アインズ&アルベド「「入れ替わってる!?」」 (紅羽都)
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アインズ&アルベド「「入れ替わってる!?」」その1

え?読むの?


「まさか……」

 

「私とアインズ様が……」

 

「「入れ替わってる!?」」

 

その日、ナザリック地下大墳墓に響いたのはどっかで聞き覚えのあるフレーズだった。

 

 

 

さて、その言葉の内容が聞き取れたのならば2人の身に何が起こったか、大凡の人は言う迄もなく理解が出来るだろう。なので説明は省略する。

では何故この様な事態が発生したのかというと、とあるマジックアイテムが原因だ。そのマジックアイテムの名は『強欲と無欲』。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの所有する11のワールドアイテムの内の一つだ。

ワールドアイテムに対抗できるのはワールドアイテムのみ。シャルティアが精神支配を受け、転移先の世界にもワールドアイテムが存在すると発覚した以上対策は必須。つまり、ナザリックを離れて任務を行うことの多い7人の階層守護者に、それぞれワールドアイテムを持たせる必要がある。

だが、言うは易く行うは難し。物事はそう単純な話ではない。何が問題なのかというと、ワールドアイテムの希少性とその強力すぎる効果だ。ざっくり説明すると、敵の手に渡ったら目も当てられないということである。

そもそもワールドアイテムは、蘇生可能な守護者の命とは本来比較にならない程希少なものなのだ。現在は金貨を安定して得る術が無い為、いくらでも蘇生が出来るという訳ではないがまだ貯蓄はある。守護者を守る為ワールドアイテムを失っては本末転倒、そう易々と宝物庫から引っ張り出す訳にもいかないのだ。

そこでアインズの頭を過ぎったのが『強欲と無欲』という名のワールドアイテムの存在だった。かのアイテムはその名の通り、強欲を意味する黒の籠手と無欲を意味する白の籠手の2組1セットのガントレットである。ユグドラシルの頃であれば、この様なセットの装備は確実に一式揃った状態で装備されるシステムになっているのだが、今は少々勝手が異なる。既存のゲーム要素を残しつつも幾分かリアリティが増している現状、ガントレットを片方だけ装備することが可能となっていたのだ。

もしこの状態でも従来通りの権能を残しているのであれば、1つのアイテムで守護者2人をワールドアイテムの魔の手から守ることができる。最悪盗まれたとしても、片方だけであれば脅威にはなり得ない。

 

(これは画期的なアイデアなんじゃないか!?)

 

伽藍堂な彼の頭が余計な働きをした瞬間であった。アインズは意気揚々とアルベドを呼び出しワールドアイテムの実験を始める。そしてアインズが黒い方を、アルベドが白い方を装備した途端に、ご覧の有様である。

その後、アインズは暫くの間難しい顔でガントレットを睨みいじくり回したのだが、何の成果も得られず徒労に終わったのであった。

 

「これはバグなのか?だが、ワールドアイテムには運営もかなり気を使っていて不具合もほぼ無かった筈だ。というか、この世界がユグドラシルのプログラムの不具合まで再現することなんてことは無いんじゃないか?いや、だとしても知っているバグ技は全て修正されてしまっているし、検証のしようがないな……もしも、これが正常な動作なのだとしたら、運営は何を考えてこんなギミックを仕込んだんだ?何かと何かを入れ替える効果だとして、『強欲と無欲』の吸収、貯蓄の効果とは微妙に噛み合わないし関連性が見出せない。それに、アバター同士を入れ替えて一体何の意味があるんだ?もしや、これは本来の効果ではなく何かもっと別の……」

 

アインズは、ブツブツと呟きながら憎っくき運営の陰謀に思いを馳せる。毎度毎度とんでもないことを仕出かす悪名高き運営の思考を読み切るのは、熟練の廃プレイヤーである彼にとっても中々に至難の技であった。

 

ところで、現在アインズはアルベドの姿をしているのだが、その佇まいは普段のアルベドのそれとは似ても似つかないものとなっている。

白魚のような指を顎に当てて思い悩む姿からは、いつもの色情を唆る艶めかしさはさっぱり鳴りを潜めていた。そう、それはまるであのエンディングにしか出てこない例の美女のような、純真無垢な雰囲気を纏った深窓の令嬢を錯覚させた。

一方で、アインズの姿をしたアルベドはというと。

 

「ああ、アインズ様!私は、私は一体どうしたら良いのでしょう!」

 

白骨の指を忙しなく動かしつつ、必死な形相で右往左往していた。その様はまるで出来の悪い下級スケルトン。磨き抜かれた魔王RPによって培った威厳は、台風を前にした灯火のように掻き消されてしまっていた。

だが、慌てるのも仕方のないこと。本来であれば同席することすら烏滸がましい程確固たる身分の差があるというのに、彼女は今主人であるアインズを差し置いて玉座に座していた。出来ることなら即座にその場から身を引き主人の足元に五体投地をしたいのだが、この身体は自身のものではなく主人のもの。中身がどうあれ主人に無様な格好をさせる訳にはいかない。

居座るかひれ伏すかの板挟み、アルベドにとってはどっちをとっても究極の選択。やがて思考は混迷を極まり、

 

「あ、あら?何かしら、急に気分が……」

 

アインズの肉体に宿る種族特性により強制的に鎮められた。どうやら、入れ替わっても身体の機能には何ら変わりはないらしい。

見慣れたエフェクトが視界の端に映った気がして、思考の海から浮上したアインズ。

 

「……アルベドよ」

 

「いかがなさいましたか、アインズ様」

 

アルベドの声でアルベドに呼び掛けるアインズに、アインズの声でアインズに返答するアルベド。耳に入る声に著しく違和感を覚えた両者は、僅かばかり顔を顰める。

取り分け魔王RPが身に染み付いてしまっていたアインズは声の高さが気になったようで、威厳を出す為に一度咳払いをすると意識して少々低めの声で喋り出した。

 

「んんっ、アルベド、その場所は居心地が悪いか?」

 

「そんな、滅相もございません!あっ、いえ、そうではなく、その、何と申しあげましょうか……」

 

居心地悪いと言えば、それ即ちアインズの玉座にケチをつけたことになる。かといって居心地がいいと言ってしまうと、アインズを見下ろし愉悦に浸る不忠者、ともすれば反逆者であると取られかねない。

先程と同じく、あちらを立てればこちらが立たぬこの状況に言葉を失ったアルベドだったが、先程より幾分か落ち着いた思考に従いゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「御身に相応しい、至高の存在が座すべき無上の玉座で御座います。私のような愚婦が身を置き、汚してはならない聖域であると確信しています」

 

どうにか絞り出したのは居心地が良いか悪いかについては濁した回答だった。

質問に答えることすら満足に出来ず、あろうことか自ら語ったその聖域を今現在汚してしまっているという事実に、深い怒りと絶望を感じたアルベド。拳はきつく握りしめられ、自身の首を以っての贖罪を必死に堪えていた。実際、もし体が入れ替わっていなかったのならば即座に自害していただろう。

低く下げられた視線は主人への低頭を意味するものではなく、失意による脱力だった。鉄面皮ならぬ骨面皮の為分かりづらいが、相当参ってしまっているようだ。

その様子を見て自身の失言を悟ったアインズは、新たに獲得した表情筋を申し訳なさそうに歪める。

 

「いや、すまない。少々意地の悪い質問だったな。では、聞き方を変えよう。私が命令すればその場所に座り続けることがお前には可能か?」

 

この質問でアインズの考えを悟ったアルベドは、驚愕に体をビクリと揺らした。慌てて面を上げ、眼前にある自身の顔を見つめる。

 

「アインズ様、それはまさか……」

 

「ああ、そのまさかだ。お前には暫くの間、アインズ・ウール・ゴウンとして振舞ってもらう。これは決定事項だ」

 

そう、アインズがこの決定を下すのは必然のことであった。

 

今回の出来事は皆に事情を説明して丸く収まるような案件ではない。アインズとアルベドの立ち位置を決めかねるなんて生易しい問題ではない。

配下達の士気は下がるだろうし、今後の世界征服計画も見直しが必要になってくる。何よりナザリックの統治者として、このような無様な姿を配下に見せる訳にはいかないのだ。このことは絶対に誰にも知られてはならない。気づかれてはならないのだ。

 

そんなことをアルベドが考えている中、アインズの脳内はというと、

 

(これアルベドに俺の代わりをやって貰えば、24時間の監視体制から逃れられるんじゃないか?いやそれだけじゃない、守護者達から向けられる尊敬と忠誠心というプレッシャーからも解放される!アルベドなら俺みたいな行き当たりばったりの綱渡りみたいな行動はしないだろうし、安心してナザリックを任せられる。それにそれに!あの豪勢な食事にもありつけるぞ!食べたかったんだよなぁナザリックの料理!いやっほー!我が世の春が来たー!)

 

お花畑であった。

 

因みに、自身の肉体が女体化していたという一大事にも関わらずアインズが平然としている理由は、言うまでのないことだが只の慣れである。気が付いたら白骨死体になっていたなんてぶっ飛んだ珍事を一度でも経験したならば、人間、目が覚めた時体が縮んでいようが女体化していようが動揺なぞしなくなるものなのだ。

 

「御命令、確と承りました。矮小なる我が身に、偉大なる御身の威光を体現することが可能とは思えませんが、せめて、その光が僅かでも翳らぬよう尽力致します」

 

アインズの無茶振りに対し、控えめに了承の意を示すアルベド。

基本的に、ナザリックに尽くす配下達は、アインズの命令には難易度を問わず成功を確約するものだ。何故なら彼らは自身の全てが至高41人の為に存在していると考えており、命令を完遂出来ないような役立たずは廃棄処分されるのが正しい在り方だと認識しているからだ。その認識は、階層守護者という特別な立ち位置にいるアルベドであっても同様である。

だが、そのような偏執した思考を持つアルベドでも今回ばかりは二つ返事で引き受けるという訳にはいかなかった。

 

この時のアルベドの状況を、人間スケールのものに入れ替えるとするならばこのようになるだろう。

 

『あなたにはイエス・キリストの代役をやって貰う』

 

そんなことを自身の信ずる神官に告げられるのだ。

一体誰がこの無理難題を快諾できようか。熱心な信徒であればある程、神の名を騙るという大罪は自身の心を激しく蝕む。

 

だがしかし、いかんせんアインズは自己評価がとても低かった。自身の存在を絶対の神と捉えるシモベ達の思考は把握していたが、理解した訳ではない。その上、根っこの部分は小心な一般市民。細かな発言の1つ1つを僕がどのように捉えるかなど、彼の想像の範囲外のことであった。実際これまでその思考のズレから、良くも悪くも大変な目に遭ってきている。

 

「うむ、任せたぞアルベド。私の体の全てと権限を一時的にお前に預ける。呉々も勘付かれぬようにな」

 

だからこそこの言葉はアルベドなら自身の代わりなど軽く熟せるだろうという思考の元、深く考えずに口をついたものであった。そして、アルベドがその言葉を一体どう受け取るかなど考えもつかなかった。

 

「アインズ様の御身と権限……そのようなこと、本当によろしいのですか……?」

 

「ああ、そうしなければ私の代わりなど務まらんだろう。少しでも違和感があれば守護者達が勘付いてしまう」

 

「……承知致しました。アインズ様の御体、責任を持って預からさせて頂きます」

 

ギラリ、とアルベドの眼孔に鈍い色の火が灯った。それはアインズの肉体に備わっていた炎のエフェクトが無意識に噴出したのではなく、余りにも濃密な獣欲が影となって幻視されたのである。

