俺はみほエリが見たかっただけなのに (アーマードコアの新作)
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本編 epic IF root
やはり転生先でも俺のフラグ建築は間違っていた


ガバガバなので初投稿です


 ─月──日 晴れ

 

 本日から日記をつけることとする。

 この日記の目的は転生前の記憶のなかで重要なものを書き出し忘れてしまっても見返して確認することができるようにするためのついでである。

 盗み見られたりすると大変なことになるので携帯の日記機能に、自室に一人でいる時のみ書き記すこととする。

 

 転生して12年の月日が経過し、俺はもうすぐ黒森峰女学院に入学することとなる。

 頭がおかしくなるほど厳しかった受験勉強に戦車道の実績作り。

 それらは全てみぽりんを転校させず黒森峰に残すためだ。

 乗員の数は10万を超えるというマンモス校というのもはばかられるような場所だというのに戦車道だけでなく勉学の方でも凄まじいレベルを要求されるとはこの海のリハクの目をもってしても見抜けなかったが受かっちまえばこっちのもんだ。

 みぽりん同じクラスになれるかどうか、そもそもそんな人数のいる船の上で同じ校舎に割り振られるかすらも疑問だが、できるだけ早く接触して交友を深めたい。

 そしてゆくゆくは同じ戦車に乗せられる仲にまでなり、みぽりんの代わりに大荒れの川にダイブしてスケープゴートとなるのだ。

 

 そして忘れてはならないが俺は逸見エリカとも仲良くならねばならない。

 俺がみぽりんとエリカの二人と仲良くなって二人を巻き込んで絆を深めることでみほエリの土台を作り上げるのだ。

 

 そう、俺の転生人生はこの二人で百合の花園を作り上げるためにあると言っても過言ではない。

 

 この二人に、離れ離れになる運命など存在しない、それを証明してみせる……!

 

 

 

 ─月──日

 

 いやはや私は運がいい。

 大量の入学生でごった返したというのに、みぽりんと同じクラスに配属されることとなった。

 

 そんなわけで俺は一人でおずおずしてたみぽりんに声をかけて、一緒にお昼を食べつつ雑談を仕掛けてみた。

 そしたらもう即落ちよ、あっという間に友達になれました。

 みぽりんのガードが薄すぎて立場を忘れて少し心配になってしまった。

 でも大丈夫だよみぽりん、精神年齢30超えのJC (中身おっさん)が危ない人から守ってあげるからね…あれ?これじゃ俺が危ない人じゃん。

 我ながらキモすぎて吐くわ。

 

 

 

 ─月──日

 

 戦車道の練習が本格的に始まった。

 幼い頃からしっかり体を鍛えていた俺は、どういうわけかチビで細いのに怪力とかいうわけのわからない体質であり、即ち装填手として凄まじく高い適性を持っている。

 小さくて邪魔にならないのにあっという間にひょいひょい弾を込められるわけだからな。

 あと操縦と通信もそれなりにできる、車長適性は目を覆うレベルでないらしいが。くやしい。

 

 黒森峰の中学戦車道でも当然のごとく隊長を務めていた西住まほの元、俺はみぽりんにお願いされて同じ戦車に乗り込むメンバーとなった。

 そして俺は、続々とメンバーが固まりつつある中であぶれ気味になっていた生徒をとっ捕まえて5人パーティーを編成することに成功。

 なんとミラクルがおきてその中に逸見エリカが紛れ込んでいた。

 内心小躍りした俺はテンションアゲアゲで練習戦に臨みみぽりんの指揮のもと我らの戦車が一等の戦果を上げることに成功した。

 これにより5人の結束が深まる、即ちみぽりんとエリカに自然と交友を作ることに成功。

 うまく行きすぎて怖いくらいだ。

 

 

 

 ─月──日

 みぽりんが副隊長に指名された、みぽりんの顔が真っ青だ。

『フェイズエリカ』ではここでみぽりんの副隊長としての姿にエリカが不信感を抱き後々まで続く禍根を残してしまうわけだが俺がいる以上そんなことはさせない。

 エリカも巻き込んでみぽりんとシャレオツなカフェに雪崩れ込んだりノンアルビールをキメながら本音を吐き出させてみんなで話し合ったりすることでエリカも不安なみぽりんを支えてやろうというケツイを固めたようだ。

 

 しかし、いいことばかりではない。

 俺がまほ隊長の乗る戦車に引き抜かれそうである。

 いやまあ、確かに試合開始から最後まで一切衰えを見せず高速で装填を行えるってJC一年生としてはヤベーレベルの筋力とスタミナであるのはわかる。

 しかしそうなるとみぽりんとエリカと触れ合える機会が減ってしまうだろう。

 それに先輩方の視線が痛い。

 悪い結果にならなければいいのだが……実力主義の弊害というやつだ。

 

 

 

 ─月──日

 

 引き抜きは阻止された。

 みぽりんが必死で懇願して計画は潰れたのだ。

 これまでと変わらず動けることに俺は安堵した。

 やっぱりまほ姉ちゃんは妹に甘い、ゲロ甘である。

 

 それはそれとして、まほ隊長に普段どんなトレーニングを積んでるのか根掘り葉掘り聞かれた。

 なので俺の普段の食事メニューとトレーニング表を見せたら深刻なレベルで心配された。

 仕方ないんですよ転生特典がない身ではこれくらいやらなきゃ黒森峰は入れなかったんすよ。

 

 

 

 ─月──日

 

 みぽりんが俺の部屋に遊びに来たいと言った。

 何もない部屋だと前置きした上で招いたら本当に何もないーーー!?と驚かれた。

 生まれてこのかた勉強と戦車道以外の全てを投げ捨ててきた俺の部屋は最低限の家電とベッドとテーブル以外はせいぜいノートパソコンと今まで使ってきた教科書やノートくらいしかない。

 

 なぜそこまで戦車道に全てを賭するのかとみぽりんに聞かれた。

 まさか本当のことを言えるわけもないので適当に全身全霊をかけてもいいほど楽しいからだと伝えておいた。

 納得してくれたようで良かった。

 

 

 

 ─月──日

 

 中等部の全国大会が始まった。

 特別思い入れがあるわけではないが俺も戦車道を嗜むものとして全力で勝利を掴みに行こうと思う。

 

 

 

 ──月──日

 

 優勝した。

 圧倒的ではないか我が軍は。

 

 

 

 ──月──日

 

 全国大会を優勝で飾り、黒森峰中等部はノリに乗っている。最近はみぽりんも自信がついてきたのかたまにドジはするものの副隊長としての威厳がついてきたように思う。

 なんか、原作と違くない?

 

 それはともかくとして大会が終わったため二人と一緒に遊ぶ機会も増えてきた。

 最近ではエリカの車長適性が見抜かれ別戦車に移されてしまったため練習中はなかなか一緒にはいられないが、その分俺とみぽりんの戦車とエリカの戦車は特に共闘の練度が高い。

 この二輌に乗る合計10人で遊んだり泊まりに行ったり勉強会を開いたりはしょっちゅうだ。

 その中でみぽりんとエリカもますます仲が良くなってきたと思う。

 ちょいツンなエリカとにこやかなみぽりんの絡みを間近でみられる、これだけで転生して良かったと思える。

 

 

 

 ─月─日

 

 二年生になった、今年も二人をくっつけるために頑張ろう!

 今年はみぽりんと別のクラスになってしまったがエリカと同じクラスになった。

 

 二年生になってくるとそろそろ高等部に向けての勉強も忙しく予定が合わない日も多くなってくる。

 エリカがおらず俺とみぽりんで、あるいはその逆でエリカと俺で遊んだり勉強したりする機会も増えてきた。

 多分俺の予定が合わない日も二人で勉強してたりするんだろう。

 二年生には修学旅行というビッグイベントもある、それを活かしてますます二人の仲を深めてあげたいところだ。

 みほエリは正義、なさねばならぬ。

 あんたもそう思うだろう?

 

 

 

 ─月──日

 

 取材を受けた。

 なんでも装填手として俺は注目の的らしい。

 慣れないのですごく緊張した。

 まさかミポリンに笑われる羽目になるとは。

 エリカにも思いっきり笑われた。

 雑誌に俺のしどろもどろな問答が乗せられてて悶絶する羽目になった。

 

 

 

 ─月──日

 みぽりんに誘われて買い物に行った。

 最近ではみぽりんと人形や服を買ったりといったショッピングの機会が増えている。

 みぽりん侵食を受けて俺の部屋にもボコが溢れかえり始めている。

 ボコは…まずい…。

 

 

 

 ─月──日

 

 全国大会が始まった。

 今年も勝ってみせよう。

 それと同時に最近ではエリカと練習をする機会が増えてきた。

 エリカの戦車に乗り込み装填の指導をしたりするのだがそのたびにこっちに乗換えろと言われたりする。

 その辺りはみぽりんと相談してください。

 

 一通りのやりとりを終えてみぽりんの元に戻るとみぽりんはむすっとしていた。

 俺とエリカが仲良くしてることにジェラシー感じたんだね?わかるとも!

 

 

 

 ─月──日

 

 修学旅行に行ってきた。

 ……日本全国を学園艦で行き来して割と他県に行くことも多いのでそこまでスペシャルな感じはなかった。

 というか前世の感覚からすると修学旅行より学園艦での生活の方が明らかにスペシャル感あると思うの。

 

 自由行動ではクラス内で割り振られた班で行動しなければならなかったが普通に例の10人で固まって行動した。

 鹿にスカートをもしゃられるみぽりんは可愛かったですはい。

 エリカはお土産買いすぎだと思うの。

 

 部屋割りはエリカと同じ部屋だった。

 俺もエリカも持ってきちゃいけないもの持ってくるタイプではなかったので適当に雑談しながら普通に早めに寝た。

 しかしまさかエリカに恋バナを振られるとは思わなかった。

 しかも好きな人がいると言われた。……本命まほ隊長だけどみぽりんだとうれしい。

 まあ無理矢理にでもみぽりんにしてやるがな!!(ゲス顔

 

 

 

 ──日──日

 全国大会二連覇。

 特に書くことはない。

 

 

 

 ──月──日

 まほ隊長は高等部に上がり、みぽりんが新たな隊長に任命。

 エリカは当然副隊長に。

 これにより二人は作戦会議などでますます親密な仲になるだろう。

 笑いが止まらない。

 俺もみぽりんの戦車から降ろされないよう装填テクニックに磨きをかけよう。

 どんなに揺れる戦車の中でも一発3秒で装填できるようにしてやる。

 

 みぽりんが隊長に任命されたあとまほ隊長に呼び出され、二人を頼むと告げられた。

 お任せください、俺が恋のキューピットにってやります。

 

 

 

 ─月─日

 三年生の生活が始まった。

 全ては来年だ。

 高校の全国大会までに二人の絆をなるべく深めてあげよう。

 俺がいなくても二人がくっつくようにね!

 

 

 

 ─月──日

 

 受験勉強が辛い。

 戦車道と一緒にやるのが辛い。

 つくづく俺は努力型の人間ですよ……転生特典が欲しいなクソッタレが。

 エリカは俺より要領がいいのかとても勉強ができる、教えてくれと頼んだらやれやれと言いつつも教えてもらえた、やっぱりツンデレじゃないですか(微笑

 せっかくなのでみぽりんも呼んで勉強会をした。

 楽しかったです。

 

 ……14歳に教えてもらう中身アラサーってどうよ????????

 

 

 

 ─月──日

 

 今日はみぽりんと一緒に徹底的に戦車道の訓練を行った。

 勉強のストレスは戦車道で発散するに限る。

 装填スピードが最近伸び悩んでいるのでトレーニングを見直そうと思ったがみんなに止められた。

 冷静になって見るとこのトレーニングメニューは平たく言って拷問だと気づいた。

 そりゃ止めるわ……

 

 訓練終了後にお茶に誘われたのでエリカも巻き込んで久々にゆったりとした時間を過ごした。

 しかし二人がどこかぎこちないように見える。

 俺の知らない間に何か行き違いでもあったのだろうか、だとしたら解消しなければ。

 

 

 

 ──月──日

 

 全国大会で優勝した。

 三連覇できちゃいました、二人ともすげー

 その日はみんなで盛大な優勝パーティを開いた。

 盛大に飲んで騒いで盛り上がった後に二人を誘って公園に行く。

 二人に会えてよかったことを伝え、高等部でもみんなで頑張ろうと誓い合った。

 ふふふふふ、これで二人の絆は俺が欠けても途切れることはないだろう。

 

 

 

 ─月──日

 

 ついに高等部に上がる日がきた。

 クラス割はなんと俺もみぽりんもエリカも同じクラス!

 3人ではしゃぎあった。

 戦車の車庫に向かった俺たちをまほ隊長が歓迎してくれた。

 さて、残り少ない時間をこのメンバーで目一杯楽しもう。

 ケツイは微塵も揺らがないが、多分しばらくの間は連絡も取れない間柄になるだろうしね。

 

 

 

 ─月──日

 

 高等部は中等部とレベルが違ったが、俺はなんとか装填手としてレギュラーメンバーの座を勝ち取った。

 一芸に秀でるものは身を救うってやつだ。

 あいも変わらずみほの車両の装填手としてガシャンガシャンと装填してやろうと思う。

 しかし先輩方に俺の装填速度でドン引きされ、トレーニングメニューを教えたらすごく哀れなものを見るような目で見られた。

 そこまでか……?

 

 

 ─月──日

 

 全国大会が始まった。

 

 まずは決勝戦まで勝ち抜かなければならない。

 全力で挑もう、負けは許されない。

 

 果たして、決勝戦であの事件は起こるのだろうか。

 起こらないのならそれでいい、みぽりんがここを離れる理由はなくなるからだ。

 起こったのならその時はその時だ。

 ただまぁ、できればあんな事故は起こってほしくないなーとは思う。

 

 

 

 ─月──日

 

 決勝戦だ。

 

 

 

 ─月──日

 

 事故は、起きた。

 原作通り悪天候の中で始まった試合、土砂崩れに巻き込まれて戦車が川に落ちる。

 助けに行こうとしたみぽりんを引き止め代わりに俺が救助に向かう。

 車長を失わなかったわけだからワンチャンそのまま優勝するんじゃね?とも思ったが、原作の強制力なのか、それとも案外俺の役割は大きかったのか、そのまま押されて負けてしまった。

 

 まぁ、しょうがない。

 この重荷からみぽりんを守れたんだからそれでよしとしよう、そもそもこれが元々の目的だしネ!

 

 

 

 ──月──日

 

 みぽりんを守れて本当に良かったと思う。

 あの日以来黒森峰に俺の居場所は無くなってしまった。

 方々から怒鳴り散らされ生徒たちからは非難の眼差しを向けられる。

 親しかった友達も大半は離れた。

 嫌がらせも受け始めた、いじめも近いだろう。

 

 本当に、ほんとーーーにみぽりんをかばえてよかった!!

 そりゃ転校するよこんな目に合えば!!

 

 今や俺と接してくれるのはエリカとみぽりん含む、かつて中等部で関わっていた9人くらいである。

 それも前に比べればずっとよそよそしくなってしまったしみぽりんはすっかりふさぎ込んでしまった。

 

 こりゃあ、なるべく早めに黒森峰を出て行ったほうがいいだろう。

 

 

 

 ──月──日

 

 しほさん

 

 こわい

 

 

 

 ──月──日

 

 昨日はまさかしほさんが直々に学園艦を訪れて叱咤されるとは夢にも思ってなかった。

 みぽりんは庇ってくれようとしたがなんとか根性でそれを宥め、スゴイ=コワイしほさんのお叱りを受ける。

 ただただ伏してそれを耐えるしかできなかった。

 いやあんなん逆らえないで?

 

 みぽりんに泣きながら謝られた。

 みぽりんは悪くないんやけどなあ。

 

 

 

 ──月──日

 

 エリカに、みぽりんを頼むと告げた。

 どういうことだと詰め寄られたがやんわりと引き剥がして逃げた。

 ……我ながらもうちょっと要領よく別れを告げられんかったのか?

 そしてみぽりんに転校することを考えてると伝えた。

 あとは転校の準備を済ませて、黒森峰を去ろう。

 俺にできることはやった。

 どうか、二人が俺のことを乗り越えて二人で黒森峰の学園生活を仲良く終えてくれることを祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─月─日

 

 ぼくは いま

 

 おおあらいにいます

 

 みぽりんとるーむしぇあです

 

 

 

 なんで?????????

 




    スッカスカ!
        スッカスカ!
            本文の密度スッカスカ!
     ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩
     ( ・x・) ・x・) ・x・) ・x・)  本文の中
    /    \  \  \  \    スッカスカ
  ((⊂  )   ノ\つノ\つノ\つノ\つ))   スッカスカだよ!
     (_⌒ヽ ⌒ヽ ⌒ヽ ⌒ヽ       スッカスカだよどーしてくれんだダージリン!
      ヽ ヘ } ヘ }  ヘ } ヘ }
  ε≡Ξ ノノ `Jノ `J ノ `J ノ `J


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パンツァーロンパ

主人公プロフィール
名前 天翔エミ
身長 チビ
体重 軽い
特技 ベンチプレス150キロ
名前の由来 転生→テンショウ→天翔


 中等部に上がって、初めて友達になってくれた人だった。

 

『やぁ、一緒にお昼でもいかがかな?』

 

 そんなふうに気さくに声をかけてきてくれたのは、私よりも背の小さな子だった。

 130にも満たないかもしれない、服の上からでもわかるほどに華奢な手足に艶やかな黒い髪を後ろでまとめた子。

 

『だいぶ離れた県からきたから、知り合いが一人もいないんだ。 君も一人なら是非とも交友を深めたい。 えーと……』

『え、えーと。 私は西住みほです……』

『そっか。 よろしく西住さん』

 

 やや強引に押し切られて、彼女は私のかけていた席の対面に腰を下ろす。

 彼女の持っていたトレーの上には焼き鯖定食が載っていた。

 

『うん、誘いを受けてくれてありがとう。 少し押しが強すぎたかも』

『そ、そんなことないよ! 私も、まだ友達とかいなかったから……』

『そうか、迷惑じゃないなら良かった。 いただきます』

 

 そんな少し変わった話し方の彼女は、そこまでいうと早速食事に手をつけ始めた。

 私も慌てて自分の頼んだお昼に箸を向ける。

 

『……西住みほさんだっけ。 黒森峰に来たということは、君も戦車道をやるのかい?』

『う、うん。 そうなると思う』

『そうか、私もなんだ。 これも何かの縁だ、戦車道の授業が始まったら同じ戦車に乗らないか? 装填手としてこれでも地元ではならしてたんだ』

『え! 装填手……?』

『ふふ、似合わない?』

『あ、や、えーとそんなことは……』

『隠さなくてもいい、私は見たとおりチビだからね。 でも男にだって負けないくらい力持ちなのさ』

『本当……?』

 

 彼女は気さくに話題を振ってくれて、緊張してた私の話にも合わせてくれた。

 気がつけば私も彼女に気を許していて、お昼を食べ終わる頃にはすっかり打ちとけてしまった。

 

『えー! 本当にそんなトレーニングしてるの?』

『努力家だからね、私は。 おっとそろそろ教室に戻ろうか』

『あ、そうだね、エミさん』

『……あれ? 私名前いったっけ』

 

 そういえば彼女は名乗っていなかった。

 慌てて取り繕おうとした私にエミさんはくすくすと笑う。

 

『ふふ、朝の自己紹介覚えててくれたんだね。 改めて、天翔エミだよ。 よろしく』

 

 そして彼女は、その小さくて、でもマメですっかり硬くなった手を差し出してきたのだ。

 

 

 

 エミさんは、本当にすごい人だった。

 中等部戦車道では他の誰よりも力持ちで、それに装填速度もとても早い。

 お姉ちゃんだってエミさんの素早い装填には驚いていて、一時期自分の戦車に引き抜こうとしたくらいだ。

 それにエミさんはとっても社交的で、引っ込み思案な私を引っ張ってみるみるうちに友達をたくさん作ってくれた。

 

 私はすっかりエミさんのことが好きになってもっと仲良くなりたくて、だからエミさんにこう言ってみた。

 エミさんの家に遊びに言っていい?って

 彼女はそれを了承してくれた。

 

 彼女の部屋に招いてもらって、私は驚いた。

 エミさんの部屋は、普段の快活な彼女の様子からは想像できないほど殺風景だったのだ。

 ぬいぐるみどころか写真の一枚もない。

 簡素な本棚に詰まっているのは教科書だけで、小さなクローゼットと使い込んだノートパソコン、他にも本当に最低限の家具しかない。

 

『驚いたかい? だから言っただろう何もないって』

『で、でもこれは想像以上というか』

『勉強と戦車道しかやってこなかったからね。 』

 

 だから同世代の話題には上手く合わせられなくて困ったんだ。

 苦笑いするエミさんの姿に、なぜか私はぎゅっと胸が締め付けられるような思いがして。

 思わず尋ねた。

 

『どうして、そんなに戦車道に全てをかけることができるの?』

 

 口に出した後、もしかしたらこれは失礼だったかもしれないと思って謝ろうとしたけど、エミさんはまた少しだけ困ったように笑ってこう言った。

 

『どうしようもないくらい戦車道が好きなんだ』

 

 そうだ、考えてみれば当たり前のことだった。

 彼女は戦車道が好きで、だから他の趣味や息抜きを必要とせず、過酷なトレーニングをこなせる。

 好きだから全力で臨む。

 

 そんな当たり前の理由で、私はなんだかおかしくて笑ってしまった。

 

『エミさんって、戦車道バカなんですね』

 

 私の失礼な言葉にも、エミさんはまた困ったように笑った。

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 きょうは ステキな日だ。

 はなが さいてる、ことりたちも さえずってる...

 こんな日には おれみたいなヤツは

 

 じごくで もえて しまえばいい。

 

 ──月──日

 

 昨日は錯乱していた。

 頭の中に横に広いガイコツが現れて俺を操ったに違いない。

 

 さて、俺は大洗女子学園の二年生となったわけだが

 

 いややっぱおかしいわなんであの流れから大洗にみぽりんと一緒に引っ越すことになるんや。

 ……ええ、経緯は知ってます、聞きました。

 総てはみぽりんが一晩でやってくれました。

 みぽりんはお父さんの常夫さんに電話をして、引っ越すこと、俺と一緒に暮らすこと、戦車道のない場所でしばらくゆっくりすることを伝えて援助を頼み、それをOKされたらしい。

 おまけに俺の孤児院長にもすでに根回ししてた。

 次の日にキリッとした顔で一緒に駆け落ちしようと言われた時俺が晒した間抜け面は未来永劫語り継がれるレベルだったと言っておこう。

 何やってんだみほオォォォォォォォ!!!!!!と叫ばなかった自分を褒めてやりたいところだった。

 

 

 

 ──月──日

 

 原作、始まりました。 はい。

 春の桜が舞い散る季節、俺とみぽりんが揃って昼飯を食ってるとさおりんと華さんが話しかけてきたのである。

 揃って引っ越してきてすでに仲が良かった俺たちに興味津々だったらしい。

 

 実の所、俺はすでに原作に介入し大洗の戦車道メンバーとして戦う覚悟はできていたりする。

 断じてやけっぱちになったわけではない、現状それが一番みほエリを成立させる確率が高いルートだからだ。

 

 現状は極めてまずい。俺の想定よりはるかに俺へのみぽりんの好感度は高い。

 そしてあんなカッコつけ発言しておきながらみほ共々黒森峰から去ってしまってエリカは心に大ダメージを食らってる可能性が高い。

 このままではみぽりんはエリカと離れ離れになってしまい、そして誰得ランキング二位くらいのみほエミなるクソカップリングが誕生してしまう可能性がある、そんなことはみほエリストとして断じて許せない。

 何が悲しくて好きなcpの間に自分が挟まらなければならないのだろうか。

 百合の間に挟まれるような願望は俺にはない、むしろそんな奴を縊り殺してやりたいくらいだ。

 

 だからこそ、原作のルートをなぞりみぽりんとエリカの関係を修復する必要がある。

 その後からなんとかかんとか頑張って二人をくっつけるように裏工作をしなければならないだろう。

 

 とにかく、最悪でも俺とみぽりんのカプとか言う地獄は絶対に避けなければ。

 みぽりんのことは好きだがこれだけは絶対譲れない。

 

 ──月──日

 

 例の戦車道勧誘イベがあったが早速予想外の事態が発生した。

 俺を引き込もうとした生徒会の面々にみぽりんが猛烈な勢いで噛みついたのだ。

 これには生徒会長たちも華さんもさおりんも俺もびっくり。

 思わず怯む生徒会長に俺も慌ててみぽりんを宥める。

 しかしどうやらあの事件は原作以上にみぽりんの心に深いトラウマを刻んだらしい……こんなはず……

 

 ひとまずこの件は保留として、後日改めて返事をすると言うことでその場はおさめた。

 帰宅したらみぽりんをなんとか説得して戦車道を選択しなければ……

 

 ──月──日

 

 死ぬほど粘ってなんとか戦車道を再開できたが、会長がなんだかよそよそしい。

 

 ……いや、わかるよ。みぽりんがものすごい威嚇するの。犬か何かかね君は。

 それはともかくとして例の戦車探しイベントをこなした。

 大洗学園艦にきてからまだ日が浅いので、探索ついでに色々と観光した。

 当然秋山優花里殿も一緒だ。

 俺の行動は間違ってなかった旨の発言をしてみぽりんと瞬く間に意気投合してた。

 

 ……みほゆかもいいよな、うん!!

 最推しはみほエリだが基本的にみぽりん愛され系ならなんでもいける雑食派なのです。

 あ!俺は無しな!!

 

 ──月──日

 

 冷泉麻子ちゃんと遭遇した。

 実は一番好きなキャラだったりする。

 やっぱり例によって猛烈にフラフラしながら登校してた。

 危なっかしくて見てられないので背負って登校するとそど子さんに注意されてしまった。

 

 そのあと戦車道の授業が本格的に始まった。

 蝶野一尉をお招きして全員で生き残ったものが一等賞のデスマッチルールバトルが行われた。

 みぽりんは俺と一緒の戦車に乗りたがったが経験者が固まるのはよろしくないと会長と一緒に説得して俺はカメさんチームに、みぽりんは当然あんこうチームに所属することに。

 そうだ、みぽりんは俺離れしなくてはならない。

 

 試合が始まり、俺は当然のごとく装填手としてしっかり仕事をこなした。

 俺の動きを見て会長たちはドン引きしていた。

 俺も最近ようやく片手で戦車砲弾を掴みあげるのはおかしいと気づいたところだが効率がいいからいいんだよ。

 しかし奮闘空しく、突如動きの良くなったあんこうチームによって大逆転が巻き起こり、原作通り一等賞はあんこうチームになるのであった。

 

 そして冷泉ちゃんが戦車道に正式に加入することになる。

 朝の恩を仇で返してしまったと謝られたが気にすることはないと伝えておいた。

 

 ──月──日

 

 聖グロとの練習試合が決定した。

 これもまた原作通り。

 

 ……聖グロ、聖グロか……

 まさかこんな形でダージリンと再戦することになるとはな……

 ロクでもない予感がする。

 

 

 




拙者ssの〆下手くそ侍努力はしたが直せなかったのでこのまま投稿する
ところで名前の初出がネタ前書きの転生オリ主がいるらしい


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戦車転生

投稿が遅れたため水炊きは廃棄物として処理し執筆を水炊き二号へと引き継ぎます
次の水炊きはもっと上手くやるでしょう


 私のせいだ

 

 私のせいだ

 

 私があんなことをしたから、エミさんは

 

 

 

 

 

「ウチの戦車が!!」

 

 それは、突然の出来事だった。

 悪天候の最中に開催された戦車道全国大会決勝。

 終始有利に立ち回っていた中、突如として隊列のうちの1輌が土砂崩れに巻き込まれ川へと転落した。

 まさに、神の気まぐれ。狙ったわけでもない牽制の一撃が巻き起こした災禍。

 その光景を目にした時みほの心はかつてないほどの動揺に襲われた。

 

(助けなきゃ!)

 

 既に頭の中では方針が定められていた。

 助けない、という選択肢はハナから存在しない。

 

 しかしその衝動を縛り付けるものがみほには多すぎる。

 副隊長としての責務、フラッグ車の車長という重要な役目。

 自分がここを離れることがなにを意味するか。

 戦車道の名家に生まれ、たゆまぬ鍛錬を続けてきたみほには『その後に起きることが』ありありと脳裏に浮かぶ。

 

 しかし、それもみほの激情を止めるに至らない。

 決断したみほは戦車のハッチを開き、すぐにでも助けに行こうと身を乗り出した。

 

「待った」

 

 それを引き止めたのは、万力のごとき握力の 物理的足かせだった。

 目線を送れば、自分の足首をガッチリと掴むのは、みほの最も信頼する人物だ。

 

「みほ、なにをしようとしてるんだい?」

「……エミさん、私みんなを助けに行かなきゃ!」

「君はフラッグ車の車長だぜ? それがどういう意味かわからないほど愚かでもなかったはず」

 

 みほの心を縛っていた鎖をズバリ指摘され、言葉が詰まる。

 一度は振り払ったそれが再びまとわりついてくる。

 そうだ、この選択にはとてつもなく重い責任がのしかかってくるだろう。

 それでも、それでもみほは己の思いを無視したくなかった。

 落ちた彼女たちを救わないという選択肢を絶対にとりたくなかった。

 そんなのは嫌だ、子どもじみた感情を無視したら絶対後悔することになる。

 ……否、そこまで深く考えてはいない、ただ助けたい、それだけだったしそれで十分だった。

 

「わかってるよ!! でも、みんなを見捨てて勝ったってそんなの!!」

「……まったくみほは、君は本当にそういう子だよね」

 

 みほの言葉に苦笑を浮かべたエミは、グンっとみほの足を思いっきり引っ張った。

 わあと体勢を崩したみほをそのまま抱きかかえて座席に押し込むと、パンツァージャケットを脱ぎ捨てたエミが代わりにハッチを開き身を乗り出す。

 

「だから私が行く!装填手ならまだ影響も少ないさ。 君たち、みほを頼んだよ!」

「え? エミさん? エミさん!?」

 

 叫んだ時には既にエミは大雨の中に身を投じて、あっという間に濁流の中に飛び込んでいた。

 必死で呼び止めようと体を乗り出して、しかし通信手が腰にしがみつき阻止してる。

 

「離して!エミさんが!」

「エミは! 私たちに貴女のことを託したんですよ!?」

 

 その言葉に、ざぁっと心に冷や水を浴びせられたような気分になった。

 

「車長のあなたがいなければ我々の動きは一気に鈍ります、装填手のエミさんなら火力は大幅に下がりますが逃げることはできる! 」

「で……でも!」

「私たちはあなたに責務を全うさせなきゃいけないんですよ、エミさんの覚悟を無駄にしないで!!」

 

 同乗者の叫びに、みほはヘタリと崩れそうになって、ハッチのヘリにしがみついてなんとか保たせた。

 だが胸の内では、川の濁流のように濁った感情がぐるぐると渦を巻いている。

 

 エミは、ある意味自分より密度の高い戦車道の経験を積んできたはずだ。

 その彼女なら、ここでフラッグ車から離れるなどという無責任な行動をすればどんな批判を受けるかはわかっていたはずだ。

 

(エミさんは……私の代わりに……)

 

 視線の先では、エミの小さな体が濁流を切り裂き沈みゆく戦車に取り付く姿が見えた。

 

 行きたい、でも、行けない。

 エミの言葉がみほを戦車にがんじがらめにしてしまった。

 

(か、勝たなきゃ、勝たなきゃ、勝たなきゃ!! 早く勝って、みんなを、エミさんを助けに行かなくちゃ!!)

 

 縛り付けられた頭の中に焦りが満ちる。

 冷静さを失った車長の駆る戦車にまともな連携など期待できるはずもなく、そしてその好機を逃すほどプラウダの練度は低くない。

 

 史上稀に見る大乱戦が勃発し、その果てについに、黒森峰は敗退した。

 十連覇を目前に起きた惨劇、その責任追及の矛先が向かったのは、当然というべきか発端である天翔エミだった。

 

 

 

「まいったね、どうも」

 

 自嘲するような口調に、以前のような快活さは少しもなくて、みほはまた俯いた。

 すぐそばにはエミがいて、そしてエリカがいる。

 黒森峰高等部の校舎の、人目につかない場所に3人は集まっていた。

 

「まるで犯罪者に対するそれだ。 まぁ私のしでかしたことを考えれば仕方ないけれどね」

「でも、元はと言えば私があんなことを言い出したから……」

「みほが言わなくても私は動いてたさ。 間違いない。 ほらなんだって私は直情バカだから」

 

 エミはみほの言葉を遮って、あくまで自己責任でやったことであると押し通す。

 誰にとっても都合がいい言葉だ、みほがなんと言おうと誰もがエミを責めるだろう。

 黒森峰の多くの人間は、今やエミに敵意を抱いている。

 例外なんてそれこそほんの一握り、それにすら満たないかもしれない。

 

「……エミ、しばらく学校に来ない方がいいわ。 今の状態じゃ授業だって戦車道だってまともにできる環境じゃないでしょ」

「時間が解決するような問題でもない」

「……」

 

 エリカの提案もすぐに却下する。

 エリカだってそれがその場しのぎにすらなっていないとわかってはいたが、エミがこれ以上傷つけられるのは見たくなかった、優しさからの意見だ。

 しかしそれも本人が否定してはどうしようもない。

 

「でも、どうすんのよ。 このまま耐え続けたってきっとなにも良くならない、なら逃げたって」

「それはその通りだけれどね。 今は私はこうして矢面に立ってる方がいいと思うんだよ。 ほら、落ちた戦車の子達やフラッグ車の面々にまで飛び火したら目も当てられないじゃないか」

「人の心配してる場合じゃないでしょう! あなたがこれ以上ひどい目にあうの、見てられないっつってんの!」

 

 エリカが詰め寄っても、エミは何時ものように苦笑を浮かべるだけで、しかしその顔にいつものような明るさはなく、ストレスによるものかくっきりとクマまでできている。

 

「でもねエリカ、真面目な話逃げたくても逃げられないと思う」

「……なんでよ」

「思ったより随分と大事になってるだろう? OBやら黒森峰に根深い西住のお偉いさん方やらがかなりおかんむりらしくて逃げようにもどこに逃げればいいのやら。 もしかしたら西住流から直接呼び出し受けるかも」

「っ」

 

 西住の名前が出るとみほは肩を縮こませた。

 みほ自身、既に自分の母から痛烈な咎めを受けたばかりだ。

 トラブルがあったとはいえ決勝戦での動きはなんなのかと、静かに、されど恐ろしい圧の母の言葉にみほは身じろぎすらできなかった。

 

 もし、それが元凶となってしまったエミに向けられればどうなるか。

 考えたくも、ない。

 

「……っと、噂をすれば」

 

 その時、エミの携帯が鳴り響く。

 表示された名前を見て苦々しい顔をしたエミは、一拍おいて通話ボタンを押す。

 

「もしもし……えぇ、はい。 ……えっ? ……そう、ですか」

 

 表情が一気に歪んだ。

 そして彼女らしくない裏返った声に、よくないことを告げられたのだと察する。

 沈んだ声で通話を切ったエミに、エリカは尋ねた。

 

「なんて、言われたの?」

「うん、西住しほさんがこちらへお越しになるそうだ」

 

 空気が、今度こそ死んだ。

 

 

 

 

 

「これまでに散々問われたとは思いますが今一度聞きます、あなたは自分のしでかしたことを理解していますか?」

 

 完全に凍てついた雰囲気の中で、それこそみほにとって閻魔といってもいいほどの畏れの対象、西住しほが静かにそう切り出した、

 

「自分なりには、ですが。 私の勝手な行動で黒森峰の看板に泥を塗ったことは理解しています」

「そして黒森峰と繋がりの深い西住流の名にも、ね。 師範代たちはひどく怒ってらっしゃいました。 ことはあなたが考えるよりはるかに重大です」

「はい。 謝って済む問題ではないとはわかっています。 お詫びの言葉もございません」

 

 自分の母に深々と頭を垂れる小さな友人を見て、同席したみほはたまらず身を乗り出した。

 

「まって、あれは私が──」

 

 遮ったのはエミだった。

 目を見開き潤ませるみほを宥めながら下がらせて、再びしほへと向き合う。

 

「私がやったことは、言い逃れることは叶わない愚行でした。 多くの方々にご迷惑をおかけしまして、西住流本家の方にまでご足労をかけてしまい……」

「あなたはわかっていたはずよ、あの場であのような行動に移ることがどれだけのリスクを伴うか。 あなたの経歴は調べさせてもらったわ。 幼少の頃より戦車道にいそしみ、なかなかの成果もあげていました。 あなたにわからないはずはなかった、なのに、なぜ?」

「……」

 

 しほの厳しい追及にエミは少しだけ目を伏せて、そして、言ってのけた。

 

「友を見捨ててまで勝ちを拾いに行くなど、私の望むもの(戦車道)ではない、そう思ったからです」

「!」

 

 

 

 

 

「……」

「エミさん……」

 

 学園艦の右舷側に位置する海が一望できる公園で、みほとエミは二人佇んでいた。

 しほが来校して以来ますます元気を失ったエミに、みほはなんとか元気付けたくてそばにいたが、結局何もできず己の無力さを嘆くばかりだった。

 

(私はずっと助けてもらってたのに、エミさんを助けてあげることができない……)

 

 情けなさに泣きそうになってくるみほを尻目に、海を眺めていたエミは唐突に呟いた。

 

「みほ、私ここを出て行こうと思う」

「──────え?」

 

 一瞬何を言われたのか理解できなくて、みほは自分の脳を、耳を疑った。

 顔を上げれば、エミがその飴色の瞳でこちらを静かに見つめている。

 

「私なりに考えたんだけどね、今私がここにいてもみんな苦しい思いをするし、私自身も前に進むことができない。 だから、黒森峰を離れて……しばらく戦車道もやめて、自分を見つめ直してみようと思う」

 

 絶句、するしかなかった。

 エミが、黒森峰を去る。

 そして、あんなに一途だった戦車道を、止める。

 

 その言葉が、深々と自分の胸に突き刺さって、みほの心を抉る。

 

「急にごめんね……まぁ、ちょっと先の話だけど、みほにはなるべく早く伝えておきたかった」

 

 なんで、どうして。

 そんなことを言おうとしても、声が喉から出てこない。

 呆然とするみほにエミは寂しそうに微笑みかけて、みほの手をぎゅうと握る。

 

「私がいなくなっても、みんなと仲良くね。 みほなら、私がいなくても大丈夫」

 

 

 

 じゃあね、と言って去っていくエミの背を見つめながら、みほは自問する。

 なぜ、どうしてこうなった? と。

 

 自分のせいだと、すぐに思った。

 自分があんな感情のままに動こうとしたから、庇った彼女が自分の代わりに苦しむ思いをするのだと。

 

 みほは悔やんだ、そして嘆いた。

 なぜ、彼女がこんな目に遭わなければならないのか。

 全身全霊をかけて臨んでいた戦車道を離れ、やっとの思いで入学できたという黒森峰を離れ、そしたら彼女には何が残る?

 

 もし自分が彼女の立場だったら、どんな気持ちだっただろうか。

 

 

 

 みほは、決意した。

 自分が彼女を守らねばならない。

 今までずっと自分を支え、守ってきてくれたエミが今は全てを失って、苦しんでいる。

 ならば、自分が全てを賭して彼女を守ると。

 例えどんな手段を用いても必ず彼女を害する全てから守ってみせるとみほの心はケツイで満たされる。

 

 ミホは携帯を取り出し、とある番号へ電話をかける。

 恥も外聞もない、頼れるものは全てを頼ろう。

 

「お父さん、大事な話があるの」

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 今日は戦車道の訓練が終わった後秋山優花里殿とたまたま二人きりになる機会があったのでそこでたっぷり雑談をした。

 もともと同じ装填手なのでその話題も弾んだが、秋山優花里殿が本当に楽しそうに戦車の話をするので俺もつられてかなり話し込んでしまう。

 二人でカフェに入り随分と入り浸ってしまった。

 

 いやぁ……本当に可愛いです。

 ついつい頭やほっぺをなでなでしたくなったが俺はナデポ系主人公ではないので我慢した。

 ていうそんなこと軽率にしたら秋山殿ファンの皆様にズタズタに引き裂かれてしまう。

 そもそもエミゆかなんて誰も望んでいない。

 あんたもそう思うだろ?

 

 ──月──日

 

 みんなでショッピングだ!大洗たのちぃぃぃぃ!!!!

 実は大洗に来るのって最初は心理的に抵抗があった。

 ほら、俺歴史改竄して結果的に大洗の廃校にかなり加勢することになりかねなかったわけだし……

 

 しかしきてしまえばそんな想いは吹っ飛んだ。

 戦車道所属の中でも仲の良いメンバーと一緒に買い食いしたり駄弁ったり。

 黒森峰でもみぽりんやエリカたちと遊んだりはしてたけど、なんというか大洗は黒森峰と空気が違う、緩いというかなんというか。

 転生してこちらずっと張り詰めた生活してたからこんな言ったりするのは久しぶりだった。

 色々と課題は山積みだが、楽しめる時は楽しむことにしよう。

 あぁそれにしても秋山優花里殿がかわいい。

 

 ──月──日

 

 今日は日記を書く時間をなかなか確保できなかった。

 みぽりんがずっとあすなろ抱きして離してくれなかったのだ。

 そういうのはエリカにやってください。

 拗ねたような表情されても困ります……私離れすべきです、そうは思いませんか?あなた。

 

 ……ところでふと思ったんだが、俺もしかしてカチューシャよりも小さかったりしない?

 みぽりんが少し背を曲げないと頭に顎を乗せられないって小柄ってレベルじゃないんですけど。

 カチューシャより背が低いとか聞いたことないぞ。

 

 ──月──日

 

 いよいよ明日は聖グロとの練習試合だ。

 ……のに、みほさんがなかなか寝かせてくれなかった。

 さいきんみぽりんはやたらと拗ね拗ねかまってちゃんモードである。

 何?もしかして俺が秋山優花里殿ばっかかまってるからむくれてるとか?

 まさかな?

 

 ……まさかな(現実逃避

 

 

 




息抜き回なのでとっても軽い話にしました

後まさかとは思いますけど最初の「ウチの戦車が!」でペニーワイズを思い出したそこのあなた、腹筋100回です


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TANK SOUL ITUMIELIKA OF THE ABYSS EDITION ★

いつも「俺はみほエリを見たかっただけなのに」をご愛読いただきありがとうございます。
今回のアップデート内容をご案内致します。

・タグに『精神的NL』を追加
「むしろなんで今までなかったんだ?」
・誤字の大幅修正。
「水炊きシリーズは執筆も大して早くないくせに誤字が多すぎる、廃棄した方がいいんじゃないか?ものすごい誤字脱字報告だぞ」
・みぽりんとエリカの友好度を下方修正
「おいやめろバカ」

・緊急メンテ「入れようと思って入れ忘れてたシーンをねじ込んだ」11/28 22:05


 人間関係というものは構築には多大な時間が要されるのに消え去る時は一瞬だ。

 時には、一切の手心なく、周りの都合だけで本人たちの意思は関係なく切り崩され離れ離れにさせられる。

 電話も、SNSも、返事はない。

 

「どこにいっちゃったのよ」

 

 失って初めて、その大切さに気がつくとは、だれがいった言葉なのだろう。

 その人もきっとかけがえのない何かを失って、その悲しみを他の人に味わわせたくなくて教訓としたに違いない。

 

 引っ込み思案で、そのくせ戦車道にはだれより長けていた彼女は、なぜここから去ってしまったのだろうか。

 こんなとっつきづらい性格の自分にもぐいぐい迫って、あっという間に輪に加えてしまう強引な彼女は、どこにいってしまったんだろう。

 

「私だけ、置いていかないでよ」

 

 部屋の中は暗く静かで、かすれるような声すらもやたらに響く気がした。

 それが異様に煩わしくて枕に顔を埋める。

 

 最近は、あまり眠れていない。

 

「はやく寝なくちゃ。」

 

『後任の』副隊長として就任して、周りに侮られているのは知っている。

『逃げた』とされた二人と特別仲が良かったとみられていた私に所詮は同族と蔑む奴らもいる。

 

 そいつらを、全員黙らせなければならない。

 

「私が、証明しなくちゃ。」

 

 エミは間違ってなんかなかった。

 みほは何も悪くない。

 それを証明するために、私の力で邪魔する奴らをみんな蹴散らさなきゃいけない。

 

 そのためには実力が必要なのだ。

 だれもを黙らせ従わせるだけの力。

 

「……なんで、返事くれないのよ」

 

 でも、私はそんなに強くない。

 離れ離れになった大切な友達が、たまらなく恋しかった。

 

 

 

「エリカ、近頃顔色が悪いぞ。 無理をしていないか」

「大丈夫です、隊長」

「……そうか。 大会は間近だ、体調管理はしっかりしろ」

「わかっています」

 

 戦車道全国大会のトーナメント抽選会。

 そこに訪れた参加者たちの中には当然黒森峰の隊長と副隊長であるまほとエリカの姿もあった。

 しかし、両者ともその表情は浮かないものだった。

 特にエリカの目元には深いクマが刻まれ、顔色も到底良いとは言えないもの。

 それを心配しても踏み入らせてもらえないまほもまた顔を曇らせている。

 

 エリカの心労の原因は多岐にわたるが、特に大きな要因はまほにもわかっている。

 特にエリカと仲のよかった二人、みほとエミの二人が突如として黒森峰から姿を消したことに違いないだろう。

 まほから見ても3人はとても仲が良かった。

 中心となるのはエミで、彼女に引っ張られてみほもエリカも笑顔を絶やさなかったものだ。

 例の事件の後も二人はエミから離れず友人としてあり続けた。

 

 そんな親友とも呼べる間柄だった二人がある日いきなり転校したなどと聞かされて平静を保てるはずはないだろう。

 それでもエリカは腐らずに努力を重ね、二年生の身でありながら副隊長の席につくほどの実力をつけていた。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に、会話はなかった。

 エリカはまほに気を払うことすら忘れるほどに苛立っていて、まほもそれを察して刺激したくなかったのだ。

 原因は、抽選会の場に立った、大洗の制服をまとった西住みほ。

 それを見てからというもののエリカの機嫌は下降する一方だ。

 

(何を考えている、みほ……)

 

 まほもまた、その無表情の仮面の下に動揺を覆い隠していた。

 まほとて気にならないはずもない。

 最愛の妹が突然自分から離れて、そして別の学校で隊長を務めているなどと。

 

 それを、追求する勇気もまほにはない。

 まほは、エミを庇わなかった。

 立場上それができないということはだれもがわかっていただろうが、そんなのは所詮言い訳に過ぎない。

 みほの親友を見捨てた情けない姉、そんな楔がまほを縛り付けて、抽選会の場ではみほの元に行くことはできなかった。

 

(……このままでは、試合に影響があるな)

 

 到底コンディション良好とは言えない状況だ。

 伝統ある黒森峰隊長として今年は優勝を勝ち取りたいという思いがまほにはある。

 しかし隊長を務める自分たちがこのざまでは……

 

「エリカぁ!!」

 

 聞き覚えのある声が、響いた。

 

「!?」

 

 弾かれたように振り向くエリカと、少し遅れて首を回すまほ。

 その視線の先には、かつてとは違う制服をまとった、あの小さな少女の姿。

 

「良かった……見つけられた……」

「エミ……?」

 

 掠れた声で、エリカが彼女の名を呼ぶ。

 小学生ほど小さい少女はうっすらと額に汗を浮かべながらも、柔らかく微笑んで、そしてエリカの手を握る。

 

「ごめんね、話したいことがたくさんあるんだ。 エリカもそうだとは思うけれど、まずは私の話を聞いてほしい」

 

 呆然としながらその言葉に頷くエリカ。

 エミの目がチラリとまほの方を向いて、その瞳は確かな意思を伝えてくる。

 

「……久しぶりだな、エミ。 何やら大事な話らしい、落ち着ける場所に移ろうか。 確かあちらに戦車喫」

「向こうに小洒落たカフェがありますよまほ隊長!! そちらでいかがですか!?」

 

 鬼気迫る表情のエミに、まほは、怯んだ。

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 実の所、この俺天翔エミと聖グロのダージリンの間には因縁と呼ぶべきものが存在しちゃったりする。

 と、いうのも。 俺がまだ黒森峰中等部に所属してた頃、練習試合なり大会なりでそれなりに聖グロと戦うことも多かったわけだがなんでかその度にまだダージリンじゃなかった頃のダージリンと激突することになったからだ。

 そしてさらになんの因果か、大抵の場合その一騎打ちは『連射力』の差で一枚上回り勝つ事が多かったのだ。

 当時の時点では俺の装填手としての実力は黒森峰の中でも頭一つ抜けており。

 他の戦車が三発撃つ間に俺の戦車は四発撃つ事ができた。

 FPSなどをやった経験からもわかるが連射速度はとても大事だ。

 そしてその連射速度を一気に引き上げる俺は戦車の瞬間火力を上げる事ができる逸材だったわけだ。(今ではスタミナ以外はそこまで差がないまで落ちぶれたがな!!)

 

 そんなわけで時の運となぜか俺の装填手としての力量があわさって毎度毎度出会うたびに戦ってはぶっ飛ばされたダージリンは、俺にものすごいライバル意識を抱いているのだ。

 ……装填手の差で勝負が決まるって相当なレアケースなのになんでこんなことに?

 

 そしてなぜこんなことをつらつらと書いているかと疑問に思った未来の俺、これはssの都合上記せざるを得なかったものと理解しろ。

 まあとにかく、なんでこんなことを書いたかというと練習試合の聖グロが本気で潰しにかかってきた原因であるからだ。

 試合前の挨拶でみぽりんを見たダージリンは原作通りの反応をして、一方俺を視界に収めると髪の毛を逆だたせた後に不敵な笑みを浮かべてからメラメラメララとその瞳に闘志を燃やし始めた。

 まぁ、つまりなんだ、原作より厳しい試合になったってわけだ。

 無論俺だって黙ってたわけではなく、本当に珍しく原作知識を利用して会長を最初から砲撃手に据えた。

 これは簡単に可決された、なぜなら普段の様子からして桃さんの砲撃手適性は俺の車長適性ほどではないにしろひどいものだとみんなわかっていたからだ。

 なのでカメさんチームは通信手兼装填手が俺、砲撃手を会長に、操縦手を柚子さんに、そして車長に桃さんを据える編成と相成ったのである。

 地味に原作改変だが俺だって負けるわけにはいかなかったし(将来的に追い抜かれる可能性が高いが)俺の方が桃さんより装填手として高い技量を持ってたのだから仕方がない。

 戦車道はなあ、スポーツなんや!!それにみほエリのためにも絶対に強くならねばあかんのや!!

 だからこそ、最適な役割配置は必須なんだ!!!

 

 で、結果から言うと原作のように負けました。

 変わった点といえばカメさんチームが一輌相手を撃破したくらいで、結末は同じでしたとさ。

 あんこう踊りは楽しかったです。

 だからみぽりん、会長をそんな目でみないでよ。

 俺は辛くないんだからさ。

 

 で、その後の自由時間で俺はどうしても行ってみたいとこ等があったので一人市内を探索する。 おめあてはズバリボコミュージアムだ。

 しばらく探すと普通に見つけたので最近は不機嫌気味なみぽりんに適当なお土産を見繕うことにした。

 

 ……はい、遭遇しました、彼女と。

 

 

 ──月──日

 

 たった五輌の戦車が根こそぎぶっ壊れたためフル稼働中の自動車部に赴き、差し入れを渡して協力を申し出た。

 甘味の山に目を輝かせ俺の怪力にはしゃぎ倒す自動車部の面々は本当に可愛らしい。

 ナカジマちゃんに実際どれくらいのパワーがあるのかと質問されたため、とりあえず垂直で2メートルほどジャンプしたり壁を走ったり戦車砲弾でお手玉したりしたらものすごく盛り上がった。

 

 ……自分でやっといてなんだけどこれを平然と受け入れるのはどうかと思うんだよ。

この写メみても合成を疑うレベルなのは実際明らかである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ──月──日

 

 最近の登校は麻子ちゃんを背負いみほと談笑しながらというパターンがすっかり定着した。

 そどこさんに頻繁に叱られるけれど見捨てられないよこれは。

 麻子ちゃんは割と真剣にあんこうチームで最も重要な人物でもあるし、可愛いからついつい甘やかしてしまう。

 しかし自分より小さい俺に背負われるのは割と屈辱なのか一人で登校する努力も前よりはわかりやすくなった。

 近いうちに、戦車道のおかげで血行が良くなって少しはマシになるだろう。

 スゴイね、人体。

 

 

 

 

 

 ──月──日

 

 ついに全国大会の抽選会の日だ。

 多分相手はサンダースだろうと思ってたらやっぱりサンダースだった。

 そのあと俺はあんこうチームに戦車喫茶に誘われたが、それをやんわりと断る。

 

 そう、今日ばかりは俺はのんびりしてはいられない。

 あの日以来連絡を取れなかったエリカに会わなければならないのだ、戦車喫茶にたどり着かれる前に。

 

 結論から言うとエリカを捕まえて話をすることには成功したが、みぽりんとエリカの中は悪化した。

 

 どんどんみほエリの夢が遠ざかっていく。

 そろそろこの世からピロシキ〜することも算段に入れなければならないだろう。

 全国のみほエリ好きーさんたちごめんなさい。




今回はネタも少ないし書くことがないな。
なので作者の好きなキャラを晒します、カチューシャです。


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Panzer tale

度重なる失態を重くみた上層部は水炊き二号をドブに捨てて新たに焼きかぼちゃプリンを執筆にあたらせます。
彼はもっと美味くやるでしょう。
今までで一番ガバガバだけどどうかマジレスはなるべく勘弁してほしい、なぁ、わかるだろう?同じリンクスじゃないか


 案内されたカフェは、清潔で落ち着きのある色合いだった。

 まほとしてはこういう雰囲気の店は好みなのだが、いかんせん華の女子高生が談笑をするにはいささか堅苦しくはないだろうか、という思いも抱く複雑な気分だ。

 

 ひとまず3人はカフェの奥側の四人がけのテーブル席に案内される。

 エリカとまほ、対面にはエミという席順だ。

 エミは適当に紅茶を注文し、エリカとまほはコーヒーを頼む。

 

「さて、まずは改めて。 お久しぶりです、隊長、それにエリカ」

 

 ぺこり、とその小さな頭を下げてきたエミに、まほも小さくあぁと返事をした。

 再び顔を向き合わせて、まずエリカが口を開く。

 

「どこに行ってたのよ、エミ。 なんども電話したのに全然出てくれなくて、副た……みほも、そうで」

 

 言葉尻がみるみる小さくなっていくエリカの姿にエミは眉を落とした。

 

「そのことで私はエリカにたくさん謝らなきゃいけないね。 順を追って説明するよ、まずなぜ私がいなくなったか……。 私が黒森峰を去る前に、エリカに変なこと言ったのは覚えてる?」

「……みほを頼むって」

 

 その言葉にまほは目を見開くが、話は続く。

 

「うん、その時にはもう、私は黒森峰を出ていくことを決めていた。 そこはなんとなくわかってたと思う」

「そうね、だから私は思わずつめ寄っちゃったわけだし」

「うん……で、その後にちょっと予想外の事態が起きた。 みほにもその話をした次の日なぜか私はみほと一緒に引っ越すことになってた」

「んォ?」

 

 今ちょっと会話の筋がねじれたぞゥ?

