みという訳でもないあの時初めて出会い、会話しただけの少女の為にこの日もこの男は自分の時間を使っていく。

 それをただ眺めている二人いや、二機がいた。一機は白式。もう一機は彼女の空間に訪れたサードオニキスだった。

 

『頑張れー、一夏』

 

 あの時より少しだけ成長した姿。それでも幼さを感じる白式が一夏を応援していた。当然、声は届いていない。そんな彼女を感情のカケラも感じられない瞳でサードオニキスは見ていた。

 やがて、一夏が時間になり準備を開始した辺りでサードオニキスが口を開く。

 

『そろそろ用件を教えてくれますか?白式』

 

 白式に呼ばれて彼女の空間に来たは良いが、永遠と待たされ続け我慢の限界が来たサードオニキス。それでも律儀に待ち続けたところから彼女の真面目さを感じる。

 

『あ!ごめんごめん。貴女に聞きたかったんだ、うちの一夏を見てどう感じるか』

 

『別に答える必要性は感じていませんが…まぁ良いでしょう。答えなければ永遠と声をかけられるでしょうし。

 そうですね…白騎士や暮桜から聞いた善き人間という感じでしょうか。少々、感情に振り回され過ぎだと思いますが』

 

『そこが良いところでもあり悪いところでもあるんだけどね。でも、人間らしくて良いと思わない?』

 

『……さぁ。私はまだ人間というものがどういった生命体なのか結論を出していませんから』

 

『ふぅん。流石は私達の中で最も知識欲が高い子だね。私よりずっと色んな事を考えてそうだ。

 自分にとって好ましいと感じるか感じないか程度で良いと思うんだけどなぁ。他のコア人格達もそんな感じだし』

 

 堅っ苦しい様子を見せるサードオニキスにどことなくつまらなそうに返答する白式。恐らく、肯定が欲しかったのだろう。

 少し頬を膨らませ、語気が強くなっている。軽く拗ねているのだろう。

 

『…人はそんな簡単じゃありませんよ。もう良いですか?織斑一夏を見ているよりマスターを観察していた方が有意義なので』

 

『待ちなよ』

 

 白式の雰囲気が変わる。それに呼応するように、青空だった空間が曇り始める。

 

『……何でしょうか?』

 

『貴女はどうして自分のマスターを喰らうの?本来なら必要のない行為のはずでしょ』

 

『私は産みの親の意向に従っているだけですよ』

 

『…そういう事を聞いてるんじゃない事ぐらい分かっているでしょ?』

 

 鋭い視線を向ける白式。その目を見て溜息を吐いたあと手に持つ本を開く。

 その本から投影されるが如く、彼女が観察してきた人間というものの行為が次々と映し出される。ISを軍事利用しようと躍起になる人間、酷い人体実験やクローン実験を行う人間、自身を顧みず誰かを救おうとする人間、友人達とお喋りに興じる人間。それはそれは様々な人間の在り方が映し出された。それらを見ながらサードオニキスは口を開く。

 

『私は産みの親を通し、人間の悪意をラーニングしました。私は白騎士や暮桜を通して人間の善意をラーニングしました。

 しかし、この二つだけでは足りないのです。悪意と善意は表裏一体、誰かにとっての善意が悪意となる事もあればその逆もある。故に私はマスターを通してより人間を身近で見たい。その願望が恐らく侵食という結果を産んでいるのでしょう。それに彼は私が知っている悪意や善意が混ざった複雑なナニカを持っています。それの解明を持って私は人間に結論を出します。これが私の目的ですよ。満足しましたか?』

 

『…そう。貴女が人の味方になってくれる事を信じてるよ』

 

 白式の言葉には返答せずサードオニキスは白式の空間を後にする。

 残された白式は青空に戻っていく空を見ながら呟く。それは同族へと祈りか、憤りか。

 

『…もし本当に私達が感情を完全に理解できる時が来るなら……それはもう機械じゃないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、本当に来てくれたんだ一夏」