 

一方アインズは、アルベドの異様など露知らず。感情抑制の枷が外れたのもあってか一層浮かれ放題でお花畑状態であった。

その場の流れと思いつきで、意気揚々とこんな提案を出す。

 

「では、少し練習しようじゃないか」

 

「練習、で御座いますか?」

 

唐突な発言に小首を傾げるアルベド。それを見たアインズは心底楽しそうに笑う。

 

「ふっふっふ、駄目じゃないアインズ様。私はアルベドに対してそんな話し方はしないぞ?」

 

「も、申し訳御座いません、アインズ様!あっ、もぅっ、す、すまなかったなアルベド……?」

 

「はっはっは、慌てるな慌てるな。今は私がアルベドでお前がアインズだ。お前は私に何を言ってもいい立場にあって、私はお前の命令に従う立場だ。それをよく意識しなさい」

 

練習とは、RPの練習のことだった。RP歴の長いアインズは、豊富な経験から様々なアドバイスをアルベドに送る。

知恵で自分の上を行くアルベドにものを教えることが出来るという状況に、彼は強い優越感を感じていた。

 

「はい、いや……うむ、これで良いか、アルベド?」

 

「ふふふ、その通りで御座いますアインズ様」

 

アインズはもうノリノリだった。RPが趣味であった彼には、僅かばかりだがネカマの経験もある。アルベドが感じている忌避感のようなものもなく、堂に入った演技で巧みにアルベドの真似をする。その演技はアルベドにしては毒気が無さすぎることを除けば、完璧と言って差し支えなかった。

そのままRPをしつつ今後の身の振り方について話し合う2人。數十分もした頃には、2人ともそれぞれの役に完全になり切っていた、

 

「では、私はこのまま定例報告会に臨むとしよう」

 

「はい、では私は暫くはアインズ様の勅命を理由に現在の職務は全て他の者に引き継ぎ、その間にワールドアイテム『強欲と無欲』の研究に注力致します」

 

「うむ、ではまた10日後の同じ時刻に2人で話し合おう」

 

「畏まりました、アインズ様」

 

一見なんの変哲も無いこの会話を見て、中身が入れ替わっていると気がつく者は1人もいないだろう。常日頃からアルベドがアインズに伴って行動しており、お互いの行動を熟知しているからこそ為せる業だ。

 

「では解散だな。なかなか様になっていたぞ、アルベド」

 

「はっ、勿体無きお言葉に御座います」

 

最後に一言、元の主従の関係に戻った会話を残して、アルベドの姿をしたアインズは扉から出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フーンフフーンフフーン」

 

今にもスキップを始めそうな調子で、鼻歌を口ずさみつつ広い廊下を歩くアインズ。その姿は、宛らピクニックに出かけた童女のようであった。

 

「なーにしよっかなー!」

 

降って湧いた突然の休暇に心を弾ませるアインズ。いや、心に留まらず体も若干弾み気味になっているようで、今にもスキップを始めそうな勢いだ。因みに、豊満な胸部は実際にユッサユッサと弾んでいる。

一応、表向きは勅命によりナザリックを出ているという設定になっているので、あまり堂々と遊び惚けることはできないが、同格の存在である階層守護者と遭遇しない限りは適当に言い包められるだろう。それにもしサボりを密告されても、アルベドには話を通してあるので問題には上がらない。

彼を捉えて離さないこの身に宿った強い食欲が、自然と体を動かしていく。そして向かったのは第九階層ロイヤルスイートのショットバー。副料理長のマイコニドが管理する店だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

出迎えたのはキノコに似たモンスター。頭部と思しき傘の部分に、弾力のある赤紫色の大きな水滴が付着したようなものがある。

彼こそがこのバーのマスター、ナザリックの副料理長だ。

 

「こんにちは、今いいかしら?」

 

「おや、これは珍しいお客様ですね。どうかなさいましたか、アルベド様」

 

「バーに来たのですもの、することは1つでしょう?マスターのオススメを1つ、見繕ってくださるかしら?」

 

「畏まりました」

 

カクテルの用意を始める副料理長を恋する少女のようなキラキラとした目で見つめるアインズ。これまで散々飲みたいと思ったのを我慢してきたので、期待も一入である。

 

ナザリックが転移する前、彼のいた時代の日本ではショットバーなどというものはブルジョワ階級の贅を凝らした遊び場であり、到底庶民が訪れられるような場所ではなかった。当然、実物を目にしたこともなく、バーについての知識は創作物から得たものだ。そんな夢の施設に憧れを抱くこともしばしばあり、ギルドメンバーの大多数の同意の下このショットバーは生み出された。

そして、雰囲気作りの為だけに用意された施設の数々が転移により実態化したのは、娯楽施設の存在を忘れかけていたアインズにとって、まさに青天の霹靂だった。骨の身であることも忘れ酒を呑む気満々でショットバーを訪れ、舌も喉も喪失していることをカウンター席に着いてから思い出したのは苦い思い出だ。

 

「お待たせいたしました」

 

暫くして、回転寿司に初めて来た少年のようにキラキラした目で完成を待っていたアインズの前に、1つのグラスが置かれた。中を満たすのは完全なる無色の液体で、縁にはカットレモンが添えられている。

 

「これは何という名前なのかしら?」

 

「アルベド様の為に考案させて頂いたオリジナルカクテルで御座います故、まだ名前はありません。どうぞ、お好きな名前をお付けください」

 

「ふーん、名前ねぇ……」

 

思案顔でグラスを傾けるアルベド。ゆっくりと慎重に唇の先を濡らした。

冷たい感触が口腔を満たしていく。味覚に沁み渡るのはほんのりと甘く、柔らかい舌触り。ゆったりとした味わいがアインズの全身の緊張を解し、リラックスした状態に変えていく。

副料理長の慧眼によって誂えられたカクテルは、当時劣悪な食生活を送っていたアインズの味覚を必要以上に刺激しない絶妙なブレンドとなっていた。もし、ナザリックの生み出す極限の美味をそのまま味わってしまったら、肉の体を得たばかりのアインズは随喜の涙を浮かべて咽び泣いてしまっていただろう。

味の質を落とすことなく、心を落ち着かせるカクテルを生み出すその手腕。入れ替わりの事実を知らずとも、正鵠を射た味を提供するその目利き。まさにナザリック副料理長に相応しい腕前だ。

 

「美味しいわねぇ、これ。素晴らしい仕事だわ、副料理長」

 

アルカイックスマイルを浮かべながら、副料理長を賞賛するアインズ。NPC達を我が子のように可愛がる性質と、美の女神と見紛う絶世の容貌の相乗効果により、浮かべられる微笑はまさしく慈悲深き純白の聖母。向けられる眼差しは愛し子を抱く慈母の如し。

それはまさしく、誰もが望んだエンディングのあの謎の美女の姿だった。

 

「恐れ入ります。アルベド様、次は是非レモンを入れてからお飲みください」

 

なにやら、勿体をつけた言い種の副料理長。

恐らく、レモンを入れると味の変化以外にも何かが起こるのだろう。そう当たりをつけながら、片肘を突いてアインズは副料理長に問いかける。

 

「入れると、どうなるのかしら?」

 

「入れてからのお楽しみ、で御座います」

 

在り来たりかつお約束の返しである。どうやら、かなりの自信作らしい。

 

「あらそう、それは楽しみね」

 

言われた通りにグラスにレモンを沈めるアインズ。すると、カクテルの色がみるみると変わっていった。

後ろの景色がはっきりと見えていたグラスにだんだんと黒い幕が降りていき、軈て全体が透き通るような漆黒へと色を変えた。それは只の黒ではなく構造色のような不思議な色合いで、見る角度によって淡く七色に輝いている。その光景は、ある日の夜空の星々のようにアインズを魅了した。

 

「……綺麗だ」

 

つい素の口調で呟いてしまうアインズ。しかし、囁くような声であった為副料理長の耳にはギリギリ届かない。

 

「どうぞ、お召し上がりください」

 

「……」

 

副料理長に促され、無言でグラスを口元へと運ぶアインズ。そっと冷たい感触が唇に伝わる。

そして——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——アルベド様、目をお覚ましください」

 

薄氷を撫でるかのように、そっと優しく体を揺すられる。

 

「アルベド様」

 

微睡んでいた意識がじんわりと覚醒する。

 

「んぅ、うぅ……ん?」

 

重く垂れ下がる瞼を持ち上げ、周囲を見回す。

 

「お加減はいかがですか、アルベド様」

 

横を見ると、巨大なキノコが此方の顔を覗き込んでいた。

 

「……もしかして私、寝てしまっていたの?」

 

まだ薄っすらと靄がかかったような思考で前後の記憶を探るも、カクテルの色が変わった辺りからプッツリと途絶えてしまっている。嘗て人間だった頃、酒を飲んで二日酔いをした時と全く同じ感覚だ。

 

(アルコールは毒扱いで、毒耐性があるアルベドは酔わないんじゃなかったっけ……?)

 

以前、酒を飲んだ守護者から報告されて得た知識がボンヤリと浮かぶ。だが、そこから先の思考がない。グラグラとして頭が働かず、何故酔わない筈のアルベドの体が酩酊状態になっているのか、その原因を探ることが出来ない。

もっとも、意識が覚醒している状態であったとしても、どのみちアインズはこの謎の酩酊の真相には辿り着けなかっただろうが。

 

「物の数分ですが。どうやらお疲れのご様子ですし、今日はもうお休みなられてはいかがでしょうか?」

 

当然、副料理長もアルベド(アインズ)が酔っ払うなどとはカケラも考えていない。アルベドはシャルティアと違って雰囲気で酔ったフリをしたりはしないし、況してや居眠りをするなんて厳格な彼女に限って有り得ない。

今も、アルベドが何かしらの理由で体調不良なのでは?と疑っている。キノコ顔からは表情が読み取りづらいが、アルベドのことを心底心配しているようだ。

 

「ふわぁ……そうね、そうするわ」

 

顔にかかった髪の毛を整えると、上気し朱に染まった顔が露わになった。怠く重い体をゆっくりと立ち上がらせ、全身が熱に浮かされたような状態のまま、自室へと向かって歩き出すアインズ。

その足取りは千鳥足とまではいかないが、バランスの悪い船に乗っているような不安感を抱かせるものだった。見ていられなくなった副料理長は、おずおずと提案を出す。

 

「宜しければ、お部屋までエスコート致しますが」

 

「お気遣いありがとう。でも、それには及ばないわ」

 

これ以上アルベドに恥をかかせる訳にはいかないと思ったアインズは、副料理長の申し出を断ると無理に笑顔を浮かべた。

ふらつく体を支えるようにドアノブに手をかける。店を出る直前、副料理長に向かって手を振ると、

 

「今日はありがとう、また来るわ」

 

そう言葉を残してアインズは店を後にした。

パタリと閉まるドア、静まり返る店内。

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

静寂の中で、副料理長はポツリと呟き、頭を下げた。



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アインズ&アルベド「「入れ替わってる!?」」その2

注意事項!

アインズ様即堕ち
SEX


(あれ……今、何処に向かってるんだっけ?)

