オーバーロード ありのままのモモンガ (まがお)
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運営からの贈り物

 ナザリック地下大墳墓の玉座の間で、モモンガはユグドラシルが終わる時を一人で過ごしていた。最終日なのに誰かと思い出を語り合うこともできず、玉座に座りながら思い出にふけっている。

 明日は4時起きで終わったらすぐに寝なければと思っていると、プレゼントボックスに新規のアイテムが届いた。

 

 

「なになに、『嫉妬する者たちの顔面』ってなんじゃこりゃ?! 運営の嫌がらせか?! 嫉妬する者達の顔そのままって、見た目すら変わらないじゃないか! !」

 

 

 効果はソロで戦う時に全ステータスが50%アップし、敵が増えれば増えるほど強くなるという破格の性能だった。顔を隠せなくなるし、一度装備すれば外す事は出来ない呪いのような仕様のようだがそれでも強力な装備だろう。

 

 

「拾得条件は『嫉妬する者たちのマスク』を12個所持しながら一定時間パーティを組まずにプレイするか……」

 

 

 最後まで運営は頭がおかしいと思いながらも、自分には相応しいモノだと思い装備する。

 いつのまにか最後のカウントダウンが始まっており、目を閉じた。

 

 

(最後くらい、誰かと語り合いながら終わりたかったな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じてしばらくすると、ログアウトされる感覚がない事に気付き目を開けた。

 そこには獣人達のいる野外のフィールドだった。

 

 

「クソ運営め、終わりぐらいしっかり出来ないのか」

 

 

 終了時のバグで、どこかのフィールドにでも飛ばされたのだろう。コンソールを操作して強制終了、GMコールを試そうとして画面表示が一切無くなっていることに気づき途方にくれる。

 

 

「完全に手詰まりじゃないか……」

 

 

 ボヤきながら辺りを見回すと、獣人系以外にもちらほらと人間の姿も見える。どうやら人間が獣人に襲われているようだ。

 ユグドラシルではPvPを推奨しており、戦闘自体に不思議なことはない。

 しかし、人間の顔が恐怖に引きつっていたのだ。

 

 

(表情があるだと? まさかこのタイミングでパッチ…… ユグドラシル2が始まったとか !! いや、それにしてはリアルすぎるが……)

 

 

 とりあえず話しかけて見るかと思ったら獣人達が襲ってきた。

 先程の戦いを見る限り弱すぎるので、プレイヤーじゃなくてNPCか雑魚敵だろうと判断したモモンガは、最後くらい人助けもいいだろうと獣人を一掃するつもりで魔法を放った。

 

 

「〈魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)負の爆裂(ネガティブ・バースト)〉」

 

 

 自身を中心に黒い波動が球状に広がり、周りの獣人を一匹残らず吹き飛ばした。

 

 

(やっぱり弱いな……っ?! まて、俺は今何をした? 自然に魔法を使えた?)

 

 

 当たり前のように魔法が使えたことに、訳がわからず焦るモモンガだったが、急に精神が落ち着き再び周りを見渡し考える。

 今まで気づかなかったが風を感じる。さらには血の匂いがする…… 電脳法で嗅覚や味覚に対する再現は禁止されている。

 それ以前にユグドラシルではR18、下手すればR15程度のグロ表現すら禁止されていることを考えるとこの状況は異常だ。

 

 

(ユグドラシルが現実になった、それとも異世界に飛ばされた? それにさっきの精神の安定は、アンデッドの種族特性なのか?これだけの死体を見ても何も感じないのはそのせいか?)

 

 

「アンタ、どこの誰かは知らんが助かっーーっ?!  エルダーリッチ?! アンデッドだと⁈」

 

 

 声を掛けられ振り向いたモモンガに対して、完全に戦闘態勢をとった人間がいた。

 

 

「ビーストマンどもが消えたと思ったら、今度はアンデッドか!!  だが、例えエルダーリッチといえど、このアダマンタイト級冒険者セラブレイトの敵ではない!!」

 

 

 周りより少しだけ良さげな武具をつけた男。

 モモンガからすればどれもゴミのようなレベルだが、男は剣を振りかぶってきた。

 

 

「くらえ!! 武技〈光輝剣〉!!」

 

 

 聞いたことも無い特殊技術(スキル)に驚いたモモンガは、動きを止めてしまい相手の放った技が直撃する。

 

 

(武技か…… この世界特有の技なのだろうか? 名前からして聖属性かと思って焦ったが、〈上位物理無効化Ⅲ〉程度の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)も突破できないってことはレベルは60以下だろうな。というか助けてやったのに、いきなり攻撃はないだろ……)

 

 

「あー、こちらはちょっと人助けをしようと思っただけで、争う意思は全く無いのだが……」

 

「あんな魔法を使うやつのことを、信用する訳ないだろう!!  どうやって防いだか分からんが、次こそは貴様を殺す!!」

 

 

 モモンガは内心ため息をつきたくなった。

 せっかく会話できそうな相手が見つかったのに、向こうは問答無用で殺そうとしてくる。

 たっちさんみたいな正義の味方に憧れがあり、ちょっとは感謝されるかと期待していたが、こういう行動は自分には向いていなかったんだろうと無理やり納得させる。

 向かってくるならしょうがないと、自身の得意とする死霊魔法を放った。

 

 

「〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉」

 

 

 腕を伸ばし、掌にある心臓を握り潰す様な仕草をするモモンガ。男は何ら抵抗する様子もなく崩れ落ちた。

 

 

(強化もしてない即死魔法に抵抗出来ないってことは、やっぱり見立て通りのレベルだったか…… 第9位階じゃなくてもっと弱い魔法を試しても良かったかもな。――っ俺は何を考えている?! 自らの意思で人を殺したというのに、何の感情も湧かない。実験動物が死んだ程度の感覚だな…… ああ、俺は本当にアンデッドになってしまったのか……)

 

 

 人を殺したというのに、そのことを冷静に分析できる自分がいる。焦った感情はアンデッドの種族特性で無理やり沈静化し、それが余計に人でなくなったことを自覚させた。

 

 

「『困っている人がいたら、助けるのは当たり前』か…… 俺には正義の味方は出来そうもないですよ、たっちさん」

 

 

 自らの恩人とも言える聖騎士の台詞を思い出し、一連の出来事からそんな憧れの存在と遠いものになってしまったと思いながら、モモンガは〈飛行(フライ)〉の魔法を唱える。

 

 

(これから人を殺すのは極力控えよう…… 自分が自分でなくなってしまいそうだ。ここは知らない世界なんだから、ユグドラシルを始めた頃のように冒険に出るのも悪く無いよな!! 今度は悪のロールプレイじゃなくて、自分から積極的に誰かと関わっていくのもいいかもしれない。うんうん、これは楽しくなりそうだ!!)

 

 

 落ち込んだ気分を無理やり振り払い、自身を戒めたモモンガ。

 まだ見ぬ冒険と出会いに期待を膨らませながら、ローブをはためかせて飛んでいくのだった。

 



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骨にコミュニケーションは難しい

 竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスと宰相は頭を抱えていた。

 

 

「セラブレイトのやつが死んでしまったそうじゃな……」

 

「はい、兵達も死体を確認しており、死亡は確定です」

 

 

 宰相は努めて冷静に答えるが、内心ではこの国にもう戦える兵が残っていない事に焦っていた。

 セラブレイトはアダマンタイト級冒険者であり、この国では一番の戦力といってよかった。

 また、セラブレイトは女王の子供体型に惹かれるロリコンで、財政の苦しいこの国にとっては女王に謁見させるだけで安く使えるという最高の人材でもあった。

 

 

「今まで陛下には子供形態になって子供用ドレスを着ていただきましたが、今となってはもう使い道も無いですね」

 

「なんじゃと?! ワシがどんな思いでこんなヒラヒラの服着て、アイツの相手をしてきたと思っとるんじゃ!! あのねちっこい視線は鳥肌もんじゃぞ!!」

 

「いいじゃないですか。ヒラヒラを着てねちっこい視線を我慢するだけで、命かけて戦ってくれるんですから。国民は物理的に食べられてるんですよ、それに比べればマシです」

 

 

 宰相は辛辣に言葉を返すが、ここで諦めるわけにもいかないので話を続ける。

 

 

「現状なぜかビーストマンの侵攻は止まっています。回ってきた情報によると、突如現れたアンデッドがビーストマンを見たこともない魔法で吹き飛ばし、それに恐怖したビーストマンが撤退していった様です」

 

「アンデッドに救われる事になるとはの……」

 

「おそらくそのアンデッドがセラブレイトを殺したんでしょうね、セラブレイトは一切の外傷なく死んでいたそうですから。ビーストマンにそんなことできる奴は居ないでしょう」

 

「そやつが原因か!! しかも外傷無しでセラブレイトを殺すって、どんな魔法使えばそうなるんじゃ……」

 

「今はいない化け物の事なんか考える暇はないですよ。ビーストマン侵攻の猶予が出来たと思って、時間を有効活用するしかないですね」

 

 

 余裕の無い竜王国はビーストマンからの侵攻が止まっている間に他国への救援要請や、砦の修復などを急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国から出たモモンガは自身の持つ魔法や特殊技術(スキル)を試しながら、当てもなくさまよっていた。

 途中に人間の住む街などを見かける事もあったが、ユグドラシルの感覚が完全に抜けていなかったモモンガは盛大にやらかしてしまった。

 

 最初にあった人間のセラブレイトと戦闘になってしまったのは、魔法を使ったことが原因だと思い込んでいたのだ。アンデッドそのものは珍しく無いと思い、どうせ顔も隠せないからそのままでいいやと完全に魔王としか言えないローブ姿のままだった。

 

 魔法を使おうが使うまいが、アンデッドはこの世界の人間にとって恐怖の象徴である。案の定、街に入ろうとした結果大騒ぎになり、慌てて逃げ出したのだった。

 

 

「この世界でも異形種は敵なのか…… いや、アンデッドだけ? それなのに顔を隠せないって、詰んでないかこれ?」

 

 

 何をするにしてもまずは情報収集だ!! と、意気込んだ矢先の事だったのでそれなりに落ち込んでいた。

 顔を隠してやり直そうにも顔を隠す装備を付けられない。間違いなく運営からのプレゼントのせいなのだが、あの装備を付けたのは自分である。

 それでも運営への恨み言は消えないが。

 

 

「おのれ運営…… ボッチになんの恨みがあってこんなモノを!! こんな事になるなら、付けるんじゃ無かったな……」

 

 

 新しい世界では積極的に人と関わろうと思っていたモモンガにとっては、痛すぎるペナルティである。

 アンデッドが世間一般では、危険視されているという事だけを知ったモモンガは、今度は同じアンデッドに会いに行こうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッツェ平野。

 年中霧の立ち込める平野であり、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が戦争を行う数日間のみなぜか霧が晴れるという土地である。

 またアンデッドが多発する危険な場所であり、霧からアンデッド反応がする。

 ユグドラシルにもそんな場所はなく、モモンガにとっても興味深い場所だった。

 

 同じアンデッドなら話せるかもと思ったモモンガが、町から適当に進んでいた時に自身のアンデッドを探知する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)・不死の祝福でたまたま反応した場所だったが、結果は最悪だった。

 

 

「他のアンデッドって喋れないのか……」

 

 

 同族のアンデッドではあるが、全く意思疎通が取れなかったのである。

 出会ったアンデッドに話しかけてみても、同じアンデッドであるおかげで襲われはしないが、せいぜい呻き声をあげる程度でコミュニケーションをとるのは無理だった。

 実際のところ全てのアンデッドが喋れないわけではなく、エルダーリッチなどの高い知性を持つアンデッドもいる。もし会えたところでモモンガの望むような和気藹々とした会話ができるはずもないので、運が悪かったとも言い切れないが。

 

 

「せっかくの異世界なのにこのままでは誰とも会話ができない!!」

 

 

 自由に冒険しようと思ったのにアンデッドに人権はなく、現地の人と会話も儘ならないとは……… 元営業職として、多少なりとも初対面の人との会話に自信を持っていたモモンガは少し落ち込む。

 

 新しい世界でもボッチ。そんな事は認められないと少々ズレた思考に囚われたモモンガは、亜人種やモンスターなら会話が出来るやつもいるのではと、次なる目標を決める。

 今度はちゃんと当たりを付けて動いてみようと、周辺を探るアイテムを取り出すのだった。

 

 

 



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今度は森へ

 顔を隠す事が出来ないモモンガは、周りにバレないように不可視化の魔法を使いながら森を目指していた。

 森なら色んなモンスターとか亜人もいるだろうと、この辺りで一番近い森、通称トブの大森林を目標に動いていた。

 

 森を探す為に使った『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』のおかげで、カッツェ平野に鏡の前で変な踊りを繰り返す骸骨の目撃情報があがったが、モモンガは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森に到着し、早速コミュニケーションの取れそうな相手を求めて動き出した。

 しかし、モモンガが最初に遭遇したのは東の巨人と呼ばれる亜人種のトロールだった事は、運が無かったとしか言いようがない。

 

 

「ナンダ、キサマ? 東の地を統べる王であるこの『グ』の支配下で何をしている?」

 

 部下を引き連れたトロールは自らを圧倒的強者として疑わず、弱者を馬鹿にするような不遜な態度で接してきた。

 コイツとまともにコミュニケーションを取ろうという時点で選択ミスとしか言えないが、モモンガは気合いを入れていた。

 

 

(頑張れ鈴木悟!! あの地獄のリアルを生き抜いた社畜の営業技術の見せ所だ!!)

 

 

「はじめまして、私はモモンガとい――」

 

「アッハッハ、モモンガだと?スケルトンの名前にしては勇敢だが、このグ程ではない!! 臆病者の名前だな!!」

 

「……」

 

 

(なんだコイツ?! 挨拶に割り込むなんて、社会人として失格だぞ!! しかも何だよ名前で勇敢とか臆病とか?! 勇敢な名前がグってモブより酷い手抜きじゃないか?! コイツは愚なのか⁈)

 

 

 ネーミングセンスについてはかつての仲間たちから酷評を受けていたモモンガだったが、本人はそこまで自分のセンスはずれていないと思っている。そんなモモンガでも手抜きと思われるような名前だった。

 

 

「……ははは、その感覚は分かりませんが、少々お尋ねしたいことがありまして。この森に言葉を話せる亜人種やモンスターは他にいないでしょうか?」

 

 

 怒りたくなる物言いだが、アンデッドの種族特性の精神の沈静化が発動する程ではない。社会人として鍛えたスルースキルで適当に流す。

 せめて情報収集をしようと、他の生き物はいないのかと会話の続きを試みる。

 

 

「オマエのような骨に話すことなど何もないわ!! ちょうど何か齧りたかったトコだ、アタマからバリバリ喰ってやるぞ!!」

 

 

(お前は営業に来た人間を門前払いどころか喰うのか?! 上司は何を教育してるんだ⁈ あっそうかコイツがトップだった…… なんか部下にも期待出来そうにないな、襲ってくるみたいだし、殺すか)

 

 

 トロールに社会人マナーなど皆無に決まっているのだが、この世界に来てロクに会話もできず、ツッコミ不在のまま暴走気味のモモンガは気づかない。

 もしここで森の賢王などに先に会うことが出来ていれば、多少なりともこの世界の常識に気づけたのかもしれない。情報さえ手に入れていればもう少しマシな考えに、早々に矯正されていただろう。

 

 

「〈集団標的(マス・ターゲティング)(デス)〉」

 

 

 やる気のない抜けた声で唱えられた魔法は、東の巨人、部下のトロールやオーガをあっけなく殺した。

 トロールの驚異的な再生能力という見せ場も発揮させず、相手組織の社長と部下を殺害。

 モモンガのこの森に来て初となる飛び込み営業は終わった。

 

 

「うん、自然を見て回ろう。植物には癒しの効果があるんだってブループラネットさんも言ってたし」

 

 

 モモンガは自身の営業能力が全く役に立たない事にショックを受けながら、自然を見て癒されようと歩き出すのだった。

 

 

「この世界はこんなにも綺麗で凄いのに、誰ともこの感動を共有できない…… 

――誰かと話したいな、もう一人でいるのは……」

 

 

 リアルでは決して拝むことの出来ない自然を見て感動し、先ほどのやり取りで疲れた心は確かに癒されていた。

 それでもモモンガの中には本当の望みが燻り、モヤモヤが完全に晴れることはなかった。

 

 

 



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ファーストコミュニケーション

 トブの大森林の近くの村、カルネ村に住む少女、ネム・エモットは人生最大の危機を迎えていた。両親や姉の言いつけを破り、森に入ってしまったことが始まりだった。

 本当は少ししたら、すぐに帰るつもりだった。途中珍しい薬草を見つけ、それをお土産にしようと集めている内に道に迷ってしまったのだ。

 

 村の方向もわからず彷徨い、挙句に転けて足を怪我してしまった。痛みと心細さでネムは泣き出してしまったが、それがより恐ろしいものを呼び寄せてしまう。

 大型の動物よりもさらに大きな足音が近づいてくる。

 オーガである。巨体の人型モンスターであり、ただの村人程度に勝てる相手ではない。ましてやネムの様な子供では抵抗すらできないだろう。

 

 

「コンナトコ、エサ、ハラヘッタ、タベル!!」

 

「っ!!」

 

 

 知性のあまり感じられないカタコトの言葉ではあるが、自分がこの後どうなるかは想像できる。

 振り下ろされる手を前に、ネムには縮こまることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガの手がネムに触れる寸前、オーガの上半身が吹き飛んだ。

 

 

「はぁぁ、そんな子供にまで手を出すとは…… あの時の対応は間違ってなかったな。やはりモンスターとの会話は不可能なのだろうか?」

 

 

 そこには見たこともない様な豪華な闇色のローブをまとった骸骨がいた。

 顎に手を当て考える仕草はまるで人間のようで、行動だけ見れば人間らしさを感じさせるが、肉も皮もない姿とはあまりにもチグハグだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会話が出来る相手を求めてトブの大森林へやって来たモモンガは、話の通じないモンスターを屠ったり、自然を眺めたりと散策を続けていた。

 自然を見て回るのも飽きてきた頃、子供の泣き声の様なものが聞こえ、その正体が気になりその場まで近づいていった。

 

 そこにあったのは、今まさにオーガが子供を襲おうとしている姿だった。

 オーガが子供を襲おうとしているのを見たモモンガは、反射的に魔法を唱えていた。

 

 

「<破裂(エクスプロード)>」

 

 

 オーガを爆殺し、やはりモンスターと会話は無理だろうかと思いつつあったモモンガは、その場に座り込んでいる子供に声をかけた。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

「……」

 

 

 子供は怖がっている様で何も答えない。人間にとってはオーガもアンデッドも同じだよなぁと苦笑するモモンガ。

 せっかく会えた人間だし、子供を見捨てるのは寝覚めが悪いため、ほんの気まぐれにとそのまま助ける事にした。

 

 

「怪我をしている様だな、これを飲むといい」

 

 

 そう言ってアイテムボックスから取り出した下級のポーションを渡そうとするが、怯えているのか受け取ろうとはしない。アイテムを取り出す動作すら怯えられる要因の一つであると、モモンガは気が付かない。

 この世界の住人からすればアイテムボックスなんてものは無く、はたから見ると急に腕の先が消えてゴソゴソ動いているように見える。

 

 

「大丈夫だよ、ただのポーションだから」

 

 

 出来るだけ優しく言いながら、手っ取り早く治療しようと中身を振りかける。すると、みるみる内に傷は塞がり、怪我ひとつ無い真っさらな肌に戻った。

 

 

「凄いっ、痛くない!!」

 

 

 怪我を治してもらったことで安心したのか、子供の顔から怯えの表情が消え、警戒心が薄れていく。

 

 

「それは良かった。所でどうしてこんなところに? ここは子供が来るには危ないと思うが……」

 

「――薬草を取ってたら、道に迷っちゃったの……」

 

 

 いわゆる迷子だったようだ。送ってあげたいところだが周辺に詳しくもないし、骨の自分が一緒にいるのはマズイだろう。

 なので別の手段を試すことにした。

 

 

「〈妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)〉」

 

「わぁっ妖精さんだ!!」

 

 

 モモンガが魔法を唱えると、掌で包めそうなくらいの小さな妖精が現れる。

 

 

「さぁ、この妖精に付いていくといい。きっとお家まで案内してくれるよ」

 

「ありがとうございます!! 」

 

「気にすることはないさ。こんな骸骨と一緒にいることがバレたら大変だから、もう行きなさい」

 

「あのっ!! 私、ネム・エモットって言います。骸骨様のお名前は何ですか?」

 

「――名前か、こちらに来てから名前を聞かれたのは初めてだな…… モモンガ、私の名前はモモンガだ」

 

 

 表情などあるはずの無い骸骨だが、一瞬、笑っているように見えた。

 

 

「モモンガ様!! ありがとうございます!!」

 

 

 そう言って妖精を追いかけるネムの背中を見ながら、異世界初のまともなコミュニケーションが取れた事にモモンガは満足していた。

 

 

 



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骨が語る本音

 トブの大森林。様々なモンスターが住んでおり、奥に進めば昼間でも暗いと感じるほど木々が生い茂っている。

 モンスターのいる危険な場所だと知られているが、森に入ってすぐのところはある程度人の手が入っているせいか、そこまで危険な雰囲気ではない。

 危険な場所とただの森、その中間ぐらいの位置に一軒の家が建っていた。

 こんな所に住むもの好きな人間なんているはずもなく、住んでいるのは死の支配者(オーバーロード)であるモモンガである。

 

 あれから拠点を作ろうと考えたモモンガは、ほとんど人の来ないであろう森の中に家を建てた。

 課金ガチャのハズレアイテムで出したこの家は、童話に出てきそうな赤い三角の屋根が付いた家である。元がユグドラシルのアイテムのため、人が暮らすには少々設備の足りないただのワンルームだ。

 

 家を建てたモモンガの元に一人の少女が遊びに来ていた。

 少女の名前はネム・エモット、モモンガがトブの大森林に来た初日に助けた子供である。

 

 

「ネム、何度も言うようだが、こんなところに来て大丈夫なのか? それに私はアンデッドだぞ?」

 

「大丈夫です!! 道はちゃんと覚えました!! モンスターもこの辺にはいません。それにモモンガ様は優しいアンデッドだもん!!」

 

 

 モモンガに助けられた次の日、モモンガにお礼を言いにきたネムと再び森で出会った。

 外で話すのもアレだろうと、ちょうど作ろうと思っていた拠点をネムの目の前で建てた。それ以来、ネムは毎日遊びに来ている。

 

 最初に会えなかったらどうするつもりだったのか分からないが、あんなことがあってからも森に来る以上、中々度胸のある子なのだろうと軽く考えていた。

 実際あの日家に帰ってから両親と姉に散々怒られているため、そのとおりである。

 

 ネムはモンスターはこの辺にはいないといっているが、正確には近寄ってこなくなったである。

 話しかけてきては相手を爆殺していく骸骨に近寄ろうとするモンスターは、今やこの森で皆無である。ましてやそんなやつの家に来るモンスターもいるわけがない。

 

 

「モモンガ様!! 今日は何を見せてくれるんですか?」

 

「そうだなぁ――」

 

 

 色々言いつつも人との関わりに飢えていたモモンガは、話し相手が出来てとても喜んでいた。自分が見せるものに凄い凄いと、ネムが子供らしい反応を示す事が嬉しいのか、ネムが来るたびに自らのコレクションを色々と見せていた。

 ぶっちゃけ最近はあまり森の散策はしていない。手持ちのアイテム整理と言いつつ、ネムに見せるアイテムを見繕う時間が多かった。

 

 

「これなんかどうだ? 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』、私が仲間達と共に作り上げた、最高の武器だよ」

 

 それは黄金の杖だった。七匹の蛇が一つに絡まるようなデザインで、それぞれが見たこともない様な七色の宝玉を咥えている。

 

 

「凄い! 凄い! 凄ーい!! モモンガ様のお友達も凄い!!」

 

「ふふっそうだろう? これを作るのには本当に苦労したからな。私たちのギルドの結晶だよ」

 

 モモンガはそう言いながら嬉しそうに、杖の能力やギルドについて語った。ネムにはよくわからない部分もあったが、それが凄いものだということは分かった。

 

 

「ところで、モモンガ様のお友達は何処にいるんですか? さっき言ってたギルドにいるんですか?」

 

「――仲間は、今は遠い所にいるんだ。みんなそれぞれの夢を叶えて、頑張っているはずだ。それにギルドはもう無いんだ…… もう無くなってしまった」

 

 仲間たちは遠い地で頑張っている。そう語るモモンガは友人たちのことを誇らしげに言うが、とても寂しげだった。

 

 

「私がこうやって旅をしていたのも、もう何も残っていないからなんだ。それにギルドにいた仲間も時が経つにつれて減って、最後には私一人だった」

 

「……モモンガ様はギルドで何をしていたんですか?」

 

「ふふっ、ただ維持をしていただけだよ。モンスターを倒してお金を稼いで、侵入者を倒して、みんなが帰ってきた時にがっかりしないようにと。最後の時までずっと…… こうして今のんびりしているのも、その反動かな。もう、戦うのには疲れてしまったのかもな。守らなきゃいけないという責任も、効率ばかり考えた狩りも、誰も戻ってこない場所を守るのも…… 本当はあの場所を残したかったんじゃない。ただ誰かと話せれば、その切っ掛けが欲しくて残していただけなのかもな」

 

 

 いつもの優しくも威厳のある姿は鳴りを潜め、まるで家族のいない子供のような人恋しいだけの男性が見えた気がした。

 

 

「じゃあ、この辺は平和なので戦う必要もないです!! それにネムが毎日来るからモモンガ様も話せるし、寂しくないです!! 明日もまた色々見せてください!!」

 

 モモンガの沈む様子を吹き飛ばす様に、明るく応えるネムの頭を撫でる。

 モモンガはありがとうと呟きながら、自身の本当に望んでいたことと向き合っていた。

 

 

 



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骨、目覚める

 カルネ村に住む少女、エンリ・エモットは妹のネムの手を引き走っていた。

 今日も朝早くに起きて、畑仕事をして、家族みんなでご飯を食べて、夜になったら眠る。そんないつもの一日は簡単に崩れ去った。

 

 帝国の騎士達が急に村を襲って来たのだ。父と母は私達を逃がす時間を稼ぐ為、自ら騎士達に向かっていった。

 残された私は妹だけでも逃さなければと、必死になって引っ張っていたが、森に着く前に追い付かれそうだ。

 

 

「ネムっ!! 頑張って、森まで行けば逃げ切れるから!!」

 

 嘘だ、森に行けば逃げ切れるわけじゃない。それでも少しでも長く生きて欲しいから、エンリは僅かな可能性に縋り、必死に走っていた。

 しかしネムの体力の方が先に尽きてしまった。足をもつらせ転けてしまった妹を起き上がらせる間に、二人組の騎士達が追いついて来た。

 

 

「全く手こずらせやがって、随分と遠くまで逃げたもんだ」

 

「さっさと済ませて戻るぞ、こんな仕事に時間なんてかけたくないしな」

 

 

 二人の騎士はこちらを殺す事を、まるで何でもない作業のように言う。死ぬことが当たり前の様に振る舞う姿にエンリはキレた。

 

 

「舐めるなぁ!!」

 

 

 火事場の馬鹿力なのか、裂帛の気合いを持って放たれた拳は無防備に剣を振り上げた騎士の兜に突き刺さった。

 思わぬ一撃に騎士は倒れ、エンリは拳が潰れたのにも構わずそのまま騎士に飛びつき抑えようとする。

 

 

「ネムっ!! 早く行きなさい!!」

 

 

 決死の覚悟で時間を稼ごうとしたが所詮は女性の力、引き倒した方とは別の騎士によってすぐに剥がされてしまう。

 

 

「このクソ女がぁぁ!!」

 

「っあぁ!!」

 

 

 エンリに殴られた方の騎士が怒りに任せて剣を振るう。闇雲に放たれた為か、エンリの背中を大きく切り裂いたが即死はしなかった。

 血を流し動けなくなったエンリは、ネムを見つめて呟く。

 

 

「……ネム、逃げ……て」

 

 

 そんな姉の様子を見ながら、ネムは動くことも出来なかった。

 倒れた姉にトドメを刺そうと騎士が剣を振りかぶる。

 

 

「助けて…… モモンガ様!!」

 

 

 ネムにはどうする事も出来ず、最近助けてもらった優しいアンデッドの名前を呼んだ。その声に反応したのか、騎士達の動きが止まった。

 実際のところネムの声に止まったわけではない。ネムの後ろにある、ぽっかりと空いた闇を見て止まっていた。

 

 

 

 

 

「遅くなってごめん…… 俺も覚悟を決めたよ」

 

 

 そう言って闇から出て来たのは、黄金の杖を持ち、豪華な闇色のローブに包まれた骸骨のアンデッド、死の支配者(オーバーロード)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは仮の拠点としているトブの大森林にある家で、昨日のことをずっと考えていた。

 

 

(もう戦う必要は無い、か。確かにそうだな。俺にとって守るものも残ってないし、元の世界にだって未練はない。平和にここでのんびり暮らすのも悪くないかもしれない。)

 

 

 モモンガには既に家族はいない。父親は物心つく前にはいなかったし、母親も幼いころに亡くなっている。それ以来、ユグドラシルの仲間たちと会うまでは本当に一人で生きてきた。

 

 

「寂しくない、か。あんな小さい子にそう言われるとはな……」

 

 

 自分はそんなに人に飢えているように見えたのだろうか。

 ネムの言葉は確かに嬉しかった。しかし、それ故に恐怖してしまう。ギルドの仲間たちが一人、二人と去っていき、最後には一人だった。

 自分から離れて行ってしまうことを一度経験しただけに、モモンガは人との関係が崩れるのを極端に恐れていた。

 

 

(あの子は今は小さいから、そう言ってくれているが大きくなったら周りと同じように俺を恐怖するかもしれない。いや、それ以前にネムは人間だ。いずれ寿命がくれば確実に離れ離れになる…… 別れに耐えられるのか? それならいっそ今のうちに旅にでも出てしまった方が、あの子のためにも良いのではないだろうか? その方がきっとお互いが傷付かずに済むはず。いや、アンデッドとなってしまった今、その時に別れを悲しめる感情が残っているのだろうか? 本当に心までアンデッドになって――)

 

 

 グルグルとゴールの見えない思考の迷路にはまってしまい、精神の安定化が起こるまでモモンガは考え続けていた。

 

 

「――っふう、どちらにせよネムとは話さないといけないな。にしても今日は来ないのかな? 何時もならとっくに来ている頃なんだが……」

 

 

 いや、でも昨日もまた明日来るって言ってたしなぁ。そんなことを呟きながら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を取り出す。

 これは保護者が参観日に見るようなものと、自分に言い訳しながらカルネ村の様子を見ようとする。

 

 

「何だこれは、祭りか? いや、村が襲われているのか?」

 

 

 人が騎士に襲われている光景を目にしたが多少不快に感じる程度で、自身の人外となってしまった精神性に思わず舌打ちする。

 とりあえずネムを探そうと、さらに周囲を見渡していく。そして、村のはずれで一人の女性に手を引かれて森の方に走るネムを見つけた。

 

 

(俺はどうするべきか…… 助けるのか? 確かにネムのことは気に入っているが、少し話した程度の人間のために命をかけられるのか? あれはどう見ても野盗ではない、きっと何処かの国が関わっている。厄介ごとだし見捨てる事が正解だろう。話し相手はまた探せばいい)

 

 

 そんな事を考えていると女性が騎士の一人に殴りかかり、そのまま騎士を必死になって押さえ付けていた。間も無く仲間の騎士に引き剥がされ、そして斬られた。

 このままでは女性は死に、次は確実にネムがやられるだろう。

 

 

(今なら傷も浅く済む、別れる良いきっかけだ。これ以上仲良くなったら、別れるのがもっと辛くなる。ほんの数日話しただけじゃないか、きっとネムが殺されたって俺は――)

 

 

『ネムが毎日来るからモモンガ様も話せるし、寂しくないです!!』

 

 

(――いや、見捨てられない…… あの時向けてくれた笑顔は本当に眩しかった。この世界で初めて俺を受け入れてくれたのはあの子だ。たとえこの先あの子に怖がられる日が来ても、あの時の笑顔は決して嘘なんかじゃない。先の別れが怖くて今動かなかったらきっと後悔する!! この世界で俺の本当に望んでいたものをくれたのはあの子だ!!)

 

 

 自分を叱責していると、かつての仲間の声が聞こえ、背中を押された気がした。

 

 

『イエス!! ロリータ!! ノータッチ!! 可愛いは正義ですよ、モモンガさん‼︎』

 

 

 黄金の鎧をつけ弓を撃ち、縦横無尽に羽ばたく友人。バードマンの姿が記憶から蘇り、かつての日々を思い出す。

 

 

「ふふっ、たっちさん(正義の味方)は無理でも、ペロロンチーノさん(子供の味方)くらいになら、俺だってなれますよね」

 

 

 仲間たちとの思い出の詰まった最高の杖を手に取り、助けに向かうべく〈転移門(ゲート)〉を唱える。

 そして目の前に現れた闇に踏み出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってごめん…… 俺も覚悟を決めたよ」

 

 

 モモンガが〈転移門(ゲート)〉から出て来てから、ネム以外の人間はあまりに現実離れした現象に動けなくなっていた。

 

 

「っモモンガ様ぁぁー!!」

 

 

 エンリは困惑していた。騎士に斬られて死ぬと思ったら、後ろの闇から死が形となって出てきた。

 しかも、妹がそれの名前? を呼びながら泣きついている。

 意味が分からない。何でそれも親しそうに妹の頭を撫でているのか。混乱して声を掛けることすらできなかった。

 

 

「さて、騎士達よ、ここからは私が相手になろう。まさか、女子供には攻撃できて、アンデッドとは戦えないなどとは言うまいな?」

 

 

「ああ、ああぁぁっ!!」

 

 

 あまりの威圧感に騎士の一人が恐怖に駆られてか、特攻を仕掛けてきた。モモンガは避けるそぶりも見せず、淡々と魔法を唱えた。

 

 

「〈連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 

 モモンガの手から巨大な白い雷が、まるで竜の様に飛び出した。それは特攻せずに控えていた騎士も諸共巻き込み、あたり一面を包むように白い光が迸る。

 あまりの光量にエンリは目が眩んでしまった。光が収まり目を開けると、原型が残らないほど燃やし尽くされた鎧だけが残っていた。

 

 

「ネムの姉だな、斬られたようだからこれを飲むと良い。すぐに傷が治る」

 

 

 必要以上に強い魔法を使ってしまい、ネムの姉を巻き込まなかったことにモモンガは内心安堵していた。

 しかし、そんな様子は全く出さずに姉の方へ向かう。

 

 呆気に取られて動けなかった私に、モモンガと呼ばれた真っ白な骸骨のアンデッドは赤い液体の入った瓶を差し出した。

 

 

「お姉ちゃん!! 早く飲んで、すぐ治るから!!」

 

 

 そんな怪しいものは普段なら絶対飲まない。なのになぜか妹に急かされ、慌てて飲んでしまった。

 

 

「えっ?! 傷が消えた!!」

 

 

 液体を飲んだ途端に、斬られた背中のキズは完全に消えた。身体を動かしても痛みも全くない。斬られたことが嘘のようだ。

 

 

「よし、傷も治ったし問題ないな」

 

「モモンガ様!! ネムとお姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます!!」

 

 

 目の前の骸骨に向かってお礼を言う妹に戸惑いつつも、エンリも礼を言った。

 

 

「助けてくださってありがとうございます。えーと、モモンガ様?」

 

 

 そんな姉妹を前に、気にする事はないと軽く手を振っていたモモンガという名のアンデッド。すると、ネムが何かを思い出したかのように暗い声で喋り始めた。

 

 

「ごめんなさい、モモンガ様…… もう戦わなくてもいいって言ったのに―― 戦うのが嫌だって、ネム知ってるのに。今も助けてもらったばかりだけど、お願いします!! お父さんとお母さんを、村のみんなを助けてください!!」

 

 

 妹はこのアンデッドの事情を何か知っているようだった。それでも願わずにはいられないのだろう。そんな妹の懇願に姉も続いた。

 

「お願いします!! 事情は分かりません。貴方様にとって辛い事をお願いするようですが、他に頼れる人もいないんです!! 助けてください!!」

 

 

「任せろ、さぁ村を助けに行こう。今の私は子供の味方だからな」

 

 

 当たり前のように頷き、笑う。

 死の具現とも思える程のアンデッドなのに、その姿にはどこか晴れ晴れとしたものを感じた。

 

 

 



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モモンガ無双

 カルネ村を襲撃していた騎士達は、突如として現れた戦士に蹂躙されていた。

 所々に金の意匠が施された漆黒のフルプレートに、漆黒の盾、同じく漆黒のグレートソード。並みの人間なら、鎧の重さと合わさり動く事も出来ないだろう。

 そんな大剣を片手で軽々と振り回し、次々と騎士達を両断していく。

 だが、一番異様なのはその戦士の顔だった。全身を覆う鎧とは真逆で、頭には何の装備も付けていない。

 そして、その顔は肉も皮も付いてない、真っ白な骸骨だった。

 

 スレイン法国の騎士、ロンデス・ディ・グランプはどうしてこんな化け物がここに居るんだと、騎士達に必死に指示を飛ばしながらも怒鳴りたい気分だった。

 この任務はリ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフを暗殺するためのものである。帝国の騎士に扮して辺境の村々を襲い、ガゼフを誘い出す。ただそれだけのはずだった。

 これまでも既に数カ所の村を襲っており、ここカルネ村が最後の予定だったのだが、戦士長ではなくとんでもないものが釣れてしまった。

 あちらの攻撃は全てが一撃必殺、鎧ごと両断されてしまう。引き換えこちらの攻撃は盾に阻まれ、相手に当たらない。稀にこちらの攻撃が届いても、漆黒のフルプレートには傷一つ付けることが出来なかった。

 

 

「さて、残っているのはお前一人のようだな」

 

 

 周りに立っている仲間はもういない。今頃数名の騎士は逃走して本国か、後詰の集団に情報を伝えているだろう。振り下ろされる剣を見ながら、自分の仕事は終わったとロンデスは目を閉じた。

 

 

「村の皆さん、アンデッドの私が言っても信用出来ないでしょうが、騎士達は全て制圧したのでもう安全です。ポーションを渡すので怪我人に使ってください」

 

「モモンガ様は悪い人じゃないよ!! ネム達を助けてくれたもん!!」

 

 

 そもそも人ですらない。怖いことには変わらないが、変なことを言って気が変わっても困る。取り敢えず今は刺激しないでおこうと、村人達は不気味な赤いポーションを受け取る。

 これは使っても大丈夫なのだろうかと悩んだが、ネムが躊躇なくかけていき怪我人の治療を始めた。

 

 

 

 村人達が少し落ち着きを取り戻した頃、村長と思われる人物がモモンガに話しかけてきた。村人達から見てこのアンデッドは謎だらけだ。

 村が帝国の騎士達に襲われたと思ったら、今度は村に住む姉妹を抱えた鎧姿のアンデッドがこちらに向かって疾走してきたのだ。

 抱えていた姉妹を少し離れたところに降ろすと、瞬く間に騎士達を殲滅した。挙句に高価なポーションまで振る舞ってくれた。

 次は私たちの番だと、襲ってくる方がしっくり来ただろう。

 

 

「生者を憎むはずのアンデッドがなぜ、我々を助けてくれたのですか?」

 

「……酷く自分勝手な理由ですよ。別に義憤に駆られた訳じゃありません。私は見ての通りアンデッドなんですが、少々変わり者でして。誰かと話がしたかったんですが、仲間を探そうにも話しかけた存在は全て上手くいかなかったんですよ…… 人間、亜人、モンスター、アンデッド――」

 

 

 過去の失敗を思い出しているのか、目の前のアンデッドは遠い目をしていた気がする。

 

 

「――そんな中、私に笑いかけてくれたんですよ、あの子は。それがとても眩しくて、嬉しかった…… だからですかね。結局のところせっかくの話し相手がいなくなるのが嫌だった、それだけです」

 

 

(ふー、所々誤魔化してるけど、村長の雰囲気的にだいぶ警戒が薄れてきたな。魔法詠唱者(マジックキャスター)の格好は如何にも魔王だし、助けに来たって言っても今以上に信じてもらえなかっただろうな。そうなると思って戦士の格好をしたけど、正解だったみたいだ。よく考えたらこの世界の魔法がどの程度か分からないから、自分の使う魔法は注目を集めすぎてしまうかもしれないし……)

 

 

 ネムとエンリを連れて村を助けに行く際、顔を隠せないモモンガは悩んだ挙句、少しでも印象を良くしようと〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉を使って戦士の格好で助けに行くという選択をした。

 しかし、敵の騎士を鎧ごと真っ二つにするという大立ち回りをしてしまったため、効果があったかは微妙である。

 

 

 村の中央、亡くなった村人を並べているところに、ネムとエンリの姿が見えた。遺体に縋り付いて泣いていると言うことは両親だろうか。

 結局、全ての村人を救うことは出来なかった。いや、本当は今からでも救う手はある。 蘇生アイテムなど腐る程持っているが、この世界の事をよく知らない今使うのは危険だろう。ここに来て情報をちゃんと集めなかった事を後悔した。話すことにこだわらなければ…… 顔を隠せなくても、情報を集めるだけならいくらでもやりようがあったはずだった。

 

 

「村長っ!! 遠くから馬に乗った集団がやって来ます!!」

 

 

 焦ったように叫ぶ村人の声が聞こえる。

 厄介ごとはまだまだ続きそうだと、モモンガは溜息をつくのだった。

 

 

 



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遠隔視の鏡は必需品

 ガゼフ・ストロノーフは部下と共に馬を走らせ、辺境の村を救うべく行動していた。

 村々が襲われていると聞き、王は決断を迫られた。出来るなら万全の状態で向かいたかったが、貴族の横槍が入り、国宝の装備は持ち出せず、出撃が許可されたのも自身と部下を合わせて50名程である。

 

 どう考えても罠であり、このままでは死にに行くようなものだが、忠義に厚いガゼフは王の命でもあるため、無辜の民を救うべく必死になっていた。途中の村に僅かに残った生き残りがいた。

 それらを保護するため、人員を割き、部隊の人数は少しずつ減っていった。今では20人程しかいない。

 

 最後の村であるカルネ村に辿り着いた時、人が襲われている様な喧騒は聞こえない。どうにか間に合ったようだと安堵しながらも声を張り上げる。

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ!! 王の御命令により、近隣を荒らす帝国の騎士から、村々を救うために参った」

 

 

 

 

 

 

 村長の家に案内され、話を聞いた時、間に合ったと安堵した自分を殴りたくなった。この村は既に襲撃された後だったのだ。

 その割にこの村の被害が少なかったのは、旅の戦士が偶々現れて、騎士達を全て倒してしまったそうだ。

 自分はただの通りすがりだからと、そのまま去っていったという。

 

 

「なんと素晴らしい御仁なのだ、お一人で帝国の騎士達を倒す腕といい、是非とも会ってお礼がしたいものだ……」

 

 

 感嘆の声を上げるガゼフとは裏腹に、村長はその時の光景を思い出していたのか、なんとも言えない顔をしていた。殺された死体の様子を見る限り、どれも鎧ごと真っ二つにされている。

 そんな光景を見た村人からすれば、救われたといえ恐怖する姿でもあったのだろう。

 

 

「――あの、戦士長様。今、この村には働き手となる若い人手が足りません…… 税の免除など、国からの補助は頂けるのでしょうか?」

 

 

 弱々しく、縋るように喋る村長に、何も出来ない自分を責めながら、徴兵は無くなるだろうが、税は例年通りだろうと伝える。

 

 

「そんなっ!! このままでは、村は冬を越すことすら――」

 

「っ隊長!! 周囲に人影が見えます!! こちらを包囲するような動きです!!」

 

 

 息を切らせた部下が、部屋に入ると同時に伝えた言葉に、即座に意識を切り替える。

 

 

「奴らの狙いは我々だ!! 包囲網が完成する前に、一点突破で敵の陣形を破る!! すぐに出撃の準備!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬に乗った集団がこちらに来ると知らされてから、モモンガはすぐに村長に口裏合わせをお願いし、適当な家の中に隠れていた。

 

 

「ユグドラシルじゃ殆ど機会も無くて使えなかったけど、こっちでは便利だなぁ」

 

 

 もはや便利グッズ扱いの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使い、馬に乗ってきた騎士達の様子を伺う。声は聞こえないが、村長の対応からして敵では無いのだろう。

 助けも来たようだし、広場にいる集団に見つかる前にさっさと退散しようとしたモモンガだったが、扉の前でネムに捕まってしまう。

 

 

「モモンガ様…… どこかに行っちゃうんですか?」

 

「助けも来たようだし、もう大丈夫だろう。それに私が見つかったらこの村に迷惑をかけてしまうしな」

 

 

 モモンガの言う事は至極当然の事だったが、行かないで欲しいと、ネムの視線が訴えていた。このまま無視して帰るのもなぁと考えていると、姉のエンリが駆け込んで来た。

 

 

「ネムっ!! 村にまた別の集団がやって来てる!! 戦士長様達が、自分達が引き付ける間に逃げなさいって!!」

 

 

 どうやらまた、厄介ごとのようである。

 とりあえず敵戦力の情報を集めようと、再び遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使う。村から少し離れた草原に、天使を引き連れた、魔法詠唱者(マジックキャスター)と思しき集団が見える。

 そんな敵地に真っ直ぐ突っ込んでいく、戦士長達の姿が見えた。

 

 

(……あれは、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)か? 確か第3位階の魔法で召喚出来るモンスターだが……)

 

 

 弱過ぎる。モモンガからすれば第3位階で召喚出来るモンスター、特殊な能力も無いやつなど、壁にすらならないという評価である。

 

 そんなモンスターを主力にしているのだとしたら、せいぜいレベル20程度かと、強敵では無さそうなことに安堵する。

 モモンガからすれば、どんぐりの背比べだが、この世界では魔法よりも戦士の方が技術として進んでいるのでは無いかと考えた。村にマジックアイテムが無いのも、その推測を後押しした。

 

 モモンガは盛大に勘違いをしているが、この世界でレベル20とは強者に分類出来る。

 最初に会ったセラブレイトや、東の巨人などはこの世界の最高峰と言えるクラスなのだ。それを一般的だと思ったため、ガゼフ達が負ける可能性は低いと見ていた。

 

 

「ふむ、とりあえず大丈夫だとは思うが、念のため、避難はしといた方がいいだろう」

 

 

 武技や、この世界特有の切り札など、万が一が起きた時のため、ネム達に避難を促す。

 

 

「……モモンガ様は?」

 

「私はもう少しここで様子をみるよ。いざとなったら魔法で逃げるさ。――そうそう、言い忘れていたけど、私が魔法詠唱者(マジックキャスター)だと言うのは、秘密にしといてくれないか?」

 

 

 絶対喋りませんと、了承した姉妹を見送り、再び戦場の様子を観察に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場ではガゼフが咆哮をあげながら、武技を連続発動し、天使達を倒していた。

 しかし、部下達は天使を倒し切ることが出来ずに苦戦しているようだ。

 

 

(あれ? 戦士長達が思ったより弱い? これ、負けそうじゃないか?)

