【再構成のため停止】レィル・クローターと魔法生物 (antique)
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プロローグ






 

 

 

 

 

 

「あぁ、カロライナ。そこを出ないでくれ?それ以上大きくなられると困るからな。おい、ヒューレル。またネクサスを刺したな?」

 

忙しなく動く少年は杖を一振り、一瞬で材料を調合してネクサスと呼ばれた白い猿のような浮いているモノに薬を塗り付けた。目眩や吐き気が納まったネクサスは姿を消して立ち去ろうとしたところを少年に捕まった。

 

「ネクサスも色々動き回らないで、危ないから。ビート、僕の背に乗る癖は直してくれ。ペッツ、チュークル、デューク、ベッジ、アルファ、クラープ、レスター、ご飯の時間だよ、好きなだけ食べてくれ」

 

ビートというスフィンクスを小さくしたような猫は言われても尚肩に乗り続けた。ペッツ、チュークル、デューク、ベッジ、アルファ、クラープ、レスターと一気に呼ばれた梟の顔をしたアルパカは少年が宙へと散らかし、滞空したままの餌を食べ始める。

 

「ハルファス、バルクァス。アンドロメダを抑えといてくれ、後で仕置きにいく。アレクサ、ヒューイ、ルイス、メリビット、喧嘩するなよ、首がまた増える」

 

ハルファスとバルクァスの見た目は完全なマンティコア、しかも押さえているのは首もとを棘だらけにした豹だった。

彼らは棘にさわらぬように頭と体を抑えている。アンドロメダと呼ばれた豹は「仕置き」という単語にマンティコアが押さえるよりも早く伏せていた。

言葉だけでよかっただろう。

アレクサ、ヒューイ、ルイス、メリビットは体は共有しているが頭は別れていた。一応生物上の雌に当たるのでそうと言わせてもらうが、彼女らはヒュドラである。

ここに来る前までもかなり奔走したらしい少年の額や頬には大粒の汗が垂れていた。彼が全員の食事を与え終わると、丁度八つの大きな影が渡ってきた。

 

「丁度よかった。ノージバル、エラメル、フレアーズ、ボーマン、ダイアナ、パルコール、エラクレス、お前らの分もあるから安心してよ」

 

そこに現れたのは八頭のドラゴン達だった。本来人間に懐く筈のないドラゴン達が、八つの塔に鎮座し我へと彼を待っている。

ノージバルは犬と蜥蜴を足して二で割ったような顔に大きなくすんだ茶色の羽、先端で二つに割れた尻尾を持つドラゴンだ。

エラメルは二本の角を持ち、翼膜に黒い斑点をもつドラゴン。体の色は呼んで名の元になったエメラルドの如く、綺麗な翡翠色だ。

フレアーズは真っ赤な体に後頭部の棘が特徴的なドラゴン。誰よりも好戦的だが、少年の指示には必ず従う。

ボーマンは一本角以外は特徴はそれほどないが、鼻から漏れている蒼い炎が印象に残るドラゴン。この中では一番忠実。

ダイアナは体が光に当たるとマジョーラカラーの様に偏光する体質がある。それがダイアのように見えたからこの名を付けたのだ。

パルコールは恐らくこの中で統率を担っている。赤い目と長い爪、巨大な翼は誰がみても強者と言える。

最後のエラクレスは、知識の有るものなら詠嘆の声をあげるだろう。何せ、このドラゴンは誰よりも強い。

彼らは塔の上に乗せられた肉を足でつかんだり手で掴んだり、口に加えたりし、一つ吼えて自分の住処へと戻っていく。少年はそれを見届けて、現実世界へ戻るために小屋へ戻る。

小屋の中に入ると緑色の繭のような形をした何かが少年に必死になにかを伝えようとしていた。

 

「あー、分かってるよミロー。ホグワーツからの手紙だろう?大丈夫、お前らもちゃんと連れてくよ。許可は取ってある」

 

少年は繭を一撫でし、小屋の階段を上がって行った。

 

 




どうも、antiqueです。
みんな大好きハリポタ二次創作を描き始めた学生です。よければ今後とも見てやってください。

で、今回でかなりの数の名前が上がりました。特徴が所々描写してるのでGoogle先生を活用しどれがどれとか当ててみてください。

では次の話で会いましょう、サラダバー。






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人物設定(7/10時点)

 

 

 

 

レィル・クローター

177cm、68.9kg(6年生時)、黒髪、碧眼。

この物語の主人公であり、外伝主人公のヘルミオネ・クローターの子孫。イメージは奥村燐。

動物の言葉や気持ちを感覚だけでだいたい理解出来る。しかしその事を余り重要視せず、本人もなぜこんなことが出来るかを理解していない。

いっそ清々しくヘルミオネのことを第一に考えるほどに、ヘルミオネに依存している。それでもトランクの住人達も愛している。

頭の回転が早く、どんな状況ならどの子が合っているなど判断できる。どうしようも無くなればだいたいエラクレスとパルコールを呼ぶ。

決闘のスタイルはカウンター型。相手の手札が切られるのを待って行動不能にする。勿論普通の戦いならば先手必勝である。

白檀に不死鳥変異種の尾羽。三十六センチ。ヘルミオネの兄弟杖

 

ヘルミオネ・ディマイント

155cm、51kg、金髪、金眼。

レィルを愛する本作品のヒロイン。イメージはアルトリア・ペンドラゴン・オルタ。

基本的に仏頂面で、レィルにのみ感情を露わにする。その微笑みは聖女のようと言われている。

血統のスタイルは「何もさせない」。気づけば終わっているような「瞬殺」を心がけている。

黒檀に不死鳥変異種の尾羽、三十四センチ。レィルの兄弟杖

 

アリシア・ティファール

168cm、56kg、金髪、碧眼。

作品オリジナルの「聖二十八一族総督家」の一人娘。後に弟のグリゴーレが生まれる予定だったのだが、妊娠が発覚してまもなく両親が死亡したため当主の座に座ることとなる。

変わり者の多い聖二十八一族を纏めあげるカリスマは勿論、幼少の頃からメイドからの英才教育を受けていたため知識も豊富。決闘は相手の手札を潰していくスタイルと結構エグい。

スネークウッドにバジリスクの角、二十九センチ。

 

フィリップ・レッカ・ハワード

175cm、67kg、黒髪、黒目。

常に飄々としたレイブンクローの知識箱。イメージは仮面ライダーWのフィリップ。「地球の本棚」とかまんまである。

角膜が異常で、魔法が色と形で見える。例えば認識阻害呪文などは青のペンタグラム。

元々知識が豊富なため知識に貪欲、また自分と同じようなタイプの人間を否定されると指定した相手を完膚なきまでに叩きのめす。決闘のスタイルは先手必勝、相手の動きを止めて一気に勢いに乗せて打ち負かすタイプ。

母親の旧姓はレイブンクローであり、ロウェナ・レイブンクローの正統なる末裔であると言える。

トウヒにニューレル・ユニコーンの鬣。四十センチ。

 

メズール・キラグリード

154cm、49kg、茶髪、灰眼。

名前の由来は仮面ライダーオーズのメズール。しかしキャラが全然違うので名前だけである。

ゆるふわ系の性格だが、時に物の核を的確についてくる潜在能力の持ち主。ダーティジョークもスラスラと吐く毒舌。

決闘は持ち札をばらまいて何をするか分からせないトリッキーな戦術を使う。何をするか分かった時にはもう負けている。

父は婿入りであり、父方の旧姓がハッフルパフで、ヘルガ・ハッフルパフの末裔。

モンキーポッドに銀卵オカミーの羽、二十三センチ。

 

ゼノ・ジーヴァ・ディマイント

真名「The First Dementor

176cm、体重不明。白髪、翠眼。

ヘルミオネの祖父であり、レィルの父親代わりの人物。イメージはワールドトリガーのヴィザ。

物落ち着いた賢人といった風貌であり、ある事情からレィルのことをステファニーから預かっていた。今でも信頼度はトランクの住人の次に高い。

 

 

 

 

 

 

Do not read

 

 

 

 

ステファニー・クローター

170cm、59kg、金髪、碧眼。

レィルに邪険に扱われてはめげずに親子の愛を育もうとするレィルの母親。レィルからはたまに捨て札(・・・)と呼ばれる。

スネイプの後輩にあたり、授業のない日はだいたい彼と共にいる。恋愛的なあれこれではなく、学生時代から共にいたためである。

栴檀にニューレル・ユニコーンの尾毛、持ち手にアフリカンマリーゴールドの装飾がある。逆境を超える力を授ける。

 

ダフネ・グリーングラス。

168,6cm、61kg、金髪、碧眼。

原作登場は言及のみという悲しき少女。幼い頃、アリシアが両親を亡くして以来彼女の護衛を全うするべく英才教育を受けた美を司るグリーングラス家の長女。

その肉体美もさることながら、無手での戦闘は随一に登る。支持したのはフィリップの母親アガルタの伝手のとある神父。

彼女との戦闘は魔法を放とうとすれば終わっているので本来するべきではない。そういうところもヘルミオネと似通っている。

 

ドラコ・マルフォイ

みんな大好きフォイ。今作では魔改造。

アリシアを人目見た時から色恋云々とは違う運命を感じ、自らの生涯の一切を彼女に捧げることを誓う。

色恋ではなくとも、誰かを一途に思い続けるその精神から、レィルには言われのない親近感を覚えられている。

 

ハーマイオニー・グレンジャー

グリフィンドールの知恵袋。その知識は今作でも健在。

ある一件からフィリップを想い慕うようになり、だいたい暇な時は本を読むかフィリップと共にいる。

 

ジネブラ・モリー・ウィーズリー

病的な程にフィリップを慕うウィーズリーの良識枠。原作ではハリーに惚れていたが、今作ではフィリップに一目惚れした。

フィリップと兄のロンがいざこざを起こしたため、少しばかり邪険に扱われているがそれすらも眼中になく、常にフィリップの後を追っかけている。

 

 



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トランクの住人たち一覧(6/10現在)

 

フォウ

キャスパリーグ。あるいはプライミッツ・マーダー。又の名をビーストIV。

 

レイヴェル

不死鳥。雌個体。特異個体で羽や体毛などが赤いところが青くなっている。レィルが大好き。

 

メディクルス

レィルのフクロウ便を届けるため常日頃から空を飛ぶアフリカオオコノハズク。愛情の証として暇な時は何時もレィルの人差し指を甘噛みしている。

 

クロエ

角水蛇の雌。アメリカに行った時にトランクの住人となった。額にはルビーが輝いている。

 

 

エラクレス

ハンガリー・ホーンテール種の雄。パルコールの夫。トランクの中で1番強い。名前の由来はヘラクレス。

???「バーサーカーは負けない…世界で一番強いんだからっ!!!」

 

フレアーズ

チャイニーズ・ファイアボール種の雄。獰猛、暴虐無人唯我独尊を地で行く竜。然しレィルの命令には従う。やりすぎることも。

 

ボーマン

スウェーデン・ショート-スナウト種の雌。余り戦いを好まず、ドラゴンの喧嘩の仲裁役を請け負うことが多い不幸者。そのせいで意外に強いのだが。

 

エラメル

ウェールズ・グリーン種の雌。とても甘えん坊でドラゴンにしては人懐っこい。

 

ノーバジル

ノルウェー・リッジバック種の雄。魔法使いを殺すのが赤子を殺すよりも楽なほど強力だがレィルにとても従順。

 

ダイアナ

ポケモンのディアルガとパルキアを足して二で割り、翼をつけた竜。アイルランド・マリショール種の雄。堅実派でエラメルの事が好き。

 

パルコール

ウクライナ・アイアンベリー種の雌。ボーマンが仲裁した喧嘩に火を注ぐのが趣味。エラクレスの妻。

 

ミネマ

アクロマンチュラの雄。レィルの小屋の上に住んでいる。

 

ネクサス

デミガイズ。レィルの身につけるものに擬態するのが好き。

 

ミロー

スウーピング・イーヴルの雄。数少ない変異種で、翼が緑と青ではなく緑と赤。毒液も赤色。

 

ネイキッド

シリンドミッションの雄。テレパシーであることから「筒抜け」の英語シリンダーオミッションをもじって名付けられた。ネイキッドはその特性から「むき出し」という名をつけた。子供にソリッド、ヴェノム、リキッド、ソリダスがいる。

 

フィリア・レギス

バジリスク。ある意味ホグワーツ固有種。(話の進み方的に)現在はあと100年生きられればいい方なほど寿命が縮んでいる。

 

ノーベルタ

ノルウェー・リッジバック種の雌。原作ではノーバードだったが、レィルが引き取ったことにより名前変更。

 

ソリダス

ネイキッドの息子。相手の裏をかくことが得意で、どんなに閉心術が上手くてもものの数秒でこじ開けられてしまう。

 

メッサー

レシフォールドの雄。初めはレィルとヘルミオネを喰らおうとしていたが、フォウの威圧により大人しくなった。なお、彼のいない所ではやはりレィル達をどうやって食べようかと頭を働かせている模様。

 

ソリッド

ネイキッドの息子。息子たちの中で1番心を読める範囲が大きい。最近ボキャブラリがおかしくなってきている事がレィルの悩み。

 

ビート

スフィンクス・アウラードという顔のない小さなスフィンクス。食べ物を食べる時は顔面を突っ込むというシュールな光景が現れる。イメージはオジマンディアスのエクストラアタック、もしくはオジマンディアスのバレンタインのお返し。

 

ヴェールヌイ

オーグリーの雄。レイヴェルを好いているが、当のレイヴェルはレィルが好きなので背中を押している。ラブコメ的には一番報われない立場。

 

ユミル

オカミーの末っ子の雌。銀卵から産まれた。防衛本能は高いが、レィルに撫でられるのが一番好き。

 

アリー

屋敷しもべ妖精。本来ならばもう自由を勝ち取ったはずなのだが、物好きなのかレィルに雇われるという形でトランクの中の掃除洗濯やらの家事全般を担っている。

 

カム、ノノ

オルガロンの夫婦。まんまモンスターハンターフロンティアのオルガロン夫妻。説明不要。

 

コール

ヒッポグリフの雌。つがいを探してレィルのトランクの住人に。外に出る時はだいたいバックビークにアタックを仕掛けられてるが、つがいにしたいのはレィル。

 

ライナー

ヒッポグリフの雄個体。レィルを盟友とし、頭を下げなくても背中に乗せてくれる。しかし一番好きなのは箒に乗ったレィルと並走すること。

 

ナリフォーレ

ズーウーの雄。フレアーズと一緒にトランクへやってきた。

 

フリーヤ

サンダーバードの雌。ニュートがアリゾナに放したフランクの子孫。

 

リディ

ニューレル・ユニコーンの雌個体。白が黒になり、赤が金になってる。怒ると金が銀になる。激情しやすい。

 

 



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第1章 トランクの住人
コンパートメントより


なかちゃんさん かっこうギルスさん たくむんさん カズミンさん 魁華さん 藤原勇司さん タイプ・ネプチューンさん ルシファーさん 蓮青さん 引きこもり1軍さん レイ123252625さん Ike11757さん

お気に入り登録ありがとうございました!



ホグワーツ魔法魔術学校。

魔法使いになるべく少年少女が七年制で魔法の知識を学ぶ学校。全寮制で四つあり、それぞれグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンである。

グリンゴッツ銀行を除き、世界で一番安全だと言われている。それはひとえに、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアの存在だろう。

正義側の魔法使いで歴代最強と言われている彼がホグワーツの校長に就いている。これほど安全なものは無いだろうと誰もが述べる。

 

「そんな安全な場所で許可も取れた。ダームストラングじゃ無理だったかな」

 

そんなホグワーツに少年、レィル・クローターもお呼ばれした。イギリスでは珍しい黒髪に青い瞳が特徴的な、どこか包み込まれるような雰囲気を持つ少年だ。

レィルは現在一人でホグワーツに向かう列車、ホグワーツ特急のコンパートメントに座っていた。灰色に青いラインが入ったマフラーを首にまきつけ、ウィンチェスターコートを羽織っていた。

景色を眺めながら、覚えている魔法の脳内反復などをしていると、トランクからコツコツという音の後、一つ鳥の鳴き声らしきものが聞こえた。レィルは苦笑いしつつ、トランクを膝の上に乗せて囁いた。

 

「レイヴェル、後で飛ばせてあげるから今はじっとしてて」

 

トランクを一撫でし、また下へと下ろすと、三回のノックがされた。「どうぞ」と答えると三人ほどの男女が入ってきた。

 

「このコンパートメント、空いてる?待ち合わせとかしてない?」

 

代表して金髪の少女が問うてきたので、レィル。

 

「空いてるよ。魔法族の知人はそんなにないからね」

 

少女は頭を下げて、少年はレィルのトランクを興味深く見ながら、最後の一人は楽しげに入ってきた。

 

「入れてくれてありがとう。私はアリシア・ティフール。今年入学するの。良ければアリスと呼んでね」

「あたしはメズール!メズール・キラグリードだよ!ヨロシク!」

 

アリシアは金髪碧眼の綺麗な少女だった。動作の一つ一つに気品を感じる所を見ると、恐らく彼女は純血の家の出なのだろう。

変わってメズールは茶髪にパーマをかけ、バレッタで後ろ髪を纏めていた。灰色の瞳はキラキラと輝いている。

歳より精神年齢が低いかもしれない。

 

「レィル・クローター。僕も今年入学するんだ。こちらこそよろしく」

 

二人と握手した後、今まで会話に入らずにトランクを凝視する少年を見た。自分と同じ黒髪に、彼は目の色も黒だった。

アリシアは呆れながら首にチョップし、自分の隣に座らせた。因みにアリシアの向かいがレィル、左前がメズールである。

 

「フィリップ、貴方さっきから何してるの?ずっとレィルのトランクを凝視して」

「ん?レィル?それはこのトランクの持ち主のことかい?」

 

黒髪少年は惚けた様子で首をかしげた。アリシアは力なく項垂れてしまった。

 

「私達より先にいたんだから当たり前でしょ。頭良いんだから使いなさいよ」

「数年前に僕の頭をポンコツと罵ったのは君だろう?何故いいと言える?」

「うっさいフィリップ。それ以上私を揶揄う事で頭回したらノルウェー・リッジバックの前に突き出すからね」

 

アリシアは杖を抜き出してフィリップと呼ばれた少年に向けた。フィリップはヘラヘラと笑いつつ、視線をこちらに合わせるなりズイっと顔に近寄った。

 

「君がレィルかい?僕はフィリップ・L(レッカ)・ハワード。よろしく」

「あー、うん。レィル・クローター、よろしく」

 

挨拶を終えたフィリップは再びトランクを凝視し始めた。メズールがやれやれと嘆息しているところを見るとこれが平常運転らしい。

 

「で、そのトランク、なんなの?」

「へ?」

 

目は呆れつつ、アリシアがそう問うた。

 

「別に隠さなくていいわよ。告げ口とかしないから。ただ、フィリップはちょっと変でね」

「特異体質と言ってくれ、それじゃまるで僕が変質者のようじゃないか」

「特異体質?」

 

その言葉に素直に首を傾げる。基本的に人間の体に新たなアビリティが着くのは症候群や障害として現れるからだ。もっとも、それはマグルの世界ではのことで、魔法界ではそれが偉大な魔法使いの象徴とも言えるが。

だが、それをハッキリ特異体質と呼ぶ人は少ない。何故ならば親が子供の体質を持ち上げるからだ。

疑問に思っていると、メズールが荷物の中から引っ張り出したらしい棒付き飴を舐めながら言った。

 

「なんかねー、角膜が特殊らしくてー、魔法が色や形で見えるらしーよー。食い入るように見てるのは多分それだねー」

「青の羊のペンタグラム...ということは認識阻害魔法か、しかも緑の五芒星、拡大呪文?けど紫の鱗雲ってことは妨害魔法だろ。中に何が...」

 

顎に手を当てて考え込むフィリップ。カバンからペンと紙が綴られたルーズリーフを取り出し、何やら式を描き始めた。アリシアは呆れ、メズールは三本目の飴を取り出した。ゴミが二つあるから三本目で間違いはない。

そんな時、ポケットから僅かに音がした。取り出したものは、普段なら砂が一直線上に並べられたものだが、今は波打っている懐中時計のようなもの。レィルはそれと耳をリンクさせた。

 

「それなに?」

「あー、砂打ち式連絡機。マグルのモールス信号を元に作ったんだ」

「あー、トンとツーで言葉を伝えるやつでしょー?やったことあるよー」

 

メズールは飴の付いていたはずの棒を上下に振って笑った。いくら何でも食べるのが早過ぎないかとレィルは思った。

 

「Rayle、DE、N.H?HR、I am philosopher。8、1143、BT、Rayle in the train、BT、Hogwarts、F4、stone?use freely。あ、終わった」

 

音の鳴り終わった砂は移動して現在時刻の十一時四十三分を指した。ため息を吐くと、レィルはそれをポケットの中にしまった。

また面倒なことが増えたなと思いつつ、未だにルーズリーフに向き合っている少年を見る。と同時にガバッと起き上がってまたレィルの顔まで近寄ってきた。

 

「どういうことだいクローター?このトランクは物が大量に入るだけの拡大呪文が何度も重ねがけされてる。しかも薄らと、ガラスのような三角形のようなものまである!なぁ、中身を見せてくれないかい?」

「あひゃひゃひゃ、やめときなよフィリップー、人のを物色しても面白いことなんてないよー?」

 

ケラケラと笑うメズールと、呆れてものも言えないアリシア。だが二人ともトランクの中身には興味があるようだった。

レィルはトランクを引っ張り出し、鍵の下のダイアルをマグル用から研究室へ、そして皆の家に変えた。そして片方だけ鍵を開け、しどろもどろになりながら。

 

「あー、別に秘密にしてるわけじゃないけど、魔法生物たちが結構。ダンブルドアや魔法省から許可は貰ってる。これ持ってていいって」

「ダンブルドアから?ってことは皆安全なの?」

「いや、危険なのもいるけど、皆いい子だよ」

 

そう言ったレィルは微笑みながらトランクを撫でた。その表情からは、本当にトランクの中身に愛情を注いでいるのがわかる。

それを微笑ましく見たアリシアをレィルは中身がさらに見たくなったと勘違いしたらしく、二つ目の鍵を開けた。

 

「一体だそうか?」

「大丈夫なの?」

「何時もは危険のないやつだから大丈夫」

 

ガチャリと音を立てて開かれたトランクに頭を突っ込んだレィル。普通のトランクならそうなる前に頭をぶつけるが、頭をぶつけないままある動物に呼びかけた。

 

「おーい、フォウ。来てくれないか?」

 

その言葉に「フォーウ?」という鳴き声らしきものがした後、手を伸ばしていたらしいレィルの肩に猫なのか栗鼠なのか犬なのかわからない生き物が飛び出してきた。そしてアリス達の方をみてコテンと首をかしげた。

 

「おー、可愛いー!キミー、フォウくんって言うんだー?どこから来たのー?」

「フォウ、フォーウ」

 

メズールがフォウを抱き上げ、頭を撫でる。満更でもない様子のフォウは目を細めて心地良さに身を任せている。

アリシアは一向に体勢を戻す気配のないレィルを見ていた。何やら格闘しているようだった。

 

「こら、レイヴェル、出てくるなって。お前の存在は希少何だから」

「おや、クローター。それが僕が見たガラスのような三角形の正体かい?」

 

歌声にも似た綺麗な鳴き声に何かの波長を感じたフィリップはトランクを覗き込もうとする。レィルの体格上、隙間からトランクの中がチラチラと見えるのだが、レィルは気付かずに鳥を抑えていた。

 

「ほら、早くカゴに戻って。なんなら飛んできていいから。違う、外を、ってことじゃない!あっ!」

 

奮闘数分、勝利したのは鳥らしい。フォウは未だにメズールに撫でこねられていた。

アリシアが飛び出した鳥を見ようとして、その美しさにみとれてしまった。それはフィリップもであり、フォウを捏ねていたメズールもだった。

そこに居たのは青い鳥だった。羽は先端に向かうにつれてだんだんと色が薄くなり、先端に近くなるほど綺麗な銀色になっていた。幻想的にも美しいその鳥はコンパートメントを一周すると床に音もなく降り立った。

 

「レイヴェル、外の空気が吸いたくなったのはわかる。けど君は不死鳥の希少種だ、もし邪な考えを持ったやつに見つかりでもすれば捕えられるのが目に見える。入ってくれ」

 

レイヴェルは一度頷き、一鳴きすると、トランクの中に戻って行った。それを見届けたレィルはしっかりとトランクを閉じ、鍵を閉めた。

 

「レィルー、さっきのって不死鳥ー?でも色おかしくないー?」

「えぇ、あれの羽の色は青と銀よ。不死鳥なら赤と金の羽のはず」

 

メズールとアリシアがレイヴェルに疑問を持っていると、フィリップがカバンから本を取り出した。フィリップが出した本は黒字に金枠が付けられた革本だった。フィリップは目を閉じて、本を開いた。

 

「え、中身が全部白紙なのか?」

「フィリップの特殊体質その二ね」

「タイトルも本文も何もないまっさらな本を開いてー、自分の意識を地球の中心部にアクセスするんだってー」

「フィリップはこれを《地球の本棚》と呼んでるわ。キーワードさえ集まれば何でも分かるそうよ」

「へぇー」

 

素直に関心したと同時に、フィリップは恐らくレイブンクローだろうなとレィルは思った。知識がある人ほど知識欲があると言われている。

レィルは自分がレイブンクロー、若しくはグリフィンドールと考えている。まだ見ぬ動物達を見たいという欲求か、どんな動物を相手しても臆さない精神力が上かは分からないが。

メズールはハッフルパフで確定だとレィルは思う。あの間延びしたような雰囲気は誰とでも溶けあえるだろう。

アリシアが入る寮を考えようとした時、「検索完了」と呟いたフィリップがやっと目を開けた。

 

「確かに確認した。フェニックス特異個体、青と銀の羽を持つ。能力事態は通常個体と変わらない。通常個体よりも好奇心が強い。出現確率はファイブカードと同じ」

「ファイブカード!?それってロイヤルストレートフラッシュよりも確率高いじゃないの!」

「幸せの青い鳥とも称されてるね」

「理由聞けば当たり前―、って思うけどねー」

 

フォウが捏ねられることから脱し、レィルの肩へと場所を戻していたために手持ち無沙汰になってしまったメズールは蛙チョコを食べながらカラカラと笑っていた。この反応が嫌なせいでレィルはレイヴェルを出したくなかったのだ。

レイヴェルとは別の青い不死鳥は今でもオークションにかけられており、今は3400万ガリオンが付けられている。それを避けるためにいち早く青い不死鳥を探し、保護したのがレイヴェルなのだ。

この先に不安をよぎらせるレィルにアリシアはひとつ微笑んで、その両手を取った。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。仮に私たちが貴方の言う邪な考えを持っているならもう既にトランクをパクってるわよ」

「こちらとしてはトランクの隅から隅まで全部調べ尽くしたい、君は情報秘匿できる。Win-winと言うやつさ」

「そうでなくてもー、私はフォウくんを守るぞー!」

 

フィリップは本の背表紙を撫で、メズールは最後の蛙チョコを口に放り込んで高々と答えた。その姿にレィルは少なからず安心できた。

 

その後、フォウ以外にもアフリカオオコノハズクのメディクルスを取り出して談笑していたところ、2回のノックのうちに赤毛ボサボサの女の子とひょろっとした黒髪の男の子がでてきた。

 

「ねぇ、カエル見なかった?」

「さっき食べ終わったよー?」

「君のはチョコだろうメズール」

 

食べ終わった、という所に後ろの男の子が「ヒュッ」と息を飲んだが、チョコという情報に凄く安堵していた。どうやら男の子のカエルが逃げたようだ。

レィルはトランクから一匹の蛇を取り出し、男の子に近づいた。

 

「君、名前は?」

「え、ね、ネビル。ネビル・ロングボトム」

「じゃあロングボトム、君のカエルの名前、種別、大きさ、色なんかを教えてくれ。あと君の手貸して」

 

ネビルは伝えられるだけカエル、トレバーの情報を渡した。そして差し出した右手が蛇に嗅がれていたので口の端をひくつかせていた。

 

「オーケー。じゃあクロエ、情報とおなじヒキガエルを連れてきてくれ。食べちゃダメだよ」

 

クロエと呼ばれた蛇はシュー、と一鳴きしてその場から姿を消した。文字通り、一瞬で。

 

「クローター、彼女は角水蛇なのか?」

「あぁ」

 

姿くらましを終えて帰ってきたクロエの口にはヒキガエルが咥えられていた。

 

「トレバー!」

「ビンゴか」

 

レィルの手に乗ったクロエはトレバーをネビルに渡し、甘えるように首にすり寄ってきた。

 

「ありがとクロエ。後でラットをあげるから」

 

最後にもう一度鳴いたクロエは腕を伝ってトランクに帰って行った。女の子、ハーマイオニー・グレンジャーとネビルはこのコンパートメントにいることになった。

 

「荷物を取ってくるわ」

「行かなくていいだろ?」

「なんで?」

 

荷物は前のコンパートメントにあるので取りに行かなければならないはずなのに、動かなくていいというフィリップにハーマイオニーは首をかしげた。フィリップはその仕草にハーマイオニーがマグル出身者であると見抜いた。

 

「こういうことさ、アクシオ(来たれ)

 

杖を取り出したフィリップは呼び寄せ呪文を唱え、結構離れていた距離にあった二人のトランクを自分たちのコンパートメントまで引きずり出した。杖を離し両手を開いたその時には二人のトランクが手のひらの中にあった。

 

「これくらいは予習範囲だろう?」

「そうね、スコージファイ(清めよ)

 

杖を取り出したアリシアはメズールのゴミカスに呪文を当てた。当てられたゴミは縮小していき、やがてなくなってしまった。

予想通りマグルだったらしいハーマイオニーに質問詰めにされた二人は、着替えの時間になるまで疲れることを今はしらない。

 

 

 

 

 

 




どもども、筋肉痛のantiqueです。皆さんも過度な運動はお気をつけを。

オリキャラが三人出てきましたね。彼らの間柄は幼馴染です。思いが拗れて恋仲になんて展開はありません。
もう一人彼らと幼少期からつるんでいた人がいるのですが、それはまた後で。原作では妹がフォイと結婚してましたね。

フォウくん魔法界入り。これは昔からやりたかった。
この世界のフォウくんは割とチートです。闇の呪いを受けません。死の呪文も効きません。
プロローグにいた「ビート」という魔法動物といつもレィルの肩を取り合ってます。

で、レイヴェルちゃん。書いてて思ったけどなんだよ不死鳥変異種って。
基本的な解説はフィリップが言った通りです。彼はこの先もハーミーと共に解説役に回ってもらいます。
因みにレィルの事が好きです。大好きです。溺愛してます。

水角蛇のクロエ。水角蛇とは、姿くらましを額にはめた宝石の力によって使い、各地を転々とする蛇です。見た目自体はハリポタ公式サイトをチェック。
彼女がトレバーを連れてきてくれたおかげでハーミーのハリーとロンの顔合わせはホグワーツまで持ち込みになりました。呼び寄せ呪文をしてもいいんですけど、もっと魔法動物達に出番を上げたいので。

では、この辺りで。次の話で会いましょう、サラダバー






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組み分け

内緒さん 風の演奏家さん ascalonさん tarako8さん
Takiyasyaさん やぶいぬさん 藍海さん ricaさん 如月提督さん reonreinさん chrono clubさん アーチャー 双剣使いさん 奥津本谷さん

お気に入り登録ありがとうございました!


着替えが終わった丁度にホグズミード駅に到着した。荷物はそのままにしていけとの事だったので、レィルはフォウだけを連れていき鍵掛け呪文を施してトランクを置いていった。

駅のホームには見たことも無い大男が立っていた。普通ならここでびっくりするだろうが、レィルは巨人と面識があったのでそこまで驚かなかった。フィリップも知識として巨人の大きさを知っているからかそこまでびっくりすることは無かった。

 

「あの男...魔力が全身を覆っている?ハーフなのか?」

「それは巨人との、っていう意味か?フィリップ」

「あぁ」

 

フィリップがそういうからにはそうなんだろうということでレィルはそれほど気にはしなかった。

誘導された後、4人乗りのボートに乗ることになったのでレィル、フィリップ、アリシア、メズールで乗った。

蔦のカーテンを潜り、暗いトンネルを奥まで行った先の船着き場に到着し、大きな扉の前まで連れていかれた。

扉を3回ノックし、扉が開くとエメラルド色のローブに身に包んだ老教師、ミネルバ・マクゴナガルが待っていた。

 

「マクゴナガル先生、(イッチ)年生の皆さんです」

「ご苦労さまハグリッド。ここからは私が預かります」

 

マクゴナガルに誘導され、扉の中へと入っていく。

 

「ホグワーツへの入学、おめでとうございます。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席に着く前に皆さんの寮を決めなくてはなりません。寮は全部で四つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。何れの寮も輝かしい歴史があり、そして偉大な魔法使いを輩出してきました」

 

移動しながらマクゴナガルは得点、減点の説明、寮杯の説明があったが、レィルやフィリップ、メズール、アリシアは聞き流していた。別にそんなものに興味なんて湧かないからである。

レィルは魔法生物の飼育時間、フィリップは調べ物の時間、メズールはお菓子を食べる時間、アリシアは皆と仲を深める時間が削られなければ減点されても良いと考えていた。

 

「組み分けは帽子をかぶるだけらしい。先輩に聞いた」

「先輩?誰だ?」

「セドリック・ディゴリーという人で、引っ越す前まで家が近かくてね。まぁ僕は恐らくレイブンクローに行くだろうから、ハッフルパフに行ったらよろしく伝えておいてくれ、メズール」

「りょー...え、待って。なんで私がハッフルパフって確定してるの?」

 

一瞬間延びがなくなったメズールに、誰もが納得していた。お前は確実にハッフルパフだ、と。

待っている間にゴーストが出てきてマグル出身者のいくつかは悲鳴をあげていたが、これくらいで悲鳴をあげるのはメンタルが弱過ぎないかとレィルは思った。ともかくそれ以外には特に何も無く時間は過ぎていった。フィリップは城に施されて魔法を記憶しているようだった。

しばらくした後にマクゴナガルに呼ばれ、新入生一同は大広間へと連れていかれる。

大広間は何千という蝋燭が宙に浮かび部屋を照らしていて、中央には大きなテーブルが四つ置かれ、新入生を上級生が見ながら座っている。上は本物の空のように星が煌めいていた。

 

「綺麗ー!すごーいー!」

「やっぱり、この規模の魔法となると現実からかけはなれてくるわね」

「マグルからすれば僕らも十分現実からかけ離れてるけどね」

 

新入生達が魔法に魅入られながら待っていると、マクゴナガルが椅子をおき、その上にボロボロのとんがり帽子を置いた。何が始まるんだ、という時に、帽子が急に歌い出した。

 

『わたしはきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私を凌ぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シルクハットはスラリと長い

私はホグワーツ組み分け帽子

私は彼らの上をいく

君の頭に隠れたものを

組み分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気ある者が住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目標遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん!恐れずに!

興奮せずに、お任せを!

君を私の手に委ね(私は手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!』

 

一通り歌い終わった帽子はまた唯の古帽子に戻り、在校生と教師から拍手を送られた。新入生達は組み分けの仕方が帽子をかぶるだけと分かり安堵しているようだった。

 

「アルファベットの順で名前を呼びます。帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」

「アボット・ハンナ!」

 

金髪のお下げの子が帽子へと向かい、被って座った。数分すると帽子から反応があった。

 

 

「ハッフルパフ!」

彼女はそのままハッフルパフへと向かった。レィルの苗字はCから始まるので、割と直ぐに呼ばれた。

 

「クローター、レィル!」

「行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

アリシアからの返事を受けたレィルは組み分け帽子の方へと歩いていった。在校生の方で、クローターという苗字に既視感を覚えた者がいた。

 

「クローター?どっかで聞いたような...」

「俺知ってるぞ、幻の生物とその生息地でニュート・スキャマンダーがベタ褒めしてたんだ」

「苗字が同じってことは、彼は末裔なのかしら?」

「あたし、彼の論文見た事あるよ。なんか脱狼薬の改良をしてるって」

 

結構ひそひそ声で話していたためレィルには届かなかった。レィルは組み分け帽子を被って椅子に座り、その上にフォウがちょこんと鎮座する形になった。

 

(これはこれは...かのクローター嬢の末裔様とは、運命は数奇なものだ)

(え、なに、有名すぎじゃないか?僕のご先祖様は)

(如何にも。彼女が作り上げてきた功績はホグワーツにも及んでおる。上にいるプライミッツ・マーダーを発見したのも彼女だ。私もクローター嬢を組み分けし、グリフィンドールへと入れた)

(なるほどなぁ...で、組み分けは?)

(おお、そうであった。狡猾さも、優しさもある。だがそれは人には振るわれん。故にスリザリンやハッフルパフではない。勇気もある、グリフィンドールでも良いが...ここは)

「レイブンクローッ!」

 

拍手と歓声に包まれる。その多くはレイブンクローであった。フォウと共にお辞儀をして、レイブンクローの席へと向かう。

 

「良く来てくれた。レイブンクローの監督生のユーリ・フェニコバスだ。君が勉学に励み、偉大な魔法使いになることを期待してるよ」

「ありがとうございます、フェニコバス先輩」

「フェニス、ないしはユーリでいい」

 

レィルの頭を撫でたユーリはレィルを席につかせた。しばらくした後、Dの番になった時、レィルは驚きで吹きかけた。

 

「ディマイント、ヘルミオネ!」

 

少女が出てきた時点で、広場は静まり返った。数秒後にスリザリンの誰かが漏らしたお陰でざわめき声が酷くなった。

 

「ディマイントって...魔法省のお目付け役!?」

「嘘っ!?てことは彼女、凄いご令嬢じゃない!」

 

レィルが吹きかけたことに隣の女性上級生が心配してくれたが、レィルはそんなことよりも気になることがあった。

 

「レイブンクロー!」

 

とくに表情も変えずにレイブンクローの席まで来たヘルミオネはユーリの歓迎を受けた後、真っ直ぐにレィルのところまで来た。

レィルは横に座ったヘルミオネを横目で見る。どう見てもトランクにいるはずのヘルミオネがここにいた。

 

「どうやって抜け出したんだ?ヘルミオネ」

「姿現し」

 

さも平然と答えるヘルミオネ。その顔には悪意はなかった。それから彼女がホグワーツに呼ばれた経緯を聞き出したところ、どうやらレィルの手紙と同封されていたらしい。

 

「グレンジャー、ハーマイオニー!」

 

コンパートメントでであったハーマイオニーが呼ばれ、彼女も帽子をかぶった。彼女の組み分けはゆうに五分ほど費やした。

 

「レイブン…いや、グリフィンドールッ!」

 

高らかに宣言され、彼女はグリフィンドールの席へと向かう。確かにコンパートメントでもかなり知識欲が高かったのでレイブンクローでもおかしくはない。

 

「キラグリード、メズール!」

「ハッフルパフ!」

 

メズールは帽子をかぶった四秒後にハッフルパフへ行かされた。ユーリの話では過去に帽子に被らずに組み分けされた人がいるらしい。

 

「レッカ、フィリップ・ハワード!」

「レイブンクロー!」

 

当たり前、と言うようにフィリップは悠々とレイブンクローの席に着いた。フィリップはレィルの右に座った。左はヘルミオネが座っている。

 

「同じ寮になったね。よろしく頼むよ、クローター」

「こちらこそ、フィリップ」

 

軽く握手をし、今後のことについて色々と話をした。フィリップは休み時間の合間を縫って図書室の本を脳内にインプットする作業をするらしい。因みにレィルはネズミたちに手伝ってもらって校内地図を作るつもりだ。

 

「ポッター、ハリー!」

 

かの生き残った英雄の名が呼ばれた瞬間、シン、と場が静まり返った。彼がどの寮に所属するかを誰もが注目して見ていた。

 

「グリフィンドールッ!」

 

英雄の行き先となったグリフィンドールの席から爆発的な歓声が上がった。グリフィンドールの双子が騒いでいるが、レィルはそんなのを気にせずにフォウを撫ぜていて、フィリップも帽子の魔法式の解読に一生懸命であった。ヘルミオネもレィルをじっと見てハリーなど眼中に無いようだった。

それから次々といいテンポで生徒達が各寮に運ばれている時、ある女生徒の名前が上がった瞬間にもう一度場が静まり返った。

 

「ティファール、アリシア!」

「ティファール…だと!?」

「聖二十八一族総督家のあの!?」

「今年はどんだけビッグネームが入学するんだよ!?」

 

魔法使いなれば誰もが一度は耳にするビッグネームに大広間が一斉にざわついた。レィルは正直だからどうした的な感じで受け止めていたが、フィリップだけは舌打ちをしていた。

 

「ハワード?」

「ん、あぁ、気にするなよディマイント嬢。こういう反応をアリスは最も嫌う。今頃この会場を全て破壊できる存在を思い浮かべているだろうな」

 

アリシアの組み分けはハーマイオニーよりも数分長かった。恐らくレイブンクローかスリザリンかで迷っていたらしいのだが、帽子の出した判決は。

 

「……スリザリンッ!」

 

スリザリンだった。当のスリザリンは純血一族の最高峰であるティファール家の一人娘を手にしたので大歓声に包まれた。

最後の一人が終わった後、ダンブルドアからの簡単な挨拶があり、テーブルの上には多種多様な料理が広げられていた。生徒達はそれらを自由に食べ始めた。

レィルの周りにはレィルを知っている人やクローターを知っている人が集まっていた。それでも隣はフィリップとヘルミオネだったが。

流石はレイブンクローと言えるのか、以前レィルが出した守護霊薬や脱狼薬の論文は結構知れ渡っていた。やがてレィルへの質問攻めからどの研究を真っ先にすべきかという議論へと話題がシフトして行った。

 

「大変だな、研究者サマは」

「そんな柄じゃないし、君の方が知ってるだろうフィリップ」

「僕は知ってる訳じゃない、調べられるだけさ」

 

フィリップの茶化しに愚痴をひとつ零せば、ヘラヘラとした笑い方でこちらのペースを上手く揺さぶる。恐らく人付き合いは上手いが面倒くさいタイプだとレィルは確信した。

壁に体重を預け、軽く仰いだ時、ヘルミオネがレィルの様子を心配して左手を両手で取った。

 

「レィル、大丈夫?」

「あぁ、そんなに大丈夫じゃない」

「後でココアを入れておく、ね」

 

フッと微笑んだヘルミオネの顔は、皆に見せる仏頂面よりも何倍も可愛く見えた。しかしレィルが彼女に欲情することは万に1つもない。

デザートを食べ終わり、各々が食事に満足してきた時にダンブルドアが立ち上がった。

 

「ふむ、全員良く食べ、良く飲んだことじゃろうから、二言、三言ほどこれから新学期を迎えるにあたってお知らせがある。一年生に注意をしておくが、校内の禁じられた森には決して立ち入らぬように。上級生も同じように特に注意しておこう。そこのウィーズリーツインズなどにの。フィルチ先生から授業の合間に廊下で魔法を使わないようにと注意がありました。今学期の二週目にクディッチの選抜会があるので、寮のチームに参加したい者はマダム・フーチに連絡するように。あぁそれと、禁じられた森じゃが儂が発行する特別許可証があれば条件付きで入ることを許そう。引率には森番のハグリッドが付く。危険じゃが森には神秘的な生物がおる。許可証が欲しいものは各寮の先生に相談しておくれ」

 

一息で言いたいことをあらかた言ったダンブルドア。レィルはそのうちの一つにしか耳が傾いてなかった。禁じられた森への特別許可証である。

 

「最後に……」

 

と、ダンブルドアが先程までの緩い雰囲気を壊すように真剣な目付きで

 

「とても痛い死に方をしたくない者は、今年いっぱい四階の右側の廊下には入らぬように」

 

この注意には誰もが疑問を感じた。だが有無を言わさぬように、ダンブルドアが杖から黄色いリボンをだしてそこに歌詞を浮かばせ校歌を歌った。但し誰一人として統率は取れてないものとする。

最後にウィーズリーツインズと呼ばれた双子が葬送行進曲のリズムで歌い終え、ダンブルドアの最後の締めくくりでそれぞれが寮へと帰って行った。

レィルはヘルミオネとフィリップと共に寮へとついて行こうとしたが、寮監督のフリットウィックと副校長のマクゴナガルに止められた。

 

「ミスター・クローター、少々お時間を頂戴していいですか?校長先生がお呼びになってます」

 

入学早々に老耄が何の用だ、と不思議に思いつつ、マクゴナガルが有無を言わさぬ感じだったのでフィリップとヘルミオネに先を行ってもらい、レィルは二人について行くことにした。

 

 

 

 

 

 




ども、最近寝不足のantiqueです。というかそもそも過眠症です。

フィリップはアリシア達と知り合うまでディゴリー家の近所でした。今でも文通を続けています。
因みにフィリップは相手から「そう呼べ」と言われない限り苗字読みを辞めません。アリス、メズールと呼んでいるのは単に子供の時の癖です。

クローターの既視感。これは外伝で触れます。お楽しみに。

レィルのレイブンクロー入り。原作解離させる時点でグリフィンドール入りは排除してました。
構想段階ではハッフルパフと悩んでましたが、研究者よりの性格となったためにレイブンクローになりました。お辞儀するフォウくん可愛い。

オリ主勢のオリキャラ、ヘルミオネ・ディマイント。彼女は中々訳あり、これも外伝にて触れます。
ヘルミオネの名前は小惑星帯に位置するC型小惑星、メインベルト外縁部キュベレー族の仲間でそこから取りました、な ん で す が、綴りを見ればHermione、つまりハーマイオニーと同じなんですよね。ヤラカシタワー()。
ヘルミオネは人間ではありません。正体は次回晒しますが、ヒントは苗字が単数形であることです。

ユーリ・フェニコバス。この話でしか登場しません。ワンチャン終業式で出るかも?

