バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 (なるぞう)
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シンシュー地方のマップ

タイトル通りシンシュー地方のマップ(暫定版)です。挿絵に書き込まれている記号と、本文に書いてある記号を照らし合わせれば地名がわかるようになっています。(例えば挿絵にAと書かれているところは、Aのシグレタウン)
見にくかったり雑な部分はご容赦を。
ちなみにシンシュー地方の周囲は全部山です。全国的にも珍しい海無し地方です。


☆シンシュー地方マップ

 

【挿絵表示】

 

 

 

☆街編(緑の円、A~M。町の名前の隣に書いてあるのはその街の標語)

 

A:シグレタウン~何かが芽吹く始まりの街~

 

B:シノツクタウン~山が映える新緑の街~

 

C:ハナノシティ~盆地に栄える谷の街~

 

D:キウシティ~文明と自然が調和する街~

 

E:ムラサメシティ~水面に浮かぶ水上都市~

 

F:ユウダチシティ~城とともに生きる街~

 

G:ホマチシティ~真心忘れぬ思いやりの街~

 

H:ハルサメシティ~歴史を語る大きな街~

 

I:ウノトキシティ~川が流れるせせらぎの街

 

J:カヤヤタウン~雪と友達氷の街

 

K:ユキゲタウン~人の笑顔咲き誇る街~

 

L:ウセイシティ~夜空きらめく星の街~

 

N:シラツユ高原~ポケモントレーナーの聖地・ポケモンリーグ!~

 

M:サミダレタウン~優雅で美しい貴族的な街~

 

O:バトルフロンティア~ポケモンバトルの最前線~

 

 

・ちなみに街の名前はシラツユ高原以外、雨に関する言葉が由来です。

(シラツユ高原のシラツユが、雨関連の言葉じゃにのに名前になっている理由は、街の名前をよくよくみるとわかる人にはわかるはず。ヒントは某駆逐艦の姉妹。シグレ、ムラサメ、ユウダチ、ハルサメ、サミダレときたらねぇ……)

 

 

 

☆ダンジョン編(茶色の円、a~r)

 

 

a:マックラトンネル

 

b:キウの森

 

c:帰らずの地下水脈

 

d:ミカゲの社

 

e:ムラサメ工業地域

 

f:ユウダチ峠

 

g:月の楽園

 

h:リュウコの石塔

 

i:ミタマ山

 

j:カヤユキ山脈

 

k:カヤユキダム

 

l:ユキゲの花畑

 

n:フラワーロード

 

m:マグマウンテン

 

o:チャンピオンロード

 

p:王の塚

 

q:ムラサメ湖

 

r:ハナノ発掘所

 

 

・海がないシンシュー地方は代わりに山が多い。よって洞窟系のダンジョンが多め。その影響で海の生息するポケモンは極めて珍しく、逆に岩タイプや地面タイプ、鋼タイプ、虫タイプ、草タイプのポケモンは他の地方に比べて比較的多い。

 

・あんまり本編で明確に描写する予定はないけど、シンシュー地方を制覇するのに必要な秘伝技は、岩砕き、居合切り、波乗り、怪力、空を飛ぶ、ロッククライム、滝登りの7つ。解禁される順番は書いた順番。最後のジムだけ勝っても解禁される秘伝技はありません。あと、フラッシュは技マシンです。

 

 

☆道路編(黒の円、①~⑮)

 

1:1番道

 

2:2番道路

 

3:3番道路

・常に雨が降り注ぐ道

 

4:4番道路

 

5:5番道路

 

6:6番道路

 

7:7番道路

・砂嵐が吹き荒れる砂漠

 

8:8番道路

 

9:9番道路

 

10:10番道路

・チャンピオンロードへ直結する道。別名ビクトリーロード。

 

11:11番水道

・シンシュー地方唯一の水道

 

12:12番道路

 

13:13番道路

 

14:14番道路

 

15:15番道路

・豪雪と吹雪が行く手を阻む道

 

 

 

 

 

☆ちなみにこのマップにもポケモン原作と同じく現実にモデルがあります。暇だったらどこだか考えてみてください。ヒントは日本のどこか。ぶっちゃけ地方名がそのまま答え。

 

 



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アヤとヒナの旅~その1~
第一話 アヤの旅立ち


果たして「まんまるお山に彩を☆」でおなじみの彩ちゃんは、シンシュー地方を舞台にどんな冒険を繰り広げるのでしょうか?


シンシュー地方とは、カントー地方とジョウト地方の北部に位置する地方だ。この地方は四方を高い山脈に囲まれているため、全国的にも極めて珍しい海に接してない地方である。しかし、海なし地方特有の珍しい生態系や美しい風景に魅せられる人も多く、この地を冒険するトレーナーは後を絶たない。そして今、シンシュー地方の小さな田舎町『シグレタウン』からも、一人の少女が雄大なシンシューの大地に旅立とうとしていた。

 

 

 

 

 

清々しい太陽が山の向こうから昇り、爽やかな光が家々の窓に差し込む。それに応じて人々は布団から抜け出し、一日の生活を始めるのであるのだが、どうやらこの少女だけは話が別のようだ。

 

「うーん……、まんまるお山に彩を……、えへへへ~」

 

このベッドの上で布団にくるまり寝言をぼやいている少女の名前はアヤ。今年で16歳今日、いよいよ新人ポケモントレーナーとして住み慣れた町から飛び立つ予定なのだが、一向に起きる気配がない。外で子供が楽しそうに騒ごうが、ポッポが鳴こうが、お構いなしに夢の世界に浸っている。だが、それにも終わりが来た。

 

「アヤ!いつまで寝ているの!起きなさい!」

 

しびれを切らした母親がついに布団を引きはがした。

 

「ふぇっ?どうしたのお母さん……?今日はなにも……」

 

眠い目をこすりながらアヤは多くの斜線が刻まれたカレンダーを見た。

 

「あっ!今日ってマリナ博士からポケモンをもらう日だ!確か10時に博士の研究所にいけば……。って、あれっ……?」

 

喜びから一転、不意に嫌な予感がよぎった。彼女はちらりと時計を見た。時計の針は10時10分の方向を指している。

 

「やばっ!遅刻じゃん!」

 

叫びをあげるや否や、アヤはベッドから跳ね起き、電光石火の早さで新調の服に着替え、髪を整え、バックを手に取り、階段を駆け下りた。そして用意されていたサンドイッチをかっさらった。

 

「いってきます!」

 

彼女はサンドイッチを口にほおばると、わき目も振らず研究所目指して家を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

シグレタウンはシンシュー地方の南西部に位置する簡素な田舎町だ。森と町が極めて近く、そのおかげで穏やかな雰囲気を醸し出している。その中を慌ただしく駆けるアヤの姿は中々ミスマッチだ。

 

「どいて~!どいてぇ~!」

 

悲鳴が山々にこだまする。こんな調子でアヤは街の人やポケモンをよけながら突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 五分ほど走ると、ようやく博士の研究所見えてきた。扉の前に立つと同時に、ドアノブに手をかけ強引に引く。扉はバタンと壊れそうな音を立てながら開いた。

 

「ごめんなさい!遅れました!」

 

息を切らせながら叫ぶ。だが、ふと息をついた瞬間、アヤは次の言葉を失ってしまった。あまりの音の大きさで驚いた研究員たちの視線が一気に彼女に集まっていたのだ。

 

「あっ……、えっと……、うぅ……」

 

顔を赤らめ、言葉を失うアヤ。中々告げるべき要件が出てこない。だが、様子を察した一人の男性研究員が助け舟を差し出した。

 

「あっ、もしかしてアヤちゃん?もしかしてマリナ博士にポケモンをもらいに来たのかな?」

 

「あっ、は、はい!」

 

「やっぱりそうか。話は博士から聞いているよ。さぁ、入ってよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

アヤは声をかけてくれた研究員に、研究所の奥にあるマリナ博士の部屋の前に案内された。

 

「お、お邪魔します!」

 

先ほどとは真逆に今度は恐る恐る静かに扉を開く。その先では、難しそうな本に囲まれながらこの研究所の主任研究員であるマリナ博士が机に向かっていた。彼女は伝説や幻と呼ばれるポケモンと普通のポケモンの違いを研究している。その中でも特に普通のポケモンにはない、伝説や幻と呼ばれるポケモン特有の強大な力の源を探ることが彼女の専門であり、その分野ではパイオニアといっても過言ではない。現に若いのにもかかわらず数々の実績を残している。

 

「あ、アヤちゃん!いらっしゃ~い!」

 

アヤが部屋に入ると博士はデスクワークを中断し、彼女と目を合わせる。アヤは目が合うや否や必死に頭を下げた。

 

「遅れてすみません!あの……、ついうっかり寝坊しちゃって……」

 

「あはは!そんなことだろうと思ったよ。さては、今日が楽しみで眠れなかったのかなぁ?」

 

だが博士はそんなことは気にもくれず、朗らかに笑い飛ばした。なにしろアヤが肝心な時に寝坊してくるのは今日に始まったことではない。アヤとマリナ博士はかれこれ十年近い付き合いになるが、アヤの寝坊など日常茶飯事だ。マリナ博士は過去にあった数々のアヤの遅刻を思い出しながら、彼女に近くの丸椅子をすすめる。アヤはすぐに丸椅子に座った。

 

「ゴホン!それではアヤちゃんに、ポケモントレーナーの『トレーナーカード』を進呈します」

 

声を改めると彼女は机の引き出しから、一枚のカードをそっとアヤに手渡した。

 

「これがトレーナーカード……」

 

アヤにとってこのカードを手に入れるのは決して楽なものではなかった。シグレタウンではトレーナーとして旅立つ年齢が何故か他の街より4年も遅く、基本的に14歳に旅立つ。14歳になれば大半の少年少女たちは、冒険の目標のあるなしに関わらず、住み慣れた町から旅立つ人が多い。当然アヤも周りと同じタイミングで旅立とうとした。しかし、日ごろのおっちょこちょいな性格が祟り、親に心配されたせいで中々旅立つ許可がもらえず、説得にさらに2年もかかってしまったのだ。そういうわけもあり、思わず大げさな感嘆の声が漏れるのも無理はない。博士はそれを親のような気分で眺めていた。

 

「はは!喜んでくれたみたいでよかったよ。トレーナーカードはトレーナーの身分を証明する以外にも、ポケモンセンターを利用するときや、ポケモンジムに挑むとき、その他色々な時に使うから無くさないようにね」

 

「うぅ……、気を付けます……」

 

アヤに念押しするとマリナ博士は再び引き出しからとあるものを取り出し、それを手渡した。

 

「マリナ博士……、このピンク色の機械は……?」

 

それは二画面が折り畳み式になっており、ちょうど小さな携帯ゲーム機のような形をしている。

 

「これはね『ポケモン図鑑』。出会ったポケモンに機会を向けるだけで自動的に記録してくれる優れモノだよ。急で申し訳ないんだけど、アヤちゃんにはこの図鑑を使って各地のポケモンのデータを集めて来てほしいんだ。」

 

「データを集める?どうしてですか……?」

 

「伝説ポケモンの研究ってさ、伝説ポケモンのことだけを調べればいいってものでもないんだ。伝説でも幻でもない普通のポケモンも調べることによって新しい発見があることも多いんだよ。だからさ、伝説や幻に関わらずいろんなポケモンのデータが欲しいんだ。もちろん冒険のついででいいよ。どうかな、お願いできるかな?」

 

「わかりました。どこまでできるかわからないけど……、が、頑張ってみます!」

 

「うんうん、アヤちゃんならそう言ってくれると思ったよ。それじゃぁ、よろしくね!」

 

マリナ博士は嬉しそうにうなずくとさらにモンスターボール等を手渡し、次の話題に話を進めた。

 

「さてと、図鑑もトレーナーカードも渡したし……、いよいよ初めてのパートナーとなるポケモンを渡す時が来たみたいだね。アヤちゃん、欲しいポケモンはもう決まった?」

 

「えっ……、それはその……」

 

実は十日ほど前に、彼女はマリナ博士から初心者用ポケモンのリストを渡されていた。当然アヤはその本を毎日のように読んだわけなのだが、それが裏目に出て本に載っているすべてのポケモンを気に入ってしまって結局決められなかったのである。

 

「もしかして、まだ決まっていない?」

 

「……はい」

 

アヤは顔を下に向け、申し訳なさそうに答えた。

 

「あはは!そんなもんだよね!どのポケモンもいいところがたくさんで選べないもんね。それじゃぁさ、今から研究所の庭に行ってみなよ。初心者用ポケモンがみんな揃っているスペースがあるからさ。実際に触れ合ってみて、一番気に入った子を最初のパートナーにすればどう?」

 

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

「そうと決まれば、さっそく庭に案内してあげるよ。さぁ、私についてきて」

 

こうしてアヤは初めのパートナーを決めるべく、庭へと歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭について数分後、アヤは庭にいる数々の初心者用ポケモンたちに幸せそうに囲まれていた。

 

「うわ~、実際に見るとどれも可愛い~!ますます悩んじゃうなぁ」

 

だらしなく頬を緩ませている傍らで、ポケモンたちはアヤによって撒かれた木の実を食べている。その間にアヤは早速もらったばかりのポケモン図鑑を起動しながら集まったポケモンたちを観察していた。

 

「えっと……、あの左端にいるのがみずタイプのケロマツで……、私の目の前で木の実をほおばっているのがポカブ……。それであそこで木の実の奪い合いをしているのがキモリとワニノコ——ってケンカなんてしちゃ駄目だよ!」

 

このようにケンカを止めるような場面もあったものの、ポケモンたちと少女が触れ合う様子は中々のどかな光景である。やがてポケモンたちは木の実を食べ終え、各々の行きたい場所へと散っていった。と、思われたがアヤの視界に一匹のポケモンが目に入った。

 

「あれは……」

 

ポケモン図鑑を向けると、画面に『ナエトル』という名が表示された。彼女が画面から視線を移す、ナエトルはついさっきまで木の実があった場所で酷くうなだれている。

 

「あのナエトル……、もしかして木の実食べ損ねちゃったのかな?」

 

彼女はナエトルの前に行くとバックから残しておいた木の実をいくつか手に取りだした。

 

「食べる?」

 

アヤが首をかしげるとそのナエトルは目を輝かせ、木の実を無我夢中で食べだした。

 

「ナエナエ!」

 

そして、きれいさっぱりに食べ終わるとアヤにお礼を告げるかのように鳴き声をあげ、ほかのポケモンたちのところへ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 その後もアヤは庭でポケモンたちと遊び続けた。遊べば遊ぶほどどんどんポケモンはアヤに懐いていき、自身もポケモンたちのことを気に入っていく。おかげでますます選べなくなっている。この時点で強いて気になっているといえば先ほどのナエトルといえるだろうが、気になっているというよりは心配になっているというほうが正しい。なにしろそのナエトルは、追いかけっこをしてもあたふたして逃げ遅れるし、かくれんぼしたら頭のナエが物陰からひょっこりと出ている有様なのだ。人のことは言えないが、なかなかおっちょこちょいでドジなナエトルである。そして、ついに事件が起きた。小さな岩山を飛び越えて着地しようとしたとき、ナエトルは着地に失敗してしまったのだ。

 

「あっ!大丈夫!?」

 

少し離れたところでほかのポケモンと遊んでいたアヤは大慌てでナエトルのそばに寄ってきた。

 

「ナエ……」

 

ナエトルは目に涙を浮かべている。よくよく見てみると右前足を擦りむいてしまったようだ。

 

「ど、どうしよう…」

 

当然何とか治療したい気持ちはあるが、当のアヤはポケモンを治療するすべを持っていない。徐々に頭が真っ白になる。だが完全に真っ白になる直前、彼女はひらめいた。

 

「そうだ、マリナ博士なら治療できるかも……!」

 

アヤは即座にナエトルを抱きかかえた。そして大急ぎで博士のところへ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に駆け込んだアヤはケガのことをマリナ博士に泣きじゃくりながら伝えた。しかし、結論から言うとナエトルの傷は極めて浅いものであった。

 

「大丈夫だよ、このくらい傷薬を付ければすぐに治るよ。いやぁ、アヤちゃんが走ってきたときは大事件が起きたのかと思って身構えちゃったけど、大したことなくてよかった。ほら、この傷薬を使って治療してあげて。使い方はラベルに書いてあるからね」

 

アヤは博恐る恐る傷薬をつかい、ナエトルの治療を行う。すると博士が言う通り傷はたちまちふさがり、ナエトルは無事に元気を取り戻した。

 

「傷がすぐに治ってよかったぁ」

 

ナエトルが問題なく動けることを確認したアヤは、再びナエトルを抱きかかえマリナ博士とともに庭にむかった。

 

「さぁナエトル、今みんなのところに返してあげるからね」

 

外に出ると、アヤはナエトルをそっと地面に置いた。その時、ふと彼女の目にオレンジ色に燃える空が飛び込んだ。いつの間にか日が沈む時間になっていたようである。

 

「どうかなアヤちゃん、最初のパートナーになるポケモンは決まった?」

 

その夕日の中でマリナ博士はアヤに言葉を投げかける。

 

「それが……」

 

それに対してアヤは首を横に振る。しかし、不意に足元から何かの鳴き声が起こった。

 

「ナエナエ!」

 

ゆっくり下を見ると、返したはずのナエトルが彼女の足元ですり寄っている。

 

「どうしたの?傷は治ったからもうみんなのところへ……」

 

アヤが不思議そうな目でナエトルを見つめる傍ら、マリナ博士は何かを確信したように微笑んでいた。

 

「どうやらそのナエトル、アヤちゃんのことが気に入ったみたいだね」

 

「えっ、私のことを……?」

 

ナエトルは『博士の言う通り』とでも言いたそうに、尾を小刻みに振りながらまっすぐに彼女のことを見つめている。アヤはしゃがんで視線を合わせると、なでるようにそっと語り掛けた。

 

「ねぇナエトル。私さ、ほかの人よりも不器用でドジでダメダメなんだよ。だから一緒に行っても強くなれないかもしれないし、苦労もいっぱいかけちゃうと思う。それでも私についてきてくれるかな?」

 

「ナエ!ナエ!」

 

ナエトルは大げさなほどに首を立てに振った。それを見て、マリナ博士がナエトルのモンスターボールを手渡す。アヤはそれをしっかり受け取り、中央部のボタンを押した。モンスターボールからは赤い光が発せられ、ナエトルを包みこみ、ボールの中へと導いた。

 

「よろしくね、ナエトル」

 

ボールを手にとり、アヤはそっとその言葉をつづった。

 

 

 

 

 

 結局、アヤが研究所を出たのはもう日が完全に沈んだ後だ。その為、出発は次に日に延期となった。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、珍しく寝坊しなかったアヤはシグレタウンの出口に立っていた。

 

「忘れ物は……、なし。よし、今日こそ出発するぞ!」

 

「ナエナエ!」

 

自分の足元で寄り添うナエトルとともに決意を固める。

 

「それじゃぁ、行ってきまーす!」

 

「ナエナエー!」

 

アヤとナエトルは後ろを振り向き、見送りに来てくれた母親とマリナ博士に手を振り、別れの挨拶を告げた。そして朝日に祝福されながら、冒険の第一歩を踏みしめたのだ。

 



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第二話 るんってする少女、現る

ということで第二話です!


念願の冒険に旅立ったアヤとナエトル。彼女たちは鼻歌交じりに1番道路を歩いていた。この道はシグレタウンの東部に位置する『シノツクタウン』まで続く長閑な道である。1番道路やシノツクタウン自体は何回か母親やマリナ博士と訪れたことはあるが、一人で行くのは初めてだ。そのせいか、見るもの聞くものすべてが新鮮な気がする。

 

「えへへ、これからどんなことがあるのかな?楽しみだね、ナエトル」

 

「ナーエー」

 

出会ったばかりにもかかわらず、すでに仲のいい一人と一匹はのんびりと一番道路を進んでいく。だが、間もなく彼女たちの足が止まった。草むらが彼女たちの道を塞いでいたのだ。

 

「……」

 

アヤは旅立つ前、『草むらには野生のポケモンが数多く飛び出してくるから注意するように』と、母親やマリナ博士から言われていたことを思い出した。間違いなくアヤとナエトルにとって最初の試練といえるだろう。

 

「いこう」

 

「ナエ!」

 

意を決し、草むらに踏み入れるアヤとナエトル。一歩、また一歩と彼女たちはゆっくり足を運んでいく。そして数歩進んだ時だ、近くの草むらがガサゴソと揺れ、目の前に一匹のポケモンが飛び出してきた。

 

「へっ、へっ、えっ……、もう!?」

 

想像以上に早く出てきて戸惑いながらも、アヤは図鑑を取り出しそのポケモンに向ける。

 

「えっと……、あのポケモンは……、コラッタ……?」

彼女は図鑑に出てきたデータをざっと読むと再びコラッタに目をやる。

 

「ラーッ!」

 

コラッタは鳴き声を上げしきりに怒りをあらわにしてくる。理由はわからないが、戦う気満々のようだ。

 

「ラタッー!」

 

ついにコラッタはアヤとナエトルに向かい突っ込んだ。体当たりである。

 

「ひゃっ!」

 

突然の出来事にアヤもナエトルも反応できない。幸い攻撃は外れたものの、コラッタはすぐにとびかかってきた。

 

「うわっ!ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

コラッタの気迫に驚き、アヤは大慌てでナエトルをボールに戻し、バックで頭を覆いながら一目散に逃げだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァハァハァ……」

 

アヤは何とか草むらから外れた道端の木陰まで逃げ切ることができた。

 

「まさか野生のポケモンがあんなに怖いなんて……」

 

いきなり走ったことに加え、これから先の不安もあいなり、アヤはヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

 

「ハハハハハハッ!アハハハハハッ!」

 

するとどうであろうか、どこからか少女の愉快な笑いが耳に飛び込んだ。それもかなり近い。あたりを見渡してもだれもいない。だが、ふと上のほうに人の気配を感じた。恐る恐る上を向くと、なんと水色の髪を肩まで伸ばした少女が木の上に座っていたのである。

 

「あっ、バレちゃったか~」

 

アヤと目が合うと、その少女は枝からスタっと目の前に飛び降りてきたが、アヤの顔を見るや否やまた爆笑しだした。

 

「……そうしてそんなに笑うの?私、何か変なことしたかな?」

 

さすがのアヤも、これには少々怪訝そうだ。

 

「アハハハハハ!ごめんごめん、キミの走り方があんまりにも面白かったからつい。ねぇ、どうしてあんな風に走っていたの?」

 

「それは……、草むらから飛び出した野生のポケモンに驚いて……」

 

「どうして野生のポケモンになんか驚くの?戦って倒すなり、ゲットするなりすればいいじゃん」

 

「だって、戦い方もゲットの仕方もよくわからないんだもん……」

 

「どうしてわからないの?ポケモンと戦ったりゲットしたりすることなんて、ポケモントレーナーとして常識じゃん」

 

謎の少女は目を輝かせながら矢継ぎ早に質問を繰り返すが、それは中々刺々しい。

 

「だって……、今日旅立ったばかりなんだもん……」

 

アヤはその少女のペースに振り回され完全に元気を削がれている。だが、謎の少女はまだ話を辞める気配が見られない。

 

「ふーん、つまり初心者ってこと?」

 

「そんなとこかな……」

 

ため息交じりにアヤが言葉をつづると、その少女は腕を組み何かを考え出した。と、思いきや再び目を輝かせてきた。

 

「そうだ!るんってすること思いついた!私が君に色々教えてあげるよ!」

 

「えっ、色々って……?」

 

「まぁいいのいいの、私に任せてよ!」

 

「でも……!」

 

「あっ、そうだ名前言うの忘れてたね。私ヒナっていうんだ。君の名前は?」

 

「私はアヤだけど……」

 

「それじゃあアヤちゃん!早速草むらに行こうよ!」

 

「うぇ!ちょ、ちょっと!腕を無理やり引っ張んないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒナと名乗る不思議な少女に強引に連れていかれ、アヤは再び草むらへと戻ってきた。

 

「さぁて、どんなポケモンが出てくるのかな~」

 

ヒナがあまりにも意気揚々と進んでいくため、アヤも渋々ついて行ったが、内心逃げ出したい気持ちでいっぱいである。なんだか変な人に絡まれてしまったと、自分の運のなさを嘆くアヤ。だが、そうしているうちに、不運にもまた野生のコラッタと再び出くわしてしまった。

 

「さぁ、アヤちゃん!ポケモンを出して!」

 

こうなったらもう逃げられない。仕方なくアヤはボールからナエトルを繰り出した。

 

「ナエナ……!」

 

ナエトルはボールから出てきたときは威勢が良かったものの、コラッタを見た瞬間怖気づいてしまったようだ。先のコラッタとは別個体のようだが、よほどさっきのコラッタがトラウマになったらしい。

 

「さてと、まずはポケモンをゲットする方法から教えちゃうよ!」

 

「ゲットする方法?」

 

「うん!だって手持ちにポケモンがいっぱいいたほうがるんってするじゃん!今日旅立ったのなら、どうせアヤちゃんの手持ちそのナエトル一匹だけでしょ?」

 

「うぅ……」

 

相変わらず何処か棘がある言葉である。ただ、なんとなく悪意がないのは伝わってくるし、折角教えてくれると言っているのだからここは言うことを聞いておこう。アヤはそう思ったのだが、彼女の説明は擬音だらけで意味不明であった。

 

「いい?まずはポケモンにズバッてして、ダダンってさせるの。そしてらそれを繰り返して相手をヘナヘナ~にして、そしたら——」

 

「待って!どういうこと!?」

 

「とりあえずポケモンに技の指示をだして!」

 

何とか一つの擬音を理解したアヤは、頭の中で指示をだす準備に取り掛かった。

 

(えっと……、たしかテレビでポケモンバトルを見たときはたしか……。それでナエトルの技は確か体当たりと殻にこもるだっけ……)

 

コラッタは、今はおとなしく様子をうかがっているが、いつさっきみたいに襲ってきてもおかしくない。とりあえず自身が持っている情報を大雑把に整理するとアヤはテレビの見様見真似で指示を出した。

 

「えっと……。ナエトル、体当たり!」

 

「ナエッ!」

 

アヤの初めての指示が通った。ナエトルが全力でコラッタに突っ込む。

 

「コラーッ!」

 

攻撃は見事に命中。しかしこの攻撃がコラッタを怒らせてしまったのは言うまでもない。すぐにコラッタも体当たりで反撃してきた。

 

「あっ!えっと、殻にこもる!」

 

アヤも慌てて次の指示を出す。ナエトルは頭を前足で覆い、防御をとるような構えをとった。これが文字通り殻にこもっているかどうかといわれればかなり怪しいが、ナエトルは首や足を殻に引っ込めることができない体の構造なので仕方がないだろう。まぁ理屈はさておき、とりあえずナエトルはダメージを最小限に抑えられたようだ。『体当たりをつかったから次は……』という短絡な発想で出した指示だが中々の采配である。

 

「よし、次はもう一回体当たり!」

 

「ナエーッ!」

 

このナエトルとコラッタの体当たり合戦はしばらく続いた。そしてそれが終わったとき、地面に立っていたのはナエトルであった。つまりナエトルとアヤは初勝利を収めたということである。

 

「やったよ!ナエトル!」

 

ナエトルを抱きしめ、初めての勝利を過剰なほどに酔いしれるアヤ。だが、その傍らでヒナはなんだか不満気だ。

 

「ねぇ、アヤちゃん。私のいうことしっかり聞いていた?ひん死にさせたらゲットできないよ」

 

「えっ、でもヒナちゃんがポケモンをヘナヘナにしてっていうから……」

 

「それはひん死にさせることじゃなくて、ポケモンの体力を削るって意味だったんだけどな~。まぁいいや、次のポケモンを探しに行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後もヒナの指導は続いた。相変わらずその指示は分かりにくいが、要は『ポケモンを戦わせて、相手ポケモンを弱らせてからゲットする』ということを言いたいのだろう。戦う数を重ねるごとにアヤは何となく彼女の言葉を理解しつつあった。さらにヒナの指導もあり、戦いの雰囲気も何となくつかむことができた。しかし、長かったのはここからである。戦いの感覚は何となくつかめても、中々野生のポケモンの体力を調整できないのだ。ある時はダメージを与えすぎて倒してしまう。ダメージを与えすぎないようにしようと思い、開戦後すぐにボールを投げたこともあったが、あっさりとボールから出られてしまう。酷いときにはボールを投げても野生ポケモンに当たらず、明後日の方向にボールが飛んでいくことすらあった。試行錯誤を繰り返していくうちに気が付けば10個以上あったモンスターボールも残り1個となり、ナエトルの体力もそろそろ限界を迎えようとしていた。もう後には引けない。そんな思いでアヤは草むらをさまよう。すると、またポケモンが飛び出してきた。それも彼女が今日初めて出くわすポケモンである。

 

「あれは……?」

 

そのポケモンは今までとは一風変わった容貌であり、まるで小さな女の子のようだ。すかさずアヤは図鑑をそのポケモンに向ける。図鑑によればこのポケモンはラルトスというポケモンらしい。

 

「ナエッ!」

 

アヤが図鑑を確認している間にも、ナエトルはすでにラルトスに向き合っていた。戦う準備は万全だ。

 

「これがきっと最後のチャンス……。ナエトル、体当たり!」

 

アヤの指示を受け、いつも通りナエトルがラルトスに突っ込もうとする。だが攻撃が当たる直前、ナエトルの体が宙に浮いた。

 

「ナエトル!?」

 

予想外の出来事に思わず叫びを上げる。その間にナエトルは地面にたたきつけられていた。

 

「あー、あれは念力だね。ラルトスは直接的に触れずに攻撃してくることが多いから気を付けてね。でもその手のポケモンって大体防御面が弱いからそこが狙い目だよ」

 

ヒナはずいぶんと呑気だ。しかし、当のアヤは呑気にしている場合じゃない。早くしないとナエトルが倒されてしまう。そう焦っているうちにも、ナエトルは念力で再び宙に持ち上げられている。その時だ、ふとアヤは先ほど念力のことを思い出した。

 

(確かさっきの念力を受けて地面に落とされたとき、ナエトル結構な勢いあったような……。そうだ!その勢いを利用すればもしかして……!)

 

アヤはひらめいた。ナエトルはもう最高地点に達しようとしている。一刻の猶予もない。アヤはそのひらめきを解放した。

 

「ナエトル!落ちるときにラルトスの上に落ちて!」

 

「ナエ?」

 

言葉にすれば簡単だが、実行しようとすると中々あいまいな指示だ。しかしナエトルは念力から解放された瞬間に手足をばたつかせ、どうにかしてアヤの指示を実行しようと奮闘した。するとあがきが実ったのか、ナエトルの頭の先がラルトスの頭にぶつかったのだ。

 

「ラルゥ……」

 

ヒナ言う通り、防御面が弱いラルトスはこの一撃だけでもかなりのダメージを負ったようである。その証拠に足がおぼつかない。ボールを投げるのなら今がチャンスだ。

 

「いけ!モンスターボール!」

 

アヤは狙いを定め、すかさずモンスターボールを投げる。ボールは手から離れるときれいな弧を描き、ラルトスの頭部に当たった。それと同時にボールが開き、赤い光がラルトスをボールに吸収した。しかしまだ油断はできない。ここまでは何回か成功させたことはあるが、毎回失敗し、ポケモンが飛び出してしまっていたのだ。手に汗握る時間が続いた。ボールが一回、また一回と揺れるたびに胸の鼓動が大きくなる。そして、ついにその時はきた。ボールから、カチッという気持ちのいい音が鳴ったのだ。アヤはそのボールを拾い上げ、震える手の上でまじまじと見つめた。

 

「……やったよ、やったよヒナちゃん!私ゲットできたよ!」

 

「ナエナエ!」

 

アヤとナエトルの喜びが爆発した。

 

「おめでとうアヤちゃん!いや~、初めはどうなるかと思ったけどゲットできてよかったよ!」

 

二人とナエトルは手を取り合って喜んだ。まるで十人の少女が騒いでいると錯覚させるほどにぎやかである。

 

「ラルトス、ゲットだよ!」

 

アヤの歓喜の声が響く。こうしてアヤは再びシノツクタウンへと足を運んで行ったのだ。

 

 

 



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第三話 道標

というわけで第三話でーす。感想やお気に入り登録、高評価励みになります!ありがとうございます!


 その日の夜にアヤとヒナは、ようやくシノツクタウンへとたどり着いた。シノツクタウンもシグレタウンと同様に簡素な田舎町であるが、ここにはポケモンセンターがある。アヤはこの町に着くと真っ先にヒナに引っ張られ、ポケモンセンターに連れていかれた。ヒナが言うにはポケモンセンターのレクチャーをするらしい。

 

「さぁて、まずは何から説明しようかなぁ~」

 

ポケモンセンターに入った途端、ヒナは大声を上げた。時間帯や田舎であることが幸いし、人はまばらだが、それでも側にいる人としては中々恥ずかしいものである。だが、ヒナはそんなのお構いなしに喋りだした。

 

「えっと、まずは施設の説明ね。まず、入り口から見て正面にあるカウンターが、ポケモンを回復してもらえるところ。あのカウンターにいる人はジョーイさんって呼ばれているの。右側にある小さな売店が、冒険の必需品を売っているフレンドリーショップ。左側にある受付が宿泊施設だよ」

 

「そうなんだ。いろいろあるんだね」

 

「もちろんだよ!なんたってポケモントレーナーとして旅する人で、この施設を利用しない人はいないといっても過言じゃないからね。あ、言い忘れたけどトレーナーカードを提示すれば回復と宿泊は無料だからね。それじゃぁ、さっそくポケモンを回復しに行こうか!」

 

『トレーナーカードを無くすな』って、こういうことだったんだ。アヤは身をもってそれを実感しながら、正面のカウンターに二つのモンスターボールを差し出した。

 

「えっと、トレーナーカードはありますね。それじゃあポケモンをお預かりしますね」

 

ジョーイさんはアヤからポケモンを預かると、すぐに回復専用の機械にボールをセットし、ポケモンを回復させ、すぐに返してくれた。

 

「えっ……、もうできたんですか!?」

 

その間わずか10秒ほど。感動的な速さである。

 

「ありがとうございます。これでもウチのポケモンセンターの機械は旧式なので遅いほうなんですよ。利用客が多い都市部のポケモンセンターに配備されている最新式の機械は5秒かからないくらいの時間でできるんです」

 

アヤが感動に浸っていると、ジョーイさんはヒナのモンスターボールを預かりながら豆知識を披露してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にアヤが連れていかれたところは宿泊するための受付だ。受付では初老の男がテレビを見ている。その傍らでヒナは慣れた手つきで申込用紙に必要事項を書き、その男に手渡した。

 

「えーっと、宿泊期間は今日の夜から明日まで。二人部屋を希望っと……」

 

男は小さな声で淡々と読み上げるとパソコンで部屋の確認をしだした。が、アヤは男が読み上げた文章を聞き、驚きを隠せないようだ。

 

「ちょっとヒナちゃん!どうして二人部屋なの!?」

 

「えっ、アヤちゃん嫌だった!?」

 

「いや、私は全然いいんだけどさ、ヒナちゃんが嫌じゃないかなぁって。だってほら、私たち今日会ったばっかりで……」

 

「別に。私は全然気にしてないよ」

 

「そうなの?」

 

「うん!だってアヤちゃん見ていると、とってもるんってするんだもん!あ、そうこうしているうちに部屋が見つかったみたいだね。話の続きは部屋に行ってしようよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日、二人が泊まる部屋は狭い部屋に簡素なベッドが置かれただけの簡素な部屋である。だが無料で安全な寝床が確保できると思えば大儲けだ。ヒナは部屋に入り、申し訳程度に顔を見せる床に荷物を置くと、いきなりベッドにダイブした。

 

「あ~、久しぶりにほかの人と寝れる~!今日は楽しい夜になりそうだなぁ!」

 

「ちょっとヒナちゃん!そんな派手なことしたらベッドが壊れちゃうよ!」

 

だがアヤの言葉も意味なく、ベッドの上で足をばたつかせている。

 

「だって~、ほかの人と一緒に寝るの久しぶりなんだもん!」

 

「そうなんだ。ってことは前はだれかと一緒に寝てたの?」

 

「そうだよ。前は双子のおねーちゃんと旅していたから、おねーちゃんと一緒だったんだよ」

 

「へぇ、ヒナちゃんにお姉ちゃんがいるんだ。姉妹で一緒に旅できるって楽しそうだな」

 

「一緒に旅ができていたころは毎日るるるるるんってしていたよ。だけど、前におねーちゃんとケンカしちゃって……。それが原因でおねーちゃんと別れることになっちゃったんだ。だからそれっきり一人で旅していたんだよ」

 

「そんな……!それじゃぁ今、お姉ちゃんがどこにいるかわからないの!?」

 

「うん、ケンカした時からどこで何しているかもわからない。音信不通ってやつだね」

 

狭い部屋に鉛のような空気が漂う。その中で、アヤは下手に話を広げたことを非常に後悔した。慌ててこの空気を換えようと言葉を探したが中々見つからない。と、ヒナが慌てた様子で言葉を発した。

 

「あっ、ごめん!なんか変な空気にしちゃったね。話題を変えよっか。そうだ!アヤちゃんはどうして旅をしているの?」

 

「旅の理由?それが特にないんだよね……」

 

アヤはため息をついた。

 

「目的も理由もないのに旅をしているの?それなら、ポケモンリーグでも目指せば?」

 

「ぽ、ポケモンリーグ!?」

 

ポケモンリーグとは、四天王とチャンピオンと呼ばれる名実ともに最強のトレーナーが待ち受ける、ポケモントレーナーの最高峰だ。当然多くのポケモントレーナーがチャンピオンと四天王を倒し、ポケモンリーグを制することを夢見ているが、チャンピオンや四天王に勝つことはおろか、ポケモンリーグに挑むことすらできずにトレーナー人生を終える人も決して珍しくない。

 

「む、無理だよ!私になんかポケモンリーグなんて絶対無理だよ!」

 

あまりに突拍子な発言にアヤは思わず目を大きく見開き、手で拒むような素振りをとった。あまりにもオーバーなリアクションだったのか、不思議そうにヒナは首をかしげている

 

「どうして、チャレンジする前から無理だって決めつけるの?やってみなくちゃわからないじゃん」

 

「で、でも……、ポケモンリーグに挑むなんて……。いまいち実感がわかないよ。第一、私ポケモンバトル弱いし……」

 

「そうかな~。今日のバトルを見る限り、割とポケモンバトルのセンスあると思うんだけどな~」

 

「えっ、そうなの……?」

 

意外な言葉だ。今まで何をやっても二流か二流以下だったアヤにとって、こんな言葉を掛けられるのは初めてである。

 

「うん。もちろん今はへなちょこだけどね。でも、アヤちゃんなら経験を積めば結構いい線行くと思うんだ。どう?チャレンジしてみない?私も手伝うからさ。それに、目標のない旅なんて全然るるんってしないし」

 

確かにこのままあてもなく彷徨うのは味気ない。上手くいくかどうかはさておき、とりあえずチャレンジしてみるのもいいだろうとアヤは感じつつあった。

 

「わかった。とりあえずポケモンリーグ目指してみるよ!」

 

「そう来なくっちゃ!それじゃぁ、さっそく明日からポケモンジムを目指そうか!」

 

「ポケモンジム……?」

 

言葉だけは何となく知っているが、これまでポケモンバトルと程遠い生活をしてきたアヤにとっては余り馴染みがない言葉である。

 

「あのね、ポケモンジムっていうのは自分のポケモンバトルの実力を測る場所なんだよ。ポケモンジムにはそれぞれジムリーダーって人がいて、その人に勝つとポケモンリーグ公認のバッジがもらえるんだ」

 

ヒナの説明を受け、アヤもふと思い出した。

 

「そういえば、前にマリナ博士から『一つの地方のバッジを8個集めると、その地方のポケモンリーグに挑める』って聞いたことがあるよ」

 

「なんだ、私が説明しなくてもアヤちゃん知っているんじゃん!」

 

「エヘヘ。それで、ポケモンジムってどこにあるのかな?」

 

アヤはバッグの中から、旅立つ前に母親からもらったタウンマップを広げ、ヒナに先ほどフレンドリーショップで買ったシンシュー地方のガイドブックを渡した。

 

「そうだなぁ……。今いる場所がシノツクタウンだから……、『ハナノシティ』のジムが一番近いね!」

 

そう言うとヒナはマップの一点に指をさした。

 

「わかったよ。そうと決まればもっと強くならないとね!よーし、頑張るぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、アヤとヒナはシノツクタウンに別れを告げ、ポケモンジムがあるハナノシティ目指し、2番道路に足を踏み入れた。マップを見る限りこの道を進めばハナノシティだ。

 

「さぁて、今日はどんなきゅるるるるんってすることが起こるかな~!」

 

この道は山がすぐ近くまで迫ってきているせいか、段差が多い。

 

「待ってよヒナちゃん!私を置いてかないでよ~!」

 

威勢よく先を進むヒナに対し、アヤは一歩歩くのも一苦労だ。周りには自然豊かな風景が広がっているが、そんなもの見ている余裕はない。だが、そんな彼女の進路を遮るかのように一人の短パン小僧が現れた。

 

「ねぇ、そこで息を切らしている人!俺のポケモンと勝負させない!?」

 

「えっ……、ポケモン……バトル……?」

 

藪から棒に現れた短パン小僧にアヤは戸惑う。目線でヒナに助けを求めるも、ヒナは小悪魔のような笑みを浮かべている。

 

「あー、これは『目が合ったらポケモンバトル』ってやつだね」

 

「な、なにそれ!?」

 

「アヤちゃん、ポケモントレーナーは互いの目と目がバチって合ったらポケモンバトルをするっているマナーがあるんだよ。さぁ、レッツポケモンバトル!」

 

「えぇ~!」

 

そうこうしている間にも、すでに短パン小僧はモンスターボールを投げていた。

 

「行け!オニスズメ!」

 

ボールが開き、オニスズメが威勢よく鳴き声を上げる。こうなったらもう仕方がない。アヤアもボールを投げ、ラルトスを繰り出した。

 

「さーて、私はアヤちゃんの初陣でも見ますか。出ておいで、ラグラージ」

 

「ラーグ」

 

ヒナはマイペースにボールから、ラグラージを出すとその背によじ登り、ゴロンと寝転がった。その一方で、アヤと短パン小僧はバトルをすでに始めていた。

 

「オニスズメ!つつく!」

 

「ズーッ!」

 

オニスズメは鋭いくちばしを光らせ、ラルトスに向かってくる。

 

「ラルトス!かわして!」

 

寸のところでラルトスは頭を下げ、攻撃を避ける。しかし、オニスズメは背後から再び襲い掛かってきた。

 

「あっ!何とかしないと……!確かラルトスの技は……、念力と……、鳴き声……。そうだ!ラルトス!そこの切り株に隠れて鳴き声!」

「ラルッ」

 

ラルトスは近くの切り株の裏に転がり込み、鈴が鳴るような可愛らしい鳴き声を奏でる。すると、その声に気を取られたのかオニスズメの勢いが弱まった。

 

「今だ!切り株の裏から飛び出て念力!」

 

すかさずラルトスは切り株から飛び出し、オニスズメに力を送る。しかし、直前に短パン小僧が回避の指示を出したため、空振りに終わってしまった。そして分の悪いことに、オニスズメは空高く待ってしまい、念力が届かない高さに行ってしまった。

 

「どうだ!こうすればこっちの勝ちだ!」

 

短パン小僧はすでに勝利したかのように騒ぎ立てている。確かに、このままオニスズメを自由にさせておけば、アヤの負けは避けられない。その時だ、ふとアヤの視界にいくつかの小石が目に飛び込んだ。

 

「あの小石を当てれば、撃ち落とせるかな……?ラルトス!その辺の小石を念力で、オニスズメに投げて!」

 

「ラルトー」

 

鳴き声とともに小石が淡く発光し、宙に浮く。それは勢いよく空高く舞い、オニスズメの翼に直撃。オニスズメは力を失い、ヘナヘナと急降下しだした。

 

「今だ!ラルトス、念力!」

 

念力がオニスズメの降下を加速させる。そのままオニスズメは地面に叩きつけられ、気絶してしまった。

 

「やったじゃんアヤちゃん!大勝利だね!」

 

すると、ヒナがラグラージから飛び降りてきた。

 

「私が勝ったの……?」

 

「そうだよ!だからセンスあるって言ったじゃん!」

 

二人は互いにタッチを交わし、喜びを分かち合う。するとアヤの視界の隅に、負けてうなだれる短パン小僧の姿が映った。アヤはそっと彼のところに歩み寄った。

 

「あの~、そこのキミ……。いやほら、確かに結果は負けだけど、結構強かったよ」

 

「ほんと?」

 

アヤの優しい言葉に短パン小僧の顔が晴れる。

 

「うん!ほら、あの回避とか私も見習いたいくらいだよ。だから、落ち込まないで。またお互いに強くなったらまた戦おうよ!」

 

「……そうだよな。いつまでも落ち込んでいてもしょうがないよな!わかったよ!俺、強くなる!そしたらまた戦おうぜ!」

 

元気を取り戻した短パン小僧は手をアヤに差し伸べる。アヤもそれに応じ、硬い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後短パン小僧と別れたアヤは、他のトレーナーや野生のポケモンとのバトルをこなしながらゆっくりと2番道路を進む。すると雄大な山々を貫くように、『マックラトンネル』と呼ばれる洞窟が現れた。ここで少し昔話をしよう。かつてこのシノツクタウン、そしてアヤの故郷であるシグレタウンは非常に交通の便が悪い田舎町であった。比較的栄えているハナノシティに向かうにはこの険しい山を越える必要があり、毎年何人もの人がこの山で命を落としていたという。この事態に悩んだ近隣の住人が悲劇を無くすために、野生のポケモンと協力して十年以上の歳月をかけて手で掘ったのがこのマックラトンネルである。トンネルが完成した現在では交通の便は改善され、命を落とす人もいなくなった。しかし、人々の意思を受け継いだポケモンたちが今でもトンネルを拡張しており、拡張された部分はトレーナーの修行の場にもなっているそうだ。それではここで昔話を終え、再びアヤにスポットライトを当てることにしよう。

 

「ここを抜けるの……?」

 

アヤは闇の底へ通じるような真っ暗なトンネルを見て不安そうだ。しかしヒナは相変わらず動じない。

 

「大丈夫だよ、アヤちゃん。何とかなるって。さ、行こうよ」

 

ヒナとアヤは懐中電灯を照らし、仲良く闇の中へと進んでいった。

 




最近、このお話の舞台であるシンシュー地方のマップを作ろうか考え中。さて、どうやって作ろうか……。


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第四話 ハナノシティ ~盆地に栄える谷の街~

言い忘れましたが、この小説では世界観に合わせて一部のキャラの性格も若干変更してます。(某アイドルバンドのドラマーが、機材オタ→岩ポケオタとか)

キャラの本質的には変わってませんが、苦手な方はすみません!
どれでもよろしい方は、第四話をどうぞ!


 結論から言うとマックラトンネルでは特に大きな出来事はなかった。もちろん野生のポケモンと遭遇したり、他のトレーナーに勝負を挑まれたりしたが、特に問題なく切り抜けることができた。こうしてアヤたちはマックラトンネルを抜け、ハナノシティ側の2番道路を進む。そして、ついに彼女たちはアヤにとって最初のジムがあるハナノシティへとたどり着いた。だが、道中で食べ物を食べつくしてしまったせいで昨日の夜は何も食べていない。もはや空腹は限界まで来ている。二人は最後の力を振り絞り、多数の飲食店や屋台が立ち並ぶ商店街へ駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 商店街に飛び込むとヒナは、広場にあるパラソル付きの丸机をアヤに確保させ、自身は屋台のほうへすっ飛んでいった。

 

「あ~、やっとご飯にありつけそうだよ……」

 

アヤはぐったりと机に突っ伏した。だがそのままの姿勢で首だけを動かし、あたりを見渡すと、雄大な山々に囲まれた盆地に様々な建物が並び中規模な街を構築しているのが見える。また、人々はその中で生き生きと生活していた。さすが『シティ』と呼ばれていることはある。シグレタウンやシノツクタウンとは大違いだ。

 

「お待たせ!アヤちゃん!」

 

そうこうしているとヒナがおいしそうな香りを運んできた。体を上げて目をやると、彼女は両手にお盆に乗せられた、焼きそばとラーメンを足して2で割ったような麺類を持っていた。彼女が言うには右手が自分たちが食べる用で、左手がポケモンにあげる用らしい。アヤとヒナは互いのポケモンをすべてボールから出してあげると、およそ一日ぶりのご飯に手を出だした。

 

「あっ、これおいしい!ヒナちゃん、これなんて言う食べ物?」

 

「ごめん、忘れちゃった。でもこの辺の名物らしいよ」

 

不思議な麺類に舌鼓を打っている最中にアヤはポケモンたちのほうに目をやった。どうやらアヤのポケモンであるナエトルとラルトス、そしてヒナのポケモンであるラグラージ、テッカニン、ポリゴンZは5匹で何か話しているらしい。

 

「ナーエー」

 

「ラグ?」

 

「ラルル?」

 

「テッカー!」

 

「ポリリリリリ」

 

何をしゃべっているかはよくわからないが、楽しそうで何よりである。旅の途中でアヤとヒナが親睦を深めている間に、彼女のポケモンたち同士も仲良くなったようだ。

 

「アヤちゃん、アヤちゃん!」

 

そんな風景にアヤがなごんでいると、ふいにヒナの言葉が飛び込んできた。

 

「な、なに?」

 

「ねぇ、ご飯も食べ終わったことだしどっかに遊びに行こうよ!」

 

「遊びに行くって……。私たち、ポケモンジムに挑みに来たんだけど……」

 

「いいじゃんいいじゃん!そんなまじめなことばっかり考えていたら折角の旅もるるんってしなくなっちゃうよ!」

 

「言われてみればそれもそうだね。それで、どこに行くの?」

 

「私、ここに行きたい!」

 

ヒナが目を輝かせながらガイドブックに指をさす。その先には『ハナノ地質博物館』と書かれていた。

 

「地質博物館か……。珍しい石や化石がたくさんあるのかな?面白そう!わかった、そこへ行こうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハナノ地質博物館は歩いて十分ほどの場所にあった。二人はそこへ入り、券売機で入場券を買うと入場口へ向おうとした。しかし、その時ヒナが何かを見つけたようだ。

 

「アヤちゃん待って!」

 

「どうしたの?」

 

引き返すと、ヒナの目の前には『入場料に金額を上乗せすると、学芸員の人がマンツーマンで展示物の解説をしてくれる』という旨が書かれたポスターが貼ってあった。学芸員の解説もつけるとそれなりに痛い出費になってしまう。

 

「うーん……。面白そうだけど、今日は止め——」

 

「なんだかきゅるるるるるるるんってしてきた!決めた!学芸員の人をお願いしようよ!」

 

しかし、ヒナはアヤが止めようとする前に受付のほうへ、学芸員をお願いしに走って行ってしまった。こうなったらもう仕方がない。アヤが諦めていると、間もなくヒナは眼鏡をかけた自分と同い年くらいの少女を連れてきた。あの人が学芸員のようだ。

 

「初めまして。ジブン、ここの博物館で学芸員をさせてもらっているマヤっていいます。よろしくお願いします」

 

マヤと名乗る学芸員は礼儀正しくお辞儀をした。もっと厳格なオーラを放つおじさんとかが出てくると予想していたアヤは、親しみやすそうな人で胸をなでおろした。

 

「私、ヒナっていうんだ~。それで隣にいるがアヤちゃん!」

 

「あ、よろしくお願いします!」

 

「アヤさんとヒナさんですね。よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして二人は、マヤに案内されながら展示室へ入っていった。展示室の中には予想どおり——いや、予想をはるかに上回る量の珍しい石や化石が展示されている。

 

「なんか……、すごい……」

 

思わずアヤは息をのんだ。気が付けば彼女はとある化石の前に吸い寄せられていた。

 

「これって……、本当に化石なの……?」

 

彼女が見とれているのは渦巻きを撒いた貝の化石だ。しかし、それはまるで宝石のように光り輝いているのである。

 

「あのすみません。これってどうしてこんなに光っているのですか?」

 

アヤは思い切ってマヤに尋ねてみた。しかしこの時彼女は知る由もなかった。これが、惨劇の始まりになるとは……。

 

「フヘヘ……、知りたいですか?この化石のヒミツを……」

 

「はい……」

 

アヤが恐る恐る返事をする。それに応じ、マヤの目の色もにわかに変化した。そして次の瞬間、マヤの口から恐ろしい量の情報がアヤに襲い掛かってきたのだ。

 

「フヘヘ、では簡潔に解説を……。この化石はオムライトと呼ばれる化石で、オムナイトの化石が様々な地質条件によって宝石に変化した貴重な代物でありまして——。あっ、そういえばそもそもオムナイトっていうポケモンご存じで?オムナイトとは主に中生代、あっ、中生代って言うのは約2億5217万年前から約6600万年前のことをさす言葉で、地質区分的には三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の三区分に分かれているっす!この時代にはガチゴラスやプテラ、トリデプスのような様々な有名な化石が見つかっているんです。あっ、すみません!話が反れてしまいましたね。いや、鉱物や化石の話になるとついつい話に熱が入ってしまって……。それでは再びオムスターの話をしましょう。オムナイトっていうポケモンは……」

 

もはや情報の嵐といっても過言ではない。しかし運が悪いことに、目を回すアヤを傍らでヒナがさらに燃料を注ぎ込んでしまったのだ。

 

「はい!質問があります!オムナイトは何を食べていたんですか?」

 

「フへへ!いい質問ですね~!オムナイトは肉食で、現在化石から復元した際にはポケモンフーズの他に魚介系の食べ物を与えることがほとんどなんですけど、彼らが生息していた当時に餌としていたものには諸説あるんですよ!例えば……」

 

マヤの顔は非常に活き活きしている。口が裂けても『止めて!』なんて言えるはずもない。しかし、話が止まる気配も一向に見られない。結局アヤは、抜き足差し足忍び足で音もたてずにこっそりとその場から離れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー!博物館面白かった~!また行こうね、アヤちゃん!」

 

「う、うん……」

 

その日の夕方、アヤは苦笑いを浮かべながらヒナとポケモンセンターの中に入った。内部は街の人や自分と同じような旅人でにぎわっている。だがヒナはそんなのお構いなしに人の波をかいくぐり、アヤをある機械の前に連れて行った。

 

「これは……?」

 

「じゃじゃーん!これがポケモンジムを予約する機械だよ!」

 

ヒナによると、ジムに挑むためには前日の20時までにこの機械で予約を入れるないといけないらしい。ジムリーダーに直接予約しに行くという手段もなくはないが、機械で行える手軽さからポケモンセンターで予約を入れる人がほとんどのようだ。

 

「これをこうして……、ここにこれを入力して……、え~っと……」

 

アヤは不慣れな機会を精一杯操作する。そして戸惑うこと5分後、自身のトレーナカードをスキャンすると一枚の予約券が発行された。明日は予約が入れられなかったので予約を入れられたのは明後日となってしまったが予約は無事完了である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、アヤは少し街を散策した後初めてのジム戦に向けた特訓を重ねた。そしてその日の夜、くたくたになった彼女はポケモンセンターの宿泊部屋のベッドに倒れるようにダイブした。

 

「これだけやれば、大丈夫だよね……」

 

しかしまだ不安だったアヤはポケットから一枚の紙を取り出した。これは、昨日の夜にポケモンセンターで貰ったタイプごとの相性が網羅された紙だ。

 

「えっと……草タイプは水タイプに強くて……。悪タイプは格闘タイプにつよ……、あれ?逆?」

 

昨日から暇があれば眺めているが、全く頭に入ってこない。たまらずアヤはヒナに助けを求めたが、ヒナは助言どころか衝撃的な言葉を発したのだ。

 

「ごめんねアヤちゃん。私もタイプ相性ほとんど覚えてないんだよね。いっつもビビッてきた技を当てれば、効果抜群なことが多いからさ」

 

「つまり、勘ってこと?」

 

「そうだよ」

 

「いいなー!私も勘で勝てるようになりたーい!」

 

アヤはそう嘆きながら、その日は眠りについたのであった。

 

 

 



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第五話 笑う岩ポケオタク

ということで初のジム戦です!果たして勝つのはどちらなのか!?


 次の日の朝、アヤはハナノシティジムの前に立っていた。

 

「いよいよか……」

 

モンスターボールを固く握り呟く。だが、ジムに入ろうとしてもなかなか足が動かない。

 

「あはははは!どうしたのアヤちゃん?もしかして緊張しているの?」

 

「うっ……、そうみたい……」

 

「変なの~。あっ、そうだ!そこまで緊張するなら私のポケモン貸してあげるよ。そうすればきっと楽勝だよ!」

 

一瞬アヤの心に魔が差す。だがその悪魔はすぐに良心によって滅ぼされた。

 

「だ、駄目だよ!人のポケモン使っても意味ないよ!」

 

「やっぱり?まぁ、アヤちゃんならそう言うと思ったけど。それじゃぁ、さっさと中に入ろうよ。ここでずっと立っていても仕方ないしさ」

 

「わかった……!」

 

ヒナの言葉に背を押され覚悟が決まる。アヤの足はゆっくりと、しかし確かに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「お。おじゃまします……!」

 

ぎこちない足取りでジムの自動ドアをくぐると、きれいに整備されたラウンジが広がっていた。

 

「これがポケモンジムか……」

 

実際にジムに入るとアヤはキョロキョロとラウンジを見渡した。いよいよジムに挑むのだ。そう思うと、緊張は再び蘇る。

 

「あっ、チャレンジャーの方ですか?今いくっす!」

 

さらに拍車をかけるかのように、奥からジムリーダーと思われる少女の声がした。

 

「は、ひゃい!」

 

不意に声を掛けられ、思わず声が上ずる。胸の鼓動はもはやピークを通り越して爆発しそうだ。だがそうとも知らず、ジムリーダーはついにアヤの前に姿を現した。

 

「待たせてごめんなさい!ジブンがこのハナノシティジムのジムリーダー、マヤって言います」

 

その顔を見た瞬間、アヤは言葉を失った。自分の目の前でジムリーダーと名乗る少女は、間違いなく先日博物館で出会った学芸員だ。衝撃の再会である。

 

「フヘヘヘ、自分は学芸員とジムリーダーを兼任しているんですよ。どうですか、驚きました?」

 

中々特徴的な笑いをあげながら、マヤは口元を緩ました。

 

「う、うん……」

 

だが、アヤは声にならない返事をかすかに鳴らすだけである。

 

「まぁ無理もないでしょうね。ジブンも次の予約者がアヤさんって知ったときは驚きましたから。まさかあの日、出会った人がチャレンジャーだなんて思いもよりませんでしたからね」

 

「私もだよ」

 

ようやく衝撃の事実を飲み込んだアヤも笑みを見せた。それを確認するとマヤは背を向き、すぐ後ろの引き扉に手をかける。

 

「それじゃあ、さっそくフィールドの中に入りましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉が力いっぱいひかれると、その先にはゴツゴツした岩石がまばらに並べられたフィールドが広がっていた。中に入るとアヤは入り口の近くに、ヒナはアヤの近くにある観戦用のベンチの上に腰かけた。そしてマヤも奥のほうに立った。

 

「アヤさん、これからジム戦を開始させていただきたいんですけど、その前に一つお願いしてもいいでしょうか……?」

 

「な、なに……?」

 

急にジムリーダーからお願いと言われ、身構えるアヤ。しかし、そのお願いとは意外なものであった。

 

「あの~、できればでいいんですけど、お互い歳もお何みたいですしため口でしゃべってもらえないでしょうか?なんか同い年に敬語使われると、どうも調子が狂って……」

 

「ごめんなさ——ごめん!マヤちゃん!」

 

「いえいいえとんでもないです。こちらこそわがままを聞いてくださってありがとうございます」

 

マヤは頭を深く下げると、言葉を続けた。

 

 

「少し話が反れてしまいましたが、それでは始めましょうか。確か所持しているジムバッジは0個、試合形式は1対1のシングルバトルを希望でしたよね?」

 

「うん。よろしくね」

 

マヤはアヤの返事を聞き取ると、近くの棚からモンスターボールを一つ取り出した。

 

「いいですかアヤさん?ここから先は互いの実力を全力で出し切る真剣勝負です。いくら面識があるからと言って手加減はしないですよ。解説だけでは伝えきれない岩ポケモンの魅力、存分に披露いたしましょう!チゴラス、お願いします!」

 

「お願い!ナエトル!」

 

互いのポケモンがボールから飛び出す。

 

「チーゴー!」

 

マヤのチゴラスはフィールドに降り立つや否や鼻息を荒々しく鳴らし、すでに臨戦状態だ。アヤのナエトルも負けじと鳴き声をあげるも、チゴラスの放つ威圧感に飲み込まれそうである。

 

「フヘヘへ。なるほど、アヤさんのポケモンはナエトルですか。タイプ相性は不利ですが、問題ないでしょう。先行は譲りますよ」

 

「よーし!ナエトル!体当たり!」

 

「ナエッ!」

 

アヤの指示がフィールドに響く。ナエトルは助走をつけ、微動だにしないチゴラスにぶつかった。しかし、チゴラスはまるで効き目がない。

 

「あれっ!?どうして効かないの!?」

 

アヤは大慌てで自身の手のひらを見た。彼女の手のひらには岩タイプの相性がマジックでびっしり書き込まれており、そこには『ノーマルタイプの技は岩タイプに弱い』と記されていた。岩タイプのチゴラスには、どうりで効き目がないわけだ。

 

「フヘヘヘヘ、中々いい攻撃ですけど、ジブンのチゴラスには痛くもかゆくもないっす!今度はこちらから!チゴラス!ステルスロック!」

 

「チゴ!」

 

チゴラスが吠えると、フィールドに尖った岩が漂いだす。だがこの時、観戦席で見ていたヒナは違和感を覚えた。

 

「あれ?ステルスロックって確か交換をした相手にダメージを与える技だから、1対1の試合で使っても意味ないんじゃ……」

 

しかしマヤはお構いなしに戦闘を繰り広げる。

 

「そして、体当たり!」

 

マヤの指示を受け、チゴラスはナエトルに突っ込んだ。

 

「あわわ!ナエトル、よけて!」

 

手のひらを眺めていたアヤは慌てて回避の指示を出す。寸のところでナエトルは横に跳ね、チゴラスを回避。そのまま近くの岩陰に転がり込んだ。

 

「そこで殻にこもる!」

 

さらに防御力を高めようと、前足を頭にもっていこうと動かす。だが直前に隠れていた岩が砕けた。驚きの声を発することも許されず、ナエトルは岩を割って猛進してきたチゴラスに跳ね飛ばされる。

 

「ナエッ!」

 

ナエトルは着地に失敗し、べたっと地面に腹をつけている。マヤはそこを逃さなかった。

 

「そこっす!チゴラス、岩石封じ!」

上空に巨大な岩が現れ、ナエトルの上にのしかかる。かつて経験したことのない連続攻撃を前に、ナエトルはフラフラだ。回避すらままならないだろう。しかし、マヤの攻撃の手は緩むことを知らない。

 

「チゴラス!これで止めっす」

 

「チゴッ!」

 

名前を呼ばれただけであったものの、それだけですべてを理解したようだ。チゴラスは走り出した。

 

「ナエトル!体当たりで迎え撃って!」

 

すかさずアヤも迎え撃つ。だがナエトルの体が当たる直前に、チゴラスは空高く跳ね上がった。

 

「ナエッ!?」

 

漂うステルスロックを足場に、どんどん上へ上へあがっていくチゴラス。そして最高地点に到達した瞬間、チゴラスは岩から飛び降りた。

 

「踏みつけ!」

 

マヤの指示とともに、チゴラスの右足が白く光る。それは間もなくナエトルの真上から襲い掛かり、ナエトルを踏みつけた。高所から落ちるエネルギーも相成り威力は絶大だ。その証拠に、チゴラスがゆっくりナエトルから足をどかすと、そこにはナエトルが目を回しながら横たわっていた。

 

「そんな……」

 

ナエトルは戦闘不能だ。あまりにも一方的な敗北である。

 

「アヤさん、今回は残念ですがジブンの勝ちです。でもアヤさんのナエトル、中々いい動きしてましたから、もっと鍛えればきっとジブンに勝てると思います。それなので、またチャレンジしに来てくださいね」

 

マヤがそばに寄って声をかけてくれたが全く耳に入らない。アヤは目の前が真っ暗になった。アヤは疲れて動けなくなったひん死のポケモンをかばいながら、急いでポケモンセンターに戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、負けたショックのせいかアヤは笑顔も全く見せず、すぐに眠ってしまった。そのせいで詰まらなかったのか、ヒナもすぐに眠りについた。だがその日の深夜、日付ももうすぐ変わろうとするころ物々しい物音でヒナの目はふと覚めたのだ。

 

「なんだろうこの音……?」

 

音の発信源は外のようである。ヒナは眠い目をこすり窓のカーテンを少し開け外をのぞく。

 

「あっ、あれって……」

 

ヒナは自分の目を疑った。彼女の視界では、月明かりに照らされながらアヤと彼女のポケモンが何かをしていた。それを見て、居ても立っても居られなくなったヒナは着の身着のままでアヤのもとに走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤちゃん?」

 

外に出ると、ヒナはアヤの背後で首を傾げた。

 

「えっ、ヒナちゃん……?」

 

不意に現れたヒナにアヤは驚きを隠せない。そんな彼女にアヤは怪訝そうな様子だ。

 

「どうしたの、アヤちゃん?こんな時間に何やっているの?」

 

するとアヤはやや顔を赤らめた。

 

「こ、これは……、ヒミツの特訓というかなんというか……。一回寝たんだけど、中々熟睡できなかったからやってたんだ……。ほら、今日コテンパにやられちゃったから……」

 

そういわれよくよく周りを見ると、空き缶や小石、捨てられたブロック塀の一部など特訓に使われていたであろう物の残骸が転がっていた。

 

「これで何しようとしてたの……?」

 

ヒナは空き缶を拾い上げた。

 

「これは、体当たりの的に使ってたんだ」

 

「あはは……」

 

「えっ?」

 

今度はアヤが怪訝な目でヒナを見た。ヒナは目の前で腹を抱えて笑っている。

 

「ど、どうして笑うのヒナちゃん?」

 

「あはははははは!いや~、なんかヘンテコな訓練だったからさ!あははははっ!」

 

ヒナの笑い声が、夜の静けさを打ち破る。

 

「う~、そんなに笑わないでよ~!私にはこのくらいしか思いつかないんだよ~!」

 

このまま放っておけば、アヤは泣いてしまいそうだ。流石にからかいすぎたと思ったのか、ヒナもようやく笑うのを止めた。

 

「あー、やっぱりアヤちゃんと一緒にいるとるんってするね!よし決めた!明日はさ、私と一緒に特訓に行こうよ!」

 

「特訓……?どこに行くの?」

 

「この辺のどっか。そうだな~、この前通ったマックラトンネルなんかどうかな?あそこなら岩タイプのポケモンも多いから、いい特訓になるはずだよ」

 

「またあそこに戻るの?洞窟の雰囲気、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……」

 

「じゃぁ、止める?」

 

「……でも、そんなこと言ってたらいつまでたっても強くなれないか。わかった、明日はマックラトンネルに行こう!」

 

アヤの笑顔が戻ってきた。ヒナはそれを見て胸をなでおろすと、再びベッドにもとったのである。

 




おまけ:現時点でのアヤの手持ちまとめ。

☆ナエトル(♂)
特性:新緑

・体当たり
・殻にこもる

☆ラルトス(♀)
特性:トレース

・鳴き声
・念力
  


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第六話 マックラトンネル大騒!

今更ですが、このお話のポケモンの技は無制限に覚えられますが、一度の戦い(特に公式戦)で使える技は4つまでです。


翌朝、アヤは目覚めると、ヒナに連れられハナノシティから出て、2番道路を再び通りマックラトンネルへと入っていった。

 

「うーん……、ここも駄目だな……」

 

「何しているの……、ヒナちゃん……?」

 

ヒナはトンネル内に入ってから、取りつかれたように壁に明かりを当て何かを探している。いくら声をかけても返事はろくに返ってこない。だんだん不安が高まっていくアヤ。しかしヒナは暗い洞窟内をずんずん進んでいく。そして歩くことおよそ一時間、ヒナの足が止まった。

 

「よし、ここなら入れそうだね」

 

ヒナはボールを軽く投げ、ラグラージを出した。

 

「ラグラージ、そこの岩を砕いて!」

 

「ラグッ!」

 

ラグラージの拳は岩を木っ端みじんに砕く。すると、アヤの目の前に新たな通路が現れた。

 

「ヒナちゃん、これを探していたの?というかこの道はなに?

 

「多分野生のポケモンが掘り進めた洞窟じゃないかな?初めにトンネルを通った時にさ、いくつかこういう洞窟を見つけてたんだ」

 

「そうなんだ、さすがだね。私は全然気が付かなかったよ」

 

「ま、入り口は落盤や落ちてきた岩で塞がっていて分かりにくいからね。それに運よく見つけられた洞窟も人が入れるとは限らないしさ。いやぁ、入れそうな洞窟があってよかったよ~」

 

「入れそうな洞窟って……。えっ!?もしかしてこの中なに入るの!?」

 

驚きを隠せない顔が明かりの中に浮かんだ。そんなこと初耳である。

 

「そうだよ。こっちのほうが強いポケモンがいるってビビビって来たんだ」

 

しかしヒナはいたって平然としている。

 

「そ、そんな強いポケモンがいっぱいいるところなんて危ないよ!もっと安全なところで特訓しようよ!」

 

「なんで?強いポケモンと戦ったほうがググイって経験値を稼げるじゃん」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫大丈夫。危なくなったら私が何とかするからさ。それじゃ、未知の洞窟大探検にレッツゴー!」

 

ヒナはラグラージをボールに戻すと目を輝かせながら暗闇の中へずんずん突き進んでいった。

 

「あっ!ヒナちゃん待って!私を置いて行かないでよ~!」

 

こうなった以上もう後戻りはできない。生きて帰れますようにと祈りながら、アヤも闇の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野生のポケモンが掘り進めた洞窟は、先ほどとは比較にならないほど暗く、顔の前に自分の指を立ててもそれが全く見えないほどだ。手元の明かりすら頼りにならない、文字通り闇の世界である。

 

「ポリゴンZ、フラッシュ」

 

ヒナはポリゴンZを繰り出した。

 

「ポリリリリ」

 

不思議な電子音が鳴り、ポリゴンZの体が発行する。これで数メートル先までは見えるようになったが、依然闇が支配する空間であることは確かだ。そのせいかアヤはここにきてからというもの、ずっとヒナの後ろに隠れている。完全にヒナが頼みの綱だが、その日菜の足がわずか数分後に止まった。

 

「どうしたのヒナちゃん?」

 

アヤも恐る恐るヒナの方から顔をのぞかせる。

 

「ほらアヤちゃん、特訓開始だよ」

 

ヒナが小声でささやく。その先では何かがうごめいていた。

 

「……わかった!」

 

意を決し、アヤは慎重に前に進む。すると突如、岩の形をしたポケモンが飛び出してきた。

 

「あのポケモンは何だろう……?」

 

アヤはすかさず図鑑を取り出し、そのポケモンに向ける。それによれば目の前にいるポケモンはイシツブテという、岩タイプのポケモンらしい。マヤとの戦いに備えるにはうってつけの相手だ。

 

「行け!ナエトル!」

 

「ナエッ!」

 

ナエトルと野生のイシツブテがにらみ合う。暗闇の中とはいえ、フラッシュのおかげで視界はばっちりだ。

 

「ナエトル!体当たり!」

 

アヤの初手体当たりの指示はもはや好例である。ナエトルも慣れた様子でイシツブテに突っ込む。しかし、その体当たりはイシツブテの防御にむなしくも阻まれた。

 

「あっ……、そういえばノーマルタイプの技って岩タイプに効かないんだっけ」

 

相手こそちがえど、マヤと戦った時と全く同じ展開だ。しかし、この時ようやく気が付いた。

 

「そういえば、私のナエトルが覚えている技ってノーマル技の体当たりだけ……?」

 

残りの技は守備力を上げる殻にこもるだけだ。つまりアヤの勝ち筋はほぼない。

 

「ど、どうしようヒナちゃん!助けてよ~!」

 

ついに洞窟にアヤの叫びが響き渡る。しかし、ヒナはさらっと一言添えただけだ。

 

「アヤちゃん、どうしてポケモン交代しないの?」

 

「こ、交換!?」

 

アヤの脳裏に、ふとテレビで見た映像が頭に浮かんだ。

 

「そういえば昔テレビでポケモンバトル見たときトレーナーの人、ポケモンを交換してたような……。えっと……、確かこんな感じで……。戻れ、ナエトル!」

 

見よう見まねで掛け声を出し、ナエトルをボールに戻す。そして再びボールを投げた。

 

「行け!ラルトス!」

 

「ラルト!」

 

ラルトスは飛び出すと、突然暗がりに放り出されたせいか辺りをキョロキョロ見渡している。しかし目の前から伝わる敵意に気が付くと、その方向をじっと見つめた。

 

「いくよ!ラルトス、念力!」

 

「ラル」

 

ラルトスが淡い光を放ち、イシツブテを浮かす。そして近くの岩肌に叩きつけた。

 

「ンゴ」

 

イシツブテは片腕で頭を押さえている。念力は間違いなく効いている。

 

「よし!もう一回念——」

 

勢いづいたアヤがもう一度念力を指示しようとした時だ。そうはさせないぞと言わんばかりにイシツブテが転がってきた。

 

「ラルッ!」

 

指示が遅れ、ラルトスは跳ね飛ばされる。ラルトスはその衝撃で地面に叩きつけられた。

 

「ラルトス!」

 

アヤの叫びに何とか答えようと小さな腕で必死に立ち上がろうとする。しかし、イシツブテはお構いなしに再度ラルトスに向かって転がってくる。だが、天はまだアヤとラルトスを見放していなかったようだ。ラルトスを轢く直前、彼女の目の前にあった小さな石ころがジャンプ台の役割を果たし、イシツブテを宙に浮かせたのだ。

 

「よーし、今なら!ラルトス、念力!」

 

ラルトスは何とか立ち上がり、再びイシツブテに念力を送る。

 

「ラー」

 

ラルトスの手の動きに合わせてイシツブテは宙で拘束されたまま、右に左へ動く。

 

「ッル!」

 

そしてラルトスが大きく手を振った瞬間、イシツブテは闇の中へ放り投げられた。直後に遠くで重いものが落ちる低い音がしたが、それが襲ってくる様子はない。ラルトスとアヤの勝利だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もアヤはナエトルとラルトスを相手によって使い分けながら、洞窟の中を進んだ。しかし、ここで思わぬトラブルが起きた。

 

「ねぇヒナちゃん……、ここどこ……?」

 

特訓や洞窟の散策に夢中になりすぎて、二人は迷子になってしまったのだ。もう洞窟に入ってかなりの時間がたっている。日暮れも近い。その上持ってきた荷物もとてもとても一泊できるようなものではない。早く出口を見つけなければ危ないのであるのだが……。

 

「わー!もしかして遭難!?なんだかるんってするね!」

 

こんな感じで、怖いくらいウキウキしながら歩いている。アヤは、ヒナを追いかけながら必死になって出口を探すのだが一向に見つからない。そして追い打ちをかけるように、アヤの背後からは何かが引きずられるような音が近寄ってきた。

 

「な、なに……!?」

 

アヤは足を止め、ボールを構える。すると同時にポリゴンZの明かりの中にぬっと、巨大なポケモンの顔が姿を現した。

 

「キャッ!あれはなに!?」

 

震える手で図鑑を取り出し、調べると画面にイワークという文字が表示された。どうやらイワークも岩タイプらしい。

 

「ひ、ヒナちゃん助けて!」

 

岩が数珠のようにつながった長い図体を前に、アヤの悲鳴が上がる。

 

「さぁアヤちゃん!特訓、特訓!」

 

しかし、ヒナは助ける気はさらさらないようだ。よほど危険な目に合わないと助けないつもりなのか。仕方なくアヤは臨戦態勢に入った。

 

「お、お願い!」

 

ボールから出したのはラルトスだ。ナエトルよりもラルトスの攻撃のほうが効くと判断したのである。

 

「ラルトス!鳴き声!」

 

まずは可愛らしい鳴き声で相手の油断を誘う——はずだったがなぜかイワークの顔はどんどん険しくなっていく。

 

「ワークッ!」

 

イワークは長く硬い尻尾を鞭のようにしならせ、近くの岩を打ち飛ばす。ラルトスは咄嗟に回避したが、その先に待ち構えていたのは例の巨体。それに阻まれたラルトスは、イワークの二撃目を回避することができず、その下敷きとなった。

 

「戻れ、ラルトス!」

 

ラルトスの身の危険を感じ、アヤは慌ててラルトスをボールに戻す。そして、代わりにナエトルを出した。

「ナエッ!」

 

威勢よくナエトルはイワークに立ち向かうが、岩タイプに不利なノーマル技だけでイワークを突破するのは至難の業だ。岩を落とされて、叩きつけられて、締め付けられて……。ナエトルの体力はもう僅かだ。

 

「ワーック!」

 

そして止めと言わんばかりに、頭上に岩が現れた。しかし、ナエトルは傷ついたせいかそこから全く動こうとしない。ついにアヤも万事休すか。そう判断したヒナがようやく重い腰をあげようとした時だ。ナエトルの頭部の葉っぱが不意に光った。

 

「ナエッ!」

 

そこから飛び出したのは無数の葉っぱだ。それは頭上の岩石を木っ端みじんに砕いた。

 

「すごい!アヤちゃんのナエトル、葉っぱカッターを覚えたんだね!」

 

先に歓声を上げたのはヒナだ。

 

「葉っぱ……かったー?」

 

アヤもワンテンポ遅れて反応したが、新技に少し戸惑っている。しかし、一秒でも早くここを出るだめにも、少なくとも今は新しい技を信じるしかない。

 

「よ、よし……ナエトル!イワークに向かって体当たり!」

 

ナエトルがイワークに向かって走り出す。

 

「そこでジャンプ、イワークに飛び移って!」

 

「エッ!」

 

体当たりの勢いに乗り、ナエトルの体は見事イワークの背に着地した。

 

「頭まで走って頭で跳ねて!」

 

ウネウネ抵抗するイワークの体にナエトルは懸命に食らいつく。そして後頭部で大きく跳ね上がった。

 

「今だ!葉っぱカッター!」

 

「ナーエーッ!」

 

イワークの背後から無数の葉っぱが、その巨体を切り裂く。そしてそれはナエトルが地面に再び戻ると同時に、ゆっくりと倒れてのであった。

 

「やったよ……、やったよナエトル!新技取得おめでとう!」

 

アヤはナエトルを抱きしめ、頭をぐしゃぐしゃに撫でまわす。しかし、どういうわけかナエトルの視線がまた鋭くなった。

 

「えっ……、どうしたの……?」

 

アヤも背後の無数の視線を察した。恐る恐る振り返るとそこには、無数のゴルバットとズバットが羽ばたいていたのだ。

 

「キャッ!ど、どうしよう……」

 

ナエトルやラルトスは傷ついているし、それ以前にアヤ一人で何とかなる量ではない。アヤは再びヒナに縋りついた。

 

「確かにこれはアヤちゃんじゃむりだねー。わかった、私が何とか——」

 

ようやくヒナが動き出したその時だ、なぜか明かりが点滅を繰り返しだした。ヒナは僅かに訪れる明るい時間に上空を見上げた。

 

「あ~、私のポリゴンZ、混乱しちゃったみたいだね。さてはアヤちゃんと話している間に、怪しい光でも受けたかな?なんかあのゴルバット、たまに変な光を出しているし」

 

「こ、混乱!?怪しい光!?」

 

「怪しい光っていうのは相手を混乱させる技の名前。混乱すると指示が通りにくくなって、たまに自分を攻撃しちゃうんだ。ほらあんな感じに」

 

ヒナの指の先を見ると確かに、ポリゴンZは頭や体を近くの壁や岩にガンガンぶつけている。

 

「——って呑気に解説している場合じゃないよ!早くなんとかしてよ!」

 

とうとうアヤの目には涙が浮かび出した。だが、ヒナは相変わらず余裕そうに笑っている。

 

「大丈夫だって。混乱はボールに戻して落ち着かせれば、すぐに治るから。……あれ?そういえば私、モンスターボールどこにしまったっけ?」

 

まさかの事態だ。ヒナは服やカバンのポケットに手を突っ込みまさぐるが、それらしき物体はない。

 

「ごっめーん。モンスターボール何処かに行っちゃったー。ちょっと探すから待ってて」

 

ヒナはマイペースにバックを背からおろし、荷物を出し始めた。当然アヤはたまったもんじゃない。

 

「えっ、ちょ、ちょっと!」

 

ゴルバットたちはいつ襲ってきてもおかしくない。そう思っている矢先、ついに一匹のズバットが攻撃を繰り出した。

 

「わわわわわわ!ラルトス、何とかしてぇ!」

 

アヤは混乱し、わけもわからずラルトスを繰り出した。

 

「ラルッ!」

 

迫りくる大群の中、ラルトスは両腕を上げる。するとアヤの目の前は白い閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヤが白い閃光から解放されたとき、目の前に広がっていたのは見覚えがある街並みだった。

 

「ここは……もしかして……」

 

間違いない。ハナノシティのポケモンセンターの前だ。なんだかよくわからないけど助かったようだ。その日の夕飯の時にヒナに話を聞いてみたところ、彼女が言うには『ラルトスはテレポートを新しく覚えて、それを使ったんじゃないかと語ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は疲れ切ってしまったのかヒナは電気を消し、すぐに眠ってしまった。アヤは暗がりに一人取り残された。しかし、そんな彼女を月明かりが照らす。気が付くとアヤは、その中で今日のことを思い返していた。高い行動力、独特な発想、人懐っく子供っぽい性格、そしてまともに戦っているところを見なくてもわかる桁違いのポケモンバトルの腕……。考えれば考えるほど、ヒナという人物の不思議さや魅力がわかってくる。

 

「……一見滅茶苦茶だった特訓も、終えてみれば新しい技を二つも習得できているし……。ひょっとしてヒナちゃんて天才?」

 

そう思いをはせていると隣から、消えてしまいそうな寝言が聞こえてきた。

 

「おねーちゃん……、ユキノオー……、ソルロック……、ユキメ……。クゥー……」

 

ヒナはすでに夢の世界に浸っているようだ。仮に天才であるとしても、こうしてみるとヒナもアヤも同じ少女である。

 

「私もいつか、ヒナちゃんみたいなポケモントレーナーになれるかな……?」

 

アヤはそんな淡い希望を胸に秘めながら瞼を閉じた。

 




おまけ:ヒナの手持ち

・謎のトレーナーヒナちゃんの手持ち。なんかの参考にしてください。


☆ラグラージ(♂)
特性:激流
主な技
・滝登り
・ステルスロック
・冷凍ビーム
・あくび

☆テッカニン(♀)
特性:加速
主な技
・剣の舞
・吸血
・影分身
・燕返し

☆ポリゴンZ
特性:適応力
主な技
・破壊光線
・目覚めるパワー(地面)
・悪の波動
・十万ボルト





☆追記
シンシュー地方のマップを目次の先頭に追加しました。


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第七話 リベンジ

マックラトンネルでの訓練から数日後、アヤは再びハナノジムのフィールドに立っていた。

 

「フレーフレー!アヤちゃーん!」

 

フィールド脇のベンチではヒナと、彼女のポケモンたちが総出で応援している。アヤはそれに手を振ると、ボールを顔の前で握り、中のナエトルに語り掛けた。

 

「今度こそ大丈夫だよね。私たち、いっぱい頑張ったもんね」

 

もちろん返事が返ってくるわけではないが、ボール越しからでもナエトルの気持ちは伝わってくる。それは、今日こそバッジをとるというアヤと同じ強い思いだ。以前に増して強い思いを視線に乗せ、それをフィールドの向こうにいる、ジムリーダーのマヤに送った。

 

「フヘヘヘ、不思議ですね。アヤさんからは何も聞いてないのに、この数日間アヤさんが何をしてきたかっていうのが手を取るようにわかる気がします。きっと——いや、これ以上はあえて言わないでおきましょう。これからバトルをすれば分かりますからね。さてアヤさん、準備はいいですか?」

 

「うん、いつでも大丈夫だよ」

 

「それではいきましょう。チゴラス、お願いします!」

 

「いけ!ナエトル!」

 

両者のポケモンが同時にフィールドに降り立った。

 

「チゴラス、ステルスロックです!」

 

「チゴッ!」

 

マヤは前と同じく初手でステルスロックを撒かせた。以前のアヤだったらこの隙にとりあえ突っ込ませていたが今日は違う。

 

「ナエトル、殻にこもる!」

 

今回のアヤはこの隙に防御力を高める指示を送った。前に一度、猛攻を受けたことがあるからこそ生まれる選択肢だ。中々上手くいったとアヤは内心ガッツポーズをした。しかし、チゴラスはすでに攻撃に移っている。ナエトルも迎え撃たなければならない。

 

「ナエトル、近くの岩に隠れて!」

 

「ナエッ!」

 

ナエトルが近くの岩に転がり込む。

 

「フヘヘヘ、岩に隠れても無駄っすよ!チゴラス、体当たり!」

 

チゴラスはマヤの指示通り岩に突っ込み、それを砕きナエトルに迫った。しかし、砕いた先にナエトルの影はない。予想外の事態に戸惑うチゴラス。

 

「今だ!ナエトル、葉っぱカッター!」

 

「ナーエーッ!」

 

戸惑い、動きが止まったチゴラスの背後から無数の葉っぱが襲い掛かる。実はナエトル、岩が砕かれる瞬間に、岩を飛び出しチゴラスの背後をとっていたのだ。

 

「チゴー」

 

効果抜群の技をもろに受けたせいか、チゴラスの足元がわずかにぐらつく。マックラトンネルでの特訓が実った瞬間だ。

 

「なるほど、葉っぱカッターを覚えたんですか……」

 

ついこの間まで一方的にやられていた少女が、たった数日でここまで強くなるとはさすがのマヤも予想外だ。しかし、それにも関わらず思わず口元が緩んでしまうのは、そんな魅力的なトレーナーと戦える喜びからか。それとも純粋にバトルを楽しんでいるからなのか。それをアヤは知る由もない。ただ確実に言えるのは、マヤが笑っている間にもチゴラスは確実に攻め込んできているということだ。

 

「ナエトル、もう一度葉っぱカッター!」

 

アヤの指示とともにナエトルは再び無数の葉っぱを繰り出す。だが相手はジムリーダー。同じ手を簡単に二回も食らうほど甘くはない。チゴラスは葉っぱがナエトルの頭上に現れるのを確認すると同時に、自分で蒔いたステルスロックの裏に身を隠し、葉っぱカッターを防いだ。

 

「そんな!ナエトル、連続で葉っぱカッター!」

 

「ナエナエナエナエッ!」

 

フィールドを埋め尽くさんばかりの勢いで葉っぱが飛ぶ。しかしチゴラスはステルスロックやフィールドに点在する岩を盾に、巧みにナエトルに近寄ってきた。

 

「岩石封じ!」

 

「チゴー!」

 

ナエトルの上に岩石がのしかかる。

 

「さらに踏みつけ!」

 

この一手で戦いの流れはマヤに流れた。チゴラスは岩石封じを受け、回避が動きがやや鈍くなったナエトルを何度も執拗に踏んずける。そしてわずかな反撃も許さないままナエトルの前足に食らいつき、そのまま宙に放り投げた。

 

「ナエ!」

 

ナエトルが地面に叩きつけられる。最初の殻にこもるが功を奏したのか、かろうじて体力は残っているが、もう後はない。ふと気が付けばチゴラスはステルスロックを足場にし、上へ上へあがっている。このままでは前と同じ展開だ。

 

「ど、どうしよう……」

 

アヤはチゴラスが昇っていく様をただ見ているだけだ。しかし、この時ふとステルスロックがアヤの目に入った。

 

「でも、チゴラスってあのステルスロックがないと昇れないよね……」

 

もはや悩んでいる暇などない。アヤは一瞬のひらめきを信じた。

 

「ナエトル、そこの岩に乗っかて、上に向かって体当たり!」

 

「ナエッ!」

 

ナエトルは岩を踏み台ににし、大きく飛び上がった。

 

「チゴラスと同じ感じでステルスロックに飛び移って!」

 

成功するかどうかなんて指示を出しているアヤもわからない。しかしナエトルはアヤを信じ、ステルスロックに飛び移り、やがてチゴラスを射程圏内にとらえた。

 

「目の前のステルスロックに向かって体当たり!」

 

「エーッ!」

 

チゴラスが頂上のステルスロックに飛び乗ろうとした瞬間、ナエトルの体当たりがそれを木っ端みじんに砕いた。

 

「チゴッ!?」

 

チゴラスはバランスを崩し、吸い込まれるように地面に落ちていく。そこをアヤは逃さなかった。

 

「お願い!ナエトル、葉っぱカッター!」

 

ナエトルはアヤの言葉が耳に入ると、大まかな狙いを定め葉っぱカッターを発射した。

 

「チゴーッ!」

 

空中では回避することもままならない。チゴラスは葉っぱカッターの直撃を再び浴びた。そして地面に落ちると、僅かに立ち上がろうとする意志を見せるも叶わず、目を回しながら地面に伏せた。

 

「あ……あれ……?」

 

アヤがいくら待てどもチゴラスが動き出す気配はない。沈黙があたりに流れる。その中をチゴラスはそのまま赤い光に包まれ、マヤのボールへと吸収されていった。

 

「フヘヘヘ、いや~どうやらジブン達の負けみたいですね」

 

その空気を破り、マヤが笑い声をあげる。それと同時にアヤの体はガシッとヒナの腕にとらわれた。

 

「やったよアヤちゃん!アヤちゃんの勝ちだよ!」

 

「えっ……、私が……?」

 

ヒナの顔、マヤの顔、そしてナエトルをかわるがわる見渡す。自身の勝利を実感したのはそれからだ。

 

「やった……、やったよ……!ナエトル~!」

 

ヒナの腕を振りほどき、アヤはナエトルを抱きしめた。そしてワンワンなぜか大泣きしだした。

 

「アヤちゃん……、なんで泣いているの……?」

 

「だって~!勝てたのが嬉しいんだもん~!ウワァ~ン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤが泣き止むまでしばしの時間が必要だった。

 

「あ、あの……?アヤさん大丈夫ですか……?」

 

「うん……」

 

マヤの声で彼女はようやく涙でグシャグシャの顔をあげる。すると潤む瞳にマヤの手に乗った、輝く小さな物体が映った。

 

「これは……?」

 

「ハナノジムジムリーダーであるジブンに勝った証、『ボーンバッジ』っす。さぁ、手を出してください」

 

「こう……?」

 

アヤが手を差し出すと、その上にオムナイトの殻を模した丸いバッジをそっと乗せた。

 

「これが……、ジムバッジ……!」

 

「そうですよ。あと、アヤさんとポケモンの新しい門出を祝って、ポケモンリーグ公認のジムバッジケースと、この技マシンををあげます」

 

「技マシン……?何それ……?」

再び、アヤにとって聞きなれない言葉が出てきた。

 

「技マシンって言うのは、ポケモンに一瞬で技を覚えさせる道具のことです。もちろんポケモンによって使える技マシンは違いますけどね。ちなみにこの技マシンの中に入っている技は岩石封じといって、攻撃と同時に相手の素早さを下げることができる技っす。攻めにも守りにも使える、まさに岩タイプの魅力が凝縮された技といっても過言ではないですね」

 

アヤはCDのような形をしたジムバッジケースと技マシンを受け取った。

 

 

「ありがとう、マヤちゃん」

 

「いえいえ、いいんですよ。未来あるトレーナーの新しい一歩に携わることができた喜びのお礼と思えば安いもんですよ。アヤさん、これからも頑張ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてマヤに見送られながらジムを後にしたアヤは扉から出ると立ち止まり、再びバッジケースを取り出しボーンバッジを眺めた。

 

「えへへ、これが私のバッジか……」

 

もう見ているだけで笑いが止まらない。隣のヒナもまるで自分のことのように嬉しそうだ。その証拠に彼女の口からは、おしゃべりが止まらない。

 

「やったねアヤちゃん。それでさ、初めてジムリーダーに勝った感想はどう?」

 

「もちろん嬉しいよ。まぁ、だいぶ苦戦しちゃったけど……」

 

「マヤちゃんの岩ポケモン凄かったよね。もうるるんってしてきゅるるるるんって感じ!」

 

「えっと……、マヤちゃんのポケモンがすごかったってことかな……?」

 

「そうそう!アヤちゃんはそう思わなかったの?」

 

「まさか!戦いながら、思わず憧れちゃったよ。あーあー、こうやってジム戦を思い出していたらなんだか、マヤちゃんのポケモンみたいな、凄い岩タイプのポケモンが私も欲しくなっ——」

 

「その言葉、本当ですか!?」

 

アヤのセリフが終わるか終わらないかのタイミングで、マヤがジムから目を輝かせながら飛び出してきた。

 

「うぇっ……、マヤちゃん……?」

 

「どうしたの……?」

 

急な登場に、アヤとヒナから思わず変な声が漏れる。

 

「あっ、すみません……。岩ポケモンの話をしていたのでつい乱入したくなって……」

 

その様子を見て、マヤのテンションも元に戻った。

 

「そ、そうだったんだ……。それで、何か私に用?」

 

いまだ心拍数は高いまま、アヤは首をわずかに傾げた。

 

「あっ、はい!そうですアヤさん。アヤさん、今岩ポケモンが欲しいといいましたよね?」

 

「うん。それがそうかした?」

 

「フヘヘヘ、実はそんなアヤさんに耳寄りが情報があって声をかけさせていただいたんですけど……。アヤさん、ずばり化石発掘には興味ないですか?よろしければジブンが化石発掘に連れて行って差し上げましょうか?」

 

「か、化石……?」

 

思わぬ単語が飛び出しきょとんとするアヤ。しかし、同時にヒナの叫びが耳を貫く。

 

「はいはい!私興味ある!もしかして、発掘体験できるの!?行こうよ行こうよ!ね?」

 

こうなったヒナが言うことを聞かないということを、アヤはこの数日で学んでいる。岩ポケモンが欲しいという言葉と、化石という単語がどうしてつながるのかはさっぱりだが、とりあえずアヤも化石発掘に付き合うことにした。

 

「そうですかそうですか。フヘヘヘ、それじゃぁ明日の朝、このジムの前で待ち合わせましょう!」

 

マヤは先ほどにも勝る勢いで目を輝かせながら、何処かへと走り去っていった。

 

 




おまけ:麻弥ちゃんパーティー一覧(本気モード)

・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気麻弥ちゃんの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。ストーリー内にはほとんど登場しないと思われますが、なにかの参考程度にどうぞ。(非公式の略語を一部使用しているのでご了承ください)

★ガチゴラス@イワZ
特性:石頭
性格:陽気
努力値AS252

・諸刃の頭突き
・炎の牙
・竜の舞
・逆鱗

☆バンギラス@達人の帯
特性:砂起こし
性格:控えめ
努力値:HC252

・冷凍ビーム
・悪の波動
・気合玉
・火炎放射

☆ジーランス@レッドカード
特性:頑丈
性格:腕白
努力値HB252

・ステルスロック
・あくび
・アクアテール
・諸刃の頭突き

☆プテラ@プテラナイト
特性:プレッシャー
性格:陽気
努力値:AS252

・地震
・岩雪崩
・氷の牙
・燕返し

☆イワパレス@弱点保険
特性:頑丈
性格:陽気
努力値:AS252

・シザークロス
・地震
・殻を破る
・ロックブラスト

☆ダイノーズ@こだわり眼鏡
特性:頑丈
性格:控えめ
努力値:HC252

・パワージェム
・十万ボルト
・ラスターカノン
・大地の力


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第八話 未知との出会い

気が付けばあと少しで赤評価……。皆さんの評価や感想、お気に入り登録励みになります!


次の日、アヤは約束通りマヤに連れられ化石発掘へと連れられていかれた。

 

 「ふわぁ~、まだ寝てたいのに……」

 

現在の時刻は午前6時。想像以上に朝早い。今すぐにでも布団に潜り込みたいほどだ。

 

「あの二人は、どうしてあんなに朝強いんだろう……」

 

楽しそうに岩ポケトークを繰り広げるマヤとヒナの姿が朧げに映る。これがいい目覚ましになっているおかげで、歩きながら寝るという事態を防げているのは不幸中の幸いといえるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒナさん、アヤさん、つきましたよ!ここがハナノ発掘場です!」

 

アヤの眠気が消えたころ、ようやく目的地のハナノ発掘所にたどり着いた。目の前に広がるのは一面のむき出しになった地層である。

 

「すごい……!」

 

思わずアヤの口から感嘆がもれる。そこには確かに太古のロマンが充満していた。ここにいるとマヤが岩ポケモンや化石に入れ込むのもわかる気もする。しかし、目をつむり、そんなことを一人で思い馳せているとにわかに隣がうるさくなった。犯人はもちろんヒナ、そしてマヤだ。

 

 

「すごい!思ったよりずっとるるるるんってするよ!」

 

「でしょでしょ!ここにはね、珍しい化石がゴロゴロしているんですよ!だからその分、立ち入りることも厳しく指定されていて、ジブンの許可がないと入れないんですよね~」

 

マヤの口から衝撃の言葉がさらっと告げられた。

 

「えっ、マヤちゃん……。そんなところに私たち来ちゃってよかったの……?」

 

アヤの顔が固まる。するとマヤは騒いだせいで乱れた眼鏡を直し、よりはっきり見えるようになった輝く視線をアヤに向けた。

 

「もちろんですよ、アヤさん!岩ポケモン欲しいんですよね?だったらここが一番っすから!いいですか、現在化石は見て飾るだけが楽しみじゃないんです。実は、最新の技術で復活させることができるんですよ!」

 

「復活……!?」

 

「つまり仲間にできるってこと!?」

 

アヤとヒナの目が思わず飛び出しかけた。それを見たマヤのテンションも上がる一方だ。

 

「フヘヘヘ、ハナノシティの博物館にある最新装置を使えばちょちょいのちょいと復元できるんです!まぁ、復元できる種はまだまだ少ないですけど……。まぁとにかく発掘してみましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてアヤとヒナはマヤに発掘の方法を簡単に教わると、思い思いの場所で発掘を始めた。確かにマヤの言う通り化石はゴロゴロと出てく。しかし、掘れども掘れども復元できる化石は一向に出てこない。そしてついに、ヒナがタガネとハンマーを投げ捨てた。

 

「あ~、なんで復元できる化石が出てこないの~!こうなったら出ておいで、ポリゴンZ!この地層に向かって破壊光線!」

 

大自然の中に異質な人工音が鳴り、ポリゴンZの口元にエネルギーが貯めこまれる。それを見たマヤはびっくり仰天だ。大慌てでポリゴンZのまえに立ちふさがった。

 

「ちょっとヒナさん!なにをしているんですか!?破壊光線なんて撃ったら駄目ですよ!」」

 

「なんで駄目なの?破壊光線でドカーンってやった方が早いじゃん!」

 

「早ければいいってものじゃないんですよ!貴重な化石が壊れたらどうするつもりですか!?」

 

「え~、そういうもんなの~?全然るんってしないじゃん。私やーめーた。ラグラージの上でお昼寝でもしてよ」

 

ヒナは頬を膨らませラグラージを出すと、そのまま大の字になって眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のアヤはヒナが飽きた後も黙々と化石を探し続けた。だがこちらだって状況は変わらない。岩をいくら割っても、地層をいくら掘ってもお目当ての復元できる化石の欠片すら出てこないさまだ。アヤの心にもついに疑心が生じる。だが、生き生きとした表情で化石を探し続けるマヤにそんな気持ちをぶつけるわけにもいかない。仕方なくアヤはその思いを振り払うようにタガネを岩にぶつける。すると何やら不思議な物体が姿を現した。

 

「なにこれ?」

 

砂を払ってよく見るとポケモンの甲羅の化石のようだ。今まで見たことのない化石である。もしかしたらこれが復元できる化石かもしれない。そう心を躍らせながらアヤはマヤのところに化石を持っていった。

 

「マヤちゃん、見てほしい化石があるんだけどいいかな?」

 

アヤが化石を渡した途端、マヤから歓声が上がった。どうやらこれがお目当ての化石らしい。

 

「おぉ!?やりましたねアヤさん!これは甲羅の化石といって……。おっと、また悪い癖が……!話が長くなりそうなので、博物館に行きながら解説しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「でねでね、この当時の海はね……」

 

「はぁ……」

 

博物館に向かう途中、アヤは化石への興味を失ったヒナに代わり、マヤの化石トークを一身に浴びていた。当然理解できる内容ではなく、適当なところで相槌を打つので精一杯だ。そんな感じで歩いていると徐々に周囲のにぎやかさが増してきた。気が付けばハナノシティへと戻ってきたようだ。もう何日も滞在しているので大体の街の様子は頭に入っている。あと数分歩けば博物館だ。しかしここで不穏な音が聞こえてきた。女の子の泣き声が聞こえるのだ。異変を感じた三人は音のする方へ走り、十字路を曲がった。すると、曲がった先では女の子が泣きながら黒い服を着たガラの悪い男三人に縋りついていたのだ。

 

「返してよ!私のヨーテリーを返してよ!」

 

「うるさいな!人を泥棒みたいに扱いやがってふざけんじゃねぇぞ!」

 

「俺たちはこのヨーテリーを平和的に利用しようっていうんだ。そっちの方がポケモンも喜ぶだろ?」

 

「待ちなさい!そこの不審者!」

 

真ん中にいる黒服の男が女の子を蹴り飛ばそうとした時だ、マヤが叫んだ。

 

「チッ、またあの女か……」

 

それと同時に黒服の男たちはマヤを睨みつけた。様子から察するにマヤと彼らは初対面ではなさそうだ。マヤは今まで見せてきた温厚さが嘘のように、険しい顔で彼らに迫っていく。

 

「またあの女とは失礼な……!あなた達がそうやって悪い事をするから、ジブンはあなた達の活動を邪魔するんですよ!」

 

「悪い事とはなんだ!何度も説明しているだろ?俺たちは『リゲル団』。世界を平和にするための組織だ!」

 

左端の男が吐き捨てるように叫ぶ。マヤに屈することなく徹底抗戦するつもりのようだ。その証拠に三人ともすでにモンスターボールを握りしめている。

 

「あんまり手荒なことはしたくありませんが相手がその気なら仕方ありません……。アヤさん、ヒナさん、申し訳ないんですけどこの人たちを追い払うのを手伝ってもらえませんか?」

 

「追い払うって……、この人たちと戦うの!?」

 

アヤの顔から血の気が引いていく。明らかに今まで相手にしてきたポケモントレーナーとは雰囲気が違う。できることなら戦わないようにしようとも思ったが、隣ではヒナがすでにボールを構えている。もはや流れには逆らえないところまで来てしまった。震える足をこらえながら、アヤもモンスターボールを取り出した。

 

「へっ、一番弱そうなヤツと戦えるなんて今日はついているぜ!コテンパンにぶっ潰してお前のポケモンも奪ってやる!いけ、アーボ!」

 

「ラルトス!」

 

アヤのラルトスがワンテンポ遅れて現れる。リゲル団と名乗る男はラルトスがボールから出た瞬間を逃さなかった。

 

「アーボ、毒針だ!」

 

「アーボッ!」

 

ラルトスの体に毒針が迫る。不意打ちに等しいこの一撃はもろにラルトスに直撃。それに気をよくしたアーボはさらに連続で毒針を発射してきた。

 

「ラルトス!テレポートで後ろに回りこんで!」

 

アヤの声とともにラルトスの姿が消え、一瞬にしてアーボの背後に現れた。

 

「念力!」

 

「ラール」

 

さらにアーボの体が宙に浮き、すぐさま地面に叩きつけられる。その隙にアヤは再び念力の指示を出す。ラルトスはそれに合わせてアーボに再び念力を送り、今度は近くの街路樹に叩きつけた。

 

「ア~ボ……」

 

アーボはかすかな鳴き声を上げ倒れた。

 

「チッ、こんな奴に負けるなんて!」

 

敵の男は唇を噛みながら、アーボを戻す。他の仲間もすでにヒナとマヤに成敗された後だ。こうなっては完全にこっちが分が悪い。

 

「ちくしょう!今日のところはここいらで引き下がってやる!だがこの借りは必ず返すぞ!覚えていやがれ!」

 

リゲル団の三人は捨て台詞を履き、奪ったヨーテリーの入ったモンスターボールを投げ捨てると何処かへ行ってしまった。

 

「まったく、リゲル団には困ったものですよね……。女の子を泣かせるような真似をして、世界の平和をよく語れるもんですよ」

 

マヤはため息をつきながらリゲル団が逃げ去った方角を眺めている。しかし、一方のアヤは首をかしげていた。

 

「リゲル団……?ヒナちゃん、リゲル団って何……?」

 

「う~ん、私にもわからないや。なんとなくズーンってしてギランって感じなのはわかったけど……。ねぇマヤちゃん、リゲル団ってなに?」

 

「あぁ、アヤさんとヒナさんは知らないんですね。リゲル団って言うのは、迷惑行為を働いているよくわからない集団のことです。世界平和がどうのこうのって言ってますけど、とてもとても信じられないっす。世の中にはあーいう悪いトレーナーもいますから、二人も気を付けてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、アヤとヒナは奪われたヨーテリーを女の子に返すと、マヤの案内で博物館の研究室に連れてこられた。

 

「ここが研究室か、なんだかマリナ博士の研究室に似てるな」

 

研究室に入った後、アヤは甲羅の化石をマヤに預け自身はヒナとともに研究室の片隅でまたせてもらっている。といってもじっとしているのはアヤだけで、ヒナは研究室や作業中の研究員の作業を好き勝手に見て回っているが……。こんな調子で三十分の時が流れた。

 

「お待たせしましたアヤさん。復元が終わりましたよ」

 

白衣を着たマヤが奥の部屋から戻ってきた。片手にはしっかりモンスタボールを握っている。彼女はそれをアヤにそっと手渡した。

 

「さぁアヤさん、そのボールを投げてください」

 

言われるままにアヤはボールを上へ投げる。ボールは天井で跳ね返り床に落ち、それと同時に赤い光を発した。

 

「カーッブ!」

 

その中から出てきたのは楕円の茶色い甲羅を背負ったポケモンだ。

 

「フヘヘヘ、このポケモンは岩・水タイプのカブトってポケモンっす。実に三億年という気の遠くなるほど昔、石炭紀と呼ばれる時代の海で栄えていいたポケモンで、この時代の示準化石としても有名なんですよ!ちなみにこのカブト、実はまだどこかに生きた化石として生きているらしいんですよね。ジブンも死ぬまでに一目野生のカブトを見てみたいものですが、中々いないんですよ。もしも見つけたらそれだけで論文が書けるほどの大発見——。おっと、また悪い癖が……。化石や岩ポケモンの話になるとついつい長話になってしまって……」

 

「そ、そうなんだ。私は別に気にしてないよ。むしろ、そんなに自分が好きなことを語れて凄いと思うな」

 

「アヤさん……。そう言ってもらえるとジブンも嬉しいです。あっ、だいぶ話はそれましたがカブトを大事にしてあげてくださいね」

 

「もちろんだよマヤちゃん」

 

アヤはマヤに微笑むとカブトを抱え、顔の前までもっていく。

 

「カブトっていうポケモンだったんだね。よろし——」

 

「カブーッ!」

 

だが、カブトは手をすり抜けると、獲物と間違えたのかアヤの顔面にへばりついた。

 

 

「ンー!?ちょ、ちょっと!誰か取って!」

 

突然の出来事でアヤが暴れだす。その傍らではマヤが大慌てでカブトを引っ張り、隣ではヒナが笑い転げていた。新しい仲間が加わったのはいいが、中々騒がしい珍道中になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、アヤとヒナは荷物をまとめてポケモンセンターを後にした。昨日の晩二人で話し合い、そろそろハナノシティから旅たつことにしたのだ。次の目的地はアヤにとって2つ目のポケモンジムがあり、シンシュー地方の最南端に位置する街、『キウシティ』である。

 

「ま、待ってよヒナちゃん……。お、重い……」

 

アヤはハナノシティで新たに旅用の装備を整えたためか、その荷物の重さにまだ慣れていない。まっすぐ歩くこともままならないほどだ。

 

「ハハハハ!アヤちゃんの歩き方面白―い!」

 

当然のことながら、ヒナは笑っているばかりでアヤを手伝おうとはしない。笑いながらどんどんと先行していった。アヤもフラフラと後を追い、何とかそれに食らいつく。こうして二人は仲良くハナノシティの出口へ向かった。

 

「お、来ましたね二人とも」

 

マヤは二人の姿を見つけると、両手を大きく振った。

 

「はぁ、はぁ……なんとかたどり着いた……。ごめんねマヤちゃん。わざわざお見送りに来てくれるなんて……」

 

「いいんですよアヤさん。アヤさんやヒナさんとは色々とありましたから。二人とも、くれぐれも体には気を付けてくださいね」

 

「ありがとうマヤちゃん!マヤちゃんも風邪ひかないでね!」

 

「はいヒナさん。ジブンも健康には気を付けます。健康が一番ですからね」

 

そういうとマヤはヒナと握手を交わし、続けてアヤとも握手を交わす。3人の顔には名残惜し気ながらも、清々しい表情が浮かんでいた。

 

「それじゃぁね、マヤちゃん」

 

「ばいばい~い!」

 

アヤとヒナはマヤに手を振りながらハナノシティを出て、3番道路を進んだ。二人の旅路はまだまだ長そうだ。

 



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第九話 ムックルを探せ!