 若干混乱したまほは動揺のあまり声が喉から溢れでて、エリカは脳みそが一時停止。

 

「その反応も仕方ないよ、私も訳がわからなかった、頭がどうにかなりそうだった。 ただ、とにかくみほは一晩で話をまとめあげて私ごと別の学園艦に引っ越す計画を完成させていた」

「えぇ……」

 

 長年一緒に暮らしてきた妹の初めて知ったアクティブさにまほは頭痛を覚えた。

 他にやりようはいくらでもあるだろうと呟きたくなる、我慢。

 注文の品がきたので一口、苦い。

 

「なに、それ…… だから揃っていなくなって」

「うん、だから今は同じ大洗学園艦でど、ゲェッホゴッホ!! う、う"ぅん!! ルームシェアしてるよ」

 

 明らかに同棲といいかけたがまほはスルーした、なぜならエミの表情に喜色は少しもなかったからだ。

 姉としてどう謝ったらいいだろうか。

 しかしエリカはそんな素っ頓狂な話すらも大げさに捉えていたようだ。

 

「なによ、なんで私に相談の一つもしないで」

「エリカには本当に悪いことをした。 私があんなこと言っておきながらまさかみほごとどこかに行くなんて確かに酷い話だと思う」

「で、でも。 なんで二人とも電話にもSNSでも返答してくれなかったの? メールアドレスは、変わってたし……」

「それについてはガバッガバな理由があってね、携帯は番号ごと新しいのにされたんだ」

「された」

「うん、その……引っ越しに協力してくれた人が用意してくれたんです」

 

 言葉を濁すエミにまほはなんとなく嫌な予感がした、まさかとは思うがまた自分の身内が関わってやしないだろうかと。

 

「で、これ新しい携帯なんだけど……エリカ、番号を交換しよう」

「で、データ移行で移さなかったの?」

「古いやつは回収されたよ、パッと。」

「なんで……?」

「完全に破壊して痕跡を消すためらしい。 データ移行の間もなかった……そこまでやるかと困惑したしそこまで急ぐものかと思ったけどなんかもう割り込めなかった」

 

 語彙力が低下し始めたまほにエミもどんよりとしたため息をついた

 

「そしたらもう大変だ、携帯の電話番号なんて逐一覚えてるわけないし、エリカは知らない番号とかアカウントは徹底拒否してるから連絡つけられなかったしみほも合わせててんやわんやだった」

「ま、前のツミッターアカウントを使えば」

「ランダム生成パスワードは覚えてなかったしメモは前の携帯のメモ機能に書いてあった。 今後は物理メモを取っておくことにする」

「……」

 

 沈黙が三人を包んだ。

 いっそ笑い話になるレベルの悲劇、いや多分喜劇に見舞われたエミに対しなんと言えばいいのやら、まほは言葉が見当たらなかった。

 しかしエリカの反応は違った。

 顔をうつむかせてわなわなと肩を震わせている。

 

「え、エリカ、どうかしたか?」

「どうもこうもないわよ……どんだけ心配したと思ってたのよこのバカエミッ」

 

 突如身を乗り出したエリカに肩を掴まれて、びくりとエミは震えた。

 

「私、あなたたちに何かあったんじゃないかって、ずっと、ずっと不安で、心配、で……」

「……エリカ、本当にごめん」

 

 エリカの手をその小さな豆だらけの手のひらでそっと包んだエミ。

 二人の姿を見て、まほはいまだに混乱はおさまりきってないがとりあえずホッと一息つけた。

 エリカを苛んでいた深刻な原因は、これで取り除かれたと思ったからだ。

 

「なんて謝ったらいいか……申し訳ない気持ちでいっぱいだ。 エリカ、どうすれば許してくれる?」

「……許さない」

「エリカ……」

「ちがう、エミじゃない。 みほよ、みほ」

「「えっ」」

 

 二人揃って、震えた声が出た。

 

「エミはもう、流されざるを得ない勢いに飲まれてそこに不幸が重なったってのはわかった。 でもみほは? なんであいつ私に引越しの知らせ一つよこさずエミまで引きずって行っちゃったの? そこがわからない」

「あーーーーーー……」

 

 おそらくその頃のみほは罪悪感とか使命感とか怒りとかそう言うもので埋め尽くされていてエミ関連のことで頭がいっぱいだったのだろう、が、それは言い訳にはならない。

 その後連絡がつかなかったことをエリカは許した、だがそれ以前のことについてはまるで納得していない。

 

「そうよ……そうよ、許せない。 私だけ除け者にして自分はヒーロー気取りでエミを救ったつもり? そんなの納得できるわけないじゃない。 私だってエミのこと心配してて、何かしてあげたくて……!」

「エ、エリカ?」

 

 声が震えていた。

 そんなエミの携帯を素早く奪い取ったエリカは素早く操作しなんらかの情報を盗み取る。

 

「なにをするつもりだい!?」

「直接あの直情女に文句叩きつけてくんのよ!! エミ、あなたが無事でよかった。 でもそれはそれとして私を止めないで。 あのバカに一言言わなきゃ気が済まない!!」

 

 バーーンッ!と立ち上がってエリカは去っていった。

 嵐のような勢いだった。

 カフェの他の客の視線が、痛い。

 

「……出るか」

「……はい」

 

 

 

「すみません、騒ぎを起こしてしまって」

「かまわない」

 

 少し離れた広場で、二人はベンチに腰掛けていた。

 この短時間であっという間に疲労困憊といった有様、密度の濃い時間だったのだろう。

 

「……なんかもう色々とグダグダでしたね」

「そうだな…… うん。 なあエミ、私も実は君に一つ言いたいことがあったんだ」

「え?」

 

 突如として切り替わった話題にエミは目を白黒させて、まほの顔を見つめる。

 

「私はずっと気にしてたことがあった。 私が高等部に上がる時、君に頼んだことを覚えてるか?」

「ええもちろん、二人のこと頼むって」

「うん、それだ。 私は、それで君に大きな重荷を背負わせてしまったんじゃないかと思ったんだ」

「……」

「みほからな、泣きながら言われたんだ。 君はみほの代わりに助けに行ったと」

 

 まほはじっと、エミを見つめてそのことを告げた。

 

「みほはそのことをとても悔いていた。 自分が行けばよかったと、君に罪を背負わせてしまったと。 それを聞いて思ったんだ。 もしかしたら私の言葉が君に重圧を与えていて、そしてみほを庇うためにあの行動に走ったんじゃないかと」

(やっべぇ3歳の頃からの予定通りですなんて言えねえぞこれ)

 

 まほがそっとうつむいて、悲しげに眉をひそめた。

 その顔を、エミは黙って見つめる。

 しばらくの間沈黙が続く。

 

「そのせいで、みほも深い後悔の念を抱いて、それで突発的な衝動に駆られてあんな、その、人さらいのようなことをしたのかもしれない。 私の一言が君たちの人生を狂わせたのかもしれない。 そう思うと……」

「まほ隊長、あなたが悔いるようなことはなに一つありません」

「え?」

 

 エミの言葉に顔を上げたまほは、エミが柔らかく笑っているのに気がついた。

 

「もちろんみほが悔いることも私が悔いることもなに一つありません。 私たちはなに一つとして間違ったことをしてないからです。 それでもこんなふうに離れ離れになってしまった……それは、ただ、間が悪かっただけなのです」

「間が、悪い」

「そう、間が悪い。 私たちを取り巻く環境、私たちの選んだ選択肢、渦巻く作為、それら全てがたまたま悪い方向に進んでしまったんです。 誰も悪くない。 だから気にせず忘れてしまいましょう」

 

 その言葉がストンと腑に落ちて、まほはクスリと笑った。

 そうだ、間が悪い、試合でもよくある話だ。

 一切ミスのない試合運びをしてもラッキーパンチの流れ弾で撃破されるということはたまにある。

 そんなのはもう気にしても仕方がないから運が悪かったで済ますものだ。

 

「エミ、ありがとう。 謝るつもりが慰められてしまうとは、私もまだまだだな」

 

 まほはエミの手を握って感謝を述べて。

 そして、すくりと立ち上がる。

 

「さぁ、エリカとみほを探そうか。 どこぞで大騒ぎでもしてたら大変なことだぞ」

「ええ、いきましょゴッボゴホォッ!」

「大丈夫か!?」

「すみません、少しむせました。 お気になさらず」

「そ、そうか……」

 

 怪訝な目を向けるまほはしかし、すぐに前を向き直る。

 その隙にエミはものすごい量の血をグレーチングに吐き出した。

 エミはまほチョビ信者だった。

 

 

 

 そしてその後二人は盛大に言い争うエリカとみほを見て互いに頭を抱えて、ついでにエミはストレスで胃が裂けそうになった。

 その後のお前たちをぶっ倒してエミを返してもらうというエリカの発言を聞いてエミは目の前が真っ暗になりかけた。

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 みほが離してくれない。

 先日のエリカとの言い争いがよほど堪えたらしい。

 戦車道の練習にも身が入ってないように思える、これはまずいのでは?

 サンダースは強敵なんですよ?

 

 ──月──日

 

 サンダースの偵察に赴こうとした秋山殿を捕まえて二人で行くことにした。

 髪の色が似てるのでサンダース志望の再来年中学生の妹と付き添いの姉という形で真正面から堂々と潜入する。

 サンダースの大量の戦車の山に興奮する秋山殿を引きずって敵戦力のチェックを終えたが見つかってしまった。

 なので秋山殿を抱えて一気に脱出。

 法的には一切問題がなかったのでジッサイアンシンである。

 ジャパニーズニンジャブラボー!アイエエエエエエ!?とか聞こえて少し気分が良かった。

 

 ──月──日

 

 みほさんがいきなりやる気を出し始めた。

 ものすごい熱意だ、そしてものすごいカリスマだ。

 しかしなぜだか素直に喜べないぞぅ!

 

 だが、まず第一に勝たねば話にならないので。

 ここはとにかく勝つためにたとえ俺にとって不都合でもこのみぽりんの熱意は止めないでおきたい。

 俺だって大洗の廃校は嫌だ。

 いざとなったら原作知識を用いてでも勝ちに行こう。

 

 

 

 

 ──月──日

 

 サンダースとの試合に勝った。

 しかし原作知識がまるで役に立たなかった。

 まず第一にみぽりんが敵の無線傍受を看破するのが早すぎた、初っ端の会敵時点で気がつくのは流石にはえーよホセ。

 その結果早速メールを使った偽情報を流す戦術を用いたわけだがそちらも逆に敵に早めに看破される。

 そこからはもう、しっちゃかめっちゃか。

 みぽりんの策と敵の策が盛大にぶつかり合い俺はもう弾を込めるしかできなかった。

 

 視聴率実に25%。

 白熱した試合だった、と言っておこう。

 みんなヘトヘトだった。

 

 それと、サンダースでの俺の呼称はもうニンジャで確定してしまったらしい、是非もないよネ。

 

 試合後に麻子ちゃんのおばあちゃんが倒れたという連絡を受けて、そして原作通りヘリを使わせてもらうイベントが発生。

 むこうは任せるしかないだろう、明日はお見舞いに行かなければ。

 

 次の試合はアンツィオ。

 OVAでも名勝負を繰り広げた強敵だ、油断できない試合になるだろう。

 個人的にもアンチョビはとてもかっこよくて可愛い魅力的なドゥーチェだったので是非とも会って話がしたい。

 

 しかしなぜだろう。

 アンツィオ戦は詳しく書かずにさらっと飛ばしたほうがいい気もするのだ。

 きっと君もそうなるだろう。




まほ「すがすがしい日だな、外は。小鳥は歌い、花は咲き乱れ…こんな日こそ、お前のような子供には…百合の業火で焼かれてもらおう」

あなたは背後に 百合が咲き乱れるのを感じた


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撃たれるもの 偽りの仮面

まんまと騙されてくれたな。
このssをみほエリじゃなくしたのはこの俺さ、そうとも知らずおめでたい野郎だ。
まあ安心しな、すぐにゆっかゆかにしてやるよ。


 彼女はすごい人だと、常々思わされる。

 

 まず彼女は、他の誰よりも努力家だ。

 朝晩のトレーニングメニューを見たときは目を疑ったし、それをあの小さな体でちょっとの弱音も吐かずに続けている。

 そして、その自分の努力を誰かにひけらかしたりしないし押し付けもしない。

 ただただ当たり前のこととして、過酷で孤独な鍛錬を続けている。

 

 次に知識の深さだ。

 名門の黒森峰所属なだけあって実戦に関する様々な知恵を持ち、それを初心者の集団だった私たちにも惜しげもなく与えてくれる。

 機体の性能や外観の特徴などなら負ける気は無いが、実戦経験の差ばかりはまだまだ縮まることはないだろう。

 

 そして身体能力。

 あの小さくて華奢な体のどこにあんな馬力があるのか不思議なほどに力持ちだ。

 さながらL3にマウスの、いや、あそこまで行くと最早列車砲のエンジンを積み込んだかと思うほどの出力だ。

 砲弾を軽々と持ち上げ履帯の修理では誰より動き、そしてそんな馬力を長々と発揮し続けられる驚異的なスタミナも見逃せない。

 

 でも、何よりも彼女の一番の魅力は、あっという間に人と人を結びつける力だと思う。

 練習試合を始めた頃はまだまだ全員チームワークも何もあったものじゃなかったけど、その後みんなは見る見る内に結束が強まっていって、そしてその輪の中にはいつも彼女がいる。

 

 西住殿が彼女を深く信頼しているのも当然だと思う。

 あれほど魅力に溢れる人物のそばにいれば、それから離れがたくなると思うのは誰しも同じだから。

 自分も例外じゃない。

 同じ装填手として話すことが多いのだが、その度に彼女に惹かれていくのがわかる。

 

 戦車道を始めて、ついにできた友達。

 今までの人生とは比べ物にならないほど彩られた日々に私はすっかり有頂天だった。

 そんなある日、私は天翔殿から誘いを受ける。

 

『今日はウチでいっしょに黒森峰の試合を見ないかい?』

 

 曰く、古巣の黒森峰での試合の映像をコピーしたDVDを披露してくれるらしい。

 一も二もなく私はそれに飛びついた。

 

 

 

「まぁ座ってよ。 麦茶入れるね」

 

 何度か訪れたことのある、西住殿と天翔どののシェアルーム。

 2人で住むにはやや狭い間取りだけど、この窮屈とも言える空間がいやに心地よい。

 もしかしたら、自分の部屋と雰囲気が似てるからなのかもしれない。

 少しして戻ってきた天翔殿は、氷の入ったコップと麦茶のピッチャーを持ってきた。

 

「最近はますます暑くなってきた、戦車に乗るのが憂鬱だ」

「天翔殿でもそういうのは感じるんですか?」

「もちろんだ、夏場の戦車の中は長居していい環境じゃない。 会長と相談して、塩飴やスポーツドリンクの配備を徹底させないとなあ」

 

 カランコロン。

 グラスと氷のぶつかり合う音はなんとも心地よい。

 そこに注がれる半透明な飴色の麦茶。

 夏の到来を実感させる光景だ。

 

「一息ついたらDVDをつけよう。 我が校が優勝するためにも黒森峰との戦いはまず避けられないからしっかり研究しないとね」

「それにしても西住殿は残念でしたね、いっしょに見たかったのですが」

「一体なんの呼び出しを受けたんだろう、たいそう悔しがっていたけれど」

「それが話してもらえなくて……」

 

 冷たい麦茶で喉を潤していると、会話が弾んだ。

 話し上手で聞き上手な天翔殿との会話は、ちょっと油断するといつまでも続けてしまうから大変だ。

 他愛もない話を続けていると不意に着メロが鳴る、自分のではない。

 

「おっと、誰かな…… あぁ?」

 

 少し驚いた、普段の彼女とは随分と様子の違う声色だ。

 それに気がついたのか天翔殿は少し気まずそうな顔をする。

 

「ごめん、少し外で電話してくるよ。 待っててくれる?」

「あ、はい」

 

 ありがとうと言って天翔殿は慌てて玄関を出て行った。

 ぽつん、と、取り残される私。

 

「……んー」

 

 手持ち無沙汰だし、人の家に自分だけというのが無性に落ち着かなくて、なんともなしに部屋の中を見渡してみる。

 

 それが目に付いたのは、偶然だった。

 

「……あれは」

 

 天翔殿の机の上は、なぜだか妙にボコのぬいぐるみが敷き詰められている。

 西住殿の影響とはいうが本人はストラップやグッズを普段使ってはいない、たぶんそこまで気に入ってるわけじゃないんだろう。(その扱いもあるいはボコらしい(・・・・・)のかもしれない)

 しかしそれらではなく、テーブルの上に置かれた角の擦り切れた分厚い本が気になった。

 

 なんの本だろう。

 無性に心を引きつけるそれを、なんとなく手に取ってみる。

 天翔エミ、と白い部分に書かれたこれは……

 

「日記、ですかね?」

 

 これはまずい、早く戻そう。

 人の日記を覗き見るというのはあまりにも酷い。

 常識としてありえない行いだ。

 

 ──とは、思うのだが。

 

「……少しだけ」

 

 好奇心に負けてしまって、私はページを開いてしまった。

 普段から天翔殿が怒ってるどころか苛立ちを見せたところすらほとんど知らなかった私は、万が一バレても彼女なら許してくれるという甘い考えを持っていた。

 

 だからその日誌を開いて、書かれている内容を背徳感とともに読み進めてしまう。

 

 

 〜〜月〜〜日

 

 今日から日記をつけることにした。

 念願の黒森峰に入学した記念でもある。

 張り切って5年日記なんてものを買ってしまった。

 在校期間は6年間だから十分に埋められるだろう。

 将来これを見返して、悶えたり、懐かしがったりして、でも悲しくはならないような内容で埋められるといいな。

 

 地元では友達ができなかったけど、ここならきっと私でも仲良くなれる人ができるはず。

 

 

 

 私は驚いた。

 普段から物怖じせずあっという間に誰とでも仲良くなれる天翔殿が、昔は友達がいなかったとは想像できなかったからだ。

 

 

 

 〜〜月〜〜日

 

 やっぱり黒森峰はすごい。

 多くの人が戦車道に深い理解を持っていて、戦車道を履修した人は当然もっとすごい。

 これなら、戦車道しかやってこなかった私でも友達ができて、昔よりずっといい試合ができるにちがいない。

 

 

 〜〜月〜〜日

 

 どうやら、私はここでも変わり者だったらしい。

 そもそも背丈の小ささで目立つ私はその小ささゆえに戦車道履修者としては軽く見られがちだったけど、名門校だからこそその風潮は強いみたいだ。

 それに、話題も合わない。

 昔から私は勉強とトレーニングしかしてこなくて、周りからきみ悪がられてたし、話も合わなくていつも輪に加われなかった。

 ここでも、ダメなのかな。

 

 

 

 なんだか、自分を見ているような気がして心細さに私は震える。

 そんな共感を抱いてしまうと、もっともっとと急いてしまう、もう止まれない。

 

 

 

 〜〜月〜〜日

 

 今日、ついに友達ができた。

 西住みほさん。 勇気を出して声をかけた甲斐があった。

 みほさんは急に話しかけた私を、追い払わずに接してくれたいい人だ。

 とても嬉しい、でも、焦りすぎて嫌われないようにしないと。

 

 

 

 そこから、日記の内容は一気に華やかになっていく。

 どんどん友達が増えていくこと、自分の力を存分に使って周りが評価してくれること、初めて友達との買い物なんてことをして、どうすればいいかわからなくて笑われてしまったこと。

 そして、戦車道大会で優勝してみんなで喜びを分かち合ったこと。

 

 眩しい、眩しい日々だ。

 日記はたまに日が空きつつもハイペースで書き続けられている。

 私は自分のことのように嬉しくて、それで最近はどんなことが書かれてるのかと気になって一気にページを飛ばす。

 

 

 ぜんぶなくなっちゃった

 

「ヒッ!」

 

 私は、日記を取り落とした

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 今日は秋山殿と一緒に黒森峰戦のDVDを視聴したのだが明らかに秋山殿の様子がおかしい。

 こちらを涙ぐんだ目でチラチラと見て、話しかけようとしてはやめてを繰り返して明らかに集中できてなかった。

 

 うん、たぶん、これはあれだな

 

 見られたな!ダミー日記!!

 

 机の上に置きっぱなしにしてたからね、仕方ないね。

 そりゃ気になっちゃうよね、誰だってそうなる俺だってそうなる、だから追及はせず放置した、時間が彼女の罪悪感を癒すだろうし長引くようなら俺の方からフォローしよう。

 

 しかし、みられたとなるとちょっとアレだな。

 あの日記は本命の携帯で書く日記を隠すための物理日記であるが、まさか適当なことを書くわけにはいかないので俺の演じるキャラに合わせた内容のものを記してあるのだ。

 

 まぁ、なんだ、つまるところ俺を主役にしたssを書いてる気分なのだ。

 はっきり言おう、死ぬほど恥ずかしい。

 

 こんどからはしっかりと隠すことにする、夜神月の真似して二重底の引き出しでも作ろうか。

 

 

 

 ──月──日

 

 アンツィオ戦を前に戦車探しを行なった。

 原作通りの車両を新たに発見した。

 それ以外は、特に書くことはない。

 強いて言うなら秋山殿が日記を盗み見たことを謝ってきたことだ。

 もちろん笑って許してあげた、あんなところに置いてあった俺が悪い。

 しかしなかなか秋山殿の気分が優れないようだったので帰り道でアイスクリームを一緒に食べることにした。

 

 当たり前だが俺は不用意に撫でたりとかキザったらしいことを言って慰めることはしない。

 秋山殿にそんな真似しようとする奴がいたら俺が学園艦の底に押し込んでボッコボコにしてやる。(原作キャラを除く)

 

 しんどそうなときは、甘いものを、食わせる!!それが最適解なのだ。

 秋山殿も最後は笑顔を浮かべていた、万事解決ありがとう。

 

 

 

 ──月──日

 

 アンツィオの潜入任務になぜか俺も抜擢された。

 ミポリンがぐずって私もいくといったが流石にいかんでしょ(知名度的に)

 とはいえ俺も例の事件で人のことは言えないのでがっつりイメチェンする。

 髪型はポニテからサイドテールに、服装は真っ白なワンピース、そして麦わら帽子をかぶる。

 古き良き夏の美少女スタイルだ、外面がいいから問題はないものの中身はアラサーのおっさんなのでぶっちゃけ失笑ものである。

 

 秋山殿と一緒にアンツィオにやはり堂々と潜入する。

 途中やたらとうまそうなものがたくさんあったので買い食いしたりローマよりローマしてる学園艦内をたっぷり観光した。

 

 ……これは実質デートなのでは?

 帰還後俺は人差し指の生爪を剥いだ。

 めっちゃ痛かったが戒めにはなった。

 秋山殿とデートしちゃったんだからガルパンおじさんとしてこれくらいのケジメは実際大事である。

 どうだろう、償われただろうか?

 

 

 

 ──月──日

 

 アンツィオとの試合の日だ。

 試合前に顔合わせをしたのだが、そのとき初めてドゥーチェを見た興奮でちょっと凝視してしまった。

 マジでドリルツインテでマントしてんの、おまけにそれに違和感ないの。ヤババない?ヤバイ(断言)

 そのことを問われたので、適当に「立派な指導者」的なことを言って褒めそやかしたら「褒めたって何も出ないぞ! だがお近づきの印にこれをあげよう」と言われて鉄板ナポリタン無料券をもらってしまった、チョロい(チョロい)。

 

 試合は概ね原作通りことが進んで特に言うことはなかった。

 白熱した戦いが繰り広げられたはずなのになぜか一瞬で事が済んだように感じる、俺も必死だったと言うことか。

 

 試合後、妙にドゥーチェに気に入られてしまってアカウントをフォローしあってしまった。

 これはまほチョビ的にまずいのでは?と思ったがそもそも原作ではまほとチョビの出会い自体がほとんどなかったような気がする。

 なので一層の事俺が2人を結びつける役目を担おうか。

 

 まあ、全てはみほエリを成し遂げた後の話だ、ツーラビッツ・ノーラビット。

 まずは目の前の大業を片付けることから始めよう。

 そもそもそっちが今空前絶後の大ピンチなんだから。

 

 

 

 ──月──日

 

 ぼくはいま病院にいます。

 

 

 




1日くらい投稿を休んでもいいのでは?焼きカボチャプリンはいぶかしんだ。ほら、だって僕は甘味だからね!


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TANK A TANK

筆がサクッと乗ったので初投稿です
短いのは許して

あと、明言しときますが、このssにおいて主人公が闇方面に向かったりやたらシリアスな方向に向かうことはないです。
だってそんなのみんな望んでないやろ?
俺には学はないが特別な知恵があるんだ…。
周りは知らん、そんなことは俺の管轄外だ


 ──月──日

 

 病院で一日過ごして帰宅、大変緊張した。

 夜の病院って意味もなく怖いんだよね。

 

 アンツィオの戦いが終わった後に俺は指に巻いてあった包帯のことをみぽりんや会長に問い詰められた、一安心してうっかりグローブを外してしまったのだ。

 なので個人練習中に爪がバリッと逝ってしまったと嘘ついたらすぐさま病院に連行された。

 そしてそんな手で試合に出ないでと思いっきり泣かれてしまった。

 

 みぽりんを泣かしてしまうとはこれは極刑ものなのでは? 俺は訝しんだ。

 しかしだからと言ってこの状況でセルフ宗教裁判をおこなうほど俺もアホじゃないのでおとなしく謝って1日病院で検査を受けたりして念のためにお泊まりしたのであった。

 爪剥がれた後放置すると感染症とかあるんですね、初めて知りました。

 

 エリカにも一応ツミッターでそんなことがあったと教えたらはちゃめちゃに怒られた。

 本当に申し訳なかったです。

 

 そして秋山殿の俺を見る目がなんか、こう、すごく、すごい。

 これはまずいのでは????

 俺はますます自分を窮地に追いやってしまったのでは?

 これからは迂闊な自罰行為は控えることとする、人生終了間際にまとめて実行しよう、迷惑をかけるのは本意ではない。

 

 ──月──日

 

 いよいよ準決勝まで上り詰めた大洗学園艦はなんとも浮き足立った雰囲気である、初出場の戦車道チームが不足した戦力でここまで戦えてるってのは真面目に奇跡だからね、仕方ないね。

 

 しかしこれから先も五輌で勝ちぬくのはもう絶対に不可能、そこで原作同様カモさんチームの車両、ルノーB1が復活を遂げて戦力に加わったのであった。

 最大乗員数は四人だが、初心者三人で回すことになる大洗の懐事情が非常に寂しい。

 なので俺はカメさんチームからカモさんチームに移ることとなった。

 桃さんに装填技術をがっつり仕込んだ結果なんかもう俺より上手くね?ってシーンが度々ある。

 静止状態では俺は他の追随を許さないが、ずっと止まった状態で延々と打ち続けるよりもガタガタと四方に揺られながら装填するシーンが試合中は当然多く、そして俺は昔からその駆動中の装填作業というのに適性がなかった。

 昔こそどの場面でも最速叩き出してたが今はこのザマである。 かなしい、かなしい……

 仲良くしてもらい、廃校の秘密を共有したカメさんチームからもお別れ、これからはこのカモさんチームで初心者のフォローに勤めることとしよう。

 幸い俺はそどこちゃんからの覚えも良い(麻子ちゃんを背負って登校してくることを除く)ので、拒絶反応もないだろう。

 担当は装填手兼通信手。

 原作でははちゃめちゃな量の役割を兼任していたそどこちゃんの負担を軽減できたら良いな。

 

 あんこう鍋に俺も誘われた。

 うまかった です。

 みぽりんと生徒会チームは未だどこかギスっていたので間を取り持つのに苦労しました。

 そして廃校のことは伝えようとしたら止められた。

 なんでや!もっと早く言ってもええやろ!

 

 ──月──日

 

 今日は買出しに出かけた。

 プラウダ戦でも我が心は不動、しかして体は温めねばならぬ。

 即ちこれ健康維持の秘訣なり。

 

 心配なのは試合に出してもらえるかどうかだったが、反対する会長チームを押し切ってみぽりんが説得してくれた。

 やっぱりみぽりんは天使だ。

 

 それにしても15対6

 うん……

 なんで勝てたんや原作ぅ!?

 

 夜中に電話がかかってきた、しほさんだ。

 アンツィオ戦前くらいに一度電話されて以来度々世間話をする仲である、嘘です。

 実はまほさんに事の真相を伝えられて、娘のせいで迷惑をかけた事、立場上責めざるを得なかったことを謝られ、庇ってくれたことを感謝されたので全て許した、もともと怒ってないけど。

 しかし命綱つけなかったのは真剣に叱られた、ごめんなさい。

 最近はたまにみほはしっかりやってるかとか2人とも困ってることはないかと何かと世話を焼いてくる。

 お母さんか! お母さんだったわ。

 いよいよ明日はプラウダ戦ですね、早めに寝ることとします。

 

 追記:みぽりんが一緒の布団で寝ようとか言い出したので我が心は流動、日記を書くことで平静を保っている

 未来の俺よ、お前にしか俺の胃痛はわからん。

 ぼかぁねえ!エリカとみほが一緒に寝てるところを見たいんです!!

 

 

 


 

 

「うー……ねみぃ」

「大丈夫ですか? 天翔殿」

「わかる……きつい……」

「だよね……倒れそう……」

「2人ともしっかりしてよ!!」

 

 雪という悪天候に苛まれた戦車道全国大会準決勝。

 初出場の弱小チームである大洗の勇姿を一目見ようと多くの観客が集まっているが、野ざらしの観戦席で多くの人が寒さに震えている。

 寒さというのはバッドコンディションの要因となる厳しい状況だ、集中力も切れやすくなる。

 

「でも、天翔ちゃんは暖かそうだよね〜」

「エミちゃんは昔から寒いの苦手ですから……」

「日本が常夏になれば良いのに……」

「そうすると雀蜂が大繁殖してゴキブリも際限なく増える」

「やっぱ冬来て……」

 

 こっくりと船を漕ぎながらもなんとか意識を保っているエミは周りと比べると随分と重武装だった。

 桃色のニット帽に濃赤色のネックウォーマー、足を覆うのは普段よりも随分厚いタイツ。

 寒がりというのが一目でわかる外観である。

 

 手を覆うグローブの片側の下は、いまだに痛々しく包帯に巻かれた指が隠されている。

 生徒会メンバー含めて多くのものは休んだほうがいいと言ったが、本人と何よりみほの説得によりこの試合にも参加することとなった。

 

「エミちゃん、何度もいうけど痛みが悪化してきたらすぐにいうんだよ」

「わかってます。 初心者三人組に迷惑かけるわけにも行きませんしその時はサッサと退散しますよ」

「宜しい」

 

 会長と何度も確認しあったことを再度口酸っぱく注意されて、エミは苦笑しながらもそれに答える。

 その姿を見るみほは確信した、エミは絶対に途中で棄権はしないと。

 

 ならば、自分にできることは彼女への負担をなるべく減らすことだけ。

 

 

 

「アハハハハハハ!!このカチューシャを笑わせるためにそんな戦車を用意したのね!!」

 

 突如として聴きなれぬ笑い声が響き渡る。

 弾かれたように振り向くエミにつられて全員がそちらに視線をやると、大洗のものとは違うパンツァージャケットを纏った二人組がいた。

 1人は長身で大人びた雰囲気、美少女というよりは美女という表現が似つかわしい。

 もう1人は……小さい、本当に高校生なのか疑うほどに背丈の小さい女の子。

 生意気そうな表情に満ちた自信とは裏腹の頼りない外見だ。

 まぁ、大洗チームは一切驚かなかったが。

 

「ふふん、カチューシャの威圧感に怯えて声も出ないかしら。 ま、それがわかるだけ他のチームよりはマシね、人員の質でなんとか勝ち残ってきたのかしら。 ま!プラウダには戦車の質でも人員の質でも負けてるし、そっちに勝ち目は一切……一切……」

 

 調子に乗って自慢話を展開し始めたカチューシャというらしい幼女に、全員が黙っていた。

 しかし、それが唐突に止まる。

 

「カチューシャ?」

「……ノンナ、あれ」

 

 カチューシャがピシリと誰かを指差した。

 その指先にいたのは、重武装の大洗生徒。

 

「……え、なに?」

「ノンナ!」

「Понятно」

「日本語!」

「了解です」

「わ、わ、なにさ!?」

 

 突如として距離を詰めてきたノンナという長身の女性にエミは珍しく慌てふためいた。

 

「ちょ! うちのチームメイトに何を!」

「大丈夫、3秒ですみます」

「わぁぁぁ!!」

「エミちゃん!」

 

 逃げ出そうとしたエミの首元をワシっと掴んだノンナは懐からメジャーを取り出した。

 そして頭の天辺からかかとまでの距離を素早く測り、解放する。

 その間実に2秒っ!

 解放されたエミも周りも呆然とする中、ノンナはぺこりと頭を下げてカチューシャの元に帰還した。

 

「身長124センチ、誤差0.5以内。 体重22キロ、誤差100グラム以内です」

「やったあ!!」

 

 今の一瞬、ずさんな測定でわかったのか!?

 全員が驚愕し、エミを見る。

 エミは引きつった笑いを浮かべていた、みほも驚いた、ノンナの測定結果は極めて正確だったからだ。

 相手チームの奇行と謎ワザマエに全員があっけにとられる仲、カチューシャは満面の笑みを浮かべてエミに近づいてきた。

 

「すごく、すごく気に入ったわあなた! 名前なんていうの?」

「え、天翔エミです……」

「……どっかで聞いたような? まあいいわ! あなたに免じてカチューシャもちょっとは優しくしてあげる。 このカチューシャ様の指揮する部隊と戦えることに胸躍らせながらたっぷり思い出を作ると良いわ! アーーハッハッハ!」

 

 高笑いをしながらカチューシャは踵を返し、大股で立ち去っていく。

 そんな中ノンナは再びエミに歩み寄った。

 びくりと震えるエミにそっとかがんで視線を合わせると、懐からまた別の何かを取り出した。

 

「突然申し訳ありませんでした。 お詫びにこれを」

「え、はぁ」

「では、ピロシキ」

 

 今度こそノンナは去っていった。

 なんというか、蹂躙されたような気分に試合が始まる前から大洗チームは負けたような気分になった。

 エミはノンナに渡されたものを見る。

 紙袋に包まれたそれの封を破り中を見る。

 

 猫耳カチューシャだった。

 

「なんなのなの、なんなのなの……」

 

 頭を抱えてうずくまるエミに全員が同情した。

 

「これは強敵だ……」

 

 会長の色々と含みをもたせた発言が空虚に試合会場に響き渡った。

 

 ……準決勝、試合開始。

 

 




前回焼きかぼちゃプリンは愚かにも更新を怠ったので蟻の餌とし新たにソーダ水が執筆となります
彼ならもっとうまく〆られるでしょう


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ブレスオブザガルパン★

今日の日記朗読会を始めるよ!
今日は例の事件が起きて翌日からの日記を音読するから、みんな私に続いて読むように。
『クラスメイトも、先生も、同じ戦車道の仲間も、みんな目を合わせてくれなくなってしまった。 私はまた一人ぼっちになってしまった。 何が間違ってたんだろう、どうすればまたみんなと仲良く』
OGのあなた!逃げないでください!バケツはあります!吐くならここに!
お母さん!ごめんなさいごめんなさいって何に謝ってるの!?エミちゃんはお母さんを恨んだことはなかったよ!ずっと自分が間違ってたって泣いてたけど強く生きて誰も恨まなかったんだよ!謝ることはないでしょ!
じゃあ続きから……あ、赤星さんそんなところで恨みがましくみんなを見てないで私と音読しよう、ほら。

※ネタです、本編にはかけらも関係ありません。


「まぁ、なるべくしてなったって感じだなあ」

 

 鳥肌が立つような寒さに満ちた廃墟の中で、そんなつぶやきが漏れた。

 小さな声だったが、しかし静寂に満ちたこの空間ではやたらと響いて聞こえてくる。

 

「うん……ごめんね、もう少し警戒してれば」

「それだけでどうにかなるものでもない、向こうの作戦は見事なものだった、数を利用し物量で押す。 シンプルで、故に覆し難い」

 

 対プラウダ戦の立ち上がりは、意外にも静かなものだった。

 一丸となって進む大洗の6輌に対し、何輌かの戦車で固めた部隊が各所から攻撃を仕掛ける。

 大洗チームは動きを止めずに回避運動を取り、そして丁寧な砲撃戦が始まった。

 

 大洗チームの攻撃が1輌、2輌とプラウダ車を撃破したあたりから妙に風向きがおかしくなっていく。

 向こうは全戦力を用いた攻撃を行うこともなく、丁寧に攻撃を回避しながら単発的な射撃でこちらにちょっかいを仕掛けてくる。

 

 舐められている。

 

 誰もがそう判断して、そして歯噛みした。

 彼我の戦力差は圧倒的で、乗員の練度も向こうが高い。

 向こうがこちらを嘲るのも当然だ。

 そして悔しいことにこのまま行けば負けるということもわかっていた。

 答えは単純で弾数の差だ。

 向こうの方が車輌が多いということはそれだけ多くの砲弾を保持しているということ。

 このまま丁寧に射撃戦をして、絵に描いたように上手くいきこちらが落とされず向こうをさらに撃破できたとしても、フラッグ車まで落とすことはおそらくできない。

 弾が切れてしまえば戦闘続行は不可能、こちらの負けだ。

 

「……仕掛けるしか、ない」

 

 みほは下唇を噛みながらそう判断した。

 確かに危険だがこのままでは真綿で首を絞められるようにじわじわと追い詰められていく。

 ならば、仕掛けるのは早い方がいい。

 

『危険だけど、やるしかなさそうだね〜』

『だ、大丈夫なの!?』

『勝機をそこにしか見出せない、やるかやらないかではなくやるんだ!』

『さながら島津の引き口?』

『全然違うぞ』

 

 呑気な会話に少しだけ緊張が緩む。

 みほは、負けるわけにはいかないと気を引き締め、肌を切るような冷たい空気の中でケツイを抱いた。

 

(負けるわけには、行かない!)

 

 "正しさを証明するために"

 みほは高らかに叫び攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 結果的に作戦は失敗した。

 向こうは虎視眈々とその瞬間を待ってたのだ。

 突撃した大洗チームは何輌かの戦車を撃破するもすぐさまに包囲網が展開され、猟犬に追われる獲物のように逃げ惑う羽目になる。

 みほはそれでも必死に指示を出し、なんとかこの廃墟まで退避をすることができたが、外を見れば依然こちらより多い数の戦車が包囲網を展開している。

 万事休すとはまさにこのことだろう。

 

「……どうするか」

「……うん、その、どうするかな、この……うん」

 

 しかし、廃墟の中に漂うのは窮地に追いやられた絶望よりも、どう反応したらいいかわからないという気まずさというべきものだった。

 

「あのー……天翔さんはなんでさっきもらったカチューシャをつけているのですか?」

 

 華がおずおずとその気まずさの原因を指摘した。

 そう、今天翔エミの頭の上には黒いネコミミがぴこぴこと揺れている。

 

「いや、せっかくもらったからさ」

「もらったからって今つける必要はなくない……?」

「そんなことはわかってる、でもつけたら面白いかもしれないだろう」

 

 堂々と言ってのけるエミに華も沙織も苦笑した。

 確かに、面白い。

 小学生と見まごうほどの体躯のエミの頭の上にぴこぴこと揺れるネコミミ。

 タイツや黒いグローブで肌の露出がろくになくおまけに黒髪のせいでさながら本当に黒猫のようだ、ていうかなんであれぴこぴこ動いてるんだ?

 

「……」

 

 そして、そんなエミを横目でチラチラと見ているみほの姿もまた奇妙な空気蔓延の原因だ。

 相変わらずエミちゃんのことが好きなんだなぁと全員が呆れと微笑ましさを覚える。

 

「失礼します」

 

 そんな踏み込み難い空間の中にしかし怖じけず堂々と入り込んできたものがいた。

 途端に大洗生徒に緊張が走る。

 

「プラウダの……」

「……降伏勧告ってところかな」

「ええ、カチューシャ様はこれ以上の戦いは無駄だと。 慈悲深くそちらに情けをかけています。 3時間以内に返答するように。 それと……」

 

 スチャッとカメラが構えられて、全員が疑問符を浮かべた。

 カメラ?カメラナンデ?

 

「副隊長ノンナ様より、猫耳の子がいれば写真を撮ってくるように、と」

「パードゥン?????」

 

 思わずエミが反応した。

 そこまでやるかノンナさん、いやあんたカチューシャ一筋やろなに他の幼女ボディに執心しとんねんと吠えたくなって、我慢。

 とりあえずカチューシャを外して面倒ごと回避を試みる。

 

「あの、すいませんどうか撮らせてください。 そうしないと我らが後でシベリア送りの可能性があるんです」

「えぇ…(困惑」

 

 しかし涙目で懇願されてしまってはエミも思わずその手を止めた。

 仕方がないのでボルシチをもらうことを交換条件に撮影を許可した。

 

「はいっ! いーよいーよ! 今度は頭と腰に手をつけて! ベリーグー! 今度は猫の手にしてこう、猫のポーズ。 きゃー可愛い!」

「……にゃあん」

「こふっ」

「みぽりん!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 死んだ目で何枚もの写真を撮影されるエミ、やたらとテンションの高いプラウダ生徒、鼻を抑えるみほ、ぽーっとして見守る優花里。

 

「……今試合中だよね?」

 

 会長のつぶやきは雪に吸い込まれていった。

 ボルシチは美味しかった。

 

 

 


 

 

 ──月──日

 

 いやぁ、プラウダは強敵でしたね、あらゆる意味で。

 あの猫耳カチューシャをつけなければよかったとは思ったが、つけてなかったとしたらどうせつけて撮影させてくれと懇願されていたんだろうな。

 

 その撮影会が終わった後は、俺は持ち込んでいた秘密の物資を放出してみんなの体力を温存させた。

 久しぶりに原作知識を有効活用した気がする。

 30個入りの使い捨てカイロパックを4袋、これだけでもそれなりに暖をとることができたらしくみんなに感謝された。

 ついでに写真の代わりに頂いた大鍋いっぱいのボルシチとスープで暖をとり、そのあとはライターでビーフジャーキーを炙って齧る。

 黒森峰のノンアルが飲みたくなる味だ、今度また箱買いしなくちゃ。

 

 そんでもってみんなが暖をとって落ち着いた頃に降伏するか否かの話し合いが始まった。

 そしてみぽりんが絶対に降伏しないと言い出して顎が外れるかと思った。

 そしてその理由を聞いて心が砕けそうになった。

 思い出すだけでも絶望感が満ちてくる。

 みほエリ、みほエリはどこ…?ここ…?

 とりあえずみぽりん曰く…

 

 1.大洗にきて、最初は無理やり始めさせられたけど、ここでの戦車道は黒森峰のものと違って自由で新鮮だった。

 2.俺がここで再び戦車道を始めるきっかけにもなって、そして以前のように戦車道を楽しめるようになった。

 3.仲間たちと協力しあい助け合い、決して見捨てない戦車道の強さを証明したい。

 

 という感じだった。

 俺は、俺はその理由の中にいらんやで……みぽりん……

 

 そしてその後に生徒会メンバーもついに廃校の件をみんなに明かした。

 というかそっちの話題に目をそらしたくて俺が進言したのだ。

 最低とかいうな! 俺だって必死なんや!!

 それにみんなの士気が上がったしノーカウントだ!ノーカウント! なあ、あんたもそう思うだろう!?

 

 その後試合は原作通りに進み、普通に逆転勝利を果たした。

 勝利の後で再びカチューシャやノンナと話す機会があったが、その際俺はノンナに対しカチューシャという人がいながらそういうのはどうかと思うと伝えたらショックを受けて崩れ落ちていた。

 写真を削除させることを約束させ、そのあと俺たちはなぜか両校メンバー全員で集まって集合写真を撮影した。

 カチューシャがやたらと懐いてくるんだけどこれはもしかして俺の方が身長低いからなのだろうか

 

 その後帰還した俺たちは、流石にヘトヘトだったので自宅に帰還したあとは即座に布団の中に潜り込む。

 俺もこれを書き終えたら寝るつもりだ。

 次はいよいよ、黒森峰戦。

 

 負けられない、大洗の為にも、みほエリのためにも。

 

 

 

 ──月──日

 

 いよいよ決勝戦までコマを進めたことで優勝という話が現実味を帯びてきた。

 新たに修理完了したポルシェティーガーと三式中戦車も加わり、原作通りに8両まで戦力を拡大、自動車部のレオポンさんチームとアリクイさんチームも加わることで決勝戦を迎える準備は整う、あとは当日まで全員で練度を高める訓練を行うだけだ。

 

 柄にもなく緊張している。

 ガルパン全試合の中でも屈指の名勝負だった大洗VS黒森峰の試合に、俺が参戦する。

 今更ながら現実感がない。

 

 駄菓子菓子、俺の目的はさらにその先にあるのだ!

 黒森峰を撃破し、その先にある大学選抜チームを打ち倒す! みぽりんとエリカが再び同じチームで戦う機会を作り、そこで2人を仲直りさせる!!そしてみほエリを!一心不乱のみほエリを!!

 

 絶対に負けられない戦いが、ここにはある。

 明日からもっと練習を頑張ろう。

 

 

 

「ふぅ」

 

 日記を書き終えた俺は、電源を落としてグッと伸びをした。

 今日の練習も疲れた。

 指が一本使い物にならない現状は装填手としては非常に厳しいものがある。

 改めてなんで俺は手の爪なんぞ剥いでしまったんだろうか。

 今もまだたまに痛むし、装填が辛い。

 しかし秋山殿とデートなどという百合豚としての最大レベルの大罪を犯した以上何らかの罰は必須だった。世の中って難しい。

 

 さて、そろそろ寝ることにしよう。

 俺は机の上のダミー日記を二重底の鍵付き引き出しにしまい、携帯を充電器に繋ぐ。

 みぽりんも、最近は風呂に入ったあとは泥のように眠り込んでしまう。

 みぽりんが穏やかな寝息を立てているのを確認してから俺は布団に潜り込む。

 

 が、そこでピロリンと携帯が鳴った。

 

「あん……?」

 

 少し不機嫌になりながら、仕方がないので布団から這い出て携帯を確認する。

 画面には、ツミッターの通知が表示されていた。

 

「……エリカ?」

 

 

 


 

 

『どうしたんだエリカ、こんな時間に』

「ごめん、どうしても話しておきたいことがあったから」

 

 電話から聞こえてきた声はいつものようなソプラノの澄んだ声で、それを聞いただけで自分の心がすっかり落ち着いていくのを感じる。

 なんというか、すっかり絆されてるんだなあと改めて実感した。

 

「まずは、決勝進出おめでとう」

『そっちこそおめでとう。 相変わらず危なげない勝利だった』

「当たり前よ、負けるわけにはいかないんだから」

 

 軽口を返すようでいて、私の声は自分でもわかるほどに落ち込んでいた。

 今から話そうとしている話題は、決して話しやすいものでもない。

 どう切り出そうか悩んで、悩んで。

 

『で、どうしたんだい? 何か悩みがあるみたいだぜ』

 

 心臓が、跳ねた。

 

「なんでそうサラッと言い当てるのよ」

『長い付き合いだったんだ、わかるさ』

「……相変わらず鋭いなあ」

 

「廃艦になるんだって聞いた」

『……そっか』

「事実なの?」

『本当だよ。 大会で優勝できなきゃ、大洗は廃艦になる』

 

 当たり前のように言ってのけたエミに、私は黒い感情が湧いた。

 

「……嫌になっちゃうわよね、また大人の事情でしょ?」

『あぁ、まあ私たちが何を言っても聞き入れてくれやしないだろう。 そもそも優勝したところで本当に廃艦を撤回するかどうか……それでも私たちはやるしかないのさ、それしか望みがないんだから』

「……」

 

 しばらく沈黙が続いた。

 なんと言葉をかければいいのかわからなかった。

 また大人のせいで厄介ごとを押し付けられて、それなのに平気な顔をして。

 

 どうして、弱みを見せてくれないのか。

 

「……ねぇ、エミ。 その……」

『ん?』

「……戦う前に、こんなこと言うのもなんだけど。 その……黒森峰に、戻る気はない?」

 

 そうじゃないと、上手な手の差し伸べかたがわからない。

 エミの笑い声が帰ってきた。

 

『もう勝ったつもりかよ』

「エミは、戦車道のことよく知ってるでしょ。 大洗の戦力とウチの戦力、比較すればどっちが勝つかなんて一目瞭然じゃない」

『プラウダには勝てたさ。 戦いっていうのは何が起こるかわからない』

「黒森峰は、あんないたぶるように時間を与えて逆転されるような愚は犯さない」

『それも含めて、さ』

 

「どうして、そこをそんなに守りたいの?」

 

 知らずに口から言葉が溢れ出した。

 

『どうしてって?』

「どうせ、そっちでまた戦車道始めたのだって、そういう事情で無理やりやらされただけなんでしょう? 見捨てたって、誰も文句を言いやしないわよ」

『でも、帰る家がなくなっちゃうな』

「こっちにきなさいよ」

『エリカには会いたいけど、他の連中はいい顔しないさ』

「っ」

 

 そんなことないと言いたくて、言えなかった。

 黒森峰の者たちがエミに抱いた悪感情は、今も根深く残っている。

 

 エミを黒森峰に連れ戻すのがいいことじゃないってことは、よく分かってる。

 

 でも、それじゃあ

 

「……寂しいのよ、あなたがいなくて」

 

 この心に開いてしまった風穴はどうすればいいというのだろう。

 

「あなたとみほがいなくなって、私すごく怖くなって……いつもあなたたちと一緒だったのに離れ離れになって、もう会えないのかもって思って、それで」

『エリカ』

「それなのにあなたとみほは別の学園艦でまた戦車道始めてて、そこに私はいなくてっ。 仲間外れにされたのが悲しくて、怖くて!」

『エリカ』

「なんで私1人だけ置いていったのよぉ……私だってあなたたちのそばに居たかったのに、あなたを助けてあげたかったのに……! なんで……みほだけ……ずるいじゃない……」

 

 決壊してしまえばあとは、止める手立てなんてない。

 ただただ無様に感情を吐き出す私。

 それをただ聴き続けるエミ。

 ぐずぐずと泣き散らしながら無様に喚いて、しばらくして私は、ようやく落ち着いた。

 

「……ごめんね、取り乱して」

『いいんだ。 むしろ、私の方こそ悪かった。 エリカのことを全然考えてなかったんだって思い知らされた。 ひとりぼっちは寂しいもんな』

「……うん」

『エリカ、分かったよ。 大洗が負けたら、私は黒森峰に戻る。 みほも連れてく』

「え?」

『みほは強引に私をここに引きずってきたんだから、私だってみほを強引に引きずってくことが許されるのは道理だろう?』

「でも……」

『いいんだよ、周りにとやかく言われようが、エリカと一緒に居られるなら苦じゃない。 また、エリカと、みほと、私の三人で、前みたいに遊んだり、勉強したりしよう』

「……ごめんね」

 

 エミの優しさに、私はもう何をいったらいいかわからなかった。

 申し訳なくて、でも、嬉しくて。

 だから、ありがとうって言おうと思って

 

『ただし! 大洗が勝ったら当然この話はなーし! そしてエリカには罰としてみほと仲直りしてもらうぜ?』

「え"っ」

 

 声が、震えた。

 

『こっちだけリスクを負うなんてフェアじゃないだろ? その時は私も付き添うからみほもエリカも一緒に、ごめんなさいして、また友達になろう』

「……結局仲直りはさせる魂胆なのね」

『2人が言い争ってるところ見るのは大嫌いだからね。 私は2人に、ずっとずっといつまでも仲良くしていてほしい、だから約束だぜ、エリカ?』

「……うん、わかった! 絶対勝つから、首洗って待ってなさいよ!」

『うん、じゃあおやすみ』

 

 電話を切って、私はほおっと息をつく。

 砂糖をまぶしたような満点の星空が広がっていて、その輝かしさを電話する前には気がついていなかったことを思う。

 

 もう、迷いはなかった。

 

 

 


 

 

「うう、長電話してたら、体が冷えたな……さっさと寝よう。 おやすみ〜」

 

 

 

「……」

「エミちゃん……」




ソーダ水の炭酸が きれそうだ ▽


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grand panzer

練習を終え、家路につくカメさんチーム。
疲れからか、不幸にも黒森峰の戦車に追突してしまう。
先輩を庇いすべての責任を負ったエミに対し、総指揮官のまほが出した示談の条件とは……


「天翔殿、少しお話があります」

「ん、どうしたの?」

 

 練習開始前の車両点検中、突然後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはキリリとした顔の秋山殿。

 今日も可愛いなあと思いながらも果たしてなんの用事だろうと考える。

 何か約束事とかあっただろうか。

 

「少し考えたんですが……決勝戦は、天翔殿があんこうチームの装填手として搭乗したらいいんじゃないか、と思ったんです」

「……」

 

 脳みそが停止した。

 

「え? な、なんで?」

「黒森峰にいた頃、天翔殿は西住殿の指揮する車両に搭乗してました。 私よりも長くチームを組んでいた2人の方が、より高い戦闘能力を発揮できるのでは、と思ったんです」

 

 何を言いだすかと思えば。

 俺は嘆息して、少し笑ってしまった。

 

「わ、笑うことないじゃないですか……」

「ふふ、ごめんごめん。 でもね秋山さん。 あんこうチームの装填手は、もう君にしか務まらないよ」

「え?」

 

 ぽかんとする秋山殿。

 可愛い、撫でたい、宗教上撫でられない。

 百合豚のカプ厨であることを辛いと思うことはないが、こういう時は酷だ、残酷な定めだと思う。

 

「だって秋山さん、それは確かに、私とみほは3年間同じ戦車で戦った仲だよ。 でもそれは黒森峰の戦車での話。 あんこうチームの5人編成で、Ⅳ号に乗って、その連携期間が一番長いのはまちがいなく、君だ秋山さん」

「ぁ……」

「それにね、君はもう、私より強いよ」

「な! そんなことは!」

「事実だよ。 私はもうね、自分の限界に達してるってなんとなーくわかるんだ。 どう頑張っても現状維持しかできなくて、これ以上装填手として高みを目指すことはできない……いや、装填手としてだけじゃない。 そもそも私には戦車道という競技に対する適性がなかった。おそらくどんな役割を担っても、過酷な訓練を積んだ上でようやく平均やや上程度が限界……」

「天翔、殿……」

「でも、君は違う、秋山さん。 君は天性の才能と、努力し続けられる根性、そして諦めないハートを持ってる。 遅筋の発達も目覚ましいし、誰よりも長く鍛錬を続けられる心があるし、壁にぶつかってもへこたれない。 私にはない才能だ。 みほについていける装填手は、もう君以外に思いつかないよ」

「……」

「みほの無茶振りにもしっかり答えてた私がいうんだ、間違いないね」

 

 思ってた言葉を全部口にして、少しスッキリした。

 そして秋山殿を見ると俯いて……泣いていた。

 

 え?俺が泣かせた?喉潰さなきゃ(使命感)

 

「わ、私は……! 貴女を、天翔殿のことを目標にしてました……!」

「えっ?」

 

 俺が密かに自分の喉を引き裂くことを決意した頃、秋山殿がそんなことを言った。

 え?マジ?全然目標にされる心当たりないんだけど。

 

「昔、戦車道の雑誌に天翔殿のインタビューが載ってました。 しどろもどろで、でも戦車道のまっすぐな想いが語られてました……!」

 

 ……

 

 ……え?

 

 

 

「わぁぁぁぁ!!やめて!その話はやめて秋山さん!!」

「やめません! 私はあのひたむきな姿と、過酷でありながらも目立たない装填手という役割に全力を尽くす貴女の姿を、とても尊いものだと感じて、より一層戦車への憧憬を強めました!!」

「やめるんだ!やめてぇ!!」

 

 なになになんの話ー?とかあー優花里さん泣いてるーとか野次馬が集まってきた。

 いかん!話が広まる!!!!

 

「あの頃からずっと、貴女の志に憧れて……そして、この学校で、貴女と肩を並べて戦える奇跡に感謝して……! 」

「わかった、全部わかった、オールオッケーだ秋山さん、その話は別の場所でしよう、ここではダメだ、秋山さん、聞くんだ、聞いて」

「その貴女に、認めてもらえて、嬉しくて! でも、そんな貴女が、今も苦しんでることに、耐えられませんよぉ……!」

 

 泣き崩れる秋山殿に俺はもうどうすればいいかわからない。

 黒歴史をざっくりほじくり返された挙句になぜか俺が泣かせたことになってしまった、なにこれ?