ハーミーはやはりグリフィンドール。各寮二枠開けてます。空いているのはハッフルパフとスリザリン、グリフィンドールです。

フィリップはレイブンクロー、メズールはハッフルパフへ。この辺りは予定調和。

で、問題のアリス。「聖二十八一族総督家」というなんとも仰々しい呼び名。
つまりはゴドリック、ロウェナ、ヘルガ、サラザールの後にある聖二十八一族をまとめあげるために勝手出た家です。一応ナンバリング的には0番目に当たります。
それ故に他の聖二十八一族からは皇族的待遇をされます。アリス的にはそれが鬱陶しいのなんの。理解してくれるのは幼馴染だけ。

ロンの描写はなし。フォイの描写もなし。ハリーもちょびっとだけ。やはり報われない。
フォイの優遇はあとあとです。具体的にいえば終章、細かく行けば全部ぐらいに。

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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クライアント

 

 

 

 

フリットウィックとマクゴナガルに連れられたレィルは校長室の前まで来た。目の前には魔法で固められたガーゴイルが鎮座している。

 

「ピーナッツバター」

 

恐らく合言葉なのだろうが。ガーゴイルが目を開き、横へとその体を退けた。二人が中に入って行ったのでレィルもあとに続いた。

自動螺旋階段を登って校長室の扉をマクゴナガルがノックし、ダンブルドアに確認をとる。

 

「校長先生、ミスター・クローターをお連れしました」

「おぉ、ご苦労じゃったミネルバ。さて、レィル・クローター君、いや、レィルと呼び捨てにしていいかの?入学おめでとう。夜も老けてきたので用事をさっと終わらせることとしよう」

 

レィルは頷いて了承の意を伝えた。そろそろペッツ達が餌をせがむ時間になってくるのだ。最悪ヘルミオネが何とかしてくれるだろうが、トランクの中にいるかはわからない。

 

「歓迎会の時に注意をした四階の廊下、あそこにある物を置いてそれを守ろうと計画しておるのだが、その手伝いをしてもらおうと思っとる。具体的にいえば、君の魔法生物をいくつか貸して欲しいということになるが、引き受けてくれるかね?勿論対価は払おう。要望があるならば可能な限り応えよう」

 

その言葉にレィルは列車内での信号を思い出した。確かにH.Nも四階だと言っていた。

 

「なるほど、その前に校長先生。守るもの、とは賢者の石で間違いないですね?」

「分かっておるならば話が早い。しかしその情報はどこで手に入れたのかね?」

 

途端、レィルは心の中に何かが入り込んでくるような感覚を覚えた。だが昔ならば常日頃から受けていたものであり、真実ではない情報を送り込むことなど造作もない。

造作もないが、口では一応真実を言っておこうとレィルは思った。ポケットから砂打ち式通信機を取り出してダンブルドアに見せた。

 

「ここに通信が入りましたから。実はフラメル氏とは面識があります。それと、断りもなく開心術を使うのは協力交渉において最も悪手であると警告します」

「なんの断りもなく開心術を使ったのは許して欲しい。これはそれほどの問題なのじゃ。ふむ、確かに防げておる上に偽の情報を混ぜ込むことも、か。この技術はどこで得たんじゃ?」

「開心術をしてくる魔法生物がいるので、それに耐えていればいつの間にか」

 

ダンブルドアはこの技術が独学であることに驚きはしたが、確かにそういう魔法生物は確認されているゆえに深くは問わなかった。

 

「そうか。それは一先ず置いておくとして、防衛対象は君が言った通り賢者の石、そして奪おうとする者の名は、名前を言ってはいけないあの人(ヴォルデモート)じゃ」

 

予想以上の大物相手にレィルは一瞬眉をひくつかせた。だがこれまでの彼の行動、そして倒されたという情報から一瞬で全てを繋げたレィルはそこまで驚くことは無かった。

 

「なるほど、賢者の石による復活ですか。分かりました、協力しましょう」

「感謝する。では、対価は何を望むのかの?」

「ひとつは、禁じられた森への付き添い無しで自由に出入りできることを。自由に使える部屋をひとつ要求します。所属はそのままレイブンクローでいいですが、寮ではなく自室での生活の許可を。それと、そこにヘルミオネも入れることを許可してください」

「禁じられた森についてはハグリッドに話を通しておこう。部屋については、そうじゃの。大広間の玄関ホールを挟んで左側の部屋を使うと良い。空間拡張呪文を使用するのもいいじゃろう。実をいえば、魔法省からも君を自由に研究させてやってくれという指示が入っておる。君の提案はどこにとっても悪いことにはならん。しかし、そこに何故ミス・ディマイントが関わってくるのじゃ?」

 

一瞬どう説明したものか、と迷ったが、見せた方が早いとしてレィルは指を鳴らした。それと同時にヘルミオネが姿現しで校長室に入ってきた。

 

「呼んだ?レィル」

「呼んだよ」

 

ヘルミオネはいつもの癖でレィルの左手を取ろうとしたが、今は自重しろ、と目でメッセージを送ると伝わったようでヘルミオネは何もしなかった。

さも平然と入ってきたヘルミオネにフリットウィックやマクゴナガル、果てはダンブルドアまで目を見開いた。

 

「ホグワーツでは姿くらましは出来ないはず……ミス・ディマイント、どうやったのです?」

「そもそも、私は人間じゃない、から?」

「多分それで合ってるよヘルミオネ」

 

マクゴナガルの問いに人間ではない、と返したヘルミオネ。先生ら三人は頭に疑問符を浮かべた。

 

「普通の姿、見せてやってくれないか?」

「……やだ」

「じゃなきゃ証明にならないんだ。頼む」

 

渋々と言った感じで、本当に嫌そうな顔をしながらヘルミオネは目を閉じた。瞬間、黒いローブのようなものが内側から出てきて彼女を包んだ。その時にはもう足は地面についていなかった。

 

「これは…───、なのですか?」

 

ヘルミオネ、その実態が───であることにフリットウィックが杖を抜こうとする。その前にレィルが無言呪文でフリットウィックの杖を奪った。

 

「何故止めるのですミスター・クローター!」

「そういう反応をする輩がこの世界にごまんといるからですよマクゴナガル教諭。それにヘルミオネは()の唯一の家族だ、殺させはしない」

 

少し素が出たレィルからは普段ならば絶対に見せない覇気があった。それこそ、物理空間に干渉しヘルミオネを守るように風を出現させるほどに。

レィルは二人が手出しできないように杖をフリットウィックの杖に向けた。これだけで警戒して手出しは出来なくなる。ヘルミオネはその間に人間の姿に戻った。

 

「杖を抑えておくれ、ミネルバ」

「ですがっ!?」

「もし儂らがヘルミオネを亡きものとしたとしよう。となればすぐさまトランクから本来危険な生物たちを解放するだろう」

「えぇ、当たり前でしょう。なんならハンガリー・ホーンテールやウクライナ・アイアンベリーでも呼びましょうか?あぁ、ズーウーの方がいいですかね」

()してくれ、老耄(おいぼれ)には荷が重い。それにそれ以上のものもいるんじゃろう?」

「あまり外界には出したくないですが、ね」

 

マクゴナガルが杖をしまったのを見て、レィルはようやっとフリットウィックの杖を手放した。投げ渡すのではなく、直接手渡しで。

ヘルミオネは本来の姿を見せたくなかった故か、先程からレィルの胸に隠れている。

 

「レィル、後で貰うから」

「分かってる、それくらいなら甘んじて受ける」

 

三人には二人が何を言っているのかは聞こえなかったが、二人が離れた瞬間に風がなくなった。レィルも杖をホルスターに納めた。

 

「杖を納めてくれて感謝しようレィル。本題に戻るが、石の守りについてを話そう。森番のハグリッド、各寮監の先生、闇の魔術に対する防衛術のクィレル先生、そして最後に儂がそれぞれ防衛用の罠をはっておる。君にはその罠の改良を頼みたいんじゃ」

「分かりました。後でリストを下さい。内容次第にもよりますが、早ければ一ヶ月、遅くても四ヶ月で終わらせましょう」

「一学生の身でそこまで出来るなら上出来じゃよ。一応最終確認をしたいので、出来上がればわしかフリットウィック先生に報告しておくれ」

「全力を尽くしましょう。ところで、一つ確認をしたいのですが」

「何かね?」

 

未だ身体が震えているヘルミオネの右手を左手で握りながら、レィルは先程の覇気を纏いながら、瞳を蒼から金に変えて、言った。

 

「対象の全力排除(・・・・)、で宜しいですね」

「構わん、あらゆる手段を行使してくれ」

 

まさかの指示にフリットウィックもマクゴナガルも息を飲んだ。レィルはひとつ頷いて了承の意思を示した。

 

「ではフリットウィック先生、彼らを専用の部屋へ案内しておくれ。寮内で生活せずともお主の寮生には変わりない」

「分かりました。ではクローター君、ディマイントさん、こちらへ」

「はい、では御二方、お休みなさい。行こう、ヘルミオネ」

「……ん」

 

レィルはヘルミオネの手を引いて、校長室をあとにした。

 

フリットウィックに連れられた部屋にはベッドが二つあったが、どうせならとレィルがダブルベッドに形を変えた。部屋の改造は後回しにするとした。

トランクもここにあったおかげで面倒なことにはならなかった、とレィルは心から安堵すると共に、急いでトランクの中に姿を消した。

 

「ヘルミオネ、夜行性のみんなの餌を頼む。俺はリルのところに行く」

 

ヘルミオネは分かった、とだけ答えてムーンカルフ兄姉弟妹達にえさやりを始めた。レィルはヴィーラの知人に作ってもらったワンメイク品の箒「ライトニングボルト」を呼び寄せ、最大戦速で雪山エリアへと向かった。

雪山の洞窟を抜けて、地下深くに隔離された一室にレィルは入った。そこにも雪が降っていた。

レィルは箒を降りて、少女が入ったシャボン玉に近づいた。起こさないように、機嫌を損ねないようにゆっくりと。実際にはレィルが荒々しくしたとしても、シャボン玉が割れたとしても少女がレィルを傷付けることはないのだが、レィルはせめてでもと言える礼儀としてゆっくりと近づいた。

目標まで数十センチもなくなれば、レィルは右手をそっと少女の頬に添えた。そしてまた割れないように、シャボン玉に頭を入れた。

 

「待ったよね、ごめんリル」

「ううん、レィルが来てくれるだけで嬉しい」

 

少女はレィルの頬を両手で優しく撫ぜた。それだけで、レィルの心は彼女にそわれれて行く。リルはレィルには悪いがその心の揺らぎが何よりも心地よかった。

 

「今度、ホグワーツにヴォルデモートが賢者の石を奪いに来る。闇に当てられたら絶対に暴走する。だから、少しの間だけでいい、眠ってて欲しいんだ」

「……外には」

「……」

「外には、出られないの?」

「……君が望めば。いい景色は見せられないけど」

 

レィルは包帯だらけの体を優しく撫でる。本当は外に出したくないのだが、この子はレィルの贖罪の一つ。

こんな状態にした自分を殺したいまであるレィルは唇を噛み締める。壊れんばかりの力を込めて握りしめる両手は爪がくい込んで血が滲んでいた。

そんな様子のレィルをリルは微笑んで額に唇を落とした。レィルはゆっくりと顔を上げてリルを見た。

 

「そんな悲しそうな顔をしないで。そとにでられなくても、私はレィルと話が出来るだけで嬉しい。また会えるなら、私はなんだってするよ」

 

上半身をシャボン玉の中に突っ込んでいるレィルを、リベットは抱きしめた。まるで割れ物を包み込む梱包材のように、ゆったりとした動きで。

レィルはかなり強い睡眠誘発呪文をリルにかけた。その後、レィルは箒で雪山エリアを出て、いつもの小屋へと戻った。ちょうどヘルミオネが餌をやり終えたところだった。

 

「ありがとう、ヘルミオネ」

「これくらいはいい。より、約束」

「あー、ここじゃアレだし、部屋でやろう」

「だめ、今」

 

レィルが何かを言うよりも先に、レィルの唇をヘルミオネが奪った。じっくりと奥底まで舐れるように、舌まで入れて。息継ぎのために幾度か離しはしたが、それでも直ぐに唇を合わせた。

そうすること実に十分、ようやく身体を離したヘルミオネは何処と無く艶がかかっていた。二人の唇は既にふやけていて、レィルに至っては腰が抜けている。

 

「ご馳走様」

「……お粗末様。ご馳走ついでにベッドまで運んでくれないか?」

「わかってる。そうしたの、私だし」

 

ヘルミオネは一度レィルを浮かせてから横抱き(お姫様抱っこ)の姿勢でトランクから出て、ベッドに寝かせた。レィルは既に眠りについていたので、魔法を使って着替えさせてから布団をかけた。

ヘルミオネも着替えてレィルの隣に寝転んだ。レィルの顔を確認し、額と額を合わせた。

 

 

「大丈夫。貴方は私が、私達が守るから」

 

 

ヘルミオネはもう一度、今度はさっきよりも優しく、舌も入れずに、キスをして眠りについた。

 

 

 

 

 

 




ども、樫の木とドラゴンの心臓の琴線、三十六センチのantiqueです。

そういえば杖のスペック書いてないな、と思いました。ここで上げておきます。

レィル
白檀に不死鳥変異種の尾羽、三十六センチ。忠誠を違えない。

アリシア
スネークウッドにルーンスプールの牙。二十九センチ。非常にしなやか。

フィリップ
トウヒにニューレル・ユニコーンの鬣。四十センチ。持ち主に叡智を授ける。

メズール
モンキーポッドに銀卵オカミーの羽。守護の力が強い。

ヘルミオネ
黒檀に不死鳥変異種の尾羽。三十四センチ。愛するものを守る。

レィルとヘルミオネは兄弟杖で、芯材にはレイヴェルの尾羽が使われています。知り合いの杖作りの方に作っていただきました。

全員の杖には理由があります。ええ、有りますとも()

アリスの杖は芯材を別の使う予定でしたが、どうやって入手したんだ、と言うことで別のものに。杖材は彼と同じです。
フィリップの杖材のトウヒはおそらく一番年寄りだろう約9000歳のトウヒを使用しています。芯材のニューレル・ユニコーンは後々出ます。
メズールの杖材のモンキーポッドは日立の樹と言った方が伝わりやすいかな?芯材は防衛本能が高い銀卵オカミーの羽です。解説はニュートより。

そしてヘルミオネの正体を今回明かすと言ったな。あれは嘘だ(うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…………)
ま、本当に明らかになるのは……いつになりますかね?多分3章あたりになると思うんですけど。それまでは「───」で誤魔化します。

最後のオリキャラ、リベット・ガードナー。彼女についても何章か後にお話します。おそらく囚人か、もしくは騎士団辺りかな?

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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授業開始

 

レィルとヘルミオネは同時に起きた。ふたりは目覚ましがなくとも起きられる体質だったのだ。起きた時に違和感を感じたが、昨日のやり取りを思い出し、ここがホグワーツであることを思い出した。

大広間が近いおかげで既に出来上がっている朝食がこの部屋まで届いていた。言ってはなんだが、朝食だけはイギリスも他国には負けてはいない。他は目を瞑り現実逃避をするものとする。

既に家族柄なので羞恥心もへったくれもなく、二人同時に着替える。さすがに局部などを見られるのは抵抗があるので、二人とも背中合わせで着替えた。

着替え終わった二人は大広間に行き、朝食を食べるためにレイブンクローの机へと向かおうとした。すると何やら先に食事をしていた生徒達がひそひそ声で話し始めた。

 

「ヘルミオネ、なんて言ってるか分かる?」

「自室を与えられた事が噂されてるみたい。どうする?」

「いや、放置でいいよ。与えられたのは事実だし、根も葉もない噂があるなら確認に来るだろうし」

 

二人は隣に座って一緒に朝食を食べる。小さい頃から一緒にいる二人のメニューは必然的に同じになってくるが、そこでまたひそひそ話が多くなった。

またヘルミオネに聞いてもらおうと思ったが、その前にアリシア、メズール、そしてフィリップが二人の前に来た。彼らも噂を聞き付けていたのだ。

 

「おはよう三人共」

「えぇ、おはようレィル。自室の噂って本当なの?」

「あぁ。玄関ホールを挟んで左側の部屋が僕とヘルミオネの部屋だよ」

「となると、あの噂も本当か?」

 

フィリップは何やら右手を顎に宛てがい、ニヤニヤとした顔でレィル達を見た。首を傾げる二人にメズールもニヤついて教えた。

 

「二人が出来てるー、って話だよー。男女七歳にして席を同じゅうせずとは言ったけどー、絶対二人はBまで行ってるよねー」

「最悪Cまで行っている可能性も出てるからな。で、実際は?」

 

フィリップやメズールは顔を赤らめずにさも平然と言っているが、アリシアはほんのりと頬を紅く染めていた。結構レィルの知人は感覚がおかしいのかもしれない。

 

「そういうことをこんな場所で言うんじゃない。ほかの人たちに迷惑だろ?」

「おっと待て待て、質問を質問で返すなよ。質問文に質問文で答えるとテスト0点なの知ってるか?」

「知らない」

「無知は頂けないな」

 

この話をやめようと思ってもフィリップが直ぐに揚げ足を取る。こと尋問においてはかなりのエキスパートだ。魔法省に行けば上まで行けるとレィルは予想した。

答えを言い淀んでると、レィルの肩にヘルミオネの手が添えられた。

 

「三人は金曜日の放課後に私たちの部屋に来て。話すから」

 

ヘルミオネはそれだけ言うとレィルを残して先に部屋に帰ってしまった。レィルも「そういう事だから」と言ってヘルミオネを追いかけた。

歩いて行く途中にハーマイオニーがレィルに挨拶してきた。こういう所はマグルの美点だとレィルは思う。

 

「おはようレィル」

「おはようグレンジャー」

「ハーマイオニーでいいわ。別々の寮になったからには寮杯をかけて勝負ね。負けないわ」

「と言いたいところだが、僕は別に寮杯には興味がなくてね」

「あらそう?そういえば自室を与えられたらしいじゃない。ヘルミオネとの二人部屋。私も遊びに行っていいかしら?」

「僕かヘルミオネが暇な時間なら、いつでもどうぞ」

 

そのあとは少しだけ授業の話をして、ハーマイオニーはグリフィンドールの席へ。レィルは荷物を取りに自室へと向かった。

 

授業開始となる今日だが、最初の関門は授業難易度でも宿題の多さでもなく、「道に迷わずに教室へとたどり着けるか」である。

別に複雑という訳では無い。ただ、曜日によって位置が変わる階段、隠し廊下などが新入生の往く道を阻むのだ。

上級生は助けないのか、と聞かれれば助ける者もいるが助けない者が大半だ。先ずは自分で道を覚える、それが真っ先に新入生に求められるものだった。

しかし、そんな中で二名だけ他とは全く違う動きをするものだ。

誰あろう、入学初日に特例措置として二人部屋を与えられ、一緒に住んでいるレィルとヘルミオネである。

彼らはネズミに頼んで作ってもらった地図を五分間で叩き込み、覚えた道を宙に浮きながら移動したのだ。

 

「この道で大丈夫?」

「あぁ。ネズミだけじゃなくネクサスにも行かせたから間違いないよ」

 

他の生徒はその様子を口を開けて見るしかなかった。施錠された扉にも行先が変わる廊下も引っからずに突き進み、最短距離で教室へと向かう。

二人は遅刻することはなかったが、他の生徒は時間を思い出し教室へと全力疾走する羽目になった。

 

最初の授業は魔法史だった。

担当の先生がゴーストのビンズの語り方は凄く単調で睡眠欲を誘発してくることとなった。結論的にレイブンクロー生からはこの時間は自習ということになった。それはレィルもヘルミオネも例外ではなく、レィルは罠の改良作、ヘルミオネは魔法省へ提出するレポートを書きあげていた。

一応覚えておいた方が良いかと思い、レィルは録音機にビンズの語りを入れて置いた。

 

二つ目の授業は薬草学。

ハッフルパフ寮監ポモーナ・スプラウトが仕切るこの授業では、どこか皆が期待していた。恐らく初めの授業があまり宜しくなかったせいだろう。

今回は初回ということで簡単な説明と薬草についての知識を皆から絞り上げていた。

レィルに至っては七年生で学ぶものを答えていたお陰で、レイブンクローにこの授業でレィルだけで三十点も稼いだ。

 

三つ目の授業は闇の魔術に対する防衛術。

正直あまりレィルはこの授業を楽しみにしていなかった。クィレルの罠はただトロールを当てるだけというヴォルデモートに対する罠とはとても思えないのだ。

そういう楽観的思考を持っているならばいざ知らず、朝食の時に姿を確認したが、あまり健康体ではなかった。

而して、あまりクィレルの授業が良くないという予測は当たってしまった。

教室に入ってくるなり飛び込んでくるのは(ニンニク)の匂い、終始オドオドして授業になってない授業。

これではトランクでヘルミオネに学んだ方がよかったと思えるほど酷かった。

 

授業開始初日の三つのうち二つが期待外れだったお陰でレイブンクローの新入生たちはかなり落胆していた。

しかしその落胆も、次の日で授業がクソという認識が改められることとなる。

 

二日目の一つ目の授業は変身術だった。

が、教室に入っても担当のマクゴナガルはどこにも見えず、いるのは教壇の上で欠伸をする猫一匹のみ。レィルが話しかけようとする寸前に、フィリップが手を出して止めた。

 

「御機嫌よう、マクゴナガル教授。流石の変身ですね、今度僕にも教えてくれません?」

 

その言葉に誰もがフィリップがイカれた、と思ったが、レィルとヘルミオネだけはその真意を理解した。目の前の猫が動物もどきであることに。

変身を解いたマクゴナガルはフィリップに五点を与え、生徒に席に着くように促した。

 

「最初に警告します。変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものです。中途半端に私の授業を受けるつもりのある生徒は出て行ってもらいますし、二度と教室にも入れません。まぁ、知識に貪欲なレイブンクローは大丈夫でしょう。では、授業を始めます」

 

予め決められたペアでは、授業が開始した。レィルのペアはスリザリンのブレーズ・ザビニだった。

先ずはマクゴナガルが実演し、理論を教えてからマッチ棒を針に変える課題が始まった。ヘルミオネの予習もあって、レィルとヘルミオネは一発で成功させた。

他に一発で成功させたのはフィリップだった

 

「素晴らしい完成度ですミスター・クローター、ミス・ディマイント。レイブンクローに1人ずつ五点上げましょう。ミスター・レッカは装飾も施してあるので七点です」

 

その後はレィル達にコツを教わりに沢山の生徒が群がった。机1つでは処理できなかったのでマクゴナガルに許可を取って教壇を貸してもらった。

 

「大切なのはイメージ、確かに理論を理解することも重要だけど、それは二の次にしておこう。まず、薪をくべられるような炉をイメージする。そこを魔力源として考えるんだ。位置は心臓の隣ね。そしたら、そこからの熱を魔力と想定して、血管でも骨でもいいけど、その熱を腕から手へ、手から杖へと流す。利き腕だよ。で、形、長さ、硬度、光沢を想定して、呪文を放てば、ほら。フェラベルト(変化せよ)

 

レィルは自分が変えた針に変化魔法を当てて針から槍へと変化させた。それを手に持つと、それを見ていた生徒から拍手が起こる。マクゴナガルも手を叩いていた。

 

「人が空想できる全ての物事は起こりうる現実である、フランスのマグルの作家、ジュール・ヴェルヌの言葉です。マグルにとってはドラゴンに乗る、なんてことは無理ですが、僕ら魔法使いならば可能です。僕らでもドラゴンに乗ることは少し夢が遠いですが、そう考えるとマッチを針に変えることなんて簡単に思えるでしょう?そこの君、やってみて」

「はっ、はい!」

 

奥出そうな銀髪の子が言われたことをイメージしつつ変化呪文を唱えると、見事針に変えることが出来た。他の生徒も負けないように自分も、と変化していく。

最終的にはレイブンクロー全員のマッチが同じような針になっていた。スリザリンの方も全員ではないが八割方がマッチを針に変えられていた。

 

「素晴らしい授業でした、レイブンクローとスリザリンそれぞれ五点。その手助けをしてくれたミスター・クローターには十点を上げましょう。今日行った課題は変身術の初歩の初歩であり、また変身術の全てが詰まっています。皆さん、ミスター・クローターの考え方を忘れぬように」

 

マクゴナガルは自分の授業が少し潰れたことに後悔しかけたが、これだけの内容を一生徒がやってのけてくれたとプラスに考えることとした。

 

二日目の二つ目の授業は呪文学、レイブンクローの寮監フリットウィックの授業だ。

フィリップが例のセドリックという人から「フリットウィック先生の授業はとてもわかりやすい」という話を聞いていたので、レィルも内心無意識でワクワクしていた。

実際、フリットウィックの授業はとても分かりやすかった。今回の課題は杖の先端を光らせる、だったのだが、変身術でのレィルのイメージの仕方、フリットウィックの理論を考えながら呪文を唱えた結果、レイブンクロー全員が一発で光らせることが出来た。同室授業となるグリフィンドールは半数以上が上手く光ってなかった。

物覚えが早すぎると思ったフリットウィックが何故そこまでできるかを問うたところに、レィルがアドバイスをくれたことを話した。

 

「なるほど。クローター君のお陰でしたか。それでも皆良い理解力だ!レイブンクローに十点を与えましょう!」

 

授業の時間が余ったせいで、どうすべきかを悩んだ挙句、フリットウィックは決闘というものについて軽く講義をした。なんでも、昔はチャンピオンだったらしい。

 

最後の授業は魔法薬学。

受け持ちはスリザリンの寮監であるセブルス・スネイプだ。レィルはセブルスと面識があるため、真っ先に行って軽く挨拶をした。

 

「お久しぶりですスネイプ教諭。ここで貴方の授業を受けられる事を誇りに思います」

「久しいなクローター。その誇りを大事にしてくれたまえ。ところでユニコーンの血は余っているかね?そろそろ在庫がつきそうなのでな」

「分かりました、夕食の際にお渡しします」

「感謝する。では座ってハッフルパフを待っていろ」

 

合同で授業を行うハッフルパフを待っていると、横にメズールが座った。やはり友愛を大事にするハッフルパフはその全てがレイブンクローとペアになった。

一度退室したセブルスが戻ってくると、出欠をとり、演説を始めた。

 

「この授業では杖を振るうなどという馬鹿げたことはしない。それが魔法であるか、と思うかもしれないが、沸々と揺れる大釜、立ち上がる湯気、人の中を巡る体液の繊細な力というものはいとも簡単に人の心を揺らし、感覚を狂わす魔力となる。君達がこの技術を真に理解することなど私は期待していない、私が教えるのは名声を瓶に詰め、栄光を醸造し、地獄の釜にさえ蓋をする方法である。もっとも、君達がこれまで私が教えてきた連中よりもウスノロでなければの話だがな。あぁ、たった一人は違うか。クローター」

「何でしょう?」

 

急に名指しされたことに対しても普通に対応するレィル。この位はレィルの想定の範囲内である。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎したものを加えるとどうなる?」

「生ける屍の水薬が出来上がります。強力な睡眠薬で、加熱段階での失敗が多数起こります」

「加えて問おうミスター・クローター。ベゾアール石を探せと言われたらどこを探す?」

「ベゾアール石は山羊の胃の中に存在するあらゆる毒に使える解毒剤です。大人の山羊は胃酸が強いため石の解毒効果が薄まっているので大人と子供のちょうど間位の時に取り出すのが最適かと」

「更に問おう。マフルリート薬に水魔のD型の血液を入れると変色の仕方はどうなる?」

「北半球水魔と南半球水魔の血液の色は異なり、北半球側が薄い青に、南半球側が紫に変色し、どちらも三十分経てば透明になります」

 

最後の最後に専門知識が必要になってくるのを歯噛みしそうになりながら、全てを完璧に答えたレィル。セブルスはレィルの目を数秒見て、教壇にゆっくりと歩いていった。

 

「ふむ、満点回答だ。レイブンクローに各質問ずつ一点をやろう。名声だけが全てではないと証明された瞬間だな。そしてレイブンクローは流石だが、ハッフルパフ。何故今の質問と回答を羊皮紙に移さないのか私には理解できないな」

 

レイブンクローの皆とメズールは羊皮紙に回答を書いていたが、他の生徒は何もしていなかったので直ぐにペンを持ち紙に向き合うこととなった。

しかしその心は羊皮紙にではなくセブルスに向いていた。先輩に「スネイプが他寮に得点するのはありえない」と聞いていたので驚愕したのだ。

 

「あぁ、クローターは私の助手をしてくれ。魔法薬に関しては私と同等かそれ以上の立場にあると言って良いのでな」

「了解しました」

 

レィルは立ち上がり、メズールに謝罪してからセブルスの隣に立った。メズールはフィリップとペアになった。

それから二人組を作るように指示された。変身術でレィルにそれなりの知識があることが分かっていたレイブンクロー生はレィルと組みたがっていたのだが、先にセブルスに取られたために別の人とペアを組んだ。

調合を開始してから一番早くに作ったのはフィリップ・メズールのペアだった。それ以外のペアにはレィルがアドバイスをしながら回って行った。

 

「時間だ。出来たものを机の上に出せ」

 

セブルスとレィルは薬の評価を始めた。いくら同じ寮といえども、こんな所で贔屓はしていられないのでどこが良かったか、どこが悪かったか、次はどうしたらいいか、の三つの要点を伝えて合格か不合格かを伝えて行った。

 

「ふむ、クローターのお陰かほぼ全てが合格ラインに達しているな。そして一番初めに仕上げたハワード、キラグリードペアに一点を与えよう。レイブンクローとハッフルパフに一点だ。主体になっていたのはハワードだな。どこで知った?」

「僕の本棚を活用しましたスネイプ教授。そこに全てがありますので」

「なるほど、その本棚については後々詳しく聞こう。では片付けを始めろ」

 

用具や材料の片付けの後、もう一度魔法薬について演説した後、今日の授業が終わった。

 

帰り道、フィリップとレィル、ヘルミオネ、メズールが歩きながら大広間に向かっていると、前方からハーマイオニーが走ってきた。どうやら四人を探していたようだった。

 

「貴方達、スネイプ先生から点を取ったって本当なの?」

 

息切れしながらも声を届かすハーマイオニーにフィリップは頷いた。

 

「四点のうち三点はレィルだが」

「それでも凄いことなのよ!私達の時はハリーばっかりに当てて勝手に減点したのよ。私は手を挙げたのに……」

 

息が整ってきたハーマイオニーだが、今度は別の意味で息が上がってきていた。レィルは彼女を落ち着かせようとしたが、いい案が浮かばなかった。

そこに指に飴を三本挟んだメズールが言葉を挟んだ。

 

「きっと意志を示して欲しかったんじゃないかなー?」

「意思?」

「そー。あたしはそのハリー某さんのことは知らないけどー、確か生き残った男の子って呼ばれてるんでしょー?」

「え、えぇ」

 

ハリーを知らない、という言葉をハーマイオニーは「ハリーのことを知らない」と捉えたが、メズールが言いたいのは「ハリーの人物性を知らない」である。

 

「そんな後付けの名声に振り回されてるだけなのかー、はたまた名声に相応しいものなのかー、確認でもしたかったんじゃないー?」

 

まー、あたしは美味しいものさえ食べられればなんでもいいけどねー、とだけ言って締めくくりメズールは先に行った。後を追うようにヘルミオネ、レィルも続いた。フィリップだけがそこに残った。

 

「まぁ、メズールの言い分はただの推測だ。余り真に受けないようにした方がいい」

「ええ、そうするわ。貴方は行かないの?」

「いや、一つ勧誘でもしようかと思ってね」

 

フィリップの言葉に疑問符を浮かべるハーマイオニー。歩きながらにしよう、ということで二人は共に大広間に向かった。

 

「実は、レィルの部屋で勉強会を開こう、という話になっててね」

「勉強会?」

「そう。レイブンクローが更なる高みへと目指せるように、とね。時間は土曜日の一日中、いつ入るか、いつ出るかは自由だが、一人2時間までだ。他寮の生徒の出入りも自由だから、君も来るといい。適正あるんだろう?レイブンクローの」

「そういう話しなら勿論行くわ。レイブンクロー以外で行くのは誰なの?」

「今のところ決まっているのはハッフルパフからセドリックやメズール達、スリザリンからはアリスかな」

「分かったわ。ありがとう」

「これくらいはどうともないさ」

 

フィリップはハーマイオニーと別れ、大広間で夕食を摂った後、それぞれの寮へと戻った。

 

 

 

 

 

 




ども、眠りたいけど眠れないantiqueです。だれか逆転時計をください。

伝染する噂。実際秘密の部屋でもハリーがパーセルマウスということの伝わりやすさは尋常ではありませんでしたが、ホグワーツのような閉鎖空間での話の伝達率というのは恐ろしく早いです。人の口には戸が立てられないのですから。

フィリップのジョジョネタ。おっと、会話の成り立たないバカが一人登場〜。質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ。

空飛ぶ彼ら。ネズミとネクサスに地図を作ってもらってました。制度は低く、隠し部屋や必要の部屋などは書いてません。

基本的にレィルの各授業は
魔法史→自習
薬草学→予備知識が存分に生かせる
闇の魔術に対する防衛術→クソ
変身術→薬草学に同じ
呪文学→フリットウィックのおかげで更なる発見がある
魔法薬学→腕を買われて助手に

となりました。

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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畏怖の象徴


ピコニャンさん nashさん kuroro@さん めておーるさん パンダンパさん 想星さん 楽餓鬼さん ノブアキ三号さん 泣きそうさん れんにさん いろは@さん 灰色1.6さん プラタナスさん スコープさん 春夏秋冬雨霞さん デミタスさん ただ見るだけさn zero90rさん 佐藤さん サトゥーさん ミニチェアさん ルゥルクさん

お気に入り登録ありがとうございました!


 

 

 

アリシア、フィリップ、メズール、ハーマイオニーがレィル達の部屋に着くと、ヘルミオネが土曜日の勉強会ののための部屋を製作していた。奥に扉をつけ新たな部屋を作り、そこの隣を寝室とするようにしたのだ。

 

「ヘルミオネー、来たよー?」

「うん。待ってた」

 

メズールが無限飴玉を口に含めながら挨拶すると、無表情に答えた。しかし、肝心のレィルが見当たらない。

どこに居るのか探そうとした時、机の横にあったトランクが独りでに開かれた。中からはレィルが顔を覗かせていた。

 

「来たんだ。ヘルミオネ、皆を中に入れて」

 

レィルはそれだけ言ってトランクの中に戻って行った。トランクを閉じたヘルミオネはゆっくりと三人に近づいて行った。

 

「付き添い姿くらましをするから捕まって」

「了解」

「分かったわ」

「れっつごー!」

「行きましょ」

 

ちょうど一周するように、ヘルミオネ、フィリップ、アリシア、メズール、ハーマイオニーの順に円で並び、ヘルミオネは姿くらましをした。

次の瞬間にはトランクの中に入っていた。四人はある違和感を感じた。一番初めに気がついたのはハーマイオニーだった。

 

「今のって姿くらましよね。慣れてないと吐き気がするって聞いたけど……」

「未熟者だけ。ちゃんと使えば弊害はない」

 

ヘルミオネは七つの肉塊を浮遊呪文で浮かせた。何をするのか疑問の中、ヘルミオネは四人を手招きした。

ちょうどいい位置に浮かべたヘルミオネは説明もなしに地面に座った。それを見てアリシア達も座るが、フィリップだけは立っていた。

 

「ところでヘルミオネ、レィルはどこなの?」

「あの辺」

 

アリシアが問うたレィルの位置は、ヘルミオネが指さした雲の上らしい。数秒凝視してると、そこから八本の飛行機雲らしきものが飛び出した。その先頭には箒に股がったレィルがいた。

その後ろをつくのはどれもドラゴンだった。中には希少価値の高いものまでいた。

 

「ちょっ、あれ大丈夫なの!?」

「大丈夫。妨害禁止レースだから」

「ドラゴンに妨害禁止を命令できる...クローターの才能は凄まじいな」

 

マグルのモータースポーツで例えれば、彼らは今バックストレッチに差し掛かったところである。レィルが先頭を走っているが、彼からはスリップストリームは得られないだろう。

数秒後、レィルが正面を突っ切って行ったと同時に七体のドラゴンが肉塊を掴んみレィルを追うようにして飛んだ。そのレィルは上へ向かってバレルロールをして、最後はヘルミオネの元へと降り立った。

 

「判定は?」

「一着から順にレィル、エラクレス、フレアーズ」

 

レィルは小さくガッツポーズ、エラクレスと呼ばれたドラゴンは高々と吼え、フレアーズという赤いドラゴンは悔しそうに脚を地面に叩きつけた。

そこでアリシア達が気づく。これらのドラゴンの名称を。

 

「これ...ハンガリー・ホーンテール!?しかも右のはチャイニーズ・ファイアボールじゃない!?」

「後ろのはスウェーデン・ショートスナウト、緑色のはウェールズ・グリーンか」

「その後ろはノルウェー・リッジバックにー、アイルランド・マリジョールだねー」

「最後に飛んできたの、ウクライナ・アイアンベリー!?どういうこと!?」

 

どれも有名なドラゴンな上に、ドラゴン最強と呼ばれるハンガリー・ホーンテールを飼い慣らしている。普通はこんな光景は見れないだろう。

ドラゴン達は肉塊を持って空へと帰って行った。レィルは箒を立てかけて、本題に入るために小屋へと入った。

客席用の椅子に四人を座らせ、ヘルミオネはベッドに、レィルは作業用の椅子に腰掛けた。数年前に作成したものだが、中々の出来で気に入ってるのだ。

 

「で、話すって言われてたけど、何を話してくれるの?」

「ヘルミオネが僕と一緒に居なきゃ行けない理由」

 

レィルがそう言った瞬間、ヘルミオネが震えた。だがそれは微々たるものであったし、事実レィル以外は見えなかった。

レィルはヘルミオネの横に座り、震えを抑えるためにその右手を取った。大丈夫、と、暗に語りかけるように。

 

「今からヘルミオネの本当の姿を見せるけど、絶対に杖を抜かないで欲しいんだ」

「杖を…って言われても」

「本来ならば人に危害を加えるけど、ヘルミオネは何もしないから。頼む」

「レィル……」

 

しっかりと、頭が膝に着くまで腰を折ってレィルは頭を下げる。ヘルミオネもレィルに続いて未だ震える体を押さえつけて頭を下げる。

ハーマイオニーは突然の懇願に頭を混乱させ、メズールは何が何だかわかってなかった。事の重大さを理解しているアリシアはフィリップに目線を送った。

もしヘルミオネの本当の姿が人外であるならば、フィリップの目に何かが映っているはずと思ったのだ。フィリップからの反応は、アタリ。

未だに頭を下げ続ける二人の手を取り、顔を上げさせる。

 

「コンパートメントでも言ったでしょ?そんなに心配しなくても大丈夫よ。仮に私たちが貴方の言う邪な考えを持っているならもう既にトランクをパクってるわよ」

「こちらとしてはトランクの隅から隅まで全部調べ尽くしたい、君は情報秘匿できる。Win-winと言うやつさ」

「そうでなくてもー、私はヘルミオネを守るぞー!個人的に仲良くしたいですしー」

「え、ちょ、三人とも、いいの?」

 

二人の言いたいことを理解したメズールは二人に合わせた。唯一わかっていなかったーマイオニーが戸惑うが、アリシアの「大丈夫よ」という声に、何も言えなくなった。

アリシアがヘルミオネの左手を両手で包むと、目線を合わせた。

 

「あなたの正体は正直気になる。けど、大丈夫って気がするのよ。会って一日も経ってないけどね。それに結構いい噂が立っているレィルのお墨付きよ?なら何も心配はないわ」

 

フィリップとメズールが頷いて同意を示した。彼らは茶化しに来ただけなのだろうが、この雰囲気に乗じてそれっぽくしているだけだった。それでも先程メズールが言った「個人的に仲良くしたい」というのは本当であった。

 

「だから、貴女に危険が及べば私たちが守るし、貴女に仇なす者は私達が排除するわ」

「……あり、がと」

 

ティファール家のカリスマか、基本的に感謝を述べることの無いヘルミオネがアリシアに頬を赤らめながら感謝の言葉を口にした。アリシアはヘルミオネの頭を撫ぜて、ベッドから立たせた。

 

「じゃぁ見せてくれ、ディマイント嬢。君の本当の姿を」

「大丈夫だよー。もしフィリップが何かしようとしたら必要以上に縛るからー」

「それ、あんまり大丈夫じゃないと思うのだけれど……」

 

自信満々に言うメズールにツッコミを入れるハーマイオニー。しかし本気でやりかねないのがフィリップなのだ。

ヘルミオネは息を整え、内側から黒いローブのようなものを出し自らに纏わせる。みるみるうちにその姿を人間から忌々しい(───の)姿へと変えていく。

 

「……なるほど、これは杖を抜くなと警告するわけだ」

「なんか、体感温度が下がったんだけど。気の所為?」

「いえ、部屋の温度の方が下がってるわ」

「本でしか読んだことがないけど、これが、───……」

 

まさかの怪物の登場に四人は目を見開いた。ハーマイオニーなんかは冷気の濃さで動けなくなっている。

アリシアはどことなくヘルミオネが泣いているような気がした。人間体でもこの体でもなく、彼女の心が泣いている気がしたのだ。

アリシアは両の手をヘルミオネに伸ばし、その体をゆっくりと抱き締めた。なにかされないか心配になったハーマイオニーが杖を抜こうとしたが、それをフィリップが止めていた。しっかりと杖を抜かず、腕だけで。

 

「なんで止めるの?」

「君はディマイント嬢の決意を無駄にする気か?」

 

今朝の自分の言葉が今ブーメランとして帰ってきたが、でなければハーマイオニーはヘルミオネに向かってあらゆる使える呪文を試すだろう。だがそんなことをすればハーマイオニーはヘルミオネの決意を無為に振る事となる。フィリップはそれだけは避けたかったのだ。

ヘルミオネはアリシアに抱きしめられたまま、その姿を人間に戻した。その顔はアリシアによって隠されてるが、肩は先ほどより震えていた。

 

「大丈夫よヘルミオネ。ここには貴女を傷付けるものは居ないわ」

「……」

 

ヘルミオネは黙っていた。だが僅かに頷いたのか、アリシアがその微笑みを深めて更に抱き締めた。

ヘルミオネは落ち着いたのか、レィルの胸に頭を埋めていた。そこでハーマイオニーが何かを思い出したように「あ」と呟いた。

 

「どうした?グレンジャー嬢」

「いや、ハリーとロンよ!あの二人、マルフォイの罠にかかってるかもしれないの!」

「どういうことー?」

 

ハーマイオニーによれば、金曜日から始まった箒の訓練の際、ネビルの思い出し玉がドラコに取られ、それに怒ったハリーとロナルドが喧嘩を売ったらしい。どう見ても罠だと感じるものを忠告も聞きもせずに受けて立つと言ったらしいのだ。

 

「止めに行かないと!」

「残念だけどー、遅いんじゃないー?」

「そうだね。君が今ポッターとウィーズリーの所に行ったところで管理人のフィルチに捕まって減点されるだけだ。報告は寮監に行くだろうから、マクゴナガル教授なら一人五十点は引くだろう」

 

だから行かない方がいいよ、とフィリップは諭した。ハーマイオニーは落ち着いたが、それでも自分の寮の大幅減点には軽く絶望していた。

 

「そんな...寮杯が遠ざかっちゃうじゃない」

「あぁ、減点に関しては僕らも危険性はある。何せここは寮の外だからね」

「それは大丈夫でしょー。レィルがここに泊めてくれればー」

「泊めるよ。ベッドも用意してあるし」

 

レィルが天井を開けると、そこには蜘蛛の糸のハンモックが吊り下げられていた。

 

「ありがと、ミネマ」

「これくらいは御安い御用だ」

 

天井から顔を覗かせたアクロマンチュラは鼻を鳴らして戻って行った。ミネマは喋ることが出来るアクロマンチュラだった。

 

「非粘性の糸だからそのままかけてもらっていいよ。僕とヘルミオネは外で寝るから」

 

「僕とヘルミオネは」という言葉に、フィリップとメズールが反応した。加速魔法(ヘイスト)を使ったかのような速度で小屋を上がろうとしたレィルの腕を掴んだ。

 

「何?」

「待ちなよー。まだ噂の確認ができてないんだからさー」

「どれの事?」

「君とディマイント嬢が出来てる、って話だよ」

 

思い出したらしいレィルはブリキのように重い首を二人の方に向けた。そこには清々しい笑顔が二つほど張り付いていた。アリシアもハーマイオニーも呆れてはいたが、興味が無いわけではなかった。

レィルが言葉を探していると、ヘルミオネ突然に

 

 

「…………レィルは私の知人で、友人で、親友で、幼馴染で、家族で……大切な人」

 

 

とだけ残してさっさと外へと出ていった。今の言葉を言及するようにレィルを捕まえたままだった。

 

「と、言っていますがー?」

「本当のところはどうなんだ?クローター」

 

「……まぁ、ヘルミオネが言った通り、かな。もういいでしょ、離して」

 

肯定されるとは思わなかった二人は一瞬力を緩めた。その隙を見逃さず手を振り払うとトランクの外に出て行った。

 

そのあとはなし崩しに全員が寝ることとなった。ヘルミオネも寝たが、レィルだけは徹夜で起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃ、ね。ヘルミオネは、僕の知人で、友人で、親友で、幼馴染で、家族で……大切な人だよ」

 

 

 

 

 

 