最近忙しくて中々更新できませんでした。というわけで第九話でーす。


ハナノシティを抜けたアヤとヒナは、キウシティへむけ、3番道路を進んだ。この道は両脇を崖に挟まれた谷底を通る道であり、いたるところに『落石注意』と記された立て看板が設置されている。それに不安を覚え、アヤは足早にここを抜けようとした。が、ヒナの方は崖の上の方でぐらぐら揺れている岩を面白がって中々進もうとしない。

 

「ヒナちゃん早く!早く行こうよ!」

 

「ちょっと待ってよ、アヤちゃん!あと少しであの岩が落ちてきそうなんだよ~」

 

「落ちてきそうって!危ないからダメだよ!」

 

アヤはしびれを切らせヒナの袖をつかみ無理やり引っ張るが、少し進めばまたヒナが立ち止まってしまう。こうして半永久的に上記のやり取りがループするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな調子でアヤとヒナはゆっくりと3番道路を進む。すると徐々に崖と崖の幅が広まり、気が付けば今度はあたりを木々がうっそうと茂っていた。そう、アヤとヒナは3番道路の間に広がる『キウの森』へと足を踏み入れたのだ。

 

「うわ~、なんだかすごい道だね……」

 

「大丈夫だよ、アヤちゃん。ほら、そこに遊歩道の案内板があるじゃん。きっと遊歩道に沿って歩けば迷わないよ!」

 

ヒナが指さす方には確かに遊歩道の向きが示された看板が立ててある。それもツタが生い茂り、ずいぶんと年季の入ったものだ。はっきり言ってこれに従って歩くのはいささかの不安を覚えるが、ヒナはアヤを置いていくような勢いで歩いていく。アヤも慌てて追いかけるが、とてもとても追いつけそうもない。……かと思われたが、案外すぐに追いついた。ヒナは曲がり角を曲がったところすぐで立ち止まっていたのだ。

 

「どうしたのヒナちゃん……?」

 

アヤが声をかけると、ヒナの向こうからポケモンの鳴き声が聞こえてきた。彼女の後ろからのぞき込んでみると、そこには左目に古傷があるムックルが道のど真ん中でうずくまっている。

 

「大丈夫!?」

 

アヤが駆け寄り抱きかかえてよく見ると、そのムックルの左の翼の一部が赤くにじんでいる。翼をケガしてしまっているようだ。

 

「どうしよう……」

 

予想だにしない事態にアヤはあたふたと右往左往してばっかり。しかし、ヒナの方はいたって冷静だ。

 

「アヤちゃん、ムックル抱きかかえてて」

 

言われるがままにアヤはムックルを抱きかかえる。するとヒナは自分のバックから傷薬、さらにペットボトルに入った水を取り出した。

 

「えっと……、これをこうして……」

 

ヒナは傷口を水で洗い流した。その手早さにアヤは驚きだ。

 

「ヒナちゃん……、凄い慣れているね……」

 

「アハハ、傷口も浅いようだし、このくらい楽勝だよ。私もそれなりにトレーナー歴長いしね」

 

そう話しながらもヒナは傷薬をムックルに吹き付ける。それが終えるとムックルは痛みが和らいだのか顔をあげた。

 

「さぁ、もう大丈夫かな。元気でね」

 

アヤはムックルをそっと地面に置いた。しかしムックルは、もう傷も治ったはずなのに中々飛び立とうとしない。あっちに行ったりこっちに行ったりあたりをうろうろするばかりだ。

 

「そういえば前に聞いたことがある。ムックルって群れで行動するんだよ。もしかしてこのムックルは自分がいた群れとはぐれちゃったのかな?」

 

ヒナが思い出したことは、ムックルの様子を見ると正しいようだ。その証拠に、ムックルの鳴き声はどこか物悲しい。

 

「どうしようか……」

 

アヤは悩んだ。野生のポケモンだから、いっそのこと放っておくという選択もなくはない。はっきり言ってこの広い森の中でムックルの群れを見つけるのは至難の業だ。しかし、一人さみしく鳴き続けるムックルを放ったままでは良心が痛む。

 

 

 

 

 

 

 

悩んだ末、アヤ達は再びムックルを抱きかかえた。せめて森の中にいる間でもムックルが元居た群れを探すことにしたのだ。

 

「元居た群れが見つかるといいね」

 

「ムク!」

 

アヤが腕の中に微笑みかけると、ムックルも応える。実にほほえましい旅路であるが、肝心のムックルの群れは一向に見つからない。厳密にいえばムックルの群れ自体は時折見かけるのだが、アヤが保護した左目に傷があるムックルがいた群れがないのだ。こうして歩くこと2時間。そろそろ疲れてきたアヤとヒナは近くの木陰で腰を下ろすことにした。だが、キウの森には、そんなつもりはさらさらないようである。アヤが座ろうとした瞬間、待っていたかのように一匹のアリアドスが木の上から降ってきたのだ。

 

「キャァァァァ!」

 

悲鳴を上げ、ムックルを抱えたままアヤは走り出した。

 

「あ、アヤちゃん!?どこに行くの!?」

 

ヒナもおろしたばかりの荷物をまとめると、すぐさまアヤを追いかける。いつもとは立場が逆だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「追いついた~!」

 

アヤが火事場の馬鹿力を出したせいか、ヒナがアヤに追いつくのは予想以上に時間がかかった。しかもこの時二人は初めて気が付いた。走ることに夢中になるあまり、遊歩道から大きく外れてしまったのである。辺りにあるのは手つかずの大自然。整備された道はもちろん獣道すら全くなく、地面は倒木や岩で荒れ果てている。冷静になってみればよくこんなところ走ってこれたと思うレベルだ。さらに運が悪い事にすでに日も落ちかけている。

 

「う~ん、夜の森は危ないし、今日はここから動かないほうがいいね」

 

結局この日はヒナの判断でここで野宿することとなった。アヤとヒナは協力してテントを張り、自分達とポケモンのご飯を作りそれを食べたが、ムックルはずっと寂しそうな眼差しを空に向けていた。

 

「ムックル、もう寝ようよ」

 

寝る間際、アヤが声をかけてもムックルはその場を動こうとしない。見ればそばに置いたご飯にも手を付けてないようだ。しかし、その小さな体は夜の冷え込みに耐え切れず震えている。それを見たアヤはひょいっとムックルを抱え、テントの中に入った。

 

「そうだよね、仲間がいないと寂しいよね……。だから今日は私が仲間の代わりになってあげる。一緒に寝よ?」

 

アヤは寝袋の中に入ると手でムックルが入れるだけのスペースを作った。

 

「おいでよ」

 

優しい声をかけると、ムックルは恐る恐る寝袋に入る。しかし、その温かさに気が付くとすぐに穏やかな表情を見せ、そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、アヤとヒナは遊歩道に戻るべく、道なき道を進んだ。もちろんムックルの群れを探すことも忘れなかったが、やはり中々見つからない。そしてとうとうアヤたちはキウの森の遊歩道に出てしまった。それも出口に極めて近い位置だ。本来なら喜ぶべきことなのだろうが、これはムックルとの別れを意味している。

 

「あ~あ……、結局ムックルを返してあげられなかったなぁ……」

 

アヤは落ち込み、近くの木陰に座ろうとした。だがここでまたアイツが現れた。

 

「リアー!」

なんと再びアリアドスが現れたのである。それも一匹ではない、三匹も振ってきた。

 

「ヒャッ……!」

 

恐怖のあまり言葉を失うアヤ。しかしアリアドスは敵意をむき出しにして一歩、また一歩とジワジワ攻めよってくる。

 

「あちゃ~、これじゃアヤちゃんは戦えないね。仕方ない、私が何とかしよっか」

 

見かねたヒナはテッカニンが入ったモンスターボールを手に取った。

 

「ムク!」

 

しかしその時、けたたましい鳴き声が森に響いた。見ればなんとムックルが、アヤの腕から飛び出しアリアドスに立ち向かおうとしているではないか。

 

「ムックル……」

 

確かにここでテッカニンを出してしまえば一瞬でアリアドスは撃退できる。しかし、それではムックルの気持ちを踏みにじってしまう。そう考えたヒナはそっとモンスタボールを下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ムク!」

 

一方のムックルはアリアドスに必死に翼を打ち付け果敢に挑むも多勢に無勢。ほとんどダメージも与えられずどんどん追い詰められていく。それを見たヒナは再びモンスタボールを構えた。だがその時、上空から幾多もの羽音と鳴き声が一つの塊となって現れた。ムックルの群れだ。

 

「リアー?」

 

アリアドスも異変に気が付く。だが、彼らが動き出す前に、その群れはアリアドスに押し掛けアリアドスを袋叩きにした。

 

「リアー!」

 

タイプ相性上不利なムックル、それも何十匹もの量に襲われたらひとたまりもない。アリアドスは反撃も許されぬまま、茂みの奥へ逃げていった。そこに残ったのはようやく落ち着きを取り戻したアヤとボールをしまうヒナ、左目に傷があるムックルとムックルの群れだけだ。

 

「ムク!」

 

「ムック!」

 

傷があるムックルはムックルの群れに覆われて嬉しそうな鳴き声を上げている。見たところこの群れが探していた群れのようだ。

 

「あーあ、あのムックル、なんだかるんって感じだからゲットしようと思ってたんだけどな~。群れが見つかっちゃったんなら仕方ないか」

 

「そうだねヒナちゃん。でもいいじゃん、ムックル嬉しそうだし。……じゃあね、ムックル」

 

アヤとヒナは僅かな間だがともに旅した仲間に手を振る。ムックルは元気よく鳴き声を上げると、仲間とともに飛びだっていった。

 

「さぁ、私たちも行こうかアヤちゃん」

 

それを見届けると、アヤとヒナもキウシティに向け歩き出した。しかしこの時アヤは全く気が付いてなかった。上空で頬を赤らめながら、熱い視線を送る例のムックルのことを。

 

「ムク……!」

 

どうやらアヤとともに過ごす中で、ムックルの中に恋心が生まれたようだ。だが、当のアヤはそれを知る由もないのであった。

 



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第十話 キウシティ解放戦

今回は展開の都合上長めです。すみません!


キウシティ側の3番道路は周りの山や地形が複雑に関係している気象条件により、常に雨が降り続いている。その為周囲のいたるところにはため池や湿地が形成されており、まさに水辺に生息するポケモンのパラダイスといえるだろう。アヤとヒナはキウの森から出るとレインコートを羽織り、この道を進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3番道路を抜けた先にあるのは、いよいよ彼女たちの目的地であるキウシティだ。キウシティには科学技術の発展に力を入れるという方針があり、そのため画期的な優遇措置を講じて多種多様な研究施設を招いている。おかげでこの街は、民家を見つけるより研究所を見つける方が楽とまで言われるほど研究所が多い。またキウシティは、科学技術の発展とともに環境の保護にも力を入れており、その施策の第一歩として一昨年から街で使う電力をすべて水力や地熱、風力や太陽光といった自然エネルギーのみで賄うことにした。その先進性ゆえに全国的に注目を集めている街といっても過言ではなく、定期的にキウシティの中央ホールで行われる博覧会にはシンシューは勿論、カントーやジョウト、さらにはアローラやカロスからも人が集まるほどの賑わいを見せているほどだ。このようにシンシュー地方屈指の賑わいを見せるキウシティなのだが、アヤとヒナがこの街に着いたとき、この街の様子はどこかおかしかった。

 

「なんか……、ずいぶんと殺風景だね……」

 

アヤの目の前に広がる街は上記のような賑わいの欠片もない。人っ子一人見かけない風景はまるでゴーストタウンだ。と思った時である、近くの民家の窓がそっと空き、中からおじいちゃんが顔を覗かせた。

 

「そこの若いの、何をしている!今外に出るのは危ないぞ!」

 

小声ながらも厳しい口調である。何かが緊急な事態が起きていることだけは確かだ。

 

「おじいちゃん、この街で何が起きたの……?」

 

アヤが小声で聞き返す。すると彼は周りを伺いながらささやいた。

 

「今この街に大勢のリゲル団が来ている。標的はこの街で一番大きい、シラカバ博士の研究所らしいが、ガラの悪い下っ端や幹部に目をつけられたら何をされるかわからん。その上ジムリーダーもジョウト地方に帰省してしまっている。だからこうしてみんな隠れ——っておい!そこのお嬢ちゃん、どこへ行く!?」

 

おじいちゃんが不意に大声をあげた。驚いたアヤがふと見ると、隣にいたはずのヒナがいない。彼女はおじいちゃんの静止を無視して何処かへ走っていった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!ヒナちゃん、どこ行くの!?」

 

気が付けばヒナの姿はずいぶんと小さい。このまま放っておくわけにもいかず、アヤも急いで追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤが追いついたとき、ヒナは植え込みの裏でしゃがんでいた。

 

「ヒナちゃ——」

 

だがアヤが声を掛けようとすると、ヒナは人差し指を鼻の前で立てた。アヤはそれを見てとっさに口を手で覆う。そしてヒナに手招きされ、植え込みの裏にしゃがみこんだ。

 

「そっと向こう側を見てみて」

 

ヒナに言われるままに、アヤは植え込みからゆっくりと顔を覗かせる。

 

「えっ!これって……」

 

そこには驚きの光景が広がっていた。正面に見えるシラカバ博士の研究所の前に、ハナノシティで出会った黒服の男たちと、同じ服を着た男や女が大勢たむろしているのだ。間違いない、リゲル団の下っ端である。

 

「ど、どうしよう……、ひ、ヒナちゃん……!」

 

背筋が凍るような光景のおかげで、思わずアヤの目に涙がたまる。だがヒナは不敵な笑身を浮かべながら呟いた。

 

「アヤちゃん、リゲル団を私たちで追い払おうよ」

 

「えっ!?今なんて……」

 

アヤは自分の耳を疑ったが、ヒナの顔は悪戯をたくらむ子供のようである。この様子からして聞き間違えではなさそうだ。

 

「やめようよヒナちゃん!ジムリーダーの人が来るまで私たちも隠れていようよ!ほら、前にマヤちゃんもリゲル団は危ないって言ってたじゃん!」

 

アヤは必死で首を横に振った。しかし、ヒナは全く聞く耳を持たない。それどころか、その目の輝きはまるでこの緊迫した場にそぐわないものである。

 

「悪い人から街を救うのって、なんだか正義のヒーローみたいできゅるるるるるるんってするじゃん!」

 

「えぇ……、そんな理由で……」

 

「とりあえず、今から私が裏口に回って、下っ端の注意を引き付けるからアヤちゃんはその間に正面から研究所に入って」

 

「げっ、わ、私も戦力なの!?」

 

「もちろんだよ。大丈夫大丈夫、見た感じ下っ端は大したことなさそうだからアヤちゃんでも勝てるよ。それじゃ、またあとでね。ばいば~い!」

 

ヒナはウインクを残し、ピクニックに行くかのような身軽さで何処かへ去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒナが去った後、アヤは植木の裏で震えていた。緊張のあまり体中に冷や汗が伝う。心臓もバクバクだ。一方そのころ、研究所の正面口からは一人の下っ端が走ってきて、正面口にいる下っ端たちに何やら騒いでいた。

 

「おい、お前ら!裏口の方へ急げ!テッカニンを連れた変な女が研究所に侵入してきたらしいぞ!」

 

「なんだいアンタ、女っていっても高々一人だろ?そのくらい適当に遊んでおけば泣いて帰るっしょ」

 

「そうだそうだ!俺たちリゲル団が恐れる相手ではないわ!」

 

「それがその女、ものすごく強いんだよ!むしろこっちが遊ばれている!」

 

「なんだよ、男のくせにだらしないなぁ~!仕方ない、加勢しに行くよ!」

 

暫くすると、急に目の前が静かになった。恐る恐る首を植木から出すと、そこにはもう人っ子一人いない。

 

「別に私はヒーローになんてならなくてもいいんだけどなぁ……」

 

だがここまで作戦が進んでしまえば後戻りはできない。渋々アヤもしっかりモンスタボールを握りしめ、植木から体を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、お邪魔しまーす……」

 

様子を伺いながら、アヤは研究所の中に入った。研究所独特の空気と緊張した空気が混じり、内部は異質な雰囲気を醸し出している。アヤはそこを恐る恐る、物音を立てぬように進んだ。

 

「リゲル団と会いませんように、会いませんように……!」

 

しかし、その願いは儚くも散った。曲がり角を曲がったとき、彼女の目の前に男女のリゲル団員が現れたのだ!

 

「くそっ!こっちにも侵入者か!?」

 

「かまわない!やっちまいな!」

 

リゲル団の下っ端はアヤの姿を見るや否や、ポチエナとヤングースを繰り出す。藪から棒の事態にアヤの頭は真っ白だ。

 

「えっ……!ちょっと待ってよ!え、え~っと……、ナエトル、ラルトス!お願い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちくしょう!覚えていやがれ!」

 

数分後、アヤに負けたリゲル団員は捨て台詞を残して走り去っていった。この勢いに乗り、アヤはなんだかんだで、時折現れるリゲル団の下っ端に勝利し続けた。そして最上階に続く階段を守る下っ端を倒し、所長であるシラカバ博士の部屋にたどり着いたのだ。今まで倒した下っ端の話をまとめると、ここにシラカバ博士が監禁されているらしい。

 

「それっ!」

 

アヤは大きく深呼吸をし、一思いに扉を開く。同時に中にいるリゲル団の視線が一斉に突き刺さってきたとは言うまでもない。

 

「なんだお前は?」

 

すると下っ端とは異なり白い服を着た、一段と人相の悪いリゲル団員がアヤに詰め寄ってきた。

 

「俺たちはなぁ、大人同士の話し合いをしているんだよ!ガキは引っ込んでママのお手伝いでもしてな!」

 

彼は近くにあったゴミ箱はを蹴り飛ばし、アヤを威嚇。当然アヤは驚いたが、彼女は同時に見てしまった。奥の方でリゲル団員に囲まれて震えているシラカバ博士と思われる白衣の男を。それにあの様子はどう見ても話し合いをしているようには見えない。間違いなく恐喝やその類だ。これを目にしてしまってはアヤも引き下がるわけにはいかない。あふれ出そうな涙をこらえ必死に叫んだ。

 

「や、止めてよ!そんな乱暴なことどうしてするの!?その……、あのおじさん怖がっているじゃん!」

 

「あぁん?」

 

白い服を着たリゲル団員の顔に『怒り』の二文字が浮かぶ。アヤが涙をこらえるのもそろそろ限界だ。しかしリゲル団員はそれを知ってか知らずか、ポケットからモンスターボールを取り出していた。

 

「リゲル団幹部であるこの俺にケンカを売るとはいい度胸だ。そのケンカ、喜んで買ってやるよ!行け、ギギアル!」

 

「ギギギギ!」

 

彼が繰り出したのはギギアル。ギアのようなパーツが組み合わさったポケモンだ。

 

「行け、カブト!」

 

対するアヤが繰り出したのは最近仲間にしたばっかりのカブト。だがカブトを出した瞬間、アヤの視界は真っ暗になった。理由は簡単、ボールから出るや否やカブトがアヤの顔面に跳びついてきたからだ。

 

「んーっ!カブト、離れて、離れて!」

 

アヤは力づくにカブトを顔から引き離すと床に置く。しかしその時、すでに相手のギギアルは攻撃に移っている最中だった。

 

「ギギアル、電撃波!」

 

ギギアルから電撃が放たれる。アヤもカブトのマッドショットで迎え撃つが、電撃波の威力を相殺できただけだった。ギギギアルは鋼タイプ、対するマッドショットは鋼タイプに強い地面タイプ。辛うじて覚えつつあるタイプ相性をもとにして出した指示ではあるのだが、馬鹿みたいに正面から挑んでは無意味であった。ポケモンバトルとは一筋縄ではいかないとアヤ痛感せざるをえない。だがその間にリゲル団幹部は攻撃の手を弱めようとしなかった。

 

「ギギアル、ギアソーサー!」

 

ギギアルのギアの回転数が上がり、カブトに襲い掛かる。

 

「カブト、かわして岩石封じ!」

 

「カブ!」

 

アヤは次の作戦に移った。カブトは指示と同時に飛びのき、岩をギギアルの上に落とす。マヤから受け継いだこの技は見事ギギアルに命中。ダメージは大したことないが、そのスピードは僅かに落ちている。しかし興奮しているせいか、リゲル団幹部はそのことに気が付かない。

 

「へっ、そんなカスみたいな技効くかよ!ギギアル、電撃波!」

 

ギギアルから再び電撃が放たれる。しかし、その瞬間アヤは勝利を確信した。

 

「カブト、床にマッドショット!」

 

カブトが床にマッドショットを撃つと、その反動でカブトは壁の方へ飛ばされる。だが、これも作戦通りだ。

 

「壁を蹴ってギギアルの上に!そしたら連続でマッドショット!」

 

カブトは小さな足で壁を蹴る。マッドショットの勢いを活かし、天井すれすれまで飛び上がった。

 

「カーブーッ!」

 

そしてそこで繰り出されるマッドショット。岩石封じの効果で素早さが低下しているギギアルは回避することもままならず、死角からの一撃を前にあっけなく地面に落ちた。

 

「……よし、これで私たちの勝ちだね。ありがとうカブト」

 

アヤはカブトをボールに戻した。そして彼女のキャラに似合わぬ険しい表情を受かべながらリゲル団幹部に一歩ずつ詰め寄った。

 

「さぁ、私たちの勝ちだよ。シラカバ博士を解放して!」

 

ポケモンバトルに勝ったこともあり、アヤは強気だ。

 

「まっ……、待ってくれ。すまない……許してくれ……。俺はリーダーの言うとおりにしてきただけなんだ。俺もイヤだったのだがしかたなかったんだ。なっ……だから、たっ……助けてくれ……!何でも言うことを聞く!ほら……このとおりだ……」

 

対する幹部はさっきまでの勢いはどこへやら、顔が真っ青だ。両手を上げ、情けなく叫び続けた。そのみじめな姿に思わずアヤの勢いが弱まるほどである。だがその瞬間、幹部の顔に狡猾さが舞い戻ってきた。

 

「と……、油断させといて……。馬鹿め……死ね!」

 

一瞬のスキをつき、ポケットから第二のモンスターボールを取り出す。その不意打ちにアヤの動きが固まった。すかさず幹部はモンスターボールを投げようとする。だがその直前、入り口の方に強大な気配が現れた。

 

「こんなところで何をしているのかしら?」

 

それは落ち着いた少女の声だ。その声が発せられると同時に、幹部が硬直する。ただ者ではないそのオーラに釣られ、アヤも後ろを振り向いた。

 

「えっ、ヒ……」

 

その顔を見たとき、アヤは思わずヒナの名を口にしかける。だが、それはすぐに喉の奥へ押し戻された。確かに顔つきや髪色はヒナと瓜二つである。しかし、その少女の髪はヒナに比べ長く、なりよりその目つきは氷のように冷たい。

 

「私の部下が無礼を働いたこと、心からお詫びするわ」

 

彼女はアヤに一礼するとそのまま幹部に冷めた視線を突き刺す。そして彼のもとに、惚れ惚れしてしまうようなきれいな姿勢で歩み寄った。

 

「シラカバ博士の説得にずいぶんと時間がかかっているから様子を見に来てみれば、なんて様なのかしら?」

 

「ひっ……!お、お許しください!」

 

幹部がその場に崩れ落ちる。だがその少女はさらなる追い打ちをかけた。

 

「謝る必要なんてないわ。もう貴方はリゲル団ではありませんから」

 

「そ、そんな!どうして!?」

 

「負けを負けと潔く認めず、卑怯な真似をする無能な奴はリゲル団にはいらない。ただそれだけです」

 

いたって静且つ冷静な言葉遣いだ。傍らで聞いているアヤですら、その言葉からは怒り——、いや、怒りを通り越した失望が伝わってくる。だが気が付けば、その視線はアヤ自身に向かっているではないか。

 

「貴女、名前は?」

 

「あ、アヤです……!」

 

ふいに名前を聞かれ思わず声が裏返る。しかしその少女は全く意に介すことなく言葉をつづった。

 

「私の名前はサヨ。この世に完全なる平等な世界を造るために活動している『リゲル団』のリーダーよ」

 

「平等な世界……?」

 

平等な世界といわれてもさっぱりだ。アヤは無意識に首をかしげる。するとサヨが再び口を開いた。

 

「いいかしら、この世には『才能を持つ人間』と『才能を持たざる人間』——言い換えるのなら天才と凡人の二種類の人間がいる。でも皮肉なことに、この世で望むものを求め、幸福を手にする権利を持つのは一握りの天才だけ。対する凡人は決して天才に追いつけず、彼らに見下されることを強いられる……。だから私たちはこの不平等な世の中を変えなければならない、この腐りきった世界を、何もかもすべて!」

 

「……」

 

言葉を失うアヤ。と、その時サヨがアヤの方に手を差し伸べてきた。

 

「見たところ、あなたは希望には満ち溢れているのだけれども、所詮は多くの人間と同じく凡人と呼ばれる人間なんでしょう。どうでしょうか、私の新しい部下になる気はありませんか?私とあなたならきっと世界を変えられるは——」

 

「いやだよ!私は人を困らせるためにポケモントレーナーになったんじゃないもん!」

 

アヤの渾身の叫びだ。しかしサヨは相変わらず冷静である。

 

「……いいでしょう、貴女のその考えは尊重しましょう。ですが、くれぐれも私たちの邪魔だけはしないでくださいね。一瞬でも邪魔になるようなことをしたら、容赦はしないわよ」

 

それだけを言い残すとサヨは周りのリゲル団員を集め、何処かへ立ち去って行った。残されたのはシラカバ博士とアヤだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん!リゲル団員と遊んでいるのが楽しくて遅くなっちゃった!」

 

暫くすると、この重い空気を破るような明るい声が部屋に響いた。ヒナがようやくアヤの追いつてきたのである。

 

「なんとか大丈夫だけど……」

 

アヤは今度こそヒナの顔を見ると、どっとその場に座り込んだ。後ろ目でシラカバ博士を見ると、彼は白衣を払いながらもよろよろと起き上がっている。大したケガもなさそうで何よりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ、すまなかった。まったくリゲル団ときたらやることなすことが無茶苦茶なんだから。ワシの科学技術は悪事のためにあるわけではないのに……。いやはや、二人には本当に助かったぞ」

 

数分後、元気を取り戻したシラカバ博士はアヤとヒナを前に笑顔を浮かべると、奥の小部屋に入り、二つの小さな箱を持ってきた。

 

「これはわしらの研究所が開発した最新式のポケモン図鑑。といってもただのポケモン図鑑ではないぞ。電話にメールに写真、その他多くの機能が付いた図鑑だ。図鑑のデータは過去の機種から引き継げるし、電話やメールも現行機種ならどれとでも通信できる優れモノだぞ。本当は来週販売する予定なんだが君たちは命の恩人だ。よかったらこれを持て行ってくれ」

 

アヤとヒナの手に最新式の図鑑が渡る。ぱっと見は黒い手のひらサイズのタッチパネルだが、ひとたびタップすると摩訶不思議。博士が言う通り、いやそれ以上の機能が備わっている。さらに図鑑を起動させれば登録したポケモンがホログラムとして浮き上がる仕組みにもなっている。もう感動の一言だ。

 

「ありがとうございます、シラカバ博士!」

 

「ありがとう!」

 

二人はシラカバ博士に笑顔を見せた。そしてしばらくお茶をごちそうになったあと、その部屋を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

博士の部屋から出口までは意外と遠い。その間研究所内にはアヤとヒナの楽しそうな声が響いたのであった。

 

「博士の話にはびっくりだよ。アヤちゃん、幹部の人どころかリーダーの人も追い払うなんて!」

 

「いや、確かに幹部の人は倒したけど、リーダーの人は自分で立ち去っただけだよ」

 

アヤは恥ずかしそうに笑う。

 

「ねぇ、アヤちゃんリーダーの人ってどんな人だったの?怖かった?」

 

「あれ、ヒナちゃん会わなかったの?」

 

「なんだか私、すれ違っちゃって会えなかったみたいなんだよね~」

 

だがヒナの質問は止まらない。輝く視線をどんどんアヤに送ってくる。

 

「えっとね……、リーダーの人はね……」

 

だがこの時アヤは確かな胸騒ぎを覚えた。ここでサヨのことをしゃべってはいけない。どこにも根拠はないが、直感的に感じたのだ。

 

「えっと…、結構普通の人だったよ」

 

アヤは言葉を濁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩くとアヤとヒナはようやく研究所から出ることができた。しかし二人の足はそこで止まった。彼女たちの目の前に、物静かな少女が歩いてきていたのだ。

 

「あ……、貴女たちは……?リゲル団ではなさそうですけど……?」

 

彼女は二人の前に来ると首を傾げた。その声はたどたどしいが、聞いていて心地が良い優しい声だ。

 

「リゲル団?リゲル団ならさっき、アヤちゃんが倒したよ」

 

ヒナが威勢よく答えた。謎の少女の声を聴いた後であるのが原因なのか、その声はいつも以上に活きが良く聞こえる。

 

「そうだったんですか……。私の名前はリンコ……。ここの近くをたまたま通りかかった時……、この街でリゲル団が暴れていると聞いたから……駆け付けたんですけど……。その必要はなかったみたいですね……」

 

リンコがホッと胸をなでおろす、すると、突然アヤが叫んだ。

 

「あれっ……?リンコ……、リンコさんってもしかしてあの有名なピアニストの……!?」

 

「あ……、私のこと知っていたんですか……?」

 

「はい!お母さんが大ファンで、リンコさんのCDも家にありますよ!私もお母さんと一緒にテレビでよく見ます!」

 

「ふふふ……、ありがとうございます……」

 

リンコが穏やかな笑顔を見せる。そして彼女はカバンの中を探り、とあるディスクなようなものを取り出した。

 

「えっと……、アヤさんでしたっけ……?あの……、リゲル団を追い払ってくれたお礼と……、いつも応援してくれているお礼を兼ねて……この技マシンをあげます……。中に入っているのは……『シャドーボール』……。私のお気に入りの技なんですよ……」

 

「えっ、そんな大切なものをもらってもいいんですか……?」

 

「はい……。私はもう使う機会もすくないですから……。アヤさんが使った方が……有効に活用できるはずです……」

 

「そうですか。それじゃぁ、ありがたく使わせてもらいます」

 

アヤは技マシンを受け取るとバックにしまった。その間リンコはどういうわけか嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「あなたのその純粋な目……、きっとポケモンも……、大切にしているんでしょうね……。アヤさん、そしてもう一人の名前は……」

 

「ヒナだよ。よろしくね」

 

「ヒナさんというんですね……」

 

リンコはヒナと握手を交わすとカバンの中からボールをだし、サザンドラを出した。

 

「アヤさん……、ヒナさん……。あなた達ならきっと強くなれる……、そんな気がします……。またどこかで会いましょうね……」

 

リンコはサザンドラにまたがると、アヤとヒナに見送られ大空へと飛びだっていった。

 



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第十一話 チョココロネマスター・フェアリーマスター

どうでもいいけどキウシティのBGMのイメージはカイナシティ。ジムリーダー戦のBGMはシンオウか、ハートゴールド版のカントー。


シラカバ博士の研究所があった翌日、ポケモンセンターの宿泊部屋でゴロゴロしていたアヤとヒナのもとにジムリーダーが帰ってきたとの一報が飛び込んできた。早速アヤはポケモンセンターにある機械でジム戦を3日後に予約。それからは外で練習を重ね、来るべきジム戦に備えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして3日後の昼すぎ、アヤはヒナとともにキウシティジムの前に来ていた。あと数分後には2つ目のジムバッジをかけた戦いが始まる。ジム戦はすでに経験済みであるのにも関わらず、胸のドキドキが止まらない。

 

「今度はあれだけ練習をがんばったんだから、大丈夫だよね……」

 

アヤの脳裏に、予約してから今日までの出来事がよみがえる。前回のジム戦の二の舞にならないように、ここ三日間は朝起きてから寝るまで彼女と彼女のポケモンはポケモンバトル漬けだ。さらになけなしのお小遣いで、新しい技マシンもいくつかフレンドリィショップで買いそろえた。自分にできることはすべてやった。あとはそれをジムリーダーにぶつけるだけだ。

 

「行こう!」

 

意を決し、アヤはキウシティジムの入り口をくぐる。

 

「さーて、今日はどんなるんってくるバトルが見られるかな~。楽しみ~!」

 

さらにアヤに続いてヒナも、鼻歌を歌いながらジムの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、チャレンジャーの人かな……?」

 

中に入ると、アヤの耳にとろけそうな甘い声が入ってきた。見るとバトルフィールドに通じる扉の前から小柄な少女が歩いてくる。彼女こそがここのジムリーダーのようだ。

 

「はい、私がチャレンジャーのアヤです!」

 

アヤは元気のよい声をあげた。その顔には緊張が見られるものの、やる気に満ち溢れている。

 

「アヤさん……、素敵な名前ですね。私の名前はリミ、フェアリータイプが得意なんだ。あっ、アヤさん達の活躍のことはいろんな人から聞いているよ。ごめんね、本当はリゲル団を追い出すような危ない仕事はジムリーダーである私がやんなきゃいけなかったんだけど、ジョウトのコガネシティにいるお母さんが体調崩しちゃったみたいで、看病のために急に帰らなきゃいけなかったんだ……」

 

「いや、そんな申し訳なさそうな顔しないでくださいよ!私達が好きでやったみたいなものですから」

 

「でも、一言だけお礼を言わせて。二人とも、ありがとう」

 

リミはアヤとヒナの手をかわるがわる、笑顔で握りしめた。ここまでお礼を言われると照れてしまい、バトル前にもかかわらず気持ちが緩んでしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、二人はリミに連れられてフィールドに向かった。キウシティジムのフィールドは、壁面は鮮やかなピンクで塗装されており、リミの趣味なのかところどころにチョココロネを模したレリーフが施されている。岩が点在し、全体的にゴツゴツしていたハナノシティジムとはことなり、ふわふわとした可愛らしい印象を受けるジムだ。

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

アヤは胸に手を当て、フィールドの端のベンチに座るヒナ、そしてフィールドの向こうで立つリミを眺めた。

 

「アヤさんは確かバッジを一つ持っていたんだよね。だったら私は……、このポケモンで勝負しようかな」

 

リミはポケットから一つのモンスターボールを取り出した。アヤもそれに合わせ、ボールを構える。

 

「リミさん、お願いします!」

 

「わかった。それじゃあ始めようか。私とポケモンに見とれて負けても文句はなしだよ。頼むで、ミミッキュ!」

 

朗らかなコガネ弁とともにピカチュウ——ではなく、ピカチュウのような布を被ったポケモンが飛び出した。対するアヤが繰り出したのはミミッキュと同じフェアリータイプのラルトスだ。

 

(リミちゃんのポケモンはミミッキュか……。ミミッキュの特性は厄介だからなー)

 

ヒナはそのことを伝えようと声を出そうとする。だが、時すでに遅し。アヤはもうすでに攻撃の指示を出していたのだ。

 

「ラルトス、念り——」

 

「ダメ、アヤちゃん!」

 

アヤの指示とヒナの叫びが重なり、指示がかき消される。ところがラルトスは機転をきかし念力を放ってしまったのだ。念力は見事ミミッキュに命中。しかし、ミミッキュはこてっと首が折れただけで平然としている。

 

「あれ、効いていない?どうして……!?」

 

予想外の事実に戸惑うアヤ。リミの計画通りだ。

 

「うふふふ、どうして攻撃が効かなかったんだろうね?さ、ミミッキュ反撃しよ。ウッドハンマー」

 

「ミミ!」

 

リミの声とともにミミッキュが飛び上がった。ミミッキュの背後には緑に輝く不気味な尾のようなものが見える。

 

「ラルトス、リフレクター!」

 

新しく技マシンで習得させた技だ。ラルトスは上を向き、両手で薄い壁なようなものを発生させる。ミミッキュのウッドハンマーが襲い掛かってきたのはその直後だ。

 

「ラル……」

 

リフレクターで威力を半分にしたのにもかかわらず、ラルトスの足はおぼつかない。しかし、ふと見ればラルトスに黒い影が迫っているではないか。

 

「テレポートでよけて!」

 

黒い影がラルトスを突き上げる直前、ラルトスはすぐ近くにテレポートした。だが、テレポート先でも黒い影、すなわちミミッキュの影打ちが襲い掛かる。

 

「もう一回テレポート!」

 

ラルトスは再びテレポートでよけた。だが、黒い影はどこに逃げてもラルトスを追いかけてくる。

 

(ミミッキュの特性は攻撃を一度だけ無効にする『化けの皮』。その間に変化技を使うトレーナが多いから挑発すればミミッキュの出鼻をくじけた。きっとあの火力から推測するに、リミちゃんは剣の舞を使って攻撃力を上げたんだろうな……。せっかくラルトスも技マシンで挑発を覚えたんだから使えばよかったのに。これはまた、アヤちゃんの負けかな~)

 

ヒナはベンチにいながら苦虫をかみつぶした。もはやラルトスは、火力が上がったミミッキュからテレポートで逃げることしかできていない。そしてついに、疲労からかテレポート先で体がぐらついた。その直後、影打ちの餌食になったのは言うまでもない。

 

「ラ……ル……」

 

影打ちを受けたラルトスは倒れた。かろうじて気絶ではないものの、もはや戦えるだけの力は残されていない

 

「ごめんねアヤさん。どうやら私の勝ちみたいだね。ミミッキュ、ウッドハンマー!」

 

ミミッキュが再び飛び上がった。フィールドに伏すラルトスに、木の鉄槌が迫る。

 

「ラルトス!起きてよ、ラルトス!」

 

だがアヤはまだ諦めていない。ありたっけの想いを乗せ、ラルトスの名を喉が枯れるほど叫んだ。

 

「ラル……!?」

 

するとアヤの必死な想いが届いたのであろうか。ラルトスは起き上がり、間一髪でウッドハンマーを回避した。

 

「あの状況で避けられた!?」

 

リミは目を疑った。しかし、これはまだ序の口に過ぎなかった。突如、ラルトスの体が光り輝いたのだ。

 

「キル!」

 

光の中から出てきたのはラルトスではない。ラルトスに似た別のポケモンだ。

 

「えっ……、ラルトスは……?」

 

横目でヒナに助けを求めた。と、ヒナが急に立ち上がった。

 

「やったねアヤちゃん!ラルトスが進化してキルリアになったんだよ!」

 

「えっ、進化……?キルリア……?あっ、そういえば前にマリナ博士が言ってたっけ。『ポケモンは成長すると進化してさらに強くなることがある』って……』

 

その時、キルリアとアヤの目が合った。キルリアの体はボロボロだが、その目は闘志に満ちている。まだまだ勝機はある。アヤはそう確信した。

 

「よし、行こう!キルリア、念力!」

 

「キル!」

 

キルリアの目が青く発光し、念力がミミッキュをとらえた。ミミッキュはラルトスの進化に動揺し、動きが遅れたのである。

 

「キルキルキルキル!」

 

キルリアはそのままミミッキュを振り回し、フィールドに叩きつけた。より強力となった超能力も相成り威力は絶大だ。

 

「そんな……、進化なんてありえへんわ!ミミッキュ、影打ち!」

 

動揺し、思わずいつも封印しているコガネ弁が漏れたが、リミも諦めずに反撃に移ろうとする。しかし、ミミッキュはリミの言うことを聞かずに床に頭を打ち付けてばかりだ。先ほど受けた念力の追加効果で混乱してしまったのである。残り体力少ないキルリアが攻め立てるには絶好の機会だ。

 

「キルリア、シャドーボール!」

 

「キル!」

 

キルリアはアヤの指示で飛び上がり、新たに技マシンで覚えていたシャドーボールを発射。

 

「避けて!」

 

ミミッキュはリミの声で回避。しかし視界にはすでにキルリアはいない。と、思った瞬間背後に強烈な力を感じた。キルリアがテレポートしてきたのだ。

 

「もう一度シャドーボール!」

 

「キールッ!」

 

ほぼゼロ距離で、ミミッキュの背中にシャドーボールが叩きつけられる。流石のミミッキュもひとたまりもない。

 

「ミミ……」

 

そのままミミッキュは前のめりに倒れた。戦闘不能である。

 

「どうやら私の方が、相手のポケモンに見とれちゃったみたいだね……」

 

リミは笑顔でボールにミミッキュを戻した。その笑顔は悔しさがにじみ出ているが、どこか清々しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくたつとリミは奥の部屋から黒くて小さな箱をアヤのところへ持ってきた。

 

「アヤさん、とても素晴らしいバトルをありがとう」

 

リミが持ってきたのはジムバッジだ。しかし、アヤは受け取ろうとしない。

 

「そんな……、あそこでラルトスが進化してなかったら私は負けていたわけですし……。そんなまぐれで得た勝利でバッジなんか受け取れないです」

 

アヤは差し出される黒い箱を手でそっと押し戻した。だが、それにも関わらずリミは再びバッジが入っている箱をさし伸ばしてきたのだ

 

「アヤさん、私はあの進化はまぐれじゃないと思う。あれはきっと、アヤさんが日ごろからポケモンを想っているからこそ、あの場面で進化したんだと思うな」

 

「そうだよアヤちゃん!バッジを受け取りなよ!」

 

リミに続きヒナもアヤにバッジを進てくる。アヤはまだボールに戻していないキルリアを見た。キルリアはアヤのことを真剣なまなざしでじっと見てくる。キルリアも他二人と同意見のようだ。

 

「そっか……、そういうこともあるんだ……」

 

「うん、勝敗は決して単純なポケモンの強さだけでは決まらない。だからポケモンバトルは奥深いんだよね。だからジムバッジを受け取って、アヤさん。これが私に勝った証『キュートバッジ』だよ」

 

ハートの形をした小さなバッジがアヤの手に渡る。するとリミはさらに技マシンもアヤに渡してきた。

 

「これは『マジカルシャイン』。強力な光を放って全体にダメージを与える技なんだ」

 

アヤの手にマジカルシャインの技マシンも手渡される。この瞬間、アヤの喜びが爆発した。

 

「やった、キュートバッジゲットだよ!」

 

アヤはきらりと輝くバッジを空高く掲げた。

 




おまけ:りみパーティー一覧(本気モード)

殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気りみりんの手持ちです。名前の横に★はついているのがエース。
りみりんに勝つコツはどんなに理不尽なことが起きても諦めないこと。どんなに理不尽なことが起きてもりみりんを嫌いにならないこと。




★ミミッキュ@ミミッキュZ
特性:化けの皮
特性:意地っ張り
努力値AS252

・じゃれつく
・影打ち
・トリックルーム
・剣の舞

☆クチート@クチートナイト
特性:威嚇
性格:意地っ張り
努力値:HA252

・じゃれつく
・不意打ち
・剣の舞
・アイアンヘッド

☆エルフーン@食べ残し
特性:いたずら心
性格:臆病
努力値:BS252

・守る
・身代わり
・宿木の種
・ムーンフォース

☆ピクシー@アッキの実
特性:天然
性格:図太い
努力値:HB252

・小さくなる
・月の光
・瞑想
・ムーンフォース

☆クレッフィ@光の粘土
特性:いたずら心
性格:図太い
努力値:HB252

・リフレクター
・電磁波
・光の壁
・イカサマ

☆トゲキッス@こだわりスカーフ
特性:天の恵み
性格:臆病
努力値:CS252

・エアスラッシュ
・大文字
・マジカルシャイン
・波動弾


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第十二話 Dr.ヒナ

てなわけで第十二話。今回出てくる育て屋夫婦のイメージはXYのポケモンブリーダー。


 無事に二つ目のバッジを手にしたアヤ達は、数日キウシティに滞在したのちに3番道路とキウの森を通過してハナノタウンに戻り、そこからさらに北上し4番道路へと足を踏み入れた。4番道路はこの先にあるムラサメ湖まで、綺麗にまっすぐ続く道である。また何故だかはよくわからないが、必死になって自転車で往復を繰り返す人が頻繁に現れることでも有名だ。そんな道をアヤはもらったばかりのポケモン図鑑片手に歩いていくのであった。

 

「えへへ~、昨日アップしたカブトと私の自撮りにこんなにリアクションが!今度はどの写真をアップしようかな~」

 

アヤが食いつくように見ているのは図鑑の機能の一つである、世界の人と写真や一言を共有するアプリだ。これ知った時から、アヤはドはまりしてありとあらゆるところで自撮りや風景やポケモンをバシバシ撮りまくっている。そして今日もアヤは4番道路で立ち止まり、遠くに見える雄大な山々を映す、鏡のような池をバックにかれこれ一時間は写真を撮っていた。

 

「やれやれ、アヤちゃんの写真撮影は長いな~。写真なんて適当にとればいいのに」

 

退屈すぎてヒナの口からあくびが出てくる。だが口を大きく開けた瞬間、彼女の前を何かが横切った。

 

「えっ、何……?」

 

とっさに横を見ると、少し離れた位置でカイロスが走っている。さらに一人の緑のバンダナをした青年も遅れてやってきた。

 

「はぁはぁ……、お願いだ!そこの人と写真を撮っている人、カイロスを捕まえるのを手伝ってくれ!」

 

「別にいいけど……、どうして……?」

ヒナも状況はよく呑み込めない。だが事態は急を要するということだけは確かだ。ヒナはアヤを無理やり引きずり、青年とともにカイロスを追いかけたがカイロスは予想以上に元気がよくすばしっこい。

 

「テッカニン、あのカイロスを捕まえて!」

 

走って追いつけないと判断したヒナはテッカニンを出した。

 

「テッカー!」

 

テッカニンは風のようなスピードでヒナたちを追い越し、あっという間にカイロスを捕まえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ、助かったよ。おかげで何とかカイロスを捕まえられたよ」

 

カイロスを捕まえた後、二人は青年に連れられ4番道路沿いにある小さな建物に連れてこられた。話を聞けばここは『育て屋さん』という施設であり、ポケモンブリーダーと呼ばれる人が他のトレーナーのポケモンをしばらくの間、代わりに育てる施設らしい。

 

「育て屋さんか……。人のポケモンを育てるって大変じゃないんですか?」

 

アヤの言葉に対して、青年の顔に苦笑いが浮かんだ。

 

「大変だよ。預かるポケモンは性格も体調や好みもまちまちだから、同じ種類のポケモンでも違った対応をしなくちゃいけないんだけどね。だからいつもは同じポケモンブリーダーの妻と一緒に育てているんだけど、あいにく今日の朝熱を出してしまったんだ……。仕方なく今日は一人でポケモンの世話をしていたんだけど、忙しくてついうっかり庭の扉を閉め忘れちゃって……。そこからさっきのカイロスが逃げちゃったんだよね……」

 

青年はため息をついた。今さっきであったばかりのアヤとヒナが見てもその苦労は伝わってくる。

 

「ねぇ、よかったら私達手伝ってあげよっか?」

 

と、その時ヒナが思いもよらぬことを言い出した。

 

「ダメだよヒナちゃん!私達みたいなド素人が手伝っても、かえって足手まといになるだけだよ!」

 

アヤはいつも通りヒナを止めようとする。だが、結果は彼女の予想とは全く違った。

 

「本当か!?」

 

青年の顔がパッと晴れる。迷惑どころかウェルカムといったところだろうか。そうであるのなら話は別だ。アヤもヒナとともに彼を手伝うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は裏庭に連れていかれた。庭にはオニシズクモやパラセクト、さらにはドゴームやメレシーといったポケモンなど、予想以上に多種多様なポケモンがのびのび暮らしている。二人に任された仕事はこのポケモンたちを見張っていること。言い換えればポケモンたちと遊ぶことだ。

 

「出ていおいで、ナエトル、キルリア、カブト!」

 

「ラグラージ、テッカニン、ポリゴンZ!」

 

アヤとヒナは手始めに自分の手持ちを庭に解き放った。そして手持ちのポケモンたちも育て屋のポケモンたちも関係ない、楽しい時間が幕を開けたのだ。

 

「よしよし……、こっち向いて……」

 

アヤは木の実を撒き、それを食べにくるポケモンたちの様子を写真で撮り続けた。

 

「なんだかこういうのを見ていると、ナエトルとの出会いを思い出すな……」

 

アヤは写真を撮りながらふと横目でナエトルを見た。ナエトルは今、パチリスやデリバードとかけっこをしているようだ。

 

「あれから色々とあったなぁ……」

 

アヤは目をつむり、ナエトルとの思い出を振り返る。と、その時遠くから地響きのような轟音が聞こえてきた。

 

「へっ……!?」

 

何事かと目を開ければ、ケンタロスが目の前にいて、その上に何かを抱えたヒナが乗っていた。

 

「ヒナちゃん、何を抱えているの……?」

 

アヤがヒナの腕をのぞき込むと、中にはクマシュンがいる。

 

「このクマシュンさ、庭の隅で元気なくうずくまっていたから、アヤちゃんが持っている木の実を食べさせようと思って。だから少し木の実を分けてくれないかな?」

 

「えっと、これとこれとこれでいい?」

 

アヤはヒナにいくつか木の実を手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 ところがしばらくたってもクマシュンの容態は中々よくならない。それどころか熱もどんどん出てきて、時折咳までするようになっていた。その日の夕方、アヤとヒナと青年は庭でクマシュンを取り囲んだ。

 

「ど、どうしよう……!」

 

「そんなこと私に言われても……!」

 

青年とアヤは具合の悪いクマシュンを見てもう頭が真っ白である。しかしヒナはそんな二人の横で冷静にクマシュンを抱え、クマシュンの体を色々と調べていた。

 

「えっと……、この水っぽい感じは風邪というよりは、ストレスのせいで体調を崩したのかな?」

 

「「そうなの……?」」

 

アヤと青年は声を合わせてヒナの顔を見た。

 

「多分だけどね。氷タイプのポケモンってさ、絶対とは限らないけどストレスがいっぱいたまると体表が水っぽくなるんだ。例えるなら、氷が解けて水になる途中みたいな感じかな。特に進化前の氷ポケモンはこの症状が現れることが多いね」

 

「そうなんだ……」

 

「そういえば、そんなこと前に習ったような……」

 

反応こそ違うものの、アヤと青年はヒナに驚かざるを得なかった。

 

「ねぇそこの人、最近クマシュンが嫌がるようなことしなかった?」

 

「いやなことはしなかったけど……、このクマシュン実は捨てられたポケモンなんだ。先週の朝、起きて外に出てみれば段ボール箱に入ったクマシュンがいてね……」

 

「ひどい、そんなことするトレーナーがいるなんて……」

 

青年が呟くと、アヤが怒りを仄めかした。すると再びヒナが口を開いた。

 

「あー、だったらそれが原因だね。多分、2~3日くらいゆっくり寝かせてあげればすぐに良くなるよ。なんだったら私がしばらくの間クマシュンの面倒見てもいいよ?」

 

「いいのかい……?」

 

「いいよ。これでも氷タイプのことは、前に少し齧ったことがあるからね」

 

青年が申し訳なさそうにしゃべると、ヒナは迷わず首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ヒナはキッチンに立ち、クマシュン用の食べ物を作っていた。

 

「えっとオレンの実とイトケの実、それからロメの実を少々。これを38度のお湯で15分煮込んで……」

 

アヤも隣でずっとこの様子を見ているが、ヒナが何をやっているのかはほとんどわからない。

 

「すごいね……、ヒナちゃん……」

 

こうやって時折感嘆の声を漏らすのが精いっぱいである。結局この日、ヒナはほとんど寝ずにクマシュンの看病に当たった。それどころかヒナは次の日もクマシュンに付きっ切りであった。その様子は子を看病する母親のようにも見える。ちなみにアヤはその間、青年と熱が下がった青年の妻とともに育て屋で働いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして育て屋に来てから早くも三日後、アヤが起きるとくしゃみをするような音がアヤの耳に飛び込んだ。不思議に思い、鳴き声が聞こえる隣の部屋をそーっとのぞき込むと、元気を取り戻したクマシュンが、ヒナに抱きかかえられながら彼女を迎えてくれた。

 

「あっ、アヤちゃんおはよー!」

 

「マッシュン!」

 

クマシュンを抱きかかえるヒナの姿は、完全に馴染んでいる。だが、クマシュンが元気になったということはクマシュンとヒナとの別れを意味していた。アヤ達は荷物をまとめると、育て屋の夫婦のところにあいさつに向かう。だが、いざ挨拶をかわそうとしたとき、またヒナが思いもよらぬことを言い出したのだ。

 

「ねぇ育て屋の人、私このクマシュン連れて行ってもいい?」

 

「えっ、ヒナちゃん……!?」

 

今までヒナのトンデモ発言は何度も聞いているが、今日のは群を抜いてとんでもない。驚きのあまり、制止することすら忘れてしまうほどだ。しかし当のヒナはいたって大まじめに交渉をしている。

 

「私さ、このクマシュンを看病するうちになんだか気にいちゃったんだよね~。やっぱりダメかな……?」

 

育て屋夫婦は顔を見合わせる。予想外のことを言われて困惑しているのだろうか。しかし、二人はすぐにヒナに笑顔を見せた。

 

「わかったよ。クマシュンがそう望むなら、キミにあげるよ。どうする、クマシュン?そこに人達と一緒に行く?」

 

青年が声をかけるとクマシュンは首を縦に振った。ヒナの手持ちに新たな仲間が加わった瞬間だ。こうしてアヤとヒナは育て屋の夫婦に別れを告げると再び、4番道路を歩きだした。二人の旅路はまだまだ続くのである。

 

 

 

 

 

 



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第十三話 バシッてしてズガガーン!

いろいろジタバタしてたり、寝落ちしたりしていて投稿が遅れてしまいました!というわけで13話目です。


突然だが、アヤは道端の大人のお姉さんにポケモンバトルを挑まれていた。相手が繰り出しているのはオドシシ。そしてアヤが繰り出したのはナエトル——ではなくハヤシガメ。そう、何を隠そうアヤのナエトルは4番道路でバトルを繰り返している間に見事進化を果たしたのである。が、これがトリガーとなってなにやらトラブルが起きているようだ。

 

「ハヤシガメ、攻撃をかわして!」

 

「ヤシー!」

 

バトルが始まって早々に、ハヤシガメはアヤの指示通り回避しようとする。が、体が上手く動かず、オドシシの攻撃をもろに浴びてしまった。

 

「まただ……!どうしよう……」

 

さっきから何度かバトルをこなしているが、ずっとこんなことの繰り返しだ。アヤはいつものように華麗にハヤシガメを動かし、相手を翻弄しようとするが一度として成功しない。結局このバトルはハヤシガメを引っ込め、カブトを繰り出して勝利したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……、私達どうしたんだろう……」

 

「ハヤ……」

 

バトルが終わった後、アヤとハヤシガメは道の端でため息をついた。目をつむれば、今までこなしてきた華々しいバトルが瞳に映る。そして皮肉なことに、その記憶は今のアヤとハヤシガメを苦しめるのだ。

 

「おかしいな……、ナエトルの時と全く同じ指示を出しているんだけどな……」

 

「ヤシ……」

 

二人は再びため息をつく。するとアヤを見かねたのか、彼女のそばにヒナがやってきた。

 

「アヤちゃん、ハヤシガメを抱えてみてよ」

 

「えっ、どうして……?」

 

「いいから早く」

 

「わかったよ……」

 

怪訝に思いながらも、アヤはヒナに言われた通りハヤシガメを持ち上げようとする。だが、ハヤシガメに手をかけた途端、彼女の手に鉛のような重量感が伝わってきた。どれだけ力を入れても持ち上がらない。たまらず手を放し、ヒナに助けを求めるが、ヒナはたった一言言っただけだ。

 

「ね。つまり、そういうことだよ」

 

「そういうことって……、どういうことなの!?」

 

「今アヤちゃんも感じたと思うけど、ハヤシガメはナエトルよりも何倍もズシンとくるんだよ。それなのに前と全く同じ戦法で戦おうっていうほうが無理があると思わない?」

 

「つまり、体重が重くなったんだから、それ用に戦い方を変えた方がいいってこと?」

 

「そういうこと」

 

ぐうの音も出ないほどの正論だ。しかし、急に今までとは違う戦いをしろと言われても無理がある。

 

「ヒナちゃんは体重が重いポケモンをどうやって戦わせるの?」

 

藁にも縋る想いでアヤはヒナに言葉を掛ける。

 

「私?私はその時ビビッてきた方法を試せば大体バシュンってなるから分かんないや」

 

だが答えとして返ってきたのは、いつも通りちんぷんかんぷんな単語の羅列だ。

 

「全然アドバイスになってないし、そもそも言っている意味もわかんないよ~!」

 

ついにアヤはハヤシガメの隣でしゃがみこんだ。あたりに暗い空気が広がりだす。すると、そんな彼女を覆いかぶさる影があらわれた。ヒナのラグラージだ。

 

「なに……?」

 

ラグラージは、何かを伝えたそうにじっとアヤの目を見つめている。

 

「ラーグ」

 

ラグラージは後ろを振り向き、手を招くようなそぶりを見せた。こっちにこいとでも言っているようだ。

 

「ラグラージ、どうしたんだろう?」

 

アヤはヒナとハヤシガメとともにラグラージを追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラグラージ連れていかれた場所は4番道路脇の鍾乳洞である。内部は水流や陸地、岩が複雑に組み合わせっており、まるで迷路。現在こそ観光地や、ポケモントレーナー修行の地としてある程度整備されているが、その昔はその複雑な地形に迷い、帰れなくなる人が続出したそうだ。このことに由来し、この鍾乳洞は帰らずの地下水脈という名前が付けられている。

 

「ラグ」

 

「ヤシ……?」

 

「ラーグ」

 

「ヤシ……?」

 

「ラグ!」

 

洞窟の奥に行くとラグラージはハヤシガメと何かを話し出した。と、次の瞬間思いもよらぬことが起きた。なんとラグラージは、いきなり近くの岩をハヤシガメに向かって投げつけたのだ。

 

「えっ、ちょっと!ケンカはだめだよ!」

 

まさかの事態にアヤは止めに入ろうとする。だがヒナはスッと手でそれを遮った。

 

「まってアヤちゃん。多分これはケンカじゃないよ。勘だけど、ラグラージはハヤシガメに訓練しているんじゃないかな」

 

「訓練……?」

 

「うん、ラグラージもどっちかというと、ハヤシガメと同じズシンって感じのポケモンじゃん。だからズシンって感じのポケモンならではの戦い方を知っているんじゃないかな」

 

「それじゃぁこれは何の訓練なの……?」

 

アヤが困惑している最中も、ラグラージはひっきりなしに岩を投げ続ける。ハヤシガメは顔を青くしながらそれから逃げ惑うだけ。しかも重い体が足かせになって、かなりぎこちないよけ方だ。アヤにはとてもとても訓練には見えない。

 

「もうだめ!見てられない!」

 

いてもたってもいられず、アヤは再び飛び出そうとする。だがその時、ヒナが手を打った。

 

「はは~ん、そういうことか。アヤちゃん、ラグラージはきっとハヤシガメに攻撃を受け止める訓練をさせているんだよ」

 

「えっ……」

 

「そう。これを見てたら、ラグラージでバトルするときは無理に攻撃をかわさないで、攻撃をバシって受け止めてから重い一撃をズガガーンって反撃することが多いなって思い出したんだ」

 

「受けてから反撃……?」

 

「そう、バシッてしてズガガーン!これが重いポケモンの戦い方かな」

 

相変わらず擬音が多いが何となく意味は分かった。あとはこれをどう料理するか……。それはアヤの腕にかかっている。

 

「ラグラージ、ちょっと待って!」

 

アヤが叫ぶとラグラージの動きが止まる。すると彼女はすかさずハヤシガメのそばに駆け寄った。

 

「ヤシ……」

 

ハヤシガメは目に涙を浮かべている。そんなハヤシガメの頭にアヤはそっと右手をのっけた。

 

「大丈夫だよ、ハヤシガメ。一人じゃないから。私と一緒にがんばろ」

 

アヤがほほ笑むと、ハヤシガメの目に再び闘志が宿る。二人はそろってラグラージの方を向いた。

 

「ラグラージ、もう一度お願い!」

 

アヤの言葉にラグラージは無言でうなずくと、訓練は再開された。怒涛の如く岩が飛び交い、何度も何度もハヤシガメは岩翻弄され続けた。だが、アヤもハヤシガメも決して諦めることはなかった。傷薬を利用しながらも何度でも立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は立ち、ラグラージの手から103発目の岩が投げられた。

 

「ハヤシガメ!」

 

「ヤシ……!」

 

アヤの応援を受け、ハヤシガメは岩をじっと睨み、足を踏ん張る。これはアヤとともに試行錯誤の末編み出した構えだ。そしてその直後、岩がハヤシガメを直撃。だがハヤシガメはその場に踏みとどまっていた。防御の構えの完成だ。

 

「やった!ハヤシガメ!」

 

その瞬間、アヤはハヤシガメに跳びついた。

 

「いや~、ここまで訓練が長引くとは思わなかったよ。新しい戦い方を覚えるって大変なんだね。ま、それはさておきお疲れ、ラグラージ」

 

「ラーグ」

 

その傍らでヒナもラグラージの頭をなでる。しかし、そんな平穏な光景を乱すかのように、彼女たちのもとに不穏な影が近寄ってきた。

 

「たっく、俺としたことがこんなところで迷うとは……!早くしないと作戦に遅れちまう!」

 

入り口の方から随分と苛立った男の声が近寄ってくる。それもかなり近い。

 

「そこにいるのは誰!?」

 

すかさずアヤが声がする方にライトを向ける。

 

「なんだ!まぶしいじゃねえか!」

 

明かりの中から怒鳴り声が聞こえ、荒々しい足ふみが水たまりをまき散らす。アヤの目の前に現れたのは、リゲル団の下っ端である。

 

「おめぇか?俺に向かって明かりを向けたのは!?」

 

「あの……、ごめんなさい……!」

 

今にも襲い掛かってきそうなリゲル団員に必死に謝るアヤ。ところがその言葉は逆にリゲル団員の神経を逆なでしてしまったようだ。

 

「ごめんで済めばジュンサーはいらねぇんだよ!あー、道に迷うし変な女にライトを当てられるし今日は散々な日だ!こうなったら腹いせに、お前らをボコボコにしてやる!まずはそこのピンク髪のヤツからだ!」

 

間髪入れずに彼はズルッグをボールから繰り出した。こうなったらアヤも退けない。

 

「ハヤシガメ、いける?」

 

「ヤシ!」

 

アヤもあらかじめ場に出ているハヤシガメで立ち向かった。

 

「ハヤシガメ、体当たり!」

 

「ズルッグ、頭突き!」

 

ハヤシガメとズルッグは中央地点で激突。衝撃はほぼ互角だ。

 

「ズルッグ、そのままけたぐり!」

 

「ズールッグ!」

 

だがズルッグはそれにもかかわらず、すぐに反撃に移る。

 

「ハヤシガメ、かわ……」

 

アヤの口から思わず回避の指示が出そうになる。だが、もう目の前にいるポケモンはナエトルではなくハヤシガメ。ポケモンの特徴によって戦い方を変えなければならないということは今日一日で嫌というほど学んだ。

 

「ハヤシガメ、その場で攻撃を受けて!」

 

「ヤシ!」

 

アヤの声とともにハヤシガメは足を踏ん張り、ズルッグのけたぐりを受け止める。その瞬間、攻撃の反動でズルッグにわずかなスキが生じた。

 

(よし……、バシッてうけとめたら次はズガガーン……!)

 

アヤはそのスキを逃さなかった。

 

「今だ、葉っぱカッター!」

 

次の瞬間、大量の葉っぱがハヤシガメから放たれ、ズルッグ宙に舞いあげる。

 

「続けて体当たり!」

 

さらに、ハヤシガメは地面に叩きつけられた直後のズルッグを体当たりで跳ね跳ば

した。回避もままならず、直撃を避けられなかったズルッグは再び地面に叩きつけられると目を回し倒れてしまった。

 

「チキショー!今日は最悪の日だ!」

 

それを見たリゲル団員はズルッグをボールに戻すと、色々とわめきながらまた入り口の方へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 こうして新たな戦法を身に着け、リゲル団員も撃退したアヤとヒナは帰らずの地下水脈から出て、4番道路をさらに北上。そしてようやくムラサメ湖のほとりにたどり着いたのである。

 

「うわー!すごい、すごいよアヤちゃん!この景色キラキラーってしてて、とってもるんってしちゃうね!」

 

ほとりに着いた瞬間、ヒナが子どものようにはしゃぎだした。しかし、これは無理もないだろう。二人の目の前ではムラサメ湖が夕日に照らされオレンジ色に染まり、幻想的な風景を編み出しているのだ。

 

「ほんとだ!きれい……」

 

アヤもその光景に見とれて、その場から動けないでいた。耳をすませば遠くから様々なポケモンの鳴き声が聞こえ、目を凝らせば遠くの方に島が湖というステージに浮いている。実はこの島こそ、彼女たちが目指している『ムラサメシティ』であるのだが、そこへ行くための遊覧船は今日はもう運航していないようだ。そこで二人は近くの民宿に一泊することにした。明日はいよいよ新しい街に上陸である。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話 ムラサメシティ~水面に浮かぶ水上都市~

ムラサメシティのBGMのイメージはルネシティ。

あとこの世界のポケモン図鑑はスマホみたいなものだと思ってください。





ムラサメシティはムラサメ湖の中央部の島を中心に栄える街だ。白を基調とした街並みは非常に湖や青空の青とマッチし、非常に美しい。おかげで街を一通り歩くだけでもちょっとした観光になる。だが、この街の目玉といえばやはり『ムラサメ水族館』だろう。ここではシンシュー地方に生息する水辺のポケモンは勿論、なんとシンシュー地方では珍しい海に生息するポケモンまで多種多様なポケモンが展示されているのだ。

 

「さぁて!とりあえずムラサメ水族館にしゅっぱーつ!」

 

遊覧船でこの街にきたヒナは、船から降りるや否や水族館に向けて走り出した。

 

「あっ、ちょっと待ってよ!おいてかないでよ!」

 

アヤはいつもどおりその後ろを、慌てて追いかけていく。ところが、その途中でアヤは妙なものを発見した。道端の台に小さな金属が山積みになっているのだ。彼女はヒナを呼び戻し、二人でそれを調べた。

 

「えっ、どういうことなの……?」

 

その金属をよく見たとき、アヤから変な声が漏れた。なんとその正体は、大量のジムバッジだったのだ。山積みのジムバッジに気をとられ、全く気が付かなかったがここはムラサメシティジムだったらしい。

 

「何これ、なんか書いてある」

 

その時、ヒナがジムバッジが大量に乗せられている台座に紙が貼ってあることに気が付いた。読んでみると、消えそうなほど弱々しい文字で『ご自由にお持ちください。ムラサメシティジムリーダーより』と書かれている。

 

「ご自由にお持ちくださいって、観光地のパンフレットじゃないんだし……。ねぇヒナちゃん、こういうジムって他にもあるの……?というよりか、こういう渡し方ってありなの……?」

 

「ジムバッジは基本的にジムリーダーに勝った人に渡されることが多いんだけど、ジムリーダーの規定では『ジムバッジを渡す基準はジムリーダーの裁量次第』っていうことになっているんだ。だからこういう渡し方も違反ではないんだけど……。こんな適当な渡し方は初めてだな。ジムリーダーに何かあったのかな?ちょっと中を見てみようよ」

 

ヒナはそう言うとアヤが止める間もなくジムの中に入っていく。それを見たアヤも、仕方なくジムの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす」

 

「しまーす……」

 

ヒナとアヤはジムの中に入った。中は無人だが、バトルフィールドに通ずる扉から音が聞こえる。今まさに、ジム戦の真っ最中のようだ。

 

「よーし、開いてみるよ」

 

ヒナは小声でささやき、僅かにその扉を開く。僅かな隙間からは、足場がまばらに浮いていおり、プールのように水が張られたフィールドが見える。そこではジムリーダーと思われる水色髪の少女が、ジム戦を行っていたが明らかに様子がおかしい。遠目から見てもわかるほど足が震えているし、指示も『ふぇぇ』とか『ひゃあっ!』とかまともなものがない。もはやただの悲鳴だ。その証拠に彼女が繰り出しているポッタイシは、チャレンジャーのヤトウモリ相手に一方的に押され続けあっという間に気絶してしまった。

 

「うそ……」

 

新人のアヤですら言葉を失ってしまう。しかし、そんなさなか扉の方にチャレンジャーが歩いてくるのが見えた。

 

「いけない!隠れないと!」

 

ジムリーダーに無許可でジムに立ち入っている時点でアヤとヒナはすでに不審者だ。二人は大慌てで近くのソファーの裏に転がり込んだ。

 

「……」

 

アヤがソファーの裏からそっと首を出すと、チャレンジャーの少年が複雑そうな表情でジムバッジを手にしてジムから出ていく光景が見え、さらに間もなく入り口の近くにジムリーダーと、金髪の少女が姿を現した。二人は完全にジムから脱出するタイミングを失った。

 

「ふえっくしょい!」

 

さらに追い打ちをかけるようにヒナのクシャミがさく裂。

 

「ん……、誰かそこにいるの!?」

 

金髪の少女がモンスターボールを手にし、こちらを睨んだ。こうなってはもはや隠れている意味はない。アヤとヒナは両手をあげながらソファーの裏から出たが、その瞬間から強い殺気が彼女たちを貫いた。そのせいでアヤは呂律がうまく回らない。おかげで彼女に対する疑いの目はより強くなるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、ジムバッジが山積みになっていることが気になって様子を見に来たってこと?」

 

「その通りです……。ごめんなさい……」

 

その後、アヤはヒナの手を借りながらもなんとかその少女に謝った。すると金髪の少女が、先ほどまでの殺気が嘘と感じるほど穏やかな顔を見せた。

 

「そう、どうやら悪い人たちではなさそうね。疑ってごめんなさい。なにしろ最近、ムラサメシティで怪しい集団が相次いで目撃されているので……。あなた達、名前はなんていうの?」

 

「私はアヤです」

 

「ヒナだよ、よっろしく~!」

 

「アヤちゃんとヒナちゃんっていうのね。私の名前はチサト。3か月ほど前までこのムラサメシティでジムリーダーをしていた者よ。それでこっちにいるのが私の親友で——」

 

「か、カノンって言います……。一応今のムラサメシティジムのジムリーダーです……」

 

カノンと名乗る少女の声はうっかりしていると消えてなくなってしまいそうなほど弱々しいものだ。聞きたいことは山ほどあるが、とてもとてもそんな雰囲気ではない。

 

「へぇ、カノンちゃんっていうんだ!それじゃぁ聞きたいことがあるんだけど、どうしてジムバッジを山積みしてあるの?もしかして、自分が弱いからやる気をなくしちゃったの?」

 

ところが、ここでまるで止めを刺すかのようにヒナの言葉がカノンに突き刺さった。アヤの顔から血の気が引き、チサトが驚き、カノンの口からため息が漏れたのは言うまでもない。

 

「そうだよ……、二人ともさっき、私のバトル見てたよね……?バトルの途中から、フィールドの扉が少し空いていたこと、私知っているよ……。あれを見れば納得できるでしょ……?」

 

自暴自棄気味に、カノンは再びため息をついた。気のせいかどんどん場の空気が重くなっている。

 

「そ、そんなことないですよ!えっと……、ほら……、さっきのバトル……あんな凄いバトルできるの、カノンさんだけですよ……!私もああいうバトルできたらいいなぁ~!えへへ……」

 

アヤは必死にカノンをフォローしようとしたが、なんだかカノンに対する皮肉にしか聞こえない。

 

「そう……、いい反面教師なったんだったら嬉しいよ……。はぁ……」

 

カノンはさっきに増して肩を落としている。もうアヤの手に負える状況ではない。

 

「あ、あの……!とりあえず、頑張ってください!あと……、ご、ごめんなさい!」

 

アヤは慌ただしく頭を下げると、ヒナの手を引っ張り逃げるようにジムから飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後二人はお目当ての水族館を堪能し、近くにあった広く、ムラサメ湖沿いの公園に向かった。ここに来た目的はジム戦に向けたバトルの練習だ。

 

「アヤちゃんファイト~!」

 

「クマッシュン!」

 

ヒナがアヤに声援を送る。クマシュンもヒナに抱えられながら手を振る。今日はポリゴンZとテッカニンに吊るされた的を正確に当てる練習だ。

 

「カブト!出てきて!」

 

「カーブ!」

 

テッカニンとポリゴンZの準備が終わるとアヤはカブトを繰り出した。が、それと同時にアヤの視界が失われた。理由は簡単、カブトがアヤの顔面に跳びついてきたからだ。

 

「んー!カブト、離れて、お願い!」

 

アヤは力づくにカブトを引き離し、そっと地面に置いた。気を取り直し、練習開始である。

 

「いけ!カブト、連続でマッドショット!」

 

カブトから泥の塊がいくつか放たれ、テッカニンとポリゴンZに迫る。しかし二匹は寸のところでそれをよける。当然吊るされた的には当たらない。

 

「アヤちゃん、闇雲に撃っても当たらないよ!動きをよく見て!」

 

「わかった……!」

 

アヤは大きく深呼吸をし、ヒナに言われた通りポリゴンZとテッカニンの方をじっと見つめた。

 

(えっと、テッカニンとポリゴンZの動きは……。早くて分かんないよ~)

 

結局アヤは動きを見切れないまま、一か八かで再びマッドショットを発射させる。しかし、その攻撃はポリゴンZもテッカニンもあたらない。

 

「あー、やっぱり外れたか……。うーん、でも諦めたらここで終わりだよね……。よし、もう一回!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この調子でアヤはカブトにマッドショットを放たせ続けた。それは、はたから見れば何の変哲もないトレーナーの練習風景である。しかし、遠巻きではあるものの、それをあえてじっと見ている者がいた。サングラスをかけ、帽子を深くかぶっているがその者の正体は明らかにチサトである。

 

「アヤちゃんとヒナちゃんって言ったかしら……?随分と表情豊かに練習するのね。なんだか昔のカノンを思い出すわ。いつか、あの()のバトルも見てみたいものね」

 

チサトはそう呟くと、カフェで買ったコーヒーを喉に流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、チサトとカノンはムラサメシティの少しお高いレストランでディナーをとった。カノンはジムリーダーとムラサメ水族館の飼育員、チサトはシンシュー地方屈指の人気女優という顔を持つため二人とも忙しく、中々二人きりでゆっくりできる機会は少ない。その為、いつも二人で会うときにはとても和やかにそのひと時を楽しむのだが、今日は中々重い雰囲気が二人の周りに漂っていた。

 

「カノン、調子はどう?」

 

「全然ダメ。練習試合では上手くいくんだけど、ジムのフィールドに立つと頭が真っ白になっちゃって……」

 

「そう、まだジムリーダーのプレッシャーに勝てないのね」

 

「そうみたい……。ジム戦で一回も勝ったことないもん。私とジム戦をするだけ無駄だと思う。それなのに、どうしてみんな私にチャレンジしに来るんだろう……。ジムバッジは自由にとっていっていいって言っているのに……」

 

「それはみんな、ポケモントレーナーとしてのプライドがあるのよ。まともなトレーナーなら、その辺に山積みになっている、ジムバッジを手にしても喜ばないもの。ポケモンとトレーナーが力を合わせて手に入れるからこそ、ジムバッジは意味があるものだと私は思うわ」

 

「……少なくとも私のジムは例外だよ。今の私になんか誰にでも勝てるもん」

 

「カノン……、貴女本気でそう思っているの?」

 

チサトがフォークをカチャリと置いた。その目はカノンが今までに見たことないほど鋭い。

 

「いいかしら、世の中にはジムリーダーに勝つために死に物狂いで自分たちを鍛えている人やポケモンが沢山いるの。今のカノンの発言はそんな人たちの努力を踏みにじるようなものよ。もしも、本気でそう思っているならジムリーダーを辞めてもらえるかしら?」

 

「でも……、私がジムリーダーを辞めたらだれがジムリーダーを……」

 

「私がまたジムリーダーをやればいいだけよ」

 

「えっ……、でもチサトちゃんには新しい大プロジェクトがあるんでしょ……。それとジムリーダーと女優の仕事を全部こなすのは難しいから、私にジムリーダーを譲ったんじゃ……」

 

「それならプロジェクトの方を断るわ。それがダメなら……、あんまり頼りたくはないけど儚い儚いうるさいアイツを呼び戻したり、それもダメならムラサメシティジムを一時的に閉鎖するわ。……で、どうするのカノン?ジムリーダー続けるの?辞めるの?」

 

元々厳しい部分はあったが、チサトがカノンにここまで厳しい言葉を口にするのは初めてだ。しかし、これはチサトがジムリーダーに対して思い入れがあるということでもある。今のカノンにその想いに応えられる自身などどこにもなかった。

 

「そうだよね……。薄々気が付いてはいたよ。私がジムリーダーに向いていないことは……。わかったよ、私ジムリーダーを辞めるよ。チサトちゃん、あとはよろしくね……」

 

このようにジムリーダーを辞めるという選択をするのは自然な流れである。

 

「わかったわ……。それじゃあ私は明日プロジェクトを断る連絡を入れるわ。そのあとは——」

 

チサトがスケジュール帳を取り出し、今後の段取りを決めそうとした時だ、カノンのカバンの中から着信音が鳴った。しかもジム関連の連絡用の音である。

 

「なんだろう……?あっ、ジム戦の予約だ……。チャレンジャーはアヤ……。もしかして、昼間にジムであった人かな?でも、もう私はジムリーダーじゃないんだし……、断ろ……」

 

カノンの指先が、『予約拒否』と表示された図鑑のタッチパネルに触れようとする。しかしその直前にチサトの声がそれを遮った。

 

「待ってカノン、今、アヤって言ったかしら?」

 

「う、うん」

 

「そう、それならば明日ジム戦を受けてあげたらどう?」

 

「えっ……、でも……。私は……」

 

ついさっきとは全く違うチサトの態度にカノンは驚きを隠せない。あまりの豹変ぶりに一瞬、冗談化のように思えたほどである。だが、チサトはいたって大まじめだ。

 

「カノンいいかしら、今日ジムリーダーを辞める決意をしたからと言って、その瞬間からジムリーダーでなくなるわけではないの。ジムリーダーを辞める許可をポケモンリーグに出されて初めてその任を降りることができるのよ。だから、カノンはアヤちゃんのチャレンジを受ける義務があるの」

 

「そうなのかな……?まぁいいや、明日はどうせ暇だし、そこまでチサトちゃんが言うならチャレンジを受けるよ……」

 

カノンはため息交じりに指先を動かし、アヤの挑戦を受け付けた。チサトは、それを真剣なまなざしで見つめていた。

 

(もしかしたらアヤちゃんなら、カノンを変えてくれるかもしれない……。なんの根拠もないことは基本的には信じないけど、今日だけは……)

 

なにもチサトだって好きで親友であるカノンを辞めてもらおうってわけではない。できることならカノンにジムリーダーを続けてもらいたい、それが彼女の本音である。しかし皮肉なことに、今のチサトにカノンを変えるだけの力は持っていないようだ。今のカノンを変えることができるのは、かつてのカノンの面影を彷彿とさせるアヤだけ。チサトは心の中で確信していた。

 




最近忙しかったり疲れてたりして更新が遅いですが、次回の更新も気長に待ってくれると嬉しいです。
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第十五話 海好きのふわふわ系女子

いつも読んでくれてありがとうございます。お気に入り登録や感想評価を励みにこれからも頑張って行きます!






 

 アヤとのジム戦当日、カノンは家でとあるトロフィーをボーっと眺めていた。これはかつて、ムラサメシティで行われたポケモンバトルのジュニア大会で優勝した時に勝ち取ったものだ。優勝候補筆頭であったチサトと、もう一人の古い友人を打ち破り、優勝したあの瞬間……、片時も忘れたことはない。だが、考えてみればそこがカノンの黄金時代だ。その優勝から、どういうわけか戦績は下がりっぱなし。負けを重ねるたびに、かつてのカノンの中に存在していた自信がみるみるうちに失われていく。さらにジムリーダーとなり、その重圧に圧迫される日々が続くようになってからはこの傾向がさらに強くなっている。おかげさまでもともと引っ込み思案な部分があったとはいえ、それすら言い訳にならないほど消極的な性格に彼女は変わり果ててしまっていた。

 

「……あ、もうこんな時間か」

 

そんなことを思いながら、ふと時計を見ればもうそろそろアヤとの約束の時間が迫って入いる。カノンは重い腰を上げ、ジムへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその後、カノンはジムのフィールドに立った。ムラサメシティジムのフィールドは他のジムとは異なり、巨大な水槽に水が張られ、そこにいくつかの足場を浮かばせたものだ。まさに彼女の専門である水タイプのポケモンを戦わせるのにうってつけのフィールドといえるだろう。

「やっぱりアヤちゃん達は来たか……」

 

カノンはフィールドの向こうで戦いの時を待つアヤを少し恨んだ。アヤさえ来なければ、もうみじめな思いはせずに済むのにと。しかし当のアヤはそんなことつゆ知らず、やる気に満ちた表情でボールを握りしめている。ついでにヒナとチサトもフィールド脇のベンチに座っている。もうジム戦は避けることはできない。

 

「それじゃぁ始めようか、アヤちゃん……」

 

「うん、お願いします!」

 

「はぁ……、ポッタイシ、お願い」

 

カノンがボールを投げると、目の前の足場にはポッタイシが現れた。それを見たアヤが繰り出したのは相性有利なハヤシガメ——ではなくカブトだ。ハヤシガメをださなかった理由は『いくらタイプ相性上有利でも、このフィールドでは重量があり素早い身のこなしが苦手なハヤシガメでは戦いにくい』と事前にヒナからの口添えがあったからである。アヤはいつも通りボールから出た途端に顔にへばりつくカブトを引きはがし、水面に浮かぶ足場にカブトを置いた。実際足場はただ浮いているだけのようで、それだけでユラユラ揺れている。アヤ自身もその直前までハヤシガメかカブトか悩んだが、ヒナの言うことを聞いて正解だったようだ。

 

「いくよ、カブト。岩石封じ!」

 

「カーブ!」

 

試合早々、アヤは様子見がてら岩石封じを放たせる。が、ポッタイシの様子がおかしい。すぐ真上まで岩石が迫っているのにあたふたするだけでその場から動こうとしないのだ。なんだか嫌な予感がする。これも何かの策だろうか。アヤは直感的に感じ取った。だが、その予感はすべて外れた。結局ポッタイシはカブトの岩石封じをもろに喰らった。

 

「へっ……?」

 

あまりにあっさり技が決まり、アヤは驚いた。だがこれはジム戦。アヤが手加減する理由などどこにもない。

「カブト、水に潜って……!」

 

カブトは水に一度潜り身を隠すとポッタイシに急接近。そしてポッタイシの目の前で水中から飛び出し、ひっかく攻撃をお見舞いした。

 

「そのまま吸い取る攻撃!そのあともう一回岩石封じ」

 

これを起点にアヤは攻撃を畳みかけた。もはやポッタイシはただのサンドバッグだ。

 

「ふぇぇ……」

 

その間、カノンはポッタイシを前に目を回していた。頭が真っ白で何もわからないのである。そして、ついにポッタイシはカブトのマッドショットを受け、カノンのすぐ後ろの壁に叩きつけられてしまった。

 

「ポッタイシ!」

 

カノンは思わずポッタイシのそばに駆け寄った。もうポッタイシのHPは尽きる寸前だ。もはや立てるかどうかすら怪しい。それを見たカノンはさらに肩を落とした。

 

「やっぱり私じゃダメなんだ……。私じゃジムリーダーは……」

 

カノンは何げなくアヤとカブトの方を見た。どん底の闇が体中にまとわりついているカノンにとって、アヤの姿はシャンデリアのように輝いて見える。

 

「アヤちゃん……、とても楽しそうだな……。今までにあそこまで楽しそうにバトルするチャレンッジャーっていたっけ……」

 

カノンは疲れ切った表情で、何気なく呟く。だが、それと同時にカノンに電撃が走ったような感覚が襲い掛かってきた。

 

(楽しい……?……そうだ、思い出した!この感覚だよ!私、あの日に優勝してから、また優勝できるように勝つことにこだわりすぎて、バトルを楽しむことを忘れちゃっていたんだ!)

 

その瞬間、今まで彼女にのしかかってきたジムリーダーとしての重圧が消え、真っ白だった頭の中がスッと晴れた。

 

「ごめんねポッタイシ、いままで私のせいで迷惑かけちゃって。でも、もう大丈夫。一緒にこのバトルを楽しもうよ」

 

「ポタッ!」

 

久々に聞いたカノンの頼もしい言葉を聞き、ポッタイシは体に鞭を撃ち立ち上がる。

 

「勝てるかどうかはわからないけど、行けるところまで行くよ。ポッタイシ、雨ごい!」

 

ついに反撃ののろしが上がった。止めを刺そうととびかかろうとしていたカブトに、大粒の雨が打ち付ける。

 

「なにが起きたの……?」

 

急な雨に戸惑い、アヤはあたりを見渡す。そしてその時彼女カノンの変化に気が付いた。彼女から漂っていた弱々しさはもうどこにもない。あるのは気迫だけである。

 

「ポッタイシ、バブル光線!」

 

「ッタイシ!」

 

その気迫にアヤが圧倒されているとき、ポッタイシからは無数の泡が放たれていた。雨のせいか、その泡の一つ一つからは強い殺気を感じた。たまらずカブトは水の中に飛び込む。だが水中に飛び込んだカブトを最初に待ち受けていたのは、水上からのバブル光線だ。カブトはギリギリでそれを交わす。しかし次に正面を向くと、もうそこにはポッタイシが『アクアジェット』を駆使して迫ってきていた。

 

「カブッ!」

 

今度こそよけきれずアクアジェットはカブトに直撃。カブトは水上に突き上げられた。しかし、カノンの猛攻は止まらない。アクアジェットの勢いにのり、勢いよく飛び出したポッタイシにカノンは吹雪を放たせた。カブトは意地で身をかわしたが、カノンの狙いは攻撃ではない。水が張られたフィールドを凍らせ逃げ場を奪うこと、そして降り注ぐ雨を凍らせ『氷のまきびし』をフィールド中に撒くことが目的である。

 

「ブッ……!」

 

カブトが甲羅から地面に落ちると、カノンの狙い通り氷のまきびしがカブトに食い込んだ。それはあたりに散らばっているのでうかつに動けば逆にカブト自身の首を絞めることになる。ちなみにポッタイシは、氷のまきびしを避けて動く練習を重ねているので、全く問題はない。さらに水が凍っているため水中に逃げ込むこともできない。形勢は完全にカノンに傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、フィールド脇のベンチでバトルを見ているチサトはほのかに笑顔を浮かばせていた。

 

「どうやらカノンとアヤちゃんを戦わせたのは正解だったみたいね。ねぇヒナちゃん、あの二人似ていると思わない?」

 

「えっ、どういうこと?顔も髪も全然似てないよ?」

 

ヒナが不思議そうに目をぱちくりさせる。するとチサトの口から笑い声が漏れた。

 

「ふふふっ、見た目のことを私は言っているわけじゃないわ。ほら、見て。カノンはもちろん、追い込まれているはずのアヤちゃんですらバトルを心の底から楽しんでいる。見ているこっちまで心が躍るバトルだと思わない?」

 

「……本当だ。二人とも、とってもるんってするね!」

ヒナが目を輝かせ、高まる感情を抑えきれず立ち上がる。すると、彼女の真正面でカブトのひっかく攻撃と、ポッタイシのアクアジェットが交差した。

 

「カブッ……」

 

「ッタイシ……」

 

両者は氷の上に着地すると、互いにそのまま動かなくなった。実際は10秒にも満たない短い時間だが、カノンやアヤたちにとっては何時間にも思える時間が流れる。

 

「ポタ……」

 

その挙句、とうとうポッタイシが目を回しながら倒れた。前半で体力を消耗しすぎたせいで、一瞬反応が遅れてしまったのだ。

 

「あ……、また負けちゃった……。でも不思議だな、負けたのに全然悔しくない。こんなこといつ以来だろう?」

 

カノンはひん死になったポッタイシをボールに戻す。だが、その時の顔はなんの陰りもない、清々しいものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、カノンはフィールドを回ってアヤのところに歩いて行った。

 

「はい、アヤちゃん。これが私にかった証、『ジェリーフィッシュバッジ』だよ」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

カノンの手からアヤの手に、ブルンゲルやドククラゲのシルエットを模したジムバッジ渡る。そしてカノンは優しく微笑んだ。

 

「アヤちゃん……、ありがとう。私にポケモンバトルの楽しさを教えてくれて。私、久しぶりに楽しいバトルができた。だからお礼にこの技マシンをあげるよ。この技マシンの中身は『熱湯』。相手に熱く煮えたぎる水を吹き付ける技で、時々相手をやけどにすることもできる技なんだ。大切に使ってくれると嬉しいな」」

 

「えっ、私が……?私は何もしてないけど……」

 

アヤは差し出される技マシンを前に首を横に振る。しかし、カノンは彼女の手を握り、そっと技マシンを握らせた。

 

「そんなことないよ。アヤちゃんが楽しそうにバトルをするのを見て、私は『楽しむ』ことを思い出せたんだ」

 

「あっ、もしかしてだからあの時……」

 

アヤはカノンの言葉を聞き、ふとバトル中のことを思い出す。バトル中は急激なカノンの変化を理解することができなかったが、今ならそのカラクリが何となくわかった気がする。多分『バトルを楽しみだしたから、あそこまで彼女を急激に変えたのだろう』とアヤは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃぁねアヤちゃん、ヒナちゃん。これからも一緒にポケモンバトルを楽しもうね」

 

そしてジムバッジを無事手に入れた二人はムラサメシティジムを後にした。だが数歩もしないうちに、二人は背後からの呼び声に引き留められた。

 

「待って!アヤちゃん!」

 

ドタバタと走る音が響く。それにつられて後ろを振り向くと、そこにはチサトがいた。

 

「はぁ、間に合った……。ねぇ、アヤちゃん。明日って暇かしら?」

 

「へっ、えっ……?あっ、はい……!」

 

あまりにも唐突な登場にアヤは思わず二つ返事でうなずく。まぁ、実際明日は暇なのだが……。

 

「よかったわ。それじゃぁもしもよかったら、明日の朝9時に遊覧船乗り場に来てくれないかしら?二人に連れていきたいところがあるの」

 

「連れていきたいところ……?どこそこ?」

 

ヒナが首をかしげる。

 

「さぁ、どこでしょうか?答えは明日のお楽しみよ」

 

だがチサトはどこか不敵な笑みを浮かべるだけだ。ヒナがどれだけ聞いてもその表情は崩れることはない。結局チサトは真相を一言も話さず『台本覚えないといけないから、また明日ね』とだけ言い残してどこかに行ってしまった。

 




おまけ:花音ちゃんパーティー一覧(本気モード)

・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気かのちゃん先輩の手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。花音ちゃんが好きなクラゲや、イベントで一緒に活躍したペンちゃん……もといペンギンなどを中心に組んだ雨パもどきです。ちなみに本文では書き忘れていますが、花音ちゃんのエキスパートは『水タイプ』です。(気が付いている人も多いと思うけど……)



★エンペルト@ミズZ
特性:激流
性格:控えめ
努力値:CS252

・ハイドロポンプ
・アクアジェット
・冷凍ビーム
・ラスターカノン

☆ドククラゲ@黒いヘドロ
特性:ヘドロ液
性格:穏やか
努力値:HD252

・アシッドボム
・熱湯
・凍える風
・毒毒

☆ブルンゲル@オボンの実
特性:呪われボディ
性格:図太い
努力値:HB252

・波乗り
・鬼火
・自己再生
・祟り目

☆ハンテール@気合のたすき
特性:すいすい
性格:無邪気
努力値:AS252

・不意打ち
・アクアテール
・冷凍ビーム
・殻を破る

☆ラグラージ@ラグラージナイト
特性:激流
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・滝登り
・冷凍パンチ
・地震
・アームハンマー

☆ペリッパー@湿った岩
特性:あめふらし
性格:冷静
努力値:HC252

・ハイドロポンプ
・暴風
・冷凍ビーム
・とんぼ返り




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第十六話 きめろ!ゼンリョクの技!

なぜか先日、日間ランキングに載っていました。(最高16位だったけど)。応援ありがとうございます。これからも高評価や感想、お気に入り登録などで応援してくれると嬉しいです!




次の日の朝、チサトは目深く帽子をかぶり、ムラサメシティの遊覧船乗り場でアヤたちを待っていた。

 

「遅いわね、あの二人……」

 

現在の時刻は朝の9時半。約束の時間はもうとっくに過ぎている。と、その時、向こうの方から見覚えがある影が疾走してきた。アヤとヒナである。

 

「ごめん!二人してうっかり寝過ごしちゃって……!」

 

「ちょっと昨日は夜更かししすぎたかもね」

 

アヤとヒナは笑ってごまかそうとする。だがその直後、二人は確かにみたのだ、見下すような目つきでこっちを見てくるチサトの姿を。一言も発してないが、言いたいことは彼女の顔にはっきりと書いてある。それもおびただしい分量だ。

 

「ふーん、寝坊ねぇ……。ま、誰でも失敗はあるわよね。気にせず目的の場所に行きましょうか?」

 

アヤたちがおびえていると、チサトの顔が豹変した。今度はついさっきまでとは打って変わり天使のような笑顔だ。そしてチサトはその顔のままボールを投げ、ムラサメ湖の水面にギャラドスを出し、それにまたがった。

 

「えっ、遊覧船を使わないの!?」

 

それを目にしたアヤは悲鳴と叫びの中間のような声をあげた。てっきり遊覧船を使うのかと思っていたのでびっくり仰天だ。

 

「当たり前よ、アヤちゃん。今から行く場所は遊覧船は通ってないもの。二人は自分たちで私についてきて。もちろん泳ぎに自身があるならば、泳いで追いかけてもいいわよ」

 

それだけ二人に言い残すとチサトはギャラドスに乗って沖の方へ行ってしまった。

 

「ラグラージ、お願い!」

 

「カブト、出てきて!」

 

すかさず二人もラグラージとカブトを繰り出す。しかし、アヤはカブトを顔から引き離し水面に浮かべたところで気が付いた。ヒナに釣られてカブトをだしたが、この小さい甲羅に自分が乗れるのだろうかと。

 

「ブッ……!」

 

だが、カブトの目はやる気に満ち溢れている。頼もしい姿だ。

 

「これもチャレンジだよね……」

 

アヤは恐る恐るカブトの甲羅に右足を置いた。

 

「よし、少し揺れているけどこれなら……!」

 

そして彼女は次に左足を甲羅に乗せ、その上で立ち上がった。見事、チャレンジ成功だ。

 

「やった……!立てた!よーし、カブト!前へすす——」

 

ところが気をよくしたアヤが前の方にビシッと指をさした時だ、カブトがアヤの重みに耐えきれず水の中に沈んだ。そのせいでアヤはバランスを大きく崩した。

 

「ヒャッ!?」

 

アヤは頭からムラサメ湖にダイブした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局アヤは、ヒナと一緒にラグラージに乗りながらチサトを追いかけた。湖にダイブしたせいでアヤは全身ずぶぬれだ。後ろからテッカニンが羽ばたいて乾かしてはくれているが、あんまり効き目はない。

 

「ハックション!うー、今日はついてないなぁ……」

 

そんなことを愚痴りながらチサトのシルエットを追いかけ、しばらくムラサメ湖の波に揺られていくと遠くの方に大きな(やしろ)が見えてきた。あそこが目的地のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に着くとチサトはギャラドスをしまい、二人を待っていた。

 

「二人ともお疲れ様、なんとかここまでこれたようね。まぁ、一名無事じゃない人がいるけど……」

 

無事じゃない人とはアヤのことである。だが、アヤに反論する元気は残ってなかった。

 

「で、チサトちゃん。ここはどこなの?」

 

そのそばでヒナは辺りをキョロキョロ見回していた。あたりはうっそうとした大自然。その中に建つ社は中々目立つ。

 

「ここは『ミカゲの社』と呼ばれる聖地よ。昔からここにお参りにきたトレーナーとポケモンは、より思いを一つにすることができる……、そんな言い伝えがあるの。でも最近は、時代の流れのせいか人々の記憶からは忘れられようとしている。だからミカゲの社を永遠のものにするために、私はこの神聖な地であることを行うことにしたの」

 

「あること?」

 

ヒナはチサトの言葉に首を傾げた。するとチサトは腕の袖をまくり、結晶が埋め込まれた腕輪を見せつけた。

 

「これよ、『Z技の伝授』よ」

 

「Z技……?」

 

「そうよ、アヤちゃん。Z技はトレーナーとポケモンの想いを一つにして放つ技。シンシューから遠く離れたアローラ地方に伝わる、伝統の究極奥義よ。どうかしら?貴女、このZ技を私の試練をこなして、このZ技を使えるようになる気はない?きっと使いこなせるようになるはずよ」

 

「し、試練!?」

 

試練という言葉にアヤは思わずおびえる。だが、その前でチサトは不敵に笑っていた。

 

「そんなにおびえる必要はないわ。私の試練は簡単だもの。貴女と貴女のポケモンの絆、そして思いをポケモンバトルで私に教えてくれるだけでいいわよ」

 

「バトルで……?」

 

「えぇ。もしも私に認められたのであれば、アローラの守り神『カプ』から預かった、『Zパワーリング』、そして『Zクリスタル』をアヤちゃんにあげる。安心してちょうだい、私はZ技の伝授の許しをちゃんともらっているから。名実ともにカプ神のお墨付きよ。ほら、前にテレビでもやっていたでしょ」

 

「テレビ……?」

 

「チサトちゃん、テレビに出たことあるの?」

 

アヤとヒナは互いに顔を見合わせた。それを見たチサトは驚きを隠せない。そう、何を隠そうチサトの本職は、シンシュー屈指の人気女優。シンシューでは知らない人の方が少ないくらいの知名度はあるのだ。

 

「えっ、二人とも、私のこと気が付いてなかったの?てっきりもう気がついているかと……。ほら、自分で言うのもあれだけど私の顔テレビでよく見ない?えーっと、元子役のシラサギチサトっていえばわかるかしら?」

 

アヤはそれを聞くと目を上に向け、ぶつぶつと呟きだした。

 

「元子役のシラサギチサト?チサト……、チサト……、元子役のシラサギチサト……。えっ、チサトちゃんって、あの超人気女優の!?」

 

「……ようやく気がついたのね、アヤちゃん」

 

「確かに言われてみれば、テレビで見るチサトちゃんにそっくりだね!」

 

「そっくりもなにも、それ私本人だから……。ま、そのことはとりあえず置いておきましょう。それで話は戻るけどアヤちゃん、私の試練は受けるの?受けないの?」

 

人気女優のチサトに出会えて浮かれていたアヤのもとに、再び現実が戻ってきた。確かに逃げてしまえば楽になる。だが、ここでチャレンジしなければ成長はできない。その思いがアヤを突き動かした。

 

「私、チサトちゃんの試練受けるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてしばらくたつと、チサトとアヤは一定の距離を置いて向かい合った。

 

「ふふ、あなた達はどんな戦いを見せてくれるのかしら?一人のポケモントレーナーとして楽しみだわ。さぁ、天空を舞いなさい!カイリュー!」

 

「グワァ!」

 

全てを恐怖に陥れる叫びが大地を、そしてアヤを震わす。

 

「か、カイリュー!?たしか凄―く珍しくて強いポケモンって聞いたことが……」

 

「そうだよアヤちゃん。頑張ってね」

 

怖気づくアヤに対してヒナはさらっと一言添えた。

 

「ありがとうヒナちゃん。えっと……、図鑑によればカイリューはドラゴンと飛行タイプ。だからタイプ相性的には……」

 

「キルルルー」

 

アヤはキルリアを繰り出した。カイリュウと比べると、その姿は赤子のようだ。しかし、ここまで来たら退くという選択肢はない。

 

「いくよ、まだ負けと決まったわけじゃないから!キルリア、念力!」

 

「キル!」

 

開幕早々、キルリアの念力がカイリュウを包む。しかし、カイリューは少し腕に力を入れ、あっけなくそれを振りほどいた。

 

「ふふふ、元とはいえ私もジムリーダーだったのよ。甘く見てもらっては困るわね。カイリュー、炎のパンチ!」

 

「グワァイ!」

 

その様にあっけにとられていると、もうカイリュウの炎のこぶしはキルリアに迫っている。とっさにキルリアはリフレクターを張り威力を抑えた。だが、その甲斐なく後方に吹っ飛ばされる。そして宙を舞っている間にカイリューは神速で追撃をかましてきた。

 

「キルリア!」

 

アヤの前の転がってきたキルリアの体はボロボロだ。しかしカイリューに目を移すと、もう追撃態勢に入っている。

 

「カイリュー、破壊光線!」

 

「キルリア、テレポート!」

 

破壊光線に飲み込まれる寸前で、キルリアは別の場所にテレポート。しかし、息をつく間もなくどんどん破壊光線を打ち込んでくる。何度テレポートしても同じ結果だ。このままではらちが明かない。アヤは攻めに出た。

 

「キルリア、カイリューの上にテレポート!」

 

キルリアはアヤの声とともに、カイリューの真上にテレポートした。普段こんなことしたら、一瞬で叩き落されるだろうが、今のカイリューは破壊光線を打ち終わった直後で動きが遅れている。アヤはこれを狙っていたのだ。

 

「攻撃直後は隙が生まれる!今なら私達だけでも!キルリア、マジカルシャイン!」

 

「キールー!」

 

キルリアから放たれた閃光がカイリューを一瞬にしてつつんだ。

 

「よし!」

 

効果抜群の技が完全にきまった。ラルトスとアヤの諦めない心が生み出した会心の一撃だ。思わずガッツポーズをとるアヤ。しかし、マジカルシャインの光が消えたとき、そこにいるはずのカイリューは、びくともせずキルリアを睨みつけていた。

 

「なるほど、中々いい筋をしているわ。でも、相手が悪かったわね。——カイリュー、行くわよ!」

 

チサトは胸の前で水平に腕を組み、そのままうでを羽ばたくように動かし、左手を天高くつき上げた。それと同時にカイリューの咆哮がとどろく。

 

「これが私たちのゼンリョクの技、『ファイナルダイブクラッシュ』!」

 

「グワッ!」

 

チサトのゼットリングが光り、カイリューは空高く飛び上がった。そしてその姿が見えなくなるほどの高さまで飛ぶと、今度はキルリアに向かって急降下し、キルリアに突っ込んだ。

 

「えっ……」

 

アヤもキルリアも想像を絶する威力を前に、何もできなかった。当然バトルの結果は、アヤとラルトスの完敗である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あーあ、負けちゃったか……。ごめんね、キルリア……」

 

バトルが終わるとアヤはため息交じりにキルリアをボールを戻した。するとそこへチサトがやってきた。

 

「いいバトルだったわよ、アヤちゃん。おめでとう、試練達成よ」

 

「そう……、やっぱり試練達成——えっ!?試練達成したの!?負けたのに!?」

 

落ち込んだ表情から一変、アヤはグワっとチサトに迫った。そして、チサトは微笑だ。

 

「あら、私はいつバトルに勝利しろって言ったかしら?そもそもアヤちゃんが私に勝てるなんてちっとも思ってなかったわ。私は言ったわよね、私が知りたいのは『貴女と貴女のポケモンの絆、そして思い』だって。アヤちゃんとキルリアの絆、そして強大な敵を前にしても飽きらめずに立ち向かう2つの心……。Z技を使うトレーナーに相応しいわ」

 

チサトはアヤの手に、Zリング、各タイプのZクリスタルが入ったケース、そして一冊の小さい本を手渡した。

 

「この本は……?」

 

アヤがパラパラとページをめくると、中にはチサトが様々なポーズをとった写真が沢山乗せられている。チサトが言うには、これが各種Z技を放つときのキメポーズだそうだ。アローラ地方に伝わる神聖であり、ポケモンとの絆を高める伝統の舞らしい。

 

「へぇ、伝統的な舞か……。こんな感じかな?いけ、『ウルトラダッシュアタック』!」

 

アヤは技名を叫び、本に書いてある通りに、『Z』の字の形になるように胸の前で腕を組みわせた。彼女の心の中に『決まった!』という感情があふれでる。だが、彼女を待っていたのは非情な現実だった。

 

「アハハハハハハ!何そのヘンテコなポーズ!面白~い!」

 

「ふふふ、どうしてかしら?ポーズは間違ってないのに、アヤちゃんがやると変——じゃなくて独特なポーズに見えるわね」

 

ヒナは爆笑し、チサトからも思わず笑いが漏れる。

 

「えっ、なに!?何が変なの!?ねぇ2人とも、笑ってないで教えてよ~!」

 

アヤは涙目になりながら戸惑うばかりだった。

 

 




おまけ:千聖ちゃんパーティー一覧(本気モード)

元ジムリーダーということで殿堂入り後に何処かでたたかえるであろう千聖ちゃんの手持ちを一挙公開。いつも通り★が付いているポケモンがエース。どこぞの改造厨、もといカントーチャンピオンに手持ちが似ているけど気にしない。エースも同じだけど関係ない。改造、ダメ、絶対!


★カイリュー@ゴツゴツメット
特性:マルチスケイル
性格:図太い
努力値:HB252

・バリアー
・毒毒
・羽休め
・大文字

☆ギャラドス@ゴツゴツメット
特性:威嚇
性格:腕白
努力値:HB252

・滝登り
・挑発
・地震
・電磁波

☆プテラ@ヒコウZ
特性:プレッシャー
性格:陽気
努力値:AS252

・ゴッドバード
・岩雪崩
・炎の牙
・地震

☆リザードン@リザードンナイトY
特性:猛火
性格:臆病
努力値:CS252

・大文字
・ソーラービーム
・気合玉
・エアスラッシュ

☆グライオン@どくどく玉
特性:ポイズンヒール
性格:慎重
努力値:HD252

・地震
・ハサミギロチン
・守る
・身代わり

☆ドンカラス@ピントレンズ
特性:強運
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・不意打ち
・ブレイブバード
・辻斬り
・馬鹿力


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第十七話 リゲル団再び

前回書き忘れましたが、千聖さんのエキスパートは飛行タイプです。


 チサトの試練を達成し、無事Z技を習得したアヤ。彼女はチサトと別れ、ムラサメシティに戻った。そして次の日の朝、ヒナのラグラージに乗りムラサメ湖を渡り、ムラサメシティ北部にあるムラサメ工業地域に向かったのだが、そこに着いた途端リゲル団の下っ端に手荒い歓迎を受ける羽目になった。

 

「カブト!マッドショット!」

 

「テッカニン!燕返し!」

 

この下っ端自体はアヤとヒナの手によって瞬殺だったが、いざバトルを終え落ち着いてみるとあたりには暗い空気が漂っている。状況からしてリゲル団が関わっていることはほぼ間違いない。

 

「行くよ、アヤちゃん!またリゲル団をやっつけちゃうよ!」

 

そう意気込むとヒナは工業地帯の奥へと進んでいく。こうなったヒナはもう止められない。アヤも今回は引き留めずにヒナの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムラサメ工業地域はいたるところに工場が立ち並ぶ、シンシュー地方最大の工業地域である。かつてはキャタピーやケムッソ、クルミルから吐き出される糸を利用した製糸業が盛んであったが、製糸業の衰退により、現在では豊富な水資源と良質な空気を利用し精密機械などを主に作っている。ちなみにアヤたちが使っているポケモン図鑑等、キウシティで開発された商品はここで作られ、販売されることが多い。しかし、そんな素晴らしい技術の結晶といっても過言でもないこの地に今、リゲル団という名の魔の手が迫っている。アヤとヒナは協力してその魔の手を蹴散らし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアヤとヒナは打ち破った下っ端から聞き出した情報をもとに、一つの工場の入り口にやってきた。工場の窓にはリゲル団と思われる沢山の黒い影がうごめいている姿が映っている。まず戦いは避けられないだろう。ここでアヤとヒナはそれぞれ今まで使ってきて、疲労がたまりつつあるカブトとテッカニンをボールに戻し、新たにハヤシガメとポリゴンZを出した。

 

「よーし!アヤちゃん、ズガガーンっていくよ!」

 

「わ、分かった……!」

 

ヒナを先頭に、アヤ達は工場の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、工場のとある一室では、リゲル団の女幹部と男幹部が、工場長に迫っていた。リゲル団の目的はずばり、この工場をリゲル団に全面的に協力させることである。

 

「——まだ話が分からないの?私達はあんたらの技術を高く買っているのよ。報酬だって言い値で支払うわ。私達リゲル団に言われた通りの兵器を作るだけで、孫の代まで遊んでいけるだけの金が手に入るのよ。決して悪い話ではないと思うんだけど?」

 

「……」

 

女幹部の甘い誘惑に対し、白髪と黒髪が混ざった工場長は何も言わずに彼女を睨む。するとバンっというものすごい音が彼の耳に飛び込んだ。男幹部が近くにあったゴミ箱を蹴っ飛ばした音のである。

 

「おいジジィ!早く答えろよ!俺達は気が短けぇんだよ!」

 

「我々の技術は人々の豊かな生活のためのものだ。悪事のためじゃないぞ!どれだけ金をもってこようが、お前らには協力しない!」

 

ついに工場長が怒りのこもった叫びをあげた。しかし、その直後彼の腹に毒づきがめり込んだ。女幹部の横に控えていたハブネークが放った技である。

 

「リーダーからは、貴方を協力させるためなら手段は択ばなくてもいいと伝えられているの。こうなったら、『うん』というまで徹底的に痛めつけてやるわ」

 

呻きをあげる工場長に女幹部は、実に冷徹な笑みを浮かべながら再び毒づきを指示する。だが毒づきが放たれる寸前、ハブネークは悪の波動を浴び、近くの壁に叩きつけられた。それに驚き、技が飛んできた方を見るとそこには二人の少女がいた。ヒナとアヤだ。

 

「この人たちが幹部か。そこのおじさん、今私たちが助けるからね。ポリゴンZ、もう一回悪の波動!」

 

「ポリリリリリ!」

 

ヒナはポリゴンZに再び悪の波動を撃たせる。しかし、今度はハブネークにかわされてしまった。

 

「リゲル団の邪魔をするとは無礼なガキだ!お前ら人間じゃねぇ!」

 

二人の姿を見た男幹部はこう叫ぶと、ザングースを繰り出した。ザングースはボールから出るや否やポリゴンZにとびかろうとしたが、ハヤシガメの葉っぱカッターがそれを阻んだ。

 

「ザングースの相手は私だよ!ハヤシガメ、噛みつく!」

 

噛みつくはここまでの道中で新たに習得したハヤシガメの新技である。だが噛みつこうとするハヤシガメに、ザングースの鋭い爪が食い込む。ブレイククローだ。

 

「おら、もう一発だ!」

 

「グーッス!」

 

攻撃を受けたハヤシガメにブレイククローが襲い掛かる。だがこれくらいのことでは、アヤもハヤシガメもひるまない。防御の構えをとり攻撃を受け止めると、すかさずザングースの腕に噛みつき反撃。だが、その直後再びザングースの鋭い爪が迫ってきた。今度はシザークロスである。

 

「ヤシッ!」

 

効果抜群の技とあってハヤシガメは攻撃を受けきれず、後方に弾き飛ばされた。アヤの見た感じ、もう一発シザークロスを受けられる体力は残っていない。次の一撃で勝負を決めなければアヤの敗北は確実だ。そう思いなんとか策を模索している時、ふと腕に巻かれたZリングが目に留まった。

 

「そうだ、これを使えば……!」

 

クサZは昨日の晩、Z技に浮かれて早々にハヤシガメに持たせていたので問題ない。アヤは頭の中でポーズを思い出し、大きく深呼吸をし、顔の前で腕を交差。そしてしゃがむと少しずつ立ち上がり、力を解放させるようにYの字に腕を開いた。

 

「これが私たちのゼンリョクの技……!ハヤシガメ、『ブルームシャインエクストラ』!」

 

アヤのZリングが光り、ハヤシガメと心が一つになる。するとハヤシガメを中心に花畑の幻影がひろがった。さらに上空からは緑色の光線が放たれ、男幹部もろともザングースを飲み込んだ。

 

「グース……」

 

「人殺しー」

 

Z技をもろに浴びたザングースと男幹部は仲良く目を回しながら倒れた。一応床に寝そべっているザングースと男幹部の様子を見ればピクピクと動いてはいる。人殺しー、などと大げさなことを叫んではいたがちょっと気を失っているだけのようだ。

 

「チッ、まさかこんな子供に負けるとわね……。仕方ない、撤退よ!」

 

アヤの戦いが終わると、女幹部は男幹部とザングースを引きずりどこかへと去っていった。いらだったその様子からうかがうに、女幹部とヒナのバトルの結果はヒナの圧勝だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

リゲル団幹部が立ち去った後、二人は工場長のところへ駆け寄った。

 

「うぅ……、キミたち……、ありがとう……、グフッ!」

 

まだ喋れるだけの力は残っているが、かなりの重症のようだ。結局二人ではどうすることもできないため、彼女たちはレスキュー隊を呼び、病院へ運んでもらうことにした。そして彼は、レスキュー隊が到着し彼が病院に運ばれる直前、アヤとヒナの目を見てこう言い放ったのである。

 

「二人とも気をつけろ……。リゲル団を野放しにしてはならない……。あいつらの考えは危険すぎる……」

 

不穏な言葉を言い残し、工場長は病院へ運ばれていった。

 




今回は展開上短めですみません。
ちなみに次回は、今まで音沙汰がなかったAfterglowの中の誰か一人がようやく登場します。暇だったらだれか予想してみてください!


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第十八話 ユウダチシティ~城とともに生きる街~

てなわけで18話です。今回で、5つのバンドから最低一人ずつは登場したことになるのかな?