 頼む、誰か助けてくれ。

 

「えと、なんの騒ぎ……?」

「沙織さん!よかった、秋山さんを泣き止ませるのを手伝って欲しい」

「え?! わ、わかったよ!」

 

 駆けつけたさおりんの手を借りて、秋山殿の頭や背を撫でてとにかくなだめ落ち着かせようと試みる。

 どうしていきなりこんなことになってしまったのかはさっぱりわからない。

 俺がなにをしたっていうんだ神様。

 しばらく撫でていると秋山殿はこてんともたれかかってきた。

 泣き疲れたのだろうか、眉を悲しそうに潜ませながらすうすうと寝息を立てている。かわいい(小並感

 

「ふう、流石にびっくりした」

「う、うん、そうだね……えみりんがあんなに慌ててたの初めて見たかも」

「人生でもトップクラスの動揺に見舞われたよ……ありがとう沙織さん。 私は秋山さんを保健室に連れて行くよ、ここは任せてもいいかい?」

「うん、任せて!」

「あと、さっき秋山さんが叫んでたことは全部忘れるように」

「え?」

「イイネ?」

「アッハイ」

 

 さおりんに後を任せてから、俺は秋山殿をヒョイっと背負う。

 この出所不明の馬鹿力に感謝しながら、秋山殿を撫でてしまった罰はなにがふさわしいかと考えつつ保健室へと向かう。

 決勝戦が近づいてきてナーバスになってたのかもしれない。

 目覚めた後も慌てるかもしれないから目を覚ますまでそばにいてあげようか。

 

 

 


 

 

「で、結局今日は練習できなかった、かぁ」

「秋山さんを責めないであげてくれ。 初出場でありながら、決勝戦のプレッシャーと負けることのできない環境は、人の心を病ませるには十二分にすぎる……それに、彼女は一家全員が学園艦に住んでいる、重圧は人一倍重く感じているだろう」

「それはわかってるよ。 大丈夫」

 

 夜になり訓練を終えた戦車道履修者たちは、今日1日の疲れを引きずりながら家路へついた。

 当然私とエミちゃんも帰宅したけれど、エミちゃんは今日は秋山さんに付き添っていて、あまり練習らしいことはできなかったという。

 

「2人ともいつもすごく頑張ってるし、たまには1日休んでも大丈夫だよ」

「秋山さんはともかく私はどうかな、決勝戦まで使い物になるといいけど」

「またそういうこと言う……」

 

 最近のエミちゃんは、随分と悲観的だ。

 黒森峰にいた頃から驕りや傲慢とは無縁の性格だったけれど、大洗で戦車道を始めてからはそれが行き過ぎているように思う。

 

「エミちゃんは、一流の装填手だよ」

「そうはいっても、周りが周りだからね。 みんな才能に溢れてる……こうまであっという間に追いつかれると、流石に自信もなくなるってものだよ。 まあ嬉しくもあるから複雑な気持ちだね。」

「うーん……」

 

 その言葉に、すぐに否定の言葉を返すことはできなかった。

 エミちゃんの実力は間違いない、だけど大洗のチームメイトたちは、たしかに少し不可思議なほどに才能の開花と成長が早く感じる。

 力の差が縮まっている、と言うのは私もたしかに感じていた。

 本人はきっと、もっと如実にその圧を感じているんだろう。

 

「でも、私はエミちゃんが一緒に戦ってくれるだけでも、もっとずっと頑張れるよ」

「……みほにそう言われたなら、私もやりがいがあるってものさ」

「えへへー」

 

 エミさんの作ったポテトサラダを頬張りながら、そう言ってもらえたことが嬉しくて私は笑った。

 決勝戦はもうすぐそこ、だけどこんな風に和やかに過ごせる時間がとても嬉しかった。

 

「……ねぇ、エミちゃん」

「ん?」

「負けたら黒森峰に帰るって本当?」

 

 時間が止まった。

 

 

 

「聞いてたか。 眠ってたと思ったけど」

「エミちゃんの声で起きちゃった」

「それは悪いことをしたな」

 

 黒森峰産のノンアルコールビール缶をプシュッと開けて、エミちゃんは喉を潤す。

 そのまましばらく虚空を眺めて、そしてポツポツと語り始める。

 

「私はね、エリカをこのまま1人にするのは嫌だ」

「うん」

「エリカが寂しいって言ってたから。 だから、もし大洗が負けて、廃校になるなんてことになってしまったら。 その時は、エリカとまた一緒に過ごせる黒森峰に戻るよ。 もちろんその時はみほも引きずっていく」

「……でも、黒森峰は」

 

 黒森峰には、きっともう、私たちの居場所はない。

 それを一番わかってるのはきっと、エミちゃんだと思う。

 

「負けちゃったら、の話だぜ? どうした?みほは勝つ気がないのか?」

「……厳しい戦いにはなると思う」

「まぁそれは道理だな……」

「そしたらまた、エミちゃんがあそこでひどい目にあっちゃうよ。 そんなの、私」

「みほ」

 

 エミちゃんが、私を見つめていた。

 

「それでも、友達をほっておくのは良くない。 まあ私が言えた義理じゃないけれど」

「……」

「私はね、友達が喧嘩してるって言うのがすごく嫌なんだ。 今エリカとみほが仲違いしてるって言うのは最高に不愉快な気分だ。 それを解決して、またみんなで仲良くしたいってずっと思ってるし、そのためならなんでもしていいとも思う」

 

 キュッと缶の中身を全部飲み干して、エミちゃんは窓の外を見た、もう真っ暗で、学園艦の上に立ち並ぶ家々の灯りがほのかにポツポツと浮いている。

 

「当たり前だけど、大洗が廃艦になるなんてのは真っ平ゴメンだよ。 みほがここに連れてきてくれたおかげで、私はかけがえのない友達たちを得ることができた。 勝つ気でいるよ、私は」

「それはもちろん、私も」

「それでももし、万が一負けてしまった時は……2人でまた黒森峰に戻って、そしたら私たちの悪口言う奴らを全員ボコボコにしてやろう」

「えっ」

 

 突然口から飛び出した暴力的な発言に、驚いた。

 

「私が悪く言われるのはいいけど、私の友達が悪く言われるのは我慢ならないからね、みほやエリカが私といることで陰口を叩かれるようなら私がそいつらをぶっ飛ばしてやる。 だから安心しなみほ、負けたってなんとかしてやるから、安心して勝ちに行こう」

「……エミちゃんには敵わないなあ」

 

 とんでもないことを笑顔で言ってのけるエミちゃんに、私は苦笑をもらしてしまって、そして、情けなくなった。

 やっぱり私は昔からエミちゃんに守られてばかりだ。

 今度は私が守ると誓っておきながら、やっぱり私は助けられて、手を引かれてばかり。

 

「だったら決勝戦で、みほが私を守ってくれ」

「え?」

「みほは誰よりも強いからね、私がピンチになった時はよろしく頼むよ」

「……うん、うん!」

「よし、じゃあ明日も早いから今日はもうさっさと寝よう。 今度は電話の盗み聞きなんかしないくらいぐっすり眠るように」

「もう!」

 

 からかってくるエミちゃんにちょっと怒りながらも、私の心は定まった。

 

 私は大洗を、エミちゃんを、なにがあっても守ってみせる。

 

 もう、二度と失わせたりしない。

 

 

 

 ──月──日

 

 いよいよ、明日は決勝戦。

 みんなで必勝を祈願して、うちでカツカレーを食べた。

 カレーは俺が、カツはさおりんが作った、なかなかの味だったと思う。

 さおりんの重大発表とかそう言うのを聞きながらみんなで楽しく過ごして、そして、明日の勝利を誓い合う。

 不思議と負ける気がしないな。

 

 一応保険は打ったが、それでもやはり、この戦い絶対に勝ちたいと思う。

 後腐れや憂いなく最高のみほエリを迎えるためにも、俺は勝ちたい。

 どうか、明日の日記がいい報告で埋まりますように。

 

 

 


 

 

 朝がきた。

 決戦だ。

 

 

 




ソーダ水はもはやただの水となり、お出しするものはありません

謝意
最近感想に返信が全くできてませんが、これは私が自分の中に「エタりそうなオーラ」を感じ取ったからです。
感想はすべてありがたく拝見させていただいてますが、最近はあまりの感想の多さに嬉しい反面すべてに返すのが難しいのが現実です。
なので「これは草」というような目に付いたもの以外の返信は申し訳ありませんが控えさせていただきます。
とにかく完結だけは絶対させますので何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。
大丈夫です、私は必ずエミカスの胃をズタボロにしてやります。


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エミの唄

天翔殿、訓練お疲れ様です!
何か今日は成果は……って怪我をしているじゃありませんか!!
なぜ手当てをしてないんですか!感染症にかかってしまいます!!
外が傷ついてるってことは内側はもっと酷いかもしれないんですよ!?
あなたが傷つけば、みんな、悲しい思いをするんですよ……?
せっかくまたみんなで笑いあえる日々が戻ってきたのに……

取り乱して申し訳ありません……
でも、次からは怪我をしたらすぐに治療してください!
それと、いくら天翔殿が力持ちでも、過酷な作業は1人ではやらないこと、みんなを頼ってください!
念のため病院でも怪我を見てもらうこと、いいですね!

大丈夫ですよね、また急にいなくなったりしませんよね……


「こんな格言を知ってる?Defeat? I do not recognize the meaning of the word.」

「開口一番なにを言ってるんだあんた」

 

 戦車道全国大会決勝戦の舞台、富士演習場。

 多くの観客と、商売目当ての屋台が押しかける中の一角で、応援に駆けつけたという聖グロのダージリンはエミを見つけた途端そんなことを言いだした。

 

「マーガレット・サッチャーだろう。 敗北?私はそんな言葉を知りません」

「その通り。 しかし字面とは違ってこの言葉は常勝無敗を意味するものではありませんわ。 諦めない限り、負けは絶対に訪れない」

 

 優雅な仕草でティーカップを口に運ぶダージリンを冷めた目で見るエミは、ダージリンの言わんとすることをなんとなく察した、つまるところ激励に来たのだ、分かりにくいが。

 

「みほさん、あなたもこの言葉を胸に刻みなさい。 ここまでどんな苦難も覆してきたあなたたちなら、最後まで負けることなく、勝利の栄光を手にできるはずよ」

「は、はい!」

「わかったよ、ありがとさんフッド」

「なんであなたは昔から私のことを巡洋戦艦の名で呼ぶのかしら……」

「おおぅい西住!天翔!」

 

 訝しむダージリンをよそに駆け寄ってきた声に三人が振り向くと、そこにはアンツィオ名物鉄板ナポリタンを両手に持ったアンチョビの姿が。

 

「モーニングコール助かったぞ天翔!おかげで商機を逃さずにすんだ! これはお礼だぞ、食べろ!」

「それは良かった。 ありがたくいただくよ 」

「西住も!」

「ありがとうございます!」

「……私はスルーですか?」

「客なら歓迎するぞ!」

「くっ、正論を……」

 

 熱々のナポリタン、ソースが飛び散らないように口に運べば地上にもたらされたアガペーともいうべき味わいが口の中に広がる。

 トマトの甘みと酸味がうまく麺に絡まっていて、玉ねぎがまろやかさを、ピーマンが苦味を、そして厚く切られたベーコンが重厚さを与えている。

 美味しそうに頬張るみほに満足げに頷くアンチョビ。

 

「やっぱりアンチョビの作る料理は最高だ。 試合が終わったらみんなで食べに行くから、たくさん作っといてくれ」

「まかせろ!勝ったなら特盛サービスしてやるからな! だから、勝てよ。 アンツィオが負けたのは優勝校だぞーって自慢させてくれ!」

「はい、頑張ります!」

「……私も買おうかしら」

「聖グロには似つかわしくないんじゃないですか?」

「むむむ……」

 

 オレンジペコに咎められたダージリンはモノ惜しげに撤退し、アンチョビは急いで屋台に戻っていった。

 もむもむとスパゲッティを頬張るみほとエミだけが取り残される。

 

「騒がしい人らだなほんとに」

「あはは……」

「アーーーッ!!ニンジャ!!」

 

 今度はなんだと思い振り返ったら、そこには久方ぶりに出会ったサンダースの面々。

 

「これはこれはケイさん、その節はお世話になりました」

「お久しぶりです」

「応援に来たわよ、2人とも! ねね、それはともかくニンジャ! ジャパニーズファンタスティックスペル見せてよ!」

「またそれですか」

 

 苦笑しながらもエミは持っていたスパゲティの容器を一度みほに預けると、近くに落ちていた小石を拾い、手首のスナップを利かせて投擲する。

 飛んで行った先にあった樹木に着弾、石はめり込みそのまま落ちてこなくなった。

 

「忍法ナチュラルスリケン」

「イエーーーース!! バイオレンス!サディスティック、ファンタスティーーーック!」

「それ術じゃないじゃん!? どう見ても物理攻撃じゃん!」

「常人に真似できなければ術と言っていいのでは?エミは訝しんだ」

「むぐぐ」

「エミーシャ!!」

 

 お次は誰だと振り向けば、滅多に見ない自分とどっこいどっこいの背丈の少女が飛びかかってきた。

 危なげなく受け止めてクルクルと回ってやれば、振り回されてキャーキャーと楽しそうにわめくのでそのまま速度を上げてやる。

 

「ちょ、ちょ、止まって止まって!目が回るから!!」

「だめだカチューシャ、今止まれば諸共倒れるぜ。 ノンナさんをまて」

「ノ、ノンナ! ノンナーーーー!!」

「はい、カチューシャ」

 

 叫んだ途端にぬっと現れたノンナは振り回されるカチューシャを危なげなく抱きかかえてそのまま肩車ポジションに移した。

 クラクラと目を回すカチューシャと不動のノンナの対比が実に面白い。

 

「ワオ、プラウダのカチューシャとも仲良くなってたのね」

「エミちゃん本当に誰とでもすぐ仲良くなるんだから」

「いや、そうでもない。 私がいなくてもみほはみんなと仲良くやれてた」

「……そんなこと、ないよ」

「えみーしゃあぁぁぁぁぁぁぁ……!! よくもこのカチューシャを振り回してくれたわね!」

「試合で精神的に振り回されてたし、物理的に振り回すくらい許しておくれ」

「うるさいわよこの怪力チビ! 口答えするならシベリア送りよ!」

「カチューシャ、彼女はプラウダ生ではありませんが」

「こっちに引きずり込んでやるわ!」

「まーまーこれ食べて落ち着きなよ」

「はむ!? ……んー♪」

 

 カチューシャの怒涛の口撃にカウンターで突っ込まれたナポリタンが炸裂し、カチューシャご満悦。

 そのままナポリタンの皿をノンナに手渡すと心得たと言わんばかりに頷いて、頭の上のカチューシャに器用にあーんしはじめた。

 

「カチューシャ、あーん」

「あーん……ふん。 この捧げものに免じて見逃してあげるわ。 ただし!エミーシャもミホーシャも!負けたら2人ともただじゃおかないんだからね!」

「私たちも応援してるから、頑張って。 ガールズビーアンビシャス!」

「はい、ありがとうございます!」

「さて、みほ。 そろそろ集合場所に行こうか。 皆さん、それではまた」

 

 軽く頭を下げてから、2人で試合会場に向けて歩き出す。

 

 太陽の光が辺りに満ちる。

 陽光が青空の果てから大地を照らす。

 私たちの戦いはついに終わりを迎える。

 

 みほは、ケツイを胸に抱く。

 

「エミちゃん、私勝つよ。 勝って、仲間と最後まで助け合う戦車道の正しさと強さを、証明してみせる」

「……うん。 頼んだ、みほ」

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 試合前の、挨拶。

 今までで一番緊張する瞬間だった。

 目の前には、姉の姿。

 

 そして、抽選会のとき大喧嘩したばかりの、親友の姿。

 

 お互いに、目を合わせられない。

 

「……みほ」

「うん、わかってるよ、エミちゃん」

 

 今更になって逃げ出す気は無い、みほは、しっかりと前を向いた。

 泣いても笑っても、この戦いが最後だ。

 絶対に逃げ出したりするものか。

 

 やがて顔合わせが終わり、互いの学校の生徒が自分たちの陣地へと向かい始める。

 みほたちも踵を返し、自らの愛機の元へと進む。

 

「エミさん!」

 

 それを、止める声が一つ。

 

「……君は」

「私です!エミさんに助けてもらった戦車に乗ってた……赤星小梅です!」

 

 その言葉に、心臓がばくんと跳ね上がったのをみほは感じた。

 エミが、試合の最中でも、そしてその後でも守ろうとしていた存在だ。

 

「私、あなたのおかげで助かったから、ずっとお礼を」

「待った」

 

 彼女の言葉をせき止めたのもエミだった。

 その瞳は、冷たく燃えている。

 

「馴れ合いはよそう、 私たちは今敵同士だ」

「っ!」

「黒森峰は古巣で、君たちは大切なチームメイトたちだった。 だからこそ情を持つような真似は避けたい、だからそれ以上はやめてくれ」

「ぅ、あ……」

 

 

 

「試合の後、話をさせてほしい」

「ぇ……」

「小梅さん。 そっちで何があったのか、気になることはたくさんある、だからたくさん話をしよう。 お互いに気持ちよく試合を終えた後で、ね」

「……は、はい!」

「なら早く自陣に戻ることだ、エリカにどやされるぜ」

「わ、は、はい!ありがとうございます!」

 

 走り去っていく小梅の背を、寂しそうに見つめるエミ。

 その姿があまりに寒々しくて、声をかけずにはいられなかった。

 

「……エミちゃん」

「大丈夫だよみほ。 さあ行こうか」

 

 何事もないように歩き出す小さな姿。

 誰も声をかけなかった、かけてはいけないと思った。

 

 ただ、胸に宿る思いは一つ。

 

 ──勝つ。

 ──勝って、大洗を守る。

 

 ──勝って、エミの居場所を奪わせない。

 

 

 

 試合、開始。

 

 

 

 ──月──日

 

 さて、試合が終わり、日記をつけているわけだが。

 今日は気まぐれで試合の結末を後回しにして過程から記していこうと思う。

 これはあくまで気まぐれであり、俺が読者のことを認識していて彼らをやきもきさせる目的でそんなことをするわけではないので悪しからず。

 

 さて早速だが、試合の展開は基本的に原作をなぞったものに……ならなかった。

 これは俺のせいだ。

 作戦会議の際、俺はみほに一つ進言をした。

 身内が相手にいる以上、今までの試合よりも思考パターンを読まれやすい、つまり策を見破られやすいと。

 そしてそれは同時にみほも相手の思考を読みやすいということでもある。(勿論それらを逆手に取ったりそれをさらに逆手に取ったりという読み合いがあるわけだが)

 

 なのでまずはみほが作戦を立案し、そしてその作戦を分析して相手が打ってくる手を考える、ということになった。

 まず最初にみほは原作通り高所を陣取って位置有利を確保してからの砲撃戦を提案、数に劣る以上場所の有利は欠かせない。

 そうなると向かう途中に相手の妨害が予想される。

 なので足の速いカメさんチームが原作通り単騎で行動し、奇襲が予想されるポイントを下見する、という算段となった。

 原作に積極的に介入するのがどういう結果になるかは分からなかったが、俺とて負けないために打てる手は打ちたかった。

 

 結果として作戦は成功、原作よりもスムーズに高所を確保し相手を迎え撃つことができた。

 ……が、問題はここからだった。

 

 もう、シンプルに、強い。

 超強い。

 はっきりいって今までの高校とは比べものになってない。

 正直にいうと俺はアニメを基準にしてこの戦いを厳しいものだと考え、大苦戦するだろうと思っていた。

 それどころの話ではなかった。

 そもそも俺が黒森峰に在籍してた頃から練度の高さは知っていたんだ。

 弱点なんてそれこそ指揮系統に依存しすぎるせいでトラブルに弱いってことくらいで、逆にいうとトラブルを起こさなきゃ勝てないってことと同義だった。

 

 戦車の性能、隊員の練度、そして数。

 全てにおいて負けていてあるのは地の利だけ。

 それは今までの戦いも同じだったが、今回ばかりは規模が違う。

 カモさんチームの面々が悲鳴をあげる中俺もオイオイオイ死んだわ俺らと考えていたが、しかしまたも誤算、みぽりんは強かった。

 じわじわと高所に追い詰められていく中みぽりんは的確に指示を出し、あらかじめ考えていたらしい位置に砲撃を叩き込んでいく。

 

 山が、崩れた。

 

 何を言ってるか分からないと思うが俺も何を言ってるか分からない。

 うっそだろお前と思いつつ、思わずハッチから覗いて、土石流に押し流されていく5輌ほどの戦車を眺める。

 とりあえず胸の前で十字を切った。

 あれに飲まれて戦闘続行できる戦車はいない。

 むしろそれを察知して回避運動を成功させた多くの黒森峰戦車に拍手を送りたくなった。

 

 しかし当然常識はずれのガラガラ作戦に動揺を誘われた黒森峰は、さらに突然部隊の内側に潜り込んだカメさんチームにさらに混乱を招き、その間に距離を取りつつ離脱する大洗チームを見逃してしまう。

 結果的に5輌を無傷で撃破する大戦果を成し遂げた。

 さてここからは川渡りとウサギさんチームがエンストを起こしてしまうトラブルが発生したので俺とみぽりんで助けに行ったりして、まあともかく市街地エリアへ逃げ込んだわけだ。

 

 そして、奴が現れた。

 超弩級大型戦車、マウスが。

 

 みぽりんの『予想通り』に。

 

 

 

 ──

 

「くそっ、やられた!!」

 

 ガンッ!と。 戦車の装甲を殴りつけた衝撃で手が盛大に傷んだけど、その程度では到底抑えきれない衝動が胸のうちから湧き上がってくる。

 

「やってくれるじゃない……!」

 

 エリカの視線の先では土砂崩れに巻き込まれて麓まで転がり落ちていった戦車たちが、無残に白旗を上げている姿が映った。

 中の選手たちには一生もののトラウマになる体験だったかも知れないが『まぁそれはいい』。

 

『まさかあそこまで恐ろしい手段を取ってくるとはな』

 

 久しく聞いていなかった緊張感を孕んだまほの声に、エリカも完全に同意した。

 セオリーから完全に外れたまさしく常識はずれの攻撃といってもいいだろう。

 頭のネジが二、三本外れているんじゃないか。

 

「……今更、か」

 

 エリカはフッと笑う。

 みほが常識の外側にいる存在だなんて、エリカはずっと知っていた。

 エミと三人でつるんでいた時からずっと、なんとなくスケールの違いというものを感じ続けてきた、それがみほだ。

 

 だがそれがどうした。

 

「二度目はないわ……」

 

 エリカは獰猛に笑う。

 市街地に逃げ込むであろう大洗チームに対し、まほとエリカはマウスを差し向けている。

『徹底的な時間稼ぎ』を命じてあるマウスは、相手に無視できない圧と撃破を許さない行動で精神的にダメージを与えるはずだ。

 

「でもまぁマウスもそのうちやられるでしょう」

 

『そんなのは想定済みだ』。

 マウスだけでみほの指揮する部隊を長時間足止めできるわけがない。

 それでいい。

 マウスの役割は大洗チームが策を準備する時間を与えずに黒森峰が相手を取り囲む時間を確保することなのだから。

 

「……隊長、追撃しますか」

『慌てるな。 それに……エリカ、顔が怖いぞ』

 

 ハッとして、思わず頬を揉んだ。

 いけないいけないと思いつつも、燃えたぎる戦意を抑えきれない。

 

「すいません、ですが……楽しくて、つい」

 

 エリカは謝罪をしながらも、さらに頭の中でみほがどう動くかを考える。

 そうだ、この戦いで、みほは証明しにくるはずだ、自分たちの強さを、正しさを。

 自分たちを虐げた黒森峰を打ち破ることで。

 

「だったらやって見せなさいよ」

 

 こっちだって負けられない理由がある。

 2人の分まで背負って戦い続けてきたエリカには自分の正義を証明するためにこの戦いに勝ちたいという渇望がある。

 

「証明してみせる。 あなたたちならそれができるはずよ」

 

 この戦いで、『答え』が得られる。

 エリカは確信を持っていた。

 

 

 




もうみんなわかってるとは思いますがエミカスは秋山殿には輪をかけて甘いです、甘々です、ゲロ甘です。
理由はシンプルですが多分そう深く考えなくてもわかると思うしとりあえず秘密にしておきます。
ヒントはタグです。


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TANK OF THE ABYSS

「そういえば、私は出会ってから一度も、エリカが泣いたところを見たことがない。もしかしたらエリカは私が死んだ時も泣かないのだろうか。 でもエリカは、なんだかんだ優しいから泣いてくれるような気がする。泣いて欲しい訳じゃないから、私も頑張って生きよう」
「……」(目元を抑える
「夜、学園艦からの海の眺めは凄く綺麗で、みほもそんな感じで、だから私の本当の気持ちを言おうかなって思ったけど、やめておいた。私はもう直ぐいなくなるから。だけど、私が死んでこの日記を見られたら、もしかしたらバレるかな? バレないように書いてきたつもりだったんだけど」
「えうっ、うううぅぅぅぅ」(嗚咽
「学園はOGからの命令で、私からの手紙を握りつぶしていた。くそ! 何が黒森峰の人間としてふさわしいものとして振る舞えだ!私は……黒森峰の人間なんかじゃない!ただのみんなを苦しませたピエロだ……。役立たずのクズじゃないか……」
「けほっ、けほっ、うぅ……」


「ごきげんですね、西住殿」

「え?そ、そうかな」

「うんうん、やる気に満ち溢れてる感じだよ」

「先ほどの救出作業で、やはり、何か感じるものがありましたか?」

「……うん、そうだね。 きっとそうなんだと思う。」

 

 あんこうチームの駆るIV号戦車の中は、穏やかな空気が満ちていた。

 緊張感は、ある。

 しかしつい先ほど発生したトラブルを解決した後の、つきものの落ちたような顔のみほを見た全員が確信した。

 みほは、己の中の大きな問題を一つ解決できたのだと。

 

『力を持って山を抜き、気迫を持って世を覆う……我は覇王にあらず、唯歴史を拓くための時の歯車……』

『お? それは一体なんの歌だろうか?』

『項羽』

『おぉ!エミは中国の歴史が好きなのか? しかしそんな歌を遺してたかな、しかも項羽のイメージと全然違う……』

『深く考えなくてもいいよ、単なる私のイメージだから』

『そうか……まぁでも、今の我々は項羽率いた軍と同じような状況だな。彭城の戦いを彷彿とさせる戦力差だ。 そして、勝利するところまでな!』

『そうなるとみほが項羽か、案外似合ってるかも』

「なんの話をしてるんだ……」

 

 あらぬ方向へ飛び出している各車輌の雑談を聞いて思わずツッコミを入れてしまった麻子にクスクスと笑う。

 

 先ほどウサギさんチームが川の中でエンジンが不調を起こし突如として足を止めてしまう事態が起こった時。

 それの救出に迷わず向かったのはみほとエミの2人だった。

 ハッチから飛び出した2人は顔を見合わせるとイタズラげな笑いを浮かべてから、しっかりとロープを腰に巻いた後戦車の上を飛び渡って救助に向かう。

 

 無事救助を終えて、エミによくやったと褒められて、初めてみほは自分の心につっかえていたものが取れたことに気がついた。

 

(あの時私は、エミさん1人だけを行かせてしまったことを、ずっと後悔してたんだ……)

 

 そして、今度は2人で助けた。

 やっと彼女と胸を張って歩けるようになったと、みほは思う。

 エミが示した、『仲間と助け合い、共に戦う戦車道』を、真の意味で自分の目指すものだと言えるようになった。

 

(だから、負けないよ)

 

 今日何度目か、勝利への決意を固めたみほは、キューポラから顔を出しこの試合の決戦場と定めた市街地を眺める。

 

「皆さん、これより市街地に突入します。 おそらくここにはマウスが配置されているでしょう、何が何でも撃破しなければなりません。 どうか、気をつけて……では、『ぴょんぴょこ作戦』を開始します! エミちゃん、よろしくね」

『オーダー了解だ、任せておけみほ。 それと各員、私の勇姿はしっかりと目に焼き付けておくように。 朱肉につけたら紙に綺麗に写るくらいにね』

 

 ヘッドセットから聞こえる聞きなれた声にみほは、形容しがたい安心感を覚えた。

 今から彼女が行う行動は高い危険を伴うもの。

 しかし成功すれば値千金の価値を生み出すものでもある。

 

 みほは、エミを疑わない。

 絶対に成功すると確信していた。

 

 

 

 ──

 

 

 

「こちらエリカ、あと10分ほどで市街地に到着するわ。 いいわね?命じた通り決して逸らず、こちらが包囲網を完成させるまで相手を釘付けにすることに集中するのよ」

『了解』

 

 市街地へと先行した大洗チームを追う黒森峰の戦車部隊13輌。

 その先頭に立つティーガーⅡの車長を務めるエリカは、市街地にて間もなく戦闘を開始するであろう黒森峰の隠し玉マウスに無線通信を送っていた。

 

『しかし……マウスの装甲であれば大洗の連中の攻撃はほとんど通用しません。 やはりある程度は攻撃もしかけて、敵の戦力を削ぐ方が』

「何度も言ったけど、その慢心は確実にみほに食い破られる」

 

 マウスの車長の言葉はエリカのドスの利いた声に遮られた。

 

「なんども言わせないで。 いい?みほはね、怪物なのよ。 私たちの想像の外の発想を持って相手の喉仏を食いちぎる本物の化け物よ。 確かにマウスの装甲は向こうの戦車のほとんどの攻撃を弾けるけど、それは装甲の厚い部位の話だけ、スリット狙われたらどうするの?」

『……』

「そうね、そんな場所への攻撃を許すわけないって言いたいでしょうけど言えないわよね。 相手はみほなんだから。 いい? そっちが数を減らそうが減らさなかろうが、包囲さえ完成させて策を準備する術すら無くしてしまえば勝ちは確定するの、お願いだから早まらないで」

 

 エリカの過剰とも言える警戒心は、しかし決してやりすぎではない。

 かつて黒森峰にて同じ道を歩んでいたみほの鬼才は、多くのものが知っていた。

 黒森峰の流儀に反すると押さえつけられていたにもかかわらず時に思わず息を呑むような行動をしてのける。

 それを間近で見ていたエリカの言うことだからこそ、強い説得力があった。

 

(しかし……実際のところどうするつもりだ?)

 

 だからこそ、まほは疑問に思う。

『みほのことだからマウスの存在には気づいていて、そして挑む以上撃破の算段はたてている』ことは確信している。

 だが、まほはどう頑張ってもマウスを短時間で、被害を抑えつつあの戦力で撃破する方法が思いつかない。

 

 時間さえかければマウスの弱点である足回りなどをついて撃破できる。

 高火力の大口径戦車がいるなら、隙を作り騙して打ち抜ける。

 それなりの被害を考慮すれば、一瞬でカタをつけられる。

 

 それら全てを封じられた状態で、みほはどうマウスを破るつもりなのか……

 好奇心が、強く疼く。

 

 

 

『定期連絡、こちらマウス。 未だ大洗は仕掛けてきません』

「市街地にはもう入ったはず、油断はしないで。

  警戒して仕掛けるのが遅くなってるのならこちらからはありがたいことよ。」

『了解、警戒を続け──』

 

 突然のことだった。

 いきなりヘッドセットから凄まじい衝撃音が響き渡り、エリカもまほも心臓を鷲掴みにされたような思いになった。

 

「マウス、どうした!」

『き、奇襲を受けました!! なんで……周囲に敵の影はなかったのにどうして後ろに回り込めたの……』

「落ち着け、奇襲を受けたということは現在地は大洗チーム全体で共有されている。 襲撃に注意しながら場所を移せ、Ⅲ号、マウスを援護しろ」

『了解』

 

 素早く指示を出しながらもまほは困惑していた。

 一体どうやってマウスやⅢ号に気がつかれずに場所を特定した?

 2輌が待機していたポイントは見晴らしがいい場所だから確かに見つけるのは簡単だろうが、逆にこちらからも相手を発見することは容易で、戦車のキャタピラ音やエンジン音から接近もたやすくわかるだろう。

 それらを一切感じさせない電撃的襲撃、どんなカラクリを使ったのか。

 

『うわ!?』

 

 再び無線から悲鳴が響く。

 

「どうした!?」

『ふ、再び奇襲!! なんで、なんで砲塔の向いてない方向がこんな正確に狙われるの!?』

「Ⅲ号、敵の詳細は!?」

『撃ってきたのはポルシェティーガーですが、接近に気がついた時にはもう砲塔がこっちに向いてました!! 場所や向いてる方向を完全に把握されてるとしか思えません!!』

「……」

 

 悲鳴のような報告を受けて、まほの頭の中には数多もの可能性が浮かんでは消えていく、一体相手は何をした?

 たとえ偵察兵として1人の乗員が陰から様子を伺ったとしても、マウスとⅢ号の車長の両方の視線から逃れ続け情報を送り続けるなど不可能に等しい、とっくに発見されているはずだ。

 

『きゃあ!?』

「またか……怯むな。 こちらも後4分でたどり着く! それまで相手を釘付けにしてくれれば」

 

 そこまで言ったところでここまででいちばんのものすごい衝突音が耳を劈いた。

 

『Ⅲ号撃破されました!!』

「っ」

『こ、こちらマウス、なんとか一輌撃破しましたが履帯を破壊されました! これでは……単なる的です!!』

 

 震えた声が鼓膜を揺らす。

 なぜだ、なぜここまで詳細な情報が相手に知られている?

 常識的な状況では絶対にありえない事態にまほは混乱しかける、

 

(なんだ、みほ。 どんな魔法を使った?)

「まさか……」

 

 思考に溺れかけたまほの脳みそを、エリカの震えたような声が掬い上げた。

 

「エリカ?」

「車長!! 上!!」

『上!? あ、あぁ!!』

 

 そこで、通信は途絶えた。

 恐ろしい爆発音と乗員たちの痛ましい悲鳴がヘッドセットから生々しく伝わる。

 

『……マ、マウス、撃破されました。 すんでのところで一両道連れにしましたが、破壊したのはどちらも軽戦車で……』

 

 たった5分間の間に、相手を封じ込めるための楔が完全に破壊された。

 

「……なんだ、何が起こった。 エリカ、何に気がついた!?」

「向こうは……大洗チームは、おそらく」

 

「エミを、偵察に回しています」

 

 それがどうした。

 一瞬そう思いかけたまほは、エミの運動神経を思い出して、そして最悪の答えを導き出した。

 

「エミ1人を市街地に放って、あの運動神経を十全に活かす完全単独行動でマウスの情報を……恐らくは、戦車の死角になりやすい真上から大洗に伝え続けていたんです」

「……つまり、本来戦車1輌を用いる偵察を彼女の体一つでなさせている」

「エミの身体能力は半端なものではありません。 屋根から屋根へと移るどころか短距離なら壁を駆け上がることだってできます。 エミから伝えられる情報を利用しマウスの死角から攻撃を仕掛け続けていたんです。 そして、恐らくは今から、私たちにも同じ手段を取るでしょう」

 

 まほの脳裏にはありありとその情景が浮かぶ。

 窮屈な市街地に突入した戦車部隊、情報は向こうだけが全てを知りえている。

 

 考えうる限り最高に最悪な状況だ。

 エミの無尽蔵のスタミナから考えても長時間監視の目を受けることは避けられず、そしてエミの監視を打ち破るすべがないのがいちばんの問題だ。

 戦車を広く分布させれば監視の目を逃れられるものも出てくるが、それで各個撃破を狙われれば相手の位置情報を知りえないこちらが圧倒的に不利になる。

 市街地戦で相手だけがこちらのすべての位置関係を知りえている。

 いっそ、笑えてくるような状況だ。

 当たり前だが、普通の人間に出来る芸当ではない。

 猿どころか鳥並みの身軽さでないとまず達成できない常識はずれの芸当だ。

 

「……そうだ、エミも十二分に脅威だと言うことをみほに気が取られすぎて失念していた……だが、いくらなんでもそんな使い方はアリか?」

「隊長……」

「来年からは対人武器としてペイント弾を用いた個人火器あたりが新ルールで採用されるかもしれないな……だから私は山なんて攻めずに平原で包囲を敷いて待ち伏せすればいいって言ったんだ……」

「……気持ちはわかります、そうすれば万が一にも負けはなかったのに」

「それもこれも全部OGやら西住流(うち)の重鎮のせいだ。 何が貧弱な相手の策くらい踏みにじってしまえだ、笑わせる。 こっちの苦労も知らないで」

「去年もそうでした、大人たちのせいで、子供は振り回され続ける」

「今回作戦にまで口出ししてきたのはさすがに許容できん、私が卒業する前に全員一掃してやる」

 

 非常に珍しく苛立ちや怒りの感情をあらわにしてふてくされたように愚痴るまほ。

 エリカも完全に同意した。

 そもそもこの決勝戦はそんな奴らの命令がなければ平原に陣を敷いた作戦でほぼ確実に勝てて、市街地戦にまで縺れ込まなかったと言うのに。

 

 大人は、汚い。

 エリカはぎりりと歯を食いしばった。

 

「ふてくされても、始まらないか。 各車両に次ぐ、今から残りの13輌を四つの部隊に分ける!各車輌が死角を補い合い相手の奇襲を警戒しつつ、残りの6輌を各個撃破しろ! フラッグ車を発見した場合は、発見した部隊に向けて各部隊が1輌を増援として振り分け確実に仕留める。 質問はあるか」

『……』

「では編成を決めるぞ」

 

 まほは素早い指示によって、部隊を3.3.3.4の四つの部隊に組み分けた。

 副隊長エリカはまほと同じ第一部隊で、4輌からなる守りの硬い編成だ。

 

「今から市街地に突入する。 改めて言っておくが、我々の位置関係はすべて相手に筒抜けになっていると思った方がいい、人工衛星から監視されているようなものだ。 いつどこからでも仕掛けられてもいいように、各車輌が緊張感を持って守りを固めろ。 以上。 それでは、市街地の索敵および攻撃を開始する!」

 

 まほの言葉に車長の全員が高らかに応答し、そして黒森峰の戦車部隊が四つに分かれて市街地への侵入を開始する。

 その様子を、屋根の陰からじっと見つめる、1人の黒い鳥の姿があった。

 

 

 

『黒森峰は四つの部隊に分かれて、それぞれが死角を補いながらこちらの探索を開始した。奇襲を仕掛けても一撃で撃破するのは難しいだろう、相手の装甲は軒並み硬い』

「流石に手強い……エミさん、ありがとう。 大変だろうけど、引き続き相手の偵察をお願いします。 特に、フラッグ車を含む部隊は詳細に報告を」

『了解だ。 では、いよいよ大詰めだな。 各員、これから大隊長西住みほの名の下に、『クローズプラン』を開始する。 諸君、派手に行こう。』

「もうエミさん!作戦名はチラチラ作戦だってば!」

『そこまで固執するほどいいネーミングじゃないだろう……』

 

 




一度くらいはオリ主を大いに活躍させてもいいんじゃないかと思って活躍させたけどすげームカつくから絶対にエミカスをブチ転がしてやろうというケツイがみなぎりました。

>>前回のあとがきの答え
エミカスは秋山殿にガチで一目惚れして日増しに思いが強まってます
ですが本人の性質上その自分の感情には何があっても気がつかないのでこの2人が結ばれることはないでしょう。
気がついた瞬間多分死にます、心臓麻痺で。










1 名無しの戦車乗り12/05 10:46
島田流に目をつけられました


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パンツァーエムブレム

やあエリカ、久しぶりに会ったねようこそ私の新しいねぐらへ。
ハンバーグおたべ?いらない?そう……あとで食べる?そう!
ところで急に用事なんて何が会ったんだい?あぁ言わなくても実はわかってる、みほのことだろ?ほらビンゴ。
エリカは本当に心配性だなあ私が見てるんだからみほに心配はいらないよ、まあみほは可愛いから気持ちはわかるけどね。
気が気じゃないんでしょうみほが変なのにたぶらかされてないか、私もその気持ちは重々、え?そうじゃない?
みほに私が食べられてないか心配?エリカ熱でもあるの?
そんなこと起きるわけないだろニンジャだぞ私。
まあ照れ隠ししなくともみほは変なのになびいたりしないさそこは私が保証する。
ところでみほが帰宅するまでまだ時間があるけどその間何する?チェスでもするかい?え、なに?なんで迫ってくるの?ちょ、ま、エリ


 キャタピラが地を削りながら突き進む騒音が辺りを満たす。

 もう、子供の頃からずっと聞きなれた音だ。

 赤ん坊の頃から聞かされ続けてきたせいか、聞いていればむしろ落ち着いてくるような気さえする始末。

 

 しかし、自分は未だかつてないほどの悪寒に苛まれている。

 絶対的な防壁といってもいい戦車の中にいるというのに、なぜこんなにも不安なのか。

 

 トンッと、何かを蹴る音がする。

 

「……」

 

 視線の先には何もなかった。

 いや、たった今屋根の陰に何か黒い尾のようなものが隠れたような気がする。

 鳥や猫か、しかしこんな鉄の獣が突き進む側に獣が寄ってくるものか。

 

 だとすれば

 

「見られているな」

 

 手元にMG42あたりがあればハチの巣にしてやるのに。

 益体も無いことを考えてしまう自分に少し笑みがこぼれた。

 そうだ、はっきり言おう、こんな状況は完全に想定外だ。

 そもそも戦車に追いつけるほどの速度で屋根の上を移動し続けられる存在なんて普通は考慮しない。

 そしてその役目を任せてしまう相手の度胸も恐れ入る。

 みほがエミを完全に信頼しているからこそこの役目を任せ、そして成功させた。

 

 なんて面白いんだろうとまほは思う。

 もしみほとエミが今年もまだ黒森峰にいて、そしてみほがこんな作戦を提案して、エミがそれを引き受けた場合、実際にこの作戦を実行しただろうか。

 

 いや、間違いなく潰されていただろう。

 そんな戦い方は黒森峰の、西住流の流儀に反しているからだ。

 だから、これは彼女たちが大洗に戦場を移さなければ決して目にすることのできなかった光景なのだろう。

 皮肉な話だ。

 大切な妹とその友人が自分の元から離れてしまったからこそ、こんな愉快な経験ができているのだから。

 全く人生とは皮肉屋で面白い。

 

「……ょう、隊長?」

「ん、あぁ、大丈夫だ」

 

 いかんいかん、とまほは頭を振って気を取り直した。

 試合の最中に考え事とは何事か。

 改めてまほは地図をにらみ、現在の状況の整理をし直す。

 

 戦場となったのは市街地。

 戦力は13対6。

 機体性能も乗員の平均練度もこちらが上。

 相手の指揮官はみほであり、相手には妨害不可能な上空からの偵察者がいる。

 

 なるほど、認めよう不利だ(・・・・)

 まほは自身の実力を疑ってはいない。

 そんじょそこらの策士気取りなど鎧袖一触にしてやる自信もある。

 だが、みほに宿る才能が自分を上回ることも昔から考えていた。

 

 しかし、負けるのはやだ。

 

 まほは今更になって自分が負けず嫌いなことに気がついた。

 妹に勝ちを譲ってやろうなんて大人びた発想なんてかけらもないし、なんなら姉としての威厳を見せつけてやるとすら考えている。

 

(いいだろう、勝負だ)

 

 まほは、戦車の進行方向に向けて鋭い視線を向けた。

 おそらく、そろそろ仕掛けてくる。

 何が起きても対応できるように、神経を研ぎ澄ませて、心を凪にする。

 

 

 

 そして、数秒後。

 

『こちら第二小隊、敵戦車の襲撃を受けました、数はおそらく1!』

『こちら第三小隊! こちらも同様1輌に攻撃を受けました、1輌が履帯を破損!』

『第四小隊、敵を捕捉!』

(やはり同時に来たか)

 

 予測した展開になったことにまほはほんのわずかに安堵した。

 すぐさま各小隊長に的確な指示を飛ばし始める。

 

「全小隊、発見した車輌の種類を答えよ」

『こちら第二部隊、おそらく相手は八九式!』

『第三小隊、敵はM3中戦車!』

『第四小隊はIII号突撃砲捉えました!!』

「ふむ……」

 

 発見したのは3車両。

 隊員の知識は深く、しかも相手の戦車は全て特徴も生産国も別々のもの、見間違いはないだろう。

 そうなると残るのは、フラッグ車のIV号戦車に38t、そして要注意対象のポルシェティーガー。

 仮に相手がそれぞれ1輌で襲撃を仕掛けたのならこのまま各小隊が反撃に転じた場合確実に撃破できるだろう。

 みほだってそんなのはわかってるはず。

 つまりこれは

 

「罠だ」「罠ですね」

 

 エリカと声が被った。

 互いに少し笑いあってから、そして再び思考を巡らせる。

 相手の罠であることは疑いようがない、しかしだからと言って慎重にすぎるのも問題だ。

 市街地での乱戦となった今、相手の車両の半数を捕捉している今は好機であることも間違いない。

 ならば

 

「各小隊、発見した戦車を追え! ただし、高火力のポルシェティーガーが待ち伏せをしている可能性がある、十分に警戒せよ。 発見した三種以外の戦車を確認した場合速やかに報告しろ!」

『了解!』

 

 緊張感のある声が帰ってきてまほは安堵した。

 もはや黒森峰の中に相手を弱小と侮るものはいない。

 

「エリカ、こちらも行動を開始するぞ。私の後ろにつけ。3番車と4番車はそれぞれ先頭と最後尾に!」

「了解しました!」

 

 まほはフラッグ車の前後を守る列を作り、行動を開始した。

 おそらく天翔エミはこのフラッグ車が所属する第1小隊を最注視している。

 それぞれの小隊が敵を追って戦力が分散している今は間違いなく好機だろうから今すぐにでも襲撃されてもおかしくはない。

 さぁ、どうくるか……

 わずかなエンジン音も見逃すまいとまほが神経を張り巡らせる。

 そして次の瞬間、自分の目の前に鳥が降りてきた。

 

「……は?」

「グーテンターク!」

 

 舞い降りた黒い鳥はキューポラから上半身をのぞかせるまほの手に恭しく一輪の花を握らせて素早く飛び立った。

 渡されたのは紫色のアネモネ。

 意味は『あなたを信じて待つ』

 ご丁寧に花言葉のカードが添えてある。

 

「……ふ、ふふふふふ」

「隊長、落ち着いて!」

「いいだろう、信頼に応えてやるぞエリカ!!」

「ああぁぁもう!! みほぉ!! エミィ!! あんたらは悪魔か!!!!」

 

 こんな安い挑発に乗るなんてどうかしてるがまほの闘争本能が完全に燃え上がってしまったから仕方がない。

 しかし脳内のどこか冷静な部分は戦車から離れて再び建物の上を飛び跳ねていくエミを見つめて、その進行方向と地図をにらみ合わせて相手が打ってきそうな策を想像する。

 

(突入するのは住宅街、背の高い建物はないが家屋が密集していて見晴らしが悪い。 曲がり角に相手が待ち伏せている可能性はかなり高い)

 

 で、あれば。

 まほは現在進んでいるルートから危険な地点を直感で割り出し、そしてすぐさま指示を出した。

 

「全車止まれぇ!!」

 

 キャタピラがガリガリと一瞬破砕音を奏でた直後に、たった今通ろうとしていた十字路の右手側から壮絶な発射音が叩きつけられる。

 

(やはり来た!)

「Ⅳ号!他に戦車がいないか確認を!」

 

 すぐさま先頭車両のIV号駆逐戦車が十字路内に突入し、安全を確認する。

 

『ポルシェティーガー確認しましたが逃げていきます、他に機影はありません!!』

「焦るな、罠の可能性もある。 しかしここで撃破できれば一気に流れをこちらに傾けられるか」

 

 まほは一瞬思案する。

 ポルシェティーガーを追うか、追わないか。

 追うならばどう仕留めるか。

 現状戦力でもやや手こずるだろうが足回りの悪いポルシェティーガーなら間違いなく撃破できる。

 リスクとリターン、そして成功確率の全てを考えた上で……

 

「後ろだ!!」

 

 答えが出た。

 

「なっ!?」

『きゃあああ!!』

 

 叫んだ瞬間に腹の底を震わす衝撃が迸った。

「パンター、被害は!?」すぐさまエリカが被害を確認する指示を飛ばすが、今のタイミングは……

 

「ぱ、パンター履帯を破壊されました!」

「くそ、忌々しい!」

「先回りされ続けるのは厄介だな」

 

 ここで1輌が足を失ったのは痛い。

 まほは顔をしかめつつもさらに戦況を分析する。

 

(恐らくここで足を止める目的でポルシェティーガーを配置した。

 そしてその瞬間を後ろから突くためにあらかじめ背後にも伏兵を潜めていた、か。)

「Ⅳ号はそのまま敵を警戒しろ。 パンター、襲撃を仕掛けてきた戦車はわかるか」

『に、二輌でした!IV号D型と38t!』

「なんだと?」

 

 この段階で全ての車両を晒してきたことにまほは違和感を覚えた。

 わざわざフラッグ車が出張ってこなくても問題はないはず。

 エリカが各戦車と交戦中の小隊にむけて矢継ぎ早に情報を伝える中まほはさらに高速で頭を回転させる。

 無線からは今も各小隊が大洗の戦車を追いかけて、少しずつ追い詰めつつある報告がなされている。

 それぞれの戦車は距離も遠く、連携は望める状況にはない。

 

(押せるか……押せないか……)

 

 この判断は間違いなく戦局を左右する。

 十中八九、いまフラッグ車を前面に押してきたのは罠だ。

 焦らずとも、そう経たないうち小隊が敵戦車たちを撃破しこちらに合流できる。

 ここは守りが手堅い一手だ。

 

 とはいえ、とまほは自分たちの現在地を見てみる。

 狭い道路の後ろは履帯を破壊された自軍戦車にふさがれ、前方の十字路の三方向にしか向かう道はない。

 ここで仮に十字路の交差部を占拠されて前方から集中砲火を受けるのはまずい、そして今もこちらの状況をエミが報告し続けているはずだからここに留まるのは間違いなく悪手だ。

 

「IV号戦車、まずはここを離脱するぞ、広場がある右手側へ向かう、先行しろ。 エリカは後ろを。 今のように後ろからの奇襲もありうる、注意しろ」

『了解!』

 

 まほの指示に従って、1輌減って3輌となった第一小隊が進軍する。

 

(くそ、苦戦は覚悟していたがここまでとはな)

 

 こちらの行動の全てを先回りされることにまほは歯噛みする。

 ちらりと視線を屋根に向ければ高く跳ねるエミの姿が見えた。

 それはもう別のスポーツだろうといよいよ文句をつけたくなる。

 なんならいっそのこと主砲であたりの家屋を全部丸ごとぶっ飛ばしてやりたい気分だ。

 

(焦るな、広場に出てさえしまえば不意を突かれる確率は低くなる。 そこで防衛に徹すればたとえ相手の3輌がまとめてかかってきたとしても凌ぎ切って増援を待てる……)

「前方フラッグ車!!」

「何!?」

 

 突然の事態に心臓が跳ね上がった。

 視線の先には自分たちの前に躍り出て、38tを引き連れながら砲塔をこちらにむけて疾走するフラッグ車、キューポラからは明るい茶色の髪をした自分の妹がケツイに満ちた瞳でこちらを見据えている。

 

「回避運動!!!」

「ってー!!」

 

 瞬間上半身がぐんと振り回されると同時に発射音がこだました。

 五輌が団子状に連なり、同じ路地を走っている状況だ、もはやまほに猶予はない。

 

「IV号戦車、相手と距離を開きつつ攻撃を開始しろ!」

『了解!』

 目の鼻の先と言えるほどだったIV号駆逐戦車と38tの距離が開きつつ、Ⅳ号の火砲が唸りを上げて吐き出される。

 狭い道いっぱいに使い器用に回避されるのをみる、流石に練度が高い。

 

「落ち着け、外してもいいから弾幕を浴びせて圧をかけろ! 」

「隊長、ポルシェティーガーの姿が見えませんが」

「わかっている。だがフラッグ車とチェイスしている以上流石に尻尾巻いて逃げるわけにはいかない! 各小隊に報告、敵フラッグ車を発見した!! 各小隊のうち1輌を今から指定するポイントに回せ!!」

 

 前方で砲撃を交わしながらひたすらに疾駆する大洗の戦車を見据えつつ、まほは状況が有利に転じつつあり、そして『みほの思うがままに』自体が運ばれつつあることを悟る。

 

(不利な状況を背負ってまで敢行する策とはなんだ、みほ)

 

 やがて、一度のダメージも発生しないまま広場に突入した5輌。

 大洗チームがトンネルの中に潜り込んだのを確認したまほはその先が出口のない広場となっていたことを思い出す。

 

 ぞくりと、背筋が震えた。

 

(なんだ?あそこに入り込んだら何か不味い事態が起きる気がする)

 

 おかしな話だ。

 あの広場に突入すれば相手に逃げ場はなく、仮にポルシェティーガー含めて3輌で戦闘を開始することとなってもおよそ戦力ではこちらが優っている。

 間も無く駆けつける増援部隊も加わればいよいよ勝利は盤石だ。

 この場で引き下がり増援を待つのも弱腰が過ぎる。

 

(どうする。ここで増援を待てば勝利は確実だが、そうはさせてはもらえない気もする。一刻も早く追撃したほうがいい予感がある。 どうする、どうする、どうする)

 

 遭遇したことのない状況にまほが困惑する中、エリカは進言した。

 

「隊長追撃しましょう! ここで逃す手はありません! 仮に失敗した時はもう猪突撃を命じた大人どもに罪を被せます!!!」

「エ、エリカ?」

 

 思わぬ発言に目を丸くしたまほにエリカはどう猛な笑みを浮かべて答えた。

 

 ……なるほど、西住流のお偉い方の戯言はともかく、ここで逃げるのはらしくないかもしれない。

 賭けだ。

 

「みほの誘いに乗る。 エリカ、先頭をいけ、四号は私の後ろに──」

 

 その瞬間Ⅳ号駆逐戦車が吹き飛ばされた。

 

「っ!?」

「ポルシェティーガー!!」

 

 なんてことだ、先ほど待ち伏せをしていたポルシェティーガーが後ろについている。

 足の遅さを考慮すると、あらかじめまほたちをここに誘い込み攻撃を仕掛けさせるつもりだったのだ。

 叩くか、しかし撃破に時間がかかる、その間にトンネル内から戻ってきた大洗の2輌に挟み撃ちにされたら────

 

「エリカ、もう前に行くしかない!!」

「チクショーーー!!!」

 

 すぐさまトンネルに飛び込んだ2輌は、その先に戦車がいないことを確認すると全力でトンネルを走り抜けた。

 まほはトンネルの入ってきた道に視線を送る。

 ポルシェティーガーの巨体がズッシリと立ちふさがり道を塞ぐのが視認できた。

 

(蓋をされたか……)

 

 あれでは仮にポルシェティーガーを破壊できても回収車が来るまで増援は立ち往生するだろう。

 

 

 

 情けない、まほはもういっそ笑い出したくなった。

 情報を全て知られていたとはいえ、やることなすこと何もかもみほに先を越されてしまった。

 

(負けだなこれは)

 

 もう誰がなんと言おうとまほはみほに負けた。

 自分自身がそう感じてしまった。

 情けない。 嫌になってくる。

 必死こいて今まで修練を積んできたのはなんだったのか。

 

(あぁ負けたよ、勝負には負けた)

 

 まほは自嘲するようなため息をついてから……パチンっと自分の両頬を叩いた。

 

(だがまだ試合には負けてない)

 

 そうだ。 まほはまだ負けてない。

 確かに8輌しかいない学校相手に散々に翻弄されていいとこ無しという醜態だが、まだ試合には負けてない。

 今から始まるのは、逃げ場のない2対2の空間での、邪魔の入らない決闘だ。

 互角、否、戦車の性能でいうと未だ有利だというから笑えてくる。

 

「隊長」

「なんだ、エリカ」

「私、隊長についてきてよかったです。 みほとエミが向こうで仲良くしてたのは羨ましいし嫉妬してましたけど、こうして隊長と肩を並べて戦える経験を積めたから悔しくはなかったです。 ありがとうございます」

 

 エリカの言葉に、まほは柔らかく微笑んだ。

 せめて、悔いを残さないようにしてあげたい。

 

 

 

 

 

 

 

 まほとエリカが駆け込んだ閉鎖された広場。

 そこには大洗チームの2輌が先に足を止めてこちらを待ち構えていた。

 無線からは大洗チームの残っていた4輌が破壊されたこと、路が塞がれて通れないことが告げられている。

 通信を切った。

 

 ストンッと、黒い影が降ってきた。

 エミだ。

 おそらく今回の戦いで最も黒森峰を苦しませたであろう人型偵察機。

 彼女がポンポンっと跳ねて38tのキューポラからは車内に滑り込み……すぐに引きずり出された。

 

「痛い痛い!何するんですか桃ちゃん先輩!」

「桃ちゃん言うな!! ここはお前が出る空気だろうが!」

 そのままぴょこんと、小さな背丈ゆえ頭しかキューポラからのぞけないエミがこちらを見て、こほんと一つ咳払いをした。

 

 まほが、みほが、エリカが、エミが、顔を見合わせる。

 

 

 

「みほ、この勝負は私の負けだ」

 

 まずまほが口を開いた。

 

「これだけの戦力差でありながらここまで追い詰められてしまった。 情けない限りだ、穴があったら入りたい」

  「お姉ちゃん……」

「だがまだだ! まだ試合は終わってない!! みほ、今この瞬間は、各々が持ちうる力こそが全てだ!! 私を、超えてみせろ!!」

「──!!」

 

「みほ、あんたにはとことんヤラレっぱなしだったわね」

 

 エリカが、言葉を紡ぐ。

 

「私は1人だけ置いてけぼりにされるわ電話はカットされるわ試合ではボコボコにされるわ……」

「……」

「でも、いいわ、今勝てばいい。 黒森峰と大洗の戦いでは負けたけど……この戦いで、どちらが本物なのか、分かる気がする。 あんたたちを倒して、最後に私たちが勝ち残った、その時に!」

 

 エミが口を開いた。

 

「言葉などもはや意味をなさない」

「うん」

 

 みほが答えた。

 

 

 

 『Panzer vor!』

 

 最終決戦、開始

 

 

 

 

 

 

 

「バッカお前天翔お前ほんっとバカだな!! ここはおまえが車長として出張る場面だろーが!!」

「だって私が指揮したら3秒で撃破されるよ、桃ちゃん先輩おーねがい」

「桃ちゃんゆーなー!!」

 

 緊張感は少し足りなかった。

 




おまけでifルートとか書いたら需要あるのかな、その時はちゃんと作者ページに跳べるようにしないとね

ところで評価よろしくって催促するのは女々か?
女々しくてもいいから評価してくだち。


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ガールズ&パンツァー エクストリームバーサス フルブラスト

僕は君に挑戦する

そして胃を破壊する……!