 

 

 自らの予想は外れ、戦士の技術が魔法より進んでいたわけでは無いと知る。

 このままでは、戦士長達は敗走し、あの集団は村にまで来る可能性がある。

 

 モモンガはこの戦いに介入する事を決意し、戦場に向かって走り出した。

 

 

 



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骨のロールプレイ

 もう何度武技を発動させたのだろう。間違いなく一日での連続発動回数の新記録だなと、ガゼフは苦笑する。

 満身創痍であり、部下も皆倒れている。いくら天使達を倒しても、本隊には届かず、敵の魔法詠唱者(マジックキャスター)達を倒すには至らなかった。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフよ、もう諦めて膝をつけ。せめてもの慈悲に、苦痛なく殺してやる」

 

 

 スレイン法国の特殊部隊、六色聖典。その中の一つ、陽光聖典の隊長、ニグン・グリッド・ルーインはそう告げる。

 陽光聖典は殲滅戦のエキスパートであり、この状況から逃げ出すことは万に一つの可能性もなかった。

 

 

「それは出来ない相談だ。このまま貴様達を通せば、また村を襲うのだろう?」

 

「愚かな男だ、我々人類は団結しなければならないと言うのに…… あんな村を見捨ててでも、貴様が生き残ることの方がよほど価値があっただろう」

 

 

 ニグンはガゼフが王国の戦士長である事を、心から残念に思った。

 しかし、もはや王国は残しておけない。王国は腐敗しすぎたのだ。王国の力を削ぎ、一刻も早く帝国に吸収させなければ、人類は纏まることが出来ない。

 

 絶対絶命の中、王への忠義と民を救いたい思いから立ち上がり、ガゼフは叫ぶ。

 

 

「私はこの国を守る、王国戦士長!! 貴様らの様な国を汚すものに、負け――」

 

「――ニグン隊長っ!! 村の方角から何か接近して来ます!!」

 

 

 ガゼフの最期の言葉を遮ったモノに不快感を感じながら、ニグンはそれを確認しようとする。

 速い、かなりの速度で迫っている様だ。砂煙を巻き上げているせいで、鮮明な姿は分からないが、黒い何かが走ってきている。

 

 ふと、ニグンは囮部隊の生き残りの話を思い出す。大柄で、黒い盾と剣を持ったアンデッドが村にいたと…… 仲間が真っ二つにされたと報告があった。

 余りにも怯えていたため、何か白い兜を付けた戦士と、骸骨の顔を間違えたのだろうと思っていた。

 

 

「黒い盾に剣…… 巨体…… 鎧ごと両断する程の力…… っまさか?! 伝説のアンデッド、死の騎士(デス・ナイト)か?!」

 

 

 

 

 

 

 モモンガは短距離走の選手の如く走っていた。鎧を付けた者の走り方としては正しくないかも知れないが、自分には関係ない。

 情報が洩れるのを防ぐために、転移門(ゲート)などはあえて使わず、戦士装備のまま全力疾走で突っ込んでいった。

 

 

「っ天使達を突撃させろ!!」

 

 

 ニグンはすぐさま指示を飛ばすが、アンデッドは止まらない。武器を振るうこともなく突き進む。トラックに撥ねられるが如く、走る身体にぶつかっただけで、天使たちは光の粒子となって消えていく。

 

 この強さ…… 間違いない、死の騎士(デス・ナイト)だ。ニグンは確信した。

 

 

「おのれっ王国め!! 腐敗しただけではなく、死の騎士(デス・ナイト)まで生み出しおって!! 怯むなぁ!! 天使達を順番に突撃させろ。こちらも魔法を放ち、波状攻撃だ。天使がやられたら召喚を繰り返せ!!」

 

「一体、なんだ……アレは?」

 

 

 ガゼフは突如として現れたアンデッドのおかげで命拾いをした。しかし、危機は去っていないと直ぐにでも動けるように体勢を整える。

 

 戦場に辿り着き、天使達を適当に倒しているモモンガは首を傾げる。

 

 

(味方とは認識されないと思ってたけど、死の騎士(デス・ナイト)ってなんだよ?! 全然似てないぞ!!)

 

 

 適当に剣を振り回し、天使達を屠っていく。途中、もしかしてコイツら死の騎士(デス・ナイト)見たことないんじゃと、気付いたモモンガは情報を隠蔽するためと言い訳しつつ、悪ノリを始める。

 

 

「オオオオォォッアアァァッーーー!!」

 

 

 迫真の死の騎士(デス・ナイト)ロールである。

 途中で殺した敵の死体を、特殊技術(スキル)でさりげなくゾンビに変える演出も忘れない。

 

「っくそ!! 生き残りたいものは時間を稼げ!! 最高位天使を召喚する‼︎」

 

 

 そう言ってニグンは懐から魔封じの水晶を取り出し、掲げる。

 

 それを見たモモンガは自身の認識が甘かったことに急激に焦る。

 

 

(魔封じの水晶だと?! ユグドラシルの魔法だけじゃなく、アイテムまであったのか!! ってか死の騎士(デス・ナイト)だと思ってるやつに最高位天使とかオーバーキルにも程があるだろ!!)

 

 

「さあ、最高位天使の威光に平伏すがいい!! 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!」

 

 

 現れた天使のあまりの神々しさに、陽光聖典の隊員と、既に空気となっていたガゼフは感嘆する。

 

 熾天使(セラフ)クラスが来ると思っていたモモンガは拍子抜けである。

 

 

「さあ、その力でやつを滅せよ!! 人が決して届かぬ領域の第7位階魔法、聖なる極撃(ホーリー・スマイト)を喰らうがいい!!」

 

 

 放たれた魔法により、アンデッドが光に包まれ、勝利を確信するニグン。

 そんな中、ちょっとチクチクするなぁと、この世界に来て初の痛みに少し感動しつつ予想よりダメージが少ない事を疑問に思う。

 そろそろ戦いを終わらせようと思ったモモンガは、この後どうするべきか考える。

 

 

(とりあえず適当に天使を倒して、その後やられたフリをして逃げよう)

 

 

 光が収まる頃、小声で完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)という、ユグドラシルでは完全にネタ扱いの魔法を唱える。

 レベル100の前衛職に近いステータスになったモモンガは、剣の練習とばかりに滅多切りにした。

 途中で自分の攻性防壁に反応があったが、情報系魔法は完全に防げた様だ。覗かれた様子はないので無視していた。

 

 

 魔神をも屠る天使が破れたことで、ニグンを含む陽光聖典の心は折れていた。相手の戦意がなくなった頃を見計らい、戦士化の魔法を解除する。ガゼフに伝言(メッセージ)を使用し小声で八百長を持ちかける。

 

 

『ガゼフ・ストロノーフよ、声は出さずに聞いてくれ。今からお前に突撃するから、剣を振え。私はやられたフリをして帰るから、お前たちもその後で帰るといい』

 

 

 明らかにガゼフは狼狽えていたが、そんな事は知らんとばかりに突撃する。

 あまりにも遅い剣に、演技がバレたらどうするんだと思ったが、続行するしかない。剣が当たったフリをして自ら倒れ、不可視化の魔法を発動する。

 彼らからすれば、まるで消滅したかの様に見えただろう。人は自分にとって都合が良いように考えるものだし、たぶんバレないだろうと思っておく。

 

 

 

 

 

 陽光聖典の連中が撤退し、ガゼフの部下は生き残れた事に喜びの声をあげる。

 そんな部下を尻目にガゼフは遠くを見ながら呟く……

 

 

「ありがとう、名も知れぬアンデッドの御仁よ。この恩は忘れない。もし、私に出来ることがあれば、きっと力になろう」

 

 

 再び会うことが出来たら、ちゃんとお礼を言おう。そんな事を考えながら、部下と共に、一度村に戻ろうと号令をかけようとする。

 

 

『言ったな?言質はとったぞ』

 

 

 自身の近くから、これは儲けたと言わんばかりの嬉しそうな声が聞こえた。

 

 自分は何か早まったかも知れない…… ガゼフは遠くない未来に起こるであろう、問題事を思ってため息をついた。

 

 



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骨の閃き

 カルネ村は一日でも早い復興を目指して、今日も朝早くから村人達が働いていた。

 襲撃してきた帝国の騎士達の装備を、ガゼフ達に買い取ってもらう事で、多少の補填にはなった。

 しかし、壊滅的とは言わないまでも、買い換えなくてはいけない物が増えた今、それだけでは冬を越す事はできない。

 

「……はぁ、この先どうしよう」

 

 両親を失った少女、エンリ・エモットはどうやって冬を越そうか、頭を悩ませていた。あれから妹のネムは我儘を言わず、手のかからない子になった。

 ネムが無理をしている事は分かっていた。しかし、両親の残した畑を多少は縮小させても、維持していくのが手一杯で、構ってあげることが出来なかった。

 

 そんな中、村に幼馴染の薬師、ンフィーレアが4人組の冒険者を連れて、訪ねて来た。

 村で起こった事を話すが、ポーションについては言っていない、問題になるかもしれないと言われていたからだ。

 エンリはチャンスはコレしかないと判断し、薬草採取に自分も連れて行ってもらえるようにお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林にある一軒の家、そこでは一人の子供が骸骨に相談していた。

 

 

「どうすればいいのかな、ネムは子供だから、お姉ちゃんのこと、殆ど手伝えないの……」

 

「うーん、私が手伝えればいいんだが、この顔だしなぁ」

 

 

 マジックアイテムを貸すことも考えたが、すぐには出来なかった。

 モモンガは自分の持つアイテムの価値観が、大きくズレている事に気付いたのだ。

 自身の持つ最も価値の低いポーションですら、一般的にはありえない価値と効果を持つものだったのだ。

 他のマジックアイテムなど、おいそれと渡せば、将来的にこの村の不利益になるかもしれない。

 

 二人で悩んでいると、珍しいことにドアをノックする音がした。

 ネム以外は殆ど誰も来ないので、消去法でエンリが来たのかと、ドアを開けようとした。

 その時、複数人の声が聞こえ、慌てて不可視化の魔法で隠れる。

 

 

(そういえば、魔法詠唱者(マジックキャスター)である事は口止めしてたけど、アンデッドの事は何も言ってなかったな……)

 

 

 エンリだってその辺の事情を最初は考えていた。しかし、あまりにも妹が頻繁に会いにいくので慣れてしまい、言ってしまえばうっかり忘れていたのだ。

 

 

「こんにちはー。 モモンガ様、いらっしゃいますかー?」

 

 

 幸い入って来たのはエンリだけだったが、他の人も自由に入れていいとだけ伝え、ネムに対応を任せてそのまま隠れることにした。

 

 エンリの他に来た4人組は冒険者らしく、その隣の男はンフィーレアという薬師だそうだ。どうやら、森に薬草を取りに行った帰りで、休憩がてら会いに来たようだ。

 

(全てのマジックアイテムが使用可能、魔法の習得速度が早まる、か。この世界にはまだまだ未知が溢れているな。というか生まれながらの異能(タレント)はなんでもアリなのか? ンフィーレアのが凄すぎる気がするが……)

 

 盗み聞きのような形にはなったが、偶然聞くことの出来た話に、警戒心を高める。レベル100の自分にもしかして敵はいないんじゃと、最近緩みっぱなしだった気分を引き締める。

 

 

「にしても、ここには森の賢王って魔獣がいるんだろ? あーあー、そんな魔獣に乗って街を歩けばナンパも上手くいくと思わないか?」

 

「ルクルット、そんな魔獣を登録してる冒険者がいるわけ無いだろ」

 

「冒険者が登録出来る魔獣は、制御さえ出来れば制限は無いので、可能性はゼロではないのである」

 

「ふふっ、ペテルの言うことも最もですけど、ダインの言う通り不可能では無いのですから浪漫はありますね」

 

 

 

 彼らの話を聞き、モモンガはある事を閃いた。

 

 彼らが帰った後、再び姉を手助けする方法を考えるネムに、自信満々に言い放つ。

 

 

「ネムよ、出稼ぎに行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合、普段は冒険者や依頼人が集い、騒がしい場所だが、今日は異様な空気に包まれていた。

 

 冒険者組合で働く受付嬢は、荒くれ者達の対応には慣れたものだが、今日だけは悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたかった。

 

 

「冒険者になりに来ましたー!!」

 

 

 肩車をされたまま、元気よく喋る女の子。

 組合のルール上は、子供が冒険者になる事も出来なくはない。英雄を夢見た子供が組合に来ることも、稀にだがある。普段なら、子供には危ないからと言って諌めるところだが、今回はそうはいかなかった。

 

 女の子を肩車しているのは、一見、漆黒のフルプレートを纏ったガタイの良い戦士だ。

 しかし、顔面はむき出しの骨である。誰がどう見たってアンデッドだ。

 受付嬢の困惑する様子に、このままでは話しが進まないと思ったのか、骸骨が喋り出した。

 

 

「驚かせてしまったようで、すまない。私はこの子に使役されているアンデッドだ。冒険者は魔獣登録というものが出来るのだろう? 冒険者登録と一緒に済ませて欲しいのだが――」

 

 

 

 

 無事に登録を済ませたモモンガ達は、作戦が上手くいったと喜んでいた。

 

 

 自身のアイテムを村で使えないのなら、現地通貨を稼げばいい。一人で街に入れないなら、冒険者の魔獣として登録してしまえばいい。

 ネムの様な子供が、アンデッドを使役している事も生まれながらの異能(タレント)だと言ってしまえば何とかなった。

 

 

 

 

 

 街にはどうやって入ったのかだと? ガゼフ・ストロノーフに話は通っている、でゴリ押しした。

 

 

 

 

 ちなみに、カルネ村に戻ってから、エンリにしこたま叱られた。

 

 自分は冒険が出来て、ネムはお金を稼いで、姉の手助けが出来る。

 一石二鳥の策だったのに……解せぬ。

 

 

 



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営業マンは伊達じゃない

 トブの大森林にある一軒の家。ネムにとって、もはや第二の実家のように寛げる場所である。

 そんな場所に今、張り詰めた空気が流れていた。

 

 自身の姉と恩人のモモンガが、朝からずっと向かいあって座っている様子を、ネムは固唾を飲んで見守る。

 

 

「――というわけでして、私が提供させていただく本企画は、妹様の成長にも繋がる、素晴らしい経験となる事をお約束させて頂きます」

 

 

 モモンガは、ネムの出稼ぎで得られるメリットを、エンリに全力でアピールすることで活動の許可を貰おうとしていた。

 

 決まったな。今回のプレゼンは会心の出来だ。

 

 社会人として培ってきた経験を惜しげも無く発揮したモモンガ。

 エンリの反応が気になり、様子を伺う。しかし、俯いていて、表情がよく分からない。心なしか眉間に皺も寄っているように見える。

 プレゼン用の口調が気になったのだろうか…… そんな風に考えていると、エンリがゆっくりと口を開いた。

 

 

「モモンガ様……」

 

「……なんでしょうか」

 

「本音は?」

 

「ネムと冒険がしたい」

 

「モ・モ・ン・ガ・様ぁぁぁ!!?!」

 

 

 この骨はまったくもう!! 命の恩人に言う台詞では無いが、馬鹿なのではないだろうか。普段は落ち着いてて、優しい方なのに……

 

 私が重い物を持っていると、姿を隠したまま代わりに運んでくれたりもする。

 周りから見たらポルターガイストだが、そんなことは気にしない。

 村でもよく見かける光景で、最近は誰も驚かなくなってきた。

 

 

「はぁぁ、分かりました!! 危険な仕事はしないこと!! 暗くなる前に帰って来ること!! いいですね!!」

 

 

 溜息を吐きながら、結局折れる事にした。

 このまま止めても、必ず何かをやらかす気がするし、約束を取り付けただけマシだろう。

 

 

「ありがとう、お姉ちゃん!! ネムも頑張る!!」

 

「おおっ!! ありがとう、エンリ。安心してくれ、例え世界を滅ぼすような怪物が襲って来たとしても、ネムには傷一つ付けさせないと誓おう。それに私が本気を出せば、どんな所からでも一瞬で帰って来れる。晩御飯までにはネムを送り届けるよ」

 

 

 さっそく冒険に行くぞとばかりに、妹を肩車しながら飛び出していった。

 

 エンリはモモンガ達の背中を見送りながら、妹が元気に笑ってくれるなら、それでいいかと小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、再び緊張した空気が流れていた。

 受付嬢は先日の事は夢では無かったと思いながら、クエストボードの前に立つ、二人組の冒険者を見る。

 目をキラキラと輝かせ、笑顔でボードを見ている女の子、それを肩車する眼鏡をかけたアンデッド。二人の首には真新しい、銅のプレートが輝いていた。

 

 なぜ魔獣登録をした骸骨にプレートがあるのかだと?

 私にも欲しいと言われたからだ、あげた私は悪くない。

 

 

 文字を翻訳するマジックアイテムを使いながら、モモンガはクエストを選んでいた。

 

 

(せっかくネムもやる気なんだし、討伐系よりも、一緒に出来る採取系の方がいいかな?)

 

 

「ネム、これなんかどうだ? 薬草採取のクエストだ。ネムはこういうの得意じゃないか?」

 

「うん!! お姉ちゃんの手伝いしてたから、薬草のことはちょっとわかるよ!!」

 

 そうか、ネムは偉いなと褒めながら、このクエストを受けることに決めた。

 手頃なクエストのようだし、報酬が大していいわけでもないが最初は成功させることの方が大事だろう。

 張り出されていた紙を受付嬢に持っていきクエストを受注する。

 

 受注されたクエストを確認し、受付嬢は首をかしげる。

 薬草を取るだけのクエストだ、珍しい所はなにもないはず…… 

 

 何がそんなに楽しいのか、嬉しそうに組合を出て行く二人を、物珍しそうに周りは見ていた。

 

 

 

 



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骨は万能じゃない

 薬草採取のクエストを受けた、モモンガとネムだったが、採取場所はトブの大森林。

 家を出てから一時間も経たずにとんぼ返りである。

 

 

「モモンガ様ー!! こっちにも薬草あったよー」

 

 

 手際良く、薬草を採取するネムを余所に、モモンガは新たな事実に驚愕していた。

 

 

(なぜだ、薬草が取れない?! 何度やっても握り潰してしまう!!)

 

 

 採取スキルを持たないモモンガでは、薬草を上手く取ることが出来ない。

 ユグドラシルの縛りが影響していることに気付いたのは、掌を薬草の汁塗れにしてからだった。

 

 

 結局、モモンガはネムの護衛と場所を見つける事だけに専念し、採取はネムが頑張った。

 

 今のネムは服装こそ村娘だが、付けている指輪など、数々の装飾品の効果により、様々な耐性を得ていた。モモンガの装備している神器級(ゴッズ)程のレアリティはないため、戦闘力こそ向上しないが、効果は絶大である。

 アダマンタイト級の冒険者でも、傷一つ付けられないほど、防御面での性能に特化させている。この世界ではほとんど無敵状態だ。

 

 

 色々あったが、薬草を集め終わり、冒険者組合に報告しにエ・ランテルに戻った。

 組合員の顔が引き攣っていたが、やはりまだ私のことが怖いのだろう。

 

 エ・ランテルからトブの大森林までを、数時間で往復してきた事に驚いているとは、モモンガもネムも気がつかなかった。

 

 

 初クエストを成功させた二人は、記念に何か買おうかと、街を散策していた。

 

 

「そうだ、折角だしンフィー君に会いたいです。ポーション売ってるお店なんです」

 

 

 ネムからの提案に、この世界のポーションはまだちゃんと確認していなかったと思い、了承する。

 

 ンフィーレアの祖母であり、エ・ランテル一の薬師と名高い、リイジー・バレアレの店へと向かった二人だったが、辿り着く前に周囲が騒がしくなりだした。

 

 

「アンデッドだ!! 墓地から大量のアンデッドが街に襲って来てる!!」

 

「おい、ここにもアンデッドが来てるぞ?!」

 

 

 街の人々が騒いでいる様子から、どうやら緊急事態らしい。

 このままではとばっちりで自分まで討伐されそうだ。

 巻き込まれる前に帰ろうと思ったが、ネムが一人の老婆を見つける。

 

 

「リイジーお婆ちゃん!!」

 

 

「ああっ、ネムちゃんか。それにアンタはアンデッドかい? 今はそんな事はどうでも良いさね。ンフィーレアが、ンフィーレアが拐われちまったんじゃ!! 救助の依頼を冒険者にしようにも、この騒ぎで冒険者組合は人がみんな出払っちまってるんじゃよ……」

 

 

 すごいなこの婆さん、俺をスルー出来たのはこの世界に来て貴方が初めてだ。

 

 ネムがこちらを見ている。その上目遣いは反則だ、抗えるわけがない。

 元々ネムに激甘のモモンガには余り関係がないが。

 

 

「仕方ないな、晩御飯までに帰らないとエンリに叱られてしまう。ンフィーレアを見つけてさっさと帰ろう」

 

 

 ネムには伝わったが、リイジーはまだ分かっていないようだ。

 

 

「アンタ、いったい何を……」

 

 

 いつものようにネムを肩車し、何でもないことのように言う。

 

 

「安心するがいい、リイジー・バレアレよ。お前の孫は私たちが連れて帰ろう。初回サービスだ、特別に無料で依頼を受けてやろう」

 

 

 リイジーは、そう言って走り出したアンデッドの背中を、呆然と見つめるのだった。

 

 

 

 



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勘違いは加速する

 エ・ランテルの墓地の方からやってくるスケルトンの集団。

 大量のアンデッドを前に、門がいつ破られてもおかしくないと、守衛達は絶望していた。

 

 

「門をあけてくださーい!!」

 

 

 黒いフルプレート姿の骸骨が、門の前に現れる。

 先ほどの可愛らしい声は、このアンデッドの頭に引っ付いている子供の声だろう。

 

 突然のアンデッドと子供の登場に驚いたが、二人の首に冒険者のプレートがあることを見て、その場にいた守衛たちは無理やり意識を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 モモンガはエ・ランテルの街を疾走してここまでやって来た。

 自身の持つアンデッドを探知する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)、アンデッドの祝福に、反応する方向にひたすら走る。

 カッコつけて走り出した手前、ンフィーレアの場所は知らないなんて言えない。この事件の元凶が、きっと犯人だと決めつけた、そうであって欲しいと祈る。

 

 もし違っていたら、魔法を使ってどうにかしよう。

 

 門の近くまで来て、ネムが門を開けて欲しいと頼むが、守衛の兵士達には伝わっていないようだ。

 

 

「お嬢ちゃん!! 何でそんなプレート付けてるかは知らんが、応援を呼んできてくれ!! 骸骨のアンタも頼む!!」

 

 

 門の上から叫ぶ守衛たちを見て、人間追い詰められると些細なことは気にしないようだ。

 アンデッドのモモンガにまで、そんなことを頼んでいるとは余程焦っているようだ。

 

 

「悪いがそんな暇はない、晩御飯が待っているんだ」

 

 

 鎧姿の骸骨は、助走なしのジャンプで門を軽々と飛び越える。

 凄い、凄いとその上ではしゃぐ子供は逞しい限りだ。

 

 数秒思考が止まったが、すぐさま子供を助けなければと行動する。

 ロープを垂らそうと、門の向こう側を見下ろすが、そこには何もいない。

 

 あれだけいたアンデッドが全滅していたのだ。

 今でも遠くの方から、鉄の塊を何かにぶつけた様な音がしている。

 

 

「俺たちは伝説を目にしたのかもしれない。 黒い…… 漆黒の…… いやそんなもんじゃない!! 死の騎士!! デスナイトだ!!」

 

「デスナイトか…… 大層な名前だが、あのアンデッドには相応しいな。あと子供が可愛かった」

 

「分かる。天使だな」

 

 

 完全に誤解される二つ名を付けられていることなど、全く知らないモモンガは、この事件を引き起こした元凶の元まで辿り着いていた。

 

 この集団の名は『ズーラノーン』正確にはズーラノーンという組織に所属する者たちだ。トップに盟主、その下に十二高弟という形の組織だ。さらに12人の高弟には沢山の弟子達がいる。

 邪悪な秘密結社であり、近隣諸国から危険視されているカルト集団である。

 

 

「カジっちゃ〜ん、餓鬼くっつけた、変なアンデッドがいてるけど?」

 

「その呼び方はやめろ。さて、どうやって、この――」

 

「〈集団標的(マス・ターゲティング)魔法持続時間延長(エクステンド)魔法最強化(マキシマイズマジック)麻痺(パラライズ)〉」

 

 

 こちらが戦士一人と子供なら、何の問題もないと思っていたのだろう。

 即座に戦士の装備を解除し、魔法を打ち込んだモモンガに対応できた者はいなかった。

 

 

「先手必勝だな」

 

 

 今の一連の流れを見ていたネムは、よく分からないけど、モモンガが敵をやっつけたと思い良しとする。

 

 こういう不意打ちとか奇襲はPK戦術としてよく使ったなぁ、速いことはいいことだ、って誰が言ってたっけ。弍式炎雷さんだったかな? そんな事を思い出しながら、モモンガとネムはンフィーレアを探す。

 

 ネムを頭に引っ付けたままなので、暴力的な魔法は一切使っていない。人が死ぬ姿は子供には辛すぎる。

 この世界のレベルはモモンガには低すぎて、相手を殺さずに無力化できる魔法などは限られている。物理的な無力化も加減がうまくできる気がしなかったため、魔法が効いてくれて良かったとほっとしていた。

 

 体が痺れて動けずに転がっている連中は、わざわざ連れて行かずとも、このままほっとけば、いずれ他の冒険者達が捕まえてくれるだろう。

 

 墓地の奥、半裸のンフィーレアを見つけた。

 頭に変な飾りを付け、両目から血を流し、立ち尽くしている。

 心配そうに焦るネムを宥めながら、不審に思ったモモンガは道具鑑定の魔法を唱える。

 

 

(叡者の額冠…… これは、珍しいだけのゴミアイテムだな。メリットとデメリットがまるで釣り合わない。外すと発狂とはとんだ呪いのアイテムだ)

 

 

「〈上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉」

 

 

 ユグドラシルには存在しなかった効果のアイテムだったので、少しもったいないかもと思ったが、ンフィーレアを見捨てるわけにもいかず叡者の額冠を破壊した。

 

 これで仕上げとばかりに、崩れ落ちたンフィーレアにポーションをぶっかける。

 

 

「よし、これでミッション完了だな。リイジーに届けたら、私たちも帰るとしよう」

 

「うん!!」

 

 

 アイテムにより肉体の疲労はなくても、精神的には疲れただろうに。

 ネムをさっさと休ませてやろうと、転移門(ゲート)を使い、二人で墓地を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様? 私が何を言いたいか分かりますよね?」

 

 

 仁王立ちするエンリを前に、休むのはまだまだ先になりそうだと確信した……

 

 

 



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困惑するスレイン法国

 スレイン法国の上層部、神官長達は、最近上がって来た情報に頭を悩ませていた。

 

 

「ニグン・グリッド・ルーインが、ガゼフ暗殺を失敗したそうだな」

 

「無理もあるまい、あの伝説のアンデッド、死の騎士(デス・ナイト)が現れたんじゃからの」

 

「しかも、その死の騎士(デス・ナイト)は、ニグンに持たせた切り札を破ったのだろう? その後、消滅したようだが、通常の死の騎士(デス・ナイト)とは思えん」

 

「確かに、亜種であった可能性もある」

 

 突如として現れ、陽光聖典を壊滅させたアンデッドについて、神官長達はあれこれと意見をぶつけている。

 そんな中、一人の神官長が、新たな情報を口にする。

 

「エ・ランテルで起きた、アンデッド大量発生の事件を知っとるか?」

 

「おお、子供の冒険者が、一人で事件を解決したと言う、あれか」

 

「確かその少女は死霊使い(ネクロマンサー)だとか……」

 

「そうだ、そしてその少女が使役するアンデッドは、こう呼ばれている―― デスナイト、とな」

 

 

 あまりの事実に、会議の場は数秒、静まり返った。

 

 

「なんと?! あれ程のアンデッド使役するとは…… ぷれいやー、神の降臨か? それとも我々の知らなかった神人か?」

 

「その子自身に戦闘力は皆無と、報告があることから神本人ではないだろう。 神人の線も薄い」

 

「陽光聖典を撃破した、死の騎士(デス・ナイト)との関連は断定出来ないが、どうするにしても慎重に動くべきだろう」

 

 詳細な情報が分からない現状では、手を出すことは得策ではない。そう結論付けた神官長達は、とりあえずは静観することにした。

 人類にとって利益となるか否か、判断を保留にしたのだ。

 陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインがもたらした勘違いは、段々と広まっている。

 

 ちなみに遠隔視をしようとして、巫女達が爆発した事件があったが、いつの間にか破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の仕業ということになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林、もはやお馴染みの一軒家で、正座させられている骨と子供がいた。

 

 

 エンリはあの日、遅く帰ってきた二人を叱ったが、深くは話を聞いていなかった。

 あれから何度か二人は冒険に出ており、ある日、二人の首のプレートが変わっていた。

 

 冒険者に詳しくは無いが、そんなすぐにプレートが変わるのかと、不思議に思って聞いてみたら、とんでもない内容だった。

 

 

「薬草を届けた帰りに、ンフィー君のとこに寄ったら、拐われてて……」

 

「アンデッドが大量に出て来たから、正面突破した」

 

「悪いやつらを見つけて、モモンガ様がビビッとやっつけたの!!」

 

「半裸のンフィーレアを治療して帰ってきた」

 

 

「「そしたらミスリルになった!!」」

 

 

「分かるようにっ!! ちゃんと説明しなさぁぁぁいっ!!」

 

 

 

 トブの大森林には今日もエンリの咆哮が響き渡っていた。

 

 

 



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幕間 エンリ・エモットは働き者

 トブの大森林にあるごくごく普通の一軒家。この近くには魔物は一切近寄って来ないため、この森で一番安全な場所である。

 カルネ村に住む村娘、エンリ・エモットは、モモンガから話があると言われてやってきていた。

 

(ネムと一緒じゃなくて、私だけに話があるって珍しいわね…… いったい何の話なんだろう?)

 

 

 モモンガは別に毎日冒険に出ているわけでは無い。

 姉妹で過ごす時間も、大切だろうと思っているので、かなりの頻度で休みを入れている。

 そんなモモンガが、エンリだけを呼び出すことは珍しいと言える。

 

 

「モモンガ様、話って何ですか?」

 

「いや、エンリは今一人で家を維持しているのだろう? 畑のこともあるし、何かと大変ではないかと思ってな」

 

 

 私達姉妹の、命の恩人であるモモンガ様は優しい。

 普段からこのように気遣ってくれており、アンデッドとは思えないような性格だ。

 

 

「あまり、私は表立って手伝えない。ならばエンリが強くなれば、仕事が楽になるんじゃないかと思ってな」

 

「待ってください、どういうことですか?」

 

「パワーレベリングによる、エンリの強化だよ」

 

「意味がわかりません……」

 

「エンリが魔物を倒す、レベルが上がる。身体が強くなって、仕事が楽になる。簡単だろ?」

 

「モモンガ、待って」

 

 

 とんでもないことを言い出したモモンガに、エンリは思わず敬称が外れる。

 

 この人は常識をどこかに置いてきたのだろうか?

 

 アンデッドに常識を求める方が、間違っているのかもしれないが、今更である。

 

 

「まぁ、モノは試しと言うじゃないか。姉妹だけで暮らしてるんだから、強くて困ることはないはずだ」

 

 

 こうして、モモンガ(ユグドラシル廃人)による、エンリ・エモット強化計画がスタートした。

 

 

 

 

 

「ほらほら、まだまだ出せるからドンドン殴りなさい」

 

「あぁ!! もうっ!!  このっ!!」

 

 

 モモンガから魔法によるフル強化を施され、魔法のガントレットを渡されたエンリは、次々とアンデッドを殴り倒していた。

 

 モモンガの生み出した様々なアンデッドは動かないため、危ないことはない。

 若干スケルトン系を殴る時だけ、執拗な気がするが、気のせいだ。

 

 サンドバッグを殴る行為は、夜遅くまで続き、森には鈍い打撃音が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、村では元気に働くエンリの姿がある。

 畑仕事を猛スピードで終わらせているのに、汗一つかいていない。

 

 強くなって仕事を楽にするという、モモンガの目論見は成功したようだ。

 

 

 

「――動かない相手とはいえ、まさか上位アンデッドまで殴り倒すとは…… エンリには才能があったのかな?」

 

 

 アダマンタイト級冒険者を、遥かに凌駕する村娘が誕生したが、モモンガは気にしなかった。

 

 

 

 



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見上げる者、見下ろす者

 リ・エスティーゼ王国の王都、そこにある冒険者組合で、五人の冒険者が集まっていた。

 蒼の薔薇と呼ばれる冒険者チームである。

 メンバー全員が女性で、最高位のアダマンタイト級冒険者であることから有名なチームだ。

 

 

「ねえ、エ・ランテルに、新しいミスリル級冒険者が誕生したそうだけど、知ってる?」

 

「ん? ミスリル級なら、前からエ・ランテルにも数組いただろ? そんなに注目するもんなのか?」

 

 

 男勝りな女性、ガガーランは全く知らないようだった。

 これから話すことにきっと驚いてくれる、蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは楽しそうに話し出した。

 

 

「その冒険者はね、なんと一週間足らずで銅からミスリルになったのよ‼」

 

「はぁ?! なんだそりゃ!! いったい何やったらそんな事になんだよ?」

 

「エ・ランテルで起きた、アンデッド大量発生の件は知ってるわよね? あれをたった一人で解決したそうよ」

 

 確かにそれはミスリル級だ、ガガーランは納得する。いや、ズーラノーンが関わっていたという情報もある。それでも不足かもしれない。

 

 

「凄腕の死霊使い(ネクロマンサー)らしいわ、どのくらい凄いのかしらね」

 

「大柄の男性、興味ない」

 

「早計、ガガーランを見るべき。女性かもしれない。でも大柄、興味ない」

 

 

 露出の高い忍者のような服装の双子、ティアとティナは相変わらずの平常運転だ。

 

 

「ふんっ、噂など当てにならんさ。どれほどの強者かは知らんが、あのババアよりは格下だろう」

 

 口を開いたのは仮面を着け、赤いローブを纏った小柄な女性、イビルアイだ。

 こんな見た目だが、蒼の薔薇で最強である。

 イビルアイの言うババアとは、かつてこの世界の脅威だった魔神達を倒した英雄、十三英雄の一人である。

 確かにリグリットの婆さんよりは下だろうなと、ガガーランも同意する。

 

 

「なんでも、街ではその冒険者に見下ろされると、誰もが思わず供物を捧げる程の人物らしいわ」

 

 その噂は流石にないだろうと、仲間達は苦笑するが、ラキュースは止まらない。

 まだ見ぬ謎の冒険者に、ラキュースは妄想を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、新たな人材の発見を、一人の人物と話していた。

 

 

「爺よ、エ・ランテルに凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)が現れたようだ。しかも死霊使い(ネクロマンサー)のようだぞ?」

 

「なんと、死霊使い(ネクロマンサー)とは珍しい…… 是非とも魔導の深淵について語り合いたいものですな」

 

 

 爺と呼ばれたこの老人。フールーダ・パラダインは、第6位階魔法を使用できる、この世界で逸脱者と呼ばれる魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 

 

「さらにだ、驚くことにその冒険者が使役するアンデッドは、デスナイト、などと呼ばれているようだぞ?」

 

「今すぐにでも会いに行きましょう!! 魔法詠唱者(マジックキャスター)として、私よりも優れているとは思いませんが、死霊魔法に関しては、私を超える逸材かもしれません!!」

 

 

 まぁ待て、ただの噂だと、笑いながらフールーダを宥めるジルクニフ。

 

 

「噂が本当だとしたら、是非とも手に入れたい人材だ……」

 

 

 情報の精査に、その人物の調査、どうやってこちらに引き入れるか、帝国の更なる繁栄のため、ジルクニフは頭を働かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、ありがとう!!」

 

「ありがとうございます。ネム、良かったな」

 

「いいってことよ!! ネムちゃんにはこの街のみんなが感謝してるからな」

 

 

 モモンガに肩車されたネムを見上げ、店主は笑う。

 エ・ランテルにある屋台の一つ、そこの店主に串焼きを貰ったネムは、嬉しそうに頬張っていた。

 アンデッドであるモモンガが、街を歩きまわるのはいつもの事だが、最初にこの姿に慣れ始めたのは商売人達だった。商魂逞しいとはこのことだろう。

 

 私も食べることが出来たらいいんですけどね、そんな事を言いながらモモンガ達はどこかへ歩いていく。

 

 街の人達に時々貰い物をしながら、骨と子供は今日も冒険に出かけていくのだった。

 

 

 

 

 



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組合からの指名依頼

 エ・ランテルの冒険者組合では、組合長プルトン・アインザックがある冒険者を待っていた。

 

 やって来たのは、飛び級で銅からミスリルとなった、冒険者チーム『黒い疾風』の二人。

 疾風の天使と呼ばれる冒険者ネム、そして彼女の使役する骸骨の戦士、デスナイトだ。

 使役する魔獣扱いのアンデッドを、チームの人数に数えて良いのかは謎である。

 

 実際のところ、冒険中に走っているのはモモンガだし、デスナイトと呼ばれているけど、種族は死の支配者(オーバーロード)だ。

 間違いだらけだが、面倒なのでモモンガも特に何も言ってない。

 チーム名にしても、いつのまにか勝手に付けられていただけで、本人達が名乗った事は一度もなかった。

 

 普段はほとんど採取系のクエストしか受けていないチームだが、その実力はこの街にいるものなら誰もが知っている。

 

 

 

 

 いつもの様に冒険者組合に入る二人。

 ランクの飛び級時に一度呼び出されて、以来久々となる呼び出しに、モモンガとネムは何の用だろうと思っていた。

 

 

「わざわざ来て貰ってすまない。早速で悪いが緊急の依頼が来ている」

 

 

 飛び級の際に一度話しているため、アインザックは基本的にモモンガに話しかける。細かい仕事の対応などは、モモンガがしている事を知っているからだ。

 

 

「実を言うと以前からあったものなんだが、竜王国からの依頼なんだ。彼らの国は長年ビーストマンの侵攻に脅かされていてな。兵がとてもじゃないが足りていない状況なんだ。そこで各国の冒険者に依頼を出しているようなんだが――」

 

(竜王国、ビーストマン…… もしかして、俺がこの世界に来て最初にいた場所か?)

 

「――大量のビーストマンを相手に出来る冒険者など滅多にいない。アンデッドの大群を打ち倒した君達なら、と白羽の矢が立ったわけだ。どうか受けてもらえないだろうか?」

 

 

 モモンガとしてはこの世界に来てすぐにやらかした事に、罪悪感もあり助けに行ってもいいかと思っている。

 しかし、エンリとの約束もあるため簡単にハイとは言えない。

 

 

「お姉ちゃんとの約束があるから、夜遅くなるのは受けれないの……」

 

「申し訳ないが彼女の姉と危険な仕事はしない、と約束してしまっているので……」

 

 

 他の冒険者がこんな事を言えば殴り倒している。

 門限がある? 危険なことはしない? なんで冒険者やってるんだと突っ込んだことだろう。

 しかし、ネムはどう見ても子供。アインザックも強くは言えない。

 

 

「そこをどうにかお願い出来ないだろうか。このままでは竜王国は滅びてしまうかもしれないのだ……」

 

 

「ふむ、取り敢えずネムの姉と相談して来ます。返事は後日と言うことで」

 

 

 ――なるべく早く頼む

 アインザックはそれだけをお願いし、なんとか受けてくれる事を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでネムの姉と一緒に行く事になりました」

 

「お泊まりするかもしれない、遅い時間のお仕事は初めてですね!!」

 

 

 何が、と言うわけなのか、サッパリ分からない……

 どんな話し合いがあったか知らないが、目の前の二人はワクワクしているようだ。

 戦争中のビーストマンがいる国に、一緒に行こうとするなんてどんな女性なんだ!!

 

 見たことも無いネムの姉を想像し、アインザックは恐怖に震えていた……

 

 



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竜王国での初挑戦

 やってしまった……

 エンリはモモンガの開いた〈転移門(ゲート)〉を通りながら、先日のやり取りを後悔する。

 

 竜王国がピンチだから、泊まりがけで助けに行く。そんな事を言うモモンガとネムに、最初は危ないから駄目だと言った。

 

 

「困っている人がいるのに、見捨てるわけにはいかない」

 

 

 過去に命を救われた私は、それを言われたら黙るしか無かった。

 それでも心配だったので、それなら私もついて行くと、つい言ってしまったのだ……

 

 それを聞いたモモンガとネムは、家族旅行と言わんばかりに、色々と準備をしだした。

 今思うと、やけにキメ顔で言われた気がしないでもない。もしかして騙されたかもしれない。

 

 最近、骨の表情が分かるようになってしまった私は、大きな溜息を吐いた……

 

 

(ふぅ、エンリが思ったより早く納得してくれて良かった。あの国には罪悪感が半端なかったから、見捨てたくなかったんだよなぁ。罪滅ぼしにチャチャっと国を救って、三人で観光しよう!!)

