オーバーロード ありのままのモモンガ (まがお)
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運営からの贈り物

 ナザリック地下大墳墓の玉座の間で、モモンガはユグドラシルが終わる時を一人で過ごしていた。最終日なのに誰かと思い出を語り合うこともできず、玉座に座りながら、思い出にふけっている。

 明日は4時起きで、終わったらすぐに寝なければと思っていると、プレゼントボックスに新規のアイテムが届いた。

 

 

「なになに、『嫉妬する者たちの顔面』ってなんじゃこりゃ?! 運営の嫌がらせか?! 嫉妬する者達の顔そのままって、見た目すら変わらないじゃないか! !」

 

 

 効果はソロで戦う時に全ステータスが50%アップし、敵が増えれば増えるほど強くなるという破格の性能だった。顔を隠せなくなるし、一度装備すれば外す事は出来ない呪いのような仕様のようだがそれでも強力な装備だろう。

 

 

「拾得条件は『嫉妬する者たちのマスク』を12個所持しながら一定時間パーティを組まずにプレイするか……」

 

 

 最後まで運営は頭がおかしいと思いながらも、自分には相応しいモノだと思い装備する。

 いつのまにか最後のカウントダウンが始まっており、目を閉じた。

 

 

(最後くらい、誰かと語り合いながら終わりたかったな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じてしばらくすると、ログアウトされる感覚がない事に気付き目を開けた。

 そこには獣人達のいる野外のフィールドだった。

 

 

「クソ運営め、終わりぐらいしっかり出来ないのか」

 

 

 終了時のバグで、どこかのフィールドにでも飛ばされたのだろう。コンソールを操作し、強制終了、GMコールを試そうとして画面表示が一切無くなっていることに気づき途方にくれる。

 

 

「完全に手詰まりじゃないか……」

 

 

 ボヤきながら辺りを見回すと、獣人系以外にも、ちらほらと人間の姿も見える。どうやら人間が獣人に襲われているようだ。

 ユグドラシルではPvPを推奨しており、戦闘自体に不思議なことはない。

 しかし、人間の顔が恐怖に引きつっていたのだ。

 

 

(表情があるだと? まさかこのタイミングでパッチ…… ユグドラシル2が始まったとか !! いや、それにしてはリアルすぎるが……)

 

 

 とりあえず話しかけて見るかと思ったら獣人達が襲ってきた。

 先程の戦いを見る限り弱すぎるのでプレイヤーじゃなくて、NPCか雑魚敵だろうと判断したモモンガは、最後くらい人助けもいいだろうと、獣人を一掃するつもりで魔法を放った。

 

 

「〈魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)負の爆裂(ネガティブ・バースト)〉」

 

 

 自身を中心に黒い波動が球状に広がり、周りの獣人を一匹残らず吹き飛ばした。

 

 

(やっぱり弱いな……っ?! まて、俺は今何をした? 自然に魔法を使えた?)

 

 

 当たり前のように魔法が使えたことに、訳がわからず焦るモモンガだったが、急に精神が落ち着き、再び周りを見渡し考える。

 今まで気づかなかったが風を感じる。さらには血の匂いがする…… 電脳法で嗅覚や味覚に対する再現は禁止されている。

 それ以前にユグドラシルではR18、下手すればR15程度のグロ表現すら禁止されていることを考えると、この状況は異常だ。

 

 

(ユグドラシルが現実になった、それとも異世界に飛ばされた? それにさっきの精神の安定は、アンデッドの種族特性なのか?これだけの死体を見ても、何も感じないのはそのせいか?)

 

 

「アンタ、どこの誰かは知らんが助かっーーっ?!  エルダーリッチ?! アンデッドだと⁈」

 

 

 声を掛けられ、振り向いたモモンガに、完全に戦闘態勢をとった人間がいた。

 

 

「ビーストマンどもが消えたと思ったら、今度はアンデッドか!!  だが、例えエルダーリッチといえど、このアダマンタイト級冒険者セラブレイトの敵ではない!!」

 

 

 周りより少しだけ良さげな武具をつけた男。

 モモンガからすればどれもゴミのようなレベルだが、男は剣を振りかぶってきた。

 

 

「くらえ!! 武技〈光輝剣〉!!」

 

 

 聞いたことも無い特殊技術(スキル)に驚いたモモンガは、動きを止めてしまい、相手の放った技が直撃する。

 

 

(武技か…… この世界特有の技なのだろうか? 名前からして聖属性かと思って焦ったが、〈上位物理無効化Ⅲ〉程度の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)も突破できないってことは、レベルは60以下だろうな。というか助けてやったのに、いきなり攻撃はないだろ……)

 

 

「あー、こちらはちょっと人助けをしようと思っただけで、争う意思は全く無いのだが……」

 

「あんな魔法を使うやつのことを、信用する訳ないだろう!!  どうやって防いだか分からんが、次こそは貴様を殺す!!」

 

 

 モモンガは内心ため息をつきたくなった。

 せっかく会話できそうな相手が見つかったのに、向こうは問答無用で殺そうとしてくる。

 たっちさんみたいな正義の味方に憧れがあり、ちょっとは感謝されるかと期待していたが、こういう行動は自分には向いていなかったんだろうと無理やり納得させる。

 向かってくるならしょうがないと、自身の得意とする死霊魔法を放った。

 

 

「〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉」

 

 

 腕を伸ばし、掌にある心臓を握り潰す様な仕草をするモモンガ。男は何ら抵抗する様子もなく崩れ落ちた。

 

 

(強化もしてない即死魔法に抵抗出来ないってことは、やっぱり見立て通りのレベルだったか…… 第9位階じゃなくて、もっと弱い魔法を試しても良かったかもな。――っ俺は何を考えている?! 自らの意思で人を殺したというのに、何の感情も湧かない。実験動物が死んだ程度の感覚だな…… ああ、俺は本当にアンデッドになってしまったのか……)

 

 

 人を殺したというのに、そのことを冷静に分析できる自分がいる。焦った感情は、アンデッドの種族特性で無理やり沈静化し、それが余計に人でなくなったことを自覚させた。

 

 

「『困っている人がいたら、助けるのは当たり前』か…… 俺には正義の味方は出来そうもないですよ、たっちさん」

 

 

 自らの恩人とも言える聖騎士の台詞を思い出し、一連の出来事から、そんな憧れの存在と遠いものになってしまったと思いながら、モモンガは〈飛行(フライ)〉の魔法を唱える。

 

 

(これから人を殺すのは極力控えよう…… 自分が自分でなくなってしまいそうだ。ここは知らない世界なんだからユグドラシルを始めた頃のように冒険に出るのも悪く無いよな!! 今度は悪のロールプレイじゃなくて、自分から積極的に誰かと関わっていくのもいいかもしれない。うんうん、これは楽しくなりそうだ!!)

 

 

 落ち込んだ気分を無理やり振り払い、自身を戒めたモモンガは、まだ見ぬ冒険と出会いに期待を膨らませながら、飛んでいくのだった。

 

 



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骨にコミュニケーションは難しい

 竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスと宰相は頭を抱えていた。

 

 

「セラブレイトのやつが死んでしまったそうじゃな……」

 

「はい、兵達も死体を確認しており、死亡は確定です」

 

 

 宰相は努めて冷静に答えるが、内心ではこの国にもう戦える兵が残っていない事に焦っていた。

 セラブレイトはアダマンタイト級冒険者であり、この国では一番の戦力といってよかった。

 また、セラブレイトは女王の子供体型に惹かれるロリコンで、財政の苦しいこの国にとっては、女王に謁見させるだけで安く使えるという最高の人材でもあった。

 

 

「今まで陛下には子供形態になって、子供用ドレスを着ていただきましたが、今となってはもう使い道も無いですね」

 

「なんじゃと?! ワシがどんな思いでこんなヒラヒラの服着て、アイツの相手をしてきたと思っとるんじゃ!! あのねちっこい視線は鳥肌もんじゃぞ!!」

 

「いいじゃないですか、ヒラヒラを着てねちっこい視線を我慢するだけで、命かけて戦ってくれるんですから。国民は物理的に食べられてるんですよ、それに比べればマシです」

 

 

 宰相は辛辣に言葉を返すが、ここで諦めるわけにもいかないので話を続ける。

 

 

「現状なぜかビーストマンの侵攻は止まっています。回ってきた情報によると、突如現れたアンデッドがビーストマンを見たこともない魔法で吹き飛ばし、それに恐怖したビーストマンが撤退していった様です」

 

「アンデッドに救われる事になるとはの……」

 

「おそらくそのアンデッドがセラブレイトを殺したんでしょうね、セラブレイトは一切の外傷なく死んでいたそうですから。ビーストマンにそんなことできる奴は居ないでしょう」

 

「そやつが原因か!! しかも外傷無しでセラブレイトを殺すって、どんな魔法使えばそうなるんじゃ……」

 

「今はいない化け物の事なんか、考える暇はないですよ。ビーストマン侵攻の猶予が出来たと思って、時間を有効活用するしかないですね」

 

 

 余裕の無い竜王国は、ビーストマンからの侵攻が止まっている間に他国への救援要請や、砦の修復などを急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国から出たモモンガは自身の持つ魔法や特殊技術(スキル)を試しながら、当てもなくさまよっていた。

 途中に人間の住む街などを見かける事もあったが、ユグドラシルの感覚が完全に抜けていなかったモモンガは盛大にやらかしてしまった。

 

 最初にあった人間のセラブレイトと戦闘になってしまったのは、魔法を使ったことが原因だと思い込んでいたのだ。アンデッドそのものは珍しく無いと思い、どうせ顔も隠せないからそのままでいいやと、完全に魔王としか言えないローブ姿のままだった。

 

 魔法を使おうが使うまいが、アンデッドはこの世界の人間にとって恐怖の象徴である。案の定、街に入ろうとした結果、大騒ぎになり、慌てて逃げ出したのだった。

 

 

「この世界でも異形種は敵なのか…… いや、アンデッドだけ? それなのに顔を隠せないって、詰んでないかこれ?」

 

 

 何をするにしてもまずは情報収集だ!! と、意気込んだ矢先の事だったので、それなりに落ち込んでいた。

 顔を隠してやり直そうにも顔を隠す装備を付けられない。間違いなく運営からのプレゼントのせいなのだが、あの装備を付けたのは自分である。

 それでも運営への恨み言は消えないが。

 

 

「おのれ運営…… ボッチになんの恨みがあってこんなモノを!! こんな事になるなら、付けるんじゃ無かったな……」

 

 

 新しい世界では、積極的に人と関わろうと思っていたモモンガにとっては、痛すぎるペナルティである。

 アンデッドが世間一般では、危険視されているという事だけを知ったモモンガは、今度は同じアンデッドに会いに行こうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッツェ平野。

 年中霧の立ち込める平野であり、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が戦争を行う数日間のみ、なぜか霧が晴れるという土地である。

 またアンデッドが多発する危険な場所であり、霧からアンデッド反応がする。

 ユグドラシルにもそんな場所はなく、モモンガにとっても興味深い場所だった。

 

 同じアンデッドなら話せるかもと思ったモモンガが、町から適当に進んでいた時、自身のアンデッドを探知する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)・不死の祝福でたまたま反応した場所だったが、結果は最悪だった。

 

 

「他のアンデッドって喋れないのか……」

 

 

 同族のアンデッドではあるが、全く意思疎通が取れなかったのである。

 出会ったアンデッドに話しかけてみても、同じアンデッドであるおかげで襲われはしないが、せいぜい呻き声をあげる程度でコミュニケーションをとるのは無理だった。

 実際のところ、全てのアンデッドが喋れないわけではなく、エルダーリッチなどの高い知性を持つアンデッドもいる。もし会えたところで、モモンガの望むような和気藹々とした会話ができるはずもないので、運が悪かったとも言い切れないが。

 

 

「せっかくの異世界なのにこのままでは誰とも会話ができない!!」

 

 

 自由に冒険しようと思ったのにアンデッドに人権はなく、現地の人と会話も儘ならないとは……… 元営業職として、多少なりとも初対面の人との会話に、自信を持っていたモモンガは少し落ち込む。

 

 新しい世界でもボッチ、そんな事は認められないと、少々ズレた思考に囚われたモモンガは、亜人種やモンスターなら会話が出来るやつもいるのではと、次なる目標を決める。

 今度はちゃんと当たりを付けて動いてみようと、周辺を探るアイテムを取り出すのだった。

 

 

 



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今度は森へ

 顔を隠す事が出来ないモモンガは、周りにバレないように不可視化の魔法を使いながら森を目指していた。

 森なら色んなモンスターとか亜人もいるだろうと、この辺りで一番近い森、通称トブの大森林を目標に動いていた。

 

 森を探す為に使った『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』のおかげで、カッツェ平野に鏡の前で変な踊りを繰り返す骸骨の目撃情報があがったが、モモンガは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森に到着し、早速コミュニケーションの取れそうな相手を求めて動き出した。

 しかし、モモンガが最初に遭遇したのは、東の巨人と呼ばれる亜人種のトロールだった事は、運が無かったとしか言いようがない。

 

 

「ナンダ、キサマ? 東の地を統べる王であるこの『グ』の支配下で何をしている?」

 

 部下を引き連れたトロールは、自らを圧倒的強者として疑わず、弱者を馬鹿にするような不遜な態度で接してきた。

 コイツとまともにコミュニケーションを取ろうという時点で選択ミスとしか言えないが、モモンガは気合いを入れていた。

 

 

(頑張れ鈴木悟!! あの地獄のリアルを生き抜いた社畜の営業技術の見せ所だ!!)

 

 

「はじめまして、私はモモンガとい――」

 

「アッハッハ、モモンガだと?スケルトンの名前にしては勇敢だが、このグ程ではない!! 臆病者の名前だな!!」

 

「……」

 

 

(なんだコイツ?! 挨拶に割り込むなんて、社会人として失格だぞ!! しかも何だよ名前で勇敢とか臆病とか?! 勇敢な名前がグってモブより酷い手抜きじゃないか?! コイツは愚なのか⁈)

 

 

 ネーミングセンスについては、かつての仲間たちから酷評を受けていたモモンガだったが、本人はそこまで自分のセンスはずれていないと思っている。そんなモモンガでも手抜きと思われるような名前だった。

 

 

「……ははは、その感覚は分かりませんが、少々お尋ねしたいことがありまして。この森に言葉を話せる亜人種やモンスターは他にいないでしょうか?」

 

 

 怒りたくなる物言いだが、アンデッドの種族特性の精神の沈静化が発動する程ではない。社会人として鍛えたスルースキルで適当に流す。

 せめて情報収集をしようと、他の生き物はいないのかと会話の続きを試みる。

 

 

「オマエのような骨に話すことなど何もないわ!! ちょうど何か齧りたかったトコだ、アタマからバリバリ喰ってやるぞ!!」

 

 

(お前は営業に来た人間を門前払いどころか喰うのか?! 上司は何を教育してるんだ⁈ あっそうかコイツがトップだった…… なんか部下にも期待出来そうにないな、襲ってくるみたいだし、殺すか)

 

 

 トロールに社会人マナーなど皆無に決まっているのだが、この世界に来てロクに会話もできず、ツッコミ不在のまま暴走気味のモモンガは気づかない。

 もしここで森の賢王などに先に会うことが出来ていれば、多少なりともこの世界の常識に気づけたのかもしれない。情報さえ手に入れていればもう少しマシな考えに、早々に矯正されていただろう。

 

 

「〈集団標的(マス・ターゲティング)(デス)〉」

 

 

 やる気のない抜けた声で唱えられた魔法は、東の巨人、部下のトロールやオーガをあっけなく殺した。

 トロールの驚異的な再生能力という見せ場も発揮させず、相手組織の社長と部下を殺害。

 モモンガのこの森に来て初となる、飛び込み営業は終わった。

 

 

「うん、自然を見て回ろう。植物には癒しの効果があるんだってブループラネットさんも言ってたし」

 

 

 モモンガは自身の営業能力が全く役に立たない事にショックを受けながら、自然を見て癒されようと歩き出すのだった。

 

 

「この世界はこんなにも綺麗で凄いのに、誰ともこの感動を共有できない…… 

――誰かと話したいな、もう一人でいるのは……」

 

 

 リアルでは決して拝むことの出来ない自然を見て感動し、先ほどのやり取りで疲れた心は確かに癒されていた。

 それでもモモンガの中には本当の望みが燻り、モヤモヤが完全に晴れることはなかった。

 

 

 



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ファーストコミュニケーション

 トブの大森林の近くの村、カルネ村に住む少女、ネム・エモットは人生最大の危機を迎えていた。両親や姉の言いつけを破り、森に入ってしまったことが始まりだった。

 本当は少ししたら、すぐ帰るつもりだった。途中珍しい薬草を見つけ、それをお土産にしようと集めている内に道に迷ってしまったのだ。

 

 村の方向もわからず彷徨い、挙句に転けて足を怪我してしまった。痛みと心細さでネムは泣き出してしまったが、それがより恐ろしいものを呼び寄せてしまう。

 大型の動物よりもさらに大きな足音が近づいてくる。

 オーガである。巨体の人型モンスターであり、ただの村人程度に勝てる相手ではない。ましてやネムの様な子供では抵抗すらできないだろう。

 

 

「コンナトコ、エサ、ハラヘッタ、タベル!!」

 

「っ!!」

 

 

 知性のあまり感じられないカタコトの言葉ではあるが、自分がこの後どうなるかは想像できる。

 振り下ろされる手を前に、ネムには縮こまることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガの手がネムに触れる寸前、オーガの上半身が吹き飛んだ。

 

 

「はぁぁ、そんな子供にまで手を出すとは…… あの時の対応は間違ってなかったな。やはりモンスターとの会話は不可能なのだろうか?」

 

 

 そこには見たこともない様な豪華な闇色のローブをまとった骸骨がいた。

 顎に手を当て考える仕草はまるで人間のようで、行動だけ見れば人間らしさを感じさせるが、肉も皮もない姿とはあまりにもチグハグだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会話が出来る相手を求めてトブの大森林へやって来たモモンガは、話の通じないモンスターを屠ったり、自然を眺めたりと散策を続けていた。

 自然を見て回るのも飽きてきた頃、子供の泣き声の様なものが聞こえ、正体が気になりその場まで近づいていった。

 

 そこにあったのは、今まさにオーガが子供を襲おうとしている姿だった。

 オーガが子供を襲おうとしているのを見たモモンガは、反射的に魔法を唱えていた。

 

 

「<破裂(エクスプロード)>」

 

 

 オーガを爆殺し、やはりモンスターと会話は無理だろうかと思いつつあったモモンガは、その場に座り込んでいる子供に声をかけた。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

「……」

 

 

 子供は怖がっている様で何も答えない。人間にとってはオーガもアンデッドも同じだよなぁと苦笑するモモンガ。

 せっかく会えた人間だし、子供を見捨てるのは寝覚めが悪いため、ほんの気まぐれにとそのまま助ける事にした。

 

 

「怪我をしている様だな、これを飲むといい」

 

 

 そう言ってアイテムボックスから取り出した、下級のポーションを渡そうとするが、怯えているのか受け取ろうとはしない。アイテムを取り出す動作すら、怯えられる要因の一つであると、モモンガは気が付かない。

 この世界の住人からすれば、アイテムボックスなんてものは無く、はたから見ると急に腕の先が消えて、ゴソゴソ動いているように見える。

 

 

「大丈夫だよ、ただのポーションだから」

 

 

 出来るだけ優しく言いながら、手っ取り早く治療しようと、中身を振りかける。すると、みるみる内に傷は塞がり、怪我ひとつ無い真っさらな肌に戻った。

 

 

「凄いっ、痛くない!!」

 

 

 怪我を治してもらったことで安心したのか、子供の顔から怯えの表情が消え、警戒心が薄れていく。

 

 

「それは良かった。所でどうしてこんなところに? ここは子供が来るには危ないと思うが……」

 

「――薬草を取ってたら、道に迷っちゃったの……」

 

 

 いわゆる迷子だったようだ。送ってあげたいところだが、周辺に詳しくもないし、骨の自分が一緒にいるのはマズイだろう。

 なので別の手段を試すことにした。

 

 

「〈妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)〉」

 

「わぁっ妖精さんだ!!」

 

 

 モモンガが魔法を唱えると、掌で包めそうなくらいの小さな妖精が現れる。

 

 

「さぁ、この妖精に付いていくといい。きっとお家まで案内してくれるよ」

 

「ありがとうございます!! 」

 

「気にすることはないさ、こんな骸骨と一緒にいることがバレたら大変だから、もう行きなさい」

 

「あのっ!! 私、ネム・エモットって言います。骸骨様のお名前は何ですか?」

 

「――名前か、こちらに来てから名前を聞かれたのは初めてだな…… モモンガ、私の名前はモモンガだ」

 

 

 表情などあるはずの無い骸骨だが、一瞬、笑っているように見えた。

 

 

「モモンガ様‼︎ありがとうございます!!」

 

 

 そう言って、妖精を追いかけるネムの背中を見ながら、異世界初のまともなコミュニケーションが取れた事に、モモンガは満足していた。

 

 

 



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骨が語る本音

 トブの大森林、様々なモンスターが住んでおり、奥に進めば昼間でも暗いと感じるほど木々が生い茂っている。

 モンスターのいる危険な場所だと知られているが、森に入ってすぐのところは、ある程度人の手が入っているせいか、そこまで危険な雰囲気ではない。

 危険な場所とただの森、その中間ぐらいの位置に、一軒の家が建っていた。

 こんな所に住む、もの好きな人間なんているはずもなく、住んでいるのは死の支配者(オーバーロード)であるモモンガである。

 

 あれから拠点を作ろうと考えたモモンガは、ほとんど人の来ないであろう森の中に、家を建てた。

 課金ガチャのハズレアイテムで出したこの家は、童話に出てきそうな赤い三角の屋根が付いた家である。元がユグドラシルのアイテムのため、人が暮らすには少々設備の足りない、ただのワンルームだ。

 

 家を建てたモモンガの元に、一人の少女が遊びに来ていた。

 少女の名前はネム・エモット、モモンガがトブの大森林に来た初日に助けた子供である。

 

 

「ネム、何度も言うようだが、こんなところに来て大丈夫なのか? それに私はアンデッドだぞ?」

 

「大丈夫です!! 道はちゃんと覚えました!! モンスターもこの辺にはいません。それにモモンガ様は優しいアンデッドだもん!!」

 

 

 モモンガに助けられた次の日、モモンガにお礼を言いにきたと、再び森でネムに出会った。

 外で話すのもアレだろうと、ちょうど作ろうと思っていた拠点をネムの目の前で建てた。それ以来、ネムは毎日遊びに来ている。

 

 最初に会えなかったらどうするつもりだったのか分からないが、あんなことがあってからも森に来る以上、中々度胸のある子なのだろうと軽く考えていた。

 実際あの日、家に帰ってから両親と姉に散々怒られているため、そのとおりである。

 

 ネムはモンスターはこの辺にはいないといっているが、正確には近寄ってこなくなったである。

 話しかけてきては、相手を爆殺していく骸骨に近寄ろうとするモンスターは、今やこの森で皆無である。ましてやそんなやつの家に来るモンスターもいるわけがない。

 

 

「モモンガ様!! 今日は何を見せてくれるんですか?」

 

「そうだなぁ――」

 

 

 色々言いつつも、人との関わりに飢えていたモモンガは、話し相手が出来てとても喜んでいた。自分が見せるものに凄い凄いと、ネムが子供らしい反応を示す事が嬉しいのか、ネムが来るたびに、自らのコレクションを色々と見せていた。

 ぶっちゃけ最近はあまり、森の散策はしていない。手持ちのアイテム整理と言いつつ、ネムに見せるアイテムを見繕う時間が多かった。

 

 

「これなんかどうだ? 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』、私が仲間達と共に作り上げた、最高の武器だよ」

 

 それは黄金の杖だった。七匹の蛇が一つに絡まるようなデザインで、それぞれが見たこともない様な七色の宝玉を咥えている。

 

 

「凄い! 凄い! 凄ーい!! モモンガ様のお友達も凄い!!」

 

「ふふっそうだろう? これを作るのには本当に苦労したからな。私たちのギルドの結晶だよ」

 

 モモンガはそう言いながら嬉しそうに、杖の能力やギルドについて語った。ネムにはよくわからない部分もあったが、それが凄いものだということは分かった。

 

 

「ところで、モモンガ様のお友達は何処にいるんですか? さっき言ってたギルドにいるんですか?」

 

「――仲間は、今は遠い所にいるんだ。みんなそれぞれの夢を叶えて、頑張っているはずだ。それにギルドはもう無いんだ…… もう無くなってしまった」

 

 仲間たちは遠い地で頑張っている、そう語るモモンガは、友人たちのことを誇らしげに言うが、寂しげだった。

 

