日常の中にチョコより甘い香りを (ぴぽ)
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1話

初投稿です。
処女作です。
温かい目と広い心で読んで頂くと幸いです。


地球温暖化の影響は凄まじく、猛暑を超えニュースでは酷暑なんて呼ばれている。外を歩くだけでも危険!などとニュースで言っているが出歩かない訳にはいかない。仕事に行く者、遊びに行く者、買い物に行く者、理由は様々だがその中で一人、男子高校生がフラフラしながら歩いていた。

「暑い…。」

と呟いているが暑いと言ったところで余計に暑さを感じてしまう。

「ヤバいな…。バイト先に着くまでに倒れてしまう。」

また呟き、辺りをキョロキョロと見渡すと自動販売機に目についた。

「……う~ん。お金勿体ないけど、しょうが無いか。」

と、自動販売機に向かっていくと同じ事を考えていたのか、同じ歳くらいの女の子も自動販売機の前に立っていた。向こうの方が少し早かった為、後ろに並び待っているがいつまで経ってもジュースを買う気配がない。

「どうしましたか?」

不審に思い、声をかけると

「え?…あっ!ご、ごめんなさい。じ、ジュース買うつもりが…。」

と、しどろもどろな返答が返ってきた。

「?」

を浮かべながら自動販売機を見ると釣り銭切れのランプが着いており、女の子の手には千円札が握られていた。

「(なるほどね。てか、滅茶苦茶この人可愛い。)」

と思い、手にしていた小銭を入れる。

「どうぞ。好きなジュース選んでください。」

と女の子に向かって言う。

女の子はびっくりした表情で

「い、いや。わ、わ、悪いです。私は大丈夫なので。」

と言った。

「(やっぱりそう言うよね。)」

と心の中で思ったが、格好つけた手前引くわけにもいかない。

「いやいや。顔、かなり赤いですよ?熱中症になる前に水分とって下さい。」

とさっきまでフラフラだった奴が言う台詞ではないことをできる限り爽やかな笑顔で言った。

「え?えっと…。それなら…。あ、ありがとうございます。」

と、赤かった顔を、さらに赤くして言った。

ガコン!とジュースが落ちてくる音が聞こえまたありがとうございます。と言い、ジュースを取った。

「あ、あ、あの!お、お名前は?」

とジュースを胸の前で両手に持ち質問した。

「僕ですか?普通の名前ですよ?一宮です。一宮潤と言います。」

「え、えっと、潤さんですね。(一宮って普通なのかな?)わ、私は牛込りみと言います。ほ、本当にありがとうございます!」

と、言いながら走って去ってしまった。

「あれ?急いでいたのかな?まぁ、いっか。」

と言い、財布を取り出した。しかし、今度は潤が固まってしまった。

財布の中身、小銭50円玉一枚。

「…あっ…。詰んだ。」

と途方に暮れた潤だった。

 

――――――――――――――――――――

「ど、どうしよ?に、逃げちゃった!」

目的地であるライブハウス「CiRCLE」に着き、りみは慌てていた。臆病で引っ込み思案の性格であり、さらに女子校に通うりみには同年代の男性との会話はいささかハードルが高く、恥ずかしくなってしまい逃げてしまった。

「絶対、怒ってるよね…?うぅ…。どうしよ?」

「りみりん!確保ー!」

「きゃぁ!」

りみがあたふたしていると急に抱きしめられそのまま尻餅をついてしまった。

「りみりん!おっはよー!」

「か、香澄ちゃん?」

「えへへ~。なんか懐かしくない?」

「そ、そうだね。私をバンドに誘ってくれた時にしてくれたね。」

りみと香澄はあははと笑った。

りみはPoppin`Partyというバンドに入っており、ベースを担当している。ちなみに香澄はギター&ボーカルだ。

「はぁはぁ。香澄ー!お前急に走るな!」

とツインテールをなびかせながらキーボードの有咲が叫んだ。

「有咲~!ごめんごめん~!暑かったから早く走って、涼しいCiRCLEに行きたかったんだも~ん。」

「走ったら余計暑いだろうがっ!」

と漫才のような話をしていると、「おはよ。」とドラムの沙綾とギターのたえがCiRCLEに入ってきた。

「朝から2人は相変わらず仲が良いね!あっ!りみりんもおはよ!」

「りみはなんで床に座ってるの?…涼しいから?」

とそれぞれ挨拶をする。

「おはよ。ゆ、床に座ってるのは香澄ちゃんに抱きつかれて尻餅着いちゃって。」

と照れながらりみが言うと

「大丈夫?」

と沙綾が手を出し、りみを起こした。香澄が胸の前で手を合わせ謝った。

「ところでさ、りみ、なんか焦ってなかったか?何かあった?」

と有咲が聞くと

「あー!そ、そうだった!み、皆どうしよ…。」

と言い、これまでの経緯を説明した。

「別に何もしなくて良いんじゃねぇか?」

「えー!?なんで!?絶対探した方が良いよ!」

「探すって、その人がどこに行ったのか分からないじゃん!どうやって探すんだよ!」

「なんとかなるよ~。」

と有咲と香澄が喋ってると

「まぁまぁ、とりあえず2人ともスタジオ入りする時間だから入ってから話そ?」

と沙綾が言った。

3人は時間を見て慌てながら受付に向かった。ちなみに、たえは既に受け付けの前にいた。

 

――――――――――――――――――――

「……ってことがあったんですよ~。」

と潤はバイト先の先輩である月島まりなに先ほどあった自動販売機での出来事を話していた。

「へぇ~。そうなんだ。でも意外だなぁ。」

「え?意外って何がですか?」

「いやぁ~。潤君がナンパとかするなんてね。」

「な、ナンパ?」

そう言われて、慌てながら自分の行動を思い返した。うん。ナンパともとれる。そう思うと急に顔が熱くなり恥ずかしくなった。

「良いと思うな!健全な高校生らしくて。」

とまりなが茶化す。潤は顔を赤くしながら

「い、今の話、忘れて下さい。」

と言い、仕事についた。これからは、しっかり考えてから行動に移そうと思いながら。

潤がCiRCLEでバイトを初めて2カ月となる。6月から始め、今は夏休みなのでほぼ毎日出勤している。ちなみに、ライブハウスでバイトをしているが、潤は音楽の事は全然分からない。主な仕事は受付と事務処理と重い機材を運んだり、まりなに弄られたりしている。

「(だいぶ仕事にも慣れてきたな。顔馴染みも増えてきたし。)」

と思いながら本日のスタジオの予約を確認していると、朝一番に「Poppin`Party」と書かれていた。

「(Poppin`Party…。ポッピンパーティーって読むのかな?初めて見たな~。)」

と思っていた。

「月島さん?Poppin`Partyってどんなバンドですか?」

「ん?あぁ。ポピパはガールズバンドで、うちではライブとかしたりイベントに出て貰ったりしてるよ。普段は蔵で練習してるみたいだからうちに練習で来るのは珍しいよ!」

「……蔵?ま、まぁ、分かりました。ありがとうございます。」

潤は首を傾げながら引き続き予約の確認をしていると「すみませーん!」と声が聞こえた。

「はーい!今行きます!」

と叫び、潤は素早く受付に向かった。裏のブースから受付に向かうとロングヘアーの女の子が立っていた。潤がモデルさん?と思いながら「おまたせしました!」

と、笑顔で対応してると、モデルの後ろから4人ほど慌ててやってくるのが見えた。

「お、おたえ!待って!」

と髪型にかなり特徴のある女の子が言った。

「(あの髪型何?ネコかな?)」

と潤が思っていると

「あの~。予約していたPoppin`Partyですが。」

とポニーテールの女の子が訪ねてきた。慌てて思考をネコ耳の髪型から仕事に戻し

「はい。Poppin`Partyさんですね。承っております。3号室を…。」

と言いかけたところで潤は止まってしまった。接客の基本中の基本、相手の目を見て話すというのを潤は心がけていた。それも今回も行っており、1人、1人顔を見て話していたら1人の女の子の顔を見た瞬間固まってしまった。潤が固まって見ている女の子も「あっ!」と小さく叫んだ。他のPoppin`Partyのメンバーが「?」となっていると、

「さ、さ、さ、さ、さ、先ほどは、えっと、どうも?です。」

と潤が最早、日本語かどうか怪しいといった感じで挙動不審になりながら言った。

「りみりん?知り合い?」

と先ほど小さく叫んだりみに香澄が聞いた。

「し、知り合いって言うか、さっき話したジュースを買ってくれた人…。」

「「「「えぇー!」」」

ポピパの他のメンバーの驚く声がCIRCLEに響いた。

「な、何!?どうしたの?」

とまりなが裏から慌てて受付に出てくると苦笑いしている潤と顔真っ赤にして俯くりみとビックリしている他4名がいるという光景だった。

「あぁ。月島さん。さっき話した自動販売機の話なんですが、この子なんです。」

とりみの方を向きながら潤が答えた。

「そうなんだ!潤君が言ってた子ってりみちゃんだったのかぁ~。」

とまりなはうんうんと頷きながら答えた。

「あ、あの!」

とりみが潤に向かって

「さ、先ほどはあ、あ、ありがとうございました。」

と言った。

「それはさっき聞きましたよ。気にしないで下さい。」

と潤が返すと

「ち、ちゃう。せやなくて…。」

と慌てながらりみが言った。関西弁?と潤が思っていると、

「りみりん。言いたいことがあったんでしょ?」

と沙綾が助け船を出した。

「沙綾ちゃん。ありがとう。」

とりみが言い、深呼吸した。潤がポニーテールの子は沙綾と言うのかと考えているとりみが口を開いた。

「さ、さっきは急に逃げてしまってすみませんでした。は、恥ずかしくなっちゃって。」

「え?全然気にしてないですよ?急いでたのかなって思ってました。」

とキョトンとしながら潤は答えた。

「りみりーん!気にしてないみたいで良かったね!」

と香澄がりみに抱きつきながら言った。潤がネコ耳さんは抱きつき魔かな?と思いながら

「本当に気になさらないで下さい。逃げたなんて思ってませんから。」

と笑顔で言った。

「いやぁ~。まさか潤君がナンパした相手がりみちゃんだったなんて!」

とまりなが言うと、潤は「なっ!」と言いながら驚き、りみは「え?」と再び小さく叫び、これまた再び顔を真っ赤にした。

「え?ナンパだったんですか?」

と香澄が潤に詰め寄る。

「ナンパな訳ありません!そんなつもり毛頭もありませんよ!てか、月島さん!話をややこしくしないでください!」

と慌てて言った。

「か、香澄ちゃん?な、な、ナンパじゃないと思うよ?そんな雰囲気なかったよ?」

「ホント?りみりんがそう言うなら違うよね。疑ってごめんなさい。」

と香澄が言った。

「いえいえ。」

と笑顔で潤は言ったが内心は(助かったー!危ない、危ない…。てか、ネコ耳さんは香澄って言うんだね。)と思っていた。

 

――――――――――――――――――――

潤のチャラ男疑惑が無事に晴れ、ポピパは練習の為、スタジオに入っていった。余談だが、何故、今日は蔵ではなくCiRCLEで練習だったのかとまりなが聞くと「夏休みだから。」というよく分からない理由だった。発案者は当然香澄である。

「あっ。蔵の事聞くの忘れてた。」

仕事に集中していた潤だが、気になっていた練習場所が蔵ってことを思い出していた。

「蔵?蔵ってあの物置みたいな蔵だよね?練習場所?ん?」

と考えていると、練習に区切りがついたポピパがスタジオから出てきた。

「あっ!潤くーん!お疲れ様~!」

「戸山さんお疲れ様です。」

手を振りながら近づいてきた香澄は潤の対応に不満気だった。

「潤君!さっき自己紹介したけど、私たち同級生だよ?もっと砕けた感じで喋ろうよ!」

と言った。

「すみません。仕事中なので…。お客様にはきちんとした対応をしないといけないので…。」

と申し訳なさそうに潤が言うと、

「香澄!無茶言うなよ。仕事以外だったら敬語とかも使わないだろ。それまで我慢しろ。」

と有咲が香澄に言った。

「あ~り~さ~」

「うわっ!抱きつくなっ!」

2人のやり取りに潤が苦笑しながら

「戸山さん。仕事以外なら砕けて話しますよ。見かけたら声かけて下さいね。」

と言った。

「絶対だよ!約束だからね!」

と有咲に抱きついたまま香澄が言った。有咲は「暑いから離れろ!」とずっと叫んでいた。

「あの、聞きたいことがあるのですが、普段練習は蔵でしてるんですか?」

「そうだよ!有咲の家の蔵でしてるんだよ~!」

と香澄が答えて去っていった。

「(ど、どんな蔵か気になる。)」

と潤が考えていると

「騒がしくてごめんね~。パン食べますか?」

と潤の横から沙綾が「やまぶきベーカリー」と書かれた紙袋を手渡した。

「パンですか?」

と潤が言うと

「いるー!」

と横からまりなが割り込んできた。

「沙綾ちゃんとこのパン美味しいからね!ありがとう!」

と言った。

「月島さん、それ僕が貰ったパンですが?」

「どうせ、仕事中なのでって断るつもりだったくせに!いいじゃない!沙綾ちゃんの家はやまぶきベーカリーってパン屋さんで凄く美味しいんだよ!」

と言い、潤は痛い所を突かれてしまった。

「潤君、本当に真面目なんですね。尊敬しちゃうな。」

とりみが言った。

「ふ、普通ですよ。でも、パンは気になるので食べますね。ありがとうございます。」

と照れながら潤は答えた。

「是非、当店にも来て下さい!焼きたてパンありますよ!」

「沙綾ちゃんとこのチョココロネ美味しいですよ!」

と沙綾とりみに宣伝された。

「ちなみに、チョココロネあの袋の中に入ってますよ。」

と沙綾が言うと

「月島さん、チョココロネだけは食べないで下さいね。」

と慌てて潤が言った。

「本当にチョココロネ美味しいですよ!あっ!ちなみに、チョココロネは尻尾から食べると中のチョコが出ちゃうので頭から食べて下さいね!」

とりみが嬉しそうに語ると

「チョココロネ好きなんですか?」

と潤も笑顔で聞いた。

「え!?あ、はい。大好きです…。」

恥ずかしそうに答えると

「なら、食べたら感想を言いますね。」

と笑顔でまた潤が答えた。

「なんか、一宮さんってりみりんと話してる時ずっと笑顔ですね。」

とニヤッと笑い沙綾が言った。

「え?確かにそうかもですね。何故か分かりませんけど牛込さんと話していると笑顔になっちゃいます。」

と潤がりみを見ながら答えるとりみは「うぅ…。」と言いながら照れてしまった。しかし、潤は勘違いをしてしまい

「ご、ごめんなさい。困らすつもりはなかったです。本当にごめんなさい。」

と言った。

「ち、ちゃう。ってまた関西弁でてしもうた。えっと、こ、困ってた訳じゃなくて…。て、照れてしまって…。あ、あの!私、臆病で引っ込み思案な性格で、すぐ言葉が詰まってしまって。その性格を変えたくてバンドに入ったんです。でも、なかなか治らなくて…。なので、じゅ、潤君が良かったら連絡先交換しませんか?性格を治すきっかけになりそうなので…。ってこれじゃあ、潤君を利用してるみたい?ご、ごめんなさい!え、えっとそれだけじゃなくてチョココロネの感想を早く聞きたいって言うのもあって!」

「りみりん、一旦落ち着こう?」

りみがわたわたしながら言うと沙綾がまた助け船を出した。潤はクスリと笑って

「気持ちは伝わったので大丈夫です。ただ、僕は今、仕事中なので、またの「ピロリン♪」ピロリン?」

「りみちゃん!今、潤君の連絡先送ったからメールでも、LINEでもしてあげてね!」

とスマホ片手にまりなが言った。りみは「えぇ!?」と慌てながら潤を見たが、潤はまりなの方を見て固まっていた。

「はぁ~。この先輩はホントに…。まぁ、でも、うん。牛込さん?僕で良かったらいつでも連絡してくださいね。」

と答えた!

「あ、ありがとう!めっちゃ嬉しい~。」

とりみが言いながら頭を下げた。

その間、沙綾は微笑ましく2人をみていた。

ちなみに、おたえはスタジオでオッちゃんの写真を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 



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2話

どうも。
ぴぽです。
第2話となります。
感想とか頂けると参考になります。
それとテンションもあがります笑


潤と無事に連絡交換をしたりみ。とても嬉しかったらしく、軽やかな足取りで受け付けのあるフロアからスタジオに向かっていた。

「(勇気出した甲斐があったなぁ。新しい友達も増えちゃった!)」

と帰りに頑張った自分へのご褒美にいつもより高いチョコを買って帰ろうと、鼻歌交じりで考えていた。そんなりみを見ながら沙綾は声をかけた。

「りみりんって、あんな感じの男性がタイプなの?」

「え?違うけど?」

「違うの?引っ込み思案のりみりんが積極的に行動してたからてっきり一目ぼれで好きになったと思ったんだけど。」

「え?…え?ち、ちゃうよ!?や、優しそうな人だったから仲良くなりたかっただけだよ?」

慌ててりみが否定するも、沙綾はニヤリと笑い、

「そっか。まぁ、そういうことにしておくよ。」

と言った。

「うぅ…。違うのに…。」

とりみは頬を染めながら呟いた。

 

―――――――――――――――――――――

朝から始まった潤のバイト。気がつけば太陽も西に傾き始めていた。

「(バイトしてたら1日が早いなぁ。)」

と思いつつ、今日あった、潤にとってはかなりイレギュラーな1日を振り返っていた。

「(まさか、牛込さんと連絡交換まですることになるなんてなぁ。てか、牛込さん、めっちゃ可愛い!あんな可愛い人とLINE出来たりする僕はラッキーだなぁ。)」

とニヤけながら考えていた。

「はぁ~。鼻の下伸びてるよ?」

「うわぁ!月島さん!いつからそこにいたんですか!?」

「さっきからずっとだけど?」

「そ、それはすみません。それで、何か用があって声かけたんですよね?書類の不備とかありましたか?」

「違うよ~。」

と言いながらまりなは時計を指した。

「もう定時だから上がって良いよ~。お疲れ様。」

「え?あっ!本当ですね。本当に時間が経つのが早いなぁ。月島さん、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」

「は~い。明日も出勤だっけ?こちらこそよろしくね!愛しのりみちゃんとLINEのし過ぎで寝坊しないようにね!」

「い、愛しって!?出会ったばかりでそれはないです!」

と企業でよくあるようなやり取りをした。いや、最後だけはイレギュラーであるが…。弄られて、恥ずかしかったのか、潤は急いで更衣室に入った。1人、残ったまりなは

「違うの?潤君、りみちゃんに一目惚れしたんじゃないの?」

と首を捻っていた。

 

―――――――――――――――――――――

更衣室で私服に着替えて外に出る。日が傾いていたので、潤は暑さはましになったと思っていた。しかし、太陽はそんな甘い考えを吹き飛ばす勢いでまだまだ日差しを地上に降り注いでいた。

「暑っ。」

予想以上の暑さに眉間にシワを寄せた。ちなみに時刻は16時である。少し歩くとすぐに額から汗が出てきた。

「(タオル持ってくれば良かったなぁ。)」

と考えながらカバンからスマホを取り出しLINEを開いた。そこには「牛込りみ」と表示され、メッセージが届いていることを告げていた。

 

“今日はホントにありがとうございました。

牛込りみです。

ジュース美味しかったです。次、買うときがあったら今度は私が買いますね。

それとチョココロネどうでしたか?

美味しいでしょ?

今度、機会があったら是非、一緒に買いに行きましょうね!”

 

文章を読んで潤はクスリと笑った。

「(ジュース気にしないで良いのになぁ~。それはそうと…。)」

りみは引っ込み思案な性格を治したいと言っていた。しかし、潤には何を協力していいかまるで分かってなかった。

「(う~ん。考えても分からないから聞いてみようかな?でも、協力するって見栄切っちゃったから聞きにくいし…。う~ん。いや、やっぱり聞こう!的外れな協力したら牛込さんも困るよね。)」

と思い、文書を作成した。

 

“今日はお疲れ様。

ジュースの件はホントに気にしないでね?好きで奢っただけだから。

チョココロネ美味しかったよ!他のパンもホントに美味しかった!是非やまぶきベーカリーに案内してね!

あと、聞きたい事があるんだけど、引っ込み思案な性格を治したいと言ってたよね?協力するって言ったからにはちゃんと協力したいと思ってる。それで、具体的には何したら良いのかな?”

 

と打った。すぐには返信は無いだろうと思い、スマホをカバンに入れようとした瞬間に「ブー」と鳴った。再びスマホを開くとりみからの返信だった。

 

“バイトお疲れ様です。

ジュース、気にするなと言われても気になっちゃいます。いつか、何かでお礼させて下さい。

是非、行きましょうね!楽しみにしてます!

協力して欲しいって確かに言いましたけど、私も分からないです(^^;)

とりあえず、こうやってLINEをやり取りにして頂ければと思います!”

 

返信早くない?と潤は苦笑いした。とりあえず、“分かったよ。僕はいつでも暇してるからいつでも送ってね!”と返信した。

「さて、早く帰ろう!」と思い、しっかりと一歩を踏み出した。

 

―――――――――――――――――――――

「文、変じゃなかったよね?」

と自室のベットに腰かけながらりみは呟いた。ここだけの話、りみは昼過ぎに帰ってきたが、それから1時間あーでもない。こーでもない。と文章を打ち替えていた。

「うぅ…。LINEってこんなに難しかったっけ?」

とまた呟いてスマホを見て言った。

「いつでも送ってね…かぁ。本当に送って大丈夫なのかな?」

う~ん。とりみは考えて、

「お姉ちゃんが帰って来たら相談しようかな?」

「何を相談するの?」

「ひゃあ!」

りみがビックリしながら後ろを向くとりみの姉である牛込ゆりが立っていた。

「びっくりさせちゃったかな?ごめんね。それで相談って?」

と、ゆりがニコニコしながら聞いた。りみは今日あった出来事と一緒に相談事、いつでも送ってねは本当にいつでも送って大丈夫なのかを聞いた。

「あははっ!りみは心配しすぎだよ~。いつでも送って大丈夫って相手が言ってるなら送って平気だよ!それに忙しかったら返信が遅くなるだけだよ。」

と笑いながらゆりは言った。

「そっか。そうだよね。私が気にしすぎてたね。男の人とLINEするのが初めてだったから緊張しちゃって。」

とりみが照れながら言った。

「それにしても、りみに好きな男性が出来るなんて…。お姉ちゃん嬉しいな。」

と言うと、りみはますます照れた。

「ち、違うよ?沙綾ちゃんにも言われたけど好きとかじゃないよ?」

「大丈夫!何かあったらお姉ちゃんに相談してね!未来の旦那さんになるかもしれないし。」

とゆりはニコッと笑って言った。

「もう!お姉ちゃん!?」

とりみが叫ぶと、悪びれた様子もなく、ゆりはごめんねぇ。と言った。

 

―――――――――――――――――――――

バイト先を出てから40分後。潤はやっと家に到着していた。しっかり踏み出した一歩は今はもう見る影もなく、朝と同様、フラフラとしていた。

「明日からは自転車で、行こう。運動と思って歩くんじゃなかった。」

と呟きながら家の中に入った。

「ただいま。」

と言い、リビングのドアを開けると冷房の風が潤を包んだ。ふぅーと息を吐き、生き返ったような気分に浸っていると

「あら?お帰りなさい。」

と、台所から女性の声が聞こえた。

「ただいま。母さん。」

と言いながら消費した水分を補う為、冷蔵庫から麦茶を取ってコップに注いだ。それを一気に飲む。

「あーっ!生き返る!」

と、叫ぶと 

「外、そんなに暑いの?私、今日一歩も外に出てないから。」

と母親が潤に聞いた。潤の母親は専業主婦で、しかも趣味が読書とインドアなので1日中部屋の中にいると言うのは珍しくないのだ。

「ヤバいよ!ホントに暑いよ。」

と潤が苦笑いしながら言うと、母親が潤の方を見た。

「潤?相当汗かいてる?あなたからかなり邪悪な匂いがする…。」

と眉間にシワを寄せ言った。「マジで?」と潤は言いながら自分の服の匂いを嗅いだ。しかし、不思議と自分では分からないものである。

「お風呂のお湯、入れてあげるから早く入ってちょうだい。鼻が取れそう。」

と言い、風呂場に行ってしまった。「そんなに匂う?」と軽くショックを受けながらリビングに戻った。ソファーに腰かけ、スマホを開くとLINEが届いていた。中を開けるとりみからだった。

 

“もう家に着きましたか?”

 

という内容だった。

 

“着いたよ!歩いて帰ったら汗ヤバかった。”

 

と返すと、

 

“私もです!背中にベースを背負ってるから背中の汗が…(つд`)”

 

と、すぐに返ってきた。

「(ホントに返信早いなぁ。僕も気を付けてLINEしてみよう。)」

と考えながらLINEをしていた。

それから15分後、「お風呂が沸きました。」とアナウンスがリビングに響いた。りみに“お風呂入ってくるね”とLINEし、脱衣場に向かった。滅茶苦茶綺麗に洗おうと心に秘めながら。

それからさらに15分後、お風呂から上がった潤は母親が入れてくれたアイスコーヒーを飲みながらゆっくりしていた。ダラダラとニュースを眺めていると

「そういえば。」

と母親が潤に声をかけた。

「ん?何?」

「今から、お姉ちゃんがくるよ?」

「……は?」

「だから、お姉ちゃんが来るって!おかず持ってきてくれるって。」

「えっと、お姉ちゃんってどっちの?」

「姉の方だよ。」

さっきから話している内容だが、潤の本当の姉という訳ではなく、親戚のお姉さんがおかずのお裾分けに来るという話だ。それだけなら、なんてことない話だが、潤は顔を真っ青にした。

「あーと、えーと、ちょっと用があるから出掛けてくるね!何処に行くかって?言わないよ!」

とかなりあたふたしながら玄関のドアを開けた。開けた先にはアイスグリーンのロングヘアーの女性が立っていた。

「こんにちは。潤さん。」

と微笑みながら言った。

潤は絶望的な顔をしてはぁ~とため息をついた。

「こ、こんにちは。紗夜姉さん。」

彼女は氷川紗夜と言い、潤の親戚だ。

「そんなお風呂あがりの格好でどちらに行かれるつもりでしたか?」

「え?い、いや。こ、こ、コンビニまでちょっと。」

と潤は誤魔化した。

「嘘ですね。暑いので中に入りたいのですが良いですか?勿論、貴方もですよ。」

と紗夜は言った。潤は諦め、に中に入った。

「これ、頼まれてたものです。」

と紗夜が潤の母親に手渡す。

「いつもありがとうね!紗夜ちゃん!」

と言い、台所に入っていった。

「ところで潤さん。」

「は、はい!何でしょうか?」

「夏休みの宿題は済んでますか?いえ。すみません。済んでる訳ないですよね?」

「失礼な!多少はやってますよ!」

「そうでしたか。では、全ての宿題が100%として、何%終わってますか?」

「さ、30%くらいです。」

潤は目を泳がせながら言った。そんな潤をじっと見ながら

「本当は?」

と静かに言った。

「うっ…。5%くらいです。ごめんなさい。」

と俯きながら潤は言った。

「やっぱり…。では潤さん今ここに一番苦手な宿題を持ってきて下さい。私の管理の元でやりましょう。」

「え!?今から?」

「今しないとしますか?」

潤は諦め、自室に宿題と筆記用具を取りに行った。一番苦手と言われたので数学の宿題を選んだ。

「数学ですか。まだ、真っ白ですね。」

「苦手で後回しにしてました。」

「では、早速しましょう。さっ、まだ日が出てるので夜までみっちりいきますよ。」

と紗夜は微笑みながら言った。潤には悪魔の微笑みにしか見えなかった。

 

―――――――――――――――――――――

夜も更け、本当にみっちり数学の宿題をした潤。魂は抜け机に伏せていた。しかし、頑張ったお陰か半分以上終わらす事が出来た。

「ふぅ。いい湯でした。ありがとうございます。」

と、紗夜は髪をタオルで拭きながら出ていた。

潤の家庭教師、もとい監視を続けていた紗夜はこうなることを予想して泊まる準備をしてきていた。

「紗夜姉さん。ありがとうございました。お陰で一気に終わりました。」

「いえ。あなたもよく頑張りました。それとLINEが届いているみたいですよ。」

と机の上に置いてあったスマホを指した。

「ありがとうございます。……あっ、ヤバっ。」

潤は紗夜にお礼を言い、スマホを見た瞬間焦った。りみからのLINEだったのだ。紗夜が来てからずっと勉強だったので気付かなかったのだが、もう少し気を付けて、勉強中だった事を伝えれば良かったと思っていた。慌て返信を打つと紗夜が声をかけてきた。

「すみません。見るつもりは無かったのですが見えてしまったので…。牛込さんと知り合いだったんですね。」

「そっか。バンド繋がりで牛込さんのこと知ってるんですね!」

潤は今日あった出来事を紗夜に話した。

「そんなことがあったのですね。彼女はホントに良い子なので失礼の無いようにしてくださいね。」

「……紗夜姉さんの中で僕の評価はどれだけ低いんですか?」

とちょっといじけながら言った。

「いえ。あなたはとても優しい人だと思いますよ。ただ計画性がないだけです。」

と紗夜は答えた。

「(上げて落とすのか…。)」

と潤は苦笑いした。

「それで、潤さんは牛込さんの事が好きなんですよね?牛込さんならだらしないあなたでも…。」

「ち、ち、ちょっと待って!職場の月島さんにも言われたけど、今日出会ったばっかりだよ?違うって!」

潤は焦りながら答えた。

「あら?そうなの?」

と紗夜が言うと

「そうだよ!確かに、良い子だし可愛いけど…。あぁ!もう!寝る!紗夜姉さんおやすなさい!」

と潤は顔を真っ赤にして出ていてしまった。

「その反応をみる限り好きなんじゃ…。でも…。」

紗夜は立ち上がりリビングにある一枚の写真に目をやった。

「潤さんがこれで前に進めてくれれば良いのですが…。」

そんな紗夜の呟きをかき消すように夜は更けていった。

 

 



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3話

「う~ん。」

布団の中で潤は寝返りを打った。ゆっくりと目を開けるとカーテンの隙間から太陽の光が漏れていた。

「(今、何時だ?)」

とスマホを探す。しかし、いつも置いてある枕元にはない。辺りを探すとベットの下に落ちていたのを発見した。夜の間に落としてしまったらしい。

「(やっと見つけた。さて、時間は……)」

時間を見た瞬間、潤は固まってしまった。現在の時刻10時。CiRCLEのバイト開始時間9時半。そしてまりなからの不在着信5件。

「ほあぁぁぁああぁぁぁぁ!!」

と潤は叫び、慌ててまりなに電話をかける。2コールの後、直ぐにまりなが出た。

「も、も、申し訳ありません!寝坊しました!今から直ぐに準備して迎います!」

潤が慌てて叫ぶように言った。

「あははっ!潤君、落ち着いて。とりあえず事故とかじゃなくて安心したよ~。あのね、今日なんだけど、夏休み、ずっと出勤して貰ってるから休んで大丈夫だよ!」

とまりなは言った。

「い、いえ!それはいけません。直ぐに準備して…」

「先輩命令!休みなさい。」

潤が出勤する旨を言う途中でまりなが被せるように言った。

「…分かりました。本当に申し訳ありません。」

と潤は再び謝罪した。

「それでよろしい!ところで本当にりみちゃんとLINEを夜遅くまでして寝坊したの?まさかLINEが盛り上がり過ぎて電話までしちゃったとか?もう、昨日1日でどんだけ進展したの?」

「違いますっ!LINEはしましたが、寝坊とは一切関係がありません!」

潤は昨日の夕方から紗夜が来て、夜遅くまで勉強をしていた話をした。

「でも、寝坊してしまったのは完全に僕の責任です。本当に申し訳ありません。それと、休みにして下さってありがとうございます。」

潤は再び、謝罪した。

「あはは。潤君は真面目だね~。また明日からよろしくね!バイバイ~。」

とまりなは言って電話を切った。電話を切って、潤はもう一回、ため息をついた。

「さすがにへこむなぁ。」

と呟き、次から2度とないようにしようと早速、アラームを5分おきにセットした。

「さて、起きるか…。お腹空いたな~。」

よいしょと立ち上がりリビングに向かった。

「おはよう。」

「おはようございます。」

リビングの扉を開けると紗夜がコーヒーを飲んでいた。

「紗夜姉さん。まだいたんですね。」

と潤が言うと

「えぇ。昼からRoseliaの練習なので、ゆっくりさせて頂いてます。潤さんもコーヒー飲みますか?」

と言い、立ち上がった。

「ところでバイトじゃなかったんですか?そんなゆっくりしてて大丈夫なんですか?」

コーヒーを煎れながら紗夜は潤に言った。

「バイトだったんですが、寝坊して、電話したら休みになりました。……あっ!」

潤はしまったと思いながら恐る、恐る紗夜の方を見た。

「そうですか。寝坊ですか。」

紗夜は見たこと無いくらいの笑みを浮かべながら言った。しかし、表情とは裏腹に声には覇気が籠もっていた。

「(あっ…。ヤバい…。)」

と潤が顔を引き攣らせていると、

「潤さんちょっとお話があるんですけど、良いですか?いえ、あなたに拒否権はありませんが。」

それから1時間、潤は紗夜にみっちり説教を受けた。

 

―――――――――――――――――――――

ところ変わってここはCiRCLE。今日も、今日とて、色々なバンドが日々演奏の腕を磨こうと切磋琢磨している。その休憩所でPoppin'Partyが休憩していた。今日も「夏休みだから」と訳の分からない理由でCiRCLEで練習していた。

「う~ん!いい感じに曲出来てるね!」

と香澄が伸びをしながら言った。

「だね。良いと思うよ。」

と沙綾も言った。

「曲は良いけど、香澄、ギター走りすぎ。」

と水分補給しながら有咲は言った。

「おたえ~!」

香澄がおたえに抱きついた。

「大丈夫!香澄のギター、私好きだよ!」

「おたえー!」

2人のやりとりにはぁ~とため息をつきながら有咲はりみの方を見た。

「りみ、どーした?今日、受付の方ばかり気にしてない?」

有咲がりみに聞くと

「え?そ、そんなことないよ?」

と慌てて言った。

「そんなことあるよ。受付の中の方を見たり、休憩する度にソワソワしてるよ?」

と沙綾も言った。

「うぅ…。あ、あのね。今日い、いないなぁって。」

「いないって誰が?」

と香澄が言う。

「バカッ!一宮さんに決まってるだろ?他に誰がいるんだよ!」

「まりなさん?」

と有咲のツッコミにたえが答えた。

「朝、受付したときにあっただろーが!」

有咲のツッコミに沙綾があははと笑うと

「でも、一宮さんを探してるんだよね?やっぱり、りみりん、好きなんだよね?一宮さんのこと。」

とりみに聞いた。

「え!?そうなの?りみりん!」

と香澄を身を乗り出しながら言った。

「ち、違うって!い、いや。潤君を探してたけど…。えっとね、昨日のLINEで今日、バイトって言ってたから…。いないからどうしたんだろって。」

りみが照れながら答えた。

「LINE…。相思相愛?」

おたえが首を傾げながら言うと

「だからちゃうってー!」

とりみが叫んだ。

「てか、りみ。LINE知ってるなら本人に聞いたらよくね?」

と有咲がりみに言った。

「うん。練習終わったらLINEしようって思ってたんだけど、今して良いかな?」

りみがそう言うと他のメンバーから「いいよー!」と返ってきた為、りみはLINEを開いて文書を作成した。

 

―――――――――――――――――――――

「では、お邪魔しました。潤さん、これからはないように!」

「…はい。分かっています。」

潤の返事を聞いて満足したように紗夜は帰っていった。

「つ、疲れた~。」

と玄関でぐったり項垂れた。

「昔からだけど、紗夜姉さんの説教は精神的にくる。」

と呟きながら立ち上がり、リビングに向かうと、ドカッとソファーに座った。

「はぁ~。なんか甘い物食べたい。疲れた。」

と天井を見ながらまた呟くとスマホからLINEを受信した着信音が流れた。中を確認するとりみからであった。

 

“こんにちは。

今日、バイト休まれたんですか?

体調とか崩されたりされてませんか?” 

 

「そういえば昨日帰るときにポピパ予約してたっけ?心配かけちゃったなぁ~。」

潤は苦笑いしながらすぐに本文を作成した。

 

“こんにちは。

心配かけてごめんね。

実は、寝坊しちゃって。それで疲れてるみたいだからってそのまま休みになっちゃったんだよ。”

 

と打った。

「なんか、色々な人に寝坊ってバレちゃったなぁ。」

と苦笑いした。その間にもりみから返信が来てしばらくやりとりが続いた。

 

“そうだったんですね!

安心しました。

今日はお家でゆっくりしてくださいね!”

 

“本当に心配かけてごめんね。

それなんだけど、甘い物が食べたくなっちゃって、どこか食べに行こうかなって考えてるんだよ。”

 

“それだったらやまぶきベーカリーに行かれてはどうですか?甘いパンも沢山ありますよ!もちろんチョココロネもありますよ!”

 

“それ良いね!昨日食べて凄く美味しかったし、他のパンも気になるから行こうかな!チョココロネも、もちろん買うよ!

あっ。でも、場所分からないや。アプリで調べれば分かるかな?”

 

“すぐ分かりますよ!商店街の中なので。そやまなかたはらな”

 

突然乱れたりみからの返信に潤は世界七不思議がいっぺんにやって来たような顔をした。「どうしたの?」とLINEの返信を打っているといきなり画面が着信画面に変わった。

「え?牛込さんから電話?なんだろう?」

と思いながら出た。

「はい。一宮です。」

「こんにちは。私、山吹沙綾です。昨日はどうも。」

りみからの着信で沙綾が喋っている状況に若干困惑しながらも沙綾の声の後ろから「ちょっと沙綾ちゃん!」とりみの声が聞こえた為、勝手に沙綾が電話をかけていると理解する事が出来た。更に「香澄ちゃんもおたえちゃんも離して。」とりみの声が聞こえた為、捕まっているなぁと想像も出来た。

「山吹さん。こんにちは。どうかした?」

と潤が言うと

「一宮さん、うちのパン屋くるんだよね?」

「うん。そのつもりだけど?」

「りみりんから聞いたんだけど、場所分からないんだよね?」

「え?いや、アプリで調べれば分かるって。」

「そっかー!分からないかぁ。」

「ん?いや、だから分かるって…」

「分からないならしょうがない。りみりんが道案内してくれるみたいだから、商店街の入り口に1時に来てね。」

「え?」

「じゃぁ、それでよろしく!1時に商店街の入り口ね!」

「え?もしもし!もしもーし!…切れちゃった。」

電話の向こうは無情にも「ツー、ツー」と終了を告げる電子音が流れていた。

「これは、さすがに行った方がいいよね?多分、強制的に牛込さんは道案内にされたんだよね?でも、なんで?」

と思いながら潤は支度為に立ち上がった。着替えようと自室に行く途中で急に

「あんた邪悪な匂いしてるよ。」

と母親の言葉を思い出した。

「……シャワー、浴びるか…。」

潤は浴室に向かった。

 

―――――――――――――――――――――

「もう!勝手に電話するなんて…。」

「あはは!ごめん、ごめん。」

りみが少しはぶてながら言うと、あまり悪びれた様子もなく沙綾が答えた。

「でも、沙綾らしくなかったかも?」

「だね。無理矢理約束を取り付けるって確かに沙綾らしくないよね。」

とおたえと香澄が言った。ちなみに、りみを取り押さえた2人だが、沙綾の指示で動いていた。

「だよね。でも、ちゃんと理由もあるよ!」

と沙綾は言い、昨日のりみが潤にLINEを聞いた経緯を話した。

「だから、私なりにりみの性格が少しでも治るように協力してみたんだよ。」

と沙綾が、言うと香澄とおたえは「おぉ~!」と納得した。しかし、有咲は

「いや、荒療治過ぎるだろ。第一、理由はそれだけじゃないだろ。」

と、ジト目で言った。

「バレたかぁ。」

と苦笑いしながら沙綾が言う。

「他の理由って?」

とおたえが聞くと

「だって、りみりんは絶対に一宮さんのこと好きなんだよ。でも、本人は気付いてないみたいだからね!」

と言った。

「バカッ!りみの前で言ったら…。」

と有咲がりみの方を見ると

「ど、どうしよ?何話そう…。こんなことならもうちょっとオシャレして来たら良かった…。」

と俯き、顔を赤くしながら呟いていた。

「りみりんの前で言ったら?何?」

と沙綾が得意気な顔で有咲に聞くと

「いや、何でもねぇ。」

と言い、

「(りみ。頑張れ。)」

と心の中で呟いた。

 

―――――――――――――――――――――

「失敗したなぁ。」

と潤は呟いた。現在時刻は12時45分。女性を待たすのは悪いと考えた潤は12時40分には集合場所に来ていた。普通なら良い行動だが、真夏と言うことを忘れていた。

「(暑すぎる…。汗がヤバい…。シャワーを浴びた意味が無くなってる。でも、集合時間ギリギリに来て待たすのも悪いし…。)」

と考えていると

「お、遅れてごめんなさい!」

とりみがやって来た。潤が時間を見ると12時50分だった。

「全然遅れてないよ。僕が早かっただけだから。」

と潤が言うと、

「でも、暑い中待ってたんですよね?集合場所を涼しい所にすれば良かったですね。」

とりみは呼吸を整えながら言った。

「本当に気にしないで。てか、牛込さんこそ、そんなに急がずにゆっくり来て良かったのに。ベース、持ってないから1回家に寄ってたんでしょ?しかも、案内を頼んだのはこっちだから。」

と潤が答えるとりみが

「でも…。」

とまた言いそうになったので潤は笑いながら

「なんかきりが無くなりそうだね。それよりお腹空いたからやまぶきベーカリー、行こう?」

と言った。

「あっ。そ、それなんですけど…。」

潤の発言にりみが答えにくそうに言う。潤が「?」を浮かべるとりみが指を指した。その指の先に目を向けると堂々と「やまぶきベーカリー」という文字が入った建物が鎮座していた。中では沙綾が手を振っていた。

「…マジか。」

と潤が言うと

「い、行きましょうか。」

と、りみが言った。

―――――――――――――――――――――

「いらっしゃい。チョココロネ焼きたてです。」

カランコロンと来客を告げるベルが鳴った途端、沙綾は笑顔で言った。結局、潤とりみが移動した距離は30メートルだった。

「山吹さん、こんにちは。いつからあそこに僕がいることに気付いてましたか?」

「え?最初からだよ?」

潤はやまぶきベーカリーの場所を気付けなかった事に恥ずかしくなっていた。そんな事は気にもせずりみは

「チョココロネ焼きたて!?」

と目を輝かせていた。そして、潤が回りを見渡すとメロンパンに、あんパンは勿論、焼きそばパンやカレーパンなどの惣菜パンまで色々な種類のパンが並んでいた。

「美味しそう…。」

と潤が呟くと

「いっぱい買って下さいね!」

とニコニコしながら沙綾が言った。

潤はりみにオススメのパンを聞きながら選んでいった。しかし、

「潤君!これも美味しいよ。」

と次々勧められた為、潤のトレイには沢山のパンが乗っていた。

「うん!これくらいにしようかな?」

と潤がトレイをレジに持って行くと視線を感じた。辺りをキョロキョロすると物陰から小学生くらいの男の子が見ていた。

「こら!お客様をそんなジロジロ見ないの!」

と沙綾が言うと、

「だって、ずっと「じゅん」って呼ばれるんだもん!」

と、答えた。

「あ~。」

と沙綾が言うと、横にいたりみが

「あのね、沙綾ちゃんの弟で「純」君って言うんだよ。」

と教えてくれた。潤はなるほどと思い、目線を合わせてから

「同じ名前なんだね!一宮潤だよ!宜しくね。」

と言うと

「う、うっせー!うんこー!」

と叫びいなくなってしまった。

「こ、こらー!純!」

と沙綾が叫ぶも、純には届かなかった。

「ごめんね。後から叱っとくから。」

とため息交じりで言う。

「大丈夫だよ。気にしてないから。それに元気が、あって良いじゃない。」

と潤が笑って言った。

「ありがとう。…お会計で良いですか?」

沙綾が業務に戻る。

「はい。あっ、こっちのトレイも一緒にお願いします。」

と、チョココロネが沢山乗ったトレイを指して言った。

「そ、そんな!わ、悪いですよ!」

とりみが、慌てて言ったが

「案内して貰ったお礼だよ。それに、こういう場面では男が支払うもんだよ!まぁ、奢るって言った手前、僕の顔を立ててよ。」

と、笑顔で言った。

「うぅ…。本当にごめんなさい。」

と、りみが言った。

「牛込さん、こうゆう時はごめんなさいじゃなくて、もっと言って欲しい言葉があるかな?」

と、潤が意地悪な笑顔で言うと

「あっ!ありがとうございます!」

とりみは言った。

こんなやり取りをしている間に袋にパンを詰めた沙綾。

「お会計、一緒で良いんだよね?1,650円になります。」

と言った。商品を潤が受け取ると

「ありがとうございます!デート楽しんでね!」

と言った。

最後の言葉が無ければ完璧な接客なのにと潤が思いながらりみを見ると

「で、で、で、デート!?」

と見たことないくらい照れていた。その様子を見て、潤はビックリして沙綾はあははと笑っていた。

「だ、大丈夫?」

と潤が声をかけた。

「だ、だ、だ、だ、大丈夫れふ!」

とりみは噛みながら答えた。これは大丈夫じゃないな~と苦笑いしていた潤だが外を見てハッとした。

「(このパン、どこで食べよう…。)」

と気付いた。外はまだまだ肌を刺すような日差しが降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第3話いかがでしたか?
更新は忙しさによって変わります。
ご了承ください。

小説は夏の話ですが、世間は寒くなってきたので、風邪など気をつけましょう!


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4話

「そこのカップル!只でさえ暑いのにさらに暑くしやがって!野菜安くしとくよ!」

「あらぁ~!可愛いカップルだね~!今日は豚肉が安いよ!」

さすが商店街と言ったところ。少し歩くだけでお店から声をかけられてしまう。しかも、カップルと連呼されていた為、りみの恥ずかしさはMAXになっていた。

「う、牛込さん、大丈夫?」

「うぅ…。恥ずかしい…。やっぱりカップルに見えるのかなぁ?」

りみは目をウルウルさせながら潤を見上げながら言った。

「(ちょっと待って!そ、その顔は反則だよ!)」

「ま、まぁ、男女が2人で歩いていたらカップルに見えてしまうんじゃない?」

と潤は目を反らしながら言った。潤の顔が赤いのは暑さのせいだけでは無いはずだ。

「と、ところで!パンどうしよ?どこで食べる?」

「どうしましょうか?ご、ごめんなさい、私も考えてなくて…。」

2人は商店街の真ん中でう~ん。と悩んでしまった。

「(公園は絶対暑いし、かと言ってどっちかの家はなんか違うし。う~ん。)」

潤が悩みながらチラっと見るとりみも同じように悩んでいた。

「一宮さん?どうしましたか?」

「うわっ!」

「きゃっ。」

後ろからいきなり声をかけられて潤はビックリした。りみは潤のビックリした声にビックリした。

「ご、ごめんなさい。驚かすつもりは無かったんですけど…。」

「なんだ、羽沢さんでしたか。本当にビックリした。」

声を掛けてきたのは羽沢つぐみ。家は商店街の中で羽沢珈琲店をしている。

「一宮さんってりみちゃんと仲良かったんですね。ところで、何か困ってたみたいですけど、どうしました?」

とつぐみは潤に聞いた。ちなみに、つぐみはAfterglowのメンバーでキーボードの担当だ。なので、CiRCLEでバイトをしている潤とは顔馴染みなのだ。

「ちょうど良かった!羽沢さんこの辺りの事詳しいですよね?牛込さんとパン買ったんだけど涼しい場所知らないですか?見切り発車で買っちゃって、食べる所まで考えてなくて。」

と潤が言うと、

「う~ん。そうですね…。うちの店来ますか?」

と少し考えてつぐみは言った。つぐみの発言に潤もりみもビックリし、

「いやいや!悪いですよ!」

「そ、そうだよ。お店に持ち込んで食べるって…ダメなんじゃないかな?」

と2人は言った。

「大丈夫だと思いますよ!今、あまりお客さんいませんし。父には私から言いますので。」

と言った。

「本当に良いのかなぁ?」

とりみは潤を見て言った。

「う~ん。お言葉に甘えよかっか。」

と言い、潤はつぐみを見た。

「羽沢さん。すみませんが、宜しくお願いします。」

「全然、大丈夫ですよ!では、行きましょうか。」

 

―――――――――――――――――――――

「ひーちゃん。元気だしなって~。」

「モカは良いよね!全然太らないし!世の中不公平過ぎるよー!」

「だって~モカちゃんはひーちゃんにカロリー送ってるし~。」

「モカ酷い!」

「でも~。ひーちゃんの場合~。太っても~。カロリーは全部胸に行ってるから~。大丈夫だよ~。」

「フォローになってないし!」

羽沢珈琲店ではこの時間帯はお客が少ない。その事を良い事にAfterglowのメンバーである上原ひまりと青葉モカは騒いでいた。話してる内容はいつもと変わらないのだが…。

「はぁ~。こんなに太ったんじゃ彼氏なんて出来ないよ~。」

とひまりは机に伏せて叫んだ。モカはそんなひまりを無視して羽沢珈琲店のオススメであるケーキに夢中になっていた。

「ただいま。お使い行ってきたよ。」

と言いつぐみが帰ってきた。つぐみは買ってきた物を父親に渡して、買ってきたパンを店内で食べていいかどうかを聞いていた。父親からOKが出ると、つぐみは店先にいた2人に大きく手で丸を作り大丈夫である事を伝えた。

「あ。大丈夫みたいだね。」

「う、うん。で、でも本当に良いのかな?」

と潤とりみは席に座った。

「とりあえず、飲み物頼もう?何も頼まないのは悪いし、何より喉渇いたしね。」

「う、うん。私も頼みます!」

と会話をしながら2人でメニューを覗き込んだ。

「…ねぇねぇ。モカ?どう思う?」

「モカちゃんはありだと思うよ~?」

「だよね!あの甘い雰囲気!良いなぁ!」

「ひーちゃん。そんなに気に入ったの~?まぁ、モカちゃん的にもこれはサイコーだね~。」

「え?モカがそんなに興味もつなんて珍しいね?」

「え~、そ~う?確かに、モカちゃんはパンら~ぶ~だからケーキにここまで興味もつのは珍しい…」

「ち、ちょっと待って!?モカ!?何の話してる?」

「ん~?この羽沢珈琲店オススメのケーキの話だよ~?」

「違~う~よ!モカ!ケーキじゃなくてあっこに座ってるカップルだよ!てか、りみちゃん、彼氏いたんだぁ~!知らなかった~!てか、相手は誰?どんな人?」

ひまりとモカが座っている所からりみの姿は見えるが潤は背中しか見えなかった。ちなみに、潤とりみの席からは観葉植物が邪魔で見えなかった。

「ん~?あれって~?」

流石のモカも気になり、2人の方を見た。フォークをくわえたままだったが…。

「あっ!何か話してる?ちょっと聞いてみよ!」

「ひーちゃん、盗み聞きはよくないよ~。」

とモカは言ったがひまりには届かなかった。

「牛込さん、決まった?」

「うぅ…。ご、ごめんなさい。めっちゃ悩んじゃって…。」

「大丈夫だよ。ゆっくり考えて!」

「うぅ…。ちなみに、潤君は何に決めました?」

「僕?僕はアイスコーヒーだよ。てか、家でもお店でもアイスコーヒーかお茶くらいしか飲まないんだよ。」

「そうなんですね~。なんか大人な感じでカッコいい!」

「え、うん?か、カッコいいかな?」

「はい!そう思いますよ!」

りみの真っ直ぐな言葉に潤は照れてばかりだった。

「モカ聞いた?カッコいいだって!良いなぁ!あんな会話してみたいよ~!」

「ん~。ひーちゃんはあの男の人、誰か気付いてないの~?」

「モカ!?分かるの?」

別の席の2人はコソコソと話していた。

「コーヒーの話してたら私も飲みたくなってしもうたから、アイスカフェオレにします。」

「了解!なら、注文するね。すいませーん」

「はーい!」

潤がつぐみを呼ぶと、すぐに返事をした。

「えっと、」

「アイスコーヒーとアイスカフェオレですね!」

潤が注文をしようとするとそれより先につぐみが答えた。潤とりみがキョトンとしていると、

「2人の話している声が聞こえちゃってて。すいません。少々お待ちください。」

つぐみがフフッと笑いながら言うと奥に入っていった。

「あはは。聞こえちゃってたみたいだね。」

「ちょっと照れちゃいますね。」

「そういえば牛込さん、時々関西弁が出るけど出身はあっち?」

「そ、そうなんです。中学生まで関西で…。気を抜くとつい出てしまって…。」

「そうなんだね!関西弁可愛いなぁって思っててね。」

と潤が言うとりみは「うぅ…。」と言って顔を赤くした。

「見て見てよ!モカ!りみちゃん顔真っ赤だよ!何て言ったのかな?それよりも!あの男性は誰なの?モカ!分かってるなら教えてよ~!」

「ん~?ヒントは~Afterglowは全員知ってるよ~。」

「Afterglow全員?ますます分からないよー!」

とひまりとモカは盛り上がっていた。いや、ひまりだけ、盛り上がっていた。

「ところで。い、今さら何ですが、疲れて寝坊って言ってましたけど、出歩いて大丈夫だったんですか?」

とりみが心配そうに言った。

「本当に心配かけてゴメンね。疲れているだろうって言ったのは月島さんで別に疲れてるとかじゃなくて只単に寝坊しただけなんだよね。」

と潤が苦笑しながら言った。潤の言葉を聞いたりみは少し考えて、口を開いた

「あの!迷惑じゃ無ければ、わ、私が朝電話しましょうか?」

「へ…?」

りみの衝撃的な発言に潤は固まってしまった。

「や、やっぱり迷惑でしたよね?」

とりみは言うと潤は我に帰り、

「いやいやいやいや!僕は迷惑なんてないよ!ただ、牛込さんの迷惑になるんじゃない?」

「ちなみに、何時頃起きられるんですか?」

「8時くらいだけど。」

「だったら私絶対に起きてるので大丈夫です!ダメですか?潤君にいっぱい助けて貰っているから私も何かしたくて!」

とりみは言った。潤はう~んと少し悩んだが、女性からの厚意を無駄に出来ないと考え

「じゃぁ、お願い出来るかな?本当にゴメンね。」

と言った。

「任してください!」

とりみは嬉しそうに言った。

「それにしても、牛込さん早起きだね。」

「早起きしないと山吹ベーカリーのチョココロネ売り切れてしまうんです。」

とりみは言った。潤は

「(チョココロネ中心の生活なんだ。)」

と思ったのは内緒である。

「…モーニングコール良いなぁ。」

「ひーちゃんはあの男の人が誰か考えるか盗み聞きするかどっちかにしたら~?」

「だってー!両方気になるんだもん。」

「だったら話掛けたらいーじゃん~?」

「じゃ、邪魔したら悪いよ!」

「じゃぁ、私話しかける~。お~い!いっくん~?」

「も、モカ!?」

ひまりは慌てて止めたが時すでに遅く「はい?」と向こうから返答がきた。

 

―――――――――――――――――――――

突然「いっくん!」と声が聞こえたかと思ったら目の前で喋った潤君が「はい?」と返事をした。声のした方をみるとAfterglowのメンバーの上原ひまりちゃんと青葉モカちゃんがいた。つぐみちゃんもAfterglowのメンバーだから遊びに来てたんだね。

「(うぅ…。せっかく潤君と楽しく喋ってたのに…。って、私…。今、嫉妬してた?何で嫉妬?)」

とりみが考えているとひまりとモカが近づいてきた。それと、別の方からつぐみがアイスコーヒーとアイスカフェオレを持ってりみ達に近づいてきた。

「2人ともあんまり邪魔したらダメだよ!」

とつぐみが言った。

「つぐ~。分かってるよ!てか、りみちゃんの彼氏って一宮さんだったんですね!」

「(また付き合ってるって勘違いされちゃったなぁ。でも、何だろ。恥ずかしいんだけど、ちょっと嬉しい?のかなぁ?)」

「つ、付き合ってないですよ!」

と潤が慌てて否定するとりみは少し残念な気持ちになった。

「はぁ~。男女2人で喫茶店に入ればカップルのように見えますが、早とちりしないでくださいね。」

と潤はパンの入った袋を開けた。その瞬間

「あぁ~!山吹ベーカリーのぱ~ん~!」

とモカが言った。

「(モカちゃんのあの反応…。多分、潤君はどれかあげるんだろうなぁ。)」

「青葉さんパン好きなんですか?なら、お一つどうぞ。」

「(やっぱり。優しいなぁ。潤君は…。)」

「いっくん!君を今日から神と崇めよ~。な~む~。」

潤が大袈裟なと言うも、モカの耳には入っておらず、集中してパンを選んでいた。

「なら、このクリームパン……は止めて~、クロワッサンにする~。」

「なんでクリームパン止めたの?まぁいいや。はい。クロワッサン!」

「いっくん!ありがとう!」

とモカは言いながらクロワッサンにかぶりついた。

「ごめん!ちょっとトイレ行ってくるね?」

と潤は断りをいれてトイレに行った。

「ねぇねぇ!りみちゃん!」

潤が席を立った瞬間ひまりはりみに声をかけた。

「本当に付き合ってないの?」

「つ、付き合ってないよ?」

りみの返答にひまりは残念がっていた。

「でも、ホントに仲良しなんだね!」

とつぐみもりみに言った。

「潤君が優しいから私に付き合ってくれてるだけだよ。」

とりみが言うとクロワッサンを食べ終わったモカが口を開いた。

「でも~、好きなんでしょ~?いっくんのこと?さっき、私が声、掛けたときに嫉妬?ぽい視線を感じたし、クリームパンを選びそうになったときも、恐い顔してたよ~?クリームパン、選んだあげたの~?」

モカがそう言うとりみは「うぅ…。」と言い、顔ってこれほど赤くなるんだと言うくらい真っ赤にした。

「な、なんで分かったの?」

と絞るような声でなんとかりみが言うと、

「分かりやすかったよ~?」

とモカがニヤッと笑って言った。

「え!?」

と、ひまりとつぐみが驚いた。ひまりが申し訳なさそうに「邪魔してごめんね。」と言うと

「ううん。私こそごめんなさい。でも、好きかどうか分からなくて。わ、私、男の人、好きになったこと無いから…。」

とりみが言った。

「りみちゃん?嫉妬したりするって、絶対に一宮さんの事、好きなんだと思うけどなぁ。」

つぐみが言うと2人も「うんうん。」と頷いた。

 

―――――――――――――――――――――

「ありがとうございました。是非、また2人で来て下さいね!」

とつぐみが笑顔で言った。

潤がトイレから戻ってくると頭から湯気が出て、顔を真っ赤にしたりみを発見し、「何事!?」と慌てさせた。しばらく話していると落ち着いたが店全体から「見守ってます」みたいな空気がながれ、りみは全然落ち着かなかった。潤はそんな空気など感じる事は無く、落ち着いて楽しんでいた。そんな感じで話していると日も傾いてきたのでお開きとなった。

「家まで送っていくよ。」

と潤が言うと、

「あ、ありがとうございます。」

と、りみが言った。

背中に太陽の日を浴びながら歩いていた。背中から太陽が当たるということは自分達よりも前に影が出来ていた。2つの影は重なることなく伸びていた。

「今日、楽しかったかな?」

と潤は口を開いた。

「楽しかったですよ。どうしました?いきなり?」

「え?いや。途中から僕ばっかり話していたから飽きてたかなぁって思ってね。」

と潤が苦笑しながら言うと

「そ、そんな事無いです!潤君の話面白かったよ。わ、私こそ黙っててごめんなさい。き、緊張しちゃって」

とりみは目線を横に外しながら言った。

「今度は、牛込さんの事もっと知りたいからいっぱい質問するね!」

と潤が明るく言う。

「(やっぱり優しいなぁ。)」

とりみは思いながら「はい。」と答えた。

りみの家の前に到着する。

「あっ、ここです。」

とりみが言うと、潤は家を見ながら

「へぇ~。意外と近いんだね。」

と言った。

「潤君の家はどの辺なんですか?」

「えっと、郵便局とコンビニに近くだよ!」

と言うとりみは納得したようにあの辺かな?と思った。

「今日は本当に楽しかったよ。山吹ベーカリーの場所案内してくれてありがとうね。」

と潤が言うと

「い、いえ。私も楽しかったです。」

とりみも、言った。

「本当にありがとうね。それじゃぁね。」

と潤が帰ろうとすると、

「あ、あの!」

とりみの声が響いた。

「ま、また誘っても良いですか?」

照れたようにりみは言った。

「是非。僕からも誘いますね。牛込さんといると癒されるから。」

と潤も照れながら言った。

 

―――――――――――――――――――――

「潤?」

「潤!」

「…秋帆(あきほ)?」

「またぼんやりして!一緒の高校に行くって約束したのに、そんなんじゃ落ちちゃうよ!?」

「はぁ~。まだ1年以上あるじゃん。そんな慌てなくても。」

「私は大丈夫だけど、潤、ギリギリじゃん!今日から私と勉強するよ!」

「はぁ?聞いてないよ!?」

「だって言ってないもん。」

「はぁ~。分かったよ。勉強するよ。てか、本当に秋帆どうしたの?焦り過ぎじゃない?なんか、秋帆らしくないよ?」

「だって……。私、どうなるか分からないし…………ネェ?ジュン……?」

「うわぁぁぁぁぁ!」

ガバッと潤は起き上がり辺りを見渡した。呼吸は荒く、汗を大量にかいている。

「はぁ、はぁ。ゆ、夢か。びっくりした~。」

ふぅ。とため息をつき本棚にチラっと目をやると写真立てがある。その1つを凝視しながら

「もうすぐ、2年か…。早いなぁ。今の僕を秋帆がみたら何て言うかな?」

と潤は呟いた。

 

 

 

 




第4話でした。
少し、最後は急展開でした。急展開ですよね?笑
今回のイベント10667位でした。
10000の壁はなかなか切れませんね(;´д⊂)
仕事が無ければ…。
ガチャも有咲引けず…。
リサ姉は引きましたよ!リサの☆4は全て持ってるという謎…。
ちなみに、推しのりみちゃんですが…。☆4、1枚も…来なくて辛いです。


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5話

文明の進化は凄い勢いで発展した。クーラーもその1つだろう。朝から夏の容赦ない日差しが降り注いでも、部屋の中は快適そのものだ。その快適な部屋で寝ている潤。規則正しい寝息を立てている。時刻は7時50分。50分になった瞬間、潤のスマホが朝の静寂を引き裂くように鳴った。潤は手をパタパタと動かしスマホを触り、アラームを止めた。

「(う~ん。もう朝か…。昨日変な時間に寝ちゃったからあまり寝られなかったなぁ。)」

と考えながらベットでゴロゴロしていた。

「(そういえば、牛込さんから本当に電話掛かってくるのかな?)」

とまた考えながらスマホを見ると時刻は7時58分になっていた。そのまま8時になるまでスマホを眺めていると、8時になった瞬間、りみから着信があった。

「うわっ!本当にピッタリ!」

と言い、慌てて着信のボタンをタップした。

「あっ。お、おはようございます。起きてましたか?」

「牛込さんおはよう。今、起きたところだよ。本当に8時ピッタリにかけてくれてありがとうね。」

「い、いえ!私はいつも起きてる時間なので、大丈夫ですよ。ところで潤君は今日のご予定は何かありますか?」

「僕?今日は9時半から14時までバイトでそれからは予定はないよ。牛込さんは?」

「私は9時からバンド練習です。午前中だけですけど。昼から皆予定があるらしくて。」

「そうなんだね。まぁ、僕は昼からは宿題片付けないと…。ちょっとヤバいから。」

「あっ。私もなんです。早起きして、チョココロネ買って、宿題しているんですが、追いつかなくて。」

「チョココロネって毎日買ってるの?それと朝から宿題って偉いね。」

「あっ。はい。ほぼ毎日です。偉くないですよ。普通ですよ。潤君、宿題終わってないならバイト終わってから私と宿題しますか?」

「本当に!?助かるよ~!是非、一緒に宿題させてください!そして教えて下さい!」

「お、教えられるかどうかは分からないですけど…。なら、バイト終わったら連絡下さい。」

「分かったよ!昼から宜しくね。また後でね!」

「ハイ…。では。また後で。」

と通話は終わった。

「さて。牛込さんに起こしてもらって、二度寝は不味いし、起きますかっ!」

潤はう~んと伸びてベットから起き上がった。

 

―――――――――――――――――――――

「(潤君誘えちゃった!)」

りみはスマホを見ながら上機嫌だった。Pastel*Palettesのメンバーの口癖を借りるなら「るんっ!」といった感じだった。

「りみ?どうしたの?凄く機嫌良いじゃん!まぁ、大体分かるけどね。」

同じ部屋である姉のゆりはニヤニヤしながら言った。

「お、お姉ちゃん?…や、やっぱり分かる?」

「うん!凄く分かりやすいよ。んで、今のりみ、凄くいい顔してるよ。」

「ほ、ホントに?なら良かったけど、私、顔に出やすいみたいだから。」

りみは昨日の夜、姉のゆりに潤との出来事を話していた。話す事によって、自分の気持ちに整理をつける為だった。

「確かに、りみは顔には出やすいけど、いいんじゃないかな?昨日、潤君の話、凄く真剣にいっぱい話してたもんね?」

「うぅ~。思い出すと、めっちゃ恥ずかしい…。」

「あはは!でも、それだけ潤君の事が好きって事なんじゃない?」

ゆりがそう言うとりみは顔を赤くして言った。

「そうだね。うぅ…。なんかドキドキしてきた…。」

「ところで、何でそんなに上機嫌だったの?」

とゆりが言うとりみは午後の件を話した。ゆりはなるほどと呟き考えていた。

「お、お姉ちゃん?どうしたの?」

「ねぇ、りみ?あなた勉強する場所考えてる?」

「へ?」

りみはキョトンとして固まった。その数秒後、「お、お、お、お姉ちゃん!ど、ど、どうしよ!」

「りみ?落ち着いて?」

と苦笑いしながらりみを宥め、う~んと考え

「うん!これがいいかな?」

と呟いた。

「お、お姉ちゃん?どこかいい場所知ってるの?」

「ここ。」

とゆりがニコッと笑いながら答えるとりみは

「え?ええぇぇぇえぇ!」

と叫んだ。

「ゆり!りみ!朝から騒がないの!」

と母親から注意が飛んだがりみは再び、固まっていて聞いてはいなかった。

 

―――――――――――――――――――――

「おはようございます!」

「潤君!おはよ!今日はちゃんと来たね。」

まりなは元気よくCiRCLEに出勤してきた潤に言った。

「き、昨日はすみませんでした!以後気を付けます。いや、絶対無いようにします!」

とまりなに頭を下げて謝った。

「うん!まぁ、事故とかじゃなくて安心したよ。でも、寝坊は気を付けようね。」

と、まりなが言うと潤は再びすみませんと謝った。

「ところで、寝坊しない為の対策とか立てたのかな?」

とまりなが言うと

「はい!目覚ましを5分おきに掛けました。あと、牛込さんが…。」

と潤は言いかけて「しまった。」と思った。

「え?何々?りみちゃんがどうしたの?ねぇ?どうしたの?お姉さんに言ってみなさい?ねぇ?潤君?」

と、ニヤニヤしながら聞いてきた。

「(うぜー!)」

と、潤が苦笑いしながら思っている最中もずっとまりなは「ねぇ?」と聞いてきた。潤はもう逃げられないと悟り

「う、牛込さんにモーニングコールして頂けることになったんです…。」

と答えた。それを聞いたまりなは「なるほど~。」と呟き、おもむろに立ち上がり、別のスタッフに

「ちょっと潤君と面談してくるから少しだけお願い。」

と言い、潤を面談室に連れて行った。

面談室に入り、椅子に座ると

「さて、潤君?昨日りみちゃんと何があったのか、詳しく話して貰いましょうか?」

とまりなは言った。これだけ聞いたらまりなが潤を弄っているように見えるがまりなの声と顔は真剣そのものだった。

「はい。実は…。」

とまりなの真剣さに潤も真面目に昨日あったことを答えた。ついでにバイト後に一緒に宿題をすることも言った。

「なるほどね。潤君?ストレートに聞くけど潤君はりみちゃんの事好きなの?」

潤の話を聞き、まりなは静かに言った。

「分かりません。」

と潤が困ったように言うとまりなは「はぁ~。」とため息をついた。そして

「やっぱり、まだ過去のこと引きずってる?」

と潤に言った。

「それも分かりません。自分では過去に区切りを付けたつもりですけど、あれから恋愛感情で好きって思った事がないのも事実なのでまだ心のどこかでは引きずってるのかもです。」

潤が俯きぎみに言うとまりなはニコッと笑い

「そっか。まぁ、無理もないと思うよ?でも、これだけは言わせて欲しいんだけど…。」

と、まりなは言った。まりなは再び、真剣な顔になり、

「多分…、いや、絶対、りみちゃんは潤君の事が好きだと思うよ。潤君がこの先、りみちゃんの事を好きになるか嫌いになるか分からないけど、どっちにしてもりみちゃんを悲しませないでね?好きになって恋人になって喜んで貰っても良い。付き合うことにならなくてもりみちゃんが将来、あの時、あの人を好きになって良かったと思ってもらえるようにしてね?」

と言った。潤は

「分かりました。どこまで期待に添えるか分かりませんが、頑張ります。僕も、牛込さんには笑顔でいて欲しいので。」

と、言った。

「分かったよ。長話してごめんね。んじゃ、働きますか!」

と笑顔で潤に言った。

「はい!昨日の分までバリバリ働きますよ!」

と、言った潤。そんな潤を見ながら

「(潤君、ホントに大丈夫?でも、最後…。笑顔でいて欲しいかぁ。いい傾向なのかな?)」

とまりなは心配そうに思った。

 

―――――――――――――――――――――

「よーし。こんなもんじゃね?」

と有咲は言った。

「う~ん!疲れたっ!」

と香澄は伸びをして言った。他のPoppin'Partyのメンバーも楽器の片付けを始めた。ちなみに今日はCiRCLEではなく、本拠地である有咲の蔵で練習をしている。

「今日は皆この後予定があるんだよね?」

と香澄は言った。

「私は店番だよ。」

と沙綾は言った。

「そういえば、りみはこの後どうするんだ?昨日、何にも言ってなかっただろ?」

と、有咲がりみに聞いた。

「へ?わ、私?」

とりみがびっくりしたように言うと

「いや、わりぃ。聞いたらマズかった?」

と有咲が言った。

「い、いや。大丈夫なんだけどね?」

と言い、この後、潤と宿題をすることを話した。

「おぉ?いつの間にそんな仲良くなったんだ?昨日、うちの店でもいい感じだったもんね?」

と沙綾が言うと、他のメンバーも

「そう!それ!昨日りみりんどうだったの?」

「わ、私は気にしてないけど、話だけなら聞こうかな?」

「パン美味しかった?」

と聞いてきた。ちなみに、上から香澄、有咲、おたえである。

「ち、ちょっと、皆、落ち着いて。た、楽しかったよ?」

とりみは顔を赤くして答えた。

「それで!?りみりんは潤君の事好きなの?」

と、香澄がりみに近づきながら言うと

「え?……う、うん。」

とさらに顔を赤くして答えた。その瞬間「おぉ~。」と歓声があがった。

「昨日、デートで今日は宿題か…。潤君、積極的だね!」

と再び、香澄が言うと

「ち、ちゃう。」

と、りみが言った。Poppin'Partyのメンバーがりみの方をまさかといった顔で見ていると

「さ、誘ったのは私。」

とりみが小さい声で答えた。

「「「「えぇ~!」」」」

とPoppin'Partyのメンバーは驚いた。

 

――――――――――――――――――――

一方、CiRCLEでは潤が熱心に働いていた。しかし、いつも真面目で明るい仕事ぶりに定評があるはずの潤だが今日はなりを潜めていた。

「はぁ~。」

と何回目か分からないため息をついていた。周りの他のスタッフは遅刻したことをまりなに呼ばれて怒られて元気がないと思っていた。しかし、そんな潤を見てまりなは笑いを堪えていた。

「はぁ~。」

と、再び潤は深いため息をついて時間を見た。時刻は13時15分を指していた。

「はぁ~。もうすぐ来るなぁ…。今日はどうしよ?」

と小さく呟いた。

「そんなに嫌がらなくても。」

といつの間にかまりなが後ろに立っていた。

「そんな事言われても…。」

「はいはい!しょうがないでしょ!あっ。来たみたいだよ?」

とまりなは入り口の方を見ると3人の女性が入ってきた。

「こんにちは。潤さん。今日はちゃんと来たんですね。」

「紗夜姉さん。こんにちは。2日連続で遅刻はしません。」

「やっほ~!潤君!今日も宜しくね~☆」

「今井さん。こんにちは。」

「潤、こんにちは。Roseliaのマネージャーになる気になったかしら?」

「湊さん、こんにちは。なる気はありません。」

三者三様の挨拶に潤はそれぞれ返した。潤は毎回、友希那にマネージャーになって欲しいと言われる為、接客を嫌がっている。

「湊さんは何故、毎回僕をRoseliaのマネージャーに誘うんですか?」

潤は友希那に聞いた。

「あなたの仕事ぶりは真面目だし、ミスもないから私達の音楽のサポートにピッタリだからよ。」

「湊さん、確かに潤さんは仕事は真面目ですがあまり計画性が無いです。なので私は反対です。」

友希那の意見を聞き、紗夜は答えた。

「紗夜姉さん?僕、泣きますよ?」

と潤が紗夜を見て言うと

「まぁまぁ。紗夜はこんな事言ってるけどいつも潤君の事心配してるんだからね!そんな悲しそうな顔しないで、クッキーでも食べな?」

とリサはクッキーが入ってる袋を差し出しながら言った。後ろで紗夜は「私はただ…。」と言っていた。

「今井さん、すみません。仕事中なので…」

「そうだよね。私のクッキーなんか受け取れないよね。」

「いえ。そういう訳では…。」

「いやいや。無理しなくていいよ?あんまり美味しくないもんね。」

とリサは本当にガッカリしたような顔で言った。周りから「そんくらい受け取れよ。」といった視線が潤突き刺さる。

「うっ…。わ、分かりましたよ。頂きますよ。いつも美味しく食べてますよ。ありがとうございます。」

「本当に?無理しなくても…。」

「もういいですから!頂きますから、いつまでもその演技辞めて下さいっ!」

と潤がいうとペロッと舌を出してゴメンね☆と言いながら潤にクッキーを渡した。

「湊さん、そろそろ入りましょう。時間が迫ってます。」

「そう。潤?今日は何号室かしら?」

「はい。5号室です。また時間が来たらお知らせします。」

と、鍵を友希那に手渡した。

「ありがとう。マネージャーの件、考えといてね?」

「もう既に断ってます。」

「考えといてね?」

「だから…」

「考えといてね?」

「……分かりました。」

潤にとって嵐の時間が過ぎ去っていった。このやりとりがRoseliaが来る度に行われる為、潤はRoseliaが来ると元気が無くなっていってしまう。

「あはは!今日も面白かった!」

潤の気持ちも知らず、まりなは笑っていた。

「月島さん、面白がってなくて助けてくださいよ!」

と潤が言うと気が向いたらねぇ!と言いながら事務所に戻っていった。

「潤さん?」

「あれ?紗夜姉さん?どうしましたか?何か不備がありましたか?」

練習に向かったはずの紗夜が戻ってきた。

「いえ。違いますよ。少し、お話がありまして。」

「何ですか?」

「あれから、宿題は進みましたか?」

潤は予想だにしない質問にビックリしながら

「すみません。あれから進んでいません。でも、今日、バイト後、牛込さんと勉強する予定です。」

「牛込さんと?そうですか。あなたもやっと恋心を思い出しましたか?」

「うっ…。そ、それは分かりません。」

潤は目線を反らしながら言った。

「一昨日の夜に牛込さんの事好きなのと聞いた時と随分、反応が違いますね。何かありましたか?」

紗夜の質問に潤は昨日のりみとの出来事、まりなから言われた事を話した。

「なるほどね。まぁ、牛込さんとの事はあなたが決める事だと思います。」

「ありがとう。ゆっくり考えてみます。」

「気にしないで下さい。ちなみに、“あの事”を知ってるのは私と日菜と月島さんだけですか?」

「そうですよ。…心配かけてすみません。」

「いえ。あなたは大事な親戚です。では、練習に戻ります。あまり牛込さんに迷惑かけないように。」

と紗夜は言い、スタジオに戻っていった。

「(最後の一言、余計なお世話だよ。でも、紗夜姉さんは厳しいんだか、優しいんだか。)」

と潤は思った。

 

―――――――――――――――――――――

「…何話してるんだろ?」

CiRCLEの受付があるフロアの死角に牛込りみは隠れていた。Poppin'Partyの練習が終わり、時間を持て余したりみはCiRCLEに来ていた。潤に話かけようと思ったがRoseliaのメンバーの接客中だった為、隠れてしまった。

「(リサさんのクッキー、貰ってたなぁ。はぁ~。私って嫉妬深いのかなぁ…。あれだけでモヤモヤするなんて…。)」

「はぁ~。」

とりみはため息をついた。

「(しかも、今度は紗夜さんとお話してたし…。全部、聞き取れなかったけど…。一昨日の夜とか、あの事とかって何だろ?気になるなぁ…。しかも、なんか盗み聞きしようとしてたし…。)」

「はぁ~。」

とまた、ため息をついた。

「あれ?牛込さん?」

「ひゃい!」

急に声を掛けられてりみはビックリした。考え事をしてた為、周りを全く気にしていなかった。後ろを見ると、潤がモップを持って立っていた。

「ご、ごめん!ビックリさせるつもりは無かったよ。」

と潤はりみに謝った。

「い、いや。私が考え事をしてただけなので。」

と焦りながらりみは答えた。

「(び、び、ビックリしたぁ~。た、ため息とか聞かれてないよね?)」

「ため息ついてたけど大丈夫?体調悪い?」

「(聞かれてたー!)」

とりみが思い、潤の顔を見ると本当に心配そうな表情をしていた。

「だ、大丈夫です!本当に大丈夫です!」

と慌てりみが言うと

「本当に?なら良かったよ~。」

と潤は言った。

りみはそんな潤を見ながら考えていた。

「(リサさんのクッキーとかいつも貰ってるんだろうか?紗夜さんと何を話してたんだろ?聞きたいけど…聞けない…よね?)」

「潤さん?何をしてるんですか?」

再び、スタジオから出てきた紗夜が声を掛けてきた。

「…度々出てきてるけど、練習は良いの?」

と潤が呆れたように言った。

「いえ、練習中に飲む物を買いに行くだけです。」

「紗ー夜ー!飲み物買うなら私も!ってあれ?りみじゃん?どうしたの?☆」

「こ、こんにちは。」

紗夜の後を追ってリサが出てきた。

「あら、牛込さん?こんにちは。潤さんがいつもお世話になってます。」

「い、いえ。こちらこそお世話になりっぱなしで…。」

と紗夜とりみが挨拶をしてると何も知らないリサは「?」を浮かべた。

「何?どういう事?りみと潤って知り合いなの?それにりみは1人?ポピパの皆は?」

「あっ、はい。実は…」

潤はリサにりみと知り合った経緯を話した。「(後、何回この説明をしなきゃいけないんだろ?)」と思いながら…。

「そっかぁ☆なるほど~!いやいや。青春してるねぇ~。」

とリサは潤とりみを見ながら言った。2人は顔を赤くし、リサから視線を外した。

「あれ?これマジなパターン?」

とリサが困惑してると

「今井さん。早く飲み物買いましょう。時間が惜しいです。」

と紗夜は自動販売機に飲み物を買いに行った。

「ちょっと!待ってよ紗夜!」

と言いながらリサは紗夜を追いかけた。

「ありがとう。紗夜姉さん。」

潤がボソッと呟くと

「姉さん?」

とりみが聞いた。

「言ってなかったね。僕と紗夜姉さんは親戚同士なんだよ。」

と潤は言った。 

「な、なんだ~。そうだったんだ~。」

とりみは「はぁ~。」とため息をついた。先程のため息とは違い、ホッとしたときに出るため息だった。

「?…そうだ!牛込さん、迎えに来てくれたんだよね?ありがとう。もう少しで終わりだから待っててね?あっ!紗夜姉さん!後でお金返すから牛込さんの飲み物も買って来てください!」

とりみのため息に疑問を持ちながら潤は言った。

「じ、ジュースは大丈夫だよ~!」

とりみは言ったが紗夜の手には2本飲み物が既に握られていた。

 

 

 

 

 

 

 




第5話です。
タグにオリ主をつけました。
完全につけ忘れていました。
ごめんなさい。



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6話

りみは紗夜から貰ったジュースを飲みながら潤を待っていた。まりなの案により、りみは今、CiRCLEの事務所で待っている。チラっと横をみると潤がパソコンに向かっていた。

「(凄く真剣そう。潤君はやっぱり真面目なんだなぁ~。でも、ちょっとくらい構ってくれても良いのに。)」

とりみがジーと潤を見ている。

「(なんか凄く見られてる…。やりづらい…。)」

とりみの視線を感じながら潤は思った。

「潤君!?書類の入力はどう?」

「あっ、月島さん。順調ですよ。」

「本当に?」

「え?はい。順調ですけど?」

潤が不思議そうに言う。いつもやっている仕事なのでまりなが何回も進捗を聞いてくるのに疑問に思っていた。

「後ろからりみちゃんの視線を感じてるよね?りみちゃんずっと潤君の事見てたから。潤君、気にならないの?」

「え!?」

まりなの言葉にりみがビックリする。

「あぁ…。確かに視線は感じてましたけど…。」

と潤が苦笑いをする。

「うぅ…。恥ずかしい…。」

とりみは俯いてしまった。そんなりみを見ながらまりなは「ふふっ」と笑い

「まぁ、それはそうと、もう定時過ぎてるから続きは明日にして今日はもう上がっちゃって~!」

と言った。

「分かりました。牛込さん、着替えてくるからちょっと待っててね?では、お疲れ様でした。」

と潤は言い、更衣室に向かった。

「はぅ~…。」

「りみちゃん?本当に潤君の事好きなんだね?」

まりなはニヤニヤしながらりみに絡んだ。

「うぅ…。私ってやっぱりそんなに分かりやすいんですね。」

「かなり分かりやすいよ!でも、りみちゃんらしくて良いと思うよ。」

「そ、そうでしょうか?」

「うん!りみちゃん可愛いから潤君だって振り向いてくれるよ!」

「だったら良いですけど…。わ、私…男の人好きなったの初めてなので…。不安です。」

「うんうん!分かるよ!でも、無理しても、付き合った時にボロが出ちゃうから自然体で良いと思うよ。」

「わ、分かりました。気を付けます。」

りみとまりながガールズトークをしていると

「すみません。少し良いですか?」

と受付から紗夜が声を掛けた。

「あっ!紗夜ちゃん?どうしたの?」

まりなが対応する。

「ちょっと機材の調子がおかしいみたいなのですが、見て頂けませんか?」

「そうなの?ゴメンね。ちょっと見てくるね。じゃぁ、りみちゃんまたね!」

と言い、まりなは去っていった。

「あ、あの!ジュースありがとうございました。」

「いえ。大丈夫ですよ。潤さんがお世話になってるので、そのお礼です。これから宿題を一緒にして貰えるみたいで。」

「い、いえいえ。そんな私の方が助けて貰ってばっかりで…。」

りみの言葉を聞いて紗夜は微笑み

「あなたは本当にいい方です。潤さんには勿体ないですね。」

「そ、そんなことないですよ!も、勿体ないって、潤さんと付き合ってませんよ!?」

「そうでしたね。私としたことが先走ってしまいました。でも、潤さんの事、好きなんでしょ?見てて分かりますよ。」

「うぅ…。めっちゃ恥ずかしいです…。」

「牛込さん。」

りみが恥ずかしがっていると紗夜の声のトーンが真面目な物になった。りみが紗夜の方を見ると紗夜は続きを喋りだした。

「潤さんのこと支えてあげて下さいね。」

「へ?」

りみがキョトンとし

「それはどういうこと…」

「牛込さん!お待たせ!ゴメンね。遅くなっちゃって。」

「潤さん?あまりはしゃいで勉強が疎かにならないように。」

紗夜に釘を刺され、潤は苦笑いした。りみは釈然としない顔をした。

 

―――――――――――――――――――――

潤とりみは目的地に向かって歩いていた。

「ねぇ?本当にいいの?」

潤がりみに向かって聞くと

「は、はい!大丈夫です。多分、図書室はいっぱいだと思いますし、ファミレスとかはうるさいかもしれないので…。」

とりみは言った。2人は今、りみの家に向かって歩いている。CiRCLEを出てすぐ、どこで宿題をするかという話になり、りみが「私の家で」と言い、決定した。だが、潤は本当に良いのだろうかとソワソワしていた。

「ところで、潤君は成績はどのくらいですか?」

とりみが聞いてきた。

「僕?平均点だよ。」

「平均点って真ん中くらいって事ですか?」

「いや。そのままだよ?どんだけ勉強しても、しなくても、テストの点は全てなぜが平均点ジャストなんだよね。」

と潤が苦笑いしながら言った。

「(それって逆に凄くない?)」

と心の中で思った。

それから10分後、りみの家に到着した。

「そういえば、家の人はだれかいる?」

「いえ。いませんよ。なので、ゆっくりしていってくださいね。」

りみが笑顔で言うと潤は安心したように頷いた。

中に入り、りみの部屋に通される。正確に言えばりみとゆりの部屋だが。

「このクッションに座ってください。あっ。私は飲み物入れてきますね?」

とりみは部屋から出ていった。

「(全然落ち着かねー!)」

と潤は思ったが、ここは女性の部屋、あまりジロジロと見るのは失礼にあたる。かと言って座ったまま一点をじっと見ているというのも逆に気持ち悪いであろう。

「(どうしよ。何してよう。)」

と考えた結果。シンプルに宿題の準備をする事にした。そうこうしているとりみが飲み物を持ってやって来た。

「潤君はアイスコーヒーだよね?はい。どうぞ。」

「ありがとう。」

と言い、アイスコーヒーを受け取る。

「宿題、何するんですか?」

とりみも座りながら聞いた。

「う~ん。色々持ってきたけど、やっぱり数学かな?一番苦手だし。」

「なら、私も数学にします。」

と会話し、2人は勉強に取りかかった。それからしばらくは会話もなく、真剣に進めていった。しかし、2人のペンの動きにはかなり差があった。

「牛込さん、もうそこまでやったの!?」

とりみの方をチラっと見た潤は驚愕の声を上げた。りみと潤は違う高校だが、たまたま宿題で出た問題集が一緒だった。なので見ただけで進行状況が分かってしまう。

「はい。ここは得意なとこだったのでたまたま早かっただけです。」

とりみは少し照れながら言った。

「いやいや。凄いと思うよ。牛込さんが落ち着いたら僕に教えてね。」

と潤が頭を下げながら言った。

「私で良ければいくらでも教えますけど、私、教えるの下手ですからね?」

「それでも大丈夫!よろしくお願いします。」

「ふふっ。分かりました。ところで、結構長い時間しましたね。少しだけ休憩にしましょうか。」

「うん?え?もう5時?牛込さんは何時まで大丈夫なの?」

3時くらいから勉強を始めたので、2時間も経っていたことにビックリしながら潤は言った。

「うちは今日、両親とも仕事で遅いので何時でも大丈夫ですよ?」

とりみはう~んと考えながら言った。

「分かったよ。ならもうちょっとだけ勉強しようかな?」

と潤が言う。

「ですね。その前にちょっと良いですか?」

りみがペンを再び持った潤に対して質問した。

「どうしたの?」

「あ、あの、潤君って、付き合ってる人っていますか?」

「ふぇ!?いないよ?てか、いたら彼女以外の人で女の子の家に行ってたらマズいでしょ?」

潤がビックリして答える。

「それもそうでしたね。では、今まで誰かと付き合ったことってありますか?」

りみが再び質問した。彼女がいないと聞いて少しだけホッとしていた。

「……。う~ん。いたかな。」

潤がかなり悩んだように答えた。

「わ、私、いけないこと聞いちゃいましたか?」

りみが焦って言う。

「いやいや。そうじゃないんだけどね。」

「何か言いにくい事なんですか?」

「う~ん。まぁ、牛込さんには話そうかな?あまり面白くない話だけど聞く?」

「良いんですか?無理に話さなくも大丈夫ですよ?」

「いや。牛込さんには聞いて欲しいかな?少しだけ長くなるかもだけど、良いかな?」

「分かりました。」

りみが聞く姿勢になった事を潤が確認すると静かに話だした。

「あれは確か、中学2年生の今ぐらいの季節だったかな?」

 

―――――――――――――――――――――

「夏休みになんで登校日なんかあるの?」

「潤…。あなた春休みの登校日も言ってなかった?」

「だって、面倒くさいじゃん。秋帆はそう思わない?」

「…思ったことないよ。」

潤と秋帆は通学路を歩いていた。潤は面倒くさそうに、秋帆はため息をつきながら歩いていた。

「あのさ、潤?私の彼氏なんだから、もうちょっと格好良く歩けない?」

「格好いい歩き方って何だよ。」

潤のツッコミに2人はふふっと笑った。もう、お分かりだと思うが、2人は付き合っている。付き合い始めて1年が経っていた。

「そういえば、去年の夏休みの登校日に告白してくれたんだよね?」

と秋帆が思い出したように言った。

「…おぅ。」

潤が照れながら返事をする。一応、潤から告白したのだが、それを思い出す度に照れてしまうのだ。

「いい加減、慣れたら?潤って本当に奥手だよね。」

「まぁ、いつかは慣れるはず…。多分。」

「よく告白出来たよね。」

「僕もそう思うよ。恥ずかしいけど、1年経ったし、改めて言うけど、付き合ってくれて本当にありがとうね。」

「いえいえ。」

と2人が話していると学校に到着した。2人が到着すると、周りにいた生徒が少しザワついた。潤と秋帆のカップルは学校では有名だ。「普通と美女」として…。

潤と秋帆が自分のクラスに到着すると、周りから「ラブラブだねー!」「潤、羨ましいぜっ!」などと弄られる。それらをスルーして席についた。

「なぁ、潤?なんで登校日なんかあると思う?」

と仲の良い友達から声を掛けられる。

「知らねー。まぁ、なんだかんだしてたらすぐに終わるでしょ。」

と潤が言った。それから掃除や宿題の提出をすると潤の言葉通り、あっという間に下校となった。

「潤?」

「潤!」

「…秋帆?」

「またぼんやりして!一緒の高校に行くって約束したのに、そんなんじゃ落ちちゃうよ!?」

「はぁ~。まだ1年以上あるじゃん。そんな慌てなくても。」

「私は大丈夫だけど、潤、ギリギリじゃん!今日から私と勉強するよ!」

「はぁ?聞いてないよ!?」

「だって言ってないもん。」

「はぁ~。分かったよ。勉強するよ。てか、本当に秋帆どうしたの?焦り過ぎじゃない?なんか、秋帆らしくないよ?」

「あの点数みたら焦りもするよ。てか、なんで潤は焦らないの?」

「わ、分かりました。キッチリ勉強しますのでみっちり教えて下さい。」

潤の態度に秋帆は納得したように笑顔を見せた。

「まぁ、今日は良いから、今からどこか行かない?」

「うん?良いよ。なら、ショッピングモールにでも行く?昼ご飯も食べたいし。」

「良いよ!じゃぁ、レッツゴー!」

秋帆は潤の腕を掴み、引っ張って行った。

潤と秋帆の学校からショッピングモールまで歩いて15分の位置にある。2人が手を繋ぎながら楽しく会話しながら歩いていた。

「朝の話の続きだけどさ。」

秋帆が思い出したように言った。

「何?」

「潤はいつから私の事好きだったの?」

「へ?えっと…。入学してすぐ。一目惚れした…。」

「へぇ~?」

潤が顔を背けて言うと秋帆は嬉しそうに潤の方を見た。

「そ、そういう秋帆こそ、なんで告白にOKしてくれたの?それまであまり話したこと無かったのに。僕は当たって砕けろって思いながら告白したんだけど。」

「ん?私?内緒。」

「ちょ!?秋帆!?」

秋帆が手を離し、振り返って、潤の前に立って、笑顔で言った。

「いつか教えるよ。でも、今は内緒。ただ、1つ言えるのは、私は潤のこと大好きだよ?」

その言葉を聞き、潤はまた照れて顔を背けた。そして、言葉を発しようとしたとき、前から衝撃を受けた。秋帆が潤の体を押したのだ。全くの不意打ちだった為、潤は簡単に倒れてしまった。

「痛っ!秋帆!?」

と叫び、抗議をしようとしたがそれは叶わなかった。凄い衝撃音と共に、車が突っ込んで来たのだ。

「び、ビックリしたぁ。…あれ?…秋帆?秋帆!?」

とさっきまで側にいた彼女の名前を叫び周りを見渡す。

「ま、まさか…。」

と思い、潤は立ち上がり、車に近づいた。車の先はペチャンコになっており、ぶつかった建物もグシャグシャになっていた。しかし、潤は車と、建物間に挟まっている秋帆にしか目が入らなかった。

「あ、あ、あ、秋帆ー!」

潤の叫び声が夏空に響いた。

 

―――――――――――――――――――――

潤が話終えると、明るかった空が少しだけ暗闇を帯びていた。

「…大体の経緯はこんな感じかな?ね?面白くない話でしょ?」

と潤は苦笑いしながら言った。

「………。」

「うん?牛込さん?」

「うぅ…。ヒック…。」

「う、牛込さん!?」

「ご、ごめんなさい。泣くつもりは無かったんだけど…。ごめんなさい。」

りみはティッシュで目頭を押さえながら言った。

「ごめんね。あまり人に聞かす話でも無かったのにね。」

「ううん。そんな事ない。潤君、辛い話してくれてありがとう。…ちなみに、秋帆さんは…?」

「うん。すぐ、救急車を呼んだけど、ダメだった。それからはしばらく僕もショックでダメになっちゃって…。家に引きこもって、なんで助けれなかったんだろう。なんで自分じゃ無かったんだろう。って思っちゃって。」

「…。そっか。」

「ふーっ。なんか暗い雰囲気になっちゃったね!この話は終わり!で良いかな?」

潤が明るく言うとりみは涙を綺麗に拭き取り、「はい。」と言った。

「ところで、牛込さんに聞きたい事があるんだけど良いかな?」

「なんですか?」

「それ!敬語。止めにしない?僕はもっと気軽に話してくれたら嬉しいかな?」

「分かったよ。潤君がそっちの方が良いならそうするね!私も潤君にお願いがあるの。」

「何?」

「私の事、牛込さんじゃなくて、名前で呼んで欲しいな!」

「ふぇ?な、名前?」

「うん。ダメかな?」

「ううん。ダメじゃないよ。なら、名前で呼ぶね。」

「…今、呼んでみて欲しいなぁ。」

「分かったよ…。えっと…。りみ?」

「………。」

「は、恥ずかしがるなら呼ばせないで?」

「うぅ…。ごめんなさい。こんなに恥ずかしいとは思わなくて。」

りみが顔を真っ赤にした。

「お二人さん?盛り上がっているとこ悪いんだけど、入って良い?」

「うわぁ!」

「ひゃ!」

2人はビックリして入り口を見ると、ゆりが立っていた。

「お姉ちゃん?帰ったなら言ってよ~。」

りみの言葉にゴメンと言いながら、ゆりは潤を見た。

「こんにちは。潤君!CiRCLEではどうも!」

「あっ。いえ。こちらこそ。」

潤がペコっと頭を下げると、

「ところで、2人きりだったのよね?潤君、りみの事、襲ってないよね?」

「お、お姉ちゃん!?」

ゆりがふざけたように言うと、りみは顔を真っ赤にして叫んだ。

「襲うなんてとんでもないです!」

潤も叫んでしまった。

 

 

 

 




本日、2話目です。
こんな作品にお気に入りや感想を書いてくださる方がいて本当に嬉しいです。こんなに嬉しいものとは思いませんでした。ありがとうございます。
感想や評価等、どんどん書いてくださいね!