ども、Audio-Technicaさんのヘッドホンで「栄の活躍」聞いてるantiqueです。サマーウォーズには名曲が多い。

やはり飴を舐めているメズール。ストックは無限大です。しかし今回の無限飴玉を購入したせいでそれが全ていらない子に。飲み込めば普通に消化されます、胃の中で増殖はしません。

プロローグのドラゴン七人衆登場です。ほんと自分で書いててもレィルすげぇ、ってなるわ。

ヘルミオネの正体を皆に明かしましたが、(読者)には明かしません。まぁ大半の人が予想ついてるでしょうけど。
まぁヒントは文中のものと、この話のサブタイですかね。感想の方でバレバレになるのかなぁ()

アリシア、母性本能解放。というか基本的に彼女は人を甘えさせるのが上手です。
因みに胸囲は将来有望株。あんなこと()やこんなこと()も出来ます。

ハーミーがこちらにいるせいでハリー達は漏れなくフィルチに捕まり罰則を受けました。減点と禁じられた森ですね。その辺は原作通りですが、三頭犬の存在はバレてないし少しズレています。
因みにネビルももれなくハリー達を追いかけて減点されてます。罰則を免れてますけど。
というかハーミーがこちらにいる時点で色々とフラグが折れています。その折れた1本は次回に。

因みにレィルとヘルミオネですが、恋仲ではありません。ただの共依存です。
メンヘラ思考があるらしい私からすればメンヘラの共依存はヤンデレであればあるほどいいです。だれも理解しないだろうけど。ヤンデレヒャッホイ()

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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怒れる鴉

隼人2さん タクマ1212050さん 神道司さん 黒廼諏さん 如月イヨさん アルフィミィさん のたぐりさん Takiyasyaさん free&peacemakerさん パラドクスさん さむるさん solid5さん 天奏砕月さん かど86さん 苦労バランさん のんびりまったりさん

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- 追記 -

誤字修正しました(2019/02/13)


 

 

ハリーとロナルドがドラコの罠にかかった翌日、グリフィンドールから130点の減点がされていたことに大広間は大きくどよめいた。

ハリーら二人はまんまとドラコにしてやられた事をグリフィンドールから強く非難された。また、同じく30点を引かれたネビルについては理由を説明したところそこまで言われなかった。

マルフォイは釣れた鯛を自慢するようにハリーとロナルドがいかに間抜けかを大広間で大声で演説していた。それに対してスリザリンの全員がはやしたてた。

実害のないレイブンクローとハッフルパフは興味なしと言ったところでそれぞれの席で料理を食べていた。レィル達に至ってはいつものメンバーでレィル達の部屋で食べていた。

この騒動の結末は、マクゴナガルの一喝によって終わった。

 

「よく言って勇敢、悪く言って蛮勇とはよく言ったものだね」

「まぁこの年齢じゃ仕方ないでしょー。馬鹿だけどさー」

「ドラコはこれからもなにかするでしょうね」

「次はピーブスの前に突き出すのかな?」

「ありえる」

「ホントに行かなくてよかった……行っていたら180点減点だったなんて」

 

と、フィリップとメズールからは辛口評価、アリシアとレィル、ヘルミオネはドラコの次の行動を予測、ハーマイオニーは止めに行った未来を予測して安堵していた。

 

その後は特に変哲なことも無く日が過ぎていった。今年のレイブンクローはレィルやフィリップといった秀才がいるおかげで例年よりも勉学に取り込む量が多くなっていた。

即ち、高い壁への結託。目標へと近づくために互いの能力を全て活用してレィルのとフィリップに挑もうという訳だ。共通の敵が現れれば争いは収まる。無くなりはしないが。

土曜日の勉強会は、大体グループで来るものが多かった。時間が被りすぎて部屋を広くしなければならないということは意外になく、予定していた一教室分で事足りた。

基本的にレィルとヘルミオネが彼らの勉強に触ることはなく、各々が自身の知識を使い課題などをこなして行った。当然質問などは飛んでくるのでその時はしっかりとヒントと考え方のアドバイスを与えた。

フィリップが個人の魔力の癖を見抜き、ヘルミオネが理論を説明し、レィルが纏める。レィルとっても新しい発想が得られる、彼らは更なる高みを目指せる、と言った具合にこの教室はかなり成功を収めていた。

 

それからまた暫くして、十月末。所謂ハロウィーンである。

朝食からかぼちゃ尽くしで、正直夕食までに飽きそうであった。

とはいえハロウィーンだからと言ってやることは変わらず、今日も今日とて授業である。

そう思い授業へと向かおうとした時、廊下に二人の赤毛がいた。顔の特徴があっているところを見るに、どうやら兄弟らしい。

そしてそこでレィルは思い出した。歓迎会の時に禁じられた森への侵入を念を押して禁止していた、ウィーズリーツインズなる存在を。

 

「トリック・オア・トリートだ、レィル・クローター!」

「っと兄弟、どうやらレイブンクローの秀才様はお菓子を持っていないとお見受けする」

「あぁ。なれば!」

「「問答無用でイタズラ開始だ!」」

 

どんな暴論だ、と言いたくなったが、それより前にウィーズリーの二人はイタズラを開始した。催涙ガスに始まり自動でワイヤートラップを貼る箱などなど、迷惑極まりないが、アイデア自体はかなり褒められたものだった。

一通りいたずらをし終わったのか、息を切らせながら立っていた。レィルはと言うと、何かやらかすだろうと予測し予め張っていた防護魔法で全てを防いでいた。勿論後ろのアリシア達に被害が及ばないように、である。

 

「っと、防がれたか?」

「全部だな。ちぇっ、不意つけばいけると思ったのに」

 

「またリベンジするからなー」とだけ残して片付けもせずに授業へ行ってしまった。レィルは呆気に取られつつ、アリシア達と清め魔法を駆使して片付けてから授業へと向かった。

 

ウィーズリーツインズの突撃もありつつ、一時間目の変身学は普通に終わった。やはり一番初めのレィルの考え方が上手くいっているようで、詰まることも無く終わった。

呪文学の時間は、今回は浮遊呪文を学ぶようだ。今回はレイブンクロー全員が一発でとは言わないが、それでも数回のうちに成功させていた。レイブンクローに二十点が入ることになった。

 

「クローター君、浮遊させてから一回転とか出来るかな?」

「バレルロールって事ですか?分かりましたけど。ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)

 

なかなか上手くいかないグリフィンドール勢にと思い、フリットウィックからの指名を受けてレィルは先ず羽を浮かせた。そこから一度後ろに後退させ、速度をつけて一回転させた。

見事に宙を飛んだ黒い羽根はレィルの机に着地し、皆から拍手を受けた。

 

「ほら、ウィン『ガー』ディアム・レヴィオーサよ。あなたはガで伸ばしてないのよ」

「そんなにご存知なら君がやってみなよ!」

 

椅子に座ると同時に聞こえてきたそんなやり取りに、レィルは視線を向けた。どうやらロナルドが上手くとばせない理由を述べるが、ロナルドには不評なようでまだ手本を強請った。

ハーマイオニーは溜息をつきながら浮遊呪文を唱え杖を震えば、羽は彼女の頭上1メートル程に浮かび上がった。

 

「素晴らしい!マグル出身といえどもこの短期間で浮遊呪文を使う人は少ないのです。グレンジャーさんに五点、そして見事な手本を見せてくれたクローター君に十点を与えましょう」

 

結局最後までできなかったロナルドは再び拍手されるふたりを苦々しい気持ちで見ていた。

その後、授業終わりにロナルドがこんなことを言った。

 

「だから誰だって我慢できてないって。悪魔みたいなもんだよ、アイツ」

 

その言葉をギリギリ届く範囲で聞いていたらしいハーマイオニーは駆け出した。ハリーは追いかけようとしたがロナルドにとめられていた。

それに反応したのは、以外にもフィリップだった。

 

「ディマイント嬢」

「何?」

「グレンジャー嬢を呼び戻してくれ」

 

ヘルミオネはそれに頷いて姿くらましをし、フィリップの横に再び現れた。何故かハーマイオニーを羽交い締めにしていた。

ヘルミオネは無言のままロナルドに近づいて行った。自然に二人の間には道ができていた。

 

「な、なんだよ」

 

突然の登場に若干怖気づいているロナルドだが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに鼻を鳴らし、フィリップは杖を抜いた。

 

「先程グレンジャー嬢が言ったことだが、魔法を口にするのと杖の動きは飽くまでもイメージの確立だ。どの動きがどの魔法、と覚えることで魔法を打ちやすくしているだけのこと」

「だから何だってんだよ」

「つまり確かなイメージさえあれば杖を向け、念じるだけで魔法を放てるのさ。こんな風に」

 

フィリップは無言呪文でロナルドの杖を取りあげ、束縛呪文で縛り上げた。突然の事で目が点になるだけのロナルドはバランスを崩して転んでしまった。

 

「クローター」

「自分でやりなよ……」

 

レィルは終了呪文を無言で放ち、ロナルドのロープを消した。そこにいた皆は無言呪文をこの年で使えるものが二人もいた事に驚愕していた。

 

「さて、僕は今非常に機嫌が悪い。これを直すためには君をボコボコにしなければならないのだが、無防備な君を叩きのめしたとしても周りは誰も納得しないだろう」

 

フィリップはロナルドに杖を渡し、無理やり立たせた。そしてレィルを間に互いに5メートルになるように位置し、杖を払った。

 

「決闘をすることにする。僕が負ければ君には金輪際変わらないし、グレンジャー嬢をどれだけ悪く言ってもノータッチだ。だが君が負けた場合、グレンジャー嬢に頭を床につけて謝罪し、今後僕らには関わらないでもらおう。ルールは互いが戦闘不能になる、または降参するまで。闇の魔法は当然使用禁止。なんなら武装解除呪文のみでもいい(・・・・・・)

「受けない方が懸命だウィーズリー。君はまだグリフィンドールから敵視されてるだろう?負ければ地位はドン底だ。しかも聖二十八一族であるウィーズリー家の顔にもドロを塗ることになる。そんな汚名を被せられるより尻尾まいて逃げた方がいいよ?」

 

レィルの忠告も耳に入っていなかったのか、フィリップの煽りのみを聞いていたらしいロナルドは立ち上がった。その目には確かな怒りがあった。

正直にいえば、フィリップは怒っていた。だが、それを理解できるのはこの場ではヘルミオネとレィルだけだった。

 

「私、フィリップ・レッカ・ハワードはロナルド・ウィーズリーに対し決闘を挑みます」

「では私、レィル・クローターが立会人を務めましょう」

「ぼ、私、ロナルド・ウィーズリーはフィリップ・レッカ・ハワードからの決闘を受けます」

 

互いにお辞儀をし、杖を構えた。レィルは指を鳴らし、決闘開始の合図を打った。

カウントもなかったというのに、その場にいた者の予想を外すように先手をとったのはロナルドだった。

 

エクスペリアームズ(武器よ、去れ)!」

 

恐らく呪文系はある程度知っているのだろう。聖二十八一族は伊達ではないことを証明したいらしい。

しかしフィリップにはその目でロナルドの放った武装解除呪文に綻びがある事を見抜いている。半身になり呪文を避けて、近場の床を粉々呪文で粉砕し煙幕を上げさせた。

 

ウィンガーディアム・レビオーサ(浮遊せよ)フェラベルト(変化せよ)インクルージオ(増殖せよ)エンゴージオ(肥大化せよ)

 

丁寧に、これが魔法の神髄だとでもいうようにフィリップは杖を振る。粉々呪文で出た岩の欠片を浮遊させ、変化させ、増幅させ、巨大化させ、出来た宙に浮く巨大な四本の剣はロナルドには見えていなかった。

 

フリペンド(放て)

 

射出呪文で放たれた剣はロナルドの足、腕、首、鳩尾の順で突き刺さり、向こうの壁まで勢いよく吹き飛んで行った。その外見から、一部の女子が悲鳴が上がっていたが、 レィルは何も言う訳もなくただじっとロナルドの方を見ていた。

やりすぎだと感じたハリーが助けに行こうとするが、それはヘルミオネに邪魔された。

 

「邪魔するなよ!」

「だめ。決闘に邪魔出しも代行もない。ウィーズリーが降参しない以上、決闘は続行」

「死ぬかもしれないんだぞ!それにさっき剣で切られた!」

「刃を潰してある。酷くても骨折で済む」

 

話が通じない、とヘルミオネを押しのけていこうとハリーが進むと、無言呪文でヘルミオネが失神させた。フリットウィックは悪いと思ったが、ここは決闘のルールに従わなければならなかった。

元チャンピオンだからわかる事として、このルールはどう足掻いてもフィリップの方が有利だ。知識量として先ず知っている魔法の量に軍配が上がる。更には頭の回転、激昴しても冷静さを失わないメンタルの強さなどもフィリップが勝っている。しかも立会人は完全にフィリップ側である故、フィリップが負ける要素はないのだ。

レィル(立会人)がロナルドの元へ行き、意識を確認する。首にあたり強く頭が揺れたことで起きた脳震盪のせいで、彼は完全に伸びていた。

 

「ロナルド・ウィーズリー戦闘不能。よって、この勝負をフィリップ・レッカ・ハワードの勝利とする」

 

フィリップは今一度お辞儀をし、伸びているロナルドの胸倉を掴んで言った。

 

「君が馬鹿にしたグレンジャー嬢は、私よりも弱いが、確実に君よりも強い。君が馬鹿にしたのは、彼女の報われた(・・・・)努力だ。それを侮辱するのは、誰であろうと私が許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にハーマイオニー・ハワードは語る。

 

 

「いつあの変わり者に惚れたかっていえば、確実にあの時ね。今でもカッコイイけど、私的にいえばあの時が一番かっこよかったわ。当時の私は否定するだろうけど」

 

 

 

 

 

 




ども、ゴッドイーター3でアラガミ征伐に励むantiqueです。二刀流楽しい。

オリジナル展開、レィルが今回空気ですが、この回の主人公はフィリップなので悪しからず。というか主人公よりも主人公しているサブキャラとは(哲学)

130点減点。この辺りはハーミーの分が引かれていない以外は原作と同じです。
ネビルは情状酌量があるとして30点にしました。

レイブンクローの結託。これで今年の一年の課題戦争は盛り上がります。
因みに百点以上が確定しているフィリップとレィルは課題免除なんてことはありません。皆と同じようにきちんと受けます。当然1位ですけど。

ウィーズリーツインズ登場。彼らはこの後も出番があります。というか、ウィーズリーで報われないのはロンだけですから。

そして原作の仲直りフラグが折れました。しっかりフィリップが鉈まで使ってバッキバキにしています。
最初の授業の時のは触れてませんでしたが、フィリップやレィル達が語るのは私の魔法の価値観です。勿論それが原作と同じかは分からないので。
理論も大事ですが、フリットウィック先生の授業を見ても浮遊呪文の教え方が「ヒョーン、ヒョイ」で終わりなんですよね。確かに擬音というのは子供にとって教えやすいですが、利用すべきはその想像力なんです。
想像というのは余り侮れません。想像の中ならば男がISを使うのも悪魔の実を食べて大海賊になるのも自由ですから。
その想像力を現実に持ってくるように誘導してやればきっと上手くいくはずなんですけどね。まぁ私がそれを教えようとしてもコミュ障予備軍なので無理ですけど。

フィリップの戦い方は基本的に先手必勝。ですが今回は相手の納得と粛清も視野に入れていたので先に一発打たせました。熟練ならば「相手を吹き飛ばし」「杖が自分の手の内に入り」かつ「相手に誘導される」のが百点満点の武装解除呪文です。その「誘導」が上手くいっていなかったので半身で避けました。
防護呪文で防いでも良かったのですが、よりロンが悔しがるには何もせずに避けるだけ、というのが一番イラつくかなと思いこちらをとりました。
岩の破片を浮かせ、剣にし、増やして、巨大化する。言うなれば某赤い弓兵を魔法で作ってみたってことですね。

そしてハーミー、無自覚に落ちる。確実に惚れるのはまだまだ先です。

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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トロールの倒し方


有里悠さん 月華沙さん 不可視の銃弾さん 阿沃さん 黒崎陣さん

お気に入り登録ありがとうございました!


 

 

 

 

 

 

ロナルドを打ち負かしたフィリップはフリットウィックに五十点の減点と九十点の加点がされた。曰く、

 

「確かに急に決闘を挑み、ウィーズリー君を下したことの理由は正当で、しかし結果として彼は気絶し、重度の打撲と骨への罅を与えたました。それは余り褒められたものではありません。しかし彼の戦術やメンタルは素晴らしいものでした。先ず煙幕をはる、ということは無言呪文使用者にとって最大のアドバンテージです。なにせ相手に何をするか伝えない訳ですから。そこから呪文を使用しただ相手に怒りをぶつけるならば失神呪文で吹き飛ばせばいいのです。ですが私怨と粛清の意が彼にはありました。かつて私の友人が『最大の教育法は飴のタイミングと鞭の強度、そしてほんの少しの恐怖だ』と言っていたことがあります。飴のタイミングは決闘直前のクローター君の忠告、鞭の強度は彼の戦術、そして恐怖は彼の言葉です。粛清の意味を込めて、物理攻撃をした点は人間として合っています。ですので総評として、ウィーズリー君に危害を加えた事と私闘を行ったことについて各二十五点を減点し、彼が人間として出来ていたことと魔法の戦術の組み上げる早さ、それを実行するメンタルを各三十点の加点をし、合計して四十点をレイブンクローに与えました」

 

とのこと。長ったらしく言ってくれはしたが、フィリップからすればあれはハーマイオニーの報われた努力を馬鹿にしたことを後悔させてやるためである。勿論本人は人間としてできているとは思ってないし寧ろ破綻してるとまである。

結局、ロナルドは次の授業を休んだ。それに対してスリザリンのドラコ当たりがフィリップを囃し立てたが、事事の起承転結を話したところハッフルパフ、レイブンクローが味方に着いたおかげで何も言えなくなった。

ウィーズリーツインズやその兄のパーシー・ウィーズリーもなにか言おうとしていたが、アリシアの「あなた方は自らの努力を否定されて怒らないのですか?」という言葉に引っ込んだ。

夕飯はやはりレィル達の部屋で食べた。今回は更にトランクの中で談笑しながら食べていた。しかし今回はいつものメンバーに一人増えていた。

 

「えーっと、どうしようか。私が言おうか?」

「いえ、アリシア様のお手は煩わせません。私が自分で自己紹介しますので」

「あらそう?じゃあお願い」

「わかりました」

 

金髪の少女はひとつ咳払いをし、真面目そうな顔で自己紹介を始めた。

 

「今回はこの輪の中に入れていただき有難うございます。スリザリン所属の一年生、ダフネ・グリーングラスです。聖二十八一族のうち、グリーングラス家の長女になります。アリシア様からは幼い頃から良くしていただきました。今後とも長いお付き合いになることを期待します。よろしくお願いします」

 

レィルやヘルミオネは言葉と佇まいから聖二十八一族であると確信していたが、まさかのグリーングラス家であることに驚いた。ハーマイオニーは何故ここにスリザリンがいるのか不思議でならなかった。アリシアもスリザリンだが。

そして先程から肩を震わせ俯くフィリップとメズールは反応していなかった。ハーマイオニーが起きているかどうか確認しようとするといきなり起き上がって大笑いした。

 

「な、中々上手いじゃないかダフネ!お父様から叩き込まれたか?ふはははははは!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!ダッフィー、練習お疲れ様ー!イメージ付けのつもりなら私たちがいないとこでやればよかったネー!」

「うっさいソコ!アリシア様の前で何か不手際をすれば恥で死ぬのよ私は!それとフィリップ!お父様を侮辱するならその歯ァ全部叩き折るわよッ!?」

「ほら綻びがでたぞ?やっぱり完璧じゃないな!はははははは!」

「アリスの従者を目指すなら怒りを出さないくらいもっと完璧で瀟洒なになんないとー、まだまだダメネ(BaDaphne)だネ!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「やっぱ一回死ねあんたらァァァーッ!」

 

素をさらけ出したダフネはフィリップとメズールを叩きのめすため杖を抜かんとローブの中に手を突っ込んだ。いきなり素を出したダフネに呆気に取られていたレィルは、この小屋でレィルとヘルミオネ以外が杖を出せないことを言えなかった。

ダフネが杖を出そうとした瞬間に何かに杖を取られた。その取られた杖は宙に浮遊し、レィルの手元までやってきた。

 

「あー、ネクサス。その杖をグリーングラスに返してやってくれないか?」

「仕事したのは、えらい」

 

レィルが苦笑いし、ヘルミオネが何も無いところを撫でた後、杖はダフネの手元まで戻ってきた。

 

「え、何、どういうこと?」

 

何をされたか分かっていないダフネは杖を手に取ってもポカンとしたままだった。それが何の仕業によるのか理解しているのはレィルとヘルミオネを除きフィリップとハーマイオニーだけだった。

 

「デミガイズね。本での知識しかないけど、姿を自由に変えられて、透明にもなれるっていう猿の見た目をした魔法生物。毛皮が透明マントの原料になってるって話ね」

「そのせいで乱獲が行われた哀れな種族。今では保護が広まって数は前ほどまでに戻ってるけどね」

 

ダフネとアリシアは言われてその存在に気付いた。メズールだけがまだ首をかしげていた。

 

「グリーングラス、ここでは杖の使用を控えてほしい。薬品とか素材とか結構数あるから、壊れたら後処理が大変なんだ」

「ダフネでいいわよ。後処理が大変って言うけど、例えばどんなのがあるの?」

 

レィルはどれを見せるか悩んだ挙句、手元にいた蚕のようなものを手に取った。その尻尾を中指にまきつけてスナップをしながら手を開いた。

中の繭が大きく開き、緑と赤の羽の蛇のような顔をした生き物がダフネの顔寸前まで近づいた。それは数秒そこにとどまった後、レィルの掌に戻って行った。

 

「お、スウーピング・イーヴルの亜種かい?」

「そう。ミローって言うんだけど、こいつの毒は少量でも垂らせば肌が溶ける程に強い。だけど、薄めて使えば調合剤として使えることがわかってる。様々なものに使えるから原種より使い勝手がいいんだ。勿論原種もいるけどね」

 

レィルはミローを元いた位置に戻した。ダフネは毒の危険性を認識しながらかぼちゃタルトを口にした。やはり昼食も夕食もかぼちゃ尽くしだった。

レィルとヘルミオネが席を外しトランクから出ていくと、やはりフィリップとメズールはダフネを笑った。ついていけていなかったハーマイオニーにアリシアは謝りながら状況を説明した。

 

「置いてけぼりにしてごめんなさいねハーマイオニー。メズールは元々家が近くて、フィリップも幼い頃に私の家の近くに引っ越してきたのよ。子供って好奇心旺盛でしょう?だから同年代の子供と遊びたくなって、お父様が近所の子なら、ってフィリップとメズールと一緒に遊んでたのよ」

「へぇー。じゃぁダフネは?」

「それは私の家柄。聖二十八一族総督家なんて立場だから、そういう場所にはよく立ち入るの。ダフネはいつも私のボディーガードを請け負ってくれたの」

「いい子なのね。スリザリンだからって身構えてたわ」

「聖二十八一族といっても色々あるのよ。ウィーズリーみたいにマグルの人を家に迎え入れるところもあれば、マルフォイのように完璧純血主義の家だってある。私やダフネのところは婿嫁は半純血までね」

 

聞いていて微笑ましかったり、上流貴族の間柄を見ることが出来るような会話だが、その目前で行われていることが些か物騒である。杖の使用禁止を言い渡されているからというのもあるが、ダフネは拳と脚を使っていた。

ジャブにストレート、後ろ回し蹴りに果ては踵落としまで。これが魔法使いのすることなのだろうかと割と困惑しそうである。

 

「いい加減当たりなさいよ!」

「当てているだろ?君のチンケな拳を右手で受け止めている。ほらほらどうした?両方使えるとはいえ僕の利き腕は左だぞ?」

「人を煽んなきゃ死ぬのかアンタは!アガルタおば様からアンタの性格矯正頼まれてんのよこっちはァッ!」

「およー?おばさんそんなことしてたのかー。諦めた方が早いってのにー」

「全くだな」

 

気付いていないが、ダフネは先程からパンチの度に拳に微量の魔力を纏わせている。それによってフィリップの目が解析し、どの方向にどの速度で振るわれるかが分かっているのだ。物理攻撃に魔力を込めるのは割と高等技術なだけあって、ダフネも優秀なのだろう。

結局彼らのじゃれ合いは、レィルが帰ってくるまで続いた。

 

一方、外に出たレィルは共に来ていたヘルミオネに生気を吸われていた。勿論接吻である。

レィルは自分のベッドで休息を入れていた。ヘルミオネは傍に座ってレィルの頭を撫でていた。この時間が彼女にとって一番幸せを感じるものだった。

だがそれは不意に終わることとなる。大広間の扉が勢いよく開けられた後、悲鳴などが連呼され、その後誰かが爆音を鳴らしたのだ。防音魔法を施していなかったレィルは当然起き、ヘルミオネは頬を僅かに膨らました。

 

「何の騒ぎ?」

「分からない。行ってみる?」

「そうしよう」

 

レィルが服を整え、いざ扉を開けようとすると三回の高速ノックの後扉が開かれ、三人の生徒が顔を出した。一人は割と煽ることに定評がついてきたドラコだった。

 

「あー、ごめん。急用で。フィーを見なかった?レイブンクローの席にいなかったんだ」

「アリシア様やダフネもいなくなってるんだ。何処か知ってるか?」

「ハーマイオニーもメズールもいないの!」

 

雪崩込むように各々の探し人の名を出す三人。急なことでレィルは少しフリーズしたが、直ぐに意識を戻した。この辺りの順応性は彼らとの生活で鍛えられたのだ。

 

「フィー、というのがフィリップの事なら、全員トランクの中に居ますよ」

「トランク!?なんでそんな所にアリシア様が……いや、いい。あの方が安全ならそれでいい」

「マルフォイ、この騒ぎは何?」

 

過保護なのか、アリシアが無事だとわかった途端に安堵したドラコにヘルミオネが問うた。

 

「ドラコでいい。君たちは裏切り者の血(ウィーズリー)やポッターとは無縁のようだしな。穢れた血とつるんでるのは余り気に食わないがまぁ邪険にしないでもない。で、この騒ぎか?トロールが出たらしい」

「トロール?知能上昇薬を飲ませてないトロールかホグワーツに入ったのか?」

「どうやらその様らしい。ボクもおかしいとは思ってるけどね。とりあえず、アリシア様をスリザリンに返してくれ。談話室で点呼がある」

「わかった、必ず送り届ける。ヘルミオネ、頼んだ」

 

ヘルミオネは頷いて、トランクの中に入っていった。レィルはそのトランクを鍵を閉めて持ち上げた。

 

「ドラコ達も寮に戻って。僕はトロールを処理してくる」

「殺すのか?いくら不法侵入したからって……」

 

処理という言葉に顔を曇らせたハッフルパフの先輩。レィルはこの人がフィリップの言っていた「セドリック」であると気付いた。

 

「いえ、処理と言ってもトランクに入れるだけです。おそらく山トロールなので高山エリアにでも放っておきます」

「良かったぁ。危険でも、殺すのはヤだしね」

 

胸に手を置いて褐色の少女は息を吐いた。以前にメズールが言っていたパチルの片割れだろう。

レィルは人間には反応しない生物探知機を使ってトロールを探した。トランクは認識偽装をしているために反応しない。

 

「場所は、南東の下?ってことは地下廊下付近のトイレ辺りか」

 

レィルは加速魔法を自分にかけてその場所へと向かった。途中でハリーとロナルドが何やら誰かを探しに行くみたいなことを言っていたが、レィルはそれを無視した。

壁や天井を蹴っていきながら地下室に付くと、トロールがフラフラと彷徨いていた。まるでそうしなきゃいけないからそうしてる、というような雰囲気をかもしながら。

レィルはトランクの鍵を開け、出口を高山エリアに設定し、口笛でトロールを呼び寄せた。トロールは定評のあるアホ面を見せながらゆっくりと振り向いた。

故郷の匂いと同じようなものを感じたのか、トロールは誘導されるままに入口の広がったトランクの中に入っていった。ちょうどその瞬間、ヘルミオネが姿くらましをしてレィルの隣に立った。

 

「レィル、先生達が来る」

「なら急いで帰ろう。よろしく」

「任せて」

 

レィルはトランクを元の形に戻し、左手に持った。これより小さくできるが、やはりトランクの形が一番しっくりくる。

ヘルミオネはレィルの右手をそっと握り姿くらましをした。その数秒後にダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、クィレルが到着した。

彼らは報告にあったトロールがどこにもいないことに困惑し、報告元であるクィレルの幻覚として処理した。クィレルはやはりオドオドしたままであった。

 

部屋に戻った二人は鉱山エリアに先程のトロールが居ることを再度確認した。先にいた山トロール達は降ってきたトロールを新たな仲間として迎え入れていた。

トランクを再び閉めて、レィルはベッドへと倒れ込む。急な保護が入ったために神経をすり切らしたレィルは直ぐに夢の中に入っていった。

ヘルミオネはレィルが寝たのを確認して、貪るようにではなく、包み込むようなキスをして今月分の生気を補給した。起きているならばともかく、寝ているならば起こすようなことはあってはならない、と心に刻んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レィルは世の男どもに背中から刺されそうなことをしている間、意識を残しながら夢の中に入っていった。夢を見やすいのはレム睡眠だが、彼は話すならば意識がはっきりしているノンレム睡眠の方が良かったのだ。

 

『約1ヵ月ぶりか。調子はどうだ?レィル』

「微妙」

『それはミオがキミの生気を吸ったからだろう?ボクが聞きたいのはそこじゃない』

 

レィルの目の前にいるのは一人の少年。髪は白いが、先端になるにつれて青くなっている。瞳は人間ならばありえない紫色である。

少年の服装は白いシャツと黒のズボン、至って単純そうなもので、印象に残りにくいのが印象と言った顔立ちであった。

 

『キミの精神の調子だ。この世界では精神疲弊も魔力切れもないが、大事なのはイメージなのだろう?』

「知ってるよ。精神の調子だっけ?良好だよ。君よりかは全然だろうけど」

『食料に困らないな、ココは。妬み嫉み疎みだのなんだの、ボクの糧となるものが多い』

「まぁ、ヴォルデモートあたりがマグルを敵視してるからね。美味しい?」

『不味い』

「けどそれしか食べ物がないんだろう?」

『あれを永遠と食べるならまだただ甘ったるくしたみたらし団子の方がいい。セルフサービスのお茶で舌を誤魔化せられる』

 

レィルと少年は訳もなく談笑をする。少年の見た目は高校生かそこらだが、少年はこれでも五世紀後半辺りから生きている。彼の言う別の世界も含めて数えれば千を超える。彼は1968(・・・・)回目の新年を数え終えたところで諦めたらしい。

 

「でも君の食料はそれらだけじゃないだろう?美しいものだって」

『いいかレィル。それはダメだ。それを食べるのは、嘗て()が憧れた、()が倒された彼らに対する侮辱だ』

 

十メートルは離れていただろう二人の距離が、僅か鼻先数センチという所まで近づいた。音もなく、風もなく、足元を一ミリだけ満たす水に波紋さえ出さずに、確実に瞬間移動してレィルのそばまで来た。

これだけで、この行動だけで彼がどれだけ規格外かをレィルは再確認する。

 

『私はあの世界で、花の(糞を下水で煮込んだような性格をした)魔術師のおかげで世界へと追い出された。そこではアヴァロンの塔にはないだろう美しいものがあったのだ。刃を打ち合わずに悪を討ち、血を流さずに答えに辿り着く。彼らという存在は私にとって多大な影響を及ぼした。勿論いい方向にだ。そんな彼らを形容すべくして生まれたと言ってもいい「美しさ」を私の糧にするなど、無礼千万もいいところだ』

 

レィルは何も言わない。彼の言っている「あの世界」というものを知らないし、以前の彼も知らない。先祖であるヘルミオネ・クローターにも教えていない故に、知っているのは彼のみとのこと。

それに対して口を刺すのは、彼の言う「あの世界」の部外者であるレィルでは役不足である。少年が言った「彼ら」ならば或いは、と考えてしまうが、ここに居るのは自分一人である。「彼ら」の力は借りられない。

 

「ごめん、無神経だった」

『……いや、ボクの方も素を少し出した。ここは互いに流そう』

 

少年はそういうと、レィルから少し離れた。先ほどよりも少し近い5メートル辺りの距離だ。

レィルはその様子に少し口角を上げると目を閉じた。この空間は少年が作っているようなもので、ノンレム睡眠からレム睡眠に移行できる。

レィルは数秒もせずにここから光となって消えていった。少年もそれを見届けてからこの場を去った。

 

 

 

 

 

 




ども、おコタとファンヒーター、ストーブ、暖房とフル装備なantiqueです。あったけぇ()

フィリップの加点と減点。なんだかんだ言ってフリットウィックも自分の寮に甘いです。
作中でフリットウィックが言った「最大の教育法は飴のタイミングと鞭の強度、そしてほんの少しの恐怖だ」というのは、どこぞのヌルヌル教師のとこの理事長先生です。私の持論ではありません。

レィルメンバーNo.8かな?ダフネ・グリーングラスの登場です。
原作でも出番らしい出番もなく、更にはポッターモアにも大百科にも果てにはwiki大先生にも載ってなかったので彼女の性格は妄想です。公ではきっちりと、オフになればいじられキャラに落ちます。

そしてプロローグで登場したネクサス、ミローの登場です。
ネクサスはデミガイズです。結構トランクの中をうろちょろしてますが、外に出ることは滅多にありません。
ミローはスウーピング・イーヴルの亜種個体。説明はレィルのした通りです。

レィルチームNo.9、10のセドリック・ディゴリー、ドラコ・マルフォイ出場。彼らは今後も出番ありです。
セドリックはフィリップを「フィー」と、フィリップはセドリックを「セド」と呼びます。彼らはとても仲がいいです。
ドラコはレィル達を良く見ています。ハーミーと関わっているのはあれですが、ハリーもロンも居ないので割と好印象です。

トロールの倒し方(回収方法)。多分これが生存ルートで一番早いと思います。
賢者の石を2周したあたりに「あ、こうすりゃ早いわ」と思った次第です。他意はありません。


で、最後の彼。予想しやすいでしょう?

では次の話で会いましょう、サラダバー






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君を孤独から救いに来た

 

クリスマス休暇なるものがあったが、基本的にレィルがすることは変わらなかった。朝食を食べ、トランクの住人達に餌をやり、昼食を食べ、トランクの住人達に餌をやり、夕食を食べ、ヘルミオネに生気を与え、眠る。気がつけばあれよあれよと休暇が終わっていた。

レィルは校内を歩いていた。校長室から出てきたばかりである。

ようやっと賢者の石の罠の改良案が纏まったのでダンブルドアに提出しに行ったのだ。合言葉は変わらず「ピーナッツバター」だった。

ダンブルドアからの了解と許可を得たので改良を始めなければならない。ひとまず罠はこうなった。

 

三頭犬──フラッフィーに知能上昇薬を飲ませ、地形を三頭犬が一番戦闘しやすいものにする。扉はフラッフィーの背中に移動する。

悪魔の罠──感覚麻痺、目眩など体に異変はないが意識に異変がありすぎる植物を置く。ビリーウィグとスウーピング・イーヴルを放す。

空飛ぶ鍵──鍵の数の増量、並びに全ての鍵をトラバサミに変形させる効果を付与。ちぎれるまで離さない。

チェス──相手のターンを待たない「意思を持った駒」達による一斉攻撃。王が壊れるまで再生する。どんなに小さなミスでもやらかした瞬間に全ての駒が裏切る。

トロール──反射魔法をかけた鎧を着せる。武器も棍棒から鉈に変更。中のトロールが死んでも鎧が動く。

魔法薬クイズ──正解しても外しても焼かれる。水増しして消そうとしても消えない。

みぞの鏡──そもそもそこに賢者の石を置かない。レィルが所持しておく。

 

かなり鬼畜難易度だが、レィルからすればヴォルデモートの全力排除を目的としているならばあれぐらいなど生温いし、今回改良する罠の案もまだまだ足りなさすぎるのだ。

欲を言えば三頭犬を分霊箱にしたいし、悪魔の罠も一つ吸えば即死する魔法薬草を置きたい。チェスも最初から全部敵にしたいし、トロールじゃなくてズーウーにしたい。

しかし、自分だけが出入りするならいざ知らず、どこからか話を聞きつけたハリーとロナルドが入ってくる可能性があるとダンブルドアに示唆された。レィルは難易度を落とす他なかった。

 

(同級生のお守りまでしなくちゃならないとは、あの老害は何を考えている?)

「言うなよネイキッド。こっちだって参ってるんだ」

(ヘルミオネに吸われてる時の方が体力使うのにか?)

「ヘルミオネは僕の大事な家族だ。だからいいんだよ。ポッターとウィーズリーは他人だろ?」

(そうだな。しかもレィルとは比べ物にならないくらいに要らない子だ)

「相変わらず辛辣だなぁ……」

 

レィルは胸ポケットに忍ばせている一匹の蛇と対話していた。レィルは蛇語使いではないが、彼とならば人語でも話せるのだ。

ネイキッドと呼ばれた小さな蛇はテレパシーを持つシリンドミッションという個体の雄だ。閉心術の効かないテレパシー故に、ネイキッド(剥き出し)と名をつけた。

彼らはトイレに向かっていた。ただのトイレではなく、女子用で、使用されていない、しかもゴーストがいるトイレである。

以前にホグワーツの地図を作ってもらった時に、ある一定の場所で途切れていたのだ。ネズミたちに訳を聞けば、それ以上先にはある化け物がいて、そこから先は行けないのだと。

その場所こそが、3階の使用禁止トイレ。レィル達の目的地である。

 

「しかし、何がいるのやら。食べられたのが主に蛙や鼠ということは、化け物は蛇なんだろうけど」

(だから私を呼んだ、と?)

「でなきゃ意思疎通が出来ないだろう?」

(そうだがな。仕事をしたんだ、報酬はきっちり貰うぞ)

「分かってるよ」

 

レィルはネイキッドと彼の息子たちのことについて話していると、気づけばトイレに着いていた。やはり身内との会話は何物にも代えられないものがあると再確認した瞬間だった。

レィルは化け物が下水道の配管を通れる大きさだと仮定して、まずは手洗い場のあたりを探し始めた。が、やはりそれと言って特別なものはない。

特別な何かとは言い難いが、蛇口の取手に蛇が施されていた。探している動物ではあるが、レィルの探しているのは生きているものだ。

 

「ねーアンタ。なんでこんなとこいんの?休日だけど、使用されてない女子トイレに来てもの探しとか趣味悪いよ?」

 

不意に後ろから声がした。まだまだ若い、しかしわかる人にはわかる生気のない声だった。

振り返ってみれば、宙に浮かびながら仰向けになるおさげの眼鏡をかけた女の子がいた。レィルはこの子が嘆きのマートルであると確信した。

 

「趣味が悪いのは知ってるさ。トランクの中にスウーピング・イーヴルやズーウーを放し飼いにしてる奴が趣味がいいなんて言えないしね」

「え、ほんとに?こいつまじか」

 

まさか出てくるとは思わなかったマートルは一瞬でレィルから離れてトイレの個室まで後退した。言葉だけなら「またまたぁ」と茶化しもできるが、タイミングよく、マートルからすればタイミング悪くズーウーの唸り声がレィルの持っているトランクから聞こえたのだ。

 

「……いやまぁ、アンタの趣味は分かったけど、一番初めの質問に答えてなさいよ?なんでここにいんの?」

「そう言えばそうだったな。ある動物を探している。蛇なんだがな」

「あらそう?蛇なら蛇口の取手に付いてるじゃない」

「それは銀のだろう?僕が探すのは本物の……」

 

レィルはそこで留まった。マートルが「え、なになに。急に黙らないでよ」とか言っているが耳に入っていなかった。

その鼠のいう化け物が、下水道を通れる大きさだと仮定した。そこから1度はオカミーであると思った。

オカミーは入る穴の大きさに対して自らの大きさを変化させる特性がある。それなら蛇口から出入りできると考えたからだ。

だがもし、その化け物に人間との交流があったならば。その存在を秘匿するため、その者にしか扱えない言語ならば?

 

「ネイキッド」

(何だ?)