 

「私がこうやって旅をしていたのも、もう何も残っていないからなんだ。それにギルドにいた仲間も時が経つにつれて減って、最後には私一人だった」

 

「……モモンガ様はギルドで何をしていたんですか?」

 

「ふふっ、ただ維持をしていただけだよ。モンスターを倒してお金を稼いで、侵入者を倒して、みんなが帰ってきた時にがっかりしないようにと。最後の時までずっと…… こうして、今のんびりしているのも、その反動かな。もう、戦うのには疲れてしまったのかもな、守らなきゃいけないという責任も、効率ばかり考えた狩りも、誰も戻ってこない場所を守るのも…… 本当はあの場所を残したかったんじゃない、ただ誰かと話せれば、その切っ掛けが欲しくて残していただけなのかもな」

 

 

 いつもの優しくも威厳のある姿は鳴りを潜め、まるで家族のいない子供のような、人恋しいだけの男性が見えた気がした。

 

 

「じゃあ、この辺は平和なので戦う必要もないです!! それにネムが毎日来るからモモンガ様も話せるし、寂しくないです!! 明日もまた色々見せてください!!」

 

 モモンガの沈む様子を吹き飛ばす様に、明るく言うネムの頭を撫でる。

 モモンガはありがとうと呟きながら、自身の本当に望んでいたことと向き合っていた。

 

 

 



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骨、目覚める

 カルネ村に住む少女、エンリ・エモットは妹のネムの手を引き走っていた。

 今日も朝早くに起きて、畑仕事をして、家族みんなでご飯を食べて、夜になったら眠る。そんないつもの一日は簡単に崩れ去った。

 

 帝国の騎士達が、急に村を襲って来たのだ。父と母は私達を逃がす時間を稼ぐ為、自ら騎士達に向かっていった。

 残された私は、妹だけでも逃さなければと、必死になって引っ張っていたが、森に着く前に追い付かれそうだ。

 

 

「ネムっ!! 頑張って、森まで行けば逃げ切れるから!!」

 

 嘘だ、森に行けば逃げ切れるわけじゃない。それでも少しでも長く生きて欲しいから、エンリは僅かな可能性に縋り、必死に走っていた。

 しかしネムの体力の方が先に尽きてしまった。足をもつらせ転けてしまった妹を、起き上がらせる間に、二人組の騎士達が追いついて来た。

 

 

「全く手こずらせやがって、随分と遠くまで逃げたもんだ」

 

「さっさと済ませて戻るぞ、こんな仕事に時間なんてかけたくないしな」

 

 

 二人の騎士はこちらを殺す事をまるで、何でもない作業のように言う。死ぬことが当たり前の様に振る舞う姿にエンリはキレた。

 

 

「舐めるなぁ!!」

 

 

 火事場の馬鹿力なのか、裂帛の気合いを持って放たれた拳は無防備に剣を振り上げた騎士の兜に突き刺さった。

 思わぬ一撃に騎士は倒れ、エンリは拳が潰れたのにも構わず、そのまま騎士に飛びつき抑えようとする。

 

 

「ネムっ!! 早く行きなさい!!」

 

 

 決死の覚悟で時間を稼ごうとしたが、所詮は女性の力、引き倒した方とは別の騎士によって、すぐに剥がされてしまう。

 

 

「このクソ女がぁぁ!!」

 

「っあぁ!!」

 

 

 エンリに殴られた方の騎士が、怒りに任せて、剣を振るう。闇雲に放たれた為か、エンリの背中を大きく切り裂いたが即死はしなかった。

 血を流し、動けなくなったエンリはネムを見つめて呟く。

 

 

「……ネム、逃げ……て」

 

 

 そんな姉の様子を見ながら、ネムは動くことも出来なかった。

 倒れた姉にトドメを刺そうと、騎士が剣を振りかぶる。

 

 

「助けて……モモンガ様!!」

 

 

 ネムにはどうする事も出来ず、最近助けてもらった優しいアンデッドの名前を呼んだ。その声に反応したのか、騎士達の動きが止まった。

 実際のところネムの声に止まったわけではない。ネムの後ろにある、ぽっかりと空いた闇を見て止まっていた。

 

 

 

 

 

「遅くなってごめん…… 俺も覚悟を決めたよ」

 

 

 そう言って闇から出て来たのは、黄金の杖を持ち、豪華な闇色のローブに包まれたアンデッド、死の支配者(オーバーロード)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは仮の拠点としている、トブの大森林にある家で昨日のことを考えていた。

 

 

(もう戦う必要は無い、か。確かにそうだな。俺にとって守るものも残ってないし、元の世界にだって未練はない。平和にここでのんびり暮らすのも悪くないかもしれない。)

 

 

 モモンガには既に家族はいない。父親は物心つく前にはいなかったし、母親も幼いころに亡くなっている。それ以来、ユグドラシルの仲間たちと会うまでは本当に一人で生きてきた。

 

 

「寂しくない、か。あんな小さい子にそう言われるとはな……」

 

 

 自分はそんなに人に飢えているように見えたのだろうか。

 ネムの言葉は確かに嬉しかった。しかし、それ故に恐怖してしまう。ギルドの仲間たちが一人、二人と去っていき、最後には一人だった。

 自分から離れて行ってしまうことを一度経験しただけに、モモンガは人との関係が崩れるのを極端に恐れていた。

 

 

(あの子は今は小さいから、そう言ってくれているが大きくなったら周りと同じように俺を恐怖するかもしれない。いや、それ以前にネムは人間だ、いずれ寿命がくれば確実に離れ離れになる…… 別れに耐えられるのか? それならいっそ今のうちに旅にでも出てしまった方が、あの子のためにも良いのではないだろうか? その方がきっとお互いが傷付かずに済むはず。いや、アンデッドとなってしまった今、その時に別れを悲しめる感情が残っているのだろうか? 本当に心までアンデッドになって――)

 

 

 グルグルとゴールの見えない思考の迷路にはまってしまい、精神の安定化が起こるまでモモンガは考え続けていた。

 

 

「っふう、どちらにせよネムとは話さないといけないな。にしても今日は来ないのかな? 何時もならとっくに来ている頃なんだが……」

 

 

 いや、でも昨日もまた明日来るって言ってたしなぁ、そんなことを呟きながら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を取り出す。

 これは保護者が参観日に見るようなものと、自分に言い訳しながらカルネ村の様子を見ようとする。

 

 

「何だこれは、祭りか? いや、村が襲われているのか?」

 

 

 人が騎士に襲われている光景を目にしたが、多少不快に感じる程度で、自身の人外となってしまった精神性に思わず舌打ちする。

 とりあえずネムを探そうと、さらに周囲を見渡していく。村のはずれで一人の女性に手を引かれて森の方に走るネムを見つけた。

 

 

(俺はどうするべきか…… 助けるのか? 確かにネムのことは気に入っているが、少し話した程度の人間のために命をかけられるのか? あれはどう見ても野盗ではない、きっと何処かの国が関わっている。厄介ごとだし見捨てる事が正解だろう、話し相手はまた探せばいい)

 

 

 そんな事を考えていると、女性が騎士の一人に殴りかかり、そのまま騎士を必死になって押さえ付けていた。間も無く仲間の騎士に引き剥がされ、そして斬られた。

 このままでは女性は死に、次は確実にネムがやられるだろう。

 

 

(今なら傷も浅く済む、別れる良いきっかけだ。これ以上仲良くなったら、別れるのがもっと辛くなる。ほんの数日話しただけじゃないか、きっとネムが殺されたって俺は――)

 

 

『ネムが毎日来るからモモンガ様も話せるし、寂しくないです!!』

 

 

(――いや、見捨てられない…… あの時向けてくれた笑顔は本当に眩しかった。この世界で初めて俺を受け入れてくれたのはあの子だ。たとえこの先、あの子に怖がられる日が来ても、あの時の笑顔は決して嘘なんかじゃない。先の別れが怖くて今動かなかったらきっと後悔する!! この世界で俺の本当に望んでいたものをくれたのはあの子だ!!)

 

 

 自分を叱責していると、かつての仲間の声が聞こえ、背中を押された気がした。

 

 

『イエス!! ロリータ!! ノータッチ!! 可愛いは正義ですよ、モモンガさん‼︎』

 

 

 黄金の鎧をつけ、弓を撃ち、縦横無尽に羽ばたく友人、バードマンの姿が記憶から蘇り、かつての日々を思い出す。

 

 

「ふふっ、たっちさん(正義の味方)は無理でも、ペロロンチーノさん(子供の味方)くらいになら、俺だってなれますよね」

 

 

 仲間たちとの思い出の詰まった最高の杖を手に取り、助けに向かうべく〈転移門(ゲート)〉を唱える。

 そして目の前に現れた闇に踏み出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってごめん…… 俺も覚悟を決めたよ」

 

 

 モモンガが〈転移門(ゲート)〉から出て来てから、ネム以外の人間は、あまりに現実離れした現象に動けなくなっていた。

 

 

「っモモンガ様ぁぁー!!」

 

 

 エンリは困惑していた。騎士に斬られて死ぬと思ったら、後ろの闇から死が形となって出てきた。

 しかも、妹がそれの名前? を呼びながら泣きついている。

 意味が分からない、何でそれも親しそうに妹の頭を撫でているのか、混乱して、声を掛けることすらできなかった。

 

 

「さて、騎士達よ。ここからは私が相手になろう。まさか、女子供には攻撃できて、アンデッドとは戦えないなどとは言うまいな?」

 

 

「ああ、ああぁぁっ!!」

 

 

 あまりの威圧感に騎士の一人が恐怖に駆られてか、特攻を仕掛けてきた。モモンガは避けるそぶりも見せず、淡々と魔法を唱えた。

 

 

「〈連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 

 モモンガの手から巨大な白い雷が、まるで竜の様に飛び出した。それは特攻せず控えていた騎士も諸共巻き込み、あたり一面を包むように白い光が迸る。

 あまりの光量に目が眩み、次に目を開けると、原型が残らないほど燃やし尽くされた鎧だけが残っていた。

 

 

「ネムの姉だな、斬られたようだからこれを飲むと良い。すぐに傷が治る」

 

 

 必要以上に強い魔法を使ってしまい、ネムの姉を巻き込まなかったことにモモンガは内心安堵していた。

 しかし、そんな様子は全く出さずに姉の方へ向かう。

 

 呆気に取られて動けなかった私に、モモンガと呼ばれた真っ白な骸骨のアンデッドは、赤い液体の入った瓶を差し出した。

 

 

「お姉ちゃん!! 早く飲んで、すぐ治るから!!」

 

 

 そんな怪しいものは普段なら絶対飲まない。なのになぜか妹に急かされ、慌てて飲んでしまった。

 

 

「えっ?! 傷が消えた!!」

 

 

 液体を飲んだ途端に、斬られた背中のキズは完全に消えた。身体を動かしても痛みも全くない。斬られたことが嘘のようだ。

 

 

「よし、傷も治ったし問題ないな」

 

「モモンガ様!! ネムとお姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます!!」

 

 

 目の前の骸骨に向かって、お礼を言う妹に戸惑いつつも、エンリも礼を言った。

 

 

「助けてくださって、ありがとうございます。えーと、モモンガ様?」

 

 

 そんな姉妹を前に気にする事はないと、軽く手を振っていたモモンガに、ネムが何かを思い出したかのように暗い声で喋り始めた。

 

 

「ごめんなさい、モモンガ様…… もう戦わなくてもいいって言ったのに――戦うのが嫌だって、ネム知ってるのに。今も助けてもらったばかりだけど、お願いします!! お父さんとお母さんを、村のみんなを助けてください!!」

 

 

 妹はこのアンデッドの事情を何か知っているようだった。それでも願わずにはいられないのだろう。そんな妹の懇願に姉も続いた。

 

「お願いします!! 事情は分かりませんが、貴方様にとって辛い事をお願いするようですが、他に頼れる人もいないんです!! 助けてください!!」

 

 

「任せろ、さぁ村を助けに行こう。今の私は子供の味方だからな」

 

 

 当たり前のように頷き、笑う。

 死の具現とも思える程のアンデッドなのに、その姿にはどこか晴れ晴れとしたものを感じた。

 

 

 



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モモンガ無双

 カルネ村を襲撃していた騎士達は、突如として現れた戦士に蹂躙されていた。

 所々に金の意匠が施された漆黒のフルプレートに、漆黒の盾、同じく漆黒のグレートソード。並みの人間なら、鎧の重さと合わさり、動く事も出来ないだろう。

 大剣を片手で軽々と振り回し、次々と騎士達を両断していく。

 だが、一番異様なのはその戦士の顔だった。全身を覆う鎧とは真逆で、頭には何の装備も付けていない。

 そして、その顔は肉も皮も付いてない、真っ白な骸骨だった。

 

 スレイン法国の騎士、ロンデス・ディ・グランプはどうしてこんな化け物がここに居るんだと、騎士達に必死に指示を飛ばしながらも、怒鳴りたい気分だった。

 この任務はリ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフを暗殺するためのものであり、帝国の騎士に扮して、辺境の村々を襲い、ガゼフを誘い出す。ただそれだけのはずだった。

 これまでも既に数カ所の村を襲っており、ここカルネ村が最後の予定だったのだが、戦士長ではなく、とんでもないものが釣れてしまった。

 あちらの攻撃は全てが一撃必殺、鎧ごと両断されてしまう。引き換えこちらの攻撃は盾に阻まれ、相手に当たらない。稀にこちらの攻撃が届いても、漆黒のフルプレートには傷一つ付けることが出来なかった。

 

 

「さて、残っているのはお前一人のようだな」

 

 

 周りに立っている仲間はもういない。今頃数名の騎士は逃走して本国か、後詰の集団に情報を伝えているだろう。振り下ろされる剣を見ながら、自分の仕事は終わったとロンデスは目を閉じた。

 

 

「村の皆さん、アンデッドの私が言っても信用出来ないでしょうが、騎士達は全て制圧したのでもう安全です。ポーションを渡すので、怪我人に使ってください」

 

「モモンガ様は悪い人じゃないよ!! ネム達を助けてくれたもん!!」

 

 

 そもそも人ですらない。怖いことには変わらないが、変なことを言って気が変わっても困る。取り敢えず今は刺激しないでおこうと、村人達は不気味な赤いポーションを受け取る。

 これは使っても大丈夫なのだろうかと、悩んだが、ネムが躊躇なくかけていき怪我人の治療を始めた。

 

 

 

 村人達が少し落ち着きを取り戻した頃、村長と思われる人物がモモンガに話しかけてきた。村人達から見て、このアンデッドは謎だらけだ。

 村が帝国の騎士達に襲われたと思ったら、今度は村に住む姉妹を抱えた、鎧姿のアンデッドがこちらに向かって疾走してきたのだ。

 抱えていた姉妹を少し離れたところに降ろすと、瞬く間に騎士達を殲滅した。挙句に高価なポーションまで振る舞ってくれた。

 次は私たちの番だと、襲ってくる方がしっくり来ただろう。

 

 

「生者を憎むはずのアンデッドがなぜ、我々を助けてくれたのですか?」

 

「……酷く自分勝手な理由ですよ、別に義憤に駆られた訳じゃありません。私は見ての通りアンデッドなんですが、少々変わり者でして。誰かと話がしたかったんですが、仲間を探そうにも、話しかけた存在は全て上手くいかなかったんですよ…… 人間、亜人、モンスター、アンデッド――」

 

 

 過去の失敗を思い出しているのか、目の前のアンデッドは遠い目をしていた気がする。

 

 

「――そんな中、私に笑いかけてくれたんですよあの子は。それがとても眩しくて、嬉しかった…… だからですかね。結局のところせっかくの話し相手がいなくなるのが嫌だった、それだけです」

 

 

(ふー、所々誤魔化してるけど、村長の雰囲気的にだいぶ警戒が薄れてきたな。魔法詠唱者(マジックキャスター)の格好は如何にも魔王だし、助けに来たって言っても今以上に信じてもらえなかっただろうな。そうなると思って戦士の格好をしたけど、正解だったみたいだ。よく考えたらこの世界の魔法がどの程度か分からないから、自分の使う魔法は注目を集めすぎてしまうかもしれないし……)

 

 

 ネムとエンリを連れて村を助けに行く際、顔を隠せないモモンガは悩んだ挙句、少しでも印象を良くしようと〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉を使い、戦士の格好で助けに行くという選択をした。

 しかし、敵の騎士を鎧ごと真っ二つにするという、大立ち回りをしていまったため、効果があったかは微妙である。

 

 

 村の中央、亡くなった村人を並べているところに、ネムとエンリの姿が見えた。遺体に縋り付いて泣いていると言うことは両親だろうか。

 結局、全ての村人を救うことは出来なかった。いや、本当は今からでも救う手はある。 蘇生アイテムなど腐る程持っているが、この世界の事をよく知らない今、使うのは危険だろう。ここに来て情報をちゃんと集めなかった事を後悔した。話すことにこだわらなければ、顔を隠せなくても、情報を集めるだけならいくらでもやりようがあったはずだった。

 

 

「村長っ!! 遠くから馬に乗った集団がやって来ます!!」

 

 

 焦ったように叫ぶ村人の声を聞いて、厄介ごとはまだまだ続きそうだと、モモンガは溜息をつくのだった。

 

 

 



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遠隔視の鏡は必需品

 ガゼフ・ストロノーフは部下と共に馬を走らせ、辺境の村を救うべく行動していた。

 村々が襲われていると聞き、王は決断を迫られた。出来るなら万全の状態で向かいたかったが、貴族の横槍が入り、国宝の装備は持ち出せず、出撃が許可されたのも自身と部下を合わせて50名程である。

 

 どう考えても罠であり、このままでは死にに行くようなものだが、忠義に厚いガゼフは王の命でもあるため、無辜の民を救うべく必死になっていた。途中の村に僅かに残った生き残りがいた。

 それらを保護するため、人員を割き、部隊の人数は少しずつ減っていった。今では20人程しかいない。

 

 最後の村であるカルネ村に辿り着いた時、人が襲われている様な喧騒は聞こえない。どうにか間に合ったようだと安堵しながらも声を張り上げる。

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ!! 王の御命令により、近隣を荒らす帝国の騎士から、村々を救うために参った」

 

 

 

 

 

 

 村長の家に案内され、話を聞いた時、間に合ったと安堵した自分を殴りたくなった。この村は既に襲撃された後だったのだ。

 その割にこの村の被害が少なかったのは、旅の戦士が偶々現れて、騎士達を全て倒してしまったそうだ。

 自分はただの通りすがりだからと、そのまま去っていったという。

 

 

「なんと素晴らしい御仁なのだ、お一人で帝国の騎士達を倒す腕といい、是非とも会ってお礼がしたいものだ……」

 

 

 感嘆の声を上げるガゼフとは裏腹に、村長はその時の光景を思い出していたのか、なんとも言えない顔をしていた。殺された死体の様子を見る限り、どれも鎧ごと真っ二つにされている。

 そんな光景を見た村人からすれば、救われたといえ恐怖する姿でもあったのだろう。

 

 

「――あの、戦士長様。今、この村には働き手となる若い人手が足りません…… 税の免除など、国からの補助は頂けるのでしょうか?」

 

 

 弱々しく、縋るように喋る村長に、何も出来ない自分を責めながら、徴兵は無くなるだろうが、税は例年通りだろうと伝える。

 

 

「そんなっ!! このままでは、村は冬を越すことすら――」

 

「っ隊長!! 周囲に人影が見えます!! こちらを包囲するような動きです!!」

 

 

 息を切らせた部下が、部屋に入ると同時に伝えた言葉に、即座に意識を切り替える。

 

 

「奴らの狙いは我々だ!! 包囲網が完成する前に、一点突破で敵の陣形を破る!! すぐに出撃の準備!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬に乗った集団がこちらに来ると知らされてから、モモンガはすぐに村長に口裏合わせをお願いし、適当な家の中に隠れていた。

 

 

「ユグドラシルじゃ殆ど機会も無くて使えなかったけど、こっちでは便利だなぁ」

 

 

 もはや便利グッズ扱いの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使い、馬に乗ってきた騎士達の様子を伺う。声は聞こえないが、村長の対応からして敵では無いのだろう。

 助けも来たようだし、広場にいる集団に見つかる前にさっさと退散しようとしたモモンガだったが、扉の前でネムに捕まってしまう。

 

 

「モモンガ様…… どこかに行っちゃうんですか?」

 

「助けも来たようだし、もう大丈夫だろう。それに私が見つかったらこの村に迷惑をかけてしまうしな」

 

 

 モモンガの言う事は至極当然の事だったが、行かないで欲しいと、ネムの視線が訴えていた。このまま無視して帰るのもなぁと考えていると、姉のエンリが駆け込んで来た。

 

 

「ネムっ!! 村にまた別の集団がやって来てる!! 戦士長様達が、自分達が引き付ける間に逃げなさいって!!」

 

 

 どうやらまた、厄介ごとのようである。

 とりあえず敵戦力の情報を集めようと、再び遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使う。村から少し離れた草原に、天使を引き連れた、魔法詠唱者(マジックキャスター)と思しき集団が見える。

 そんな敵地に真っ直ぐ突っ込んでいく、戦士長達の姿が見えた。

 

 

(……あれは、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)か? 確か第3位階の魔法で召喚出来るモンスターだが……)

 

 

 弱過ぎる。モモンガからすれば第3位階で召喚出来るモンスター、特殊な能力も無いやつなど、壁にすらならないという評価である。

 

 そんなモンスターを主力にしているのだとしたら、せいぜいレベル20程度かと、強敵では無さそうなことに安堵する。

 モモンガからすれば、どんぐりの背比べだが、この世界では魔法よりも戦士の方が技術として進んでいるのでは無いかと考えた。村にマジックアイテムが無いのも、その推測を後押しした。

 

 モモンガは盛大に勘違いをしているが、この世界でレベル20とは強者に分類出来る。

 最初に会ったセラブレイトや、東の巨人などはこの世界の最高峰と言えるクラスなのだ。それを一般的だと思ったため、ガゼフ達が負ける可能性は低いと見ていた。

 

 

「ふむ、とりあえず大丈夫だとは思うが、念のため、避難はしといた方がいいだろう」

 

 

 武技や、この世界特有の切り札など、万が一が起きた時のため、ネム達に避難を促す。

 

 

「……モモンガ様は?」

 

「私はもう少しここで様子をみるよ。いざとなったら魔法で逃げるさ。――そうそう、言い忘れていたけど、私が魔法詠唱者(マジックキャスター)だと言うのは、秘密にしといてくれないか?」

 

 

 絶対喋りませんと、了承した姉妹を見送り、再び戦場の様子を観察に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場ではガゼフが咆哮をあげながら、武技を連続発動し、天使達を倒していた。

 しかし、部下達は天使を倒し切ることが出来ずに苦戦しているようだ。

 

 

(あれ? 戦士長達が思ったより弱い? これ、負けそうじゃないか?)