 

 もう既に仕事が終わった後の、観光に希望を膨らませているモモンガ。

 竜王国に観光出来る場所など、今はほとんど無い事に気付いていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「女王陛下、リ・エスティーゼ王国のエ・ランテルより、予てから依頼していた冒険者が来たようです」

 

「おおぉっ!! 遂に救援に来てくれたのか!! ランクはなんじゃ? オリハルコンか? もしやアダマンタイト級の冒険者か!!」

 

「期待に添えず、申し訳ありませんがミスリルです」

 

「お、おう…… ミスリルか…… 腕は良いのだろうが大丈夫か? それで、何人来てくれたんじゃ?」

 

「三人です。『黒い疾風』という冒険者チーム一組だけです。ちなみに正確に言うと、冒険者は一人でもう一人は使役魔獣。あとの一人は一般人です」

 

「一般人は何しに来たんじゃ?! というか少なすぎるわ!!」

 

「陛下、落ち着いてください。彼らはなんと、骨と幼女と村娘ですよ? この国はもう大丈夫ですよ……」

 

「安心できる要素が一つも無いわぁ!! 宰相、お前現実逃避しとるだけじゃろ?!」

 

 

 竜王国の女王ドラウディロンと宰相は、ひとしきり騒いだ後どうするべきか考える。

 どうせ一人の冒険者にできる事など、高が知れている。おそらくビーストマン達を撹乱し、数を減らすくらいはできるだろう。

 救ってくれるならやり方は任せるとぶん投げることにした。

 

 

 

 

 

 

 戦士ロールは飽きたからと、黒色の地味なローブを纏ったままのモモンガ。

 一応、冒険者チームの代表であるネムが依頼を受け、救援に来たことをそこら辺に立っていた衛兵に伝える。三人は衛兵達が戻って来るのを、竜王国の門の前で話しながら待っていた。

 

 

「ローブ姿での冒険は久しぶりですね!!」

 

「モモンガ様、鎧姿に戻らなくていいんですか?」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)だとバレたら、問題になるかと思って今まで偽装してたけど、意味無かったからな」

 

 

 エ・ランテルにいる時はまた鎧姿に戻るつもりではいるが、アンデッドの時点で相当目立ってしまうのでこの国では気にしない事にした。

 鎧よりもこっちの姿の方が楽でいいんだと言うモモンガに、エンリはそういうものかと流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方達の判断にお任せします』

 

 

 勝ったな。

 女王陛下に謁見したモモンガ達は、直々にこのお言葉を頂いた。

 現場の判断に一任させてくれるとは、中々思い切った判断をする女王だとモモンガは思っていた。

 

 

「さっそくビーストマンを追い払って来るよ。今回は流石に危ないから、ネムはエンリと待っててくれ」

 

 

 モモンガとしては、ぶっちゃけ危険は無いと思っている。

 しかし、戦場に子供を連れて行くのは教育的に良くないと、待っててもらうことにした。

 

 本当は一人で竜王国まで来るのがベストだったのだろうが、モモンガ一人で行くと確実に大騒ぎになる。

 助けに来た冒険者だと言っても信じてもらえなかっただろう。

 

 

「えー、モモンガ様、一人で行っちゃうんですか?」

 

「えっと、私達はどうすれば……」

 

 

 頰を膨らませた不満げなネムと、困ったような顔をするエンリ。

 ネムが微塵も不安を感じさせない辺り、対称的な二人である。

 

 

「まぁ、二人だけにしとくのも心配だから、護衛を置いていくさ」

 

 

 エンリの不安に気づいたのか、モモンガは二人を安心させるように言う。

 

 

「何気にこの世界で使うのは初めてか……」

 

 

 ボソリと呟いたモモンガを中心に、10メートルはあろうかという、巨大な立体魔法陣が浮かび上がる。

 ドーム型に展開された魔法陣の模様は常に変わり続け、見たことも無い文字が出たり消えたりを繰り返していく。

 

 他国のど真ん中で起こった神秘的な光景にネムは大興奮し、エンリは絶句した。

 

 

「超位魔法!! 〈天軍降臨(パンテオン)〉!!」

 

 

 獅子の顔、4枚の羽根、光り輝く鎧。光とともに現れたその天使は炎を宿した槍と盾を持ち、モモンガに跪いた。

 この天使がいればどんな厄災からも護ってくれるだろう。そう感じさせる程の存在が、なんと6体もいるのだ。

 

 

「よし、特に変化は起きていないな。門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)よ、この二人を護衛せよ」

 

 

 短く命令を下すモモンガに、それをビーストマンに突撃させればいいんじゃないのかと、エンリは思わずにはいられなかった……

 

 

 



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ヒーローのやり方

 竜王国の築いた砦のはるか後方、集まったビーストマン達は突撃する時を今か今かと待っていた。

 その数はなんと約10万である。

 

 切っ掛けは以前、竜王国に侵攻していた時のことである。

 突如現れたアンデッドに、その時侵攻していた一つの部隊が皆殺しにされたのだ。

 それを見ていた他のビーストマン達は本能的に察したのか、即座に撤退した。

 

 そして、その情報から過去にビーストマン達を恐怖のどん底に陥れた、最恐最悪のアンデッド魂喰らい(ソウルイーター)を思い出した。

 そのアンデッドは魂喰らい(ソウルイーター)ではなかった様だが、念には念を入れることにしたのだ。

 一時的に侵攻を止め、時間をかけて確実に勝てる戦力を集めたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビーストマンの事情なんて全く知らないモモンガは、〈飛行(フライ)〉の魔法を使いながら、敵地のど真ん中に向けて進んでいた。

 

 

(一人で出掛けるのもなんだか、久しぶりな気がするな…… この世界に来た最初の頃以来か……)

 

 

 そんな前の事では無いが俺もあの頃は無茶をしたもんだと思いながら、どうするかを考える。

 出来ればあまり殺したくは無い。

 いくら敵とはいえ皆殺しにしてきましたなんて、ネムやエンリには言いたくなかった。

 

 ビーストマンの軍勢の上空に着いた時、あの頃より随分と数が多いことに気づいた。

 

 

(そうだ!! これだけの数がいるんだから、一部をビビらせて撤退させれば周りも便乗して帰るかも!!)

 

 

 最初に来た時も周りのやつらは撤退していったことを思い出したモモンガは、これは名案だと、自画自讃する。

 適当に恐怖を煽る特殊技術(スキル)か魔法を使えば、殺さずとも十分だろう。

 

 敵を殺さず勝利する。

 

 まさに子供が思い描くヒーローのようじゃないかと、敵地に降り立ち特殊技術(スキル)を発動する。

 

 

「〈絶望のオーラⅠ〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはすっかり忘れていた。

 

『嫉妬する者たちの顔面』

 

 効果はソロで戦う時に全ステータスが50%アップし、敵が増えれば増えるほど強くなる。

 モモンガにとっては、外す事のできない呪いの装備。

 

 今、モモンガは一人。

 そして敵の数は10万。

 ユグドラシルではゲームであった為、敵の数には当然制限があった。

 しかし、この世界に制限などあるはずも無く、効果も多少変質し魔法や特殊技術(スキル)にまで影響を及ぼしている。

 

 モモンガが軽くビビらすつもりで放った、〈絶望のオーラⅠ〉がビーストマン全軍を包み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 ビーストマン達はなりふり構わず、走り出していた。

 逃げなくては!! アレは挑んではいけないモノだ!! 戦うという次元の相手では無い。可視化された死、そのものである。

 逃げ出すビーストマンを止める者など、一匹もいない。

 

 結果、10万のビーストマンは一斉に撤退していった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 



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幕間 武の探求者

 俺の名はブレイン・アングラウス。

 過去にガゼフに負け、以来ガゼフに勝つことを目標にして、修行を続けている。

 刀を振るい、武の頂きを目指す剣士だ。

 

 以前は、ある傭兵団の用心棒なんてやってたりもしたが、偶然俺が留守の間に壊滅していた。

 その場に残っていた奴らの話は要領を得ないものばかりだったが、とてつもない怪物に出会ったという事だけは分かる。

 そんなやつがいるならばと、俺は傭兵団に見切りをつけそいつを探しに行くことにした。

 

 ガゼフに勝つ為、俺の踏み台となってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ある村でついに見つけた。

 畑仕事を猛スピードで終わらしていく女性がいたのだ。

 

 然程目立ってはいないが、実戦で鍛えられたと思われる動く為の無駄の無い筋肉。アレだけ動いているのに、汗一つかかない体力。

 間違いない、アレが傭兵団たちが出会ったという怪物だろう。

 女性というのは意外だったが、武を志す者に性別は関係ない。

 

 

「おい、そこのお嬢ちゃん」

 

「はい、なんですか?」

 

「俺の名はブレイン、ブレイン・アングラウスだ。俺と勝負しろ。まぁ、断っても俺は止まらないがな」

 

 

 そう言って刀の鞘を腰から外し、抜刀術の構えを取る。

 武技〈領域〉、自身の半径3メートルを完全に知覚することにより、技の精度を極限まで高めることが出来る。

 そして武技〈神閃〉、知覚不可能な程の神速の一刀を放つ。

 これらを組み合わせ、相手の急所を一撃で切り裂く〈秘剣・虎落笛(もがりぶえ)

 

 ガゼフに勝つために編み出した最強の一撃をもって、俺はこの強者を倒す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なぁ、教えてくれ…… 俺は、弱いのか?」

 

 

 駄目だった…… 自身の持つ最強の一撃を、放つことすら出来なかった。

 自身の武技〈領域〉ですら、知覚出来ない程の速さの拳。

 

 俺はただの一撃で倒された。

 

 

「どうすれば、それ程の高みに到達できるんだ? 君の拳には、執念のようなモノが感じられた…… どうすればいいんだ?」

 

「知りません!! 私は妹を養うので一杯一杯なんです。高みなんてどうでも良いですし、妹を守れたらそれでいいです」

 

 

 なぜだ、自分よりも小柄な彼女のことが、大きく、力強く見える。

 

 俺はずっとガゼフを超えるために剣を振るっていた。

 そうか、自分の為じゃなく、誰かを守る為の力か――

 ――あいつ、ガゼフが剣を掴んだのも民を守る為、そして今も王の下で剣を振るっていたな。

 

 俺では勝てない訳だ……

 

 

「ありがとう、目が覚めたよ。迷惑をかけてすまなかった。名前を聞いてもいいか?」

 

「エンリですけど……」

 

「ありがとう、エンリ。俺はまた一から鍛え直す。俺が誰かを守れる程に強くなったら、もう一度勝負してくれ」

 

「……」

 

 

 村を離れ、歩きながら今後のことを考える。

 今度は誰かを守るために、剣を振ってみよう。

 

 ――正義の味方、笑ってしまいそうだが、子供の頃に夢見た存在を目指して修行をするのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの人…… いったい何だったんだろう?」

 

 

 私の様な村娘に一発でやられるなんて、普段は運動とかしない人なのかな?

 

 

 エンリは自分の力に気づく事はなかった……

 

 



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厨二病は良い人

 ビーストマンは全員逃げ出した。

 これで依頼は完了とばかりに、女王陛下と宰相に結果だけ伝えたモモンガ一行は帰っていく。

 

 ビーストマンは、全員私に驚いて帰っちゃったんだよ。

 ネムとエンリにはそう説明したが、嘘は特に言っていないので問題は無いだろう。

 流石、モモンガ様!! そう言って笑ってくれるネムに対して、エンリは絶対に何かやらかしただろうと、疑惑の目を向ける。

 

 

(やれやれ、人間、大人になると疑り深くなるのかな…… ネムには真っ直ぐ育って欲しいものだ)

 

 

 当初の予定では一泊して観光するつもりだったが、竜王国は観光出来る状態では無いことが判明したので、帰りは王都に寄ってみようと提案する。

 

 エンリもネムも辺境の村出身の一般人だ。中々行く機会も無かったはずだし、悪くはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 〈転移門(ゲート)〉で、リ・エスティーゼ王国の近くまで行き、その後は徒歩で王都まで行った。

 王都を散策するモモンガ達は肩車状態のネム、隣に歩くエンリという組み合わせによって、若い子連れの夫婦にも見えただろう。

 

 もっとも、子供を肩車しているのが骸骨という所に目を瞑ればだが。

 

 

「こんな所でアンデッドが何をしている?」

 

 

 声をかけられた方を振り向くと、仮面に赤いローブという個性的な格好の子供が立っていた。

 

 

「あー、私はこの子に使役されているアンデッドでして、普通に街を散策している所です」

 

「お前からは不自然なほど力を感じない…… 何を隠している? お前の種族はなんだ?」

 

「……骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)です」

 

「お前の様な骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)がいるか!! 真面目に喋る気が無いのなら、力ずくでいかせてもらう!!」

 

 二つ名と同じように、死の騎士(デス・ナイト)って言った方が良かっただろうか?

 目の前の子供はどうやら魔法詠唱者(マジックキャスター)だったようで、両手に魔力を籠め魔法を放つ準備に入っている。

 

 

「ダメッ!! モモンガ様は良い人だから攻撃しないで!!」

 

 

 今にも魔法を放とうとしていたが、こちらを見下ろすネムの真っ直ぐな瞳に一瞬気圧され止まってしまう。

 そこにちょうど通りがかった冒険者が止めに入ってくれた。

 

 

「イビルアイ!! こんな街中で何してるの?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内された冒険者組合の一室で先程仲裁に入ってくれた女性、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラはモモンガ達に謝罪していた。

 

 

「先程は仲間が失礼しました。蒼の薔薇のリーダーとして謝罪いたします」

 

 

 なんと、驚くことにあの子供とこの女性はアダマンタイト級冒険者だった様だ。よく見たら首元にプレートが光っている。

 

 頭を下げる女性に、モモンガ達も特に怪我もしていないから気にしないで欲しいと告げる。

 

 

「まったく、どうして急に攻撃しようとしたのよ? プレートが付いてるんだから、冒険者に決まってるでしょう?」

 

「いや、だってあんな堂々としたアンデッドが街にいるなんて、怪しいじゃないか。それに、嘘ついてそうだったし……」

 

 

 弱々しく反論するイビルアイに、お前が言うのかと言わんばかりの視線を向けるラキュース。

 

 

「いえ、おっしゃる通りですので本当に気にしないでください。ある意味正しい対応をされたのは、久しぶりだったので驚きましたが」

 

「本当にすみませんでした。ところで、王都へはどうやって来られたんですか? 失礼ですが、冒険者プレートを付けていても止められたんじゃ……」

 

「ああ、ガゼフ・ストロノーフに話は通っている、って言ったら通してくれましたよ」

 

 

 王国戦士長? ラキュースとイビルアイは少し気になった様だが、特には掘り下げなかった。

 

 その後は5人で軽く雑談していた。内2人は子供とはいえ、女性の中に男が1人という空間は以前のモモンガならば慌てていただろう。

 この世界で人と触れ合い、成長していたモモンガは楽しそうに話していた。

 

 

(人々に疎まれながらも、人を助けるアンデッドの戦士。いいわね!! 黒い鎧に白い骸骨の頭部、最高だわ!! ああ、どんな技を使うのかしら? 死の剣技・暗黒骸骨斬(ダークネス・ボーン・ブレード)とか!!  くっ、闇の戦士に呼応して、私の中の闇の人格が…… 神官でありながら、死霊魔法を使うっていうのもアリじゃない?! 生と死を司る戦士ラキュース、カッコいいわ!! 死霊魔法の勉強してみようかしら。帰ったら禁断の書物(ラキュースノート)に、今日の事は絶対に書かなくちゃ!!)

 

 

 アンデッドのモモンガをあっさり受け入れてくれた原因が厨二病だったなんて、モモンガが知る由もない……

 

 

 

 



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幕間 戦士長の憂鬱

 リ・エスティーゼ王国の王城、そこにある目立たない場所の一角で、剣を振るっている男達がいた。

 

 

「ストロノーフ様、どうされたのですか? なにやら酷く疲れているようご様子。訓練をつけて頂くことは有り難いのですが、やはり御迷惑だったのでは……」

 

「いや、そんな事はない。むしろ体を動かしていた方がスッキリして有り難いくらいだ」

 

 

 申し訳なさそうにガゼフを気遣う男、彼の名はクライム。

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ王女の御付きの兵士である。

 昔、ラナー王女に拾われた孤児であり、以来ラナー王女に絶対の忠誠を捧げている。

 

 ガゼフが思い悩んでいたのは、最近の出来事についてだ。

 始まりは自らを暗殺するために、辺境の村に誘い出された時のことだ。

 貴族派閥の横槍により万全の装備を整えることも出来ず、法国の特殊部隊に殺される寸前だった。

 

 そんな時、救ってくれたのは骸骨の戦士だった。

 そのアンデッドに願われ八百長の勝負をして、私達の部隊は1人も欠ける事なく助かった。

 

 アンデッドと一芝居打って助かりました。そんな事は王に報告する事はできないし、それどころか誰にも相談できない。

 それ自体は構わない。命を救って貰ったのだから、多少の秘密を抱える苦労は何でもない。

 

 問題はその後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガゼフ戦士長!! ご報告があります。エ・ランテルの関所にアンデッドを連れた子供が来ました。『ガゼフ・ストロノーフに話は通っている』そう言われた衛兵が通したようなのですが……」

 

(アンデッドの御仁か…… あの時、言っていたことだな。難しいがここは話を合わせてやるべきだろう)

 

 

 子供の事は知らないが、きっとあの時のアンデッドだとガゼフは確信する。

 貴族達に嫌味を言われることを予想しながらも、命の恩人に借りを返す為に話を合わせる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガゼフ戦士長!! ご報告があります!! こ、ここ王都にアンデッドを連れた子供と女性が来ました!!」

 

(あの骨、またやりやがった……)

 

 

 この先何度こんな事が起こるのだろうと思い、溜息を吐きたくなるが部下の手前、我慢する。

 ここで知らないといえば王都はパニックになる。

 自分もそろそろ根回しなどを覚えるべきだろうかと思いながら話を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「クライム…… 誰かと約束するときは、言葉には気をつけるんだぞ……」

 

「は、はい? いっいえ、分かりました!! 心に刻んでおきます」

 

 

 あまり意味がわかっていないようだが、しっかりと返事をするクライム。

 彼も私と同じ道を辿りそうな気がする……

 

 ガゼフは次に私の名前が出るのはいつだろうかと悩みながらクライムと訓練し、汗を流すのだった。

 

 

 



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黄金のメッキ

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、一人私室で手に入れた情報を脳内で繰り返し検討していた。

 

 

(戦士長の死は確実だった。それを覆すほどの存在、そして同時期に現れたアンデッドを使役する子供。おそらくこれは同一と見て間違いは無い。問題はその行動原理。人を救い、悪に対して憤りを感じながらも対処は杜撰。アンデッドは使役されているという話だけど、その割には行動に子供らしさがあまり無い――)

 

 

 王城から出ることの無いラナーは、噂話や世間話から限りなく正解の情報だけを繋ぎ合わせていく。

 

 

(――いや、時々大人のような対応をしていることがある。つまり、本当は使役されていない。どうして子供に使役されているフリを? もしかしてその子供の能力は使役じゃなくてアンデッドの強化? 相互にメリットがあるから一緒にいると考えた方が――)

 

 脳を高速回転させて様々な可能性を導き出し、一つ一つを消していく。しかし、一向に答えを一つに絞る事ができない。

 

 

「ふぅ、やっぱりアンデッドの方の行動原理がわからないわ。敵を皆殺しにしたり、逆に傷一つ付けずに捕縛したり。慎重に行動したかと思ったら、街中を堂々と歩き出す。力があるのに普段は採取系の仕事しかしていないなんて……」

 

 

 自身の頭脳を持ってしても答えを導き出せないことに、ラナーは少し落ち込む。

 もしかしたら何も考えていない馬鹿なのでは? そんな考えが頭をよぎるが、それならラキュースを使って一度こちらの作戦に巻き込めばいい。それで相手の行動指針の様なものが分かるはずだ。

 

 クライムを永遠に自分の元に縛り付ける。優雅に犬を飼って過ごすという自身の野望を叶える為、ラナーは今日も頭を働かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラキュース達と雑談していると、ラナー王女御付きのクライムという兵士が呼びに来た。

 

 クライムはラナー王女からアンデッドの冒険者のことも、もし会えたら呼んで欲しいと言われていたため、モモンガ達も一緒について行っている。

 ラナーへの忠誠心のためか、モモンガを前にしても任務を遂行できる精神は素晴らしいものだろう。

 

 困った時のガゼフを使いながら王城に入り、この国の王女と対面した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不愉快だな……)

 

 

 最初は綺麗な女性だと驚いたが、会話の途中から『八本指』という組織の話にさり気無く繋がっていった。

 ラキュース、エンリにネムまでもその話を聞いて憤慨していたが、モモンガは一人冷めた感情で話を聞いていた。

 

 

「ラキュースさん、エンリとネムを連れて、少しだけ席を外してくれませんか? 少々血生臭い話にもなるので……」

 

「えっと、それは――」

 

「構わないわ、ラキュース。お願い、二人を奥の部屋に連れていってあげて」

 

 

 ラナー本人に促され、ラキュースは渋々二人を連れていった。彼女達の足音が離れていき、目の前の骸骨は口を開く。

 

 

「お前……あの子を、いや、友すらも利用する気だな?」

 

「……」

 

「自分の望みの為、あの子達を振り回している自覚は俺にもある。人のことは言えないだろう――」

 

 

 段々と目の前のアンデッドから感じる圧力が、増していく気がする。ああ、間違いない。このアンデッドは人の手には負えない、正真正銘の化け物だ。

 

 

「――だが、貴様は何も感じていない。貴様の事は相当賢いとラキュースが褒めていたぞ。そんな奴が、多少の正義感があれば必ず憤慨する話をしたら、どうなるかは分かるはずだ。女性なら尚のことだろう。この流れなら助ける力を持つ普通の人間は、助けたいと思うだろう――」

 

 

 このアンデッドは馬鹿ではなかった。確実に私の正体を見抜いている。

 

 

「――あの子達が願うのなら、俺は助けよう。だが、貴様に協力はしない。もしこの先、貴様があの子達を利用する様な事があれば、俺は世界を敵に回しても貴様を潰す」

 

「なぜ、気が付いたのですか? 会話にも演技にも違和感はなかったはずですが」

 

「俺は本物を知っている。その純粋さがお前には無かった」

 

 

 目の前の存在は本当に普通の人間のように、友達を、家族を、大切なモノを知っている。それを慈しむ心を持っている。

 

 

「貴方は…… とても人間らしいのですね。私には無いものです」

 

「俺だって持ってなかったよ…… あの子に貰っただけだ。私がそうだったように、人間のお前なら尚更手に入るさ。まだ若いんだ、手遅れじゃないさ」

 

 

 いつから周りと同じモノを求めなくなったのだろう。

 気付いた時には私と同じモノを見る存在はいなかった。

 クライムが現れるまで、何処にも心の拠り所は無かった。

 

 先程とは打って変わって、優しい声色で語りかけてくる目の前の骸骨。

 誰かを思いやる心を持つ異形種。

 

 

 精神が異形種とも言える私には、それがほんの少しだけ羨ましく思えた。

 

 

 



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幕間 モテたい男

 これは女の子にモテる為に、そこそこ強い冒険者が、命を賭けて暴走しただけの話である。

 

 

 俺の名はルクルット・ボルブ。

 エ・ランテルで活動する冒険者チーム『漆黒の剣』のメンバーの一人だ。

 アンデッド大量発生の件で活躍したり、ついに金級になったりと、割と頑張っている。

 自分でも冒険者としての実力が、上がってきている実感もある。

 

 しかし、一つだけ問題がある、モテないのだ……

 銀級から金級になったのに何も変わらない。顔はそこまで悪くないと思うし、こう見えて惚れたら結構一途なつもりだ。

 金級の冒険者だから、収入だってこれからどんどん増える、将来的に有望株だろう。

 

 これだけ条件が揃っているのにモテない…… 何かが、そう後一つ何かが足らないのだ。やはり、漢らしさだろうか?

 

 こうなったら嘗て考えた、最終手段を取るときが来たのかもしれない。

 真の冒険者として、男として、時には危険を犯してでも冒険しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林、そこにいるとされる森の賢王に会いに来た。

 

 

「某の支配領域に、ニンゲンが何の用でござるか?」

 

「単刀直入に言う、俺は嫁が欲しいんだ!! だから、どうか協力してくれ!!」

 

 

 ルクルットは賢王と呼ばれる知力に、その魅力に賭けたのだ。自分に足りないモノを、チームで補うのは冒険者では当たり前のこと。

 一人でナンパが上手くいかないのならば、仲間を用意すれば良いのだ!!

 しかも、相棒が森の賢王ならば、間違っても女の子を代わりに取られる事は無いだろう。

 

 

「いい眼をしてるでござるな…… 番を手に入れるために、命をかけるとは見上げた根性でござる。某も番を欲する気持ちは分かるでござる。なので、その根性に免じて、一度だけ協力するでござるよ!!」

 

「ありがとう!! 森の賢王!!」

 

 

 ルクルットは一回きりの条件で、森の賢王を連れて街に凱旋した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、モテたのは森の賢王のみ、ルクルットは相変わらずモテなかった…… ルクルットの魅力は雌である魔獣にすら勝てなかった……

 

 

 

「ルクルットっておちゃらけてますけど、時々凄い根性ありますよね」

 

「あの行動力は、見習う部分もあるのである」

 

「リーダーとしては、一言相談して欲しかったんだが…… してたら認めなかったけど」

 

 

 森の賢王の隣で膝をついて、落ち込んでいるルクルットを除き、『漆黒の剣』は今日も元気である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様!! あっちに凄いおっきいモフモフが歩いてますよ!!」

 

「なんだあれ? でかいハムスターか? この世界は本当に面白いな……」

 

 

 周りの反応と、自分の反応の違いに大きく差がある。

 モモンガは強さの感覚以外にも、自分の常識はこの世界とズレていることを実感するのだった。

 

 

 



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名前すら出ない者たち

 カルネ村に戻ってきてから、モモンガ様は無駄に明るく振舞っていたと思う。

 あの事は私が解決しておくから、安心するといい。

 それだけ言って、モモンガ様はどこかへ行ってしまった。

 

 

「お姉ちゃん、モモンガ様、なんか変だったね」

 

「うん…… またすぐに戻ってくると思うけど……」

 

 

 何だかんだ言って、モモンガの変化はすぐにバレる。

 お互いをよく見ており、思いやっている三人の絆は深かった。

 

 

 

 

 

 

 普段の鎧姿ではなく、闇色のローブを纏って王都を彷徨うモモンガ。久しぶりのフル装備で魔法を使い、八本指の情報を集めていく。

 

 

「どの世界でも腐った連中というのは、いるのだな……」

 

 

 敵は分かった。

 そして、今のモモンガは一人である。

 

『嫉妬する者たちの顔面』により、ステータスが跳ね上がっていく。

 

 組織は色々と癒着があるようだが、誰一人として逃す気は無い。

 皆殺しにする事は簡単だし、そうされても文句は言えない連中ばかりだ。

 しかし、自分は胸を張って、彼女達の元に帰りたい。

 自らの手では無く、法の裁きによって潰す事を決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは集めた情報から、八本指の拠点を割り出し、次々と襲撃していく。

 

 

「〈魔法効果範囲拡大化(ワイデン)魔法位階上昇化(ブーステッド)魔法抵抗難度強化(ペネトレート)魔法持続時間延長化(エクステンド)魔法最強化(マキシマイズマジック)支配(ドミネート)〉」

 

 

 念には念を入れた、強化をこれでもかと詰め込んだ魔法により、拠点丸ごと魔法をかけていく。

 

 

「お前達はこれから王城に行け。そこで、自分の罪が正しく裁かれるまで、自らの犯した罪を喋り続けろ」

 

 魔法をかけられた人達が、ぞろぞろと王城に向かって進んでいく。

 こうしておけば、賄賂を積もうが何をしようが、裁かれるまでは意思を取り戻せない。

 王国の法に基づくと、彼らは皆、極刑である。

 

 その後、自らが死ぬその時まで、罪を喋り続ける囚人達という、異様な光景があったとか……

 

 

 八本指とその関係者は、こうしてリ・エスティーゼ王国から消えた。

 

 

「これで、少しは救われる人もいるのかな…… さぁて!! ネムに会って癒されに行こう!!」

 

 

 重い話はヤメヤメとばかりに、カルネ村に突撃していく骸骨。

 夜も遅いが、許してくれるだろうと軽く考える。

 

 ネムが笑い、エンリには叱られるが、そんなやり取りが日常を思い出させてくれる。

 

 

 モモンガはこれが大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの骸骨!! こんな人数、どうしろって言うのよぉぉぉおおーっ!!」

 

 

 ちなみに八本指を襲撃した先で、助け出した人達は、全てラキュースに放り出してきた。

 渡した〈大治癒(ヒール)〉が籠められた巻物(スクロール)により、みんな怪我一つない元気な姿だが、ラキュースは途方にくれる。

 

 モモンガの知っている、〈大治癒(ヒール)〉の巻物(スクロール)を使えそうな神官が、ラキュースしかいなかったのだから、しょうがない。

 

 誰一人として見捨てず、何とかしようとするあたり、人選としてはバッチリだった。

 

 

 



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メッキの下は暗黒物質

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは集まった情報を元に、アンデッドを使役する子供の勧誘策を練っていた。

 

 

「爺よ、残念ながらその子は魔法詠唱者(マジックキャスター)では無かったようだな。単に生まれながらの異能(タレント)で、アンデッドを使役しているだけのようだ」

 

「確かに残念ですな…… 生まれながらの異能(タレント)は、後天的に真似できるモノでは無いですからな」

 

 フールーダは本当に残念がっているようだったが、心の底では自分を超える魔法詠唱者がいないという事も分かっていたので立ち直りも早い。

 

 

「だが、アンデッドを連れているというのは確かなようだ。しかも、この経歴を見たか?たった一人の冒険者がビーストマンを退け、国を救ったとあるぞ?」

 

 

 余りにも馬鹿げた情報だが、これは諜報部がしっかりと精査したもので嘘はない。

 

 

「つまり、このネムという子供を手に入れれば、我が国は王国に楽に勝利出来る。いや、この子供を手に入れた国が戦争には勝つと言って良いな」

 

 

 王国の阿保貴族には本当に感謝している。

 こんな切り札(ジョーカー)を冒険者として、しかも薬草採取なんかに使っているのだから。

 

 

「幸い、この子供の拠点は辺境の村だ。つまり、国への帰属意識が薄いのだろう。若しくは、王国に魅力が無さすぎるのかもしれんがな」

 

「して、陛下。どの様に我が国に引き入れるのですかな?」

 

「ここはシンプルにいこう。この国に招き、盛大にもてなせば良い。あちらの国より素晴らしい環境を整えれば、簡単に靡くだろう」

 

 

 数々の強行策をとり、無能な貴族を粛清し鮮血帝の異名を取ったが懐柔策もお手の物だ。

 早速彼らを呼び出すために、適当な依頼を出す様に指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国に冒険者チーム『黒い疾風』を呼び出し、早速謁見の段取りを取り付け未来の帝国の手駒に会いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、お会いできて光栄ですわ」

 

 

 そこには私の嫌いな女、第一位がいた。

 

 

 

 

 

 

 竜王国での活躍により、サラッとアダマンタイト級冒険者になっていたネムとモモンガ。

 今日は久々に指名依頼があるとの事で、冒険者組合に来ていた。

 

 

「――以上が、依頼の内容になります」

 

 

 依頼の説明を受けたモモンガが、ネムに確認をとる。

 

 

「大丈夫か? この依頼は帝国に行くことになるが……」

 

「うん、大丈夫です!! またお姉ちゃんも一緒に連れてっちゃえばいいです」

 

 

 ネム達は過去に、帝国の騎士の鎧を着た者に襲われている。モモンガとしては、そちらを心配していたがネムは強い子だ。

 

 ちなみに、本当は法国が偽装して襲っていたことは、ネムも含めて村の全員が知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も連れて行っては頂けませんか?」

 

 

 一体どこで情報を掴んでいたのか、黄金メッキの姫様に会ってしまった。いや、会わされたと言うべきか。

 

 組合の依頼内容の中に、偶然、王都の王城に寄らないといけない内容の指名依頼があり、偶々、帝国に行く前に寄るスケジュールになっていた。

 

 帝国の動向まで掴んでいるとは、引き篭もりも侮れない。

 

 

「いやいや、一国の王女を連れ出せるわけがないでしょう……」

 

「本当ですか? 私の周囲の世話役をチョチョっと操れば、数日くらい簡単だと思いますけど?」

 

 

 コイツ、俺が八本指を操って自首させたことを突いてきやがった。

 ネムとエンリは何のことか分からず、首を傾げている。

 

 

「私、この城を出て遊んだ経験がほとんど無いんです。だから、自分の素を出しても良い人と遊びに行ってみたくて……」

 

 

 これは本当だろうな、というかコイツも地味に精神的にはボッチなのか……

 

 ネムはお姫様と旅行が出来ると大はしゃぎ。

 エンリは今にも倒れそうだ。

 

 

「はぁ、仕方ないな。子供の味方としては、無垢な願いは叶えてやらないとな」

 

「私は既に16歳ですけど?」

 

「残念、私の基準では20才未満は子供なんだ」

 

 

 まぁ俺は小卒で働いていたけど……

 本来ならばこれくらいの年齢は、遊んでいた方がいいんじゃないかと鈴木悟の精神が訴えていた。

 

 

「まぁ、ギブアンドテイクという言葉もある。今度は私がラナーに助けてもらうよ」

 

「打算的なのは、友人としてダメなのでは?」

 

 

 モモンガが呼び捨てにしたのにも関わらず、本当に楽しそうにラナー王女は聞いてくる。

 

 

「友人だからこそ、借りは返したくなるものだ」

 

「ええ、確かに…… それならこれからは、困った時のガゼフでは無く、困った時のラナーとして頼ってください!」

 

 

 本当にどこまで知っているのやら……

 こうして、帝国に行く仲間が一人増えた。

 

 

「さぁ、帝国からの依頼には御家族、御友人も一緒にどうぞと書いてましたからね。旅行のつもりで楽しみましょう!!」

 

 

 コイツ本当にどこまで知ってるんだ。

 

 帝国からの依頼すら、ラナーが仕組んだと言われても信じてしまいそうだった。

 

 

 



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強者は挑まれる運命にある

 帝位を継いでから、初めての失態かもしれない。

 依頼内容が仇となるとは、抜かった…… いや、これは本当に私が悪いのか?

 

 件の冒険者を引き抜こうと、帝国に来て観光してもらいその評価をしてもらうという依頼を出した。

 家族がいる事は分かっていたから、丸ごと引き抜くために御家族、御友人も一緒にどうぞと書いたのが間違いだった。

 

 どこの冒険者が敵国に、自国の王女を友人枠で連れて来るんだ?! そんなもの、予想出来る訳がないだろう!!

 

 何にせよ、考えていた手段は全て御破算となった。

 この女がいる以上は下手を打てない。

 依頼を完遂してもらい、一旦は帰ってもらう他無いだろう。

 

 

「やぁ、わざわざ来てもらって感謝するよ。アダマンタイト級の冒険者に頼むには少々物足りないと感じるかも知れないが、調査には箔付というのも必要でね。何はともあれ、普通に観光するつもりで楽しんでほしい」

 

 

 直接勧誘する事は出来ないが、印象を良くしておくことに越した事はない。様々な貴族達と渡り合って来た最上の笑顔で迎える。

 

 

「皇帝のお兄さん、なんか嘘くさいです」

 

 

 一瞬で轟沈した。

 

 いや、寧ろこれが見抜けるという事は、素晴らしい人材だとプラスに考えるべきだろう。

 

 

「くっ、ぶふっ、ネムよ。大人には営業スマイルというのも、必要なんだ」

 

 

 笑うな骨、そこはフォローするところだろう。

 

 

「フフフッ、アハハハハッ!! 流石、帝国の皇帝陛下ですね。自ら民に笑顔を与えてくれるとは、素晴らしいです!!」

 

 

 この女、取り繕う気すらないのか。

 

 

「こらっネムっ!! えっと、私は皇帝陛下の笑顔は、カッコよくて素敵だと思いますよ?」

 

 

 村娘の言葉が心に染みる。

 有難う、貴族達のような取り繕った言葉ではない、飾らない言葉がこんなに嬉しいものだったとは……

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今回の依頼は観光してレビューを書くだけ。危険も何もないから普通に楽しむとしよう」

 

 

 適当なオープンテラスのカフェで休憩しながら、貰ったパンフレットを開く。

 どこへ行こうか相談しだす、幼女と骨と村娘と王女。

 あれだけ最初狼狽えていたエンリも、今は普通にラナーと話している。

 人の順応性の高さには驚かされる。

 

 

 帝都を散策し、途中で立ち寄った闘技場で事件は起きた。

 

 モモンガからすれば、レベルの低い試合ばかりだ。儲けるつもりも無いが、ちょっとだけお金を賭けてみたりと4人でそれぞれ予想しあって楽しんでいるところだった。

 

 

「そこに座っている女性、名はなんという?」

 

「えっ?」

 

 

 この帝都アーウィンタールの闘技場でトップに君臨する武王、ゴ・ギンがエンリに声をかけてきたのだ。

 

 モモンガは実力を隠す装備を着けているし、ネムが着けている装備はどれも防御に偏っているため強さは感じられないだろう。

 エンリに声がかかったのは必然とも言える。

 

 

「貴方からは何かとてつもない強さを感じる。どうか、この私と試合をして欲しい」

 

 

 闘技場のトップからのまさかの宣言に、会場は騒然となる。

 そしてエンリはこういう時に必ず流される。

 

 

 

「流石に素手は可哀想だから、あの時のガントレットを貸してあげよう。心配するな、もしヤバそうだと思ったら私が乱入してでも助けるから」

 

 

 モモンガ様からはガントレットを貸してもらい、妹からは応援の言葉を、ラナー様からは応援の言葉と期待の眼差しを頂いた……

 

 

(いったいどうしてこんな事に…… モモンガ様、これは既にヤバそうではないんですか?)

 

 

 ゴ・ギンと呼ばれている剣闘士は、全身鎧を着けていて分かりにくいがウォートロールである。

 強くて礼儀正しい、全身鎧の『グ』だと思えば良い。だいたい合っている。

 

 

 闘技場の真ん中でゴ・ギンと対峙しながら、モモンガ様信じてますからね!! と、エンリは覚悟を決めた。

 

 

 

 試合は余りにも一方的だった……

 そう、誰もが予想できていたことだ。

 あんな村娘とウォートロールが戦って、無事に済む筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 エンリは武王をフルボッコにして、一撃も貰わずに勝利した。

 

 

「お姉ちゃん、凄い、凄ーい!!」

 

「エンリさん、素晴らしい拳でしたね。私は武術を嗜んでいない素人ですが、それでもエンリさんの強さは分かりました」

 

「うーん、分かっていた事だが、ガントレット無くても良かったかも知れん」

 

 

 妹と王女と骨、三者三様の評価を聞きながら、エンリは段々と自らの実力を自覚していくのだった……

 

 

 



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暗黒物質を変化させる骨

 モモンガ達が依頼という名の観光を終えて、レビューを提出して帰った後のこと。

 皇帝ジルクニフは、ラナーが代筆したと思われる報告書を読んでいた。

 

 一枚目は、スゴイしか書いていない。

 二枚目は、まるでこちらがアピールしたい部分をピンポイントで知っているかのように褒める文章だった。

 三枚目は、素朴な内容だった。

 四枚目を読み始めてから怒りが爆発しそうになり、最後まで読むと執務室で恨み言を吐き散らしていた。

 

 

「おのれぇぇ、あの女ぁ!! 私が勧誘するつもりなのを分かってて、やりやがったなぁ!!」

 

 

 ご丁寧に、冒険者の友人枠として敵国に来た王女。

 報告書には嫌味の様に帝都の改良すべき点を書いている。

 あげくに帝国が誇る最強の剣闘士を物のついでにブチのめして来たそうだ。

 観光した感想として『こんなに素晴らしい国なら、お友達と何度でも来たいです』と締め括ってあった。

 

 この冒険者達は既に自分の手駒であり、帝国などいつでも潰せるという牽制に他ならない。

 実際のところ、全て皇帝の深読みによる勘違いである。

 

 このままでは王国を手に入れるどころか帝国の未来すら危ういと、頭を掻き毟りながら今後の策を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガ達はラナーを王国に送り届けるため、一旦王城にあるラナーの私室に直接転移して戻ってきた。

 

 

「よし、影武者はバレなかった様だな」

 

 

 今回ラナーをバレないように王城から連れ出し、一緒に帝国に行くために二重の影(ドッペルゲンガー)をアイテムで召喚してラナーに化けさせていた。

 ユグドラシルでは棒立ちの分身が一人作れるだけのゴミアイテムだったが、この世界で身代わりに使うには十分だった様だ。

 

 

「細かい事は出来ないから、ベッドで寝こむ演技を続けているだけだったが案外バレないものだな」

 

「王族が寝込めば、面会する機会とかも減って良いですね。王族って結構面倒なんで一生使っても良い作戦ですね」

 

 

 ラナーはこの先、眠り姫でも演じる気なのだろうか……

 そんな話をしていると、部屋を慌ててノックする音がした。

 おそらくクライムがラナーに何かを知らせに来たのだろう。

 

 

「ラナー様、失礼します。ああっ!! 良かった、お戻りになられていたのですね!!」

 

 

 御付きのクライムまで知らないというのは誤魔化す上で無理があったので、ラナーが影武者を使う事は知らせていた。

 

 モモンガ達と一緒に行く事に最初は猛反対していたが、ラナーが擦り寄って耳打ちしたら顔を真っ赤にさせて頷いてくれた。

 ラナーが何を目指しているのかは知らないが、クライムを手玉にとる様子は本当に楽しそうだった。

 

 ネムには絶対に真似してほしくはないが。

 

 

 

 

 

「ラナー様、実はバルブロ殿下が――」

 

 

 クライムの説明によると、馬鹿王子が自分の罪の隠蔽のためにモモンガ達を狙っているという事だった。

 

 

「ふーん、それでカルネ村まで兵を連れて出撃したと。戦士長まで連れてご苦労な事だ」

 

「ネムとモモンガ様は何もしてないのに酷い!!」

 

「どうするんですかモモンガ様!! このままじゃ捕まっちゃいますよ、もしかしたら村に何かあるんじゃ!!」

 

 

 ごめんな、ネム。バルブロの言ってる事って意外と正解なんだ。

 焦り出すエンリと怒るネムを宥めながら次の手を考える。

 

 

「それにしても、その王子は馬鹿なのか? 私達が依頼で帝国に行ってて村にいない事は、少し調べれば分かっただろうに……」

 

 

 馬鹿なんですと、同意するラナー。

 何にせよ放っておく事は出来ないため、ネムとエンリをこの場に残しモモンガが様子を見に行くことにした。

 ネムとエンリにすぐに戻ってくると言い残し〈転移門(ゲート)〉を開きカルネ村に行った。

 

 

「モモンガ様が行ったのなら、村のことは大丈夫でしょう。さぁ、モモンガ様が戻ってくるまでゆっくりお茶にしましょう。まだまだお二人とはお話ししたい事が、いっぱいありますからね!!」

 

 

 モモンガの事を信頼…… いや、何かあったら面白いなと思っているのは否めないが、今は新しい友達と紅茶を楽しもうと思う。

 

 今の自分ならラキュースとも本当の友情を築けそうな気がする。

 蒼の薔薇とモモンガ達、みんなで一緒に冒険に行ったらもっと楽しそうだ。

 

 モモンガが二人を迎えにくるまで、三人は女子会を楽しむのだった。

 

 

 



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正義の味方

 王国は二百年以上の歴史を持つ国だが、建国始まって以来となる珍事件に見舞われていた。

 麻薬や人身売買など、数多くの悪質な犯罪に手を染めていた犯罪組織『八本指』。その組織の主要なメンバーとそれに関わる者たちが、王城に詰めかけて一斉に罪を自白し始めたのだ。

 

 裏社会の犯罪組織が消えるだけならば、喜ぶべき事だったのだろう。しかし、その口から出てくるのは数多くの貴族達の名前だ。

 挙げ句の果てに、王国の第一王子バルブロの名前まで出てきたのだ。

 

 自首する者が明らかに誰かに操られている事、証拠が無い事から、一部を除き裁かれていない貴族達もいる。

 

 王国の第一王子、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフも裁かれなかった一人だった。

 八本指と繋がり、賄賂を受け取り私腹を肥やしていたが、証拠が無かったためお咎めは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!! 私は王となるべき存在だぞ!! 証拠は見つからんと思うが、万が一にもアレが明るみに出たら――」

 

 