 

ショットバーを出たアインズは意識混濁状態で、まともに考えることが出来なくなっていた。酒に含まれるエチルアルコールが、彼の脳の機能を著しく制限してしまっている。

 

(ああそうだ、部屋に戻らないと)

 

今彼の頭の中にあるのは、散漫した思考を必死に掻き集めて構築した、自室のベッドでさっさと寝るという目標のみであった。それ以外のことを気にしている余裕はない。

 

「ふわぁ……あと、もう少し」

 

そしてそのような状態の彼が、自身の肉体のことを加味してアルベドの部屋へと行くなんて判断を出来る訳がなかった。

 

「とうちゃーく」

 

ゆったりとした足取りで辿り着いたのは、真の意味での彼の自室、アインズの部屋だ。躊躇うことなく扉を押し開き、中へと入って行く。そして脇にあるベッドを確認すると、間髪いれずにジャンプで勢いよく飛び込んだ。

 

ぼすん

 

抜群のクッション性が、アインズのものとなっているアルベドの妍麗な肢体を優しく受け止める。体の前面でその柔らかな感触を堪能したアインズは、体の向きをごろりと変え仰向けの状態になった。

手足を大きく伸ばして、全身を脱力させる。そうすると、先程より一層体が深くベッドに沈み込んだような錯覚を覚えた。肺の空気が普段より多く吐き出され、それと同時に疲労や心労がスッと抜けていく。

数分間そのままの体勢で呼吸だけをしていると、アインズはこの上なくリラックスした状態になった。僅かにクリアになった思考が、嘗て人間だった頃の睡眠の記憶を思い起こさせる。

 

(そういえば眠気を感じたのは久々だな。睡眠欲が消失したって分かった時も特に感慨は浮かばなかったけど、やっぱり眠気があるとベッドの感触が一層心地よく感じるなぁ)

 

ごろごろ、ごろごろ

 

自身の体より遥かに大きなその面を、全身で味わうべく右へ左へ転がり回るアインズ。それに合わせて、ぴっしりと整えられていた掛け布団が段々と縒れていく。

そして何を思ったか、アインズは掛け布団の端をむんずと掴むと、そのまま体に巻きつけるように転がった。端から端へ辿り着く間にアインズは簀巻き状態になって、当然身動きが取れなくなる。腕も足も満足動かせないくらい、布がきつく締め付けてくる。豊満な胸を圧迫されて、呼吸も少しし辛くなった。だというのに、そんな状況に不思議とアインズは息苦しさを感じていなかった。

 

(なんかこれ、凄く落ち着く)

 

どういう訳か、全身が得も言われぬ幸福感に包まれる。それはまるで母親の胎内に戻ったかのような、大いなるものに優しくしっかりと抱き締められているかのような、心が安らぐ感覚だった。

 

ふとアインズの、いやアルベドの婀娜な体躯が、溶けそうな程の強い熱に苛まれた。それは、今までに感じたことのない不思議な熱さ。アルコールによって齎されたものとは違う、甘く切なく、心が引き絞られるような、そんな熱さだった。

鼓動が早まり、呼吸が荒くなる。玉の肌にはジワリと汗が浮かび、悲しくもないのに瞳が潤む。まるで酷い風邪を拗らせた時のような症状だが、あまり苦しさは感じられない。

 

(あつい……)

 

篭った熱に耐えられなくなったアインズは、のっそりと起き上がると纏わり付いている布団を開けさせた。布団は肩からするりと滑っていき、ほんの僅かな気流を生み出しつつ捲れ落ちる。ヒュッと、涼やかな風が露出した腰や胸元を撫でて、体の火照りを拭い去っていく。

 

(あつい……あつい……)

 

だがその程度の風では、全身を苛む熱は治らなかった。

アインズは熱源を探ろうと、惚けた頭でアルベドの艶麗な体を見下ろす。肩、胸、腕、太腿と、段々と視線を下げていく。結果、彼が目を付けたのは全身を包む白い布だった。

恐らく、体が熱いのはこの布が原因に違いない。うだった頭でそんなことを考えたアインズは、徐に服の裾に手を掛けグイッと持ち上げた。胸を隠していた布地がぺろんと捲れ上がり、なだらかな腹部や、たわわな乳房の全容が詳らかに晒される。

ぼんやりと胸を見つめるアインズ。その部位は、体が入れ替わる前であったら相当の動揺を誘っただろうが、今は何も感じない。それどころか、自身の感性が大きく変化していることにすらアインズは気がつかない。

慣れない女物の衣服に梃子摺りながらも、身を捩らせてスッポリとそれを抜き取る。粗雑に脱ぎ捨てられた衣服は、ファサリと音を立ててベッド脇へと落下した。

 

(まだ……あつい……)

 

上着を脱いでも、まだ熱は治らない。となれば、残っているのは下だけだった。

躊躇も恥じらいも、他人の素肌を勝手に覗いくことへの罪悪感すら一切なく、スカートを下ろそうと手を掛ける。その行動に最早アインズの影はなく、感性は殆どアルベドそのものだった。

暫く苦戦した後、緩められたスカートがスルリスルリと足を抜ける。更に奥に隠されていた下着もあっさりと抜き取られ、滑らかな布地が太腿を撫でる。秘部が外気に晒される感触を感じ取りつつ、アダルティなショーツを興味無さげに蹴飛ばした。アルベドの下半身を覆っていた衣服が全て、上着と同じく脇へと放り投げられる。

そうして遂に、アルベドの裸体の全てが露わになった。何1つ欠けることなく完璧に整った珠玉の天姿。構成するのは、触れるのが憚れるような究極の曲線美。老若男女、見る者全てを魅了する婉容な女神の艶姿。

 

「はぁ、はぁ……」

 

だが、全裸になっても体の熱は治らない。篭った熱気を排出するように、荒い呼吸を繰り返す。堪え切れない程の火照りに参ってしまったアインズは、自身の体を掻き抱きながら、頭からベッドへと突っ伏した。

 

バサッ

 

逆上せたように視界が回り、平衡感覚すら掴めなくなっている。更に、突如胸に去来するのは、身を穿つような寂寥感。例えるなら、一切光の届かない深海の底に閉じ込められたかのような、深い深い絶望。アインズは藁にもすがる思いで布団にしがみついた。

先程体に纏っていた掛け布団は、グルグルに丸めた所為でこんもりとしたダマになっていた。それを抱き枕にするかのように手を回して抱き竦めると、少しだけ心が落ち着くのが感じられた。だがその代わりに、布団と接している肌は燃えるように熱くなっている。今度は体も密着させ、両足もしっかりと布団に巻きつけた。全身が焦げそうになる。

熱い、熱い、熱い、でも、手離したくない。そんな思いと一緒に、掛け布団を心の奥底で愛しい人に見立ててしがみつく。その人物が一体誰なのか、アインズには分からない。

 

「あぁっ……ふあぁっ……」

 

ふと、下腹部にピリッとした快感が走った。思わず嬌声を漏らしながら、上体を仰け反らせる。

 

「ひゃっ!」

 

体がビクンと跳ねた。また背筋に甘い快感が走る。今度はその快感の出所がはっきり分かった。それは胸の先端から来ていた。股間と胸、曝け出された秘部が布団に擦れる度、言い知れぬ快感が身を襲う。

 

「ぁ……あふぅ……」

 

危険な予感を感じつつも、恐る恐る体を動かす。グイッと布団を引っ張ると、さっきよりも強く擦れて、またピリリとした快感に全身が包まれた。

 

「あっ……あふっ……ひぁ……あんっ」

 

気がつけばアインズは快感の虜になっていた。繊麗な体躯を蠱惑的にくねらせ、体を休むことなく布団に擦り付ける。そこに理性は既に無く、凡ゆる生物が異性を求めるような極めて本能的な行動だった。

そして実はこの行為は、本来の体の持ち主が日課として行なっている癖でもあった。アインズは肉体に宿る本能に負け、完全に主導権を失っている状態になってしまっていた。もうどう足掻いても、この快楽の坩堝から逃れる術はない。

 

「んっ、んんぅ!んむぅ!んふぅ!」

 

微かに残った羞恥心が、これ以上嬌声を漏らすまいとして、顔を枕に押し付けて声を殺させる。だが、主人の枕に顔を埋めている状況に倒錯的な快楽を覚えてしまった肉体は、より一層興奮を掻き立てた。

快感は風船のように止め処なく膨れ上がる。腹の奥に溜まった熱はとっくに頂点に達している。パチパチと線香花火ように頼りなく明滅する意識。筋肉が勝手に収縮するのを抑えられず、腰はガクガクと震えだす。そして溢れ出しそうになる快感をギリギリで押し留めていた堰が、遂に限界を迎えた。過剰に膨れ上がった風船は、音を立てて盛大に弾けてしまう——

 

 

 

「何をなさっているのですか、アインズ様?」

 

 

 

直前で冷水をぶっかけられたかのように熱が冷めた。

聴こえてきたのは20年以上連れ添った、誰のものより聞き慣れた声だった。元を辿ると、そこには豪奢な漆黒のローブを纏った骸骨が扉の前に立っていた。そう、入れ替わりによりアインズの体を得たアルベドである。

 

(アルベド!?いつの間に入って来たんだ?というか、まさか見られた!?)

 

快楽の泥沼から一気に現実に引き戻されたアインズは、自身の痴態を再認識して愕然とした。現在の状況を考慮した上で先程までのアインズの行動を一行にまとめるとこうなる。

 

『部下の裸体を勝手に見て自慰に耽る上司』

 

主の威厳も何もあったものではない。それどころか、疑いようもなくただの犯罪者だ。

何とか弁明しなくてはと思い、慌てて飛び起きたアインズ。素っ裸の肉体を隠すように咄嗟に布団を体に巻きつけると、アダルト雑誌を母親に見つけられた思春期の少年のように、しどろもどろの言い訳を始めた。

 

「違うんだアルベド!あーその、えっとこれは……そう!実はアルベドに話しておきたいことがあってだな!部屋でお前が来るのを待っていたのだ!」

 

「……何故服を脱いでおられるのですか?」

 

「うぐっ、そっ、それは……」

 

早くも二の句が告げられなくなり硬直するアインズ。必死に頭を巡らせるが、この状況を覆せるような神の一手を彼は持ち合わせていなかった。必然的に、次の一手として繰り出されるのは使い古された常套手段となってしまう。

 

「お、お前なら、私の真意を理解しているのだろう?」

 

丸投げだった。アインズの悪い癖である。

 

(全裸でいることの真意って何だよ!どう考えてもただの変態だろ!)