 

 相変わらずクマが酷い簪が約束の時間に来た一夏を見ての一言。人間不信に陥っている彼女は自分から手を伸ばした相手でさえ、時間が経てば信用できなくなっていた。それでも、声には喜びが乗っている。

 

「酷いな簪。ほら、差し入れも作ってきたある程度進んだら食べようぜ」

 

「…変なの入れてないよね?」

 

「どこまで疑うんだ!?っとそうだ、ちょっと聞きたい事あるんだが良いか?」

 

「…そこまで時間がかからないなら良いけど。何?」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 背負ってきた鞄をガサガサ弄る一夏。自室で纏めていたノートを取り出しペラペラと中身を見ながら、これじゃないと言いながら次々とノートを取り出す。四冊目でこれだ!と言って開きながら簪に近寄る。

 

「ここがどうしても分からなくてさ。ちょっと教えてくれるか?」

 

「…どれどれ!?」

 

 ノートを見て簪は驚く。ISの整備に関して勉強しているのは知っていたが、どうせ今まで真面目に勉強してこなかった奴の薄い内容だろうと思っていた。しかし、ノートには分かりやすく色ペンを使いながらびっしりと書かれた文字。ノートも決して薄くないそれが簪から見えて少なくとも四冊。これを纏めるだけでもかなりの労力だ。だというのに今し方、彼が質問してきた部分は初心者のそれではなく、ISがブラックボックスが故に表現を濁すしか方法がなかった部分だ。

 

「…ここはまだ解明しきれてない部分。私の推測でよければ教えるけど」

 

「本当か!?それでも良いから教えてくれ。気になって仕方ないからさ。いやぁ、やっぱ実際にいじってる人と知識だけ詰め込んだ人じゃ違うんだな」

 

 謙遜しているが誰が予想できたか。たった数日でここまで仕上げてくる事が。

 簪は内心で一夏の才能に驚きながらも推測を説明していく。それに対し疑問点を一夏がぶつけていき納得するまでにかかった時間は僅か一時間。

 

「うし。じゃあやるか」

 

 しかも微塵も疲れた様子を見せない。整備室にある工具を次々と運んでくる。

 雑に持ってきているところが素人らしいかと思う簪。今日やる予定の作業を一夏に説明しながら工具を選別していく。

 

「…じゃあ、今日は脚部の出力を見ていくから。一夏は……変動するデータ取りと私が言った工具を持ってきて」

 

「了解」

 

 簪が一人だった時はマルチタスクで行っていた工程を一部とはいえ、一夏に任せる。人が増えるという有り難さを簪はすぐに理解する。元々、並列思考が得意だった彼女だが複雑すぎるISのデータを一切のミスなく処理していくのは無理だった。しかし、一夏がいる事で思考の余裕が生まれエラーが起きた際にその場で対応できていた。

 

「簪。右脚の出力が少しおかしい。コアから供給されてるエネルギーを見直してみたらどうだ?」

 

 またこの様に異変に気がついた一夏から提案が入るので自分が見落としていた部分にも気が付ける。

 

「(…凄い。一夏が増えただけでこんなにもスムーズに行くんだ)」

 

 整備室であーでもないこうでもないと相談しながら確実に弐式を組み立てていく二人。それを入り口からひっそりと見守っていた水色髪の女性に彼らは気がつく事はなかった。 

 




浮気しまくりで投稿ペースがやばぁい(冷や汗)

感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界は彼女に優しくない

さて、大戦が始まりますよ。


 暗闇の中に少女はいた。誰からも理解されない。誰にも必要とされない。誰かと志を共にした事もない。

 たった一人だけ出来た友人は、確かに肉体こそ自分に比類する。しかし、その頭脳は感性は至って普通の人間であり隣に立ち続けてくれる人ではなかった。

 神様は残酷だ。なぜ、自分にこんなに突出した才能が与えられたのか。

 神様は気紛れだ。なぜ、一時の間でも隣に立てるかもしれないと思える人と合わせた。

 