物語は、少しだけ潤の過去に触れました。
好きな人が急にいなくなる経験…。本当に辛いです。辛いって言葉では言い表せません。
少しだけ、作者の実体験も含まれてます。


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7話

「ハンバーグおいひぃ~!」

潤の帰宅後、すぐに牛込家では夕食となっていた。両親はいないので、ゆりとりみだけの夕飯だ。

「そう?良かった。昼間に作った甲斐があったよ。」

りみがバンド練習をしているときにゆりがハンバーグの種を作っていたのだった。

「ホントに美味しいよ!お姉ちゃんありがとうね。潤君も食べて帰れば良かったのに。」

ゆりとりみは潤を夕飯に誘ったのだが、潤は遠慮して帰ってしまった。

「まぁ、しょうがないよ。遠慮して帰る辺りが潤君らしいよ。ところで、りみ?潤君とどんな話をしてたの?りみ、泣いてなかった?」

ゆりが聞くとりみは「あぁ~。」と罰の悪い顔をした。

「(話ても大丈夫…だよね?お姉ちゃんだし…。)」

「りみ?大丈夫?」

「あぁ!うん。大丈夫。えっとね…」

りみは静かに潤の話を始めた。

 

─────────────────────

「ただいま。」

潤が自分の家に着き、玄関に入った瞬間、リビングが騒がしい事に気づいた。

「(…ん?やけにリビングが?)」

と思い、靴を見ると見覚えのあるサンダルが二足いつもより多く並んでいた。

「(あっ…。これは…。りみの家で夕飯、ご馳走になった方が良かったかも…。)」

潤が来訪者が誰か気づき、そっと玄関から外に出ようとする。

「(気づきませんように…。気づきませんように…。神様~!)」

「あっ!潤君だぁ!」

「(神様!裏切り早いよ!)」

潤が心の中で叫ぶと同時、潤のもう一人の親戚の姉である日菜に後ろから抱きしめられた。いや、締め上げられたの方が正しい。

「今、逃げようとしてたでしょ?そうは行かないからね!」

「ひ、日菜姉さん?も、もう、に、逃げませんから手を離して…。」

潤が日菜の手をタップするも、

「ダーメ!そう言って逃げるんだから!潤君には聞きたいこと沢山あるんだからね!」

「あら。潤さん帰って来ましたか。」

騒ぎを聞いて、紗夜も玄関の方に出てきた。

「あっ、お姉ちゃん!潤君、酷いんだよ!逃げようとしてたんだよ!」

「あなたが会う度にそうやって過度なスキンシップを取るからでしょ?」

「違うよ!お姉ちゃんが潤に厳しくしてるからでしょ?」

「…まぁ、どちらでもいいわ。ところで日菜?」

「なぁに?お姉ちゃん?」

「…早く手を離さないと、本当に潤さんがどこかに行ってしまうわよ?」

「へ?」

日菜が潤を見ると日菜の腕の中でグッタリしていた。潤の首にはきっちり、日菜の腕が入っていた。

「わぁぁぁ!潤君!しっかり!」

と日菜は潤の肩を持ってブンブンと振った。

「(あぁ。三途の川ってこんなに濁流なんだ。さっきから右に左に流される…。)」

遠くなる意識の中、潤はそんな事を考えていた。

 

─────────────────────

ところ変わって、牛込家ではりみがゆりに潤の話を終えたところだった。

「…そう。そんな事が。」

ゆりは深刻な顔で呟いた。そして続けて

「好きな人が急にいなくなるって事、私達には経験ないから分からないね…。りみは話聞いてなんて答えたの?」

「私?泣いちゃってて、何も言えなかったよ。」

「…そっか。ところでりみ?その話を聞いて焦らないの?余裕そうだけど。」

「え?な、なんで?焦るって何に?」

「潤君、もう、平気なのかな?もし、まだそ秋帆ちゃんのことで引きずっていたらどうする?」

「あ…。」

ゆりの言葉にりみの顔はだんだんと曇っていった。

「お、お、お姉ちゃん!ど、ど、どうしよ…。」

「りみ、落ち着いて?まだちゃんと、潤君の気持ちを聞いてないでしょ?まずは確かめないと。それとも、簡単に諦められる恋だったの?」

「ち、ちゃう!諦められる訳がない!」

りみがそう叫ぶ。ゆりは食べ終わった食器を片付けながら

「頑張ってね。お姉ちゃんはりみの味方だからまた相談してね。」

と微笑みながら言った。

 

─────────────────────

「本当に、三途の川を見たよ…。」

「ご、ごめんね。意識まで失いかけるとは思わなくて。」

首を擦りながら潤が呟くと、手を前に合わせて日菜が謝った。無事に潤も生還し、夕食となっていた。

「それで、牛込さんと勉強は如何でしたか?進みましたか?」

「紗夜姉さん?ご飯の時も勉強の話ですか?まぁいいや。数学は終わりそうですよ。りみが色々教えてくれたので。」

「そうでしたか。やっぱり真面目な牛込さんと一緒ならあなたも集中して勉学に励めるんですね。ところで、牛込さんの事、名前で呼ぶようにしたんですか?」

「あっ…!」

潤はしまったと思ったが時すでに遅し…。

「え!?潤君、今まで何て呼んでたの!?てか、お姉ちゃんから話をいっぱい聞いてて、ずっと気になってたんだから!今日は全部答えて貰うまで寝かさないからね!」

「ち、ち、ち、ちょっと待ってよ!日菜姉さん!落ち着いて!近いって!」

グングン迫ってくる日菜に潤は焦りながら言った。そして「はぁ~。」とため息をつき、

「名前で呼ぶようになったのはりみにお願いされたからです。」

と言った。

「へぇ~!りみちゃん、ガールズバンドパーティーで会った時は、大人しくて、引っ込み思案な子かと思ってたけど、意外と積極的なんだね!」

「そうですね。牛込さんは頑張ってるのに…。潤さんはどうしてこうなんでしょう。」

「さ、紗夜姉さん?一言余計です!てか、みーんな、りみが僕の事が好きみたいに言うけど、それって本当なの?」

「本当ですよ?気付きませんか?」

「私、話をおねーちゃんから聞いた限りだとりみちゃんは潤君の事、好きだと思うよ?」

紗夜と日菜の自信満々な様子に潤は

「(どの辺りで好きって判断しているんだろう?)」

と考えながらゆっくりと箸を動かした。

「でさ!潤君はどうなの?りみちゃんの事好きなの?」

「う~ん。分かんない。」

「……。まだ引きずってる?」

「ちょっと!日菜!?」

日菜のストレートな質問に紗夜は焦った。

「紗夜姉さん、大丈夫ですよ。引きずってはいないつもりですよ。前に進まないと秋帆に笑われますから。でも、人の事を好きになるってわからなくなっちゃって。」

と苦笑いしながら潤が言う。

「そっかぁ!そう思ってるなら大丈夫だね!いやぁ~。あの当時の潤君には手を焼いたからねぇ~。」

と日菜が笑顔で言うと、横で紗夜もうんうんと頷いた。

「…その節はご迷惑をお掛けしました。」

と潤が謝ると、

「謝らなくて良いですよ。潤さんは家族なんですから、助けるのは当たり前です。」

「紗夜姉さん。ありがとうございます。」

「おねーちゃんの言うとおりだよ!だから困った事があったら何でも言ってね!」

「日菜姉さんもありがとうございます。」

「だから…。」

「だから…。」

「だから?」

「「会っても逃げないようにね!」」

姉妹が声を揃えて言う。潤は苦笑しながら

「善処します。」

と小さく答えた。

 

─────────────────────

「えっと、やまぶきベーカリーはと…。」

翌朝、スマホの地図を頼りに、日菜はやまぶきベーカリーへと向かっていた。潤との話でやまぶきベーカリーの事を聞き、無性に食べたくなったのだ。

「あったあった!やまぶきベーカリー!」

お目当ての店を見つけて、中に入る。

「いらっしゃいませ~!って日菜先輩?」

「おっ、沙綾ちゃん!おはよ~!」

「日菜先輩が来るって珍しいですね。」

「うん!珍しく、朝早くに目が覚めて、潤君からこのお店を聞いて、気になって来ちゃった!」

「ありがとうございます!ゆっくり見て下さいね!…えっと、潤君って、CiRCLEでバイトしてる方ですか?」

「そうそう!沙綾ちゃんも知ってるんだ!潤君は私と親戚なんだよ~!」

「え!?そうなんですか?」

「うん!だから、潤君と仲良くしてあげてね!

会話をしながらも日菜は次々とトレイにパンを入れていった。

「じゃぁ、沙綾ちゃんこれでお願い!」

レジにパンを置くと沙綾が慣れた手つきでパンを袋に入れていった。その間、店内をキョロキョロと日菜が眺めていると入り口に見知った人がいる事に気付いた。

「(これはるんってきたよ~♪)」

日菜にニコっと笑い、入り口の方に向かう。丁度入り口から死角になっている所に隠れる。

「日菜先輩?何してるんですか?」

「いいからいいから。」 

沙綾が首を傾げていると入り口の扉が開いた。

「いらっしゃいませ~!」

「沙綾ちゃん。おは「りみちゃん!」きゃぁぁぁ!」

やまぶきベーカリーの店内にりみの悲鳴が響いた。りみが状況を確認するため、辺りをキョロキョロすると自分に誰かが抱きついているのが分かった。

「りみちゃん!おはよ!」

と日菜が満面の笑みで言うと

「ひ、日菜先輩?お、おはようございます。はぅ~。びっくりしたよ~。」

と言い、りみは胸をなで下ろした。

「ごめんね~。りみちゃんの姿が見えてつい。」

日菜は謝ったが、顔はイタズラが成功してとても嬉しそうだった。

「あはは…。日菜先輩。店内ではお静かに。」

と沙綾が苦笑いした。

「あはは~。ごめんね~。それでいくら?」

「あっ、680円です。」

「えっとね、潤君につけといて?」

「へ?」

「だから、潤君につけといて?」

「わ、分かりました。ちなみに、潤君に許可は?」

「とってないよ?大丈夫だよ~!ちゃんと連絡しとくから!」

と日菜は満面の笑みで言った。沙綾は苦笑いしながら

「(潤君も大変だなぁ。)」

と思っていた。

そんなやりとりをしているとりみがチョココロネをトレイに載せてレジにやってきた。

「沙綾ちゃん、お会計、お願いね。」

「うん、いつもありがとうね!380円だよ。」

沙綾の言葉を聞き、りみがお財布をだそうとしたが、右手を日菜に捕まって、それは叶わなかった。

「ひ、日菜先輩?どうしましたか?」

「りみちゃん!ここの会計は潤君に任せたら良いよ!」

「へ?潤君来てるんですか?」

「いや、いないよ?」

「へ?どうやって払うんですか?」

「だから、後できっと潤君はここに来るからその時にまとめて払ってもらったら良いよ!」

日菜の言葉にりみはすぐに理解出来ず、数秒固まった。そして、理解すると、

「ダメですよ!わ、私この前もパン奢ってもらってるんで!ホントは何かお礼しなきゃいけないのに…。」

りみがそう言うと、日菜は

「いやぁ~!りみちゃんは良い子だね~!」

と言った。

「(いや、りみが普通だと思います。)」

沙綾が心の中でツッコんだ。

「りみりん?お会計どうする?」

「も、もちろん払うよ!」

財布を改めて出して、会計を済ませた。

「そういえば、さっき、りみちゃん、潤君にお礼したいって言ったよね?」

「え?あっはい。言いましたよ。」

「ふふ~ん。るんって来ちゃった。」 

「る、るん?ですか?」

りみが不思議そうに言うと、日菜にまた手を握られた。

「へ?ひ、日菜先輩?」

「ちょっと、着いて来てね。沙綾ちゃん!パンありがとう!」

と言い、りみの手を引いて立ち去っていった。

「ち、ちょっと、日菜先輩?何処に行くんですか?ひ、日菜先輩?きゃあ!」

「着いたら分かるよ~!」

勢い良く歩く日菜を見て苦笑しながら

「りみ、頑張れ。」

と沙綾が呟いた。

 

─────────────────────

「ピピピ…」とスマホからアラームが響いた。

「ん?もう朝?」

潤はスマホを操作し、アラームを止めた。時刻は昨日と同じく7時50分を指していた。

「(8時になったら、りみからTELがあるはずだから、それまでは布団にいよう。)」

と考えていた。

「(まだ眠いなぁ。でも、バイトだから起きないと…。)」

と布団の中で「う~ん。」と伸びた。

「あっ…。お、おはようございます…。」

ベットの横から声が聞こえた。

「ん?あぁ。おはよ。(なんだ、りみか。いきなり挨拶されたから誰かと思ったけど…りみか。)」

そう思いながら潤は寝返りをうった。暫し間があってびっくりし、

「って、りみー!な、な、な、なんでここにいるの!」

と叫んだ。

「あ、あの。や、やっぱり迷惑でしたよね?ご、ご、ごめんなさい!」

「え!?あ、い、いや。迷惑とかじゃないけど、びっくりしたよ。どうしたの?」

「やまぶきベーカリーで日菜さんに会って、ここに連れて来られて…。」

「日菜姉さんが?うん…。やりかねない…。」

潤がはぁ~とため息をついた。

「ご、ごめんなさい。日菜先輩、仕事があるからってすぐに出て行ったんだけど、やっぱり私も帰るべきでしたね。潤君の寝顔見てたらつい…み、見入っちゃって…。」 

「本当に大丈夫だから、りみは気にしないで。悪いのは日菜姉さんだから。」

と言い、潤はスマホを手に取り文書を作成した。

「ひ、日菜先輩にラインするの?」

とりみが聞くと、潤は首を振った。

「ううん。紗夜姉さんにだよ。日菜姉さんに言うよりも、紗夜姉さんにチクった方が効果的だから。てか、本当にごめんね。日菜姉さんに振り回されて…。」

「わ、私は大丈夫だよ。潤君の寝顔もみ、見れたから。」

「…寝顔変じゃなかった?」

「ううん。可愛かったよ?」

「か、かわっ…。」

りみの言葉に潤は顔を赤くした。それを誤魔化すように

「か、可愛いは置いといて、折角来たんだし、朝ご飯食べて行ってよ。」

と言った。

「え?良いの?こんな朝早くから。」

「うちは大丈夫!とりあえず、着替えるから廊下で待って貰ってもいいかな?」 

と潤が言うとりみは慌てて立ち上がり「分かったよ。」と言い、廊下に出た。

「はぁ。ホントにびっくりした。」

と潤が呟くとスマホが点滅していた。中を確認すると、紗夜からの返信で「日菜が帰ってきたら言っておきます。」とあった。「お願いします。」と返信をし、う~んともう一度伸びた。

「(さて、早く着替えますか。今日も1日頑張ろう!)」

と気合いを入れ、顔をパンっと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 




7話でした。
楽しんで頂けたなら幸いです。 

※秋帆の「帆」が「穂」になっていたので訂正しました。ご指摘、ありがとうございます。


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8話

「母さん、おはよ。」

「お、おはようございます。」

潤の準備が終わり、2人でリビングに行くと、潤の母親がせっせと朝ご飯を準備していた。

「おはよう!あなたがりみちゃんね?」

「あっ、はい。牛込りみと言います。朝早くからいきなりすみません…。」

りみがペコリと謝る。

「良いのよ~!日菜ちゃんに連れられて来ただけだし、気にしないで!りみちゃんさえ良かったら毎朝来ても大丈夫だよ!」

「い、いえ。そんな訳には…。」

「ホントに気にしなくて平気だからね!りみちゃん、何飲む?コーヒーか、紅茶か、オレンジジュースがあるけど。」

「あっ…。なら、オレンジジュースでお願いします。」

「うん!分かったよ!潤!?あんたは自分でコーヒー準備してね。」

「母さん!?りみと僕の対応の差つけすぎじゃない?」

潤が苦笑いをすると、りみはふふっと笑った。ちなみに、潤の朝食は基本、洋食であり、今日もパン、サラダ、スクランブルエッグ、ソーセージなど様々な料理が並んでいた。

「潤君の家っていつもこんなに豪華なの?」

りみがびっくりして聞くと

「うん。母さん、専業主婦で料理が好きだからいつもこんな感じだよ。ちなみに、りみが来るって分かってたら、もっと凄かったよ。」

と潤が言うと、潤の母親が台所からやって来て、

「りみちゃん、潤と付き合いたいなら料理で私に勝たないとねぇ~!」

と言った。その瞬間、潤は飲んでいたコーヒーを吹き出し、りみは顔を真っ赤にした。

「ち、ちょっと!母さん!」

と潤が言うと、潤の母親は「ごめんね~。」と言いながら台所に再び向かった。

「はぁ~。」

と潤がため息を付き、横を見ると、顔を真っ赤にして、フルフルと震えているりみがいた。

「り、りみ大丈夫?母さんの冗談だから…ごめんね?」

「はぅ~…。だ、大丈夫。じ、潤君は料理上手な女性の方が良いですか?」

「うん?あんまり気にしないけど、出来た方がそりゃ良いかな?」

「や、やっぱり?…わ、わ、わ、私、頑張るから!」

「へ?そ、それって!?」

潤がびっくりしてりみを見ると、りみは固まり、再び顔を真っ赤にした。

「りみ?」

「へ?あっ。…えっと。わ、わ、忘れてくださいっ!」

「わ、分かったから落ちついて?とりあえず、朝ご飯食べよ?」

潤がりみを落ち着かせながら言うと、りみは「はぅ~…。」と言い、俯いた。

 

─────────────────────

「ごちそうさまでした。」

「いえいえ。ホントにいつでも来てね。」

「はい。ありがとうございます。」

あれからなんとか立ち直ったりみは朝ご飯に舌鼓を打ち、潤のバイトの時間が来た為、2人で家を出た。

「良いお母さんだね。」

「そう?普通だよ。ところで、りみは今日の予定は?」

「私は10時から蔵で練習だよ。。」

「そうなんだ。ん?ちょっと待って。電話だ。」

潤がスマホを確認するとまりなからの着信だった。

「月島さんから?なんだろ?………はい。もしもし。一宮ですけど。」

「あっ!潤君?おはよ!」

「おはようございます。どうしましたか?」

「潤君、今どこ?」

「今ですか?家を出たところですが?」

「今日ね、シフトのミスでスタッフが物凄い数いるんだよね?だから、悪いんだけど、潤君、休んで!?」

「……はい?」

「だから、潤君は今日、休み!分かった?」

「あっ…はい。分かりました。」

「明日はよろしくね~!」

「明日ですか?明日は元々休みになってましかたが…?出勤した方が良いですか?」

「え?そうだっけ?なら、明日も休みだ!」

「…月島さん?適当過ぎじゃありません?」

「良いじゃん!私に2日間も会えないのは辛いかもしれないけど。」

「あっ、それは大丈夫です。では、また明後日よろしくお願いします。」

「はぁ~い!よろしくね~!」

電話が切れて潤は立ち止まって「う~ん。」と考えた。

「潤君?どうしたの?」

「あぁ…。まりなさんから電話でね。今日、休みになっちゃった。なんか、シフトのミスらしくて…明日も休みなんだけどね。」

「え?そうなんだ。なら、今日は…。」

「うん。暇になっちゃった。まぁ…。宿題やらないとだけどね。」

潤は苦笑いしながら言う。

「う~ん。なら、練習終わったらまた宿題しますか?」

「そうしよ!教えてください!りみ先生!」

「せ、先生?潤君大袈裟だよ~。えっと、練習終わったら連絡するね。」

「了解!とりあえず、りみの家まで送るね?」

「あ、ありがとう。そういえば!」

「どうしたの?」

「やまぶきベーカリーに帰りに寄った方が良いかも?」

「え?なんで?」

「実は日菜先輩がね…。」

りみは潤に朝の出来事を詳しく話した。話を聞いた潤はびっくりして理解が出来なかった。

「……はい?」

「だから、日菜先輩がパンを買ったんだけど、潤君にツケといてって…。」

「はぁ~。日菜姉さんは…。分かったよ。教えてくれてありがとうね。……後から紗夜姉さんにチクっとこ。」

「あはは。あっ、着いちゃった。」

「だね。なら、また夕方かな?」

「うん。そうだね。よろしくね。」

バイバイと言いながらりみは家の中に入った。

「さて、やまぶきベーカリーに行きますか。」

と潤は呟き、蝉の声を背に来た道を戻って行った。

 

─────────────────────

客足が落ち着いたやまぶきベーカリーでは沙綾が店番をしつつ、新しい曲の確認をしていた。

「(ここはリズムが狂いやすいからチェックと。)」

楽譜にペンで書き込みながら沙綾はチラッと時計を見た。

「(練習まであと1時間。今日も楽しくなりそうだなぁ。)」

う~んと伸びをしながら沙綾は考えていると、店の扉が開いた。

「いらっしゃいませ~。あっ!潤君。おはよ!待ってたよ~!」

「おはよう。朝は日菜姉さんがご迷惑お掛けしました。」

「全然大丈夫だよ!ちょっとビックリしたけど…。」

沙綾が苦笑いしながら言う。

「はぁ~。ちなみに、日菜姉さんの代金はいくら?」

「あっ!えっと、680円です。」

「分かりました。」

と潤が言い、財布を出そうとする。

「メロンパンとチョココロネ、焼きたてですよ?」

「え?」

「だから、メロンパンとチョココロネ、焼きたてですよ?」

「そ、そうなの?」

「はい!焼きたてですよ!」

「……分かったよ。いただきます。」

「あと、夏限定のパン。今日からですよ?」

潤が沙綾を見ると沙綾はニッコリ笑っていた。

「分かった!分かったから!」

「ありがとうございます!お会計、1150円です!」

潤がお財布からお金を出して渡す。

「お買い上げありがとうございます。」

「いえいえ。山吹さんも今から練習でしょ?頑張ってね。」

「ありがとう。あと、沙綾でいいよ!」

「え?いやぁ~…。ちょっと恥ずかしいかな?」

「え?りみは名前で呼んでるのに?」

「いや、それは…。って、なんで知ってるの?」

名前を呼ぶようになったのは昨日の夜なので沙綾が知ってる事に潤は驚いた。

「だって、今さっき、2人で楽しそうに歩いてたじゃない?その時にりみって呼んでたじゃん。」

「み、見てたの?」

「やまぶきベーカリーの前を通ったからね!声をかけようと思ったけど、邪魔したら悪いから止めたの。仲良さそうだったよ。」

「あぁ…。なるほど。」

潤は納得したように頷いた。

「で?」

「で?とは?」

「名前、沙綾って呼んでくれる?」

「わ、分かったよ。呼ぶよ。」

「…………。」

「え?どうしたの?」

「呼ばないの?」

「う、…さ、沙綾…。」

「ぷっ。あはははは」

潤が恥ずかしそうに名前を呼ぶと、沙綾は腹を抱えて笑った。

「……。山吹さん?」

「ごめん、ごめん!潤君ってついからかいたくなって!」

「もう、山吹さんって呼ぶ…。」

「あぁ。良いよ?」

「え?」

「からかいたくて言っただけだから!」

沙綾の言葉に潤は唖然としてやまぶきベーカリーを後にした。

「おかしいなぁ…。月島さんに弄られてるから耐性が着いてると思ったのに…。」

潤はゆっくり家に向かって歩いた。深い深いため息をつきながら…。

 

─────────────────────

それから1時間後…。Poppin`Partyの面々は有咲の蔵に集まっていた。

「わた~しの心はチョココロネ~♪」

りみがチューニングをしながら鼻歌を歌う。

「(練習が終わったら潤君に会える!練習も楽しいし、ホントに最近楽しいなぁ~!)」

とりみが考えてると周りから視線を感じた。りみが顔を上げると他のメンバーがりみをじーっと見ていた。りみがびっくりして

「え?み、みんなどうしたの?」

「りみりん?凄く機嫌いいね!何かあったの?」

香澄が代表して聞くと

「え?な、なんで分かったの!?」

とりみがビックリしたように聞いた。

「だってなぁ?」

と有咲が言うと、

「鼻歌、歌ってたし。」

と、おたえが答えた。

「うぅ…。き、機嫌が良いのはホントだけど…。そう言われるとは、恥ずかしいなぁ。」

とりみがモジモジしながら言うと、沙綾がニヤッと笑い

「潤君にりみって呼んで貰ってるもんね!それに朝から潤君に会えたしね!」

「さ、沙綾ちゃん!」

とりみがますます顔を赤くして言うと、

「どういうこと!沙綾!」

と香澄が言うと沙綾は朝の出来事を皆に話した。

「一宮さんの家で何してたんだ?りみ?」

と話を聞き終わった後、有咲が聞いた。

「あ、朝ご飯をご馳走になっただけだよ…。」

とりみが言うと、「「「おぉ~。」」」と他のメンバーが同時に言った。

「ところで、1つ気になったんだけど、りみ、出会った時、私が一目惚れしたのって言って凄く否定してたけど、どういう心境の変化があったの?」

と沙綾が言う。他のメンバーも話しが気になると言わんばかりに、楽器を置いて、ソファーに腰かけた。有咲にいたってはお茶を準備していた。

「わ、分かったよ。話すよ…。あのね。」

りみが静かに話し始めた。

 

─────────────────────

ゆりは自分の部屋で雑誌を読んでいた。読み進めているとたまたまページは「恋愛」のコーナーに入ってた。そのコーナーを読み始めた瞬間、ゆりは自分の妹であるりみの事を思い出してた。

「(りみも恋する乙女になっちゃったかぁ。私もまだなのに先越されそうかな?)」

と微笑みながらページを捲った。

「(雑誌も飽きたなぁ。ギターの練習しようかな?うん?)」

ゆりが雑誌を閉じると、玄関の引き戸が凄い勢いで開き、ドンドンと廊下を歩く音が聞こえた。

「(え?誰?誰が帰ってきたの?)」

とゆりが考えていると自室のドアが「バーン」と開いた。

「お姉ちゃん!ちょっと話を聞いて!」

「うん。りみ?落ち着こう?聞くから。」

ゆりはりみを椅子に座らせた。

「それで?どうしたの?」

「あ、あのね!お姉ちゃん!わ、私って潤君の事、好きなのかな?き、今日ね、潤君とやまぶきベーカリーでパン買って、羽沢珈琲店で一緒に食べてたんだけど…。」

「へぇ~!デートしたんだ!」

「や、やっぱりデートだよね…。じゃなくて!そこでね。Afterglowのひまりちゃんとモカちゃんに会ってね。私、2人に話しかけられた時に付き合ってるの?って聞かれて、潤君が違うって否定した時に悲しくなっちゃって…。しかも、モカちゃんには嫉妬しちゃって…。これってやっぱり好きなのかな?」

一気に説明をしたりみは「ふぅー。」と息を吐いた。最初はニコニコと話を聞いていたゆりだったが、途中から額に手を当てていた。

「お、お姉ちゃん?」

「りみ?絶対に潤君の事好きだよ?」

黙っていたゆりが呆れたように言った。

「…やっぱり?」

「うん!間違いないかな?りみは潤君が他の子と仲良く買い物とか食事とかしてたらどう思う?」

「そ、そんなん嫌やぁ…。」

「でしょ?それを好きって言うんじゃないかな?」

最後にニコッとゆりが微笑むと、りみは顔を赤くして

「はぅ~…。今更ドキドキしてきたよ~。」

と顔を赤くして言った。ゆりはそんなりみを見て、

「りみ!頑張って!でも、ホントに恋する乙女って感じの顔つきだね!」

「お、お姉ちゃん!?」

「あはは。ごめん、ごめん!」

「もぉ~。…でも、わ、私、頑張るから!」

りみが立ち上がりそう言うと、ゆりは雑誌を撫で、

「(雑誌、読んどいてよかったぁ~。)」

と思っていた。雑誌には「特集!これって恋?」と書かれていた。

 

─────────────────────

「…てことがあったの…。」

りみが話終わり、Poppin`Partyを見ると、香澄は目を輝かせ、有咲は赤面し、沙綾は微笑み、おたえは何とも言えない顔をしていた。

「なーんかドキドキしちゃった!ね?有咲!」

「お、おう。」

「有咲、顔真っ赤だよ?熱?」

おたえが首を傾げて有咲に聞くと「ちげーよ!」と叫んだ。

「まぁまぁ、有咲も落ち着いて。りみりん。話してくれてありがとう。」

「ううん。大丈夫だよ。」

りみがそう答えると香澄がりみの側に近づき、

「りーみりん!ちなみに、潤君のどこが好きなの?」

と聞いた。

「ふぇ!?」

とりみが驚くと

「確かに気になるかも?」

と沙綾が続いた。更には有咲も

「確かに。りみには悪いけど、一宮さんってなんていうか、普通じゃん?顔とか性格とか?まぁ、りみ程、深く関わってるわけじゃないから、知らないだけかもしれないけど…。」

と言った。ちなみにだが、潤は身長も日本の男性の平均身長で、体格も細くも無ければ、太ってもいない。

「あ、あのね。凄く優しいし、何より自分の事より、まず他人なの。私といても凄く気遣ってくれるから…。うぅ~…。めっちゃ恥ずかしい…。」

とりみが言うと、

「りみ。ベタ惚れだね。オッちゃんと一緒だ。」

とおたえが言った。

「オッちゃん?」

りみが首を傾げて聞くと

「私もオッちゃんの事、大好きだから!りみの気持ち、分かるよ。」

とおたえが答えた。

「ウサギと一宮さんを一緒にするなっ!」

と有咲がツッコミをいれると「どっ」と笑いが起きた。

「ねーねー!りみりん!私、今、新しい歌詞書いてるんだけどね。」

と香澄が言うと

「ま、マジかっ!この前、新曲出来たばかりじゃん!」

と有咲が言った。

「えー良いじゃん!で、話を戻すと、ラブソングを書いてるの!」

香澄が笑顔で言うと、メンバーは驚き

「か、香澄がラブソング!?」

「香澄、お前、正気か!?」

「オッちゃんの歌かな?」

と言った。

「皆、まだ話の続きがあるよ。でも、なかなか書けなくてね。りみりんの事書いて良い?」

「か、か、香澄ちゃん!?」

話を聞き、りみも驚いた。

「えっと…。やっぱりダメ?」

「だ、だ、ダメじゃないけど…。うぅ~。恥ずかしいよ~。」

とりみが言った。

「まぁ、出来てから考えたので良いんじゃない?」

と沙綾が言うと、他のメンバーも「そうだね。」と納得して言った。

その頃、潤は夏休みの宿題をしながら盛大にクシャミをし、「風邪かな?」と呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




8話でした。
書きためていたものがなくなりつつあるので、更新スピードは落ちるかもです(;´д⊂)
申し訳ありません…。


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9話

カランとアイスコーヒーの中の氷が鳴った。コップには水滴が沢山ついており、入れてからかなりの時間が経っていることが分かる。潤の部屋は静寂に包まれており、カリカリとシャーペンの音だけが響いていた。

「数学、終わったぁ~!」

潤にとって、一番の難関であった数学が終わり、シャーペンを机の上に投げ、う~んと伸びをした。それから、置いてあったアイスコーヒーを一気に飲んだ。

「ぷはっ。美味っ!ちょっと休憩しよ。」

と、呟き、リビングに降りながらスマホを取り出した。

「(あれ?LINE が来てる。全然気付かなかったなぁ。)」

と届いていたLINEの内容を確認すると紗夜からであった。今朝の日菜のやまぶきベーカリーでの悪行を全てチクったのである。

 

“日菜が本当に迷惑をかけました。パンのお金もすみません。帰ったら言っておきます。お金なんですが、返したいので、今日、そちらに伺います。”

 

内容を確認して真面目な文章に潤は苦笑した。リビングに入りながら「お金、気にしなくて良いのに。」と呟いた。

「いえ、そうはいきません!」

「ほぁぁぁああぁぁぁぁあ!」

誰も居ないはずのリビングに入り、いきなり声をかけられた為、潤は飛び上がる程驚き、尻餅をついた。

「そんなに驚かなくても…。インターフォンなら押しましたよ?」

「さ、さ、紗夜姉さん?本当にビックリしましたよ~。」

潤は胸を撫で下ろした。

「潤さん。いくらでしたか?」

「さっきの独り言聞こえてましたよね?本当に大丈夫です。」

「ダメです!バイトしてるからと言っても高校生だからそんなに稼ぎないですよね?だから払います!」

「いや、姉さん達にはお世話になっているので、そのお礼ですよ。」

「ダメです。お礼ならキチンとして欲しいです。こんな形のお礼はダメです。いくらでしたか?」

潤は平行線な話をしているうちに紗夜の機嫌が悪くなっているのを感じていた。

「…わ、分かりましたよ。500円でした。」

「本当は?」

ギロッと睨みながら紗夜は言った。潤は固まりながら「(僕は蛙かっ!)」と思っていた。

「680円です…。」

と潤は小さい声で答えた。紗夜が財布からお金を出し、潤に渡した。

「LINEでも言いましたが、本当にすみませんでした。牛込さんにも伝えて下さい。」

「分かったよ。牛込さんにも伝えます。紗夜姉さん。何か飲みますか?」

「お願いしますよ。えっと、でしたら、アイスコーヒーを頂きます。」

紗夜の返答を聞き、潤は台所で準備を始めた。水出しコーヒーをコップに注いでいると紗夜が声をかけた。

「今日、バイト休みになったそうですね。さっき、月島さんから聞きました。」

「そうなんですよ。なんか、シフトミスみたいで。でも、お陰で数学が終わりました。」

「それは良かったですね。では、数学の問題集を持ってきて下さい。」

「へ?」

「合っているかどうか見ますので。」

潤が紗夜を見ると紗夜は右手を出し、「早くしなさい。」と言っているようだった。

 

─────────────────────

蔵の中では、軽快なメロディーが響いていた。いや、響くはずであった。

「わぁ~!ごめん!また間違えちゃった!」

香澄は叫びながら「はぁ~。」とため息をついた。

「そこの部分、そんなに難しいのか?」

有咲がおたえに聞くと、おたえはコクっと頷いた。

「香澄ちゃん、大丈夫?」

「りみりん、ありがとう!大丈夫だよ!まだまだ練習しないとダメだね!」

底抜けに明るく、また失敗しても諦めない香澄にりみは「(私もこうなりたいなぁ。)」と思っていた。

「よーし!もう1回いくよ!」

香澄が皆に向かって言うが、横からランダムスターのネックをおたえに掴まれた。

「お、おたえ?」

「香澄。今日はもう辞めよ?」

「な、なんで!つ、次は大丈夫だから!」

「…出来る雰囲気はないよ?」

とおたえが言う。

「おたえ?ちょっと言い過ぎじゃない?」

と沙綾が言うと、おたえは表情を変えず

「うん?だから、出来るまで香澄は私と練習って言おうと思ったんだけど…?マズかった?」

と首を傾けて言った。

「おたえー!よろしくお願いします!」

と香澄が抱きつきながら叫んだ。

「お、おたえ?最初から言ってよ!」

と沙綾も叫んだ。

「どうするんだ?練習おわりにするのか?」

と、有咲が聞くと香澄は頷きながら口を開いた。

「うん。あっ!でも、おたえと練習するから蔵にはまだいても良い?」

「それは会話の流れで分かってるから。沙綾とりみはどうする?」

「私は残ろうかな?宿題、させてもらうよ。」

沙綾がそう言うと有咲は頷いた。そして、りみの方をみた。

「わ、私は、えっと…。」

りみの反応を見て沙綾がニヤリと笑った。

「りみりん、この後、潤君と予定あったりする?」

「ふぇ!」

りみのまさに「図星です!」という反応に他のメンバーもニヤリと笑った。

「早く、旦那のとこに行きな。」

と有咲が言うとりみは顔を真っ赤にし、

「うぅ~。旦那ちゃうし…。」

と呟いた後に、

「み、みんなごめんね。先に帰るね。」

と言った。

「うん!りみりん。またね!」

と香澄が言うと他のメンバーとも挨拶をしてりみは大急ぎで階段を登った。潤にLINEを打ちながら慌てて出て行った。

「りみは本当に一宮さんの事好きなんだな…。」

と有咲が呟く。本当に小さな声で呟いたので誰かに聞かれているとは思わず、おたえに、

「有咲寂しいの?」

と聞かれてしまった。

「そ、そ、そんなんじゃねぇー!」

蔵に有咲の絶叫が響いた。

─────────────────────

「はぁ~…。ふぅ。お、お邪魔します。」

「そんなに走って来なくても良かったのに。」

りみから“練習が終わったから、今から行くね。”とLINEを貰い、出迎える準備をしていた潤。インターフォンが鳴り、出てみると肩で息をしているりみがいた。

「い、急ぐつもりは無かった…よ。で、でも気付いたら走っちゃってて。」

潤に早く会いたい一心でりみは急いで来たが、その思いは伝わることなく、潤は苦笑いを浮かべるだけだった。

「本当に大丈夫?麦茶飲む?」

「うん。い、頂きます。」

「ちょっと待っててね。」

潤が台所に向かうとりみは「ふぅ~。」と息を吐いた。ふと机を見ると数学の問題集が置いてあった。普通の問題集だが、りみは不思議そうに見ていた。

「はい。麦茶だよ。…あぁ。凄いでしょ。その問題集。」

「あ、ありがとう。…うん。どうしたのその付箋?凄い数が付いてるけど…。」

潤の問題集はもの凄い数の付箋が付いており、最早、付箋の意味を成していなかった。

「実はさっきまで紗夜姉さんが来てて、数学が終わったって言ったら、チェックが入って…。その付箋、間違ってるところだって。」

潤がため息交じりで答える。

「…潤君、大丈夫?」

「大丈夫じゃ無いかも。」

またまた、ため息交じりで潤が答える。

「わ、私じゃ役不足かもだけど…。一緒に間違え、直そ?」

「え!?良いの?でも、りみも宿題あるんじゃないの?」

「私は大丈夫だよ!それに…。」

「それに?」

「うん…。ちょっと潤君が可哀相かなって…。」

りみが苦笑いをしながら言う。

「ど、同情でも何でも良い!りみ先生!よろしくお願いします。」

潤が深々と頭を下げるとりみは慌てて

「ど、同情なんかじゃないよ!?」

と叫んだ。

 

─────────────────────

「お、終わった。今度こそ終わった…。」

数学の問題集の間違えをりみに教えて貰いながら全て直した潤は机に伏せた。

「お疲れ様!」

りみは明るく言ったが、潤の横に積まれた付箋の山を見て苦笑いした。

「りみ。とりあえず、少し休憩にしない?」

「うん。いいよ。」

りみの返事を聞き、潤は立ち上がり台所に向かった。りみはその間、リビングを見渡していた。そして1つの写真に目が止まった。

「(あ。あれって…。)」

りみが写真を少し遠くから写真を見ていると潤が台所から戻ってきた。

「本当に教えてくれてありがとうね。アイスティーで良かったかな?」

「ありがとう。好きだよ!」

「あと、はい!これ。」

「わぁ~!チョココロネやぁ~!」

「やまぶきベーカリーに寄った時に買っといたよ!」

「本当にありがとう!チョココロネおいひぃ~。」

潤からチョココロネを受け取ったりみはすぐにかぶりついていた。

「本当にチョココロネ好きなんだね。」

「う、うん!大好きだよ!あぁ~。幸せ~。」

「あはは。りみってチョコなら何でも好きなの?」

「いや。チョコミントはちょっと苦手…。」

「あぁ~!分かるよ!僕もミントは苦手なんよ。歯磨き粉食べてるみたいで…。あっ!そうだ!これ、もらい物だけど、良ければどうぞ。」

潤はそう言って、アーモンドチョコレートを出した。

「わぁ。ありがとう~!早速頂くね!」

りみはそう言うと、一粒食べた。そして

「これもおいひぃ。」

と言うと、もう一粒摘まんでいた。左手にチョココロネ、右手にアーモンドチョコレートを持つりみを見て潤は

「(チョココロネと一緒にアーモンドチョコレートって…。いや。出したのは僕だけど…。良かったんだよね?)」

と思っていた。

「そういえば。潤君。あの写真って?」

りみはさっき見ていた写真を指した。

「ん?あぁ~。あの写真ね。」

潤は立ち上がり写真の方に向かった。りみも潤の後を着いて行った。そして、潤は写真立てを大事そうに手に取った。

「りみが思っている通り、秋帆だよ。」

「これが秋帆ちゃん…。」

りみが写真を眺めるとロングヘアーがよく似合う美人な女性が太陽のように眩しい笑顔で映っていた。

「ね、ねぇ、潤君?秋帆ちゃんって、どんな人だったの?」

「う~ん。凄く元気で、明るくて、色々と厳しかったけど、その中にも優しさがある人かな?」

「そっか。(なんだか、私と真逆だなぁ。)どっちから告白したの?」

りみは潤の元カノである秋帆と性格が違いすぎて、落ち込みそうになったが、隠す為に続けて質問した。

「恥ずかしながら僕からだよ。一目惚れしちゃってね。好きって、気持ちが抑えきれなくなって、当たって砕けろで告白したらまさかのオッケーだったんだよ。」

「秋帆ちゃんも潤君の事、好きだったの?」

「それが、分からないんだよね。最後まで聞けなかったから…。」

潤が写真を眺めながら言った。その姿をりみが見て

「(あぁ…。潤君、秋帆ちゃんの事まだ好きなんだなぁ。あ、あかん。な、泣きそう…。)」

と考えていた。目にいっぱいの涙を浮かべながら。

「(ダメダメダメ!泣いちゃダメだよ~。潤君に心配かけちゃう。)グスッ…。」

「り、りみ!?ど、どうしたの?」

潤は会話の流れ的に、次のりみの質問を待っていた。しかし、あまりにも間が空いた為、チラッとりみを方に視線を送ると泣きそうになっていたので驚いていた。

「ご、ごめんね。泣き虫で…。」

「それは大丈夫だけど、どうしたの?」

潤がティッシュを取り、りみに渡した。

「ありがとう。あ、あのね。潤君って秋帆ちゃんの事、まだ好きだったりする?」

さっきまでりみの質問にすぐ答えていた潤だが、少し間が空いた。りみからは悩んでいるように見えた。

「分からないんだよ。」

「わ、分からないって?」

「そのままだよ。秋帆の事、まだ好きなのか、そうじゃないのか。」

「そ、そう…。なんだ…。でも、潤君にとって大事な人って言うのはよく分かったよ。教えてくれてありがとうね。」

「!そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとうね。ところで、なんで泣いてたの?」

「うぅ…。(せ、折角、話題変えて収まったと思ってたのにまたぶり返されちゃったよ~。)」

この後、りみは一生懸命、言い訳をし、潤を無理矢理、納得させた。

 

 

─────────────────────

りみが帰って、しばらくして潤は宿題を開いて考え事をしていた。決して宿題の問題の内容で考えてる訳ではなく、りみの事を考えていた。ちなみに、場所はりみと勉強をしていたリビングである。

「潤?どうしたの?あなたには全然似合わない難しい顔して。」

側で読書をしていた潤の母親が声をかけた。ちなみに、潤とりみが勉強をしている間、ショッピングモールに珍しく買い物に行っていた。

「似合わないは余計だよ。いや…。りみの事でね。」

「りみちゃん?何かあったの?」

「うん。今日、うちに昼間来てたんだけど…。」

潤は、母親に昼間の出来事を話した。

「なるほど。で?」

「へ?で?とは?」

「だから、あなたはりみちゃんの事好きなの?」

「…分からない。めっちゃ良い子だと思うけど…。てか、何で泣いたのかも分からないし。」

「へ?潤?あなたりみちゃんが泣いた理由分からないの?」

潤の母親が鳩に豆鉄砲を食らったような顔をして潤に問い詰める。

「わ、分からないけど…?母さん分かるの?」

「はぁ~。潤がそこまで馬鹿とは…。あのね。りみちゃんは秋帆ちゃんと自分を比べてたの!」

「なんでりみが秋帆と比べるの?」

「なんでって!りみちゃんが潤の事好きだからに決まってるじゃない!」

潤の母親が叫ぶと持っていた本を乱暴に閉じた。

「ち、ちょっと!落ち着いて!」

潤がどーどーとジェスチャーを入れながら言った。

「はぁ~。多分、あなたの事だから全部言わないと分からないだろうから言うけど、りみちゃんは、あなたのことが好きなんだよ。それなのに肝心の好きな人は、まだ秋帆ちゃんの事が好きなのかもしれないって思って泣いちゃったんだよ。」

一気に言うとまた「はぁ~。」とため息をついた。

「わ、分かったから。ちゃんと理解したからお、落ち着いて!」

と潤が叫ぶ。そして潤も「はぁ~。」とため息をつき、

「本当に僕は色々な人に迷惑かけちゃってるね。紗夜姉さんとか日菜姉さんとか。そしてりみにも。」

と目を伏せながら言った。そんな潤を見ながら

「まぁ、秋帆ちゃんが亡くなった時の事を思えばあなたは随分と大きな一歩を踏んで、立ち直ったと思うわ。りみちゃんの事はしっかり考えてあげてね?じゃないとりみちゃんにも失礼だから。」

母親がニコッと笑うと、潤は「うん。」と言った。そして「よし!」と言って、立ち上がりスマホを持って、文章を打ち始めた。

 

 

 

 




9話でした。
これから先、潤はどういう行動をとるのでしょうか?
乞うご期待!


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10話

「ちょっと遅くなっちゃったなぁ~。」

スマホを見ながらゆりは家路を急いでいた。夏なので、空はまだ明るいが、時刻は19時を過ぎていた。

「りみ、待ってるよね?」

先ほど、送ったLINEは既読も着いていない為、余計にゆりの歩く速度を速めさせていた。

「LINEくらい確認してよ~。心配になるじゃん。」

眉間に皺を寄せ、スマホを睨んでみるが、もちろん既読がつくはずもなく、ゆりは「はぁ~。」とため息をついた。そして、やっとの思いで、家にたどり着くとゆりはますます眉間に皺を寄せた。

「家、真っ暗じゃん。りみ帰ってないの?」

いつもなら帰っているか、遅くなるなら連絡が必ずあるので、ゆりの心配は頂点に達していた。とりあえず、中に入ろうと、鍵を開ける。

「りみ~!ただいま!いないの?」

と中に入りながら叫ぶ。ゆりの言葉に返事はないがゆりはホッとした表情を浮かべた。玄関にはいつもりみが履いているサンダルがあったからだ。

「な、なんだ、りみ、帰ってるじゃん。…居るならLINEくらい見てよ。」

ホッとしたのも束の間、ゆりの感情は段々と怒りに変わってきていた。

「りみー!りみー!どこにいるの!」

廊下の電気を点け、叫びながら歩くも相変わらず返事はない。そして、ゆりとりみの部屋の前まで来た。

「りみ!居るんでしょ!…りみ?」

ドアを開け、りみに呼びかける。自室に確かにりみはいたが、薄暗い部屋の隅で体育座りをしていた。そして、電気を点け、更によく見るとりみは泣いているようだった。

「り、りみ!?ど、どうしたの!?」

「……ひっく。お、お姉ちゃん…。お帰りなさい…。」

「た、ただいま。…じゃなくて!」

泣きながら、出迎えてくれたりみに思わず、ただいまと返してしまったが、それどころではない。泣いて理由を問いただそうとした。いや、何となく泣いてる理由は検討がついた。

「りみ?潤君と何かあったの?」

ゆりがそう聞くとりみはビクッと肩を震わせた。その瞬間、りみの目から大粒の涙が零れた。

「うっ…。お、お姉ちゃん!」

と叫びながらりみはゆりの胸に飛び込んだ。

「よしよし。何があったか、話してごらん。」

ゆりはりみの頭をよしよしと撫でながら優しく言った。

「潤君にね、秋帆ちゃんの事聞いたんだ。まだ好きかって聞いたら分からないって言ったんだけど、表情とか見てるとね、まだ好きみたいだったんだ…。わ、私、どうしたらいいか分からなくなっちゃって…。」

りみが泣きながら言った。

「そっか…。なら、りみ?潤君の事、諦めちゃう?」

「…嫌や…。絶対嫌!」

「うんうん。なら、泣くんじゃなくて、どうしたら良いか、一緒に考えよ?夕飯でも食べながらね?」

「う、うん。でも、本当にどうしたら良いのか…。」

りみは不安そうに言うと同時に「キュ~。」と可愛い音が鳴った。鳴った瞬間、りみはお腹を押さえ、顔が赤くなった。

「ぷっ。あはは!りみ?お腹空いたの?昨日のハンバーグ残ってるから、カレーにハンバーグ乗せて食べよ?お腹空いてたら良い考えも浮かばないよ?」

ゆりはお腹を抱えて笑った。

りみは「うぅ…。」と恥ずかしそうにお腹を擦った。

 

─────────────────────

朝8時。CiRCLEでバイトがある時は潤が起きる時間だ。しかし、今日はバイトはお休み。休みの時は目覚ましをかけず、朝寝坊をする。それが潤の1番の楽しみであった。しかし、今日は既に着替えを済ませ、朝食を食べていた。

「潤?今日、休みでしょ?どうしたの?」

潤の母親が不思議そうにスクランブルエッグを出しながら聞いた。

「ちょっとね。まぁ、昼過ぎには戻ってくるから。」

スクランブルエッグを受け取り、潤は言った。

「そっか。…秋帆ちゃんに関係ある?」

母親が心配そうに言った。

「やっぱり分かっちゃう?今まで、逃げちゃってたから立ち向かってみようかなって思ってね。大丈夫!心配しないで。」

「そう。あの事故からすぐのあなたは秋帆ちゃんの写真を見るだけで過呼吸になったり、泣きながら暴れたりしたから母親からしたら心配よ?」

「あはは…。それを言われたらますます申し訳なく思うよ。でも、紗夜姉さんや日菜姉さん、もちろん母さんのお陰で立ち直れたはずだから、感謝してるよ!」

「特に紗夜ちゃんにはね!」

潤の母親が言うと、潤は「あぁ!」と答え、更に続けて

「CiRCLEのバイトも紗夜姉さんの紹介だしね!バイトを始めてから良い方向に考えてることが出来はじめたしね!」

「潤が前に進みたいなら頑張りなさい!母さんは潤の味方だからね!コーヒーのおかわりいる?」

「ありがとう。貰おうかな?」

コップを母親に手渡した。潤は晴れ渡った空を眺めた。

 

─────────────────────

「そろそろのはずだけど…。」

潤は腕時計で時間を確認すると集合時間の10時を5分過ぎていた。

「大丈夫かな?急にアポとったもんなぁ。ちょっと無理があったのかなぁ?」

昨日の夕方、急に電話をし、会う約束をしたが自分の思いつきでの行動に少し潤は後悔していた。

「待ち合わせの相手、まだ来られないんですか?」

つぐみが水が入ったポットを持ってやって来た。

「そうなんだ。まぁ、僕が急にアポ取ったから…。お冷やありがとう。」

潤が待ち合わせに指定した場所は羽沢珈琲店だった。

「待ち合わせってりみちゃんですか?」

つぐみが微笑みながら言う。

「違うよ。まぁ、大事な人…になるのかな?」

潤の煮え切らないような発言につぐみは「?」を浮かべた。それから5分後、時刻は10時15分になっていた。流石に、心配になった潤は電話をかける為にスマホを手に持った。すると来店を知らせるベルがカランコロンと店内に響いた。来店した客を確認した潤は

「夏希ちゃん?こっちこっち!」 

と言った。夏希ちゃんと呼ばれた人物は「はぁはぁ。」と息を切らせながら席に着いた。

「潤さん。お久しぶりです。元気そうで良かったです。それと、遅れてごめんなさい。」

「全然大丈夫だよ!…本当に久しぶりだね。なんかお姉ちゃんに似てきたね。」

潤が目を細めて言う。

「そうなんです。周りの人からも秋帆に似てきたって言われるんですよ。お姉ちゃんに似てるって言われて本当に嬉しくて!」

夏希が嬉しそうに笑う姿を見て、潤も微笑んだ。

「夏希ちゃんは…えっと。今、中学2年だっけ?」

「はい。そうですよ。絶賛、中弛み中です。ところで、潤さん。急に会いたいなんて、お姉ちゃんの事ですか?」

「うん。そうなんだ。…お姉ちゃんが亡くなった後の僕の事、聞いてるかな?」

潤が苦笑いしながら聞くと夏希は頷いた。

「…はい。父と母から…。学校も行けなくなったって…。」

「うん。そだね。色々酷かったんだよね。でも、高校生になってからはちゃんと学校にも行ってるし、バイトもしてる。けどね…。」

「けど?」

「うん。やっぱり、僕の時間は秋帆が亡くなってから止まってると思う。今、こうして元気に暮らしているように見えるけど、学校も、バイトも秋帆を思い出さないようにしている為の手段に感じててね。このままじゃ、天国の秋帆に笑われてしまうし、僕なりに向き合ってみようと思って連絡したんだよ。…あっ。そうだ。急に連絡してゴメンね。」

「いえ!久々に連絡くれて嬉しかったです!私も色々と話したいことが沢山あるので、先に注文しませんか?」

夏希がメニューを持って言う。

「ご、ゴメンね。気がつかなくて。…なんか焦ってるかも。本当にゴメンね。」

潤が胸の前で手を合わすと、夏希は「いえ。」と答え、メニューを吟味し始めた。あーでもない。こーでもないと言いながらメニューを決め、注文すると、夏希が口を開いた。

「ところで…。」

「うん?あっ。心配しないで!ここの代金は払うから。」

「ありがとうございます!じゃなくて!」

奢りと聞き、夏希は喜んだが、すぐに慌てるように話しを続けた。

「お姉ちゃんの事に向き合いたいって思ったキッカケとかあったんですか?」

「え?あぁ…。うん。」

「…普段なら、言い辛いなら言わなくて良いって言いたいところですが…。ちゃんと聞かせて欲しいです。」

「そうだよね…。えっと、僕は半信半疑なんだけど、僕の事が好きって言ってくれる女の子がいてね。」

「へぇ~!そうなんですね!流石、潤さん!モテますね~!潤さんはその方の事好きなんですか?」

「…それが分からないんだよね。可愛いし、良い子なんだけどね。でも、このまま立ち止まったままだと、その子に対して失礼だと思っててね。だから、えっと。自分の気持ちに整理をつけたいなって…。」

「分かりました。この後、まだ時間ありますよね?」

「うん?大丈夫だよ?」

夏希が微笑むと、丁度注文したものがテーブルに運ばれて来た。

 

─────────────────────

「牛込さん?」

「あっ。紗夜さん!こんにちは。」

その頃、Poppin`Partyの練習が休みだったりみは気分転換を兼ねてショッピングセンターに来ていた。そこでバッタリ紗夜に会ったのだ。

「買い物…ですか?」

「いえ、そうじゃ無いんですが…。や、やっぱり、目、は、腫れてますか?」

りみの顔を見た瞬間、言葉に詰まった紗夜を見てりみは苦笑いしながら答えた。

「えぇ。泣き腫らしたような目をしていたので…。どうされましたか?差し支え無ければ教えて頂きたいのですが?」

「え、えっと…。紗夜さん、潤君に怒りませんか?」

「やはり、潤さんが関わってましたか…。怒るかどうかは内容次第ですね。」

紗夜の返答にりみは再び、苦笑いをした。

「牛込さん。時間があるのでしたら、どこか座って話しませんか?」

「あっ。は、はい。お、お願いします。」

りみの返答に頷きながら紗夜は「こっちです。」と言い、お目当ての場所に向かって歩いて行った。黙ってりみが着いて行くと、ショッピングセンターの一角にポツリとある喫茶店だった。中に入り、お互い注文をすると紗夜が口を開いた。

「さて、早速ですが、話して頂けますか?」

「は、はい。え、えっと、潤君は何も悪く無いんですが…。秋帆さんの事…。聞きました。そして、潤君がまだ秋帆さんの事を好きなんだって感じて…。大泣きをしてしまったって感じです。」

「え?潤さん。秋帆さんの事を話したんですか?」

「は、はい。私には聞いて貰いたいと言ってましたよ。」

「そうですか…。」

紗夜が腕を組み、う~んと考える。

「さ、紗夜さん?どうしましたか?」

「いえ。すみません。牛込さん。あなたは秋帆さんの話を聞いてもまだ、潤さんの事が好きですか?」

紗夜のストレートな質問にりみは顔を赤くした。

「うぅ…。は、はい。諦めるなんて絶対無理です。昨日の夜、色々と考えましたが、諦めるって選択肢は浮かびませんでした。」

「そうですか。牛込さん、良かったですね。」

「え?」

「潤さんは自分の過去の話を他の人にはしないんです。この話を知ってるのは私たち血縁関係の者と月島さんしか知りません。まぁ、潤さんの中学の時の同級生とかは必然的に知ってるでしょうが…。」

「?なんでまりなさんが知ってるんですか?」

「それはCiRCLEのバイトを薦めたのが私で、その時に話しました。バイトは塞ぎ込んでた潤さんのリハビリと思って始めるように言ったので。」

「そうなんですね。でも、潤君の過去の話を話すのがなんで、良いことなんですか?」

りみは腑に落ちないと言った表情で紗夜に聞いた。

「それは、潤さんが秋帆さんの話を普段、他の人には絶対しないんです。話をする時は自分が心許せる相手にしかしません。」

「そ、そうなんですか?」

「はい。それに、牛込さんの話を聞く限り、かなり深いところまで話されています。私たち親戚でも、かなり時間が経ってから秋帆さんがどのような人だったかって言うのを聞きました。出会って数日の方に潤さんがそこまで話すのはかなり珍しい事なんです。」

紗夜が一気に喋るも、りみはさらに混乱していた。

「えっと、つまり…?」

「はい。つまり、潤さんが牛込さんの事が好き…とまでは分かりませんが、大切な存在っていうのは間違いないと思います。」

紗夜の言葉を聞き、りみは顔がさらに暑くなるのを感じていた。

「牛込さん、大丈夫ですか?」

恥ずかしいやら、嬉しいやらで口をパクパクしていたりみに紗夜が声をかけた。

「だ、大丈夫れふ…。はぁ~。ふぅ~。と、と、ところで紗夜さん。潤君自身が、秋帆さんが亡くなった直後は凄く迷惑かけたって言ってましたが、そんなに大変だったんですか?」

りみが落ち着く為に、深呼吸をして聞くと紗夜は深呼吸ではなく、「はぁ~。」とため息をつき、額に手を当てた。

「さ、紗夜さん?」

「失礼しました。…えぇ。それは大変でした。引きこもって、学校には行かない。多分、中学2年の2学期からは学校には殆ど行ってません。それに、ご飯は一切食べない。秋帆さんの写真を見ただけで過呼吸を起こす。記憶がフラッシュバックして泣いて暴れる。まだありますが聞きますか?」

「い、いえ!だ、大丈夫です!でも、今は学校とか行ってますよね?」

「えぇ。高校からは行ってます。…苦労しました。」

「紗夜さん達の支えがあったから潤君もここまで元気になったんでしょうね。」

りみが微笑みながら言うと、紗夜は苦笑いをし、

「でも、ちょっと厳しくし過ぎたかも知れません。お陰で避けられてますから。」

と言った。りみは「そんなことないです。」と言ったが、頭の中では大量に付箋が貼られた数学の問題集が浮かんでいた。

「私達、日菜もそうですが、大事な親戚なので一生懸命、潤さんを支えたつもりです。でも、今、1番潤さんを支えれるのは牛込さん、あなたです。前にも言いましたが、改めて言わせて下さい。潤さんを支えてあげてください。」

紗夜が頭を下げるとりみは慌てた。

「あ、頭を上げてください!や、役者不足かも知れませんが、分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします。」

「牛込さんなら大丈夫だと思います。あと、ずっと言わなければと思っていたのですが…。」

「なんですか?」

「日菜が本当にご迷惑をかけました。あの子も悪気があった訳ではないので…。」

「そ、それなら大丈夫です。そのお陰で潤君のお家に行けましたし。…ちょっとビックリはしましたが…。」

「本当に申し訳ありません。それに、買い物にいらしてたんですよね?時間をとらせてしまってごめんなさい。」

「だ、大丈夫です。話をいっぱい聞けて安心しましたし。それに、買い物とかじゃなくて、気分転換に来ただけなので…。」

何度も謝る紗夜にわたわたしながらりみが言うと紗夜は不思議そうな顔をした。

「そうなんですか?私はてっきり、潤さんの誕生日プレゼントを買いに来てたのかと思ってました。」

「え!?潤君の誕生日っていつ何ですか?」

「明日ですよ?」

紗夜が平然と答えると、りみは泣き腫らした目を見開き、「えぇぇえぇえぇぇ!」と叫んだ。喫茶店にいる人間がりみの方に向いたのは言うまででもない。

 

─────────────────────

羽沢コーヒー店で舌鼓を打った潤と夏希。今は夏希の案内で歩いていた。

「夏希ちゃん?何処に向かっているの?」

「潤さんが今まで1度も来たことがない…。って言うよりは来れなかった場所です。」

「僕が行けなかった?」

「はい。お姉ちゃんのお墓です。」

夏希が言うと、潤の足が止まった。潤はショックが大きすぎて、秋帆の葬式の記憶が殆どない。行ったと言うことしか覚えてなく、後から聞いた話だと、廃人のようになっており、声をかけても「あぁ。」しか言わなかったらしい。そんな状態だったので墓参りなど、当然行けずにいた。行こうとしても足がすくんでしまうのだ。今もこうして足を止めてしまっている。

「…潤さん。やっぱり難しいですか?」

「ううん。ここで行かないと、もう一生行けなくなる気がするから行くよ。ゴメンね。夏希ちゃん。案内、よろしくね?」

潤がそう言うと、夏希は心配そうな表情になり、

「分かりました。でも、無理はしないで下さい。どうしてもダメなら言ってくださいね。」

と言った。

「ありがとう。」

と潤が言うと、ゆっくりだが一歩、また一歩と足を進めた。

 

 

 




二桁、10話まで来ました!
当初の予定では10話で終わる予定にしてましたが…。
まだ終わりそうにないです…。
いっぱいイメージが膨らんで良いのか、まとめる文才が無いだけなのか…。
楽しみに読んで貰っている方、今、初めて読んだ方もよろしくお願いします。

感想もお待ちしています!


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11話

潤と夏希が歩き出して30分が経っていた。

「もうすぐ着きます。潤さん大丈夫ですか?」

秋帆が振り向き潤に声をかけると小さく「あぁ。」と返ってきた。実際のところ、潤は大丈夫では無かった。

「(なんか、体が熱い。頭がフラフラする。息がしにくい。…全く情けないなぁ。僕はまだ全然ダメダメだったんだなぁ。)」

と考えていた。

「潤さん?本当に大丈夫ですか?」

夏希が更に心配そうに声をかけた。

「え?うん。大丈夫だから。」

潤は今にも倒れそうなのを堪えて言った。

「ちょっと質問の仕方が悪かったですね。体調、大丈夫です?秋帆姉ちゃんの事、抜きで。」

「へ?」

夏希の言葉に潤はキョトンとした。確かに、体調は最悪だ。本当に倒れそうだ。しかし、それは秋帆のお墓に近づいているからであって、夏希の言う秋帆の事を抜きでという質問に理解が出来なかった。

「潤さん?絶対、体調悪いですよね?今、体に起こっている症状を教えて下さい。」

とうとう、夏希は立ち止まり、潤の前に立って聞いた。潤は「大丈夫」と伝えたが夏希が折れなかった為、正直に自分の体調を伝えた。

「それって熱中症じゃないですか!早く、木陰に入って!座って!」

「ね、熱中症?違うよ?恥ずかしいけど、僕が弱いだけ…」

「いいから!」

夏希の剣幕に潤はびっくりし、大人しく言うこと聞き、木陰に座った。

「そのまま待ってて下さいね!」

潤が座ったのを確認して夏希は走って行った。

「(はぁ~。情けないなぁ。てか、座ったらちょっと楽になったかも。)」

潤は空を見上げた。夏の日差しは容赦なく地上に降り注いでいたが、潤のいる木陰にはそよそよと穏やかな風が吹いていた。汗をぬぐいながら潤は目を瞑った。

「潤さん?潤さん!」

潤が目を開けると夏希が潤の肩を持ってユサユサと揺らした。

「潤さん大丈夫ですか?ビックリしましたよ。意識を失ったかと思いました。」

「ゴメンね。ちょっと寝てたみたい。」

潤が苦笑いしながら言うと夏希はコンビニの袋からスポーツドリンクを取り出し、潤に手渡した。

「ありがとう。頂くね。」

と潤は言い、一気に飲んだ。

「あぁ~!美味い!スポーツドリンクってこんなに美味しかったっけ?」

「それって、完全に熱中症の人が言う台詞ですよ。あと、これ。凍ってるスポーツドリンクです。首とか冷やして下さい。」

「夏希ちゃん。ありがとう。てか、やけに詳しいね?」

「私、テニス部に入ってて、そこで習ったんですよ。少し休んで良くなったら行きましょうか?」

夏希がニコッと笑って言うと潤はコクッと頷いて再び目を閉じた。

 

─────────────────────

「あかん!どないしよ…。」

りみは1人、ショッピングセンターの中を歩いていた。紗夜から明日が潤の誕生日と聞き、慌ててプレゼントを選んでいた。しかし、そのプレゼント選びは難航していた。

「(よくよく考えたら私、潤君の事、ほとんど知らないなぁ。出会ってから数日だし、当たり前かもだけど…。こんな事になるなら趣味くらい聞いとけば良かった。)」

りみはそう考えながら雑貨屋に入った。ちなみにだが、潤の趣味は寝る事であり、りみが知っていてもプレゼント選びは難航必須だった。

「(可愛い置物とかあるけど…。潤君のプレゼントには違うし…。)」

辺りをキョロキョロ見回すも、やはりこれといったものは無く、時間だけが過ぎていた。少し歩き疲れたりみはエスカレーターの横に置いてあったソファーに座っていた。

「はぁ~。」

何度目かも分からないため息をつく。

「(はぁ~。どうしよ…。本当に何も思い浮かばないよ…。)」

「あれ~?りみじゃん!こんなところでどうしたの?」

「ひゃ!」

りみがビックリして後ろを振り向くと「やっほ~☆」と手を振ってるリサがいた。

「ごめんね~。ビックリさせるつもりはなかったよ。」

「い、いえ!リサさん。こんにちは。」

「こんにちは。りみはどうしたの?買い物?」

「えっと、実は…。明日、潤君の誕生日らしくて…。」

「え!?そうなの?なるほど~。それでため息をついてたんだね。」

「え?た、ため息、見てたんですか?」

ため息を見られたのが恥ずかしかったのか、りみはわたわたした。

「バッチリ見てたよ~!潤君のプレゼントを悩んでたってところかな?」

リサが笑いながら言うと、りみは頷いた。

「な、何にして良いか本当に悩んじゃって…。決められなくなってしまって…。リサさん…。何かアドバイスありませんか?」

「そっか~。なるほどね~☆」

りみの話を聞き、リサはニヤニヤして言った。

「りみは本当に潤君の事、好きなんだね~☆」

「うぅ…。か、からかわないで下さい…。」

「あはは~☆ゴメンね~。でも、好きだからこそ悩むんだよ。で、プレゼントか…。」

リサは腕を組みう~んと考え始めた。

「…。その様子だと、潤君の好きな事とか、趣味とかあまり知らない感じだよね?」

「は、はい。そ、そうなんです…。潤君、あまり自分の事、話してくれなくて…。で、でも、私が悪いんです!き、きっとちゃんと聞いたら潤君は教えてくれるのに、聞かなかったから…。」

りみが、俯きながら言う。

「まぁまぁ。初めて会って、まだ日が浅いんでしょ?しょうが無いよ。え~と。私からのアドバイスは、ぶっちゃけ、何でも良いと思うよ?」

リサがニコニコしながら言うと、りみは「え?」と言ってキョトンとした。

「りみが考えて、考えて、これって決めた物なら潤君は喜ぶと思うよ?りみは本当に知らない?潤君の好きな物とか。」

「ご、ごめんなさい…。わ、私、ほ、本当に知らなく…て…あっ!」

俯いたまま、静かに言ったりみだが、言葉の途中で顔を上げ、リサを見た。

「おっ?何か思いついた?」

「はい!リサさんのお陰です!ありがとうございます!」

「私は何もしてないよ☆」

リサが笑顔で言った。

「いえ!そんな事ないです!ありがとうございます!…そう言えばリサさんも買い物ですか?」

「私?う~ん。まぁそんなとこかな?ほらほら!プレゼント、思いついたなら早く買ってきちゃいなよ☆」

「え?そ、そうですよね!ありがとうございます!」

りみがペコリとお辞儀をして立ち去って行った。疲れていた足も軽くなり、軽快に足が動いていた。

「…ふぅ~。紗夜?これで良いの?」

「今井さん、ありがとうございます。」

リサが後ろを振り向いて言うと、物陰から紗夜が出てきた。

「いきなり紗夜からショッピングセンターに来て下さいってLINEが来た時はびっくりしたんだからね?まぁ、力になれたなら良かったよ☆」

「ありがとうございます。こうゆう時は今井さんが適任だと思ったので。この礼は必ず…。」

「良いって~☆でも、紗夜がここまでするって珍しいよね?」

「そうですか?潤さんは大事な親戚ですし、牛込さんも一所懸命だったので力を貸したくなっただけですよ。」

紗夜はりみが立ち去った方を見ながら言った。

「なるほどね~。ところで紗夜?今から時間ある?」

「えぇ。ありますが…。どうしましたか?」

「いやいや。たいしたことじゃないんだけどね。さっき、お礼してくれるって言ったじゃん?このまま買い物に付き合ってよ!」

「…お礼ってそれで良いんですか?そんな事、お礼じゃなくても付き合いますよ。」

紗夜が不思議そうな表情を浮かべると、リサはニヤッとした。

「そう?ならレッツゴー!紗夜をコーディネートするよ~!」

「え"!?」

リサの発言に紗夜は額に手を当てた。そんな事、お構いなしにリサは紗夜の腕を引っ張っていた。

 

─────────────────────

「ごちそうさまでした。ふぅ~。お腹いっぱい!」

「だね。美味しかったね。」

潤と夏希はファミレスに入っていた。少しだけ目を瞑り、休んだ潤はだいぶ体調の方も良くなっていた。しかし、時間的に昼前だった為、近くにあったファミレスに入り、昼食をとっていた。

「体調は大丈夫ですか?」

「うん!大丈夫!夏希ちゃんのお陰ですっかり良くなったよ!」

潤が笑顔を見せると夏希はホッとしたように胸を撫で下ろした。

「まさか、本当に熱中症だったとは…。僕はてっきり、秋帆のお墓が近くなって来たからだと思ってたよ。」

「…それなんですけど、今までにお墓参りに行こうとしたことあるんですか?」

「うん。あるよ。近くなると足が竦んじゃって…。行けなかったけど…。」

「そうなんですね…。実は、潤さんに渡したい物があるんです。」

夏希がそう言うと鞄の中を探り始めた。そして取り出したのは封筒だった。宛先のところには「潤へ」とあり、裏を見ると「秋帆より」と書かれていた。

「こ、これは?」

潤がビックリして夏希に聞くと

「実は、お姉ちゃんの部屋に鍵がかかった引き出しが1つだけあって…。そこの引き出しの鍵がたまたま見つかって開けてみたらそれが入ってたんです。」

「…読んで良いかな?」

「…はい。」

潤が夏希に了解をとると静かに、丁寧に封を開けた。内容はどうやら潤の誕生日に渡すつもりだったらしい文章が並んでいた。

 

 

“潤へ

 

お誕生日おめでとう!

 

こうやって手紙を書くなんて初めてだね。

 

いつも思っていることをこの手紙で伝えるね。

 

なかなか言葉にして言うのは照れくさいしね(^^;)

 

1年前に潤から告白されて本当にビックリしました。

 

だって、全然喋ったことない男子から告白されたんだもん。

 

潤は当たって砕けろって思いで告白したって言ってたけど、実はね、その告白の前から潤の事知ってたんだよ。

 

喋ったことは無かったけど、入学式の日に、潤、体調が悪そうな生徒を見つけて、保健室まで連れて行ってたでしょ?

 

しかも、その連れて行った人の事も全然知らなかったのに。

 

その姿を見た時に、優しい人だなぁ。私には出来ないなぁ。って思ってたんだよ。

 

だから、告白された時に、この人の事をもっと知りたいって思って告白を受けたの。

 

いつも、潤に対して素直になれなくて、怒ったりしてゴメンね。

 

潤の優しいところ、すぐ行動に移せるところ、フニャフニャした笑った顔、大好きだよ。

 

私のことを好きになってくれてありがとう。

 

この先、何が起こるか分からないし、もしかしたら別れる事もあるかもしれない。

 

でも、私はどんな状況になっても、潤の事を好きになって良かったって思える自信があるの!

 

潤からは、人の気持ちに寄り添う大事さ、人を好きになることの素晴らしさ、楽しさ、沢山の事を教えて貰いました。

 

本当に感謝してもしきれないよ。

 

こんな私と付き合ってくれてありがとうね!そしてこれからもよろしくね!もう1回言うけど、お誕生日おめでと!また来年も祝おうね!

 

P.S 絶対に一緒の高校行こうね!

 

秋帆より”

 

手紙を何度も潤は読んだ。どのくらい時間がたったであろう。潤は読みながら、久々に見た女の子らしい丸文字に懐かしさを感じていた。

「潤さん?大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ。手紙渡してくれてありがとうね。」

「いえ。もし、良ければですが、私も読んでも大丈夫ですか?」

「もちろん!」

潤はそう言うと手紙を夏希に手渡した。しばらく手紙に集中していた夏希は読み終わると「フフッ」と笑った。

「なんか、お姉ちゃんらしい文章ですね。元々優しい、自慢の姉でしたが、お姉ちゃん、潤さんと付き合い始めてからますます優しくなったんです。…優しさにも色々ありますよね?お姉ちゃん、私の事を思って注意してくれる事もあったんです。当時はウザいなぁ…なんて思っちゃいましたがら、優しさからの注意だったんだって、今なら思えます。…それが、潤さんと付き合い始めてからだったんで…。潤さんの影響だったんですね!」

夏希がニコニコしながら言う。

「そうなのかなぁ?でも、僕も秋帆によく注意されてたよ?勉強面では特に。」

「それだけ、一緒の高校に行きたかったんですよ。」

2人は「あはは。」と、笑った。

「じゃぁ、そろそろお墓に行こうか?案内、よろしくね?」

「はい。もちろんです。」

2人は席を立ち、再び炎天下の中、歩いていった。

 

─────────────────────

2人が歩きだして5分後、秋帆が眠る霊園に到着した。

「本当にあと少しだったんだね?」

「はい。そうですよ。お姉ちゃんのお墓はこっちです。」

墓石たくさん並んでおりその間を縫うように歩く。潤の手には水が入ったバケツが握られており、歩く度に中の水が左右に揺れた。

「ここです。」

夏希が短く言うと、立ち止まった。夏希の視線に会わせ、潤も墓石を見る。両サイドには立派な向日葵が供えられていた。

「綺麗な向日葵だね。」

「お姉ちゃん、向日葵が好きだったので…。」

夏希がそう言うと、向日葵を抜き、水を入れ替え始めた。その姿を見て、潤も慌てて、掃除を始めた。一通り、終わると潤と夏希はその場にしゃがみ、手を合わせた。

「お姉ちゃん!やっと潤さんが来てくれたね。」

夏希が呟く。その瞬間、秋帆が答えるように微かに風が吹いた。

「秋帆、遅くなってゴメンね。やっと来れるようになったみたい。」

潤も秋帆に語りかけた。その言葉を聞いて夏希は合わしていた手を離した。

「潤さん、本当に平気そうですね。誘って良かったです。お姉ちゃんが亡くなった時の潤さんを見てたので、正直、お墓まで来れるかどうか半信半疑でした。」

「ゴメンね。葬式とかの記憶、曖昧なんだけど、そんなに酷かったんだね。」

潤が苦笑いする。

「夏希ちゃん。本当にありがとうね。お墓の案内も手紙も…。」

「いえいえ。…前に進めそうですか?」

「うん。お陰様でね。手紙の文に“例え、別れる事になっても、潤と付き合って良かった。”ってあったじゃん?」

「はい。」

「ほら、会った時に僕の事が好きらしい子がいるって言ったじゃん?その子がこの先、付き合うようになったとしても、そうじゃ無くても、僕の事を好きになって良かったって思えるようにしてあげてね。ってバイトの先輩から言われてて、正直ね、よく分かってなかったんだけど、秋帆からの手紙で、それがいかに大切か良く分かったから…。とりあえず、頑張れそう!」

「潤さん、今日、会った時と表情が大違いですね。今の表情、素敵ですよ。」

夏希が笑顔で言うと「そうかな。」と潤は言った。

「(秋帆…。遅くなったけど、僕は大丈夫。頑張るから。僕も秋帆と付き合えて良かったよ!)」

墓石に向かい、潤は心の中で語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




11話でした。
少し、シリアスでしたかね?
シリアスなストーリーを書くのは苦手ですが、楽しんで頂けたら幸いです。


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12話

「……はぁい…。もしもしぃ…。」

突然、鳴った電話に反応した潤。絶賛寝起きですといった掠れ声だった。

「潤君?おはよ?8時だよ?」

「…りみ?」

「へ?うん。そうだけど?」

りみの声を聞き、潤は重たい瞼を開いた。そして、時計を見ると確かに針は8時を指していた。

「あぁ…。ごめん。昨日、寝落ちして、アラームかけてなかったよ。助かった。ありがとう。」

昨日、夕方に帰ってきた潤は、炎天下の中歩いた疲れや熱中症になった事もあり、風呂に入って夕飯をササッと食べるとそのまま寝てしまったのだ。

「ううん。大丈夫?昨日、LINEの返事も無いから心配してたんだよ?」

「LINE?」

潤がスマホを耳から離して画面を見ると確かにLINEの通知が来ていた。

「本当にゴメンね。全然気付いてなかったよ…。」

「ううん。疲れてたんだね。昨日は何してたの?」

「昨日は出掛けてたんだよ。話がかなり長くなると思うからまた会った時に話すね。」

「う、うん。分かったよ。と、ところで潤君?目は覚めた?」

「お陰様でバッチリ!りみ、ありがとうね!」

「いえいえ。アラーム気をつけてね?じゃあね。」

りみがそう言うとスマホからは「ツーツー」と機械音が響いた。

「あれ?りみ、急いでいたのかな?なんか素っ気なかったような?」

潤はそう呟き、LINEを開いた。LINEは1件来ており、もちろんりみからであった。

 

“こんばんは。明日ってバイトだよね?その後って空いてるかな?”