 

そして、咄嗟に口を衝いて出てしまったが、今回ばかりは無理があると彼自身悟っていた。これまで幾度となくアルベドとデミウルゴスの超好意的な解釈によって助けられてきたが、こればっかりは深読みのしようがない。

ガラガラと、これまで築き上げてきたものが崩れ落ちる音が聞こえた気がした。こうなった以上アインズは、もう変態というレッテルからは逃れられない。暗い未来を想像したのか、アルベドの返答を待たずして恐怖に縮こまるアインズ。そして、アルベドはゆっくりと口を開いた。

 

「もちろん。理解していますよ」

 

「……ぇ?」

 

思わず、惚けた声が口から溢れる。まさかの成功だった。一体この現状を見て何を理解したというのか、表情のない骨の顔面からは何も読み取ることができない。

とはいえ、究極の局面を乗り切って一安心のアインズ。改めて最終奥義、丸投げの効力に感心する。それと同時に、アルベドがどういう受け取り方をしたのかが気になった。ここをしっかり把握しておかないと、後々マズいことになる。

 

「ところで、アインズ様」

 

「……ん、何だ?」

 

アインズが質問しようとしたところで、先んじてアルベドが口を開く。そのことに、アインズは多少の違和感を覚えた。普段ならアインズが話を始める時、アルベドはそれを逸早く察知して静かに聞く姿勢をとる。アインズの会話がアルベドによって途切れさせられることは、彼女が正常な精神状態ならばまず起こり得ないことだ。

 

(まぁ、たまにはこんなこともあるだろう)

 

そう考え、特に気にすることなく流すアインズ。寧ろ、発言を潰されたことを必要以上に気にしてしまっているのを、自身の狭量さが招いた事態だと考え、意識してスルーするようにした。

 

 

 

……或いは、この時点で気がついていれば、彼は闇に引きずり込まれずに済んだかもしれない。

アルベドの精神状態は、とうの昔に正常ではなくなっていたということに。

 

 

 

「少し練習をしませんか?」

 

「練習?」

 

唐突な発言に小首を傾げるアインズ。それを見たアルベドは心底楽しそうに笑う。

既視感のある光景。そう、アインズが少し前にアルベドに言った言葉と同じセリフだ。

 

「ふふふ、駄目じゃないかアルベド。私はアインズ様に対してそんな話し方はしないぞ?」

 

そっくりそのまま、口調だけ変えてアインズのトレースするように続けるアルベド。唐突な発言について行けず、アインズは困惑するばかりだ。

 

「いきなりどうしたんだアルベド。RPの練習なら先程十分に——」

 

 

 

「命令だ、アルベド」

 

 

 

「っ!?……はっ、し、承知致しましたアル、アインズ……さま」

 

アルベドから威圧が放たれる。アインズは強い口調で命令された途端、一瞬で抵抗できなくなった。先程の感覚とはまた違う強制力が体に働き、気づけばアルベドの足元に跪いている。

 

「そうそう、今は私がアインズでお前がアルベドだ」

 

ゆっくりと、言い聞かせるように、一言一言はっきりと告げる。これも、アインズが口にした言葉だ。

 

「私はお前に何を言ってもいい立場にあって、お前は私の命令に従う立場だ。それをよく意識しなさい」

 

アインズの背筋が凍りついた。肉食獣や猛禽類に狙われているかのような恐怖に包まれる。

 

「さて、練習のお題は何にするか……」

 

「ま、待て!さっきからどうしたというんだアルベド!何か様子がおかしいぞ!」

 

「ん……?ふむ……」

 

チラリと視線を向けるアルベド。未知の恐怖に怯えるアインズを空虚な視界に捉えた。そして、動かない筈の骨の顔がニヤリと表情を変える。

 

「まったく、どうやら立場というものが理解できていないようだな……アルベド!!」

 

「ひゃい!」

 

アインズの体が大きく飛び跳ねた。勝手に目が潤み、耳に聞こえる程心臓が高鳴る。まるで親に叱られる前の子供のような心境だ。

 

「練習の台本が決定したぞ」

 

この時アインズは、アルベドの周囲にドス黒いピンクのオーラを幻視した。それは、絶望のオーラが生易しく感じる程の濃密な瘴気を放ちながら、アインズを包み込んでいる。

 

「今回はお仕置きも兼ねて、お前にはある報告をしてもらう」

 

そのオーラに名前を付けるなら『欲望のオーラ』が相応しいだろう。又の名を『アルベドサマゴランシンのオーラ』。

 

「私がこの部屋に来た時、一体何をしていたかの報告だ。詳細かつ丁寧にな」

 

それは、アルベドがハッスルしてる時に発するオーラである。

アインズの生存本能が全力で警鐘を鳴らした。

 

(このままでは美味しくいただかれてしまう!)

 

慌てて脱出経路を探すも、唯一の出入り口である扉の前にはアルベドが陣取っている。体がアルベドの今、助けてくれる護衛はいない。万事休すだった。

 

「アルベド」

 

低い声で呟きながら、じわりじわりと真綿で締め上げるようににじり寄って来るアルベド。身の危険を察知したアインズは、後退って距離をとる。

 

「アルベドよ」

 

しかし、数歩下がったところで直ぐに壁に背がついてしまった。彼我の距離はみるみる縮まる。

 

「お前は」

 

もう目と鼻の先だった。その距離、約5cm。囲い込み追い詰めて来る蛇を前に、カエルは身動きひとつとることができない。

そして、アルベドの魔手がアインズを襲う。

 

 

 

「モモンガを愛している」

 

 

 

「へ?」

 

突然告げられた謎の言葉に、アインズは疑問符を浮かべた。

それはアルベドについて書かれた、最後の設定。嘗てアインズが書き換え、心の底から後悔した、忌々しい呪いの言葉だ。

アルベドは、アインズの細腰に手を回して抱き寄せた。

 

「お前はモモンガを愛している」

 

ドキリ、アインズの心臓が一際大きく脈動した。支えられた腰からは力が抜け、自力では立てない状態になっていた。

先程ベッドで感じたのと同じ感覚。体が勝手に動き、精神が引っ張られる。魂の奥底に刻みつけられたその言葉が、アインズの心を蝕む。正しく、呪いのように。

 

「アルベドはモモンガを愛している」

 

突如として、身を灼くような激情がアインズを襲った。アインズが仲間を想うよりも、遥かに勝る強い想い。愛しい人の為ならば、命も惜しまず世界をも敵に回す究極の愛。

溢れ出しそうになる程の感情の波に、アインズの心が塗り潰されていく。

 

「私は誰だ?」

 

顔が接触する程の至近距離で、アインズの瞳を覗き込む。

 

「私は誰だ?言ってみろ」

 

そして、その瞳に映っているのは紛れも無いアインズの姿だった。

 

「……モ、モンガ、いや……アイ、アル……ベド、アルベドだ」

 

「違う、もう一度だ。私をよく見ろ、お前の愛する者の姿をその目に焼き付けろ。さぁ!私は、誰だ!」

 

「ア、アイ……う、うあ……あぁ」

 

ここで折れたら、もう戻れなくなる。そんな予感があった。アインズは必死になって抵抗をする。

両手で顔を覆ったアインズ。そんな彼を見て、アルベドは耳に顔を寄せ、優しく語りかけた。

 

「何を怯えている?これは練習、ただのRPの一環だ。今は私がモモンガ役でお前がアルベド役だ。ただ役になりきるだけだ」

 

「……アルベド、役?」

 

なんてことのない言葉だ。だが、やけに脳内に響き渡る。

 

「そうだ。お前はアルベド役で、そして私はモモンガ役、それだけだ。さぁ、私の名を言ってみろ」

 

「…………」

 

……そうだ、これを言った所で、何も自分が消える訳ではない。ただ、ちょっと、ネカマプレイをするだけだ。それだけだ、それだけで、きっと——

 

「モ……モモンガ、さま……」

 

——楽になれる。

 

 

 

ピシリ

 

 

 

何かが割れる音がした。

 

「そう、私の名はモモンガだ。では、お前の名前は?」

 

「アル……アルベド……」

 

「ふふふ、その通りだ!やればできるではないかアルベド」

 

「ありがとう、ございます……身に余る、光栄です」

 

「では、練習を続けよう。私はお前に何を言ってもいい立場にあって、お前は私の命令に従う立場だ。それをよく意識しなさい」

 

アルベドの真似をする必要はなかった。アルベドの体が、正しい自分を知っていた。だから、それに任せるだけでいい。溢れ出る愛に流されるだけでいい。そうしていれば、完璧に、アルベドになりきれる。

 

「はい……何なりとご命令ください」

 

そして、アインズの精神は完全に飲み込まれた。

 

ちょっと堕ちるのが早すぎる気もするが、ハードが勝手にソフトを書き換えてしまったのだから仕方ない。アインズがアンデッドになった際人間性を失ったように、器の形は精神の形に作用する。アルベドに刻まれた「モモンガを愛している」という言葉は、アルベドの肉体を得たアインズにも強く影響を与えてしまったのだ。

 

「では今度は、私が来た時お前が何をしていたのかを言ってみろ。なるべく詳細にな」

 

「……はい、モモンガ様」

 

虚ろな瞳を潤ませ、羞恥に顔を赤く染める。死ぬ程恥ずかしいが、主の命令だ。逆らうなんて、有り得ない。

 

「私、アルベドはモモンガ様が留守の間に、自室に侵入しました。そして、寝台に潜り込んで、お布団に……その、胸と……陰部を、擦り付けて、じ……自慰を、しておりました」

 

火が出そうな程顔を熱くさせながら、報告を終える。アルベドは、もじもじと恥じらいに身をよじるアインズに追い討ちをかけるように言葉をかけた。

 

「……私の寝台をこんなに濡らしたのか、悪い子だ」

 

濡れて染みが出来た布団を、まざまざと見せつける。エロゲ好きのどっかのバードマンが乗り移ってるんじゃないかと思うようなノリだった。

そしてアインズは、自身が布団を濡らしてしまっていたことに気づいていなかったのか、驚いた表情を浮かべた。すぐさま謝罪の言葉を述べようとするが、アルベドは片手でそれを制す。

 

「つまり、準備は出来ているということだな?」

 

「準備……ですか?それは、どういう意味で……きゃっ!?」

 

アルベドはアインズをベッドに放り投げ、押し倒す。仰向けに倒れたアインズの上に覆い被さるアルベド。困惑の表情を浮かべるアインズを見下ろしながら、アルベドは楽しそうに笑った。

 

「くっくっくっ、このまま既成事実を作ってしまえば、正妻の座は私のもの!そしてなにより!モモンガ様の処女は私のものよ!!くふ、くひひ、ふひはははははぁっ!」

 

ハッチャケ過ぎである。色々と酷かったが、1つだけ指摘するなら、美女に伸し掛かり哄笑する骸骨というシチュエーションは、完全にホラー映像だった。

 

「……モモンガさま?」

 

不思議そうに首を傾げるアインズ。もうどっからどう見ても儚げな美女でしかない。

ヒドインは完全に浄化された。そう、彼女こそが、真のメインヒロイン、モモベドの誕生である。

 

「ああ、すまなかったなアルベド。今のことは忘れてくれ」

 

そう言うと、アルベドは身に纏っていたローブをはだけさせる。そして、アインズの顎をクイッてやってしっかりと顔を合わせた。

 

「アルベドよ、共に一夜を過ごそうではないか」

 

「……はい、私、嬉しいです、モモンガさま」

 

そんなわけで、2人は同時に初体験を済ますのであった。めでたしめでたし。

 




途中で正気に戻って、自分は何を書いているんだ……?ってなった。
辛かった。


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アインズ&アルベド「「入れ替わってる!?」」その3

はじめに2つ謝罪を、

アルベドごめん。
それから、今回手抜きです。ごめん。


「これにて定例報告会を終了する」

 

時間は巻き戻って、アインズ擬きのアルベドによる定例報告会。数人の守護者を前にして堂々と玉座に座るアルベドがそこにいた。だが、どうやら誰一人として彼女のことに気づいた者はいないようだ。

 

(はぁ……デミウルゴスを欺き続けなければならないというのは、中々に気を使うわね。顔を合わせる度にヒヤヒヤするわ)

 

内心緊張しっぱなしであったが、なんとか乗り切れたことにホッと一息つく。実は似たような緊張をアインズがいつも感じているというのは、アルベドの与り知らぬところである。

 

(さて、さっさと終わらせたい所だけど、これだけは言っておかないと)

 

絶対にボロを出す訳にはいかないと、緊張が緩んできた己を戒め気を張り直す。そして、アインズとの練習を思い出しつつ、腹の底に響くようなバリトンボイスをつくった。

 