 ──という流れで最後の2vs2の戦いが始まったわけだ。

 3000コスのティーガーⅠ(まほ搭乗機)と2500コスのティーガーⅡ(エリカ搭乗機)。

 対してこちらは3000コスのIV号戦車(あんこうチーム)と2000コスのカメさんチーム。

 なかなかいい戦いになりそうじゃろ?落ちたら復帰できないんじゃよ、フォッフォッフォッ……

 

 さて、ここからどう戦局が動いたかというと、まず黒森峰側が

 

「エミちゃん、晩御飯できたよ」

「お、わかったよ」

 

 日記と携帯を両方閉じて、エミは椅子からぴょこんと飛び降りるとテーブルの側に駆け寄ってきた。

 相変わらず羽のように軽やかな体捌き、すっかり見慣れていたはずだったけど、久方ぶりに目にするとやはり異質に映る。

 

 それだけ、長い間離れ離れだったんだ。

 

「おぉ、美味しそうだ。 エリカの特製ハンバーグ、食べるの久しぶり」

「私だけ置いてけぼりだったもんね、そりゃそうよ」

「ごめんってばエリカさん……」

 

 冗談よ、と返しながらエプロンを解き座布団の上に腰を下ろす。

 左にみほがいて、右にエミがいる。

 

 それだけなのに、心の底から安心感が湧き出してくる。

 

 やはりこれが、私の定位置なんだろう。

 

「それじゃ、いただきます」

『いただきます』

 

 手を合わせてから、晩御飯に手をつける。

 自分で作ったチーズハンバーグに、みほが作ったコンソメスープ、エミが淹れたコーヒー。

 特にエミはやたらとコーヒーを淹れるのが上手くて、それが飲めなくなってしばらくはイライラが抑えられなかった。

 

「ん、美味しいよエリカ」

「えっ、そ、そう」

 

 当たり前の感想を言われて、なぜだか胸が弾んだ。

 はしゃぎ過ぎだ、自分。

 そう思っても心臓の鼓動が徐々に早くなっていくのを抑えきれない。

 久しぶりに、こんな気だるい幸せを味わった気がする。

 

「それにしても今日は疲れたよね。 今までで一番大変な試合だったよ〜」

「ふふ、私もだよみほ」

 

 しかし話題が切り替わってしまった。

 仲睦まじく話す2人を見ながらも、私も今日の最後の戦いを思い出す。

 そうだ、互いの全力を出し切った、極限の瞬間を──────

 

 

 

 

 

 

 

 開戦を告げる銅鑼の代わりとなったのは、一発の砲撃だった。

 

『散開!!』

 

 まほの駆るティーガーⅠから吐き出された火砲が空を穿つ。

 それ以前に動き出していた大洗組みはそれぞれ左右に散開。

 全く同時にエリカ車のティーガーⅠもキャタピラを駆動させ全車一斉に動きだした。

 

『エリカ、38tを任せる!』

「了解!」

 

 まほの発言の意図をエリカは一瞬で把握した。

 まほとエリカ、2人で揃って敵フラッグ車IV号D型を狙うのはアリと言えばアリだ。

 だが、それを指揮するは西住みほ。

 たとえ二輌で追ったとしても、容易くは仕留められない。

 そしてその間に38tに撃たれる、これが怖い。

 ヘッツァー仕様の改装を受けた砲火力は侮れず、何より履帯を破壊されればこの状況ではすなわち撃破されたに等しい損害となるからだ。

 足回りがいい軽戦車、この場では警戒対象以外の何物でもあるまい。

 

「さぁ、こい!!」

 

 みほとまほ、エリカとエミにわかれてそれぞれが一対一(タイマン)の戦いを開始する。

 広場にて緩急をつけあったテクニカルな戦いを繰り広げるフラッグ車の戦いに対し、エリカは狭い通路で建物を一つ挟んだ機動戦を展開した。

 行間射撃戦の形になるのは想定内だが、まずここからどう仕掛けるかが最初の課題。

 

(的が小さい、仕留めるのは難しいわ。 相手の方が早く動けるし行進間射撃では幾ら何でも無理がある)

 

 まずは出方を伺いつつ相手の思考を搦めとるところからだとエリカは判断した。

 キューポラから出した上半身を大きくひねり進行方向の地形を把握する。

 

「操縦手そのまま直進。 砲撃手、次のT字路でまずは一発撃ってみなさい」

『了解!』

 

 返答の声を聞きエリカはキュッと手を握った。

 まずは相手がどう動くか。

 相手の車長は先の雰囲気からすると手練れと言うほどではなかった。

 相手の指揮能力や作戦眼を見極める──!

 

「……ってえーー!!」

 

 炸裂音が鼓膜を揺さぶった。

 建造物の陰から姿をさらした瞬間にティーガーⅡの砲が唸りをあげる。

 その砲撃が突き刺さった先に、 敵の姿が、ない。

 

「浅知恵を!砲塔左90°旋回、進行方向と真逆に向けなさい!」

 

 ティーガーⅡの砲塔が真後ろへと向いた瞬間に、ギャリギャリと地面を削りながら姿を現した38t!

 悔しそうに歯噛みする相手の車長の姿に愉悦がこぼれだす。

 相手の射撃を物陰でやり過ごしてからすぐさま発進し背後を取る、そんなのはすぐに予測できた。

 38tの動かない砲塔ではこちらと渡り合うにはそれしかないのだから。

 

「砲撃来るわよ、操縦手! 側面はなるべく晒さないように! 相手の狙いはほぼ確実に履帯よ!」

 

 履帯は側面の方が被弾面積が大きい、そこを見せなければこちらは早々に落ちず、逆にこちらの砲火力なら相手を一撃で消し飛ばすこともできる。

 

『撃て!!』

 

 両者の叫びがシンクロし、寸分たがわず放たれた一撃が瞬く間に交差、そしてそれぞれ狙いを外れてその先の校舎を破壊するにとどまる。

 

(敵装填手はおそらくエミ! 以前と体格が変わってなかったと言うことは体重も軽いまま、機動中の戦車内では相変わらず装填速度が著しく鈍るはず!)

「焦らず装填して! 砲撃手はこちらの指示まで撃たないで!」

 

 エリカは冷静に相手の出方を見た。

 足の速さ以外は全てにおいて優っている、一撃で撃破される危険性も少ない。

 ならばここはじっくりと見る……

 

 我慢できなかったか、38tがティーガーより早く次弾を放った。

 うまく回避したことに胸をなでおろし即座に指示。

 

「速度落として! 砲撃手、焦らず狙い撃て!!」

 

 ティーガーが速度を落としたことにより彼我の距離が瞬く間に縮まり、相手の表情をくっきりと見えるほどまでに接近する。

 驚愕、嘲りが交差し────

 

 砲撃が放たれた。

 

「わあああああああああ!!!???」

「クッソ!!」

 

 しかしティーガーⅡの必殺の一撃は回避された。

 操縦手のとっさの判断か急激なカーブで車線から逃れたのちに小柄な車体を活かしてティーガーが塞ぐ狭い道の脇ギリギリをぶつかりながらも強引にくぐり抜けていく。

 情けない悲鳴、獲ったという確信を外された怒りを吐き出しながらもすぐに追撃を指示。

 

「背中を向けてる38tなんてカモも同然よ!! 追撃して破壊しなさい!」

 

 猛然と発進したティーガーが軽戦車の背を猛追し始める。

 一気に形成を手繰り寄せたエリカはしかし慢心せずに次の一手を考え出す。

 

(この先は左にしか曲がれないはず、そこを狙い打てば……!)

 

 しかしそうはならなかった。

 38tの背中から煙幕が吐き出される。

 

(これは、序盤でこちらの目をくらますために使ってた煙幕!?)

 

 ゲリラ戦に従事していたはずの相手がこんな小道具を積んでいたとは、他車両が落ちた時の保険か、はたまたこの状況を見越していたか。

 

「後退よ!煙の中に踏み入って建物に突っ込むなんて笑い話にもならないわ!」

 

 エリカの指示に従い来た道を引き返すティーガーⅡ。

 ここから相手がとってくる動きはおよそ二つ。

 一つは煙幕でこちらの足を止めた隙に角を曲がり切って背後を取られた窮地を脱する安全策。

 もう一つは煙の中で反転してこちらに突っ込み奇襲をかける策。

 判別がつけられないエリカはそのまま後退速度を維持した。

 どちらの方法を取られてもいいように最初に砲撃をしたT字路まで引き返し、今度はそのカーブへと突入し狭い路地を脱出した。

 すぐさま周囲を確認、敵影が無い。

 

(あれだけの煙幕、未だ尾を引いてるはずだけどそれが無いということは、まだ路地から出てきてない?)

 

 であれば敵はおそらく反転しこちらに奇襲を仕掛けてきたか。

 砲塔を今出た小道に向けさせながら戦車を広場の中に運ばせる。

 どうする、どうするか。

 戦況が完全に停滞した。

 どくどくと高鳴る鼓動を抑え込みながら辺りを見回す。

 遠くまでは移動していないはず、ここからどう探りを入れるか。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ瞬間に耳を揺らす騒音が再びエリカに届き始めた。

 ちがう、38tの音じゃ無い。

 

「隊長!!」

 

 エリカの立ち尽くしていた広場に二輌の鉄の獣が突入してきた。

 互いの車長が一切目をそらさず睨み合いながら、まるで示し合わせたように交差して砲口を突きつけ合う。

 

 そしてそれを待っていたかのように、横道から38tが飛び出してきた。

 

「38tを撃て!!!」

 

 ティーガーⅡの砲撃手はその叫びに即座に答えてみせて、38tの足元にとっさに砲撃を放った。

 興奮がアドレナリンをかき出し血液を沸騰させる。

 湯気が立ち込めたようにかすかに白み始めた視界の中で確かに38tの足が止まったのを見た。

 

「突っ込めぇ!!」

 

 考える前に叫んでいた。

 視界の端っこでフラッグ車たちがしのぎを削り会う中で猛虎が猛然と小柄な亀に襲いかかる。

 凄まじい衝撃がエリカの体を襲った。

 体が放り出されそうな衝撃を必死で堪える、38tが体当たりの衝撃で大きく揺さぶられていた。

 ともすれば横転するか。

 痛みを覚える中でも確かに頭の中でどうするべきが正解かを考え出す。

 

「狙い、定めて!」

 

 絞り出した声は38tが吐き出した主砲にかき消されたが、喉仏のタコホーンが確かに車両メンバーに伝えた。

 発射したばかりの弾はまだ装填が終わってない。

 しかし相手もたった今吐いた弾を盛大に外したばかりだ。

 装填速度はほぼ同じだった、ならばこちらの方が強い(速い)

 先に装填して先に撃てる!互いにショックで動けていない今なら

 

 動けていない

 

 動いてない

 

 

 

 そう、今はティーガーⅡも38tも動きを止めている。

 

 

 

 

「避け──────!!」

 

 一瞬だけ、38tの主砲が発射されるのが早かった。

 38tが咆哮し、エリカが悲鳴を上げてから、ティーガーⅡのとどめの一撃が解き放たれた。

『2秒と経たずに再装填を完了させた』38tヘッツァーの主砲は、確かにティーガーⅡの履帯を破壊した。

 一瞬遅れて、比較するのもおこがましいティーガーⅡの主砲が大洗の軽戦車をぶっ飛ばして、白旗を上げさせる。

 

 忘れていた。

 

 エミの装填は戦車の起動中は確かに遅い。

 しかし静止中の状態では、2秒足らずで(・・・・・・)装填を終わらせる。

 

 足が死んだ今、ティーガーⅡはもはや固定砲台とかした。

 そしてエリカが腰を抜かしてぺたりと車内に座りこむ。

 

「車長、フラッグ車ともに離れていきます」

「そりゃそうよ。 正真正銘一騎討ちを始めるんでしょう」

「どうしましょうか」

「隊長に託しましょう」

 

 こちらの足が止まったことを察知して即座に距離をとっていくのは流石と言えた。

 こちらが最後に一矢報いる隙もあたえない。

 昔から普段はすっとぼけているのに戦いとなると抜け目のない子だった。

 

「やれることはやった。 油断して最後にポカしたけど、互角には持ち込んだ。 最低限の仕事は果たしたとして満足しましょうか」

「……はい」

「ごめんなさい。 最後の最後にやっちゃったわ」

「いえ、これは我々全員の責任です。 エリカさんだけの責任じゃありませんよ」

「……うん」

 

 そんな言葉をかけられて、エリカはふと思う。

 もしエミが、あの事件を起こした時。

 周りがそんな風に声をかけていれば。

 

 たらればの想像に虚しくなって、エリカは手足を投げ出してグッと伸びをした。

 

 数分経過した頃に、試合終了の合図が知らされた。

 

 

 

 

 

 キューポラから這い出したエリカは、自分の乗っていたティーガーⅡの鉄の肌に手を置いて、撃ち抜かれた履帯を眺めた。

 これが自分の最後の最後に油断した証拠だった。

 

「はぁーあ」

 

 思わずため息が漏れだして、ふと後ろを振り向くと、横転した38tから転がり出てきた大洗の面々が煤だらけの姿を笑いあっていた。

 

(引き分けかあ)

 

 目頭がツンと熱くなったのをこらえて、エリカは大洗の選手たちに歩み寄った。

 それに気がついた一同の中でも特に小柄なエミがニヤリと一歩前に踏み出してくる。

 

「エリカ、こっちの勝ちだ」

「はいはい、こっちの負けよ」

 

 差し出されたのは小さくて、でも豆だらけで硬い手のひら。

 久しぶりに握ったその手の温もりを感じて、エリカはとうとう心の底から負けを認めた。

 

 去年とは違って、最高に清々しい負けだった。

 涙が一粒頬を伝った。

 

 

 

 

 




作者ページの活動報告でおまけルートの案を募集してますよ

すでに何件か来てるけどかなり闇が濃いのがいくつか混じってて草生え散らかす
あ、次回最終回です


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エピローグ

最終回なので初投稿です


「改めて、久しぶりだね赤星さん。 試合前はごめん」

「いいんです。 お久しぶりです天翔さん」

 

 沈み行く夕日が大地を染め上げる中で、2人の少女が互いの手を握り合って微笑んでいた。

 かたや腰ほどまである黒髪を尾のように束ねた小学生と見まごうほどに小柄な少女。

 かたやふわふわとした焦げ茶色の髪で柔和な印象を抱かせる少女。

 天翔エミと赤星小梅、実に試合前ぶりの再会だった。

 

「前よりも髪が伸びました? 」

「そうかな、流石に試合中に見てわかるほどは伸びないぜ?」

「もう、そうじゃなくて!」

 

 からかわれてむくれる小梅にくつくつと湯の沸くような笑いを零したエミは、落ち着いたところで小梅の顔を見つめて、少し色の違う微笑みを浮かべる。

 

「君が、戦車道を続けていてくれて、本当によかった。 あのあと話す機会もなくて、こっちに来てからは連絡も取れなかったから。 あの事故がトラウマになってたらどうしようかとずっと不安だったんだ」

「私こそ、私たちを助けたせいでエミさんが、エミさんが……う、うぁ……」

「ほらほら、泣かないの。 これ使って」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 感極まって泣き崩れた小梅の目元を、エミはハンカチで優しく拭ってあげた。

 

「エミさんが、あんなに戦車道に真摯だったエミさんが……わたしのせいで戦車道やめちゃったら、どうしようって、ずっと不安だった……! だから、今日前よりずっと元気だったエミさんを見れて、わたし……嬉しくて……!」

「ありがとう。 君は本当に優しい人だ」

 

 泣いている小梅の背中を、エミは優しくさすってあげた。

 しばらくそうしているうちにようやく泣き止んだ小梅は、ハンカチとエミを交互に見て恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ご、ごめんなさい、恥ずかしいところを……ハンカチ、えーと洗って……でも」

「いいよ、それはあげる。 安物だから気にしない」

「でも」

「気にするっていうなら、また会った時に返してくれればいい。 またいつか戦う時に」

「……うん!」

 

 とびっきりの素敵な笑顔で返事をした小梅に、エミも少し不恰好な満面の笑みを返す。

 

「じゃ、私はこれで……きっと、もっと大切な話があったんだよね」

「ごめんね、気を使わせて。 じゃあ、また会おう赤星さん。 今度は甘味でもつまみながらゆっくり話をしよう」

「うん!」

 

 赤星は最後に一度頭を下げてから、小走りで走り去っていった。

 それを見届けてから、エミもまた踵を返す。

 これからまだ一つ、大きな仕事をやり遂げなければならない。

 

「小梅ちゃんというとみぽりんとのカプかな……すまんな小梅ちゃん、この世界のみぽりんはエリカ用なんだ」

 

 エミカスはエミカスだった。

 

 

 

 

 

「みほ……結局やられっぱなしになってしまったな。 姉として失格だ」

「そんなことないよ! もしあの高所を陣取った時にお姉ちゃんが平野で陣を敷いてたら……アレはきっと、そうしたくてもできなかったんだよね」

「そうだな。 それでも、私は自分が出せる全ての力を持って挑んで、そして負けたんだ。小さい存在だよ、私は」

「違う! お姉ちゃんは強かったよ!」

「……みほは相変わらず優しいな。 変わってなくて、嬉しい」

 

 エミは、記憶をたどってみほの足取りを追った。

 そしてそこで、尊いものを見た。

 みほとまほが、互いを抱きしめ合っている。

 そして互いの健闘を称え合って、互いの無事を喜び合って、そして勝手に黒森峰をやめたことを、みほの異変に気がつけなかったことを、涙を流して謝り合っている。

 一瞬夕日の光に溶けて消えそうになったけれど、まだそれはできない。

 エミは空気が読めてないことを承知でそんな2人に歩み寄った。

 

「みほ。 ……おじゃまだったかな」

「あっ、エミちゃん」

 

 声を聞いた途端に、みほはまほから離れて涙に濡れた目元をぐしぐしと拭った。

 まほにちょっとだけ睨まれたので苦笑を返すと仕方ないなぁと笑われる。

 

「まほ隊長に、心配かけたこと謝った?」

「うん。 ちゃんと謝ったよ」

「ん、よかった。 まほ隊長も、話したいことは話せましたか?」

「あぁ、全部言えた。 もう、みほは心配ないみたいだな、少し寂しいくらいだ」

 

 朗らかに笑い合う姉妹を見ると、やはりその笑い方が似ているのがわかる。

 もともとこの2人は喧嘩をしたわけでもない、少しのすれ違いさえ理解し合えたならまた以前のように仲のいい姉妹になれるだろう。

 

「……でも、あと一つやらなきゃいけないことがあるね」

「……うん」

「みほ……」

「大丈夫、お姉ちゃん」

「うん……エリカ」

 

 エミがその名前を呼ぶと、建物の陰からスッと人影が現れた。

 日本人離れした銀の髪は、夕日色に染められている。

 

「いつ……え、エリカ、さん」

「……みほ」

 

 2人が、数歩分の距離を開いて向かい合った。

 まほも、エミも、少し離れて2人の様子を見守る。

 まほが横目でエミを見ると、かつてないほど不安そうな様子で唇を噛み締めている。

 

「……」

「……」

「……あ、あの、ごめんなさい!!」

 

 数分か、数秒か、沈黙をみほが先に破り、エリカに深々と頭を下げた。

 

「わ、私。 必死で、エミちゃんのことを、助けなきゃって……なんとかしなくちゃって……でも、それで……エリカさんに、何も話さずに黒森峰を出ていっちゃって……」

 

 言葉尻が小さくなると同時に、みほの目がみるみるうちに潤んでいく。

 思わず飛び出しそうになる体をエミがなんとか抑え込んでいる。

 そうだ、これは決して、他者が手を貸してはダメだ。

 

「謝ろうって思って、でも、エリカさん、すごく、怒ってて……何言えばいいかわからなくて、私もムキになっちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 滴る涙が道路をわずかに潤していく。

 そんなみほを黙って見つめていたエリカは、しばらくして大げさにため息をついた。

 

「ったく……みほ!」

「ひぅっ」

「こっちこそ、怒って……その、悪かった……わよ」

「ぇ……」

 

 意外な言葉だったのか、みほが涙で濡れそぼった顔を上げて、エリカを見つめる。

 

「みほはその、あの事故では私よりもずっと、責任を感じる立場だったし、その、あれよ。 あと、家族がエミを責めたりして、きっと私よりもずっとエミに申し訳なく思ってたと思うし……でも、そんなこと私は少しも思いつかなかった。 だから私も怒って悪かった」

「……許して、くれるの?」

「あーーっと、あー、お互い様よお互い様! お互い悪かったから、水に流すってことで……いい?」

 

 呆然としたみほに、様子を伺うようなエリカ。

 互いがしばらく硬直して、そして、堰を切ったようにまたみほが泣き始めた。

 

「……う、うぅ、うぇっ、うえぇぇ……えりがざん、ごめんなざい、ごめんなざぁい……!!」

「だぁぁもう泣いたまま抱きつくんじゃあない! この泣き虫! っとにもう……私だってあんたと……あんたと喧嘩してるの……辛かったんだから、バカァ……!」

 

 つられて泣き出したエリカもみほの体を抱きしめて、2人で泣きながら、笑いながら、謝りあっている。

 その姿を見てようやく、まほは胸の中のドロドロが全て洗い流されていくのを感じた。

 2人はまた、前のように戻れるだろう。

 いや、一度こじれにこじれたからこそ、再び手を取り合えたなら前よりも強固な絆が紡がれたはずだ。

 人目もはばからずわんわんとなく2人をあまり見つめるのも無粋かと視線を外して

 

 そこで初めて、まほはエミが泣いているのに気がついた。

 

「エミ……?」

「良かった……」

 

 大きな瞳から大粒の涙がこぼれ出ていた。

 どんな辛い練習をしても、そこに結果が伴わなくても、そして事故の後多くの人から言われのない嘲笑や嘲りを受けようとも決して泣かなかったあの強い強い少女が、見た目相応の子供のように泣いていた。

 

「また仲直りできて、良かった」

「……」

「私のせいで、2人が離れ離れになっちゃって……だから、私頑張って、2人を仲直りさせようって思って、でも全然うまくいかなくて……良かった、良かった……うぅ、うううあぁぁぁぁ……」

 

 その姿を見て、まほは思った。

 この小さな少女は、あの2人がまた友達として一緒に居られるように、とてつもない努力を重ねてきたのだと。

 一番辛いのは間違いなくエミ本人だったろうに、それをおくびにも出さず、2人のために身を粉にして戦い続けてきたのだ。

 

「エミ」

「ゔぁい……」

「ありがとう、2人のために……本当に、ありがとう」

 

 まほはその小さな体をそっと抱きしめた。

 そこで我慢の限界だったのか、エミは押し殺した声で、たくさんたくさん、泣いた。

 

 三人の涙が合わされば湖になるかもしれないほど三人が泣いて、そして、ようやく収まって。

 

 そして、三人は笑った。

 その姿をまほは、ずっと見つめていたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけでした、チャンチャン。

 食後の団欒の時間再び携帯にて日記書いてます。

 まほ隊長に抱きつくとかいう大罪を犯してしまったことは万死に値するが、その罰はまた後日でもいいだろう、今日ばかりは努力の果てについに復縁したみぽりんとエリカの姿を堪能してもバチは当たらないはずだ。

 

 今、俺の目の前ではテーブルを挟んでみぽりんとエリカが、それはもう仲睦まじそうにお話をしておられる。

 あぁ^〜目玉がチーズみたいにとろけそうなんじゃあ〜。

 えへへ〜みたいなゆるゆる笑顔のみぽりんが大洗でのたくさんの出来事をエリカに話し聞かせて、エリカはそれをうんざりしたような、しかし喜色を隠しきれてない顔で聞いてあげている、ツンデレさんなんだからもう!

 この光景を改めてみることができただけで転生して、そして戦車道のために頑張ってきた甲斐があるというものだろう。

 

 さて、エリカがなぜここにいるかというと、まほ隊長が気を利かせてくれたのだ。

 まほ隊長は別れ際になってからエリカに対し、タイマンで軽戦車に負けた罰として隊長権限で今日は大洗に泊まり明日色々見てから帰還するようにと命令されたのだ。 できる女は違う。

 あの時の呆然としたエリカの顔は見ものだったとも。

 そして大洗の祝勝会で一通り騒いだ後に一足早く帰宅した俺たちは、今までの穴を埋め尽くせるほどにたくさんの話をしていたのである。

 

 それにしてもここまで来るのは本当に大変だった。

 黒森峰でみぽりんをかばったときはまさか俺が大洗に、しかもみぽりんと一緒に転校するなど夢にも思っておらず、しかもその後原作の大洗チームたちと一緒に全国大会を戦い抜くなんて完全に想定外だった。

 だけど、そんな苦難の道を歩んだからこそ、かつて離れ離れになりながらも再び絆を結び合った尊いみほエリをこうして間近でみられるんだなあと思うと、つくづく急がば回れということわざは実際偉大なんだなあと思い知らされる。

 

「みほ、あんたいつまで話してるつもり?私は明日一応大洗の偵察……ていうかお土産買ったりとかしないといけないからそろそろ寝たいんだけど」

「えへへ、ごめんねエリカさん」

「おっと、もう寝るかい?」

 

 俺は携帯を閉じた。

 夜更かしは美少女の大敵だから2人が寝るというなら俺もそれに合わせなければならない、日記は大体めぼしいことは書き尽くしたしこの程度でいいだろう。

 

「で、今日はどう寝るの?みたところこの部屋二つしかベッドがないけど。まぁ当たり前か」

「えーと、お客さん用の布団って、用意してないっけ」

「ないね。 じゃあ2人は同じベッドで寝たまえ」

「はあ!?」

「えぇ!?」

 

 計 画 通 り

 この瞬間を俺は虎視眈々と待っていた!!

 今日エリカがお泊まりするとなれば、当然ベットが二つしかないこの手狭な部屋では寝る場所に困る。

 そこで2人をおなじ寝床に叩き込んでやろうという発想が生まれるのは必然といってもいいだろう。

 

「なんでよ、エミは小さいんだしエミとどっちか1人でもいいじゃない」

「私はベッドを広く使いたいのさ。 2人の仲直りに私は散々苦心したんだし、このくらいの贅沢は許されてしかるべきじゃないかい? 今日一晩同衾してもっと仲良くなるといいよ」

「何言ってんの!?何言ってんの!?」

 

 ふはははは!顔を赤らめるエリカが最高に尊いぞ!!この世界に生まれて良かった!!!!!!

 この世界に生まれ落ちて以来最高に楽しいひと時を俺は過ごしている!!

 あー最高!!ガルパンはいいぞ!

 

「あ、あの、じゃあベッドをくっつけて三人で寝ない?」

「あ、あぁ、そっちの方がいいわね」

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

「どう?狭くない?」

「私は別にいいけどこんなに固まるとエミが苦しいんじゃない? 平気?」

「あー……」

 

 なんで???どうしてこうなった???

 今俺は、ベッドを二つくっつけあって作った即席ダブルベッドの真ん中で、みほとエリカに挟まれて横たわってます。

 

 いや、なんで?????????????(4行ぶり三度目

 真剣にわからない、何がどうしてこうなった?

 そこはさ、2人で一緒のベッドに入ってイチャイチャしてるのを俺に聞かせる流れだったじゃん???????

 ここに俺いる??????????

 

 え?てかこれ、まずくない?

 配置的にこれはみほエミエリになってない?

 ふざきんな!!!1!!1

 みほエリくださいみほエリないの?はやくして

 え、いかんでしょ、オイオイオイ死ぬわ俺。

 口の中に血の味が滲み出してきた。

 

「エミちゃん、もう眠い?」

「うー」

 

 ここで俺は全て諦めて速攻で眠りにつくことにした。

 はっきり言おう、現状ここから脱出することは不可能に等しい。

 ならば会話もスキンシップもせず速攻で寝て現状維持しか手はないのだ。

 いやだって、今俺がここで嫌だって言って抜けたらミポリン寂しがりそうやん……寂しがらないでよ俺が離れたくらいでさ。

 

 というわけで俺は全てを明日の俺に丸投げして狸寝入りすることにした。

 そしてそのままあわよくば本当に眠れますように。 おやすみ!!

 

 

 

「……本当にもう寝ちゃった」

「仕方ないでしょ。 エミは、私たちのためにずっと気を張ってたらしいし、それに今日の試合あんだけ飛び回ったのよ?」

「うん、無理させちゃったなぁ」

 

 ぐー、すぴー

 

「……本当に、大変な目に遭わせちゃったわね、私たち」

「うん。 エミちゃんのためにって思ってたこと、全部裏目に出ちゃった……ごめんね、エミちゃん」

 

 ぐーすかぴー

 

「こんな小さな体で……私達のために頑張ってくれたのよね」

「うん……やっぱり、エミちゃんはすごいや」

 

 ぐ、ぐー、ぐー

 

「……ねえみほ。あんたさ」

「なあに?」

「……わ、笑わないでよ?」

「言わなきゃわからないよお」

「……女が女を好きって、変だと思う?」

 

 

 

 what???

 

 

 

「え?エリカさんまさか……」

「い、いやあの、聞いただけよ聞いただけ、深い意味は」

「……ううん、エリカさん、変なことなんてないよ」

「え?」

「……私もきっと、そうだから」

 

 

 

 まって

 

 

 

「……あんた、つまり」

「うん、私ね、エミちゃんのことが好き」

 

 やめて

 

「……そう」

「エリカさんも?」

「うん、私もエミのことが好き」

 

 

 堪忍して

 

 

「……ライバルだね、私達」

「せっかく仲直りしたのに……」

「そうだね、でも、これだけは譲りたくない、かな」

「……私もよ。 恨みっこなし、後腐れなしで競いましょっか」

「……うん、負けないから」

「こっちのセリフ」

 

 

 赦して

 

 

「……えいっ」

「なっ!」

 

 ……ファッ!?

 

「えへへ……しちゃった」

「あ、あんた……負けないからっ!」

  「あっ!」

 

 

 なん……だと……?

 

 

「……おやすみ、エリカさん。 明日から、また頑張るね」

「……ふん、みてなさい、その余裕ひっぺがしてやる。 おやすみ」

 

 

 

 

 は?

 なんだこれは?

 ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな!!バカヤローーー!!

 こんな終わりが、みほエリの間に転生者が挟まるだなんて、そんな展開が許されていいのか!?

 

 

 

 ふざけるな、そんなのが認められるはずがない。

 

 どこだ、どこに間違いがあった。

 

 これは誰得だ?

 いったいどの層向けだ?

 誰がそんなカプ頼んだ!

 誰が挟んでくれと願った!

 

 俺は、俺はこの現状を作り出した全てを恨む!

 

 

(ガルパンに、みほエミエリなんて可能性は存在しない、それを証明してみせる)

 

 猛烈な胃痛と血の味が満ちてくる中、俺はケツイした。

 俺は、どこかで失敗したのだろう、悲しいことに俺は最悪の地雷カップリングをこの世に生み出してしまった、万死に値する罪だ。

 

 だがこのままでは終わらない。

 

 まだ、劇場版がある。

 最終章だって残ってる!!

 絶対、絶対にこの歪んだ運命を断ち切ってみせる!!

 

 そうだ、これは錯乱したわけでも自暴自棄になったわけでもない!

 これはこんなルートを望んだ全ての存在に対する、逆襲だ!!!

 

 

 

 エミは めのまえが まっくらになった!▼

 

 エミカスの逆恨み 2019年1月4日




あとがきは後日活動報告に書きます


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おまけ Emikas in the LostMihoEli
おまけモード一本目 もしもみぽりんじゃなくてまほさんが助けに行こうとしたまほさん大洗ルートだったら


……エミカスが、ほんの少し賢ければあの2人は結ばれあい、祝福され、一緒に幸せな人生を送っただろう。
でもそうはならなかった、そうはならなかったんだよロック。
だからこの話はこれでおしまいなんだ。

※直訳 エミカスのミジンコ並みの脳みそではどうあがいてもみほエリはなせなかったんだあきらめろ


 ──月──日

 

 おかしい。

 ミスらしいミスはなかったのに、どうして……?

 黒森峰に入学してみぽりんやエリカと仲良くなれたのはよかったが、どう言うわけか俺は今、まほ隊長の駆る戦車にて装填手を務めている。

 

 なんで?

 

 いやまぁ、理由はわかってるのだ。

 俺の装填手としての能力がお目当てなのだろう。

 たしかにアハトアハトの砲弾をひょいひょい持ち上げられるのはおかしいとは俺も思う。

 そして最近気がついたのだが、体重が軽くて移動中車内で振り回されるのならバーベルでもくくりつけて体重を重くすればいいじゃないと思ってやってみたら欠点を克服した、いささかガバガバな理論だったがまぁできたんだからよしとする。

 

 で、そんな能力を見込まれて隊長機にINしてしまったのであった。

 みぽりんにだいぶ渋られていたが、姉妹仲大丈夫?俺ピロシキしたほうがいい?この世から。

 でもみほエリのためにまだ生きるね……

 

 

 

 ──月──日

 

 バーベルだと色々不都合もあるため、鉛の塊を仕込んだポケットを複数取り付けたベルトを作成した。

 重量およそ20キロ、座った時の安定感がダンチだ。

 とりあえずこれをつけた状態でも動けるようにするため、装備したままジョギングをトレーニングに追加する、した。

 そしたらまほ隊長に遭遇した。

 この人こんな朝早くからジョギングしてんのってびっくりだったけど俺も人のことは言えないのであった、であった、であった……

 で、せっかくなので一緒に走りながら軽く会話もしたが、装備中のウェイトベルトの説明をしたら足腰を痛めるからやめろと割と真顔で言われた。

 まほ隊長ったら本当に心配性ねえ。

 

 

 

 ──月──日

 

 練習中、先輩方から嫉妬の視線をいただくことが多い

 いやそんなの我にやられても困るし……

 黙らせるためには実力行使しかないと思い砲弾が6発詰まった箱を持ち上げて運んだ。

 ドン引きされた、どうしろっちゅーんじゃ。

 まほパイセンには怒られた、落としたら大変なことだぞ、そんな小さな足ペチャンコだ!って。

 怒り方かわいいかよ。

 

 

 

 ──月──日

 

 さいきんはパイセンに色々と話を振られたりすることが多い。

 その大半はみぽりんに関することだが、困ってることはないかとか、遠回しに俺の身を心配している。

 こないだの箱持ち上げ事件(規模がしょぼい)も影響してるのだろうが、パイセンなりに俺が上級生たちに嫌がらせを受けてないかなどに気を配ってるのだろう。

 なので嫌がらせを受けた時は艦橋部分からロープで吊るして反省を促させるように決めた。 これなら安心するだろう。

 と思ってそう言ったらめっちゃ焦って止められた。

 いや……冗談ですやん。

 

 

 

 ──月──日

 

 みほやエリカと帰りに茶屋に寄ってお茶をしてると外をパイセンが歩いていたのでみぽりんが呼び止めて一緒にお茶をした。

 その最中なぜ俺がそこまで戦車道にストイックなのかを聞かれた。

 その時は戦車道が好きで仕方がないから、とパチこいたのだが本当は実力不足で蹴落とされてみぽりんとエリカから離れるハメになったらたまらないからである。

 普通に笑われて、全くお前はとんでもない戦車バカだ(意訳)と言われてしまった。

 いや、楽しくはあるけど言うほどでは……騙したようで胸が痛む。

 だがここは引き下がれないのだ。

 騙して悪いが、みほエリのためなんでな、じゃ、ノッて貰おうか。

 

 

 

 ──月──日

 

 飯を食ってる最中パイセンに、どんな信念を持って戦車道をやってるのかと聞かれた。

 マジな目だったので、中途半端な嘘なんてつけるわけもない。

 とりあえず原作みぽりんが見つけた戦車道的な答えを返したら、少し驚かれた。

 そして正直意外だと言われた。

 まぁこんだけアホみたいな訓練をしてはいるが俺そこまで勝つことにこだわってないからなあ、勝てるなら勝つってだけで。

 そもそも戦車道をやる最大の目的がみほエリだからね。

 多分人類史上最も不純な動機で戦車道やってると思う。

 

 

 

 ──月

 

 パイセンの戦車に乗ったまま中等部で二度目の全国制覇を果たしたが、その頃には俺は戦車道履修者たちの中で人の形をしたエイリアンだの骨から内臓に至るまで全部筋肉だの散々な言われ方をされるようになった。

 まあ気持ちはわかるけど。

 自分でもこの小さな体のどこにそんなパワーが宿っているのか不思議でならない、腕とかプニプニなのに。

 

 というわけでパイセンが中等部での活躍の舞台を全て終えて、引き継ぎが行われた。

 みぽりんが隊長、エリカが副隊長という形になった。

 パイセンは高等部で待っているぞと言って俺の肩を叩いた。

 過度な期待は胃が痛くなるからやめてくれ。

 

 そのあとみぽりんとエリカが俺がどっちの車両に乗るかを争ってタイマンのバトルを開始しだした。

 胃が痛い、血を吐いた。

 お願いだから俺のために争わないで(切実

 

 

 

 ──月──日

 

 中等部での戦いは無事三連覇に終わった。

 実に素晴らしい三年間だったと思う。(インタビューのことはどうか闇に葬られてほしい)

 最後にみんなで打ち上げをしたり、みぽりんとエリカに改めて友情を誓い合ったりした。

 ふふふ、これで俺が去った後も2人の絆は断ち切られたりしないだろう。

 

 ただ、高等部に上がるとおそらく俺は高確率でパイセンの戦車に乗せられるだろう。

 そうなるとみぽりんを立たせずに救出に向かうタイミングが測りづらくなる。

 どうにかみぽりんの戦車に乗せてもらえるようお願いしようか、でもエリカが拗ねそうだ。

 頼むから俺のことを重用しないでください。

 

 

 

 ──月──日

 

 ついに高等部一年生となった。

 俺にとって運命の一年となるだろう。

 やる事はたくさんある、レギュラー入りしたりみぽりんのスケープゴートになったり引越したり。

 引越先の候補はまだ決まってないが大洗だけは絶対避けよう、俺がミポリンの代わりに据えられるとか役者不足すぎるからね。

 

 で、懸念していた通り俺はパイセンに歓迎されて隊長車の装填手になった。

 不満は少なかった、なぜなら二年生一年生は俺の異常性を知っているからだ。

 三年連中に詰め寄られたのでとりあえずパイセンを両腕に1人ずつ抱えて怪力を示した。

 怯えられた。

 

 

 

 ──月──日

 

 隊長車のメンツは俺が一年、パイセンが二年、その他が三年だ。

 パイセンはそのカリスマ性でみんなに尊敬されてるが俺はもはやマスコットのような扱いを受けている。

 たまに鬱陶しくて担ぎ上げてからランニングしたりするのだが最近は効果が薄い。

 さすが隊長車に乗るメンツと言うべきか、頭のネジが外れてやがる。

 みぽりんとエリカに文句を言われるこちらの身にもなっていただきたい。

 

 

 

 

 

 ──月──日

 

 いよいよ明日は決勝戦だ。

 なんかあっという間だったな……明日俺はみぽりんの身代わりになる……予定なんだが、なんか上手く行く気がしない。

 めっちゃ不安、大丈夫かなこれ。

 いや、なさねばならぬのだ。

 できるかできないかじゃない、やるんだ。

 失敗は許されない、止まるんじゃねえぞ。

 

 

 

 

 

 

 あいにくの悪天候に見舞われた戦車道全国大会決勝戦、狭い道を行軍する戦車の中の一つに俺は腰掛けていた。

 

(さて、どうなるか……)

 

 転生してから15年と数ヶ月。

 前世を合わせても間違いなく一番のプレッシャーを俺は味わっていた。

 失敗は許されない。

 おそらくここで発生する事故で、みぽりんは滑落した戦車に乗っていた選手たちを助けに行くだろう。

 それを、俺が代わりに為す。

 

 事故が起きなければ、それが最高だ。

 もしかしたら俺と言う存在がバタフライなんちゃらを起こして事故が起きないかもしれない。

 しかし俺なんぞが1人いるだけでそんな歴史改変が起きるのか?

 甘い考えは捨てて、俺はいつ事故が起きてもいいように神経をとがらせていた。

 

「……肩に力が入っているな、エミ」

「仕方ないですよ隊長、十連覇がかかってるんですから」

「は、はい、そうですね……」

 

 内心すまんと謝る、十連覇は俺が台無しにするだろうからだ。

 ……さっきは俺の存在程度で歴史が変わるものかといったが早速前言撤回だ、もう異変は起きている。

 フラッグ車がこの車輌なのだ。

 もう訳が分からねえ。

 

(どう言う事だろう、俺の乗るこのティーガーⅠがフラッグ車な訳だから当然みぽりんの車輛はフラッグ車じゃない……つまりみぽりんが助けに行って車輌を放棄しても致命的な事態には至らないんじゃ? 俺は訝しんだ)

 

 理解できない事態に俺はひどく混乱していた。

 一体、この先どう言う展開になるのかまるで分からない。

 ここから先は原作知識など足枷にしかならないだろう。

 ストレスと不安だ痛みだした胃を抑えながら、俺はそばのキューポラから顔を出す。

 雨がしとしととつむじに刺さる中、いつ事件が起こるのかと、俺は後ろに続く戦車の列に目をやった。

 

 

 

 その直後に、砲弾が斜面に直撃し一輌が巻き込まれ濁流の中に放り出された。

 

「っ!!」

 

 思わず呼吸が止まる。

 起きた、起きてしまった。

 まあ内心いつ起きてもおかしくはないよなと思ってはいたが、目の前で起きた人が死にかねない事故に、緊張が走る。

 

「いっ……一輌が滑落し川に転落しました!」

「なんだと!?」

 

 大声で伝えると真っ先に反応したのはパイセンだった。

 慌てて半身を車内から乗り出したパイセンは、険しい表情で川に沈んでいく戦車を睨みつけている。

 

 ──どうする、動くか?

 

 俺は内心でタイミングを計りかねていた。

 いったいどのタイミングで駆け出せばいいのか分からず困惑していたのだ。

 

 ……いや待て?考える必要はなくないか?

 今こうして悩んでる間にみぽりんがもし先に飛び出してしたらもう全ては台無しだ。

 もうすでにことは起きたんだから俺が行ってもいいじゃん!

 数秒で叩き出した頭の悪い回答に従って俺は腕に力を込めて戦車から飛び出す……

 

「みほ、指揮を頼む!!」

『え、お、お姉ちゃ──』

 

 その前にパイセンが戦車の上に全身を乗り出していた。

 

 

 

 

 

 

 は????????

 

「まってください隊長!! 何をする気ですか!?」

 

 あまりにもイレギュラーな事態に俺は完全に錯乱し、とりあえず止めねばと慌ててパイセンに追いつき腕を掴んだ。

 鬼気迫る表情を浮かべながら振り返るパイセン、怖い。

 

「離してくれ、エミ! 助けに、助けに行かなければ!」

「貴女はフラッグ車の車長です! ここであなたが戦車を離れれば、どうなるかわかるでしょう!!」

 

 本日のおまいう選手権第一位確定の台詞を吐きながら、なんとか押しとどめようとする。

 ていうか、え? なんで? なんでみぽりんじゃなくてパイセンが助けに行こうとするの?

 わけわからない。

 

「エミ、お前が、お前が教えてくれたんだろう。 仲間とともに歩む戦車道の素晴らしさを、お前が、私に! 私もそれが眩しいと、素晴らしいと思ったからこそ、ここで見捨てるわけにはいかない!!」

 

 はい、俺のせいです本当にありがとうございました。

 どうやら中等部の頃パイセンに語った未来のみぽりん譲りの仲間を想う戦車道が思いの外琴線に刺さってたらしい、やっぱ姉妹だわこの2人。

 

 まあ、つまり、パイセンのまさかの行動は俺の責任な訳でして。

 

「……わかりました、まほ隊長」

「なら離してくれ、一刻の猶予も」

 

「私 が 行 き ま す」

 

「……は? なっ!?」

 

 俺はパイセンを引き寄せてがっしり掴んだ後ティーガーⅠの車内に強引に押し込んだ。

 先輩方にパイセンのことを頼んでから、俺はパンツァージャケットを放り投げて濁流の中に身を投げる。

 パイセンが後ろから叫ぶ声が聞こえてくるがガン無視。

 

(ほんともーやだもーこういうifルート!!)

 

 内心叫びながらも、俺は滑落した戦車のキューポラを破壊して乗員を救出したのだった、まる。

 決勝は負けました、はい。

 なんだろう……こういうのを修正力って言うのかな?

 だったらみぽりんが助けに赴く正規ルートにしてくださいよもー。

 

 

 

 ──────

 

 

 

『あのチビのせいだ』

『前から気に食わなかった』

『正義の味方気取り』

『全部台無しだ』

『調子に乗ってる』

『死んじゃえばいいのに』

 

『ねえ?西住隊長?』

 

 

「やめっ──!!」

 

 叫んだところで、目が覚めた。

 部屋の内装、締め切られたカーテン、そばにある時計。それら全ての情報が、ここが自分の部屋だと言うことを伝えてくる

 

 悪夢の中では、いつも不明瞭な場所で人に囲まれている、目がさめると最近はいつもこんな錯乱したザマを晒してしまう。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 不愉快に騒ぎ立てる心臓と、乾ききった喉。

 枕元のペットボトルの中身を一気に飲み干して、少しだけ気分が落ち着いた。

 しかし、胸の奥にこびりついている鈍い痛みまでもを胃の腑に流すことはかなわない。

 

「くそっ……」

 

 後ろめたさや、やり場のない怒り、そう行ったものがごちゃまぜになって頭の中をかき回す。

 もう何日もしっかり眠れていない。

 怒りに任せて振り下ろした拳は、敷布団に情けなく飲み込まれた。

 

 ──────

 

「……」

「西住さん相変わらず元気ないわよね……」

「クマもひどいし、眠れてないんだよ。 やっぱりあれのせいで十連覇逃しちゃったから……」

「あーあ、アイツのせいで……」

 

 教室にいると、そこかしこから好き勝手に自分のことについてヒソヒソと話す声が耳に飛び込んでくる。

 どれもこれも、不愉快だ。

 そしてそれらに対して真実を話すことができない自分がなによりも情けなくて、悍ましい。

 

『あの日のことは、フラッグ車内のメンバーだけの秘密です』

『しかしそれではお前が!』

『貴女が糾弾されるよりも私がそうなった方が、色々都合がいいでしょう? 大丈夫、このくらいへっちゃらですから。 それに、あの時助けに行ったのは貴女にやらされたのではなく、間違いなく私自身の決断でした。 あの件の功罪は全部私のもの、先輩にだって分けてあげません』

『……こんな時に、カッコつけてどうするんだ、おまえは』

『ふふん、どんな時でもへいじょーしんなのが取り柄ですからね』

 

「……」

 

 口では、ああ言っていた。

 だが、今彼女を取り巻く環境は苛烈にすぎる。

 あの日の敗戦の責任のほぼ全てを背負わされ、有らぬ叱責を受け罵倒され、校内で完全に孤立してしまっている。

 

 それらは全て、私が背負わせたと言うのに。

 

(どうすればいいんだ、私は……)

 

 一番辛いのは間違いなくエミだと言うのに、自分はそれを背負わせてしまった責任に押し潰されそうにっている。

 自分がこんなにも脆かったことを初めて自覚した。

 

 戦車道の訓練中も、エミは顔を出さなくなっていた。

 あんなに夢中になっていたのに、今は参加するのすら厳しい状況だ。

 彼女の人生の全てをかけていたものをすら、私は奪ってしまった。

 そう思うたびに足元が崩れたような錯覚に陥る。

 エミは、今何をしているんだろう。

 それが無性に気になって、エミの番号に電話をかけてみる。

 けれど、繋がらない。

 

 嫌な予感がして、私は用事があると偽って練習を抜け出した。

 向かう先は、エミの家だ。

 

 

 

 エミの家は、少し路地に入ったところの小さなマンションの一室にある。

 日当たりが悪くあまり人気がないが、その分、家賃が安い。

 

「あーーーー……どーしよっかなこれ」

「……」

 

 視線の先に、エミはいた。

 自分の部屋に入る扉の前でまた頭をわしゃわしゃと掻いている気楽な姿からは想像がつかないほどひどい惨状になりながら苦笑を浮かべている。

 家のポストにはギッチリと中身が詰まっていて、わずかに露出したそれらはどれもまともな内容とは思えない文体が見える。

 本人もひどい姿だ。

 頭の先からつま先まで濡れそぼっていて、普段持っていたカバンも見当たらない。

 

 イジメが始まっていた、それを今知った自分が情けなくて情けなくて、いつの間にか涙が零れ落ちていた。

 

「うーん……うえ? え?まほ隊長?なんでここに?」

「……ぅ、うう……ごめんなさい、ごめんなさい……」

「や、あ、その、泣かないで泣かないで! ほら隊長、とりあえず部屋入りましょう、ほらコーヒーでも入れますよ!」

 

 

 

「砂糖はいくつ入れますか?」

「……三つ」

「はいはい、ミルクはどうします?」

「欲しい……」

 

 薄暗く無機質な部屋の中に、芳しい香りが満ち始める。

 みほ曰く最初来た時は今よりさらに殺風景な部屋だったと言うエミの部屋は、本人の気質とは裏腹に冷たい鉄のような雰囲気に満ちていた。

 だが、今はこの空間だけが、彼女が何にも恐れずにいられる場所だ。

 

「はいどうぞ、冷めないうちに」

「……すまない」

 

 差し出されたカップの中には、湯気を立てるコーヒーが注がれている。

 真っ黒な中身に口をつけてみると、見た目に反して甘やかなコクがふわりと広がる。

 喫茶店で飲むものよりも美味しい気がして、思わず一口で三分の一も飲んでしまった。

 

「……暖かいな」

「淹れたてですから」

 

 得意そうに笑うエミの姿に、少しだけ気が緩んで……そしてまた、涙がこぼれそうになる。

 

「わぁ泣かないでくださいよ!何があったんですか隊長!」

「ごめん……ごめんな……私のせいで、エミがこんなことに……」

 

 一度言葉に出すと止まらなくて、堰を切ったように懺悔の言葉が口から吐き出された。

 エミに重荷を背負わせてしまったこと、エミの大切な戦車道(人生の目標)を奪ってしまったこと、酷い環境に身を窶させてしまったこと、そして、それらを止めることができないこと。

 もう、どれだけ謝ればいいかもわからないほどに、彼女に不当な苦痛を味わわせてしまっている。

 

「私はもう……どうしたら……」

「いいんですよ、まほ先輩」

 

 情けなく泣きぐずる私の肩を、エミはそっと抱いてきた。

 あやすような優しい声で、そっと語りかけてくる。

 

「前も言いましたが、助けに行ったのは私の判断ですから。 それをこうして心配してもらえてるだけで、私は救われてますよ。 確かに今のままだとちょっとしんどいですが、もうすぐここを離れますから、それも終わりです」

「……はな、れる」

「ええ、私、黒森峰やめます。 今のままここに残るのは流石に厳しいですからね」

 

 その言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けた。

 エミが、黒森峰を、やめる。

 

 エミは以前言っていた、自分は頭が良くないから相当な猛勉強をしてようやく入学できたと。

 戦車道のためにそれこそ全身全霊をかけてここに入れたと言うのに。

 ここで学ぶ機会を、失ってしまう。

 

 それだけじゃ、ない。

 

 エミがここから去ると聞いた時、胸の奥に恐ろしいほどの喪失感が生まれた。

 

 これは、なんだ?

 

「そんな……そんなこと……」

「仕方ないんですよ。 ま、オトナのツゴーってやつですね。 別のとこ引っ越したら、しばらく戦車道から離れて自分を見つめ直してみますよ。 頭冷やすにはいい機会かもしれませんからね」

 

 なんでもないように笑うエミの姿に、鼻の奥がツンと熱くなって、また涙が溢れ出してきた。

 エミがまた慌てながら私の背中をさすってくれて、なのに私は、情けなく懺悔を吐き続けるだけで。

 

 

 だめだ。

 

 こんなこと、認めるわけにはいかない!!

 

「ッ、グズ……エミ、エミ」

「はい、どうしましたか?まほさん」

「一緒に、ここを出よう!! 私がお前を支える、守ってみせる!」

 

 

 

「はい?????????」

 

 

 

 

 

 ──月──日

 

 ぼくはいま 大洗にいます

 

 まほさんとるーむしぇあしてます

 

 

 

 なんで???????????????

 

 

 ガールズ&パンツァー if

 鉄血のリベリオン〜ウルトラポンコツ転生者を添えて




※始まらない

このルートではエミカスごと姉がいなくなって隊長に据えられてしまった闇ぽりんと、尊敬してた隊長と日に日にボロボロになっていった友人が突然消えてしまって精神をやられかけたエリカがラスボスとして立ちはだかります

とりあえずおまけルートは大体こんな感じで進めていきます、ご要望等ありましたら活動報告の意見募集してるところに書いてくださいね
とりあえず次回はエミカス失意の受験失敗ルートかゆかエミ書きます。
受験失敗ルートはどの高校に入るかはまだ決めてないのでこれもまた活動報告の頭が悪いタイトルのやつで意見募集してますのでこっちに書いてください。

最後になりますがまほチョビファンの人ほんとすまん


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おまけモード二本め もしもエミカスが受験失敗してたら

あらすじに載せてありますが、みつきうららさんがエミカスのイラストを描いてくださいました、この場でも改めてお礼を言わせてもらいます、本当にありがとうございます。
これからもよりいっそうエミカスをズタボロにすることを誓います。


 

 

 

 

 ──月──日

 

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失

 

 

 

 ──月──日

 

 しにたい

 

 

 

 ──月──日

 

 貝になりたい

 

 

 

 ──月──日

 

 ようやく少し回復した。

 でも鬱だ、しにたい。

 結論から言うと俺は黒森峰の受験に失敗した。

 多分テストがだめだった、しにたい。

 戦車道特待生なんて枠もあったが入れなかった、しにたい。

 俺は、失敗した。

 十数年もの努力漬け、入学なせずなにも得ず!