 

文を読んで潤はますます混乱した。

「あれ?予定、さっきの電話で何で言ってこなかったんだろ?予定が入っちゃったのかなぁ?」

と、また呟き、支度を始めた。支度と言っても服を着替えるだけなので、すぐに終わり、リビングに向かった。

「おはよ。」

リビングの扉を開けながら潤は挨拶をした。

「あっ…。じ、潤君。お、おはよ。」

「あぁ。りみ。おはよ…ってりみ!?あれ?なんでりみがいるの!」

一昨日の朝と同じ反応をした潤に思わずりみが「ぷっ」と吹き出した。

「あはは!潤君、前と同じだよ~。」

「え?あっ。そ、そ、そだね…。り、りみはどうしたの?」

「私が呼んだのよ?」

潤の質問に台所でせっせといつも通り、料理をしていた母親が答えた。

「え?どうやって呼んだの?」

潤に新たな疑問が浮かび、聞くと

「一昨日、りみちゃんが来た時にね。りみちゃん可愛かったからLINE聞いちゃった。」

潤の母親がペロっと舌を出しながら言った。

「い、いつの間に…。」

「潤君。あのね。朝になって麻里さんから朝ご飯食べにおいでってLINEを貰って、お言葉に、甘えちゃったの。」

りみが説明すると潤は「そっか。」と納得した。ちなみに、麻里と言うのは潤の母親の名前だ。

「あ、あとね。じ、潤君!た、誕生日おめでとう!」

「え…。あっ!今日、誕生日だっけ?忘れてたよ。ありがとう!」

「わ、忘れてた?」

りみがビックリしたように言った。

「今年も忘れてた?りみちゃん。潤はね。毎年、誕生日を忘れちゃってるの。去年は紗夜ちゃんに教えて貰ってたよね?」

麻里が言うと潤は苦笑いした。

「なんか忘れちゃうんだよね。でも、今年はりみに祝って貰えて嬉しいな!」

「そ、そんな…。あ!後、これ。気に入って貰えるかどうか分からないけど、誕生日プレゼントだよ?」

りみが袋から綺麗にラッピングされた箱を取り出すと潤に渡した。

「ありがとう!開けても良いかな?」

潤がりみに確認するとりみが「うん。」と頷いたので、丁寧に開けた。

「何かなぁ~…。おぉ~…。」

潤が中身を確認し、取り出すと歓喜の声を上げた。

「凄くオシャレなマグカップだね!」

潤の手には黒と赤のチェック柄のマグカップが握られていた。

「気に入ってくれた…かな?」

「もちろん!早速使わせて貰うね!」

潤は横に置いてあったポットからコーヒーを注いで飲んだ。

「…ふぅ。なんかいつもより美味しく感じる…。」

「お、大袈裟だよ!」

りみが顔を赤くして言った。

「あっ!そうそう。潤、今日は誕生日だから夕飯、一応豪華にしてあげるから有難いなぁって思いながら早く帰っておいで?」

麻里がサラダを作りながら言った。

「…なんか釈然としない言い方だけど分かった。」

「もちろん、りみちゃんもね?あっ。りみちゃんは有難いとか思わなくて良いからね?りみちゃんって、好きな食べ物って何?おばちゃん、頑張るから。」

「え?!夕飯までご馳走になる訳には…。そ、それに、潤君の誕生日ですよね?潤君の好きな食べ物にした方が…。」

りみが困惑していると横にいた潤が

「母さんがああ言ったら、りみがうんって言うまで聞かないから、遠慮せずに来て?僕もりみがいた方が嬉しいかな?」

「わ、分かりました。ご馳走になります。」

りみが潤の言葉を聞いて折れると麻里は満面の笑みを浮かべた。

 

─────────────────────

「おはようございます。」

潤は2日ぶりにCiRCLEに出勤した。りみとは出勤途中まで一緒だったが、やまぶきベーカリーに寄るとのことで、そこで別れた。

「おっ!潤君おはよ~!待ってたよ!」

まりなが笑顔で言った。潤はが再び、「おはようございます。」と言うと、潤がいつも使っているパソコンに嫌でも目が行ってしまった。

「つ、月島さん?この書類の山は…。」

「うん?潤君が休んでる間に貯まった仕事だよ?」

平然と答えるまりなに潤は殺意を覚えていた。

「その書類以外にも仕事があるんだよね!聞いて、聞いて!」

まりなが再び明るく言うと、潤は辺りを見回した。

「(えっと、何か丁度良い鈍器ないかな?月島さんが死なないくらいの。)」

しかし、残念ながら都合良くそんな物は無い為、潤は諦めてため息をついた。

「はぁ~。仕事、何ですか?」

「えっとね、夏休みの終わりに第2回のガールズバンドパーティーをする事になったんだ!」

「えっと、第1回が大好評だったってやつですよね?」

「そうそう!それでね、潤君には出演交渉と宣伝ポスターと会場を押さえて貰いたいの!」

まりなの言葉を聞いて潤は固まった。

「(え?それってヤバくない?)」

「とりあえず、出演交渉だけど…。」 

「つ、月島さん!?ち、ちょっと待って!」

「どうしたの?」

「責任重大じゃないですか!出演交渉だなんて!」

潤が叫ぶとまりなはケラケラ笑った。

「大丈夫だって!多分。前回出て貰ったメンバーだし、気負うことないよ!大丈夫だから!多分!」

「お願いだから言い切って!多分とか言わないで!」

「潤君なら出来るよ!多分!ほらほら、もう時間だから行って来て。店の前で待ってたら来るから。」

「…不安しかありませんが行ってきます…。質問とかされたら困るので資料…下さい。」

「そうだね!えっと…。はい!これだよ!」

まりながファイルを潤に渡すと潤は再び深いため息をついて店の外に向かった。外に出ると真夏の日差しが眩しく、思わず目を細めた。

「(えっと。迎えが来るんだっけ?てか、誰が来るんだろ。)」

潤が考えているといきなり目の前にリムジンが止まった。

「(はい?リムジン?)」

潤がビックリしているとサングラスをかけた黒服の女性が降りてきた。

「一宮潤様ですね?乗って下さい。こころ様がお待ちです。」

黒服の女性がドアを開けて言った。

「(初っ端、あのグループ!?マジですか…。)」

今日何度目か分からないため息を「はぁ。」とついて、潤は車に乗り込んだ。

 

─────────────────────

「……うちの何倍あるんだろ。」

潤は呟き上を見ていた。テレビでしか見たことない豪邸が目の前にあり、とんでもないところに来てしまったと思っていた。

「一宮様。こちらです。」

黒服の女性の案内で中に入った。入るとすぐに物凄く大きいシャンデリアが目に着いた。

「(こんな大きなシャンデリアって本当にあるんだ。テレビで前に見たのはヨーロッパのお城の特集だったかな。)」

潤が現実逃避をしていると、1つの部屋に通された。潤が椅子に座ると

「ここでお待ち下さい。」

と黒服の女性が言い、出て行った。するとすぐにさっきとは違う黒服の女性が入ってきて、コーヒーを置いて出て行った。

「(お、落ち着かない!これって客間だよね?うちのリビングより広いんだけど!あと、あの壁に飾ってある絵!下の方にゴッホって書いてあるけど本物なの!?)」

回りを見れば見るほど落ち着かなくなることに気付いた潤はまりなから預かった資料を読むことにした。コーヒーを飲みながら…。読み始めて暫くすると部屋のドアがいきなり「バーン!」と開いた。

「待ってたわ!潤!」

金髪で金色の瞳をした女の子が叫びながら入ってきた。

「お待たせしました。いつもCiRCLEを利用して頂きありがとうございます。弦巻さん。」

「もぉ。こころで言いって言ってるじゃない!いつになったら呼んでくれるのかしら?ねぇ?美咲!」

「はぁ~。いつもこころがすみません。一宮さん。」

「いえ。奥沢さん。ハロー、ハッピーワールド!はこうじゃなくっちゃ、こちらが調子を崩されます。」

潤が最初に出演交渉に来たグループはハロー、ハッピーワールド!だった。

「今日は2人だけですか?」

「あっ。はい。他のメンバーは予定があるみたいで…。本当は花音さんもいる予定だったんですが…。」

「…松原さん、また迷子ですか?」

「そうなんです。」

美咲と潤が苦笑いしていると

「ところで潤!今日は何の要件で来たのかしら?」

こころが口を開くと潤は本来の目的を果たそうとファイルを開きながら説明を始めた。

「実はですね。8月末に第2回のガールズバンドパーティーを開催する予定「いいわよ!」して…はい?」

「だから出演するわ!詳しいことは美咲に言って頂戴。私は今からライブで世界を笑顔にする方法を考えるわ!」

こころはそう言うと部屋から出て行ってしまった。

「………。」

潤が唖然としていると美咲が申し訳無さそうに口を開いた。

「…こころがすみません…。」

「いや。大丈夫ですが…。出演で良いんですか?」

「はい。こころが1度やるって言ったらもう聞かないんで…。」

「助かります。詳しいことが分かったらまた説明しますので。」

「はい。よろしくお願いします。」

美咲がペコッと頭を下げる。

「…ところで、今日はミッシェルはいないんですか?」

潤は美咲に聞いた。

「へ?」

それを聞いた美咲はびっくりした表情で潤を見ていた。

「え?だから、ミッシェルは今日、いないんですか?」

聞き間違いを期待していた美咲だが、残念ながら聞き間違いでは無かった。

「(え?一宮さん何言ってるの?あっ。そっか。一宮さんはミッシェルの中が私って事知らないだけだよね?)」

なかなか質問に答えない美咲に潤が「奥沢さん?」と声をかける。

「…あぁ。すみません。ミッシェルの中は私ですよ?」

「はい?ミッシェルの中?何言っているんですか?僕、ミッシェル、結構好きなんで、今日、会えるかなって楽しみにしてたんですけど…。奥沢さん?どうしましたか?」

潤が喋ってると美咲は額に手を当てていた。

「(4バカになってしまった…。)」

「奥沢さん?」

「一宮さん?もう喋らないで。」

「へ?」

「喋らないで…。」

凄く呆れた様子の美咲に潤は「?」を浮かべた。

 

─────────────────────

「送って貰ってありがとうございます。」

「いえ。こころ様から言われたので。」

潤は再びリムジンに乗っていた。まりなに電話でハロー、ハッピーワールド!の出演OKを報告するとそのままPastel*Palettesの事務所に向かう事になった。

「着きました。」

「ありがとうございます!」

黒服の女性が扉を開くき、潤が降りるとすぐにリムジンは去って行った。

「さて、行きますか。」

潤は芸能事務所ということでドキドキしながら扉を開けた。すぐに受付という札を発見し、近づいていった。

「こんにちは。すみません。CiRCLEでPastel*Palettesにアポをとってるはずなんですが…。」

「少々お待ち下さい。…はい。確かに承っています。第3会議室に向かって下さい。第3会議室はこの先を右に曲がったらすぐです。」

「分かりました。ありがとうございます。」

潤はお礼を言い、会議室に向かった。ゆっくり歩いきながらキョロキョロしていた。

「(芸能事務所だからどんな所かと思えば…。意外と普通?……痛っ!)」

そんな事を考えていると、後ろから衝撃が走った。何が起こったか確認すると

「えへへ~!潤君み~つけた!」

「ひ、日菜姉さん!?」

衝撃の正体は日菜が潤の後ろから体当たりしたものだった。

「日菜姉さん…。普通に声かけられないの?」

「あはは~。ごめんね~。いや~。CiRCLEの人が来るとは聞いてたけどまさか潤君とは!るんってきた!」

「る、るん?まぁいいや。日菜姉さん、丁度良かった!第3会議室まで案内して下さい。」

「良いよ~。てか、私もそこに向かうから!」

日菜はそう言うと歩き出した。その後に着いて行くと、右に曲がって目の前に会議室があった。

「…日菜姉さん意外のメンバーの方に会ったことないんだけど、どんな人?」

「会ったら分かるよ!早く入って!」

潤は「質問に答えろよ。」とボソッ呟き中に入った。

「失礼します。CiRCLEのスタッフの一宮潤と言います。今日はお忙しい中、時間を作ってくださり、ありがとうございます。」

潤が深々と頭を下げると「よろしくお願いします。」とあちらこちらから聞こえた。

「潤君、そんな緊張しなくて大丈夫だよ~!もっと気楽で良いよ~!」

「日菜ちゃん。知り合いなの?」

「そうだよ!彩ちゃん!潤君は私の親戚なんだ~!」

首を傾げながら彩が質問すると他のメンバーも「なるほど。」といった雰囲気になった。

「日菜姉さんがいつもお世話になっています。えっと。丸山さん…ですよね?」

日菜に質問をした女性に潤は声をかけた。

「うん!そうだよ!まんまるお山に彩りを、Pastel*Palettesの丸山彩でーす。」

ポージングと一緒に自己紹介をした彩に対して潤は思わず「おぉ~。アイドルっぽい…。」と呟いた。

「潤君って呼んで良いかしら?白鷺千聖です。アイドルぽいって呟いたけど、彩ちゃんはアイドルだからね?まぁ、そうは見えないけど。」

千聖が笑顔で毒を吐くと「千聖ちゃん!どういゆう事!」と彩が叫んでいた。

「ま、丸山さん。ごめんなさい。そんなつもりで言った訳では…。」

潤が謝ると

「彩ちゃんは何言ったって平気だから潤君気にしなくて良いよ!ところで、潤君は何の用で来たの?」

と、日菜が聞いた。

「皆…。酷いよ~。」

と彩が目をウルウルさせ、呟いた。

「丸山さん。大丈夫ですよ。テレビで歌ってた丸山さんは輝いてましたから!」

「本当…?」

「はい!そして今、初めて会って、テレビのままの丸山さんを見てますますファンになっちゃいました。」

「ファン!」

彩が元気を取り戻し、「ファンかぁ~。えへへ~。」と、呟いていると、千聖がコーヒーを持ってきて、潤に手渡した。

「ありがとうございます!では、要件を話させて頂きます。実は第2回のガールズバンドパーティーを開催する予定なんです。」

「やるー!」

「やるー!」

潤が要件を話すと、すぐに日菜と彩が叫んだ。

「待って。日付はいつを予定してますか?」

暴走しそうだった日菜と彩を制して千聖が言った。

「はい。予定では8月の終わりを予定してます。詳しい日時は1番予定を合わせにくと予想しているPastel*Palettesの皆様に合わせるつもりです。…スケジュールの方は大丈夫ですか?」

潤が言うと千聖がスケジュール表を捲っていた。

「8月の終わりの週はPastel*Palettesの練習だわ。」

「えっと。なら出演は厳しいですか?」

「いえ。練習だけだから、幾らでも融通は利くわ。こちらからも是非、出演をお願いするわ。」

千聖がニコッと笑うと潤は立ち上がり

「ありがとうございます!」

と言った。千聖の後ろで日菜と彩が「やったー!」と喜んでいた。

「詳しい事はまた決まり次第、連絡を事務所の方にします。」

「分かりました。私達もスタッフに伝えときます。よろしくお願いします。」

千聖がお辞儀をすると潤も慌ててお辞儀をした。

「そういえば、大和さんと若宮さんは?」

「2人は仕事だよー!」

潤の質問に日菜が答えた。

「そうなんだ。残念。挨拶しときたかったなぁ。」

と残念そうに潤が言う。

「何々?さっき、彩ちゃんファンって言ってたけど、本当は2人のファンだったりするの!?」

「そうなの!潤君!」

日菜がニヤニヤしながら潤に聞くとそれに彩が反応した。

「ううん。Pastel*Palettesでは丸山さんが1番良いかな?」

「本当にありがとう!」

彩は潤の手を取り、お礼を言った。

「彩ちゃん!潤君の事、好きになってもダメだからね!潤君にはりみちゃんがいるからね!」

「ひ、日菜姉さん!?」

日菜の突然の爆弾投下に潤はびっくりして叫んだ。

「す、好きとかじゃないよ!てか、りみちゃんって、牛込りみちゃん?え!どうゆう事?」

「私も気になるわね。」

「(ヤバい…。大変な事になりそう…。)」

潤はこの状況を招いた日菜を睨んだ。等の本人は笑って楽しんでいるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




目標!25人全員出演!
あくまで目標です。
千聖さん。難しいよぉ~(;´д⊂)


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13話

Pastel*Palettesの質問攻めから解放され、潤はCiRCLEに向かって帰っていた。Pastel*Palettesの事務所を出てすぐに、まりなに報告の電話をし、「今すぐCiRCLEに帰ってきて!」とだけ言われていた。

「(つ、疲れた~!僕はバイトだよ?バイトなのにこんな責任重大なことをやらす?戻ったら月島さんにどうゆうつもりで僕に仕事を振ったのか聞いてやるー!)」

歩きながら潤が考えていた。それから数10分後、CiRCLEに到着し、まりなを探す為、潤がキョロキョロしていると、ロビーの一区にある休憩スペースに、見知った人がいるのを発見した。端から見れば、談笑しているように見えるが、少し近づくとそれは大きな勘違いであると思い知った。

「湊さん?これだけ席が空いてるんだから、他の席に座ったら?」

「あら。別に良いじゃない。美竹さんもCiRCLEからの呼び出しで来てるのでしょ?私達もそうだから一緒にいた方がいいんじゃないかしら?」

ショートヘアに赤いメッシュが特徴的である美竹蘭は飄々と答える友希那に噛みつくように睨んでいた。

「(うわっ…。あそこに行きたくねぇ…。)」

潤はそう思ったが、蘭も友希那もCiRCLEからの呼び出しで来ている為、無下にも出来ない。潤が迷っていると会話はさらに進んでいた。

「もぉ~。ら~ん~。落ち着きなよ~。すみません。うちの蘭が失礼な事言って~。」

「友希那もあんまり蘭をからかったらダメだよ?☆」

それぞれの付き添い役であるモカとリサが宥める。

「モカは黙ってて!別に…落ち着いてるし…。」

蘭が睨むと大袈裟に「おぉ~恐~。」とモカが言った。

「リサ?私はからかってないわよ?ただ、美竹さんが素直じゃないのがいけないのよ。」

「は?何で湊さんにそんな事を言われなきゃならないんですか?」

友希那の言葉に再び蘭が突っかかった。

「はーい!2人ともその辺にしときな~?さっきから潤君が怯えてるから。」

リサが2人の間に入り、潤の方を見ながら言った。

「ち、ちょっと!今井さん?怯えてなんかないですよ?」

「いっくん。ヤッホ~。でも~、ずっ~と、こっちに来ようか、どうしようか迷ってたじゃ~ん?」

潤が慌てて、近づくとモカがニヤニヤしながら言った。潤は苦笑いをし、

「(なんで、月島さんは美竹さんと湊さんを一緒にしたんだろ?)」

と考えていた。潤はまりなの姿を思い浮かべた。すると、「だって面白いじゃん!」と満面の笑みを浮かべるまりなの姿が想像出来た。

「…いるなら早くしてよ。何で呼んだの?」

そんな潤を見て、蘭が睨みながら言った。

「(何で睨まれないといけないんだ?機嫌悪いからってその態度はないでしょ。)」

睨まれた潤はそう思った。

「ちょっと、ら~ん?いくらなんでもいっくん、怒るよ~?」

「青葉さん、大丈夫ですよ。皆さん、お待たせしてすみません。すぐ、声をかけようと思ったのですが、美竹さんがあまりにも湊さんに楽しそうにじゃれていたので、声をかけそびれました。」

睨まれたお返しとばかりに潤は満面の笑みで言った。

「なっ!」

「ほら~。言わんこっちゃない…。」

蘭が顔を紅潮させた。まさかの潤の反撃にビックリし、言い返したかったが言葉が出なかった。

「潤君言うねぇ~☆」

「潤、呼び出した要件を伝えてくれるかしら?私達、この後練習があるの。」

「あっ。申し訳ありません。ではお伝えします。実は第2回のガールズバンドパーティーを8月の終わりに開催したいと考えています。その出演を依頼する為に、来て頂きました。」

潤が思考を仕事に戻すと丁寧に説明した。

「分かったわ。一応、他のメンバーに確認してからで良いかしら?」

友希那が説明を聞き終わり言った。

「もちろんです。なるべく早めに返事を頂けると助かります。」

「分かったわ。前向きに検討するから心配しないで。ところで、Roseliaのマネージャーにはいつなってくれるのかしら?」

「いつって言うか、お断りしています。」

「そう。貴方も前向きに検討してちょうだい。」

「いや、だから…」

「よろしくね。」

友希那とのいつものやり取りに潤は「はぁ~。」とため息をついた。そして、話し合っている蘭とモカに目を向けた。

「Afterglowさんはどうしますか?出演して頂けますか?」

「うちも、メンバーに確認を取ってからにする。」

「多分、み~んな出たいと言うと思うけどね~。」

「分かりました。返事お待ちしてますね。それと美竹さん。先程は大人げない態度をとってしまいすみませんでした。」

潤が深々と頭を下げる。

「別に…。」

「もぉ~。ら~ん?いっくん謝ってるのにそれだけ~?」

「…。こ、こっちこそ…ごめん。」

蘭がモカにツッコまれそっぽを向きながら言った。

 

─────────────────────

「…以上、報告です。」

「分かったよ~!皆、出演してくれるみたいで良かったよ~。」

友希那や蘭達と別れ、潤はまりなに今までの事を詳しく説明した。

「ところで、月島さん?」

「潤君の言いたい事は分かるよ!なんでこんな責任重大な仕事を頼んだのか…。でしょ?」

「はい。その通りです。まぁ、やるからにはもちろん、きちんとやるつもりですが…。」

「うんうん!実は、オーナーの指示なんだよ。だから、詳しい意図は分からないけど、やって損はないと思うよ?」

「お、オーナー?」

CiRCLEのオーナーがいると言うのは潤も知っていたが、実際に会った事は無い。なので、ますます疑問を抱いた。

「わ、分かりました。頑張ります…。」

「うんうん!分からないこととかあったらいくらでも聞いてね!手伝うし、アドバイスもするから!今のところ、完璧だよ~!」

まりなが親指を立て、「グッ!」とした。

「ありがとうございます。ところで、Poppin`Partyの出演交渉はどうなっていますか?」

「Poppin`Partyは14時に蔵に行って?」

「え!?蔵に行けるんですか!」

前々から気になっていたPoppin`Partyの練習場所である蔵に行けると分かって、潤のテンションが上がった。

「有咲ちゃんに感謝してよ~。香澄ちゃんにアポとった時に潤君が行くって言ったら、有咲ちゃんが一宮さんが前に蔵を気になっていたみたいだからどうぞって!」

「そうなんですか!分かりました。本当に嬉しいです!」

「そうそう!りみちゃんもいるみたいだからね!良かったね!」

まりながニヤニヤしながら言った。

「え?りみも居るんですか?なら、早く行かなきゃ…。そうだ!お招きされるんだから何か手土産でも…。月島さん。良い店知りませんか?…ん?月島さん?」

潤がまりなに聞くも、まりなから返答は無かった。不思議に思い、まりなを見ると、口をパクパクさせていた。潤をイジったつもりで言ったまりなだが、いつもみたいにあたふたせず、平然と答える潤にビックリしていた。

「じ、潤君!?ど、ど、ど、ど、どうしたの!?何があったの?りみちゃんの事、好きってやっと気付いたの!?」

「あぁ。いや。りみの事が好きかどうかは思案中です…。実は昨日、秋帆のお墓参りに行ったんです…。」

潤は昨日の事をまりなに説明した。もちろん手紙のことも話した。

「へぇ~!潤君、凄いじゃない!確か、お墓参りも行けなかったんだよね?」

「はい。足が竦んで…。最終的に行けたのは手紙のお陰かも知れません。行ってみて本当に良かったです。りみは僕の事、本当に好きなんですよね?」

「間違いないよ!」

「なら、りみに失礼がないように、考えないといけませんから。それが秋帆の願いでもある気がします。」

「…ビックリするくらい前向きになったね。でも、本当に良いことだよ!…ちなみに、潤君?時間平気?」

まりなが言うと潤は時計を見た。

「13時半…。ヤバっ!つ、月島さん!行ってきます!」

潤は焦りながら鞄をつかみ、慌ててCiRCLEを出て行った。

「気をつけてね~!」

まりなはにこやかに出て行った潤を眺めていた。

 

─────────────────────

「へ?」

りみはビックリして大事な大事なベースを落としそうになった。

「い、今…なんて?」

「だから~!今から潤君が来るよ~!」

香澄が明るく言うも、りみは焦りだした。

「え?へ?来るって蔵に?な、な、なんで?」

「まりなさんから連絡があって、話したいことがあるらしくて、一宮さんを寄こすって言ってたから。場所が蔵になったのは一宮さんが蔵に興味津々だったからだよ。」

有咲がお茶を用意しながら言った。

「そ、そうなんだ。って!な、何時に来るの?」

「14時だっけ?」

「そうだよ~。」

とおたえと沙綾が答えた。

「え?知らないの私だけ?な、何で言ってくれなかったの!」 

りみが言うと、他のメンバーが顔を見合わせ、「だって…。」「ねぇ~。」と言い合っていた。

「りみ、最初に聞いてたら練習、集中出来てたか?」

有咲が言うとりみは「あっ…。」と呟き、固まった。

「りみりん?固まってる暇ないよ~?もう14時だよ~。「こんにちは!CiRCLEの一宮です!」ほら来たよ~。」

沙綾がニコニコしながら言うと上から潤の声が響いた。

 

─────────────────────

「あれ?蔵ってここじゃないのかな?誰もいない?」

「潤君~!」

「え?」

潤がキョロキョロする。確かに香澄の声が聞こえたと思ったが姿は見えない。

「潤君、こっちこっち!」

「わっ!」

いきなり床が開き、下から出てきた香澄に潤は驚いた。

「潤君!こんにちは。待ってたよ!」

「と、戸山さん?こ、こんにちは。へ?そこが入り口?」

「そうだよ~!さぁ、入って入って!」

「お、お邪魔します…。」

潤が階段を降りると、そこには楽器が置いてあり、その横には机とソファーが鎮座していた。他のメンバーはそのソファーに集まっていた。

「おぉ…。秘密基地みたい。これは凄いなぁ…。」

潤がキョロキョロと周りを観察していると

「あんまりジロジロ見ないでくださーい。」

と有咲が言った。潤が有咲の方を見ると腕を組み、ジト目で睨んでいた。

「ご、ごめんなさい。珍しかったのでつい…。えっと、市ヶ谷さん。今日は、蔵に招待して下さり、ありがとうございます。」

「ち、ちょ!お前大袈裟なんだよ!そ、そんなに畏まらなくても!」

潤の対応に、有咲は焦って言った。

「有咲ー!照れちゃって~。」

と香澄が茶化すも

「これは本当に照れてねー!同級生にあんな言葉遣いされたらビビるだろうが!」 

「あと、これ。招待して頂いたお礼です。良かったらどうぞ。」

潤はケーキの箱を机の上に置いた。

「ありがとう。そんな気を使わなくて良かったのに。」

沙綾が受け取ると横にいたおたえが既に手を伸ばし、箱を開けていた。

「ち、ちょっと、おたえ?早いって!」

その行動をみた香澄が箱の中身を覗いた。

「わぁ~!美味しそうなケーキ!」

香澄が言うと、続けて沙綾が

「これ、種類がバラバラだけど、誰がどのケーキって決まってる?」

と、言った。

「はい。1つだけ決まってますよ!」

潤が端の方で顔を赤くして座ってるりみを見て

「りみ。さっき振りだね。」

「え?うん。さっき振り。めっちゃビックリしたよ~。本当に今さっき、潤君が来ることを聞いたんだよ…。」

「え?そうなの?まぁいいや。りみはチョコが良いかなって思って、ザッハトルテにしたから。」

「え!?本当にありがとう!」

りみが笑顔になり、ケーキを取りに箱に近づいた。

「わぁ~!本当に美味しそう!早く食べようよ~!」

「皆さんもケーキ選んで下さい。食べながらお話…って、皆さんどうしました?」

潤が他のメンバーを見ると、固まっていた。

「潤君?本当にりみと付き合ってないの?」

おたえが言うと、「付き合ってない!」と潤とりみが声を合わせて言った。

「いやいやいやいや!おかしいだろ!?何で付き合ってないのに、あんなに甘い雰囲気が出てるんだよ?それに、一宮さんも!りみと話している時と私達と話しているときの差!全然違うじゃねーかっ!」

一気に喋った有咲は肩で息をしていた。

「そんなこと言われましても。まぁ、りみとは特別仲良くしていますから自然とそうなっちゃいますね。」

「りみりんと潤君ってどれくらい会ってるの?」

おたえが首を傾げながら言った。

「えーと…。初めて会って…。あれ?会ってないの昨日だけ?」

りみが潤に聞くと潤が頷いた。

「へぇ~!そんなに会ってたんだ~。りみ?良かったね~。いっぱい構って貰えて!」

「さ、さ、さ、沙綾ちゃん?」

「まぁ、それは置いといて、潤君は何の話で来たの?」

「はぁ~。山吹さん。なんでりみを使い物にならなくなってから言うかな?」

りみは恥ずかしさのあまり、頭から湯気が出そうなくらい顔を赤くしていた。

「ヤカン置いたらお湯沸くかな?」

「止めろ。」

その横で、ヤカンを本当に持ったおたえを有咲が止めていた。それから数分後、復活したりみも交えて、ケーキを食べながら潤が話始めた。

「えっと…。まず、8月の最後の週は皆さん予定は大丈夫ですか?」

「大丈夫!」

香澄が答えると他のメンバーも頷いた。

「実は、CiRCLEの方で第2回のガールズバンドパーティーを計画しています。今日はその出演交渉に来ました。」

「おぉ~!」

潤が話終えるとPoppin`Partyのメンバーはお互いに顔を見合わせた。そして

「もちろん!出るよ!」

「しゃーねー。出てやるか。」

「き、緊張するけど、が、頑張ろね。」

と言い合っていた。快諾を貰った潤はホッとした。

「詳しい事はまたお話します。それと、りみ?」

「え?何?」

「Glitter☆Greenにも出て貰えないか、確認したいから、お姉さんに聞いて貰えるかな?」

「分かったよ!聞いてみるね!」

「潤君、ちょっと良いかな?」

「山吹さん、どうしましたか?」

「もう1組、誘いたいバンドがあるんだけど良いかな?」

「もちろん!出演にOKが出たら教えて下さい。挨拶に伺いますので。」

話がどんどん良い方向に進んでいき、潤は本当にホッとしていた。

「今から楽しみだね!皆!よーし!練習頑張ろう!」

香澄が叫ぶと「おー!」と他のメンバーが叫んだ。

「ちょっと、月島さんに報告するから電話させて貰うね。」

潤は断りを入れて、スマホを手に持った。電話帳を開き、まりなにかけると、すぐに出た。

「もしもーし。潤君が大好きなまりなだよ~。」

「お疲れ様です。ちょっと強めのお薬処方しますね。それでは。」

「ち、ちょっと待って!じょ、冗談だって!」

「はぁ~。月島さん。報告です。Poppin`Party、出演OKです。後、Glitter☆Greenも出演交渉をして頂けるようにりみに頼みました。」

「良いねぇ~!グリグリが出てくれたら盛り上がるね!」

「それと、山吹さんも知り合いのバンドに声をかけてもらえるみたいです。」

「分かったよ~!潤君はまだ蔵かな?」

「はい。そうですよ。」

「今日のバイトの定時、とっくに過ぎてるから、今日はそのまま直帰していいからね。」

「分かりました。では。お疲れ様でした。」

「はぁい。また明日ね~!」

潤が耳からスマホを離すと、Poppin`Partyのメンバーはガールズバンドパティーに向けて早速話し合いをしていた。

「あっ。潤君、電話終わった?」

りみが潤に近づいて声をかけた。

「うん。定時過ぎてるから直帰して良いって言われたから帰るつもりだけど、りみはどうする?後から来る?それとも一緒に帰る?」

「え?ど、どうしよ…。」

「りみりん。一緒に帰りなよ。」

潤とりみの会話が聞こえてたらしく、沙綾が声をかけてきた。

「え?でも…。」

「今日の練習自体は終わってんだから、気にするな。」

有咲が言うと、りみは「う~ん。」と考え、

「分かった。今日は帰らせてもらうね。」

「うん。バイバ~イ」

「気をつけて帰ってね!」

潤とりみが外に出ると潤のスマホが鳴った。

「あれ?母さん?…もしもし。」

「あぁ。潤?今、何してる?」

「今からりみと帰るとこだけど?」

「丁度良かった!帰りに北沢精肉店に寄ってお肉受け取って!電話でもう注文してるから!ちなみに、お肉はりみちゃんのリクエストだから絶対に忘れないでね?」

「…良いけど…。確認だけど、僕の誕生日だから夕飯、豪華にするんだよね?」

「あぁ。そういえば潤、誕生日だったね。まぁ、早く帰っておいで。じゃ!」

「え?ちょっと?母さん?……切れちゃった。」

潤がスマホを見つめていると横にいたりみが不思議そうな顔をしていた。

「どうしたの?」

「いや。帰りに北沢精肉店におつかいを頼まれただけだよ。じゃぁ、行こっか。…はい。」

潤はそう言うと手を差し出した。その瞬間、りみはまた顔を真っ赤にした。

「(え?じ、潤君?な、な、な、なんでそんなに積極的なの?手なんか、恥ずかしくてつ、つ、繋げないよ!)」

りみがあたふたしていると潤は首を傾げて「どうしたの?」と言った。

「え…。い、いや。(うぅ…。えーい!こうなったら私も思いきって!)」

りみは目を瞑り、差し出している潤の手を握った。

「(うぅ…。め、めっちゃ恥ずかしいよぉ…。)」

「りみ?ごめんね。勘違いさせちゃったね?」 

「ふぇ?」

りみが目を開けると苦笑いしながらも照れている潤の姿があった。

「荷物持つよって意味だったんよ。ごめんね。」

「え!?うぅ…。めっちゃ恥ずかしいよぉ…。」

勘違いをして恥ずかしいのか、手を繋いでいるこの状況が恥ずかしいのかりみは分からなくなっていた。

「あはは。りみ?折角だし…。このまま手を繋いで帰ろうか?」

潤がそう言うとりみはビックリした表情を浮かべたが、すぐに、俯きながら小さく「うん…。」と言った。2人が歩き出すと太陽が少しずつ西に傾きかけていた。以前は影が2つ伸びるだけで重なる事は無かったが、今日は右手と左手が重なり1つの大きな影になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラの口調ってやっぱり難しいですね。
バンドリのストーリー見直して、研究しなければ!
そして、文の書き方も研究しなけば!
やること沢山だけど、頑張る!笑


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14話

「こんにちは!」

「こ、こんにちは。」

潤とりみは麻里から頼まれた買い物の為に、北沢精肉店に寄っていた。

「いらっしゃーい!潤君、待ってたよ~!」

北沢精肉店の看板娘、北沢はぐみが2人を出迎えた。

「潤君のかーちゃんから聞いてるよ~!ちょっと待っててね!」

はぐみが店の奥に入って行った。

「ところで、りみは何をリクエストしたの?」

「えっと、リクエストって言うか、チョコ以外に好きな食べ物ないの?って聞かれたからお肉が好きって答えただけで…。」

「…なんか、うちの母さんらしい。なんかごめんね?」

「え?い、いや。あ、謝るのはこっちだよ~!こんなことになるとは思わずに言っちゃって…。」

「いやいや。りみは気にしなくて良いよ。」

「でも…。」

「本当に大丈夫だから。折角だから美味しく食べよ?」

潤がりみを宥めていると奥からはぐみがやって来た。

「これがっ。頼まれたっ。お肉だよっ!」

はぐみが肉を潤とりみの目の前に置く。置いた瞬間に「ドーン!」という効果音がつきそうなくらい大きい肉の塊が鎮座していた。

「…はい?何これ?」

「こ、こんなお肉み、見たことない…。」

突然現れた肉の塊に潤とりみは唖然としていた。

「えっと、会計はまた今度で大丈夫だからね!ところで、潤君とりみりんは仲良しなんだね!手繋いで歩くなんて、本当に仲良しさんだ!」

はぐみが笑顔で言うと、潤とりみは「あっ!」と言った。潤が慌てて、手を離す。

「あぁ。うん。な、仲良しなんだ~。ね?りみ?…ん?りみ?」

潤が慌てて、はぐみの対応をして、りみに同意を求めると返事が無かった。潤が確認の為にりみの方を見た。

「りみ?…え?り、りみ?」

りみを見た潤はビックリしていた。りみはずっと潤を見ていた。りみの表情は頬を膨らませ、「むーっ!」と言いたそうな目をしていた。

「え?り、りみさん?ど、どうされましたか?」

「ふーんだ。」

「あれ?な、仲良しさんじゃない?」

はぐみも目の前で起こった突然の変化にビックリしていた。

「はぐみちゃん!そんなことないよ?仲良しさんだよ?お肉ありがとうね!」

りみははぐみにだけニコニコして肉を持ち、歩いていった。

「あっ。うん。お買い上げありがとうー!」

はぐみはりみに向かって叫んだ。

「り、りみ?ちょっと待ってよ。」

潤も慌てて、りみを追いかけた。

 

─────────────────────

「(はぁ~。やっちゃった。)」

りみは肉の塊を持ちながら歩いていた。普通に持っているように見えるが、実はかなり重く、やせ我慢をしている。

「(これ、何キロあるんだろ?…てか、潤君がいけないんだらね!)」

「りみー!」

潤が叫びながらりみに追いついた。

「りみ?どうしちゃったの?」 

「…ふーんだ。」

プイッとりみはそっぽを向いた。

「…りみ?ひょっとして…。手を離したことに怒ってる?」

「…うん。」

「(マジか…。え?まさかとは思ったけど、手を離したことに怒ってるの?え?マジで?怒ってる理由…か、可愛い過ぎない?)」

りみの顔を見ながら潤はポリポリと頬を掻きながら思っていた。一方、りみも

「(…うぅ。お、落ち着いてか、考えてみたらつ、付き合っても無いのに、手を離しただけで怒っちゃうって…。ど、どうしよ…。)」

と、思っていた。

「えっと…。ゴメンね?北沢さんに言われて恥ずかしくなっちゃって。」

「わ、私こそ…ご、ごめんなさい!あ、あのね。潤君が手を離したら急に寂しくなっちゃって…。」

「そ、そ、そうなんだ。えっと…。また手、繋ぐ?」

「え、つ、繋ぎたいけど…。と、と、とりあえず、これを持って欲しい…。」

りみは手をプルプルさせ、持っていた肉の塊が入った袋を潤に差し出した。

「わぁ!気付かなくてごめん!もちろん持つよ!」

りみから袋を預かる。余程重かったのかりみは「ふーっ。」とため息をついた。

「これ、思っていた以上に重いね。本当にゴメンね。」

「ううん。私が勝手に持って行ったから…。ね、ねぇ。…手…。」

「そ、そうだったね。はい。どうぞ。」

潤が手を差し出すとりみはいそいそと繋いだ。

「(ち、ちょっと待って!これ、最初よりは、恥ずかしい!)」

潤は顔が熱くなるのを感じた。りみを見ると、照れているのか、頬を赤く染めていたが、表情は満足そうだった。

「(機嫌治って良かった~。…でも、手を離した時の反応を見ると、紗夜姉さんとかの言う通り、りみって僕の事好きなんだ…。)」

今まで、散々言われてきたが、潤はずっと半信半疑だった。

「(りみの為にも、僕も早くハッキリさせないとなぁ。)」

潤は新たな決意を胸に前をしっかり向いて歩いた。ちなみに、肉が重くて、手が痺れているのは内緒である。

 

─────────────────────

潤が肉の塊と交戦している最中、潤の家では紗夜と日菜が首を長くして待っていた。

「潤君、遅いなぁ。」

「日菜!貴女は少しは落ち着いて待てないの?」

日菜はリビングをウロウロしながら、紗夜はソファーに座り、夕方のニュースを眺めて待っていた。

「だって!遅いんだもん!」

「潤さんと待ち合わせてる訳では無く、私達が勝手に待ってるんだから、しょうが無いじゃない。」

紗夜が座っているソファーの横では潤へのプレゼントが置いてあった。

「潤さん、喜んでくれるかしら?」

「毎年、喜んでるんだから大丈夫じゃない?」 

「今年は、ちょっと特殊だから、ちょっと不安なのよ。」

ちなみに、氷川姉妹は毎年、お金を出し合って潤にプレゼントをしている。去年は今、潤がバイトで使っている鞄、一昨年は潤の部屋に置いてある時計である。

「ただいま~。」

「お、お邪魔します…。」

「あっ!帰ってきた!」

「ちょっと!日菜!?」

潤達の声が聞こえると、日菜は一目散に紗夜の制止を無視して、部屋から飛び出した。

「潤君!おかえ…り?」

いつも元気よく潤を出迎える日菜だが、今日は最初はいつも通り元気があったが段々と尻すぼみしていった。

「日菜?」

紗夜も気になり、玄関に行くとビックリした表情の日菜がいた。

「あぁ。紗夜姉さんただいま。」

「紗夜さん。こ、こんにちは。昨日はありがとうございました。」

「潤さん。おかえりなさい。牛込さんもこんにちは。」

紗夜は挨拶をしたが、あの日菜が未だに固まっている理由が分からなかった。

「(2人に変わっている様子は…ありませんね。日菜は何にビックリしたのかしら?普段と一緒じゃない。手を繋いでいるだけで…。え?手?)」

紗夜が2人を観察している最中、潤は「日菜姉さん?どうしたの?」と言っていた。

「潤さん?牛込さん?…手…。」

「え?あぁ…。離すの忘れてたね。」

「う、うん。そうだね。」

紗夜の言葉を聞き、潤とりみは手を離した。少しだけ名残惜しそうに見えた。

「はっ!ビックリし過ぎて固まっちゃった!潤君!りみちゃん!付き合うことにしたの!手なんか繋いで!もうるるるんだよ!」

日菜が復活し、2人に詰め寄る。2人は圧倒されながらも「付き合っていない」事を伝えた。

「どうゆう経緯で手を繋いで帰る事になったんですか?」

紗夜もビックリしながら聞いた。

「えっと…。なんとなく流れで?」

「はい…。うぅ。恥ずかしくなってきたよ~。」

顔を赤くしながら言う2人を見て、紗夜は

「(どうゆう流れになったら手を繋いで帰る事になるんでしょう?)」

と思っていた。

「と、ところで、紗夜姉さんに日菜姉さんにどうしたの?何か用事?」

「潤君!今年も自分の誕生日忘れてたの?」

「う、うん。朝、りみに言われるまでは忘れてました。」

「やはりそうでしたか。私達は今年も誕生日プレゼントを渡しに来ました。ここじゃ、あれなんで、リビングに行きましょう。」

紗夜の提案により、リビングに向かう。その時に麻里に巨大な肉の塊を渡し、その大きさに紗夜も日菜も驚いていた。

「今年のプレゼントはこれです。」

「毎年、ありがとうございます。なんか…大きくないですか?」

「今年のプレゼントが1番るんって来るよ~!」

「る、るん?えっと、開けて良いですか?」

紗夜と日菜に確認を取り、箱に結んでいるリボンを解き、開けた。中身を取り出すと、見たことがある形をしていた。

「ギター…ですか?」

「うん!そうだよ!」

「高価なものをありがとうございます。大切にしますね。ところで、何でギター?」

潤は素直に嬉しかったが、ギターをプレゼントした氷川姉妹の想いまでは理解出来なかった。

「それはですね。「るんってきたからだよ!」日菜は黙ってて!…コホン。潤さんはCiRCLEでバイトをしてますが、音楽の事をあまり知らないので、CiRCLEの皆さんに迷惑をかけないように勉強して欲しかったのでプレゼントしました。」

「…なるほど。確かに紗夜姉さんの言うとおりですね。折角貰ったので僕も弾けるようになりたいので、また教えてください。」

潤は納得したように頷いて言った。

「もぉ~。お姉ちゃんは素直じゃないなぁ~。潤君がギター弾けるようになったら楽しくセッション出来るって言って、選んだのお姉ちゃんじゃん!」

「ひ、日菜!そ、それは内緒にしてって言ったじゃない!」

「あはは。紗夜姉さん?それは本当ですか?」

「うっ…。ほ、本当です…。」

「でしたら、早く弾けるようになるまで頑張りますね。幸い、僕の周りにはギターを弾ける方が多いので、いっぱい習えます!…りみも僕にギター教えてね?」

「わ、私、ベースだよ!?」

「え?似たようなもんじゃないの?」

「ぜ、全然違うよ!」

「ねーねー!潤君に問題~!ギターの弦は何本でしょうか!?」

「…5本…くらい?」 

潤が答えると、リビングがシーンとした。

「あ、あれ?」

「じ、潤君。貰ったギターを見てみたら分かるんじゃないかな?」

りみが苦笑いしながら言った。

「そ、そうだよね!」

潤はそう言うとギターケースのファスナーを開けた。出てきたギターは赤と黒のチェック柄で光り輝いていた。

「おぉ…。格好いい。」

潤が呟くと

「気に入っていただけましたか?」

紗夜が言った。

「もちろんです!あっ、弦の数は6本だったかぁ~。惜しい。」

「惜しいとかじゃ無いです!CiRCLEでギター見たことあるでしょう?」 

「あった…かな?」

潤が苦笑いしながら言うと、紗夜は呆れた表情を浮かべた。

「潤君、私も少しなら教えれるはずだから、一緒に練習しよ?わ、私も一緒に弾きたいから。」

りみが言うと潤は「うん。」と頷いた。そしてギターを構え

「絶対上手くなってやる!」 

と言った。しかし、紗夜も、日菜もそしてこの中では1番の味方であるりみも苦笑いした。潤はギターを左右逆に構えていた。

 

─────────────────────

「もう、お腹いっぱいだよ~。」

潤とりみが頑張って運んだお肉の塊は麻里の手により様々な料理となって、出てきた。それに舌鼓をうち、今は、潤の部屋で2人は談笑していた。

「潤君。朝に聞いた事なんだけど、昨日は何してたの?」

「そうだったね。詳しく話す約束をしてたね。実は、昨日、秋帆の墓参りに行ってたんだよ。」

「え?秋帆ちゃんの?」

「うん。今まで、墓参りに行こうとしても、足が竦んで行けなかったんだけど、秋帆の妹の夏希ちゃんに協力して貰ってね。実はね、その時に手紙を貰ってね。秋帆が書いた物なんだけど。」

潤は引き出しを開け、封筒を取り出し、りみに手渡した。

「…読んで良いの?」

りみが聞くと潤は頷いた。丁寧に封筒を開け、りみは読み始めた。その様子を潤は黙って見ていた。するとりみの目から涙が零れた。

「…ありがとう。」

りみが読み終わると一言だけ言い、潤に手紙を返した。

「なんか、僕ってりみの事泣かしてばかり…だよね?ゴメンね。」

「わ、私が泣き虫なだけだよ。秋帆ちゃんって、潤君の事、本当に好きだったんだね。」

「そうみたいだね。」

「そして、潤君も秋帆ちゃんの事大好きだったんだね。」

「…そうだね。秋帆に出会えて本当に良かったって思えるよ。」

潤が遠くを見ながら言った。

「…本当に素敵な関係だなぁって思っちゃうなぁ。恋人ってだけでも素敵だと思うけど、お互いが信頼していて…。なかなか出来ない事だし、凄いなぁって思っちゃうなぁ~。」

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。」

潤が微笑みながら言った。

「あとね。秋帆ちゃんの手紙に書いてある、潤君の良い所、分かるなぁ~。本当に優しいと思うし、相手をちゃんと思いやれるし。それに、バイトをしている姿も真面目で、一生懸命だし。」

りみが指を折りながら潤の良いところを挙げた。それを聞いた潤は顔を真っ赤にした。

「や、止めてよ。照れるじゃん。そんなの普通だよ。」

「それを普通って言い切れるところも凄いと思うなぁ。」

りみが笑顔で言った。

「や、や、止めてよ~。褒められ慣れてないから恥ずかしいから。」

潤は恥ずかしさのあまり、りみの顔が見れなくなっていた。

「…ねぇ。…潤君?」

「ん?」

「………好き。」

「へ?」

りみの発言に潤はビックリしてりみの顔見た。りみはモジモジとしていた。顔は伏せていた為、見えなかった。

「じ、潤君の良いところって、あ、会う度にふ、増えていくんだよ。初めて会ってからまだ数日だけど…。だ、大好き…で…す。」

伏せていた顔がパッと上がり、目を潤ませ、頬を赤くしたりみが言った。

「りみの気持ちは薄々感じていたよ。そして、今日、手を繋いで、確信に変わったんだけど…。」

「や、やっぱり気付いてた…んだ。」

「うん。紗夜姉さんからも言われたりしてたしね」

潤が苦笑すると、りみは「うぅ…。」と言った。

「りみの気持ちはとても嬉しいよ。でも、返事は待ってくれないかな?正直ね、まだ好きになるって気持ちが分からなくてね。このまま中途半端な気持ちでりみと付き合っちゃうと、りみに対して失礼だし、りみの事、傷つけちゃうかもだから…。墓参りに行ったのも自分の気持ちを整理する為もあったし…。」

「返事はいくらでも待つよ?で、でも、あ、焦らない…でね?あ、あと、潤君、優しいから、私を傷つけたくないからつ、付き合うっていうのも止めてね?」

「もちろん。分かってるよ…。待たしてゴメンね。お言葉に甘えるよ。…りみにも、僕の事好きになって良かったって思って貰いたいから…。」

「ううん。大丈夫だよ。わ、私も潤君にす、好きになって貰えるように頑張ってアピールするね。…何を頑張っていいか分からない…けど。」

りみが苦笑いしながら言う。そんなりみを微笑みながら潤は立ち上がり、カーテンを開けて、空を見た。頭上にはアンタレスが輝いており、潤にはいつも以上に輝いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




りみりんが拗ねて、「むー!」って頬を膨らます姿が見てみたいと願う作者です。イベントでやってくれないかな?
とうとう2人の仲が進みました。けど、まだまだ物語は続きますよ!
ちなみにですが、作者も高校時代にバンドをやっていてギターでした。この前、久々に弾いたら指をつって「もう弾かない泣」となりました笑


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15話

りみの告白から3日後、潤は毎日、第2回のガールズバイトパーティーの準備に追われていた。第1回が好評だったこともあり、ポスターを貼りだした途端にCiRCLEへの問い合わせが止まらない状態だった。そんな中、この日、CiRCLEには出演する各バンドのリーダーが集められていた。

「皆さん、お忙しい中、ありがとうございます。今日は、ライブの演奏をする順番を決めたいと思っています。」

潤が、ホワイトボードの前で喋る。緊張しているのか額には汗が浮かんでいた。

「当然、最後は私達ね。」

友希那が言うと、横から「はぁーい!」と聞こえ、

「私達が最後だよ~!キラキラ星歌うんだ~!」

と香澄が言った。

「あら?最後は私達よ?最後に私達で笑顔にするの!」

こころが高らかに言うと潤は「はぁ~。」とため息をついた。

「皆さん、落ち着いて下さい。第1回もこんな感じで揉めたと聞いています。なので、ここは公平にくじで決めたいと思います。」

潤が箱を取り出すと、集まってたメンバーはザワザワとした。

「くじの結果で何番になっても、恨みっこ無しでお願いしますね。」

潤がそう言い、順番がかかれたボールが入っている箱をグルグルと回し始めた。友希那が不満そうに潤を睨む。

「(湊さん、そんなに睨んでもダメだよ~!こうでもしないと決まらないでしょ?)」

と潤はそう思いながら再び、説明を始めた。

「くじを引く順番は年功序列で…。なので、Glitter☆Greenの牛込さん。お願いします。」

「はぁーい。もぅ、潤君ったら牛込さんなんて呼んで余所余所しいよ!私の可愛い、可愛い妹の将来の旦那さんなんだから、ゆりさんとかお義姉さんとかで呼んでよ。」

「…早く引いて下さい。」

ゆりの発言に、再びザワザワとしたが、潤は無視をした。ちなみに、りみの告白の返事はいまだに保留中である。

「しょうが無いなぁ。」とゆりが言い、箱の中に手を入れた。

「ほいっと。…おぉ。1番だ。」

「ありがとうございます。Glitter☆Greenが1番でお願いします。」

実力も、人気も高いGlitter☆Greenが1番になり、他のメンバーは良いスタートダッシュが切れるなぁと感じていた。

「では、次は、RoseliaとPastel*Palettes、お願いします。」

「友希那ちゃん。先どうぞ。」

「分かったわ。丸山さんありがとう。…Roseliaは2番ね。」

「私は…。7番かぁ~。って最後~!?」

実力のあるRoseliaが2番、人気が現在うなぎ登り中のPastel*Palettesがトリとなった。潤は良い感じにきまってるなぁと感じていたが、彩は「ち、千聖ちゃんに怒られる…。」と呟いていた。どうやら、千聖に何か言われていたらしい。その後も滞りなく決まっていった。

「では、最後に確認します。1番、Glitter☆Green。2番、Roselia。3番、ハロー、ハッピーワールド!。4番、CHiSPA。5番、Afterglow。6番、Poppin`Party。そして、最後にPastel*Palettes。…間違えないですか?」

潤が周りを見ると、全員頷いていた。

「では、順番はこれで決定で。もし、当日、ハプニングがあった場合は前後するかも知れないので、そこはご了承ください。今日はありがとうございました。」

潤が深々と礼をすると集まっていたメンバーが帰っていった。

「潤君、お疲れ様~。良い感じに決まったじゃない?」

まりなが潤に労いの言葉をかけながら近づいて言った。

「ですね。凄く盛り上がると思います。でも、正直、どの順番でも盛り上がりそうですけどね。」

「いやぁ。早く決まって良かったよ~。潤君、今日はバイト、終わりでしょ?事務所に待ち人がいるよ?」

まりながニヤリと笑って言う。

「りみですか?」

「そうだよ~!早く行ってあげたら?」

「そうします。…では、お疲れ様でした。」

「うん!お疲れ様~!」

潤が出て行くのを確認し、まりなは順番が書かれたホワイトボードを眺めていた。

 

─────────────────────

「りみ?お待たせ。」

「ううん。全然大丈夫だよ。…ボピパ6番目なんだね。」

「そうだよ。戸山さんから聞いた?」

「うん。さっきすぐそこで出会ったから。」

りみがロビーを指しながら言った。その間、潤は帰る準備をしていた。

「よし!忘れ物はないね。りみ?行こうか。」

「うん!」

りみは立ち上がり潤の横に並んだ。

CiRCLEを出ると、ムワッとした空気が潤達を覆った。

「うわぁ…。暑っ。」

「そうだね。雨、降りそうだね。」

潤とりみが見上げると空は灰色の雲が埋まっていた。

「雨、降らないうちに早く行こうか?」

「そうだね。…よいしょっと。」

りみは潤の手を取った。すっかり、潤の手が気に入ったりみは潤に会うと手を繋ぐようになっていた。しかし、今日は、潤の手を取ったと思うと、グッと自分の方に引き寄せた。

「え?」

まさか、そんな事をするとは思ってもみなかった潤はビックリしていた。

「えへへ~。1度やってみたくて…。わ、私からのアピールってことで…。」

恥ずかしそうにりみは言った。今、潤の右腕にはりみがピッタリくっついていた。俗に言う、腕を組んでいる状態だ。

「(り、りみがどんどん積極的になっていってるよ~。心臓持つかな…?)」

潤は恥ずかしさのあまり、喋れなくなってしまった。

「そ、それじゃぁ…。い、行こっか?」

恥ずかしそうにりみが言うも、表情は満足そうだった。

─────────────────────

潤の家に到着すると、2人は勉強を始めた。宿題を終わらす為だ。りみの告白後も会って、宿題をしており、かなり進んでいた。2人とも性格的には真面目な為、喋って進まなくなる事は無く、ペンが走る音以外、無音が続いていた。ちなみに、潤は歴史、りみは現代文の問題集をしている。りみはサラサラと順調にペンが進んでいるが、潤は、教科書を見ながら問題を埋めていた。

「…ふぅ~。りみ、進んだねぇ。」

潤が手をプラプラと休めながら言った。

「そうかな?集中してやってたからあっという間だったよ。潤君も進んでるよ?」

りみも潤の問題集を見て言った。

「僕は教科書見ながらだから遅いよ。まぁ、でも、だいぶ進んだかな?」

潤はパラパラをページを捲る。歴史の問題集もあと少しという所まで来ていた。

「ちょっと休憩にしようか?いいかな?」

「うん。私もきりが良いから。」

「了解。何か飲む?」

「うん。いつもありがとうね。」

潤が台所に向かい、冷蔵庫を開ける。

「(何かないかな?…おっ。これは良いかも!)」

冷蔵庫の中をガソゴソと触る潤の姿をりみは見てた。

「(何してるんだろ?)」

「りみ!」

「なに?あっ!それは!」

潤の手にはかき氷のシロップが握られていた。

「かき氷、好きかな?レモン味しかないけど…。」

「めっちゃ好きだよ~!」

「よし!なら食べよう!」

潤がシロップを机に置き、潤は次に戸棚に向かった。りみが待っていると、潤がどんどん準備を進めて行った。

「お待たせ!」

あっという間に潤が準備を完了させた。

「さぁて!削るぞ~!」

潤が言うと、

「潤君かき氷、好きなの?」

とりみが聞いた。

「好きだよ!夏しか食べれないし、美味しいしね!あとね、これが好きなんだ!」

「練乳?確かに美味しいね。ついついかけ過ぎちゃうんだよね…。」

「分かるよ!」

潤は喋りながら、機械のスイッチを入れた。ゴリゴリと音が響き、どんどん氷の山が出来て行った。

「よし!出来た!りみ?どうぞ。」

「え?じ、潤君からで大丈夫だよ!」

「僕のはすぐに出来るから気にしないで先に食べて!」

「う、うん。なら先に頂くね?」

りみがそっとスプーンで掬い、1口食べると、口の中では、甘さと冷たさが広がった。

「めっちゃおいひぃ~!」

りみが笑顔で言う。その間に、潤は氷を機械に入れてスイッチを押した。再び、氷の山が出来ると、潤も急いで食べた。

「…美味っ!」

と呟き、食べるスピードを上げた。その後も、「美味しい!」という会話だけで、どんどん食べ進めて行き、あっという間に食べ終えてしまった。

「さて、食べ終わったことだし、勉強しますか!」

潤が言い、器を片付けようとすると、

「潤君?ち、ちょっと良い?」

「りみ?どうしたの?」

「…おかわり。」

器を潤の方に申し訳なさそうにりみが出すと潤は器を受け取り、再びかき氷を作り出した。

 

─────────────────────

ところ変わってCiRCLE。潤が帰った後も、もちろん営業は続いている。

「潤!?潤はいるかしら?」

こころがフロントに着くやいなや、叫んだ。 

「ちょ、こころ!?迷惑になるから!」

美咲が慌てて、制止する。

「あら?貴女達は?」

「あっ!紗夜~!潤を知らないかしら?」

「潤さんなら、今日はバイトは終わっているので、今は家だと思いますよ。今から練習ですか?」

「そうなの!」

「紗夜先輩。こんにちは。紗夜先輩も練習ですか?」

「私は、終わったところですよ。」

紗夜がスタジオの鍵を見せながら言った。

「ところで紗夜?あなた、潤とはどうゆう関係?」

「え?」

「ちょ、ちょっとこころ?藪から棒に何言ってるの?」

「いえ。別に隠すことはありませんから。親戚ですよ。」

「そうなの!潤のスケジュールを知ってるから恋人かと思ったわ!」

「こころ!紗夜先輩すみません。」

こころの発言に美咲は焦って謝罪した。

「いえ。大丈夫ですよ。弦巻さんの洞察力には毎回、驚かされます。」

「洞察力?私はただ言ってみただけよ!勘よ!」

「でも、恋人は外してましたね。潤さんには恋人になるかも知れない方がいらっしゃるので。」

「りみかしら?」

「え!?」

先ほどあった順番決めの会議にいたこころはゆりの発言で知っていたが、美咲は知らなかったのでビックリした。

「…そうですね。」

紗夜が認めると美咲は「そうだったんだ…。」と呟いていた。

「なら、潤はどうして笑顔じゃないのかしら?」

「え?潤さんならよく笑っているじゃないですか?」

「(笑顔が出始めたのは最近ですが)」と紗夜は心の中で付け足した。

「確かに笑っているわ!でも、心から笑ってないように見えるわ。」

「そう…でしょうか?私には分からないですね。」

紗夜が顎に手を添えて考えていた。

「紗夜先輩?」

「奥沢さん、ごめんなさい。少し考えましたがやはり分からないですね。近くで見すぎて分からなくなっているかもしれませんね。注意してみますね。弦巻さんもありがとうございます。」

紗夜がの言葉にこころはにっこり笑い、

「紗夜。潤に近々、笑顔にするからって伝えて頂戴!」

「分かりました。それでは練習頑張って下さい。失礼します。」

紗夜は会釈をして、CiRCLEから出た。

「(潤さんが心からの笑顔じゃない…。そうなのかしら…。潤さんやっぱりまだ引きずってるのかしら?)」

紗夜は再び考えながら帰路につこうとしたが、途中で「ふぇぇ…」と言いながら道に迷っている花音を見つけ、再び、花音を連れ、CiRCLEへ向かった。

 

─────────────────────

日が暮れ、りみを送った後、潤は再び宿題を再開していた。

「よし!歴史、終わり!」

持っていたシャーペンを机の上に転がし、「う~ん」と背伸びをした。

「めっちゃ早いペースで宿題が終わってるなぁ。このペースで行けば、夏休みの最後の方はゆっくり出来るかも?」

そう言うと今度は科学と書かれた問題集を出した。パラパラと内容を確認し、再び「う~ん」と背伸びをした。

「…りみの告白の返事…。どうしよ。」

思考を宿題から変えた。

「なんでこんなに悩むんだろ。りみは可愛いし、凄く良い子なのに…。何より、こんな僕を凄く好きでいてくれるのに…。」

潤はカーテンを開け、外を眺めた。いつの間にか降り出した雨が窓に打ち付けていた。

「…これじゃぁ、星なんて見えるわけないか。」

空を見るも、雲で覆われているのか、真っ暗な闇だけが広がっていた。

「はぁ~。なんで悩むんだろ。りみに会う度に、告白の返事を出したいのに…。その話題に触れそうになるだけで、ストッパーがかかったみたい口が動かなくなっちゃう…。」

潤は再び「はぁ~。」とため息をついた。潤の夜はこうして更けて行った。

 

─────────────────────

「はぁ~。」

潤と同じようにりみはため息をついていた。

「りみ~?ため息ついたら幸せ逃げちゃうよ?てか、貴女、帰ってからずっとため息ついてるじゃない?」

ゆりが呆れながら言った。

「だ、だって~。」

「だって、何よ?」

「私が告白してから潤君、ずっと悩んでるもん。本人は隠しているつもりみたいだけど、分かっちゃうよ~。こんなに悩ますなら、告白するんじゃ無かったよ…。」

「ところでりみ?なんで告白したの?」

「へ?え、えっとね…。が、我慢出来なくなっちゃったの…。」

りみが恥ずかしそうに言った。

「なんか、似たような話を最近、聞いたような…。あっ!潤君が秋帆ちゃんに告白したのも同じような感じじゃなかったけ?」

以前、りみの話に出てきた話題を思い出し、ゆりは言った。

「そ、そうだね。その時の潤君の気持ち、今ならよく分かる…。」

「まぁ、待つのが辛いのはよく分かるけど、待つって言ったなら、ちゃんと待たないとね?」

「う、うん。そのつもりだよ?」

りみがそう言うとゆりはニヤリと笑った。

「ところでりみ?私の言った通りにした?」

「ふぇ!?う、うん。ちゃんと…う、腕組んだよ?」

りみが潤に対して、振り向いてもらう為にしているアピールは、ほぼ、ゆりの入れ知恵だった。

「そっか!なら次はどうしよっかなぁ?」

「お、お姉ちゃん?楽しんでないよね?」

「当たり前じゃん!真剣に考えてるよ!」

ゆりは最高の笑顔をりみに向けた後、「う~ん」と考え出した。

「…2人で会った時は大体、勉強してるのよね?」

「う、うん。大体そうだよ?」

「なら、勉強の休憩中に膝枕してあげたら?」

「ひ、ひ、ひ、膝枕!?」

「そうそう!潤君、喜ぶだろうし、疲れもとれるだろうし…。良いじゃん!」

「お、お、お姉ちゃん!?絶対、楽しんでるでしょ!?」

「あはは!ごめんねぇ~。」

牛込姉妹の夜はこうして更けて行った。

 

─────────────────────

~おまけ~

第2回ガールズバンドパーティーの順番決めの一コマ。

「上原さん?Afterglowさんはリーダーは欠席ですか?」

「リーダーは私だよ?潤君?」

「え?」

「まさか、潤君、Afterglowのリーダーは蘭って思ってたでしょ?」

「さて、皆さん、お集まりありがとうございます。」

「無視しないで!」

 

─────────────────────

~おまけ2~

「千聖ちゃん!ごめん!」

「全く、彩ちゃんは…。実力者がいっぱいいるから最後だけは止めてって言ったのに…。」

「本当にごめん!」

「くじで最後を引くあたり彩ちゃんぽいけど…。まぁ、しょうがないわね。頑張って練習して、トリに相応しいライブにしましょう。」

「ち、千聖ちゃん!私も頑張る!」

「彩ちゃんはライブが終わるまで甘い物禁止ね?」

「そ、そんなぁ…。」

 




少し、投稿の間隔が開いてしまいました。申し訳ありません。
今回はおまけを入れて見ました。
楽しんで頂けたら幸いです。

それと、最近の高校生ってどんな宿題出るんでしょうね?僕は特殊な学科だったので、夏休みの宿題も専門的なものばかりでした。おかしかったりしたら申し訳ありません…。

11月24日修正しました。


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16話

「潤さん、起きて下さい。」

「ふぁ?」

潤が重たい瞼を開けると目の前に紗夜がいた。昨日の雨が嘘のように日差しがカーテンの隙間から漏れていた。

「おはようございます。」

「紗夜姉さん?」

「はい。」

潤は頭が回っておらず、状況を確認するだけだった。

「潤さん、起きて下さい。」

再度、紗夜が同じ事言うと、潤は体を起こした。

「紗夜姉さん?おはようございます。」

潤が目を擦りながら言う。

「目、覚めましたか?朝早くすみません。」

「えっと…。今、何時ですか?」

「7時ですよ?」

「紗夜姉さんが朝に強いのは知ってますが、早すぎませんか?」

「大丈夫です。叔母さんにはLINEで許可を得てますから。」

「…僕の許可は?」

「ところで、今日は話したいことがあって来ました。バイト昼からですよね?」

「無視…しないで下さい。」

潤が悲しそうに言うが、紗夜はお構いなしに話を続けた。

「話したいことがあるので起きて下さい。下で待ってます。」

紗夜が潤の部屋を出ると、潤は頭を抱えた。

「なんで、僕のバイトのシフトまで知ってるの?」

潤は呟いたが、すぐに「(月島さんに聞いたのか…。)」と答えを出した。

「はぁ~。ゆっくり寝たかったなぁ…。」

再び、潤は呟き、準備を始めた。

潤がリビングに向かうと、紗夜が食卓の椅子に座って待っていた。

「紗夜姉さん、改めて、おはようございます。」

「はい。おはようございます。朝早くすみません。」

「大丈夫です。で…話とは?」

潤が、コーヒーを準備しながら聞いた。

「はい。昨日の話ですが、弦巻さんに会いまして、その時、潤さんが心から笑ってないとおっしゃっていました。」

「はい?まぁ、いいや。それで?」

「私は全然気付かなかったので、家に帰ってから考えました。しかし、分かりませんでした。なので、分からないなら本人に聞いてみようと思いまして。」

「ん?ま、待って下さい!紗夜姉さん!」

「何ですか?」

「ぼ、僕に全く心当たりが無いんですが?」

潤は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべた。

「そうなんですか?」

「はい。紗夜姉さん、弦巻さんの事、凄く信頼してるんですね。」

「はい。彼女の見る目は間違いないので。」

紗夜は表情を変えず、コーヒーを飲みながら言った。

「そうですか…。まぁ、悩み…ならあります。」

「悩みですか?」

「はい…。まぁ、りみの事なんですが…。」

「牛込さんの事ですか?あなたから良い感じだと聞きましたが?」

「え、えぇ…。実は、こ、告白されたんです。」

潤が言うと、リビングは静寂に包まれた。

「はい?潤さん…。それは本当ですか?」

「…本当です。」

「え?い、いつですか?」

「えっと…5日前くらいですかね?」

「そ、そうなんですか…。ちなみに、潤さん返事は?」

「また、怒られそうですが…。保留してます…。」

潤が苦笑いしながら言うが紗夜の表情はだんだん険しくなっていった。

「潤さん?まず、なぜすぐに報告しなかったんですか?私達がどれだけ心配しているか分かってませんか?」

「わ、分かってます!ただ…言うのが恥ずかしくて…。」

「まぁ、良いでしょう。それと、保留と言うのはどうゆう事ですか?」

「そ、そのままの意味です。」

紗夜の剣幕に潤が震えながら言うと、紗夜は「はぁ~。」とため息をついた。

「つまり、潤さんの悩みは牛込さんの返事に迷っている…。と、言うことで合ってますか?」

明らかにイライラしてますという表情の紗夜。潤はますます震えた。

「あ、あ、合ってます…。」

「はぁ~。弦巻さんの心からの笑顔じゃないって言うのが分かりました。潤さんが悩みを持ったままバイトをしてたからそう見えたんですね。」

「あぁ。なるほど…。それで心からの笑顔じゃない…かぁ。」

「潤さん?何で告白の返事を言わないんですか?」

「え、えっと…。りみの事、好きかどうか分からなくて…。凄く良い子だし、可愛いって思っているけど…。自分自身の気持ちが分からなくて…。」

「…恋愛の話でよく聞く話ですが、とりあえず、付き合ってみて考えるっていうのも1つの手とは…」

「それは出来ません!りみに対して失礼です!」

「ですよね。あなたはそういう方でしたね。では、なぜ返事が出せないか原因を考えましょう。私も考えますから。」

「紗夜姉さん…。お願いします。」

潤がペコリと頭を下げる。その様子を紗夜は微笑みながら見ていた。

「(やっぱり、いざという時には、紗夜姉さん頼りになるなぁ。)」

潤は心の中でそう思っていた。

 

───────────────────── 

潤と紗夜が話していたほぼ同時刻、りみは蔵に来ていた。

「りみ~?お茶入ったぞ?」

「有咲ちゃん。ありがとう。本当に朝早くごめんね。」

りみがベースを抱えながら言った。

「私は大丈夫。りみがベース弾かせてって来た時はビックリしたけどな。」

有咲がお茶をりみの前に置きながら言った。

「本当にごめんね。ベースどうしても弾きたくなっちゃって…。家じゃ迷惑になるし、CiRCLEはまだ開いてないし…。」

「私は全然大丈夫だけど…。」 

有咲は言葉を切り、りみをジッと見た。

「あ、有咲ちゃん?」

「りみ。何か悩み事か?その悩み事を忘れたいからベースを弾きに来たって解釈で合ってるか?」

「あ、有咲ちゃん?な、なんで分かるの?」

「なんでって…。それ。」

有咲が指差す先にはチョココロネが沢山入った紙袋があった。

「またそんなに沢山…。りみ、悩み事とか、嫌な事があったらチョココロネに走る癖、直した方が良いんじゃね?」

「うぅ…。」

りみが恥ずかしがっていると有咲が言葉を続けた。

「りみ?悩み事があるなら話聞くよ?まぁ何となく分かるけどな?一宮さん関係だろ?」

「え!?有咲ちゃん、な、なんで分かっちゃうの?」

「今、りみが悩むって言ったらそれしかないだろ?んで、何があった?」

有咲がお茶を飲みながら言った。

「あ、あのね?わ、私、潤君に告白したんだ…。」

「そっか。そうなんだ。……って、えぇぇぇ!?」

有咲の絶叫が蔵の中でこだました。

「ま、ま、ま、マジかっ!え!?い、いいいいつ?」

「あ、有咲ちゃんお、落ち着いて?」

「おおお落ち着って、無理があるぞ!?悩み事が想像の遥か上を越えて行きやがった!で、ででで、い、いいい一宮さんはなんて?」

有咲は身を乗り出してりみに聞いた。

「え、えっとね。告白の返事は…ま、まだなんだ…。」

りみは力なく「あはは。」と笑いながら言った。

「そ、そうなの?はぁ~。ビックリした。それで、返事が無いから悩んでると?」

「そうなの。告白して5日経ってるけど、返事がないから不安になっちゃって…。」

「5日!?え?告白したのそんなに前なの?」

有咲はさらにビックリした。

「そ、そうだけど?」

「な、なんて言うか、りみって意外に積極的…なんだな…。」 

「ふぇ?そ、そ、そんなことないよ!わ、私が我慢出来なくなって言っただけだから…。」

りみが、目線を反らしながら言った。

「…話戻すけど、悩んでるのって一宮さんからの返事がないからか?」

「それもあるんだけど…。」

りみが目を伏せながら言った。

「私が、告白してから明らかに潤君が悩んでるみたいで元気なくて…。あんなに悩ませるなら告白なんかしなきゃ良かったのかなって…。」

「はぁ~。」

りみの言葉を聞き、有咲はため息をついた。

「あ、有咲ちゃん?ど、どうしたの?」

「りみは優しすぎるんだよ。もっと、ワガママになっても良いんじゃね?」

「有咲ちゃん?どうゆう事?」

「一宮さんがなんでりみからの告白を悩んでるのか知らないけど、悩むって事はりみの事、本気で考えてるって事じゃん。だから、告白しなきゃ良かったってことはないんじゃ無い?」

「…そ、そうかな?」

「そうだよ。だからゆっくり待てば良いんじゃね?私は恋とかしたことないか分かんねぇけど。」

有咲がお茶に再び口をつけた。

「有咲ちゃん。ありがとうね。少し、元気出たよ。」

りみがそう言うとベースを構え、弾き出した。蔵に重低音の旋律が響いた。

「(…相変わらず、上手いな…。)」

りみの演奏を聴きながら有咲はそう感じていた。

 

─────────────────────

話始めて1時間が経過していた。「あーでもない。」「こーでもない。」と話していた潤と紗夜。ちなみに、秋帆の墓参りに行った事、その時に手紙を貰った事を話すと再び「言うのが遅い。」と雷が落とされた。現在は朝食に舌鼓を打っていた。

「しかし、意外でした。」

お腹が空いていた2人は黙って食べていたがおもむろに紗夜が口を開いた。

「紗夜姉さん、どうしましたか?意外って?」

珍しく、主語がない紗夜の言葉に潤も食べる手を止めた。

「すみません。潤さんの話を頭の中でまとめていたから言葉に出てました。」

「そうなんですね。で、意外って?」

「いえ。私は潤さんが牛込さんに返事を出せない理由は、まだ秋帆さんの事が好きなのかと思っていたので…。そうでは無いのですよね?」

「あぁ。そうですね。秋帆は勿論、大切な人です。それは間違いありません。けど、このまま引きずるのは秋帆は絶対に望まないし、僕の為にもならない気がしまして…。」

潤は秋帆の写真を眺めながら言った。

「そこまで考えが潤さんの中でまとまっているのに、なんで牛込さんに返事出せないのでしょうか?」

紗夜が首を傾げる。

「…分かりません。」

潤は申し訳なさそうな表情で答えた。

「ごめんなさい。責めている訳では…。」

「いえ。大丈夫です。」

「…ついでに、もう1つ気になる事があるのですが…。」

「紗夜姉さん。言いにくそうにせず、僕の事は気にせず言って下さい。新しい発見があるかも知れません。」

「分かりました。…潤さんは「牛込さんの事好きかどうか分からない」と言ってましたが、潤さんの話を聞いていると、「牛込さんの事が好きで付き合いたいけど、何か引っかかるところがあって、返事が出せない。」という風に聞こえるんですが…。」

「え?そ、そんな訳が…。」

即座に否定しようとした潤だったが、言葉の途中で止めた。

「(待てよ…。確かにずっとりみにどうやって返事をしようって考えていたけど、その時に断るって選択肢は1度も考えた事無かった…よね?いつも考えてるのはどうやったら好きになれるかで…。あれ?そう考えるとりみの事が…好きなのか?)」

「潤さん?…潤さん!?」

「ふぁい!」

紗夜に呼ばれ、慌てて返事をした為、変な返事になってしまった。

「大丈夫ですか?急に黙り込んで…。それに、顔、赤いですよ?」

「す、すみません…。さ、紗夜姉さんの…言うとおり…かもです。」

「どうゆう意味ですか?」

「僕、りみの事、好きなのかも知れません。今まで、返事の答えを考えているとき断るって選択肢は考えてもみなかったので…。」

潤が、伏せながら言った。顔がどんどん熱くなるのを感じていた。

「やはりそうでしたか。なんとなくそうでは無いかと思っていました。」

「はぁ~。顔が熱い…。でも、何故、僕はりみに対して返事が出来ないのでしょうか。」

「それはさっき言ったように、何か引っかかるところがあるのではないですか?」

「…う~ん。」

「流石に、そこまでは私は分かりません。でも…。」

「でも?」

「潤さんは本当に優しい人です。たまに心配になるくらいに…。潤さんはそうじゃないって言うと思いますが、心の何処かに、誰かと付き合うことが秋帆さんに対して申し訳ないとか思っているのではないですか?だから牛込さんに対しても返事が出せない…と、私は思います。」

「そう…なんですかね?」

「それは潤さん以外分かりません。あくまでも私の考えなので。焦る必要はありません。そして正解もありません。ただ、潤さんが後悔しないように考えたら良いかと思います。」

紗夜の言葉を聞き、潤は再び写真の方を見た。写真の中の秋帆はただただ笑っているだけだった。

「さっき、潤さんは優しすぎると言いました。貴方は自分より、まず他人が良いようにと考えてしまいます。それは勿論、素晴らしい事だと思いますが、今回の事は自分中心で考えても良いんじゃありませんか?」

潤が写真から紗夜に目線を戻すと、紗夜は微笑んでいた。

「(後悔がないように…か。)」

潤はそう思うと、腕を組み考え出した。紗夜はその様子を見て、コーヒーに口を付けた。

 

─────────────────────

紗夜との話を終えて、潤はCiRCLEに出勤していた。

「(紗夜姉さんには本当に感謝しかないなぁ…。今度、何かお礼しないと。)」

と考えながら受付に立っていた。

「(それにしても、後悔がないようにか…。確かにそうだよな。りみに失礼がないようにって考えてるだけじゃダメなんだ。自分中心に考える…か。難しそうだけど考えてみるか…。)」

「…君?」

「(自分中心…。自分中心…。りみと付き合ったらどうなるかな?どんな所に遊びに行くのかな?まぁ、今まで、会ってきたけど、いつも楽しかったから、きっと楽しいんだろうなぁ。)」

「潤君…?」

「(あっ。そうだ。紗夜姉さん、僕が心の何処かでまだ秋帆の事を考えてるって言ってたよね。そんなことないはずだけど…。誰かと付き合うのが申し訳ないって僕が思ってるって秋帆はなんて言うかな?)」

「潤君!!」

「ほぁぁぁああぁあ!」

潤が思考している最中にお客さんが来ていたらしく、目の前で声を掛けられ、驚いていた。慌てて、思考を中断して、来店したお客さんを見た。

「も、申し訳ありま…って、り、り、りりりり、りみ!?」

「潤君?も、もぉ~。何回も呼んでるのに…。ど、どうしたの?まさか、体調でも悪かったりするのかな?」

まさか来店したお客さんがりみだと思わなかった為、潤は再び、驚いていた。

「い、い、いい、いらっしゃいませ!ど、ど、ど、どうしたの?りみ?」

「えっと、今日、ポピパの練習だったんだけど、ベース弾き足りなかったから来たのだけど、…ほ、本当に大丈夫?本当に体調悪い?」

「だ、大丈夫!ご、ごめんね。え、え、えっと。れ、練習時間はどう…しますか?」

「え?うん。90分で…。」

りみが心配そうに言う。潤は1日の予定表を確認する。

「(て、手が震えてよ、よ、読みにくい…。)」

CiRCLEの受付に、紙がバサバサという音が響いた。

「えっと。2号室をお、お使い下さい…。」

「あ、ありがとう…。ま、また後でLINEするね?」

りみは苦笑いしながらスタジオに向かった。

「(はぁ~。な、何これ?りみの姿を見た瞬間から心臓、バクバクなんですけど!え?何?好きって意識したから?)」

潤が顔を真っ赤にして、裏に引っ込んだ。

「(少し落ち着こう…。い、今まで通りで良いんだから…。)」

潤は深呼吸した。

「(よし!落ち着いた!もう大丈夫。)」

しばらくして、潤が再び、受付に戻る。

「あっ!潤君?ちょっと良いかな?」

受付に戻るとりみが笑顔で立っていた。

「(あ…。もうダメかも…。誰か助けて~!)」

潤の心の声がCiRCLEに響いていた。




更新、遅れて申し訳ありませんでした。
実は、利き手の親指、人差し指、中指を負傷していまい、文章が打てませんでした。負傷した原因は完全に僕が悪く、タンスに指を挟んでしまいました。
情けない(;´д⊂)

この間、感想で「逆めぞん一刻」と言った方がおられました。意識はしてなかったですが、「確かにそうだな」って思い、笑ってしまいました。

今後も自分のペースで投稿していきますので、よろしくお願い致します。

気が向いたらで構いませんので、評価&感想もお待ちしています。


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17話

「…絶対、変な人って思われた…。」

CiRCLEのバイトが終わり、現在、潤は自室のベッドの上で枕に顔を埋めて落ち込んでいた。あの後も、潤はテンパり続け、支離滅裂な発言を繰り返していた。

「僕って、好きな人の前でこうなってたっけ?」

潤はそう呟き、秋帆に告白した時の事を思い出していた。潤の告白はそれはそれは酷い物で、終始噛み続け、「付き合って下さい」と言った時は某お見合い番組の如く、頭を深々と下げ、手を前に出したという物だった。

「あぁ…。テンパってた…。思い出すと本当に酷いなぁ。」

潤は苦笑いした。そして、好きな人の前ではテンパる。つまり、りみの事が好きっというのもハッキリしてしまった。

「…やっぱり好き…なんだ。でも、付き合いたいのに、なんで行動に移せないのかなぁ。」

独り言を呟きながら潤は「情けないなぁ」とため息をついた。スマホに手を伸ばし、ロックを解除するとLINEが届いてる事に気づいた。

「りみからだ。」

 

“お疲れ様。

今日、本当に大丈夫だった?

本当に体調不良とかじゃない?”

 

文面に潤は苦笑いした。

「まさか、りみの事が好きでテンパってたなんて言えないよね?」

そう呟くと、文章を作成した。

 

“大丈夫だよ。

気にしないで!

心配してくれてありがとうね。”

 

“だったら良いけど…。

ところで潤君は明日は暇かな?”

 

“本当に心配してくれてありがとう。

明日は、昼からなら大丈夫だよ。

どうしたの?”

 

“ちょっと買い物に付き合って欲しくて…。

ダメかな?”

 

“全然大丈夫だよ!

楽しみにしてるね!”

 

“ありがとう!

なら、詳しいことはまた明日ね!

おやすみなさい”

 

潤は最後に「おやすみ」と書かれたスタンプを送る。その直後に「あっ。」と呟いた。

「いやいや!何、普通に約束してるの!?今日、会っただけでテンパってたんだよ?買い物とか無理がある!って、買い物!?デートじゃねぇか!」

潤はベッドから起き上がりクローゼットに向かった。とりあえず、服装だけでもちゃんとしようと1人ファッションショーを始めていた。

 

─────────────────────

「りみ?ちゃんと潤君誘えた?」

「うん!バッチリ!明日、楽しみだなぁ。」

りみはニコニコしながらチョココロネにかぶりついた。

「チョココロネおいひぃ~。」

「あんまり食べると太るよ?」

「らいじょ~ぶだよ~。チョココロネは別腹だから~!」

りみが幸せに浸っていると、ゆりがやれやれと呆れながらりみを見ていた。

「ところでりみ?この間、出したミッションクリアした?」

「ふぇ?ミッション?」

「忘れたの?膝枕だよ?」

「あっ!…む、無理だよ~。そ、そんなの…。」

りみが顔を赤くして言う。

「あはは~。想像しただけで赤くなるとか…。りみ、可愛い~!」

「お、お姉ちゃん!?」

りみは焦ったように叫んだ。

「ゴメンね~。ところでりみ、明日は何処に行くの?買い物って何?」

「明日は、何処に行くかは決めてないけど、文房具とか色々だよ。」

「そっか。なら、明日はデートだね!2人で何処かに行ったことなかったよね?」

「へ?」

りみはゆりの言葉に固まった。

「で、で、で、デート!?…い、いや、ふ、2人で出掛けたことはある…よ?」

「何処に行ったの?」

「…やまぶきベーカリー…。」

「ぷっ。あははははは!」

りみの発言を聞き、ゆりは腹を抱えて笑った。

「お、お姉ちゃん!?うぅ…。ぜ、全然気にしてなかったのに…。き、緊張してきたよ~。」

りみは顔を押さえながら赤くした。

「りみ!頑張ってね!」

ゆりはニコニコしながらギターを持ち、練習を始めた。

 

─────────────────────

CiRCLEのスタジオでは様々なバンドが練習している。しかし、これ程まで真剣に練習をしているグループがあるだろうか。集中力はピークに達しており、誰も声を掛けれない雰囲気を醸し出していた。そして、名残惜しいように最後のフレーズを弾き終わる。

「お疲れ様。皆、最後は良かったわ。これを忘れないようにしましょう。」

Roseliaのボーカルであり、リーダーである友希那が言うと、ピンと張り詰めた空気は安堵に変わった。

「りんり~ん。疲れたよ~。」

バンドの中で特に体力を使うドラムの宇田川あこは前に伏せながらいった。

「あこちゃん。…お疲れ様。」

とキーボードの電源を落としながら白金燐子は言った。

「あこ~☆お疲れ様~。」

「宇田川さん。もっと体力をつけて頂かないと困ります。だいたい、貴女は…」

紗夜の説教が始まるはずだったが、紗夜は止めてしまった。

「氷川さん?…どう…しましたか?」

「あっ。ごめんなさい。電話がかかってきてまして…。ちょっと失礼します。」

紗夜がスマホを操作する。ディスプレイには「一宮潤」と表示してあった。あこは「助かったー!」とホッとした表情をした。

「もしもし。どうしましたか?潤さん?」

「紗夜姉さんのせいで…。紗夜姉さんのせいで!」

「潤さん、落ち着いて下さい。何がありましたか?」

紗夜が電話に出ると随分と、取り乱した潤がいた。

「落ち着いてますよ!…紗夜姉さんのせいだ…。紗夜姉さんが僕がりみの事好きとか言うから…。」

「それは貴方だって認めたじゃないですか。それに話が見えません。確かに、牛込さんの事好きなのではないかと言いましたが、その事が何故、私のせいになるのですか?」

「うぅ…。だ、だって…。紗夜姉さんに気付かされて、りみと会うとめちゃくちゃ意識しちゃって…。会話にもならなくなっちゃったんだもん…。」

潤の言葉に紗夜は「はぁ~。」とため息をついた。

「それって、私はとんだとばっちりじゃないですか。」

「うぅ…。わ、分かってますよ!でも…。」

「…でも?」

「あ、明日、で、で、デートの約束しちゃったんです…。つい、今までのノリで…。着ていく服も決まらなくて!」

と潤は叫んだ。あまりの声の大きさに紗夜は思わず、スマホを耳から離した。

「そんなこと…言われても…。」

紗夜が呆れたように言うと、背中をチョンチョンと突かれた。紗夜がびっくりしながら後ろを向くとリサが笑顔で手を出していた。

「変わって!聞こえたから☆」

紗夜は素直にスマホを渡した。自分の力だけではどうしようも無いと思ったからだ。

「もしも~し!リサだよ~!紗夜のスマホから声が漏れて聞こえちゃったんだけど、服で悩んでるみたいだね~?」

「い、今井さん?こ、こんばんは!え?は、はい。何着ていいか分からなくなっちゃって…。」

「なるほど~。お姉さんにまっかせなさい!てことで、今から家に行くからね!」

「え?ちょっと?今井さ…」

潤が何か言おうとしたがリサは電話を切ってしまった。

「てなわけで、紗夜!案内よろしく~!」

リサが笑顔で言うと紗夜は「はぁ~。」とため息をつき、

「分かりました。」

と静かに言った。

 

─────────────────────

まだまだ夏、真っ盛りの午後2時。集合場所である、やまぶきベーカリー近くの入り口、以前にりみと集合した場所に潤は立っていた。あの時みたく、少し早く来た潤は額に汗を滲ませていた。

「き、緊張するなぁ…。服装、変じゃないかな?」

昨晩、突然来たリサと紗夜に着せ替え人形の如く服を取っかえ引っかえされ、現在の格好に落ち着いた。上は赤チェックのシャツ。下は黒のハーフパンツに白のサンダル。そして被らないまま眠っていた、黒の麦わら帽子といった具合だ。

「今井さんが自信満々に大丈夫って言ったから、大丈夫…だよね?」

そっと、呟くと、時計を確認した。時刻は2時5分。集合時間は2時15分。潤が改めて頭の中で確認すると、遠くから歩いてくるりみを発見した。潤が軽く手を挙げると、りみはひょこひょこと走って近づいた。

「潤君こんにちは!待たせてゴメンね。今日はよろしくね!」

「こんにちは。前も言ったけど、勝手に早く来てるだけだから、気にしないで。ところで今日は何処に行くの?」

潤は笑顔で言った。「(よし!普通に喋れてる)」と心の中でガッツポーズをしたが、心臓はあり得ないくらい早いテンポで動いていた。

「とりあえず、ショッピングモールに行きませんか?暑いですし、あそこなら欲しいもの…あっ。文房具とかですけど、ありますし、それに…。い、一緒に洋服とか、み、みたいなぁって。」

りみは手をモジモジさせながら言った。

「そんなことなら全然大丈夫だよ!なら、行こっか?」

「うん!」

りみは笑顔で言うと、潤の手を握った。

「(わ、忘れてた…。手を繋ぐんだった…。心臓の音、聞こえないよね。)」

潤がチラッとりみを見る。りみは満足そうな表情をしていた為、バレてないとホッとした。

「その麦わら帽子、可愛いね。」

潤が心臓の音を隠すために、りみに言った。

「えへへ~。お気に入りなんだ~。そういえば潤君も今日は帽子なんだね!」

「う、うん。かなり前に買って、あまり被ってなかったから…。似合うかな?」

「うん!似合ってるよ。そ、それに…。お、お揃い…だね。」

「う、うん?そ、そ、そうだね!」

お互い照れて顔が真っ赤になった。そんな2人を物陰から見ている人物がいた。

「良いねぇ~☆初々しくて!」

「今井さん。尾行なんて真似止めましょうよ!」

「紗夜~?これは尾行じゃなくて見守ってるだけだよ~?紗夜だって気になってるくせに~?」

「わ、私はただ、ふ、風紀委員として、風紀が乱れてないか、確認する為に…。」

「ハイハイ。分かったから!あっ!角曲がった!紗夜早く~!」

潤とりみはそんな事になっているとはつゆ知らず、ゆっくりと歩いていた。

 

─────────────────────

ショッピングモールに到着した潤とりみは現在、りみが好きだと言う、ブティックに来ていた。

「あっ!これ可愛い!これも良いなぁ~…。」

「(全部似合うなぁ~。)」

りみは早速、女の子パワーを発揮し、次々と服を取っては姿鏡の前で合わせていた。潤はその様子を見ていた。可愛いなぁと思いつつ、「(りみって、なんかリスみたい?)」と場違いな事を考えていた。

「うぅ…。見るだけのつもりだったのに…。欲しくなっちゃっうよ~。あっ!潤君、ゴメンね。私だけ見ちゃって…。」

「大丈夫だよ?いっぱい見ちゃって、悩む気持ちよく分かるから。」

潤がそう言うと、りみは「じゃぁ…。」と言い、再び、服を漁りだした。潤もりみの後を着いて行き、服を眺めていた。そして、1着の服に目が止まった。潤がその服を手に取るとりみが声をかけた。

「潤君、どうしたの?」

「え?いや。赤チェックだなぁって思って。」

「潤君って赤色のチェック柄、好きなの?」

「うん。元々、赤が好きでね。チェックは合わせやすいから好きなんだよ。だから、りみがくれた誕生日プレゼントのマグカップを見て驚いたよ。僕の好きな柄だったから。」

潤が微笑みながら言うと、りみは手をバタバタと前で降った。

「そ、そんなのたまたまだよ~!ぐ、偶然だよ~!」

「偶然でも、嬉しかったよ!」

「そ、そっか。な、なら良かった。…潤君、その服貸して?」

潤は手に持っていた、赤チェックのロングシャツをりみに渡した。りみは受け取るとタグを見たり、値札を見たり、再び姿鏡に合わせてみたりしていた。

「うん。いいかも。潤君、これ買って来るね。」

「へ?」

潤が惚けた返事をする間に、りみはレジに行き、あれよあれよという間に会計を終えてしまった。りみがニコニコしながら戻ってくると「買っちゃった~。」と言った。

「よ、良かったの?」

「うん!気に入っちゃったし、それに…。潤が好きな物…着たいなぁって…。」

「…て、照れるじゃん…。」

潤は顔を赤くして言った。

「潤君、照れてる~!」

「そ、そりゃ、て、照れる…よ?も、もう!つ、次行くよ?」

潤はりみの手を取り、歩き出した。手を引っ張られているりみはとてもご機嫌だった。一方、影から尾行もとい、見守ってる2人は

「りみやるなぁ~!私もりみにコーディネートしたかったなぁ~☆」

「貴女、前に私をコーディネートしたばかりじゃないですか!」

と話していた。

 

─────────────────────

「今日は、本当にありがとう。」

「いえいえ。こちらこそ。楽しかったよ。」

りみが服を買ってから、2人はりみの本来の目的だった文房具を買ったり、潤の服を見たり、喫茶店でお茶をしたりと、のんびりと過ごした。ちなみに、喫茶店では「今日こそ、私に払わせて!」とりみが伝票を確保していた為、潤は大人しくご馳走になっていた。

「う~ん。遊んだ~!」

とりみが背筋を伸ばしながら言った。

「そういえばりみ?ポピパはどう?ライブは大丈夫そう?」

潤は日にちが迫ってきているガールズバンドパーティーについて聞いた。

「うん!皆、張り切ってるよ。練習も良い感じだよ~!」

「本番、聞けたら良いなぁ~。」

「え?潤君、聞いてくれないの?」

「ゴメンね。僕は受付だからね。防音がしっかりしてるから受付に居たら聞こえないんだよね。」

潤がそう言うと、りみはがっかりした様子で

「そっか。お仕事だからしょうがないよね。」

と言った。

「本当にゴメン。」

「だ、大丈夫だよ!これからもライブすると思うし…。いつか絶対聞いてね!」

「もちろん。楽しみにしてるよ。」

「と、ところで潤君…。こ、こ、こ、告白の返事はまだ考え中かな?」

「…ご、ゴメンね。まだ答え出せなくて…。ずっと考えているのだけど…。」

「う、ううん。急かすような事してゴメンね…。潤君が真剣に考えてくれているのは分かってるし…。嬉しい…から…。」

「嬉しい?」

「う、うん。悩んでるって伝わってくるよ?悩ますような事言って、申し訳ないって思うくらいに…。だ、だから、そこまで真剣に考えてくれて、例え、わ、私がフラれちゃっても、しょうがないかなぁって…。私なんかの事を一生懸命、考えてくれて…ありがとう…。」

「りみ…。な、なるべく早く返事言うから。本当にゴメン。」

潤は、本当なら今すぐにでも「好き」と返したかったが、何かが邪魔をし、言葉を引っ込めさせた。好きという二文字を誰かが押さえつけ、出させないようにしている感覚に襲われ、潤は心の中で「(クソっ…。)」と思い、下を向いた。

「大丈夫だから!そ、そんな悲しそうな顔、しないで欲しいな?」

りみが潤の前に立ち、両手を握って言った。潤はりみを見ると視界に遭ってはならないものがあった。潤はそれを確認するとりみを思いっきり押した。繋いでいた手は離れ「キャ!」と言いながらりみは後方に倒れた。潤はりみの倒れた位置を確認して、安心して目を瞑った。その瞬間、車が物凄い音を立てながら、猛スピードで突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次のバンドリのイベント。楽しみ過ぎる。仕事、サボって15時からプレイしたい…。



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18話

「キャ!」

りみが後方に倒れるやいなや、物凄く大きな音が町に響いた。前を見ると、車が突っ込んできた事に気づいた。

「び、ビックリした…。じ、潤君が押してくれなかったら危なかった~。…って、潤君は?…う、嘘…。」

りみは目に涙を溜ながら言った。

「じ、潤…君…。潤君!へ、返事して!」

りみは泣きながら叫ぶも、潤の返事はなく、りみの言葉が響くだけであった。あまりの出来事にりみは動けずにいた。

「牛込さん!大丈夫ですか!?」

「りみ!?平気!?」

いきなり自分の名前を呼ばれ、りみは振り向くと、紗夜とリサが走って近づいていた。

「紗夜さん!リサさん!じ、潤君が…。潤君が…!」

目から大粒の涙を流しながら、りみの側まで来た紗夜とリサに抱きついた。

「今井さん。牛込さんを任しました。私は潤さんと運転手さんの安否を確認します。あと、救急車を呼んで下さい!」

「わ、分かった!」

紗夜は指示を出すと、駆けだして行った。

「潤君…。」

「りみ!大丈夫!今から救急車呼ぶから!」

リサはりみに向かって叫ぶと、スマホを操作し出した。

「大丈夫ですか!?」

紗夜は運転席に向かうと、ドライバーに声をかけた。

「…うぅ…。」

ドライバーは顔を顰めて、紗夜の言葉に辛うじて反応した。

「今、救急車を呼んだので、そのまま待って下さい!すぐに助けが来ますから!」

ドライバーに声をかけ、紗夜は周りをキョロキョロと見た。しかし、潤はどこにもいなかった。

「潤さん…。」

紗夜は唇を噛み締めながら呟いた。最悪の状況を考え、車の下や前を確認するが、潤の姿は見えなかった。

「…本当にどこにいるの?」

紗夜はなかなか潤が見つからず焦っていた。すると、車の反対側が騒がしい事に気づいた。慌てて、反対側に回ると、そこには人集りが出来ており、その真ん中に潤が倒れていた。

「潤さん!」

紗夜が叫び、慌てて駆け寄る。

「潤さん!潤さん!返事して!」

しかし、潤からは返事が無く、目を瞑ったままだった。

「じ、潤君!」

紗夜の声を聞き、りみが急いで来ていた。目からは絶えず涙を流していた。

遠くから救急車のサイレンが鳴り響いていた。

「潤君!返事して!お願いだから…。」

「潤さん!牛込さんに貴方が苦しんだ経験と同じ事をするつもりですか!?それが嫌なら目を覚まして!」

悲痛な叫びも潤には届かず、潤の表情は変わらなかった。紗夜の目にも涙が浮かんでいた。

 

─────────────────────

潤は河原に座っていた。ポカポカした陽気で昼寝でもしたらよく寝れそうな気候だった。

「あれ?ここは何処だ?確か、車に轢かれて…。」

潤は記憶を思い返していた。

「あぁ。そっか。ここは三途の川…。死んじゃったか…。いつも日菜姉さんに締め上げられた時に来るけどあの時は濁流なのに…。めっちゃ穏やかだなぁ。」

川の流れを見ながら潤は思った。

「りみは無事かなぁ?まぁ、あれだけ突き飛ばしたなら大丈夫かな?」

「何、呑気な事言ってるの?」

独り言をブツブツ言っていた潤。誰もいないと思っていたので、いきなり声をかけられ驚いていた。慌てて後ろを振り向くとよく知っている人物が立っていた。

「…秋帆?」

「久しぶりだね。潤。」

秋帆は微笑みながら言った。

「あぁ、秋帆がいるってことは、僕はやっぱり死んじゃったんだ。」

「…まぁ、それは置いといて、随分と落ち着いてるじゃない?」

「う~ん。実感がわいてないからかな?」

潤は苦笑いしながら言った。

「ふ~ん。まぁ、話があるから横、失礼するね。」

秋帆はそう言うと潤の横に腰掛けた。

「話って?」

秋帆が座るのを確認してから潤は言った。

「うん。えっとね。…まず、ごめんね?」

「…なんで謝るの?」

「潤、凄く…苦しんでたじゃない?」

「え?見てたの?」

「うん。ずっと見てた。本当に苦しんでる貴方を見て、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった…。だから…ごめんね。」

秋帆は俯きながら言った。

「…そっか。ずっと見てたんだ…。恥ずかしいとこ見せちゃったなぁ。」

「怒ってないの?」

「秋帆に怒ってないよ。でも、秋帆を救えなかった自分に怒ってたよ。」

「…そっか。私は潤を救えて満足だったけどね?」

秋帆がそう言うと会話が途切れ、川のせせらぎだけが静かに響いていた。

「りみちゃん…だっけ?」

「うん?」

「好きなの?」

「…うん。」

「…そっか。」

「うん。」

「…なんで告白に返事しないの?」

「…そこも見てたんだ。」

潤が苦笑いする。

「バッチリ見てたよ。潤の煮え切らない態度にイライラしてた。」

「…ここで説教は止めてよ?返事をしない理由だけど、しないんじゃ無くて出来ないの方が正しいかな?結局、返事は出来なくなっちゃったけど…。りみには申し訳ないことしちゃったなぁ…。そういえば、結局、なんで返事が出来ないか分からなかったなぁ~。」

「本当に分からないの?」

「え?秋帆分かるの?」

潤はビックリしながら秋帆見ると、秋帆は呆れた表情で潤を見ていた。

「はぁ~。バカなところは本当に変わらないんだから…。あのね。ずっと見てたから分かるけど、潤は、私みたいに誰かを失う事に恐れているの!そして、紗夜姉さんが言ってた通り、誰かと付き合う事に対して私に申し訳ないって思っているの!じゃなきゃ、私の写真を自分の部屋やリビングに飾らないよ!それに、自分でも中途半端な気持ちじゃぁ、りみちゃんと付き合えないって言ったよね?その中途半端は私に対しての気持ちでしょ?分かってるのに、分からないようにしてるだけじゃん!」

秋帆が叫び、潤に詰め寄る。潤の表情は引き攣っていた。

「あ、秋帆、お、落ち着いて。」

「は?落ち着けると思う?ずっと煮え切らない態度で私をイライラさせて!てか、そんなずっと死んだ私の事を引きずって私が喜ぶとでも思ってたの?…バカじゃない?」

秋帆はずっと叫びながら怒っていた為、息を切らしていた。

「…別に、引きずっていたつもりは無かったよ。でも、秋帆が言うとおり、まだ秋帆の事を引きずっていたのかもね。中途半端な気持ちとか言ってる時点で気付かなきゃいけないのにね…。って言うよりは気付かないように知らず知らずのうちにしていただけなのかな?」

潤は遠くを見ながら言った。

「ふぅ~。やっと分かりましたか。本当に手がかかるんだから。でも、潤が私の事、大切に思ってくれてるのは嬉しかったよ。」

「もちろん、今でも大切だよ。それはいくら年月が経とうと、いくら好きな人が出来ても変わらないよ。秋帆の手紙に、人を好きになることの大切さを教えて貰ったって書いてあったけど、それは僕も同じだから。大切な事、秋帆から沢山、教えて貰ったから。」

「…そっか。ありがとう。…りみちゃんも私と同じように大切にしてね?潤君は絶対にりみちゃんを幸せに出来るから。私が保証する。てか、りみちゃん以上に潤の事を思ってくれる人は絶対にいないよ。」

秋帆はさっきの怒りは何処へやら、満面の笑みで言った。

「秋帆?今更言われても。僕は死んじゃったんだから幸せになんて…。」

「あぁ…。その事なんだけど…。」

「何?」

「潤、死んでないよ?」

「は?」

「だから、死んでないよ?」

秋帆が苦笑いしながら言う。

「え?じゃあ、ここは何処なの?」

「私が聞きたいよ。いきなり見たことない風景の場所に来たと思ったら、潤がいたんだもん。…でも、会えて嬉しかった。本当に…さ、最後…かも…ね。」

「…秋帆。」

涙を流しながら言う秋帆を潤は優しく抱きしめた。

「これからも見守ってね?」

「もちろん。変な事したら呪ってやるんだから!」

「怖っ!…でも、本当にありがとう。秋帆を好きになって良かったよ。」

「私もだよ…。じゃあね。潤。大好きだったよ!」

 

─────────────────────

秋帆の最後の言葉を聞いた直後に潤は目を覚ました。見慣れない天井に一瞬、混乱したが直ぐに病院だと気づいた。どうやら窓際の病室らしく、窓から光りが刺していて、潤は顔を顰めた。

「…どれくらい気を失ってたんだろ…。」

潤は呟くと体を起こした。そしてすぐに疑問に思った。

「あれ?車に轢かれたんだよね?体、何処も痛くない?なんで?」

潤が首を傾げていると、病室を区切っているカーテンが開いた。

「…潤君!」

手に花を持っていたりみが起きている潤を見つけて叫んだ。目は泣き腫らしていたが、再び、涙が溢れ出ていた。

「りみ。おはよ。」

潤が呑気に挨拶をすると、りみが抱きついてきた。それを潤が受け止めた。

「良かったよ~。目が覚めて良かったよ~。」

「りみ…。ごめん。」

「本当だよ!心配したんだから!」

りみが泣き叫びながら言うと、紗夜と日菜、そして、潤の母親である麻里が入ってきた。

「やっと目が覚めましたか。ちなみにですが、今は事故があった翌日の朝です。」

紗夜が静かに言った。何故か目線が冷たい。

「本当に潤君は人騒がせなんだから!潤君が事故にあったって聞いた時は気が気でなかったのに!」

日菜も何故か言葉に棘があった。

「紗夜姉さんに、日菜姉さん?なんでそんなに怒ってるの?」

潤は状況を掴めず、困惑していた。

「潤?痛いところとか、体に変わったところはある?」

麻里が柔やかに言う。

「え?そういえば、起きた時に思ったけど、何処も痛くも痒くもないんだよね。車に轢かれたんだよね?」

潤が首を傾げて言うと、紗夜と日菜はため息を、麻里はあははと笑い、りみはまだ目に涙を溜めて苦笑いしていた。

「あれ?何かおかしな事言ったかな?」

「潤さん。貴方は車に轢かれてないのです。」

「車に轢かれたって思い込んで、気を失ってただけだよ。るんってしないなぁ。」

「X線も、CTも、MRIも、おまけに採血の結果も全く問題なし!潤は超健康体だよ。」

「…マジ?」

潤は自分の置かれている状況を聞き、恥ずかしくなり、顔を赤くした。

「でも、本当に目覚めて良かった…。私、心配で…。」

りみがなおも抱きつきながら言う。

「本当に…ごめんなさい。」

潤がボソッと言うと、病室は改めて安心した空気が流れた。

「と、ところでりみ?は、は、恥ずかしいから離れて欲しい…。み、みんないるから…。」

「嫌…。」

ずっと抱きついているりみを説得するも、さらに強く抱きしめられた。

「紗夜ちゃん、日菜ちゃん?お2人の邪魔をしたら悪いから、帰ろっか?」

麻里が言うと紗夜と日菜は頷いた。

「潤君!お幸せに!」

「潤さん、目が覚めしだい退院なので、牛込さんと帰って下さいね。では。」

それぞれ言い、本当に帰ってしまった。

「ま、マジか…。」

潤はポツリと呟くと、いまだに抱きついてるりみの頭を撫でた。

「りみ、本当にごめんね。」

「…一晩中凄く恐かった。検査結果を聞いて何もないって分かってたけど、目が覚めるまで本当に心配だったんだからね…。」

「…ごめん。」

「こうゆう時はごめんより言って欲しい言葉があるかな?」

りみが顔を上げると、ニヤリと笑って言った。

「…あはは。一本取られたね…。ありがとう。」

「いえいえ。潤君、もうちょっと頭撫でて…ほ、欲しいなぁ。」

話している最中に、撫でるのを止めた潤にりみは言った。ここぞとばかりに甘えてくるりみに潤は微笑みながら頭を撫でた。

 

─────────────────────

その後、看護師からの説明を受け、無事に退院となった。ちなみに、病室に看護師が入って来た時はりみも流石にサッと潤から離れた。そして今は受け付けで、退院の手続きをしている最中である。

「そういえば、潤君?今日、バイトは?」

「流石に休んだよ?それにね…。」

潤はスマホを操作し、LINEを開くとりみに見せた。LINEの相手はまりなだった。

 

“紗夜ちゃんから聞いたよ!言わなくても分かるだろうけど、バイト3日間、休みとします。拒否したら私が潤君を車で轢くから。”

 

と書いてあった。文面を見てりみは苦笑いをした。

「3日間、休みなんだね。」

「だね。まぁ、ゆっくりするよ。」

潤がそう言うとりみは

「あ、当たり前だよ~!」

と言った。

「一宮さん。一宮潤さん!」

潤とりみが談笑していると、名前が呼ばれ、無事に退院となった。そして、病院の外に出た瞬間、りみが潤の手をとった。

「あれ?ドキドキ…してないの?」

「え?」

「昨日、会った時、手を繋いだら潤君の心臓の音、凄かったから…。」

「聞こえてたんだ。あの時は余裕がなかったから…。」

潤が苦笑いしていると、りみは首を傾げた。

「余裕?」

「うん。まぁ、後で話すよ…。ところで、僕が寝ている時、どんな表情をしてた?」

「表情?うん。いっぱい変わってた。苦しそうになったり、穏やかになったり、困ったようになったり…。変な夢でも見てたの?」

「夢か…。やっぱり夢…だったのかな?」

潤が苦笑いしながら言った。

「へ?」

「ううん。こっちの事だよ。…ところでりみ?今から1件だけ寄り道して良いかな?」

「良いよ?何処に行くの?」

「えっとね。秋帆のお墓…だよ。」

 

 

 

 

 

 

 




少し、短めです…。申し訳ありません。

りみの☆4来い!
お願いだから!
神様~!