 

 

 自らの予想は外れ、戦士の技術が魔法より進んでいたわけでは無いと知る。

 このままでは、戦士長達は敗走し、あの集団は村にまで来る可能性がある。

 

 モモンガはこの戦いに介入する事を決意し、戦場に向かって走り出した。

 

 

 



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骨のロールプレイ

 もう何度武技を発動させたのだろう。間違いなく一日での連続発動回数の新記録だなと、ガゼフは苦笑する。

 満身創痍であり、部下も皆倒れている。いくら天使達を倒しても、本隊には届かず、敵の魔法詠唱者(マジックキャスター)達を倒すには至らなかった。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフよ、もう諦めて膝をつけ。せめてもの慈悲に、苦痛なく殺してやる」

 

 

 スレイン法国の特殊部隊、六色聖典。その中の一つ、陽光聖典の隊長、ニグン・グリッド・ルーインはそう告げる。

 陽光聖典は殲滅戦のエキスパートであり、この状況から逃げ出すことは万に一つの可能性もなかった。

 

 

「それは出来ない相談だ。このまま貴様達を通せば、また村を襲うのだろう?」

 

「愚かな男だ、我々人類は団結しなければならないと言うのに…… あんな村を見捨ててでも、貴様が生き残ることの方がよほど価値があっただろう」

 

 

 ニグンはガゼフが王国の戦士長である事を、心から残念に思った。

 しかし、もはや王国は残しておけない。王国は腐敗しすぎたのだ。王国の力を削ぎ、一刻も早く帝国に吸収させなければ、人類は纏まることが出来ない。

 

 絶対絶命の中、王への忠義と民を救いたい思いから立ち上がり、ガゼフは叫ぶ。

 

 

「私はこの国を守る、王国戦士長!! 貴様らの様な国を汚すものに、負け――」

 

「――ニグン隊長っ!! 村の方角から何か接近して来ます!!」

 

 

 ガゼフの最期の言葉を遮ったモノに不快感を感じながら、ニグンはそれを確認しようとする。

 速い、かなりの速度で迫っている様だ。砂煙を巻き上げているせいで、鮮明な姿は分からないが、黒い何かが走ってきている。

 

 ふと、ニグンは囮部隊の生き残りの話を思い出す。大柄で、黒い盾と剣を持ったアンデッドが村にいたと…… 仲間が真っ二つにされたと報告があった。

 余りにも怯えていたため、何か白い兜を付けた戦士と、骸骨の顔を間違えたのだろうと思っていた。

 

 

「黒い盾に剣…… 巨体…… 鎧ごと両断する程の力…… っまさか?! 伝説のアンデッド、死の騎士(デス・ナイト)か?!」

 

 

 

 

 

 

 モモンガは短距離走の選手の如く走っていた。鎧を付けた者の走り方としては正しくないかも知れないが、自分には関係ない。

 情報が洩れるのを防ぐために、転移門(ゲート)などはあえて使わず、戦士装備のまま全力疾走で突っ込んでいった。

 

 

「っ天使達を突撃させろ!!」

 

 

 ニグンはすぐさま指示を飛ばすが、アンデッドは止まらない。武器を振るうこともなく突き進む。トラックに撥ねられるが如く、走る身体にぶつかっただけで、天使たちは光の粒子となって消えていく。

 

 この強さ、間違いない、死の騎士(デス・ナイト)だ。ニグンは確信した。

 

 

「おのれっ王国め!! 腐敗しただけではなく、死の騎士(デス・ナイト)まで生み出しおって!! 怯むなぁ!! 天使達を順番に突撃させろ。こちらも魔法を放ち、波状攻撃だ。天使がやられたら召喚を繰り返せ!!」

 

「一体、なんだ……アレは?」

 

 

 ガゼフは突如として現れたアンデッドのおかげで命拾いをした。しかし、危機は去っていないと直ぐにでも動けるように体勢を整える。

 

 戦場に辿り着き、天使達を適当に倒しているモモンガは首を傾げる。

 

 

(味方とは認識されないと思ってたけど、死の騎士(デス・ナイト)ってなんだよ?! 全然似てないぞ!!)

 

 

 適当に剣を振り回し、天使達を屠っていく。途中、もしかしてコイツら死の騎士(デス・ナイト)見たことないんじゃと、気付いたモモンガは情報を隠蔽するためと言い訳しつつ、悪ノリを始める。

 

 

「オオオオォォッアアァァッーーー!!」

 

 

 迫真の死の騎士(デス・ナイト)ロールである。

 途中で殺した敵の死体を、特殊技術(スキル)でさりげなくゾンビに変える演出も忘れない。

 

「っくそ!! 生き残りたいものは時間を稼げ!! 最高位天使を召喚する‼︎」

 

 

 そう言ってニグンは懐から魔封じの水晶を取り出し、掲げる。

 

 それを見たモモンガは自身の認識が甘かったことに急激に焦る。

 

 

(魔封じの水晶だと?! ユグドラシルの魔法だけじゃなく、アイテムまであったのか!! ってか死の騎士(デス・ナイト)だと思ってるやつに最高位天使とかオーバーキルにも程があるだろ!!)

 

 

「さあ、最高位天使の威光に平伏すがいい!! 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!」

 

 

 現れた天使のあまりの神々しさに、陽光聖典の隊員と、既に空気となっていたガゼフは感嘆する。

 

 熾天使(セラフ)クラスが来ると思っていたモモンガは拍子抜けである。

 

 

「さあ、その力でやつを滅せよ!! 人が決して届かぬ領域の第7位階魔法、聖なる極撃(ホーリー・スマイト)を喰らうがいい!!」

 

 

 放たれた魔法により、アンデッドが光に包まれ、勝利を確信するニグン。

 そんな中、ちょっとチクチクするなぁと、この世界に来て初の痛みに少し感動しつつ予想よりダメージが少ない事を疑問に思う。

 そろそろ戦いを終わらせようと思ったモモンガは、この後どうするべきか考える。

 

 

(とりあえず適当に天使を倒して、その後やられたフリをして逃げよう)

 

 

 光が収まる頃、小声で完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)という、ユグドラシルでは完全にネタ扱いの魔法を唱える。

 レベル100の前衛職に近いステータスになったモモンガは、剣の練習とばかりに滅多切りにした。

 途中で自分の攻性防壁に反応があったが、情報系魔法は完全に防げた様だ。覗かれた様子はないので無視していた。

 

 

 魔神をも屠る天使が破れたことで、ニグンを含む陽光聖典の心は折れていた。相手の戦意がなくなった頃を見計らい、戦士化の魔法を解除する。ガゼフに伝言(メッセージ)を使用し八百長を持ちかける。

 

 

『ガゼフ・ストロノーフよ、声は出さずに聞いてくれ。今からお前に突撃するから、剣を振え。私はやられたフリをして帰るから、お前たちもその後で帰るといい』

 

 

 明らかにガゼフは狼狽えていたが、そんな事は知らんとばかりに突撃する。

 あまりにも遅い剣に、演技がバレたらどうするんだと思ったが、続行するしかない。剣が当たったフリをして自ら倒れ、不可視化の魔法を発動する。

 彼らからすれば、まるで消滅したかの様に見えただろう。人は自分にとって都合が良いように考えるものだし、たぶんバレないだろうと思っておく。

 

 

 

 

 

 陽光聖典の連中が撤退し、ガゼフの部下は生き残れた事に喜びの声をあげる。

 そんな部下を尻目にガゼフは遠くを見ながら呟く……

 

 

「ありがとう、名も知れぬアンデッドの御仁よ。この恩は忘れない。もし、私に出来ることがあれば、きっと力になろう」

 

 

 再び会うことが出来たら、ちゃんとお礼を言おう。そんな事を考えながら、部下と共に、一度村に戻ろうと号令をかけようとする。

 

 

『言ったな?言質はとったぞ』

 

 

 自身の近くから、これは儲けたと言わんばかりの嬉しそうな声が聞こえた。

 

 自分は何か早まったかも知れない…… ガゼフは遠くない未来に起こるであろう、問題事を思ってため息をついた。

 

 

 



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骨の閃き

 カルネ村は一日でも早い復興を目指して、今日も朝早くから村人達が働いていた。

 襲撃してきた帝国の騎士達の装備を、ガゼフ達に買い取ってもらう事で、多少の補填にはなった。

 しかし、壊滅的とは言わないまでも、買い換えなくてはいけない物が増えた今、それだけでは冬を越す事はできない。

 

「……はぁ、この先どうしよう」

 

 両親を失った少女、エンリ・エモットはどうやって冬を越そうか、頭を悩ませていた。あれから妹のネムは我儘を言わず、手のかからない子になった。

 ネムが無理をしている事は分かっていた。しかし、両親の残した畑を多少は縮小させても、維持していくのが手一杯で、構ってあげることが出来なかった。

 

 そんな中、村に幼馴染の薬師、ンフィーレアが4人組の冒険者を連れて、訪ねて来た。

 村で起こった事を話すが、ポーションについては言っていない、問題になるかもしれないと言われていたからだ。

 エンリはチャンスはコレしかないと判断し、薬草採取に自分も連れて行ってもらえるようにお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林にある一軒の家、そこでは一人の子供が骸骨に相談していた。

 

 

「どうすればいいのかな、ネムは子供だから、お姉ちゃんのこと、殆ど手伝えないの……」

 

「うーん、私が手伝えればいいんだが、この顔だしなぁ」

 

 

 マジックアイテムを貸すことも考えたが、すぐには出来なかった。

 モモンガは自分の持つアイテムの価値観が、大きくズレている事に気付いたのだ。

 自身の持つ最も価値の低いポーションですら、一般的にはありえない価値と効果を持つものだったのだ。

 他のマジックアイテムなど、おいそれと渡せば、将来的にこの村の不利益になるかもしれない。

 

 二人で悩んでいると、珍しいことにドアをノックする音がした。

 ネム以外は殆ど誰も来ないので、消去法でエンリが来たのかと、ドアを開けようとした。

 その時、複数人の声が聞こえ、慌てて不可視化の魔法で隠れる。

 

 

(そういえば、魔法詠唱者(マジックキャスター)である事は口止めしてたけど、アンデッドの事は何も言ってなかったな……)

 

 

 エンリだってその辺の事情を最初は考えていた。しかし、あまりにも妹が頻繁に会いにいくので慣れてしまい、言ってしまえばうっかり忘れていたのだ。

 

 

「こんにちはー。 モモンガ様、いらっしゃいますかー?」

 

 

 幸い入って来たのはエンリだけだったが、他の人も自由に入れていいとだけ伝え、ネムに対応を任せてそのまま隠れることにした。

 

 エンリの他に来た4人組は冒険者らしく、その隣の男はンフィーレアという薬師だそうだ。どうやら、森に薬草を取りに行った帰りで、休憩がてら会いに来たようだ。

 

(全てのマジックアイテムが使用可能、魔法の習得速度が早まる、か。この世界にはまだまだ未知が溢れているな。というか生まれながらの異能(タレント)はなんでもアリなのか? ンフィーレアのが凄すぎる気がするが……)

 

 盗み聞きのような形にはなったが、偶然聞くことの出来た話に、警戒心を高める。レベル100の自分にもしかして敵はいないんじゃと、最近緩みっぱなしだった気分を引き締める。

 

 

「にしても、ここには森の賢王って魔獣がいるんだろ? あーあー、そんな魔獣に乗って街を歩けばナンパも上手くいくと思わないか?」

 

「ルクルット、そんな魔獣を登録してる冒険者がいるわけ無いだろ」

 

「冒険者が登録出来る魔獣は、制御さえ出来れば制限は無いので、可能性はゼロではないのである」

 

「ふふっ、ペテルの言うことも最もですけど、ダインの言う通り不可能では無いのですから浪漫はありますね」

 

 

 

 彼らの話を聞き、モモンガはある事を閃いた。

 

 彼らが帰った後、再び姉を手助けする方法を考えるネムに、自信満々に言い放つ。

 

 

「ネムよ、出稼ぎに行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合、普段は冒険者や依頼人が集い、騒がしい場所だが、今日は異様な空気に包まれていた。

 

 冒険者組合で働く受付嬢は、荒くれ者達の対応には慣れたものだが、今日だけは悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたかった。

 

 

「冒険者になりに来ましたー!!」

 

 

 肩車をされたまま、元気よく喋る女の子。

 組合のルール上は、子供が冒険者になる事も出来なくはない。英雄を夢見た子供が組合に来ることも、稀にだがある。普段なら、子供には危ないからと言って諌めるところだが、今回はそうはいかなかった。

 

 女の子を肩車しているのは、一見、漆黒のフルプレートを纏ったガタイの良い戦士だ。

 しかし、顔面はむき出しの骨である。誰がどう見たってアンデッドだ。

 受付嬢の困惑する様子に、このままでは話しが進まないと思ったのか、骸骨が喋り出した。

 

 

「驚かせてしまったようで、すまない。私はこの子に使役されているアンデッドだ。冒険者は魔獣登録というものが出来るのだろう? 冒険者登録と一緒に済ませて欲しいのだが――」

 

 

 

 

 無事に登録を済ませたモモンガ達は、作戦が上手くいったと喜んでいた。

 

 

 自身のアイテムを村で使えないのなら、現地通貨を稼げばいい。一人で街に入れないなら、冒険者の魔獣として登録してしまえばいい。

 ネムの様な子供が、アンデッドを使役している事も生まれながらの異能(タレント)だと言ってしまえば何とかなった。

 

 

 

 

 

 街にはどうやって入ったのかだと? ガゼフ・ストロノーフに話は通っている、でゴリ押しした。

 

 

 

 

 ちなみに、カルネ村に戻ってから、エンリにしこたま叱られた。

 

 自分は冒険が出来て、ネムはお金を稼いで、姉の手助けが出来る。

 一石二鳥の策だったのに……解せぬ。

 

 

 



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営業マンは伊達じゃない

 トブの大森林にある一軒の家。ネムにとって、もはや第二の実家のように寛げる場所である。

 そんな場所に今、張り詰めた空気が流れていた。

 

 自身の姉と恩人のモモンガが、朝からずっと向かいあって座っている様子を、ネムは固唾を飲んで見守る。

 

 

「――というわけでして、私が提供させていただく本企画は、妹様の成長にも繋がる、素晴らしい経験となる事をお約束させて頂きます」

 

 

 モモンガは、ネムの出稼ぎで得られるメリットを、エンリに全力でアピールすることで活動の許可を貰おうとしていた。

 

 決まったな。今回のプレゼンは会心の出来だ。

 

 社会人として培ってきた経験を惜しげも無く発揮したモモンガ。

 エンリの反応が気になり、様子を伺う。しかし、俯いていて、表情がよく分からない。心なしか眉間に皺も寄っているように見える。

 プレゼン用の口調が気になったのだろうか…… そんな風に考えていると、エンリがゆっくりと口を開いた。

 

 

「モモンガ様……」

 

「……なんでしょうか」

 

「本音は?」

 

「ネムと冒険がしたい」

 

「モ・モ・ン・ガ・様ぁぁぁ!!?!」

 

 

 この骨はまったくもう!! 命の恩人に言う台詞では無いが、馬鹿なのではないだろうか。普段は落ち着いてて、優しい方なのに……

 

 私が重い物を持っていると、姿を隠したまま代わりに運んでくれたりもする。

 周りから見たらポルターガイストだが、そんなことは気にしない。

 村でもよく見かける光景で、最近は誰も驚かなくなってきた。

 

 

「はぁぁ、分かりました!! 危険な仕事はしないこと!! 暗くなる前に帰って来ること!! いいですね!!」

 

 

 溜息を吐きながら、結局折れる事にした。

 このまま止めても、必ず何かをやらかす気がするし、約束を取り付けただけマシだろう。

 

 

「ありがとう、お姉ちゃん!! ネムも頑張る!!」

 

「おおっ!! ありがとう、エンリ。安心してくれ、例え世界を滅ぼすような怪物が襲って来たとしても、ネムには傷一つ付けさせないと誓おう。それに私が本気を出せば、どんな所からでも一瞬で帰って来れる。晩御飯までにはネムを送り届けるよ」

 

 

 さっそく冒険に行くぞとばかりに、妹を肩車しながら飛び出していった。

 

 エンリはモモンガ達の背中を見送りながら、妹が元気に笑ってくれるなら、それでいいかと小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、再び緊張した空気が流れていた。

 受付嬢は先日の事は夢では無かったと思いながら、クエストボードの前に立つ、二人組の冒険者を見る。

 目をキラキラと輝かせ、笑顔でボードを見ている女の子、それを肩車する眼鏡をかけたアンデッド。二人の首には真新しい、銅のプレートが輝いていた。

 

 なぜ魔獣登録をした骸骨にプレートがあるのかだと?

 私にも欲しいと言われたからだ、あげた私は悪くない。

 

 

 文字を翻訳するマジックアイテムを使いながら、モモンガはクエストを選んでいた。

 

 

(せっかくネムもやる気なんだし、討伐系よりも、一緒に出来る採取系の方がいいかな?)

 

 

「ネム、これなんかどうだ? 薬草採取のクエストだ。ネムはこういうの得意じゃないか?」

 

「うん!! お姉ちゃんの手伝いしてたから、薬草のことはちょっとわかるよ!!」

 

 そうか、ネムは偉いなと褒めながら、このクエストを受けることに決めた。

 手頃なクエストのようだし、報酬が大していいわけでもないが最初は成功させることの方が大事だろう。

 張り出されていた紙を受付嬢に持っていきクエストを受注する。

 

 受注されたクエストを確認し、受付嬢は首をかしげる。

 薬草を取るだけのクエストだ、珍しい所はなにもないはず…… 

 

 何がそんなに楽しいのか、嬉しそうに組合を出て行く二人を、物珍しそうに周りは見ていた。

 

 

 

 



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骨は万能じゃない

 薬草採取のクエストを受けた、モモンガとネムだったが、採取場所はトブの大森林。

 家を出てから一時間も経たずにとんぼ返りである。

 

 

「モモンガ様ー!! こっちにも薬草あったよー」

 

 

 手際良く、薬草を採取するネムを余所に、モモンガは新たな事実に驚愕していた。

 

 

(なぜだ、薬草が取れない?! 何度やっても握り潰してしまう!!)

 

 

 採取スキルを持たないモモンガでは、薬草を上手く取ることが出来ない。

 ユグドラシルの縛りが影響していることに気付いたのは、掌を薬草の汁塗れにしてからだった。

 

 

 結局、モモンガはネムの護衛と場所を見つける事だけに専念し、採取はネムが頑張った。

 

 今のネムは服装こそ村娘だが、付けている指輪など、数々の装飾品の効果により、様々な耐性を得ていた。モモンガの装備している神器級(ゴッズ)程のレアリティはないため、戦闘力こそ向上しないが、効果は絶大である。

 アダマンタイト級の冒険者でも、傷一つ付けられないほど、防御面での性能に特化させている。この世界ではほとんど無敵状態だ。

 

 

 色々あったが、薬草を集め終わり、冒険者組合に報告しにエ・ランテルに戻った。

 組合員の顔が引き攣っていたが、やはりまだ私のことが怖いのだろう。

 

 エ・ランテルからトブの大森林までを、数時間で往復してきた事に驚いているとは、モモンガもネムも気がつかなかった。

 

 

 初クエストを成功させた二人は、記念に何か買おうかと、街を散策していた。

 

 

「そうだ、折角だしンフィー君に会いたいです。ポーション売ってるお店なんです」

 

 

 ネムからの提案に、この世界のポーションはまだちゃんと確認していなかったと思い、了承する。

 

 ンフィーレアの祖母であり、エ・ランテル一の薬師と名高い、リイジー・バレアレの店へと向かった二人だったが、辿り着く前に周囲が騒がしくなりだした。

 

 

「アンデッドだ!! 墓地から大量のアンデッドが街に襲って来てる!!」

 

「おい、ここにもアンデッドが来てるぞ?!」

 

 

 街の人々が騒いでいる様子から、どうやら緊急事態らしい。

 このままではとばっちりで自分まで討伐されそうだ。

 巻き込まれる前に帰ろうと思ったが、ネムが一人の老婆を見つける。

 

 

「リイジーお婆ちゃん!!」

 

 

「ああっ、ネムちゃんか。それにアンタはアンデッドかい? 今はそんな事はどうでも良いさね。ンフィーレアが、ンフィーレアが拐われちまったんじゃ!! 救助の依頼を冒険者にしようにも、この騒ぎで冒険者組合は人がみんな出払っちまってるんじゃよ……」

 

 

 すごいなこの婆さん、俺をスルー出来たのはこの世界に来て貴方が初めてだ。

 

 ネムがこちらを見ている。その上目遣いは反則だ、抗えるわけがない。

 元々ネムに激甘のモモンガには余り関係がないが。

 

 

「仕方ないな、晩御飯までに帰らないとエンリに叱られてしまう。ンフィーレアを見つけてさっさと帰ろう」

 

 

 ネムには伝わったが、リイジーはまだ分かっていないようだ。

 

 

「アンタ、いったい何を……」

 

 

 いつものようにネムを肩車し、何でもないことのように言う。

 

 

「安心するがいい、リイジー・バレアレよ。お前の孫は私たちが連れて帰ろう。初回サービスだ、特別に無料で依頼を受けてやろう」

 

 

 リイジーは、そう言って走り出したアンデッドの背中を、呆然と見つめるのだった。

 

 

 

 



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勘違いは加速する

 エ・ランテルの墓地の方からやってくるスケルトンの集団。

 大量のアンデッドを前に、門がいつ破られてもおかしくないと、守衛達は絶望していた。

 

 

「門をあけてくださーい!!」

 

 

 黒いフルプレート姿の骸骨が、門の前に現れる。

 先ほどの可愛らしい声は、このアンデッドの頭に引っ付いている子供の声だろう。

 

 突然のアンデッドと子供の登場に驚いたが、二人の首に冒険者のプレートがあることを見て、その場にいた守衛たちは無理やり意識を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 モモンガはエ・ランテルの街を疾走してここまでやって来た。

 自身の持つアンデッドを探知する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)、アンデッドの祝福に、反応する方向にひたすら走る。

 カッコつけて走り出した手前、ンフィーレアの場所は知らないなんて言えない。この事件の元凶が、きっと犯人だと決めつけた、そうであって欲しいと祈る。

 

 もし違っていたら、魔法を使ってどうにかしよう。

 

 門の近くまで来て、ネムが門を開けて欲しいと頼むが、守衛の兵士達には伝わっていないようだ。

 

 

「お嬢ちゃん!! 何でそんなプレート付けてるかは知らんが、応援を呼んできてくれ!! 骸骨のアンタも頼む!!」

 

 

 門の上から叫ぶ守衛たちを見て、人間追い詰められると些細なことは気にしないようだ。

 アンデッドのモモンガにまで、そんなことを頼んでいるとは余程焦っているようだ。

 

 

「悪いがそんな暇はない、晩御飯が待っているんだ」

 

 

 鎧姿の骸骨は、助走なしのジャンプで門を軽々と飛び越える。

 凄い、凄いとその上ではしゃぐ子供は逞しい限りだ。

 

 数秒思考が止まったが、すぐさま子供を助けなければと行動する。

 ロープを垂らそうと、門の向こう側を見下ろすが、そこには何もいない。

 

 あれだけいたアンデッドが全滅していたのだ。

 今でも遠くの方から、鉄の塊を何かにぶつけた様な音がしている。

 

 

「俺たちは伝説を目にしたのかもしれない。 黒い…… 漆黒の…… いやそんなもんじゃない!! 死の騎士!! デスナイトだ!!」

 

「デスナイトか…… 大層な名前だが、あのアンデッドには相応しいな。あと子供が可愛かった」

 

「分かる。天使だな」

 

 

 完全に誤解される二つ名を付けられていることなど、全く知らないモモンガは、この事件を引き起こした元凶の元まで辿り着いていた。

 

 この集団の名は『ズーラノーン』正確にはズーラノーンという組織に所属する者たちだ。トップに盟主、その下に十二高弟という形の組織だ。さらに12人の高弟には沢山の弟子達がいる。

 邪悪な秘密結社であり、近隣諸国から危険視されているカルト集団である。

 

 

「カジっちゃ〜ん、餓鬼くっつけた、変なアンデッドがいてるけど?」

 

「その呼び方はやめろ。さて、どうやって、この――」

 

「〈集団標的(マス・ターゲティング)魔法持続時間延長(エクステンド)魔法最強化(マキシマイズマジック)麻痺(パラライズ)〉」

 

 

 こちらが戦士一人と子供なら、何の問題もないと思っていたのだろう。

 即座に戦士の装備を解除し、魔法を打ち込んだモモンガに対応できた者はいなかった。

 

 

「先手必勝だな」

 

 

 今の一連の流れを見ていたネムは、よく分からないけど、モモンガが敵をやっつけたと思い良しとする。

 

 こういう不意打ちとか奇襲はPK戦術としてよく使ったなぁ、速いことはいいことだ、って誰が言ってたっけ。弍式炎雷さんだったかな? そんな事を思い出しながら、モモンガとネムはンフィーレアを探す。

 

 ネムを頭に引っ付けたままなので、暴力的な魔法は一切使っていない。人が死ぬ姿は子供には辛すぎる。

 この世界のレベルはモモンガには低すぎて、相手を殺さずに無力化できる魔法などは限られている。物理的な無力化も加減がうまくできる気がしなかったため、魔法が効いてくれて良かったとほっとしていた。

 

 体が痺れて動けずに転がっている連中は、わざわざ連れて行かずとも、このままほっとけば、いずれ他の冒険者達が捕まえてくれるだろう。

 

 墓地の奥、半裸のンフィーレアを見つけた。

 頭に変な飾りを付け、両目から血を流し、立ち尽くしている。

 心配そうに焦るネムを宥めながら、不審に思ったモモンガは道具鑑定の魔法を唱える。

 

 

(叡者の額冠…… これは、珍しいだけのゴミアイテムだな。メリットとデメリットがまるで釣り合わない。外すと発狂とはとんだ呪いのアイテムだ)

 

 

「〈上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉」

 

 

 ユグドラシルには存在しなかった効果のアイテムだったので、少しもったいないかもと思ったが、ンフィーレアを見捨てるわけにもいかず叡者の額冠を破壊した。

 

 これで仕上げとばかりに、崩れ落ちたンフィーレアにポーションをぶっかける。

 

 

「よし、これでミッション完了だな。リイジーに届けたら、私たちも帰るとしよう」

 

「うん!!」

 

 

 アイテムにより肉体の疲労はなくても、精神的には疲れただろうに。

 ネムをさっさと休ませてやろうと、転移門(ゲート)を使い、二人で墓地を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様? 私が何を言いたいか分かりますよね?」

 

 

 仁王立ちするエンリを前に、休むのはまだまだ先になりそうだと確信した……

 

 

 



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困惑するスレイン法国

 スレイン法国の上層部、神官長達は、最近上がって来た情報に頭を悩ませていた。

 

 

「ニグン・グリッド・ルーインが、ガゼフ暗殺を失敗したそうだな」

 

「無理もあるまい、あの伝説のアンデッド、死の騎士(デス・ナイト)が現れたんじゃからの」

 

「しかも、その死の騎士(デス・ナイト)は、ニグンに持たせた切り札を破ったのだろう? その後、消滅したようだが、通常の死の騎士(デス・ナイト)とは思えん」

 

「確かに、亜種であった可能性もある」

 

 突如として現れ、陽光聖典を壊滅させたアンデッドについて、神官長達はあれこれと意見をぶつけている。

 そんな中、一人の神官長が、新たな情報を口にする。

 

「エ・ランテルで起きた、アンデッド大量発生の事件を知っとるか?」

 

「おお、子供の冒険者が、一人で事件を解決したと言う、あれか」

 

「確かその少女は死霊使い(ネクロマンサー)だとか……」

 

「そうだ、そしてその少女が使役するアンデッドは、こう呼ばれている―― デスナイト、とな」

 

 

 あまりの事実に、会議の場は数秒、静まり返った。

 

 

「なんと?! あれ程のアンデッド使役するとは…… ぷれいやー、神の降臨か? それとも我々の知らなかった神人か?」

 

「その子自身に戦闘力は皆無と、報告があることから神本人ではないだろう。 神人の線も薄い」

 

「陽光聖典を撃破した、死の騎士(デス・ナイト)との関連は断定出来ないが、どうするにしても慎重に動くべきだろう」

 

 詳細な情報が分からない現状では、手を出すことは得策ではない。そう結論付けた神官長達は、とりあえずは静観することにした。

 人類にとって利益となるか否か、判断を保留にしたのだ。

 陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインがもたらした勘違いは、段々と広まっている。

 

 ちなみに遠隔視をしようとして、巫女達が爆発した事件があったが、いつの間にか破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の仕業ということになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林、もはやお馴染みの一軒家で、正座させられている骨と子供がいた。

 

 

 エンリはあの日、遅く帰ってきた二人を叱ったが、深くは話を聞いていなかった。

 あれから何度か二人は冒険に出ており、ある日、二人の首のプレートが変わっていた。

 

 冒険者に詳しくは無いが、そんなすぐにプレートが変わるのかと、不思議に思って聞いてみたら、とんでもない内容だった。

 

 

「薬草を届けた帰りに、ンフィー君のとこに寄ったら、拐われてて……」

 

「アンデッドが大量に出て来たから、正面突破した」

 

「悪いやつらを見つけて、モモンガ様がビビッとやっつけたの!!」

 

「半裸のンフィーレアを治療して帰ってきた」

 

 

「「そしたらミスリルになった!!」」

 

 

「分かるようにっ!! ちゃんと説明しなさぁぁぁいっ!!」

 

 

 

 トブの大森林には今日もエンリの咆哮が響き渡っていた。

 

 

 



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幕間 エンリ・エモットは働き者

 トブの大森林にあるごくごく普通の一軒家。この近くには魔物は一切近寄って来ないため、この森で一番安全な場所である。

 カルネ村に住む村娘、エンリ・エモットは、モモンガから話があると言われてやってきていた。

 

(ネムと一緒じゃなくて、私だけに話があるって珍しいわね…… いったい何の話なんだろう?)