 ものの見事に敗北者です本当にありがとうございました。しにたい。

 

 

 

 ──月──日

 

 滑り止めには受かってた。

 しかしこの心に刻まれた傷を癒すにはまるで足りない。

 俺の十二年間の努力は一体なんだったんだろう。

 ネタ抜きで死にたくなってきた。

 でもまだ諦めたくない。

 何故俺が転生などという数奇な

 

 書いてて思ったが今時転生者なんぞ100g100円の価値もなさそうな気がする。

 

 まぁ、ともかく滑り止めに受かった学校もまたアニメに名前の出た学園艦だ。

 可能性は0じゃない、最後まで諦めずに抗おう。

 だめだったらその時はこの世からピロシキする、みほエリのないこの世に未練なんてないわよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ──月──日

 

 というわけでやってきましたプラウダ高校のある学園艦。

 今年からこの学園艦にある中学に通うことになるわけだ。

 まず第一印象は寒い。

 四月になったというのに高緯度を航行するこの学園艦は平然と雪が降ってくれる。

 もともと雪国で育ったのでこの体の耐寒性能は高いはずなのだが脂肪が薄いせいで普通にキツイ。

 トロリーバスに頼らなければ移動は困難だろう、特に俺ほど背が低いと真剣に積雪の方が背が高くなるからシャレになってない。

 

 ひとまずは、こちらの生活に慣れなければならないだろう。

 学生寮が備え付けられているのは幸運だった。

 最低限の家具はあるので生活には困らない。

 明日からは錠剤などを購入する場所も探さねばならない。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャがおった。

 気に入られた。

 展開が早すぎる。

 

 

 

 ──月──日

 

 昨日は疲れ果てて日記もろくに書けなかった。

 校舎内でカチューシャに遭遇し、まじまじとこちらを見つめた後に背丈を聞かれて答えたら満面の笑みでかいぐりされたのだ。

 まさかこんなことになってしまうとは……ていうかカチューシャはこのころから学園艦にいたらしい。

 高校に入ってからの動きはプラウダ戦記で読んだのだが。

 確か高校に入ってからノンナと知り合ったはずだからおそらくそれまでノンナと出会うことはないだろう。

 

 なんにせよ、気に入られすぎないようにしなければ。

 億が一にでもノンカチュは邪魔してはいけない、コジキにもそう書いてある。

 しかしカチューシャはお構いなく俺を引っ張り回すものだからたまらない。

 確かに俺は小さいが、さすがに高3にもなって127センチのカチューシャよりはでかくなるだろうからその時に離れてくれるといいのだが。

 

 

 

 ──月──日

 

 戦車道を履修することにした、みほエリとの接点を作るにはもはやこれしか手がない。

 そして当然カチューシャも戦車道を履修していて、当たり前のようにカチューシャの戦車に引きずり込まれる。

 何ができるかと聞かれ装填手ですと答えたらフリーズした後嘘つくんじゃないわよと引っ叩かれた。

 ムカついたので針金を目の前で引きちぎった。

 怯えられた。

 正直やりすぎたと反省している。

 トルバラン、トルバランだわ! とか言われたが一体何のことだろうか。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャの戦車にて装填手として活動を開始して早一月、圧倒的撃破率を買われてレギュラー入りを果たした。

 カチューシャの指揮能力は尋常ではない、作中でかなりの活躍を見せた力量の一端を垣間見た。

 それはともかく俺とカチューシャ合わせて戦車の妖精扱いされ始めた。

 とはいってもヴィィとかそのあたりのやばいやつだけど。

 なんでもカチューシャ車に目をつけられた戦車は絶対沈むからだとか。

 俺を巻き込まないでほしい。

 

 

 

 ──月──日

 

 俺は友達が少ない。

 そもそも普段の生活スタイルがスパルタすぎるのもそうだが、カチューシャと一緒にいるのも原因だと思う。

 カチューシャの性格ははっきりいって幼稚で苛烈、そりゃ人も寄り付かない。

 そんなカチューシャを放置するわけにもいかないのでそばにいるのだが、そのせいで俺もかなり奇異の視線を向けられている。

 まぁ別に友達とかいらないけどね、未練とか残ると困るし。

 

 

 

 ──月──日

 

 身長が全然伸びません。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャが俺の部屋に押しかけてきたのだが中を見るとさーっと顔を青ざめさせていた。

 まあ確かに写真の一枚もない部屋は殺風景通り越して虚無の領域だもんね、綾波レイの部屋よりひどい。

 唯一コーヒーサイフォンだけが異彩を放っている。

 

 そしてその後有無を言わさず連れ出された俺はカチューシャと一緒に女の子らしいアイテムを買い漁るハメになったのだった。

 お金が足りない、バイトでも探したいけど中学生を雇うバイトなんてあるかな。

 

 

 

 ──月──日

 

 雪が厳しい時期になってきたのだが思わぬ展開になった。

 朝のトレーニングがわりに雪かきをすることにしたのだが、ついつい熱が入って寮の周りを全部片付けたらすごく驚かれた後に管理人さんにお小遣いをもらえたのだ。

 もしかしたら雪かき代行サービスでお金稼げるんじゃないだろうか。

 

 

 

 ──月──日

 

 雪かきたーのしー。

 

 

 

 ──月──日

 

 あだ名が人間ドーザーになった。

 カチューシャは一生懸命手伝ってくれる。

 なんやかんやいい子よねこの子。

 ぶっちゃけ戦力にはならないがとても嬉しいのでお菓子をあげたりコーヒーを淹れたりしてあげる、特にコーヒーをかなり気に入ってくれた。

 でもロシアってコーヒーより紅茶のイメージあるけどいいのかな。

 

 

 

 ──月──日

 

 中等部全国大会は2位の結果に終わった。

 まぁ頑張った方だろう、俺はそもそも三位以降に入ったことがなかったので人生初の快挙だ。

 だがカチューシャは納得いかないらしく、放課後に俺の部屋に来て悔し涙を流していた。

 このハングリー精神は嫌いではないので追い出しはしないことにした。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャが3年生に喧嘩を売って巻き込まれた。

 体躯で負けるカチューシャを守るためにとりあえずでっけースパナを取り出して某ダークファンタジーのような構えからの叩きつけを繰り出したら普通に逃げられた。

 まぁ怖いよねそりゃ。

 カチューシャ曰くこのぬるま湯に浸かり切った奴らに革命を起こすと言い出し、自分がトップに立って来年は一位を狙うらしい。

 拒否権はないと言われた。

 まぁ別にいいですけどさ。

 

 

 

 ──月──日

 

 大革命により最有力候補を押しのけてカチューシャが隊長となった。

 まぁ戦車戦5vs10で返り討ちに合えばそりゃ心折れるだろ。

 幼稚で苛烈、しかし強く、引っ張っていくカリスマがある。

 カチューシャの戦車道の指揮能力は本物だ、来年はマジで一位あるかもしれん。

 そして俺はエミーリヤの異名を授かった。

 カチューシャなりの親愛表現かも知らんが、本編で見たミホーシャのようなのではなくなぜーリヤなのだろう。

 

 

 

 ──月──日

 

 長かった冬が終わり二年生になった。

 最近戦車道チームの中では練習がきついと弱音を吐くものが増え始めている。

 まぁ事実カチューシャの課してくる練習はキツイのだが俺からすると誤差の範囲なので頑張っていただきたい。

 しかし最近は装填速度が伸び悩んでいる。

 尋常ならざる怪力を得てこれか、所詮ここらが限界か……と、諦めてもいいのだがカチューシャは未だ頑張ってるから俺ももがいてみよう。

 

 

 

 ──月──日

 

 ノンナらしき人を見かけたが当然何事もなかった。

 よかった。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャが泊まりに来たのでお手製のビーフシチューでもてなしたりした。

 真面目な顔でなぜ戦車道をやっているのかと聞かれたが、素直に意地だと答えておいた。

 そりゃそうだ、ここまで全てみほえりのために捧げてきた人生だった、今更諦められるわけもない。

 その答えは大いに笑われてエミーリヤはバカだと貶されてしまったが許す、だってバカの所業だもん。

 自覚はある。

 

 

 

 ──月──日

 

 中学の全国大会が始まった。

 カチューシャの指揮のもと、一回戦の相手を消し炭にする。

 つよい(小並感

 圧倒的強さからか、カチューシャは地吹雪のカチューシャの二つ名を得た。

 でもこの歳になって二つ名などと……厨二病まっさかりやん(笑

 いやー俺はいいですわー

 

 

 

 ──月──日

 

 俺にポリニヤのエミーリヤの二つ名がついてしまった。

 助けてくれ。

 

 

 

 ──月──日

 

 全てを焼き尽くす暴力とはよく言ったもので準決勝の試合をほぼ完封した。

 マ?カチューシャここまで強かったっけ。

 意地でも勝つ!と張り切っている。

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャが泊まりにくることはもはや珍しくないのだが、ベッドに潜り込まれて心臓が破壊されたかと思った。

 頼む、勘弁してくれ、拙者はノンカチュ信者なんだ。

 

 

 

 ──月──日

 

 勝ちました、嘘だろお前。

 まさか黒森峰に勝てるとは夢にも思わなかった。

 あまりの快挙にチームメンバー全員が泣きながら抱き合っていた。

 試合後にまほとカチューシャが高校の全国大会で決着をつけると約束をし合っていた、恐らく次の大会での覇を競い合うのだろう。

 ……まほって、確か1対10の殲滅戦を勝利するレベルの化け物だったはずなのだが、そんなのにライバル認定されるとか俺だったらこの世からピロシキするわ、カチューシャすげーな。

 

 ちらりとみかけたみぽりんは俯きがちでなんとも寂しげだった。

 吐血しかけた、みほエリは為されていなった、わかってはいたが心が折れそうだ。

 苦しいです助けてください。

 

 

 

 ──月──日

 

 雪かきの日々に再び別れを告げ、カチューシャは卒業し俺は三年となった。

 カチューシャにさっさと進級しろと怒鳴られたが、時の流ればかりは人様にはどうしようもない。

 装填手の席はいつでも開けてあると言われて、ひとまずの別れを告げた。

 

 よし、俺がいない間にノンカチュを成立させとくようにな!ポリニヤのエミーリヤとの約束だ!

 死にたい!!!!!!

 

 

 

 ──月──日

 

 カチューシャが遊びにきた。

 ノンナも連れてきた。

 ノンナにカチューシャより小さい……! と驚かれてしまった。

 どうやらカチューシャは高校でも巧妙に立ち回りガンガン地位を確立しているらしい。

 泥臭いことも平然とやっていた覚えがあるが怪我などはしてないのだろうか、少し心配だ。

 

 ノンナの方も、俺のことは聞いていたらしい、ポリニヤのエミーリヤとは少しは有名な装填手なのだそうだ、死にたい。

 まさかここまで小さいとは思ってなかったらしく本当に装填手としてまともな仕事ができるのかと疑われたのでとりあえず冷蔵庫をヒョイっと持ち上げてみたらもういいと言われた、そりゃそうだ。

 コーヒーはお気に召したらしい。

 

 

 

 

 

 

「カチューシャは、あの子をいたく気に入ってるのね」

「ええもちろん、カチューシャの最高の部下なのよ」

 

 エミーリヤの家を訪ねてからの帰り道、私の言葉にカチューシャは不遜な笑いを浮かべて答えた。

 いつもピリピリとした雰囲気をまとっていたカチューシャだが、彼女の前ではいつもよりずっと柔らかく笑っていた気がする。

 そこまで信用するに至る何かが、あるのだろう。

 この小さな暴君にそうまで思わせる何か、それが無性に気になる。

 

「なぜ、そこまで気にいったのかしら」

「意地があるからよ」

 

 意地、とは?

 問いかけるような視線を受けてカチューシャも言葉を続ける。

 

「エミーリヤは、カチューシャよりも小さい。 装填手なんて役割には徹底的に適性がないわ。 それだけじゃない、色々試させてみたけどとにかく不器用で、砲撃手としても通信手としても操縦手としても才能のさの字も見当たらないわ、他の全てを投げ捨ててでも努力し続けてようやく平凡な選手になれるレベルかしら」

 

 車長としては論外も論外、と付け加えてカチューシャは話を一度締める。

 確かにあの体躯では装填手としての仕事は適性がないと言わざるをえない。

 他の役割にも才がないのならば、とうの昔に戦車道の道を諦めていただろう。

 それでも今、彼女は他校にも知れ渡るほどの装填手となった。

 

「諦めないの、上を目指すことを絶対にエミーリヤは諦めないわ。 目を疑うようなトレーニングを続けて、食事だって栄養効率だけを求めた味気ないものをずっと続けられて、娯楽のない退屈な日々を耐え抜けられる、強くなりたいから」

 

 強さへの、執念。

 上を目指すことへの渇望。

 

 それは、カチューシャにも確かに備わっていて。

 

「なるほど、似た者同士なのね、色々と」

「カチューシャにずっとついてこられたのはエミーリヤだけだったわ。 ああ、なんで同い年に生まれてくれなかったのかしら」

 

 大げさに肩をすくめるカチューシャに、クスリと笑いが溢れてしまった。

 そして、少しだけ2人の関係を羨ましいとも思う。

 

「だから、今のうちにカチューシャたちの所属する隊を『カチューシャたちのモノ』にするわよ。 エミーリヤが入ってくるまでにあのぬるま湯に浸ったような環境を作り直さなきゃいけないわ、恥ずかしいところは見せられない」

 

 辛い道のりになるだろう、三年生との対決は避けられない。

 しかしそれでもカチューシャなら、やってくれると思えるのだ。

 

「では、帰りましょうカチューシャ」

「ええ、カチューシャたちの戦いが待ってるわ」

 

 

 

 そして、時は流れて。

 最高の同士を迎え入れた我らがプラウダ高校は、宿敵黒森峰との戦いに臨むことになる。

 

「カチューシャ、どんな無茶を言おうと答えてやる、さあオーダーをよこせ」

「えぇ……エミーリヤ、行くわよ! 腕がへし折れる覚悟で弾を込めなさい!! そっちは任せたわノンナ!!」

「Понятно」

「日本語!」

「了解です」

(絶対に諦めねえぞ!!ここであの事件を起こさせずにみぽりん転校ルートをおじゃんにしてやる!!!!!!!!)




もうね、プラウダが強すぎて草生えますよ。
とりあえず失敗ルートをプラウダで書いたから転校ルートは別の高校でかくね……だってほら、同じ高校だと、その、わかるだろう?同じ同士じゃないか?
次回、ゆかエミです、試しに遊び抜きのガチ百合を書いてみます、だめだったらネタに逃げます。
非力な私を許してくれ

ちなみにこのルートでは無事事故を起こさずに戦いが終わりまほとカチューシャがそれぞれ2-2のイーブンとなり三年で決着をつける展開になりますがそのころノンカチュに挟まれそうになるストレスでエミカスが胃をやってしまいます


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おまけモード三本メ もしもゆかエミが成されてしまったら

出来心でガチ百合なんぞ書こうと思ったのが全ての失敗だった

※ガチ百合を成立させる都合上、この話に限りエミカスのレギュレーションに一部変更を加えて秋山殿を好きだと自覚しても心臓麻痺しないように調整します
この話は今までと毛色が全く違うため今までのような話を求めてる場合割と真剣にブラバしたほうがいいです。
この前書きはネタじゃないです。


 心臓の鼓動が早まる時、人はどんな感情を抱くだろう。

 恐怖、それは正しい。

 私も怖い映画を見た時は泣きそうになったりしたから。

 緊張、それも正しい。

 失敗できない大一番では手に汗が滲む程だった。

 興奮、それも正解だ。

 大接戦の戦車道の試合を見た時は思わず声を張り上げるほどの活力が生み出される。

 

 でも、それなら

 

「おまたせ、秋山さん」

「ぁ……天翔殿」

 

 この人を前にした時は、どうして心臓が早鐘を打つのだろう。

 恐怖でも、緊張でも興奮でもないこの感情は、一体?

 

 

 

「じゃあ、今日はよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 今日は、私が天翔殿を、学園艦内の施設で探しているという場所に案内することになっている

 なぜ2人なのかといえば、予定が合わなかったからとしか言えない。

 バイトで稼いでいると言う天翔殿のスケジュールもあり、私だけがその付き添いとして選ばれた。

 なんと言うか、この人はいつも間が悪いような気がする。

 本人もそう口をボヤいていたから自覚はあるんだろう。

 

「それにしても、今更だけどもなんというか違うなあ」

「と、言うと」

「雰囲気。 黒森峰も、サンダースも、アンツィオもこことは違う雰囲気なんだよ。 和やかというか、活気が緩いというか……地方の中心都市みたいな空気だよ」

「は、はぁ……」

「如何にもな日本じゃなくて、ありふれた程度の日本感って感じ。 私はこういうのが好きだな」

 

 こういうのでいいんだよこういうので、と言う天翔殿。

 正直なところその感覚はあまり理解できなかった。

 だけどこの街並みを好きといってくれてるのは、なんだか嬉しく思う。

 ずっと私が暮らしてきた学園艦だから。

 

「さて……じゃあ案内を頼もうかな」

「あ、了解しました、こちらですよ」

 

 今日天翔殿に案内を頼まれたのは、珈琲豆を扱う店で、できれば専門店がいいという。

 コーヒーには、結構なこだわりがあると教えてくれた。

 たまに遊びにいくと入れてくれるコーヒーは本当に美味しくて、お世辞抜きでお店で飲むもののようだった。

 数少ない趣味らしく、豆にもこだわりがあるという。

 

「あの、理科の実験みたいな器具はなんなんですか?」

「コーヒーサイフォンだよ。 院長がコーヒー大好きで、日頃のお礼にお小遣い貯めて送ったんだけど淹れる係まで任されちゃってね」

 

 コーヒーサイフォン、というのは聞いたことがある。

 あれを駆使してコーヒーを入れてる時の天翔殿は、普段よりも大人びて見えて、少しだけドキドキする。

 

「興味があるなら、淹れ方を教えようか」

「え? 私でもできます、か?」

「簡単簡単、あんな見た目でもやること自体はシンプルなんだ。 コーヒーは、他の人に淹れてもらった方が美味しいからね。 是非ともこの趣味を拡散したいものだよ」

 

 作成動画をSNSにでもあげようかと盛り上がる天翔殿は本当に楽しそうだ。

 戦車道での引き締まった顔とも、普段の微笑みを絶やさない顔とも違う。

 この顔はきっと初めて見た。

 好きな、顔だ。

 

「えーっと、確かこの辺りだと」

「お、ここかな」

 

 たどり着いたのは、ショーウィンドウから中が覗ける清潔な店だった。

 店内に踏み込んでみるとなんとも香ばしい香りが鼻腔を擽る。

 

「うんうん、いい品揃えだ」

 

 天翔殿は、楽しそうな笑いを浮かべながら、ガラスケースがずらりと並んだ棚を見上げている。

 首が痛くなりそうなほど視線を上げては下げてを繰り返す。

 豆の知識はさほどなので、一体何を基準に選んでるのか分からない。

 

「お、これがいいかな」

 

 やがて一つのケースから取り出したのは、たっぷりの粉が詰まったパックだ。

 モカと書かれているらしい。

 

「コーヒーはモカの5が一番好きだな」

「モカの……5、とは?」

「まぁその辺りはおいおい。 じゃあこれを買おう」

 

 そう言ってレジへ向かう姿に迷いはない。

 私は手近なケースの中身を覗いて、パックを引き出してみた、こちらは豆入り。

 じっくりとみてみる、ブレンド豆、ハイロースト。

 つやつやとした豆からは濃厚な香りが漂ってくるのだけれど、味の想像はさっぱりつかない。

 ……見た目はなんだか豆菓子のようだ、インスタントとは全く別物に感じる。

 

「秋山さん」

「わひゃっ」

「何してるの?お会計終わったよ」

「は、はいすいません、つい」

「それは豆のままだな。豆のままは難しいぜ。 豆を挽く道具はあるの?」

「う、うーん……それはないと思います」

「まだ器具も持ってないなら。豆はまた今度にした方がいい、今日は行こう」

「わかりました」

 

 豆を戻して、店を後にする。

 紙袋を抱える天翔殿は随分と機嫌が良さそうだ。

 足取りも軽い。

 

「しばらくはインスタントだったから、ようやくまともなのが飲める」

「やっぱり、インスタントじゃダメですか?」

「ダメとは言わないけど、ちゃんと淹れたコーヒーとインスタントコーヒーは、なんというか別ジャンルの飲み物だからね」

 

 豆が切れてからは我慢の日々だった、と愚痴る姿は、なんというか姿相応の子供のようで微笑ましい。

 しかしそんな小さな彼女が、コーヒーを淹れるのが趣味で凄腕の装填手なのだというから、人は見かけで判断できない。

 

「いやぁ、いい買い物ができてよかった。 ありがとう秋山さん」

「いえ、お役に立てて何よりです」

「何かお礼をしないといけないね。 なにがいいかな」

「そんな。 私も、友達とお買い物できて楽しかったですから……」

「それでも何かしてあげたいんだ。 そう重く考えなくても、私だってジュース一本奢るとかくらいに考えてたからあまり凄いのは無しだぞ」

「……じゃ、じゃあ、一つお願いが」

 

 

 

「じゃあ、座って待っててね、すぐ作ろう」

「あの、淹れるところを見ててもいいですか?」

「別にいいけど……」

 

『今回買った豆の最初の一杯を飲みたい』。

 そんな私の願いを気軽に引き受けてくれた天翔殿。

 家に着くとすぐに準備をしてくれた。

 

「見てても、面白いかな?」

「はい、とても」

「よくわからないなぁ……」

 

 ブツブツと言いながら、挽かれた豆を計量する姿をじっと後ろから眺める。

 背が低いから台の上に乗って作業してるのが可愛らしくて、なのに手際はテキパキとしたもので頼もしさも感じさせてくれる。

 

「コピ・ルアック」

「え?」

「おまじない、気にしないで。湯の温度は90度くらいかな」

「そんなとこまで気を使うんですね」

 

 時々解説を挟んでくれるから、やっぱり面倒見がいいんだと思う。

 鼻歌交じりにサイフォンを動かす姿を眺めていると不意に、今天翔殿は一杯のコーヒーを、私のためだけに作ってくれているんだという考えが脳裏を掠めた。

 なんだか傲慢な考え方みたいで嫌だったのだけど、同時に不思議な満足感も満ちてくる。

 

「……さぁ、出来たよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 気がつけば彼女の手には、コーヒーで満たされたマグカップがあった。

 

「砂糖はいるかい?」

「……せっかくなので、ブラックで」

「コーヒーをブラックで飲むのは日本人くらいって知ってた?」

「え?」

「でも私はブラックが好きだ」

「……もう」

 

 少しムッとすると、くつくつと湯を沸かすように笑われてしまった。

 悔しいのを誤魔化すようにカップに口をつける。

 

 ……熱くて、苦い。

 でも甘やかなコクと適度な酸味。

 天翔殿の淹れてくれるコーヒーはなんだか、とても安心できる、優しくて嬉しい味だ。

 

「美味しいです、すごく」

「ふふ、淹れた甲斐があるね」

 

 得意げに微笑む天翔殿をみると、なんだがトクンと胸が弾んだ。

 まただ、またこの感覚。

 

 彼女が、笑ったり、驚いたり、安らいたりした顔を見ると、胸がズキズキして、お腹の奥に不安のようなものが満ちてくる。

 コーヒーを飲み込んで、その感情も押し込んで。

 

「……天翔殿、もう一つお願いしていいですか?」

「お? 随分と欲張りだな。 一体なに?」

「私も、コーヒーをいれてみていいでしょうか」

 

 

 

「そう、フィルターはロトの真ん中にしっかりと」

「は、はい」

 

 後ろからかけられる声に従いながら、ガラスの器具の中に道具を押し込む。

 落としてしまったら、このガラスの厚さでは一撃だろう、ミスはできない。

 

「じゃあ、ロトにコーヒーの粉を入れて、ロトを差し込んで」

「はい……」

 

 粉を投入したロトを、沸騰した湯の入ったビーカーに差し込む。

 すると、不思議なことにビーカーの中のお湯がロトの中に上がり始めてきた。

 昇ったお湯が粉に届いて、それを竹べらで軽く混ぜる。

 

「あぅ、うまくいきませぇん……」

「初めてだもん、しょうがないよ」

 

 笑われてしまった。

 頬に熱が集まるのを感じながらもなんとか形になるように混ぜるのだけれど、天翔殿がやったものよりも濁って一緒くたになったコーヒー液ができてしまう。

 

「さ、そろそろ火を止めて」

「は、はい……」

 

 結局、出来上がったコーヒーはうまくいかなかった。

 フラスコに落ちてきたコーヒーをカップに注いで見ると、見た目はあまり変わらないように思えるのに香りが違う。

 いれ方の手際だけでこうまで変わってしまうのか、と思い改めて天翔殿の腕前の巧みさを実感した。

 

「……飲んでみます」

 

 カップに口をつけて、一口飲んでみる。

 ……まずい!

 

「うぅ、にがい……」

「ちょっと火からおろすのが遅かったかもね」

 

 とてもじゃないが飲み難いそれは、コーヒーというよりは泥水だろう。

 これでは……これでは到底、天翔殿に飲んでもらうなんて叶いそうにない。

 仕方がない、自分で淹れたのだから、責任を持って自分で飲もう。

 そう思ったときに、持っていたカップを攫われていた。

 

「え? あ、まって!」

 

 そういったときすでに天翔殿はカップの中身を口に運んでしまっていた。

 まずいっていったのに、どうして。

 

「……うん、美味しいよ、秋山さん」

「……そんなわけないじゃないですか」

「それこそそんなわけないよ。 さっきも言ったでしょ、コーヒーは誰かに淹れてもらった方が美味しいって」

 

 そのまま、私が作ったコーヒーもどきは天翔殿の胃に収まってしまった。

 ……顔が、熱い。

 

「ご馳走さま。 私が初めてつくったときに比べれば上出来だったよ、これは期待の新人現る、だね」

「……意地悪ですね」

「素直に褒めたつもりだよ」

 

 飄々とそんなことを言われてしまって、また胸がどきりとした。

 何故だろう、さっきからどうにも、あの妙な鼓動が抑えられない。

 何故なんだろう。

 甘い疼きが、辛くて耐え難い。

 

「……天翔殿」

「ん?」

「また淹れたら、飲んでくれますか?」

「勿論。 1日に何杯も飲むのはちょっときついけどね」

「多分、上手くなるまで時間がかかります」

「知ってるとも、私がそうだった。 秋山さんのコーヒーの味見係なんて光栄だね」

「……どうして、そんなに私に優しくしてくださるんですか?」

「え? なんでって、それは」

 

 

 

「秋山さんが大事な友達だからだよ」

 

 

 

 その言葉をかけられて、ズキリと、さっきまでと違う痛みが胸に走ったのに気がついた。

 

 そして気がついた、気がついてしまった。

 

「大事な友達なら、みんな同じようにするんですか?」

「へ?」

「冷泉殿も、武部殿も、五十鈴殿も、それこそ、西住殿も。 みんな友達、ですよね」

「あ、秋山さん、どうしたの?」

「みんな、みんなに同じような態度を取るんですか?」

 

 体が勝手に動き出して、小さな彼女に詰め寄った。

 慌てて距離を置こうとされるのが嫌で早足で一気に近づくと、知らずに壁に追い詰めていた。

 

「……天翔殿。 私、最近変だったんです。 天翔殿をみると、なんだか変にドキドキして、落ち着かなくなって。 それがなんなのか全然わからなくって」

「な、ま、まって、落ち着いて秋山さん、いったん離れて……」

「でもさっき、急にわかっちゃったんです。 さっき、友達って言われたら急にそれが辛くて痛くなって。 きっと私、天翔殿の友達じゃ嫌なんです」

「な、な、な、ななな」

 

 普段の様子とはかけ離れて慌てふためく天翔殿の肩を掴む。

 ビクリと震えた華奢な体。

 自分よりも小さくて細くて、小学生のような彼女が震える姿が視界に満ちる。

 

「……きっと、私は、あなたが好きです」

「──────────」

「あなたが1人で辛いことを抱えてて、それなのにみんなに弱音を吐かない強がりなこととか。 誰よりも努力家で、でもそれをひけらかさないところとか、たくさんありますけど、私は、あなたがきっと好きなんです、大好きなんです」

「ぅ、ぁ、ぅ」

 

 必死で、伝えたいことを口にする。

 天翔殿はといえば普段の余裕なんてすっかり無くして俯いてしまう。

 

(かわいい)

 

 そんなことしか思い浮かばないから私はもうダメかもしれない。

 

「天翔殿……イヤなら、言ってください」

「ぇ、な……」

「言ってくれれば、止めます、止めますから……」

 

 壁に押し付けていた天翔殿を、そっと引き寄せる。

 膝を床について、視線を合わせる。

 真っ赤な顔で目線を踊らせるのを見つめながら、少しずつ顔を近づけていく。

 

「な、ま、ま、ま、待って、こんな、おかしいって」

「女同士はやっぱりやですか……?」

「そんなわけないけど!! そんなわけないけどでも、私なんてほら、可愛くもないし」

「可愛いです、天翔殿」

「〜〜〜〜〜!! い、いや、だから、えっと、落ち着いてよ、今はその、冷静じゃなくなってるだけだから、だから、その」

 

 あと、10センチ。

 

 目があった。

 

 初めてみる狼狽した姿。

 

 私だけが知ってる、天翔エミ。

 

 

 

「……嫌だとは、言わないんですね」

「あ」

 

 

 

 唇が、重なった。

 

 初めてのキスはコーヒー味だった。

 

 

 

「……」

「──」

「……」

「──」

「……ぷは」

 

 一瞬とも永遠とも思えるようなひと時だった。

 顔を少しだけ離すと、魂が抜けたような顔つきの姿。

 おかしくて、少し笑ってしまう。

 

「ふふ……」

「──」

「天翔殿。 答え、聞かせてください」

「──」

「私は、秋山優花里は、あなたが好きです。 あなたは、どうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き、です」

 

 

 

 その日私たちは恋人になった。




これ以降エミカスは完全にゆか堕ちして秋山殿に名前呼ばれたり側に寄られると一瞬でしおらしくなるというクソ弱体化を果たすようになる、つまり秋山殿はバリタチだった。



書いてて舌噛みちぎりなくなる一話でした、真剣に苦しかったです。
エミカスの分際で生意気なので次の話では右腕あたりをもぎ取ってやろうと思います。


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おまけルート四本ME エミカスは無事1人で転校したようです

みつきうららさんがまたもやエミカスのイラストを描いてくれました!
あらすじの他、八話内にも挿絵として置かせていただいたので是非是非見てください。
エミカスとは思えないほどキュートに描かれてますよ!
ますます気合を入れてエミカスをボロクズにしてやります!!


 ──月──日

 

 フィンランドのカモメはでかい。

 丸々太ったカモメが港をのしのし歩く姿を見ていると、小さい頃に飼っていた……ここで猫の名前が挙げられるのだが、どんな名前かは忘れてしまった。

 

 昔見た、好きな映画の冒頭のシーンで、たしかこんなセリフを言っていた気がする。

 おばさん三人が主役の特に山や谷のあるわけではない話だったが、あののんびりとした雰囲気がなんだかとても気に入っていた。

 

 しかし、そんな昔のことを想起したからといって、しんみりとした気分に浸っているわけじゃない。

 寧ろ頭の中身は疑問符で埋め尽くされてるといってもいいだろう。

 

 そう、フィンランドのカモメはでかい。

 ここは日本だ。

 なのになぜか継続高校のカモメは丸々と太っているのである。

 いや確かにフィンランドっぽい国柄の学園艦ではあるけどそこ力入れるところか?

 

 

 

 ──月──日

 

 こちらに引っ越してから早二週間、ここでの生活にもようやく慣れてきた。

 最初こそ航行経路の違いによる気候の変化やあまりにも独特な生活スタイルに困惑していたが慣れればどうということはない。

 

 ことは、全てうまく運んでいる。

 すべての責任を負い黒森峰を去り、みぽりんは黒森峰に残ったまま、そしてみほエリへ……

 うまくいきすぎて怖いくらいだ、そうでないと困るわけだが。

 

 継続高校での生活は基本的には順調だ、住み込みのバイト先を見つけて、少ないながらも収入もある。

 勉強の方も問題はなく、久しぶりに戦車道から離れたために随分と暇ができたので最近は事情により料理の練習を開始した。

 後最近はダミー日記に凝っている。痛々しいことこの上ない黒歴史の凝縮されたような一冊だが、これがなかなか面白い、ルークの日記を書いてる気分だ。

 

 ただ困ったこともある。

 住み込み先の店の主人が唐突に消えたのだ。 わけがわからない。

 近所の人曰く放浪癖があるらしく、宝くじで当てた30億近い資産を使っていきなり世界を旅するのだとか。

 幸い電話はできて、店は開けても閉めても良く給料と生活費は毎月振り込むが開けるからには美味しいものを提供するように、とのことだった、無責任を極めすぎている。

 こういうのもフィンランドカラーってやつなのだろうか、いや、大半の人はそんなことはないだろう。

 

 というわけで今、俺はこの食堂、『Ravintola UMINEKO』の代理店主となってしまったのであった。

 開店日は平日の午後五時から七時まで、休日は土曜日のみ正午から。

 定休日は不定期だが日曜は絶対休み。

 

 ……永久就職したいレベルでぬるい職場である。

 

 

 

 ──月──日

 

 なんとなく責任を感じ、学業を終えた後に店主不在中の札とauki (営業中)の札の二枚を下げておく。

 大半の人は店内でのんびり勉強している俺と札を見て通り過ぎていく。

 実に平穏な時間だったが唐突に来店を知らせるベルがその終わりを告げた。

 客はミカだった。

 心臓が止まるかと思った。

 前触れがなさすぎてひっくり返りそうになり、それを押さえ込んだせいでしばし見つめ合うこととなる。

 再起動してようやく、俺は練習していたフィンランド語のいらっしゃいませ(Tervetuloa )を言えたのであった。

 注文はコーヒー、これに関しては自信があったのでそれなりにしっかりしたものをお出しできたと思う。

 

 それにしても生ミカ、初めて見たが……やっぱりすげぇよミカは。

 なにがすごいかというともう、そりゃ、ね?

 

 

 

 ──月──日

 

 毎日ミカがくる。

 コーヒーをお気に召されたようだ。

 放課後にここにきてはコーヒーを啜りつつポロロンしている。

 やってない時でも平然と入ってくるのはちょっとやめないか。

 なので最近は、ミカと同じ空間でポロロンを聴きながら勉強や料理の練習をする日々である。

 これはミカファンにとっては千金を積んでも得がたい経験だろう。

 こういうとき、転生できてほんとよかったと思うのだ。

 

 しかし、ミカ。

 ミカというとどんなCPがいいだろう。

 ミカみほとかすげー好きだけどこの世界はみほエリである。

 やはりここはとある説から生まれたロマンあるミカありを推しますかね……

 

 こんなことを書いてるとみほとエリカの様子が気になった。

 今日は2人に電話をかけてから寝ることにしよう。

 

 

 

 ──月──日

 

 ミカがアキとミッコを連れて来店した。

 今日は休業の札を下げていたはずだが。

 アキにペコペコと謝られたのは貴重な経験である。

 とりあえずコーヒーをお出ししたあと、店長にオススメされたシナモンロールを練習していたのだが、凄まじい視線に屈して三人に提供することとなった(無料)。

 アキとミッコはおいしいおいしいと頬張ってくれたがミカはいつもの涼やかな表情で無言だった。

 ただ一番たくさん食べたのもミカだった。

 やっぱりすげぇよミカは。

 

 みほとエリカにグループ通話をかけてから今日もお休みすることとする。

 

 

 

 ──月──日

 

 驚いた、すごく驚いた。

 部屋に入ったらミカがいたもんだからひっくり返るほどびっくりした。

 そしてさらに冷蔵庫の中にしまってあった練習品のロールケーキを食べていたからさらに驚いた。

 呆然としているうちに優雅に口元を拭ったミカはごちそうさまと言って窓から出て行った。

 

 これは普通に犯罪では? そう思って店長に警察に言うかと聞いたら笑いながらいつものことだと言われた。

 それでいいのか……

 

 

 

 ──月──日

 

 フィンランドの名産といえば、なにはともかくサーモンだろう。

 ザリガニやニシンもあるが、トナカイ肉は流石になかった……と思いきや冷凍輸入されたものが普通に売られている。

 こだわりがすごすぎる。

 

 まぁともかく、そんなわけでフィンランドリスペクト精神が異様に強いこの艦でも当然サーモンは人気の品だ。

 日本産のサーモンのはずなのにやたらとデカイ、食いでがましましである。

 なので今日はサーモンとほうれん草のクリームパスタを晩御飯にした。

 ミカは当たり前の様にいたので2人分作って一緒に食べた。

 

 ……おかしいよなこれ? 普通にいるの変でしょ絶対。

 

 

 

 ──月──日

 

 サウナ、サウナである。

 おっさんの大好物サウナである。

 近所に大きなサウナ風呂施設があると言うことで、興味を惹かれた俺は行ってみることにした。

 そして中に入ると例の三人組、ミカアキミッコがズラリと並んで汗をかいていた。

 ミカも珍しく驚いた表情をしていたのでこれは本当に偶然なんだろう。

 

 ややぬるめのサウナでじっくり汗をかいていると、ミカに唐突に戦車道のことを尋ねられた。

 どうやら俺のことは知っていたらしい、まぁ継続とは試合をしたこともあったからそのつながりから俺の事故のことも把握していたのだろう。

 

 戦車道はやめるのかと聞かれたので、まだ答えは決まってないと答えておいた。

 ぶっちゃけた話もうやらなくてもいいわけだが、あれはあれで楽しいし将来また再開すればみぽりんとエリカとの話のタネになるかもしれない。

 

 サウナから上がった後は三人ともなぜか俺についてきて、コーヒーを淹れる事となった。

 湯上りの食事は重くてもいけないが少ないのも物足りない、と言う事でサーモンスープとパンで終わらせた。

 

 なんだか最近は彼女ら専属のコックと成り果てている気がする。

 

 

 

 ──月──日

 

 最近はもうミカと飯を食わないことの方が少ない。

 そしてここまでくれば俺も察しがつく、ミカはおそらく誰かに言われて俺の様子を見にきている。

 そんな命令に従うタイプの人間ではないと思うのだが、どう言うわけか素直に従っているらしい。

 おそらく彼女にも都合があるのだろう、ここはオトナのヨユーで知らん振りを決め込んでおこう。

 

 みぽりんと電話したが、とても寂しがっている。

 エリカを、エリカを頼りんしゃい……

 

 

 

 ──月──日

 

 なんで??????????

 

 

 

 

 

 ──月──日

 

 昨日は大変だった。

 部屋に戻るとミカが泣いていてオマケに思いっきり抱きしめられたのだ。

 はい、この世からピロシキ案件です。

 事情は分からなかった、尋ねても口を割らない。

 なのでとりあえずしばらくはそのままにして、落ち着いた頃合いを見計らって脱出し、秘蔵のルアックコーヒーを角砂糖ましましでお出ししてなんとか落ち着かせた。

 それにしても泣き顔のミカとは貴重なものを見た気がする。

 しばらくして落ち着いたミカは取り乱したことを謝罪して今日は帰るといって去って行った。

 

 さて、どんなケジメをすればいいだろう、不可抗力だったとはいえ確実にケジメ案件である。

 とりあえず小指を逆ポキした。

 派手に痛かったが罪が洗い流されるのを感じた。

 

 

 

 ──月──日

 

 おかしい。 ミカがおかしい。

 あのミカが俺の調理の手伝いをするなどと。

 アキもミッコも呆然としていた。

 なんだか俺をみる目が変な光を帯びている。

 一体あの夜になにがあったのだ、真剣に知りたい。

 

 

 

 ──月──日

 

 今日は、お客さんが来なかった。

 と言うか基本あの三人か、あるいは彼女らに連れられた戦車道メンバーくらいしかやってこないのだが、その戦車道チームは模擬戦で試合に出かけているのだ。

 相手はなんと黒森峰。

 古巣との対決なので少し反応に困る、どっちを応援すれば良いのだろう。

 

 晩御飯にはトナカイ肉のステーキ、かーなーりー食べ応えがあった。

 

 

 

 

 

 

 

『彼女のことを見てあげてほしい』

 

 大恩ある『校長』にそう言われたから、仕方がなくだった。

 誰かに従うのは性に合わず、それも多くの時間を割かねばならない仕事。

 なぜそんなことを私に任せたのかは分からない。

 だが、了承してしまった以上、仕事は仕事。

 なので私は『校長』が店主をつとめる一軒の食堂を訪れた。

 

(ここに例の生徒が、ね)

 

 黒森峰がプラウダに負けた原因とされ、半ば追い出されるように転校してきたと言う、元黒森峰生徒。

 名前には聞き覚えがあった。

 天翔エミ、模擬戦で戦った時一年ながらレギュラーメンバーとして、副隊長車の装填手を務めていたはず。

 

(……様子を見るといっても、何を見ればいいのだろう)

 

 自殺でもしないように見張れと言うのだとしたら、あいにく自分では力不足だろう。

 四六時中見張れるほど時間もないし義理もない。

 できてせいぜい、その様子を校長に伝えることくらいだ。

 そのくらいしかやる気がないとも言う。

 

「まぁなるようになるか」

 

 今更渋っても仕方がないので、さっさと店内に入ることにした。

 ドアベルが奏でる音を聞いたのか件の生徒らしき子がこちらへと視線を向ける。

 

(……小さいな)

 

 高校生とは思えない驚くほど小柄な少女だった。

 艶やかな黒髪を後ろで束ねていて、どことなくスッとした印象を抱かせる。

 自分より頭二つ分近く背の低い彼女は、しばらくこちらを呆然と見つめた後、やや慌てたように立ち上がる。

 

「Tervetuloa」

 

 なぜか綺麗な発音でフィンランド語を話されて少し面食らった。

 てっきり我が身を襲った不幸に打ちひしがれているかと思っていたけれど、慌てて水の入ったグラスを用意する姿からはさほど悲壮感は感じられない。

 とりあえず席につき様子を伺ったのだが、どう見ても店の手伝いをする生真面目な小学生程度の印象しかなかった。

 

「こちら、メニューです。 ただいま店長が不在でしてできない品も多いのですがご了承ください」

「……コーヒーをもらおうか」

 

 味には期待できないがとりあえず注文をして、一息ついた。

 この調子なら心配はなさそうだし、飲み終えたならさっさと帰ろう。

 暇つぶしにカンテレを鳴らしながら外を眺める、空模様は薄曇り、運動をするにはちょうど良さそうだ。

 

「お待たせしました」

 

 ぼうっとしていたらいつの間にかできていたらしい、香ばしい匂いを漂わせるコーヒーがテーブルに置かれていた。

 泥水をすする覚悟だったから、少し驚いた。

 

 まあいい、さっさと飲もう。

 カンテレの手を止めて、カップの淵にそっと口付ける。

 

「……!」

 

 美味しい。

 

 とても、美味しい。

 コーヒー自体を今までさほど多く飲んできたわけでは無いけれど、その中でも一番と言ってもいい味だった。

 香ばしい香りに球の様な舌触り。

 気がつけばカップの中身は空っぽになっていた。

 

 ……なんだか悔しい気がして、私は料金を置いてそこを立ち去った。

 

 夜、その味わいが脳裏の中に想起される……

 

 次の日、私はまたその店を訪ねていた。

 次の日も次の日も、その次の日も。

 気がつけば戦車道メンバーも誘っていた。

 誰もがコーヒーの味を気に入っていた。

 悔しいことに私もその1人だった。

 たまに練習品として出されるシナモンロールにアップルパイ、そしてコーヒー。

 どうやら私は、彼女のコーヒーの中毒になったらしい。

 

 

 

「うぇ、ミカさん!?」

 

 夜中になって、忍び込んでいたのを見つかると、天翔エミは素っ頓狂な声を上げて仰け反っていた。

 まあ、確かに驚くかもしれない。

 だが私とて校長に部屋のものは自由にしていいと言われている。

 小腹が空いていたのだから、仕方がないだろう。

 だが気まずいのも事実だったのでさっさと立ち去ることにする。

 ……そういえばこのロールケーキ、ナマ物だから日持ちはしない。

 つまり冷蔵庫に入ったのは最近だ。

 彼女が食べるものだったとしたら少し悪いことをした。

 次の日にまた訪ねて謝ろう。

 

 ……と思っていたら、部屋で待っていた私を見ると彼女は何も言わずに私の分まで夕食を作って、一緒に食べることになった。

 

 ……おかしいな?絶対そんな流れではなかったと思う。

 

 

 

 

「あ」

「え?」

「わっ」

「お」

 

 休日にサウナを訪れて汗を流していたら、まさかの天翔エミと遭遇した。

 向こうも驚いているので、完全に偶然なのだろう。

 

 ややぬるいサウナの中でしばらくの間、全員無言だった。

 ちらりとみた彼女の体は華奢で、少し力を入れれば折れてしまいそうなほどに細い。

 果たしてなぜあんな体で装填手なんて勤めていたのか。

 

 ……あるいは、装填手以外にはもっと適性がなかったのか。

 

 そうだとすれば、彼女はそんな体躯と才能のハンデを背負いながらも、黒森峰に入れるほどの選手になるまでにどれほどの努力を積んだのだろう。

 

 そして、そしてその努力が

 

 全て無に帰してしまって

 

「エミ、君は戦車道は再開しないのかい?」

「え?」

 

 暑さで頭ゆだっていたからか、つい口が滑った。

 無神経な質問だったと思い撤回しようとしたけど、エミがあっさりと口を開いたのでその隙もなかった。

 

「まだ答えは決まってないです」

「……そうかい」

 

 今、彼女は間に揺れ動いているんだろう。

 自分が追いかけ続けてきた夢への道を再び走り出すか。

 この事故を機に見切りをつけるのか。

 

「戦車道には、人生の大切なすべてのことが詰まってる」

 

 思わず私は、自分が戦車道に感じる思いを打ち明けていた。

 なんとなく、私は彼女に戦車道をやめてほしくないと思っている。

 

 たとえ、たとえ辛い思いをしたとしても、きっとそれを乗り越えるだけの情熱を彼女はまだ秘めていると、信じたい。

 だからそんなことを言っていた。

 

「……ありがとうございます」

「珍しい、ミカがちょっと熱いね!」

「確かに、なかなかみないなーそういうところ」

「……」

 

 三人にかけられた言葉に、思わず顔が熱くなった。

 

 と言うか、これは、のぼせている!!

 

 

 

 それからもしばらく、私は彼女と夕食を共にした。

 日に日に腕を上げていく彼女をみると少し嬉しくて、しかしそれは戦車道という芯を削り取っていく様な苦行にも感じられた。

 彼女は、今不安定だ。

 夢と現実の狭間で打ちのめされて、それを必死に覆い隠してはいるけれど、それがいつ限界になるかもわからない。

 

 校長はこれを、危惧していたのだろうか。

 

 でも、私は彼女に戦車道という夢を諦めてほしくない、失望してほしくないと、思い始めていた。

 

『私だって』やれた。

 だから、彼女もきっと、きっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も助けてくれない

 

 みんながわたしのせいにする

 

 

 

 ぜんぶなくなっちゃった

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ、ぁ」

 

 震える体を抑えられない。

 溢れる涙を止められない。

 

 私は、私は何も知らなかった。

 出来心でのぞいてみた、一冊の分厚い本。

 この一冊の日記帳の中にだけ明かされていた、彼女の中の深い闇。

 自己嫌悪が心を淀ませ、澱みが導くさらなる絶望。

 

 私は、私は何も知らないくせに、彼女になんてことを言ってしまったんだ。

 

 人生の全てを賭けていた戦車道を、己自身を完全に否定されて、打ちひしがれて、そして逃げてきた先で。

 そして、少しずつ自分の心を癒していた、弱り切っていた彼女に。

 

 私は、なんで軽々しく、あんなことを言ってしまったんだ。

 

「ミ、ミカさん、どうしたんですか?」

「ごめんね、ごめんね……エミ、ごめんね……」

 

 私を見つけたエミを、思わず抱きしめて、そして謝り続けた。

 くだらない自慰行為にも等しい、自分を許したいがための情けない贖罪行動。

 

 

 

 許せない。

 

 許せない。

 

 許してたまるものか。

 

 自分も許せない、だがそれ以上に彼女をここまで貶めた汚い論理を許せない!!

 

 何も、何も変わっていない!!

『島田』と過去に道を違ったあの時と、汚い大人どもは何も変わっていやしない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、よろしく頼む」

「あぁ」

 

 広い草原で顔を合わせる両校の生徒。

 継続高校と黒森峰の戦車道チームによる模擬戦の開催日。

 両校、隊長を務める西住まほと名無し、通称ミカは互いに言葉を交わしていた。

 まほはミカの様子に何か違和感を感じてはいたが、それがなんなのか確信は持てていない。

 

「試合前にすまない、一つ聞きたいことがある」

「……何かな?こちらはもう早く始めたくてウズウズしているんだけどね」

「……? 手間はとらせない。その……天翔エミを知っているか?」

 

 気まずげに尋ねたまほの言葉に、ミカはぴくりと肩を震わせた。

 

「こちらで事故が起こった後、彼女はそちらに転校したと、聞いた。 ……向こうで元気でやっているのか、何をしているが、もし何か心当たりがあれば教えてくれると」

「それを語ることに意味などない」

「っ?」

 

 まほは、過去にここまで強い怒りを込めた言葉を吐くミカを見たことがなかった。

 灼熱の憎悪を瞳に宿した継続の隊長は、まほをギロリと睨みつける。

 

「彼女を見捨ててかばいもしなかった連中に今更心配されたところでエミも迷惑だろうさ、違うかい?」

「それは……」

「な、あんた、何よその言い草は」

「正論を言ったまでだ」

 

 ミカのあまりの言葉に噛み付くエリカにも、ミカはバッサリと切り捨ててしまう。

 両校の選手たちも何が起きているのか理解できていない。 否、理解が追いついていない。

 ただ一つ。

 

 ミカがここまで怒っているところなど、誰も見たことはない。

 

「話すことはもうないよ、さっさと始めよう」

 

 踵を返すミカに慌ててついていく継続生徒たちを見送る黒森峰のメンバーたち、しかし、その士気はあまりにも低い。

 

(覚悟しろ、全てめちゃくちゃにしてやる)

 

 ミカは、そんな彼女たちを一瞥することもなく、心の奥に闇の焔を灯す。

 自分にはやらなければならないことができた。

 そのための第一歩として、今日の試合を、圧勝する。

 

(見ていろよ、戦車道という競技に巣食う地位と見栄に夢中な肥え太った豚どもめ……全員、全員引き摺り下ろして地獄に落としてやる)

 

 一度灯された憤怒の炎は消えやしない。

 

 かつて、島田から出奔した1人の悪魔が、哀れなる同胞の姿を機に覚醒することとなる。

 

 そしてこれこそが

 

 

 

 鬼神西住と名無しの死神の長い因縁を結びつける最初の一戦となったのだ。

 




いわゆる島田ミカ説、わたしは好きです。
とりあえず指折れたから次は絶対腕行くから覚悟してろよエミカス。
それはともかく今回はエミカス三大パワーワード、なんで????この世からピロシキ ぜんぶなくなっちゃった をフル活用できたので久々にエミカスを活躍させたような満足感があります


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おまけルート5本め もしもエミカスが選手生命終了レベルの怪我を負ったら

「君のような行いは支持できない」
「私はそうは思いません、百合というのは可愛い女の子と女の子で成り立ってる関係です。 成立した百合カプは誰にも邪魔されず健やかに尊く二人の世界を築き上げて、それを見て私たちはキマシタワーを立てる。百合カプは眺めるもので間に挟まるものじゃない、違いますか?」
「間違ってるとは言わないけどそんな排他的思想ではその先の展望が望めない。それでは新しい和の可能性を拓けない」
「和?なんですかその古色蒼然とした懐古厨的思想は」
「百合に染まった君の思考が君自身を侵している」
「そんなのはナンノブマイビジネス(百合畑に男を放り込むようなもの)です。 男女ありきという考え方には与しません、まずは女2人です」


 どういうわけか知らないがどうやら俺は人ではなく猫だったらしい。

 

 いきなり何を言ってるんだと思わず呆れてため息をついたが、しかしこれは事実で、俺は猫だったのだ。

 その証拠に俺の頭には耳があり、手足の肘膝の先はもふもふとした毛が覆い尽くして猫のにくきうがそなわった形状になっている。

 首だけ振り向いてみるとゆらゆらと揺れ動く尻尾が見えた。

 なるほどこれは間違いなく猫だろう。

 ん? 猫かこれ? まあいいや。

 

 とりあえず新たな事実を受け入れることに成功した俺は、とりあえず周辺を探索してみることにした。

 実のところ俺は今訳のわからない場所に閉じ込められているのだ。

 右を見てみれば黒い森が生い茂り、左を見てみると雪の吹きすさぶ凍土が広がっている。

 前には賑やかな街が、後ろには太ったカモメがうろつく港が……

 

 わけがわからない。

 全くもって理解できない事態に直面している。

 俺が猫であることの百倍不思議な場所のようだ。

 とりあえずここにいても始まらないので別のところに移動しよう、そう思ってとりあえず一番安全そうな街の方へと向かおうとして、ふと気がついた。

 

 その道中に、百合の花が咲き誇っている。

 

 あれはダメだ、本能で俺は直感した。

 あの百合の花の中に踏み込んだが最後、俺まで百合の花になる。

 宇宙恐怖的信号を信じた俺は後ろの港町へ向かおうとする。

 しかしそこから聞こえてくる怨嗟に満ちたカンテレの音に総毛立ってへたり込んでしまう。

 森からは鳴き声が、凍土からは吹雪を切り裂く怒号が。

 どれも、どれもやばい!!

 

 どうすることもできず俺は立ち尽くした。

 しかもなんか、音がだんだん近づいてきて、百合の花畑はこちらへとどんどんその陣地を広げてきている!!

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 もう直ぐ捕まる!

 あまりの恐怖に俺はうずくまり──

 

 そして落ちた。

 

「ほわあああああああああああああああ!!」

 

 唐突に体を浮遊感が包む。

 先ほどまで俺がいた場所に猛烈な衝撃波が生まれ冷や汗を流す。

 間一髪、だったらしい。

 とりあえず危機は脱したらしくフゥ、と俺はため息をついた。

 しかし一体なぜ落ちたのか?

 俺はくるりと体をひねり、落下していく方向を見る。

 するとそこに一本の大きな木が。

 

 なんで、木?

 

 疑問に思ったのもつかの間、その木は俺の落下コース直上にある、いかん、避けなければ。

 俺は体をぐるりとひねり、なんとか回避を試みる。

 しかし、これは避けられなさそうだ。

 

(あかん!当たるぅぅ!!)

 

 

 

 グシャア

 

 

 

 

 

 

「──────ぅ」

 

 なんか、すごく突拍子のない夢を見たような気がする。

 意識が眠りの海から引き上げられて、少し痛む頭を抑えた。

 なんだろう、不吉極まりない内容だったんだけど……起きた時に体を覆う不快感で、そんなものは吹き飛んでしまった。

 とにかく、体が猛烈にだるい。

 

「……ぅ、ぉ?」

 

 しかも声が、妙に掠れている。

 一体何が起きたんだ?明らかに普通ではないようだ。

 とりあえず状況を把握しなければ。

 俺はぐっと気合を入れて、体を起こそうと力を込める────

 

「エミさん!!」

 

 直前に俺の体を何かが締め付けた。

 

「──────────ッダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!!!!!!!!」

 

 ──病院中に響き渡るような絶叫だったらしい。

 

 

 

 

 

「3日も?」

「うん、3日も」

 

 身体中を駆け抜けた爪を剥がされたような激痛がようやく収まって、俺はベッドに再び沈んだ体制でみぽりんと話をしていた。

 どうやら、俺は事故で大怪我を負って長い間昏睡状態にあったらしい。

 それでお見舞いに来ていた途中で目が覚めた俺を見て、感極まって抱きついちゃったそうだ。

 みぽりん、下手すりゃ死ぬで……俺だったから良かったものの。

 

「そっか、そんなに長い間……ん?事故で大怪我って何があったんだっけな?」

「あのね、エミちゃんは……滑落した戦車を助けに行って、その時に」

「あ」

 

 そうだ、おぼろげながらに思い出した、俺の記憶が途切れるその直前の出来事を。

 

 ──────

 

(早い!早いぞエミ選手! これは今年のオリンピックには期待できそうです、でねえけどな!!)

 

 増水した濁流の中を、俺は突き進んでいた。

 みぽりんを引き止め、代わりに俺が救出に向かう、思い描いた通りのルートを突き進んでいる。

 その興奮がアドレナリンを掻き出し、この身体中の血液を沸騰させている。

 思わず高笑いしそうだったが、口の中に泥くせえ水が飛び込んでくるので我慢した。

 

(よっし到着!!)

 

 沈みゆく戦車に取り付いた俺は、そのまま車体を伝って固く閉じたキューポラを無理やりこじ開ける。

 

「みんな無事かい?」

「え……エミさん?」

「もう大丈夫だぜ、私がきたからな」

 

 浸水した車内で混乱に陥っていたメンバーに手を差し出す。

 直ぐ差し出された手を握って、全員で硬くてを握り合う。

 

「みんなロープと互いの体を離さないで。 結んだロープを伝って私が岸に引き上げる、息継ぎすることだけを考えるんだ」

「は、はい!」

 

 本当は1人ずつ救助した方が安全なのだが、割と真剣に時間がないので全員力ずくで引っ張り上げる作戦だ、俺のパワーならいける。

 早速車内から飛び出して、俺の体にしがみついたメンバーごとロープを引いていく。

 重い!流石にこの濁流の中全員丸ごと引き上がるのは相当キツイようだ。

 ていうかこれ、みほどうやって救助したんや原作……もしやみぽりんは俺より身体能力が上なのでは?エミは訝しんだ。

 

 まあしかし、不可能でもないわけで。

 ぐいぐいとロープを引いていくと徐々に岸が見え始めた。

 あと少しだ、あと少し。

 少し余裕が出てきた俺は水の上に出た顔を動かし左右を確認する、まさかこのタイミングで危険なものが流れてくるわけはないと思うが……

 

(ってきてる!!!???)