 このままでは第二王子のザナックに王位を取られてしまうと、バルブロは焦った。

 妹のラナーはこの件にショックを受けたのか、部屋に篭っている。

 あんな奴はどうでも良いと、頭から振り払う。

 

 

「――こうなれば人々を操り王族を侮辱させたとして、その犯人を私自ら捕らえるしか…… だがそんな存在など――」

 

 

 事件を起こした犯人を早々に捕らえ、抹殺する事で自らの失態を揉み消そうと考える。この際その犯人は本物でなくても構わない。

 しかし、そんな都合良く犯人になれそうな存在はいない。

 自分にかかれば犯人を仕立て上げる程度のことは簡単だ。

 ただし、今回の件ではこれだけの事を起こせそうな存在でなければならないため、普通の平民に罪をなすりつけても周りが納得しないだろう。

 

 

「――いた。巷で話題となっているという冒険者。アンデッドを使役しているという怪しい存在ならば…… いや、この際そのアンデッドそのものでも良い」

 

 

 犯人に仕立て上げるのにちょうど良い存在を見つけ、バルブロはほくそ笑んだ。

 仕立て上げるまでもなく、そのアンデッドが犯人なのでバルブロ大正解である。

 

 

 

 

 

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは、カルネ村に向けて進む馬の上で、自らの行いを振り返り心を痛めていた。

 

 八本指の関係者が王城に突撃し、自首し出すという珍事件。

 またあの骨が何かやったんだろうと投げやりに考えていたが、それが思わぬ方向に進んでしまった。

 

 恐らく八本指と関わりのあったと思われる一部の貴族が、これは王族や貴族を侮辱する許し難い犯罪であると騒ぎ出したのだ。

 そこにバルブロ王子が見計らったかの様に、犯人に目星はついており重要参考人として捕らえるため、兵を貸して欲しいと言い出した。

 

 元々、八本指と思しき者達は魔法か何かで操られており、確かに証言の信憑性は微妙なところだ。

 そんな中、真の犯人を捕らえるためと言われれば、自らの子供に甘い王は断る事ができなかった。

 

 こんな事に部下は巻き込めないと思ったガゼフは、それならば私一人で行くと言ったが、六大貴族の一人であるボウロロープ侯までもが兵を貸し出すと言い出した。

 

 そのため、最終的にはバルブロ王子、ガゼフ、総勢5000名のボウロロープの精鋭兵団でカルネ村に向けて出撃することになった。

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、俺は何をやっているんだろうな……)

 

 

 村を救うべく行動した時とは違い、今のガゼフは王国の秘宝を装備している。

 

 肉体の疲労が一切無くなる、活力の籠手(ガントレット・オブ・ヴァイタリティ)

 癒しの効果があり、常に体力を回復し続ける、不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)

 最高の硬度を持つ希少金属アダマンタイト製の鎧、守護の鎧(ガーディアン)

 鋭利さのみを追求して、鎧すらバターの様に切り裂く程の魔化を施された魔法の剣、剃刀の刃(レイザーエッジ)

 

 一体何のために、この装備を俺は託されたのだろう。

 民を救う為には使えず、民を捕らえる為に使う事になるとは…… これで平民の希望の星とは皮肉なものだ。

 

 このままではきっとあの御仁と戦いになってしまう。バルブロ王子はきっと村ごと焼き払ってでも、件の冒険者とアンデッドを殺そうとするだろう。

 敵対した時にどんな結果になるかは想像に難くない。

 なんとかしたいが、ただの王の剣である私にはどうすることもできない。

 村に被害が出る前に、自分が速やかに冒険者を捕縛する。

 いや、我々に被害が出てしまう前にだろうか。

 

 いったいどうすればいいのだ……

 

 答えの出せないまま、ガゼフは馬に揺られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 もう少しでカルネ村に到着する頃、急に先頭集団の動きが遅くなり、馬の足が止まった。

 

 遠くからではよく見えないが、どうやら何者かが進路を塞ぐように立っているようだ。

 

 

「王子の道を遮るとは、この無礼者っ!! 我々はその先の村にいる、大罪人をひっ捕らえに行く大事な任務の最中なのだ!! 分かったらそこを退け!!」

 

 

 バルブロ王子が叫ぶが、目の前の男はまるで怯まずそこから一歩も動こうとはしない。

 

 その尋常じゃない様子に強者の気配を感じ取ったガゼフは、殿下と周りを一度下がらせ自ら前に進み出てその男を確認する。

 

 軽装に見えるが服の上からでも分かる程、筋肉が盛り上がり尚且つ引き締まった身体の男だ。

 ボサボサの髪で顎には無精髭が生えている。

 そして、その腰に有るのは一振りの刀。

 

 

「――お前は」

 

「ようガゼフ、久しぶりだな。こんな所で何してるんだ?」

 

 

 自分が王に仕える切っ掛けとなった御前試合。その決勝で戦った男、ブレイン・アングラウスだった。

 

 

 目の前の男は詳しいことは何も知らないはずだ。それでもガゼフの前に立ち塞がっている。それが正しいことだと言わんばかりの態度は、今のガゼフには羨ましい姿だった。

 

 

「――王の御命令により、あの村にいるアンデッドを使役する冒険者とそのアンデッドを、人々を操り王族を侮辱した事件の重要参考人として、連れて行く所だ……」

 

「あの村にそんな存在が、ね。俺は少しだけあの村に滞在させてもらっていたが、復興を頑張る普通の村だった。そもそもその御命令とやらに、お前は全く納得してないようだが……」

 

「私は王に剣を捧げた身。ならばどんな御命令であれ、忠義に誓って為さねばならない」

 

 

 目の前の立つブレインは心底下らないと言いたげな雰囲気だ。

 

 

「そうか、かつて目指した存在が随分とちっぽけな男に見える。大層な装備を着けてるようだが、あの時の方が強そうだったぞ……」

 

 

 何か決意を固めた様な表情をして、ブレインは刀を引き抜きこちらに突きつける。

 

 

 

「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!! お前に一騎討ちを申し込む!!」

 

 



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幕間 こんな話もあったとさ

 スレイン法国にある特別な独房、その中に一人の女性が捕らえられていた。

 

 

「今まで随分と問題を起こしてくれた様だな、クレマンティーヌよ」

 

 

「ちっ、このクソッタレな国でも散々暗殺だの謀殺だの、殺しまくりじゃねーか。人類のため〜六大神の教えにより〜ッハ!! あー、アホらし、私と同じで狂ってるクセして偉そーに」

 

 

 クレマンティーヌは過去に法国から秘宝を盗み出し、エ・ランテルにて『ズーラノーン』のカジットと共にアンデッド大量発生の事件を起こした女だ。

 その後、エ・ランテルで裁かれる前にスレイン法国の特殊部隊が秘密裏に回収していた。

 

 

「所詮はクインティアの片割れか、信仰も分からぬ愚か者が……」

 

 

 クレマンティーヌに会いに来た、スレイン法国の上層部の人間は吐き捨てるように言う。

 

 

「そんなお前でも利用価値はある。人類の為には遊ばせておく余裕はない。無理矢理にでも働いてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が復活するという予言の確認のため、そして今までの罰も兼ねてトブの大森林にクレマンティーヌは一人で派遣されていた。

 監視は無いが、仕事を放り出して逃げることは出来ない。一定期間以上、法国に戻らなければかけられた呪いが発動し、永遠に頭痛に苦しむことになる。

 

 

「あーあー、こんな首輪なんて付けやがって。やる事がえげつないんだよ」

 

 

 早いとこ破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)とやらを調査して帰ろう。そう思って歩いていると、森で骸骨に出会った。

 

 

「てめぇはあの時のエセ骸骨!!」

 

「ん? 誰だ…… ああ、あの時の女か。捕まってなかったのか?」

 

 

 モモンガとしては勝手に捕まっていると思っていたが、どうやら違ったようだ。実際は一度捕まって脱獄したというのが正しい。

 

 

「正体さえ分かっちまえば、魔法詠唱者(マジックキャスター)なんて、スッといってドスッ…… これで終わりだよ」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉」

 

 

 モモンガはコイツの話を聞くのはメンドくさいと、淡々と魔法を唱えた。

 

 

「くっ、舐めるなぁ!! 」

 

「おー、抵抗(レジスト)出来たのか」

 

 

 この世界では大抵これで済むので、今の一撃で終わると思っていたモモンガは少しだけ感心した。

 

 

「ざぁーんねーんでーしたっ!! 前にやられてから、麻痺の耐性を上げる装備を着けてるんだよっ。このクレマンティーヌ様に同じ手が通じる訳ねぇんだよ!!」

 

 

 モモンガの魔法を防げたのが嬉しかったのか、こちらを煽るように勝ち誇るクレマンティーヌ。

 

 

「ふむ、耐性が上がっただけで、完全無効化ではないのか。では何回耐えられるか、チャレンジといこうじゃないか」

 

「えっ?」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)麻痺(パラライズ)〉〈魔法最強化(マキシマイズマジック)麻痺(パラライズ)〉――」

 

「えっ、あっ、ちょ、ヒンッ、あばばば――」

 

 

 

 モモンガは陸に打ち上げられた魚のように、ビクッビクンッと痙攣しながら倒れているクレマンティーヌを見て、やれやれと頭を振るのだった。

 

 

「対策を考えるのは大事だが、状態異常の対策をするなら完全無効化じゃないと意味が無いだろうに。詰めの甘いやつだ」

 

 

 次はこんな事がないように、モモンガは今度はちゃんと捕まえておくかと、エ・ランテルの屯所に放り込んだ。

 

 その後、法国の特殊部隊に再び回収されるまで、クレマンティーヌは頭痛に苦しめられた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルに住む薬師、ン・フィーレアは非常に悩んでいた。

 長年片想いを続けている幼馴染、カルネ村に住むエンリ・エモットとの距離をどうやったら縮められるのか。

 以前、謎の秘密結社に攫われた時は想い人の妹に助けられるという、情けない姿を晒したばかりだったので彼女の妹は頼れなかった。

 

 悩みに悩んだ結果、とりあえず会う回数を増やすことにした。

 祖母には新たなポーションについて研究したいから、今までとは違う薬草を集めてくると言い訳しカルネ村に向かった。

 

 最近はエンリもモモンガやネムと一緒に出かける事があったので、いつも村にいるわけでは無いことをンフィーレアは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村の村長に挨拶をした時に、実は村で使う薬草を取るために森に入ってくれた人がいるそうで、もし会えたらよろしくと言われた。

 

 エンリに運悪く会えなかったンフィーレアと、護衛で雇った冒険者チーム『漆黒の剣』は絶賛大ピンチ中だった。

 トブの大森林に入り、薬草集め自体は順調に進んでいたのだが途中で『西の魔蛇』に会ってしまったのだ。

 

 

「ワシの支配領域に入るとは愚かな人間め。このまま部下達の餌になるがいい!!」

 

「おっと! これはやばいぞ。周りの蛇は何とかなるが、アイツの姿が見えない!!」

 

 

 ルクルットは野伏(レンジャー)なので他の仲間よりも耳が良く、音を頼りに周りに指示を出しギリギリ攻撃を躱していた。

 ンフィーレアを中心に円陣を組んで耐えていたが、長くは持たないだろう。

 そんな時、急に周りの蛇が切り払われた。

 

 

「ワシの部下が!? おのれ、何者じゃ!!」

 

「――正義の味方を目指してるだけの、通りすがりの修行者さ」

 

 

 突如乱入してきた刀を持つ剣士が、蛇を薙ぎ払い西の魔蛇と対峙する。

 

 

「俺はモンスターとはいえ無闇に殺したくは無い。お前が引くなら追いはしないぞ?」

 

「ぬかせ!! ワシの姿も見えん人間如きに、誰が従うか!!」

 

 

 西の魔蛇リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンは透明化(インヴィジビリティ)を維持したまま、背後に回り込み襲いかかった。

 

 

 

 

 

「な……ぜ…… わかっ……た……」

 

「俺の〈領域〉は相手が見えなくても、空間内全てを知覚できる。まぁ、俺の反応速度より速く攻撃されたら意味は無いがな」

 

 

 

 奇襲に対して完璧なカウンターを決められ、真っ二つにされた西の魔蛇は死んだ。

 

 

 

「助けていただき有難うございました!! もしかして貴方はあのブレイン・アングラウスさんでは?」

 

「なに、困った時はお互い様だ。そのブレインで合っているが、大した存在でもないよ」

 

 

 代表して御礼を言うペテルに対し、軽く応えるブレイン。

 なんでも周囲の村渡り歩きながら修行を続けていたところ、薬草が無くて困っている村人からの頼みで森に何度も入っていたそうだ。

 

 

「俺は剣以外はからっきしでな、中々集められなかったんだ」

 

「それなら僕がお手伝いしますよ。こう見えても薬師ですから、助けていただいた御礼をさせてください」

 

 

 実は帰る場所が同じカルネ村だと知ったブレインとンフィーレア一行は、この後一緒に薬草を採取してカルネ村に戻り、滞在中に少しばかり仲を深めるのだった。

 

 

 

 



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終わり=ぶん投げ

 カルネ村にほど近い平野。

 

 ほぼ刀を装備しただけの男、ブレイン・アングラウス。

 王国の秘宝で完全武装をしている戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。

 

 周りの兵士たちが固唾を飲んで見守る中、二人は静かに見つめ合っていた。

 

 

「あくまでもお前は立ち塞がるというのか…… 汝がそう言うのならば王の御命令を果たすため、私はその一騎討ちを受けよう」

 

「俺は修行の末に一つの答えを得た。俺の目指す頂き…… 今の迷ったお前に見せてやる」

 

 

 ブレインは鞘に刀を戻し抜刀術の構えを取り、それに応えるようにガゼフも剣を構える。

 

 

「武技〈能力向上〉、〈能力超向上〉――」

 

「武技〈領域〉、〈能力向上〉――」

 

 お互いに様子見する相手ではない事が分かっている。

 そのため使える武技を全て発動し、最初から全力を出しきるつもりで後のことは何も考えない。

 始まりの合図も何も無い決闘はどちらからともなく動き出した。

 

 

 

「おおおぉぉっ!!〈六光連斬〉!!」

 

「ぜやぁぁあっ!!」

 

 

 勝負は一瞬。

 ガゼフは6つの斬撃を同時に放ち、その全てをブレインに叩き込もうとする。

 ブレインは神速の一刀、ただ一撃に全てをこめて振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、負けだな……」

 

 

 

 

 

 

 自分の技はブレインには届かなかった。

 ガゼフは倒れながら、ああ、自分は負けたのかと目を瞑りボンヤリと考える。

 

 しかし、身体は痺れているものの死ぬような気配は無い。

 不思議に思い目を開けると、ブレインがこちらを見て笑っていた。

 

 

「〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)・峰打ち〉絶対に相手を殺さない武技だ。知っているかガゼフ? 子供の理想とする正義の味方は、敵でも簡単には殺しちゃいけないんだそうだ」

 

 

 

 ――完敗だ。

 

 

 周辺国家最強の名は持っていけ。そう言うガゼフに、ブレインはそんなものは必要ないと言う。

 最強じゃなくても良い。大切な何かを守る力さえあれば、それでいいのだと俺はそう教えられた。

 

 その時のことを思い出しているのか、嬉しそうに語るブレインにガゼフはいい出会いがあったのだと悟った。

 

 

 

 

 

 

「いつまで茶番劇を見せる気だ!! ガゼフも簡単に負けおって!! 所詮は平民の出よ、使えん男だ」

 

 

 痺れを切らしたのか、バルブロ王子が喚きだした。

 

 

「兵達よ、矢を構えよ。如何に強くとも永遠には戦えまい。奴の体力が無くなるまで射撃を続けるのだ!!」

 

「お前は俺がかつて見た傭兵達と同じ目をしているな…… 己の欲望のために他の全てを奪おうとする目だ。そんなやつをこの先に通すわけにはいかない!!」

 

「賊がほざきおって!! お前のような奴が守る村などロクなものではない!! どうせ犯罪者がいるような村だろう、もろとも焼き払ってくれる!!」

 

 

 バルブロは何がなんでもブレインを殺すことに決めた。

 元々、都合の悪い者は全て消すつもりだったのだ。一人増えたところで関係ない。

 

 次々と矢を放ち、ブレインの体力が無くなるのを待つ。

 一方で、ブレインもこの状況は良いとは言えない。そもそもブレインにはこの兵達を殺す気がない。

 バルブロの言う通り、先にこちらの体力が尽きてしまうだろう。

 だが、それでも諦める気は微塵も無い。

 

 

「俺の名はブレイン・アングラウス!! 自らの信じる正義の為、あの村を守る!! 王族だかなんだか知らんが、自国の民すら襲おうとするお前らなんぞに負けるかぁぁあ!!」

 

 

 終わりの見えない持久戦が始まり、ブレインはただひたすらに躱し、刀で矢を弾こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よく吼えた、ブレイン・アングラウス」

 

 

 

 突然、地面に鉄を叩きつけた様な重い音が響き、粉塵が舞い上がった。

 

 

「お前は、もしかして……」

 

 

 空から落ちてきた何かが、ブレインを護る盾となる様にゆっくりと立ち上がる……

 

 

「選手交代だ。正義の味方よ、ここからは子供の味方に任せると良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはラナーの部屋から〈転移門(ゲート)〉で直接カルネ村に来たが、まだ村にはバルブロ達は来ていないようだった。

 便利アイテムの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使っても良かったが、どうせすぐ来るだろうと〈飛行(フライ)〉の魔法で上空から辺りを見渡すことにした。

 

 

「えーと、馬鹿王子御一行様はどの辺りかな?」

 

 

 カルネ村上空から王国の方向に軽く飛び、お目当の集団とそれに対峙する一人の人物を見つける。

 

 

「いたいた、相手側の先頭にいるのがガゼフかな? 前に見た装備よりえらくゴツいが…… 反対にいるやつは誰だ?」

 

 

 おそらくガゼフと対峙している者が何か喋っているのだろう。

 何となく内容が気になったモモンガは〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉を発動させ、会話の内容を聞こうとした。

 

 

「戦士長と一騎討ちか…… この世界の強者同士の戦いは見た事がなかったから、折角だし見させてもらおう」

 

 

 兎の耳を生やした骸骨が空を飛びながら試合を観戦する。

 文章にするとこれほど怪しいものもなかなか無いだろう。

 

 勝負は一瞬で決まったため、正直物足りないと思ったがここに来た本来の目的を思い出す。

 

 

「おいおい、折角一騎討ちして良い雰囲気で終わりそうだったのに、あの馬鹿王子は……」

 

 

 どうやら、数に物を言わせてブレインを潰すようだ。

 ブレインもそこそこ強いようだが、あの程度の実力では体力的に負けてしまうだろう。

 ブレインの啖呵を聞きモモンガは薄く微笑む。

 

 

(正義か…… 俺はこの世界に来て早々に捨ててしまったが、それを貫こうというのか)

 

 

 格好いいじゃないかブレイン・アングラウス。ここは助太刀登場とばかりに派手にいくとしよう。

 

 モモンガは彼らの遥か上空で〈飛行(フライ)〉を解除し、そのまま空中で鎧を纏いながら落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた黒い鎧を纏う骸骨の戦士に、バルブロ達は一瞬呆然となったが、獲物を見つけたかの如く叫び出す。

 

 

「見つけた、見つけたぞ!! 兵達よ、アレだ、あの骸骨をヤれ!! あれが王都を騒がせた犯人だ!! この際殺してしまっても構わん、絶対に逃がすなぁ!!」

 

 

 血走った眼で命令を下し、最初から捕縛する気があったのか疑いたくなるような勢いで、兵達を突撃させようとする。

 

 

「やれやれ…… 折角カッコよく登場したのに拍手がないどころか犯人扱いか。これでも本当に子供の味方のつもりなんだがな」

 

「その言い分からして、もしかしたらとは思っていたが…… やっぱりお前が、子供の冒険者に使役されているというアンデッドか」

 

 

 空から降ってきた骸骨に対して、ブレインはどこか納得したように言う。

 

 

「なんだ知ってたのか。一応名乗っておこう、アダマンタイト級冒険者ネム・エモットの使役魔獣モモンガだ。お前はなんかいい人そうだし、隠す必要もないから手早く済ませよう」

 

 

 着替えたばかりだが鎧を解除し、最近よく使う〈麻痺(パラライズ)〉の魔法で兵士全てを無力化した。

 

 

 

「魔法ってのはなんでもアリか…… まぁいいや、とにかく助かったよ。ありがとう」

 

「お安い御用だ。こちらこそ村を守ろうとしてくれたようで礼を言う」

 

 

 互いに似たようなものを志す骨と剣士。

 周りは倒れた兵士達で埋め尽くされているが、二人は笑いあっていた。

 

 

「それで、この惨状はどうするんだ?」

 

「心配するな、私には素晴らしい友人がいるからな。彼女ならなんとかしてくれるだろう」

 

 

 正義の味方でも一人というのは辛い……

 頼りになる仲間達がいるのはいいものだぞ。

 

 

 誇らしげに言い切ったモモンガは、城に戻ってラナーに全部ぶん投げたのだった。

 

 

 



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平和な日常

 トブの大森林にある家の前には骨がいた。

 隣には普通の村娘もいる。

 

 モモンガは魔法で作った椅子に揺られながら、大自然のBGMを聴きのんびりと過ごしていた。

 

 

「ああ〜、大自然の中で風を感じながら過ごす。なんて贅沢なんだろう…… 平和って素晴らしい」

 

「モモンガ様、クライムさんが結構な悲鳴を上げている気がするんですけど……」

 

 

 エンリが心配の声を上げるが、モモンガはどこ吹く風だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿王子バルブロを撃退した後にラナーの部屋に戻り、『後はよろしく』と伝えただけだったが、それだけでラナーは全てを察したようだった。

 

 

「お任せください!!」

 

 

 元気な返事が返ってきたが、本当に全てのゴタゴタを何とかしてしまったようだ。

 ラナー凄い。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、ラナーがクライムと共にこちらに遊びに来ることになった。

 当日モモンガが迎えに行き、ラナーに渡してあるアイテムを使い二重の影(ドッペルゲンガー)でアリバイ工作。

 まったくもって完璧な計画だった。

 

 

 二人がこちらに来てから色々と談笑していたが、途中でクライムの強くなりたいという話を聞いて今に至る。

 

 

「えいっ!! やあっ!! それっ!!」

 

「ほーらっ!! クライム〜頑張ってっ!!」

 

「アアァああぁぁ!?」

 

 

 クライムはネムとラナーの三人で、模擬戦という名の遊びの真っ最中だ。

 

 ネムに持たせているのは、吹き飛ばし能力があるだけのピコピコハンマー。

 ユグドラシルでは叩く事で相手をノックバックさせるだけのジョークアイテムに近い物で、攻撃力は皆無と言っていい。

 

 ラナーに持たせているのは〈魔法の矢(マジック・アロー)〉が出せるだけの杖。

 使用回数に制限は無いが、第1位階の魔法で連射も出来ず、威力も弱く強化も出来ない。

 しかも自分で出した方が明らかに早いし、自動追尾(ホーミング)性能が死んでいる。回避可能な〈魔法の矢(マジック・アロー)〉なんてメリットが無さすぎる。

 ユグドラシルでは、レベル一桁の時ですら使い道に悩むようなゴミアイテムだった。

 

 

 クライムが一人で二人を相手にして戦っているが、男だし頑張ってもらおう。リア充に手加減は無用だ。

 

 クライムの装備は普段の訓練時そのままだが、ネムにはあらゆる防御装備がつけてあるため怪我の心配はいらないだろう。

 

 ネムが前衛を受け持ち、ラナーが後衛。

 最初は身体能力的にも経験的にもネムの攻撃が当たるわけもなく、クライムが有利だった。

 しかし、途中からラナーが慣れてきたのか〈魔法の矢(マジック・アロー)〉に邪魔され、その隙を突いたネムに吹き飛ばされるようになってきた。

 縦に振っても横に振ってもちゃんと吹き飛ばせる。流石マジックアイテム、物理法則を完全に無視する軌道は見ていて面白い。

 

 杖を振るラナーはとても楽しそうだった。

 クライムに頑張れと言いながらも絶妙なタイミングで〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を当てて、恍惚の表情を浮かべている。

 

 

 後半、クライムはピンボールと化した。

 

 

 振るわれる武器や魔法に威力が皆無だとしても、飛ばされて木にぶつかれば痛いだろう。クライムはよく頑張った。

 

 エンリは参加せずモモンガと一緒に見守っている。

 クライムが迫真の演技をしていると思えば、子供がチャンバラして遊んでいるようにしか見えない。

 幼女と王女と犬が遊んでいるとは、なんと癒される光景だろう。

 

 そのうち遊び疲れたのかネム達が戻ってきた。

 

 

「モモンガ様!! クライム君に勝ちました!!」

 

「杖を振って魔法を出すのって楽しいのですね。こんな風に遊ぶのは初めてなので、思わずはしゃいでしまいました」

 

 

 何をもって勝利とするかは分からないが、ネムを褒めながらラナーにも楽しめたのなら良かったと言う。

 クライムの真剣な鍛錬を遊びと言い切るあたり、この王女もなかなか素が出せるようになってきたのだろう。

 

 

「鍛錬にご協力頂き…… 有難う、ございました。お二人とはいえ、チームと戦うのが…… これ程難しい事だったとは……」

 

 

 息も絶え絶えなクライムが一番消耗しているようだが、得るモノがあったのなら良しとしよう。

 

 

「そういえば、最近街に行くと第三王女が病に倒れ寝込んでいるという噂を聞いたが、何をしてるんだ?」

 

「あら? 友人が寝込んでいるというのに心配してくださらないのですか?」

 

 

 今遊びにきてる人間が言う台詞ではない。現にクライムが可哀想なくらいに元気一杯だった。

 

 

「どうせ二重の影(ドッペルゲンガー)を使ったのだろう? 使うなとは言わんが悪用はしないでくれよ」

 

 

 王女が城を抜け出し、国民には病に倒れていると嘘を流す。十分に悪用していると思うが、モモンガはこの程度なら気にしない。

 

 

「本当に便利で助かってますわ。後は連絡手段があるといいのですけど…… いちいち組合を通して依頼したりするのも面倒ですし」

 

「確かにそれは必要かもな。というか一国の王女が冒険者に指名依頼を出しすぎだろう」

 

 

 ラナーは割とどうでもいい事にも指名依頼を使い、モモンガ達を呼び出していた。

 

 最近クライムとの距離が縮まったんです!! 前よりも主従関係っぽさが減って、遠慮なく諌めてくれる様になったと思うんです!! まぁ、聞いてはあげないんですけどね。

 

 これを聞くために王城に行った時は、張り倒してやろうかと思った。

 

 アイテムボックスを探り、特定の相手に録音した音声を流すという本来は妨害に使うアイテムを渡した。

 ユーザーの設定で簡単に防げるため、ユグドラシルではゴミアイテムだったが、ペロロンチーノがユグドラシルの限界に挑む!! と言って使っていた記憶がある。

 今思うとアイツはよくBANされなかったものだ……

 

 

「一方通行のアイテムだが、これを合図に俺が〈伝言(メッセージ)〉を繋げばいいだろう」

 

「ありがとうございます。ふふっ、これはイイものですね」

 

 

 確実に別用途で使いそうな気もするが、そこはラナーの良心に賭けておこう。

 

 

「ああ、そうだクライムよ。強くなりたいというのならこういうのは――」

 

 

 友と遊び、そして語り合う。

 モモンガ達の休日はこうして平和に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死王デイバーノック!! 魔導のために罪も無い人々を犠牲にする事は間違っている!!」

 

「くっ、八本指の六腕が自首して無くなろうとも私は止まりはしない!! 人間如きに我が野望は止めさせんぞぉ!!」

 

 

 

 そんな中、今日もどこかで正義の為に刀を振るう者もいたとか……

 

 

 



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クライムの特訓

 ここは帝国にある帝都アーウィンタールの闘技場、その控室である。そこに気合を入れた顔で自分の試合を待っている男がいた。

 

 

「ラナー様のため、私はもっと強くならなければ……」

 

 

 クライムがなぜこんな所にいるのかというと、モモンガに強くなりたいのなら色んな相手と戦うと良いと言われたためだ。

 経験は大事、その通りである。

 

 

『それならまた帝国に行きませんか? あそこの闘技場ならきっと色々な人と闘えますよ』

 

 

 ラナーのその言葉により、後日帝国に行くことに決まったのだが一人不参加の者がいる。前回の事があるせいか、エンリは行きたくないと言い今回は来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ゲスト枠でクライムが参加する事になったが…… 賭けの倍率がやけに高いな? 対戦相手はそんなに強いのか?」

 

「天賦のエルヤー・ウズルスですね。なんでも戦士長に匹敵する剣の腕前だとか」

 

 

 戦士長クラスとなるとクライムでは勝つのは厳しいだろう。まぁ負けても格上との戦いは経験になるし良いことか。死ななければポーションで回復出来るからと、手段が無数にあるモモンガは適当に考える。

 

 

「クライム君は負けちゃうんですか?」

 

「うーん、そうだなぁ。勝つのは難しいかもしれない。でも負けるのも勉強になるから悪い事ばかりじゃないんだよ」

 

 

 ネムは純粋に応援しているため、少し心配そうだ。だが人生は何事も思い通りにいくことばかりでは無いのだ。

 

 

「そういえば、あのエルヤーという人はエルフの奴隷を飼っていて、とても酷い扱いをしているそうです」

 

 

 ラナーの悲しそうな声…… これは演技だろう。

 しかし、相手がそんな奴だったとは…… そのエルフが子供かどうかは知らんが、ネムの教育的にもよろしくなさそうな相手だ。

 子供の味方なら動くべきか……

 

 計画変更だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の相手は無名の剣士ですか…… つまらない。確実に勝てるような相手と戦っても、今さら名声にも繋がりませんね。いっその事ガゼフ・ストロノーフやブレイン・アングラウスといった有名どころと戦えれば、この私の強さが証明できるのですがね……」

 

 

 エルヤーは控え室で次の対戦を待っていた。

 今回も自分の勝利は揺らがないと、既に勝った気でいる。

 

 時間となり、観客達の見守る試合の場にいつもの様に出て行く。

 向こう側からやって来た対戦相手は、小柄だが立派なフルプレートを纏った剣士のようだ。

 自分の持っている物よりもはるかに上質だろう装備を見て、思わず舌打ちをする。

 

 

「天賦のエルヤー・ウズルスです。どうぞよろしく」

 

「――ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスです……」

 

 

 思わず吹き出しそうになった。

 なんだそのバカみたいな名前は…… 金にモノを言わせたどこかのボンボンが遊びで出場して来たのだろうか。

 

 

「少し賭けをしませんか?」

 

「……?」

 

 

 声からして男だろうが、フルプレートで表情の見えない相手から提案があった。

 

 

「もし貴方が勝てば私の身につけている装備を差し上げましょう。その代わり私が勝てば貴方は二度と奴隷を買わず、今の奴隷も解放する。どうでしょう?」

 

「面白いことを言いますね。いいでしょう、精々貴方の装備に傷をつけずに勝たせてもらいますよ」

 

 

 率直に言って怪しい…… 目の前の男は、どこか台詞を言わされている感がある。歩いていた動きを見るに緊張していて、実戦経験の少なそうな素人。

 結局のところ自分が負けるはずもないと、賭けを承諾する。

 

 そして、試合のゴングが鳴った。

 

 

「では、その装備を質屋に持っていかないといけないですからね。観客には悪いですが…… 一瞬で決めさせて貰いますよ!! 〈縮地改〉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クライム君、ドカーンってなって凄かった!!」

 

「あのような勝ち方で良かったのでしょうか?」

 

「たとえ相手の実力の方が遥かに高くとも、道具や戦い方によっては勝てる。それを学べたんだしいいだろう。逆に敵を侮るとあっさり負けてしまうことも、今日の相手を見て学んだな」

 

 

 

 試合内容は余りにも酷かった。

 

 あの後クライムの控え室にいき、相手に持ち掛ける提案を話した後、モモンガは装備を渡した。

爆裂(エクスプロージョン)〉の魔法を籠めたフルプレートを着てもらったのだ。攻撃されれば発動するようになっており、魔法版のなんちゃって爆発反応装甲(リアクティブ・アーマー)である。

 

 やり過ぎないよう程よい加減が難しかったが、エルヤーは死んでないし上手くいったようだ。

 

 結局クライムは終始棒立ちしていただけで、剣すら振らずに勝ってしまった。ある意味これは歴史に残る一戦だろう。

 

 

 

「そういえばラナーはクライムに賭けていたようだが、儲かったのか?」

 

「ええ、とっても儲けさせて貰いました。さぁ、今回は私がご馳走するので、パァーッと盛大にご飯に行きましょう!!」

 

「私も食べることが出来たら良いんだがなぁ。これだけはアンデッドの身体に不満があるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? なにやら慌てているようだが」

 

「帝都アーウィンタールの闘技場で少々損害が出まして……」

 

 

 歯切れの悪い言い方をする部下に、答えやすいように何でもないことのように軽く聞くジルクニフ。

 

「なんだ? 大番狂わせの試合でも起こったか? それで損害はいくら出たんだ?」

 

「金貨で約7万枚になります……」

 

「7万だと!?」

 

 

 基本的に闘技場の賭けは、こちらが儲けられるよう出来ている。

 それがたった一度の試合で、金貨7万枚の損害が出るなど誰が予想できようか。

 

 

「アハハハハ…… クソッ!! 一体誰が戦った試合だ!!」

 

「天賦のエルヤー・ウズルスと…… ナイト・オブ・ゴールデンプリンセスというフルプレートを着た戦士の試合でした」

 

 

「ま・た・あの女かぁぁぁあああ!!」

 

 

 皇帝の怒号が執務室に響き渡る。

 

 ご飯を食べたモモンガ達は、みんな笑顔で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、流石に強いな…… 森が破壊されるだけのことはある。トレントがここまで強いとはな」

 

「諦めんなよ、ザリュース!! 俺たちにはまだ足も腕も付いててピンピンしてんだからよ!!」

 

「そうだな、ゼンベル…… それに今の俺たちには心強い味方がいる!!」

 

 

 世界を滅ぼす魔樹と言われる樹の魔物、名をザイトルクワエ。

 トブの大森林に封印されているザイトルクワエは復活するための養分を集める為かどうかは分からないが、自身の分裂体を放っていた。

 ただの分裂体と侮ってはいけない。

 その分裂体でさえ、かつて13英雄達が戦う必要があった程の強さを持つトレントである。

 

 それがリザードマン達の集落を襲っており、それを切っ掛けに全ての部族が一丸となって立ち向かっていた。

 そして、それを助ける通りすがりの男が一人。

 

 

「そこまで言われたら頑張らない訳にはいかないな…… それに正義の味方としては生き物の住処を奪い、自然破壊を行うトレントは止めないとな!!」

 

 

 亜人も人も関係無い。

 そこには生きる為に力を合わせ、必死に足掻く者達がいた。

 

 

「俺の〈神閃〉とあいつの〈六光連斬〉を合わせた新たな武技を見せてやる!! 〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)剪定(せんてい)〉!!」

 

 

 同時に放たれた6つの神速の斬撃。その全てが分裂体を切り裂いていく。

 

 

「ありゃあ凄え。高い所の枝までバッサリだ」

 

「ああ、高枝切り鋏だな」

 

 

 正義の味方は今日も刀を振るい、更なる高みへと上り詰めていくのだった。

 

 

 



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骨に説明は無い

 帝国の闘技場でラナーが大儲けした後のこと。

 クライムの特訓のため、モモンガ達は何度もここに足を運んでいた。

 アレ以来クライムが試合に出ると、賭けの倍率は勝っても負けても微々たるものだった。

 元々儲けるつもりがあった訳ではないのでモモンガも特には何も手を出さず、クライムは勝ったり負けたりを繰り返して着実に実力を増していった。

 

 今回は珍しく、いつもの面子にブレインが加わっている。偶然出会ったブレインに闘技場のことを話すと、偶には実力を試すのも悪くはないと一緒に行くことになったのだ。

 

 

「あのブレイン・アングラウス様の剣技が見られるとは、光栄です!!」

 

「様づけなんてよしてくれ。ブレインでいいよ」

 

 

 クライムはブレインの戦う所が見られるとあって、かなり興奮しているようだった。

 

 

「それにしてもブレイン。最近やたらとお前の噂を聞くが正義の味方は上手くいっているようだな?」

 

「そういうお前は相変わらずネムちゃんと薬草採取か、モモンガ?」

 

 

 モモンガが薬草採取などの簡単な依頼を受けているのはもちろん訳がある。

 最初はネムも一緒に出来るように選んでいた依頼だったが、他の依頼を受けると報酬額が高すぎるのだ。

 簡単な薬草採取などは本来アダマンタイト級が受けるような依頼ではないのだが、そもそも頻繁に仕事をする訳ではないので組合には目を瞑ってもらっている。

 

 基本的に報酬はネムとモモンガで二等分している。モモンガはいらないと言ったが、それはダメと押し切られた。

 ネムが稼いだお金はエンリが管理しているので、子供にあまり大金を渡すのも良くないかと思いセーブしているのだ。

 エ・ランテルや竜王国を救ったりした時点で手遅れかもしれないが……

 今までと変わらない生活をしているあたり、エンリはしっかりと貯金しているのだろう。中々に出来た娘である。

 

 

「はいっ!! 森に入って薬草を集めるのを頑張ってます!!」

 

「私は採取出来ないから、ほとんど護衛だがな」

 

 

 コイツがそばにいるだけで、近寄って来る敵など皆無だろう。アダマンタイト級の護衛付き薬草採取とは…… 他の組合が聞いたら驚くな。ブレインは笑いながらネムを褒めている。

 

 

 闘技場へ向かって歩いていると、急に横から金髪の女の子が飛び出して来た。

 

 

「あっごべんなざい!! って骨、アンデッド!?」

 

 

 年はエンリと同じか少し上くらいだろうか。女性の年齢はよく分からないが、冒険者に近い格好に涙で顔をグシャグシャにしているところから尋常でない様子が伺える。

 

 

「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前はアルシェ・イーブ・リイル・フルト。

 帝国の元貴族の長女で、今は『フォーサイト』というワーカーのメンバーの一人として活動している。

 元々は帝国魔法学院で魔法の勉強に励んでいたが、両親の借金を返すため泣く泣く学院をやめて、ワーカーとして働き出した。

 

 鮮血帝の代になってから、多くの貴族達が貴族位を剥奪された。ウチもそんな中の一つに過ぎない。貴族の時代はもう終わっている…… それに気がつかない、いや気づこうとしない両親。

 特に父親は未だに貴族だった頃と変わらずに浪費を繰り返し、見栄をはるためだけに無駄な買い物をして借金を増やし続けている。

 

 そろそろ両親を見限って二人の妹と共に家を出た方が良いかもしれない。そんな事を思い始めた矢先の事だった。

 仕事を終えて家に戻ると、父が双子の妹、クーデリカとウレイリカを借金のカタに売り払ってしまっていたのだ。

 

 私は父親を殴り飛ばして家を出た。

 最近帝国では邪教集団が生贄を使い、怪しげな儀式をしていると噂で聞いたことがある。それでなくても売られていった二人がどうなってしまうのか、不安でしょうがない。

 クーデ、ウレイ…… お願い無事でいて!!

 

 泣きながら情報を集めに走り回っていると、ある集団とぶつかってしまった。

 私がぶつかったのは黒い鎧を着て、子供を肩車している骸骨のアンデッドだった。

 

 

「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」

 

 

 こちらを心配そうに見る骸骨に、限界だった私は思わず泣きながら全て喋ってしまった。今まで『フォーサイト』の仲間達にも、ちゃんと言ったことはない事まで……

 

 

「そうか…… そんな親が、いるのか……」

 

 

 目の前の骸骨の表情は一切変わらない。それでもなぜか悲しみ、怒っているような感じがした。

 

 

「ラナー……」

 

「はい、私達はネムさんと一緒にどこかで休んでいますね。クライム、私とネムさんの護衛は頼みましたよ」

 

「はいっ!! ラナー様とネム様は、私が命に代えてもお守りさせていただきます!!」

 

 

 護衛という言葉が出るということは、この金髪の綺麗な女性はどこかの貴族だろうか。

 

 

「ブレイン、悪いが予定変更だ」

 

「勿論だ。俺も手を貸すよ」

 

 

 アルシェには分からない。たった今話を聞いただけのこの人たちが、何をしようとしているのか。

 

 

「どうして…… あなた達は一体……」

 

「正義の味方と子供の味方だな。俺はまだまだ修行中の身だがな」

 

「ただの使役魔獣のアンデッドさ……」

 

 

 モモンガはそっとネムを肩から下ろす。

 細かいことは何も言っていないが、ネムは何かを感じて素直に下ろされる。

 まだ10歳だというのに、とても聡い子だと思う。

 

 

「モモンガ様、いってらっしゃい。早く帰ってきてくださいね!!」

 

「ああ、チャチャっと解決して帰って来るよ」

 

 

 表情は出せない骨の顔だが、ネムを確かに笑顔で見送る。待たせるわけにはいかない。早々に済ませよう。

 

 

「さて、先ずは情報収集からだな」

 

 

 今回はンフィーレアの時のように当てずっぽうには出来ない。

 鎧を解除し、本来の魔法職の装備に戻る。

 アルシェから聞いた話と二人の持ち物から魔法で居場所を探知し、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で場所を確認する。

 モモンガは〈転移門(ゲート)〉を開いて、ブレインと共に颯爽と乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

「私、置いてけぼり……」

 

 

 アルシェは訳もわからず置いていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し前のこと、とある街を守る為に一人で強大な魔獣の前に立つ男がいた。

 

 相手となる魔獣の名はギガント・バジリスク。

 全長10メートル程のトカゲの様な姿で難度83を誇り、一体で街一つを滅ぼすこともある恐るべき魔獣である。

 体を覆う鱗はミスリルに匹敵する硬度を持ち、その身に流れるのは即死級の猛毒の体液。

 そして最も恐れられる能力が『石化の視線』であり、その瞳に見つめられたものは文字通り石になってしまう。

 

 アダマンタイト級の冒険者でも、神官による回復と解毒が無ければ勝てないと言われる強敵である。

 

 それに挑む男は見たところ、腰に下げてある刀くらいしか特別なモノは着けていない。

 

 

「睨んでいるところ悪いが、今の俺なら石化は完全に抵抗(レジスト)出来る。お前に街を壊させるわけにはいかないからな…… ここで討伐させてもらう!!」

 

 

 魔獣がこちらに向かって来るのに合わせて、男は魔獣に向かって走り出した。

 そのまま通り抜けざまに一閃。

 

 ギガント・バジリスクはしばらく走り続け、男から離れた位置で突然真っ二つに身体が裂けた。

 

 

「毒の体液だろうと、当たらなければ問題無いな」

 

 

 正義の味方は少しずつ人外の領域に踏み出していくのだった……

 

 

 

 



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幕間 ぶん投げられた人達+αと幸せな骨

 王都にある冒険者組合の一角に、どんよりとした黒いオーラを出しながら喋る死体が転がっていた。

 

 

「ふふふ…… やったわ…… もう一生分の〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使い尽くした気分。ありとあらゆる仕事の斡旋…… 冒険者辞めても働ける自信もついたわ……」

 

 

 そんな事をうわ言のように呟いているのは、王都を中心に活動しているアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダー。

 ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは顔色は悪いが、やり切った表情をしてソファーに転がっていた。

 

 

「鬼ボス死亡」

 

「鬼リーダー死亡」

 

 

 そう言われるのも無理はない。彼女はモモンガに押し付けられた人達、八本指に囚われていた被害者に〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使いまくっていた。そうして出来るだけ心のケアをしてから、新たな職場まで探して斡旋するという事を毎日のようにしていたのだ。

 途中からラナーが仕事の斡旋を手伝ってくれていなかったら、未だに終わっていなかっただろう。

 

 

「あそこまで頑張る義理はなかったろうに。まぁでも、お陰で家族と再会出来た奴もいたみたいだし良かったじゃねえか。お疲れさん」

 

「ありがとうガガーラン、優しい言葉が沁みるわ…… 相手を気遣うって大事ね」

 

 

 仲間の言葉に少しだけ元気を取り戻すラキュース。

 

 

「そういやアイツら、結局アダマンタイト級にまでなっちまったな。なんでも国を救ったらしいけどよ」

 

「国を救った英雄に文句は言いたくないけど…… いや言うわ。あの鬼!! 無茶振り!! 骨!!」

 

 

ラキュースが復活し『蒼の薔薇』完全復活まではもう少し時間がかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、組合長のプルトン・アインザックとその友人で魔術師組合長のテオ・ラケシルが、ある冒険者をどうやって組合に留めておくか話し合っていた。

 

 

「どうすればいいと思う? ここエ・ランテルの組合に登録してはいるが、拠点としているのは辺境の村。そんなアダマンタイト級冒険者なんて聞いた事ないぞ」

 

「アダマンタイト級自体少ないというツッコミは置いといてだ。相手は子供でこれといった勧誘方法が分からん。ましてや使役魔獣という名の相棒はアンデッドだ、分かるわけもない。仕事も頻繁にしないし、やっても採取ばかりだ」

 

 

 これが大人だったり、男だったりすれば話は違っただろう。金や物で釣ったり、女という手もあるにはあった。

 しかし、あの冒険者は金や名誉には固執していない。他のモノで釣ろうにも良くも悪くも子どもであり、望みが小さすぎてこちらがお願いできない。

 終いにはアンデッドの方が報酬が高額過ぎるからこの依頼はちょっと、とか言い出す始末だ。

 

 

「これなら強欲な冒険者の方が余程扱いやすいな…… ネムちゃんがそうなったら泣きたくなるが」

 

「落ち着け、幸いにも最近は『漆黒の剣』を筆頭に若い奴らも育ってきてるんだ。そうそう焦ることはないさ」

 

 

 どうすれば拠点をずっとここにしてくれるのか…… 答えの出ないアインザックは、とりあえずはまた来てくれる事を願って採取系の仕事を用意しておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第二王子だ。

 最近我が国はヤバイと思う…… レエブン侯と一緒に逃げだしたくなるくらいには。

 

 一つ例を挙げよう。

 八本指の自首により焦って暴走した馬鹿兄上が、軍を引き連れ村を襲おうとして返り討ちに遭いましたとさ。

 馬鹿なのか!! 八本指を自首させるような能力を持つ奴に勝てるわけがないだろう!! せめて自分が勝てる相手を犯人役に選ぶ知恵は無かったのか!! 腕っ節しか取り柄のない癖に、相手の力量がわからんとか使えなさすぎる!!