 

 

 モモンガは別に毎日冒険に出ているわけでは無い。

 姉妹で過ごす時間も、大切だろうと思っているので、かなりの頻度で休みを入れている。

 そんなモモンガが、エンリだけを呼び出すことは珍しいと言える。

 

 

「モモンガ様、話って何ですか?」

 

「いや、エンリは今一人で家を維持しているのだろう? 畑のこともあるし、何かと大変ではないかと思ってな」

 

 

 私達姉妹の、命の恩人であるモモンガ様は優しい。

 普段からこのように気遣ってくれており、アンデッドとは思えないような性格だ。

 

 

「あまり、私は表立って手伝えない。ならばエンリが強くなれば、仕事が楽になるんじゃないかと思ってな」

 

「待ってください、どういうことですか?」

 

「パワーレベリングによる、エンリの強化だよ」

 

「意味がわかりません……」

 

「エンリが魔物を倒す、レベルが上がる。身体が強くなって、仕事が楽になる。簡単だろ?」

 

「モモンガ、待って」

 

 

 とんでもないことを言い出したモモンガに、エンリは思わず敬称が外れる。

 

 この人は常識をどこかに置いてきたのだろうか?

 

 アンデッドに常識を求める方が、間違っているのかもしれないが、今更である。

 

 

「まぁ、モノは試しと言うじゃないか。姉妹だけで暮らしてるんだから、強くて困ることはないはずだ」

 

 

 こうして、モモンガ(ユグドラシル廃人)による、エンリ・エモット強化計画がスタートした。

 

 

 

 

 

「ほらほら、まだまだ出せるからドンドン殴りなさい」

 

「あぁ!! もうっ!!  このっ!!」

 

 

 モモンガから魔法によるフル強化を施され、魔法のガントレットを渡されたエンリは、次々とアンデッドを殴り倒していた。

 

 モモンガの生み出した様々なアンデッドは動かないため、危ないことはない。

 若干スケルトン系を殴る時だけ、執拗な気がするが、気のせいだ。

 

 サンドバッグを殴る行為は、夜遅くまで続き、森には鈍い打撃音が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、村では元気に働くエンリの姿がある。

 畑仕事を猛スピードで終わらせているのに、汗一つかいていない。

 

 強くなって仕事を楽にするという、モモンガの目論見は成功したようだ。

 

 

 

「――動かない相手とはいえ、まさか上位アンデッドまで殴り倒すとは…… エンリには才能があったのかな?」

 

 

 アダマンタイト級冒険者を、遥かに凌駕する村娘が誕生したが、モモンガは気にしなかった。

 

 

 

 



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見上げる者、見下ろす者

 リ・エスティーゼ王国の王都、そこにある冒険者組合で、五人の冒険者が集まっていた。

 蒼の薔薇と呼ばれる冒険者チームである。

 メンバー全員が女性で、最高位のアダマンタイト級冒険者であることから有名なチームだ。

 

 

「ねえ、エ・ランテルに、新しいミスリル級冒険者が誕生したそうだけど、知ってる?」

 

「ん? ミスリル級なら、前からエ・ランテルにも数組いただろ? そんなに注目するもんなのか?」

 

 

 男勝りな女性、ガガーランは全く知らないようだった。

 これから話すことにきっと驚いてくれる、蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは楽しそうに話し出した。

 

 

「その冒険者はね、なんと一週間足らずで銅からミスリルになったのよ‼」

 

「はぁ?! なんだそりゃ!! いったい何やったらそんな事になんだよ?」

 

「エ・ランテルで起きた、アンデッド大量発生の件は知ってるわよね? あれをたった一人で解決したそうよ」

 

 確かにそれはミスリル級だ、ガガーランは納得する。いや、ズーラノーンが関わっていたという情報もある。それでも不足かもしれない。

 

 

「凄腕の死霊使い(ネクロマンサー)らしいわ、どのくらい凄いのかしらね」

 

「大柄の男性、興味ない」

 

「早計、ガガーランを見るべき。女性かもしれない。でも大柄、興味ない」

 

 

 露出の高い忍者のような服装の双子、ティアとティナは相変わらずの平常運転だ。

 

 

「ふんっ、噂など当てにならんさ。どれほどの強者かは知らんが、あのババアよりは格下だろう」

 

 口を開いたのは仮面を着け、赤いローブを纏った小柄な女性、イビルアイだ。

 こんな見た目だが、蒼の薔薇で最強である。

 イビルアイの言うババアとは、かつてこの世界の脅威だった魔神達を倒した英雄、十三英雄の一人である。

 確かにリグリットの婆さんよりは下だろうなと、ガガーランも同意する。

 

 

「なんでも、街ではその冒険者に見下ろされると、誰もが思わず供物を捧げる程の人物らしいわ」

 

 その噂は流石にないだろうと、仲間達は苦笑するが、ラキュースは止まらない。

 まだ見ぬ謎の冒険者に、ラキュースは妄想を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、新たな人材の発見を、一人の人物と話していた。

 

 

「爺よ、エ・ランテルに凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)が現れたようだ。しかも死霊使い(ネクロマンサー)のようだぞ?」

 

「なんと、死霊使い(ネクロマンサー)とは珍しい…… 是非とも魔導の深淵について語り合いたいものですな」

 

 

 爺と呼ばれたこの老人。フールーダ・パラダインは、第6位階魔法を使用できる、この世界で逸脱者と呼ばれる魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 

 

「さらにだ、驚くことにその冒険者が使役するアンデッドは、デスナイト、などと呼ばれているようだぞ?」

 

「今すぐにでも会いに行きましょう!! 魔法詠唱者(マジックキャスター)として、私よりも優れているとは思いませんが、死霊魔法に関しては、私を超える逸材かもしれません!!」

 

 

 まぁ待て、ただの噂だと、笑いながらフールーダを宥めるジルクニフ。

 

 

「噂が本当だとしたら、是非とも手に入れたい人材だ……」

 

 

 情報の精査に、その人物の調査、どうやってこちらに引き入れるか、帝国の更なる繁栄のため、ジルクニフは頭を働かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、ありがとう!!」

 

「ありがとうございます。ネム、良かったな」

 

「いいってことよ!! ネムちゃんにはこの街のみんなが感謝してるからな」

 

 

 モモンガに肩車されたネムを見上げ、店主は笑う。

 エ・ランテルにある屋台の一つ、そこの店主に串焼きを貰ったネムは、嬉しそうに頬張っていた。

 アンデッドであるモモンガが、街を歩きまわるのはいつもの事だが、最初にこの姿に慣れ始めたのは商売人達だった。商魂逞しいとはこのことだろう。

 

 私も食べることが出来たらいいんですけどね、そんな事を言いながらモモンガ達はどこかへ歩いていく。

 

 街の人達に時々貰い物をしながら、骨と子供は今日も冒険に出かけていくのだった。

 

 

 

 

 



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組合からの指名依頼

 エ・ランテルの冒険者組合では、組合長プルトン・アインザックがある冒険者を待っていた。

 

 やって来たのは、飛び級で銅からミスリルとなった、冒険者チーム『黒い疾風』の二人。

 疾風の天使と呼ばれる冒険者ネム、そして彼女の使役する骸骨の戦士、デスナイトだ。

 使役する魔獣扱いのアンデッドを、チームの人数に数えて良いのかは謎である。

 

 実際のところ、冒険中に走っているのはモモンガだし、デスナイトと呼ばれているけど、種族は死の支配者(オーバーロード)だ。

 間違いだらけだが、面倒なのでモモンガも特に何も言ってない。

 チーム名にしても、いつのまにか勝手に付けられていただけで、本人達が名乗った事は一度もなかった。

 

 普段はほとんど採取系のクエストしか受けていないチームだが、その実力はこの街にいるものなら誰もが知っている。

 

 

 

 

 いつもの様に冒険者組合に入る二人。

 ランクの飛び級時に一度呼び出されて、以来久々となる呼び出しに、モモンガとネムは何の用だろうと思っていた。

 

 

「わざわざ来て貰ってすまない。早速で悪いが緊急の依頼が来ている」

 

 

 飛び級の際に一度話しているため、アインザックは基本的にモモンガに話しかける。細かい仕事の対応などは、モモンガがしている事を知っているからだ。

 

 

「実を言うと以前からあったものなんだが、竜王国からの依頼なんだ。彼らの国は長年ビーストマンの侵攻に脅かされていてな。兵がとてもじゃないが足りていない状況なんだ。そこで各国の冒険者に依頼を出しているようなんだが――」

 

(竜王国、ビーストマン…… もしかして、俺がこの世界に来て最初にいた場所か?)

 

「――大量のビーストマンを相手に出来る冒険者など滅多にいない。アンデッドの大群を打ち倒した君達なら、と白羽の矢が立ったわけだ。どうか受けてもらえないだろうか?」

 

 

 モモンガとしてはこの世界に来てすぐにやらかした事に、罪悪感もあり助けに行ってもいいかと思っている。

 しかし、エンリとの約束もあるため簡単にハイとは言えない。

 

 

「お姉ちゃんとの約束があるから、夜遅くなるのは受けれないの……」

 

「申し訳ないが彼女の姉と危険な仕事はしない、と約束してしまっているので……」

 

 

 他の冒険者がこんな事を言えば殴り倒している。

 門限がある? 危険なことはしない? なんで冒険者やってるんだと突っ込んだことだろう。

 しかし、ネムはどう見ても子供。アインザックも強くは言えない。

 

 

「そこをどうにかお願い出来ないだろうか。このままでは竜王国は滅びてしまうかもしれないのだ……」

 

 

「ふむ、取り敢えずネムの姉と相談して来ます。返事は後日と言うことで」

 

 

 なるべく早く頼む―― アインザックはそれだけをお願いし、なんとか受けてくれる事を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでネムの姉と一緒に行く事になりました」

 

「お泊まりするかもしれない、遅い時間のお仕事は初めてですね!!」

 

 

 何が、と言うわけなのか、サッパリ分からない……

 どんな話し合いがあったか知らないが、目の前の二人はワクワクしているようだ。

 戦争中のビーストマンがいる国に、一緒に行こうとするなんてどんな女性なんだ!!

 

 見たことも無いネムの姉を想像し、アインザックは恐怖に震えていた……

 

 

 



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竜王国での初挑戦

 やってしまった……

 エンリはモモンガの開いた〈転移門(ゲート)〉を通りながら、先日のやり取りを後悔する。

 

 竜王国がピンチだから、泊まりがけで助けに行く。そんな事を言うモモンガとネムに、最初は危ないから駄目だと言った。

 

 

「困っている人がいるのに、見捨てるわけにはいかない」

 

 

 過去に命を救われた私は、それを言われたら黙るしか無かった。

 それでも心配だったので、それなら私もついて行くと、つい言ってしまったのだ……

 

 それを聞いたモモンガとネムは、家族旅行と言わんばかりに、色々と準備をしだした。

 今思うと、やけにキメ顔で言われた気がしないでもない。もしかして騙されたかもしれない。

 

 最近、骨の表情が分かるようになってしまった私は、大きな溜息を吐いた……

 

 

(ふぅ、エンリが思ったより早く納得してくれて良かった。あの国には罪悪感が半端なかったから、見捨てたくなかったんだよなぁ。罪滅ぼしにチャチャっと国を救って、三人で観光しよう!!)

 

 もう既に仕事が終わった後の、観光に希望を膨らませているモモンガ。

 竜王国に観光出来る場所など、今はほとんど無い事に気付いていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「女王陛下、リ・エスティーゼ王国のエ・ランテルより、予てから依頼していた冒険者が来たようです」

 

「おおぉっ!! 遂に救援に来てくれたのか!! ランクはなんじゃ? オリハルコンか? もしやアダマンタイト級の冒険者か!!」

 

「期待に添えず、申し訳ありませんがミスリルです」

 

「お、おう…… ミスリルか…… 腕は良いのだろうが大丈夫か? それで、何人来てくれたんじゃ?」

 

「三人です。『黒い疾風』という冒険者チーム一組だけです。ちなみに正確に言うと、冒険者は一人でもう一人は使役魔獣。あとの一人は一般人です」

 

「一般人は何しに来たんじゃ?! というか少なすぎるわ!!」

 

「陛下、落ち着いてください。彼らはなんと、骨と幼女と村娘ですよ? この国はもう大丈夫ですよ……」

 

「安心できる要素が一つも無いわぁ!! 宰相、お前現実逃避しとるだけじゃろ?!」

 

 

 竜王国の女王ドラウディロンと宰相は、ひとしきり騒いだ後どうするべきか考える。

 どうせ一人の冒険者にできる事など、高が知れている。おそらくビーストマン達を撹乱し、数を減らすくらいはできるだろう。

 救ってくれるならやり方は任せるとぶん投げることにした。

 

 

 

 

 

 

 戦士ロールは飽きたからと、黒色の地味なローブを纏ったままのモモンガ。

 一応、冒険者チームの代表であるネムが依頼を受け、救援に来たことをそこら辺に立っていた衛兵に伝える。三人は衛兵達が戻って来るのを、竜王国の門の前で話しながら待っていた。

 

 

「ローブ姿での冒険は久しぶりですね!!」

 

「モモンガ様、鎧姿に戻らなくていいんですか?」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)だとバレたら、問題になるかと思って今まで偽装してたけど、意味無かったからな」

 

 

 エ・ランテルにいる時はまた鎧姿に戻るつもりではいるが、アンデッドの時点で相当目立ってしまうのでこの国では気にしない事にした。

 鎧よりもこっちの姿の方が楽でいいんだと言うモモンガに、エンリはそういうものかと流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方達の判断にお任せします』

 

 

 勝ったな。

 女王陛下に謁見したモモンガ達は、直々にこのお言葉を頂いた。

 現場の判断に一任させてくれるとは、中々思い切った判断をする女王だとモモンガは思っていた。

 

 

「さっそくビーストマンを追い払って来るよ。今回は流石に危ないから、ネムはエンリと待っててくれ」

 

 

 モモンガとしては、ぶっちゃけ危険は無いと思っている。

 しかし、戦場に子供を連れて行くのは教育的に良くないと、待っててもらうことにした。

 

 本当は一人で竜王国まで来るのがベストだったのだろうが、モモンガ一人で行くと確実に大騒ぎになる。

 助けに来た冒険者だと言っても信じてもらえなかっただろう。

 

 

「えー、モモンガ様、一人で行っちゃうんですか?」

 

「えっと、私達はどうすれば……」

 

 

 頰を膨らませた不満げなネムと、困ったような顔をするエンリ。

 ネムが微塵も不安を感じさせない辺り、対称的な二人である。

 

 

「まぁ、二人だけにしとくのも心配だから、護衛を置いていくさ」

 

 

 エンリの不安に気づいたのか、モモンガは二人を安心させるように言う。

 

 

「何気にこの世界で使うのは初めてか……」

 

 

 ボソリと呟いたモモンガを中心に、10メートルはあろうかという、巨大な立体魔法陣が浮かび上がる。

 ドーム型に展開された魔法陣の模様は常に変わり続け、見たことも無い文字が出たり消えたりを繰り返していく。

 

 他国のど真ん中で起こった神秘的な光景にネムは大興奮し、エンリは絶句した。

 

 

「超位魔法!! 〈天軍降臨(パンテオン)〉!!」

 

 

 獅子の顔、4枚の羽根、光り輝く鎧。光とともに現れたその天使は炎を宿した槍と盾を持ち、モモンガに跪いた。

 この天使がいればどんな厄災からも護ってくれるだろう。そう感じさせる程の存在が、なんと6体もいるのだ。

 

 

「よし、特に変化は起きていないな。門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)よ、この二人を護衛せよ」

 

 

 短く命令を下すモモンガに、それをビーストマンに突撃させればいいんじゃないのかと、エンリは思わずにはいられなかった……

 

 

 



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ヒーローのやり方

 竜王国の築いた砦のはるか後方、集まったビーストマン達は突撃する時を今か今かと待っていた。

 その数はなんと約10万である。

 

 切っ掛けは以前、竜王国に侵攻していた時のことである。

 突如現れたアンデッドに、その時侵攻していた一つの部隊が皆殺しにされたのだ。

 それを見ていた他のビーストマン達は本能的に察したのか、即座に撤退した。

 

 そして、その情報から過去にビーストマン達を恐怖のどん底に陥れた、最恐最悪のアンデッド魂喰らい(ソウルイーター)を思い出した。

 そのアンデッドは魂喰らい(ソウルイーター)ではなかった様だが、念には念を入れることにしたのだ。

 一時的に侵攻を止め、時間をかけて確実に勝てる戦力を集めたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビーストマンの事情なんて全く知らないモモンガは、〈飛行(フライ)〉の魔法を使いながら、敵地のど真ん中に向けて進んでいた。

 

 

(一人で出掛けるのもなんだか、久しぶりな気がするな…… この世界に来た最初の頃以来か……)

 

 

 そんな前の事では無いが俺もあの頃は無茶をしたもんだと思いながら、どうするかを考える。

 出来ればあまり殺したくは無い。

 いくら敵とはいえ皆殺しにしてきましたなんて、ネムやエンリには言いたくなかった。

 

 ビーストマンの軍勢の上空に着いた時、あの頃より随分と数が多いことに気づいた。

 

 

(そうだ!! これだけの数がいるんだから、一部をビビらせて撤退させれば周りも便乗して帰るかも!!)

 

 

 最初に来た時も周りのやつらは撤退していったことを思い出したモモンガは、これは名案だと、自画自讃する。

 適当に恐怖を煽る特殊技術(スキル)か魔法を使えば、殺さずとも十分だろう。

 

 敵を殺さず勝利する。

 

 まさに子供が思い描くヒーローのようじゃないかと、敵地に降り立ち特殊技術(スキル)を発動する。

 

 

「〈絶望のオーラⅠ〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはすっかり忘れていた。

 

『嫉妬する者たちの顔面』

 

 効果はソロで戦う時に全ステータスが50%アップし、敵が増えれば増えるほど強くなる。

 モモンガにとっては、外す事のできない呪いの装備。

 

 今、モモンガは一人。

 そして敵の数は10万。

 ユグドラシルではゲームであった為、敵の数には当然制限があった。

 しかし、この世界に制限などあるはずも無く、効果も多少変質し魔法や特殊技術(スキル)にまで影響を及ぼしている。

 

 モモンガが軽くビビらすつもりで放った、〈絶望のオーラⅠ〉がビーストマン全軍を包み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 ビーストマン達はなりふり構わず、走り出していた。

 逃げなくては!! アレは挑んではいけないモノだ!! 戦うという次元の相手では無い。可視化された死、そのものである。

 逃げ出すビーストマンを止める者など、一匹もいない。

 

 結果、10万のビーストマンは一斉に撤退していった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 



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幕間 武の探求者

 俺の名はブレイン・アングラウス。

 過去にガゼフに負け、以来ガゼフに勝つことを目標にして、修行を続けている。

 刀を振るい、武の頂きを目指す剣士だ。

 

 以前は、ある傭兵団の用心棒なんてやってたりもしたが、偶然俺が留守の間に壊滅していた。

 その場に残っていた奴らの話は要領を得ないものばかりだったが、とてつもない怪物に出会ったという事だけは分かる。

 そんなやつがいるならばと、俺は傭兵団に見切りをつけそいつを探しに行くことにした。

 

 ガゼフに勝つ為、俺の踏み台となってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ある村でついに見つけた。

 畑仕事を猛スピードで終わらしていく女性がいたのだ。

 

 然程目立ってはいないが、実戦で鍛えられたと思われる動く為の無駄の無い筋肉。アレだけ動いているのに、汗一つかかない体力。

 間違いない、アレが傭兵団たちが出会ったという怪物だろう。

 女性というのは意外だったが、武を志す者に性別は関係ない。

 

 

「おい、そこのお嬢ちゃん」

 

「はい、なんですか?」

 

「俺の名はブレイン、ブレイン・アングラウスだ。俺と勝負しろ。まぁ、断っても俺は止まらないがな」

 

 

 そう言って刀の鞘を腰から外し、抜刀術の構えを取る。

 武技〈領域〉、自身の半径3メートルを完全に知覚することにより、技の精度を極限まで高めることが出来る。

 そして武技〈神閃〉、知覚不可能な程の神速の一刀を放つ。

 これらを組み合わせ、相手の急所を一撃で切り裂く〈秘剣・虎落笛(もがりぶえ)

 

 ガゼフに勝つために編み出した最強の一撃をもって、俺はこの強者を倒す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なぁ、教えてくれ…… 俺は、弱いのか?」

 

 

 駄目だった…… 自身の持つ最強の一撃を、放つことすら出来なかった。

 自身の武技〈領域〉ですら、知覚出来ない程の速さの拳。

 

 俺はただの一撃で倒された。

 

 

「どうすれば、それ程の高みに到達できるんだ? 君の拳には、執念のようなモノが感じられた…… どうすればいいんだ?」

 

「知りません!! 私は妹を養うので一杯一杯なんです。高みなんてどうでも良いですし、妹を守れたらそれでいいです」

 

 

 なぜだ、自分よりも小柄な彼女のことが、大きく、力強く見える。

 

 俺はずっとガゼフを超えるために剣を振るっていた。

 そうか、自分の為じゃなく、誰かを守る為の力か――

 ――あいつ、ガゼフが剣を掴んだのも民を守る為、そして今も王の下で剣を振るっていたな。

 

 俺では勝てない訳だ……

 

 

「ありがとう、目が覚めたよ。迷惑をかけてすまなかった。名前を聞いてもいいか?」

 

「エンリですけど……」

 

「ありがとう、エンリ。俺はまた一から鍛え直す。俺が誰かを守れる程に強くなったら、もう一度勝負してくれ」

 

「……」

 

 

 村を離れ、歩きながら今後のことを考える。

 今度は誰かを守るために、剣を振ってみよう。

 

 ――正義の味方、笑ってしまいそうだが、子供の頃に夢見た存在を目指して修行をするのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの人…… いったい何だったんだろう?」

 

 

 私の様な村娘に一発でやられるなんて、普段は運動とかしない人なのかな?