「最後に1つ報告がある。先程、ワールドアイテム『強欲と無欲』に関することで重大な発見があった。これから、そのことでひとつ実験を行う」

 

『おおっ』と、守護者達がどよめいた。最奥に秘されたナザリックの至宝。世界の真理とまで言われる究極の魔道具。その世界の謎の一端を解き明かすという宣言に、興奮しないシモベはいなかった。

皆口々に『至高の御方に紐解けない謎など存在いたしません』だの『流石は魔導の極致に御座す方でございます』だの言い、アインズを褒め称えた。

 

「実験はとても繊細な作業が要求されるものだ。私一人っきりで行う必要がある」

 

「成る程、その間は緊急の報告などは受け付けないということですね?」

 

アルベドの言葉の先を読んだのはデミウルゴスだ。その脳に秘められた叡智は、アルベドを上回る。アルベドが若干苦手としている相手であり、入れ替わり中の現在では、完全に邪魔者認定されいる男だ。

どっか遠くの任務へ放り出したくなる衝動に駆られるが、抜群に優秀なのも事実なのでそういう訳にもいかない。既にアインズとアルベドの活動が制限されている今、人手不足は結構深刻なのだ。

 

「うむ、そういうことだ。守護者統括であるアルベドは、私の勅命で別の任務に当たっている。差し当たって、その間の指示は全てデミウルゴスに任せることとする。異論のある者は?」

 

「…………」

 

アルベドの確認に一同は静まり返る。

 

「アインズ様御意志に逆らう者など、有ろう筈がございません。御命令、確と承りました。このデミウルゴス、例え星が揺れようとも、アインズ様の元に伝わることなく全ての揺れを収めてみせましょう」

 

「そうか、期待しているぞデミウルゴス。では、本日はこれで解散とする」

 

アルベドは守護者達の返事も待たずに『リングオブアインズウールゴウン』を用いて、早々にワープした。視界が一瞬にして切り替わる。

 

「ふぅ、疲れた。これからは常にアインズ様のフリをし続けないといけないと思うと、気が重いわ……」

 

肩の凝りをほぐそうと揉んでみると、返ってくるのはゴツゴツとした骨の感触のみ。なんとも揉み応えのない肩だった。至高の存在の玉体にケチをつける訳ではないが、やはり肉のない体というのはなかなか慣れそうにない。アルベドは思わず嘆息する。

 

「とはいえ、それもこれも全て、私がアインズ様と結ばれる為。そう考えればこれくらいの任務どうってことはないわ」

 

悍ましい瘴気を立ち上らせ、邪悪に笑うアルベド。彼女の頭の中では、既に明るい家族計画が進行していた。二人の子供に囲まれてアインズに寄り添う光景を思い浮かべ、アルベドの体が歓喜に打ち震える。

 

ふと、アルベドの体が光のエフェクトに包まれた。そう、アンデッドの種族特性である精神攻撃への完全耐性、それに基づく感情の抑制だ。これまでも、アインズが激しく動揺した時や怒りを感じた時に発動し、彼を補助した特性である。アインズの体に憑依しているアルベドが発する感情も、例に漏れず抑制の対象となるのだ。

結果、アインズへ向けられた悍ましいほどの劣情は平静になるように抑えられた。アインズは自らの種族特性のお陰で、思わぬ形で貞操の危機から脱したのだ。

 

「アインズ様のお体と全ての権利を手にした今、凡ゆることが思い通りにできる!アルベドを正妻にすると宣言してしまってもいい、外堀を埋めていつでも正妻になれるようにしてもいい……或いは、無理矢理手篭めにしてしまうなんてことも……くふー!」

 

当然そんなことはなく、あいも変わらずアルベドは興奮しっぱなしである。一体何故なのか。

解説すると、感情の抑制の効果は精神状態を平常時に戻すというものだ。そして、アインズが感じる怒り等の一時的な感情と違い、アルベドの愛情は設定として固定されている。その為平常時に戻されたとしても、アルベドのアインズへの想いは片時も消失することはないのだ。

更に、アルベドのアインズラブは創造主と被造者という関係もあって、平常時でもかなり激しいものとなる。はっきり言うと、デフォルトでも既に暴走状態だ。つまりアルベドに感情の抑制が働くと、普段理性によって最小限に抑えられている愛が、逆にデフォルトの暴走状態に戻されるということになる。

その結果爆誕してしまったのは、止まることなく常にご乱心し続けるバーサクアルベド。哀れなことに、1話冒頭でアルベドが一回光ってしまった時点で、もうアインズの貞操は風前の灯だったのだ。ナザリックに於ける最高権力者を得てしまった彼女を、最早誰も止めることは叶わない。

 

「さて、お楽しみの時間がやってきたわね。《フローティング・センス》」

 

そんな訳で現在暴走真っ最中のアルベドは、徐に1つの魔法を放った。どうやら、アインズの習得した魔法を使えるらしい。その魔法の効果は、術者の視覚と聴覚を移動させ、離れた場所の景色を見たり声を聞いたりするというもの。無修正トカゲックスを公共の電波で放送させた《フローティング・アイ》の音も聞こえるバージョンだ。

 

『これは何という名前なのかしら?』

 

『アルベド様の為に考案させて頂いたオリジナルカクテルで御座います故、まだ名前はありません。どうぞ、お好きな名前をお付けください』

 

そして映す視界の先には、アルベドの姿をしたアインズがいた。そう、アルベドがワールドアイテムの研究を理由に一人っきりになって理由は、この覗きを邪魔されないようにする為であった。まぁ、意中の相手と体が入れ替わったら、相手が何をするか気になるのは当然のことだろう。完全に職務怠慢だし寧ろ犯罪だが、本人は至って大真面目である。

 

さて、現在アインズがいる場所は、第九階層ロイヤルスイートのショットバー。丁度、カクテルが出てきたところのようだ。

 

『美味しいわねぇ、これ。素晴らしい仕事だわ、副料理長』

 

『恐れ入ります。アルベド様、次は是非レモンを入れてからお飲みください』

 

「アインズ様が、アインズ様がお食事をなされている!素晴らしい、実に素晴らしいわ!叶わぬ夢と諦めていたけれど、これでアインズ様に私の手料理を振る舞うことが可能になったのね!そして、行く行くは愛妻弁当なんて……くっふー!」

 

雌雄が入れ替わっているのだから、アルベドが弁当を作っても愛妻弁当にはならない。というか、そもそもアインズもアルベドも料理スキルは獲得していないので、どちらの体でも手料理すら不可能である。しかし、トリップ状態の為、そんな瑣末なことには気づかないようだ。

 

『入れると、どうなるのかしら?』

 

『入れてからのお楽しみ、で御座います』

 

『あらそう、それは楽しみね』

 

「ああっ、自分の体の筈なのに、中身がアインズ様だと思うと体が疼いてしまう……!眩く光り輝いて見える!」

 

2人の会話を盗み聞きながら悦に浸るアルベド。どうでもいいが沈静化のエフェクトで光っているのはアルベド自身である。聖母の表情を浮かべるアインズに大興奮してしまい、休むことなく毎秒発光していた。淡く発光する白骨死体が、自身の体を掻き抱きながら女口調で悶え狂う姿は正に狂気。SAN値直葬待った無しである。

 

『……綺麗だ』

 

『どうぞ、お召し上がりください』

 

『…………』

 

アルベドが欣喜雀躍している間にも、2人の会話は続いていく。

そして、アインズが2杯目のカクテルをおかわりした時のこと。

 

『……モモンガにするわ』

 

『モモンガ様……?一体何を仰っているのですか?』

 

「モモンガ様?」

 

マイコニドの副料理長とアルベドが、同時に疑問符を浮かべた。

モモンガ、それはアインズがアインズを名乗り始める前まで使われてきた彼の名前。改名してからというもの、めっきり呼ばれることのなくなった本当の名前だ。

 

『このカクテルの名前よ。ナザリックの名を冠するカクテルがあるのですもの、モモンガ様の名を冠するカクテルがあってもいいでしょう?』

 

『……成る程、確かに素晴らしいお名前ですね。文句のつけようがありません』

 

『当然よ』

 

「…………」

 

アルベドは絶句した。感情を強く揺さぶられたらしく、沈静化のエフェクトが淡く光る。

 

「モモンガ様……」

 

繰り返すようだが、今アインズが飲んでいるカクテルは、アルベドの為に作られたもの。アルベドが飲む為に作られたものである。

 

「それは、つまり……」

 

そのカクテルにモモンガという名前を付ける、それが一体何を意味するか。いや、アルベドがどういう意味で受け取るか、その答えは火を見るより明らかだ。

 

「私を食べて、ということですね!?つまりはそういうことなんですね!?」

 

そういうことではない。

 

守護者の勝手な解釈が悪い方向で発揮されてしまった瞬間だった。まあ、あれだけ多用してきたのだし、今回の件がなくともいつかは破綻してしまっていただろう。川立ちは川で果てるのだ。

 

『ほら、こうして黒く変わると、アインズ様がいつも着ていらっしゃるローブの色みたいでしょう?』

 

『正に、仰る通りでございます』

 

「それはぁっ!!あなたの色で染め上げて、ということですね!?そういうことなんですね!?」

 

そういうことではない。

 

『キラキラした光が、まるで夜空に輝く星のよう。あの日の宝箱みたいな星空を思い出すわ』

 

『過分なご評価。光栄でございます』

 

「それはぁっ!!お前は私にとっての宝、ということですね!?そういうことなんですね!?」

 

そういうことではない。

 

もう何を聞いてもアインズからのラブコールにしか聞こえなくなっていた。重症である。いや、元々手遅れだったか。

兎に角この時点で、アルベドの入れ替わりに乗じて正妻になっちゃおう作戦の方針は決定した。それは、アインズ様を美味しく頂いて手篭めにしちゃおう作戦である。アルベド的にも冗談で言っただけでやるつもりはなかった方針なのだが、アインズがその気ならばやるしかない。据え膳食わぬは男の恥だ。男?