「ちょっと、この手洗い場に向かって「開け」って言ってくれないか」

(構わないがな……「開け」

 

ネイキッドがテレパスではなく自分の口で開け、と言ったことで、蛇口の取手の蛇は僅かに目を光らした。ズン、と重い音がした後、多くのブロックに割れた手洗い場の下に下水道が現れた。

 

「あー、ヤバい。トラウマが再発してきたぁ……」

「トラウマ?」

「アタシ、ここで殺されたのよ。なんでかは知らないけどね。いじめられっ子だったから、そこの個室でいつも泣いてたんだけどね。けどある日、誰か入ってきたのよ。何か言ってたけど、当時は外国語だと思ってたわ。それでさっきの手洗い場が変形する音が聞こえたの。鬱陶しくて『邪魔。出てって』ってことを伝えようとしたら…」

「ポックリ逝った、と」

「そういうこと。まさか蛇語だったとは……」

 

マートルは長年の謎が解けたようで、先程からトイレを右往左往している。レィルはそれに一瞥してから、開いた手洗い場を見た。

トランクの中からミローを出して、尻尾を指に括りつけずに放す。狭いとはいえ久々の外に、かなりミローは上機嫌なようであった。

 

「……ほんとに居たよスウーピング・イーヴル。しかも亜種個体って。ほんとに趣味悪いわね」

「お褒めに預かり恐悦至極。じゃ、行こうか」

「行ってらーい」

 

気怠い見送りを貰いながら、レィルはトイレを反時計回りに回るミローの背中に飛び乗った。ネイキッドがテレパスで指示を送り、ミローは下水道に突っ込んで行った。

下水道の本管に到着したレィルはミローをトランクの中に戻した。勿論お礼替わりの食料も忘れない。ミローには常日頃からお世話になっているため、他と比べてほんの少しだけ優遇してたりする。

しばらく歩いていると、大きな扉があった。ヒュドラが造形された扉で、やはりこれも蛇語で開ける必要があった。

ネイキッドに頼みまた開けてもらうと、その奥に大きな部屋があった。ある意味神秘的で、そしてある意味不気味な部屋だった。

奥に続く八対の柱、誰かを意匠しているだろう巨大な顔。そしてとぐろを巻いて寝る巨大な蛇がいた。

レィルはわざと靴底を鳴らすように歩いていく。僅かに足元が水に濡れているせいか、水の跳ねる音と靴の底が鳴る高い音が部屋に響いている。

 

「ネイキッド、同時翻訳で頼む」

(了解。オーダーに応えよう)

 

ネイキッドはレィルの胸ポケットから方へと移動する。何故かレィルのトランクの住人達はレィルの肩に居たがる。

 

「蛇よ。聞こえるか」

 

レィルの言葉をネイキッドが聞き、テレパスで蛇に伝える。蛇はネイキッドのテレパスにとろい動きで起き上がった。

蛇の体躯はレィルの身長を軽々と越し、ついには天井に当たろうという所まで来た。深緑の鱗、巨大な体躯、黄色の目から、レィルはそれがスリザリンの怪物、バジリスクであると予想した。

 

「起こして済まない。だが僕は貴方に話をしに来た」

『何用だ、小さき者よ。汝が我が主の継承者ならば話を聞こう。そうでなくとも、妾に意志を示せば、その話を聞いてやらんことも無い』

 

レィルはバジリスクが雌であることに驚きつつ、話を進めようと彼女の鼻を見た。目を合わせれば殺されると言われるバジリスクには、これが一番話しやすい目線の位置なのだ。

 

「僕は継承者ではない。主というのはサラザール・スリザリンなのか?」

『左様。我が主、サラザール・スリザリンはいつか来る継承者の訪問のその時まで妾をここに眠らせたのだ』

 

レィルはその言葉に、継承者がここを通るには蛇語使いである必要があることを見出した。ならばマートルが殺された時に、一度この場所が開かれている事になる。

 

『今から四十九年前、一人の男がここにやってきた。僕こそがスリザリンの継承者である、と』

「その時に、マートルを殺したのか」

『あの女生徒には悪い事をした。妾は無益な殺生は好まない。それは我の敬愛せし主もまた同じこと(・・・・・・・・・・・・・・)

 

レィルはその言葉に疑問を覚えた。純血主義の先駆者であるサラザールがそんなことを思うとは思えなかったのだ。

 

『主はマグルを恐れていた。数ではない。文明の力を恐れたのだ。993年という大昔に何を恐れたかと言われれば、マグルとの共生を試みた未来を見たのだ。主は予言にも秀でていた。故にほんの興味本位であったが、もしヘルガ・ハッフルパフのいう共生した未来を見たのだ』

「……その未来は?」

『いいとはいえない。寧ろ酷すぎる。ただ魔法が使えるからと言って奴隷化し、それをどこでも容認している。主が生きていた頃でさえ魔法族はマグルに捕えられ、殺されるのが日常であった。そのころよりも酷いと主は言った』

「……だから純血のみを受け入れ、魔法族がちゃんと世間から消えた時にマグルを受け入れる」

『それが今の世に伝わるべきだった(・・・・・)純血主義だ』

 

いくらなんでも拗れて伝えられすぎだろうとレィルは思ったが、当時の製紙率、また教育が行きとどっていない世の中では言葉などはどこまででも変わる。サラザールが本当はいい人であった、というのは今のスリザリン寮の偏見もあり、捻られてしまったのだ。

 

『49年前にこの部屋を開いた、自らを継承者と称する小僧は純血主義の根本を理解していなかった。それどころか奴はマグルや半純血を皆殺しにするとまでほざいた。妾は命を削って全力で反抗した。妾の寿命をすり減らし、命令を受けつけないように体を改造した』

「……あと、何年生きられる?」

『このような老耄を心配する人間がいるとはな……。恐らく百年も残ってはいまい』

 

レィルはネイキッドを介して話すバジリスクにとてつもない情を抱いてしまった。本来ならばここで殺すべきだろう。

だが、レィルは人間を除く全ての動物達の味方だ。それは例え、這いよる混沌であろうが、バジリスクだろうが関係ない。

 

「ネイキッド、翻訳お疲れ様」

(いいのか、レィル。蛇語使いではないのだろう)

「いいよ。ここからは、俺の意思を示したい」

 

レィルはネイキッドをトランクの中に入れた。拡大呪文を起動させ、トランクの入口がバジリスクでも入れるようにする。

レィルはしっかりと、確固たる意思を持ってバジリスクに近づいた。バジリスクは少し後ずさりしたが、やがて動かなくなった。

 

「……()が、君の運命を変えてみせる。もう誰も殺させない」

 

レィルはバジリスクの鼻先をそっと撫でた。数秒かけて、傷を癒すように、割れ物を扱うかのように。

彼にカウンセリングの才能はない。レィルにバジリスクの思いを理解することは、到底出来ないだろう。

だが、それでも、レィルはこのままバジリスクが死んでいくのが不憫でならなかった。

 

「君の目を少し弄って、その魔眼が発動しないようにする。けどいつもここに来る訳には行かない。だから、トランクの中に入ってくれ」

 

レィルはバジリスクから離れ、トランクの方へと後退する。バジリスクは惹かれるように、レィルのスピードに合わせてトランクへと這いずって行った。

 

「サラザール・スリザリンのように、君を完璧には理解できないだろうけど、それでも()は、お前(・・)を救いたい」

 

俺、お前。一人称と二人称が元の喋り方になるぐらいには、自分でも不思議になるくらいにレィルはバジリスクを救いたかった。もしもう一度継承者を名乗る者がいて、またホグワーツで殺しを始めたら、バジリスクはもう耐えられない。

命を賭して反抗して、それでもし彼女が死ぬのは。

それはとても、報われない。とレィルは思った。

バジリスクはレィルをじっと見た。もちろん殺さないように体をだ。

少しだけ筋肉質な、丈夫な体。その体が、バジリスクにはほんの少し大きく見えた。

やがてバジリスクは敬意の証としてレィルに向かって一礼し、トランクの中に入っていった。それを見てほっとしたレィルはトランクを元の形へと戻した。

 

レィルが自室へ戻ると、やはりヘルミオネが待っていた。自分の家ではないが、家族が待っているというのはやはり何物にも代えられないものだとレィルは再確認する。

ヘルミオネは「お疲れ様」とだけ耳元で呟き、ホットココアをテーブルの上に置いた。流れるようにヘルミオネはレィルの安否を確認するように優しく抱きついた。

自分で感じるよりもかなり疲れていたレィルは体から力を抜いてぐでっとヘルミオネに寄りかかった。ヘルミオネはしっかりと力を入れて、でもレィルに痛みが加わらない程度の力で抱きしめた。

 

「何かあったのね」

「あぁ、マートルのいるトイレから秘密の部屋に行ってた。バジリスクがいたんだ」

 

レィルは一応防音呪文を施してヘルミオネに全てを話した。スリザリンの怪物の思いと、それに対して自分がどうしたかを洗いざらい。

話し相手がフィリップやアリスならば全ては話さなかっただろうが、ヘルミオネならば別である。

話し終わったレィルはいつの間にか浮遊呪文をかけられ膝枕されていることに気がついた。杖を抜いた気配も呪文を唱えてもいないが、ヘルミオネは人間ではない。その位はどうということはない。

 

「そう。バジリスクには名前をつけるの?」

「ソリダスが聞いてきたんだけど、フィリア・レギスっていう名前があるらしい」

filia regis()……安直でも、いい名前」

「サラザールはセンスがいいね」

 

レィルはこのまま眠ろうか、と思い地面に立ち、トランクを開けようとした。だがその瞬間に勢いよく扉が開けられた。

 

「ドラコ?」

「クローター……は、いるな。お楽しみ中でなくてよかった」

 

レィルはトランクを閉めてドラコに椅子を出した。ヘルミオネは魔法でホットココアを一杯入れてドラコに持たせた。

 

「ありがとうディマイント。それで、話なんだが……」

 

 

「ドラゴンを、保護してくれないか?」

 

 

 

 

 

 




どもども、もうそろそろあったかくなってきて欲しいantiqueです。おコタの魔力は磔より強い。

罠は作中で説明したとおりになりました。
フラッフィーはあんまり愛着が湧いてません。自分のじゃないですが、それでも一定の情はあります。
悪魔の罠のビリーウィグですが、これはプロローグでいたヒューレルという個体です。特徴はまた後ほどに。
空飛ぶ鍵のトラバサミ。切断するしかありませんが、クィレルは腕の貯蔵は十分なんですかねぇ?
チェスは最近SNSにも上がった手番のないチェスの応用編です。ミスをすれば一斉に裏切ります。
トロール魔改造。ここは原作ではクィレルが通りやすいように、としてあったのですが、そんなに事が上手く運ぶわけないでしょ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
魔法薬クイズはどれを飲んでも致死量にいたり、そして焼かれます。可燃性の薬もあったりします。スピリタスとか。

そしてオリジナル生物のシリンドミッション。名はネイキッドです。
まぁ元ネタは分かるでしょう。リキッド、ソリッド、ヴェノム、ソリダスですよ。

マートル、そしてバジリスク。この時点でグリフィンドールの剣は毒を吸いません。
サラザールの過去の捏造。個人的にこんなんだったらいーなーぐらいにしか考えてませんけど。

ミオの妻感ハンパない。というかそもそも元々レィルにとって家族以上の存在ですし。
どうしようかな…いっそ強制妊娠薬みたいのものでも作らせるか?()

そしてドラコの依頼。なんのドラゴンなんですかねぇ……

では、次の話で会いましょう、サラダバー


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任務遂行

norikaさん tomokiさん ジャック@初心者さん 朔夜・那桐さん マッチメンさん 南部赤松さん シキ七八さん メイヨウさん うさぎSANさん Risukiさん 鷹野さん 折紙さん 凪薊さん 伍夜さん Black・wolfさん 技マシンさん 博神和人さん

お気に入り登録ありがとうございました!


 

ドラコの訪問と依頼、そしてドラコの態度から見てかなり面倒な部類だとレィルは憶測をつけた。ヘルミオネは何も言わず、レィルの左後ろで背筋を伸ばして立っている。

 

「ウィーズリーとポッター、そしてグレンジャーがあの森番の家に向かっていくのが見えたから防音呪文と認識阻害魔法をかけて後をつけたんだ。結果は黒、ドラゴンの卵があったんだ」

「……なるほど、確かにドラゴンキーパーでもない人間がドラゴンを所持、飼育するのは違法か。にしてもよく気づかれなかったな?」

「キミ達に勝てずとも負けたくなくてね。ダフネと一緒になって勉強してるのさ」

 

ドラコはフフンと鼻を鳴らした。しかし咳払いし、その雰囲気を元に戻した。依頼の席で話すことではないと悟ったからだ。

 

「……まぁ、無理やり取るのも億劫だな。ハグリッドには然るべき場所に行ってもらって、僕はそのドラゴンを保護しよう。卵の特徴は分かる?」

「そこまで大きくない。ちょうどボクが抱えられるぐらいだ。模様は白に灰色の斑点」

 

卵の特徴を聞いてレィルは冷や汗が出るのを感じた。ホットココアを口に含んで心を少しだけ落ち着かせる。

 

「マズいな。ノルウェー・リッジバック種だ」

「はぁ!?リッジバックといえば、炎を吐くのが一番早いドラゴンだろ?森番は本当に何を考えてるんだ!?」

「これ以降はハグリッドの意思を無視することにしよう。いくら何でも危険すぎる」

 

レィルは机から羊皮紙と羽根ペンを取り出した。ヘルミオネも同じように羊皮紙と羽根ペンを取り出して物凄い勢いで何かを書き始めた。

ドラコが困惑して数秒、レィルの部屋に次の客が現れた。ドラコの話にもでてきたハーマイオニーである。

 

「……マルフォイがここにいるのはいいとして、レィル、力を貸して欲しいのだけど」

「ノルウェー・リッジバックだろう?今対策してる」

「え、なんで知ってるの?」

「ボクがクローターに頼んだのさ。ドラゴンを保護してくれってな」

 

ハーマイオニーは現場を見られていたことに不味いことがバレたような顔をすると同時に、既に対策が取られていることに安堵していた。一緒にいた二人には悪いが、ここは身の安全を取るしかなかった。

 

「ところでレィルにヘルミオネ、貴方たち何書いてるの?」

「嘆願書。魔法生物規制管理部の部長宛にノルウェー・リッジバックの保護許可を貰うために書いてる」

「私は、ゼノにダンブルドアを黙らせて欲しいって手紙」

 

ハーマイオニーは魔法生物規制管理部に連絡するのは分かったが、ヘルミオネのいうゼノという人物に手紙を当てる意味が分からなかった。しかし以前にゼノに認識があったドラコは理解した。

 

「なるほど、確かにゼノおじ様ならあの校長を黙らせられるか」

「どういうことよマルフォイ」

「彼女の家さ。ディマイント家は代々アズカバン並びに魔法界の観測を生業としている。ゼノおじ様はアズカバン監視塔現当主なんだよ」

「ハグリッドが監獄に行くなら、ダンブルドアは絶対に噛み付いてくる。だから黙らせる」

「アズカバン……?」

 

初めて聞く単語にハーマイオニーは首を傾げる他なかった。嘆願書を書き終えたらしいレィルは椅子を百八十度回転させて教えた。

 

「アズカバン刑務所、北海に魔法で建てられた魔法使いにとって絶対に行きたくない場所。光なき監獄。まぁ、マグルの方にもあっただろう?バスティーユ牢獄とか」

「……それ、ロンやハリーも食いついてくるんじゃない?」

「罪を犯して隠す方が正しいなんて思ってる奴なんかほっとけばいいんだよ」

「グレンジャー、君は許されざる呪文を使って「使いたかったから使った」とか言って挙句の果てにその事実を隠蔽しようとするバカを擁護できるのかい?」

「ゴメンなさい、ムリだわ」

 

レィルの辛辣な言葉とドラコの正論にハーマイオニーは折れるしかなかった。ヘルミオネも書き終わったのか、ひとつの封筒に入れた。

 

「ドラコは君の父親に「上手く行けば飛ばせますよ」と伝えておいてくれ」

「それは別に構わないが、何故?」

「悪いがそれは機密事項だ。よろしく頼むよ」

 

レィルはそれだけ言ってトランクの中に入っていった。ヘルミオネは封筒のみを姿くらましで飛ばしたらしく、手には何も持っていなかった。

ドラコとハーマイオニーはひとまず寮に戻った。ハーマイオニーは以前フィリップに貰った幻の生物とその生息地でノルウェー・リッジバックの危険性を理解し、ドラコは梟に手紙を貼り付けて父親のルシウスに送った。

 

レィルはクロエに頼んで魔法生物規制管理部、ドラゴンの研究及び制御室のトップに座るメーラン・エルリックと管理局局長のフロー・ベアリングに手紙を持っていくように頼んだ。意思疎通役にネイキッドの息子であるヴェノムも連れていった。

数分後にクロエとヴェノムは二人を連れてきてくれた。やはり角水蛇は便利だと思った瞬間であった。

 

「こんばんは、メーランさん、フローさん。お忙しい中、お呼び出ししてすいません」

「いや、レィル君にはいつもお世話になってるからね。これくらいはどうということは無いよ」

「私はフロー局長と違いそこまで忙しい訳では無いですが、ノルウェー・リッジバックともなれば即座に対策することが要求されます。無駄話もなんですし、早速本題に入りましょう」

 

レィルは頷いて、魔法で紅茶を入れながら話をすることにした。メーランはやはり魔法生物管理局にいるせいか、近くを魔法生物が通るとそちらに目移りしそうになっていた。

 

「本件は、ホグワーツ魔法魔術学校の森番であるハグリッドが不法飼育をしているとの事だったが、それで違いないかね?」

「違いありません。不法飼育というより、これから産まれてくるので不法所持ですが」

 

レィルはドラコからの情報をできるだけそのまま伝えた。ハリーやロナルドのことはもちろん、ハグリッドのこともそのまま。

 

「問題は卵の大きさで、同級生のドラコ・マルフォイからの情報によれば、彼がちょうど抱えられる位の大きさらしくて。それに斑点付きということは恐らく刷り込みが必要な個体かと」

「一年生が抱えられるほど……となると、孵るのは早くて明日ですね」

「非常にまずいな。特令を出す他ないだろう。レィル君、羊皮紙とインクはあるかね?」

 

レィルは呼び寄せ呪文で羊皮紙とインクをフローの前まで来させた。フローはそれにひとつ頷いて、杖を振った。

 

『私、魔法省魔法生物規制管理部部長フロー・ベアリングの名の元に、魔法省魔法生物規制管理部ドラゴンの研究及び制御室室長メーラン・エルリック並びにホグワーツ魔法魔術学校レイブンクロー寮所属レィル・クローターにノルウェー・リッジバック種の保護、及びホグワーツ魔法魔術学校森番ルビウス・ハグリッドの確保を命ずる』

 

すると甲高い音が鳴ると同時に紙はただの羊皮紙から特令書に切り替わった。それをフローの手からメーランに渡ると同時に天井の扉、すなわちトランクがノックされた。

レィルはそれに3回ノックし入出許可の意を伝えると、1人の老人が入ってきた。

 

「ほっほっほっ、楽しそうじゃの。儂も混ぜてくれんかの?」

「これはこれは、ゼノ様。いつもアズカバンの監視、ご苦労様です」

「うむ、何やら新たに入監したい輩がおると可愛い孫娘に聞かされたのでな。監視塔から出て運動替わりに来ようと思った次第じゃ」

「久しぶり、ゼノおじさん」

「うむ、久しいなレィル。挨拶は大事だと教えたが忘れてはおらんようじゃな」

 

突如現れたゼノにフローは席を立って頭を下げた。ゼノはレィルの頭を撫でながら、空いた席に座った。

 

「さて、ルビウス・ハグリッドだったかの。巨人族とのハーフ、アルバス・ダンブルドアの懇意でホグワーツに身を置く、悪い言い方をすれば寄生虫。その投獄じゃったか」

「うん。頼める?」

「当然じゃろう。我らは自然の体現者じゃからな、ミオの願いなくとも確りと仕事を果たそう。儂よりも若いが、あんな頭も回らん老耄を黙らせるなどわけないわい」

「ダンブルドアは味方やシンパは多いが、当然アンチも多いですし、それをどれだけ使えるかですね」

「ドラコにルシウスさんへ「上手く行けば飛ばせる」と伝えるように言ったので、恐らく聖二十八一族はこちら側に着くかと」

 

レィルは新しい紅茶を淹れてゼノに出した。ゼノはその言葉と紅茶の味に頬を緩ませた。

その後はハグリッドの禁固期間、ダンブルドアの処理、ドラゴンの保護法などを考えながら終わった。ドラゴンの保護の決行は明日にも行われることになった。

 

そして翌日。レィルとフロー、メーラン、ゼノ、ヘルミオネの五人はハグリッドの小屋を尋ねていた。部屋にはハグリッドとハリー、ロナルドがいた。

一応部屋を探してもドラゴンの卵は見当たらない。どうやらハグリッドが隠したらしい。

 

「こんにちはミスターハグリッド。いい天気ですね」

「あ、あぁ。確かにそうだな」

 

メーランが当たり障りない笑顔で呼びかけると、ハグリッドは頬を少しだけ痙攣させながら対応した。何かを隠してます、と顔に書いてある程に態度に出ている。

その隙にヘルミオネが自分の気配を完全に消して小屋の中に入っていった。気付くのはレィルだけである。

ヘルミオネはひとまずありとあらゆる影になりそうな場所、引き出し、屋根裏を確認した。しかしどこを探してもドラゴンの卵は発見できなかった。

そこでハリーが透明マントを持っている可能性に気づきハリーの記憶を垣間見た。結果は黒、どうやら後ろで持っているものがそうらしい。気付かれずに卵を回収したヘルミオネは透明マントのみをハリーに返して卵をレィルに渡した。

 

「メーランさん、もういいですよ。回収完了しました」

「ご苦労様です。ヘルミオネさんもありがとうございます」

「これくらい、大丈夫」

「ん?……なっ!?それは俺のドラゴンの卵だ!なんでお前が持っちょるんだ!?」

 

ハグリッドは自分の大切な卵が奪われたと気づくや否や、取り返そうとレィルにつかみかかった。だがそれはヘルミオネの無手無言呪文に阻まれて失敗した。

 

「……確かに録音しましたよ、ルビウス・ハグリッド。自己紹介でもしましょうか。私は魔法省魔法生物規制管理部ドラゴンの研究及び制御室室長メーラン・エルリック、私の左におりますのは魔法省魔法生物規制管理部部長フロー・ベアリング、そして後ろにいるのはアズカバン監視塔の現当主、ゼノ・ディマイント様です」

「以後見知りおけ」

「こんなボンクラの自己紹介いるかのう?」

 

メーランとフローの所属を言われてもまだ冷や汗をかく程度で済んでいたが、ゼノの名前を出された瞬間に目を見開いて口を開閉させた。ボンクラなんて言っているが、ゼノの力はダンブルドアでも敵いはしない。

 

「こちらで匿名にドラゴンの卵の不法所持をしているという報告がありましたが…確認するまでもなくありましたね。アズカバン送りになって頂きますよ。一応裁判にはかけられますが、ルシウスさんを始め、ゼノ様が既に手を回しています。それに先程、年端も行かない少年少女に手を出そうとした場面もしかと見届けました。暴行未遂、そしてドラゴンの不法所持、禁固何年になるでしょうかね?」

「俺は悪くねぇ!ドラゴンと一緒に生活するのが夢だったんだ!好きなやつと一緒にいて何が悪ぃんだ!」

「許されざる呪文を使って「使いたかったから使った」なんて抜かすアホを捕えないわけがないでしょう?つまりはそういうことですよ」

 

レィルはまさかドラコがハーマイオニーに言った説得材料が現実に言われてしまうとは思わなかったので少しだけびっくりした。メーランの言葉に反応したのはやはりというかロナルドだった。

 

「だったらこいつもそうだろ!前にハーマイオニーにドラゴンを七体もトランクに入れてるって聞いたぞ!」

「お言葉を返すようですが、レィル君は魔法省の許可を持っています。彼の体質もそうですが、トランクの中という外界に被害を与えない場所なれば安全だと認可しました」

 

ロナルドは何も言えなくなり、歯を食いしばり手を握り締めるだけであった。ハリーは何が何だかわからなくなっていた。

 

「の、ノーバードはどうするんだ!まだ孵っちょらんが俺が居なけりゃ死んじまうぞ!一人ぼっちにする訳にはいかねぇ!」

「だからレィル君に依頼したのですよ。そのドラゴンの保護を。特令書も出ています」

 

メーランはフローが羊皮紙とインクで作り上げた特令書をハグリッドに見せつけた。ハグリッドは顔に絶望の色を乗せていた。

レィルは腕のあたりが揺れることに違和感を感じて卵を見てみた。すると僅かながらヒビが入り、もう一度揺れるとヒビは卵を一周した。

 

「あ、マズ」

 

レィルは今トランクを持ってきていない。さすがに早くても今晩だろうと踏んでいたからだ。それがこんなに早い時間になるとは思っていなかった。

ヒビが一周した卵は音を立てて割れ、中から出てきた小さな影がレィルの胸に張り付いた。影は素早く移動してレィルの肩にしがみついた。

即ち、ノルウェー・リッジバック種の雛。しかも最悪なことに、彼女は刷り込みが必要な個体である。

 

「……なんでさ。なんで僕に懐いたやつは皆して肩に乗りたがるのさ」

「下りれる?この子」

「筋肉がまだ未発達っぽいし、部屋まではこの状態で行くよ」

「……分かった」

 

ヘルミオネは不機嫌であった。レィルには分からないが、表情ではわからないが不機嫌な気がしたのだ。

一先ず懐いてしまったドラゴンを肩から胸の方に寄せ、指を近づけてみた。防衛本能こそあれど、まだまだ甘えたがりなのか、指をチロチロと舐めた。

ハグリッドは既にゼノが連行したらしくここにはいなかった。帰ろうという時に、ハリーがヘルミオネに問うてきた。

 

「ねぇ、ハグリッドってそんなに悪いことをしたの?特令書が出されるほどに」

 

あまりレィル以外と喋るのが好きではなかったが、皆が英雄と持上げる人間なので、仕方なしにヘルミオネは答えた。レィルと触れ合える時間が減ってしまったので少しだけ不機嫌になりながら。

 

「ドラゴンの飼育には魔法省の許可、それとドラゴンキーパーって資格がいる。レィルはいいけど、ハグリッドはどっちも持ってなかった」

「けど、危険って言ってもドラゴンだろ?ダンブルドアがいれば…」

「あの子はノルウェー・リッジバック、誰よりも火を噴くのが早いドラゴン。誰かが危険になってからじゃ遅いの」

「……でも!」

「でもも何もない。あなたは身近な人間が人殺しをして、それでも一緒にいられる?殺されたのがそこのウィーズリーとかでも」

 

ハリーは反論する気が失せたのか、俯いてしまった。ヘルミオネはアフターケアも何もせずにレィルの方に駆けて行った。

レィルはハリーとロナルドとの関係性が劣悪化したが、ロナルドは元々いい印象を持たれていなかったし、ハリーも本人がそこまで強いわけじゃない。なんならズーウーをけしかけてやれば普通に倒せる相手であったので別にどうでもよかった。

そんなことよりもレィルの意識はドラゴンに向かっていた。このドラゴン、刷り込み持ちのせいで、レィルを親と認識してしまったらしい。

ドラゴンは基本的に本能で親を認識する生物だが、ごく稀に刷り込みが必要な個体が出現する。それがこのノーバードなんてセンスのない名前で呼ばれていたドラゴンの名前らしい。

 

「翼があるのに翼無し(ノーバード)って、馬鹿なんだろうか……」

「雌だし、少しいじってノーベルタは?」

「いいねそれ、採用」

 

その後のことはゼノ、フロー、メーランに任せた。ゼノは恐らく禁固十八年になるとだけ言っていた。

レィルはひとまずノーベルタを同じノルウェー・リッジバック種であるノーバジルに任せて眠りについた。

 

 

 

 

ダンブルドアは、後悔していた。まさかレィルがハグリッドを追放するとは思わなかったからだ。

急ぎ支度をし、アズカバン監視監視塔内にある法廷に向かった。途中で大量の吸魂鬼が邪魔をしてきたが、なんとか守護霊呪文で切り抜けてきた。

しかしダンブルドアが到着した時にはもう遅かった。ハグリッドが投獄され、ダンブルドアが真ん中に経つその光景は新たな罪人が断頭台に到着したかのような雰囲気を醸し出していた。

 

「ダンブルドア、吸魂鬼による熱烈な歓迎はどうじゃった?」

 

その向かいに立っていたゼノは私はやってませんよ、的な空気でダンブルドアに話しかけた。悟られぬように閉心術を自らにかけた。

 

「こんばんはゼノ、できれば二度ともらいたくない歓迎じゃった」

「懸念しているんじゃろうが、儂は何もやっとらんよ。全ては彼らがやった事じゃ」

 

そう、今回ダンブルドアに吸魂鬼をけしかけたのはゼノではない。基本的に吸魂鬼は自らが嫌う存在を共有する。

ヘルミオネが嫌いなダンブルドアが皆の嫌悪対象となり、襲われただけなのだ。理由を聞かされても納得も理解も出来ないだろうが、ヘルミオネに嫌われていることを悔いた方がいいかもしれない。

ヘルミオネは何故か吸魂鬼に好かれやすい体質な上、確かにヘルミオネが嫌っていることを話していることは事実だが、吸魂鬼全員はもちろん、ゼノ自身もダンブルドアを嫌っていることもまた事実だ。他の吸魂鬼がダンブルドアを嫌う理由は、ここに来る用事が全て餌がここにいる期間を短くすることのみ。

 

「そして聞くがな。なぁダンブルドア、いつ貴様に()の名を呼ぶ権利を与えた?」

「これは済まぬ。老いると記憶力が無くなっていくのはどうやら本当らしいの」

「……」

 

ゼノが彼を嫌う理由は、愛する孫が彼を嫌うだけではなく、その在り方が気に食わないのだ。予言を信じ、自らが思うようにことが運ぶと本気で信じている。

その上誰にもそれを打ち明けず、ただ味方を作ろうとしているものばかり。正直に言って吐き気が止まらない。

 

「……ソリダスは勿論だが、(おれ)の前で閉心術を使うとはいい度胸だな。貴様の過去を欠片も残さずこの空間に映し出してもいいのだぞ?」

「……やめとくれ、そなた等がここを出てはどうにも出来なくなる」

「何故貴様が懇願する?(おれ)が契約を結ぶはイギリスを初めとしたヨーロッパ諸国だ。そこに貴様の署名などなかろうに図々しくも願うか?」

 

レィルから「一番相手の心に入り込めるから」と言ってゼノに貸し出したソリダスはダンブルドアの奥まで見てからずっと興味のない顔をしている。だがこれが主のためになるならば、と一先ずはゼノの肩に留まっている。

 

「まぁ、儂らにとって魔法界の未来などどうでもいいがの。ところで、何故こんな辺境の地まで来たんじゃ?まさかまた減罪交渉に来たのではあるまいて」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るぞ?いつも儂らの餌や仕事を取りおってからに。貴様の生気など泥水の方がまだ美味しく感じるのでな、磔10分か、記憶を貰うか好きな方を選べ」

「……はり、くぅっ!?」

 

杖など不要と言わんばかりにゼノはダンブルドアに磔の呪文をかけた。ここにいる全員がダンブルドアにもつかず闇の勢力も興味が無い中立派のため、この処罰に誰も不満はない。世界最高の魔法使いだろうがなんだろうが罪を犯せば裁くのがこの場所だ。

きっちり十分間、磔の呪文を受けたダンブルドアはそのまま帰って行った。

 

「いつも本当にごめんなさいディマイントさん、今回はありがとうございます」

「うむ、感謝の言葉こそ儂の最大の癒しよ。してアメリア、禁固十五年じゃったか、儂の目論見より三年早く釈放するその意を教えてはくれんか?」

 

ゼノは振り返りながら、頭を下げる魔法法執行部部長であるアメリア・スーザン・ボーンズに問うた。アメリアは頭を上げて、しっかりとした態度で答えた。

 

「はい。確かに私も十八年でもいいと思いましたが、暴行に関しては未遂なので。もし暴行を行えば十八、いえ、十九年にしていたでしょう」

「うむ、公正な判断感謝するぞ。儂がやれば二十年と言わずに永久投獄するかもしれんのでな。ついでにあの老害をコキュートスに落とすか」

「私もそうしたいところですが、世間が許しはしないでしょう。せめてコキュートス三年がいいところかと」

「じゃろうな。では儂は愛しき孫と孫に等しき少年へ報告に行ってくる。あとは任せたぞ」

「お任せ下さい」

 

 

 

 

 

 




知人はいる。けど友人はいらないantiqueです。恋人?サァナンノハナシデスカネー()

ドラコ強化フラグ。ハーミーにもフラグが立ってます。
逆にロンとハリーは弱体化フラグかな?タグはりたいけどこれ以上は無理なんだよなぁ……

そしてハーミー、保身に走る。まぁこの辺はフィーとかに常識叩き込まれたんで倫理観はそんじょそこらのグリフィンドールよりもあります。

オリキャラ、フロー・ベアリングとメーラン・エルリック。名前の付け方は勘ですね。
役職名長すぎんだよ。魔法省魔法生物規制管理部ドラゴンの研究及び制御室って。

そして、ゼノ・ディマイント。フルネームはゼノ・ジーヴァ・ディマイントですが、本名は違います。
愛しい孫とその想い人の為ならば世界だって滅ぼせるお方。お辞儀やダンブルドアは逆立ちしても勝てません。
自然の体現者、というのはまた後々。

で、ハグリッドの投獄。これは初めから決めていました。
ノーベルタの刷り込み云々はオリジナルです。可愛らしい姿しながら擦り寄ってする小さいドラゴンってなんか、萌えません?()
ハリーはもっと噛みつかせようとしましたが、ミオに現実的なことを言われたのであの辺でやめました。

で、ダンブルドアいじめ。いかがで(正直すまんかった。
ゼノさんの声は関智一さんをイメージしていただければ。だって我と書いてオレと読むなんてまんまAUO。
ゼノは自分の名前を呼んでいいと許した者だけ呼べます。ダンブルドアやお辞儀は絶対許しません。

では、次の話でお会いしましょう、サラダバー






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防衛作戦

サダハルさん SIN罰さん プリン少尉さん タカヒロさん 創夜叉さん

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ホグワーツの門番ハグリッド、ドラゴンの卵不法所持

 

そんな見出しで始まる日刊預言者新聞が魔法界にばらまかれた。当然ホグワーツにも届き、ここに届いたのはサイズを大きくしたワイド版であった。

大まかな内容を言えば、現行犯逮捕の写真、逮捕したその後も反省の色が見えないこと、レィルが保護することになったドラゴンの特徴などが書かれていた。

それを見た生徒の親族はフクロウ便をホグワーツへ送った。結果として、朝食の時間の大広間には大量の梟が飛び交うこととなった。

子供の心配は勿論、ハグリッドへの怒り、ホグワーツの安全管理についてや、ダンブルドアへの批判、レィルへの感謝などなど内容は多岐にわたる。実際レィルにも在校生から質問や感謝の嵐であった。

ハグリッドと仲の良かった主なグリフィンドール生、有り体にいえばロナルドあたりが反発してきたが、基本的に「常識ないのか」だの「何言ってんだこいつ」としか思われておらず、全く相手にされてなかった上に更にヘイトを稼いだとまである。

レィルはこの件の早期解決にあたり、魔法省からマーリン勲章勲二等を授与されることになった。

 

土曜日の勉強会だが、遂に部屋を拡大することになってしまった。進級試験がやって来たのだ。

ヘルミオネ、レィルはホグワーツに来る前から魔法を扱い、更には知識も豊富なので余裕だった。フィリップも《地球の本棚》で知りたいことはあらかた調べ尽くしたのでこちらも余裕だった。

そんな三人にレイブンクローは勉強を教えて欲しいと泣きついた。スリザリンの方はアリシア、ダフネ、マルフォイに、ハッフルパフはメズール、グリフィンドールはハーマイオニーに行っていた。

試験についてはレィルを初めとした秀才組は満点以上を普通に取っていた。あの普段のほほんとしたメズールでさえ、だ。

ヘルミオネはパイナップルを机の端から端までタップダンスをさせる試験ではパイナップルだけではなくその場にあった全ての物品を使用した上で、タップダンスの後に社交ダンスもとり入れた。フィリップは鼠を嗅ぎたばこ入れにする試験では装飾と塗装を施し、壊れないようにと世界で最も硬い物質であるウルツァイト窒化ホウ素というもので作り上げた。

などなど、他にも色々あるのだが、ここでは省略することにする。一言で言えば、やりすぎたのだ。

 

「…やっぱ、ヘルミオネには勝てないか」

「まだ、負ける気は無い」

「トップスリーをレイブンクローが独占、って……」

「次はメズール、で、私、ドラコ」

「そのあとはグレンジャー嬢、でダフネか」

 

レィルとヘルミオネは身内で競い合って、フィリップがそれを追う形である。ハーマイオニーは自分で出来る限り頑張ったと思ったのにまだ届かない上に六人もの壁があることに軽く絶望していた。

 

試験も終わり、ようやっとゆっくり出来ると思ったレィルに一通の手紙が届いた。送り主はダンブルドアである。

端的に言えば、「試験お疲れ様、魔法省に呼ばれたから行ってくる。ヴォルデモートが取りに来るから全力で守れ。クィレル先生と共にくる。できればその場にいろ」とのこと。

レィルは恐らく今晩がその時だろうと思い、仕方なくクロエを使ってみぞの鏡がある場所に向かった。

クィレル、もといヴォルデモートに見つかってしまってはいけないのでレシフォールドのメッサーに頼んで身を隠させてもらった。夕餉後ということもあり、真っ暗な部屋でレシフォールドはかなり隠密性が高かった。

流石に広範囲に索敵のような用途で開心術は使えないので人の気に敏感なソリッドをトランクから出した。トランクを閉めて、適当に腰を下ろした。

気がつけば隣にはちょこん、とフォウが座っていた。何かを見定めるように、ただ一点をじっと見つめていた。

視線の先にはみぞの鏡があった。そういえば、自分が持ってなければいけなかったなと思い出し、メッサーにどいて前に立った。

一応みぞの鏡がどういうものかをダンブルドアから教わっていたが、レィルの願いは前から決まっている。それはヴォルデモートから賢者の石を守ることより、無限の命を手にすることよりも難しい。

 

鏡の中のレィルはヘルミオネとリルと肩を並べ、周りには今トランクにいるよりも多いだろう数の魔法生物達がいる。ヘルミオネとリルがそれぞれの手を握ってくれている。

レイヴェルが肩に泊まり、ノーベルタが腰にしがみついていて、フォウが足元に鎮座している。ミローが頭上を旋回し、ドラゴン達はその上で滞空している。

これがレィルの望む未来、みんな一緒に暮らすこと。そのためにはしなきゃいけない事が多すぎる、とレィルはため息をついた。

 

「……お前が望む未来は、どんなものなんだ?なぁ、フォウ」

 

レィルは隣に座るフォウを一度撫ぜた。だがフォウはなんの反応も返さずに鏡を見続けていた。

レィルがもう一度鏡を見ると、先程までいたヘルミオネ達はどこかに消えた。鏡の中のレィルはふっと微笑んでポケットの中を指さした。

ポケットを確認すると中に赤い荒削りな石があった。おそらくこれが賢者の石だろう。

 

「メッサー、また隠れ蓑になってくれ」

 

メッサーは何も言わずにレィルに纏った。壁際まで移動し、また座る。

数分後、ポケットの中が少しだけ動いた。ポケットの中にいたソリッドは体を這ってレィルの肩まで移動した。

 

(来た)

「どっち?」

(吐き気を催す方)

「……そのボキャブラリ、どこで学んだの?」

 

ひとまず闇の帝王が来たらしいので、レィルはトランクにソリッドを戻した。ソリッドは真っ先に家族の元へと向かっていた。

待っていると段々悲鳴が近づいてくるのが分かる。上手く意表をつけているらしい。

スウーピング・イーヴルやビリーウィグ達が殺されていないのを願いながらじっと待つ。ハグリッドのフラッフィーは真面目にどうでもいいとさえ思っている。

仮にも闇の帝王などとたいそれた名前を持っているにもかかわらず三頭犬だ、死の呪文(アバダ・ケタブラ)で殺されるとは思わないのだろうか。

 

時間的に半時間ほどたっただろうか。悲鳴がまた近くなった。

フラッフィーの方はそんなに時間をかける必要も無いので、おそらく三つ目の空飛ぶ鍵に噛まれているところだろう。解錠呪文を受け付けないようにしたのでトラバサミのみを壊すか腕をちぎるかしなければ外せないはず。

クリアしたのか、叫び声はなくなった。今度は物が破壊される音が何度も続いた。

チェスは二人融和有限確定完全情報ゲーム。基本的に遊ぶ時は運という不確定なものが入り込む余地はない。

だが今回クィレルが行うのはボードゲームではなくストラテジーゲームである。要するにどれだけカリスマがあるかだが、残念ながら今の彼は戦闘狂にしか見えていないだろう。

核を壊すためにひたすら敵を殺していく。そこに大義名分など欠けらも無い。

手当たり次第に敵軍を亡きものにすれば、それに恐怖した自軍が反乱を起こす。駒の色も相まってヴォルデモートのフラストレーションは溜まるだろうとレィルは予想した。

 

今度は四十五分ほどした後、ようやっと爆音が止まった。ヴォルデモートが近づいてくるにもかかわらず、レィルの心境は至って平坦であった。

次は確かトロールが相手である。クィレルのメンタルはここで潰れるだろう。何せ自分が簡単に倒せると思っていた相手が予想以上のレベルアップを果たして立っているのだから。

トロールに鎧をかぶせるだけでは死の呪文で簡単に突破されてしまう。だからレィルが行ったのは動作の主導権をトロールではなく鎧側に渡したのだ。

これで本体が死んでも鎧が動き続ける。それも全てを同時に壊さなければ止まることは無い。

ここでクィレルが動かなくなれば万々歳なのだが、全てが上手くいくとは限らない。動かなくなった体をヴォルデモートが使う可能性だってある。

そしておそらくフラッフィーを除き最も短い時間でクリアする。これは生物である故に分かり切っていることである。

 

そして数分後、ボロボロになり、既にターバンを外したクィレルが転がり込んできた。

 

・・・・・

 

時は遡り、クィリナス・クィレルは扉の前にいた。自身の主、トム・マールヴォロ・リドル(ヴォルデモート)の命を果たすために。

この日のためにどれほど苦労したか。主の臭いを消すために態と吸血鬼にかすり傷を与えられ、大量のニンニクで授業部屋をうもらせ、誰にもバレないようにオロオロとした態度を貫き通した。

ダンブルドアに分からせないように閉心術の特訓をし、闇の魔術に対する防衛術の教諭に就いた。今、ダンブルドアはこの城にいない。計画の結構には打って付けだった。

 

「失敗は許されぬぞ、クィレル」

「分かっております、我が君」

 

クィレルは後ろから発せられる声に恭しく返事をした。ターバンを外したそこには、人とは思えない何かが張り付いていた。

比喩するならば、蛇を潰して後頭部にくっつけたようなものだった。それは人並みに目、顔、口があった。

この姿こそ、今のヴォルデモートである。醜いその姿を晒す訳にはいかないので、クィレルにターバンで隠すようにしていたのだ。

 

「ダンブルドアが帰ってくるのは早くても零刻。この奥に確かにあるのだろうな?」

「はい。この最奥に賢者の石と、それが入れられたみぞの鏡が」

「……」

 

ヴォルデモートはクィレルの返答に何も言わず、ただ目を閉じた。クィレルは解錠呪文で扉を開け、第1関門に入っていった。

 

そこは、さながら山岳地帯が連なる場所の狭間。有り体にいえば谷だった。

しっかりと空もある。だが先程までは確かにホグワーツ城内にいた筈だ。

 

「どういうことだ……ただの部屋ではなかったのか!?」

「そのはずです!ダンブルドアも誰も手を付け加えてないどころか、奴はここに来ていません!」

 

演技のオロオロとした様子ではなく、本気の素で動揺しだしたクィレル。手に杖は持っているが、かすかに震えていた。

 

「……ッ!クィレル!後ろだ!」

「なっ!?」

 

声に従い避けると、大きな影が通り過ぎて行った。よく見てみれば、三頭犬、アズカバンへ投げ込まれたハグリッドのフラッフィーだった。

クィレルはすぐさま収納袋からオルゴールを取り出して増幅呪文で響かせた。これで眠りにつくはずだった。

しかし予想とは裏腹にフラッフィーは眠らなかった。それどころか先ほどよりも唸り声を猛々しく上げている。

 

「仕方ない!殺せ!」

アバダ・ケタブラ(死せよ)!」

 

クィレルの杖から放たれた緑の光は一直線にフラッフィーの心臓へと向かった。これで先に進める、とクィレルは思った。

しかし、フラッフィーはかなり速度のある魔法を見てから避けた。これにはヴォルデモートですら驚愕の声を上げた。

 

「馬鹿な!魔法を避けただと!?」

「魔法を避けるとは……まさか服従の呪文、いや違うな。クィレル、悪霊の火を使え!あれならば広範囲で攻撃を当てられる!」

 

言われた通りに悪霊の火を展開し、フラッフィーに当てる。今度こそ絶命したフラッフィーは呻き声を上げながら崩れ落ちた。

 

「……魔法も使わず突破するはずが、何たる失態か。罰を、我が君」

「よい、許す。魔法省に向かうギリギリにここを改造することを俺様も失念していた」

「感謝の極み……」

 

(ダンブルドアは全能ではない。確かに強力ではあるが、全てを知る訳では無い。三頭犬の弱点を無くす方法など、奴は知るはずがない。一体誰が……)

 

息を整えたクィレルはフラッフィーの背中に扉がつけられてることに気づき、扉を開いた。次の部屋はは何も変わらないと初めは思ったが、どうやらそうではないらしい。

明らかに植物の数が増えている。それに本来の悪魔の罠

が減っている。

 

ルーモス・マキシマ(強き光を)

 

光を放ってみれば、退いたのは数本だけ。やはり抗体が既に入れられてるらしい。

 

「なかなか入り組んでいる……それに方向感覚を惑わす植物もあるな」

「ですが、スプラウトの奴はそんな植物を所持していませんでした、君」

「取り寄せた可能性もあるが……もしかすれば、生徒側に協力者がいるのかもな」

 

クィレルはその言葉を信じられなかった。確かに優秀なのは何人かいるが、ここまで知識を有している者はいなかったはずだ。

ひとまず迫り来る毒草達を焼却呪文で燃やしつつ、先へ進むクィレル。厄介なことに火が周りにいかないので一つ一つ駆除していくしかない。

数分後、ヴォルデモートはなにか違和感を感じた。道を覚えているはずのクィレルがあちらこちらへと向かう方向を変えているのだ。

 

「クィレル、貴様本当に道を知っているのか」

「何を?真っ直ぐ歩いているはずですが?」

「真っ直ぐ、だと?何をほざいている」

 

クィレルは真っ直ぐ歩いていると思っている。しかし現実にはどこへ向かっているかわからない。

ひとまず手当たり次第に解毒剤を飲んでみるも、やはり方向感覚は狂ったまま。対処法もわからないので、ヴォルデモートの指示に従うことにした。

しかし、その前に左足首に痛みが走った。瞬間的にクィレルをその痛みが襲った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

 

全身を焦がされるような、焼却炉にぶち込まれたような痛みが全身に走った。もちろん焼却炉など知らないクィレルはただ未知の感覚に恐怖し、さらに痛みで恐怖する。

感覚は共有されていないのか、ヴォルデモートは涼しそうな顔をしている。しかしクィレルが狂声を開けた瞬間に驚愕した。

 

「何が起きた!?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

「くそっ!聞く耳持たぬか!」

 

仕方なしにヴォルデモートは意識を前に出す。痛覚は感じないが、噛まれていそうなところを、探した。ローブを着込んでいるので手はない。なので足を探せば左足に噛み跡があった。

 

「これは、マートラップか?マグルにしか毒が回らないはずだが……」

 

ヴォルデモートは試験管を3本開けて調合し、傷口に薬を塗った。即効性はないが、だんだん毒が解けて行くだろう。

ヴォルデモートは意識をクィレルに戻した。長時間ヴォルデモートが意識を持っていると、クィレルの魂が薄まり死んでしまうのだ。

 

「急げクィレル!いつあの老害が戻ってくるのか分からんのだぞ!」

「し、承知しました、我が君……」

 

未だ全身に走る痛みを堪えながら、戻ってきた意識を確認しつつ、襲ってくる植物たちを燃やしながら先へ進む。

その度に方向が違う、と主から叱責を貰うが、これも全ては主のためと思えばまだ楽だった。

二人は知らないが、実は燃えている植物の総数は少ない。というのも、炎の伝達がしないのもそうだが、それ以上にこの部屋の中に放たれているスウーピング・イーヴルたちが燃えたところを気づかれないように折っているのだ。だから燃えた回数以上の植物が残っている。

 

次の扉を開くと、何十もの鍵が部屋のなかを飛んでいた。この部屋もフラッフィーがいたへやと同じように空がある。

壁がない、ということは鍵たちはどこまでも逃げていく可能性があるということ。即ち、見失えばもう見つけることは不可能である。

それに気付いたヴォルデモートは直ぐにクィレルに黒の飛翔を使うように指示、その状態で鍵の捜索を開始した。帝王故の感か、本物であるかそうでないかの違いは直ぐに分かった。

数十秒たったあと、一つだけほかの鍵より本の少し速く飛ぶ鍵が二人の目前を通りすぎていった。

 

「あれが本物だな。追え!」

「はっ!」

 

直ぐに追い付き、杖を持っている手とは逆の手で鍵をつかんだ。瞬間、本物の鍵がトラバサミに変化、クィレルの腕に噛みついた。

それだけではない。今まで散るように逃げていた鍵たちが一斉にクィレルの方に飛んできた。等ゼナたった鍵は例外なくトラバサミに変化していく。

 

スペシアリス・レベリオ(化けの皮、剥がれよ)レベリオ(剥がれよ)レベリオ(剥がれよ)!」

「クィレル!今お前の体に引っ付いている牙のようなもの(トラバサミ)はいい!飛んでくるやつだけを処理しろ!」

「し、しかし!」

「なければ死ぬのみだぞ!」

 

クィレルは仕方なしに飛んでくる鍵だけを爆発呪文で破壊していった。クィレルは数える暇もなかったが、その総数は八十個。

飛んでくる鍵がなくなったのを確認し、自身に噛みついているものを解いた。

 

「マグルの道具か……」

「は、はい。恐らくは、トラバサミと呼ばれる狩猟用の罠かと……」

「俺様は獲物とでも言うつもりか……そうはいかぬぞ、ダンブルドア」

 

執念の炎をさら燃やし、次の部屋へと向かう。ちなみに扉は本当の鍵を手にしたときに真下に出現していた。

部屋へ入ると、まるで競技場のようだった。正しくは四角い部屋なのだが、かなり雰囲気が違った。

手前と奥にそれぞれ配置された白黒合計十六の騎士の像。それぞれの甲冑が役職を示しているのかわからないが、姿かたちが違う。

一番他と違うのは、それぞれに一人だけ存在する女の像だ。目の前には、こんな立て札が刺してあった。

 

「これは、ただのチェスではない。互いの王のカリスマを計りあう、駒たちが意思を持ったチェスである」

 

かかれていた文字全てを目を通した瞬間に立て札は塵とかした。これ以上のヒントはもう望めない。

 

「意思を持ったチェスか。つまりは俺様が命令を下すまで決して動かないわけだな」

「いかがしましょう、我が君」

「……癪ではある。だが、この駒どもが反乱を起こさない可能性がない訳ではない。素直に攻略するとしよう。a2ポーン、a3へ」

 

命令すると、ヴォルデモートの白いポーンが一歩(1マス)前進した。その瞬間、相手の駒がぞろぞろと動き出した。

しかもヴォルデモートの駒のように台座ごとではなく、台座から飛び降りた騎士像たちが一斉に襲いかかってきたのだ。

 

「ルールを知らないのか!?これはチェスだぞ!?」

「いや、今回はこれが正しいぞ。ポーン、ルーク全体迎え撃て!キングとクイーンは待機、ビショップは各王の護衛だ!ナイトは相手の裏をついて攻めてきたポーンどもの首を跳ねろ!」

 

今度はヴォルデモートの騎士像たちが台座から飛び降りてその指示通りに動いた。ポーンとルークは攻めてきた的と交戦し、ナイトが外側から攻めに回り、ビショップはキングとクイーンに一人ずついた。

 

「我が君、これは……」

「これはチェスではなく、戦略的遊戯(ストラテジーゲーム)ということだ」

 

即ち、どれだけ自軍をまとめあげ、人の上にたてるか。まさにカリスマを計るにはうってつけのゲームである。

苦戦三十分ほど。ゲームには勝利したが、損失がひどかった。残っているのはキング、クイーン、日ッショップ一人、ポーン二人。

 

「…鍵が開かないということは、核は相手のキングではなかったということだな」

「どうしましょうか…」

「これ以上下らぬ遊戯に付き合う必要もあるまい。爆破呪文で全て壊せ」

 

(自軍が白で、敵軍が黒。もしこの演出が現実に現れるのだとしたら、貴様は寿命で死ぬということか。そして、俺様が負ける、と?ふざけたことを……!!)