 

 

 エンリは自分の力に気づく事はなかった……

 

 



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厨二病は良い人

 ビーストマンは全員逃げ出した。

 これで依頼は完了とばかりに、女王陛下と宰相に結果だけ伝えたモモンガ一行は帰っていく。

 

 ビーストマンは、全員私に驚いて帰っちゃったんだよ。

 ネムとエンリにはそう説明したが、嘘は特に言っていないので問題は無いだろう。

 流石、モモンガ様!! そう言って笑ってくれるネムに対して、エンリは絶対に何かやらかしただろうと、疑惑の目を向ける。

 

 

(やれやれ、人間、大人になると疑り深くなるのかな…… ネムには真っ直ぐ育って欲しいものだ)

 

 

 当初の予定では一泊して観光するつもりだったが、竜王国は観光出来る状態では無いことが判明したので、帰りは王都に寄ってみようと提案する。

 

 エンリもネムも辺境の村出身の一般人だ。中々行く機会も無かったはずだし、悪くはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 〈転移門(ゲート)〉で、リ・エスティーゼ王国の近くまで行き、その後は徒歩で王都まで行った。

 王都を散策するモモンガ達は肩車状態のネム、隣に歩くエンリという組み合わせによって、若い子連れの夫婦にも見えただろう。

 

 もっとも、子供を肩車しているのが骸骨という所に目を瞑ればだが。

 

 

「こんな所でアンデッドが何をしている?」

 

 

 声をかけられた方を振り向くと、仮面に赤いローブという個性的な格好の子供が立っていた。

 

 

「あー、私はこの子に使役されているアンデッドでして、普通に街を散策している所です」

 

「お前からは不自然なほど力を感じない…… 何を隠している? お前の種族はなんだ?」

 

「……骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)です」

 

「お前の様な骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)がいるか!! 真面目に喋る気が無いのなら、力ずくでいかせてもらう!!」

 

 二つ名と同じように、死の騎士(デス・ナイト)って言った方が良かっただろうか?

 目の前の子供はどうやら魔法詠唱者(マジックキャスター)だったようで、両手に魔力を籠め魔法を放つ準備に入っている。

 

 

「ダメッ!! モモンガ様は良い人だから攻撃しないで!!」

 

 

 今にも魔法を放とうとしていたが、こちらを見下ろすネムの真っ直ぐな瞳に一瞬気圧され止まってしまう。

 そこにちょうど通りがかった冒険者が止めに入ってくれた。

 

 

「イビルアイ!! こんな街中で何してるの?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内された冒険者組合の一室で先程仲裁に入ってくれた女性、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラはモモンガ達に謝罪していた。

 

 

「先程は仲間が失礼しました。蒼の薔薇のリーダーとして謝罪いたします」

 

 

 なんと、驚くことにあの子供とこの女性はアダマンタイト級冒険者だった様だ。よく見たら首元にプレートが光っている。

 

 頭を下げる女性に、モモンガ達も特に怪我もしていないから気にしないで欲しいと告げる。

 

 

「まったく、どうして急に攻撃しようとしたのよ? プレートが付いてるんだから、冒険者に決まってるでしょう?」

 

「いや、だってあんな堂々としたアンデッドが街にいるなんて、怪しいじゃないか。それに、嘘ついてそうだったし……」

 

 

 弱々しく反論するイビルアイに、お前が言うのかと言わんばかりの視線を向けるラキュース。

 

 

「いえ、おっしゃる通りですので本当に気にしないでください。ある意味正しい対応をされたのは、久しぶりだったので驚きましたが」

 

「本当にすみませんでした。ところで、王都へはどうやって来られたんですか? 失礼ですが、冒険者プレートを付けていても止められたんじゃ……」

 

「ああ、ガゼフ・ストロノーフに話は通っている、って言ったら通してくれましたよ」

 

 

 王国戦士長? ラキュースとイビルアイは少し気になった様だが、特には掘り下げなかった。

 

 その後は5人で軽く雑談していた。内2人は子供とはいえ、女性の中に男が1人という空間は以前のモモンガならば慌てていただろう。

 この世界で人と触れ合い、成長していたモモンガは楽しそうに話していた。

 

 

(人々に疎まれながらも、人を助けるアンデッドの戦士。いいわね!! 黒い鎧に白い骸骨の頭部、最高だわ!! ああ、どんな技を使うのかしら? 死の剣技・暗黒骸骨斬(ダークネス・ボーン・ブレード)とか!!  くっ、闇の戦士に呼応して、私の中の闇の人格が…… 神官でありながら、死霊魔法を使うっていうのもアリじゃない?! 生と死を司る戦士ラキュース、カッコいいわ!! 死霊魔法の勉強してみようかしら。帰ったら禁断の書物(ラキュースノート)に、今日の事は絶対に書かなくちゃ!!)

 

 

 アンデッドのモモンガをあっさり受け入れてくれた原因が厨二病だったなんて、モモンガが知る由もない……

 

 

 

 



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幕間 戦士長の憂鬱

 リ・エスティーゼ王国の王城、そこにある目立たない場所の一角で、剣を振るっている男達がいた。

 

 

「ストロノーフ様、どうされたのですか? なにやら酷く疲れているようご様子。訓練をつけて頂くことは有り難いのですが、はやはり御迷惑だったのでは……」

 

「いや、そんな事はない。むしろ体を動かしていた方がスッキリして有り難いくらいだ」

 

 

 申し訳なさそうにガゼフを気遣う男、彼の名はクライム。

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ王女、御付きの兵士である。

 昔、ラナー王女に拾われた孤児であり、以来ラナー王女に絶対の忠誠を捧げている。

 

 ガゼフが思い悩んでいたのは、最近の出来事についてだ。

 始まりは自らを暗殺するために、辺境の村に誘い出された時のことだ。

 貴族派閥の横槍により万全の装備を整えることも出来ず、法国の特殊部隊に殺される寸前だった。

 

 そんな時、救ってくれたのは骸骨の戦士だった。

 そのアンデッドに願われ八百長の勝負をして、私達の部隊は1人も欠ける事なく助かった。

 

 アンデッドと一芝居打って助かりました。そんな事は王に報告する事はできないし、それどころか誰にも相談できない。

 それ自体は構わない。命を救って貰ったのだから、多少の秘密を抱える苦労は何でもない。

 

 問題はその後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガゼフ戦士長!! ご報告があります。エ・ランテルの関所にアンデッドを連れた子供が来ました。『ガゼフ・ストロノーフに話は通っている』そう言われた衛兵が通したようなのですが……」

 

(アンデッドの御仁か…… あの時、言っていたことだな。難しいがここは話を合わせてやるべきだろう)

 

 

 子供の事は知らないが、きっとあの時のアンデッドだとガゼフは確信する。

 貴族達に嫌味を言われることを予想しながらも、命の恩人に借りを返す為に話を合わせる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガゼフ戦士長!! ご報告があります!! こ、ここ王都にアンデッドを連れた子供と女性が来ました!!」

 

(あの骨、またやりやがった……)

 

 

 この先何度こんな事が起こるのだろうと思い、溜息を吐きたくなるが部下の手前、我慢する。

 ここで知らないといえば王都はパニックになる。

 自分もそろそろ根回しなどを覚えるべきだろうかと思いながら話を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「クライム…… 誰かと約束するときは、言葉には気をつけるんだぞ……」

 

「は、はい? いっいえ、分かりました!! 心に刻んでおきます」

 

 

 あまり意味がわかっていないようだが、しっかりと返事をするクライム。

 彼も私と同じ道を辿りそうな気がする……

 

 ガゼフは次に私の名前が出るのはいつだろうかと悩みながらクライムと訓練し、汗を流すのだった。

 

 

 



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黄金のメッキ

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、一人私室で手に入れた情報を脳内で繰り返し検討していた。

 

 

(戦士長の死は確実だった。それを覆すほどの存在、そして同時期に現れたアンデッドを使役する子供。おそらくこれは同一と見て間違いは無い。問題はその行動原理。人を救い、悪に対して憤りを感じながら、対処は杜撰。アンデッドは使役されているという話だけどその割には行動に子供らしさがあまり無い――)

 

 

 王城から出ることの無いラナーは、噂話や世間話から限りなく正解の情報だけを繋ぎ合わせていく。

 

 

(――いや、時々大人のような対応をしていることがある。つまり、本当は使役されていない。どうして子供に使役されているフリを? もしかしてその子供の能力は使役じゃなくてアンデッドの強化? 相互にメリットがあるから一緒にいると考えた方が――)

 

 脳を高速回転させ、様々な可能性を導き出し、一つ一つを消していく。しかし、一向に答えを一つに絞る事ができない。

 

 

「ふぅ、やっぱりアンデッドの方の行動原理がわからないわ。敵を皆殺しにしたり、逆に傷一つ付けずに捕縛したり。慎重に行動したかと思ったら、街中を堂々と歩き出す。力があるのに普段は採取系の仕事しかしていないなんて……」

 

 

 自身の頭脳を持ってしても答えを導き出せないことに、ラナーは少し落ち込む。

 もしかしたら何も考えていない馬鹿なのでは?そんな考えが頭をよぎるが、それならラキュースを使って一度こちらの作戦に巻き込めば、相手の行動指針の様なものが分かるはず。

 

 クライムを永遠に自分の元に縛り付ける。優雅に犬を飼って過ごすという自身の野望を叶える為、ラナーは今日も頭を働かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラキュース達と雑談していると、ラナー王女御付きのクライムという兵士が呼びに来た。

 

 クライムはラナー王女からアンデッドの冒険者のことも、もし会えたら呼んで欲しいと言われていたため、モモンガ達も一緒について行っている。

 ラナーへの忠誠心のためか、モモンガを前にしても任務を遂行できる精神は素晴らしいものだろう。

 

 困った時のガゼフを使いながら王城に入り、この国の王女と対面した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不愉快だな……)

 

 

 最初は綺麗な女性だと驚いたが、会話の途中から『八本指』という組織の話にさり気無く繋がっていった。

 ラキュース、エンリにネムまでもその話を聞いて憤慨していたが、モモンガは一人冷めた感情で話を聞いていた。

 

 

「ラキュースさん、エンリとネムを連れて、少しだけ席を外してくれませんか? 少々血生臭い話にもなるので……」

 

「えっと、それは――」

 

「構わないわ、ラキュース。お願い、二人を奥の部屋に連れていってあげて」

 

 

 ラナー本人に促され、ラキュースは渋々二人を連れていった。彼女達の足音が離れていき、目の前の骸骨は口を開く。

 

 

「お前……あの子を、いや、友すらも利用する気だな?」

 

「……」

 

「自分の望みの為、あの子達を振り回している自覚は俺にもある。人のことは言えないだろう――」

 

 

 段々と目の前のアンデッドから感じる圧力が、増していく気がする。ああ、間違いない。このアンデッドは人の手には負えない、正真正銘の化け物だ。

 

 

「――だが、貴様は何も感じていない。貴様の事は相当賢いとラキュースが褒めていたぞ。そんな奴が、多少の正義感があれば必ず憤慨する話をしたら、どうなるかは分かるはずだ。女性なら尚のことだろう。この流れなら助ける力を持つ普通の人間は、助けたいと思うだろう――」

 

 

 このアンデッドは馬鹿ではなかった。確実に私の正体を見抜いている。

 

 

「――あの子達が願うのなら、俺は助けよう。だが、貴様に協力はしない。もしこの先、貴様があの子達を利用する様な事があれば、俺は世界を敵に回しても貴様を潰す」

 

「なぜ、気が付いたのですか? 会話にも演技にも違和感はなかったはずですが」

 

「俺は本物を知っている。その純粋さがお前には無かった」

 

 

 目の前の存在は本当に普通の人間のように、友達を、家族を、大切なモノを知っている。それを慈しむ心を持っている。

 

 

「貴方は…… とても人間らしいのですね。私には無いものです」

 

「俺だって持ってなかったよ…… あの子に貰っただけだ。私がそうだったように、人間のお前なら尚更手に入るさ。まだ若いんだ、手遅れじゃないさ」

 

 

 いつから周りと同じモノを求めなくなったのだろう。

 気付いた時には私と同じモノを見る存在はいなかった。

 クライムが現れるまで、何処にも心の拠り所は無かった。

 

 先程とは打って変わって、優しい声色で語りかけてくる目の前の骸骨。

 誰かを思いやる心を持つ異形種。

 

 

 精神が異形種とも言える私には、それがほんの少しだけ羨ましく思えた。

 

 

 

 



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幕間 モテたい男

 これは女の子にモテる為に、そこそこ強い冒険者が、命を賭けて暴走しただけの話である。

 

 

 俺の名はルクルット・ボルブ。

 エ・ランテルで活動する冒険者チーム『漆黒の剣』のメンバーの一人だ。

 アンデッド大量発生の件で活躍したり、ついに金級になったりと、割と頑張っている。

 自分でも冒険者としての実力が、上がってきている実感もある。

 

 しかし、一つだけ問題がある、モテないのだ……

 銀級から金級になったのに何も変わらない。顔はそこまで悪くないと思うし、こう見えて惚れたら結構一途なつもりだ。

 金級の冒険者だから、収入だってこれからどんどん増える、将来的に有望株だろう。

 

 これだけ条件が揃っているのにモテない…… 何かが、そう後一つ何かが足らないのだ。やはり、漢らしさだろうか?

 

 こうなったら嘗て考えた、最終手段を取るときが来たのかもしれない。

 真の冒険者として、男として、時には危険を犯してでも冒険しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林、そこにいるとされる森の賢王に会いに来た。

 

 

「某の支配領域に、ニンゲンが何の用でござるか?」

 

「単刀直入に言う、俺は嫁が欲しいんだ!! だから、どうか協力してくれ!!」

 

 

 ルクルットは賢王と呼ばれる知力に、その魅力に賭けたのだ。自分に足りないモノを、チームで補うのは冒険者では当たり前のこと。

 一人でナンパが上手くいかないのならば、仲間を用意すれば良いのだ!!

 しかも、相棒が森の賢王ならば、間違っても女の子を代わりに取られる事は無いだろう。

 

 

「いい眼をしてるでござるな…… 番を手に入れるために、命をかけるとは見上げた根性でござる。某も番を欲する気持ちは分かるでござる。なので、その根性に免じて、一度だけ協力するでござるよ!!」

 

「ありがとう!! 森の賢王!!」

 

 

 ルクルットは一回きりの条件で、森の賢王を連れて街に凱旋した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、モテたのは森の賢王のみ、ルクルットは相変わらずモテなかった…… ルクルットの魅力は雌である魔獣にすら勝てなかった……

 

 

 

「ルクルットっておちゃらけてますけど、時々凄い根性ありますよね」

 

「あの行動力は、見習う部分もあるのである」

 

「リーダーとしては、一言相談して欲しかったんだが…… してたら認めなかったけど」

 

 

 森の賢王の隣で膝をついて、落ち込んでいるルクルットを除き、『漆黒の剣』は今日も元気である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様!! あっちに凄いおっきいモフモフが歩いてますよ!!」

 

「なんだあれ? でかいハムスターか? この世界は本当に面白いな……」

 

 

 周りの反応と、自分の反応の違いに大きく差がある。

 モモンガは強さの感覚以外にも、自分の常識はこの世界とズレていることを実感するのだった。

 

 

 



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名前すら出ない者たち

 カルネ村に戻ってきてから、モモンガ様は無駄に明るく振舞っていたと思う。

 あの事は私が解決しておくから、安心するといい。

 それだけ言って、モモンガ様はどこかへ行ってしまった。

 

 

「お姉ちゃん、モモンガ様、なんか変だったね」

 

「うん…… またすぐに戻ってくると思うけど……」

 

 

 何だかんだ言って、モモンガの変化はすぐにバレる。

 お互いをよく見ており、思いやっている三人の絆は深かった。

 

 

 

 

 

 

 普段の鎧姿ではなく、闇色のローブを纏って王都を彷徨うモモンガ。久しぶりのフル装備で魔法を使い、八本指の情報を集めていく。

 

 

「どの世界でも腐った連中というのは、いるのだな……」

 

 

 敵は分かった。

 そして、今のモモンガは一人である。

 

『嫉妬する者たちの顔面』により、ステータスが跳ね上がっていく。

 

 組織は色々と癒着があるようだが、誰一人として逃す気は無い。

 皆殺しにする事は簡単だし、そうされても文句は言えない連中ばかりだ。

 しかし、自分は胸を張って、彼女達の元に帰りたい。

 自らの手では無く、法の裁きによって潰す事を決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは集めた情報から、八本指の拠点を割り出し、次々と襲撃していく。

 

 

「〈魔法効果範囲拡大化(ワイデン)魔法位階上昇化(ブーステッド)魔法抵抗難度強化(ペネトレート)魔法持続時間延長化(エクステンド)魔法最強化(マキシマイズマジック)支配(ドミネート)〉」

 

 

 念には念を入れた、強化をこれでもかと詰め込んだ魔法により、拠点丸ごと魔法をかけていく。

 

 

「お前達はこれから王城に行け。そこで、自分の罪が正しく裁かれるまで、自らの犯した罪を喋り続けろ」

 

 魔法をかけられた人達が、ぞろぞろと王城に向かって進んでいく。

 こうしておけば、賄賂を積もうが何をしようが、裁かれるまでは意思を取り戻せない。

 王国の法に基づくと、彼らは皆、極刑である。

 

 その後、自らが死ぬその時まで、罪を喋り続ける囚人達という、異様な光景があったとか……

 

 

 八本指とその関係者は、こうしてリ・エスティーゼ王国から消えた。

 

 

「これで、少しは救われる人もいるのかな…… さぁて!! ネムに会って癒されに行こう!!」

 

 

 重い話はヤメヤメとばかりに、カルネ村に突撃していく骸骨。

 夜も遅いが、許してくれるだろうと軽く考える。

 

 ネムが笑い、エンリには叱られるが、そんなやり取りが日常を思い出させてくれる。

 

 

 モモンガはこれが大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの骸骨!! こんな人数、どうしろって言うのよぉぉぉおおーっ!!」

 

 

 ちなみに八本指を襲撃した先で、助け出した人達は、全てラキュースに放り出してきた。

 渡した〈大治癒(ヒール)〉が籠められた巻物(スクロール)により、みんな怪我一つない元気な姿だが、ラキュースは途方にくれる。

 

 モモンガの知っている、〈大治癒(ヒール)〉の巻物(スクロール)を使えそうな神官が、ラキュースしかいなかったのだから、しょうがない。

 

 誰一人として見捨てず、何とかしようとするあたり、人選としてはバッチリだった。

 

 

 



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メッキの下は暗黒物質

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、集まった情報を元に、アンデッドを使役する子供の勧誘策を練っていた。

 

 

「爺よ、残念ながらその子は、魔法詠唱者(マジックキャスター)では無かったようだな。単に生まれながらの異能(タレント)で、アンデッドを使役しているだけのようだ」

 

「確かに残念ですな…… 生まれながらの異能(タレント)は、後天的に真似できるモノでは無いですからな」

 

 フールーダは本当に残念がっているようだったが、心の底では自分を超える魔法詠唱者が、いないという事も分かっていたので、立ち直りも早い。

 

 

「だが、アンデッドを連れているというのは確かなようだ。しかも、この経歴を見たか?たった一人の冒険者が、ビーストマンを退け、国を救ったとあるぞ?」

 

 

 余りにも馬鹿げた情報だが、これは諜報部がしっかりと精査したもので、嘘はない。

 

 

「つまり、このネムという子供を手に入れれば、我が国は王国に楽に勝利出来る。いや、この子供を手に入れた国が、戦争には勝つと言って良いな」

 

 

 王国の阿保貴族には、本当に感謝している。

 こんな切り札(ジョーカー)を冒険者として、しかも薬草採取なんかに使っているのだから。

 

 

「幸い、この子供の拠点は辺境の村だ。つまり、国への帰属意識が薄いのだろう。若しくは、王国に魅力が無さすぎるのかもしれんがな」

 

「して、陛下。どの様に我が国に引き入れるのですかな?」

 

「ここはシンプルにいこう。この国に招き、盛大にもてなせば良い。あちらの国より素晴らしい環境を整えれば、簡単に靡くだろう」

 

 

 数々の強行策をとり、無能な貴族を粛清し、鮮血帝の異名を取ったが、懐柔策もお手の物だ。

 早速、彼らを呼び出すために、適当な依頼を出す様に指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国に冒険者チーム『黒い疾風』を呼び出し、早速謁見の段取りを取り付け、未来の帝国の手駒に会いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、お会いできて光栄ですわ」

 

 

 そこには私の嫌いな女、第一位がいた。

 

 

 

 

 

 

 竜王国での活躍により、サラッとアダマンタイト級冒険者になっていた、ネムとモモンガ。

 今日は久々に指名依頼があるとの事で、冒険者組合に来ていた。

 

 

「――以上が、依頼の内容になります」

 

 

 依頼の説明を受けたモモンガが、ネムに確認をとる。

 

 

「大丈夫か? この依頼は帝国に行くことになるが……」

 

「うん、大丈夫です!! またお姉ちゃんも一緒に連れてっちゃえばいいです」

 

 

 ネム達は過去に、帝国の騎士の鎧を着た者に襲われている。モモンガとしては、そちらを心配していたがネムは強い子だ。

 

 ちなみに、本当は法国が偽装して襲っていたことは、ネムも含めて村の全員が知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も連れて行っては頂けませんか?」

 

 一体どこで情報を掴んでいたのか、黄金メッキの姫様に会ってしまった。いや、会わされたと言うべきか。

 

 組合の依頼内容の中に、偶然、王都の王城に寄らないといけない内容の指名依頼があり、偶々、帝国に行く前に寄るスケジュールになっていた。

 

 帝国の動向まで掴んでいるとは、引き篭もりも侮れない。

 

 

「いやいや、一国の王女を連れ出せるわけがないでしょう……」

 

「本当ですか? 私の周囲の世話役をチョチョっと操れば、数日くらい簡単だと思いますけど?」

 

 

 コイツ、俺が八本指を操って自首させたことを突いてきやがった。

 ネムとエンリは何のことか分からず、首を傾げている。

 

 

「私、この城を出て遊んだ経験が、ほとんど無いんです。だから、自分の素を出しても良い人と、遊びに行ってみたくて……」

 

 

 これは本当だろうな、というかコイツも地味に精神的にはボッチなのか……

 

 ネムはお姫様と旅行が出来ると大はしゃぎ。

 エンリは今にも倒れそうだ。

 

 

「はぁ、仕方ないな。子供の味方としては、無垢な願いは叶えてやらないとな」

 

「私は既に16歳ですけど?」

 

「残念、私の基準では20才未満は子供なんだ」

 

 

 まぁ俺は小卒で働いていたけど……

 本来、これくらいの年齢は、遊んでいた方がいいんじゃないかと、鈴木悟の精神が訴えていた。

 

 

「まぁ、ギブアンドテイクという言葉もある。今度は私がラナーに助けてもらうよ」

 

「打算的なのは、友人としてダメなのでは?」

 

 

 モモンガが呼び捨てにしたのにも関わらず、本当に楽しそうにラナー王女は聞いてくる。

 

 

「友人だからこそ、借りは返したくなるものだ」

 

「ええ、確かに…… それならこれからは、困った時のガゼフでは無く、困った時のラナーとして頼ってください!」

 

 

 本当にどこまで知っているのやら……

 こうして、帝国に行く仲間が一人増えた。

 

 

「さぁ、帝国からの依頼には、御家族、御友人も一緒にどうぞと書いてましたからね。旅行のつもりで楽しみましょう!!」

 

 

 コイツ本当にどこまで知ってるんだ。

 

 帝国からの依頼すら、ラナーが仕組んだと言われても、信じてしまいそうだった。

 

 

 



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強者は挑まれる運命にある

 帝位を継いでから、初めての失態かもしれない。

 依頼内容が仇となるとは、抜かった…… いや、これは本当に私が悪いのか?