 

因みに、当然ながらアインズにその気は全然なかった。カクテルにモモンガと名付けた理由は3つ。アルベドの為のカクテルなのでアルベドが気に入るだろう名前を付けてあげたかったこと。アインズのネーミングセンスが残念なことは周知の事実だったので、どこからか引用しようと考えたこと。黒く変色したカクテルを見て、自身のアバターが思い浮かんだこと。ただそれだけの理由だ。

 

アインズが親心でつけた名前に対して、性的に大興奮するアルベド。酷い有様であった。しかし、彼女の暴走はまだまだ止まらない。

 

『しかし、お酒を飲んでも酔えないというのは寂しいものね』

 

『それは仕方がありません。至高の御方がお隠れになった今、アルベド様はナザリック最強の盾。アルコール程度で揺らぐようなお身体ではありませんから』

 

「承知致しました!モモンガ様!」

 

勝手に承知しないで欲しいものだ。アインズは命令は一切出していない。

 

「私の妙技でモモンガ様を酔わせてさしあげます《トリプレットマキシマイズマジック・ドランクネス/ 魔法三重最強化・酩酊》」

 

アルコールで酔えないなら魔法で酔わせればいいじゃない。それがアルベドが辿り着いた答えだった。とんでもない暴論である。1話でアインズを襲った謎の酩酊の正体は、アルベドの魔法だったのだ。異世界へ転移してフレンドリーファイアが可能になった弊害である。

これにより急激に酔っ払い状態になってしまったアインズ。頬に赤みがさし、瞳が潤み始める。頭がボーっとして記憶があやふやになる。

 

『あら、おかしいわね……急に眠気が……』

 

『どうなされましたか、アルベド様?』

 

「あっはぁあああ!!酔ったモモンガ様ぁああああ!!犯罪的ですぅうううう!!」

 

ドッタンバッタン、浜辺に打ち上げられた魚のようにアルベドが跳ね回る。もう沈静化のエフェクトが重なりに重なって、とんでもなく発光していた。人間には直視が不可能なレベルである。

アルベドの狂喜の舞は、アインズが寝静まる迄続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっ……あふっ……ひぁ……あんっ』

 

「×$○※♭#▲※☆%×$%▲☆♭#!?」

 

言語化不可能である。

 

ショットバーを出たアインズは、酩酊の魔法の所為でうっかりアインズ自身の部屋に入ってしまう。それだけでアルベド的には、据え膳認定の大興奮発狂ポイントだったのだが、何とアインズは酔った勢いで1人で致し始めてしまった。そして、興奮が絶頂に達したアルベドは、

 

「ンクッッッ!!!!ふぅ……この様子を見ると、やはりアインズ様がそのつもりというのは確定のようね」

 

何と自ら沈静化を発動させてしまった。俗に言う賢者タイムというやつだ。とはいえアインズを食べる方針は変わっていない。寧ろ、より決意が深まっていた。

 

「そうと決まれば善は急げね。あまりアインズ様を待たせる訳にはいかないわ」

 

そそくさとアインズの私室へと向かうアルベド。後は知っての通り、突撃お前が晩ご飯の時間である。

目的地に辿り着き、ノックもせずに部屋へと入る。そこには、快楽に囚われ周りの見えなくなったアインズがいた。これ幸いと暫く生で観察してから、丁度良さそうなタイミングで声をかける。

 

「何をなさっているのですか、アインズ様?」

 

ビックゥッ!?

面白い程飛び跳ねるアインズ。体を縮こまらさせ怯えるように毛布に包まる姿が、アルベドの嗜虐心をくすぐる。恥じらうアインズを虐めたくなってしまう。

 

「……何故服を脱いでおられるのですか?」

 

アインズが聞かれたくないようなことを、聞いてみたくなってしまう。

 

「お、お前なら、私の真意を理解しているのだろう?」

 

「ッ!?もちろん、理解していますよ」

 

(やはり、アインズ様もその気なのですね!!)

 

その言葉はアルベドには『そんな恥ずかしいこと言わせないで……』と言っているように聞こえた。いつも凛々しく勇ましい主の見せる予想外のいじらしい姿に、アルベドの嗜虐心が更にくすぐられる。そして、

 

「ところで、アインズ様」

 

「……ん、何だ?」

 

「少し練習をしませんか?」

 

本格的な言葉責めが始まった。

 

 

 

これが、あの日起こった珍事の全容である。因みに、ナニが無いのにどうやったのかというと、アルベドの開発したオリジナル魔法《クリエイトマジカル×××××/魔法×××××創造 》の効果によって生やした。エロはいつだって技術を発展させるのだ。




次回、何も考えてないので多分遅れます。


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アインズ&シャルティア「「入れ替わってる!?」」その1

サタンからクリスマスプレゼントだよ
性夜に相応しい濃厚なレズ(?)プレイをご堪能ください

と思ったけど描写が完全にアウトだったのでR-18行きにしました。ごめんね。

注意事項!
今回オリキャラ出ます。特に何も考えず適当に出したキャラなので軽く読み飛ばしてください。


前半はR-18行きになりました。

 

 

 

 

 

 

ナザリック第十階層、玉座の間。その場に集うのは至高の41人によって生み出されたシモベ達。

謹慎中のシャルティアを除く、6人の階層守護者。戦闘メイド、プレアデスが全員。セバスに、ペストーニャ、ホムンクルスのメイド達。その他、ナザリックに存在する殆どのシモベが玉座の間に集まっていた。そして、皆一様に跪き、深く頭を垂れている。その畏敬の念を向ける先は、高く迫り上がった玉座の上。そこに座すことを唯一許される人物。

 

「皆の者、よくぞ集まってくれた」

 

死を具現化させたような強烈な存在感。肉片一つなく白骨化した異様な姿。シモベ達の創造主にして至高の存在のまとめ役、ギルド長アインズ・ウール・ゴウンその人である。

 

「まずは急な招集になってしまったことを謝罪しよう」

 

雲上人とも言える立場にいる彼の謝罪に、招集に応じた一同は狼狽えた。階層守護者の1人、デミウルゴスは慌てて恭謙な言葉を述べ立てる。

 

「そんな、滅相もございません!我らは至高の御方の手となり足となる為に生み出された存在。御身が必要とする時に動けずして、何が手足でしょうか。どうか我々のことはお気遣いなさらず、何なりとお使いください」

 

「何を言う、信賞必罰は世の常。お前達が忠臣として私に仕えるならば、私もそれに見合った存在である必要がある……と、仕事が支えている者も多いだろう。この話はここまでにして、本題に移るとする」

 

アインズは佇まいを直し、デミウルゴスへ向けていた視線を、全体を見渡すように移す。その有無を言わせぬ鋭い視線に、シモベ達は身を引き締めた。

 

「今回、一部任務を中断させてまで皆を集めた理由は一つ。ナザリック強化計画に大きな進捗があった。延いては世界征服の方針にも関わる話であり、ナザリックに属する者ならば必ず知っていなければならない情報だ。では、説明の前にまず実物を見せるとしよう。ノーリ、アジーン」

 

アインズが指を打ち鳴らすと、硬質な指骨が乾いた音を立てた。そして、その音と同時に2人の人影がアインズの前に現れる。それは転移の魔法による瞬間移動だった。

シモベ達は瞠目した。その2人はナザリックに属する者ではなかったのだ。得体の知れぬ存在、然もそれなりのレベルの高さと見受けられる。怪しげな存在がアインズのすぐ側にいる状況に、階層守護者やプレアデス達が警戒心を高める。そして、それを察したアインズは気色ばむシモベ達を片手で制した。

 

「全員、警戒を解け。正体不明の存在を危険視するのは当然だが、今この場に於いては不要だ。さあ、2人共、自己紹介をしなさい」

 

2人の容姿は非常に似通っていた。殆ど同じの小柄な体型、同じデザインの女物の服、ブロンドの髪、長く尖った耳、そして浅黒い肌や顔つきまでもがそっくりだった。分かりやすい違いと言えば、1人は緑眼、もう1人は青眼ということくらいのものだ。

2人はアインズに尻を向けないよう横に逸れると、この場の誰よりも姿勢を低くし服従の意を示した。そして慇懃な態度で自己紹介を始める。

 

「お初にお目にかかります、私の名前はノーリ。そして、こちらが」

 

「アジーンといいます。よろしくお願いします」

 

「この度、私達はアインズ・ウール・ゴウン様のご厚意により、ナザリック地下大墳墓の末席に加わらせて頂くことになりました」

 

「ナザリックの為に、これから精一杯お仕えする所存です。"不忠者"ですがこれから宜しくお願いします」

 

「…………」

 

唐突な背信の宣言に目が点になる一同。特にアルベド辺りから強い殺気が放たれていた。あと、マーレも結構怪しい視線を向けている。

そして、アルベドのハルバードやマーレのスタッフが振るわれるより早く、真っ先に反応を起こしたノーリがアジーンに向かって拳を打ち付けた。そして、最低限のボリュームで小さく怒鳴り声をあげる。

 

「この馬鹿っ!そこは不忠者じゃなくて不束者でしょっ!?不忠が許される訳ないじゃない!あんた死にたいの!?」

 

「ご、ごめんお姉ちゃん!」

 

「このアホ!謝る相手が違うでしょうが!」

 

「あっ、ももも申し訳ございません!精一杯忠誠を尽くします!あ、ああアインズ様!どうかお許しを!」

 

「アホな妹で申し訳ありません!アジーンは忠誠心が無いわけではないんです!馬鹿なだけなんです!何卒ご容赦頂けませんか!」

 

ちょっとしたコントが繰り広げられていた。慌てた様子で土下座する2人に、アインズは朗らかな笑い声をあげた。そして、顔を上げるように促すと、アジーンの頭に優しく手を乗せる。どうでもいいが、アルベドの眼力が更に強くなった。

 

「よいよい、お前達はまだ産まれたばかりの子供だ。そして、童子の過ちをフォローするのは大人の役目だ。私は失敗を咎めることはしない。失敗から学ぶことができればそれでいい」

 

「ああ、ありがとうございます!ありがとうございます!アインズ様!もう二度と間違いません!」

 

「妹の為に格別のお慈悲をくださり、誠にありがとうございます。今後、このようなことが起こらないよう、後でじっっっくりと教育しておきます」

 

「ひぃっ!」

 

感涙に咽ぶアジーンに睨みを効かせるノーリ。よく見ると、右手に鞭までチラつかせている。教育というよりは、調教に分類される類の躾が待っていることは容易に想像できた。

 

「お前達も、いきなりの紹介で緊張してしまっただろう?今日はもう下がりなさい」

 

「はっ、寛大なお心遣いに感謝致しますアインズ様」

 

「ありがとうございますアインズ様」

 

礼の言葉を残して、2人は来た時と同じように転移魔法で消えた。アインズが改めてシモベ達へと向き直る。

 

「さて、今紹介したノーリとアジーンこそ、今回のナザリック強化計画の肝となる者達だ。一体何者なのかは、大方察しがついただろう。デミウルゴス」

 

「はっ、産まれたばかりの存在であり、見たところ種族はダークエルフ。かつあの容姿となれば、恐らくはアウラかマーレを元に生み出されたクローン、といったところでしょうか?」

 

「その通りだ。実際は、2つの遺伝子を掛け合わせているので正確にはクローンではないが、細胞の複製という点でいえばクローンといっても差し支えないだろう」

 

アインズは徐に右手を前に差し出した。一見何も持っていないように見えたが、よく見るとその手の平には一本の金の糸が乗せられている。それは、先程アジーンの頭に手を乗せた時に、こっそりと切り取った彼女の髪の毛であった。

視線が手の平に集まったのを確認すると、アインズは一つの魔法を放つ。

 

《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》

 

手の上で眩い発光が起こった。その光は10秒以上経っても中々収まらない。1つの魔法が発するエフェクトとしてはかなり長めの発光だ。

数十秒の後光が弱まると、髪の毛の隣には小指の先程の肉塊が転がっていた。アインズはその肉塊を指先で摘み上げる。

 

「これはアジーンの髪の毛を元に生み出したアジーンの腕の肉だ。生物の遺伝子情報からその生物の任意の部位、或いはその生物に存在しない部位を創造する。それが、私が編み出した新魔法《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》の効果だ。一度に作れる量は僅かだがその分質は高く、より実物に近いものを創り出せる。そして、依り代となる物体が存在する為魔力が定着しやすく、維持にMPを消費しないというのが最大の利点だ」

 

おおっ!と、玉座の間がどよめきに包まれた。産まれた時から魔法の力を与えられ、それを使うという形でしか魔法と触れ合うことのなかったシモベ達にとって、新たな魔法の創造という行為は正に神の御業であった。そこら中からアインズを讃える声が飛び交う。

尚、実際はアインズが作った魔法ではなく良からぬ企みの為にアルベドが考案した魔法なのだが、そんな裏事情を知っているのは当人達だけである。

 

「強者が犇き個の強さが物を言うユグドラシルの世界とは違い、この世界は程度が低い。であれば征服するのに必要なのは高出力の魔法よりも手数、群の力。誠その通りでございます。その慧眼、そして必要な魔法を自在に編み出すその神技、実にお見事としか言いようがありません。このアルベド、改めて御身の偉大さに感服致しました。」