 

 

「はぁ、ここまで貧乏くじを引かされるとは……」

 

 

 結局は王の恩情により殺さず幽閉に留まったが、それにより私が王位を継ぐのがほぼ確定してしまった。

 こんな強大な敵が潜む国の王とか、正直言ってなりたくない。

 

 さらに怖いのは我が妹ラナーだ。

 

 最近、元気すぎる。

 

 国民には病に倒れて寝込んでるとか噂を流してるが、頻繁に何処かに出かけている姿を見る事がある。

 そのくせ部屋に行くと必ずベッドに入っている。

 謎だ…… 第二、第三のラナーとか怖いからやめてほしい。

 

 

「まったく、あの元気を少しは分けてほしいものだ……」

 

 

 帝国が例年と違って、まだ戦争を仕掛けてこないのが唯一の救いだな……

 悩みの多いザナックはストレスで食事の量が増え、自らの体型にそろそろヤバイかと別の危機感も持つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフがブレインに敗れ、モモンガが馬鹿王子を蹴散らした後のことである。ガゼフ・ストロノーフは自らの意思で、王国戦士長の地位を降りる事を王に告げていた。

 

 真の忠義に立場は関係無い、そう気づいたからだ。もっと自由に動ける立場で王を助けたいと思っての事だったが、様々な思惑によって王国戦士長を辞めることは出来なかった。

 結局『王国戦士長』兼『国民戦士長』という新たな肩書きが追加されることとなった。

 

 

(――いったい、どうしてこうなった?)

 

 

 民の為に自由に剣を振るえるのは望むべくも無いのだが……

 私の処遇を決める会議の場で、いつのまにか誰かが場を掌握していた気がする。

 

 

 

 

 ――ガゼフ・ストロノーフは王の願い、そして民を守るという大義のもと、今日も王国の秘宝を纏い王と民の両方を助けている。

 

 貴族派閥? そんなものは知らん。

 今の俺なら無視できる。

 

 

「くっ!! カジットに勝るとも劣らない十二高弟の一人であるこの私が、まさかこんなにアッサリやられるなど――」

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長であり国民戦士長!! 王と民のための剣だ!! この誇りにかけて、貴様らの様な国を汚す者には絶対に負けん!!」

 

 

 もうガゼフの目に迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはトブの大森林で重大な事実に気がついた。

 種族特性により精神が安定していくが、それでもこの感情は止められない。リアルで出来なかった事もこの世界なら出来る。食事を楽しむ事など一部は無理だが、それでもこの身で楽しめるものがあった。

 一体なぜ今まで思いつかなかったのだろう。

 

 やるしかない。

 モモンガは勢いのままに突き進む。

 

 

「今の俺なら何だって出来る!! 超位魔法!!〈天地改変(ザ・クリエイション)〉!!」

 

 

 ドーム型の巨大な立体魔法陣が生み出され、モモンガは1日4回しか使えない切り札を切った。

 

 森の家の近くにある開けた場所で発動したが、何か変化が起こった様には見えない。いや、心なしか周囲が温かくなったようには思う。

 

 

「よし、特殊技術(スキル)・下位アンデッド創造」

 

 

 モモンガの特殊技術(スキル)により下位アンデッドを生み出し、地面を掘るように作業させる。

 アンデッドだけで難しい部分は魔法でゴリ押して作業を進めていく。

 

 

「――完成だ」

 

 

 

 モモンガは満願の思いがこもった声で呟く。

 

 独特の香りがする湯気が立ち上り、岩に囲まれ、なみなみと溢れそうに湧き上がるお湯。

 

 そう、モモンガは温泉を作ったのだ。

 超位魔法を使って土地を作り変え、アンデッドの作業員と魔法の力で作り上げた。

 現物など見たことはなく、仲間達とナザリックで作ったものをうろ覚えで再現したものだった。

 

 お風呂に入りたい。

 

 清浄な水が貴重なリアルでは、お湯を溜めて浸かるなど夢のまた夢であった。

 そして昔の日本では野外で風呂を楽しむという、温泉なる文化があったというではないか。生粋の日本人、鈴木悟ならば入りたいに決まっているではないか。

 それをする為だけに世界を歪めたなんて、どこかの竜が聞いたらキレそうだが、バレたらその時だ。

 

 

 

 

 

「あぁ、最高だ。まるで疲れが溶けていくようだ」

 

 

 湯に浸かり、完全におっさんと化した骨がいる。

 アンデッドに疲労など無いが、大自然の中で自分で作った温泉に浸かるモモンガは最高の気分だった。時々発動する種族特性が邪魔くさいが、それすらもどうでも良くなる気持ち良さだった。

 

 

「あーっ!! モモンガ様いた!!」

 

「モモンガ様…… 何してるんですか?」

 

「見ての通りだ」

 

 

 エンリはモモンガの家の近くに、温泉が出来上がっていることには大して驚いてはいない。いや、驚いてはいるがこの骨なら何をしてもおかしくは無いと、達観しているという方が正しいが……

 

 

「凄い!! お風呂を作ったんですか!! ネムも一緒に入りたいです!! お姉ちゃんも入ろうよ!!」

 

「……私は構わないがいいのか? 一応言っておくが骨とはいえ男だぞ?」

 

 

 エンリは悩む。妹のネムは気にしていないだろうが、私は流石に屋外でお風呂というのは気にしてしまう。しかし、村ではお湯を沸かす事すら大変なので普段は体を拭くだけで、お風呂自体滅多に入ることはできない。

 それにこの骨の気持ち良さそうな姿を見てしまうと、心が揺れる……

 

 

「まぁ、脱衣所は作ったし、タオルも置いてあるから体に巻いたりはできる。召喚したモンスターを周りに配置すれば覗かれたりする心配は無いと思うが――」

 

 

 エンリ・エモットは大きなお風呂という誘惑に負けた。

 

 

「あぁ、気持ちいいです〜。疲れが全部吹き飛んじゃいますね」

 

「気持ちいいね〜、お姉ちゃん」

 

 

 一度入ってしまえば、先ほど悩んでいたことなど吹き飛んだようだ。

 緩んだ表情の二人を見て、モモンガは家族がいたらこんな感じなのかもしれないと思う。

 もちろんリアルで生活していた頃、家族と一緒に風呂に入った思い出はない。ただの想像だ。

 

 ふと思うのはネムやエンリ達といると、アンデッドの種族特性があまり働いていない気がするという事。

 

 

(もしかしたらあの装備には隠し効果でもあったのかな? まぁ、なんでもいいか……)

 

 

 あまり深くは考えられず、思考もお湯に溶けていく。

 

 

「――家族って、いいよな……」

 

 

 モモンガからこぼれた呟きが聞こえたのか、ネムとエンリが一瞬ポカンとした顔をするが、二人ともこちらに笑顔を向けてくれる。

 

 周りには誰もいない静かで暖かな世界、三人は思う存分に温泉を楽しみ癒されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――モンスターがこんな所に大量にいるだと!? どうなってるかは分からんが、そんな程度で諦めはしないし俺は負けない!!」

 

 

 途中でモモンガが気づいて止めるまで、通りすがりの正義の味方の無慈悲なレベリングは続いた。

 

 



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モモンガによろしく

 モモンガとブレインが踏み込んでいった場所は、色んな意味でおぞましい集会所だった。

 全裸の男と女が狂乱の如く祭壇に向かって祈りを捧げている。引き締まった肉体ならばまだマシだっただろうが、ここに居るのは年老いた者ばかり。

 まともな者はきっとこの空気に耐えられないだろう……

 モモンガは正直に言って一秒でも早く逃げ出したい気分だった。

 

 幸い近くに寝かされている双子の女の子は無事のようだ。他に何かが殺された様子も無いことから、生け贄は儀式の最後に殺される予定だったのかもしれない。

 

 こんな集まりに参加している者達と喋るのは嫌だったため、モモンガは話しかけられる前に問答無用で手当たり次第に気絶させた。

 

 

 

 

「おやおや、こんな所に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と人間の剣士がやって来るとは……」

 

 

 部屋にいた人達をあらかた気絶させ終わった頃、奥から足音が響いてきた。

 そして、紫のローブを纏った人物がアンデッドを引き連れ現れた。

 見た目で判断するとユグドラシルでは痛い目を見るが、この世界の者達は職業通りの格好をしていることが多いため、恐らく魔法詠唱者(マジックキャスター)それも死霊使い(ネクロマンサー)だろう。

 

 

「お前が黒幕だな。今の私は非常に機嫌が悪い。取り敢えずぶん殴らせてもらおう」

 

 

 モモンガはほぼ見た目で犯人を断定する。自分の姿は忘れているようだ。

 

 

「わざわざ俺に獲物を残してくれるのか?気を遣わなくたっていい、魔法を使っても構わんぞ」

 

 

 モモンガとブレインが軽口を叩くが相手は気にもしていないようだ。余程自分の強さに自信があるのか、余裕の態度を崩さない。

 

 

「ぶん殴るとは大きく出たなアンデッド。私はあのカジットをも超える十二高弟の一人…… 貴様らは私のアンデッドの素体として、触媒として生まれ変わらせてやろう!!」

 

 

 紫ローブの死霊使い(ネクロマンサー)は自らが召喚した骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を筆頭に、数々のアンデッドを目の前の二人に突撃させる。

 いかに死者の大魔法使い(エルダーリッチ)といえど私の方が強い魔法も使えるし、魔法で援護すればこの数のアンデッドにはなおさら勝てまい。

 人間の剣士も同様だ。

 

 ――初めはそう思っていた……

 

 

(あれは…… 一体なんだ!?)

 

 

 剣士の方はまだ分かる。目にも留まらぬ速さでアンデッドを斬り裂き、私の魔法を必要最低限の動きで躱している。驚くべき強さだが理解は出来る。

 

 問題はこの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。いや、本当に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)なのか? 魔法を使わずにアンデッドを言葉通り本当に殴り飛ばしている。さらにはもう一つ驚くべきことが起こっていた。

 

 

 (私の放った魔法がすべて無効化されているだと!?)

 

 自分が放った魔法が消えていく様は、まるで骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を相手にしているかのようだと焦りを募らせる。

 どうすることもできないまま無情にも時間は過ぎていき、瞬く間に自らの取り巻きが倒されていく……

 

 

「さて、後はお前だけだな。安心するがいい、魔法詠唱者(マジックキャスター)の俺は筋力が弱いからな。運が悪くとも死にはしないさ」

 

 

 目の前のアンデッドが拳を大きく振りかぶる。

 ああ、まるで拳がゆっくりと迫ってくるようだ。

 これが絶対的な死を前にした感覚なのか……

 このアンデッドの謎が一切解けぬまま、私は意識を失った。

 

 

「筋力弱いとか嘘だろそれ。まぁ死んではいないようだが…… とりあえず早いとこあの子の妹を救出して帰ろう。それに帝国の警備兵にも話を伝えないとな。ここにいる連中を取っ捕まえるのは俺らじゃちょいと厳しい」

 

「そうするか。早く帰らんとネム達を待たせてしまうしな。ラナーにも色々して貰う必要が出てくるかもしれんし……」

 

 

 ――そういえばこいつは堂々と自分が優れているみたいな事言ってたが…… 引き合いに出されたあのカジットって誰のことだ?

 モモンガの記憶には、カジットと聞いても特に思い当たるものがなかった……

 

 

 

 その後近くにいた兵士達に事情を話し、モモンガとブレインはさっさと戻ってきた。

 そして無事にアルシェと妹たちは感動の再会を果たした。

 泣きながらお礼を言われ、ブレインは少し照れているのか頬を掻いている。

 

 彼女の親との問題は、なんとラナーが既に解決してくれていた。

 あの短時間で一体何をどうやったらそうなるのかは分からないが、これからは姉妹で支えあって生きていくのだそうだ。

 親に関しては知らん、何か聞くのが怖い。

 

 

「たまには自ら人助けをするというのも、悪くはないですね」

 

「っふ、本当に良い顔をするようになったものだ」

 

 

 ラナーは確かに笑っている。人によって見方は変わるだろうが、作り物じゃない笑顔に変わりはない。

 

 

「おかえりなさい!! モモンガ様!!」

 

 

 帰りを待っていてくれたネムが笑顔で出迎えてくれる。

 ああ、俺にはこれが一番だ。

 

 

「ただいま、ネム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という事があったの」

 

 

 あれからアルシェはフォーサイトの仲間たちにこれまでの出来事を話していた。

 

 

「そんな事になってたのか…… 全く水臭いぞ。言ってくれりゃあ俺たちだって力になったのによ」

 

「まぁ、良いではないですか。それだけ緊急事態だったのでしょうし、アルシェも妹さんも無事だったんですから」

 

「そーよ、細かいとこ気にしてたら禿げるわよ。まっ、でも本当に無事でよかったわアルシェ」

 

 

 心から心配してくれる仲間達。私には本当に勿体無いくらい良い仲間だと思う。

 

 

「いつかその人達…… いや、アンデッドも含めて会ったらよろしく言っとかないとな」

 

「神に仕えるものとしては複雑ですが、仲間を助けてくれた恩人にはお礼を言わないといけませんね」

 

 

 ロバーは苦笑しているが、アンデッドにも本当に感謝はしているのだろう。

 

 

「また会ったらお礼を言おうね、クーデ、ウレイ」

 

「じゃあウレイリカと一緒に言うよ」

 

「クーデリカも一緒、お姉さまもね」

 

「「モモンガ様によろしく!!」」

 

 

 ――まったくこの子達は…… 仲間の使う言葉を真似ているのだろうか?

 注意すべきなのだろうが、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 

「そこは『よろしく』じゃなくて『ありがとう』でしょ。それにブレインさんや他の人にも言わなきゃね」

 

「「はーい!!」」

 

 

 妹達の元気な声を聞いているだけで力が湧いてくるようだ。これからは素晴らしい仲間達とともに、大事な家族を守りながら生きていこう。

 

 アルシェは今日も『フォーサイト』の一員として仲間達とともに頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 完全に見た事がある光景だ。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? 例の邪教集団の殲滅がもう終わったのか?」

 

 

 帝国の皇帝ジルクニフは邪教集団が集まって何かをしているという情報を既に得ており、部隊を用意して殲滅に向かわせていた。

 繋がりのあった貴族や商人は洗い出しは終わっているため、あとは主犯格を襲撃して制圧するだけだった。

 しかし、それが終わったにしては早すぎるため、何か問題でも起こったのだろうかと首をかしげる。

 

 

「部隊からの報告によりますと、突入予定時刻の少し前に双子の女の子を抱えた一人の男とアンデッドが出て来たようです。その者達はこちらを見つけると『もう中の殲滅は終わったから後はよろしく』と言って去っていったようです。実際に中を確認すると参加者は皆気絶しており、主犯格と思われる推定ズーラーノーン幹部が倒れておりました」

 

 

(アンデッドが殲滅しただと!? 間違いない、あの女の関係者だ!! 私が手間を掛けて準備を整えた後一歩のところで、嘲笑うかのようなやり口…… 私の手際が遅いとでも言いたいのかあの嫌味な女がぁぁぁ!!)

 

 

「そうか何者かは分からないが、我々の代わりに帝国に潜む悪を滅ぼしたとあっては感謝せねばなるまいな」

 

 

(あの女だけは除くがな!!)

 

 

 部下の手前、また何度も取り乱す訳にはいかない。ジルクニフは必死に怒りを抑えて、顔には全く出さずに余裕を持って返事を返す。

 ジルクニフの嫌いな女ランキングにはいつまでも不動の一位が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばブレイン。過去にエンリにワンパンでやられたらしいが、今ならもう勝てるんじゃ無いのか?」

 

 

 いくらレベリングしたとはいえ、エンリはせいぜい50レベル前後の身体能力があるだけの村娘だ。別に戦闘の心得があるわけじゃない。

 初めてあった時、敵の騎士を思いっきりぶん殴っていた気がするがそれは置いておこう。

 

 50レベル程だと周辺国家最強と名高いガゼフを余裕で超えているレベルだから、この世界ではほとんど敵無しに近いのかもしれないが……

 

 

「そうだな…… 身体能力的にも技術的にも戦ったら確実に勝てるだろうな。でも、もう良いんだ。今思うとあのお嬢ちゃんは武芸者でもなんでも無いし、あの時は勝負した感覚でも無かっただろうしな」

 

 

 自身が負けた過去を認め、それを笑い話のように流して村娘に負けたままでいいと言うブレイン。

 雪辱を果たしたいといった感情は本当に無いようだ。

 

 正義の味方は力だけでなく心も成長させていく。

 村娘にいきなり勝負を挑んだ頃とは違い、人間的にも少しずつ成長していく。

 

 

「そうだ、せっかくだし俺の相手をしてくれよ。モモンガみたいな強敵との戦いはいい特訓になるからな」

 

「なんだ大人になったと思ったら、バトルジャンキーな所は変わってないんじゃないか?」

 

「それはそれ、これはこれだ。魔法は無しで頼むぞ。流石に勝負にならんからな」

 

「仕方ないな、俺も近接戦闘は練習が必要だし付き合ってやるか……」

 

 

 誰かに勝つためではなく大切な何かを守るため、ブレインは今日も刀を振るい力を求める。

 

 

 



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破滅に向かって

 トブの大森林で森の賢王と呼ばれる魔獣が、息を切らしながら真剣な顔つきで走っている。

 真剣なだけでは無く強い焦りも混じっているようだ。

 この森においてはもはや敵はいないと言っていい程に強い魔獣が、まるでただのハムスターのようになっているのには理由があった。

 切っ掛けは森精霊(ドライアード)の告げた言葉である

 

 

「最近はこの森も平和でござるな〜。おや、そこに居るのはピニスン殿ではござらんか。そんなに慌ててどうしたでござるか?」

 

「ああ、森の賢王か!! 大変なんだ!! 一旦は落ち着いたと思っていたのに、世界を滅ぼす魔樹がまた復活しそうなんだよ!! しかも今度は本体が動き出しそうなんだ…… 私は自分の木からそこまで離れられないし、そもそも木がやられたらお終いだ。ああ、約束してくれた人達は一体いつになったら来てくれるのさ!!」

 

 

 森の賢王の名は伊達では無い。

 森精霊(ドライアード)のピニスンの話から、とんでも無いことが起ころうとしているのは分かった。

 事は個人に収まるものではなく、森全体の危機なのだろう。

 

 

「わかったでござる。某に任せるでござるよ!! 約束した者達はよく分からないでござるが、要はそのモノをなんとか出来る者を連れてくれば良いのでござろう? 某が探してくるでござる!!」

 

 

 こうしてピニスンに一筋の希望を残して、森の賢王は走り出した。

 しかし、森の中を探し始めて数日が過ぎた頃。

 ふと気付いた。自分は自惚れではなくこの森では最強と言っていいだろう。だがピニスンの話す様子から自分が全く太刀打ちできないレベルの相手のようだ。

 つまり、森の中になんとか出来る奴が居るわけがない。

 

 

「大変でござるよー!! 某は自分より遥かに強い存在など100年以上会ってないでござる!!」

 

 

 焦って思考が回らなくなる中、あることを思い出した。

 森の賢王は過去に一度だけ冒険者と一緒に街に行ったことがある。あの時会った冒険者は、根性はあるが自分よりは弱かった。

 しかし、彼の知り合いにはもしかしたら強い者がいるかもしれない。

 出会える可能性は少ないがそれに賭けるため、まずは一番近い村に行って彼の事を聞きに行こうと走り出した。

 

 

「あの時、共に番いを求めた同志ならきっと大丈夫でござる。ピニスン殿、待っててくだされー!!」

 

 

 森の賢王が目指す村の名前はカルネ村。

 流石賢王、強者を探すという意味なら大正解である。

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村で人一倍働く村娘、エンリ・エモットは今日も朝早くから働いていた。

 この村は一度は騎士達に襲われ、人手も足りなくなり存続が危ぶまれていた村である。

 しかし、ほかの村からの移住者を集めたりする事で、何とかかつての様相を取り戻そうとしていた。余裕ができたら防衛用の柵を作るのもいいかもしれない。そんな意見が上がる程度には復興が進んできている。

 

 

「今日はネムは冒険に行ってるわけじゃないし、安心して仕事に取り組めるわね」

 

 

 家の手伝いを終えたネムはモモンガの所に遊びに行っている。

 森の中にある家に行くのも、薬草採取の仕事をするのも大した差はないように思うが少しだけ安心感が違う。

 冒険者の仕事だと、モモンガが一緒だと分かっていてもどうしても心配してしまうのだ。

 

 今頃はモモンガ様に珍しい物でも見せてもらっているのかな?

 そんな事を考えながら畑仕事をしていると、森のある方向からエンリのもとに何か大きいものがやってくるのが見えた。

 

 

「――え?」

 

 

 急ブレーキをかけるようにエンリの目の前で止まったのは、知性を感じさせる力強い眼をした四足歩行の魔獣だった。見た目は尻尾を除けば完全にデカイだけのハムスターだが、エンリはその動物を知らない。

 

 

「働いている所すまないでござる!! 某は森の賢王と呼ばれるもの。少々聞きたいことがあって森からまいったでござる。村を襲うつもりは無いので話を聞いて欲しいでござる」

 

 

 余りにも理性的な様子に、エンリは逃げるタイミングを逃してしまった。

 もし戦闘になっても魔法さえ抵抗(レジスト)出来れば勝てる可能性は高いのだが、戦士では無いエンリは気づかない。

 

 

「えっと、なんでしょうか?」

 

 

 話を聞いて欲しいとの言葉でモモンガを思い出したエンリは、相手が強大な魔獣でも普通に対応してしまった。

 

 

「実は森が大変な事になっているので、冒険者を探しているのでござる。それでその者は――」

 

 

 森の賢王の話を聞き終えたエンリは、それなら凄い強い者に心当たりがあるから大丈夫だと答える。

 モモンガの凄さを知っているせいか、世界が滅ぶと言われてもイマイチ森の危機にはピンとこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者のネム・エモットです!!」

 

「この子の使役魔獣をしているモモンガだ。お前はたしか前に街で見たハムスターか……」

 

 

 紹介されたのは予想外の者たちだった。

 正直なところこの子供には余裕で勝てる。ただの子供にしか見えないし、まるで強者の気配がない。

 問題はこの鎧を着たアンデッドだ。

 森の賢王は嫌な心当たりを思い出した。以前森で騒がれていた噂のようなものだった。

 

 曰く、生き物に話しかけては手当たり次第に爆殺していくアンデッドがいるという話だ。

 今日の森の賢王の勘は冴え渡っている。間違いなくコイツが犯人だと本能が告げていた。

 

 

「……ハムスターとは何のことか分からぬが、某は森の賢王。よろしくでござるよ」

 

 

 若干怯え気味の魔獣から説明を受けたモモンガは、アッサリと願いを引き受けた。

 

 

「そいつが暴れてこの村まで来ないとも限らないし、森には私も家があるしな」

 

 

 世界を滅ぼす魔樹だと聞かされても、負ける気など微塵も感じない余裕さである。

 

 

「かたじけないでござる。某は詳しい場所までは知らぬので、まずはピニスン殿のところまで案内するでござるよ」

 

 

 森の賢王が言うには、最初に危機を感じ取ったのはそのピニスンという森精霊(ドライアード)だそうだ。そいつが動けないため、自分が代わりに助っ人を探しに来たらしい。

 

 

「今回もネムを連れていくには危なそうだから、エンリと一緒に待っていてくれ」

 

 

 ネムは一瞬だけ一緒に行きたそうな表情をしたが、それに絆されるわけにはいかずモモンガはグッと堪える。出来ることなら危険な目には合わせたくないので我慢してもらうとしよう。

 こうしてモモンガは森の賢王とともにピニスンという森精霊(ドライアード)に会いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピニスン殿!! 待たせたでござる。この者が世界を滅ぼす魔樹をどうにかしてくれるそうでござるよ!!」

 

「初めまして森精霊(ドライアード)よ。私が助っ人のモモンガだ」

 

「初めまして…… 私がピニスン・ポール・ペルリアです」

 

 

 コイツは何を連れてきたんだ。

 まさかアンデッドを連れてくるなんて、こっちがどうにかなりそうだ。魔樹より先にこいつに殺されるんじゃないか?

 ピニスンのもっともな心配をよそに話はどんどん進んで行く。

 とりあえずモモンガと共に魔樹を偵察し、そのまま倒せそうなら倒すという流れで決まった。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ。ここが世界を滅ぼす魔樹が眠っている場所だ」

 

 

 周囲一帯が枯れ果てている場所に連れていかれたのだが、何か様子がおかしい……

 

 ――何もいないのだ。

 

 モモンガが鎧を解除し探知魔法を使っても反応が無い。

 ピニスンも気配を感じ取ることが出来ずに焦る。

 森の賢王も特に何も感じないようだ。

 

 

「そんな!? 確かに太陽が数十回ほど昇る前には嫌な気配が有ったのに!!」

 

「ピニスン殿の時間感覚は曖昧すぎてよく分からんでござる…… 本当にその回数あってるのでござるか?」

 

 

 世界を滅ぼす魔樹がもうすぐ復活しそうだからとピニスンから聞かされ、森中を走り回った森の賢王は不満げな声をだす。

 

 

「ブレインは以前この森でトレントと戦ったことがあると言っていたが、もう倒された後とか?」

 

(いや、以前のブレインの実力は森の賢王とそこまで差は無かったはず…… 森の賢王が絶対に勝てない相手を倒したとは考えにくいか……)

 

 

「そういえば相手の詳細をあまり聞いていなかったが、魔樹と言うからには木の魔物なのだろうがサイズはどのくらいだ?」

 

「えーと、そこにある木の10倍くらいかな?」

 

 

 ピニスンが指差したのは近くに生えていた高さ10メートル程の木だ。

 

 

(10倍…… 100メートルは超えているな。予想よりかなりデカイし、やはりブレインが戦ったトレントとは別だろう)

 

 

「何か巨大なモノが通り抜けたような跡が少しだけあるな…… もしかして移動したのか?」

 

 

 隠れるような存在ではないはずだが、その割には移動した跡を消そうとした痕跡がある。魔樹を見たことも無いため、いくら考えても答えは出ない……

 様々な予想は生まれるがどれも推測の域を超えず、モモンガ達はどこかスッキリしないものを感じながら捜索を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様帰ってきたー!!」

 

「ただいま。ネム、エンリ」

 

「お帰りなさいモモンガ様。世界を滅ぼす何とかは何秒くらい耐えれました? もしかして森ごと吹き飛ばしちゃいましたか?」

 

 

 エンリが微塵も心配してくれていない。

 いや、私の勝利を疑っていなかったとポジティブに考えよう。

 これも信頼の証と言えるだろう。

 

 

「私がいつも何かやらかすみたいじゃないか…… 今回は何も無かったよ。その世界を滅ぼす魔物自体見つからなかったからな」

 

「モモンガ様が関わって普通の結果に終わるなんて…… 無事に帰って来れたなら良いんですけどね」

 

 

 エンリには私が常識を知らない骸骨だと思われていたようだ。

 しかし、やっぱり心配はしてくれていたと分かると嬉しくなるモモンガは、どこぞのチョロイン並みに甘いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 某国某所で20歳にも届かないような若い男が、上司と思しき神官に任務完了の報告をしていた。

 

 

「例の移送の件は無事に終わりました。亜人の集落を越え、エイヴァージャー大森林付近に潜ませております」

 

「よくやってくれた。これで戦争も終わらせる事が出来るな…… それにアベリオン丘陵の亜人どもも数を多少は減らせたことだろう」

 

「やはり神々の遺産は凄まじいですね。あんな化け物を支配下に置けるとは」

 

「六大神が人のために残された神の力だからな。さて、人類が団結し生き残るため奴ら裏切者のエルフには滅んでもらう。アレに勝てるものなど番外以外はおらん。滅びは確定だ」

 

 

 平和があれば争いもある。

 今、滅びに向かって動き出す国があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石のお前でも!! 魔法無しの剣のみなら俺の方が強いんじゃないか!!」

 

「くっ、流石に本職の剣は違うな。素人の動きじゃ捉えきれんか」

 

 

 

 トブの大森林にあるモモンガの家の前では、並みの戦士では目で追うことすら出来ないほど激しい打ち合いをしている骨と男の姿があった。

 最近相手になる存在がいなくなってきたブレインは、度々ここを訪れてはモモンガと剣を交えて修行する事が増えていた。

 

 

「あの二人ってブレインさんはともかく、モモンガ様も実は競い合うの好きよね」

 

「モモンガ様もブレインさんも頑張れー!!」

 

 

 以前戦いは嫌だとかネムから聞いた気もするが、こういうのは別なのだろう。

 ネムとエンリは揃って二人の戦いを見守っているが、もちろんネムは動きなど見えていない。激しい音で打ち合っていると分かるだけだ。

 エンリでもギリギリ見えているくらいだった。

 

 

「ふむ、攻撃魔法じゃなく一個だけ戦闘補助の魔法を使って良いか?」

 

「おお良いぜ。素人の剣なら一つ二つの強化魔法があっても捌ききれるぞ」

 

「ふっ、それは楽しみだ…… ――〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉――」

 

 

 

 

 

 

 

 ――正義の味方はまた一つ、新たな壁を知るのだった。

 

 

 

 



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大事な話

 魔法の使い過ぎと仕事の斡旋のし過ぎでダウンしていたラキュースが復活し、再び活動を始めた冒険者チーム『蒼の薔薇』。

 そんな中、ラナーに呼び出されていたラキュース達は王都で再びモモンガ達に出会った。

 

 

「天誅!!」

 

「おっと、危ないな」

 

 

 出会い頭にいきなり魔剣を振り下ろされたが、モモンガは特に危なげなく回避する。

 今ネムは肩車ではなく、少し離れた位置で歩いていたので安心してほしい。

 

 いくら怒り爆発中のラキュースでも、子供が肩車されている状態の骨に魔剣を振り回すほど馬鹿ではない。

 

 

「いきなり武器を振り回すとは危ないじゃないか。アダマンタイト級冒険者なんだし、他の冒険者の手本となるような振る舞いをしないと……」

 

「いきなり厄介事をぶん投げた貴方には言われたくない!!」

 

 

 ラキュースは以前の事で随分と怒っているようだ。〈大治癒(ヒール)〉の巻物(スクロール)が1つでは足らなかったのだろうか?

 魔法効果範囲拡大化も籠められているものだから大丈夫だと思ったのだが、お礼も含めて多めに渡しておくべきだったかもしれない。

 

 

「アンタが噂のアンデッドか。こんなに堂々と歩いてると寧ろ清々しいな」

 

「あの子可愛い。持ち帰ろう」

 

「ダメ。私の勘が言ってる。それをしたら死ぬ」

 

 

 大柄な女性のガガーランに、双子の忍者ティアとティナも話しかけてきた。

 元暗殺者の勘は中々侮れない。見事な即死回避である。

 

 

「まったくアイツらは…… それにしてもお前達、やはり強さを感じられんな。本当にアダマンタイト級なのか?」

 

「む〜、モモンガ様はすっごい強いもん!!」

 

 

 二人のちびっ子が張り合ってるが、ネムは実際強くないので半分は合っている。

 そんな仲間を置き去りにして、ラキュースは段々とヒートアップしていた。

 

 

「こうなったら決闘よ!! 私と勝負しなさい」

 

「どうなったらそんな結論に至るんだ…… それで気が晴れるなら私は構わんが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いにラナーに会いに王都まで来ていたため、話を通して城の一角を使わせてもらうことになった。

 笑顔のラナーは結末を分かっているのだろうが、クライムと共に観戦するつもり満々だ。

 

 

「それでは折角なので私が合図を出したいと思います。お互いに相手に致命傷を与えてはいけませんからね。使役魔獣モモンガ対、蒼の薔薇ラキュース、はじめ!!」

 

「死ねぇぇ!! 喰らえ!! この骨ぇぇ!!」

 

「ははは、ブレインに比べたら止まって見えるぞ」

 

 

 ラキュースは試合開始と同時に突撃し、魔剣を振り回しているがモモンガには一発も当たらない。

 現在血が上って剣筋が多少乱れてはいるが、ラキュースはアダマンタイト級に恥じない神官戦士であり決して剣の腕は悪くない。

 

 

「凄いな、アイツ全部余裕で避けてるぞ」

 

「鬼ボスには冷静さが足らない。あ、剣を素手で掴まれた」

 

「鬼リーダーは熱血。あ、そっと離してもらってる」

 

 

 モモンガに馬鹿にされたと思ったラキュースは、涙目になりながらも必死に剣を振るい続けるが掠りもしない。

 もし当たっても上位物理無効化があるのでダメージは入らず、勝ち目はもともと無かったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!! たとえ実力で負けても心では負けていないわ!!」

 

 

 剣を振るう体力が無くなったラキュースが、膝をつきながらモモンガを睨んでいた。

 

 

「鬼リーダー敗北。途中から予想はしてた」

 

「鬼ボスくっ殺。だがそこが良い」

 

「はい、今回の勝負はモモンガ様の勝利ですね。ラキュース、残念でしたね」

 

 

 近くで見ていたラナーが手を叩きながら間に入り、モモンガの勝利宣言をした。

 

 

「折角ですしネムさんもやってみますか? 同じ様に戦鎚を使いますから、ガガーランさんに胸を貸してもらったらどうですか?」

 

 

 ラナーは完全に面白がっている。

 そもそもネムは武器を持ってないし、アレは一時的に貸したジョークアイテムだ。

 

 

「でも、あれを使ったらガガーランさんを吹き飛ばしちゃいますよ?」

 

 

 子供の純粋な疑問だったのだが、ガガーランは可愛い挑戦と受け取ってしまう。

 

 

「ほぉ、言うじゃねえか。良いぜ、先にアダマンタイト級になった先輩として胸を貸してやるよ。どーんとかかって来な」

 

「えーと、わかりました。モモンガ様、前のピコピコ貸してください!!」

 

 

 モモンガからネムに手渡された物を見て笑う。

 どう見てもオモチャだ。

 面倒見の良い姉御肌だったガガーランは子供の訓練に付き合うのも悪くない、そう思って構えを緩めた。

 

 

「ではネムさんとガガーランさんは安全にするために、こけたり倒れたりした時点で負けにしましょうか」

 

 

 ラナーの合図でネムがゆっくりと走ってくる。

 まずは一発当たってやろう。

 そう思ってネムの振るう小さなハンマーに無防備に当たった。

 

 

 ――ガガーランは吹き飛んだ。

 

 

「凄い。ガガーランが飛んだ」

 

「流石。幼女は最強」

 

 

 『蒼の薔薇』二連敗である。

 

 

「全く情けないな。だが、『蒼の薔薇』の一員として負けっぱなしで終わりには出来ん。こい、私が格の違いを教えてやろう」

 

 

 モモンガのラウンド2、イビルアイとの戦いが始まった――

 

 

 

 

 

「――魔法無効化とか聞いてない…… 殴ってもビクともしないし、勝てるわけが無いだろ……」

 

「蒼の薔薇、完全敗北」

 

「流石イビルアイ。期待を裏切らない」

 

 

 ティアとティナは端っこで三角座りをしながら、いじけている赤ずきんの周りを回って煽るのだった。

 

 

 

 

「さぁ、皆さんの親睦も深まったところで大事な話があります」

 

「ラナーよ、大事な話なら先に話すべきだったと思うぞ」

 

 

 蒼の薔薇は一部を除いてテンションが下がりまくりである。

 

 

「レクリエーションも大事ですのに…… さて、真面目に話をしますね。アベリオン丘陵からエイヴァージャー大森林付近にかけての亜人が妙な動きをしているようです。恐らく法国が動き出しました」

 

 

 引き篭もらなくなったラナーは、法国の秘密裏の動きをアッサリと掴んでいたのだった。

 法国の秘密作戦バレバレである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林にあるモモンガの家で寛いでいるのはブレイン、エンリ、ネムの三人。

 モモンガが偶々居ない時に来たので、珍しい組み合わせで話している時のことだった。

 

 

「あー、モモンガはまじで強すぎるな。ところでネムちゃんの使役魔獣になる前は何してたんだ?」

 

「そういえばモモンガ様はあまり昔の話はしませんね。ネムは少しだけ聞いたことがあるのよね?」

 

「うん…… ぎるどっていうお友達との居場所を守るために、ずっと一人で戦ってたって言ってた……」

 

 

 その時のことを思い出したのか、ネムの声が少しだけ暗い……

 

 

「ただいまー。ん? 三人でここに居るのは珍しいな。何の話をしてたんだ?」

 

 

 重い空気を入れ替える様にモモンガが帰ってきた。

 モモンガの過去が気になっていたと三人に聞いたモモンガは、なんだそんな事かと軽く話し始めた。

 

 

「そうだな、私は普通に働いてたな。よくある会社の営業職だったよ。ここで言うとなんだろうな…… 商品を他の組織に売り込む下っ端の商人といったところか」

 

 

 骸骨が商人とか全然似合わないし、モモンガ程の存在が下っ端の想像も出来ない。

 ネムの聞いていた話と雰囲気が違いすぎるため、三人は首を傾げていた。

 

 

「あー、すまんがネムちゃんから少しだけ聞いちまってな。ずっと戦っていたと聞いたんだが……」

 

 

 少し悪いとは思ったが、どうしても気になったブレインはそんな事を口にするが歯切れが悪い。

 

 

「ごめんなさいモモンガ様。勝手に話しちゃいました……」

 

「ああ、別に気にすることはないさ。大した話でもないしな。ネムから聞いたということはギルドの方の話だな。 ――ふむ、実は私は当時の世界で知らぬ者はいないとまで言われた、悪の組織のギルドマスターでもあったんだよ」

 

 

 そんな事を笑いながら話すモモンガに、三人は何を言っているのかわからなくなった。

 

 

「訳がわからん…… まぁ、俺が戦わなくても良いように悪の親玉には復帰しないでくれよ?」

 

「なんだ信じていないのか? どれも本当の話だぞ。 ――本当にどれも私の大切な過去だよ。モモンガになる前の…… モモンガになった頃のな」

 

 

 ブレインはふざけたように言ったが、モモンガにとってはどれも嘘は言っていない。

 

 三人がモモンガの過去について正しく理解するのは、まだまだ先になりそうだった。

 

 

 

 



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あの時の願いを叶えよう

 リ・エスティーゼ王国の王城にあるラナーの私室。

 モモンガ達と『蒼の薔薇』は詳しく話を聞くために移動してきたが、ラナーからもたらされた情報にラキュースは眉を顰めていた。

 

 

「――アベリオン丘陵、エイヴァージャー付近の亜人達が…… それに法国が動いているなんて……」

 

 

 蒼の薔薇は過去に一度、法国の特殊工作部隊の一つである『陽光聖典』とぶつかっていた事がある。

 陽光聖典が亜人狩りをしている所に遭遇してしまったのだ。人を襲ってもいない亜人を殺す事に憤りを覚えたラキュース達が、それを食い止め退ける形で一戦交えたのだった。

 

 

「本来冒険者は、戦争や国の政治に関わる事に参加してはいけません。法国が亜人を間引き、人類を滅びから救おうとしている事にも関わらない方が無難でしょう。しかし、今回はどうも様子が違うようなのです」

 

 

 てっきり、また法国の部隊が亜人を殺していると思ったガガーランが声を上げる。

 

 

「姫さんよ、いったいそりゃあどういう事だ? またアイツらの特殊部隊か、別の兵士なんかが出てきたんじゃないのか?」

 

「恐らくそれは違います。亜人達が逃げている範囲がおかしいのです。包囲殲滅から逃げたというより、強大な力が押し通って散らばったと言った方が良いでしょう」

 

「ふむ、正直アベリオン丘陵もエイヴァージャー大森林とやらも知らんから、私には規模がよく分からんのだが…… そもそも法国の特殊部隊ってそんな強いか? 逃げた亜人の強さも知らんが、強大な力が押し通って逃げてくイメージが湧かないんだが……」

 

 

 モモンガが知っている法国の特殊部隊といえば、ニグン・グリッド・ルーインが率いる陽光聖典である。

 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を最高位天使だと言ったり、死の騎士(デスナイト)ロールをしても倒せる程度の雑魚だったという印象しかない。

 

 

「モモンガ様の基準はちょっと…… 六色聖典の一つである漆黒聖典は六大神の遺産とされる物を纏い、他の5つの部隊とは一線を画した強者で構成されているようです。他の部隊に比べて少数精鋭ですが、中には神の血を引く神人と呼ばれる子孫もいるとか。その神人というのは他の精鋭の中でも桁外れに強い存在だそうです」

 

 

 いくらラナーでも人員や強さなどの詳細までは知らないようだ。

 他国の国家機密なので、寧ろこれでも知りすぎているレベルではあるが……

 

 

「ですがその部隊が直接の原因ではないでしょう。エルフ達が〈伝言(メッセージ)〉を使って伝達された内容ですが、エ・ランテル辺りまで逃げたエルフの中には巨大な化け物がいたと言う情報がありました」

 

 

 コイツ実はクライムとエ・ランテルを散策してたんじゃないだろうか。

 そう思ってしまうほど情報の幅が広い。

 

 

「私は頭を使うのは得意ではない。結論を頼む。ラナーは私達に何をして欲しいんだ?」

 

 

 

 モモンガが結論を促すと、ラナーがいつになく真剣な表情でこちらの顔を見渡していく――

 

 

 

「その巨大な化け物とやらを探しに行きましょう!! 未知を暴きにみんなで冒険です!!」

 

「駄目に決まってるでしょぉぉおお!!」

 

 

 王城にラキュースの声が響き渡る。

 ラナーはやっぱりラナーだった。自分がやりたいことを全力で叶えようとしている。

 

 

「心配性ねラキュースは。いざとなったらモモンガ様に全部吹き飛ばしてもらうから大丈夫よ!!」

 

「それ以前の問題よ!! 一国の王女が冒険していいわけないでしょ!?」

 

「可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。クライム、私の事をどう思いますか? 貴方の目から見て可愛いかしら?」

 

「はい!! ラナー様は世界で一番美しく可愛らし――」

 

「惚気てる場合じゃないでしょ!! 御付きの兵士なら止めるべきでしょ」

 

 

 すっかりラナーのペースに乗せられてしまったラキュース。

 シリアスな雰囲気は完全に霧散した。

 

 

「はははっ、いいじゃないか。未知を求めて冒険というのは楽しそうだ。王女だからといってやりたい事が出来ないのは寂しいからな。友人として力を貸そう」

 

「ふふふっ、それは嬉しいですね。さぁ、行く事はもう決定しました。目撃情報を精査するので三日後くらいに出発しましょうか。ラキュース達は行かないのですか?」

 

「っ〜!! もうっ!! 私達も一緒に行くわよ!!」

 

 

 結局ラナーを放っておけないラキュースは行く事を決意した。

 一体どこから計算された行動だったかは、ラナーのみぞ知る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラナーの提案により謎の巨大な化け物を探すため、未知の冒険へ行くことになったモモンガだったが避けては通れぬ高い壁があることを忘れていた。

 

(仕方ない、アレをするしかないな……)

 

 

 

 

 

「――というわけでして、私とネムが提供させていただく本企画はエンリ様の成長に繋がり、未知への探究心を満たす素晴らしい経験と――」

 

「ダメです」

 

「お姉ちゃん、手強い……」

 

 

 ――そこにはエンリという名の高い壁が立ち塞がっていた。

 

 

「くっ、あの場は勢いで言ってしまったが、こうなる事は予想すべきだった……」

 

「好奇心を満たすためだけという理由で、ネムをそんな危険な所には連れて行けません!」

 

 

 エンリから告げられたあまりの正論に、モモンガはネムやエンリも一緒に行くという要求を通せなかった……

 

 

 

 

 似たような事が『蒼の薔薇』でも起こっていた。

 

 

「鬼ボス、いってら」

 

「鬼リーダー、いってら」

 

「まぁ、姫さんのあの様子だとそこまで危険でもないんだろ。たまには友達とピクニック気分で楽しんで来いや」

 

 

 

 ラキュースは私達も一緒にと言っていたが、誰も参加するとは言ってない。

 イビルアイはラナーの我儘に付き合う気は最初から無い。

 ティアとティナも今回の冒険には興味が無かったようだ。

 ガガーランに至ってはラナーの話していた様子から危険は無さそうと判断し、純粋に友達とのお出かけを楽しんで来いと送り出すような雰囲気だ。

 

 つまり『蒼の薔薇』として参加する気は誰一人無かった。

 

 

「そういう事だ。偶には一人で頑張って来い」

 

 イビルアイの無慈悲な言葉により、蒼の薔薇よりラキュースの一人参加が確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林にあるモモンガの家の前で、ブレインはある修行をモモンガに提案していた。

 

 

「今まで近接戦闘ばかりを磨いてきたが、相手がそれに合わしてくれるとは限らない。遠距離にも対応できるように、対魔法詠唱者(マジックキャスター)を想定した修行がしたいんだ」

 

「確かに敵の戦法がどんなものかは戦うまでは分からないからな。どんな内容の修行がしたいんだ?」

 

 

 ブレインの言うことに納得したモモンガは、どんな修行をするのかと先を促す。

 

 

「実戦的なのが手っ取り早いが、お前が魔法を使って戦うと戦闘にならん。そこでだ、まずは魔法詠唱者(マジックキャスター)なら必ずと言っていいほど使える〈魔法の矢(マジック・アロー)〉の対処から始めてみようと思う」

 

 

 この世界では第1〜第3位階の魔法が主流のため、ブレインの言うこともあってはいる。〈魔法の矢(マジック・アロー)〉は無属性で自動追尾する不可避の光弾を発射するため、使い勝手が良く使う者も多いだろう。

 普通の矢なら連続で打たれても既に弾けるため、ただの遠距離攻撃ではなく複数なら同時に飛んでくる〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を対処出来るようにするという着眼点は悪くない。

 

 

「さぁ、俺に〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を撃ってくれ!! 今の俺ならお前が放ったとしても二倍くらいの量までなら防げるはずだ!!」

 

 ブレインは実際に見た事はないが、知識から想定している一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)が放つ〈魔法の矢(マジック・アロー)〉で発生する光弾は3つ程である。

 武技〈六光連斬〉を使える事から同時に6つは防げるとの考えだろう。

 

 

「分かった。二倍で放てば良いんだな? 〈魔法二重化(ツインマジック)魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

「……嘘だろう?」

 

 

 予想をはるかに超えた数の光弾が迫り来るなか、しみじみとブレインは思う。

 

 

 ――ああ、俺はまだまだ自惚れていたようだ。一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)ってのはこんなに凄かったのか……

 

 

 目の前の骨は一流の域など遥かに超越しているのだが、戦いにおいて色んな感覚が麻痺してきたブレインはそんなことを考えない。

 

 ブレインはまだ見ぬ魔法詠唱者(マジックキャスター)と戦う時に備え、20の斬撃を同時に放つ事を目標にして修行を続けるのだった。

 

 

 

 



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幕間 年寄りの心配+ブレイン強化計画

 騎士の襲撃という困難から立ち上がり、ほぼ復興が進んだ辺境の村。

 カルネ村の村長にはある悩みというか心配している事があった。

 

 村で一番働き者であるエンリ・エモットのことだ。

 気立てが良く、十分に可愛らしさもある素晴らしい女性だと思う。

 

 なのだが…… 働きすぎでは無いだろうか?