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最終話

「結構遠いんだね。」

「うん。歩いて行ったら熱中症になったからね。」

潤とりみは現在、バスに揺られている。前に夏希と行った際に潤が熱中症になった反省からだ。病院と秋帆のお墓はそれなりに離れている為、バスを使おうと言う話になった。

「…それで、なんで急にお墓参りに行こうと思ったの?」

「うん。実はね。信じて貰えるかどうか分からないけど、気を失ってる間、秋帆とお喋りしたんだよ。」

「え!?」

「秋帆、ずっと見てたって。りみを大切にしなさいって。」

「…そ、それで?」

「なんか、秋帆が現れて喋ったのは夢だったのか、そうじゃないのか分からなくてね。」

「それで…確かめたくなってお墓参りに行こうって言ったんだね?」

「そうだね。」

潤は窓の外を眺めた。バスは街中から少しだけ閑静な住宅街に入っていた。

「そっか。その他にはどんなお話をしたの?」

「先に亡くなってごめんとか、感謝してるとかかな?」

潤は1番話していたりみの事については触れられなかった。

「それでね、話してた内容が、僕にとって都合が良すぎる事ばかりだったから、確かめたくなってね。まぁ、お墓に行った所で分かるかどうかなんだけどね。」

潤は苦笑いしながら言った。

「…感謝していると思うよ?」

潤の手を握りながらりみは言う。

「て、手紙にも書いてあったけど、潤君を好きになって良かった。感謝してるって。あれは絶対に秋帆ちゃんの本心だよ。だから、きっと、秋帆ちゃんも、そう思ってるよ。私だってお、同じ気持ちだよ…。秋帆ちゃん、潤君が心配になって来たんじゃないかな?」

りみはにっこりと笑うと、潤は「そうだったら良いな。」と呟いた。バスは静かに揺れながら目的地に少しずつ近づいていた。

 

─────────────────────

その頃、蔵ではPoppin`Partyの沙綾と有咲が集まっていた。沙綾は電子ドラムの前で適当にフレーズを叩いており、有咲はスマホをずっと見ていた。

「有咲?りみの事心配?」

「まぁな。一宮さんに何も無かったらしいけど…。」

昨日の夜に、事故の事を聞いたPoppin`Partyは練習を中止していた。しかし、沙綾だけはドラムを叩きに来ていた。

「有咲。素直じゃん。」

「沙綾は心配じゃねーのかよ?」

「ううん。心配で落ち着かないからドラム叩きに来たんだよ。」

「…すまん。」

「大丈夫だよ。」

沙綾が笑顔で言うと、有咲はスマホを机に置いた。

「心配なのはそれだけじゃなくてな。」

「…何かあったの?」

「りみ、一宮さんに告白したって知ってるか?」

有咲が沙綾に言うと、一定のテンポで刻まられていたビートが大きくズレた。

「え!?は、初耳だよ!」

「なんで沙綾が顔を赤くするんだよ!」

沙綾はハッとし、顔に手を当てた。

「でもな。一宮さんからの返事は保留らしい。」

「そ、そうなんだ。りみりん思い切ったね?」

「私もビックリしたよ。」

「で、なんで有咲は心配してるの?」

「いや、もし返事がNoだった場合、りみって立ち直れるかな?って。」

有咲が言うと、再びスマホを手に取った。

「OK、Google。失恋、励まし方。」

「まだダメって決まった訳じゃないじゃん。」

「…だよなぁ。なんか悪い方に考えてしまってな。」

有咲がはぁ~。とため息をつく。

「まぁ、りみりんなら大丈夫だよ。おどおどは普段してるけど、強い子だから。」

「だな。…私もキーボード弾こうかな?」

「何弾く?合わすよ?」

「いや、聞いててくれ。」

そう有咲が言って弾き始めたのはヨハン・パッヘルベルの「カノン」だった。

「それは気が早くない?」

沙綾が苦笑いしながら言った。

 

─────────────────────

潤とりみがバスを降りると蝉が大合唱していた。秋帆のお墓がある霊園は山の中腹にあるため、自然が沢山残っている。

「凄い蝉の声だね。」

「だね。前もこんな感じだったかな?あまり余裕なくて聞いてなかったかも?」

少しだけ立ち止まっていたが、潤が「こっちだよ」と言い、りみの手をとった。急に手を握られたりみは頬を赤く染めた。

「これだよ。」

また3分ほど歩いて1つのお墓の前に止まった。

「…これが…。」

「そう。…秋帆のお墓だよ。」

潤とりみはお墓の前で手を合わせた。

「やっぱり、変わった所はないなぁ?」

「潤君?」

「秋帆ってね。普段は優しいのに、怒るとすっごく恐くてね。(悪かったわね。潤が怒らすことするからでしょ!)」

「…じ、潤君?」

「何?」

「み、み、み、見えないの?」

「なにが?」

りみがお墓の頂点を見て固まっていた。潤もそこを見るが、特に何もない。

「何もない…けど?」

「い、い、いや。だ、だって!」

「?変なりみ。ちょっと、トイレに行ってくるね?」

潤はそう言い、立ち去っていった。

「こんにちは。初めまして。りみちゃん!」

「こ、こんにちは。あ、秋帆ちゃん?だよね?」

潤の部屋で見た写真に映っていた秋帆が目の前の墓石に座っている現状にりみは驚いていた。

「そうだよ。」

「わ、わ、わ、わ、私ってゆ、ゆ、幽霊見えたの!?」

りみがわたわたしながら言う。

「あはは♪りみちゃんってやっぱり可愛い!りみちゃんに今、私の姿が見えてるのはきっと、私がりみちゃんに会いたかったからじゃないかな?」

「そ、そうなんですね…。って、か、可愛くないです…。あ、秋帆ちゃんに比べたら…。」

「いやいや。りみちゃん可愛いよ~!それに、一応、同級生なんだら敬語はなしだよ~!」

秋帆は墓石からぴょんとりみの前に飛び降りた。

「わ、分かりました…。じゃなくて!わ、分かったよ。」

りみは秋帆を目の前にして「(ホントに綺麗な人だなぁ。)」と思っていた。

「ふふっ。それで、話だけど。潤の事、よろしくね。せっかく、潤と話せたのに夢を見たとか言ってるでしょ?」

「じゅ、潤君の言ってること本当だったんだ。」

「うん!潤の奴、りみちゃんの事好きな癖にもう死んじゃった私の事なんか気にして付き合えなくなるって、ホントにバカみたいだよね?」

「ふぇ!?じ、じ、潤君が私の事好き!?」

「あれ?聞いてない?私が、りみちゃんの事で潤の事叱ったって?」

りみが首を振ると、秋帆は潤が立ち去った方向を睨んで「あいつ…。」と呟いた。

「あ、秋帆ちゃん!わ、わ、私、潤君の事、大好きなの!」

「…うん。知ってる。」

「え?あ?」

「りみちゃん。落ち着こう?…まぁ、無理ないけど…。深呼吸!」

りみがすーはーと深呼吸をする。

「落ち着いた?」

「う、うん。あ、あのね。頼りないかも知れないけど…。わ、私!潤君のことちゃんと支えるから!」

「うん。」

「だ、だから!だから!あ、安心して見てて欲しいな?ず、ずっと見てたんだよね?こ、これかも…!」

「りみちゃん。これからはちょっと無理…かな?」

「へ?」

真面目にりみの話を聞いた秋帆だが、苦笑いし、りみの話を遮って言った。

「幽霊って未練があってこの世に残ってるってホントみたいでね。…私の未練は潤の…幸せだから…。」

「そ、そんな…。」

りみが目に涙を溜める。

「…っ。な、なんで…。りみちゃんが泣きそうに…なってるの?私まで泣いちゃうじゃんか!」

「だって…。じ、潤君にはお別れしないの?」

「潤は、さっき会った時にしたよ…。りみちゃん…優しいね。もう、死んでる私なんかに…。」

「関係ない…。そ、そんなの関係ないよ。だって、潤君が本当にす、好きなのは秋帆ちゃんなのに…。秋帆ちゃんの話をする潤君は楽しそうなんだよ…。」

りみが泣きながらその場に座りこんだ。

「りみちゃん。それじゃあ、潤は幸せになれないよ。死んでる私の影を追ってちゃね…。潤には幸せになって欲しい。…そして、潤を幸せに出来るのは…りみちゃんだけだよ?…っ。間違いないから。」

秋帆も泣きながら、なんとか言葉にした。

「りみちゃん。そして、潤も立ち直ってるはずだから。大丈夫だから。私の事はずっと大切にするって言ってたけど、今、潤が好きなのは…りみちゃんだからっ!」

「…うぅ。うん。わ、私、秋帆ちゃんに恥ずかしくないように潤君の事…。し、幸せにするから…。」

「それが…聞けて…あ、ん…心…した…よ。」

「秋帆ちゃん?」

りみが涙を拭いながら秋帆を見ると、秋帆は徐々に透明になっていった。

「時間…みた…いだね。…り…みちゃん…と…最後に…話せ…て…、良かった。何回も…言って…わ、悪い…けど…。潤の事…。よろし…くね?」

「秋帆ちゃん!」

りみは再び、涙した。

「じゃあね。」

秋帆は涙を流しながら、満面の笑みで消えていった。

「秋帆ちゃん!秋帆ちゃん!」

りみが周りをキョロキョロしながら叫ぶ。

「りみ!ど、どうしたの!秋帆の事叫んでたけど!」

潤が戻ると、号泣するりみが秋帆を探していた為、驚いていた。

「潤君!」

りみが潤の胸に飛び込んで、子供のように泣きじゃくった。

 

─────────────────────

「落ちついたかな?」

「うん…。な、泣きじゃくってご、ごめんね?」

あれからしばらく、りみは潤の胸で泣いていた。なかなか落ち着かなかった為、秋帆のお墓の前から移動して、近くのベンチに座っていた。

「…秋帆の名前叫んでたけど、何があったの?」

潤がコーヒーとジュースを自動販売機で買ってジュースをりみに手渡す。

「ありがとう。あのね。私には秋帆ちゃんが見えてて、潤君がトイレに行っている間に…私もお喋りしてたんだよ。」

「ブー!」

りみの発言に驚き、潤は飲んでいたコーヒーを吹いた。

「じゅ、潤君!?」

「だ、大丈夫。びっくりしただけだから。何を話したの?」

「その前に潤君!気を失っている時、秋帆ちゃんに会ってるんだよね?」

「え?うん。」

「その時、私のことで、秋帆ちゃんに怒られたって本当?」

「ブー!」

潤は再び、コーヒーを吹いた。「(な、なかなかコーヒー飲めない!)」と思った。

「ほ、本当なんだ…。」

「…うん。てことは、あれは夢なんかじゃ無かったんだね…。」

潤が秋帆の墓あるであろう方向を見る。

「秋帆ちゃん、私に潤君の事よろしくって言ってたよ。それでね。秋帆ちゃん、未練が解決したから、この世にはいなくなる…みたい…だよ。それを聞いて、泣いちゃって…。潤君から話しを聞いてたからかな?ずっと昔から知ってる気がして…。」

「そっか。秋帆の未練ってなんだった?」

「潤君の幸せだって。」

りみが言うと、潤は目を丸くした。

「…あはは!秋帆らしいや。でも、天国に行けて良かったよ。安心した。」

潤が笑顔で言う。

「うん。そうだね。」

りみも頷きながら言うと「キュ~。」という音が鳴った。潤がりみを見るとりみがお腹を押さえて顔を赤らめていた。

「あはは!何か食べに行こうか?」

「う、うん。なんか急にお腹空いちゃった。」

「安心したからじゃないかな?さぁ。行こ?」

潤がりみの手を引っ張りながら歩いて行った。

 

─────────────────────

少し遅めの昼食を食べ終わった2人はゆっくりと歩いて帰宅していた。地上を照らしていた太陽はすっかり姿を消したが、まだ薄明るく、ちょこんと申し訳なさそうに月が出ていた。そんな中、潤とりみは手を離して歩いていた。手を離している理由は

「チョココロネおいひぃ。でも、やっぱり山吹ベーカリーのチョココロネが1番かな?」

りみがチョココロネを食べ歩いている為だ。ちなみに、チョココロネはコンビニに寄った際に購入したものである。

「確かに、山吹ベーカリーのチョココロネは美味しいよね。…食べたくなってきた…。」

「明日、買うから届けようか?」

りみが笑顔で言うと潤は「よろしく」と答えた。

「と、ところで…。」

他愛ない話をしてた2人だが、急にりみが頬を赤く染めた。

「どうしたの?」

「あ、秋帆ちゃんが、じ、潤君がわ、私の事、好きって、い、言ってたけど…。り、り、り、両思いってこ、こ、事で良いの…かな?」

りみが立ち止まり、潤の方を見て言った。緊張しているのか、目は潤み、チョココロネを持つ手は震えていた。

「…う…うん。」

潤も、頬もポリポリと掻き、顔を赤くして言った。

「だ、だったら、ち、ちゃんと言って…欲しい…。」

「つ、月が綺麗ですね…。」

潤は月の方を見ながら言った。それに釣られてりみも月を見た。

「月って…。半月?き、綺麗かな?」

話を反らされたと思い、少しりみは悲しくなったが、潤を見ると、顔を真っ赤にして月を見続けていた。

「(…あっ!そう言うこと!漱石…だったけ?)」

りみが潤の言葉の意味を理解すると「フフッ」と笑った。

「そうですね。本当に綺麗ですね。」

りみが笑顔で言うと、潤はやっとりみの方を見た。

「…意味、知ってて良かったよ…。」

「知らなかったらどうするつもりだったの?」

「…さぁ?」

潤が肩を竦めると、「あはは。」と2人は笑った。

「りみ。その…遅くなったけど…その…好きだよ。」

「わ、私も!好き!」

りみは潤に抱きついた。そして、2人は顔を見合わせると、静かに顔を近づけた。2人の唇の距離がゼロになった瞬間、チョコの香りが潤を包んだ。

 

─────────────────────

ここはCiRCLE。いつも賑やかな場所ではあるが、今日はいつも以上に熱気で包まれていた。それもそのはず、第2回のガールズバンドパーティーの真っ最中である。

「お疲れ!次、ポピパなら大丈夫だと思うけど、よろしく!」

「蘭ちゃん!勿論だよ!」

手をパチンと合わせると、Poppin`Partyのメンバーは円陣を組んだ。

「さぁ!行くよ!頑張ろう!」

香澄がリーダーらしく、皆の顔を見て言う。

「せーの!ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパー!」

Poppin`Partyの円陣に側にいた潤は「(何じゃそりゃ。気合い入るの?)」と思っていた。

「Poppin`Partyさん!よろしくお願いします!」

潤が元気よく言うと、Poppin`Partyはステージに向かった。ちなみに、まりなの「潤君が1番頑張ったから当日は、ステージの側で見守ってて。」と言われ、1番良い場所で皆の演奏を聞いている。

「りみ!頑張ってね。」

「う、うん!行ってきます!」

いつも以上に輝いている彼女を潤は微笑んで見ていた。

 

─────────────────────

「で、では、だ、第2回ガールズバンドパーティーの成功を祝して、か、乾杯!」

「「「「カンパーイ!」」」」

「ふぅ~。緊張した…。」

「あはは!乾杯の挨拶だけで緊張って!」

まりなが潤の背中をバンバン叩きながら言った。

「い、痛いですよ!月島さん!」

「あはは!まぁ、楽しんでね!」

まりなが言うと他のグループの輪の中に入って行った。

「全く。あの先輩は…。」

潤はそう呟くと周りをキョロキョロと見てお目当ての人物を探した。

「…えっと…。いた!」

潤は見つけると、その人物に向かって急いで向かった。

「うぅ…。こ、こんなにお菓子あったらどれから食べるか迷っちゃうよ~。」

りみはブツブツと呟きながらどれから食べるか考えていた。

「り~み!お疲れ!」

「ひゃ!じ、潤くん!?」

後ろから声をかけ、さらにりみの頭をポンポンした潤に驚いた。

「びっくりさせちゃった?」

「う、うん。」

「ゴメンね。…ライブお疲れ様。物凄く興奮したよ!」

「あ、ありがとう。て、照れるよ~。」

潤がりみの頭を引き続きポンポンしながら労をねぎらった。

「りみりーん!お疲れ様!」

「あっ。香澄ちゃん!お疲れ様!」

「潤君もお疲れ様!」

「ありがとう。とてもライブ良かったよ!」

「ありがとう!ねぇ!りみりんと潤君?なんか前より雰囲気良くなってなーい?」

香澄がムフフと言いたげにからかった。

「あぁ。だって、付き合ってるし。」

潤が普通に答えると、周りにいたPoppin`Partyのメンバーは固まった。

「あ、あれ?」

潤が疑問に思っていると、

「はぁ!いつ!?」

「う、嘘!わ、私、冗談のつもりで…。」

「やっとかー。りみおめでと。」

「りみりん!良かったね!」

と盛り上がった。

「り、りみ?言ってなかったの!?」

潤はびっくりしながらりみに言うと、りみはコクっと頷いた。

「そっか。まぁ、僕もなんだけどね。」

潤は苦笑いした。

「みんなー!聞いて聞いて!りみりんと潤君が付き合う事になったって!」

香澄が叫ぶ。CiRCLEが香澄の声で響く。

「ち、ちょっと!か、香澄ちゃん!」

りみが香澄を止めるも時既に遅く、潤とりみは質問攻めにあっていた。

「あはは…。ど、どうしよ。」

りみが困ったように潤に言う。

「だね。まぁ、なんとかなるよ。」

「なんとかなる?潤さん?お話があります。」

「げっ。さ、紗夜姉さん!」

「あれだけ、心配してるから報告するように言いましたよね!?」

紗夜が潤に詰め寄る。

「そ、そのご、ごめんなさい!」

潤は、りみの腕を引っ張って逃げる。

「あっ!潤さん!逃げないでください!」

紗夜は叫ぶも、潤は「無理です!」と叫んだ。

「(秋帆。僕はとっても幸せになったよ!)」

と思いながら走る。手を握って、一緒に走っているりみに視線を向けると同じ事を考えているのか満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで、日常の中にチョコより甘い香りを完結です。
Anotherstoryは書こうか、書かないか考え中です。
処女作で、ダメな部分、辻褄が合わない部分、多々あったかと思います。
こんな拙作を最期まで読んで頂き誠にありがとうございました。
元はりみりんの小説が少なかった為、自分で書いちゃえと思い、始めたものです。
それがまさか、沢山お気に入りに入れて頂けたり、感想を頂いたり、評価してくださると思わなかったのですごーく嬉しかったです!
改めて感謝します。ありがとうございました!
バンドリの腕も、小説の腕もまだまだですが、今後、作品を書く機会があればよろしくお願い致します。


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旅行編1
1話


「いいなぁ~。」

「どうしたの?」

夕食後、りみは潤の部屋で雑誌を見ていた。

「潤くん!これ見て!」

りみは読んでいた雑誌を潤に見せる。雑誌は旅行雑誌で京都の紅葉の特集をやっていた。

「京都かぁ~。あれ?りみ、関西出身だよね?行ったことないの?」

「京都は遊びに行ったことはあるけど…。紅葉の時期は混むし…。」

「あぁ~。なるほど。」

潤は再び、雑誌に目を落とす。そこには潤も知っている観光名所が赤や黄色に染まった木々達によって囲まれていた。

「確かに綺麗だね。いつか行ってみたいね。」

「そうだね。」

潤とりみが雑誌に目を落としながらお互いにいつか行けたら良いなと思っていた。

「あら?紅葉でしょ?行ってきたら良いじゃない。」

潤の母親の麻里がコーヒーとチョコをお盆に載せてやってきた。

「わぁ~!チョコやぁ~。」

「りみちゃん。これ美味しいのよ!りみちゃん見てたらチョコが食べたくなってきて、つい買っちゃうのよねぇ~。」

と言いながら、机にコーヒーとチョコを置く。

「母さんありがとう。って、紅葉見に行けば良いって…。京都なんか行けるわけないじゃん。」

潤がコーヒーを受け取りながら言う。

「別に、紅葉なら京都以外にもあるでしょ?」

麻里の発言に潤とりみは「そっか。」と呟いた。

「潤くん?この辺りで紅葉が有名な場所知ってる?」

「う~ん。思いつかないなぁ。」

「潤?あなた良い場所知ってるじゃない。」

考え込む潤に麻里は呆れたように言った。

「え?どこだっけ?」

「おじいちゃんとこ。」

「あぁ~!おじいちゃんね!確かにあそこも…って、無理に決まってるじゃん!」

「じゅ、潤くん?おじいさんの家って何処なの?」

叫んだ潤にびっくりしながらりみは言った。

「あ、あぁ、びっくりさせてゴメン。宮島だよ。」

「宮島?世界遺産の?」

りみはキョトンとしながら聞いた。

「そうだよ。僕の父方のおじいちゃんなんだけどね。世界遺産の宮島に住んでるの。」

「そうなんだ!なんか、世界遺産に住んでるって凄いね。って、あれ?宮島って何県…だったかな?」

「広島県だよ。」

麻里が淡々と答える。

「あっ!そうだ!広島県だ!…あっ、だから潤くん無理って言ったんだね。」

りみが苦笑すると潤は頷いた。宮島がある広島県は中国地方に存在しており、東京に住む潤とりみにとって先程話していた京都よりさらに西に行かなければならない。

「そうかしら?おじいちゃんとこに泊まれば宿泊代は浮くし、ご飯も心配いらないじゃない?かかるのは交通費くらいじゃない?飛行機乗っちゃえばすぐだし。」

宮島は意外とアクセスはよく、広島空港から駅に向かい、そこから電車で1時間くらいの場所に位置している。

「いやいや。そうゆう問題じゃなくて、りみと2人で旅行はダメでしょ。まだ高校生なんだし、結婚してる訳じゃないのに。」

「はぁ~。我が息子ながら真面目過ぎて嫌になっちゃう。」

「僕の母親ならそこは誇ってよ!」

潤と麻里のやりとりにりみは笑っていた。

「本当に仲良いね。麻里さん、私も潤くんと同じです。それに、お金が…。」

「そう?2人が良いなら良いわよ。」

麻里はそう言うと立ち上がり、何処かに行ってしまった。

「麻里さんどうしたのかな?」

「さぁ?風呂の湯でも入れに行ったんじゃない?」

「でも、宮島かぁ~!行きたいなぁ~。」

「そうだね。確かに紅葉綺麗だったよ。紅葉谷公園ってとこがあって、本当に綺麗だったよ!」

「そうなんだ!気になるなぁ~。」

「後、水族館とかもあるよ。」

「そうなの!?ますます気になっちゃうよ~。」

りみがそう言うと、麻里が戻ってきた。

「2人とも、そんなに宮島の話題で盛り上がるなら行ってらっしゃい。」

「はい?だから無理って…。」

「りみちゃんのご両親は良いって言ってるわ。」

「へ?」

麻里の発言に潤とりみは理解が追いつかなかった。

「今、電話したの。りみちゃんのお母さんに。で、行ってきて良いって言ってたわよ?お金も心配しなくて良いって。」

「ほ、本当…ですか?」

「母さん?マジ?」

「うん。あっ、潤はバイト代から行きなさいよ?」

「え?あぁ…。おう。」

「りみちゃんのお母さん、言ってたわよ?通い妻みたいなもんだから旅行くらい行ってらっしゃいって。」

麻里がニヤニヤしながら言うと潤とりみは顔を真っ赤にした。

 

─────────────────────

「潤君!?」

「あっ、月島さんどうしましか?」

CiRCLEのバイト中、パソコンに向かっていた潤にまりなが話しかけた。

「いや。たいした用じゃないんだけど、4連休も希望休をとるなんて珍しいなぁって思ってさ。」

まりなは勤務希望と書かれた紙を持っていた。

「…4連休、マズかったですか?難しいですか?」

「うん。ちょっとね。ちなみに、何があるか聞かせて貰っていいかな?もちろん、潤君はバイトなんだから融通はするよ!」

まりなは申し訳なさそうに言った。

「えっと、ですね。りみと旅行に…。」

「あっ。だったら全然OKだよ!楽しんでね!」

潤が言い終わる前にまりなが遮って満面の笑みで言った。

「え?あっ…はい。…本当に大丈夫なんですか?仕事マズいなら旅行は他の日…」

「大丈夫だから!全然大丈夫だから!本当に大丈夫だから!」

またもや、潤の発言をまりなが遮った。

「…なら、良いのですが…。」

腑に落ちない表情で潤は言った。

「本当に気にしないでね?ところで、何処に行くの?教えなさいよ!」

「…宮島です。」

「あぁ!紅葉シーズンだもんね。良いなぁ~。でも、凄く遠くに行くんだね。」

「じいちゃんの家が宮島なので。」

「なるほどね~。でも、おじいさんの家に泊まるならあ~んなことや、こ~んなこと、出来ないね。」

まりながニヤニヤしながら言う。

「そんな事しません!まだ高校生ですから!」

「…本当に清い交際なんだね。」

「ダメ…ですか?」

「ううん。りみちゃんを大切にしたいって気持ちは良く分かったよ~。それにしても宮島かぁ~。あっ!私、お土産、紅葉まんじゅうでよろしくね!」

「分かりました。紅葉まんじゅうですね。味は何が良いですか?」

「味?餡子以外あるの?」

「はい。カスタード、チョコ、チーズ。まだ沢山あったはずです。」

「全部!」

まりなが笑顔で言うと潤は「そう言うと思いました。」と呟いた。

 

─────────────────────

一方その頃、有咲の蔵ではPoppin`Partyのメンバーが集まっていた。

「来月予定入ってる人いるかな?」

沙綾が手帳を開きながら言った。先に予定が入っている所はメンバーに聞き、練習日やライブ日を決める為だ。

「私は大丈夫!」

「私も!」

香澄とおたえは元気よく手を挙げて答えた。

「私も今の所は平気だよ。」

有咲もスマホを開いて予定を確認して言った。

「りみりんは?」

最期に沙綾がりみに確認を取る。

「わ、私はちょっと予定が…。こっからここまでだよ。」

りみが沙綾の手帳を指しながら言った。

「木曜日から日曜日までだね。りみりんどっか行くの?」

「え?あっ…うん。」

「一宮さんと旅行でも行くのか?」

「有咲ちゃん!なんで分かるの!?」

「あはは~!りみりん分かるよ~。そんな恥ずかしそうにしてて、4日間も予定入ってるって言われたらそれしか無いじゃん。」

沙綾が言うとりみは「うぅ…。」と言った。

「え?りみりん、旅行行くの!?何処に行くの?」

香澄が身を乗り出しながら言った。

「み、宮島だよ?」

「有咲!宮島ってどこ!?」

りみが答えると香澄は聞き慣れない場所だった為、有咲に聞いた。

「宮島?世界遺産だろ?広島県にある。」

「おぉ~。有咲さっすが!」

「いや、お前が知らなすぎだからな?」

有咲が香澄を嗜める。

「りみ、凄く遠くに行くんだね。まさか、木曜日と金曜日、学校休むの!?りみが不良になった!」

「お、おたえちゃん!?木曜日は学校が終わってから出発するんだよ?金曜日は祝日だよ?」

りみが慌てて言うと、「祝日だっけ?」とおたえは呟きながら沙綾の予定表を見た。

「でも、おたえの言う通り、遠くに行くんだなぁ。広島なら飛行機か?」

「そうだよ。有咲ちゃん。潤君のおじいさんが住んでるから、そこに泊まらせてもらう予定なんだよ。」

「ねぇねぇ!宮島って何があるの!?」

宮島について何も知らない香澄が言った。

「えっとね、紅葉谷公園っていうところがあるらしくて、紅葉が綺麗なんだって。あと、水族館とかがあるって言ってたよ?」

りみが答えると「私も行きたい!」と香澄が叫んだ。

「香澄はお留守番だよ~。りみがいないならバンド練習休んで、テストの勉強会だね。」

「うぅ~…。沙綾…。」

香澄は項垂れる。

「え!?て、テスト!?」

「うん。そうだよ。りみりんが日曜日に帰ってきて、その次の月曜日から…りみりん忘れてた?」

「…わぁ~!?どうしよ~!」

「なら、旅行辞めるかぁ?」

有咲が言うと

「絶対に嫌!」

とりみは叫んだ。

「あはは~。まぁ、移動とかで勉強してたら平気じゃない?りみ、成績悪くないんだし。」

沙綾が言うも、りみは「うぅ…。」と俯いた。

「りみ?」

「なぁに?おたえちゃん?」

「お土産、紅葉まんじゅうでお願いね。」

「分かったよ。買ってくるね。」

「ありがとう。オッちゃん食べれるかな?」

「ウサギにまんじゅうを食わすな!」

「有咲?まんじゅう嫌いなの?まんじゅう恐いの?」

「まんじゅう恐いは古典落語の話だ!」

有咲はおたえにツッコむ。

「潤君と旅行かぁ~。りみりんラブラブだね!」

「か、香澄ちゃん?」

「確かに。潤君とりみりんを見てると本当に仲の良いカップルだなぁって思うよ。あっ。カップルじゃなくて、通い妻だったね。」 

「さ、沙綾ちゃん!」

りみの叫び声が蔵に響いた。りみはずっとからかわれるんだろうなっと思ったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 

─────────────────────

「りみ、大変そうだね?」

「大変だよ~。まさかテストがあるなんて…。」

宮島旅行前日、潤とりみは最終確認の為、電話で話していた。潤が電話をするとりみは泣きそうな声で、電話に出ていた。

「ゴメンね。まさか帰ってきた次の日がテストなんて思わなくて…。」

「ううん。私が忘れてたのが悪いから…。って、潤くんもだよね?月曜日からテストでしょ?」

「あぁ。そうだね。でも、僕は勉強してもしなくても平均点ジャストだからさ。」

潤は苦笑いしながら言った。

「そ、そうかもだけど…。」

「まぁ、大丈夫!余裕だよ。で、明日だけど、学校が終わり次第、うちに来て貰って、すぐに羽田空港に向かうからね?そして18時半の飛行機で広島には19時半過ぎには着くからね。」

「うん。大丈夫!楽しみだなぁ~。」

「僕もだよ。じゃあ、長電話したら悪いから切るね?勉強頑張ってね?」

「が、頑張るのは潤くんもだよ?おやすみなさい。」

「うん。おやすみ。」

潤はスマホを耳から離す。

「(さて、明日の準備をして、早く寝ようかな?)」

「潤さん!」

「ほぁぁぁあああぁぁあ!…痛っ!」

自分しかいないはずの部屋でいきなり後ろから声をかけられ、びっくりした潤は座っていた椅子から転倒した。

「さ、さ、さ、さ、紗夜姉さん!いつからそこに!?」

「私もいるよー!」

潤が慌てて後ろを振り返ると氷川姉妹がいた。

「今日は、潤くんのところに夕飯を食べにに来たよ~!」

「麻里さんから夕飯が出来たから潤さんを呼びに言って欲しいって頼まれたので来ました。」

「そうなんだ…。って、ノックくらいして下さいよ!」

日菜姉さんなら兎も角、紗夜姉さんまでと潤が思いながら、さっき打った腰を擦りながら立った。

「したよー!ねぇ、お姉ちゃん?」

「ええ。しましたよ。楽しそうに電話をしてましたので気がつかなかったのではありませんか?」

「え?そうなの?ご、ごめんなさい。」

潤は謝るが、先程から紗夜の雰囲気がいつもと違うことに気付いた。いや、潤はこの雰囲気を嫌と言うほど知っていた。

「さ、紗夜姉さん?ど、どうしましたか?」

「潤さん?そうやって聞くと言うことは何か心当たりがあるのではありませんか?」

紗夜は潤を睨む。いつもの如く、ヘビに睨まれた蛙になる潤。

「(なんだ?なんだ?なんだ?思い出せ自分!傷口を広げる前に思い出せ!)」

「分からないみたいですね?」

「(もうダメだ~!)」

「潤さん、もうすぐテストなのに、えらく余裕そうですね?先程の電話で分かりましたが、牛込さんは旅行を楽しむ為に頑張ってるみたいじゃないですか?」

潤は「(会話聞かれてた!)」と気付いたが、最早、後の祭りである。

「もう、お姉ちゃん?潤君、今から楽しいことがあるのに怒ったら可哀想じゃん?」

「ひ、日菜姉さん!」

このまま説教を覚悟した潤に日菜が助け船を出した。潤はここまで日菜に感謝したことがないくらい感謝した。

「それもそうですね。まぁ、これだけ余裕って事は、さぞかし高得点をとれるのでしょう。」

「そうだよ!お姉ちゃん!きっと全部満点だよ!」

「へ?」

「と、言うことで潤さん?テストが返却されたら確認に来ますので…。」

紗夜がニコッと笑ってリビングに向かう。

「潤君!頑張ってね!」

日菜もニコッと笑い、紗夜の後に続いた。

「さ、最悪だ…。って、日菜姉さん!さっきの感謝を返せ!」

旅行前日に潤は頭を抱える事になった。

 

 

 

 

 

 

 




紅葉、もう終わってるやん!というツッコミを浮かべた方、申し訳ありません。どうしても書きたくて書かせて頂きました。
何話くらいになるか予定は未定です。
現在、新シリーズも製作中の為、更新期間はまちまちとなります。
ご了承下さい。


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2話

旅行当日、潤は頭を抱えていた。隣の部屋からはりみの鼻歌とシャワーの音が流れていた。

「…どうしてこうなった。」

潤は、ここに至るまでの経緯を思い出していた。

2人は学校が終わってすぐ、羽田空港に向かった。そして、時間通りに飛行機に乗り、無事に広島に20時半に到着した。その時間から宮島に向かっても、島に渡るための船が無い為、広島市で1泊することになっていた。

「りみ?何食べたい?」

「う~ん。やっぱりお好み焼きかな?」

りみは旅行雑誌を捲りながら答えた。

「了解!確か、駅の中にお好み焼き屋さんがあったはずだから行ってみよ?」

潤はりみの手を引いて、駅ビルの中の飲食店が集まる場所まで地図を頼りに向かった。そして、探す間もなく見つかり、そこで2人で舌鼓を打った。

「そこまでは良かったんだよ…。そこからが問題で…。」

お腹一杯になった2人は予約していたホテルに向かった。そして、受け付けで名前と住所、そして電話番号を記入した時だった。

「はい!予約されていた一宮様ですね。こちら鍵となっています。」

ニコニコしながら鍵を渡す受付嬢。その手には鍵が1つだけ握られていた。

「え?1部屋?」

「はい。そう予約されてますが…。」

「ま、マジか…。」

潤は母親である麻里を思い浮かべ、ため息をついた。このホテルは麻里が予約したもので、潤はノータッチだった。潤は鍵を預かり、りみの元に向かった。りみはロビーのソファーに座り、無事に着いたことをPoppin`Partyのメンバーや家族に伝えていた。

「はい。りみ。鍵だよ。」

「ありがとう。じゃあ、部屋に行こう?」

「それなんだけど…。」

潤は自分の頭を掻きながら部屋が別々では無いことを説明した。

「だから、僕は別のホテルを探す「嫌!」ね?…え?」

潤の発言を遮り、りみは叫んだ。

「せっかくの旅行なのに嫌や…。」

りみは潤の返事を聞く前に、手を引っ張り、部屋に向かった。

「本当にどうしよ!僕の理性持ってくれ!」

長い回想が終わった潤はベットの上に転がった。ちなみに、部屋はツインではなくダブルであり、今晩は潤とりみは一緒の布団で寝ないといけない。その事も思い出し、潤は再び、頭を抱えた。

「はぁ~。いい湯だなぁ~。」

旅の疲れを癒やすようにりみはう~んと伸びをした。

「(潤くんと一緒に寝るの初めてだなぁ…。…うぅ…。緊張してきちゃったよ~。)」

お風呂の中は静寂そのもので、心臓の音がハッキリと聞こえていた。

「(は、早く出よう!これ以上、考えちゃうとは、恥ずかしくなって出れなくなっちゃう!)」

りみはそう考えると勢いよく湯船から出た。

「じゅ、潤くん?お先でした…。」

それから体を拭き、備え付けの浴衣を着てりみはお風呂から出て、声をかけた。しかし、潤からは返事が無かった。

「潤くん?」

再び声をかけ、潤を見ると、潤はスヤスヤと寝ていた。

 

─────────────────────

「凄い!風が気持ちいい~!」

翌朝、本来の目的地である宮島に向かう為、フェリーに乗り込んでいた。紅葉の季節の割りには日差しが出ており、ポカポカとしていた為、潤とりみはフェリーのデッキから外を見ていた。

「良い天気で良かったね。コートいらなかったかな?」

潤は脇に抱えた黒のコートを見て言った。

「朝晩は冷えるからあった方が良いよ!…あっ!鳥居だ!本当に海に浮かんでるみたい!」

宮島と言えばこれと言われるくらい有名な朱色の大鳥居を見つけてりみは叫んだ。

「今は満潮…か。干潮になったら歩いて鳥居まで行けるから後から行ってみる?」

「うん!」

そんな話をしているとあっという間に宮島に上陸した。

「宮島って通称で、正式名称は厳島って言うんだよ。」

「そうなんだ。でも、なんで宮島って名前の方が有名なの?」

「観光マップとかには通称の宮島って名前の方がよく使われるからかな?」

フェリーから降り、桟橋を渡りながら潤は、勉強そっちのけで調べた宮島に関するうんちくを披露した。

フェリー乗り場から外に出ると、広い広場がある。団体の観光客はまずここに集まり、説明を聞く事が多い。

「あっ!鹿さんがいる。」

りみが言いながらスマホのシャッターを切った。宮島には野生の鹿がいて、人間の住宅地まで降りて来ている。ちなみにこの鹿、人間にかなり慣れており、簡単に触れてしまう。「可愛い」と食べ物を持って近づくと襲われてしまうので注意が必要だ。

「えっと、じいちゃんは…。」

潤は待ち合わせていた自分の祖父を探した。

「潤くんのおじいさんいた?」

近くにいた鹿を撫でながらりみが言った。

「ううん。電話してみる…。ん?」

「どうしたの?」

「いや。LINEが来てた。」

潤はスマホを開いてLINEを確認した。

 

“宮島グランドホテルに来て。”

 

潤の祖父からのLINEには一言だけ書いてあった。

「グランドホテル?」

りみも潤のスマホをのぞき込んだ。

「…マジか。」

「潤くん?」

「高級ホテルだよ。」

何故、高級ホテルに呼ばれたのか…。潤とりみは首を捻った。

 

─────────────────────

フェリー乗り場から歩いて10分。目的地であるホテルに2人は到着した。

「着いたよ。」

「え?ここ!?めっちゃ大きい!」

りみは上を見上げた。

「宮島だったら1番大きいんじゃないかな?結婚式とかも出来るみたいだから。」

「け、結婚!」

うぅ…。と呟きながらりみは顔に手を当てた。

「り、りみさん?ちょっと気が早いよ?まぁ、中に入ろうか。」

恥ずかしがってるりみに苦笑いしながら潤はりみの手をとった。

「いらっしゃいませ!」

中に入ると、立派な着物を着た女性が2人を出迎えた。

「あの…。ここで、待ち合わせしているんですが…。」

「あぁ!ひょっとして潤君?まぁ、大きくなって!」

「えっと…?」

「ごめんなさいね。私ったらつい。グランドホテルによう起こし頂きました。おじいさんよね?」

「はい。」

潤が頷くと、2人はラウンジに通された。そして、そこに1人で座る男性がいた。

「おぉ~!潤!よう来たな。」

「じいちゃん。久しぶり。話てたけど、こちらが僕の彼女だよ。」

「う、牛込りみと言います。こ、こんにちは。」

「潤にはもったないくらいのべっぴんさんや。長旅、えらかったやろ?ゆっくり楽しんで。」

「え、偉い?」

「あぁ、広島の方は疲れたって事をえらいとかえらかったとか言うんだよ。…ところでじいちゃん。ホテルに呼びだしてどうしたの?」

「おう。お2人さん、ここに泊まりんさい。」

潤の祖父は部屋の鍵を持ち、潤の方に向けて言った。突然の事に2人は固まった。

「はい?じいちゃん。とうとう呆けた?」

「わしはまだボケちょらん!始めはわしの家に泊まってもらうつもりじゃったんだが、布団が古くて、とてもじゃないが使える状態じゃあ無かったんよ。じゃから、ここに泊まりんさい。」

「いやいや。こんな高級ホテル高校生の僕達じゃあ無理だよ。」

「金なら心配すんな。潤もりみちゃんも2人きりの方が楽しいじゃろ?」

ニコッと笑いながら言う潤の祖父に2人は顔を見合わせた。

「潤くん?どうするの?」

「う~ん。お言葉に甘えよっか?じいちゃん。ありがとう。」

「あ、ありがとうございます。」

2人が頭を下げると、潤の祖父は再びニコッと笑い鍵を潤に手渡した。

 

─────────────────────

2人は泊まる部屋に、荷物を置いて、早速外に出ていた。ちなみに、部屋に入った時、あまりの広さに2人は唖然とした。

「また後で、潤くんのおじいさんにお礼言わなきゃだね。」

「そうだね。手土産買って来てるし、後で持って行こうね。」

2人は話ながら商店街を歩いていた。宮島の商店街は名物である牡蠣や穴子を使った飲食店や紅葉饅頭のお店やお土産物屋さんなどで賑わっていた。

「ちょっと早いけど、ご飯にしよっか?早めにお店に入らないと混んじゃうし。」

「うん。私は大丈夫だよ。」

「りみは何が食べたい?」

「う~ん。悩んじゃうけど、やっぱり牡蠣かな?」

りみが旅行雑誌を開きながら言った。

「ん。了解。丁度目の前にあるから行こうか。」

潤が指をさすと、店頭で牡蠣を焼いているお店があった。

「うん!行こっ!」

2人は手を繋いで、お店に入った。

「めっちゃおいしぃ~!」

それから数十分、りみの前には焼き牡蠣の殻が沢山広がっていた。さらには牡蠣丼も食べている状況だった。

「前から思ってたんだけど、りみってよく食べるよね?しかも美味しそうに。」

幸せそうに食べるりみを見ながら潤は言った。

「だって美味しいんだもん。」

また新たに運ばれてきた牡蠣を開けながらりみは言った。

「それだけ喜んでくれたら連れて来た甲斐があるよ。」

「麻里さんと潤くんのおじいさんのお陰だよ~。そうだ。潤くん?この後は何処に行くの?」

「うん。とりあえず、厳島神社に行こうか。」

「鳥居のとこだよね?」

「そうだね。その後はいよいよ紅葉かな?水族館はまた明日行こう?」

「うん!めっちゃ楽しみやぁ~。」

ニコッと笑うりみを見ながら潤は別の事を考えていた。

「(今日も夜、2人きり?頑張れ、僕の理性…。)」

まだ太陽も高い時間帯だが、潤はドキドキしながら牡蠣丼を食べていた。

 

─────────────────────

牡蠣を堪能した2人は商店街のお店を見ながら厳島神社に向かっていた。巨大なしゃもじ(宮島は木のしゃもじの生産が日本一。)を見て、ビックリしたり、お土産屋さんに飾ってあった「ぶち好きじゃけぇ!広島!」と書かれたTシャツを見て笑ったりと仲良く歩いていた。

「そういえば、厳島神社ってそんなに古い神社なの?」

りみは首を傾げながら言った。

「だね。いつくらいに建てられたかまでは知らないけど、古いはずだよ?平安時代とか?」

「ちょっと調べてみるね。」

りみはポケットからスマホを取り出し、いじり始めた。すると、軽快に動いていた指が止まり、プルプルと震え出していた。

「り、りみ?どうしたの?」

「じゅ、潤くん…。これ…。」

りみがスマホを潤に向けるとそこには「宮島はカップルで行くと別れる?」と書いてあった。

「あぁ~。知っちゃったかぁ…。」

「潤くん!知ってたの!?ま、まさか、私と別れたくて宮島に来たの?」

目をウルウルとさせ、りみは潤に問い詰めた。

「ち、違うよ!う~ん。りみは迷信とか信じちゃう?」

「な、内容によるけど…。」

「まっ、あくまで迷信だよ。厳島神社は女性の神様だから嫉妬して別れさせちゃうって話だけど、矛盾してるんだよね。」

「む、矛盾?」

「うん。ホテルの前でも言ったよね?結婚式ができるって。あの結婚式って、厳島神社でするんだよ。しかも、キャンセル待ちになるくらい大人気。」

「そ、そうなの?」

「うん。ね?矛盾してない?」

「た、確かに…。」

りみは納得しながら言った。

「それに…。そんな事で僕とりみが別れると思う?」 

「ううん。ご、ごめんね。取り乱しちゃって…。」

「大丈夫だよ。もうちょっとで着くから行こう?」

潤がそう言って、目線を前にすると、赤い鳥居が2人を出迎えていた。りみも赤い鳥居の姿を確認すると、サイトからカメラに切り替えて、写真を撮っていた。2人は鳥居と海を右手に緩やかに曲がった道を進むと、目的地である厳島神社に到着した。

「写真で見るよりも大きいね!本当に海の上に建ってるんだね。」

りみは興奮したように言った。

「そうだよ。何回か台風で流されたこともあったみたいだよ。」

潤が言うとりみは「へぇ~。」と関心した様子で言った。

「(予習しといて良かった~。)」

と潤は思っていた。

「あれ?なんか人が集まってる?」

「行ってみようか?」

2人は人が集まっている所に向かうと、さっきまて話していた結婚式がまさに執り行われていた。

「こ、こんな見えるところで結婚式するの!?」

りみは驚きながら言った。

「みたいだね。僕も初めて見たよ。」

「わ、私なら、恥ずかしくて無理やぁ~。でも、めっちゃ綺麗だね。」

「りみは結婚式は和服が良いの?」

「どっちもかな?両方着たい!」

りみが笑顔で言うと、潤はウェディングドレスを着たりみを想像していた。

「(絶対、綺麗だろうな…。)」

「潤くん?」

「う、ううん。なんでもないよ。じゃあ行こっか?」

2人はお参りをしながら厳島神社を歩いた。厳かな雰囲気の中で、潮の香りを感じながら潤は 

「(宮島の神様。りみといつまでも仲良く過ごさせて下さい。)」

と思っていた。大事な人を1度失い、また新たに出来た守りたい存在になったりみを見ながら2人は厳島神社を出た。考え事をしていた為、潤は無言だったが、りみも厳島神社を出るまで無言だったので、気になり、

「りみ?大丈夫?無言だったけど、疲れた?」

と言った。

「なんか雰囲気のせいかな?喋ったらいけないような気がしちゃった。大丈夫だよ。次は、いよいよ紅葉かな?」

「うん。凄く綺麗だから期待しててね?山道だけど、本当に平気?」

「大丈夫だよ!楽しみだったから早く行こう?」

2人は次の目的地である紅葉谷公園に向かった。途中でりみが紅葉饅頭を買って食べながら歩いていた。

「(本当によく食べるなぁ。)」

と潤は心の中で思っていた。潤は紅葉饅頭は買わなかった。美味しそうに食べるりみを見ているだけでお腹いっぱいになるのであった。

 

 

 

 

 




遅くなって申し訳ありません。
紅葉の話なのに、もう年越しちゃう(;´д⊂)

補足
宮島の結婚式
紅葉の季節は11月。11月は七五三がある為、厳島神社で結婚式を行うことは休日は無理です…。今回はどうしても載せたくて書きました。
申し訳ありません。

宮島にカップルで行くと別れる?
本当に迷信です。江戸時代に、宮島には遊郭があった為、そう言われるようになったみたいです。ちなみに、今は遊郭はありません。現在はあまり別れるとかは言われないみたいで、逆にオシャレなカフェが出来たりしているので、カップルで行く方は多いです。


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3話

紅葉谷公園は厳島神社から弥山に向かう途中に存在している公園で約700本の紅葉の木があり、秋には一気に葉っぱを赤色に変える。

「すごーい!めっちゃ綺麗!」

りみは目をキラキラしながら叫んだ。2人の頭上には「これでどうだ!」と言わんばかりに真っ赤に染めた紅葉が風に揺れていた。

「何回来てもホントに凄いなぁ…。」

潤も感動したように呟いた。

「潤くん!写真撮って!」

紅葉を見る為に上を向いていた潤はりみの方に視線を向けた。りみはすでに少し離れたところにいた。

「(なんか、紅葉に囲まれてるりみって…)」

潤は「ホントに綺麗!」と紅葉の中心でクルクルと回っているりみに目を奪われていた。

「妖精さんみたい。」

「へ!?」

潤の突然の発言にりみは驚き、固まった。

「あれ?…ひょっとして…。声に出てた?」

「う、うん。妖精さんみたい…って。」

「ま、マジか…。」

心の声が出てしまい潤は恥ずかしくなって、紅葉のように顔を赤く染めた。妖精みたいと言われたりみも同様、顔を赤くしていた。

「よ、よ、妖精って…わ、私の事…だよね…。」

「う、うん。クルクル回ってる姿が可愛くって。」

「か、かわっ!あ、あ、ありがとう。」

「う、うん。あっ!しゃ、写真だったね!」

潤は自分のスマホを取り出すとカメラをタップし、スマホを構えた。

「い、今は大丈夫!か、顔…赤くなってるし…。」

りみは慌てて言ったが、「パシャリ」とシャッターを潤は切ってしまった。

「あっ!ご、ごめん!」

「だ、大丈夫だよ。も、もう1回撮ってくれるかな?」

りみは改めてピースサインを作ると潤の構えるスマホに向かって微笑んだ。

 

─────────────────────

「はぁ~。暖かい…。」

いくらポカポカと日差しが出ていても紅葉の時期ともなると、ずっと外にいたら身体が冷えてしまう。そう考えた潤とりみは紅葉谷公園内にあるお茶屋さんにいた。店内にはコタツが常備されており、潤はコーヒーを、りみは抹茶紅葉饅頭を食べていた。

「本当に暖かいね。ところで…りみ?」

「ん?なに?潤くん?」

「いや、紅葉谷公園に来る前に、歩きながら紅葉饅頭食べてなかったけ?」

「食べたよ?」

それがどうしたの?と言わんばかりの表情をりみはしながら言った。

「いや…。前からよく食べるとは思ってたけど…。食べ過ぎじゃない?」

「大丈夫だよ~。甘い物は別腹だよ~。それより潤くんは食べないの?」

「僕はまだ昼に食べた牡蠣がお腹に残ってるから。」

潤は自分のお腹を擦りながら言った。正直なところはりみが食べてる姿を見るだけで、お腹がいっぱいになるのであった。

「夜ご飯も楽しみだなぁ。ホテルで食べるんだよね?」

「う、うん。そうだね。」

紅葉饅頭を頬張りながら夕飯の心配をするりみに潤は苦笑した。

「この後はどうするの?」

「うん。弥山に登ってみない?」

「い、今から山登り!?」

「いやいや。ロープウェイで登るよ?」

潤がロープウェイがある方向を指しながら言った。

「そっか。よ、良かったぁ~。弥山は何があるの?」

「お楽しみかな?多分、喜ぶかな?」

「喜ぶ?」

りみは首を傾げた。

「うん。あっ。食べ終わったかな?」

「うん!」

「よし。なら行こうか?」

潤が手を差し出すとりみは手を重ねた。その姿をお茶屋の従業員はニコニコしながら見ていた。

「そうだ!忘れてた。りみ、まだ食べれたりする?」

「え!?だ、大丈夫だけど、どうしたの?」

「向かう途中で、りみが食べたくなるであろうものが売ってるとこがあるんだよね。」

「え?ひょっとしてチョココロネ!?」

「流石に違うかな?」

目をキラキラさせたりみに潤は再び苦笑した。

紅葉谷公園からロープウェイまでは近く、歩けばすぐに着く。そもそも宮島自体が観光名所までは全て歩いて行動出来る。

「ロープウェイに着いたよ。りみが食べたくなるのはあれだね。」

「あれ?…紅葉饅頭?」

「うん。紅葉饅頭なんだけど、形をよく見て?」

「え?…あっ!ハートだ!可愛い!」 

りみはハート型の紅葉饅頭を手に取った。

「カップル向けらしいよ?…食べても良いよ。」

「うぅ…。勿体なくて食べれないよ~。」

りみはそう言うとそっとハート型の紅葉饅頭を鞄にしまった。

 

─────────────────────

今、2人が目指している弥山。読み方は「みせん」と読む。宮島の中央部にあり、標高が535メートルの山である。古くから信仰があると言われている。かの初代内閣総理大臣である伊藤博文は「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と弥山からの眺めを絶賛している。それほどの眺めを目の前にしたりみはと言うと

「わぁ~!めっちゃ綺麗!海がキラキラしてる!」

と叫んでいた。

「晴れてるから遠くまで見えるね。」

潤も、目を細めて遠くを見た。

「そうだ。写真!」

りみはPoppin`Partyのメンバーに送る為に、スマホを取り出した。

「この景色を見せたくて来たの?」

写真を撮りながらりみは潤に聞いた。

「うん。それもあるんだけど…。ちょっと歩こうか?」

「うん?」

りみが首を傾げた。

先程も説明したように、弥山は名前の通り、宮島の中央に位置する山だ。つまり、潤が言った「ちょっと歩こう」=山道を歩くという事になる。2人は、始めこそ手を繋いで歩いていたが、歩き始めてから20分。りみは肩で息をし、潤に引っ張って貰っていた。

「潤くん?ど、どこまで行くの?」

「もうちょっとだよ。」

目的地を聞かされてないりみは「(まだ歩くの?)」と心の中で思っていた。

「着いたよ。ここが目的地だよ。」

「ここ?神社…かな?」

やっとの思いで到着したりみだったが、目の前には大きな建物があった。

「神社じゃなくて、霊火堂(れいかどう)って言うんだよ。」

「霊火堂…。ここには何があるの?」

「まぁ、中に入ってから説明するよ。」

潤は再び、りみの手を引っ張って中に入った。

「見せたかったのはこれだよ。」

「…え?」

「だから、これ。」

潤は目の前にある物を指して言った。

「えっと…。これは…。囲炉裏?かな?」

りみが首を傾げながら言う。今、2人の目の前に広がってる風景は囲炉裏っぽい柵に囲まれ、真ん中にはチロチロと火があがっていた。さらにその上には大きな茶釜がぶら下がっていた。

「う~ん。ちょっと違うかな?これは「消えずの火」って言われてるんだ。」

「消えずの火?いつから燃えてるの?」

「1200年前。」

「え?」

「だから、1200年前だよ。ずっと、燃えてるから恋人達に人気のスポットみたいだよ。…この恋も消えないようにって…。」

流暢に説明していた潤だったが、だんだん恥ずかしくなったのか、語尾は小さくなっていった。

「そうなんだ。なら、いっぱいお祈りしなきゃだね。」

りみは微笑むと、手を合わせ目を瞑った。

 

─────────────────────

「いっぱい歩いたね。潤くん疲れてない?」

「大丈夫だよ。ありがとう。一応、男だから体力はりみよりあるはずだよ。」

ホテルに戻り、部屋で2人は寛いでいた。部屋には西日が差し込んでおり、海面をオレンジ色に染めていた。

「このお部屋凄いね。こんなに海が見えるとこに泊まったの初めて。」

「僕もそうだよ。…宮島はどう?楽しい?」

「うん!とっても楽しいよ。でも…。」

「でも?」

「楽しいのはきっと潤くんと一緒だからだよ?多分、ポピパの皆と来ても楽しいと思うけど…。大好きな人とこうして旅行出来るってこんなに幸せなんだって思ってるよ?」 

りみはニコニコしながら言った。いつもこんな甘い台詞を言う時は恥ずかしがるりみだが、今日は潤の目をまっすぐ見て言った。旅行で見知らぬ土地にいるからか、りみのテンションはいつも以上に高かった。

「りみ?う、嬉しいんだけど…。ちょっと恥ずかしい…かな?」

「えへへ。普段は恥ずかしくて言えないなけど、潤くんには本当に感謝してるよ。潤くんと出会ってから引っ込み思案も、ちょっとだけ良くなった気がするしね!」

「どう致しまして…。って!恥ずかしいから!もう恥ずかしいからこの話題はおしまい!…。夕飯前にお風呂に入りに行かない?」

顔を真っ赤にした潤は無理矢理、話題を変えた。

「お風呂…。それなんだけど…。」

「ん?どうしたの?」

「この部屋って、露天風呂があるよね?」

りみは部屋に設置してある風呂場の方を見て言った。

「うん。あるけど?そっちに入りたい?」

「せっかくだから…。そ、それとね…。」

「うん?」

「い…一緒に…。は…入らない?」

りみは潤の袖を掴んで言った。

「はい?ごめんね。聞き間違えかな?一緒に露天風呂に入りたいって言ったのかな?」

「…うん。」

「ま、ま、ま、マジで?無理無理無理無理!は、恥ずかしいって!」

潤は顔を真っ赤にして叫んだ。

「わ、私だって恥ずかしいよ!?でも…。は、離れたくない…から。だ、だから…。」

りみは掴んでいた袖を自分の方に引き寄せ、潤の腕にしがみつきながら言った。

「…ほ、本当に良いの?」

「うん…。ば、バスタオル巻いたら、か、隠れる…よね?」

「…わ、分かったよ…。は、恥ずかしいけど…。」

「うぅ…。な、何で潤くんが恥ずかしがってるの?こ、こうゆうのって、普通、男性から誘わないの?」

りみは余程恥ずかしいのか目を潤ませながら潤を見た。初心なカップルである2人であるが、また新たな一歩を踏み出そうとしていた。

 

─────────────────────

翌朝、目を覚ましたりみは混乱した。

「(あれ?ここ…。どこだっけ?)」

むくりと身体を起こし、周りをキョロキョロと見渡した。

「(そうだ…。潤くんと旅行に来てたんだ…。)」

「り、りみさん?」

段々と覚醒してきた頭で考えていると横から潤が声をかけた。

「あっ!潤くん、おはよう。」

「お、おはよう…。」

りみが元気よく挨拶をしたが、潤はプイっと横を向きながら挨拶をした。

「潤くん?どうしたの?」

「り、りみ?ゆ、浴衣が…。」

「へ?」

潤に言われ、りみは自分の姿を確認した。夜、寝ている間に寝返りをしたのか、りみの浴衣ははだけていた。

「じ、じ、潤くんのエッチ!」

りみは叫んで洗面所に向かった。

「えぇ~…。ぼ、僕が悪いの?」

理不尽なりみの発言に潤は頭を抱えて呟いた。

 

「おはようございます!朝食です。」

りみが支度をしてからちょっとして朝食が運ばれて来た。

「おはようございます。ありがとうございます。」

潤は立ち上がり、座椅子に腰かけた。

「潤君!昨日、ロビーであまり話せなかったけど覚えてるかな?」

朝食の準備をしながら、仲居は潤に声をかけた。

「えっと…。昨日、じいちゃんの所に案内して頂いた仲居さんですよね?」

「そうですよ!その様子だと覚えてない…かな?」

「す、すみません!」

「ううん。大丈夫!ゆっくり思い出してね?では、ごゆっくりどうぞ!」

「え?」

仲居の発言に潤はビックリしていた。

「(お、教えてくれないんだ…。)」

「潤くん?覚えてないの?」

「うん…。全く…。」

潤が苦笑いしながら答えた。

「そっか…。お、思い出せそう?」

「う~ん…。まぁ、食べながら考えるよ!」

潤が改めて机の上を見ると豪華な朝ご飯が並んでいた。

「めっちゃ美味しそう!…痛っ…。」

食事に目を輝かせたりみだったが、動いた瞬間に顔を顰めた。

「りみ?大丈夫?」

「う、うん!だ、大丈夫だよ!」

りみは苦笑いしながら座椅子にゆっくり座った。

「どこが痛いの?昨日、いっぱい歩いたから筋肉痛?」

「え?潤くん?」

「え?」

「わ、分からない?」

「なにが?」

「むぅ~…。潤くんのバカ!」

プクッと頬を膨らませたりみは潤に向かって叫んだ。

「え?え?りみ、なんで怒ってるの?」

「もう知らない!」

潤の事を無視するようにりみは朝食に手を付けた。ちなみに、りみの機嫌はお腹がいっぱいになった事で治るのであった。

 

 

 




不定期更新にはしてますが、本当に遅くなってしまってすみません。
せめて2週間に1話あげれるように頑張ります…。

旅行編は多分、後2話くらいになるかと思います!


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4話

「潤くん?これ…何?」

「…なんだろうね?」

潤とりみは水槽の前で首を傾げていた。2人は予定通り宮島水族館に来ていた。宮島水族館は宮島にある市営の水族館で、愛称は「みやじマリン」という。魚類から代表的な水生生物が約350種、約13000点が展示されている。シンボルとなっているのは瀬戸内のクジラとよばれているスナメリである。入ってすぐに大きな回遊水槽があり、様々な魚が出迎えてくれる。しかし、潤とりみが今、見ている水槽には紐がぶら下げられていて、その紐にはゴツゴツとした岩らしきものが隙間なく引っ付いており、その紐の間をメバルや黒鯛が泳いでいた。

「本当になんだろ?」

りみはゴツゴツとした岩の正体を見破る為に水槽に顔を近づけてジーと見ていた。

「りみ。あそこに説明書きがあるよ。」

潤はりみの肩をちょんちょんと叩き、説明書きがある方に誘導した。

「潤くんありがとう!…へぇ~。これ牡蠣なんだ!」

「そうだよ。フェリーから見た牡蠣筏の下はこうなってるんだよ。」

「そうなんだ!お魚もいっぱい泳いでるんだね!…あれ?潤くん知ってたの?」

「うん。りみがあまりにも真剣に考えてたから答えを直ぐに言うのはダメかなぁって思ってね。」

さらに「ゴメンね。」と付け足して潤は言った。

「そ、そんなに真剣だった?」

「うん。ほら。」

潤は持っていたスマホをりみに見せた。スマホの画面には目をこらして水槽の中を見ているりみの姿が映っていた。

「ふぇ?い、い、いつの間に!け、消してよ~!」

「あはは!ちゃんと消すよ。…ね?撮られたことも気付かないくらい真剣だったって事じゃない?」

潤はスマホを操作しながら言った。そして写真をきちんと消した事をりみに見せた。

「うぅ…。は、恥ずかしいよぉ~。」

りみが頬に手を当てて言った。そんなりみの姿を見て、潤が「あはは。」と笑うと「ピンポンパンポン」とチャイムが鳴った。

「本日は宮島水族館にご来場頂きありがとうございます!10時よりアシカライブを行います。」

アナウンスに耳を傾けた2人は顔を見合わせた。

「アシカライブだって!潤くん、行こう!」

「行こっか!」

目をキラキラさせたりみに潤は微笑んで手を差し出した。りみはその手を握り、駆け足でアシカのいるプールに向かった。

 

─────────────────────

アシカプールに着くと、親子やカップルがアシカの登場を待ちわびていた。

「良い席に座れて良かったね。」

「うん!」

2人は駆け足で向かった甲斐もあり、中央の1番前という特等席に座れる事かできた。そして2人が談笑して数分、いよいよアシカライブが始まった。

「みなさーんこんにちは!」

「「こんにちは!」」

「それでは早速、アシカさんに登場して貰いましょう!」

アシカライブの司会であるお姉さんがそう言いながら合図を出すと、プールの中からアシカがジャンプした。

「凄ーい!」

りみは叫びながらスマホでパシャパシャと写真を撮っていた。

「アシカさん可愛いね!」

「そうだね!」

その後、アシカは鼻にボールを乗せたり、ジャンプしたりと素晴らしい曲芸が続いた。潤やりみだけではなく、その場にいた全員が笑顔になっていた。

「では、ここで会場にいるお客様に手伝って頂きます!」

司会のお姉さんが言うと、客席にやって来た。

「では、そこのお兄さん!お願いします!」

「え?」

名指しされた潤は困惑しながら立ちたがった。

「潤くん!頑張って!」

「うん。行ってきます。」

苦笑いしながら潤は客席の前に移動した。

「では、この輪投げをアシカに向けて投げて下さい!アシカが上手く、首に輪を通す事が出来たら成功です!」

司会のお姉さんが、潤に輪投げの輪を渡した。潤は受け取ると、アシカに向かって投げた。輪投げの輪は綺麗な放物線を描き、アシカの頭の上まできた。誰もがアシカの首に入ると思ったその時、アシカは首を起用に横に倒し、輪投げをよけてしまった。

「なっ!」

「あら~!残念!」

驚いて目を丸くする潤に回りの客はクスクスと笑っていた。

「う、嘘でしょ…?」

「残念でした!ありがとうございました!では!他にやりたいお客様!」

元気よく子供が「はーい!」と返事をする中、潤は肩を落としながら席に戻った。りみはそんな潤を苦笑いしながら出迎えた。

 

─────────────────────

「はぁ…。」

「潤くん。元気出して?」

水族館を出て、潤とりみは海がよく見えるカフェで休憩していた。宮島はこうしたカフェが沢山あり、15時頃には満席になってしまう。

「まさか、アシカにまでからかわれるとは…。」

潤が再び項垂れるとりみは苦笑いをした。

「ところで、潤くん?」

「ん?」

「朝の旅館の女性、思い出した?」

潤を励ます為に、りみは無理矢理話題を振った。

「あ~。いや、全く…。てか、水族館にいる間、忘れてたよ。」

潤が苦笑いしながら言った。

「何か、手がかりないのかな?」

「う~ん。実は、秋帆が亡くなってからずっと来てなかったんだよね。だから宮島に来るのは久々なんだよね。」

「え?そうなの?」

「うん。だから、あの人と会ってたとしても多分、ずっと昔なんだよね。だから思い出せっていうのは厳しい気がするんだよね。」

「そっか…。あっ!潤くん、ごめん。電話、出て良いかな?」

会話の最中だったが、りみのスマホが着信を知らせた。画面には「香澄ちゃん」と表示してあった。

「良いよ。早く出てあげて!」

「ごめんね。…もしもし?」

りみが電話に出ると、「りみりーん!」と香澄の声が響いた。

「香澄ちゃん?どうしたの?」

「りみりん!楽しんでる?」

「うん!めっちゃ楽しいよ!香澄ちゃんは何してるの?」

「私は皆で勉強中だよ!休憩がてら電話したの!写真も送ってくれてありがとう!めっちゃ綺麗だね!」

「うん!今度はポピパの皆で来ようね?」

「うん!絶対だよ!っておたえ!まだ私が…。」

「もしもしりみ?」

香澄が喋っている最中、急にたえに声が変わった。たえの後ろでは香澄が「ちょっと!おたえ!?」という声が響いていた。

「お土産買った?」

そんな香澄を無視するようにたえは淡々と喋り出した。

「まだだよ?今から買う予定だけど…。どうしたの?」

「ううん。楽しみにしてるね。紅葉饅頭、オッちゃんと食べるから。」

「う、ウサギは紅葉饅頭、食べられないんじゃ…。」

「大丈夫。じゃあ、香澄に変わるから。」

「え?う、うん。」 

相変わらず、マイペースなたえにりみは困惑していた。

「もー!おたえったら…。りみりん!潤君と仲良くしてる?」

「勿論だよ!」

「じゃあ、2人の邪魔したら悪いからそろそろ切るね!みんなー!電話切るよ?」

香澄が叫ぶと、電話の向こうから「楽しんでね!」や「勉強も忘れるなよー!」と聞こえた。

「勉強?あっ!テスト!わ、忘れてたよ。でも、今は楽しむからね!皆ありがとう!」

りみはそう言うと電話を切った。

「ポピパの皆から?」

「うん。楽しんでねって!後、勉強も忘れないでねって。」

りみが苦笑いしながら言うと、潤も表情を曇らせた。

「…流石に、今晩ちょっと勉強…する?」

「…うん。ちょっと不安になってきちゃった。」

2人はそう言うと、そっと注文したコーヒーに口をつけた。

 

─────────────────────

「じいちゃん。本当に色々ありがとうね。」

「あ、ありがとうございました。」

ペコリと頭を潤とりみは下げた。2人はカフェの後、商店街でお土産を買い、潤のおじいさんの家に来ていた。

「いや~。こっちこそ東京土産ありがとう。…宮島は楽しんでるかね?」

「うん。楽しいよ。」

「私も、本当に楽しいです!」

2人がそう言うと潤のおじいさんは満足そうに頷いた。

「ところで、潤よ。仲居さんの事は思い出したか?」

「え?何でじいちゃんがその事知ってるの?」

「その仲居さんから聞いたんよ。」

「え?知り合いなの?…それがさっぱり思い出せなくて…。」

潤が苦笑いしながら言った。

「まぁ、潤が小さい頃の話じゃけん、忘れてても無理は無い。じゃが、向こうは思い出して欲しそうじゃったからヒントをやろう。名前は明日菜って言うんじゃ。」

「明日菜…。え!?明日菜姉ちゃん!?」

潤はビックリして叫んだ。その瞬間、潤とりみの後ろの襖が突然「バン!」と開いた。

「やっと思い出した?」

「きゃ!」

「うわぁ!」

突然出てきた明日菜に潤もりみも驚いた。

「あはは~。ゴメンね。」

「明日菜姉ちゃん…。本当にびっくりしたんだからね?…お久しぶりです。」

潤がそう言うと、潤の袖をりみが引っ張った。

「えっと、説明して欲しいかな?」

話について行けないりみがボソッと潤に言った。

「そうだね。えっと、明日菜姉ちゃんは僕がまだ幼稚園くらいの時かな?じいちゃんの家に来た時によく遊んで貰ってたんだ。」

潤が説明するとりみは「なるほど。」と呟き、納得した。

「そう言うこと!私が就職でここを離れるまでだから12年振りかな?今は戻ってきてるんだけどね!あんなにちんちくりんだったのに、大きくなって!しかも、彼女まで連れてくるなんて!そうそう!彼女さんお名前は?」

「あっ!う、牛込りみです。」

「りみちゃんね!よろしくね。いやぁ~。潤君をりみちゃんに取られちゃったかぁ~。」

明日菜は終始、ニコニコしながら言った。

「ん?りみに取られた?どう言う事?」

潤が首を傾げながら聞く。

「りみちゃん!潤君ね。小さい頃、「大きくなったら私と結婚する」って言ってたんだよ?」

「へ?」

「はい!?お、おお、覚えてないし!い、い、言ってないし!」

潤は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。しかし、話を聞きながらお茶を飲んでいた潤のおじいさんが「言ってたぞ?」と言うと、潤は恥ずかしさのあまり机に伏せた。

「小さい頃の潤くん、可愛い!」

りみは小さい潤を想像しながら言った。

「りみちゃん!潤君の小さい頃の話いっぱいあるけど聞きたい?鹿にアイスをとられて大泣きした話とか。」

「え!?聞きたいです!」

りみがアシカライブ以上に目を輝かせた。そんなりみを見て、潤は「勘弁して…。」と呟いた。

 

─────────────────────

夜も更け、日中は観光客で賑やかな宮島も静かになっていた。カフェで話していた通り、ちゃんと勉強もして2人は現在、布団に入っていた。

「潤くん?起きてる?」

「うん。起きてるよ。」

潤は仰向けで寝ていた身体をりみの布団の方に向けた。

「本当にありがとうね。めっちゃ楽しかったよ。」

月明かりだけが刺す部屋にりみの声が響く。

「僕も楽しかったよ。」

「でも、楽しい分、あっという間に終わっちゃったなぁ。ちょっと寂しいな。」

りみがそう言うと潤は「だね。」と呟いた。

「あ、あ、あのね…。」

「うん?」

「じ、じ、潤くんは…。その…。し、しなくて平気なの?」

「ん?何を?」

モジモジしながら言うりみに潤はクエスチョンマークを浮かべた。

「ぜ、全部言わせないでよ…。」

「え?あぁ。なるほど。」

りみの言いたい事が分かり、潤は身体を起こした。

「えっと、りみ?無理してるでしょ?」

「し、してないもん!」

「本当に?」

「…してる…。」

更に、モジモジしながらりみは言った。

「あはは。まだ僕達は高校生なんだし、無理しなくて良いんじゃないかな?僕は平気だから。」

「…う、うん。ゴメンね。やっぱり、は、恥ずかし過ぎるから…。」

「まぁ、僕もまだ恥ずかしい…かな?」

潤は自分の顔が熱くなるのを感じた。りみも恥ずかしかったのか頭まで布団をスッポリ被った。

「そう言えば、りみ?」

「な、何かな?」

少しだけ静寂に再び包まれたが、潤がりみに声をかけた。それに応えるように、りみは布団から顔を出した。

「お尻は平気?」

「あっ。うん。大丈夫だよ?朝は痛かったけど、もう痛くないよ。うぅ…。恥ずかしい…。」

実は、昨日、一緒に露天風呂に入った潤とりみだが、あまりの恥ずかしさに入って数分でりみがのぼせてしまい、湯船からあがる際にふらついて転けてしまったのである。その時にお尻を床に打ち付けたのであった。

「(一緒に、お風呂にはいるだけで、あれだけ照れるんだからその先なんて今は絶対無理だよね。まぁ、気長に行きますか。さっきも言ったように、僕たちはまだ高校生なんだし。)」

改めて潤は心に誓い、眠りにつく為に、横になった。

「潤くん。」

「どうしたの?」

「そっちの布団にいって良いかな?」

暗闇に目が慣れたのか、りみの表情がはっきり見えた潤。りみは上目遣いで、目を潤ませていた。その表情が1番弱い潤はもちろん断ることなど出来ず「どうぞ。」と言い、布団を捲った。すぐに潤の布団に入ったりみは潤の腕枕で安心した表情でスヤスヤと眠るのであった。

「また来ようね。」

そんなりみの頭を撫でながら潤はそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次で旅行編ラストです。旅行に行った後日談になります。
暦の上では立春、つまり春です。
まさか紅葉を見に行く話がこんなに長くなるなんて…。
こんなはずでは…。
ちなみに、潤とりみはもの凄く清い関係です笑


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5話

旅行編の最後です。
旅行に行った後のお話しとなります。


「こんにちは!誰かいませんか?」

潤は蔵の戸を開くと叫んだ。潤とりみが宮島から帰った数日後、テストも無事に(?)終え、日常に戻っていた。潤は宮島からのお土産をPoppin`Partyに渡す為に、有咲の蔵に来ていた。

「おかしいなぁ?返事がない?りみから今日は練習って聞いてたのに。」

潤がボソッと呟き、もう一度叫ぶ為に、息を思いっきり吸い込む。

「はぁーい!」

「ゲホッ!ゲホッ!」

息を吸い込み、叫ぼうとした瞬間、床の扉が開いた。それを確認した潤は叫ぶのを止めようとして、激しく咳き込んでしまった。

「だ、大丈夫!?」

「ゲホッ!だ、大丈夫です。戸山さん、こんにちは。」

心配する香澄を制し、苦笑いを潤は浮かべた。

「本当に大丈夫?」

「うん。お邪魔しても大丈夫かな?」

中に入り、地下の階段近くまで近づいた潤は入室の許可を取った。しかし、香澄は「あー…。」と珍しく煮え切らない態度を取った。

「どうしたの?」

「えっと…。りみりんがね…。」

「え!?りみがどうしたの?」

「えっとね。…見て貰った方か早いから…。どうぞ。」

香澄が潤を招き入れた。そして階段を降りながら「お邪魔します。」と言った。

「潤君。こんにちは。」

他のメンバーから思い思いの挨拶が帰ってきた。しかし、潤の恋人であるりみからは何の返事も無かった。

「(あれ?りみは?階段からは死角で見えない。)」

そんな事を思いながら、階段を降りると頭の上から湯気を出し、顔を真っ赤にしたりみの姿を見つけた。 

「り、りみ!?ど、ど、どうしたの!?」

潤が慌ててりみに駆け寄る。

「あっ…。じゅ、潤くん?」

りみがボソッと呟く。

「えっと。どうゆう事かな?」

潤は他のメンバーから事情を聞く為、振り返った。沙綾と香澄は苦笑いを、有咲は罰の悪そうな顔を、たえは無表情だった。

「あー。まぁ、私達がからかいすぎたからこうなりまして…。」

代表して沙綾が答えた。

 

─────────────────────

時は遡る事、30分前。練習の休憩中に、メンバー全員でお茶をしている最中。会話は自然とりみの旅行の話になっていた。

「りみりーん!宮島はどうだった!?」

「うん。めっっちゃ楽しかったよ!」

りみが山吹ベーカリーのチョココロネを食べながら満面の笑みで答えた。

「紅葉、綺麗だった。」

りみがLINEのグループに投稿してあった写真を見ながらたえは言った。

「写真でこんだけ綺麗なら、実際はもっと綺麗なんだろうな。」

「りみりんも負けないくらい真っ赤になってるけどね。この時、何かあったの?」

沙綾がニヤニヤしながらりみに聞いた。

「…な、なんもないよ?」

目を泳がせながらりみが言うと他の4人は目を光らせた。

「えぇ~!りみりん!教えてよ~!」

「そうだよ。りみ。教えて?」

「皆、りみに悪いよ。…でも気になるなぁ~。」

「止めるか聞くかどっちかにしろよ!…でも…まぁ…気にはなるな。」

4人はりみに近づきながら口々に言った。

「わ、分かったよ。い、言うよ…。」

りみはそう言うと、深呼吸をして口を開いた。

「あ、あ、あのね…。わ、私が紅葉を見てはしゃいじゃって…。クルクル回ってたの。」

「クルクル?りみ、何してんだよ?」

「て、テンションが上がっちゃって…。そ、それで、潤くんがそんな私を見て…よ、よ、妖精さんみたいだって…。」

りみは言い終わると、俯き、恥ずかしそうにモジモジとした。

「りみ?顔上げて?」

「うん?おたえちゃん?」

りみが顔を上げると、手を合わせているたえがいた。その姿を見てりみは訳が分からず、首を傾げた。

「ごちそうさまでした。」

「おたえちゃん!?」

「確かに、言いたくなるくらい甘い話だな。」

「有咲ちゃんまで!?…もぉ~…嫌やぁ…。」

りみは再び俯いてしまった。

「まぁまぁ。ところでりみ?結局旅館に泊まったんだよね?」

スマホの写真を見ながら沙綾は言った。

「うん。潤くんのおじいさんが布団が古くてダメになったからって。宮島で1番高級なところらしいよ。」

「りみりん良いなぁ~!旅館では潤君と何をしたの?」

香澄が無垢な笑顔で言った。その瞬間、蔵はシーンとした。

「あ、あれ?わ、私変なこと言った?」

「…パンドラの箱を開けてしまいやがった…。」

「あ、有咲?ぱ、パンドラの箱って何?」

わたわたする香澄に、有咲がため息をつきながら額に手を当てた。

「ま、まぁまぁ。香澄?き、気にしなくて良いんじゃないかな?だよね?おたえ?」

沙綾がフォローを入れ、たえに同意を求めた。

「うん。カップルが旅行に行って、夜に何も起こらない訳がないから大丈夫!」

とんでもない事を相変わらず表情を変えずに言うたえに「おたえー!」と沙綾は叫んだ。

「沙綾も顔真っ赤だよ?ついでに有咲も。」

「お、お前なー!」

「ねぇねぇ。有咲も沙綾も何で恥ずかしがってるの?ねぇねぇ、何で?あと、パンドラの箱って何!?」

「香澄!うるせー!」

どんちゃん騒ぎをするPoppin`Partyのメンバー達。しかし、りみだけは固まったままだった。それに気付いた沙綾は「りみりん?」と声をかけた。しかし、りみから返事は無かった。

「りみりん?本当に大丈夫?」

沙綾が俯いているりみの顔を覗き込むと、見たことないくらい顔を真っ赤にして、あわあわしていた。

「(あっ。りみりんのキャパを超えちゃった…。)」

沙綾は苦笑いしながら思っていた。

 

─────────────────────

「…なるほど。」

話を聞き終わった潤はボソッと言った。

「潤くん…。ゴメンね?」

復活したりみもボソッと言った。顔は相変わらず赤いままだが…。

「りみは悪くないよ…。てか、誰も悪くない…かな?」

潤の言葉を聞き、有咲と沙綾は顔を見合わせた。ちなみに、香澄とたえは潤の持ってきたお土産の紅葉饅頭を美味しく食べる為にお茶を取りに行っている。

「でも…。まさか香澄があそこまで無知だとは…。」

「あはは…。」

有咲が呆れながら言う。沙綾も苦笑いをした。

「まぁ。戸山さんらしいけど…。」

潤とりみも苦笑いを浮かべた。

「ところでさ…。」

有咲は潤とりみの顔を交互に見ながら言った。

「…本当はどうなんだ?したの?」

「ち、ちょっと!有咲!?」

「だって気になるじゃん!沙綾は気にならないのかよ!」

「気にはなるけど…。」

今更だが、Poppin`Partyは高校生のガールズバンドである。高校生と言えば多感な時期である為、聞いてはいけないと思いつつも、好奇心が勝ってしまった。

「もうはっきりさせた方が良いかな?」

潤はりみの方を見ながら言った。りみは静に頷いた。

「結果から言うと、何もしてないです。」

「…マジ?」

有咲は潤の発言が信じられないと言った顔でりみを見た。りみは小さくまた頷いた。

「マジか…。」

「市ヶ谷さん?僕たちはまだ高校生ですよ?そんな事をするなんてまだ早いですよ。」

潤は真顔で答えた。しかし、心の中では「(まぁ…。興味が無いって言ったら嘘になるかな…。)」と思っていた。

「そ、そっか…。なんて言うか、一宮さんすげーな…。」

「う、うん。潤君が真面目って知ってたけど、ここまでとは。」

潤の発言を聞き、有咲と沙綾は賛辞を送った。

「ありがとう。一応、花咲川の風紀委員の紗夜姉さんの親戚だからね。似たのかな?」

潤は得意気に言った。

「それにしても、りみは大事にして貰ってるな。安心した。」

有咲がりみに言った。

「うん!本当に大事にして貰ってるよ!チョココロネ沢山買って貰ってるし!」

りみが嬉しそうに言うと潤は沙綾の方を見た。沙綾は視線を明後日の方向に向けた。

「じ、じゃあ、旅館では何をしてたの?」

沙綾が話題を変えた。

「えっと。テストがあったから勉強したり、ご飯食べたり…。あっ。そうそう。部屋にね、露天風呂があって、潤くんと一緒に入ったりしたよ。」

「ち、ちょっと!りみ!?」

とんでもない事を言い出すりみに潤は驚きながら止めたが、後の祭りだった。

「仲が宜しいことで…。ごちそうさま。」

「…だな。」

再び、固まってしまったりみを見て、潤は「はぁ~。」とため息をついた。

 

─────────────────────

旅行から帰ってきて1週間を過ぎた。世間は年末に向けて騒がしくなって来ていた。気温も段々と下がってきており、朝方には霜も降っていた。そんな日に潤は自室にて正座をしていた。潤の前には紗夜が仁王立ちで般若のような顔をしており、椅子には日菜が座って、その様子を見て笑っていた。

「潤さん?」

「も、も、申しわけありませんでした!」

紗夜の手には潤の答案用紙が握られていた。

「おねーちゃん!潤君のテスト見せて!」

日菜が言うと、紗夜は手渡した。日菜が点数を見ると最高点が70点、最低点が59点だった。

「潤君?今回もこの点数って?」

「…全部、平均点でした。」

「本当に全部、平均点ジャストって凄いよね!るんってきた!私、出来ないもん!」

「日菜…?出来なくて良いのよ…?」

紗夜は呆れながら言った。

「さて、潤さん。旅行に行く前、凄く、余裕そうに見えましたが?」

「さ、紗夜姉さん?い、一応、現状維持ですよ?り、りみも現状維持でした…し…。」

「貴方の点数の現状維持と、牛込さんの点数の現状維持を一緒にしないで下さい。」

紗夜はギロッと潤を睨み付けた。

「な、なんでりみの点数を紗夜姉さんが知ってるんですか!?」

「本人に聞きました。」

平然と答える紗夜に潤は頭を抱えた。いや、抱えたいのは紗夜の方だろうが…。

「はぁ~。全く…。なぜ、貴方は…。」

「まぁまぁ!おねーちゃん、それ位にしてあげなよ?」

「…そうね。」

意外に早く終わった説教に潤は胸を撫で下ろした。

「ところで、潤君!ギターは練習してる?」

日菜は部屋に置かれていた赤と黒のチェックのエレキギターを見て言った。夏に潤の誕生日に紗夜と日菜が送った物だった。

「一応は…。」

「弾いてみてよ!」

日菜が明るく言うと、潤は頷き、ギターを手に取った。弾き始めたのは「Determination Symphony」だった。潤がRoseliaの中で1番好きな曲だった。決して、上手いとは言えないが潤はなんとか弾ききった。

「だいぶ弾けるようになりましたね。」

「弾けるようにならない方がおかしいですよ。凄い人達に教えて貰ってますから。」

潤は紗夜と日菜には勿論の事、りみ経由で香澄やおたえ、更にバイト先では蘭やモカにも習っていた。

「勉強もそれ位、努力して欲しいです。」

「…善処します。」

潤が小さくなりながら言った。

「潤君って、いっつも善処しますって言うけど、善処したことないよね~。」

日菜が笑いながら言った。

「確かにそうね。」

紗夜が腕を組み、考え出した瞬間、潤の部屋の扉から「コンコン」と音がした。潤が「どうぞ?」と言うとりみが入ってきた。

「こんにちは。紗夜さんも日菜さんもこんにちは。」

「りみちゃん!いらっしゃい!」

「牛込さん。丁度良い所に来たわ。」

紗夜が言うと、りみは「へ?」と呟き、首を傾げた。

「どうしたら潤さんの成績が上がると思いますか?」

「ちょっと紗夜姉さん!?」

潤は叫んだが、りみは「あー。」と言い、納得した。

「なにか良い案はありませんか?」

「塾とかは?」

思案している中、日菜が言った。

「えっと、潤くんは塾に行っても、あまり効果がないような…。」

「りみ!?」

「あ、ご、ゴメンね?」

りみの意見に潤が抗議をした。

「私も牛込さんの意見に賛成です。」

「それで…なんですが…。紗夜さんが潤くんの家庭教師になるのが1番効果がありそうかなぁって…。も、勿論、紗夜さんの迷惑では無ければですが…。」

「りみ!?」

「いえ。それは名案だわ。そうしましょう。早速、来週から始めましょう。」

「で、でも、紗夜姉さん?来年は受験だよね?」

潤は、紗夜の家庭教師を避ける為に言った。潤の脳裏には夏休みの宿題で紗夜のスパルタな指導を思い返していた。

「大丈夫です。潤さんを教える事で私も復習になるので。」

「さ、紗夜さん。私も参加して教えて貰ってもいいですか?」

「勿論です。」

話がどんどん進んでいき、潤は「(ぼ、僕の意見は?)」と思っていた。しかし、そんな事を言ってしまったらと思うと、潤は受け入れるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




旅行編、時間がかかってしまい申しわけありませんでした。
無事に完結出来て、ホッとしております。
感想&評価もお待ちしております。

ちなみに、潤がりみに大量にチョココロネを買っている理由はコラボ作品である「チョココロネの逆襲」を読んで頂けたらわかります。
沙綾が関係しています!