DP発殿堂入りの時、ムクホーク+シンオウ御三家が手持ちにいたのは自分だけではないはず。




ムラサメ工業地域での騒動を治めたアヤとヒナは5番道路を北上し、シンシュー地方でも有数の大都市ユウダチシティへとたどり着いた。この街の中央部には立派な天守閣に石垣、さらに堀を備えた黒壁の城、『ユウダチ城』がそびえたっており、かつてはこの城を中心とした城下町が栄えていた。現在では昔ながらの城下町は取り壊され、代わりに近代的なビルが林立しているが、それでもユウダチ城は大切に保存されており、今ではシンシュー地方屈指の人気観光スポットだ。ちなみにここの天守閣には登れるようになっており、そこからはユウダチの街が一望できる。というわけでアヤとヒナもこのユウダチ城に上ってみたのだが……。

 

「ヤッホー!凄い凄い!るんってきたー!アヤちゃんも見てよ、ほらほら!」

 

御覧の通り、ヒナは頂上に着いた途端に子どものようにはしゃぎまくっている。他の観光客の視線がすごいが、当の本人はお構いなしだ。

 

「ヒナちゃん、静かにして!ねぇってば!」

 

アヤは必死にヒナを黙らせようとしたが、ヒナの叫び声や周囲のざわめきでかき消されてヒナの耳には全く届いていない。結局この騒ぎは、ヒナが飽きるまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、てんやわんやなお城見学を終えたアヤ達は次の目的地、『ユウダチシティジム』へと足を運んだ。そう、そもそもこの街に来たのはお城を観光するためでなく、ジムに挑戦するためにここに来たのである。

 

「えーっと、ジム戦の予約は昨日の夜にユウダチシティに来た時点で入れてあるから大丈夫。それでここのジムのタイプは草タイプだっけ?」

 

アヤはジムの目の前で、昨日の晩にパンフレットで読んだことを思い出した。その情報によれば、ここのジムリーダーは『ミタケ流』と呼ばれる由緒ただしい華道の流派の家元でもあり、ミタケ流を継ぐ者は代々草タイプを極めているらしい。しかし、アヤには勝算があった。なにせ草タイプは日ごろよく自分も使っている。だから短所や長所もある程度は理解しているつもりだ。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

アヤは意気揚々とジムの中に入っていったが、ジムに入った途端、その威勢は急速に失われた。ジムの扉をくぐった途端、彼女の目の前にいかつい顔した和服の男が現れたのだ。

 

「……この人がジムリーダー」

 

その風格に思わず足がすくむアヤ。だが、彼の口から出た言葉は衝撃的なものだった。

 

「いや、私はもうジムリーダーではない。私の娘の『ラン』が今はジムリーダーなのだが、生憎ランは今いない」

 

「ジムリーダーがいないって……、ちゃんと予約したはずだけど……。いつになったら戻ってくるか分かりますか?」

 

だが、和服の男からアヤに告げられた真実はいい物とは言えなかった。

 

「私にはわからん。あのバカ娘ときたら、ジムリーダーをやりたくないと急に言い出して……。最近では髪に赤いメッシュをいれたり、良からぬ連中とつるんだりやりたい放題。挙句の果てに家にすらまともに帰ってこないときたもんだ。まったく、私はどこで育て方を間違えたのだろうか」

 

その後二人はジムを出て、しばらくその前で待ってみたがジムリーダーが帰ってくる気配はない。結局二人はこの日、気を取り直してユウダチシティを少し見て回ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして一時間後、アヤとヒナは屋台で買ったユウダチシティ名物である、特定タイプの技の威力を半減する効果をもつ木の実をブレンドして作ったジュース『半減木の実ジュース』を飲みながらユウダチシティのメインストリートを歩いていた。一番最初に書いた通り、ここはシンシュー屈指の大都会。今までの街には無いような面白いお店が目白押しだ。

 

「すごい!どこから見るか迷っちゃうね。うわー、あのショーケースに飾ってある服可愛い!」

 

「ほんとだ!アヤちゃんにきっと似合うよ!買って行っちゃえば~?」

 

二人はこんな調子でメインストリートを散策していたが、わずか数分でトラブルが起きた。あたりのお店に気をとられ、前を見てなかったアヤが小石につまづき、前を歩く人にジュースをかけてしまったのだ。

 

「おいおい、テメーなんのつもりだ!」

 

しかも運の悪いことに、被害者は不良の少年。彼はカンカンになってアヤに、ついでにすぐそばにいたヒナに迫ってきた。

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

「あ、アヤちゃん!どこ行くの!?

 

悲鳴をあげながらアヤは一目散に走る。ヒナも彩を追いかけて走り出した。

 

「ごら、待たんか!」

 

しかし不良少年も二人を追い越すよう勢いで迫ってくる。たまらずアヤは、不良を巻こうとメインストリートを外れ、裏路地に逃げ込む。だが裏路地に入った瞬間、アヤはまた何かに激突し、その衝撃で転んだ。

 

「ひえっ……!」

 

アヤが恐る恐るぶつかったものを見ると、それは自分と同い年ぐらいの赤いメッシュが入った少女だった。

 

「……」

 

その少女は無言でアヤを睨みつけてくる。もうアヤには悲鳴を上げる力すら残っていない。と、その時救世主が舞い降りるかのようにヒナが追いついてきた。

 

「アヤちゃん、ここにいたのかー。で、そこの人は誰?」

 

「……!」

 

ヒナに指をさされると、彼女の眉間にわずかにしわが寄る。そしてその直後、例の不良も追いついてきたのだ。

 

「やっと追いついたぜ!ってそこにいるのはランさんじゃないですか!」

 

不良がその名を口にしたとき、アヤとヒナは顔を見合わせた。ランという名前、そして特徴的な赤メッシュ。彼女こそが、先ほどジムで話を聞いた『ジムリーダーのラン』で間違いがないだろう。

 

「この人がジムリーダー……」

 

アヤはそう分かると、ようやく言葉を発した。しかし、そうこうしている間にもランの目はみるみるうちに鋭くなっていく。

 

「へへへ、ランさんは俺が所属している不良グループの用心棒なんだぜ。滅茶苦茶強いから覚悟しとけよ!」

 

不良がはやし立てると、ランは無言でスッとモンスターボールを構えた。だがその時、ヒナが目の前に立ちはだかった。

 

「ちょっとストップ!なんでジムリーダーがこんな不良の用心棒なんてやってんの?むしろ不良を止める立場でしょ!」

 

「だからなに?」

 

ここでランがようやく口を開いた。その低めな声には竜のような殺気を帯びている。だがヒナはそれに負けず、さらに攻め続けた。

 

「だからなにって……、ジムリーダーなんだからちゃんと仕事しなよ!今日だってアヤちゃんとのバトルサボっているし!お父さんだって怒っていたよ!」

 

その時である、ふとヒナの耳にランの舌打ちが聞こえた。

 

「父さん……!?あんな奴、あたしのこと何もわかっていないんだから……!それにあんたも何なの!?他人の分際で私に指図しないでよ!」

 

「でも……!」

 

「うるさい!」

 

ランは路地裏に響くように怒鳴ると構えていたボールからフライゴンをだし、何処かへ飛び立ってしまった。

 

「あっ……!よーし、こうなったら私も追いかけるよ!」

 

すかさずヒナもテッカニンを繰り出し、ランを追いかけ飛び立つ。だが困ったことに、ランのことに夢中になるあまり、ヒナはアヤの存在をすっかり忘れていたのだ。

 

「ど、どうしよう……」

 

置き去りにされて慌てふためくアヤ。アヤの手持ちには空を飛んで追いかけられるポケモンはいない。さらに背後からは、先ほどの不良がめをギラギラさせながら歩いてくる。

 

「あわわわ……!」

 

もうヒナの助けもない。まさしく絶体絶命である。この状況を見れば誰しもがそう思うだろう。だが、天はまだ彼女を捨ててはいなかった。突如、ユウダチの空にけたたましく勇ましい鳴き声が響き渡ったのだ。

 

「なに……?」

 

アヤが上を見ると、頭上では何かしらのポケモンが羽ばたいている。そしてあろうことか、彼女のもとへ降りてきているではないか。

 

「ヒャッ!」

 

予想だにしない展開に慌てふためいていると、空からはすでにその鳥のようなポケモンが降り立ってきていた。

 

「ホーク!」

 

そのポケモンはアヤの方をじっと見ている。まるで『自分に乗れ』と言っているかのようだ。

 

「えっ……」

 

果たして見ず知らずのポケモンに乗って大丈夫なのだろうか。不安が頭をよぎる。だが背後には不良。彼から逃げる手段はこのポケモンに乗るしかない。意を決したアヤは、不良がとびかかろうとした瞬間にそのポケモンに飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の鳥ポケモンに乗り、何とか窮地を脱したアヤ。だがまだ安心するのは早い。颯爽と現れ彼女を助けたポケモンは何なのだろうか。アヤはこの謎を探るべくポケモン図鑑でこのポケモンを調べた。

 

「えっと……、このポケモンはムクホーク……。ムックルの最終進化系かぁ」

 

この時アヤの脳裏には、かつてキウの森で出会った左目に傷を負っていたムックルの姿が浮かんでいた。

 

「元気にしているかなー、あのムック——ん……?」

 

アヤがそのムックルに思いをはせていると、彼女の目にムクホークの顔が映った。その顔はどこかで見覚えがある。特に特徴的なのは左目の傷。ここまであの時のムックルと特徴が一致しているムクホークはまずいないだろう。

 

「もしかして……、あの時のムックルなの……?」

 

アヤは驚きのあまり、かすれた声でムクホークの顔を覗き込こむ。

 

「ホーク」

 

するとムックルはゆっくりと頷いた。まさかの再会である。だがこれで怪しいポケモンではないということは分かった。はっきり言ってアヤ自身、色々と聞きたいことや考えたいことはあるが、今はそんな時間はない。とりあえず彼女はそのムクホークに頼んで、ヒナとランを追いかけてもらうことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムクホークは速かった。アヤがいまだかつて体験したことがない速さだ。そして数分後、正面に二つの小さい点が見えてきた。ヒナとランの影である。

 

「ムクホーク、もう少しスピード上げてもらえるかな?」

 

「ホーク!」

 

ムクホークはさらにスピードを上げ、あっという間にアヤをヒナの隣に連れて行った。

 

「あっ、アヤちゃん!どうしたのそのムクホーク!?いつの間にゲットしていたの?」

 

そしてアヤがヒナに追いついたとき、ヒナは驚きの声を上げていた。まあ、先ほどまで手持ちにいなかった立派なムクホークにアヤが乗っているのだから驚くのも無理はない。

 

「私はゲットしてないよ。このムクホークは野生だけど、この目の傷見て。ヒナちゃんも見おぼえない?」

 

「目の傷、目の傷……。あれっ?もしかしてそのムクホーク、キウの森で出会ったムックルが進化したの?」

 

「そうみたい。何でここにいるのだろう……」

 

二人はムクホークとテッカニンの上で頭を抱え込んだ。そしてそうこうしているうちに、ランが乗っているフライゴンは降下を始めている。

 

「テッカニン、フライゴンを降りて」

 

「ムクホークもお願い」

 

テッカニンとムクホークも眼下に広がる『ユウダチ峠』へ降下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウダチ峠はユウダチシティとシンシュー東部の街、ホマチシティを結ぶ峠道だ。山を越えるように道があるせいか、どこもデコボコしており、アップダウンも激しく、ハブネークのように蛇行している。ついでにアヤたちが今いる場所はまだ開けているものの、ちょっと進めば生い茂る草木やや大小さまざまな岩が行く末を阻む。まさしく、シンシュー屈指の悪路といえるだろう。

 

「あ、あそこにランちゃんがいた!」

 

さて、そんなユウダチ峠に降り立って早々にヒナはランを見つけた。

 

「しつこいなぁ!どうしてあたしにそこまで付きまとうの!?」

 

だが一方のランはものすごい形相でこっちを睨んでいる。アヤはこれだけでもうビビっているが、一方のヒナ退く気配がない。

 

「なんでって、そっちがジム戦から逃げるからじゃん!アヤちゃんとちゃんとジム戦しなよ!」

 

「逃げた!?別に逃げてないし!静かなところに行きたかっただけだし。ジムにいるとうるさい父さんがいるからね。というかなんでアンタは他人のジム戦に必死になるわけ?というか、当のアヤちゃんという人は隣で涙を浮かべているし。その人、本当に戦う気あるの?」

 

「ムー!今アヤちゃん馬鹿にしたでしょ!アヤちゃんは凄いんだよ!ジムバッジ3つも持っているし、すごい頑張り屋だし、ポケモンからも懐かれているし、写真撮るの上手いし、水へ落ちる姿が面白いし、泣き虫だし、物はすぐ無くすし、道は間違えるし、ドジだし……。あれっ、でもなんか凄いかどうかよくわからないものもあるなぁ。まぁいいや、とにかくアヤちゃんは凄いんだよ!どっかの誰かさんみたいに意気地なしじゃないんだから!」

 

この瞬間、ランの中で何かプツンと切れた。

 

「意気地なし……?このあたしが……!?言わせておけば言いたい放題言って……!いいよ、そんなに言うんだったらここでジム戦をやってあげるよ。あたしの『ドラゴンポケモン』相手に勝てるとは思えないけど」

 

「えっ、ドラゴンポケモン!?ユウダチシティジムは草タイプのジムじゃ……」

 

アヤは自分の耳を疑った。その前で、ランは真剣なまなざしで見つめてくる。

 

「確かにあたしはミタケ流の家元の生まれだし、父さんたちは代々草タイプを極めてきた。でも、私が草タイプの使い手にならなくちゃいけないなんていうルールはどこにもない。だから私は自分が決めたタイプを極める。あたしはドラゴンタイプのポケモンに対する情熱なら、だれにも負けないっていう自信があるからね。今からその情熱を見せてあげるよ」

 

ランの隣に控えていたフライゴンは、彼女のアイコンタクトを受け前へ出た。祖いて以外の事態が起こったとはいえ、ここまで舞台を用意されてくれては勝負から逃げるわけにはいかない。仮に逃げようとしても、まずヒナが許してはくれないだろう。

 

「よ、よーし……!」

 

意を決し、アヤもボールを手に取る。だがこの時彼女は気が付いた。自分の手持ちでは、空を自由自在に飛ぶフライゴンに分が悪すぎるということに。彼女のポケモンに空を自由自在に飛べるポケモンは一匹もいない。平地ならまだ何とかしようがあったがここは足場も悪く、その影響がもろに出てしまう。完全にお手上げ——かと思われた時だ、おとなしくアヤのそばで控えていたムクホークがアヤの前に歩み出た。

 

「ホーク!」

 

その勇ましい鳴き声は『自分に任せろ!』と言わんばかりである。しかし、アヤはいまいち踏ん切りがつかない。

 

「ムクホーク……。でも……、何覚えているかよくわからないし……、そもそもムクホークは野生のポケモンだし……。ねぇヒナちゃん、どうすればいいの?」

 

「いいんじゃない、戦ってくれるっていうんなら。技は……、バトルを見て私が教えてあげるよ。だから初めのうちは、基本的な動作だけ指示してよさ、アヤちゃん。ジム戦だよ!」

 

「わ、分かった。それじゃぁ……。ムクホーク、お願い!」

 

ヒナの後押しを受け、アヤはムクホークの体を軽く二回ほど叩く。するとムクホークは再び勇ましく鳴くとアヤの想いを胸に秘め、大空の舞台へと飛びだった。そして、それを見たランの顔に不敵な笑みが浮かんだ。

 

「へぇ、野生のポケモンであたし達に挑もうなんて、ずいぶんと舐めたことしてくれるね。さぁ、どこからでもかかってきなよ」

 

 

 

 




ランのお父さんのイメージは、もちろんあの蘭パパです。

あとお気に入り数100を超えました。ありがとうございます。これからも評価や感想、お気に入り登録等で応援してくれると嬉しいです!


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第十九話 夕陽に映えるドラゴン使い

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ランとフライゴン、アヤとムクホークは互いにらみ合った。峠に漂う沈黙。聞こえるのは風が吹く音のみ。

 

「フライゴン!ドラゴンクロー!」

 

「フリャァ!」

 

そんな中、ついにランとフライゴンが動いた。鋭い爪が、あらゆるものを引き裂く勢いでムクホークに迫る。

 

「ムクホーク!えっと……、その……」

 

アヤもそれに立ち向かおうとするが、覚えている技も知らないせいか上手く指示が出せない。喉まで言葉の素材は出ているが、うまくそれを言葉にできないのだ。しかし、ムクホークはアヤの気持ちを見通したかのようにドラゴンクローを回避。そして目にもとまらぬ速さでフライゴンの背後に回り込み、打撃を与えた。

 

「あの動きは……、電光石火だね」

 

ヒナはそれを見てアヤの隣で呟いた。と、その時ムクホークの頭上に大量の岩があられた。フライゴンの岩雪崩だ。

 

「ムクホーク、電光石火!」

 

「ホーク!」

 

ムクホークは寸のところで降り注ぐ岩の間をすり抜ける。だが、その先にフライゴンの姿はなかった。

 

「えっと……」

 

アヤがあたりを見渡すと、案外すぐにその姿は見つかった。だが、日の光がまぶしくてアヤの位置からはフライゴンの姿はよく見えない。完全に逆光だ。フライゴンがウネウネしているのは分かるが、それ以上は分からない。すると、ヒナが不意に叫んだ。

 

「あれは……、竜の舞だ!」

 

「りゅ、竜の舞?」

 

「神秘的で力強い踊りをすることで、一時的に使用ポケモンの攻撃と素早さをあげる技だよ。だから気を付けてね」

 

「気を付けてって言われても……」

 

だがその矢先、竜の舞を使ったフライゴンが、ムクホークに襲いかかってきた。ムクホークは反射的に身をかわす。だが、素早さが上がったフライゴンのスピードには反応しきれず、無残にもドラゴンクローがその身を切り裂く。

 

「ここで畳みかけるよ。フライゴン、もう一度ドラゴンクロー!」

 

攻撃をうけ、墜落しつつあるその体に再びフライゴンの凶刃がせまる。

 

「ホーク!」

 

だがムクホークはその場で持ち直した。そしてフライゴンのドラゴンクローに、屈強な足を高速で叩きこんだ。守りを捨てた荒技、インファイトである。

 

「フリャァ……」

 

「ホーク……」

 

二匹のポケモンはそれぞれ相手の攻撃に耐え切れず墜落。これは相打ちか。ヒナとアヤは直感的に思った。しかしその直後、フライゴンは再び空に舞い戻ってきたのだ。流石はジムリーダーのポケモンなだけある。だが、一方のムクホークは地面にうずくまったまま動かない。

 

「これは勝負あったね。野生のポケモンを使った割には頑張っていたとは思うけど、あたしに勝とうだなんて100年早いんだよ」

 

ランはアヤとフライゴンを鼻で笑い、フライゴンが入っていたモンスターボールに手をかける。だがその時、アヤがムクホークに駆け寄った。

 

「ムクホーク!しっかりしてよ、ねぇ!」

 

半泣き状態で彼女はムクホークを揺さぶる。すると、その思いが通じたのか奇跡が起きた。ムクホークが再び立ち上がったのだ。

 

「ホーーーーク!」

 

『まだまだ俺はやれるぞ!』そう言わんばかりの鳴き声が峠に響く。そしてムクホークは空高く飛び上がり、そのままフライゴンに向けて突っ込んだ。ムクホークが宙を切り裂き、その体が青い閃光に包まれる。ムクホークが大好きなアヤを守るために、血がにじむような努力を重ねて習得した飛行タイプ最強の技、『ブレイブバード』だ。

 

「嘘だ、この私が負けるなんて……!フライゴン、ドラゴンク——」

 

ランも慌てて立ち向かおうとするが、もう手遅れだ。青い閃光はフライゴンをまっすぐ貫いた。

 

「フリャァ……」

 

フライゴンは力なく地面に堕ちた。今度こそ戦闘不能である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やった……!勝った!私たちの勝ちだよ……!」

 

勝敗が決まるとアヤは、地上に降り立ったばかりのムクホークに抱き着いた。ムクホークも顔を赤らめ、なんだか嬉しそうだ。

 

「ね、アヤちゃん凄いでしょ?さぁ、アヤちゃんにジムバッジを渡してよ」

 

その傍らでヒナはランに笑顔を見せた。だが、ふくれっ面のランが放った言葉は衝劇的だった。

 

「……こんな勝負、あたしは認めない!大体自分のポケモン使ってないし、途中でトレーナーがポケモンに接触してたし……。と、とにかくジムバッジなんて渡さないよ!」

 

「そんな!」

 

「それはないよ!」

 

アヤとヒナから思わず眼玉が飛び出しかける。

 

「ジムバッジはジムリーダーが認めたトレーナーにのみ渡されるもの。だから、例え勝ってもジムリーダーであるこのあたしに認められなければバッジは手に入らないんだよ」

 

ランは勝ち誇ったように表情である。しかしそんな滅茶苦茶なことが許されるわけもなく、ついに彼女に雷が落ちた。

 

「この愚か者めが!」

 

山で木っ端みじんに砕きそうなほどの怒号が轟く。アヤとヒナが反射的に背後を振り向くと、そこにはジムにいた和服の男、すなわちランの父親が腕を組んでいた。ランはもうびっくり仰天だ。

 

「と、父さん……!どうしてここに……!」

 

「ジムの外に出たら偶然、フライゴンに乗って飛んでいくお前の姿を見たから、トロピウスに乗ってこっそり後をつけてきたんだ。どうせロクなことをしていないとは思っていたが、今回ばかりは予想のはるか上を言っていたよ。お前の根性はどうなっている!なぜ彼女にバッジを渡さない!?」

 

「だ、だって……、野生のポケモン使ってたし……、トレーナーが途中でポケモンに接触を……」

 

「だからなんだっていうんだ?むしろ野生のポケモンと心を通い合わせ、見事勝利を勝ち取ったチャレンジャーの方を称えるべきではないのか?それに、負けを認めなければその先には行けない。お前はそんなこともわからなくなってしまったのか!?」

 

「そういうわけじゃ!」

 

「じゃぁなんだっていうんだ?」

 

ランの父親の目がギロリと動く。ランの完敗だ。

 

「……わかったよ、バッジを渡すよ」

 

ようやくランはぎこちない動きで、ポケットからバッジを取り出した

 

「あの……、いろいろゴメン……。これが『ワイバーンバッジ』だから、受け取って……」

 

ランはそっぽを向いたままそう言うと、照れ隠しなのか何なのかアヤの手に無理やりバッジを握らせた。

 

「今回はうちのバカ娘が迷惑をおかけして申し訳ありません。これでお詫びになるとは微塵も思っていませんが、せめてこれを受け取ってください。私の家系に代々伝わる技『エナジーボール』が入った技マシンです」

 

さらにランの父親は、アヤに丁寧に頭を下げると技マシンをアヤに手渡す。そして、先ほどとは打って変わって落ち着いた様子で、さっきからずっとうつむいているランに声をかけた。

 

「ラン……、はっきり言って私はお前に失望した。これからはジムリーダーとして相応しいトレーナーになるために、お前にはもう一度トレーナーとしての基礎を学んでもらう。それからは——」

 

「どうせミタケ流の人間として、ドラゴンタイプを捨てて草タイプを極めろとか言い出すんでしょ」

 

ランは思わずため息をついた。しかし、どうやらランとランの父親の思っていることは違っていたようだ。

 

「いや。別にもうミタケ流にこだわる必要はない。今までは、お前がドラゴンタイプを極めるといっても所詮ままごと程度の熱意だと思っていたが、今日のバトルを見てそれが誤りであることを知った。トレーナーとしての態度は褒められたもんじゃないが、ドラゴンタイプへの熱意だけは本物だったようだな。そのことについては私に非があったと素直に謝ろう」

 

ランの父親は、ランに頭を下げた。だが、当のランはいまいち状況が呑み込めてない。

 

「父さん!どうして頭を下げるの!?どういうことなの!?えっ……、もしかして私がドラゴンタイプのジムリーダーになることを認めてくれるの!?」

 

「そういうことだ。私はミタケ流の家元である前に、お前の父親だ。父親として、娘が本気で情熱をかけていることを応援するのは当然のことだ。ミタケ流にとらわれず、ドラゴンタイプを極めてみろ。……頑張れよ」

 

この時アヤとヒナは初めて、この和服の男がほほ笑むのを見た。

 

「父さん……、ありがとう……。でも、父さんの言うことをすべて聞くわけにはいかないね。父さん、あたしもミタケ流を継ぐよ。それでミタケ流の人間として、草タイプもドラゴンタイプと同じくらい極めて見せるよ。だって、そうじゃないと不平等でしょ。父さんが私の願いを聞いてくれたんだから、私も父さんの願いを叶えるよ」

 

「……知っているとは思うが、ミタケ流の教えは厳しいぞ。それでも両立できるのか?」

 

ランは無言だが、力強くうなずく。ランの父親も再び微かな笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後ランは、夕焼けに照らされながら父親とともにトロピウスに乗って去っていった。

 

「ランさん、負けず嫌いなだけで本当はいい人なのかもね」

 

アヤはその姿を見て呟く。と、それと同時にムクホークが目の前で羽ばたきだした。それも地面の上でだ。

 

「へ、へっ?」

 

アヤには何が起きているかさっぱりだ。しかし、隣にいたヒナは不敵な笑みを浮かべていた。

 

(確か、ムクホーク系統は求愛行動の時に地面で翼をばたつかせるんだっけ。となるとこのムクホークは、キウの森からアヤちゃんを追いかけてきたのかな?ふふ~ん、るんって感じになってきたー!)

 

ヒナは自分が持っている空のモンスターボールをアヤの前に差し出した。

 

「ア~ヤちゃん!提案なんだけどさ、このムクホークも一緒に連れて行ってあげれば?」

 

「えっ、それってゲットするってこと……?」

 

「うん!今日のバトルで、アヤちゃんとムクホークの息がバッチリあってたからさ、これからもうまくやっていけると思うんだよね」

 

と、もっともらしいことをヒナは言ってみたが、他意があるのは言うまでもない。というか顔にそれがもろに出て、彼女はさっきからずっとにやけている。

 

「ヒナちゃん、何なのその顔?」

 

「別に、なんでもないよ~」

 

「うぅ、なんか嫌な予感がする……」

 

だが、アヤはそう言いながらもムクホークと目を合わせた。というのも、なんだかんだでアヤ自身もこのムクホークのことが気になっていたのだ。もちろん異性としてではなく、ポケモンとしてだが……。

 

「ねぇ、ムクホーク。よかったら、私と一緒に旅をしてみない?」

 

ムクホークは待ってましたといわんばかりに、翼がちぎれそうな勢いでばたつかせる。そしてその体は間もなく、モンスターボールへと吸い込まれたのである。

 

「えへへ、よろしくね。ムクホーク」

 

アヤは新しいボールが入った仲間に微笑んだ。

 




おまけ:蘭ちゃんパーティー一覧(本気モード)
・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気蘭ちゃんの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。落ち着いてみると、手持ちがORASのゲンジの強化後パーティーと被りまくっている。ま、ドラゴンタイプは数が少ないし仕方ないね!



★フライゴン@気合のたすき
特性:浮遊
性格:陽気
努力値AS252

・地震
・竜の舞
・逆鱗
・ストーンエッジ

☆チルタリス@チルタリスナイト
特性:自然回復
性格:図太い
努力値:HB252

・羽休め
・ハイパーボイス
・コットンガード
・大文字

☆ボーマンダ@命の玉
特性:威嚇
性格:無邪気
努力値:AS252

・逆鱗
・地震
・大文字
・竜星群

☆オノノクス@こだわりスカーフ
特性:型破り
性格:陽気
努力値:AS252

・逆鱗
・地震
・ハサミギロチン
・アイアンテール

☆ナッシー(アローラの姿)@弱点保険
特性:お見通し
性格:冷静
努力値:HC252

・ヘドロ爆弾
・リーフストーム
・竜星群
・火炎放射

☆バクガメス@ドラゴンZ
特性:シェルアーマー
性格:臆病
努力値:CS252

・竜の波動
・殻を破る
・大文字
・気合玉


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第二十話 ハッピー、ラッキー、スマイル、イエィ!

というわけでこのお話も20話目。これからも感想や高評価、お気に入り登録などで応援してくれると泣いて喜びます!


4つ目のバッジを手に入れたアヤは一度ユウダチシティに戻り、次の日に改めてユウダチ峠に向かった。前回も少し触れたが、ここの峠道は悪路というのも生易しいほどの道だ。倒木や岩が道をふさいでいたり、道がへこんでいたりするのはザラであるうえ、酷いときには道の大半が崩れ落ちていたり、崖と崖を結ぶ橋が半壊していたりする。ここを通る最中に、アヤの悲鳴が峠にこだましっぱなしだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

ちなみに余談だが、そんな悪路のせいでユウダチシティとホマチシティは距離が近いのにもかかわらず、あんまりかかわっていなかったりする。無論、街を行き来するたびに命を懸けなければならないのだから無理はないだろうが。流石にこの現状には、ユウダチシティやホマチシティの住人もほとほと困り果てていたようで、最近になってようやく二つの街を結びつつ、ユウダチ峠を迂回するサイクリングロードが作られだしたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして命がけの峠道をなんとかどうにか乗り越えたアヤとヒナはホマチシティにたどり着いた。ホマチシティは、近代的なビルと昔ながらの民家が混ざった独特の街だ。ついでにポケモンセンターに温泉が併設されている珍しい場所でもある。さて、アヤとヒナがこの街に来た理由だが、それは勿論この街にある『ホマチシティジム』に挑むためだ。ここのジムは、これまた珍しくジムリーダーが二人いる。噂によれば仲良し姉妹がジムリーダーらしい。

 

「ジムリーダーが二人か……」

 

アヤはこの街にきてからずっとそのことを考えていた。初めての事態に不安もある。だが、それと同じくらいのやる気もあった。

 

「大丈夫、大丈夫!いっぱい頑張ってきたもんね!」

 

しかし、そのやる気は一瞬にして打ち砕かれた。ホマチシティのポケモンセンターに向かう途中に偶然ジムの前を通ったのだが、ジムの扉に一枚の張り紙が張ってあるのを、アヤは見てしまったのだ。

 

「えっと、なになに……、『商店街の福引で、アローラ地方旅行券が当たったのでアローラに行ってきます。ジムはしばらく休業です。世界一カッコいいジムリーダーと、その妹の聖堕天使より』。……うそ、ジム戦できないの!?」

 

ショッキングな通告である。だがこの時彼女は、ジムの休業よりもヒナの様子の方が気になっていた。ヒナはジムの前で、柄にも合わず口をぽかんと開けボケーっとしているのだ。

 

「ひ、ヒナちゃん……?」

 

違和感を覚えたアヤは彼女の肩をたたく。するとヒナの体がブルっと震えた。

 

「うわっ……!な、なに、アヤちゃん?」

 

「ヒナちゃんどうしたの……?具合悪いの……?ぼーっとしてるなんてヒナちゃんらしくないよ」

 

「そ、そんなことないよ!なんでもないよ。さ、ポケモンセンターに行こ!あそこには温泉があるんだって!」

 

ヒナの言葉はそこか歯切れが悪かったが、この時のアヤがそのわけを知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直した二人は、ホマチの街中を進みポケモンセンターへと向かった。ところが、もう少しでつきそうなところで謎の人だかりが二人を妨げた。

 

「なんなのこの人だかりは……」

 

「ちょっと見てみようよアヤちゃん!」

 

いてもたってもいられなくなったアヤとヒナは人だかりに飛び込む。すると同時に、人だかりの中心から鈴が鳴るような声が街に響くと、金髪の少女の声が聞こえてきた。

 

「みんな~、いっくわよ~!ハッピー、ラッキー、スマイル、イェイ!」

 

どこからともなく軽快な音楽が鳴りだし、その声は音楽に合わせて心躍るリズムを編み出す。さらにその少女はただ歌うだけでなく、マイクを片手に跳ねたり側転したり、バク宙してみたりと、とにかくアクロバティックなのだ。もはや、ふつうの人ではまねできない神業と飛べる域だろう。そのクオリティの高さにアヤは思わず言葉を失った。

 

「凄い……」

 

ところがアヤはハッと我を取り戻した。というのも不思議なことに、いつ間にか歌声が一人分増えているのだ。それは、間違いなくヒナの声である。しかもその少女と同様にアクロバティックな動きで歌っている上、怖いくらい息があっているのだから驚きだ。

 

「ヒナちゃん!」

 

そうと分かった瞬間、アヤは人をかき分けて中心で叫んだ。

 

「ヒナちゃん、辞めなって!ねぇヒナちゃん!」

 

しかし歌声や周囲の歓声にかき消され、その叫びがヒナに届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

謎の路上ライブが終わった後、アヤはヒナに向かって説教をしていた。

 

「ヒナちゃん!どうして他人のライブに乱入したの!?」

 

「だって~、ワクワクしてソワソワしてるんってきて、ドーーーンってしたかったんだもん!」

 

「うっ……、やっぱり意味が分からない……!と、とにかく他人のライブに乱入して邪魔しちゃ!駄目だよ!」

 

「どうしてどうしてダメなの?あの人、私が乱入してもすごい楽しそうだったよ。ハイタッチもしたしさ」

 

「そういう問題じゃなくて~!」

 

このままでは話は平行線のままだ。ところがアヤがほとほと困りかけたときだ、彼女の視界に例の金髪少女の姿が映った。

 

「あ~、さっきのこと怒りに来たんだな……」

 

アヤも観念し、肩を落としその時を待つ。だが、彼女からかけられた言葉は予想外の言葉であった。

 

「探したわよさっきの人!楽しいライブを手伝ってくれてありがとう!」

 

そう、その少女は怒るどころか滅茶苦茶嬉しそうにヒナに駆け寄ってきたのだ。

 

「あっ……、怒りに来たんじゃないんだ……」

 

アヤは肩透かしを食らった。が、その一方でヒナとその少女はアヤをそっちのけで楽し気に話している。そしてその直後、ヒナはアヤの想像の域を超えた発言をしてきたのだ。

 

「アーヤちゃん!この人、ライブのお礼にランチをご馳走してくれるって!」

 

「お礼……?ランチ……?だってヒナちゃんはライブを邪魔したんじゃ……」

 

全く話が読めない。ライブに乱入してなぜお礼になるのか。どうしてそれがランチになるのか。話が全くつながらない。すると、彼女の目の前に天使のような笑みを浮かべた例の金髪少女が姿を現した。

 

「邪魔なんてとんでもないわ。この人はライブを盛り上げてくれたじゃない!」

 

「盛り上げる……?」

 

「だってライブは一人より二人の方が楽しいじゃない!あっ、そうそう。話は変わるけどあなた達の名前は何なのかしら?」

 

「私は……、アヤだけど……」

 

「私はヒナ!よっろしくね~」

 

「アヤとヒナね。私の名前はココロ。世界を笑顔にするのが夢なのよ!」

 

「世界を笑顔に……?」

 

「そうよ。笑顔になって悲しい人なんていないもの!世界を笑顔にするためなら何でもするわ!というわけで、私と一緒にランチに行きましょ!私、もっと二人と楽しみたいの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで飲み込めない部分も多いが、アヤはヒナと一緒にココロと名乗る少女に連れていかれ、彼女お勧めのカロス料理屋に連れていかれたのだが……。

 

「なんだか落ち着かないな……」

 

席に座ったアヤはあたりを見渡した。床には高級感漂う赤じゅうたん。天井には豪華なシャンデリア。壁には巨大な絵画。極めつけはメニューの中身。料理は見たことも聞いたこともない物ばかり。値段に至っては、いつもアヤたちが食べているものよりも0が1つか2つ多い。その上量はいつも彼女たちが食べているものの半分くらいだ。完全にアヤが住んでいる世界とは別世界である。

 

「さぁ、何でも好きなものを頼んでちょうだい!私がご馳走するわ!」

 

ココロは笑顔でそういうが、こんな高額なものをおごってもらうなんて申し訳ない。アヤは心の底からそう思った。だが、その隣でヒナは目を輝かせていた。

 

「うわ~、どれでも頼んでいいの!?じゃぁ私、コレとコレとコレ!あとは~コレとコレ!デザートはこれにしよ!」

 

彼女は目にもとまらぬスピードでメニューを指さしていく。遠慮を知らないとはまさにこのことだ。対するアヤは恐る恐る一番安いメニューをっ注文していたのであった。安いとはいえ一般人の価値からすれば非常に高額ではあるが。例えるなら、1つ200円のモンスターボールに20000円払う感じである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランチの後もアヤとヒナはココロに連れていかれ、ホマチシティの様々なところを回ってディナーまでご馳走してもらい、二人がココロと別れたのはもう1~2時間で日付がかわるころであった。

 

「ココロちゃんか……。」

 

桁違いの大金持ちで、とにかく人を笑顔にすることが大好きな少女ココロ。これ以外のことは分からない不思議な少女であるが、なぜだかまた会いたくなる魅力を彼女は持っている。アヤはポケモンセンターに向かう夜道で静かにそんなことを思った。だがその時である、ポケモンセンターへ通ずる大通りを歩く二人の前に、路地からヌッと一人の少女の影が現れたのだ。

 

「キャッ!」

 

「ワッ!」

 

「ヒャッ……!」

 

不意の出来事に三人は思わず悲鳴を上げる。だが、それは予想外の再会であった。

 

「あれ……?そこにいるのは……、アヤさんと……、ヒナさん……ですか……?」

 

路地から出てきた少女の正体は、キウシティで出会った物静かな少女リンコであった。彼女の隣にはゲンガーが控えており、闇夜の中で不気味に笑っている。

 

「あー、なんだ……、リンコさんか……、良かったぁ」

 

とりあえず怪しい人ではないとわかり、アヤはほっと胸をなでおろす。その傍らでヒナは、リンコにグイグイ迫っていた。

 

「わぁ~リンコさんだ!久しぶり~!」

 

前も思ったが随分と性格が対照的な二人である。しかし、リンコはそんなヒナにも物怖じせず、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「ひ、久しぶりです……。ヒナさん……、アヤさん……。調子はどうですか……?」

 

「うん、私もアヤちゃんも絶好調!そうそう、アヤちゃん凄いんだよ!ジムバッジを4つも手に入れたんだよ!」

 

「4つもですか……!?凄いです……」

 

「ゲーッ!」

 

リンコと彼女のゲンガーに褒められ、アヤは照れて頬を赤らめた。

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

なんだかんだでヒナ以外の人にバッジの数を褒められたのは初めてだ。だが、その余韻に浸る間もなく、ヒナが話の流れを変えてきた。

 

「で、さっきから気になっていたんだけど、リンコさんはこんな遅くに何やっているの?」

 

「あっ……、私は……、その……。少し……探し物を……」

 

「探し物?何を探しているの?」

 

ヒナがリンコの言葉に食いつく。するとリンコは少し目を上にそらし、考え事をするそぶりを見せた。

 

「あんまりこういうことは……言わないほうがいいんですけど……、アヤさんとヒナさんなら大丈夫かな……?ここだけの話ですけど……、ホマチシティにリゲル団の研究所があるっていう情報があるんです……」

 

「リゲル団の!」

 

「研究所!?」

 

アヤとヒナは思わず大声で叫んだ。今日一日ココロと一緒に楽しく回ったこの街にそんな物騒な施設があるなんて誰が予想しただろうか。

 

「驚くのも無理はないですよね……。でも、前から私服姿ではありますが……リゲル団員らしき人がこの街でよく目撃されているので……ほぼ間違いないかと……。私もこの事態を見過ごすわけにもいかないので……、研究所を探して……研究所に襲い掛かって……、リゲル団を血祭りに……してあげようと思ったんですけど……………中々研究所の入り口が見つからないんです……。リゲル団のバカの割には上手く隠れてますね……。ねぇ、ゲンガー……?」

 

「ゲーッ!」

 

リンコはゲンガーとともにほほ笑んだ。すると、それを見たヒナが声をあげた。

 

「そうだ!だったら私たちも明日、一緒に探すよ!」

 

 

「ありがとうございます……、ヒナさん……。気持ちはうれしいです……。でも……、明日は私……別の街でピアノのコンサートがあるので……研究所は探せないんです……。これは個人的にやっていること……、言ってしまえば……趣味の延長みたいなものですから……。それじゃぁ……、私はこれで失礼します……。アヤさんもヒナさんも……、気を付けてくださいね……」

 

それだけ言い残すと、リンコはゲンガーと一緒に何処かへ去っていった。そして、リンコの姿が見えなくなったとき、ヒナはアヤにキラキラ輝く目を向けてきた。

 

「ねぇ、アヤちゃん!明日、私達でリゲル団の研究所を探そうよ!」

 

やっぱりそう来たか。アヤは内心そう思った。ヒナがこうなっては、もはや彼女に断るという選択肢はない。

 

「わかったよ……。私も行くよ……」

 

アヤは複雑な心境でうなずいたのであった。

 



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第二十一話 禁断の再会

今回は話の都合上かなり長めです。上手く区切れるところが見つからなかった。


次の日の朝早くからアヤとヒナはホマチシテを回り、リゲル団の研究所を探した。しかし、

リンコが言う通り、中々それは見当たらない。そしいぇ何の手掛かりも得られないまま、時刻は正午を回ってしまった。

 

「本当にリゲル団の研究所ってこの街にあるのかな?」

 

店で買ったフライドポテトを片手に路地を進むヒナの後ろで、アヤはぼやいた。確かにこの薄暗い場所にリゲル団がいても違和感はない。だが朝から似たような路地を十本以上歩いたがいたって平和であった。

 

「これだけ探してもないってことは、ひょっとしてリンコさんの早とちりとか……。うん、きっとそうだよ。だからヒナちゃん、もう研究所を探すのは止めようよ!というかこんな危ない真似はもうやめようよ!こんな不気味なところも私は嫌だよ!」

 

アヤは必死にヒナに訴える。だが当の本人は聞く耳を持たない。

 

「なんで研究所探しを辞めなきゃいけないの?なんかこういうことって映画のスパイや探偵みたいでるんってするじゃん!」

 

「うぅ……、なんでそうなるの……。私は全然るんってこないよ」

 

「もしかしてアヤちゃん、リゲル団が怖いの?そういうことなら大丈夫だって。今までリゲル団なんて大したことなかったじゃん!あ、そんなに不安なら元気になれるもの見せてあげる。ほら、この『フライドポテト』!他のポテトより長いよ!」

 

不安で押しつぶされそうなアヤに、ヒナはその長いフライドポテトを見せつける。彼女なりの傷会なのだろうか。だがその時、アヤの目の前からヒナの姿が一瞬にして消えた。

 

「えっ……!ヒナちゃん!?」

 

慌ててアヤは上を下を、右を左を見渡すが彼女の影も形もない。あたりにはヒナが食べていたフライドポテトが目の前のマンホールの周りに散乱しているだけだ。

 

「そんな、ヒナちゃんがいなくなっちゃった!『フライドポテト』を食べながら歩いていただけなのに!」

 

そのマンホールの上に駆け寄り、困り果てているとアヤ。すると足元にあったはずのマンホールが開き、地の底に続くかのような真っ黒い大きな口を開けた。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

アヤは吸い込まれるように、その口の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひゃっ!」

 

アヤは腰から派手に落下した。ケガはしてないことがせめてもの救いか。だが急すぎる展開に追いつけず、あらゆる情報が彼女の中に入ってこない。

 

「アヤちゃん大丈夫!?」

 

と、そこにヒナが駆け寄ってきた。すると彼女の姿を見て落ち着いたのか、アヤにようやく周囲の情報が入ってきた。二人がいるのは地下とは思えないほど明るく広い空間だ。そして二人の正面にある廊下の入り口の両脇には、もはや見慣れたリゲル団のエンブレムが掲げられている。

 

「もしかして……、ここがリゲル団の研究所?」

 

アヤが呟くと、ヒナも頷く。

 

「そうだね、ここが研究所みたいだね。あのマンホールがヒミツの入り口になっていたんだよ。多分、合言葉か相性番号で開く仕組みだったのかな。大体この手の映画や小説だとそうだし」

 

「合言葉……?そんな合言葉になりそうな単語言った覚えが……」

 

「まぁそんなのどうでもいいじゃん。とりあえず進んでみよ」

 

ヒナはそう言うと廊下に足を踏み入れる。だが、それと同時に彼女は直立のまま廊下のはるか彼方へ吹っ飛ばされた。

 

「何が起こったの!?」

 

アヤが足元を見ると、今さっきまでヒナがいた地点には正面に向かう矢印が書かれたパネルが埋め込んである。

 

「これに乗ったのかな……?」

 

彼女も恐る恐るそこに足をのせてみる。まずは右足、乗せても問題はない。次は左足、こちらも問題がない——と思いきや、アヤの体は直立のまま高速でスライドしだした。まるで磁石で吸い寄せられる感覚だ。

 

「うわっ!」

 

さらに廊下の突き当りで彼女は急旋回し、また別のところへ飛ばされた。たどり着いた先は、これまた広い空間。それも床には例の矢印が書かれたパネルがいくつも設置されている。

 

「あーあ、ヒナちゃんと離れちゃった……」

 

わけのわからないトラップに加え、いつ襲われるかわからない不安感。アヤが途方に暮れていると、遠くの方からラグラージの咆哮が飛び込んできた。

 

「あわわ!もう戦いが始まっている!?」

 

こうなったらアヤもここに棒立ちしているわけにもいかない。とにかく前に進まなければ……。と、その矢先、彼女のところに黒ずくめの女性が二人歩いてきた。リゲル団の下っ端だ。

 

「あらあら、ここは観光客の来るところじゃないわよ」

 

「でも来てしまったからには仕方がないね。リゲル団流の歓迎をしてあげる!」

 

リゲル団の下っ端は、ポチエナとチョロネコを繰り出した。

 

「仕方ない、一人で何とかしなきゃ!お願い、ハヤシガメ!葉っぱカッター!」

 

「ヤーッシ!」

 

ハヤシガメは出ると同時に無数の葉っぱを放ち、ポチエナとチョロネコを蹴散らす。二匹ともひん死になっていないが、アヤはすかさずハヤシガメをボールに戻し、下っ端と下っ端の間にあるパネルに飛び乗った。彼女は度重なるリゲル団との戦いで、下っ端をいちいちまともに相手にしていたらきりがないということを学んだのである。

 

「こらー!」

 

「逃げるってどういうことなの!?」

 

アヤは下っ端たちの叫びを聞きながら、パネルに書いてあった矢印の方向へ飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く研究所を進むにつれ、矢印が書かれたトラップの仕組みが分かってきた。どうやらこれは、矢印の向きに高速で飛ばされるトラップのようだ。この仕組みや下へと続く階段を駆使しながら、アヤは進みどんどん研究室の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 「ぎえぇーーー!」

 

「許してくれぇ!」

 

「バトルは苦手なんだよぉ!」

 

暫くたった後、アヤはひときわ大きな部屋にたどり着き、どうにかこうにかしてそこにいるリゲル団員とリゲル団の研究員を追い払うことに成功した。

 

「はぁ……、部屋に入った途端に5人以上も敵がいたときはびっくりしたけど、全員そこまで強くなくて助かった……。お疲れ、キルリア、ムクホーク」

 

アヤはリゲル団を追い払ために出した二匹を戻し、ひとまず息をつくことにした。彼女はここにいる敵以外にも、道中で何人ものリゲル団員と戦ってきている。疲れるなっていうほうが無理であろう。そして、戦いのほとぼりが冷めると同時に、彼女の前にこの部屋の異質な光景が飛び込んできた。周りには見たこともないような怪しい実験器具。棚には何かの液体に漬けられた、何かのポケモンの標本。机には無駄にカラフルな不気味な液体や散らばった資料。戦いで興奮していたせいであまり気に留めなかったが、冷静に見れば身の毛がよだつ光景だ。

 

「もしかしてここが研究室なのかな……?」

 

そんなことを思いながら、アヤは机に散らばっている資料のうちの一枚を手に取った。

 

「えっと……、『伝説ポケモンの再生:通常ポケモンの遺伝子構造を解析、分解、そして多種のポケモン遺伝子との合成。基本的には上記の手順で人工的に伝説のポケモンを生み出す…………。キュレム……、ホウオウ……、レジギガス……、ラティアス……』。……全体的に難しくてわからないや」

 

伝説ポケモンの再生。話が壮大すぎていまいちピント来ないが、何か嫌な予感がする。それだけは確かだった。とりあえずアヤはこの資料を、あとで伝説ポケモンの研究者であるマリナ博士に送るためにポケットに詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もアヤは、例のパネルや階段を駆使しながら奥へ奥へと進んでいった。そして、ついに彼女は最下層に行きついた。階段を下りた先にはパネルも何もない、シンプルな廊下がまっすぐ奥の部屋へと続いている。アヤは意を決すると、その廊下を進み奥の部屋の扉を開いた。

 

「あれ?そこにいる人って……」

 

扉の向こうには、部屋の奥に掲げられた巨大なリゲル団のエンブレムを見ている少女がいた。アヤはその人物に見覚えがある。その少女はまさしく、キウシティで出会ったリゲル団のリーダー『サヨ』であった。

 

「……私はあの時警告しましたよね。それにもかかわらず、ノコノコここまで来るとはいい度胸です」

 

彼女は黒と紫を基調としたドレスのような服をはためかせながら振り返り、アヤに凍てつくような鋭い視線をつきさしてきた。

 

「ひっ……」

 

それは、一瞬にしてアヤの覚悟を粉砕するほどだ。それを見たサヨは落胆と嘲笑が混じったため息をついた。

 

「そんな大した覚悟もなく計画を阻止されようとするとは、私も随分と侮られたものですね。無論、それ相応の覚悟を持ってこられても、リゲル団の計画は止めませんが。前にも言いましたよね?幸福を得て、願いを叶なえるということは本来すべての人に平等に与えられた権利よ。でも、今の世の中でその権利を行使できるのは一握りの天才と呼ばれる人だけ。つまり、リゲル団は変わり果てた秩序を本来あるべき秩序へと戻そうとしているだけなのよ。恐らく、ここに来るまでの間、貴女は色々なものを見てきたでしょう。それが正義ではないことは私も理解しているつもりだわ。でも、平等な世界を築くためにはやむを得ないのです」

 

「正義でないとわかってて、こんなことをするなんて……」

 

「なんとでも言いなさい。私たちの計画が成功した時、天才と平等の埋められない格差は消える。それはまさしく真実の平等。それが実現した時、きっと世界は笑顔になるわ」

 

サヨの声は落ち着きがありながらも力強い。このカリスマ性ともいえるオーラに魅せられて、リゲル団が結成されたというのも頷ける。だが、アヤは決して屈せず食いかかった。

 

「確かに天才はいるかもしれない。でも、どんな人でも一生懸命努力すればきっと天才な人と同じくらい輝けるはずなんだよ。実際私だって前はなにをやってもダメダメだったけど、今はバッジを4つも持っているし、それに——」

 

「努力?一生懸命?つけあがるんじゃないわよ!」

 

突如、サヨが大声をあげた。

 

「へっ……?」

 

サヨの放つオーラはもはや殺意といっても過言ではないレベルだ。先ほどまでの冷静さの影も形もない、どう猛で、荒々しいさまである。

 

「私は天才に追いつくために、血がにじむような努力を重ねてきたわ。でも、天才はそれを才能で軽々超えていった。貴女にこの気持ちのなにがわかるの!?努力を踏みにじられる苦しみを!プライドをズタズタにされる痛みを!大した努力もせずに、努力を語らないでちょうだい!バッジ4つとるための努力なんて、私に言わせてみれば努力のうちにはいんないわ!」

 

「そんな……」

 

その勢いに思わずアヤがひるむ。すると、追い打ちをかけるかのようにサヨは懐からボールを取り出した。

 

「どうやら私と貴女は、互いに分かり合えない存在のようね。残念ですが、私の目障りになるような人には消えてもらうしかありません。行きなさい、オニゴーリ!」

 

「ゴーリ」

 

オニゴーリの低い唸りがアヤの鼓膜を震わす。ここまで来たら戦いは避けられない。

 

「お願い、キルリア!」

 

「キルー」

 

キルリアは降り立つと同時に、サヨとオニゴーリを睨みつけた。

 

「なるほど、なかなか強そうなキルリアね。ですが、私達には勝てませんよ。オニゴーリ、氷のつぶて!」

 

「キルリア、シャドーボール!」

 

氷のつぶてとシャドーボールが両者の中央でぶつかり合い、相殺される。だがアヤはひるまず攻撃を畳みかけた。

 

「キルリア、煙の中に向かって!マジカルシャイン」

 

オニゴーリをまばゆい光が包んだ。

 

「やった!当たった!」

 

アヤは思わず小さくガッツポーズ。だが、その喜びもつかの間。次の瞬間、オニゴーリの姿は、デフォルメされた小さな緑の怪獣のようなぬいぐるみへと姿を変えたのだ。

 

「かかりましたね。オニゴーリ、フリーズドライ!」

 

「ゴーリッ!」

 

声は背後からだ。慌ててアヤが振り向くと、オニゴーリは強烈な冷気を放っていた。

 

「キルッ!」

 

その冷風はキルリアに直撃。ひん死にこそなっていないが、かなり厳しいダメージだ。オニゴーリはサヨの前に戻り、それをあざ笑っている。

 

「キルリア!お願い、頑張って!!念力」

 

「絶対零度!」

 

オニゴーリがキルリアの攻撃をかわすと、途端に部屋の温度がガクッと下がった。そして次の瞬間、キルリアの斜め右後ろから、何かを閉じ込めるような感じで氷の塊が出現したのだ。

 

「運がいいやつね。あの氷に閉じ込められれば一撃で倒せたというのに!」

 

「一撃で……」

 

見たこともない技に戸惑うアヤ。さらにこの時、アヤは衝撃的なことを発見していた。それはオニゴーリの動きだ。よくよく見れば、動きが遅くなったり速くなったりと、全く安定していないのだ。

 

「気が付いたようね。私のオニゴーリの特性はムラっけ。その瞬間ごとに、能力がランダムで上下する特性よ」

 

サヨは不敵な笑みを浮かべた。

 

「どうしよう……。このままじゃ……」

 

動きが読めないのでは、攻撃を当てることは困難。だがこの時、アヤはとある技のことを考えていた。その技はマジカルリーフ。実は以前にキルリアはこの技を習得しいたのだが、覚えたときに使ったきり、その後は全くと言っていいほど使ってないのだ。

 

「確かヒナちゃんは『マジカルリーフはモワモワな力の葉っぱがグイーンってなって必ずバーンってする技』だって言ってたっけ」

 

要は、不思議な力を帯びた葉っぱで相手を追跡させて、必ず敵に当てるという技だ。長らく使っていないこの技が成功するかどうかはわからない。しかし、今はこれに頼るしかない。

 

「キルリア!マジカルリーフ!」

 

「……!キルッ!」

 

キルリアは少し驚いたそぶりをみせたが、アヤの期待に応え、不思議な力が込められた無数の葉っぱを放った。

 

「ゴリッ!?」

 

追跡できるなら、動きが不規則でも関係ない。マジカルリーフはオニゴーリを切り裂いた。

 

「ゴーッリ!」

 

攻撃を受け、一瞬オニゴーリの動きが止まる。だが一瞬あれば十分すぎる時間だ。次の瞬間、キルリアのマジカルシャインがオニゴーリを再び包んだ。オニゴーリはその光から解放されると、ボトっと床に落ちた。

 

「手加減していたとはいえ、負けるとは思っていなかったわ。敗因は、身代わりによるダメージと、ムラっけの影響で特防が下がりに下がっていたことかしらね」

 

サヨは冷静に分析しながらオニゴーリをボールに戻した。

 

「そんな……、今ので手加減だなんて……!」

 

サヨのセリフにアヤは震えあがった。全力を出されたのならばどうなっていたことだか。考えるだけでもぞっとする。と、それを知ってか知らぬか、そこへサヨが歩み寄ってきた。

 

「敵ながらなかなかいい腕前ね。その腕前を称えて、この研究所からは立ち退きましょう。どのみち場所がわかってしまっては意味がいないですからね。あとは好きにしなさい」

 

サヨはそれだけ言いうと、部屋から出ようと足を踏み出した。だがその時、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「ごっめーんアヤちゃん!あのパネルが面白くて遊んでいたら遅れちゃった!ここからは——」

 

遅れて、ようやくヒナがやってきたのである。だがアヤは違和感を覚えた。妙に歯切れが悪いところで言葉が止まっているし、ヒナの様子がおかしい。彼女は目を見開いたまま、その場でフリーズしているのだ。

 

「おねーちゃん……!?」

 

消えそうなほどかすれた声でヒナは呟いた。

 

「お姉ちゃん!?」

 

それを聞いたアヤは思わず声を裏返してしまった。なるほど、確かに言われてみれば二人の姿はそっくりだ。短髪のヒナと長髪のサヨと、ぱっと見で見極められる要素はそこぐらいしかない。仮に髪型までそろえられたら、どっちがどっちか見当もつかないだろう。だが、今はそれを気にしている場合ではなさそうだ。いつの間にかアヤの周囲には険悪な雰囲気が漂っている。喜ばしい再会ではないということだけは確かだ。

 

「それはこっちのセリフよ。どうして貴女は、いつもいつも私の邪魔をするの?それも今回は仲間を連れてくるなんて。さすが、『天才』が考えることは違うわね」

 

サヨは吐き捨てるように言い放った。

 

「違うよ!私はリゲル団と戦いに来ただけだよ!おねーちゃんがここにいるなんて思いもしなかったよ!どうしておねーちゃんがここにいるの……?」

 

「そんなのきまっているじゃない。この私が、リゲル団のリーダーだからよ」

 

「リゲル団のリーダー?嘘だよね、おねーちゃん!嘘って言ってよ!おねーちゃん!」

 

涙交じりに叫ぶヒナ。だが現実は非情である。サヨは大声でヒナを怒鳴りつけた。

 

「『おねーちゃん』だなんて軽々しく呼ばないで!あの日(・・・)からもう私はヒナの姉ではなくなったのよ!今ここにいるのはリゲル団のリーダーとしてのサヨであり、貴女を憎む一人の女としてのサヨなのよ!」

 

「……!」

 

ついにヒナから言葉が失われた。だが、言いたいことや彼女の感情はすべて涙となって滴り落ちている。

 

「……いいかしらヒナ、貴女に姉として最後の言葉を掛けてあげるわ。もう二度と、リゲル団にも私にも関わらないでくれないかしら?私には私の生き方がある。双子といえど、ヒナにそれを指図される権限はない。それにも関わらず、私やリゲル団に関わろうというのであれば、命の保証はしないわよ」

 

サヨはあまりにも冷たい言葉を残し、アヤとヒナの横をすり抜け部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ヒナはずっとボケっとしていた。ポケモンセンターに戻ってもずっと宿泊している部屋に閉じこもり、全く変わらずご飯も手に漬けようとしない。まるで魂が抜けた抜け殻のようである。

 

「ヒナちゃん……。サヨさんのことが相当ショックだったみたいだね」

 

アヤはヒナのことを心配しながらも、その日の夜、ポケモンセンターの前に設置されているポストに茶封筒を入れた。中身は勿論、研究所で手に入れた謎の資料である。そして、その後アヤはマリナ博士に電話を入れた。

 

「もしもしマリナ博士ですか?あっ、久しぶりです。……あっ、はい、それでかくかくしかじかで……。はい、よろしくお願いします」

 

アヤはマリナ博士への電話を切ると部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま……」

 

アヤが宿泊している部屋に戻ると、電気はついておらずそこは真っ暗闇であった。そして、その中でヒナはベッドに腰かけ、ベッドに腰かけて何かを見ていた。

 

「ヒナちゃん……?何見ているの……?」

 

ヒナはアヤに声を掛けられると、慌てて何かが入った布袋をバッグに押し込んだ。

 

「ハッ!アヤちゃん!な、何でもないよ!さぁ、今日は色々あったし、もう寝よっか!」

 

その顔は笑顔であるが、空っぽな、無理やり作られたもののように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、アヤはふと目が覚めた。今日は色々とありすぎて、なかなか深い眠りに漬けない。

 

「はぁ……、ヒナちゃん大丈夫かなぁ」

 

アヤの頭はリゲル団のことなどどうでもよくなるくらい、ヒナのことで一杯だ。

 

「元気になってくれるといいけど……」

 

何気なくヒナの寝顔を見ると、心なしか悲しげな表情をしている。と、その時アヤの目にヒナのバッグが飛び込んできた。

 

「そういえば私が部屋に戻ってきたとき、ヒナちゃん慌てて何かを隠していたよね。何が入っているんだろ……?」

 

アヤは悩んだ。気になることは気になるが慌てて隠したということはアヤには見せたくないものということだろう。普段なら気になるのを我慢できたのだろうが、アヤも疲れていたせいか正常な判断ができなかった。好奇心が勝ってしまったのだ。

 

「ちょっとだけなら……いいよね……」

 

アヤはヒナを起こさないようにそっとバッグを手繰り寄せ、その中からヒナが隠した布袋を取り出した。触った感触だと、中には小さな金属片がびっしり詰まっているようだ。

 

「なんなのかな……?」

 

アヤはその中から一つの金属片を取り出し、それを図鑑のライトで照らした。すると明かりの中にはジムバッジが浮かび上がってきたのだ

 

「嘘でしょ……。もしかしてこれって……」

 

アヤは次から次へと中にあるものを取り出してはライトで照らした。驚くべきことに袋の中は、すべて他の地方のジムバッジだったのである。

 

「ヒナちゃん、こんなにジムバッジを持っていたなんて……」

 

彼女はヒナの寝顔を見ながら呟く。するとその時、手に今までとは違った感触が当たった。

 

「何これ……?」

 

袋からとりだすと、それは一枚の紙であった。さらに、そこには何か文字が書かれている。アヤはそこに明かりを照らし、それを読んだ。

 

「えっと……、『ヒカワヒナをジムリーダーとして認める:ポケモンリーグ協会』……。うっそ、ヒナちゃんてジムリ——」

 

「何見ているの……、アヤちゃん……」

 

と、その時間が悪くヒナが起きてしまった。

 

「ヒナちゃん……!」

 

アヤとヒナの目が合う。すると、ヒナはハッとした表情でアヤから彼女が手にしていた紙と袋を奪い取った。

 

「何見ているの、アヤちゃん!」

 

その表情は怒りと涙が混ざったものだ。こんな悲痛なヒナの表情は見たことない。

 

「どうしたの……、ヒナちゃん……?ジムバッジをこんなに持っている上、ジムリーダーにも選ばれていたなんて凄い事なのに……」

 

「アヤちゃん……、本気でそう思っているの?」

 

ヒナは震える声でアヤに迫る。

 

「へっ……。どういうこと……?」

 

「アヤちゃんのバカ……。アヤちゃんのバカァァァァァァ!」

 

暗闇に、ヒナの叫びが響く。そして彼女は荷物をかき集めるとそれを抱え、部屋の外に飛び出してしまった。

 

「ヒナちゃん!」

 

わけもわからぬまま取り残されたアヤ。ヒナは、朝になっても戻ってこなかった。

 




紗夜さんのBGMのイメージはマグマ団アクア団のリーダー戦。

後、研究所の合言葉も何か暇だったら考えてみてください。本文中に割と強調してあるけど


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第二十二話 涙のジムバッジ

数日待ってみたが、ヒナが戻ってくる様子はない。

 

「勝手にバッグ漁ったのは私だし、嫌われちゃっても仕方ないか……」

 

ついにヒナとの再会を諦めたアヤ。さらに運の悪いことに、ホマチシティのジムリーダーも当分戻ってこないという。こうなってはもうここにとどまる意味はない。結局彼女は、一人でホマチシティを発った。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、シンシュー地方唯一の水道をムクホークの低空飛行で通過したアヤは、次のジムがある街ハルサメシティへとたどり着いた。ハルサメシティは古くより町北部に位置する『レックウ寺』を中心にして栄えてきた門前町。ここは昔ながらの街並みがほとんど当時のまま保存されていることでも有名であり、その景観を損なわないようにポケモンセンターやポケモンジム、その他の施設やお店、さらには民家に至るまで、すべての建物が昔ながらの街並みにマッチするようなデザインになっているのだ。またハルサメシティはシンシュー最大の都市という側面も持っているため、常に賑わっている。しかし、今のアヤにとってそれはただの雑音に過ぎない。

 

「はぁ……、ヒナちゃんがいれば『あそこに行こう!』とか『るんってきたー!』とかってなっていたんだろうな……」

 

今のアヤが望むものは周囲のにぎやかさではない。すぐ隣の賑やかさが何よりも欲しかった。だが、それはもう叶わない願いである。アヤはトボトボとハルサメシティーのポケモンセンターに歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 次の日の午後、アヤはハルサメシティジムのフィールドに立っていた。ここのジムリーダーはハグミという格闘タイプを好んで使う少女。聞くところによれば地元のソフトボールチームのキャプテンでもあり、実家はハルサメシティでも人気のコロッケ屋だという。

 

「さぁ!ハグミといっしょにメラメラ燃え上がるバトルをしよっ!」

 

ハグミはガッツポーズをとり、フィールドに響く明るい声で叫んだ。しかし、対するアヤはノーリアクション。うつろな目で宙を眺め、戦いの前にもかかわらずボケっとしていた。

 

「だ、大丈夫!?具合悪いの?」

 

ハグミも何か異変を感じて、慌ててアヤに駆け寄り方をたたく。

 

「はっ……!ごめん、考え事しいてつい!」

 

ようやく我を取り戻したアヤは無理やり笑顔を見せた。

 

「そっか。それならよかった!でも、あんまり無理しないでね」

 

ハグミはほっと胸をなでおろすとフィールドの向こうに戻り、ポケットからモンスターボールを取り出す。しかしその矢先に、アヤの意識はまた明後日の方向に行ってしまった。

 

(はぁ……、今日はヒナちゃんはいないのか……)

 

アヤはフィールド脇のベンチを見ながらため息をつく。だが、その時一匹のポケモンの叫びが響き渡った。ハグミの方を見れば、彼女はすでにポケモンを出している。そのポケモンの名前はゴウカザル。スピードとパワーを兼ね備えた強敵だ。

 

「いけない!私もポケモントレーナーなんだから、一人でも頑張れるようにしなくちゃ!お願い、ムクホーク!」

 

「ホーーーク!」

 

アヤがボールを投げるとムクホークの勇ましい鳴き声が響いた。それは他者を威圧するかのような迫力である。

 

「ムクホークか、相性は不利だけど負けないよ!ゴウカザル、火炎放射!」

 

先手をとったのはハグミ。ゴウカザルの口から灼熱の炎が放たれる。しかし、それにかかわらずアヤの頭はヒナのことで一杯で、まったく状況がわからずボケーっと見ているだけ。ムクホークへの指示なんてみじんも考えていない。

 

「ホークッ!」

 

こんなのまともに食らったらただじゃすまない。ムクホークは自分の判断で素早く回避し、その勢いで電光石火の勢いでゴウカザルに突っ込んだ。

 

「考えなしに突っ込んでも無駄だよ!ゴウカザル、連続で真空波!」

 

「カァーッ!」

 

だが、それと同時にゴウカザルの拳から無数の真空の波が放たれ、ムクホークに襲い掛かる。ムクホークも巧みにそれをかわす。だが、3発ほどかわしたところでついに被弾。それを皮切りにムクホークは次々と真空波に当たってしまった。

 

「ムクホーク!」

 

ここでアヤはようやく状況を掴んだ。気が付いてみればかなり押されている。

 

「ゴウカザル、もう一度火炎放射!」

 

ここで無慈悲にもハグミが追撃を仕掛けてきた。

 

「どうしよう、このままじゃ……!えっと……」

 

アヤは慌てて胸の前で腕を交差させ、片腕を空高くつき上げた。何も考えずに、苦し紛れに放つZワザだ。

 

「いくよムクホーク!私たちのゼンリョクの技!ファイナルダイブクラッシュ!」

 

アヤのZリングとムクホークが持つヒコウZが共鳴し大いなる力を生む。ムクホークはその力を身にまとい、火炎放射もふりきりゴウカザルに突撃。これで勝負あった、アヤはそう思った。だが次の瞬間、彼女は驚くべき光景を目にしたのだ。

 

「インファイトで受け止めて!」

 

なんとゴウカザルは両足で地面にふんばり拳を高速で打ち付け、あろうことかムクホークを弾き返したのだ。

 

「うっそ!Zワザが……」

 

Zワザを破られたムクホークは吸い寄せられるように地面に堕ちた。

 

「ホーク……」

 

火炎放射の中に無理やり突っ込ませたり、真空派を何発も受けたりしたせいかムクホークの体力は底をつきかけている。この瞬間、アヤの頭に『敗北』の2文字が浮かんだ。

 

「私って一人だと何もできないんだな……」

 

彼女の目の前がにわかに真っ暗になる。すると、どこからか声がした。

 

「……ちゃん!……ヤちゃん!ねぇアヤちゃんってば!」

 

「えっ……!」

 

アヤは耳を疑った。この声には聞き覚えがある。ずっと待ち望んだあの声だ。これは決して幻聴ではない。確かにその声はアヤのそばにあるのだ。

 

「なんでもう勝負を諦めているの?まだムクホークはひん死じゃないよ」

 

その声でアヤの視界が一気に晴れる。するとその先にヒナの顔が姿を現した。

 

「ヒナちゃん!どうしてここに!?」

 

決して幻ではない。今、確かにアヤの目の前にヒナの姿があるのだ。もう二度と見ることができないと思われた、あの無邪気な顔が確かにあるのだ。

 

「私さ、ここ数日ずっとアヤちゃんを探していたんだよね。アヤちゃんの写真をみせながらいろんな人に、アヤちゃんの姿を見なかったかって聞いて回ったんだ。そしたらさ、さっきジムの近くで日向ぼっこしていたおじいちゃんが、アヤちゃんがジムに行ったってこと教えてくれたの。私もまさかまたアヤちゃんと会えると思ってなかったよ。奇跡って、本当に起きるもんだね」

 

「私を探してたの……?なんで……?ヒナちゃん……、わたしのところ怒ってないの……?」

 

「あぁ、バッグの中を見られたこと?アレはもういいよ。私もさ、あの時は頭の中がモヤモヤしたものがグルグルしてて、なんかこうグチャグチャって感じで、何をどうすればいいかわからなかったんだ。ごめんね、アヤちゃん」

 

「うぅ……!ヒナちゃん……!」

 

アヤはヒナに顔をうずめワンワン泣いた。その涙の量はジムを海に買えてしまう勢いだ。

 

「アハハハ!くすぐったいよ!アヤちゃん、今はジム戦の途中でしょ!」

 

そしてヒナからも光のような笑顔がこぼれた。ここにようやく二人はまた出会うことができたのである。

 

「なるほど……、アヤさんは友達とケンカしていたから元気がなかったんだね。くわしくはよく分からないけど仲直りできてよかったよ!」

 

「ゴウ」

 

それを見たハグミとゴウカザルも、フィールドの端で笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、気を取り直していくよ!」

 

涙をすべて流し切り、完全復活を遂げたアヤ。もはや先ほどまでの暗い雰囲気はない。

 

「うんうん、元気が出てよかったよ!ハグミも嬉しい!バトルはやっぱりお互いに元気いっぱいにやらないと楽しくないからね!さぁ、ゴウカザルもう一回いくよ!」

 

ハグミのゴウカザルとアヤのムクホークが再び対峙する。するとヒナはアヤのそばに寄った。

 

「いい、アヤちゃん。分かっていると思うけど、ムクホークの体力は少ないから気を付けてね」

 

「うん。だからブレイブバードをきめて一気に決着をつけたいと思う」

 

「それはダメだよ。ブレイブバードはすごく強い代わりに、ダメージの反動で技を使ったポケモンにもダメージを与える技だから、今のムクホークじゃ反動に耐え切れないよ」

 

「そ、そうだったの!?全然知らなかった……。やっぱりヒナちゃんってすごいな、なんでもしっていてさ」

 

「まぁ、アヤちゃんより私の方が強いからね」

 

ヒナはそれだけ言い残すと、フィールド脇のベンチに座った。最後の言葉だけは妙にとげとげしいが、これも彼女なりの応援だと思えば大して気にならない。これで舞台は整った。バトル再開だ。

 

(もうムクホークの体力も少ない。こうなったら徹底的に攻めて短期決戦だ!)

 

守りを捨てた戦いなどアヤにとって初めてのこと。ある意味賭けといっても過言ではない。だが、今のアヤに思いつく勝ち筋はこれだけ。あとはムクホークを信じるしかない。

 

「ムクホーク、インファイト!」

 

「ゴウカザル、ストーンエッジ!」

 

ムクホークが前足をゴウカザルに向け迫ると、地面からその動きを遮るように何本もの鋭い岩が突き出す。ストーンエッジはゴウカザルの盾となり、ムクホークのインファイトを防いだ。

 

「もう一回、ストーンエッジ!」

 

そしてさらなる追撃。ムクホークの真下に亀裂が走る。

 

「電光石火で突っ込んで!」

 

ストーンエッジはムクホークの真後ろを掠った。回避成功。ムクホークはそのまま、目にもとまらぬ速度でゴウカザルに突っ込んだ。

 

「ホーク!」

 

ムクホークはゴウカザルをとらえると、自身の翼や体、足やくちばしを一心不乱にぶつけまくる。

 

「あの技は間違いない、『がむしゃら』だ!いけ、アヤちゃん!ムクホーク!」

 

ムクホークの猛攻を見て思わずヒナは叫んだ。がむしゃらは自分のダメージが減っているほどダメージが上がる技。ボロボロの体から放たれるその威力は想像を絶する。

 

「ゴウカザル、真く——」

 

「ムクホーク!電光石火!」

 

ゴウカザルの真空波が放たれる直前、ムクホークの体がゴウカザルを突き飛ばした。

 

「カーッ!」

 

ゴウカザルは空き缶のように吹き飛ばされると、ハグミのすぐそばを通り過ぎ、背後の壁に叩きつけられた。そして、目を回しながらズルズルと床に落ちた。

 

「あぁ……、ゴウカザル……」

 

ハグミは肩を落としながらゴウカザルをボールに戻す。つまり、アヤの逆転勝ちである。

 

「やった!やったよヒナちゃん、ムクホーク!」

 

「うん!やっぱりアヤちゃんはるんってするね!」

 

「ホークッ!」

 

勝利が決まった瞬間、二人と一匹は互いに抱きしめあって勝利を分かち合った。すると、そこへ笑顔のハグミがやってきた。

 

「対戦ありがとうアヤさん。ハグミ、負けちゃったけどすごい楽しかった!だからそのお礼に、この『ガッツバッジ』をあげる!」

 

人の腕と力こぶを模した、元気あふれるデザインのバッジがアヤの手に渡る。

 

「それから、二人の仲直りの記念に……。じゃじゃーん!この技マシンもあげるよ!この技マシンの中身は『ビルドアップ』。体を一時的に鍛えて攻撃と防御を同時にパワーアップさせる技なんだ。要するに根性ってことだね!」

 

さらにハグミの手からアヤに、新たな技マシンも渡った。もうアヤの喜びは最高潮だ。

 

「やったー!ガッツバッジ、ゲットだよ!」

 

彼女は空高くバッジを掲げ、感情を爆発させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムからポケモンセンターに戻るとき、二人は仲良く歩いて帰った。ようやくアヤの願いが再び現実のものになったのである。

 

「よかった……、ヒナちゃんがまた戻ってきてくれて……」

 

「私もまた会えてうれしいな。やっぱ、アヤちゃんを見ているとすっごいるんって感じなんだもん!」

 

「私もね、ヒナちゃんを見ているとすっごっく、るんって感じるよ!」

 

時刻は夕方。二人の笑顔は夕日に映え、とてもキラキラしている。この時の道中は、アヤにとって他のどんな時よりも色鮮やかなものだった。楽しい時間ほどあっという間に過ぎるとはよくできた言葉で、ポケモンセンターへの道もずっと短かく感じる。その証拠に二人はあっという間にポケモンセンターにたどり着いたのだ。

 

「よーし、ポケモンセンターに到着!さ、中に入ってゆっくり休も」

 

だがヒナは入ろうとはしなかった。

 

「ねぇ、アヤちゃん。今から公園に行かない?」

 

「えっ、今から!?」

 

もう日もほとんど落ちている。一瞬アヤは、またヒナの無茶苦茶が始まったと思った。しかし、ヒナは真剣な表情だ。

 

「……私の昔話、してあげるよ。もちろんこの前アヤちゃんがみたやつのこともね。知りたいんでしょ、私の過去」

 

意外な言葉だ。前々から気にはなっていたが、まさか本人の口からそのことが利けるとは思いもしなかった。

 

「ヒナちゃん……、いいの……?」

 

「うん、アヤちゃんにならいいよ。それに、もう隠しても意味ないしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤはヒナに連れて行かれるまま、夜の公園に連れていかれた。今日はちょうど新月で月が見えないず、代わりに無数の星が彼女たちを照らしている。ヒナは自動販売機で二人用の飲み物を買い、一つをアヤに渡した。

 

「ありがとう、ヒナちゃん……」

 

アヤはそれを受け取ると近くのベンチに座る。そして寄り添うように、ヒナも座った。

 

「さーって、お話を始めますか」

 

ヒナは飲み物の封を切ると、ゆっくりと語りだした。ヒナとサヨの物語を……。

 




おまけ:はぐみのパーティー一覧(本気モード)
・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気はぐみの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。ちなみにハグミのキャッチコピーは『メラメラ!熱血バトル!』です。キャッチコピーに相応しい、アツい戦いをご堪能ください。


★ゴウカザル@命の玉
特性:猛火
性格:無邪気
努力値AS252

・インファイト
・ストーンエッジ
・マッハパンチ
・オーバーヒート

☆ジャラランガ@ジャラランガZ
特性:防弾
性格:無邪気
努力値:CS252

・スケイルノイズ
・インファイト
・火炎放射
・ラスターカノン

☆ゴロンダ@こだわりスカーフ
特性:肝っ玉
性格:陽気
努力値:AS252

・捨て台詞
・かみ砕く
・アームハンマー
・地震

☆ルカリオ@ルカリオナイト
特性:不屈の心
性格:臆病
努力値:CS252

・ラスターカノン
・波動弾
・悪だくみ
・真空波

☆ローブシン@火炎玉
特性:根性
性格:意地っ張り
努力値:HA252

・マッハパンチ
・ドレインパンチ
・冷凍パンチ
・はたき落とす

☆ドクロック@気合のたすき
特性:乾燥肌
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・不意打ち
・毒突き
・クロスチョップ
・カウンター


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第二十三話 姉妹の記憶

どっちでもいいけど、なんか最近文章が徐々に長くなる傾向にある。



 数年前、とあるカントーのジムではかつてない激戦が繰り広げられていた。

 

「ドサイドン、炎のパンチ」

 

黒いスーツを身にまとった男性ジムリーダーの冷静かつ迫力がある声が響く。今日のチャレンジャーであるヒナとは全く真逆の雰囲気である。

 

「よーし!おねーちゃん見ててね!ユキノオー、エナジーボール!」

 

ヒナはわざわざフィールド脇に座っている姉であるサヨに大きく手を振りアピール。その傍らでユキノオーは手から緑の光球を放った。

 

「サッ」

 

ドサイドンに迫りくるエナジーボール。ドサイドンはそれを炎のパンチで受け止める。だが、エナジーボールの威力は衰えることを知らない。それは炎のパンチを貫き、ドサイドンを突き飛ばした。

 

「ドサーッ」

 

硝煙が立ち込め、ドサイドンの叫びが上がる。そして、その体が硝煙から解放されたとき、すでにドサイドンは戦闘不能となっていた。

 

「ほう、見事なものだ」

 

ジムリーダーはドサイドンをボールの戻しながら不敵な笑みを浮かべる。だが、その時すでにヒナは彼の目の前からは消えていた。勝利が確定すると同時に、すでに彼女はサヨに抱き着き猛烈なマシンガントークを繰り広げていたのだ。

 

「おねーちゃん!今のバトル見てた!?ユキノオー、グーンってなってスガガーンってシュイーンでズガガーンって感じだったでしょ!」

 

「ヒナ!落ち着きなさい!話なら後で聞くから……!ほら、ジムリーダーの人が困っているわよ!」

 

サヨに言われヒナが後ろを振り向くと、すでにジムリーダーがジムバッジをもってすぐそこまでやってきていた。

 

「気にするな。仲の良い姉妹で結構だ。私も長いことジムリーダーをやっているがここまで仲が良く、なおかつ実力のある姉妹は初めて見た。特に妹の——ヒナほどの実力者は、全国を探しても滅多にいないだろう。できることなら是非私の組織に……。いや、なんでもない。とりあえず、私への勝利を称えてこの『グリーンバッジ』を渡そう」

 

彼はヒナにバッジを渡した。実は彼がジムバッジを今日で二度目である。すでに1度、サヨに敗れジムバッジを渡しているのだ。多忙なせいでジムにいることが少ない彼が、1日に何人ものチャレンジャーの相手をするのは珍しいことではない。しかし、ジムバッジを1日に2つも渡すのは極めて異例である。

 

「わぁ~!おねーちゃんとおそろいのジムバッジ!るんってきた~!」

 

ヒナはジムバッジを手にするとまたはしゃぎだした。彼女はもうサヨと一緒に、ほぼすべての地方のジムバッジ手に入れてはいるのだが、毎度こんな感じだ。一方その傍らで、サヨはどこか難しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この姉妹の2人旅は、サヨが各地のジムバッジを集めるために1人で故郷を発って数日後、勝手にヒナが追いかけてきたのが始まりだ。それ以来なし崩し的に二人は一緒に各地を旅しているが、サヨ自身もまんざらではないと思っている節はある。もちろんヒナは目を輝かせながらサヨにべったり引っ付いており、何をするのもサヨと一緒だ。そのためヒナもジムバッジを集めだすのは当然の流れでもある。しかし、そのことはサヨに黒い影を落としていた。ヒナのジム戦を見れば見るほど、彼女と自分の実力の差をはっきりと思い知らされるのだ。もちろんサヨも自分のバトルの腕には自信がある。だが、ヒナのバトルを見ていると、それが霞んで見えてしまう。しかも彼女はそれを大した努力もせず、その場のひらめきと勘で成し遂げてしまうのだ。もはや天才的なセンスである。今日も『ヒナほどの実力者は全国探しても滅多にいないだろう』とジムリーダーが言っていたが、ヒナだけが褒められるのは日常茶飯事だ。

 

「私だって……!」

 

だが、負けず嫌いな性格であるサヨがこの事態を指をくわえてみているわけがない。さらなる高みを目指すため、そして天才的センスをもつヒナに負けないために、彼女は毎晩休むことなく秘密の特訓をしているのだ。

 

「出てきなさい!オニゴーリ、キュウコン、ヘルガー、マンムー、ミロカロス、ルナトーン!」

 

彼女が6つのボールを同時に投げると、幾多の激戦を潜り抜けた、歴戦の手持ちポケモンが姿を現した。

 

「いいかしら。今日はジム戦だったけど、今夜も手を抜かずにやるわよ!最初はいつも通り基本の——」

 

「おねーちゃん?」

 

と、特訓を始めようとした矢先、背後から聞き覚えがある声がした。振り返ると、すぐそこにはヒナがいた。

 

「ヒナ、どうしてここにいるの?貴女はもう寝たはずじゃ……」

 

「そうなんだけど、いまいち眠れなくて気分転換に散歩に来たんだ。おねーちゃんこそ、こんな遅くにポケモン出して何やっているの?」

 

「私は……、バトルの特訓よ」

 

「バトルの特訓かぁ~。……よし!私も特訓しちゃお!私も早く、おねーちゃんみたいにるるるんってするバトルができるようになりたいからね!そーれ、出ておいで!ユキメノコ、サンドパン、ガオガエン、ユキノオー、ギャラドス、ソルロック!」

 

ヒナの目は曇りもない純粋な、輝きを持っている。それは姉に対する純粋な憧れだ。

 

(妹の期待を裏切らないためにも、私ももっと強くならなければ……)

 

だがそれは、無意識のうちにサヨを追い詰めていたことをヒナも、サヨ自身も知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジムリーダーの試験……?」

 

数日後、ヒナは目を輝かせながらサヨにジムリーダー募集のチラシを持ってきた。

 

「そうだよ!ジムリーダーになれるなんてきゅるるるるんって感じじゃん!おねーちゃん、私達2人でジムリーダーになろうよ!トクサネジムみたいに2人で1つのジムを持とうよ!」

 

随分と急なお誘いだ。しかし、ジムリーダーは前々からサヨも興味があった仕事でもある。今後もバトルを極めるのであるならば、ジムリーダーの仕事はうってつけといえる。いっそこの機になってしまうのも悪くはない。

 

「……わかったわ。私もジムリーダーを目指すわ」

 

サヨも快く首を縦に振った。無論、ヒナがはしゃぎだしたのは言うまでもない。

 

「ヒナ!落ち着きなさい!まだジムリーダーに受かったわけではないし……。まずはどのタイプのエキスパートになるのかを決め——」

 

「氷タイプにしよ!氷タイプ!なんだかキラキラしててカチカチでヒエ~って感じがるんってくるから!」

 

いつものことだがヒナが言っていることはよくわからない。しかし、サヨも氷タイプのエキスパートになることも賛成だ。

 

「そうね、氷タイプは攻撃は得意だけど守りは苦手。トレーナーの腕が試される、やりごたえがあるタイプといえるわね」

 

「でしょでしょ!それに私達の手持ちには氷タイプが多いからね!」

 

ヒナが言う通り、彼女たちの手持ちには氷タイプが非常に多い。サヨはオニゴーリにアローラの姿のキュウコン、そしてマンムー。ヒナはユキメノコにアローラの姿のサンドパン、そしてユキノオー。サヨが氷タイプのエキスパートになることに賛成したのは、氷タイプの扱いには慣れているからというのもある。

 

「……それじゃぁ、これでエキスパートタイプは決まったわね。となると後は試験に備えて準備するだけよ。一緒に頑張りましょ、ヒナ」

 

「うん!」

 

サヨは穏やかな笑みをヒナに見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験は3か月後。バトルの腕を試す実技とポケモンの知識を問う筆記の2項目で審査される。100人近い受験者のうち、選ばれるのはたった5人だけだ。

ジムリーダーを目指すことになってから、ヒナは相変わらず呑気に遊んでばかりいたが、サヨは練る間も惜しんで試験の勉強に取り掛かった。ところが、現実は無慈悲なものであった。

 

「そんな……!ない……!」

 

試験当日、試験の結果を見たサヨは自分の目を疑った。何度見ても合格者が書かれた紙に、自分の受験番号はないのだ。ちなみにヒナは当然のごとく合格している。

 

「どうして……!?私は……、私は……!」

 

実技試験では誰もが息をのむ腕前で他を圧倒した。もちろん筆記も完ぺきにこなしたつもりだ。落ちた理由がわからない。彼女はすぐさま試験官に結果の開示を求めた。そしてサヨは愕然とした。実技はほぼ満点。しかし筆記は0点であった。その理由は実に簡単。サヨは緊張のあまり、筆記試験の解答欄を一段ずつずらして書いてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜の天気は憂鬱な雨。サヨは傘もささず、街灯の下で呆然としていた。

 

「私は……、ヒナに……」

 

不合格の受験票が雨に濡れる。だが、今の彼女にとって試験に落ちたことは二の次だ。一番ショックなのはヒナが合格したことである。可愛い妹が合格したことは確かに嬉しい。だが、それは同時にヒナの方が実力があるということを証明されてしまったことでもある。そして彼女はこの時気が付いてしまったのだ。自らの心の奥底でうごめいていた、ヒナへの憎しみに……。

 

「おねーちゃん!カサもささずにそんなところにいたら風邪ひいちゃうよ!」

 

そこへ、ヒナがカサをもってやってきた。しかしサヨはずっと口を閉じたままだ。

 

「おねーちゃん……。今日のは残念だったね……。でも、解答欄間違えただけで、回答自体はほとんど合ってたんでしょ?だったら次は——」

 

「ミスも実力のうちよ」

 

サヨは冷たく突き放すように、自分をあざ笑うように呟いた。

 

「おねーちゃん、元気出してよ。そんなに落ち込んでいると私も悲しくなっちゃうよ。私、待っているから。ずっと待っているから、もう一度頑張ろうよ。私も手伝うからさ。ねぇ、おねーちゃん……」

 

心の底からヒナは姉を心配している。しかし、その言葉はサヨの耳に入った途端に嘲笑や皮肉の言葉へと姿を変え、サヨに襲い掛かるのだ。

 

「うるさい……」

 

「えっ……!?」

 

「うるさい!自分だけが合格したからといって偉そうなことばっかり言って!貴女にこの気持ちが分かるわけないのよ!」

 

とうとうサヨの憎しみが火山のごとく噴火した。

 

「おねーちゃん……!」

 

「いつもいつも何なのよ!お姉ちゃん、お姉ちゃんって!憧れる方がどれだけ負担に思っているかわかっているの!?」

 

「ごめん……」

 

「『ごめん』っていえば何でも許されると思わないでちょうだい!はっきり言って貴女は邪魔な存在なのよ!だからヒナ、私たちの関係はここまでよ。もう私は貴女とは比べられたくないの。これ以上一緒にいたら、憎しみのあまりどうにかなってしまいそうだわ。……さようなら、ヒナ」

 

「……!おねーちゃん!そんな、待ってよ!」

 

「おねーちゃんだなんて、馴れ馴れしく呼ばないで!」

 

サヨの平手がヒナの頬をぶつ。バシンっという、雨の音をかき消すかのような音が響いた。

 

「おねーちゃん……」

 

ジンジン傷む頬も抑えずヒナは、闇に消えていくサヨを呆然と見続けた。これがヒナとサヨの別れである。この時ヒナは悟った、知らず知らずのうちに大好きな姉を傷つけ、追い込んでいたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ヒナは、姉を傷つけてしまったせめてもの償いとしてジムリーダーを辞退した。そして今まで使っていた荷物も全部捨て、今まで苦楽を共にした手持ちのポケモンもすべてポケモンセンターに預けた。これらを見ているだけで、姉への想いが爆発してしまいそうだからだ。彼女は一からトレーナーをやり直す道を選んだのである。だが、唯一ジムリーダーの認定書だけは手元にとっておいた。もう二度と、大切な人を傷つけないようにするための戒めとして。ちなみに、このヒナのジムバッジはすべて海に捨ててあるため、アヤが見たジムバッジの山はヒナのものではない。実は全てサヨのものである。サヨと別れた数日後、とある街の一角に投げ捨てられていたジムバッジをヒナが回収した物なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでヒナの話は終わった。

 

「……どう、アヤちゃん?私の昔話は……?」

 

ヒナがアヤに向けた顔は笑ってはいるが、その笑顔からは今にも涙がこぼれそうである。

 

「うん……」

 

アヤはこういうのが精いっぱいだった。

 

「アハハハ!そんな暗い顔しなくてもいいんだよ。もう前のことだからね。だからアヤちゃん……、さようなら」

 

「えっ……、さようならって!?」

 

アヤはベンチから立ち上がるヒナの腕を慌てて掴んだ。するとヒナはアヤのを振りほどき、彼女の顔を見つめた。

 

「ごめんねアヤちゃん。私がアヤちゃんを探していた理由ってまた一緒に旅するためじゃなくて、しっかりとお別れを言うためだからなんだ。もう喧嘩分かれは嫌だからね。にしても私って駄目だなー。もう大切な人を傷つけないって決めたのに、また同じ失敗をしちゃうなんて」

 

「そんなことないよ!ヒナちゃんはすごい人だよ!大切な仲間だよ!だから、私を置いて行かないでよ!」

 

アヤは涙ながらに訴える。しかし、ヒナの意思は想像以上に硬かった。

 

「今の話聞いてわかったでしょ。おねーちゃんがリゲル団なんて組織作ったのも、きっと私のせいなんだよ。だから私は責任をとらなくちゃいけない。リゲル団は私が倒す。今までは遊び半分だったけど、今度は真面目に戦うつもりだよ。おねーちゃんと戦うのは辛いけど、自分が蒔いた種なら仕方ないしね」

 

「どうしても、私を置いていくの……?」

 

「うん、だってアヤちゃん、リゲル団と戦うの嫌なんでしょ?だったら無理する必要はないよ。これ以上大切な人を傷つけたくはないからね。あっ、でも安心して。アヤちゃんはこれからもずーっと私の大切な友達だから」

 

ヒナはそう言い残すと寂しそうな笑みを見せ、アヤに背を向け歩き出す。だが、彼女の前にアヤが立ちはだかった。

 

 

「ちょっと待ってよ!ヒナちゃん!お願い、私もヒナちゃんと一緒に戦わせて!確かに私は、弱いしドジだし色々ダメダメだけど……。それでもヒナちゃんの役に立ちたいの!今までヒナちゃんにはたくさん助けてもらったから、その恩返しがしたいの!」

 

アヤの顔は涙でグシャグシャである。だが、その表情はかつてないほど必死だ。

 

「どうして……、どうしてアヤちゃんは私のところをそんなに構うの?私、いっぱいアヤちゃんのところ傷つけちゃったんだよ。なのに……、どうして怒らないの?どうして……」

 

ヒナは潤む目を大きく見開き、不思議そうにアヤを見つめる。するとアヤは笑って答えた。

 

「それは、ヒナちゃんが大切な友達で、大切な仲間だからだよ。だから、これからも一緒にいてもいいかな?」

 

「アヤちゃん……、ありがとう……」

 

ついにヒナの涙袋が決壊した。ヒナはアヤに抱き着き、彼女の服をびっしょり濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の朝、彼女たちはハルサメシティから旅立った。次の目的地はアヤにとって6つ目のジムがある街『ウノトキシティ』だ。リゲル団と戦うと決意したとはいえ、まだリゲル団の情報は不足している。そのため、今まで通りアヤのジム戦をこなしながら彼らについての情報を集めることにしたのだ。

 

「さぁ、行こうよヒナちゃん!」

 

「うん、これからもよろしくねアヤちゃん」

 

旅立ちを迎えたアヤとヒナの顔はどこか清々しい。それは、彼女たちが新たな旅の一歩を踏み出したことを意味していた。

 




ちなみに紗夜さんと同じミスは自分も過去にやらかしたことがあります。てなわけで氷川姉妹の過去変でした。よろしければ高評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いします!


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第二十四話 ウェルカム!ハナゾノランド!

最近どうも投稿頻度が下がっている気がする。なるべく早く投稿できるように頑張ります!


ハルサメシティを発ったアヤとヒナは12番道路を伝い、魂が眠る山『ミタマ山』のふもとを通過。そして13番道路と14番道路を通り、二人はアヤにとって6番目のジムがある街『ウノトキシティ』へ到着した。ウノトキシティの最大の特徴は、街の中央部を南北に分断するように流れる川だ。この川はウノトキシティのシンボルといっても過言ではなく、住民の手で長い間大切に守られている。そのため、街中にもかかわらず水辺に生息するポケモンが豊富である街としても有名だ。ちなみに街の東部と西部は昔ながらの木造の端、コンクリートでできた近代的な橋、美しいアーチ橋でそれぞれつながっており、これもウノトキシティの名物である。

 

 

 

 

さて、こうしてウノトキシティに着いたアヤは、次の日ヒナと一緒にウノトキシティジムに入った。しかし、ジムのロビーには言葉に表せないほど奇妙な光景が広がっていたのだ。

 

「何これ……」

 

「なんかよくわからないけど……。凄い……」

 

アヤとヒナの目の前にいるのはニドランやミミロルやホルビーやマリルリ。それも1匹や2匹ではない。全部合わせれば軽く20匹近くはいる。

 

「ようこそ、ハナゾノランドへ!」

 

と、二人があっけにとられていると背後から声がした。

 

「誰!?」

 

アヤが慌てて振り返ると、そこには黒髪ロングの少女が立っていた。

 

「どう、私の家族は?みんなかわいいでしょ。よかったら遊んで行ってあげてよ」

 

彼女は笑顔で近くにいたミミロルを抱えるとアヤに差し出してきた。なんだか断りにくく、何となくミミロルを受け取ってしまったがもう意味が分からない。ジム戦をしに来てなぜミミロルを抱くのだろう。そもそもこの人は誰なのだろうか。アヤの中で情報が交錯し、ついに頭がフリーズする。

 

「ねぇ、ジム戦やらないの?多分、キミがジムリーダーでしょ」

 

ここで見かねたヒナが助け舟を出してくれた。これでアヤはなんとか救われる——と思いきや黒髪の少女の斜め上の暴走はまだ止まらない。

 

「違うよ。ここはジムであってジムじゃない。私はジムリーダーであってジムリーダーではない。ここは理想の王国ハナゾノランド!そして私はハナゾノランドの王様タエ。オタエって呼んでね」

 

「どういうこと……?」

 

ついに頼みの綱のヒナまでフリーズしてしまった。日頃からぶっとんでいるヒナをフリーズさせるとは相当である。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、タエのペースに振り回され、ジム戦が始まったのはそれから1時間後のことであった。言うまでもないがハナゾノランド云々というのはあくまで彼女の中で描かれている非公式の設定である。彼女は王様でもなんでもなく、ただのジムリーダーだ。

 

「アヤちゃん、ファイト!」

 

フィールドの端からはヒナがクマシュンを抱えながらエールを送ってくる。だが、今日のギャラリーは彼女だけではない。先ほどまでジムのロビーでたむろしていた大量のポケモンたちが控えているのだ。

 

「な、なんか調子狂うな……」

 

しかし、ここで動揺してしまってはならない。彼女は大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ、モンスターボールを投げた。

 

「お願い、ハヤシガメ!」

 

「ヤーシッ」

 

ハヤシガメの叫びがフィールドに響く。

 

「へー、ハヤシガメか。可愛い。それじゃ私はおっちゃんにしよ」

 

タエがボールを投げると、そこからはホルードが姿を現した。それもただのホルードではない。左の目が赤く、右目が緑色、いわゆるオッドアイだ。ちなみにおっちゃんとはホルードにつけられたニックネームである。

 

「さぁいくよ、おっちゃん!電光石火!」

 

「えっ、もう!?ハヤシガメ、ロッククライム!」

 

何の前触れもなくバトルは始まった。フィールド中央部でハヤシガメとおっちゃんがぶつかる。そしてその時、アヤは戦慄した。

 

「うそ……」

 

なんとあれだけ重いハヤシガメが、紙きれのようにいとも容易く吹き飛んだのだ。

 

「どうしたの、かかってこないの?」

 

タエは相変わらずポワポワしているが、今となっては逆に恐怖をそそる。間違いなく彼女は相当な実力者だ。

 

「そっちが来ないなら私から行くよ。ホルードもう一度電光石火!」

 

「葉っぱカッター!」

 

目にもとまらぬ速さで動くおっちゃんに無数の葉っぱが襲い掛かる。しかし、おっちゃんは葉っぱが当たる直前に地面の中に潜り込んだ。

 

「あれ……、ホルードは……?」

 

フィールド上を見渡しても、影も形もない。完全に見失った。すると急にヒナの叫びがアヤの耳を貫いた。

 

「アヤちゃん、あれは穴を掘る攻撃だよ!下に注意して!」

 

「下……?」

 

恐る恐る地面に注意を映す。するとハヤシガメの地面がにわかに盛り上がった。

 

「ルードッ!」

 

そしておっちゃんは勢いよくそこから飛び出し、ハヤシガメを真下から突き上げる。そして無慈悲にも、宙に打ち上げられたハヤシガメに冷凍パンチを振りかざしたのだ。

 

「ヤーッシ!」

 

ハヤシガメはフィールドに墜落し、もうもうと砂埃を巻き上げた。

 

「ハヤシガメ!」

 

アヤが悲痛な叫びをあげる。だがハヤシガメの反応はない。地面に叩きつけられた状態で氷漬けになっている。ハヤシガメは氷状態になってしまったのだ。

 

「あっ、アヤさんのハヤシガメ凍っているね。勝利の女神も私に微笑んでいるみたい。おっちゃん、止めを刺して。アームハンマー!」

 

「ホルッ!」

 

タエの声に合わせて、おっちゃんが耳に力を入れ飛び上がる。ハヤシガメは凍ったまま動かない。この状況なら直撃は免れない。つまり、待っているのは敗北だ。

 

「ハヤシガメ!動いて!お願い、お願い!」

 

しかし、アヤは諦めなかった。最後の最後まで奇跡が起こると信じた。そして、奇跡は起きた。おっちゃんが最高地点に到達したとき、氷の中でハヤシガメの目が動いたのだ。その目は確かにアヤの方を向いている。そしてアームハンマーが当たる直前、ハヤシガメの体はまばゆい光を放った。

 

「ダーッ!」

 

光が消え、聞いたことがない重低音が響き、おっちゃんのアームハンマーが強靭な尾に弾かれる。周囲にはさっきまでハヤシガメを包んでいた氷が円状に散らばっており、その中心には背中に大木を生やした巨大なポケモンがどっしりと構えていた。

 

「ハヤシガメ……?」

 

アヤが図鑑でそのポケモンについて調べると、図鑑の画面には『ドダイトス』の5文字が表示された。ドダイトスはナエトル系の最終進化系。つまりハヤシガメは、この土壇場で見事進化を果たしたのである。勝利の女神はまだアヤを見捨ててはなかったようだ。

 

「よ、よかった……。とりあえず危ない場面は乗り越えられたか……。でも、油断はできないね。さぁハヤ——じゃなくてドダイトス、ここからは私たちの番だよ!ロッククライム!」

 

「ダーッ!」

 

大陸のような巨大な図体がフィールドを蹴り、加速する。その姿はまさに勇ましいというほかない。

 

「進化か……。そういえば久しぶりに見たかも。あっ、おっちゃん!電光石火!」

 

タエのおっちゃんとアヤのドダイトスが再びフィールドでぶつかり合う。だが今度は互角だ。両者ともに歯を食いしばり、一歩も譲らず踏ん張っている。

 

「よし、ドダイトス噛みつく!そして続けて葉っぱカッター!」

 

ドダイトスはホルードの腕に噛みつきその動きを封じる。しかしおっちゃんは、葉っぱカッターが放たれる直前にドダイトスを剛腕で振り切った。そして素早く飛びのき、自慢の耳で葉っぱカッターすべて撃ち落とす。だが、直後に目の前に大木のような尾が姿を現した。

 

「ドダーッ!」

 

それはドダイトスが新たに習得した草タイプ最強クラスの大技『ウッドハンマー』。この技をもろに喰らったのでは、流石のおっちゃんもひとたまりもない。

 

「ホルーッ!」

 

その直後、おっちゃんは最後の抵抗といわんばかりに冷凍パンチを振りかざす。だがあと一歩のところでドダイトスには及ばず、目の前で葉っぱカッターの餌食となり倒れた。

 

「あっ……、おっちゃん……!あれ?ということは、私の負けか……」

 

タエはぽかんと口を開けながら、おっちゃんをボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの直後、アヤはドダイトスに抱き着いてはしゃいでいた。ジム戦の後はだいたいこんな感じだが、今日は一段とにぎやかだ。もはやヒナの言葉もタエの言葉も耳に入らない。アヤが二人の存在を思い出したのは、数分の後の出来事であった。

 

「二人ともごめん!ちょっと舞い上がりすぎたかも!」

 

アヤは顔を赤らめ、恐る恐る頭を下げる。タエは相変わらずポワポワとしている。だが、その表情は確かに微笑んでいた。

 

「謝らなくていいよ。私は気にしていないから。それよりもこれを受け取ってよ。はい!これがウノトキシティジムリーダーに勝利した証『アースバッジ』だよ」

 

アヤの手に円形のバッジが渡る。するとヒナの歓声は勿論、周囲にいる数多くのタエのポケモンたちの鳴き声がアヤを包んだ。

 

「私のポケモンたちもアヤさんのことを褒めているね。ということでハナゾノランドの王様、そして住人に認められた証として、この技マシンもあげるよ」

 

気が付けばアヤの足元には技マシンを抱えたマリルリがいた。

 

「技マシンの中身は『地震』。大地を揺らして攻撃する、私のとっておきの技なんだ。さ、遠慮せず受け取ってよ」

 

アヤは言われるがままに、マリルリの手から技マシンを受け取る。彼女を再び歓声に包まれた。こうしてアヤのウノトキシティジム攻略戦は無事幕を閉じたのであった。

 




おまけ:たえのパーティー一覧(本気モード)
・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気おたえの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。本文中で触れる機会が無くて、ものすごーーーーく分かりにくいですが、おたえは『地面タイプの使い手』です。ウサギ統一じゃないのは悪しからず。


★ホルード@気合のたすき
特性:力持ち
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・地震
・電光石火
・高速移動
・ストーンエッジ

☆ニドキング@こだわりスカーフ
特性:力ずく
性格:臆病
努力値CS252

・大地の力
・冷凍ビーム
・ヘドロウェーブ
・気合玉

☆ニドクイン@命の玉
特性:力ずく
性格:臆病
努力値CS252

・大地の力
・ヘドロウェーブ
・十万ボルト
・大文字

☆ガブリアス@ガブリアスナイト
特性:鮫肌
性格:意地っ張り
努力値HA252

・逆鱗
・地震
・剣の舞
・炎の牙

☆ヌオー@ゴツゴツメット
特性:天然
性格:図太い
努力値HB252

・熱湯
・あくび
・自己再生
・地震

☆マンムー@ジメンZ
特性:熱い脂肪
性格:意地っ張り
努力値AS252

・地震
・氷のつぶて
・つらら張り
・地割れ


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第二十五話 探検!冒険!サファリパーク!

ウノトキシティにはシンシュー唯一のサファリパークがある。シンシュー屈指の人気観光地であるここは、小さい街程度の広大な敷地で放し飼いされているポケモンの展示は勿論、年中無休で様々なイベントやアトラクションを行っている。それは、ヤナップ、ヒヤップ、バオップ達のダンスショー、全国各地の有名なポケモントレーナーを呼んで行うエキシビジョンマッチ、深夜のパークを探検するツアーなどなど、どれもクオリティは天下一品だ。だがこのパークで一番目玉であるのは常時開催している『ポケモン捕獲ゲーム』である。これはパーク内でだけ使える『サファリボール』という緑色のボールやエサや泥を使って、パークのポケモンを捕獲するというゲームであり、なんと捕まえたポケモンはそのまま持ち帰ることもできるのだ。そうと聞いては見逃すわけにはいかない。アヤとヒナも早速サファリパークに行き、このゲームに参加したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーし、一杯ゲットするぞ~!」

 

「おーっ!

 

ゲーム開始直後、アヤとヒナはポケモンが生息しているエリアの門の前で意気込んだ。そしてアヤはエリアのマップを広げた。

 

「えっと、すぐそこが草原エリアで……、他には花畑エリアに山エリア、砂漠エリアに沼地エリア……。ほかにもいっぱいあるな。とりあえず花畑エリアとかよさそう!ねぇヒナちゃん、まずは——」

 

だがアヤが声をかけたとき、ついさっきまで真横にいたヒナはいなかった。慌ててヒナを探してみれば、彼女はもう門のはるか向こうで意気揚々と歩いている。

 

「あっ!ちょっと待ってよ!ヒナちゃーん!おーい!」

 

このままでは二人ははぐれてしまう。アヤも駆け足で門をくぐったのであった。パーク中に聞こえるような叫びをあげながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、どうにかこうにかしてアヤはヒナに追いついた。だが、本番はここからだった。ここにきてアヤの中に眠っていたドジっぷりやおっちょこちょいさが見事に発揮されてしまったのだ。投げたボールは当たらないし、お気に入りの髪留めのゴムをどこかに落とす。池に行ったら踏み外して全身ずぶぬれに。沼地エリアでは転んで全身泥だらけ。一番奥の山エリアに着いたとき、アヤは心身ともにボロボロであった。さらに残念なことに、その真横でヒナがピンピンしているせいで、その悲惨さはより際立っているのだ。

 

「あーあー、今日はついてないな……」

 

アヤは近くの岩に座割り込んだ。もうボールもない。抑えようとしても自分のあまりにもダメダメすぎてため息がでる。ところがその横でヒナは妙に目を輝かせていた。

 

「そうかなぁ、私は面白かったけど。アヤちゃんが池に落ちたり、ぬかるみにはまったり、バッフロンに追いかけまわされるところとか!あとあんな大きなドラピオン相手に6回も連続でボールを外すのはすごいと思った!とにかくどれも私ひとりじゃありえないことだから見れてすっごいるんってきた!アヤちゃんってやっぱり面白いなー」

 

「ヒナちゃん……、それ褒めていないでしょ……。そんなこと言われても嬉しくないよ~!」

 

どれも悪気はないことは分かるのが責め手の救いである。それでもどこか心がズキズキ痛むのは変わらない。もちろんため息が泊まることはなかった。逆に増える一方である。

 

「私ってポケモントレーナーに向いてないのかな……」

 

アヤは嘆いた。すると、それを見計らったかのような見事なタイミングで一匹のポケモンが岩陰から飛び出してきた。

「ゴローッ!

 

出てきたのはゴローン。だが、それはアヤが知るゴローンとは違った。なんと色が岩石のような灰色ではなく、眩い金色なのだ。つまり、このゴローンは色違いなのである。

 

「えっ……、どうしよう……!」

 

色違いのポケモンは非常に珍しい。ポケモントレーナーの中には色違いのポケモンを集めることに全てをささげるというトレーナーもいるということを、アヤも以前聞いたことがある。そうとなればアヤもトレーナーの端くれとしてぜひ手に入れたいところだが、ここで問題が起きた。実はアヤ、落としたり無駄に外したりしたせいでサファリボールの残りがゼロなのである。これでは捕まえることができない。と思っていた矢先、ヒナが何かが入った袋を差し出してきた。

 

「はいアヤちゃん、私の分のサファリボールあげる」

 

「えっ、いいの……?」

 

「うん!だってポケモン捕まえるよりアヤちゃん見ていた方が面白いんだもん!」

 

「うぅ~、なんか複雑な気持ちだけどありがとう!」

 

ヒナはまだ一つもボールを使っていなかったため、残量は十二分ほどある。

 

「よし!絶対ゲットするぞ!」

 

アヤは一発目のボールを投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤと色違いゴローンの格闘は想像を絶する長さであった。ゴローンはゴローンで中々逃げないし、アヤはアヤで中々ボールを当てられない。仮に当たったとしてもすぐにボールから出てしまう。そして時間はたち、ついにアヤのボールは一つになってしまった。

「頑張れー!アヤちゃん!」

 

後からはヒナの声援がする。それを受け、アヤも大きく息を吸い吐く。泣いても笑ってもこれが最後の勝負だ。

 

「よし……!いけ、サファリボール!」

 

アヤの手からサファリボールが離れる。そしてそれはゴローンの頭に向かって真っすぐ飛ぶ——と思いきやギリギリ当たらず、むなしい音を立て近くの岩でバウンドし、何処かの岩陰に飛んでいった。色違いのゴローンはそれをあざ笑うかのように、去っていった。

 

「うそ……色違いの……ゴローンが……」

 

アヤの心に喪失感という名の穴が開く。さらに追い打ちをかけるように、今さっき外したサファリボールが虚しい音を立てながら足元に転がってきた。

 

「あれ……?」

 

だがそのボールを拾い上げたとき、彼女は目を疑った。なぜかそのボールは空ではなく、中身が入った状態だったのである。状況的に考えられる原因は一つ。さっき外したボールが跳ね返った拍子に偶然、ゴローンとは別のポケモンに当たったということしか考えられない。

 

「一体なにがゲットできたんだろう……?」

 

生憎、無許可でサファリパーク内でポケモンをボールから出すことは禁止されているので今すぐ中身を確認することはできない。こうしてアヤとヒナは、未知なる新たな仲間に胸を躍らせながら波乱のサファリパークを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一時間後、アヤとヒナは街の中でもひときわ賑わっている広場にいた。目的は勿論、アヤが偶然ゲットした新しいポケモンと初対面するためである。

 

「さーて、どんなるんってするポケモンが入っているのかな~?アヤちゃん、早く開けてよ!」

 

「う、うん……!」

 

アヤの胸も期待でもはや限界まで膨れ上がっており、今にも破裂しそうだ。可愛いポケモンかな、それともたくましいポケモンかな……。様々なイメージがアヤの脳裏を横切った。

 

「よーし、出ておいで!私の新しい仲間!」

 

そして、ついに心を躍らせながらアヤはボールを投げる。するとどうであろうか、アヤとヒナを巨大な影がすっぽりと覆いつくした。目の前に現れたのは巨大な鉄壁……。いや、全ポケモン屈指の巨体を誇るハガネールだ。

 

「ネール!」

 

ハガネールの咆哮が街に轟く。まさかこんなバカでかいポケモンが入っていたとはだれが予想しただろうか。アヤが腰を抜かしたのは言うまでもない。

 

「え……えぇ……!」

 

彼女から悲鳴でもない驚きでもないよくわからない声が出る。すると、そんな彼女のところにハガネールがその迫力満点の顔を近づけてきた。

 

「ネール?」

 

だが、今度はアヤが怖がらないような優しい声だ。どうやらこのハガネール、怖そうな見た目に反し、結構人懐っこい性格のようだ。その証拠に、強面についている2つの目は澄んでいる。よって、アヤもハガネールの性格に気が付くのには時間はかからなかった。

 

「えへへ、さっきは怖がっちゃってごめんね。心配しなくてもいいよ、ハガネールも今日から私の仲間だから」

 

彼女はそーっとハガネールの下あごに手を伸ばしなでた。

 



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第二十六話 月の楽園

今更ですがこの世界のポケモン図鑑は、現実のスマホ的なものだと思ってください。

あと今回はちょっとキャラ崩壊注意です!苦手な方は注意してください!