 

 件の冒険者を引き抜こうと、帝国に来て観光してもらい、その評価をしてもらうという依頼を出した。

 家族がいる事は分かっていたから、丸ごと引き抜くため、御家族、御友人も一緒にどうぞと、書いたのが間違いだった。

 

 どこの冒険者が敵国に、自国の王女を友人枠で連れて来るんだ?! そんなもの、予想出来る訳がないだろう!!

 

 何にせよ、考えていた手段は全て御破算となった。

 この女がいる以上は下手を打てない。

 依頼を完遂してもらい、一旦は帰ってもらう他無いだろう。

 

 

「やぁ、わざわざ来てもらって感謝するよ。アダマンタイト級の冒険者に頼むには、少々物足りないと感じるかも知れないが、調査には箔付というのも必要でね。何はともあれ、普通に観光するつもりで楽しんでほしい」

 

 

 直接勧誘する事は出来ないが、印象を良くしておくことに越した事はない。様々な貴族達と渡り合って来た、最上の笑顔で迎える。

 

 

「皇帝のお兄さん、なんか嘘くさいです」

 

 

 一瞬で轟沈した。

 

 いや、寧ろこれが見抜けるという事は、素晴らしい人材だと、プラスに考えるべきだろう。

 

 

「くっ、ぶふっ、ネムよ。大人には営業スマイルというのも、必要なんだ」

 

 

 笑うな骨、そこはフォローするところだろう。

 

 

「フフフッ、アハハハハッ!! 流石、帝国の皇帝陛下ですね。自ら民に笑顔を与えてくれるとは、素晴らしいです!!」

 

 

 この女、取り繕う気すらないのか。

 

 

「こらっネムっ!! えっと、私は皇帝陛下の笑顔は、カッコよくて素敵だと思いますよ?」

 

 

 村娘の言葉が心に染みる。

 有難う、貴族達のような取り繕った言葉ではない、飾らない言葉がこんなに嬉しいものだったとは……

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今回の依頼は観光してレビューを書くだけ。危険も何もないから、普通に楽しむとしよう」

 

 

 適当なオープンテラスのカフェで休憩しながら、貰ったパンフレットを開く。

 どこへ行こうか相談しだす、幼女と骨と村娘と王女。

 あれだけ最初、狼狽えていたエンリも、今は普通にラナーと話している。

 人の順応性の高さには驚かされる。

 

 

 帝都を散策し、途中で立ち寄った闘技場で事件は起きた。

 

 モモンガからすれば、レベルの低い試合ばかりだ。儲けるつもりも無いが、ちょっとだけお金を賭けてみたりと、4人でそれぞれ予想しあって、楽しんでいるところだった。

 

 

「そこに座っている女性、名はなんという?」

 

「えっ?」

 

 

 この帝都アーウィンタールの闘技場で、トップに君臨する武王、ゴ・ギンがエンリに声をかけてきたのだ。

 

 モモンガは実力を隠す装備を着けているし、ネムが着けている装備はどれも防御に偏っているため、強さは感じられないだろう。

 エンリに声がかかったのは必然とも言える。

 

 

「貴方からは、何かとてつもない強さを感じる。どうか、この私と試合をして欲しい」

 

 

 闘技場のトップからのまさかの宣言に、会場は騒然となる。

 そしてエンリは、こういう時に必ず流される。

 

 

 

「流石に素手は可哀想だから、あの時のガントレットを貸してあげよう。心配するな、もしヤバそうだと思ったら、私が乱入してでも助けるから」

 

 

 モモンガ様からは、ガントレットを貸してもらい、妹からは応援の言葉を、ラナー様からは応援の言葉と、期待の眼差しを頂いた……

 

 

(いったいどうしてこんな事に…… モモンガ様、これは既にヤバそうではないんですか?)

 

 

 ゴ・ギンと呼ばれている剣闘士は、全身鎧を着けていて分かりにくいが、ウォートロールである。

 強くて礼儀正しい、全身鎧の『グ』だと思えば良い。だいたい合っている。

 

 

 闘技場の真ん中で、ゴ・ギンと対峙しながら、モモンガ様、信じてますからね!! と、エンリは覚悟を決めた。

 

 

 

 試合は余りにも一方的だった……

 そう、誰もが予想できていたことだ。

 あんな村娘とウォートロールが戦って、無事に済む筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 エンリは武王をフルボッコにして、一撃も貰わずに勝利した。

 

 

「お姉ちゃん、凄い、凄ーい!!」

 

「エンリさん、素晴らしい拳でしたね。私は武術を嗜んでいない素人ですが、それでもエンリさんの強さは、分かりました」

 

「うーん、分かっていた事だが、ガントレット無くても、良かったかも知れん」

 

 

 妹と王女と骨、三者三様の評価を聞きながら、エンリは段々と、自らの実力を自覚していくのだった……

 

 

 



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暗黒物質を変化させる骨

 モモンガ達が依頼という名の観光を終えて、レビューを提出し、帰った後のこと。

 皇帝ジルクニフは、ラナーが代筆したと思われる報告書を読んでいた。

 

 一枚目は、スゴイしか書いていない。

 二枚目は、まるでこちらがアピールしたい部分を、ピンポイントで知っているかのように、褒める文章だった。

 三枚目は、素朴な内容だった。

 四枚目を読み始めてから、怒りが爆発しそうになり、最後まで読むと、執務室で恨み言を吐き散らしていた。

 

 

「おのれぇぇ、あの女ぁ!! 私が勧誘するつもりなのを分かってて、やりやがったなぁ!!」

 

 

 ご丁寧に、冒険者の友人枠として敵国に来た王女。

 報告書には嫌味の様に、帝都の改良すべき点を書いている。

 あげくに帝国が誇る最強の剣闘士を、物のついでにブチのめして来たそうだ。

 観光した感想として、『こんなに素晴らしい国なら、お友達と何度でも来たいです』と締め括ってあった。

 

 この冒険者達は、既に自分の手駒であり、帝国などいつでも潰せるという、牽制に他ならない。

 実際のところ、全て皇帝の深読みによる勘違いである。

 

 このままでは王国を手に入れるどころか、帝国の未来すら危ういと、頭を掻き毟りながら今後の策を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガ達はラナーを王国に送り届けるため、一旦王城にあるラナーの私室に直接転移して戻ってきた。

 

 

「よし、影武者はバレなかった様だな」

 

 

 今回、ラナーをバレないように王城から連れ出し、一緒に帝国に行くために二重の影(ドッペルゲンガー)をアイテムで召喚し、ラナーに化けさせていた。

 ユグドラシルでは、棒立ちの分身が一人作れるだけのゴミアイテムだったが、この世界で身代わりに使うには十分だった様だ。

 

 

「細かい事は出来ないから、ベッドで寝こむ演技を続けているだけだったが、案外バレないものだな」

 

「王族が寝込めば、面会する機会とかも減って良いですね。王族って結構面倒なんで、一生使っても良い作戦ですね」

 

 

 ラナーはこの先、眠り姫でも演じる気なのだろうか……

 そんな話をしていると、部屋を慌ててノックする音がした。

 おそらくクライムが、ラナーに何かを知らせに来たのだろう。

 

 

「ラナー様、失礼します。ああっ!! 良かった、お戻りになられていたのですね!!」

 

 

 御付きのクライムまで知らないというのは、誤魔化す上で無理があったので、ラナーが影武者を使う事は知らせていた。

 

 モモンガ達と一緒に行く事に、最初は猛反対していたが、ラナーが擦り寄って耳打ちしたら、顔を真っ赤にさせて、頷いてくれた。

 ラナーが何を目指しているのかは知らないが、クライムを手玉にとる様子は、本当に楽しそうだった。

 

 ネムには絶対に真似してほしくはないが。

 

 

 

 

 

「ラナー様、実はバルブロ殿下が――」

 

 

 クライムの説明によると、馬鹿王子が自分の罪の隠蔽のために、モモンガ達を狙っているという事だった。

 

 

「ふーん、それでカルネ村まで兵を連れて出撃したと。戦士長まで連れてご苦労な事だ」

 

「ネムとモモンガ様は、何もしてないのに酷い!!」

 

「どうするんですか、モモンガ様!! このままじゃ捕まっちゃいますよ、もしかしたら村に何かあるんじゃ!!」

 

 

 ごめんな、ネム。バルブロの言ってる事って、意外と正解なんだ。

 焦り出すエンリと、怒るネムを宥めながら、次の手を考える。

 

 

「それにしても、その王子は馬鹿なのか? 私達が依頼で帝国に行ってて、村にいない事は、少し調べれば分かっただろうに……」

 

 

 馬鹿なんですと、同意するラナー。

 何にせよ、放っておく事は出来ないため、ネムとエンリをこの場に残し、モモンガが様子を見に行くことにした。

 ネムとエンリにすぐに戻ってくると言い残し、〈転移門(ゲート)〉を開きカルネ村に行った。

 

 

「モモンガ様が行ったのなら、村のことは大丈夫でしょう。さぁ、モモンガ様が戻ってくるまで、ゆっくりお茶にしましょう。まだまだお二人とはお話ししたい事が、いっぱいありますからね!!」

 

 

 モモンガの事を信頼…… いや、何かあったら面白いなと、思っているのは否めないが、今は新しい友達と紅茶を楽しもうと思う。

 

 今の自分なら、ラキュースとも、本当の友情を築けそうな気がする。

 蒼の薔薇とモモンガ達、みんなで一緒に冒険に行ったら、もっと楽しそうだ。

 

 モモンガが二人を迎えにくるまで、三人は女子会を楽しむのだった。

 

 

 



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正義の味方

 王国は二百年以上の歴史を持つ国だが、建国始まって以来となる珍事件に見舞われていた。

 麻薬や人身売買など、数多くの悪質な犯罪に手を染めていた犯罪組織『八本指』。その組織の主要なメンバーとそれに関わる者たちが、王城に詰めかけて一斉に罪を自白し始めたのだ。

 

 裏社会の犯罪組織が消えるだけならば、喜ぶべき事だったのだろう。しかし、その口から出てくるのは数多くの貴族達の名前だ。

 挙げ句の果てに、王国の第一王子バルブロの名前まで出てきたのだ。

 

 自首する者が明らかに誰かに操られている事、証拠が無い事から、一部を除き裁かれていない貴族達もいる。

 

 王国の第一王子、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフも裁かれなかった一人だった。

 八本指と繋がり、賄賂を受け取り私腹を肥やしていたが、証拠が無かったためお咎めは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! 私は王となるべき存在だぞ!! 証拠は見つからんと思うが、万が一にもアレが明るみに出たら――」

 

 

 このままでは第二王子のザナックに王位を取られてしまうと、バルブロは焦った。

 妹のラナーはこの件にショックを受けたのか、部屋に篭っている。

 あんな奴はどうでも良いと、頭から振り払う。

 

 

「――こうなれば人々を操り王族を侮辱させたとして、その犯人を私自ら捕らえるしか…… だがそんな存在など――」

 

 

 事件を起こした犯人を早々に捕らえ、抹殺する事で自らの失態を揉み消そうと考える。この際その犯人は本物でなくても構わない。

 しかし、そんな都合良く犯人になれそうな存在はいない。

 自分にかかれば犯人を仕立て上げる程度のことは簡単だ。

 ただし、今回の件ではこれだけの事を起こせそうな存在でなければならないため、普通の平民に罪をなすりつけても周りが納得しないだろう。

 

 

「――いた。巷で話題となっているという冒険者。アンデッドを使役しているという怪しい存在ならば…… いや、この際そのアンデッドそのものでも良い」

 

 

 犯人に仕立て上げるのにちょうど良い存在を見つけ、バルブロはほくそ笑んだ。

 仕立て上げるまでもなく、そのアンデッドが犯人なのでバルブロ大正解である。

 

 

 

 

 

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは、カルネ村に向けて進む馬の上で、自らの行いを振り返り心を痛めていた。

 

 八本指の関係者が王城に突撃し、自首し出すという珍事件。

 またあの骨が何かやったんだろうと投げやりに考えていたが、それが思わぬ方向に進んでしまった。

 

 恐らく八本指と関わりのあったと思われる一部の貴族が、これは王族や貴族を侮辱する許し難い犯罪であると騒ぎ出したのだ。

 そこにバルブロ王子が見計らったかの様に、犯人に目星はついており重要参考人として捕らえるため、兵を貸して欲しいと言い出した。

 

 元々、八本指と思しき者達は魔法か何かで操られており、確かに証言の信憑性は微妙なところだ。

 そんな中、真の犯人を捕らえるためと言われれば、自らの子供に甘い王は断る事ができなかった。

 

 こんな事に部下は巻き込めないと思ったガゼフは、それならば私一人で行くと言ったが、六大貴族の一人であるボウロロープ侯までもが兵を貸し出すと言い出した。

 

 そのため、最終的にはバルブロ王子、ガゼフ、総勢5000名のボウロロープの精鋭兵団でカルネ村に向けて出撃することになった。

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、俺は何をやっているんだろうな……)

 

 

 村を救うべく行動した時とは違い、今のガゼフは王国の秘宝を装備している。

 

 肉体の疲労が一切無くなる、活力の籠手(ガントレット・オブ・ヴァイタリティ)

 癒しの効果があり、常に体力を回復し続ける、不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)

 最高の硬度を持つ希少金属アダマンタイト製の鎧、守護の鎧(ガーディアン)

 鋭利さのみを追求して、鎧すらバターの様に切り裂く程の魔化を施された魔法の剣、剃刀の刃(レイザーエッジ)

 

 一体何のために、この装備を俺は託されたのだろう。

 民を救う為には使えず、民を捕らえる為に使う事になるとは…… これで平民の希望の星とは皮肉なものだ。

 

 このままではきっとあの御仁と戦いになってしまう。バルブロ王子はきっと村ごと焼き払ってでも、件の冒険者とアンデッドを殺そうとするだろう。

 敵対した時にどんな結果になるかは想像に難くない。

 なんとかしたいが、ただの王の剣である私にはどうすることもできない。

 村に被害が出る前に、自分が速やかに冒険者を捕縛する。

 いや、我々に被害が出てしまう前にだろうか。

 

 いったいどうすればいいのだ……

 

 答えの出せないまま、ガゼフは馬に揺られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 もう少しでカルネ村に到着する頃、急に先頭集団の動きが遅くなり、馬の足が止まった。

 

 遠くからではよく見えないが、どうやら何者かが進路を塞ぐように立っているようだ。

 

 

「王子の道を遮るとは、この無礼者っ!! 我々はその先の村にいる、大罪人をひっ捕らえに行く大事な任務の最中なのだ!! 分かったらそこを退け!!」

 

 

 バルブロ王子が叫ぶが、目の前の男はまるで怯まずそこから一歩も動こうとはしない。

 

 その尋常じゃない様子に強者の気配を感じ取ったガゼフは、殿下と周りを一度下がらせ自ら前に進み出てその男を確認する。

 

 軽装に見えるが服の上からでも分かる程、筋肉が盛り上がり尚且つ引き締まった身体の男だ。

 ボサボサの髪で顎には無精髭が生えている。

 そして、その腰に有るのは一振りの刀。

 

 

「――お前は」

 

「ようガゼフ、久しぶりだな。こんな所で何してるんだ?」

 

 

 自分が王に仕える切っ掛けとなった御前試合。その決勝で戦った男、ブレイン・アングラウスだった。

 

 

 目の前の男は詳しいことは何も知らないはずだ。それでもガゼフの前に立ち塞がっている。それが正しいことだと言わんばかりの態度は、今のガゼフには羨ましい姿だった。

 

 

「――王の御命令により、あの村にいるアンデッドを使役する冒険者とそのアンデッドを、人々を操り王族を侮辱した事件の重要参考人として、連れて行く所だ……」

 

「あの村にそんな存在が、ね。俺は少しだけあの村に滞在させてもらっていたが、復興を頑張る普通の村だった。そもそもその御命令とやらに、お前は全く納得してないようだが……」

 

「私は王に剣を捧げた身。ならばどんな御命令であれ、忠義に誓って為さねばならない」

 

 

 目の前の立つブレインは心底下らないと言いたげな雰囲気だ。

 

 

「そうか、かつて目指した存在が随分とちっぽけな男に見える。大層な装備を着けてるようだが、あの時の方が強そうだったぞ……」

 

 

 何か決意を固めた様な表情をして、ブレインは刀を引き抜きこちらに突きつける。

 

 

 

「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!! お前に一騎討ちを申し込む!!」

 

 



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幕間 こんな話もあったとさ

 スレイン法国にある特別な独房、その中に一人の女性が捕らえられていた。

 

 

「今まで随分と問題を起こしてくれた様だな、クレマンティーヌよ」

 

 

「ちっ、このクソッタレな国でも散々暗殺だの謀殺だの、殺しまくりじゃねーか。人類のため〜六大神の教えにより〜ッハ!! あー、アホらし、私と同じで狂ってるクセして偉そーに」

 

 

 クレマンティーヌは過去に法国から秘宝を盗み出し、エ・ランテルにて『ズーラノーン』のカジットと共にアンデッド大量発生の事件を起こした女だ。

 その後、エ・ランテルで裁かれる前にスレイン法国の特殊部隊が秘密裏に回収していた。

 

 

「所詮はクインティアの片割れか、信仰も分からぬ愚か者が……」

 

 

 クレマンティーヌに会いに来た、スレイン法国の上層部の人間は吐き捨てるように言う。

 

 

「そんなお前でも利用価値はある。人類の為には遊ばせておく余裕はない。無理矢理にでも働いてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が復活するという予言の確認のため、そして今までの罰も兼ねてトブの大森林にクレマンティーヌは一人で派遣されていた。

 監視は無いが、仕事を放り出して逃げることは出来ない。一定期間以上、法国に戻らなければかけられた呪いが発動し、永遠に頭痛に苦しむことになる。

 

 

「あーあー、こんな首輪なんて付けやがって。やる事がえげつないんだよ」

 

 

 早いとこ破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)とやらを調査して帰ろう。そう思って歩いていると、森で骸骨に出会った。

 

 

「てめぇはあの時のエセ骸骨!!」

 

「ん? 誰だ…… ああ、あの時の女か。捕まってなかったのか?」

 

 

 モモンガとしては勝手に捕まっていると思っていたが、どうやら違ったようだ。実際は一度捕まって脱獄したというのが正しい。

 

 

「正体さえ分かっちまえば、魔法詠唱者(マジックキャスター)なんて、スッといってドスッ…… これで終わりだよ」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉」

 

 

 モモンガはコイツの話を聞くのはメンドくさいと、淡々と魔法を唱えた。

 

 

「くっ、舐めるなぁ!! 」

 

「おー、抵抗(レジスト)出来たのか」

 

 

 この世界では大抵これで済むので、今の一撃で終わると思っていたモモンガは少しだけ感心した。

 

 

「ざぁーんねーんでーしたっ!! 前にやられてから、麻痺の耐性を上げる装備を着けてるんだよっ。このクレマンティーヌ様に同じ手が通じる訳ねぇんだよ!!」

 

 

 モモンガの魔法を防げたのが嬉しかったのか、こちらを煽るように勝ち誇るクレマンティーヌ。

 

 

「ふむ、耐性が上がっただけで、完全無効化ではないのか。では何回耐えられるか、チャレンジといこうじゃないか」

 

「えっ?」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)麻痺(パラライズ)〉〈魔法最強化(マキシマイズマジック)麻痺(パラライズ)〉――」

 

「えっ、あっ、ちょ、ヒンッ、あばばば――」

 

 

 

 モモンガは陸に打ち上げられた魚のように、ビクッビクンッと痙攣しながら倒れているクレマンティーヌを見て、やれやれと頭を振るのだった。

 

 

「対策を考えるのは大事だが、状態異常の対策をするなら完全無効化じゃないと意味が無いだろうに。詰めの甘いやつだ」

 

 

 次はこんな事がないように、モモンガは今度はちゃんと捕まえておくかと、エ・ランテルの屯所に放り込んだ。

 

 その後、法国の特殊部隊に再び回収されるまで、クレマンティーヌは頭痛に苦しめられた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルに住む薬師、ン・フィーレアは非常に悩んでいた。

 長年片想いを続けている幼馴染、カルネ村に住むエンリ・エモットとの距離をどうやったら縮められるのか。

 以前、謎の秘密結社に攫われた時は想い人の妹に助けられるという、情けない姿を晒したばかりだったので彼女の妹は頼れなかった。

 

 悩みに悩んだ結果、とりあえず会う回数を増やすことにした。

 祖母には新たなポーションについて研究したいから、今までとは違う薬草を集めてくると言い訳しカルネ村に向かった。

 

 最近はエンリもモモンガやネムと一緒に出かける事があったので、いつも村にいるわけでは無いことをンフィーレアは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村の村長に挨拶をした時に、実は村で使う薬草を取るために森に入ってくれた人がいるそうで、もし会えたらよろしくと言われた。

 

 エンリに運悪く会えなかったンフィーレアと、護衛で雇った冒険者チーム『漆黒の剣』は絶賛大ピンチ中だった。

 トブの大森林に入り、薬草集め自体は順調に進んでいたのだが途中で『西の魔蛇』に会ってしまったのだ。

 

 

「ワシの支配領域に入るとは愚かな人間め。このまま部下達の餌になるがいい!!」

 

「おっと! これはやばいぞ。周りの蛇は何とかなるが、アイツの姿が見えない!!」

 

 

 ルクルットは野伏(レンジャー)なので他の仲間よりも耳が良く、音を頼りに周りに指示を出しギリギリ攻撃を躱していた。

 ンフィーレアを中心に円陣を組んで耐えていたが、長くは持たないだろう。

 そんな時、急に周りの蛇が切り払われた。

 

 

「ワシの部下が!? おのれ、何者じゃ!!」

 

「――正義の味方を目指してるだけの、通りすがりの修行者さ」

 

 

 突如乱入してきた刀を持つ剣士が、蛇を薙ぎ払い西の魔蛇と対峙する。

 

 

「俺はモンスターとはいえ無闇に殺したくは無い。お前が引くなら追いはしないぞ?」

 

「ぬかせ!! ワシの姿も見えん人間如きに、誰が従うか!!」

 

 

 西の魔蛇リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンは透明化(インヴィジビリティ)を維持したまま、背後に回り込み襲いかかった。

 

 

 

 

 

「な……ぜ…… わかっ……た……」

 

「俺の〈領域〉は相手が見えなくても、空間内全てを知覚できる。まぁ、俺の反応速度より速く攻撃されたら意味は無いがな」

 

 

 

 奇襲に対して完璧なカウンターを決められ、真っ二つにされた西の魔蛇は死んだ。

 

 

 

「助けていただき有難うございました!! もしかして貴方はあのブレイン・アングラウスさんでは?」

 

「なに、困った時はお互い様だ。そのブレインで合っているが、大した存在でもないよ」

 

 

 代表して御礼を言うペテルに対し、軽く応えるブレイン。

 なんでも周囲の村渡り歩きながら修行を続けていたところ、薬草が無くて困っている村人からの頼みで森に何度も入っていたそうだ。

 

 

「俺は剣以外はからっきしでな、中々集められなかったんだ」

 

「それなら僕がお手伝いしますよ。こう見えても薬師ですから、助けていただいた御礼をさせてください」

 

 

 実は帰る場所が同じカルネ村だと知ったブレインとンフィーレア一行は、この後一緒に薬草を採取してカルネ村に戻り、滞在中に少しばかり仲を深めるのだった。

 

 

 

 



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終わり=ぶん投げ

 カルネ村にほど近い平野。

 

 ほぼ刀を装備しただけの男、ブレイン・アングラウス。

 王国の秘宝で完全武装をしている戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。

 

 周りの兵士たちが固唾を飲んで見守る中、二人は静かに見つめ合っていた。

 

 

「あくまでもお前は立ち塞がるというのか…… 汝がそう言うのならば王の御命令を果たすため、私はその一騎討ちを受けよう」

 

「俺は修行の末に一つの答えを得た。俺の目指す頂き…… 今の迷ったお前に見せてやる」

 

 

 ブレインは鞘に刀を戻し抜刀術の構えを取り、それに応えるようにガゼフも剣を構える。

 

 

「武技〈能力向上〉、〈能力超向上〉――」

 

「武技〈領域〉、〈能力向上〉――」

 

 お互いに様子見する相手ではない事が分かっている。

 そのため使える武技を全て発動し、最初から全力を出しきるつもりで後のことは何も考えない。

 始まりの合図も何も無い決闘はどちらからともなく動き出した。

 

 

 

「おおおぉぉっ!!〈六光連斬〉!!」

 

「ぜやぁぁあっ!!」

 

 

 勝負は一瞬。

 ガゼフは6つの斬撃を同時に放ち、その全てをブレインに叩き込もうとする。

 ブレインは神速の一刀、ただ一撃に全てをこめて振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、負けだな……」

 

 

 

 

 

 

 自分の技はブレインには届かなかった。

 ガゼフは倒れながら、ああ、自分は負けたのかと目を瞑りボンヤリと考える。

 