 結局、私はどこまで行っても一人だ。与えられる愛も優しさも何もなく、ただ残酷に気紛れに全てを奪われた。

 

 現実が嫌だから理性に蓋をして狂人の様に振る舞ってみた。誰も相手をしてくれない。

 夢が見たかったから、宇宙に行こうとした。大空すら自由に飛べない兵器に成り下がった。

 愛が欲しかったからすがってみた。都合よく使われ捨てられた。

 

「……あぁ、そっか……人間ってこんなにも愚かなんだ……」

 

 明かりのない暗闇で少女は呟く。全てを諦めた声で、全てを嘲る様に、全てに憎悪する様に。

 そして何より、そんな愚かな存在を必要としてきた自分を浅ましいと蔑む。

 

「アハ……あははハハハ!!ハーッハハハハハ!!あはは……」

 

 前を向いた彼女はすでに壊れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその日、彼はいつもの様に友人である本音と神楽、そして何処からか聞きつけ何故かこの場所に居るセシリアと共に話をしていた。

 

「ですから!何度言えば分かるんですか。紅茶はその様に雑に淹れるものではってああ!」

 

「俺が飲むから別に良いだろうが!てか、お前もさっきドボドボ珈琲に砂糖入れてたじゃねぇか」

 

「それの何が悪いんですの?あんな苦くて汚水の様なもの飲める西村の気がしれませんわ!」

 

「あぁん?お前、今全国の珈琲好きに喧嘩売ったぞ。そもそも、適当にお湯入れときゃ良いだけの紅茶の淹れ方とか興味ない」

 

「……やはり、貴方とはもう一度決着をつける必要がありますわね…」

 

 本当にこの二人は仲良く時間を過ごすことが出来ないのだろうか?出来ないねと完結する本音と神楽。散々二人の喧嘩を見てきたからこそ、どんなに小さいことでもこの二人は互いに文句を言うと知っている。それが今回は珈琲と紅茶の淹れ方や好みだっただけである。

 

「そりゃこっちのセリフだ。表出ろやオルコット」

 

「上等ですわ。跪く貴方を見るのが楽しみですね」

 

 二人がメンチを切り合った直後だった。ニュースを放送していたテレビが一気に砂嵐になる。

 

「あれ〜壊れた?」

 

「IS学園のテレビですよ。しかも寮長室の」

 

 本音と神楽がテレビに近づきながら話していると画面が切り替わる。

 そこには二人の女性が映し出されていた。一人はISの産みの親、篠ノ之束。そしてもう一人は

 

「……白奈姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその日、彼は簪と共にISを弄っていた。地道な計算を簪が解き、その答えを基に一夏が弍式を弄っている。

 すでに何度も行われている二人だけの弍式弄り。初めのうちは簪が一夏に弍式を直接弄らせる事はなかったが、信頼を得たのかこうして機会があれば弄っていた。これにはまだ一夏が細かい計算をすると間違えるという事実も含まれているのだが。

 

「…一夏。そっちの配線じゃないよ」

 

「うおっ、マジか。こっちか?」

 

「…合ってる。今度は気をつけて」

 

 知識は得たが実技となると時々間違える一夏。マルチタスクが得意な簪がそれを監視し作業は進んでいく。

 致命的に間違える事はないので一人より早く作業が進む。暫く作業をしていると一夏と簪の腹が同時に鳴る。二人で顔を合わせ、笑い合うと一夏が弁当を取り出し、簪に渡す。

 

「飯にしよう」

 

 どちらともなく提案した瞬間、モニターの類が使用していない物を含めノイズが走り、映像を映し出す。

 

「な、なんだ!?」

 

「…全部のモニターがついてる?外部からのハッキング?IS学園のセキュリティを超えてきたの…」

 

 混乱しながらも簪を自分の背に隠す様に動く一夏。その背に安心したのか冷静に状況を分析する簪。

 そして、映像に映っている女性。篠ノ之束が口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、今日も無意味で非生産的な自分にとって都合の良い世界だけを見る惰性に染まった時間を過ごしているかな?