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コラボ作品
チョココロネの逆襲  ※コラボ作品


初コラボ作品です。
ソウソウさんの作品、「Dreamer of Drummer」とコラボさせて頂きました。
同じ世界観で違うお話しとなっています。ソウソウさんの作品も是非読んで下さいね!

ソウソウさんの作品
Dreamer of Drummer
https://syosetu.org/novel/147229/


「毎度ありがとうございます♪りみりんにもよろしく~!」

潤は沙綾からパンパンになった袋を受け取る。中身はチョココロネが大半を占めている。端から見れば、「チョココロネが大好きなお客さん」だが、それならばもっとホクホクとした顔をしているはずである。しかし、潤は深~いため息をついていた。

「(今日もからかうだけからかわれて、気付いたら大量のパンを買ってる…。)」

潤は軽くなった財布を見て、再びため息をついた。

潤がやまぶきベーカリーに通うようになったのは彼女であるりみからの薦めとそのパンを美味しさにハマったからだ。どのパンも美味しく、正直外れは絶対にないと言い切れる。しかし、そんな美味しいパンを手に入れる為に潤は多大なる犠牲(潤の精神力と財力)を払わなければならない。なぜなら、やまぶきベーカリーの看板娘「山吹沙綾」のせいだ。今日も潤がりみにした告白の事で笑われたり、りみの名前をどんどん出してチョココロネを追加された。よく言えば商売上手、悪く言えば潤をからかって楽しんでると言える。

「(なんでこんな事に…。毎回、凄い量のチョココロネ…。いや、美味しいんだけどさ…。)」

潤は考えていた。本当に気付けばこうなっている。しかし、潤もただ沙綾に言われるままになっている訳ではない。やまぶきベーカリーに行く前はシミュレーションにシミュレーションを重ね「今日こそはからかわれないようにしよう。」「自分の欲しいパンだけ買う!」と心に決めているも、上手くいった試しがない。

「(う~ん。ここまで来て負けっぱなしは悔しい…。絶対にギャフンと言わせてやる!)」

潤はパンが入っている袋を手に自宅に帰るのであった。

 

─────────────────────

「ただいま~。」

潤が玄関を開けると、彼女であるりみが飛んできた。

「おかえり。お邪魔してるよ?」

りみは料理の勉強の為、朝と夕の前には必ず潤の家に来ていた。

「りみ。ただいま。今日は早いね。」

「うん。ポピパの皆、用事があったから早めに来ちゃった。潤くん?その手に持ってるのはひょっとして…。」

「うん。やまぶきベーカリーのパンだよ?」

「え!?本当に!?チョココロネは?」

「もちろんあるよ。」

潤がりみにやまぶきベーカリーの袋を渡すと直ぐに中を開けた。

「チョココロネやぁ~。しかも、こんなに沢山!潤くん。ありがとう!」

満面の笑みで喜ぶりみを見て、潤は

「(この笑顔が見れるなら買ってきて良かった。)」

と思った。しかし、直ぐにブンブンと首を振った。

「(ダメダメ!買ってるじゃなくて買わされてるんだから!どうにかしないと…。)」

とう~んと考えた。

「はむっ。潤くん…。どう…したの?」

りみはチョココロネを食べながら聞いた。

「りみ?とりあえず、チョココロネ食べてからで良いよ?」

りみに向かってニッコリ笑うと潤は着替えをする為に、自室に戻った。そして、リビングに向かうとりみはまだチョココロネを堪能していた。凄く幸せそうな表情で…。

「潤くん?さっきは何を考えてたの?」

チョココロネを食べ終わったりみは聞いた。

「えっとね。山吹さんの事なんだけど…。」

「山吹さん?沙綾ちゃんのことかな?」

「そうだけど…。あれ?沙綾さん以外に山吹さんっているかな?」

「ううん!何でもないの!それで、沙綾ちゃんがどうしたの?」

りみが手をパタパタさせながら言った。

「えっとね。やまぶきベーカリーに行く度にね。毎回からかわられててね。なんかギャフンって言わせたいなぁって。」

「からかわれる?どんな風に?」

「りみの事だったり、りみの事だったり…。りみの事だったり?」

潤が指を折りながら言う。

「わ、わ、私のこと!?例えばどんなこと?」

「…りみにした告白の事とか、りみと何処まで進んだかとか挙げれば切りがないかな?」

潤は苦笑いする。りみはそれを聞いて顔を真っ赤にした。

「こ、答えたの?」

「まさか!」

潤は焦って言った。

「(大体、何処まで進んだかって、りみとはキスくらいで…って何言わしてるんだよ!)」

心の中で潤はツッコミを入れた。

「う~ん。沙綾ちゃん。私の前ではそこまで言わないのに…。う~ん。沙綾ちゃんをギャフンと言わせたいかぁ~…。あっ!」

りみは頭を捻っていたが、突然、手をポンと叩いた。

「何か思いついたの!?」

「確か、沙綾ちゃんにも好きな人がいたはずだよ?」

「…本当?」

りみは「確か…。」と自信なさげに言った。しかし、潤にとっては朗報だった。

「りみ!それいけるよ!僕はいつも大好きな彼女のりみの事でイジられてるんだ!だから目には目を、好きな人の話なら好きな人の話をだよ!よ~し!絶対ギャフンって言わせてやる!」

「…じ、潤くん?」

やる気をみせた潤だが、りみは恥ずかしそうに潤の袖を引っ張って潤を呼んだ。

「りみ?」

「い、今、だ、大好きって…。」

「あ…。」

「もう1回言って?」

上目遣いで目を潤ませながら見るりみに潤はノックアウト寸前になった。

 

その頃、やまぶきベーカリーでは…。

「くしゅん!」

「………風邪でもひいたん?」

「くしゃみ一つで流石に違うと思うけど。あ、誰かが私の噂をしてたとか」

「だとしたら。さーちゃん、また何かやらかしたんか」

「またってどういうことかな~?でも、心配してくれてありがとね、ソウ君」

 

─────────────────────

次の日、潤は戦場に向かっていた。

「(山吹さんを揺するネタもある。どんな風に聞くかもシミュレーションもバッチリ!そして、一応…財布の中身も補充した。)」

ここまでしたならバッチリと潤はグッと手に力を入れた。

「よし!やってやるぞー!」

気合いをいれる為に叫ぶ!

「ママ~。あのお兄ちゃん何してるの?」

「しっ!早くいくわよ!」

完全に不審者となった潤は「…あっ。」と呟き、足早にやまぶきベーカリーに向かった。それから歩いて5分後には到着していた。

「(よし。行くぞ!)」

潤は扉を開いて中に入った。

「あっ!潤君。いらっしゃい。チョココロネ焼きたてだよ!」

笑顔の沙綾が出迎えてくれた。

「やぁ!山吹さん。こんにちは。」

トングとお盆を持って、店内を潤は回った。

「(えっと、メロンパンとカレーパンにしようかな?)」

「チョココロネ焼きたてだよ?」

「(あ~でも、カツサンドも美味しそうだなぁ~。)」

「愛しの彼女の大好物のチョココロネが焼きたてだよ~?」

「(うっ…。いやいや。いつもこの言葉にやられて、チョココロネを買ってしまうんだ。)」

「可愛いくて、可愛いくてしょうがない彼女の大好物のチョココロネが焼きたてだよ?一宮潤君?」

「あーもう!分かったよ!チョココロネ1個買うよ!」

「毎度、ありがとうごさいます!」

「(し、しまった!また山吹さんに乗せられてしまった。)」

ニヤリと笑う沙綾に潤は苦笑いをした。

「(よし!自分のパンを選び終えた!仕掛けるならレジにパンを置いた時だ!)」

潤は何度目か分からない気合いを入れてレジに向かう。

「いつもありがとうね!お会計で良い?」

「うん。ありがとう。ところで、山吹さん?」

「なに?」

沙綾はパンを袋に詰めながら答えた。

「あのさ、好きな人…いるでしょ?」

「うん!香澄でしょ。おたえでしょ。有咲でしょ。もちろんりみりんも大好きだよ!」

「そういうことじゃ無くて!」

指を折りながら笑顔で言う沙綾を潤は慌てて止めた。

「え?好きな人でしょ?」

「山吹さん!惚けないで!好きな異性がいるかって事だよ!」

「いないよ?誰から聞いたの?」

「え?」

「だから。いないって、そんな人。私、女子校だよ?出会いないって!」

あはは!と笑いながら言う沙綾に潤は唖然とした。

「(う、嘘?りみの情報、間違ってたの?)」

「誰から聞いたの?りみかな?」

「…うん。」

「やっぱり~。なら、間違ったからチョココロネ1個追加しとくね?」

「え?」

笑顔を崩さず勝手に袋の中に沙綾がチョココロネを1個追加した。

「もう1個買ったら、りみ喜ぶだろうなぁ~。昨日もりみ喜んだでしょ?」

「い、いや。喜んだけど、これ以上は…。」

「え?いらないの?」

「…頂きます。」

りみの喜ぶ姿と財布の中身を天秤にかけた潤。天秤にかけた時点でチョココロネを1個追加する事が確定してしまった。

「はい!お会計900円ね!」

潤は泣きそうになりながらお金を出した。今日も潤の完敗であった。ちなみに、家に帰り、チョココロネを3つ出すと、りみは苦笑いしながらもあっという間に食べてしまった。

 

─────────────────────

沙綾の好きな人を聞いてから数日が経っていた。しばらくバイトが忙しく、なかなか山吹ベーカリーに寄れなかった潤。今日はバイトが休みだった為、学校終わってすぐに帰宅していた。

「(からかわれるけど、やまぶきベーカリーのパン食べたいなぁ~…。)」

帰宅時間はちょうど小腹が空く時間帯だった為、余計にも潤の足はやまぶきベーカリーに向かった。

「(パン、何にしようかな?)」

こういう時、外れがないパン屋だと、何にするか迷ってしまう。潤の脳内はメロンパンにしようか、クロワッサンにしようかと考えていた。

「(着いちゃった。まぁ、店内に入ってから悩もう。)」

そう考えながら扉に手をかける。しかし、潤はその扉を開けずに固まってしまった。

「(あれ?山吹さんだよね?凄く楽しそう?)」

潤は扉を開けるのを辞めて、店内を覗いた。

「あれは…誰だ?」

あきらかに潤より高い身長。そして、中性的な顔立ちをしている青年がいた。

「あれ?山吹さんに…似てる?かな?」

尚も楽しそうに会話をする沙綾。潤はため息をついた。

「何が好きな人はいないだ。バッチリいるじゃん。」

沙綾の表情はりみと同じ、つまり恋する乙女のような雰囲気だった。

「…とりあえず、入ろうかな?外にいてもしょうがないし…。」

潤は再び、扉に手をかけて入店した。

「こんにちは。山吹さん。」

「あっ。潤君。いらっしゃい。」

沙綾が恋する乙女の雰囲気を捨て去って、いつも通りの接客をすると、沙綾と話していた青年も潤の方をみた。

「ん?どっかで見た記憶があるような………」

「ソウく~ん?一緒の職場でバイトしてるでしょ」

「え?貴方もCiRCLEで働いてるんですか?」

「なんで潤君も知らないの?」

沙綾と話していた青年、山吹蒼真と一宮潤はCiRCLEでバイトをしている。

「なんでだろ?」

「まぁ………まりなさん曰く俺は出現率稀な珍獣的扱いらしいし」

蒼真と潤は顔を見合わせながら言った。そして、自己紹介をした。

「山吹さんのバンドの事はよく聞いてますよ!アークラでしたよね?」

「おっ?知ってもらえてるとは光栄やね。これでも、さーちゃんと同じドラムをしてるんよ。それと俺の事は蒼真でもソウでもお好きな方で呼んでくれたらええよ。山吹やと被っちゃって面倒やし」

「なら、蒼真さんと呼びますね!」

「う~ん………敬語も無しでええかな」

「それは無理です!蒼真さん年上でしょ?」

「あのさぁ!」

潤と蒼真が盛り上がっていると、レジにいる沙綾はレジを「バン!」と叩き叫んだ。潤と蒼真はビクッとなり、沙綾を見ると、不機嫌そうな沙綾がいた。

「レジの前で喋ってるけど、パン買うの?買わないの?」

「「か、買います…。」」

沙綾の迫力に潤と蒼真はパンを話ながら選び出した。

「潤はパンを買いに来たんやろ?何にすんの?」

「そうですね…。いっつも迷っちゃうんですよね。」

「やったらさ、チョココロネなんてどう?」

「…。蒼真さんもチョココロネを勧めますか?」

「ん?」

「いつも山吹さん…沙綾さんに大量に勧められるんです。」

「ほほ~ん。やからか。最近、チョココロネの売れ行きが無駄に上がってるのは」

「蒼真さんは牛込りみさんってご存じですか?」

「そりゃ、もちろん。チョココロネ一筋ポピパのベース担当りみりんちゃん」

「…。実は僕の彼女なんです。」

「………そっか。りみりんちゃんの彼氏………彼氏!?」

潤の発言に蒼真は驚いた。

「本当ですよ。それで、沙綾さんにいつもりみの名前を出されてチョココロネを…「潤君!ストップ!」…です。」

潤が喋っている途中で沙綾が叫んで遮った。

「さーちゃん?急にどした?」

「あっ…いや…。な、何でもない!」

「へー」

沙綾は顔を赤くして俯いた。そんな沙綾を見て潤は「(やれやれ。)」と心の中で呟いた。

 

─────────────────────

それから少し経って、蒼真はバンド練習の為、帰って行った。潤もパンを選んで、レジに向かった。

「やれやれ。好きな人はいないって言った山吹さん?会計お願いします。」

「…はい。」

沙綾は尚も顔が赤いまま、慣れた手つきでパンを詰める。

「蒼真さんの事が好きなんだよね?表情が恋する乙女だったよ?」

潤がニヤニヤしながら言うと、悔しそうな表情で沙綾が「潤君の癖に…。」と呟いた。

「そう言えば、今日はチョココロネ、勧めてこないね。」

「…今日は良い。」

普段、からかわれている潤だが、今日だけは勝ちを確信した。

「いやぁ~。良い物見させて貰ったよ~。今日は気分が良いからチョココロネ買っていくよ!5個貰うね!」

「え?今日は良いって。」

「大丈夫だって!」

沙綾の発言を無視して潤はチョココロネを追加した。

「ありがとうございました。わ、分かってると思うけど、ソウ君には内緒にしてね?」

「もちろんだよ。じゃあ、また来るね。」

潤はやまぶきベーカリーを清々しい気分で出た。

「(遂に山吹さんに勝った!…でも、本当に好きな人居たんだなぁ…。もし、協力出来る事があったら惜しみなく協力しよう…。山吹さんが僕に相談するかどうか分からないけど…。)」

潤は考えながら家に向かった。家に着くと美味しそうにチョココロネを沢山食べているりみがいて、潤は固まった。

「(このチョココロネどうしよ!…って、山吹さん、チョココロネを勧めなかったのは既にりみが沢山買ってたから?…じゃあ、別に僕が蒼真さんに会わなくても勧めなかったの!?)」

潤は額に手を当て、項垂れたが、「(まぁ…いっか!)」と思い、追加されたチョココロネを嬉しそうに見つめるりみを見ていた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
初コラボ作品ということで、戸惑ってしまう部分もありましたが、とっても楽しく書けました。自分には無い作風、そして文章の書き方など本当に参考になりました!
貴重な機会を頂いて、ソウソウさんには本当に感謝してます!
ソウソウさんの作品、「Dreamer of Drummer」は本当に面白いので是非読んで下さいね!


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チョココロネ争奪戦

まさかのコラボ2弾目です。
今回はキズナカナタさんのモカ小説「いつも通りの日常に夕焼けを」とのコラボです。
キズナカナタさんの方にも全く違うストーリーが上がっています。
よろしくお願い致します。

https://syosetu.org/novel/175206/


ある日のやまぶきベーカリー。今日も様々なパンが並び、その1つ1つが輝き、そしてかなり良い香りを店内に漂わせていた。

「ありがとうございました!」

看板娘でもある沙綾がペコリとお辞儀をし、お客様を見送ると「ふぅ。」と息をついた。休日でも平日でもいつも人気があるやまぶきベーカリー。朝のラッシュを終え、ようやく一息つける所まで落ち着いていた。しかし、今日はパン屋の神様が沙綾を休ますつもりがないのか、すぐに客が店内に入った事を告げる鈴が店内に鳴り響いた。

「いらっしゃいませ!ってりみりん!」

「沙綾ちゃんおはよ。」

一息つけないと思った沙綾だったが、来たのがりみと分かると、途端に営業スマイルではなく、満面の笑みを浮かべた。

「チョココロネ買いに来たの?」

「うん。まだあるかな?」

「あ~…。今日はよく売れたから…。」

沙綾は困った表情を浮かべながら売り場の方をチラッと見た。チョココロネのコーナーにはポツンと遠慮の塊のように1つだけチョココロネが寂しそうにたたずんでいた。

「い、1個…だけ?」

「うん…。今日はよく売れたから。」

先程も言ったが、今日はお客の入りがとても良かった為、チョココロネに限らず、他のパンも残り少ない状況であった。

「さーや~。」

りみがチョココロネが残り少ない事にガッカリして「早く来たら良かった」とため息をつくと同時にまた1人、新たな客を扉の鈴が告げた。

「いらっしゃいませ!ってモカ!」

「やぁ~さーや。美少女モカちゃんが来たよ~。」

沙綾は自分の知り合いがどんどん来店して来て、嬉しさでいっぱいになっていた。

「さーや~?なんか~パン、少ない~?」

いつものように間延びしたしゃべり方をするモカであったが、表情は残念そうな、悲しそうな、なんとも言えないものになっていた。

「さっきりみりんにも言ったんだけど、今日、お客さんが多かったから…。」

「そっか~…。」

「チョココロネも一個しかないんだ。」

りみも残念そうに言うと、トレイとトングを持って、チョココロネの売り場に向かった。沙綾の言った通り、大きいお盆の中にポツンと寂しそうに1つだけチョココロネが置いてあった。

「はぁ。本当に1つだけだ…。」

「りみりん~。」

「モカちゃん?なぁに?」

ため息をつきながらチョココロネを眺めていたりみにモカが肩をちょんちょんと突きながら声をかけた。

「そのチョココロネ~。買うの~?」

「へ?う、うん。そのつもり…だよ?」

「そっか~。」

ニヤリと笑いながらりみに声をかけたモカだったが、りみの返答を聞いて表情を曇らせた。

「も、モカちゃん?どうしたの?」

「実はね~。モカちゃん、今日、ど~してもチョココロネの気分なんだよね~。」

「ふぇ!?」

モカの発言を聞き、りみは目を丸くして驚いていた。そして、チョココロネとモカを交互に見ていた。

「ごめんなんだけど~。チョココロネ、譲って欲しい~なぁ~。」

「…え?だ、ダメ…。」

「なんで~?りみりん、いつも食べてるじゃん?」

ニヤリと笑いながら言うモカにりみは困ったように眉を八の字に下げた。

「まぁまぁ。2人とも落ち着いて。」

2人の様子を見ていた沙綾は2人の間に割って入った。

「沙綾ちゃん?チョココロネって今、焼いてる?」

「ごめんね。他のパンも少ないからそっちを焼いてるみたいだから…。当分先になっちゃうかな?」

「りみりん~。譲ってよ~。」

「え!?」

りみとモカも性格的には譲り合うタイプであると思うが、今日に限っては2人とも余程食べたいらしく、2人の間に火花が散ってもおかしくない雰囲気になっていた。

「だから、2人とも落ち着いて!…そうだ!2人とも彼氏とはどう?」

沙綾は2人が喧嘩をする前にとりあえず、違う話題を振った。違う話題をする事で雰囲気を変えようとしたのだったが、これがやまぶきベーカリーを戦場に変えてしまうとは今の沙綾には知る由もなかった。

 

─────────────────────

突然沙綾ちゃんから「彼氏とはどう?」と聞かれ、目を丸くしてしまいました。モカちゃんも「遼~?」と沙綾ちゃんに聞き返しています。表情はビックリした私とは違い、ニヤリと笑ったままでしたが…。

「私は~、順調だよ~?」

「わ、わ、わ、私だって仲良くしてるよ?」

潤くんの話になるのは、Poppin`Partyのみんなといるとよくする話題でしたが、何故かまだ顔が暑くなってしまい、つい上擦った声になってしまいます。そんな私を見て、モカちゃんはまたニヤリと笑いました。

「ほぅほぅ。りみりんは、いっくんの話題になるとまだ恥ずかしいみたいですなぁ~。」

「い、いっくん?」

「モカ?一宮さんだからいっくんって呼んでるの?」

私がモカちゃんだけが呼んでいるあだ名にクエスチョンマークを浮かべていると沙綾ちゃんが解決してくれました。モカちゃんは分かってくれたのが嬉しかったのか、更に口角をあげ「そーだよ。」と言いました。

「で、りみりんは~、まだ恥ずかしいの~?」

「は、恥ずかしくなんてない…よ?」

「そっか~。でも、顔、真っ赤だよ?リンゴみたいで美味しそう~。」

モカちゃんはそう言うと、私の両肩に手を置きました。本当に食べられちゃうと思ってしまった私はギュッと目を瞑ってしまいました。

「あははー。本当に食べるわけないじゃん~。」

「ふぇ!?」

モカちゃんの言葉に慌てて目を開けると、ニヤニヤと笑ったモカちゃんの顔が目の前にあり、騙された恥ずかしさや、同性から見ても美人なモカちゃんの顔が近くにある状況にドキドキしたり、色々な感情が入り乱れてしまいました。

「モカ?あまりからかわないの!」

「さーせん。」

沙綾ちゃんが苦笑いをしながらモカちゃんはスッと私から離れました。

「も、モカちゃんは遼君と、普段は何をしてるのかな?」

「ん~?散歩したり~、Afterglowの練習に付き合ってもらったりしてるよ~?」

何かモカちゃんに仕返しをしたい一心で私は口を開きましたが、モカちゃんは人差し指を顎に当てて、「う~ん」と考えながら淡々と答えまさした。恥ずかしがる私とは大違いです。

「そういえば遼君…。Afterglowのマネージャーしてるんだよね?」

「そうだよ~。6人目のメンバーだよ~。でも、それだけじゃなくて~。ギターも上手なんだよ~。」

モカちゃんは誇らしげに言いました。私のか、か、彼氏の潤くんもギターを持っています。でも…。

「そー言えば、いっくんもギター始めたんだよね?この前、CiRCLEで~、教えたよ~?理解してないみたいだったけど~。」

モカちゃんの言うとおり、潤くんは親戚である紗夜さんや日菜さんからギターを誕生日のプレゼントで貰い、ギターを始めました。確かに、始めたばかりなのでお世辞にも上手とは言えませんが…

「も、モカちゃん!じ、潤君だって始めたばかりで一生懸命頑張っているんだから!」

「知ってるよ~?りみと一緒に弾くんだって言ってたよ~?頑張ってたね~。」

「…あぅ。」

ちょっとだけムッとしてモカちゃん強く言ってしまいましたが、それをサラリとかわすようにモカちゃんが潤くんが言っていた事を私に伝えてくれました。そんなことを言われたらまた恥ずかしくなり、言葉が出てきませんでした。

「りみりん愛されてるね~。」

「うぅ…。は、恥ずかしいから…。や、止めてよ…。」

「えー?でも~、いっくんってあまり勉強は出来なさそうだよね~?」

「ちょっとモカ!?」

モカちゃんはまた顎に人差し指を当てながら言いました。モカちゃんの癖なのかな?

「そ、それに関しては…否定できない…かな?」

「りみりん!?」

沙綾ちゃんが慌ててフォローしてくれようとしましたが、私は苦笑いを浮かべてしまいました。

「りみりんは~、普段、いっくんとは何しているの~?」

モカちゃんがさっき、私がした質問をしてきました。さっきのお返しという事かな?

「う~ん。毎日会ってるから…他愛ない話をしたり、ショッピングモールに行ったり…かな?」

「ほぅほぅ。毎日会うって凄いねー。モカちゃんびっくりー。」

モカちゃんは本当に驚いているのか分からないですが、大好きな人に毎日会いたくないのか?モカちゃんの言葉を信じるなら毎日会ってないんだよね?

「モカちゃんは毎日会ってないの?会いたくない?」

「んー?毎日は会ってないかな~?会いたいけどー、遼も忙しいだろうし~。」

「そ、そっか。私は、料理の勉強の為に毎朝と毎晩、潤くんの家に行ってるんだよ。潤くんのお母さん、料理が凄く上手だから。」

私がそう言うと、モカちゃんは目を見開きなが「料理!?」と言いました。

「いいなぁ~。モカちゃんも美味しい料理食べたぁい~!」

「じ、潤くんに聞いてみるね?」

「おぉー!りみりん!今日から神と崇めよう!」

モカちゃんはそう言うと手を私の手をギュッと握って来ました。突然のモカちゃんの行動にドキドキしてしまいました。さっきからモカちゃんに振り回さぱなしです。

「でも~料理なら遼も上手なんだよね~。」

「へ?遼君も料理するの?」

「そーだよ。美味しいんだよ。いっくんは~?料理するの~?」

「じゅ、潤くんはしない…よ?」

潤くんが包丁を握っている姿を見たことはありません。料理、したことあるのかな?

「ふっふっふ~いっくんより遼の方が良い彼氏ぽいねぇ~。」

「へ?」

またモカちゃんがニヤリと笑いました。その表情に私はムッとしてしまいました。

「そ、そんな事ないよ!」

「えー?あるんじゃない?」

モカとりみがギャアギャアと言い合いを始めると、側で会話を聞いていた沙綾はため息をつきながらスマホをそっと取り出すのであった。

 

─────────────────────

「潤くんはとっても優しいんだよ!私の事を1番に考えてくれるし!」

「それは~遼もだよ~?」

2人の言い争いは終わらず、お互いの彼氏自慢になっていた。最早、当初はチョココロネのせいで始まった言い争いだったが、すっかりチョココロネの事は忘れ去られ、トレイにちょこんと置かれたままであった。

「りみ!?」

「モカ!?」

やまぶきベーカリーの扉の鈴が鳴った瞬間にお互いの彼氏である潤と遼が息を切らしながら入店してきた。

「じゅ、潤くん?な、なんでここに?」

「やぁやぁ~遼。息を切らしてどうしたの~?」

りみとモカがそう言うと、2人の彼氏はそれぞれの彼女の首根っこを掴むと離れた位置に移動した。

「りみ!青葉さんと喧嘩してるって山吹さんから聞いたよ!?やまぶきベーカリーで何してるの?」

「…うぅ。」

「モカ!牛込さんをずっと煽ってるって沙綾さんから聞いたぞ!?やまぶきベーカリーで何してんだよ!」

「さーせん。りみりんの反応が楽しくてつい~。」

「「全く…。」」

潤と遼がため息をつきながら宥めると、2人は振り返り、近づいた。

「遼君、うちのりみが本当にごめん。」

「いやいや。うちのモカもすまん。煽ってたのはモカらしいから。」

2人がペコペコと頭を下げると、りみは罰の悪そうな表情を浮かべ、流石のモカも眉を八の字に下げていた。

「モカちゃんゴメンね。」

「ううん~。私もやり過ぎた~。でも、りみりんの反応、可愛かったよ~。」

「も、モカちゃん!?」

モカの発言に再び、りみは顔を真っ赤にした。

「山吹さんもすみませんでした。お詫びにパン買って帰りますね。」

「俺もそうする。」

「そんな気にしなくて良いよ。私はりみとモカが大事にされている事が分かって満足だよ!いやぁ~。ラブラブだね~!」

潤と遼の提案と謝罪に沙綾はニコニコしながらそう返すと、2人はポリポリと頬を掻いた。

「2人とも知り合いだったの?」

「そうだよ?」

りみの質問に潤はそう言った。横で遼も頷いていた。

「へぇー。いつの間に。」

「まぁ。色々あってな。モカ、好きなパン、選んで。迷惑かけたから貢献しなくちゃいけないから。」

遼がモカにそう言うと、モカは目を輝かせトレイとトングを持ってパンに飛びついた。

「りみもパン選ぼう?」

「うん…。ゴメンね?」

こうして、お互いの彼氏によって、この騒動は収まりました。めでたしめでたし。

 

 

にはならなかった。

「潤。俺が払うから。」

「いやいや。僕が払うから。バイトしているし気にしないで!」

「俺もしてるから。」

「でも、多分、僕の方が時給良いはずだから!」

潤と遼のどちらが払うかという押し問答はしばらく続くのであった。

「自分のだけ払えば良いのに~。」

「だよね…。」

りみとモカはそんな2人を見て、ボソッと呟いた。沙綾はなかなか買ってくれない客に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




キズカナさん!
ありがとうございました!

本編はまだまだ続きますが、今、仕事とプライベートの方がかなり忙しい為、執筆が遅れています。

申し訳ありません。


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大事な大事な報・連・相

コラボ第3段です。
今回は空丘ルミィさんとのコラボです。
空丘ルミィさんの方では既にアップしています!
そちらも合わせてよろしくお願いします。

作者:空丘ルミィ
作品名:終わりと始まり
https://syosetu.org/novel/208672/

Twitter:https://mobile.twitter.com/Kanon_roomy_ako


12月31日と言えば、ほとんどの人間が「大晦日」と答えるだろう。1年最後の日だからかは分からないが、ワクワクするようなドキドキするような不思議な気持ちになる。そんな日の夜、潤とりみは潤の家のリビングにあるコタツに入り、歌番組を見ていた。

「今年も…終わっちゃうね。」

「そうだね。今年は色々あったなぁ…。」

「私も…。ポピパに入って、潤くんとも仲良くなれたし。」

りみはコタツに置いてあるミカンを取ると皮を丁寧に剥き出した。時刻は夜8時。先程、年越しそばを食べたばかりなのにも関わらず、ミカンを食べる彼女に潤は苦笑いを浮かべた。

「相変わらず、よく食べるよね?」

「ふぇ?ふ、普通…じゃないかな?」

りみは恥ずかしそうに言うも、手を止める事はなく、次々と口にミカンをほうばっていった。

「ところで、潤くん?」

「なに?」

「紗夜さんや日菜さんは来ないの?」

「え?なんで?」

「へ?えっと…。なんとなく来そうかなって思って。」

「あはは!流石に大晦日に来ない「ピンポーン」よ…。え?」

潤のセリフを遮るように無機質なインターホンの音がリビングに響いた。

「…潤くん?」

「…分かったよ…。コタツから出たくない…。」

潤はコタツから出るとぶるっと身震いをした。

「まさか、本当に紗夜姉さんと日菜姉さんじゃないよな。」

潤はぶつくさ言いながら玄関の扉を開けた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「こんばんは。」

「潤君!こんばんは!来たよ~。」

「あ…。」

潤は目の前に現れた親戚の姉2人に寒さを忘れ固まっていた。

「潤さん?どうしましたか?」

「本当だよ~!普段からだらしない顔なのに、更にだらしなくなってるよ!」

紗夜はため息をつき、日菜はお腹を抱えて笑っていた。

「…だらしなくて悪かったですね。いきなり連絡もなしに来る姉さん方もどうかと思いますよ?って、無視しないでください!」

潤の発言を右から左に流しながら玄関で靴を揃えていた。そして、靴を脱いだ日菜はニヤっと笑っていた。

「りみちゃーん!」

日菜は急に叫ぶとリビングに向かって走り出した。

「ひ、日菜姉さん!?」

「きゃー!」

りみの叫び声が潤の家に響いた。りみの叫び声を聞いた潤は焦ったように玄関からリビングに飛び込んだ。

「あはは~!りみちゃんの反応は面白いなぁ~!」

「ひ、日菜さん!や、や、やめて下さい!あはは!」

潤が見た光景はりみが日菜に捕まり、脇やら横腹を擽られていた。急に抱きついてりみがビックリして悲鳴をあげたと思われた。

「日菜!止めなさい!」

後からリビングに来た紗夜も日菜の行動に眉間に皺を寄せながら言った。

「えぇ?なんで?」

日菜は首だけを紗夜の方に向けた。手は起用に動かしたままだった。

「日菜姉さん!本当に止めてください!りみが、りみが死んじゃうって!」

潤が叫ぶと、日菜はりみの方を向いた。りみは笑いすぎて、涙を流し、変な表情になっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「りみ?大丈夫?」

「…うん。」

潤の横に座ったりみは身体を潤に預けてぐったりしていた。

「日菜?」

「……ごめんなさい。」

紗夜に怒られた日菜はシュンと言う擬音がピッタリ合う様子で頭を垂れていた。

「ひ、日菜さん。私は大丈夫なので…。気にしないでください。」

りみはそう言うと、ギュッとここぞとばかりに潤を抱きしめた。

「はぁ。潤さんに牛込さん。仲が良いのは良いことですが、私たちもいるので、イチャイチャするのは帰ってからにして頂きたいのですが…。」

「えー?イイじゃん!私だって、これくらいするよ?」

紗夜の言葉にりみはパッと潤から離れたが、潤はそれよりも日菜の言葉の意味が分からず、首を傾げていた。

「日菜姉さん?私だってって…どういう事?」

「んー?そのままの意味だよー?」

「日菜、それでは分からないでしょ?ちゃんと言いなさい。」

紗夜はため息をつきながら言うと、日菜は元気よく「はーい!」と手を上げた。

「えっとねー。彼氏が出来たから。」

「…マジ?」

「マジマジ!大マジだよ!」

潤は日菜の顔をじっと見た。始めは嘘をついているのかと思った為だ。しかし、日菜はニコニコしているだけであった。

「日菜先輩!おめでとうございます!」

日菜のニコニコに釣られたのか、りみもニコニコしながら言った。

「潤君は喜んでくれないの?」

「日菜、しょうがないでしょ?普通はビックリするでしょ。」

「はぁ。日菜姉さんの彼氏はどんな方なんですか?」

潤は頭を抱えながら言った。一方のりみは興味津々な様子で、身体を前に乗り出していた。

「えーとね!るん♪ってくる人だよ!」

「る、るん?」

日菜の独特な言葉にりみはニコニコしたまま首を傾げていた。

「りみ。大丈夫。僕もわからないから。」

「なんでー!?なんで分からないの?るん♪はるん♪だよ?」

「…着いてきて正解でした。きっと、こんな風に伝わらないと思いました。」

紗夜は小さくため息をつきながら言った。

「紗夜姉さん。ありがとうございます。改めて聞きますね。日菜姉さんの彼氏さんはどんな方なんですか?」

「…潤さんに似ている部分がありますね。」

「僕に?」

「えぇ。彼も、過去に色々ありましたから。まぁ、潤さんと違って、真面目な方です。」

紗夜は淡々と言った。潤は苦笑いをしながらりみを見たが、りみはムスッとした表情を浮かべていた。

「り、りみ?どうしたの?」

「さ、紗夜さん!潤くんだって真面目ですよ!」

「そうですね。CiRCLEでは真面目ですよ。CiRCLEではね。」

“ では”の部分だけやたら強調して紗夜は言った。

「冬休みの課題はやっていますか?」

「やってますよ。りみと毎日課題を片付けています。」

「そうですか。やはり、牛込さんと付き合って良かったです。牛込さん、ありがとうございます。」

紗夜は頭を深々と下げた。そんなことをされたらりみは焦り、手を身体の前でブンブンと振った。

「それで、日菜姉さんと彼氏さんはどうやって出会ったの?」

「拾ったの!」

「はい?なんですかそれ?まるで捨て犬を拾ったみたいに…。」

「道端で倒れてたから拾ったんだよ!」

日菜はテンション高く喋っていたが、潤は怪訝そうな表情を浮かべていた。

「私も最初は驚きましたが、今は彼がいてくれて良かったと思います。」

「紗夜姉さんがそこまで言うって、余程信頼されてますね。」

「そうですね。貴方より、信頼出来ますよ。」

紗夜はそう言いながら、コタツの上に置いてあるミカンに手を伸ばした。一言余計なんだよと潤は思っていた。

「それで…お名前はなんと言うんですか?」

「やっぱり、潤君、気になるんだー!りみちゃんしか見えてないかと思ってたよ!」

「良いから!日菜姉さん、質問に答えて!」

「緋翠って言うんだよ。」

日菜はスマホのメモを操作すると「漢字はこう書くんだよ!」と言いながら潤とりみにスマホを向けた。

「難しい字…。」

「テストの時、大変そうだね…。」

「名前もかっこ良いけど、性格も顔もかっこいいんだから!」

日菜は胸を張って言うも、潤とりみは苦笑いを浮かべた。

「緋翠さんは苗字を氷川に変えてずっと住んでいるんですよ。だから、私の弟みたいな…。」

「ち、ちょっと待って!」

紗夜が日菜の話の補足を喋っていたが、潤はそれを慌て止めた。

「どうしましたか?」

「…初耳なんだけど?」

「初めて言いましたから。」

「紗夜姉さん!さっきから思っていたけど、僕にあれだけ報告はきちんとするようにって言ってて、自分は報告してないじゃないですか!これを知らずに紗夜姉さんの家に行ってたら驚くじゃ済まなかったよ?」

「そうですか。うちに来る予定を聞いていれば伝えるつもりでしたよ。それに、私は貴方が心配だからちゃんと報告するように言っただけです。貴方がちゃんとしていれば、こんな事いってませんよ。」

いつものように凛々しい顔で答えた紗夜であったが、手元はミカンのアルベドと格闘をしていた。

「うちには突然来るくせに…。」

潤の呟きが、悲しく響いた。それを聞いたりみは苦笑いをまた浮かべた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

それから1時間後、紗夜と日菜は自宅に戻っていた。

「結局、姉さん達は何をしに来たんだろ。」

「知らない…よ?」

「りみ?姉さん達が来ること、知ってたでしょ?」

「ふぇ!?なんで分かったの!?…あ。」

潤は「やっぱり。」と言いながら、ニコッと笑った。

「な、なんで分かったの?」

「姉さん達が来る前からおかしかったもん。予想だけど、ばったり出会って、僕を驚かせたいから行く事を黙ってて。とか言われたんじゃない?」

潤が推理を披露すると、りみはコクっと頷き「正解」と言った。

「はぁ~。やっぱり私、演技とか苦手だなぁ…。」

「良いんじゃない?演技をする場面なんて早々無いよ。」

潤はそう言うと立ち上がった。

「潤くん?どうしたの?」

「コーヒー飲もうと思ってね。いる?」

「う~ん。コーヒーよりココアが良いなぁ。」

「良いよ!了解!」

潤は笑いながら言うと、台所に向かった。コタツから出ると、暖房で暖まっているはずの部屋が寒く感じ、身体をブルっと震わせた。

「ねぇ?潤くん?」

「なに?」

「緋翠君の過去、気にならないの?」

「なんで?」

「えっと…。普通、気にならない?私、気になっちゃったけど、潤くんが聞かないから…。」

りみは再び、ミカンに手を伸ばしながら言った。

「気にはなるよ?でも、僕もそうだけどさ、あまり過去を聞いて欲しくないこともあるんだよね。だから、緋翠君に会って、本人の口から聞くべきだと思うんだよ。だから聞かなかったの。」

潤はインスタントコーヒーとココアを準備しながら言った。

「そっか…。そうだよね…。私、そこまで考えなかったよ。反省…だなぁ~。」

「そこまで、気にしなくても良いんじゃない?話したくない過去の出来事なんて誰もが1つや2つあるだろうし、その過去の話が僕みたいにトラウマになっている人もいるだろうし、そうじゃない人もいるしね。」

「そうかなぁ~…?でも、あの緋翠君が道端で倒れて、それで…。」

「りみ!?知ってるの!?緋翠君の事!?」

りみが反省を口にしている最中に、潤は上から被せるように叫んだ。

「う、うん。顔見知りくらいだけど…。やまぶきベーカリーで会うんだ。」

「僕、会ったことないよ!?」

「たまたまじゃないかな?」

潤は納得いかないという表情を浮かべたが、りみと潤ではやまぶきベーカリーに行く回数が天と地の差くらいあるので、出会ってなくても当然である。

「まぁ…。いずれ会えるよね。もう1人親戚が出来たみたいなもんだし。はい。ココア。」

「ありがとう。そうだね。潤くんと緋翠君なら仲良くなれると思うよ?」

「そう?なら、会う日を楽しみにしているよ。…コタツ、最高。」

潤はコーヒーを机に置くと、すぐにコタツに入った。

「潤くん、オジサンみたいだよ?」

潤の反応にりみはクスクス笑うと、潤は「いーの!」と言い、う~んと伸びをした。

「あれ?りみって、緋翠君の事、知ってたんだよね?」

「うん。でも、本当に顔見知りくらいだよ。どうしたの?」

「さっき、緋翠君の漢字を日菜姉さんが見せてくれた時に覗き込んでいたから…。」

「あぁ!名前は知ってたけど、漢字までは知らなかったからだよ。どういう漢字を書くんだろって気になってて…。」

りみはそう言うと、潤はなるほどと呟き、コーヒーを口にした。

「りみは今日、泊まるの?」

「うん。そのつもりだよ?」

「いやぁ。助かるよ。流石に大晦日1人は寂しかったからさ。」

「全然大丈夫だよ。…潤くん、来年もよろしくね?」

「こちらこそよろしくね。」

潤はまだ見ぬ、新たに出来た親戚に、胸を馳せながら大晦日を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コラボを誘って下さり、ありがとうございました。
こうして、誘って頂けると本当に嬉しく思います。
空丘ルミィさんは「終わりと始まり」以外にも多くの作品を書いてますので、是非、読んでください!
日菜を書くのって…。難しい…。

作者:空丘ルミィ
作品名:終わりと始まり
https://syosetu.org/novel/208672/




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短編集
1話


線で区切ってます。
最初と二つ目は潤とりみが付き合ってからの話。
最後は載せようとして辞めた話となっています!
楽しんで頂けたら幸いです。


夏休み最終日。世の中の学生にはこの言葉は聞きたくない言葉の上位にはいるに違いない。宿題を終えてない者は「有咲~!助けてぇ~!」となる。潤も今まではそうだった。しかし、今年は厳しすぎる家庭教師の紗夜とこの夏休みで彼女となったりみのお陰で余裕を持って過ごすことが出来た。そう、余裕を持っていたはずであった。

「ねぇ?なんであんな事したの?」

潤は今、自室にて正座をしている。目の前には可愛い彼女であるりみが立っていた。いつもおどおどしていて、優しい彼女だが、今はなりを潜めている。

「り、り、りみ?お、落ち着いて?な、な、なんのこと!?」

覇気をまとったりみに「(りみって怒るとこんなに恐いの~!)」と思いながら、潤は自分の行動を思い返す。夏休み最終日と言うことで、2人はデートをしており、商店街を歩いていた。その最中に、ハロー、ハッピーワールド!がゲリラライブをしていた為、りみと2人で観た。ライブ終了後に、挨拶でもと、片付けをしていたハロー、ハッピーワールド!に近づいて、潤は前から好きだったミッシェルに抱きついた。

「(そっからりみの機嫌が悪いんだよなぁ…。) 」

潤は自分の行動を思い返してみたが、何処が悪いのか分からない。

「(で、でも、何処が悪いか分からないなんて言ったら、火に油を注ぐような物だ…。)」

潤は「う~ん。」と考えるがやはり、全く思いつかなかった。

「なんで、うちが怒ってるのか分かってる?」

「ご、ごめん…。わ、分からない…です。」

「そっか…。なら、ハッキリ言わなアカンかなぁ?」

いつもは恥ずかしがって使わない関西弁を惜しみなく出すりみに潤は震え上がっていた。

「なんで、美咲ちゃんに抱きついたの?」

「はい?美咲ちゃんって、奥沢さんの事だよね?僕が抱き付いたのはミッシェルだよ?」

潤はキョトンとした。「(なんで、ここで奥沢さんの名前が出るの?)」と思っていた。

「(…え?潤くん知らないの?いやいや。それはない…よね?で、でも、本当にキョトンとしてる…。ミッシェルの中身が美咲ちゃんって本当に知らないの?)」

りみは混乱していたが、潤の表情から嘘を言っているように思えなかった。

「潤くん?か、確認なんだけど…。ミッシェルの中身が美咲ちゃんって知ってた?」

「ん?」

更にキョトンとした潤を見て、りみは「(本当に知らないんだ。)」と思っていた。

「えっと…。し、知らなかったのに怒ってご、ゴメンね。で、でも、着ぐるみの中って誰が入ってるか分からないんだから…。そのあまり抱き付かない方が…。」

りみは過去の自分の行動を棚に上げて言った。

「…りみは何を言ってるの?」

「え?」

「ミッシェルはミッシェルだよ?中に人って?」

「へ?」

さっきまで、潤がキョトンとしていたが、今度はりみがキョトンとした。すると、りみのスマホがメッセージの受信を知らせた。内容をちらっと確認すると美咲からであった。

 

“りみ。さっきはありがとう。

一宮さんだけど、ミッシェルの中身はいないって思ってるから、抱き付いてきたこと怒らないでね?

私も、びっくりはしたけど、怒ってないから。”

 

りみは内容を読むとりみは力が抜けたように座り込んだ。

「りみ?どうしたの?大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。」

「何かあったの?」

「ううん。本当に大丈夫だから。少しだけ疲れただけだよ。」

りみは怒っていたことがバカバカしくなっていた。

「疲れた?暑かったからかな?じゃあ、どうぞ?」

潤が、正座を崩し、胡座を組むと太ももをポンポンと叩いた。

「へ?」

「膝枕だよ?少し横になったら?」

「あ、ありがとう。」

少し照れながらもりみは潤の言葉に甘えた。りみが横になったのを見ると、頭をポンポンし始めた。

「うん…。」

りみが気持ちよさそうに声をだすと、潤は微笑み、

「少し寝たら?」

と言った。

「大丈夫だよ。ありがとう。寝るの勿体…ない…かな。潤君とお喋り…したいし…。」

とりみは言ったが、語尾は段々と声が小さくなり、そのまま「すーすー」と静かに寝息を立てた。

「(寝付き、凄く良いなぁ~。)」

と潤は思いながら、幸せそうに眠る彼女を写メに納めた。

 

─────────────────────

新学期が始まって2週間が過ぎていた。りみは新学期が始まる前から1つだけ不安に思っていることがあった。それは「潤に会えなくなる。」と言うことだ。りみは花咲川女子学園という女子校に通っている。一方、潤はそこら辺にありそうな普通の進学校(共学)に通っている。つまり、2人は違う学校だ。更に、りみにはバンド、潤にはバイトがある。その為、忙しくてすれ違いになるのではないか、と考えていた。しかし、りみの考えは杞憂に終わった。

新学期が始まり2週間が経とうとしていた。この2週間、りみは潤と毎日会っていた。それも、朝と夜に。

「りみちゃん。潤を起こして貰ってきていいかしら?」

麻里さんがリンゴを切りながら言いました。麻里さんの包丁捌きは凄くて、リンゴの皮は1回も途切れる事なく下へ伸びていました。

「分かりました。」

私がトマトを切る手を止め、エプロンを外し、彼の部屋に向かいながら考えていました。私の彼は早起きがあまり得意ではないと思っています。スマホのアラームはセットしているみたいですが、起きた試しがありません。まだ付き合う前にモーニングコールを頼むくらいです。本人も自覚はあるのだと思います。そんな事を考えていると、潤の部屋に着きました。

「潤くん?起きて?朝だよ。」

彼の体をユサユサと揺らすと、布団の中から「うぅ…。ん?」と声が聞こえました。そして、彼が布団からひょこと顔を半分だけ出し「りみ?…おはよ。」と言いました。

「おはよう。朝だから起きて。」

と彼に言います。2週間、朝はこのやり取りをします。最早、私の中ではルーティーンになっています。しかし、この日は少し違いました。

「り~み。」

「きゃ。」

彼が私のことをギュと寝転びながら抱き締めて来ました。寝ぼけているのか分かりませんが、こうやって甘えてくる彼を始めて見た為、驚いてます。

「じ、潤くん?は、早く支度しないと…。」

「…もうちょっとだけ。」

そう言って甘えてくる彼はとても可愛いです。しかし、まだくっついたりする事に照れがある私は段々と顔が暑くなるのを感じました。

なんとか、彼を起こし、台所に向かい、再び麻里さんのお手伝いをします。私が毎日、朝と夜に来ている理由は料理を覚える為です。以前に「料理、頑張るから」と、この場所で彼に言った事を麻里さんは覚えて下さっていて、「毎日手伝ってくれたら嫌でも覚える」と言い、こうして来ている訳です。この前、この話をPoppin`Partyの皆に話したら「通い妻だ!」って散々言われましたが…。

「…おはよ。」

目を擦りながら彼が起きて来ました。彼が起きてくると、私はコーヒーの準備をします。以前にプレゼントをしたマグカップにコーヒーを注ぎ、彼に持って行きます。

「ありがとう。りみ?料理は慣れた?」

「まだまだだよ。」

私が苦笑いしながら答えます。

「りみちゃん!こっちはもう大丈夫だから潤と食べてね?」

「あっ。すみません。では、頂きます。」

オレンジジュースを1口飲んで、ロールパンにかぶりつきます。その間も、麻里さんはヨーグルトやサラダ、フルーツなどを持ってきてくれます。

「ねぇ潤?」

麻里さんはニヤリと笑って彼に声をかけます。この表情を私はよく見ます。麻里さんが彼をイジる時によく見る表情です。

「ん?」

「潤って、急に朝弱くなったよね?」

「なっ!」

麻里さんの発言に彼は罰の悪そうな表情をしています。

「今まではちゃんと起こさなくても起きてたよね?えっとー。私の記憶が正しければ2週間前から急に起きれなくなったよね?」

2週間前と言うと私が麻里さんに料理を習い始めた時です。何か関係があるのかな?

「…別に。そうだっけ。」

付き合い始めてから1ヶ月ぐらいになります。それくらいになれば彼の癖の1つや2つは分かります。今、「別に」と言いながら、右の方を見る時は図星の時です。

「あっ!そっか!りみちゃんが料理の勉強する為に来始めた時から潤は急に朝が弱くなったのか!そっか!」

「…別に。」

また図星だったみたいです。

「もう、りみちゃんに起こして貰いたいからって、わざと朝寝坊してるんでしょ?」

「っ!」

「じゅ、潤くん?わ、私は潤くんを起こすの楽しみにしてるから、ぜ、全然大丈夫だよ?」

顔を真っ赤にした彼に私は言いました。そうすると彼はパッと顔上げました。

「よ、よろしくお願いします。」

そう言う彼に私は満面の笑みを浮かべ、「うん!」と言いました。

こんな幸せな朝がこれから先も続きますように…。

 

─────────────────────

第2回ガールズバンドパーティー終了後、潤は紗夜からりみは他のバンドの質問攻めから逃げていたが、その後、あっさり捕まり、控室に連れ戻されていた。

「ねぇ~!りみちゃん!潤君になんて告白されたの?」

このメンバーの中で1番興味津々のひまりがりみの横に来て聞いた。

「ふぇ!?ひ、秘密…かな?」

りみは部屋の隅で正座をし、紗夜に怒られている潤を見て、助けを求めたが、どうやら無理そうだった。

「えぇ~!良いじゃん!」

りみの腕を掴みながらひまりは再び聞いた。腕を掴んでいるのはりみが逃げない為だ。

「こら!ひまり!りみが困っているだろ?りみゴメンなぁ。」

「巴は気にならないの!?」

「私は気になるかな~☆りみ!色々協力したんだから教えてよ!」

「り、リサさん!?」

りみは困り、辺りを見回すが、全員「気になる。」といった表情で見ていた。ひまりを止めた巴も、気にはなっているみたいだった。

「(だ、誰も助けてくれない!)」

りみは顔を赤くしていた。頭の容量は限界ギリギリで、湯気が出そうなくらいだった。

「りみりん?言った方が楽になるんじゃないかな?」

沙綾が苦笑いしながら言う。

「さ、沙綾ちゃんまで!…わ、分かったよ!い、言うよ?」

りみがわたわたしながら言うと、先程まで騒然としていた部屋が静かになった。

「つ、つ、月が綺麗ですねって…。」

りみが静かに答えると、爆笑する者、「?」を浮かべる者、「へぇ~。」と関心する者と様々な反応を見せた。

「りんりん?どういうこと?」

「あこちゃん…。あ、あのね…。」

「あはは~!ま、マジか!一宮さんってロマンチストかよ!あはは!」

「あ、有咲ちゃん!?わ、笑いすぎだよ!」

一気に騒然となる部屋。

「えっと…。夏目…漱石だったわよね?」

千聖がボソッと呟く。

「そうさ!千聖。夏目漱石の言葉を使うとは…。儚い…。」

「私は貴女に聞いてないわよ?かおちゃん?」

「か、かおちゃんはよ、よしてくれ。」

皆がそれぞれやりとりをしている。その最中も潤は説教を受けていた。

「潤さん!何回、同じ事を言ったら…フッ…。わ、わ、分かる…フフッ。」

「紗夜姉さん?」

「ご、ごめんなさい。…フフッ。」

突然笑い出した紗夜に潤は不思議に思った。

「フフっ。つ、月が綺麗って。フフフフ…。」

「なっ!なんで、紗夜さんがそれを!」

「今、牛込さんが…フフっ。皆に聞かれて答えました…フフっ。」

「…う、嘘っ!」

潤が慌てて、りみの方をみると、気付いたりみはゴメンと手を合わせていた。

「潤?月が綺麗って言ったって本当かしら?」 

「み、湊さん?ほ、本当…で…す。」

「そう。…今度、歌詞に使って…」

「勘弁して下さい!」

とんでもない事を言い出した湊に潤は慌てて止めた。

「そう。残念だわ。」

そう言うと、友希那は去って行った。

「みんなー!それくらいにしてあげて!潤君が可哀想だから!」

まりなが手をパンパンと叩きながら言う。

「潤君がそう言いたくなるくらい綺麗な満月だったんだよね?」

まりながりみに聞く。

「…は、半月でした…」

「りみ!?」

バカ正直に答えるりみに潤は焦ったように叫んだ。

「あはは!は、半月って!一宮さん、せめて満月で言ってよ!」

有咲は腹を抱えながら再び爆笑した。他のメンバーも有咲のように爆笑する者もいれば苦笑するメンバーもいた。

「…もう…嫌…。」

潤は頭を抱えて呟いた。その後も、潤とりみはイジられ続けたのはまた別の話。

 

─────────────────────

今更かも知れませんが、潤のプロフィールを載せます。

名前: 一宮 潤(いちみや じゅん)

年齢: 16才 高校1年生

学校: そこら辺にある普通な高校

身長: 日本の男性の平均身長

体重: 重くもないが軽くもない

趣味: 寝ること

成績: 平均点ジャスト

 

こんな感じですかね?

ホントに普通ばっかりになっちゃいましたね笑

 

 

 

 

 

 




以上、短編集でした。
☆4のりみを無事に引けました!なんと10連で!
テンションMAXです!

今後ですが、新しい小説を書こうか、潤とりみの小説の続きを書こうか、両方一緒に書こうか悩み中です…。
とりあえずは、日常の中にチョコより甘い香りの短編集とかを書けたら書こうかなと思っています。

今回、2つ目の小説では書き方をかなり変えてみました。
りみ目線、難しい…(;´д⊂)
おかしいとこだらけだと思いますがご了承下さい。


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2話

今回は潤とりみを他のキャラと関わらさせてみました。「有咲篇」「紗夜&友希那篇」「ひまり篇」です。
楽しんで頂けたら幸いです。


~有咲篇~

Poppin`Partyのキーボード担当である市ヶ谷有咲は走っていた。普段、インドアでネットサーフィンが趣味の彼女が走っている姿を見るのは実に珍しく、彼女を知っている人がいれば思わず二度見するであろう。しかし、先程も説明したようにインドアな彼女には走るという行為は無縁に近いもので、直ぐに呼吸は荒くなり、口の中は血の味が広がっていた。それでも、彼女は足を止めなかった。

「ハァ、ハァ。り、りみ。待ってろよ。」

そう呟くと、乱れる髪を無視して、少しだけスピードを上げた。

 

 

有咲が走る15分前の事。有咲は自分の家の庭でもう1つの趣味である盆栽に精を出していた。有咲にとって心安まる時間であり、思わず鼻歌まで飛び出していた。しかし、その鼻歌を遮るように、スマホが着信を知らせた。

「(誰だ?)」

と思いながら画面を見るとそこには「りみ」と表示してあった。

「もしもし?りみ、どうした?」

「あ、有咲ちゃん!た、助けて!」

「ど、ど、どうした!?」

「あ、あのね。わ、私じゃ手に負えなくて…。」

りみの慌てる声にただ事じゃないと感じた有咲は

「ま、待ってろ!直ぐに行くから!りみの家でいいか?」

と叫んだ。

「え?あっ、うん。で、でも…」

りみが言いかけるも、有咲には届かず、電話を切ってしまった。その瞬間、有咲は走り出したのであった。

 

 

「つ、着いた…。」

肩で息をしながら有咲は呟いた。そして休む間もなく、すぐにチャイムを鳴らした。家の中からドタドタと音が聞こえ、扉が開いた。

「あ、有咲ちゃん。こんにちは。って、有咲ちゃん!?ど、どうしたの!?」

りみは有咲の姿をみてびっくりした。髪はボサボサ、額には汗を浮かべ、更には顔を赤く染め、フラフラとしていた。

「ど、どうしたじゃねー!りみ!大丈夫かっ!?何があった!」

りみの肩を掴みながら有咲は叫んだ。

「あっ…。えっと。は、走って来たの?」

「当たり前だろ!?友達のピンチなんだから!で、どうしたんだよ!」

真剣な顔で言う有咲に、りみは申し訳なさそうな表情を浮かべた。そして、普段はあまり口にしない有咲の素直な発言に照れて、頬を赤く染めた。

「えっと、本当にゴメンね?実はね…」

「あれ?市ヶ谷さんだ。こんにちは。」

りみが訳を話そうとすると、その後ろから潤が顔をだした。

「…どういうこと?」

「えっと、話すからとりあえず上がって?」

りみが有咲を招き入れると有咲は大人しく指示に従った。

 

 

「あー!生き返る!」

有咲はりみが入れた麦茶をがぶ飲みした。全力で走ればそりゃ喉も渇く。

「…えっとね。本当にそこまで走ってきて貰って申し訳ないんだけど…。電話で要件終わらせるつもりだったんだよね…。」

先程からずっと申し訳なさそうな表情を浮かべるりみ。流石の有咲も、ここまで申し訳なさそうな表情を続けられると、いつもみたいに、激しいツッコミをりみに出来なかった。

「まぁ…。うん。分かったから。で?」

「う、うん。実は、潤くんに勉強を教えてたんだけど…。なかなか教えたい事が伝わらなくて何て言ったら伝わるか聞きたくて、電話したんだよね…。本当にゴメンね?」

りみはそう言うと、ペコッと頭を下げた。

「いや、私がりみの話を最後まで聞かなかったのも悪い…から。こ、ここまで来たから…。その、勉強見てやるよ。」

りみにすっかりペースを崩された有咲は素直に言った。

「よろしくお願いします。」

潤が言うと、有咲は「おう。」と小さく言った。

「今やってるのは…日本史と地理か。」

有咲は潤が開いている問題集を見て言った。

「うん。どうしても、忘れちゃって。テストの時はまだ覚えているけど、テストが終わると全部忘れちゃうんだよね。」

潤は「あはは。」と誤魔化しながら言った。

「私も、色々とアドバイスしてるんだけど…。良い方法が無くて…。」

「よし。大体分かった。とりあえず、問題出すから、一宮さん答えて。」

「分かった。」

有咲が潤の問題集をパラパラと開き、問題を探した。

「じゃぁ、行くぞ?享保の改革を行ったのは誰?」

「…徳川さん?」

「…フルネームで頼む。」

「徳川…家康?」

「んな訳ねーだろ!?家康だったら何歳まで生きてるんだよ!?家康は江戸幕府の初代将軍!享保の改革を行ったのは8代目だ!」

「潤くん。この前教えたよ…。」

「…面目ない。」

りみから哀れみの、有咲からは呆れた視線を受けた潤は俯いた。

「正解は徳川吉宗だ。次、行くぞ?安土桃山時代に茶の湯を茶道として大成した人物は?」

再び、問題集をペラペラと捲り、めぼしい問題を有咲は出した。

「小林一茶!」

「名前に茶が入ってるだけじゃねーか!千利休だ!次!現存する日本最古の書物は?」

「広辞苑…かな?」

連発する珍回答の数々に有咲はそっと問題集を閉じ、立ち上がった。

「よし。りみ?一宮さん?私は帰るから勉強頑張って。」

「ま、待って!見捨てんといて!」

りみが目を潤ませながら言った。

「無理!無理!無理!どうやって教えるんだよ!なぁ、一宮さん?私をバカにしようとボケてるんだよな?お願いだからそう言ってくれ!」

「真面目に答えてます…。どうしても覚えれなくて…。」

潤は再び、俯いてしまった。

「はぁ~。分かった。もう一問だけ出すな。地理は正解してくれ。三大洋で、一番広いのは?」

「これは流石に分かる!」

潤は急に元気になり、側にあったルーズリーフに書き出した。

「出来たよ。」

潤は自信満々に有咲とりみに見せたが、りみは苦笑いを、有咲は額に手を当てた。

「りみの彼氏ってこんなにアホなんだな。」

「ごめん。潤くん。否定出来ない…。」

2人の目線の先にはでかでかと「大平洋」と書かれていた。

「点が足りないんだよ!太平洋な?大きいじゃなくて、太いだからな?誰だよ!?「おおひらひろし」って!」

有咲が、叫ぶとりみはとうとう笑ってしまった。

「「おおひらひろし」って!あはは!」

「わ、笑い事じゃねー!!」

有咲が今日一番の声の大きさで叫ぶ。潤は、2人のやり取りを見て、先程のりみと同じくらい申し訳なさそうな顔をした。

 

─────────────────────

~紗夜&友希那篇~

「どうぞ、コーヒーです。」

「あ、ありがとうございます。」

「紗夜、ありがとう。」

カップから湯気が出ているコーヒーを紗夜はりみと友希那に手渡した。

「潤さん?ここに置いときますね?」

「…ありがとう。」

机に伏せて、魂が抜けそうになっている潤が呟いた。

「潤?情けないわよ?これくらいでバテるなんて。」

友希那はため息をつきながら言った。

「ふぅ~。あんな一気に頭に詰め込んだらショートしますよ…。」

潤とりみはこの間、計画した通り、紗夜の家で勉強を教わっていた。紗夜の勉強は潤の予想通りスパルタで始めてから3時間ぶっ通しであった。

「潤くん大丈夫?チョコ食べる?」

りみは自分が食べていたチョコを潤に差し出した。

「ありがとう。」

パクッと1口食べると、チョコの甘さが潤の身体に染み渡った。

「潤?Roseliaのマネージャーになるんだからこれくらいでへばってたら困るわ?」

「…いや。Roseliaのマネージャーにはならないです。ところで、湊さんはどうしてここにいるんですか?」

潤とりみが紗夜の家で勉強していると、突然友希那が現れたのだ。勉強中だった潤は来た理由を聞くに聞けず、今になってしまった。

「湊さんは…いえ。と言うよりはRoseliaが潤さんに用があって、代表して湊さんが来たんですよ。」

友希那の代わりに紗夜が言った。

「僕にですか?なんでしょう?」

「潤、Roseliaのマネージャーに…。」

「だから!断ってます。」

「えっと、友希那先輩?じ、潤くんがRoseliaのマネージャーになったら…わ、私と会う機会が減っちゃうので…。わ、私も嫌…です。」

りみが目線を反らせながら意見を言った。

「…そう。牛込さんにそう言われたら諦めるしかないわね。」

湊は砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲みながら言った。

「用はそれですか?」

「違うわ。Roseliaの主催ライブをCiRCLEでしたいと思っているのよ。」

友希那は潤の目を真っ直ぐ見ながら言った。

「…えっと。それは有難い話なんですが、バイトの僕ではなくて、月島さんとかに言った方が…。」

潤が言うと、紗夜が口を開いた。

「実はCiRCLEの許可はもう取ってあるんです。私達がお願いしたいのは潤さんに主催ライブで準備や本番で指示をして欲しいと言うことです。つまり、ライブでのCiRCLEの責任者は潤さんって事になります。」

「はい?僕で良いんですか?」

紗夜の言葉に潤は驚いた。

「あなたが良いのよ。ガールズバンドパーティーでの貴方の行動や発言、統率力を見ての判断よ。僕で良いいのかって言ってたけど、Roseliaは潤が良いのよ。」

「…分かりました。どれだけ力になれるか分かりませんが、精一杯やらして頂きます。」

潤は友希那と紗夜に頭を下げた。

「潤くん、凄い!頑張ってね。応援してるからね。」 

りみが笑顔で潤に言った。

「牛込さん、少しの間、潤さんを借りるようになりますが…すみません。」

「い、いえ。潤くんもお仕事なので…。」

「じゃぁ、紗夜。話がまとまったから、私は帰るわ。潤?詳しい事は紗夜から連絡…」

「湊さん。待って下さい。」

立ち上がった友希那を紗夜が引き留めた。

「何かしら?」

「羽丘もテストありますよね?勉強して行きましょう。」

「嫌よ。…忙しいのよ。」

友希那が眉間に皺を寄せた。

「今井さんからお願いされてますので、勉強しましょう。」

「リサから?何て?」

「湊さんが次のテストが危ないから勉強をして欲しいと…。なので、湊さんをここで返す訳にはいきません。」

紗夜は友希那の肩を掴むと、強引に座らせた。友希那は「はぁ~。」とため息をついて、渋々ペンを握った。

潤とりみも再び、紗夜のスパルタの勉強を始めた。

 

─────────────────────

~ひまり篇~

ここは潤とりみ達が住む街の最寄りの駅前。駅前なので、電車に乗る為に人が出入りしているが、ここは集合場所としてもよく使われている。現に何組か時計と睨めっこしたり、スマホを見ている人が何人かいる。その中の1人、りみは眼鏡をかけ、文庫本を読みながらある人物を待っていた。

「りみ!ごめん!遅れちゃった!」

ハアハアと息を切らしながらAfterglowのベース、上原ひまりが言った。今日は、潤とではなく、ひまりと遊ぶ約束をりみはしていた。以前より共通点が多いと言うことで仲良くしていた。

「全然大丈夫だよ?気にしないで?」

りみは眼鏡を外しながら言った。

「本当にゴメンね。服がなかなか決まらなくて…。」

「本当に大丈夫だよ。服、可愛いね。」

「ありがとう!りみって眼鏡かけてたんだね

!似合ってたのに外しちゃうの?」

「へ?あ、ありがとう。眼鏡は本を読む時にかけるだけだから。普段かけてると邪魔だから。そ、それより、早く行こ?」

りみは照れながら言った。りみとひまりが集まった理由はひまりが良い感じのカフェを見つけ、LINEでりみを誘ったからだった。

「うん!それに、りみにいっぱい聞きたいことがあるんだ!」

「私に?」

「うん!カフェに着いたら言うね!」

ひまりは明るく言うと、目的地に向かって歩き出した。

 

「本当に雰囲気が良いカフェだね。」

「でしょ!この前たまたま見つけたんだ!見つけた瞬間、りみと行きたいって思ったから、今日はとても嬉しいよ!ありがとうね!」

ひまりが見つけたカフェは日差しが柔らかく差し込み、穏やかな時間が流れる空間だった。置いてある物も、和だったり、洋だったり、一見ゴチャゴチャしそうな感じだが、上手くまとめられており、店主のセンスの高さが垣間見える。

「それで、話って?」

りみが注文したチョコケーキとコーヒーを堪能しながら言った。余談だが、りみは潤と付き合うようになってからコーヒーが大好きになり、よく飲むようになっていた。

「うん!まずはAfterglowみんなからの伝言!お土産ありがとうね!」

以前、潤とりみが行った宮島旅行のお土産をAfterglowにも渡していた。ちなみに、紅葉饅頭である。

「ううん!喜んで貰えたなら良かったよ。」

「美味しかったよ!また食べたくなってきちゃった。」

ひまりが思い出しながら言った。

「めっちゃ分かるよ!また潤くんと行ったら買って帰るね。」

「うん!丁度、名前が出たから聞いちゃうけど、潤君とはどう?」

こっちが本題と言わんばかりに、ひまりはウキウキしていた。潤とりみが付き合っているというのを知ったガールズバンドパーティーの打ち上げでもひまりは好奇心の塊でりみに聞いていた。

「じ、潤くんと?ふ、ふふ普通…かな?」

付き合って随分時間が経つがりみはなかなか、この手の話題には慣れず、照れてしまう。

「良いなぁ~。私も彼氏欲しい!」

「ひまりちゃんは可愛いから直ぐに出来るよ。皆もそう言わない?」

「…うぅ。りみ、優しい…。モカなんか「ひ~ちゃんは胸が大きいから直ぐに彼氏出来るよ~。」って言うんだよ!酷くない!?」

ひまりが目を潤ませながら言う。「あはは…。」とりみは苦笑いをした。

「ねぇねぇ!潤君とりみは普段はどんな事してるの?なかなか会えないよね?」

「え?毎日会ってるよ?」

ひまりの質問にりみは素直に答えた。

「嘘っ!?だって、学校も違うし、りみはバンド、潤君はバイトがあるよね?いつ会ってるの?」

ひまりは驚きながら言った。

「えっとね、朝と夜に潤くんの家にお邪魔してるんだよね。料理の勉強を兼ねて…。潤くんのお母さん、とっても料理が上手なんだよ?」

「そうだったんだ…。りみ、今すぐ潤君と結婚出来そうだね?」

「け、けけけけ結婚!?」

かなり飛躍したひまりの発言にりみは赤面した。ちなみに、潤との結婚生活を夜な夜な想像し、ニヤニヤしてしまっているのはここだけの秘密である。

「良いなぁ~。…潤君とりみって、なんだかお互いが尊敬しあってて、お互いがお互いの為になりたいって思ってるように見えるんだよね。そういう関係のカップルってなかなかいないと思うから本当に羨ましいよ…。」

「うぅ…。そ、そんなに褒められると…。て、照れちゃう。で、でも、潤くんの優しいところとか、他人の事を一番に考えれるところとか尊敬してるよ。それに、治したかった人見知りも潤くんと付き合ってから良くなってる気がするし…。感謝しても感謝しきれないよ。」

りみが照れながらも、笑顔で言った。

「そ、それにね。」

「それに?」

「じ、潤くんには、人を好きになるって事の素晴らしさ…みたいなものを教えてくれたから…。」 

「りみ~?惚気ちゃって!本当に幸せそうだね?」

ひまりがニヤニヤしながら言った。りみは頬を染めながらも

「うん!めっちゃ幸せだよ!」

と満面の笑みで言った。2人のガールズトークは太陽が西に傾き、オレンジ色に染まるまで続くのであった。その頃、潤はバイト先で何回も大きなクシャミをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今更かもですが、潤と付き合った事でりみの人見知りは改善傾向に向かってます。

他のキャラもアイデアが浮かんだら書く予定です。
皆様のリクエストとかもあれば書くかもです。作者の文章力があまり無いので約束は出来ませんが…。

感想、評価、お待ちしています!


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高校3年生篇
1話


第二部となる「高校3年生篇」スタートします!
ちょっぴり成長した潤とりみりんの姿を楽しんで頂けたらと思います。
2人が付き合うまでの過程は1話から読んで頂けたらと思います。
よろしくお願い致します!