 

まるで未来を予言されているようで、ヴォルデモートは気分を果てしなく害した。憤怒と執念の炎の温度をさらに上げていく。

クィレルが爆破呪文で一体のポーンを破壊した瞬間、不思議なことが起こった。自軍が一瞬にして赤色に染まったのである。

赤色の騎士像たちは縦を構え、剣を抜き、二人に襲いかかってくる。まるで禁忌ををかしたように。

 

レダクト(粉々になれ)ボンバーダ(粉砕せよ)ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)コンフリンゴ(爆発せよ)レダクト(粉々になれ)!」

「…次は貴様のトロールだったな」

「その筈です」

「改造を受けているかもしれぬ。油断するなよ」

「承知しました」

 

奥にあった扉を開き、先へ進む。やはりトロールもその姿を変えていた。

全身を甲冑で包み、手に持っていた棍棒は鉈へと変わっている。

 

「死なぬことはないはずだ、クィレル!」

「はっ!アバダ・ケタブラ(死せよ)!」

 

緑色の光線はトロールの心臓をしっかりと射ぬいた。しかしトロールは立ち止まるもなく倒れるもなく、いまだその歩みを進めている。

 

「分霊箱ではないな。行動の主導権を鎧に渡したな。悪霊の火を使え!」

 

杖先から吹き出た炎は蛇の形を象り、鎧トロールに突進した。今度こそ歩みを止めたトロールは既に片腕しか残っていなかった。

 

「次で最後だな。行け」

「はい」

 

クィレルは既に限界に近かった。度重なるアクシデントに精神は刷りきれ、既に目に光は灯っていなかった。

今の返事だってほぼ条件反射だ。聞かねば殺す、というような殺気を振り撒かれればこうなってしまうのもある意味当たり前かも知れない。

 

最後の部屋にはいると、一つの机があった。その上に文字が浮かんでおり、机の上に七つの薬品入れ、そして回りに五つの炎の輪。

ここは魔法薬クイズのようであった。

 

「この程度、俺様を舐めているのか?一番左の薬品、そして右から二番目の輪だ。はやく行け」

 

クィレルは後ろの誰か(ヴォルデモート)の言葉の通りにフラスコを口にして薬を飲んだ。その瞬間、クィレルは声を失った。

 

「――――――ッッッッッ!」

 

声が出したい、声に出したい、しかし声にならない。一気に飲んだそれはまるでクィレルの喉を爆発するかのように襲った。

声をあげて気を散らしたい、しかし脳がそれを許さない。痛覚は休ませるようにして声をあげさせないが、息をする度に痛覚が反応する。

 

スピリタス(・・・・・)

それは、ポーランド原産の穀物と馬鈴薯(じゃがいも)を原料に蒸留を七十回以上繰り返して出来上がるウォッカ。そのアルコール度数は驚異の90(・・)越え。

クィレルが飲んだのはそんなほぼアルコールでできたスピリッツだった。しかもあろうことか、原液(・・)イッキ飲み(・・・・・)したのだ。

それだけでは終わらない。正解の炎の輪を残して全ての炎の輪が襲いかかってきたのだ。

 

「クィレル、何があった!クィレル!」

 

当然そんなものは知りもしないヴォルデモートは薬を飲んでいきなり苦しみ悶えたとしか思えない。何が起きているかも当然知るよしもない。

自分の呼び掛けに答えないという不敬の上、なんの反応もしないという状況がさらにヴォルデモートをイラつかせる。最終的にクィレルはここで切り捨てるという選択をした。

 

「貴様はここで死ぬが光栄に思えよクィレル。この闇の帝王の復活の(いしずえ)となるのだからな!」

 

意識を前に出したヴォルデモートは襲い来る炎を消すためにその場にあった薬を全て飲み干した。効果はそれぞれ異なるが、全てクィレルの体を内側から壊していくものだった。

活動限界が近いヴォルデモートは最後に服従の呪文を自分(クィレル)にかけた。最後の扉を開くためだ。

表にも度されたクィレルは命令にしたがって扉を開いた。それと同時に膝から崩れ落ち、顔面を地面と合わせることとなった。

 

目の前に、賢者の石がはいっていないみぞの鏡をとらえながら。

 




ドーモ、ドクシャ=サン。antiqueデス。アイエエエ……

これ本来二話構成だったんですがあまりにも短かったんで付け足しました。
新聞の記事をもう少し詳しく書けば文字数稼げたかもしれませんが、そんなこと私には出来ませんので……。仮に作ったとしてもリータもビックリなへんな記事しかできません。

試験のおかげで勉強会は大盛況、試験が終わったあとは普通のサイズに戻してます。流石にあのサイズを常時展開するのはレィルの体力が切れます。

テストですが、満点超えはハーミーより上、ダフネも満点を取っています。ドラコは頑張りました()。
順位的に言えば以下の通りです。
一位 ヘルミオネ
二位 レィル
二位 フィリップ
四位 メズール
四位 アリシア
六位 ドラコ
七位 ハーマイオニー
八位 ダフネ

防衛戦。ほんとそこにいなくて良かったじゃん、って。
初期プロットにはクィレル視点はありませんでした。けどそれじゃ足りなさすぎたんや…
それでも9000文字を越えてくる辺り、やっぱり別の人の視点っているのかな?

さて、目の前に転がり込んできたクィレルとお辞儀をどうするのか。クィレルはすでに退場しているので、オタッシャデ!

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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一年が終わる

そして数分後、ボロボロになり既にターバンを外しているクィレルが転がり込んできた。息は絶え絶え、どこか遠くを睨みつけるが覇気もない。

急に痙攣したクィレルはゆっくりと立ち上がると後ろを向いた。

 

「まさかこの俺様がここまで苦しめられるとはな。それにこの体ももう限界だ。捨てるのが一番いいだろう」

 

そう吐き捨てたクィレルのもう一つの顔は次第に黒い靄に包まれてその形をなくし、宙に同じ蛇顔を形成した。

レィルはメッサーにトランクに戻ってもらった。

 

「気分はどうです?ヴォルデモート卿?」

「最悪の一言に尽きるな。こんな体では杖も持てん」

「でしょうね。それに賢者の石は鏡の中、その上あのご老体も丁度到着したようです」

「口惜しいが、負けを認めるしかあるまい。ダンブルドアにではなく、貴様にだがな」

 

レィルは目を合わせられると同時にほんの少しだけ恐怖した。だがホグワーツに来る前に味わった恐怖の方がこれの何倍も恐ろしかった。

 

「貴様、名をなんという。名乗らせるにはまず自分からとは言うが、俺様の名はもう知っているだろう?」

「当然ながら存じ上げておりますよヴォルデモート卿。では名乗らせていただきましょう、レィル・クローターと申します」

「ふむ、いい名だな。レィル、次はしっかりと体を取り戻した時に話し合おうか」

 

ヴォルデモートはそれだけ言って壁をすり抜けてどこかへ行ってしまった。ダンブルドアからは賢者の石の防衛のみを命じられていたので捕えなくてもいいかと開き直った。

あとはトランクからクロエを呼んで自室に戻った。集中が切れて倒れるように眠った。

当然、睡眠中にヘルミオネに生気を吸われた。

 

レィルがクロエによって自室へ運ばれた数秒後、ハリーとロナルドが部屋に現れた。そこにあるのはボロボロのクィレルだけであり、何が何だか分からなくなってしまった。

結局後から来たダンブルドアによってクィレルは回収された。二人は胸のもやもやが晴れないまま自寮へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防衛から数日明けた。

レィルは手紙で事の本末をダンブルドアに伝えた。口頭の方がいいとは思ったが、その場にいなかった上に自分にも手紙でその場にいろ、と伝えたのだから意趣返しである。

クィレルが行方不明、ということで様々な推測がホグワーツを飛び交ったが、勘のいい物は大体察していた。

ダンブルドアからはクィレルは闇の帝王からの使者であり賢者の石を狙っていたが守りによって死亡したことを告げた。その際に優秀な者の手を借りたと名こそ明かさずともレィルであることは一目瞭然だった。

そのレィルはというと、賢者の石を使ってあるものを作っていた。賢者の石の制作法や理論なんかは以前にニコラス・フラメルの所に遊びに行った時に教えて貰っていたので使い方はバッチリだった。

凡そ二年近くかけて作られるこれは、もちろんヘルミオネの手を借りながら制作される。それを夫婦の共同作業と囃し立てるものもいたが、そんなものに目もくれずにほとんど自室に篭っていた。

 

そして、学年末パーティー。

大広間は青と銅に飾り付けられ、レイブンクローのシンボルである鷲が描かれた横断幕が目立っていた。スリザリンの七年連続寮杯獲得が阻止されたのだ。

今年はレィル、ヘルミオネ、アリシア、メズール、フィリップ、ハーマイオニーなどの秀才によって触発されかなりの得点が稼がれたが、やはりトップ三人組が全てレイブンクローにいるというのが決定打となった。身内贔屓がすぎるとされたスネイプから点を多く取ったのも大きい。

 

「また、1年が過ぎた」

 

ダンブルドアは演説台の上に乗って話を始めた。

 

「宴を始める前に、寮杯の点数の発表といこうかの。四位、グリフィンドール485点。三位、ハッフルパフ521点。二位、スリザリン669点。一位、レイブンクロー……753点」

 

レイブンクローの点数が告げられると同時にレイブンクローの席から爆発するかのように一瞬にして歓声が上げられた。レィルは普通に小さく拍手をする。

ハッフルパフもグリフィンドールもスリザリンの連勝記録が止まったために惜しみない拍手を送った。スリザリンも悔しいは悔しいが、それでも皆頑張ったと自分たちに拍手をした。

 

パーティーが始まり、生徒達は思うようにものをかき集めて食べていた。ウィーズリーツインズは食べ物で普通に遊んでいた。

レィルもこの時間はトランクの住人達の睡眠時間なので心ゆくままに料理を楽しんでいた。するとヘルミオネとフィリップと共に監督生であるユーリに呼ばれた。

 

「まずは、感謝を。最後の年に寮杯を獲得出来て嬉しいよ」

「いえ、これは皆の努力の賜物です。僕らだけが感謝を受け取る訳には」

「確かにそうだ。けれど切っ掛けを与えてくれたのは君達だ。君達がこの寮に入ってくれなければ、きっとスリザリンの手に渡っていただろうからね」

 

ユーリはレィルのゆっくり食事をしたい、という思いをくんでくれたのか、周りには人があまりいなかった。胴上げをしたかったらしいが、監督生権限で止めたらしい。

ユーリはどこか語るように、諭すようにレィル達を見た。勉強一筋なレイブンクローとは思えない、ハッフルパフと言われても遜色のない柔らかい笑顔だった。

 

「次は君たちは後輩であり、先輩だ。導く者もいることを忘れないでくれ。君達の明日に、導きの青い星が輝かんことを」

 

導きの青い星とは、ユーリの故郷にある謳い文句らしい。ユーリはレィル達を1人ずつしっかりと抱きしめた。

フィリップ、ヘルミオネ、レィルの順で抱きしめ、最後は全員を一思いに抱いた。だが上級生だとしても、体格的に全員の背中に手を回すことは出来なかった。

 

「今後とも、このレイブンクローをよろしく頼む」

「「「はい」」」

「うん、いい返事だ。来てくれてありがとう。あとは友人達と自由に食べてくれ」

 

その後、パーティーはつつがなく幕を閉じた。レイブンクローの談話室で寮内パーティーを開き、最後にユーリを胴上げして終わった。

レィルもヘルミオネも寮杯パーティーに参加した。逆に他の人から参加してくれという声が多すぎたのだ。

 

最終日。キングス・クロス駅に向かうホグワーツ特急に乗り込もうとした時、レィルの元にフクロウが飛んできた。

 

「このコノハミミズク、母さんのだ」

 

レィルの母親を知らない人々はどんな文章を書くのかが気になり群がった。しかし速攻で四人用コンパートメントに逃げ込んだために中身を見れるのはレィル、アリシア、メズール、フィリップだけである。ヘルミオネは既にトランクの中に入っている。

アリシア達はワクワクしながら、レィルは中身の予想をつけ呆れながら手紙を開けた。開けられた瞬間、こんな文面から始まる手紙があっていいのか、とアリシア達は硬直した。

 

「やあ (´・ω・`)

ようこそ、バーボンハウスへ。

このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

 

うん、「また」なんだ。済まない。

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

でも、この文面を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、この手紙を送ったんだ。

 

じゃあ、本文を述べようか。

 

クリードとコインヘンを追って数年、魚の鱗を大海で探すような感覚に陥っている。だがピースはある。大事なのは額縁だ。

まともに母らしいことも何も出来ていないが、今年もだ。またゼノのところでお世話になってくれ。

もちろん紹介状は既に送っているが届くのは今日だ。だからほぼほぼアポ無しと言っていい

 

こんな馬鹿な親でも、君を愛している。

 

ステファニー・クローターより」

 

レィルは全てを読み終わると同時に丸めて宙に放り投げて完全粉々呪文で手紙を粉砕した。これはレィルがいつもやっている事だ。

 

「……お茶目、なのかしら?」

「いや、お茶目でクリードとコインヘンを探せるか」

「なんか、レィルが(たくま)しい理由がわかった気がするよ……」

 

さもありなん。同時にレィルに結構同情してしまう三人であった。

レィルは杖をしまい、ため息を吐いた。手元には手紙を開いた時に突然出てきたテキーラがある。

当然ながらレィルは未成年であり、イギリスの飲酒可能年齢は18。飲めるはずがない。

ゼノへの手土産と思えばまだマシだが、こんな手紙は何回も続いている。その度にバーボンが送られてくるのだからいい加減飽きてくる。

 

(組み分け、防衛、初授業……詰め込まれすぎた一年だなぁ)

 

レィルはこの一年を回想する。アリシア達は既に疲れたのか眠っている。

 

「来年は、どんな年になるかな」

 

 

 

 




ドーモ、ドクシャ=サン。antiqueデス。アイエエエ……

これ本来二話構成だったんですがあまりにも短かったんで一話に繋げました。
新聞の記事をもう少し詳しく書けば文字数稼げたかもしれませんが、そんなこと私には出来ませんので……。仮に作ったとしてもリータもビックリなへんな記事しかできません。

試験のおかげで勉強会は大盛況、試験が終わったあとは普通のサイズに戻してます。流石にあのサイズを常時展開するのはレィルの体力が切れます。

テストですが、満点超えはハーミーより上、ダフネも満点を取っています。ドラコは頑張りました()。

防衛戦後日談。つまらんと思った人は即刻回れ右。
ミオはレィルを殺されるかもしれないという不安感でいつもより多めに生気を吸い取りました。結婚しろよ。
ハリーとロンですが、ダンブルドアがゴブレットに仕掛けた年齢線と同じような方法でみぞの鏡がある部屋までワープさせました。ダンブルドアって危機管理がなってないってすごく思う。

点数はご覧のようになっています。もう少しスリザリンが多くてもよかったかなとは思いましたが、この辺りで妥協しました。

組み分けで出てきたユーリ・フェニコバス再登場!もしかしたらもう一度出演のチャンスがあるやも…
彼の生まれ故郷は、うん。まぁ言わなくていいか。導きの青い星が輝かんことを。

そして母親、名前だけ登場ステファニー・クローター。自由人すぎる神秘部所属です。
絡んでくるのは三章からです。お楽しみに。

まずは第一章が終了しました。授業終りや真夜中、朝に書いていたので深夜テンションで書いていたので語彙力もお察しな出来になってしまいました。本当にごめんなさい。
学生の身なのでなかなか時間が取れず、それでも何とか更新ペースは保つつもりです。感想も出来るだけ返させていただきます。

では、次の話で会いましょう、サラダバー。






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傀儡人形と蛇の末裔
夏休み


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有難くもないバーボンをステファニーから貰ったレィルは結局ヘルミオネと共にディマイント家の別荘地へと向かうこととなった。キングス・クロス駅で出迎えてくれたゼノはこの展開を既に予想していたようで、「心配しなくていい」と言った。

イギリスからモナコまでの距離は約1,219マイル。車で移動すれば二十時間ほどかかるが、今回は姿くらましをして飛ぶので一瞬だ。煙突飛行をしてもいいのだが、あれば服だの何だのが汚れてしまうのでこちらを使う。

ちなみにいつも一緒にいる人達の予定はというと。

 

アリシア──聖二十八一族の会合、及びパーティーへ出席。その他各家との交流。

フィリップ──新たな魔法の研究、及び固有魔法の制作。魔法薬の短縮レシピの研究。

メズール──家族と共にアメリカ旅行。その後は寮のルームメイト共にお泊まり。

ハーマイオニー──夏休み後半にフィリップ宅に行き魔法の勉強。それまでは自由。

ダフネ──聖二十八一族の会合、及びパーティーへの出席。またアリシアの護衛。

ドラコ──ダフネに同じ。

 

となっている。ちなみに監督生だったユーリは見事グリンゴッツ銀行に就職が決定したらしく、今ではゴブリンと共に窓口、及び金庫の管理を任されている。

フィリップの盟友セドリックは家族と共にイタリアに旅行に行ったらしい。期間は長くはないそうだ。

 

モナコの別荘へ行くレィル達だが、実はゼノ、というかディマイント家は別荘をいくつか所有している。モナコ、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、ブラジル、ロシア、ジャパンの計七つだ。

これらはモナコとアメリカ以外は全て贈与品である。そのどれもが一等地ながら賄えているのは流石魔法界の監視役といったところだろうか。

 

「忘れ物はないかね?2人とも」

「うん、大丈夫」

「いつでも行けるよ、ゼノ」

 

トランクの中に荷物を入れたレィルとヘルミオネ。もちろん拡張領域の方のクローゼットに入っている。

通常のトランクにも変えられるが、それでは普通にサイズが足りない。なぜトランクの中にクローゼットがあるかだが、一人旅などをする時に椅子では寝にくかったのだ。

ゼノは二人の返事を聞いて微笑み、手を取って姿くらましをした。人類という基準から外れているからか、吐き気もしなければ巻き込まれるような感覚もない。

瞬きを一度すれば、そこは地中海沿岸部、モナコのモンテカルロである。眼前に広がるは美しい街並み、カラーコード1E90FFの空と海、そして純白の別荘。

 

「うむ、ここに来るのも何回目かの」

「多分、私が生まれてから三回目」

「そんなもんかの。さて、まどろっこしいことはなしじゃ。ほれ、中に入ろう」

 

レィルは頷いて中へと入っていった。中も白く、埃など一切ない綺麗な部屋たちが三人を出迎える。

与えられた一室でレィルはトランクからビート、フォウ、レイヴェル、ヴェールヌイ、メディクルス、ユミルを出した。どこかに行って何かをやらかす前に全員を引っとらるつもりだったが、誰もそばを離れなかった。

 

「レイヴェル、ヴェールヌイ、メディクルスはそこに止まり木があるから休んでくれ。魔法がある範囲内ならどこに飛んでも大丈夫だけど、レイヴェル、君はダメだ」

 

レイヴェルはある意味では悲しそうな顔をしたが、レィルは苦笑しその体を持ち上げて体に寄せた。すると自然にレイヴェルはレィルに寄ってくる。

 

「君を思ってなんだ。この別荘の敷地内ならいいよ。でもあんまり高く飛ばないでね」

 

レィルは耳を甘噛みしてきたレイヴェルの背中を撫でた。保護した当時は素っ気ない態度だったのに本当に甘え上手になったと心から思う。

メディクルスは止まり木に行くと直ぐに目を閉じて眠りについた。ヴェールヌイとレイヴェルは外に飛びに行ったが、どちらも賢いので与えられた範囲しか飛んでいない。

ビートは注意を聴き終わったと同時にレィルの肩へと移動していた。フォウはイスに座ったレィルの膝の上へ。

そして、まだ外を知らない一匹がいる。

 

「ユミル、ようやく外に出られた感想は?」

 

ユミル。

数年前に保護したオカミーが産んだ兄弟達の末っ子。兄弟の名前は上から順番にリュコス、アナーキー、アブゾーブ、リベンジ、リラクサ、アリエッタ。初めが「リ」で始まるのが雄で、「ア」から始まるのが雌である。

彼女だけが銀卵だったので、特別に「ユミル」と名付けたのだ。名前の由来は北欧神話「スノッリのエッダ」に登場する原初の巨人だ。

ユミルはからだの調子を精一杯鳴いて伝える。産まれて間もないが、意欲旺盛な子である。

レィルはそんな様子に微笑みながら、ユミルを胸ポケットに入れた。身をおいた場所合うように大きさを変えるオカミーは大きなものに入れてはいけないのだ。

 

「レィル、荷ほどきはできたかの?」

「できたよ」

 

部屋を出れば、リビングにはコートを脱いだゼノしか居なかった。レィルが返事をすると同時にヘルミオネも部屋から出てきた。

どうやらヘルミオネも荷ほどきが終わったらしい。

 

「一応年を押して言っておこう、君の家に届いたふくろう便は全てトランクに転送されることとなる。安心せい」

「毎年のことだからもうなれたよ」

 

ふくろう便の転送技術は数十年前に魔法省の神秘部、ぶっちゃけて言ってしまえばステファニーによって作られた。なんでもその時にいなければいけない案件を見逃さないように、とのことらしく、今ではあたらしい家がたつとその転送魔法が施される決まりになってる。

 

「さて、ささやかながら儂からの休暇のプレゼントじゃ。モナコの通貨はユーロじゃから、そこの両替機に突っ込めば勝手に出てくる。儂は仕事がまだまだ残っておるのでの、二人で楽しみなさい」

「ありがと、ゼノ」

「何、将来が確定している二人のためじゃよ。ではな」

 

ゼノはそれだけいうと、音もなく姿くらましでどこかへいってしまった。きっと監視塔だろう。

 

「とりあえず、明日までの食料買わなくちゃな」

「安い店を知ってる。行こ」

 

ヘルミオネが先に両替をしていたのか、肩掛けか版を引っ提げてドアの前にいた。レィルはうなずいて、ヘルミオネの手を取って外に出た。

ここにウィーズリー・ツインズがいたならばきっと囃し立てていただろうが、残念ながら彼らの家にモナコまでこれる金はない。これたとしても止まる宿を見つけられるかである。

 

食材の買い出しが終われば既に日も落ちかけていた。別にあっちにいったりこっちにいったりしていたわけではないのだが、いく先々で「はい、これサービスね」といって少し多目に何かをもらうか、別の何かをもらうのだ。それらを処理していく度に時間がかかり、遅くなってしまった。

別荘に到着したレィルは一先ずトランクを確認した。手紙がはいっていないかを確かめるためである。

見てみれば二通、メズールとアリシアからであった。

 

「レィルへ

 

やっほ、メズールだよ。手紙を出すのはこれと新学期前にもう一通だから君のポストが満杯になることはないよ。安心したまえ。

たしかモナコ公国だっけ?やっぱ監視塔の管理者は違うね~。

これを書いているとき、宿題を同時進行でやってます。二人も早めに終わらせなよ~。

二人がモナコを楽しむように、あたしもアメリカで楽しんできます。お土産はみんなの分買ってくるね。

 

じゃ、くれぐれも節度を守るように。

 

君の盟友メズール・キラグリードより」

 

「親愛なるレィルへ。

 

いかがお過ごしでしょうか。私は初日に宿題をほとんど終わらせました。

きっと貴方たちもそうなのでしょうね。レポート、私にも読ませてね。

さて、来週の週末、聖二十八一族の懇親会を行います。そこで、勝手ながら、貴方とヘルミオネの名前を出させていただきました。反対者はなし。貴方たちの合意さえあれば迎えを出します。参加は自由なので断っていただいても構いません。

個人的には、来ていただければうれしいです。いい返事を待っています。

 

よい休暇をお過ごしください。

 

貴方の友人 アリシア・ティファールより」

 

手紙はこんな感じの二人らしい文面だった。レィルはどうやってメズールが手紙を書くのと宿題を済ませるのを同時進行しているのかが個人的に気になった。

そして、アリシアからのパーティーの誘いだが、これはヘルミオネが了承しないとなんとも、と言ったところだ。この家の権限は今のところヘルミオネが握っているし、それにヘルミオネの嫌がることはしたくない、というのがレィルの本音だった。

基本的に第一優先事項がヘルミオネである彼は、どんな物事であろうと全てを後回しにできる。いつかの生気補給も「場所を変えよう」としただけで後回しにした訳ではない。行動における脳内ヒエラルキーのトップは間違うことなく彼女なのだ。

ともあれ、そんな事情もあり、今すぐに決められないのがレィルという人間だ。彼は部屋を出て、まっすぐにヘルミオネのもとに向かう。

長年、といっても十年ちょっとの付き合いではあるが、「たぶんこの辺りにいるだろう」ということは自然にわかるようになってきた。恐らく、リビング。

その予想はズバリ当たり、ヘルミオネはリビングにいた。安上がりにできる簡単なカルボナーラを作っていた。

 

「どうしたの、レィル?」

 

物音はしなかったにも関わらず、レィルがリビングへと通じるドアを開いた瞬間に振り向いた。やはりヘルミオネもレィルの位置が何となくわかるのだろう。

 

「アリシアから手紙が来てた。聖二十八一族の主催のパーティーに参加しませんか、だってさ」

「レィルはどうするの?」

「行ってみたい気はあるけどね。でも、ヘルミオネも呼ばれてるんだ。君がいくなら僕もいくよ」

 

そういいながら、レィルは冷蔵庫からサイダーをとりだし栓を開けた。ヘルミオネはずっとレィルを見ていたかったが、ベーコンを焦がしてはならなかったのでフライパンに目線をも度した。

 

「……行く」

「わかった。アリシアに返事をしておくね」

 

少しだけ思考したヘルミオネは、賛同を示した。しかしてその頭の中身は、「レィルが行きたそうにしているから」である。なんだかんだ言ってこの二人、互いが最優先事項に入っているのである。

丁度焼きあがったベーコンをフライパンからまな板に乗せて包丁で短冊上に切っていく。それをソースとパスタに絡ませ、皿に盛れば、完成。

 

「できたよ」

「ん」

 

飲みかけのサイダーを脇において、レィルはフォークを取り出す。始めてくる場所なのでフォークの位置がわからなかったので、呼び寄せ呪文で取り出した。

 

「「いただきます」」

 

食事をしている間、そこに会話は一切ない。そも、どちらも打ち明けるような性格ではないので、ただ食器と皿が擦れる音しかしないのはある意味必然だ。

きっかり二十分後、二人の皿からパスタが消えた。流石にソースは少し残っているが。

 

「明日はどうする?」

「宿題を終わらせよう。あまり量がなかったけど、スネイプ教諭から新薬のレポートを書けって言われてるし」

 

本来の課題の中にそんなものは無いが、列車に乗る前に姿くらましで現れたスネイプがレィルにこう言ったのだ。

 

「吾輩から貴様に特別課題だクローター。生ける屍の水薬を超える睡眠薬を開発し、そのレポートを提出しろ。もちろん現物も一緒にだ」

 

そのまま質問に答えるわけでもなく、現れたときのように直ぐに消えていったのだ。レィルはスネイプを自由人認定するのにそう時間はかからなかった。

とはいえ構成案事態は元々あったものなので、それほど苦にはなっていなかった。睡眠誘発薬といい、当たりに散布するだけで激しい睡魔に襲われるというものだ。割りと民間でも手に入れられる素材ばかりなのでできれば封印したかったのだが、仕方ないと諦めた。提出するのはこの薬だ。

ただし、まだレポートは書いていないものとする。

食べ終わった食器を片付けて、レィルとヘルミオネはそれぞれ自室に入っていく。ヘルミオネはすることもないのでそのまま寝るが、レィルは手紙の返事を書かなくてはならない。ベッドにタイブしたい気持ちをおさえ、机の羊皮紙を一切れ取って、羽ペンをインクにつけて書き始めた。

 

「親愛なるアリスへ。

 

手紙をありがとう。宿題はこれから始めるけど、きっと二日もかからないと思う。

レポートは懇親会の時にでも見せるよ。ドラコやダフネにもね。

懇親会の話だけど、喜んで参加させてもらうよ。ヘルミオネも行くけどね。

そちらで会えるのを楽しみにしています。

 

貴女の親友 レィル・クローターより」

 

こんな感じの簡単なもので済ませ、メディクルスの足にくくりつけておく。眠っている動物を起こすのは嫌なのだ。

レィルはそのままベッドに入り、流されるようにまぶたを落とした。来週を楽しみにしながら、二人の夏休み初日は幕を閉じた。

 

 

 




いえあ、二章開始しました、antiqueです。焼き鯖クソうめぇ()

これと、あともう一話はオリジナル小話です。基本的に原作と関係がないのであげようか迷ったのですが、あげることにしました。

別荘の多いディマイント家。彼らを貸している状態なのでその分お金も入ります。

で、プロローグにいたビートの登場。個体名スフィンクス・アウラードです。
イメージ、というか、某人理焼却ゲーの太陽王さんがバレンタインのお返しにってくれたあの猫です。かわいい()
プロローグにいなかったヴェールヌイ。オーグリーです。
アイルランドの不死鳥と呼ばれています。アイルランド・マリジョールのダイアナと一緒にトランク・インしました。
彼は、一応レイヴェルに慕情があるのですが...私と同じタイプですね。「好きな人が幸せならそれでいい」ってラブコメで報われないタイプ。
そして、ユミル。生まれて間もないとらんくの中の主人公()

メズールとアリスからの手紙。私には女子からの手紙なんて0ですよ、欲しくなんてありませんけど
とりあえず行かせることにしました。オリジナルを考えなきゃいけないっていうリターンが痛すぎる()

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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聖二十八一族

優丸さん 11p024さん キーボさん 舞菜さん 幻爺さん ヴァンプッシュさん 男前さん

お気に入り登録ありがとうございました!


 

 

 

 

 

手紙をもらったきっちり一週間後の週末。そう、聖二十八一族との懇親会である。

一応手紙に住所を同封いるので間違えることはない、と思われる。とはいえ場所がマグル側なので純血主義には堪えるかもしれない、というのがレィルの懸念材料だった。

もう一通、手紙が送り返されてきたのだが、場所が場所であるので普通に迎えに行くらしい。しかし、レィルは馬鹿親から聞かされていることがある。

 

「まー、これはマグルにもおける認識なんだけどさ。一般人と貴族みたいな所謂カーストみたいなもんだけど、差がありすぎた場合、自分の常識が相手に伝わるとは思わないほうがいいよ。まえに神秘部に来た新人さん、それなりの貴族だったらしいんだけど、甘やかされてたらしくて、暴虐的な感じでソッコーで解雇だったよ」

 

と、あっけらかんと語る彼女の片手にはやはりバーボンがあった。ともあれそんな話を聞いていたお陰でどうくるのかが分からないのだ。

とはいっても学校でのアリシアは割りと普通だった。そこまでぶっとんだ行動はしなかった。

そこに望みをかけるばかりである。

一応公式に新聞社も来るらしいので二人は着飾っているが、この年でドレスローブを着ることになるとは思わなかったレィルは急遽普通より物価が高いモナコでドレスローブを買うはめになってしまった。ヘルミオネの方は手紙に「こちらで用意する」とあったのでいつも通りのホグワーツのローブに身を包んでいる。

 

そうしたまま十数分後。遂に別荘の呼び鈴が鳴らされた。表面上は冷静を取り繕い玄関に向かう。

 

「どちら様ですか?」

「僕だ。ドラコだ」

「ドラコ?」

 

扉を開いてみれば、そこには見慣れた銀髪の少年が立っていた。言うまでもなくドラコ・マルフォイである。

 

「迎えは君だったのか」

「知らない人が来れば警戒するだろう?君は。そんなことを見越して僕らがいってくれとアリシア様が頭をお下げなさったのだ。会場の人はこれを知れば大騒ぎだろうな」

「まぁ、一令嬢がこんな一般人に頭を下げたと知れば……僕ら?」

 

今見えているのはドラコ一人のはずなのに、なぜか複数形である「僕ら」といった。疑問に思っていると、ドラコが体を半身にした。

奥に見えたのは、白銀、というよりもメタルホワイトカラーの髪の男性。またそばにたっているのはブロンド髪の貴婦人。

 

「父上と母上だ。話は皆のまえで、と心待にしている。できれば早く来て欲しい、だとさ」

「わかった。準備はできてるから、行こう」

 

いつの間にか─いることは気づいていたが─そばに来ていたヘルミオネの手を繋ぎながら、ドアの鍵を閉めて階段を降りていく。

 

「君らが、レィル・クローター、そしてヘルミオネ・ディマイントだな。ドラコから話は聞いている。私はルシウス・マルフォイ、マルフォイ家現当主だ。隣は」

「ドラコの母のナルシッサです。以後、見知りおきを」

 

ルシウスは手袋を取って握手を求め、ナルシッサは帽子をとって綺麗に一礼した。レィルはルシウスと握手を交わした。

時間もないので、ということで付き添い姿くらましをすることになった。ヘルミオネも出来るが、正確な場所がわからないので今回は付き添う方になる。

レィルとドラコがルシウスに、ヘルミオネがナルシッサに手を繋ぎ、バチン、という音と共に視界が暗転した。

 

次に気が付いた時には、そこは豪邸の前だった。一応ヘルミオネも大きい家の娘であるが、この大きさの家はなかなか見ない。

おそらくここがパーティー会場、即ちアリシアの家なのだろう。流石聖二十八一族総督家とでも言えるのだろうか、かなり資金を保持しているらしい。

 

「さて、行こうか。奥でアリシア様がお待ちだからな」

「言葉遣いはどうすればいい?」

「......一応、はじめはしっかりしておいてくれ。お許しがあれば普段通りに戻しても大丈夫だろう」

 

案内するからついてきて来てくれ、とレィルを呼ぶ声に、レィルは素直に従った。そんな息子の様子を見て、ナルシッサは優雅の微笑んだ。

ヘルミオネはそれを見て首を傾げた。ナルシッサは「いえね」と一泊置き、訳を話した。

 

「知っての通り、マルフォイは聖二十八一族。それ相応の態度で人に接しなさい、とは言っていたのだけれど、そこにティファール様がご入学なさって。誰が護衛を務めるか、っていう話になったの」

「自分の首を絞めるように立候補してな。見ての通りティファール様一筋だろう?友人ができるか不安だったのだ」

 

なるほど、とヘルミオネは納得する。学校でのトロール侵入事件でも真っ先にアリシアが自分たちの部屋にいることに反応していた。

アリシアに対し盲目的ともいえる彼が友人を作る可能性を切るのは、ある種当たり前だったろう。

なんだかんだ言いつつ、やはりドラコも人の子で、二人も彼の親なのだ。自分の子の行く末が気になるのだろう。

 

「帰ってきて、あなたたちの話が出てきたときは素直にうれしかったわ」

「この際血の話は置いておく。君たちには、ドラコの良き友人になってほしくてな」

「大丈夫」

 

息子の友人関係を危惧した二人に、ヘルミオネは即答する。自分の愛する人が、少なからず懇意にしている人を見放すことはない。

それが言外に言ったことがルシウスに伝わったのか、彼はうなずいて、ヘルミオネを会場へと連れて行った。

 

先にドラコに連れていかれたレィルは、聖二十八一族の時代投手が集まる部屋へと招待されていた。そこには学校で見たスリザリン生をはじめ、十五人の子供がいた。

ドラコ曰く、ほかの十五の一族たちは連絡がつかない、子供がいない、子供が参加拒否したなどの理由で、ここにいるのは親の命令できている者か、次代を継ぐ意思がある者、強制参加ではないけれど聖二十八一族である者の集まりだ。

 

「あら、レィル。来たの?」

 

レィルが呼ばれたほうを見てみれば、チープメイクをしドレスに身を包んだダフネがグラスを持っていた。ドラコの分として持っていたのか、グラスは両手に収めれられている。

 

「ドラコ用に持っていたのだけれど、あなたに渡すわ。いいわよね?」

「…まあ、いいだろう。僕は自分のを取りに行ってくる」

 

ドラコはどこか納得いかないながら、酔狂といえるほど慕う人が直々に呼んだ人がグラスの一つも持っていないのは流石にいただけないだろう、と理解してグラスを取りに来た。ドラコがいなくなった瞬間に背中をたたかれた。

 

「よう!秀才様!」

「何でここにいるんだ?」

 

背中をたたいたのはいわゆるフレッジョだった。片側がフレッド・ウィーズリー、もう片方がジョージ。ウィーズリーだ。

確かに彼らは聖二十八一族であるウィーズリーの者だが、彼らには兄がいたはずだ。そちらが出席するべきだはないのだろうか、と疑問を持ったレィルだったが、次期当主として定められている家の兄弟姉妹は任意で参加が可能であることを思い出した。

 

「彼とヘルミオネはアリシア様から直々のご招待を受けられています。一番の来賓にあまりちょっかいをかけないでいただきたいのですが、ウィーズリー・ツインズ」

「ほー、それはそれは」

 

外用の言動で適当にあしらおうとしたしたダフネだったが、逆効果だったらしく、二人の興味の対象となってしまった。二人はダフネの前から一瞬でレィルの両端に移動した。

 

「聞かせてくれよ秀才様」

「お前さんあのお嬢様とどんな関係なわけ?」

「ちなみに俺がフレッドで」

「僕がジョージな」

 

これが阿吽の呼吸とも言うべきか、互いの言葉の切れ目がわかっているかのように二人はレィルに対し問うた。それに少し驚きながら、レィルはしっかりと答えた。

 

「別にそれといった関係は何も。気の合う学友、というのが一番しっくりきますが」

「本当にそれだけか?」

「お前さんとディマイントのご令嬢との仲を疑うつもりはないが、薬指を絡め合う関係だったりしない?」

 

それでもなお門答を繰り返そうとする二人組にダフネが嫌気が刺してきた頃、妙に周りが静かなことに気づいた。気になって見回してみると、一組の少年少女がレィルの方へと近づいているのを確認した。

いうまでもなく、自分のグラスを取りに行ったドラコと、パーティーの主催者であるアリシア、そしてアリシア側で用意されたであろうドレスに身を包んでいるヘルミオネである。

 

「こんにちわ、レィル。ダフネも今日は会うのは初めてよね」

「はい、アリシア様。本日もお美しい限りで」

「お世辞なんて要らないわ。いつも通りでいいのよ。なんだったら昔みたいに『アリスちゃん』でもいいのよ?」

「私のようなものまで平等に扱ってくださることに感謝いたします。ですが今、あなた様は聖二十八一族総督家当主(・・)の身。ご自分の立場をご理解ください」

「もう……固くならなくていいのに。ごめんなさい、レィル。公の場ではいつもこうなの」

「いえ、構いませんよ、お嬢様」

「…ミオ、どうしようかしら。レィルが他人行儀なの」

「大丈夫。いつもより多目に吸う(・・)から」

「…ごめんって」

 

いつのまに渾名で呼ぶような仲に進展したのか、少しふざけただけなのに、と少しだけ後悔したレィルは改めてヘルミオネを見た。ウエディングドレスのごとく純白のドレスを着て、自らの象徴とも言えるローブもドレスに合うように白く、差し色代わりの浅葱色のショールを腰に巻いて、以前レィルからプレゼントしたバレッタで長い髪を留めている。

チープメイクでありながらきれいなそれは、まるでオーダーメイドの人形のようで。故にレィルがアリシアの微笑ましい物を見るような目線に気がつかないのも仕方がなかった。

 

「……レィル、どう?」

「──あ、えっと、うん。綺麗だよ。傷つけたくないほどに」

「……あり、がと」

 

レィルのど直球な褒め言葉に、ヘルミオネは顔を俯かせた。無論、それが照れ隠しであることは誰の目にも明らかだった。

 

「さて、頃合いだし、本会場へいきましょうか」

 

ブラックコーヒー上等な空間を作り上げそうな雰囲気を壊してくれたのはアリシアだった。レィルは頷き、ヘルミオネもワンテンポ遅れて首肯した。

 

場所を移動し、大人も入る本会場に入った子供達はすぐさま当主のところへと向かった。だが、レィルとヘルミオネだけはアリシアのそばにいた。

主催者であるアリシアはカンペも読まずにつらつらと言葉を並べ、三分ほど語った後にレィル達と乾杯した。乾杯したあとは参加者が挨拶に来ていた。

そばでその様子を見ていたレィルだが、アリシアのその総督としての雰囲気を保ったまま、挨拶に来た参加者に述べる挨拶が何一つとして同じものがないことに驚愕した。おそらく、自分ではこういうこともできないだろうことも。

十数人挨拶に来て、気づけばウィーズリー夫妻と長男のビル、ツインズに赤毛の少女も来ていた。夫妻はアリシアの方にいっていたが、子供達は全員レィルの方に来ていた。

 

「ビル、こいつが」

「こいつこそが!」

「我らグリフィンドールの憎き好敵手スリザリンから」

「寮杯をかっさらっていったレイブンクローの若き天才!」

「「クローター夫妻さ!!」」

「結婚してないんですがそれは」

 

ノリノリでレィル達をあろうことか「夫妻」として紹介しやがったツインズにレィルは条件反射で突っ込んだ。レィルの妻と呼ばれたヘルミオネは耳を少しだけ染めて俯いた。

 

「あまり彼らを弄るんじゃないよ二人とも。一応初めましてだね、ウィーズリー家の長男、ビル・ウィーズリーだ。で、こっちが──」

「末っ子のジネブラ・ウィーズリーです。あの……」

 

ビルとジネブラと握手したのもつかの間、マイナーではあるが有名人なレィルを前にして一つ質問があるようで。しかしやはりツインズが邪魔をする。

 

「うちらの末っ子はレイブンクローの秀才様に興味があるようで」

「ああお前さんは違うぞレィル。黒髪黒目の方だよ」

「…フィリップのこと?」

 

ジネブラはそれがお目当てなのか、ぱぁっと顔を明るくさせる。ヘルミオネは女性体であることからジネブラのその表情に納得する。

 

「ウィーズリーは元来グリフィンドール…頑張って。ジネブラ」

「あ、はい!私のことはジニーとお呼びください!」

 

どうやらわかり会える者(恋心を持つ女の子)同士の友情があるのか、ヘルミオネとジネブラは先ほどレィルたちがやっていたような事務的なものではなく好意的な握手をしていた。それを身ながらお兄ちゃん達(ビルら三人)はうんうんと頷いていた。

そんなことを話している隙に当主の方も世間話が終わったのかウィーズリー家はもとの場に戻っていった。それと入れ替わるようにダフネが来た。

 

「楽しめてない?」

「ボチボチ、かな」

「ひと、多い」

「それは予想より、って話ならアリシアさまの人徳のお陰ね」

 

ダフネはそういいながら両親が話し相手になっているアリシアを見た。その瞳はどこか悲しみと喜び、とかくそういった複雑な心境が映されていた。

 

「ティファール家前当主、オーロック・ティファール様は元々病弱で、次へと託せないかもって言われてて。奥さまのラズーリ様はアリシア様を産んだ一週間後にお亡くなりになって…その時はオーロック様もなにも出来ないからって近所のメズールのところに預けて……」

「で、ダフネが側近に選ばれて、フィリップが来たのか」

「大まかにはね」

 

少し、想像してみる。自分も父親がいない身だが、甘えの象徴とも言える母親がおらず、そのうえ父親が使い物にならないとなれば。

恐らく、自分では耐えられるものではない。レィルは自覚しているが、そこまでメンタルが強い訳ではない。

それが壊れずに済んだのはゼノやステファニー、そして何より(・・・)ヘルミオネという存在がいたからであって、そういった類いもしも(IF)は……とても耐えられそうではない、とレィルは思う。

 

「けど、アリシア様は自分の前で無理をしてまで仮面をかぶり続けているオーロック(父親)様を見ていたお陰で、仮面の被りかたを熟知していた。してしまっていた。だから、少なくも私はアリシア様が弱音をはいたところを見た記憶がない」

 

年数にして、実に十二年間。ハリー・ポッター(生き残った男の子)がのんびりと暮らしている間、彼女はずっと自分をひた隠しにしていた。

それは、とても一人の子供にできるようなことではなく。そうなれば、いつか内側から壊れていくのは必然で。

 

「私では、癒せなかった。アリシア様の傷を。ドラコも、メズールも、フィリップでさえ」

 

だからこそ、ダフネは願う。いつかあの人が、あの人の傷が癒えたならば、と。

 

 

「だから、あの人のそばに居続けるの」

 

・・・・・

 

懇親会も終わり、レィル達は一度アリシアの部屋にいた。所謂お嬢様らしい部屋を体現した部屋で、ベッドも大きく、椅子とテーブルまでおいてあった。

 

「御免なさいね、今日は突然。こんなことに呼んじゃって」

「いや、割りと楽しめたから大丈夫だよ」

「よそ者を弾き出さないのは、少し驚いたけど」

 

そう。レィル達はパーティーの参加者達から何も言われなかったのだ。妬みが混じるような目線もなく、寧ろ感謝の意すら込めていたのだ。

 

「それ、割と答え簡単よ?キーワードは、『ハグリッド』」

 

グラスにある度数の低いお酒──当主という立場上、特定条件下で酒を飲まなくてはならなくなる故に──を飲み干し苦笑いするアリシアにレィルもなるほど、と頷いた。要は彼らはレィル達に恩があるのである。

前年度のドラゴン騒動で、事件の立役者は魔法省ではなくレィルであるとマスコミが上げたため、必然的にそれが彼らの目に留まり、恩を感じているのだ。今回のパーティーでも初めましてと自己紹介の後には感謝の言葉が述べられていた。

 

「それに、言ってしまえばアレだけどミオの血筋も関係してるの」

「まぁ、相手がディマイントだからな」

 

ディマイント家を敵に回すとは、自分の家を絶命させる事と同義である、とは過去の規律を何よりも重んじる魔法界であるからこそ暗黙の了解となっている。なによりホグワーツ創始者達にが残した文献に書かれているのだから、信憑性はまず間違いないだろう。

アリシアは「それに」と付け加え、綺麗にウィンクをしながら、

 

「貴方達は、私が守るわ。今は余計なお節介でも、直ぐに隣に立ってみせる」

 

と言った。不覚にも、レィルもミオも見とれてしまった。

 

その後、十数分の談笑を終え、レィル達は帰って行った。

次会うときはホグワーツ。傍に居られるように、と更なる努力をすることをアリシアは決意し、夜は更けていく。

 

 

 




新学年と眠気とモンスターのantiqueです。現実で任意コードを実行したい。

オリジナル回は多分この章ではこんだけ。次から本編に戻るよー。

シシーの口調覚えてないから捏造ー。原作ブレイカーと読んでくれたまへ。
お父さんもあの雰囲気と死喰い人であることを除けばいいお父さんのはずなのにね。救済するかどうかは私の指次第。

一番書きやすいフレッジョ登場。やっぱいいわこの2人。
自分がリアルでふざけるノリで書いてればこの二人が出るからいやー、楽々。因みに二番目に描きやすいのはダフネとフィーとメズールの絡み。

とりあえずまぁ、二人は甘味を作る空間を作っている、として。

済まないハリー×ジニー派よ。私は修羅の道を行く。
ということでジニー登場。彼女はフィーに靡きました。
艦これの時雨とか当てはめてくれ。皆の想像するジニーじゃないからこの子。
ビルも後で出てくるけど……といっても、出てくるところは普通にわかるか。

割と思いアリスの過去話。メンタルよく出来てるよこの子()
オーロックもラズーリも今後出ません。この話限りです。さて、この後どうからませて行こうかなぁ……

では、サラダバー






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命短し

ずっとここでお気に入り登録者様方のお名前を出させていただいていたのですが、紙媒体の「InOut」がどこかへ行ってしまったのでこれにて仕舞いとさせていただきます。
それでも日々日々増えていく登録者様方、本当にありがとうございます!


