千年の孤独 (赤紫蘇 紫)
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千年の孤独

9/2多分誤字修正完了?
何故かハーメルンの置換が使えないので、誤字報告で教えていただけるととても助かります……!(パソコンだと画面上の誤字って所から行けます)


「……たっちさん……」

 目の前の白銀の聖騎士は、アインズが名を呼ぶと一歩近付く。

「モモンガさん」

 そう名を呼んで、聖騎士は沈黙する。

「……俺、ずっと、頑張ってるんです。異形種も人間種も仲良く暮らせる世界になるように。そして、今、世界は統一されました。まだ小競り合いはあるけれど……多分、あと百年もすれば完全に平和な世界になると思うんです」

「えぇ、モモンガさんはいつだって頑張ってます。それは俺もよく知っていますよ」

「……でも、俺は……皆に、会いたいです。百年に一度、プレイヤーがこっちにやって来るって知って、ずっとずっと貴方達を探していました。なのに、百年が十巡りを超えても……俺の仲間は、誰も見つからないんです……」

「……」

 その言葉に、白銀の聖騎士は無言でアインズを見守る。

 ……アインズ・ウール・ゴウン魔導王。彼が建国して、直に千年を迎える。その記念すべき日が近付いてはいたが、彼の気は晴れず……憂鬱な気持ちは彼を此所へ向かわせる。彼が創造した唯一のNPC、パンドラズ・アクターが守護する領域へと。

「プレイヤーの物らしい、ユグドラシルのアイテムは何点か見つかりました。それと、他のギルドのメンバーも。でも、でも……」

「……モモンガさん……」

「それでも、俺は諦め切れません。今後もきっと、情報を集め続けるんだと思います。貴方達と、いつか再会出来ると信じて。……じゃなかったら、俺は、もう……」

 涙を流せないアンデッドの王は、そう言うと言葉を止める。眼窩の赤い炎は、小刻みに震えるように揺れていた。

「……ぶくぶく茶釜さん。貴女の創ったアウラとマーレも、もう立派な大人になりましたよ。先日、エルフの中でも力のある者と結婚して……可愛い子供も産まれました。見せてあげたいなぁ、本当に。アウラはすごくスタイルの良い美女になりましたし、マーレは身長が高いイケメンになってます。大人になっても二人ともすごく仲が良くて……茶釜さんとペロロンさんみたいです」

 アインズのその言葉に、聖騎士はあっという間に姿を変え……ピンク色の肉棒と称されていた粘体に変化する。そして、躯を揺らしながら答える。

「そっかー、二人がもう大人にねぇ……月日が過ぎるのって早いですよね、モモンガさん。え、て事は私お婆ちゃんになるんですか?いやー!かぜっちは永遠の17歳なのに!」

「そうですね、アウラとマーレのお母さんですから……お婆ちゃんですかね?二人の子供は二人によく似たオッド・アイで、アウラの子はエルフの血が強いのか肌は白くて……マーレの子はダークエルフの血が強く出ていますよ」

 アインズのその声のトーンは、ひどく優しい。ナザリックのNPCの全てを子供のように想い、慈しんでいる彼だから自然とそうなるのだろう。ピンクの粘体は、その様子を静かに見守っている。

「そう言えば、ぷにっと萌えさんに教わっていたPK術、かなり役に立ちましたよ。国の平定までは色々厄介ごともあったので。俺の魔法、遠隔で使うと暗殺みたいになりますから……サクッと解決出来たことも多かったですし」

 今度は、ピンクの粘体は艶の良い緑の蔦に覆われた姿に変わる。その蔦は、わさわさと腕を動かして躯から生えている葉を鳴らす。

「それは良かったです!ね?知識は大切でしょう?なのにあの時のモモンガさん、他の人にも広めようとするんだもんなぁ……ホント、焦っちゃいましたよ」

「えぇ。知識は大切ですし……国民の全てに知識を与える必要はない、って思い知りました。統治には邪魔になりますからね。一部の有能な者だけが知識を独占するのが最もスムーズに統治を行えます」

 嘗てデミウルゴスが創った、何かの骨が材料の椅子に腰掛け、にこやかに魔導王はそう言い放つ。その様子を、蔦の躯の彼はジッと見つめている。

「そうだ、実際俺が行ったことではないんですけど……二式さんの暗殺術とかもすごく役に立ちましたよ。紙装甲だからこそ、なんて言ってましたけど……速度と攻撃力があれば、一撃で片が付きますしね」

 今度は、蔦の躯の彼はハーフゴーレムの忍者に姿を変えた。

「でしょう?やっぱり尖ったビルド構成ってロマンがありますよね!一撃必殺って格好いいじゃないですか?」

「えぇ、すごく格好良かったですよ、二式さん」

 ……そうして、アインズは、嘗ての仲間四十人全ての姿をパンドラズ・アクターに取らせ……一通り話をする。

「……もう良い。戻れ、パンドラズ・アクター」

「畏まりました、父上」

 アインズのその言葉に、パンドラズ・アクターは本来の自分の姿へと戻る。

「……いつも、すまないな。どうしても、こうしていないと不安でならない。仲間の姿を忘れてしまいそうで……ひどく、恐ろしいんだ」

 アインズはそう言うと、パンドラズ・アクターの頭を撫でる。小さな子供にするようなその動きを、パンドラズ・アクターは当然として受け止め……喜びに溢れた表情で自らの創造主を見つめる。