 

「世辞はいい、人手不足については前々から議題に上がっていた。それを解消する為に、手慰みに《クリエイト》系の魔法を弄っていただけだ」

 

実際はアルベドが心血注いで魔法理論を紐解いて研究に研究を重ね、様々な消費アイテムと大量のMPを使用してやっとこさ開発に漕ぎ着けた魔法なのだが、そんなことを知っているのはアルベド本人だけである。

 

「あの2人はアウラとマーレから複製した生殖細胞を受精させて産み出した。そして《タイム・アクセラレート/時間加速》等の魔法を駆使し速やかに成長させ、最高効率のパワーレベリングを行った。その結果、誕生から僅か3週間程で40レベルにまで成長するに至った。このままのペースならば来月には50レベルを越す計算だ」

 

《フローティング・アイ》

 

また、別の魔法を発動するアインズ。遠隔の景色を映し出すその魔法により、光の像が作り出される。見えたのは、宙に浮かぶ球形の液体の中に漂う赤子の姿で、その数は十を超えている。赤子達の肌の色は皆浅黒く髪は金色で、ノーリやアジーンと同類の存在であることは一目で理解できた。

 

「彼らを使いダークエルフの軍、いや国を築く。国民の数は初めは5000、平均レベルは60が目標だ」

 

レベル60、それは転移後の世界の基準で語れば、伝説の存在と呼ばれる程の強さがある。周辺国家最強と謳われる王国戦士長ガゼフ・ストロノーフでさえ、レベル40には届かない。嘗て一国を滅ぼしたヴァンパイアロード、イビルアイであれば、やっと対抗出来るかどうかといった数値だ。

そんな伝説級の怪物が5000体。とても単純な計算をするなら、5000の国を滅ぼすことが出来ることになる。世界征服という絵空事のような計画にさえ、過剰と思える程の戦力だ。

 

「数とレベルは徐々に増やしていき、ゆくゆくはあの日ナザリックに大挙して攻め込んで来た1500人のプレイヤーをも超える大軍隊を創り出す!そして約束の日、アインズ・ウール・ゴウンは世界を統べる普遍の伝説となるのだ」

 

アインズは宣言する、この世の頂点に立つことを。両手を大きく広げている様は、世界を手中に収めるという意思の表れのように見えた。

 

「その為には、お前達の力が必要だ。期待しているぞ」

 

「「はっ!必ずやこの世界を手にし、アインズ様に献上することをここに誓います!」」

 

シモベ達の合唱が玉座の間に響き渡った。その言葉には確固たる決意が宿り、言霊となって彼等の心を熱く燃やす。その空気感は、嘗て1500人ものプレイヤーに立ち向かった時の41人の異形達のそれに似ていた。

 

 

 

世界征服達成の日は近い。

 

 

 

その後、細かな報告や役割決め、今後の展開などを話し合って定例報告会はお開きとなった。皆が己の持ち場へと戻り、玉座の間にはアインズとアルベドだけが残った。

 

「さて、実に1ヶ月ぶりだな、アルベド」

 

「はっ、お久しぶりでございます、アインズ様。この1ヶ月間、身を引き裂かれるような思いでした」

 

「そうか、しっかりと反省出来たならそれでよい」

 

アインズの前に跪くアルベド。アインズを主とし、アルベドを従とするその関係は本来あるべき2人の姿である。だがそこには、よくよく注視しなければ気が付かない程の、極僅かな違和感があった。まるで、何かが入れ替わってしまっているかのような、小さな違和感が。

 

「さてアルベド、いきなりだがお前に1つ質問がある」

 

玉座から立ち上がったアインズが、鷹揚な態度で歩き出す。そしてアルベドの目前まで来ると足を止めた。そして、いつでも魔法が放てるようにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをアルベドの首へと向ける。それはまるで、断頭台で罪人に向けて振り上げられた斧のようであった。明らかな異常事態だが、アルベドは身動ぎひとつしない。

 

「はっ、何なりとお聞き下さいませ、アインズ様」

 

アインズの体からは、一度人間が浴びれば瞬時に意識を失うであろう程の強烈な威圧が放たれていた。それは、ナザリックが転移し、始めて守護者の前に立った時勝手に漏れ出してしまっていた絶望のオーラとは全く質の違うもの。アルベドへと向けた明確な殺意。ナザリックへ敵対した者に向けられるべき、殺しの感情。

 

「では尋ねよう……お前は誰だ?」




現在の状況

 体       中身
アインズ    アルベド
アルベド    シャルティア
シャルティア  アインズ

カオス


アインズが関わらなければ有能なアルベド、唯一の良心が不在なので効率重視の世界征服RTAが行われます。人類涙目。

アルベドの身体を手に入れたシャルティア《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》とかいう超便利魔法を手にしたことにより、魔が差してアインズを襲います。

シャルティアボディのアインズ様。完全調教済みの肉体につられてアヘ落ちしました。


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アインズ&シャルティア「「入れ替わってる!?」」その2

色々雑
適当に読み飛ばしてくだしあ


数日前——

 

 

 

『アルベドがアインズの子を妊娠!!』

 

 

 

その日、ナザリックは揺れた。

 

驚愕のニュースは瞬く間にナザリック中に駆け巡った。どのくらい瞬く間だったかというと、情報が伝達しきるのにかかった時間は凡そ120秒、たったの2分であった。それぐらい衝撃的なニュースだった。まぁ、新たに神の子が誕生しようというのだ、シモベ達にとっては驚天動地の大事件であろう。

そして、このビッグニュースに対する各々の反応はというと、大体このような感じだ。

 

「アインズ様のお世継ぎが?そうですか……それはそれは喜ばしいことです。大慶至極に存じます」

 

仕える主人が増えるという望外の喜びと驚きに包まれながらも、紳士な態度を崩さずに静かに祝いの言葉を述べるセバス。

 

「至高の御方にお世継ぎが!?おお、なんたる福音か!このデミウルゴス、心より祝福させていただきます!」

 

待望だった至高の存在の後継の登場に純粋な祝福を送りつつも、胸中で様々な算段を立てるデミウルゴス。

 

「アインズ様に御子が!?それは実に素晴らしい!あの素晴らしい光景が現実に……あぁ良い、良い光景だ……」

 

明るい未来を思い浮かべて、妄想世界にトリップするコキュートス。

 

「アルベドに赤ちゃんが!?しかもアインズ様の子供!?」

 

「す、すごいねお姉ちゃん!アインズ様をお祝いしなくちゃ!」

 

「そ、そうね。でも、アインズ様が一体どうやって……?」

 

吉報を諸手を挙げて祝うマーレと、降って湧いた疑問の所為で微妙に喜べないアウラ。

 

「ンアインズ様がお世継ぎを!?それは、もしや私の新たな兄弟が誕生するということではないか!?Das ist wunderbar!!(素晴らしい)Ich gratuliere!!(おめでたい)」

 

そして、この件に対し誰よりも喜びの声を上げたのはパンドラズアクター。喜びの余り、ドイツ語まで飛び出してしまっていた。

 

とまあ、殆ど全てのシモベ達がアルベドの妊娠、もといアインズの子の登場を祝い、祝福の言葉を述べたのだった。そんな感じでナザリック全体がお祭りムードの中、何やら干からびたカエルのようにしおしおになってしまっている者が若干3名。

 

「ははっ、俺、童貞のまま一児の父親だってよ……はははははっ。いや、今は母親なのかな?はははは、ははははははぁ……ああああああ!!夢だ、これは悪い夢だ……」

 

まず1人目。あの後、正気に戻って自身の状況を正しく認識してしまったが為に、SANチェックが必須な状態のアインズ様。幸いなことに、ショットバーに入ってから先の記憶は殆ど無かったのだが、目が覚めたら色々汁塗れだったり股間が痛かったりで、大体察して目のハイライトが消失。更に妊娠発覚のダブルパンチで再起不能に至った。

因みに、彼にとって一番ショックだった出来事は、アルベドの体に宿る母性本能の影響なのか、お腹の子が愛おしくて愛おしくて堪らなく感じてしまうことだった。子を堕ろすなど以ての外で、それどころか、気を抜くと腹部を撫でながら聖母の微笑みを浮かべてしまっている程だ。そんな自分自身の姿に、深い絶望を感じていたのである。

 

「アインズ様とお会いできない?お声を聞くことも許されない?1ヶ月もの間、アインズ様と一切関わってはいけない……?そんな……そんなの嘘よ……嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘、嘘よぉぉぉおおおお!!」

 

2人目は、この頭を抱えて悶え苦しむ白骨死体だ。勿論中身はアルベドである。あの後、正気に戻って死んだ目をしたアインズに、1ヶ月接触禁止の厳罰を下された。残念でもないし当然の結果である。

因みに、アルベドの姿のアインズが接触禁止を命じると、入れ替わりを秘匿している今対外的にマズイので、アルベド自身に命じさせた。自らアインズとの接触を断つと宣言するのは、アルベドにとっては自害するよりも遥かに恐ろしく厳しい行為であったという。

 

「アルベド……妊娠……アインズ様の……お世継ぎ……アインズ様の……アインズ様の……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……」

 

そして3人目は、第一から第三階層の守護を任されている、階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。アルベドとは正妻の座を争っていた犬猿の仲だ。

そんな彼女は現在、アイデアロールに成功してしまったのか目の焦点が虚ろで、アインズの名を呟きながら壁に頭を打ち付けては反動で倒れ、また起き上がっては壁にぶつかって倒れるという奇怪な行動を繰り返していた。知らぬ間に正妻の座を奪われていたことと、先日の失態も相まって深刻な精神的ダメージを負っており、その症状は3人の中でも特に重症だった。

 

そんなこんなで、3人は暫く各々の自室に閉じこもって錯乱状態だった訳だが、その中で真っ先に正気を取り戻したのはアルベドだった。優秀な彼女は、失態を犯しておきながら何もせずに徒らに時間を浪費するという行為を良しとしなかった。

 

「こんなことしている場合ではないわ……今回の失態を帳消しにすることはできないかもしれないけど、少しでもアインズ様のお役に立って信頼を取り戻さなければ……このままアインズ様に見捨てられないように、最善を尽くさなくては……」

 

そしてなにより、アインズに見限られてしまうのが恐ろしかった。もしかしたらアルベドに失望したアインズは、他の至高の存在と同様に姿を隠してしまうかもしれない。考えただけで死をも生易しく思える恐怖に体が震えた。アンデットの特性により感情が抑制されるが、その恐怖はこれっぽっちも収まることはない。それ程までに、アインズがいなくなる可能性をアルベドは恐怖していた。

 

取り敢えず立ち直ったアルベドは、自分は何をするべきか検討する。直接会うことが不可能な以上、失態を取り返す為の手段は限られる。アインズは、望んだモノを全て手に入れられる強大な力をと叡智を持っている。(アルベド視点)そんな、神にも勝る超越者に満足して貰うには、一体何を捧げるべきか。

 

「やはり、この世界を献上する他ない……」

 

この世界を征服すること、それはアインズの兼ねてからの願いだ。(アルベド視点)この悲願を達成することこそ、アインズの望み。であれば、世界征服を為すのを手助けするのに出来ることは何か。

 

「ナザリックの力をより高めること、それこそが私が今為すべきこと!」

 

そうして、アルベドによるダークエルフ軍製造計画が始動した。元々《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》は軍事利用も加味して開発した魔法だったので、計画の進行もスムーズだった。