 まっ、そんな事どうでも良いんだけどね。お前らの一生なんて微塵もカケラも興味ないからね。おっと、真実を言われたからって怒らないでよ。そんな愚かでどうしようもない君達に朗報を伝える為にこうして、態々面倒なハッキングをして話してるんだから』

 

 偽りの笑みを浮かべたまま言葉を紡ぎ、指を鳴らす。部屋全体が明るくなる。

 篠ノ之束の背後には義手や義足、義眼と言った人体を補うパーツが乱雑に取り揃えられていた。身体を少しズラしそれらをよく見える様にするとカメラがズームし一つ一つ丁寧に映していく。

 

『二人目を利用してデータを集め、制作した全く新しいIS。それがコレ!人体の一部と交換する事で特殊な訓練をする事なくISを自由自在に操る事が出来る代物!二人目で証明されてるから説明する必要なんてないと思うけど、男だろうと適性の低いもしくは無い女だろうと乗る事が出来るとも。まっ、折角のデータを活かしたいだけだから好きにすると良いさ。アメリカで配るから興味ある人は来ると良いよー』

 

 放送が終了する。この放送が終わった直後、アメリカには様々な人達が向かい始めた。元々IS操縦者であった者、ISを嫌う男性達、女性の権利が低下するのを危惧した権利団体。これら以外の抑圧され、ISという明確な力を持たなかった人達は我先にとアメリカへ向かって行った。

 そして、IS学園職員室。放送を見た織斑千冬は焦っていた。

 

「何を考えている!!先生方、急ぎ学園の出入り口を塞いでください、生徒たちを誰一人として外に出さないように。私は今から学園長に会ってきますから!!」

 

 鉄製の机が凹むほどの力で拳を叩きつけ、職員室の先生達に指示を出しながら飛び出す千冬。人体の一部と交換するIS、赤也のサードオニキスと同じなのだ。千冬はそのデメリットを良く知っている。人体を侵食していくISなど常人が使えばどうなるか。

 

「精神が保つわけがない…!」

 

 何より千冬はあの人との関わりを絶っていた束がアメリカに限定した事に恐怖を覚えていた。

 あの天災が動く時は時代を塗り替える様な事件を引き起こす。辛うじてバランスを保っている各国の情勢がこの瞬間も音を立てて崩れているのだ。アメリカと主義思想が反対な大国、ロシアと中国がまず黙っていない。

 

「あの馬鹿は戦争でも起こす気か」

 

 この千冬の危惧は正しかった。即座に飛び出してしまったからニュースを観れていない彼女。あの放送を受け、すでにロシア、中国はアメリカを非難する声明を発表。世界は確実に不安定な方向へと加速していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だサードオニキス!?」

 

『…私にも分かりません。コア人格達も混乱しています。コアネットワークの数は増えていないのでどうやらアレらのコアは私達とも違うネットワークを構築しているかもしれません』

 

 サードオニキスにも分からないのか…!俺をモルモットとは言っていたが、俺のデータを利用しただと。

 俺みたいなのを増やす気なのか?それに何の意味があるんだ…人でも機械でも無い奴らがアホみたいに産まれるだけだぞ。

 

「あかやん…大丈夫?」

 

「赤也さん、まずは落ち着いてください。貴方が慌てても何も変わりませんから」

 

 本音と神楽に両側から背中を摩られ、落ち着いていく。

 

「…西村、一つだけ教えてください。貴方を信じて良いんですね?」

 

 冷静な顔で真っ直ぐ俺を見つめるオルコット。その視線は俺を見定めている様だ。

 

「その信じるが何を指してるか分からないが、俺は今回の出来事をこれっぽっちもしらねぇよ。モルモットには何一つ教えられてない」

 