 

 

 

 

夏休みも終え、やはりひとつのコンパートメントにレィル、ヘルミオネ、アリシア、フィリップ、メズール、ハーマイオニー、ダフネ、マルフォイが集合しトランクの中に入ろうとして、レィルははたと気がついた。

 

「……いつの間にか部屋が大きくなっている」

 

部屋が、というのはトランクの最大容量の事ではなく、トランクの中の世界のど真ん中に立っている小屋のことである。小屋といっても中くらいのコテージぐらいの大きさだったのだが、今は一回り、いや二回りぐらい大きくなった。

別荘にいる間は生物水入らずで、自然に近い活動ができるように、と予め防腐対策などもして餌を置いていったので中には入っていない。ので、誰かが指示した、ということもない。

ヘルミオネも疑問に思っている中、その答えが天井が開くと同時に出てきた。

 

「私がやったのだ、主よ」

「ミネマ」

 

ミネマ。世界最大の蜘蛛アクロマンチュラであり、割とトランクの古参に入る住人。

なんでもミネマが言うにはフォウが外で割と知り合いが増えているからここも大きくしよう、ということでボウトラックルやら角水蛇(クロエ達)やらその他もろもろに頼んで素材を調達してもらい、拡大工事を行ったらしい。

と、言うよりも。

 

「お前の仕業だったのか、フォウ」

「ンキュ?」

 

原因であるフォウは先程からメズールに撫でられていた。恐らくこの他にもきっとやらかしているだろう、レィルは早急にライトニングボルトで探索をすることを決めた。

そのままレィルのレポートの発表、お土産交換、パーティー報告などホグワーツに着くまでには話題は尽きない時間だったが、三回ほどトランク()がノックされたのでレィルは梯子を登っていった。トランクを開け、客の顔を見たレィルは微笑んで「いらっしゃい」と言いながら手を引いた。

そこから現れたのは新入生であるジネブラだった。

 

「紹介するよ。この子はジニー、ウィーズリーの所の末っ子」

「は、はじめまして、ジネブラ・モリー・ウィーズリーです!ジニーとお呼びください!」

 

勢いよく腰を直角に曲げ頭を下げるジネブラ。緊張しているのか、その声は少しだけ震えていた。

何故彼女が彼らがいるコンパートメントが分かったか、という事だが、実はヘルミオネがジネブラ宛に手紙を一通だけこしらえていたのだ。どの辺のコンパートメントに入るかだけを記載したのだが……よもや、フィリップでさえ一発で当ててみせた(・・・・・・・・・)とは思いもしないだろう。

緊張しているのがわかるジネブラのその様子にアリシアは微笑みながら近づいた。

 

「はじめまして、では無いけれど。アリシア・ティファールよ」

「私はメズール・キラグリードー!よろしくねー、ジニー」

「初めまして、ハーマイオニー・グレンジャーだわ」

「久しぶりね、ジニー。私の紹介は要らないでしょ?」

「なら、僕もだな」

 

アリシア、メズール、ダフネ、ドラコの順番で自己紹介(?)をしていった。そして、ジニーの大本命(想い人)

 

「まぁ、はじめまして、だな。フィリップ・L・ハワード、好きに呼びたまえ」

「は、はい!では、僭越ながらお名前で……」

 

フィリップは始め存在を気づかないながら自己紹介をし、ジネブラはそれに頬を僅かに紅く染めながら返した。それを見てハーマイオニーはどこか胸がモヤモヤしたような感覚を覚えるが、それは今は放置した。

一通り自己紹介が終わった後、バチンという音がした。数名はそれが何か分かっていなかったが、ドラコ、ダフネ、アリシア辺りの貴族層は一瞬でこの音の招待を看破した。

 

「レィル、雇ったのか(・・・・・)?」

「雇ったというか……いつの間にか住み着いていたというか」

「けど、普通のとは確実に違う」

 

ヘルミオネが言った違う点は、その音の方を見ればすぐに分かった。普通ならあるはずのないパーカーとズボン、そしてスリッパを身につけているのだから。

 

「お、帰ってたのか、人間(レィル)

「……うん、ただいま、アリー」

「何やら客人も多いらしい。パイはいるかい?」

「お願い」

「了解、クイーン(ヘルミオネ)

 

割と柔らかな大きな目玉、とんがった鼻に羽ばたかせれば少しは受けそうなパタパタする耳、小柄でポケットに手を突っ込んだ、どこかニヤついた顔のソレは、指を鳴らしてパイを用意した。この中でこの生物を知らないのは、恐らくハーマイオニーのみ。

 

「彼はアリー。屋敷しもべ妖精なんだけど……初めからあの格好でね」

「私のことをクイーン、と呼ぶのだけれど、それ以外は人間(・・)で統一してる」

「あのパーティーか終わった後にトランクに入った時にのんびり紅茶を飲んでて……」

 

そう言いながらレィルはアリーを見るが、やはり足を組みながら紅茶を飲んでいた。ドラコもここまで気ままな屋敷しもべ妖精は見たことがないのか、あるいは自分の家のとを比べているのか唖然とし、口が開いたまんまだった。

という時に、やはりマグル出身のハーマイオニーはやはり分からなかったようで、アリシアに問うた。アリシアは頷きながら説明を始める。

 

「屋敷しもべ妖精、見た目はこんなのだけど、基本的なのはボロボロの枕カバーを来てるのだけれど……」

「大体は一つの家に住み着いたら一生をそこですごし、あらゆる家事を賃金なしでやる。家政婦を雇うよりも遥かに効率的だ」

「何かミスをすれば自分から罰をかす、って言うこともあって、一部の魔法使いは屋敷しもべ解放を目論んでたんだけど、他ならぬ屋敷しもべ妖精達によって鎮圧されたっていう歴史もあるわ」

「彼らにとって人間への奉仕こそ最大の幸福、みたいな所があるから」

 

聴きながら、ドラコの時に一瞬だけ顔を顰めたハーマイオニーだったが、アリシアの「人間への奉仕こそ最大の幸福」という発言に非常に不服そうな顔をした。無理もないだろう、マグルの世界は働く者に賃金を与えることは常識と言って過言ではないのだから。

しかし、それを鑑みてもアリーという屋敷しもべ妖精は常識から大きく逸脱していた。優雅に紅茶を飲む姿はとても只管(ひたすら)こき使われるためだけに生まれた存在とは思えず、普通の人間とさして変わらないように見える。

 

「おっと、お客さんの追加だな……二人か?」

 

アリーがニヤついた顔を崩さずに指パッチンでパイをもう二つほど用意する。レィルはため息を吐きながら梯子を上がって行った。

 

「えぇっと……あなた」

「おうおう、普通にアリー、でいいんだぜ?それといった個性も何も無いんだからな。お前らのような人間と違って」

「そう……じゃなくて。アリー、あなたなんで分かったの?」

「このパーカーをくれた人間(ゴシュジンサマ)が変に弄ってくれたからな」

「なっ!?」

「冗談だ、悪いな人間(ハーマイオニー)。答えは魔力反応さ」

 

トン、と一瞬でバチンという音を鳴らしながら姿くらましをしてハーマイオニーの目の前まで移動し胸のあたりを押すアリー。なんという魔力の無駄遣い。

 

「魔力の質が似ているから兄弟か、双子か……この中で一番質が似ているのはジニー(おまえさん)だな」

「──ごめん、普通に心当たりがあるわ」

 

兄弟、もしくは双子、という点だけでもジニーには心当たりがあった。そも、彼女にはホグワーツの知り合いが少ないのだが、それ以上に彼らが何かをやらかしてくれる可能性を失念していた。

 

「「よう皆様方、邪魔するぜ?」」

 

──すなわち、ウィーズリー・ツインズ(フレッドとジョージ)である。

 

・・・

 

「しかしすげぇもんだよな」

「この管理、お前達夫婦でやってるんだろ?」

「忙しいだろうにこの綺麗さ」

「「ぜひロニー坊やに見習って貰いたいな」」

 

上がってきてそうそう、二人は物色を始めた。危ないものは基本的にレィルの研究室に置いてあるものの、たまに失敗作も転がっているこの部屋を「綺麗」と称するツインズ。

逆にそこまで言わせるロナルドの部屋を見てみたい気もしたレィルだが、それはそれで何やら面倒なことになる気がしたので辞めることにした。

二人が入ってきてからしかめっ面なダフネとドラコを宥めるアリシア、フォウを愛でるメズール、アリーとチェスを始めたフィリップとそれを眺めるジネブラ、という割とカオスなトランクの中。レィルは既に慣れてしまっている現状にため息が出そうになった。

 

「しかし悪いなハワード」

「うちの坊やが突っかかったんだっけ」

「形だけで悪いが謝罪はしよう」

「うちの弟が済まなかった」

「……フレッドとジョージが謝った!?」

 

けして謝ることがない、謝ったとしてもふざけてでしか謝らない、というレッテルを自分で貼りに行ったツインズが、目の前で、妹がいる前で謝った光景を見たジニーは素直に驚愕した。フィリップはそれに一瞥し、ナイトを動かして答えた。

 

「別に、どちらかと言えば突っ込んだのは此方だ。貴方達が謝る必要は無い……スティル・メイト」

「……マジか。一応負け無しだったんだがな」

「真っ先にフルーズを出してきた時は焦ったんだけど」

 

スティル・メイト。それは、チェスのルール上どちらも手を出せなくなり停戦状態となる事を指す。

また、フルーズ・メイトとは、チェスの性質上相手が思い通りに動いてくれた場合発動する四手詰み。まさか屋敷しもべ妖精が頭がいいのは分かるがチェスに精通しフルーズを知っているとはフィリップもよもや思わなかった。

コトリ、とチェスの駒を置いたフィリップは立ち上がり、ツインズの方に向いた。

 

「あれはただの僕のわがままで、偽善なだけだ。それに関して第三者にどうこう言われる筋合いはないし、謝罪もはっきり言ってどうでもいい」

「それでもさ」

「こういうのは形が大事だからな」

「では、受け入れよう」

 

杖のメンテナンスをするのか、フィリップは杖を取り出して杖台に置いた。敬語も使わないようなプライベートな言葉だったが、ツインズはそれで満足だったようでアリーに二人1プレイヤーという反則ルールでチェスを挑んでいた。

 

結局、ツインズの頭脳を持ってしても6敗1引き分けを取るに止まり、そのあとは着替えてホグワーツ駅に着いた。男勢がコンパートメントに、女勢がトランクに、ということもなく、ミネマが客が多いことを思い、部屋を増やしたらしいのでそちらで着替えた。

ちなみにツインズがチェスで頭をひねらせてる間、レィルはアリーが何か大きな改造をしていないかを確認するため箒でトランクの中を一周していた。もちろんヘルミオネも一緒に行った。

途中、どこぞの馬の骨(赤毛の同級生)がフィリップに対し突っかかって行こうとしたが、その前に自らの妹の神をも殺せるような目線に萎縮しそのままセストラルの馬車に乗って行った。(くだり)の妹は楽しげにボートのほうに乗って行ったが、あの兄はここ一年間はずっと沈んだまんまだろう。

 

結果先送り(どうでもいいことには関わらない)。レィルはヘルミオネと共にホグワーツの門をくぐった。




最近友人がヤンデレの良さを分かってくれずもやもやしてるantiqueです。ヤンデレいいじゃんか()

ちょいと今回は短かったですかね。約4000文字……まぁこんなもんか。
確か「畏怖の象徴」か「クライアント」辺りででた気がするミネマさん。このトランクでは有権者でもあります。不祥事の際、割と纏める力があるので。

さて、大本命が目の前ではっちゃけそうなジニーと、それをつまらなそうに見るハーミーちゃん。安心しろ、ハーレムルートは用意してある(主人公ではない)

そして、新キャラのアリー。容姿はUndertaleのSansを頭に思い浮かべてください。
こいつもこいつで割りと凄い濃いキャラなんですが……まぁ、彼が主人公のお話は出てきませんので悪しからず。

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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これは酷い

 

 

始業式が終わり、これから初めての授業になる。なるの……だが。

それよりも先に、組み分けの結果だけを伝えるとなると……ジネブラは血が争えず、もれなくグリフィンドールへと向かってしまった。その様子たるや、まさしく亡霊とも言え、あたり一帯がお通夜ムードとなるほどに落ち込んでいてツインズが珍しく兄らしく慰めていた。

とはいえども別に会えない訳では無い。大体は部屋にこもりっきりというフィリップでも日光浴も散歩もするし、暇があればレィルの部屋に行く。更には今年も勉強会を開催する予定なので、会う機会がゼロでは無いことをツインズがジネブラに伝えると、目を輝かせて喜んでいた。

 

朝食を取ろうとレィルとヘルミオネが大広間へと行くと、何やらちょうどフクロウが手紙やら何やらを届けに来るタイミングだったのか、窓から一斉にフクロウがやってきた。レィルは以前も見た事があるが、やはりこの光景はいつ見ても壮観だ。

 

「おはようレィル」

「おはようフィリップ」

「どっちの親も薄情なもんだな。君の方は放任主義で、こっちは自由主義ときた」

 

挨拶を交わしつつ、新学年初とも言える皮肉を言ったフィリップの手元にはひとつの手紙。その内容は……まぁ、少しばかりあどけない文字ということは弟妹なのだろうが、内容が本当にはっちゃけているので、ここでは記さないこととする。

フィリップの隣にレィルが座り、その隣にヘルミオネが座ると共に、何やら一匹のフクロウがコーンスターチに顔面ダイブをかましたようで、グリフィンドールの机が散らかっていた。フクロウは赤い便箋をその場において、覚束無い飛行でどこかへ行ってしまった。

 

 

「……吠えメールか」

「どうするの?」

「無論、止めるさ」

 

そういったフィリップは杖を取り出した。どうならあちらもちょうど開けたところのようで、食欲不振になるほど馬鹿みたいに大きな声で吠え出した。

何偽りなし、だがどうならウィーズリーの母親は周りの影響を考えないようである。フィリップが無言呼び寄せ呪文で手紙を呼び寄せ、「目」でどこを潰せば静かに止まるかを見て粉々呪文で粉砕してしまった。

 

「今の時間にはいないだろうけど、本当にウィーズリーは周りを見ないのだな。食事を静かにする主義の人間だっているだろうに」

 

それだけ言って寮へと戻っていくフィリップに、皆から盛大な拍手が送られた。ロナルドはまたアイツか、と呪詛を送らんとフィリップを睨みつけていた。

 

約一名にとって最悪な始まり方をしたが、授業は別に滞りなく進んでいく。スネイプの助手になり、フリットウィックと共に魔法を教え、マクゴナガルとコツを教える。

と、考えてみれば割と教師側にたっているな、と思いつつ、闇の魔術に対する防衛術の教室に入る。クィレルがいた頃ニンニク臭かったようなものではなく、一応は清潔にしているようだ。

 

今年の闇の魔術に対する防衛術の教師は、クィレルが──言葉通りになるなら──殉職してしまったため変更、代役としてギルデロイ・ロックハートなる者が充てられた。

先に授業を受けたドラコ曰く──

 

「あぁ、酷いってもんじゃない。今すぐにでも辞めさせるべきだね」

 

また、同じく授業を受けたハーマイオニー曰く──

 

「一応ほかの女子たちがソワソワしてるからできる人なのかなって期待してたのだけれど……割と真面目にサボタージュを考えるわ」

 

と、辛口評価……といえば聞こえがいいが、単に言えば悪評しかないのである。一応世間からはなにやらチヤホヤされているらしいが、教師の才はないらしく、ビンズやあのクィレルの方がマシだと言う。

どんな間違いを起こせばそんなことになるのか、少しだけ気になったが、そんなに酷ければサボタージュでもしようかとレィルは考えた。といっても、別に酷いだろうことは教材の時点で察せていた。

ギルデロイ・ロックハート著作小説のオンパレードだったのだ。初めは彼のシンパかとレィルも思っていたが、まさか御本人だとはとても思わなかった。

一応、レィルも論文という体で文字をなぞったことはあるが、それにそこまで執着し、教え子までにも広めようとは思わない。せいぜい「そんなことも書いたな」ぐらいの認識である。

だというのに、彼は教材全てを自らの小説にしてしまったのだから、なんという自意識過剰か。一応女子生徒からの人気はあるものの、新任紹介の時の男子達の目は冷ややかだった。

普通な目をしているのはハーマイオニー(恋する乙女その1)ジネブラ(恋する乙女その2)アリシアやメズール、ダフネ(興味の欠けらも無い方々)そして、ヘルミオネ(レィルの奥様)ぐらいで、あとは既にそういう相手がいるぐらいの女子。恋は盲目と言うが、今回ばかりはその盲目さが一役買った言うのはある種の皮肉だろうかと考えてしまう。

因みにフィリップは──割といやいやに──小説を読んだ際、

 

「小説とは実際にあったことを書き写したノンフィクション、またはただの空想なフィクションの二極化を指す言葉だ。こんなあったようでないこと(・・・・・・・・・・)を書かれても響くわけがない。これで心を奪われているのはただ文字をなぞるしか脳がないヒトゲノムだろうさ」

 

と、辛辣的な評価を下していた。彼がこうも誰かの物語を卑下することは珍しく、一番評価していたのが人魚姫の原作版(・・・・・・・)であることからそも好みの問題であることが思われるが、正当な評価であることは誰の目にも明らかであるので、普通に見ればあれは駄作、ということだろう。

 

席につき、数分すると、教室の上の部屋のドアをわざとらしく大きな音を立てながらギルデロイが登場した。一部を除き、女子生徒は蠱毒にでもかかったように頬を赤らめた。

 

「私だ。ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。」

 

下手な芝居を打つように……ではなく、割と道に入ったような感じでその後も嘘か本当かわかりづらい自己紹介をしていくギルデロイ。その後、殺意に目覚めたレイブンクロー生徒の目線から逃げるように、ひとつテストをすると言った。

が、その内容は──どこまでもナルシシズムを突き通しているようで、ギルデロイ・ロックハートの好きな色はなにか、といった自己愛性人格障害といっても、差し支えないほどの自分に対する質問ばかりであり、一貫として闇の魔術に対する防衛術には関係ない。優等生のハーマイオニーがサボタージュを考えるわけである。

とりあえずレィルもヘルミオネもフィリップもメズールも全員が白紙で出した。フィリップは裏技(地球の本棚)を使ってもよかったのだが、こんなつまらないことに本棚を使いたくはなかった。

何やらギルデロイはテストの結果にご不満のようだが、何故これで満点者が出ると思っているのかが不思議でならないレィル達であった。そんな四人を他所に、ギルデロイは鳥籠のようなものを布をかぶせた状態でどん、と置いた。

 

「気をつけなさい……魔法界で最も穢れたもの達との戦い方を教える……それが私の使命なのです!」

 

どこまでも三文芝居を続ける気なのか、彼をどうでもいいと思っている人間からは確実に演技だと見抜けるような言葉を綴りながら、勢いよく布を放った。中には青い体躯に大きな耳、そして額から生えたふたつの触覚が特徴の小人が大量に詰め込まれていた。

 

「こいつらは「レィルー!これなにー?」」

 

ギルデロイが説明しようとしていた時にパドマからの横槍が入った。レィルはひとつ頷いて、割と単純に説明した。

 

「コーンウォールのピクシー。性格は狡猾でいたずら好き。魔力反応のあるものを壊すことを生業にしているところが少しあるから、杖とかは折られないように守った方がいいかな」

「よっ!モンスターマスター!」

「補足しなくていいのか?大図書館!」

「それをもし僕のことを言っているのなら、別にこれといったことはないよ。強いていえば、硬直呪文でも唱えてやれば何が何だかわからなくなって固まるからその隙に集めてしまえばいい」

 

いつの間にそんなあだ名がついていたのか、と少しだけ驚くふたりだが、外面的にはいつも通りである。説明を取られたギルデロイは左目を痙攣させながら、それでも笑顔を絶やさず「ありがとう」と言った。

 

「では……今ので彼らのことを知った君たちの、お手並み拝見といこう!」

 

合図もなしに鳥籠を開けた結果、一応杖を構えていた生徒達もびっくりしてしまい、杖や教科書などを何人か奪われてしまった。フィリップとレィルは溜息をつきつつ、メズールは飴玉を舐めながら、ヘルミオネはレィルに寄り添うように立ち上がった。

 

「「「「イモビラス(動くな)」」」」

 

四人の杖が同時に光ると共に、硬直呪文を実に四回分くらったピクシーはその場で完全に止まってしまった。呼び寄せ呪文でピクシーに奪われた杖などを取り返し、ギルデロイの方へと向き直った。

 

「あー、っと……うん!素晴らしい!私ほどでないが、素晴らしい技量の持ち主たちだ!皆、ヒーロー達に拍手を!」

 

何とか、といった表情で馬鹿なことをしてくれた、という目線を逸らすために、不本意ながらという内心を抑えつつギルデロイはレィル達を称えた。一応それにならってか、生徒達もレィル達に感謝を述べた。

と、ここでヘルミオネがひとつの箱を取り出した。なんだなんだ、と野次馬根性なのか、ざわつく生徒を他所目に、ヘルミオネは箱を開けた。

 

「ふぅ……いかんのう、ロックハートとやら。確かに嘘と八百長と責任転換は人間の特権じゃが、それで悪事を働けば無問題で罪なのだと、教わらなかったのだな」

「なっ!?……誰です?貴方は」

 

箱から黒い煙を吐き出しながらローブを身にまとった老人が呆れながら出てきた。それに全員が驚きながら、真っ先に平静を取り戻したギルデロイが問うた。

しかし、彼の顔を知らずとも、名前だけを知っているだろう者は「こんなことが出来る人は限られる」ことを知っている。そこから、ヘルミオネやレィルと関連付けた時に誰かが呟いた。

 

「──ゼノ・ディマイント……」

 

世界の見張り役の登場に、教室内はざわついた。ゼノは何も言わず、レィル達以外に忘却呪文を無言で施し、速攻でギルデロイを回収。本来出来ないとされる姿晦ましをしてどこかへと消えた。

一瞬にしてレィル達4人以外に忘却呪文を施したにも関わらず、しっかりとギルデロイが来てからゼノとともにどこかへ行くまでが調整されて消えているあたり、ダンブルドア最強説を唱えているダンブルドアのシンパはこれを見れば自ずと彼が最強であることは認めざるを得ないだろう。いつまで経ってもギルデロイが来ないこと、レィル達が立っていることに疑問を持ちつつ、生徒達が再びざわめき始めた。

 

「あー……」

「対策、ないよ?」

「ディマイント嬢、箱を開けろとしか言われていなかったのか?」

「うん」

「……まずいねー。どうしようこの空気ー」

 

どうやらゼノはなんの対策も考えないままギルデロイを捕まえただけで、この微妙な空気までは予測できていなかったそうだ。その時バタン!と大きな音を立てながら一人の女性が飛び込んできた。

全員見覚えのない人であり、約一名だけ、怪訝な顔をしながら杖を取り出した。女性は杖を取り出すと、積み上げられていたギルデロイ著作の小説を浮かび上がらせ、あとかたもなく消した。

それにより女子生徒たちからはブーイングが起こるが、レィルが杖を振り失神呪文を飛ばすと女性は見向きもせずにそれを防護呪文で霧散させた。それによりレイブンクロー生は、彼女がいかに有能かを理解すると共に、なぜレィルが攻撃を仕掛けたのが分からなかった。

当のレイルはというと杖を女性に向けたままワナワナと震えていた。女性はパン、と手を打ち鳴らすと共に深呼吸し、笑顔でこんなことを抜かした。

 

「ゴメンなさい!ロックハートはちょっと来れなくてね。新任紹介の時にいなかったけど、私が補助で来てたんだ。準備に手間取っちゃって、あとホグワーツの中で迷ったからさぁ……だから時間ないけど自己紹介をば……」

 

女性は杖で空中に筆記体で文字を描き、くるっと反転させて生徒へと見えるようにする。だがそれはレィルにより爆散してしまい、見えなくなってしまった。

我慢の効かなくなったレィルは杖を下ろしたが、鬱憤とともにこう叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……いるんだ!母さん(・・・)!」

 

「皆が知るだろうレィル・クローターの母親、ヘルミオネ・ディマイントのお義母さん──ステファニー・クローターです。よろしくね、みんな!」

 




ステファニー「待ちきれなくなってさ!ごめんネ!」

どーも、キャラを独りで歩かさせてしまった文才のない学生、antiqueです。やってしまったが後悔はない。

いや、弁明しませんよ、しませんけど。ロックハートどーやって捕まえっかなー、とか思いながら筆走らせてたらいつの間にかゼノに連行されてしまったんだ。何を言っているか(ry
どーすっかなーとか思いながら筆を進めたらいつの間にかステフが来たんですよ。いやマジで、その場のノリって凄いですね。

一応プロットは若干狂いましたけど、ストーリー的に支障はないのでこのまま通そうと思います。
因みにステフの容姿ですが、ノゲノラのステフとコロン、Fateのアイリスフィールを足して3で割ってください。性格はイリヤとクロエを足して2で割り、エッセンスにネロを加えてください。

では、次の話で会いましょう、サラダバー。


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母親とは

 

 

 

 

 

ギルデロイ・ロックハート、失墜

 

デジャヴのような気がするが、そんな見出しがデカデカと書かれた預言者新聞は、瞬く間にイギリス中に広まり、そして一部例外はいるものの、ありとあらゆる女性を恐怖のドン底へとたたき落とした。小説家にして勲三等マーリン勲章を授かるに値すると言われた魔法使い、ギルデロイ・ロックハートが魔法界史上最大の詐欺師であると多少尾(びれ)を大きくして、ゴシップを書かせたときの内容の捻れ様には右に出るものはいない、と言われているリータ・スキーターに吹聴したのだ。

なお、吹聴した人物はゼノであるが、その全ての責任を「捕まえるためだけにホグワーツに就任させたダンブルドア」だけ(・・)に擦り付けたため、ディマイント家はノーダメージ、代わりにダンブルドアが全てのヘイトを請け負うこととなった。哀れとも言えようが、元々行政府などからいい顔をされていなかったのでその辺の人間からは今回のことは割と「いい事」としてカウントされているようだ。

もちろん預言者新聞はホグワーツにも来るので、女生徒がこのことを知らないわけはない。故に大広間はまさに阿鼻叫喚となっていた。想い人がいる女性生徒は多少同情し、男子生徒にとっては「まるで意味がわからんぞ」とも言える光景だった。

全員のヘイトを持っているダンブルドアだが、実は諸事情でいまホグワーツにいない。さすがにこんな状況で世間に身を晒すのは良くないと判断したのだろう。

よって、本来校長席となる場所は空席となっている。ダンブルドアに恨みを持つ者達からすれば不完全燃焼もいい所だろう。

 

ギルデロイがいなくなったことにより、闇の魔術に対する防衛術の教師がいなくなった訳だが、それに関しては一部の生徒しか知らないわけであり、その事についてマクゴナガルから連絡があるようで、今日の大広間には生徒全員がいた。悲しみに明け暮れるものが多すぎるが、何とか平静を保ったまま、マクゴナガルが正面にたった。

 

「皆さんご存知の通り、前闇の魔術に対する防衛術教諭のギルデロイ・ロックハートの功績は全て偽りのものでした。彼が執筆した物語の元となる人物の元に赴き、記憶を抜き取り、忘却術をかけていたようなのです。その執筆能力と忘却術だけは天才的でした。今は昨年ハグリッドが連行されたアズカバンの裁判所にいるはずです。ちなみに校長先生は諸事情によりホグワーツを開けています。少しすればまた帰ってきますから」

 

真実を再度突き付けられた故か、理想像を壊されてしまったためか、すすり泣く者、号泣する者、果ては気絶する者、と中々のカオスとなっていた。気絶者はマダム・ポンフリーによって運ばれて行った。

あたりを見回せば、レィルの部屋に入り浸るメンバーも友人の慰めに手一杯だった。アリシアとダフネは頭を撫でたり背中を摩ったり、メズールは抱きしめてあげたり、ハーマイオニーやジネブラも手を握ってあげたりと、対応に困っていた。

皆がみな恐慌となっている時に、裾口から一人の女性がでてきた。レィルはそれを確認するなり杖を持って魔法を放とうとするが、ヘルミオネに宥められて渋々杖を下ろした。

突然現れた女性に戸惑う生徒達が落ち着くのを待って、マクゴナガルは一度頷いてから、彼女を横に立たせ、言葉を発した。

 

「さて、当然のことですが、闇の魔術に対する防衛術の教師がいなくなったので補填しなければなりません。そこで私は個人的にも交友があり、尚且つ優秀な魔法使いということで、彼女を推薦しました。名を、ステファニー・クローター。皆が知る、ホグワーツでも十本指に入るほど優秀な生徒、レィル・クローターの実母に当たります」

 

レィルの母親と聞いて、再びざわついてしまい、今度は収集がギリギリつくかどうかと言うぐらいになってしまった。無理もないだろう、上級生ですら数人実力を認めているレィルの生みの親であるからには、彼女もまたトンデモ性能なのかと疑ってしまう。

マクゴナガルはその後の流れを全部投げ捨て、ステファニーの紹介にあてた。ステファニーは微笑みながら、教師席の前に立った。

 

「あー……レィル?レィルー!ちょっと出てきてー?」

 

いきなりのご指名にイラッときながら、渋々レィルは杖を持って大広間の通りに出た。ざわつきが収まらぬ中、ステファニーも杖を出しながらレィルの前に立つ。

 

「……形式は」

円状制御飛翔(サークルロンド)、武装解除呪文、防御呪文縛り」

「時間は」

「50秒ほどでいいわ」

 

なんだなんだ、と騒がしくなっているが、今のステファニーの単語二つで理解できるのは数人だろう。マグルの知識に富んでいる者、あるいは……世界の全ての知識を持つ者。

ステファニーは増幅呪文(ソノーラス)を使い杖を喉に押し当て、声を拡大させた。が、1度目は大きすぎて外にまで聞こえるかもしれないほどの爆音となってしまった。

 

「今からちょっとしたデモンストレーションを行います。私がずっとここにいるかはわかりませんが、もし今の一年生を卒業まで見届けることになるのなら、君たちにはいずれここまで来てもらいます。こんなことが見れるのは少ないだろうから、目に焼き付けるように!」

 

喉から杖をどけたステファニーはレィルの方に向き合う。レィルも杖を握りしめ、そしてステファニーと同時に空へと飛んだ。

急な事だったので、全員が唖然としてしまった。いや、レィルが飛んだのは前年度で見た覚えがあるものはそこまでの衝撃はなかったのだが、問題はそちらではない。

ステファニーも空を飛翔していることと、そのあとを追うように付随する白い煙のような何か。

それに反応しているのは、教員席のスネイプただ一人であるが、今はそれに関して何も言うまい。本当に気にすべきことは、先ほどから繰り返される赤い閃光の応酬だ。

 

「結局、見つかったのか?母さん」

「ええ、お陰さまでね。今年が終わり次第回収しに行くわよ」

「どこにいるの?」

「伝承どおりの場所に」

 

そんな世間話もしつつ、しかしやることは互いに本気。ぐるぐると円を描きつつその場をずっと回りながら、合間合間に武装解除呪文を放ったり、それを上下に避けたり、防護呪文でさばいたり。

ことの結末は、どちらも杖を奪えずに引き分けという形になった。思わぬデモンストレーションと、箒が使えなくても空を飛べる魔法があることに夢を抱いた少年少女には大ウケのようで、生徒達からは盛大な拍手を送られていた。

地面に降り立ったレィルはそのままステファニーの方に見向きもせずに、ヘルミオネのもとへと向かった。ステファニーはそれを少しだけ物憂げに見ながら、しかし数秒後にはそんな表情を隠すように微笑みながら、広間の自分の席へと戻っていった。

 

翌日からはステファニーの授業が始まるのだが、これがとても大好評となった。わかりやすく、丁寧で、しかしユーモアもあり、目線は自分達と同じというとても心身になって教えてくれるとてもいい先生という評価をステファニーは生徒達からもらった。

先生からの評判も良く、特に用務員のフィルチから信頼を勝ち取ったことが功績だろう。流石モンスターマスターの母親というべきか、ミセスノリスとも仲良くなっている。

そんな一方で、やはり完璧に誰からもすかれる人間はいないのか、一部の生徒から反感を買っている。それはやはりいつも通りのスリザリン生複数名と、あいつの母親なのだからろくなこともないだろうと勝手な言いがかりをつけているロナルド、そして、一番以外とも言えるのが───

 

 

「ねぇレィル、ちょっと部屋行ってもいいかな」

「却下」

「……」

 

「ねぇレィル、お茶しない?いい茶葉が「要らない」……」

 

「レィル、少し話を「暇じゃない」……」

 

何を隠そう、実子であるはずのレィルだったのだ。これには多くの生徒が難色を示し、なんならセッティングしようかと心優しき生徒が協力をしようと躍起になるのだが「いいの」といって疲れたような笑みを浮かべながらステファニーは断るのだ。まあ、それもそのはずである。

 

彼女はレィルが生まれて、食料が母乳であるとき以外の全ての子育ての行程をディマイント家に任せていたのだ。アホらしくなるほどに、故に自分のことを放っておいたままどこかへと姿をくらましている母親に心身になれるか、と問われると、大体の人が首を傾げるだろう。

レィルが彼女を毛嫌いする理由はこれだけではないのだが、これ以上書き記していくと割と面倒なことになるので割愛する。

とはいえそのような家庭事情を持っているゆえに、レィルはステファニーをどうでもいいものとして扱うこととなっている。ハリーのような心温まるかもしれない何かを持っているならば、会えなかった分しっかりと甘えるのも吝かではないのだが、残念ながら彼女がレィルを放置した理由は「息子よりも未知」を取ったからであり、ならばとレィルは反面教師からわざと教わり、「家族(母親)よりも家族()」を取っただけである。

インガオーホー、結論的に、神秘部とかいう変人共の巣窟を現場にするだけあって、それは子育てにおいてもそうらしく、ここまで完全な放任主義も今日日見ないだろう。それを知った生徒達は、皆口を揃えて

 

「あんたが悪い」

 

と言うので、この件はステファニーの力だけで解決しなくてはいけなくなった。それでも彼女を応援しつつ手助けしないのは、親を嫌っているレィルへのささやかな謝罪と有り余るほどの同情があるのだろう。

そしてこれはバカバカしい噂だがが、とある男教師が女教師に呑みに付き合わされているらしい。その酒は決まってバーボンだそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ先輩、なんでこんなにうちの息子は反抗的なんですかね?」

「私に聞くな」

「連れないこと言わないでくださいよ……同卒の(よしみ)じゃないですか」

「知らん」

 




エターナルフォースブリザード、どうもantiqueです。相手は死ぬ。

こんかい四千文字前と短めになりました。バジリスクの弊害ってすごい。

ギルデロイの失墜によりデジャヴってますが、私は新聞記事が書けないものですから……。それでも見たいという人は、まぁ、物好きですね。
それに伴い全ヘイトを稼ぐことになったダンブルドアですが、ここまで虐められてるのもあんまり見ないですね。ここでは彼ら「原作英雄組」をガンガン精神的に壊してきます。

本格的にステファニーが参戦。マクゴナガルの言っていた「個人的な友好」とはもちろん神秘部絡みです。
デモンストレーションで実力を見せ、授業で心身になって教え込む。彼女も彼女で実力者ですので、生徒からの人気も出ました。
ただ、息子からは嫌われてる様子。まぁ、仕方ないよネ。

さて、最後の男教師ですが、まぁ、分かるでしょ?

では、次の話で会いましょう。サラダバー。






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不思議少女は密かに笑う

 

 

 

母子の仲が邪険なまま過ぎていくが、別に誰もそれを指摘も仲介もしないのでどうしようもなく。レィルも自分から歩み寄ることをかなぐり捨てているため、ぶっちゃけステファニーが根気よく続けていくしかないのだ。

現在レィルは一年前に取得した禁じられた森の無許可入出権を行使し、土曜日だから、というのを口実にトランクの住人の一部をここへと放そうとやってきている。一応勝手に出入りできるとはいえなんの報告もなしに行くのは心配をかけるかと思いたまたま出会ったスネイプに告げている。

 

「さてと……カム、ノノ、コール、ライナー、ナリフォーレ、フリーヤ、リディ。みんな出ておいで」

 

トランクをあけ、杖で二回叩く。それが外出時の合図だ。初めに出てきたのは大型の雌雄(つがい)の狼、ヒッポグリフ二匹、ズーウー、サンダーバード、ニューレル・ユニコーンの計7体だ。

カムとノノは響狼と呼ばれる基本的に沼地に生息し、広範囲を番とともに旅をする巨大な狼で、二匹は旅をしている最中ノノが大怪我をした際、レィルに助けられてトランクの住人となった。見た目もさながら、牙や鬣は美術品として飾られていたこともあり、現在はそこまで個体数が多い訳では無い。

トランクの中には響狼の番は彼らしかいないので、子供が出来るとしてもトランクの子孫は親近相姦の成れの果てなので、いずれは外に放すことも彼らと約束している。因みにコミュニケーションツールはやはりネイキッドたちシリンドミッションである。

 

コール、ライナーは以前にゼノが「トランクの中の賑やかしに」といってオークションで売られていたので保護するために従者に買わせたものだ。一応隷属扱いではあるが、そのような縛りはないに等しく、トランクの中では四足獣の纏め役のような立場にいる。

コールは普通のヒッポグリフの雌なのだが、ライナーはヒッポグリフとグリフォンのハーフという希少種にも等しい。因みにライナーは雄である。

雑学程度にヒッポグリフとグリフォンの違いを解説しておくと、グリフォンが「鷲の頭と翼を持ちライオンの胴体をもつ獣」で、ヒッポグリフは「グリフォンと馬を交配させた動物」である。結果として突然変異なのか馬とロバの交配種であるラバのように「鷲の頭と翼と鉤爪を持ち、馬の屈強な脚をもつ獣」というありえないものへと進化した。

現在でも交配成功例はライナー以外におらず、どこからかディマイント家が保有しているという情報をリークした金持ちが金をつぎ込もうとしているが、さすがに薮蛇と分かっているからか直接的に手を出そうとしている輩は少ない。それでも現在魔法界でディマイント家以上の財力を有している方が少ないのだが。

 

ナリフォーレは二年前、すなわちホグワーツに入学する少し前にトランクの中に入った新参者のズーウーである。中国旅行の際、やはりサーカスの一員として虐待にも等しい状態で飼われていたのでディマイント家が買収、レィルに預けたのだ。

未だ人間に臆病なのは変わらないが、激昂すればありとあらゆるものを駆逐する生きる兵器と呼ばれる攻撃力は健在である。が、一応言うことは聞くのでそういうことは滅多にない。

 

フリーヤは絶滅危惧種サンダーバードの生き残りであり、さらにこの個体は昔、ニュート・スキャマンダーが保護した個体の子孫に当たると言われている。幻の生物とその生息地であとがきの方にちょこっと書かれていたが、ニュート・スキャマンダーが「なお、私が保護し、とある一件でアリゾナに帰ることになったサンダーバードのフランクの子孫は私の盟友であるヘルミオネ・クローターに保護されている」とあり、フリーヤはその子孫、という説はあながち本当であると言えるだろう。

 

最後にでてきたリディだが、ニューレル・ユニコーンという世にも珍しい「雄が白の体毛」を持ち、「雌が黒の体毛」を持つユニコーンだ。そして特徴的なのが、激昴すると雄は赤の、雌は金のラインが背中に走る。

前年度、スネイプに「ユニコーンの血を提供してくれ」と言われた時に提供したのがリディの血である。そして、ヘルミオネの正体をダンブルドアに明かした時に言った「読心術をしかけてくる動物」というのも彼らである。

ユニコーンといえば基本的に処女にしか心を許さないことで有名だが、ニューレル・ユニコーンは比喩表現なしに心を読み、心が綺麗であると判断した者だけに懐く。結果としてレィルとヘルミオネに懐いたわけだ。

そしてこれは文献にも載らず、レィルでさえわかっていない事だが、ニューレル・ユニコーンは「永遠に愛する者」がいるならば、真なる忠誠を主人に与える。だからヘルミオネもレィルも、普通以上に懐かれているのである。

リディはそんなニューレル・ユニコーンであるが、他の個体よりも些か激高しやすく、よく背中にラインが走っている。仲間思いといえば聞こえはいいが、それで約一名を殺しかけたことがあるので、その戦闘能力は確かにユニコーンなのだ。

 

彼らは悠々自適に久しぶりの生の自然というものを堪能している。それと同時に、レィルは後ろの少女へと振り返った。

 

「これでいいか?ルーナ」

「うん。大満足」

 

プラチナブロンドのボサボサの髪を揺らしながら、目をキラキラと輝かせながら少女は頷いた。

 

ルーナ・ラブグッド。スネイプに禁じられた森へ行くことを告げる時に偶然にも会ってしまった今年入学した1年生で、何やら魔法動物に興味があるということらしく、スネイプに同伴を任せられたので一緒に来たのだ。

初め会ったときもどこかふわふわしていたが、リディに懐かれるぐらいには心は綺麗らしいので、一応の警戒心は残しているものの触らせるぐらいならばどうとでも、というぐらいには触れ合いを許可している。

今でもノノやリディといった雌個体に囲まれながら、先天性的な読心術を使えるのか、はたまた噂で聞いた「空想的発言」というやつなのか、それでも彼女らと話が出来ているというのは、一種の才能なのだろう。雄個体組は、羽を休ませたり、妻を見守ったりと各々がしたい事をやっている。

 

レィルはそれを目尻に、トランクをもう一度開けた。ルーナがこちらに気がついたが、それを無視して杖を取りだした。

 

「……プロテゴ・トラタム(万全の守りよ)インペディメンタ(妨害せよ)カーべ・イミニカム(敵を警戒せよ)サルビオ・ヘクシア(呪いを避けよ)

 

守護系の、何かバレてはいけないようなものがあるように、一帯に結界を張るレィル。十分だと判断したのか、レィルはトランクから一人の少女を引き上げた。

 

「……景色は悪いけど、ごめんね……君が望んだ外だよ、リル」

 

前と同じように、やはりシャボン玉のようなものに包まれたままだが、それでも彼女を外に出す。これが今年中の目標だった。

 

リベット・ガードナー。

 

ある事情で、絶対に壊れない泡沫から出ることの叶わない悲劇の少女。定期的に、有り体にいえば月に二日ほど様子をレィル達が見に行っている。

今回、カム達を外に出す、というのは仮の目的で、一番外に出したかったのは彼女なのだ。

 

「……これが……」

「どうかな?お気に召した?」

「うん。ありがとう、レィル」

 

リベットはシャボンから出ずに、レィルに抱擁した。因みにこのシャボンは割れこそしないが、特定の人間が近づくと中に入るようになっている。

ルーナがは特別な事情があるのかと幼いながら理解し、ノノの毛皮に包まれていた。ノノも子供のように扱っているのか、ルーナに割りと好意的である。

 

その後、ルーナは動物達と共に自然を満喫し、レィルはリベットと心行くまで一緒にいた。

 

・・・

 

「でもすごいね、ズーウーなんて初めて見たよ」

「まぁ、その年で見ている方が少ないとは思うけど」

 

リベット達をトランクに戻し、ホグワーツに戻る途中、レィルとルーナは普通に談笑していた。空想的な発言も、裏を返せば「自分のやりたいようにやっている」だけなので、今のところ自由とは縁遠いところにいる(・・・・・・・・・・・・・)レィルからすれば羨ましいものであった。

 

「基本、魔法動物を目にする機会というのは人の死を見ることよりも低頻度。だから、本当はこんないきものなんだよ、って世界に伝えると同時に、虐待や隷属化しているような動物達の解放を目標としている。まあ、ようするに正しい知識を身に付けましょう、ってことなんだけど」

「いいことじゃないかな。偽善の押し付けでもないし」

 

まっすぐとしたことを言ったつもりだったが、やはりこの不思議少女には解釈のしかたが違うようで。それを問おうとしたときに、前から知り合いが歩いてきた。

 

「およ~?レィルー。やっほー」

「こんにちはメズール」

「飴ないかなー?切らしちゃってー」

「僕が持っているはずないだろう?無限飴玉はどうしたのさ」

「飲み込んじゃったー」

 

あいかわらずなのほほんとした、されど取っつきにくいようなしゃべり方をするメズール(友人)にレィルは思わずため息を吐きかけたが、隣にいる少女に紹介をすることを忘れていた。しかしやはり天然というのは行動が読めず、メズールは既にルーナの前まで瞬間移動していた。

 

「おー?可愛い娘だねー。一年生かなー、お名前はー?」

「初めまして、ルーナ・ラブグット。ルーナでいいよ」

「ルーちゃんかー、私はメズール・キラグリードだよー、よろしくねー。それとレィルー?浮気は良くないよー?」

「何でそうなるのさ。彼女とは今日初めてあったばかりだよ」

 

自己紹介をしていたはずなのに、なぜか浮気を疑われげんなりするレィル。一応弁明しておくが、レィルの行動するに当たる脳内ヒエラルキーの最上位はヘルミオネで不動なので、彼に浮気を疑っても仕方がない。

だというのに平然と浮気を疑ってくるあたり、流石は同年代一のつかみにくさである。しかしそんなメズールも、天然同士繋がるところがあるのかルーナと意気投合していた。

 

彼女らはそのまま話ながらどこかへ行ったので、レィルはやるせない気持ちになりながら部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、その日の生気の吸引は、いつもよりも少し多目であったことをここに記載する。

 

 




ども、自分を大切にする方法、antiqueです。チップスターウマウマ。

先週中間テストとかいう意味不明なものがあったので少しばかり短めになってしまいました。ご了承ください。
前章「畏怖の象徴」につづき、動物登場回です。やったぜ。

ノノ、カムの種族名からわかる通り、彼らの出展はモンスターハンターフロンティアよりカム・オルガロン、ノノ・オルガロンです。見た目もまんまとお考えください。
ヒッポグリフと銘打つものの、その片方は変異種というオリジナル。名前は勘なので特に深い意味はありません。
で、ズーウーのナリフォーレ。ファンタビで出ていたあの猫ですね。
サンダーバードはこういう設定があった方が外伝で絡ませやすいかなと思いこうしました。名前はフランクをちょいともじりました。

で、この回で一番出したかったリディ。一応雌個体であり、勿論雄個体もいます。
ご唱和ください、ユニコォォォォォォォーンッッッッッッッ!!!