 

 がごん、がごんと音を立てながら流木がこちらに迫ってきていた。

 サイズと流れる速度からして当たれば無事では済まない。

 気がついたのは俺だけで、俺にしがみついたメンバーは必死で息継ぎをしてるだけだ。

 

「危ねえ!!」

「え──」

 

 素が出た!!しるか!!掃いて捨てるほどいる転生者より貴重なJKじゃい!!

 俺は迫り来る流木を避けられないと判断し、彼女たちとの間に体を割り込ませる。

 え?焦って思わず行動したけどこれ俺ごとみんなぶっ飛ばされない?大丈夫?ピロシキするのは俺だけでええで??

 

 そして体に叩きつけられた衝撃。

 そして俺は意識を失い──

 

 

 

「みんなは無事だったか!?」

 

 記憶を取り戻したと同時に俺は叫んでいた。

 体にズキンと痛みが走る。

 

「うん、エミちゃんのおかげで、みんな少し怪我はあったけど大丈夫だったよ」

「は、そうか……よかったぁ〜……」

 

 みぽりんの言葉に、途端に緊張が抜けて俺はズブズブと柔らかいマットレスに沈んだ。

 いやぁ、本当に良かった。

 俺が助けに行ったせいで原作で助かった赤星さんチームの中に大怪我した人がいたとかなったら真剣に自害を考えるレベルだった、体張って良かった!

 

「でも、エミさんはそのあと意識を失うほどの怪我を負って、病院に運ばれたんだよ」

「それは、迷惑をかけたな。 まほ隊長にも謝っておかなくちゃな」

「謝ることなんてないよ! エミさんのおかげで、みんな助かって……それにね、試合にも勝てたんだよ」

「お、勝ったのか、さすがみほだな」

 

 そしてどうやら試合にも勝ったらしい、素直に嬉しい変化である。

 体を張った甲斐があるものだ……むむ、待てよ? そうなると俺もそこまで責められずに済むから転校しなくてよくなるのか……? まあいいか、あとはみほエリを成立させてそれをそばでニヤニヤ眺めるために意図的に2人きりにさせる作戦とかを実行してけばいいし……

 

「うん、全部、エミちゃんのおかげだよ。 本当に、本当にありがとう」

「大げさだなみほは」

「そんなことないよ……そうだ! 私エミちゃんが起きたこと他の人に伝えなくちゃ!」

 

 電話してくるね! そういって病室から出ていくみほを見送って、俺はホッとため息をついた。

 どうやら、みほエリをなす際の1番の山場を乗り越えられたらしい……喜びがこみ上げてきた。

 

「一つ歌でも歌いたい良い気分だな」

 

 体の痛みもなんのその、おれは静かにガッツポーズをとった。

 いや、まだ本番はここからだ、俺が止まらない限り、道は続く。

 だから、みほエリのためにこれからも尽力しなければ。

 決意も新たに、俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 ……ところで、さっきから足がまるで動かねえんだが怪我の影響なのだろうか。

 

 

 

 

 

「落ち着いて、聞いてください天翔さん。 あなたの脚は、おそらくもう動くことはないと思われます」

「はぁ……」

 

 医者から告げられた言葉を、俺は正しく認識した。

 足が動かない、つまりあれだ、下半身不随ってやつだ。

 

「え? マジ?」

「はい……これをみてください、天翔さんのレントゲン写真です」

 

 医者がこちらに見せてきた写真にはよく見るタイプのレントゲン写真が写っている。

 その中で医者の指差した部分を見てみると、ひどく損傷した部位が見えた。

 

「ここの、下部胸椎。 ここが完全に離断しています。 これは自然治癒することなく、現代医学でも治療法は確立されていません」

「つまり治る見込みなしと……」

「はい……」

 

 医者の言葉を、俺はどこかふわふわとした感覚で聞いていた。

 そっかー足動かないかー、そっかー……え?マジコレ?

 

「あー……つまり車椅子生活と」

「そうなります」

「戦車道……無理ですよね……」

「……はい」

 

 そっかー、戦車道できなくなるかー……

 

「うっわー……」

 

 俺は思わず頭を抱えた。

 なんてこった!みぽりんとエリカとの一番強い接点が消えちまった!このひとでなし!!

 いやまああの2人が俺を見放すことはないとは確信しているが、それでも、それでも……えー?マジ?流石に凹むわこんなん……ここまできていきなり凄まじい障害が発生したわ!

 俺そばにいたらこんなん2人とも俺にめっちゃ気ィ使うやんみほエリ為させるどころじゃないよ……

 

「天翔さん、どうか気を強く持ってください」

「あい……」

 

 医者に励まされて、俺は曖昧な返事を返す。

 しかし、まあこればかりはどうにもならなさそうだ。

 ここまで頑張ってきたし、あとはもう自然の成り行きに任せて2人の足枷になるのだけは避けよう。

 

 よし、とりあえず黒森峰やめるか!

 動かなくなった両足を眺めてケツイに満たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エミ……?」

 

 車椅子に乗せられた親友の姿を見て、心が完全に凍りついたのを感じた。

 事故からひと月半、ようやく退院できると喜んでいたエミを迎えに行こうとみほが言い出して、隊長や、滑落した戦車に乗っていたメンバー、中等部の頃からのチームメンバーたちも固まって、病院の外で待っていた。

 

 そしてその光景を見て、全員が凍りついた。

 いや、隊長だけは、その時、悔しそうに歯噛みしていたような気がする。

 

「あの……エミちゃん、まだ歩けないのに、退院するの?」

「いや、みほ。 もうすっかりよくなったんだ。 ただ、その、足がもう動かないらしいからさ」

 

 あっさりと言ってのけた言葉に、今度こそ、全員が停止した。

 

 足が、動かない。

 

 それは、つまり。

 

『うん、戦車道好きで仕方がないんだ』

『それしかやってこなかったからかな、友達全然できなくてな』

『ここで、みほやエリカたちと会えてよかった。 これからも、ずっと頑張っていこう』

 

 エミは、もう、戦車道なんて、できない?

 

 

 

「う、嘘だよね、そんな、エミちゃん」

「こんな悪質な嘘つかないよみほ。 まあ確かにウソみたいな話だけど 」

「で、でも、そんな……そんなの、エミちゃんが」

「うん、もう戦車道はできないと思う」

「ぁ、ぁ……」

 

 堰を切ったように、みほの目から涙が溢れ出した。

 私といえば、もう、何を考えているかもわからない。

 頭の中のどこか冷静な部分が、どんな言葉をかければ良いか必死に探すけれど唇はひくひくと震えるだけで言葉を発することはできない。

 

 まるで、悪夢でもみているようだ。

 現実感が、あまりになさすぎる。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 ぽつりと、誰かがつぶやいた。

 視線の先で、小梅が膝を折って両手で顔を覆っているのが見える。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「あぁ、泣かないで赤星さん」

「なんで、こんなの、ひどい……ひどいよぉ!」

 

 それにつられて、多くのメンバーが泣き出し始めた。

 なんでだろう、退院したエミをみんなで迎えて、また前のような日々に戻れると思っていたのに。

 どうして、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 

「……エミ、車が来ているから、それで送ろう。 私が押そう」

「あ、お願いします隊長。 ほら、みんな行こう。ここだと迷惑だからさ、ほら」

 

 困ったような笑い顔でみんなを急かすエミを見て、言葉にできないほどの苛立ちが胸を埋め尽くした。

 

「なんで泣かないのよ」

「ん?」

「あんた……一番、辛いはずでしょ……なんであんた泣かないのよ……なんで、辛いって一言も言わないのよっ」

 

 思わず口に出してしまった、ああそうかと納得した。

 私は、今この場で一番苦しい思いをしているエミが、それでもなお弱音を吐いてくれないことが納得できなかったんだ。

 

 ──私たちはそこまで頼りないか!!

 

 なんて子供じみたわがままだと思うけど、だからこそ我慢ができず叫んでしまう。

 

「辛いなら辛いって言いなさいよ! そうじゃないと……どんな言葉かければ良いかもわからないじゃない……」

 

 鼻の奥がツンと熱くなって、声が出しづらくなってくる。

 そんな私を見てもエミはくしゃりと困ったような笑いを浮かべるばかりで、少し考えて、こう言った。

 

「わからないんだ、何を言ったら良いか」

「──っ!!」

 

「う……あぁ……」

 

 もう、こらえることができなかった。

 

 

 

 

 

 天翔エミは、私の大事な親友は

 

 もう2度と、夢を追うことができなくなったのだ。

 

 

 

 私は、たくさん泣いた。

 泣いて泣いて、泣き尽くした。

 

 

 

 

 

(やっべーなこれ、転校するっていつ言い出そうか……とりあえずまほ隊長に相談して決めるとしようか)

 




このあとまほ隊長は胃も精神も病む。
エリカとみほは病む。
小梅ちゃんも病む。

すまん、これが作者の限界だった。
このあと監禁ルートとか行くかと自分でも思ってたけど書いてみるとさっぱりこの後の展開が思い浮かばなかった。
非力私許


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Speciale Scenario 6

『せっかくの百合なのになんで片方をTS女子にしてるの?これだと精神的NLだから百合じゃないよ』
『中途半端なことせず2人とも純粋な女の子にすればいいのでは……?』


 〜〜月〜〜日

 

 アンツィオに来てから、毎日が楽しい。

 誰もかれもが毎日お祭りのように騒いでいて、町中から活力が溢れているみたいだ。

 時間があるから、たまに食べ歩きをしている。

 とても楽しくて、賑やかで、平穏で。

 

 でも満ち足りないものがある。

 

 〜〜月〜〜日

 

 屋台の手伝いはとても楽しい。

 私のことを小学生だと思うお客さんたちにちょくちょく頭を撫でくりまわされたりお菓子をもらったりするのは不服だけど、でもなんだか心がふわふわする。

 誘ってくれたアンチョビさんが賄いで作ってくれるご飯が美味しい。

 どうやったらこんなに美味しく作れるんだろう。

 

 〜〜月〜〜日

 

 最近は自分の体がずいぶんか弱くなったのを感じる。

 トレーニングをやめてしまってから三週間だったか。

 作り上げるのに随分と時間がかかったのに、失ってしまうのは一瞬だ。

 今はもう、4キロのダンベルもやっとの思いだ。

 

 〜〜月〜〜日

 

 コーヒー、ここではエスプレッソが人気みたいだ。

 私が入れるのはサイフォン式なので、うまいこと噛み合わない。

 でも、アンチョビ先輩は美味しいと言って飲んでくれた。

 店で出さないかと言ってくれた。

 

 何も聞かないでくれる。

 アンチョビ先輩は優しい人だ。

 

 

 

 〜〜月〜〜日

 

 アンツィオに来て、もう二ヶ月。

 試しに戦車のガレージに行ってみるとアンチョビ先輩は歓迎してくれた。

 でも私は何もできなかった。

 トレーニングを怠った体は想像以上に劣化していて、いまや全力を出しても砲弾を持ち上げることはかなわない。

 私はもう、戦車に乗る価値がない。

 

 とても悲しくて、つらい。

 私はまだ未練タラタラだったらしい。

 

 装填手の役割を果たせないなんて、それじゃただの人形だ、役立たずのクズじゃないか。

 私にはもう何もない。

 

 〜〜月〜〜日

 

 アンチョビ先輩は、ずっと優しくて、私をかまってくれる。

 でも、今はもうそれも苦しくて、つらい。

 私なんかのために時間を取らせて、気を配らせて苦労をかけてしまって、それが何よりも辛い。

 でもそれを振り払えない、優しさに甘えてしまっている。

 

 私は何もできない、心も体も弱っちい卑怯者だ。

 

 〜〜月〜〜日

 

 生きているのが辛い、誰か助けてください。

 

 

 

「な、なんだよ、これ」

 

 震える声が抑えられなかったのがわかる。

 アンツィオに来てからこっち、出会った日からずっと楽しそうな笑いを絶やさなかったエミの内側がここに記されていた。

 

 きっかけは偶然だった。

 屋台の手伝いをしてくれたエミが鞄を忘れてしまい、持ち上げたそれから零れ落ちた分厚い本が、ばさりとひらけたのだ。

 それが日記とわかって慌ててアンチョビは見なかったことにしようとしたけれど、その中に自分の名前が書かれていたのが見えて、ついつい好奇心に負けてしまった。

 

 最初のうちは、黒森峰からやってきた当時の辛い心境、慣れない環境に馴染めない不安が綴られていたが、それが徐々に明るい文になっていって。

 それが奇妙な快感を持ってアンチョビを喜ばせた。

 アンツィオに来てから、自分たちと関わってから少しずつ心が癒されていく。

 その喜びはむず痒いような、湧き上がるような不思議なもので、ページをめくる手をますます加速させて。

 

 でも、その先で、自分が弱くなっていく恐怖と、かつての夢から引き剥がされていく現実、自身の価値を見失っていく喪失感に蝕まれた真実がある。

 

 足元がなくなっていくような喪失感にアンチョビは薄ら寒さを覚えた。

 

「私が……私がやってたことは、おせっかいだったのかな……」

 

 声が震えた。

 頭の中がジンジン痺れて、何も考えられなくなる。

 その場にへたり込んで、日記を抱きしめてアンチョビは泣いた。

 

 

 

(oh my god!! 間違えて持ってきちまった日記帳入れた鞄忘れたと思ったらチョビに読まれちまった!! いや違うんすよ本当にわざとじゃないんですよ、数学の教科書が分厚いのが悪いんすよ。

 でもアンチョビ泣かせちゃったから足をピロシキ〜するね……)

 

 その晩エミは足の甲をハンマーで砕いた。

 割と深刻だったので病院に行った。

 

 

 

「こんにちは〜」

「あっ……う、うん、よくきた……」

 

 数日後、いつものように屋台の手伝いに赴いたエミを、アンチョビは気まずそうな様子で出迎えた。

 足にカナヅチが落ちて骨折したのは数日前に聞いていたのでしばらくは来なくていいと伝えたのだが、やることがないので後ろで仕込みの手伝いでもしたいというと渋々頷いた。

 

「今日もたくさん売りましょうね」

「うん、そうだな……」

「……ドゥーチェ?」

「あ、や、なんでもないんだ、なんでもない」

 

 アンチョビは無理矢理な笑顔を作って、さあ今日も気合い入れてやるぞと腕まくりをしたが、あまりにも不自然な仕草で他の面々も首を傾げている。

 エミとしては申し訳ないばかりで、取り敢えずは仕込みを頑張って負担を減らそうと玉ねぎを刻み始める。

 片足でも器用に立ちながら、小さい手に握った包丁が軽やかに踊り野菜をカットしていく。

 

「相変わらず早いなー」

「そうかな?」

 

 後ろから覗き込んできたペパロニにそう言われて、エミは首をかしげる。

 

「手際もいいし、料理好きなのか?」

「昔から手伝いはしてたよ 食べ盛りのチビ達にはいくら作っても足りないから、私も手を貸してたんだ」

「そんな大家族なのか?」

「そうとも言えるかな。 まぁあまり仲は良くなかったけど」

 

 そう言いながらもあっという間にたっぷりの玉ねぎを刻み終えて、今度はピーマンに取り掛かる、豪快に輪切りだ。

 それが終われば今度はウィンナー。

 ベーコンを入れる時もあるがこちらが主流らしい。

 

「昔から戦車道しか興味がなかったから、他の子達と話題合わなかったし。 それで孤立して院長に心配されてね。 だから平気だって証明したくて、手伝いとかいっぱいしていつも平気な顔してたんだ」

「院長?」

「うん、私を拾ってくれた人」

「……? あっ」

 

 ようやく気がついたらしく、ペパロニにしては珍しく気まずそうな表情をして言葉を詰まらせた。

 それを見てエミがクスクスと笑う。

 

「いいんですよ気にしなくて。 少しも辛くなんてないですから」

「うーん、そっか? ならいいんだけど」

「あっっっつぁぁあ!!」

 

 その時盛大な悲鳴が響いて、従業員も客も一斉にそっちを向いた。

 見てみればなんとドゥーチェがヘラを放り投げて耳たぶに指を押し付けている。

 

「大丈夫っすか姐さん!!」

「あ、お水、お水を!」

「あちちち、うぅ、油断したぞ……」

 

 アンチョビが料理で怪我をするとはなんとも珍しい。

 エミが慌てて氷水を用意すると、その中に指を突っ込んでなんとかほっと一息ついた。

 

「うう、悪い」

「珍しいっスね〜姐さんがやけどなんて」

「今日はもう調理はできませんね。 誰か代わってくださーい 」

「や、こ、これしきなら」

「指を怪我したら料理なんてだめっスよ!」

「うぅ〜」

 

 チョビ〜って感じで小さくなったアンチョビを、表からは見えない休憩場の椅子に座らせる。

 なんだか今ならカール自走臼砲になら装填できちゃいそうなサイズだ。

 エミは薬箱の中から軟膏と絆創膏を取り出した。

 

「戦車乗りの指は大切なんですから、気をつけないとダメですよ」

「……うん」

 

 うつむきながら返事をしたアンチョビに、これはダメだとエミは肩を落とした。

 どうやら想像以上に日記を覗き見た罪悪感が強いらしい。

 

 これは日記をあんなところに置きっぱなしにした自分の責任だろう、なら自分が立ち直らせるのが道理だ。

 取り敢えず何か、言葉をかけなければ。

 

「あの、アンチョビ先輩。 私はこの前のこと気にしてませんよ」

「え?」

「ほら、あの、日記を」

「!!!!!」

 

 瞬間、ぞわりとアンチョビの毛が逆立った。

 

「み、見てたのか!?」

「ええ、まぁ、忘れたのに気がついて取りに戻った時……」

「え、う……」

「あ、あの、あんな場所に忘れた私が悪かったですから、気にしないでください」

 

 なんとか慰めようとするが逆効果だった。

 エミはまたもアンチョビを泣かせてしまったので今夜は手の甲行くかとケツイを固め始めたが、その時、キッとアンチョビの視線がエミの目に絡みついた。

 

「日記な、読んじゃったんだ。 お前の」

「ええ、はい」

「後悔した」

「ごめんなさい、変なもの読ませてしまって」

「なんで盗み見られたお前が謝るんだ」

「いや、なんとなく……」

「……エミ、お前は謝ることなんてないんだ」

「え?」

 

 突然、そっとアンチョビの腕がか細いエミの体を抱き寄せた。

 ふわりとケチャップソースの匂いと、ミントのように透き通る香りが体を包む。

 

「私のお節介で、辛い思いさせてごめんな」

「え、いやあのあれは」

「私はお前のこと何にも知らなかった。 最初見たときは陰気な奴だって思ってたけど、ここで過ごしてればそのうち明るくなるって思ってて。 だから巻き込んで屋台とかやらせたり、たまに連れ出して遊んだりして……」

「は、はい……」

「でも、お前にとって戦車道がどれだけ大事なものだったのかわかってなかったんだ。 聞いてはいた、去年の黒森峰の騒動で追いやられちゃったって。 日記読んで、お前のさっきの話聞くまで、それも軽い気持ちで考えてて……」

「そ、その……あの」

「だから、明日からはもっと、しゃんとするから。 私はみんなのドゥーチェだ。 だから、お前だって毎日を楽しく過ごせるよう頑張るから。 嫌なこと忘れられるように頑張るから……だから……」

「……ありがとうございます、アンチョビ先輩」

 

 涙をほろほろと流しながら自分のことを思ってくれるアンチョビを見て、エミは誓った。

 ダミー日記、焼こうと。

 そして明日からは心配かけないようにアンツィオムードで毎日を過ごそうと。

 取り敢えず手の甲を砕くのはやめておいた。

 下手すればアンチョビの心まで砕けかねない。

 

 だが、エミはアンチョビのことを甘く見ていた。

 

 

 

 

 

 トントントントンと、小さなノックの音がした。

 

「んお?」

 

 風呂上がりのエミはまだ湿った髪を後ろに束ねて、黒森峰のノンアルコールビールで喉を潤していた。

 時間は午後八時。

 誰かが訪ねてくるにはやや遅い時間と言えるが、いったい誰だろうか。

 

「はい、どちら様ですか?」

「エミ、私だ、アンチョビだ」

「!?」

 

 どういう、ことだ……?

 なんの前触れもなく訪ねてきたドゥーチェ、エミは慌ててジャージのチャックをしっかりあげて、ドアを開いた。

 

「ど、どうしたんですか? こんな夜中に」

「うん、ごめんな。 電話してから行こうと思ったけどでなかったから」

「え? あー……」

 

 携帯には三十分ほど前に不在着信があった、片足が使えない風呂に悪戦苦闘していた最中だったらしい。

 

(いやでも、それで無理やり押しかけるような人か……?)

「何かあったんじゃないかって心配になったんだ。 ほら、お前今足が酷いだろ?」

「あ、あーすいません、ご心配おかけして……あの、もしあれなら上がっていきますか?お茶くらいなら出しますが」

「うん、お邪魔していいか?」

「どうぞ」

 

 ドアを開いて部屋の中に案内する。

 しかし、アンチョビが背負った大きなナップサックが気にかかる、あの大荷物で何をする気なのか。

 

「粗茶ですが」

「ありがとな」

「いえ……それで、あの。 どうしたんですか? アンチョビ先輩。 電話したってことは用事がありましたか? それとも、心配して電話しただけでしたら」

「うん、それなんだけど。 私今日からお前と暮らそうと思って相談したかったんだ」

「はぁ……はぁ?」

 

 脳みそが超振動した。

 

「エミは今、足に大怪我しちゃって大変だろ? だからそれが治るまで、私がお世話してあげようと思って」

「いや、いやいやそんな! いいですって1人で大丈夫ですよ!」

「遠慮するな! 風呂とか着替えとか大変だろ? ドゥーチェに任せとけ!」

「遠慮とかじゃないっすよ!」

「……嫌か?」

「いやじゃないです」

 

 エミは負けた。

 アンチョビの上目遣いには耐えられなかったのだ。

 しかし同時にエミの脳みそは暴走状態に陥っていた。

 なぜ?どうして?ドゥーチェの様子があからさまにおかしい。

 

「私色々考えたんだ。 私の考えなしでお前を傷つけちゃったから、私がお前をしっかりと立ち直らせてあげなきゃって」

「いや、その結論はおかしいですよ!?」

「だからドゥーチェ思いついた! 今日からドゥーチェがお前のご飯も運動もお世話して、また装填手として活躍できるようにお世話しようって!」

「まって! 先輩! おかしいですよ!」

「明日からドゥーチェがご飯もお風呂もお着替えも買い物も登校も屋台もトイレも全部手助けしてあげるからな! だからまた、戦車道やれるようになるまで、頑張ろうな!」

「」

 

 エミは悟った。

 アンチョビは、壊れていると。

 ギラギラとやる気に満ちているのにハイライトのない瞳を見て、エミは思い当たるものがあった。

 これ、押しかけ系ヤンデレや、と。

 結局エミは押し切られて、アンチョビの人をダメにする介助を受けることとなった。

 

 

 

 

『みほ、みほ、助けてくれ、このままじゃ私ダメにされ……あぁ!ドゥーチェ!いけません!哺乳瓶ってなんで!? 私はそんなもの使うほど幼く……アーーーーーーーー!!!! プツン』

「エミさん!? どうしたのエミさん!?」

 




ベリー クルシメ エミカス

ドゥーチェはつよいけどよわいという印象があったなでこんな出来に。
なんだか今までで一番変なもの書いた気がする。
たまにはギャグめいた終わり方もいいかなって、エミカスのもう一つの完全敗北もありかなって。

え?なんでアンツィオ編書いてんのって?
その、ほら、たのしそーだったから。
ただ自分でも思ってたのと違うのができた、誰か助けてくれ。



ところでこのエミカスはアンチョビにちょー甘やかされながら何もかもをお世話されるという日々を送ることになったわけですがピロシキ案件ですか?


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──────

悪ふざけの産物


「もう大晦日かぁ」

 

 窓の向こうに見える世界はチラチラと揺れる白に彩られている。

 子供の頃から見慣れている光景なのだが、太平洋の洋上を航行する大洗学園艦は冬になるとそれはもう大量の雪が降り積もり大変なことになる。

 やや高緯度をわざわざ選んでいるのは季節感を大事にするためらしい。

 雪の厄介さをガキの頃から散々思い知らされている俺はその雪景色に気だるさしか感じることができず、思わず視線をコタツの上に移す。

 いわゆる丸コタツの上にはみかんの詰まった籠と急須に湯のみが載っている、いかにもってくらいスタンダードな光景だ。

 皮をむいてスジを剥ぐ。

 綺麗になったそれを口に放り込む。

 これを繰り返してるだけでいくらでも幸せになってくるのだから日本文化に神の愛を感じざるを得ないだろう。

 

「それにしても、年末か」

 

 もう今生十六回目となる年末な訳だが、今でも俺がこうして学園艦の上で一女子生徒として日々を過ごしていることに不思議な運命を感じる。

 かつて憧れたガールズ&パンツァーの世界に生まれ落ち、そしてその世界を思う存分堪能している。

 普段は気にしないものだが、こうした1人思いふけると夢のような出来事なのだと再認識するのだ。

 

「……よし、頑張ろう」

 

 そんな運命に感謝して、俺は改めてみほエリを成すことをケツイする。

 今年はできなかったが、来年こそは……

 

 

 

 その時、玄関のドアがガチャリと開いた。

 

「ただいま」

「は?」

 

 入ってきたのは西住まほだった。

 パイセンである。

 え?パイセンナンデ?

 

「外は冷えるな、やはり冬の学園艦はキツイ…… お、みかん出したっけな」

 

 ジャバジャバと手を洗ったパイセンはのそのそとコタツに下半身を潜り込ませると、普段の凛々しさをまるで感じられないリラックスした様子で籠のみかんに手を伸ばした。

 いやいや妖夢。

 

「まほ先輩……???」

「……どうしたエミ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

「あれ?なんでここにいるんですか?」

「なんでって……今日は帰らないとか私言ってたか?」

 

 なんだろう、話が噛み合わない。

 なぜパイセンが大洗の学園艦にいて平然と俺の部屋に上がってきて、さぞ当たり前のようにくつろいでいるんだろう。

 

「えーと、ここって大洗学園ですよね」

「そうだが……」

「え? 何か用事でこちらに?」

「?????」

 

 向こうも違和感に気がついたようで小首を傾げている。

 薄ら寒い何かを感じて、俺は身震いする。

 

 ──その時、インターホンが来客を知らせるベルを鳴らした。

 

「おっと、客か。 出てくる」

 

 パイセンはやや名残惜しげにコタツから脱出すると、そそくさと玄関に向かっていく。

 え? パイセンが来客出るの? なんでそんな部屋の主人みたいな振る舞いしてるの???

 混乱の真っ只中に陥った俺をよそ目に、パイセンが玄関のドアを開けはなつ。

 

「はい、どちら様で──」

「エミーリヤ! 約束通りボルシチ持ってきたわ──」

 

 

 

『なんでここに??????』

 

「Добрый день、同志エミーリヤ。 お土産です」

「なんすかこの猫の手手袋は」

 

 なんかもう、ひどい。

 

 

 ──────

 

 

「ええっと……つまり、まほ先輩は私と一緒に大洗に引っ越してきて同居してるってことで、カチューシャは年末を私の部屋で過ごすと約束しやってきたってこと……」

「まぁ、そうなるな」

「そうなるわね」

「まるで意味がわからない」

 

 あまりにもとんでもない事態に俺は頭を抱えていた。

 なんか知らんが、このパイセンとカチューシャは俺の知らない俺と一緒に過ごしてきた記憶を持っているらしい。

 転生を経験した俺でもちょっとわけがわからないとんでも現象である。

 

「ていうかカチューシャ、ここ大洗学園艦なんだけどどうやってここにたどり着いたんだ?」

「え、いつものエミーリヤの部屋を訪ねたわよ?」

「……」

 

 俺は無言で立ち上がり、玄関へと向かった。

 扉を開いてみる。

 大洗とは比べ物にならない吹雪が吹き荒れている。

 扉を閉める。

 

「どうみてもプラウダです本当にありがとうございました」

「そんなバカな!? ……大洗じゃないか!」

「なんなのなの……なんなのなの……」

 

 俺は猫の手手袋をつけた両手で頭を抱えた。

 そのあとなんどか実験してみると、カチューシャとノンナが玄関を開くとプラウダにつながっていてパイセンが開くと大洗につながっているらしい。

 

「これは……とんでもない事態になってるんじゃないか? 別の場所につながるなんてまるでハ(ピー)の動く城だ」

「いえ、これは場所だけではなく世界線すら変化している可能性がありますね。 私たちの知っている同志エミーリヤと違うエミーリヤがここにいる以上その可能性が高いです」

「ノンナ、世界線って何?」

 

 のんきに話している二人組をよそに俺とパイセンは頭をひねる。

 なんだろう、この、なんだろう。

 年明けを目前にして唐突に巻き起こった時空間レベルの大騒動だ。

 そして何が困るってこの三人と話しているうちにだんだんと俺の頭の中にパイセンと過ごした記憶とカチューシャと過ごした記憶が入り込み始めたことだ。

 侵食されてるやんけ!!

 

「まずいなぁ、これはどうしたら……」

 

 その時ガラリとベランダのドアが開いた。

 

「やぁエミ、お邪魔する──────は??」

 

 視線の先に、ミカがいた。 えぇ……

 ミカの方も部屋の中にいる俺たちをしばらく眺め……

 

「なぜここにいる西住まほ!!」

「いきなりなんだ!?」

 

 その美しい顔を憤怒に染めた。

 いきなり怒鳴られたパイセンもこれには困惑だ。

 あぁ、これはもしや……

 

「まさか……継続で俺と過ごしたミカさんってことになるわけ……??」

「エミ、こちらへ来い!」

「ふわー!?」

 

 反応する間も無く俺はミカに抱きかかえられた。なんで???????

 

「ちょっ!? あ、あんた何してんのよー!ノンナ!」

「Понятно」

「日本語!」

「了解です」

 

 そしてミカに抱えられた俺の腰にノンナが手を回し引っ張られる。

 ミカノンサンドとか聞いたことないんですけど???????助けて!!!!!

 

「離せ、プラウダの」

「カチューシャの命令ですので、それに同志を攫われるわけにはいきません」

「同志だと……?」

「なんだかよくわからないが私にその敵意を込めた目を向けるのをやめてくれミカ。 心あたりがなくて困る」

「いけしゃあしゃあと……!!」

 

 元からカオスだった空間がさらにカオスになった。

 キーキー喚くカチューシャ、俺を引っ張り合うミカとノンナ、頭を抱えるパイセン。

 軽く地獄絵図だ、とりあえず俺を離して(懇願

 

「ただいま! 遅れてごめんエミちゃん、1人で大丈夫だった?」

「うぅ、冷えるわね。 部屋をあったかくしないと体に障りそう……え?」

「え?」

 

 また来た(絶望

 なぜか黒森峰の制服を着たみぽりんとエリカが玄関からエントリーだ。

 

「な……な……何してるんですか!!!」

「うわっ!」

「むっ」

「わぁぁぁ!?」

 

 鬼気迫る表情で迫ったみぽりんがミカとノンナを突き飛ばして俺を確保する。

 よし!みぽりん1人相手なら脱出できる……あれ?足動かなくね?

 

「足が動かないエミに何してるのよあんたら!! 隊長もなぜ止めないんです! ていうかあんたらどうやってここに入ってきたの!」

「え? 私足動かないの?」

「え?」

「え?」

「うわ本当に動かない!?」

 

 それどころかむしろ腰から下が動かない。

 突然の体の不自由に俺は盛大に取り乱した。

 なにこれ、なんなのこれ!?

 

「あぁまたややこしいことに……」

「どうしようノンナ、カチューシャ頭がこんがらがってきた……」

「私もですカチューシャ、流石にこれは……」

「また黒森峰の……!!」

 

 1人だけ憎悪の炎をたぎらせるミカ以外全員がいよいよ頭が追いつかなくなってきた。

 みぽりんとエリカといえば足が動かなくて困惑する俺をすごい曇った目で見てくる。

 

「なぁみほ、エリカ。 なんで私の足が動かないんだ? 何があって(そっちの)私こうなっちゃったの!?」

「そ……それは……」

「エ、エミちゃん……う、うぅ」

 

 なんで泣くのよ!?泣きたいのはこっちよ!?

 突然時空間が入り乱れるわ知らない記憶がどんどん混じってくるわ足は動かなくなるわ!

 あ、この足って赤星ちゃんとか庇った結果なのね、異次元の俺GJすぎるわ。

 いやそうじゃなくて!

 

「頼むからみんな一旦落ち着いて──」

「ただいま! エミ、お買い物終わったぞー」

 

 あぁ──(諦観

 

「え?た、確かアンツィオの……」

「ん? お客さんがずいぶんたくさんいるな……ってなんか他校の奴らが多いな!? いったいいつ来たんだ……?」

「あー……話せば長くなるが話してわかってもらえるかな」

「??? まぁいいや。ほらエミ、そんなとこに座ってないでねんねしような、ほら」

「待って?」

 

 追加されたアンチョビもなんか変だった。

 俺をさながら赤子を世話するかのようにベッドに寝かせてくるの。

 頭撫でてくるの。

 絵面がやばすぎる。

 

「ミルクすぐ準備するからいい子で待ってるんだぞ?」

「ミルク? ミルクってなに!? アンツィオの私なにしてんの!?」

「こら、大声出しちゃめっだぞ! ほら、客のお前らもとりあえず座れ! あれ? 部屋の間取りこんなんだったっけ……まぁいいか」

「よくないよ?!」

 

 台所に向かってしまったアンチョビをみんなぽかーんと見つめる。

 正直今日遭遇した別次元メンバーの中でも別格のやばさをアンチョビから感じる。

 なんというか、呼吸できる生暖かい底なし沼というか。

 激おこモードのミカもやばいけどこっちも別のタイプの怖さだ、沈みそう。

 

「……今この状況が明らかに普通じゃないのはわかった。 だけど、それでも黒森峰の連中のそばにエミを置くのは不愉快極まりないね」

「さっきからなんなんだ、そうまでして敵対的な態度を取るならこちらもそうせざるを得ない」

「エ、エミちゃんになにする気なの……!」

「えみには指一本触れさせないわよ……!!」

「ノンナ、カチューシャ疲れてきたわ……」

「子守唄を歌いましょうか」

 

 なんかもうひどい。

 狭い部屋の中でコタツの周囲で敵意がぶつかり合い、台所からはチョビの鼻歌が聞こえてくる。

 ストレスがストレスを呼び胃がズキズキと痛みだす。

 頭の奥がガンガンして鉄臭いのが込み上げてくる。

 

 もう、もうやだ!!

 

「わあああああああああああ!!!」

「あぁ、エミ!?」

 

 俺は腕力だけで強引に体を起こすと、ねずみ花火のように部屋の中を駆けずり回って窓から飛び出した。

 途中机にぶつかったりしたが気にしてる場合じゃない、これ以上俺の胃がやられる前にもう、逃げるんだよォーーーーー!!

 

 

 

「待ってエミちゃん! そんな体じゃ──────」

 

 みほの叫びは虚しく響き、エミの耳に届くことはなかった。

 

「うぅ、エミーリヤ、腕だけでよくあんなに動けるわね、さすがだわ……ん?」

 

 部屋の面々が困惑して立ち尽くす中、カチューシャはエミが暴れた際に床に落ちた一冊の分厚い本を手に取った。

 黒いハードカバーのそれには、表紙の白い部分に名前が書いてある。

 

「天翔エミ……もしかして、エミーリヤの日記??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてこっちに逃げてきたってわけかー」

「まぁ、そういうわけです。 エミ殿もだいぶまいってましたから」

「は、はい……」

 

 しばらくして、サンダース大学付属高校のとあるパーティ会場の片隅に、2人の大洗女子学園生の姿があった。

 1人は秋山優花里、もう1人は天翔エミ。

 車椅子を押す優花里とそれに座るエミに驚いたケイは、しかし匿ってほしいという2人の願いをあっさり聞き届け、年越しパーティー真っ只中の部屋に招待したのだった。

 

「急にとんでもないことになって、ニンジャもオッドボール三等軍曹も大変だね」

「もう、その呼び方はやめてくださいってば〜」

「あ、あの、秋山さん、首を撫でるのやめて……」

 

 ケイの言葉に眉をひそめながらもエミを弄る手を止めない優花里に、ケイは思わず苦笑いした。

 いつも飄々とした態度で余裕を持っていたニンジャが、1人の女子の手の中で顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 なんだか、とても貴重なものを見た気がする。

 すごくお得な気分になった。

 

「まあともかく、2人ともほとぼりが冷めるまではここで一緒にパーティを楽しんでいけばいいわ! せっかくだからここで一緒に年越ししましょうか」

「それは魅力的ですね! ね? エミ殿?」

「う、うん、秋山さん」

「それじゃあ私は少し他の場所を見てくるから、ゆっくりしててね〜」

 

 そう言ってそそくさとその場を後にしたケイ。

 それを手を振って見送った優花里は、そっと屈み込むとエミの首にそっと腕を回して優しく抱きとめる。

 ビクリと震えたエミも、そんな優花里にそっと体を預けた。

 

「なんだかとんでもないことになってしまいましたね」

「……巻き込んじゃってごめんね、秋山さん」

「謝ることないです。 それに、その騒動のおかげで、今こうしてエミ殿と2人で一緒に居られるから……」

「わひゃあ!」

 

 首筋に唇を落とされて素っ頓狂な悲鳴をあげたエミを、クスクスと笑う。

 恨めしそうな顔を向けてくるエミの頬にそっと手を添えて、優花里は優しく微笑んだ。

 

「来年も、またよろしくお願いします。 大好きです。 エミ殿」

「あぅ……わ、私も、んむ!?」

 

 そのまま、唇を奪う。

 甘い口づけを交わして、意識が恍惚で満ちる中、ふとエミの脳裏を疑問が掠めた。

 

(俺いつの間に秋山殿とこんな関係に……?)

 

 

 

 

 

 

 そしてその同じ頃、エミの家で多くのものが日記の前に膝をついていたのだった。どっとはらい。




お、俺が悪いってのか…?俺は…俺は悪くねえぞ。だって読者が言ったんだ…そうだ、読者が書けって!
こんなことになるなんて予想できてただろ!おまけのキャラ全員集合させたら収集つかなくなるって!
俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!


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Alice in Hunting Field
プロローグ★


立ち込める土煙の臭いが鼻をつく。

 

口元を覆うフェイスガード、さらにその上から纏う濃赤色のなびくマフラー。

それらを乗り越えてまで匂うのだから、どれだけの量の土が舞い上がったのか想像に難くない。

 

否、それだけではない。

微かに香る、鉄と火薬の異臭。

昔から嗅ぎ慣れた、戦車の香り。

辺り一面は黄土色の煙が覆っており、ゴーグル越しでなければ目も開けられない惨状だ。

だが、それでもわかる。

その先には、戦車がいる。

 

無論、ただボーっと待ち受けている場合ではない。

この土煙は視界を奪うが同時に身を隠してくれる隠れ蓑だ。

音も無く飛び下がり、頭の中に映した地図を頼りに建物を探す。

とっかかり一つさえあればそれを登って守りを固められる。

 

ビチャリ、と。

 

異音が聞こえて目を凝らせば、先ほどまで立っていた場所に赤色の液体がぶちまけられていた。

かすかに遅れて聞こえる軽い発砲音。

まずい、見つかっている。

ジグザグに大きく飛び下がるが、その場所を狙いすまして朱色の花が地に壁に叩きつけられるように咲き誇る。

このままではまずい。

しかし同時にその手のひらに大きな壁の感触をとらえる。

 

いける。

 

即座に判断し、指先に引っかかった溝に限界まで力を込め、腕一本と両足のバネを全力で弾けさせる。

一跳びで建物の屋根まで手を届かせる大跳躍。

一つの極限とも言える大技でもって緋色の魔弾の脅威を振り切る──────

 

否!まだ終わっていない!!

 

頭の中に鳴り響いた警報に従い即座にずるりと首をズラす。

その直後目の前を弾丸が飛んでいく。

冷や汗が、頬を伝う。

 

視線を下に移せば、そこには小さな魔王が、鋼の巨獣の内側から体を覗かせている。

その手に握るは鉄の杖。

その先端から吐き出される魔弾のたった1発に当たれば自分の負けだ。

 

「……」

「見つけた」

 

沈黙を貫く赤い影に、魔王は少しだけ唇の端を上げて、笑い顔を作る。

それを見て顔をひきつらせる。

 

「すぐ、捕まえてあげる」

 

即座に吐き出される死の暴風に、全力で跳ぶことで回避する。

射線から逃れなければマズイ!

影は全力で脚を稼働させ風のように走る、疾る!

 

「……言ったでしょ、捕まえてあげるって」

 

ひときわ高く跳んだ影の落ちる先に、銃口が定められた。

あとはタイミングを合わせて、引き金を引くだけ。

絶体絶命、いかに赤い影でも空でその魔弾から逃れるすべは──

 

「まだ捕まってないさ」

 

影が背負っていた板を引き抜いた。

なんの変哲も無い鉄板、やや厚く、その小柄にすぎる体には大きな負荷となるそれを、空で軽々と扱い自らの足の下に置く。

 

 

 

そして、影は空で跳ねた。

 

 

 

 

「……逃げられちゃった。 でもいいの、絶対に見つけて、捕まえてあげるから」

 

 

 

「エミリ」

 

 

 

 

(おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいだろなんなのなんでこんなに俺愛里寿に執着されてんの絶対おかしいでしょこんなことは許されねえだろてか原作より明らかに愛里寿が強いんだけど誰か助けていぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!)

 

 

 

俺はみほエリが見たかっただけなのに

劇場版 『Alice in Hunting Field』

 

 

【挿絵表示】

 

 

開演




同時上映予定
俺は地雷カプを回避できませんでした


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パンツァード・コア プロジェクト トランスミグレイション

「誤チェストにごわす、こや目当てのガルおじではなか」
「またにごわすか」
「チェストん前にエミカスか聞くんは女々か?」
「名案にごつ」


──月──日

 

ぼくは今病院にいます

 

 

 

──月──日

 

病院に入って2日目、相変わらず病院生活は暇です。

身体能力を維持する為の最低限の運動しか積めず、そして俺は本も携帯ゲームも持ってないので必然日記を書くかネットサーフィン(笑)でssを読むことくらいしかできまちぇん。

つらい、つらい……

 

さて、何故俺が病院にいるかというと簡単に言えばストレス性の胃炎である、割と重度の。

今思い出しても忌まわしいみほエミエリ事件の翌日、目が覚めた時俺はすでに病院にいたのだ。

みぽりんにもエリカにも盛大に泣かれた。 秋山殿にも泣かれた。 ピロシキ案件では……?

なんでも朝起きたら俺が口の端から血を流していたらしく呼吸もか細かった為慌てて運び込んだのだとか。

そりゃ慌てるよ……朝起きたら隣で寝てた人が血を流してるとかトラウマものよ。

俺としてもそんな一歩間違えれば自分の血で溺れて死ぬとかいう死因は嫌だ。

だからみぽりんとエリカは俺を挟まないで手を握らないで(懇願

 

エリカは昨日にはもう黒森峰に帰ったが、時間ギリギリまで俺の体調の心配をしていた。

いい子やなぁ……その気遣いが刺さるぅ!

なので今日のお見舞いメンバーは大洗戦車道チームの方々だ。

とくにみぽりんは泣きそうな顔でこちらの手を握ってくるものだから本当に申し訳ありません。

あと秋山殿、偶にすごく切なそうな顔でこちらを見つめるのをやめていただきたい。

 

そして、会長にすごく謝られた。

俺がストレス性胃炎を発症したのはきっと自分が無理やり戦車道を再開させたのが原因だろうと思ったらしい。

 

……いやもう本当に申し訳ありません。

そういうんじゃないんです、みほエリに挟まれたストレスとかいうクッソくだらない理由なんです、本当にごめんなさい。

大抵の人にはどうでもいいことなんだろうけど俺にとってはとても大事なことなんです、ゆるして……

 

 

 

──月──日

 

とりあえず退院した。

しばらくは薬を飲む生活が続くだろう。

あとは適度な運動や十分な休息、あとは趣味などで心の余裕を保つこと、だそうだ。

こればかりはすぐには治らないだろう。

 

というわけで俺は秋山殿とみぽりんと一緒にコーヒー専門店なんてところを訪れて、ちょっとお高級な豆を購入した。

その名も『パナマ・ゲイシャ』。

2人も値段を見て飛び上がっていた。

俺も思わず躊躇したが、一度は飲んでみたかったので購入、てーいーねいていねていねーいに抽出して2人にご馳走した。

俺も飲んでみたが、やはりうまい!

さすが品評会の出禁食らった豆は違うな!

 

嘘です実はそこまではっきりとはわかりません。

みぽりんはその味に驚いているあたりやはり味覚が鋭いんじゃないだろうか。

 

 

 

──月──日

 

日々をのんびり過ごして、なるべく外出することでみぽりんとの接触時間を減らしている。

みぽりんがやたらと俺に心配そうに構ってくるのだがそれがいちばんのストレスの要因だから仕方がない。

 

改めて言っておくがみぽりんと触れ合うのが嫌なわけじゃない、俺はみほエミとかそういうのがなされるのが嫌なんだ。

みぽりんのガチトークで俺に恋慕してることを知ってしまった以上このままではダメだ、これからはみぽりんに冷たくして愛想をつかしてもらえるよう努力しなければならないだろう。

そうこうしているうちにみぽりんからお電話、心配してくれるのは嬉しいけど胃が痛いし過剰すぎだから堪忍してぇ〜……

 

よし、家出しよう。

 

 

 

──月──日

 

みぽりんに少し自分を見つめ直す為今日明日は帰ってこないと告げたがめちゃくちゃ引き止められた。

予想通りだったのでストレス解消のためにも1人になりたいと告げるとすごく泣きそうな顔でごめんねと謝られた。

負けた。

無理です〜、みぽりんにこんな顔させるとか確実にピロシキです〜。

プチ家出計画はおじゃんになりました。

そしてこれを書いてる今もなんだか申し訳なさそうな顔でみぽりんがこっちをみてくる。

このままでは精神が削られて削られて削り取られてピロシキの中のお惣菜にされてしまうので明日はみぽりんを元気にさせる為にも遊びに行ったりしようと思います。

 

……みぽりんを悲しませるとストレスが溜まり、みぽりんとペタペタ触れ合うとストレスが溜まる。

アレ? これは詰みでは??????

 

 

 

──月──日

 

エキシビションマッチ開催決定!

戦車道の練習再開!!

これにより、俺はカメさんチームの車内にいることが多くなったのでみぽりんと合法的に離れることができる!!

みぽりんも悲しまず俺も近づかなくていい、極めて有効な対処法だ。

ほんま戦車道様様やで、たーのしー!! 装填作業にも気合が入るってもんよ!!

だから会長、俺を休ませるのはやめて、戦車道やらせて、俺にはもう戦車道以外救いがない。

 

 

 

──月──日

 

冷静に考えたらもう直ぐ廃艦イベントやんけ、やばばない??

めっちゃキツいんよあのシーン、でも俺が何をできるわけでもないからその後の展開に身をまかせるしかないんだよなあ。

かなしみ。

 

 

 

──月──日

 

試合の日程が決まった。

夏では最後の試合となるだろうか。

聖グロとプラウダの二校を相手に知波単と大洗のタッグで戦うことになるが……負けそう(小並感

別に負けるのが好きではないので普通に頑張って戦うけど、俺1人が加わったところでね……

 

 

 

──月──日

 

初っ端から単独偵察兵として運用されることとなった。

待って??? 決勝では確かに単独行動したけどアレ戦車道として明らかにおかしいからね???

アレを初っ端からやるのはなんか違うでしょ、ていうかもうすでにネット界隈では俺は完全にニンジャだのエイリアンだのといったあだ名が定着してるのにもう完全に固定されちゃうじゃん。

日本列島全土で俺がニンジャとして認識されちゃうじゃん。

別にいいけどサンダースとか行ったら大変なことになりそう。

 

 

 

──月──日

 

【悲報】俺専用新ルール追加【絶望】

相手チーム全車両に一丁ペイント弾を発射するアサルトライフルが配備されるそうだ。

辛すぎる。

そして俺自身には攻撃手段は無しなのだとか。

あくまでも戦車と戦車の競い合いであってそこに俺が歩兵として撃破能力を持つのはおかしいだろうってことらしい。

まぁ言いたいことはわかるけどさ……

とりあえず今日からは射撃を回避する訓練を行おうと思う。

ペイント弾の弾幕から逃げ続けるのはなんとなくスプ◯トゥーンを彷彿とさせる。

まあ俺は地面に潜ることも大ジャンプもできないけどな!!

 

 

 

──月──日

 

試合中の装備品としてゴーグルが支給された。

目に入らないようしっかりつけよう。

そして秋山殿が俺にマフラーを編んでくれた。

濃赤色でかなり薄手、水洗いにも対応してる。

これでお顔を守ってねってことらしい。

秋山殿にプレゼントをもらってしまうとはこれはすごいことだ!

三倍返しくらいはしなくてはならないがどうすればいいのか皆目分からない。

どうすれば……

 

 

 

──月──日

 

そういえば試合の日程が決まったなら愛里寿に連絡しなくてはならないのを思い出す。

メールをして、ボコミュで会う約束をした。

また部屋にボコグッズが一つ増えそうだ……いや、みぽりんへのお土産も含めて二つは固い。

でもまあそのかわり愛里寿ちゃんの笑顔やリアルがんばえーボコーを聞けるのでやめようとは思えません。

ごめんね、愛里寿が好きなガルパンおじさんのかたがたごめんね……でも寂しそうな愛里寿放置するとかありえへんやろ……

声かけちゃったらもう沼やったんや……ボコのことを楽しそうに話す愛里寿が沼すぎたんや……わかるだろう?同じリンクスじゃないか。

 

しかしその愛里寿とおそらく大学選抜で戦うことになるわけだ。

俺が大洗の生徒であることはおそらく知られてないだろうし、できればこのまま隠し通してあげよう。

みぽりんに加えて俺まで倒さなきゃならないとかちょっと彼女にはきつすぎるだろう精神的に。

 

ps.愛里寿は決勝戦で俺のことを見て大洗の生徒であることを知ったとメールが来た。

冷静に考えたら当たり前じゃんアホか。

 

 

 

──月──日

 

最近何か違和感を覚える。

以前と何かが変わっているような、奇妙な感覚だ。

この違和感の正体はさっぱりわからない、エキシビションマッチの前になんとかこの不可解な状態を改善したいものだ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

日記を書き終えて、一つ伸びをする。

早めに書いてしまおうと思ったのだが思いの外書くことが少なくてあっという間に終わってしまった。

 

しかし、なんなのだろう、この喉に魚の小骨がつっかえてるような違和感は。

原因がさっぱりわからない。

何も変わっていないはずなのにとてつもなく大きな何かが変化してしまってるような、例えるなら飼っている犬がある日突然猫に変わってしまったのに気づくことができないような。

 

「……気にしても仕方がないか」

 

俺は携帯を充電機につなぎ、ベッドから起き上がった。

今日の晩飯当番はみぽりんだが、俺も少しは手伝ってもいいだろう、材料を切ることだけは早いのだ。

 

「みほ、何か手伝うことはあるか?」

「あ、うん。 ありがとうエミリちゃん」




AC道。
それは戦いの中で発展、進化した戦車道。
そんな鉄臭い競技を乙女の嗜みとする選手たちを、人はレイヴンと呼んだ。


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されどエミリカスは罪と踊る

エミリカスが自分の寿命を知った時の反応

ゆかエミルート「死にたくない……死にたくないよぉ……優花里さんと離れ離れになりたくないのに、なんで……」
その他ルート「草」


「うーーーーーーーん……」

 

人生というのは絶え間なく連続した問題集だ。

揃って難問、選択肢は酷薄、おまけに制限時間まである。

一番最低なのは夢のような展開を望み何一つ選ばないことだ……と、とある牧師が言っていた。

 

この言葉は、俺の人生の指針でもある。

たとえどんなに辛い場面でも、どんなに苦しい状況でも、自分で考えうる限りの最良の選択肢を選び続けなければならない。

少なくとも、自分で選んだ答えであれば反省はするが後悔はない。

だからこそ、俺は今この難問に立ち向かわなければならないのだ。

 

「どっちがいいんだ……」

 

俺のそれぞれの手に握られているボコの人形。

左右で種類が違うそれのどちらをみぽりんへの手土産にすればいいのか、俺は悩んでいた。

そう、大多数の人からすればこれはどうでもいいような悩みだが、俺からすればみぽりんのご機嫌取りとは人生において最上位に位置するほどの重要な問題なのだ。

 

さて、改めて説明しよう、今俺は大洗某所にあるボコミュージアムへとやってきていた。

ボコが好きというわけでもない俺がなんでこんなところにいるかといえば、それはズバリみぽりんに何か贈り物をしたいと考えたからである。

 

最近俺は悩んでいた、なんだかみぽりんの機嫌が悪い。

なんだか話しかけてもツンツンしてるし、その割にはチラチラ俺の方を見てくるし。

つまり、なんだか怒ってるのだ。

俺が何か不手際をやらかしたのかもしれない、心当たりはないが大天使みぽりえるがぷんぷん丸な理由なんてそれしか思いつかない、ピロシキ案件です。

 

なのでそれを解消するために、俺は練習試合後の貴重な自由時間にスパッと移動して運よく見つけたこのボコミュージアムで、みぽりんへの贈り物を見繕っているのであった、以上! ss読者向け説明終わり!

まったくss世界の住人ってのは独白が忙しくなるのよ(のび太理論)。

 

「……どっちも変わらんだろこれ」

 

しかしここで問題が発生した、俺はボコに詳しくないのだ。

みぽりんがどハマりしてるおかげで一般人よりかは詳しいが、しかし興味がないゆえ調べなかったので俺はボコグッズの価値とやらが全然理解できていないのだ。

足りない脳みそをフル稼働してどうにかこうにかレアもの(って札に書いてあった)二つに絞り込めたが、このどちらにすればいいかがまるでわからない。

 

「どうする、どうする天翔エミ……」

 

左手のボコか、右手のボコか。

あいにく予算の都合上どちらか一体に絞らざるを得ない。

必死に考えて考えて考えて、どちらがよりみぽりんが喜ぶかを予想する。

負傷箇所の多い左手側か、装飾と痛々しい部位の怪我が目立つ右手側か。

出航までの時間も残り少ない、早く、早く決めなければ……

 

「……ん?」

「ぁっ……」

 

ふと空気の動きを感じたので視線を横にやると、そこには超絶美少女がいた。

ちょっと目を疑うレベルのスーパーウルトラ美少女、色素の薄いモンブラン色の髪をサイドにまとめていて、俺よりもわずかに背が高い。

潤んだお目々は遠慮がちに、俺の手にあるグッズを見つめている。

 

てかこの子島田愛里寿やんけ。

 

驚くと同時に、まあなくもないか、と俺は納得した。

原作の様子からして愛里寿はこのボコミュージアムのリピーターであったことは想像に難くない。

俺がたまたま訪れていたこの日に愛里寿もやってきていたのは運命のいたずらとしか言いようがないが、まぁなくはない程度にはあり得る事態と言えるだろう。

 

で、どうしようこの気まずい空気。

俺はどうリアクションすれば良いかわからず、愛里寿は今にも消え去ってしまいそうなほどにおずおずもじもじしていらっしゃる、可愛い。

いやそうじゃなくて。

 

まてよ? そうだ、ここはボコのスペシャリストに直接意見を聞くのはどうだろうか?

 

「あの、君はボコに詳しいのかな」

「ぁ……えと……」

「あぁ、ごめんね、急に。 実は、私の友達がボコが大好きで、お土産になにか買っていこうと思ったんだけど、どっちがいいかわからなくて。 どっちがレアものなのか、教えてもらえないかな?」

「え? えと、その……」

「無理にとは言わないけれど……どうかな?」

「あ、と……そ、それ!」

 

しばらく押し黙った愛里寿は、ピシッと俺の左手を指した。

なるほど、プロから見るとこちらがいいらしい。

 

「こっちか、ふむ……わかったよ、ありがとう」

「ぁ、と……その……」

「ん?」

「選ばなかった方私が買います」

 

……さては、自分が欲しい方が残るようにしたな? このいやしんぼめ! かわいい!!!!

あんたもそう思うだろ?

 

 

 

「ふむふむ、ここにはそんなに前から通ってるんだ」

「私と同じくらいの歳で、ここにきた人初めてみた……」

「は、ははは、随分な穴場なんだねここは」

 

その後、選んでくれたお礼にと適当に甘そうな飲み物を自販機で奢ってあげたついでにベンチで話し込むこととなった。

金ないのにジュース買ってんじゃねーよハゲと思うかもしれないが、たかがジュース一本程度の値段で愛里寿とお話できると考えてみ?