因みに、この計画について、アルベドは言伝でアインズに許可を取ったのだが、妊娠発覚のショックで放心状態だったアインズは計画についての報告を一切聞いてはいなかった。右耳から左耳へと素通りしていく情報に対して、生返事で適当にGOサインを出してしまったのである。

 

「あぁ、何と慈悲深きお方なの……感謝致しますアインズ様。私にもう一度機会をお与え下さるのですね。どうか暫しお時間をくださいませ、必ず、必ずやこの世界をアインズ様に献上してみせます!」

 

そして、そのGOサインはアルベドの決意を強める最後の一押しとなったのだった。守護者統括アルベドは、これにて完全復活を成し遂げた。

 

 

 

次に正気を取り戻したのはアインズだった。彼は、自身の状態がまだ完全に手遅れになった訳ではないことに気がついたのだ。

 

「そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。このまま手をこまねいていたら本当に最悪の事態になってしまう!その前に出来るだけ、出来るだけ早くこの身体から脱出しなくてはならない!!」

 

今はまだなんの変化も見られない腹部を見ながら決意を露わにするアインズ。その場所が膨らみ始める前に元の体に戻ってしまいさえすれば、精神的ダメージは少なく済ませることが可能なのだ。産まなければセーフ、という考えが彼の頭を支配した。果たして本当にセーフなのかは怪しいところだが、取り敢えず精神の安定を図ることには成功した。

そうと決まれば行動は早かった。元々アインズが研究するという名目で預かっていたワールドアイテム『強欲と無欲』を取り出して、ある場所へと向かう。その足取りに迷いはなく、もう後には引けないという確固たる決意が見て取れた。

 

そうしてやってきたのは、一般メイドの仕事場だった。アインズの目的はちょっとした確認である。それは、レベル1のホムンクルスである一般メイドは『強欲と無欲』を装備出来るのかどうか、というものだ。レベル1の一般メイドが装備可能ならば、ナザリックの殆ど全ての者が装備が可能ということになる。嘗て似たような実験をやった時は、使わなければ装備自体は可能という結果になった。

そしてその確認の真なる目的とは『アルベドと入れ替わるのは無理だが、別の誰かと入れ替わるのは可能なんじゃないか?』という疑問を解決する為ものだった。そう、アインズはこの体から離れられれば元の体に戻らなくてもいいと考えたのだ。とはいえ、入れ替わる候補はなるべく精査しておきたい。そんな訳で、レベル的に本来なら装備出来ない者がワールドアイテムを装備出来るかどうかをチェックしようと思った次第だ。

そう思ったのだが、ここでちょっとした問題が発生した。

 

「うーん、どうしたものか」

 

アインズとしてはメイドに用があっただけなのだが、偶然にも、そこにはダークエルフ軍製造計画の為の実験を指示しているアルベドがいた。この時点ではアインズは知らぬことだが、既にノーリとアジーンの姿もあった。

接触禁止を命じた手前顔を合わせづらく、アインズは物陰に身を隠す。そして、アルベドの実験風景を覗き見た。

 

「あれは……アルベドは一体何をやっているんだ?」

 

前述の通り、全く話を聞いていなかったアインズ。アルベドが何をしているのかさっぱり把握できていない。

 

「そういえば、アルベドが近々何かするって言ってたっけ?全く話聞いてなかったけど、アルベドなら大丈夫だろうってOKしたが、この前のこともあるし少し心配だな。何をやってるかだけでも分かればいいんだけど……」

 

怪しげな実験の様子に僅かに不安を覚えたアインズ。実験の真相を探るべく、影からコソコソと聞き耳を立てる。頻繁に聞こえてくるのは、サンプルがどうだとか、ノーリとアジーンがなんだとか。アインズにはよく分からない単語ばかりだ。

 

「《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》?知らない魔法だな……きゃっ!」

 

その時、不意に背後から強い力で何者かに腕を引かれた。余りに唐突だったので、危うく転びそうになりながらも何とか踏み止まる。そして少し不機嫌になりながら下手人を睨むと、そこにはもっと不機嫌な顔をした少女が仁王立ちしていた。

 

「何をしていんすの、アルベド?」

 

それは、3人の中で一番最後に正気に戻ったシャルティアであった。いや、正気というよりは、瘴気と怒気に包まれながら怒りのパワーで動いている感じだ。何故シャルティアは怒っているのか、その理由は主に2つ。

1つはアルベドの命令違反。接触禁止を命令されながらもアインズのことを覗いている、紛うことなき命令違反の現場を見たからだ。ただ、これに関してはシャルティアも同類だった。実は、先日のアインズへの反逆行為に対する罰として、1ヶ月の自室謹慎を言い渡されていたのだ。アインズの手を引き物陰に身を隠したのも、勝手に出歩いている現場を見られないようにする為である。

 

「アインズ様に夜這いを仕掛けて、魔法で無理矢理子を孕んだそうじゃありんせんか。ええ?アルベド」

 

そしてもう1つの理由は、とある噂に起因していた。その噂とは『《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》の発案者はアルベドなのではないか』というものだった。尚、正確に言うと、この時点では《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》についての情報は開示されていないので『生殖器を生み出す魔法があって、それをアルベドが作ったんじゃないか』という噂である。

アルベドが妊娠、その為の魔法を作ったのはアルベド、極め付けはアルベドに課された1ヶ月接触禁止の罰。それらの情報があれば、余り賢く設定されていないシャルティアの頭脳でも、ある1つの仮説が成り立つ。そう『今回の妊娠はアインズの意思ではなく、アルベドの勝手によってできたものではないか?』という説だ。

中身が丸切り入れ替わっていることを除けば概ね当たっているその説は、シャルティアの怒りのエンジンに熱い火を注ぐ原動力となっていた。表情は般若の如く歪み、いつでも殴りかかれるように拳はきつく握りしめられている。

 

「……まあいいか。シャルティア、ちょっとコレをつけて」

 

が、アインズもシャルティアの怒りに構っている程の余裕はない。シャルティアがそうであるように、アインズも結構切羽詰まっている状態なのだ。彼の脳内は、一刻も早くアルベドの身体から脱出する、という目標で埋め尽くされていた。

深く考えずに、シャルティアの体を入れ替わりの候補として定めたアインズ。シャルティアの手を取って『強欲と無欲』の片方を無理矢理その手に嵌める。

 

 

 

「ちょっ、いきなりなんでありんす!?」CV:原由実(アルベドの声優)

 

 

 

「……へっ?」CV:原由実(アルベドの声優)

 

 

 

一瞬、余りにも一瞬。エフェクトも効果音も情緒も描写も何もなく、一瞬で入れ替わっていた。外見に変化は何一つなく、中身だけが綺麗に入れ替わった。側から見れば、アルベドが急にシャルティアの真似をし始めたようにしか見えないだろう。

 

「な、何がどうなって……?」

 

キョロキョロと周囲を見渡すシャルティア。景色が急に変わった、声も低くなっている気がする。そして、目の前には白い籠手を付けた自分の姿。理解不能な現象の数々に、思考回路が軽くショートする。

 

「入れ替われたぁぁぁあああ!!」

 

「うわっ!?」

 

唐突に目の前にいる自分が歓喜に満ちた叫び声を上げた。シャルティアにはもう何が何だかわからない。だが、一つだけ分かることがある。この謎現象を起こしたのは、恐らくアルベドだということだ。

 

「ちょっとアルベド!一体何をしたんでありんすの!?」

 

「まあまあ、詳しい話は向こうで。一旦ここを離れるぞ」

 

アインズは慌てふためくシャルティアを宥めつつ、リングオブアインズウールゴウンを使い転移をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルティアの自室にて、シャルティアの姿をしたアインズが、アルベドの姿をしたシャルティアに向かって話をしていた。

 

「単刀直入に言おう、私はアルベドではなくアインズだ」

 

アインズはこれまでの経緯をあらかた説明した。当然、アルベドに襲われたこと等の隠しておきたい部分は濁しての説明だ。

 

「という訳で、私このワールドアイテムの実験を行なっている最中なのだよ

 

「アルベドの体の中に、アインズ様がいらっしゃる?……はっ!申し訳ありませんアインズ様!先程はとんだ無礼を——」

 

「よせシャルティア、この件でお前を罰するつもりは毛頭ない。寧ろ今後もそのままの態度で接しろ。入れ替わりの事実を他のシモベに知られるわけにはいかないからな」

 

「しかし……」

 

「敬語も無しだ。これからは、なるべくアルベドと同じ言葉遣いを意識するように」

 

「……はっ、承知致しましたアインズ様」

 

「……うーん」

 

なんだか既視感のあるやりとりだった。やはり、敬語禁止はかなり難易度の高い命令のようだ。アインズは演技指導の必要性を感じつつも、長くなりそうだと感じ後回しにすることにした。そう、色々あって忘れていたが、一つやっておきたいことがあったのだ。

 

「ところでシャルティアよ《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》という魔法を使うことは出来るか?」

 

それは、先程アルベドが使っていた謎の魔法についてだった。アインズは《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》という魔法に聞き覚えはなく、ユグドラシルには存在していない魔法だと思われる。となれば、あの魔法はアルベドが作ったか、或いは現地の魔法を習得したということになる。

どういう経緯で手に入れた魔法なのか、恐らくは既に報告済みなのだろうがアインズにはその報告を受けた時の記憶はない。しかし内容を直接聞くのは、自ら出させた接触禁止令の所為で出来なくなってしまっている。それに一度報告を受けたことを今更聞き直すのもなんだか気まずい。そんな訳で、一度使ってどんな魔法か調べようと考えたのだ。

 

「《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》でありんすか?私の習得魔法にはない魔法でありんすが……」

 

「いや、恐らくはアルベドが習得している魔法だ。体が入れ替わった今、お前でも使えると思うんだが、どうだ?」

 

「アルベドの魔法……えーと、多分使えると思うでありんす」

 

何やら魔法の名前に思い当たる節を感じたシャルティア。それは、アルベドの体に宿る記憶の欠片。アインズとアルベドが入れ替わる前、アルベドがその魔法を使った名残。それをシャルティアは機敏に感じ取った。

 

「そうか、ではやってみてくれ」

 

「はい、アインズ様」

 

シャルティアは右の手の平を手前に差し出した。その仕草は意図して行われたものではない。シャルティアが宿るアルベドの体は、勝手に最適な行動を取っていた。

そして、魔法が放たれる。

 

《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》

 

シャルティアが魔法の言葉を紡いだ途端、眩い光が手の平を中心に巻き起こった。神聖さを感じさせる暖かな輝き。遍く生命が内に秘める、神秘の煌めき。心安らぐ柔らかな光に照らされて、2人は心が浄化されるような心地になった。

 

(この神々しいエフェクト、まさか聖属性の魔法か?)

 

聖属性の魔法はアインズ達アンデッドには脅威となる。アルベドがアインズを害するような魔法を作り出すとは思えなかったが、大事をとって少し距離をとった。

光はとめどなく溢れ出し、たっぷり数十秒の時間を掛けてようやく収まった。魔法を使う前後で大きな変化はないが、シャルティアの手の上には何かがあった。光によって眩んだ視界が、徐々に回復する。そして、2人の目に飛び込んできたものは、

 

「おおっ、これは……!?」

 

「この、感触は……まさかっ!」

 

長さ20センチくらいの肉の棒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【諸事情によりカット】




一番重要なシーン(18禁)カットする屑
SAN値回復したら書く


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