では、次の話で会いましょう、サラダバー。






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いっそ清々しいまでに

 

 

 

レィル達は、突如としてフィリップに呼び出された。

 

とは言えども、やはり集合場所はトランクの中。ので、授業終わりに食事にも出ずにレィルの部屋へと向かうように指示された。

一応このことは先にアリーに言っていたようで、レィルがアリーへと伝えると「まだ聞いてなかったのか?」と少しだけ驚かれていた。いつ聞いたかと問えば「一昨日のチェス勝負の時」だそうだ。

詳しい話なんて誰も聞かされていない。とりあえず集まったのはアリシアとメズール、ドラコ、ダフネ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、集まってくれて感謝する」

 

まず初めにフィリップがそう切り出すと同時に頭を下げた。レィル達は早く本題に入って欲しいので何も言わない、のだが。

 

「えっと……フィリップさん、なんで私まで……?」

 

また面倒事のたぐいか、それともこのメンツでなければ出来ないことなのか、まだ詳細を話されていないために定かではないが、それでも何故か一年生のジネブラがここにいるのはやはり何かを疑う他ない。アリシアとメズールを見ればうんうんと頷いており、ダフネに関しては溜息をつきながらフィリップに目を向け、ドラコは裏切り者の血と同じ空間にいるのが少しばかり気に入らないようだ。

頭を上げたフィリップはひとつ頷き、杖を取りだした。

 

「マルフォイとジニーには言っていなかったが、僕にはひとつ特異体質がある。魔力を目で確認す()ることが出来る」

「魔力を目で?どういうことだ?」

「厳密には、戦闘用呪文、すなわち武装解除のような対象が生物であったり、もしくは当たれば直ぐに効果が発揮される粉々呪文のようなものを除き、人の魔力を色、形、大きさから判断することが出来る。網膜が少々特殊なようで、僕はそれを見ることが出来る」

 

フィリップはひとまずソーサーに認識阻害呪文をかけ、一緒に持ってきていた紙にインクを少量垂らして杖を振るった。紙には青の羊のペンタグラムが描かれた。

 

「これが認識阻害呪文の形だ。こんなふうに魔力が見えはするが、色に関してはどこまで効き目があるかで、青が最高ランク、最低ランクは赤だ」

「マグルのサーモグラフィーを逆にした感じなんですね」

「サーモグラフィー……?」

「あ、マグルの技術で、温度を測る事ができる機械、だそうです。お父さんがこの前珍しいものを見た、とはしゃいでいたので」

「ウィーズリー……本当に聖二十八一族から除外するか」

「ドラコ、その言葉はせめて次代になるまで取っておきなさい。こちらも魔法省から「マグルとの隔壁的存在のはずなのに大きな穴を空けられている」と難癖つけられてるのだから」

「申し訳ございません、アリシア様」

 

さも平然としてウィーズリーへの悪態を零すドラコを宥めるアリシア。自分の父親がそんな評価を受けていることに驚きつつ、やはり「父がすいません」と謝っているあたり、ジネブラは出来た子なのだろう。

フィリップはその様子を見つつ、紙に書かれたインクの色を青から黒にもどし、紙から抜き取った。結果的に羊皮紙には何も書かれていなかったことになる。

自分と遜色のないレベルの魔法使いと思っていたレィルだが、どんな訓練をすればここまでの技術を得られるかも疑問に思った。レィルはトランクの中という外から絶対にバレない場所があるが、フィリップの場合はそうではないだろうし、何より聖二十八一族総督家というアリシアが近場にいるせいで人目もあっただろうに、自分と同じ領域に立っているフィリップに少なからず驚いていた。

 

「で、なんだが、それでもやはり確認していない模様もあったりする。最近新しく確認したのは不死鳥変異種のレイヴェルの透明な逆三角」

「透明?どういう……」

「いや、それはどうだっていい。ともかく、そういったものを見れるということだけを認識して欲しい。で、最新は……」

 

言葉を紡がず、フィリップは杖をジネブラに向けた。

 

「君だ。ジネブラ・ウィーズリー」

「……えっ?」

「薄緑色だからこそまだ本質を保てているが、分からないのはその形だ」

 

再び杖を振り、今度は羊皮紙にはインクをこぼさず、宙にその形を書いた。その形を見て、数人が、首を傾げた。

 

「……フィリップ、これは?」

「僕がみた形だ。お生憎様、この正体を僕は知らない」

「三角形に真ん中で割られた線、で三角形の辺全てに当たる円?」

 

不可思議な模様に反応を示したのは聖二十八一族の純血代表とも言える三人。フィリップもそれがわかっているからなのか、アリシアの方に目を向け、彼女もそれに頷いた。

 

「……これは、死の秘宝よ」

「死の秘宝……?」

「三人の魔法使いが死から逃れるために死から与えられた三種の用具。1つは、現在校長先生が所持しているニワトコの杖」

「1つは、忌々しいポッターが持っているとヘルミオネが言っていたな。透明マント」

「1つは、今はどこにあるか分からない、蘇りの石」

「真ん中の線が杖、丸が石、三角がマントよ」

 

解説をいれる三人に、納得のいく表情をしたようなレィルとフィリップ、ヘルミオネ。ジネブラだけはまだ状況が掴めていないのか、少しだけ困惑している。

 

「そんな……その、死の秘宝が形として現れるのは……?」

「残念ながらそこまでは分からない。ただ、色つきであるという点を考えれば何らかの形でジニーを蝕んでいる可能性が高い」

「っ!?でも、どうやって?」

「まだ被害が出ていないところから見れば、精神干渉系、恐らくゆっくりと効果が現れるのだろう」

 

まさか自分がそんなことになっているとは露ほども思わなかったジネブラは多少なりともショックだったのか、少しだけその体をふらつかせた。倒れそうなところをダフネに支えられ、ベッドへと腰をかけた。

 

「どうするのフィリップ?」

「勿論原因を破壊する。とはいえども、問題はどこにあるか、なのだが、やはりジニーの所有物の可能性が高い、そこでだ」

 

フィリップはアリシアの問いに頷きながら、ジニーの前に膝をついた。

 

「君の所有物に気が付かないうちに混ざっていた(・・・・・・)もの(・・)はないか?」

「……一つだけ。あの、マルフォイのお父さんとうちのお父さんとのゴタゴタの後、気づいたら鍋の中に入っていた本が」

「決まりね。というかドラコ、あんたその時何してたの?」

「2階で本を漁っていた」

「……ほんとアリシア様以外になるとどうでも良くなるのね。知ってる?あんたって「女になるとツンデレっぽくなりそうなのにデレることもなければツンすらなくなりそう」って言われてるのよ」

「何だそれは?侮辱なのか?」

「さぁ?ハッフルパフの子に又聞きしただけだから意味は知らないもの」

 

恐らくハーマイオニー、またはマグル界、魔法界ともにある程度の知識があるメズールなんかがいれば吹き出していただろうが、残念ながらここにはレィル(ヘルミオネと魔法動物)ヘルミオネ(レィル)アリシア(箱入り娘)ジネブラ(フィリップ)などというその手の趣味がわからないものだらけなのでスルーするしかない。勿論フィリップは意味を知っているのだが、こんな状況でツッコミを入れられるほどシリアスブレイカーではなかった。

ひとまずその対処は後日に回すとして、ジネブラの「気づかないうちに呪われている」というショックから解放させるため、1度解散させた。行動するのは、一週間後。

 

 

・・・・・

 

 

一週間後、の前に、フィリップはジネブラに頼んで呪いをかける本らしきものを借りていた。見た限りはただの日記帳だが、古びているが上質な革本であり、トム・マールヴォロ・リドルという文字も刻まれている。

ただ、問題が一つだけ存在する。もちろんそれはジネブラの呪い関連の話である。

 

実は、あの時フィリップは2つほど嘘をついた(・・・・・)

 

三角形に丸と垂直二等分線。それが死の秘宝を表すものであるということは勿論知らないわけがない。と言うよりも、そもそも世界の知識全てと接続できるフィリップが知っていないはずがない。

では何に嘘をついた、と聞かれれば、ジネブラに着いていた魔法の形である。そう、本当は三角に内円、垂直二等分線ではない。

 

骸骨ととぐろを巻いた蛇(・・・・・・・・・・・)

 

それに気がついたフィリップは、ひとまず事情を説明するべくとして、皆が集まる前に基礎知識が必要だと思い地球の本棚に接続。「骸骨」「蛇」「魔法」と3つのキーワードから検索をかけ、その意味を知った。

 

モースモードル(闇の印を)

 

かつてハリー・ポッターがヴォルデモートを打倒する以前より、ヴォルデモートのシンパが使用していた呪文である。空に打上げることにより、骸骨ととぐろを巻いた蛇を雲に浮かび上がらせ、死喰い人の出現の証となっていた。

これにより、フィリップは今回の事件の騒動から確実にルシウス・マルフォイが死喰い人であり、この呪いをかけてきたものが死喰い人、もしくはヴォルデモート自信が起こしたものであると狙いをつけた。というよりも、犯人はヴォルデモートで確定であるとフィリップは思う。

 

何故ならば、トム(T o m)マールヴォロ(M a r v o l o)リドル(R i d d l e)の文字を入れ替えれば「私がヴォルデモート卿だ(I am Lord Voldemort)」となるからだ。

 

だからこそ、前準備が必要であった。フィリップは日記帳を適当に開き、羽根ペンにインクを通して文字を書いた。

 

「こんにちは、リドル」

 

たった二単語。その小さな英文はたちまち日記に吸い込まれてゆき、新たに先程の答えとなるような文が帰ってきた。

 

「こんにちは。僕はトム・リドルです。あなたの名前をお聞かせ願っても?」

 

フィリップはこれで確信した。この日記はトム・リドルである。

日記からそう帰ってきたことが問題なのではない。こちらの名前を聞いてきたのが日記帳をトム・リドルと決定づけた理由だ。

別に会話をするだけなら互いの名前は必要ない。だが、わざわざ情報を引き出すかのように名前を聞いてきた。

温和な雰囲気を出しつつ返事をすれば、それ相応の返事を返す。これがそう設計されたにしては、そんな魔力反応がない。

その上、形は一つだけ。無駄に高性能ならばそれ相応の数が現れるし、認識阻害呪文でさえ見えるフィリップの目は、欺けない。

 

故に、これはヴォルデモートである。

 

「……」

 

フィリップは一人思考する。この日記帳を破壊できるかどうか。

確かにレィル達には「当然破壊する」と告げた。だがそれは最終目標であって、現在それができるとは限らない。

そも、これがヴォルデモートとわかっただけであって、結局のところ日記帳が実際なんなのか、ということはわからない上、仮にそれが判明したところでその破壊方法も思いついていない。大前提として普通の魔法は聞かないであろう。

だからこそ、早急にこれに対しての実態の判明と破壊方法を模索しなければならない。

 

フィリップは地球の本棚に接続し、一度全てを検索した。




ちょっとしたデータが入らなくてなんでこんなシステムが私の代に入ったのだろう、と絶望してるantiqueです。お値段はシグマkは8から10までの6です。

ちょいと難産でした。次はお辞儀滅亡か……な?
感想の方でステフの登場によってお辞儀滅亡が早まるか、と予想していた方がいらっしゃったのですが、そりゃ取り合われる仲ですもん。助けますよ。

自分の身内と判断したもの以外には意外と無関心なフィリップの欠点として、身内には徹底的に甘やかすのです。レィルも同じような欠点を持っているので、同族嫌悪なんてものもなく、いいタッグでいられるのです。
ので、フィリップにはジニーを助けていただきましょう。それと同時にフラグも……へへへ()

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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思いは遠く

 

 

レィルは一度、フィリップが謎の日記を調べて1日後(・・・)に「必ず殺せるものを探してくれ」と頼まれた。その意図は押して図ることは出来なかったが、彼の言うことなら、と二つ返事でひきうけた。

 

必ず殺せるもので真っ先にレィルが思い浮かべたのは必殺魔法で、必殺魔法とは読んで字のごとく、人を殺せる魔法である。いちばん知られているのは、闇の魔術の禁忌中の禁忌である「アバダ・ケタブラ」だろう。

だが、それにももちろん制約というものが存在する。この世には許されざる呪文というものがあり、服従、磔、そして死の三つをどれかひとつでも人に対して使用すると問答無用でアズカバン行きとなる。

ので、今回この死の呪文は使えない。だから探す必要があったのだ。

 

次に思いついたのは、バジリスクの毒。つまりレフィアから毒を拝借するのだ。

といっても、バジリスクの毒は少し前に既に取得している。ちなみに取り出し方は20ミリφの試験管を牙の先端に宛てがい、試験官の口が牙でつまらないように隙間を開けて牙から伝ってくる毒液を回収する。

バジリスクを捕獲したことはダンブルドアには極秘に去年お世話になったフロー・ベアリングに伝えており、研究のため月一ペースで毒を回収している。ので、その余剰分は普通に余っているのだ。

これを使えるか、と思うが相手は無機物であり、毒が回るかどうかも不明である。よってこれは保留案となる。

 

予め断っておけば、(レィル)は何も全知全能ではない。

 

彼にだってしらないことやできないことがある。今回の「法律に引っ掛からない何かの殺し方」だって知らないし、一応(・・)人並みの魔力しか持たないレィルには魔法だけであの日記帳を壊すなんて芸当はできない。

少しばかり他の人よりヘルミオネやゼノ、トランクの住人たちのような家族にたいして情が働くだけで、その他は落ち着いているだけの年相応の優秀な少年なのだ。本当の全知とはフィリップのことを言い、本当の全能とはゼノのことを言う。

年相応のレィルは当然ながら困ったときは大人に頼ればいいということを知っている。だが、ここで問題となってくるのは人選である。

 

校長であるダンブルドアはレィルが個人的にもあまり良い印象を持っておらず、なおかつヘルミオネ()が毛嫌いしているので却下。副校長で基本的に全寮に対し公正を謳っていながら本当はグリフィンドールに甘いと定評がつきつつあるマクゴナガルもこんなことをしていると知られれば絶対に探りを入れてくるだろう。

金切り声で有名なフリットウィックも普段は弱く見られがちだが、以前校長室で相対したときにわかったがかなりの実力者である。ので、こちらも自ずとダンブルドアの方に報告が入るだろう。

ステファニー(母親)は論外、用務員のアーガス・フィルチも風の噂で聞いた程度だがスクイブと聞いた。スプラウトはダンブルドアに寄っているきらいがあるのでこれも論外。

 

となってくると、消去法で残るのはたった一人である。

 

・・・・・

 

「……で、我輩の元に来たわけか」

「はい。なにかありませんか?」

 

スネイプは、目の前の少年に少しばかり頭を悩ませた。本人に迷惑はされていないのだが、その母親が面倒なのだ。

 

過保護とは言わないまでも、結構の割合で口を開けば「レィル」の言葉が出てくるステファニーは、度々スネイプの部屋を訪れていた。神秘部でありながら子持ちであるステファニーの忙しさは、個人的な用事で魔法省によく行っていたスネイプも理解している。

が、だからといってバーボン片手に既に酔っぱらって「せんぱ~い」とわずかに赤みがかった顔で寄られるのはうざくもなってくる。最近は回数も多くなってきているので、どうしたものかと悩んでいた。

 

そんな矢先に「死の呪文と悪霊の火以外で直ぐに対象を殺せる魔法はありますか?」とどストレートに聞いてきたのだ。スネイプの頭痛は加速することとなる。

が、適当にあしらうのも面倒である、と忌々しき男(・・・・・)最愛の女性(・・・・・)との間に生まれた護衛対象を頭にちらつかせて、思考してみた。だが、やはり思い付くのは、ただ一つ。

 

スネイプは目の前の少年を、わからないほど一瞬だけ真剣に一瞥した。ダンブルドアから「彼に並みの開心術は効かない」と報告を受けているので、その目に曇りがあるかだけの確認だ。

 

「……夏休みのレポートにあった生ける屍の水薬をこえる睡眠薬のダイバーダウンとやらを瓶詰めで三本無償で提供したまえ。それで教えてやろう」

「ありがとうございます!」

 

結果、スネイプは教えることにした。作ってからほとんど使っていないオリジナル(・・・・・)を。

 

「これから貴様に教えるのは確かに法に引っかかることは無い、だが使い方を間違えたなら直ぐに投獄されるだろう魔法である。くれぐれも、間違いは冒してくれるな」

「分かってます」

 

スネイプはレィルのことを見ることなく、杖を振って蛇を出す。クロエたちのような特別なものではなく、単なる蛇である。

杖が微かに震え、スネイプは僅かに力を弛めて震えを抑えた。

 

「……セクタムセンプラ(切り裂け)

 

無色半透明の魔法が蛇を襲う。すぐに効果は出なかったが、見るとじわじわと赤い池(・・・)が発生していた。

蛇をもう一度見ると、至る所にナイフで裂かれたような傷が発生していた。さすがに目や口中などのところにはないが、しかし全身にわたって傷跡は出来ていて、むしろだんだんと大きくなっている。

 

「……これならば、対象を確実に殺せるだろう。ヴィペラ・イヴァネスカ(蛇よ、消えよ)

 

苦しむことなく横たわり、赤い池の生成機となっていた蛇を魔法で消したスネイプ。レィルはありがとうございます、とだけ言って直ぐに部屋を出ていった。

その様子に問いたいことがあった(・・・・・・・・・・)スネイプだが、その質問を喉奥に引っ込めて、座り心地の良いソファーにいつの間にか置かれていたダイバーダウンの使用法をチラ見し、コップ一杯の水に大さじ一ほど入れて飲み干し、瓶を机の方に移動してソファーに寝そべった。結果先送り。

 

詰まるところ、スネイプは考えることをやめた。

 

・・・・・

 

スネイプは昔、虐められっ子だった。

 

理由は単純、いかにも(・・・・)な性格と、スリザリンであること、そのうえ闇の魔術に対する興味があったこと。まぁ誰に虐められていたかはともかくとして、とにかく彼は虐められていた。

学校側が黙認するので耐え続けるしかなく、ついぞ入学より始まった虐めは卒業までずっと続いたのだ。最愛の人さえ奪われて、彼の心はあれに荒れていただろう。

だが、彼にだけ隔たりなく接する女性が、1人だけいた。というよりも、その特異性より誰からも注目を浴びていたのだが。

学生期間に入れば、何かしらのコミュニティにはいるのが子供たちのセオリーだ。趣味が合うから、似ているから、理由はともあれ、そういったグループはそこかしこと存在する。

ホグワーツは四つの寮に別れているだけに、そういったコミュニティはほかの普通の学校よりも断然出来やすかった。そこで、先程述べた特異性のある者(イレギュラー)が登場する。

 

ただひとつのコミュニティに存在するでもなく、コミュニティを点在するでもなく、事実上のオールラウンダー的な存在で、その優しい性格やクディッチの上手さ、学才も相まって、先輩や同輩、後輩、教師や用務員にまで好かれていた。そのうえ何故かいわゆるアンチなる存在がいなかったせいで、「何かあれば彼女に頼れ」と言われるまでの存在に登り詰めた。

 

ハッフルパフにいた、ステファニー・クローターである。

 

ハッフルパフでありながらレイブンクローの学力トップランカーと肩を並べるほどの知識を持ち、ハッフルパフ特有の気前の良さや親しみやすさがあり、かと思えばスリザリンのように気品ある仕草や礼儀を持ち合わせ、グリフィンドールのような勇気もある。どこの寮に行ってもおかしくないほどの人材で実際彼女も「自分で選ばせてもらった」と証言している。

 

優秀。それが彼女を形容するに値する言葉である。

 

故にこそ、彼女はスネイプにも気にかけた。先生から言われたから、という大義名分もなく、ただたんに気にかけたのだ。

スネイプにとって、第一印象は「人気者が日陰者に何の用だ」とでも皮肉ってやるつもりだった。だが拍子抜けしてしまった。

 

「闇の魔術が得意な先輩って貴方ですか?」

「……そうだが」

 

「ちょいと分からないところがありまして。出来れば御教授願いたくてですね」

「……それはひょっとしてギャグで言っているのか?なら断る」

「いえいえ、本気ですよ」

 

 

「真価をわからない人と延々といがみ合っているよりは、その道への理解がある人と語らう方が有意義でしょう?」

 

 

スネイプはその日初めて、自分の努力が報われた気がした。

 

・・・・・

 

嫌な夢を見た(・・・・・・)

 

スネイプは起床し1番にそう零した。紛れもなく、覚えている中で二番目ぐらいに嫌な記憶と問われれば真っ先に「あのバカと出会ったこと」と答えるほどに、あの第1接近は嫌なことにカウントされる。

それほどまでに、彼女は関わってはならない人間だったのだ。スネイプは学生時代の記憶を、あの事と彼女に出会ったことだけをやたらと濃く覚えている。

いつの日か、水をワインに変えつつ、その杯を装飾するというほかの人からしてみれば芸当とも言える魔術をワイングラスにかけながら、彼女は一人で語っていた。

 

「別に誰にも隔たりなく、当たり障りなく接してるつもりは無いんですよ。その気になれば全員平等に愛せますし、全員平等に見下せて、全員平等に眼中から外せる。けれど、その中でもあなたは、数少ない波長の合う友人(・・)で先輩なんです。だから構うんですよ、あなたに」

 

そんな俗な人間だと、自らを語る少女は言った。そんな付き合いをして十数年。

おそらく今日も来るだろう。そう思い、スネイプは朦朧とする頭を起こそうとした。

 

 

 

 

「ソファーで溺れたように眠るなんて、らしくないですね、先輩」

 

 

 

 

そうして、自分を上から覗き込むようにする目線に、今やっと気づいた。

 

「……何をしている」

「何って、膝枕ですが」

 

いつも通り、バーボン片手にほんのり頬を赤らめてやってくる後輩はスネイプに膝枕をしていた。スネイプは何も感じないように起き上がり、机の上に置きっぱなしだったダイバーダウンを片付けた。

 

「疲労に気づかないほど熱中するなんて、あの魔法を開発する時以来ですねぇ……なにか悩み事でも?」

「強いて言えば貴様のせいで近頃寝不足だと言う以外は、何も無いがな」

「あはは……まぁまぁ、後輩のおちゃめな相談と思って聞いてくれるじゃないですか。一応あのお酒って、リスクの大半を消した生ける屍の水薬入ってるんですよ?」

「ふん。貴様の息子の方が、優秀だったな」

「へあ?どういうことですか」

 

ステファニーはソファーから立ち上がり、ソファー以上に座り心地の良い一人用の椅子に座ったスネイプに机を挟むようにして立った。

 

「レィル・クローターが調合した、生ける屍の水薬以上に直ぐに眠ることが出来、なおかつリスクのない睡眠薬を夏休みに作れと言えば、ダイバーダウンと名付けて提出してきた」

「なぁっ!?羨ましいですよ先輩!なに母親の私でも手に入れられないようなもん貰ってるんですか!?」

「知らん」

「知らんって!?まさかとは思いますが、結構な量貰ってるんじゃないでしょうね!?」

「瓶詰めで三本ほどだ」

「十分じゃないですか!?」

 

その後も、喚くステファニーの尋問は続いた。しかし、ステファニーは気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く!先輩はいつもいつもいつも!」

「うるさいぞクラウ」

 

スネイプがステファニーを呼ぶ時、呼び名が学生時代に戻っていることを。

 

 




大学見学のバスの中で残りを書きあげました、antiqueです。(大学なんて)興味ないね。

いや、難産でした。本当に。いやマジで。
本当はアリスの話をしようとしてたんですが、繋げ方がちょっと強引だったのでスネイプの過去話にチェンジしました。次はちゃんとアリスの話です。

感想欄でも言われてました分霊箱の壊し方。ちょいと選択肢ですが、ちゃんと壊れるようにはするのでご安心を。

ステフはハッフルパフであり、ジェームズよりもぶっちぎりで優秀です。なんなら決闘で完封してしまうほどに。
で、現在の絡み。運が良ければ……なんてこともあるでしょうね。

では次の話で会いましょう、サラダバー






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王の素質

 

 

 

 

 

「決闘クラブ?」

 

朝食を食べていたレィル、ヘルミオネの所にパドマ・パチルとマイケル・コーナーが相席し、決闘クラブなるものの存在を明かした。ここ最近部屋にこもりっきりだったレィル達にとって知らないも同然の情報だった。

 

「そうそう。己の全てをぶつけて誰かと戦う機会なんてないから」

「我らが大先生の実力はどんなものなのかなって思ってな」

 

パドマとマイケルがこんなことを言うのも無理はない。レィル、ヘルミオネ、フィリップの三人はレイブンクローではもはや欠かせない存在となっている。

というよりも、いくつかの反乱分子を除き、レイブンクローだけではなく全ての寮の先生という認識になっている。類まれなる知識量や、それを補う実力も去ることながら、「来る者拒まず去るもの追わず」というスタンスを基本的にとっているせいかフレンドリーに当たりやすい、という点でも彼らは人気がある。

また、最も決定的に全寮からの信頼を置いているのはティファール(聖二十八一族総督家)マルフォイ(魔法省の忠臣)からの信用と、研究結果の事実性だ。魔法省にも提出している彼の研究結果、最たるものは脱狼薬改という、一度飲めば一ヶ月は人狼にならず、無味無臭という今までの脱狼薬とは比べ物にならないほどの薬を開発したのだ。

それに加えて、ディマイント家との深い繋がりがある。はっきりいってしまえば、現在ホグワーツには彼以上の人材は存在しない。

 

となると、気になってくるのが実力である。とはいえども、あの光景(ロナルドの失態)をパドマ達は見ているので、決闘を行うとなれば無言呪文が大前提となることはもちろん分かっている。

それを差し引いても、パドマはレィルの実力を知りたいのだ。

 

「どうする?ヘルミオネ」

「面白い、とは思う」

「来てみたら?みんな知恵を絞って、どうやって相手を出し抜くかって考え抜いてるの」

「それでも僕は君に勝ったことはないんだけどね、パドマ……」

 

肩を竦めながらマイケルがパドマを見る。パドマは少しだけ得意げに「ふふん」とわざとらしく言いながら腰に手を当てた。

 

「で、どうする?レィル」

「行ってみようと思う。そういえば、これ誰がやってるの?」

 

レィルは、何気なく問うたことを後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ステファニー先生だけど」

 

───突如として興味を失った。

 

・・・・・

 

失った……のだが。

 

「アリス、一つだけ質問をさせてくれ」

「一度だけね?それ以上は2回しか付き合わないわよ」

 

「なぜ僕はここ(・・)にいるんだい?」

 

レィルの目の前には、ちょうどレイブンクローの先輩であるペネロペ・クリアウォーターとフィリップの親友だというハッフルパフのセドリック・ディゴリーがなかなか激しい戦いをくりひろげていた。ペネロペは全方向に薄く縦の呪文を使用し1度だけなら耐えられるようになっており、それに対抗するかのように大人でもなかなかできないような一度に二度同じ魔法を使用する二連射(デュアル・ブースト)という技術を使用していた。

 

そう、パドマが言っていた、ステファニー主催の決闘クラブである。

 

「最近ジニーのことで私たちが煮詰まりすぎだったから、たまには体を動かして頭の中をすっきりさせようと思って。迷惑だった」

「いつもならそんなことは言わないんだろうけど今回ばかりは迷惑かもしれないね。迷惑ついでにもう一度だけ質問させてくれ」

「さっきのを1回とカウントすればあとは無いわよ」

「構わないよ、これで終わるから」

 

アレら(・・・)潰していいかい?」

「やめときなさい、突っかかられるのがオチよ」

 

レィルのいうアレら(・・・)というのは先程から視界橋でこちらを睨んでいるロナルドと、目線はこちらに向かないながらも「愛してるオーラ」全開のステファニーである。後者は放置でも全然大丈夫だが、前者は驚異ではないが鬱陶しい、という感じだ。

別にレィルは自意識過剰や自己愛があるという訳では無いが、力の線引き、というものはできるぐらいには力を持っている。故にこそ、ロナルドの目線を放置しているのだ。

 

ペネロペとセドリックの決闘が両者大奮闘の上での引き分けにより観客が大いに沸き上がり、ステファニーがくじを引いた。

 

「えーと、8番と42番!」

 

壇上に上がったのは先程こちらを睨んでいたロナルドと、いつの間に来ていたのか、ダフネだった。

 

「構えて」

 

何も気にしないようにしているステファニーが審判を務めている。ダフネは半眼になりながらロナルドに聞いた。

 

「……アリシア様の方睨んでたけど、なんかあんの?」

「ッ、君には関係ないだろう……」

 

(ダメね。周り(・・)が見えていない)

 

ダフネとロナルドが正面から立ち会い、杖を構えた。取るに足らない相手を見る目をされたことにより、ロナルドは歯を食いしばった。

一応彼も、努力はしているのだ。かつて完璧に伸されたフィリップを見返すために、兄たちの手まで借りて、一矢報いようと努力してきたのだ。

 

「3、2、1!」

 

だからこそ、この結果は予想外だった。

 

「っ!?かはっ!」

 

メキメキ、という鈍い音と、その直後に聞こえた壁を貫いた(・・・)ドゴォンッ!、という大きな音により、皆の目線は全てそちらに向かった。

 

「……決闘っていうのはね、始まる前から勝負は始まっていて、勝負が決まっているものなのよ」

 

ダフネは杖をホルスターにしまい込みながら、決闘台からおりた。その目はどこまでも先を見据えている目で、その瞳にロナルドは映っていないし、現状映る権利もない。

 

「だからこそ効くのよ。どんな魔法で来るのかって警戒しながら行う決闘において、速度上昇(ヘイスト)をかけた生身によるClose quarter combat(近接格闘術)ってのはね」

 

そう、あの一瞬でダフネがしたことなんて単純も単純。無言呪文で速度上昇魔法を自信にかけ、体が壊れない程度ギリギリを狙って鳩尾(みぞおち)目掛けて拳を振り抜いた、ただそれだけである。

総督家の護衛をする以上、無手呪文を習得することが最終目標ではあるが、それでも杖がない状態であれば頼りになるのは自らの肢体のみ。故にこそ、ダフネは選択したのだ。

 

「競うな。持ち味を活かせ」

 

という、アガルタ・エンツォ・ハワード(フィリップの母親)の言葉を。

 

「女の子だから力がないと思った?お生憎様。私はずっと、アリシア様の護衛をドラコと共に任されられてるの」

 

ダフネの発する言葉は、何故かロナルドだけによく響いていた。周りが医務室へ、と叫ぶばかりなのだが、どうやっているのか、だんだんと離れていくはずのダフネの声がよく聞こえるのだ。

 

「貴方ごときが、私の前に立つんじゃないわ」

 

そう吐き捨てて、ダフネはレィル達の元へと向かった。

 

・・・・・

 

結局、ロナルドがハリーやグリフィンドール生に連れていかれて行く間にももちろん決闘は続いた。己の全てを出し合い、ぶつけるそれは、レィルの中で少しだけ何かを(とも)した。

 

「27番と84番!」

 

レィルが来てくれただけでなく、参加してくれたことで既に有頂天になりつつあるステファニーは息子が名前を書いた番号を高々と読み上げた。レィルはそれを聞いて、ため息ひとつ吐いた。

 

「呼ばれた、か」

「ま、頑張ってきなさい」

「声援なんて必要ないだろうけど、ね」

 

レィルが歩を進めると同時、ダフネとアリシアの声援ともならない応援が後ろから聞こえた。レィルはそれに手を挙げるだけで応え、壇上にたった。

目の前にいたのは、ドラコだった。

 

「……構えて」

 

「来なよドラコ。全力で」

「……もちろん。全身全霊を持って、君を下させてもらう!」

 

ドラコは半身になって杖をかまえ、レィルはフェンシングのプレイヤーのように構えた。唯ならぬ緊迫感が周囲を覆い包み、決闘場は誰も声が発せれなかった。

 

「3、2、1!」

 

この場の誰もがこの決闘に目を光らせていた。方や総督家護衛、方や誰もが誇る先生。

それらの第一手を見逃すまいと、ある者は血眼になろうかというほどに凝視する中、彼らが発するのは──

 

「「白き炎よ、我を空へと導きたまえ(Weiße Flamme, Bitte bring mich in den leer)!」」

 

一瞬、少なくともこの場にいる生徒ではわからない言語(ドイツ語)で放たれた魔法は、レィルとドラコの下半身を白く包み、彼らを宙へと導いた。唯一彼らが何を言ったか分かったのは、アリシア、ダフネ、そしてこの魔法を自分を認識できないほどに幼い頃に(息子)に教えたステファニーだった。

 

白炎飛行魔法、またの名を「白の飛翔」。

 

学生時代、スネイプがセクタムセンプラ(切り裂け)の開発に躍起になっていた頃に開発していた、死喰い人の黒の飛翔を参考にして作った魔法だ。白炎には盾の魔法一回分の防御性能があるということで、当時闇祓いに大変重宝された魔法である。

だが、もちろん使いづらい。「深海で泳ぎ、かつ空を鳥のように羽ばたく感覚」を習得しなければならないのであり、皆伝できたのは両手で足りるほど。

ダンブルドアでさえ使うことが出来なかったものを、二年生の子供が使うことが出来る。もちろん並大抵の努力をしている訳では無い。

 

レィルは、その意志故に。自らを見てくれなかった(ステファニー)よりも劣るなど、彼には耐えられなかった。

それ以上に、自分を見てくれた保護者(ゼノ)家族(ヘルミオネ達)と同じ世界を見るために、彼は努力し続けた。だからこそ、誰かから与えられたであろう暖かく(・・・)安心できた(・・・・・)感覚を覚えていたレィルは、この魔法を習得できたのだ。

 

ドラコは、その血筋故に。自らが守るべき存在である護衛対象(アリシア)ルシウスとナルシッサ(大切な両親)と、共に研鑽してきた(ダフネ)がいてくれたから。だからこそ、その力の全てを自らに注ぎ、この魔法を習得できたのだ。

 

理由は違えども、実力が違うとしても、今の彼らは間違いなく、目指すべき場所は同じだった。

 

両者の魔法の攻防は、日本のドラマの「殺陣」というものにどこか似ていて、しかしその表情は、もう少し進んでしまえば本当に殺し合いに発展するほどの凄みがあった。防いでは返し、避けては返し、それの繰り返しであった。

武装解除、失神、粉々に始まり、いつかフィリップが見せた剣製、時間差、曲射などなど、明らかに二年生で出来ないような芸当の数々を、それこそ自らができる全てをぶつけていた。

 

Ansuz(アンサズ)!」

 

幾分か、幾秒か、それがドラコが決闘開始後に白の飛翔を除き初めて発した言葉だった。炎が飛ばされたことにより、大半の人間はそれをインセンディオ(炎よ)と同系統の魔法だと勘違いしたが、一部の人間、それこそレィル達と少なからず面識のあるもの達はドラコの杖腕の逆(左腕)を見ていた。

 

「杖を使っていない?」

 

セドリックがそう呟いた時、数人は訳が分からなかった。いくら優秀になったドラコだからといっても、無手呪文を習得するまでには至っていないと思っているからだ。

しかし、確かに彼は無手呪文を習得していない。だが、そもそも杖を必要としない(・・・・・・・・)魔法は存在するのだ。

そこでペネロペは思い出した。かつて文献で見た、ケルトの英雄たちが使った言葉を。

 

「ルーン魔術…」

「え?」

「魔法ではない、杖を必要としない魔術」

 

ルーン魔術。それは、ルーン文字を使用する北欧由来の魔術である。

魔術と魔法の線引きは「科学的に再現が可能か否か」。構造的には魔術の方が簡単である。

だが、当然「無から有を作り出す魔法」よりかは威力が落ちるので、魔法使い同士の戦いでは牽制にしかならない。それはレィルに対して、と見ても当然だ。

なぜ、レィルにとって子供だましとしか見えない魔術を使ったのか。それほど切羽詰った状況なのか───否。

 

Kaz(カノ)

 

レィルはドラコが放った炎を、ルーン魔術で力をまとわせた拳で殴り散らした(・・・・・・)。ここまでくるともう誰も一周まわって驚かなくなってくる。

 

ドラコは、「全身全霊を持って」と言った。それ即ち、自信の持てる全てで(もっ)てレィルを下そうとしているのだ。

使えるものはなんでも使う。どこまでも狡猾に、賢く、そして気高く。今のドラコは正しく───

 

───スリザリンだった。

 

未だ続く攻防にもそろそろ終止符が打たれようとしてきた。レィルの魔法がドラコに当たり墜落したのだ。全身を使って息をするドラコに対し、レィルは額に数本汗を垂らす程度でまだ息も上がっていない。

 

「楽しかったよ、ドラコ」

「勝手に終わらせないでくれるかな……僕はまだやれる!サーペンソーティア(蛇よ、出よ)オパグノ(襲え)!」

 

杖腕に僅かに裂傷を負いながら、ドラコは健気にも立ちあがり杖を振った。それと同時にドラコが倒れたことと、急な生物系の出現に少しばかり驚いてしまい、レィルは反応が遅れてしまった。

 

ヴィペラ(蛇よ)イヴァネスカ(消えよ)!」

 

出現してきた四匹のうち三匹を魔法で消し去り、最後の一匹だけ距離が近すぎたので蹴りで対処した。吹き飛んでいった蛇はステージの外のアリシアの足元へと着地した。

物理攻撃を喰らって気がたっているのかレィルに向かって威嚇する蛇。ドラコが倒れたことにより、この蛇がレィルを攻略しなければドラコは負けてしまう。

だが、蛇は動きをとめた。

 

待って

 

アリシアが、何かを(・・・)発したのだ。

 

落ち着いて

 

あなたの主人は倒れた。もう戦わなくていい

 

だから、そこで大人しくしてて

 

アリシアの何か(何か)を聞いた蛇は1度アリシアを一瞥し、とぐろを巻いてそこに座った。アリシアはほっとしたような表情で杖を抜いた。

 

ヴィペラ(蛇よ)イヴァネスカ(消えよ)

 

杖から発された炎は蛇をつつみ、だが痛くもない炎は真ん中から蛇を二分にして消した。そこでアリシアは気づいた。

 

皆が自分を見る目線が、どこかおかしいことを。

 

「えっと……なに?」

「いや、なに、じゃなくて……」

「気づいてないの……?」

 

アリシアは皆が何を言っているかわからずに、恐らく今一番頼りになるだろうレィルの方へと視線を向けた。彼はステージから降りて、アリシアに近づいていた。

 

「アリス、驚かないで聞いて欲しい」

 

 

 

 

─────君は、パーセルマウス(蛇語使い)だ。

 




この設定を導き出すためにアホみたいに試行錯誤した男、antique!(テッテレー、ッテテレ)

いやほんとに。閑話に生物紹介挟まなかったら確実に投稿期限破ってましたよ。
今期末やってますから、そのせいもあるんですけどね。

原作であった決闘クラブ。ロクデナシハートさんの時はバジリスク警戒のためでしたけど今回はステフなので「賑やかしと実力把握のため」で通してます。

原作ではチラ見せと言及のみだったペネロペ・クリアウォーター。レィルの存在でレイブンクローの頼れるお姉さんキャラに。
実力としては、原作のトンクスぐらいですかね。
そしてメキメキと力をつけていくセドリック。ピーターなんて目じゃないでしょうね。

そして……ダフネ。いや、ほんとロンは申し訳ない(謝罪の気持ちは微塵も無いものとする)
速度上昇しただけなので、身体強度などは生身由来。同年の男の子を全力で殴って壊れないっていう。身体改造中なので、アスリートにありがちな「胸の縮小」が発生し……将来はまぁ……ね?

アガルタ・E(エンツォ)・ハワード。今回は言及だけです。
出身はダームストラング。ので、非常に強かです。
「競うな。持ち味を活かせッッ」……一体何次郎の言葉なんですかねぇ。

ドラコ超強化。ここはD×Dのようなハイパワーインフレワールドではありません。
故に、彼は数多の研鑽の後には「史上最強の護衛ドラコ」と呼ばれる日も……あるかな?