ハガネールを手に入れた日の夜、ポケモンセンターの宿泊部屋でくつろいでいたアヤのもとにマリナ博士から電話がかかってきた。

 

「あっ、マリナ博士!」

 

『アヤちゃん久しぶり~。元気にしてた?冒険はどう?』

 

アヤがシグレタウンを出てからマリナ博士も自分の研究で忙しく、アヤと連絡する時は今回を除くと一回しかない。ましてや前回はリゲル団のことについての相談だったため、呑気に話せる空気ではなかった。そのためゆっくり話すのは今回が初めてである。

 

「——あっ、はい!……そうなんですよ~!」

 

久々に聞く懐かしの声。思い出話は盛り上がる一方だ。

 

「アーヤちゃん!誰と話しているの?」」

 

ところが、反対の耳から聞き覚えがある声がすると同時にアヤの手から図鑑がぶんどられた。犯人はシャワーから戻ってきたヒナだ。

 

「もしも~し?話しているのは誰ですか~?アヤちゃんの友達?」

 

そして、あたかも自分のものであるかのようにしゃべりだした。マリナ博士もこれにはびっくりだ。

 

『えっと……。どちら様でしょうか……?』

 

「私?私はヒナ。アヤちゃんと同じポケモントレーナーだよ!」

 

『ヒナ……?あぁ!キミがヒナちゃんなんだ!さっきアヤちゃんから話は聞いたよ。一緒に旅しているんだってね。あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はマリナ。これでも伝説ポケモンや幻のポケモンの研究をしている研究者なんだ』

 

「研究者?それって物知りな人のことだよね?」

 

『物知り……?まぁ、そうなるかな?』

 

「うわぁ~!それじゃあさ、なんかこうるんってくる場所知らない?ちょうど私達、次に行く場所決めていたんだ!」

 

この時、アヤの目には電話の向こうで困惑しているマリナ博士の顔がはっきりと見えた。

 

『るん……?それって楽しいところって意味かな?う~ん……、特別な楽しい場所は知らないなぁ。でも、景色がきれいな場所なら知っているから、そこを教えてあげようか?』

 

「うんうん!教えて教えて!」

 

ヒナの目の輝きが増す。するとヒナは図鑑をベットに置き、スピーカーモードにした。どうやらアヤと一緒にマリナ博士お勧めの場所を聞くつもりのようだ。

 

『私がお勧めするのはズバリ『月の楽園』!ここには大昔、シンオウに伝わるとある伝説ポケモンが現れたっていう言い伝えがあるんだ。しかも最新の研究でこの言い伝えが、ただの言い伝えじゃなくて本当に起きた出来事なんじゃないかっていう説も出ていて、今研究者の間で一番ホットな……。あっ、ごめんごめん。そんな研究の話はどうでもよかったね。とりあえず、月の楽園って場所はすごく景色がきれいな場所なんだ。特にきれいなのは満月の夜!』

 

「満月の夜……。るんってきたーーーーー!ねぇ、マリナさん!その月の楽園ってどこにあるの!?」

 

『ホマチシティとハルサメシティの間、11番水道の西側にあるよ。道のりがちょっと険しい上に、街から離れているせいで観光客はほとんどいないけど、苦労していく価値はあると思うよ。私も1回見たことあるけど、あれは一生忘れないだろうな』

 

「そんなに綺麗なんだ!う~んるるるるるんってきた!マリナさん、ありがとね!」

 

そう言うと、ヒナはアヤが止める間もなく電話を切った。直後、アヤに月の楽園に行こうとせがんだのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで数日後の夜、アヤとヒナは月の楽園にいた。そこはもはや大自然の美しさを凝縮した場所といっても過言ではない。見渡す限り、一面の緑。ところどころにある小さな池は雲一つない夜空を映している。そして極めつけはそれを照らす、今にも手が届きそうなほど大きな満月。おかげでどれも淡く、神秘的な光を放っている。ここまでの道中は今までの冒険でも5本の指に入るほど過酷であったが、その苦労を忘れるほどの大絶景だ。写真では決してこの感覚は伝えきれない。ここにたどり着いた人だけが味わえるご褒美ともいえるだろう。

 

「うわぁ、すごくきれい……」

 

「うん……」

 

アヤはもちろん、ヒナも何もしゃべらず景色を楽しみながらのんびりと歩く。そこはまさに二人だけの世界……、と言いたいところだが、遠くの方に人が見えた。

 

「あっ、あの人も景色を見に来たのかな?ちょっと話しかけてみようよ!おーい!」

 

突如、ヒナが走り出した。アヤもそれを追いかける。

 

「こんばんはー!キミも景色を見に来たの?」

 

そしてヒナはその人影にいきなり話しかけた。

 

「ヒッ……!だ……、誰……?」

 

するとその人影の顔がヒナと、ようやく追いついたアヤの方を向いた。月明かりに照らされる顔には見覚えがある。人影の正体はリンコだった。2人にとって、これで三回目の遭遇だ。

 

「なんだ……、アヤさんとヒナさんでしたか……。よかった……。知っている人で……」

 

リンコもアヤとヒナと分かるとホッと胸をなでおろした。まぁ、自分しかいないと思っている空間で急に声を掛けられたら誰でも驚くだろう。

 

「久しぶりですね……。2人とも……元気そうで何よりです……。まさか……、また会えるとは思ってませんでした……」

 

「はい、私もびっくりです。でも、またリンコさんと会えてうれしいな」

 

優しい光の中でリンコとアヤは笑顔をかわす。一方のヒナは、リンコの足元に落ちていた数冊の本をパラパラとめくっていた。

 

「これってリンコさんの本なの?どういう本なの?」

 

「これは……推理小説で……、こっちが神話の本で……。これが『NFO(ネオ・オンライン・ファンタジー)』っていうネトゲを題材とした小説で……」

 

「リンコさんって本が好きなんだ!」

 

「はい……。もしよかったら……、ヒナさんも読んでみますか……?」

 

「えっ!いいの!?読む読む!どれがいいかな~」

 

本をあれこれ物色するヒナを見守るリンコの表情はとても優しい。見ているアヤまで和むほどである。

 

「私……、こういう静かで人気がない場所が好きなんですよね……」

 

すると突然リンコがアヤに話しかけてきた。

 

「仕事柄……人前に立たなければいけないことが多いんですけど……、私、大勢の人の中にいることは……得意じゃないんですよね……。まぁ……、好きなことだから、今の仕事を選んだこと……後悔はしてはないんですけどね……。ただ、いつも人前にいると疲れちゃうので……、たまにこういう場所で……、一人の時間を楽しむんです……」

 

「一人の時間を楽しむ……?もしかして私達、邪魔しちゃいました?」

 

「大丈夫ですよ……アヤさん……。もう十分一人の時間は楽しめましたし……、なにより……、あなた達とは一度話をしてみたかったので……。よかったら……、その……、すこし私と……この辺を歩いてみませんか……?」

 

意外な申し出であったが、アヤが断る理由はない。アヤとリンコ、そしてヒナは三人で夜の散歩を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

3人の会話は思った以上に楽しいものだった。リンコの話はどれも、2人が知らないような面白い話ばかり。話のネタは尽きることがない。と、思われたが、この和やかなムードもあまり長くは続かなかった。遠くの方に、大自然に似合わぬ、人口的な明かりがこうこうと放たれているのを、3人は見つけたのだ。

 

「なんだろ……あの光……?」

 

アヤは直感的に嫌な予感がした。そして、それは見事に的中。その明かりの下では見覚えのある黒い服や白い服を着た人が数人うごめいている。リゲル団の幹部と下っ端だ。よくよく目を凝らせば、明かりのもとでは様々なポケモンが、鎖や縄で縛られ、逃げようがない状態でモンスターボールに入れられている。

 

「リゲル団……、今度は何を企んでいるんだろう?」

 

「わからないけど、あんなことするなんて許せない!いこうよ、アヤちゃん!」

 

しかし、アヤとヒナが走り出そうとしたとき、リンコがスッと前に出て二人を遮った。

 

「待ってください……。ここで迂闊に戦えば……、この自然が……壊れてしまいます……。私も……、今すぐにでも……あのリゲル団を……ぶっ殺してやりたいところですが……、ここはなるべく穏便に……、話し合いで解決しましょう……。力づくで解決するのは……、あくまで最終手段です……」

 

そう言うと、リンコはスタスタと歩いて行った。

 

「ねぇヒナちゃん……、本当に話し合いで上手くいくのかなぁ?」

 

「う~ん、どうだろう……」

 

なんだか嫌な予感はするが、確かにリンコの言うことも一理ある。結局2人も顔を見合わせながら、リンコについて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう、リゲル団との話し合いは案の定決裂した。

 

「ヒャハハハ!この俺たちに作戦を『止めてくれ』っていうのか?いい度胸しているねお嬢ちゃん!」

 

3人は完全に囲まれ、煽られまくられた。だが、言い出しっぺのリンコはそれが始まってから黙り込んでいる。それをいいことに、リゲル団のあおりは加速する一方。だが、ついにヒナが反撃に出た。

 

「うるさいな~!さっきから黙っていれば人の悪口ばっかり!悪いことをしている人にあーだこーだは言われたくないね」

 

すると近くにいた女幹部が彼女を鼻で笑った。

 

「悪い事とは失礼な。私たちは、『3日以内に大量のポケモンを、手段を選ばず捕獲して来い』という命令を忠実にこなしているだけ。そのために、ポケモンが多いこの地で、彼らの寝込みを襲って効率よく捕獲しているだけよ」

 

「我らがリーダーサヨ様は言った。『犠牲無くして勝利は無い』と。これも世界平和のためよ。悪く思わないでちょうだい!」

 

さらにもう一人の女幹部もそこに畳みかける。静かな地に、不穏な高笑いが響いた。

 

「世界平和のため?これのどこがそうなの!?」

 

もはや黙ってられなかった。あまりのひどさに、アヤも拘束されたポケモンたちに指をさしながら加勢。しかし、リゲル団は詫びる気配すらない。

 

「なんだ嬢ちゃん?この俺たちに文句があるのか?」

 

「それなら八つ裂きにされても文句はないだろうな?」

 

すると、ニヤついた下っ端がボールを片手にアヤに迫ってきた。気が付けば周の下っ端や幹部たちもゲッコウガやマグカルゴ、コロトックといったポケモンを繰り出している。その数およそ10体。彼女が涙目になったのは言うまでもない。だが、ここで長いこと沈黙を貫いてきたリンコが口を開いた。

 

「さぁ……、八つ裂きにされるのは……どっちでしょうかね……」

 

彼女の顔は相変わらず穏やかだが、その目は全く穏やかではない。さらに、この時アヤとヒナは見てしまった。リンコがさりげなくボールをポケットから取り出し、ボールを握った腕を怒ワナワナ震わせているのを。明らかに臨戦態勢に入っている。こうなっては、もはや穏便に解決する手段は立たれた。

 

「お願い、キルリア!」

 

「いけ、ポリゴンZ!」

 

アヤとヒナは同時にポケモンを繰り出した。しかし、ここでリンコが再び彼女たちの動きを止めた。

 

「2人とも……待ってください……。ここは……私だけで十分です……」

 

「そんな!こんな大人数、1人じゃ無理ですよ!キルリア、シャ——」

 

「大丈夫だといっているのが……分かんないんですか……?」

 

アヤの声を遮ったリンコの声には、気のせいか苛立ちがこもっている。これにはアヤも言うことを聞かざるを得ない。こうしてリンコの、一見無謀にしか見えない戦いが始まった。

 

「ゲンガー……、お願いします……」

 

「ゲーッ!ゲッゲッゲッッゲ!」

 

リンコが繰り出したのはゲンガーだ。その不気味な笑い声は、聞いているだけで背筋が凍りそうである。ところがリゲル団は退く様子はない。

 

「行くぞ!お前ら!ゲッコウガ、悪の波動!」

 

「コロトック、シザークロス!」

 

「マグカルゴ!火炎放射!」

 

リゲル団のポケモンの攻撃が、四方八方からリンコのゲンガーに襲い掛かる。だが、リンコは微動だにしなかった。

 

「命知らずの……雑魚ですね……。この私に……逆らったこと……後悔させてあげましょう……。ゲンガー、シャドーボール!」

 

「ゲーッ!」

 

ゲンガーの周りに黒い影の塊が現れる。それも一つではない。2つ、3つ……、その数はどんどん増えていく。そして、ゲンガーに攻撃が当たる直前、それらは一斉に発射され、全弾敵に直撃した。

 

「ガッ!」

 

「グゴッ!」

 

「ロ~ク……」

 

それは一瞬の出来事であった。たった一撃であれだけいたリゲル団のポケモンが全滅したのだ。

 

「なに……!あれだけいたのに……!ハッ!そういえば、このゲンガーと黒い髪の女、何処かで見たことあるぞ……。確かコイツは……!クソッ!なぜここにいる!?」

 

その時、1人の男幹部が舌打ちをしながら顔を強張らせた。勿論、アヤとヒナにはこの意味が分からない。だが、リンコは分かったようで、不敵な笑みを浮かべた。

 

「あっ……、私のことようやく気が付いてくれましたか……?で……、どうしますか……?私の正体を知ったうえでまだ抵抗しますか……?私は全然かまいませんよ……全員まとめて……地の底に……堕とすだけですから……」

 

間もなく、例の幹部の耳打ちの影響でリゲル団に動揺が広がった。あるものは歯を食いしばり、ある者はおびえ、目に涙を浮かべている。

 

「チッ……。仕方がない、ここは退くわよ!ポケモンも好きにしなさい!」

 

結局、リゲル団たちは女幹部の指示でポケモンを残したまま何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゲンガー……、この明かりを破壊して……」

 

間もなく、ゲンガーがリゲル団が持ち込んできた照明を木端微塵に破壊したため、月の優しい光が戻ってきた。そして、その後3人は協力してとらわれたポケモンを解放し、事件を無事終わらせたのであった。

 

「よかった……、何とか解決して……。ねぇキルリア?」

 

「キルル~」

 

全てが終わり、一息つくアヤとキルリア。だが、ヒナはリゲル団が去っていった方角をジーっと見ていた。

 

「おねーちゃん……、どうしてあんなポケモンを粗末にするような命令を出したんだろう……。昔のおねーちゃんなら絶対にそんなことしなかったのに……」

 

ヒナはボソッと呟く。

 

「どうかしたんですか……ヒナさん……?なんだか……、とても悲しそうですが……。それにおねーちゃんが命令をって……、どういうことなのですか……?」

 

するとそこへリンコが隣にやってきた。その表情は、先ほどまでのいら立ちが漂うものではなく、実に穏やかなものである。

 

「あっリンコさん……。実はね……」

 

そのせいか、ヒナも自分の思っていることを何の抵抗もなく話せた。勿論、姉のサヨののことも含めてだ。

 

「——なるほど……、つまり……ヒナさんはリゲル団のリーダーサヨの妹なんですね……。それで……、昔との余りの違いに……戸惑っていたと……」

 

「うん……。まぁ、おねーちゃんをそうさせちゃったのは私のせいなんだけどね。だから、私はせめてもの責任をとってリゲル団を倒すことにしたの。アヤちゃんと一緒にね」

 

ヒナの視線がアヤの方に向く。彼女はそれを受け、力強く頷いた。

 

「フフフ……。よかったですね……ヒナさん……。頼もしい仲間がいて……。それじゃぁ……私も応援としてこれを……2人に……」

 

リンコはポケットから2つのアメを取り出した。

 

「これは……不思議なアメという道具で……、ポケモンのレベルを上昇させることができる道具なんです……。その……、よかったら使ってくださいね……」

 

「そうなんですか?ありがとうございます」

 

そしてアヤは、アメをもらうが否や早速不思議なアメをキルリアに与えた。

 

「キルッ?」

 

するとどうであろうか、キルリアの体が突如光り輝いたのだ。

 

「これは……もしかして……!?」

 

アヤもこの光は何度か見たことがあるものである。

 

「サーッ!」

 

光が消えると、楽園に透き通るような美声が響き渡った。キルリアは見事、最終進化系のサーナイトへと進化を遂げたのである。

 

「これが……サーナイトか……」

 

その美しい見た目に見とれていると、サーナイトはアヤの方に右手を伸ばしてきた。どうやら握手をするつもりのようだ。

 

「これからもよろしくね、サーナイト……」

 

彼女たちはこれからも支えあうことを誓い、握手を交わした。

 

「おめでとうございます……アヤさん……。これは……、見事なサーナイトですね……。あっ……、そうだ……!」

 

すると、そんな仲睦まじい彼女たちを見てリンコはまた何かを取り出した。今度は、宝石のように輝くまん丸い石だ。

 

「これは……?」

 

それを見たアヤは当然首をかしげる。リンコは微笑みながらこの石について話し出した。

 

「これは……『サーナイトナイト』というメガストーンと呼ばれる石の一種で……、これを特定のポケモンに……、この場合はサーナイトに持たせておくことで……、進化を超えた進化……『メガシンカ』をさせることができるんです……。私……、サーナイトナイトは2つ持っているので……、よかったらアヤさん……、これもらってくれませんか……?」

 

「メガシンカ……?よくわからないけどすごそう……。ありがとうございます!」

 

アヤはサーナイトナイトをもらうと早速それをサーナイトに持たせ、叫んだ。

 

「よーし、サーナイト!め、メガシンカ!」

 

しかし、何も起こらない。そして、それと同時にリンコはハッとした。

 

「あ……!言い忘れてました……。メガシンカを使うには『キーストーン』っていうものを……トレーナーが持っていないと使えないんです……」

 

「そうなの……?」

 

アヤはおもむろにがっくり肩を落とした。

 

「そんなに落ち込まないでください……アヤさん……。キーストーンが無ければ……、手に入れればいいんです……。確か……、ハルサメシティのレックウ寺で認められれば……キーストーンが貰えたはずです……。まぁ……、もらう段階になる前に挫折する人も多いらしいですが……。でも……、きっと……アヤさんとサーナイトなら……問題ないと思います……」

 

「うぅ……。なんか不安だけど、何事もチャレンジだよね。よーし!それじゃぁ、キーストーン目指して頑張っちゃうぞー!」

 

アヤの元気一杯の声が、夜空に響いた。

 




ちなみにりんりんのあの性格のモデルはコンボイ司令官とその他のサイバトロン戦士(わかる人だけわかってくれればいいや☆)


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第二十七話 進化を超えたシンカ

今更ながらあけおめでとうございます。年末年始を挟んだり、展開を悩んだりしていたらこんなに遅くなってしまいました。今年も感想や高評価、お気に入り登録などで応援よろしくお願いします!


アヤとヒナは、月の楽園でリンコと互いに連絡先を交換して、彼女と別れた。そして2人はレックウ寺があるハルサメシティに再び訪れた。前回ここを訪れた時は2人別々だったため、何気に2人でこの街に行くのは初めでである。

 

 

 

 

 

 

レックウ寺は1000年もの昔にできた、ホウエン地方から伝わったレックウザの石像を祀る由緒正しい寺だ。古くよりこの寺では、レックウザの勇ましさに魅せられた人々がポケモンと共に修行を重ねていた。そして、その修行を終えた人は寺の中で一番偉い老僧から、レックウザの石像を削って作った宝玉を渡されたそうだ。というのも、石像はただの石で作られたものではなく、メガシンカに必要なキーストーンの原石で作られたものなのだ。つまり、老僧が渡した宝玉はキーストーンそのものなのである。長い歴史の中で何個もの宝玉が削り取られたせいで、石像が原型をとどめないほどボロボロになってしまったため、残念ながら現在ではこの風習は無くなってしまった。しかし今でも、他所で作られた物ではあるが、修行を終えた人にキーストーンを渡すという伝統は残っている。また修行の内容も時代の流れの中で変化し、かつてはキーストーンを手に入れるために何年も修行をしなければならなかったものも、ある程度の実力があるトレーナーであるならば1日の修行でキーストーンを手に入れることができるようになっている。そのため、ポケモンジムのように、毎日修行を行う人を募集しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけでアヤとヒナはハルサメシティに着いた次の日、早速レックウ寺に行った。

 

「うわぁ……」

 

アヤの目の前にあるのはレックウ寺の門だ。しかし、それはアヤが知っている門ではなかった。レックウ寺の門には立派な装飾が施されており、見上げるほど大きい。ハガネールのような巨大なポケモンでも楽々入れるほどだ。

 

「大きなお寺…」

 

「うん…」

 

アヤとヒナは、そこから放たれる厳かな雰囲気に圧倒された。すると、そこに若い僧が話しかけてきた。

 

「お主たち、レックウ寺での修行を望む者か?」

 

「ヒャッ、ヒャイ!」

 

不意に声をかけられ、アヤの声が裏返る。

 

「修行を望む者か?」

 

再び若い僧がアヤに声をかけた。その僧はアヤとあまり歳に違いはないが、どこか大人びた印象を受ける。それに怯えて、彼女は頷くことしかできない。

 

「……そうか。では、強さを示すものを私に見せよ」

 

この寺に入る条件はいくつかあるが、最も簡単な条件はジムバッジを6つ以上入手していることだ。つまり、アヤはギリギリではあるが条件を満たしていることになる。

 

「これでどうですか……?」

 

アヤがバッジが入ったケースを見せると、若い僧は静かに頷いた。

 

「いいだろう……。良いか、挑戦者よ。この寺でお主にやってもらうことはただひとつ。事前に選んだ一体のポケモンとともに、入り組んだ通路の中にいる修行僧を破りながら、一番奥の部屋に行くことだ。さぁ、入りたまえ」

 

「わかりました」

「よーし!張り切っていこー!」

 

こうしてアヤとヒナはレックウ寺の本堂にいよいよ入っていこうとした。だが、ヒナがアヤに続いて寺に入ろうとした時、若い僧が彼女の前に立ちふさがった。

 

「申し訳ないが、挑戦者は1日に1人までと決まっている。無論、付き添いなどもってのほかだ」

 

「そんな〜!どうして〜!アヤちゃんの修行、絶対るんってするのに〜」

 

後ろでは、ヒナが駄々をこねている。そんな騒ぎ声を聞きながら、アヤはサーナイトをボールからだし、一緒にレックウ寺の本堂に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ここで改めて修行の内容をおさらいしよう。若い僧からアヤが言われたことは要するに『1匹のポケモンだけで、寺に作られた迷路を攻略し、道中のトレーナーを倒し、最奥部の部屋に行くこと』だ。

 

(なんだ……。結構簡単じゃん)

 

アヤは内心レックウ寺を侮っていた。しかし、間もなくその考えは覆されることになった。

 

「なに……この人たち……。ちょっと強すぎない……?」

 

1人目の修行僧とバトルに勝った時、アヤは冷や汗が止まらなかった。まさかサーナイトが有利なはずのゴーリキーに追い詰められるとは思いもよらなかったからだ。しかし、こんなのレックウ寺の修行の序の口に過ぎない。道中で出会うトレーナーは今の人以上に強い人ばかり。さらに寺の内部の迷路も想像以上に複雑で、行きつく先は大体行き止まり。そのため、アヤの精神や集中力もどんどんすり減っていく。それでも、傷薬をサーナイトに何度も使いながら進んでいくが、もう帰りたくて帰りたくてしょうがなかった。

 

「いつになったら終わるのこれ……?ヒナちゃ~ん、助けてよ~!」

 

迷路のど真ん中で、アヤの情けない悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、最奥部に着くまでにアヤは半日以上かかった。

 

「何とか……、着いた……」

 

寺の中で最も広いここで、疲れた顔のアヤが目にしたものは部屋の両脇で綺麗な姿勢で控える十人以上の修行僧。そして、部屋の一番奥で気の杖を片手に、アヤを待ち構える老僧であった。

 

「よく来たな、若き者よ。私はホウセン。このレックウ寺の長だ。」

 

ホウセンは見た目こそ年老いているが、彼の穏やかであり鋭い目はまだ若いころの活気を残している。そして、その目でアヤをじっと見ながらホウセンは低い声を発した。

 

「挑戦者よ、ポケモンバトルに最も大切なものは何かわかるか?」

 

「大切なもの……?それは……えっと……」

 

「まぁ、急に言われてもわからないだろう。だが、これだけは確実に言える。この私に勝てるトレーナーは、それを心得ている者だけだと。さぁ、戦いを始めよう」

 

ホウセンがスッとボールを出すと、アヤも覚悟を決めるとボールを取り出した。

 

「いけっ!サーナイト!」

 

「……ギャラドス」

 

アヤのサーナイトが場に現れると、ホウセンのギャラドスも現わした。『きょうぼうポケモン』と分類されるだけあり、見ているだけで背筋が凍る恐ろしい風貌である。しかし、怯えていては勝負にはならない。アヤは、震える声を抑えながら必死に叫んだ。

 

「サーナイト!サイコキネシス!」

 

「ギャラドス、アクアテール」

 

サーナイトの細い腕から年動力が発せられる。しかしギャラドスは強靭な尾でそれを殺した。威力は互角だ。すると、それを見たホウセンが呟いた。

 

「ほう……、まだまだ未熟だが、大切なことは心得ているようだな。いいだろう、ここからは少し本気を出すことにしよう」

 

その時、急に彼が持っている杖の一番上に埋め込まれた石とギャラドスが光り輝いた。

 

「えっ……、なに?何が起こるの!?」

 

「サーッ!?」

 

見たこともない現象を前に戸惑うアヤとサーナイト。すると、ホウセンの口角がわずかに上がった。

 

「これがレックウ寺に代々伝わる奥義『メガシンカ』。そして、これがギャラドスがメガシンカした姿、『メガギャラドス』だ」

 

「ギャオーーー!」

 

己の強さを誇示するかのようにギャラドスは咆哮を轟かせる。そして、間髪入れずに怯むアヤとサーナイトに氷の牙で襲い掛かった。

 

「わ、わ、わ、わ!サーナイト、避けて!」

 

「サッ!」

 

寸のところでサーナイトはそれを避ける。だが、次の瞬間にはもうアクアテールが目の前まで迫っていた。もはや、アヤの指示を待っている暇はない。サーナイトは自分の判断でサイコキネシスを放つ。しかし、今度は威力を抑えきれず、サーナイトの頭にアクアテールが直撃。サーナイトは床に頭から叩きつけられた。

 

「サーナイト!」

 

アヤの悲痛な声が響く。どうにかサーナイトはまだ立っているが、相当なダメージであったことは間違いない。次には間違いなくないだろう。

 

「これがメガシンカの力……」

 

初めて目にする圧倒的な力を前に、アヤの額に冷や汗が伝う。だが、ギャラドスはそんな彼女をあざ笑うかのように猛攻を加える。サーナイトも必死に避けながら攻撃の機会をうかがうが、ギャラドスはその暇を与えてくれない。しかし、そう思った矢先ギャラドスの動きが一瞬止まった。

 

「今だ!マジカルシャイン!」

 

一瞬の判断で、サーナイトは強力な光を放つ。だがアヤは見た。その光の中で、ギャラドスが力強く舞っているのを。アヤはこの瞬間ハッとした。

 

「あの動き……、ランさんのフライゴンと戦った時見たことある。まさかこれは、竜の舞!?」

 

アヤの予想は的中であった。ホウセンは、メガシンカで上昇した耐久を活かし、攻撃を受ける覚悟で竜の舞を指示したのだ。

 

「ここまで素早さをあげれば、もうサーナイトは逃げられないだろう。さぁギャラドス、終らせるぞ」

 

「ギャォォォ!」

再びギャラドスの氷の牙がサーナイトに襲い掛かかる。速度も最初の攻撃とはけた違いだ。しかし、『ひん死』の『ひ』の字が見えた瞬間、アヤは閃いた。もはやこれにかけるしかない。

 

「サーナイト、電磁波!」

 

氷の牙の先端が当たる直前で、サーナイトから微弱な電流が発せられた。

 

「ギャッ……!」

 

ギャラドスがマヒになり、動きが鈍った。その隙にサーナイトはテレポートで大きく距離をとる。勿論、テレポートが終わったときにはギャラドスは迫ってきていた。だが、アヤもそのことは想定済みだ。というかむしろそれを狙ったうえでの指示である。

 

「サーナイト、落ち着いてギャラドスを引き寄せて……」

 

「サー……」

 

一見すると自殺行為にも見える采配だ。しかし、サーナイトはアヤを信じ、じっとその場で待機する。そして距離がギリギリまで詰まった時、ついにアヤが動いた。

 

「いくよサーナイト……、私たちのゼンリョクのワザ……『ラブリースターインパクト』!」

 

アクアテールが当たる寸前、渾身のZワザがゼロ距離で直撃。その瞬間、ギャラドスのメガシンカが解け、その巨体は呻きをあげながら地面に横たわった。

 

「……やはり私の目に狂いはなかった。そう、ポケモンバトルにおいて最も大切なのはポケモンとトレーナーの絆。先ほどの戦いも、深い絆が無ければ決してできない大胆な采配であった。お見事だ。」

 

倒れたギャラドスをボールに戻しながら、ホウセンは呟いた。そして、彼はアヤの前に歩み寄ると、懐から美しく輝く石を取り出した。

 

「さぁ、レックウ寺における修行を終えた証としてこのキーストーンを持っていくといい。お主とサーナイトほどの深い絆の持ち主なら必ず使いこなせるはずだ」

 

 

「これがキーストーンか……」

 

「サー」

 

アヤとサーナイトはホウセンから一緒にキーストーンを受け取ると互いに代わる代わる見せ合った。その姿はさながら親友や仲のいい姉妹のようである。

 

「人とポケモンの絆はいつ見てもいいものだ……。お主たちも、その絆をずっと大切にな」

 

その光景を、ホウセンは穏やかな表情で見つめた。

 

「はい」

 

「サー」

 

そしてアヤとサーナイトは彼の言葉に対して、互いに力強く頷いたのであった。

 




本当はここでイヴちゃん出す予定だったんだけど上手く話に組み込めなかったので没になりました。イヴちゃん……、いつかはストーリーに出すから許してね……。


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第二十八話 カヤユキ山脈を越えろ

なんだかまた日間ランキングに載ってました。応援ありがとうございます!


 ハルサメシティでキーストーンを手に入れたアヤは、ヒナの『るんってきた!』という言葉に従うがままに『カヤユキ山脈』を踏破することにした。こうしてアヤとヒナは再び12番道路を北上し、ミタマ山内部を通過。そして全身スキーウェアのような服装で身を固めながら、豪雪と吹雪が行く末を阻む15番道路を抜け、カヤユキ山脈のふもとの街、カヤヤタウンへ向かった。

 

 

 

 

カヤヤタウンはシンシュー屈指の豪雪地帯であり、腰の上まで積もることも日常茶飯事である。しかし、カヤヤタウンはこの豪雪を逆に利用し、スキーなどのウィンタースポーツに力を入れており、シーズンなれば毎年多くの人がやってくる。さらにアヤたちと同じくカヤユキ山脈を踏破しようとする旅人も多くやってくるため、いつもこの小さな町は人でごった返している。そのため、ポケモンセンターを含む宿泊施設が軒並み埋まることも珍しくない。ゆえに、ここに滞在する人はかなり前から宿を予約してからカヤヤタウンに来るわけだが、自由気ままに旅するヒナとおっちょこちょいなアヤがそれを知る由はなかった。生憎、彼女たちが夕方にカヤヤタウンに着いたとき、この街の宿は全部満室。結局2人は、カヤヤタウン内のとある民家に頭を下げて、そこで一夜を過ごさせてもらうことにしたのであった。

 

 

 

 

 2人が駆け込んだ家にはイヴという少女が1人で住んでいた。彼女は急な来訪にも関わらずアヤとヒナを手厚くおもてなししてくれた。

 

「ごめんなさい、急に押しかけちゃって…」

 

アヤは家に入ってから申し訳なさそうにしている。しかし、イヴは天使のような笑みでこう言った。

 

「人を助けることはブシドーを極めるものとして当たり前ですから!とりあえず、今温かい緑茶を用意しますね」」

 

イヴは2人を畳が敷かれた和風な居間に通すと、熱々の緑茶を持ってきてくれた。極寒の道中を進んできたアヤとヒナにとって、それはまさしく神であった。ちなみに緑茶を飲みながら聞いた話によれば、今日の2人みたいに宿が取れずに民家に転がり込んでくる旅人はそんなに珍しいものでもないようだ。誰かを自分の家に泊めることはたまーにあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 「うわ~凄い凄い!これ全部イヴちゃんのもの~!?」

 

ヒナは緑茶を飲み干すと、居間の隣の部屋に置いてある武士の鎧兜や水墨画の和風コレクションを見つけて、そこでずっとはしゃいでいた。一方のアヤは緑茶を飲み干すと居間の中央にあるコタツにずっと入っていた。その程よい温もりは最高である。なんなら一生そこに入っていられそうだ。

 

「あ~、生き返る~」

 

思わずオヤジのような声を漏らすアヤ。するとそこへイヴがやってきた。

 

「あ、アヤさん。緑茶のお代りはどうですか?」

 

「う~ん。とりあえずはいっかな」

 

「分かりました。また、欲しくなったら遠慮なく言ってくださいね。あっ、それと夕食の方も今、私のエルレイドが用意していますから待っててください」

 

そう言い残すとイヴはアヤのもとから離れ、部屋の端にあるパソコンへと向かった。その周囲にあるよくわからない機械といい、この和風全開なこの部屋には似合わないものである。

 

「ねぇイヴさん、この部屋のパソコンや機械は何に使うの?」

 

アヤは思い切ってこのことについて、彼女に聞いてみた。

 

「あぁ、このパソコンのことですか?これはシンシュー全域の、ポケモンセンターに設置してあるパソコンを管理するためのものです。なんたって、この私がパソコンの管理人ですから」

 

その後、イヴは嬉しそうにポケモンセンターに設置してあるパソコンの仕組みを教えてくれた。だが、アヤの頭では理解することはできず、適当なところで相槌を打つので精一杯である。

 

「エルレッ!」

 

と、その時奥のふすまが開き、イヴのエルレイドが姿を現した。エルレイドの手にはおいしそうな鍋が抱えられている。

 

「うわっ!おいしそう!」

 

アヤは料理を見て、目を輝かせる。だが、ここで思いもよらぬ襲撃があった。ヒナである。

 

「アッヤちゃ~ん!見て見て!この木刀!」

 

ヒナは隣のコレクションルームで見つけた木刀を掲げて、アヤに見せびらかす。

 

「わわ!ヒナちゃん人のものを勝手にいじっちゃだめだよ!」

 

アヤはヒナに木刀を返すように注意するが、やっぱり効き目はない。しかし、イヴはそれを笑ってみていた。

 

「いいですよ、アヤさん。私のコレクションの良さがわかってくれる人がいて嬉しいです!この木刀はですね、前にジョウト地方のエンジュシティに行ったときに、一目ぼれして買ってきたんです。それからというもの、この木刀でエルレイドと試合や稽古をするのが日課なんですよ」

 

「試合や稽古?こんな風に?えーいっ!」

 

いったい誰がこんなことになると思っただろうか。なんとヒナは、突如無邪気な笑顔で木刀を振り回しだしたのだ。

 

「わっ!ヒナさん!部屋の中で木刀は振り回さないでください!あ、危ないです!」

 

そしてイヴの悲鳴が上がったそばから木刀が、パソコンめがけて迫ってきた。このままではパソコンが壊れてしまう。しかし誰もがそう思った時、エルレイドが颯爽と現れ、木刀からパソコンを守った。

 

「あー、良かったです……」

 

イヴは安堵のため息をつく。だが、騒動はまだ終わりではなかった。エルレイドはあまりにも急な事態であったため、パソコンを守る際に慌ててうっかり鍋を投げ捨ててしまっていたのだ。

 

「えっ……?」

 

その鍋はアヤの頭上を舞っている。そして次の瞬間、宙を舞っていたアツアツの鍋はアヤに降り注いできた。

 

「アチチチチチチチチチチチチ!水!水!」

 

アヤは絶叫しながら風呂場へと走っていった。どうやら今日は騒がしい夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 アヤとヒナが目指すカヤユキ山脈は標高が3000m近い山々が軒を連ねる南北に長い山脈だ。この山脈は高度が高過ぎるため『空を飛ぶ』では来ることができず、自分の足で陸から来なければならない。もちろん道中も安全なところは全くなく、常に滑落や落石の危険と隣り合わせ。一瞬でも気を抜けば待っているのは死だ。ついでに天候も変わりやすいため、カヤヤタウンにいる専門家たちが安全と判断した時にしか基本的に立ち入ることが許されない。運が悪いと何日もカヤヤタウンで足止めを食らうことも決して珍しいことではない。だが、今日は運よく天候も安定していた。そのためアヤとヒナは、まだ日も昇りきらぬ時刻にイヴの家を発ち、防寒着を着込んでカヤユキ山脈の登山口を目指した。

 

「出ておいで、ハガネール!」

 

「ネール!」

 

登山口の入り口で、アヤはハガネールを出した。事前にすこし調べたところによると、どうも一般人が人間の力だけでカヤユキ山脈を登りきるのは難しいので、ポケモンと力を合わせて昇るのがメジャーらしい。アヤたちもそれにのっとることにしたのだ。

 

「よーし!ハガネール、進んで!」

 

「ネール!」

 

ハガネールはアヤとヒナを頭の上に乗せるとズルズルと登山道を進みだした。元々や額地帯や洞口などに生息するポケモンなだけあって安定感は抜群だ。こうしてアヤたちの登山は幕を開けたのであった。

 



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第二十九話 カヤユキ山脈の戦い

 ほぼ垂直の断崖絶壁を登ったり、人ひとりが歩くのが精いっぱいの尾根を歩いたりと、カヤユキ山脈は想像の100倍は過酷な道のりであった。しかし、アヤが一番驚いたのはこんなに過酷であるのにもかかわらずかなり多くの人がこの山を登っているということだ。さらにただ一緒に上るだけならともかく、割と頻繁にトレーナーと思われる人に勝負を挑まれるんだからもっと驚きだ。こんな感じでアヤとヒナは、道中にある山小屋に泊まりながら、数日かけてカヤユキ山脈を越えた。そして、彼女たちはようやく厳しい自然から解放されようとしているのだ。

 

「あー、なんか懐かしい風景だな……」

 

アヤは周囲にポツポツと現れ始めた電灯や錆びた立て看板を見て安堵の表情を見せた。アヤたちが今いる場所は『カヤユキダム』というシンシュー最大の水力発電所があるあたりだ。この辺までくれば道も歩きやすいように舗装されており、人の文明を感じさせるものがいくつか姿を見せている。ついでに、遠くの方には明らかに登山客ではないような人影も見えている。これを見たとき、2人は改めて登山の終わりを実感した。が、その人影はどうも怪しい。よくよく見て見ればその人影は、リゲル団の男幹部のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のリゲル団幹部は、ダムにつながる道のど真ん中でブツブツ呟きながら右往左往していた。

 

 「あー、作戦失敗だ。リンコとかいう女さえ来なければ作戦が成功したのに!作戦が成功したことを手土産にサヨ様に告白するという俺の計画が台無しだ!」

 

実は彼、別の場所で作戦をしようしていたのだが、リンコに邪魔をされて大失敗したためここで憂さ晴らしをしていたのだ。彼にとって一世一代の大勝負がかかった作戦だっただけにあって、そのいら立ちは半端ない。と、その時、リゲル団の男幹部の視界にアヤとヒナが入り込んだ。

 

「おい!お前ら何の用だ!?」

 

虫の居所が悪いせいか、彼女たちと目が合うや否や思いっきり怒鳴りつける。しかし、すぐにその表情は一変。彼は気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「おや……?その顔どこかで……?あっ、前にサヨ様に写真を見せてもらったぞ!確リゲル団の要注意人物ヒナとアヤ!そういえばこの2人を倒せば、『なんでも願いを叶える』ってサヨ様が前に言っていたような……。シメシメ、まだ俺の恋は終わってないぜ!さぁ、お前ら!俺とバトルしろ!まずはその弱そうなピンク髪からだ!」

 

弱そうなピンク髪とはアヤのことだ。男幹部はアヤにターゲットを定めると、彼女に拒否権を与えず、ボールを頭上に投げてボーマンダを繰り出した。

 

「いけ、カブト!」

 

それに対してアヤが繰り出したのはカブトだ。

 

「カブーッ!」

 

が、カブトはボールから出るや否やまたアヤの顔面にへばりついた。

 

「んー!離れて、離れて!カブト!」

 

アヤはいつも通り顔から引き離すと、カブトをそっと地面に置いた。戦いの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルが始まって数分がたった。カブトとボーマンダの戦いは激しさを増すばかり——と思いきや、形勢は完全にアヤに傾いている。なにしろ敵の幹部が猛烈に弱すぎるのだ。技を出すタイミングは適当だし、動きは単調。今のアヤが負ける要素はどこにもない。だが、リゲル団幹部はここで思いもよらぬ手段に打って出た。

 

「クソッ!ただここで負けるなんて気に入らねぇ!こうなったらお前らも道連れにしてやる!ボーマンダ、あの崖に竜の波動!」

 

「ンダーッ!」

 

次の瞬間、竜の波動は崖に直撃。そして、その衝撃で砕けた1つの岩がアヤとヒナの真上に降りかかってきた。

 

「うそ!待って待って待って!ヒャァァァァァ!」

 

「わ、わ、わーーーーーーー!」

 

アヤとヒナは絶叫をあげ、思わず目をつむった。だが、彼女たちに落ちてきたのは巨大な岩ではなく、小さな破片だけ。不思議に思い、彼女たちが顔をあげると目の前には見覚えがない、砂埃で汚れた巨大な鎌を両手に携えたポケモンが悠々と立っていた。

 

「あれ……、私のカブトは?それに、何このポケモン……?」

 

アヤはすかさずそのポケモンのことを図鑑で調べた。図鑑によればこのポケモンは、カブトの進化系で、カブトプスというらしい。

 

「もしかして、カブト進化したの?あと、私たちを落石から守ってくれたのも——」

 

と、アヤが言いかけるとカブトプスは思いっきりアヤを抱きしめてきた。彼女の答えは正解だったようだ。

 

「苦じい……!カブトプス、離れて!」

 

アヤが呻きをあげるとカブトプスは、彼女を解放し再びボーマンダとにらみ合った。

 

「なに、進化だと!?ふざけんなぁぁぁぁ!」

 

対する幹部はやけくそになってボーマンダを突っ込ませてくる。だが、カブトプスは当然のごとくそれをかわし、シザークロスを叩き込んだ。あっけなく墜落するボーマンダ。アヤの完勝である。

 

「そんな……、俺の恋が……!サヨ様が……!ちくしょー!覚えておけよ!」

 

リゲル団の幹部はさらにいら立ちを募らせながら、何処かへと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後2人はカヤユキダムの上を通りながら山を下り、カヤユキ山脈のふもとにある『ユキゲタウン』にたどり着いた。ユキゲタウンは無数の花が咲き誇っている街だ。赤や青や黄色……、その他様々な色の花で彩られた町はまるで一種の芸術である。ちなみにこの街にはシグレタウンと同様にポケモンセンターもフレンドリーショップもない。そのかわりに民宿がポケモンセンターの代わりを、そして『リュウセイ堂』という質屋がフレンドリーショップの代わりとして旅人をサポートしている。

 

 

 

 

 

 

というわけで、アヤたち過酷な山道で消耗した道具を買い足しに、リュウセイ堂にやってきた。木の香りが漂う店の内部には、本職が質屋なだけあって珍しいものが所狭しと並べられている。

 

「うわ~、これが初期のモンスターボールか……。それでこれが、私が生まれたころのシンシューのジムバッジ……。今と形が全然違うや。それでこれが……」

 

こんな調子でアヤは、必要な道具を買った後もあれこれ店の商品をあれこれ見て回っていた。その時、なんとなく彼女が顔をあげると、目の前の棚で黄金に輝くトロフィーやメダルの数々を見つけた。これも何かの商品なのかと思えば、すぐそこに『非売品』とかかれた紙が貼ってある。

 

「それじゃぁこれは誰のトロフィーなんだろう……」

 

アヤがそう呟く。すると急に、店主の白髪のおばあさんがアヤの後ろに現れた。

 

「これはな、私の孫が昔取ったトロフィーやメダルなんだよ。孫はポケモンバトルが強くてな、出た大会はすべて優勝。勿論今でも負けなしの実力を持っている。私の孫にかなうトレーナーは世界のどこを探してもいないだろうね」

 

店主のおばあさんは声高らかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤとヒナはリュウセイ堂の商品に見とれてしまい、結局店の外へ出たのは1時間後であった。

 

「あー、面白かった!」

 

「うん!るんって感じのものがいっぱいだったよ!」

 

リュウセイ堂の感想を仲良く語り合うアヤとヒナ。ところが2人は話に夢中になるあまり、前をよく見てなかった。そして、店を出てから3分も立たずに、木陰に立っていた少女と正面衝突してしまったのだ。

 

「うわっ!ごめんなさい!」

 

「ケガはない?」

 

2人は大慌てで頭を下げた。

 

「大丈夫よ!そっちこそケガはない?」

 

すると木陰で休んでいた少女の元気のいい声が聞こえた。幸いケガはなさそうだ。しかし、この声には聞き覚えがある。そう、ホマチシティで出会ったお金持ちの少女ココロである。まさかの再会だ。特にヒナは目を輝かせて、これでもかというくらい騒いでいる。

 

「うわ~、久しぶり~!ココロちゃんはなんでここにいるの!?」

 

「久しぶりね、ヒナ。私はこの街に少し用事があってきたの」

 

「用事?なになに?どんな用事!?」

 

「それはヒミツよ!でも、世界を笑顔にするためにとっても大事な用事なのよ!」

 

「えー、きになる~!」

 

「そんなに焦らなくても、ヒナにもそのうちわかるときが来るわ。そんなことよりもヒナとアヤはフラワーロードには行った?」

 

「フラワーロード?」

 

「そうよ、ヒナ!フラワーロードはユウダチシティとユキゲタウンの間にあるお花畑よ。いろんな色のお花が地平線の向こうまで咲いているし、そこを流れる小川やそのせせらぎの音もとってもステキなの!」

 

「ホント!?もっと話を聞かせてよ!」

 

「いいわよ!それじゃぁね……」

 

この後も、ヒナとココロのマシンガントークは続いた。アヤに起きた珍事件や、ココロの旅行先での思い出話、アヤとヒナの手持ちの話。話すネタは尽きない。この間、アヤは完全に蚊帳の外であった。話に入り込む隙はもちろん、相槌を打つ隙すらない。彼女は、2人の話が終わるのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒナとココロのマシンガントークはゆうに3時間を超えた。リュウセイ堂を出たときにはまだ太陽が高いところにあったのに、今やもう半分沈んでいる。

 

「あ~、一杯お話しできて楽しかった~!またね、ココロちゃん!」

 

「また会いましょ、ヒナ、アヤ!」

 

なんだかんだで連絡先をココロと交換したアヤとヒナは、夕焼けに照らされながら民宿に向かおうとした。だが数メートル進んだ時、ココロが2人を呼び止めた。

 

「あっ、そういえば言い忘れてたわ!先週、ホマチシティのジムリーダーがアローラ地方から帰ってきたらしいわよ!アヤはホマチシティのジムバッジを持っていたかしら?もしも持ってなかったらチャレンジしてみればいいんじゃないかしら?」

 

「えっ!それ本当!?」

 

アヤにとってこの上ない朗報だ。なにしろ前回はタッチの差で挑み損ねたのだから、ホマチシティのジムリーダーの帰還は願ってもないことだ。

 

「ありがとう、ココロちゃん!早速挑んでみるよ!」

 

あの日、ジムに貼られていた張り紙のせいで削がれた闘志が再びアヤの中で燃え上がる。次の日、アヤはその闘志を胸に秘めながらヒナとともにホマチシティへの道を再び歩みだしたのであった。

 

 

 




おまけ:彩の手持ちまとめ

長らくサボってきたアヤの手持ちのまとめ。特性と性別、主な技、性格(キャラ的な方)をまとめました。


☆ドダイトス(♂)
特性:新緑
主な技
・ウッドハンマー
・地震
・ロッククライム
・葉っぱカッターなど……
性格
・ナエトル時代はおっちょこちょいでドジだったが、アヤとの旅でたくましく成長した。ただし、1番道路の一件からコラッタだけはいまだに苦手。(第二話参照)

☆サーナイト(♀)
特性:トレース
主な技
・サイコキネシス
・マジカルシャイン
・テレポート
・電磁波など……
性格
・アヤやヒナとは真逆で落ち着いており常に冷静な性格。オボンの実が大好物。

☆カブトプス(♂)
特性:カブトアーマー
主な技
・シザークロス
・アクアジェット
・岩石封じ
・マッドショットなど……
性格
・ボールから出てくるたびにアヤに抱き着く癖がある。当初はエサと勘違いして抱き着いていたが、今では彼なりの愛情表現。

☆ムクホーク(♂)
特性:威嚇
主な技
・ブレイブバード
・電光石火
・インファイト
・がむしゃらなど……
性格
・彩ちゃんにガチ恋している。彩ちゃんが喜ぶ顔を見るのが趣味。夜寝る前に、彩ちゃんとの結婚式を妄想するのが日課。

☆ハガネール(♂)
特性:頑丈
主な技
・岩雪崩
・アイアンテール
・炎の牙
・ギガインパクトなど……
性格
・見かけに反して人懐っこい。れっきとしたオスだがメスっぽい行動をとることも多く、いわゆるオネェ。姉御肌で面倒見はいい。








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第三十話 灼熱の聖堕天使

今回は、割と久々のジム戦回です。
ダブルバトルには全く詳しくないので、変な描写とかあったら優しく教えてくれると嬉しいです。



※2019年8月9日
ジムバッジの名前をヘルバッジから、ロクモンバッジに変えました。


 アヤとヒナはユキゲタウンを発ち、ホマチシティジムに挑戦すべく、再びホマチシティを訪れた。前にも触れたが、ホマチシティジムは姉妹でジムを運営しており、そのためジムリーダーが2人いる珍しいジムだ。もちろんそれなりにトレーナー歴が長くなってきたアヤもそんなジムは見たことがない。未知なる存在を相手にトレーナーとして純粋に腕試しをしたいという気持ちがアヤの中で沸き上がる。さらに、前回は不運にもジムに挑み損ねたのも相成って今の彼女ののやる気は計り知れない。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

アヤはジムの前で声をあげると意気揚々とホマチシティジムへと入っていった。しかし、アヤとヒナがジムに入っても誰かがいる雰囲気がない。いつもならジムに入れば入り口でジムリーダーが出迎えてくれるのだが今日はそれがないのだ。

 

「あれ……?おかしいな……」

 

彼女はヒナと顔を見合わせながら、とりあえずフィールドに行ってみた。しかし、ここもどうも妙であった。なぜかフィールド内の照明はすべて落とされており真っ暗なのだ。

 

「私、ちゃんとジムの予約したよね……?もしかしてまたジムリーダーがいないとか……」

 

一瞬、彼女の脳裏に嫌な予感がよぎる。と、急に眩い光がフィールドを照らした。

 

「クックック……よくぞここまで来たな……」

 

「待っていたぜ!チャレンジャー!」

 

そして、フィールドの向こうに左右に髪を結った小柄な少女と長身の赤髪の少女が姿を現し、こっちに歩いてきた。どうやら彼女たちが噂の仲良し姉妹ジムリーダーのようだ。

 

「初めまして、私アヤといいます!」

 

「私はヒナだよ。よっろしく~!」

 

アヤとヒナは歩み寄ってきたジムリーダーにとりあえず自分の名を名乗る。と、彼女の耳に威勢のいい声が鼓膜を震わした。

 

「アヤさんとヒナさんか。アタシはホマチシティのジムリーダー、名前はトモエだ!それでこっちにいるのがアタシの妹の——」

 

「アコだ!ちなみに冥府での名は聖堕天使アコ姫ともいう!クックック……、このホマチシティジムに来たのならば覚悟するがいい。一瞬でも気を緩めたら最後。漆黒に潜む終焉の魔獣がえっと……、なんかこう……ドーンってなってバーンってしちゃうんだからね!」

 

そういうとアコはビシッとアヤの方に指をさした。

 

「ドーン……、バーン……?」

 

アヤが反応に困ったのは言うまでもない。だが、さらにそこへトモエの威勢のいい声が彼女の耳を貫く。

 

「それで、アヤさん!対戦形式はどうしますか!?シングルバトルですか!?ダブルバトルですか!?」

 

「シングル……?ダブル……?」

 

聞きなれない単語がアヤの頭の中に入り、グルグル回る。すると、何かを察したのかヒナが声をかけたきた。

 

「シングルバトルっていうのはアヤちゃんがいつもやっている1対1のバトル。それでダブルバトルはお互いにポケモンを2体ずつ出し合ってバトルをするっていうやつ。どうせだったら、この機にダブルバトル体験してみたら?」

 

と、ヒナはさらっというが、今までシングルバトルしかやったことがないアヤにとって、ダブルバトルは未知の領域。ましてやジム戦という本番で、いきなりダブルバトルをするなんてもってのほか。不安しかない。だが、ふとトモエとアコの方を見ればなんだか不思議な圧がすごい。

 

(ダブルバトルはいいぞ~!)

 

(シングルでもいいけど、やっぱりお姉ちゃんと一緒がいいな~)

 

トモエもアコも何もしゃべらずニコニコしているが、心の中の声が筒抜けである。

 

「よし……!それじゃぁダブルバトルでお願いします!」

 

結局アヤは、周囲の圧力に負けダブルバトルを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、アヤ、ヒナとトモエ、アコは互いに所定の位置についた。

 

「よーし!それじゃぁアヤさん!アツいバトルを期待しているぜ!」

 

「お姉ちゃんとアコの、闇と炎のコンビネーション!受けるがいい!」

 

トモエとアコはすでにボールを取り出し準備万全だ。しかし、一方のアヤは少々まごついていた。

 

「えっとヒナちゃんが言っていたダブルバトルのヒントは……、『ズガガーンっとして、カッキーンってなった時にどう行動するか!』ダメだ……、全然わからない」

 

アヤは先ほどヒナから言われたアドバイスを理解することを諦めた。そして、彼女も2つのボールを取り出すべく、懐に手を突っ込んだ。

 

「えっと確か……、ヒナちゃんはさっき『アコちゃんの話方的にこのジムは悪タイプの使いっ手っぽい』って言っていたっけ……」

 

アヤはポケモンを選びながら、ダブルバトルの戦い方を聞いたときに一緒に聞いたもう一つのアドバイスを思い出した。

 

「それなら……、この2匹でいいね」

 

アヤも遅れながらもボールを2つ取り出し、正面を向く。バトルの準備は万全だ。

 

「お願い!ハガネール、サーナイト!」

 

ついにアヤが2つのボールを宙に投げた。そして、アコとトモエもボールをひとつづつ投げた。

 

「闇夜に狂え!アブソル!」

 

「燃え上がれ!リザードン!」

 

ハガネール、サーナイト、アブソル、リザードンの4匹が一斉にフィールドに降り立つ。だが、この時アヤの顔からサーっと血の気が引いた。

 

「うそ……、どうしてリザードンが……?リザードンには悪タイプは入っていないのに……!」

 

アヤは助けを求めるかのようにヒナの方を向く。すると、ヒナは『ごめん、間違えた☆』という感じの表情で謝るようなそぶりをみせた。だが、アヤにとっては笑い事ではない。サーナイトはともかく、鋼タイプを持つハガネールは炎タイプのリザードンに圧倒的に不利である。いきなり窮地に立たされたアヤ。しかし、トモエとアコはお構いなしに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ソイヤぁ!リザードン、手始めに大文字!」

 

「アブソル、辻斬り!」

 

ハガネールには灼熱の炎が、サーナイトは鋭い刃のような攻撃が迫る。もはやジタバタしている場合ではない。アヤはとっさに指示を叫んだ。

 

「サーナイト!サイコキネシスで大文字を防いで!ハガネールはアイアンテールでアブソルを受けて!」

 

「サーッ!」

 

「ネールッ!」

 

サーナイトとハガネールは彼女の指示通り、相手の攻撃を防いだ。しかし、その直後アブソルの姿が消えた。

 

「えっ……」

 

それに戸惑い、アヤはあたりを見渡す。と、その隙をつきアブソルはハガネールの影から飛び出し、サーナイトに不意打ちをかましてきた。

 

「今だ!雷パンチ!」

 

さらに不意打ちでバランスを崩したサーナイトに、リザードンの雷パンチが襲い掛かる。だが、これはハガネールが自身の身長を活かしてとっさにブロック。

 

「よし、いけ!ハガネール!岩なだ——」

 

その勢いに乗りアヤはカウンターアタックを仕掛けようとする。だが、指示の途中でフィールドに強い日差しが差し込みだした。リザードンに気をとられている隙に、アコのアブソルが日本晴れを発動したのである。

 

「見よ!邪神の加護を受けし、紅蓮の炎を!」

 

アコはフィールドの向こうで誇らしげな表情を浮かべる。そして、次の瞬間ハガネールの側面にリザードンが放った大文字が直撃した。日本晴れで強化されていることもあり、その威力は計り知れない。

 

「ネェル……!」

 

案の定、苦しそうな呻きをあげるハガネール。その巨体はグラグラと不安定であり、今にも倒れそうだ。こうなったらアヤが勝つ手段は速攻で勝負を決めるしかない。

 

「ハガネール、岩雪崩!」

 

ハガネールは咆哮を轟かし、リザードンとアブソルの頭上に大量の岩を発生させた。だが、そんなハガネールの決死の攻撃もむなしくリザードンは『まもる』を発動させ岩から身を守り、アブソルは器用に岩と岩の間をすり抜け、再びサーナイトに迫ってきた。対するサーナイトはこの攻撃に対して気合玉を打ち込む。気合玉は外れはしたものの、アブソルを追い払うことには何とか成功した。だが、いまだにアヤが不利なことは変わりはない。

 

(早くなんとかしないと……)

 

だが、この時アヤの脳裏にふとヒナの言葉が浮かんだ。

 

「ズガガーンっとして、カッキーンってなった時……」

 

この言葉をつぶやいたとき、アヤはハッと閃いた。

 

「もしかしてこれって……、『まもる』の技をどう利用するかが重要だって言いたかったのかな……!?」

 

ここで落ち着いて今の状況を分析してみよう。今、ハガネールはズガガーンっと岩雪崩で攻撃した。そしてリザードンは『まもる』でカッキーンっと岩雪崩を守った。ヒナの言葉の謎が解けた瞬間、アヤの中に電撃が走る。

 

「……上手くいく保証はないけど、試してみようか。ハガネール、もう一度岩雪崩!」

 

「闇雲に攻撃しても無駄だぁ!リザードン、まもる!」

 

「アブソル、もう一度辻斬り!」

 

ハガネールの岩雪崩に対し、トモエは声高らかにまもるを指示し、アコはアブソルを攻撃態勢に移らせた。アヤのねらい通りだ。

 

(まもるを使っている最中、リザードンはすべての攻撃を防げる代わりに動けない。つまり、まもるを使っている瞬間だけはアブソルに集中できる。だからこの隙にタイミングを見計らって……!)

 

アヤは迫りくるアブソルだけを凝視し、タイミングを見計らった。そして、アブソルが降り注ぐ岩を避けるために後退した瞬間、彼女はサーナイトをハガネールの後ろに隠れさせ、腕に装着されたメガリングを掲げた。

 

「いくよサーナイト!メガシンカ!」

 

アヤのキーストーンと、サーナイトのメガストーンが共鳴する。サーナイトの姿が瞬く間に純白のドレスに身を包んだ花嫁のように変わった。メガサーナイトの爆誕だ。

 

「メガシンカ!?……いやいや、アコの闇の力は最強なんだから関係ないね!アブソル!辻斬り!」

 

 

しかし、メガシンカにもほとんどひるまずアコのアブソルはサーナイトとハガネールに向かって突っ込んでくる。

 

「サーナイト、破壊光線!」

 

「サーッ!」

 

アブソルが宙に飛び上がった瞬間、サーナイトから放たれた破壊光線が炸裂。その威力はおそるべきもので、傷がほとんど付いていないアブソルを一撃で葬る威力である。

 

「うっそ……!」

 

アコはその場で唖然とした。しかし、その隣でトモエはアツく燃え上がった。

 

「安心しろアコ!アタシがアブソルの仇を討つ!リザードン、サーナイトに向かってフレアドライブ!」

 

破壊光線の反動でサーナイトは動けない。だが、ハガネールはそんなサーナイトの前に立ち彼女の盾となった。

 

「ネールッ!」

 

ハガネールはアイアンテールを叩き込み、フレアドライブの軌道を逸らす。そして、すぐさま炎の牙でリザードンに襲いかかった。

 

「避けろ!」

 

リザードンはトモエの叫びとともにそれを回避。しかし、アヤの目的は攻撃ではなくサーナイトの反動が解けるまでリザードンの攻撃の機会を奪うことだ。そして反動が解けた瞬間、炎の牙を避けたリザードンに10万ボルトをお見舞い。さらにハガネールはそこに岩雪崩を発生させ、攻撃を畳み掛けた。

 

「グラァゥ……」

 

いくらリザードンとはいえ、弱点である攻撃を立て続けに受けたのではひとたまりもない。岩雪崩を受けるとその勢いは失速し、地面に墜落し戦闘不能となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてトモエとアコは負けた。しかし、その後の表情はまるで勝ったかのようにエネルギッシュであった。

 

「いや〜、負けちまったよ〜」

 

「でもアコ、今のバトル超超超楽しかった!」

 

「だな!アタシもこんなにアツくなれたバトルは久しぶりだ!」

 

直後、トモエとアコの楽しげな笑い声がジムに響いた。これを聞いていると本当に仲のいい姉妹なんだということがわかる。そんなことをアヤは思った。すると、その最中にトモエがふと右手を差し出した。

 

「さぁ、アヤさん、これを受け取ってください。アタシ達とアツいバトルを繰り広げた証、『ロクモンバッジ』だ」

 

そういうと、トモエは清々しい表情でアヤにバッジを渡した。

 

「それじゃあアコからは、技マシンをあげるよ!この中身は『悪の波動』って技でね、深淵の闇に眠る邪悪な力を、ドドーンって放つ技なんだ!」

 

そして、アコもアヤにわざマシンを渡した。こうしてアヤのホマチシティジムは幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤちゃんすごいじゃん!私の予想だともっとわーって感じに苦戦すると思ったのに、とってもるんって感じだっとよ!いい意味で私を裏切ったね!」

 

「ヒナちゃん……、それ本当に誉めてる?」

 

「さー?どっちでしょ〜?あははは!」

 

ジム戦後、ヒナとアヤは仲良く話しながらジムを出た。しかし、ジムを出ると同時に彼女達を数人のリゲル団の下っ端が取り囲んだ。

 

「リゲル団!どうしてここに!?もう研究所はないはずなのに……」

 

急な出来事に思わずアヤが声をあげると、リゲル団は彼女をあざ笑うような高笑いを上げた。

 

「そんなの決まっているだろ?お前たち2人をボコボコにするためだよ!」

 

「どこかの誰かさんがお前らがここにいるってことを教えてくれたって幹部から聞いている。俺たちの活動がようやく認められてきて嬉しいぜ!」

 

リゲル団の下っ端たちはまた高笑いを上げる。すると、ジムのドアが開きジムの中からトモエとアコが現れた。

 

「さっきから騒がしいと思ったらリゲル団!お前らだったのか!話は聞いているぞ、何でもアタシ達の街に怪しい施設作って悪事を働いていたそうじゃないか!これ以上、この街にいるならぶっ飛ばすぞ!」

 

「アコも、この街で悪いことをするなら許さないよ!」

 

2人もアヤとヒナに加勢する。しかし、リゲル団の下っ端は彼女たちの倍以上の人数いるせいで強気になっているのかモンスタボールを取り出してきた。

 

「いけ、ムクホーク!」

 

「クマシュン!いっけ~!」

 

次々に出てくるリゲル団のポケモンを前にアヤとヒナは互いにポケモンを繰り出しした。さらにトモエとアコもそれぞれバシャーモとワルビアルを繰り出す。リゲル団との戦いの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、リゲル団の下っ端は案の定口だけで大したことはなく、4人で赤子の手をひねるように撃退できた。

 

「……」

 

しかし、アヤは立ち去るリゲル団を見ながら、胸がざわつく感覚を覚えた。すると、その矢先、彼女の図鑑の着信音が鳴り響いた。電話の相手はリンコである。

 

『アヤさん、ヒナさん大変です!先ほど、リゲル団員から聞き出したんですけど次の襲撃目標がシグレタウンのマリナ博士のようです。アヤさんは確かシグレタウンの出身でしたよね?早く戻ってください!私もなるべく早く向かうので!』

 

リンコは慌ただしい様子で電話を切った。いつもの穏やかな雰囲気とはまりで大違いだ。それだけ事態が緊迫している証拠だろう。

 

「そんな……マリナ博士……!」

 

アヤとヒナは大急ぎでシグレタウンに舞い戻った。

 




おまけ:巴&あこのパーティー一覧(本気モード)
・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気宇田川姉妹の手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。巴が炎タイプの使い手であこちゃんが悪タイプの使い手。再戦時は姉妹どちらかとのシングルバトルか、姉妹2人とのダブルバトルのどちらかが選べます。

~巴&あこちゃんダブルバトル時~

★リザードン@リザードンナイトX
特性:猛火
性格:陽気
努力値:AS252

・竜の舞
・ドラゴンクロー
・フレアドライブ
・守る

☆コータス@ホノオZ
特性:日照り
性格:冷静
努力値:HC252

・噴火
・大地の力
・ソーラービーム
・守る

☆ヒートロトム@オボンの実
特性:浮遊
性格:控えめ
努力値:CS252

・十万ボルト
・オーバーヒート
・鬼火
・守る

★アブソル@アブソルナイト
特性:プレッシャー
性格:無邪気
努力値:AS252

・大文字
・はたき落とす
・不意打ち
・守る

☆ダーテング@気合のたすき
特性:葉緑素
性格:無邪気
努力値:AS252

・追い風
・猫だまし
・リーフブレード
・凍える風

☆ワルビアル@アクZ
特性:威嚇
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・地震
・はたき落とす
・岩雪崩
・守る

~巴シングルバトル時~

★リザードン@リザードンナイトX
特性:猛火
性格:陽気
努力値:AS252

・逆鱗
・竜の舞
・フレアドライブ
・雷パンチ

☆コータス@熱い岩
特性:日照り
性格:生意気
努力値:HD252

・ステルスロック
・欠伸
・噴煙
・大地の力

☆ヒートロトム@ホノオZ
特性:浮遊
性格:控えめ
努力値:CS252

・オーバーヒート
・十万ボルト
・鬼火
・ボルトチェンジ

☆バクーダ@突撃チョッキ
特性:ハードロック
性格:控えめ
努力値:HC252

・大文字
・大地の力
・原始の力
・目覚めるパワー(氷)

☆バシャーモ@気合のたすき
特性:加速
性格:陽気
努力値:AS252

・バトンタッチ
・守る
・剣の舞
・とび膝蹴り

☆ウルガモス@マゴの実
特性:炎の体
性格:控えめ
努力値:CS252

・蝶の舞
・炎の舞
・ギガドレイン
・虫のさざめき

~あこちゃんシングルバトル時~

★アブソル@アブソルナイト
特性:プレッシャー
性格:無邪気
努力値:AS252

・冷凍ビーム
・不意打ち
・はたき落とす
・剣の舞

☆ダーテング@気合のたすき
特性:葉緑素
性格:控えめ
努力値:CS252

・リーフストーム
・悪の波動
・凍える風
・気合玉

☆ワルビアル@こだわりスカーフ
特性:威嚇
性格:陽気
努力値:AS252

・地震
・かみ砕く
・ストーンエッジ
・アイアンテール

☆ゲッコウガ@命の珠
特性:変幻自在
性格:無邪気
努力値:CS252

・ダストシュート
・冷凍ビーム
・水手裏剣
・目覚めるパワー(炎)

☆ミカルゲ@アクZ
特性:すり抜け
性格:勇敢
努力値:HA252

・イカサマ
・影打ち
・鬼火
・サイコキネシス

☆ドラピオン@突撃チョッキ
特性:スナイパー
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・はたき落とす
・地震
・クロスポイズン
・氷の牙




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第三十一話 不穏な足音

 「マリナ博士!」

 

アヤはヒナとともに大慌てで、シグレタウンに戻った。しかし、マリナ博士の研究所の扉を開けた瞬間、アヤの必死の願いも虚しくついえた。割れた窓ガラス、ひっくり返った机、床に散乱する数々の本……。変わり果てた研究所を前に、アヤは呆然とするしかなかった。

 

「アヤちゃん……」

 

ヒナもそんなアヤの様子を見て心が痛む。しかし、それと同時にふとヒナは気が付いた。奥の物置からドンドンと中で何かが動いている音がすることに。

 

「いったいなんだろう……?テッカニン、鍵穴を壊して」

 

テッカニンはボールから現れると、物置に近づき『しのびポケモン』の名に恥じぬ鮮やかな手捌きで厳重にカギがかけられた物置をこじ開ける。すると、中から布で口を覆われ、体を縄で拘束された数人の研究員が出てきた。

 

「みんな!?」

 

長い間シグレタウンで暮らしてきたアヤにとって、研究所の職員は友達も同然の存在だ。研究員が物置から姿を見せるや否や、すぐさま拘束を解いたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホゲホッ……!助かったよアヤちゃん……。でもどうしてここに……?アヤちゃんは旅に出ているはずじゃ……」

 

研究員たちは、拘束から解放されると感謝の言葉をいうとともに首を傾げた。しかし、アヤが研究所の襲撃のことを口にした途端、誰もが顔を曇らせてしまった。

 

「ねぇ、マリナ博士は無事なんですか!?無事なんですよね!?」

 

アヤもその表情を見て何となく現実を悟ったが、藁にもすがる思いで必死に言葉をつづる。だが、初老の男性研究員の言葉でそれは打ち砕かれた。

 

「すまないアヤちゃん……。マリナ博士はリゲル団に連れ去らわれてしまったよ……。我々もポケモンバトルが苦手なのを承知で立ち向かったのだが、まるで歯が立たなかった。結果は御覧の通りだよ。本当にすまない……」

 

「そんな……」

 

突きつけられた現実にアヤは動揺を隠せない。するとその時、窓の外に黒い影が降り立った。リンコがサザンドラに乗って駆け付けて来てくれたのだ。

 

「リンコさん……!どうしよう!マリナ博士が……!」

 

リンコが研究所に入ってくるや否やアヤは目に涙を浮かべながら彼女に跳びつく。リンコはそれを見て、今ここで起きたことをすべて察した。

 

「大丈夫です……。マリナ博士は必ず無事ですよ……」

 

リンコはアヤを優しく包みながら、母親のように優しい声をかける。もちろんこの言葉はアヤを落ち着かせるための出まかせではない。彼女には確信があるのだ。

 

「先日……、ハルサメシティで暴れていたリゲル団の下っ端に情報を聞き出したところ……、彼らは『マリナ博士をアジトに連れ去って最終兵器の最終調整をさせる』といっていました……。それなので、少なくとも当分の間は……マリナ博士の命を奪うような真似は……しないと思います……」

 

その言葉を聞いて、アヤは少し落ち着きを取り戻した。だが、不安の種は依然として尽きない。

 

「それならよかった……。でもアジトはどこだろう?」

 

しかし、この不安にもリンコは当てがあるようだ。

 

「それも先ほどの……リゲル団員に聞き出しました……。どうもやつらのアジトは……ユキゲタウンにあるみたいです……。おそらくマリナ博士も……そこにいるはずです……。どうですか……アヤさん……、ヒナさん……。もしよかったら……、私と一緒に……リゲル団のアジトに乗り込んで、リゲル団員を痛い目に合わせながら……マリナ博士を救出しに行きませんか……?」

 

アヤとヒナに断るという選択肢はなかった。2人は深くうなずくと、リンコとともに研究所の入り口に向かう。すると、背後から若い研究員の声がした。

 

「あっ、そうだ!アヤちゃん、これを持っていくといい!」

 

アヤが研究所を出ていく直前、その研究員はマリナ博士の机の中から、紫色のモンスターボールが入った、高級感あふれる黒い小箱をアヤに手渡した。

 

「いいかい、アヤちゃん?今渡したのはマスターボールっていって、どんなポケモンでも必ずゲットできる究極のモンスターボールなんだ」

 

「えっ、そんな凄いもの貰っていっていいんですか……?」

 

「あぁ、構わない。これは我々研究員一同が、アヤちゃんへプレゼントするために手に入れたものだからね。本当はこんな形で渡したくはなかったが、仕方がない。ぜひ、有効活用してくれ」

 

「わかりました。大切に使いますね」

 

こうしてアヤはマスターボールを手に入れた。そして、彼女は実家に顔を見せる暇もなく、ユキゲタウンに急行したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユキゲタウンについたアヤたちはとりあえず、民宿の一部屋を借り、リンコを中心に作戦会議をひらいた。

 

「いいですか……?リゲル団のアジトらしきものは……、街の南部にある……、暗い雰囲気で有名な花屋の地下にあります……。噂によれば……、その裏口がアジトへの……、入り口になっているんだとか……。でも、そこから何の考えもなしに突っ込んでは……、戦いは避けられません……。そこで……、私にいい考えがあります……!リゲル団に変装して、アジトに突撃すればいいんです……。そうすればきっと、戦いは最小限に抑えられるはずです……」

 

と、リンコは威勢よく言い放つ。だが、アヤとヒナは不安しかなかった。リゲル団の変装とはどうやるのだろうか?だいたい、そんな子供だましのような作戦で上手くいくのだろうか?そもそもリンコの、戦いを避けるための『いい考え』を信じても大丈夫なのだろうか?なにしろ、月の楽園でリゲル団と戦った時、『戦いはなるべく避けよう』と言っておきながら、一番好戦的だったのはほかでもないリンコ本人である。

 

「それじゃぁ……、私は……ちょっと作戦の準備をしてきますので……」

 

しかし、リンコはそんな不安をよそに何処かへといってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一時間後、リンコは両手に黒い服を抱えて戻ってきた。

 

「さぁ、2人ともこれに着替えてください」

 

彼女は、部屋の床にバサッと黒い服、すなわちリゲル団の下っ端の服を置いた。

 

「うへ~、なんかこの服変な臭いがする~。この服の持ち主、ちゃんと洗濯していたのかな~?しかも、これ男用だし」

 

「ていうかこれ、どこで手に入れてきたんですか……?」

 

ヒナとアヤはその服を持ち上げると、不安そうな声を漏らす。するとリンコはさらっと衝撃的なことを言ってのけたのだ。

 

「これは……、ユキゲタウンを歩いているリゲル団員を……、ゲンガーの催眠術で眠らせて……、眠っている間に剥がしてきたものです……。確かにヒナさんが言う通り……臭いはキツいですし……、男用の服ですが……、背に腹は代えられません……」

 

「「えぇ……」」

 

アヤ的にもヒナ的にも、この時点でツッコミどころは山ほどある。しかし、ここまで準備してくれたのに今更猛反対するのも申し訳ない。結局、アヤとヒナも自分の服の上から、リゲル団の服を着てリゲル団のアジトに突撃することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想に反し、リンコの作戦は中々上手くいき、入り口の見張りにも全く怪しまれることなく、3人はアジトの内部に侵入できた。しかし、入り口から地下へと続く通路の途中でトラブルが起きた。彼女たちの進路を、近未来的な扉が塞いできたのである。どうやら左上にあるタッチパネルに指定のパスワードを入力すれば開くようだが、3人がそれを知っているはずもない。

 

「えーとっ……。おねーちゃんが思いつきそうなパスワードは……、『SAYO0320』!——あっ、違うか。それじゃぁ……、『オニゴーリ』!——これでもない。えっとじゃぁ……『フライドポテト』!『にんじん』!『氷タイプ!』!『SAYOTSUGU』!『Roselia』!」

 

とりあえず、ヒナは思いつく単語を端から入力してみるが全く当たらない。

 

「ヒナさん……、アヤさん……、少し下がってください……。パスワードがわかりました……」

 

と、ここでリンコがヒナとアヤを自分の後ろに下げた。そして、彼女はゲンガーを繰り出した。

 

「私たちのパスワードは……、これです……!」

 

リンコが叫ぶと、アヤとヒナが止める間もなくゲンガーはシャドーボールを放つ。扉は木っ端みじんに破壊された。だがこのことがトリガーになったのか、アジト内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。さらに、その音を聞き、どこからともかく何人ものリゲル団員が押し掛けてきた。3人は彼らに取り囲まれてしまったのだ。

 

「なんだ、こいつら!よくよくみれば女のくせに、男用の服着ているぞ!」

 

「扉を破壊したことといい、怪しいぞ!」

 

「侵入者じゃないのか!?」

 

そして案の定というべきなのか、取り囲まれるが否や彼女たちへの疑いはどんどんと深まっていく。もはやこうなっては変装の意味はない。リンコはそう悟った。

 

「リゲル団の分際で生意気な……!こうなったら……、やつらを一人残らず細切れにしてやる……!ゲンガー!正面のリゲル団に向かってシャドーボール!」

 

リンコがリゲル団の服をサッと脱ぎ捨てると、同時にゲンガーはシャドーボールを撃ち、リゲル団員を数人まとめて蹴散らす。そして、リンコは間髪入れずに空いた隙間からアジトの内部へと颯爽と走っていった。

 

「「リンコさん……!」」

 

アヤとヒナも慌てて彼女の後を追う。そして、その最中アヤはこう思った。

 

(リンコさんって、見かけによらずアグレッシブだな……)

 

また、時同じくしてヒナはこう思った。

 

(リンコさん……。多分、作戦考えるのあまり得意じゃないんだな……)

 




ちなみに、アジトの正しいパスワードはシャドーボールじゃなくて、『HINA0320』です。


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第三十二話 古代の巨神

 リンコの獅子奮迅の暴れっぷりもあり、リゲル団のアジトに簡単に侵入することができた。ところが、アヤとヒナはリンコの暴走について行くことができず、あっという間に置いてきぼりにされてしまった。

 

「リンコさんどこ~?」

 

「リンコさーん!」

 

2人はリンコの名前をしきりに呼びながら、迷宮のようなアジト内を行ったり来たり。当然、途中で鉢合わせたリゲル団員を倒しながらの捜索なので、だんだん2人も面倒になってきてしまった。しかし、ここでヒナが戦わずにアジトを歩く妙案を思いついた。

 

「アヤちゃんと別行動していた時に、ビビッて来たからコレ買ってみたんだよね~」

 

と、言いながら彼女がバッグからとりだしたのは、ヒナの髪色と同じカラーのウィッグだ。ヒナは物陰に隠れると、ササっとそれを頭につけ、ちょちょいと髪をいじり、再びリゲル団の服を着た。

 

「——どうかな、アヤちゃん?」

 

「ヒナちゃん……、だよね……?」

 

この時、アヤは腰を抜かした。彼女の目の前にいるのはヒナではない。まさしくサヨの姿そのものだ。双子だからできる、完ぺきな変装である。唯一の欠点は、服装が本物のサヨと異なることだが、それに対してヒナは『リゲル団員は頭が悪そうだから平気だよ!』といって気にもしない。

 

「よし、それじゃあアヤちゃん行こう!」

 

そして、威勢よくまたアジト内を歩き出した。しかし、生真面目そうなサヨの顔で無邪気なヒナの声を聴くとものすごい違和感である。

 

「大丈夫かなー」

 

アヤは内心不安だ。何となくだがどこかでぽろっと正体がばれてしまいそうがする。だが、そんな彼女の不安をよぎるように目の前では五人の男性リゲル団員が道をふさいでいた。

 

「アヤちゃん、ショボ~ンってなって」

 

ここでヒナはアヤの耳にそっと口添え。アヤは何のことだかわからぬまま、とりあえず顔を伏せた。すると、ほぼ同時にリゲル団員とヒナの会話が彼女の耳に飛び込んだ。

 

「サヨ様!いつの間にここへ……!?奥の自室で、あの連れてきた博士と最終兵器の調整をしているのでは?」

 

「えぇ、私もその予定だったのだけれど、あなた達があまりのも役立たずだったので、私自ら侵入者を確保することにしました。ほら、私はもう1人侵入者を捕まえましたよ」

 

ヒナはちらりとアヤにアイコンタクトを送った。どうやらヒナの中でアヤは、サヨに捕まったという設定になっているらしい。

 

「うぅ……」

 

とりあえず、アヤはうめき声をあげてみた。そして、一方のヒナは巧みな口車でリゲル団員を惑わし続けた。

 

「あなた達はどうしてそんなに大人数いるのにもかかわらず、侵入者を1人も捕まえられないの?」

 

「すみません、サヨ様」

 

ヒナの演技は実に見事である。口調も声もそのまんまサヨだ。リゲル団員は目の前にいるサヨの正体を疑おうともしない。それどころか、彼女に頭を下げて必死に謝っている。

 

「——良いですか、謝るのは誰でもできます。本当に謝る気があるのならば残った2人の侵入者を捕まえてきなさい。もしも、捕まえることができたら、その時は私がるんっとすることをしてあげますから」

 

さらに、ヒナは止めに絶妙な角度の上目遣いでリゲル団員を見つめた。そのせいで浮かれまくったリゲル団員は、鼻の下を伸ばしながら侵入者を捜しに明後日の方角に走っていったのであった。これがヒナの罠とも知らずに……。

 

「よーし、作戦成功!アヤちゃん、次もこの調子でよろしく~!」

 

その後も、アヤとヒナは今と全く同じ戦法で鉢合わせするリゲル団員を華麗にかわしながら、どうにかこうにかしてリンコと合流したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンコと合流した時、ヒナは変装を解いた。そしてアヤとヒナは今度こそリンコとともに、サヨがいる部屋に向かった。しかし、あと一歩でサヨの部屋にたどり着こうというところで、3人は再び重厚な扉に道を遮られてしまったのだ。

 

「……」

 

リンコはすかさモンスターボールを手に取った。もはや破壊する気満々だ。しかし、その時どういうわけか扉が開いた。3人は恐る恐る中に入る。入った先はサヨの部屋であった。

 

「ここまでよく来たわね。本来は招かざる客ですが、特別に客人として歓迎してあげましょう」

 

サヨは大画面をバックに3人の方を見ながら腕を組み、真顔で立っている。そして、そのすぐ隣にはマリナ博士もいた。

 

「マリナ博士!」

 

「おねーちゃん……」

 

「抵抗ができない人を……自分の都合がいいように利用するとは……、許せません……。この……人間のクズめ……!早く博士を……解放してください……!さもなければ……貴女の首を引っこ抜いてやる……!」

 

それを見るが否やアヤ、ヒナ、そしてリンコは、マリナ博士を救出すべくモンスターボールを取り出す。しかし、サヨは一切動じず僅かな嘲笑をみせた。

 

「そんなに早まることはありません。私はマリナ博士を傷つけて従わせるような野蛮な真似はしていません。すべての計画が終わった時、無傷で彼女をお返しすると誓いましょう」

 

「それならどうして、マリナ博士はサヨさんの言うことを聞いているの!?」

 

アヤが叫ぶとマリナ博士が何かを言おうとした。だが、寸前でサヨがそれを遮る。

 

「そうですね、マリナ博士が自分の意志に反してリゲル団に従っている理由は、私が『従わなかったらシグレタウンの住人を見せしめに始末する』といったからかもしれませんね」

 

「そんな……」

 

「アヤさん、私は何か嘘を言いましたか?私はマリナ博士を従わせるのに、かすり傷すら負わせていませんよ」

 

「うっ……」

 

サヨの手痛い反撃に、アヤは黙ることしかできなかった。すると彼女はリモコンをポケットから取り出し、そのスイッチを押す。と、画面に何やら難解そうな設計図が映し出された。

 

「マリナ博士」

 

そうサヨがいうと、マリナ博士は渋々ながら設計図のことについて話し出した。

 

「これは『TRMK996』という兵器。知識を司る神ユクシー、意思を司る神アグノム、感情を司る神エムリット……、そのクローンを特殊なケースに入れそれぞれの力を抽出。そして3匹の力の配分を調節し、それを脳に直接作用する電波として飛ばすことで広い範囲の人間を一度に、自分が望むような能力と人格を持つ人間に作り替えられる兵器だよ」

 

「マリナ博士の説明でこの兵器のことが分かったかしら。私たちはこの兵器を使って、この世界のすべての人間の能力・人格を、『ある一つの秩序』にのっとり、工場で作られたロボットのように等しい能力・人格を持つ人間に創り変える。そして我々リゲル団が、その新しい世界をコントロールする。これこそ、究極の『平等な世界』!妬みも憎しみも消える唯一の方法なのよ!」

 

サヨはヒナの方を鋭い目で突き刺すようににらんだ。彩にはそれが、まるでヒナに『もう貴女には負けない。負けたくないの!』と言っているように見える。

 

「……」

 

一方のヒナは言葉では言い表せない複雑な表情をしている。その心境はアヤには決してわからないだろう。と、ここで姉妹の無言のやり取りを終えたサヨが口を開いた。

 

「フンッ、まぁいいでしょう。世界は間もなく新しい政界に生まれ変わる運命にあることには、変わりがありませんから。ただ、もしも愚かにも運命にあらがおうというのであれば『リュウコの石塔』の頂上に来なさい。そこに兵器はあるわ」

 

サヨはマリナ博士にアイコンタクトを送り、2つあるワープ装置のうちの奥の装置まで歩かせ、ともにどこかにワープしてしまった。

 

「おねーちゃん!」

 

「マリナ博士!」

 

アヤとヒナも慌てて2人を追いかける。だがアヤはこの時慌てるあまり、奥ではなく手前のワープ装置に乗ってしまったのだ。

 

「アヤちゃん、そっちじゃない!」

 

慌ててヒナはアヤを引き戻そうと、彼女の腕をつかんだがもう手遅れ。ワープ装置は起動し、何処かへと2人をワープさせてしまった。

 

「アヤさん……、ヒナさん……!」

 

リンコも後を追おうとワープ装置に乗ろうとする。しかし、途端に部屋の入口の方が騒がしくなった。リゲル団員たちが追いかけてきたのだ。

 

「こんな時に限って……」

 

リンコは追いかけてきたリゲル団員たちとバトルを繰り広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、アヤとヒナはリゲル団アジト内のとある巨大な空間にワープされていた。

 

「ここは何だろう……」

 

そこは水色のライトが点々とあるだけで気味が悪いぐらい薄暗く、その中で怪しい機械が規則正しく動いている。そして、何より目立つのは正面の巨大な冷凍室だ。そこは彼女たちがいる空間とはガラスのような透明な物質で遮られており、中では白い巨人のようなポケモンが石像のように氷で固められている。

 

「これってもしかして……、レジギガス……?」

 

「レジギガス?なんか聞いたことあるような無いような……」

 

アヤが冷凍室を見て何気なく呟くとヒナは首をかしげた。

 

「前にマリナ博士の本で読んだことがある。確か、大昔に大陸を縄で引っ張って動かしたっていう伝説が残っている、シンオウの伝説ポケモンだよ」

 

「へぇ、アヤちゃんるるんってくらい物知りだね!」

 

「そんな、私は全然物知りじゃないよ~。えへへ」

 

なんだかちょっと嬉しそうにアヤはヒナの言葉を否定する。だがアヤが自覚してないだけで、彼女が持つ伝説のポケモンの知識は幼い頃よりマリナ博士の影響を受けているおかげでその辺の一般人よりはずっと豊富だ。少なくとも現時点では、ヒナよりも伝説ポケモンに関しては詳しいだろう。アヤの意外な特技である。

 

「あっ、レジギガスで思い出した。レジギガスは確か3体のポケモンを創っているんだよ。その名前は——」

 

その後、ヒナに求められるがままにアヤは得意げにレジギガスのうんちくを披露——しようとしたが、ここで彼女たちは背後に敵の気配を察した。2人がとっさに振り替えると、そこにはリゲル団の研究員たちが立っていた。

 

「ケッケッケ、ようこそ我々の地下研究室へ。どうだい、私たち達が創ったレジギガスのクローンは?素晴らしい芸術だと思わないかい?」

 

顔色が悪い研究員は気味の悪い笑みを浮かべた。ドクロのように痩せこけているせいで、その不気味さは百倍増しである。

 

「芸術……?レジギガスのクローン?何を言っているか全然わからないよ!」

 

突然の来襲にアヤの頭は回らない。すると、先ほどとはまた別の研究員が数人、頬が裂けるように笑った。

 

「我々の使命はこの研究室で、平等な世界の創造のために必要なユクシー、アグノム、エムリットのクローンを創ること。その為に、我々は多くのポケモンを犠牲にしながら、その遺伝子の解析を行ってきた」

 

「だが、遺伝子の解析を進めるうちに我々はポケモンのクローンの無限の可能性に気が付いてしまった。ゆえに私たちは、本来創るべき3匹のポケモン以外にも、そこで凍っているレジギガスのような伝説ポケモンのクローンを数多く創り上げたのだよ。リゲル団の軍事力を強化するため、そして研究者としての知的好奇心を満たすためにね」

 

研究員たちの顔は誰もが狂気に満ち溢れている。その姿はまさに欲望に狂った者の成れの果てといえるだろう。

 

「酷いよ……。意味が分からないよ!自分のわがままのために、ポケモンの命を玩具にするなんて許せない!」

 

ここで、研究員の言葉を聞いた日菜の怒りが爆発した。しかし、研究員たちはそれに一切怯む様子もない。それどころか、ポケットからモンスターボールを取り出したのだ。

 

「ふっふっふ、理解されなくても結構だ。自分が狂っていることは、自分が一番よくわかっている。それゆえに、自分の知的好奇心はブレーキが利かないんだよ。今、我々が知りたいのは人間とポケモンの遺伝子の融合。お前らには、その実験のための尊い犠牲になってもらおうか」

 

研究者たちは一斉にモンスターボールを投げる。出てきたポケモンはジバコイルやマタドガス、ルカリオやファイアローなどをはじめとする10体ほどのポケモンだ。対するアヤとヒナはそれぞれムクホークとポリゴンZを繰り出した。

 

「ルカリオ、波動弾」

 

「ポリゴンZ、目覚めるパワー!」

 

「ムクホーク、燕返し!」

 

「ファイアロー、ブレイブバード!」

 

アヤとヒナは、圧倒的な数の差をひっくり返すように奮闘した。しかし、バトルが始まってしばらくたった時に放たれた、敵のジバコイルのラスターカノンで流れは変わった。そのラスターカノンはポリゴンZに向けて放たれたものだが、ポリゴンZはそれを回避。さらにほぼ真後ろにいたムクホークも回避、ラスターカノンはアヤめがけて一直線に飛んできたのだ。

 

「アヤちゃん危ない!」

 

足がすくみ、動けなくなったアヤをヒナはとっさに突き飛ばす。おかげでラスターカノンはアヤからは外れた。だが、そのかわりに背後にあった冷凍室のコントロールパネルに直撃してしまったのだ。コントロールパネルは煙を噴き上げながらストップ。冷凍室のレジギガスを覆っている氷はみるみるうちに薄く、脆くなっていった。

 

「これはまずいぞ、レジギガスが動き出す!」

 

けたたましくなるサイレンと不穏な赤色灯に照らされながら、リゲル団の研究員たちはポケモンをボールに戻し、顔色を変え研究室の奥にあるワープ装置に次々に飛び乗った。

 

「ヒナちゃん!逃げよう!」

 

「言われなくても!」

 

アヤとヒナもポケモンを引っ込め、それに続くようにそれに飛び乗る。だが、2人の体はいつまでたってもワープされない。実はリゲル団員の研究員たちは彼女達が追いかけてこられないように、研究員全員がワープしたらすかさずワープ装置を破壊したのだ。

 

「どうしよう……!?」

 

慌てふためくアヤ。それに対してヒナはあたりを見渡し、出口になれそうなところを探す。だがその時、2人の耳にガラスが割れるような爆音が飛び込んだ。とうとうレジギガスが氷から解放され、動き出したのである。

 

「レレレ……ジギガガガ……」

 

無機質な鳴き声を上げ、レジギガスは邪魔なものを破壊しながら、ゆっくりとアヤとヒナの方に向かってくる。

 

「いけ、ラグラージ!」

 

「ドダイトス、ハガネール!レジギガスを止めて!」

 

ヒナとアヤは対抗すべく大柄な3匹のポケモンを繰り出した。

 

「ラーグ!」

 

「ダーッ!」

 

「ネール!」

 

3匹のポケモンは、勇猛果敢にレジギガスに立ち向かう。が、レジギガスはそれを赤子の手をひねるように一蹴。ラグラージもドダイトスもハガネールもいともたやすく、ボールのように吹っ飛ばされてしまった。3匹そろって一撃で戦闘不能である。

 

「ギガギガ……ガガガガガ……!」

 

さらにそれに怒ったのかレジギガスは怪光線を放ち、周囲を薙ぎ払った。アヤもヒナもその爆風に飲み込まれ宙を舞う。

 

「うっ……!」

 

そして、アヤはバックの中身をまき散らしながらがれきに覆われた地面に叩きつけられた。しかし、バックの中身を回収している場合ではない。濛々と立ち込める硝煙の中で光が不規則に点滅しているのだ。それも彼女の目の前で。間違い、レジギガスはアヤの方をじっと見ている。

 

「嘘だよね……、嘘だよね!」

 

アヤはすっかり腰が抜けてしまい、体に力が入らない。しかし、レジギガスはゆっくりとその巨体をアヤに近づけてくる。

 

「レレレレ……」

 

ついにレジギガスは大きくその腕を振り上げた。だが、この瞬間アヤの視界に、先ほどの衝撃でバックから飛び出て、すぐそこで転がっているマスターボールが飛び込んだ。

 

「そうだ!これを使えば……!」

 

その瞬間、アヤは閃いた。気が付けばレジギガスの拳は目と鼻の先にまで迫ってきている。もう迷っている暇はない。アヤはマスターボールを掴むとすかさずレジギガスに向かって投げつけた。

 

「レレレ!レージー!?」

 

無機質な音がまた響く。だが、マスターボールはあっさりとその巨体を自身の中に吸い込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、時が泊まったかのような無音の空間が広がる。先ほどまでの騒ぎが嘘のようだ。しかし、レジギガスの恐怖が抜けきらないアヤはまだ腰を抜かして震えている。そして、レジギガスが入ったマスターボールはそんな彼女の前に砂埃をかぶって転がっていた。

 

「あれ、アヤちゃん?レジギガスはどこに行ったの?」

 

そこにヒナがやってきた。あれだけ恐ろしい目にあっておきながら、もう平常運転でいられるのが信じられない。

 

「あ……あれ……」

 

アヤはそう思いながら、震える指をマスターボールの方に向けた。

 

「もしかしてアヤちゃん、マスターボールでレジギガスをゲットしたの?」

 

「そ、そうみたい……」

 

アヤはヒナに支えてもらいながら何とか立ち上がると、マスターボールを拾い上げた。

 

「よろしくね、レジギガス」

 

彼女はそう呟くと砂埃を払い、マスターボールをバックにしまい込んだ。そして、2人は何とかこの地下研究室から地上に出られる階段を見つけると、それを使って地上へと出たのであった。

 




これでようやく彩ちゃんの手持ちが全員揃いました。これからも彩ちゃんの冒険と戦いを応援してくれる方は、お気に入りと登録や高評価、感想をくれると嬉しいです!


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第三十三話 決戦の塔

リュウコの石塔は漢字で書くと竜虎の石塔です。『竜』と『虎』のモデルが誰かは、暇だったら考えてみてください。


 数百年前、この世界には『竜』という異名を持つ英雄と『虎』という名で恐れられる英雄がいた。両者は互いの野望と理想を成し遂げるため大軍を率いて、12年間の間に5回もこのシンシューを舞台に激戦を繰り広げた。この戦いは幾多の伝説や伝承を生み、とくに4回目の戦いのときに両軍の大将である両雄が、混戦のど真ん中で一騎打ちを繰り広げたという伝説は有名であり、一騎打ちがあったとされる地には、彼らの勇ましさを称えるために建てられた石塔がある。これがリュウコの石塔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、リゲル団の基地から脱出したリンコ、ヒナ、そしてアヤの3人はリュウコの石塔のすぐ近くまで来た。だが、リュウコの石塔の入り口の前にはリゲル団員が待ち構えている。その数は何十……、いや100人は確実に超えている。何度もリゲル団と戦いを繰り広げている彼女達ですら、かつて見たことがない人数だ。どうやらサヨは作戦を成功させるべく、可能な限りの戦力をここにつぎ込んだようである。簡単には頂上には行かせてはくれないだろうということは予測済みだったが、流石にこの規模は想定外だ。

 

「こんな大人数……、どうすれば……」

 

それを目にしたアヤの足が思わずすくむ。しかし、リンコは全く動じず前へ進み出た。

 

「そんなに……心配することはないですよ……。アヤさんと……、ヒナさんなら……問題ないです……。なにしろ……、相手は……数だけが多い……ゴミクズ同然の雑魚ですから……。私が先陣を切るので……、中央突破しましょう……」

 

リンコの手から2つのボールが投げられ、ゲンガーとシザリガーが姿を現した。それを宣戦布告と受け取り、リゲル団員たちも次々とポケモンを繰り出す。アヤとヒナも、それぞれポケモンを数匹ずつボールから出した。

 

「ゲンガー、シャドーボール!シザリガー、クラブハンマー!」

 

ここで、リンコが声を上げた。ついに戦いの火ぶたが切ってとされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、リンコの読みは大幅に外れた。下っ端から幹部に至るまで想像以上に強かったのだ。それもそのはず、リゲル団員たちは自分のポケモンたちに違法な薬を飲ませてドーピングしていたのである。途中でリンコ達もそれに気が付いたが、その時にはもう手遅れ。数で圧倒的に劣る3人はリゲル団に取り囲まれてしまっていたのだ。

 

「ゲンガー、撃って撃って撃ちまくれ!」

 

「ラグラージ!クマシュン!」

 

「サーナイト、戻って!いけ!カブトプス!」

 

それでもリンコもヒナもアヤも諦めずに応戦するが、戦況は芳しくない。倒しても倒してもきりがないのだ。どうやらリゲル団、ドーピングに加えて為にため込んだ元気の塊や元気の欠片を使いまくっているようだ。

 

「これじゃキリがないよ!」

 

ついにアヤから弱音が漏れる。と、そこに追い打ちをかけるかのように一匹のアーケオスがアヤに飛び掛かってきた。

 

「……!」

 

恐怖のあまり、彼女からは悲鳴すら出ず、頭に手を覆いしゃがみこむ。だがそれと同時に大地が揺れる足音が轟き、大木がメキメキと割れる音が響いた。

 

 

「ゴラース!」

 

そして轟く、怪獣のような、いや恐竜のような叫び。次の瞬間、アーケオスはその叫びの主に噛みつかれ、そのままひょいっと何処かへ投げすてられてしまった。

 

「えっ……」

 

恐ろし気な音に驚き、ゆっくりアヤが顔をあげると、目の前にはガチゴラスが悠々と立っていた。

 

「大丈夫ですか、アヤさん?」

 

急なガチゴラスの襲来に戸惑っていると、その首の向こうからひょこっととある少女が顔を覗かせた。ハナノシティのジムリーダーマヤだ。

 

「マヤちゃん……!?どうしてここに……!?」

 

それを見た瞬間、アヤはあまりの衝撃に叫びをあげた。すると、マヤは照れくさそうに笑った。

 

「フヘヘ~、何やらリュウコの塔で騒ぎがあるって聞いたからジムリーダー全員で駆けつけてきたんですよ」

 

「ジムリーダー……、全員……?」

 

と、アヤが首をかしげていると周囲に流星群が降り注いできた。慌てて空を見上げればランがフライゴンに乗り、リザードンに乗ったトモエと一緒に縦横無尽に空を駆け巡っているではないか。さらに地上に目を戻せばアコのアブソルがリゲル団の陣地のど真ん中で暴れて、彼らの連携をひっかきまわしている。そして、奇襲に混乱したリゲル団員はもれなくカノンのエンペルトと、リミのミミッキュの餌食となっていた。さらに別のところに目を移せばタエのホルードことおっちゃんと、ハグミのゴウカザルがリゲル団相手に無双。ハグミに至ってはトレーナーである自身もソフトボール用のバットを振り回し、オノノクスやカバルドンといった強敵を叩きのめしている。

 

「これがジムリーダーか……」

 

その光景を見て、改めてジムリーダーの強さというものをアヤは実感した。

 

「驚くことはないですよ。治安維持もジムリーダーの重要な仕事ですから」

 

すると、彼女たちの背後にキテルグマを連れた、黒髪の少女が現れた。

 

「誰なの……?もしかしてジムリーダー?」

 

と、アヤが聞くと彼女はゆっくりと首を縦に振った。

 

「私はミサキ。お察しの通り、ジムリーダーですよ。普段はウセイシティってところでジムをひらいているので、良かったら挑戦しに来てくださいね」

 

と、ミサキは簡単に挨拶をしながら、キテルグマで迫りくる敵を次々と一撃で仕留めていく。そして、敵があらかた片付いたところで一息ついたミサキがまた口を開いた。

 

「……にしても驚きましたね。まさかここに一般人がいるとは……。まぁリンコさんも一緒だから、それなりの理由があるんでしょうけどね」

 

彼女はそういうとちらりとリンコの方を見る。その様子から察するにリンコとミサキは知り合いのようだ。その証拠に、リンコは僅かに笑みを見せた。

 

「ミサキさん……、私達……これから石塔の頂上に行きたいんです……。それなので……申し訳ないんですが……、石塔の……入り口までの道を……確保してくれませんか……?」

 

「そのくらいお安い御用です。その代わり、石塔の内部はよろしくお願いしますね」

 

間もなく、ミサキを筆頭とするジムリーダーたちの活躍により、リゲル団の大軍の中に隙が生じた。3人はすかさずそこに突っ込み、リュウコの石塔の内部へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 石塔の内部は思ったよりは広いく、天まで届くようならせん状の道が伸びている。しかし、その道は経年劣化の影響でかなり不安定である。植物が生い茂っていたり、柱が途中で倒れていたり、道が崩壊していたり、決して安心できるような場所ではない。3人は、手持ちのポケモンと協力しながらそんな道を突き進んだ。しかし、あと一歩で頂上までたどり着けるというところで、彼女たちの耳は不快な機械音のような音をとらえた。

 

「アヤちゃん……、この音って……」

 

「うん……」

 

アヤとヒナはこの音に聞き覚えがある。リゲル団のアジトの地下研究室で聞いたレジギガスの音にそっくりだ。そう思った矢先、突如3人の目の前の道が割れ、全身が岩でできたポケモンがはい出てきた。さらに、同時に上から全身氷でできたポケモンと、全身が鋼でできたポケモンが降ってきて、3人を取り囲むように着地。

 

「レレレレ……ジジロロロロロ……」

 

「レジアーイス、レジアイスレジアイス」

 

「レジレジスチール」

 

その無機質な音は何とも言えない不気味さを醸し出す。この瞬間、アヤは3匹の正体を確信した。

 

「やばい、レジロックにレジアイス、レジスチルだ!」

 

場所や状況的に、恐らくこの3匹もリゲル団によって作り出された『伝説ポケモンのクローン』だろう。しかし、その恐ろしさは本物と全く同じ。アヤとヒナはそれを見にもって知っている。

 

「アーイス!」

 

「チール!」

 

「ロロロロロロ……」

 

 

そして、間もなく3匹のポケモンは一斉にアヤたちに向かって襲い掛かってきた。

 

「メタグロス!」

 

リンコはとっさにメタグロスを繰り出し、その攻撃をすべて受けきる。とはいえ、メタグロスも相当苦しそうだ。彼らが強敵である何よりもの証拠といえるだろう。

 

「かわいそうですが……、ここはこのポケモンたちに大人しくしてもらうのが……一番でしょう……。2人とも……、先に行ってください……。ここは私が食い止めます……」

 

こうしてリンコと3匹の伝説ポケモンの激闘が始まった。アヤとヒナはその間をうまくすり抜け、頂上への道を走ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頂上に着くと、サヨが腕を組んで待っていた。マリナ博士も隣にいる。

 

「アヤ、ヒナ……、やはり来たのね……。とりあえず、ここまでこれたご褒美に、マリナ博士はお返ししましょう。彼女の役目である最終調整はもう終わったことですしね」

 

サヨはマリナ博士の背中を軽く押し、アヤとヒナの方に歩かせた。

 

「マリナ博士!大丈夫ですか?」

 

マリナ博士が戻ってくると、アヤは彼女のところに駆け寄った。

 

「私は大丈夫だよ。でも……」

マリナ博士はサヨの背後でうごめく例の兵器『TRMK996』を見た。その表情はあまりいいとはいえない。事態は想像以上に深刻のようである。

 

「能力の不平等こそが、人々の憎しみや苦しみを生み、争いの種となる。私だけでなく、リゲル団員の多くがそれによって傷つき、苦しんできた。しかし我々は『能力』という壁に阻まれ、それを克服することができなかった。このような理不尽なことが許されていいわけがない。私たちはこの負の感情をここで断ち切る。ただそれだけです」

 

しかし、サヨは冷静にアヤたちの方を見るだけだ。と、ここでついにヒナが叫ぶように震えた声を上げた。

 

「だから、世界を平等にするの?みんな同じ能力と人格を持つ、工場で量産されたロボットみたいな人間にしていいの!?そんな世界、全然るんってしないよ!」

 

「そうだよ!私、この度の中でいろんな人を見てきた。でも、みんなそれぞれ違った輝きをしていた!世界は違った人が違った輝き方をしているからこそ面白いんだよ!」

 

さらにアヤも言葉を畳かかける。だが、サヨはため息をつき、あきれたようなそぶりをみせた。

 

「るんってしない?楽しい?くだらないわね。私は結果しか求めない。たとえそれが面白みに欠けるものであるとしても、理想がかなうのであるならば何の問題でもない。……やはり、私たちは分かり合えない存在のようね。仕方がないです、私の理想とする究極なる平等の世界をより確かなものにするために、2人には消えてもらいましょう。まずはアヤ、貴女からです!」

 

サヨはボールを手に取り、マンムーを繰り出す。対するアヤはマスターボールからレジギガスを繰り出した。戦いの幕開けだ。

 

 



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第三十四話 石塔の激闘

最近忙しくて投稿頻度が下がってしまってすみません。活動報告でも書いた通り、中途半端なところで終わらせるつもりはないので応援よろしくお願いします!高評価や感想やお気に入り登録がすごく励みになります!