買うやろ????

 

「あらためて、アドバイスありがとう。 私は天翔エミだよ。 君は?」

「し、島田愛里寿」

「愛里寿さんだね。 うん、覚えた」

「は、はい」

「……」

「……」

 

会話が続かない(絶望

ば、ばかな。 この世界に生まれ落ちてからコミュ力に関しては半ば無理を重ねてそれなりのものになったと思っていたが、これほどまでのシャイガールの相手は初めてだ、初対面のエリカの方がまだとっつきやすいぞう! どうする、どうする……

 

「エミさんは、ボコ、好きなの?」

「お?」

 

と思ったら向こうから話しかけてきた。

これは僥倖、貴重なチャンスを掴みとれ。

 

「うーん、私自身は好きと言うほどではないんだ。 さっきも言ったけど、友達が大ファンでね、ここに入ったのも、友達が喜ぶものがあるかもと思ったからなんだ」

「そ、そっか……」

「愛里寿さんは、ボコが好きなの?」

「うん、大好き! どんなにボコボコにされても、絶対立ち上がるから! ……ぁ、その、はい」

 

一瞬満面の笑みになったけれど、すぐにまたうつむいて、奢りのジュースをちびちびする愛里寿。

あぁ^〜かわええんじゃあ〜、じゃなくて。

 

「そっか、そんなに好きなんだ。 うん、それは素晴らしいことだ」

「そ、そんなこと」

「いいや、何かを好きって自信を持って言えるのは、とても素晴らしくて、尊いことなんだよ。 胸を張るといい」

「……エミさんは、何か好きなことはないの?」

「戦車道かな」

 

間髪を容れずに答えた。

正確に言うと戦車道しかやってこなかったのでそれしか語れないともいう。

 

「周りからやめとけやめとけって言われてるんだけど、どうしてもやりたくて。 思う通りにはいかないけれど、とても楽しいよ 」

「……戦車道、やってるんだ」

「意外かな?」

「うん、すごく」

 

正直に言われてしまって、俺は苦笑した。

その時、携帯のアラームが鳴る。

そろそろ学園艦に戻らなくてはならない。

 

「もう行かなくちゃ」

「あ、うん……あの、ジュースありがとう」

「お気になさらず、ステキなアリス。 こちらこそありがとう、君のおかげでいいものが選べた」

「ぁ……」

 

俺はベンチから立ち上がり、愛里寿に背を向けた。

さて、ここから学園艦まではどの程度の時間がかかるだろう。

方角はわかってるからあとは全部直線で結べる、十分程度で行けるかな……?

 

「あ、あの!」

 

駆け出そうとした矢先、後ろから大声が放たれた。

振り向けば、愛里寿が先ほど譲ったボコグッズをこちらに差し出して、目を潤ませている。

 

「ごめんなさい……さっき、嘘ついたの。 本当はこっちの方が貴重で……私が欲しかったから、つい」

「……そっか」

 

俺はその言葉を受けて、感動に打ち震えていた。

なんて、なんていい子なんだろうか。

きっと人を騙した罪悪感に耐えられなかったんだろう。

俺が無言で近づくと愛里寿はビクリと震えてうつむいてしまったので、その肩をポンポンと叩いてあげた。

 

「気にしなくていいよ、それが欲しかったんだよね?」

「ぁ……」

「じゃあ代わりに、次にここにきたときには、一番いいボコグッズを紹介してくれるかな? 学園艦に住んでて普段は来れないから、その時は電話するよ。 連絡先、聞いていいかな?」

「……うん!」

 

 

 

こうして俺は、ボコミュージアムの場所を知り、そしてボコのスペシャリストである島田愛里寿に直々にボコアイテムの解説をしてもらう権利、そして島田愛里寿の電話番号を入手したのであった。

大収穫ってレベルじゃねえぞ!!

 

ちなみに購入したボコグッズはみぽりんに大変喜ばれるとともに、どこで売っていたのか根掘り葉掘り問い質されるのでしたとさ。

ちなみにテコでも答えなかった、みぽりんがボコミュの存在を知るのは劇場版に入ってからやで。

 

 


 

 

イギリスにはこんな言い伝えがある。

茶柱が立つとステキな訪問者が現れる。

 

つい先ほどアッサムはその言葉を車長ダージリンから聞いたばかりだった。

だが、訪れた訪問者はとんだ厄介者であり、ダージリンの顔に泥を塗ってくださった。

吹き出すのを我慢するアッサムの後ろで、ダージリンがふるふると震えながら自分の手の内にあるぐしゃぐしゃにねじ曲がったライフル銃を見つめている。

 

「驚きましたね、キューポラがノックされたと思ったら彼女がいて、撃とうと銃を構えたら没収されてそのまま原型も残らないほどぐしゃぐしゃに捻じ曲げられてしまうとは」

「笑い事ではないわアッサムっ」

 

若干涙目になりながらダージリンはライフル銃の残骸を放り捨てた。

その痛々しい姿にアッサムもペコも操縦手も苦笑する。

普段のダージリンでは考えられない姿だが、こと天翔エミリにいっぱい食わされたとなると途端にこの優雅な車長は余裕をなくしてしまうのだ。

 

「落ち込んでる暇はないわ、所詮私たちの車両がエミリさんを撃破する能力を失っただけよ。 確かにエミリさんは厄介ですが、今は迅速に動き相手のフラッグ車を打ち取ることが先決──」

『ザ、ザザ──あーテステスマイクテース。 聖グロのみなさんこんにちは天翔エミリです! 実は今クルセイダー部隊に属していたローズヒップさんを戦車から拉致ってとある建物の上にて休憩中です! それではローズヒップさん、聖グロの皆さんにコメントをどうぞ、3、2、1──たすけてくださいましダージリン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あ、このコーヒー美味しい! でsプツン』

 

 

 

 

 

「天翔エミリィィィィィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「おお、もう……」

 

 

 

 

 

『みほ、こちらエミリ、予定通りダージリンへの挑発行為は終わったぜ』

「ありがとうエミリちゃん。 それでは、これからアツアツ作戦を開始します! 知波単学園の方々も準備はいいですね?合図が出たら突撃です!」

「了解です!!」

 




主人公プロフィール
名前 天翔エミリ
身長 チビ
体重 軽い
特技 ベンチプレス150キロ コーヒーを淹れること 煽り
名前の由来 転生→テンショウ→天翔
『エ』リカ、『み』ほ、愛『里』寿

天翔エミリ

変わったタイミングはAi HF『パンツァード・コア プロジェクト トランスミグレイション』から
それ以前とおまけは天翔エミである


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エミリカス マスト ダイ

ただの戦車には興味ありません。
この中にロケット弾を発射する戦車、ロケットランチャーを山ほど積んだ戦車、真後ろに固定砲身を持つ戦車、クーゲルパンツァーがいたら、エミリカスに向かってパンツァー・フォー!!しなさい 以上!!

※全部実在する

追記・ミスってエミリカスをエミ呼ばわりしてしまったので全て修正します
これも全部エミリカスのせいだ


──月──日

 

今日は色々とありすぎてかなり疲れた。

日記を書く体力も残っていない。

 

そもそもなんで俺はいまだに日記をつけているんだろう。

ぶっちゃけた話もう書く意味はないと思うんですけど。

それでも書いてしまうのは長いこと続けた習慣だからか。

ダミー日記も同じような理由で痛々しいのに続けてるしな。

でもさすがに今日はダメだ、明日から死ぬほど時間あるし明日に回そう。

それにしても大洗廃校とは、わかっていた俺でさえ大ダメージなのだから、彼女達はもっと辛いだろう。

なぜ世界はこうも残酷なのか、あたい、許せへん!

許せへんあたい!

いや、こればかりはネタでは済まないぞホイ!

 

 

 

──月──日

 

案の定時間がだだ余りである。

なので昨日サボった分日記をびっしり書くぞ。

 

とにかく昨日は朝から大変だった、エキシビジョンマッチがあそこまで盛り上がるとはな。

大洗&知波単チームVS聖グロ&プラウダチーム(客観的に見て戦力差やばくない?)の戦いは苛烈を極めた。

原作の名シーンもいくつか目にすることができてガルおじ的にも大満足です。

 

ちなみに俺の活躍といえば、ダージリン車に取り付きライフルを奪ってぐしゃぐしゃに捻り潰した後ドヤ顔でそれをダージリンに渡したシーンとローズヒップちゃんを拉致して一緒にコーヒーを飲んだシーンだ。

観客席のモニターにもしっかり映っており、俺の異名にニンジャ、エイリアンに加えてプレデターも追加された。

ドーモ、プレデリアン・ニンジャです。

 

もちろんこれは聖グロ憎しでやったわけではない。

みぽりんの発案したアツアツ作戦の指示通り動いただけだ。

みぽりんは自身がダージリンに対して相性が悪いことを熟知しており、そのダージリンから冷静さを奪うために、昔からの因縁がある俺に挑発行為を持ちかけたのだ。

みぽりんあんた鬼か?

 

まあともかく、ダージリンをあっためた後は俺は偵察行為に専念し、相手の位置情報をみぽりんに伝え続けた。

今回の作戦はズバリ釣り野伏せ。

市街地戦に突入した後に、フラッグ車であるⅣ号戦車と少数の戦車で固めた敵部隊を釣り上げ、それに合わせて各地で敵を牽制していた部隊を一気に集結、左右から突撃させて挟み撃ちにしズタボロにするという計画だった。

知波単学園の方々にはこのタイミングで全力の突撃を仕掛けると事前に説明したおかげでなんとか手綱を握れたらしい。

 

ちなみにその作戦が始まる前に俺はカチューシャに撃ち抜かれて敢え無く撃沈した。

油断したつもりはなかったがノンナの射撃に誘導された後に着地狩りされたのだ。

……これ戦車道の試合だよな?ガンダム道じゃないよな?

 

撃破された後は近くの戦車の中に入って安全を確保するよう言われていたのでやむなくカチューシャ車に避難したのだが、その際一気にスタミナを削られた。

カチューシャの肩を揉まされたり髪の毛の手入れをさせられたり、小さなおててのツボを押して刺激したり。

ええ、はっきり言いますよ、役得です。

無論ピロシキ案件だけど今後のことを考えると流石に今部位ピロシキするわけにはいかないのでなんとか耐えている。

 

試合自体は結局原作通りに大洗・知波単チームが負けてしまった。

途中で捕まってこき使われている俺の様子を見てダージリンが冷静さを取り戻してしまったらしい。

試合が終わった後ダージリンに凄絶に煽られたりノンナにカチューシャとの2ショットとられたりした。

はい、楽しかったです。

俺だけ戦車道やってなかったけど。

 

さて、その後は全員集合お風呂タイムだったわけだが俺は参加せずにボコミュへと向かい──────

 

 


 

「ふぅ、あったか〜い……」

 

沙織の気の抜けた声が聞こえてきて、みほはクスリと笑った。

エキシビジョンマッチ終了後に解放された大浴場にて、多くの参加者達が集い湯を共にしている中。

その一員としてみほも参加しており、試合の緊張で固まった体をほぐし、疲労を抜いているのだった。

 

「それにしても、天翔殿は残念でしたね。 せっかく他校の人とも交友を深められる機会なんですけど……」

「あー、エミリちゃんはお風呂はちょっとね……」

「そーいえば、エミリさんとお風呂はいったことないな」

「そういえばそうですね。 練習や試合が終わった後、いつもバイトと言って一足先に帰ってしまいますし」

「バイトしてるのはすごいんだけど、いつも断られてるとちょっと寂しいよねー」

 

麻子の言葉に華も沙織も続いた。

ついにつっこまれたかと少し物憂げな顔をしたみほは、少し悩んだ後に少しだけ口を挟むことにした。

 

「エミリちゃんはちょっと事情があって、あまり他の人に肌を見せたがらないんだ」

「え?なんで?」

「沙織、そこはつっこむな。 デリケートな問題かもしれないだろ」

「あぁ、もしかして怪我などの跡が……」

「あっ……」

 

察したような沙織の様子に、みほも顔を伏せる。

こればかりは、他人がどう言っても仕方がない問題だ。

周りが気にしないとは言っても本人が見せたがらないのだから、無理強いはできない。

 

「それは残念ですね、折角ですしたっぷりと灸を据えて差し上げようと思ってたのですが」

「あ、ダージリンさん」

 

その会話に加わったダージリンは、少し不満げに口を尖らせていた。

 

「前回の練習試合では飄々としていて少しも悔しがってませんでしたもの。 今日こそあの薄笑いの面を剥がしてやれたと思いましたのに」

「ダージリンはやられっぱなしだったじゃない」

「アッサム」

「はいはい」

 

仲のいい様子の2人に、一同が苦笑いを浮かべる。

そんな和やかな空気を切り裂くように、浴場にアナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「マジさー、原作キャラと一緒に風呂入るとかできるわけないよね、タオルでも巻いてなきゃ即刻両目抉り出しレベルのピロシキ行為だ」

 

障害物をひょいひょいと飛び越えながら、俺は試合会場から一直線にボコミュージアムへと向かっていた。

帰りの時間を考えると、さほど長居はできない。

寄港したのが割と久しぶりなため、愛里寿に会うのも必然しばらくぶりとなる。

楽しみだナーとか思いながらぴょんぴょこ移動していると、ようやくボコミュージアムにたどり着いた。

何度か通ったので迷うことなく建物の中を進んでいくと、ベンチに座り込んでジッと携帯を見つめる愛里寿の姿をとらえた。

 

「アーリス」

「ぁ……エミリ!」

 

声をかけてあげるとパアッと顔を輝かせて、こちらに駆け寄ってくる。

あぁ^〜かわいいんじゃあ〜。

なぜか愛里寿に関してはそこまでピロシキ判定がくだらない気がする。

愛里寿がまだ中学生ほどの年齢だからなのか、父性が異様なほど働いてしまい構いたい欲が断罪欲を抑え込むのかもしれない。

カチューシャ?カチューシャは高校生やんけ。

 

「久しぶり、だね。 あの、大洗の優勝、おめでとう」

「ありがとう。 負けるわけにはいかなかったからね。決勝戦、見ててくれたんだ」

「うん。 エミリ、すごくカッコよかった。 ……戦車道はあまり、してなかったけど」

「それね」

 

愛里寿の指摘に苦笑しながらも、俺は自販機の商品から一本ジュースを購入する。

初めて会った時からの習慣だ。

年上として見栄を張りたいのだよ。

 

「ハイどうぞ」

「ありがとう……あの、えっと。 エミリ……」

「どうしたの?」

「……さんって」

「ん?」

「こんどから、エミリさんって呼んだ方が、いいかな」

「へ?」

 

突然のさん付け宣言に心が割れそうになった。

ナンデ? いままでずっと呼び捨てだったのに。

鬱で死にたくなる。

 

「あの、試合を見て初めて、エミリ……さんが、高校生だって知って……私、それまでずっと小学生くらいの子だと思ってて……」

「あー、成る程ね」

 

【朗報】距離おきます宣言ではなかった【安心】

単なる礼節の問題だった模様、やっぱいい子だなぁ、無限に貢ぎたい。

 

「気にしなくてもいいよ。 いままで通りエミリでいいさ。 もちろん、愛里寿がそうしたいっていうのならさん付けでもいいけれどね」

「……じゃあ、エミリ。 やっぱりそう呼びたいな」

「ならそれでいい。 愛里寿の仰せの通りに、ね」

「ふふ、変なの」

 

クスクスと笑ってボコをギュッと抱きしめる愛里寿の仕草に、俺はもう一生分の癒しを得た気がする。

愛里寿と遭遇するたびに癒されるのだ、みほエリが成せずに荒んだ胃腸が癒されるのだ。

これだから愛里寿沼は抜けられない。

ポケモンで言うところのメリープレベルの癒しだ。

 

「じゃあ、今日は何をしようか」

「えっとね、ボコのショーを見て、ボコアトラクション回って、それで、たくさんお話ししたい! エミリが試合でやってたこととか、たくさん聞かせて!」

「勿論、時間の許す限り」

「じゃあ、行こう!」

 

言うが早いか愛里寿はその小さな手で(俺よりでかいが)俺の手を握り、ずんずんと歩き始めた。

元気あふれる姿に俺も思わずガッツがあふれる。

この後めちゃくちゃボコボコした。

 

 


 

みたいな感じで、俺はボコミュージアムをいつものように堪能したのだが、違ったのはここからだ。

そろそろ帰る時間になりそうだなって頃になって、唐突に島田千代さんが現れたのである。

心臓から口が出るほどビックリした。

 

なんでも、いつも愛里寿と遊んでくれる俺のことをちょっと気にしていたのだが、大洗対黒森峰戦で常軌を逸した働き(物理)をしていたニンジャがソレであることを知り一気に興味が湧いたそうだ。

いつも愛里寿がお世話になってます的な社交辞令から問答が始まったが、まるで内側を見透かしてくるような目に終始圧倒された。

愛里寿が止めてくれなければ、逃げ出していたかもしれない。

 

その後は軽く雑談を交わし、俺の戦車道履修者としての実力やらなんやらを軽く聞かれたり、愛里寿と知り合った経緯などを話した後に解散となった。

いやはや、まさか千代さんとお話しすることになるとは思わなかった。

それにしても若々しかった。

一児(ワンチャン二児?)を産んだとはとても思えない。

なんだかすごく不思議な体験だった。

 

p.s. 冷静に考えたらこの時すでに探りを入れていたんだろう。 島田流恐るべし。

 

 

その後学園艦に戻ったらなんかもう廃校の話はされた後で、みんなが落ち込んでて、みぽりんは泣きながら俺を抱きしめてきた。

あかん胃が死ぬゥ!?

 

 

 

そして、秋山さん。

ありがとう。

そうだったね俺の名前エミだったね。

なんか知らんけど名前変わってるやんけ!?!?!!?!??!?!!?

 




ホッホッホッ、愛里寿好きかい?


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ゼノパンツァー2

「いきますよ……みほエリはガルパンにて、最強!」
「さあ、ダージリンも一緒に! みほエリはガルパンにて、最強!」
「だめだ!声が小さいやり直し!!」
「みほエリはガルパンにて最強!」


足元が崩れ去るような感覚だった。

 

住んでいた家と、通っていた学校、切り開いた未来にかけがえのない友達まで、すべてを失った時に私は思い知った。

 

(こんな気持ちだったのかな……天翔殿は……)

 

 

 

「やぁ、おはよう」

 

朝になって目が覚めると、ふわりと香ばしい芳香が鼻先をくすぐった。

体を起こしてその香りの元へと足を運ぶと、小さな女生徒がヤカンの湯を沸かしている。

 

「おはようございます。 早いですね、天翔殿」

「なんだか目が冴えちゃってね。 朝の一杯は如何かな?」

「是非」

 

そう答えると、彼女は微笑んでマグカップを一つ手渡してくれた。

中にはもうなみなみと、コーヒーが満たされている。

 

「いえ、これは天翔殿の分では?」

「後でも先でも同じだよ。 先に飲んじゃうといい、冷めないうちにどうぞ」

「……では」

 

お言葉に甘えてカップに口をつける。

薫り高いコーヒーが口腔の中を満たし、爽やかな苦味とコクが広がっていく。

相変わらず素晴らしい味だ。

それを飲んで、すこしだけ胸の中の突っかかりが楽になったような気がする。

ほっと一つため息をつく。

まだ朝日が顔を出しきってない時間帯だ、夏場ではあるが、過ごしやすい。

 

「……私たち、これからどうなるんでしょうか」

「ん?」

 

自然と、弱音が口から漏れ出していた。

彼女の側にいると、普段の自分とは違う自分が顔を出して、彼女に寄っかかって、甘えようとしてしまう。

一度口に出すともうダメで、私はそのままスルスルと泣き言を吐き出してしまう。

 

「せっかく大会を勝ち抜いて、廃校を撤回できたと思ったのに……あんな形で反故にされて、家も、学校も無くなっちゃって……考えないようにしてたんですけど、でも、ふと気がつくとネガティブなことばかり考えてしまうんです」

「それが当たり前さ。 突然理不尽に日常を奪われてしまえば、人は容易く膝をつく。 当たり前の日常っていうのは支えのようなものだ、それを取り払われてしまったら立ち直すのは容易じゃない」

「……」

 

重い言葉だった。

彼女はその地獄をすでに味わっている。

そのことを思うと、ジワリと視界がにじんだ。

 

「……酷いです。 こんなのあんまりです」

「秋山さん……」

 

みっともなく溢れ出した涙。

それを隠そうと手で覆う前に、彼女はそっとハンカチを握らせてくれた。

 

彼女だって、恐らくは私よりも辛いはずなのに。

 

情けなくて、苦しくて、辛くて、私は崩れ落ちて散々泣いた。

そんな私を見捨てずに、天翔殿はずっと、側にいてくれた。

 

 

 

「ごめんなさい、恥ずかしいところを」

「気にしなくていい、人間なんだから大泣きするときもあるさ」

 

しばらくしてようやく落ち着いた私は、洗って返すといってハンカチを懐にしまい、みっともないザマを晒してしまったことを謝罪する。

それをあいも変わらず微笑みながら流してしまう彼女を見ると、本当に同い年なのか疑ってしまう。

この心の余裕は、どこから来ているんだろう。

 

「……本当に、ありがとうございます、愚痴に付き合ってくれて」

「いいさ、秋山さんの愚痴の相手ならいつでも引き受けるとも」

「……そうならないよう気をつけます。 じゃあ、私髪とか整えてきますね。 また後で、『エミ殿』!」

 

私の言葉に彼女は目を見開いたが、慌てて振り向いた私はそのまま駆け出してしまった。

 

(な、な、名前で呼んでしまいました……!)

 

急にそんなことをして変に思われなかっただろうか。

顔が沸騰するほどの熱さを感じながら、私は洗面所へと向かうのだった。

 

 

 

「……エミ????? あっ、おれエミリじゃなくてエミじゃん」

 

 


 

 

──月──日

 

がっこうぐらし!

いや、ネタではなくリアルに。

学校で寝泊まりしたのってこれが初めてかもわからんね。

 

さて、さてさて。

エキシビジョンマッチを終えてから3日経ち、俺たち大洗生徒は廃校生活2日目を迎えていた。

長らく放置されていた廃校は、昨日であらかたの掃除は終わっていたがまだまだ生活するには少し不便がある環境なので、その辺りの掃除とかに精を出していた。

こういった仕事はおっさんに任せて君らJKはもっと華やかな業務をしてなさいね!

 

で、そのあとは買い出しとかの雑用に移行する。

他の面々を置いておれはⅣ号に乗り込み、スーパーマーケットやらホームセンターなどに足を運び様々な日用品を買い込んだ。

大洗に転校してからはちょくちょくバイトして生活費を稼いでた俺はちょっと懐が暖かいのだ。

なにかと苦労しているメンバーたちのためにそれなりの生活を送れるための物資を買い与えるくらいしてやるべきだろう

あのⅣ号戦車を自分で運転させてもらったのだから対価は十分だ。

だってお前、あんこうチームのⅣ号運転できるとかすごいことだぞ?

普段はカメさんかカモさんの戦車に乗ってて運転なんてしなかったから感動はひとしおだった。

 

それと、地味に俺個人の買い出しも行わなければならない。

いくつかお土産を見繕わなければならないのだ。

転校手続きの書類に保護者のハンコが必要なのは俺も同じなので、実に4年半ぶりくらいに孤児院に帰らなければならないからだ。

死ぬほどめんどくさいし、院長には苦労をかける羽目になるだろう。 俺は面倒が嫌いなんだ。

まったく、こんな書類どうせ無駄になるのになんでわざわざ作らなければならないのだ、これも全部文科省のせいだ。

 

 

 

……でも俺は文科省に対してさほどでかい口をたたける人間ではない。

なんせ俺はもともとみほエリをなすと言う我欲のためにみぽりんが大洗に来るのを阻止しようとしてたからだ。

みほエリをなす以上仕方がないと割り切っていたし後悔はしていないが、もしあの計画が完遂されていれば今頃大洗は救世主みぽりんがやってくることはなく廃校が決定され、みんなお通夜ムードだったのだろう。

うーん、冷静に考えたらみほエリストである前にガルパンおじさんとしてこれは特一級のピロシキ案件なんじゃないだろうか。

世の中本当にままならない。

 

 

 

──月──日

 

今日は1日エリカとの電話で終わった。

大洗が廃校になることを知って電話をかけてきたのだが、なぜすぐ教えないのかと散々お説教された。

電話の向こうでエリカが泣いていたのを聞いてますます自分の罪が増していくのを感じた。

はい、ごめんなさい……ピロシキします……

とはいっても電話をするような暇がほとんどなかったのはガチだし、落ち着いて話せる時間を確保してから電話しようと思っていた旨をみぽりんと一緒に伝えるとなんとか納得してくれた。

ええ子や……大学選抜戦の時にとびきりうまいコーヒー淹れてあげなきゃ……

 

 

 

──月──日

 

ようやく生活が落ち着いて暇ができたので、アリクイさんチームのトレーニングに混じってきた。

装填手にとって重要な筋力とはズバリどこかというと、はっきりいうが全身である。

背筋、腹筋、胸筋、腕に腰に足、全ての筋肉を活用することになる作業である。

それに重量のある物体を持ち上げるわけだから速筋がいるのに、早々にへばるわけにもいかないので遅筋もしっかり鍛えなければならない。

要は全身大切なのだ。

そして全身を鍛えるにはどうすればいいというととにかく体を動かすのだ。

というわけで俺は校舎全体を使いひたすらパルクールし続けた。

わずかなとっかかりに指を引っ掛けて壁を駆け上がったり、塀の上を全力疾走したり、それをぶっ続けで三十分、休憩十分、また三十分。

初めて見る俺の本格的トレーニングにみんなポカンとしていた。

みぽりんは見慣れていたのでタオルとドリンクを用意してくれた。

 

……すまん、自分でやっといてなんだが、やっぱこれを受け入れちゃうのはまずいよみぽりん。

 

 

 

──月──日

 

これと言って書くことのない暇な1日だった。

劇場版だと一瞬で時間が経ったけどこれは現実だからなあ、結構長いことこの廃校で過ごしたんだなあ。

そう思うと結構感慨深いものがある。

 

──月──日

 

エリカに、転校するのなら黒森峰に戻らないかとみほ共々誘われた。

心配してくれるのはありがたいが多分廃校は撤回されるしその辺りの考えは不要なんだよなあ。

まあそんなことを言えるわけもないし、とりあえずその方向で考えておこうとお茶を濁した。

エリカは俺たちが陰口を叩かれたりしないよう徹底的に教育を施すと張り切っている。

まほ先輩もやる気満々らしい。

……嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ。 エリカのそのやる気の源って多分俺への、その、さ?

 

盛大に吐血してしまった。

トイレで吐いたので見つかってないとは思うのだが。

みほエリにサンドされている現状は確実に俺の胃を蝕んでいる。

真面目に医者に行ったほうがよさそうだ。

 

 

 

──月──日

 

とりあえず明日、深夜バスで帰ることにした。

何事もなければいいのだけど。

 

そういえばみぽりんはまだボコミュージアムを見つけてないらしい。

そうなると愛里寿との邂逅はまだなのだろうか。

 

愛里寿と戦うのかー……やだなー……

 

 


 

 

「やっと着いたか……」

 

地方の中心都市、そこから少し外れた場所にある少し大きな建造物。

こここそが、俺を拾い上げ育ててくれた院長の属する孤児院である。

度々院長に電話はしていたものの、顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。全く変わっていない俺の姿に驚くだろうか。

いや、もう小学生の時点で成長止まってたし今更かもしれない。

 

眺めてても仕方がないので、俺は敷地に足を踏み入れた。

今日ここに来ることは院長に知らせていたので、出かけてはいないはずなのだが。

 

「ただいまー」

 

施設の扉を開くと何人かの子供達がこちらを見た。

俺の知らない新顔が何人かいたが、知っている顔は俺の顔を見ると眉をひそめてそそくさと退散していく。

もう見慣れた光景なので特に気にすることもなくずんずんと施設内を進んでいき、おそらく院長がいるであろう院長室を訪ねた。

扉を二、三度、ノックしてみる。

 

「院長、いますか?エミリです」

 

自分でその名前を言ってから、違和感に顔をしかめる。

いや、正確にはこの「エミリ」こそが自分の名前だと認識している現象に嫌気がさしたのだが。

しばらくしてから院長の応答が帰ってきたので、俺はドアノブを回し、部屋へと踏み込む。

 

「失礼します、お久しぶりです、院ちょ……お?」

「あら、先日ぶりね。 元気だった?天翔エミリさん」

 

なぜか院長室に島田千代さんがいた。

 

 

 

 

なんで??????

 

 

 

「その制服……エミリと同じ」

「え? 君、えみりん知ってるの?」

「その……ここにきて、私とお話ししてくれるの」

「初耳だな」

「初耳ですね」

「──────」

「西住殿? 西住殿ー? ……ダメです、返事しません」

ここ(ボコミュージアム)のこと知ってたのに教えてもらえなかったのがショックなんじゃないか」

「あー、なるほどね」




「エミカスゥ!! お前の後ろの本棚にあるみほエリ本よこせみほエリ本!!」


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戦方地エミ伝

はいかイエスで答えなさい


「ふふ、本当に美味しいわ。 少しびっくりするくらい」

「どうも」

 

院長が気を利かせて出て行った後の、応接室も兼ねた院長室で、私はつい先日顔合わせしたばかりの娘の友達と向かい合っていた。

いざこうしてじっくりと観察してみると、本当に小さい。

この前は制服を着ていたのでかろうじて判別できたが、スカートにパーカーのような格好をされると本当に小学生と見分けがつかないほどだ。

顔立ちも、やや丸みを帯びた頬に大きな瞳がより幼さを際立たせている。

だが、こんな小さな子が決勝で見せたあの常識はずれの戦い方は、今でも目に焼き付いて離れない。

 

「この前会った時は、時間がなくてゆっくり話もできなかったから。 今日はのんびりとできそうね」

「あぁ、その時はお恥ずかしいところを……ところで、島田流家元のあなたが、こんな孤児院に一体なんの用事できたのでしょう」

 

その言葉を受けて、彼女の挿れてくれたコーヒーの注がれたカップをまた口に運ぶ。

少し、緊張していた。

これから、1人の人生を大きく左右しかねない発言をしなければならない。

打算がないとは到底言えず、讃えられるような動機では決して無い、しかし熟考に熟考を重ねた結果の判断だ。

彼女の目をしかと見つめて、秘めていた言葉を投げつけた。

 

「天翔エミリさん、島田家の養子になる気はないかしら」

「────────────は?」

 

呆然とした彼女の顔に、まあそうなるなという感想を抱いた。

余裕を取り繕ってはいるが、実のところ結構に緊張している。

静寂が、耳に痛い。

 

「…………なぜ?」

「理由は色々とあります。まずは、貴方の能力を買ったから」

 

そばに置いてあったバッグからタブレットを取り出して動画を再生する。

流される映像には、大洗対黒森峰戦に置いての人間離れした天翔エミリの姿が映されている。

日本国内を衝撃に陥れ、海外にすら広まっている、『リアルニンジャ』だの『地球外生命体』だの『神様転生特典チートマン』だのと評される尋常ならざる動き。

 

「初めて見たとき私は目を疑ったわ。 明らかに常軌を逸した身体能力だもの」

「あー、まあそれは私もそう思います」

「この試合を見て、戦車道の運営に関わる者共の多くは衝撃を受けたわ。 それは良い意味でも、悪い意味でも」

 

タブレットを操作し、画面を切り替える。

それに引きずられ、大きな画面を埋め尽くすように愛里寿のスヤスヤ寝ている寝顔画像が映し出される。

 

「……」

「……」

 

再び操作すると、こんどは細かな情報が記された円グラフが現れた。

 

「この円グラフ、みてもらえるかしら」

「……ええ、はい、円グラフですね」

「そう、円グラフを。 この青いほうが貴女を支持する意見。 赤いほうが貴女を非難する意見。 だいたい50/50の割合ね」

「……というと?」

「戦車道の改革派と保守派が、貴女の存在を認めるか認めないか争っている構図ができているの」

 

およそ戦力らしい戦力もない大洗の戦車チームが、強豪黒森峰を破り優勝を果たす。

それは、大洗の奇跡として長く語り継がれることになる英雄譚である。

その物語の中で、偵察役として凄まじい成果を上げて、何より凄まじいインパクトを叩きつけてきた天翔エミリの名前は、その天翔エミリを活かしきった西住みほの名とともに広く知れ渡っている。

初心者集団を短期間で一流の選手へと育て上げ、常識にとらわれない策謀で敵を搦めとる名指揮官西住みほ。

他者には決して真似できない高機動個人偵察兵天翔エミリ。

この2人の可能性を見出し利用しようとしたのが改革派、危険視し芽を摘みとろうとしたのが保守派だ。

それゆえ、彼女たちは希望を奪われて廃校という絶望に直面する羽目になっている。

 

「まず、この貴女の能力が一つ。 我が島田流は、臨機応変に対応した変幻自在の戦術を得意とする、まあ、貴女が在籍した黒森峰の掲げる西住流とは対極に位置するような流派です」

「それはよく存じておりますが」

「そこにきて、貴女の持つこの誰にも真似できない能力はかけがえのないものよ。 情報というものは千金、万金の価値を持つもの。 それを、貴女が単独で、敵に気取られるリスクも少ないままにリアルタイムで味方に送信し続けられる……味方であればこれ以上ないほどに頼もしく、敵に回すとこれ以上恐ろしいものはないわ。 そんな貴女を他のどこにも奪われないよう確保する、それがまず第一の理由よ」

「そんなに凄かったのか私……」

 

こちらの言葉に対してはへーと息をこぼす彼女を見る。

やはり、自覚はなかったらしい。

改革派の連中はこぞって彼女を確保して、未来の国際試合までに彼女を完全に斥候役として完成させる腹積もりだというのに(保守派連中は他のスポーツをやらせろと言っていた)。

 

「そして、二つ目の理由は……愛里寿の、そばにいてあげて欲しいから」

「?」

 

コクリと首をかしげる彼女に少しだけ笑いが漏れる。

この容姿でこんな仕草をされれば愛らしさを感じずにはいられない。

 

「貴女が愛里寿と、ボコミュージアムで出会った日。 その日愛里寿は、普段よりもずっと明るい顔で、その話をしてくれてね」

「はい」

「……私は、愛里寿に大きな負担を強いているわ。 まだ高校生にもなってない愛里寿に、大学という大人の大勢いる舞台で、その大人たちを率い、指揮する戦車部隊の隊長という重役をやらせている。 無論、愛里寿ならそれを過不足なくこなせるという確信があるし、事実あの子は期待に応えている……けれど、だからと言って年の離れた人に囲まれてストレスを感じざるを得ない環境に放り込んでいるのも、また事実」

「それはまあ、そうですね」

 

たとえ相性がよかろうが、年の離れた兄弟ほどの差がある人々の中に放り込まれ、それを指揮する立場に立たされる。

それがどれほどに強い負担を強いるのか、想像もできない。

 

「でも、貴女と出会ったと話してくれた日から、その日から少しずつ、笑ってくれる頻度が増えていったのよ。 貴女といろんなお話をして、ジュースなんか奢ってもらって、たまに街中を散策もしたらしいわね。 あの子は本当にそのことを、楽しそうに、愛おしそうに話してくれて……」

「……」

「貴女の学校が廃校になると聞いて……そして、貴女が孤児であると知って。 それで、思ったの。 貴女を家で引き取って、愛里寿の心の支えになってくれると、それはとても、素敵なことなんじゃないかって」

 

愛里寿に、笑って欲しい。

愛里寿の負担を、取り除いてあげたい。

彼女に大きな負担を強いている情けない親だけれど、でも、だからこそ彼女のためなら一肌も二肌も脱ごうと躊躇なく踏み出せる。

仮にも自分は、彼女の母親なのだから。

 

「……」

「……」

「……」

 

沈黙が、再び部屋を埋め尽くした。

彼女が少し冷めているだろうコーヒーを口に運んでいるのを、私は直視できずに目線をそらしている。

わかっている、私の言っていることは、養子を迎え入れようとしている保護者として失格の烙印を押されても仕方がないものだ。

私は、要はこう言っているのだ。

『その能力を用いて島田愛里寿のために尽くせ、そのかわり地位と生活を保障する』と。

はっきりいうがまともではないし、断られても仕方がないと思っている。

だが、嘘だけはつかなかった。

無責任に綺麗事を並べることだけはしなかった。

それだけはやってはいけない、その程度のことは私にもわかっていたからだ。

 

 

「……すぐには、お答えできません」

たっぷり五分ほど待った後に彼女が出した結論はそれだった。

「……近いうちに、答えを出しますが。 どうか考える時間をいただけませんか」

「勿論よ。 こちらもすぐに返事を急かすようなことはしない。 貴女の人生にかかわる重大な問題だもの、よく、考えて欲しいわ」

 

白々しい返答を返しながら、私はタブレットをバッグにしまってソファから立ち上がる。

 

「話が長くなったわね。 じゃあ、よろしく」

「……この話は、愛里寿にはしてあげたんですか?」

「……いいえ、まだね。 ぬか喜びはさせたくなくてね」

「してあげるべきです」

 

彼女の飴色の目が、私を射抜いた。

その眼光の鋭さに、どこか既視感を感じて。

一歩、二歩と後ずさる。

 

「してあげる、べきです。 私がどういう答えを出すかは別として、愛里寿がその話に乗り気ではないのなら、私は絶対に島田の養子にはなりません。 ……愛里寿の嫌がる結果にはしたくない」

 

彼女の言葉はすとんと胸に落ちて、そして同時に自分の軽率さに嫌悪感を抱いた。

そうだ、これは決して大人だけで進めていい話じゃない。

 

「……わかったわ、愛里寿ともしっかり話し合ってくる」

「お願いします」

 

 

 

見送りに来た彼女と院長に頭を下げてから、私はプライベートヘリへと乗り込んだ。

島田流の家元には沢山の仕事がある。

今日もその合間を無理やり作ってここを訪れた。

早いところ、帰らなくてはならない。

 

「……いい子だったわ、とても」

 

帰りのヘリの中で、相対した彼女のことを思い出す。

強い瞳、成熟した精神、そして礼節を忘れない心がけ。

彼女が、愛里寿の姉として彼女の支えになってくれたら、それは素晴らしいことに違いない。

 

「……いい答えが、返ってくるといいわね」

 

期待を込めた私のつぶやきは、ガラス越しの青い空に吸い込まれて、消えていった

 

その後に、大学選抜チームと大洗チームの戦いとも呼べないような戦力差の元で行われる試合(蹂躙劇)を繰り広げる羽目になって、私は思わず頭を抱えた。

 

 


 

 

「はぁー……」

 

ビジネスホテルの屋上で、俺は真っ黒な空に向かってため息を吐いた。

孤児院に居座るのはなんとなく気が引けたので、市街地まで戻り適当なとこで一晩明かすことにしたのだ。

 

「島田の養子、ね」

 

ココアシガレットをガジリと嚙み砕きながら俺は思考する、どうしてこうなった、と。

未だ嘗て島田家に養子入りするオリ主とか見たことがないんじゃが?

これは果たしてピロシキ判定されるか否か…有罪ですね、ダメです、愛里寿の義姉ポジションにつくとか世が世なら一兆からスタートのスーパーウルトラデラックスアメイジング・オークションで利権が争われても不思議ではない。

それをお前こんな……お前……ダメでしょ????

ひとまず予防線として愛里寿がOK出したら考える、と言っておいたがこの世に生まれ落ちてからこっち、慢心したせいで全てを台無しにしてきた俺にもはや油断はない。

俺はもう心の中で断固たる決意を決めていた、島田家の養子にはならないと。

 

(誘ってくれた千代さんには悪いけどな)

 

俺はすでにみほエリの間に挟まってしまうという極悪な罪を犯してしまっている、地獄行きは確定だ。

ならせめてこれ以上罪を重ねないように慎ましやかに生きて行くと決めているのだ。

それは悪いことでしょうか?いいえ、悪く有りません。

仮にそれで愛里寿や千代さんが傷ついたときは……それはその時考えることとしよう、部位ピロシキ二カ所あたりが妥当だろうか……

そこまで考えたところで、夜風ですこし体が冷えたので俺は部屋に戻ることもした。

明日は早く出発してさっさと寝ぐらへ戻らなければならない。

シャワーを浴びた俺は、ノンアルコールビールでフライドポテトを流し込んでからぐっすりと眠りについたのであった。

 

 

 

 

「ねぇ、エミリちゃん、なんで?なんでわたしにボコミュージアムのことを教えてくれなかったの????」

「……誰から聞いた?」

「ボコのぬいぐるみ抱えた小さな子」

「愛里寿……そうか、確かに会ってもおかしくないか……いやな、みほは偶に変な場面でヘソ曲げたりしたが、そういう時に機嫌を直すにはレアなボコグッズが有効で、その仕入れ先を知られると同じ手段が通じにくくなるからさ……」

「エミリちゃん」

「はい」

「正座」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、私が助けてあげるからね」

 

少女は1人、部屋の中でつぶやいた。

誰に向けたわけでもない、あえていうなら自らへの誓い。

 

「だから、心配しないで待っててね、エミリ」

 

部屋の中にずらりと並んだボコグッズ……の一角に設けられた『空き缶、髪の毛、菓子の包み紙、レシート、小銭』の並べられた小さな台。

その台にまた新しく一つの磨かれた空き缶をおいて、愛里寿は静かに 静かに笑った。

 




は「いイエ」す

ちなみにラストのエミリカスコレクションはエミリカスと逢引してる最中の戦利品であり一緒にいない時のアイテムは手に入れてません


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karma

まさかの時のみほエリ宗教裁判!!

\ジャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!/

「お前には三つの罪がある。 みほエリに挟まれた、愛里寿を病ませた、しぽりんとちよきちの胃を破壊した、秋山殿と相思相愛になった、まぽりんを泣かせた、ノンカチュに挟まれた、ミカを闇落ちさせた、アンチョビをママにした、黒森峰に監禁された……多すぎて数えきれない」



バカ舌なことに定評のある俺にも実は確実に美味しく作ることのできる料理が存在する。

それは、カレーやシチューだ。

なぜなら箱の裏に簡単極まりないレシピが書いてある。

極端な話、味の調整ができなくともレシピ通りに作っていれば料理というものは食えるレベルにはなるものであり、その点この単純かつ人気のあるこれらは私の得意料理なのだ。

 

と、いうわけで俺は今ものすごく大きい鍋の前に立ち、中に煮えたぎる大量のカレーを作り終えたところだった。

 

「よし、できた」

 

「お疲れ様です天翔先輩」

 

宇津木優季ちゃんのお疲れ様コールに手を挙げて答えつつ、小皿にルゥを少し注ぎ、味見。

うん、いつものカレーだ! 大丈夫だな!

いや、むしろ普段作るカレーよりも美味いまである。

大鍋カレーや豚汁が美味しいのってなんなんだろうねあれ。

 

「よーし今日の晩御飯完成、あとはキャベツでも千切りにしておこう」

「それにしてもすごかったです、マシンガンみたいにズダダダダーッて」

「ふふふ、もっと褒めたまえよ」

 

食材のカットに定評のある俺氏、張り切って野菜の山をカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットしましたよ。

しかしあの材料の山を一人で処理しきれるとは、人間やればできるもんだ。

 

「じゃあ晩御飯の時間だ、みんなに伝えてきてくれるかな?」

「はーい」

 

てってこてーーと駆け出してった優季ちゃんを見送って、俺は冷蔵庫からキャベツを取り出した。

キャベツの千切りは店で出るものは大半機械でカットしているのだがそんなものはない。

なのでここは手動でやることになる。

キャベツの外側の葉は捨てて、3枚ほどの葉の芯を切り落としそれらを丸めてストトトトンと切っていく。

 

 

 

……うーん、地味!

まあ愚痴っても仕方がないのでそのまま作業を続行していく。

すると突然携帯が鳴り出した。

 

「誰だ……愛里寿? きたかぁ……」

 

そのうち電話が来るとは予想していた、してはいたのだ。

けども!!メッッッッッチャ出たくない!!

だってこれ絶対に養子云々の話ししてくるでしょやーよ私島田家の養子なんて。

 

いや違うな、語弊がある。

正直めちゃくちゃなりたい。

千代さんの子供とか魅力的すぎるし愛里寿のお姉ちゃんになれちゃうとか、その権利をオークションにかけたら国が一つ傾きかねない。

でも、だけど、俺はガルおじだからね。

側から眺めるだけでも超贅沢なのにあまつさえ家族に?

あーダメダメいけません、ピロシキ案件です。

たとえお天道様が許しても俺が許しません。

でも、だけど、逃げ続けるわけには行かねえよなあ……結局これは俺が愛里寿と仲良くしすぎた自業自得だもんなー、嫌われるなー、うわー、とか色々考えながら。

結局俺は通話ボタンを押したのであった、敗北。

 

『もしもし、エミリ……?』

「ん、どうしたの? 愛里寿」

 

電話の向こうから聞こえてくるクッッッッソ可愛い声に鼓膜が溶けたバターになるかと思った。

それはともかく返事を返すと、えーと、んーと、とか少し詰まったうなりが聞こえてくる。

カワイイ。

 

『あの、ね。 実は今日、お母様からお話があったの』

「……お話かい?」

『うん、今度、大洗と大学選抜チームで、試合をするって』

 

アレ????

 

「え、試合?」

『うん……大洗の、廃校を賭けた戦いになるって言われたの』

「そ、そうか……」

 

動揺しつつも会話を進める、あれ、これワンチャン千代さんは養子の話を切り出してなかったのか?

 

「うん、そうか……ってことは、愛里寿と戦うことになっちゃうのかな」

『ううん、大丈夫、断ったから!』

 

 

 

は?????

「え? こ、断った!?」

『うん、そんな弱いものいじめみたいなことはしたくないって言ったの。 お母様も仕方がないって言ってくれたよ』

「だ、え……え?」

『……エミリ?』

 

俺はこの上なく動揺していた。

まじ?これ原作ブレイクどころの騒ぎじゃなくない???

あの名勝負が消えて無くなるの?俺のせいで?マジ?

これは控えめに言って指三本は軽いのでは?

 

「だ……大丈夫、なのか? 愛里寿の、立場とかは」

『大丈夫だよ。 みんな納得してくれるもん、私たちをそんな卑怯な作戦の道具にしないでって!』

「そ、そうか」

『エミリの大切な学校なんだよね? それを無くさせちゃうのは、やだよ』

 

愛里寿の自信溢れる声に俺は何も言えなくなってしまった、まさかこんなことになるなんて……

 

いや、でも、待て。

これは全然アリなのでは?

確かに愛里寿の見せ場は消えてしまっただろう、でもこれはアニメじゃない、本当のことだ。

愛里寿を相手に確実に勝てる保証なんてない、あの勝負はどっちに転んでもおかしくないギリギリの戦いだったのだ。

大学強化チームと戦う話がおじゃんになった以上文科省がどう動くかはわからないが、少なくとも代わりの条件提示くらいはするだろう、そうじゃないとしぽりんにズタズタに引き裂かれそうだもん。

そうなるとどのチームと戦うかはわからないが、少なくとも愛里寿たち以上の強敵にはなるまい。

強いて言うなら、戦いを通じて育む絆、なんてものはないかもしれない。

だけどそれは、今後の妙な事情の絡まない試合でいくらでも結んでいけるはずだ。

 

 

 

つまり、この戦い我々の勝利なのでは??

 

「……そっか。 うん、ありがとう愛里寿」

『いいの、私も、お姉ちゃんになる人に悲しい思いをさせたくないもん』

「──────お姉ちゃん」

『うん、それもお母様から聞いたよ。 私がいいって言わなきゃ、養子に入らないって』

 

有頂天になった瞬間俺は現実に引き戻された。

そうだ、この話もしなくちゃいけないんだった……千代さん話してたかー、そりゃそうだよな……

 

「あー、うん、その話ね」

『うん、私ね、エミリがお姉ちゃんになってくれるなら、すごく嬉しいよ? 断るはずないよ』

「う、うん、そうか。 そっかー……」

 

ダメでした。

ワンチャン友達の関係でいたいとか言われるのを期待してました、はい、カスですごめんなさい。

でも、でもダメだろ、ここで期待させるような言葉で引っ張ってうやむやにするのだけは、絶対に、絶対にダメだろ!

しっかりきっぱり断らなくちゃいけないだろう……!!

 

「あ、愛里寿」

『うん、なに?』

 

声の震えが抑えられない。

胃が痛い。

足が震える。

血の気が顔から引いていく音がゴォォォォォォと聞こえてくるようだ。

歯がガチガチと鳴るのを必死でこらえながら、俺は言葉を喉の奥からひねり出した。

 

「あの話の後、ね。 わ、私もたくさん、いろいろ考えて、その結果……島田の養子になる話は断ろうと思って」

 

 

 

 

『なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで』

 

 

 

 

『なんで?』

「ッ」

 

悲鳴が漏れそうなのをこらえた俺を褒めて欲しい。

ピッ、とかアヒッ、とかクッソ情けない声が出るところだった。

え、こわ、怖くない?

 

『なんでいやなの、エミリ、ねぇ、なんで……なんで?』

「そ、その……私なりに、考えたんだ、あの、身体能力以外なんの取り柄もない私を養子にしたら、二人に迷惑かかるんじゃないかとか」

『エミリは優しいね、でもそんなこと気にしなくていいの、お母様も私もそんなの無視できるから、だから来てよ』

「あ、愛里寿……」

『ねえ、エミリ……なんでやなの? 何が嫌なの? 私頑張るよ、エミリが嫌な思いしなくて、楽しく仲良くできるよう頑張るよ、だから、エミリ、ねえ』

「ま、まってくれ、愛里寿」

 

愛里寿が完全に暴走してます、完全に俺のせいです、本当に、本当にすいませんでした。

ややややややばいって!どうにかして抑えなきゃ俺の胃が死ぬ!!千代さんの胃も死ぬ!!

 

「そ、そ、そのだな、それに……私、愛里寿とは今の、大切な友達って距離感が好きだから……」

 

 

 

『家族になるのはやなの?』

「や、あ、その」

 

 

 

『……そっか』

 

 

 

『うーん……おかしいな』

「え?」

『エミリが私にひどいこと言うはずないよ……じゃあ、何かがエミリにそう言うように仕向けたんだね。 私にエミリを取られたくないんだ』

「……愛里寿?」

『……うん、そっか、わかった』

 

『邪魔なのみんななくしちゃえばいいんだ』

 

『また会おうね、エミリ』

 

プツリと、電話が途切れた。

 

「……」

 

俺は完全に絶句していた。

え、え?

なにこれ怖くない?

最後のまた会おうねってなに?

あ、またボコミュで遊ぼう的なアレかな?

うふふふ愛里寿ってば変な言い回しで脅かしてもー。

はい、違いますねどう考えても。

どう贔屓目に見てもそうじゃないですね。

え?これどうすりゃいいの俺?

え、え、まずいほんとうにどうしよう激おこじゃんどう謝りゃいいんだ。

そして俺はそのまま、みぽりんに思いっきり揺さぶられるまで呆然と立ち尽くしていたのであった。

耳にはまだ、愛里寿の声がこびりついている。

 

 


 

 

「悪いな天翔、力仕事を任せてしまって」

「いいんですよ、私にはこれくらいしか取り柄がありませんから」

「……でも無理はするなよ。 お前今日の鍛錬に随分と熱が入っていただろう。 お前がまた倒れたら西住がまた騒ぐからな」

「まぁ、はい、でも今は動きたい気分なんです」

 

夕暮れ時の廃校の一角、俺はえっちらおっちらとリヤカーを引いていた。

ももちゃん先輩がリヤカーに満載の荷物の揺れを支えて制動しながら、俺がグイグイとそれを引っ張っている。

原作ではさらりと流されたシーンだがワンチャン大怪我するかもしれなかったし、ここは変わっておかなければ。

それに、その、昨日の愛里寿の声がいまだに脳裏を離れなくて、なにかしてなくちゃ落ち着かない。

 

「おーい」

「お?」

「え?」

 

するとそこに声がかかる、ちらりとその方へ目を向けると、会長がいた。

 

「あ、お帰りなさい」

「ただいま〜」

「……かいちょお〜〜〜!!!」

「あっ! ちょ、桃ちゃ、ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

「あっ、天翔ちゃーん!?」

 

その瞬間駆け出す桃ちゃん先輩!! 支えを失った荷物、ずれるバランス、崩れるパイプ椅子!

かーしまの いすなだれ!

こうかはばつぐんだ!

 

「ぐ、ぐふ……ないす杏桃……」

 

パイプ椅子に埋もれた俺は色々と痛みを我慢しつつも、右腕だけ突き出して親指を突き立てた。

おいおい泣く桃ちゃんを慰める会長、これだけで、ええ、ご飯3杯いけますとも!

さて、こうしちゃいられねえ、非常呼集をかけにいかなくちゃな!

あ、そういえばこれで対戦相手どこになるかわかるよな……

だ、大丈夫、だよな?

 

 

 

 

 

「社会人を破ったチーム!?」

「」

「幾ら何でも無理ですよ!」

「」

「西住、どう思う!?」

「選抜チームの隊長、何処かで見た気が……あれ? エミリちゃん?」

「」

「か、顔色が真っ青だよ!?」

「天翔殿!?どうしたんですか!?」

 

 

 

「カハッ……!!」

 

我慢の限界!

俺は思い切り血反吐を吐いた。

 

「え……え、え、エミリちゃん!?」

「天翔ちゃん!? どうしたの!? 」

「きゅ、救急車呼ぶにゃー!!!?」

「よ、よぶな……」

 

あまりのストレスに思い切り床に血を撒き散らしながらも、俺はなんとかねこにゃーの携帯を握る手を止めた。

いかん、いまはいまだけは入院するわけにはいかん! 主に俺がストレスで死なないためにも!!

だってさぁ!!! これ確実に愛里寿豹変してるじゃん!!! それも全部俺のせいじゃん!!!

俺が養子入り断ったからおこで勝負うけちゃってるジャーーーン!!!

 

「なに言ってるのエミリちゃん!? 血を吐くなんて、病院いかなきゃ」

「違う……これはストレス性の例のあれだ、とにかくベッドで安静にすれば治る、薬もある……しばらく休むぞ……」

「て、天翔ちゃん……」

 

なんとか震える足に鞭を打ち、俺は作戦会議の部屋を出た。

血反吐の掃除をさせてしまうのは本当に申し訳ないが今回ばかりは我慢してもらうほかない。

あぁ、胃がキリキリと痛む、ていうか俺の体どうなってんだよストレス反映されるの早すぎるだろアルパカかよ。

 

兎にも角にも、いまは体を休めなければ。

今回ばかりは俺にもわかるぞ、愛里寿との試合は無くなるはずだったのに俺のガバのせいで戦う羽目になってる、すなわち大洗廃校の危機再びなんだ。

原作通りに戻っただけとはいえ、これは全て俺の責任だ、俺には試合を勝ちに導くために戦い抜く義務がある。

 

「大洗学園艦に、廃校の可能性など存在しない……! それを証明してみせる!」

 

とりあえず、いまは、胃薬飲んでベッドで休もう。

きゅー。

 

 

 

 

 

 

 

「……エミリ」

「ねぇ、エミリ」

「ごめんね、私が悪いの。 でもね、エミリも悪いよね」

「だから、手加減抜きで行くからね」

 

 




死ね!死ね!エミカスなど、ただのクソオリ主め!!
みほエリを成す?みほエリを成すだと?
お前になにができるってんだ!
俺だってなあ!!