「いえ、私はそうあれ、と創られましたので。父上の無聊の慰めになったのであれば幸いです」

 千年を経て、ややリアクションが抑えられた……それでも滑らかで美しい一礼をして、パンドラズ・アクターはアインズに答える。

「ウルベルトさんの装備に似た物が見つかったのは、何年前だったか。ウルベルトさんも異形種で悪魔。寿命は無い筈だから、装備だけで無くウルベルトさん自身も此方に来ているのならば見つかってもおかしくはない筈なんだがな……」

 顎に手をやり、考え込むようにしてそう言われて。パンドラズ・アクターは記憶の奥底を探るようにして答える。

「そうですね……確か、あれは三十年くらい前かと。デミウルゴス様がかなり張り切って捜索隊を組んでおられましたが……」

「三十年か。……次の転移があるのはもうじきだろうが、今度こそ我がギルドの仲間が転移してくれば良いのだが」

 パンドラズ・アクターの言葉に、アインズは大きく息を吐くと(実際には呼吸器は無い為、あくまでも人間の体だったときの癖である)、椅子から立ち上がる。

「では、式典の確認もあるので私は行くが……何か遭ったら直ぐに私に<伝言>を入れるように。分かったな、パンドラズ・アクター」

「はい、父上!行ってらっしゃいませ」

 パンドラズ・アクターに見送られながら、アインズは玉座の間へと飛んだ。魔導王としての顔で、皆を指導する為に。



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sideパンドラズ・アクター

パンドラズ・アクター視点です。


 父上は、元々心の優しい方だった。誰よりも仲間を愛し、大切にした方だった。ユグドラシル時代も、私を創った主なる目的は宝物殿の領域守護者を置く為……となっていたが、実際に私に与えられた能力を考えると、それは表向きの理由だと容易に想像がついた。

 ……実際、至高の方々が徐々に御隠れになってからは、私は副なる目的とされていた至高の方々のお姿を模る事を主な仕事としていたのだから。日々訪れる父上の望むままに、御隠れになった方々の姿を取り……彼の方の無聊を慰める。それが、私の仕事。ユグドラシル時代では声を発することは出来なかったが、此方に転移してからは喋ることも可能になり……より深く父上をお慰めすることが可能になったのは、とても喜ばしい事だった。

 ドッペルゲンガーの私は、表層意識を読み取ることが可能である為、父上が望むような返答を返すことは容易い。更に、ユグドラシル時代に父上が語ってくれた事の記憶も加算される為、恐らくは相当精度の高い返答になっていると推測される。……一言二言の会話なら、被創造物に本人と誤認させることくらいは可能なくらいに。まぁ、オーラの問題があるので、実際にはそれは不可能ではあるが。

 父上が友人だと語っていたジルクニフ陛下が崩御されてから、父上には友人と呼ぶような仲の存在は出来なかった。その、強大なお力故に。その為、どんどんと孤独になり……。大陸の統一時には、私くらいしか本音を語れる相手が居なくなっていたのだ。その頃には、漆黒のモモンも寿命で退場させなければならず、父上の自由も無くなって。孤独に耐えかねた父上は、再び私を宝物殿へ呼び戻した。それからは、ずっと私は父上の望むままに姿を変え、父上のお相手を続けている。

 宝物殿に戻る前は、ここまで頻度は高くなかったのだ。精々、セバスがツァレという人間の女性と結婚した際くらいか。その時私はたっち・みー様に変化し、父上の話を静かに聞いていた。そんな感じで、父上は折に触れて魔導国の話やNPC達の事を至高の方々に変化した私に報告なさっていたのだ。

 アルベド様はあまりにも直情的だったため、父上の支えには遂になる事は出来なかった。彼女がもっと上手く立ち回っていたら……と思わなくも無いが、それももう過去の事。父上は、自分ではアルベド様の望むような愛は与えられないから、と彼女に他の者と結ばれるようにと仰ったのだ。だが、根本を変えられてしまった彼女にはそれは難しいことで。父上は、かなり悩んでいたが……結局、彼女の記憶を操作したのだ。ナザリックの平和を優先させて。彼女が、サキュバスでさえなかったら。プラトニックな愛で我慢出来ていれば、父上と永遠の愛を誓って伴侶として幸せに暮らせたのかもしれない、と思うと中々に切ない。

 現在の彼女はサキュバスらしさを取り戻し、とても活き活きとして暮らしている。父上だけに注がれていた愛は、数多くの男達に分散され……守護者統括として相応しい態度で行動し、様々な仕事にその頭脳を余す所なく発揮している。

 そして。父上への愛が消えた彼女は、御隠れになった至高の方々への深い怨みも消えたようで。捜索隊も普通の捜索隊として機能し、日々プレイヤーの情報を集めては父上に渡している。千年というととてつもなく長い日々のように思えるが、プレイヤーの転移がほぼ百年単位、と考えると、まだ十回しかプレイヤーの転移のタイミングは来ていない。プレイヤーと呼ばれる、至高の方々と同格の者たちは、数万人は居たらしい。その事から考えると、まだ我がギルドの至高の方々が此方へ転移してくる可能性は残されていると私は思っている。

 ……だが。心優しい父上は、既に孤独に耐えかねている。あくまでも私は移し身。お慰めすることは出来ても、その辛さを完全に無くすことは出来ないのだ。

「……次のプレイヤーは、父上の愛する方々なら良いのですがね……」

 どうか、父上の精神が摩耗しきる前に、至高の方々がナザリックにお戻りになりますように。

 私はそう祈りながら、宝物殿の管理を再開した。



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