暖かな日差しが降り注ぐ部屋で、1人の女性がペラペラと分厚い本のページを捲っていた。あるページでは笑顔で、あるページでは懐かしむような表情をして見ていた。

「りみ?何してるの?」

「あっ。潤くん。ちょっと片付けしてたら懐かしくなっちゃって。」

「ん?アルバム?」

りみが見ていたのはアルバムで、表紙には「潤&りみ」と書いてあった。

「ページ増えたね。そうだ。はい。コーヒーだよ。」

「ありがとう。本当だね。色々あったね。」

りみがページを捲ると、潤ものぞき込んだ。

「本当に…。懐かしいなぁ。」

「うん。…じ、潤くん。これからも、その…。思い出増やしていこうね?」

「もちろん!」

2人は顔を見合わすと口づけをした。

「ふふ。」

「流石に恥ずかしがらなくなったね。」

「あ、当たり前だよ~!何年経ってると思ってるの?それに…。」

「それに?」

潤が話の続きを言うように促す。

「は、恥ずかしいより…幸せだなぁって。」

「それなら良かったよ。」

りみは再びページを捲る。

「あっ。この時は…。」

「…あぁ。今思い返すと人生の分岐点…だったかな?」

2人が写真を見ると、満面の笑みの潤と目に涙を溜めたりみが映っていた。

「本当に懐かしいね。」

「うん。」

2人がそう言うと、当時の事を思い出すように語りだした。

 

─────────────────────

「…おはよ。」

潤はそう言いながらリビングに欠伸をしながら入ってきた。

「おはよう。潤くん?眠そうだね?」

潤の表情に苦笑いしながらりみはコーヒーの準備をして潤に渡した。相変わらず、りみは料理の勉強の為、潤の家に朝と夕に来ていた。ちなみにだが、りみは合鍵も渡され、潤の家に自由に出入り出来る状態である。

「潤さん。あなた今日から新学期でしょ?しかも高校最後の年ですよ?もっとちゃんとして下さい。」

「紗夜姉さんは何でいるんですか?大学は大丈夫なんですか?」

のんびりとパンにかぶりついている紗夜に潤は言った。潤とりみが付き合いだしてから約1年半が経っていた。潤とりみは高校生3年生に。紗夜は大学生になっていた。ちなみに、Poppin`PartyもRoseliaも活動を続けており、その人気は健在でライブをすればチケットはすぐに売り切れてしまう。

「大学生は意外と時間に余裕がありますので。今日は10時までに行けば大丈夫です。あなた達も来年にはこんな感じになってますよ?」

紗夜が潤とりみを見て言った。

「そうなんですね。…じゃなくて!僕はなんで紗夜姉さんが僕の家で優雅に朝ごはんを食べているのかを聞いてるんです!」

潤が言うと紗夜は「そうでしたね。」と呟いた。

「潤さんと牛込さんにご報告です。Roseliaがメジャーデビューすることになりました。」

先程と変わらないテンションで淡々と話す紗夜。あまりにも淡々と喋る為、潤とりみは固まってしまった。そして「「えぇぇぇえぇ!!」」と2人揃って叫んだ。

「本当に!?紗夜姉さんおめでとう!」

「凄いです!紗夜さん!おめでとうございます!」

「ありがとう。でも、大事なのは今からです。デビューがゴールではありませんので。」

自分と苦楽を共にしてきたギターを見ながら紗夜は言った。

「あと、これはまだ言ってはいけない情報なので、他の方には内緒でお願いしますね。」

「分かったよ。気をつけます。」

「はい。応援、してますね。」

2人が言うと、紗夜は微笑み、コーヒーを啜った。

 

─────────────────────

始業式も終わり、昼から、相変わらず、潤はCiRCLEでバイトをしていた。バイトを始めてからすでに1年半以上経っている為、ほとんどの事務の仕事はほとんど任されていた。これも相変わらずだが、楽器のセッティングなどは出来ないままであった。

「潤君。今、平気かな?」

「はい。大丈夫ですよ。」

パソコンに向かっていた潤は、作業を中断し、声をかけたまりなの方を向いた。

「大事な話があります!第3回のガールズバンドパーティーを開催することになりました!だから、あとよろしくね。」

まりなはそう言うと立ち去ろうとした。

「ち、ち、ちょっと待って下さい!月島さん!それだけですか?」

「うん。そうだよ。第3回のガールズバンドパーティーが開催されるってことだけ決まってたの!だから、後は宜しくね!あっ、ちなみに、やりたいって言い出したのはRoseliaだからね!」

「Roseliaが?あれ?紗夜姉さん、何も言ってなかったけど…。」

潤が考えていると、まりなは立ち去っていた。

「はぁ~。しょうがない。とりあえず、前回の資料を…。」

以前やった第2回ガールズバンドパーティーの資料を出して読んでいた。

「…やっぱりメンバー集めが鬼門だよなぁ…。あっ、そう言えば…。」

潤は思い出したように、今、CiRCLEを利用している一覧の表を見ていた。

「とりあえず、話を聞くか…。」

潤は立ち上がり、スタジオに向かった。

 

─────────────────────

潤がCiRCLEでバイトをしている最中、りみは有咲の蔵で練習をしていた。現在蔵ではりみと有咲、沙綾がいた。

「あの2人遅いなぁ…。」

「まぁまぁ。入学式の準備ならしょうがないじゃん?」

「いやいや!おかしいだろ!?生徒会に入ってる私は準備終わってて、あの2人だけ終わってないって!いったい何をしてるんだよ!」

有咲は叫び、飲んでいたカップをドンと机の上に置いた。

「有咲は本当にポピパが好きだね!」

「そ、そんなんじゃねぇー!」

そんなやり取りを聞きながらりみはベースのチューニングをしていた。 

「まぁ、有咲は置いといて、りみりん!」

「どうしたの?」

「最近、潤君とはどう?」

「へ?どうって…。相変わらずだよ?」

りみは首を傾げて言った。

「そっかそっか!なら良かったよ~。付き合って結構なるよね?」

「うん。そうだね。楽しいからここまであっという間だったよ。」

「りみりん、本当に幸せそうだね~。有咲~。カノンの練習してる?このままいったらりみりん、すぐに結婚まで行っちゃうから!」

「さ、沙綾ちゃん!」

りみは顔を赤くして言った。有咲はキーボードの前に移動して、結婚式の定番曲であるカノンを弾き始めた。

「あ、有咲ちゃん!?」

りみは顔を真っ赤にして叫んだ。

「りみりん。実はね、りみりんと潤君が付き合うまで、1番心配してたの、有咲なんだよ?」

「え!?そうなの?」

「うん!心配でソワソワしちゃって!可愛かったなぁ。」

沙綾がニコニコしながら言うと、演奏を終えた有咲が2人の元に近づいた。

「…なんの話、してたんだ?」

有咲はジト目で2人に詰め寄った。

「なんでもないよ。ね?りみりん?」 

「えぇ!?う、うん。何にもない…よ?」

「はぁ~。まぁ…良いけど。」

有咲はため息をつく。そしてソファーにドカッと座る。

「ところで、2人に聞きたいことがあるんださけど…。進路ってどーするんだ?」

有咲が言うと、沙綾とりみは顔を見合わすのであった。

 

─────────────────────

使用中のスタジオに向かった潤。声をかける為、今は演奏が止むのを待っていた。その間、資料を読んで、考えながら過ごしていた。

「(前回は、チケットがすぐに売り切れちゃったんだよなぁ。会場、広い所でやった方が良いのかな?う~ん。でも、何組出てくれるか分からないし…。)」

前回のライブを思い出しながら潤は考えた事をメモに取っていた。そして、スタジオから演奏が止むと、ドアをノックし、中に入った。

「すみません。失礼します。練習中、申し訳ありません。」

潤が中に入ると、練習をしていたAfterglowのメンバーが一斉に潤を見た。

「潤君!どうしたの?練習中に入ってくるなんて初めてだよね?」 

恐らく、Afterglowの全員が疑問に思っていた事を代表してひまりが聞いた。

「皆さんにお話しがありまして…。すぐに終わりますので聞いて下さい。」

潤が言うと、Afterglowのメンバーは「なんだろ?」と顔を見合わせた。

「第3回、ガールズバンドパーティーを行う事になりました。日付とかは未定ですが、出演交渉に参りました。」

「出るー!」

「おぉ!ひまり!やる気満々だな!」

「私も出たいな!他のバンドの演奏も聴きたいし!」

「蘭~。ど~する?」

「良いんじゃない?出ようよ…ということだから…。潤、宜しく。」

蘭が代表して潤に言うと、潤は頷き、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。本当に何も決まってないので、決まり次第、お伝えしますね。」

潤は再度、頭を下げ、部屋から出て行った。

「よし。これでAfterglowとRoseliaは大丈夫!」

出演交渉が上手くいき、段々とやる気が出てきた潤は意気揚々と事務所に戻った。

「やぁ。一宮君。久しぶり。」

事務所のドアを開けると、初老の男性が椅子に座っていた。

「お、オーナー!お久しぶりです!」

潤が笑顔で言うと、オーナーも微笑んだ。

「ガールズバンドパーティー、またするそうじゃないか。一宮君。期待しているよ?」

「は、はい!頑張ります!」

「それはそうと、一宮君、君は高校3年生になったんだよね?進路はどうするつもりなのかね?」

「し、進路ですか?えっと、まだ何も考えてないです。」

潤が言うとオーナーはニヤリと笑った。

「そうか。なら良かったよ!」

「えっと、何が良いのですか?」

「一宮君、高校を卒業したらうちで正社員として働かないかい?」

「…え?本当…ですか?」

潤がビックリした表情を浮かべた。

「本当だよ。君の真面目な所や、人柄は評価している。だから、他の企業に取られるのは惜しい。だからうちに入社して欲しい。」

「で、でも僕、楽器とか分かりませんよ?」

「そこは大丈夫。期待していない。つまりは事務員として入社して欲しいと思っている。まぁ、返事は今すぐじゃなくて良いから。ゆっくり考えてみて欲しい。」

オーナーが言うと潤は頭を下げ、「分かりました。ありがとうございます。」と言った。  

 

─────────────────────

「急にすみません。」

「大丈夫だよ!」

オーナーの話から数時間後、潤は有咲の蔵に来ていた。もちろん、ガールズバンドパーティーの話をする為だった。

「ゴメンな。リーダーの香澄がいなくて。」

「大丈夫ですよ!返事はいつでも大丈夫ですから。そうそう。これお土産です。」

潤がカバンからコンビニの袋を取り出した。

「ありがとう。有咲。お茶入れよっか?」

「そうだな。おっ!いちご大福じゃん!マジでありがとう!」

有咲はニヤッと笑い、沙綾と共に、お茶を取りに行った。最近のコンビニは洋菓子から和菓子まで何でもあるから助かる。

「りみ。話があるんだけど…。」

「どうしたの?」

真面目な話をする雰囲気になり、りみは背筋を伸ばした。

「あのね。りみって、進路とかどう考えてる?」

「わ、私?う~ん。どこか大学に行こうかなって思ってるよ。ちゃんとは決めてないけど…。どうしたの?」

「実はね、今日、CiRCLEのオーナーとお話ししてね。その、卒業したら正社員にならないかって。」

潤が言うと、りみは笑顔になった。

「潤くん凄い!バイトから正社員ってなかなか無いんじゃないかなぁ。とにかく凄いよ!」

「ありがとう。…でも悩んでるんだよね。」

潤が苦笑いしながら言った。

「何で悩んでいるの?」

「うん。急な話だからビックリしてね。それに…。」

潤はりみをジーッと見た。

「そ、それに?」

「りみの進路が気になって…。りみが遠くに行っちゃうなら、着いていきたいなぁって。」

潤が言い終わると沈黙が流れた。潤は黙ってるりみに疑問を持った潤はチラッとりみを見た。すると、りみは頬を膨らましており、怒っている様子だった。

「潤くん?」

「は、はい!えっと、何で怒っていらっしゃるのでしょうか?」

潤が言うとりみは「はぁ~。」とため息をついた。

「り、りみさん?」

「潤くんはCiRCLEで働きたいの?」

「ま、まだ分かりません!」

「…もし、断るとして、断る理由を私にしないで欲しいなぁ。働きたいのに、私が遠くに行くから着いて行くので、断りますって…。私が喜ぶと思った?」

りみは立ち上がり、潤の横に座った。

「私がどこに行こうと、潤くんがどこに行こうと、やりたいことやろ?そんな距離が遠くなったからって、私が潤くんの事嫌いになるわけないよ?潤くんは遠くに行ったら私の事忘れちゃうの?」

りみは身体を潤に預けた。

「…そんな訳ないよ。でも、そうだよね…。ゴメン。」

「ううん。今までこんな話してこなかったもんね。今度、ゆっくり話そ?」

「うん。そうだね。」

潤はりみの頭をポンポンと撫でた。

「…えっとね。さっきはあんな大それた事言っちゃったけど…。わ、私もね。出来れば、潤くんと一緒にいたいと思ってるよ?だから、近くの大学に行きたいなぁって…。」

りみは頬を赤くして言った。

「そっか…。まぁ、ゆっくりと考えよ?」

「うん!」

りみは元気に返事をすると、ギュッと潤を抱き締めた。

 

 

「なぁ…。どうする?」

「面白いからこのまま見てよ?」

蔵の上では、有咲と沙綾が隠れながら2人を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
更新は不定期になります。
続きを楽しみにして頂けたら幸いです。
感想&評価、お待ちしております。


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2話

潤とりみが進路の話をしてから数日後、2人は久しぶりに休みが一緒になり、デートをしようとなっていた。しかし、なかなかデートをする場所が決まらず、潤の部屋でまったりとした時間を過ごしていた。

「本当にどこに行こうか?」

潤がスマホを見ながら、どこか良いデートスポットは無いかと検索をしていた。

「そうだよね…。行ったことある場所ばっかりだもんね…。」

付き合う時間が長ければ長い程、こういう事が起きがちであるが、2人はこうなった時は大抵、ショッピングモールに行っていた。しかし、今日に限ってはそうはならなかった。

「りみ、今月ピンチなんだよね?」

「…ゴメンね。」

ちなみに、りみが金欠の理由はチョココロネの買いすぎである。

「まぁ、僕が出してもいいけど…。嫌なんだよね?」

「うん!嫌!彼氏に全部、お金を出して貰うのは嫌!」

りみが叫ぶように言った。2人のルールの中に「デートは割り勘で」と言うのがあった。バイトをしている潤はりみに比べて財布に余裕があり、デートの度に奢ろうとしていた為、りみが決めたルールである。

「分かったよ。…今日は家でまったりする?」

「うん。そうする。」

デートの方針が決まると、りみは潤に近づき、潤の肩に頭を乗せた。りみのお気に入りの体勢でもあった。

「そうだ。CiRCLEの社員の話はどうなったの?」

「まだ返事してないよ。考え中。早く働いて、お金稼ぎたいとも思ってるし…。社員にならないかって言われた時は、勿論嬉しかったけど、やっぱり、大学にも行っておきたいなぁとも思っててね。…出来ればりみと同じ大学に行きたいなぁって。」

「私と同じ…。そうなったら嬉しいけど…。」

「りみ?言いたい事があるなら言って良いよ。…見当はついてるけど…。」

「あはは…。私と同じ大学に行きたいなら潤くん、勉強凄くしなきゃ…だよ…ね?」

りみが苦笑いしながら言うと、潤はため息をついた。

「だよね…。はぁ~。」

「潤くんはなんで早くお金を稼ぎたいって思ってるの?」

「…言わなきゃダメかな?」

「そう言われると…聞きたいかな。」

りみは潤の肩にもたれていた頭を少し、動かした。潤は顔を赤くしていた。

「…結婚…資金…。」

「ふぇ?」

まさかの解答に、りみは間抜けな声を出した。

「だから!…結婚資金…だよ…。」

照れながら言う潤にりみも赤面した。

「そ、そ、そんな事…考えて…たの?」

「あ、当たり前じゃん!り、りみと別れるなんて想像もつかないし…。だ、大好きだし…。あぁ~!恥ずかしい!」

潤は自分の頭をわしゃわしゃと掻きながら言った。

「そ、そんな事言われたら、わ、わ、私も照れちゃうよ…。」

りみも顔を真っ赤にしていた。

「潤くん…?い、今のって…。ぷ、プロポーズ…なのかな?」

「そ、そうとも取れる発言だったけど…。こんな形じゃなくて、時が来たら、きちんとします…。」

2人はお互いに顔を真っ赤にし、恥ずかしすぎて、背を向けた。そして、いつかくるであろう未来を想像するのであった。

「あぁ~!あ、暑いなぁ~。喉渇いたなぁ~。りみ?な、何か飲む?」

「そ、そうだね。こ、コーヒーが良いかな?」

他人からみたら微笑ましくなるような雰囲気を返るように潤は立ち上がり、飲み物を取りに行った。

「(うぅ…。まだ恥ずかしいよ…。でも、潤くんと結婚…えへへ…。)」

潤を待っている間、りみは想像し、ニヤニヤしていた。

 

─────────────────────

楽しい時間はあっという間。潤とりみはお家デートをお喋りだけで費やしていた。太陽も西に傾き、空をオレンジ色に染めていた。

「麻里さん。お塩はこれくらいで良いですか?」

「うん。大丈夫だよ!りみちゃん料理上手になったね!」

「ま、まだまだですよ!」

りみは麻里と一緒に、ルーティーン化した夕飯作りに勤しんでいた。その会話を聞きながら、潤はと言うと第3回のガールズバンドパーティーの案を練っていた。

「(出演バンドは前回出てくれたバンドはほぼOKは貰えたけど…。前と一緒で良いのかな?)」

潤は「う~ん。」と考えてみるが、一向に良い案は出てこなかった。

「潤くん?何を考えてるの?」

腕を組んだまま動かない潤を見て、りみが声をかけた。

「ガールズバンドパーティーの事だよ。前と一緒で良いのかなって…。」

前回の資料を指しながら、潤は言った。

「一緒じゃあ…ダメなの?」

「どうかな。良いと思うけど、せっかくだから違う事したいなぁって。」

「う~ん。私も考えてみるね。ポピパの皆にも聞いてみるね?」

「そうして貰ったら助かるよ。よし。他の出演者からも意見聞いてみよう。」

潤は資料を閉じて「う~ん。」と背伸びをした。

「潤?机拭いてくれない?」

「あぁ。良いよ。」

「ま、麻里さん!わ、私がしますよ?」

「いいのよ?りみちゃん。たまにはこのアホを使わなきゃ。将来はりみちゃんが顎で潤を使うくらいにならないと。」

麻里は「ふふっ。」と笑いながら台拭きを潤に手渡した。

「全く、何年後の話をしてるんだよ。」

「あら?来年の話でしょ?」

はぁ~とため息をつきながら潤が言うと、麻里はキョトンとした表情で言った。

「ら、来年…ですか?」

「何言ってるんだよ?来年がどうしたの?」

「あれ?私とりみちゃんのお母さんの中では高校卒業したら同棲をさせるって話が出てるわよ?」

「「…え?」」

潤とりみは固まったが、麻里は構わずに話を続けた。

「りみちゃんのお母さんも、りみちゃんが一人暮らしをするより、潤がいた方が安心だって言ってたわよ!私も潤が一人暮らしをするより、りみちゃんが監視してくれた方が安心だし。」

「えっと…。初耳なんだけど?」

「今、初めて言ったもの。」

潤は驚きながらりみを見た。りみも驚いた表情をしていた。

「だから、そのつもりで準備しててね?潤もりみちゃんも!」

麻里はそう言いながら台所に戻って言った。潤とりみは顔を見合わせた。

「りみ…。どうする?」

「ど、どうしよ…。で、でも、潤くんと同棲…。えへへ。」

嬉しそうにニヤけるりみを見た潤は「(こ、これは覚悟を決めなきゃ)」と思っていた。

「そうそう!まだ言ってない事があったわ。」

「母さんなんだよ。もう何言われても驚かないよ。」

「りみちゃん。さっき、お母さんから電話があって、今日は、泊まらせて貰いなさいって。なんか用事が出来て、家を空けるからって。」

麻里はそう言うと、りみは「分かりました。」と言った。ちなみに、りみが潤の家に泊まるのは、初めてでは無く、りみが家で一人になるときはこうして泊まっていた。

「後、潤?私もこの後、出掛けるから。明日の夕方には帰るから。」

「はぁ?どこに行くの?」

「単身赴任で頑張っているマイダーリンのとこ!」

麻里がウインクをしながら言った。

「はぁ~。いい歳して…。って、待って!りみと2人きりなの!?」

「そうなるわね。りみちゃん。悪いけど、潤を宜しくね。」

「わ、分かりました。」

りみが頬を赤くしながら叫び、潤は頭を抱え、「(頑張れ。僕の理性!)」と思っていた。

 

─────────────────────

「お風呂ありがとうね。」

パジャマに身を包んだりみがタオルで髪を拭きながら潤の部屋に入った。

「いえいえ。僕が先に入ってゴメンね。」

「あ、謝らないでよ~。家主が先だよ~。」

りみが言うと、テーブルに置いてあったジュースが目に入った。

「りみ。オレンジジュースだよ。どうぞ。」

「ありがとう~。頂くね?」

りみは嬉しそうに微笑むと、ストローに口を付けた。

「と、ところで、りみさん?」

「なにかな?」

「や、やっぱり、こ、ここで寝るの?別の部屋に布団敷こうか?」

「嫌!い、一緒に寝たい…。」

潤が言うと、りみは目を潤ませながら言った。当然、この目でお願い事をされると断れない潤は小さく「分かった。」と言った。ちなみにだが、りみが潤の家に泊まる度にこのやり取りをしている。

「えへへ~。ありがとう。ベットに入って良い?」

りみが頬を若干、赤く染めて言った。ベットに座り、足だけ布団入れて、本を読んでいた潤は「ど、どうぞ。」と言い、ベットの端にズレて、布団を捲った。

「お邪魔するね。ありがとう。」

りみが潤のベットに入る。潤のベットはシングルベッドな為、りみが入るだけで、2人の距離はゼロになった。

「潤くん。ドキドキしてる。」

りみが潤の胸に耳を当てて言った。

「そりゃ…。生きてるから…。心臓は動いてるよ?」 

「そういう意味じゃなくて…。」

「…分かってるよ。…りみもドキドキしてるくせに…。顔、真っ赤だよ?」

「う、うぅ…。じ、潤くんに引っ付きたいけど…。べ、ベットはなんかね…き、緊張しちゃう…。」

2人はこう話しているが、2人は付き合い立てのカップルではなく、大体、1年半程、付き合っている。一応、念の為…。

「じ、潤くん…。ふ、ふふ、2人きり…だね。」

「そ、そうだね…。り、旅行以来…かな。」

「う、うん…。」

2人きり。そう意識してしまった2人は口数が少なく、お互い、顔を赤くしていた。

「で、で、電気。消す…ね。」

「へ?あ、う、うん!」

潤はりみに確認を取ると、照明のリモコンを操作して、豆電球にした。そして、仰向けになり、りみに右腕を差し出した。

「あ、ありがとう。え、えへへ。腕枕、久々かも。」

りみは照れながらも嬉しそうに言うと、潤の腕を枕にし、ギュッと潤に抱きついた。

「り、りみ?ち、ちょっと苦しい…。」

「ご、ゴメンね。…潤くん?こっち向いて?」

「う、うん?分かった。」

ゴソゴソと布団が擦れる音と共に、潤はりみの方を向いた。依然としてりみは潤に抱きついたままである。

「こ、これで良い?」

潤が向き終わると、丁度、潤の胸の辺りにりみの顔があった。 

「う、うん。ありがとう。…えい。」

りみは首を伸ばすと、潤にキスをした。軽いリップ音が潤の部屋に響いた。

「り、りみ?ど、どうしたの?」

「むぅー。き、キスするのに、理由がいるの?」

「え?い、いや。い、いらないけど…。」

潤はそう言うと、仕返しと、ばかりにりみにキスをした。

「…ふふっ。は、恥ずかしいけど、嬉しい…な。」

「…ねぇ。りみ?ま、まだ…ダメかな?」

潤がそう言うと、りみは再び、潤の胸に顔を埋めた。考えているのか、潤の部屋は静寂に包まれた。

「い、い、良いよ…。」

たっぷり間があって、りみはポツリと呟いた。

「ほ、本当に?」

「う、うん。む、寧ろ…、こ、こんなにま、待たせて…。ゴメンね。」

りみはそう言うと、ギュッと目を瞑った。潤の理性はガラガラと崩れ去って行ったのであった。

 

─────────────────────

「(うぅ…。い、痛いよ…。)」

りみはバンド練習に向かうため、歩いていた。歩く度に、鈍い痛みが走る。なぜ、痛いのか…。それは各々察して欲しい…。

「りみりーん!おっはよー!」

「え?き、きゃ!」

後ろから走りながらやってきた香澄に抱きつかれると、りみは派手に尻餅をついてしまった。

「え?り、りみりん?だ、大丈夫!?」

香澄はいつも通り抱きついたつもりだった為、派手に尻餅をついたりみに驚いた。ちなみに、いつもはりみは踏ん張っている。あまりにも抱きつかれる為、慣れてしまったのだった。

「だ、大丈夫。ご、ごめんね。」

「りみりんが謝らないでよ~。本当にゴメンね。」

香澄は立ち上がらせる為に、りみの手を引っ張った。

「痛っ。」

無事に立ち上がったりみだったが、痛みを隠すことが出来ず、太ももの内側を押さえた。

「り、りみりん!?大丈夫!?」

自分のせいで、りみが怪我をしてしまったと勘違いした香澄は眉を下げた。

「ち、ちゃう…。香澄ちゃんは悪くないの!」

「そうだよ。香澄。りみは元々痛めてたみたいだから。」

「わっ!お、おたえ!?い、いつからいたの!?」

「香澄がりみに抱きついた辺りかな?」

「さ、最初から見てたんだね。」

突然、現れたたえにりみも香澄も驚いていた。

「お、おたえちゃん?な、なんで分かったの?」

「だって、りみの歩き方、ペンギンみたいだった。それに、尻餅をついたからって、太ももの内側なんて、なかなか痛めないよ。」

「おぉ~!おたえ、名探偵だ!」

たえが言うと香澄は目をキラキラさせながら言った。

「名探偵…。香澄、私はポピパのギターだよ?だから、探偵にはなれない。」 

たえは香澄の肩をポンと叩くと、香澄は「おたえー!」と叫びながらガバッと抱きついた。

「ところで、りみりん?なんで足が痛いの?」

「香澄。正確に言ったら、太ももの内側だよ?」

「ふぇ?え、え~と…。」 

香澄とたえの質問に、りみは焦っていた。勿論、本当の事など、言えるはずも無い。なんて言うか、りみが悩んでいると「潤君としたの?やっと。」と、たえが言った。あまりのストレートな言い方に、りみは思わず、頷いてしまった。

「おたえ?りみりんは何をしたの?」

「りみは大人への階段を登ったんだよ。」

おたえがそう言うと、香澄は首を傾げた。りみは顔を赤くした。

その後の練習でも、痛みを隠す事が出来ず、香澄意外のメンバーにバレてしまうのだが、それはまた別の機会に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメ最終話、めっちゃ感動しました。
ポピパ、良かったよ~ってなりました笑
次は劇場版!
全国でありますように…。
ダンまちの映画は近くの映画館ではやってなく、諦めたので…。

感想&評価、お待ちしています!


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3話

「…出演バンドは以上…なんですが…。」

潤はまりなに向けて、第3回ガールズバンドパーティーの途中経過の報告をしている最中である。

「…私は良い感じと思うけど…。何か悩んでるの?」

まりなは潤の作った資料を読みながら言った。

「はい…。このままでは、前と、第2回と同じなので…。何か他に面白いアイディアは無いかと…。」

「なるほど…。出演バンドに話は聞いたの?」

まりなが言うと、潤は頷き、苦笑いしながら別の資料を出した。

「もちろん聞きました。結果がこれです。」

まりなが目を通すと、資料には   Poppin`Party「キラキラドキドキするライブ」Pastel*Palettes「潤君にお任せ!」

Roselia「頂点を目指せるライブ」

Afterglow「いつも通り」

ハロー、ハッピーワールド「笑顔になるライブ!」

と書かれていた。

「なんか、皆らしいね。」

「ですね…。」

「出演バンドはこの5組で決定なの?」

「いえ。そういう訳ではありませんよ。今はこの5組だけという話です。」

「ふぅ~。」とため息をつき、潤は頭を掻いた。

「まぁ、まだまだ時間あるし、考えたら大丈夫だよ!私も相談に乗るから。」

まりなはウインクをしながら言った。

「ありがとうございます。まぁ…。悩みます。」

潤はそう言うと、パソコンに向かいだした。

「そうそう!潤君?これ、貼っといてくれる?バンドには関係ないけど、学生が多いから貼って欲しいって頼まれてね。」 

「分かりました。」

潤がポスターを預かり、広げて、内容を確認した。ポスターの内容は夏休みを使って、山の中で自然に戯れようといった物だった。

「潤君はあまり興味なさそうな内容だね。」

まりなもポスターをのぞき込みながら言った。

「そうですね。仲間内でバーベキューとかなら良いですが、こう言うのは…。」

「だね。…でも、確かにバーベキューは良いよね!外で食べると一段と美味しいもんね!」

まりなは想像しているのか、目を瞑りながら言った。手の動きから察するに、缶ビールを開けているのだろうか、プルタブを起こす動作をしていた。

「月島さんって、お酒飲むんですね。」

「まぁ、嗜む程度にね。バーベキューなら飲まなきゃ!」

「まぁ、皆でバーベキューも…。待てよ…。外…。」

潤は発言している途中で固まった。表情は目を見開いていた。

「潤君?どうしたの?」

「これだぁぁぁ!」

潤は叫ぶと、まりなから渡されたポスターを投げ捨て、パソコンに向かいだした。

「…何か思いついたみたいね…。ポスターは私が貼りますか。」

まりなは床に落ちたポスターを拾い、ニコニコしながら、窓ガラスの方に向かって行った。

 

─────────────────────

それから数日後、CiRCLEには、第3回ガールズバンドパーティーの言いだしっぺであるRoseliaのメンバーが潤に呼ばれ、集まっていた。

「皆さん、今日は集まって頂きありがとうございます。」

潤はホワイトボードの前に立ち、ペコリと頭を下げた。

「今日は、ガールズバンドパーティーの途中経過をお知らせしたくて、集まって頂きました。…でも、まずは皆さん、デビューおめでとうございます。」

再び、潤が頭を下げながら言うと、5人分の「ありがとう。」と言う返答があった。

「潤。かなり悩んでたみたいだけど、なにか進展があったのかしら?」

友希那は腕を組みながら言った。

「勿論です。でも、僕がお話しする前に質問があるのですが、聞いても良いですか?」

潤が申し訳なそうな表情を浮かべながら言うと、「もちろんよ。」と友希那が答えた。

「では。えっと、なぜガールズバンドパーティーをやりたいと仰ったのですか?」

「やりたかったからよ?」

「湊さん。それでは答えになっていません。潤さん、私から話しますね。潤さんも知ってる通り私達はデビューします。しかし、デビューするとなると、今までみたいに自由にCiRCLEなどでライブをすると言うのは難しくなります。私達は自分達の実力だけで、デビュー出来たとは思っていません。このCiRCLEで様々なバンドとライブをして、切磋琢磨してここまで来れました。なので、他のバンドの方に感謝の気持ちを伝えたくて、提案させて頂きました。もちろん、潤さんにも感謝をしてますよ。」

紗夜がお手本のように分かりやすく説明をした。それを聞いた友希那は「そういう事よ。」と澄ました表情で言った。他のメンバーは苦笑いしていた。

「潤君も協力してくれてありがとうね☆」

「…ありがとう…ございます…。」

「潤君!ありがとうー!」

次々と感謝を伝えられ、潤は照れくさくなり、頬をポリポリと掻いた。

「こちらこそありがとうございます。Roseliaのお陰で、僕も沢山、良い経験が出来ました。…では、第3回ガールズバンドパーティーの途中報告をします。…会場が決まりました。」

「…CiRCLE…では無いのですか?」

燐子は首を傾げながら言った。他のメンバーも少し驚いていたが、潤の発言を待っていた。

「はい。Roselia皆さんにもう1つだけ聞きます。夏休み、正確に言えば7月20日は予定開けれますか?」

潤がそう言うと、リサがスケジュール帳を開いた。

「大丈夫みたいだよ。もう!潤君!勿体ぶらないで教えてよ!」

「大丈夫なら良かったです。実は、会場はここでやります。」

潤が1枚、紙を取り出し、テーブルの上に置いた。Roseliaの面々が、その紙をのぞき込むと、全員の目が見開いた。Poppin`Partyのあるメンバーの口癖を借りるなら「キラキラドキドキ」していた。

「これは…本当ですか?」

「はい。紗夜姉さん。本当ですよ!」

「潤君、凄ーい!これは本当に凄いよ!ねぇ!りんりん!」

「えっと…。よく…オッケーが…出ましたね。」

「はい!たまたま開いてたみたいです。…CiRCLEのスタッフ、総出でこのライブを成功させたいと思っているので、皆さんもご協力お願いします。」

本日3度目のお辞儀を潤はした。

「勿論よ!皆、デビューの前にまずはこのライブを成功させる為に、頑張りましょう。」

リーダーらしく、友希那は立ち上がり、メンバーの顔を見ながら言った。それに答えるように「はい!」と返事が部屋の中に響いた。

「(これから忙しくなるなぁ…。頑張るぞ!このライブが成功したら…。)」

潤は1人、気合いを入れたのであった。

 

─────────────────────

「じゅーんくん!えへへ…。」

Roseliaとの打ち合わせが終わった後の夜、いつも通り、潤の家にはりみが来ていた。夕食後、片付けも終わり、2人は潤の部屋で寛いでいた。あの日の夜、たえが言うところの「大人の階段」を2人が登った日からりみは一段と潤に甘えるようになっていた。

「りみ?どうしたの?」

「ううん。呼んでみただけだよ?」

りみはそう言いながら、お気に入りである、潤の肩に自分の頭を乗せていた。

「そう言えば、Poppin`Partyの皆もライブの事聞いて驚いてた?」

「うん。めっちゃビックリしてたよ。私も初めて聞いた時ビックリしたもん。でも、皆やる気になってたよ!香澄ちゃんなんて、早く夏になれー!って叫んでたよ。」

りみはその光景を思い出したのか、クスクスと笑いながら言った。

「だったら良かったよ。CiRCLEの皆も気合い入ってるよ。1番大きいライブだって!」

「でも、潤くん、大丈夫?…忙しくなるんじゃ…。」

「もちろん、忙しくなるかな?でも、言いだしっぺだし、頑張らなきゃ!」

潤は微笑みながら言うも、りみの表情は曇っていった。

「りみ?」

「あっ。ご、ゴメンね。忙しくて会えなくなるのかなって思ったら…。寂しくなっちゃって…。こんなに会ってるのに、私、何言ってるんだろうね。」

りみは慌てながら、苦笑いをした。

「…こんなに会ってるからじゃない?毎日、朝と夜に会うのが当たり前になってるから…。テストの時とかは会えないじゃん?やっぱり寂しいよ?…でも、僕が忙しくて会えないって事は無い…かな?」

「え?なんで?」

「だって、りみに会えなかったら…。その…。疲れが取れないし…。」 

潤は恥ずかしそうにプイッと明後日の方向を見て言った。

「ふふっ。ありがとう潤くん。なら、私も潤くんを癒やせるように頑張るね!」

りみの表情は先程と違い、パッと笑顔になっていた。

「よろしくね。りみ?そろそろ送るよ。」

潤は時間を見て言った。時刻は20時を少し過ぎたところだった。

「もう…そんな時間なんだね。はぁ~。潤くんといると時間が足りないなぁ。」

「まぁまぁ。来年には…その…。一緒に暮らす予定…なんだし。…その計画も立てなきゃだね。」

「そ、そうだね。忙しいけど…。楽しくなりそうだね!」

潤とりみは立ち上がりながら言った。

「潤くん。いつもの…。して欲しいなぁ。」

「…分かったよ。」

潤はりみの肩を持ち、静かに口吻をした。相変わらず、口を付けた瞬間にチョコの香りが潤を包むのであった。

 

─────────────────────

ゴールデンウィークも終わり、連休が終わった学生達は5月病とはこの事か、何となくであるが、どこか重い雰囲気を纏っていた。しかし、CiRCLEでは、そんな雰囲気を吹き飛ばすかのように、活気に溢れていた。

「ねぇねぇ!ポスター見た!?」

「見た見た!どうする!?出てみる!?」

「う~ん。緊張するけど、やってみよ!」

CiRCLEはガールズバンドを応援しているだけあり、様々なガールズバンドが練習やライブの為にやってくる。そのやってきたガールズバンドの殆どが、大々的に飾られたポスターに目を奪われていた。

「凄い人気だね。潤君の考えたイベント。お陰様で、スタジオ予約でいっぱいだよ。」

まりなは潤にニコニコしながら言った。潤は得意気に笑った。

「でも、忙しくなりますね。」

潤は手元にあったポスターを見ながら言った。潤が考えたイベント、第3回ガールズバンドパーティーだが、第2回の反省点(人気があり過ぎてすぐ会場が埋まってしまった。)を活かして、CiRCLEではなく、何処か別の広い会場でやろうと考えていた。潤が頭を捻りに捻って、思いついた場所は、CiRCLEから近い公園にあるサッカー場で行うと言う物だった。つまりは野外ステージであり、ガールズバンドだけが集まった夏フェスと言ったところか。では、何故、既に出演が決まっている5バンド以外のガールズバンドが目を奪われているのか。その訳は…。

「すみません!私達もエントリーさせて下さい!」

「分かりました。では、こちらの紙に必要事項をお書き下さい。」

潤が紙を手渡すと、受け取ったバンドはキャッキャ言いながら書き始めた。その紙には「オーディション参加申し込み書」と書かれていた。せっかく、野外でライブをするのなら、5バンドだけでは勿体ないと考えた潤はこうして、オーディションを開く事にした。その効果は絶大で、様々なバンドがこうしてエントリーしてくるのであった。まりなの発言にもあったように、練習スタジオは常に予約でいっぱいになっており、CiRCLEは思わぬ収入を得ていた。更に、オーディションのエントリーに拍車をかけているのは、これも潤の意向であるが、合格基準が「上手い、下手」ではなく、「いかに楽しそうに演奏しているか」なので、皆、やる気になるのであった。

「書き終わりました!」

「ありがとうございます。確認させて頂きます。…はい。大丈夫です。では、5月20日にオーディションを行いますので…。頑張って下さいね?」

「あ、ありがとうございます!あ、あの。一宮さん?」

「はい。何でしょう。」

「い、一宮さんってか、彼女いますか?」

頬を赤らめ、モジモジしながら言う女子高生に、潤は驚いてた。

「あんた知らないの!?一宮さんの彼女はポピパのりみちゃんだよ!?」

「え?う、嘘!?」

「ほ、本当ですよ。」

なかなかこんな経験をしない潤はかなり戸惑っていた。ちなみにだが、人気のあるPoppin`Partyのベースのりみはガールズバンドの間ではそれなりに知名度がある為、潤と付き合っていると言うのはCiRCLEを利用している者には有名な話であった。

「うぅ…。あーもう!練習するよ!この悔しさをぶつけてやる!」

潤に好意を持っていたらしい女子高生が叫びながらスタジオに向かって行った。

「あー。ビックリした…。」

「あはは!潤君、最近モテるよね?モテ期来たんじゃない?」

まりな肘で潤を軽く小突きながら言った。

「モテ期?何ですかね?あまり実感はないですけど。」

「まぁ、そんな物だよ。大体、モテ期なんて、後から振り返った時に気付く物だから!でも、潤君、今の君ならモテそうだよ?いい顔してるもん!」

まりなが言うと、潤は「そんな顔してるかな?」と呟きながら、自分の顔をペタペタと触った。

「あはは!何してるのよ?まぁ、今のところ、ガールズバンドパーティー、大成功まっしぐらだもんね!いい顔にもなるよ!でも、まだまだ気は抜けないから頑張ろうね?」

「勿論です!月島さん、よろしくお願いします!」

「うん!」

2人は「パン!」とハイタッチをした。更に気合いの入った潤はパソコンに向かい、準備を少しずつ、進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Twitterを始めてます。
良ければフォローよろしくお願いします。
りみりんの影響で、高確率で朝ご飯にチョココロネをかれこれ1年半くらい食べてます。
実は、それまでチョココロネを食べたことがありませんでした。
あんな美味しいものを食べて無かったのかと思うと勿体ないと思っています。

感想&評価もよろしくおねがいします!


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4話

「潤君?準備良い?」 

「はい!大丈夫です。始めましょう。」

日時は5月20日。第3回ガールズバンドパーティーのオーディションが開催されていた。オーディションの内容はオリジナル曲を1番だけ弾くと言うものだった。応募総数が30組にもなり、スタジオを5箇所使い、順番に潤とまりなが回っていくと言うものだった。

「失礼します。」

「はい!よろしくお願いします!」

1組目が始まった。1組は4人組のバンドであった。全員、緊張と期待に満ちた目をしていた。

「緊張しなくて大丈夫よ?楽しく演奏してね?」

まりなが笑顔で彼女達に声をかけると、「ハイ!」と元気な返事が返ってきた。

「…えっと、準備は大丈夫ですか?では、始めて下さい。」

潤が言うと、彼女達は顔を見合わせた。ドラムのカウントが始まると、演奏が始まった。

 

「どうしましょうか?」

「どうしましょうかね?」

潤とまりなは事務所にて、「う~ん。」と悩んでいた。

「皆、本当に楽しそうに演奏してますね…。」

「だね。」

今回のオーディションの合否の基準である「楽しく演奏しているかどうか。」だったが、どのバンドも、本当に心から楽しそうに演奏していた為、悩んでしまっていた。

「全員、出す訳にはいかないのよね?」

「…はい。時間的に難しいですね。」

「だよね~?しかも、みんな上手だったしね。」

「ですね。えっと、ちょっとだけ悩ませて下さい。」

潤が苦笑いしながら言うとまりなは「もちろん。」と言った。

「すみませーん。潤君~?おーい!」

「こんな時に誰だ?はーい。今行きます!」

カウンターからの潤を呼ぶ声に、潤は立ち上がり、向かった。

「潤君!こんにちは。」 

「あれ?丸山さんに…後ろにいるのは戸山さん?って、ボーカル勢揃いじゃないですか。」

潤が事務所から出ると、潤を呼んだ彩を筆頭にガールズバンドパーティーに出演が予定している5組のボーカル陣がいた。

「皆さん、こんにちは。どうしましたか?」

「みーんなが笑顔になる事を考えたから潤に教えに来たわ!」

「はい?」

「そうそう!絶対キラキラドキドキするよ!?」

「へ?」

「まぁ、悪くないね。」

「…。」

口々に喋る少女達だったが、内容が何一つなく、潤は困惑していた。

「(よく考えると、このメンバーで誰が説明するんだ?引率の方は来てないのかな?)」

潤は5人の後ろを見たが、誰もおらず、「はぁ。」とため息をついた。

「えっと…。結局、何を思いついたんですか?」

「潤君!私が説明するよ!」

彩は「はーい。」と手を挙げながら言った。

「今日ね、久々に25人で集まったんだよね。潤君だけに準備をさせるのは申し訳ないからって。それで、話し合った結果ね。新しい事をやろうって事になったの!」

彩がニコニコしながら言った。

「新しい事?ですか?」

「そうよ!間違いなく笑顔になるわ!」

「弦巻さん。話が進まなくなるわ。丸山さん、続きを頼むわ。」

「う、うん。えっとね。それで、カバーをしようと話になったの!」

彩はドヤとした表情で胸を張って言った。

「…へ?カバー?誰のですか?てか、皆さん、今までカバーやってたじゃないですか?」

説明をちゃんとしているようで出来ていない彩をキョトンとした表情で潤は見ていた。

「彩先輩。肝心な事が抜けてます。私達のオリジナルの曲をそれぞれのバンドがカバーをするって事が。」

「うっ。蘭ちゃん。ゴメンね。」

えへへ。と頭を掻きながら彩が言った。さすがはアイドル、1つ1つの仕草が可愛いと潤は、潤は感じていた。

「つまり、Poppin`Partyの曲をRoseliaが演奏するって感じですか?」

「そうよ。新しい試みよ。きっと、今までにない演奏になって、成長出来ると思うの。私も良い刺激になるわ。」

友希那が潤の質問に答えた。その間、潤はハロー、ハッピーワールド!の曲を歌う友希那の姿を想像し、吹き出しそうになっていた。

「…良いと思います!それで、誰がどのバンドをカバーするんですか?」

「それを今から決めに来たのよ!楽しみにしてて!」

こころが高らかに言う。

「そう言うこと!ねぇねぇ、潤君!開いてるスタジオ無い?」

「ごめんなさい。無いです。今日、第3回ガールズバンドパーティーのオーディションだったので、スタジオ埋まっているんですよ。」

「あぁ。今日だったんだ。で、いい人いた?」

蘭がポスターの方を見ながら言った。

「それが…。皆良くて困ってたんだよね…。あはは。」

潤は苦笑いしながら言う。

「潤?あなた、音楽分かるの?」

「いいえ。湊さん。でも、僕は1年半くらい皆さんの音楽を聴いてきたので、楽しそうか、そうじゃないかくらい分かりますよ。」

「そう。いらぬお世話だったわね。」

湊が微笑みながら言った。

「ねぇ。みんな?CiRCLE使えないならどうしようか?」

彩は首を傾げながら言った。

「お話しだけならラウンジやカフェテラスでもどうぞ?」

潤がそう言うと、皆は顔を見合わせた。

「なら、カフェテラスでやりましょう?潤、あなたも来て貰えるかしら?」

「僕もですか?分かりました。」

潤は、まりなに声かけて、カフェテラスに向かうのであった。

 

─────────────────────

日が暮れかけて、潤は家に到着した。手には1枚の紙が握られていた。

「これで…。良かったのかな…。」

潤は苦笑いしながら呟いた。

「潤くん。お帰りなさい。」 

「ただいま。りみ。」

潤が帰ってきた事に気付いたりみは玄関まで出迎えに来た。

「その紙は何?」

りみは首を傾げながら言った。

「あぁ。りみも聞いてるよね?各バンドのオリジナル曲をカバーするって話。その一覧だよ。」

紙をりみに渡しながら言った。

「もう決まったんだ!Poppin`Partyは…。Roselia!?」

紙を見たりみは目を見開き叫んだ。

「か、か、香澄ちゃん…。なんでRoseliaを選んだの…。」

Roseliaの楽曲は頂点を目指すと言っているだけあり、かなり難易度が高く、とても苦労するのが目に見えていた。

「難しい、みたいだね。流石の戸山さんも顔、引き攣っていたよ。」

「え?香澄ちゃんがRoseliaを選んだんじゃないの?」

「それが、なかなか決まらなくて、クジになっちゃったんだよ。急遽、僕があみだくじを作ってね。」

潤が苦笑いをしながら言う。

「そ、そうなんだ…。」

「なかなか面白かったよ。みんな一喜一憂しちゃって。Roseliaの欄を見て?」

「Roselia?…あっ。…あはは。」

潤に言われるがまま、りみは目線をずらし、確認すると苦笑いをした。

「確かに…。イメージ無いかも。」

「でしょ?湊さん、かなり動揺していたよ。」

潤は、その時の湊を思い出し、「ふふっ。」と笑った。

「楽曲はそれぞれ決めて良いみたいだから、明日はその話になるんじゃない?」

「そうなんだ。何になるんだろ…。何になっても難しいよね…。」

りみは再び、苦笑いをした。

「まぁ、あまりに難しかったら、今井さんに教えて貰うように頼んであげるから。」

「う、うん!その時はよろしくね。そ、そ、それでね?潤くん。」

りみは急に目を伏せ、頬を赤く染めて呟くように言った。

「何?どうしたの?」

「ご、ごご、ご飯にします?お、お風呂にします?そ、そ、そ、それとも…。わ、私?」

顔を真っ赤にし、りみは目を潤ませながら言った。

「ど、ど、どうしたの?りみ?」

「え?じ、潤くん喜ばないの?」

「へ?びっくりしてるけど…。」

潤が目を見開いて言うと、りみは「うぅ…。」と呟き、台所に向かった。

「麻里さん!潤くん喜ばないじゃないですか!」

「ご、ごめん。りみちゃん。…ふふっ。ま、まさかホントに…言うとは。」

麻里は笑うのを我慢しながら言っていた。しかし、最後には「あはは!」と大声で笑っていた。

 

─────────────────────

「湊さん、やってくれましたね?」

「悪いとは思ってるわ。」

「まぁまぁ。紗夜?クジだったんだし、しょうが無いじゃん☆」

「わ、わ、私…。絶対…無理…。」

「りんりん大丈夫だよ!ドーンバーンって弾いてたらすぐ終わるよ~。」

Roseliaの面々はオーディションの翌日、すぐにCiRCLEに集まっていた。

「そうですけど…。まさかハロハピが当たるなんて…。」

「まぁ、全く違う曲調だよね。友希那~?どうする~?」

「昨日、考えてみたけど、どの曲が良いか全く思い浮かばなかったわ。あと、弦巻さんからの伝言よ?ハロハピの曲を弾く時は笑顔で!だ、そうよ。」

友希那が言うと、燐子は顔を伏せ、「え、笑顔…。」と呟いていた。

「まぁ、引いてしまった物はしょうがないですね…。曲、何にしますか?」

紗夜はため息交じりに言った。

「はいはい!私、せかいのっびのびトレジャーが良い!YO!YO!ってカッコイイじゃないですか?」 

「嫌よ。私にラップをやれって言うの?」

「じゃあ、無難にえがおのオーケストラとか?」

「嫌よ。あんな明るい歌、歌えないわ。」

「…あ…明るい…歌が無理なら…ハロハピの曲…全滅…じゃないですか?」

頭を抱える友希那に他のメンバーは同情の目を向けた。

「私達は弾くだけだから良いけど…。湊さんは歌わなきゃいけませんもんね。」

紗夜は腕を組み「う~ん。」と考えた。

「友希那~?覚悟を決めなきゃダメなんじゃない?」

リサはニヤニヤしながら言った。

「リサ…。楽しそうね。」

「え?いやいや。そんな事ないよ~☆」

リサはニヤニヤした表情を崩さず、手を目の前でブンブンと振った。

「友希那さん…。1つ…。良いでしょうか?」

「何かしら?燐子?」

「あ、あ、あの。わ、私、キーボードはどうすれば良いので…しょうか?」

「「「「あっ!」」」」

4人の声が揃った。Roseliaの面々は忘れていた。ハロハピにはDJがいることに…。

 

─────────────────────

Roseliaが頭を悩ませている最中、同じCiRCLEの中では潤がパソコンに向かっていた。ガールズバンドパーティーの準備が予想以上に忙しく、学校が終わると、すぐにCiRCLEにやって来てパソコンに向かうのであった。ちなみに、本来なら潤は今日、休みであった。

「潤君?大丈夫?無理してない?」

「大丈夫ですよ。確かに忙しいですが、毎日楽しいので。」

潤は満面の笑みで言った。

「お邪魔するよ?」

「あっ!オーナー。こんにちは。」

「こんにちは。オーナー。今日はどうしましたか?」

オーナーが事務所に入って来ると、まりなと潤は笑顔で出迎えた。

「ガールズバンドパーティーの準備はどう?一宮君のお陰で、かなり大きなライブになると聞いてるが。」

「そうなんですよ!オーナー!他の従業員もかなり気合い入ってますよ!」

オーナーの言葉にまりなは笑顔で言った。売り上げもかなり上がっている為、まりなは鼻高々だった。

「そうか。なら良かった!私も何か手伝える事があったら言ってくれ。何でも手伝うから。」 

「分かりました。ありがとうございます。」

潤はオーナーに頭を下げた。

「ところで、一宮君…。正社員の話は…どう?」 

オーナーは探るように潤に聞いた。潤は少しだけ「う~ん。」と考えて、口を開いた。

「実は、もう決めてまして…。」

「え?潤君決めてたの?」

「は、はい。でも、りみにもまだ言ってないので、内密にして欲しいのですが…。」

潤は苦笑いしながら言った。

「もちろんだ。で、返事はどうなのかな?」

「はい。今やってる第3回ガールズバンドパーティーが大成功したら、正社員の話を受けさせて頂きます。成功したら自信にも繋がると思いますので。」

潤は立ち上がり、身振り手振りを入れて言った。

「…分かった。私は本当に一宮君にこのCiRCLEに必要な人物だと思っている。それは変わりないから。第3回ガールズバンドパーティー、是非、成功させてくれ。」

オーナーはニヤリと口角を上げて言った。潤も大きく「はい!」と返事をした。

「(い、言っちゃった…。りみにも言わなくちゃだね。)」

潤はそう思いながら再び、パソコンに向かうのであった。

 

 

 

 

 




お待たせしました。
4話です。
更新がまちまちになってしまい、すみませんでした。

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5話

オーディションから1ヶ月。潤はまりなとの相談の元、なんとか出演するバンドを決めた。そして、来月に迫った第3回ガールズバンドパーティーの準備を本格的に始めていた。そんなある日の束の間の休日、いつもの様に潤とりみは一緒に過ごしていた。

「りみさんにお話しがあります。」

「な、何かな?」

他愛ない話をしていた2人だったが、潤が急に畏まり、正座をしてりみに話しかけた。あまりの急な展開に、りみも正座をしながら返事をした。

「実は…。進路のお話しなのですが…。」

「う、うん。CiRCLEに就職するかどうかって話だよね?」

「うん。そうだよ。…この前ね、オーナーと話す機会があってね。今度のガールズバンドパーティーが成功したら、就職の話を受けようかと思ってるって伝えたんだ。」

潤が言い終わると、何故かりみからの返事は無く、静寂に包まれた。

「ん?りみ?」

「ねぇ、潤くん?それっていつから決めてたのかな?」

「へ?5月の最初の方…かな?」

「そう…。うちに相談もなく?」

潤はりみの背後から黒いオーラが出ている事に気付いた。りみは表情こそ、ニコニコしていた。必死に怒りを抑えているように見えた。

「えっと…。」

「なんで相談もなく決めちゃったの?ねぇ、なんで?」

言い訳をしようとした潤だったが、りみが潤の発言の上から被せて遮っていた。

「い、いや、なかなか相談する時間が…。」

「うち、毎朝と毎晩、潤くんの家に来てるよ?話す機会はいっぱいあったよ?」

「り、りみさん!お、落ち着いて頂けると助かるのですが…。」

潤はどうどうと、両手を前に出し、ジェスチャーを加えながら言った。

「……潤くんなんて知らない!勝手にすれば良いよ。」

りみは頬を膨らませ、プイッと明後日の方向に顔を背けた。

「りみ…。ごめんなさい。確かに、1番に相談するべきだったね。悪かったよ。」

「…なんで、CiRCLEに就職する事に決めたの?…あっ…。ライブ次第だったね?」

「うん。就職に決めたのは、卒業してからりみと暮らしたかったからだよ。やっぱりお金って必要じゃん?親に頼りたくもないしね…。あと、ライブが成功したらって言うのは、自分に自信を付けたかったからだよ。あの大きなライブをやりきって、成功したら、これから先の仕事も自信を持って、出来そうだから。」

潤は言い終わると、恐る恐るりみを見た。りみの表情はニコニコが消えており、真剣に潤の話を聞いていた。

「…やっぱり、相談も無しに決められたら…寂しいかな。」

「…ごめんなさい。」

潤は正座のまま話をしていた為、頭を下げると土下座をしているようだった。

「…ちゃんと次からは相談してね?…ふ、2人で暮らすんだから…。」

「本当にごめんなさい。」

「もう大丈夫だよ。ふふっ。じゅーんくん?」

りみはシュンとしている潤の姿を見て、愛らしくなり、ギュッと抱きついた。

「りみ?」

「さっきのお詫びに、今日はいっぱい甘えるから…ね?」

りみは頬を赤く染めながら言った。そして、どんどん顔を薔薇のように赤く染め上げていった。

「り、りみ?ど、どうしたの?」

「へ?え、えーと…。その…。き、今日って、ま、麻里さん帰ってくるの、お、遅いんだよね?」

「うん。父さんのとこに行ってるからね。」

「だ、だよね?…その…。し、しない?」

「何を?」

りみの質問が理解出来ず、潤は首を傾げた。いや、分かれよって話であるが…。

「…ぜ、全部言わせない…でよ。」

シューと頭から蒸気が見えると錯覚するほど、りみの顔は赤くなり、俯いてしまった。

「…えっと…。昼間だけど…良いのかな?」

「だから、そう言ってる…よ?」

りみはギュッと潤を更に強く抱き締めた。握ってい手は微かに震えていた。

「うぅ~。は、恥ずかしいよ…。」

涙目になりながら、りみは言った。その言葉が合図と言わんばかりに、潤はりみの唇を奪っていった。

 

─────────────────────

「…今、何時?」

目を擦りながら潤は目覚めた。日差しは西に傾いていた。潤は横を見ると、気持ちよさそうにりみが眠っていた。

「えっと…。16時…かぁ。」

スマホを操作しながらりみを起こさないようにそっと呟いた。しかし、りみも睡眠が浅かったらしく、潤の微かな声に、もぞっと動き、瞼を開けた。

「…潤くんだ。」

「うん?どうしたの?」

「ん~…。」

りみは寝ぼけているのか、ギュッと潤の胸に顔を埋めた。「(まだ寝るのかな?)」と潤が思っていると、ガバッとりみが起き上がった。

「じ、潤くん!!い、今何時!?」

「16時だよ?り、りみどうしたの?」

「…良かったぁ…。まだそんな時間なんだね…。てっきり、寝過ぎちゃったと思ったよ…。」

りみはホッと胸を撫で下ろした。そして、今、自分が生まれたままの姿であることを思いだし、慌てて、掛け布団を被るのであった。

「ところで、りみ?Roseliaのカバーする楽曲は決まったの?」

改めて、裸を見られた事に恥ずかしさを覚えるりみの事など、気にしないかのように、潤は言った。

「へ?か、カバー?え、えっとね。陽だまりロードナイト…だよ。」

「へぇ。よく湊さんが許可をくれたね。」

陽だまりロードナイトは友希那がリサの事を綴った曲、つまり大切な曲の1つである為、許可を出していた事に驚いていた。

「う、うん。二つ返事で良いよって言ってくれたよ?私達が陽だまりロードナイトを選ぶって思ってたみたいだよ。でもね…。やっぱり難しいしの。」

りみは苦笑いしながら言った。

「確か、ベースソロあったよね?」

「…うん。き、緊張して来ちゃったよ…。」

「あはは!りみ、早いよ。あと1ヶ月くらいあるよ?」

潤が笑いながら言うと、りみも微笑み、「確かにね。」と言った。

「りみ、本番まで頑張ろうね。」

「うん!もちろん!」

2人は微笑み合うと、お互いの手を布団の中でギュッと握るのであった。

 

─────────────────────

それから時は進み、本番まで1週間と迫っていた。潤達、高校生組は期末テストを無事(?)乗り越え、ラストスパートと言わんばかりに熱の籠もった日々を過ごしていた。潤が中心となって行うガールズバンドパーティーはその大規模なステージだけあり、世間から注目されつつあった。そしてCiRCLEでは、最終のミーティングが開かれていた。

「皆さん、お集まり頂いて、ありがとうございます。今日は、最終の確認をしたいと思います。」

潤が、紙を持ち、ホワイトボードの前で喋っていた。未だに、緊張するのは変わらず、クーラーが効いて、快適な空間にも関わらず、額には汗が浮かんでいた。

「まず、私達、CiRCLEのスタッフで18日に、機材の搬入と、ステージの確認を夕方から行います。そして、19日の9時から、リハーサルを行います。リハーサルの順番は当日、お知らせしますね。ここまでは良いですか?」

潤は顔を上げて、周りを見渡した。全員、頷いていた。

「次に、本番です。皆さんは20日の10時に集合して下さい。簡易的ですが、控室となるバスを用意しています。バスを用意して下さった弦巻さん、ありがとうございます。」

潤が頭を下げて言うと、こころは「別に構わないわ!」と笑顔で言った。このバスがとんでもなく豪華であることを潤は後に知り、驚くのであった。

「そして、13時からトップバッターのAfterglowさんからスタートします!当日はかなり気温が高くなると思いますので、水分補給だけはしっかりとお願いします!順番は決まってますが、当日、不具合など起こったら前後するかも知れません。よろしくお願いします。」

潤は再び、頭を下げて言った。参加するバンドメンバー達は、潤の説明を受けて、修学旅行の前の日のような空気が流れていた。潤も含め、ここにいる全員がライブが楽しみで仕方が無かったのだった。

 

─────────────────────

7月20日、とうとう、第3回ガールズバンドパーティーの日を迎えていた。各、バンドの準備も滞ることなく終わり、今は始まるのを待つばかりだった。観客も沢山入り、普段、サッカー場である芝の上は人で埋まり、緑の部分があまり見えない状態だった。そして、時間は12時45

分となっていた。どこからともなく「円陣を組もう!」と言う声が上がり、1つの大きな円が出来上がっていた。

「潤。気合い入れ。よろしく。」

「み、湊さん?ぼ、僕ですか?」

友希那が潤に向けて言うと、円陣の外にいた潤は戸惑いながら言った。

「潤君しかいないよー!」

香澄も続けて叫ぶと、潤はまりなから背中を押され、円陣の中央にいた。

「…えっと。まずは、このライブが開催出来たのは、皆さんのお陰です。CiRCLEのスタッフを代表して言います。ありがとうございます。そして、CiRCLEのスタッフの皆さん、僕だけではこんなライブをすることは出来ませんでした。こんなちっぽけなバイトに力を貸して下さって、ありがとうございます!皆さんが楽しく演奏すれば、盛り上がるのは間違いないです!全力で楽しんで、そして怪我なく、元気にライブをしましょう。…いくぞっ!」

潤は最後に思いっきり叫んだ。それと同時に「おー!」という声も夏の空に響くのであった。

「では、Afterglowさん!お願いします!」

潤が、叫ぶと、「いつも通り行こう。」と蘭の声が静に響くのであった。

 

─────────────────────

「…終わったー!」

ライブが終わり、潤は片付けの為にCiRCLEに戻ってきていた。始まってみたら楽しい時間はあっという間に終わってしまった。

「潤くん。お疲れ様。」

「ありがとう、りみ。ポピパも凄く良かったよ。」

「うん!めっっっちゃ楽しかったよ!陽だまりロードナイトも上手くいってホッとしたよ~。」

りみが満面の笑みで言った。

「カバーの企画も盛り上がったね。まさか友希那さんがDJをして、白金さんが歌うとは思わなかったよ。」

潤はRoseliaのライブを思い出すと「ふふっ。」と笑った。以前、Roseliaが話し合っていたDJ問題は、友希那があみだくじでハロー、ハッピーワールド!を当てた責任をDJをやるという事になり、代わりに、ハロー、ハッピーワールド!にはいないキーワードの燐子が嫌々歌うという形に収まり、「キミがいなくちゃ!」を演奏したのであった。ちなみに、他のバンドはAfterglowはPoppin`Partyの「ティアドロップス」をPastel*PalettesはAfterglowの「Jamboree!Journey!」を、そして、ハロー、ハッピーワールド!はPastel*Palettesの「はなまる◎アンダンテ」を披露したのであった。

「ところで、潤くん?」

笑顔で談笑していた2人だったが、りみが真剣な表情で言った。

「何かな?」

「今回のライブ…。成功だったのかな?」

「勿論だよ。お客さんはどう思ったかはまた後日、分かるはずだけど、僕の中ではやりきったよ!後悔は1つも無い!だから、大成功だよ!」

潤は手をぐっと握りしめながら言った。

「だったら、その、CiRCLEに就職するの…かな?」

りみは眉を八の字にして、呟くように言った。

「そうだけど…。りみ、どうしたの?」

「…グスっ。」

「り、りみ!?」

突然、泣き出したりみに潤は困惑した。今の今まで楽しく、ライブの感想を話していたはずである。

「大丈夫?落ち着いた?」

「ご、ごめんね。ひ、1つだけ、ワガママ言っていいかな?」

りみは泣き止むと、申し訳なさそうな表情で言った。

「潤くん…。や、やっぱりね。一緒の大学に行きたい…。今更何言ってるのって思うよね。ゴメンね。前に、潤くんに相談をしてって怒ったけど、わ、私の方が、相談、出来てなかったね…。」

「ううん。大丈夫。…ずっと、そう思っていたの?」

「…うん。でも、潤くんがね、CiRCLEで働くのは私と暮らす為って聞いて、言い辛くなっちゃってね…。でも、私との生活の為に働くって聞いて嬉しかったのは本当なんだよ?」

りみは言い終わると、また涙を一筋、流した。

「…こっちこそゴメン。」

そんな、りみの涙を見た潤は、不甲斐なさから、苦虫を噛み潰したような表情で言った。

「潤くんは悪くないよ。私が言わなかったのがいけなかったから。」

「ううん。そんな事ないよ。今回、進路を決めるときに、りみの気持ちをちゃんと聞いてなかったよ。本当にゴメン。りみが本気で一緒の大学に行きたいなんて、微塵も思ってなかったよ。勉強が出来ないから、りみと同じ学校に行くのは無理って思い込んでたよ。なんの努力もせずに…。」

潤はそう言うと、立ち上がり、りみに向かって頭を下げた。

「じ、潤くん!頭を上げて!?潤くんが働くって決めたのも私の為なのにワガママ言ってゴメンね。私の勝手なワガママだから…。」

「ううん。もう1度、しっかり考えてみるよ。大学に行くのも、行って損は無いわけだし。」

潤はりみを落ち着かせる為に、ニコッと笑って言った。しかし、潤の心の中は、激しく揺れるのであった。

「(りみと同じ大学…。行くとしたら死ぬ気で勉強しないと…。でも、今回のライブで、CiRCLEで働きたいって気持ちも強くなっちゃったし…。)」

潤はりみにバレないように「はぁ。」とため息をつくのであった。




さて、やっとライブパートが、終わりました。
今まで、楽しかったなぁ…笑
ここからは本格的に「進路」のお話しになります。
2人はどのように決断するのでしょうか。

感想&評価、お待ちしています。


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6話

「暑っ。」

外に出た潤は額に皺を寄せた。何年経っても潤は暑さが苦手なままであった。すぐに額には汗が浮かび、何回も拭っていた。あれから、CiRCLEのオーナーに就職をするか、しないかを、保留したいと伝えた。オーナーからは「大事な事だからゆっくり考えなさい。」と言われた。りみの方の返事も保留しているが、潤はバイトをしながらも、死ぬ気で勉強していた。

「あぁ…。寝不足だ…。」

ボソッと潤は呟くと、目を擦りながら欠伸をした。潤はゆっくり商店街を歩くと、良い匂いが鼻を擽った。潤が匂いの方に目をやると目の前に「やまぶきベーカリー」が鎮座していた。

「あれ。ここまで歩いたんだ。…意識失いながら歩いて…た?」

無意識に歩いていた潤は虚ろになりかけた目を擦った。

「ち、ちょっと、潤君大丈夫?」

潤の目の前にあった、やまぶきベーカリーの扉が開き、沙綾が出てきた。珍しく、焦った表情をしていた。

「あぁ。山吹さん。おはよ。」

「おはよじゃないよ!ち、ちょっと入って!」

沙綾は叫ぶと、潤を招き入れた。そして、潤はやまぶきベーカリーにある椅子に潤を座らせた。

「山吹さん?大丈夫だよ?」

「大丈夫なわけないでしょ!目に隈作って!顔色も悪いのに。りみりんに聞いてショックだったとは思うけど…。」

「…何の話?」

潤は沙綾の言葉に首を傾げた。

「…へ?まさか…。ねぇ。りみりんから何か重要な話、聞いてない?」

「うん?一緒の大学に行きたいって話しか聞いてないよ?前のライブの後に…。ねぇ。なんの話?」

「へ?う、う~ん。さ、流石にりみりんから聞いた方が良いかな…。私の口からはちょっと…。」

口を濁す沙綾に潤は額に皺を寄せた。嫌な予感が潤の背筋を凍らせていた。

「えっと…。気になるけど…。分かったよ。りみに聞いてみるね。」

「うん。そうして…ね。」

沙綾はサッと目線を下げていた。その瞳は辛そうな、悲しそうな、なんとも言えないものだった。

「ありがとう。山吹さん。僕、バイトだから。行くね?本当にありがとうね。今度、パン、買いに来るね。」

「ダメだよ。潤君。」

沙綾に礼を言い、立ち上がり、CiRCLEに向かおうとした潤だが、沙綾に阻止されていた。沙綾が軽く潤の肩をポンと押すと、潤はいとも簡単に、椅子に腰掛けてしまっていた。

「…大丈夫だって。」

「大丈夫じゃなさそうな顔で言われても。今、りみりんをLINEで呼んだから諦めてね?家でゆっくり休んだ方が良いよ。」

沙綾が苦笑いを浮かべる。潤は焦ったような表情を浮かべながら「はぁ。」とため息をついた。

 

─────────────────────

りみは沙綾からLINEを貰った直後から走ってやまぶきベーカリーに向かっていた。ちなみに、今朝は潤の家に行かなかった。いや、ここ最近、潤は朝にりみが来る事を嫌がった為、行けなかったのだった。

「潤くん…。潤くん…。」

呟きながら、目を潤ませながらも、りみは急いで、やまぶきベーカリーに向かうのであった。

「潤くん!?」

息を切らせながら、りみがやまぶきベーカリーに到着すると、沙綾が「しー。」と人差し指を立てて、言った。りみが座っている潤を見ると、潤は「すーすー。」と静に寝ていたのであった。

「潤君、フラフラしてて、目に隈を作ってたし、顔色も悪かったんだよ。…私はてっきり、潤君にあの事を話したからだと思ったんだけど。」

沙綾はりみを見ながら言った。りみは目線を反らした。

「…早く言わないと、言いにくくならない?」

黙っているりみに、沙綾は言葉を続けた。

「…分かってる…よ?」

「分かってないじゃん。てか、りみりん、潤君の体調不良も気付かなかったの?てか、潤君は何に無理しているの?」

「…何かしているみたいだけど…。詳しくは教えて…くれなかったから…。分からない…よ?最近、朝は来て欲しくないって言われてから…朝は潤くんの家に行ってないし…。」

「…で?りみりんは何してたの?まさか、分からないままにしてたの?」

沙綾はりみに更に迫っていた。その様子はまるで、刑事と犯人のやり取り、つまり、取り調べみたいであった。

「沙綾ちゃんに何が分かるの!?わ、私と潤くんの事…だから…。」

「…そ。なら良いようにしたら良いじゃん?…でも、早く、あの話はしなよ?」

「わ、分かってる…よ。」

「…ごめんね。熱くなっちゃって…。そりゃ、言いにくいよね…。」

「ううん。悪いのは私…だから。このままじゃいけないのは…。分かっているから。」

りみは目を潤ませながら言った。その瞬間、「ガタン!」という音がやまぶきベーカリーに響いた。りみと沙綾がびっくりしながら音の方を見ると、潤がひっくり返っていた。

「じ、潤くん!?」

「だ、大丈夫?」

りみと沙綾が潤に近寄ると、潤は「痛いなぁ。」と呟き、ムクッと起きた。

「あれ?…寝てた?…って、バイト!」

潤は急いで立ち上がると、慌ててカバンを掴んでいた。

「潤君。今日、バイト、お休みだよ?まりなさんに連絡したから。」

「へ?山吹さん?大丈夫って言ったじゃん!早く…行かないと…。」

「潤くん…。」

立ち上がった潤の袖をりみは引っ張った。

「…りみ?」

「お願い…。ぐすっ…。今日は…。休んで…。そんなになっているなんて…。気付かなかったよ…。ぐすっ。」

泣きながらお願いするりみに、潤はやっと頷き、りみに手を引かれながら自宅に戻って行った。

 

─────────────────────

りみと共に、潤は自宅に戻ると、ベットに横たわった。顔色は幾分かマシになっていたが、怠そうな表情を浮かべていた。

「潤くん。どうしたの?体調…悪いの?」

りみは横たわる潤の手を握った。

「…大丈夫だよ。」

ボソッと呟くようにして潤は言うが、りみは首を振った。

「大丈夫じゃないよ…。見るからにボロボロだよ…。ねぇ、何があったの?私が朝に来て欲しくない理由と関係してるの?」

再び、声を震わせながらりみは言うが、潤は黙ったままだった。りみが潤の表情を見ると、何か考え事をしているようだった。

「…話さないと…ダメかな?…出来れば、あまり格好よくないから、話したくないんだけど…。」

「ダメ。聞きたい。秘密は無し…だよ?」

りみは潤の胸に額をくっつけた。握っていた手は更にギュッと握る。

「…分かったよ。…勉強をしてたんだよ。」

「…勉強?」

「うん。僕がりみと同じ大学に行くには本当に死ぬ気で勉強しないとダメだからさ…。出来れば、隠したかったんだけど、夜遅くまで勉強して、朝も早起きしてるんだよ。朝にりみに来て欲しくないって言ったのは、紗夜姉さんに朝は勉強を見て貰っているからなんだよ。…頑張ってる姿をりみに見られて、心配を掛けたくなかったから言わなかった…。でも、今、心配かけちゃってるよね…。僕はやっぱりダメだなぁ。」

最後は苦笑いをしながら潤は言った。りみは苦笑いした潤を見て、再び、ポタポタと涙を流し、潤のTシャツを濡らせていた。

「…わ、私の…ワガママで…ごめんね…。」

「ううん。りみは悪くないよ。僕だって、りみと一緒に少しでも長くいたいから一緒の大学に行くのも有りだと思ってるし、大学に行くことで、人生がプラスになるはずって思っているから。まぁ、まだ、働くか進学か悩んでるんだけどね。…でも、体調はもっと気をつけるね。体調崩して、バイトも勉強も出来ないと意味ないもんね。」

「…そうだよ。」

りみはそう言うと、立ち上がった。

「飲み物、何かいる?汗もかいてるから、着替えた方が…良いんじゃない?」

「あっ。うん。ありがとう。だったら、アイスコーヒーが良いかな?」

潤はそう言うと、着替える為に、身体を起こした。りみは頷くと、部屋から出て行った。

「…りみ?」

いつもと、様子が違うりみを見て、潤は首を傾げた。

「(なんか…。いつもより、よそよそしい?気のせいかな?)」

潤は着替えを取り出すと、サッと着替えるのであった。その頃、りみはアイスコーヒーを作りながら、ため息をついていた。

 

─────────────────────

「沙綾。大丈夫か?」

「…大丈夫。」

有咲は落ち込む、沙綾を見て、「はぁ。」とため息をついた。

「沙綾が落ち込んでどうするんだよ。」

「…だって…。」

潤とりみが帰った後、沙綾は店の手伝いを母親に変わって貰っていた。あまりにも落ち込んだ沙綾を見て、母親が助け船を出したのである。そして、部屋に籠もっていたが、あまりにも気分が落ち込んでしまった為、有咲に電話をした。有咲が電話に出た瞬間に、安心感から沙綾が泣き出してしまった為、有咲が飛ぶように急いで沙綾の家にやって来たのだった。

「りみの事でなんで沙綾がそこまで凹んでるんだよ。まぁ、気持ちは分かるけど。てか、りみはなんて?一宮さんの返事は何だったんだ?」

「…りみ、まだ言って無かったよ。」

「…はぁ?マジか…。」

「うん。だから私、カッとなっちゃって、りみに酷い事、言っちゃったんだよね。りみからしたら絶対に言いにくいことなのに…。りみの気持ちを理解してるつもりだったのに…。」

沙綾はクッションに顔を埋めながら言った。沙綾が落ち込んでいる理由を有咲は理解し、慰める為、頭をフル回転させた。

「…まぁ、沙綾の事だから、すぐに謝ったんだろ?」

「一応…ね。はぁ。なんであんな事を言っちゃったんだろ…。」

沙綾は深いため息をつきながら言った。

「明日、練習だろ?改めて、謝ったら大丈夫だよ。りみも沙綾の気持ち、分かってるよ。」

有咲はニコッと笑いながら言うが、沙綾は不安そうな表情を崩さなかった。

「有咲はさ。あの話聞いた時、どう思ったの?」

「ん?そりゃ、嬉しかったよ。沙綾は嬉しくなかったのか?」

「もちろん、嬉しかったよ!5人でこれからも一緒にいれるって思ったけど…。」

「まぁ、確かに、あの条件は厳しいよな。りみ、あまり私達の前じゃ出さないけど、相当悩んでるんだろうな。」

有咲は下の方に目線を下げながら言った。沙綾の家に来た時に、出された紅茶が入ったマグカップをギュッと握りしめた。

「…りみりん、どうするのかな?」

「わかんねー。でもさ、りみ、変わったよな。前のりみなら、あの話を聞いた瞬間に、絶対取り乱してたよな。でも、落ち着いて聞いてた。寧ろ、私達の方が取り乱してたよな。」

有咲がニヤッと笑って言うと、その時の状況を思い出して、沙綾も「あはは。」と乾いた笑い声を出した。

「潤君と付き合ってから、確かに、りみりんは強くなったよね。でも、やっぱり未だに言い出せない辺り、1人で悩んでるんだよね…。」

「りみが頼ってきたら、私達が全力でサポートしたらいいんじゃね?…でも、本当にどうなるんだろうな。」

有咲は今度は窓の方を見た。沙綾の部屋は冷房が効いていた為、快適そのものだが、外は紫外線をたっぷり含んでそうな日差しが降り注いでいた。

「りみりん、次第だよね。香澄とおたえはなんて?」

「香澄は、りみの助けになりたいっていつもみたいに暴走しそうだったから、りみの答えを待つように言った。おたえは…よく分からん。」

有咲はやれやれと両手を挙げながら言った。おたえはずっとこの件に関しては無言を貫いていた。

「そっか…。有咲、色々ありがとうね。」

「な、なんだよ。急に!べ、別に普通の事だし。」

顔を赤く染めながら有咲は言った。

「ううん。本当に感謝しているよ。有咲がいなかったらポピパがどうなっていたか分からないよ。」

「大袈裟なんだよ!…私がいなかったから沙綾が何とかしてたんじゃね?」

沙綾は更に有咲を褒めると、有咲はプイッと顔を反らした。

「私は無理だよ。あの時、何も出来なかったし…。」

少しだけ、声に元気が戻ってきていた沙綾だっが、再び、クッションに顔を埋め、声のトーンが下がった。そんな沙綾を見て有咲は「(りみもそうだけど、沙綾も重傷だな。…よし。)」と思っていた。そして、有咲はスマホを掴むと、LINEをタップし、文章を作り始めた。

 

“沙綾からだいたいの話は聞いた。

沙綾、りみに言い過ぎたって、かなり落ち込んでるんだけど、りみ怒ってるか?

怒ってないなら、沙綾にLINEして欲しい。

りみも、大変なのに、ごめんな。”

 

有咲は文章を読み直し、誤字脱字が無いかを調べると、直ぐに送信した。しかし、りみからは返信どころか、既読さえもなかなか着かなかった。

 

 




感想&評価お待ちしております!

最近、小説スランプ中です。
でも、負けない!笑

「日常の中にチョコより甘い香りを」ですが、リクエストを受けて、R18を書く事にしました。
ハーメルン内にあげます。
詳しい事は、Twitterの方にあげますので、よろしくお願いします。


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7話

りみはスマホを見ながら、ため息をついた。

「私…。何やってるんだろ…。色々な人に…迷惑…かけちゃってる…よね。」

横ですーすーと規則正しい寝息を立てている潤を横目にりみは目に涙を溜めていた。

「と、取りあえず…。返信しよ…。」

りみはスマホをギュッと握ると、ゆっくりと文字を打ち出した。有咲に返信する為である。有咲が送信してから2時間ほど経っていた。

 

“返信遅れてごめんね。

今から、沙綾ちゃんにLINEするね。”

 

送信ボタンを押して直ぐに、りみは沙綾にLINEを送る為に文章を打った。

 

“沙綾ちゃん、ごめんね。

心配してくれて言ってくれたのに、あんな態度しちゃって…。

潤くんに何て言って良いか、分からなくて…。

でも、このまま、黙っていられないから、今日、ちゃんと潤くんに伝えます。”

 

りみは文が正しいか読み直し、送信ボタンを押した。りみの送信した文には直ぐに既読がつき、沙綾から返信が届いた。

 

“私の方こそ言い過ぎたよ。

ごめん。

りみ、無理してない?

もし、考えが纏まらないなら、今日じゃなくても良いんじゃない?”

 

“沙綾ちゃんは悪くないよ。

悪いのは中途半端にしちゃってる私だから。

大丈夫だよ。

ありがとうね。

これからもよろしくね?”

 

沙綾からのLINEにまた、りみが返信をする。りみは考える為に、スマホの電源をそっと落とした。

 

─────────────────────

「…はぁ~。」

「大丈夫だったか?」

りみからの返事を受け取った沙綾は深いため息をついた。スマホを置いた沙綾を見て、有咲は声をかけた。

「…うん。…多分。」

「煮え切らない返事だな。」

「りみりん、今日、潤君に言うみたい。」

「…そっか。」

再び、不安な表情を浮かべる沙綾に、有咲は「はぁ。」とため息をついた。

「沙綾、気持ちは分かるけど、おめーがそんなに心配してもしょうがないだろ?」

「そ、そうだけど…。」

「あとは2人次第だよ。しかし…。なかなか難解な問題だな。」

有咲は机に肘をつきながら言った。

「有咲はどうする?」

「…何が?」

「りみりんが潤君を選んだら…。」

「さぁな。」

「有咲?ちゃんと考えてるの!?」

中途半端な有咲の台詞に、沙綾は持っていたクッションを更にギュッと掴みながら言った。

「…何も考えてない訳じゃない。私だって、この5人で、バンドを続けたいと思ってる。でも、こればっかりはりみ次第だろ?」

「…でも!」

「沙綾の気持ちも分かるよ。前のバンドと重ねてるんだろ?でも、仮に、沙綾。沙綾がりみの立場になった時…。沙綾ならどうするんだ?」

有咲は優しく、慈愛に満ちた表情で沙綾に語りかけた。

「……私は…。分からない…。」

「だろ?私も分からない。まぁ、好きな男なんて、出来た事ないけどな。だから、りみの返事を待とう。りみの返事を聞いてから考えても遅くないって。」

「…うん。…だね。ところで有咲?」

有咲の話を聞いて、スッキリしたのか、沙綾はニヤリと笑いながら言った。

「…なんだ?」

「さっきの慈愛に満ちた表情…。ぷっ。あはは!有咲、あんな表情が出来たの?」

お腹を抱えながら笑う沙綾に、有咲は顔を真っ赤にした。

「さ、沙綾!て、てめー!も、もう2度と話聞いてやらねー!」

「可愛かったよ?」

「!!絶対に話聞いてやらねー!」

有咲の絶叫が沙綾の部屋だけでは無く、やまぶきベーカリーに響いた。

 

─────────────────────

りみが潤を無理矢理、連れて帰った時は日差しが降り注いでいたが、昼が過ぎ、夕方に近づく頃には厚い雲が覆っていた。そんな空をりみは見ながら「(雨…。降るのかな?)」と考えていた。潤にあの事を言う!と決心したりみであったが、なかなか目覚めない潤に、その決心は鈍りそうになっていた。

「はぁ。」

と今日何回目か分からないため息をつく。

「…ちゃんと…言える…かな。」

「…何が?」

「きゃっ!」

りみは小さく呟いたが、潤の眠りがたまたま浅かった為、起きてしまった。その声に驚き、りみは小さく悲鳴をあげた。

「ご、ごめん。びっくりさせちゃった。」

「う、ううん。だ、大丈夫…だよ?」

苦笑いを浮かべながらりみは手をパタパタと振りながら言った。

「よく寝たよ。…りみ、ありがとうね。心配かけてごめん。これからは無理しないように勉強頑張るから。」

「…潤くん…。その事…なんだけど…。」

「ん?」

歯切れが悪いりみに潤は身体を起こしながら首を傾げた。りみの表情は今にも泣きそうな表情だった。

「あ、あ、あのね?…じ、実はね…。で、デビューしないかって言われたの…。」

「ん?どういう事?」

「あのね…。や、野外でしたガールズバンドパーティーを見たスカウトの方から、う、うちでデビューしないかって…。い、言われたの…。」

「…マジ?え?プロになるって事?」

驚きの表情を浮かべた潤…。いや、本当に驚いているのだが、だんだんと、嬉しさから笑顔になっていた。

「凄いじゃん!おめでとう!え?いつデビューするの!?」

りみの手を握り、ブンブン振りながら潤は言った。本当に嬉しいのか、りみが今まで見た中で1番と言っても良いくらい嬉しそうであった。しかし、りみの表情は潤とは正反対で、暗いままであった。

「…あれ?りみ?嬉しく…ないの?」

「う、ううん!そ、そんな事ないよ!」

焦るように引き攣った笑顔をりみはした。そんな笑顔をしたら「何かあるよ。」と言っているような物だった。

「隠し事はなし…。だったよね。まぁ、僕が言えた口じゃないけど…。」

「…そうだ…ね。じ、じ、実はね。デビューの話が来た時にね…。向こうの方と色々、お話ししてね…。その中で…。彼氏がいるか聞かれたの…。」

「へ?う、うん。そ、それで?」

「う、うん。わ、私、正直にいますって言ったら…。大丈夫ですか?って…。言われて…。」

りみは言葉を詰まらせながら言った。外はいつの間にか、大粒の雨が窓に打ち付けていた。

「…何が大丈夫なの?」

「た、多分…。彼氏がいたら…マズいみたいで…。わ、別れて欲しそう…だった…。」

「…そっか…。それで…。言いにくそうにしてたんだね。」

りみは下を向いたまま「うん。」と頷く。涙を我慢しているりみに、潤は「(さて…。どうしたものか…。)」と考えていた。右足は細かく震えていた。つまりは貧乏ゆすりを無意識のうちにしていた。冷静に考えているつもりの潤だが、行動からみるに焦っている様子だった。

 

─────────────────────

「帰れなくなっちゃったね。」

「だな。沙綾ごめん。暫く、雨が止むまで待たせて。通り雨みたいだから。」

沙綾はニコッと笑い、「もちろん。」と言うとレースカーテンを開け、外を見た。ニュースで言うゲリラ豪雨とはこの事か、強烈な雨が降っており、遠くからは「ゴロゴロ」と小さく雷の音も聞こえていた。先程から降っては止み、また降っては止みを繰り返していたが、急に雨雲がやる気を出したのか、比べものにならない雨が降っていた。「(凄いなぁ…。)」と沙綾が眺めていると、この雨の中、傘も差さずに歩いている人物を見つけた。

「あれ?傘も差さずに歩いている人がいる。」

「朝は晴れてたもんな。傘、忘れた人多いだろ。現に私も持ってねぇし。」

「だね。でも、歩いているんだよね…。大丈夫かな?」

「びしょ濡れになったから諦めて歩いてるんだろ?雨宿りしても、意味がないくらい濡れたら私も早く帰る方を選ぶぞ?」

「いや…。そうじゃなくて…。あれって…!」

沙綾は段々と、語尾を強くしながら叫ぶと、慌てて、自室から出て行った。

「さ、沙綾?どうした!?」

有咲が叫ぶも、すでに沙綾の姿は無く、慌てて追いかけて行った。

「りみりん!?」

外に出た沙綾は雨で声が掻き消されないように精一杯叫んだ。呼ばれたりみは立ち止まると、ゆっくり沙綾の方を見た。

「…あっ。沙綾ちゃん。さっきはごめんね。どうしたの?」

「ど、どうしたのはこっちの台詞だよ!りみりん!早く入って!」

「…大丈夫だよ。ちょっと濡れただけだから。」

りみは力無く、ニコッと笑うと、再び歩こうと前を向いた。しかし、沙綾がそんな事を許すはずも無く、無理矢理、りみの腕を掴むと、やまぶきベーカリーの中にりみを押し込んだ。

「りみ!?どうした!?びしょ濡れじゃん!」

沙綾に追いついた有咲はりみを見て、驚いていた。髪や服からは水滴が落ち、服も可愛らしい花柄のワンピースがピッタリとりみにくっついていた。

「あ!有咲ちゃん。LINEありがとうね。」

「お、おう。…じゃなくて!りみ?どうしたんだ!」

「…何も無いよ?傘、忘れただけだよ?」

「そんな訳あるかっ!」

有咲が叫ぶと、りみの頭にふわりとタオルが乗った。沙綾が持ってきた物だった。

「りみりん。とりあえず、拭いて?お風呂、準備するから入って!風邪ひいちゃうよ?」

「大丈夫だよ。ありがとう沙綾ちゃん。拭いたら帰るから…。」

「ダメ!良いから入って!」

沙綾の剣幕に押されたりみはコクッと頷き、沙綾の後ろに着いていった。

 

─────────────────────

「…やっぱり…。一宮さんと何かあったんだよな…。それしか無いよな…。」

「うん…。デビューの事、言ったんだよね。…別れちゃったの…かな?」

りみの入浴中、再び、沙綾の自室に戻った沙綾と有咲はまるで葬式に参列したような雰囲気で話していた。びしょ濡れになりながらも明るく話すりみに2人はかなり違和感を持っていた。それから数十分後、髪を今度はお湯で濡らしたりみが沙綾の部屋にチョココロネを大量に持って入ってきた。

「沙綾ちゃん。お風呂ありがとうね。着替えもありがとう。」

「う、うん。そのチョココロネ、どうしたの?」

「ふぇ?食べたかったから買ったんだよ?」

当たり前のようにりみが言うと、早速紙袋からチョココロネを出し、「ハムッ」と食べ始めた。

「チョココロネおいひぃ~。」

幸せそうな表情を浮かべながらさらに1口、チョココロネを咀嚼した。

「…おいひぃ。…ぐすっ。おい…しいよ…。ぐすっ…。」

幸せそうな表情で食べていたはずが突然、泣き出したりみに沙綾と有咲は驚いていた。

「りみりん!?」

「り、りみ!?ど、どうした!?」

「ぐすっ…。沙綾ちゃん…。有咲ちゃん…!」

りみは立ち上がると2人に向かって抱きつき、子供のようにわんわん泣いていた。

「りみ?何があったんだ?一宮さんに話したんだろ?」

りみの背中を有咲が擦りながら優しく言った。しかし、りみはわんわん泣いていた為、返事が出来なかった。

「有咲?」

「うん…。泣き止むまで待つか…。」

2人は心配そうにりみを見ながら言うであった。

 

─────────────────────

紗夜は潤の部屋を訪れていた。紗夜が潤の部屋に来たのは偶然で、たまたま近くまで来たから勉強の調子を聞く為に来たのであった。

「…来たのは良いですが…。」

潤の部屋で立ちすくむ紗夜。部屋の主である潤は布団にくるまっていた。

「潤さん?寝ているのですか?」

「…寝てないです。」

布団の上から声をかけた紗夜に潤は返事をしたが、布団から出る事は無かった。

「…勉強はどうしましたか?」

「紗夜姉さん…。申し訳ありませんが…。もう、勉強は大丈夫です。…する必要が無くなりました。」

「何を言っているのですか?」

紗夜は布団を掴むと、バサッと布団を剥ぎ取った。しかし、紗夜は潤の姿を見るとギョッとした。あまり表情に出ない紗夜が驚いた表情を見せる。

「…紗夜姉さん。布団を返して下さい。」

「潤さん…。その顔…。」

紗夜は潤の顔を見て驚いたのであった。潤の顔は泣き腫らしており、目が開いているのか閉じているのか分からないほどだった。

「…紗夜姉さん。毎朝、付き合ってくれてありがとうございました。でも、もう本当に大丈夫なので…。」

「そ、それは構いませんが…。何があったのですか?長い付き合いですが、そんな顔は初めて見ましたよ?」

紗夜は心配そうな表情を浮かべたまま、ベットに腰掛けた。

「…なんでもありません。」

「説得力がありませんが…。今の潤さんの姿を見ていると数年前の秋帆さんが亡くなった時に重なりますよ。そんな姿なのに、はいそうですか。と言えませんよ。話して下さい。」

「…りみと…別れました。」

潤がボソッと呟くように言った。目からは一筋の涙が流れていた。潤の呟きを聞き、紗夜は絶句し、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 

 




遅くなってすみませんでした。
R18に力を入れすぎました。
不定期更新なので、次がいつなるか分かりませんが、よろしくお願いします。

感想&評価もよろしくお願いします。


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8話

「落ち着いたか?」

有咲がりみの背中を撫でながら言った。

「…うん。ご、ごめん…ね?」

グスッと鼻を鳴らしながら言うりみに、沙綾と有咲は顔を見合わせた。

「ねぇ、りみりん?何があったの?」

「…別れちゃった。」

「…マジか…。」

りみが呟くようにして言うと、有咲が額に手を当てながら言った。

「どうして、別れちゃったの?やっぱりあの話?」

「…うん。デビューするなら別れないといけない…。どうしようって相談したの…。そしたらお互い、言い合いになっちゃって…。グスッ。」

落ち着いたと思っていたりみだったが、話している内に、再び涙を流した。そんなりみを見て沙綾と有咲はどんな言葉をかけたら良いか分からなくっていた。

「…あんな事、言うつもり、無かったのに…。別れたくなかったのに…。」

泣きながら言うりみに、沙綾はりみに近づくと「ぎゅっ」と抱き締めた。

「りみりん…。りみりんはどうしたかったの?潤くんと付き合ってデビューを諦めるつもりだったの?」

「ううん。デビューも、もちろんしたかった…よ。でも、潤くんとも別れたくなくて…。私、どうしたら良いか、分からなくなって…。」

りみは視線を下に向けながら言った。

「りみ…。これからどうするつもりだ?」

「あ、有咲ちゃん…。う~ん…。何も考えてない…よ?」

「まぁ、そうだよな。よし。りみ。行くぞ。」

「え?有咲?行くってどこに?まだ雨降ってるよ?」

沙綾は外を見ると、先程のバケツをひっくり返したような雨よりはマシになっていたが、まだシトシトと降り続いていた。

「…走ったらなんとかなるんじゃねぇ?りみ。とにかく、蔵まで行くぞ?良いな?」

「ふぇ?う、うん。蔵で何するの?」

「蔵って言ったら1つしかねぇだろ?思いっきり、気が済むまでベースを弾こう。私も付き合うから。」

有咲はりみの肩を掴むと真っ直ぐ目を見て言った。

「…2人が行くなら私も行くよ。」

「…沙綾ちゃん。…でも…良いの?今からって迷惑じゃない?」

「りみはそんな事、気にするな。大丈夫。今は全て忘れて、演奏しよう。」

有咲はニカッと笑いながら言った。

「そうだ!香澄とおたえも呼ぼうよ!」

沙綾もニコッと笑うと、スマホを取り出し、LINEをタップしていた。

「2人とも…ごめんね。私がこんなんだから。」

「だから、気にするな!ほら行くぞ?蔵まで走らないと行けないんだからな?」

「有咲?その前にりみの家に寄らなきゃ。」

「は?なんでだ?」

キョトンとする有咲に、沙綾は苦笑いをした。

「あ、有咲ちゃん。ありがとうね。べ、ベース、家にあるから…寄っていい…かな?」

涙はまだ溜まっていたが、なんとか笑顔を作りながらりみは言った。有咲はりみに言われるまで、肝心のベースが何処にあるか気付かず、赤面するのであった。

 

─────────────────────

一方、その頃、潤の家では、紗夜が潤に尋問を行っている最中であった。それも、紗夜の提案で、潤の部屋からリビングに移動していた。

「えっと、紗夜姉さん?なんで、部屋じゃダメだったの?」

「あんな辛気臭い部屋じゃ気分が落ち込むだけです。リビングの方が明るいので、少しは気分転換になりますよ。…はい。コーヒーです。」

「あ、ありがとうございます。」

潤は紗夜からコーヒーを受け取ると、1口、口に含ませた。コーヒーの香りが潤の鼻を一気に抜けて行った。

「…はぁ。」

「さて、潤さん。なぜ、牛込さんと別れることになったんですか?」

紗夜は体勢を直すと、背筋をピンと伸ばした。手にはスマホが握られていた。

「…言い合いになったからです。」

「それではざっくり過ぎます。もっと詳しくお願いします。」

「ですよね…。りみが、Poppin`Partyがデビューすることになったみたいなんです。」

「…それは本当ですか?」

潤がため息をつきながら言うと、紗夜は驚きの表情で潤を見た。

「はい。それで…。そのスカウトした方が、Poppin`Partyの皆に、彼氏はいるかと聞いたらしくて、りみはあんな性格なんで、素直に言ったらしく…。そしたら、大丈夫なのか…と言われたらしいです。」

「なるほど…。それで、牛込さんは潤さんを取るかPoppin`Partyを取るか…ってなった訳ですね。それで、結果、Poppin`Partyを選んだ…という解釈で合ってますか?」

紗夜は引き続き、スマホを握り、文章を打ちながら話した。

「あっ。ちょっと違います。確かに、最終的にはPoppin`Partyを選びましたが…。りみ、僕にその話をするまで、凄く悩んでいたらしくて…。僕に話しをするときも…。どうしよう…。みたいな感じだったんです。」

潤は「はぁ。」と再び、ため息をついた。表情には後悔を読み取る事が出来た。

「そうですか…。なんとなくですが、想像は出来ます。…確かに、別れるには充分な理由ですね。」

「紗夜姉さん?」

「いえ。くだらない理由で別れたなら潤さんを引っぱたくつもりでした。」

ニコッと笑いながら言う紗夜に潤は苦笑いをした。

「勘弁して下さいよ…。ところで、さっきから何しているんですか?ずっとスマホを弄ってますが…。」

「メモをしてます。」

「なんの?」

「この会話です。後から振り返る事もあるかと思いましたので…。」

紗夜は当たり前のように言った。そんな紗夜に潤は頭を抱え「(真面目過ぎる…。)」と思うのであった。

 

─────────────────────

夏真っ盛りであるが、白夜でもない限り21時にもなれば辺りは真っ暗になる。住宅街ではそれは顕著になり、外灯と家から漏れる明かりが無ければ、歩くのも恐いくらい真っ暗になるであろう。

「(潤くんの…馬鹿ー!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)」

りみはそう思いながらベースをかき鳴らしていた。いつもは縁の下の力持ちを表すかのように、他のメンバーのリズムをドラムと共に支えているのであるが、この日は違い、りみのベースに全員が引っ張られていた。かと言って、別にりみのベースが走っている訳では無い。正確に力強いベースの音色は「私に付いてきて!妥協したら許さない!」と言っているかのようで、他のメンバーはタジタジになりながら付いていっていた。普段ならあり得ない事である。

「り、りみりん!ち、ちょっと休もうよ?」

香澄は膝に手をつくと、はぁはぁと肩で息をした。ボーカルを務める、彼女の声は少しだけ掠れていた。

「だね。もう、3時間ぶっ通しでやってるし…。私も手の感覚が無くなってきたよ。」

沙綾も手をブラブラと揺らしながら言った。

「み、みんなごめんね?わ、私の為に…。」

「りみりん!大丈夫だよ!練習出来て私、楽しいよ?…ねぇ、りみりん。なんで別れちゃったの?」

香澄がりみを抱き締めながら言うと、りみは立ち止まった。

「ば、馬鹿!香澄!」

「え?」

香澄の発言の後、慌てて、有咲が叫ぶも時既に遅く、りみの目からは大粒の涙が零れていた。

「り、りみりん!?」

「はぁ~。せっかく少し元気出たかと思ったのに…。香澄!」

「あ、有咲!ご、ごめん!りみりんもごめんね…。」

「ううん。うちは…大丈夫。…こっちこそ…ごめんね。」

りみはなんとか言葉にしたが、限界だったのかその場にペタリと座ってしまった。

「…りみは潤くんと別れたかったの?」

おたえはギターを置くと、首を傾げながら言った。

「おたえ…ちゃん?」

「どうなの?」

「ちょ、ちょっと待っておたえ!今はそんな話いいじゃん!」

「ねえ、りみ?どうなの?」

沙綾がおたえを止めようとしたが、そんな沙綾を無視し、元々、大きな瞳を更に大きくし、りみをのぞき込むようにおたえは言った。

「…別れたくなかったよ。別れたくない!大好きに決まってるよ!でも…。もう…。」

おたえの発言にりみはキッと睨みながら言ったが、最後は声を窄めた。

「そんなに好きなのに諦めちゃうの?」

表情が変わらないままおたえは立ち上がりながら言った。

「…だって…。もう…。別れちゃったし…。」

「潤くんも諦めてるのかな?」

「へ?」

「私ならオッちゃんに嫌われても、私は諦めずにモフモフするよ?また好きになって貰えるまで諦めないよ?」

「いや。ウサギと一緒にすんなし。」

有咲が「はぁ。」とため息をつきながら言った。

「一緒だよ。好きって事には変わらないよ。」

おたえは有咲にそう言うと、再び、りみの方を向き、長い黒髪を掻き上げながらしゃがむと「ねぇ?りみ?諦める?」とりみの耳元で呟いた。

「…諦めたくない…。でも、潤くんと付き合ってたらデビューも…。」

「デビューもする!」

りみの発言を遮り、香澄が大声で叫んだ。他のメンバーがキョトンとする中、香澄は更に言葉を続けた。

「デビューする!また皆とキラキラドキドキしたい!でも、りみりんがちゃんとスッキリした気持ちで、ベースを弾かないとキラキラドキドキなんて出来ないよ!だから、デビューもするし、りみりんの交際も許して貰う!」

香澄も涙をポロポロと流しながら叫んだ。

「どうやってするんだよ。」

有咲が呆れた目で香澄を見ながら言った。

「それは今から考える!」

そんな有咲を無視するように、香澄はまた叫んだ。

「良いね!香澄!それすっごく良い!」

目をキラキラさせながらおたえが言うと、香澄は「おたえー!」と言いながら抱きついていた。

「…だね。それが1番だね!私も協力する!」

「はぁ!?沙綾まで?マジか…。あぁ!もう!私も協力する!どうなっても知らねー!」

沙綾がニコッと笑いながら言うと、有咲も髪をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら言った。そして有咲は未だに、ペタンと座り込むりみの方を向き、叫んだ。

「りみ!私達の考えはこうだ!りみはどうするんだ!?」

「有咲ちゃん…。沙綾ちゃん…。おたえちゃん。香澄ちゃん!」

りみが涙をまた溜めながら、他のメンバーの

名前を叫ぶと立ち上がり、飛ぶようにメンバーの輪に入った。

「りみりん!頑張ろうね?」

香澄がそう言うと、りみは涙を沢山流しながら「うん!」と笑顔を作って言った。

「りみ。泣きながら笑ってる。変な顔だ。」

「ち、ちょっと…!「パシャ」お、おたえちゃん!?」

おたえの発言にりみは抗議するが、その前に変な顔と言われた表情をスマホのカメラで撮っていた。

「お、おたえちゃん!?け、け、消して…ね?」

りみは慌てながら言うが、おたえは分かっているか分かっていないのか、りみには理解出来なかった。

 

─────────────────────

「母さん?」

「…。」

潤の家では夕飯になっていた。しかし、潤の問いかけに母親である麻里に無視されていた。ちなみにだが、りみと別れた事を報告してからだった。

「母さんって。」

「…。」

「母さん!」

「…良いから食べなさい。」

麻里は黙々と食べていたが、潤を睨みながら言った。ちなみに、今日の夕飯は肉じゃがである。

「…全く。…あまり食欲無いけど…。」

潤は箸を掴むと、よく煮込まれたジャガイモも撮み、口に放り込んだ。

「あ、甘っ!!」

潤は立ち上がると、お茶を一気に飲んだ。

「って!これ。お茶じゃない!はぁ?めんつゆ?って、母さん!?」

「うるさい。私のりみちゃんと勝手に別れて。」

騒ぐ潤に麻里は冷ややかに言った。潤はこんなに怒った母親を初めて見ていた。

「わ、私のりみちゃんって!一応、ショック受けているのは俺だよっ!」

机をバンと叩きながら潤は言った。

「だから…。うるさいって言ってるでしょ!?黙って食べなさい馬鹿息子!!」

「食べれる訳ないじゃん!これ、めっちゃ甘いんだよ?砂糖食べてると思ったよ!」

潤が麻里に掴みかからんくらいの勢いで叫ぶとずっと側で聞いていた紗夜はため息をついた。

「2人とも落ち着いて下さい。潤さんもイライラするのは分かります。でも落ち着いて下さい。麻里さん。大人気ないですよ?」

紗夜の発言を聞き、潤はゆっくりと椅子に座り、麻里は再び食べ始めた。しばらくは食器が箸に当たる音しか聞こえていなかったが、唐突に麻里が口を開いた。

「馬鹿息子?」

「…もう突っ込まないよ?…なに?」

「りみちゃんの事はもう良いの?」

「…良くない。けど、デビューする為には僕は邪魔だから。」

潤はかなり甘い味付けの肉じゃがを顔を顰めながら食べていた。

「はぁ。だから馬鹿息子なのよね。」

麻里は呆れながらため息をついた。

「…どういう事?」

「紗夜ちゃんから話を聞いたけど。…りみちゃんって、スカウトの人にハッキリと付き合ったらダメって言われたの?」

「…うん?いや。言われてない…かな?でも、付き合っている人がいるって言ったらかなり嫌そうな顔をしたって。」

潤はりみの発言を思い出していた。確かに、麻里の言う通り、「交際禁止」とは言ってはいなかった。

「ここまで言われて気付かない?」

「潤さん。私も分かりましたよ。」

「えっと。つまり、交際禁止とは言われてないから…。付き合ってても大丈夫じゃないかって事?」

潤がそう言うと、麻里は「そう言う事。」と箸の先を潤に向けながら言った。

「本当にそうかな?」

と潤がそう言うと、潤のスマホがLINEの着信を知らせた。

「牛込さんですか?」

「いえ。花園さんからです…。あっははは!」

潤は普段、滅多にLINEが届かないおたえからのLINEに警戒しながら開くと、急に笑い出した。麻里と紗夜が怪訝そうな表情で潤を見た。潤はスマホの画面を2人に向けた。それを見た2人も「ふふっ。」と笑った。画面には笑っているのか泣いているのか分からない変な表情になったりみが映っているのだった。

 




お待たせしました。
Twitterや感想で続きが気になるとおしゃって頂けて嬉しかったです!
さて、これからはどうなるのでしょうか。
楽しみにしてて下さいね?