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俺の屍を捨てて行け

「今日の日記朗読会を始めるわよ。 今日はエミリが味覚のほとんどを失ってしまってからのところから読み始めるわ。 小梅、あなたからよ」
「はい。 『〜〜月〜〜日 以前と同じようにコーヒーを淹れているけれど、もう香りも味もよくわからない。 みんなは前と同じように美味しいといってくれているけど、私に気を使っているんじゃないだろうか。 みんなをそんな風に疑っている自分が嫌で嫌で仕方が』……う、うぅ、けほっ」
「小梅、トイレに行くことを許可するわ。 じゃあ次のページを……勝手に席を立つな!!!!!!!!!」


「殲滅戦ってなんだったっけ?」

「相手の車両を全部やっつけたほうが勝つんだよ」

 

試合前日、決戦の地となる北海道。

大洗戦車道チーム全員──一人を除く──が集まった建屋内、ほとんどの女子たちが驚愕に言葉を詰まらせていた。

 

「30輌に対して8輌で、その上突然殲滅戦、ですか?」

「予定されるプロリーグでは殲滅線が基本ルールになっていますので、それに合わせていただきたい」

「もう大会準備は殲滅戦で進めてるんだって……」

 

大洗学園艦廃校の黒幕……と、言えなくもない男、文部科学省役人、辻廉太の抑揚のない言葉を聞いて、まずみほは呆れを覚えた。

続けて絶望、困惑、そんな負の感情が胸の中でぐるぐると渦巻いて……

そして、最後に湧き上がったのは、かつてない怒りだった。

 

「……そこまで、しますか」

「はぁ、こちらとしてはプロリーグ基準の試合を推奨していく方針でして」

「はぁ、そうですか。 わかりました」

 

怒りが頂点に達すると一周回って冷静になるという。

そんな言葉を聞いたことはあったが体験したことはなかった。

しかし、たった今みほは理解した。

コレこそが『怒髪天を突く』という感覚なのだと。

 

「あぁ、それと……天翔エミリ選手はいらっしゃいますか?」

「エミリちゃんは貧血で今は横になってますが、何か?」

「いえ、戦車道の運営に関わる方々から、彼女については様々な議論がなされましたが……他スポーツの有名な高校への進学を勧めるように言われてまして、その旨を伝えておきたかったのです」

「なっ……は?」

「……? ……??」

 

秋山優花里が絶句し、みほはこの男は一体何を言ってるんだと理解にしばらく時間を要した。

 

「いえね、彼女の身体能力は素晴らしい、というか異常の一言ですが、こと戦車道という競技以外にその能力をあてがった方がいいのではないかという意見が多数派でしてね。 まあいないのであれば仕方がありません、君たちの方から伝えておいてください。 これ資料です。 では」

 

いうべきことは言った。

役人が背を向けて立ち去っていくのを、殆どの生徒たちが殺気立った目で睨みつけている。

そして、みほは、自らの間違いに気がついた。

先の怒りなどまだまだ甘かったと。

気がつけば血が出るほど握りしめていた拳の鈍痛がそれを表していた。

 

「あぁそれと言い忘れてましたが、戦車から人を攫うような行為は禁止です、それもしっかり伝えておくように、危険極まりないです」

「あ、それはわかりました」

 

こっちは納得だった。

 

 

 


 

 

 

その日の夜は、こちらの気分など知らないと言わんばかりの満天の星空だった。

周囲に明かりの一切ない広大な草原に一人たたずむみほは、地図と地形を照らし合わせながら様々な策を頭の中に練り上げていた。

思考の海に沈み込み、そしてホッと小さく息を吐く。

勝ちたい。

心の中にそんな想いが渦巻いていた。

コレほどまでに強い勝利への執着は、初めてだ。

 

「みほ」

「あっ……」

「やほー」

 

聞き慣れた声に振り向いてみれば、そこには寝込んでいたはずの天翔エミリと、会長の姿があった。

エミリの手には二つのマグカップ、会長の手にも一つ、漂う香りからして中身はコーヒーだろう。

 

「精が出るね、ほら」

「ありがとう……もう体はいいの?」

「もとからそう重傷でもない、心配することはないさ。 明日の試合はきっちり仕事をこなすとも」

「苦労かけるね、二人とも」

 

微笑みかけるエミリの顔を見るとスッと心が落ち着いていくのを自覚して、少し照れくさくなってみほはコーヒーを啜った。

いつもより、味が薄いかもしれない。

 

「どうする? 明日の試合」

「え?」

「辞退するという選択肢も、あるよね?」

 

いつになく弱気な杏の言葉に、みほは改めて、自分たちが絶望的な窮地に立たされていることを思い知る。

いつも不敵で、誰にも不安そうな姿を見せなかったのが角谷杏という少女なのに。

それをなんとか励ましてあげたい。

そう思ってみほが励ましの言葉を紡ごうとする。

 

「二人とも、少し私の話を聞いてほしいんだ」

 

しかしそれを遮ったのは、エミリだった。

 

「エミリちゃん?」

「まず、私は謝らなきゃいけないことがある……今回の試合、よりにもよって難敵中の難敵である大学選抜チームと戦う羽目になったのは私のせいなんだ」

「へ?」

 

突然何を言い出すのか?

そう言いたげなみほと杏の顔を見て、普段の薄い笑いを浮かべた唇の端を少しだけ下げて、ポツポツと、エミリは語りだす。

 

「……今回戦う相手の隊長である島田愛里寿、私は彼女とそれなりに親しい仲だった。 出会ったきっかけは偶然で、それでたまたま気が合って、まあそれで寄港した日にあったり、連絡したりしてた……まぁ、つまり友達だったわけだ」

「あぁ、ボコミュージアムで出会ったんだね」

「ぼ、ボコミュージアム……?」

「まぁ、そうだな」

 

珍妙な響きの施設の名前に杏が若干疑問を覚えたが、とりあえず、今は流すことにする。

 

「そのつながりで、私は彼女の母である、島田流家元の島田千代さんとも少し話したりしたんだけど……実は、その千代さんに養子にならないかと誘いを受けている」

「えっ」

 

その言葉にみほはついに驚いた。

まさか対戦相手の少女一家とそこまで因縁があったとは思わなかった。

 

「その誘いを受けて、私は悩んだ。 普通なら断る必要のない話なんだろうがまぁ、その、なんだ、私は……ちょっと人には言いにくい秘密があってね。 それで、その話は断ろうと思ってたんだ。 その数日後、愛里寿から電話があった。 話された内容は、この廃校をかけた試合の依頼を断ったということと、養子の件に関してだった」

「え?断る?」

「あぁ、愛里寿は、愛里寿はな……私が思ってるよりずっと優しくて、素敵な子だった。 私が……義姉になる私が悲しい思いをするのは嫌だからと、この理不尽な試合を突っぱねると、そう言ってくれた、くれてたんだ」

 

なんとなく、話が読めた。

みほがそっと続きを促すと、エミリはやや迷ったように瞳を左右に揺らし、そしてまた、重そうな口を開く。

 

「私は、隠し事をしたくなくて、騙したくなくて、愛里寿には正直に養子の話は断る予定だと伝えた。 その後だ、愛里寿の様子が急におかしくなって、そして、電話を切られてしまった……それで今日に至るわけだ。 自惚れた発言に聞こえるかもしれないが、愛里寿が結局この試合を受けてしまったのは、私が愛里寿の期待を裏切ったからなんだと思う」

「……」

 

エミリの話に、二人は何も言えなかった。

コレは、口を軽々しく挟める問題ではない。

孤児であるエミリの境遇と、そして本人の抱える誰にも開かせない心の内側。

そして島田家との奇妙な因縁。

 

「仮に愛里寿が試合を断っていたとしたら、少なくとも対戦相手は他のチームに変わっていたはずで、それはおそらく戦う予定の大学選抜よりも劣る存在なのは明らかだ。 私が養子の話を受けていたのならこんなことにはならなかったかもしれない。 ……自分で言ってて恥ずかしいほどに自意識過剰な、妄言のようなくだらない話だけど……それでも……みんなを苦しめて、愛里寿も苦しめてしまってるんじゃないかと思うと、謝らずにはいられなかった」

 

沈黙が、あたりを包んだ。

杏は何も言わない。

言えるわけもなかった。

怒鳴れるわけもなく、慰められるわけでもない。

こんな時にどんな言葉をかければいいのかわからないくらいには、角谷杏は人生経験が浅かった。

 

「エミリちゃん」

 

それを突き破ったのはみほだった。

 

「みほ……」

「えいっ」

「あいた!?」

 

ポコン!

みほがエミリの頭を軽く小突いた。

杏が目を白黒させる。

エミリも同様にみほの行動にあからさまに困惑していた。

 

「み、みほ? なにを」

「謝るのは私たちじゃなくて、愛里寿さんでしょ」

「え……」

「少なくとも、私に謝ることなんてない。 エミリちゃんにも、人には言えない悩みがあって、想いがあって、その中で必死で考えて、苦しんで、その結果出した答えなんだよね。 だからむしろ私が謝らなくちゃいけないの。 そんなエミリちゃんのことを少しもわかってなくて、いつも助けられてばかりだったから……だから、今更一つくらい迷惑かけたって、エミリちゃんが謝ることなんて全然ないの」

「……うんうん、そだね。 私も天翔ちゃんにはいろいろお世話になったよー」

 

強く、温かい言葉だった。

目を瞬くエミリの頬にそっと手を添えて、みほは真っ直ぐ見つめながら説いた。

 

「だからね、謝るのは愛里寿さんだけでいいと思うよ? 愛里寿さんは今、きっとエミリちゃんに拒絶されたと思って苦しんでる。 でもそれは違うって、勘違いさせちゃったことを謝って、しっかりと納得するまで説明してあげれば、きっとまた誤解を解いて仲直りできるよ。 エミリちゃんも、そうやって私とエリカさんを仲直りさせてくれたよね」

「みほ……」

「大丈夫だよエミリちゃん、私、勝つ! 勝って大洗を守って、愛里寿さんとエミリちゃんを仲直りのためのお話を出来るようにする! エミリちゃんが私をそうやって助けてくれたように、今度は私がエミリちゃんを助ける番だから!」

 

 

「……はぁー、ずるいなぁ、みほは」

みほの言葉にしばらく茫然自失としていたエミリは、少しだけ苦笑してからコーヒーを一気に飲み干した。

もう、冷めてるだろう、あまり美味しくはなさそうだ。

 

「……うん、そうだ、そうだよな。 天翔エミリ……今回くらいは、この試合が終わるまでは……変なこと、全部忘れよう」

「え?」

「ありがとうな、みほ。 目が覚めた。 そうだよな、謝らなくちゃな、愛里寿に」

 

顔を上げたエミリは、すっかり元のエミリだった。

嬉しくなって笑うみほと杏に、しかしまたも表情を引き締めたエミリはピシリと言い放った。

 

「しかしそれはそれだ。 お……私は、やっぱりどうしても今回のことに責任を感じてしまってる。 理解してるはずなのに感情が納得できてない」

「あぁー、それわかるかも……」

「だから……うん、誓いを立てるよ。 みほ、会長、何かカッターみたいなものはないかな」

「え?えっと……これなら、あるけど」

 

みほは懐の文房具入れから、やや古ぼけたカッターナイフを取り出した。

少し色褪せているが、刃の方は新品同様だ、交換したばかりらしい。

 

「うん、少し借りるよ、っと……」

「……って、え?」

「て、天翔ちゃん!?」

 

右手に握ったカッターナイフを、エミリは後頭部の方に持っていく。

そして左手には、長く伸ばして束ねた黒髪を握り、その根元に刃を当てて躊躇なく切り落とした。

 

「なっ、な、な、なにしてんの天翔ちゃん!?」

「エ、エミリちゃん……」

「はは、他人のモノマネだけど、少し重かったかな……みほ、私はきっと、この試合が終わったらまたいつもの私に戻るだろう。 でも、この試合の間だけは……私の変な秘密とか悩みとか、そういうの全部忘れて戦うよ。 そして、この切った髪に誓う。 みほがこの試合を勝つために全力を出すように、私もこの試合、なにがあろうとも勝利に導いてみせる。 それが私がやらかしたこのドタバタ騒ぎの、償いになるはずだから」

 

切り落とされた髪がサラサラと風に乗って消えていく。

いつもなびかせていたつやつやとした黒い長髪が消えて、ガラリと印象が変わってしまったエミリを、二人はしばらくの間呆然と見つめていた。

そして……

 

 

 

 

 

 

 

「……ば、ばかーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

「おわぁ!?」

 

みほの叫びがこだました。

 

「なにしてるのエミリちゃん!? せっかく綺麗に伸ばしてた髪だったのに!あー!あーーー!!」

「そ、そんな叫ぶことなのか!?」

「いやー、天翔ちゃん……前々から妙にさっぱりしてるとこあったけど流石にこれは……えー……もったいなー」

「会長まで!?」

「あーーもーどうしよう、変なふうに切ったから後ろ髪がひどい事に……そうだ!秋山さん! 秋山さんに整えてもらおう! ほらいくよエミリちゃん!!!」

「ちょ、ま、みほ、引っ張らないで……!」

 

 

 

「……いやー、相変わらず仲がいいねー」

 

騒がしく去っていった二人を見送って、杏はため息をひとつ、涼しい空に吐き出した。

先ほどまでに胸の内に溜まっていた不安や恐れは、いつの間にか消えてしまっている。

 

「まあ、あの二人がいればどうにかなりそうだねぇー」

 

そんな軽口を叩きながら、杏も自分の寝床へと足を向けた。

寝不足でコンディション不調なんてアホな姿は晒せない。

今日は、よく眠れそうだった。

 

 

 

「わーーー!!わーーーーーー!! えみりんなんてことしてるのー!? か、髪、せっかくの綺麗な髪ががががががががががが!!」

「沙織さんまでそこまで騒ぐか!?」

「流石にこれはちょっと……」

「天翔さん、私でもそれは引く……」

「そ、そんなに……??」

「……天翔殿」

「あ、はい」

「こんなこと、もう二度としちゃ嫌です……」

「ご、ごめんなさい……」

 


 

「隊長」

「あぁ、わかっている」

 

「いくぞみんな。 一世一代の狩りの時間だ」

「存分に堪能しろ」

 




次回予告
ついに始まった大学選抜戦
今回ばかりは自身の何もかもを賭して勝ちを拾いに行くと誓ったエミリカス。
赤い襟巻きをなびかせた影が戦場を縦横無尽に駆け回る。
『戦車王5A's』
ついに、紅茶の園のあの人がその全力を露わにする。


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Hopes and Panzer's★


【挿絵表示】

菩隈さんからいただいたエミリカス斥候ver設定画
本当にありがとうございます


みそあ

ほれあ

エに・

リし・

がて・

欲も!

し  

い  

・  

・  

・  

!  

 

 

 

「……」

「おおーいエミリちゃん、頼まれてたもの持ってきたよー」

「あっ、ツチヤさん……あの、今何か聞こえませんでした?みほがなんとかって」

「へ? 聞かないけど」

「ですよね、すいません」

 

電話を終えた俺は突然脳裏に響いた声に困惑し、思わずツチヤさんの前でみほエリ、なんていいかけてしまったことに内心動揺していた。

 

(一晩我慢しただけでこれか)

 

そう、昨日の夜断髪した時に俺は迂闊にも、今だけはみほエリを捨てる的なことをみぽりんに口走っていた。

今、生涯をみほエリに捧げるというゲッシュを破った反動で、俺の中に潜むみほエリを求める魔物が騒ぎ出してしまっている……!

 

順を持って説明すると、俺はこの世界に来て中学一年生になってからは毎日過剰なほどのみほエリウム*1を補給することができていた

それの供給を絶たれた例の引越し以降慢性的みほエリウム不足に陥り、それを補うために俺は常に脳内でみほエリ妄想を生み出し続けることでなんとか耐えてきたのだ。

 

まあ、つまり、早い話が供給不足である。

みほエリ欲しい、みほエリないの?早くして。

昨日からわずかたりともみほエリ妄想を摂取していなかったせいで早速こんな具合である、これは試合にも影響があるのでは?エミリは訝しんだ。

 

『みほエリ……! みほエリ……!』

(ぐっ、また聞こえた…! 今度は聞き間違いじゃない………!)

 

こうなってしまったらもうみほエリ妄想で脳内を埋め尽くして三十分はじっとしていないと治らなくなってしまう。

しかし当然そんな暇はないのでなんとか衝動を飲み下して、俺はツチヤさんからワイヤーロープ付きの大きな鉄板を受け取った。

 

「どれどれ……うん、確かに注文通りの品です、ありがとうございます、お忙しい中」

「いいっていいって! 普段から力仕事手伝ってもらってたし。 でも本当にいいの?20キロ近くあるよ?」

「この程度軽いもんです」

 

湾曲した大楯のような鉄塊を受け取った俺はそいつを腰部ハンガーに取り付けた。

このハンガー付きベルトも自動車部の面々に作ってもらった装備で、クッソ重い物体を取り付けてもしっかり揺らさず固定してくれる逸品だ、また今度なんかいいものを差し入れしよう。

 

「さて、そろそろ試合開始だね、行かないと」

「そうですね。 うーん、こいつは骨が折れそうだ」

「物理的に折らないようにね、みんな心配してるよ、エミリちゃんは無茶をしすぎだって」

「無茶したつもりはないけどいつの間にか、こう、ね」

「うーん不安だなー……ダメだと思ったら逃げるんだよ」

「はい」

 

ダメだと思ったら逃げるんだよって戦車道で発していいセリフじゃないと思うんですけど……いや言うか、普通に。

たとえばセンチュリオンにCV33でご対面した時とか、無論逃げるのはセンチュリオンだ(ドリタン感

 

ツチヤさんと一緒に試合前の挨拶を行う平原に向かう。

しかし、無駄に広いな、ここ。

暫く歩くうちにメンバーが集合している場所にたどり着く。

もうちょっとこう……目印のある場所というかそういう手心を……

 

「あ、来た来た」

「天翔殿っ。 西住殿がお待ちですよ」

「へ?」

 

益体も無い事を考えていたら不意にそんなことを言われて、顔を上げると秋山殿が俺の手をキュッと握り引っ張っていく。

やぁらかぁーい……いやそうじゃなくて何で手を握られてるです(略してISTD)!?

は、はわわわわわわわわなんか心不全がおきそうなんですけぉ!?

 

「西住殿!」

「ありがとう、優花里さん! さぁ、エミリちゃん行こう!」

「え?行こうって何? え?」

「試合前に、ささっと謝っておこう! 私も一緒に行くよ!」

「?????????????????」

 

早くない?????? 待って??????

え、ちょ、まさか試合前のアイサツのタイミングでもう愛里寿と会うの?

まままままままってこころのじゅんびががががががががががが、い、いかんれれれれいせいになれ俺!

そ、そうだよな、謝るのは早い方がいいよな!

みぽりんやエリカは頑張って謝ったぞ!

自分の番になったら拒否するとはあかんやろ、頑張れ天翔エミリ30超えJK!

 

ガタガタと震える歯の根を必死に押さえ込みながらみぽりんに引っ張られていく。

そしてろくに歩かないうちに、愛里寿の元へとたどり着いた。

 

「さ、エミリちゃん」

「あ、あぁ」

「……」

 

愛里寿のガラス玉のような目がこちらを見据えている。

え、怖い……怖くない?

さながら蛇に睨まれた蛙のように、エピオンに張り付かれたケルディムのように俺の頭の中は完全に真っ白になった。

でもあかんやろ、何か言わなくちゃ! 地雷は踏まないであろう何か!! ナニカ!!!

 

「愛里寿、その……えーと……」

「無理しなくてもいいよ、エミリ」

 

アイエ?

 

「時間がないときに何か言おうとしても混乱しちゃうよ。 だから今はいい」

「え、えーと」

「コレ終わったらたくさん時間はあるよ。 ……いくらでも。 だから、後のことは後で話そうね」

 

ニコリと笑った愛里寿は、俺を諭すようにそう言った。

 

「え、えーと、コレっていうのは……」

「ん? この茶番劇のことだよ」

「なっ……」

「だって、そうでしょ?30対8の殲滅戦なんて。 試合じゃなくて、コレは見せしめだよ。大洗の人たち、かわいそうだね。 でも私も大変なんだよ、エミリ。 こんな試合受けちゃったせいで、世間から色々言われてるの。 なにも知らないくせに、ね」

「お、おう……」

 

絶句するみぽりんを他所に俺に朗らかな笑顔のまま語る愛里寿。

なんだろう、この、なに?素の愛里寿でも仮面愛里寿でもないこの、なに?

あ、これ怒ってるわ(確信)。 ていうか言外に俺が養子入り断ったからこんなことになったんやで(憤怒)みたいな感じで怒り狂ってる。

アイエエエエエ恐怖……しめやかに失禁しないのはカケラ程度に残ったプライド、ではなくそんなことしたら人としてアウトだからである。

そしたらもうみほとエリカの前に顔だせんからね……ってそんなこと考えてる場合じゃねーぞホイ!

 

「そ、その、愛里寿、本当に私のせいで、迷惑をかけて……」

「迷惑なんかじゃないよ。 少し面倒なだけ。 ……でもね、エミリ。 一つだけ、心の準備はしておいて」

「う、うん?」

「試合が終わったら、大洗学園艦はなくなっちゃう。 そしたら、エミリは帰る場所がなくなっちゃう。 ……そしたら私が、引き取ってあげるからね」

「あ、それは……」

「ね?」

「……うん」

『両チームの隊長、試合前の挨拶を行ないます、来てください!』

「……じゃあ、行こうか」

「」

 

……はい、押し切られました、ごめんなさい。

いやまあ引き取る云々は置いといて、13歳に圧倒される三十路って……生きてて恥ずかしくないのか……

 

「ごめん、みほ、私結局なにも……」

「……」

「……みほ、みほ?」

 

とにかく無様を晒してしまい気遣いを無下にしてしまったことをみぽりんに謝罪する。

しかし返事がないので見上げてみると、なんだか顔色が悪く、しかも何か考え込んでいる。

あ、我しってる、これこの後やばいことが起きる奴だ、みぽりんの悪い予感は当たる(経験則

 

「……エミリちゃん、ごめん。 私、仲直りのこと気軽に考えてたけど……その……笑顔のまま終われる解決法が全然見えない」

「ほんとやめてくれみほ頼むから」

 

だから、みぽりんがそういうこと言っちゃダメでしょーが!! やめてハラワタぶちまけそう! あっ

 

……セーフ、飲み込んだ。

 


 

「それではこれより、大学選抜チーム 対 大洗女子学園の試合を始めます!」

 

ついにこの時が来たか……

愛里寿ショックから立ち直る時間もないまま俺は他チームメイトが集まっていた場所へと戻り、審判たちの前で向かい合うみほと愛里寿を眺めていた。

 

そうだ、ついに始まるのだ……

劇場版ガールズ&パンツァーの最大のメインイベント、大学選抜チーム戦が……俺の、ガバのせいで……ウゴゴゴ

 

30vs8、まあ、もちろんこのまま始まったら勝てるわけのない戦いだ。

というかそもそも、愛里寿が言っていたようにコレは戦いですらない、まさしく見せしめ。

事実世間からは文科省に対して凄まじい勢いで非難の声が浴びせかけられておりその対応でてんやわんやだとか。

それでもなお強行するあたり、何としても大洗学園艦を廃校にしたいんだろうなあ、大人って大変。

 

だけど、もちろん、このまま踏みにじられるわけでは終わらないのだ。

なぜならみぽりんには、たくさんの友達がいるから、な。

 

「両者、礼!」

『……よろしくお願いし』

『待ったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

うぉ!? すげえ音量……調整ミスかな?

なんか思ってたよりもだいぶ凄まじい爆音が鳴り響いた。

俺も周りの面子もおもわず耳を塞いで何事かとその方向へと目を向けると……

 

「あれは……黒森峰の戦車」

「ティーガーⅠ……」

「まほ隊長のだな、ていうか顔だしてるし」

 

そう、そこにはキュラキュラとキャタピラを走らせながらこちらへと向かってくる黒森峰カラーの戦車部隊があったのだ!(知ってた

片耳を塞ぎながらメガホンを睨みつけているあたりやっぱり調整ミスったくさい、あれ、あの人こんなにお茶目だっけ……?

 

「お姉ちゃん、なんで」

「驚かせてすまなかったな、みほ」

 

そのままみほのそばに戦車をつけた黒森峰の一団は、戦車から降りてみほへと駆け寄った。

しかし、その身に纏うは大洗の制服。

すなわち、それは……

 

「遅れてしまって申し訳ない、大洗女子学園所属、三年、西住まほ、増援に駆けつけた」

「同じく、大洗女子学園所属、逸見エリカ!」

「同じく、大洗女子学園所属、赤星小梅!」

 

その後もぞろぞろと降りてきた面子がピシリと敬礼をする。

うーん、かっこいいぜ。

事態が飲み込めず呆然とする面子をよそに、流石に挨拶しておくかと俺は一人旧友たちに歩み寄る。

 

「おーみんな、ひさしぶり」

「あ、エミリちゃん!」

 

かつて同じ戦車に乗り込んでいたいつめん10人たちが俺に駆け寄ってきて、似合う?似合う?みたいなこと言いながら大洗の制服を見せつけてくる。

眼福だね……ピロシキ案件では?

 

「エミリ」

「あ、まほ隊長。 ずいぶん派手に登場しましたね」

「実は間に合うかどうかの瀬戸際だったんだ」

「え〜本当ですか?」

「ふふ、本当だ……エミリ」

 

そこまで言ったところで、なぜかまほ隊長はがしりと、俺の手を握ってきた。

え、な、なに?

 

「かつて、私は隊長という立場でありながら、君を守ることができなかった。 自らの不甲斐なさに呆れ果てた。 その上、後のことで君に散々助けられて……思えば、先輩らしいことをなにもしてあげられなかったな」

「いや、そんなことは」

「だから、約束しよう。 今日の試合、たとえなにがあろうと、西住まほの名にかけて君を守ろう。 存分に頼ってくれ」

 

イケメンかよ……

俺の目を見つめてそんなことを言ってくるまぽりんに、内心罪悪感が滲み出てきた。

拙者普段から欲望のままに生きてるからそういう真摯な態度で謝られたりすると普通に気まずい……

 

「エミリ、なんだか大変なことになっちゃったわね」

「おお、エリカもありがとうな」

「いいのよ。 ていうか、みほばっかに任せてたら不安だからね。 なんせ夢中になったら目の前のことしか見えない猪突猛進タイプだし」

「ひどいよエリカさん!」

 

あっ、たったいまみほエリウム摂取したわ(恍惚

さっきまで漂っていたどんよりとした空気は一気に吹き飛び、みぽりんもまほ隊長やエリカに声をかけられて一気に気分が回復したようだ。

 

『ちょっとちょっとーー!まだ本番はこれからだよーー!』

 

しかもそう、これだけじゃないのだ。

再び声が響いた方へと視線を向ければ、サンダースの戦車部隊が、プラウダの部隊が、聖グロが、知波単が、アンツィオが、そしてなぜか継続までもが勢ぞろいしているじゃないか!(知ってた

 

『今から私たちもチームメイトだから!』

『もう、一番乗り逃しちゃったじゃない!』

『やっぱり試合にはいつのもタンクジャケットで挑みますか……奴と一緒の制服なのは気に入らないものね、気に入らないものね!!』

『大洗諸君、ノリと勢いとパスタの国からドゥーチェ参戦だ! 恐れ入れ!!』

『今日はみなさん、継続高校から転校してきました!』

『お待たせしました!昨日の敵は今日の盟友!!』

 

「……みほ、いい友達もったな」

「……うん!」

 

涙ぐみながらそれに両手を振って答えるみぽりんをみて、幸せな気分に浸るとともになんというか罪悪感が込み上げてくる。

俺場違いじゃない?ここにいていいの?この名シーンに混じっていい存在じゃなくない?

いや!今はそういうの忘れよう、俺も今はこの連合チームの一員なんだから!!

 

「異議を唱えられるのは相手チームだけです」

 

おっ。 どうやら後ろでは例の悪役メガネ兄貴の苦情をサラリと流して愛里寿に意見を求めるところらしい。

さて、あとは愛里寿がこの急な増援を承認するかどうかだが……おそらく飲むはずだ、愛里寿にも選抜チームの看板としての世間体とかの面で流石にこれは拒否できないはずだ。

まさか、まさか俺が原因でこれを拒否するなんてことは、ことは、ことははははははははははは!!

 

『これでもう、負けた言い訳もできないね』

「……我々は構いません」

 

勝った!!!!第3部完!!!!

内心竜巻スピンガッツポーズを決めながら、その条件を飲んでくれた愛里寿に感謝の意を込めて軽く頭を下げる。

 

 

 

……ところで突然だが俺は耳がいい。

触覚や味覚がやや鈍かった俺はしかし視力や聴力に関しては一般平均よりも結構優れていたりするのだ。

え?なんでそんなことをいきなり言うかって?

……深く詮索しない方が身のためだ。

 

「……ところでエミリ、ずっと気になってたんだがその髪は……」

「あ、イメチェンです」

「イメチェンか」

「はい」

 

やめてみぽりんジト目で俺をみないで、あぁ! エリカに耳打ちしないで!

 

 

 

さて、お互いのチームが拠点へと赴き作戦会議のお時間である。

作戦立案に関しては他の追随を許さぬほどのポンコツさを誇る俺は、とりあえず長旅をしてきたアンツィオのCV33の最終メンテのお手伝いでもしておこうとそちらへ足を向けて。

 

「少しいいかい? 君が、天翔エミリだね」

「へ?」

 

振り向くと、ミカがいた。

……え、なんで?

 

「ふんふん、へぇ……ふふ、なるほど」

「え、はい、なんですか?」

「……ひとつお願いがあるんだ。 コレを貸してあげよう」

 

そう言ってミカが手渡してきたこれは……なに?これ

 

「これは指向性マイク。 これを使って一つ、仕事をこなして欲しいのさ。 できるだろう? 『島田の養子の話を持ちかけられるほど』らしいじゃないか」

 

……

 

……

 

……なんで????

 

*1
みほとエリカがイチャイチャする際放出されるみほエリストの必須栄養素




「ガルパン推し百合カプ三銃士を連れてきたよ」
「ガルパン推し百合カプ三銃士!?」
「体格差に反して実は主導権はカチューシャ、に見せかけてやっぱりノンナ、ノンカチュ」『変態からシリアスまで幅広い』
「王道中の王道、公式からの供給過多でamsから光が逆流するみほゆか」『名前で呼び合ってるのほんと尊い』
「マイナーとか言った奴表出ろ、まほミカ」『言うほどマイナーではない』

いまからエミリカスにこのどれか一つを選んでもらい、残り二つを捨ててもらう
エミリカスはどうなる?
1.エラーが起きて死ぬ
2.死んだ方がマシだと首を切って死ぬ
3.死ぬ
※回答は胸の内に秘めておきましょう


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ブラストパンツァー

あなたを詐欺罪と百合カプ破損罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をこんなクソムーヴでみほエリやまほチョビ破壊したからです!覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。ピロシキの準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!地獄にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!


「それでは作戦会議を始めます」

 

 自軍陣地のテント内、集合した各高校の隊長たちが集まったその中で、西住みほがそう告げた。

 その声を聞いた途端に隊長たちはずらりとその視線をみほに向け、そして今はまだなにも書かれていないブラックボードに滑らせる。

 

「ではまず……」

「あぁ、その前に少しいいかな?」

 

 早速作戦会議が始まろうとしたところで、みほの声を遮るものがいた。

 全員が視線を向けた先にはチューリップハットを被ったジャージ姿の選手、誰も本名を知らない摩訶不思議な選手、ミカだ。

 

「どうかしましたか? まだなにも言ってないんですが……」

「彼女にも同席してもらおうと思ってね」

 

 そう言うと、全員の注目を浴びる中ミカは懐から一つの無線機を取り出した。

 机の上に無造作に置かれたそれのスイッチをカチリと入れると、ザーザーと音がこぼれだす。

 

「これなんなのよ?」

「もうすぐわかるさ」

 

 砂嵐のテレビのように意味のない雑音を漏らす無線機に、ミカがそっと手を伸ばした。

 その白魚のような指先が無線機のつまみを少しずつ回していく……

 

『た──────カー────』『きょ─はも────』『しか────い──なん──』

「ちょっと、これなんなのよ! どこの誰と繋がってるの?」

「……」

 

 エリカの脅すような声に、ミカは沈黙を返した。

 それからしばらくはノイズ混じりの声に全員が困惑を表す中、少しずつ雑音が取り除かれていきクリアな音声が流れ始める。

 

「繋がったみたいだね……」

『……みんな、これ以上の質問はなしよ。 隊長の言う通り、カール自走臼砲はこのポイントに配置、まずは敵の一部をこのポイントに先取りさせて……』『スンスン……うん?』

「……まさかこれは、選抜チームの作戦会議を盗聴……?」

「What!?」

 

 ケイがまほの推測に驚愕の声を漏らした。

 それは他の面々も同様だ。

 涼しい顔をしたミカに全員が詰め寄った。

 

「ちょっと! これどうやって盗み聞きしてるのよ!? 盗聴器の使用は下手をすれば一発で退場モノの……」

「盗聴器は使用してないよ。 これは少し現地員に盗み聞きをしてもらってるのさ」

「盗み聞きって、向こうとこっちの陣地、何キロ離れてるんだ……? 乗り物なんて見つかるから使えないし、人の足でこの短時間で向こうの陣地にたどり着くのは……」

 

 アンチョビがそこまで言って、全員押し黙った。

 そうだ、一人だけいる。

 この大洗連合チームの雑多なメンバーの中に一人だけ……時速30kmで2時間は走り続けることのできる正真正銘本物のミュータント。

 

「まさか、エミリちゃんを!?」

「試合前に少し交渉してね、ツテで手に入れた小型指向性マイクと無線機を繋げたものを渡してある。 それを使って向こうのブリーフィングに聞き耳を立てさせてるんだ」

「おまえー! 天翔はウチの学校の生徒だぞ! そういうときは一言断りを入れろ断りを!!」

「……」

 

 ポロロン、とカンテレがなった。

 これ以上は暖簾に腕押し糠に釘、全員があきれたようなため息を漏らした後に、ダージリンが続けた。

 

「過程はどうあれ、これは値千金の情報ですわ。 こんな言葉をご存知かしら……A little knowledge is a dangerous thing. So is a lot」

「……アレキサンダー・ポープでしょうか」

「その通り。 わずかばかりの知恵は危険で運任せのものだ……我々は相手のことについてまるで知りません、ここで彼奴が情報を手に入れてくるというのなら利用しないではないでしょう。 不本意ですが! 不本意ですが!!!」

 

 ノンナの返しにご機嫌に返して即座に不機嫌真っ只中になったダージリンを全員無視した。

 エミリが関わった時のダージリンは日にちが経ったローストビーフのように手を出さないのが良い存在だ。

 

「……そうだな、今は口論するよりも、天翔がもたらしてくれる情報に耳を傾けるべきだ。 先ほどの一言からも恐ろしい単語が混じっていたぞ」

「そうです! カール自走臼砲とか!?」

「カール自走臼砲!!! ……とは?」

 

 仕切り直した各隊長たちは、無線機から聞こえてくる大学選抜チームのブリーフィング内容に耳を傾けた。

 敵戦車群の組み分けから、想像だにしていなかった超兵器『カール自走臼砲』の配置ポイントや、それを用いた作戦について。

 

 みほは、知らず知らずに固唾を飲んでいた。

 敵チームが立てていた作戦は、今しがた自分が作戦の指針として全員に提案しようとしたものに対して完璧な対応が敷かれていたからだ。

 

(この盗み聞き作戦がなかったら、その時点で負けは決まっていた……)

 

 大学チームの、島田愛里寿という怪物の存在に、みほは震えた。

 しかし、負けるわけにはいかないと気合いを入れ直す。

 幸いにも現状は、敵チームの作戦を全て傍受したおかげで主導権はこちらが握っている。

 エミリとミカのおかげで。

 

『……それではこれで最終ブリーフィングを終わります。 全員所定の位置に』

「これで終わったみたいね」

「うん」

 

 最後まで敵チームの会議を傍受し終えた面々は、闘志を瞳に宿らせていた。

 ここからどのように、相手チームを効率よく撃破する作戦を短時間で編み出すか、実力の見せ所だ。

 

「では、これから今の情報を元に対抗策を考えます! 何か意見のある方は積極的に」

『待って』

 

 シン、とテント内が静まり返った。

 今度は誰だ、と全員がメンバーに視線を走らせるが、今の制止の言葉に全員心当たりがない。

 

 否、一人だけ。

 

 ミカだけはその涼やかな笑顔を崩し、無線機を睨みつけていた。

 

『スンスン……スンスン……』

『あの、隊長どうされましたか?』

『黙って。 ……そこ、かな?』

 

 ズパンッ! と鋭い炸裂音が無線機から聞こえて全員が思わず跳ね上がった。

 突然の発砲行為、恐らくは天翔エミリに対するペイント弾を発砲した音だ。

 いったい、なぜ? 

 

 まさか。

 全員が冷や汗を流す。

 

「まさか、エミーシャ見つかった……」

 

 カチューシャの声に全員が、押し黙った。

 なるほど、確かに敵チームの重役が集まるテントに聞き耳を立てていたなら、見つかってもおかしくはない。

 考えたくない可能性だ。

 願わくばこのまま見つからずに終わってくれれば、そう思わずにはいられない。

 そう願う間にも無線機の向こう側からは絶え間なく発砲音が聞こえてくる。

 

『隊長! おやめください! 侵入者なんてありえません。 この会議を始める前にテントの中身は全てひっくり返し、テントの周囲には見張りがずらりと並んでいます。 この状況で侵入できる者などいるはずが』

『見つけた』

 ズダダダダダン!!! 

『わああああああ!!!』

 

 

 

『……まさか、地面にトンネルを掘って地下から盗み聞きしてるなんて』

『ア、アハハハハ、グーテンターク?』

『ふふ……』

 

 

 

『捕まえて!!』

『おうわああああああああああああああああああああああああああああ──────』

 

 その叫びを最後に、無線機からはノイズしか聞こえなくなった。

 

「……」

「……」

「……え、えーっと」

 

 苦し紛れに声を零したアンチョビも、しかしその後が続かない。

 地面を掘って直下から盗み聞きするエミリと、それを見破ってしまった愛里寿に全員がドン引きしていた。

 

「……天翔の盗み聞きがバレた以上先の敵チームの情報を当てにすることはできないな」

「結局わかったのはカール自走臼砲とかいう反則兵器があるってことだけかー……」

「なぜ地面の下の同志エミーシャを敵の隊長は見つけられたのでしょう……」

 

 全員が全員困惑しつつもなんとか立て直しを図る中、ミカは複雑そうに顔を歪めていた。

 そりゃそうもなるわ。

 

 

 

 ──────

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハアッ、ハァッ、ハァ──────……」

 

 ゼエゼエと荒い呼吸を整えながら、小高い丘の岩陰で必死で呼吸を整えていた。

 人生で生まれて初めて全力疾走した気がする。

 隠しておいたワイヤー鉄板も回収して追撃を仕掛けてくる敵戦車六輌を相手に飛んで跳ねて駆けて飛んで、凡ゆる手段を用いてなんとか追手を撒くことができたが、代償は大きかった。

 無線機をなくしてしまったので味方チームと連絡を取ることができず、逃げてる最中に粉々に砕け散った携帯から電話をかけることもできない。

 うぅ、おれのにっき……

 もはや俺に残されたのは秋山優花里殿からもらった赤いマフラーとレオポンさんチーム謹製のワイヤー鉄板だけである。

 やばい。

 

「てかここどこだよ……」

 

 戦闘領域から離脱してはいないだろうが(無断で離脱しても爆発はしない)必死で逃げ続けたせいで俺は完全に方向感覚を失ってしまっていた。

 土地勘無いねんホッカイドーとか……。

 ここからどうしよう。

 とりあえず物陰に隠れながら味方と合流するしか無いだろう。

 連絡手段がない以上味方に情報を送ることもできない、最低限敵の動きを把握しながらまずは誰かと合流して無線機の都合をつけてもらわなければ……

 まずはここから移動しよう。

 岩陰から顔だけ覗かせて視界内に敵がいないことを確認して駆け出す。

 この平野は身を隠す場所が少ないので森や深い草むらまで離脱しなければ。

 

 

 

 ──────そうして逃げ出してからすでに20分が経過した。

 

「Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu(ピー)k!!!!!!!」

「いたぞ! 木の上だ!」

「撃て撃てー!」

 

 逃げていた、とにかく必死で逃げていた。

 どういうわけか敵チームの軽戦車がどんなに隠れて離れても延々と俺に追撃を仕掛けてきやがってこのままでは合流もクソも無いんですけぉ!!!!! 

 

「このまま本隊から孤立させ続けろ! 連絡手段は完全に失っていると島田隊長からのお達しだ!!」

「仕留めた暁には特別ボーナスで3ヶ月学食無料だって! ヒャッハ──!!」

「いやなんで島田隊長あの斥候が逃げる場所こんな正確に予測できるの……怖い……」

「この俗物どもがぁ!!」

 

 このままでは人に品性を求めるなど絶望的だ!! 

 鉄板のヘリを叩きつけてへし折った木で足止めを狙うが無限軌道の前には無意味!! 

 流石に軽戦車を相手に追撃を振り切るのは不可能だ、このままでは負けちゃう!! 

 あかんやろそれはあんな大口叩いといて試合開始後速攻で落とされるとかそれは!! 

 

「もうこうなったら誰でもいいから助けてくれぇ!!」

 

 恥も外聞もなく木の上を必死で飛び回りながら俺は叫んだ。

 いやこのままじゃ本気で不味いわ、なんかいい作戦はないか……

 

 と、その時。

 この前のエキストラマッチで俺が散々苦渋を舐めさせたあの車両が目に入った。

 間違いない、あれは聖グロの! 

 

 

 

 ──────

 

 

 

「それでは、コッツン作戦を開始します。 みなさん、パンツァーフォー!」

 

 エミリが必死で逃げ回っているその少し前、カール自走臼砲という脅威を先に知ることができた大洗連合チームはいよいよ作戦を作り終えて進軍を開始していた。

 全ての車両が足並みをそろえて、自分たちの役割を果たすために無限軌道を稼働させる……

 たった1輌の例外を除いて

 

「全! 速! 前! 進! ですわ────ー!!!」

「!? ローズヒップ、何してるの、戻りなさい! ローズヒップ!」

「いえ、ローズヒップさんはそのまま指定の位置に向かってください」

「みほさん! どういうことですの!?」

「あ、えーと。 足の速いローズヒップさんのクルセイダーにエミリちゃんを救出に行ってもらいますので……」

「無線機も携帯も通じないから場所はわからないのでしょう!?」

「えーっと、こう、ティンっときたので」

「」

 

「己、エミリカスぅ……!」

「ダージリン、流石にそれは八つ当たりではなくて?」

 

 

 

「待たせましたわ!!」

「ローズヒップちゃん!!」

 

 天翔エミリ、ローズヒップ車に合流。

 

 大学選抜戦、戦闘開始。




29話 俺の屍を捨てていけ あとがき

次回予告
ついに始まった大学選抜戦
今回ばかりは自身の何もかもを賭して勝ちを拾いに行くと誓ったエミリカス。
赤い襟巻きをなびかせた影が戦場を縦横無尽に駆け回る。
『戦車王5A's』
ついに、紅茶の園のあの人がその全力を露わにする。



ローズヒップ「私のことでしたわ!」
ダー「」


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EMIRI : SHADOWS DIE TWICE

「しつこい」
「お前は本当にしつこい飽き飽きする、心底うんざりだ」
「口を開けばみほエリみほエリみほエリみほエリと馬鹿の一つ覚え」
「みほエリに限らずお前の手でCP成したこと一度もないだろう」

(°д°)

「お前どれだけの世界線でどれだけの数のチャンスをふいにしてきた? わかるだろお前じゃもうみほエリはなさないんだ」

(°д°)<お前はなにをいってるんだ?

「いい加減自分のバカさ加減を自覚しろと言ってるんだ」

「なにも、難しく考える必要はない」
「えーと本編に加えてまほルートノンカチュルート秋山殿ルート継続ルート下半身付随ルートアンツィオルート冷泉ちゃんルート西住ルート……三次創作も加えるとヤバイな…とにかく惨敗だ、ただの一つの勝利もない」
「お前には根本的に作戦を成功させるだけの知能も運もないといってるんだ。 能力も天運もないのに目標が達成できるわけないだろう」

「普通こんな惨状になる前に諦めて普通の転生者人生を楽しむものだ、お前はなぜそうしない?」
「理由は一つ、お前は異常者だからだ」







 通話を終了させ、携帯を懐にしまう。

 電話越しに聞こえてきた声は、思いの外元気なものだった。

 それにひとまず安心しながら、指定の席へと向かう。

 

「こんにちは、先日ぶりですね」

「ええ、そうですね」

 

 待っていたのは、島田流の家元である島田千代。

 今回の花壇では少なくない苦労をかけた相手であるが、遠慮というものは不要である。

 こちらも苦労は背負っているし、何よりそういう間柄ではない。

 

「いよいよ始まりますね」

「そうね」

 

 戦力差、8対30。

 もはや試合の体を成していない、公開処刑と呼んだ方が正しい見せ物(ショー)

 そして、その処刑台に立たされる側に、自分の娘と、娘のために汚名を被ったあの子がいる。

 もう間も無く試合が始まり、そして彼女たちは成す術もなく蹂躙されてしまうだろう。

 

 このまま、試合が始まるのであれば。

 先日、もう1人の娘が手渡してきた書類を思い出して、少しだけ唇が吊り上がる。

 

「ねぇ、大洗の方の選手で、天翔エミリって子を知ってるかしら」

 

 と、この後起きるであろう奇跡に密かに期待を膨らませていると、隣からそんな言葉をかけられた。

 

「どうせ、知ってることを確信してるんでしょう」

「さっきの電話、あの子と話してたのでしょう。 少し聞こえました」

「盗み聞きとは趣味が悪いわね」

 

 嫌味で返してやると、やはり千代はクツクツと笑った。

 この何でもお見通しと言わんばかりの振る舞いのせいで学生時代は敵も多かったことをわかっているのだろうか。

 

「実は私、あの子を養子に迎えようとしたのよ」

「は?」

「断られちゃったのだけど」

 

 いきなりの衝撃の告白にちょっと言葉が詰まった。

 ようし、ようし……養子、のことだろう、迎えるって言ってたし。

 

「何でそんなことを」

「……愛里寿が、喜ぶと思って……あの子、本当にエミリちゃんに懐いていたから。 初めて出会った日からというものの、いつもその話をするのよ」

「だからいっそうちの子にしようと。 発想のスケールが違うわね」

「まぁさっき言ったように、一度断られちゃったんだけどね」

「……?」

 

 一度、ということは何度も話を持ちかけたのだろうか。

 実際彼女の戦い方は島田流の理念にもうまく噛み合っていると思う、勧誘というレベルならそれはおかしくないしむしろ納得がいくものだ。

 だが、養子として、そこまで執着する理由は……

 

「……あら」

「む」

 

 ふと、高らかに鳴り響いた声にモニターの方へ目をやると、大洗の制服を纏った上の娘が画面いっぱいに映し出されているところだった。

 

 おそらく、日本中が注目する試合が、今から本当の意味で、始まる。

 世間話を切り上げて、私たちは共にモニターへと注目した。

 

 

 

 願わくば……

 

 

 

(大洗連合が、勝ちますように……)

 

 

 

 ***

 

 

 

「おウサギの耳みたいで可愛らしいですわ!!」

「ちょっとやめないか、ローズヒップさん」

 

 ガタンゴトンガタンゴトンと、激しく振動する狭苦しい車内の中で。

 先ほどまで複数の軽戦車から死ぬものぐるいで逃げ続けていた俺は、白馬の騎士よろしく颯爽と駆けつけたローズヒップ率いるクルセーダーに引き取られて現在平原を爆走中だった。

 追手? やっこさんら全員ぶっちぎったよ。

 クルセーダーの快速すごいですね。

 

『エミリちゃん! 大丈夫!?』

「ああみほ、だいじょーぶだ怪我ひとつないぜ。 逃げてる最中無線機落としちゃって連絡取れなくなった、ごめん。 あと携帯も世にも珍しい金属のひき肉になった」

『そっか、よかった……』

「ふわふわですわ!」

「ちょっとやめないか」

 

 無線から響いてくるみほの声に応答しながらも、俺は頭上から髪を弄ってくるローズヒップを何とかいなそうと試みる。

 しかし狭い車内では俺の居場所がローズヒップの席のそばしかなく、残念ながら逃げることは叶わない。

 ピロシキはまぁ、とりあえず後だ。

 

『天翔さん、どうも。 継続のアキです。 ごめんねー、ミカの無茶振りで大変な目に……』

「いえいえ、おきになさらず。 無茶には慣れてますから」

『黒森峰の頃からは考えられんな』

『エミリ、そっち行ってから随分はっちゃけたわよね、戦車道ではいつも堅実だったのに』

「それらの責任はみほに押し付けます」

『えぇ!?』

 

 くりくりと髪の毛をいじくり回されるこそばゆさに耐えながらも、無線から聞こえてくる様々な声に何とか返答する。

 さて、じゃれ合いはともかくそろそろ本題に入るべきか。

 

「さて……みほ、私は今からカール自走臼砲を粉微塵にしてこようと思うんだけど許可をもらえるかい?」

『は?』

『うん、いいよ』

『ええぇぇ!!?』

 

 俺とみほの問答に、無線の向こう側から大量の叫びが聞こえてきた、まあ、そうなるな。

 

「驚くほどのことじゃありませんよ。 今の私たちにとってカール自走臼砲の撃破は最優先課題です」

『それはわかりますわ』

『そうね、排除しないとこっちが一方的に行動制限されちゃうし』

「あのー……かぁるじそーきゅーほうって、作戦会議の時から思ってましたけど何なんですの?」

 

 みんなで相談していると、頭上からそんな声が。

 どうやらローズヒップはカール自走臼砲のことを知らなかったらしい。

 

「そうだな……簡単に説明すると、凄まじい火力、死ぬほど鈍足で、10分に一発しか撃てないだめな兵器」

「あんまりつよくないですわ」

「だったはずなのに改良されてどういうわけか自動装填装置が付いてるからとんでもない速度で一撃必殺攻撃をふらしてくる傍迷惑な、もはや戦車とも呼べない代物さ」

「……? 戦車でないならなぜこの試合に出てますの?」

「なんとしても大洗廃校させたいおじさんが敵チームの戦力に無理やりねじ込んだのさ」

「ずっこい!」

「どうどう」

 

 ローズヒップを宥めながら、とりあえず思案する。

 まず俺のスタンスとしては、カール自走臼砲は一刻も早くこの世から消し去るべき危険物である。

 だって怖いもん。

 作中だとアレのせいでけが人が出ると言ったことはなかったけれど、あの砲弾が万が一直撃したら普通にヤバイだと思う。

 

 なんというか、人が乗ってる乗り物に行っていい仕打ちじゃない。

 

 アレで万が一誰かが怪我したりトラウマ植え付けられたりとかそういうことを考えると最優先目標であるのは確定的に明らかだ。

 

『それに、あんなの放置しておいたらその射程範囲内だとうかつに戦えないわ!』

『こちらの位置を把握された場合、一方的に砲撃されてしまいますからね。 とにかくなにがなんでも破壊して、条件をイーブンにしなければなりません』

 

 カチューシャとノンナの言う通り、生命的な意味での危険性に加えて戦術的に考えてもめちゃくちゃ厄介だ。

 

 あの四次元ポケット自走臼砲は豆まき感覚で砲撃してくる。

 それらの脅威から身を守るには射程圏内では一切戦闘しないか、近距離のドッグファイトに持ち込まなければならない。

 こちらだけ一方的に戦術を制限されるのは良くない、非常によくないことだ。

 

「というわけで、まずカールを排除することから始めたいわけだ」

『うん、それはわかるけど…天翔ちゃんはどうやってそれを撃破するつもり?』

「中に忍び込んで操作系統を奪って崖から叩き落とします」

『ちょっとまって』

 

 アッサムさんに待ったをかけられた、なんだろうか。

 

『何もかもがおかしいわ、まず忍び込むってなに?』

「先ほども言ったようにカール自走臼砲は泣けるほど鈍足ですから、向こうのチームが最初に配置してたポイントからろくに移動できません。 つまり向こうも絶好の配置ポイントから無理に少し動かすくらいならいっそそこに腰を据えるでしよう」

『私たちが放置するならそのまま火力を叩きつけて、狙ってくるなら厚くした守りで迎え撃つ、かな』

『その場合、カール自走臼砲の守りに裂かれる分敵の攻撃部隊の数が減りますわね』

『しかし、射程圏内での戦闘ではいつくるかもわからない支援砲撃に警戒を強いられる』

『どこまでいってもカールが邪魔ですね』

『余計なちゃちゃいれて……役人め……!!』

 

「だからこそ、私が行く価値がある。 最悪でも敵部隊の偵察ができるし、うまくいけばそのまま1輌撃破、敵の動揺も誘えるだろう」

『エミリちゃんなら、できる』

『そうね! ニンジャなら間違いなくできるわ!!』

『そのニンジャへの厚い信頼はなんなの……』

 

 ともかく、方針は決まった。

 まず俺はこのままローズヒップのクルセーダーで、カール自走臼砲が配置されているであろうポイントに向かう。

 ある程度離れた距離からは単独で行動し、敵チームの偵察、あわよくばカール自走臼砲を奪取しそのまま永遠に使い物にならなくなるように崖下にポイする。

 完璧だ。

 

『ローズヒップ、エミリカスに携帯無線機を貸してあげなさい』

「わかりましたわ!」

「いまエミリカスっていったかフッド」

『私の事をまともに呼ばない仕返しです。 無線機壊さないように、あなた個人に弁償させますから』

「極力気をつけるさ……じゃあ、ローズヒップさん、お願いね」

「まっかされましたわー!!」

『エミリちゃん、気をつけてね』

『天翔殿……無茶しちゃダメですよ』

「ん」

 

 短く返事して、通信を切る。

 さぁ、おそらくこの試合で俺の最高の見せ場になるであろうカール自走臼砲単独撃破チャートをお披露目である。

 転生者なんだから人生1度くらいはデタラメやったっていいだろう……ね? 

 

 

 

 ***

 

 

 

「……ふむ」

 

 というわけで到着したのはカール自走臼砲が配置されている石橋を覆う壁である。

 英傑よろしく壁に張り付いた状態から単眼鏡で様子を確認しているのだが、なるほど、なるほど……

 

「みほ。 こちらエミリ、聞こえる?」

『こちらあんこうチームです、どう? エミリちゃん』

「カール自走臼砲を肉眼で捕らえた。 どうやら護衛に5輌引きつれてるらしい。 なかなか固いな……」

 

 原作だとパーシング3輌に守られていたはずだったが、こちらに作戦を盗み聞きされた影響か護衛の数を増やしているらしい。

 やはり、位置を看破された以上下手に弄らずむしろ餌にするくらいの気概らしい、強気な配置だ。

 

『地形的にも攻め込むには少し厄介だね……エミリちゃん、予定通りお願いしていい?』

「いいとも、やってやる」

 

 俺はグローブを締め直して、ぐっと握り拳を作った。

 制圧自体は実に簡単だ、中に入り込んで武装してる選手たちの武器を全部スクラップにしてやればいい。

 

 選手を拉致するような危険な真似はしてはいけないと言われているがじゃあ体に触れなければいいのだ。

 そもそも反則スレスレのことは先に文科省(むこう)がしでかしているんだからこれくらいは許していただきたい。

 あの狭苦しい車内では俺対策で配備されてる長銃もろくに扱えまい。

 

 制圧した後は選手の方々には自主的に降りていただく。

 その後俺は単独でカールを運転し、谷底にポイだ。

 よもや卑怯とはいうまいな……

 

「では今からミッションを開始する」

 

 その言葉を最後に無線を切り、俺は視線を周囲に向けた。

 護衛についてる戦車の車長たちは、いずれもキューポラから顔を覗かせながら周囲を警戒している。

 

 だが、まぁ視線のだいぶ上にいる、崖に張り付いている人間など簡単に見つけられるはずもなく。

 俺は音を立てないように静かに崖を上り石橋にたどり着く。

 そしたら後は石橋の裏側に張り付いていけば確実に見つからない。

 さながらトカゲのように石橋を渡り終えた俺は一気にカールに接近し、出入口のハッチまで辿りつくことに成功した。

 

 え? マジ? 順調すぎない? 危なげがなさすぎる……

 

 まぁ今更悩んでも仕方がない。

 作戦通り、俺はこのまま突入することにした。

 大声出しながら突っ込んで、慌てふためいてる間に火器全部破壊すればいけるだろう。

 とりあえず最初の難関をほぼ確実に突破したことに安堵しつつ……

 

 ハッチを引き上げ、中に飛びこんだ。

 

「こんちわ──────────ー!!!」

「待ってたよ、エミリ」

 

 

 

 愛里寿がいた。

 

 

 

 

 

「なんで?????????」

 

 その直後、バタンと俺が突入したハッチが閉じられた。

 嫌な予感がする。

 冷や汗を垂らしながら振り向くと、ガッチリと閉じたハッチに、明らかに通常のカール自走臼砲には備え付けられてないめちゃくちゃ頑丈なロックがかかっていた。

 

「……」

「……」

「閉じ込められた!」

「罠だよ」

 

 その直後に、チャキリと音がした。

 今度はなんだ。

 振り向けば──

 

 愛里寿がこちらに銃を向けていた。

 あ、これやば──

 

 

 

 パァン




ファンアートを活動報告にまとめてあります。
是非ご覧ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=231864&uid=217448


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