 しかし、身体は痺れているものの死ぬような気配は無い。

 不思議に思い目を開けると、ブレインがこちらを見て笑っていた。

 

 

「〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)・峰打ち〉絶対に相手を殺さない武技だ。知っているかガゼフ? 子供の理想とする正義の味方は、敵でも簡単には殺しちゃいけないんだそうだ」

 

 

 

 ――完敗だ。

 

 

 周辺国家最強の名は持っていけ。そう言うガゼフに、ブレインはそんなものは必要ないと言う。

 最強じゃなくても良い。大切な何かを守る力さえあれば、それでいいのだと俺はそう教えられた。

 

 その時のことを思い出しているのか、嬉しそうに語るブレインにガゼフはいい出会いがあったのだと悟った。

 

 

 

 

 

 

「いつまで茶番劇を見せる気だ!! ガゼフも簡単に負けおって!! 所詮は平民の出よ、使えん男だ」

 

 

 痺れを切らしたのか、バルブロ王子が喚きだした。

 

 

「兵達よ、矢を構えよ。如何に強くとも永遠には戦えまい。奴の体力が無くなるまで射撃を続けるのだ!!」

 

「お前は俺がかつて見た傭兵達と同じ目をしているな…… 己の欲望のために他の全てを奪おうとする目だ。そんなやつをこの先に通すわけにはいかない!!」

 

「賊がほざきおって!! お前のような奴が守る村などロクなものではない!! どうせ犯罪者がいるような村だろう、もろとも焼き払ってくれる!!」

 

 

 バルブロは何がなんでもブレインを殺すことに決めた。

 元々、都合の悪い者は全て消すつもりだったのだ。一人増えたところで関係ない。

 

 次々と矢を放ち、ブレインの体力が無くなるのを待つ。

 一方で、ブレインもこの状況は良いとは言えない。そもそもブレインにはこの兵達を殺す気がない。

 バルブロの言う通り、先にこちらの体力が尽きてしまうだろう。

 だが、それでも諦める気は微塵も無い。

 

 

「俺の名はブレイン・アングラウス!! 自らの信じる正義の為、あの村を守る!! 王族だかなんだか知らんが、自国の民すら襲おうとするお前らなんぞに負けるかぁぁあ!!」

 

 

 終わりの見えない持久戦が始まり、ブレインはただひたすらに躱し、刀で矢を弾こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よく吼えた、ブレイン・アングラウス」

 

 

 

 突然、地面に鉄を叩きつけた様な重い音が響き、粉塵が舞い上がった。

 

 

「お前は、もしかして……」

 

 

 空から落ちてきた何かが、ブレインを護る盾となる様にゆっくりと立ち上がる……

 

 

「選手交代だ。正義の味方よ、ここからは子供の味方に任せると良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはラナーの部屋から〈転移門(ゲート)〉で直接カルネ村に来たが、まだ村にはバルブロ達は来ていないようだった。

 便利アイテムの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使っても良かったが、どうせすぐ来るだろうと〈飛行(フライ)〉の魔法で上空から辺りを見渡すことにした。

 

 

「えーと、馬鹿王子御一行様はどの辺りかな?」

 

 

 カルネ村上空から王国の方向に軽く飛び、お目当の集団とそれに対峙する一人の人物を見つける。

 

 

「いたいた、相手側の先頭にいるのがガゼフかな? 前に見た装備よりえらくゴツいが…… 反対にいるやつは誰だ?」

 

 

 おそらくガゼフと対峙している者が何か喋っているのだろう。

 何となく内容が気になったモモンガは〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉を発動させ、会話の内容を聞こうとした。

 

 

「戦士長と一騎討ちか…… この世界の強者同士の戦いは見た事がなかったから、折角だし見させてもらおう」

 

 

 兎の耳を生やした骸骨が空を飛びながら試合を観戦する。

 文章にするとこれほど怪しいものもなかなか無いだろう。

 

 勝負は一瞬で決まったため、正直物足りないと思ったがここに来た本来の目的を思い出す。

 

 

「おいおい、折角一騎討ちして良い雰囲気で終わりそうだったのに、あの馬鹿王子は……」

 

 

 どうやら、数に物を言わせてブレインを潰すようだ。

 ブレインもそこそこ強いようだが、あの程度の実力では体力的に負けてしまうだろう。

 ブレインの啖呵を聞きモモンガは薄く微笑む。

 

 

(正義か…… 俺はこの世界に来て早々に捨ててしまったが、それを貫こうというのか)

 

 

 格好いいじゃないかブレイン・アングラウス。ここは助太刀登場とばかりに派手にいくとしよう。

 

 モモンガは彼らの遥か上空で〈飛行(フライ)〉を解除し、そのまま空中で鎧を纏いながら落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた黒い鎧を纏う骸骨の戦士に、バルブロ達は一瞬呆然となったが、獲物を見つけたかの如く叫び出す。

 

 

「見つけた、見つけたぞ!! 兵達よ、アレだ、あの骸骨をヤれ!! あれが王都を騒がせた犯人だ!! この際殺してしまっても構わん、絶対に逃がすなぁ!!」

 

 

 血走った眼で命令を下し、最初から捕縛する気があったのか疑いたくなるような勢いで、兵達を突撃させようとする。

 

 

「やれやれ…… 折角カッコよく登場したのに拍手がないどころか犯人扱いか。これでも本当に子供の味方のつもりなんだがな」

 

「その言い分からして、もしかしたらとは思っていたが…… やっぱりお前が、子供の冒険者に使役されているというアンデッドか」

 

 

 空から降ってきた骸骨に対して、ブレインはどこか納得したように言う。

 

 

「なんだ知ってたのか。一応名乗っておこう、アダマンタイト級冒険者ネム・エモットの使役魔獣モモンガだ。お前はなんかいい人そうだし、隠す必要もないから手早く済ませよう」

 

 

 着替えたばかりだが鎧を解除し、最近よく使う〈麻痺(パラライズ)〉の魔法で兵士全てを無力化した。

 

 

 

「魔法ってのはなんでもアリか…… まぁいいや、とにかく助かったよ。ありがとう」

 

「お安い御用だ。こちらこそ村を守ろうとしてくれたようで礼を言う」

 

 

 互いに似たようなものを志す骨と剣士。

 周りは倒れた兵士達で埋め尽くされているが、二人は笑いあっていた。

 

 

「それで、この惨状はどうするんだ?」

 

「心配するな、私には素晴らしい友人がいるからな。彼女ならなんとかしてくれるだろう」

 

 

 正義の味方でも一人というのは辛い……

 頼りになる仲間達がいるのはいいものだぞ。

 

 

 誇らしげに言い切ったモモンガは、城に戻ってラナーに全部ぶん投げたのだった。

 

 

 



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平和な日常

 トブの大森林にある家の前には骨がいた。

 隣には普通の村娘もいる。

 

 モモンガは魔法で作った椅子に揺られながら、大自然のBGMを聴きのんびりと過ごしていた。

 

 

「ああ〜、大自然の中で風を感じながら過ごす。なんて贅沢なんだろう…… 平和って素晴らしい」

 

「モモンガ様、クライムさんが結構な悲鳴を上げている気がするんですけど……」

 

 

 エンリが心配の声を上げるが、モモンガはどこ吹く風だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿王子バルブロを撃退した後にラナーの部屋に戻り、『後はよろしく』と伝えただけだったが、それだけでラナーは全てを察したようだった。

 

 

「お任せください!!」

 

 

 元気な返事が返ってきたが、本当に全てのゴタゴタを何とかしてしまったようだ。

 ラナー凄い。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、ラナーがクライムと共にこちらに遊びに来ることになった。

 当日モモンガが迎えに行き、ラナーに渡してあるアイテムを使い二重の影(ドッペルゲンガー)でアリバイ工作。

 まったくもって完璧な計画だった。

 

 

 二人がこちらに来てから色々と談笑していたが、途中でクライムの強くなりたいという話を聞いて今に至る。

 

 

「えいっ!! やあっ!! それっ!!」

 

「ほーらっ!! クライム〜頑張ってっ!!」

 

「アアァああぁぁ!?」

 

 

 クライムはネムとラナーの三人で、模擬戦という名の遊びの真っ最中だ。

 

 ネムに持たせているのは、吹き飛ばし能力があるだけのピコピコハンマー。

 ユグドラシルでは叩く事で相手をノックバックさせるだけのジョークアイテムに近い物で、攻撃力は皆無と言っていい。

 

 ラナーに持たせているのは〈魔法の矢(マジック・アロー)〉が出せるだけの杖。

 使用回数に制限は無いが、第1位階の魔法で連射も出来ず、威力も弱く強化も出来ない。

 しかも自分で出した方が明らかに早いし、自動追尾(ホーミング)性能が死んでいる。回避可能な〈魔法の矢(マジック・アロー)〉なんてメリットが無さすぎる。

 ユグドラシルでは、レベル一桁の時ですら使い道に悩むようなゴミアイテムだった。

 

 

 クライムが一人で二人を相手にして戦っているが、男だし頑張ってもらおう。リア充に手加減は無用だ。

 

 クライムの装備は普段の訓練時そのままだが、ネムにはあらゆる防御装備がつけてあるため怪我の心配はいらないだろう。

 

 ネムが前衛を受け持ち、ラナーが後衛。

 最初は身体能力的にも経験的にもネムの攻撃が当たるわけもなく、クライムが有利だった。

 しかし、途中からラナーが慣れてきたのか〈魔法の矢(マジック・アロー)〉に邪魔され、その隙を突いたネムに吹き飛ばされるようになってきた。

 縦に振っても横に振ってもちゃんと吹き飛ばせる。流石マジックアイテム、物理法則を完全に無視する軌道は見ていて面白い。

 

 杖を振るラナーはとても楽しそうだった。

 クライムに頑張れと言いながらも絶妙なタイミングで〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を当てて、恍惚の表情を浮かべている。

 

 

 後半、クライムはピンボールと化した。

 

 

 振るわれる武器や魔法に威力が皆無だとしても、飛ばされて木にぶつかれば痛いだろう。クライムはよく頑張った。

 

 エンリは参加せずモモンガと一緒に見守っている。

 クライムが迫真の演技をしていると思えば、子供がチャンバラして遊んでいるようにしか見えない。

 幼女と王女と犬が遊んでいるとは、なんと癒される光景だろう。

 

 そのうち遊び疲れたのかネム達が戻ってきた。

 

 

「モモンガ様!! クライム君に勝ちました!!」

 

「杖を振って魔法を出すのって楽しいのですね。こんな風に遊ぶのは初めてなので、思わずはしゃいでしまいました」

 

 

 何をもって勝利とするかは分からないが、ネムを褒めながらラナーにも楽しめたのなら良かったと言う。

 クライムの真剣な鍛錬を遊びと言い切るあたり、この王女もなかなか素が出せるようになってきたのだろう。

 

 

「鍛錬にご協力頂き…… 有難う、ございました。お二人とはいえ、チームと戦うのが…… これ程難しい事だったとは……」

 

 

 息も絶え絶えなクライムが一番消耗しているようだが、得るモノがあったのなら良しとしよう。

 

 

「そういえば、最近街に行くと第三王女が病に倒れ寝込んでいるという噂を聞いたが、何をしてるんだ?」

 

「あら? 友人が寝込んでいるというのに心配してくださらないのですか?」

 

 

 今遊びにきてる人間が言う台詞ではない。現にクライムが可哀想なくらいに元気一杯だった。

 

 

「どうせ二重の影(ドッペルゲンガー)を使ったのだろう? 使うなとは言わんが悪用はしないでくれよ」

 

 

 王女が城を抜け出し、国民には病に倒れていると嘘を流す。十分に悪用していると思うが、モモンガはこの程度なら気にしない。

 

 

「本当に便利で助かってますわ。後は連絡手段があるといいのですけど…… いちいち組合を通して依頼したりするのも面倒ですし」

 

「確かにそれは必要かもな。というか一国の王女が冒険者に指名依頼を出しすぎだろう」

 

 

 ラナーは割とどうでもいい事にも指名依頼を使い、モモンガ達を呼び出していた。

 

 最近クライムとの距離が縮まったんです!! 前よりも主従関係っぽさが減って、遠慮なく諌めてくれる様になったと思うんです!! まぁ、聞いてはあげないんですけどね。

 

 これを聞くために王城に行った時は、張り倒してやろうかと思った。

 

 アイテムボックスを探り、特定の相手に録音した音声を流すという本来は妨害に使うアイテムを渡した。

 ユーザーの設定で簡単に防げるため、ユグドラシルではゴミアイテムだったが、ペロロンチーノがユグドラシルの限界に挑む!! と言って使っていた記憶がある。

 今思うとアイツはよくBANされなかったものだ……

 

 

「一方通行のアイテムだが、これを合図に俺が〈伝言(メッセージ)〉を繋げばいいだろう」

 

「ありがとうございます。ふふっ、これはイイものですね」

 

 

 確実に別用途で使いそうな気もするが、そこはラナーの良心に賭けておこう。

 

 

「ああ、そうだクライムよ。強くなりたいというのならこういうのは――」

 

 

 友と遊び、そして語り合う。

 モモンガ達の休日はこうして平和に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死王デイバーノック!! 魔導のために罪も無い人々を犠牲にする事は間違っている!!」

 

「くっ、八本指の六腕が自首して無くなろうとも私は止まりはしない!! 人間如きに我が野望は止めさせんぞぉ!!」

 

 

 

 そんな中、今日もどこかで正義の為に刀を振るう者もいたとか……

 

 

 



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クライムの特訓

 ここは帝国にある帝都アーウィンタールの闘技場、その控室である。そこに気合を入れた顔で自分の試合を待っている男がいた。

 

 

「ラナー様のため、私はもっと強くならなければ……」

 

 

 クライムがなぜこんな所にいるのかというと、モモンガに強くなりたいのなら色んな相手と戦うと良いと言われたためだ。

 経験は大事、その通りである。

 

 

『それならまた帝国に行きませんか? あそこの闘技場ならきっと色々な人と闘えますよ』

 

 

 ラナーのその言葉により、後日帝国に行くことに決まったのだが一人不参加の者がいる。前回の事があるせいか、エンリは行きたくないと言い今回は来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ゲスト枠でクライムが参加する事になったが…… 賭けの倍率がやけに高いな? 対戦相手はそんなに強いのか?」

 

「天賦のエルヤー・ウズルスですね。なんでも戦士長に匹敵する剣の腕前だとか」

 

 

 戦士長クラスとなるとクライムでは勝つのは厳しいだろう。まぁ負けても格上との戦いは経験になるし良いことか。死ななければポーションで回復出来るからと、手段が無数にあるモモンガは適当に考える。

 

 

「クライム君は負けちゃうんですか?」

 

「うーん、そうだなぁ。勝つのは難しいかもしれない。でも負けるのも勉強になるから悪い事ばかりじゃないんだよ」

 

 

 ネムは純粋に応援しているため、少し心配そうだ。だが人生は何事も思い通りにいくことばかりでは無いのだ。

 

 

「そういえば、あのエルヤーという人はエルフの奴隷を飼っていて、とても酷い扱いをしているそうです」

 

 

 ラナーの悲しそうな声…… これは演技だろう。

 しかし、相手がそんな奴だったとは…… そのエルフが子供かどうかは知らんが、ネムの教育的にもよろしくなさそうな相手だ。

 子供の味方なら動くべきか……

 

 計画変更だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の相手は無名の剣士ですか…… つまらない。確実に勝てるような相手と戦っても、今さら名声にも繋がりませんね。いっその事ガゼフ・ストロノーフやブレイン・アングラウスといった有名どころと戦えれば、この私の強さが証明できるのですがね……」

 

 

 エルヤーは控え室で次の対戦を待っていた。

 今回も自分の勝利は揺らがないと、既に勝った気でいる。

 

 時間となり、観客達の見守る試合の場にいつもの様に出て行く。

 向こう側からやって来た対戦相手は、小柄だが立派なフルプレートを纏った剣士のようだ。

 自分の持っている物よりもはるかに上質だろう装備を見て、思わず舌打ちをする。

 

 

「天賦のエルヤー・ウズルスです。どうぞよろしく」

 

「――ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスです……」

 

 

 思わず吹き出しそうになった。

 なんだそのバカみたいな名前は…… 金にモノを言わせたどこかのボンボンが遊びで出場して来たのだろうか。

 

 

「少し賭けをしませんか?」

 

「……?」

 

 

 声からして男だろうが、フルプレートで表情の見えない相手から提案があった。

 

 

「もし貴方が勝てば私の身につけている装備を差し上げましょう。その代わり私が勝てば貴方は二度と奴隷を買わず、今の奴隷も解放する。どうでしょう?」

 

「面白いことを言いますね。いいでしょう、精々貴方の装備に傷をつけずに勝たせてもらいますよ」

 

 

 率直に言って怪しい…… 目の前の男は、どこか台詞を言わされている感がある。歩いていた動きを見るに緊張していて、実戦経験の少なそうな素人。

 結局のところ自分が負けるはずもないと、賭けを承諾する。

 

 そして、試合のゴングが鳴った。

 

 

「では、その装備を質屋に持っていかないといけないですからね。観客には悪いですが…… 一瞬で決めさせて貰いますよ!! 〈縮地改〉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クライム君、ドカーンってなって凄かった!!」

 

「あのような勝ち方で良かったのでしょうか?」

 

「たとえ相手の実力の方が遥かに高くとも、道具や戦い方によっては勝てる。それを学べたんだしいいだろう。逆に敵を侮るとあっさり負けてしまうことも、今日の相手を見て学んだな」

 

 

 

 試合内容は余りにも酷かった。

 

 あの後クライムの控え室にいき、相手に持ち掛ける提案を話した後、モモンガは装備を渡した。

爆裂(エクスプロージョン)〉の魔法を籠めたフルプレートを着てもらったのだ。攻撃されれば発動するようになっており、魔法版のなんちゃって爆発反応装甲(リアクティブ・アーマー)である。

 

 やり過ぎないよう程よい加減が難しかったが、エルヤーは死んでないし上手くいったようだ。

 

 結局クライムは終始棒立ちしていただけで、剣すら振らずに勝ってしまった。ある意味これは歴史に残る一戦だろう。

 

 

 

「そういえばラナーはクライムに賭けていたようだが、儲かったのか?」

 

「ええ、とっても儲けさせて貰いました。さぁ、今回は私がご馳走するので、パァーッと盛大にご飯に行きましょう!!」

 

「私も食べることが出来たら良いんだがなぁ。これだけはアンデッドの身体に不満があるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? なにやら慌てているようだが」

 

「帝都アーウィンタールの闘技場で少々損害が出まして……」

 

 

 歯切れの悪い言い方をする部下に、答えやすいように何でもないことのように軽く聞くジルクニフ。

 

「なんだ? 大番狂わせの試合でも起こったか? それで損害はいくら出たんだ?」

 

「金貨で約7万枚になります……」

 

「7万だと!?」

 

 

 基本的に闘技場の賭けは、こちらが儲けられるよう出来ている。

 それがたった一度の試合で、金貨7万枚の損害が出るなど誰が予想できようか。

 

 

「アハハハハ…… クソッ!! 一体誰が戦った試合だ!!」

 

「天賦のエルヤー・ウズルスと…… ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスというフルプレートを着た戦士の試合でした」

 

 

「ま・た・あの女かぁぁぁあああ!!」

 

 

 皇帝の怒号が執務室に響き渡る。

 

 ご飯を食べたモモンガ達は、みんな笑顔で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、流石に強いな…… 森が破壊されるだけのことはある。トレントがここまで強いとはな」

 

「諦めんなよ、ザリュース!! 俺たちにはまだ足も腕も付いててピンピンしてんだからよ!!」

 

「そうだな、ゼンベル…… それに今の俺たちには心強い味方がいる!!」

 

 

 世界を滅ぼす魔樹と言われる樹の魔物、名をザイトルクワエ。

 トブの大森林に封印されているザイトルクワエは復活するための養分を集める為かどうかは分からないが、自身の分裂体を放っていた。

 ただの分裂体と侮ってはいけない。

 その分裂体でさえ、かつて13英雄達が戦う必要があった程の強さを持つトレントである。

 

 それがリザードマン達の集落を襲っており、それを切っ掛けに全ての部族が一丸となって立ち向かっていた。

 そして、それを助ける通りすがりの男が一人。

 

 

「そこまで言われたら頑張らない訳にはいかないな…… それに正義の味方としては生き物の住処を奪い、自然破壊を行うトレントは止めないとな!!」

 

 

 亜人も人も関係無い。

 そこには生きる為に力を合わせ、必死に足掻く者達がいた。

 

 

「俺の〈神閃〉とあいつの〈六光連斬〉を合わせた新たな武技を見せてやる!! 〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)剪定(せんてい)〉!!」

 

 

 同時に放たれた6つの神速の斬撃。その全てが分裂体を切り裂いていく。

 

 

「ありゃあ凄え。高い所の枝までバッサリだ」

 

「ああ、高枝切り鋏だな」

 

 

 正義の味方は今日も刀を振るい、更なる高みへと上り詰めていくのだった。

 

 

 



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骨に説明は無い

 帝国の闘技場でラナーが大儲けした後のこと。

 クライムの特訓のため、モモンガ達は何度もここに足を運んでいた。

 アレ以来クライムが試合に出ると、賭けの倍率は勝っても負けても微々たるものだった。

 元々儲けるつもりがあった訳ではないのでモモンガも特には何も手を出さず、クライムは勝ったり負けたりを繰り返して着実に実力を増していった。

 

 今回は珍しく、いつもの面子にブレインが加わっている。偶然出会ったブレインに闘技場のことを話すと、偶には実力を試すのも悪くはないと一緒に行くことになったのだ。

 

 

「あのブレイン・アングラウス様の剣技が見られるとは、光栄です!!」

 

「様づけなんてよしてくれ。ブレインでいいよ」

 

 

 クライムはブレインの戦う所が見られるとあって、かなり興奮しているようだった。

 

 

「それにしてもブレイン。最近やたらとお前の噂を聞くが正義の味方は上手くいっているようだな?」

 

「そういうお前は相変わらずネムちゃんと薬草採取か、モモンガ?」

 

 

 モモンガが薬草採取などの簡単な依頼を受けているのはもちろん訳がある。

 最初はネムも一緒に出来るように選んでいた依頼だったが、他の依頼を受けると報酬額が高すぎるのだ。

 簡単な薬草採取などは本来アダマンタイト級が受けるような依頼ではないのだが、そもそも頻繁に仕事をする訳ではないので組合には目を瞑ってもらっている。

 

 基本的に報酬はネムとモモンガで二等分している。モモンガはいらないと言ったが、それはダメと押し切られた。

 ネムが稼いだお金はエンリが管理しているので、子供にあまり大金を渡すのも良くないかと思いセーブしているのだ。

 エ・ランテルや竜王国を救ったりした時点で手遅れかもしれないが……

 今までと変わらない生活をしているあたり、エンリはしっかりと貯金しているのだろう。中々に出来た娘である。

 

 

「はいっ!! 森に入って薬草を集めるのを頑張ってます!!」

 

「私は採取出来ないから、ほとんど護衛だがな」

 

 

 コイツがそばにいるだけで、近寄って来る敵など皆無だろう。アダマンタイト級の護衛付き薬草採取とは…… 他の組合が聞いたら驚くな。ブレインは笑いながらネムを褒めている。

 

 

 闘技場へ向かって歩いていると、急に横から金髪の女の子が飛び出して来た。

 

 

「あっごべんなざい!! って骨、アンデッド!?」

 

 

 年はエンリと同じか少し上くらいだろうか。女性の年齢はよく分からないが、冒険者に近い格好に涙で顔をグシャグシャにしているところから尋常でない様子が伺える。

 

 

「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前はアルシェ・イーブ・リイル・フルト。

 帝国の元貴族の長女で、今は『フォーサイト』というワーカーのメンバーの一人として活動している。

 元々は帝国魔法学院で魔法の勉強に励んでいたが、両親の借金を返すため泣く泣く学院をやめて、ワーカーとして働き出した。

 

 鮮血帝の代になってから、多くの貴族達が貴族位を剥奪された。ウチもそんな中の一つに過ぎない。貴族の時代はもう終わっている…… それに気がつかない、いや気づこうとしない両親。

 特に父親は未だに貴族だった頃と変わらずに浪費を繰り返し、見栄をはるためだけに無駄な買い物をして借金を増やし続けている。

 

 そろそろ両親を見限って二人の妹と共に家を出た方が良いかもしれない。そんな事を思い始めた矢先の事だった。

 仕事を終えて家に戻ると、父が双子の妹、クーデリカとウレイリカを借金のカタに売り払ってしまっていたのだ。

 

 私は父親を殴り飛ばして家を出た。

 最近帝国では邪教集団が生贄を使い、怪しげな儀式をしていると噂で聞いたことがある。それでなくても売られていった二人がどうなってしまうのか、不安でしょうがない。

 クーデ、ウレイ…… お願い無事でいて!!