感想&評価もお待ちしています!


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9話

8月15日。世間はお盆になっていた。潤とりみだが、2人は喧嘩をして別れてしまった7月下旬以来、1度も会っていなかった。Poppin`Partyのメンバーに励まされ、デビューも恋愛も頑張ると決めたりみ。紗夜と母親の麻里に励まされた(?)潤。2人とも「やっぱり別れたくない。」と強く思っていたが、行動には移せないでいた。お互いに「本当に嫌われていたらどうしよう…。」と考えていた為だった。

そんな中、潤はバイトの休みの日を利用して夏休みの課題に取り組んでいた。去年まではりみに助けて貰っていた為、スムーズに課題が終わっていたが、今はいない為、かなりの苦戦を強いられていた。

「りみがいないと…。やっぱり寂しいな。」

毎日会っていた恋人が急にいなくなり、潤は度々、空虚感に襲われていた。

「会いたい…なぁ。てか、早く仲直りしないとなぁ…。りみ、許してくれるかな…。」

持っていたシャーペンを置いて、思考をまた、りみの事でいっぱいにしていた。勉強していてもバイトをしていても、潤は度々、りみの事しか考えれない瞬間があった。その度にどれだけ好きだったか嫌でも分かってしまい、更に寂しさを募らせていた。

「潤!昼ご飯できたよ!」

潤の思考を現実に戻すように麻里が1階から叫んだ。

「はい!今行く!」

潤は立ち上がると、階段を降りてリビングに向かった。階段を降りている最中に、美味しそうな香りが潤の鼻腔を擽った。

「こんな時でもお腹は空くんだよなぁ。不思議だなぁ。」

と呟きながら、リビングの扉を開けた。テーブルの上には担々麺が準備されていた。

「母さんありがとう。えっと…。今日は普通の担々麺…で良いのかな?」

「え?麺が伸びちゃうから早く食べなさい。」

潤の質問に麻里は眉間に皺を寄せ、睨みながら言った。

「あ…うん。」

潤は麻里の気迫に押されながら麺を箸でつまむと一気に啜った。お食事中の方がいたら申し訳ないのだ、潤は啜った麺をそのまま器に吐き出してしまっていた。

「…辛っ!」

潤は立ち上がると、台所に走り、コップに水を注ぎ、がぶ飲みした。そのまま麻里を睨むと、麻里は涼しい顔で麺を啜っていた。精一杯、睨んだ潤だが、文句の1つも言う暇もなく、また辛さが痛みとなって襲ってきた為、水を注ぎ、がぶ飲みした。実は、りみと別れてから麻里の食事は潤にだけ嫌がらせをしていた。具が全くない味噌汁だったり、肉が生の青椒肉絲だったり、馬鹿みたいにお酢が入った酢の物だったりと潤の食生活を脅かしいていた。

「早く、普通の物が食べたかったら仲直りしなさい。」

未だに、辛さに苦しむ潤に、麻里は食べ終わった食器を片付けながら言った。潤は汗だくになった顔を拭うと、頷きながらまた激辛な担々麺に立ち向かった。基本的に真面目な潤には食べ物を残すという事はあり得なかった。その1時間後、無事に(?)完食するのであった。

 

─────────────────────

「潤くん…。何してる…かな…。」

一方、その頃、りみはと言うと、潤と全く同じ事を考えていた。Poppin`Partyのメンバーの協力も虚しく、なかなか行動に移せない自分に情けなく感じていた。ちなみにPoppin`Partyのメンバーのアドバイスはかなり掻い摘まんで言うと「とにかく、会いたいとLINEをしてみろ。」という内容だった。

「今日こそ…。LINEを送ろう…。」

りみはそう呟き、スマホを握り、LINEを開くも、そこから固まってしまった。潤と別れてから、毎日、LINEを送ろうとして、送れた試しが無かった。

「…本当に…。どうしたら良いの…。」

何度流れたか分からない涙を流しながらりみは呟いた。

「りーみちゃん!久しぶり!」

「きゃぁぁぁぁ!」

自分1人しかいない部屋から急に声が聞こえ、りみは人生の中で1番驚いたのでは無いかと言っても過言じゃ無いくらい驚き、座っていた椅子から落ちてしまった。

「ゴメンね。そんなに驚くとは。あはは!」

今まで、りみの部屋に漂っていた暗くて、重い雰囲気を壊すような明るい声が響いた。

「び、びっくりした…。って誰?」

りみは呟きながら、落ちた時に強打した腰を擦りながら立ち上がり、声のした方を見た。

「りみちゃん?覚えてる?」

「…え?あ、あ、あ、秋帆ちゃん!?」

りみはさっきと同じくらい驚き、叫んだ。

「良かったぁ~!覚えてくれてたんだね!後、私の姿、見えて良かったぁ~!」

ニコッと笑いながら言う秋帆にりみは驚きぱなしだった。

「…あれ?あ、秋帆ちゃん確か…。成仏したんだよ…ね?」

りみは2年前、潤と付き合う際に対面した幽霊になった秋帆との会話を思い出しながら言った。

「うん。そうだよ~。ほら、今ってお盆じゃん?里帰りだよ。抽選に当たったんだ!」

「ち、抽選?」

「天国にいる幽霊が皆、降りてきたら大変でしょ?だから毎年、抽選なんだよ?去年は外れたけど、今年は当たったんだよ!」

2年前と全く変わらない容姿の秋帆を見て、りみは「なるほど…。」と呟いた。

「りみちゃんに会いたかったんだよ?あの時はあまり話せなかったから。ゆっくり喋ってみたくてね!」

「私で良ければ…良いよ。」

「…りみちゃん、何かあった?なんか暗いよ?」

明るく、ハイテンションで喋っていた秋帆だったが、りみの表情を見ると、怪訝そうな表情に変わった。

「え?そ、そうかな?ふ、普通だよ?」

「…何があったの?」

隠しそうとしたりみであったが、元々、隠し事は苦手な為、すぐに秋帆にバレてしまった。

「ふぇ?だ、だ、だから何にも…ないよ?」

「はぁ~。りみちゃん、隠そうとしているのは伝わるけど、無理があるって。…潤と別れたとか?」

「な、な、なんで分かったの!?」

「…ゴメン。まさか正解とは思わなかった。」

秋帆がお茶目にペロッと舌を出すと、「秋帆ちゃん!?」と叫んだりみだったが、諦めてポツリポツリと話始めたのであった。

 

─────────────────────

「りみはどうしたいの?」

潤くんにそう言われて、私はますます分からなくなりました。Poppin`Partyの活動は本当に楽しくて、香澄ちゃんがいつも言っている「キラキラドキドキ」が沢山詰まっています。そして潤くんの事も、もちろん大好きです。きっと、潤くん以上に私の事を大切にしてくれる人はいません。もちろん私も潤くん以上に好きと思える人に出会えるとは思っていません。なので、スカウトの方に、彼氏がいるのかと聞かれ、それに答えて、嫌そうな表情をされ、「大丈夫?」と言われた時、私は頭の中が真っ白になりました。Poppin`Partyも潤くんも大好きなのにどちらか1つを選ぶなんて私には無理だったのかも知れません。なので、潤くんの質問に「分からない。」と答えるしかありませんでした。

「りみ…。」

デビューが決まった事を言った時にはあんなに喜んでくれた潤くんでしたが、今は悲しそうな、何とも言えない表情になってしまいました。

「だよね。すぐには分からないよね…。とりあえず、別れたくはないよ?」

「わ、私も絶対に嫌だよ。」

「でも、僕とこのまま付き合ったら…。デビューは諦めないといけないんだよね。」

「…うん。それも嫌…。」

私が自分の気持ちを伝えると、潤くんも「う~ん。」と腕を組み、考え込んでしまいました。こういう時、私は弱い人間です。つい、他の人に頼りたくなってしまいます。それが潤くんなら尚更、甘えたくなってしまいます。

「ねぇ…。潤くん…。本当にどうしたら良いのかな?」

「…今、考えてる。」

潤くんの姿を見ていると、本気で考えてくれているのはすぐに分かりました。でも、私はぶっきらぼうな潤くんの言い方にカチンとしてしまいました。

「…そんな言い方…。しなくても…。」

「…なにが?」

「…そんな冷たい言い方しなくても…良くないかな?」

今、考えてみたら、私も潤くんも目の前の問題が大き過ぎて、焦っていたのだと思います。明らかに冷静ではありませんでした。

「別に普通じゃん。考えてるんだよ。」

「だから、なんで、そんな言い方なの?私だって、悩んでて、ずっと苦しかったんだよ?」

「はぁ!?悩んでいた事を気付けって事!?気付けない俺が悪いの!?」

「そんな事言っているんじゃないよ。」

「じゃあ、何だよ…?」

潤くんはそう言うと深いため息をついて、頭を抱えてしまいました。いつも自分の事を「僕」と言っている潤くんが「俺」と言っていて驚きました。

「…言い方を優しくして欲しいかな…。いつもみたいに…。」

「…いつもと一緒じゃん。」

「違う…よ?」

「あーもう!今、どうしたら良いか考えてるんじゃん!りみも考えてよ!りみの事じゃん!」

「…私だって…考えたよ?でも、分からない…の。」

いつの間にか涙が溢れ出てました。どうしたら良いか分からず、潤くんまで怒らしてしまって、更に混乱してしまいました。

「…りみは、元々、デビューしたかったの?」

「…考えた事なかったよ。デビューなんて無理って思ってたから…。」

「それも分からない…か。」

「ねぇ!潤くん…!本当にさっきからなんでそんなにイライラしているの!?分からなくて悩んでる私が悪いの!?」

「…そんな事言ってないじゃん!」

「…もう良いよ。分かったよ。もう潤くんなんて知らない。デビューする。」

潤くんの態度に私はイライラしてしまい、気付いた時には取り返しの付かない事を言ってしまいました。途中で、口を止めようと思いましたが、私の言葉は壊れた機関銃のようにどんどんと発射されてしまいました。

「…つまり、僕とは別れるの?」

「…そうなる…ね。…じゃあね。」

私はそう言いながら立ち上がると、かなりの勢いで降っていた雨なんか気にせず、飛び出してしまいました。雨で、掻き消されていましたが、大声で泣いていました。

 

─────────────────────

「…って訳なの。」

りみが潤と別れた経緯を話し終えると「ふぅ。」と小さく息を吹いた。長い話に少しだけ疲労感が襲ってきたのであった。

「りみちゃん。辛い話をありがとうね。ちょっと、潤の奴を呪ってくるから。」

秋帆が笑顔で「ちょっとコンビニに行ってくる」と同じノリでとんでもない事を言った。

「あ、秋帆ちゃん!?ま、待って!潤くんは悪くない…から。」

りみは慌てて秋帆を止めた。

「なんで潤が悪くないの?話を聞いた限り、最初に喧嘩を売ったのは潤じゃん?」

「私が悪かったから…。私が別れてって言ったようなもんだから…。」

りみは俯きながら言うと、秋帆はりみに近づき、そっと肩に手を置いた。秋帆は幽霊なので、りみには触られた感覚などないが、秋帆が触れている部分には不思議と暖かさを感じていた。

「りみちゃんはやっぱり優しいね。そして、りみちゃんは弱い人間じゃないよ。」

「…そんな事ないよ。私は弱い…よ?」

「ううん。そんな弱い人だったら、私の事を引きずっていたあいつを支えようなんて思ってないよ。本当に弱い人間なら多分、諦めちゃってるよ。もし、自分の好きな人が、過去に大事な人を失って引きずってたら、私なら諦めちゃうよ?」

秋帆が微笑みながら言った。

「そ、そんな事ないよ。」

「そんな事ある!自信持って!後、潤が悪いってのは譲らない!」

「潤くんは悪くないよ…。」

「いいや!りみちゃんが大雨の中飛び出したのに、追いかけてないんだよ?あり得ないでしょ?」

秋帆は本当に怒った様子で、潤の自宅がある方向を見ながら眉間に皺を寄せていた。

「…でも追いかけて来なかったなら、やっぱり私に愛想を尽かした…んじゃないかな?」

りみは苦笑いしながら言った。

「そんな事ないんじゃない?死にそうな顔してたよ?」

「へ?」

「実はね、昨日、潤の所に行ったんだ。そしたら死にそうな顔しててね。あいつ、私の声が聞こえないみたいでね。いくら声かけてもダメだったからさ。本当に信じられない。りみちゃんには私の声が聞こえて良かったよ。」

秋帆があっけらかんと言うと、りみは唖然としていた。

「だから大丈夫。あいつも後悔しているから。」

「…本当…に?」

りみは潤も自分と同じ気持ちと知って、信じられない気持ちと嬉しい気持ちが脳内で行ったり来たりしていた。

「間違いないと思うよ?」

「あ、秋帆ちゃん!わ、私、LINEしてみる!」

「あっ。LINEならしたよ?」

秋帆はりみのスマホを掲げながら言った。

「え?えぇぇぇぇ!あ、秋帆ちゃん!」

「あっ。なんでスマホが持てるかだよね?ポルターガイストって知ってる?あれを使って出来るんだよ。文書を打つのにはコツがいるんだけど…。」

「そ、そうなんだ…。じ、じゃなくて!な、な、な、なんて送ったの?」

りみは秋帆からスマホを受け取ると、内容を確認した。画面には短く“潤くん…。”と表示されていた。

「ど、ど、ど、どうしよ!?」

「どうしよって。りみちゃん。今、思っている事をそのまま潤にぶつけてごらん?あいつはそんな薄情な人間じゃないから、ちゃんと答えてくれるから。」

秋帆はニコッと笑う。その笑顔は自信に満ち溢れており、この先の展開が分かっているようだった。

「秋帆ちゃん…。う、うん。分かった。いつかはちゃんと話さなきゃ。謝らなきゃって思ってたから…。ありがとうね?」

「ううん。りみちゃん、頑張って!」

秋帆は胸の前でぐっと拳を握りしめながら言った。

「本当にありがとう。」

「ううん。大丈夫だよ。それよりさ、潤から返信がくるまで、お話ししよ?」

秋帆はりみの回りを楽しそうにクルクル飛びながら回った。そんな秋帆を見ているだけで、りみの心は軽くなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぴぽ史上最高に重たい展開が続いています。
これが僕に出来る1番の重たい展開かなと思っています。
今回、久々に登場しました秋帆です。
覚えてましたか?笑

感想&評価も待ってます!


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10話

プライベートが忙しくなり、投稿にかなり時間を空けてしまった事を心より謝罪申し上げます。
本当に申し訳ございませんでした。
これからも、投稿頻度は遅くなってしまいます。
ご了承お願い致します。


潤は麻里からの嫌がらせの激辛担々麺にやられて、ダウンしていた。実は、潤は辛いものがあまり得意ではない。もちろん、麻里もその事は知っていたので、最大級の嫌がらせだった。

「本当に早く…、りみにLINEしなきゃ…。仲直りしなきゃ…。でも…。仲直り出来るのかな…。」

口の中が未だにヒリヒリしていたが、我慢しつつ、スマホを掴んだ。

「あれ?LINEが来てる…って!りみからじゃん!」

潤はガバッと起き上がると急いで内容を確認した。スマホの画面には「潤くん…。」とだけ記されていた。

「え?それだけ?って、LINE来てたのって1時間も前じゃん!」

潤は急いで、返信をしようとしたが、そこで固まってしまった。

「なんて返信したら良いんだ…。」

“なに?”だけでは冷たいような感じがする。“どうしたの?”だけでは、りみの事を気にしてないような感じがする。潤はあーでもない、こーでもないと言いながら返信を考えていた。そして20分後、潤はやっとの思いで文面を完成させたのだった。

 

“りみ。久しぶりだね。ごめんね。

僕からLINEするべきだったよね。

りみに本当に嫌われたと思われてたらどうしようかと思って、LINE出来なかった…。

今も、返信しながら手が震えてるよ…。

あの時は本当にごめんなさい。

改めて、謝りたいから、会えない…かな?

僕の事が本当に嫌いになってたら無視して良いからね?”

 

潤が考え抜いて送った内容は自分の気持ちを正直に伝える事だった。りみの気持ちが分からない潤は結局、そうするしか思いつかなかったのだった。

「返信、無かったらどうしよ。…まぁ、そうなったらしょうが無いか…。」

苦笑いしながらも、りみからの返信が来るのをソワソワしながら待っていた。辛さにやられていた体も、口の中を襲っていた痛みもいつの間にか消えてしまっていた。しかし、それから2時間、一向に来ないりみからの返信に、潤は本当に嫌われたと思っていた。

「やっぱり…許されない…よね。」

潤はそっと呟くと、静かに涙を流していた。

 

─────────────────────

「…あー!」

「り、りみちゃん?どうしたの?」

「に、2時間も前に返信が来てた…。」

りみと秋帆はガールズトークに花を咲かしていた。いや、咲かしすぎていた。お互い、共通の話題である潤の話で盛り上がり過ぎてしまい、潤に送ったLINEはすっかり忘れさられていたのだった。

「あ、あ、あ、秋帆ちゃん!ど、ど、ど、どうしよ!」

「りみちゃん?まずは落ち着いて?何て返信が来たの?」

秋帆が焦るりみを落ち着かせると、りみは2回、深呼吸をした後に、LINEを開いた。りみは潤からの返信を読み終えると、また涙を流した。ここ2週間、どれだけの涙を流したか分からない。

「りみちゃん。私にも見せて?」

秋帆の言葉に応えるように、りみは持っていたスマホを秋帆に向けた。

「りみちゃん。とりあえず、良かったね。でも、返信遅くなっちゃったから潤、落ち込んでる…かな?」

秋帆は苦笑いしながら言うと、りみは泣きながら頷いた。

「さて、りみちゃん?これからどうする?」

「…会いたい。…会いたい…だけど…。」

「ん?…けど?」

「う、うん。こ、恐い…かも…。」

りみは目線を横にした。眉は下がってしまい、不安そうな表情をしていた。

「…はぁ。なら、会わないの?」

「あ、会いたい!…よ?」

「潤の事、まだ好きなんでしょ?」

「も、もちろんだよ!」

涙を流し、鼻を赤くしながらりみは必死に叫ぶように言った。そんな表情のりみを見た秋帆は「ニヤリ」と笑った。

「それなら尚更、会わないとだね。ほらほら、潤が首を長くして返信を待っているよ?…それか、返信が無くて、見たこと無いくらい落ち込んでいるかもよ?」

秋帆はそう言った。秋帆の言葉に背中を押されるように、りみはスマホを握り直し、りみは文章を作成していった。

 

─────────────────────

お盆ともなると夏の気配が段々と落ち着いて…来るはずもなく、夕方だというのに、生温い風が潤を包み込んでいた。ツクツクボウシの音色をバックミュージックにしながら、潤は長い滑り台がある公園のベンチに座っていた。

「遅い…な。いや。僕が早すぎたのか…。」

潤はスマホを取り出すと時間を確認しながら呟いた。そして、スマホを取り出したついでと言わんばかりに、LINEをタップし、メッセージを読み返していた。

 

“返信、遅くなってごめんなさい。

私も潤くんと同じで、恐くてLINEができませんでした。

私も潤くんに会いたい…。

会いたいよぉ…。

本当に会ってくれるのなら、夕方の5時に公園に来て下さい。”

 

潤は読み終わると「ふぅ。」と息をついた。何気なく空を見上げると、夏はまだまだ終わらせないと言うように、入道雲が天高く登っていた。

「LINEの返信来た時は驚いたなぁ…。もう、諦めてたのにいきなりLINEが来たもんなぁ…。生きた居心地がしなかったよ…。」

潤がそう呟くと、苦笑いを浮かべた。ちなみにだが、潤はりみからの返信を見た時、「何処の公園?」と思い、返信の文を作成していた。その時、りみから「ここの公園です」と追加のLINEとマップが潤のスマホに届いたのであった。

「りみ…。本当に来るのかな…。来て欲しいけど…。なんだか、凄く緊張してきた…。」

潤は自分の心臓に手を当て、大きく深呼吸をした。

「…潤くん?」

潤が大きく「ふぅ~。」と息を吐き出した瞬間に、潤の後ろから懐かしく、優しい声が小さく公園内に響いた。潤は「ビクッ」と体を震わせるとゆっくりと振り向いた。

「…りみ。」

「うん…。」

久々に見る彼女は少しだけやつれていた。目も真っ赤に腫れ上がっていて、どれだけ泣いたか、どれだけ落ち込んでいたかを物語っていた。

「あの…。その…。ひ、久しぶり。」

「…うん。」

潤とりみが付き合いだして2年が経とうとしていた。付き合っていた頃は周りから羨ましがられるような本当に仲の良いカップルだったが、今はそれも見る影もなく、かなりよそよそしい雰囲気が2人を包み込んでいた。

「り、りみ?」

「…うん。」

「来てくれてありがとう。」

「…うん。」

「えっと…その…。」

潤の返答に顔を少しだけ伏せて「うん」としか言わないりみ。潤はそんなりみを見て、ゆっくりとベンチから立ち上がった。2人の間にはベンチが挟まれており、そのベンチが2人の間に壁を作っているようだった。

「あ、あのね。潤くん…。」

「へ?…な、なに?」

「…ごめんなさい!」

りみはギュッと目を瞑ると、勢いよくガバッと頭を下げた。しかし、勢いが良すぎた為、目の前にあるベンチの背もたれに思いっ切り「ゴン!」と額を打ちつけてしまった。

「いったーい!!」

「り、りみ!だ、大丈夫!?」

額を押さえながら蹲るりみに潤は慌てて駆け寄った。りみの額は見事に赤くなっており、どれだけ痛いか物語っていた。

「痛い…。」

「本当に…ふふっ。だ、大丈夫…あはは!」

突然、笑い出した潤にりみが目を潤ませながら見た。

「ご、ごめん。りみ…。ふふっ。でも、面白い…あはは!」

「も、もう!潤くん!わ、笑わないで!」

「ほ、本当に…ごめん。あー。面白かった。なかなか、あんな勢いで額を打ちつける人なんていないからさ。…お、面白くて…。ふふっ。」

「も、もう!や、止めてよ…。」

額を押さえながらも、潤の発言に恥ずかしくなったりみは顔を真っ赤にしていた。

「ごめんね。立てる?」

潤がりみの前に手を出すと、りみはおずおずとその手を掴んだ。りみが掴んだ事を確認すると、潤は手を引っ張った。

「あ、ありがとね?潤くん。」

「いえいえ。…りみが額を打ってくれたお陰で、変な緊張が解けたよ。こちらこそありがとうね。」

潤はそう言うと、繋ぎっぱなしになっていたりみの手を自分の方に引き寄せた。突然の事にりみは「きゃっ」と小さく悲鳴をあげたが、気付いた時には潤に抱き締められていた。

「じ、潤くん?」

「りみ。大好きだ。」

りみの耳元で潤はそう呟いた。それを聞いたりみは潤のTシャツをギュッと握った。そして、目から大粒の涙を流した。

「…この2週間、毎日、りみの事ばかり考えてた。あの喧嘩した日の事ばかり考えてた。なんで、もっと冷静になれなかったんだろ…。なんで、もっとりみの事を考えれなかったんだろうって…。だから…本当に…ごめん。」

潤は言い終わると、りみの頭をそっと撫でた。未だに泣きじゃくるりみが落ち着くのを待っていたのだが、潤は自分の愛しい彼女を抱き締めているという幸せに浸るのであった。

 

─────────────────────

それから30分後、落ち着いたりみをベンチに座らせた潤は近くにある自動販売機で冷たいコーヒーを買うとりみに手渡した。

「…ありがとう。」

「ううん。飲む前に額、それで冷やした方が良いよ?思ったより真っ赤になってるね。」

潤がそう言うと、りみはそれに従い、ピトッと缶コーヒーを額に当てた。

「うぅ…。こんな時にごめんね…。」

「大丈夫だよ。」

「わ、私もね…。喧嘩した後からずっと謝らなきゃって思ってたんだよ…。でも、本当に嫌われてたらどうしようって思っちゃって…。なかなか行動に移せなくて…。私…ね?焦ってたんだと思う…。デビューもしたいけど、潤くんとも別れたくなくて…。決められない答えに焦って、潤くんに当たっちゃって…。だから…本当にごめんなさい。」

りみは座ったまま、深々と頭を下げた。缶コーヒーを握る手はガタガタと震えていた。

「りみは悪くないよ。焦るのは当たり前だし、答えを出すのも難しい問題だからさ…。」

「ううん!わ、私が弱いのがいけないの。だ、だから潤くんは悪くないよ。」

「そんな事ないよ。」

「そんな事あるよ。」

お互い、平行線なやりとりをしていた潤とりみだが、ふっと会話が途切れた。そして、2人が顔を見合わせると、どちらかともなく「ふふっ。」と笑い出してしまった。

「切りがないね。」

「…うん。そうだね。…あのね。潤くん。」

「なに?」

「わ、私も、大好きだよ。離れてから改めて潤くんの事がどれだけ好きで…。どれだけ大事な人だったか…、嫌ってくらい分かった…よ。」

りみは潤の目を真っ直ぐ見て言った。りみの目は泣きすぎて、更に腫れていたが、その視線には力が籠もっていた。そんなりみを見て、潤は微笑むと、「よいしょ。」と言いながら立ち上がり、りみの前に立った。

「じ、潤くん?」

「りみ…。」

潤が小さく名前を呼ぶと、そのまま、りみの前で片膝をついた。

「潤…くん?」

「りみ。僕ともう1度…付き合って下さい…。」

「…はい…。もちろんだよ!」

潤のプロポーズのような告白に、りみは涙を溜めながらも、笑顔で答えた。

「はぁ~。良かった…。」

「始めてちゃんと告白して貰っちゃった!嬉しいけど…は、恥ずかしい…ね?」

「へ?ちゃんと告白したじゃん。付き合う時に。」

「へ?だって…。“月が綺麗ですね”だったよ…ね?」

「ち、ちゃんと告白してる…じゃん?」

潤は胸を張って言うも、言葉自体には自信の無さを覗かせていた。そんな潤を見て、りみは「えー?」と言った。

「…ごめんなさい。」

「ち、ちゃう!せ、責めてる訳じゃなくて!…2回も大好きな人から告白されて、幸せだなぁ~って…。」

りみは顔を赤くしながらも、微笑んだ。

「…そっか。なんか…。僕も照れるなぁ…。」

潤は頭をわしゃわしゃと掻きながら言うと、改めて、りみを見た。久々に会った時は、緊張と自分を受け入れてくれるか不安で、会話も空気感もぎこちなかったが、会話をする事によって、今は仲直りし、以前と同じような…いや、以前よりも、暖かく、優しい雰囲気を取り戻せる事ができた。りみも同じ気持ちだったのか、始めはかなり堅かった表情も言動も、今は安心したような、嬉しいような表情を浮かべていた。りみが潤の視線に気付くと、また微笑み、ギュッと目を閉じた。そして、何かを欲しそうに小さく「ん…。」と言った。何が欲しいか、すぐに理解した潤はりみの肩をそっと掴むと、ゆっくりと顔をりみに近づけた。そして2人の距離がゼロになり、「チュッ」と軽いリップ音が公園に響くと、潤にしか分からない、チョコの香りが潤を包み込むのであった。

 




潤くんとりみちゃん仲直り…したのかな?

でも、まだ2人の問題は何一つ解決してません。

ポピパのデビューはどうなるのか。

やはり、2人は別れるしかないのか。

お互いの進路はどうなるのか…。

完結に向けて、頑張りたいと思います。

前書きにも書いたとおり、投稿頻度はかなり遅くなります。
本当に申し訳ございません。

感想&評価もよろしくお願い致します。


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11話

「りみりん!良かったよ~!」

「か、香澄ちゃん!あ、ありがとう!」

「全く…。心配かけやがって。」

「…面目ないです。」

仲直りをした潤とりみ。2人はあの後、潤の家に帰っていた。そして、りみがPoppin`Partyのメンバーによりを戻せたとLINEで報告したところ、メンバー全員が潤の家に集まったのだった。

「本当に心配したよ…。良かったよ…。…グスッ。」

「さ、沙綾ちゃん!?な、泣かないで!…本当にゴメンね。」

泣き出した沙綾にりみはハンカチを渡しながら言った。

「ところで、無事によりを戻した訳だけど、これからどうするんだ?」

「へ?」

「え?」

有咲が机に肘を付け、「やれやれ」といった表情で言うと、潤もりみもキョトンとした。

「は?ま、まさか、お前ら、何も考え無しによりを戻したのか!?」

「え~と…。忘れてたね?…りみは?」

「わ、私も…。潤くんと仲直りする事しか考えてなかったよ…。」

頭を掻きながら言う潤。そして、りみも苦笑いを浮かべた。

「有咲~!とりあえず今は良いじゃん!」

「そうだよ。有咲。ねぇねぇ、潤君。今日の夕飯はハンバーグ?」

「へ?いや。知らないけど。」

潤とりみの返答を聞き、有咲は深いため息をついた。そして口を開こうとした時には香澄とたえに止められていた。

「…まぁ。そうだな。りみ。良かったな。」

「りみりん!何だかんだで、1番心配していたのは有咲だからね?」

「なっ!沙綾!てめぇ!」

「有咲ちゃん。ありがとうね!」

すっかり女子会となった潤の家のリビング。りみと別れてから重苦しい雰囲気で包まれていたが、その雰囲気を跳ね飛ばすように騒がしくなっていた。

「皆!夕飯食べて行ってね!」

台所から麻里が叫ぶとPoppin`Partyのメンバーは顔を見合わすと、元気よく「はい!」と言った。

「おばちゃんもこんな可愛い子が沢山来てくれて嬉しいわ!いつもはそこにいる奴しかいないから陰気臭くて!」

「陰気臭くて悪かったな!」

本当に美少女が沢山いて嬉しい麻里はテンションが高く、鼻歌も飛び出す勢いで包丁を握っていた。

「麻里さん。私、手伝います。」

「私も手伝わせて下さい。」

そう言いながらりみと沙綾が立ち上がると台所に向かって行った。

「はぁ~。全く…。あの母親は…。」

「なぁ。一宮さん。ちょっと良いか?」

ため息をつきながら台所を睨んでいた潤に有咲が声をかけた。

「なに?」

「いや。マジで、これから先どうするんだ?」

「…どうしよう?」

「本当に何も決めてなかったみたいだな…。」

呆れたように有咲はまた「はぁ。」とため息をついた。

「…申し訳ない…。」

「いや。別に良いよ。それだけ、よりを戻すのが大変だったんだろ?実はな、私達も話し合っててな。デビューもりみの交際も両方諦めないってのが、私らの方針なんだよ。それでな、もう、りみの交際を認めて貰うのって、直接交渉するしか無いと思ってる。」

有咲は潤の方を真っ直ぐ見ながら言った。

「なるほど…。つまり、僕とりみでスカウトをした方の所に行って、話をつけるって事だよね?」

「まぁ、そうなるな。…私らの事で一宮さんまで迷惑をかけてすまん。」

「いやいや。りみもPoppin`Partyのメンバーなんだから気にしないでよ。僕も、デビューして欲しいし、りみとも別れたくないから頑張るよ。」

潤はニコッと笑いながら言った。不思議とこの瞬間は不安はなく、りみと一緒に頑張ろうと思うのであった。

 

─────────────────────

賑やかな食事を終え、りみ以外のPoppin`Partyのメンバーが帰宅した後、2人は潤の部屋で過ごしていた。

「あ~。楽しかった~。」

「だね。てか、母さん、めっちゃ頑張ったなぁ…。」

テンションが上がった麻里を誰も止める事が出来ず、夕飯はかなり豪華なものになっていた。たえが言ったハンバーグ、唐揚げ、生ハムのサラダにパエリアなどなど、全員の胃袋を満たすには充分過ぎるほどのメニューだった。

「潤くん!」

りみが潤に抱きつくと、潤は「おっと」と言いながらりみを受け止めた。

「潤くん!本当にありがとうね。…それと、本当にゴメンね。」

「もう良いよ。悪いのは僕もなんだら…。だから僕もゴメンね。これからもりみを支えるから。だから頑張ろうね?」

潤がりみの手をギュッと握りながら言うと、りみも答えるように強く握り返した。

「でも…。潤くん。これからどうしよ。デビューもしたいし、潤くんとも別れたくないし…。その問題は何も解決してないよね…。」

りみが少しだけ表情を暗くして言った。

「それなんだけどね。りみって、スカウトをしてくれた人に連絡って取れるかな?」

「う、うん。電話番号は知ってるよ。」

「2人でスカウトをしてくれた方に会いに行かない?」

潤はりみの不安を少しでも取り除く為に、優しく、包み込むように言った。

「へ?そ、それって…。」

「うん。2人で交際を認めてもらえるように説得しよ?」

「じ、潤くん、本当に言ってるの!?」

潤の提案にりみは驚きながら言った。

「本気だよ?…まぁ、市ヶ谷さんからのアドバイスなんだけどね。」

「そう言えば、2人で喋ってたね。…分かった。き、緊張するけど、わ、私も頑張る!」

「うん!頑張ろうね!…ところで、りみさん…。お願いがあるのですが…。」

姿勢を正し、改まって潤が言った。

「な、な、なに…かな?」

「夏休みの課題が終わらないので、助けて下さい!」

潤は床に頭を付けながら叫んだ。そんな潤を見て、りみは「あはは!」とお腹を抱えて笑った。

「り、りみさん…?」

「ご、ゴメンね。なんか、潤くんと本当に仲直りしたんだって思っちゃって。」

りみはそう言うと、ニコッと笑った。その笑顔を見た潤はドキッとしたのと同時にこの笑顔を守りたいと強く思うのであった。

 

─────────────────────

賑やかな宴会の後は寂しくなったりするものだが、潤はまさに、その気持ちになっていた。一晩明け、朝早くに起きた潤はリビングでコーヒーを飲んでいた。昨日の晩とは打って変わって静かになってしまったリビングを眺め、昨日は夢じゃないのかと思ってしまっていたが、LINEをタップすると、仲直りしたりみとのやり取りが表示され、夢では無いと頬を緩ませていた。以前、紹介したが、潤は早起きが苦手である。その潤が早起きをしている訳は、ある人物を呼びだしたからである。そして、コーヒーに舌鼓を打っていると、玄関が開く音がリビングまで響いた。潤は立ち上がると、玄関に続く扉を開き「おはようございます。」と言った。朝のリビングはいつも以上に反響して、小声で言ったつもりでも、母親の麻里を起こしてしまったのではないかと、チラっと2階の方を見た。

「おはようございます。」

そんな潤を眺め、アイスグリーンの髪を靡かせながら、紗夜は微笑みながら立っていた。

「紗夜姉さん、朝早く、呼びだしてすみませんでした。」

「いえ。大丈夫ですよ。それに、潤さんから初めてちゃんと報告を受けるのですから、これくらい平気よ。」

紗夜が靴を脱ぎながら言うと、今まで、紗夜に様々な報告を怠ってきた潤は苦笑いをした。

「あれ?日菜姉さんは?」

「あの子はこんな朝早くから行動は出来ませんよ。」 

潤は紗夜だけではなく、日菜にも声をかけていたのだ。しかし、何かと忙しい、紗夜と日菜は早朝にしか時間が空いてなかったのである。

「そうでしたね。とりあえず、中に入って下さい。」

潤がそう言うと、「お邪魔します。」と紗夜は言いながら、リビングに向い、ソファーに腰掛けた。紗夜が座ったのを確認した潤はアイスコーヒーを淹れ、ソファーの前にある机に置いた。

「ありがとうございます。早速なんですが、報告を聞かせて下さい。…まぁ、貴方の様子を見たらなんとなく分かりましたが。」

紗夜は潤が出したコーヒーを手に取ると、ストローに口をつけながら言った。

「ですよね。りみと無事、仲直りしました。」

「やはり、そうでしたか。良かったですね。」

「はい。紗夜姉さんには沢山の迷惑とご心配をお掛けしましたので…。本当にありがとうございました。そしてすみませんでした。」

潤がガバッと頭を下げると、潤の頭上から「ふふっ。」と笑い声が聞こえた。

「顔を上げてください。前にも言いましたが、貴方は私の大切な親戚、つまり、家族です。なので、これくらいの心配は全然気にしないで下さい。…ところで潤さん?仲直りしたと言うことはPoppin`Partyはデビューはどうなるのですか?」

「紗夜姉さん、流石です。話が早い。」

紗夜の質問に苦笑いを浮かべながら潤は答えると紗夜は目を点にした後「はぁ~。」とため息をついた。

「なんとなく分かりました。牛込さんは…って言うより、あなた方は、デビューも恋愛も諦めない選択肢を選んだ訳ですね。」 

「流石、紗夜姉さん!本当に話が早くて助かります。お知恵を拝借したいです。…実は、りみがスカウトの方にアポを取って貰う予定で、アポが取れたら、僕とりみでお話しに行こうと思っています。それで、なんて言ったら良いか、悩んでて…。自分の思っている事を正直に話そうとしているのですが…。」

潤は目を伏せながら言った。そんな潤を見て、紗夜は腕を組みながら「う~ん。」と考えていた。

「それで良いのでは…と私は思います。」

少しの間、考えていた紗夜はポツリと呟くように言った。

「それで良い…とは?」

「潤さんの考えで良いと言う事です。思いの丈をぶつけて来て下さい。なんと言うかまでは分かりませんが。」

「えっと…。本当にそれで平気…ですかね?」

尚も、不安そうにする潤に紗夜はニコッと微笑むと「大丈夫です。」と言った。潤は紗夜の微笑んだ表情を見ていると少しだけ不安な気持ちが楽になったような気がしていた。

「(紗夜姉さんって不思議だなぁ。紗夜姉さんに大丈夫って言われたら本当に大丈夫な気がしてきた。)」

潤がそんな事を思っているとは知らず、紗夜は氷が溶け、薄くなったアイスコーヒーを美味しそうに飲んでいるのだった。

 

─────────────────────

「えっと、これは、ここを代入して…。」

「あっ!なるほど。」

2人の仲が前以上に戻った2日後、潤とりみは約束通り、夏休みの課題を片付けていた。喧嘩をしたせいで、夏休みを半分以上無駄にしてしまった2人は今すぐにでもデートをしたい気持ちでいっぱいだった。しかし、潤の課題の残りを見たりみは心を鬼にして、教えるのであった。

「いやぁ~。りみの説明は分かりやすいよ!」

「ううん。たまたま私も有咲ちゃんに習ったばっかりだから…。お礼なら有咲ちゃんに言ってよ。」

りみがそう言うと、潤はスマホを手に取り、有咲に「ありがとう」とLINEを送った。受け取った有咲は「?」を大量に浮かべたのは言うまででも無い。

「潤くん、1つ聞いて良いかな?」

「なに?」

「私と…。け、喧嘩した前に、紗夜さんと勉強してたんだよね?」

「そうだけど…。どうしたの?」

潤は首を傾げながらりみに訪ねると、りみも不思議そうな表情を浮かべた。

「えっとね…。勉強の成果があまり…。で、でも!に、苦手な数学、前よりもで、で、出来るようにはなってるよ!?」

「りみ、そのフォローは悲しいよ?」

慌てながら言うりみだったが、空回りするだけで、余計に潤の心をえぐり取っていた。

「ご、ごめんね?」

「ううん。大丈夫だよ。事実だからさ。まぁ、少し勉強したくらいじゃ、学力は変わらないって事だよね。もっと頑張らなくちゃ!」

「で、でも、前みたいに倒れるまでやったらダメだからね?」

りみはギュッと潤の左手を握った。

「分かってるよ。もう、あんな無茶はしないよ。」

潤はりみを安心させる為にニコッと笑うと、空いていた右手でりみの頭を撫でた。撫でられたりみは気持ちよさそうに目を瞑った。

「ふふっ。りみって撫でられるとネコみたいだね?」

「ふぇ?」

目を開いたりみは潤の言っている事を理解すると、恥ずかしかったらしく「潤くんのバカー」と言いながら、潤の胸に飛び込んだ。

「ところで、りみ?アポは取れたの?」

「えっと、電話はしたよ。…向こうも潤くんに会いたかったみたいだよ?」

「僕に?」

「う、うん。丁度良かったって言ってたよ。また、日にちは伝えますって。」

「そっか。ありがとうね。」

潤がそう言うと、りみは不安そうな表情を浮かべていた。

「本当に大丈夫かな…。」

「分からないけど、やるしかないよ。」

「仮に、仮にだよ?もし、別れないとデビューはダメって言われたら…。どうする…?」

「う~ん。まぁ、その時考えようかな。そうなったらPoppin`Partyの皆とも話さないとだね。」

潤がそう言った瞬間、りみのスマホが着信を伝えた。ディスプレイには潤が見たこと無い名前が表示されてあった。

「す、スカウトをしてくれた方だよ…。出るね。」

りみが、スマホをタップし、耳に当て、「こんにちは。」と言った。しばらくは「はい。」とか「そうですね。」と相槌をうつばかりだったが、突然「えぇ!」と声をあげた。そして、スマホを耳から離すと潤の方を見た。

「今から…来れないか…って…。」

りみはビックリした表情を崩さないまま言った。それを聞いた潤も「えぇ!」と叫ぶのであった。

 

 




まさかの11話でも、問題は解決せず笑

焦らしていくスタイルです!

感想&評価、受け付けています!


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12話

ビルが建ち並ぶオフィス街。潤とりみはある1つのビルの前に立っていた。

「…これ?」

「そうだよ。」

潤は上に視線を向けたが、ビルの入り口の前からはビルの上部は見えなかった。

「…何階まであるの?」

「知らないよ。でも、エレベーターのボタンは35まであったよ。私も初めて来た時はびっくりしたよ。」

その時の事を思い出しているのかりみは苦笑いしながら言った。

「とりあえず、中に入ろうか。」

「う、うん。うぅ…。緊張してきたよ…。」

「僕も…だよ。」

潤はそう言うと、震える手で、更に震えているりみの手を掴んだ。

「だ、大丈夫。な、な、なんとかなるよ!」

「潤くん…。説得力がない…よ?」

「へ?」

「…ふふっ。なんか潤くん見てたら緊張解けてきたかな?」

りみは微笑むと、潤の手をしっかりと握った。潤は「なんで?」と言ったが、りみは答えず潤の手を引っ張って、中に入って行った。

「すご…。」

潤がビルの中に入った一言目はこれであった。天井は高く、4階までは吹き抜けになっており、忙しそうに働く男女の姿が見えた。

「ま、まずは…何処に行けば…。」

潤は無駄にだだっ広いロビーをキョロキョロしながら見ていた。流石は芸能事務所、壁の一面は様々なポスターやパネルなどが飾られていた。

「潤くん。アポはとってあるから、受け付けに言えば大丈夫なはずだよ?」

「そ、そ、そっか!な、な、なら、受け付けに行こうか。」

潤はそう言うと、歩き出した。

「じ、潤くん!そっちじゃないよ!?ぎ、逆だよ?」

「へ?」

「じ、潤くん、落ち着いて?」

りみが潤の腕を掴んで言うと、潤はその場で深呼吸をした。

「よ、よ、よよよし!し、し、深呼吸したら落ち、落ち着いたよ!」

潤は目を泳がせながら言った。手はさっきよりもガタガタと震えていた。

「き、緊張しすぎだよ…。ほ、本当に大丈夫?」

「う、うん。…りみは凄いね。…緊張してたよね?」

「わ、私?き、緊張してるよ?で、でも、ちゃんとお話ししなきゃ、私達の事、伝わらないから…。ポピパの皆の為にも、私達の為にもしっかりしなきゃって、思ってるだけだよ。」

りみは潤を真っ直ぐ見ながら言った。潤に初めて会った時のオドオドした姿は今のりみからは想像が出来ないほど、しっかりとした口調であった。

「そ、そうだよね…。よ、よし!」

潤は自分の頬を両手で「パン!」と叩き、気合いを入れた。先程の泳ぎまくっていた目とは違い、気合いが込められた目つきになっていた。しかし、気合いを入れる為に叩いた頬の「パン!」という音が思ったよりもロビーに響き、その場にいた人の注目を浴びてしまった事に気付いた潤は体を小さくした。

「(本当に…大丈夫…だよね?)」

そんな姿の潤を見て、りみは苦笑いを浮かべた。

 

─────────────────────

「すみません。牛込りみです…。神楽坂さんにアポをとっているのですが…。」

「はい。承っております。少々、お待ち下さい。」

受け付けまで、やっと辿り着いた2人。りみがスラッとした美人の受け付けの女性とやりとりをしていた。りみの要件を聞いた受け付けの女性は電話をかけ始めていた。

「(…美人…だなぁ。)」

「潤くん?…鼻の下伸びてるけど。」

「ふぇ!?」

りみがニッコリ笑いながら潤に言うと潤は焦ったように鼻の下を手で隠した。

「お待たせしまし…ふふっ。」

電話、恐らくは内線をかけたのであろう、受け付けの女性は潤とりみを見て微笑んだ。潤とりみは微笑まれた意味が分からず、受け付けの女性を見たまま「うん?」と不思議そうな表情を浮かべた。

「可愛いカップルね!」

「ふぇ?」

まさかの発言であったのか、りみは顔をさっと赤く染めていた。潤は恥ずかしそうに頬をポリポリと指先で掻いていた。

「申し訳ございません。つい、入らぬ事を言ってしまいました。神楽坂は6階で待っているとのことなので、左手にあるエレベーターでお上がり下さい。これは、許可証なので、首からぶら下げて下さい。お帰りの際にはお手数ですが、許可証の方をこの受け付けまでご返却下さい。」

終始、ニコニコしながら説明を受けた潤とりみは腑に落ちないままお礼を言うと、エレベーターに向かった。

「か、可愛いカップルって言われちゃったけど…なんでだろ?」

りみは首を傾げながら言った。

「多分…だけど、付き合いたてのカップルに見えたんじゃないかな?」

「へ?な、なんで?」

「さぁ?」

潤は肩を竦めながら言った。気付けばエレベーターの前に立っており、潤は先程よりは収まってはいたが、震える指で三角が上を向いているボタンを押した。

「りみは…と言うよりはPoppin`Partyって凄いね。」

「き、急にどうしたの?」

「いや、こんな大きな事務所からスカウトをされるなんて、凄いなぁって改めて思っただけだよ。僕は凄い人達のライブに色々参加出来ていたんだなぁ…。誇りに思うよ。」

「や、止めてよ!うぅ…。恥ずかしいよぉ…。」

りみが恥ずかしさから俯くと、「1階です。」と温かみが感じられない無機質な声と共に、エレベーターの扉が開いた。潤とりみは無言のままそのエレベーターに乗り込んだ。2人の緊張も高まった瞬間でもあった。

 

─────────────────────

「6階です。」

再び、無機質なアナウンスが響くと、扉が開いた。中は潤とりみしか乗っておらず、何処にも止まらなかった為、6階まではだいたい18秒くらいで着いてしまっていた。その短い時間で心の準備が出来るはずもなく、2人はエレベーターの扉が開いた瞬間に「ふぅ。」と息をついた。2人とも緊張を押さえようとしていた。

「りみちゃん!こんにちは!今日も可愛いね!」

「きゃっ!」

しかし、エレベーターから一歩出た瞬間に声をかけられ、りみはビクッと体を震わせていた。

「ゴメンね~?そんなに驚くとは思わなかったよ。」

りみに声をかけた女性は「あはは!」と笑いながら言った。

「か、神楽坂さん…。ひ、びっくりした~…。あっ!こ、こんにちは!」

「へ?女性だったの!?」

りみに挨拶をした女性こそ、Poppin`Partyをスカウトした人物だった。

「一宮君だったよね?初めまして!Poppin`Partyをスカウトした神楽坂ひとみと言います。よろしくね?あっ!これ名刺ね?りみちゃんから女の人とか聞いてなかった?」

名刺を渡された潤は両手で受け取ると「(よく喋る人だなぁ。)」と思っていた。

「す、すみません。りみと交際をさせて頂いております。一宮潤です。何も聞いていなかったもので…すみません。」

潤は頭を下げると、こちらもと名刺を出した。CiRCLEで受け付けや、営業みたいな事もする潤はオーナーより「一応」と名刺を作って貰っていた。まさかこんな場面で渡すことになるとは思ってはいなかったが…。

「ご丁寧にありがとう!話しがあって来たんだよね?会議室をとってあるから行こうか?」

ひとみがニコッと笑うと、2人は頷き、ひとみの後を着いていった。

「凄いビルですね。」

「そうでしょ?建物だけは大きいのよ。」

潤は、普段から仕事で知らない人と世間話をしなくてはいけない場面があるので、その要領でひとみに話しかけていた。それを見たりみは「(さっきまで、あんなに緊張していたのに…。)」

と潤を丸い目で見つめていたのだった。

 

─────────────────────

「はい!どうぞ!」

「あ、ありがとうございます。」

会議室に入り、ひとみからコーヒーを受け取ると、2人はお礼を言いながら姿勢を正した。先程までの緊張はひとみの明るい雰囲気で緩和され、適度なちょうど良い緊張感に変わっていた。

「それで、早速なんだけど、お話しって何かな?」

ひとみは2人を交互に見ながら言った。その言葉に潤とりみはどちらが言うか迷い、見合ってしまった。しかし、りみが意を決したように頷くと口を開いた。

「あ、あ、あの!か、神楽坂さん!わ、私、潤くんの事が大好きなんです!」

「おぉ…。って、驚いちゃった。それで?」

「え、えっと、Poppin`Party皆にも、事務所にも絶対に迷惑をかけないので、交際を認めて下さいっ!お、お願いします!」

りみが目をギュッと瞑り、机に打ちそうになるくらい頭を下げた。それを見た潤も慌てて「お願いします。」と言い、頭を下げた。

「ち、ち、ちょっと待って!な、何の事?りみちゃんは何を言っているの?」

「ふぇ?」

ひとみが焦ったように手を前でパタパタと振りながら言うと、潤とりみも顔を上げて目を丸くした。

「あ、あの。りみさんからスカウトをされた時に彼氏の有無を聞かれて、りみさんがいますと答えたら、あまり良い表情をされなかったと聞いているのですが…。」

話しが全く通じない為、潤が説明をすると、今度はひとみが目を丸くした。

「そんな顔…。してた?」

「わ、私達にはそう…見えました。」

ひとみの発言にりみは恐る恐る言うと、ひとみは額に手を当て「あちゃー。」と困ったように言った。

「いや、そんなつもりは無かったよ。ただ心配しただけで…。いや、本当に申し訳ない。」

ひとみは謝罪を口にすると、潤とりみは再び見つめ合った。

「あ、あの。どういう…。」

「本当にゴメンね。いや、よくある話しでね。プロになってしまったら、デビューの前とかやっぱり忙しいからさ、なかなか会えなくなるんだよね。だから別れるカップルとかが多くて、心配してたのよ。りみちゃん大丈夫かなって。りみちゃんに心配事を増やしたくなくて、わざわざ言う事でも無いって思ってたんだけど…。詳しく言えば良かったね…。本当にゴメン!」

ひとみは胸の前で手を合わせながら言った。

「えっと…。でしたらなぜ、りみさん…いや、皆にか、彼氏の有無を聞いたのですか?」

「それはやっぱり把握しとかなきゃ。一応ね。」

ひとみの話しを聞き、りみは口をあんぐりと明けて、固まってしまっていた。

「え?私の勘違い…?」

「りみちゃん本当にゴメン!」

「私…潤くんの恋人でいられる…の?」

「当たり前だよ!アイドルじゃないんだから、そんな規定はないよ。」

ひとみはそう言うと、また「ごめん!」と謝った。

「良かった…。良かったよぉ~。」

りみは余程、安心したのか正していた姿勢を崩し、背もたれに身を預けると、ポロポロと涙を流した。

「本当に…良かった…。」

潤も空を仰ぐように上を見ると「ふぅ~。」と安堵していた。

「もう、何回も謝るけど、本当にゴメンね?…この事で喧嘩はして…ないよね?」

恐る恐るひとみが潤とりみに聞くと、2人は黙ったまま苦笑いを浮かべた。

「ほんっとうに、ごめんなさい!」

「だ、大丈夫です!か、神楽坂さん!わ、私達、ポピパの皆も勘違いしていたので…。」

「そ、そうですよ!りみさんと別れなくて大丈夫って分かっただけで、満足ですよ!」

自分より年上の大人が土下座をするような勢いで謝った為、2人は焦っていた。しかし、別れなくても大丈夫と分かり、安堵の表情も見え隠れしていた。変な勘違いをしていたせいで1度は別れてしまった2人だが、この勘違いのお陰で、2人の絆はより深いものになったのは間違いない。潤は密かにこの勘違いに感謝をするのであった。こうして、目標だった「恋愛もデビューも諦めない」は無事に達成されたのであった。

 

─────────────────────

「あっ。そうだ。神楽坂さん。」

お互いの勘違いのせいで混沌とした雰囲気になってしまった話し合いは落ち着きを取り戻しており、3人はコーヒーを飲みながら世間話をしていた。

「なぁに?」

「僕に、何か用があったのでは無いですか?確か、りみさんがアポをとった際に、僕と伺いたいと伝えたら、丁度良かったっと仰られたと聞いたのですが…。」

潤がそう言うと、ひとみは「そーだった!」と叫び、持っていたクリアファイルなら一枚、紙を出した。

「さっき、彼氏の有無を何故聞いたのかって質問したよね?その時、一応って答えたんだけど…。実はあれ、付き合っている人を調べる為…なんだよね。」

「し、調べる?な、なんの為にですか?じ、潤くんも…その、調べたのですか?」

「うん…。付き合っている方が、もし、反社会的勢力みたいな人だったら流石にマズいからさ…。だから一応、調べてるのよ。」

「なるほど…。へ?そ、それで潤くんに会いたかったって…。潤くん!ま、ま、まさかっ!」

りみがガタッと立ち上がり、潤を見ると潤は深いため息をついた。

「りみ…。僕と何年付き合ってるの?そんな訳ないじゃん。」

「そ、そ、そうだよね。」

呆れながら言う潤に、りみは苦笑いをして誤魔化した。

「話を戻して良いかな?それでね、一宮君の事を調べていったら、なんと、あの野外で行ったガールズバンドパーティーの発案者って知ったのよ。」

そこまて、ひとみは言うと、潤に先程、取り出した紙を渡した。潤は紙を受け取り、読み始めると目を見開いた。りみも横からチラッと覗いたが「企画書」という文字以外、潤の腕が邪魔で読むことは叶わなかった。

 

 

 

 

 




まさかの結末…と思って頂けますように。

あれだけ騒いだ潤とりみが別れた原因がこんなつまらないものでした。

でも、問題が起こった時に振り返ってみると、原因って下らなかったりしませんか?

僕はそういう事が多いです笑

感想&評価、お待ちしております!


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13話

夏休みが終わり、新学期を迎え、身体のリズムが元に戻り始めた頃、潤はPoppin`Partyの練習場所である蔵を訪れていた。りみとの仲も順調そのもので、仲良く日々を過ごしていた。しかし、仲直りしてから、りみの「甘えたい」という気持ちが全面に出るようになり、所構わず甘えるようになってしまった。現に今も…。

「じゅーんくん!はい。あーん。」

りみはチョコを一粒摘まむと、横に座る潤の目の前まで持っていっていた。

「ち、ちょっと!りみ?さ、さ、流石に恥ずかしいって!」

潤がチラっと周りを見ると、りみ以外のPoppin`Partyのメンバーがソファーに座って2人を眺めていた

「…食べない…の?」

一向にチョコを食べない潤にりみは眉を下げ、目を潤ませていた。

「一宮さん…。私達の事は空気と思ってくれ。」

「りみりん!嬉しそうだね!」

「私、オッちゃんに会いたくなって来たから帰っても良い?」

「おたえ、ダメだよ。」

Poppin`Partyのメンバーがそれぞれ、思い思いの反応を見せたところで、やっとりみは我にかえっていた。

「ち、ちゃう!え、えっと…。」

りみは言い訳をしようとしたが、上手く言葉が出ず、ワタワタとするだけだった。

「はぁ。りみ。気にしなくて続けてくれ。」

有咲は足を組み、お茶をぐいっと飲むと、ため息をついた。

「有咲~!りみりんが羨ましいの?」

香澄が有咲を見ながらニヤッと笑った。その言葉に有咲は「ち、ちげー!」と叫んだ。

「りみ…。一応、バイト中だから。話しをさせてくれない?」

「…ご、ごめんね?」

潤はそう言うと、顔を真っ赤にして俯いているりみの頭をポンポンと撫でた。

「潤君?話しって何?蔵までわざわざ来て…。気になってるんだけど?」

「山吹さんすみません。では、お話しさせて下さい。…主催ライブをやりませんか?」

「やる!」

潤の問いかけに香澄はすぐに「はい!」と手を挙げて言った。

「やりたいけど…なんで?」

「そうだね。私も気になるかな。いきなりライブしませんかって。何かあったの?」

おたえと沙綾が潤の方を見て言った。しかし、表情から察するに、ライブ自体はやりたいと言った雰囲気を潤は感じ取っていた。

「訳…ですか?実は…。CiRCLEの来月の予約が何処も埋まってなくて…。」

潤は頭をポリポリと掻きながら言った。

「へぇ。そんな事もあるんだな。」

「珍しいみたいですけど…。そうなんです。なので、出演交渉に来ました。えっと…。来月主催ライブ、して頂けますか?もちろん、CiRCLE一同、協力は惜しみなくしますので。」

潤が頭をガバッと下げると、Poppin`Partyの面々は顔を見合わせた。そしてアイコンタクトを取ると、全員満面の笑みを浮かべ、「宜しくお願いします!」と声を揃えて言った。

「…良かった。」

潤はホッとしたように呟いた。

「ねぇ。潤くん?」

りみはそう言いながら潤の袖をクイッと引っ張った。

「なに?」

「このライブって、前に神楽坂さんから貰った企画書と関係あるの?」

「無いよ?」

潤が淡々と答えると、りみはムッとした表情を浮かべ、「そう。」と小さく呟いた。

 

─────────────────────

「一宮さん、悪かったな。」

りみのベース音が蔵に響く中、有咲は潤に声をかけた。

「…ん?なにかありましたっけ?」

潤は少し、考え込むも有咲に何かされた覚えもなく、クエスチョンマークを浮かべるだけだった。

「いや…。デビューの話し。私達の勘違いで迷惑かけたから。」

「あぁ。大丈夫だよ。気にしてないから。」

潤はそう答えると、りみのベース音に再び耳を傾けた。可愛らしいピンクの見た目とは裏腹に、腹に響く重低音は聞いていてとても心地よいものだった。

「一宮さん、CiRCLE戻らなくて平気なの?」

「うん。今日は蔵に来た時点で、定時過ぎてたから直帰だよ。…ごめんね。りみのベースが聞きたいなんてワガママ言っちゃって。」

潤は申し訳なさそうに言うと、有咲は手をパッと挙げ「気にするな。」と言った。ライブの話しが一段落し、りみと有咲以外のメンバーは用事があった為、帰宅していた。潤が直帰すると聞いていたりみは潤と帰ろうと支度をしようとしていたが、潤が「ベースが聞きたい」と言った為、有咲に許可を貰い、こうして特等席でりみのベースを聞いていた。

「なぁ。聞いて良いか?」

りみが一曲弾き終わったところで有咲がお茶を入れ直しながら口を開いた。

「なに?」

りみがベースを抱えながら聞くと、有咲は「うん。」とお茶を2人に出した。

「さっき、企画書みたいな話しが聞こえたんだけどさ、神楽坂さんから何か貰ったの?」

「あぁ。聞こえちゃいましたか。」

潤は笑みを零しながら答える。

「潤くん。…教えてよ…。気になって、考えちゃうの…。」

「それも聞こえたんだけどさ、りみに内緒なの?」

「りみと言うかPoppin`Partyの皆には内緒です。企画書にそう書いてましたので。」

潤がそう言うと、有咲は「そっか。」と呟き、りみはまた教えてくれないとがっかりした表情を浮かべた。

「気になるのも、がっかりするのも分かるけど…。こればっかりは教えられないから…。」

「うん…。分かってるよ。」

りみのがっかりした表情を見て、潤は困ったように言った。

「話し変わるけどさ。りみ?」

有咲は2人の会話に混ざるようにりみの方を向いた。

「な、なにかな?」

「仲直り出来て、デビューも恋愛もしても良いってなって、浮かれるのは分かるけどさ。イチャイチャする場所を考えてくれ。」

「うぅ…。有咲ちゃん、ごめんね。」

有咲の言葉に力強く潤も頷いた。

「そして、そこで頷いている一宮さん?てめーもな。」

「はい!?な、なんもしてないじゃん!」

「りみを慰めようとしたのかどうかわかんねーけど…。頭…ポンポンしてたじゃん。」

潤は自分の行動を思い出し「すみません…。」と言った。

「まっ。気持ちは分からんでもねぇよ。でも、目のやり場に困るからほどほどにな?」

有咲はニヤッと笑いながら言うと、2人は声を揃えて「ごめん。」と言うしかなかったのだった。

 

─────────────────────

それから数曲、りみのベースを堪能した潤はホクホクした気持ちでりみと帰路についていた。

「りみのベース、何回聞いても良いね!心地よいよ。」

「あ、ありがとう。改めて言われちゃうと…て、照れるよ。」

2人は手を繋いで歩いていた。潤の左手にはりみの右手が、そして左手にはスマホが握られていた。

「潤くん。スマホどうしたの?歩きスマホ危ないよ?」

「ん?あー。ごめんね。ちょっと、ね?」

潤は苦笑いしながらポケットにスマホを戻した。

「調べ物?」

「ううん。違うよ。…いい人いないかなぁって。」

「いい人?」

「うん。市ヶ谷さんに…。なんか、恋をしたがっているように見えてね。」

潤がそう言うと、りみは苦笑いを浮かべた。

「いい人、いた?」

「いなかった。」

潤は肩をすくめながら言った。そもそも有咲の好みが分からないので、探しようもないのだが。

「潤くん。聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「進路の事?」

「…うん。そうだよ。」

りみは自分の考えている事が潤にも伝わっているように感じ、少しだけ嬉しくなった。

「りみはさ、大学に通いながら音楽をするの?」

「多分、そうなるかな?あまりにも忙しかったら音楽に絞るけど。潤くんは?大学、私と一緒の所に行けそうかな?」

「その事なんだけどさ…。やっぱり就職しようと思う。」

「へ?」

りみは潤の発言に驚き、素っ頓狂な声を出し、足を止めた。

「…なんで?」

「りみ?」

「なんで…?なんで?なんで!?わ、私と一緒ってそんなに嫌なの!?」

りみは潤の胸に飛び込みながら言った。目には涙が貯まっており、自分自身で「泣き虫は変わらないな。」と思っていた。

「嫌な訳ないじゃん。」

「じゃぁ!なんで!」

「一緒に暮らすんだよ?やっぱりお金は必要だよ。それに、大学に行って、何がしたいのかなって思っちゃってね。」

潤はりみをゆっくりと抱き締めながら言った。

「潤くん…。」

「本当に一緒に大学は行きたいとは思ってるんだよ。」

「分かってる…。でも、大学でやりたいことを見つけても良いんじゃない?」

「そうなんだけどね…。でも、それ以上にねCiRCLEでやりたい事も見つけたんだ。」

潤はりみの肩を持ち、ゆっくりと離した。しかし、目はしっかり、りみを見ており、その目は真っ直ぐと自信に満ち溢れていた。

「…やりたい事…ってなにかな?」

「CiRCLEにはさ、Poppin`Partyみたいに夢を持って、練習したり、ライブをするバンドが沢山来るんだよ。僕はその手助けをしたい!りみ達みたいなバンドが1つでも多く出るようにしたい!」

潤は高らかに言う。目はキラキラと輝いていて本当にやりたいことなんだとりみに伝わっていた。

「…そっか。潤くん、本気…なんだね…。」

「本気だよ。りみ達と関わって、本気に強くそう思えるようになったよ。だから、ありがとうね?」

「わ、私達は何もしてないよ。」

「そんな事ないよ。戸山さんの言葉を借りるならいつでもキラキラドキドキしてたよ。」

潤はりみの手を掴むとギュッと握った。太陽はいつの間にか沈んでいて、潤が告白した時と同じように半月がポツンと顔を出していた。

「…月が綺麗…ですね?」

「はい…。本当に綺麗…ですね。」

潤が月を見ながら言うと、りみは頬を赤く染めていた。

 

─────────────────────

9月に入っても残暑は厳しく、アスファルトを溶かしそうな勢いで日差しが降り注いでいた。潤はバイトの為、CiRCLEでパソコンに向かっていた。CiRCLEの中は冷房が効いている為、快適に仕事を片付ける事ができていた。現在、潤はCiRCLEで行われるライブの計画書を作成していた。ライブの予約が全然入っておらず、Poppin`Partyにお願いをしたが、なんの因果か、その後に、ドドッとライブの予約が入ってしまったのだった。しかし、Poppin`Partyとの約束を無かったことになど出来るはずもないので、潤は密かに気合いを入れ、頑張っていた。

「潤君。」

「あっ。月島さん、お疲れ様です。」

潤の仕事が一段落し「ふぅ。」と息をついたタイミングでまりなが声をかけた。

「お疲れ様。順調…かな?」

「はい!もう少しで出来るので、完成したら確認をお願いします。」

「分かったよ~。それはそうとお客さんだよ?」

まりながCiRCLEの受け付けの方を見ながら言うと、潤は立ち上がり「ありがとうございます」と言い、向かった。

「あっ!潤君!」

「こんにちは。あれ?戸山さんだけですか?」

潤に用があり訪れていたのは香澄だった。潤が姿を現した瞬間にその特徴的な髪の尖っている部分がピクピクと動いたような錯覚を受けていた。

「(本当にネコみたいだなぁ。)」

「潤君?」

「あぁ。ごめんなさい。考え事をしてました。用っていうのは何ですか?」

潤は受け付けに立つと、柔やかに対応をした。潤の接客は年月を重ねるのと比例して良くなっており、CiRCLEを利用するバンドの間でも評判になるほどに成長をしていた。

「主催ライブのセットリストを持ってきたよ?」

香澄がカバンから一枚の紙を出すと、潤に手渡した。

「ありがとうございます!早いですね。助かります。あっ。戸山さん、丁度良かったです。後から伝えようと思っていたのですが、ライブ、来月の第2土曜日はどうですか?」

「分かった!皆に聞いてみるね!ライブ楽しみだなぁ。」

香澄はう~んと背伸びをしながらニコニコと頬を緩ませていた。そんな香澄を見ながら潤はセットリストに目を落とすと、少しだけ驚いたような表情に変わった。

「一曲目、キズナミュージックって珍しいですよね?」

潤は少しだけ考えたが、キズナミュージックは最後の方に歌っているイメージがあった。過去のライブを思い返しても最初というのは珍しかった。

「うん!ちょっと違う事がしたくてね!」

香澄は「ふふーん!」とドヤ顔で言った。

「確かに…2曲目がDreamers Goで…って、本当だ。最後にやる事が多い曲が最初に固まってますね。」

「潤君!これ、りみりんの案なんだよ!」

香澄がまた何故かドヤ顔で言うと、その顔を無視して「りみ…が?」と呟いた。

「そうなんだよ!りみりん、潤君が頑張ってるから私も頑張って考えてみたって言ってたよ!ねぇ!何があったの?」 

カウンターから身体を前に出し、飛び越えてしまいそうな勢いで香澄は言った。

「戸山さん、落ち着いて!…りみも頑張ってるなら僕も頑張らないと。」

潤は自分に言い聞かすように呟きながら言った。

「ねぇ!なんで!」

香澄はしつこく潤に聞いたが、潤はカウンターの下でグッと握りこぶしに力を入れると、カウンター横のパソコンに向かった。なかなか答えない潤を香澄は微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、遅い夏バテか、身体がダルいです。
でも、頑張る!

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14話

「…紗夜姉さん、お疲れ様。」

「えぇ…。本当に疲れました…。」

潤の家に用があり寄った紗夜は珍しく弱音を吐くと、困ったように眉を下げた。

「…まぁ、何はともあれ、デビューおめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

「本当に…ぷっ。凄い…ふふふっ。」

「潤さん?」

賛辞を贈っていた潤だったが、途中から肩を震わわせていた。紗夜から見たら必死に笑いを堪えているように見え、怪訝な表情を浮かべた。

「す、すいません。で、でも…あははっ!」

潤は一応、謝ったが、とうとう、腹を抱えて笑ってしまった。そんな潤の姿を見た紗夜は「はぁ。」と小さくため息をついた。

「始めの「お疲れ様」で理解はしてますが…見たんですね?」

「はい。ちゃんと録画もしましたよ?」

潤はブルーレイのリモコンを掴むと、慣れた手つきで操作した。すぐにお目当ての録画した内容を見つけると再生ボタンを押した。また思い出しているのか、ボタンを押した指はプルプルと震えていた。潤のリビングのテレビにはRoseliaの5人がいつもとかなり違う服装、山登りをするような完璧な装備で映っていた。そして字幕には「頂点を目指すガールズバンドが日本の頂点で堂々デビュー宣言!」と出ており、更には友希那が死にそうな表情で「頂点へ狂い咲けっ!」と叫んでいた。

「これ、本当に富士山に登ったんですか?」

「登りましたよ。あんなに辛いとは思いませんでした。」

思い出したくないのか紗夜には珍しく、眉間に皺を寄せながら言った。

「まぁ、話題になってるみたいだし、良いんじゃないですか?」

「音楽で話題に上がるように頑張ります。ところで潤さん。あなた、進路はどうするつもりですか?あまり勉強もしていないようですし。」

「あぁ…。実は就職しようと思いまして…。」

潤はそう言うと、紗夜は「ふふっ。」と微笑んだ。

「紗夜姉さん?」

「いえ。すみません。そんな気がしていたので…。何故、就職しようと思ったのですか?」

「えっと…。高校を卒業したらりみと同棲することになっているじゃないですか?一緒に暮らすならやっぱりお金は必要なので…。それに、CiRCLEで紗夜姉さんや、りみを見て、こんなに輝ける人達のサポートをしたいと強く思ったからです。CiRCLEで働くとなれば、今までバイトで長年働いているので、すぐに戦力になれますし。」

「…ん?」

「紗夜姉さんどうしました?」

「潤さんはCiRCLEで働くのですか?それに…同棲?」

「そうですよ?正社員で働かないかと誘われてまして…。あれ?言ってなかったですか?りみと同棲する話も…。」

潤はそう言うと、紗夜から物凄い圧を感じた。恐る恐る紗夜を見ると、紗夜は潤を睨んでいた。

「(あっ…。詰んだ…。)」

潤はそう思うと、椅子から立ち上がり、フローリングに正座をするのであった。

「だいたい、貴方はいつもいつも!心配してるから報告しなさいと何度言ったら分かりますか!?」

「ほ、本当に申し訳ありません。こ、今回は言ったとばかり思ってて…。」

「言い訳はいりません。」

ギロっと睨む紗夜に震えながら潤は反論してみるが、紗夜にそんな反論が通用するはずもなく、火に油を注ぐような状態であった。

 

─────────────────────

「お姉ちゃん!それくらいにしてあげなよ!」

「本当に申し訳ありません…。」

「全く…。」

紗夜の説教が始まって30分後、紗夜のため息により説教は終わりを告げた。途中で遊びに来た日菜の助けもあり、いつもよりかは短い説教で済んでいた。

「あ、足が…。」

潤は立ち上がろうとしたが、ずっと正座をしていた為、痺れてしまっていた。…フローリングの上で30分も正座していれば痺れるのは当たり前であるが…。

「なになに!?潤君どうしたの!?足がどうしたの!?」

潤の様子に気付いた日菜はニコニコしながら潤に近づいた。

「ひ、日菜姉さん?どう…しましたか?」

「えい!」

「あぁ!い、い、い、今は足を突かないで!今はダメ!」

「あはは!潤君が悶えてる!るんってきたよ!」

潤の「止めろ!」という叫びは日菜に届かず、暫くの間、日菜に足を突かれ続けた。

「さ、紗夜姉さん!た、助けて!」

日菜を唯一、止める事ができる紗夜に潤は助けを求めた。しかし、聞こえているはずなのだが、紗夜は無視をした。それから10分後、潤が悶える姿に飽きた日菜は「お姉ちゃん!」と言いながら潤から離れた。

「酷い目にあった…。」

ぐったりとした表情で「はぁ。」とため息をつくと紗夜と日菜が座ってるソファーに移動した。

「ところで潤さん。」

「は、はい。な、何でしょうか…。」

「…そんなに構えないで下さい。」

紗夜に声をかけられ、ビクッと身体を震わせた潤を見て、紗夜は悲しそうな表情を見せた。

「ご、ごめんなさい…。」

「お姉ちゃん、潤君を怒ったんでしょ?無理ないよ!」

潤と紗夜のやり取りを見て、日菜はケラケラと笑っていた。

「はぁ。まぁ…良いです。潤さん。潤さんが就職するという話しは牛込さん…。いえ。りみさんは納得なのですか?」

「り、りみさん?」

「えぇ。このまま行けば、貴方と牛込さんは結婚しそうなので、今のうちから慣れておこうかと。で、どうなんですか?納得してますか?」

「してますよ。この間、きちんと話しましたから。」

「本当に…ですか?」

潤がりみとのやり取りを思い出しながら言うと、紗夜は怪訝そうな表情で潤に詰め寄った。

「そ、そう言われると…自信が…。」

「潤さん。もう1度話し合った方が良いかと思います。りみさんは潤さんと同じ大学に行きたがってましたから。」

最後に紗夜はニコッと微笑みながら言うと、潤は小さくコクッと頷いた。

 

─────────────────────

有咲の蔵ではPoppin`Partyのメンバーがソファーに座っていた。主催ライブに向け、練習をしていたのだが、りみの調子があまりにも悪く、いつも間違えない箇所で盛大に間違えたり、1番なのに、2番の歌詞を歌ったりと散々だった。そんなりみに対して、Poppin`Partyのメンバーが何があったのかと、問い詰め、りみが悩みを抱えている事を知った為、こうして話を聞くのであった。

「何から話そう…。」

りみがボソッと言う。他のメンバーの視線が嫌でも刺さり、りみを焦らせていた。

「りみりん?ゆっくりで大丈夫だよ。」

「ありがとう。沙綾ちゃん。…あ、あのね。潤くんの事…なんだけどね…。」

「だろーな。」

「有咲っ!りみりんが話してるんだから!」

「お、おぅ。す、すまん。」

いつもとは逆で、香澄に有咲が怒られるという姿に、沙綾とりみは苦笑いを浮かべた。

「りみ?続きは?」

「あっ。そ、そうだよね。…あのね。わ、私、潤くんと同じ大学に行きたかったの。」

「一宮さんとりみが同じ大学?なら、一宮さん、相当勉強しないと無理じゃないか?りみ、大学のランク下げるのか?」

以前、潤の勉強を少しだけみた有咲はその時の事を思い出しながら言った。

「ううん。私は志望校、変えないよ。だから、潤くん、勉強を頑張ってたんだけど…。やっぱり就職したいって…。い、一緒の大学に行きたいって言うのは私のワガママなんだけどね?」

「ワガママじゃないよ!」

カバッとりみに抱きつきながら香澄は叫んだ。

「香澄…ちゃん?」

「ワガママじゃない!だって好きな人と長くいたいって思うのって普通の事じゃん!」

「香澄。落ち着いて。」

りみを締めて落としてしまうのではないかと思うくらいギュッと抱き締めていた香澄。そんな香澄を見て、沙綾が香澄の肩を叩いて落ち着かせようとしていた。

「だって!沙綾はどうなの!?」

「わ、私?う~ん…。そ、それは、まぁ、好きな人とは少しでも長く一緒にはいたいかな?」

「ほら!沙綾だってこう言ってるじゃん!だからりみりん!潤君を説得しよ!私達も手伝う…痛っ!」

興奮し、りみに迫りながら叫ぶように喋っていた香澄だったが、その途中で、有咲にチョップを食らっていた。

「あ、有咲?何するの?」

香澄は涙目になりながらチョップをされた頭を押さえた。

「何じゃねぇよ!おめーは本当に落ち着け!」

「だから、落ち着いてるって!」

「じゃあ、喋るな!」

「有咲?」

「喋るな!」

睨みながら有咲は言うと、いつもとは違う怒気に香澄は不満そうな表情を浮かべながらも、口をつぐんだ。

「はぁ。りみ、大丈夫か?」

「わ、私は平気だよ…。私の事なのにごめんね。」

りみは表情を暗くさせ、俯いた。

「別にりみを責めてる訳じゃねぇよ。話、聞いたけど、大学どうするんだ。正直言って、一宮さんの成績じゃあ、現実味がねぇぞ?」

「…出来れば一緒の大学に行きたい。ダメでも挑戦はして欲しい…。それに、Poppin`Partyがデビューに向けて、忙しくなったら、なかなか会えなくなっちゃうから…。大学が一緒だと、会う事も増えるから…。」

辿々しく潤と一緒の大学に行く理由をりみは答えた。その言葉を聞き、有咲は腕を組み、「う~ん」と考えた。たっぷりと間が開き、Poppin`Partyのメンバー全員が有咲に注目していた。

「…そっか。」

「…へ?有咲?そ、それだけ?」

有咲の短い返答に沙綾は目を丸くして言った。

「わ、悪かったな。だってしょうがねぇだろ?これはりみと一宮さんの問題だ。」

「そうだけど、あれだけ考えこんでたじゃん?」

沙綾は苦笑いしながら言うと、有咲はプイッと顔を横に向けた。

「…りみりん、ごめんね。有咲の言うとおりだね。」

「香澄ちゃん?」

「私、熱くなっちゃってゴメン…。でも、一緒の大学に行きたいって、もう1度潤君と話し合ってみたらどうかな?」

先程の反省があるのか、香澄は言葉は選びながら言った。香澄の意見に他のPoppin`Partyのメンバーも頷いていた。

「うん。…そうして見るね。でも、私も自分がこんなにワガママとは思わなかったよ…。潤君、悩みに悩んでCiRCLEの就職を決めたのに…。それに会えないって言っても、同棲するから、家に帰れば会えるようになるのに…。まだ一緒にいたいって思うなんて…。…あれ?皆…どうしたの?」

りみは愚痴っぽくため息をつきながら喋っていた。しかし、他のPoppin`Partyのメンバーから反応が無かった為、辺りを見回すと、全員、驚いた表情を浮かべたまま固まっていた。

「あ、あれ?ど、どうしたの?」

「はぁぁぁ!?い、一宮さんがCiRCLEに就職!?そ、そ、それより!ど、同棲って!?」

「そ、そうだよ!?りみりん、いつから同棲するって決まってたの!?」

「おめでとう。…で良いのかな?」

「ビックリしたよ…。」

メンバーそれぞれがりみに迫りながら感想を述べると、りみもビックリしたような表情を浮かべながら首を傾げた。

「あ、あれ?…私、言ってなかった…け?」

「聞いてねーよ!」

有咲が顔を真っ赤にしながら叫ぶと、他のメンバーも「うんうん」と首を縦に動かした。

「ご、ゴメンね。わ、私、言ったとばっかり思って…。」

この後、りみはしばらくの間、質問責めにあうのであった。始めは困惑していたりみだったが、だんだん、幸せそうな表情になり、他のメンバーをほっこりさせたのであった。

 

─────────────────────

潤が紗夜に怒られた翌日、潤は放課後にいつも通り、CiRCLEでのバイトに勤しんでいた。ガールズバンドパーティーの影響なのか、はたまた世間の流行りのお陰なのか分からないが、スタジオは全て埋まっており、嬉しい悲鳴をあげていた。

「一宮君。お久しぶり!」

受け付けにいた潤は自身の名前を呼ばれ、作業していた手を止め「はい?」と返事をし、顔をあげた。

「あっ!神楽坂さん!お久しぶりです。」

顔を上げ、相手の顔を見た瞬間、誰だか気づき、頭をガバッと下げながら言った。

「うん。急に来てゴメンね?近くまで来たから寄ったんだけど…。忙しかったかな?」

「いえ!大丈夫です。えっと、今日はどうされたんですか?」

ニコニコしながら喋るひとみに事前にアポイントメントも無かった為、潤は驚きながら対応をしていた。

「うん。ちょっと、お喋りしたくて。本当に近くまで来たから、寄っただけなんだよね。だから、忙しかったら出直すつもりなんだけど、本当に大丈夫かな?」

「はい。少しなら大丈夫ですよ。…えっと、ここで話すのは不味いですか?」

「うん。出来れば…。」

「でしたら、外のカフェテラスに行きましょう。打ち合わせとかはそこでやる事もあるので。」

潤はそう言いながら、カウンターを出ると、神楽坂の横で立ち止まった。

「うん。分かったよ。ありがとう。ちなみに、まだ、バレてないかな?」

「はい。りみはもちろん、Poppin`Partyのメンバーにも話してませんよ。」

潤がニヤリと笑うとひとみもニヤリと笑った。2人の表情はとても悪い笑顔をしており「お主も悪のよぉ。」「いえいえ。お代官様ほどでは…。」とやりとりが始まりそうであった。

「では、行きましょうか。」

「うん。よろしくね。」

潤が手をカフェテラスの方に向けると、ひとみも頷きながら外に向かった。外はまだまだ残暑が厳しかったが、暑さなど気にならないくらいに潤はワクワクした気持ちを抑えられず、思わずまたニヤリと笑ってしまっていた。




フィルムライブ良かった!
もう1回みたいなぁと思っています!
まだまだ企画書の内容は分からず…。
そして、進路ではお互いの意見が纏まらず…。
本当に終わるのかな?笑

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15話

「照明お願いします!…ありがとうございます!…手元とかどうですか!?」

潤の声がライブ会場に木霊していた。照明の確認、音源、音声の確認、受け付けへの指示など全てを行っており、大声を出す場面も多い為、潤の声は枯れていた。

「潤くん!大丈夫だよ。」

マイクを通してりみはニコッと笑いながら言うと潤もニコッと微笑み返した。

「では、リハは以上になります。本番もよろしくお願いします。」

潤はそう言うと「ふぅ。」と息をついた。

「いよいよ本番だね!潤君!」

「あっ。月島さん。お疲れさまです。」

まりなは潤に声をかけた。今までの流れで分かると思うが、今日はPoppin`Partyの主催ライブが行われる日である。

「潤君、舞台監督みたいだよ?カッコイイ!」

「月島さん!?からかうのは止めて下さい。」

「ふふっ。カッコイイのは本当だよ?本番まで気を抜かないようにね?…って言わなくても分かってるか!」

「あはは。でも、そう言われるとますます頑張ろうと思えるので、有難いですよ!…では、まだ準備がありますので、行ってきます。」

潤はニコッと笑うと、ペコッとまりなに小さくお辞儀をして駆けて行った。

「私が心配しなくても大丈夫になっちゃったか…。嬉しいような。寂しいような…。」

まりなはそっと呟くと、ステージに目を向けた。ステージにはPoppin`Partyの使用している楽器や機材が置いてあり、その全てが今から始まるライブを楽しみにしているように輝いていた。

 

─────────────────────

潤が駆け足で向かった先は誰も使用していないスタジオだった。そのスタジオの扉に近づくと、キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいない事を確認してから、ノックをし、中に入った。

「神楽坂さん!お待たせしました。」

「全然大丈夫だよ!チラッとリハ、見させて貰ったけど、潤君凄いじゃない!高校生があんなハキハキ、リハを進めるなんてなかなか出来ないよ?」

急いだ為か、潤は少しだけ息を切らしながらスタジオに入ると、ひとみは興奮したように一気に喋った。

「いやいや。僕なんてまだまだですよ。リハがバッチリでも本番は何が起こるか分かりませんから、緊張してますよ?」

「潤君、凄く頼もしいよ!今日はポピパの皆をよろしくね?」

ひとみが右手をスッと差し出しながら言った。その手を潤は「もちろんです。」と言いながらギュッと握った。

「ところで、神楽坂さん、準備の方は?」

「もうバッチリよ!いやぁ~。ポピパの皆がどんな顔するか楽しみよ!」

「それは僕もですよ!…でも、緊張してきました…。」

潤が苦笑いを浮かべると、ひとみはケラケラと笑った。

「大丈夫だよ!潤君なら大丈夫!」

「あはは。ありがとうございます。できる限り、頑張りますね。」

潤はそう言うと、ギュッと手に力を入れ、密かに気合いを入れていた。

 

─────────────────────

ひとみと最終確認をしたのち、潤は受け付けに向かっていた。いつもは出ていない場所に机が用意されており、その上には今日のライブの案内が書かれたチラシが沢山重ねてあった。

「一宮さん。お疲れさま。」

「あぁ。市ヶ谷さん。お疲れさまです。リハ良かったですよ!ピアノの音、凄くワクワクするような音でした。」

潤がそう言うと、有咲は顔を赤くし、プイッと明後日の方向を向いた。

「べ、別にリハだし。本番でその音を出せなきゃ意味ないし。」

「市ヶ谷さんなら大丈夫ですよ。」

「わ、分かったからっ!…ビラはそれで全部なのか?」

有咲は、恥ずかしくなっているのを隠すように机の上に置いてあるチラシに目をやった。

「そうですよ。」

「このチラシ、かなり作り込まれているけど、業者に頼んだのか?」

有咲はチラシを1枚取って言った。Poppin`Partyの主催ライブとあって、チラシもチラッと見ただけでも目を引くような、華やかで明るい色合いをしていた。そして、中央にはでかでかと「Poppin`Party!」と印刷してあった。