 働く事が悪いことではないが、家の畑を一人で管理して力仕事も村の男の何倍も出来る。

 

 男の立つ瀬が…… いやこれは失礼だろう。

 エンリに釣り合う男性がいない。

 村の村長としてエンリの事は生まれた時から知っている。村で育った子はみんな家族のようなものだ。そんな身としては結婚相手とかについても心配してしまうのだった。

 

 そういえば妹のネムちゃんについても少し気になる。指輪やアクセサリーを付けているのを見たことがあるが、あれは何なのだろう?

 あれくらいの子供でも、やはり女の子はそういった物に興味を持つのだろうか。

 

 

「将来はどんな大人になるのだろうか……」

 

 

 少し変わった姉妹を思いながら、村長は今日も村のために働いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの薬師、リイジー・バレアレは孫であるンフィーレアについて悩んでいた。

 

 新たなポーションについて研究したいなどと適当な言い訳をして、想い人に会いに行ったかと思ったら素晴らしい剣士に会ったんだと空振りに終わっている。

 何度もカルネ村に行っては、本当に珍しい薬草を見つけて研究に没頭しだしたりもする。挙句に僕は何をしているんだと時々我に返って凹んでいる。

 

 身内贔屓だが薬師としては大成すると思っている。才能も探究心もあるし、それに見合う努力もしている。

 だが男としては心配だ……

 

 

「まぁ、あのお嬢ちゃんも中々凄いから、そんなすぐにはどうこうならんじゃろ」

 

 

 こういったことは本人次第であり、なるようにしかならない。

 孫のしたいようにすれば良い。リイジー・バレアレは孫を温かく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネムとモモンガがトブの大森林でお互いに好きな物を語ったり、モモンガがネムの質問に答えたりしていた時のこと。

 おそらく修行をしに来たであろうブレインがいつものように訪れた。

 

 モモンガはふと先ほど話していたことを思い出し、実行に移そうと考えた。

 

 モモンガはいつに無く真剣な表情でブレインに告げる。

 

 

「ブレイン、更なる高みを目指すために、先にその力を体験してみるというのはどうだ? 私が魔法で強化すれば、一時的にその感覚が味わえるだろう」

 

「なるほど、先に目指している所のイメージを明確にするわけか。良いかもしれないな。よしっ、頼むぜモモンガ、俺に魔法をかけてくれ」

 

 

 頼むといったな? ああ、強化魔法をかけてやるとも……

 

 その後で体の調子を確かめるためにも、一度外に出てから始める。

 

 

「よし、それではいくぞ。〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉」

 

 

 モモンガは素早く三つの魔法をブレインにかけた。

 

 

「おおぉ、聴力が上がったような――って、なんじゃこりゃあ!?」

 

「わー、ブレインさん可愛い!! ミミが生えて、モコモコの尻尾と足もモフモフですよ!!」

 

 

 これは凄い。引き締まった肉体をした鋭い顔つきの男がウサ耳を生やし、おまけに丸い尻尾が生えている。足元まで動物系のスリッパを履いたようにモフモフとしている。

 

 

「はっはっは、ネムよ。これが先程言っていた兎という動物を真似する、兎さん魔法だ!!」

 

「モモンガ様!! ネムも! ネムにもかけてください!!」

 

「ああ、良いとも。ネムの方が確実に似合うしな。〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉」

 

 

 兎さん魔法は女性限定でだが、三つ同時にかけると一部では無く全体の姿が変わる。

 ネムは兎の着ぐるみを着ているような姿になったようだ。

 

 

「凄い、凄い!! ネムがモフモフになった!!」

 

 

(危ねぇぇ!! 女性は姿が変化するの忘れてた!! これでもしユグドラシルと同様に、バニーガールなんかになってたら社会的に死んでたな俺。いやエンリに物理的にもやられるな。流石R指定に厳しいユグドラシルだ。子供には違う対応をしてくれてありがとう!!)

 

 

「この骨ぇぇ!! これ身体能力全然上がってないぞ!!」

 

「何を言うか、聴力は上がってるし、敵からのヘイトも下がるぞ。おまけに幸運になる」

 

「これのどこが幸運だ!! 叩き斬ってやるぞモモンガぁぁ!!」

 

「ふっ〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉。当たらん、当たらんぞぉぉお!! ぶふっ、あっはっははは!! ダメだ笑って集中できん。あっ当たる」

 

 

 鬼気迫るウサ耳男を前に笑わない奴などいない。

 笑って動けなくなったモモンガにブレインの振り下ろした刀が直撃した。

 

 

「あれ? 今の感覚は僅かだが攻撃が通ったのか?」

 

 

 もしかして上位物理無効化を僅かに突破したのか? ダメージと言えるような量では無いが、そんな事を考えるモモンガの前でブレインは震えている。

 

 

「やった…… やったぞ。俺は、骨を、斬った…… 僅かだが、モモンガを、斬ったんだ!!」

 

 

 一つ壁を超えた喜びでブレインが狂気乱舞していると、ちょうどそこにエンリがやって来た。

 

 

「何してるんですか? ってネム!? ブレインさん!?」

 

 

 ネムとブレインの格好に驚いているエンリに、ブレインが近づき誇らしげに語る。

 

 

「聞いてくれ!! 俺はついに骨を斬ったんだ!! ダメージとは言えないかもしれないが、モモンガを斬れたんだ!!」

 

「……良かった、ですね。おめでとうございます……」

 

 

 エンリは笑顔が引きつりその姿にドン引きしているが、喜びに震えるブレインは気がついていない。

 

 

「お姉ちゃんもネムとお揃いになろうよ!!」

 

「どうする? 私は一応どちらでもいいが……」

 

 

 この格好はモモンガの魔法で変身したようだ、というかこんな事するのは他にいない。

 歯切れの悪さに若干の怪しさが見えるが、妹のお願いを聞くのも良いだろう。

 兎の着ぐるみがちょっと可愛いと思ったのもある。

 

 

「分かった。エンリがそう言うのなら…… 〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉――」

 

 

 

 

 

 ――モモンガとブレインは宙を舞った。

 

 

 モモンガは敢えて上位物理無効化を解除したし、ブレインもわざと避けなかったのだろう。

 エンリに殴られ、二人で仲良くきりもみ回転をしながら宙を舞ってる中、安らかな顔のブレインとモモンガは以心伝心で繋がる。

 

 

 『『殴られる価値はある良いモノを見た』』

 

 

 

エンリがどんな姿になったかは、ご想像にお任せする。

 

 

 



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植物鑑賞

 リ・エスティーゼ王国の王城、第三王女のラナーの私室で三人プラス骨が集まっていた。

 

 

「すまんな。今回はネムもエンリも不参加だ」

 

「蒼の薔薇も参加出来ないから私一人よ……」

 

「今回は四人で行くのですね。もう少し賑やかだと良かったのですけど…… まぁ小数の方がいざという時動きやすいですし、良いでしょう」

 

 

 結局、冒険に行くために集まったのはラナー、クライム、モモンガ、ラキュースの四人だ。

 

 クライムはラナーから賜った純白の鎧では無く、軽装の冒険者に近い格好をしている。

 変装用なのかは分からないがラナーは髪を一つに纏め帽子を被り、ドレスでは無く動きやすい服装をしていた。

 野山にピクニックに行くと言われても違和感の無い程度の格好の二人だった。

 

 

「とりあえず大雑把な場所を教えてくれ。〈転移門(ゲート)〉を開くから、そこからは徒歩で探すとしよう」

 

 

 ラナーが推測した位置を確認し、そこから歩いて捜索というプランだった。

 別に必死になって化け物を探すのでは無く、探す過程を一緒に楽しみたい雰囲気だったので探知系の魔法などは特に使わなかった。

 

 早速〈転移門(ゲート)〉を使ってエイヴァージャー大森林の最北端辺りに移動してきたモモンガ達。

 一々鎧姿に戻るのが面倒なモモンガは〈転移門(ゲート)〉を使ってからはローブ姿のままである。

 

 

「エイヴァージャー大森林に到着です! それでは痕跡を探しながら適当に歩きましょう!」

 

「何か凄い魔法を目にしたのに、それがどうでもよくなってきた自分がいるのが恐いわ……」

 

 

 探し始めて数十分後、早くも怪しげな場所を見つけた。

 随分と時間が経っているようだが、何者かが野営をしていたのだろう。焚き火をしていたかのような地面の焦げた跡が僅かに残っている。

 近くには100メートルを超えそうな馬鹿でかい樹木。

 あまりの迫力から風も吹いて無いのに、枝が少し揺れているんじゃ無いかと錯覚するほどだ。

 

 

「凄く大きいですね。周りと明らかに違う種類の樹木です」

 

「はい、自分もここまで大きな木は見た事がありません」

 

「凄い木だな。普通のトレントを10倍以上のサイズにしたみたいな迫力だ。見ろ、あの部分なんかまるで口みたいじゃないか?」

 

 

 思い思いの感想を口にしていく三人。

 ラキュースだけはワナワナと肩を震わせている。

 

 

「なんでそんな冷静なのよ!? どう見ても魔物じゃない!!」

 

「いやいや、別にただ生えてるだけなら樹木もトレントも同じじゃないか」

 

「そうですよラキュース。食虫植物を鑑賞するのが趣味の人だっているのですから。冒険者なのでサーチアンドデストロイ的な思考も、命を守る上では重要だと思いますけど」

 

 

 あまりにも淡々と返されるものだから、弄られていると気づいたラキュースは思わず浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)をモモンガに向かって飛ばしてしまう。

 

 

「おっと、剣を飛ばす時はもう少し角度をつけた方が良いぞ。狙う位置がバレバレだ」

 

 

 あっさりと躱すモモンガだが、飛ばされた剣は勢いそのままに後ろの樹木に飛んでいき――

 

 ――刺さった。

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 僅かに揺れているだけだった枝があからさまに大きく震えだし、やがて樹木全体も揺れだした。

 

「クライム、私を背負って走ってください。あっ、それとモモンガ様。たぶんアレは法国が操るかなんかしてると思うので倒しちゃって良いですよ」

 

「私に散々言っておいて結局それなの!? いや、私のせいかもしれないけど…… って、そもそもあんなデカイの倒せるわけ無いでしょ!!」

 

「ご安心くださいラキュース様。モモンガ様は何というかぶっ飛んだ御方ですので、アレくらいならきっと一撃です。さぁラナー様、しっかりと掴まってください」

 

 

 ダメだ、いつのまにかクライムまでもが肝が据わり過ぎている。尊敬はしているのだろうが、モモンガに対しての気安い感じは何なのだろう…… これが信頼なのだろうか。

 

 

「そこまで言われると頑張らないといけないな。〈上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)〉〈光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉ラキュース、きっとヘイトはお前に向いてるから十二秒程死ぬ気で逃げろ。こっちでは一度も使ってないから通じるか分からんが、試しておかなければならん事がある」

 

 

 一応ラキュースに強化魔法をかけてくれる優しさはあったようだ。

 しかし、モモンガは軽く言うが相手がいつ動き出すかも分からない状態で、お前狙われてるぞと言われる身にもなって欲しい。

 

 

「モモンガ様『後はよろしく』ですわ」

 

「ふふっ、ああ任せろ。安全なところまで離れていてくれ。後でラキュースと迎えに行く」

 

 化け物が遂に完全に動きだし、ラキュースに狙いを定めて触手のようなモノを振り下ろす。

 

特殊技術(スキル)・〈あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)〉〈真なる死(トゥルー・デス)〉」

 

 

 モモンガの背に時計盤が浮かび上がり、一つずつ針が進んでいく。

 

 

「無理!! 十二秒とか長すぎ!!」

 

 

 そうは言いつつもラキュースは見事に回避していく。魔法の効果もあるのだろうが、火事場の馬鹿力でも発揮しているのかもしれない。いつもよりかなり機敏に動いているように思う。

 

 

「――3、2、1……」

 

「あ、駄目当たるわ」

 

 

 ラキュースが諦めかけた時、急に相手の触手が止まった。

 いや、触手だけでなく全体が止まっていた。まるで死んでただの木になってしまったようだ。

 

 

「ぶっつけ本番だったが成功だな。賭けだったんだが、コレのおかげか? そもそも普通に勝てるやつだったとか……」

 

 

 モモンガは手を顎に当ててブツブツ呟いているが、ラキュースは何も聞こえていない。

 

 

「無事で何よりでしたね」

 

「ラナー!? 何でそんなすぐ戻ってこれたの!?」

 

「ちゃんと離れていましたよ? あの触手が届かない位置で、万一何かを飛ばしてくるような事があってもクライムが確実に躱せるくらいの所に」

 

「安全な所ってそう言う意味じゃ…… ああ、胃が痛いしもう疲れたわ……」

 

「今回はこの辺で終了しましょうか。短い時間でしたがとても濃い冒険でしたね!! そうだわ、良かったらあの化け物の天辺に生えてる薬草を使ってみたらどうかしら」

 

 

 後日、あの薬草を使ってみたラキュースは胃痛から開放された。

 とてもよく効く薬草だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 某国というか法国。

 一人の老婆が驚愕した様子で、同僚達にある事を告げる。

 

 

「ケイ・セケ・コゥクで支配していた、暫定破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が何者かにやられた……」

 

「何だと!? あんな化け物に勝てるものなどいるわけが無い!!」

 

「一瞬の出来事じゃから敵の詳細は分からん…… じゃが、一瞬という事は逆に目星もつくわい」

 

「そうか白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)か……」

 

「そうじゃ。こんな事ができるのは白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)しかおるまい」

 

「やられた!! やはり監視も付けておくべきだったか」

 

「いや、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)が相手では監視も意味が無い。こちらの被害が無く人類の敵が一つ滅んだ。それで良しとしよう」

 

「くそっ、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)め!」

 

 

 何も知らない白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)、アーグランド評議国永久評議員ツァインドルクス=ヴァイシオンに罪は全て被せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガともそれなりの付き合いになるが、ブレインは誰もが持つ疑問をモモンガにぶつけていた。

 

 

「そういや何で正体隠してなかったんだ? 今は何とかなってるみたいだが、昔は大変だったんじゃないか?」

 

「実は顔を隠せない呪いがあってな。最初に街に行った時とかは大騒ぎだし、冒険者は問答無用で討伐に来るしで大変だったな。仲間になれそうなアンデッドを探そうとしたりもしたんだが、意思疎通が出来そうなのが居なかった……」

 

 

 お前のようなアンデッドはそうそう居ないぞ。

 ブレインはツッコミを飲み込み、そうかと頷いた。

 

 

「ふーん、そんな事情があったのか。種族についてはどうなんだ? 巷じゃ色々言われてるがどれが正解なんだ?」

 

「いや、たぶんどれも間違いだな。私の種族は死の支配者(オーバーロード)なんだが…… この世界に他にいるのかな? いたら大惨事の気がする……」

 

 

 確かに普通に生者を憎むアンデッドで、モモンガと同レベルがいたら世界が滅びそうだ。

 一瞬想像したのか、ブレインが苦笑いしている。

 

 

「難度にするととんでもない数字なんだろうな……」

 

死の支配者(オーバーロード)は今のブレインじゃまだ勝てないだろうな。難度の表現は苦手だが、たぶん240超えるぞ」

 

 

 そんなもん誰も勝てねーよ。

 ブレインの心の中でのツッコミは加速していく。

 

 

「私を難度にすると300は超えるだろうな。もしそんな敵が出て来たら、ブレインが強くなるまでは私が手伝おう」

 

 

 コイツ実はアンデッドの神なんじゃないだろうか?

 そんな事を思ったが、妙に人間臭いところがあるし違うような気もする。

 

 モモンガは当たり前のように言ったが、俺がそこまで強くなれると信じてくれているのだろうか。

 

『強くなるまでは』

 

 なら強くなってやろう。

 コイツもいつまでも同格の相手がいないんじゃ、戦いにしたって張り合いがないだろう。

 やる気に満ちた顔でモモンガに笑いかける。

 

 

「正義の味方ってのは、一体どこまで強くなれば良いんだろうな」

 

「私のある友人は正義の味方を目指していたが、剣で次元を斬るぐらいには強かったぞ?」

 

 

 本当にそこまでの強さがいるのか!?

 

 正義の味方ってなんだろう……

 ブレインは新たな悩みを抱えた。

 

 

 

 



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ペロリスト

 バハルス帝国の主席宮廷魔術師、フールーダ・パラダインは今日も失敗した魔法を思い返してため息をつく。

 かつてカッツェ平野にて自然発生した死の騎士(デスナイト)を捕らえてから、ずっと支配を試みているが一向に上手くはいかない。

 

 

「一体何が足りないというのだろう。先達が居ないというのは不便なものだ…… せめて切磋琢磨しあえる同格の者がいれば……」

 

 

 フールーダは自身が魔法の手解きをすることはあっても、自分に魔法を教えられる存在などとっくの昔にいなくなっている。

 沢山の弟子達が自分を越えれば、今度は私が教えてもらえる。そう思っていたが自分を越える存在はおらず、その片鱗を見せる者すら殆どいない。

 

 

「やはり別のアプローチを試す事が必要なのだろうか…… ――っ!!」

 

 閃いた。いや、思い出したと言った方が良いかもしれない。

 以前ジルクニフが言っていた、アンデッドを使役している少女。生まれながらの異能(タレント)によるものだから、あまり気にもしていなかったがコレは使える。

 どう使役するかは余り参考には出来ないだろう。だが、使役されているの死の騎士(デスナイト)が、どの様な状態かを見ることは出来る。なぜ今まで思いつかなかったのか……

 

 

「ふふふ、これも魔導の深淵を覗くため。いざ行かん、カルネ村!!」

 

 

 その日の仕事を全てぶん投げた男。

 フールーダが今、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もモモンガの家に遊びに行こうと森を歩く少女、ネム・エモット。

 今では森で一番安全になった道を通る彼女に、変態の魔の手が迫る……

 

 

「見せてくだされぇぇぇえ!!」

 

「きゃああーっ!!」

 

 

 森でお爺さんに出会った。

 白い髪に長い髭の変態は、今にも少女に飛び付こうと言わんばかりに迫る。

 

 

「さぁ魔導の深淵のため、隅から隅まで!! 貴方のアンデッ―― ぐほぉっ!?」

 

「何をしているんだお前は……」

 

 

 変態の背後から強烈な打撃を加えたのは、フールーダがお望みのアンデッド。

 嫌な予感がして、家から出てきたモモンガである。

 

 

「ぐふっ、主人の危機にやって来るとは…… やはり使役されているとみた。死の騎士(デスナイト)では無いようだが、この際かまわん!! 希少なアンデッドなら尚のこと見る価値がある!!」

 

 

 死なないように加減はされているが、モモンガの打撃を受けてなおゾンビのように立ち上がるフールーダ。

 

 

「知性もあるようだし本人に聞かせてもらおう。アンデッドよ、なぜその少女に使役されている? 使役するにはどうすれば良いのだ!!」

 

 

 この老人はヤバイ。

 直感では無く現実を見て判断したモモンガは、この爺さんに絶対に出来ないことで煙に巻こうとする。

 

 

「それは…… だな。可愛さ、そう!! この子から溢れ出る可愛さによって私は使役されている!!」

 

「なんと!? その子にはその様な生まれながらの異能(タレント)が!?」

 

 

 信じるわけもないかと思ったが、なんとかなりそ――

 

 

「――ならば、私も幼女になれば良い!! ほれ、幻術くらい簡単に扱えますぞ!!」

 

「えっ!?」

 

 

 ――なんとかならない。モモンガは別の意味でやられそうだ……

 おそらく幻術で子供の姿に化けているのだろうが、モモンガはそんな低位の幻術は見破れてしまうため只の変態にしか見えていない。

 

 

「そんな偽物とネムを一緒にするな!!」

 

「なんと…… 見かけだけでは無理とおっしゃるか…… ならば!! その幼女を取り込み、私の成分を近づける!! 幼子よ、魔導の深淵のためにペロペロさせて貰うぞ!!」

 

「どうしてそうなるんだ!?」

 

 

 フールーダは止まらない。流石にモモンガも狼狽え、その隙にネムに飛び付こうとする。

 

 

「魔導の深淵、いただきま―― ぐぼへぇあ!?」

 

「人の妹に何しようとしてるんですか!?」

 

 

 物凄い悪寒がしてネムを追いかけてきた女性、エンリに殴られるフールーダ。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の癖に物理耐性が高いような気もするが、きっと気のせいだ。

 たぶん防御魔法でも展開していたのだろう。フールーダは即座に立ち上がる。

 

 

「ふははっ!! 中々いい拳だが、我が魔導への執念の前には無力!! 姉妹なら成分も似ているはず!! 揃って摂取させてもらおう!!」

 

 

 頭に二つタンコブをつけた老人は、ネムとエンリに両手を広げて飛び付こうとする。

 

 

「ペロペロprpr―― かっ!?」

 

「〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)・峰打ち〉 ……何なんだこの状況は?」

 

 

 ネムとエンリは1ペロもされずに済んだ。

 通りすがりの正義の味方によって、変態は無事に鎮圧された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、帝国の明日のために今日も必死に働いている。

 

 

「やはり、戦場になると我が国ではフールーダをどの様に投入するかが鍵か…… もしもに備え他の部隊との連携も合わせて、フールーダ無しでの対強敵の編成も考えるべきだな。にしても爺はどこへ消えたのやら…… ん?」

 

 

 独り言が響く静かな執務室に、急にぽっかりと闇が現れた。

 そこから出てきたのはいつぞやのアンデッド。

 何者かの首根っこを掴み、こちらに放り投げる。

 

 

「婦女ペロ未遂で捕らえさせてもらった…… が、国の外交とか面倒くさいから今回は返す。次は容赦しないからな」

 

 

 何のことかはサッパリ分からないが、かなり怒っているようだ。

 そのまま言うだけ言ってアンデッドは去っていき、空間にある闇も消えた。

 

 放り込まれた人間を見てジルクニフは何があったかを察し、顔を両手で押さえて溜息をつく。

 

 

「このくそ爺ぃぃいがぁああ!!」

 

 

 我が国の鍵は一国を単騎で救える骨のヘイトを、貯めるだけ貯めて戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはトブの大森林にあるモモンガの家。

 珍しくブレインが真剣な顔つきで、モモンガにある相談をしてしている。

 

 

「モモンガ…… 俺は気づいてしまった。目を背けることの出来ない重大な事実に」

 

「どうしたんだ。そんな深刻な顔をして…… どんな事でも聞いてやるから言ってみろ」

 

 

 ブレインの尋常じゃない気配から、今回はおふざけモードをやめてモモンガも真剣に聞く姿勢に入る。

 

 

「俺は、俺は…… 今、無職だ」

 

「なっ!? 本気なのか、本気で働いていないのか!?」

 

 

 リアルで社畜だったモモンガには、働いていないという事実が信じられない。

 働かずして一体どうやって生きていたのだろう。

 

 今の自分は使役魔獣でペットのようなものだしノーカンだ。

 あくせく働く気は無いし、偶に冒険者の仕事をしているからセーフだ。

 

 

「別に金が無いわけじゃない。色んな賞金首やらを捕まえたりもしてたからな…… だが、正義の味方を目指す者が無職で良いのか? 子供達に胸を張っていられるのか!?」

 

「――ああ、お前の思いは伝わった。共に探そう…… お前にぴったりの職をな」

 

 

 正義の味方の就活が始まった。

 

 

「手っ取り早いのは冒険者だが、それじゃあ駄目なのだろう?」

 

「ああ、組合に縛られてちゃ、いざという時助けを求める人達を助けられんからな」

 

 

 ブレインの希望する仕事としては、組織に縛られない自由で融通の利く職業だろう。

 そうなると意外と候補は少ない。冒険者以外にも商売でも商業ギルドはあるし、組合もあるからだ。

 

 

「となると、私が紹介出来るのはここだな」

 

「お久しぶりですね、ブレインさん」

 

 

 自由な仕事を求めて職探しをしていたら、国の王女を紹介された。

 

 

「国に仕えるとか自由とは対極じゃねぇか!! 俺はあの時のガゼフみたいにはなりたくないぞ!?」

 

「何を言うかブレイン。ラナーだぞ? 自由に決まっているじゃないか」

 

「そうですよ。いざとなったらこの国を動かすくらい好き勝手出来ますよ?」

 

 

 小さい時にもっと真面目に勉学や農業を学んで、手に職を付けておくべきだったかもしれない。

 己の進んできた道に久々に後悔しそうになった。

 

 

「ブレインさんにも何やら葛藤があるみたいなので、こういうのはどうでしょうか?」

 

 

 

 

 

 王城の一角で、剣を打ち合う二人の男がいた。

 

「クライムっ、剣筋が乱れているぞ!! 重心を崩すな!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 ブレインはクライムの家庭教師という事でラナーに雇われた。

 賃金を払っているのはラナーだが、名目上はクライムが直接ブレインを教師に雇う形なので国に関わりは無い。

 

 

「クライム、お前に俺の〈瞬閃〉を教えてやる。強くなりたいならモノにしてみせろ!!」

 

「はいっ!! もう一本お願いします!!」

 

 

 クライムに才能は無い。しかし、努力とラナーへの思いでまだまだ強くなれるだろう。

 彼には自分とは違う強さがあるとブレインは確信していた。

 

 

 

 

 

「ああ、あの必死なクライムの顔…… 思わず首輪を付けたくなります!!」

 

「ラナー…… お前はブレないな」

 

「モモンガ様だって使役魔獣をやってるじゃないですか。ネムさんに首輪を付けてもらわないんですか?」

 

「ネムに言うのはやめろよ、いやマジで」

 

 

 人の趣味はそれぞれだし、モモンガはあまり否定する気は無い。

 クライムに首輪をつける日を夢見て、恋する乙女の顔をしているラナー。

 

 クライムが強くなるのと首輪を付けるのはどちらが先になるか、モモンガは心の中でクライムにエールを送った。

 

 

 



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戦いは、始まる前に

 今ではすっかり色んな人が遊びに来るようになったモモンガの家。

 そのため魔法を使って中身を改装していき、最初に比べてずいぶん部屋の数も増えた。

 中でもネムやエンリは家の近くの温泉に入った後、湯冷めするのが嫌なのかそのまま泊まっていくというパターンが多い。

 

 そして今日来ているのはラナーとクライムだ。

 来たと言ってもモモンガが魔法で迎えに行ったのだが、その手のことは慣れたものだった。

 

 

「今日はどうしたんだラナー。また冒険にでも行きたくなったか?」

 

「それも行きたいのですけど、今回は別の件です。例年よりかなり遅くなりましたが、帝国が戦争を仕掛けてくるようなんです」

 

 

 戦争が起こるかもしれないというのに、ラナーにもクライムにも慌てた様子は無い。

 モモンガはよく知らない事だが、帝国との戦争自体は毎年恒例の事なので慣れているのだ。そのせいで国力を削られ続けて王国はボロボロではあるが……

 

 

「うちに避難しに来たのか? 部屋はあるから全然構わんが……」

 

「クライムと愛の逃避行も良いのですけど、今回は戦争そのものを取り止めてもらおうと思いまして」

 

 

 サラッととんでもない事を言っているが、ラナーなら出来るのだろう。特に疑う事はない。

 

 

「カッツェ平野に強めのアンデッドをばら撒いてくれませんか? あっ、それか魔法で平野を吹き飛ばしてくれても構いませんよ!」

 

 

 ニッコリと笑って提案されたのは、戦場になる場所を使い物にならなくしろというお願い。

 まさかラナーからこんな風にぶん投げられる日が来るとは…… お姫様も日々成長しているようだ。

 

 戦争を止める事に協力するのは構わない。

 人が死ぬのは出来れば見たくないし、カルネ村に影響があるかもしれないからだ。

 

 でも賢い筈なのにやり方が脳筋すぎないか?

 いや、効果はあるんだろうが……

 

 

 

 

「という訳でやって来ました、カッツェ平野です!」

 

「周囲は警戒しておりますが、お気をつけくださいラナー様」

 

「バレたら私が指名手配されそうだ。ブレインと追いかけっこする羽目になるのは御免だな」

 

 

 アンデッドが跋扈する薄気味悪い平野だというのに、このお姫様はテンションが高い。クライムと肝試しにでも来た気分なのだろうか?

 仲良く腕なんか組みやがってと、少々嫉妬心が燃え上がる。 

 

 

「流石に平野を吹き飛ばしたら、即ブレインとかにバレるからアンデッドを召喚するのが良いかな?」

 

「そうですね。生物を殺さないようにとだけ命令しておけば、後は大丈夫でしょう」

 

 特殊技術(スキル)や魔法で召喚すると一定時間で消えてしまうので、手持ちのアイテムから倒されるまで消えないタイプを使って召喚する事にした。

 自分でアンデッドはある程度召喚出来るのにアイテムまで持っているあたり、モモンガがどれだけコレクター気質なのかが分かる。

 

 

死の騎士(デスナイト)だとフールーダとかが勝てるそうだから、魂喰らい(ソウルイーター)でいいか」

 

 

 非常に軽いノリで、現地で伝説クラスのアンデッドをどんどん放し飼いにするモモンガ。

 ラナーは骨で出来た獣の姿を見て過去にビーストマンを虐殺した伝説のアンデッドだと気づいたが、誰も殺さないように命令をしてあるので大丈夫だろうと何も言わない。

 

 こうして合計10体の魂喰らい(ソウルイーター)がカッツェ平野を徘徊するようになった。

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が駆け込んでくる。

 

 有能なジルクニフはそれだけで察した。

 

 

「陛下、ご報告があります」

 

「何の問題が起こった?」

 

 

 いきなり問題だと確定され驚いた秘書官だが、すぐさま冷静さを取り戻し報告を続ける。

 

「カッツェ平野に軍を配置する事が出来ません。現段階で死者はおりませんが、軽傷者は多数です。見たことも無い獣の骨格のようなアンデッドが現れては通り過ぎていくので、現場近くに配置予定だった各部隊は混乱状態です」

 

「その正体不明のアンデッドの強さはどのくらいだ? 現段階での推測で構わん。現場の意見が欲しい」

 

「同行していたバジウッド様の判断では、四騎士が全員揃っても一体も抑えきれないとの事です」

 

 帝国四騎士の筆頭、雷光の異名を持つバジウッド・ペシュメルの戦闘においての観察眼は確かなものだ。

 帝国でフールーダを除いて、最高戦力である四騎士が揃っても勝てないというのか……

 

 

「軍の配置は一度取りやめて撤退せよ。フールーダを弟子達と共に現場に急行させ、情報を持ち帰り次第再び判断を下す。急げ、間違っても戦闘をしてこちらに被害が出ないように厳命せよ!!」

 

「はっ!! 畏まりました!!」

 

 

 秘書官が去って行き、執務室の扉が閉まった後でジルクニフは拳を机に叩きつける。

 

 

「くそっ、只でさえ例年より遅れているというのにアンデッドだと!! 一体どうなっているんだ……」

 

 

 今年はアンデッドに何かと嫌な縁がある……

 ジルクニフはフールーダが帰還し、新たな報告が上がるのを待つしか無かった。

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国でも同様の問題が取り上げられていた。

 帝国からの宣戦布告は例年より遅れているが必ず来るはず。そのためにも兵士達を準備せねばならないのに、カッツェ平野に現れた化け物アンデッドのせいで一向に進まない。

 

 

「はぁ、一体どうすれば良いのか…… 余ではもう……」

 

 

 国王であるランポッサ三世は、度重なる問題によりすっかりやつれていた。

 懐刀であるガゼフが民の為に行動してくれている。それが唯一の救いでもあった。

 そんな中、最近ずっと寝込んでいた娘のラナーが部屋にやってきた。

 

 

「失礼します。お父様、少しお話ししたい事があるのですが…… 顔色が優れないようですがどうされたのですか?」

 

「ははは、それはこちらの台詞だぞラナーよ。最近ずっと寝込んでいたのに今日は随分と元気じゃないか」

 

 

 娘の顔を見ることが出来て少しだけ笑顔が溢れるランポッサ三世。

 

 

「ふふふ、今日は少し調子がいいんです。部屋に篭ってばかりだと健康に悪いですから、少しだけお父様とお話ししようかと」

 

 

 それからラナーと何でもない会話を少しだけしていたが、気が緩んだのかランポッサ三世の口から帝国との話が出てしまう。

 

 

「――そうなのですか…… そうですわ!! それなら帝国と一時的な同盟を組むのはどうでしょう? 人間国家の存続に関わるとして、その化け物の退治に王国が力を貸す形で。それなら見返りに、一定期間の不可侵の約束くらいは取り付けられるのではないでしょうか?」

 

 

 娘の語る言葉は優しく理想的なものだ。人と人が手を取り合い協力する。そんな単純な事を出来なくなってしまった自分が嫌になるが、今回に限っては上手くいくのではないかと思う。

 

 

「ははは、相変わらずお前は優しい子だな。そうだな、宣戦布告がいつ来るかと考えてばかりだったよ。帝国に休戦や戦争の先延ばしの意思があるなら、そんな条件を付けるのも良いかもしれん。戦うばかりでは我が国は疲弊し、民が苦しむばかりだからな。時には力を蓄えるための期間を空けるべきなのだろう」

 

「ええ、時には休むのも大事です!! 今の私は寝てばかりですので、その時は私が交渉に出向きますわ!」

 

 

 娘との触れ合いで気力を取り戻した国王は、再び仕事に励む。

 

 こうしてラナーの仕込みは完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クライムの家庭教師となり、王城の一角で剣を教えるブレイン。

 実技だけでなく、時には自身の経験に基づく戦闘指南も行なっていた。

 

 

「いいか、クライム。俺たち剣士は腕を磨くだけじゃ駄目だ。訓練で一対一の戦闘だけ強くなっても実戦では勝てなくなる。戦闘において重要なのは情報と周囲の環境だ。サポートがあるのと無いのでは大きく変わる」

 

「はいっ!! 乱戦になる事も考慮せよ、味方との連携も意識せよとの事ですね」

 

 

 人に何かを教えることなど無かったブレインだったが、教師役は中々様になっていた。

 

 

「その通りだ。そして、集団の戦いで勝つ為に俺たちが最優先でやる事は一つ…… 分かるか?」

 

「……敵の能力や人数を調べる事、戦力の把握でしょうか?」

 

 

 クライムが悩みながらも出した答えに対して、それも必要だが違うと首を振るブレイン。

 

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)を潰すことだ!!」

 

「えっ?」

 

「一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)というのは恐ろしいぞ…… 強化魔法を一つでも唱えさせてしまったら終わりだ。こちらを遥かに上回る身体能力を発揮してくる。もちろん魔法による攻撃も脅威だ。一人の魔法詠唱者(マジックキャスター)が〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を一度使うだけで、こちらは十人以上の犠牲を覚悟しなければならない……」

 

 

 ブレインのあまりの真剣な表情にそんな馬鹿なと思ったが、なんだか納得してしまいそうなクライム。

 いや、これまで色んな事を教えてもらい、自分は確かに強くなってきた。

 ブレインさんは数々の死闘を経験している強者だ。今回のこれも本当に違いない。

 

 

「分かりました!! 戦場で魔法詠唱者(マジックキャスター)を見つけたらすぐに倒します!!」

 

「それでいい。相手が魔法を唱える前に斬るしかない。さぁ、そのためにも〈瞬閃〉を早く使いこなせるようにならないとな!!」

 

 

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の地位が周辺国家に比べて低く、脅威をきちんと理解出来ていない者が多いリ・エスティーゼ王国。

 

 クライムは王国軍の兵士の誰よりも早く、その強さと脅威を理解し始めた。

 ただし、想定している程の魔法詠唱者(マジックキャスター)はまず現れない……

 

 

 



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情報と髪は命

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、カッツェ平野に向かわせたフールーダを含む魔法詠唱者(マジックキャスター)の部隊からの報告を聞き、あまりに予想を超えた内容に頭を抱えていた。

 

 

「ビーストマン10万を三体で殺害した伝説のアンデッドか……」

 

 

 見た事はないためフールーダが見つけた文献からの予測だが、四騎士が勝てない事を加味すると強ち間違いでも無いのだろう。

 個体数も能力も不明な点が多いため、フールーダを前面に出して戦う事も出来ない。

 

 

「やむを得ん…… 今年の王国との戦争は取りやめるしかないか」

 

 

 戦場が使えないのであればどうしようもない。

 ここは気持ちを切り替えて、あの化け物をどうするかを考えなければならない。

 ジルクニフは今後の動きを考え、王国とどう対応するかを模索し始めるのだった。

 

 

 

 

 アンデッドが歩いてても誰も気にしない街エ・ランテル。

 その冒険者組合でラナー以外の指名依頼があるからと、久しぶりに組合長から呼び出されたネムとモモンガ。

 

 

「さて、今回の依頼は国に関わるので極秘のものだ。いや、ラナー王女の依頼も大概極秘のものだったんだが…… まぁいいだろう。内容はカッツェ平野に現れたアンデッドの討伐だ」

 

 

 冒険者は国に関わってはいけないが、当然抜け道はある。ここでそれを頼むというのはやむを得ない事情があるのだろう。

 この時点で嫌な予感しかしないモモンガだったが、逃げるわけにもいかず続きを聞くしかない。

 

 

「カッツェ平野に現れたそいつは、大型の獣の骨格のような姿をしているアンデッドだ。何故か人にトドメを刺さないようで死者はいないが、討伐しようとした冒険者にはかなりの被害が出ている」

 

 

 既にミスリル級の冒険者チームがやられている。クラルグラというんだが知っているかね?

 組合長の言う言葉は、モモンガの耳を右から左に通り抜けていく。

 

 

(犯人俺でしたー!! アンデッドって聞いた時点で分かってたけどね!! ラナー、全然大丈夫じゃないぞ!? 戦争止めたら冒険者にめっちゃ被害でてるじゃないか…… よく考えたらカッツェ平野は戦争地ってだけじゃなく、冒険者が頻繁にアンデッド狩に行ってるんだし当たり前だよなぁ。賢い奴が考えることはよく分からんが、これもラナーの想定通りなのか?)