 

 泣きながら情報を集めに走り回っていると、ある集団とぶつかってしまった。

 私がぶつかったのは黒い鎧を着て、子供を肩車している骸骨のアンデッドだった。

 

 

「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」

 

 

 こちらを心配そうに見る骸骨に、限界だった私は思わず泣きながら全て喋ってしまった。今まで『フォーサイト』の仲間達にも、ちゃんと言ったことはない事まで……

 

 

「そうか…… そんな親が、いるのか……」

 

 

 目の前の骸骨の表情は一切変わらない。それでもなぜか悲しみ、怒っているような感じがした。

 

 

「ラナー……」

 

「はい、私達はネムさんと一緒にどこかで休んでいますね。クライム、私とネムさんの護衛は頼みましたよ」

 

「はいっ!! ラナー様とネム様は、私が命に代えてもお守りさせていただきます!!」

 

 

 護衛という言葉が出るということは、この金髪の綺麗な女性はどこかの貴族だろうか。

 

 

「ブレイン、悪いが予定変更だ」

 

「勿論だ。俺も手を貸すよ」

 

 

 アルシェには分からない。たった今話を聞いただけのこの人たちが、何をしようとしているのか。

 

 

「どうして…… あなた達は一体……」

 

「正義の味方と子供の味方だな。俺はまだまだ修行中の身だがな」

 

「ただの使役魔獣のアンデッドさ……」

 

 

 モモンガはそっとネムを肩から下ろす。

 細かいことは何も言っていないが、ネムは何かを感じて素直に下ろされる。

 まだ10歳だというのに、とても聡い子だと思う。

 

 

「モモンガ様、いってらっしゃい。早く帰ってきてくださいね!!」

 

「ああ、チャチャっと解決して帰って来るよ」

 

 

 表情は出せない骨の顔だが、ネムを確かに笑顔で見送る。待たせるわけにはいかない。早々に済ませよう。

 

 

「さて、先ずは情報収集からだな」

 

 

 今回はンフィーレアの時のように当てずっぽうには出来ない。

 鎧を解除し、本来の魔法職の装備に戻る。

 アルシェから聞いた話と二人の持ち物から魔法で居場所を探知し、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で場所を確認する。

 モモンガは〈転移門(ゲート)〉を開いて、ブレインと共に颯爽と乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

「私、置いてけぼり……」

 

 

 アルシェは訳もわからず置いていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し前のこと、とある街を守る為に一人で強大な魔獣の前に立つ男がいた。

 

 相手となる魔獣の名はギガント・バジリスク。

 全長10メートル程のトカゲの様な姿で難度83を誇り、一体で街一つを滅ぼすこともある恐るべき魔獣である。

 体を覆う鱗はミスリルに匹敵する硬度を持ち、その身に流れるのは即死級の猛毒の体液。

 そして最も恐れられる能力が『石化の視線』であり、その瞳に見つめられたものは文字通り石になってしまう。

 

 アダマンタイト級の冒険者でも、神官による回復と解毒が無ければ勝てないと言われる強敵である。

 

 それに挑む男は見たところ、腰に下げてある刀くらいしか特別なモノは着けていない。

 

 

「睨んでいるところ悪いが、今の俺なら石化は完全に抵抗(レジスト)出来る。お前に街を壊させるわけにはいかないからな…… ここで討伐させてもらう!!」

 

 

 魔獣がこちらに向かって来るのに合わせて、男は魔獣に向かって走り出した。

 そのまま通り抜けざまに一閃。

 

 ギガント・バジリスクはしばらく走り続け、男から離れた位置で突然真っ二つに身体が裂けた。

 

 

「毒の体液だろうと、当たらなければ問題無いな」

 

 

 正義の味方は少しずつ人外の領域に踏み出していくのだった……

 

 

 

 



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幕間 ぶん投げられた人達+αと幸せな骨

 王都にある冒険者組合の一角に、どんよりとした黒いオーラを出しながら喋る死体が転がっていた。

 

 

「ふふふ…… やったわ…… もう一生分の〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使い尽くした気分。ありとあらゆる仕事の斡旋…… 冒険者辞めても働ける自信もついたわ……」

 

 

 そんな事をうわ言のように呟いているのは、王都を中心に活動しているアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダー。

 ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは顔色は悪いが、やり切った表情をしてソファーに転がっていた。

 

 

「鬼ボス死亡」

 

「鬼リーダー死亡」

 

 

 そう言われるのも無理はない。彼女はモモンガに押し付けられた人達、八本指に囚われていた被害者に〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使いまくっていた。そうして出来るだけ心のケアをしてから、新たな職場まで探して斡旋するという事を毎日のようにしていたのだ。

 途中からラナーが仕事の斡旋を手伝ってくれていなかったら、未だに終わっていなかっただろう。

 

 

「あそこまで頑張る義理はなかったろうに。まぁでも、お陰で家族と再会出来た奴もいたみたいだし良かったじゃねえか。お疲れさん」

 

「ありがとうガガーラン、優しい言葉が沁みるわ…… 相手を気遣うって大事ね」

 

 

 仲間の言葉に少しだけ元気を取り戻すラキュース。

 

 

「そういやアイツら、結局アダマンタイト級にまでなっちまったな。なんでも国を救ったらしいけどよ」

 

「国を救った英雄に文句は言いたくないけど…… いや言うわ。あの鬼!! 無茶振り!! 骨!!」

 

 

ラキュースが復活し『蒼の薔薇』完全復活まではもう少し時間がかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、組合長のプルトン・アインザックとその友人で魔術師組合長のテオ・ラケシルが、ある冒険者をどうやって組合に留めておくか話し合っていた。

 

 

「どうすればいいと思う? ここエ・ランテルの組合に登録してはいるが、拠点としているのは辺境の村。そんなアダマンタイト級冒険者なんて聞いた事ないぞ」

 

「アダマンタイト級自体少ないというツッコミは置いといてだ。相手は子供でこれといった勧誘方法が分からん。ましてや使役魔獣という名の相棒はアンデッドだ、分かるわけもない。仕事も頻繁にしないし、やっても採取ばかりだ」

 

 

 これが大人だったり、男だったりすれば話は違っただろう。金や物で釣ったり、女という手もあるにはあった。

 しかし、あの冒険者は金や名誉には固執していない。他のモノで釣ろうにも良くも悪くも子どもであり、望みが小さすぎてこちらがお願いできない。

 終いにはアンデッドの方が報酬が高額過ぎるからこの依頼はちょっと、とか言い出す始末だ。

 

 

「これなら強欲な冒険者の方が余程扱いやすいな…… ネムちゃんがそうなったら泣きたくなるが」

 

「落ち着け、幸いにも最近は『漆黒の剣』を筆頭に若い奴らも育ってきてるんだ。そうそう焦ることはないさ」

 

 

 どうすれば拠点をずっとここにしてくれるのか…… 答えの出ないアインザックは、とりあえずはまた来てくれる事を願って採取系の仕事を用意しておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第二王子だ。

 最近我が国はヤバイと思う…… レエブン侯と一緒に逃げだしたくなるくらいには。

 

 一つ例を挙げよう。

 八本指の自首により焦って暴走した馬鹿兄上が、軍を引き連れ村を襲おうとして返り討ちに遭いましたとさ。

 馬鹿なのか!! 八本指を自首させるような能力を持つ奴に勝てるわけがないだろう!! せめて自分が勝てる相手を犯人役に選ぶ知恵は無かったのか!! 腕っ節しか取り柄のない癖に、相手の力量がわからんとか使えなさすぎる!!

 

 

「はぁ、ここまで貧乏くじを引かされるとは……」

 

 

 結局は王の恩情により殺さず幽閉に留まったが、それにより私が王位を継ぐのがほぼ確定してしまった。

 こんな強大な敵が潜む国の王とか、正直言ってなりたくない。

 

 さらに怖いのは我が妹ラナーだ。

 

 最近、元気すぎる。

 

 国民には病に倒れて寝込んでるとか噂を流してるが、頻繁に何処かに出かけている姿を見る事がある。

 そのくせ部屋に行くと必ずベッドに入っている。

 謎だ…… 第二、第三のラナーとか怖いからやめてほしい。

 

 

「まったく、あの元気を少しは分けてほしいものだ……」

 

 

 帝国が例年と違って、まだ戦争を仕掛けてこないのが唯一の救いだな……

 悩みの多いザナックはストレスで食事の量が増え、自らの体型にそろそろヤバイかと別の危機感も持つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフがブレインに敗れ、モモンガが馬鹿王子を蹴散らした後のことである。ガゼフ・ストロノーフは自らの意思で、王国戦士長の地位を降りる事を王に告げていた。

 

 真の忠義に立場は関係無い、そう気づいたからだ。もっと自由に動ける立場で王を助けたいと思っての事だったが、様々な思惑によって王国戦士長を辞めることは出来なかった。

 結局『王国戦士長』兼『国民戦士長』という新たな肩書きが追加されることとなった。

 

 

(――いったい、どうしてこうなった?)

 

 

 民の為に自由に剣を振るえるのは望むべくも無いのだが……

 私の処遇を決める会議の場で、いつのまにか誰かが場を掌握していた気がする。

 

 

 

 

 ――ガゼフ・ストロノーフは王の願い、そして民を守るという大義のもと、今日も王国の秘宝を纏い王と民の両方を助けている。

 

 貴族派閥? そんなものは知らん。

 今の俺なら無視できる。

 

 

「くっ!! カジットに勝るとも劣らない十二高弟の一人であるこの私が、まさかこんなにアッサリやられるなど――」

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長であり国民戦士長!! 王と民のための剣だ!! この誇りにかけて、貴様らの様な国を汚す者には絶対に負けん!!」

 

 

 もうガゼフの目に迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはトブの大森林で重大な事実に気がついた。

 種族特性により精神が安定していくが、それでもこの感情は止められない。リアルで出来なかった事もこの世界なら出来る。食事を楽しむ事など一部は無理だが、それでもこの身で楽しめるものがあった。

 一体なぜ今まで思いつかなかったのだろう。

 

 やるしかない。

 モモンガは勢いのままに突き進む。

 

 

「今の俺なら何だって出来る!! 超位魔法!!〈天地改変(ザ・クリエイション)〉!!」

 

 

 ドーム型の巨大な立体魔法陣が生み出され、モモンガは1日4回しか使えない切り札を切った。

 

 森の家の近くにある開けた場所で発動したが、何か変化が起こった様には見えない。いや、心なしか周囲が温かくなったようには思う。

 

 

「よし、特殊技術(スキル)・下位アンデッド創造」

 

 

 モモンガの特殊技術(スキル)により下位アンデッドを生み出し、地面を掘るように作業させる。

 アンデッドだけで難しい部分は魔法でゴリ押して作業を進めていく。

 

 

「――完成だ」

 

 

 

 モモンガは満願の思いがこもった声で呟く。

 

 独特の香りがする湯気が立ち上り、岩に囲まれ、なみなみと溢れそうに湧き上がるお湯。

 

 そう、モモンガは温泉を作ったのだ。

 超位魔法を使って土地を作り変え、アンデッドの作業員と魔法の力で作り上げた。

 現物など見たことはなく、仲間達とナザリックで作ったものをうろ覚えで再現したものだった。

 

 お風呂に入りたい。

 

 清浄な水が貴重なリアルでは、お湯を溜めて浸かるなど夢のまた夢であった。

 そして昔の日本では野外で風呂を楽しむという、温泉なる文化があったというではないか。生粋の日本人、鈴木悟ならば入りたいに決まっているではないか。

 それをする為だけに世界を歪めたなんて、どこかの竜が聞いたらキレそうだが、バレたらその時だ。

 

 

 

 

 

「あぁ、最高だ。まるで疲れが溶けていくようだ」

 

 

 湯に浸かり、完全におっさんと化した骨がいる。

 アンデッドに疲労など無いが、大自然の中で自分で作った温泉に浸かるモモンガは最高の気分だった。時々発動する種族特性が邪魔くさいが、それすらもどうでも良くなる気持ち良さだった。

 

 

「あーっ!! モモンガ様いた!!」

 

「モモンガ様…… 何してるんですか?」

 

「見ての通りだ」

 

 

 エンリはモモンガの家の近くに、温泉が出来上がっていることには大して驚いてはいない。いや、驚いてはいるがこの骨なら何をしてもおかしくは無いと、達観しているという方が正しいが……

 

 

「凄い!! お風呂を作ったんですか!! ネムも一緒に入りたいです!! お姉ちゃんも入ろうよ!!」

 

「……私は構わないがいいのか? 一応言っておくが骨とはいえ男だぞ?」

 

 

 エンリは悩む。妹のネムは気にしていないだろうが、私は流石に屋外でお風呂というのは気にしてしまう。しかし、村ではお湯を沸かす事すら大変なので普段は体を拭くだけで、お風呂自体滅多に入ることはできない。

 それにこの骨の気持ち良さそうな姿を見てしまうと、心が揺れる……

 

 

「まぁ、脱衣所は作ったし、タオルも置いてあるから体に巻いたりはできる。召喚したモンスターを周りに配置すれば覗かれたりする心配は無いと思うが――」

 

 

 エンリ・エモットは大きなお風呂という誘惑に負けた。

 

 

「あぁ、気持ちいいです〜。疲れが全部吹き飛んじゃいますね」

 

「気持ちいいね〜、お姉ちゃん」

 

 

 一度入ってしまえば、先ほど悩んでいたことなど吹き飛んだようだ。

 緩んだ表情の二人を見て、モモンガは家族がいたらこんな感じなのかもしれないと思う。

 もちろんリアルで生活していた頃、家族と一緒に風呂に入った思い出はない。ただの想像だ。

 

 ふと思うのはネムやエンリ達といると、アンデッドの種族特性があまり働いていない気がするという事。

 

 

(もしかしたらあの装備には隠し効果でもあったのかな? まぁ、なんでもいいか……)

 

 

 あまり深くは考えられず、思考もお湯に溶けていく。

 

 

「――家族って、いいよな……」

 

 

 モモンガからこぼれた呟きが聞こえたのか、ネムとエンリが一瞬ポカンとした顔をするが、二人ともこちらに笑顔を向けてくれる。

 

 周りには誰もいない静かで暖かな世界、三人は思う存分に温泉を楽しみ癒されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――モンスターがこんな所に大量にいるだと!? どうなってるかは分からんが、そんな程度で諦めはしないし俺は負けない!!」

 

 

 途中でモモンガが気づいて止めるまで、通りすがりの正義の味方の無慈悲なレベリングは続いた。

 

 



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モモンガによろしく

 モモンガとブレインが踏み込んでいった場所は、色んな意味でおぞましい集会所だった。

 全裸の男と女が狂乱の如く祭壇に向かって祈りを捧げている。引き締まった肉体ならばまだマシだっただろうが、ここに居るのは年老いた者ばかり。

 まともな者はきっとこの空気に耐えられないだろう……

 モモンガは正直に言って一秒でも早く逃げ出したい気分だった。

 

 幸い近くに寝かされている双子の女の子は無事のようだ。他に何かが殺された様子も無いことから、生け贄は儀式の最後に殺される予定だったのかもしれない。

 

 こんな集まりに参加している者達と喋るのは嫌だったため、モモンガは話しかけられる前に問答無用で手当たり次第に気絶させた。

 

 

 

 

「おやおや、こんな所に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と人間の剣士がやって来るとは……」

 

 

 部屋にいた人達をあらかた気絶させ終わった頃、奥から足音が響いてきた。

 そして、紫のローブを纏った人物がアンデッドを引き連れ現れた。

 見た目で判断するとユグドラシルでは痛い目を見るが、この世界の者達は職業通りの格好をしていることが多いため、恐らく魔法詠唱者(マジックキャスター)それも死霊使い(ネクロマンサー)だろう。

 

 

「お前が黒幕だな。今の私は非常に機嫌が悪い。取り敢えずぶん殴らせてもらおう」

 

 

 モモンガはほぼ見た目で犯人を断定する。自分の姿は忘れているようだ。

 

 

「わざわざ俺に獲物を残してくれるのか?気を遣わなくたっていい、魔法を使っても構わんぞ」

 

 

 モモンガとブレインが軽口を叩くが相手は気にもしていないようだ。余程自分の強さに自信があるのか、余裕の態度を崩さない。

 

 

「ぶん殴るとは大きく出たなアンデッド。私はあのカジットをも超える十二高弟の一人…… 貴様らは私のアンデッドの素体として、触媒として生まれ変わらせてやろう!!」

 

 

 紫ローブの死霊使い(ネクロマンサー)は自らが召喚した骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を筆頭に、数々のアンデッドを目の前の二人に突撃させる。

 いかに死者の大魔法使い死者の大魔法使い(エルダーリッチ)といえど私の方が強い魔法も使えるし、魔法で援護すればこの数のアンデッドにはなおさら勝てまい。

 人間の剣士も同様だ。

 

 ――初めはそう思っていた……

 

 

(あれは…… 一体なんだ!?)

 

 

 剣士の方はまだ分かる。目にも留まらぬ速さでアンデッドを斬り裂き、私の魔法を必要最低限の動きで躱している。驚くべき強さだが理解は出来る。

 

 問題はこの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。いや、本当に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)なのか? 魔法を使わずにアンデッドを言葉通り本当に殴り飛ばしている。さらにはもう一つ驚くべきことが起こっていた。

 

 

 (私の放った魔法がすべて無効化されているだと!?)

 

 自分が放った魔法が消えていく様は、まるで骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を相手にしているかのようだと焦りを募らせる。

 どうすることもできないまま無情にも時間は過ぎていき、瞬く間に自らの取り巻きが倒されていく……

 

 

「さて、後はお前だけだな。安心するがいい、魔法詠唱者(マジックキャスター)の俺は筋力が弱いからな。運が悪くとも死にはしないさ」

 

 

 目の前のアンデッドが拳を大きく振りかぶる。

 ああ、まるで拳がゆっくりと迫ってくるようだ。

 これが絶対的な死を前にした感覚なのか……

 このアンデッドの謎が一切解けぬまま、私は意識を失った。

 

 

「筋力弱いとか嘘だろそれ。まぁ死んではいないようだが…… とりあえず早いとこあの子の妹を救出して帰ろう。それに帝国の警備兵にも話を伝えないとな。ここにいる連中を取っ捕まえるのは俺らじゃちょいと厳しい」

 

「そうするか。早く帰らんとネム達を待たせてしまうしな。ラナーにも色々して貰う必要が出てくるかもしれんし……」

 

 

 ――そういえばこいつは堂々と自分が優れているみたいな事言ってたが…… 引き合いに出されたあのカジットって誰のことだ?

 モモンガの記憶には、カジットと聞いても特に思い当たるものがなかった……

 

 

 

 その後近くにいた兵士達に事情を話し、モモンガとブレインはさっさと戻ってきた。

 そして無事にアルシェと妹たちは感動の再会を果たした。

 泣きながらお礼を言われ、ブレインは少し照れているのか頬を掻いている。

 

 彼女の親との問題は、なんとラナーが既に解決してくれていた。

 あの短時間で一体何をどうやったらそうなるのかは分からないが、これからは姉妹で支えあって生きていくのだそうだ。

 親に関しては知らん、何か聞くのが怖い。

 

 

「たまには自ら人助けをするというのも、悪くはないですね」

 

「っふ、本当に良い顔をするようになったものだ」

 

 

 ラナーは確かに笑っている。人によって見方は変わるだろうが、作り物じゃない笑顔に変わりはない。

 

 

「おかえりなさい!! モモンガ様!!」

 

 

 帰りを待っていてくれたネムが笑顔で出迎えてくれる。

 ああ、俺にはこれが一番だ。

 

 

「ただいま、ネム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という事があったの」

 

 

 あれからアルシェはフォーサイトの仲間たちにこれまでの出来事を話していた。

 

 

「そんな事になってたのか…… 全く水臭いぞ。言ってくれりゃあ俺たちだって力になったのによ」

 

「まぁ、良いではないですか。それだけ緊急事態だったのでしょうし、アルシェも妹さんも無事だったんですから」

 

「そーよ、細かいとこ気にしてたら禿げるわよ。まっ、でも本当に無事でよかったわアルシェ」

 

 

 心から心配してくれる仲間達。私には本当に勿体無いくらい良い仲間だと思う。

 

 

「いつかその人達…… いや、アンデッドも含めて会ったらよろしく言っとかないとな」

 

「神に仕えるものとしては複雑ですが、仲間を助けてくれた恩人にはお礼を言わないといけませんね」

 

 

 ロバーは苦笑しているが、アンデッドにも本当に感謝はしているのだろう。

 

 

「また会ったらお礼を言おうね、クーデ、ウレイ」

 

「じゃあウレイリカと一緒に言うよ」

 

「クーデリカも一緒、お姉さまもね」

 

「「モモンガ様によろしく!!」」

 

 

 ――まったくこの子達は…… 仲間の使う言葉を真似ているのだろうか?

 注意すべきなのだろうが、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 

「そこは『よろしく』じゃなくて『ありがとう』でしょ。それにブレインさんや他の人にも言わなきゃね」

 

「「はーい!!」」

 

 

 妹達の元気な声を聞いているだけで力が湧いてくるようだ。これからは素晴らしい仲間達とともに、大事な家族を守りながら生きていこう。

 

 アルシェは今日も『フォーサイト』の一員として仲間達とともに頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 完全に見た事がある光景だ。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? 例の邪教集団の殲滅がもう終わったのか?」

 

 

 帝国の皇帝ジルクニフは邪教集団が集まって何かをしているという情報を既に得ており、部隊を用意して殲滅に向かわせていた。

 繋がりのあった貴族や商人は洗い出しは終わっているため、あとは主犯格を襲撃して制圧するだけだった。

 しかし、それが終わったにしては早すぎるため、何か問題でも起こったのだろうかと首をかしげる。

 

 

「部隊からの報告によりますと、突入予定時刻の少し前に双子の女の子を抱えた一人の男とアンデッドが出て来たようです。その者達はこちらを見つけると『もう中の殲滅は終わったから後はよろしく』と言って去っていったようです。実際に中を確認すると参加者は皆気絶しており、主犯格と思われる推定ズーラーノーン幹部が倒れておりました」

 

 

(アンデッドが殲滅しただと!? 間違いない、あの女の関係者だ!! 私が手間を掛けて準備を整えた後一歩のところで、嘲笑うかのようなやり口…… 私の手際が遅いとでも言いたいのかあの嫌味な女がぁぁぁ!!)

 

 

「そうか何者かは分からないが、我々の代わりに帝国に潜む悪を滅ぼしたとあっては感謝せねばなるまいな」

 

 

(あの女だけは除くがな!!)

 

 

 部下の手前、また何度も取り乱す訳にはいかない。ジルクニフは必死に怒りを抑えて、顔には全く出さずに余裕を持って返事を返す。

 ジルクニフの嫌いな女ランキングにはいつまでも不動の一位が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばブレイン。過去にエンリにワンパンでやられたらしいが、今ならもう勝てるんじゃ無いのか?」

 

 

 いくらレベリングしたとはいえ、エンリはせいぜい50レベル前後の身体能力があるだけの村娘だ。別に戦闘の心得があるわけじゃない。

 初めてあった時、敵の騎士を思いっきりぶん殴っていた気がするがそれは置いておこう。

 

 50レベル程だと周辺国家最強と名高いガゼフを余裕で超えているレベルだから、この世界ではほとんど敵無しに近いのかもしれないが……

 

 

「そうだな…… 身体能力的にも技術的にも戦ったら確実に勝てるだろうな。でも、もう良いんだ。今思うとあのお嬢ちゃんは武芸者でもなんでも無いし、あの時は勝負した感覚でも無かっただろうしな」

 

 

 自身が負けた過去を認め、それを笑い話のように流して村娘に負けたままでいいと言うブレイン。

 雪辱を果たしたいといった感情は本当に無いようだ。

 

 正義の味方は力だけでなく心も成長させていく。

 村娘にいきなり勝負を挑んだ頃とは違い、人間的にも少しずつ成長していく。

 

 

「そうだ、せっかくだし俺の相手をしてくれよ。モモンガみたいな強敵との戦いはいい特訓になるからな」

 

「なんだ大人になったと思ったら、バトルジャンキーな所は変わってないんじゃないか?」

 

「それはそれ、これはこれだ。魔法は無しで頼むぞ。流石に勝負にならんからな」

 

「仕方ないな、俺も近接戦闘は練習が必要だし付き合ってやるか……」

 

 

 誰かに勝つためではなく大切な何かを守るため、ブレインは今日も刀を振るい力を求める。

 

 

 



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