「いえ。業者に頼んでないですよ?僕が作りました。」

「ま、マジで?一宮さん、スゲーな。」

「まぁ、何十枚とこういったチラシやポスターを作ってきたので、クオリティーが上がらなきゃダメでしょ?」

珍しく素直に褒めて有咲に、擽ったさを覚えた潤は苦笑いを浮かべながら言った。

「では。市ヶ谷さん。本番もよろしくお願いします。」

まだチラシを見て「へぇ~。」と関心したように言っている有咲に声をかけ、潤は立ち去ろうとしていた。

「あっ!一宮さん、ま、待って!」

「はい?」

「別に、チラシを見に来た訳じゃねー。一宮さんを探してたんだよ。」

有咲はチラシを置くと、潤に近づきながら言った。

「なんですか?えっと、何か不具合でもありましたか?」

「違う。そうじゃない。…りみと話したか?」

「…何をですか?」

潤は有咲に言われ、一瞬、考えたが、この数週間、他愛話か、ライブの話しかしていなかったので、有咲が何を言いたいか分かっていなかった。

「はぁ!?りみの奴、まだ話してなかったのか!?」

「えっと…。何をですか?」

「進路の話しだよ!」

「進路ですか?あれは…9月に入ってすぐくらいに話ましたよ?りみも納得して決めましたよ?」

潤は思い出しながら言った。そんな潤も見て、有咲は「はぁ~。」とため息をついた。

「りみが納得してねぇんだよ。」

「…え?」

「りみはまだ、一宮さんと一緒の大学に行きたいって言ってたぞ?私は一宮さんの学力じゃ無理って言ったけどな。」

「…そんなにハッキリ言わなくても…。まぁ、バカなのは自分自身で分かってますが。」

潤はまた苦笑いを浮かべると、有咲は慌てたように「違う!」と否定したが、その後、フォローは出来なかった。

「市ヶ谷さん、大丈夫ですよ。さっきも言いましたが、バカって言うのは分かってますから…。教えてくれて、ありがとうございます。このライブが終わったら、もう1回、りみと話し合ってみます。」

「お、おぅ。本番前で忙しいのにすまん…。後、りみは最悪、一宮さんが受からなかったらしょうがないけど、努力はして欲しいって言ってたから。」

「…分かりました。ありがとうございます。…では、本番よろしくお願いします。」

潤はペコッと頭を下げると、また駆け足で移動を始めた。潤が着けていたインカムには「ステージに来て!」と引っ切り無しに応援要請が聞こえてきていた。

 

─────────────────────

有咲は潤と話し終わった後、自動販売機で飲み物を買って楽屋に戻っていた。

「有咲?トイレ長かったね?」

「トイレじゃねぇ!いつトイレに行くって言ったんだよ!」

たえが沙綾が持ってきたやまぶきベーカリーのパンに齧り付きながら言うと、有咲は「はぁ。」とため息をつきながらドカッと椅子に座った。

「有咲ちゃん?どうしたの?体調悪い?」

「いや。悪くないよ。」

「本当に?辛くなったら言ってね?」

りみが心配そうに有咲をのぞき込みながら言った。

「…なぁ。りみ?」

「なぁに?」

「…いや、なんでもねぇ…。いや、やっぱ、言うわ。」

いつもと違う有咲の態度にりみは首を傾げながら「うん?」と言った。

「…りみ…さ。一宮さんに言ってないだろ?」

「…う、うん…。い、1度…納得したみたいな態度をとっちゃったから言いにくくて…。」

有咲の質問に、なんで言っていない事を知っているのか驚いたが、すぐに苦笑いを浮かべて言った。

「はぁ。りみは相変わらず優しすぎるな。私ならすぐ言うぞ?」

「えへへ…。ゴメンね?」

「別に怒ってる訳じゃねぇぞ?言いにくい気持ちも分かるからな。でも、言わなくて後悔するなら言った方が良いと思う。」

「う、うん。有咲ちゃん、ありがとう。」

「べ、別に。まぁ、私は同棲するなら同じ大学に行かなくても、良いと思うけどな。」

「だよね…。私ってワガママだし、欲張りだし、頑固だと思う…。」

りみは苦笑いを崩さずに言った。

「まぁ、好きな人を独り占めしたいのは普通じゃねぇのか?」

「う、うん。それにね?私ってかなり嫉妬深いみたいでね?」

「そうなのか?」

「し、し、正直ね、ポピパの皆でも、潤くんと喋っているのを見たら…ダメ…なんだよね?」

「マジか。」

りみの告白に有咲は目を丸くしながら言った。楽屋の扉の向こうでは香澄が「あっ!潤君だ!じゅーんくーん!」と叫んでいるのが聞こえた。有咲が恐る恐るりみの方を向くと、りみはニコニコと笑顔を浮かべていた。さっき、ポピパのメンバーでも嫉妬をしてしまうと話を聞いた後では、りみの笑顔が別の意味を持っている事に気付き、有咲は背筋を凍らせていた。そして心の中で

「さっき、めっちゃ一宮さんと話したわ…。りみ、ごめん。」

と思うのであった。

 

─────────────────────

「はぁ~。有咲ちゃんに言っちゃった…。」

りみはずっと隠していた気持ちを言ってしまった事を後悔しながら廊下を歩いていた。そして、ステージの脇まで来ていた。既にお客さんが入っているのか、客席の方からザワザワとした声がりみに届いていた。

「りみ?どうしたの?」

「ひゃっ!」

りみがここまで来たならと袖から客席を見ようとした時、潤に声をかけられ、ビクッと身体を震わせた。

「ごめん。驚かせるつもりは無くて…。」

「だ、大丈夫。わ、分かってるよ。」

潤が頭を掻きながら言うと、りみもニコッと笑って言った。

「それで、りみどうしたの?本番前に客席を覗きに来るなんて珍しいじゃん。」

「うん。な、なんとなく…かな?考え事してたら来ちゃった。」

「そっか。りみは凄いね。」

潤は微笑みながらりみに近づくと頭を撫でた。

「んっ…。え、えっと。なんで褒められたのかな?」

「前まで緊張するって言って本番まで楽屋から出てこなかったじゃん。なのに、お客さんの様子を見ようって思ったのは、それだけ余裕が出来たって事だよね?だから凄いなぁって思ってね。」

「ふぇ?そ、そうだっけ?」

りみは潤に言われて、自分の行動を思い出していた。しかし、いつもその場では緊張していた為か、自分の今までしていた行動を上手く思い出せずにいた。

「そうだよ。Poppin`Partyのライブを何回も見てきた僕が言うんだから間違いないよ。それで、お客さんの様子を見た感想は?」

潤はニヤッとイタズラをした後の子供のような表情を浮かべて言った。

「う、うん。じ、実は、見る前に潤くんに声をかけられたから…見てないの。」

「…ごめんなさい。」

潤はニヤリとした表情が固まり、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「だ、大丈夫だよ!気にしないで!」

「…一緒に見る?」

「う、う~ん…。辞めとこう…かな?」

りみが眉を八の字に下げて言うと、潤は再び「ごめんなさい。」と呟くように言った。

「だ、だから大丈夫だよ?…ねぇ、潤くん。本番まで後、どれくらいあるかな?」

「後、30分くらいだよ。」

話題を変えたりみに潤は不思議そうな表情を浮かべた。

「この舞台袖って、誰か来るかな?」

「ん?今は大丈夫だよ。僕も、たまたま忘れ物を取りに来ただけだし。どうしたの?」

潤はりみの質問に答えるも、質問の意図が分からず、首を傾げていた。当の質問をしたりみは辺りをキョロキョロと見渡すと、潤を見上げ、背伸びをした。

「ね、ねぇ…。き、き、き、キス…して欲しい…な?」

限界まで背伸びをした甲斐もあり、潤の耳元で囁くようにりみは言う事が出来た。そんな甘い言葉をしどろもどろだったが、言われた潤は驚き、りみの顔を見た。りみの表情は目を潤ませており、頬を赤く染めていたが、潤の方を真っ直ぐ見ていた。

「…ちょっとだけ…なら。」

「本当?」

普段なら「仕事中だから」と断る潤であったが、大好きな彼女から、しかも、色っぽく言われ、すっかり失念してしまっていた。潤の言葉を聞いたりみは再び、背伸びをした。そして、すぐに、小さくて、可愛いリップ音が潤とりみの耳に届いた。会場のお客さんは舞台袖でそんな事が行われている事など知る由もなく、Poppin`Partyの登場を今か今かと待ち望んでいた。

─────────────────────

「ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパ!」

円陣を組み、舞台袖でいつもの気合い入れを行った5人。客席にもその声が聞こえたのか、ザワザワしていたお客さんの声が「キャー」と言う黄色い声援に変わっていた。

「Poppin`Partyさん!お願いします!」

「よしっ!皆行くよっ!」

潤の声を聞き、香澄が改めて、メンバーの方を振り向きながら言うと、颯爽とステージに向かった。

「りみ。頑張ってね。側で見てるから。」

「うん。ありがとう。行ってくるね!」

潤とりみはハイタッチを交わすと、潤はすぐに移動を始めた。潤がPoppin`Partyのライブを見る時は、始めはメンバーが待機している上手、客席から見て右側に待機しているが、Poppin`Partyがステージに向かうと、急いで移動し、りみが近い下手側に移動するのが恒例となっていた。CiRCLEのスタッフもこの事に気付いていた為、この時だけは潤に指示を仰がないのだが、今日はPoppin`Partyの主催ライブだった為、そうはいかず、潤の耳にはインカムからどんどん声が聞こえて来ていた。その一つ一つに指示を出していると香澄のMCが終わり、1曲目のキズナミュージックがスタートしていた。

「さてと…。」

りみの演奏を聴きつつ、潤は呟くと、客席の後方に目をやった。

「カメラは回ってるね。1、2、3…。うん。6台ちゃんと回ってる…かな?」

潤は目を細めながら数え、舞台袖にそっと隠れた。

「こちら一宮です。映像は大丈夫ですか?月島さん。」

「うん!バッチリだよ!ステージも大丈夫?」

「…今のところ大丈夫です。」

「了解!また何かあったら言ってね!」

まりなとの会話が終わると、潤は改めてステージに目を向けた。Poppin`Partyの聞いていると不思議と楽しくなる音がライブ会場の端から端まで響いており、お客さんをどんどん、キラキラドキドキしている雰囲気にしていた。

「Poppin`Partyは凄いなぁ。なーんか、遠い存在に感じちゃうな。」

潤はそっと呟くと、演奏に耳を傾けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新期間がめっちゃ空いてしまい申し訳ありませんでした。
私事ですが、仕事もプライベートの方も急に忙しくなってしまい、このような事態となってしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。
更新頻度はまだまだ上がらないと思いますが、少しずつ書いて行きたいと思います。

感想&評価もお待ちしております。


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16話

「ありがとうございました!」

ステージの中央でPoppin`Partyの5人は深々と手を繋いでお辞儀をした。額には汗が滲んでおり、肩で息をしていたが、表情はとても晴れやかだった。

「お疲れ様でした!最高…でした!」

ステージの袖に戻って来た5人に潤は目に涙を溜めながらも、笑顔で迎えた。

「潤くん。ど、どうだったかな?」

「りみ?聞かなくてもわかるだろ?一宮さん、泣きそうじゃん?」

有咲はニヤリと口角を上げながら言った。

「あはは…。いやぁ…。Poppin`Partyのライブは不思議な感覚になりますね。楽しくて、自然と笑顔になるのに、こうやって…か、感動…まで…。」

潤はさっきまでライブが行われたステージを見た。ステージの責任者である潤はステージ上をくまなく把握している。しかし、今は涙で視界がボヤけて、何が何か分からなくなっていた。

「もぉー。潤君、泣きすぎだよ~。」

「そうだよ。これからも何回もライブするのに毎回泣いちゃうの?」

そんな潤の姿にPoppin`Partyの面々はここぞとばかりに弄っていた。その時「パシャリ」と言う音が響いた。

「いやぁ~。青春してるね!」

音に反応して、そこにいた全員がパッと見ると、まりなが満面の笑みでデジタルカメラを構えていた。

「つ、月島さん!け、消して下さい!今すぐ…グスッ…。デ、データを消して下さい!」

「こんないい写真を消すわけないじゃん。ところで潤君?次の準備しなくて良いの?」

まりなはデジカメを操作しながら言った。

「次の準備?この後、またライブがあるの?」

まりなの言葉にいち早く反応した香澄が首を傾げながら潤に尋ねた。

「いえ。ライブはありませんよ?ただ、Poppin`Partyの皆さんにはまだ仕事が残ってる…と言っておきます。」

潤は涙を拭うと、顔を引き締めながら言った。潤の言葉にPoppin`Partyの面々は顔を見合わせた。

「何があるの?」

おそらく、全員が疑問に思っていることを代表して沙綾が潤に尋ねた。

「それはお楽しみです。…まぁ、ヒントを出すとしたら…今日、カメラがありましたよね?」

「…カメラ?」

潤がニヤリと笑いながら言うとりみは首を傾げた。

「りみ、気づかなかった?沢山、カメラがあったよ?」

たえがりみに言った。他のメンバーも気づいていたようで頷いていた。

「ふぇ!?わ、私だけ気付かなかったの!?」

りみは焦ったように言った。

「潤君!カメラ何なの!?教えてよ~!」

香澄が潤に詰め寄りながら言うも、潤は唇に人差し指を当て、またニヤリと笑うだけだった。

「一宮さん。これって、前言ってた企画に関係あるのか?」

内緒にされるのが面白くないのか、有咲はジト目をしながら言った。

「そうだね。関係あるって言うか、それだね。さてと…。そっちはどうですか?」

潤は有咲の質問に答えるとインカムを口元に持った。左手はイヤホンを触っており、聞き漏らさないようにしていた。その様子を不安そうな表情でPoppin`Partyの全員が眺めていた。大成功だったライブ後とは思えない変な空気が包んでいた。

「…了解です。」

潤は小さく呟くと、Poppin`Partyのメンバーを見渡した。そして、再び、ニコッ…ではなく、ニヤッと口角をあげた。今からイタズラを仕掛ける子供のようだった。

「Poppin`Partyの皆さん。再び、ステージまでお願いします。」

「ステージ?」

5人は顔を見合わすと、ゆっくりステージの方に向かった。潤はその隙にインカムでひとみに連絡をとっていた。

「Poppin`Partyさん、ステージに向かいました。」

「OK!潤君。完璧だよ!」

ひとみの明るく元気が良い声を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。ひとみの声に今のところ大成功だと感じたからだった。

「さて…。りみ達の勇姿を見ますか。」

潤はそう呟くと、同時にりみ達の叫び声が響いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「あ、あ、有咲!な、な、なんか大人の人達が沢山い、いるけど、何!?」

「ば、バカ!それだけじゃねぇ!めっちゃ写真撮られてる!な、な、何事だっ!?」

「沙綾?ピースした方が良いかな?」

「お、おたえはマイペースだね。」

Poppin`Partyのメンバーが各々、反応を見せる。顔や体にはプロジェクションマッピングをされたように次々とフラッシュの光が映し出されていた。

「ただ今より、Poppin`Partyのデビュー会見を始めます!」

戸惑っているメンバーを他所に、司会者が高らかに宣言した。

「え?」

司会者の言葉にりみ以外の4人は驚いた表情を浮かべ、司会者の方を見た。そして、りみは舞台袖にいる潤を見た。潤はニコニコしながら見守っていた。

「会場にいるマスコミの皆様にはお知らせしましたが、今日のデビュー会見はサプライズとなっています!初々しいPoppin`Partyの姿を是非、ご覧になって下さい!それでは、自己紹介をお願いします!」

戸惑っているPoppin`Partyのメンバーとは裏腹にテンションの高い司会者。なんともアンバランスな空気感だったが、それがなんともおかしな雰囲気を作り出していた。

「あっ…。あ、ありがとうございます。み、皆さん、こ、こんにちは。ぽ、Poppin`Party、ボーカルの戸山香澄です!」

初めは戸惑い、言葉を詰まらせていた香澄だったが、徐々に普段のペースを掴み、にこやかに自己紹介を進めた。他のメンバーも、始めは緊張感を漂わせていたが、だんだんと笑顔が出始めていた。和やか雰囲気なデビュー会見が進んでいき、潤もホッと胸を撫で下ろしてした。しかし、事件は突然起こってしまったのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

潤は自分の家のリビングでコーヒーを飲んでいた。1口飲み、小さな声で「ふぅ。」と息を吐いた。普段であれば、コーヒーの美味しさにホッとする瞬間であるが、潤の表情はその真逆で顔が強ばっていた。

「潤…くん?」

そんな潤を見ながら、対面に座っていたりみはコーヒーカップを握りながら、苦笑いを浮かべていた。

「りみ?どうしたの?」

「怒ってる?」

「いや。怒ってはないよ。ただ、驚いたし、その後、こんな大変な思いをするとは思わなかったよ。」

「ご、ごめんね?」

「りみは悪くないよ。」

潤はそう言うと、椅子に背中を預けた。りみと普通に会話をしていたが、かなり疲労感を感じているようだった。その証拠に、背中を預けたまま動かなくなっていた。

「はぁ~。香澄ちゃんがまさか言うなんて…。」

りみはそう呟くと、机に伏せた。

「りみ?大丈夫?疲れてるでしょ?さっきまでライブやってたんだし。先に寝ても大丈夫だよ?」

「嫌…。潤くんと寝る…。それに、お風呂も入りたい…。」

「……そうだよね。りみ?僕達、これからどうなるの?」

「分からないよ。」

りみは力なく、机に伏せたまま言った。2人の間に沈黙が流れる。しかし、そんな沈黙は許さないと言わんばかりに、りみのスマホから着信を告げるアラームが鳴り響いた。

「…もしもし。」

潤は「誰から?」と聞こうとしていたが、それより早くりみが電話に出てしまった。

「はい…。はい…。大丈夫です。」

りみの相槌を打ちながら会話を進めていた。潤はその会話が気になってはいたが、あまり気にするのもどうかと考え、スマホを持ち、ニュースを開いた。

「げっ。」

ニュースを開いた途端、トップニュースを目にした潤は思わず呟いた。そして、その記事をタップして読み進めた。

「ふぅ~。……潤くん、どうしたの?」

「あぁ…。これ。」

潤はスマホをりみの方に向けた。りみはスマホを覗き込むと、また苦笑いを浮かべた。そこには…。

「新生!ガールズバンド!Poppin`Party!堂々デビュー!ベース牛込りみの原動力は彼氏!?」

とでかでかと書いてあった。そして、潤とりみは数時間前に起こった事件を思い返すのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

人間、目の前でとんでもない事件が起こったらどうなるか。固まってしまう者、慌てる者、怒る者、様々である。そして、今、事件を目の当たりにしたりみは固まってしまっていた。

「ベースの牛込さんの好きな物はなんですか?」

全ての事件は記者のこの一言から始まった。

「わ、私はち、チョコレートが大好きです。と、と、特に、や、沙綾ちゃんの所のチョココロネが大好きです…。」

「私の実家はパン屋を営んでいるんです。」

りみの補足と言わんばかりに沙綾も笑顔で答えた。絶えずフラッシュが光り、りみは「綺麗だなぁ」と思っていた。

「えぇ~!りみりん、それだけ!?もっと好きな者があるじゃん!」

「へ?」

香澄が元気よくりみの方を向いて言うと、りみは首を傾げた。

「潤君だよ!潤君!」

「へ!?」

ONマイクで香澄は言った為、取材陣がザワザワと騒がしくなった。普段なら香澄の通る声はバンドのボーカルとして大きな武器で、りみも羨ましいと思っているのだが、この時だけはその声を激しく恨んだ。

「香澄!バカっ!」

有咲が香澄を肘で軽く小突いた。しかし、その行動もまずいものであった。香澄の発言だけで止まっていれば、親戚の名前や飼っているペットの名前など、誤魔化すことは出来た。しかし、有咲が香澄を注意するように小突いた為、これは言ってはいけない事なんだと取材陣に伝わってしまったのだった。

「その…潤君とは誰ですか?」

取材陣の1人がPoppin`Partyに向かって質問する。こうなっては誰も答えることが出来ず、わたわたするだけで、取材陣に「ベースの牛込りみには潤と言う名前の彼氏がいる」という事が伝わってしまっていた。

「あらら…。やっちゃったなぁ。」

舞台袖から潤は苦笑いしながら、慌てているPoppin`Partyを見ていた。そして、自分の胸に付いていた「一宮潤」と書かれている名札をそっと外し、ポッケに入れ、隠していた。その後、なんとかデビュー会見を終えたPoppin`Party。潤は取材陣の見送りの為、受付に立ち「ありがとうございました。」と言いながらお辞儀を繰り返していた。そこで、もう1つ香澄が事件を起こしてしまう。Poppin`Partyも取材陣の見送りの為、受付のあるロビーに顔を出した。その時、潤を発見した香澄が大きな声で「潤君!お疲れ様~!」と大きく手を振りながら言ったのだった。香澄の大きな声に取材陣が気づかない訳が無く、潤はあっという間に取材陣に囲まれてしまったのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

長い長い回想が終わると、潤は机に伏せた。

「潤くん?…どうしたの?」

「記者の人に囲まれた事を思い出したら…余計に疲れた…。」

潤の姿を見たりみは「ふふっ」と微笑んだ。

「どうしたの?」

「ふふっ。笑ってごめんね?確かに、疲れたけどね…。楽しかったなぁって!」

「ライブ?それともデビュー会見?」

「両方だよ!あっ。そういえば、この会見が企画書の内容だったんだよね?」

「そうだよ。企画書にはRoseliaに負けないくらい、インパクトがあるデビュー会見にしたいって書いてあってね。」

潤がそう言うと、りみは富士登頂で死にそうな顔でデビュー会見をしていたRoseliaを思い出していた。

「で、その他にも、Poppin`Partyの初々しい姿を見せたいとか書いてあったなぁ。」

「そうなんだ。あれ?書いてあったのそれだけ?私たちに秘密とかは書いてなかったの?」

「書いてなかったよ?実は、神楽坂さんとはちょくちょく会ってて、会見の打ち合わせとかしてたんだよ。そこで、Poppin`Partyの初々しい姿を見せる為には、慣れた場所で、それに準備が出来ないサプライズが良いだろうって事になったんだよ。」

りみは驚いた表情で潤の話を聞いていた。

「私たちの知らない所でそんな話をしてたなんて…。」

「バレないように打ち合わせするのもなかなか大変だったよ?」

潤はニヤリと笑みを零しながら言った。

「…主催ライブも、神楽坂さんと話し合いで決まったの?」

「あー。主催ライブは…。神楽坂さんとの話し合いもあるけど、本当になんの予定も入ってなくて、焦っていたのは事実。」

「そうなんだ…。」

「まぁ、ライブも記者の人に見て貰えたから丁度良かったって神楽坂さん、言ってたよ。」

潤は企画書の件についての説明を終えると、フッと寂しそうな表情を浮かべた。その表情の変化を約2年間、潤の傍にいたりみが気づかない訳がなく「どうしたの?」と心配そうに言った。

「ご、ごめんね?今日のライブを思い出して…。あんなカメラの前で堂々と演奏したPoppin`Partyを見ていたら、なんか遠くの存在に感じちゃってね。…あはは!しんみりさせてごめんね?」

潤はそう言うと、頭を掻きながら言った。

「潤くん…。」

「大丈夫だよ!勝手にしんみりしているだけだから。」

潤はりみを安心させるようにニコッと笑って言った。その言葉を聞いたりみはゆっくり立ち上がり、潤の後ろに立つと、ギュッと抱きしめた。

「りみ?」

「何処にも行かないよ?私が帰ってくる場所は潤くんのところ…だよ?」

「りみ…。」

潤の右耳から入ってくるりみの囁き声に、背中をゾクッと震わせながらも、静に目を瞑った。

「…だ、だから…。例え、潤くんが私を遠くに感じても、必ず帰ってくるから…。約束…。」

「…ありがとう。なら、僕はりみがいつでも帰って来れるようにしないと…だね。」

潤はそう言ったが、りみからの返答は無かった。代わりに、抱きしめる力が更に強くなった。

「じ、潤…くん。」

「なに?」

「お風呂…一緒に…。」

「…そんなこと、したら…。我慢できないけど…。」

「……い、良いよ…?わ、私は…だ、だ、大丈夫…。」

声を震わせながら言うりみに潤は「本当に大丈夫かな?」と思いながらも、りみの好意に甘える事にした。お互い、恥ずかしさで沈黙してしまったが、この沈黙さえも心地よく感じるのであった。

 

 

 

 

 




書いても書いてもクオリティが上がらない……。
最近の悩みです…。

今日からバンドリのアニメが始まりますね!
楽しみにしてます!


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17話

豆球の明かりが頼りなく照らしている部屋の中は甘美な匂いに包まれていた。潤とりみは1つのシングルベットにギュウギュウに詰めて、生まれたままの姿で寝転がっていた。

「りみ。起きてる?」

「うん。起きてるよ。どうしたの?」

りみは潤の胸に顔を埋めていたが、潤の問いかけに顔を上げた。顔をあげたのは良いものの、吐息がかかるほど、2人の顔は近く、りみはパッと頬を赤く染めたが、豆球の明かりだけでは、潤は気付かなかった。

「あのさ…。ライブの前に市ヶ谷さんから聞いたんだけど。大学、やっぱり一緒に行きたいの?」

「…うん。」

りみは小さく頷きながら言うと、再び、潤の胸に顔を埋めた。潤は自分の胸にかかるりみの吐息に、擽ったさを覚えていた。腕や背中には鳥肌がたっていた。

「僕が就職したいって意見は反対なのかな?」

「ううん。そうじゃないよ。潤くんのやりたい事だし、私との生活の為を思って、就職に決めたって事は分かってるよ。ただね…。有咲ちゃんにもっとワガママになっても良いじゃないのかって言われて…。だから、私の1番の希望は一緒の大学に行きたい…です。」

りみはそう言うと、また顔を上げた。そして、潤の唇に自分の唇を当てた。

「んっ…。りみ?ど、どうしたの?」

「あっ。ま、真面目な話をしてるのにごめんね?…甘えたくて…。」

りみはそう言うと、潤の手を掴み、自分の背中に回した。つまりは抱きしめろと行動で表していた。

「よいしょ。これで良い?」

潤はりみの行動を読み取り、腕に軽く力を入れた。

「うん。…幸せ…。」

「あはは。幸せなら、なによりだよ。…進路の事はちょっと考えさせて。CiRCLEのオーナーとも話さないといけないからさ。」

潤はりみを更に強く抱きしめながら言った。

「私のワガママなのにゴメンね…。私が本格的にデビューして、大学に通ってたら、潤くんに会える時間が減っちゃうのが…どうしても、寂しくて…。」

りみは本当に申し訳なさそうに言った。潤からは見えなかったが、目には薄らと涙が膜を張っていた。

「大丈夫だよ。まぁ、僕もりみとなかなか会えないのは寂しいから…。」

潤はそう言うと、りみ頭を撫でた。

「…ねぇ…。潤くん?」

「なに?」

「もう…1回…。良いかな?」

りみはそう言うと、潤の顔にもう一度、キスを落とした。そして、潤にしか分からない、チョコレートの香りに包まれ、深い深い沼へと沈めていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

Poppin`Partyのライブが大成功に終わった翌日、CiRCLEはいつも通り営業をしていた。潤も、もちろん出勤しており、Poppin`Partyのライブの片付けをしていた。詳しく説明すると、ライブ後に行ったアンケートを読みながら集計し、次のライブやイベントに生かせるものがないか考えていた。

「…痛っ。」

同じ姿勢で座っていた為か、潤は腰を少し浮かし、体勢を変えた。

「潤君、おじさんみたいだよ?運動してる?」

「してないです。」

潤は腰を押さえながら言った。1度、立ち上がり、う~んと伸びをした。

「まだ、高校生でしょ?」

「まぁ、月島さんより若いですね。」

潤はそう言うと、再び、パソコンに向かった。

「むぅ。一言余計だよ?」

「まぁ、こんな冗談が言えるくらい仲良くなった

と言うことで手を打ってください。」

「…まぁ、いいや。潤君、オーナーが今日、会いに来るからね?」

「分かりました。丁度、僕もお話があったので…。」

「進路の事?」

まりなはそう言うと、潤に近づき、両肩を掴んだ。そして「えい!」と言うと、潤をクルっと回した。潤が座っている椅子は回転するタイプの椅子だった為、まりなの方を何も抵抗する事無く向いてしまった。

「月島さん?…ビックリしたんですけど…。」

「良いから。進路…どうするの?」

まりなは潤が振り向いてからも、再び、両肩を掴んでいた。約2年間、一緒に仕事をしていたが、こんなに近く、まりなの顔を見たことがなかった潤は驚きもあり、ドキドキと心臓を激しく動かしていた。

「…進路、決まって無いので、オーナーに相談をしたかったんです。」

「決まってない!?もうすぐ10月だよ?」

「…分かってます。」

「…焦ってないの?」

「焦ってる…と言うより悩んでますね。」

「CiRCLEで…働きたくないの?」

まりなはそう言うと、顔を歪ました。

「月島さん?」

「私は潤君を頼りにしているし、潤君と一緒に仕事をしていると、楽しいよ?だから、CiRCLEに就職して欲しい。CiRCLEには君の力が必要だよ?だから、オーナーもCiRCLEに就職しないかって誘ったんでしょ?」

まりなはそう言うと、潤の顔を真っ直ぐみた。まりなの真っ直ぐな思いに、潤は嬉しさを覚えながらも、目を反らした。ちなみにだが、まりなの剣幕に、他の従業員は何事かと集まっていた。

「りみちゃん?」

「へ?」

何も言わない潤にまりなは痺れを切らし、再び口を開いた。

「りみちゃんが関わっているの?」

「…はい。」

「…やっぱり。一緒の大学に行きたいとか言われたの?」

「…ご名答です。」

潤の返答にまりなは「はぁ。」とため息をつき、両手を離した。

「潤君はどうしたいの?」

「それを悩んでいるんです。1度はCiRCLEに就職しようと思いましたが、りみと一緒の大学に行きたいとも思ってまして…。ただ、りみと一緒の大学に受かるかどうかは分かりませんが…。」

「なるほどね。なんで1度は就職しようと思ったの?」

「高校を卒業したらりみと同棲をするので、お金が必要と思いまして…って、月島さんどうしました?鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてますが?」

「え!?同棲するの!?」

「そうですよ?あれ、言ってませんでした?」

「聞いてないよ!ちょっと詳しく聞かせない!」

まりなは当初の会話をすっかり忘れ、潤とりみの同棲話について根掘り葉掘り聞くのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「りみりん?テンポ大丈夫だった?」

「うん!大丈夫!沙綾ちゃんのドラムは本当に弾きやすいよ!」

「ありがとう。」

潤がバイトをしている最中、Poppin`Partyのリズム隊の2人は練習を行っていた。ただ、練習場所は有咲の蔵では無く、Poppin`Partyの事務所があるビルの中の練習スタジオだった。

「りみりん、練習に付き合ってくれて本当にありがとう。」

「ううん。私は全然大丈夫だよ!」

りみは笑顔で言いながら、ベースを降ろし、スタンドに立て掛けた。手入れが行き届いたピンクのベースは照明の光を反射させていた。

「りみりんは、将来、潤君と結婚するの?」

「ふぇ?け、結婚!?」

「そんな驚くことないでしょ?春からは同棲でしょ?もうすぐ、秋も本番だし、春なんてあっという間だよ。」

「そうだけど…。うぅ。改めて言われると恥ずかしいよぉ…。」

りみは元々持ってきていた水の入ったペットボトルを赤くなり、暑くなった頬に当てていた。潤と出会ってから今まで、あっという間に過ぎていった。沙綾の言う通り、今まで以上に早く感じるかも知れない。

「結婚式にはちゃんと呼んでよね?」

「さ、沙綾ちゃん?け、結婚まで、話が進んだらね?」

「りみりん?弱気じゃない?」

「そうかな?」

「そうだよ。だって、同棲するんだよ?結婚生活の予行練習みたいなものじゃん。りみりんは潤君と仲良く暮して、結婚までしそうじゃん!」

沙綾はニヤニヤとしながら、りみをからかうように言ったが、当の本人は浮かない顔をしていた。

「そうなれば、良いけどね。」

「りみりん?」

「えっとね。確かに、同棲は楽しみだし、嬉しいよ?でも…。前みたいに喧嘩とかしちゃって、別れる…みたいなったらどうしようって考えちゃって…。」

りみはこの夏に一時期の間、距離を置いていたことを思い出してしまったのか、暗く、沈んだ表情を浮かべた。

「最近、何かあったの?」

沙綾は小さい子を慰めるように、りみの頭に手を置き、優しい声で言った。

「うん…。潤くんは何も悪くないの。私が勝手に悩んでて…。」

「りみりんの悩み、教えてくれる?役に立つか分からないけど、話なら聞いてあげれるから。」

「沙綾ちゃん…ありがとう。実は…進路でワガママ言っちゃって…。有咲ちゃんにもっとワガママになって良いって言われてね。私もそうだなぁって思って、潤くんに一緒の大学に行きたいって伝えたの。」

「潤君はなんて?」

「ちょっとだけ待ってって。CiRCLEのオーナーとも話し合わないといけないって。」

りみはそう言うと小さくため息をついた。本当にワガママを言っても良かったのか、潤のやりたい事を尊重すべきだったのではないか。沙綾と喋っている最中、ずっと悩んでいた。

「この先、どうなるのかな…。」

「それは分からないよ?でもさ、根本的なところなんだけど、潤君、りみと一緒の大学に受かるの?」

「それは、やってみなきゃ分からない…よ?」

りみはまた「はぁ~。」とため息をついた。そんなりみを見て沙綾は立ち上がると、自分のカバンの中をゴソゴソと漁り出した。

「沙綾ちゃん?どうしたの?」

「はい。りみりんが元気がない時はこれでしょ?」

「わぁ~!チョココロネやぁ~!」

りみは1つ受け取ると、尻尾の方からパクっと噛み付いた。

「おいひぃ~!」

「りみりんはその顔が2番目に良いよね。」

「へ?…1番は?」

「1番は潤君と一緒にいる時だよ!」

沙綾は笑顔で言うと、りみは「うぅ…。」と照れながら、声にならない声を出した。

「あはは!りみりん照れてる~!…りみが食べ終わったら、神楽坂さんの所に行こう?差し入れのパン、持って来たんだ。」

「うん!」

チョココロネのお陰か、少しだけ元気になったりみは沙綾の言葉に笑顔を浮かべていた。そしてまた、チョココロネに齧り付くのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「忙しいのにすまないね。」

「いえ、助かりました。」

まりなから根掘り葉掘り聞かれている最中にオーナーがやって来たところで、まりなとの会話が終わり、潤はホッとしていた。

「何を聞かれていたのかい?」

「りみと…彼女と同棲をする事を話したら拷問の如く、色々、聞かれました。」

「え?同棲するの!?いつから?」

「高校を卒業したら…です。」

潤がそう言うと、オーナーは「う~ん。」と唸り始めた。そして「そうか…。いや…でも…。」と呟いた。

「え、えっと…。オーナーどうしましたか?何か、困ったことでもありましたか?」

「一宮君は結局、進路はどうする事にしたの?」

「へ?進路ですか?」

なかなか本題に入らないオーナーに潤は「なにか失敗をしたのかな?」と不安になり、背中には嫌な汗が流れていた。

「実は…まだ悩んでいるんです…。オーナーに働かないかと誘って頂いたのに、悩んですみません…。」

「そうか…。なんで悩んでいるの?」

オーナーは潤の話を聞いている最中、軽く目を閉じていた。潤はその姿に「なんで怒っているの?」と疑問に感じていた。

「じ、じ、実は…。オーナーにも相談しようと思っていたのですが…。僕はCiRCLEで働きたいと彼女に伝えました。同棲するとなると、お金は必要ですし、何より、僕がCiRCLEで、りみ…いや、Poppin`Partyを見て、バンドを頑張る人達のサポートをしたいと思ったからです。けど…彼女からどうしても一緒の大学に行きたいとお願いされまして…。彼女はPoppin`Partyのベースで、デビューが決まっていて、忙しくなるから僕になかなか会えなくなるからと言われてまして…。」

潤は言い終わると「失礼します。」と良い、ペットボトルに入った水をがぶ飲みした。オーナーの雰囲気から叱られるかもしれないという緊張感の中、喋った為、口の中がパサパサになってしまった為である。

「なるほど…。ちなみに、一緒の大学とはどこかね?」

「花咲川大学です。」

「そうか。丁度いいかもな。」

先程の重々しい雰囲気は何処へやら、オーナーはニヤリと笑いながら言った。

「丁度良い…ですか?」

「うん。一宮君にとって1番都合が良いのは、彼女さんと大学に通いながらCiRCLEで働くって事だよね?」

「大変そうですけど…。そうですね。」

潤はオーナーの言葉を聞き、「選べないなら両方って、りみが言ってた総取り作戦だよなぁ。」と思い出していた。ちなみに、りみの総取りは1度別れてしまった後に、潤との交際とデビューを認めてもらうというものだった。終わってみれは呆気ない結末であったが。

「実は…花咲川大学から一宮君にうちに来て欲しいと言われているんだよ。」

「…へ?」

「だから、同棲と聞いた時は、この話が流れてしまったらどうしようかと思ったが…。一宮君にとってかなり良い話だから受けた方が良いと思う。」

「えっと…花咲川大学の何処からその話は来ているのですか?」

潤はあまりの話に、頭の中が混乱していた。そこから、オーナーの話を理解するまで、時間がかかったが、全てを把握した潤は立ち上がり「ありがとうございます!」とオーナーに深々と頭を下げた。心の中ではガッツポーズをしており、早くりみに伝えたい一心だった。そして、オーナーとの話を終えるとスマホを取り出した。

“今晩、うちに来れる?話したいことがあります。”

潤はりみにそうLINEを送ると、晴れやな気持ちで残りの業務に打ち込んでいた。




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18話

秋は暑くも寒くもない。過ごしやすく、春と並んで好きな人が多いと思う。しかし、潤は毎年、この時期になると、悩んでしまう事があった。

「…どうしよ…。」

ボソッと呟くと、立ったまま苦笑いを浮かべるりみがいた。

「…今年も悩むんだね。ゆっくり考えて?」

「ありがとう…。う~ん…。」

潤は腕を組むと、静かに目を瞑った。しかし、潤の考え事は「ガン!」っと言う音で終わりを告げた。驚きながら目を開けると、机の上にはアイスコーヒーが鎮座しており、側には仁王立ちしている麻里がいた。

「あー!毎年毎年面倒臭い!春と秋にアイスコーヒーを飲むかホットコーヒーを飲むかで悩まないでくれる!?」

麻里のあまりの迫力に潤は金剛力士像を思い浮かべていた。ちなみに「あ!」の方である。

「ま、麻里さん?わ、私は待ってて平気でしたよ?」

「りみちゃんは優しすぎるよ?こんな奴の言う事、適当に流してやったら良いんだから!」

「ねぇ?息子に辛辣過ぎない!?」

潤は叫ぶも、真理に無視をされ、ため息をつきながら出されたアイスコーヒーをゆっくりと飲み始めた。

「りみちゃんはホットとアイスどっちがいい?」

「え?…どうしよ?」

「どっちでも良いわよ?ゆっくり悩んで?」

「え?…う、う~んと…。」

りみは困ったように言った。それを麻里はニコニコと見ていた。潤は自分との対応の違いにため息をついた。

「ところで、潤くん?話ってなぁに?」

それから数分後、何を飲むか決めたのか、マグカップを持ったりみが潤の前に座りながら言った。マグカップから湯気が出ており、ホットコーヒーにしたんだと潤は思った。

「その前にりみ、1口くれない?流石に、アイスコーヒー飲んだら寒くなっちゃった。」

「え?ホットミルクだけど…。良いかな?」

「ホットミルク?…コーヒーのホットとアイスで悩んでたんじゃないの?」

「うん?違うよ?何飲もうか悩んでいたんだよ?ホットミルク飲む?」

「いや…いいや。」

潤は苦笑いしながら言うと、りみは首を傾げた。

「それより、話ってなにかな?」

りみは今まで口にはしなかったが、潤から夕方に話があるとLINEを貰った時から気になってしょうがなかった。

「そうだったね。りみ、一緒の大学にいけるよ?」

潤がニヤッと笑いながらりみを見た。りみがさぞかし喜ぶだろうと思っていた。しかし、りみはポカンと口を開いて固まっているだけであった。

「…りみさん?おりみさん?おーい!」

「ご、ごめん…ね?び、び、びっくりし過ぎて…。な、な、なんで?なんで一緒の大学に行けるの?」

「えっと、ガールバンドパーティーとかに深く関わって、それを見ていた大学関係者がいて、是非、うちで勉強しないかってお誘いを受けてね。だから、CiRCLEで働きながら勉強出来るようになったんだよ。だから、一緒の大学に行けるよ?」

潤は身振り手振りを加えながらりみに分かりやすく説明した。潤もこの話をオーナーから聞いた時に衝撃過ぎて、なかなか理解出来ずにいた。そして、何回もオーナーに確認した事を思い出し、申し訳ない気持ちになっていた。

「…本当…なの?…学部は何処になるの?」

「芸術学部、らしいよ?…ここで勉強して、CiRCLEで色々なバンドを輝いてもらうために頑張るよ!…もちろん、Poppin`Partyのライブもいつか演出出来るように…ってりみ!?」

潤は自分の夢を語っていたが、途中でりみがボロボロ泣いていた事に気づき、慌てていた。

「ごめん…ね?…本当に…嬉しくて…。ありがとう…。私のワガママ…聞いてくれて…。」

「…総取り…。」

「へ?」

「りみが僕と仲直りする時にPoppin`Partyで決めた作戦…。総取り作戦だっけ?それに似てるなって。」

潤はニコッと笑うとゆっくりと立ち上がった。そして、両手を広げた。その姿を見ていたりみはニコッと涙を流しながら微笑むと、潤の胸に飛び込んだ。

「…あなた達?…仲睦まじい事は良いのだけど、他所でやってくれないかしら?」

麻里は洗い物しながら言うと、潤とりみはパッと離れてポリポリと頬を掻いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「…おはようございます。」

「あっ!潤君。おはよ~。」

「はぁ~…。」

潤はCiRCLEの事務所でダラっと机に伏せた。Poppin`Partyのデビュー会見からしばらく経ち、季節は10月になっていた。Poppin`Partyのデビュー会見で、香澄にりみの彼氏とバラされてから潤を取り巻く環境はガラリと変わっていた。

「潤君、疲れてるね~。私はCiRCLEはデビュー会見以来、話題になって、お客さんが増えて私の給料も増えたからニヤニヤが抑えられないけど。」

まりなは伏せている潤の肩をポンポンと叩いた。

「…良いですね。僕は、学校で毎日大変なのに…。」

潤は今まで、自分に彼女が居ることを学校の友人などに隠していた。いや、隠していたと言うより、聞かれなかったから言わなかっただけなのだが、デビュー会見のニュースでバレてしまったのだった。それからは女子からは質問攻めをされ、男子からは白い目で見られるか、「蘭ちゃんを紹介しろ!」や「楽屋に通せ!」など、無茶苦茶な要求を毎日され、疲れていた。

「あはは!潤君も大変だね!でも、そろそろ就業時間だから、頑張って働いてね?」

まりなは潤に向け、ウインクをした。就業時間と聞いて、身体を起こした潤は丁度、まりなのウインクを見てしまい、苦笑いを浮かべた。

「こんにちは。」

潤が普段の仕事着に着替え、受付で事務処理を行っていると、赤いメッシュの入った髪を視界に捉えていた。

「美竹さん。こんにちは。いらっしゃいませ。」

潤が立ち上がり、腰を90°に折り、深々と礼をした。

「…潤は相変わらずだね。」

「何がですか?」

「分からないならいい。空いてる?」

「はい。えっと、2時間だけなら空いてます。」

慣れた手つきでパソコンを操作しながら、接客を行っていた。

「では、この部屋を…美竹さん、どうしました?」

潤はスタジオの鍵を渡そうとしたが、蘭の視線がじっと自分を見ている事に気づいて、固まった。

「…別に。」

「別にって…。何か用があるような表情をしてますが?」

「…別に。」

「…はぁ。まぁ…。何も無いなら良いですけど…。ん?そう言えば、今日、1人なんですか?」

「…うん。」

言葉が少ない蘭に、潤はただただ困惑するしかなかった。たまにギターを蘭から習う事がある潤。その時はもっと喋ってくれるのにと思っていた。

「…えっと。ごゆっくり…どうぞ?」

潤はこれ以上、話してもと思い、スタジオの鍵を手渡そうとした。しかし、蘭は鍵の方を見ずに、じっと潤の方を未だに見ていた。いつもとは違う蘭の様子に、潤は誰か美竹さんの保護者はいないかと周りをキョロキョロと見た。

「あ、あ、あの!」

「な、なんでしょうか?」

「いや…でも…。」

「美竹さん?」

「…れ……つ…て。」

蘭は俯くと、小さな声でボソボソと言った。接客中で目の前にいるのにも関わらず、潤も聞き取れない程だった。

「あの…。すみません。聞き取れなかったんですが?」

「練習…付き合ってよ。」

「へ?」

潤が口をポカンと開けて、目を丸くしていると、蘭はだんだんと顔を真っ赤に染めていた。

「嫌なら…いい。」

「えっと、嫌じゃないですけど…。いきなりどうしましたか?」

「…っ。今日は…1人…だから。」

「つまりは…寂しいんですか?」

「…もういい!」

潤はからかうつもりもなく、純粋に聞いたのだったが、蘭にはそう伝わらず、ムスッとした表情を浮かべると、鍵を強引に受け取り、受付から立ち去ろうとした。

「蘭ちゃん!ストップ!」

しかし、立ち去る蘭の腕をまりなが掴んだ。

「なんですか?」

「蘭ちゃん、潤君があんな性格なのは知ってるでしょ?悪気があった訳じゃないんだから。」

まりなの言葉に蘭は目を逸らしていた。

「そんな訳だから、潤君!行って来なさい!」

「え?でも、まだ仕事中…。」

「良いから!行ってきなさい!」

まりなの剣幕に潤は「はい!」と返事をすると慌てて、受付からスタジオに向かうのだった。

「ちょっと!潤!鍵、私が持ってるんだけど!…って…行っちゃった…。」

「あはは!やっぱり潤君は面白いなぁ!」

まりなはケラケラと笑うと、蘭は「はぁ。」とため息をついた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

りみは自動販売機の前で固まっていた。財布を両手で持ち、キョロキョロと目線を動かしていた。太陽は西に傾いており、空をオレンジ色に染めていた。

「何しているの?」

「きゃ!」

後ろから声をかけられて、りみはビクッと肩を震わせた。

「すみません。驚かせるつもりはなかったわ。」

「さ、紗夜さん?はぁ~。びっくりした…。あ、あの。喉が乾いてしまって、何飲もうか悩んでて…。」

りみが苦笑いを浮かべると紗夜も自動販売機の方を見た。

「なるほど。りみさんが1人でいるのが珍しかったので、声をかけましたが、そのような理由で良かったです。」

「私って、誰かといるイメージですか?」

「えぇ。放課後は特にそうですね。Poppin`Partyの皆さんと一緒にいるイメージですね。」

「今日は皆、忙しいみたいで…。」

「りみさんはこんな放課後まで、どうして残ってたのですか?」

「えっと…。なんとなく…です。もうすぐ卒業で、学校の中を歩いて、思い出に浸ってました…。」

「そうですか。元風紀委員からしたら意味もなく放課後に残るなんて、あまり褒められた事ではありませんが…。」

紗夜はそう言うと、自動販売機に小銭を入れ、コーヒーのボタンを押した。お金さえ入れれば、自動販売機は直ぐに反応してくれる。その証拠に「ガタン」という音が響いて、コーヒーが落ちて来た。

「あ、あの紗夜さんはどうして、花女に?」

「りみさんを迎えに来ました。」

「わ、私を!?」

「冗談です。」

真顔で淡々と言う紗夜にりみはポカンとしてしまった。

「ごめんなさい。りみさんの反応が面白くてつい…。本当は花女に呼ばれただけですよ。卒業生にインタビューをしたいらしく。」

紗夜は微笑みながら言うと、再び、小銭を自動販売機の中に入れた。

「りみさん、どうぞ。選んでください。」

「へ?わ、悪いですよ!」

「いえ。柄にも無くからかってしまったので、そのお詫びです。」

紗夜はそう言うと、りみから視線を逸らした。

「…紗夜さん…。まさか、飲み物を私に買う理由が欲しくて、私をからかったんですか?」

「…どうでしょうか?私はそんな計算できるような人間じゃないですよ?」

紗夜はそう言うと、頬を赤く染めた。りみは心の中で「私の考え正解したんだなぁ。」と思っていた。そして、紗夜のお言葉に甘えたりみはアップルジュースのボタンを押していた。

「紗夜さん。ありがとうございます。」

「いえ。りみさん。貴方は変わりましたね。」

「そうでしょうか…。あまり、自分では分かりませんが…。でも、私が変わる事ができたのは、潤くんのお陰だと思ってます。潤くんのお陰で、色々な世界に連れて行って貰ったので…。」

りみは満面の笑みを浮かべながら言うと、紗夜もそれに釣られるようにニコッと笑った。

「…変わったのはりみさんだけではありません。」

「へ?」

「潤さんも…です。本当にりみさんと潤さんが付き合う事になって良かった…。改めて、お礼を言わせてください。ありがとうございます。」

紗夜はりみに向かって、頭を深々と下げた。

「さ、紗夜さん!頭を上げてください!わ、私は何もしてませんよ…。」

「いえ。2年前に私とした約束を貴方はずっと、守って下さってます。」

「…約束?」

「えぇ。潤さんを支えて下さい…と。」

「…あっ。」

「思い出しましたか?」

紗夜はまたニコッと笑うと、りみの頭に手を起き、ゆっくりと撫でた。突然の紗夜の行動にりみは顔を真っ赤にした。

「え、えっと…。さ、さ、紗夜さん?」

「りみさん。これからも潤さんを支えてくださいね?」

「…紗夜さん。それは違います。」

「違う…?」

「はい。私も潤くんに沢山支えて貰ってます。何かあったら1番、私を理解してくれているのは潤くんです。そして、私も、潤くんのことを一番理解しているつもりです。だから、お互いに支えているんです。」

りみは真っ直ぐ紗夜を見て言った。紗夜は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、直ぐに目を瞑った。

「…本当に…ありがとうございます。」

「さ、紗夜さん?」

「良い家族が増えそうで、嬉しいです。」

紗夜の言葉にりみは首を傾げたが、意味に気付くと、わたわたとしだした。

「さ、紗夜さん!?わ、わ、わ、私はまだ高校です!そ、そ、そんなのは…。」

「あっという間ですよ。楽しみにしてますね。」

紗夜はそう言うと、再び、りみの頭を撫でた。りみは心の中で「紗夜さんってやっぱりお姉さんだなぁ。」と思っていた。

「ところでりみさん。スマホが鳴ってますよ?」

「あっ。すみません。」

りみはそう言うと、スマホを取り出し、耳にスマホを当てていた。その様子を見た紗夜は缶コーヒーのプルダブを起こし、口を付けた。その瞬間、りみの「えぇ!?」という絶叫が、綺麗なオレンジ色の空に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終わりが近づくと寂しくなりますね。
終わりが近づいていると言いましたが、潤とりみの話は第3部に続きます。
しかし、その前に、外伝を書くつもりでいます。
新しいオリ主と新しいヒロインをこの小説にぶち込むつもりです。
ヒロインが誰だって?
秘密です!笑
いつかTwitterで呟くかも?


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19話

りみは運動があまり得意ではない。バンドをしているので、それなりに体力はあるのだが、それイコール運動が得意とは限らない。

「…はぁ…はぁ…。」

りみは走っていた。しかし、呼吸はかなり荒くなっており、走ってはいるが、フォームはバラバラで、かなりバテている事が分かった。今すぐにでも止まりたかったのだが、そう思う度に先程、掛かってきた電話を思い出していた。電話の相手はひまりであり、りみが出て、第一声が「言おうか言わないか、悩んやんだけど、一応、伝えておくね?」と前置きがあった。そして、内容を聞いたりみは「えぇ!」っと叫んでしまった。

「潤くんのバカー!」

走りながら周りに誰もいない事を確認し、りみは叫んだ。そして、やっとの思いで、りみはCiRCLEに到着した。入口の前で膝に手をつき、呼吸を整えてみたが、額からは汗が滲み、心臓は激しく波打っていた。

「りみ!?」

「ふぇ?」

声をかけられ、りみは顔を上げると、ピンクの髪を揺らしながらひまりが駆け足でりみの傍にやってきた。2つの大きな胸が暴れている様子にりみは「良いなぁ。」と密かに思っていた。

「だ、大丈夫!?走ってきたの?」

「う、うん…。居ても経ってもいられなくて…。」

「ほっんとうにごめんね!」

ひまりは眉間にしわを寄せながらりみに頭を下げた。

「ううん…。でも…本当なの?」

りみは呼吸はまだ乱れたままで、途切れ途切れになりながら言った。その様子を見たひまりはりみの脇を支えると、カフェテラスに連れていき、椅子に座らせた。

「あ、ありがとう…。」

「ううん。大丈夫だよ。…ほら、水飲んで!」

ひまりは持っていたカバンからペットボトルの水を取り出すと、りみに渡した。

「…これ、ひまりちゃんの水だよね?」

「良いから!貰ってよ。…うちの蘭が本当にごめんね…。」

「ううん…。潤くんと蘭ちゃんが浮気しているって…本当?」

「う、うん。…仲良さそうにスタジオに入っていくのが見ちゃって…。私…ぐずっ…。蘭がそんな事…しているのが…嫌で…。」

ひまりは喋っている最中に、涙を浮かべていた。

「…う~ん。」

「りみ?どうしたの?」

「ひまりちゃんから話を聞いた時は驚いちゃって走って来ちゃったけど…。冷静になって考えてみたら、蘭ちゃんも潤くんもそんな事するかなぁって…。」

りみは苦笑いを浮かべながら言った。

「…りみは信じたくないだけだよ!とにかく、乗り込もう!」

「へ?の、乗り込むの!?」

りみは驚いたように言った。そんなりみを無視するように、ひまりはりみの腕をつかみ、CiRCLEに向かって行った。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「それで、なんの用ですか?」

スタジオに入ってすぐ、潤は腕を組み、壁にもたれながら口を開いた。

「…別に。練習に付き合って欲しいだけ…。」

蘭はギターをアンプに繋げながら言った。潤の方は一切、見ていなかった。

「…嘘…ですよね?」

「…嘘じゃない。」

「はぁ…。では、僕もギターを準備しますね?」

潤はそう言うと、自分のギターを取りに行こうとした。

「取りに行かなくていい。聞いてて。それに、潤、私達の曲、弾けないでしょ?」

蘭はそう言うと、マイクの前に立った。そう言われた潤はまた小さくため息をつくと、パイプ椅子に座った。

「ふぅ…。どうだった?」

「いつも通りカッコよかったですよ。」

1曲弾き終え、感想を求めた蘭はすぐにギターをスタンドに立て掛けた。

「…話…聞いてくれる?」

「やっぱり、話があるんだ。」

潤は苦笑いを浮かべると、蘭は恥ずかしそうに顔を背けた。

「…聞いてくれるの?くれないの?」

「聞きますよ。」

「…そう。…あ、あ、あのさ…。恋って…楽しい?」

「…はぁ?」

蘭の話が潤の想像を遥かに越していってしまった為、潤は情けない声を出した。

「だ、だから!りみと付き合ってて、楽しい?」

蘭は恥ずかしい様子で言った。しかし、余程気になっているのか、視線は潤の目をしっかりと見ていた。

「…もちろん、楽しいですけど…。どうしたんですか?好きな人でもできたのですか?」

「違う!けど…。」

「けど?」

「りみと潤を見ていると…悪くないって言うか…。」

「…なるほど。市ヶ谷さんと同じで恋がしたいんですね。」

潤がそう言うと、確信を付かれた蘭は目線を伏せた。

「で、でも私…。こんな性格だから…。彼氏なんて…。てか、なんで有咲の名前が出たの?」

「あっ。市ヶ谷さんの話は置いといて…。美竹さん、美人ですから、きっと素敵な男性が現れますよ。」

「なっ!」

潤はいつも通り、淡々と思っていることを言ったつもりであったが、蘭にとっては男性から歯の浮くような発言を言われたのは初めてだった為、目を見開いて驚いていた。

「どうしましたか?」

「…潤のバカ!」

「へ?な、なんで!?」

「うるさい!」

潤にとっては蘭が突然機嫌が悪くなったように見え、何したっかけ?と首を傾げた。

「あの…?美竹さ…うわっ!」

潤が蘭の様子を伺おうとした時、突然スタジオのドアがバーンと開き、潤と蘭はビクッと肩を震わせた。

「蘭!」

「…ひまり…?本当に驚いたんだけど。」

「ご、ごめんね?」

「りみ!?どうしたの?」

突然のひまりとりみの登場に、潤とりみは静かに顔を見合わせ、首を傾げた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「本当に信じられないんだけど。」

「だから、謝ってるじゃん!ごめんって!」

「無理。ひまりは私が彼女がいる人に手を出す人に見えてたんだ…?」

「そ、そうじゃなくて!」

土下座する勢いで謝るひまりに蘭は冷たい態度をとり続けていた。浮気を疑ったひまりだったが、潤と蘭、更にはまりなの証言もあり、身の潔白が証明された後は、こうして謝り続けていた。

「りみは上原さんに呼ばれて来た感じかな?」

「う、うん。」

「浮気してると思った?」

「聞いた時はびっくりして、急いで来ちゃったけど、後から冷静になって、蘭ちゃんと潤くんが浮気するなんて、信じられなかったよ?」

「あはは。最初は信じたんだ。」

「ご、ごめんね。」

りみは申し訳なさそうな表情を浮かべたが、潤は「良いよ。」とだけ言い、りみの頭を撫でた。

「潤君もりみも本当にごめん!」

「上原さん。大丈夫ですよ。気にしてませんから。」

「わ、私も大丈夫…だよ?」

「潤もりみも、もっと怒っていいんだよ?」

蘭は本人にその気はなかったが、潤の歯の浮いたセリフを聞いてから機嫌が悪く、更にひまりの失態のせいで最悪と言えるくらい機嫌が悪かった。その証拠に未だにひまりを睨んでいた。

「美竹さん。落ち着いてくださいよ。」

「潤はなんで怒らないの?りみが信じたら別れる事になってたかもしれないんだよ?」

「そうですかね?」

潤はニコッと笑うと、横でこの険悪な雰囲気をどうにかしたいとワタワタしているりみを見た。

「僕はりみの事、信頼してますので。」

「はぁ?」

「りみは僕の言うことを信じてくれると信頼しているので、ちゃんと説明をしたら大丈夫かなって思っているので大丈夫です。」

潤の悪い所でもあり、良い所でもあるのだが、自分の思っていることを正直に話す部分がある。故に、嘘など全くつけない性格をしている。この時も、蘭を納得させるには充分過ぎる対応だったが、横で聞いてたりみは蘭とひまりの前で、2人っきりの時に言って欲しいようなセリフを言われ、顔を真っ赤にした。

「…りみは幸せ者だね。」

「ら、蘭ちゃん!?」

「悪くないね。…ひまり?二度は無いから。」

「皆、本当にごめん!」

蘭の機嫌が直り、CiRCLEのスタジオの中にやっと、穏やかな雰囲気に包まれようとしていた。

「そうだ。りみも来てくれて丁度良かった。」

「なぁに?蘭ちゃん?」

「2人って、同棲するって本当?」

「なんで知ってるの!?」

りみが驚きながら言うと蘭は「香澄から聞いた。」と淡々と答えた。

「え!?同棲するの!?」

自分の失敗から落ち込んでいたひまりだったが、「同棲」と言うワードを聞いて、目をキラキラさせながら潤とりみに詰め寄っていた。

「本当です。高校を卒業したら同棲します。」

「凄い!凄いよ!りみ!やっぱり潤君と結婚しそうだね!」

ひまりはりみの肩を掴むとキャーと叫びながらりみをブンブンと振り回していた。

「う、上原さん!ストップ!」

潤が慌てながら叫ぶと、ひまりは我に返り、手を止めた。しかし、時既に遅く、りみは目を回し、床にペタンと座った。

「うわぁ~!りみ!だ、大丈夫?」

「目が回るよ~…。」

「はぁ。」

話したい事があり、潤をスタジオに呼んだ蘭であったが、なかなか話すことが出来ず、ため息をつくのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「カコン」と鹿おどしが鳴り響く庭がよく見える縁側に潤とりみは座っていた。横には見るからに高そうな和菓子とお茶が置いてあり、潤は手をつけて良いか分からなかったが、りみはすぐに食べ始め、幸せそうな表情を浮かべていた。

「呼び出してごめん。」

蘭はそう言いながら、庭で盆栽の手入れをしていた。以前、有咲との関わりで盆栽に興味を持ち、始めていたのだった。

「ううん。話って何かな?」

あっという間に和菓子を食べ終えたりみは首を傾げながら言った。そして、潤が和菓子に手を付けていない事に気づくと「貰っていいかな?」と潤に聞いていた。

「この前、話せなかったから。」

「この前?」

「CiRCLEのスタジオですよね。りみが目を回した日だよ。」

潤はりみに和菓子を差し出しながら言うと、りみは顔を「あぁ。」と恥ずかしそうに言いながらも、和菓子はきっちり受け取っていた。

「うん。あの日、りみが目を回して、大丈夫になった時にはスタジオの使用時間が終わったから。…あの時はひまりが本当にごめん。あの後、Afterglowの皆で怒ったから。」

蘭は申し訳なさそうに言うも、潤とりみは大丈夫と頷いた。

「それで…お話とは何ですか?」

「うん。2人って、同棲するのに家ってどうするの?」

蘭は盆栽鋏を置くと、2人の顔を見ながら言った。

「家…?潤くん、考えてた?」

「ううん。忙しかったから…。」

「決まってないみたいだね。」

2人の反応を見た蘭はポケットから4つ折りになっている紙を取り出すと、潤に渡した。蘭の言っている事が理解できない潤は首を傾げながら紙を広げた。

「これって…。」

「間取り…?」

紙には不動産屋で見るような間取りが書かれていた。ちなみに間取りは2LDKであり、リビングは12畳ほどで2つの部屋は6畳と8畳であった。ウォークインクローゼットも付いており、出来てから3年と新しい物件である事も分かった。

「こんな部屋はどう?」

「美竹さん。これって…。」

「華道の生徒さんに不動産の人がいて、頼んで聞いてみたらここはどうかって。」

「凄い…。凄いよ蘭ちゃん!」

りみは潤から紙を受け取ると目を輝かせながら凝視していた。ちなみに、和菓子はすでに無くなっていた。

「えっと…。凄く嬉しいのですが…何故ここまで…。」

「りみとは仲良くして貰ってるし、潤にはライブとかで沢山、助けてもらったから…そのお礼…。」

蘭は自分がしている親切に恥ずかしくなったのか、プイッと顔を背け、再び盆栽に向かった。

「蘭ちゃん!ありがとう!」

「本当にありがとうございます。」

りみはテンション高く、潤は丁寧に頭を下げると蘭は「いや…。」と小さく言った。顔は耳まで真っ赤になっていた。

「潤くん!私、ここが良い!」

「確かにいい感じの家だね。ちなみに、美竹さん。この家って、見れたりしますか?」

「うん。多分、大丈夫だと思う。空いてるって言ってたから。聞いてみようか?」

「お願いします。」

潤はそう言うと、再び間取りを見た。部屋の広さも築年数も、申し分なく、先程は見落としていたが、オートロック付きと防犯面もバッチリであった。

「潤くん!寝室はどっちにする?」

「どっちがいいかな?見ないと分からないよ。」

「キッチンも広そうだね!」

「そうだね。」

潤もりみもこれから先の未来がこうして形に現れると、より一層、ワクワクするのであった。そんな2人を蘭は微笑ましく眺めていた。

「そう言えば、美竹さん。ここの家賃って聞いてますか?」

「うん。聞いてるよ。25万だよ?」

「へ?」

「だから、25万。」

それくらいするでしょと言いたげな目線を送る蘭に潤は頭を抱えた。

「家賃だけで給料が飛んでしまう…。」

潤はここは無理だと判断し、りみに言おうとしたが、隣で楽しそうに「ここにソファーを置いて…。」と言うりみに言い出せなくなってしまっていた。

 

 




りみりん誕生日おめでとうございます!
内容は誕生日に触れてないけど、なんとなく誕生日に更新をしてみました。
これからも、りみりん一筋で推します!


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20話

蘭から同居する為の部屋を紹介されてから1ヶ月が経ってた。しかし、潤とりみはまだ部屋を決めれないでいた。

「どう…するの?」

大学受験が近いづいてはいたが、りみのルーティンは変わらず、毎朝と毎晩、潤の家へ行き、料理の勉強をしていた。始めの頃は潤の母親である麻里に習っていたが、2年もこのルーティンを続けていれば嫌でも料理の腕をあげていき、今では麻里がりみに全てを任せて自分は単身赴任をしている旦那の所へ行ってしまうと言う事が多々あった。ちなみに、今もそうであり、家には潤とりみの2人だけである。

「…う~ん…。どうしよっか。りみはやっぱり美竹さんから紹介されたアパートが良いんだよね?」

「うん…。ダメ…かな?」

りみは上目遣いで潤を見た。長い付き合いの中で潤がりみの上目遣いに弱い事に気づいたりみはお願い事があるとこうして、お願いをしていた。

「…う、う~ん…。や、やっぱり…家賃がね?」

りみの上目遣いに潤はなんとか耐えていた。ゲームの世界なら「会心の一撃」や「こうかはばつぐんだ。」などとテロップに出ていたに違いない。

「潤くん…。私も働くんだから…そんなにお金の事は気にしなくても良いんじゃないかな?」

「それは…そうなんだけどさ。」

「だったら…!」

「でも、僕の給料だけで暮らしたいなぁと。りみのお金はりみが使うべきかなぁっと思ってて。だから、美竹さんが勧めてくれたアパートは高くて。」

彼氏が彼女を養いたい。おそらくではあるが、男性が1度は思うことではないだろうか。仕事を終え、家に帰ると彼女がエプロン姿で出迎えてくれるシチュエーション…。潤もその例には漏れず、りみのエプロン姿を想像していた。

「でも…。潤くんの給料って、どれくらいなのかな?」

「えっと…25万くらいって聞いてるよ。大学に行きながらだけど、正社員として雇って貰えるから。」

「…潤くんの給料だけで生活をするとして…。家賃に使えるのは10万…いや15万くらいになるかな?」

「そう…だね。」

「あのね…。全部の物件を見たわけじゃないから…分からないんだけど…。」

りみはモジモジとしながら目線を潤から外していた。何が言いたいか分からない潤は首を傾げていた。

「ハッキリ言って大丈夫だよ?どうしたの?」

「あっ…うん。あ、あのね。東京の都心で、2人暮しができるくらい広くて家賃がそれだけ安い所ってなかなか無いかなぁって。」

「…ある…んじゃない?」

「あるかもだけど…。私、家で楽器の練習とかしたいし…。ライブも沢山するだろうから衣装とかも増えるし…。だから…。あっ!も、も、もちろん、潤くんの気持ちも嬉しかったよ?」

りみは潤をフォローし、言葉を選びながら言った。りみの発言を聞いた潤は額に手を当て、「はぁ。」とため息をついた。

「じ、潤くん?…怒ったの?」

「うん?怒ってないよ。りみの言った事を失念していた自分に呆れてただけだよ。」

「そんな…。大丈夫だよ?」

「ううん。僕はまだりみの事を1番に考えきれてないみたいだね。…りみ。美竹さんの紹介してくれた物件にしよ。お金とか助けて貰うようになっちゃうけど…。」

潤は申し訳なさそうな表情をすると、胸の前で手を合わせた。しかし、りみはそんな潤の行動に頬を膨らませていた。

「潤くん。2人で暮らすんだよ?助けて貰うはおかしいよ。お金もそうだけど、家事も何もかも、私は協力して行きたいな。」

「…そうだね。考えを改めるよ。」

「うん。これからもよろしくね。私が間違った事をしていたら、遠慮なく言ってね?」

りみはニコッと笑うと手を潤に差し出した。その手を潤は優しく握ると、2人はしっかりと握手した。

「りみ。もう1つ話があるんだけど良いかな?」

「なぁに?」

「これなんだけど。」

潤はそう言うと、側に置いていたポーチから通帳と印鑑、そしてカードを出した。

「通帳?」

「うん。これからはりみが管理してくれないかな?僕はどうしてもだらしない部分があるからお金の管理はりみに任せたくて…。」

潤はりみを真っ直ぐ見ながら言った。CiRCLEでたまに見る、仕事に真剣に向き合っている時と同じ表情をする潤にりみは緊張しながらも、しっかりとした口調で「うん!」と言った。りみは密かに本当に同棲するんだと実感が湧いてきて嬉しい気持ちが押しおせていたが、通帳を開くとその残高に驚いていた。ちなみに、潤が貯めていた訳ではなく、潤にあまり物欲が無い為、自然に貯まっただけであることをりみは後々、知っていく事となる。

 

―――――――――――――――――――――――――――

2人が同棲する場所を決め、無事に契約まで済ませた頃には学校でも大学入試に向け、大詰めになっていた。今まで、潤に毎日会っていたりみも最後の追い込みの為に潤の家には行かず、塾と家と学校を往復していた。そんな中、潤はCiRCLEにてカフェテラスでひとみと話し合いを行っていた。秋もかなり深まり、冬が顔を出し始めてくる頃で、日差しは暖かいが風が吹くと寒いという感じだった為、CiRCLEの中で話し合いを行うつもりだったが、ひとみの「カフェテラスが良い!」と言う一声で少しだけ震えながらの話し合いになっていた。

「はぁ。」

「どうしたの?似合わないため息なんか着いちゃって?」

「似合わないは余計ですよ。」

話し合いが一段落した時に潤はため息をついてしまっていた。ひとみはそんな潤を心配…するはずも無く、潤の反応にケラケラと笑っていた。

「で、本当にどうしたの?大学の面接、良かったんでしょ?」

「まぁ、そこは元々、心配してなかったので。」

大学から「うちで勉強しませんか?」と言われているだけあって、潤の面接は面接と言うより、雑談で済んでいた。ちなみにだが、かなり盛り上がってしまい2時間程、話し込んでいた。

「なら、心配ないじゃない。ため息なんかつく必要ないわよ。」

「いや…あの。笑わないで下さいね?…毎日、会っていたりみに会えないのが寂しくて…。それでため息を着いちゃいました。」

潤がそう言った瞬間、ひとみは腹を抱えて笑いだした。潤はそんなひとみを見て、ため息をまたついた。

「笑わないでって言ったじゃないですか。」

「ごめんね~。あはは!りみちゃんは幸せだねぇ~。電話とかもしてないの?」

「勉強の邪魔かなって思いまして。」

「なるほど。いやぁ。初めて会った時はしっかりした子だなぁって思ったけど、年相応の可愛い所もあるんだね。」

ひとみは笑って出た涙を指先で拭った。潤はそんなに笑わなくてもと思いながら、冷めてしまったコーヒーに口をつけた。

「さて、良い話が聞けた所で、話しを戻すね。…4月のライブは大丈夫なの?」

「はい。もう日付も抑えましたし、準備も始めてますよ。」

「…潤君はよくこんな事を思いつくわね。流石、あのガールズバンドパーティをまとめるだけあるよ。」

「褒めても何も出ませんよ?」

「なら、褒めるんじゃなかったわ。」

なんじゃそりゃと潤は苦笑いしながら呟くと自分が作った企画書に目を向けた。そこには「RoseliaVSPoppin’Party」と書かれていた。要するに対バンを行うというものだった。大ガールズバンド時代の代表格である2組がライブを行うとなれば世間がほっとかないだろうという目論見であった。

「そうだ。言ってなかった事があるんですけど。」

「なに?」

「RoseliaってPoppin’Partyの曲を演奏するって可能ですか?」

「聞いてみないと分からないけど…どうしたの?」

「せっかく2組が集まるんだから、それぞれの曲をカバーするのも面白そうだなぁって。Poppin’Partyは以前、陽だまりロードナイトを演奏してるからできるはずなんで。」

潤はそう言うと、ひとみは「それ、頂き!」と言いながらスマホを取り出し、どこかに連絡をし出した。

「よしっ。」

高校を卒業して、CiRCLEの正社員としては初めての仕事となるはずのライブに潤は密かに気合いを入れていた。しかし、すぐに「りみ、何してるかな…。」と遠くを見つめていたのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「はぁ~。」

潤がひとみと打ち合わせをしている頃、りみはどうしても分からない所があった為、有咲の蔵で勉強をしていた。目の前には参考書がならんでおり、ノートにも丁寧な字が並んでいた。

「…捗らない…。」

りみはぼそっと呟くと、参考書達と一緒に並んでいるチョコレートを1つ口に放り込んでいた。

「…どうした?」

「あっ…ごめんね。集中力が切れちゃったかも…。」

口をモソモソと動かしながらりみは言うと、目の前に座っていた有咲は開いていた雑誌を閉じていた。

「答え合わせするから休憩にしたらどうだ?」

有咲はそう言うと、右手を差し出した。その言葉にりみは頷くと、ノートを渡し「う~ん!」と伸びをした。

「…はぁ。」

りみはまた1つため息をつく。その様子を横目で見た有咲もりみに釣られる様にため息をついた。

「りみ。何かあった?ため息何回めだよ。」

「え!?…そんなにため息ついてたかな?」

「自覚なしかよ!何回もついてるぞ?」

「う、うん…。ごめんね。じ、実は潤くんに会えないのが寂しくて。」

りみはそう言うと、足を床に投げ出し、だらしなく机に伏せた。

「…相変わらず、仲の良い事で…。てか、一緒の大学に行けるみたいで良かったな。」

「うん!初めて聞いた時は本当に驚いたよ!家も決まったし、あとは大学入試を頑張って、卒業する…だけ…。」

「りみ?」

「ご、ゴメンね!卒業なんだって思ったら寂しくなっちゃって…。」

「…確かに…。寂しい…かもな…。」

珍しく、素直に自分の気持ちを言う有咲にりみは少しだけ驚いたが、有咲も同じ気持ちだと知り、嬉しさが後から込み上げてきた。

「高校…花女で過ごせて、本当に良かったよ。」

「私もだ。…香澄に感謝だな。香澄が…いや。ポピパがなかったら引きこもりのままだった可能性が高いからな。」

「有咲ちゃん…。」

「あぁ!こんなの私らしくねぇ!りみ!間違いはなさそうだ。今のままなら大丈夫なはずだ。」

頭を右手でわしゃわしゃと掻きながら、りみにノートを手渡した。顔はほんのりと赤く染まっていた。そんな有咲を見て、りみは「ふふっ。」と笑いながらお礼を言いつつ、ノートを受け取っていた。

「ふぅ。続き頑張ろ…。」

りみはそう言うと、シャーペンを握った。しかし、言葉ではやる気があるように見えたが、表情は悲しそうなままであった。

「…大晦日。」

「…へ?」

「大晦日くらいなら会ってもいいんじゃね?初詣くらい一宮さんと行ってきたら?」

「…でも…。」

「今のままだと、りみは逆に勉強出来そうにないからな。試験前に改めて会った方が良いと思う。…まぁ、大晦日まで1ヶ月半くらいあるけどな。」

有咲はりみに優しく微笑みながら言った。そして有咲の提案に対して、りみは少しだけ考えたが、すぐに「そうするね。」と言うと、潤に知らせる為にスマホに手を伸ばしていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

12月31日。1年で最後のこの日、潤とりみが住んでいる街では寒波もやって来ており、雪がチラチラと降っていた。

「お、お邪魔します。」

2ヶ月ぶりに潤に会うりみは緊張した面持ちで潤の家のリビングに入った。

「りみ!久しぶり!」

「…潤くん?…何してるの?」

「何って料理だよ?」

潤はエプロンを腰に巻き、台所に立っていた。付き合って2年半、初めて自分の彼氏が台所に立って料理をしている姿を見たりみは緊張など吹き飛び、驚いていた。

「潤くんが…料理?」

「あはは!びっくりした?意外に…できるんだよ?」

潤はそう言うと腕を後ろに組んだ。手には沢山の絆創膏が貼ってあった。

「そ、そうなんだ…。」

「りみ?」

「う、ううん。何でもないよ?」

料理をしてりみを驚かし、喜んで貰おうと思っていた潤だったが、りみがあまり喜んでくれない事に少しだけがっかりしていた。

「…まぁ、もうちょっとで昼ご飯、できる…ってりみ?」

「私にも手伝わして!」

「ゆっくりしてていいんだよ?」

「手伝いたいの!」

こうなると、意見をなかなか曲げる事のないりみ。潤は肩をすくめると、よろしくと言い、横に立つ彼女を見た。

「何したら良いかな?」

「うん。そのまま立ってて。」

潤はりみの後ろに回り込むと、そのままギュッと抱きしめた。

「…潤くん?」

「ちょっと、このままで…。会いたかった…。」

「私もだよ。」

りみは潤の腕を解くと、潤の方を振り向きギュッと抱きつき、潤の胸に顔を埋めた。久々に感じる潤の体温や匂いに涙が出そうになっていた。

「…はぁ…。落ち着く…。」

「ねぇ…。顔を上げて?」

「なぁに?」

りみは顔をゆっくりと上げた。りみの顔が潤の方を向くと、潤はすぐに唇をりみに落とした。

「…んっ。」

急なキスに甘い吐息が漏れる。しばらく唇を付けたままであったが、名残惜しそうに2人は離れた。

「ふふっ。幸せ…。」

「だね。…てか、いきなりキスしてごめんね。」

「ううん。嬉しかったよ。」

「なら良かったよ。…続き、作るね。お腹空いたでしょ?」

「うん。あっ。夜は私が作るからね!」

りみはそう言うと、潤の手を掴んだ。そして絆創膏が貼ってある指を優しく撫でると、潤は苦笑いをした。ちなみに、りみが潤の手料理にあまり喜ばなかった理由は潤に喜んでもらう為に色々とメニューを考えていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きながら2ヶ月会えないだけで寂しくなるかな?と思ってました。
結構、ドライなぴぽです笑

次回、最終回です。


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最終話

「5、4、3、2、1…。明けましておめでとう!」

「うん。おめでとう。」

テレビでは紙吹雪が飛んだり、色々な芸能人がぴょんぴょんとはしゃいでいる姿が映っていたが、潤とりみは静かに新年を迎えていた。

「初詣…行こうか?」

「…うん。でも、もう少し、このまま…。」

りみはご飯以外、潤に抱きついたままであり、このままずっと離れないつもりなのかと潤を困らせていた。しかし、困りながらも、愛されている幸せをしっかり感じていた。

「りみは、甘えん坊さんだね。」

「今は、甘えん坊で…いいかな。」

りみはそう言うと、更にギュッと強く抱きしめた。

「そうだ。りみって、今日、泊まるんだよね?明日は何時まで大丈夫なの?」

「ちゃんと決めてないよ。何かあるの?」

「家具、見に行かない?」

「…家具?」

「うん。新しい家で使う家具だよ。実は父さんから祝いの先払いって言われて、纏まったお金を貰ったんだよ。…だから、見に行かない?」

潤がそう言うとりみの顔がぱぁっと明るくなった。

「行く!絶対に行く!」

「あはは。なら、明日って言うか日付が変わったから今日か。朝から出るから早く初詣に行こう?」

「うん!」

りみはパッと潤から離れるとコタツから出た。先程まで、潤に離れたくないと抱きついていたのに、今は潤の腕を持ち引っ張っていた。さっきとは真逆のりみの行動に潤は「あはは。」と笑った。

「結構、混んでるね…。」

「そうだね。」

りみは寒いからと人が多いからという理由でここぞとばかりに潤の腕に絡みついていた。

「りみは、何をお願いするの?」

「う~ん。なんだろ。決めてなかったなぁ。潤くんは?」

「…これからも幸せがずっと続くように…かな?」

潤はりみを見ながら言った。潤の言う幸せがりみと一緒に過ごすことだと言うことにりみは気づくと、俯いてしまった。

「りみ?」

「い、今はダメ!うぅ…めっちゃ恥ずかしい…。」

普段、あまり自分の気持ちをストレートに言わない潤。その為か、たまにストレートに言うとその言葉はかなり重みを持ってしまう。本人は無自覚だから更にたちが悪い。

「わ、私も…。潤くんといる時が幸せだよ。」

「一緒で良かったよ。今年から改めてよろしくね?」

「うん!」

2人は雪がまう中、見つめ合うと微笑んだ。寒さのせいなのか、照れているのか分からないが、2人の頬は真っ赤に染まっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「潤くん!これどうかな?」

「う、う~ん…。か、可愛すぎるかな?」

潤が苦笑いをするとりみは「そっか…。」と呟いた。家具を見に来た2人だったが、りみが良いという家具は女の子らしい家具ばかりだった為、潤はどうしたものかと困っていた。

「で、でも!部屋は明るくなるよ?」

「そうだけど、もうちょっとさ?僕も暮らすんだし…。でも、りみが楽しそうで良かったよ。そんなにテンションが高いりみはライブ以外だったら久々に見た気がするよ。」

潤がニコッと笑いながら言うと、りみはハッとした表情になった。

「そ、そんな…に?」

「うん。だから、僕も楽しいよ。」

「うぅ…。なんか恥ずかしくなってきちゃったよ…。」

りみは頬に両手を当てると、小さくなっていた。

「ほら、他に探そ?」

「何かお探しでしょうか?」

潤がりみの手を取り、移動しようとした時、女性の店員が声をかけた。

「えっと…4月から同棲を始めるので、そこに置く家具を見に来たんです。」

「同棲!良いですね!今日、ご購入して頂けるとキャンペーンでかなりお安くなりますよ!家具のお届けもお客様のご希望日に配達出来ますよ!」

店員の言葉に潤はりみに相談する為、どうしよっかと言いながらりみを見た。しかし、りみはキラキラとした目で潤を見ていた。りみは何も言ってないのだが、目が明らかに「買ってもいい?」と言っていた。

「…りみはどれが良かったんだっけ?」

「え?でも…。潤くん、可愛すぎるって…。」

「うん。そう言ったけど、絶対、りみの方が忙しくなるはずだからさ、りみが落ち着いてリラックス出来る空間の方が良いかなって。」

潤はそう言いながら、りみが可愛いと言っていたソファーに目を向けた。薄いピンク色で女の子が好きそうな外見をしており、自分が座っている姿があまり想像出来なかったが、そのうち慣れるだろうと思った。

「それに…。」

潤は薄いピンクのソファーに座ると店員と喋っているりみを見た。テンションが高くなり過ぎて、人見知りな性格が吹き飛んでいる様子で、笑顔で喋っていた。

「…りみが選んだ物に囲まれたら…。りみがこの先、忙しくなってすれ違いになっても…寂しくないよね。」

こんな恥ずかしいこと、本人には聞かせれないと思いながら、家具を選ぶりみを眺めるのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「…やっと終わったよ~…。」

「りみお疲れ様。」

時は更に進み、2月になっていた。学校も3学期に入り、ほとんど登校する事がなくなっていた。そして、やっと、りみの受験が終わったのである。終わったその日に潤の家に行き、潤にベッタリくっ付いていた。

「じゅーんくん!えへへ~。」

「なに?」

「ううん。何でもないよ?呼んでみただけだよ。」

「そっか。」

潤はそんなりみを抱きしめると、頭を撫でた。気持ちよさそうに目を瞑るりみを見て、潤はまた微笑んだ。

「本当に…良かった…。」

「どうしたの?」

「りみと別れなくて、本当に良かったなぁって。もし、あのまま別れたら、ずっと後悔してたなぁって。」

潤が言い終わるとりみは人差し指を立てて、潤の唇に当てた。

「そんな未来はなかったんだから、言わないで欲しいかな?」

「…だね。ごめんね。」

「ううん。私、今、幸せだよ。同棲もいよいよ始まるし、本当に楽しみ!紗夜さんとかポピパの皆も言ってたんだけど、本当にあっという間だったよ。同棲の話を聞いた時はまだまだ先って思ってたけど。」

「この1年、本当に色々なことがあったね。これから、りみはPoppin’Partyのベースとして、忙しくなるだろうけど、なるべく一緒に過ごそうね?」

潤はそう言うと、またりみの頭を撫でた。りみはまた気持ちよさそうな表情を浮かべながら「うん!」と返事をした。

「ちょっと良いかしら。」

「うわっ!」

「きゃ!」

2人の背後から麻里が声をかけた。麻里は今まで、買い物に行っていた為、2人は完全に油断し、イチャイチャしてた。なので、声をかけられた時は飛び上がる程、驚いていた。

「そんなに驚かなくていいじゃない。」

「母さんも帰って来たなら言ってよ!」

「言ったわよ。2人の世界に入ってたんじゃない?」

麻里は大袈裟に「はぁ。」とため息をついた。

「それで、なんの用?」

「潤。貴方は死んでも、りみちゃんだけは守りなさい!良い?」

「そ、そのつもりだよ。」

「そして、りみちゃん?」

「は、はい!」

麻里の真剣な表情にりみは背筋をピンと伸ばした。

「あのね。たまには遊びに来てね?りみちゃんならいつでも大歓迎だから!」

「…は、はい?」

もっと厳しいことを言われると思ったりみだったが、言われた事が拍子抜けだった為、へんな返事をしてしまった。

「来て…くれないの?りみちゃんが受験で来てくれない間、私、あんなのしかいなくて寂しかったんだよ?」

「あんなので…って、もういいや。」

何回もこのやりとりをしている為、潤は最後まで言わず、諦めたように言った。

「そ、そう言う訳じゃなくて…。びっくりしちゃって…。あ、あの。私も麻里さんが大好きなのでまた遊びに来ますね。また料理、教えて下さい!その…。お義母さん?」

りみは恥ずかしそうに言うと、麻里は驚いたように目を丸くした。そして「りみちゃん!」と叫びながらぎゅっと抱きしめた。そんな2人を見ながら潤はニコッと笑った。ちなみに、この日の夕飯は大量のチョココロネとステーキであり「おいひぃ~!」と言いながら幸せそうにりみは頬張っていた。麻里の機嫌が良いと、夕飯に顕著に現れる為、潤も麻里が喜んでもらって良かったと思っていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「本日は私たちのためにこのように盛大な卒業式を開いていただきましてありがとうございます。また先程は校長先生をはじめ来賓の皆さん、在校生の皆さんからあたたかいお言葉を頂き、胸が熱くなる思いがしております。」

3月。花女では予定通り、卒業式が行われていた。ある者は泣き、ある者は高校生活を思い出しているのか微笑んでいた。卒業生答辞では有咲が選ばれ、堂々とした答辞にりみは素直に「凄いな。」と思いながら聞いていた。

そして、卒業式終了後。りみ達Poppin’Partyのメンバーは集まり写真を撮っていた。

「香澄。目が真っ赤だよ。うさぎみたい。」

「だってぇ~。」

「あはは!あっ。香澄!目を擦ったらダメだよ?ほら、ハンカチ。」

「沙綾~!」

相変わらず、仲の良いPoppin’Partyのメンバーに他の生徒も微笑ましく見ていた。

「有咲ちゃんもお疲れ様。とっても良かったよ?」

「バッ!や、止めろ!」

りみの賛辞に有咲は顔を赤くしていた。

「市ヶ谷さんは何をしたの?」

「あっ。潤くん!有咲ちゃんね。卒業生代表…。へ!?じ、潤くん!?な、な、な、なんで花女にいるの!?」

突然の潤の登場にりみを始め、Poppin’Partyのメンバーも驚いていた。

「卒業式が終わったからりみを迎えに来たんだよ?」

「そ、それは嬉しいけど…。よく女子校に入れたね…。」

「あぁ。それはね…。」

「私が許可を先生にとったんですよ。」

潤が後ろをチラッと見ると、紗夜が立っていた。

「さ、紗夜さん。」

「皆さん、卒業おめでとうございます。」

微笑みながら言う紗夜にPoppin’Partyのメンバーは「ありがとうございます。」と頭を下げた。

「りみ。おめでとう。」

「ありがとう。潤くんも卒業おめでとう。」

2人もニコッと笑い合う。その時「パシャ」と言うシャッター音が響いた。その音がした方に2人が向くと有咲がスマホで写真を撮っていた。

「…ごちそうさま。」

有咲は無表情でそう呟く。後ろにいた他のメンバーもニヤニヤと笑っていた。その中でも、1番ニヤニヤしていた香澄。突然後ろを向いたと思うと大きく息を吸った。

「…嫌な予感がする…。」

「へ?嫌な…予感?」

「皆ー!りみりんが彼氏連れてきたよー!」

よく通る声で叫ぶと、そういった話が大好物である女子高生達が一斉に近づいてきた。

「か、香澄ちゃん!?」

りみは叫び、潤は逃げようとりみの手をとったが、時既に遅し、あっという間に2人は囲まれてしまった。更に、香澄やたえが2人が同棲を始めるなど情報を流してしまった為、さらに質問攻めは加熱していた。

「…困ったね。」

潤は諦めたようにため息をつくと、りみもぎこちなく頷いた。

「…でも。懐かしい…かな?」

「懐かしい?」

「うん…。付き合ったばっかりの時に…CiRCLEで…。」

「あぁ!確かにそんな事あったね。」

2人は懐かしさに再びニコッと笑った。しかし、2人の世界に旅立つのを阻止するように、沙綾が「潤君、あっ。りみの彼氏さんの告白がね、ロマンティックでね…。」と聞こえてきた。

「や、山吹さん!ストップ!それ以上は!」

潤は慌てながら叫ぶも、バッチリ教えてしまい、聞いた女子生徒達は苦笑いをしていた。

「…勘弁してよ…。」

「あはは!」

項垂れる潤に対してりみは腹を抱えて笑ってしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

卒業式から数週間後、潤もりみも無事に大学に合格し、いよいよ同棲1日目を迎えていた。

「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」

潤が引越し業者に頭を下げると、引越し業者も爽やかな笑顔を向けて帰って行った。

「さて、これからが大変だよ?」

「そうだね…。思ったより荷物増えちゃって…。」

リビングや寝室に山のように積まれたダンボールを見ながら2人は喋っていた。

「でも…なんか楽しみかも。」

「なにが?」

「ダンボールを開けて、2人であそこに片付けようとか決めるよね?それが、本当に一緒に暮らすんだって思っちゃって。」

りみはそう言うと、1つ目のダンボールの封を切った。

「そうだね。とりあえず、手分けする?どのダンボールに何が入ってるか把握しないと。」

「そうだね。潤くんは寝室をお願いしていいかな?」

「了解。重たい物があったら言ってね?」

潤はそう言うとカッターを取り出し、寝室に向かった。2人が暮らす部屋には予定通り、可愛らしい家具が並んでおり、家具達も2人の門出を祝っているようだった。

「あっ。」

りみはあるダンボールを開けた際にある物を見つけていた。

「…アルバム。ここに入れてたんだ。」

りみはダンボールからアルバムを出すと、ピカピカの机の上に置いた。

「後から見ようかな。」

りみはそう呟くと、優しくアルバムを撫で、ニコッと微笑むのであった。

 

~日常の中にチョコより甘い香りを~

第2部「高校3年生編」完

 

 




第2部、無事完結しました。
第1部と違い、かなり重たい話だったので、最終話くらいはと2人にたくさんイチャイチャしてもらいました笑
2人の物語はこれにて終わり…ません!
第3部、外伝と色々と考えています。
まだまだ長い付き合いになりそうですが、これからもよろしくお願い致します。
そして、ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!


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