 

 

「あともう一つ、ラナー王女から護衛の依頼が来てる」

 

 

 結局ラナーの依頼もあるんじゃないか。

 よし分かった、ラナーは確信犯だ。

 モモンガは考えるのをやめて、本人に問い詰める事にした。

 

 

 

 

 

 

「それで? どういうことか教えてもらおうか」

 

 

 一刻も早く真相が知りたかったモモンガは、あのままネムと一緒にラナーに会いに来た。

 ネムはラナーと一緒に茶菓子を食べてご満悦だが、こっちはそうはいかない。

 エンリに何も言ってないからな……

 危ない依頼を受けたと知ったら絶対怒る。事後承諾ならなおさらだろうし、場合によってはネムだけ帰すことも視野に入れている。

 

 

「依頼のことですか? 簡単ですよ、他に手段を取れなくする。そのタイミングで帝国と同盟を組みにいこうかと思いまして。その後であのアンデッドをみんなで倒して、平和を取り戻す。どうです? 完璧でしょう!!」

 

「マッチポンプじゃねぇか!?」

 

 

 ドヤ顔で胸を張るラナーに、全力でツッコミを入れるモモンガ。

 ネムは話が分からないのか、キョトンとしながらクッキーを頬張っている。

 くっ、可愛さのあまり和んでしまいそうだ。思わず全てを許しそうになる。

 

 まさか俺がツッコミに回ってしまうとは…… なんて計算高いお姫様だ。

 

 

 

「さぁ、あの皇帝の頭皮にダメージが入り始めた頃だと思うので、さっそく同盟を締結させに行っちゃいましょう。あっ、今回はブレインさんも連れて行きますね」

 

 

 

 今回は王国の使者として行くため、正式な馬車を使って移動している。

 今まで魔法を使ってポンポン移動していたので、最初は物珍しかったが数時間も経つと飽きてきた。

 

 

「それで? なんで俺は馬車に乗っているんだ? あくまで俺はクライムの家庭教師なんだが……」

 

「教え子の課外活動の様子を見るのもいいじゃないですか」

 

「ブレインさん、このような事に巻き込んでしまい申し訳ないです。ですが、ラナー様と口論してもまず勝てないので諦めるのがよろしいかと思います」

 

「クライムの言う通りだブレイン。人間諦めも肝心だぞ」

 

 

 骨のお前が言うのかとブレインはそんな顔をしてこちらを見たが、ため息を一度吐いて諦めたようだ。

 ちなみに馬車の中にネムはいない。エンリに怒られる前にカルネ村に送り届けておいた。

 もし相手側に何かを言われても、遠隔でも支配はバッチリだとか何とか言って切りぬけようと思ってる。

 いざとなったらラナーに誤魔化して貰えば良い。

 

 馬車に乗って一週間以上かけて移動することになった。

 途中でちょくちょく魔法を使って馬車の中から抜け出しているので、別に窮屈な旅ではなかった。寧ろ馬車には誰もいない時間の方が長かったかもしれない。

 そんな馬車の御者をしてくれた人には、ちょっぴり申し訳ない気持ちになる。

 

 

「ブレインさん、皇帝に会う前に武器を隠しておいて貰えますか? あと顔も」

 

 

 政治的な問題か貴族のしきたり的なモノなのだろうと、深く考えずにブレインは了承してモモンガに刀を預けた。

 そしてモモンガは顔を隠せるように『嫉妬する者たちのマスク』を貸した。

 このチョイスに特に意味は無い。

 

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、それと対談するのはリ・エスティーゼ王国の第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 会議室にはモモンガ達の他に帝国四騎士が控えており、皇帝側からはピリピリとした空気が流れている。

 

 

「今回は王国の王女として来て頂けたようだが、人間国家の存続に関わる問題とはどういった意味かな?」

 

「あら? 皇帝陛下ならもう知っていると思ったのですが…… カッツェ平野のアンデッドの間引きは両国が行うもの。もしかして最近サボっているんですか?」

 

「獣の形をしたアンデッドの事を言っているのであれば、こちらは当然把握している。その対策も十分にとっている最中だ」

 

「本当に理解しているのですか? アレのせいでカッツェ平野のアンデッドの間引きが滞り、より強いアンデッドはどんどん生まれてしまいますよ?」

 

 

 へー、アンデッドって放っておくとそんな風に発生していくのか、俺は知らなかったなー。

 空気になろうとぼーっと思考するモモンガ。

 二人の煽り合いを聞きながら、面倒くさい上司が集まるとこんな感じだったなと嫌な記憶を思い出す。

 

 

「無論その事をふまえて早急にアンデッドを倒す部隊を編成しているし、こちらにはフールーダ・パラダインという存在がいる。そちらこそどうなのかな? 王国にあの化け物を倒す術がお有りかな?」

 

「老齢のお爺さんを酷使するなんて…… 帝国は人材不足ですか? こちらにもガゼフ・ストロノーフという存在がいるので問題はありませんよ。秘宝を装備した彼は周辺国家最強ですから」

 

 

 ネムを連れてこなくて良かった。ブレインなんて飽きて寝そうになっている。仮面をしてても分かるぞ。

 

 

「はぁ、不毛な話はやめて本題に入らせてもらいたい。一体何が言いたくて来たのかね?」

 

「確かに毛が無いのは大変ですね。あの化け物を倒す人材が不足している帝国を王国が善意で手伝ってあげます!! これで頭皮の―― あっ、失礼しました。カッツェ平野の問題は解決ですよ!!」

 

「我が国はフールーダ以外にも十分な人材がある。そちらに借りを作るほど逼迫はしていない。王国こそ黄金のメッキでも溶かして人材育成の費用に充てた方がよろしいのでは?」

 

 

 皇帝って凄いな。あんだけ煽られたら普通の人は表情に出るだろうに…… あとラナーが遊びすぎだ。

 

 

「困りましたねぇ…… 事は周辺国家全体に関わる問題ですので、証拠もなく信じるわけには…… そうですわ!! お互いにアレを倒すだけの力があると示せば良いのです!! あのアンデッドを倒すには量よりも質が重要です。フールーダ様とガゼフ様の実力は十分に分かっています。ですのでその方以外でアレを倒せる者をお互いの国から選出して、実力を示す交流試合をしませんか?」

 

(長々と話していると思ったら、ラナーはそういう風に持って行きたかったのか……)

 

 

 ラナーの話を聞いて、モモンガはなぜ今回ブレインが連れてこられたのか理解した。

 

 

「確かに相手を納得させるだけの材料を示すのは道理だ。その試合を承諾してもいいが、まさか依頼すれば良いだけの冒険者を選手にするとは言わんだろうな?」

 

「ええ、勿論です。いざ討伐するとなったら冒険者の御力もお借りしますが、今回はそれでは意味が無いですからね」

 

(一体何を考えているこの女…… 王国のアダマンタイト級を使わずにアレを倒せるのか? ハッタリで此方を退かせようとしている?)

 

 

 間違いなく試合の結果によっては何かしらの要求があるはず。勝負せずにその要求を通そうとしているのかもしれないが、人材が無いと言われたままでは此方も退くのは分が悪い。寧ろここで王国の脆弱さを知らしめる事が出来れば、手持ちの札が一枚増える事にも繋がる……

 

 

「良いだろう。ああそうだ、アンデッド討伐のためと言うのならばチーム戦にしようじゃないか。六人以下の集団対集団で試合をしよう」

 

(ふっ、こう言えばお前は人数を揃えられん。知っているぞ。戦争の度に農民を徴兵して専業兵士が少なく、度重なる問題で王国には今ロクな兵士が残っていない事。王国では魔法詠唱者(マジックキャスター)の評価が低く、宮廷魔術師のレベルが低い事。それで我が帝国を超えるチームなど組めるものか!!)

 

 

 此方には四騎士、そしてフールーダの弟子達がいる。フールーダの弟子達の中には第4位階を使える程の凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)もいるのだ。前衛と後衛で十分な実力を持ったチームが組める。

 

 勝った。

 

(ハッタリが効かなくて残念だったな!!)

 

 

 この会議で一番の良い笑顔をしてラナーの顔を見るジルクニフ。

 

 

「それは良いですね!! では日時を決めましょうか」

 

 

 余りにもあっさり了承されてしまった。

 ラナーの笑顔に不気味さすら感じたジルクニフだったが、こちらからも提案した以上もう止まることなど出来ない。瞬く間に試合の日程は決まった。

 

 今のクライムの家庭教師などジルクニフは知らなかった…… 彼の失敗、不運はそれだけだろう。

 

 

 



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修行の成果

 ラナーの平和を取り戻す策略により、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は交流試合を行うことになった。

 出場する選手の選定と仕事の調整のため、例のアンデッドに出来るだけ早く対応しなければならない等の理由から、試合が行われるのは5日後。

 それまでの間暇となったモモンガ達は、のんびりと観光を楽しんでいた。

 もちろん魔法でこっそりとネムとエンリを連れて来て、試合前日まで一緒に楽しんだ。

 

 試合の前日までフールーダの弟子と連携訓練をしていた、真面目な帝国四騎士とは対照的である。

 

 そして試合当日――

 

 

「今日は我が帝国が誇る四騎士と優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)の実力をお見せしよう。我々のチームは五人だが王国側は何人かな? 別にこちらより一人多い六人でもルール通りだから構わんよ」

 

 

 人数など用意出来まいと確信しているからこその、余裕の態度を見せるジルクニフ。

 

 帝国側のメンバーは雷光バジウッド・ペシュメル、モモンガが使っている物よりは小さいが、グレートソードを扱う見た目通り豪快な戦士だ。

 撃風ニンブル・アーク・デイル・アノック、一般的なサイズのロングソードを使い、育ちの良さが出ているのか実直な剣術を扱う。

 重爆レイナース・ロックブルズ、四騎士唯一の女性で最強の攻撃力を誇る槍使い。

 不動ナザミ・エネック、両手に盾を持つ珍しいスタイルだがその防御は一級品である。

 そしてフールーダの弟子、第4位階の魔法を扱える一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)

 

 頭の中で長い説明がよぎったジルクニフ。まるで勝ち筋まで見えるようだとほくそ笑む。

 

 

「ではこちらのメンバーを紹介しますね。クライムとその家庭教師です」

 

 

 そこにいるのはラナー御付きの兵士と仮面をつけた謎の人物。

 たったそれだけで挑もうなど馬鹿げているとしか言えない。人数も規定の三分の一とはなめられたものだ。

 

 

「王国はやはり人材が不足しているようだ。六人以内とは言ったがたったの二人しか用意出来ないとは……」

 

「多ければ良いというものではないですから。あっ、髪は量も大事ですけどね。それにしても皇帝陛下はストレスでも溜まっているのですか? 髪の艶がよくありませんよ。量も無ければ質まで悪いなんて…… そうだわ、ここで言うのも何ですけど、こちらが勝ったら10年程王国に戦争を仕掛けてくるのはやめてくれませんか? もちろんお互いに不可侵の条件で」

 

「ええい、構わん!! その代わりこちらが勝ったら、化け物討伐の費用はそちらに7割負担してもらうからな!!」

 

 

 思わず口走ってしまった。相変わらずこの女は…… 

 そんなことを言ったらお前の護衛の一人は禿げじゃないか。髪どころか頭皮も無いくせに。

 

 

「クライム、相手は前衛が四人と魔法詠唱者(マジックキャスター)が一人…… やる事は分かってるな?」

 

「はいっ!! 最初から全力でいきます!!」

 

「気合は十分だな。姫様に修行した剣を見せてやれ」

 

「クライム〜、応援してますよ!!」

 

 

 クライムはラナーの声援を受け、更に気合が増していく。人数差をなんとも思わず勝つ気でいる。

 

 

「ほぉ、あの仮面タダもんじゃねえな」

 

「ええ、腰に下げている武器も…… 確か刀という南方に伝わる珍しい武器のはずです」

 

「……」

 

「はぁ、こんなのに駆り出されるなんて……」

 

 

 四騎士の内の一人を除いてバジウッド達は冷静に相手を観察しており、人数が少なくとも油断はしていない。

 

 

「それではバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の交流試合を始めます。禁則事項は基本的にありませんが、命を奪う事だけは禁止とします。それでは、試合開始!!」

 

 

 審判の合図と共に、ブレインとクライムは武技を使いながら全力疾走で相手に向かっていく。

 

 

「「うおぉぉぉっ!! 武技〈能力向上〉」」

 

 

 まさかの開始と同時の突撃に一瞬呆気にとられるが、四騎士の名は伊達では無い。

 相手の狙いを即座に判断し、後衛まで行かせないようにブロックしようと対応する。

 

 

「四人同時に抑えてみせる!! 〈四光連斬〉」

 

 

 四騎士もまさか、あのガゼフ・ストロノーフと同じ武技を使ってくる事は流石に予想外だったようだ。放たれた四つの斬撃は正確に四騎士を捉え、それぞれの動きを少しだけ鈍らせる。

 

 

「うおぉぉぉぉっ!! 武技〈脳力解放〉」

 

 

 その隙にクライムは更に武技を重ねがけし、四騎士の横を通り過ぎて魔法詠唱者(マジックキャスター)に迫る。

 

 

「っ!! 〈魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

 

 遅れて動き出した相手の魔法詠唱者(マジックキャスター)は反撃するが、ラナーに同じものを撃たれ続けた彼は数発当たった程度では怯まず止まらない。

 

 

(まだだっ!! 相手は走りに集中しすぎて剣に手をかけていない。あの体勢から剣を振るうなら、その隙にもう一度魔法を放てる!!)

 

 

 実戦経験は少ないが、自らの魔法の速度から確かな勝機を見つけるフールーダの弟子。

 

 

電撃(エレクトロ・ス)――」

 

 

 ――クライムはそのままタックルした。

 

 

 その後の展開はブレイン無双なので割愛。

 強いて言うのならばクライムが剣を抜く事は無かった……

 

 

「手に汗握る良い試合でしたね!!」

 

「ああ、まるでアメフトの試合を観ているようだった」

 

 

 モモンガは実際のアメフトを見た事などほぼ無いが、漫画やアニメで見たような光景だった。

 

 こうして同盟は無事に締結され、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国に10年間の平和が訪れる事になる。

 

 もう残しておく必要が無くなったので、カッツェ平野の魂喰らい(ソウルイーター)の内9体はこっそりとモモンガが片付けておいた。

 

 暫くはカッツェ平野で兵士や冒険者の巡回が多くなるかもしれないが、残り一体を両国が協力して倒すことでいずれ丸くおさまるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村に住むアダマンタイト級冒険者の少女、ネム・エモットは好奇心の強い子供だ。

 普段から姉やモモンガに色々質問していたが、冒険者となってからはより色々なモノに興味を示すようになっていた。

 そんなネムが次なるターゲットにしたのは、モモンガのお腹辺りに浮いている様に収まっているアレ。

 鎧姿の時は見えないが、ローブ姿の時や温泉に一緒に入った時には気になって仕方なかった。

 あの赤く光る玉はなんなのか、今日こそはとモモンガの家に突撃していく。

 

 

「おお、ネムか。いらっしゃい、今日は冒険者の仕事をする予定も無いがどうしたんだ?」

 

「こんにちは、モモンガ様!! 実はお腹の赤い玉を見せて欲しいんです!!」

 

 

 どうやらネムはモモンガ玉に興味を持ったらしい。

 アイテムに興味を持つとは中々お目が高い。

 

 

「ああ、これは危ないから渡す事は出来ないが、触るくらいならいいよ」

 

 

 そう言ってネムの手が届くように椅子に座り、膝の上に乗せてあげるモモンガ。

 

 

「凄いです。凄い力がある気がします!!」

 

「これは私が持っているアイテムの中で一番レアリティが高いからな。とても凄いんだ」

 

 

 これを使って1500人を返り討ちにしました、なんて事は流石に言えない。

 

 浮いているのにネムが触ってもビクとも動かない。ネムは不思議そうに何度も指で突いている。

 

 

「どうやってくっ付いているんですか?」

 

「うーん、私もどうしてこうなっているのかは知らないな……」

 

「モモンガ様でも知らないなんて不思議ですね」

 

「ああ、私の知っている事はほんの僅かなことだよ。世の中はまだまだ不思議でいっぱいだ」

 

「そうなんですね」

 

「そうなのだよ」

 

 

 これは特に何も起こらなかった、骨と幼女の平和な日常である。

 

 

 



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モモンガは悟

 スレイン法国がかねてより裏で動いていた、バハルス帝国にリ・エスティーゼ王国を吸収させる計画。それが頓挫した事で、上層部は新たな対応を考えなければならなくなっていた。

 

 

「バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国が10年間の不可侵条約を結んだようだ……」

 

「表向きはカッツェ平野に現れた未知のアンデッドに、両国が力を合わせて対応するためとなっているが……」

 

「風花聖典によると魂喰らい(ソウルイーター)が現れたとか――」

 

 

 難航する会議が続き上層部が出した答えは、10年間静観する程人類に余裕は無いとの結論だ。

 10年あれば王国が多少力を取り戻し、帝国が王国を併合するのに更に時間がかかってしまう。

 よって、強行策に出ることになった。

 

 

「出来ればやりたくはなかったが、悠長な事は言ってられん。我ら法国が帝国と王国、二つを率いて人類を纏め上げる」

 

「戦争以外の方法で彼らを降伏させ、法国も含めた新たな同盟を組ませるしかありませんな。これ以上人間同士で争う余裕もない」

 

「そうじゃな、同盟が組まれた今となってはガゼフをどうこうする段階を越えてしもうた」

 

「左様、その同盟に法国を加えた新たな三国での同盟を結べるようにし、その上で力を見せつけて我らが主導権を握る」

 

「秘宝を使用する。帝国の最高戦力フールーダ・パラダインとリ・エスティーゼ王国最強の冒険者の力。それを我らが簡単に支配下における事を一度見せ、各国に圧力をかける」

 

「苦しい策ですがやむを得ないですな。支配する能力は単純な武力よりも、相手に分かりやすい恐怖を与えるでしょう」

 

「異議はない。一部の漆黒聖典とカイレを招集する。『ケイ・セケ・コゥク』の使用を許可し、まず対象とするのは冒険者の――」

 

 

 今まで静観していた法国が、人類を纏め上げ滅びから救うという大義のもとついに動き出す。

 

 

 

 

 

 トブの大森林にある家で、モモンガはこの世界に来てからの出来事を思い返していた。

 

 

「思えば色んなことがあったな……」

 

 

 リアルでユグドラシルが終わり、訳も分からぬまま異世界に飛ばされた。

 自分が人では無い存在だと自覚したり、今まで出来なかった事をしてみようと自ら積極的に人と関わろうと動いて見たり。

 失敗もたくさんあった。様々な事を経験してきた。

 まだこの世界に来て一年も経っていない筈なのに、数え切れないほどの思い出がある。

 

 

「原点回帰って訳じゃ無いけど、また一人で何処かに出かけてみようかな」

 

 

 別にここを去ろうとかそういう訳では無い。偶には一人で行動するのも悪く無いかもと思っただけだ。

 今までのモモンガならこんな風に思う事は無かっただろう。自分には帰ってくる居場所があるという安心感が、こんな行動すらも出来るようにしたのかもしれない。

 

 

「またリアルで出来なかった事をしてみたいけど…… っは!!」

 

 

 モモンガが思い出したのはギルドのある仲間と話していた事。リアルでは環境汚染の問題から屋外でするスポーツは消え、全て室内で行えるものが主流となっていた。

 そもそもスポーツを楽しむ余裕があるのは富裕層のみだったため、モモンガはロクに体を動かした事もない。

 

 

「そうだ、ブループラネットさんも経験した事が無いという究極のスポーツ。大自然を体感し、走破するモノがあったとか…… 名前はたしかトライアスロン!!」

 

 

 やってみよう。運動なんてロクにやった事はない。いや、だからこそやる価値がある!!

 

 

「えーと、自然の中を走って、泳いで、飛ぶんだったか? 順番は覚えてないけど公式的なものでも無いし適当でいっか」

 

 

 出かける前にネムやエンリに〈伝言(メッセージ)〉だけ送り、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使って自然のある場所を数カ所ピックアップする。

 準備はそれだけ、後は動くのみ――

 

 

「――凄い!! これが雪か!! 本当に白くてふわふわなんだ。ああ、冷たい!!」

 

 

 アゼルリシア山脈を飛び回り……

 

 

「これが海というものなのか!! 生きた魚が泳いでる姿を生で見られるなんて感動だ!!」

 

 

 王国の西にある真水の海の中をもがき……

 

 

「トブの大森林とはやっぱり違う植物も多いなぁ」

 

 

 エイヴァージャー大森林をターザンの如く通り抜け……

 

 

「ああ、本当に何も無い!!見渡す限りの砂だ!!」

 

 

 南方の砂漠を走り回った。

 感動が最高潮に達する度に種族特性で邪魔をされ、気分が落ちては転移の魔法で別の場所に行った。

 ただ純粋な衝動にまかせて、色んな所を全力で駆け抜けて行く。

 当たり前だが本来のトライアスロンは、こんな超次元的スポーツでは無い。

 

 気の向くままに砂漠を走り回っていたモモンガだが、急に虚しくなって立ち止まる。

 

 

「なんだろう…… どれもリアルでは味わえない凄い体験だった筈なのに……」

 

 

 何か足りない。

 これ以上スポーツをする気分では無くなったモモンガは、トブの大森林にある自分の家に戻った。

 

 

「あれ? お姉ちゃん、モモンガ様戻って来たよ」

 

「どうしたんですか? 今日は出かけてくるって言ってたのに」

 

 

 二人の顔を見るとホッとした気分になる。

 別にここはネムやエンリの家ではないし、絶対にいるという確証も無かった。

 それでも二人の顔を見れるんじゃないかと期待していた。

 

 

「ただいま。ちょっと自分を見つめ直してきただけだよ」

 

 

 モモンガがそんな事を言うなんてと、エンリの驚く顔が目に入る。そんなある意味いつも通りの反応が今のモモンガには嬉しかった。

 

 

「モモンガ様、おかえりなさい!!」

 

「ああ、ただいま。ネムよ、実は今日は凄いものを見てきたのだ!!」

 

 

 そうだ、一人で何かをしてもつまらない。楽しいのは共有出来る誰かがいるから。

 

 

「おーい、モモンガ。また修行に来たぞ」

 

「相変わらずだなブレイン、じゃあ外に出て早速やるか。今日の私は悟りを開いたから強いぞ」

 

 

 自分を訪ねに来てくれる友がいる…… これもリアルでは無かった事の一つだ。

 

 

「相変わらずなのはお前もだぞ。今言ってる事もよく分からんし、お前自身も謎だらけだ」

 

「謎か…… なら知ってもらいたいな。私の過去も一つずつ教えるよ。――さて、何から言おうか…… そうだな、実は私はモモンガになる前、人だった頃は別の名前があったんだ。当時の私の名前はな――」

 

 

 ――モモンガは悟

 

 

 私の、俺の過去は無意味なものでは無かった。鈴木悟があったから今の私が、モモンガがある。今この場所で好きな事を出来る力となっている。

 

 私の大切なものは、今ここに――

 

 

 

 

「――今だ!! カイレ、やれっ!!」

 

 

 突如飛来した龍の形をした光が、モモンガの全身を包み込む。

 その光を受けてから、モモンガはピクリとも動かない。

 

 

「アダマンタイト級冒険者ネム・エモット。貴方の使役するアンデッドは、人類の為に我々スレイン法国が利用させていただきます」

 

 

 現れたのは統一性の無い服装をしている、性別も年齢もバラバラの集団。

 しかし、モモンガなら一目で分かる特徴が一つ…… 全員がユグドラシル産の装備を着けている。

 

 

「てめぇらイキナリなんなんだ? モモンガに何をした!!」

 

「今言った通りです。そのアンデッドは我々が支配した。それだけです」

 

 

 相手のあまりの言い草にブレインはぶん殴りたい衝動に駆られたが、戦士としての経験がそれを抑える。

 あの槍を持った青年は自分よりも強いと、危険であると生存本能が訴えている。

 だがそれでも――

 

 

「モモンガ様!! 大丈夫ですか!!」

 

「ん? ああ、大丈夫だよネム」

 

 

 ブレインが覚悟を決めた時に、ネムの問いかけにアッサリとモモンガは答えた。

 

 

「そんな馬鹿な!? 神の秘宝の力を退けただと!? カイレ!! どうなっている!?」

 

「理由は分からん!! とにかく力が弾かれた!!」

 

 

 謎の集団が焦り出した事とモモンガのあっけらかんとした様子を見て、ブレインもなんだか気が抜けてしまった。今決めた覚悟を返してほしい。

 

 

「無事ならちゃんと反応してくれよ……」

 

「すまんすまん。相手の使ったアイテムに驚いていたんだ」

 

 

 モモンガからは簡単に返される。

 今更だがコイツが支配なんてされるはずが無かったと、先ほど慌てたブレインは苦笑いしか出ない。

 

 

「貴方はその子供に使役されているはずだ!! その子の支配力が神の秘宝より上だとでも言うのか!?」

 

「当たり前だ!! ネムの可愛さは神をも超える!! それにそんな婆さんにチャイナ服なぞ、派手すぎて似合う訳が無いだろう。私を支配したければもっと可愛さを高めてくるんだな!!」

 

 

 堂々たる啖呵を切ったモモンガ。

 前半は本音だが、後半は大嘘である。

 

 

「くっ、予定が狂いました。ここは撤退します」

 

 

 法国の特殊部隊は切り札を防がれた事で動揺し、特に何も出来ずに去っていった。

 

 世界級(ワールド)の効果は世界級(ワールド)を持つ事で防げる。

 ユグドラシルでは常識で、知らないのはゲームを始めてすぐの初心者くらいである。

 

 絶対の自信を持っていたのかもしれないが、一つの手段が防がれただけであの慌てよう…… 世界級(ワールド)アイテムを持っている事は驚異的だが、陽光聖典といい今の集団といい、法国の特殊部隊ってやっぱりその程度なのかと評価を下げるモモンガ。

 

 

「……モモンガ様って実はロリコンですか?」

 

「断じて違う」

 

 

 エンリからのモモンガの評価も危うく下がりかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイレより可愛くて、最強の私がこれを着たら言う事を聞くしかないわよね!! 私と戦って敗北を教えてみなさい!!」

 

(お前らも信じるのかよ……)

 

 

 その後、能力も発動出来ないのにチャイナ服を着てモモンガの元にやって来たのは、髪と目が左右で白黒に別れた少女。

 

 某番外ちゃんは敗北を知れたとか、知れなかったとか……

 

 

 

 

 

 



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ifルート モモンガは悟 前編

「モモンガは悟」のifルートになります。
本編の軽い感じとは少々異なりますので、ご注意ください。


 スレイン法国がかねてより裏で動いていた、バハルス帝国にリ・エスティーゼ王国を吸収させる計画。それが頓挫した事で、上層部は焦りを感じていた。

 

 

「バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国が10年間の不可侵条約を結んだようだ……」

 

「表向きはカッツェ平野に現れた未知のアンデッドに、両国が力を合わせて対応するためとなっているが……」

 

「風花聖典によると魂喰らい(ソウルイーター)が現れたと」

 

 

 難航する会議が続き上層部が出した答えは、10年間静観する程人類に余裕は無いとの結論だ。10年あれば王国が多少力を取り戻し、帝国が王国を併合するのに更に時間がかかってしまう。

 

 その答えが、最も愚かな策をとる事になる。

 

 

「出来ればやりたくはなかったが、悠長な事は言ってられん。我ら法国が人類の守り手たる力を見せ、帝国と王国の二つを率いて人類を纏め上げる」

 

「戦争以外の方法で彼らを降伏させ、法国も含めた新たな同盟を組ませるしかありませんな。これ以上人間同士で争う余裕もない」

 

「そうじゃな、同盟が組まれた今となってはガゼフをどうこうする段階を越えてしもうた」

 

「左様、その同盟に法国を加えた新たな三国での同盟を結べるようにし、その上で力を見せつけて我らが主導権を握る」

 

「秘宝を使用する。例の少女を支配し、その力を使い各国に圧力をかける」

 

「人類のためだ。死ぬ訳では無いし、一人の少女の犠牲など安いものだ」

 

「異議はない。一部の漆黒聖典とカイレを招集する。『ケイ・セケ・コゥク』の使用を許可し、王国のアダマンタイト級冒険者のネム・エモットを支配させる」

 

「これで少女が竜王国で召喚したという天使の力も、使役しているアンデッドの力も手に入る事になる。人類は救済へとまた一歩進める」

 

 

 法国の滅びは確定した。

 切り捨てた安い犠牲が、何よりも重いものと知らずに……

 人類の存続を願うあまり、己が道を踏み外した事にも気づかずに……

 

 

 

 

 

 モモンガが一人で出かけているのは知っていたが、何となくモモンガの家にやって来たネムとエンリ。

 偶には二人でのんびりしていると、ブレインがモモンガに会いにやって来た。

 

 

「おーい、モモンガ。また修行に来たぞ。って居ないのか?」

 

「いらっしゃいブレインさん。モモンガ様は今日はどこかに出かけてくるそうですよ」

 

「今日はお姉ちゃんとのんびりしてます!!」

 

「いつもネムちゃんと一緒の気がしてたから、特に理由がなくモモンガが一人ってのは珍しいな……」

 

 

 ブレインの持つイメージだと、モモンガはいつもネムを肩車している感じだ。わざわざ一人で出かけてるとなると、何か問題でもあったのかと心配するくらいだった。

 

 

「まぁそんな時もあるか。よしっ、それならネムちゃん、俺が新しい技を覚えたから見てみないか? モモンガもまだ知らないとっておきだぞ」

 

「見たいです!!」

 

 

 ブレインの剣など元々ネムには一切見えないのだが、モモンガも知らないという所に惹かれたのだろう。エンリと一緒に森の開けた所に行き、新しい技とやらを見せてもらう事にした。

 

 

「ふふふ、じゃあ見てろよ。これが―― っ誰だ!!」

 

「――流石は王国戦士長と互角と言われるだけはありますね。とても鋭い感覚をしているようです。しかし、今回は貴方が目的ではないのです」

 

 

 現れたのは統一性の無い服装をしている、性別も年齢もバラバラの集団。

 もしここにモモンガがいれば、一目で分かる特徴が一つ…… 全員がユグドラシル産の装備を着けている。

 

 

「アダマンタイト級冒険者ネム・エモット。貴方には人類の為に我々スレイン法国の元に来て頂きます。先に言っておきますが抵抗しても無駄ですよ。貴方の意思を殺してでも連れて行きますから」

 

 

 集団の先頭に立つのは槍を持った若い男。彼の眼からは、どんな事をしてでも連れて行くという意思が感じられた。

 危険なものを感じ取ったのかエンリはネムを抱きしめており、ネムも怯えている。

 

 

「人類の為と言いつつ物騒じゃないか。洗脳でもするってのか?」

 

「当たらずとも遠からずですね。だが、貴方は知る必要がない。邪魔をするなら排除するだけです」

 

 

 ブレインは二人を庇うように前に出るが、この集団から感じるプレッシャーは並ではない。特に先頭の若い男からは、他のメンバーとは比べられない程の尋常ではない気配がする。

 

 

「巨盾万壁はカイレ様の護衛。人間最強と神領縛鎖は対象の確保、傷をつけぬように武器は使わずに。私が彼の相手をします」

 

 

 彼の言葉と共に周りの人間が動き出す。彼はかなり若いが集団のリーダーである事に間違いはなく、実際周りも隊長と呼んでいる。

 言葉を終えると同時に放たれた槍は、一流の戦士でもまず防げないような洗練された必殺の一撃だったが、それでやられるブレインでは無い。

 

 

「くっ!! いきなり攻撃してくるとはな、物騒にも程があるぞ…… しかも、これで武技無しとか無茶苦茶な野郎だ。武技〈領域〉〈能力向上〉――」

 

「今のを防げただけで賞賛に値しますよ。貴方は普通の人間としては最も強い領域にいると言えるでしょうね。武技〈能力向上〉――」

 

 

 ブレインは武技を重ねがけして押し返そうとするが、相手も同じように武技を使ってくるため身体能力の差は埋まらない。

 

 

「何故あの子を狙う!! 冒険者とはいえ只の子供だろう!!」

 

「先程から言っているように人類の為です。あの子一人が犠牲になる事で人類は纏まる。人類は一刻も早く纏まらなければ、亜人やモンスターに滅ぼされてしまう」

 

「それがどうあの子に繋がるんだ!! あの子一人の犠牲だと? ふざけるな!!」

 

「あの子の力は子供が持つには危険すぎる。しかし、我々が管理する事で人類を滅びから救えるのです」

 

 

 激しい剣と槍の応酬が続く中、紡がれる言葉は一向に理解できない。

 六大神を信仰し、人類至上主義を絶対の正義とする法国と自らの正義を信じるブレインでは噛み合わない。

 

 

「貴方も正義を志しているのでは? 我々と共に来れば、より多くの人を救えますよ」

 

「子供を攫うような正義なんぞクソ喰らえだ!! 〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)・剪定〉!!」

 

「そうですか…… 残念です。はぁっ!!」

 

 

 全てが急所へ必中する、ブレインの神速の同時六ヶ所攻撃。

 しかし、槍を構えた隊長はいとも簡単に全てを薙ぎ払い、そのままブレインを切り裂く。

 

 

「ぐふぅ!?」

 

「貴方の装備が私と同等の物ならば、もう少し手こずったかもしれません…… しかし、今の貴方ではそれが限界です」

 

 

 まだブレインは倒れない。

 斬られても闘志は衰えず、刀をしっかりと握って振るい続ける。

 

 

「しぶといですね。力の差は分かった筈です。能力も装備も貴方は何一つ私に及びません」

 

「そんな事は分かってるよ。これでも自分より遥かに強いやつも、あり得ないほど豪華な装備品も見てきたんでな……」

 

「貴方の今までの情報は少しだけ得ています。貴方は確か人々を救って回っていたはずです。正義の味方として行動したならば、大勢を救うために一人を見捨てる必要が出てくる事も分かっているのではないですか?」

 

「俺は剣しか振ってこなかった馬鹿野郎だ。だからきっとお前の言う正義の方が多くを救えるんだろうし、正しい事なのかもしれん。だが、それでも認められない」

 

 

 正義の味方を目指している。こちらの言い分もある程度理解し始めている。

 武器を打ち合う度に少しずつ傷を増やし、それでも折れないブレインに隊長は少しの苛立ちを持って問いかける。

 

 

「ならば何故っ!!」

 

「……お前は知っているか? 馬鹿みたいに強いのに、子供が薬草採取をしている姿を嬉しそうに見守るだけの男を。どんな人間だって支配出来る力があるのに、対等な関係を望んで大切にする男を」

 

 

 先の読めない話を続けるブレインに苛立ちが増していき、隊長はさらに強い攻撃を浴びせる。

 

 

「ぐっ!! 分かるか? どれだけ力を得ても、大切なものさえ守れればそれ以外要らないという女を。自分一人で何でも出来るのに、俺が強くなるまでわざわざ手伝うと言った優しい男を。……俺はそいつらが大切にしているモノを知っている!! お前なんぞよりよっぽど強いやつを知っている!! だから俺はお前がどれだけ強くて正しくても、退くわけにはいかないんだよ!!」

 

「そんな個人が大切にするものが何だと言うのですか!! 人類の全てから見れば、そんなちっぽけなモノに価値など無い!! そんな正義はありはしない!!」

 

 

 再び深くブレインを斬りつける。

 この男と戦っていると何故か心が騒つく。自分の方が遥かに強い、力も装備も負ける要素などどこにもない。

 この男が言う事は人類の現状が見えていない、愚か者の世迷いごとに過ぎない。

 自分は何一つ間違ってなどいないのに……

 

 

「ああ、だから今の俺は正義の味方じゃなくていい。あいつらの友として…… ブレイン・アングラウスとして!! これだけは譲れねえ!!」

 

 

 全身傷だらけのブレインが隊長に突っ込み、ボロボロの体で肉体の負荷など考えない渾身の技を叩き込む。

 

 

「本当はアイツの〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を防ぐ為に使いたかったんだがな。頭の固い正義しかないテメェに拝ませてやるよ!! 武技〈十光連斬〉!!」

 

「っ!!――」

 

 

 ――ここにきて繰り出されたのは、この戦いの中で一番強力なブレイン渾身の攻撃。

 一瞬の内に放たれた神速を誇る十度の同時斬撃。

 

 今までの攻防に限界を迎えていたのか、最後の武技に耐えきれなかったのか……

 ブレインの握りしめる刀は折れていた。

 ぽたり、ぽたりと血が流れる――

 

 

「――かすり傷とはいえ、彼女以外に傷を付けられたのはいつぶりでしょうか。貴方の武器がもう少し強ければ深手を負った可能性もあったでしょう。ブレイン・アングラウス、技も精神の強さも素晴らしい戦士でした。貴方のような人が人類の為に我々と動いてくれたらと本当に思いますよ……」

 

 

 首筋に僅かな切り傷があるものの、隊長はほぼ全ての攻撃を防いでいた。

 そして、その手に持つ槍の先はブレインの脇腹を貫いていた。

 槍を引き抜くと血があふれ出し、地面を赤く染める。

 折れた刀を握りしめたまま、ブレインはとうとう倒れた……

 

 

 

 

「隊長とあそこまで戦えるなんて、俺たちじゃ絶対勝てなかったな。おい、人間最強。いつまで遊んでるんだ。こっちも手伝えよ」

 

「おお、すまんな神領縛鎖。まさか俺と力比べ出来る村娘がおるとは思わなくてな。思わず遊んでしまったわい」

 

「お前と力比べができる時点で化け物じゃないか。こっちはフル装備だが、そいつ何も付けてないんだろ?」

 

 

 ネムを逃さないように立ち回る二人を前に、途中からエンリはネムを守るべく人間最強に立ち向かった。

 しかし、いくら相手が武器を使わなくとも漆黒聖典は戦闘のプロ中のプロであり、なにより装備が桁違いだった。

 そのせいでエンリは既に気絶させられてしまっていた。

 ネムが捕まっていないのは、モモンガの与えた行動阻害に対する完全耐性の装備のおかげである。捕縛しようとする限りネムが捕まる事はない。

 

 

「その子の付けている物に何かカラクリがありそうですね。神官長はこれを見越していたのでしょうか?」

 

 

 ブレインを倒した隊長がこちらに向かって歩いて来る。そして、ネムの手を見るなり判断を下す。

 

 

「念のためこの場でも行えるようにカイレ様も連れてきて正解でしたね。カイレ様、『ケイ・セケ・コゥク』を使用してください」

 

 

 カイレは頷くと、着ているチャイナ風ドレスの龍の刺繍が輝き出す。

 そして、その光は龍の形となってネムに向かって飛んでいき――

 

 

「――……武技〈不死の英雄(モモンガ)〉――」

 

 

 

――ネムは光を前に思わず眼を瞑ってしまったが、数秒経っても何も起こらず恐る恐る眼を開けた。

 そこには両腕を広げ、血を流すブレインの背中があった。

 

 

「ブレイン…… さん?」

 

 

 ブレインからは何の反応もなく、両腕を広げたまま立ち尽くしていた……

 

 

「馬鹿な…… あの状態から動けるなど……」

 

 

 隊長は驚いているようだが、これはブレインの本当に最後に使った武技〈不死の英雄(モモンガ)〉の効果である。

 ブレインは面と向かっては認めないかもしれないが、これはモモンガに憧れて編み出した武技だ。

 モモンガのように死んだ後まで自分は思うように動ける訳ではない。

 ならば、自分は死ぬ寸前まで自分のやりたいように出来るようにと、尊敬と願いをこめた武技を編み出した。

 たとえどれだけ身体がボロボロでも、普段通りの動きが出来る武技。

 怪我が治るわけでも、痛みが消えるわけでもない。

 最後まで諦めないだけ、ただ動けるだけの武技。

 

 

「支配は成功…… じゃが、支配出来たのはその男じゃ。任務としては失敗じゃな」

 

「……仕方ありません。これは予想外でした。カイレ様、この男を時間稼ぎに使います。予定以上に時間を使っているので、万が一あの使役アンデッドが戻ってきたら大変です」

 

 

 隊長は冷静に判断を下し、ある意味支配より使いたくなかった手段を取る。

 

 

「ネム・エモット、我らと共に来て力を振るいなさい。そうすれば彼と貴方の姉は見逃しましょう」

 

 

 それを言われたらネムはどうすることも出来ない。捕縛はされないが、自らの意思でついて行くしか無かった……

 

 

「助けて…… モモンガ様……」

 

 小さな声でつぶやくが、応えてくれる人は誰もいない。

 頭の中で考えるのは二人とモモンガの事。

 しかし過去のように奇跡は起こらず、モモンガは来なかった……

 

 

 

 

 



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ifルート モモンガは悟 後編

「ifルート モモンガは悟」の続きになります。
本編とは関係ない話としてお楽しみください。


 ひとしきりスポーツを楽しんだ後、なんだか無性にネムとエンリに会いたくなってトブの大森林に戻ってきたモモンガ。

 

 家の近くで目に入った光景に驚愕する。

 明らかに戦闘があったと思しき痕跡の数々。

 さらには全身傷だらけのブレインが血を流しながら立っており、その後ろにはエンリも倒れている。

 思わず固まってしまうが、アンデッドの種族特性で無理やり平静を取り戻させられる。

 

 

「ブレインっ!! 何があった!? なぜエンリが倒れている!? 早くお前も治療しないと――」

 

 

 ちゃんと見てないので断定は出来ないが、辺りを染める血を見る限り重症なのはブレインだ。脇腹あたりが特に真っ赤に染まっている。

 

 

「――俺は命令によりお前を足止めする」

 

「なっ!?」

 

 

 明らかに様子のおかしいブレインを見て即座に距離を取る。魔法で洗脳か支配されていると考えたモモンガは、アイテムボックスからある指輪を取り出して着ける。

 

 

俺は願う(I WISH)!! ブレインにかけられた全ての効果を打ち消せ!!」

 

 

 モモンガが使ったのは流れ星の指輪(シューティングスター)という超々レアアイテムで、超位魔法〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉を経験値消費無しに即座に発動出来る指輪である。

 かつてボーナスを全て課金ガチャに費やし手に入れたものたが、今は緊急事態だ。

 なんの躊躇いもなく指輪を発動させた――

 

 

 ――が、効果が無効化された。

 

 

(馬鹿な!? ありえない…… 超位魔法を無効化しただと!?)