「マンムー、氷の牙!」

 

開幕早々、サヨのマンムーは情け容赦なく突っ込んできた。しかし、アヤは動じない。レジギガスの反則ともいえる破壊力をアヤは信じているからである。

 

「レジギガス、冷凍パンチ!」

 

ところが彼女の見込みは大きく外れた。マンムーとレジギガスの拳が激突した瞬間、レジギガスは力負けし、バランスを大きく崩したのだ。

 

「あれ?どうして……?」

 

リゲル団のアジトであれだけの恐怖を2人に植え付けたレジギガスがこうも簡単に負けるなんて信じられなかった。

 

「そういえば……。アヤちゃん!レジギガスはボールから出た後や永い眠りから覚めた後はしばらく本調子が出ないんだよ!メカニズムはまだ不明だけど、そういう研究結果が出ているから気を付けて!」

 

ここで後ろにいたマリナ博士から衝撃の事実がアヤに伝えられた。

 

「ど、どうしよう……!」

 

アヤは悩んだ。要はレジギガスのあの破壊力を見せつけるまで、しばらくの間攻撃を耐え続けなければならないということである。しかし、サヨの様子を見るにそんな暇は全くなさそうだ。

 

「マンムー、もう一度氷の牙!」

 

体勢を崩したままのレジギガスに、再度氷の牙が突き刺さる。そして、つづけさまに今度はストーンエッジがレジギガスを襲い掛かった。

 

「レレレレレレ……」

壊れた機械のような音が響く。それと同時にマンムーはまた氷の牙で突っ込んできた。

 

「レレ……ジジジ……」

 

レジギガスの中央部にある目のような部分が怪しく点滅し、ついにレジギガスは倒れた。ほぼ無傷のマンムーを前に、無念の退場である。

 

「お疲れ、レジギガス」

 

アヤは、レジギガスをボールに戻した。そして、すかさず次のポケモンを繰り出した。

 

「いけ、カブトプス!」

 

「トーップス!」

 

カブトプスは勢いよく現れる。だが、カブトプスはボールから飛び出すと案の定アヤに抱き着き、頬ずりを始めた。

 

「んー!ガブドブズ!苦じい!離して……!」

 

「ブトーッ!」

 

アヤがうめき声をあげるとようやくカブトプスは鋭い目をマンムーに向けた。

 

「カブトプス、アクアジェット!」

 

「マンムー、ストーンエッジ」

 

刃のごとく鋭い岩が地面からせり出し、次々にカブトプスを襲う。しかし、カブトプスは水をまとった体で素早く岩と岩の間をすり抜け、マンムーの額に突っ込んだ。そして、間髪入れずその頭をジャンプ台に飛び上がり、熱湯を発射した。

 

「マンムー、地震」

 

だが、サヨは顔色一つ変えずに次の指示を出す。彼女は、カブトプスが着地した瞬間を『地震』で狩るつもりのようだ。

 

「ムーッ!ムーッ!」

 

しかし、マンムーはサヨの指示を無視し、自分の牙をひたすら地面に叩きつけていた。マンムーは混乱状態に陥っていたのだ。原因はレジギガスがひん死になる直前に『怪しい光』を苦し紛れに発動したからである。これはレジギガスが勝手に発動させたので、アヤはこのことを知る由もなかった。しかし、この好機を逃すという選択肢はない。

 

「カブトプス、マンムーの目の前に岩石封じ!」

 

マンムーの前に岩石が降ってきた。混乱し、いらだっているマンムーは岩に向かって突進。その隙に、カブトプスはマンムーの下に潜り込んだ。岩石封じは、マンムーの気をそらすためのおとりである・。

 

「いっけー!アクアジェット!」

 

「トーップス!」

 

アヤが叫ぶと、カブトプスはその巨体を突き上げた。そしてカブトプスが華麗に着地を決めた後も倒れたまま、追撃撃は仕掛けてこなかった。

 

「戻りなさい、マンムー」

 

サヨはマンムーを引っ込め、次なるポケモンを繰り出した。ルナトーンである。

 

「トーン……」

 

三日月型の胴体の真ん中で、深い闇を湛えた赤い瞳がじっとこっちを見てくる。うっかりしていると思わずその中に飲み込まれてしまいそうだ。その感覚を振り払うように、アヤはカブトプスをシザークロスで突っ込ませた。しかし、飛び掛かろうとした瞬間、カブトプスはルナトーンを目前にしてサイコキネシスで受け止められ、動きを封じられた。

 

「ルナトーン、催眠術」

 

サヨの声とともに、ルナトーンの目が赤く光る。カブトプスは動きを封じられたまま、深い眠りに落ちてしまった。

 

「カブトプス、起きて!カブトプス!」

 

アヤがどんなに呼びかけ続けても全く起きる気配もない。

 

「ルナトーン、パワージェム」

 

しかし、サヨはそこに容赦なく攻撃を叩き込んだ。パワージェムの直撃を受け、カブトプスの体は宙を舞う。さらにルナトーンは宙のカブトプスにサイコキネシスを撃ち、地面やあたりのがれきに叩きつけまくった。

 

「これで止めです。ルナトーン、サイコキネシス」

 

「トーン……」

 

止めの一撃がカブトプスに襲い掛かり、その体は高く、高く持ち上げられる。だがその瞬間、カブトプスの目が再び開いた。

 

「トーップス!」

 

目が覚めるや否やカブトプスは自身にかけられたサイコキネシスをシザークロスで振りほどこうともがく。しかし、ルナトーンのサイコキネシス予想以上に強力であった。どれだけもがいても一向に突破口は見えない。それどころかどんどんパワーが強くなっているかのようだ。

 

「こうなったら仕方がない……」

 

アヤは腕に装着されたZリングを掲げた。彼女はZワザでこの超能力を強引に振りほどこうというのだ。

 

「いくよ、カブトプス!私たちのゼンリョク!スーパーアクアトルネード!」

 

Zクリスタルが輝き、カブトプスを中心に巨大な渦潮が発生。それは彼女のねらい通り、超能力を振りほどき、さらにはルナトーンをも飲み込んだ。しかし、渾身の一撃を受けてもなおルナトーンは倒れなかった。それどころか、攻撃を受け、バランスを崩れた状態でパワージェムを放ってきたのだ。それも苦し紛れの一撃ではなく、カブトプスを狙った正確な一撃だ。

 

「熱湯!」

 

アヤはすかさず熱湯を指示。カブトプスとルナトーンの攻撃は、ちょうど両者の中間地点で激突し、硝煙を上げた。

 

「もう一度パワージェム!」

 

ここでサヨはつづけさまにパワージェムを放たせた。攻撃直後に生じる僅かな反動を狙ったのだ。しかしカブトプスはアクアジェットを使いながらその中に突っ込んだ。

 

「そんな!?」

 

大胆不敵な行動に一瞬サヨがひるむ。その隙にカブトプスはルナトーンにシザークロスをお見舞いした。アクアジェットの勢いも乗り、その威力は絶大だ。

 

「トーン……」

 

ルナトーンはコテっとあっけなく地面に落ちた。しかし、自らが受けるダメージを無視した捨て身の特攻をしてカブトプスも無事で済むわけがない。ルナトーンが倒れたのを見届けると、カブトプスも膝をつき、前のめりに倒れてしまった。アヤとサヨは、ほぼ同時に自分のポケモンをボールに戻す。と、ここでとうとうにサヨの口が開いた。

 

「アヤ……、貴女という人は中々面白い戦い方をする人ですね。この私を一度ならず、二度も苦戦させるだけのことはあります。ヒナの言葉を借りて表現するのなら、『るんって』くるとでもいうことなのでしょうか?」

 

「そうだよ。もしも、個性がなくなったら今みたいにるんってくることもなくなっちゃうんだよ。人には誰しも、必ずその人が輝ける場所がある。サヨさんだって、必ず自分らしく輝ける場所があるんだよ!たとえ輝き方が違っても、並んで輝くことはできるんだよ!」

 

アヤは、必死にサヨに訴えかける。ところが、サヨはそれを一蹴し、アヤの想いを踏みにじるかのように、オニゴーリを繰り出した。

 

「くだらない。違った輝きで並んで輝くなんて、きれいごとに過ぎないのよ。こうなったら二度とこじゃれた幻想を抱けないように、徹底的に叩き潰してあげましょう。絶望という闇の中で、凍てつきなさい」

 

 

サヨは髪につけていたヘアピンを外し、空に掲げた。するとヘアピンについていた宝石のような結晶が輝き、それに共鳴するかのようにオニゴーリも輝いた。メガシンカである。

 

「ゴーリ」

 

低く、唸るような声が、顎が外れるほど開いた口から響く。さらに、メガオニゴーリから放たれる冷気の影響で周囲の気温は極寒の真冬のように低下。その寒さは0度を下回るほどだ。しか余りの寒さにアヤは体の震えが止まらない。

 

「アヤちゃん!これ使って!」

 

すると、ここでヒナがバックから取り出した毛布を目の前に投げてくれた。

 

「あ……、ありがとう……」

 

アヤは急いで毛布を羽織り暖を確保すると、モンスターボールを投げる。彼女が選んだのはサーナイトだ。

 

「相手がメガシンカを使ってきたのならこっちも……!進化を超えろ!メガシンカ!」

 

そして、アヤは腕に装着したメガリングを掲げ、サーナイトをメガシンカさせた。目には目を、歯には歯を、メガシンカにはメガシンカをというわけである。

 

「あら、貴女もメガシンカを使えるのね」

 

サヨは、極寒の中で不敵な笑みを浮かべる。そして、同時にオニゴーリから氷のつぶてが放たれた。

 

「サーナイト、かわしてサイコキネシス!」

 

「サーナ!」

 

メガサーナイトの強化された超能力は非常に強力だ。たとえ鍛え抜かれたサヨのオニゴーリですら、この一撃をまともに浴びればひとたまりもないだろう。だが、このことはサヨも想定内。オニゴーリはサヨの声とともにサイコキネシスを回避。そしてその勢いに任せ、今度は冷凍ビームを放ってきた。

 

「サナッ!」

 

その速度はまるで光のよう。アヤの声も間に合わず、冷凍ビームはサーナイトの中心を貫いた。

 

「オニゴーリ、かみ砕く!」

 

さらに怯んだサーナイトの腰に、オニゴーリの牙が食い込む。サーナイトは必死にもがくも、むしろその牙は深く食い込んでいくばかり。

 

「サーナイト、気合玉!」

 

ここでアヤはサーナイトに気合玉を指示した。サーナイトにさらなるダメージを与える代わりに至近距離で効果抜群の一撃をもらうか、サーナイトから一度退くかの二択をサヨに迫るのが狙いだ。

 

「オニゴーリ、退きなさい!」

 

気合玉はオニゴーリを外れた。しかし、オニゴーリとの距離をとることには成功した。

 

「サー……」

 

サーナイトはこの隙に瞑想をした。彼女の精神が研ぎ澄まされ、力が増す。反撃の準備は整った。

 

「サイコキネシス!」

 

強力な念動力が今度こそオニゴーリをとらえた。サーナイトはそこに気合玉を思いっきりぶつけようとする。だが、その直前、オニゴーリが放った氷のつぶてが襲い掛かった。

 

「サナッ……」

 

サーナイトの表情が歪む。いくらメガシンカしたとはいえ、強力な攻撃を何度も食らって無事でいられるわけがない。その表情から察するに、サーナイトの残りHPはあと一発攻撃を耐えられるかどうかすら怪しい。

 

「これで終わりにしましょう。オニゴーリ、冷凍ビーム!」

 

そしてついに、サヨはオニゴーリから止めになるであろう一撃を放たせる。だが、アヤは諦めなかった。というか、一か八かの賭けに出た。

 

「サーナイト、破壊光線!」

 

メガサーナイトが放つ破壊光線は、特性の『フェアリースキン』の効果も相まって計り知れない威力を誇る。さらに今のサーナイトは瞑想して精神が極限まで研ぎ澄まされた状態だ。その威力は想像を絶する。アヤはこの状況を一瞬にしてひっくり返すには、この破壊的な威力にかけるしかないと判断したのである。

 

「ゴーリ!」

 

「サーナーッ!」

 

冷凍ビームと破壊光線が、両者の中央で交わる。そして破壊光線は冷凍ビームを飲み込み、オニゴーリに襲い掛かった。

 

「ゴーリッ……」

 

オニゴーリのメガシンカが解かれた。激戦の末、とうとうオニゴーリは倒れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんな……、この私が……!」

 

オニゴーリが倒れた瞬間、今まで何事にも動じなかったサヨの表情がついに崩れた。彼女は歯を砕けそうなほど食いしばりながらオニゴーリをボールに戻した。そしてアヤの方を睨んだ。

 

「どうして邪魔をするの!?この私に逆らららららららららら……!」

 

怒りと憎しみと悔しさが、サヨの体を小刻みに震わす。すると、その時サヨにとってさらに最悪なことが起きた。石塔の内部で足止めをしていたリンコも戦いを終え、塔の頂上にまでやってきたのだ。

 

「この様子を見るに……どうやら……、この勝負……アヤさんの勝ちのようですね……。さぁ、大人しく降参してください……。そうすれば……、命だけは……助けますよ……」

 

リンコはサヨに穏やかな笑みを見せる。しかし、それは同時に一切の隙が無い笑みでもあった。万が一、このタイミングでサヨが下手な抵抗をしたのならば、すぐさまリンコの手によって叩きのめされることだろう。もはやサヨの勝算はゼロに等しい。

 

「クッ……、まだよ……。リゲル団の野望をここで終わらせるわけには……」

 

だがサヨは八方塞がりの中でもまだ、抜け道を見つけようとしている。しかし、その時、彼女の通信機がなった。

 

「こんな時に何なのよ!」

 

彼女は苛立ちながら、その通信に出た。

 

「こちらサヨよ、今は取り込み中だから後に……!あ、貴女……は……!はい、はい……、えっ!?作戦の中止……!?そんな、まだ私は負けたわけでは……!はい……。分かりました……」

 

この時、アヤたちは違和感を覚えた。サヨの口調から察するに通信機の向こうにいる人物は部下ではない雰囲気だ。最低でもサヨと同等の地位はある人物、あるいはサヨよりも格上の人物である可能性が非常に高い。

 

「クッ……」

 

通信を終えると、サヨは兵器の前に歩いて行った。

 

「……いいわ、アヤの腕に免じて今日のところは退いてあげましょう。でも、地祇はないですからね。私は必ず世界を変えてみせます。必ず、リゲル団の手で世界を笑顔に……!」

 

サヨはそう言い残すと、兵器のタッチパネルを操作し、アヤとリンコの間をすり抜けていき、石塔内部の階段に向かった。しかし、階段に入る直前、彼女の腕をヒナがつかんだ。

 

「待ってよ、おねーちゃん!誰と話していたの!?もしかして、誰かの命令で無理やりリゲル団のリーダーをやらされていたの?ねぇ、おねーちゃん!?」

 

「貴女には、関係ないわ……。もう私は、引き返せないのよ……」

 

しかし、サヨはヒナの手を振りほどくと階段を降り、姿をくらませた。

 

「おねーちゃん!」

 

すかさずヒナもサヨを追いかけようと階段に足を踏み入れようとした。ところがその時、ヒナは背後で妙な気配を感じた。

 

「なに!?」

 

後ろを振り向くと、空中に3匹のポケモンが浮いていた。アグノム、エムリット、そしてユクシー。どうやら、先ほどサヨが兵器を操作したせいで動力源にされていた3匹のポケモンが解放されたようである。というか、この展開を引き起こすためにサヨは兵器を操作したのだろう。

 

「きょううん」

 

「きゃううん」

 

「きゅううん」

 

気が付けば、3匹の周囲には大小さまざまながれきが漂っている。

 

「まさかだよね……、まさかこっちに投げてきたりは……」

 

しかし、アヤの嫌な予感は当たってしまった。大小さまざまながれきが4人を絶え間なく襲う。兵器の動力源にしたことで、3匹の逆鱗に触れてしまったようである。

 



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第三十五話 神々の怒り

投稿遅れてすみませんでした!最近なにかと忙しくて……。


なんとかサヨを退けたアヤたちに襲いかかってきたのは、アグノム、ユクシー、エムリットの超能力で引き起こされた瓦礫の嵐だ。直撃したらただじゃすまないのは一目瞭然。今はアヤのサーナイトの超能力で防げているが、サーナイトは先ほどの戦いのダメージを引きずっている。その証拠に足がおぼついていない。

 

「博士……」

 

この危機的な状況を前に、アヤはマリナ博士にすがりつく。すると、彼女は冷静に状況を見ながら口を開いた。

 

「アグノム、エムリット、ユクシーは、三匹が力を合わせればシンオウの伝説ポケモンであるディアルガとパルキア、どちらか一方と互角の力が発揮されるっていうことが研究によってわかっているんだ。でも、この力は今まで間違いなくそれ以上の力だね。このまま放っておけば街が危ないかも……」

 

「そんな……、どうしよう……」

 

そうアヤが言っている間も、3匹の猛攻は激しさを増すばかり。サーナイトのパワーも目に見えて落ちている。もはや一刻の猶予もない。と、ここでマリナ博士はポケットからボールを取り出した。それもただのボールではない。一般販売されている中でも最高級の性能を誇るハイパーボールだ。

 

「これでなんとか捕獲して、あの3匹を捕獲できればいいんだけど、あれだけ暴れていられると捕獲は無理だね……。アヤちゃん、悪いんだけど2人と協力してあの三匹をおとなしくしてくれるかな?」

 

「わかりました」

 

アヤは深く頷くと勇気を出し、アグノムの前に立った。それと同時にリンコはエムリットの前に、ヒナはユクシーの前に立った。

 

「いいですか……、この3匹は……強いです。2人とも……気をつけてくださいね……」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!私達ならこんなメノクラゲのお化けみたいなやつなんて楽勝だよ!」

 

ヒナは相変わらず無邪気な笑みを浮かべている。このごに及んでもまだなお平常運転なのは流石だ。

 

「キョウウン」

 

「キュウウン」

 

「キャウウン」

 

彼女たちの動きとほぼ同時に、ユクシー、アグノム、エムリットも3人に向き合う。

 

「よ、よーし!いけ、ムクホーク!」

 

アヤはサーナイトを引っ込め、ムクホークを繰り出した。

 

「いっけー!テッカニン!」

 

「ゲンガー、お願いします」

 

それに続き、ヒナとリンコもポケモンを繰り出す。シンシューの命運をかけた戦いがいま始まろうとしといた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの火蓋が切って落とされると、早々にリンコとヒナはエムリットとユクシー相手に激戦を繰り広げる。

 

「ムクホーク、燕返し!」

 

2人に続き、アヤも戦火の中に飛び込んだ。

 

「ホーク!」

 

ムクホークは勇ましい鳴声を響かせ、アグノムに突っ込む。しかし、その翼がアグノムに届く寸前に、ムクホークの体は見えない力によって突き飛ばされた。アグノムの神通力だ。

 

「キュウ」

 

この時、アヤはアグノムが一瞬淡い光を発したのを目にした。良からぬ予感が彼女の頭をよぎる。しかし、アグノムの動きは止まっている。攻撃する絶好のチャンスだ。彼女はムクホークに今度は電光石火を指示した。

 

「ホークッ!」

 

今度の攻撃はアグノムのど真ん中に直撃。

 

「今だ!連続で燕返し!」

 

アヤの声とともにムクホークが攻撃を叩き込む。しかし、直後にムクホークは謎の力によって地面に思いっきり叩きつけられた。時間差で攻撃する特殊な技、未来予知だ。つまり、アグノムが動きを止め、先程淡く光ったのは未来予知を使ったからなのである。アヤの良からぬ予感がここで当たってしまったのだ。

 

「ホークッ……!」

 

ムクホークは必死に空に戻ろうとするが、アグノムが瓦礫を飛ばしてくるためなかなか飛び立てない。こうなってはムクホークが勝てる可能性は低い。アヤはそう判断し、ムクホークをボールに戻した。そして、新たにハガネールを繰り出した。

 

「ガッネール!」

 

ハガネールの巨体が、アグノムを見下ろす。しかし、アグノムは全く臆せず攻撃を畳み掛ける。

 

「ハガネール、ボディパージ!」

 

だが、アヤは反撃の指示を出さなかった。どれだけ攻撃を受けようと、彼女は素早さをあげるボディパージを指示し続けた。

 

(アグノムの火力くらいならハガネールは余裕で耐えられる……。でも素のハガネールスピードじゃアグノムに追いつけない……。だから、今は耐えながらスピードを上げて『あのタイミング』を待てば……)

 

「キュウウン!」

 

その時、アグノムが再び淡い光を放つ。未来予知の兆候だ。その瞬間、アヤがついに動いた。アグノムは未来予知を使うときに僅かに動きが止まる。アヤはムクホークとアグノムの戦いを見て、この弱点を見破ったのだ。

 

「今だ!ハガネール、アイアンテール!」

 

「ガッネール!」

 

鋼鉄の尾がアグノムに振り下ろされる。それは、通常のハガネールをはるかに上回る素早さで、アグノムの急所を捉えた。

 

「キュウ!」

 

アグノムの勢いが衰える。ふとアヤが目を移せばエムリットとユクシーもかなりのダメージを負っている。

 

「マリナ博士!」

 

「わかったよ、アヤちゃん!」

 

アヤの叫びとともに、マリナ博士はハイパーボールを3つ、矢継ぎ早に投げた。アグノム、エムリット、ユクシーはハイパーボールの中に吸い込まれ、それぞれその中に封じられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったの……かな……」

 

戦いの静けさの中で、アヤは呟いた。そこにはリゲル団も怒りに満ちたポケモンもいない。聞こえるのは風が吹き抜ける音、ポケモンの囀りのみ。文字通り、平和な光景だ。そうとわかった途端、彼女の体から一気に力が抜けた。

 

「よかった……。私、勝ったんだ……」

 

アヤはその場にヘナヘナと座り込んだ。今の彼女中は疲労感と解放感でいっぱいである。するとそこにマリナ博士がやってきた。

 

「アヤちゃん……、凄かったよ!なんかこう……、旅に出た時とは別人みたいだった!」

 

「マリナ博士……!えへへ、ありがとうございます!」

 

アヤは照れを隠すように笑顔を見せる。だが、彼女はふと気がついた。少し離れているところでリゲル団の兵器を見ていることに。

 

「ヒナちゃん……」

 

アヤは立ち上がり、ヒナのそばに寄った。その顔はいつも無邪気な彼女の性格似合わず何処か浮かない顔である。

 

「ハッ……!アヤちゃん!」

 

ヒナはアヤの存在に気がつくと笑顔を見せた。が、その笑顔はどこか硬い。原因は間違いなくサヨだろう。

 

「えっと……、あの……ヒナちゃん……。あまりうまく言えないけど……、きっと、いつかサヨさんとも仲直りできるよ。私はそう思うな」

 

『あまりうまくは言えないけど』と一応保険はかけておいたものの、本当にありきたりな言葉である。アヤはその下手くそさをごまかすために笑いながらそう思った。しかし、ヒナは表情を緩めると『ありがとう』と、いつもの無邪気な笑顔を見せる。と、その時、リンコが2人のところに寄ってきた。

 

「アヤさん……ヒナさん……、ありがとうございます……。貴女たちと……、ポケモンの協力がなかったら……きっとシンシューは大変なことに……なっていたでしょう……。本当に……ありがとうございます……!」

 

リンコはアヤとヒナ達に何度も何度も頭を下げる。

 

「まぁ、私とアヤちゃんならこのくらいダダーンってあっという間に解決できて当然でしょ!ね、アヤちゃん!」

 

「へっ、う、うん!」

 

得意げに胸を張るヒナに対し、不意にヒナから話を振られて戸惑うアヤ。和やかな光景に、ヒナとマリナ博士、そしてリンコは笑い声を上げた。

 

「うぅ……、こんな時までからかわれるなんて……」

 

アヤは少し肩を落とした。そして、リンコはそんなアヤの方を見て微笑んだ。

 

「2人は本当に……、仲がいいんですね……。だから……、ポケモン達も……あんなに輝いて見えるのかも……しれないですね……」

 

「輝いている?私のポケモンが?」

 

「はい……、眩しいくらいに輝いています……」

 

リンコは再度アヤに穏やかな笑顔を見せる。そして彼女はサザンドラをボールからだし、その上に乗る。すると、本調子に戻ったヒナが声を上げた。

 

「え〜、リンコさんもう行っちゃうの!もっと話そうよ!あっ、どうせだったら私たちと一緒に旅しようよ〜」

 

「一緒に旅ですか……。楽しそうですね……。でも……、他の仕事で忙しいんで……ちょっと無理かな……」

 

「そんな〜。リンコさんも一緒なら、今よりもるんるんるんってする旅になりそうだったのに〜」

 

「私も、リンコさんと旅してみたかったな〜」

 

ヒナとアヤは少し残念そうな表情を浮かべた。

 

「2人とも……、そんな残念そうな顔しなくても……、大丈夫ですよ……。私たちなら……そう遠くない未来に……、きっと……また会えますから……」

 

「えっ、どういうこと?」

 

アヤは首をかしげる。

 

「それは……、その時が来ればわかりますよ……」

 

そういうと、リンコは優しい顔で手を振る。そして、サザンドラを飛ばせ、颯爽とどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「あーあ、リンコさん行っちゃった……。でも、また会えるならいっか。さぁーてアヤちゃん!気を取り直して新しい街にでも行きますか!」

 

「あっ、ヒナちゃん!待ってよ!」

 

ヒナの声威勢のいい声と、アヤの慌てる声が澄み切ったそれに響いた。

 




伝説ポケモンやリゲル団との決戦も終わったところで、彩ちゃんの旅もいよいよ終盤へ!次回、いよいよ最期のバッジをかけたジム戦です!(いつ投稿になるかわからないけど……)

お気に入り登録や、感想、高評価も待ってまーす!


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第三十六話 参上!着ぐるみジムリーダーミッシェル!

今回は割と長めです。


リゲル団との戦いはひとまず終わりを迎えた。アヤとヒナはリュウコの石塔を去り、ホマチシティに向けて出発。その後、雨が降らない砂漠地帯『7番道路』を東に進んだ。さらに彼女たちはシンシュー最大規模の活火山『マグマウンテン』のふもとを通過。そして、ようやくシンシュー東部の街『ウセイシティ』にたどり着いた。目的は勿論、アヤにとって8つ目となるジムバッジを手に入れるためだ。ここでバッジを手に入れれば、ポケモンリーグに挑戦できる権利が生まれる。アヤとヒナの長かった旅も、ようやく終着点を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがウセイシティジムか……」

 

アヤはウセイシティジムの前で固まっていた。もう、何度もジム戦に挑んでいるのに、いざジムに入るとなると途端に緊張感が襲ってくるのである。

 

「なーにしてんのアヤちゃん?さぁ、早くジムに入ろうよ!」

 

「そ、そうだねヒナちゃん……!よ、よーし!」

 

アヤは大きく深呼吸。そして、ヒナとともにジムの扉を開けた。

 

「えっ……?」

 

だが、ジムに入って間もなく彼女の足は止まった。ジムに入った彼女達を迎えたのはジムリーダーではなくキテルグマだったのだ。

 

「あ……、あの……どうも~」

 

何をしていいかわからず、とりあえずアヤはヒナと一緒に手を振ってみる。と、その直後、アヤは思いもよらぬものを目にすることになった。

 

「は~いどうも~!ウセイシティジムへようこそ~!私はミッシェル!ミッシェルランドからやってきた魔法のキテルグマだよ~!」

 

喋ったのだ。あろうことかキテルグマがしゃべったのである。しかも片言ではなく、人間並みに流暢な言葉で。

 

「えっ……、喋った……?ポケモンが喋った……?」

 

衝撃的な情報が、瞬時にアヤの頭に詰めかける。そして、彼女の頭はパンクした。

 

「あれ……、アヤさん……?もしかして、本物のキテルグマと勘違いしてます?あの、これ、着ぐるみですから。ほら、あたしです。リュウコの石塔でちらりと会ったミサキです!」

 

そう、喋ったキテルグマの正体はキテルグマの着ぐるみ。その中身はウセイシティのジムリーダーを務める少女、ミサキだったのだ。しかし、ミサキが着ぐるみの頭をとり、顔を出した時にはもう手遅れ。アヤは目を回し、ひっくり返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、アヤはロビーのソファの上でようやく意識を取り戻した。

 

 「——ていうことは、さっきの喋るキテルグマはミサキさんがキテルグマの着ぐるみを着ていただけってこと……?」

 

「はい、その通りです。驚かれることには慣れていますが、気絶する人は初めて見ましたよ」

 

「うっ……」

 

状況をようやく飲み込んだアヤは、なんともいえぬ気分だ。だが、その傍らでヒナは着ぐるみを脱いだミサキと、着ぐるみに目を輝かせていた。

 

「ねぇ、ミサキちゃん!どうしてキテルグマの着ぐるみなんか着ているの?」

 

「やっぱり気になります?そうですねー、あれはあたしがジムリーダーとしてこの街にやってきて初めての年のお祭りの時でしたっけ?キテルグマの『ミッシェル』ってキャラクターがお祭りのマスコットとして丁度作られたんですよ。お祭りの日は、諸事情あって私がその着ぐるみを着て風船配りをすることになったんですけど、それが街の人に大好評で……。結局、『キテルグマのミッシェルをウセイシティの新しい名物にしよう!』って声や、『着ぐるみを着ながらジム戦をやれば注目度が上がる。ミッシェルとこの街の知名度もアップだ!』とかいう声に押される形でミッシェルの着ぐるみを着てジム戦をやるようになったんです」

 

「へぇ~、その着ぐるみ、ジム戦の時も着ているんだ~。変なジムだね」

 

キグルミジムリーダー誕生の由来に、割と刺々しい感想をヒナは言う。しかし、こういわれるのに慣れているのかミサキは少し笑っている。

 

「はい、よく言われます。まぁ、あたしもなんだかんだミッシェルのことは気に入っているんでそんな苦にはなってないんですけどね。さてと、アヤさんの意識も戻ったことだしジム戦を始めますか」

 

そういうと、ミサキは立ち上がりの着ぐるみの中に再び入るとフィールドの方へのっそのっそと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウセイシティジムのフィールドはいたってシンプルな構造だ。今までのジムは、フィールドに岩が設置してあったり、チョココロネのレリーフが壁に施されていたり、プールに水を張られたものや、観客に大量のウサギポケモンが詰め寄っていたりと、各地のジムリーダーの趣味嗜好が存分に発揮されたジムが多かった。しかし、ここには必要最低限のもの以外何もない。無論、『ジムリーダーが着ぐるみを着ている時点で普通じゃない』と突っ込まれたら反論する余地はないが……。

 

「よし……」

 

それはさておき、アヤはこのウセイシティジムのフィールドに立った。フィールドを挟んだ直線上にはミッシェルの着ぐるみに包まれたミサキがいる。

 

「さてと、それでは準備も整ったことだし改めて自己紹介を。あたしの名前はミサキ。専門はノーマルタイプです。ほら、ノーマルタイプって苦手な相手も得意な相手も少なくて、なんだか無難な感じがしません?このほどほどさがノーマルタイプの魅力というかなんというか……。ま、前置きはこれくらいにして、ジム戦と行きますか」

 

ミサキは言葉を言い終わるが否や、ボールをフィールドに投げた。

 

「グーマー」

 

出てきたのはキテルグマ。今度は着ぐるみではなく、正真正銘本物のキテルグマだ。

 

「なんだかキテルグマが2匹いるみたい……。でも、そんなこと気にしている場合じゃないね。いけっ!ドダイトス!」

 

対するアヤが繰り出したのはドダイトス——のつもりだった。が、出てきたのはどういうわけかヒナのラグラージだった。しかも、爆睡している。

 

「ど、ドダイトスは……?どうしてラグラージが……」

 

この時、アヤの中にふと昨日の夜の出来事がよぎった。実は昨晩、ポケモンセンターでアヤとヒナは荷物の整理をしていたのだが、うっかりしていて2人のモンスターボールを混ぜてしまっていたのである。間違いないく、これが原因である。

 

「そんな……!ヒナちゃん……!」

 

アヤは慌てて、フィールド脇のベンチに座るヒナにドダイトスを渡してもらおうとした。が、アヤはヒナのところにはいかなかった。なぜなら、ヒナの目の輝きが普段に比べて何倍も増しているのをアヤは見たのである。長い旅の中でアヤは、色々とぶっ飛んでいるヒナの考えがだいぶ読めるようになっていた。多分、あの表情は『私のラグラージを使ってアヤちゃんがジム戦か~。るんってきた~』的なことを考えているんだろう。こうなったヒナに言うことを聞いてもらうことは至難の業だ。アヤは腹をくくり、ラグラージに声をかけた。

 

「ラグラージ、起きて~」

 

「ラ~グ?」

 

アヤの声がすると大あくびをしながら目を覚ました。

 

「えっと……、あのいろいろあってラグラージにジム戦をやってもらいたいんだけど……、いいかな……?」

 

アヤが恐る恐る声をかけると、ラグラージはミサキとキテルグマを見て、ヒナを見た。そして、最後にアヤを見ると状況を理解したのか大きくゆっくりと頷いた。とりあえずいうことは聞いてくれそうだ。まずは一安心である。

 

「よーし、いくよラグラージ!え~っと、滝登り!」

 

ラグラージが頷くのを見ると、アヤは指示を飛ばした。ついに最後のバッジをかけた戦いが始まのだ。

 

「ラーグッ!」

 

ラグラージは叫びをあげると水をまとい、キテルグマに突っ込んだ。相手のキテルグマは棒立ち。これは上手くいったとアヤは心の中でガッツポーズ。——したのはよかったのだが、それはぬか喜びであった。直後、アヤは絶望のどん底に叩き落とされた。

 

「そんな!どうして……!?」

 

アヤは自分の目を疑った。ラグラージの渾身の一撃は、キテルグマに片手で受け止められてしまったのだ。

 

「どうですか、あたしのキテルグマは?結構強いでしょ?生半端なポケモンじゃ勝てませんよ!キテルグマ、ドレインパンチ!」

 

「グマァ~」

 

野太い声が響く。直後、ラグラージの額に強烈な拳がめり込んだ。

 

「グーッ」

 

ラグラージの巨体が一気に何メートルも後ろに吹っ飛ばされる。だが、キテルグマの猛攻は止まらない。ラグラージが態勢を整える前に物凄いパワーの蹴りが飛んできていた。メガトンキックだ。

 

「冷凍パンチ!」

 

この一撃は、アヤのとっさの指示で何とか防いだ。しかし、これはまだ序の口であった。ドレインキックにメガトンキック、強烈な技が息をつく間もなくラグラージに襲い掛かる。しかし、流石はヒナが育て上げたラグラージだ。ラグラージはそれに必死にくらいつき、ダメージを最小限に抑えつつ反撃に出る。だが、ダメージは確実にたまっていた。攻撃が長引くにつれどんどん反応が遅くなっているのが目に見えてわかる。そしてついに、ラグラージはキテルグマの一撃をもらってしまった。

 

「ラグラージ!」

 

「ラグッ……!」

 

アヤの呼びかけに対し、ラグラージはグッと指を立てる。しかし、息を切らしてかなり不安定だ。それに対するキテルグマは相変わらず涼しげな顔をこちらに向けてくる。その無表情なさまにアヤは恐怖を覚えた。

 

「アヤさんのラグラージ、中々やりますね。キテルグマの連続攻撃を耐え抜くポケモンなんて、中々いないんですけどね~。それじゃ、もう一回いきますか。キテルグマ、ドレインパンチ!」

 

「グマー」

 

ミサキの声が終わると同時に、キテルグマが再び飛び掛かってきた。今のラグラージの体力では、第二波を耐えきることは難しいことは一目瞭然である。

 

「グマー」

 

「ラーグッ!」

 

結局、うまい解決策が浮かばずラグラージは再びキテルグマの猛攻に巻き込まれた。どんどん増していくキテルグマの勢い。そしてラグラージの体力はゴリゴリ減っていく。ここママではまずい。アヤはそう思った。だが、この時彼女はキテルグマの戦法に違和感を覚えた。

(どうしてキテルグマはこんなに肉弾戦を仕掛けてくるんだろう……?今までのジムリーダーは遠距離からも積極的に攻撃を仕掛けてきたのに……。もしかして、遠距離戦に持ち込みたくない理由でもあるのかな?)

 

アヤがそう考えている間も、軍配はキテルグマに上がりつつある。考えている暇はない。アヤは一か八かで叫んだ。

 

「ラグラージ、冷凍ビーム!」

 

「ラグー!」

 

叫びがフィールドに響くと、ラグラージはキテルグマが腕を振り上げたタイミングを見計らい、ぶん殴られながらも氷の光線を発射。するとどうであろうか、キテルグマのバランスが大きく崩れたではないか。

 

「今だ、滝登り!」

 

バランスを崩したキテルグマに、滝登りがめり込む。キテルグマは受け身が取れず、ミサキの方へ大きく突き飛ばされた。

 

「グー……」

 

キテルグマは相変わらず無表情。だが、キテルグマは初めて膝をついた。間違いない、確実に効いている。

 

「あちゃー、キテルグマの弱点に気が付かれちゃいましたか。キテルグマの特性は『もふもふ』っていう特性で、接触技のダメージを大幅に減らす効果があるんですよ。その代わり特殊技や炎技には弱いんですけどね。だから、無理やり肉弾戦に持ち込んで、特殊技を使う暇を与えず倒そうとしたんですけど……」

 

「グマー」

 

「——こうなったら仕方ないですね。キテルグマ!地震!」

 

「マー!」

 

キテルグマが大きく飛び上がる。着地と同時に物凄い振動が地面からラグラージに伝う。

 

「グッ……!」

 

揺れに足をとられるラグラージ。キテルグマはそのタイミングを見計らい飛び掛かってくる。対するラグラージは冷凍パンチで応戦。しかし、キテルグマの腕は冷凍パンチのギリギリ上をすり抜け、ラグラージの腕をがっしり掴んだ。

 

「キテルグマ、ぶん回す!」

 

腕をつかんだキテルグマはその場でラグラージを振り回し、投げ飛ばそうとする。しかし、アヤは動じなかった。

 

「ラグラージ、冷凍ビーム!」

 

「ラージッ!」

 

空中であるうえ、ものすごい遠心力がかかっている。そんな最悪な状況の中でラグラージから放たれた冷凍ビームはキテルグマを貫いた。

 

「ラーグッ!」

 

キテルグマから解放されたラグラージは着地と同時にキテルグマに突っ込む。しかし、そのときには早くもキテルグマは態勢を整えていた。

 

「キテルグマ、かわしてメガトンキック!」

 

ミサキの声がすると、キテルグマは上に飛び上がった。ラグラージが真下を通過する瞬間、その背中にメガトンキックをお見舞いしようという算段だ。

 

「ラグラージ、地面に冷凍パンチ!」

 

対するアヤは冷凍パンチでブレーキを掛け、わざとスピードを落とさせた。タイミングがずれたことでミサキの作戦は失敗。早めに着地してしまったキテルグマは滝登りの餌食となり、宙を舞った。

 

「冷凍ビーム!」

 

さらにアヤは、彼女が指さす方へ冷凍ビームをラグラージに放たせる。しかし、それはキテルグマとは全然違うところに放たれ、床を凍らしただけだった。

 

「アヤさん、床なんて狙ってどうしたんですか?着地したタイミングを狙うつもりだったんですか?残念ながら、まだキテルグマは空中にいますよ?」

 

と、ミサキはまだ余裕そうな表情を見せる。だが、すぐにそれは崩れた。彼女はキテルグマが着地する地点に、氷が張っているのを見たのだ。

 

「グマッ」

 

キテルグマは着地の瞬間に、氷で足を滑らせバランスを崩した。アヤの計算通りの展開だ。

 

「今だ!ラグラージ、ハイドロポンプ!」

 

「ラーグーッ!」

 

アヤの声とともに、ラグラージの口から大量の水が激流となって放たれる。キテルグマは回避する間もなくそれに飲み込まれ、フィールドの壁に叩きつけられた。

 

「キテルグマ!」

 

ミサキが声をあげると、キテルグマは何とか立ち上がる。しかし、間もなく力尽き、前のめりに倒れた。戦闘不能である。

 

「やれやれ、どうやら勝負あったみたいですね……」

 

ミサキは動けなくなったキテルグマに、そして勝者のアヤにわずかな笑みを送るとキテルグマをボールに戻した。一方、勝利を収めたアヤは、ヒナと一緒にラグラージをほめちぎっていた。

 

「凄いよ、ラグラージ!ラグラージ!」

 

「うんうん、るるるるるるるんってしたよ~!ラグラージ!」

 

その褒めようといったら、ものすごい勢いだ。ちなみにラグラージはその間ずっと無表情でアヤとヒナの方を見ていた。多分照れていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  アヤとヒナがラグラージをほめ終わった時、着ぐるみを脱いだミサキがやってきた。

 

「いや~、まさかバトルに夢中になるあまり、フィールドの状況を見落とすなんて思いませんでした。私の負けですアヤさん。いいバトルでしたよ」

 

「そんな~、私はすごくないですよ。凄いのはこのラグラージですって」

 

「ははは、確かにラグラージもすごく強かったですね。ジムリーダーとして何回もチャレンジャーの相手をしてきましたが、ここまで育っているポケモンは中々いませんよ」

 

「でしょ~、私のラグラージはズドドドドーンって感じに強いんだから!」

 

と、ここで気をよくしてしまったうっかりいらぬ情報をしゃべってしまった。

 

「えっ……、『私のラグラージ』?これって、アヤさんのポケモンじゃないんですか……?」

 

ミサキが怪訝な表情になったのは言うまでもない。ヒナは慌てて口を手で覆ったがもう手遅れだ。

 

「あの……これは……、その……」

 

アヤは恐る恐る、ミサキに事のいきさつを話す。すると、ミサキは怒るのでもあきれるのでもなく笑いだした。

 

「あははははは、そんなことが……。2人ってなかなか面白い人ですね。で、ちなみにアヤさん。元々使う予定だったポケモンってなんなんですか?」

 

「ドダイトスですけど……」

 

アヤはヒナからドダイトスのボールを返してもらうと、ドダイトスを場に出した。ミサキはドダイトスが現れるとまじまじとその体を見だした。

 

「……なるほど、ラグラージに負けず劣らず良く育ったドダイトスですね。これならたぶん、ドダイトスを使われていたとしてもあたしは勝てなかったでしょうね。やっぱり、このジム戦はアヤさんの勝ちです。さぁ、これを受けとってください。あたしに勝った証『ミッシェルバッジ』です」

 

ミサキの手から、アヤの手に最後のジムバッジが渡った。

 

「これが最後のバッジ……」

 

アヤは緊張で震える手で、バッジケースを取り出し、もらったばかりのミッシェルバッジを空いているスペースにはめた。長い道のりの末、シンシューのバッジが8つそろった瞬間だ。彼女の目には8つそろったバッジは気のせいか、いつもより何倍も輝いているように見えた。

「ヒナちゃん!やったよ、私でも出来たんだよ!うわ~ん!」

 

と、アヤは急にヒナに抱き着きつき泣き出した。

 

「アヤちゃんったら本当に泣き虫なんだから~。でも、本当に頑張ったね。るんってするよ!」

 

「うん、うん!」

 

「あっ、でもポケモンリーグに挑むんだったらまだバッジ8個集めたんじゃ、まだスタートラインに立ったところなのかなぁ」

 

「えっ……」

 

アヤはヒナから離れ、顔をひきつらせた。

 

「なんかアヤちゃんがすごい嬉しそうだったからついつい褒めちゃったけど、冷静に考えたらジムバッジくらい私も10個以上は普通に持っていたし、もしかしたらそんなに凄くないのかな?」

 

「それはないよ~ヒナちゃ~ん……」

 

ついさっきの喜びから一転。まさに天から地の底に叩き落とされた気分だ。

 

「はははは、アヤさん、そんなに落ち込まないで。ジムバッジを8つ集められるトレーナーなんてほんの一握りですから。アヤさんは十分に凄いですって、ヒナさんの基準がおかしいだけで充分凄いですから!アヤさんならきっとポケモンリーグも大丈夫ですって!あたしはそう信じていますよ」

 

「そうなのかな~」

 

アヤはミサキの言葉に首を傾げる。するとミサキはさらに言葉を続けた。

 

「いいですかアヤさん、あたしの経験上バッジを8個集めたトレーナーとポケモンリーグ——少なくとも四天王の実力はそこまで差がないんですよ。ポケモンリーグだからといって特別力まず、気合を入れすぎず、いつも通りにやれば十分に勝機はあります。まぁ、チャンピオン戦にこのアドバイスが役に立つ保証はないですけど……」

 

「げっ……。チャンピオンってそんなに強いんですか」

 

「はい。あたしも去年、成り行きでポケモンリーグに挑んだことがあるんですけど本当に強かったです。四天王は運に助けられながらなんとか全員倒したんですけど、チャンピオンには歯が立たずそこで負けてしまいました。はっきり言ってあの強さは反則です。別次元といっても過言ではないですね」

 

「えぇ……」

 

「あっ、ちょっと脅しちゃいましたかね?まぁ、いずれにせよ無理は禁物です。練習しすぎてポケモンや自分の体を壊してしまっては元も子もないですからね。頑張りすぎない程度に頑張ってください。——ということで、応援の証にこの技マシンもあげます。これは『大爆発』っていう技で、大きな爆発を引き起こして周りにいるものすべてに攻撃する、ノーマルタイプ最強クラスの技なんですよ。まぁ、技を使うと使ったポケモンも気絶してしまうので使いどころは限られますが……。きっとアヤさんなら使いこなせますよ」

 

「ありがとうございますミサキさん!これからも頑張りすぎない程度に頑張ります!」

 

アヤは技マシンを受け取り、ミサキに満面の笑顔を見せるとヒナとともにウセイシティジムを後にした。次に目指すはポケモンリーグ。アヤの大勝負が今、幕を開けようとしていた。

 




おまけ:美咲(ミッシェル)のパーティー一覧(本気モード)
・多分殿堂入り後に何処かで戦えるであろう本気美咲ちゃんの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。キテルグマに『ミッシェル』というニックネームをつけようとした、もしくは実際につけた人は正直に手をあげましょう。


★キテルグマ@ノーマルZ
特性:もふもふ
性格:意地っ張り
努力値:HA252

・ビルドアップ
・ドレインパンチ
・地震
・恩返し

☆メタモン@こだわりスカーフ
特性:変わり者
性格:臆病
努力値:HS252

・変身

☆オオスバメ@気合いの襷
特性:肝っ玉
性格:無邪気
努力値:CS252

・爆音波
・電光石火
・エアスラッシュ
・我武者羅

☆ポリゴン2@進化の輝石
特性:トレース
努力値:HB252

・自己再生
・毒毒
・イカサマ
・冷凍ビーム

☆ケンタロス@こだわり鉢巻
特性:威嚇
性格:陽気
努力値:AS252

・すてみタックル
・地震
・ストーンエッジ
・アイアンヘッド

☆ガルーラ@ガルーラナイト
特性:肝っ玉
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・捨て身タックル
・猫だまし
・地震
・炎のパンチ


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第三十七話 ヒナからの挑戦

 ウセイシティジムで、最後のバッジを手に入れたアヤはヒナとともにポケモンリーグがあるシラツユ高原を目指し、10番道路を通りウセイシティを南下。そして今、彼女たちはシラツユ高原の前に立ちふさがる洞窟、『チャンピオンロード』の中を進んでいた。ここはポケモンリーグに挑むトレーナーの最後の難所として知られており、リーグに挑む前の最後の特訓をしている強豪トレーナーがあちこちにいる。チャンピオンロード自体の道のりも『トレーナーとポケモンが訓練できるように』という理由で最低限の整備しかされていない。巨大な岩はその辺にゴロゴロしている場所や、懐中電灯の明かりが効かないほど暗い通路は序の口。所々にある洞窟内の湖には橋という便利なものはないし、轟轟と音を立てる滝があろうと、垂直にそびえたつが崖があろうと迂回路なんてものはない。ついでに洞窟といいながらも、何度か洞窟外部に出て鬱蒼と茂る大森林の中を突き進まなければならない場面もある。まさに、ポケモンと人間が力を合わせなければ突破することができない、シンシュー最高クラスの難所といえるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 アヤとヒナは、このシンシュー最大の難所を彼女たちの手持ちと協力しながら突き進んだ。岩をどかし、岩を砕き、木々を切り裂き、水上を進み、滝を登り、断崖絶壁を登り、闇の中を進み、何人ものトレーナーとのバトルを乗り越えた。それも、気が遠くなるほど、何度も、何度も……。そして、チャンピオンロードに入ってからどれだけ時間がたったのだろうか。アヤとヒナの前に栄光の光が差し込んできた。長い長い道のりの末、ようやく出口が姿を現したのである。

 

「やっと終わる……。これでやっと出れる……!」

 

出口が見えると、アヤは縋るように出口に向かう。だが、あと一歩で出口まで出られるというところで、彼女の歩く先をヒナが塞いだ。アヤがヒナを避けようと右に行けば、ヒナも右にずれる。左に避けたら今度はヒナも左についてくる。何度やっても同じ結末だ。

 

「どいてよヒナちゃん!これじゃ前に進めないよー」

 

流石に困り果て、アヤはついに音を上げる。するとヒナの目が急激に輝きだした。

 

「アヤちゃんと私って、今目が合っているよね?」

 

「う、うん……」

 

「前に私がアヤちゃんに教えたこと覚えている?」

 

「教えたこと……?」

 

「そう!トレーナーとトレーナーの目があったらやることって一つしかないよね!」

 

「目があったらやること……。えっ、うそでしょ……!?」

 

アヤの顔からサーっと血の気が引いていく。そして、ヒナの目の輝きがより一層増した。

 

「アーヤちゃん!私とポケモンバトルだよ!私に勝たないとここから先に通さないよ!」

 

そういうと、ヒナはボールを取り出した。が、一方のアヤは大慌てだ。

 

「バトルって……、私とヒナちゃんが戦うってこと……?」

 

「そうだよ」

 

「も、もちろん手加減してくれるよね……?」

 

「手加減?そんなのするわけないじゃん。ドドーン!ババーン!ズッギューン!っていっちゃうよ!」

 

「え~っ!ちょっと待ってよ!無理だって!勝てないって!本気のヒナちゃんに勝てるわけないよ~!」

 

「どうして戦う前に勝敗がわかるの?戦ってみなくちゃ結果は分からないよ。それにアヤちゃんはこれからポケモンリーグに挑んで、四天王やチャンピオンに勝つんでしょ?私に勝てないようじゃ、ポケモンリーグは無理だと思うな~」

 

確かにヒナの言うことは正論である。アヤがこれから戦うのは、向かうところ敵なしの四天王や、あのミサキに『異次元の実力』とまで言われるレベルのチャンピオンだ。ヒナに負けているようでは勝つことは難しいだろう。

 

「わ、分かったよ!よーし、ヒナちゃん!私と勝負だよ!」

 

覚悟を決めたアヤは、ヒナからの挑戦を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「アヤちゃん!準備はいい?」

 

「うん!いつでもOKだよ!」

 

「よ~し!それじゃぁ、るんってするバトルをよろしくね!」

 

ヒナとアヤの手からボールが離れる。

 

「ラーグッ!」

 

「ドーダッ!」

 

ヒナが繰り出したのはラグラージ。対するアヤが繰り出したのはドダイトスである。草タイプを持つドダイトスは、地面タイプと水タイプの両方を併せ持つラグラージに対して圧倒的に強い。つまり、アヤは一応有利な立場にいることになる。だが、アヤはヒナのラグラージの強さを身をもって知っている。その上ラグラージはドダイトスが苦手な氷技まで完備しているし、ヒナは氷タイプのジムリーダーを目指していた人だ。いくらタイプ相性が有利とはいえ、苦しい戦いになることを想像するのは難しくない。

 

「さーって、ラグラージ行くよ!滝登り!」

 

そして、ヒナの声とともにバトルは始まった。ラグラージはヒナの声とともに体に水をまとい、ドダイトスに向けて一直線に突っ込んでくる。アヤもドダイトスに指示を出した。

 

「ドダイトス!ウッドハンマーで受け止めて!」

 

「ダーッ!」

 

猛進するラグラージに、大木のような尾がさく裂——とはいかなかった。

 

「ラグッ!」

 

ラグラージはウッドハンマーを右手でがっしりと受け止めた。一見これは自殺行為に思えるかもしれないがそんなことはない。冷凍パンチの要領で、自身の手に氷の鎧のようなものを張ることで、草タイプの技が直接肌に触れることを防いでいるのだ。

 

「ラグラージ、あくび!」

 

「グラァ」

 

さらに、ドダイトスの尾を掴んだまま、ラグラージは大きく口を開ける。その瞬間、ドダイトスを強烈な眠気が襲った。

 

「ダァ……」

 

ドダイトスの視界が徐々に歪んでいく。あくびという技は相手の眠気を誘い、時間差で相手を眠らせる技。つまり、ドダイトスが眠りに陥るのも時間の問題だ。

 

「ドダイトス!しっかりして!」

 

バランスが悪くなっていくドダイトスにアヤは必死に声をかける。対するヒナはその光景を見てほくそえんでいた。

 

「ラグラージ、冷凍パンチ!」

 

氷の拳が、ドダイトスの目と鼻の先まで迫る。ドダイトスは何とか意識をつなぎ、ウッドハンマーでラグラージをけん制。さらに、ウッドハンマーをかわすために一歩下がったラグラージに向けエナジーボールをぶつけた。

 

「グラゥ!」

 

ラグラージの呻きが洞窟に響く。エナジーボールがヒットしたのだ。

 

「今だ!ドダイトス、ロッククライム!」

 

「……ダァッ!」

 

重たい瞼に鞭を撃ち、ドダイトスはラグラージの懐めがけて走り出す。だが、その直後、激しく地面が揺れた。ラグラージの地震だ。

 

「ドダッ!?」

 

ドダイトスは揺れに足をとられて動けない。ラグラージはそこを逃さず、冷凍パンチを叩き込んだ。

 

「ドダーッ!」

 

弱点の攻撃の直撃を受け、その場に伏すドダイトス。先ほどからの眠気も相成ってもう体力も限界だ。さらに、そこを好機とみてラグラージは滝登りを使って突っ込んでくる。しかし、それでもアヤは必死に声をかけ続けた。諦めなければ奇跡が起こると信じて。そして、その思いはドダイトスと繋がった。

 

「ドーダーッ!」

 

滝登りが直撃する直前、ドダイトスは立ち上がった。そして、全身に力を込め背中の大木から葉の嵐を巻き起こした。リーフストームである。

 

「ラーグーッ!」

 

勢いがついていたせいでラグラージは回避し損ねた。次の瞬間、リーフストームがラグラージを正面から巻き込む。そして、ラグラージはそのまま洞窟の壁に叩きつけられ、その場に倒れこんだ。

 

「ラグラージ!」

 

ヒナは慌ててラグラージに声をかけるも反応はない。彼女は、全てを悟った。

 

「アヤちゃんとのバトル、るんってきたよ!これで私が勝てればもっとるんっだったのにな~」

 

だが、一方のアヤは目の前の光景が信じられず、きょとんとして棒立ち状態だ。

 

「私……、勝ったの……?」

 

「うん!アヤちゃんの勝ちだよ。るんってするバトルありがとう!」

 

ヒナは白い歯をみせ、手を差し出す。この瞬間、ようやくアヤは自分の勝利を実感した。

 

「こちらこそありがとうヒナちゃん。私、リーグでも頑張るね!」

 

彼女も手をヒナに向かって手を伸ばす。すると、二つの手は自然に互いに互いの手を握りしめた。

 

「ドダァ……」

 

「ラグ」

 

彼女たちの後ろでは、ドダイトスと意識を取り戻したラグラージが互いの健闘を讃えている。こうして両者悔いのない清々しいバトルは、幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャンピオンロードを抜けた2人を待っていたのはシラツユ高原だった。

 

「やっと着いた~」

 

アヤの目の前にあるのは、豊な自然の中にそびえたつ巨大なビル——すなわちポケモンリーグだ。豊かな自然の中にそびえたつ人工的な建物は異質である。また、それと同時に独特な緊張感と荘厳さを醸し出している。

 

「ど、ど、どうしよう……。なんだか急に心臓がバクバクしてきた……。う~、ヒナちゃん……」

 

その雰囲気にのまれ、アヤの足がすくむ。しかし、ヒナはそんなアヤをほったらかしどんどん先に進んでいった。

 

「アーヤちゃーん!早く早く!置いて行っちゃうよ~!」

 

ヒナはリーグの扉の前ではしゃいでいる。その様は遊園地にでも来ているようだ。

 

「あぁ!待ってよ!ヒナちゃん!」

 

アヤは大慌てでヒナのところに向けて走り出した。最後の最後まで、こういうところは変わらないアヤである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグの中に入ったアヤとヒナは早速リーグに挑む予約を入れた。その結果、アヤが挑むことになった日は、今日から数えてちょうど一週間後となった。それまで彼女たちはリーグに併設されている宿泊施設で待機しながら、最後の調整に入ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

日時がたつのは速い。気が付けばもうリーグに挑む前夜になっていた。

 

「明日はいよいよ……」

 

ヒナも寝静まった傍ら、アヤは窓の外をずっと眺めていた。明日に全てが決まる。今までの努力の成果が試される。そう考えると緊張がどんどん増し、目がさえて眠れないのである。

 

「えっと……ヒナちゃんから言われたことは……。『ピッキーンカチカチ~ってなってもシャンってなってググッっとすればドーン!』『アヤちゃんはググーンって感じだからトゥルルンって感じ!』他には……」

 

アヤはとりあえずヒナの言葉を思い出して元気になろうと思った。しかし、彼女の意味不明な言葉の意味を考えていると頭がどんどんこんがらがってくる。結局、変に頭を回転させてしまったアヤはますます眠れなくなっていった。

 

「アーヤちゃん!」

 

その時、ヒナが後ろから抱き着いてきた。

 

「うわっ!ヒナちゃん寝ていたんじゃないの!?」

 

「まぁ、確かに寝ていたけどアヤちゃんの独り言がうるさくて起きちゃった」

 

「ご、ごめん……」

 

「別に私は気にしてないよ~」

 

そういいながら、ヒナもアヤの隣にやってきた。

 

「前から思っていたけど、高原で見る星空ってるんってするよね~」

 

この言葉を皮切りに、ヒナの星に関するトークショーーが始まった。星についての豆知識や星座に関する神話。どれもこれもアヤが知らないような面白い話ばかり。気が付けばアヤの緊張感も和らぎ、彼女は心なしか穏やかな気分に浸っていた。

 

「アヤちゃん、これで緊張しなくなった?」

 

ここで、ヒナはアヤの気持ちの核心を突くような言葉を言ってきた。ヒナ的には、どうやらさっきまでのトークショーは緊張を和らげるための作戦だったようだ。

 

「えっ……?」

 

しかし、アヤは急な展開にいまいちついて行けてない。すると、ヒナが小悪魔的な表情を見せた。

 

「アヤちゃんって本当に考えていることが分かりやすいよね~。だってついさっきまで、アヤちゃんの顔に『私は緊張してます』って書いてあったもん!」

 

「う~、ヒナちゃんの意地悪!仕方ないじゃん!明日、今までの努力が試されるんだよ。それで勝てればいいけど、途中で負けて今までの努力が否定されたらと思うと……」

 

アヤの顔に再び『緊張』の二文字が浮かび上がる。と、ヒナは無邪気な表情で笑った。

 

「大丈夫だよ、アヤちゃん!私、アヤちゃんなら四天王にもチャンピオンにも勝てる気がするな~」

 

「えっ、どうして……?」

 

「だって、今のアヤちゃん、るんるんるんってするもん!」

 

相変わらず、意味は分からない。しかし、その言葉を聞いていると次第に彼女の中に元気と勇気が湧いてくる。

 

「ありがとう、ヒナちゃん」

 

アヤはヒナに笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、いよいよポケモンリーグ本番がやってきた。

 

「うーん、来ないな~」

 

その日の朝、アヤとヒナはリーグの扉の前でマリナ博士を待っていた。というのも、昨日、アヤの図鑑に『仕事が終わったら応援に行くね』というメッセージが届いたのである。しかし、待てど暮らせど彼女が来る気配がない。どうやら博士の仕事は彼女のリーグ挑戦に間に合わなかったようである。

 

「うーん、途中で間に合うといいな……」

 

結局アヤは、マリナ博士が途中で間に合うことを願いながらリーグの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーグのフィールドに続く扉は、建物に入ってすぐのところにある。しかし、すんなりと通れるわけではない。最後の確認として、そこの扉の前にいるエリートトレーナーに全てのバッジをみせなければ通れない決まりになっているのだ。

 

「挑戦者よ、ジムバッジをみせよ」

 

「は、はい!」

 

アヤは言われるがままに、エリートトレーナーにジムバッジをみせた。

 

「どれどれ……。動かざる岩を司る証『ボーンバッジ』!可憐なる精霊を司る証『キュートバッジ』!静かなる水を司る証『ジェルフィッシュバッジ』!猛き竜を司る証『ワイバーンバッジ』!燃え上がる闘志を司る証『ガッツバッジ』!母なる大地を司る証『アースバッジ』!漆黒の闇と紅蓮の炎を司る証『ロクモンバッジ』!そして、百戦錬磨のキミたちを称える証『ミッシェルバッジ』!……いいだろう、ここから先に行くことを許可しよう。ただし、先に進めば全員に勝つか手持ちのポケモンが全滅するまで出ることはできない。それでもここから先に行くか?」

 

「はい」

 

アヤは力強く頷いた。

 

「いいだろう。それではチャレンジャーよ、存分に腕を振るうがいい!」

 

エリートトレーナが勇ましい声をあげると扉が、ゆっくりと開く。アヤとヒナは扉の中に入り、四天王が待つフィールドへと続く階段を上りだした。

 

 

 




時間があれば、彩ちゃん以外のキャラを主人公にしたスピンオフでも書きたいな~。


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第三十八話 ドダイトスVSドダイトス

シンシューポケモンリーグは第四世代までの、四天王に挑む順番が決まっているシステムです。
イメージBGMはホウエンのリーグ。戦闘BGMはBWの四天王戦。

四天王戦は3対3のシングルでいきます。


階段を登った先にあるのは重厚感がある扉。この先にフィールドがある。アヤとヒナがそれを開けると、中では金髪ツインテールの少女が待っていた。

 

「あら、ようやく来たのですね」

 

その少女はそう呟くと、ゆっくりとアヤの方に歩いてきた。

 

「うっ……」

 

緊張のあまり、アヤの体が硬直する。しかし、金髪の少女は四天王の名にふさわしく、堂々としていた。

 

「シンシューポケモンリーグにようこそ。私の名前はアリサ。1人目の四天王で草タイプの使い手です。どうかお手柔らかにお願いいたしますわ」

 

アリサはアヤとヒナに丁寧に一礼。見た目や仕草から、なかなか上品なトレーナーである様だ。

 

(草タイプか……)

 

アヤはそう思いながらも、頭の中で軽い作戦会議を開いた。草タイプのことは、日頃よく使っているので弱点や長所は大体把握しているつもりだ。しかし、相手は四天王。どんな手を使って草タイプの力を見せてくるか予想できたもんじゃない。とりあえず、彼女は過去の記憶を呼び起そうとする。が、ここでヒナが思いもよらぬことを言い出した。

 

「へぇ〜、草タイプの使い手か〜。草タイプってさ、大変じゃない?弱点も多いし、有利なタイプも少ないし。よく四天王になれーー」

 

「ヒナちゃん!」

 

アヤは大慌てでヒナの口を手で塞ぐ。しかし、完全に手遅れだった。

 

「おい!そこの付添い人!今なんて言ったぁ!?草タイプバカにしただろ!いいか、たしかに草タイプは弱点も多いし有利な相手は少ない。だけど、それだけで勝敗が決まるほどポケモンバトルっていうのは甘くは——!」

 

ヒナの言葉をトリガーに、突如、アリサの雰囲気が変わった。

 

「「えっ……?」

 

アヤとヒナ、そしてアリサとの間に微妙な空気が流れる。様子から察するに、どうも今までの上品な振る舞いは演技で、こっちの荒々しい性格の方がアリサの本当の姿らしい。

 

「ハッ、勢い余ってつい素の自分が……!……チクショー!こうなったら猫を被るのはやめだ!そのかわりに、お前達に草タイプの底力を嫌という程見せてやる!覚悟しろよチャレンジャー!今更、尻尾を巻いて逃げようとしても無駄だぞ!」

 

アリサはボールを握りしめ、アヤに突き出しできた。

 

 

 

 

 

 

さて、こんなようなやり取りの後、アヤはフィールドを挟んでアリサとにらみ合った。アヤの緊張は最高潮。彼女の心臓の鼓動は今、外に漏れそうなほど鳴り響いている。

 

「いっけー!アヤちゃん!負けるなー!」

 

フィールド脇のベンチからは、いつも通りヒナの声援が聞こえる。今のアヤにとって、この声援だけが唯一の安定剤だ。

 

「よしっ!やるぞ!いっけ〜、レジギガス!」

 

「レレジジジ……」

 

彼女のポケモンリーグ挑戦がついに幕を開けた。記念すべき1体目はレジギガスだ。

 

「へぇ、なかなか珍しいポケモン使ってくるじゃん。それならこっちはコイツだ!いけ、ノクタス!」

 

対するアリサの先鋒はノクタスであった。

 

「タースッ!」

 

相手は自分よりも何倍もあるような大きさであるのに、ノクタスは微塵も驚きもしない。それどころか、レジギガスに鋭い眼光を突き刺してくる。その迫力は決してレジギガスに負けてない。

 

「さすがは四天王のポケモンだね。でも、私たちも負けてないよ。レジギガス!冷凍パンチ!」

 

「レレレレ……」

 

アヤの声を受け、レジギガスの巨体が動き出す。しかし、スロースタートの影響をもろに受けた、レジギガスのその動きはノクタスにとってあまりにもスローであった。

 

「クッタッス!」

 

ノクタスは軽々冷凍パンチをかわし、お返しにタネ爆弾を浴びせてきた。しかし、アヤは全く動じなかった。むしろ、この展開は嬉しい展開である。

 

「レジギガス、怪しい光!」

 

レジギガスはタネ爆弾を軽々こらえ、正面の目のような部分を不気味に点滅させた。どんなポケモンでも、技を放つ時は隙が生まれる。アヤはそれを利用したのだ。

 

「ノクッ!ノクッ!」

 

怪しい光の影響で混乱したノクタスは地面に何度も頭を打ち付けだした。

 

「よし、これでレジギガスのスロースタートが解けるまでの時間を稼げる」

 

ここまで全てアヤのシナリオ通りである。だが、そのシナリオは一瞬で崩れた。あろうことか、ノクタスは状態異常を治す木の実の一種、ラムの実を持っていたのだ。

 

「発想は悪くないけど、相手がこの私だったことが不幸だったな!ノクタス、悪の波動!」

 

「ノークッ!」

 

アリサが鼻高々な表情を見せる一方で、ノクタスの腕に闇の力が集まる。アヤは慌てて、レジギガスに瓦割りを指示。 だが、その瞬間ノクタスの闇の力が消えた。

 

「かかったな!ノクタス、カウンター!」

 

瓦割りがノクタスに炸裂すると同時に、レジギガスはノクタスの強烈な反撃をもらった。その威力は、今のレジギガスが誇るパワーの倍に匹敵する。

 

「レレレレ……!」

 

予想外の痛手にレジギガスが怯む。アリサはそれを見逃さなかった。

 

「ノクタス、けたぐり!」

 

「ノクーッ!」

 

レジギガスの脚に、ノクタスの蹴りが炸裂。

 

「レレ……ジジジ……」

 

レジギガスはその衝撃に耐えきれず、倒れた。

 

「戻って、レジギガス。お疲れ様」

 

アヤは倒れたレジギガスをボールに戻した。そして、次なるポケモンを繰り出した。

 

「ホーーーク!」

 

フィールドに響く勇ましい声。彼女の二番手はムクホークだ。

 

「なるほど、飛行タイプのポケモンできたか。弱点を突いてきたつもりだろうけど、草タイプの恐ろしさを教えるのにうってつけの相手だな。ノクタス、連続でタネ爆弾!」

 

アリサの指示で、ノクタスは辺り一面にタネ爆弾を撒き散らす。それはまるでタネ爆弾の弾幕のよう。いくらムクホークが草タイプに強いとはいえ、この弾幕に考えもなく突っ込むのはリスクが高すぎる。となると、彼女の中に浮かんだ突破口は1つだ。

 

「ムクホーク!電光石火で弾幕をすり抜けて!」

 

「ホークッ!」

 

ムクホークは目にもとまらぬ速さで、タネ爆弾の雨を縫うようにすり抜ける。そして、ムクホークの目はついにノクタス本体を捉えた。

 

「ホーク!」

 

ムクホークはノクタスの懐めがけて飛び込む。燕返しだ。ノクタスはアリサの声を聞くまでもなくカウンターの体勢に入る。しかし、その行動を意味なく、ムクホークの一撃は空を切った。アヤはカウンターを警戒して、わざと攻撃を外させたのである。

 

「今だ!ムクホーク、ブレイブバード!」

 

カウンターのタイミングを逃したノクタスを、ムクホークの翼が切り裂く。

 

「ノクゥ……」

 

ノクタスは前のめりに倒れた。アリサはノクタスを引っ込めった。

 

「へぇ、なかなかやるじゃん。でも、草タイプの恐ろしさはここからだ!いけっ、ナットレイ!」

 

「ナットー!」

 

アリサの2番手は、全身が鋼鉄の遂げて覆われたナットレイだ。

 

「いくぞナットレイ!ジャイロボール!」

 

「ナッートッ!」

 

ナットレイの体が高速で回転し、ムクホークに向かって飛んできた対するムクホークはインファイトで迎え撃つ。威力は互角だ。しかし、受けているダメージはムクホークの表情から察するに、明らかにこっちの方が多い。アヤの頭が一瞬にして混乱する。そんな彼女を前に、アリサは不敵に笑っていた。

 

「どうやらナットレイのことを知らないようだな?しかたない、特別に教えてやるよ。ナットレイの特性は、接触してきたポケモンにダメージを与える「鉄の棘」。まぁ、これだけでも十分なんだけど、私のナットレイは「ゴツゴツメット」という持ち物も持っている。これも接触したい相手にダメージを与える道具なんだ。こうすることで、ナットレイに触るだけでどんどん相手のHPはどんどん減っていく。つまりどういうことかわかるか?お前のムクホークみたいに、肉弾戦を得意とするポケモンは勝ち目がないんだよ!」

 

「そんなぁ……!」

 

アヤは必死に考えた。ムクホークの技で、接触しない技を。だが、ロクな技がない。そもそも、ムクホークはもう技を四つ使い果たしている——と思ったが、彼女は思いついた。まだ、クホークには隠された第五の技を。しかし、その技は一度限りの大技。失敗したら次はない。アヤはムクホークに巧みに指示を出し、ナットレイと対等に渡り合った。燕返しにジャイロボール、インファイトにタネマシンガン、電光石火にはたき落とす、様々な技がひっきりなしにぶつかり合い、しのぎを削る。そして間もなくナットレイにわずかなスキが生じた。この瞬間、アヤは叫んだ。

 

「いくよムクホーク、私たちのゼンリョク!『ファイナルダイブクラッシュ』!」

 

「ホークッ!」

 

ムクホークはアヤの声とともに天井すれすれに飛び上がる。そして、一気にナットレイめがけ急降下。

 

「ムクホーク、ブレイブバード!」

 

さらに、ここにブレイブバードの勢いも加わった。ナットレイもジャイロボールで果敢に立ち向かうも大技が2つも合わさった威力にはかなわず押し負けた。

 

「ナット……」

 

そして、そのまま目を回しひっくり返ってしまった。だが、ムクホークも鉄の棘とゴツゴツメットによるダメージとブレイブバードの反動に耐え切れずダウン。ナットレイとムクホークの激闘は引き分けとなった。

 

「ごめんね、ムクホーク……」

 

「戻れ、ナットレイ」

 

両者のポケモンが同時にボールに戻る。そして、彼女たちはそれぞれ最後のポケモンが入ったボールを取り出した。

 

「ノクタスに続いてナットレイまで倒されるとは予想外だったよ。でも、四天王の名に懸けて、ここから先には通しはしない。私は切り札を使わせてもらうぞ!」

 

「切り札……!?」

 

アリサの力強い声に、アヤが一瞬怯む。しかし、ここまで来たからにはアヤも負けるわけにはいかない。アヤも、一番長く苦楽を共にしてきた相棒が入ったボールをギュッと握りしめた。

 

「それ、これが私の最後のポケモンだ!いけっ、トネガワ!」

 

「ドダイトス!お願い!」

 

彼女たちの手からボールが放たれるとアヤの前にはドダイトスが、そしてアリサの前には『トネガワ』というニックネームが付けられたドダイトスが姿を現した。まさかのドダイトスとドダイトスによる戦いだ。

 

「へぇ、お前もドダイトスを使うんだ。中々いい趣味しているじゃん。気に入ったよ。でも、私のトネガワには勝てない!」

 

トネガワの様子は四天王の切り札に恥じないどっしりとした風貌だ。しかし、アヤもドダイトスの扱いには自信がある。彼女も同じドダイトスを使うトレーナーとして、この戦いに負けるわけにはいかなかった。

 

「ドダイトス、ロッククライム!」

 

「ドダーッ!」

 

先手をとったドダイトスがついに動き出した。しかし、トネガワもアリサも動く様子が一切ない。そのままトネガワはドダイトスのロッククライムをもろに浴びた。

 

「よし、一気に決めるぞ!トネガワ、かみ砕く!」

 

「ダーッ!

 

ドダイトスの一撃を受けきったトネガワの反撃が始まると同時に、強靭な口が、ドダイトスの右前足に食らいつく。ドダイトスは必死にもがき、何とかそれを振り切るも、再びトネガワはドダイトスに食らいついた。この瞬間アヤはトネガワの動きに違和感を感じた。ドダイトスの割に、動きが速いのである。アヤのドダイトスの何倍も素早い。いくら四天王のポケモンとは言え、ここまで能力が差があるのだろうか。アヤの頭の中で、様々な考えがグルグルまわる。だが、その間にもドダイトスはトネガワの素早い猛攻の餌食になっていく。その挙句、ドダイトスは草タイプ最強の技、『ハードプラント』の餌食となってしまった。

 

「ドダー……」

 

幸い、ドダイトスはまだ余裕がある。しかし、アヤはトネガワのスピードが気になって仕方がない。と、ここでアリサがこのカラクリを暴露してきた。

 

「私のトネガワが速いのが気になるのか?なら、答えを教えてやるよ。アヤさんのドダイトスがロッククライムを使っている間にトネガワにはロックカットを使わせたのさ。ロックカットって知っているか?体の無駄な部分を削ってスピードを上げる技なんだぞ!ただ攻撃を耐えて反撃するだけの、硬くて強くて遅いドダイトスはただのドダイトス。最強のドダイトスは硬くて強くて速いんだ!それ、ドダイトス、もう一回攻撃を畳みかけるぞ!ギガドレインだ!」

 

「わ、私のドダイトスだって負けてないよ!ドダイトス、ウッドハンマー!」

 

再び、ドダイトスとトネガワの激戦が始まった。巨体と巨体のぶつかり合いはものすごい迫力だ。しかし、その間にもドダイトスはトネガワのスピードについて行けず、着々と体力を削られていく。そして、とうとうアヤのドダイトスは2度目のハードプラントを受けてしまった。

 

「ドダァ……」

 

何とかドダイトスはまだ立っている。しかし、もうその体力は赤信号を発している。早いところ勝負を決めなければ、アヤに勝機はない。

 

「ハードプラントを2度も耐えたことは素直に褒めてやるよ。でも、お前のドダイトスはもうひん死寸前。これは私が勝ちは決まりだな。ま、私のドダイトスに勝てたポケモンなんて——」

 

さらにアヤを焦らせるかのようにアリサの言葉が彼女を揺さぶる。追い詰められたアヤの頭は真っ白だ。

 

「アヤちゃん、落ち着いて!ドダイトスが立っている限り勝機はあるよ!」

 

と、ベンチの方からヒナの声が聞こえた。おかげで勝機を取り戻したアヤは一度深呼吸をする。そして、アヤはアリサの違和感に気が付いた。

 

(そういえば、バトル中にもかかわらずアリサさんの話長いな……。これも作戦のうち?あっ、何かのもしかして時間稼ぎとか?)

 

この瞬間、アヤは大きな賭けに出た。アリサの話を無視しして攻撃することにしたのだ。

 

「ドダイトス、もう一度ロッククライム!」

 

「ドダッ!」

 

アリサの話をBGMにドダイトスのロッククライムがトネガワに炸裂する。それを起点にドダイトスはトネガワにを攻撃を叩き込む。トネガワはそれをもろに受けた。性格に言えばハードプラントの反動のせいで、トネガワは避けられなかったのだ。

 

「反動の隙を話術でごまかして、反動が解ける時間を稼ぐ作戦だったのに……!作戦失敗だ!でも、ドダイトスの体力は少ない。これで決めるぞ!トネガワ、ハードプラント!」

トネガワが叫びをあげると、床から巨大な根がせり出す。しかし、二度も三度も同じ技の餌食になるほどアヤとドダイトスは弱くない。アヤのドダイトスはストーンエッジを発動し、ハードプラントの勢いを殺す。そして、反動で動けないトネガワに向け、リーフストームを放った。

 

「ドダーッ」

 

葉の嵐がトネガワを飲み込む。それが終わると同時に、トネガワは目を回しながら倒れた。

 

「まじか……」

 

アリサは、動けなくなったトネガワを呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ポケモンリーグの初戦は見事アヤの勝利となった。ヒナとともに舞い上がるアヤを、アリサは下唇を噛みながら睨んでいた。

 

「チクショー!この私が負けるなんて……!あーもー!そこの2人!私に勝ったぐらいで調子に乗んじゃねーぞ!まだポケモンリーグは始まったばかりだ!さっさと次の部屋に行け!ほら、早く!」

 

「あ、はい!」

 

アリサにせかされ、アヤたちは開かれた次の部屋に向かおうとする。しかし、部屋から出る直前に、またアリサの声が響いた。

 

「そうそう、一つ言い忘れた。……いいな、ここから先、滅茶苦茶強いトレーナばかりだけど、絶対に負けんなよ!あっ、勘違いすんじゃねーぞ。別にお前にチャンピオンになって欲しいってわけじゃないからな。もし、お前が中途半端なところで負けたら、私が負けた意味がなくなっちゃうからこういっただけだぞ。だから……、その……、が、頑張れよ……」

 

アリサはこのセリフの間ずっと後ろを向いていたので、その表情は分からない。しかし、オクタン並みに顔を真っ赤にしていることは何となくわかる。

 

「ありがとうございます、アリサさん」

 

アヤは背に向けたアリサに一礼すると、ヒナとともに次の四天王が待つ部屋に向かっていった。

 

 




おまけ:有咲のパーティー一覧(本気モード)
・多分リーグ二週目以降に戦える本気有咲の手持ちです。★のついたポケモンがエース。ちなみにこの世界の有咲はユキゲタウン出身で、実家は『リュウセイ堂』という質屋です。つまり、第二十九話で登場したリュウセイ堂のおばあさんの孫は有咲です。


★ドダイトス@クサZ
特性:新緑
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・ウッドハンマー
・地震
・ストーンエッジ
・ロックカット

☆ノクタス@気合のたすき
特性:貯水
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・不意打ち
・カウンター
・剣の舞
・種爆弾

☆ナットレイ@ゴツゴツメット
特性:鉄の棘
性格:のんき
努力値:HB252

・ジャイロボール
・宿り木の種
・種マシンガン
・守る

☆フシギバナ@フシギバナイト
特性:新緑
性格:おだやか
努力値:HD252

・ギガドレイン
・ヘドロ爆弾
・光合成
・目覚めるパワー(炎)

☆ユレイドル@オボンの実
特性:呼び水
性格:穏やか
努力値:HD252

・自己再生
・ギガドレイン
・毒毒
・ステルスロック

☆キノガッサ@毒毒玉
特性:ポイズンヒール
性格:陽気
努力値:HS252

・きのこの胞子
・身代わり
・岩石封じ
・気合パンチ




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第三十九話 儚い四天王

ということで四天王第二回戦目です。ちなみに彩ちゃんは一人目と二人目の四天王の間でしっかりポケモンの回復をしています。


さて、無事に1人目の四天王を突破したアヤはヒナとともに階段を上り、2人目の四天王がいる部屋の扉を開けた。

 

「あれ、ここであっているよね……」

 

アヤたちの扉を開けた先で待っていたのは真っ暗闇。すぐ隣にいる人の顔すらわからない。

 

「おーい、四天王さーん。おーい!」

 

慌てるアヤの隣でヒナはしきりに四天王を呼ぶ。と、向こうで人の気配がした。

 

「私を捜しているのかい?」

 

2人が声の方に向くと、天井からスポットライトが差し込み、1人の少女を照らす。その少女は、女性とは思えぬほど実にイケメンだ。その風貌や素振り、口調は、白馬に乗った王子様そのもの。彼女はフィールドの明かりが完全につくと、そのキャラを崩さぬまま、アヤたちの方に美しく歩いてきた。

 

「フフフ、待っていたよ。私は世界で最も儚いトレーナー、カオル。君のような素敵な子猫ちゃんと出会えて光栄に思うよ。そして、私は今日という日に導いてきた残酷な運命を恨むよ」

 

「う、恨む……?どうして……?」

 

カオルの口からとてもとても自己紹介で使うような単語ではない単語が飛び出しきた。アヤが困惑したのは言うまでもない。だが、カオルは一切気にすることなく、自分の世界を展開してきた。

 

「そんなこと、決まっているだろ?私たちは、互いに運命に導かれてここにいる。その結果、私は憎き宿敵として子猫ちゃんの前に立たなくてはいけなくなってしまったのだ。これぞまさしく運命の悪戯!これを恨まずにして、何を恨めばいいのだろうか!?」

 

「……?」

 

その舞台のようなセリフと素振りにアヤはついて行けない。一応ヒナに横目で助けを求めるも、ヒナは目を輝かせていた。これは確実に『るんってきた』と思っている時の目だ。恐らく、不思議な話し方をする者同士なにかシンパシーを感じているのだろう。こうなってはヒナはもう頼れない。しかし、カオルの話は終わる気配がなかった

 

「——でも、私たちは運命にあらがうことは許されない。偉大なあの人もこういう言葉を残している。『運命とは、最もふさわしい場所にあなたの魂を運ぶのだ』とね」

 

「それってどういう意味……?」

 

アヤの頭ははてなマークで一杯。もう爆発寸前だ。ところが、カオルはそんなアヤに止めを刺しに来た。

 

「フフフ……。つまり、そういうことさ」

 

カオルの答えは全く答えになっていない。アヤは、その言葉の意味を考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがありながらも、アヤとカオルは間もなくフィールドを挟んで向かい合った。ようやくポケモンリーグの二回戦目だ。ヒナはいつも通り、ベンチから声援を送っている。アヤは、それに勇気をもらいながら、最初のポケモンが入ったボールを取り出した。

 

「さて、君はどんな儚い戦いを私に見せてくれるのかな?今から楽しみだよ。それでは始めようか、私達だけにしかできない、最高に儚い舞台(たたかい)を!儚く舞いたまえ、トリデプス!」

 

カオルは、アヤがボールを取り出したのを見ると先鋒を務めるトリデプスを繰り出した。

 

「いけ、ドダイトス!」

 

一方のアヤの先鋒はドダイトス。一応タイプ相性は有利だが、ここから先の展開は全く見えない。決して油断はできない戦いだ。

 

「先手は頂くよ。トリデプス、儚い技を一つ頼むよ」

 

「デーップス!」

 

トリデプスはカオルの意味不明な支持を瞬時に読み解くと、鋼鉄のような頭を光らせ、猛進してきた。アイアンヘッドだ。

 

「ダァー!」

 

対するドダイトスはウッドハンマーで迎え撃つ。しかし、ウッドハンマーとアイアンヘッドがぶつかった瞬間、ドダイトスの体をトリデプスから放たれた火炎放射が包んだ。

 

「ドダァ……!」

 

想定外の一撃をもらったドダイトス。しかし、これしきの事で倒れるほどやわなドダイトスではない。ドダイトスはすぐに体制を整えた。

 

「よし、ドダイトス、地震!」

 

ドダイトスはアヤの声を聞くと前足を地面に叩きつけ、地面に住様しい衝撃を起こす。が、これがドダイトスの命とりとなってしまった。

 

「トリデプス、メタルバースト」

 

「リデーッ!」

 

カオルの儚い指示と同時に、トリデプスの周りに無数の鉄片が漂う。そして、それは一斉にドダイトスに飛び掛かってきた。

 

「ドダッ!」

 

ドダイトスはリーフストームを撃ち、メタルバーストを殺そうとしたが、それはあっけなくリーフストームを貫通。鉄片は容赦なく、四方八方からドダイトスに襲い掛かってきた。

 

「ドダ……」

 

鉄片の強襲が終わった時、ドダイトスは腹を床につき気絶していた。戦闘不能である。

 

「フフフ、君のドダイトスはとても素晴らしいポケモンだ。だから、手遅れにならないうちに対策させてもらったよ。今の技は、自分が受けたダメージを増幅させて相手に返す技でね、相手が強ければ強いほど意味が増す最高に儚い技なのさ」

 

「うぅ……、まさか、こんなにあっさりドダイトスが負けるなんて……」

 

アヤはカオルの解説を聞きながらドダイトスをボールに戻した。そして、次なるポケモン、カブトプスを繰り出した。

 

「トープス!トープス!」

 

カブトプスはボールから出るや否やアヤに抱き着いてくる。相変わらず痛いし苦しいが、不思議とこの恒例行事を受けていることで安心感を覚えている自分がいた。

 

「よし、カブトプス頼りにしているからね」

 

アヤはカブトプスの頭を撫でる。するとカブトプスは力強く頷き、フィールドに降り立った。

 

「おやおや、ずいぶんと儚い絆を見せてくれるじゃないか。ここからの展開が楽しみだよ」

 

と、言うセリフとともにカオルはトリデプスにアイコンタクトを送る。トリデプスはカブトプスに猛進してきた。

 

「カブトプス、熱湯!」

 

それに対し、カブトプスは正面から熱湯を吹きつける。

 

「デプスッ!」

 

熱湯の威力に負け、勢いが弱まるトリデプス。その瞬間、カブトプスはすかさずアクアジェットでトリデプスを攻撃。そして、間髪入れずに再度熱湯を吹き付け、トリデプスを仕留めた。

 

「いいバトルだったよ、トリデプス」

 

カオルは倒れたトリデプスを引っ込め、新たなポケモン『ドータクン』を繰り出した。

 

「ドー」

 

低く重い声、無機質な姿で宙を漂う様。ドータクンとは、何を考えているかわからない実に不気味なポケモンである。しかし、それを理由に怯んではアヤに勝機はない。

 

「カブトプス、シザークロス!」

 

「トーップス!」

 

カブトプスは両腕についている自慢のカマを振りかざし、勢いよくドータクンに飛び掛かる。が、シザークロスがドータクンに当たる直前、一瞬アヤの視界が歪んだ。

 

「な、なに!?」

 

視界が戻ると同時に彼女は異変に気が付いた。今さっきまでの勢いはどこへやら、カブトプスはまるで、動画をスローモーションで再生しているかのようにゆっくり、ゆっくり動いているのである。

 

「フフフ。生憎だけど、たとえ相手がかわいい子猫ちゃんでも、勝利は簡単には渡さないよ。カブトプスの動きが急に遅くなったのは、ドータクンが使った『トリックルーム』という技のせいさ。この技の効果が持続している限り、素早いポケモンは動きが遅くなり、動きが遅いポケモンは速くなるんだ」

 

アヤは完全にカオルの策にハマった。トリックルームという未知なる状態。そして、目の前に広がっている光景。アヤが焦るには十分すぎる状況である。

 

「さてと、舞台も整ったことだし、華麗なる勝利を掴みに行くとしようか。ドータクン、ラスターカノン!」

 

「ドー」

 

ドータクンの体の一点から強烈な光が放たれ、動きが鈍ったカブトプスに襲い掛かる。

 

「カブトプス!カブトプス!」

 

それを見たアヤの焦りは増すばかり。結局、彼女は焦るあまり有効な打開策を見つけることができなかった。カブトプスは手も足も出ないまま、ドータクンに倒れてしまった。

 

「戻って、カブトプス」

 

アヤは肩を落としながらカブトプスを引っ込めた。

 

(どうしよう……。トリックルームの対策が思いつかないよ……。素早さが遅いほど早く動けるなんて……。うー、こうなったらよくわからないけど、私も遅いポケモンを……!)

 

彼女は最後であり、彼女の手持ちの中で最も鈍重なポケモンを繰り出した。ハガネールである。

 

「ガッネール!」

 

巨体なハガネールの動きは実になめらかである。アヤの読み通り、普段は遅いハガネールはトリックルームの中でも問題なく動けていた。

 

「最後のポケモンがハガネールとは儚い。さぁ、どこまで私についてこられるかな?ドータクン、シャドーボール!」

 

「ドー」

 

ドータクンから黒い影の塊が放たれる。

 

「ハガネール、アイアンテールで打ち返して!」

 

「ネール!」

 

アヤのハガネールは見事それを撃ち返し、ドータクンにお見舞いする。そして、間髪入れず炎の牙でドータクンに食らいついた。

 

「やったのかな……?」

 

ドータクンから濛々と立ち込める黒煙を見て、アヤは呟く。しかし、彼女とハガネールの前に現れたのは、ハガネールの攻撃などなかったかのように悠々と宙を浮くドータクンだった。

 

「フフフ、なんて儚い攻撃なんだ。私のドータクンでなければ、きっとひん死していただろうね」

 

カオルの言葉にアヤはたじろいだ。

 

「うぅ……、あれだけ攻撃が直撃したのに……」

 

ドータクンが無表情なため、効いているか効いていないかはわかりにくい。しかし、様子から察するにやせ我慢ではないことは確かなようだ。本当ならハガネールに地震を撃たせれば、流石のドータクンにも致命傷を与えられるはずだが、相手が浮いている以上地震は当てられない。と、思ったが、アヤはふと思った。

 

(それなら、ドータクンを浮いていない状態にしちゃえば……)

 

そう思っていると、ドータクンが再び迫ってきている。こうなったら物は試しだ。

 

「ハガネール、炎の牙でドータクンを押さえつけて!」

 

ハガネールは彼女の指示を聞くと瞬時にドータクンに食らいつき、床に押さえつけた。祖その瞬間、アヤは叫んだ。

 

「今だ!地震」

 

ハガネールはドータクンを抑えたまま、長くて強靭な尾を打ち付け、床に物凄い振動を引き起こす。

 

「ドー!?」

 

普段浮いているせいで、地面タイプの技とは無縁のドータクンにとって、これは想定外の一撃である。慌てて宙に戻ろうとしても、ハガネールの炎の牙が食い込んでおりそれから逃れられない。

 

「ネール」

 

しばらくたって、ハガネールはドータクンを放した。しかし、ドータクンはその場に転がったまま動くことはなかった。そして、それと同時に歪んでいたフィールドの時空が元に戻った。どうやら丁度、トリックルームの効果が切れたようだ。

 

「よく頑張ってくれたね、ドータクン」

 

カオルはドータクンをボールの中に引っ込めた。そして、彼女は最後のポケモンが入ったボールを取り出した。

 

「これが、私の最後のポケモンだ。さぁ、その儚い姿を見せておくれ!ボスゴドラ!」

 

「ドラァ!」

 

ボスゴドラ。フィールドに降り立ち、どっしりと構えるその様は四天王最後のポケモンに相応しい。とはいえ、アヤはハガネールだってボスゴドラに負けないくらい堂々としていると思っている。彼女たちはボスゴドラとカオルを睨んだ。

 

「ボスゴドラ、華麗な最終章に相応しい儚い技を頼むよ」

 

「ゴドラァ!」

 

再びカオルの口から意味不明な指示が飛び出す。だが、ボスゴドラはトリデプス同様その指示を正確に理解し、吹雪を放った。

 

「ネール!?」

 

猛烈な吹雪でハガネールの視界が奪われる。と、ハガネールの胴体に強烈な衝撃が走った。吹雪のせいで敵を見ることができないが、ボスゴドラはすぐそこにいるようだ。ハガネールはアイアンテールを振り回し、相手を探そうとする。しかし、ボスゴドラは闇雲に振り回される鋼鉄の尾をがっしり掴むと、そのまま豪快に投げ捨てた。

 

「ボスゴドラ、アクアテールだ!」

 

「ドラァ!」

 

投げ捨てられたハガネールは起き上がる前に手痛い追撃をもらった。

 

「ガッネール……」

 

ハガネールは何とか立ち上がった。流石、アヤの手持ちの中で最強の耐久力を誇るポケモンなだけある。だが、強力な技をじかに浴び続けたせいで、自慢の耐久力も悲鳴を上げていることも事実だ。中々厳しい戦いである。そろそろ有効な攻撃を与えないと、アヤの勝利は絶望的になってくることは疑いようもない。

 

(ボスゴドラのタイプは見た感じ岩タイプと鋼タイプだから、一回でも地震を当てられれば勝てるんだけどな……)

 

と、アヤは思うが地震は絶大な威力を誇る代わりに技を出す際の挙動が大きい技でもある。迂闊に地震を撃てば、その隙攻撃を受け、自分の首を絞める結果になってしまう。

 

「ボスゴドラ、これでフィナーレだ!」

 

そうこう考えていると、カオルはアヤに止めを刺しに来た。ハガネールに迫るボスゴドラ。もう考えている暇はない。アヤは自身の直感とハガネールを信じることにした。

 

「ストーンエッジ!」

 

彼女が声をあげると、ハガネールは自身の前に、刃のような岩を自身の前にせり出させた。それはちょうど縦のようである。

 

「ゴドラッ!」

 

ボスゴドラはこれを空手チョップで破壊。でも、これでいいのだ。ストーンエッジはおとりに過ぎない。ハガネールは空手チョップが岩に放たれた瞬間、長身を生かし、ボスゴドラの背後に回り込んだ。

 

「今だ、炎の牙!」

 

「ガネールッ!」

 

ハガネールはボスゴドラに炎の牙を食い込ませた。

 

「ゴドォ!」

 

ボスゴドラは不意の一撃に驚き、怯む。この隙にハガネールは上半身をボスゴドラに巻き付かせた。そして、逃げられないようガッチガチに押さえつけた。

 

「ハガネール、地震!」

 

ハガネールはアヤの声を聞くと、余った下半身を床に打ち付け、再び強烈な振動を引き起こした。まさに、巨大なハガネールだからこそできる荒技である。

 

「ゴド……」

 

絶対に逃げられない状況で、弱点の地震をもろに浴びたボスゴドラは、ハガネールから解放されると目を回しながら倒れた。アヤの勝利が確定した瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わると両者は互いのポケモンをボールに戻した。と、不意にカオルが笑いだした。

 

「フフフフ、儚い。これがチサトやカノンが認めたトレーナーの実力なのか」

 

ここで思いもよらぬ人物の名前がカオルの口から飛び出した。

 

「チサトちゃんとカノンさん!?カオルさんって、2人と知り合いなんですか!?」

 

アヤは驚きを隠せず、裏返った声をだす。と、カオルは笑みを浮かべながらアヤに話しかけてきた。

 

「あぁ。私の出身はムラサメシティでね、同じ街出身のチサトやカノンとは古くから友人なのさ。だから、キミの話は前々からチサトとカノンから聞いていたんだ。2人とも、キミのことを『素晴らしいトレーナー』だと褒めていたよ。でも、私が思うに、キミは素晴らしいトレーナーなんかじゃない。君はとっても『儚いトレーナー』だよ」

 

「儚い……?」

 

またカオルの謎ワードが飛び出てきた。バトルの最中もずっと気にはなっていたが、彼女が言う『儚い』とは一体全体なんなのだろうか。少なくともアヤには全く理解できない概念である。しかし、カオルはそんなことは一切気にせず自分の世界に入っていく。

 

「そう、キミはとっても儚いんだ!まるで荒野に咲く一輪の花の如く!何度踏まれても立ち上がる草の如く!これを儚いといわずして、何を儚いというのだろうか!あぁ、儚い!儚すぎる!これだけ儚い君なら、これから先どんな強敵が待っていようと勝ち進んでいけるさ。幸運を祈るよ、儚い子猫ちゃん」

 

「あ、ありがとうございます!カオルさん!」

 

意味はよく分からないが、とりあえず応援してくれていることだけは確かなようだ。アヤは、一礼すると、三人目の四天王がまつ部屋に進もうとした。が、部屋を出る直前彼女は気が付いた。隣にいるはずのヒナがいないのである。

 

「ヒナちゃん!?」

 

慌てて後ろを振り向くと、ヒナはそこにいた。彼女はカオルとすっかり話し込んでいた。どうやらヒナはカオルの世界に引き込まれてしまったようだ。でも、彼女たちの話が終わるのを待っていては日が暮れてしまうのは火を見るより明らか。

 

「やだやだやだぁ~!カオルくんと話すのるんってするからもっと話していこうよ!ねぇ~アヤちゃ~ん!」

 

アヤは駄々をこねるヒナを無理やり引きずりながら、3人目の四天王が待つ部屋に向かったのであった。

 




おまけ:薫のパーティー一覧(本気モード)
・多分リーグ二週目以降に戦える本気薫さんの手持ちです。★のついたポケモンがエース。本文を読んで、何となく気が付いている人もいるかもしれませんが、薫さんは『鋼タイプ』の使い手です。

★ボスゴドラ@ボスゴドラナイト
特性:頑丈
性格:腕白
努力値:HA252

・ヘビーボンバー
・地震
・冷凍パンチ
・諸刃の頭突き

☆エアームド@ゴツゴツメット
特性:頑丈
性格:腕白
努力値:HB252

・吹き飛ばし
・ステルスロック
・羽休め
・ドリルくちばし

☆ギルガルド@弱点保険
特性:バトルスイッチ
性格:冷静
努力値:HC252

・シャドーボール
・ラスターカノン
・影打ち
・キングシールド

☆ジバコイル@ハガネZ
特性:頑丈
性格:控えめ
努力値:CS252

・ラスターカノン
・十万ボルト
・目覚めるパワー(氷)
・ボルトチェンジ

☆トリデプス@バンジの実
特性:頑丈
性格:生意気
努力値:HD252

・メタルバースト
・火炎放射
・地割れ
・毒毒

☆ドータクン@オッカの実
特性:浮遊
性格:呑気
努力値:HB252

・トリックルーム
・大爆発
・ジャイロボール
・思念の頭突き




おまけ2:日菜の手持ち紹介

今までなんだかんだで明かされていなかった日菜ちゃんの手持ちの紹介(技やキャラとか性別とか)&ゲットされた経緯です。

☆ラグラージ(♂)
特性:激流

・ハイドロポンプ
・地震
・冷凍パンチ
・あくび
その他多数……

性格
・性格は極めてマイペースでしょっちゅういびきをかいて寝ている。というか基本寝ている。

ゲットされた経緯
・話は日菜が紗夜ともめた挙句、手持ちをすべてポケモンセンターに預けた直後に遡る。手持ちも持たず、あてもなくその辺を彷徨っていた日菜は偶然とある研究所で短期のアルバイトを見つけ、特にやることがなかった日菜は研究所でのアルバイトを始めた。そして、その研究所で彼女は一匹のミズゴロウに出会い、そのミズゴロウを気に入ったヒナは全てのバイト代を捨てて、代わりにこのミズゴロウを譲って貰たのであった。これを育て上げたのが今のラグラージである。

☆テッカニン(♀)
特性:加速

・シザークロス
・燕返し
・剣の舞
・影分身等……

性格
・一人でいることを好み、集団でいることを嫌う一匹狼タイプ。その為、日菜にゲットされた当初はあの手この手で脱走しようとしたが、日菜にあの手この手で食い止められて今に至る。それでも、日菜と接するうちにテッカニン自身も彼女のことを信用するようになり、今ではなんだかんだで日菜や彼女の仲間たちと仲良くやっている。

ゲットされた経緯
・とある森で絶対誰にもゲットされないことを信条に生きてきた——のだが、日菜に「るんてきた!」と目をつけられたのが運の尽き。三日三晩休みなく追い掛け回された挙句、強引にゲットされた。

☆ポリゴンZ(性別不詳)
特性:適応力

・破壊光線
・冷凍ビーム
・悪の波動
・十万ボルト等……

性格
・日菜をもってしてもよくわからない。何を考えているのかわからない。ミステリアスなポケモン。でも日菜的にはそこが面白いらしい。

ゲットされた経緯
・元はとあるゲームセンターの景品。ポリゴンZを交換するには今までの景品とはけた違いの量のコインが必要であり、ゲームセンターの店主は「絶対に交換されない」と高をくくっていた。が、ポリゴンZを入荷した初日に日菜が襲来。彼女はあれよあれよとコインを山ほど貯め、ポリゴンZはあっさりとヒナの手に渡った。ちなみに日菜がゲームセンターに入ったのは後にも先にもこの時一回だけ。日菜は狙ってコインを溜めたのではなく、適当にいじっていたらたまたまコインが溜まっただけでである。

☆クマシュン(♂)
特性:びびり


・凍える風
・鳴き声
・粉雪
・我慢

性格
・人懐っこい性格。無邪気な子供のようにいろんな人に甘えてくる。バトル面ではまだまだ未熟だが、日菜によれば『きっと将来はシューンってなってババーンドーンでるんって感じ」とのこと。とりあえず潜在能力は高いらしい。

ゲットされた経緯
・第十二話を参照









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第四十話 青薔薇は頂点に狂い咲く

これが平成最後の投稿です!


三人目の四天王がいる部屋に入ったアヤとヒナを真っ先に出迎えたのは、ピリピリと張りつめた空気であった。

 

「……」

 

「……」

 

その荘厳さに、思わずアヤとヒナは立ちすくむ。しかし、2人の正面に立つ銀髪の少女は動ずる様子もなく、じっと腕を組みこちらを睨んでいた。その少女におびえているせいか、アヤは声が出ない。と、その銀髪の少女が口を開いた。

 

「貴女がチャレンジャーであっているかしら?私の名前はユキナ。シンシューポケモンリーグの四天王であるとともに、貴女と同じく頂点を目指す者よ」

 

「頂点……?ポケモンリーグにいる時点でもう頂点にいるじゃん。頂点にいるのに頂点を目指すって変なの~!」

 

と、ここでヒナが荘厳な空気をぶっ壊して笑い出した。

 

「ヒナちゃん!」

 

アヤは嫌な予感を感じ、笑うのをやめさせようとしたがもう手遅れ。ユキナは殺気をこっちに向けていた。

 

「貴女たちは何かを勘違いしているようね。私が目指す頂点はポケモンリーグなんていう中予半端なものではない。私が目指すのはポケモンリーグの頂点。すなわちチャンピオンよ!四天王の地位なんて、ただの通過点に過ぎないわ!私は必ずチャンピオンを倒して、新たなチャンピオンとして頂点に狂い咲く。その為に、私は人生のすべてをポケモンバトルに注いできた。その辺のチャレンジャーなんかに負けるわけないわ!」

 

「わ、私だって!」

 

アヤもユキナを睨み返す。と、ユキナの一層鋭くなった。

 

「そう。それならば、今ここではっきりと決めましょう。貴女と私、どちらが新しいチャンピオンに相応しいかを!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、アヤにとって三人目となる四天王戦が始まった。

 

「いけ、ハガネール!」

 

ベンチに座るヒナの声援を受けながら、アヤはガネールを繰り出した。

 

「ハガネール……、悪くない相手ね」

 

ユキナはハガネールを見ると、静かにボールを投げた。

 

「バーット!」

 

中から出てきたのはクロバット。ついに両者のポケモンがそろった。バトルの幕開けだ。

 

「行くよ!ハガネール、岩雪崩!」

 

「ガッネール!」

 

先手を奪った彼女たちはクロバットの頭上に無数の岩を降らせる。しクロバットはユキナの声を聞くまでもなく、岩と岩の間をすりぬける。だが、そのくらいアヤの計算内の出来事である。

 

「アイアンテール!」

 

クロバットが岩雪崩を回避しきった瞬間、アヤの声が響く。それと同時に鋼鉄の尾がクロバットに襲う。だが、渾身の一撃はむなしくも空を切った。それどころか、この拍子に彼女とハガネールはクロバットの姿を見失ってしまった。

 

「クロバット、怒りの前歯」

 

アヤが戸惑っていると、ユキナの声がした。

 

「ネール!」

 

と、アヤの耳にハガネールの呻きが飛び込んだ。しかし、アヤからはクロバットの姿が見えない。どうやらクロバットは、ハガネールとアヤの死角に回り込んでいるようだ。カオルと戦った時に役に立った『巨体』というハガネールの特徴が、今度は逆に仇となってしまったのである。

 

「ガッネール!」

 

ハガネールはクロバットを追い払おうと、自身の周りに岩雪崩を撃つ。すると、狙い通りクロバットはハガネールから離れた。そしてこの時、アヤとハガネールの眼はクロバットの姿をはっきりととらえた。

 

「ハガネール、ギガインパクト!」

 

勝負を決めるなら今だ。そう思い、アヤは声をあげ、ハガネールは全身で飛び込んだ。

 

「かわして」

 

と、ユキナのこえがした。この声でクロバットは瞬時にギガインパクトを回避。再びハガネールとアヤの死角に回り込んだ。その動き動きはまさに風のよう。こんな機敏な動き、アヤとハガネールは勿論、ヒナですら見たことがない。

 

「クロバット、もう一度怒りの前歯」

 

ユキナ以外の誰しもが唖然としていると、ハガネールは再び攻撃を受け怯んだ。それを機にクロバットはハガネールに熱風を浴びせ、止めを刺した。

 

「も、戻って……、ハガネール……」

 

余りに鮮やかな動きに、アヤは手も足も出なかった。『チャンピオンになる』というセリフは決して伊達ではないことを、彼女は思い知った。

 

「どうしよう……」

 

とはいえ、ここで怖じ気いていてはアヤのチャレンジはここまでである。彼女は意を決し、サーナイトを繰り出した。

 

「サーナ」

 

サーナイトはフェアリータイプも持っているため、毒タイプのクロバットには不利だ。しかし、サーナイトは毒タイプに強いエスパータイプも持っている。さらに、アヤのサーナイトは切り札を持っていた。

 

「絆の力、きらめけ!メガシンカ!」

 

アヤが腕に取り付けたメガリングを掲げると、サーナイトが持つメガストーンが共鳴し、メガサーナイトが爆誕した。

 

「あら、貴女、メガシンカを使えるの?」

 

対するユキナはあっさりとそう言うと、クロバットにアイコンタクトを送った。

 

「バーット!」

 

しかし、クロバットはサーナイトの真横をかすめただけだ。それを好機と見たサーナイトはこの隙に瞑想をし、自身のパワーを高める。さぁ、ここから反撃だ——と、アヤは思った。しかし、いざ指示を出そうとしたとき、アヤはサーナイトの異変に気が付いた。心なしか、サーナイトの表情が歪んでいるのだ。

 

「あら、サーナイトが猛毒状態になったことを見抜いたのね。よく戦況を見ているわね」

 

怪訝な表情をするアヤに、ユキナはそう告げた。実は、クロバットは先ほど真横をかすめたとき、サーナイトに『毒毒』を浴びせたのである。この技を受けたポケモンは、じわじわとひん死になるまで体力を削られていく。つまり、サーナイトには強制的にタイムリミットが課せられたということになる。

 

「で、でも瞑想もつかってあるし、一撃でも当てれば勝ち筋は見えてくるはず……!サーナイト、サイコキネシス!」

 

もう時間はない。アヤとサーナイトは攻めに出た。が、ユキナは決死の攻撃をあざ笑うような采配を振った。

 

「クロバット、影分身」

 

クロバットは自身の分身を無数に生み出す。サーナイトの攻撃は、むなしくもその分身の1体に当った。

 

「サナ……」

 

「えっと……」

 

気が付けば、サーナイトの頭上には無数のクロバットが飛び回っていた。ユキナはアヤたちを錯乱させ、徹底的に時間を稼ぐつもりのようだ。

 

「どうしたのかしら?早く攻撃しないと、サーナイトは毒が体中に回るわよ」

 

ユキナはアヤたちに余裕の一言をかける。しかし、当のアヤはそんなこと言われてもどうしようもなかった。分身が多すぎるうえ、1体1体の動きが素早いので、狙いが定められないのだ。しかし、そうこうしている間にもサーナイトの表情はどんどん歪んでいった。

 

「そろそろ止めを刺そうかしら。クロバット、熱風」

 

「バーット!」

 

次の瞬間、フィールド上を熱風が吹き抜けた。いくらサーナイトが瞑想をしていたからとはいえ、体力切れ間近でのこの一撃は辛い。しかし、この一撃がアヤに思いもよらぬ発想を与えた。

 

(熱風みたいに、フィールド全体を一気に攻撃しちゃえば……)

 

もう、サーナイトの体力的に考えている暇は一秒たりともない。アヤは大博打に打って出た。

 

「サーナイト、連続で十万ボルト!」

 

「サーナ!」

 

サーナイトは十万ボルトを乱射しだした。

 

「はぁ……。いくらピンチでも、闇雲に撃っても当たらないわよ」

 

ユキナはそれを見て呆れたような表情を見せる。が、アヤの作戦はここからだった。

 

「サーナイト、十万ボルトにサイコキネシス!十万ボルトをフィールド中に走らせて」

 

「サーナ!」

 

突如、超能力を受け十万ボルトの軌道が変わった。十万ボルトは超能力を受け、縦横無尽に駆け巡る。それはまさしく十万ボルトの嵐のようだ。

 

「そんな……!」

 

予想外の奇策に、ユキナもクロバットも固まる。その隙に十万ボルトの嵐はクロバットの分身をどんどん削り、残り半分ほどになったところでついに本体をとらえた。

 

「バーッ!」

 

十万ボルトが当たるとクロバットの分身が一気に消え、本体があらわとなった。サーナイトは本体に向けサイコキネシスを放つ。すると、クロバットの叫びが聞こえた。攻撃は確実に効いている。バトルの流れは完全にアヤのものだ。

 

「サーナイト、止めのサイコキネシス!」

 

アヤの全力の叫びがフィールドに響く。しかし、サーナイトはサイコキネシスを放たなかった。いや、放てなかったのだ。

 

「サナ……」

 

サーナイトはユキナとクロバットを睨んだまま、前のめりで倒れた。ユキナの目論見通り、体中に毒が回ったのである。皮肉なことにアヤのひらめきは、一瞬遅かったのだ。

 

「お疲れ、サーナイト。ゆっくり休んでね……」

 

アヤはほっと息をつくユキナと、ボロボロのクロバットの前でサーナイトをボールに戻した。こうしてアヤの流れは一瞬で終わった。そして、それはアヤが崖っぷちに追い込まれたことを意味していた。

 

(どうしよう……。3匹のポケモンを1匹で突破していくのか……。ムクホークだったらクロバットのスピードにもついて行けると思うけど、持久戦に持ち込まれたら打つ手がないし、ドダイトスは相性が悪いし……。となるとカブトプス?でも……)

 

と、ここでアヤの中で、とある記憶がよみがえった。それは以前、ユキゲタウンにあるリゲル団のアイジトに潜入した時に見た白い巨人のことである。その巨人の強大さと恐ろしさを、あの日以来彼女が忘れたことはなかった。そして、幸いなことに今、その巨人はアヤのそばにいた。

 

(もし、あの時みたいに暴れてくれれば……!)