そして、1番出したかったアリスの蛇語。いや、長かった。
本当に長かったんですよ。彼女が正式なスリザリンの後継者であることは初期プロットにもあったんですが、バジリスクの保護があるからどうしたものかと。
加えてハリーたちが追いつかないほどの強化をドラコ達が果たしてしまっているので、それ相応の相手はもはや身内でしか成り立たないのです。
だから原作通り攻撃用に「四匹」だした蛇のうち「1匹だけ生き残り」、それが「アリスの足元に」「偶然やってき」てくれたから……いや、よかったよかった()

では、次の話で会いましょう、サラダバー。






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天然令嬢と王の日記

 

 

「いつかはやらかすと思っていたが、この天然娘は……」

「卒業まで持たせると思ってたけど~、なかなか早かったね〜」

「う、うぅ……」

 

紅茶を優雅にすすりながら、パラパラと活字のない本(・・・・・・)を読み進めていく男一人、棒付き無限飴をスプーン替わりにしてカランコロンと音を立てる女一人。そして、そんな2人に見守られながら正座で座っている女一人。

さらに、それを遠巻きに見ている男女六名。何たる公開処刑か。

 

先の決闘クラブでのまさかの発覚で騒然とした場をステファニーが沈め、レィルがアリシアを引っ張って自室まで連れ込んだ。その時にはもちろんダフネとドラコもついている。

その隙に砂打ち式連絡機を使ってヘルミオネにフィリップ、メズールを呼んでもらった。その時にはもちろんハーマイオニーとジネブラもくっついてきた。

全員をトランクの中に突っ込んで誰も入れないように二重ロックをかけ、アリーに紅茶を出してもらいつつ、何か知っているのではないかと思ったフィリップとメズール(二人)に聞いた。そのところ、やはり二人の前で1度見せているそうだ。

 

遡ること二年。当主となったアリシアを狙う輩から身を守るための知識やら何やらの授業の合間、フィリップと息抜きにチェスをしていた時だ。

どこからか迷い込んでしまったサファイアを額に着けた角水蛇と遭遇し、どうにかして元々の住処に返そうとしていた時に発覚したらしい。ちなみにメズールはその時隣で魔法界のマイナー作家、ダリル・ワーグナーの小説「動物擬きと霞の蛇」を偶然にも読んでいた。

始めはそれが何かわからなかったが、やはりそこは世界の図書館。一発で正解を導き出したらしい。さすがリアルチーターは格が違う。

 

「せめて五年生になるまで持たせて欲しかったがな」

「うっ」

「まさか自爆とは思わなかったよね〜」

「うぅっ」

「だからこいつが当主など無理だと言ってるんだ。花婿を迎えいれて育児に専念した方がまだマシだ」

「だ、だって……」

「いつもアリスのオチの付け方は想像できないから面白いんだよね〜」

「め、メズールは私を助けなさいよぉ……ただでさえフィリップの苦言は耳に痛いのに」

「そりゃ、そうなるように言ってるからな」

「独り立ちって大事だよ~?」

「二人とも他人事のようにズバズバ言って……」

「「だって他人事じゃないか。何言ってるんだ?」」

「うぅ……」

 

何たるアトモスフィアか──この二人、キレッキレである。最後に至ってはメズールも間延びしなくなっている。

かくして、二人に為す術なくボコボコにされたアリシアは蹲り、フィリップはやはり本を読み進め、メズールは無限飴を噛み砕いた。ちなみにこの無限飴、噛み砕く、若しくは胃液に触れる、のどちらかが行われた場合無限生成は止まる。

ドラコは完璧なる従者をめざしているゆえに苦言を呈すことはない。ダフネもこのうっかり癖は昔から目に余っていたそうだが、今はボロボロに打ちのめしたフィリップをどう殴るかを内心腸を煮え滾らせながら静観している。

 

だが、あくまでダフネの言い分は「そこまで言う必要は無かった」とのことであり、発言については改めることもない。事実、それを理解しているからこそ、理由のでっち上げに死力を尽くしているのだが。

ちなみにハーマイオニーとジネブラはズバズバとものを言うフィリップを色呆けフィルターをかざしてみていた。もう何しても賛同するほどの恋慕心、ある意味信者である。

 

「はぁ、うっかり者のせいで予定変更だ。レィル、蛇の王の居場所は分かるか?」

「……蛇の王?バジリスクの事か?」

 

レィルの問に首肯するフィリップ。しかし、レィルにはなぜこのタイミングでフィリップがバジリスクを求めるのかが分からなかった。

 

「なぜバジリスクなんだ?」

「蛇語使いは、本来聖二十八一族が提唱する『古き良き血統』の体現者、サラザール・スリザリンの直列家系、もしくは分家出なければ発現しないものだ。まぁ、調べてるうちに裏技があるのがわかったがそれは今はどうでもいい。で、もしスリザリンの怪物と言われるバジリスクが今もこのホグワーツにいるのならば、それは早急に取り除かなければならない異物だ」

「異物って……そこまで危険視するものか?」

 

確かに、取り扱いには厳重注意すべき対象だろう。何せ目を合わせただけで対象を殺す魔眼持ちだ。

だが、現状バジリスクを起こせるのはアリシアだけだというのに、何を危険視するのか。その答えは、フィリップが今まで調べていたものだった。

 

フィリップはパタリと空白の書を閉じ、代わりに黒革の本を取りだした。背表紙の端に名前が書かれた、トム・リドルの日記(・・)である。

 

「これはつい最近まで悩みの種だったジニーが持っていた本だ」

「そ、それとバジリスクのなんの関係があるんですか?」

 

恐ろしいものに触れると同時に、どこか嬉しそうにジネブラが問う。自分が先まで触れていたものを堂々と見せびらかされる恐怖もあるだろうに、それでも想い人に愛称で呼ばれたことの嬉しさが見え隠れするのは流石と言ったところだろう。

 

「色々と独自に調べた結果、こいつは遺物である可能性が高い」

「その遺物がどんな影響を及ぼすんだ?」

「影響はないさ。ただ、あのままジニーがこれを所持していたら、死人の一人や二人出ていてもおかしくなかっただろうね」

 

器用に本の角を人差し指に乗せて自立させながら目を伏せるフィリップ。中指で弾いて開店までさせ始めたが、その才能はどうなのだろうか。

ストン、と音もなく開かれたトム・リドルの日記に羽根ペンでスラスラと適当に文字を書いていく。次第に文字は消えていく。

 

チェイン・イヴェラブルズ(視覚共有)

 

おもむろに杖を取り出してその場にいた全員に新年度前に作ってきたのであろう魔法をかけ

るフィリップ。何事かと杖を抜いた(・・・)ドラコが次に見たのは、自分が目の前で杖をもって構えている景色で、しかも自分の意図とは関係なしに動いている。

 

「今君たちが見てもらっているのは、網膜を介した僕の視点だ。頭のいい君たちなら、これがどう言うことか、分かるだろう?」

「えっと、つまりはどう言うことなのでしょう」

「つまるところ、こいつの特殊なものが見えるってことでしょ?何で私がこいつと視界を一緒にしないといけないのかしら」

 

ため息をはきつつ、嫌悪していないまでもなかなか辛辣に言葉を吐き捨てるダフネ。その様子にジネブラは苦笑しつつ、共有された視界を見る。

そして、その先に見えたものに、他でもなくドラコとダフネ、アリシアが驚愕した。

 

「嘘だろ……なんでこの模様がここに!?」

「なるほど、フィリップがこれをジニーから遠ざけた理由がいたいほど分かるわ」

「本当に、不味い話ね、これ」

「え、っと、これは?」

 

ジニーに聞かれて口を開こうとしたフィリップ。だが先に、珍しくヘルミオネが喋った。

 

モースモードル(闇の印)。今は姿を消している、闇の帝王が眷属、死喰い人(デスイーター)の印」

 

目の前の、骸骨からの蛇の舌、という不気味なデザインの緑色のそれを忌々しいものを見るような口調で言った。実際、闇の帝王のものと聞いて気分をよくするっ物好きなんて彼のシンパしかいないだろう。

 

「精神干渉系統魔法と同時、生気を吸引し空いた魂の器に自分の魂を刷り込んでいく、虚言う気の一品。だが、それだと元々の魂の器、つまるところこの日記だが、力関係に齟齬が発生し耐えられなくなって自壊してしまう」

「それで、もっとも魂としての格が高くなるその魔法を使ったのね……本当につくづく、ね」

「結局、これは……?」

 

この日記を送りつけてきた第三者、ならびに日記を製作したトム・リドルに苦虫を噛み殺したような声音で話し合うフィリップとハーマイオニーに、割れ物をさわるような感覚で問うジネブラ。深いため息をついたフィリップは、その答えを口にする。

 

「これは、分霊箱。ホークラックスさ」

「ホークラックス?」

「自らの魂を分けて入れ物にいれることによって不死の身体を手にいれることが出来る使用禁止項目第一種魔法(許されざる呪文)。そして魂の元は、ヴォルデモートだよ」

「つまり、乗っ取られたジニーがバジリスクを起こしたかもしれない、と?」

「彼は蛇語使いだったらしいからね。可能性は十分だろ?」

 

もっとも、その心配はもうないが、と続けるフィリップだったが、ジネブラにはもし彼がそうしていなかったら、と思い、恐怖した。打ちひしがれてしまい、ふらっと倒れそうになるが、他ならぬフィリップに支えられ、今度は羞恥やら何やらで固まってしまった。

 

「言ったろう?もうその心配はない。空気中を伝う魔力を吸収するのは無理らしくてね。先手を取り続ければ、まぁこうなるさ」

「じゃぁ、それこそバジリスクに会う必要があるな……その前に」

「ん?」

 

いつの間にか視覚共有魔法が切れていたことを確認しつつ、レィルは厳重に管理された透明なフラスコを持ってきて、おもむろに開かれていた日記のページに垂らした。何を、とドラコが思ったが、すぐに異音と異臭、そして変に燃えていく日記を見て困惑した。

 

「……レィル、一応聞いておくが、これは?」

「バジリスクの毒やら何なら、少なくとも放置していれば死に至る毒(・・・・・・・・・・・・・・・・・)をかき集めて企業秘密的黄金比で配合した殺傷薬品、名付けて『不死殺し(イモータル・キラー)』」

 

さらっととんでもないものを作りあげているレィルに戦慄しつつ、文字通りの劇薬がバチッと変な音を立てつつ日記に吸収されていく様をみつつ、少し彼が恐ろしくなってくる一同。そしてハーマイオニーがふと気になったところを指摘した。

 

「待って、さっきなんて言ったの?」

「少なくとも放置しておけば……」

「違う、そこじゃなくて、その前!」

「……?バジリスクの毒やら何やら」

 

「「「さらっと会ってんじゃあないわよ」」」

 

「え、何、つまり今このトランクにあの蛇の王がいる訳?怖っ、なにこの人怖っ」

「僕らに出来ない事を平然とやってのける……」

「痺れたいし憧れたいけど実質私たちがやろうとすると自殺行為よね」

「これ、褒めていいんでしょうか……?」

「一応、褒めるべき案件だと思うぞ、ジニー」

「違うと思うわ、私」

 

ナチュラルに吐かれた事実に体に鳥肌が立ってきたダフネに、凄いことをした人にはこれを言っておけ、と言われたから実践してみたがさして感性がわからないので棒読みになったドラコ。すごいと一瞬思いはしたがそれが自殺行為であることに気づくアリシアや、褒めるべきかどうかを談義するジネブラとフィリップに否定するハーマイオニー、素晴らしきカオスである。

しかも、それがさも当然だろ?と言った顔で首を傾げているレィルがいるのだから余計タチが悪い。アリーでさえ首を振ってため息を吐いている。

 

「まぁ、会いに行ってみなよ。ヘルミオネ、案内してあげて」

「アリー、レィルをお願い」

「了解、クイーン(ヘルミオネ)

 

収集がつかなくなったため、その場をあとにしようとするその案には全員が食いついた。

 

日記は、気づけば跡形もなく消えていた。




スマホが治っての初投稿、antiqueです。ご迷惑おかけしました。
今後とも同じペースで話を進めていこうと思いますので、何卒このシリーズをよろしくお願い致します。

さて、うっかり娘の説教をする二人組。幼馴染というよりもう保護者枠。
なまじ昔から知っているからこそ、なんでしょうねぇ……。

この日記、実はヴォルデモートだったのさ!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?
ハイハイテンプレテンプレ。その撃退方法は、バジリスクの牙でもなく破戒すべき全ての符でもなく、ニューメディシンの不死殺しでした!
バジリスクの毒だけでもあれなのにスウーピング・イーヴルの両種の毒とかボツリヌストキシンとかテタヌストキシンとかリシンとか大量の青酸カリとか色々入ってます。きっと死神が横切ったんでしょう(すっとぼけ

さて、次は会談ですね。いざ鎌倉。

では次の話で会いましょう、サラダバー






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バジリスク

 

 

 

ヘルミオネは、レィルに頼まれて現在トランクの空を飛行している。いつぞや見せた浮遊魔法では無いのだが、それを悟れるのはフィリップぐらいなのだが、彼には自身の招待を晒しているので別に隠す必要は無い。

ちなみに後ろには誰よりも早く飛行魔法を取得したフィリップ、白き飛翔を取得したため、アリシアを横抱きにしているドラコ、まだ技術は拙いながらも飛行魔法を使用出来ているハーマイオニーと、それに抱かれているジネブラ、ダフネはというと、まだ飛行魔法を十分に使えないので加速魔法(ヘイスト)で地面をパルクールで追ってきている。なかなか人外な技であるが、体力増強などでスピードが落ちないようにしているところ、流石最強の護衛を目指しているだこのことはある。

 

数分の程空の旅をして、当たりが暗くなっている砂山に到着した。辺りには砂岩が変な形で配置されていて、それがどこかストーンヘンジに似ていた。

ヘルミオネとフィリップはストン、と音もなく着地し、ドラコはアリシアを起き上がらせやすいように立膝で着地した。ハーマイオニーは1度停止してから重力で落ち、唯一陸路だったダフネは砂を巻き上げながらブレーキをかけて停止、摩擦熱で溶けかけていた靴を修復(レパロ)しておいた。

 

「ここにいるのか?バジリスクが」

「うん。アリシア、蛇語で『開け』って」

「分かったわ───開け

 

指示されたアリシアはスっと言葉を発した。それにより、砂岩群が忙しなく動いてゆき、最終的には大きな穴が出来ていた。

そこが見えないほどの、しかし僅かな光がともされている穴に、彼らは僅かに恐怖した。動けないでいる間に、それぞれの肩に少し重みを感じて、そちらに目を向けてみると、蛇が乗っていた。

 

「え、ちょっ、まっ!?」

(落ち着け、若僧共)

「喋った……いや、脳に直接?」

(正解だ、フィリップ・レッカ・ハワードとやら)

 

モゾモゾと蠢いていた蛇は、まだ誰も会ったことがなかった動物たちだが、レィルは割と助けてもらうことが多い種族。すなわち、シリンドミッションと呼ばれる、開心術を使う蛇の一族だった。

 

(俺達はシリンドミッション、聞いたことないか?)

「確か、開心術を使う蛇、よね?」

(然りだ、ハーマイオニー・グレンジャー。だがそれだけでは無い。俺達は全ての生物と意思疎通ができる。今会話しているのもこの応用なのさ)

「へぇ……」

 

この世にはそんな生物もいるのだな、とジネブラが感心していると、僅かに首にくすぐったいものを感じて、思わず手で払い除け用として、なんとか踏みとどまった。そのまま行ってしまえ、と頭を撫でたりすると甘噛みしてきたので、わりと可愛げもあるところが気に入った。

 

(自己紹介をすれば、フィリップ・L・ハワードの肩に乗ってる俺が、ネイキッド)

(ハーマイオニー・グレンジャーの肩に乗ってる私がソリダス)

(メズール・キラグリードの肩に乗ってるのがソリッド)

(ドラコ・マルフォイに乗っている僕がリキッド)

(ダフネ・グリーングラスに乗っているのがヴェノム)

(で、ジネブラ・モリー・ウィーズリーに乗っている私が、まぁ……オールドだ)

 

見れば、それぞれがわずかに鱗の形や色が違ったりしている。遠目で見れば血縁者とだけわかるのだが、それでも誰が誰だかははっきり見ないとわからない。

ヴェノムは唯一の女の子だからか、何かしらのシンパシーを感じたのかはわからないが、ダフネに寄り添うように肩に乗っている。ダフネもそれが割とまんざらでもないのか、親しげに接している。

 

(配置はこれでいいんだろう?ヘルミオネ)

「うん。それと、来るよ」

 

何を、と確認するまでもなく地響き一つ。次第に大きくなっていく何かを擦るような音は、明らかにこちらへと接近していることを示していた。

しかし、警戒してはいけないとわかっていても、ハーマイオニーは身構えてしまう。杖を抜きかけてしまうが、それはしてはいけないとわかっている、わかっているのだ。

体に砂をまといながら、目を閉じながら顔をこちらに向ける巨大な蛇。だれあろう、蛇の王、スリザリンの怪物、アクロマンチュラの天敵、バジリスク、レフィア・レギスである。

大きな体に見合った貫禄、覇気たるや、死なないとわかっていても「死」という概念を押し付けられるような圧迫感。しかしそれを感じ取り、膝をつきそうなまでに顔色を悪くしているのは、以外にもアリシア、ハーマイオニー、ジネブラであった。

フィリップはいつも通り飄々としているし、メズールもへらへら笑っているものの、器用に目だけ笑っていないし、ドラコとダフネは高々(・・)化け物ごときに一々臆病になっていられないのだろう。ヘルミオネは言わずがなであり、予想外のタフネスを見せる彼らにオールドは少しだけ笑っていた。

 

(ああ、この空気、この匂い、この感覚。忘れたくても忘れられぬ。否、誰が忘れようか。否、忘れるべきではない。目の前におるのだろう、妾の悲願が。果たして幾星霜、これほどの喜びはない。ああ、妾が主よ。名を……)

「え、えっと……アリシア。アリシア・ティファールです

 

少しだけ臆病になりながら、アリシアは名を名乗る。無理もないが、もう少し堂々としてはどうだろうかとフィリップとメズールが思うのも仕方ないことではあった。

また、彼女はここに来なくてはならないのだから、そのたびにビクビクしているのでは話にならない。やはりポンコツは治らないと諦めるべきか、まだ大丈夫と自らを鼓舞させるのとではどちらが労力を使うのだろうと思いつつ、目の前の光景に向き合う二人であった。

 

(何たることか。よもやスリザリンの直近の分家に妾が主がいようとは……)

「ん、それはどういうことだ?蛇の王よ。聖二十八一族総督家とはいえ、確かティファール家は聖二十八一族制定当時はスリザリンより最も縁遠き血族であると記憶しているのだが」

 

新たな知識に我慢できなくなったのか、いきなり質問をぶち込んだフィリップにメズール以外が目を向けた。約一名、「アリシア様が話してたろ何会話に入り込んでんだぶち〇すぞ」的な空気を出している誰かさんと、それを宥めようとしている誰かさんは放置して。

 

(それは歴史の歪みだ。血統を重んずる妾が主は、誰よりもマグルに近かった(・・・・・・・・・・・・)レイブンクロー、マグルに近づくことを恐れぬ(・・・・・・・・・・・・・)グリフィンドール、マグルに好意的であった(・・・・・・・・・・・)ハッフルパフではいずれ破滅することを恐れ、どこよりも認知させて(・・・)いなかったティファール家の者を頭に上がらせた。故に、どこの誰ともわからぬ馬の骨と思われていたのだ、レイブンクローの末裔よ)

「なっ……!?」

 

バジリスクからのまさかのカミングアウトに、それを知らなかった組、有体に言えばハーマイオニーとジネブラだが、やはり驚いていた。しかしフィリップはそれを意に介そうともせず、じっとバジリスクを見ていた。

それはほかでもないフィリップ本人が、自分がレイブンクローの末裔であることを「どうでもいい」と切り捨てていることに他ならない。

 

「なるほどな…。ありがとう、蛇の王よ」

「なんかー、アリス以外には何も話さないのかと思ってたよー」

(些細な事だ、ハッフルパフの末裔。既にこの身体は死に体、向こう100年も生きられぬ老耄よ。盟友の友人なのであろう?このような知識は、さっさと誰かに預けておく方がよいだろうさ)

「え、もうそろそろ寿命なの?その言い方だと、まるで本来は生きられたような……」

 

ハーマイオニーはメズールがハッフルパフの子孫であることよりも、バジリスクの様子に疑問を覚えた。しかしバジリスクは、それを無言で肯定していた。

バジリスクはバジリスクは目を開けてはいないが、アリシアの方を見たような気がした。バジリスクのその雰囲気に押されかけて、アリシアが少しだけ身構えると。

 

(妾が主よ。願いがある)

「え、えぇ。何かしら」

(それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妾を、殺してくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

その日。一匹の蛇は生まれ落ちた。

 

 

 

誰が願ったか、その蛇の名前は、とても恭しくて。

 

 

 

それでも、そんな名前に納得できてしまう。

 

 

 

 

その蛇の名は───

 

 

 

───レフィア・レギス()、と言った。

 

 

 

 

 




書き終わった時にあることをはたと気が付きました、Antiqueです。クリスマス休暇まだじゃん。

短いなぁ……たった3333文字ですよ?やばい。何時しか近所のマイナー物書きさんが

「はん。いいか。俺たち作家にとって夏休みの宿題は終わって向こう1週間はまだセーフだ。締切というものに縛られるのは、それを切り抜けた時の爽快感があるからやってるに過ぎない」

って言ってて、なるほどなぁってなったのを思い出します。

はて、王の面談会です。正直、あんたり出番がなかったですけど、映画になってもさして時間は取られないんだろうな、と思いまして。
だからこんなタンパクになったのか、というと実はそうでもなく。実際初期プロットにもあまり時間をかけさせることはない、と書き込んでました。

ただ、あんまりしんみりさせないように、というのが一番です。私自身そういうのが苦手なので。

では、次の話で会いましょう、サラダバー


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水天の涙

 

 

 

アリシアは、トランクから戻ったあとの事をよく覚えていない。正確に言えば、クリスマス休暇も、その後のことも。

ずっとなし崩しに生きていたような気がして、それが幾年分とも感じられて。何より、どこか心の中での思いが欠如したような感覚が、こびり付いて離れなかった。

胸の思いこそ上の空、一応授業も当てられたら答えたし、なにか不都合がない限り休もうとも思わなかった。休んだところで皆と顔を合わすのだから、という半ば諦めのような気持ちでいたのは否定しないし、少なからずそういう考えがあったのも事実。

 

しかし、そうなると、である。

 

少なくともその「心の中での思いの欠如」とやらの真実は、トランクにいた少年少女にしか計り知れないものであるし、実際このぽっかり空いた穴を誰かに打ち明けようとも、相談しようとも思わずに割とのうのうと過ごしてきた。誰にも知られないように、という訳でもなく、ただ漠然と、その気持ちを口に出すまでに、喉に引っかかるものを感じていただけである。

熱情なんてほっぽり出して、スリザリンでの勝手に押し上げられた地位を放り投げてでも、アリシアは何故か、一人になりたかった。それが何を指すのかも、分からないままに。

 

この想いが、気持ちが、その欠如が、誰もが分からない、と豪語する気はなかった。どんなに歳を取ろうと、少なくとも人生に一度はそういった空虚感を感じるものだと思っていた。

肉親が、母が早死し、父が病に堕ちて。それでも、それでも尚こんなにぽっかりとした感覚には陥ることは無かった。

 

何故か。

 

それを自問すること幾星霜、(つい)ぞ答えは見つからず、自答するに至らずに。寧ろ、自問自答できることなく、その果ての自分を見てみたい気もしてきた頃。

自らの気分を映し出されたような、皮肉られたような灰色の空の元に。

 

 

 

フィリップに、呼び出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

アリシアを呼び出したフィリップは、アリシアよりも爽やかな顔をしていた。それに少しだけ、あの光景が目に焼き付いて離れない自分よりも、精算が早い彼に嫉妬した。

 

「……で、私を呼び出したわけは?」

「フッ、そう結論を急ぐなよ。君の悪い癖だ」

 

まるでそう問われる事を予想していたかのように鼻で笑われたことにイラつきを覚えつつ、フィリップの隣に座る。睨んでもなお飄々としているその態度は、死んでもなお治らないだろう。

 

ため息を吐きつつ、隣のいけ好かない少年との過去を思い出す。それは、あまり思い出したくないもので。

 

出会い頭に、母の急死と父の病弱を慮った、たった数文字程度の気遣いと、それにしては多すぎる立場の皮肉を投げつけられたのはいい思い出で。アリシアが誇ろうとするものを、全て百八十度目線を変えて心を抉ってきた。

それでも、あれは「こんな人間もいるんだよ」という暗示と捉えれば、なるほど、と思いかけるが、それでもよくもまあ初対面の、それも女の子にズケズケといえたものだと感心する。

知らないことを問えば皮肉と答えを貰い、ゲームをしようと誘えば皮肉と敗北を貰い。ともすれば、ろくなものも貰っていないような気がするが、それをフィリップに願うのはお門違いも甚だしく、それを両者とも分かっているせいで、自分たちの仲は劣悪というわけでも、かといってすこぶる善い、という訳でもなくなった。

自分のことを棚に上げ、高々若輩に教わることもないと、当時は思っていた。だがそれは自分のプライドが、ただの一般市民だった者に負けたくないという聖二十八一族総督家としての理念が勝手に動き出し、よく分からない言い訳をでっち上げてでも、一つだけだとしてもフィリップから勝ち星を拾いたくて、しかしこぼれ落ちるのは全て黒。

それと、皮肉。これで自らの運命を嘆かなかったことこそ、自分が一番誇れるものだと朧気ながらに覚えている。

 

それでも、それでも。

 

自分が記憶している中で、思い出していく中で、ふと思う。

 

──表情が、少ない。

 

笑いにも種類があるのは、全人類の常識だ。それが愉しみから来るのか、楽しみから来るのか、はたまた悲しみから来るのか、情けから来るのかはその時の思い次第だ。

それでも、フィリップの笑いは、大体が、いや、その殆どが、いやいや。

 

その全てが、(あざけ)から来ていた。

 

一度たりとも、それが、「楽しみ」だとか、そういったもので笑ったことは無かった。直近で代表的なものといえば、ダフネがレィル達に自己紹介をした時に。

腹を抱えるほどの大笑いであったにもかかわらず、それは確実にダフネを嘲笑うものであり。傍から見ても分かるからこそ、それ以外での笑いが見つからない。

 

何時しか、ちゃんと笑えているか、と父に問われたことがあった。あの時はちゃんと肯定したけど、その後に会ったフィリップに見抜かれて。

その時の皮肉は、「笑えもしない貴族なぞ、蟲に食われて当然だ」だったはずだが。では、ならば、それでは。

 

 

──誰よりも笑えていない貴方は、どこまで食べられて(笑えなくなって)しまったの?

 

 

「今の今まで、さして何かに執着することもなくボケーッと過ごしてきた気分はどうだ?」

「……正直、あんまりね。世界はいとも簡単に変わる。捉え方の問題だと気付かされたわ」

「それはそうさ。何せ世界とは個々人の所有物であり、同時に人々の共有物だ。ある一方からは正義と見られ、もう一方はもうひとつの正義であるのに対岸からは悪として見られてしまう。この世界の悲しき(さが)だ」

 

一度たりともアリシアの方を見ずに、フィリップは語る。そんな様子に、どうしても不機嫌になってしまう。

いや、と思い返す。そもそも彼はちゃんと人の顔を見ない(・・・・・・・・・・・)、まともに話そうとしていた自分が愚かだったのだ。

自分が思っているよりも交遊があるはずなのに、その全てを「知人」で終わらせる辺り、彼の付き合いの悪さがうかがえる。実際、世間一般でとらえる「友人」というコミュニティは確かにフィリップの方が軍配が上がるし、そういった友人付き合いができない立場であることも、当然アリシアは理解している。

しかし、これがマグルの世界だったならば、その付き合いの悪さもそれで正しかっただろう。学校というものは奇妙であり、プライマリーからハイまでの学校は、そのときに得た友人とは全然付き合わないのだ。

家が近い幼馴染みというものもあるかもしれないが、フィリップは大体はカリフォルニアから来た娘症候群を発症するほどの距離感しか取らない。この一点を母親であるアガルタも容認しているので余計にたちが悪い。

 

「史実の方が過激であると差とされた演劇作家でも、ついぞ現実を図れなかった。もしこの世にしっかりと(・・・・・)現実を図ることが出来る人物がいるのなら、それはきっと皮肉屋だ」

「……あなたなら、そこでアンデルセンの名前が出てくるかと思ったけど」

「おいおい、君は本当に人を理解しないな(・・・・・・・・)。彼も確かに皮肉屋だったが、それはこの世に絶望した自分に対してだ。世界まで皮肉っていない。彼の言動はどこか刺さると思ったのならば、それはどこか自分におかしなところがある証拠だ」

 

フィリップはどこか悟ったような顔でそう言った。確かに、自分は他人を分かろうとはしても、それが「解」ったかと言われれば、そうではない。

しかし。しかし、である。

本当にその人を理解しているのは、その人自身である、とは使い古された定型句であり。それこそ、自分だってレィルたちのことをあまりわかっていないくせに、と反論したかった。

しかし、それを口にする前にフィリップは杖を取り出した。いつかみせたペンタグラフを描くように、筆記体で、無駄に流れをよくして。

 

貴方のための物語(メルヒェン・マイネス・レーベンス)。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの本質はそこにある。民衆向けの童話作家と思っていたか?戯けめ。そんなはずないだろう(・・・・・・・・・・)。誰しもに向けられた話であるように見えて、少し目を凝らせば今を生きている誰かへのメッセージ(・・・・・・・・・・・・・・・・)に早変わりだ。それをわからんから彼は皮肉屋と勘違いされるんだ」

「それを理解できたら、あなたみたいになるのね」

「無論乱数はあるぞ?レィルもまた、あれを正しく理解していた。メズールやヘルミオネもな」

「……ドラコとダフネは?」

「満点回答が100なら65だな。いい線を引けてこそ、核心を突けていない」

 

正直、メズールがあちら側であることに何ら違和感はない。むしろダフネやドラコが自分(こちら)側であることに安堵している。

一向に本題に目を向けられない状況が、少しだけ頭を冷静にさせてくれた。本題にいかない、というよりも、幼かった頃の状況に少しだけにていたからか。

実際、彼の皮肉は、あのときも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────あれ?

 

「思い出したか?」

 

ばっと、髪を巻き上げるほどの速度でフィリップを見た。そこには、やはり人を嘲るような笑顔を張り付けていて、「悪戯成功」とでも黒インクでベタベタに書いていそうなほどにいい笑顔をしていつフィリップがいた。

 

「この会話は、既製品(・・・)なのさ。過去に戻った気になっていたならお生憎。君はまるで成長していなかったわけだな」

 

記憶の混濁か、それともタイムリープしていた?いや、それはない、今いる場所は、紛うことなくホグワーツだ。

脳をいつになく、いや、過去に類を見ないほどに回転させていく。知っていたはずだ、この会話を。

予想できた質問のはずだ、予想できた答えだったはずだ、予想できた未来だったはずた。こう答えればこうなると。

 

───────なんで、繰り返している?

 

───────しかもこの会話は──

 

「その答えを、ここに開いていこうか?喜べ少女よ(アリシア)、これが本題だ」

 

バン、と。いつのまにか持っていた空白の本をきれいに音をならしながら、フィリップは、見る人によれば卑下たる笑みを浮かべていた。

 

 

仮面をつけた父親(オーロック)顔もロクに覚えていない母親(ラズーリ)、産まれてくるはずだった顔もわからない弟(グリゴーレ)を失った少女は、その歳では確かに静観していた。だがそれは、見方を変えれば、(No)。彼女は諦観していたのだ。無けなしの愛さえくれなかった母親が、家を残すために奮闘した父親が、産み落とされもしなかった弟がこの世から去っていった。故に彼女は愛に飢えた」

 

 

 

 

「使用人たちがくれる敬愛(・・)ではダメだ。地位を狙う賊の下賎なる欲求(・・)は論外。気楽に話せる馬鹿共の友愛(・・)もダメだ。新しく出来そうな親友の隣人愛(・・・)も」

 

 

 

 

「だが少女は不意に、一匹の蛇(レフィア・レギス)と出会った。蛇はその壮大なる寿命からすれば、残り滓のような灯火を必死に守り、いつか来たる敬愛した主の血族を心待ちにしていた。この悲願を果たしてもらおうと、ずっと、ずっとその灯火と共に抗っていた」

 

 

 

 

 

「遂に果たされた悲願こそ、蛇の求めたものだったのだろう。だがそれは、一つだけ誤算があった。死に際に、少女にあるもの(・・・・)を教えてしまったのだ。敬愛でもなく、友愛でも、寵愛でも、憎愛でも、なんでもなく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ───誰かを待ち続けるという、その意志を」

 

 

 

 

 

 

 

「─────分かるか?アリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────君はようやっと、「()」を知ったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あぁ。そうか。

 

アリシアはようやく理解した。ぽっかり空いた穴がなんだったのか、あの虚無感は、空虚な、何かの欠如とは。

 

初めて愛を教えてくれた(ヒト)の、世界からのリタイアだったのだ。

 

「……ぁぁぁ」

「そうだ、それでいい。それが正常な反応だ」

 

アリシアは蹲る。もう全て遅かったのだ。

マッチを売ってくれたあの少女は既に居ない。これからは、一人で生きていかなければならないのだ。

父親が、母親が、生まれてこなかった弟が居なくなって幾年。それは、あまりにも遅すぎた認識。

フィリップはもうこちらに見向きもしない。皮肉られていた灰色の空は、ようやく歩き出せるようなその道を祝福しているようで。

誰にも剥がせないと思っていた仮面を、自分から剥がしに行く愚かさを嘆いたとしても、やっぱり空は自分を皮肉っているのだと睨みたくなってきた。だって、こんなにも素晴らしい、気持ちの良い、文句の付け所もない晴天が、今の気持ちなわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してくれた存在の欠落は、何時しか水天の涙となるんだ」

 

「ぅぅ…あぁ……ぁぁああぁぁぁぁ!!!!!」

 

アリシアはようやく、彼らの死を受け入れた。

 

 

 

 

 









ども、メロンブックスで通販した同人誌がまだ来なくてイライラし始めてきてるAntiqueです。はよ読みたい。

久々の5000文字超え!やったぜ(達成感)
割と今回はサクサク書けた気がします。フィリップのアンデルセンのところ、でっち上げなんで本気にしないでくださいね?

今回はアリシアの仮面を剥がすだけの回です。それ以上もそれ以下もありません。
それでも、彼女の凍りついた心を溶かすのは、フィリップやメズールなどの腐れ縁、ダフネやドラコみたいな従者、レィルやヘルミオネなどの親友ではなく、幾年も待ち続けたヒロインだ、っていうのはプロットにもありました。
それが早いか遅いかの違いだったんで、やはりその場のノリに任せた方がいいんですかねぇ……?

では、次の話で会いましょう、サラダバー






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ブラシピミー part.1

アリシアが泣き崩れてしまい、フィリップがそれを宥めもせずに放置していたところに、運がいいのか悪いのか、ダフネとドラコがきてしまった。ドラコは何か意味があると思ってとどまったのだが、実際同姓ということで、ある意味誰よりもアリシアに近かったダフネは加速魔法と攻撃力倍加魔法を自分にかけてフィリップに飛び込んだ。

彼の弁明むなしくも、ダフネは聞く耳持たずに殴る蹴るのコンボを見せつけていた。スカートの中身が知ったことか、私はこの男を殴らなければいけない理由がある、そう心の中で息巻いて、アガルタから教わっていつつも成功しなかった固有時制御(タイムアルター)を使って、フィリップの土手っ腹に三発いれた。

さすがにそこで何かおかしいと気づいたのか、ダフネは一度停止。フィリップは改めて身の上の潔白を証明し、ダフネを納得させた。

まぁ、そこからまたフィリップにいじられるのはまたあとの話なのだが、これはもう不毛だろう。ちなみになぜそんな元気がフィリップにあるのかだが、蹴られるコンマ三秒前に物理障壁を張っていたからだそうだ。

 

最近元気がなかったアリシアに活力が戻ってきたため、ホグワーツ全体も心なしか明るい雰囲気に包まれていた。アリシアもこれまで以上に勉学に励むようになっており、寮杯の得点はスリザリンとレイブンクローがデッドヒートを繰り広げる展開となっている。

グリフィンドールやハッフルパフも健闘してはいるのだが、如何せん相手が悪い。知識の宝物庫やモンスターマスター、監視者の血筋という実質三強がいるレイブンクロー、幼子の頃から教養を積んでいる貴族が多いスリザリンとでは、知識に疎いマグルが流れ込んできたり、そこまで勉学に励むことのない子供が多いグリフィンドールやハッフルパフでは太刀打ちできない。

実際はウィーズリー・ツインズやスネイプの獅子寮いびりのせいでグリフィンドールが最下位を突っ走っている訳なので、ハッフルパフは3位に落ち着くだろう。本気で寮杯を目指しているハーマイオニーにはこの上なく解せないことかもしれないが。

 

しかし、彼らは思いもしなかった。

 

我らが大図書館が、モンスターマスターが、監視者の血族が、総督家現当主が、懐刀の次期当主が、麗しさの血筋が、マグルの秀才が、あんなミスを犯すなどと。

 

他ならぬ彼らによって、ホグワーツは混沌の坩堝と化す……

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

「監視役?」

「そうです」

 

セブルス・スネイプは、またもや目の前の少年に頭を痛めることとなる。誰あろう、レィル・クローターである。

前回(セクタムセンプラの件)は彼一人であったにもかかわらず、今回はなんとも大体一緒にいるメンバーが全員揃っているではないか。これで頭痛を、胃痛を起こすなという方が無理である。

しかも、監視役を行う場所が彼らのテリトリーともいえる自室(・・)だというのだから、明らかな地雷案件であることは確定的に明らか。これで首を突っ込める馬鹿を見てみたいものである。

レィルの後ろにはアリシアやフィリップ、その横にメズール、少し下がってダフネ、ドラコ、ジネブラ、ハーマイオニーが並んでいる。そして極大の地雷の横には当然の権利であるかのようにヘルミオネが位置している。

一瞬だけ煩わしい後輩教師に告げ口してやろうかと思ったが、それもそれで地雷が爆発するので、やはりこの地雷は自分で撤去するしかないものだ、と改めて頭を抱えたくなるスネイプであった。今この時だけは人を完全に信頼できない自分の思考回路を恨んだ。

 

「……で、いったい何をする気なのだね」

「ちょっとした前提実験でしょうか。声や思考で操れるセミオートパペットを作ろうと思いまして。いざ暴れだしてしまうと生徒の私たちでは状況を抑えられるかもしれませんが、さすがにゼロとは言えないでしょうし、そのために不穏な動きを見せたと思えばすぐに人形を壊してくれてかまいません。どうか、お願いします」

「……ハワード、計画の全容を知っているな?」

「えぇ、一字一句余さず」

「そのうえで聞こう。何もないな?」

 

どれだけ優秀であっても、顔見知りであっても、やはりこの男が後輩教師(ステファニー)の息子であることが何よりもの懸念材料として残ってしまっている。故に、レィルとともにレイブンクローの片翼を成すフィリップに問うた。

ちなみにここで問われる「何も」は「禁忌を犯していないか」と「誰かが死ぬような殺傷力はないな」というダブルミーニングである。さすが闇の魔術に精通するだけはあり、この上なく慎重である。

そのうえでフィリップは、こう答えた。

 

何も(・・)

 

動く大図書館、レイブンクローの知識袋であるフィリップが、何も(・・)と答えた。それはすなわち、普通でない方法(・・・・・・・)でことを成すということに他ならない。

こうまでも地雷を増やしたいか、と少しだけ目の前がブラックアウトしそうな意識に活を入れ、何とか声を絞り出すスネイプ。

 

「よかろう。改めて実験の詳細と日程を送り給え。それと、監視を一人増やさせてもらうぞ」

 

彼が倒れる日は、そう遠くないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

では。計画の全容を話すとしよう。

 

前年度にニコラス・フラメルから頂戴した賢者の石は、永遠の命を与えるという。そのほかにも人体錬成術の最後のピースであったり、通常の錬金術の「事に応じた魔法陣を描く」という過程をすっ飛ばす、といった使い道がある。

今回の臨床実験では、何の害もない人形に魂と、半永久的寿命、さらには簡単な錬金能力を与える。この三つの過程をクリアするために、レィルは授業の合間合間に計画を練り続けていた。

魂の召喚はさして難しい話ではない。要するに人体錬成陣と似たようなものを描き、その憑依先を人形にすればいいだけの話なのだから。

簡単な錬金能力も大した問題ではない。問題は、半永久的寿命である。

これのどこが問題であるかについてだが、ずばり「半永久に落ち着けられるか」である。文字通り人間を不老不死にさせることができる賢者の石の力はとてつもなく、一つ使い道を間違えれば簡単に木っ端など消し飛んでしまうほどだ。

これをセーブしたまま力を行使するために、時間や素材はもちろん必要で。今回一番手間取ったのはむしろここである。

もしも媒体が賢者の石でなければ、未完成品である賢者の石水で代用できたのだが、本番に使うのは正真正銘の賢者の石。力のセーブの仕方を学ぶと同時に、本番に起こりうるもしも(IF)を考えた場合の対処が、少しでも軽くなれば、と考えたのである。

 

当然のことながら、前年度に賢者の石を求めたヴォルデモートを前回取り逃がしてしまった(・・・・・・・・・・)おかげで、彼はまだこの世界のどこかに潜伏していると考えられる。その場合、彼を外的として処理するときには、こちらにも死の呪文ごとき(・・・)で倒されてしまうようなちゃちな人形では話にならない。

そのための賢者の石による臨床実験なのだ。

 

最近胃痛薬や頭痛薬を飲む姿が頻繁に目撃されているスネイプは、生徒から割とまじめに憐みの目線を浴びている。事の重大さこそ計り知れることではないが、基本的にポーカーフェイスを貫き通している彼でさえ(・・・・)その顔を歪ませるほどの問題ごとを抱えていることは予想できていた。

何よりも、思考をその問題事に向けているせいか、近頃いつものグリフィンドールいびりもスリザリン贔屓もない。一度マダム・ポンフリーに見せたほうがいいのではないか、とハッフルパフきっての良心であるセドリックがマクゴナガルに談判してみたのだが、「すでに見せている」の一点張りで、その処方があの胃薬頭痛薬らしい。

原因が大っぴらにされていないだけに、原因がみんなの先生レィル・クローターであるというのも知られていない。もし知っていても、周りにいる人が強すぎて意見などごく一部の者にしかできないのだろうが。

スネイプ、君ホント休んだほうがいいよ。いやマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな生徒たちの意向などいざ知らず、ついにスネイプの胃が崩壊しかける日がやってきてしまった。ちなみにこの日はスネイプに計画を話した一週間後である。

部屋には安全を喫するためにレィルとヘルミオネ、フィリップ。そして監視役としてスネイプとスネイプが選んだ監視役がいる。

 

「がんばれ、レィル」

 

誰あろう。ステファニーである。

決してレィルへの嫌がらせではない。この学校でそんな実験をしようものなら確実にダンブルドアは面白がってくるだろうし、マクゴナガルは反対の立場に立つだろう。

また、そのほかの教師では、もしも(IF)が起こった場合に対処できるかも怪しい。フリットウィックももう年であるし、間違ってスプラウトを連れてこようものなら確実にこの学校が大惨事になってしまう。

故に、ここにステファニーを連れてきたのだ。決して、最近の胃痛の原因になってくれやがって、といういやみではない。

決して、ここでちょっと意趣返しをしようという気なんてさらさらない。ないったらないのである。

 

実際、バタフライエフェクトかはわからないが、彼女がいるせいで「失敗するわけにはいかない」という意欲がわきわきと盛り上がっているらしい。意欲向上になっているのはいいが、これがあらぬ方向に向かないのを祈るばかりである。

 

レィルは素材である竜の鮮血、スウーピング・イーヴルの毒、ユニコーンの角、流体金属、ボウトラックの寄り木を円形状に設置し、中央に素体となる賢者の石のブローチを埋め込んだ人形を置いた。特殊な白チョークで古ノルド語の文字を書き記していき、五芒星が完成する。

スネイプは胃痛に耐えながら腕を組んで無表情でそれを眺めている。ステファニーは握りこぶしを胸の前で作りながらこちらがうっとうしくなるほどの激励の目線を送っている。

二人の態度は相対すれど、それでも実験の成功を願うのは一致していた。スネイプはこの実験が終わり次第長期休暇を取ってほしいものである。

 

「では、始めます」

 

全準備工程が終わったのか、杖を取り出して、目を閉じるレィル。左手にはヘルミオネがしれっと手をつないでいた。

 

「礎に(しろがね)と鋼。 其は天を廻りしエールズ。 我等が導は、碧き一等星。

風は壁を悠に越え、五方の門は開き、未知より出で、空に至るは我が想い」

 

言葉を紡ぐ度に、白いチョークで描いた五芒星に青いプラズマが迸っていく。白チョークに混ぜ混んだ素材は、もちろんこのプラズマを発生させるためではない。

 

凶れ(まがれ)凶れ(まがれ)凶れ(まがれ)凶れ(まがれ)凶れ(まがれ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を知らしめる」

 

白チョークが中に粒子となって舞い上がっていく。プラズマはもちろん止まらない。

 

 

「――――――告げる(SET)

 

 

「――――告げる。

汝の身は我が身と共に、我が命運は汝の命運と共に。

言の葉の寄るべに揺蕩い、この想い、この理に沿えるならば、応えよ」

 

白チョークに混ぜ困れている素材は、ニューレル・ユニコーンの尾毛だ。提供元はバナージとリディである。

尾毛を混ぜることによって実験の成功確率を引き上げるだけでなく、魂の定着、並びにその制御にも役立ってくれる優れものだ。

 

「誓いを此処に。

或いは世界、或いは宇宙、或いは真理、或いは全、或いは一」

 

だが、レィルは失念していた。どにも間違いはなかったはずなのに、フィリップの計算式も、ヘルミオネのアドバイスも間違いはなかった。

ただほんの少し、運が悪かっただけのだ。

 

「汝は三大の言霊へと誘う光。

輪廻の果てより来たれ、()が写し身よ―――!」

 

 

 

 

瞬間。世界は灼熱(・・)に包まれた。




少し前に日商の技能処理検定表計算一級を取得しました、antiqueです。次はスピードとります。

最近文化祭が近づいてきたので少しリアルが忙しくなってしまい、話を1と2に分けることにしました。すみません。
でも結構長くなりそうなのでこれでよかったのかもしれません。
くわしいあとがきははこの話が終わってからにしますので、そちらをご覧ください。

ただ一つ言えることは、とりあえずスネイプ先生休ませよう。マジで。

では、次の話で会いましょう、サラダバー。






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