 

 

 超位魔法を超える魔法などモモンガは知らない、あるはずが――

 ――いや、ある。

 一つだけ超位魔法すら超える力を思い出した……

 モモンガのお腹に付いているものと同クラスのアイテム。すなわち、世界級(ワールド)アイテムである。

 もしこれが世界級(ワールド)アイテムの効果だとしたら、モモンガに打てる手は無い……

 

 

「俺はお前を足止めする……」

 

「なぁ、ブレイン。どうしたんだよ…… 修行なら怪我を治してから幾らでも付き合うぞ……」

 

 

 血を流しすぎているのか、顔面蒼白になりながらもブレインはモモンガに向かってゆったりと動く。

 

 

「大事な刀まで壊れてるじゃないか…… それを直すか、新しいのを見つけてからでも良いだろう?」

 

「俺は足止めする……」

 

 

 ブレインはモモンガの目の前で、折れた刀をゆっくりと振り下ろす。

 こちらにダメージなど一切通らない攻撃だが、動くだけでブレインは更に血を流している。

 

 

「……エンリが倒れているんだ。正義の味方ならそっちを助ける方が先だろ?」

 

「最優先は…… お前を止めること、だ。今の俺にとって…… 正義なんて――」

 

「――〈(デス)〉……」

 

 

 モモンガはこれ以上苦しまないように、ブレインに即死魔法を使った。

 モモンガは分かっていた。世界級(ワールド)アイテムを使われた以上、元に戻すには世界級(ワールド)アイテムを使うしか無い事を。しかし、モモンガにブレインを救う効果のある世界級(ワールド)は無い。

 モモンガは分かっていた、死んで生き返ればあらゆる状態異常はリセット出来ることを。

 だが、それでも……

 

 

「すまない、ブレイン…… お前のそれは穢したく無かったんだ。ああ、この世界で初めて蘇生させるのがお前になるなんて…… 上手くいってくれよ『蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)』」

 

 

 ブレインは無事に蘇生し、家のベッドに寝かせておいた。同様にエンリも運んで寝かせた。念のため二人ともにポーションをかけておいたので、このまま安静にしておけば問題ないだろう。

 

 あまりの衝撃に頭が回っていなかったが、モモンガはネムがいない事に気づく。

 

 

「お前には謝ってばかりだが、すまないな。少しだけ記憶を覗かせてもらう。〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉」

 

 

 寝ているブレインの頭に手を置き、記憶を覗いていく。

 それで分かったのはブレインは正義じゃなく、私達の味方をしてくれたということ。

 

 

(ブレイン、お前はやっぱり格好良いよ。自分より強い存在に挑み続けるなんて、俺には出来そうも無い。最後の最後まで、お前は…… 俺はお前が思う程立派なやつじゃないのにな……)

 

 

「――全くブレインめ、あれじゃ未強化の〈魔法の矢(マジック・アロー)〉しか防げないぞ? それになんだあの武技は、人の名前をつけるなんて恥ずかしいにも程がある……」

 

 

 モモンガは静かに家を出る。ああ、もう駄目だ。感情が抑えきれない。

 二人を起こさないように、家から離れた位置にある樹木を手当たり次第に殴り飛ばす。

 

 

「クソっ!! クソッ!! ああぁあぁっ!! クソガァァぁあ!!」

 

 

 怒りは殺意と混ざり合い、頭の中がドロドロとした感情に支配される。アンデッドの精神抑制が発動するが、間欠泉のように噴き出してきて止まらない。

 

 

「法国…… 法国ぅぅ!! 絶対に、絶対にブチ殺してやる!! 俺の友を、家族とも言える二人を!! 村を襲っただけじゃ足らないのか!! あの子達の親を奪っただけじゃ足らないのかぁ!! そこまでして――」

 

 

 モモンガはひたすらに暴れまくる。周りに殴れる樹木は既に無くなり、地面に拳を叩きつけて地割れのようなヒビ割れが起こっている。

 

 

「――あああぁぁっ!! 全て、全て滅ぼしてやるぞ!! お前達の在り方そのものが許せない!! 国ごと全部ぶち壊して、絶望を超える景色を見せてやる!! 地獄に行かせる事すら生温い…… 俺の手で殺して蘇生して殺して蘇生して、魂まですり潰してやる!!」

 

 

 このまま殺意と憎悪のままに飛び出して行きそうだったが、ネムの顔を思い出す。

 ネムを助けに行かなければ。

 その思いがモモンガの憎悪に塗れた思考に、理性をかけら程呼び戻す。

 

 

「っ駄目だ!! ……今の俺じゃ何もかも、怒りだけじゃ止まらない。 殺人欲求に支配されそうだ…… このままではネムすら手にかけてしまう…… それだけは駄目だ!! 誰か、誰か……」

 

 

 ネムを救いたい一心で、残った理性を総動員し〈伝言(メッセージ)〉を使った。

 

 

「ああ、俺だ。実は――」

 

 

 

 

 

 

 

 品のある調度品に囲まれた女性らしい部屋で、モモンガと少女は向き合っていた。

 

 

「話は分かりました。でしたら気をつけるのは――」

 

「――そうか、分かった」

 

 

 〈伝言(メッセージ)〉を受け取ったラナーは相談の内容も聞かずに、モモンガに自分の部屋まで来るように言った。

 何も考えず促されるままこの部屋に来たモモンガは、ネムを救う上での注意事項だけを頭に入れ足早に去ろうとする。

 

 

「モモンガ様」

 

「……なんだラナー?」

 

 

 モモンガは振り返らなかったが、ラナーは自分の骨の手を握って引き止めていた。

 

 

「モモンガ様、私は貴方が化け物になっても構いません。例えそうなっても貴方のお友達でいます」

 

「――化け物になるなとは言わないのか……」

 

 

 モモンガの独り言のような静かな問いかけに、ラナーは笑顔で答える。

 

 

「だってモモンガ様はこんな私とお友達になってくださったじゃないですか。誰かと一緒に何かを楽しむ事も教えてくださいました…… だから私も、貴方が化け物になっても変わらず友人のままです。なので、私がお願いするのは一つだけ――」

 

 

 ――ちゃんと帰って来て下さい。ネムさんと一緒に、貴方も……

 

 

 化け物でも構わない、そんな俺でも帰って来いと言うのか……

 憎悪に囚われ物事を考える余裕が無くなっていたモモンガに、少しだけ心の余裕が出来た気がする。

 

 

「ふふっ、案ずるなラナーよ。私は化け物になんかなったりはしない。例えこの身がアンデッドだとしても、アンデッドには呑まれない。俺は俺だ」

 

「そうですか? それなら私の助言は必要なかったですね。思いっきりやっちゃってください!! モモンガ様が捕まりそうになったら、私が隠蔽でも捏造でも何でもして助けてみせますから!! 帰ってきたら今度はネムさんも一緒に、またみんなで冒険に行きましょう!!」

 

 

 モモンガは手を振り去っていく。

 ぽっかりと部屋に空いた闇が消えた後、ラナーはぼそりと呟く。

 

 

「馬鹿な国ですね。あんなに優しい人を怒らせるなんて……」

 

 

 

 

 

 

 モモンガはスレイン法国の遥か上空で、人々が行き交う街並みを見下ろしている。ちょうど国の真ん中辺りにいるのだが、気付いているものはほぼ皆無だろう。

 今のモモンガの敵はスレイン法国の在り方そのもの。

 そしてそれを体現するのは、1000万を超える多くのスレイン法国に住む民達。

 

 

「俺は化け物にはならない。俺は俺のままお前達を潰す。スレイン法国…… 俺はお前達を決して殺さない、殺してやるものか……」

 

 

 運営の最後の贈り物、『嫉妬する者たちの顔面』により跳ね上がったステータスと共に決意する。

 憎しみに染まったアンデッドのモモンガでは無く、鈴木悟が作り上げたモモンガとして誰も殺さない事を。

 

 

「俺があの世界で生きてきた証。鈴木悟として仲間達と作り上げたモモンガの力を見せてやる。今の俺はモモンガとして生きている。だが鈴木悟であった過去は絶対に捨てない。ユグドラシル最凶最悪の悪のギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターのやり方!! その絶対なる報復を思い知るがいい!!」

 

 

 仲間達との思い出の結晶である杖を持ち、モモンガは魔法を唱える。

 

 

「お前達の大切にしていたモノ。信じている神の遺産とやらを全てぶち壊してやる。〈魔法効果範囲拡大化(ワイデン)魔法位階上昇化(ブーステッド)魔法最強化(マキシマイズマジック)上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉!!」

 

 

 国の全てを覆いつくさんばかりに放たれた魔法。六大神の残した秘宝の数々を、関係の無いマジックアイテム諸共破壊していく。レアリティの高いごく一部を除き、法国にあるマジックアイテムは消え去った。

 

 

「お前達が築き上げてきた文化、歴史。全てを塗り潰してやる。超位魔法〈天地改変(ザ・クリエイション)〉!!」

 

 

 長い詠唱時間を待つ事すらせず、課金アイテムを握りつぶし即座に発動させた超位魔法。

 ユグドラシルではフィールドエフェクトを特定のものに改変する魔法だったが、この世界ではある程度好きに改変できるようになっている。法国が長い歴史の中で積み上げた魔法や結界の効果も消し、その効果により国の歴史ある建物は全て作り変えられた。

 ここがスレイン法国だと言っても誰も信じられないだろう。もはや別の国と言って良いほど街並みは変わり、元の国の面影はカケラも残ってはいない。

 

 

「お前達の根底にある、法国たる思想を消し去ってやる。〈魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)記憶操作(コントロール・アムネジア)〉!!」

 

 

 流石にこれだけの人間の記憶を一々作り変えることは出来ず、大雑把に消すのが精々だ。それでも膨大に膨れ上がったMPを湯水のごとく消費していく。

 六大神を信仰し、亜人やモンスターを憎み、人類至上主義の教育を受けた記憶だけを国民達から削り取った。

 

 奪われた命は一つも無いのだから、スレイン法国はこれからも残るだろう。

 だが彼らに信仰心は残っていない。

 今まで築き上げた証となるモノも残っていない。

 六大神の遺した魔法の道具も無い。

 

 今ここにスレイン法国は死んだ。

 

 

「ラスボスは待つのが礼儀だが、勇者のパーティをわざわざ待つほど今の俺は優しく無いからな。今回はこちらから出向いてやろうじゃないか…… ネム、今行くよ……」

 

 

 

 

 

 ネムを連れて法国に帰還する途中の漆黒聖典。

 彼らの目の前に突如闇が浮かび上がり、中から死の支配者(オーバーロード)が現れた。

 

 

「遅くなってごめん。迎えにきたよ」

 

「モモンガ様!!」

 

 

 外見とは裏腹に優しい声で子供に語りかけるアンデッド。

 

 

 (やはり、使役しているアンデッドがやって来たか……)

 

 

 当たって欲しく無い予想ではあったが、漆黒聖典のメンバーはこうなる事も考えてはいた。隊長は即座に動き出そうと――

 

 

「私が―― っがはぁ!?」

 

「おっと、すまんな。ゆっくり歩いて指先でほんの少し撫でたつもりだったんだが…… 今なら手刀で〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉が出来そうだよ」

 

 

 何が起こったかは分からないが、一瞬で隊長が戦闘不能になった。

 生き残るため残りのメンバーは、ネムを人質に取ってモモンガの動きを制限させようとする。

 

 

「動いたらこの子――」

 

「――〈時間停止(タイム・ストップ)〉」

 

 

 止まった時の中でネムを抱えて、元の位置に戻る。

 そして時が再び動き出す。

 

 

「――を殺す!! 大人しく言うこと聞け!! って子供が!? え!?」

 

「どの子を指してるか分からんが、脅迫なんてネムの教育に悪い事はやめてもらおうか。〈集団標的(マス・ターゲティング)恐慌(スケアー)〉」

 

 

 恐怖で逃げ出すかと思ったが、逃げ出す前に恐怖に耐えきれず泡を吹いてそのまま全員気絶してしまったようだ。

 

 

「帰る場所に同じ思いを抱くものは誰もいない。自らの掲げる思想に一人だけ取り残されたと気づいた時、お前達がどの様に生きるか見ものだな……」

 

「モモンガ様?」

 

「何でもないよ、さぁ帰ろう。エンリもブレインも無事だから、安心して家に戻ろう」

 

 

 

 

 

 法国の某所、もはや何の力も無くなった場所。

 モモンガは法国にある殆どのマジックアイテムを破壊したが、彼女が装備するものは壊れていなかった。

 

 

「国を作り変えるなんて…… 見つけたかもしれない。私に敗北を教えてくれるかもしれない存在。法国なんて影も形も残ってないんだし、もう私が好きにしたって良いわよね!!」

 

 

 スレイン法国が生み出した闇。最後に残された法国の残滓が動き出した。

 

 

 

 

 モモンガがスレイン法国を事実上滅ぼしてから数日後。

 

 モモンガの元に一人の少女が現れた。

 年齢はネムとエンリの中間くらいだろうか?

 髪の色が左右で白と黒に別れ、眼の色は髪と逆の配置で白と黒に別れている。

 特徴的な見た目だが、モモンガが気になるのは一つ。ユグドラシルの装備を着けているということ。

 

「初めまして、私はスレイン法国の最後の切り札。番外席次、絶死絶命。さぁ、戦いましょう? 私を縛るものはもう何もないの。戦いが全ての私に敗北を教えて見せて!!」

 

「スレイン法国は消え去ったも同然なのに、まだ戦うつもりなのか?」

 

「当たり前よ。私の価値はこれだけ、強さ以外に誇るものは無い。これしか知らない、やめたら何も残らない……」

 

「……お前は、そうなのか。 あぁ、一つの事でしか自分の価値を見出せないって辛いよな…… 分かった、相手をしてやる。お前がもう一度進めるように、それがどれほど小さなことだったか…… 望み通り徹底的に敗北を教えてやる」

 

 

 目の前の骸骨から放たれたオーラを当てられただけで、番外席次は自分の死をイメージした。

 

 ああ、これでやっと……

 

 

「さぁ、いくわよ!!――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様…… その子誰ですか?」

 

「初めまして、モモンガの嫁です!!」

 

「……モモンガ様って実はロリコンだったんですね。いや、そんな気はしてましたよ」

 

「エンリ、違うからな」

 

「嫁にするぐらいいいじゃない。妻とか奥さんの方が良かった? あっ、私の事が評議国にバレたら多分戦争になるから匿ってね」

 

「全部同じだからな、それ。っておい、初耳だぞ!? さらっととんでもない爆弾を落とすな!!」

 

 

 ああ、エンリからの視線が痛い。

 おかしい、俺は何もしてないのに好感度が地の底まで落ちていきそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し遡って、話に出てきた評議国の某所では……

 

 

「オロロロォ!! オエェェェェェェ!!」

 

「ツアー!! 急に吐き出してどうしたんじゃ!?」

 

「ダメ、みんなもうお終いだ…… あれは神の次元すら超えた化け物だ!! 竜王(ドラゴンロード)が束になったとしても勝てない!! 同じ土俵がどこなのかすらわからない…… もう引き篭もるしかない!!」

 

 

 スレイン法国を襲撃した際のモモンガの力を知覚してしまった、残念な竜王(ドラゴンロード)が居たとか。

 



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最終話 ありのままに生きる者達

「オーバーロード ありのままのモモンガ」はこの話で最終話となります。



 モモンガはこの世界に来て様々な人と関わった。それが良い影響だったのか、悪い影響だったのかは当人にしか決められない。

 これはモモンガに影響された人達の話。

 

 

「ラナー様。実はお話があります」

 

「何ですかクライム? いつもの三割増しで真剣な表情が素敵ですよ」

 

 

 ラナーは何時もの様にからかうが、クライムは表情を変えない。

 

 

「ラナー様に拾って頂いて本当に感謝しております。私の様な孤児を御付きの兵士にしてくださった事も…… 本当はこの気持ちも伝えないつもりでした」

 

 

 ラナーはもう彼が何を言いたいか分かってしまった。だが彼の言葉で最後まで聞きたい。ずっと待ち望んでいた言葉を。

 

 

「ラナー様。心から愛しております。この先何があろうと永遠に。忠誠と違ってお受け取りくださいとは言えません。ですが――」

 

「――クライムっー!! ああ、もう我慢出来ないわ。これはもうゴールしても良いと言う事ですね。最終回ですね。さぁ行きましょう!! 国なんか捨てて旅立ちましょう!!」

 

 

 ラナーは最後まで我慢出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが秘密結社ズーラノーンの本部か…… この中にいる盟主を倒せば、この先ズーラノーンが起こす悲劇は無くなる。いや、それは楽観的すぎるな。まぁいい、行くぞガゼフ!!」

 

「まさかお前とこうやって肩を並べて戦える日が来るとはな…… お前なら安心して背中を預けられる。恐れるものは何も無いな…… 行こうブレイン!! 最後の戦いだ!!」

 

 

 何にも縛られず、自分の信じる正義に従って刀を振るうブレイン。

 王と民の思いを背負って、誇りをかけて剣を振るうガゼフ。

 

 二人はズーラノーンを倒す最後の戦いに挑む。

 

 

「まさかここに辿り着く者がいるとはな…… ズーラノーン盟主としてお相手しよう。先に言っておくが、私はかの逸脱者フールーダ・パラダインを超える魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。分かりやすく言うと〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を同時に六発撃てる。さあ、最初から全力でかかって来るがいい!!」

 

「逸脱者を超えるとは、嘘か真か…… どちらにせよこれは強敵だぞブレイン」

 

「ふっ、大丈夫だガゼフ。俺は気付いたことがある」

 

 

 そう言って笑うブレインは刀を構え、相手に向かって走り出す。

 

 

「アイツより強い魔法詠唱者(マジックキャスター)なんていねぇ!! 武技〈十光連斬〉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、このフリフリのドレスならどうかしら!! 私に支配される気になった? そして私ともう一度戦いなさい!! そして結婚よ!!」

 

「支配するのか戦いたいのかどっちだよ…… どっちにしろそんな装備じゃ勝てないだろう。あと最後のはダメだ。そういうのは大きくなってから、ちゃんと好きな人に言いなさい。ロリコン疑惑はもう懲り懲りだ……」

 

 

 トブの大森林に住むモモンガの所には、割と頻繁に彼女がやってくる。手を替え品を替えモモンガを魅了しようとしているが、今更あれが嘘だったとは言い辛い……

 

 

「お姉ちゃん、番外さんまた来てるね」

 

「そうね。モモンガ様をなんとか魅了しようとしてるみたいだけど……」

 

 

 二人が話している中、竜の意匠が所々に散りばめられた白い全身鎧が空から降り立った。

 

 

「やれやれ、本当なら彼女は見逃す訳には行かないんだがね……」

 

「ツアーさん!!」

 

「ツアーさんも来てたんですね」

 

 

 アーグランド評議国の永久評議員であり、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)であるツァインドルクス=ヴァイシオン。彼はこの鎧を遠隔操作して度々様子を見に来ていた。

 

 

「ああ、こんにちは。今日はフリフリか…… 彼女も飽きないね。いや、構ってくれる相手がいるから内心楽しんでいるのかな……」

 

「ツアーさんは番外さんのことまだ気になっているんですか?」

 

「ん? ああ、もうどうこうしようとは思ってないよ…… 君からのお願いはちゃんと守るさ」

 

 

 じゃないと世界がいくつあっても足りない……

 経緯は省くがこのネムという少女との約束で、番外席次が問題を起こさない限りツアーは手出し出来ない。

 もし約束を破れば私の本体がまたゲロってしまう。

 あんな心臓に悪い体験は二度とゴメンだ。

 

 

「君は本当に凄いね。ありのままで居るだけで、神を超える存在を従える事が出来るんだから」

 

「ネムは神を超える存在なんて従えてないですよ?」

 

 

 この少女はこれで良いのだろう。

 生まれながらの異能(タレント)も、他の特殊な才能も何も無い。

 そんな彼女だからこそ彼も力を貸すのだろう。

 

 

「人間種も亜人種も、異形種も一緒か…… ここはかつての仲間たちを思い出すね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフの私室。

 ジルクニフは鏡の前で立ち、ずっと上の方を凝視している。

 

 

「はははっ!! 戻った、戻ったぞ!! 髪の量、色艶、完璧だ。もう禿げとは言わせない!!」

 

 

 一時的とはいえ同盟を組んだおかげで、平和になり仕事も減った。

 なによりラナーが最近は落ち着いている。

 

 健康を取り戻したジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、鏡の前で三十分ほど喜びを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ こんな未来もあるかも

 

 

「私がネム達と出会ってもう数十年か……」

 

「そうですね、色んな事がありましたね」

 

「モモンガ様、今更ながら聞きたいことがあるんですけど……」

 

 

 これだけ長い付き合いだというのに、エンリが言葉を躊躇うのは珍しい。

 

 

「なんでネムが老けてないんですか!? どう見たって20代前半の見た目ですよね!! あとラナー様とかクライムさんも前会ったら変わってなかったんですけど!!」

 

「ん? 気付いてなかったのか? ラナーはクライムと永遠に一緒にいるとか言って、私のアイテムを使って天使に転生してたぞ。クライムも寿命が無い種族に転生したんだが…… 犬っぽい種族だったな」

 

「初耳なんですけど!? モモンガ様も渡しちゃって良いんですか!!」

 

「ラナーと口論して勝てるわけないだろう。見事に丸め込まれてしまったよ」

 

 

 何を当たり前のように言ってるんだこの骨は。

 知らない間に友人が人間を辞めていたとは……

 

 

「はっ!! もしかしてネムも天使に!?」

 

「はっはっは、そんなわけないだろう――」

 

 

 ああ、良かった。私だけ取り残されたのかと――

 

 

「――ネムは既に大天使だ!!」

 

「同じですよ!! えっ、渡しちゃったんですか!?」

 

「ネムにお願いされて断れるわけないだろう。もちろん転生は衝動的ではなくちゃんとネムが理解してのことだし、エンリと離れたくないという理由もあったんだぞ」

 

「お姉ちゃんも心配しなくても大丈夫だよ?」

 

 

 一体何を言っているのか分からないし、混乱してきた。まるで私の方が先に変わったかのような……

 

 

「そうだぞエンリ。お前だって老けて無いじゃないか」

 

 

 私までいつの間にか転生してるの? 確かに年齢の割には見た目も若いし、自分でもネムと同じくらいで通せるって自信は密かにあった。

 おかげで結婚できてなくてもまだいけるって思ってたけど……

 

 

「言っとくが私は何もして無いぞ。自力で仙人か何かの職業(クラス)を手に入れたんじゃないのか? この世界は職業(クラス)を手に入れる前提条件とかないからな……」

 

「私は修行なんてしてません!!」

 

 

 原始的な村での生活。

 年々こなせる量が増えていった仕事。

 時々付いて行った冒険。

 

 ユグドラシル判定では、仙人の修行と呼べるものだったのかもしれない……

 

 

「まぁ何にせよ、ありのままの自分を受け入れることだな。転生して人間をやめても、自分は自分だ。全部が変わるわけじゃない。現にエンリはラナーとクライムの変化に気がつかなかったしな」

 

 

 これまでの経験で色々と悟っているモモンガ。

 

 変わるモノ、変わらないモノ。

 ありのままの全てを受け入れ、モモンガ達はこれからも生きていく。

 

 モモンガの冒険は終わらない。

 

 

 

 




 「オーバーロード ありのままのモモンガ」を最後まで読んで頂きありがとうございました。
 本当は1つ前の「モモンガは悟」を最終話にするつもりだったのですが、ifルートの方が本編最終話より長くなってしまいました。
 それが個人的に気になり、今回の話を追加で書きました。
 駆け足気味でしたが、軽く読んで軽く笑っていただけたのならば幸いです。





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番外編 詰め合わせ

話の流れや諸々の事情で本編に入らなかった話の詰め合わせです。
時系列などはあまり考えずにお読みください。


 トブの大森林の奥地にあるひょうたん湖。

 その近くにある蜥蜴人(リザードマン)の集落にネムとモモンガは向かっていた。

 

 

「モモンガ様、村みたいなのが見えてきましたよ」

 

「あれがブレインの言っていた蜥蜴人(リザードマン)達の集落かな?」

 

 

 とある事情からブレインに紹介された集落。モモンガの姿は思いっきりアンデッドだが、ブレインが話を通してくれている筈なのでそのまま近づいていく。

 

 

「何者だ…… ん? ああ、ブレイン殿が言っていた子供と使役魔獣のモモンガ殿だな」

 

「ちゃんと伝わっていて良かったよ…… そのモモンガだ。この子はネムという」

 

「ネム・エモットです!! 薬草を持ってきました!!」

 

「おお、ありがとう!! 我々は陸を歩くのが苦手だから助かるよ。それと失礼したな、私は緑爪(グリーン・クロー)族のザリュース・シャシャだ。ブレイン殿から話は聞いている。さあ、中を案内しよう」

 

 

 ザリュースに案内され、辿り着いた場所は魚の養殖場。大きな魚がピチピチと元気に跳ねて、生簀の中を泳いでいる。

 ブレインが蜥蜴人(リザードマン)達と共にトレントと戦った後、協力し合った全ての部族はそのまま纏まり暮らしている。

 更にはザリュースの考えた魚の養殖も様々な者たちの助言が集まったおかげで軌道に乗り、食料問題もほぼほぼ解決していた。

 

 

「さぁ、この一番デカイヤツを持ってってくれ。薬草のお礼だ」

 

「わぁーっ!! 凄い大きいです!! ありがとうございます!!」

 

 

 蜥蜴人(リザードマン)は陸地での活動に向いていない。そのためネムが薬草を集めてきて、それと魚を交換する事にしたのだ。

 

 

「ふふふ、良かったなネム。エンリもこんな大きな魚が食べられると知ったら驚くだろう」

 

「はいっ!! お姉ちゃんもきっと喜びます!!」

 

 

 人も亜人も異形種も助け合う世界。

 正義の味方が助けたモノは、確かに平和に繋がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルで最高と名高いバレアレ家の薬品店。

 そこには全身を汗だくにしながら一心不乱に腕立て伏せをする少年の姿があった。

 彼は様々な筋トレを行っては休憩し、瓶に入った白い液体を飲むという行為を繰り返している。

 

 

「ンフィーレアや、お前さんはさっきから何をしとるんじゃ…… それにその白い液体は何じゃ?」

 

「ああ、お婆ちゃん。遂に完成したんだ、今までの概念をひっくり返す新しいポーションが!! 今はその効果を試している所だよ」

 

 

 孫が惚れた女に会いたいために、言い訳としてトブの大森林に通っているのは知っていた。そこで本当に新種の薬草を見つけて研究に没頭し始めた事も……

 

 

「神の血…… では無いな。見るからに真っ白じゃ。それで、これと筋トレに何の関係があるんじゃ?」

 

「このポーションはザッバースという薬草を調合して作ったものでね。従来の一時的に筋力を強化するポーションと違って、筋肉を鍛える効果を高めるポーションなんだ!! 名付けて『ぷろてぃん』!!」

 

「それは…… 確かに凄いが……」

 

 

 こんな短期間で新しいポーションを作ったのは凄い。流石ワシの孫じゃと褒めたい。しかし…… それって只の栄養剤なんじゃ…… いや、見方によっては一つの効能に特化したポーションと言えなくも無い。

 

 

「これを使って僕は強い漢になる。エ・ランテル一の…… いや、世界一強い薬師になるよ!!」

 

 

(孫の薬師の腕は一流の域に達しつつあるかもしれん。このまま行けば薬師としては確実に大成するじゃろう…… しかし――)

 

 

 ――男としては心配じゃ……

 

 

 どこを目指しているのか分からない孫を前に、リイジー・バレアレはこれまで通り温かく見守るしかなかった。

 

 ちなみに新型ポーション『ぷろてぃん』は冒険者を中心に、健康を気にする人達にも幅広く売れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近とても元気で絶好調なリ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 彼女は自室で鼻歌を歌いながら、明日はクライムと何をしようかと妄想を膨らませていた。

 もちろん公務は体調不良という体で、全て第二王子にぶん投げるつもりでいる。

 

 

「ああ、毎日本当に楽しいです。クライムとのささやかな幸せがあればそれで良い…… なんて思っていましたけど、人間知ればもっと欲しくなるものなんですね」

 

 

 クライムとのアレやコレやを妄想している中、ラナーはある企画を一つ思いついた。

 クライムやみんなの驚く顔が見たい…… もとい幸せになるお手伝いをしようと考え、それを実現するべく頭を高速回転させていく。

 

 

「みなさんはどの様な反応をしてくださるのでしょう? クライムの反応も気になりますし、当日が楽しみです!!」

 

 

 数日後、自らの頭脳をフル活用したラナーは全ての準備を終えた。

 そしてラナーの色んな人を巻き込んだ壮大な計画が実行されることとなる……

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国の某所。

 今は使われていない王家の所有する建物に、ある男達は集められていた。

 

 

「いったい何が始まるってんだ? クライムかモモンガは知ってるんじゃ無いのか?」

 

「申し訳ありません。私はラナー様に皆様をここに連れてきて欲しいと言われただけで……」

 

「私も知らないな。それにしてもまさかガゼフまでいるとは…… 戦士長って暇なのか?」

 

「いや、私は公務として連れてこられた筈なんだが…… まぁいい機会だと思う事にしよう。モモンガ殿、カルネ村の件では本当に助かった。貴殿のお陰で私も部下達も命を救われた。心から礼を言う、本当にありがとう――」

 

「……」

 

 

 クライムを通して集められたのは、ブレイン、モモンガ、ガゼフの三人。そして、無言で眉間のシワを押さえているのはバハルス帝国の皇帝ジルクニフ。

 彼らはここに着くなり全員正装に着替えさせられ、この場に置いてある長テーブルの席で待っているようにと、ラナーから指示を受けていたクライムに言われた。

 なのでこれ以上は何もわからず、モモンガ以外は用意された飲み物を飲みながらそのまま仕方なく黒幕ラナーの登場を待っている。

 

 

「――男性陣はもう準備も出来て揃っている様ですね。お待たせしたようですみません。ではそちらの皆さん、入ってきてくださーい!!」

 

 程なくして、いつもの様にドレスを着たラナーが笑顔で現れた。こちらが揃っているのを確認した後、扉に向かって声をかける。

 

 そして扉から出てきたのは、モモンガからすればどれも見知った顔である。

 

 一つ共通点を挙げれば皆がドレスを着て、綺麗に着飾っているといった所か……

 モモンガはこの状況とラナーが黒幕という二点から、当たって欲しくはない推理を立ててしまった。

 

 

「ブレイン、ここは恐ろしい戦場になるぞ。俺も経験した事の無い…… 無事でいられるか分からん戦場だ」

 

「モモンガ…… 何が起こるか分かるのか?」

 

「モモンガ様程の強者が経験していない戦場……」

 

「あの女…… いったい何が狙いなんだっ」

 

「いや、みんな反応がおかしく無いか? モモンガ殿もちょっと大袈裟なのでは……」

 

 

 ガゼフを除いた四人は既に、戦いに挑む戦士のような顔になりかけていた。

 ラナーはこのまま進行役をするためなのか、自身の席のところで立っている。

 連れてこられた残りの女性陣は順番に長テーブルの向かいの席に座って、簡単に自己紹介を始めた。

 改めて集められた者達を見て、よくもまぁこんな濃い面子を集めたものだと、モモンガは呆れを通り越して感心してしまう。

 

 

「エンリ・エモットです…… うぅ、どうしてこんな事に……」

 

「ネム・エモットです!! 今日はよろしくお願いします!!」

 

「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです…… はぁ、ラナーはまたこんな事を…… 能力の無駄遣いにも程があるわ……」

 

「番外席次、絶死絶命。敗北を知りにきたわ」

 

 

 会場に集められたのは複数の男と女。モモンガは自分の推理が当たってしまいそうで焦る。

 いや、まだそうと決まったわけでは――

 

 

「さぁ、みなさん。『合コン』というものを始めましょうか!!」

 

 

 ――ラナーが宣言してしまった。

 合コン、合同コンパニオンの略…… たしか男女の仲間を意味する言葉……

 うん、現実逃避しても無駄だな。

 

 流石ラナー、この面子でそれを行おうとするとは恐れを知らない姫様だ。

 俺は未知の冒険を求めたりもしたけど、これは未知すぎるというか何というか……

 

 

「ラナーよ…… 色々と人選ミスじゃないか?」

 

「大丈夫ですよモモンガ様、全員未婚の方ですから。それに女性はみんな綺麗どころを集めましたよ? 年齢の幅も広いですし、好みのタイプはいませんでしたか?」

 

 

 そこじゃない、全員知り合いだし!! あと年齢の幅も広すぎると思う。一番下なんか10歳だぞ。

 それに最後の一人は第一声からして色々と間違っている…… というか散々敗北しただろうに。

 

 

「モモンガ、以前お前が言ったことだ。人間諦めも肝心だぞ」

 

「モモンガ殿、ここで逃げては女性達に恥をかかせることになる。男には挑まねばならん時があるのだ」

 

 

 ブレインめ、ここぞとばかりに良い顔しやがって…… 俺はアンデッドだぞ。

 あとガゼフ、何故お前はこの面子を見てそこまで堂々としていられるんだ……

 あっ、そういやコイツは殆ど彼女達を知らないのか。

 

 モモンガはあれこれと考えを巡らすが、ラナーが止まってくれるわけもない。

 

 

「では全員が納得したところで、まずは好みの異性でも聞いてみましょうか。エンリさんはどんな男性が好みですか?」

 

「えっ、私!? 私は、その…… グイグイと私を引っ張ってくれるような、私よりしっかりした力強い男の人が…… あと常識のある人で」

 

 

((ガゼフでも引っ張るのは無理だろうな……))

 

 

 モモンガとブレインの思考は人知れずシンクロしていた。

 英雄級の筋力でもちょっと力不足なので、某薬師の少年は死ぬ気で鍛える事をお勧めする。

 

 

「いいじゃない。私の理想も自分より強い男ね。性格や見た目はどうでもいいわ」

 

「エンリさんは結構夢見がちな乙女ですね。高すぎる理想は男性を遠ざけちゃいますよ?」

 

「えっ!? 私のこれってそんな高望みなの!? 割と普通ですよね!?」

 

 

 エンリの理想は番外席次からは共感を得られたが、微妙にズレている。

 

 

「さてさて、戦士長様はどうですか? 正直に答えちゃってください!!」

 

「巨乳だな。実は私は胸の大きさに強く惹かれるところがある」

 

 

 コイツは真面目な顔をして何を言っているのだろう。

 堂々としていたのは彼女達を良く知らないからじゃなく、元々の性格だったようだ。

 モモンガは質問から何が飛び火してくるか分からないため、気持ち的に表情を引き締めて気合いを入れ直す。

 

 

「皇帝陛下はどうですか?」

 

「私は――」

 

「――まぁどうせ知性のある女性とか言いますよね。私はお断りですので、ごめんなさいね」

 

「貴様ぁ!! 同盟国の親睦を深める名目で連れて来ておいて、流石に扱いが雑すぎるぞ!!」

 

 

 ジルクニフがこの場にいた理由を知り、一時的な同盟の筈なのに意外と律儀な男だと思う。

 それに対してラナーは今日も相変わらずだ。まさに黄金と呼ぶに相応しいメッキを纏っている。本当に笑顔が眩しい。

 

 

「モモンガ様とブレインさんはどうですか?」

 

「いや、私は骨だからあまりそういうのは無いんだが……」

 

「俺も昔から剣ばかり振っていたからな、正直よく分からん……」

 

 

 モモンガとブレインは危険なものを感じ取り、何気なく質問を躱そうとする。

 数々の戦いを経験し、人外領域に達した俺たちの危機回避能力をナメて貰っては困る。

 

 

「そうなのですか…… そういえば、お二人とも『兎』、お好きなんですってね?」

 

((何故それを!?))

 

 

 ラナーから不可避の一撃が叩き込まれた……

 予想外の言葉にブレインは目を見開き汗だくになっている。

 ラナーの言う『兎』が何を揶揄しているか気付いてしまったのか、それを思い出したエンリも顔が真っ赤に染まった。

 

 この後もお姫様による情け容赦の無い質問により、場はどんどん混沌へと掻き回されていった――

 

 

「――中々面白い話が聞けましたね。では次は王様ゲームをやるしかないですね」

 

「やめろラナー!! それはきっと悲劇しか生まないぞ!? というか合コンもそうだが、何でそんなの知ってるんだ!?」

 

「大丈夫ですよ。これは六大神が広めたとされる由緒ある遊びですから」

 

(六大神って絶対プレイヤーだろ…… やっぱり過去にも俺みたいに来た奴がいたんだな)

 

 

 モモンガは意外な所から神の正体に気付いてしまった。

 本当に法国が一丸となって崇める程の奴らだったのだろうかと、信仰心のカケラもないモモンガは疑問に思ってしまう。

 

 

「クジを引いて王様になった人の命令は絶対ですからね」

 

 

 モモンガが言ったところでラナーが止まるわけもなく、当然ゲームは進行してしまう。

 みんなに混じって意外と素直にクジを引くジルクニフ。本当の王族が二人もいる王様ゲームをやる事になるとは、人生何があるか分からないものだとモモンガはシミジミと思っていた。

 

 

「やった!! ネムが王様です!!」

 

「良かったですね。それではネムさん、番号を指定してお願いを決めてください」

 

「じゃあ、1番の人が3番の人にデコピン!!」

 

(ああ、流石ネムだ。この面子の中では最も危険の少ない王様だろう)

 

 

 なんとも子供らしい命令に、これなら大丈夫そうだとモモンガはホッとする。

 

 

「1番は私ね。誰にデコピンすればいいのかしら?」

 

「3番は私だな。絶死絶命殿、お手柔らかに頼む」

 

(あっ、これはダメなやつ――)

 

 

 ――ガゼフ撃沈。

 

 

「あらあら、戦士長様はここでリタイアですわね」

 

「リタイアってなんだ!? ゲームの趣旨変わってないか!?」

 

「モモンガの言う通りだったな…… これは確かに戦場だ」

 

 

 ――脱落者が出ようがゲームは続き……

 

 

「一般人に負けるなんて…… アダマンタイト級冒険者の誇りが無くなりそう……」

 

「私が村娘だという自信はとっくに砕け散ってますよ……」

 

 

 ――一人、また一人……

 

 

「では4番のブレインさん。このバレアレ家特製の激辛デスソースを一気飲みしてください」

 

「姫さん、今名指ししただろ!? なぜ番号が分かった!?――」

 

 

 ――肉体的、精神的に……

 

 

「はっはっはっ!! どうしたラナー王女? 投げ飛ばせという命令だぞ? 私は皇帝だが遠慮は要らない、その細腕で出来るものならやってみるがいい!! これはゲームなのだからなぁ!!」

 

「モモンガ様」

 

「はい。〈竜の力(ドラゴニック・パワー)〉〈上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)〉――」

 

「おい、それは卑怯じ――」

 

 

 ――倒れていった……

 

 

「あら? いつの間にか随分と人数が減ってしまいましたね。それではこれを最後にしましょうか。じゃあ1番の方…… 私に愛していると言ってください」

 

「1番は私です…… ――んんっ!! ……ラナー様、愛しております」

 

「愛の言葉とは良いものですね…… 次に聞く時は命令じゃなく、貴方からの言葉を期待しちゃいます!!」

 

 

 こうして世にも危険な合コンは幕を閉じた。

 分かりきっていたが、ラナーの一人勝ちである。

 

 

 

 

 完全にお開きとなり、集まった人達が殆ど帰った頃。

 ラナー王女は皇帝ジルクニフを呼び止めて、クライムに席を外させ二人きりで話していた。

 

 

「ラナー王女、貴様は結局何がしたかったんだ……」

 

「皇帝陛下は楽しくありませんでしたか? 人も亜人も異形種も、立場なんて関係ない。素の自分を出せる空間は良いと思いませんか?」

 

「何が言いたい……」

 

「共存の意思があればどんな種族でも共に生きられる世界…… それが欲しいのです。友人が自由に生きられる世界が……」

 

「その友人とやらがアイツを指しているのなら、十分自由に生きていると思うがな」

 

 

 アンデッドに対して生きているという表現が正しいかは分からないが、ジルクニフはラナーが誰を指しているのかはちゃんと理解している。

 ラナーは笑顔のままこちらから目を離さない。思わずこちらから目を逸らし、背を向けてしまった。

 

 

「では言い方を変えます。平和って良いと思いませんか? 貴方の国にも利益のある事なので、それに協力して欲しいのです」

 

「……くだらん。私はバハルス帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、鮮血帝と呼ばれた男だぞ。自国の繁栄が第一に決まっている―― ……だが、もしそれに協力する事で、我が国に一番利益があるというのならば考えよう……」

 

「ええ!! どの国よりも莫大な利益をお約束しますわ!! 皇帝陛下が協力してくださるなら法国も、他の国もきっと動かせます……」

 

 

 ああ、私はこの女が嫌いだ。

 猫を被り、黄金を纏って自分の望みを押し通す…… 王たる能力も資格も持ちながら、それに価値など見出していない。

 きっと自国を私に売り渡しても望む平和とやらを作るのだろう。皇帝としての誇りを持つ私とは一生相容れない存在だ。

 

 

「皇帝陛下は知ってましたか? 人って同じ目線に立てなくても、仲良くなれたりもするんですよ」

 

(コイツは人の心でも読めるのか…… やはり私はこの女が嫌いだ!!)

 

 

 

 

 嵐のような合コンが終わり、家へと帰ろうとするモモンガ達。

 

 

「あー、疲れた。疲れないアンデッドの筈なのに疲れた……」

 

「私って理想高いのかなぁ。このままじゃ結婚できないのかな……」

 

「モモンガ様もお姉ちゃんもグッタリしてるね?」

 

 

 あの場を最後まで楽しみ切ったのはラナーとネムぐらいではないだろうか……

 帰るための〈転移門(ゲート)〉を開こうとした時、モモンガ達に近づいてくる影があった。

 

 

「モモンガ……」

 

「ん? なんだ番外席次か。 ……そういえばラナーが呼んだんだろうが、どうしてコレに参加してたんだ?」

 

「それは話すと長くなるけれど――」

 

『――番外席次さん。モモンガ様をメロメロにする催しがあるのですけれど参加しませんか?』

 

「――ってあのお姫様に言われたのよ」

 

「お前アホだろ」

 

 

 ラナーに騙されて丸め込まれただけみたいだ。法国ってやっぱりポンコツの集まりかもしれない。

 

 

「ひどいわね…… それでどうかしら?」

 

「何のことだ?」

 

 

 番外席次が両腕を広げてみせるがモモンガは何のことか分からない。

 

 

「ドレスよ!! ド・レ・ス!! 折角お姫様に借りたのに……」

 

「ああ、その事か。えーと、とても良く似合っていると思うぞ」

 

 

 そういえば今日は誰のドレス姿も褒めていない。

 何時もなら真っ先にネムやエンリの事を褒めただろうが、あまりの展開にそこまでの余裕が無かった。

 

 

「ふふっ、そうなの…… それじゃあ結婚ね!!」

 

「お前はもうちょっと色々考えた方がいいぞ…… 取り敢えず結婚直結の考えをやめなさい」

 

「別にいいじゃない。あの時聞いてなかったのかしら? 私の好みは私より強い男よ。それにモモンガの性格も顔も嫌いじゃないし」

 

「私はアンデッドなんだけどな……」

 

 

 番外席次は笑顔で骸骨の顔が好きだと言い出すし、モモンガにはどこまでが本気か分からない。

 

 

「こんな骨が求婚されているのに…… 私ってもしかして魅力ないんじゃ…… ラナー様とクライムさんはゴールするのが確定してるし。ああ、ロリコ…… モモンガ様にも先を越されるなんて…… こうなったら偶然を装って道の角でンフィーにぶつかりにいって――」

 

「お姉ちゃん、それしたらンフィー君死んじゃうよ」

 

「ここにきて血濡れ案件は勘弁だぞエンリ」

 

 

 ラブコメ伝統の出会いは、ヒロインが強過ぎるときっと大惨事を引き起こすだろう……

 

 合コンに参加したことにより色々と刺激されてしまったのだろうか? モモンガからすれば16歳なんて少女と言える年齢だ。まだそんなに焦る段階では無いのに、エンリはブツブツと作戦を練り出している。

 

 このまま村娘がダークサイドに落ち無いように、モモンガとネムは祈った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林の一角で一人の男と骸骨が向かい合っている。いつも二人が修行していた場所だ。

 

 

「修行や模擬戦はいつもの事だが、観客が一人もいないってのは少し寂しいんじゃないか?」

 

「今回は本気だからな…… 本気で俺の剣を試す。だから観客はいらない」

 

 

 いつものように真剣ながらも楽しそうな雰囲気はまるでない。決闘を行う雰囲気そのものだった。

 

 

「俺はきっと魔法詠唱者(マジックキャスター)としてのお前には勝てない。だが、剣士としてのお前には…… 同じ剣士としてはどうしても勝ちたい」

 

「ブレイン…… 分かった、近接戦闘を行う者としての本気を出そう。〈完璧なる戦士化(パーフェクト・ウォリアー)〉」

 

「ああ、それで良い。それは俺が憧れた頂の一つだ。正義の味方としてはこの執着は間違ってるかもしれんが、捨てきれなかったんだ…… 生涯最強の友を超えたい。この先お前より強い奴に会うとも思えんからな……」

 

 

 かつてふざけてブレインをボコボコにした戦士化の魔法。

 ユグドラシルではネタ扱いの魔法とはいえ、今のモモンガのステータスはレベル100の前衛職と同等かそれ以上。修行を重ね続けたブレインでも届くようなモノでは無い。

 

 

「武技〈神域〉〈能力向上〉〈能力超向上〉――」

 

「どうした、それで終わりか? そんなものでは私には届かんぞ」

 

 

 次々と発動するブレインの武技は見事なものだ。それにこれだけの数の武技を重ねがけ出来る者は、この世界でもそうはいない。英雄の領域を遥かに超えている証拠だろう。

 だが、それでもモモンガには届かない……

 

 

「焦るなよ…… 今から修行の果てに編み出した、とっておきを見せるさ。きっとこの武技は他の相手に使う事はない。憧れの友に並ぶ為、お前に勝つ為に辿り着いた境地…… これがその答えだ!! 武技〈剣の支配者(オーバーロード)〉!!」

 

 

 最後の武技によりブレインは人の領域を完全に超え、超越者といえる力を手にする。

 

 

「ああ、流石だよブレイン。お前はやっぱりかっこいいなぁ…… 人の身で俺の隣に立ってくれるのか……」

 

 

 モモンガには相手のステータスを測るようなスキルは無い。

 だが、それでも分かる……

 この男は一時的でも自分と対等の領域にいると。

 

 

「はははっ!! 最高だよ!! お前はこの世界で初めて俺と対等に戦える人間だ!!」

 

「そう言ってくれるなら頑張った甲斐があったな。魔法を使うお前に挑めないのが悔しいが…… モモンガ、随分と待たせたが辿り着いたぞ」

 

 

 正義の味方ではなく、ブレイン・アングラウスとしての挑戦……

 

 

「ああ、構うものか!! さぁ、やろうじゃないか、ブレイン・アングラウスよ。正々堂々、一対一のPvPだ!!」

 

「……いくぞ、モモンガ!!」

 

「俺を超えてみせろ、ブレイン!!」

 

 

 この世界で最高の戦い、その勝敗を知るのは二人だけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「辺り一帯を更地にするまで戦うとか、何考えてるんですかぁぁぁああ!!」

 

「「すみませんでした」」

 

 

 この二人を怒れるのは一人だけ。

 

 

 

 




やはり今回の作品は綺麗な終わりや、シリアスな終わりよりも、こんな感じで終了です。

番外編までお読みいただきありがとうございました。





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