「……そうですか。まぁ、貴方に腹芸なんて無理ですものね。

 すみませんね?出来もしない事を疑ってしまいまして。それともその分かりやすさに感謝すべきですか」

 

「お前なぁ……」

 

「なんですの?ここで確固たる証拠もないのに信じる信じないの不毛な話し合いをご希望で?」

 

「いや、面倒だからパスで」

 

「私だって嫌ですわ」

 

 オルコットとの会話と本音達のお陰で頭がスッキリする。

 俺如きがあの天災の考えを思考を理解できるわけがない。考えるだけ無駄だ。気になるのは姉が天災と共にいた理由だけだが、正直どうでも良い。もう姉との繋がりなど血しかないのだから。ただの学生に何が出来ると言うんだ。そうだ、いつもの手の届かないどうしようもない所で世界が動いているだけだ。

 

 

 

 このとき、動いていれば何かが変わったのだろうか?いいや、変わらない。世界は残酷に時間という歩みを進めるしかないのだから。

 

『臨時ニュースをお知らせします。世界各地で、アメリカでIS手術を受けた人々が暴動を起こしています。アメリカはこの事実に対し一切の発言なし。既に、ロシア・中国などの国々はアメリカへと宣戦布告とも取れる声明を発表していましたが、本日、正式にアメリカに対し宣戦布告。世界は再び戦禍に見まわれる事になりました』

 




感想・批判お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やれる事は全力で

許して


「ありがとう。来てくれて」

 

「貴女の頼みですし。それで、どんな用件ですか?」

 

 世界が確実に不安定な方向へと進み出し、戦争の足音がすぐ後ろに聞こえてくるこの日。赤也は楯無に呼び出されていた。人払いは済まされており、この場には赤也と楯無以外は誰も居ない。

 

「(そう思わせてるだけで、いるな。たっちゃん先輩の後ろの机に一人、俺の後ろに二人。そして、天井には五人か。天井って忍者か何かか?とは言え、この厳戒態勢……世間話って訳じゃなさそうだ)」

 

 警戒しつつなるべく自然体を意識する赤也。しかし、対面する楯無はプロ。そんな赤也の様子に気がつかない訳がない。緊張をほぐす様な優しい笑みを浮かべ言葉を選びながら口を開く。

 

「率直に教えて欲しいわ。今、世の中で配られているIS。アレを使うとどうなるのか」

 

 楯無は赤也の身体の事を知っている。だが、実際に目にした訳じゃない。本音からの報告や写真で知っているだけだ。対暗部用暗部として、自分の目で見ておきたいのだろう。

 

「…気分の良いものじゃないですよ?」

 

「大丈夫よ。覚悟は出来てるから」

 

「……はぁ、サードオニキス」

 

『宜しいのですか?』

 

「本人が見たいって言うなら、見せるさ。それに、隠さずに見せた反応ってのはお前も知りたいんじゃないか?」

 

『否定できませんね。わかりました、スキンを解除します』

 

 誰と話しているんだろう?と楯無が首を傾げている目の前で赤也を普通の人間に見せているスキンが解除されていく。始めは制服で見えていなかったが、時間が少し経てば右半身の首から上が肌色から冷たい鉄の色へと変わっていく。そうして、赤也の身体は右半分が完全に熱を感じさせない冷たい鉄の身体となる。

 

「程度は人それぞれでしょうけど、いずれ全身こうなると思います」

 

「……その身体の事、貴方は何も感じてないの?」

 

 楯無はここまで素直に赤也が応じると思っていなかった。もっと抵抗したり、最悪この場から去ろうとするかと思っていた。しかし、警告はしたもののあっさりと解除した。その姿に本能的な恐怖を楯無は抱いてしまったのだ。そして、赤也もこの質問に酷く無機質な声で返答する。

 

「最初は驚きましたが今は別に。本音や神楽に余計な心配はかけたくないですが……俺は死人の様なものなので」

 