 

アヤは意を決し、マスターボールを投げた。そう、彼女は最後のポケモンとしてレジギガスを選んだのだ。

 

「レレレ……、ジジジジ……」

 

無機質な機械音がフィールドに響く。それは、アヤの運命が決まる一戦の幕開けを意味していた。

 

「最後はずいぶんと珍しいポケモンを使うのね。レジギガス……、シンオウに伝わる伝説のポケモン……。面白い、相手にとって不足はないわ」

 

「バーット!」

 

ユキナのアイコンタクトがあると、クロバットはボロボロの体に鞭を撃ち突っ込んできた。間違いなく『毒毒』を放つ体勢だ。

 

「レジギガス、冷凍パンチ!」

 

しかし、アヤの指示に反応したのはクロバットが毒毒を撃った後であった。やはり、レジギガスの特性『スロースタート』は彼女たちにとって大きな足かせとなっているようだ。

 

「クロバット、影分身」

 

「バーット!」

 

そんなレジギガスたちをしり目に、ユキナはクロバットに影分身を使わせた。再び、頭上を埋め尽くすクロバットの大軍。この調子だとアヤは、サーナイトの二の舞を踏むことになってしまう。

 

「レジギガス!」

 

彼女はあの手この手で何とかクロバットの分身をどうにかしようとしたが、どれも上手くいかない。その一方でレジギガスの体は毒でどんどん蝕まれていった。

 

「さて、これで終わりにしましょう。クロバット、熱風」

 

とうとうユキナはレジギガスに止めを刺しに来た。が、クロバットは熱風を撃とうとした瞬間、レジギガスの強烈なパワーで叩き落され、床に激突した。

 

「えっ……」

 

「えっ……」

 

「あれ……?」

 

ユキナとアヤ、さらにはヒナも言葉を失った。理由は簡単だ。今までとろく、何処かパッとしない動きで防戦一方だったレジギガスの動きが、急に変わったからである。

 

「何が起きたのかしら……」

 

ユキナは理解が追いつかないまま、地面に落ちたクロバットを引っ込め、二番手のエンニュートを繰り出した。

 

「エンニュート、火炎放射」

 

手始めにユキナはエンニュートに、様子見の技を指示した。

 

「ニュート!」

 

エンニュートは大きく飛び上がり、真っ赤な炎をレジギガスに浴びせる。

 

 

「ギガギガガガガガガガガガ……!」

 

しかし、レジギガスは火炎放射をものともせずエンニュートをぶん殴った。

 

「ニューーート!」

 

エンニュートはなすすべもなくぶっ飛ばされ、ユキナの横をすり抜け、彼女の背後の壁に激突し倒れた。

 

「エンニュート!?」

 

いくら相手が伝説のポケモンとは言え、自分の手持ちがたった一撃で、しかも何かの技ではなくただ殴られただけで戦闘不能になる経験などユキナはしたことがなった。流石の彼女もこれには焦りを隠せない。

 

「よし、レジギガスのスロースタートが解けた……!勝負はまだまだだよ!」

 

戦いの流れがアヤに戻ってきた。このまま押し切れば勝利はもうすぐだ。しかし、ユキナだって、自分自身のプライドにかけて、そう簡単に負けるわけにはいかなかった。

 

「相手が伝説のポケモンとはいえ、こんな展開想定外だわ……。もう、これ以上好きにはさせない。私は『切り札』を使わせてもらうわ!」

 

ユキナは最後のボールを取り出し投げた。出てきたのはロズレイドだ。

 

「ロズ~」

 

レジギガスという未知なる強敵を前にしても、優雅なたたずまいを崩さないロズレイドはまさしく切り札にふさわしい。

 

「ロズレイド、マジカルリーフ!」

 

ロズレイドはユキナの声とともに跳びあがり、不思議な力を帯びた葉っぱの嵐を巻き起こす。が、レジギガスは片手で軽々それを払いのけた。

 

「レジギガス、冷凍パンチ!」

 

「レレレレレジギギギガガガァ!」

 

これを起点にアヤとレジギガスは反撃に出た。氷の拳がロズレイドに迫る。ロズレイドは空中で身をよじり、間一髪でこれを避けた。しかし、その直後に待っていたのはレジギガスの思念の頭突きだ。

 

「ロズレー!」

 

流石のロスイドもこれはかわせなかった。思念の頭突きはロズレイドの腹部に直撃。ロズレイドは壁に激突した。が、ロズレイドはこれを耐え抜き、壁を垂直に蹴り、再びレジギガスに突っ込んできた。

 

「まだよ!ロズレイド、連続でヘドロ爆弾!」

 

ユキナが叫ぶとロズレイドは、絶え間なくヘドロ爆弾を叩き付けた。が、レジギガスはびくともしない。まるで、その必死の猛攻をあざ笑うかのようだ。

 

「レジギガス、握りつぶす!」

 

「レレレレ!」

 

そして、レジギガスはロズレイドを鷲掴みにし、渾身の力で握りしめた。

 

「ロズレーーーーーーー!」

 

ロズレイドの断末魔がフィールドに響く。が、それは間もなく聞こえなくなった。やがて、レジギガスの手が開くと、ロズレイドはコテっと頭から床に落ちた。戦闘不能だ。

 

「頂点のまでの道のりは、まだまだ長いわね……」

 

ユキナはそう言いながら、ロズレイドをボールに引っ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負が決すると、レジギガスはアヤの方も見ながら両腕をあげ、中央部の目のような部分を点滅させ、大きな鳴き声をあげた。レジギガスなりの勝利のポーズである。

 

「えへへ、ありがとう、レジギガス。ゆっくり休んでね」

 

アヤはレジギガスに笑顔を見せると、レジギガスをボールに戻す。と、そのタイミングを見計らったかのようにユキナが彼女のところに歩いてきた。

 

「貴女とあなたのポケモン、いいバトルをするわね。今日は戦ってくれてありがとう。」

 

「えっ……。私はお礼を言われるようなことは何も……!」

 

「いいえ。今日のバトルは私と私のポケモンにとってとっても重要なことだわ。貴女に負けたおかげで、私達は自分の弱さと甘さを知ることができた。これでまた、頂点に一歩近づいたわ」

 

ユキナはレジギガス1体で完膚なきまで叩きのめされ、大どんでん返しを食らった。普通なら悔しがる場面だろう。しかし、彼女は初対面の時と変わらず、冷静でまっすぐな瞳をアヤに見せてきた。

 

「私に勝ったこということは残る四天王は1人……。ここまで勝ち進んだトレーナーであるならば、そのプライドにかけて、絶対に勝ち進みなさい!」

 

「もちろんです!私、絶対にチャンピオンになりますから!」

 

アヤが力強く言うと、ユキナは僅かに笑みをこぼす。そして、2人は固い握手を交わした。

 




おまけ:友希那のパーティー一覧(本気モード)
・多分リーグ二週目以降に戦える本気友希那さんの手持ちです。★のついたポケモンがエース。友希那さんは『毒タイプ』の使い手です。

★ロズレイド@突撃チョッキ
特性:テクニシャン
性格:控えめ

・リーフストーム
・目覚めるパワー(炎)
・ヘドロ爆弾
・神通力

☆クロバット@こだわりハチマキ
特性:すり抜け
性格:陽気
努力値:AS252

・ブレイブバード
・クロスポイズン
・とんぼ返り
・鋼の翼

☆ベトベトン(アローラの姿)@フィラの実
特性:食いしん坊
性格:慎重
努力値:HD252

・はたき落とす
・リサイクル
・毒づき
・小さくなる

☆スピアー@スピアナイト
特性:虫の知らせ
性格:陽気
努力値:AS252

・とんぼ返り
・毒づき
・ドリルライナー
・はたき落とす

☆マタドガス@黒いヘドロ
特性:浮遊
性格:図太い
努力値:HB252

・鬼火
・大文字
・ヘドロ爆弾
・痛み分け

☆エンニュート@ドクZ
特性:腐食
性格:臆病
努力値:CS252

・毒毒
・ヘドロウェーブ
・オーバーヒート
・火炎放射



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第四十一話 ゴーマイウェイ……

お待たせしました。今更ながら令和最初の投稿です


 四人目の四天王がいる部屋についたアヤとヒナは、入った途端唖然とした。部屋の中央に、四天王らしき少女がいることにはいる。しかし、彼女はフィールドのど真ん中にソファーを置き、そこに寝そべりながら山積みになった漫画を読みながら、枕元に置かれた袋に入ったパンを止まることなく食べ続けているのだ。

 

「ねぇ、ヒナちゃん……。私達、部屋間違えてないよね……」

 

「まさかー、ユキナちゃんの部屋からここまで一本道だし……」

 

と、アヤとヒナがコソコソ話していると、四天王らしき少女が漫画を床に置いた。やっと漫画を読み終わったらしい。が、彼女はまた次の漫画を手に取り読みだした。アヤもヒナも予想してなかった、衝撃的な展開である。

 

「あのー、すみませーん。四天王にチャレンジに来たんですけど……」

 

アヤは一応、入り口に立ったまま声をかけてみたがマンガとパンに夢中で全く反応がない。と、ここでヒナがしびれを切らしてアヤを連れて彼女のもとに向かった。

 

「ちょっと~、チャレンジャー来ているよー!」

 

ヒナは勢いよく、彼女が読んでいた漫画を取り上げる。と、その少女はポカンとした表情でこっちを見てきた。

 

「あれ……、あたし以外に人がいる……。なんで?」

 

「それは私がポケモンリーグに挑戦しに来たからで……。あの、こういう言い方もあれですけど……、四天王ですよね……?」

 

と、アヤは言う。が、その返答は予想をはるか斜め上に越えていた。

 

「四天王~?なにそれ?おいしいの?あっ、もしかして新作のパン!?」

 

「えぇ……」

 

「ダメだ、この人」

 

まさかの言葉にアヤは勿論、ヒナですら反応に困っている。しかし、その傍らで四天王らしき不思議な少女は何やらぶつぶつ呟いていた。

 

「四天王……、四天王……。どこかで聞いてことはあるんだよな~。う~ん……。新作のマンガだっけ?いや、違う。あっ、思い出した。あたしが四天王だ」

 

そういうと、その少女はようやくむっくりとソファーから起き上がった。

 

「いやいや失礼~。マンガに夢中で、四天王だってことをうっかり忘れていたよ~。あたしの名前はモカ。よろしく~」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

これでようやく最後の四天王の戦いが始まる。アヤは内心ほっとした。が、モカはそんなアヤの予想をまたもや越えてきた。

 

「で、そこの人。モカちゃんに何か用?今読んでいたマンガいいところだったから、なるべく早く済まして欲しいんだけど」

 

「いや、あの……。チャレンジャーがここですることといったらポケモンバトルしかないと思うんですが……」

 

バトルをするのにここまで手間がかかったことなどあるのだろうか。アヤは色々思い返してみたが、多分、今までの旅の中で一位二位争うほど手間暇かかっている。そして、アヤの予想を裏切らないかのように、モカはまたポカンとアヤの顔を見ていた。

 

「えっ、本当にいいの?あたしにポケモンバトルを挑むの?言っておくけどモカちゃんは強いよ~。負けて泣いても知らないよ~。やめるなら今のうちだよ~」

 

モカの間の抜けた声を聞いていると、なんだか力が抜けてくる。しかし、大事なバトルを目にして力が抜けるのはまずい。

 

「お願いします!」

 

アヤは、自分に気合を入れる意味も兼ねて、いつも以上に大きく、力強い声を上げた。

 

 

 

 

 

アヤたちが部屋に入って一時間、モカはようやくソファなどを片付け、フィールドを作り上げた。

 

「さてさて〜、この天才美少女モカちゃんの出陣と行きますか〜」

 

モカの声は気が抜けており、とてもてても四天王という風格がしない。が、アヤはむしろ戦慄していた。というのも彼女の経験上、「るんっ」とか意味不明な言動しかしないヒナや、ウノトキシティのジムリーダータエのようなマイペースで何を考えているのか読めない人はもれなく強敵なのだ。アヤの勘が正しければこのモカも、ヒナやタエと同じタイプの人間だ。そうとなれば、彼女を苦しめる強敵である可能性が高い。

 

(うぅ……、大丈夫かなぁ)

 

アヤは不安に思いながらも、先鋒が入ったボールを取り出した。

 

「ほほ〜、準備が整ったようですなぁ。それでは、いきますよ。いけ〜、アーマルド〜」

 

「いけっ!カブトプス!」

 

アヤは抱きつくカブトプス越しにアーマルドを見てたじろいだ。鍛え上げられたボディ、そしてそこから漂う強者のオーラ。予想通り、モカとの戦いは苦しくなりそうである。

 

「アーマルド、シザークロス〜」

 

そして、しばらくの睨み合いののち、ついにモカとアーマルドが動いた。アヤも合わせてカブトプスにシザークロスを撃たせる。が、同じシザークロスでも質が全然違う。完成度の高いアーマルドのシザークロスの前に、カブトプスのシザークロスは軽々跳ね飛ばされた。

 

「カブトプス、アクアジェット!」

 

しかし、これしきのことで今のアヤは動じない。すかさず体勢を整え、反撃に出た。

 

「マールド!」

 

アクアジェットは腹部に直撃。さらなる攻撃のチャンスが訪れた。

 

「よし、一気に決めるよ岩雪崩!」

 

「トープス!」

 

カブトプスが叫ぶと、怯んだアーマルドの頭上に無数の岩が降り注ぐ。これは確実に決まった。アヤは確信した——が、あろうことか岩と岩の隙間から、また違う岩がカブトプスに向けて飛んできたのだ。アーマルドのロックブラストだ。

 

「トプスッ!?」

 

カブトプスは発射される岩に次々と当たり、弄ばれる。

 

「アーマルド、シザークロス〜」

 

さらに、そこにとどめと言わんばかりにアーマルドが襲いかかってきた。

 

「熱湯!」

 

カブトプスは苦しい姿勢の中、なんとか熱湯を当て、アーマルドに致命傷を負わせる。が、同時にカブトプスもシザークロスの餌食になったのであった。激闘の末、同時に両者は倒れたのである。

 

「ふーん、なかなかやるね〜。それじゃあ、次のポケモンだよ〜」

 

モカはそう言いながらアーマルドを引っ込めた。そして、次のポケモンを繰り出した。次の彼女ポケモンは怪力自慢のヘラクロスだ。

 

「お願い、ムクホーク!」

 

「ホーーーーク!」

 

対するアヤはムクホークを二番手として選んだ。その鳴き声は、今日も相変わらず勇ましい響きである。

 

「ほほ~、ムクホークですか~。なかなかエモいポケモンを使いますな~」

 

それに対するモカの声はやっぱり間が抜けている。しかし、そこからは不思議と強者のオーラが放たれていた。

 

「……」

 

何とも言えぬ独特な雰囲気にのまれ、思わずアヤはたじろぐ。

 

「う~ん、攻撃しないならあたしから攻撃しちゃいますよ~。ヘラクロス、メガホーン~」

 

すると、アヤがひるんでいる隙にモカが動き出した。

 

「ヘラッ!」

 

ヘラクロスのメガホーンは主の雰囲気とは真逆の鋭い突きだ。これにはアヤもハッとし、大慌てで燕返しで立ち向かわせる。しかし、その瞬間、アヤとムクホークの眼は床にせり出た僅かな岩の先端をとらえた。

 

「避けて!」

 

アヤの必死の叫びとともに、ムクホークは大きく後退。その直後、さっきまでムクホークがいた場所に、ストーンエッジがさく裂した。が、モカはムクホークに一息つく暇を与えない。回避した直後、ヘラクロスはムクホークにインファイトを叩き込んだ。

 

「ムクホーク、大丈夫!?」

 

「ホーク!」

 

アヤが声をかけるとムクホークは元気な声を聞かせてくれた。まだ体力は十分ありそうだ。しかし、ヘラクロスの流れるような連続攻撃は危険すぎる。今は運よくダメージを最小限に抑えられたものの、アレをまともに受けたらまずい。

 

「どうしよう……」

 

アヤは悩んだ。しかし、経験的にこの手の戦い方は守りに徹しても勝てないということは分かる。となれば、多少強引にでも攻めに出る必要がありそうだ。運がいいことに相手は虫タイプに加えて格闘タイプも持っているので、ムクホークにとっては相性がいい相手である。ブレイブバードを一発でも当てれば、間違いなく決定打になるだろう

 

「ヘラクロス~」

 

そうこうしているうちに、再びモカとヘラクロスの猛攻が始まった。今、アヤの頭の中にはブレイブバードを叩き込むタイミングが浮かんでいる。そこを逃さなければ確実にヘラクロスは倒せる自信があった。しかし、モカの実力的に同じ手は二度と通用しない。アヤは全神経をヘラクロスに集中させた。

 

「ヘラァ!」

 

最初の一撃はメガホーン。これは難なくかわした。次の攻撃はインファイト。これはムクホークのインファイトで威力を相殺する。そして、その瞬間彼女とムクホークは、床にせり出す僅かな岩の先端を再び目にした。これこそアヤが狙っていたタイミングだ。

 

「今だ!ムクホーク!ブレイブバード!」

 

「ホーック!」

 

ストーンエッジがさく裂する寸前、今度は大きく前に出る。それと同時に、ムクホークの翼はヘラクロスを切り裂いた。

 

「ヘラァ……」

 

悠々と空を羽ばたくムクホークの前で、ヘラクロスは倒れた。

 

「ヘラクロスが負けちゃったか~」

 

モカはヘラクロスを引っ込めた。そして、すぐさま最後のポケモンである『メガヤンマ』を繰り出した。

 

「最近ワクワクドキドキ不足で干からびそうだったモカちゃんを、ここまでアツくしたトレーナーは久しぶりだよ~。いや~、ここからどういう展開になるのか、全く読めませんな~。メガヤンマもそう思うよね~?」

 

「ヤンヤンマー!」

 

最後の一匹まで追い込まれてもまだなお自分のペースを崩さないモカに対し、メガヤンマの声はずいぶんと凛々しい。モカが最後のポケモンとして選んだのも納得だ。

 

「ムクホーク、電光石火!」

 

 

暫くのにらみ合いの末、先に動いたのはアヤとムクホーク。それに合わせるように、メガヤンマとモカも動き出した。メガヤンマの動きはモカお反面教師にしたのかなんなのか、彼女とは真逆で機敏だ。しかし、その動きはムクホークよりも若干遅く、技の威力も想定内。今のムクホーク十二分に対処できるレベルである。その上、まだZワザも使っていないため、どうしても困ったら『ファイナルダイブクラッシュ』で勝負を決めることだって可能だ。また、そもそもタイプ相性的にムクホークが有利である。要はムクホークの勝ち筋はいくらでもあるということだ。アヤは負ける気がしなかった——のだが、バトルが進むにつれ、この自信はだんだん揺らいできた。気のせいか、メガヤンマのスピードがだんだん速くなってきているのだ。

 

「き、気のせいだよね……。ムクホーク!電光石火!」

 

アヤは自分にそう言い聞かせながら、指示を送る。が、ムクホークの電光石火は大きく外れた。

 

「えっ……」

 

電光石火はものすごい速さで動いて先制攻撃する技だ。狙いも性格であったのにもかかわらず、技が外れるなんて彼女にとって信じられない事態である。

 

「う、嘘だよね……。ムクホーク、もう一回電光石火!」

 

しかし、ムクホークの攻撃はまたもや外れた——いや、メガヤンマに瞬時にかわされたのだ。その上、いつの間にかメガヤンマはムクホークの背後に回り込んでいた。

 

「メガヤンマ、エアシュラッシュ~」

 

ムクホークの背中に、空気の刃が叩き込まれる。それを受けて、ムクホークは反撃に出ようとするが、その時にはもうメガヤンマの姿はなかった。すでに、メガヤンマは再び背後に回り込んでいたのだ。この光景を見たからにはアヤも納得するしかなかった。ムクホークのスピードが、メガヤンマに大きく抜かされたということを。

 

「メガヤンマの特性は『加速』っていう特性で、なんかよくわからないけどドンドンはや~くなるエモーい特性なんですよ~」

 

アヤが異変に気が付いたのを察したのか、モカはのんびりと特性の解説をしてくれた。が、当のアヤはそれを聞いている場合ではない。ブレイブバードもインファイトも電光石火も燕返しも、メガヤンマのスピードに翻弄され掠ることすらしないのだ。

 

「こうなったら……!」

 

彼女はZ技を発動した。しかし、その渾身の一撃はむなしくも空を切った。メガヤンマのスピードは、もはやZワザすら通用しないレベルにまで到達してしまったのだ。

 

「メガヤンマ、原始の力~」

 

Zワザの直後、ムクホークは飛んでくる大量の岩の嵐に巻き込まれた。そして、なすすべなく墜落したのであった。

 

「あぁ……ムクホーク……」

 

さっきまでの勢いはどこへやら、すっかり落ち込みながら、アヤはムクホークをボールに戻した。

 

「さぁさぁ、今度はどんなエモいポケモンを見せてくれるのかな~」

 

モカは呑気にアヤの次なるポケモンを待ち構えている。が、アヤとしては次だすポケモンは非常に悩ましいものであった。メガヤンマの火力自体はどうしようもないほど高いというほどではないため、ハガネールやレジギガスであれば問題なく耐えられる。しかし、問題は攻めだ。どんな超火力を誇る技であろうと、今のメガヤンマの巣早の前では簡単にかわされてしまうだろう。つまり、メガヤンマのスピードをどうにかしなければならない。

 

(もうマヒししたくらいじゃ焼け石に水だしな……。他に考えられる方法もなくはないけどぶつけ本番だからな……)

 

と、アヤはあれこれ考えたが、彼女中に名答は浮かばない。こうなったら博打だ。ぶっつけ本番の勝負に挑むしかない。

 

「いっけ~!サーナイト!」

 

「サーナッ!」

 

フィールドに、アヤの最後のポケモンが降り立つ。そして、サーナイトはそれと同時に光り輝いた。メガシンカだ。

 

「おぉ、メガサーナイト……。実物は初めて見るな~。とりあえず一番最初は様子見でいっか~。メガヤンマ、虫のさざめき」

 

「ヤンマー!」

 

羽音の振動がサーナイトに迫る。サーナイトはサイコキネシスをそれに合わせ、威力を殺す。その後も、サーナイトは攻撃を避けたり、防いだりして、たまに瞑想するだけで中々反撃に出ない。途中でモカが『避けてばかりじゃ勝てませんよ~』と、煽ってくるがアヤは気にしなかった。変わらず回避に徹するだけだ。しかし、しばらく後、メガヤンマのスピードが上がりきったのを見計らうと、ついにアヤとサーナイトは守りから一気に攻めに転じた。

 

「サーナイト、トリックルーム!」

 

これこそアヤのぶっつけ本番の賭けの正体である。実は、カオルとのバトルでトリックルーム戦法で痛い目にあった後、アヤは自分もトリックルームの技マシンを持っていることを思い出し、『何かの役に立つかも』と、サーナイトに習得させていたのだ。まさかこんなに早くトリックルームが役に立つとは思いもよらなかったが……。それはともかく、トリックルームを発動したおかげで、メガヤンマのスピードは激減した。スピードを極限まで上げていたことが仇になり、もはやほぼ静止している。

 

「サーナイト、十万ボルト!それからサイコキネシスと破壊光線!」

 

こうなったメガヤンマはもはやただのサンドバックだ。メガヤンマはなすすべもなく十万ボルトを受け、サイコキネシスも受け、最後は破壊光線でぶっ飛ばされた。その結末は、当然メガヤンマの戦闘不能である。

 

「モカちゃんびっくり……」

 

モカは唖然とした顔をアヤに見せてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、バトルはアヤの勝利で幕を閉じた。最後の最後まで、モカは自分のペースを崩すことはなかった。

 

 「いや~、あたしを倒すとはお見事!久しぶりにエモくてモカっているトレーナーを見れて、モカちゃんもあたしも満足~。さぁ、四天王を全員倒したつよーいチャレンジャーよ!胸を張ってこの扉の先に進みたまえ!その先で、チャンピオンは待っている!結果が出るまで、モカちゃんはマンガの続きを読んで待ってまーす。バイバーイ」

 

モカに手を振られながら、アヤとヒナは彼女の部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 モカの部屋を出たアヤとヒナは、長い長い階段を上り、白い巨大な扉の前までやってきた。が、アヤはその扉の前からなかなか動こうとはしない。

 

「アーヤちゃん!なんでいかないの?早くいこうよ!」

 

「うぅ……、まってよヒナちゃん。緊張で足が震えて心臓がバクバクして……」

 

「アハハハハハ!ドーンってしてズドドーンでしゅるるんって感じで行けば問題ないって!それじゃぁ行くよ!そーれー!」

 

「うわっ!?ちょっと待って!ヒナちゃん!」

 

心の準備ができないまま、強引にヒナに押される形でアヤはチャンピオンの部屋に入った。すると、同時に彼女たちの耳に優しくも厳かなピアノの歌が耳に、正面に設置されたグランドピアノでその音を奏でる少女の姿が目に飛び込んだ。

 

「きれいな音……」

 

この音を聴いていると、だんだんアヤの緊張感が薄れていく。

 

「やっぱり……、ここに来ましたか……」

 

演奏が終わると、グランドピアノの向こうで優しい声がした。その声の主の姿は、グランドピアノで隠れて見えないが、その声にはどこか聞き覚えがある。それも、一度や二度しか聞いたことがない声ではない。何度も、何度も聞いたことがある馴染みがある声だ。

 

「ずっと……、待ってましたよ……。アヤさん……、ヒナさん……」

 

ピアノの影から現れた少女の姿を見た途端、アヤもヒナも驚きのあまり言葉を失った。チャンピオンの部屋で、チャンピオンとして彼女たちの前に現れたのは、リンコその人であった。

 




おまけ:モカのパーティー一覧(本気モード)
・多分リーグ二週目以降に戦える本気モカちゃんのエモ~い手持ちです。★のついたポケモンがエース。モカちゃんは『虫タイプ』の使い手です。

★メガヤンマ@ムシZ
特性:加速
性格:控えめ
努力値:CS252

・エアスラッシュ
・みきり
・虫のさざめき
・目覚めるパワー(氷)

☆アーマルド@突撃チョッキ
特性:カブトアーマー
性格:意地っ張り
努力値:HA252

・シザークロス
・ストーンエッジ
・アクアジェット
・地震

☆フォレトス@ゴツゴツメット
特性:頑丈
性格:呑気
努力値:HB252

・ステルスロック
・大爆発
・ボルトチェンジ
・毒菱

☆オニシズクモ@イアの実
特性:水泡
性格:図太い
努力値:HB252

・ねばねばネット
・熱湯
・凍える風
・ミラーコート

☆ヘラクロス@ヘラクロスナイト
特性:根性
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・インファイト
・タネマシンガン
・ロックブラスト
・ミサイル針

☆ペンドラー@気合のたすき
特性:加速
性格:陽気
努力値:HS252

・守る
・剣の舞
・バトンタッチ
・毒づき



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第四十二話 静かなる霊使い

ということでチャンピオン戦です。BGMのイメージはバトルの前もバトル中もシロナ戦です。ちなみにチャンピオン戦は6VS6の総力戦です。


 「まさか……、リンコさんがチャンピオンだったなんて……」

 

「なーんか初めて会った時からズドドーンって感じの雰囲気は感じていたけど、まさかこういう展開になるとは予想外だな~」

 

アヤとヒナは顔を見合わせた。目の前の光景が二人ともいまいち呑み込めないのだ。しかし、そんな二人を前に、リンコは穏やかな表情を見せていた。

 

「そんなに……驚くことでしょうか……?私は……、2人がここにいることは……当然だと思いますけど……。ほら、前にリュウコの石塔で言ったじゃないですか……。『私たちならそう遠くない未来に、きっとまた会える』って……」

 

なるほど、あの時のリンコの言葉はそういう意味だったのか。アヤとヒナは納得した。

 

「さて……、前置きはこのくらいにしておきましょうか……。えっ……、何ですかアヤさん……。『チャンピオン戦の前にしてはあっさりとしすぎている?』ですか……?フフフ、確かにそうかもしれませんね。でも、私はこれでいいと思います……。だって……、私とアヤさんならきっとポケモンバトルで分かり合えるから……。ポケモンと人間の繋がり……、旅で見たものや学んだこと……、何もかもすべて……。だから、私はこのバトルに全力で挑む……。シンシューポケモンリーグチャンピオンリンコ、いきます……!」

 

この時、リンコの目が臨戦態勢に入ったのをアヤとヒナは見た。ついに、最後の決戦が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

間もなく、アヤとリンコはフィールドを挟んで向かい合った。フィールド脇のベンチからは、いつも通りヒナの熱烈な声援が飛んでくる。ここまで来たら、もう前に進むだけだ。

 

「よし……」

 

アヤは先鋒のポケモンが入ったボールをいつも以上に固く握りしめた。

 

「いけ!カブトプス!」

 

「トープスッ!」

 

アヤがボールを投げるとカブトプスが勢いよく飛び出す。そして、カブトプスは案の定アヤに抱き着いてきた。

 

「痛い痛い痛い!カブトプス!離れて!相手はあっち!」

 

もうアヤは何度もカブトプスに抱き着かれているが、刺々した体で抱き着かれる痛みには全くなれない。この叫びも最初にカブトプスに出会った時から全く変わらないものである。まぁ、それはさておきカブトプスはこの恒例行事を済ませると、フィールドに立った。

 

「アヤさんと戦うこと……私、ずっと楽しみにしていました……。戦う前なのに……、不思議とこれが楽しいバトルになる未来しか見えない……」

 

そういいながらリンコはボールを投げた。彼女の先鋒は鋼鉄の体を持つメタグロスだ。リュウコの石塔で一度だけ見たことあるが、今日のメタグロスは一段と狂暴そうなオーラをまとっている。見ただけで強いポケモンだとわかるいい例だ。

 

「……でも、私のカブトプスだって負けてないはず!カブトプス、アクアジェット!」

 

とりあえず、アヤは様子を見ることにした。が、その直後、彼女はその判断が大きな過ちであることに気が付くことになった。

 

「メタグロス……コメットパンチ……です……」

 

「メターッ!」

 

カブトプスに威嚇するかのように、リンコはメタグロスに指示を送った。カブトプスはとっさに飛びのいたため無傷であったが、その床には無数の亀裂が生じている。凄まじい破壊力を誇るポケモンをアヤは何度も見てきたが、これは規格外だ。通常の建物よりも頑丈に作られているフィールドの床に、亀裂が生じるなんて聞いたことがない。

 

「え……」

 

余りの衝撃にアヤが凍り付く。メタグロスはこの隙にカブトプスを思念の頭突きで弾き飛ばした。

 

「ハッ……!いけない!」

 

同時にアヤも我を取り戻したが、その時、メタグロスはバレットパンチが何発もカブトプスに叩きこんでいた。アヤは慌てて熱湯を指示するも、もはや手遅れ。熱湯をものともせず放たれたコメットパンチの前に、カブトプスは倒れたのであった。

 

「戻って、カブトプス」

 

アヤはカブトプスをすぐさまボールに引っ込める。が、この時彼女は気が付いた。メタグロスの体の一部分が赤くただれていることに。そう、先ほど熱湯を無視して攻撃したことが仇となり、メタグロスは熱湯の追加効果で火傷を負ってしまったのだ。火傷には攻撃力を下げる効果がある。るまり、あの規格外の破壊力は、規格内の範囲までとどまったことになる。アヤとしては願ってもないチャンスだ。

 

「いけ!ハガネール!」

 

この機を逃すわけにはいかない。だからこそアヤはハガネールの基本的な戦い方を遵守した。

 

(ハガネールみたいな重量級は……。『バシッてして、ズガガーン!』。だから攻撃が飛んでくるタイミングを見計らって……、今だ!)

 

アヤはメタグロスのアームハンマーが迫った瞬間、ハガネールに『かみ砕く』を指示。同時にハガネールは、渾身の力でアームハンマーを放つメタグロスの腕に食らいつき、それを受け止める。そして、メタグロスを地面に叩きつけるとともに地震を放った。

 

「メタァ!」

 

轟轟と音を立てて揺れる床。そんな状況でロクに受け身をとれるわけもなく、メタグロスは地震を全身に浴びる。そして、そのまま目を回し動かなくなった。それを見るとリンコはすぐにポケモンを交換してきた。次に出てきたのは、怪しく揺れる炎を灯すポケモン、シャンデラ。それもただのシャンデラではない。普通のシャンデラが不気味な紫色の炎を灯しているのに対し、リンコのシャンデラの炎は綺麗なオレンジ色。そう、彼女のシャンデラは色違いのシャンデラなのだ。

 

「さて……、アヤさんは……、この不利な状況をどうやって切り抜けるんでしょうか……。シャンデラ……、煉獄……!」

 

リンコが言うように、鋼タイプを持つハガネールは炎タイプを持つシャンデラに圧倒的に不利だ。そして、彼女はハガネールが苦手とする炎タイプの技を容赦なく指示してきた。

 

「ネールッ!」

 

ハガネールの胴体を激しい炎が包む。アヤはとっさにストーンエッジでそれを払いのけさせるも、被害は大きかった。今度は逆に、ハガネールが火傷を負ってしまったのだ。しかし、これを好機と見たか、リンコは攻撃の手をさらに強めてきた。

 

「シャンデラ……、祟り目です……!」

 

「シャ~ン」

 

綺麗な鳴き声とともに、今度は何とも言えない不気味な存在が——強いて言葉にするならなら霊のオーラのようなものがハガネールの体を包み、襲った。

 

「ネール……!」

 

立て続けの猛攻に、ハガネールの鋼鉄の鎧も悲鳴を上げている。しかし、リンコは鬼だった。

 

「これだけ攻撃を浴びせても倒れないなんて……、しぶとい——いや、よく鍛えられたハガネールです……。それならば……Zワザであの世に送ってあげましょう……。シャンデラ……、『無限暗夜への誘い』!」

 

「シャ~ン」

 

ハガネールの周囲に、闇の世界から現れた手が現れる。

 

「闇の狭間に消えなさい……!」

 

リンコがそう言うと、爆発が起きた。が、爆発の硝煙が晴れたとき彼女の前に現れたのは衝撃の光景であった。リンコの目論見通り、確かにハガネールは気絶している。が、彼女のシャンデラまでも気絶していた。実は、リンコがZワザを発動した瞬間にアヤも地面タイプのZワザ『ライジングランドオーバー』を発動させていたのだ。そしてそれがシャンデラの急所に直撃したのである。

 

「戻ってください……シャンデラ……」

 

「お疲れ、ハガネール」

 

両者はポケモンを引っ込めた。そして、アヤもリンコもほぼ同時に次のポケモンを繰り出した。

 

「いけ!レジギガス!」

 

「サザンドラ……、お願いします……」

 

ハガネールとシャンデラが相打ちになったおかげで、バトルは一回仕切り直しだ。ここからどういうバトルが展開されるのかは、アヤにもヒナにもリンコにも話辛いのであった。

 

 




ということで次に続きます。高評価やお気に入り登録、感想をくれると泣いて喜びます。


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第四十三話 一進一退

投稿遅くなってすみません!
前回に引き続き、チャンピオン戦です!
ちなみにりんりんは、悪タイプやエスパータイプのポケモンも使ってますが、一応『ゴーストタイプの使い手』です。


「ンドーラ!」

 

「レレジジジ……」

 

リンコのサザンドラとアヤのレジギガスは、ボールから飛び出た後互いにしばらくにらみ続けた。リンコのサザンドラは、間違いなく彼女が普段移動に使っているサザンドラだ。前々から強そうな雰囲気はあったが、フィールドで感じるそれは格別だ。体が殺気でできているといっても過言ではないその様は、アヤがひるむのには十分すぎる気迫だ。

 

「いきますよ……サザンドラ……。悪の波動……!」

 

「ザンドーラ!」

 

そんな中、ついにリンコとサザンドラが動き出した。サザンドラの闇の力が三つの口に集中する。その瞬間、レジギガスはサザンドラに飛び込んだ。

 

(スロースタートが解けるまでの時間を、怪しい光で稼ぐのは不安定すぎるし、何より技を余分に一つ使っちゃう。それなら、相手の動きを見て先読みして……)

 

これはアヤが導き出したレジギガスの戦い方である。正確に言えばほぼヒナの入れ知恵ではあるが、この際そこは触れないでおこう。それはともかく、レジギガスは悪の波動を見事かわし、サザンドラの右頬に冷凍パンチをくらわせた。

 

「やった!」

 

とりあえず、今回はアヤの読みが勝った。だが、油断してはならない。これはギリギリのせめぎ合いの序の口に過ぎないのだ。一瞬でも目を放したり、気を抜いたりすれば敗北につながる。そんなバトルを、アヤとリンコは長く繰り広げた。そして、その激闘の末、サザンドラはレジギガスの足元めがけて『大地の力』を放った。

 

「レレジギガー!?」

 

足元からの攻撃に耐えきれず、レジギガスはバランスを崩す。そこにサザンドラは容赦なく気合玉を打ち込んだ。

 

「今です……!サザンドラ……、竜星群……!」

 

「ザンドーラ!」

 

ここでリンコが止めを刺しに来た。サザンドラの口から光球が放たれ、彼女たちの頭上で煌々と輝く。この光球から無数の隕石を相手に落とすのだ。これを食らえばさすがのレジギガスといえど、ひとたまりもない。しかし、この時。アヤの目に、メタグロスの攻撃の影響で亀裂が走ったフィールドの床が飛び込んできた。よく見ればその亀裂はメタグロスとカブトプスが戦った時よりも広がっている。そして、かなり傷んでいる。おそらく原因は、ライジングランドオーバーや地震、大地の力など、床を傷めつける技を散々使ってきたからだろう。

 

「もし、あれが使えれば……!レジギガス、あの亀裂に手を入れて!」

 

「レレジギガガァ!」

 

レジギガスはアヤの指示通り、亀裂に巨大な手を突っ込んだ。するとどうであろう、手を入れた部分を起点に床の一部が持ち上がったのだ。

 

「ギガギガギガガァ!」

 

竜星群が放たれる直前、レジギガスは、その持ち上がった床の一部を渾身の力で上に投げ飛ばした。岩塊となった床は光球に激突。大爆発を巻き起こした。このパワーを見た瞬間、アヤはスロースタートが解けたことを確信。彼女は攻めに出た。

 

「レジギガス!握りつぶす!」

 

「レジレジギガガガギガァ!」

 

レジギガスは爆風で怯むサザンドラの首をがっしりと握りつぶし、そのまま背後の壁に押し付ける。そして、空いたもう片方の手で冷凍パンチをお見舞いした。

 

「ンド~ラ……」

 

レジギガスが手を放すと、サザンドラは飛び上がることなく床に堕ちた。それを見たリンコは優しい声を掛けながら、サザンドラを引っ込めた。が、その温厚な表情はすぐに豹変した。

 

「なるほど……、流石伝説のポケモン……。パワーが桁違いです……。パワーだけなら……、私のポケモンでも太刀打ちできないでしょうね……。そう、パワーだけ(・・)なら……。ポケモンバトルがパワーだけではないことを、アヤさんに教えてあげましょう……。オーロット、お願いします……!」

 

不敵な笑みを浮かべるリンコ。そして、そんな彼女の前で不気味に笑うオーロット。それを見たアヤの背筋に冷や汗が垂れる。彼女の体が本能的に危険を察しているのだろうか。しかし、それに対しアヤの頭の中は妙に楽観的であった。彼女は本気を出したレジギガスを過信しているのだ。

 

「オーロットって雰囲気的にゴーストタイプだと思うけど……。リンコさんの今の言葉って『ノーマルタイプの攻撃はゴーストタイプには効かないよ』ってことなのかな?うーん、なんかよくわからないけど本気を出したレジギガスなら問題ないはず。レジギガス、冷凍パンチ!」

 

「ガガガガガ!」

 

冷凍パンチはオーロットをぶっ飛ばした。しかし、オーロットはぶっ飛ばせながらもレジギガスの体に小さな種を植え付けた。相手の体力を奪い、自分の体力を回復させる技である宿木の種だ。さらに、オーロットは着地すると、あらかじめ持っていたオボンのみを美味しそうに食べた。これで、体力は回復。冷凍パンチのダメージはチャラだ。そして、そこからオーロットは不穏な動きを始めた。

 

「オーロット……、呪いです……」

 

呪い。それは、自分の体力と引き換えに相手の体力をジワジワ削る荒技である。さらに、レジギガスの体力は、この技の効果に加え、宿木の種の効果でみるみるうちに体力が減っていく。慌てたアヤはレジギガスをオーロットに突っ込ませた。

 

「ローット」

 

レジギガスが放った思念の頭突きは、オーロットにクリーンヒット。しかし、次の瞬間アヤは目を疑った。攻撃を受け、着地したオーロットがまたオボンの実を食べているのだ。

 

(あれっ?リンコさんのオーロット、さっきもオボンの実食べていたよね……。ポケモンは一つしか道具が持てないはずだし……、見間違えだったのかな……?)

 

アヤは自分にそう言い聞かせながら、再度レジギガスに攻撃の指示を出した。しかし、攻撃を受けたオーロットは、またオボンの実を食べているのだ。3度も同じ光景をみせられては、彼女もこの状況を信じざるを得ない。間違いなく、オーロットはオボンのみを3回食べていた。

 

「な、なんで……」

 

今までに遭遇したことない展開にアヤは混乱する。対するリンコは、そんな彼女の前でほくそ笑んでいた。

 

「オーロットの特性は『収穫』。一定の確率で消費した自分の持ち物を再利用できるようになるんですよ……」

 

「そんなことってありなの!?」

 

アヤは驚きながらも、またレジギガスに攻撃の指示を送った。いくら相手の守りが硬くても、攻撃しなければ勝てないからだ。しかし、レジギガスの渾身の攻撃はオーロットの『まもる』で簡単に防がれてしまった。さらに、そうこうしているうちにもレジギガスの体力はどんどん減っていく。結局アヤは、オーロットを攻略することができず、レジギガスの体力切れを迎えることになったのであった。

 

「戻って、レジギガス」

 

アヤはレジギガスを引っ込めた。そして、タイプ相性的に有利なムクホーク——ではなく、相性不利なサーナイトを繰り出した。彼女はいくら相性がいいとはいえ、攻撃特化気味なムクホークではレジギガスの二の舞を踏む羽目になると判断したのだ。

 

(サーナイトなら変化技も色々使えるし……。『あの技』さえ決まれば……)

 

彼女はそう思いながら、サーナイトをメガシンカさせた。その美しい姿は、いつ見ても美しく、凛々しく、頼もしいものである。

 

「さて……、アヤさんはタイプ相性が不利なポケモンで……、どう戦うんでしょうか……?」

 

リンコは余裕そうな表情で宿木の種を指示。しかし、サーナイトは自慢の超能力ですべてはじき返した。そして、サーナイトはオーロットの前で手の指を立てた。挑発だ。これこそアヤが狙っていた技である。挑発を受けたポケモンは激怒し、変化技をしばらくの間仕えなくなるのだ。

 

「ローット!」

 

もちろんオーロットも例外ではない。オーロットはお家芸を封じられた恨みといわんばかりに、ウッドホーンを放ってきた。しかし、サーナイトは冷静にそれをかわす。そして、シャドーボールを数発当て、止めにサイコキネシスを打ち込み、危なげなく勝利を収めた。

 

「お疲れ様です……オーロット……。お願いします……、シザリガー……!」

 

「ザリガーッ!」

 

オーロットを倒し、ホッとできたのも一瞬であった。代わりに、フィールドに現れたのは巨大なハサミを持つ荒くれものだ。

 

「シザリガー……、アクアジェット……!」

 

シザリガーはリンコの指示を受け、瞬時に距離を詰めてきた。この技自体はアヤもカブトプスによく使わせているため全く珍しくないが、技の質がカブトプスより数段上だ。苦し紛れにサーナイトに10万ボルトを使わせ、かろうじてそれを当てるも、その勢いは全くとどまらない。シザリガーは、いともたやすくサーナイトの懐に潜り込んだ。

 

「今です……。ハサミギロチン……!」

 

リンコの声がすると、その巨大なハサミはサーナイトの体をバッサリと切り裂く。一撃必殺。サーナイトはあっけなく戦闘不能に陥った。

 

「戻って、サーナイト」

 

アヤはサーナイトを引っ込めた。そして、すぐさまムクホークを繰り出した。

 

「ホーーーーク!」

 

ムクホークの勇ましい声が、今日も相手を威嚇する。勢いだけなら間違いなくムクホークの勝ちだ。

 

「ムクホーク!燕返し!」

 

「シザリガー……、クラブハンマーです……!」

 

ムクホークがフィールドに現れると、アヤとリンコは同時に動いた。

 

「ホーク!」

 

「ザリガーッ!」

 

逞しい翼と強靭なハサミがぶつかり、鎬を削る。その様子を見れば、シザリガーの一撃は極めて重いということは一目瞭然だ。普通の技でも一撃必殺に近い威力を持っているとみて間違いないだろう。が、この時のシザリガーの動きを見て、アヤは違和感を覚えた。サーナイトと戦った時と比べ、何処か動きが鈍いのだ。

 

(もしかしてあのシザリガー、痺れている……?)

 

アヤの直感は正しかった。実は、先ほどサーナイトが撃った十万ボルトの追加効果でシザリガーはマヒ状態に陥っていたのだ。今の彼女にとってチャンスを逃すという選択肢はなかった。アヤは、ムクホークの俊敏さを活かして攻撃を畳みかけようとした。だが、そんな甘い発想で倒せるほどチャンピオンのシザリガーは甘くはない。迂闊に近づけば、巨大なハサミを振りかざして威嚇してくるし、ちょっと隙を見せれば剣の舞で火力を底上げしてくる。それの上、不意に見せてくるハサミギロチンが怖い。結局アヤはリンコのペース飲まれ、一進一退の攻防に身を投じる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シザリガーとムクホークの激闘は長かった。どちらも一歩も身を引くことはなかった。結果的に、両者ともに体はボロボロだ。しかし、言い換えれば次の一撃で勝負が決まるということだ。

 

「いくよ……!ムクホーク、ブレイブバード!」

 

「ホーク!」

 

勝負を決めるべく、アヤはムクホークを突っ込ませた。対するシザリガーはアクアジェットで勢いをつけながら、ハサミを振りかざしている。クラブハンマーにアクアジェットの勢いを上乗せするつもりのようだ。しかし、アヤには妙案があった。

 

「ムクホーク!斜め上に電光石火!」

 

シザリガーと激突する寸前、ムクホークはシザリガーの真上に躍り出た。その瞬間、シザリガーはムクホークの真下を通過。同時にアヤとムクホークの眼は、ガラ空きになったシザリガーの背中をとらえた。

 

「ホーク!」

 

ムクホークはシザリガーの背中に、真上からインファイトを叩き込んだ。死角からの一撃に、シザリガーはなすすべもない。

 

「ザリガ……」

 

シザリガーは倒れた。リンコはそのシザリガーを優しい顔つきでボールに戻した。

 

「シザリガーが倒されましたか……。すごいです……アヤさん……。私をここまで追い詰めた人は……、久しぶりです……。楽しい……。ここまで楽しい勝負は……、初めてかもしれません……。さぁ、アヤさん……。次が私の……最後のポケモンです……。闇より深い……影の支配者……。頼みましたよ……、ゲンガー……!」

 

リンコがボールを投げると、ごっそりと周囲の気温が奪われた。背筋が凍るほど冷えるフィールド。そこには今、漆黒の影が現れ、ニカっと不気味な笑みを浮かべている。リンコの最後のポケモンであるゲンガーが、アヤたちの前に現れたのだ。

 

「ゲーッ」

 

ゲンガーは戦いを前にしても、その辺を漂ったり、意味もなく鳴き声を上げたり、笑ったりと気ままに動いている。まるで、アヤたちをからかっているかのようだ。しかし、あやにとっては

その余裕さが、逆に恐怖をそそるのだ。

 

(ダメダメ!こんなところで……、弱気になっちゃ……!)

 

彼女の中の恐怖は時間がたつにつれ増えるばかり。この思いを吹き飛ばすかのようにアヤは叫び、ムクホークにブレイブバードの指示を送った。しかし、ゲンガーは軽々とそれをかわした。

 

「ゲンガー……、催眠術です……」

 

「ゲーッ!」

 

さらに、追い打ちをかけるかのように催眠術がムクホークに直撃。ムクホークは床に堕ち、深い眠りに陥った。アヤがどんなに叫んでも起きる気配もない。

 

「無駄ですよ……アヤさん……。ムクホークの意識は深い闇の中……。誰の声も届きはしませんよ……。ゲンガー……、ムクホークを楽にしてあげてください……。ヘドロ爆弾です……」

 

リンコがそう言うと、無情にもゲンガーはヘドロ爆弾を発射。それでもなおアヤは叫び続けたが、ヘドロ爆弾はムクホークをひん死へと追いやった。

 

「お疲れ、ムクホーク。ゆっくり休んでね」

 

アヤはムクホークをボールに戻すと、そのボールをそっと撫でた。さて、これでつかの間のリードも終わった。アヤも残っているポケモンはドダイトスのみだ。

 

「いくよ……、ドダイトス!」

 

「ドダーッ!」

 

彼女がボールを投げると、目の前に大陸のように巨大で勇猛なポケモンが姿を現した。彼女たちにとって、最期の戦いの火ぶたが切って落とされたのである。

 




今後の話の流れを決めるアンケートです。気が向いたら答えてくれると嬉しいです。


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第四十四話 戦いの果てに

ということで、りんりんと彩ちゃんの最終決戦。
ちなみに、なんだか最終回みたいな雰囲気がありますが、ストーリーはまだ続きます。今回は最終回ではないです。


「いっけー!ドダイトス、ストーンエッジ!」

 

「ダーッ!」

 

にらみ合いの末、ついにアヤとドダイトスが動いた。しかし、ゲンガーは動かない——と、思いきや岩の先端が当たる寸前、華麗にそれを交わす。表情から察するに余裕そうだ。

 

「正確で鋭い……いいストーンエッジです……。私のゲンガーでなければ……、致命傷を与えられたでしょうね……。やっぱり……、アヤさんは強くて素敵なトレーナーです……。貴女になら……私の本気をぶつけられる……」

 

リンコが服の袖をめくる。すると、彼女の腕に装着された『メガリング』が姿を見せた。

 

「えっ……」

 

この瞬間、アヤは言葉を失った。彼女の言葉のすべてを理解したのだ。

 

「メガシンカを使えるのは……、アヤさんだけではないんですよ……。冥府の魂よ……、この絆に力を……!」

 

リンコの声とともに、ゲンガーが美しくもあり、不気味でもある光に包まれる。今、ゲンガーの真の力が解放されているのだ。

 

「ゲーッゲッッゲッゲッ!」

 

光から解放されたゲンガーの姿は、実におどろおどろしい姿であった。下半身は影の世界にすっぽり飲み込まれ、地上に見せている上半身は狡猾な笑みをたたえている。また、眉間に生まれた第三の眼は見ているだけで、異次元に吸い込まれてしまいそうだ。

 

「ここからが本番ですよ……。ゲンガー……、凍える風……!」

 

その瞬間、ゲンガーの手から猛烈な冷気が放たれる。ドダイトスはとっさにストーンエッジで即席の壁を築く。が、冷機は僅かな隙間をすり抜け、ドダイトスの周りを吹き抜けた。

 

「ダーッ!」

 

僅かな冷気とはいえ、氷タイプが苦手なドダイトスにとっては痛い一撃だ。しかし、ゲンガーは攻撃の手を緩めない。今度は、ムクホークをも葬ったヘドロ爆弾を撃ってきたのだ。

 

「ウッドハンマー!」

 

アヤの叫びを聞き、ドダイトスはそれを打ち返す。だが、その矢先、ドダイトスめがけて無数のシャドーボールが襲い掛かってきた。

 

「ドダッ……!」

 

余りにも急な展開にアヤもドダイトスもついて行くことができない。ドダイトスはシャドーボールのほとんどを浴びる羽目になった。

 

「ドダイトス、大丈夫!?」

 

「ドダー!」

 

攻撃の直後、アヤが声をかけるとドダイトスは元気な声を返した。あれだけ攻撃を食らったが、まだ何とかなりそうだ。

 

「よし、ここから反撃するよ!」

 

ドダイトスの無事が分かった彼女は、そう気合を入れなおす。が、困ったことにゲンガーの姿は見当たらなかった。

 

「えっ……、どうして……?」

 

アヤは必死に辺りを見渡す。だが、ゲンガーの『ゲ』の字すら見つからない。どんどんアヤの焦りが増す。

 

「ゲンガー……」

 

ここで、見計らったかのようにリンコがゲンガーの名前を呟いた。同時に、ドダイトスの影が揺れる。すると、それを合図に、ドダイトスの影からゲンガーが飛び出した。

 

「ドダイ——」

 

アヤは慌てて指示を出そうとするも、時すでに遅し。ドダイトスのバランスが突然崩れた。影から飛び出ると同時に、ゲンガーはドダイトスに催眠術を掛けたのだ。

 

「ダー……」

 

グーグーと、ドダイトスは眠る。その傍らでリンコとゲンガーは不気味に笑っていた。

 

「私のゲンガーは……陰の中に潜りこんで隠れることができるんです……。今みたいに奇襲にも使えるので……便利ですよ……」

 

「ゲーッ!」

 

だが、アヤにリンコの声は届いてなかった。彼女は今、ドダイトスを起こそうとすることで精いっぱいなのだ。しかし、当のドダイトスは起きる気配もない。

 

「無駄ですよ……アヤさん……。ドダイトスの意識は……すでに闇に飲み込まれています……。どんな手を使っても……、戻ることはないですよ……。安心してください……。闇の世界も……案外悪くないものですから……。どうやら……結局私が一番強くて凄いみたいですね……」

 

ついに、リンコが止めを刺そうと動き出した。もはや、ドダイトスは崖っぷちに追い詰められた。いや、もう奈落の底に落ちている最中といった方が正しいかもしれない。だが、アヤはまだ諦めなかった。何度も、何度も叫び続けた。

 

「起きて、ドダイトス!」

 

アヤの一生懸命さが伝わったのだろうか。ついにヒナもアヤに加勢した。が、ゲンガーはそれをあざ笑うかのようにシャドーボールを放つ。その影の球は猛スピードでドダイトスに迫る。仮にこの状況を他人が見れば、ドダイトスの敗北を確信するだろう。しかし、それでも二人は叫び続けた。喉が壊れるほど、何度も何度も。そして、その想いはドダイトスに届いた。

 

「ダーッ!」

 

シャドーボールが当たる直前。ドダイトスの鋭い目が開いたのだ。ドダイトスは起きると同時にシャドーボールを強靭な尾でゲンガーに返す。不意の一撃にゲンガーは回避できない。皮肉なことに、自分が撃った技を、自分で受けることになったのだ。

 

「やった……!ドダイトス……!」

 

起き上がったドダイトスを見てアヤは一安心。そして、それと同時にストーンエッジを指示した。反撃の狼煙が上がったのだ。

 

「まさか……!ゲンガーの催眠術が……やぶられるなんて……!」

 

リンコは焦りながらも、冷静に指示を出した。ゲンガーは彼女の指示通りストーンエッジをかわし、影の中に再び飛び込んだ。しかし、同じ手が二度も通じるほど、アヤもドダイトスも甘くはない。

 

「影は床にできている。それならば、床全体を攻撃すればいいんだ!ドダイトス、地震!」

 

「ドダーッ!」

 

ドダイトスは前足を床に打ち付け、強烈な振動を引き起こす。すると、彼女の読み通り、その威力にたまりかねたゲンガーが影の中から飛び出してきた。その姿は完全な無防備。絶好のタイミングだ。

 

「ドダイトス、リーフストーム!」

 

アヤは自らの中に眠っているすべてをその言葉に込めた。そして、それはドダイトスに伝わる。やがて、彼女たちの想いは全て、葉の嵐となってゲンガーに襲い掛かった。

 

「まだまだ……!ゲンガー……、シャドーボール……!」

 

対するゲンガーも、最後の意地といわんばかりに無数のシャドーボールをドダイトスに向け放つ。しかし、ドダイトスが放つ葉は、それを無ごとに打ち砕き、一直線にゲンガーに向かう。

 

「ゲーッ!」

 

葉の嵐がゲンガーを巻き込むまで時間はかからなかった。ゲンガーは渾身の一撃になすすべもなかったのだ。そして、葉の嵐がやむと、ゲンガーのメガシンカが解けた。

 

「ゲッ……ゲェ……」

 

同時に、ゲンガーは目を回しながら力なく倒れた。戦闘不能である。

 

「とっても悔しいけど……、今……私はとっても楽しい……。バトルの興奮が収まらない……。素敵なバトルを……ありがとうございます……。そして……、おめでとうございます……!アヤさん……、あなたがシンシューの新しいチャンピオンです……!」

 

リンコは満足そうに、ゲンガーをボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンコがゲンガーをボールに戻してもなお、アヤは呆然とフィールドに立っている。

 

「アヤちゃん!やったよ!アヤちゃーん!」

 

と、ヒナがアヤを押し倒しそうな勢いで抱き着いてきた。この瞬間、アヤはようやく我を取り戻した。

 

「私が……、勝ったの……!?リンコさんに……?」

 

「うん!アヤちゃんが新しいチャンピオンだよ!もう、るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるんって感じだよ!」

 

「そうなんだ……。勝ったんだ……。私……、勝ったんだ!」

 

ヒナから解放されると、アヤは震える足でドダイトスのところに歩く。そして、ドダイトス望場に寄るや否や、ドダイトスに顔をうずめワンワン泣き出した。

 

「ドダイトス!勝ったんだよ!私達、チャンピオンになれたんだよ!」

 

この後も彼女はいろいろ言っていたが、泣きながら言っているせいでほとんど聞き取れない。

 

「ドダァ……」

 

しかし、ドダイトスはそれを聞くと安心したのか、プツンと糸が切れたように崩れ落ちた。そして、ほぼ同時に部屋の扉がバタンと開いた。リーグ挑戦の前に応援に来てくれるといったマリナ博士だ。

 

「ごめん!アヤちゃん、ヒナちゃん!仕事が長引いて遅れちゃった!」

 

しかし、ドダイトスに顔をうずめ、涙を流すアヤであった。その瞬間、マリナ博士は何かを悟ったのかそっと彼女のところに歩み寄った。

 

「ほ、ほら……、アヤちゃん……。その……、うまく言えないけど。ここまで来られただけ凄いことだよ。それに、まだまだトレーナー人生は長いんだしさ!」

 

どうも、マリナ博士は泣くアヤを見て彼女が大敗したものだと勘違いしてしまったようだ。しかし、そこへリンコがやってきた。

 

「マリナ博士……、何を言っているのですか……?そこにいるのは……、シンシューの新しいチャンピオンですよ……」

 

「新しいチャンピオン……?ってことはもしかして……!アヤちゃん……!」

 

「そうですよ~!私でも、チャンピオンになれたんですよ~!これはうれし涙ですよ~!」

 

アヤはマリナ博士の姿を見つけると、今度は博士に抱き着いて泣き出した。もう、一生分の涙を流すような勢いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ようやくアヤは泣き止んだ。すると、リンコは改めて彼女に優しい笑みを向けた。

 

「キウシティで初めて会った時から……、アヤさんから他のトレーナーとは違う何かを感じてはいました……。それは、こういうことだったんですね……。私……、あなたのような素敵なトレーナーと出会えて、とっても嬉しいです……。そして、あなたのような素晴らしいトレーナーがチャンピオンになる瞬間に立ち会えて……、光栄に思います……。それでは……アヤさん……。私についてきてください……。あなたを連れていきたいところがあるんです……。あっ……、もしもよかったら……、ヒナさんとマリナ博士も一緒に来てください……」

 

アヤはドダイトスをボールに戻すと、言われるがままに彼女について行った。もちろん、ヒナとマリナ博士も一緒だ。三人は、リンコに導かれ、チャンピオンの部屋のさらに奥に連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか……。ズズーンて感じだけどるんっな感じでキラーンって感じな部屋だね……」

 

 ヒナが言いたいことは『チャンピオンの間の奥は、なんともいえぬ荘厳さで満ちているね』ってことだ。部屋の周囲には威厳ある銅像が並び、その空間の一番奥には何やら黄金のマシンが置いてある。アヤも状況をいまいち呑み込みきれていないが、凄い場所であるということだけは分かった。

 

「ここは殿堂入りの間……。厳しい戦いを潜り抜けたトレーナーとポケモンを永遠に称えるための部屋です……。さぁ……、アヤさん……。あのマシンにボールをセットしてください。ポケモンとトレーナーの絆……、ともに流した汗と涙……、そして思い出……、アヤさんとポケモンのすべてをこのマシンで記録しましょう……」

 

アヤはボールを取り出し、リンコに言われた通り、マシンにある6つのくぼみにボールをセットした。まずは、古代の巨人レジギガス。次に、鋼鉄の鎧を誇るハガネール。3番目に、アヤ大好きなムクホーク。4番目には、太古の昔から蘇ったカブトプス。そして、メガシンカというゆるぎない絆を持つサーナイト。最後には、彼女とずっと一緒にここまで歩んでくれた相棒ドダイトス。そんな6体のポケモンたちは、アヤの名前とともに、歴史に刻まれた。今ここに、名実ともにチャンピオン『アヤ』が誕生したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殿堂入りの部屋から出た新チャンピオンたちを待っていてくれたのは、彼女と激戦を繰り広げたモカ、カオル、ユキナ、そしてアリサであった。

 

「いや~、さすがこのモカちゃんに勝つだけのことはありますね~。お祝いに、このパンをあげますね」

 

そういいながら、モカは大量のパンをアヤに渡してくれた。その量といったら、一人では持ち切れるかどうか怪しいほどである。と、アヤが大量のパンに驚いていると、カオルが現れた。

 

「儚い……。なんて儚い日なんだ……!今日は帰ったら子猫ちゃんの栄光を称える儚い詩を書くことにしよう!」

 

相変わらず言葉の意味は分からないし、ヒナは目を輝かせている。そうアヤが思っていると、今度はユキナがやってきた。

 

「あなた、チャンピオンになったのね……。おめでとう。でも、これで油断しないことね。次に戦うときは、私が必ず勝つわ!」

 

ユキナの口調は厳しいが、その表情はどこか穏やかだ。しかし、いきなり彼女には猛烈なプレッシャーがのしかかってきたのである。と、今度はアリサが彼女のそばに寄ってきた。

 

「——あの……、おめでとう……。私だけ言わないのも感じ悪いから一応言っておくぞ……!勘違いすんなよ!仕方なく言うだけだからな!」

 

そういうと、アリサはプイっと後ろを振り向いてしまった。しかし、その顔はやっぱりオクタンのように——いや、オクタン以上に真っ赤だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四天王とリンコに見送られながら、アヤたちは外に出た。外はもう真っ暗だ。しかし、夜空には新しいチャンピオンを祝う打ち上げ花火が大きく上がっている。アヤとヒナは花火に照らされながら二人だけで帰路についた。本当はマリナ博士と一緒にまっすぐシグレタウンに戻ってもよかったのだが、それでは味気ないので彼女たちは今まで激闘を繰り広げたジムリーダーたちにあってから帰ることにしたのだ。

 

 

 

 

 

ウセイシティに着いたときには、ちょうどお祭りの最中だった。もちろん、ミサキもミッシェルの中に入り、風船配りやら記念撮影会やらであたりを駆け回り、大忙しだ。アヤとヒナはそのお祭りに参加し、ミッシェルと記念撮影をした後、あたりの屋台を回った。

 

 

ホマチシティでは、アコとトモエが二人を歓迎してくれた。アヤとヒナは、仲良し姉妹に連れられホマチシティや周辺の名所で観光を楽しんだ。そして、最後はポケモンセンターに併設されている温泉に4人で入った。

 

 

ウノトキシティにも彼女たちは足を延ばした。しかし、どうやらこの街のジムリーダーであったタエは何を思ったのか、ジムリーダーを辞めてしまったらしい。原因は不明だ。しかし、間もなく新しいジムリーダーが来てくれるらしい。

 

 

ハルサメシティでは、ハグミが大量のコロッケをごちそうしてくれた。ハグミがご馳走してくれたコロッケの味は文句なしである。しかし、アヤはその量の多さに途中でギブアップ。その傍らで、休みなくコロッケをほおばるハグミとヒナを見て戦慄したのであった。

 

 

ユウダチシティでは、ランに出会った。アヤと初めて出会った時には色々とあったが、今の彼女は立派にジムリーダーを務め、ミタケ流の後継者として修業を積んでいるようだ。ちなみ、彼女とつるんでいた不良たちは紆余曲折あって全員ランの弟子になったらしい。

 

 

ムラサメシティでは、カノンがムラサメ水族館をいろいろ案内してくれた。ジムリーダーとしての腕前も、アヤと勝負した時よりも数段あがり、今やシンシュー最強のジムリーダーとして名をはせている。

 

 

キウシティでは、リミが待っていてくれた。アヤとヒナは、彼女に連れられリミがお勧めのパン屋に行き、これまた彼女のおすすめのチョココロネを買った。そして、近くのベンチに座り、パンを食べながらガールズトークに花を咲かせた。

 

 

ハナノシティでは、マヤがハイテンションで待っていた。話を聞くに、どうやら新しい化石発掘スポットを見つけたらしい。アヤとヒナはそこに連れていかれ、マヤとともに化石発掘をすることになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

ハナノシティを出て数日後の夜、アヤはついに懐かしい故郷『シグレタウン』にたどり着いた。見慣れた街をヒナとともに歩くアヤ。間もなく、自分の家の前に到着した。彼女はそこで大きく深呼吸。そして、家のドアを開いた。

 

「ただいまー」

 

ここに、アヤの旅はひとまず終わりを迎えたのである。

 

 

 




おまけ:燐子のパーティー一覧(本気モード)
・多分リーグ二週目以降に戦える本気りんりんのパーティー。一応『ゴーストタイプの使い手』ですが、割とほかのタイプも使ってきます。

★ゲンガー@ゲンガナイト
特性:呪われボディ
性格:臆病
努力値:CS252

・シャドーボール
・ヘドロ爆弾
・催眠術
・気合玉

☆メタグロス@突撃チョッキ
特性:クリアボディ
性格:意地っ張り
努力値:HA252

・バレットパンチ
・冷凍パンチ
・思念の頭突き
・地震

☆シャンデラ@ゴーストZ
特性:すり抜け
性格:控えめ
努力値:CS252

・シャドーボール
・エナジーボール
・大文字
・目覚めるパワー(氷)

☆サザンドラ@拘りスカーフ
特性:浮遊
性格:控えめ
努力値:CS252

・悪の波動
・大文字
・竜星群
・大地の力

☆オーロット@オボンの実
特性:収穫
性格:慎重
努力値:HD252

・鬼火
・守る
・呪い
・やどりぎの種

☆シザリガー@命の珠
特性:適応力
性格:意地っ張り
努力値:AS252

・アクアジェット
・クラブハンマー
・はたき落とす
・剣の舞




☆これで彩ちゃんの旅がひとまず区切りがついたので、彩ちゃん以外が主人公のスピンオフが見たいという声にこたえて、スピンオフを数話書きたいと思います。(早く本編を書いてほしい人すみません)

感想や高評価、お気に入り登録待ってまーす!



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アヤとヒナの旅~その2~
第四十五話 アヤの旅立ち再び


お待たせしました。本編再開です!
ちなみに、あとがきを読めばおたえがジムリーダーを辞めた理由が分かります。


チャンピオンになった日から、アヤは大忙しだった。久しぶりの殿堂入りしたトレーナーということで、新聞や雑誌やテレビに引っ張りだこ。睡眠はおろか、まともに食事すらできない日が何日も続いた。今や、アヤは有名人である。

 

 

 

 

一方のヒナも、『アヤを育てた名トレーナー』として、アヤと一緒に様々な方面から注目されて有名になり、彼女と一緒に多忙な毎日を送っている。また、この多忙な日々の間を縫い、彼女は新しい住処を見つけた。それは、アヤの故郷でもあるシグレタウンだ。どうやらヒナ的に、シグレタウンがるんってきたらしい。今は、アヤの家に居候している状態だが、近々アヤの家の近くに小さい家を借りるそうだ。

 

 

 

 

 

さて、ヒナが『この街に家を借りる!』と言い出したころには、アヤの殿堂入りによる慌ただしい日々もだいぶ落ち着きだした。今日は、一月ぶりの何もない日だ。というわけでその日のアヤは、昼近くになってもまだ家のベットで間抜けな寝顔を見せながら、寝言をぼやき、夢の世界に浸っていた。

 

「うーん……、まんまるお山に彩りを……、えへへへ~」

 

しかし、幸せな夢の世界は一瞬で破壊された。

 

「アーヤーちゃん!朝だよ!起きて!」

 

何の前触れもなく、元気なヒナが抱き着いてきたのだ。すると、眠い目をこすりながらアヤの上半身がむくりと起き上がった。

 

「うぅ~、せっかくいい夢見ていたのに~!あと、起こすなら普通に起こしてよ~」

 

「えへへ~。ごめんごめん。明日からは気をつけるよ~。そんなことよりも、アヤちゃん!時間すぎてるよ~」

 

「……時間?なんのこと……?今日はテレビの出演も、雑誌の取材もないはずだよ……」

 

「忘れちゃったの?今日はマリナ博士と会う予定があるじゃん!」

 

「マリナ博士……?あっ!いけない!」

 

『何もない日』というのは、アヤの勘違いだった。今日は10時からマリナ博士の研究所に行く約束をしていたのだ。彼女が慌てて時計を見れば、針が11時を指している。アヤの眠気が瞬時に吹き飛んだのは言うまでもない。

 

「いってきまーーーーす!」

 

彼女はパジャマから着替えると、髪型もろくに整えず、朝食にも手を付けず、マリナ博士の研究所に走っていった。

 

「アヤちゃん……。急いでいるならムクホークに乗ればいいのに……。う~ん、今日もるんってする1日になりそう!」

 

息を切らせながら閑静な街を疾走するアヤをしり目に、ヒナはテッカニンに乗り、彼女を追いかけ、瞬く間に抜き去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、やっとの思いでアヤが研究所に着くと、そこには余裕の表情を浮かべたヒナがいた。

 

「アヤちゃん、マラソンは楽しかった?」

 

「楽しくない!からかわないでよ~!」

 

「あはは!やっぱりアヤちゃんって面白い!」

 

「う……、なんだか心が傷つく……」

 

ヒナに大笑いされながら、アヤは研究所に入ろうと扉に手をかける。

 

「あっ!そこにいるのはアヤ先輩!」

 

その時、背後から声がした。二人は同時に後ろを向く。そこにはツインテールをパステルカラーに染めた少女が立っていた。

 

「だれ?」

 

謎の少女を前に、ヒナは首をかしげる。しかし、一方のアヤの顔はぱぁっと明るくなっていた。

 

「そこにいるのはパレオちゃん!久しぶり!」

 

「パレオちゃん?アヤちゃんの知り合い?」

 

素っ頓狂な声を出すヒナ。と、パレオが彼女の前にやってきた。

 

「ハイ!ワタシはシグレタウンに住んでいるパレオっていいます!アヤ先輩の後輩です!アヤ先輩では昔から一生懸命で、殿堂入りする前からワタシの憧れの先輩なんです!だから、旅たちの前に出会えてよかったです!」

 

「え?旅たち?」

 

パレオから予想外の言葉が飛び出し、アヤの言葉が詰まる。すると、パレオは一つのモンスターボールを投げた。中から出てきたのはヒノアラシだ。

 

「私、今日このシグレタウンを旅立つんですよ!念願のポケモントレーナーデビューです!」

 

「ヒノー!」

 

パレオの言葉に合わせて、ヒノアラシが小さい炎を吐く。出会って間もないはずなのに、かなり仲がいいようだ。将来楽しみなタッグである。

 

「そっかぁ。パレオちゃん、ヒノアラシと一緒に旅を楽しんでね!」

 

「はい!いつか必ず、アヤ先輩に負けないくらい立派なトレーナーになります!」

 

パレオは、アヤとヒナに深く頭を下げると、ヒノアラシを抱えて1番道路の方へ走っていった。

 

「なんだか、前にも見たような雰囲気だったな~」

 

それを見たヒナは、アヤの方をちらりと見て呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、新人トレーナーパレオを見送ったアヤとヒナは、改めて研究所の扉に手をかけ、それをひらいた。彼女が研究所に来るのは、リゲル団によってマリナ博士が誘拐されたとき以来である。その時の研究所内は滅茶苦茶に散らかっていた。だが、今は家具は綺麗に整えられ、いたるところに難しそうな資料や本が置かれている。そして、研究員たちは忙しく動き、謎の解明にいそしんでいた。もはや、ここにはあの時の重苦しい面影はどこにもない。以前のような平和な研究所が戻っていたのだ。が、唯一、以前と違う点がある。それは、アグノム、エムリット、ユクシーの三匹が新しい研究所の仲間として加わっていということだ。この三匹の正体は、リゲル団の手によってつくられ、リュウコの石塔頂上でアヤたちを苦しめたクローンである。この三匹はマリナ博士にゲットされた後、紆余曲折の末、正式にマリナ博士の手持ちに加わったのだ。今では研究所の職員はもちろん街の人にもすっかり懐き、三匹そろってこの研究所で平和に暮らしている。

 

「キョウ~ン!」

 

「キュウ~ン!」

 

「キャウ~ン!」

 

アヤとヒナは、この新しい仲間たちにマリナ博士の部屋に案内された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ、アヤちゃんとヒナちゃん!元気にしてた?」

 

部屋の中に入ると、マリナ博士は笑顔で二人を迎えてくれた。アヤもヒナもマリナ博士も、ここ一か月は色々と忙しかったため、こうしてゆっくり顔を合わせるのは久しぶりである。

 

「あっ、はか——」

 

「うん!私は毎日るんってしてる~!アヤちゃんはねー、毎日ぎゅいーーんって感じ!」

 

ヒナがアヤの言葉を容赦なく遮る。アヤはすこし頬を膨らませた。

 

「その様子だと元気そうだね。むしろ元気が有り余っている感じかな?まぁ、元気がいいことに越したことはないか。と、いうことで本題を……。まずは、アヤちゃん、殿堂入りおめでとう!リュウコの石塔であった時に、『もしかして……!』とは思ったけど、まさか本当に殿堂入りするとはね!」

 

マリナ博士が、そういうと、アヤの表情は緩みに緩んだ。もちろん顔は真っ赤だ。この一か月の間に『おめでとう!』という言葉は何度もかけられたが、やはり何度言われても嬉しいのである。そして、そんな顔を見たマリナ博士は二人の前にとある白封筒を差し出した。

 

「というわけで、私から二人に殿堂入りのお祝いにプレゼント!マグマウンテンの先にあるサミダレタウンの中でも屈指の高級ホテル、『サミダレロイヤルホテルのスイートルーム』のペア宿泊券だよ!」

 

「サミダレ……ロイヤルホテル!?」

 

その単語を聞いた瞬間、アヤは固まった。

 

「どうしたのアヤちゃん?というか、そのサミダレロイヤルホテルってなに?」

 

ヒナが不思議そうに声をかけると、アヤが言葉を爆発させた。

 

「知らないのヒナちゃん!?サミダレロイヤルホテルといえば、高級別荘地や高級ホテルが立ち並ぶサミダレタウンの中でも超一流の超超超高級ホテルだよ!世界のお金持ちが一年前に予約して泊まれるかどうかわからないとすら言われているくらいだよ!特にスイートルームなんて、私たち庶民は一生泊まれなくてもおかしくない場所だよ!マリナ博士、そんな高級品どこで手に入れたんですか!?」

 

アヤの気迫はすごい。いまだかつてここまで興奮した彼女をマリナ博士は見たことなかった。

 

「アヤちゃん、はしゃぎすぎだって~。この宿泊券はね、雑誌の懸賞で当たったんだ。本当は、一等の『最新家具・家電セット』でも当てて、あわよくば研究所の模様替えでもしようと思ったんだけど、まさか特賞の宿泊券が当たるとは思わなかったよ。運がいいのか悪いのかわからないや」

 

「そうなんですか。でも、せっかく当たったんならマリナ博士がこの宿泊券使えばいいんじゃないんですか?本当にこれ私たちが貰っていいんですか?あとで、恨み言いうのは無しですよ?」

 

「アヤちゃん……、恨み言なんて私が言うわけないじゃん。まぁ、ホテルに行きたくないっていえばウソになるけどね。でも、この宿泊券が使える期間、ちょうど研究の都合でシンオウに行かなきゃいけないんだ。それに、私には行く相手がいないし……。ま、とにかく、その宿泊券で思いっきり楽しんできなよ!」

 

「それじゃぁお言葉に甘えて、思いっきり楽しんできます!ヒナちゃん、次の旅の目的地は、サミダレタウンでいいよね?」

 

アヤがそう言っている間にもヒナは横で『るんってきたーーー!』と騒いでいる。どうやら、次の目的地はサミダレタウンで決まったようだ。

 




おまけ:ジムリーダーの設定集2

本文では尺とか労力の都合で書ききれなかった設定や本文ですでに出てきた設定を、ゲームの攻略本風にまとめてみました。初戦時の手持ちのレベルや技は省略します。連絡先を聞くときのセリフ内に出てくる主人公の名前はアヤで固定します。暇だったら自分の名前に置き換えれば、バンドリキャラに連絡先を聴いている気分に浸れるかも。



ラン
☆使用タイプ:ドラゴン
☆ジムがある街:ユウダチシティ
☆キャッチコピー:夕陽に映えるドラゴン使い
☆貰えるバッジ:ワイバーンバッジ
☆初戦時の手持ち
・フライゴン
・コモルー
・オノンド
☆連絡先の聞き方
・ユウダチジム内にいるランに、金曜日の夜に話しかける。
☆連絡先を聞くときのセリフ
ラン「アヤさん……、こんばんは。あの、今更あれですけど、前のこと謝らせてください。ほら、初めてのジム戦の時です。なんか、色々失礼な態度をとったり、馬鹿にするようなこと言っちゃって、すみませんでした。あの時のあたしは、父さんに認められたいあまり、きっと周りが見えなくなっていたんです。それで、その、急に話は変わるんですけど、連絡先交換しませんか?それで、できればまたあたしと戦ってくれませんか?今も立派なトレーナーとは言えませんが、昔よりは成長しているはずです。それをアヤさんに見てほしいんです」


ハグミ
☆使用タイプ:格闘
☆ジムがある街:ハルサメシティ
☆キャッチコピー:熱血!メラメラバトル!
☆貰えるバッジ:ガッツバッジ
☆初戦時の手持ち
・ゴウカザル
・ルカリオ
・ローブシン
☆連絡先の聞き方
・火曜日の朝、12番道路でランニングしているハグミに話しかける
☆連絡先を聞くときのセリフ
ハグミ「ファイト!ファイト!ファイト!おーい、アヤさーん!アヤさんも朝からランニングしているの!?えっ、違うの?アヤさんもランニングすればいいのに~。朝にランニングするとね、風が気持ちいし、カラダも鍛えられるんだ!そうだ、アヤさんも今度、ハグミと一緒にランニングしようよ!そうしたら、絶対楽しいと思う!だから、連絡先交換しよ!都合がいい日を教えて!」


タエ
☆使用タイプ:地面
☆ジムがある街:ウノトキシティ
☆キャッチコピー:ウェルカム!ハナゾノランド!
☆貰えるバッジ:アースバッジ
☆初戦時の手持ち
・ホルード
・ニドキング
・ニドクイン
☆連絡先の聞き方
・土曜日の昼、3番道路にいるタエに話しかける
☆連絡先を聞くときのセリフ
タエ「うーん、ここはどうかなオッちゃん?……ダメ?ドロちゃんとしろっぴーとパープルは?……そうかぁ。それじゃあ、アヤさんはどう思う?えっ、こんなところで何をしているかだって?そんなの決まってんじゃん。理想のハナゾノランドを捜しているんだよ。本当はジムにハナゾノランドをつくろうとしたんだけど、リンコさんがダメだって。ジムのフィールドを潰して、おっちゃん達の部屋に改装するのは困るって言われちゃったんだ。だから、私、ジムリーダーを辞めて理想のハナゾノランドを捜すことにしたんだよ。ハナゾノランドにおっちゃん達の部屋は欠かせないからね。そうだ、アヤさん。連絡先を教えてよ!理想のハナゾノランドが見つかったら、そこに招待してあげるからさ」
※ちなみにオッちゃん=ホルード、ドロちゃん=ガブリアス、しろっぴー=ニドクイン、パープル=ニドキングです。おたえは手持ち全員にニックネームをつけています。


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第四十六話 サミダレタウン~優雅で美しい貴族的な街~

今更ですけど、巴とあこちゃんからもらえるジムバッジの名前を、ヘルバッジから『ロクモンバッジ』に変更しました。


 サミダレタウン。マグマウンテンを抜けた先にあるこの街は標高が比較的高く、澄んだ空気と涼しい気候から人気が高く、高級リゾート地として有名だ。街の中心部には巨大なショッピングモールが栄え、郊外には全国津々浦々の有名人やお金持ちの別荘や高級ホテルが立ち並んでいる。その一方で、最近はポケモントレーナーが喜ぶような施設も充実しつつあり、最近ではシンシューで9番目のジムが開設されたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな街に訪れたアヤとヒナは超高級ホテル『サミダレロイヤルホテル』の自室に荷物を置き、午前中からお金持ちの雰囲気がむんむんする風を浴びながら、ショッピングモールを歩いていた。が、歩いてる最中、どうもアヤはやたらと通行人の注目の的になっていた。

 

「えへへ、殿堂入りしたらなのかな~。すれ違う人が私の方を見て、コソコソ話している。いや~、有名人は大変だな~」

 

と、アヤは勝手な解釈をし、自己満足に浸る。が、多分彼女の解釈は違う。というのもアヤの今の服装は、ヒナの言葉を借りて表現するなら『とっても面白い』服装なのだ。アヤ的には、今日のファッションは自分の正体がばれないようにするための変装らしいが、変装することを意識しすぎたせいで不思議な見た目になっている。バカでかいピンクのリボンに、大昔になんかの懸賞で当てた妙な服に、なんか不釣り合いなスカート、目元を隠すための何とも言い難いデザインのサングラス。はっきり言ってしまえばダサい。やたらと注目の的になる原因も、十中八九このファッションのせいだろう。だが、アヤは注目されている理由がファッションのせいだとは露とも知らず、ショッピングモールの散策を楽しんだ。

 

「うわ~!この服可愛い!」

 

しばらく歩くと、アヤはショーケースに飾られた、自分の好みにクリーンヒットの服を見つけた。

 

「確かに、この服は今の服よりアヤちゃんに似合いそう!」

 

「えっ、どういうことヒナちゃん?」

 

なんだか聞き捨てならない言葉を聞き、眉をひそめるアヤ。だがヒナはそれを軽々笑い飛ばした。

 

「何でもないよ―アヤちゃん。そんな服とかにらめっこしている暇があったら、その服買っちゃえば?せっかく殿堂入りしたお祝いなんだからさ!」

 

「それもそうだね。よーし、この服を買っちゃおう!えっと、値段は……」

 

そう言いながら、彼女は目線を値札に移す。そして、絶望した。その服の値段は、どう頑張ってもアヤの所持金じゃ買えない価格だ。

 

「せめて0が1つ減ってくれれば……」

 

アヤはショーケースの前でうなだれた。と、その時、彼女たちの背中で聞き覚えがある声がした。

 

「笑顔じゃない人発見!」

 

その声に釣られて後ろを振り向くと、そこにははじける笑顔のココロが立っていた。

 

「あっ、ココロちゃん久しぶり~!元気にしてた?」

 

ココロに負けないくらいの笑顔をヒナは見せる。すると、ココロは負けじと笑顔を爆発させた。

 

「私は見ての通り元気よ!そんなことよりヒナ、アヤはどうして笑顔じゃないの?」

 

「あー。なんかね、欲しかった服の値段が高くて買えなかったから落ち込んでいるんだ」

 

「ふーん。あの服を私が買ってあげればアヤは笑顔になるのね。それじゃあ、決まりね!店員さーん!この服——」

 

「えっ!ちょっと待ってココロちゃん!買わなくていいから!」

 

ココロが言葉を放った瞬間、アヤは大慌てでそれを遮った。

 

「あら、どうして買わなくていいの?アヤはあの服が欲しいんでしょ?」

 

きょとんとするココロ。そんな彼女を前にアヤは大慌てで言葉を畳みかけた。

 

「そうだけどさ~、本当にいいから!あんな高い服、買ってもらうなんて、申し訳なくてできないよ~」

 

「そうなの?私がこの服を買ってあげたら、アヤは笑顔じゃなくなる?」

 

「うん、笑顔じゃなくなる!」

 

「そう、笑顔じゃなくなるなら仕方がないわね。わかった、この服を買うのは止めるわ」

 

「よ、よかったぁ」

 

ほっと胸をなでおろすアヤ。すると、間髪入れずココロがまた言葉を放った。

 

「そうだ!アヤ!ヒナ!せっかく久しぶりに出会ったんだから、あなた達について行ってもいいかしら?あなた達と一緒にいれば、ハッピーな出来事が起きそうなの!」

 

思いもよらぬ言葉だ。しかし、同時に嬉しい言葉でもある。

 

「大歓迎だよ、ココロちゃん!一緒に行こう!」

 

「ココロちゃんと一緒に街を回れるなんて、今日はるんるんってする日だな~」

 

アヤとヒナは、ココロと一緒に回りだした。

 

 

 

 

 

 歩いている最中ココロは「楽しいって気持ちは、誰かと一緒にいると生まれるものなの!」と、言っていたが、まさにそうであった。3人で街を歩くときは、2人で歩く時よりも数倍楽しかった。可愛い雑貨が売っている店をのぞいたり、カフェで一休みしたり、楽しい時間は光の速さで過ぎていく。ココロと出会ったのは10時頃であったが、もう夕方だ。ショッピングモールを一通り回り終わった彼女たちは、今、中心部から少し離れた場所を歩いている。この辺は別荘地が多く、立ち並んでいるエリアだ。どの別荘も高級感にあふれている。ここの別荘と比較すると、アヤの家なんて物置小屋にしか見えない。だが、そんな街並みのなかに、一つだけ異質であり、アヤにとって見慣れた建物が見えた。ポケモンジムだ。

 

「あー、そういえばサミダレタウンにもジムができたんだっけ?確か、アヤちゃんが殿堂入りした直後にあたりに」

 

「そうらしいね。私も少し旅たちが遅かったら、ここのジムに挑んでいたのかなー?」

 

アヤとヒナはできて間もないサミダレタウンジムをみてあれこれ思いをはせる。が、ココロの視線は全く別のところに向かっていた。

 

「あら?あんなところに笑顔じゃない人がいるわ」

 

その声に釣られ、2人もココロについて行く。そこには、ジムの近くのベンチに座りうなだれている眼鏡の少女がいた。

 

「こんにちは!あなたは誰なの?」

 

「ロッカって言います。一応ポケモントレーナーです。」

 

ココロの声に反応し、その少女は顔をあげた。

 

「私はココロ!世界を笑顔にするために活動しているのよ!ねぇ、あなたはどうして笑顔じゃないの?」

 

「そんなの……、他人に言っても意味ないですよ……。はぁ……」

 

ロッカはため息をついた。気のせいか、出会った時よりももっと表情が暗くなっている気もする。

 

「そんなことないわ!ロッカが笑顔になるなら、私、何でもするわよ!」

 

「分かりました。そこまで言うなら教えます……。実は、ここのジムに5度も挑んだんですけど、ジムバッジが取れないんです……」

 

「なるほど。なんだかよく分からないけど、ジムバッジっていうのが手に入ればロッカは笑顔になるのね!それじゃあ、さっそく、ジムバッジをもらいに行きましょ!」

 

そういいながら、ココロはジムの中に入ろうとする。しかし、彼女がジムに入る直前、アヤはココロを止めた。

 

「ココロちゃん!ジムバッジはお願いしてもらうものじゃないんだよ!」

 

「そうなの、アヤ?ヒナはどう思う?」

 

「私も、他人の力で手に入れたジムバッジはるんってしないなー」

 

「そうなの?そうなると困ったわね。どうすればロッカを笑顔にできるのかしら?」

 

ココロは頭を抱える。だが、この時アヤの中には妙案が浮かんでいた。

 

「ココロちゃん、私、ロッカちゃんが笑顔になる方法知ってる。ロッカちゃんがここのジムリーダーに勝てるように、私がポケモンバトルのコツを教えてあげればいいんだよ!」

 

「えっ!今日初めて会う人に、お、お、教えてもらうなんて……、申し訳ないです!そんなに気を使わなくても、大丈夫です~!」

 

目を回し、あたふたするロッカ。アヤはそんな彼女を、力強いまなざしで見つめた。

 

「気にしないでよ。困ったときはお互い様だよ。それに、こう見えてもバトルの腕には結構自信あるんだ」

 

「そう、そう!こんなヘンテコな格好だけどアヤちゃんは滅茶苦茶強いんだよ!」

 

ヒナも、アヤに続いて彼女の強さを推す。

 

「ロッカ、私達と一緒にあなたも笑顔になりましょ!」

 

さらに、ココロも加勢した。今のロッカにとって、心強い言葉を放つ三人の姿は神に見える。ロッカは、アヤにバトルのコツを教わることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーし!ロッカちゃん、絶対ジムバッジゲットしようね!」

 

「は、はい!お願いします!」

 

「それじゃあ最初は——」

 

近くの公園に移動し、アヤの特別レッスンは始まった。後輩トレーナーに頼られていることもあって、アヤは大張り切り。彼女の気分は、トレーナーズスクールの教師だ。

 

「ロッカ、アヤー!頑張ってー!」

 

一方のココロは2人から少し離れたところで、しきりにエールを送っている。そして、その横でヒナはじっとアヤの頼もしい姿を見ていた。

 

「いやー、まさか、おっちょこちょいでドジなアヤちゃんが、他人にあれこれ教えられるようになるとはね~。ずっと前からぎゅぎゅいーんって感じはしてたけど、ここまで成長するとは、私でも予測できなかったな~。やっぱりアヤちゃんって面白~い!」

 

ところが、こう思った直後、ヒナの耳にとんでもないアヤの言葉が飛び込んできた。

 

「いいロッカちゃん。ポケモンにはタイプ相性があって~。例えば、草タイプは水タイプに強くて、『悪タイプは格闘タイプに強いんだよ!』」

 

これは、ヒナ的にはるんってこない言葉だ。

 

「何となくだけど、私も教えるのを手伝った方がよさそうだね……」

 

ヒナはアヤとロッカのところに歩いて行った。

 




おまけ:ジムリーダーの設定集3


本文では尺とか労力の都合で書ききれなかった設定や本文ですでに出てきた設定を、ゲームの攻略本風にまとめてみました。初戦時の手持ちのレベルや技は省略します。連絡先を聞くときのセリフ内に出てくる主人公の名前はアヤで固定します。暇だったら自分の名前に置き換えれば、バンドリキャラに連絡先を聴いている気分に浸れるかも。
※だいぶ前にこんな感じのヤツ載せましたが、こっちが完全版です。昔のやつは消したので忘れてくれると嬉しいです。


トモエ・アコ
☆使用タイプ:炎(トモエ)・悪(アコ)
☆ジムがある街:ホマチメシティ
☆キャッチコピー:表裏比興のコンビネーション(トモエ&アコのダブルバトル時)
         燃え上がるソイヤッ!(トモエのシングルバトル時)
         闇っぽい力がアレな大魔王!(アコのシングルバトル時)
☆貰えるバッジ:ロクモンバッジ
☆初戦時の手持ち
・リザードン(トモエ)
・コータス(トモエ)
・アブソル(アコ)
・ダーテング(アコ)
☆連絡先の聞き方
・日曜日の夜、ポケモンセンターにある温泉の入り口の前にいるアコとトモエに話しかける。
☆連絡先を聞くときのセリフ
トモエ「そこにいるのはアヤさん!」
アコ「久しぶり~!元気にしてた?あっ、そうそう聞いて!アコね、お姉ちゃんと温泉入ってきたんだよ!」
トモエ「アツくて気持ちよかったな。あっ、アツいで思い出した。アヤさん、この前のジム戦覚えてます?あのアツい激闘!アタシは今も鮮明に思い出せます!それで、お願いがあるんですけど、またアタシ達と戦ってくれません?もう一度、体中が燃え上がるようなバトルがしたいんです!」
アコ「アコも、もう一度戦いたい!あっ、そうだ!アコたちと連絡先交換しようよ!そうすれば、いつでも戦えるよ!」


ミサキ
☆使用タイプ:ノーマル
☆ジムがある街:ウセイメシティ
☆キャッチコピー:参上!キグルミジムリーダーミッシェル!
☆貰えるバッジ:ミッシェルバッジ
☆初戦時の手持ち
・キテルグマ
・ケンタロス
・オオスバメ
・メタモン
☆連絡先の聞き方
・木曜日の朝、ポケモンリーグの前にいるミサキに話しかける。
☆連絡先を聞くときのセリフ
ミサキ「アヤさん、おはようございます。えっ、どうしてここにいるのかですって?それは……、もう一度私がポケモンリーグに挑むからですよ。前にポケモンリーグに挑んで負けたときは、私、不思議と全然悔しくなかったんですよ。なんか『相手がチャンピオンだから仕方ないか~』って思っちゃったんです。でも、アヤさんが頑張る姿を見てたら、途端にその時負けたことが悔しくなっちゃって……。だから、こうしてリベンジしに来たんです。まぁ、勝てるかどうかは分かりませんけどね。……そうだ、アヤさん。話は変わりますけど連絡先交換しません?ここであったのも何かの縁ですし、アヤさんに結果を報告したいんで。もちろん、無理にとは言いませんが……」


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第四十七話 狂い、轟く雷鳴

大変遅れて申し訳ありませんでした。

本文には出てきませんが、六花ちゃんの手持ちはペルシアン、トロピウス、ラブカス、アリアドス、カモネギ、アンノーンです。


 数日後、特訓を終えたロッカは、アヤ、ヒナ、そしてココロとともにサミダレタウンジムの前にやってきた。

 

「どうしよう……。緊張で足が進まない……。それに……、教わったことが抜けていく……!」

 

ロッカは立ったままあたふたし、中々進もうとしない。一応、教わったことを書いたメモを手にしてはいるが、多分意味はない。

 

「さぁ、ロッカちゃん!ズガガーンっていちゃおう!」

 

「ロッカ!笑顔よ、笑顔!」

 

両サイドからは、ヒナとココロの声援が飛んでくる。だが、『はい~』と目を回すだけで精いっぱいだ。と、ここでアヤが彼女の手を取った。

 

「大丈夫だよ。ロッカちゃん、一生懸命頑張ったもん!」

 

「で、でも……」

 

アヤの手のぬくもりのおかげか、ロッカはすこし落ち着きを取り戻したようだ。しかし、その表情は不安を隠しきれてないようである。アヤは、そんな彼女を前にして、1つアドバイスを言った。

 

「ロッカちゃん、いいこと教えてあげる。ポケモンバトルはね、楽しむことが一番大切なんだよ」

 

「楽しむ……?」

 

「うん。結果を気にしていたら、どんどん緊張しちゃうだけだもん。バトルを楽しみに来たと思えば、緊張しないでしょ?」

 

「確かに、そんな気もします。ありがとうございます。これで少し気が楽になりました。私、一生懸命頑張りますね!」

 

ロッカはそういうと、六度目のジムの入り口をくぐった。そして、残された三人も、彼女の後に続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジムに入った途端、アヤは恐怖のあまり固まった。入り口にはジムリーダーらしき黄色髪の少女が立っていたのだが、その威圧は凄まじい。ちょっとでもよそ見をしたら、首筋をガブリと噛みつかれてもおかしくないとも思えるほどだ。

 

「確か、ロッカだったよな。今日は友達も一緒なのか?」

 

と、ここでその少女が口を開いた。風貌に変わらず、低めで恐怖をそそるトーンだ。ロッカはやや怯えながら言葉を返した。

 

「友達……といっていいかはわからないんですけど、その、私にバトルにあれこれを教えてくれた人たちなんです」

 

「……そうか。それで、そこの三人はロッカとあたしのバトルを見学しに来たのか」

 

彼女はそういうと、視線をアヤたちに向けて一礼。

 

「よく来たな、見学者。あたしの名前はマスキング。エキスパートタイプは電気。好きなことは、狂ったように激しいバトルだ。どうかよろしく頼む」

 

荒々しい風格に似合わぬ、意外と丁寧な自己紹介だ。これにはアヤも一安心である。

 

「というわけで、そろそろ始めるとするか。ロッカ、見学者たち、ついてきな」

 

マスキングに導かれ、アヤとロッカたちはフィールドに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機械をモチーフにしたレリーフが施されたフィールドに入ったアヤは、ヒナとココロとともにフィールド脇のベンチに座った。

 

「これがヒナちゃんがいつも見ている景色か~」

 

アヤがここに座るのは何気に初めてだ。いつも、アヤがいる位置にはロッカいる。

 

「大丈夫~大丈夫~。笑顔で楽しく~ズガガ~ン~」

 

今、彼女はまた目を回してあたふたしている。と、ここでヒナがアヤの耳元でさらっと言葉を放った。

 

「なんだか、昔のアヤちゃんみたいだね」

 

「そうなの?」

 

アヤはもう一度ロッカをよく見た。言われてみれば、確かに既視感がある光景だ。そう思うと、ロッカへの親しみがさらに倍増してきた気がする。そして、彼女はそれをロッカにぶつけた。

 

「ロッカちゃん!頑張って!ファイトだよ!」

 

「は、はい~」

 

ロッカは申し訳程度に手を振り返す。フィールドを挟んだ彼女の正面には、堂々と強者の風格を醸し出すマスキングがいるせいで、その頼りなさは際立って見える。だが、間もなくロッカは何とかモンスターボールを手に取った。

 

「それじゃ、始めるか」

 

それに合わせ、マスキングも動く。そして、両者は同時にポケモンを繰り出した。

 

「ペルシアン、お願いします!」

 

「暴れろ、ピカチュウ!」

 

ロッカの前に現れたのはペルシアン、マスキングの前に現れたのは可愛いピカチュウだ。いよいよ、六度目のジム戦始まるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 バトルが始まって間もなく、アヤは戦慄した。ピカチュウの動きが尋常ではないのだ。光のような俊敏さに、雷のような破壊力。間違いなくその辺のライ中よりも強い。

 

「ペルシアン!乱れひっかき!」

 

「ペルッ!」

 

ロッカとペルシアンは、必死に立ち向かう。だが、小手先だけの動きで戦えるほどマスキングとピカチュウは甘くはない。離れていれば十万ボルトが休みなく襲い掛かる。逆に接近すれば、今度はアイアンテールの餌食。少しでも動きが鈍れば電光石火で攻撃される。まさしく八方ふさがりだ。ロッカは目を回しだした。

 

「えっと……、えっと……」

 

ついに、ロッカのポケモンへの指示が途絶えた。ペルシアンは自分の判断で動き、何とか持ちこたえているが、長く持ちそうもないのは誰の目から見ても明らかだ。

 

「どうやら、アタシに勝つにはまだ早かったみたいだな。悪いが、勝ちはもらうぞ。ピカチュウ、止めを刺せ!」

 

「ピッカァ!」

 

マスキングの声とともに、ピカチュウの体に電気がたまる。その時だ、不意にアヤが立ち上がった。

 

「がんばれ!ロッカちゃん!ペルシアン!負けないで!」

 

「アヤさん……」

 

アヤの声が、ロッカの耳に飛び込んだ。

 

「ロッカちゃん、るんってしていこー!」

 

「笑顔よ~ロッカ!」

 

続いて、ヒナとココロの声も彼女の中にやってきた。ロッカは落ち着きを取り戻した。

 

「そうだ、アヤさんたちに言われていたことを忘れてた。笑顔で……楽しくバトルするんだっけ?」

 

とりあえず、彼女は目の前の状況は忘れてみた。そして、笑ってみた。するとどうであろうか、今まで真っ白だった頭がスッと晴れ、目の前の戦況が、そして突破口が見えてきたではないか。

 

「いける!私は負けません!ペルシアン、泥棒!」

 

「ペルシッ!」

ピカチュウの電撃がさく裂する寸前、ペルシアンはピカチュウの懐に飛び込んだ。そして、ピカチュウの首に掛かっていた、『電気玉』を奪い取った。

 

「電気玉に注目するとはいいセンスだ。電気玉があれば、ピカチュウの火力は格段に上がるからな。でも、これくらいどうにでもなるさ。電撃はアタシの体の一部だ!ピカチュウ、十万ボルト!」

 

マスキングのピカチュウは、十万ボルトを放った。しかし、ロッカもペルシアンもひるまない。

 

「ペルシアン、スピードスター!」

 

「ペルシー!」

 

ペルシアンはスピードスターで十万ボルトを防ぐ。そして、間髪入れずピカチュウに突っ込む。直後、ペルシアンはピカチュウに乱れひっかきをお見舞いした。

 

「やるじゃねぇか!こうなりゃコイツで決めてやる!ピカチュウ、ボルテッカー!」

 

「ピカピカピカピカピカピアピカァ!」

 

ピカチュウは即座に態勢を整えると、バチバチと激しい電気を全身に纏う。そして、ペルシアンめがけて疾走した。

 

「ペルシアン、シャドークロー!」

 

対するロッカも、全力で叫ぶ。そして、両者は互いに技を当て、すれ違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

「……」

 

長いようで短い静寂が流れる。その末、先に倒れたのはピカチュウだ。この時、ロッカは現実味をかんじられないのか、目をぱちくりさせていた。

 

「私が……、勝ったんですか……?」

 

「あぁ、お前の勝ちだ。アグレッシブな、いいバトルだった。少し前まであたふたしてたヤツが、ほんの数日でここまで成長できるとは驚いたよ。まぁ、殿堂入りを達成した人に教わったんなら、それも当然か。流石です、アヤさん」

 

マスキングは、ピカチュウをボールに戻しながらどこか心地の良い笑みを浮かべている。だが、対するロッカは驚きのあまり、声を失い、固まってしまった。まさか、それほどの強者が自分を教えてくれただなんて思いもしなかったからだ。そして、アヤは勢いよく立ち上った。

 

「うそ!?マスキングさん、私のこと知っているの!?」

 

「ジムリーダーとして、自分の地方の殿堂入りした人を覚えておくのは当然さ」

 

マスキングはさらっとこの言葉を放つ。が、この言葉でアヤは泣き出した。

 

「どうしたの、アヤちゃん?」

 

「お腹、痛いのかしら?」

 

そんな彼女を、ヒナとココロは不思議そうにのぞき込む。しかし、2人の心配はいらなかったようだ。

 

「だって~!やっと私のこと気が付いてくれた人がいるんだも~ん!」

 

アヤは顔をしわくちゃにさせながら言った。どうも彼女的には『殿堂入りしたアヤさんですよね!?テレビで見ました!』的な感じで、声を掛けられる展開をサミダレタウンに期待していたらしい。要は、この涙は嬉し泣きだ。よほど、街の人に声をかけてもらいたかったのだろう。

 

「なんとも言い難い光景だな。ま、喜んでもらえたならいいんだけど……」

 

フリーズした人や泣き出す人がいるカオスなジムだ。そんな中、マスキングは『やれやれ』という素振りを見せながら、ポケットからジムバッジをとりだした。

 

「ロッカ、意識は取り戻したか?」

 

「は、はい!すみません!」

 

彼女が声をかけると、ロッカは何とか我に返った。そして、マスキングは彼女にジムバッジを手渡した。

 

「これは、サミダレタウンのジムリーダーである私に勝った証、『アンペアバッジ』だ。おめでとう。まさか、ロッカが初めてこのバッジを手にするトレーナーになるとは正直思わなかったよ」

 

「ん……?どういうことですか?」

 

「私は今日まで、ジムリーダーとしては負けなしだった。つまり、このアンペアバッジを持つトレーナーは、今のところ世界でお前しかいないってことさ」

 

「えっ!?そうだったんですか!?そ、そんな記念すべき大切なバッジを私が貰うなんて……!ありがとうございます!一生大切にします!」

 

「そうか。そこまで喜んでくれるなら、記念にこれもやろう。ほら、『ワイルドボルト』が入った技マシンだ。ワイルドボルトは電気をまとって相手にぶつかる技。自分も少し反動のダメージを受けるけど、強さは折り紙付きさ。この技を使って、この先のバトルでも存分に暴れてくれよ」

 

「はわ~。こんなにサービスしてもらっていいのでしょうか?今日は最高の一日です~!」

 

天にも昇る想いのロッカ。荒々しさの中に優しい雰囲気を醸すマスキング。そして、いまだに泣き止まないアヤ。こんなカオスな状況の中、ロッカのサミダレタウンジム戦は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤとロッカたちがジムを出たときは、もう夕方だった。オレンジ色の光に照らされながら、ロッカは深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます!アヤさん、ヒナさん、ココロさん!」

 

「お礼なんて言わなくていいわ!あなたの笑顔を見れて、私も笑顔になれたもの!」

 

ココロの笑顔がはじける。そして、その笑顔はアヤとヒナにも広がった。

 

「うんうん!ロッカちゃんがジムバッジが取れてよかったよ」

 

「ロッカちゃんなら、ばばんって感じでたくさんのジムバッジをゲットできるよ!」

 

彼女たちの声援は暖かい。それを聞いたロッカの心に、やる気が再びともる。

 

「はい~!皆さんの期待に応えられるように、頑張ります!」

 

ロッカは再び三人にお辞儀をすると、夕日に向かって走っていった。そして、アヤはまた泣いていた。

 

「よかったよ……。本当によかったよ……。ロッカちゃんが頑張る姿を見ていたら、つい涙が……」

 

「アヤちゃんたら~、本当に泣き虫なんだから~」

 

そんな彼女を、ヒナはいつも通りちゃかす。と、その時、彼女はココロの異変に気が付いた。さっきまであんなに楽しそうにしていたのに、今の彼女の表情は妙に曇っているのだ。

 

「どうしたの、ココロちゃん?なんかあった?」

 

ヒナはココロに声をかけてみた。

 

「何でもないわ、ヒナ。ただ……、少し考えていたの。あの、ロッカのはなまる笑顔も、いつかはなくなっちゃうんだなって」

 

「どういうこと……?」

 

「ヒナ、アヤの顔を見て。さっきまであんなに笑顔だったのに、今は泣いているじゃない。きっとロッカも、今は笑顔だけど、いつかは困った顔や悲しい顔になってしまうわ。はなまる笑顔が消えてしまうなんてもったいないじゃない。みーんな、ずっと笑顔のままだったらいいのに」

 

「……?」

 

ココロらしからぬネガティブな言葉にヒナは首をかしげる。が、当のココロはすぐに笑顔を取り戻し、アヤとヒナに両手を大きく振った。

 

「それじゃあ、ヒナ、アヤ、私もこれで行くわね!バイバ~イ!」

 

「あっ、待ってよココロちゃん!もう少し一緒にいようよ!できれば、一緒に旅をしようよ!」

 

ヒナに止められ、急に立ち去ろうとしたココロは立ち止まる。そして、2人に背を向けたまま口を開いた。

 

「悪いけど、それはできないわ。私には、どうしてもやらなければいけないことがあるの」

 

「それって、世界を笑顔にするために必要なこと?私達と一緒じゃダメなの?」

 

ヒナの声がすると、ココロの影は頷くように動いた。

 

「そうよ。私は世界を変えなければいけないの。笑顔のためなら手段は選ばないわ。安心して、アヤ、ヒナ。もうすぐ世界は笑顔でいっぱいに……、いや、笑顔で世界は埋もれるから」

 

そう言い残すと、ココロは夜と昼の境の、薄暗い色の世界へと歩いて行った。まるで、吸い込まれるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココロと分けれたヒナとアヤは、2人が宿泊している豪華ホテルの自室へと戻った。部屋に入ると、アヤはすぐベッドにダイブした。

 

「あ~、このふかふかベットさいこ~」

 

と、名残惜しそうにいいながら、彼女はさらに深く、顔を布団に押し付けた。と、いうのも彼女たちがこのホテルに宿泊できるのは今日までなのだ。明日には、チェックアウトして、豪華絢爛の貴族のような生活から、今まで通りのごく普通の生活に戻らなければならない。

 

「あ~、このベッド持ち帰れたらいいのにな~」

 

アヤは、このベッドが随分と気に入ったようだ。おかげさまでこんな冗談を口にしている。と、その矢先、現実世界に引き戻すかのように図鑑が鳴り響いた。マリナ博士からの電話だ。

 

『やっほー。アヤちゃん、ヒナちゃん。サミダレタウンは楽しんでいる~?』

 

この前博士と話してからそこまで時間がたっていないのに、この別世界に浸っていたせいかその声はずいぶんと懐かしく感じる。アヤとヒナはそう思いながら、サミダレタウンの思い出を、博士に思う存分語った。そして、博士は電話越しに嬉しそうにうなずくのであった。

 

『うんうん。2人とも楽しそうで何よりだよ。……あっ、いけない。話し込みすぎて本題を忘れていたや。』

 

「本題?」

 

アヤはヒナと顔を見合わせる。すると、マリナ博士は思いもよらぬことを言い出した。

 

「うん。実はね、アヤちゃんにお願いがあるんだ。私の知り合いに、『シフネ』っていうおばあちゃんがいるんだけど、最近『バトルフロンティア』っていう施設をシンシューにも作ったんだよ」

 

「ば、バトルフロンティア……?」

 

アヤにとって、生まれてこの方聞いたこともない単語である。だが、ヒナは聞き覚えがあるようだ。

 

「なんか聞いたことがあるなぁ。詳しくは知らないけど、ジョウトやホウエンとかシンオウにある、いろんなルールでバトルできる場所だっけ?」

 

『そう、それ!ヒナちゃん正解!』

 

電話の向こうから、マリナ博士の拍手の音が聞こえる。だが、アヤはますます訳が分からなくなっていった。

 

「あのー、いまいち話が呑み込めないんですけど、私とその……、バトルフロンティア?が、どういう関係があるんですか?」

 

『おっとごめん、また話がずれちゃったね。話を戻そうか……』

 

博士からのお願いはこうだ。バトルフロンティアにいるフロンティアブレーンと戦って、バトルフロンティアの宣伝を手伝ってほしい、という内容である。

 

「えっ……、私が宣伝……?」

 

それを聞いたアヤは驚いた。だが、バトルフロンティアという場所がどういう場所であるかもとても気になる。これは、新しい場所に旅立てるまたとないチャンスだ。アヤは、迷わなかった。

 

「はい!私でよければ!」

 

そして、翌日、サミダレタウンを後にしたアヤとヒナは次の目的地へ出発した。まだ見ぬ未知なる地、バトルフロンティアへと。

 

 




おまけ:マスキングパーティー一覧(本気モード)

・多分何処かで戦えるであろう本気マスキングの手持ちです。名前の横に★が付いているのがエース。マスキングのキャッチコピーは『暴走イナズマガール!』です。そのわりには妙に補助技主体の連中が多い気がする。


★ライチュウ(通常)@デンキZ
特性:避雷針
性格:臆病
努力値CS252

・十万ボルト
・気合玉
・ボルトチェンジ
・草結び

☆デンチュラ@気合のたすき
特性:複眼
性格:臆病
努力値:CS252

・雷
・ねばねばネット
・エレキネット
・電磁波

☆ライボルト@ライボルトナイト
特性:避雷針
性格:臆病
努力値:CS252

・ボルトチェンジ
・十万ボルト
・目覚めるパワー(氷)
・オーバーヒート

☆トゲデマル@レッドカード
特性:頑丈
性格:陽気
努力値:AS252

・ほっぺすりすり
・びりびりちくちく
・とんぼ返り
・がむしゃら

☆ロトム(基本)@広角レンズ
特性:浮遊
性格:臆病
努力値:HS252

・鬼火
・祟り目
・トリック
・痛み分け

☆マッギョ@オボンのみ
特性:静電気
性格:穏やか
努力値:HD252

・大地の力
・地割れ
・ステルスロック
・あくび


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第四十八話 ハナゾノランドの後継者

なんやかんやあってジムリーダーを辞めたおたえ。果たして誰が後を継ぐのでしょうか?