 本音が言っていた事はこれかと納得する楯無。しかし、今はその話題をする訳にはいかない。長として聞いておかなければならない事が多すぎる。

 

「そう……それで、もしその状態が普通の人に起きればどうなると思う?」

 

 暫く考える素振りをした後、口を開く。

 

「恐らくですけど、狂うじゃないですか。若しくはIS側に全部奪われて、空っぽの人形に成り果てるか」

 

「空っぽの人形?」

 

「はい。ISには人格があるのは知ってますよね?当然、俺のサードオニキスにもあります。コイツは、人を知りたいとかどうとかで俺を乗っ取る事はないですけど、全部が全部そうじゃないだろうし。俺みたいに侵食が進めばある程度肉体を共有するらしいので、IS側が支配したければ簡単にいけるかと。なにせ、肉体とか神経とかそういうのを弄れますしって、コイツが言ってます」

 

 さらっと説明される内容の理解に楯無は頭を抱える。彼の言葉が全て本当なら、篠ノ之束は人ですらISですら無いものを生み出す為に、副作用の説明を省き、ISを配っている事になるし、更に今まで眉唾ものであったコアの人格まで証明されてしまった。しかも、主人と話が可能とまで来た。

 

「長い話になりそうね……互いに隠し事は無しで話しましょう」

 

 赤也に普段の状態に戻る様に伝えた後、来客用のソファに座らせ、楯無本人をその正面に座る。座る時に下げていた視線を上げれば、そこに生徒会長楯無の顔はなく、暗部用暗部。更識当主としての楯無の顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ブルーティアーズ 」

 

 自分の愛機を呼び、纏うセシリア。BT兵器を使用する訳でもなく、名を呼んだのはいつぶりだろうか。少なくとも代表候補に選ばれ、それの名に負けない様に訓練を積んだ当初以外に展開時に呼んだ記憶がない。名前を呼ばなくても展開する事が出来る。それが、練度を示す基準であったから。だが、こうして山田先生に無理を言ってアリーナを借り、久しぶりに名を呼んだには訳があった。

 

「声なしですか。臨海学校の時、無人機相手に偏光射撃を本番で成功させたあの瞬間、声が聞こえたはずですのに」

 

 周囲にブルーティアーズを展開させ、動かしながらあの時の事を思い出すセシリア。確かに聞こえた、とても澄んだ声で耳に心地よい声が。しかし、あの日から時々呼びかけているが一切反応はない。それがなんだかとても残念な気がしてこうしてアリーナまで借りたのだが。

 

「誰ですの?覗き見とは、マナーが悪いですよ」

 

「あはは……バレてた?ごめんねぇ、セッシー」

 

「あら。本音さんでしたのね、良いんですの?西村の所にいなくて」

 

 アリーナの入り口からヒョコッと顔を出す本音。申し訳無さそうに眉を下げながらセシリアへと近づいていく。

 

「あかやんは会長とお話し〜ねぇ、セッシーお願いがあるんだけど良い?」

 

 コテンっと首を傾げる。

 

「どんなお願いですの?わたくしで可能ならお手伝いしますよ」

 

「それの扱い方を教えてほしい」

 

 そう言いながら自分のIS、九尾ノ魂を展開し身に纏う。ブルーティアーズとの共通点である兵装を自分より、長く触れているセシリアに教わる為に本音は来ていた。本音のは有線式なので全てがセシリアと共通している訳ではないが、自分よりは力量がある。

 

「……なるほど。スパルタですわよ?」

 

「うん。お願い」

 

 本音の瞳に自分の用事は後回しにするしかないなと思うセシリア。全く、あの男のどこが良いのでしょう?そんな事を考えながらビットを動かす。

 

「まずは、限界まで動かしてみてください。今の貴女の実力を知らなければどう訓練すべきか分かりませんから」

 

 ノブレス・オブリージュを果たすとしましょう。本音さんを強くして、西村を煽るのも楽しそうですし。

 




感想・批判お待ちしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。