※シンシュー地方のマップで建設中で不明だった部分を更新しました。よかったら見てね☆


バトルフロンティアは、シンシューの北部に位置する。ということで、アヤとヒナはそこに一番近いウノトキシティにやってきた。そして、彼女たちはそこのポケモンセンターで思いもよらぬ情報を耳にした。なんと、タエの後任のジムリーダーが着任し、来週にはウノトキシティジムを再開するというのだ。こうなったらじっとはしていられない。早速新しいジムリーダーに会うために、ヒナはポケモンセンターを飛び出し、ジムへすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、とーちゃーく!」

 

走ること数分、ヒナはジムの前についた。

 

「待ってよ……、ヒナちゃん……」

 

ヒナを追いかけ、必死に食らいついていたアヤも少し遅れて着いた。だが、それと同時に、彼女の目にジムの入り口に貼られた一枚の紙が目に飛び込んだ。見てみれば、そこには大きく『Close』と書かれている。

 

「あー、やっぱり閉まってるね。ジムが再開されるのは来週だしね。よし、ヒナちゃん帰ろう」

 

だが、ヒナはお構いなくジムの入り口に向かっていく。さも当たり前かのような表情だ。

 

「彩ちゃんは気にならないの?新しいジムリーダーが。それに、オタエちゃんがジムリーダー辞めた理由もわかるかもしれないじゃん!」

 

「確かに気にはなるけど……、ジムしまっているし……」

 

「へーきへーき、ジムの扉開いているよ。ほら!」

 

アヤの言葉を無視し、ヒナは中に入った。こうなっては、仕方がない。渋々アヤも、中に入ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前、ウノトキシティジムに来た時は、ジムのロビーには大量のウサギポケモンがたむろし、まさに『ハナゾノランド』が建国されていた。だが、今日目にしたロビーは何の変哲もない普通の、むしろ殺風景な空間だ。ポケモンがいないだけでもこんなに雰囲気が違うんだ。と、アヤは思った。

 

「ごめんくださーい!新しいジムリーダーはいますかー?」

 

一方のヒナは、大声で叫んでいた。すると、奥の方から足音が聞こえ、フィールドに続く扉が開いた。出てきたのは黒く長い髪をした、凛々しい雰囲気の少女だ。

 

「あれ、チャレンジャーかな?ごめんなさい。ジムの再会は来週からで、今は調整ちゅ——」

 

「あー、チャレンジにしに来たわけじゃないの。新しいジムリーダーに会いに来たんだ。もしかして、キミが新しいジムリーダー?どのタイプが好きなの?どんなポケモンを手持ちにしているの?あっ、得意な技とかある?」

 

話をぶった切り、ヒナは目を輝かせながら矢継ぎ早にどんどん言葉を放つ。新しいジムリーダーらしき人は怪訝そうな表情で聞いていたが、ヒナの後ろの方で縮こまっていたアヤと目が合うと、ハッと表情が変わった。

 

「あっ、もしかして!そこにいるのはアヤさんですか!?」

 

その途端、アヤの顔がぱぁっと晴れた。

 

「あっ、私のこと知っているんですか!?」

 

「はい。ポケモンリーグを制して、殿堂入りした人ですよね?テレビで見ましたし、雑誌でも見ましたよ。となると……、こっちにいるのはヒナさん?あー、どうりでどこかで見覚えがある顔だと思いましたよ」

 

ジムリーダーらしき少女はほっと一息。そして、顔を整えもう一度2人の方を向いた。

 

「まさか、こんな凄いトレーナーがこのジムに来てくれるなんて驚きです。私の名前はレイヤ。ヒナさんが言う通り、ここの新しいジムリーダーで、ハナちゃんと同じく地面タイプが得意なんです」

 

「「ハナちゃん?」」

 

聞きなれに名前に、ヒナとアヤは同時に首をかしげる。と、レイヤはさらに言葉を足した。

 

「『ハナちゃん』は……、ここの前任のジムリーダー『タエ』のことです。苗字が『ハナゾノ』だから、昔からそう呼んでいたんですよ」

 

「なるほどー。つまり、2人は幼馴染ってことだね?」

 

ヒナがそう言うと、レイヤは頷いた。

 

「ヒナさんが言う通りです。まぁ、11歳の時に親の都合で引っ越さなくちゃいけなくて、最近まで遠くの地方にいたんですけどね。あ、それでハナちゃんがジムリーダーを辞めた理由なんですけど……。正直私もよく分からないです。この街に帰ってきて久々にハナちゃんと会ったら、『私は理想のハナゾノランドを探しに行くから、ジムはよろしくね』って急に言われたんです。ハナちゃんは、その次の日にこの街を出ていきました。それで、ハナちゃんのお願い通り私がジムリーダーを継いだんです」

 

一応タエがジムリーダーを辞めた理由は分かった。想像以上に意味不明な理由である。おかげでアヤの中で謎は深まっていくばかり。彼女は考えることを辞め、話題をそらすことにした。だが、そう思った矢先、図らずしてレイヤの方から話題を変えてきた。

 

「アヤさん、一つお願いがあるんですがいいですか?」

 

「えっ、なに?」

 

「その……、時間があればでいいんですけど、私とバトルしてくれませんか?」

 

思いもよらぬ不意打ちだ。

 

「バトル……?」

 

思わずアヤは言葉を詰まらせる。しかし、対するレイヤは力強く言葉を続けた。

 

「はい。私、ハナちゃんと別れて遠くの地方に行っている間に、多くの苦難を乗り越え、ポケモンと自分自身を鍛えてきました。だから、自分達の実力がどこまで通じるか知りたいんです。だから、お願いします!」

 

言い終わると同時に、レイヤは深々と頭を下げる。並々ならぬ熱意だ。

 

「うん!もちろんいいよ!」

 

アヤは快くバトルの申し入れを受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、アヤは久々にジムのフィールドに立った。以前ここに立った時のポワポワした空気はない。あるのはフィールド脇のベンチから届くヒナとクマシュンの声援、ピリピリとした雰囲気、独特の緊張感、そしてアヤとレイの情熱だ。

 

「手加減入りません。どこからでもかかってきてください!」

 

レイヤはフィールドの向こうにいるアヤに向かって叫んだ。

 

「もちろんだよ。レイヤさんとポケモンの本気、楽しみにしているからね」

 

アヤが言葉を言い終わると、レイヤはボールを投げた。レイヤが繰り出したのはガブリアスだ。

 

「このガブリアス、ハナちゃんのガブリアスの兄で、私の手持ちの中でも自慢の一匹なんです」

 

「ガァブ!」

 

ガブリアスは空気が割れるような咆哮を轟かす。そして、アヤの方を睨んだ。

 

「強そうなガブリアスだね。それならば私は……!お願い、ドダイトス!」

 

「ドダァ!」

 

ガブリアスとアヤの間に、大陸のようにどっしり構えたドダイトスが現れた。思い出してみれば、ドダイトスがハヤシガメから進化したのはこのジムである。思い出の地でのバトル、負けられない。アヤは気持ちを引き締めた。そして、叫んだ。

 

「よーし、先手必勝!ドダイトス、ロッククライム!」

 

「ドダァ!」

 

緑の巨体が地を蹴り、ガブリアスに向けて猛進する。岩も鋼もありとあらゆるものをぶち壊さんとする勢い。普通ならこれを回避することが賢明だろう。だが、ガブリアスは毒づきで、真正面から勝負を挑んできた。

 

「ガァブ」

 

「ドダァ」

 

ガブリアスの火力は破壊的だ。並大抵のポケモンなら、この一撃で決着がつくだろう。アヤのドダイトスなら数発は耐えきれるはずだが、油断すればすぐに敗北につながることはまちがない。

 

「ガブリアス、後ろに下がって!」

 

ここで、不意にガブリアスが隙を見せた。すかさずドダイトスは、エナジボールで追い打ちをかける。が、これは罠だ。レイヤはガブリアスにわざと隙を作ることで、アヤの一瞬の油断を誘ったのである。

 

「地震!」

 

「ガブァ!」

 

突如、地面が激しく揺れた。不意の一撃にバランスを崩すドダイトス。突然の事態に対応が遅れるアヤ。直後、灼熱の大文字がエナジボールもろともドダイトスを焼き尽くした。

 

「ドダー!」

 

ドダイトスは即座に態勢を整えた。が、同時にまた大文字の餌食になった。怒涛の連続攻撃だ。そして、レイヤとガブリアスのそれはクライマックスを迎えようとしていた。

 

「ガブリアス、逆鱗!」

 

レイヤの声と同時にガブリアスの頭に急激に血が上り、沸騰する。

 

「ガアアアアアアァブ!」

 

鼓膜を破る勢いの怒鳴りがフィールドに鳴り響く。怒りのパワーをぶつける荒技、逆鱗だ。

 

「ガァブ!ガァブ!ガァアア!」

 

ドダイトスは、その怒りを一身に受け続ける。だが、アヤ的にはこうやって寄ってきて来てくれるのは願ってもない展開だ。

 

「ドダイトス、かみ砕く!」

 

「ダァ!」

 

ドダイトスが、振り上げられるガブリアスの右腕に食らいつく。同時に、僅かだがガブリアスの動きが止まる。だが、これで十分だ。

 

「ドダイトス、連続でエナジーボール!」

 

停止したガブリアスに、無数のエナジーボールが至近距離でさく裂。流石のガブリアスもこれにはひとたまりもなく、ぶっ飛ばされ、地に叩きつけられた。

 

「ガァブ!」

 

即座に起き上がろうとするガブリアス。だが、ドダイトスの両前足がそれを許さなかった。

 

「いっけ~!ドダイトス、地震!」

 

アヤが声をあげると、ドダイトスはガブリアスを踏みつけたまま大地を揺らした。強大な大地の力がダイレクトに全身に伝わってはひとたまりもない。ドダイトスがどいた後も、ガブリアスは立ち上ることができなかった。戦闘不能である。

 

「これが今の私達か……」

 

レイヤは悔しいような、だがどこか清々しいような難しい表情を浮かべながら、ガブリアスをボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 「アヤさん、今日はありがとうございました。」

 

バトルを終えた後、ジムを立ち去ろうとするアヤにレイヤはまた礼儀正しく頭を下げた。

 

「こちらこそありがとう!レイヤさんとガブリアスとのバトル、とても楽しかったよ」

 

アヤは彼女に満面の笑顔を見せた。そして、横にいるヒナも目を輝かせていた。

 

「レイヤちゃんとガブリアスすっごくるんって感じした!レイヤちゃん達なら、絶対いいジムリーダーになれるよ。ね、クマシュン?」

 

「マッシュン!」

 

ヒナに合わせて、クマシュンも頷く。それを見たレイヤは照れ臭そうな笑みを見せた。

 

「ヒナさん……。はい!期待に沿えるように、ハナちゃんが守ってきたウノトキシティジムの看板に泥を塗らないように、これからも精進していきます!」

 

ウノトキシティジムの新しいジムリーダーは、アヤとヒナと握手をした。果たして、彼女はこれからどのようなチャレンジャーと出会うのであろうか。そして、どのようなバトルを繰り広げるのだろうか。

 

 

 




おまけ:レイヤのパーティー一覧(本気モード)

・多分何処かで戦えるであろう本気レイヤのパーティーです。レイヤのキャッチコピーは「ハナゾノランドを継ぐ者」です。

★ガブリアス@気合のたすき
特性:鮫肌
性格:陽気
努力値:AS252

・地震
・ストーンエッジ
・逆鱗
・剣の舞

☆ネンドール@弱点保険
特性:浮遊
性格:控えめ
努力値:HC252

・大地の力
・冷凍ビーム
・トリックルーム
・草結び

☆ナマズン@ジメンZ
特性:危険予知
性格:控えめ
努力値:HC252

・地割れ
・大地の力
・ハイドロポンプ
・冷凍ビーム

☆ミノマダム@突撃チョッキ
特性:防塵
性格:腕白
努力値:HB252

・地震
・地割れ
・岩石封じ
・不意打ち

☆ハガネール@ハガネールナイト
特性:頑丈
性格:勇敢
努力値:HA252

・鈍い
・ジャイロボール
・地震
・ストーンエッジ

☆カバルドン@ゴツゴツメット
特性:砂起こし
性格:腕白
努力値:HB252

・地震
・あくび
・ステルスロック
・氷の牙



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第四十九話 アヤ、バトルの最前線へ!

今回はみんな大好き?やりきったかいおばさんことオーナーが登場します!


ウノトキシティを発ったアヤとヒナは、ようやくバトルフロンティアの正面口へとたどり着いた。シンシューのバトルフロンティアは高原のなかにあり、他のバトルフロンティアの中でも標高が最も高い位置にある。一面の大自然の中に立ち並ぶ近未来的なバトルホロンティアの建物と、バトルを楽しみに来た大勢の人間は中々違和感がある。だが、そんな違和感なんてヒナには関係なかった。むしろ、ワクワクを抑えられずに着くや否や中に向けて走り出した。

 

「あっ、待ってよ!ヒナちゃ~ん!」

 

そんな彼女をアヤは情けない声を出しながら追いかけだす。と、その時、背後からアヤを呼び止める老婆の声がした。

 

「待ちな。あんたがアヤかい?」

 

「はい、私がアヤです!」

 

アヤは声の方へ振り返った。本当はこのセリフの後、『もしかして私のファンですか!?』とでも笑顔で言おうと思ったが、言わなかった。いや、言えなかったというほうが正しいか。どうもその人はアヤのファンではなさそうだ。彼女はシャキッとした姿勢で、ヤと顔があった瞬間からずっと怖い目を向けてくるのである。

 

「えっ……、私何かした?あっ、もしかしてリゲル団!?」

 

不意の出来事、目の前にいる謎の老婆。情報量が多すぎる。アヤはあたふたするばかり。すると、謎の老婆が口を開いた。

 

「なんだい、マリナから話を聞いたんじゃないのかい?私は『シフネ』。このバトルフロンティアをつくった人であり、ここのオーナーでもある。だから、私のことはオーナーとでも呼びな」

 

アヤの中でのイメージでは、シフネさんはのほほんとした優しいおばあちゃんだった。だが、目の前にいるシフネ——改めオーナーはそんなイメージとは正反対のいかつい人物だ。

 

「こ……、こんにひわ……!」

 

アヤは一応挨拶をしたが、言葉は噛むし、声の震えが止まらない。ちなみに、ヒナは平常運転で笑っている。

 

「アヤ、なににおびえている?私はリゲル団でもないし、別にあんた達を取って食おう出いうつもりもないよ」

 

「そ、そうですよね~」

 

オーナーの『やれやれ』というそぶりを見て、ようやくアヤは調子を取り戻す。すると、同時にヒナが言葉を発した。

 

「で、なんでアヤちゃんが宣伝を手伝うの?」

 

確かにアヤも気になることだ。アヤもその想いを訴えるように、強いまなざしでオーナーを見た。

 

「優れたトレーナー同士が戦えば、よりバトルフロンティアの奥深さが伝わると考えたからさ。でも、ただ強いだけじゃ優れたトレーナーとは言えないし、バトルフロンティアの宣伝を任せることもできない。だからアヤ、今ここで私と勝負しな。私の目であんたが宣伝を任せるのにふさわしいトレーナーかどうか見極めてやる」

 

まさかの急展開である。オーナーがこんなこと言うとは想定外だ。

 

「えっ……!?ここでバトル!?」

 

戸惑うアヤ。しかし、一方のヒナはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

 

「オーナーさん、アヤちゃんと戦って大丈夫?アヤちゃん、強いよ~」

 

「私を甘く見てもらっては困る。これでも若いころは、いくつかの地方で殿堂入りを果たしている。年老いたとはいえ、私もポケモンもまだまだ現役だよ」

 

オーナーの言葉は力強い。これにはヒナも黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、バトルフロンティアの正面入り口で戦いが始まった。周りにはヒナ以外にも、実力者同士のバトルを一目見ようとする観客でいっぱいだ。

 

「なんだかよく分からないけど……。ま、負けないよ!」

 

そう言いながら、彼女はレジギガスが入ったマスターボールを取り出し、構えた。ところが、同時に彼女の足はガタガタと震えだした。

 

「えっ……!?」

 

気が付けば冷や汗もいたるところから噴き出している。考えてみれば、こんな大勢に人の前で戦うのは初めての経験だ。それに気が付いた途端、彼女は頭が真っ白になっていくのを感じた。

 

「どうしたんだい、固まって。そっちも早くポケモンだしな」

 

オーナーの声でアヤはハッとした。見れば、いつの間にかゴボゴボとマグマを滾らせたヒードランが、オーナーのそばで戦いの時を待っていた。

 

「い、いっけ~!レジギガス!」

 

それを見たアヤは、大慌てでレジギガスを繰り出した。だが、出したところで今のアヤにはどうしようもなかった。緊張のあまり頭が回らず、指示が全く出てこないのだ。

 

「レジギガガガァ!」

 

アヤがあたふたしている間にも、レジギガスは次々とヒードランの猛攻にさらされる。もはやレジギガスはただのサンドバックと化していた。

 

「あ……あぁ……!何とかしないと……!」

 

そんな状況を目にしたアヤの焦りは加速する。だが、この時ふとアヤの視界に観客に交じって声援を飛ばすヒナの姿が飛び込んだ。

 

(ヒナちゃんなら、こういう時どうするかなぁ……。ヒナちゃんなら……、るんっ♪とかそんな感じかなぁ……)

 

『るんっ』という感覚は、世界のどの言葉を持っても要約できない未知なる存在だ。しかし、長い間一緒にいたおかげで、アヤはすこしだけこの感覚のことを理解しているつもりだ。

 

(るんって言うのは……。こう、『楽し~!』とか、『嬉し~!』とか……、なんかこう……『ワクワク』!みたいな?例えるなら……お花畑とか、星空とか……)

 

アヤは自分が理解している範囲で、自分ができる範囲で『るんっ♪』てしてみた。するとどうであろうか。魔まで真っ白だった頭が、徐々に晴れてきたではないか。それと同時にアヤの中に、一気に戦況が飛び込んだ。そして、それは瞬時に戦術に変わった。

 

「レジギガス!ピヨピヨパンチ!」

 

「レレレジ」

 

レジギガスは、ヒードランのアイアンヘッドを拳で辛うじて食い止めた。様子から察するに、本調子を取り戻すためにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

「やるね」

 

雰囲気が変わったアヤを見て、オーナーは一言呟く。そして、ヒードランに次なる指示を出そうとした。が、その矢先、ヒードランの足元が揺れた。レジギガスの地ならしだ。地面タイプの技が苦手なヒードランにとっては致命的なダメージだ。その上、ヒードランは地ならしの効果でスピードを下げられてしまった。

 

「かわら割り!」

 

一方のアヤは、この隙を逃すまいと猛攻に打って出た。彼女がするとレジギガスは手刀で一撃をヒードランの眉間に叩きこんだ。

 

「なんだ、あの女の子。急に動きが変わったぞ」

 

「実は凄い人なんじゃないのか?」

 

「そういえば、あの人テレビで見たことあるぞ。確か名前は——」

 

 

アヤとレジギガスの鮮やかな動きに、周囲から歓声が上がる。だが、オーナーは、そんな周囲の変化にも動じなかった。彼女はただ冷静に、指示を出すだけである。

 

「ヒードラン、竜の波動」

 

「ドラァァァ!」

 

そのことを承知しているのか、ヒードランも特に取り乱した様子はない。ただ淡々と、オーナーの指示をこなし、アヤとレジギガスを追い詰めていった。

 

「レジジジ!?」

 

竜の波動はレジギガスに直撃。先ほど本調子でなかったのに派手に動いたことが裏目に出たようだ。

 

「レジギガス!しっかりして!」

 

僅かな体力でフラフラと立つレジギガスにアヤは声をかける。もう、攻撃を受けきれるほどの体力がないのは明らか。アヤの勝ち筋は、本調子のレジギガスで叩きのめすしかない。つまり、何とかして本調子が出るまで持ちこたえなくてはならないのだ。

 

(落ち着いて……!落ち着いて相手の攻撃を見定めて……!)

 

アヤはバトルフィールド以外のすべての風景を消し去った。相手の呼吸も、ピクリと動く指さえ見逃さないためだ。

 

「見えた!」

 

オーナーが単語の頭を発し、ヒードランの体が動いた瞬間、アヤはレジギガスを左に避けさせた。

 

「レジガァ」

 

巨体が左にずれると同時に、今いたところをストーンエッジが貫く。しかし、アヤは違和感を覚えた。ストーンエッジにしては規模も威力もへなちょこすぎるのだ。嫌な予感がする。そう思った矢先、レジギガスの足元から灼熱の炎の渦が巻き起こった。マグマストームだ。

 

「レレレレレレジガァァ!」

 

炎の渦はレジギガスの巨体を焼き尽くした。レジギガスが倒れたのは言うまでもない。

 

「レジギガス……」

 

アヤはレジギガスをそっとボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「負けちゃったか……」

 

ここまでコテンパに負けたのはいつ以来だろうか。アヤは思った。と、ここでオーナーが口を開いた。

 

「アンタ、やりきったかい?」

 

「えっ……?」

 

思いがけない言葉にアヤは拍子抜け。だが、オーナーは言葉を続けた。

 

「今のバトルをやりきったかどうか聞いているんだよ。どうなんだい?」

 

結果はボロボロなバトルだ。しかし、不思議とそこまで悔しくはない。緊張で頭が回らない時こそあれど、自分の戦力を出したつもりだ。

 

「はい!やりきりました」

 

アヤは力強く頷いた。すると、今まで険しかったオーナーの表情がにわかに柔らかくなった。

 

「……そうだろうと思ったよ。合格。ここの宣伝はあんたに任せるよ」

 

それだけ言い残すと、オーナーとヒードランは彼女に背を向けた。またもや急展開だ。アヤは何を言っているか理解できない。

 

「待ってくださいオーナー!合格ってどういうことですか!?私、負けたんですよ!?」

 

驚きと戸惑いが混ざったよく分からない声。それが聞こえると、オーナーは再びアヤの方を向いた。

 

「私はいつ、『私に勝て』なんて言ったかい?私はアンタが強いトレーナーかどうかを見ていたのではない。殿堂入りしたということは、ある程度の強さがあるという証明になるからね。でも、ただ強いだけじゃ宣伝は任せられない。常に全力でバトルに取り組めるような優れたトレーナー同士の戦いじゃないと、ここの魅力は伝わらないからね。やっぱり、強くて優れたアンタが宣伝役に相応しいよ」

 

「ん……?その言い方だとアヤちゃんが凄い事、前から知っていたの?」

 

話を聞いていたヒナは首をかしげる。すると、オーナーは僅かに笑みをこぼした。

 

「鋭い子だね。実のこと言うと、九割方アヤに宣伝を任せるつもりでいたよ。経験上、殿堂入りを果たしたトレーナーは、優れたトレーナーが多いからね。ま、たまにただ強いだけで殿堂入りしてしまうやつもいるけどな。私が勝負を挑んだ理由は、アヤがこの例外に当てはまるトレーナーじゃないかどうか、そして『アヤ』というトレーナーがどういうトレーナーなのか自分の目で確かめておきたかったからさ。とにかく、アヤ、よろしく頼むよ」

 

「はい!」

 

アヤの元気な声を聞くと、今度こそオーナーとヒードランは去っていった。そして、彼女たちを見届けるとアヤはヒナに向かってしゃべりかけた。

 

「ヒナちゃん、るんっ♪て凄いね!」

 

「でしょー!るんっ♪ってるんっ♪てするでしょ~?」

 

2人はこんな感じの意味不明な話をしながら、バトルフロンティアの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルフロンティアに入った2人は、とりあえず内部に併設されているポケモンセンターに寄った。ここが彼女たちの宿泊所となる。こう聞くといつも通りの宿泊にも思えるが、オーナーの手配で部屋が特別にほんの少し豪華になっている。

 

「えっと、荷物も置いたし……、アヤちゃん!一緒にこのパンフレット見ようよ!」

 

アヤは荷物を部屋に置くと、ヒナが広げたバトルフロンティアのパンフレットをのぞき込んだ。

 

「えっと……。私はこの『フロンティアブレーン』って人達とバトルすればいいんだね?」

 

「うん。フロンティアブレーンは全員で8人。それぞれテーマが違うんだって」

 

「テーマ?何それ?」

 

「よく分かんないけど……、フロンティアブレーンの人が掲げているモットーみたいな?パンフレットによれば、『ひらめき』、『運』、『戦術』、『知識』、『おしゃれさ』、『武士道』、『勇気』、『輝き』をそれぞれ掲げているんだって。で、それぞれのモットーを試せるような特殊なルールのバトルをするんだって」

 

「特殊なルール……。大丈夫かなぁ……」

 

さっきまでやる気に満ちていたが、途端にアヤの中の自信が消えていく。だが、案の定ヒナは楽観的だった。

 

「よゆーっしょ!とりあえず、最初のバトルは明後日だから、それまで色々準備しよ。最初は、『ひらめき』を掲げている人との勝負だね」

 

笑うヒナに、期待と不安が混じったアヤ。果たしてこの先、何が起こるのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 



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第五十話 ひらめけ!さかさバトル!

忙しかったのと、それに伴うモチベダウンで投稿が遅れてすみませんでした。それでは記念すべき第五十話です!



※全話で紹介した、フロンティアブレーンが掲げているテーマのうち、応用力を「ひらめき」に変更しました。

※施設の名前をリバースハウスからバトルハウスに変更しました。


バトルフロンティア内にいる技教え職人達や技教えマニアから新しい技を教わったり、手持ちのコンディションを整えたり、アヤはヒナのアドバイスを受けながらバトルの準備に取り掛かった。そして、バトル当日。今日のバトルの舞台は、ひらめきをテーマにした施設『バトルハウス』だ。バトルハウスの外観はすこし大きでおしゃれな一軒家のようであり、アットホームな雰囲気が伝わってくる。ここのフロンティアブレーンの『自分の家のようにリラックスしてほしい』という願いを反映した建物らしい。が、アヤにはフロンティアブレーンの願いは全く伝わらず、建物の前であたふたしていた。人前に出る緊張もあるが、最大原因はバトルハウスで行われる「さかさバトル」と呼ばれるバトルの形式だ。ここの施設内には特殊な装置が仕込まれており、この建物内にいる限りポケモンのタイプ相性が逆になるようになっている。例えるなら炎タイプが草タイプに弱くなり、逆に水タイプに強くなるといった具合だ。しかし、そんな特殊なルールのおかげで、アヤはさかさバトル用のタイプ相性を覚えるので必死なのだ。彼女は昨日から必死にさかさバトル用の相性表とにらめっこしているが、全く頭に入らない。むしろ、見れば見るほどこんがらがっていく。

 

「もう無理!どうすればいいの、ヒナちゃ~ん!」

 

ついに音を上げて、アヤはヒナに泣きついた。ところが、彼女を待っていたのはヒナ語のフルコースであった。

 

「うーんと、なんかこー、いつもはヘナ~っていうのがシュッて感じでシュッガキンッっていうのがヘナヘナ~。だから、るんって感じでドーンバーンズガガーン!トゥルルルン♪って感じで戦えば問題ないと思うよ」

 

「ヘナ~?シュッ?ズガガーン?う~、もっと意味が分からないよ~!」

 

「そうかな?私的には完ぺきなアドバイスだと思ったんだけどな~。んー、とりあえず鋼タイプだけは出さないほうがいいと思うよ。鋼タイプっていろんなタイプに強いけど、さかさバトルではそれが裏目に出そうだからさ」

 

「つまり、ハガネールだけは出さないほうがいいってこと?」

 

「うん。それだけ気を付ければアヤちゃんなら何とかなる気がするな。さ、そろそろ時間だし、中に入りなよ!頑張ってね、アヤちゃん。私もギャラリーで応援してるから」

 

「う、うん!」

 

アヤは大きく深呼吸し、バトルハウスの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナと別れたアヤは、フィールドに続く通路で待機していた。目の前にある扉が開けばそこはもうフィールドだ。

 

「うーん、どのポケモンで行こうかなー。カブトプス……?でもムクホークやサーナイトもいいよね~」

 

彼女は気持ちを落ち着かせる意味も込めて、簡単な1人作戦会議をひらいていた。が、作戦会議の半ばで目の前の扉が開いた。いよいよ、アヤの晴れ舞台の開幕だ。

 

「よし!今日はサーナイトで行こう!」

 

アヤは作戦会議を終了させると、威勢のよくフィールドに入った。が、彼女の勢いもここまでだった。先日の観客の人数なんて比較にならない人数の観客、嵐のような声援、バトルの中継に来たテレビ局。それらがフィールドの中に入ったアヤに一気に襲い掛かった。

 

「えっ……」

 

静めていた緊張が一気に沸き上がる。立てた作戦なんて空のかなただ。さらに、アヤフィールドの中心までやってくると、今度はさらに大きな歓声が巻き起こった。どうやらフロンティアブレーンが入場してきたようだ。フロンティアブレーンは自分と同じ年くらいの少女。薄茶色の髪を束ねたふわふわなポニーテールが特徴的だ。

 

「バトルハウスにようこそ!私はサアヤ。名前は確か……、アヤさんですよね。今日はよろしくお願いします!」

 

フロンティアブレーンのサアヤはにこやかな表情だ。しかし、アヤは緊張でそれどころではない。

 

「あ……、よ……、よろしく……お願い……します……!」

 

カチコチの笑顔で文字と文字を無理やりつなげたような片言でアヤは答えた。そして、サアヤは笑った。

 

「そんなに緊張しなくてもいいですよ。リラックスしてバトルをしましょうよ」

 

「は……、はいぃ!」

 

アヤはまた変な返事をする。だが、その直後、観客席から熱烈な視線を向けてくるヒナの姿が視界に飛び込んだ。すると、気のせいか少しるんっ♪ってかんじがし、緊張が和らいできた。

 

「あ、緊張が和らいできたみたいですね。それじゃあ、さっそくアヤさんの『ひらめき』を見せてもらいましょうか?」

 

「ひらめき……?」

 

アヤは呟いた。この施設はひらめきを試す場所というのは知っている。が、どうしてさかさバトルを行うのだろうか。どうも、無意識に疑問が口から出たようだ。

 

「アヤさん、さかさバトルとひらめきがどこでつながっているか分かっていないみたいですね~。さかさバトルって、ほとんどの人にとってあまり馴染みがないルールじゃないですか。私は、慣れない状況を打ち破るためには今までの経験から生まれる一瞬の判断、すなわち『ひらめき』が大切だと思うんですよ」

 

サアヤの言葉はアヤのモヤモヤを払いのけた。この説明には納得である。うんうんと、頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、こうしてアヤとサアヤはフィールド越しに向かい合った。いよいよ、バトルの始まりだ。ヒナのおかげでアヤの緊張はあまりない。これなら全力をぶつけられそうだ。

 

「よーし、さかさバトル、頑張っちゃうぞ~!」

 

意気込むアヤ。しかし、彼女の中の作戦やヒナのアドバイスは、先ほどの緊張で完全にすっぽ抜けている。そんなアヤが出したのは、弱点まみれの鋼タイプを持つハガネールだ。

 

「えっ……!?本当にそれでいいんですか……?」

 

サアヤはまさかの選出に戸惑った。彼女だけでない、ギャラリーからもどよめく声が上がった。それを聞いたアヤは一瞬戸惑う。

 

(んー、とりあえず鋼タイプだけは出さないほうがいいと思うよ。鋼タイプっていろんなタイプに強いけど、さかさバトルではそれが裏目に出そうだからさ)

 

だが、すぐにヒナのアドバイスが蘇ってきた。そして、自分のミスに気が付きまた戸惑った。しかし、よくよく見れば周囲からは困惑と同時に期待も伝わってくる。こうなったら後には引けない。殿堂入りしたものとしての意地と見栄が、後に退くことを許すわけなかった。

 

「こ、これが私の作戦だよ!」

 

とりあえずアヤは大声でそう言ってみた。もちろん作戦の『さ』の字すら彼女の中にない。勝利は彼女のひらめきに掛かっているといっても過言ではない状態だ。

 

「なるほど~。それならば、私も手加減しないよ!いけ、ジャローダ!」

 

「ロ~ダ」

 

サアヤが繰り出したジャローダは高貴で美しい。思わず惚れてしまいそうだ。しかし、どうやらのんびり見とれている時間はなさそうだ。開幕早々、ジャローダは竜の波動を放ってきた。

 

「ハガネール、アイアンテール!」

 

「ネールッ!」

 

アヤはハガネールに自慢のアイアンテールで迎え撃たせる。だが、ハガネールはあっさり押し負けてしまった。ドラゴンタイプの技が鉄壁の鋼タイプを打ち負かす、さかさバトルならではの光景だ。

 

「ジャローダ、リーフストーム!」

 

「ロ~ダ!」

 

さらに、サアヤとジャローダはハガネールに攻撃を仕掛けた。ハガネールは地面タイプも併せ持っているおかげで致命傷にはならなかったものの、決して軽視できない威力だ。

 

「ガーネッ!」

 

リーフストームを受けた直後、ハガネールは反撃に出た。バトルフロンティアで習得した新技、『氷の牙』のお披露目だ。

 

「ジャロ~!」

 

しかし、新技は大してジャローダに効かなかった。

 

「そうだ、これはさかさバトルだから草タイプに氷は効かないのか……」

 

アヤはさかさバトルだということを忘れ、普通のバトルの感覚で指示を出していたようだ。徐々に気持ちが追いつめられるアヤ。それにつられ、徐々にひらめく余裕がなくなっていく。

 

「ガネ~ッル……!」

 

彼女が混乱し、指示を出しそびれている隙をつかれハガネールは二度目のリーフストームを浴びた。しかも、明らかにさっきより威力が上がっている。

 

「ど、どうして……!?」

 

ますます後がなくなっていくアヤに対し、相対的にサアヤは余裕そうだ。

 

「私のジャローダの特性はあまのじゃく。リーフストームみたいに使った後に威力が下がる技を、二度目以降に逆に威力をあげて使えるんだ」

 

リーフストームにそんなデメリットがあるなんて初耳である。最悪なタイミングで余計な情報が入り、もうアヤの頭は爆発寸前。だが、爆発する寸前、かろうじて冷静さを保っている頭のスペースでふと妙案が浮かんだ。

 

(さかさバトルって、相性が逆になるだけであとは普通のバトルと一緒だよね……)

 

思い立ったが吉日。アヤは再び反撃に打って出た。

 

「ハガネール、連続で氷の牙!」

 

「氷の牙……?アヤさんタイプ相性理解して……。いや、まさか!?」

 

戸惑いを隠せないギャラリーに対照的に、サアヤは唯一アヤの采配の意味を理解。氷の牙を少しでも防ぐため彼女とジャローダはすかさず恩返しや竜の波動で迎撃に打って出た。だが、ハガネールも歴戦の猛者だ。多少弱点となる攻撃を浴びたところで倒れやしない。自慢の耐久力を活かし、強引に攻め立てる。

 

「ガネールッ!」

 

激しい攻防を繰り広げた末、ジャローダが5発目の氷の牙を食らった時だ。ついにその時は来た。攻撃を受けたところを中心に氷が広がり、ジャローダの動きを封じる。ジャローダはアヤのねらい通りこおり状態に陥った。

 

「ハガネール、のろい!」

 

氷漬けのジャローダを前に、ハガネールは己の力を高める。この技を使うと自身の火力と耐久力が上がる代償に素早さが低下するデメリットがあるが、もともと遅いハガネールにとっては微々たる問題。ジャローダの氷に亀裂が生じ、時は慣れようとした瞬間、己の力を爆発させ地震を発生させた。

 

「ジャロロ……」

 

普段地面タイプに強いということは、今は地面タイプに弱いということ。これ以上の反撃も許されずジャローダは倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや~、まさかタイプ相性を無視して技の追加効果で勝負を決めに来るとはね~」

 

バトルの後、サアヤは少し困ったような嬉しいような表情でアヤところに寄ってきた。

 

「えっ……、なんかダメでしたか?」

 

アヤがそう言うと、サアヤの表情から困った部分が抜けた。

 

「いや、ダメなどころかとてもいい采配でしたよ。アヤさんのひらめき、私も見習いたいです。ということで、アヤさんにはこの『ひらめきのトロフィー』をあげちゃいましょう!」

 

「と、トロフィー?」

 

「はい。バトルフロンティアでは、フロンティアブレーンに勝った証としてトロフィーを渡すことになっているんです。トロフィーはこれも含めて全部で8つ。頑張ってコンプリートしてくださいね!」

 

「うん!絶対に全部コンプリートしてみせるよ!」

 

アヤはトロフィーを受け取るとギャラリーにいるヒナの方を向いた。そして、それを高らかに掲げた。周囲の歓声をかき消すような叫びを、ヒナが挙げたのは言うまでもない。

 

 

 

 




おまけ:沙綾パーティ一覧
※本文では尺や展開の都合上省きましたが、フロンティアブレーンと戦うためにはモブトレーナーとのバトルをある程度勝ち抜かなければいけません。
そのため、手加減パーティと本気パーティをどっちも載せます。また、バトルフロンティアは特殊なルールが多くて、最適な技構成とかがいまいち筆者がわからないことがあるため、全員使用ポケモンのみの紹介です!

・手加減パーティ
☆ジャローダ
☆ケッキング
☆アマルルガ

・本気パーティ
☆ジャローダ
☆カビゴン
☆レジアイス



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第五十一話 運がらみのカフェテリア

というわけでバトルフロンティア第二戦です。今回のブレーンは誰なのでしょうか?
ついでにお気に入り登録や乾燥、高評価をくれると私の涙腺が崩壊します。待ってま~す!


実はバトルフロンティアには『HAZAWAコーヒー』という名前のカフェがある。中々の名店としてシンシューに住むコーヒー愛好家たちの間でひそかに話題になっているらしい。だが、HAZAWAコーヒーにはもう一つの側面がある。それは、チャレンジャーの『運』を試す、バトルフロンティアの施設としての側面だ。ここではバトルの前にチャレンジャーがくじをひく。くじにはそれぞれ雨や砂嵐、毒や火傷などといったバトルにおいて重要な要素が書かれており、引き当てたくじの内容がそのままバトルに反映される。例えば『雨』と書かれたくじをひけば最初から大粒の雨がフィールドに降り、『火傷』というくじをひけば最初から互いのポケモンが火傷を負った状態でバトルが始まるのである。

 

 

 

 

 

 

 全く異なる2つの側面を併せ持つ一風変わったこの場所は、内装や雰囲気まで変わっている。バトルが繰り広げられるフィールドは円形のステージのようになっており、その周りにはギャラリー席として、テーブルや椅子がおしゃれに配置されている。おかげで、ぱっと見はあまり他のカフェと変わらない。さらに、ここでのバトルを観戦する人は自由にHAZAWAコーヒーの自慢の手料理を注文できるというのだから驚きだ。

 

「ん~、ここのフライドポテトおいし~!」

 

そんなわけでヒナはフライドポテトを呑気につまみながら、アヤのカブトプスと、バトルカフェテリアのフロンティアブレーンである『ツグミ』が操るサンダーの激闘を観戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!いいよ、カブトプス!」

 

さて、2人目のフロンティアブレーンと戦っているアヤは、珍しく最初から好調であった。というのも、アヤは運よく最初のくじで、カブトプスと相性がいい『砂嵐』と書かれたくじを引き当てたからだ。外れくじを引きやすい彼女にとっては珍しいことだ。ちなみに、フィールドで吹き荒れる砂嵐等は特殊な技術でギャラリーには影響が出ないようになっているのでご安心を。

 

「カブトプス、ストーンエッジ!」

 

それはさておき、アヤは運を味方につけサンダーを追い詰めていた。

 

「サンダー、雷!」

 

「ンダーッ!」

 

もちろんツグミとサンダーだって指をくわえてこの状況を見過ごすわけない。必死にカブトプスに有利な雷撃で反撃する。だが、カブトプスはひるまない。砂嵐の影響で特防が上がっているからだ。こんな調子でサンダーは何度もカブトプスのペースで振り回し続けられた。ツグミのサンダーはひん死寸前だ。

 

「このまま畳みかけるよ!カブトプス!」

 

追い風に乗ったアヤは、止めを刺しにかかる。

 

「ッダ……!」

 

サンダーは最後の意地といわんばかりに雷で応戦。

 

「大丈夫!止めのアクアジェット!」

 

その反撃もむなしく、アヤはカブトプスを強引にその中に飛び込ませた。彼女が強化されたカブトプスの耐久を信じているからだ。しかし、この過信が命取りになった。

 

「トプッスッ!?」

 

サンダーの雷を突っ切った直後、カブトプスの速度が、急に鉛を持たされたかのように激減した。

 

「なにが……、起きたの……?」

 

空振るとどめの一撃を前に、アヤは戸惑う。よくよく見れば、かみなりの効果でカブトプスはマヒしてしまったようだ。サアヤと戦った時は追加効果が勝機となったのに、今度はピンチになるとは、何とも皮肉な展開である。

 

「いよいよ私たちに運が向いてきたみたいだね。アヤさん、悪いですけど、この勝負貰いました!サンダー、羽休め!」

 

防戦一方だったツグミがついに反撃に出た。手始めにサンダーを地におろし、体力を回復。マヒで上手く動けないカブトプスをあざ笑うようだ。

 

「カブトプス!えっと……えっと……!」

 

急な展開に追いつけないアヤ。それをしり目に、ツグミはさらに彼女を追い詰める。

 

「サンダー、熱風!」

 

相性のおかげで、カブトプスへのダメージ自体は大したことない。が、あんなに激しく吹き荒れていた砂嵐がきれいさっぱり吹き飛ばされてしまったのだ。バトルの流れを奪われた。かなりまずい展開である。

 

「カブトプス、滝登り!」

 

とはいえ、ボケっとしているわけにもいかない。とりあえずアヤは、ヒナのラグラージ直伝の新技を指示。だが、カブトプスは体が痺れて動けない。その隙をつかれ、カブトプスはサンダーによって上空に連れ去らわれ、落とされた。フリーフォールだ。

 

「今だよ!もう一度雷!」

 

「ンッダッー!」

 

ツグミの声が高らかに響く。と、空中で抵抗しようがないカブトプスに対する無慈悲な一撃がさく裂した。

 

「トプ……ス……!」

 

心優しいツグミのキャラに似合わぬ鬼畜なコンボだ。幸いにもカブトプスは辛うじて立っている。もはや、勝負は決まったようなもの。しかし、何もしないで負けを認めるなんてこと、アヤにはできなかった。

 

「カブトプス、アクアジェト!」

 

アクアジェットを選んだ理由に意味はない。苦し紛れの指示だからだ。ところが、この采配が思わぬ方向に転んだ。

 

(あれ?カブトプスの動き、マヒしているのに結構早い……?というか、いつもと変わらない?)

 

意外なアクアジェットの性能だ。そうと分かった瞬間、彼女の中に勝利の方程式が組まれる。カブトプスの体が痺れなければ十中八九勝てるはずだ。

 

「カブトプス!ワールズエンドホール!」

 

アクアジェットの勢いに乗り、カブトプスがサンダーの真下に潜り込むと同時にZワザを発動。そして、間髪入れずにストーンエッジの技名を叫んだ。

 

「ンダッ!?」

 

真上には自分に向かって落ちてくる巨大な岩。真下には岩の刃がフィールドからせり出し、待ち構えている。逃げるにも時間がない。サンダーはあっという間に岩と岩の間に挟まれ、力なく墜落した。

 

「頑張ったんだけど、運にはかなわなかったか……。ありがとう、サンダー。ゆっくり休んでね」

 

ツグミは残念そうに、サンダーをボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カブッ!カブ!トプースッ!」

 

見事勝利を収めたカブトプスは、即座にアヤに抱き着く。勝利の喜びに満ち溢れているせいか、いつもよりも抱きしめる力が倍くらい強い。すなわち痛みも倍増だ。

 

「痛たたたたたたたたた!離れて!カブトプス!痛い!痛いってば!」

 

嬉しい呻きをあげるアヤ。そんな彼女のもとに、ツグミはそっと歩み寄ってきた。

 

「ふふ、2人とも凄く仲がいいですね。見ていて和みます。それでは、私に勝った証として、どんな運も味方につける絆を讃えて、『幸運のトロフィー』をあげましょう!おめでとうございます、アヤさん!カブトプス!」

 

こうして、2つ目のトロフィーがアヤの手に渡った。それと同時に、カブトプスは再びアヤに抱き着いた。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!カブトプス~離れて~!」

 

アヤの絶叫が再び響き渡ったのは言うまでもない。

 




おまけ:つぐみパーティー一覧

・つぐみの肩書は『カフェテリアオーナー』です。ちなみに、前回書き忘れましたが、沙綾の肩書は『ハウスキャプテン』です。



・手加減パーティー
☆ヌメルゴン
☆エレキブル
☆ブーバーン

・本気パーティー
☆ヌメルゴン
☆サンダー
☆チラチーノ


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第五十二話 軍師推参

お待たせしましたバトルフロンティア編第三弾です。
剣盾のポケモンを試しに出してみました。
ストーリーのゴールも少し見えてきたな~。これからも応援よろしくお願いします!


 ツグミとのバトルを無事終えた夜、アヤはポケモンセンターの自室で頭を抱えていた。原因は、明日戦うブレーンが掲げている『戦術』というテーマだ。戦術とは簡単に言うと作戦のようなものであると思われる。だが、アヤはバトルの最中に作戦をひらめき、勝利を収めてきたことが多い。つまり、意外とヒナと同じく直感でどうにかするタイプのトレーナーなのだ。しかし、どうもパンフレットの文面を見るに、いつものようなその場しのぎの作戦では歯が立たなそうだ。

 

「戦術……、戦術……、戦術……」

 

というわけで、明日のバトルに絶望した彼女は、この単語をさっきから一時間ぐらい永遠に呟き現実逃避していた。

 

「アヤちゃん、それ何の儀式の呪文?お化けでも召喚するの?あははははは!」

 

と、ヒナがからかってもまだアヤは呟いている。よほど、明日が心配のようだ。だが、ヒナの頭にはアヤを助けられるとある妙案が浮かんでいた。

 

「るんっ♪てきちゃった」

 

ヒナは不敵な笑みを浮かべながら、パンフレットを片手に何処かへ連絡をとりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっ、どういうこと……!?」

 

次の日、バトルの直前にヒナから例の妙案を聞いたアヤは驚愕した。

「アヤちゃん、どうせ戦術も作戦もダメダメでしょ?だったら、私がバトル中もずっといっしょにいてアドバイスした方がよくない?そう、今日の私はアヤちゃんの軍師で、アヤちゃんの半身!あ、安心して!オーナーさんからの許可はとってあるから。ブレーンの人が許可すれば側にいてもいいって!」

 

ヒナは前代未聞の発想をあっけらかんと言ってのけた。

 

「そんなこと本当に認められるのかなー?」

 

アヤは尽きないモヤモヤを抱えながら、ヒナとともに今日のバトルが行われる会場、『バトルドーム』へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルドームの会場に入った二人を待ち構えていたのは、観客のどよめきだ。まあ、彼女たちは普通ダブルバトルでもないのに2人同時にフィールドに入ったのである。観客の反応はもっともだ。

 

「うわ~!これがいつもアヤちゃんが見ている景色か~!よーし、今日も絶対勝とうね!」

 

「う、うん……」

 

目を輝かせ、徐々にあふれんばかりにやる気がみなぎるヒナ。対するアヤはどんどん勢いがなくなっていく。穴があったら入りたいとは、この気分のことを言うのだろう。

 

「ごきげんようチャレンジャー私はフロンティアブレーンのチュチュ……ってWay!?チャレンジャーが2人!?」

 

と、すっかりアヤが縮こまっているとフィールドの反対側から声がした。声の方を向けば、長い赤髪とチョロネコの耳のような形のヘッドホンが特徴的なフロンティアブレーン、チュチュが顔をしかめていた。

 

「やっほー!私はヒナ!今日のチャレンジャーであるアヤちゃんの軍師だよ!よっろしく~!」

 

ヒナは相変わらずの勢いでチュチュに迫り、何やら色々説明しだす。が、それに比例して彼女の眉間にはドンドンしわが寄っていった。

 

「つまり……、ヒナがチャレンジャーアヤに戦術のアドバイスをすると?……認めないわ!このワタシと戦おうっていうんなら正々堂々一対一でかかってきなさい!」

 

案の定、ヒナの作戦は木っ端みじんに打ち砕かれた——かのように思えた。しかし、ヒナはここで切り札を出した。

 

「チュチュちゃ~ん。そんなこと言わないでよ~。ほら、これをあげるから」

 

彼女がポケットから取り出したのはただのジャーキーだ。

 

「じゃ、ジャーキー……!?」

 

実はチュチュ、ジャーキーが大好物でそれには目がないのだ。ヒナが持つジャーキーを目にした途端、彼女の勢いが弱まり、目が輝く。ヒナの読み通り見通りの展開だ。

 

「私さー、今まで結構アヤちゃんにバトルのアドバイスしてきたんだー。今回は、たまたまアドバイスをするタイミングがバトル中っていうだけで、やろうとしていることはいつもと変わらないと思うんだよね。それに、アヤちゃん作戦なんてどうせロクに考えられないだろうし。相手が弱かったらチュチュちゃんもるんっ♪ってしないでしょ?」

 

ここぞとばかりにヒナは言葉を畳みかける。形勢逆転だ。

 

「クッ……、言われてみればそうかもしれないわね……。分かったわ。ヒナがチャレンジャーアヤのアドバイザーとして、彼女のそばにいることを認めましょう。ただし、ヒナはダイレクトにポケモンに指示するのはノー!できるのはアドバイスオンリーよ!もしも、このルールを破った場合はレッドカード!すなわちチャレンジャーアヤの反則負けよ!」

 

ついにチュチュが折れた。これを聞いたヒナは意気揚々とアヤのそばに戻る。

 

「作戦通り」

 

そして、アヤの耳元でそっとささやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、アヤは軍師を従え、フィールドの指定の位置に立った。

 

 「ゴホン。それでは、気を取り直してバトルドームにおけるバトルのルールを説明いたしましょう。まず、チャレンジャーとフロンティアブレーンは手持ちのポケモンを3体選び、フィールド脇にある、黒い台にセット。すると、フィールドに備え付けられた巨大モニターにお互いのポケモンの情報が表示されます。それを見て、両者は3体の中から2体を選び、そのポケモンでバトルを行います」

 

チュチュの説明が終わると、アヤは3匹のポケモンを選び、黒い台に置いた。選んだポケモンはドダイトス、ムクホーク、サーナイトの3匹。対するチュチュはフーディン、アクジキング、そして頭がブーメランのような暗緑色のよく分からないポケモンだ。

 

「それでは、シンキングタイムスタート!」

 

チュチュの掛け声で、巨大モニターの数字が動き出す。制限時間は僅か1分。それにもかかわらず、天才軍師ヒナを従えたアヤは余裕そう。が、それは一瞬で崩された。

 

「なんかシュッってギュイーーーンって感じのポケモンがるるるん♪って感じになるから~。アヤちゃんはシュシュっとガシ~ン!っていくのとカチカチ~バーーーーン!ていうのどっちがいい?」

 

待っていたのは恒例のヒナ語。運が悪いことに、アヤは今日に限ってヒナ語が読解できなかった。

 

「わからない!ヒナちゃん、分かりやすく!」

 

彼女がヒナ語に苦しむ間にも、容赦なく時間は流れる。気が付けばタイムアップまで残り十秒。とっさに、すぐそこにあったドダイトスとムクホークが入ったボールを掴んだ。無論、そのセレクトに戦術の欠片もない。

 

「ふ~ん。ずいぶんと珍しい戦術ですわね」

 

彼女の心の中を見破ったのだろうか。チュチュはすでに勝利を確信したかのようだ。

 

「そ、そうでしょ!チュチュさんも知らない変幻自在摩訶不思議な戦術!見せてあげりゅよ!」

 

一応、ちょっとカッコいいこといって反撃してみたが、語尾を噛んだおかげで台無し。相当相手に圧倒されているようだ。

 

「なるほど、変幻自在摩訶不思議ねぇ。それじゃ、それをワタシに見せてもらいましょう!いきなさい!フーディン!」

 

「フゥウ」

 

チュチュはニッと白い歯を見せると、頭につけているヘッドホンを取り外し、頭上高く掲げた。同時にフーディンから放たれるピンクの閃光。メガシンカだ。

 

「お、お願い!ドダイトス!」

 

「ドダァ!」

 

フィールドに現れたドダイトスは雄大なる大地そのもの。それを見て、アヤは落ち着く。すると、ここでヒナが再び口を開いた。

 

「ま、余裕でしょ」

 

サラッとしたヒナらしい一言。今さっき散々な目にあったにもかかわらず、アヤは自分の中の闘志がめらめらと燃えてくるのを感じていた。

 

「そうだよね!よーし!ドダイトス、ストーンエッジ!」

 

意外にも激戦の火ぶたを切ったのはアヤであった。

 

「フーディン、サイコショック!」

 

「フゥゥ!」

 

それに合わせ、チュチュとフーディンの戦術も第二ラウンドに突入。間もなく、強力な技と技同士がフィールドのど真ん中で激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度のヒナのアドバイスは実に的確であった。おかげで、強敵であると思われたメガフーディンはあっさりと戦闘不能に陥った。

 

「まさか、ドダイトスなんかに負けるなんて……!カムバック、フーディン!」

 

チュチュはケガするような強さでした唇をかむ。一方のアヤとヒナは、つかの間の勝利に酔いしれていた。ドダイトスの体力も十分。この流れは確実に勝利に続いている。2人はそう信じた。だが、その流れはあっけなくせき止められた。

 

「あのポケモンはなに?アヤちゃん知っている?」

 

「ヒナちゃんが知らないポケモンなんて私が知るわけないじゃん!」

 

 

チュチュの2番手として現れたポケモンは、例の頭がブーメランのようなポケモンだった。

 

「知らなくても恥じる必要はありません。このポケモンは、ドラパルト。シンシューから遠く離れたガラル地方で発見された最高にクレイジーなポケモンよ!」

 

「パールト!」

 

強者の雰囲気を帯びた叫びをBGMにチュチュはまたニッと笑う。すると、ドラパルトの影の中に消えた。ゴーストダイブだ。しかし、アヤは動じない。同じような戦術は、リンコのゲンガーで予習済みである。

 

「ドダイトス、地震!」

 

ドダイトスは、陰に潜む敵を炙り出そうと両前足を大きく上げる。だが、その瞬間、ドラパルトに格納されていたポケモン『ドラメシヤ』が2匹、がら空きになった背中めがけて襲撃してきた。

 

「ドダッ!?」

 

不意の一撃にドダイトスはひるむ。と、同時に背後からの影から強烈な殺気が漂いだす。ドダイトスはとっさに振り向きストーンエッジをかます。しかし、ドラパルトは陰から飛び出し、スルスルと岩の間を縫い、ドダイトスに急接近。

 

「パルードォ!」

 

その勢いを残したまま、大文字を急所にめがけて放ち、ドダイトスの体力を焼き尽くした。

 

「戻って、ドダイトス」

 

余りにも鮮やかな戦いに、アヤは戦えなくなったドダイトスをボールに戻すことしかできなかった。これで、残るポケモンは1体ずつだ。

 

「ひ、ヒナちゃんどうしよう……」

 

追い風がやみ、すっかりアヤは弱気だ。しかし、ヒナは冷淡だった。

 

「さぁ?自分で考えてみたら?」

 

「そんな~!無責任にもほどがあるよ!」

 

流石のアヤもこれには黙ってられない。矢継ぎ早に文句をヒナにぶつける。しかし、彼女はアヤを見捨てたわけではなかった。

 

「まぁまぁ、落ち着いてって!私はさ、なんか戦術に縛られて戦うのはアヤちゃんらしくないな~って思っただけだって」

 

「どういうこと?」

 

「うーん、ドダイトスとフーディンが戦たとき、私色々と戦術のアドバイスをアヤちゃんにして、アヤちゃんとドダイトスはその通りに動いてくれたじゃん。結果的には勝てたけど、さっきの戦い、なんだかるんっ♪てしなかったんだよね~」

 

「そんな~」

 

「落ち込まないでよ。その代わりいいこと教えてあげるから」

 

「いい事……?」

 

「それはね、アヤちゃんは作戦や戦術をロクに考えられないから面白いってこと!あ、別にバカにしているわけじゃないよ。計画的に戦うよりも、その場の思いつきと勢いで戦った方がアヤちゃんらしいな~っていう意味だからね」

 

「うーん。言っている意味は分かったけど、今日のテーマは戦術だよ。本当にそれでいいのかな?」

 

「じゃぁ……。アヤちゃんの戦術はその場の思いつきと勢い!題して『作戦なし作戦』!これでどうかな?」

 

一見すると無茶苦茶な理論にも見える。だが、なんだかヒナにこういわれると妙に説得力があった。

 

「それなら、作戦なし作戦を試してみよう。お願い、ムクホーク!」

 

「ホーーーーク!」

 

ムクホークの勇猛な声を聞きながらアヤは気合を入れなおす。

 

「What!作戦なし作戦!?そんないい加減な戦いで私に勝てるとでも!?ドラパルト、ドラゴンアロー!あの生意気な小娘共とムクホークをぶっ潰してあげなさい」

 

「パルートッ!」

 

ドラパルトの頭部から格納されていたドラメシヤが発射される。先ほどと同じ技だ。

 

「ホーック!」

 

ムクホークは2匹の襲撃をヒラリとかわす。だが、かわしてもかわしてもドラメシヤはムクホークを追いかてくる。これは大人しく攻撃を受けるほかないか。誰しもがそう思う。しかし、アヤだけは例外であった。

 

「ムクホーク、電光石火!」

 

しつこい追尾をものともせず、アヤは反撃に出る。

 

「バカね!ドラメシヤはゴーストタイプ!ノーマルタイプの技は効かないわ!」

 

「そうなの!?」

 

驚きの事実だ。しかし、作戦には影響はない。ムクホークは目のも止まらぬ勢いで、ドラパルトの真正面に突っ込む。そして、当たる寸前にほぼ直角に急上昇。追尾してきた2匹のドラパルトは動きについて行けず、ドラメシヤと激突した。

 

「パルードッ……!」

 

元の技が強力であることがたたり、その威力は絶大だ。さらに、アヤはここでムクホークの新技を披露した。

「鋼の翼!」

 

ムクホークは翼を鋼のように硬くし、突っ込む。しかし、ドラパルトは負けじとサイコファングでその翼に食らいつく。

 

「ホクッ……!」

 

これにはムクホークもたまらず、バランスを崩す。ドラパルトはそこに、大文字で追撃してきた。

 

「これでどう!」

 

しかし、次にチュチュが目にしたのは、灼熱の炎をぶち破り、一直線に向かってくるムクホークの姿だった。

 

「ムクホーク!ドラパルトの頭を掴んで!そのまま地面スレスレでブレイブバード!」

 

アヤが叫び通りにムクホークは動いた。ドラパルトは飛行タイプ最高クラスの技の勢いで、地面を引きずられた。脱出したくても、ムクホークの強靭な脚がそれを許さない。やがて、ドラパルトはフィールドの壁めがけて投げ捨てられ、叩きつけられた。

 

「パルト……!」

 

そして、ドラパルトは見た。急旋回し、自分めがけて突っ込んでくるムクホークの姿を。

 

「ホークッ!」

 

回避する間もなく、ドラパルトは燕返しの餌食になった。もはや、反撃するだけの力は残されていない。ドラパルトは目を回しながら、チュチュの震える手が握るボールの中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうして……どうして……!どうしてこの私がこんなやつに負けるのよーーーーーーーーー!」

 

戦いの後、チュチュは大声で叫ぶ、と、ここでヒナが一言。

 

「いい加減じゃないよ。作戦なし作戦が、アヤちゃんの戦術だからね~」

 

戦術といわれ、言い返すことが出来なくなったのか、チュチュは黙りこむ。そして、爆発しそうな文句と愚痴をこらえ、若干そっぽを向きながらトロフィーをアヤとヒナに突き出してきた。

 

「……まぁ、終ったことをあーだこーだ言っても仕方ありません。今回は潔く負けを——いや、まぐれの勝利を称えることにしましょう。はい、これが戦術のトロフィーです。今回のラッキーを無駄にしないよう、せいぜいこの先も頑張りなさい」

 

アヤがトロフィーを受け取ると、チュチュはプイっと彼女たちに背を向けた。が、この時、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で『あんたたちのバトル、よかった……』といっていたのをアヤは聞き逃さなかった。

 

「ありがとうございます、チュチュさん!」

 

アヤは深く頭を下げる。そして、ヒナとトロフィーを持ち、観客に見せつけるようにトロフィーを掲げた。

 




おまけ:チュチュパーティー一覧

・チュチュの肩書は『ドームジェネラル』です。


・手加減パーティー
☆フーディン
☆カイリキー
☆ゴローニャ

・本気パーティー
☆フーディン
☆ドラパルト
☆アクジキング




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第五十三話 ブシドーよ、その達人よ

ギリギリクリスマスに間に合ったかな?
でも残念。クリスマスには全く持って関係ないお話です。
ブシドーーーーー!


さて、今回は、バトルフロンティアの施設、『バトルドージョー』から物語を始めることにしよう。バトルドージョーは、竹林の中に建てられた木造の施設。この建物は造りがやや特殊であり、建築の際に釘などを一切使わず、木と木を上手く削り、それらをパズルのように組み合わせて出来たものだ。さらに、建物の周囲には石畳や枯山水が使われた庭園が広がっており、見た者の心を清らかにする。内部もほとんどが木製であり、壁のいたるところに『以心伝心』、『風林火山』、『焼肉定食』などといった格言が書かれた掛け軸が飾られている。総じて、わびさび を全身で体感できる施設といえるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、アヤはそんな施設の木製のバトルフィールドに立っている。彼女は、ギャラリーにいるヒナの一足早い声援を受けながら、フロンティアブレーンが来るのを今か今かと首を長くして待っていた。

 

「お待たせしました!」

 

間もなくアヤとは反対側に位置する扉が、透き通るような声とともに開いた。現れたのは、カヤヤタウンで出会ったボックス管理人の少女、イヴだ。

 

「い、イヴさん!?イヴさんってフロンティアブレーンだったの!?」

 

彼女は目をまん丸にして驚く。と、イヴは朗らかに微笑んだ。

 

「はい!ポケモンたちと修行に励んでいたら、オーナーさんに声をかけて頂いたんです。ということで早速ですが、アヤさんの武士道、試させてもらいます!」

 

 

「武士道……。武士道……」

 

アヤは考えた。武士道とは何か。武士道の意味は。だが、考えても考えてもいまいち答えが浮かばない。すると、イヴが、何かを誇るような雰囲気を帯びだした。

 

「武士道とは、清く正しい心です!それを人もポケモンも関係なく認め合い、分かち合うことが、天下泰平の第一歩。つまり、心と心を通じ合わせることが大切なのです!そこで、真の武士道を試すために、バトルドージョーではトレーナーがポケモンに指示を出すことを禁止しています!」

 

「エッ!それじゃあどうやってバトルするの?」

 

「ポケモンが自分で判断して、技を使い、攻撃を回避します。安心してください!心と心が通い合ったトレーナーなら、トレーナーが思った通りの行動をポケモンもしてくれるはずです!」

 

「だ、大丈夫かな……」

 

無論、アヤも自分のポケモンを信じているし、ポケモンたちも彼女のことを信頼している。だが、この前代未聞のルールにどこまで太刀打ちできるかは、未知数であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それではアヤさん、準備はいいですか?」

 

「うん!よろしくお願いします!」

 

数分後、両者はモンスターボールを構えた。そして、投げる。アヤの前にはサーナイトが、イヴの前にはエルレイドが現れた。

 

「よし、行くよ!サーナイト、シャ——」

 

開幕早々、アヤは慌てて口を手で押さえる。いつもの癖で、うっかりして技名を叫びそうだった。今の彼女にできることは、サーナイトを信じることだけだ。

 

「サーナッ!」

 

開幕早々ルール違反を犯そうとするアヤに対し、サーナイトは主が思い描いた技を的確に当てる。影の球はまっすぐエルレイドのど真ん中に飛んでいった。

 

「エルレッ」

 

しかし、エルレイドはサイコカッターでそれを一刀両断。やはり、一筋縄ではいかない相手のようだ。

 

「なんのこれしき!エルレイド、レッツブシドーです!」

 

イヴの声は可愛らしさが残りながらも勇ましい。それとともにエルレイドは一気に間合いを詰めてきた。

 

(ここでリフレクターを使えば後々まで安心して戦えるねサーナイトなら大丈夫)

 

と、アヤは高を括る。が、サーナイトが選んだ技はサイコキネシスだった。

 

「レイドッ!」

 

エルレイドは無駄のない動きでそれをかわす。次の瞬間には、毒づきをサーナイトにお見舞いしていた。

 

「サナッ」

 

サーナイトは大きく怯む。相手は追撃を仕掛けてくるはずだ。アヤがここは思い切ってテレポートで逃げるだろう。しかし、サーナイトはシャドーボールを打ち、すぐさま反撃に移ってしまった。対するエルエルレイドは炎のパンチでそれを打ち砕き、再びサーナイトを打ちのめした。

 

「サーナイト!」

 

「サナ……」

 

一応、アヤの声にこたえられるだけの力がサーナイトに残っている。しかし、かなり危ない状況。繊細な戦い方が求められる。ここを打破する手段はただ一つ。アヤとサーナイトの心を通わすこと。つまり、彼女たちの武士道にかかっているのだ。

 

(で、でもなぁ。直接指示は出せないしな……)

 

いつもなら簡単に打ち破れる状況も、今日は高い壁。アヤは考えた。この壁を乗り越える秘策を。

 

「そうだ!」

 

直感はもはや最大の武器。その秘策はすぐに舞い降りた。ならば、あとはそれを実行するだけだ。

 

「頑張れ!サーナイト!頑張って!」

 

思いついたことは実にシンプルである。自分も戦っている気になり、全力で応援することだ。

 

「サナ……!」

 

主の熱い声援。そして、それに交じってギャラリーから聞こえるヒナの声援。それらを受けたサーナイトはにわかに奮い立ってきた。

 

「エルレード!」

 

気が付けば、止めを刺そうとエルレイドが目の前に迫ってきている。

 

(サーナイト、ここはかわしてマジカルシャイン!)

 

彼女は応援をしながらそう思った。

 

「サーナッ!ナッ!」

 

と、サーナイトはヒラリと攻撃をかわし、マジカルシャインを放つ。両者の心がシンクロした瞬間だ。

 

(よしよし……、次はサイコキネシスで……)

 

アヤの目論見通り、サーナイトはサイコキネシスを見事エルレイドに当てる。エルレイドの攻勢は完全に崩れた。しかし、相手は武士道を極めた者たち。一度や二度のピンチでへこたれることは決してない。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。臥薪嘗胆、初志貫徹!エルレイド、今こそ(まこと)のブシドーを見せるのです!」

 

「ルレッ!」

 

エルレイドは全身に武士道の精神を込め、サーナイトめがけて突っ込む。しかし、サーナイトは微動だにしない。じっと、迫りくるエルレイドを見るだけだ。

 

「……」

 

その光景に、アヤは思わず息をのむ。ここまではシナリオ通りの展開だ。

 

「ルレーッ!」

 

エルレイドの毒づきがサーナイトに襲い掛かる。アヤは心の中で『今だ』と、叫んだ。

 

「サッ!」

 

その瞬間、サーナイトはエルレイドの背後にテレポート。毒づきが空振ると同時に、シャドーボールを叩き込んだ。

 

「エルレ……」

 

エルレイドは足がふらつくのをこらえ、サーナイトをまっすぐ睨む。だが、間もなくプツンと糸が切れたように、前のめりにその場に倒れた。

 

「お見事……!」

 

そして、互いに一歩も譲らない激闘を簡単にまとめたイヴの一言で、美指導を試すバトルは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさに、獅子奮迅!荒武者の如き戦いざま、あっぱれです!よって、この『ブシドーのトロフィー』差し上げます!」

 

きらりと光る金のトロフィーがアヤの手に渡る。イヴの顔には、透き通った笑みが浮かんでいた。

 

「ありがとうございます!」

 

トロフィーを受け取ると、いつも通り観客に誇るようにトロフィーを掲げた——のだが、この時、彼女はすぐそこからイヴの妙にアツい視線を感じた。

 

「アヤさん!急で申し訳ないんですけど教えてください!アヤさんとサーナイトはどうしてそんな、素晴らしい武士道精神を持っているんですか?」

 

「えっ……?ぶしどうせいしん?」

 

「はい!アヤさん達はいつもどのような稽古をしているんですか?時間は?コツとかは?それから……」

 

イヴは目を輝かせ、アヤにあれこれ聞き出す。しかし、アヤが武士道を意識した練習をしたことなんて一度もないし、イヴに勝ったとはいえ武士道については分からないことが多い。とはいえ、折角勝ったのに何も言えないのはのはかっこ悪い。そこでアヤは、なんかそれっぽいことを言って、切り抜けようとした。

 

「えっと……それは……つまり……その……、楽しむことを目的にして……。あとは……基本を大切に……何度も何度も練習を……」

 

「なるほど……。千里の道も一歩から、ということですね!参考になります!」

 

ところが、底抜けの純粋さを持つイヴはそれをすべて真剣に吸収していく。完全にブシドートークのゴールを見失った。

 

「うえ~ん!やっぱり武士道は分からないよ~!助けて~ヒナちゃ~ん!」

 

ついに、アヤの悲鳴が上がる。だが、イヴの勢いはまだ止まらない。質問攻めは、まだまだ続きそうだ。

 

 




おまけ:イヴパーティー一覧

・イヴの肩書は『ドージョーマスター』です。


・手加減パーティー
☆エルレイド
☆ジュゴン
☆マルマイン

・本気パーティー
☆エルレイド
☆グソクムシャ
☆ライコウ




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第五十四話 アヤの休日

忙しかったり筆が進まなかったりで、投稿が遅れてしまいすみません。。
今年もよろしくお願いします!


 アヤとヒナは、相変わらずバトルフロンティアにいるのだが、今日はブレーンたちとのバトルがない。いわば彼女たちの休日だ。そこで2人は、フィールドを借りて誰でも気軽にバトルが楽しめる施設、『バトルフリールーム』に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわー、なんかすごい」

 

アヤの周りは、目に闘志を宿したトレーナーで埋め尽くされている。ところが、ヒナだけは例外であった。彼女は入ったと同時に大きなあくび。施設に入ってからもちらりと周りを見ただけで、あとは図鑑をいじるだけ。挙句の果てに、施設に入ってから5分と立たずにプイっと出口の方に歩き出してしまった。

 

「ちょ、ちょっと!ヒナちゃん!?どうしたの?」

 

突飛なヒナの動きに、アヤは思わずすっとんきょうな声をあげる。と、ヒナはこらえていたため息を一気に吐き出した。

 

「だって、ここにいるトレーナー全然るんっ♪ってしないんだもん。絶対にバトルしても弱いから、つまらないよ。アヤちゃんも帰ろうよ」

 

「えぇ……。でも……」

 

しかし、アヤは中々帰ろうとしなかった。

 

(せっかくこんなにトレーナーがいるのに……。誰からも声を掛けられないなんて~!私、殿堂入りしているんだよ。フロンティアブレーンにも勝っているんだよ。なのになんで誰も声かけてくれないの~。誰かからバトルを申し込まれること楽しみにしていたのに。決め台詞まで考えていたのに~!)

 

色々な幻想が音を立てて崩れた。気が付いたらヒナの姿もない。アヤはがっくり肩を落としながら足を前に動かす。と、ついに念願の瞬間が訪れた。トントンと響く方の振動。背後の人の気配。アヤの元気は全回復。電光石火の速さで振り向いた。

 

「こんにちは!私とバトルですか?えへへ~。私とポケモンが織りなしゅ、色とりどりなコンビネーチョンを見せてあげましょうっ!」

 

練りに練ったカミカミの決め台詞を爆発させる。が、相手はアヤの知り合いであった。ジムリーダーのランとマヤだ。

 

「アヤ……さん……?」

 

「どうしたんですか……?」

 

笑顔全開のアヤをしり目に、ランとマヤは顔を見合わせる。何とも言えない妙な雰囲気には、流石のアヤも負けたようで、違和感ある咳払いをした。

 

「マヤちゃん、それからランさん……。えっと……、久しぶりです……!今日は2人そろってどうしたんですか?」

 

我ながら見事な仕切り直しであると、アヤは満足感に浸る。その甲斐あってか、一呼吸置き、ランがポツリと口を開いた。

 

「なんか、成り行きで……」

 

中々あっさりした説明だ。

 

「ランさん、それじゃわかりませんよ!その……、実はここにきた理由はジブンにあるんです。ジブンがどうしても草タイプを相手にするのが苦手で。そこで弱点克服のために草タイプのスペシャリストでもあるランさんに話を聞きに行ったんです。それで、話の中でいろんな人のバトルを見た方がいいってことになってバトルフロンティアに来てみたんです」

 

「なるほど……」

 

相槌を打つさなか、アヤの頭ではマヤとのジム戦が再生されていた。あの時彼、自分が使ったのは草タイプのナエトルだ。あの日の緊張感は今でも全身が覚えている。苦手なタイプ相手にあそこまでチャレンジャーを苦戦させるとは、流石ジムリーダーである。彼女は心からそう思った。

 

「あ、なんかるんっ♪ってした感じがビビっとすると思ったら、ランちゃんとマヤちゃんだ!」

 

その時だ、前触れもなくヒナがアヤの横に戻ってきた。そして、鋭い言葉をランの胸に突き刺した。

 

「で、さっき少し話が聞こえてきたんだけど、ランちゃんってドラゴンタイプのジムリーダーだよね?草タイプなんてまともに扱えるの~?」

 

「なっ……!一応これでも、草タイプ限定の全国大会で、いいところまで勝ち進んだんですけど!まぁ、父さんやアリサさんにはまだ勝てないですけど……」

 

ランは目線をそらした。相当痛いところを突かれたのだろうか。しかし、ヒナはそんなことお構いなしに話を急旋回させてきた。

 

「でさ、折角みんな集まったんだし、どうせだったらみんなでバトルしない?」

 

一見何の脈絡もない提案だが、よくよく考えてみればそんなに驚く展開でもない。なにせ、ここにいるのはシンシュー屈指の強豪。となれば、トレーナーの血が騒ぐのも無理はない話だ。

 

「なるほど……。またアヤさん達と戦えるのですか。アヤさんと戦えば、草タイプへの対抗策が何か思いつくかもしれません。ジブンは賛成です」

 

「まぁ、やるっていうならあたしもやりますけど……」

 

ランとマヤも食いついた。4人はフィールドを借り、その中に入っていった。さぁ、戦いだ!

 

 

 

 

 

 

 

 話し合った結果、タッグバトルをやることになった。アヤの相方は、もちろんヒナだ。

 

「ビシッとバシッといこー!」

 

ヒナはアヤの隣で大はしゃぎ。一方、相手のマヤとランは何やら話しあっていた。

 

「ランさん、今日は草タイプを使いますか?それともドラゴンタイプを使いますか?」

 

「うーん、ここに来た目的を考えれば草タイプを使いたいけど……。マヤさん、ドラゴンタイプ使ったら怒ります?前にアヤさんとジム戦したときに、色々あったんでそのリベンジをしたいんです」

 

「あぁ、構いませんよ。ジブン、ランさんが使う迫力満点のドラゴンタイプにも興味がありますから!」

 

「ありがとうございます。それじゃあ……」

 

マヤが笑顔でうなずくと、ランは力強くフライゴンが入ったボールを握り、力いっぱい投げた。

 

「フリャアアア!」

 

ボールから出たフライゴンは、若緑色の羽をはためかせ、音を奏でる。続いて、優しい音色を破壊的な咆哮が突き破った。マヤのガチゴラスも姿を現したのだ。

 

「出番だよ、ドダイトス!」

 

アヤも負けじと歴戦の相棒を繰り出す。一方、相方のヒナが繰り出したポケモンは思いもよらぬポケモンだった。

 

「いっけー!クマシュン!」

 

クマシュンからしてみれば周りは見上げるような巨体のポケモンばかり。しかし、クマシュンはそんなのものともせず、フィールドでガチゴラスとフライゴンをかわいい瞳で睨んだ。きっと、主の大胆さがうつったのだろう。

 

「今日こそ勝たせてもらいますよ!フライゴン、大文字!」

 

先手をとったのはランのフライゴン。燃え盛る炎がドダイトスを狙う。

 

「ダーーッ!」

 

ドダイトスはエナジーボールを大文字に向け発射。辛うじて防ぐことに成功。これでとりあえず危機を脱した——とおもいきや、今度は側面からガチゴラスが襲い掛かってきた。

 

「ダメだ!間に合わない!」

 

しかし、アヤがそう思った瞬間、クマシュンがガチゴラスの顎の真下に転がり込み、冷凍ビームを撃つ。これで今度こそ危機は脱した。が、一難去ってまた一難。フライゴンが激しく羽ばたくと、マヤとランの背中を押すように『追い風』が吹き出した。

 

「ガァァチ!」

 

風に乗り、ガチゴラスがクマシュンに突っ込む。

 

「ドダイトス、地震!」

 

アヤは大慌てでガチゴラスをけん制しようと、声をあげる。だが、ドダイトスが前足を上げようとした矢先、その巨体はフライゴンのドラゴンクローに切り裂かれた。

 

「マッシューーン!」

 

同時に、クマシュンからは悲鳴が上がった。聞けばわかる、強烈な一撃だ。

 

「まだまだ、序の口っす!ガチゴラス、諸刃の頭突き!」

 

あらゆる勢いに乗ったマヤは、クマシュンに止めを刺す気だ。絶対絶命の危機。アヤとドダイトスも黙っているわけにはいかない。

 

「ダァイトース!」

 

クマシュンの目と鼻の先で、諸刃の頭突きとウッドハンマーが激突。ガチゴラスはドダイトスに押し返された。反撃の狼煙が上がったと、アヤはそう確信した。

 

「よし、反撃だよ!ドダイトス、エナ——」

 

「待って、アヤちゃん。ここはガッチーンっていこう!」

 

アヤの解釈が間違っていなければ、ヒナは守りに徹したいらしい。彼女とはまるっきり真逆の考えだ。しかし、その宝石のような目の奥では何かが動いていた。

 

「わかったよ、ヒナちゃん」

 

アヤは、ヒナの作戦に乗っかることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆風が吹き荒れる中、クマシュンとドダイトスは巧みな動きで敵を翻弄した。時には床に氷を張り、時にはエナジーボールの弾幕を張ったり……。ありとあらゆる手の、思いつく限りの防御方法をマヤとランにぶつけた。一方のマヤとランも、アヤとヒナが思いつく作戦を次々とやぶっていった。おかげで同じ手は決して許されない、一進一退の極めて高度なバトルが展開されたのである。が、追い風がやんだ時、ついにバトルが動いた。

 

「フライゴン、追い風!」

 

風がやむや否や、ランは再び追い風を指示。すると、防戦一方だったヒナが攻めに転じたのだ。

 

「クマシュン、アンコール!」

 

クマシュンが、フライゴンの前に立ちはだかり手をたたく。今がバトル中であることを忘れるほどの可愛さだ。

 

「フリャリャ~」

 

それに気をよくしたフライゴンは無意味にバタバタ羽ばたき、追い風を吹かせ続けた。

 

「まずい……!」

 

不意を突かれたラン。フライゴンはそのまま冷凍ビームに射貫かれ、あっけなく墜落した。

 

「なんて強いクマシュンなんだろう……」

 

クマシュンの底知れぬ実力に震えるマヤ。ボールに戻るフライゴンをしり目に、ターゲットをクマシュンに絞る。しかし、ついクマシュンに気を取られてしまったあまり、彼女はもう1体の強敵のことを見落としていた。

 

「ドダイトス、エナジーボール!」

 

どこからともなくアヤの声がする。自然と命の塊はガチゴラスの脳天に直撃。そして、間髪入れずに訪れた地震によって、ガチゴラスの破壊衝動は完全に断たれた。

 

「やっぱり草タイプとは、恐ろしい相手っすね……」

 

マヤは悠々とフィールドに立つドダイトスの雄姿を焼きつけながら、ガチゴラスを引っ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

「最近は負けなしだったから、勝てると思ったんだけど……。ま、あたしとフライゴンにもまだまだ成長の余地があるってことかな。アヤさん、ランさん、今日はありがとうございました。」

 

 戦いは終わると、頭を下げた。以前、負けを認めなかった人と同一人物とは思えないほど、礼儀正しいさまだ。多分、こっちが本来のランの性格なのだろうと、アヤは心の中で思った。が、その隣で嫌な予感がした。

 

「ヒナちゃん!」

 

彼女が口から爆弾を投げ込もうとしているのに気が付いたアヤは、大慌てで彼女の口を手で覆う。と、ヒナはモゴモゴ何か言いながら暴れだした。

 

「ハハハ……、ヒナさんは相変わらずですね。まぁ、2人とも前と変わらず中がよさそうで何よりです」

 

それを見たマヤは、苦笑い。と、ここでランが何かを思い出したように口を開いた。

 

「あっ、そういえばマヤさん。何か草タイプのこと分かりましたか?」

 

「あー、そのことなんですが……。実はバトルに勝つことに夢中になってしまって、アイデアとかは見つからなかったです。どうやら、苦手克服の道は険しいようですね……。ランさん、もしよかったらまた相談に乗ってくれませんか?」

 

「まぁ、あたしでよかったらいつでも」

 

ランは快くうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、間もなくマヤとランは仲良く自分のジムに帰っていった。どうも、2人とも明日ジム戦があるらしい。

 

「あーあー、2人と一緒にアヤちゃんのバトル見たかったんだけどなー」

 

彼女たちの後ろ姿を見ながら、ヒナは頬を膨らませる。一方のアヤは、明日のバトルで頭がいっぱいであった。

 

(えっと……、明日は……、おしゃれさを試すバトルだっけ?おしゃれさねぇ……)

 

『おしゃれ』という、知っているようで知らない摩訶不思議な単語に頭を悩ませるアヤ。ところが、そこに、何の前触れもなく尋常ではなく賑やかな雰囲気がやってきた。

 

「こーんにちはー!アヤさんですよね!私、カスミって言います!アヤさんのファンです!アヤさんのバトルを見て、いつもキラキラドキドキしています!早くアヤさんと戦いたいな~。あっ、もう時間だ!それじゃぁ、ばいば~い!」

 

この間、僅か10秒。カスミと名乗る謎の少女は流星のようなスピードで何処かへ去っていった。

 

「今の、何だったんだろう……」

 

「さー?」

 

アヤとヒナはポカンとした表情で、互いの顔を見合わせる。こうして、彼女たちの休日は幕を下ろしたのであった。

 



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第五十五話 輝けアイドル!

おかげさまで、もう少しでゴールを迎えられそうです!
もうしばらく応援よろしくお願いします!


ここは、おしゃれさ司る施設である『バトルコンテスト』内部の控室。突然だが、アヤはフリフリがいっぱいついた、ピンクを基調とした服装に身を包んでいた。

 

「よっ、アヤちゃん!アイドルみたいでいいよ!」

 

「まんまるお山にいろどりを!イェイ!」

 

カメラを持つヒナにおだてられ、アヤすっかりアイドル気分。絶え間なくきられるシャッターに向かって、次々とポーズをとっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 写真撮影が終わって、およそ十分後、アヤはついに今日の舞台に上がった。

 

「チャンピオンアヤ!」

 

「アーヤちゃーーん!」

 

沸き上がる歓声。その中からは微かにヒナの声も聞こえる。ようやく自分の功績が輝くときが来たのだ。彼女は満面の笑みで、手がすっっ飛んでいきそうな勢いで手を振る。もはや、そこはアヤのための空間といっても過言ではい。が、それは三日天下に終わった。想像を絶する大歓声に飾られながら、もう一人の主役がやってきたのだ。

 

「ワーーーーーーッ!」

 

「きたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「こっちむいて~!」

 

「リサ姉―!」

 

アヤの視線の先から、黒と紫を基調としたドレスを着た茶髪の少女が歩いてきた。

 

「ヤッホ~!アタシはリサ。たしかアヤだっけ?今日はよっろしく~♪」

 

リサと名乗る少女の雰囲気は暖かく柔らかい。朗な表情も相まって、まるでずっと昔からの友達といるような感じだ。そんなことをアヤが思っていると、フィールドの横にジョーイさんと、2人のスーツを着た後年の男が姿を現した。

 

「あれは、なんですか?」

 

不可思議な光景に、思わずアヤは指をさしてしまった。

 

「あれは、審査員!今日のバトルは一味違うからね~」

 

リサの怪しげな笑みにアヤは身構える。すると、フィールドに掲げられた電光掲示板に2つの円形のゲージが映し出され、リサが再び喋りだした。

 

「今日のバトルでは、あのゲージが命。審査員がおしゃれじゃないバトルだって判断すると、あのゲージが減るんだ。10分間バトルして、あのゲージが多く残っていた方が勝ち。もちろん、時間が来る前にゲージが0になったり、自分のポケモンが戦えなくなったりしても負けだから注意してね~」

他の施設と同じく、変わったルールだ。しかし、アヤは珍しく動じていない。

 

(ポケモンが戦えなくなってもダメなんだよね。だったら、ゲージがゼロになる前にリサさんのポケモンを倒しちゃえばいいんだ!)

 

完ぺきな勝利の方程式が組まれた。彼女は、自身の圧勝を確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、バトルが始まった。リサが繰り出したポケモンはグレイシア。対するアヤが選んだのはサーナイトだ。

 

「サーナイト、十万ボルト!」

 

開幕早々、アヤはサーナイトを突っ込ませる。

 

「サーッ!」

 

サーナイトは慣れた手つきで十万ボルトを決める。そして、飛び上がり、マジカルシャインとサイコキネシスを当て、爆発音とともに降り立った。が、硝煙が晴れた先にあるのは非情な現実。グレイシアはほぼ無傷で立っていた。

 

「うっそ……!」

 

勝利の方程式は音を立てて崩れた。グレイシアの可愛さや、リサの雰囲気に惑わされ、相手の実力を見誤ったようだ。どんなに低く実力を見積もっても、ジムリーダーと同じくらいの実力は備えて——いや、それ以上の実力者かもしれない。

 

「アハハ!ここでは闇雲に戦っても勝てないよ!可愛く美しく可憐に!これが勝利の秘訣なんだから!グレイシア、お手本を見せて!」

 

「グレ~!」

 

グレイシアから、凍える風が放たれる。しかし、様子がおかしい。普通の凍える風は相手に当たったら吹き抜ける。だが、これはサーナイトにあたると、らせん状にサーナイトを取り囲んだのだ。

 

「サナッ!」

 

サーナイトは視界を遮られ上手く動けない。そうこうしているうちに、凍てつくカーテンを破り、グレイシアのアイアンテールがサーナイトの胴体を叩いた。凍える風は離散し、あたりに散らばる。そして、ダイヤモンドダストのように輝き、リサとグレイシアを飾った。

 

「えっ……!」

 

同時に、アヤは言葉を失った。チラリと電光掲示板の方に目を移したところ、自分のゲージが3分の1近くごっそり減っているのだ。どうやら、先ほどいつも通りの戦い方が相当響いたらしい。対するリサのゲージは1ミリたりとも減っていない。いつも通り一筋縄ではいかない戦いになりそうだ。いや、今までノウハウがそのまま使えないとなるといつも以上に厳しい戦いになるだろう。

 

「えっと……。あの……。サーナイト、10万ボルト!」

 

とりあえず、アヤはサーナイトにこう指示した。理由?そんなの大したものではない。ピカピカ光っていてちょっときれいそうだからである。

 

「グレイシア、冷凍ビーム!」

 

案の定、適当に撃った技なんてリサに通用するわけなかった。冷凍ビームは十万ボルトを突き破る。割かれた十万ボルトは、氷の光線に反射し、芸術を作り上げていた。

 

「サァ!」

 

正面からの冷凍ビームをかわすことくらい、サーナイトにとってわけないことだ。しかし、アヤが恐れていることは例のゲージだ。恐る恐るそれを見ると、またゲージが減っていた。もう半分を切っている。やはり、普通に戦うことは大きなマイナスのようだ。

 

(ど、どうすれば……。あっ、ヒナちゃんならこういう時……。いや、ヒナちゃんが見せ方を気にして戦っているの見たことない!)

 

アヤは四苦八苦した。様々な案が一瞬で現れ、一瞬で消えていく。と、その時、ふと奇策が浮かんだ。結構突飛な案だが、もう制限時間まで僅か。考えている暇はない。

 

「サーナイト、歌に合わせて動いて!」

 

アヤはそれだけ言い残すと、歌いだした。

 

「♪あ~ららら~」

 

突然響きだした歌声に、誰しもが戸惑う。ただ、サーナイトだけは主の指示を守り、可憐に舞いだした。その光景は、さながら演劇のようである。

 

「まさかトレーナーが歌うとはねぇ。面白いじゃん!アタシ達も負けないよ。グレイシア!」

 

「レー!」

 

グレイシアはシャドーボールを放つと、煌めくアイアンテールでそれを叩く。シャドーボールはいくつかに分離し、規則正しくらせんを描きながらサーナイトに迫った。

 

「サーナッ!」

 

サーナイトは目の前に念動力の壁を作り、それを空中で止める。そして、すかさず十万ボルトを放った。黒い物体を明るい閃光が彩る幻想的な光景。意外と上手い歌声もその世界を作る住人の一人だ。

 

「♪ラララララ~、ふんふふふ~ん」

 

可憐な歌声とともに、リサのゲージも徐々に減りだす。手ごたえを感じたアヤは今度は足踏みを初め、次第には踊りだす。その姿はもはや、夢と希望と勇気を与える完ぺきなアイドル。そのせいか、サーナイトの動きもより美しく、より逞しくなっている。

 

「サーナッ!」

 

突如、サーナイトは歌のサビと思われる部分で大きく距離をとった。

 

「ん……?」

 

あまりにも不自然な間合いにリサは戸惑う。

 

「サーナーット!」

 

サーナイトは再び十万ボルトを放った。しかも、ただの十万ボルトではない。電気が長距離を駆け抜ける間に、サイコキネシスで器用に電気の流れを操り、歌詞に沿った様々な模様を編み出していくのだ。

 

「グレッ……!」

 

読めない電流に振り回され、グレイシアは直撃を浴びる。また、リサのゲージが減った。これで、リサとアヤのゲージはほぼ同量。終了時間までも秒読み。次の一撃で勝負が決する。

 

「グレイシア!凍える風!」

 

「グレェ!」

 

リサとグレイシアの渾身の一撃を、サーナイトはマジカルシャインで迎え撃つ。凍える風はマジカルシャインに阻まれ、不思議な光を反射させながら儚く舞い散る。その神秘さに魅せられた観客は、誰しもがこの瞬間がバトルの終了であることに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして戦いが終わった。

 

 「はぁはぁ……。人前で歌うのって疲れるな……」

 

潤いを失った喉のダメージをこらえならがら、アヤはゲージの方を向いた。ゲージは、ミリ単位の差ではあるがアヤの方が多く残っている。彼女はまた、激闘を制したのだ。

 

「よ、よかった!やったね、サーナイト!」

 

「サーナッ!」

 

アヤはサーナイトのところに歩み寄ると、ハイタッチをした。そのころ、リサはグレイシアに微かに悔しさがにじんだ笑顔を見せていた。

 

「あちゃ~、あと少しだったんだけどな~。でも、今日のグレイシア、最近で一番おしゃれだったね!よくやったぞー、えらい!」

 

「レイシ~ア!」

 

リサに頭を撫でられ、グレイシアは甘い鳴き声を奏でる。そして、彼女たちはトロフィーを持ち、仲良くアヤのところに歩き出した。

 

「さっきのアヤとサーナイト、本物のアイドルみたいだった!あのバトルを見ていたせいか、敵だったけれどもなんだか元気が出てきたよ!と、いうことでこの『おしゃれなトロフィー』はそのお礼。受け取ってよ!」

 

リサの手から、カラフルなリボンでデコレーションされたトロフィーが、アヤの手に渡る。

 

「よーし!おしゃれなトロフィー、ゲットだよ!イェイ!」

 

アヤはトロフィーを片手に、空いた手の親指と人差し指を垂直にし、何かを撃つようなポーズを決める。

 

「サナ……」

 

その傍らで、サーナイトは主がとる謎のポーズに戸惑っていた。

 




おまけ:リサのパーティー一覧

・リサの肩書は『コンテストメイヴ』です。


・手加減パーティー
☆グレイシア
☆パンプジン(特大サイズ)
☆サメハダー

・本気パーティー
☆グレイシア
☆クレセリア
☆ドサイドン






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第五十六話 白き翼の少女

バトルフロンティア編もようやく後半戦です。
面白かったと思う人はコメントや高評価、お気に入りに登録してくれると泣いて喜びます。


 知識を試す施設、『バトルシアター』。自分のポケモンは使わず、施設からレンタルしたポケモンで戦うことで知られる場所だ。また、バトルコートが劇場のようになっていることも特徴の一つ。ポケモンたちはステージの上で戦い、観客はそれを真横からフカフカの椅子に座って観戦するのである。さて、早速であるが、アヤはフィールドで不安に駆られていた。

 

「だ、大丈夫なのかなぁ……」

 

アヤはレンタルしたヌオーが入ったボールをまじまじとみた。ちなみに、ヌオーを選んだ理由は特にない。強いて言うなら、レンタルできるポケモンのリストと一時間近くにらめっこした結果、見かねたヒナに勝手に決められたからである。

 

「確か覚えている技は……、濁流と冷凍パンチ、あとは欠伸と地震。それで特性が貯水。どうやって戦おうか……」

 

一応、先ほどヒナにアドバイスをもらったものの、相変わらずのヒナ語で、ちんぷんかんぷん。しかし、よくよく考えればヒナとずっと一緒にいるアヤにとって、こんなの大した問題ではない。ヒナのアドバイスのおかげで勝ったことも多いが、ヒナのアドバイス無しで勝ったこともザラだ。それに、もしかしたら途中でアドバイスの意味がわかるかもしれない。そう思ったとたん、ふと彼女は自分の体が軽くなったのを感じた。

 

「よーし!頑張っちゃうぞ~!おー!」

 

1人には広すぎるフィールドに元気いっぱいな声が広がる。と、それを合図にアヤとは反対の方からフロンティアブレーンが入ってきた。

 

「その真っ直ぐさ、前から変わらないわね」

 

聞き覚えのある声。なびく黄色い髪。アヤは目を見張った。そこにいたのは、かつてZ技の試練を行った少女だ。

 

「ち、チサトちゃん!?どうしてここに!あれ?Z技の伝授は!?女優のお仕事は!?」

 

裏返る声で、色々な単語を連呼するアヤ。チサトは彼女とは真逆の口調でしゃべりだした。

 

「落ち着いて、アヤちゃん。前に、私がジムリーダーの仕事をカノンに譲った話はしたわよね。それは、フロンティアブレーンになるためだったの。流石に、女優とジムリーダーとブレーンの三足の草鞋を履くのは難しいから……」

 

「そ、そうなんだ。で、Z技の伝授は?」

 

「誤解しないでほしいんだけど、Z技の試練は毎日やっているわけじゃないわ」

 

「あっ、確かに」

 

彼女がそう言った時、チサトの顔には『やれやれ』と書いてあった。彼女は、ここで軽く咳払いをして場を仕切りなおした。

 

「さてと、これで聞きたいことは全てかしら?これ以上ないなら、お話はここまでよ。アヤちゃんが今まで得た知識、見せてもらうわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは、始まった。アヤは、ヌオーを繰り出す。と、目の前に威圧の壁が立ちはだかった。

 

「グワァァイ!」

 

その正体は、カイリュー。以前、Z技の試練でアヤとキルリアを完膚なきまで叩きのめした、あのカイリューだ。つまり、これはアヤにとってリベンジマッチといえる。

 

「ヌオー!えっと……あの……」

 

アヤ的には、開幕早々に動きたかったが、言葉に詰まってしまった。何しろヌオーなんて生まれてこの方使ったことがないポケモンだ。恐らく、初見のポケモンを今まで培ってきた知識や経験で動かすことが、バトルシアターで求められていることなのだろう。しかし、チサトが使うポケモンは、慣れ親しんできた相棒である。なんだか、妙な不平等さをアヤは感じた。

 

「グワァ!」

 

しかし、そんなのお構いなしにカイリューは突っ込んでくる。余計なことを考えている暇はもうない。アヤは、ヌオーに冷凍パンチで迎え撃たせた。

 

「よし、順調な滑り出し!」

 

カイリューは、氷タイプに非常に弱い。我ながら名采配であると、アヤは思った。ところが、カイリューはピンピンしていた。

 

「生憎だけど、私のカイリューの特性はマルチスケイルなの。体力が十分あるときに、攻撃をしても無駄よ!」

 

チサトの言葉とともにカイリュウーは鳴き声を轟かす。そして、ヌオーの真横をかすめた。

 

「この動き……、まさか……!」

 

アヤの予想は当たってしまった。カイリューの毒毒をもらい、苦しみだした。こうなっては短期決戦に持ち込むしかない。彼女はすぐさま怒涛の連続攻撃に移らせた。

 

「お~」

 

おっとりとした見た目であるものの、意外とキレのある動きをするヌオー。しかし、それをあざ笑うかのようにカイリューは地におり、ゆっくりと羽休めをした。おかげでヌオーが蓄積させたダメージは水の泡だ。

 

「これで、カイリューの体力は万全ね。さぁ、アヤちゃん、どこからでもかかっていらっしゃい」

 

この時のチサトの笑みは、狡猾な悪タイプですら中々真似できないだろう。しかし、アヤは意外にも冷静だった。なにしろ、相手が長期戦に持ち込もうとするならば、それを崩せばいいだけ。アヤは、そのすべを熟知している。

 

「ヌオー!もう一度冷凍パンチ!」

 

アヤはひとまず凍てつく拳でカイリューを殴らせた。その後、カイリューは案の定羽休めをしてきた。しかし、これはアヤが仕組んだ罠だ。カイリューが地に降りた瞬間、ヌオーは大きく口を開け、眠気を誘った。欠伸である。アヤは以前、ヒナに使われた戦術を流用したのだ。

 

「してやられたわね……!こうなったら、力ずくで片を付けてやるわ!カイリュー、Z技を使うわよ!アルティメットドラゴンバーン!」

 

「グ、グワァァイ!」

 

恐らく、毒が回りきるよりも先に、カイリューが眠る。相手のおもうがままと分かっていても、チサトに残された勝ち筋はこれしかなかった。一方、アヤも安心するわけにはいかなかった。今はまだ、同じ土俵に上がったにすぎない。ここからの課題は、いかにしてカイリューを仕留めるかである。それも、1秒でも早く。

 

「ヌオー、濁流!」

 

Z技をなんとか耐えたヌオーは、カイリューの視界を奪う作戦に移った。ところが、カイリューは悠々と攻撃を受け止めながら降り立ち、極太の足で地を揺らした。地震だ。このままヌオーが地上に居座れば、大ダメージを受ける。かと言って、迂闊に飛び上がればカイリューの得意なフィールドに自ら入っていく羽目になる。まさに究極の苦渋の選択。しかし、アヤは迷わず、沼オーを大きく飛び上がらせた。

 

「死地にようこそ。カイリュー、ドラゴンクローよ」

 

チサトがどこか黒い笑みを見せると、カイリューは渾身の一撃をヌオーに叩き込んだ。当然、ヌオーは地上に吸い込まれるように落ちる。が、これこそアヤが狙っていた瞬間だ。

 

「今だ!岩雪崩!」

 

追い討ちをかけようと急降下するカイリューの背中に、次々と岩が直撃する。背後からの不意打ちに、たまらずカイリューは墜落。そして、飛び上がろうとしたところを冷凍パンチで殴られた。

 

「グァァァ……」

 

カイリューは、目を回し、ズドンと鈍い音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなったわね、アヤちゃん。カオルとカノンに勝ったのも頷けるわ」

 

戦いの後、チサトはアヤに言った。

 

「そうでしょ〜。えへへ」

 

アヤは頬をだらしないほど緩ませる。と、チサトは目線を若干逸らした。

 

「でも、やっぱり悔しいわね。ほんの少し前まで、私の方が強かったのに、あっという間に抜かされちゃって……」

 

「えっ……、なんかゴメン……」

 

アヤはアワアワしながらお詫びの言葉を探し出した。と、チサトが何かをかき消すように大きな声を上げて笑い出した。

 

「そんなに慌てちゃって!今のは冗談よ!私は、貴女のような素敵なトレーナーに出会えて心の底から嬉しいわ。と、言うわけで、アヤちゃんの勝利を称えて『知識のトロフィー』を授与するわね」

 

遠目で見れば、チサトの表情は、清々しく、女優にふさわしい晴れやかな表情だ。しかし、アヤが見たチサトの顔からは、僅かに悔しさが漏れ出していた。

 

「次は負けないわよ、アヤちゃん」

 

アヤがトロフィーを受け取ると、歓声に混じり、微かに力強い声が耳に入った。

 

「次も私が勝つよ、チサトちゃん」

 

フィールドが勝利のムードでいっぱいになる中、密かに2人のトレーナーは新たなライバルの登場に闘志を燃やすのであった。




おまけ:千聖のパーティ一覧
千聖の肩書は、シアタープリンセスです。

・手加減パーティ
☆カイリュー
☆ホエルオー
☆ギギギアル

・本気パーティ
☆カイリュー
☆ハッサム
☆ウツロイド


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第五十七話 勇気を出して、えいえいおー!

バトルアドベンチャー。遺跡を模した迷路をゴールであるフィールドを目指して進み、道中で手に入れた道具を駆使して戦う施設だ。ちなみに、チャレンジャーが、迷路を進む様子は全てカメラで実況されており、観客はフィールドにあるモニターでリアルタイムで見ることができる。というわけで、アヤも迷路を進んでいたが、案の定遭難していた。

 

「ここどこ〜!ヒナちゃん助けて〜!」

 

既視感漂う悲鳴をあげながら進む彼女のもとに、さら不運はやってくる。なんと、歩いている最中にうっかり集めてきた道具を落としてしまったのだ。結局、アヤは情けない姿を晒した挙げ句、普通の倍近い近い時間をかけ、大した道具も拾えないままフロンティアブレーンが待つフィールドに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヤがフィールドにたどり着くと、元気が爆発したような声が耳に飛び込んだ。見れば、アヤの反対側に1人の少女がいた。彼女の名前はヒマリ。勇気を司るフロンティアブレーンだ。

 

「ようこそ!アヤさん、よくここまできましたね!その勇敢な姿、モニターでずっとみてましたよ!」

 

ヒマリは満面の笑みで、心の底からアヤを称える。これを見れば、迷宮での苦労は一気に吹き飛ぶこと間違い無し。文字通り元気をもらえるだろう。が、今回の彼女の言葉はまっすぐ届かなかった。

 

「そ、そんなお世辞言わなくてもいいよ……。逆に傷つくよ〜!」

 

アヤはすっかり肩を落としてしまった。

 

「えっ?私、なんかマズいこと言った!?」

 

しばらくの間、ヒマリがアヤを元気付けるのに奔走したのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ヒマリのおかげ?で元気を取り戻したアヤは、戦いを前にして燃え上がっていた。

 

「迷路では、カッコ悪い姿見せちゃったから、バトルでは頑張るぞ〜!」

 

カッコいい舞台を作るために、彼女ははレジギガスを選び、ボールの外に出した。

 

「レジギガス!頑張ろうね!」

 

「……レジガガ」

 

スロースタートの影響か、反応がだいぶ鈍い。しかし、今日ばかりはそこまで心配する必要はなさそうだ。なにしろ、アヤの手元にはディフェンダーやサイコソーダ、すごい傷薬といった便利な道具があるのだから。途中で落としたせいで、普通よりも持ち込んだ道具の量はだいぶ少ないらしいが、これも大した問題ではない。スロースタートされ乗り越えれば反則的な破壊力を見ることができるのだから。要は、道具を駆使して本調子まで持ち堪えられればそれで勝ちだ。

 

 

「なるほど〜、なかなか珍しいポケモン使いますね〜。それだったら、私も全力で立ち向かわないとね!いけ!トドゼルガ!」

 

「トドー!」

 

ボールから飛び出たトドゼルガは吠えた。ヒマリに負けない活きのよさだ。

 

「レジギガス!これを使って!」

 

その咆哮を聞きながら、アヤはレジギガスにディフェンダーを投げる。

 

「ガガガァ!」

 

気のせいか、レジギガスの反応が少し良くなった気がする。と、アヤは思う。ところが、その矢先、ついにトドゼルガが先手を打ってきた。氷の牙である。

 

「レジギガス!雷パンチ!」

 

にわかに、レジギガスの腕に電撃が走る。そして次の瞬間、氷の牙とそれは激突した。

 

「トド……!」

 

いくらスロースタートが効いているうちとはいえ、水タイプを持つトドゼルガにとって、雷パンチは痛い一撃のはず。しかし、トドゼルガは顔を歪めながら必死に食らいついた。

 

「ガガ……!」

 

レジギガスは、腕と一体化したトドゼルガを地面に叩きつけ、振り解く。そして、再度、逆の手で雷パンチをぶちかました。本調子でないレジギガスを攻めに徹しさせるのは、アヤとしては珍しい采配だ。ここまで彼女が積極的に攻撃を指示し続けるのは、道具に身を委ねているからに違いない。

 

「よけて!トドゼルガ!」

 

ヒマリの的確な指示で、2発目の雷パンチは外れた。そして、トドゼルガはこれのチャンスを逃すまいと冷凍ビームを放ってきた。

 

「レレ……!」

 

レジギガスは凍りついた。アヤは慌ててラムの実で治した。が、これは少し困った展開である。相手が冷凍ビームや氷の牙を覚えている以上、また凍らされるリスクがあることに、アヤは気がついたのだ。もう、氷状態を治す手段はない。次に凍ってしまったら、そのまま敗北の道をまっしぐらだ。

 

「どうしたんですかアヤさん!凍るのがそんない怖いですか!?なら、凍る暇もなく、レジギガスを倒してあげます!トドゼルガ!」

 

アヤが攻撃を躊躇したことを好機と見たか、ヒマリは札をきった。トドゼルガは絶対零度を放った。

 

「ギガギガァ……!」

 

間一髪。レジギガスはかわす。なかなか危ない状況だった。しかし、絶対零度のおかげでアヤは踏ん切りがついた。下手に長居して、絶対零度を撃たせる回数を増やすわけにはいかない。

 

「レジギガス!瓦割り!」

 

アヤはあるだけの回復薬を注ぎ込んだ。おかげで、レジの体力は万全。一歩一歩、トドゼルガのところは歩み、フィナーレに近づく。その様はだいぶゆっくりであるが、逆に太古の巨人の強大さを演出していた。

 

「と、トドゼルガ!」

 

ヒマリは、レジギガスに圧倒された。そこに、技を指示する余裕はない。トドゼルガは自分の判断で波乗りを使い、なんとか瓦割りを防ぐ。しかし、ここでレジギガスが本調子を取り戻した。

 

「ギガギガガガガァ!」

 

トドゼルガの身に、鋼を何百倍も重くしたような衝撃がぶつかる。レジギガスのギガインパクトは想像を絶する破壊力で、トドゼルガをぶっ飛ばしたのだ。

 

「トド……」

 

トドゼルガは、ひっくり返ったまま動かなくなってしまった。ヒマリは『こんな強さ反則〜』と音を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レレレレジガガガガガガレレ!」

 

豪快な叫びで勝利を喜ぶレジギガスの傍らで、ヒマリはアヤにトロフィーを持ってきた。

 

「今のレジギガス、とっても勇敢でした!やっぱりアヤさんって勇気のあるトレーナーですね!」

 

「私!?いや、だから……お世辞は……」

 

ヒマリは首を横に振り、アヤの言葉をかき消した。

 

「お世辞なんかじゃないですって。私は、最初に会った時から勇気あるトレーナーさんだと思ってましたよ。だって、どれだけ迷宮で迷っても諦めずにここまで来れたじゃないですか!きっとアヤさんの勇気は諦めない心なんです!」

 

「そ、そうかな〜?えへへ、ありがとうございます!」

 

アヤはとろけ落ちそうなほど顔を緩ませた。ヒマリは、そんな彼女の手に、『勇気のトロフィー』を握らせた。

 

「私も勇気を試すフロンティアブレーンとしてもっと強くならないと!アヤさん、お互いに頑張りましょうね!えいえいおー!」

 

ヒマリの威勢のいい声が響く。しかし、それに続くものは誰もいない。バトルアドベンチャーに、清々しい静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あと1つトロフィーを貰えば、バトルフロンティア制覇!よーし、明日も頑張るぞ〜!」

 

バトルの後、アヤは施設の外に出てヒナを待っていた。バトルの後は、ヒナが出口で待っており、一緒にポケモンセンターに帰るのが恒例なのだ。ところが、なぜか今日は、出口にヒナの姿はなかった。

 

「うーん。ヒナちゃんのことだから、どこかで寄り道してんのかな〜」

 

と、初めのうちは彼女も特に気にせず、勇気のトロフィーを眺めていた。しかし、待てど暮らせどヒナは来ない。結局、この日、ヒナがアヤの前に現れることはなかった。

 




おまけ:ひまりのパーティ一覧
ひまりの肩書きは、アドベンチャークイーンです。

・手加減パーティ
☆トドゼルガ
☆ダダリン
☆ギャロップ

・本気パーティ
☆トドゼルガ
☆ラムパルド
☆マッシブーン


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第五十八話 キラキラとドキドキと

そろそろ話も大詰めです。コメントや高評価、お気に入り登録待ってまーす!


書いでいる途中で思い出しましたが、幻のポケモンってバトルフロンティアで使えなかったけ……。フロンティアブレーンの特権ということで、多めに見てくれると嬉しいです!



ヒマリとのバトルを終えた次の日、アヤは今日のバトルを行うバトルタワーの前で、日菜を待っていた。

 

「どこにいっちゃったんだろう……。私、またヒナちゃんを怒らせちゃったかなぁ……?」

 

とはいえ、彼女を怒らせるようなことをした覚えは全くない。そうとわかった時、アヤの心の霧はますます深くなっていく。このままでは遭難しそう。と、思われた時、アヤの背後から救いの声が差し伸べられた。

 

「こんにちは……、アヤさん……」

 

聞き覚えのある、そっと撫でるような声。リンコである。話を聞くと、彼女はアヤのバトルを久々に生で見てみたくなったらしく、仕事の合間に応援に駆けつけてくれたようだ。

 

「ありがとうございます!」

 

思わぬサプライズのおかげで、にわかにアヤの元気がみなぎる。しかし、数えるまもなくそれは蒸発した。

 

「そういえば……ヒナさんは……?」

 

リンコの言葉がアヤの急所を貫いたのである。

 

「それは……」

 

アヤは一瞬言葉に詰まるも、ポツリポツリとヒナのことを喋り出した。リンコはそれを何も言わずに聞く。そして、一度目線を上に上げて 、再びアヤの方を見た。

 

「なるほど……ヒナさんが昨日からいない……。でも………、こんなこと言うのも失礼かもしれませんが……、そこまで心配する必要は……ないと思いますよ……。ヒナさんなら……何かあっても自力で乗り越えられるはずです……」

 

「でも、心配だよ〜!」

 

ヒナが大ケガしている姿。凶暴なポケモンに追いかけられるシーン。リゲル団に取り囲まれる瞬間。ありとあらゆる惨状が、アヤの目に浮かぶ。しかし、リンコが見ているものは少し違うようだ。

 

「気持ちはわかりますけど……今はやらなければいけないことが……あるはずです……。アヤさんは…バトルのことに集中してください……。ヒナさんは……私が探しますから……」

 

こう言い残すと、リンコはサザンドラに乗って去っていった。確かに、彼女が言う気音も一理ある。アヤは、彼女のことを信じ、バトルタワーに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルタワーのフィールドは、すでに出来上がっていた。輝きを司るフロンティアブレーンとアヤとのバトルを楽しみにする観客の熱気で爆発しそうである。アヤは湧き立つ雰囲気の中で、今か今かとフロンティアブレーンの登場を待っていた。

 

「こーんにちは〜!」

 

ついに、会場にいる人全員分に匹敵する元気を持ち合わせた少女が現れた。同時に、アヤは叫んだ。

 

「あれ、もしかして……!」

 

ブレーンとして現れたのは、見覚えがある顔である。間違いない。ランとマヤと戦った日の夕方、颯爽と現れ、風のように消えた少女、カスミである。

 

「また会えましたね!アヤさんとバトルできるのか楽しみすぎて、昨日の夜は眠れませんでしたよ〜。だから、早く戦いましょう!」

 

「えっ、もう!?」

 

と、アヤが驚きの声を上げた時にはすでに、カスミはボールを構えていた。

 

「もう胸の鼓動が止まらないんです!興奮が抑えられないんです!アヤさん!私と一緒にキラキラドキドキしましょう!」

 

カスミは、戸惑うアヤを置いてきぼりにしながら先鋒のラティオスを繰り出す。

 

「いけっ!ムクホーク!」

 

間も無く、アヤも対する1番手を繰り出した。

 

「ホーーーク!」

 

開幕の一叫び。相変わらず、頼もしい存在だ。しかし、ラティオスは、意に介することなく、悠々と空で覚醒の時を待っている。

 

「絆輝け!メガシンカ!」

 

カスミの腕のメガリングと、ラティオスが共鳴する。メガシンカ特有の桃色の閃光が終わった時、メガラティオスが目の前に現た。

 

「いくよ!ムクホーク!」

 

「ホークッ!」

 

アヤとムクホークは、迷わず底知れぬ強敵との戦いに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムクホークとラティオスの互角の戦いは永遠に続くかのように思えた。しかし、ついに熾烈な空中戦にも終わりの時が来たようだ。

 

「ホーーク!」

 

勝ったのはムクホークだ。ムクホークは力なく墜ちるラティオスをしり目に、声をあげ、ボロボロの翼を羽ばたかせ、己の勝利を主張する。が、これが命取りになった。

 

「ラティオス!冷凍ビーム!」

 

華麗な勝利に、水を差すかのようなカスミの声。すると、墜落寸前のラティオスは最後の力を振り絞りだした。

 

「ホークッ……!?」

 

無慈悲にもムクホークを貫く氷の光線。ムクホークはラティオスに続き、落下した。

 

「そんな……!」

 

アヤの予想を数段上回る展開。完全に油断しきったところを狙う、巧妙な奇襲であった。

 

「どうですか、アヤさん!そう簡単に勝利は渡しませんからね!」

 

このカスミの言葉は、実にシンプルであるが、実に恐ろしくアヤの耳に届く。彼女は、その恐怖を振り払うかのように勢いよくハガネールを繰り出す。と、同時にカスミの二番手も姿を現した。千年に七日しか目を覚まさないと伝わる幻の存在、ジラーチだ。

 

「ラ~チ」

 

星のように煌めく瞳に、鈴を奏でるような声。端的に言えば可愛い。事実、観客からも様々なところから『かわいい』という声がする。しかし、アヤの目に映るジラーチはそうではない。面の下で研ぎ澄まされた鋭い牙が、確かに彼女の目には映っていた。一度、1本とられた以上、彼女に容赦する選択肢はない。貪欲に勝利を目指して攻め続けるのみだ。

 

「ハガネール、炎の牙!」

 

昔読んだ本の記憶を頼りに、采配を振るう。

 

「ラァァチ!」

 

とりあえず、一撃目はヒット。勝利の光明が差したか。いや、それはアヤの錯覚であった。ハガネールが食いついた瞬間、頭に波動弾が直撃。ジラーチは、このためにわざと炎の牙の餌食になったのである。

 

「よーし!ジラーチ、ジャジャーンっていくよ!草結び!」

 

この一手を機に、カスミがペースを握りしめた。シャドーボールに波動弾。雨あられの猛攻の弾幕で、ハガネールはロクにジラーチに近づけない。巨体が仇になって回避もままならない。ハガネールの体力も目に見えて減っている。アヤは、強硬手段に打って出た。

 

「いくよ、ハガネール!私たちのゼンリョク!ライジンググランドオーバー!」

 

ハガネールの、全てがジラーチにぶつかる。勝機をつかむなら今。ハガネールは、致命傷を受けたジラーチに、炎の牙で襲い掛かった。しかし、ジラーチは妙なほどおとなしくその運命を受け止めた。強いて言えば、両掌を合わせ、自身の体をにわかに光らせただけだ。

 

「よし!これで一勝!」

 

アヤはようやく柔らかい表情を見せる。しかし、それは一瞬で終わった。ジラーチがカスミのボールに戻るのを見届けると、ハガネールも糸がプツンと切れたように倒れてしまったのだ。これで戦況は変わらず互角のまま。瞬きも許さぬ緊迫した勝負は、まだ続くようだ。

 

「よし……。最後は……」

 

アヤは、カブトプスが入ったボールを握りしめる。すると、ふとカスミの笑顔が目に入った。

 

「アヤさん!私達、今、とってもキラキラドキドキていますね!」

 

「えっ?」

 

思いもよらぬ謎の言葉をアヤは聞き返す。カスミは答えの代わりなのか、デオキシスを繰り出した。

 

「デオォォ」

 

アヤに抱き着くカブトプスの向こうに見えるのは、オレンジと緑を基調とした細身且つ長身のシルエット。見れば見るほど吸い込まれるほど不思議なデザイン。以前、マリナ博士から宇宙から来たと聞いたことがあるが、それも納得だ。

 

「お願いね、カブトプス!」

 

アヤの想い、カブトプスの耳元から伝わる。それを燃料に、カブトプスの闘志はグツグツと湧きあがった。

 

「トーップス!」

 

主が笑うか泣くか。それは全て自分次第。主の想いを裏切るわけにはいかない。気が付くとカブトプスはデオキシスに飛び掛かっていた。

 

「デオォォ!」

 

しかし、デオキシスは勢いだけで勝てる相手ではなかった。デオキシスは自分の体を丸みを帯びたディフェンスフォルムに変化させると、カブトプスの攻撃を完全に受け流したのだ。

 

「カブトプス、熱湯!」

 

すかさずアヤは次の手を打つ。が、これも大した効果はない。と、デオキシスの姿がシャープで刺々しい姿に変わった。アタックフォルムだ。

 

「オオォ!」

 

デオキシスは触手のような四本の腕で電気の塊を構成し、カブトプスに放った。まるで、本当の攻撃を教えるかのような一撃だ。

 

「トープス!」

 

アヤが叫ぶのを待たず、カブトプスは電磁砲をかわした。そして、すぐさま反撃に移ろうとしたのだが……。いない。デオキシスの姿が見えないのだ。

 

「オォォ!」

 

デオキシスは困惑するアヤとカブトプスをしり目に、カブトプスの背後に現れた。デオキシスは流線型のシルエットを持つスピードフォルムに変化していた。瞬間移動と見間違うほどのスピードでカブトプスの背後をとったのが、姿を消したカラクリである。

 

「避け——」

 

「電磁砲!」

 

アヤの咄嗟の指示をカスミがかき消す。同時に、デオキシスがアタックフォルムに変化。直後、電撃はバチバチと火花を散らしながら、カブトプスの体を駆け巡った。

 

「大丈夫!?カブトプス!」

 

「カブゥ……!」

 

右手の鎌をあげ、アヤの呼びかけに応じる元気はまだあるようだが、最初の勢いはなく、動きもどこかぎこちない。先ほどの電流が体に残り、痺れているようだ。

 

「まだだよね……。まだ勝負はついてないよね!私は諦めないよ!」

 

断崖絶壁の窮地に追い込まれながらも、アヤは己を奮い立たせる。しかし、心の半分は、中々勝ち筋を掴めずかなり焦っていた。デオキシスの最大の特徴は、最初にボールから出たときに見せたノーマルフォルム、攻撃特化のアタックフォルム、鉄壁を誇るディフェンスフォルム、目にもとまらぬスピードフォルムを臨機応変に使い分ける点に尽きる。アヤは、そこに弱点が潜んでいるとにらんだが、未知なる相手である故か全く見当がつかない。

 

「そろそろかなぁ?デオキシス!サイコブースト!」

 

デオキシスの四本の腕に、アヤが見たことない力が宿る。雰囲気的に、勝負をつけに来たようだ。

 

「かわして!」

 

力が解き放たられる瞬間、アヤは叫ぶもカブトプスは動かない。いや、体が痺れて動けないのだ。

 

「オオォォォォォォォ!」

 

デオキシスの中に眠るあらゆる力がカブトプスを襲う。カブトプスは何とか耐えたが、間髪入れず、天より殺意に満ちた無数の光がカブトプスに降り注いだ。状況的にどう考えてもデオキシスの攻撃ではない。と、その時、アヤはジラーチが散り際に見せた不思議な行動を思い出した。

 

「もしかして……、この攻撃ってジラーチの……」

 

アヤの勘は正しかった。ジラーチはひん死の直前に、『破滅の願い』を未来に送ったのだ。そして、今、カブトプスの身は破滅寸前だ。もはや、かすり傷の1つすら許されない。

 

「アヤさん!この勝負はもらいました!」

 

カスミがそう言うと、いつも間にノーマルフォルムに戻っていたデオキシスは再びフォルムに変化しだす。が、皮肉にもこれが命取りになった。

 

(あれ……?姿が変わるの瞬間って、他のことが出来ないのかな?)

 

空中で制止しながらフォルムチェンジするデオキシスを見た瞬間、アヤの中に閃きが爆発。もう、迷っている暇はない。反射的にアヤはアクアジェットを指示した。

 

「カブトッ!」

 

最後の力を振り絞り、カブトプスはデオキシスに突っ込む。フォルムちゃん時の弱点を突かれたデオキシスはアクアジェットを避けられなかった。最後の最後の大どんでん返し。アヤに勝利が転がり込んだ瞬間だ。

 

「カブトプス!シザークロス!」

 

カブトプスは、細身なそのボディを自慢の両鎌で切り裂く。これは、極限まで耐久力を削ったアタックフォルムで、耐えられるような一撃ではない。

 

「オォォ……」

 

デオキシスは呻きをあげながら、ついに倒れた。しかし、この時のカスミの表情は負けたのにもかかわらず、どこか嬉しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わると、観客の大歓声がアヤとカブトプスを包んだ。

 

「お疲れ、カブトプス」

 

アヤはフィールドの真ん中で膝をつくカブトプスを抱きしめ『お疲れ』と優しくいながら、ボールに戻した。カスミは真横で目を輝かせていた。

 

「うーん!キラキラドキドキしている!」

 

また、謎のワードだ。もはや、アヤは聞かずにはいられない。

 

「キラキラドキドキって、なんですか……?」

 

「えっ……?それは……キラキラしてて……ドキドキで……」

 

辿々しい言葉の末、ついにカスミが凍りついた。どうもアヤは、触れてはいけないところに触れてしまったようだ。

 

「えっと……その……」

 

アヤは慌てて話題を変えようとしたが、何も出てこない。妙な静けさが2人の間に蔓延した。次にカスミが喋るまでは、数十妙を要した。

 

「……なんか、あまりいい言葉が浮かばないんですけど、アヤさんって素敵ですよね。なんか、まっすぐな感じで。それにとってもポケモンと仲がいいし!うん!とっても輝いています!」

 

実にシンプルな言葉だ。それなのに、偉大な偉人の言葉のような錯覚を起こしてしまう。

 

「ありがとう……ございます!」

 

単純の中の深さに圧倒され、アヤもありきたりな言葉しか出てこなかった。しかし、カスミには彼女の想いがしっかりと伝わったようだ。

 

「アヤさん、ぜひこれを受け取ってください!私に勝った証、『輝きのトロフィー』です!」

 

8つ目のトロフィーが、カスミからアヤの手に渡る。彼女がバトルフロンティアを制した瞬間だ。辺りからは大歓声が湧き上がった。皆、アヤの偉業を祝っているのだ。が、当の本人はは意外にも嬉しくなかった。いつもの調子なら、わんわん大粒の涙を流してもおかしくはないのだが、今日は一滴の涙すら湧いてこない

 

「ヒナちゃん……」

 

大歓声の中に、1番見ていて欲しい人の、あの無邪気な声はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナちゃん!」

 

バトルが終わってすぐ、アヤはバトルタワーの入り口に駆けていった。もしかしたらヒナがサプライズで待ち受けているかも知れない。もはや藁にもすがる思いだ。しかし、その願いは儚く、脆く、散った。ヒナは、やっぱりいなかった。

 

「結局、ヒナちゃんどこにいるんだろう……」

 

勝利の余韻で、確かに心の穴少し埋まった。が、中途半端に埋まったおかげで、変な気持ちがモヤモヤ、グルグル、彼女の中で渦巻いている。その時だ、図鑑の通知音が耳を貫いた。最初は、ハッとヒナとの再会を期待したアヤ。ところが、どこか様子がおかしい。彼女の図鑑だけではなく、周りにいる人の、あらゆる図鑑がけたたましく鳴り響き、日常を壊しているのだ

 

「なにが、起きてるの……」

 

恐る恐るアヤは図鑑を確認した。すると、パッと1人の少女が映り込んだ。凍てつく眼、ヒナに瓜二つなその風貌。間違いない。リゲル団のリーダーのサヨだ。

 

『シンシューの皆さん、こんにちは。私はリゲル団のリーダー、サヨです。今日は朗報を伝える為に、図鑑をお借りしました。……えぇ、突然図鑑をジャックされて、怒る人や困る人もいるでしょう。その気持ち、わかります。でも、もうそんな負の感情に悩まされるのはこれで終わりです。数日以内に、このシンシューから革命が起こります。世界は変わるのです。世界の誰しもが平等に、そして、笑顔になるのです!皆さんは、歴史的な瞬間に立ち会うことができるのです!それでは、その瞬間まで、どうか楽しみにしていてくださいね』

 

画面越しのサヨは、怖いほど淡々としていた。長らく忘れていた、リゲル団の脅威が帰ってきたのだ。




おまけ:香澄のパーティ一覧
香澄の肩書は、お馴染みタワータイクーンです。

・手加減パーティ
☆バンギラス
☆ドリュウズ
☆スターミー

・本気パーティ
☆ラティオス
☆ジラーチ
☆デオキシス


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第五十九話 サヨとヒナ

いよいよクライマックスです!
応援よろしくお願いします!


図鑑越しに伝えられたサヨの言葉は、事実上の宣戦布告だろう。あまりにも急すぎて、アヤはその場所に固まることしかできなかった。

 

「ザァンド!」

 

暫くして、上空でサザンドラの鳴き声が響いた。リンコがやってきたようだ。

 

「リンコさん!」

 

リンコが地上に降り立つや否や、アヤは彼女のところに駆け寄る。リンコは、この一連の流れだけで、この時のアヤのすべてを理解した。

 

「さっき……、リゲル団からのメッセージを私も見ました……。しばらく大人しくしていたと思ったら……、またふざけたことを……。もしかしたら、ヒナさんがいなくなったことにも……関係しているかもしれません」

 

「リンコさん!早くリゲル団の計画を止めに行こう!」

 

間髪入れずに、アヤはリンコの言葉に続いた。リゲル団の恐るべき野望は、彼女自身も肌で味わっている。そうである以上、見過ごすわけにはいかなかった。ヒナの失踪が関係しているかもしれないのであればなおさらだ。

 

「実は……、リュウコの石塔での戦いの後から……、改心したリゲル団員の一部を味方に引き入れてスパイとして潜入させていたんですけど……、さっき彼らから連絡が入りました。なにやら……、カヤユキ山脈の頂上でサヨや一部の幹部たちが不審な行動をしているとか……」

 

リンコは、図鑑に保存された様々な情報をアヤに見せてくれた。そこから推測すれば、リゲル団はまた、良からぬ兵器を作っているようだ。もはや、一刻の猶予もない。急いで止めに行かなければならない。しかし、ここでアヤにとある疑問が浮かんだ。

 

「あれ?でも、カヤユキ山脈の頂上ってどこだろう?前に行った時にはそんな場所なかったと思うけど……」

 

すると、リンコはアヤの手に一枚の黄色いカードと頂上までの道が記された地図を握らせてくれた。

 

「カヤユキ山脈の山頂や祖までの道は特に危険なので……普段は立ち入り禁止になっていて……チャンピオンの許可がないと入れない決まりがあります……。その黄色いカードは許可証です……。アヤさん、二手に分かれてリゲル団の野望を食い止めましょう……。私はユキゲタウンの方から……、アヤさんはカヤヤタウンの方から登って……道中にいるリゲル団をせん滅しましょう……。」

 

と、リンコがいい終えたときだ。遠くの方から4体のポケモンが走ってきた。ラグラージ、ポリゴンZ、クマシュン、テッカニンという見覚えがある面々。間違いなく、ヒナのポケモンだ。

 

「ラグゥ」

 

ラグラージはアヤの前に立つと、一枚の手のひらサイズの紙を彼女に渡した。急いで開けてみれば『心配しなくていいからね ヒナより』と書き殴られている。その字の向こうには、緊急事態に陥ったヒナの姿がありありと映っていた。

 

「心配するなって……。そう言われたら逆に心配だよ~!」

 

もはや居ても立っても居られない。アヤはリンコと別れ、ラグラージたちと一緒にカヤヤタウンに急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンコの予想とは裏腹に、カヤユキ山脈の道中にはリゲル団の幹部どころか、人っ子一人いなかった。実に好都合だ。ポケモンたちの力を借りながら、アヤは全速力で山を駆け上る。そして、予定よりもだいぶ早く、山頂への道の入り口の直前の洞窟を抜けた。

 

「あともう少し!」

 

洞窟の外は、雪がまばらに降る程度で意外と安定した天気だ。猛吹雪を覚悟していただけあり、すこし拍子抜けだ。しかし、そんな気でいられたのも一瞬だった。目を凝らせば遠くから、ユラユラと黒い影がこっちに歩いてくる。サヨだ。

 

「貴女は……、どうして私達ばかりの邪魔をするの!?」

 

サヨの吐き捨てるような台詞を聞いたとき、アヤは自分の五感を疑った。以前、会った時の彼女は凛々しく、美しかったのだが、それが見る影もないのだ。サヨの目の下にはクマできている上、息が荒い。全体的に、疲れ切った印象を受ける。もっと言えば、何かに追い詰められているような感じだ。

 

「サヨさん……?」

 

思わず、アヤは敵ながら彼女に同情してしまった。が、サヨはそれを叫びで一蹴した。

 

「黙りなさい……!私には……もう、後がないの!これ以上失敗すれば……『あの人』に……!だから私は、貴女をここで排除します!」

 

彼女がサッとボールを構えると、反射的にアヤもボールを握りしめる。いよいよ、運命の決戦の時が来たのだ。しかし、開幕の寸前、洞窟の方から人の声が聞こえた。アヤにとっては待望の、サヨにとっては憎たらしい声である。

 

「やっと着いた~!アヤちゃん、よくここまで一人で来れたね!まぁ、私のポケモンのおかげか!」

 

ヒナだ。ここにきてヒナがようやく駆け付けたのである。

 

「ヒナちゃん!本当にヒナちゃんなの!?」

 

「そうだよ、アヤちゃん。正真正銘本物のヒナちゃんだよ!」

 

白い歯を見せ、ごめんごめんと伝えるヒナ。アヤの涙腺はヒナに抱き着くと、大決壊を起こした。

 

「心配したんだよ~!なんで勝手にどこかに行っちゃうの~!」

 

「いや~、アヤちゃんとヒマリちゃんのバトルを見ようとしたときに、たまたまリゲル団員を見つけたから追いかけたんだけど、その時におねーちゃんがまた悪いことしているって知ってさ。いてもたってもいられなくて、色々なところに行って自分なりに調査していたんだよね~」

 

「それじゃあ何回も連絡したのに、なんで1回も出てくれないの」

 

「それが、途中でうっかり図鑑を落として壊しちゃったんだよね」

 

久々のヒナのるんっ♪て感じの表情を見たアヤの力がドッと抜け落ちる。しかし、すぐに正気に戻った。今は、リラックスしている暇ではないのだ。

 

「ヒナちゃん!少し下がってて!私、今からサヨさんと戦わないといけないの!」

 

アヤは立ち上るとボールを構える。が、ヒナは腕でそれを遮った。

 

「ごめん、アヤちゃん。この勝負、私に代わってくれないかな?」

 

いつも通り、ヒナの動きは読めない。しかし、今日の彼女は何かが違った。その証拠に、ヒナはアヤに見せたことのない真面目な雰囲気を、全身にまとっているのだ。

 

「わかった……」

 

それに圧倒され、アヤは彼女と入れ違いに一歩下がる。サヨは奥歯をギリギリときしませる。ヒナは体中にこもっていた空気を吐息として吐き出した。

 

「おねーちゃん。私、知っているから。口では『リゲル団の野望だー』とか、『シンシューの人々のためにー』とか言っているけど、本当は私に負けたくなかっただけでしょ。今までの悪事は、私に負けないための回りくどい作業でしょ?」

 

「違うわ!私は……!」

 

「あー、もうそういうのいいから。『野望がー』みたいな台詞はもう飽きちゃったから。そんな下手な建前を並べている暇あったら、本命の私を狙いに来なよ」

 

口調こそ普段と変わらないが、そこにはヒナの中に眠る様々な感情が渦巻いているはずだ。それは、怒りか、悲しみか、呆れか、第三者のアヤには全く持って読めない。半面、対するサヨの感情は分かりやすい。全身の細かい挙動から何まで、全てに怒りや憎しみが込められているのだから。

 

「黙りなさい……!天才だからって調子に乗って……!やはり、貴女だけは、貴女だけは……!私がこの手で、息の根を止めてやる!」

 

サヨは勢いに任せ、ルナトーンを繰り出した。すると、ヒナもラグラージを繰り——ださず、スッとボールを取り出した。

 

「ヒナちゃん!?そのボールは……?」

 

アヤの声が裏返る。ヒナは目じりを湿らせ、遠い空を見つめた。

 

「これはね、前におねーちゃんと旅していた時のポケモンだよ。ほら、前にアヤちゃんと話したじゃん。このポケモンたちには、おねーちゃんとの思い出がたくさん詰まっているんだ。だから、今まで悲しい思い出を思い出さないように、このポケモンたちを封印してきた。でも、私はもう逃げない。過去と向き合って、おねーちゃんとも向き合う!」

 

その瞳は、研がれた刃のよう。それを見たラグラージは、真っ先に首を縦に振る。アヤとテッカニン、クマシュンにポリゴンZもそれに続いた。ヒナは、潤んだ笑みで見守ると、全力でボールを投げた。出てきた先鋒は、ソルロックだ。

 

「ソルー」

 

「ルナー」

 

太陽と月という、対となる印象を持つ2匹のポケモン。因縁の双子対決の幕開けに相応しい。

 

「一瞬も忘れたことないわ……。負け続けた、屈辱的なあの日々を。もう、私は負けない!ルナトーン、サイコキネシス!」

 

サヨの中で溜まっていた恨みつらみが、形を変えてソルロックを捕らえようとする。ソルロックは思念の頭突きでそれを相殺。同時に、ルナトーンの真上に岩を降り注がせた。

 

「ルナトーン、かわしなさい」

 

しかし、冷静に岩のコースを読み取るくらい、サヨにとって朝飯前のことだ。さらに、彼女は相手の動きを利用することにも長けている。サイコキネシスで降り注ぐ岩を止め、ソルロックに投げ飛ばし、即席の弾幕を作ると、そのどさくさに紛れて催眠術を放った。巧みな一手だ。アヤが相手なら確実に引っかかっていた。だが、今回は相手が悪かった。

 

「ソルロック!日本晴れ!」

 

サヨのこの手の作戦は強力な代わりに少しラグがある。それを熟知していたヒナは、この隙に次の攻撃の足がかりを作ったのだ。

 

「どこまでも、鬱陶しい女ね!」

 

煌々と輝く太陽が、サヨの顔を憎悪に染める。直後に放たれた、ソルロックのシャドーボールは、それを形にしたものと言えるものである。そのシャドーボールは、ソルロックのソーラービームのすれ違う。両者は互いに攻撃を直に浴びた。

 

「ソル……」

 

「ルナ……」

 

ソルロックとルナトーンは同時にコテっと落ちた。まだまだ勝負はわからない。サヨは、無言の苛立ちを表に出しながらルナトーンを引っ込めると、マンムーを繰り出す。

 

「おつかれ、ソルロック」

 

ヒナはソルロックを引っ込めると、ギャラドスを出した。第二回戦の始まりだ。



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第六十一話 雪解けの先の笑顔

もうすぐ完結です。
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息をつく間もない激戦の末、ギャラドスとマンムーは同時に倒れた。また、引き分けだ。この展開、一見すれば互角にも見える。しかし、すでに高い実力を誇るアヤから見ればヒナの劣勢だった。昔の相棒と長くバトルをしてないせいか、微妙に動きのテンポが悪いのだ。サヨもそれを見抜いたのか、3体目のポケモンであるヘルガーを出したときは、いつもの冷静さを取り戻していた。

 

「使い慣れているであろうラグラージとかを使わないで、わざわざブランクがあるポケモンを使われるなんて、私も随分と侮られたものね」

 

ヒナはまっすぐサヨの目を見て言い放った。

 

「侮ってなんかいないよ。私は本気だよ。本気で前に進みたいからこのポケモンたちを使うの」

 

それを証明する様に、彼女はアローラの姿のサンドパンを繰り出す。サヨは拳を握りしめ、震わした。

 

「前に進む!?これ以上私に、貴女の背中を見ろというの!?ふざけないで!挫折を味あわせてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから、サヨの快進撃が始まった。サンドパンを皮切りに、ユキメノコにガオガエンと、ヒナのポケモンは次々とヘルガーの手によって倒れていく。その結果、彼女の手持ちで戦えるポケモンは1体だけとなってしまった。

 

「いい気味ね。天才が、折れるなんて。負ける姿をこの目で見られるなんて!」

 

ヒナを全力で見下すようにサヨは目線を動かす。しかし、ヒナは顔色ひとつ変えない。

 

「悪いけど、私は負けないと思うよ。今のおねーちゃんじゃ、私に勝てないと思うな」

 

サヨは、鼻で笑った。

 

「この状況で、よくそのセリフが言えるわね。貴女の最後の1体を、私は知っているのよ。ヘルガーに勝てる見込みはないわ」

 

この言葉は本当だ。元々ヒナと一緒に旅していた上、彼女がその時の手持ちを使っているのだから。

 

「いけ!ユキノオー!」

 

彼女は何も言い返さず、最後の砦を繰り出す。その途端、ヘルガーは灼熱の炎をユキノオーに吹きつけた。サヨは勝ちを確信した。が、同時に地面が激しく揺れ、ヘルガーを襲った。信じられないことに、それはユキノオーが放った地震だ。

 

「どうして……!」

 

サヨは気絶したヘルガーを前にうろたえる。しかし、そのトリックに気がついた途端、憎しみを舌打ちで表現した。

 

「まさか、ユキノオーにオッカの実を持たせていたなんて……」

 

対するヒナは、冷静とも嘲笑うともとれるリアクションだ。

 

「あんなに単純な攻撃をするなんて……。おねーちゃん、どうしたの?昔はもっとるんっ♪てくるバトルだったのに……」

 

もちろん、サヨはこれを『嘲笑い』と受け取った。

 

「貴女はどこまでも私を馬鹿にして!手負いのヘルガーを倒したぐらいで調子に乗らないで!」

 

この時、サヨを憎しみと怒りが染め上げた。これは、ポケモントレーナーとしてのプライドが消え失せたことを意味している。大切なモノを失った以上、もはや彼女の進む道は決まったも同然だ。しかし、サヨはそれに気がつかず——いや、その現実を見ようともせずに、ヘルガーを引っ込め、感情のままにアローラの姿のキュウコンを出した。

 

「キュウゥゥ!」

 

奏でるような鳴き声がすると、聖なる光がその身から発せられる。しかし、ユキノオーの吹雪により、それはかき消された。

 

「ノオォォォオ!」

 

そして、そのまま流れるような鮮やかなユキノオーの連続攻撃がキュウコンに炸裂。キュウコンはあっけなく倒れた。

 

「戻りなさい!キュウコン!」

 

徐々に追い詰められだすサヨ。過去の苦い記憶が蘇る。あと少し、あと少しでこの記憶を塗り替えられる。それなのに、あと一歩が遠い。届かない。焦り、憎しみ、怒り、そして苦しさが入り乱れるサヨは、ミロカロスに己の想いを託した。しかし、現実は無情だった。

 

「ユキノオー!ウッドハンマー!」

 

戦いの末、ヒナの声と共に振り下ろされる一撃。たいした活躍もできないまま、ミロカロスも倒れたのだ。

 

「戻りなさい!」

 

荒々しくミロカロスをボールに戻すと、サヨはヒナとユキノオーを見た。視界の先では、噛み殺してやりたいほど憎い相手がピンピンしている。それに対して自分はどうだ。ポケモンも自分も体も心も立場も、全てが追い込まれているではないか。

 

「ウゥ……!」

 

感情が漏れ出す彼女は、獰猛な唸りをあげて一歩前に踏み出していた。しかし、ヒナは冷酷だ。

 

「おねーちゃん。もうこんなバトルやめようよ。見ればわかるよ。やっぱり、今のおねーちゃんじゃ私に勝てないよ」

 

「なっ……!」

 

「私だけじゃないよ。今のおねーちゃんは、アヤちゃんにもリンコちゃんにも、その他のトレーナーも、誰にも勝てないよ。だって、全然るんっ♪てこないもん」

 

呆れたような、小馬鹿にするような。ヒナの真顔に含まれる様々な要素の全てがサヨの逆鱗に触れた。

 

「どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの!私はリゲル団のリーダーサヨ!ここで貴女に負けるわけにはいかないの!」

 

血管の全てがはち切れそうな勢いだ。サヨは、そのパワーの全てを込め、オニゴーリを繰り出した。

 

「やはり、貴女だけは消さなければいけない。ヒナはこの私が!この手で!この世から消してやる!」

 

彼女は大声で叫ぶと、キーストーンが埋め込まれたヘアピンを掲げる。しかし、不思議なことにオニゴーリはメガシンカしなかった。

 

「どうして……?どうしてメガシンカしないの?」

 

サヨは、何度も、何度もヘアピンを掲げた。だが、オニゴーリはそれでもメガシンカしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもメガシンカはポケモンとトレーナーとの強い絆が必要不可欠だ。結論を言えば、今のサヨにはそれがない。バトルの中で爆発したヒナへの歪んだ感情に絆が完全に蝕まれ、朽ち果てていたのだ。もはや彼女はポケモントレーナーと言えるかどうかすら怪しい。オニゴーリとサヨは奴隷の関係とも表現できる。つまり、天地がひっくり返ってもメガシンカなどできないのだ。

 

「ねぇ!しなさいよ!メガシンカしなさいよ!」

 

サヨは喚いた。金切り声のような、悲鳴のような、怒号のような、狂ったような声が辺りに鳴り響く。オニゴーリはその中で、ユキノオーの攻撃を受け、戦闘不能に陥った。すなわち、サヨの敗北を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうして……?どうして私は勝てないの!?」

 

サヨはヘアピンを地面に叩きつける。ヒナは、憔悴しきった姉を冷めた目で見ていた。

 

「おねーちゃん、本当にどうして勝てなかったかわからないの?」

 

「えっ……?」

 

「そうか、やっぱりわかってないんだ。それなら、教えてあげるよ。それはね、おねーちゃんが自分を見失っていたからだよ」

 

「……」

 

意外な宣告にサヨは言い返す言葉が見つからなかった。ヒナは、改めてサヨの目を見つめ直した。

 

「私が知っているおねーちゃんは、どんな時も真っ直ぐで、一生懸命で、優しくて、るるるんっ♪てくる人。だから私は、おねーちゃんが大好きだったんだよ。でも、今私の前にいる人は違う。全然るるるんっ♪てしないもん。もう、声と姿が同じだけの別人だよね。おねーちゃんの体や心も、急に『違う人』に自分を乗っ取られて戸惑っているんだよ。だから、本当の力を出せないんだよ」

 

「そんなことはない!私は、私のままよ!私が思うがままに……!」

 

『違うよ』。と、ヒナはサヨの言葉を打ち切った。

 

「私は、そうは思はないな。おねーちゃんなら——おねーちゃんに似た誰かさんでも、薄々気がついているでしょ?これが本当にやりたいことじゃないって。こんなこと、間違っているって」

 

「違う……!私は……私は……リゲル団として……世界を平等に……」

 

それでも、まだサヨはリゲル団の野望にすがりつく。ここで、アヤはゆっくり口を開いた。

 

「私も、ヒナちゃんが正しい気がするな。それから、多分なんだけどサヨさん、心のどこかではヒナちゃんのこと嫌いになりきれていないんじゃない?」

 

「そんなまさか!あんな天才女……!リゲル団の敵!シンシューの邪魔者!世界の悪なのよ!」

 

「そこまで言うなら、どうして私たちがつけ入る隙を与えてくれたのかな?例えばリュウコの石塔の事件の時とか。あの時私たちがアジトに行った時、サヨさんは兵器の場所を教えてくれたよね?それに、今回もわざわざ作戦の告知をしていたし。本気でリゲル団の野望を叶えたいなら、兵器の場所を教えたり、作戦の告知なんかしなければよかったのに.そうすれば、私もヒナちゃんもリゲル団の邪魔ができなかったのに……」

 

「それは……」

 

サヨの口が言葉を探す。ここでアヤは、とどめの一言を放った。

 

「サヨさん、本当はヒナちゃんに自分を止めて欲しかったんじゃないかな?もう、自分だけじゃ止まれなかったから。だから、わざと作戦に穴を作っていたんじゃないの?」

 

ついに、サヨは俯き、その動きが止めた。やがて、彼女は小刻みに背中を震わした。

 

「困ったわね……。言い返したくて、反論したくてたまらないのに、言葉が全然見つからないわ……。悔しいけど、私の負けね」

 

サヨは重荷に押しつぶされるように、その場に崩れ落ちる。そして、疲れ切った目でヒナの姿を瞳の中に入れた。

 

「ヒナ……いままで迷惑をかけたわね……。これはせめてもの償いよ。私を好きにしなさい……」

 

「好きにしていいの?本当にいいの?」

 

ヒナがそう言うと、サヨは無言でうなずく。殴られようとも、蹴られようとも、崖の下に突き落とされても、彼女はそれを受け入れるつもりだ。それで妹の気分が晴れるなら、自分のことなんてもはやどうでもいい。覚悟はできていた。しかし、ヒナがサヨにしてきたことは、暖かな手を伸ばすことだった。

 

「たったらさ……、また私のおねーちゃんになってよ」

 

信じられない言葉だ。自分の言動を振り返れば、こんなことあるわけない。

 

「ヒナ……、私があなたに何をしてきたかわかっているの!?どれだけ酷いことをして、どれだけ傷つけてきたか、知っているでしょ!?」

 

ヒナはゆっくりと頷いた。その顔は信じられないほど穏やかだ。

 

「知ってるよ。でも……、私のおねーちゃんは、おねーちゃんだけもん」

 

この時、サヨの心の重石が消え去った。別人格が、何粒もの涙へと姿を変え流れ出たのである。

 

「ヒナ……。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

サヨは湿った手を伸ばし、密かに恋しがっていた温もりをつかもうとする。だが、その時である。サヨはヒナの背後の延長線上に、おぼろげな人影を見た。

 

「ヒナ!伏せて!」

 

反射的にヒナがしゃがむと、姉妹のすぐ上を冷凍ビームが貫いた。

 

「あら、サヨ!探したわ!」

 

底抜けに無邪気な声がする方を向くと、ココロがミュウツーを従えて笑っていた。

 

「ココロちゃん!どうしてここに……」

 

その時、アヤは彼女から妙な違和感を覚えた。そして、それは細められた目が見開いた時に、確かなものとなった。ココロの瞳からは、底知れぬ狂気が発せられていたのだ。

 

「サヨには感謝しなくちゃいけないわね。こんなに素敵な姉妹の仲を見せてくれたのだから。これはそのお礼よ!」

 

ココロがスッと右手を上げるとミュウツーは、姉妹に金縛りをかけた。

 

「ココロちゃん!何をするの!もうサヨさんは改心したから大丈夫だよ!」

 

「そうね。だから、こうしたんじゃない。裏切り者に、笑顔になる資格はないわ」

 

ココロの発言が、アヤの言葉を奪う。なんとか言葉をつづろうと試みるも、『あ……』や『う……』のような、単語とは程遠い呻きしか出ない。ココロは、その姿を見て笑っていた。

 

「あら、そんなに驚くことかしら?サヨから聞いてなかったの?私はサヨのパートナーなのよ。そう、私はもう1人の、リゲル団のリーダーなのよ!」

 

恐怖。その感情が、一瞬でアヤを埋め尽くす。笑顔の底に潜んでいた悪魔が、姿を現したのだ。

 

「ウソ……だよね……」

 

それでも彼女は、藁にもすがる思いで悪魔を否定しようとする。しかし、ココロはその藁すらも容赦なく奪った。

 

「本当よ。私が作戦や計画を考えて、サヨが実行する。完璧なコンビネーションでしょ?」

 

要は、サヨはココロの隠れ蓑であり、実質的な部下ということだ。こう解釈すれば、時折、彼女が見せていた余裕の無さも説明できる。だが、それでもアヤはこの現実を受け入れたくなかった。必死で現実の粗を探した。

 

「そんな……。でも、ココロちゃんとサヨさんが手を結ぶ理由がないじゃん!『平等な世界』と『世界を笑顔にすること』。全然違——」

 

同じなのよ。と、ココロはアヤの言葉を遮った。

 

「リゲル団の目標は、世界中を笑うことしかできない人だけにすることなの。悲しむこともなければ怒ることもない。考えることも、疑うこともない。天才もそれ以外も関係ない。ただ、本能のままに笑い続ける人だけが私の世界に欲しいの!」

 

なるほど、確かに彼女の野望が成し遂げられれば、世界が笑顔になるうえ、サヨのように能力や才能の格差でなやみ、苦しむ人もいなくなる。しかし、その手段はあまりにも強引すぎだ。

 

「ダメだよ!そんなことしても、誰も喜ばないよ!」

 

アヤは心の叫びを口から放った。しかし、それはココロの胸に響くことはなかった。その代わりに彼女は、密かに研ぎ澄ませていた牙を徐々に見せていった。

 

「誰も喜ばない?アヤはおかしなこと言うわね。笑顔になって悲しむ人なんてどこにいるのかしら?笑顔になれば、みーんなハッピーになれるはず。世界を笑顔にするためなら、私は手段を択ばないわ」

 

「で、でも……!」

 

反論したいが、笑顔の威圧に負けて喉がつぶれる。そのせいで、完成した言葉は外に出ることが出来なかった。

 

「アヤ、まだ私とお話がしたいようだったらこの山の山頂まで来てもいいわよ。そこに、世界が変わる瞬間があるから。」

 

そう言い残すと、ココロはミュウツーのテレポートで去っていった。目的地は間違いなく山頂。このままでは、世界が血と涙でできた偽りの笑顔に染まってしまう。アヤに、追いかけないという選択肢はなかった。

 

「サヨさん、ヒナちゃん!私、ココロちゃんのところに行ってくる。それで、絶対に野望を止めてくる!」

 

ヒナとサヨは金縛りの影響で上手く動けず、喋ることもままならない。しかし、その目線は確かにアヤの背中を押していた。それを受けながら、アヤは山頂への道を走っていった。

 

 



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第六十二話 笑顔、涙、そして終焉

こころん戦のイメージはアカギ戦のBGMです。


自分でも信じられない速さで、アヤはカヤユキ山脈の山頂まで登りきった。

 

「アヤ、やっぱり来たのね?歓迎するわ!」

 

雪が積もる山頂でアヤが会ったココロは相変わらず無邪気に笑っている。だが、その笑顔も今となっては恐れの対象にしか見えない。背後で蠢く怪しげな機械も、それを際立たせるのに一役買っている。ココロが言うには、この機械は、リュウコの石塔で使われた兵器を改良したものらしい。彼女が兵器を起動すれば、世界中の人は洗脳され、笑うことしかできなくなってしまう。

 

「ココロちゃん!もうやめて!こんなことで世界を笑顔にしても意味ないよ!」

 

目の前にいるココロは、もはや彼女が知っているココロではない。でも、アヤは納得できなかった。元の彼女に戻って欲しい。その一心で、湿った悲痛な叫びを上げた。

 

「そこまで言うなら、質問に答えてくれるかしら?アヤ、あなたは笑顔について考えたことがある?」

 

「えっ……?」

 

笑顔。簡単な言葉だが、言われてみれば考えたことなどない。完全に急所をつかれた。

 

「あなたとは違って、私は笑顔についてずっと考えてきたわ。だからこそ、この世界が笑顔を拒んでいることに気がついたのよ。確かに、私も歌を歌ったり、誰かを助けたりして人を笑顔にしようとした時期もあったわ。でも、その笑顔はすぐ消えてしまう儚いもの。笑顔がなくなるたびに、笑顔にしに行ったらキリがないじゃない!世界が笑顔になるためならなんでもするわ!」

 

「で、でも!人を笑顔にするために、誰かを傷つけるなんて間違っているよ!」

 

「安心して、ただ傷つけているわけではないわ。彼らには、笑顔の礎になってもらっているのよ!」

 

この言葉を聞いた瞬間、アヤの覚悟が決まった。

 

「それは、礎じゃなくて犠牲の間違いじゃないの?」

 

涙を拭い、低く、冷徹に言い放つ。

 

「そういう表現も嫌いじゃないわ。犠牲なくして、勝利は得られないもの」

 

ココロは純粋に狂い、笑った。もはや、彼女は戻れないところまで来ているのだ。

 

「私、今までの旅でいろんなものを見たし、色んな人やポケモンに会ってきた。悲しみや涙、怒りもあるから世界は楽しいんだよ。それがあるから笑顔は輝いているんだよ!だから、ココロちゃんの野望は認められない!どうしても成し遂げようとするなら、私が力づくで止めるよ!」

 

ついに、アヤがボールを握りしめた。悲しみも、戸惑いも、怒りも、全て込めて。

 

「それがアヤの答え?」

 

「うん」

 

深く、ゆっくり、大きく、アヤはココロにうなずく。と、ココロは頬が裂けるように気味悪く笑った。

 

「そう、残念ね。アヤの笑顔、私大好きだったのに。でも、もういらないわ!貴女の笑顔は私の世界に必要ない!二度と笑顔になれないようにしてあげるわ!ハッピー、ラッキー、スマイル、イェーイ!」

 

もはや狂気も何もかも通り越した、別の何かである。だが、ここで負けるわけにはいかない。

 

「いっけー!カブトプス!」

 

アヤは自ら戦いの火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、笑顔になれるカブトプスね」

 

ココロは乾ききった笑みでボールを投げた。

 

「キュレレェ!」

 

出てきたのは、イッシュに伝わる伝説のポケモン、キュレムだ。

 

「私のポケモンは、リゲル団の技術で作り上げだクローンのポケモンよ。みーんな、本物そっくりだから楽しみにしていてね」

 

「キュレレェ!」

 

意外にも、アヤは驚かなかった。何しろ彼女のレジギガスも、元々はリゲル団が作ったクローンポケモンなのだから。それに、今はクローンでも本物でも関係ないことだ。一刻も早く、目の前の脅威を排除しなければならない。

 

「カブトプス!ストーンエッジ!」

 

開幕早々、カブトプスはキュレムに襲いかる。しかし、カブトプスの攻撃は難なくかわされた。やはり、クローンとはいえ敵は伝説。一筋縄ではいかない。そう思った矢先、にわかに突き刺すような寒さが襲来した。キュレムの凍える世界だ。

 

「カブゥ………!」

 

冷気がまとわりつき、体の節々に氷が張っていく。比例して、徐々に動きが封じられていくのがわかる。普通にみれば絶命の危機。だが、アヤはここから勝ち筋を掴んだ。

 

「冷気はキュレム自身からも常に出ている。それなら……!カブトプス、連続で熱湯!」

 

凍りかけた体に鞭を撃ち、キュレムの猛攻をギリギリで避け、カブトプスは縦横無尽に動き回り、熱湯を吹き付ける。アヤの狙いは、熱湯を冷気で凍らせ、キュレムの動きを封じることだ。

 

「キュ……レ……」

 

まもなく、目論見通りキュレムは凍りつき、動きが止まった。こうなれば、いくら伝説とはいえアヤの敵ではない。カブトプスはストーンエッジを数発放ち、シザークロスを脳天にお見舞い。キュレムは倒れた。まずは一勝。しかし、気を抜くことはまだできない。ココロが既に握っているボールからは、かつてない脅威が漂っていた。

 

「グラァァァァ!」

 

そこから現れたのは、グラードンだ。ココロは懐からグツグツ煮えたぎるマグマのような珠を取り出した。

 

「グラードンのついでに紅色の珠も作らせたけど、ちゃんと使えるかしら?」

 

そう言っていると、紅色の珠は奇妙なほど神秘的に、マグマに染まった光を放つ。実験は成功。グラードンは原始の姿を取り戻したりゲンシグラードンの誕生である。

 

「グララァ!」

 

その咆哮が轟くと、空が燃えた。頂上に降り積もっていた雪は蒸発し、僅かにあった草木は灰と化す。残ったのはジリジリと焼ける岩だけだ。もはや、暑いなんて言葉も生易しい。世界の終わりを彷彿とさせる光景である。

 

「カブトプス!アクアジェット!」

 

アヤは怯まずカブトプスを突っ込ませる。しかし、これが命取りになった。カブトプスを覆っていた水が一瞬にして水蒸気となったのだ。

 

「あら、体を張って私を笑わせてくれるなんて、とっても面白いカブトプスね!灼熱が支配する世界で水タイプの技が使えるわけないじゃない!」

 

ココロが笑い転げる傍ら、グラードンは、カブトプスに断崖の剣を炸裂させる。避けるまもなく、カブトプスはボールの中に戻る結末に終わった。これで、残りのポケモンは同じ数。しかし、アヤには重くココロから放たれる何ががのしかかっていた。その正体は不明だが、脅威や恐怖に近い。少なくとも、嬉しいものではなかった。油断はできない。

 

「いけ!レジギガス!」

 

アヤは諸々の重圧を振り切る勢いで、レジギガスを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラードンが作り出す世界は、世紀末。大地は裂け、轟きながら揺れる。頭上からはソーラービームが降ってくる。想像を絶する地獄だ。こんな過酷な環境の中でも、レジギガスはなんとか本調子を取り戻すも、押されて気味であった。

 

「レレジ、ギガガガガァ!」

 

その証拠に、レジギガスがフルパワーでぶん殴っても、グラードンの炎のパンチに易々と打ち消される。今まで、相手を圧倒してきた本調子のレジギガスがここまで苦戦するのは異例だ。アヤの経験が正しければ、このままグラードンと正面から戦っても勝ち目は薄い。なんとかして、こちらに有利な局面に持ち込まなければならない。この時、ふと彼女の脳裏には、レジギガスの神話が浮かんでいた。

 

(確かシンオウ地方には、レジギガスが大陸を動かしたっていう話があったはず。グラードンが大陸ポケモンなら……)

 

アヤは即座に采配を振るった。レジギガスはグラードンの懐に潜り、全身の力をぶつけ、その巨体を押し倒す。全てのポケモンの中で指折りの重量を誇るグラードンが仰向けに倒れるとは思ってもなかったのか、ココロはフリーズしている。千載一遇のチャンスをアヤは掴んだだ。

 

「今だ!レジギガス!ギガインパクト!」

 

勝負を決めにかかる。しかし、彼女はココロの罠にかかった。

 

「グラードン、大文字よ」

 

ギガインパクトの途中、瞬く間にレジギガスは焼き尽くされた。もう少し早ければ、グラードンに一矢報えたかもしれない。無念を抱きながら、レジギガスはボールの中に帰っていった。グラードンと、正面から渡り合うのは無謀のようだ。となると、アヤが肉弾戦を避けて、遠距離戦が得意なサーナイトを次に選ぶのは自然な流れである。 

 

「絆煌めけ!メガシンカ!」

 

声と共に、サーナイトは白いヴェールに包まれ、メガサーナイトへと姿を変える。と、グラードンはそれを歓迎するかのようにソーラービームを放った。

 

「サナッ!」

 

すかさず、サーナイトはサイコキネシスで跳ね返す。そして、テレポートで背後に回り込んだ。

 

「図体が大きい分、小回りが効かないはず。ならばテレポートを連続で使えば……!」

 

この後の展開は、アヤが描いたシナリオ通りだった。グラードンは、サーナイトの俊敏な動きに翻弄され、割とあっさり敗北。同時に、この灼熱の世界も終わりを迎えたのである。

 

「あら?もう終わっちゃったの?つまんないわ。夏みたいで楽しかったのに」

 

過ぎ去る残暑の中、ココロはため息を漏らす。しかし、彼女の表情は目紛しくかわる。曇りがかったかと思うと、急にパァッと太陽のような顔を覗かせた。

 

「そうだわ!こんな時は月を見れば楽しい気分になれそうね!」

 

と、彼女は言った時、すでに彼女の頭上には月を司るルナアーラが悠々と空で待機していた。

 

「夜空には、月以外にお星様もないとつまらないわね。ルナアーラ、星を作りましょ」

 

ココロの笑顔の向こうには、アヤとサーナイトがいる。今のは、なかなか洒落にならない台詞だ。

 

「よけて!」

 

反射的にアヤが叫ぶと、サーナイトが飛び退く。ルナアーラのシャドーレイがその場を貫いたのは、その直後だ。

 

「あら、サーナイトは私達と追いかけっこがしたいのね!」

 

ココロの笑みは確かに闇を見ている。悔しいが、アヤにそれから逃れる術はない。彼女にできることはその闇を払い、光で照らすことだけだ。

 

「サーナイト、マジカルシャイン!」

 

「サーナッ!」

 

サーナイトが眩い聖なる光を放つ。が、ルナアーラのエアスラッシュは容易くそれを切り裂く。サーナイトはとっさにテレポートでルナアーラの背後に回り込んだ。しかし、その地点では黒く染まった衝撃波、『ナイトバースト』が待ち構えていた。手痛い一撃だ。サーナイトはそのまま地に倒れこんだ。

 

「疲れちゃったのなら、今楽にしてあげるわね」

 

即座に、シャドーレイがサーナイトを捉えた。その無防備な瞬間を、ココロが逃すわけない。しかし、サーナイトは迫りくる闇の光線を自慢の超能力で受け止めた。

 

「がんばって!サーナイト!」

 

アヤの想いが応援に乗り、サーナイトに注がれる。同時に、徐々にサイコキネシスの出力も増す。拮抗していた光線と超能力のせめぎあいも超能力に軍配が上がりだす。そして、ついにシャドーレイは持ち主の方に跳ね返った。

 

「ルナァアラ!」

 

自分の技をもろに浴びたルナアーラ。想定外の展開にさすがのココロも太刀打ちできなかった。ルナアーラの羽ばたきは止まる。山頂には静寂が訪れた。

 



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第六十三話 笑顔に狂い果てて

いよいよ最終決戦です!
果たして、世界は笑顔になってしまうのでしょうか?


ルナアーラが倒れても、ココロは人形のように綺麗な表情のままだった。

 

「あら、もう終わりなの?アヤはとっても強いのね!お礼に少しだけ、夢を見させてあげるわ!」

 

夢といえば聞こえはいいが、多分彼女がいう夢は、アヤにとっては十中八九悪夢だ。そして、それはルナアーラと入れ違いに現れた。ダークライという形を借りて。

 

「行くよ!サーナイト!」

 

ダークライのただならぬオーラを感知し、アヤは気合を入れ直す。だが、その矢先、サーナイトは黒い球状の膜に、例えるならシャボン玉のような膜に包まれた。

 

「サナ……」

 

サーナイトは深い眠りに陥った。これぞ、ダークライの切り札、『ダークホール』である。

 

「起きて!サーナイト!起きて!」

 

必死にアヤは叫ぶが、サーナイトに届かない。サーナイトは悪夢にうなされているのか、苦悶の表情でのたうちまわっている。ダークライの特性である『ナイトメア』の影響だ。

 

「寝ながら苦しむなんてかわいそうに。やっぱり、夢の世界でも笑顔じゃないとだめよね。だから、今すぐ楽にしてあげるわ!」

 

ココロは言葉が終わるや否や、ダークライに悪の波動を指示。表面上の無邪気な様とは正反対。あまりにも恐ろしいギャップである。

 

「ダーッ」

 

一方のダークライは、忠実に任務を遂行する。サーナイトはなす術なく、より深い眠りに誘われた。

 

「戻って、サーナイト」

 

アヤは戦えなくなったサーナイトを引っ込める。そして、敵討ちをハガネールに託した。

 

「ガッネール!」

 

ポケモン屈指の巨体が、ダークライを圧倒する。しかし、ダークライは寡黙にその姿を見るだけ。先ほどの動きを見る限り、ココロのダークライはかなりの猛者だ。どんなに低く見積もっても、四天王のエースくらいの実力はある。一瞬のミスがそのまま敗北に繋がるだろう。

 

「ハガネール!岩雪崩!」

 

アヤの声とハガネールの怒号が響くと、ダークライの真上から、無数の岩が降り注いだ。

 

「ダーッ!」

 

ヒラリヒラリと、ダークライはそれを難なくかわす。だが、10個ほどかわしたとき、目の前にハガネールの炎の牙が現れた。

 

「ガーッ!」

 

この距離と状況なら、いくらダークライでも避けようがないはず。ハガネールは容赦なく華奢なその身を噛み砕いた——かのように思えた。ダークライは、またもや攻撃を回避したのだ。そして、攻撃の手本を見せるように、悪の波動をお見舞い。ここで、ココロは首を傾げた。

 

「ハガネールの寝顔ってどんな感じなのかしら?気になるわね?」

 

ダークライは、主人の疑問に応えるべくダークホールを放つ。ところが、この一手が墓穴を掘った。

 

「ガネール!」

 

ハガネールのアイアンテールが辺りをなぎ払ったのだ。ダークホールは砕かれ、ダークライ自身も叩きのめされる。今が好機。ハガネールは攻撃をたたみ掛けた。

 

「ダッ!」

 

対するダークライは、負けじとまたダークホールを放つ。しかし、こんなマンネリ化した戦い方が、ハガネールを眠らせることなどできるはずない。ハガネールは、もう一度、アイアンテールでダークホールをなぎ払う。

 

「あ、あれ……?」

 

ところが、アヤはこの一撃に妙な違和感を覚えた。手応えが全くないのだ。と、ハガネールの真下に回り込み、揺らめくダークライの姿が目に入った。完全に裏をかかれた。ダークホールは囮に過ぎなかったのである。

 

「避けて!」

 

アヤは大声をあげたが、もう手遅れ。ダークライはハガネールの下顎に気合玉をぶつけた。

 

「ガネ……ル……」

 

死角からの一撃にハガネールは耐えきれなかった。地に倒れ、朦々と砂埃をあげた。

 

「お疲れ、ハガネール」

 

そっと包むように、アヤはハガネールをボールに収納した。が、以前として目の前の悪夢は消え去らない。むしろ、ますます悪化している。彼女の札も、残りわずかになっている。次のポケモンで勝負をつけなければ勝利は絶望的だ。

 

「ホーーク!」

 

彼女の想いを抱き、ムクホークはボールから飛び出した。

 

「ムクホーク!燕返し!」

 

指示を受け、ムクホークは敵の懐目掛けて斬り込む。その時だ、彼女とムクホークの前に信じられないものが現れた。周りの空間ごと、ムクホークが切り裂かれたのだ。亜空切断である。この技はパルキアを象徴する技で、ダークライは使えないはず。

 

「なんで……」

 

アヤが面食らったのも無理はない。一方、ココロは嘲り笑っていた。

 

「アヤ、忘れちゃったのかしら?このダークライはクローンなの。クローンを作る時に少し工夫をすれば、どんな技だって使えるようになるのよ!」

 

まさかの事実だ。こんな事態、想定外である。しかし、想定外を敗北の言い訳にするわけにはいかない。アヤは、すぐに調子を取り戻し、再度ムクホークを突撃させた。

 

「ダーッ!」

 

数発のダークホールでダークライはそれを歓迎する。ムクホークは盛大な歓迎を全てかわし、本体にインファイトを叩き込む。長い悪夢は、ようやく覚めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークライが倒れたことで、残りの手持ちは両者ともに同じ。しかし、ムクホークはダークライとの戦いの傷を引きずっている。対するココロの5体目は元気な状態で、ボールの中で出番を待っている。果たして彼女はどんな手段で傷口に塩を塗ってくるのであろうか。アヤは戦々恐々していた。しかし、ココロは次のポケモンを出さなかった。ただ、ニコニコしているだけだ。

 

「アヤといると楽しいわね。なぜか笑顔がなくなることがないもの!私はアヤのこと好きみたいね。やっぱり、あなたの笑顔を奪うのはわやめるわ。もう戦いなんてやめましょ」

 

「ココロちゃん……!?」

 

果てしない闇に一筋の光が差し込んだ。ようやくココロもわかってくれた。アヤは心の底からそう思い、ホッと一息ついく。が、その光はすぐに闇色に変化した。

 

「ねぇ、アヤ、私の新しいパートナーにならない?一緒に笑顔を守りましょ!」

 

「パートナー……?」

 

「そうよ。本当は、私一人で新しい世界を支配しようかと思ったけど、あなたと一緒の方が楽しそうだもの!私と一緒に笑顔になりましょ」

 

「やだよ!」

 

反射的にアヤは言い返した。ココロは、酷くつまらなそうだ。と、にわかにココロがほくそ笑む。すると、彼女目の前はにミュウツーをくりだした。

 

「あなたには失望したわ。自分から笑顔を拒むなんて!でも、アヤがそう望むなら仕方ないわね!」

 

彼女は、幻想的に煌めく石を掲げる。と、ミュウツーは呼応し、桃色の閃光を放つ。

 

「ウソだよね……?」

 

同時に、アヤの背筋が凍りついた。こんな展開、どう予想しろと言うのだ。ミュウツーは、メガミュウツーYにメガシンカしたのである。

 

「ミュウツー、アヤの笑顔を奪うのよ!」

 

無言でミュウツーはムクホークに波動弾を打ち込んだ。ムクホークはそれを燕返しで一刀両断。しかし、すでにミュウツーには背後に回り込まれていた。

 

「ミュウツー!冷凍ビーム!」

 

ココロの死刑宣告。しかし、ムクホークは急旋回し、死を回避。その勢いのまま電光石火をかまし、再度燕返しで切り裂く。ミュウツーは、宙で大きくバランスを崩した。勝負を決めるなら今。アヤが培った経験は確信した。

 

「今だ!ムクホーク!ブレイブバード!」

 

ムクホークは青い閃光を見にまとい、突っ込む。しかし、半ばほどでその動きは止められた。ミュウツーが、サイコブレイクを発動したのである。

 

「ホーク……!」

 

正義の猛き翼と、無慈悲な超能力が拮抗する。しかし、アヤの声援が翼の背を押し、徐々に超能力が不自然に歪み出す。そして、ついにブレイブバードはサイコブレイクを振り切り、ミュウツーに一撃をぶちかました。

 

「………」

 

ミュウツーのメガシンカが解け、力なく地に堕ちる。しかし、ムクホークも攻撃を当てるや否やカクンと急降下し墜落。その翼が天に戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムクホークとミュウツーの激闘は相打ちで幕を閉じた。これで、アヤもココロも残るポケモンは一体ずつ。次で勝負が、運命が、シンシューの未来が決まる。己に全てが重くのしかかっているのだ。そう思うと、アヤの鼓動は爆発的に高まり、吐きそうな緊張がその身を蝕む。しかし、ココロは平然としていた。

 

「アヤ、無理に戦う必要はないわよ。私に降参すれば、すぐに笑顔にしてあげるのに。きっと、新しい世界は楽しいことでいっぱいよ」

 

正面の笑顔をアヤは睨んだ。

 

「無理やり作られた笑顔なんかでは、誰も楽しくならないよ。楽しいって気持ちは、誰かと一緒にいると生まれるもの。そう言ったのは、ココロちゃんだよね」

 

ついに、アヤは最後の相棒が入ったボールを構える。ココロも、懐から真っ赤なプレシャスボールを手に取った。

 

「いけ!ドダイトス!」

 

「アルセウス、世界を笑顔にしてちょうだい」

 

ドダイトスの怒号とアルセウスの咆哮が、最終章の幕開けを告げる。シンシューの——いや、世界の命運がここで決まるのだ。

 

「セェェェウ!」

 

運命の舞台で、最初に動いたのはアルセウスだ。後ろ足で地を蹴り、右前脚を陰のようなオーラで包み、ドダイトスに迫る。対するドダイトスはエナジーボールで迎撃。しかし、その勢いは殺せない。

 

「ダァイドー!」

 

そうとわかるや否や、ドダイトスは己の身ごとアルセウスにぶつかった。ロッククライムだ。結果、どうにかシャドークローは止まった。しかし、アルセウスは意に介することなく、悠々と剣の舞をしだした。ドダイトスの攻撃など恐れるに足りないとういのか。

アヤ達にとっては、最高の侮辱だ。

 

「ドダイトス!もう一度ロッククライム!」

 

彼女の表情からは、焦りも怒りが滲み出ている。しかし、アルセウスはそれを嘲り、彼女達の前から姿を消す。ドダイトスは神速に跳ね飛ばされた。

 

「ドダァッ!」

 

どうにか耐え、着地したドダイトスは即座に地を揺らし反撃。だが、それは空振りに終わる。アルセウスは宙に駆け上ると下界を見下す。そして、制裁を下した。

 

「セェアァァ!」

 

無数に降り注ぐ光弾。その名は裁きの礫。ドダイトスの断末魔が、光弾の合間を貫いた。

 

「愚かね。未来への切符を自分から捨てた上、それを礎に埋めるなんて。でも、多数の笑顔は少数の笑顔に優先する。世界を笑顔にするために必要な犠牲の範囲ね。アヤ、ごめんなさい」

 

ココロは笑った。それは、アヤを見下すように。それは、新しい世界を歓迎するように。しかし、アヤはその笑みをぶった切った。

 

「まだ、終わってないよ。ドダイトスも、私も戦える!最後の最後まで諦めないよ!」

 

「ドダァ!」

 

全身ズタボロに傷ついたドダイトスが、体に鞭を打ち叫びぶ。と、ココロは目の下を指で払い、あたかも涙を拭くような素振りを見せた。

 

「どれだけ傷ついても諦めない、愚かなほど美しい心。感激のあまり、思わず涙が出そう。でも、もうそれも終わりよ。生憎だけど、私以外にハッピーエンドは許されてないの。アルセウス、裁きの礫よ」

 

再び、ドダイトスに裁きを下さんと、アルセウスは力を貯める。同時にドダイトスはロッククライムを使い、大地を砕く勢いで敵の右足にタックル。間髪入れずに、ゼロ距離でエナジーボールを叩き込む。バランスを崩したアルセウスの狙いは狂い、裁きの礫は外れる。さらに、左前足をウッドハンマーに薙ぎ払われた。

 

「ドダイトス!もう一度エナジーボール!それからロッククライム!」

 

今こそ好機と判断し、アヤは指示を畳み掛ける。しかし、アルセウスは神速を使い、ドダイトスを空高く跳ね飛ばす。今のドダイトスにとっては致命傷だ。だが、その瞬間、アヤは全てを己のドダイトスにぶつけた。

 

「ドダイトス!ウッドハンマー!」

 

彼女は信じている。幾多の修羅場を共に潜り抜けてきたドダイトスなら、あの一撃を耐えていると。一方、ココロは確信していた。笑顔に満ちた勝利を。もはやこれは、一種の賭けだ。状況的にはどっちの願いが叶ってもおかしくはない。だが、天が望んだのはアヤの願いだったようだ。

 

「ダァァァイトォ!」

 

落下しながら狙いを定め、空中で前転するように体を動かし、アルセウスの脳天に真上からウッドハンマーでをぶちかます。神すら、この奇策は想定外だったようだ。アルセウスはダメージを抑えきれず、その場に倒れ込む。ドダイトスはその上にのしかかり、動きを封じた。

 

「いっけーーーー!ドダイトス!地震!」

 

「ドダァァァァァァァァァア!」

 

アヤの願いとドダイトスの想いがシンクロ。その爆発的なパワーに突き動かされ、大地は轟々と揺れる。再び静けさが戻っても、アルセウスが再び動き出すことは、ついに訪れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負は終わった。アヤ達の勝利で。

 

「勝った……?勝ったの……!?」

 

プレシャスボールにアルセウスが戻ると、アヤの中で隠れてきた疲れがどっと押し寄せた。彼女はその場に崩れるようにペタンと座り込むと、安堵の表情を見せる。が、どういうわけか、敗北したココロが笑い出した。勝利の余韻を巻き込んだそれは、今まで聞いたことのないほど奇妙だ。

 

「アヤ、私の言葉をもう忘れちゃったのかしら?私以外のハッピーエンドはありえないのよ!」

 

そういうココロは、手に金色の小さな巾着を持っている。

 

「それは……なに……?」

 

アヤの直感がイヤな未来を予感。そして、それは的中した。

 

「これの巾着の中には、ホウオウのクローンから精製した聖なる灰が入っているの。聖なる灰を使えば、私のポケモンはみーんなまた元気になるの!」

 

「えっ……」

 

言葉が出ない。冷や汗が滝のように流れる。顔が真っ青に染まる。今まで苦労して倒してきたポケモンが全回復したとすれば、アヤの勝利は絶望的だ。しかし、ココロはそんな彼女を前に、6つのボールを地面に置くと、聖なる灰を底に満遍なくふりかける。と、ボールは淡く輝き、活力を取り戻し、アヤを深淵の底に突き落とした。

 

「まだ、バトルは終わってないわ。アヤ、一緒にもーっと楽しいことしましょ」

 

ココロはアルセウスが入ったプレシャスボールを手に取る。が、その時だ。極小のシャドーボールがプレシャスボールを木っ端微塵に砕く。アルセウスはボールのかから飛び出した。

 

「良かった……。間に合った……」

 

「ゲッゲェ」

 

アヤの後ろに、覚えのある静かな怒りが漂う。リンコとゲンガーが駆けつけたのだ。

 

「リンコさん!」

 

なんとか、アヤは窮地を脱した。リンコはアヤに少し微笑むと、ひどく冷酷な視線をココロに突き刺した。

 

「何か……最後に言い残す事はありますか……?晒し首にする前に聞いてあげてもいいですよ……」

 

ココロの口角がわずかに動く。ところが、同時にアルセウスが暴走を始めた。咆哮の激震に耐えられず、岩は砕け散り、降り注ぐ光弾が地表を抉る。ボールが破壊されている以上、もうコントロールはできない。神の怒りを収める術はないのだ。

 

「セェェェエウス!」

 

辺りに逆鱗をぶちまけると、アルセウスは空間を裂き、時空の狭間——すなわち異空間への入り口を作り出す。そして、生み出された時空の狭間の中に消える。同時に、その切れ目は地表に岩を、砂埃を、ココロが置いたボールをも、ありとあらゆるものを吸い込み出した。

 

「どうやら……あちらの世界には行かない方が良さそうですね……」

 

「そ、そうだね!急いで洞窟に隠れよう!」

 

リンコとアヤは自分のポケモンをボールに戻すと、なんとか洞窟の中に転がり込んだ。ところが、ココロは棒立ちのまま微動だにしない。

 

「ココロちゃん……!」

 

アヤの目が彼女の目と合う。その時、様々な情景が彼女の脳裏に映し出された。ココロの歌を聞いた時、ココロと一緒にご飯を食べた時、ココロと一緒に街を歩いた事、ココロと一緒にロッカのジム戦を応援した事。今となっては敵だが、その楽しい思い出は何故か変わってない。そして、ココロの弾け飛た笑みは、未だにアヤの心の中で輝いていた。

 

「ココロちゃん!これにつかまって!」

 

気がつけば、彼女は岩陰から身を乗り出し、穴抜けの紐のを握りしめ、その先端をココロに投げていた。

 

「アヤさん……!」

 

今にも吸い込まれそうなアヤをの体を、リンコは岩陰に引っ張ろうとする。しかし、アヤはその手を払った。

 

「ココロちゃんがやった事は確かに許されない事だけど……、本当はこんな事したくなかったんだと思う!野望に全身が蝕まれていても、笑顔だけは守られていたんだよ!だって、私が今までに見たココロちゃんの笑顔、とってもキラキラしていたもん!あれが作り笑顔だなんて、私は信じられない!仮に、歌を歌ったりしたことが周りを欺くための演技だったとしても、あの笑顔だけは絶対に本物だよ!そうだよね、ココロちゃん!?リゲル団を結成した後も、心のどこかでは誰も傷つけずに世界を笑顔にすることを夢見てたんだよね!?」

 

「アヤ……」

 

にわかにココロの笑顔が消えた。無表情で、ポカンと口を開ける。それは、遠くにある何かを呆然と見ているように見えた。

 

「つかまって!ココロちゃん!世界を笑顔にするんでしょ!?私も手伝うから、もう一度やり直そうよ!」

 

アヤが握っている穴抜けの紐は、ココロのすぐ近くまで来ている。腕を少し伸ばせば余裕で届く距離だ。でも、ココロは掴まなかった。

 

「どんなお説教をしてくれるのかと思えば、とんだ妄想を披露だけなのね。街で歌を歌ったのも、アヤやヒナと過ごしたことも、リゲル団を組織したことも、すべては世界の笑顔のため!何一つ後悔してないわ!」

 

「で、でも!」

 

「——アヤ、しつこいわ!悪いけど、私はもうこの世界には興味ないの!見て、あの狭間を。きっと、これはアルセウスからのサプライズプレゼントよ!アルセウスは、新しい異世界に私を連れていってくれるのよ!あなた達は、せいぜい笑顔を拒むこの腐った世界で、涙と絶望を味わい続ければいいわ!私は、新しい世界を笑顔にして、笑顔の覇王になるから!ハッピー、ラッキー、スマイル、イェイ!」

 

ココロは時空の狭間の中に吸い込まれた。壊れた笑い声を響かせ、アヤを目に焼き付けながら。

 

「ココロちゃん……」

 

「……」

 

裂け目が完全に閉じると、アヤとリンコは外に出て上を見る。晴空には、雲が少し漂っていた。

 




次回、いよいよ最終回です!


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第六十四話 夢

いよいよ最終回です!


ココロとの激闘からまもなく、サヨはリゲル団の解散を宣言した団員は、リンコや四天王、ジムリーダー達の助けを受けながら新たな人生を歩み出した。これによりリゲル団は名実ともに崩壊。シンシューに平和が戻ってきたのである。

 

 

 

 

 

さて、それから数日後。アヤはシグレタウンに程近い草原に来ていた。ある人と待ち合わせているのだ。

 

「あっ、来た」

 

遠くの方に目を凝らすと、緑の絨毯と透き通った青空の間に2つの黒い粒が現れた。よく見れば、それは仲良く連なった2つの人影のよう。片方は楽しげにぴょんぴょん動き、もう片方は見守るように落ち着いている。ヒナとサヨだ。

 

「話は聞いたよ!やっぱり、アヤちゃんはるんっ♪てするー!」

 

ヒナはアヤに出会うが否や、思いっきり飛びついてきた。その体はほのかに温かい。それは、姉の優しさに包まれているからであろうか。

 

「ヒナ!いくら友達でも、いきなり飛びついては迷惑じゃない!」

 

「え〜、いいじゃ〜ん!」

 

喚くヒナを、サヨは呆れたように無理やりアヤから引き剥がす。しかし、その表情はどこか優しく、穏やかだった。今まで何度も彼女と顔を合わせてきたのに、まるで別人と会ったかのような錯覚をしてしまうほど。だが、よくよく考えれば、それほど変なことではないかもしれない。今までのサヨはリゲル団という名の呪いに洗脳されていた状態だった。しかし、今は洗脳から解き放たれ、本来の自分を取り戻したのである。そう考えるとサヨはもはや別人にも見える。そう思って、アヤは彼女の顔を見た。

 

「あっ……!」

 

しかし、サヨは彼女と目が合うと視線を逸らした。

 

「サヨさん……?」

 

と、アヤが首を傾げるとサヨは曇った顔をむけた。

 

「すみません……、アヤ……。いえ、アヤさん。あなたとどういう顔で接すればいいか分からなくて……」

 

「た、確かに……。私たち、色々あったからね……。でも、気にしなくていいよ。もう終わったことだし!」

 

「そう言ってくれるのはありがたいのですが……、どうしても気にしてしまって……。でも、これだけは言わなければなりません。アヤさん、ヒナとずっと仲良くしてくださってありがとうございました。そして、リゲル団の元リーダーとして謝らせてください。本当に、申し訳ありませんでした。もちろん、あなた1人だけに頭を下げても意味ないということは理解しています。私は、自分のくだらない感情と甘い誘惑に唆されシンシュー地方のあらゆる人やポケモンに迷惑をかけてしまいましたから……」

 

「サヨさん……」

 

アヤが呟くと、サヨは改めてアヤの目を見つめ直した。

 

「この罪は、仮に私が何回死んだとしても償いきれないでしょう。でも、私はこの一生で出来る限りの償いをしなければならない。だから、もう一度ポケモントレーナーとして、1人の人間として、ヒナの姉として自分を鍛え、考え直すために旅に出ます」

 

彼女の想いは確かだ。向けられる視線が、アヤにそう語っている。

 

「そっか……。これから仲良くなれるかなって思ってたんだけど……残念だな。でも、ヒナちゃんはいいの?せっかくお姉ちゃんと一緒になれたのに、また離れ離れになっちゃって」

 

ところが、アヤの思いとは裏腹に、ヒナは全然悲しそうとも寂しそうともしていなかった。むしろ、何故か嬉しそうにしている。

 

「うん、いいよ!だっておねーちゃんと約束したもん。『納得行くトレーナーに成長できたら必ず帰ってくる』って。だから私は待つよ。例え、何年何十年経とうが、私はおねーちゃんを待つよ。だから、いってらっしゃい!おねーちゃん!」

 

ヒナが大きく手を振ると、サヨは微笑み返し、少し真面目な表情でアヤに深く頭を下げた。

 

「それでは、私はもう行きます。少しでも早くヒナのところに戻るために、時間を無駄にはしたくないので」

 

サヨは再び草原と空の狭間に向かって1人で歩いていった。アヤとヒナは、サヨの姿が狭間に消えても、何も言わずにずっとそこを見続けた。

 

 

 

 

 さて、その日のお昼過ぎ、ヒナと別れたアヤはとある街の喫茶店にいた。実は今日、彼女はリンコとも会う約束をしていたのだ。

 

「それで、その時ヒナちゃんが……」

 

「ふふ……、そうなんですね……」

 

強者のベールを脱ぎ捨て、ガールズトークに花を咲かせるアヤとリンコ。しかし、30分程話したところで、リンコが『お話ししたいことがある』と場を仕切り直した。

 

「は、話し……?」

 

アヤは身構えた。何が自分がしたであろうか?いや、していない。色々な悪い予感が頭の中をグルグル回る。しかし、リンコの話は思わぬ角度から飛んできた。

 

「単刀直入にいいます……。アヤさん、新しいチャンピオンになりませんか……?」

 

「えっ……?チャンピオンって……シンシューポケモンリーグの?」

 

アヤは初めに耳を疑った。しかし、雰囲気的に違う。次に夢かどうかを疑った。だが、自分の頬をつねると確かに痛む。間違いない。この話は幻聴でも幻でもないのだ。そうと分かった途端、アヤの体中から驚き感情が飛び出した。

 

「わ、わ、私がチャンピオン!?なんで!?シンシューのチャンピオンはリンコさんじゃ……」

 

リンコはコーヒーを一口飲むと、そよ風が草木を揺らす風景を、窓越しに見た。

 

「私がチャンピオンになってから随分と長い年月が経ちます……。そろそろ、このシンシューに新しい風を吹かせるのも悪くないかなって……思ったんです。私はもう……チャンピオンとしてやりたい事はやり尽くしましたし……。アヤさんなら……強いですし……優しいし……シンシューの新しい顔にふさわしいと思うんですが……どうでしょう……?」

 

今ここで頷けば、アヤは名実ともに最強のポケモントレーナーとして、シンシューに君臨することになる。周囲からの喝采の嵐を浴びることも間違いない。まさに、夢のようなである。しかし、アヤの首は縦に動かない。横にしか動かなかった。

 

「ごめんなさい、リンコさん……。私には他に夢があるんだ」

 

時に手振りを交え、時には興奮のあまり立ち上がり、子どものようにはしゃぎ、アヤは夢を語った。夢と希望が化学反応を起こし、大爆発したのだ。

 

「そうですか……。それなら……、私はアヤさんの夢を応援しますよ……。シンシューのチャンピオンは……私に任せてください……」

 

リンコは目を細め、アヤとともに彼女の夢を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後の朝、アヤの夢を叶える日がきた。アヤの夢とは『全ての地方を回り、全てのポケモンと仲良くなること』である。そのために今、彼女は故郷のシグレタウンをまたもや旅立とうとしているのだ。

 

「荷物はよし……。忘れ物なし!よーし、新しい冒険の始まりだ!」

 

研究所の前で、アヤは大きく深呼吸。そして、見送りに来た母親、マリナ博士、ヒナ、リンコ、そして歴戦の手持ち達の方を向いた。

 

「あ、アヤちゃん。本当に自分のポケモンを全部置いていくの?1匹くらい連れていった方が……」

 

「大丈夫ですよ、マリナ博士!ナエトル一緒に旅立った時の私とはもう違うんですから!1人で大丈夫です!道中で、新しい仲間を増やしますから!」

 

アヤがそう言った途端、彼女の全身を激痛が走った。カブトプスが抱きついてきたのだ。ついでにムクホークも辺りをバサバサ飛び回っている。

 

「ドダァ」

 

「ネール……」

 

「サナァ……」

 

「レジギガガ……」

 

ドダイトスもハガネールも、サーナイトもレジギガスも、涙が出そうな声を漏らす。みな、アヤとの別れが惜しいのだ。

 

「そんなに寂しがらなくても大丈夫だよ。必ずまた会えるから。今度会う時は、いっぱい新しい仲間を連れてくるからね!」

 

満面の笑みを目に焼き付けると、ムクホークとカブトプスは主人から離れた。

 

「アヤちゃん、どこかでおねーちゃんに会ったらよろしくね!」

 

「あなたの夢が叶うことを……祈っています……」

 

ヒナの見慣れた無邪気な顔と、リンコの静かな優しさにもこれでしばらくお別れだ。名残を惜しむように、アヤは長く、硬く、彼女達の手を握りしめた。そして、最後に母親と少し話し、研究所に背を向けた。天気は晴れ。眩しい朝日も、門出を祝福している。

 

「それじゃあ、いってきまーす!」

 

アヤは、夢への第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

  

 やがて、アヤの姿は見えなくなると、アヤの母親は家に帰った。そして、マリナ博士はアヤから預かったモンスターボールを手に取った。

 

「よし、裏庭に行こう。そこが、みんなの新しい家だからね。あ、それと、私とも仲良くしてね!」

 

その傍らでは、リンコがサザンドラを出していた。今日はヒナとお出かけである。

 

「さぁ……、乗ってください……」

 

「うん!」

 

ヒナ語を乱射しながら、彼女はサザンドラに飛び乗る。と、その時、遠くの方からかすかに悲鳴が聞こえた。

 

「ん……?」

 

思わずヒナはリンコと顔を見合わせる。その瞬間は、この悲鳴は空耳ではないかと、彼女たちは思った。しかし、悲鳴は確かに聞こえる。しかも、だんだん大きくなっていた。そして、間もなく声の主が現れた。今さっき旅立ったばかりのアヤだ。しかも、大粒の涙を浮かべている。

 

「ど、どうしたの!?」

 

研究所の前でしゃがみこむアヤのところに、マリナ博士達が駆けよった。話を聞けば、アヤは1番道路に入って早々に、うっかりコラッタの巣を壊してしまい、コラッタに追いかけまわされていたようだ。

 

「どうしよ~。1番道路に行きたいけど、コラッタが~!ヒナちゃん、何とかして~!」

 

お世辞にも、数日前にシンシューを救った英雄とは思えない情けない姿だ。ちなみに、頼りにされたヒナはというと、泣きわめくアヤそっちのけで笑い転げていた。一方のリンコは、しゃがみこむアヤの背中をさすり、心配そうな表情を見せている。が、よくよく見れば表情の節々が微妙に笑っていた。流石の彼女も、笑いを完全にこらえるのは無理だったようだ。

 

「しかたないなー。アヤちゃんが始めて旅立った時と同じように、初心者用のポケモンを1体プレゼントしてあげるよ!」新しい門出のお祝いだと思って受け取って!」

 

「本当ですか!?」

 

ガバッとアヤの顔が上がった。

 

「本当だよ。ちょうど今日も全種類いるし、前はいなかったガラル地方のポケモンもいるよからね!」

 

「博士、ありがとうございます!」

 

アヤはマリナ博士から、初心者用ポケモンのリストを受け取り、ヒナとリンコとともに覗き込んだ。

 

「アヤちゃん!私と同じミズゴロウにしようよ!」

 

「モクローは……どうですか……?ジュナイパーになれば……ゴーストタイプになるんで……オススメですよ……」

 

「あっ、もう一度ナエトルは!?」

 

「ヒバニー……かわいい……」

 

頭を抱えて悩むアヤを挟んで、ヒナとリンコは大盛り上がり。当の本人は、次々現れるオススメポケモンに振り回され、新しいパートナーを全く決められない。

 

「いっぺんに色々言われても、逆に困るよー!」

 

アヤはまた悲鳴を上げた。どうやら、彼女の新しいパートナーが決まるのは当分先のようだ。果たして、彼女はどのポケモンを選ぶのか。そして、そのポケモンとどのような旅路を歩むのか。アヤの冒険は、まだまだ続く。

 




今まで長い間、ありがとうございました!これにて完結です!
ちなみに、この小説の続編を咲野皐月さんが書いてくれています!
https://syosetu.org/novel/219035/
彩ちゃん達の冒険の続きが見たい方は、ぜひ読んでみてください!

追記
次回作は、ハーメルンには投稿しないかもしれません。今後の作品情報は、Twitterで公表するかもしれないので、次回作が気になる人はぜひフォローしてください!私のマイページからフォローできるようにしておきます!


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番外編
闇と影の遭遇


時間が空いてすみません。ということで、番外編1です。
今回は、この世界のあこちゃんとりんりんの出会いの物語です。
時系列的には第24~25話あたりです。


NFO(ネオ・ファンタジー・オンライン)』。それは、魔法やモンスターが当たり前のファンタジーな世界を舞台に、世界中の人が一緒に冒険できるネトゲだ。その人気は住様しく、カントーからアローラまで、全国的に人気を博している。もちろんこのシンシューでも例外ではなく、多くの人がこのゲームをプレイしている。また、そのプレイヤーの中には各界の有名人も多数いるのだ。例えば、彼女のように——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここでバフ……。ここで薬草……、ここで魔法攻撃……!」

 

今、パソコンにかじりつくようにゲームをしている彼女の名前はリンコ。彼女は言わずと知れたピアニストであり、シンシューポケモンリーグのチャンピオンでもある。実はリンコ、人前ではあまり言わないが、ネトゲが趣味なのだ。しかも、その腕前もなかなかのもので、ランキングも結構上位に食い込んでいる。今も、期間限定のクエストをフレンドと一緒に攻略している真っ最中だ。

 

「ここでこうして……!それ……はい……!」

 

タイピングの激しい音が響く。と、ここでリンコは大きく背伸び。今、フレンドと協力して期間限定のクエストを攻略し終わったのだ。

 

『やったー!さすがだよ!RinRin!』

 

攻略が終わるや否や、今協力していたフレンドからメッセージが飛んできた。彼女の名前は『聖堕天使アコ姫』。リンコと毎日のようにゲームをプレイしているフレンドだ。両者ともに顔も本名も知らないが、少なくともネトゲの中での彼女たちは非常に仲がいい。リンコ的にはぜひとも一回あってみたいと思っているほどだ。人前な苦手な彼女にしては珍しい経験である。しかし、リンコはシンシューの中ではかなり有名な人。立場的に見ず知らずの人と会うことは厳しい。その為、聖堕天使アコ姫から『実際にあおうよ!』と、メッセージが送られてきても、断腸の思いで断り続けてきたのだ。が、そろそろこの我慢も限界になってきた。会いたい、聖堕天使アコ姫に会ってみたい!そんな思いが日に日に強くなっていく。と、その時、彼女の目にゲンガーやオーロット、シャンデラが見ているテレビ番組が飛び込んできた。それは、有名人のそっくりさんを捜す番組だ。

 

「これは……」

 

リンコは見ていておどろいた。出てくる人みんな、有名人と瓜二つなのだ。

 

「ん……?もしかして……」

 

何気なくこの番組を見ていると、彼女の中に聖堕天使アコ姫と出会うための妙案が浮かんできた。それは、『リンコ』としていくのではなく、あくまで『リンコのそっくりさん』として、聖堕天使アコ姫と出会うというものだ。

 

『ねぇ、RinRin!今度会おうよ!』

 

そう思っていると、また聖堕天使アコ姫からチャットが送られてきた。なんとも絶妙なタイミングだ。もはやこれは、実際に会ってこいという天からのお告げである。彼女は、こうチャットで送った。『うん、いいよ!今度、会おうよ!』と。そして、リンコはプライベート用の図鑑の連絡先を教え、相手からも連絡先を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なんだかんだで日は流れた。今日はリンコがいよいよ、聖堕天使アコ姫と出会う日だ。

 

「えっと……、ここでいいんだよね……」

 

2人が待ち合わせたのは、ユウダチシティ中央部にあるドンカラスの石造だ。待ち合わせの時間である正午までは、あと三十分ほど。ちょっと早くつきすぎたようだ。

 

「大丈夫……、大丈夫……。なんどもゲンガーやオーロット相手に練習したから……。今日の私は……チャンピオンでピアニストの……リンコじゃない……。ただ『リンコ』に似ているだけの……普通のポケモントレーナー……『リンカ』……。そう……、今日の私はリンカ……!」

 

リンコは何度も、何度もこの言葉を自分で呪文のように唱えた。すると、彼女の図鑑に連絡が入った。聖堕天使アコ姫からだ。どうやら、アクシデントが発生して少し遅れてしまうらしい。

 

「『うん!わかったよ(*^^)v』……。送信っと……」

 

メッセージを見ると、彼女はすぐに返信を送った。だが、その時、視界の端に映る路地に、一人の怪しげな男がうごめいているのを見た。リゲル団員だ。

 

「どうやら……、チャンピオンの『リンコ』に戻らないといけないみたいですね……」

 

リンコは『私も遅れそうm(__)m』と、メッセージを送ると、リゲル団員の後をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゲル団員は、リンコに後をつけられているとも知らず、薄暗い路地を通り、とある建物の裏口から、その内部へと入っていった。この建物は、ユウダチシティのメインストリートに面する立派な建物である。表現は悪いが、リゲル団員には不釣り合いな場所だ。

 

「確かこのビル……、シンシューでも指折りの富豪が経営している会社のものだった気が……。ここには薄汚いリゲル団の用事なんてないはずなのに……。資金を援助するように脅されているのかな……?それとも……」

 

いずれにせよ、マズい事態であることは変わらない。リンコは、固く閉ざされた扉をシザリガーに破壊させた。すると、その先には地下に続く長い階段があるではないか。

 

「この会社の富豪……、ラプラスの保護を資金面でサポートしたり……、ポケモンセンターに多額の寄付をしているいい人だと思っていたんだけど……。なにやら裏がありそう……」

 

リンコは、シザリガーとともに怪しい地下空間に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

時同じくして、ホマチシティのジムリーダーの一人であるアコも、リンコが見つけたものと同じ地下空間にいた。しかし、彼女は絶体絶命のピンチに陥っていた。この空間をいち早く見つけて潜入したまではいいものの、リゲル団員に見つかってしまったのだ。

 

「ど……、どうしよう……」

 

今、彼女は何人もリゲル団員に囲まれている。手持ちのポケモンは、無数のリゲル団員との連戦により、満足に戦える状態ではない。リゲル団員たちはそれを知っているせいか、いつも以上に強気で、いつも以上に意地の悪い表情を浮かべていた。

 

「ヘッ、1人で敵陣に忍び込まなくちゃいけないなんて、ジムリーダーも大変だな~」

 

「さて、私達と一緒に来てもらおうかしら。貴女を戦利品として、サヨ様のところに連れて行ってあげる」

 

そういいながら、1人の女性団員がアコの腕に手を伸ばす。が、その瞬間彼女たちは背後に現れた、不穏な影に気が付いた。リンコだ。

 

「チッ……!そこにいるのはチャンピオン……!どうしてここに……!」

 

彼女の姿を見た団員に動揺が広がる。しかし、対するリンコの表情は清々しいまでの笑顔だ。

 

「随分と……楽しそうなパーティーですね……。よければ……、私も参加させてもらえないでしょうか……?生憎……、招待状は持ってないですけどね……!」

 

そういうと、リンコはリゲル団のポケモン軍団の中に、シザリガーを飛び込ませる。

 

「ザリガー!」

 

シザリガーは、あっという間にその場にいたリゲル団員を蹴散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、アコは無事救出された。しかし、追い詰められたことが相当怖かったようで、その目には涙を浮かべている。

 

「リンコさん!助けてくれてありがとう!一時はもうダメかと思ったよ~」

 

「そんな……。私は大したことはしてないよ……」

 

「そんなことないよ~!さっきのリンコさん、超かっこよかったもん!」

 

「ありがとう……、アコちゃん……。ところで……、話は変わるけど……どうしてアコちゃんがここに……?」

 

「えっとね……、今日ユウダチシティで人に会う約束していたんだけど、なんかこの建物に怪しい人が入っていくのを見たんだ。だから、追いかけてみたんだけど……。うー、アコの中に眠る闇の力を解放してドーン!バーン!ってかっこよくキメたかったんだけどな~」

 

「そんなに落ち込まなくてもいいと思うよ……。たった一人でここに来ただけでも……、十分カッコいいと思うよ……。さてと……、ここからは私も力を貸すから……、一緒にここを調べよっか……。大丈夫……、視界に入ったリゲル団員は……、みんなまとめて血祭りにしてあげるからね……」

 

そういうと、リンコはアコの手持ちを回復させる。そして、2人は奥に向けて歩き出した。だが、すぐに別のリゲル団員たちが、2人のところに押しかけてきた。

 

「リンコさん……」

 

リゲル団の威圧に圧倒され、アコはリンコの後ろに隠れる。しかし、リンコは全く動じず、真顔でリゲル団を見ていた。

 

「情報を聞き出すのには……、一人いれば十分ですよね……。戻ってください……シザリガー……。そして……、サザンドラ……、リゲル団に地獄を見せてあげなさい……」

 

「ザンドーラ!」

 

サザンドラはシザリガーと入れ違いでボールから現れると、竜星群を発射。同時に、あたりに絶叫が響き、爆発音と硝煙が巻き起こる。

 

「うわ……。なんか凄い……」

 

リンコの傍らでアコがあっけにとられていると、硝煙が晴れてきた。硝煙の向こうに広がっていたのは、竜星群に巻き込まれて気絶している大量のリゲル団員と、ただ一人、無傷で棒立ちしているリゲル団員だ。

 

「よくやりました……、サザンドラ……」

 

リンコはそういうと、相変わらず真顔でサザンドラとともに唯一生き残った——いや、わざと生き残らせたリゲル団員のところに歩いて行った。

 

「先に言っておきますが……。サザンドラの火力が下がっているとはいえ……、あなたを消し炭にするくらいの威力はありますからね……。さぁ……、教えてください……。ここは一体何なんですか……?」

 

「ザンドーラ!」

 

リンコとサザンドラはジリジリとリゲル団員に圧をかける。しかし、当のリゲル団員はへらへら笑ってばかりだ。

 

「へっ!誰がお前なんかに教えるかよ!」

 

あろうことか、そのリゲル団員はリンコの顔に空のボールを投げつけ、コラッタのような速度でどこかに逃げ出した。ところが、リンコは追いかけず、じっと逃げていく団員を見ているだけだ。

 

「ちょこまかと鬱陶しいなぁ……。教えてもらうのがダメなら……、撃ち殺してやる……」

 

リンコはスッと腕をあげた。同時に、サザンドラの三つの口から悪の波動が放たれた。

 

「ゲフッ……。はったりじゃないんかよ……」

 

リゲル団員は倒れた。流石に本当に殺されはしなかったが、かなりのダメージだ。そして、リンコは倒れた彼のもとにゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「だから……、言ったじゃないですか……。で……、教える気になりましたか……?」

 

リンコの眼には恐ろしい何かで満ちている。次逆らった結果、本当に殺されてもおかしくはない。堪忍したリゲル団員は、ついに知っていることを吐いた。

 

「ここはリゲル団の新しい秘密研究所だ!ホマチシティの研究所は、たった2人の女のせいで壊滅したからな!」

 

「ふーん。では、どうしてここに作ったんですか……?」

 

「詳しいことは、俺たち下っ端にはわからない。俺たちが知っているのは、この会社の富豪とリゲル団が裏でつながっているということだけだ」

 

「そうですか……、ありがとうございます……。それじゃあ私たちはこれで……。あっ、ここに傷薬と木の実と包帯を置いておくので……、治療に使ってください。ポケモン用のものですけど……、確かヒトにも効き目があったはずなんで……安心してください……」

 

リンコはいくつかの回復グッズを床に置くと、アコとともに仲良くさらに奥へと進んでいく。そして、その先にはエレベーターがあった。アコとリンコは周囲を警戒しながらそれに乗ると、上へあがっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人が乗ってしばらく後、エレベーターが止まった。そこは、最上階にあるこの会社の富豪の部屋だ。そこには当然、富豪がいるのだが、今日、彼女たちをこの部屋で迎えてくれたのは富豪だけでなかった。リゲル団の女幹部も待ち構えていたのである。

 

「やっぱり……リゲル団とこの会社は繋がっていましたか……。2人とも……、最後に言い残すことはありませんか……?」

 

リンコは静かに圧をかけた。リンコの隣では、アコも頬を膨らませ、2人を睨んでいる。

 

「し、仕方ないだろ……!経営している会社の事業が失敗してね……、私もカネが足りないんだよ!」

 

それに対し、初老の富豪は震えた声で叫んだ。

 

「だから、私たちリゲル団はかわいそうな富豪さんにお金を渡してあげたの。そして、その見返りとして、この建物の地下に新しい研究所をつくらせてもらったのよ」

 

富豪に続き、女幹部の方も冷静に言葉を言い放つ。しかし、2人の発言はリンコの怒りのボルテージを上げるトリガーとなった。

 

「もう少し……ましな言い訳をしたら……、少なくとも富豪さんの方は……見逃してもよかったんですけど……、ここまで自分勝手な言い訳を馬鹿正直に話されては……、見逃せませんね……。アコちゃん……、準備はいいかな……?」

 

「うん!任せてよ!」

 

リンコとアコは、懐からボールを取り出した。もはやバトルは避けられない状態だ。

 

「お願いします……メタグロス……!」

 

「闇の力を解き放て!アブソル!」

 

そして、ついにリンコがメタグロスを、アコがアブソルを繰り出した。そして、ワンテンポ遅れて女幹部と富豪もポケモンを繰り出した。

 

「行きなさい、バリヤード!」

 

「バリバリー」

 

「行くのだ、マニューラ!」

 

ボールから出た、女幹部のバリヤードは活きのいい鳴き声を上げる。が、富豪が繰り出したマニューラは、どういうわけかボールから出た瞬間に前のめりになって倒れた。

 

「ど、どういうわけだ……!」

 

衝撃的な光景に、富豪の声が裏返る。そんな彼を前に、リンコは真顔で口を開いた。

 

「『どういうわけだ!』って言われても……、私のメタグロスは……マニューラがボールから出た瞬間に……、バレットパンチを撃っただけですよ……。どうやら……、マニューラの鍛え方が甘かったみたいですね……」

 

「そんな馬鹿な……!」

 

余りにもあっけない展開に、富豪は肩を落とす。だが、リンコはそんなのにわき目も振らず、すぐに注意をバリヤードとアブソルの方に移した。

 

(あのバリヤード……、マニューラに比べれば強いけど……。メタグロスのコメットパンチ一発で……ひん死だろうな……)

 

リンコはそう思い、指示を出そうと腕を上げる。が、それはアコの声で遮られた。

 

「まってリンコさん!ここはアコ一人でやらせて!」

 

「えっ……!?」

 

「アコね、さっきリゲル団に一方的に負けたことが悔しいの。だから、ここで挽回したい!お願いお願い!ここは手を出さないで!」

 

アコの想いは、彼女の目を通してリンコに届く。リンコは上げていた手を下ろした。

 

「わかったよ……。頑張ってね……アコちゃん……!」

 

「任せてよ!リンコさん!」

 

アコはお礼の代わりに、無邪気な笑顔を見せると再びリゲル団との戦いに戻った。

 

「よーし!かっこよく決めるよ!アブソル、辻斬り!」

 

「ブソールッ!」

 

アブソルはバリヤードの懐に飛び込む。しかし、その鎌のような角は不思議な壁に阻まれた。バリヤードのリフレクターだ。

 

「今よ、マジカルシャイン!」

 

「バリバリ~」

 

阻まれたタイミングで、眩い光がアブソルを包み、視界を奪う。その直後、バリヤードは気合玉を放った。

 

「アブソル!正面よりちょっと右にサイコカッターッ!」

 

「ブソール!」

 

前が上手く見えないという状況にアブソルは置かれている。しかし、それでもアブソルはアコの声を頼りに気合玉を見事に切り裂いた。

 

「この状況で……攻撃を防ぐなんて……」

 

アコとアブソルの華麗な連携に、思わずリンコは感嘆の声を漏らす。一方、攻撃を防がれた女幹部は露骨に舌打ちをした。

 

「今の攻撃を防がれるなんて……!こうなったらもう一回マジカルシャインよ!」

 

「バリバリ~」

 

バリヤードに強力な光が放たれようとする。が、いざ放とうとした時、アブソルの姿はどこにもなかった。

 

「二度も同じ手は通じないよ!アブソル!不意打ち!」

 

「ブソールッ!」

 

その瞬間、バリヤードは死角から手痛い一撃をもらった。そして、立て続けに辻斬りが、バリヤードの急所をとらえた。

 

「バリィ……」

 

流れるように鮮やかな一撃の前に、バリヤードはなすすべもない。バリヤードはそれに耐えることができず、あおむけに倒れた。

 

「やったー!勝った!アコたちの勝ちだよ!」

 

勝利決まると、部屋の中はアコとアブソルの歓声で一杯になった。そのすごさといったら、リンコの拍手がかき消されるほどだ。そして、間もなく女幹部と富豪は、ジュンサーさんに引き渡されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしよう……。凄い遅れちゃった……」

 

リゲル団との戦いを終えたリンコは、聖堕天使アコ姫と待ち合わせていた場所にお急ぎで戻った。しかし、時刻はもう夕方。完全な遅刻——いや、遅刻という言葉では表せないほどの失態だ。

 

「相手の人……怒っているだろうな……」

 

リンコは恐る恐る、図鑑を開き、メッセージを確認した。だが、彼女の心配とは裏腹に、聖堕天使アコ姫からのメッセージは意外なものであった。なんと、メッセージによれば彼女もまだ待ち合わせの場所についてないようだ。今、ようやく待ち合わせの場所につくらしい。とりあえずリンコは『待っているから、気をつけて来てね(‘ω’)ノ』とメッセージを送った。

 

「ごめん!いろいろとトラブルがあって!えっと……RinRinだよね……」

 

すると、メッセージを送って一分も立たないうちに、息を切らした声が後ろから聞こえてきた。

 

「うん……。えっと……、あなたが聖堕天使——。えっ……?」

 

リンコは、聖堕天使アコ姫の顔を見て言葉を失った。彼女の目の前にいるのは、ついさっきまでリゲル団相手に共闘していたアコであるのだ。

 

「えぇ!うそでしょ!RinRinって、リンコさんだったの!?」

 

驚いたのはアコも同じである。まさか、今まで仲良くしてきたネトゲのフレンドが、チャンピオンであっただなんて、夢にも思わなかったからだ。というか、それが普通である。そんな『普通』を見事にぶっ壊した出会いに、2人はしばらくの間黙り込んでしまった。しかし、間もなく、その静寂を破り、リンコが口を開いた。

 

「えっと……、RinRinの正体が私で……嫌だったかな……?だったら……無理して……、その……」

 

「凄いよ!リンコさん!」

 

「えっ……!?」

 

突如、リンコの言葉が言い終わるのを待たずにアコが抱きついてきた。その目は宝石のように輝いている。

 

「嫌なわけないよ!ポケモンバトルも強いし、ネトゲでも強いなんて超超ちょーカッコいいじゃん!前からリンコさんのファンだったけど、もっと好きになっちゃった!よーし、だいぶ遅くなっちゃったけど、どこかに行こうよ!リンコさん——じゃなくてリンリン!」

 

「えっ……!?リンリン……!?」

 

「うん!リンコさんの新しい呼び方!」

 

「あの……、ちょっと……。お……、落ち着いて……!アコちゃん……!」

 

はしゃぐアコに手を掴まれ、困惑するリンコはどこかへ引っ張られていく。しかし、リンコもまんざらではない。その表情は戸惑いながらもどこか楽しそうなものである。アコとリンコ、2人がこの先もずっと仲良くしていくだろうということは、想像に難くない。

 



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にゃ~んちゃんといっしょ

遅れてすみません!
今回は番外編第二話です。時系列的には彩ちゃんが殿堂入りしてしばらくたった頃です。
次回から本編に戻ります!


「かわいい……」

 

ある日、育て屋さんのそばを通っていたユキナはあるポケモンに釘付けになっていた。それはチョロネコ。そのチョロネコは育て屋の庭で、呑気に遊んでいる。ユキナは我を忘れ、その姿をかれこれ二時間は眺めていた。彼女の頭の中はチョロネコの妄想で一杯だ。妄想に浸るあまり、真横で声をかけてくる育て屋の青年に気が付かなかったほどである。

 

「はっ……!別にチョロネコを見ていたわけじゃないわ。ただ……、向こうの山を見て頂けよ!」

 

声を掛けられ続けて数分後、ようやくユキナは青年のことに気が付いた。しかし、気が付くや否や彼女はプイっとそっぽを向いてしまった。これには育て屋の青年も困り果てた。

 

「確か四天王のユキナさんですよね……?僕は別にバカにしに来たわけじゃないんです。あの……、もしよかったらあのチョロネコと遊んでくれませんか?」

 

育て屋の青年からまさかの言葉を掛けられた。彼女が今最も欲していた言葉といっても過言ではない。

 

「チョロネコと……?」

 

しかし、ユキナはあくまで表面上は無関心な表情を見せた。

 

「はい。あのチョロネコ、誰かに捨てられたみたいだったので保護したんです。とりあえず育て屋の庭で遊ばせているんですけど、気が合うポケモンがいないようでずっと一人で遊んでいるんですよ」

 

「なるほど、確かにあのチョロネコ、なんだか少し寂しそうね。わかったわ。そういうことなら私が遊び相手になってあげるわ」

 

ユキナは冷静にうなずいた。しかし、心の中がカーニバルであったことは言うまでもない。こうして、ユキナの癒しの日常が幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 次の日の朝、ユキナは早速育て屋の庭にやってきた。手にはチョロネコが喜びそうなおもちゃやポケモンフーズが沢山だ。

 

「誰もいないわね……」

 

彼女は周囲を見渡し、知っている人がいないか確認するとそっと、チョロネコに近づいた。

 

「にゃーんちゃん。ほら、おいで」

 

このセリフを言う、彼女の声は猫なで声だ。いつものクールなユキナからは、信じられない。どこからその声が出ているのかは、まったくもって不明である。

 

「にゃーんちゃん……、私と一緒に楽しいことしましょう」

 

 

彼女はその場にしゃがみ、手のひらにポケモンフーズを数個置いた。すると、チョロネコはゆっくりとユキナのもとに歩いてきた。そして、美味しそうにそのポケモンフーズを食べだした。

 

「はぁぁ……」

 

この姿を見ているだけで、ユキナはもう理性を保つことが怪しくなっている。

 

「ミャ~?」

 

だが、チョロネコはユキナを攻めてきた。あろうことか、満面の笑顔を見せてきたのである。この瞬間、ユキナの理性はどこかにはじけ飛んだ。ユキナは力なく地べたに座り込んだ。同時に、息をするのもままならない興奮が込み上げる。もう、それは他人に隠すことは不可能だ。ところが、それにもかかわらずチョロネコはさらに攻めてきた。なんと、今度はユキナの膝の上に乗りあがり、そのままお昼寝を始めたのだ。もはや、ユキナ専用の一撃必殺といっても過言ではないだろう。

 

「あ……あぅ……」

 

彼女は可愛さのあまり言葉を失う。結局、その日はチョロネコが起きるまでずっとその寝顔を見続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日もユキナは、育て屋の庭にやってきた。

 

「チョロちゃん、元気にしてたかしら?」

 

チョロちゃんとは、ユキナが昨晩考えたチョロネコのニックネームである。

 

「みゃーん」

 

ユキナの声がすると、チョロネコはユキナの方に駆け寄ってきた。

 

「待ってて、チョロちゃん。今、ご飯を用意するわ」

 

チョロネコに足をすりすりされながら、ユキナはバッグからポケモンフーズをとりだす。そして、至福のご飯の時間が始まった。彼女にとって、チョロネコの食事風景は言葉で表せないほどかわいいものだ。もう、彼女の顔は終始緩みっぱなしである。しかし、この夢のような時間は、背後からのひと声でぶち壊された。

 

「散歩していたら面白いもの発見!こんなところで何やってんですか~?」

 

特徴的な間が抜けた声。ハッと振り返ってみれば、そこには同じ四天王のモカがいた。

 

「こ、これは……!」

 

顔を真っ赤にし、あたふたするユキナ。必死であれこれ言い訳を考えるが中々出てこない。一方のモカは、ユキナの様子から何かを察したのか、彼女をからかうような表情でじっと見ていた。

 

「チョロネコ、可愛いですよね~」

 

「か、か、かわいい!?そ、そ、そ、そんなわけないでしょ!?私はただ……。そうよ!育て屋の人に頼まれて、仕方なくチョロちゃ——じゃなくてチョロネコと遊んでいるだけよ!間違ってもチョロネコがかわいいから遊んでいるのではないわよ!」

 

ユキナは、自分でも信じられない速さでこの長いセリフを言いきった。が、それもむなしくモカは『なるほど~、それなら仕方ないですよね~。頼まれたんなら仕方ないですよね~。それじゃあ後はごゆっくり~。あははは~』と、言い残し、何処かへ去っていった。

 

「何か……、嫌な予感がするわ……」

 

ユキナはチョロネコと遊びながら、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の嫌な予感は、見事的中した。次の日も彼女はチョロネコのところにやってきたのだが、この日はどうも背後からの視線を強く感じる日であった。というのも、その日はモカにカオル、アリサにリンコといった、ポケモンリーグの仲間たちが観客としてユキナの姿を見ているのだ。間違いなく、モカのせいだ。その証拠に、彼女の顔はいつもに増してにやけている。

 

「ちょっと……、あなた達……。私をじっと見ても面白い事なんて何もないわよ……。こんなことしている暇があったら、バトルの特訓でもしたらどうなの?この前、全員アヤに負けたばかりでしょ?」

 

ユキナは困ったような真面目なような不思議な顔で観客たちを睨みつける。しかし、ここでリンコが手痛い反撃をしてきた。

 

「それ……、ユキナさんにも言えることでは……」

 

「……」

 

この言葉にユキナは何も言い返せず、そっぽを向くしかなかった。

 

「みゃーん」

 

すると、そんな彼女の視界にチョロネコが飛び込んできた。それも、仰向けでおなかをユキナに見せているではないか。

 

(これは……、チョロちゃんの信頼の証……!かわいい……、撫でたい……。でも……)

 

ちらりと後ろを見ると、まだ観客たちはそこにいる。しかも、さっきよりも視線の圧が強くなっている気がする。でも、チョロネコをかわいがりたい欲望はどんどん増す。手が震求まらない。少しでも気を抜けば、その手はチョロネコのところに吸い寄せられるだろう。というか、もう吸い寄せられている。

 

「そんなに……、遊んでほしいんだったら仕方ないわね。こんなことに興味はないけど、遊んであげるわ」

 

結局ユキナは、棒読みでこのセリフを読み上げると、チョロネコと戯れだした。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日からユキナと一緒に、ポケモンリーグの仲間たちも一緒に育て屋に来て、チョロネコと遊ぶようになった。はじめのうちは複雑な表情だったユキナも、だんだん慣れてきたのか、最終的には人目も気にせずチョロネコと遊びようになっていた。彼女にとってまさに、夢のような時間だ。その仕草は見れば見るだけ、新しいかわいさが見つかり、彼女の心をわしづかみにする。もはやユキナはチョロネコの虜だ。

 

「チョロちゃ~ん」

 

「みゃー」

 

チョロネコと関わっている時の彼女の表情は穏やかだ。日頃、不愛想な彼女にしては珍しいことである。

 

 

 

 

 

 

 

日にちは進んだ。ユキナ達は雨の日も風の日も毎日欠かさずチョロネコのところに通い続けた。そして、気が付けばチョロネコと出会ってから10日がたとうとしていた。

 

「ばいばい、チョロちゃん」

 

その日の夕方、ユキナはチョロネコに別れを告げ、家に帰ろうとした。しかし、そんな彼女を引き留めるようにチョロネコは『みゃぁ~ん』と鳴く。同時に止まる、ユキナの足。彼女の中に眠っていたチョロネコへの思いが爆発したのだ。

 

「確かあなた……、誰かに捨てられたのよね……。よかったら、私のところに来ないかしら?」

 

「えっ……!?それってこのチョロネコをゲットするってことですか!?」

 

アリサの驚いた声が響く。

 

「そうよ。チョロちゃんと私なら、頂点も夢じゃないわ」

 

「それって……、このチョロネコをリーグ戦で使うってことですよね!?チョロネコは悪タイプですよ!毒タイプじゃないんですよ!」

 

アリサが再び大声をあげる。たしかに、毒タイプの使い手であるユキナが、悪タイプであるチョロネコを使うのは違和感があるだろう。が、ここでリンコが思わぬ助け舟を差し出してくれた。

 

「別に……、一匹だけタイプが違うのは問題ないと思いますよ……。私も専門はゴーストタイプですけど……、他のタイプのポケモンもよくリーグ戦で使いますし……。風の噂によれば……、遠い北の地方では……、炎タイプの使い手を名乗っておいて……、手持ちの半分以上が違うタイプのポケモンだっていう……四天王もいるみたいですよ……」

 

「それに、悪タイプであるチョロネコは、毒タイプの弱点であるエスパータイプに強い。私の対策をエスパータイプに頼るチャレンジャーに一泡吹かせられるわ」

 

リンコの言葉に背中を押され、ユキナは言葉を畳みかける。これにはアリサも黙るしかない。

 

「と、言うことで……。チョロちゃん、私と一緒に来ない?」

 

ユキナが言葉を掛けると、チョロネコは笑顔を見せる。それを見たユキナはモンスターボールをポケットから取り出した。

 

「それじゃぁ……。いきなさい、モンス——」

 

しかし、ボールを投げようとした瞬間、申し訳なさそうな顔をした育て屋の青年が彼女の前に現れた。なんでも、このチョロネコを捨てた人がここにやってきたというのだ。

 

「えっ……」

 

言葉を失うユキナ。と、彼女の目の前に短パン小僧が現れた。

 

「チョロネコ!ごめんよ!」

 

「みゃー!」

 

チョロネコは、短パン小僧の声がすると、彼の腕の中に飛び込んだ。話を聞けば、この短パン小僧はチョロネコとささいなことで喧嘩をしてしまい、勢いで捨ててしまったらしい。しかし、数日たち、自分の行いを反省した彼は、このチョロネコをずっと探していたそうだ。

 

「ありがとう!ユキナさん!チョロネコの面倒をずっと見てくれて!」

 

「え……。えぇ、今度は大切にするのよ……」

 

ユキナは、ありきたな言葉を彼にかける。そして、無邪気な短パン小僧とチョロネコを見送ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「チョロちゃん……」

 

チョロネコと別れた後、ユキナの魂はどこかへ行ってしまった。その様子はさながらヌケニン。いや、ヌケニンの方がまだ魂が残っているのではないだろうか。そんな無茶苦茶な仮説が成り立ちそうなほど、今のユキナは呆然としていた。

 

「その……、どんまいです……」

 

「ほら、元気出してくださいよ。きっともっとかわいいチョロネコが世界にはいますから!なんなら私の実家の近くにある、チョロネコがたくさん生息している場所教えてあげましょうか?」

 

「やだ……、チョロちゃんがいい……」

 

モカとアリサが慰めるも、ユキナはうなだれるだけだ、しかし、ここで思わぬことがリンコから告げられた。

 

「あの皆さん……、今言うべきではないかもしれませんが……、今図鑑に連絡が入りました……来週……、またポケモンリーグにチャレンジャーが来るみたいです……。チャレンジャーの名前は『ミサキ』。ウセイシティのジムリーダーのミサキさんが……来るみたいです……」

 

急な連絡。まさかのチャレンジャーに一同はにわかに驚く。が、ユキナはまだうつむいき、衝撃的な言葉を放った。

 

「私……、その日はいかないわ……。こんな状態では戦えない……」

 

ポケモンバトルにストイックな彼女らしからぬ、弱気な発言だ。すると、ここで今まで沈黙を貫いてきたカオルがついに動き出した。

 

「ユキナ、キミの気持ちは痛いほどわかるよ。だけど、どれほど互いに愛し合っても、別れはいつか訪れる。運命というのは時に、残酷なものだからね。そう、かの偉大なあの人もこういう言葉を残している。『恋ってのは、それはもう、ため息と涙でできたものですよ』と」

 

「どういうことなのよ……」

 

「つまり、そういうことさ。まぁ、この言葉の意味が分かってもわからなくても今、キミがすべきことは、自身が一番わかっているはずだ。いいかい、チョロネコが好きなのは凛々しくも勇猛果敢、そして優しいキミなんだ。いつまでも涙を流して、クヨクヨしているキミではないはずだよ」

 

カオルの言葉はやっぱりミュージカル風でどこか分かりにくい。しかし、それを聞いたユキナは魂を取り戻し、立ち上がった。

 

「そうよ、私は何をやっていたのかしら。チョロちゃんは泣いている私を見ても喜ばないわ。チョロちゃんと一緒にいられなくても、チョロちゃんを喜ばせることはできる。チョロちゃんが好きな私であるために、私は戦うわ。頂点に立つ、その日まで」

 

ユキナは復活した。こうして、別れという苦難を乗り越え、また強くなった彼女は再び頂点に向け歩みだしたのであった。

 

 




おまけ:ジムリーダーの設定集1

本文では尺とか労力の都合で書ききれなかった設定や本文ですでに出てきた設定を、ゲームの攻略本風にまとめてみました。初戦時の手持ちのレベルや技は省略します。連絡先を聴くときのセリフ内に出てくる主人公の名前はアヤで固定します。暇だったら自分の名前に置き換えれば、バンドリキャラに連絡先を聴いている気分に浸れるかも。
※だいぶ前にこんな感じのヤツ載せましたが、こっちが完全版です。昔のやつは消したので忘れてくれると嬉しいです。


マヤ
☆使用タイプ:岩
☆ジムがある街:ハナノシティ
☆キャッチコピー:笑う岩ポケオタク
☆貰えるバッジ:ボーンバッジ
☆初戦時の手持ち
・チゴラス
・イシズマイ
☆連絡先の聞き方
・ハナノ発掘所にいるマヤに月曜日の朝方、話しかける。
☆連絡を聴くときのセリフ
「あっ!アヤさん!見てください、この頭蓋の化石!シンオウだとよく発掘されるらしいんですけど、シンシューでは珍しい化石なんですよー!しかも、この化石——あっ、いけない。また話が長くなってしまうところでした。あー、でもこの化石のすばらしさを誰かに語りたい……。そうだ!アヤさん、自分と連絡先交換しません?ここにわざわざ来たってことは、アヤさんも少しは化石に興味を持ってくれたってことですよね!?よければジブンと太古のロマンについて語り合いませんか?」


リミ
☆使用タイプ:フェアリー
☆ジムがある街:キウシティ
☆キャッチコピー:とろけるチョココロネガール
☆もらえるバッジ:キュートバッジ
☆初戦時の手持ち
・ミミッキュ
・クチート
☆連絡先の聞き方
・キウシティにいるリミに木曜日の昼、話しかける。
☆連絡を聴くときのセリフ
「久しぶりです、アヤさん。えっと……、突然で申し訳ないんですけど……、私と連絡先交換してくれませんか?アヤさんが殿堂入りした後、私とお話ししたじゃないですか。その時、めっちゃ楽しかったんで、またお話ししたいなって思ったんです。あっ、もちろん無理にとは言わないです。アヤさんが嫌なら交換しなくてもいいんですが……、どうですか?」






カノン
☆使用タイプ:水
☆ジムがある街:ムラサメシティ
☆キャッチコピー:海好きのふわふわ系女子
☆貰えるバッジ:ジェリーフィッシュバッジ
☆初戦時の手持ち
・ポッタイシ
・メノクラゲ
・プルリル
☆連絡先の聞き方
・ムラサメ水族館の前にいるカノンに水曜日の朝方、話しかける。
☆連絡を聴くときのセリフ
「ふえぇ~!ど、どうしよう!水族館のイベントで、エキシビションマッチをやろうとしたのに、相手の人が体調不良で来れなくなっちゃったよ~!楽しみにしている人もいっぱいいるから中止にするわけにもいかないし……。早く代わりの人を捜さないと……。あっ、そこにいるのはアヤさん!ちょうどいいところにいた!えっと、突然で申し訳ないんだけど、私とポケモンバトルをしてくれない?理由は後で言うから!もう時間がないの!だから、お願い!」
※この後本気カノンちゃんと戦い、勝利すれば『お礼がしたい』といわれて、連絡先を交換できます。



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