ドラゴンボールad astra (マジカル☆さくやちゃんスター)
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第一話 異分子の目覚め

ハーメルンの皆様初めまして。
マジカル☆さくやちゃんスターと申します。
皆様のSSに触発されて私も何か書こうかと筆を取りました。
や、キーボードだから筆使わないですけどね。
もしよろしければ、御覧になっていってください。


 一人の少女が呆然と、空を見上げていた。

 見慣れたはずの空。しかしまるで宝石でも眺めるかのように、その瞳は輝きに満ちている。

 まるで雪のように白い髪を腰までなびかせ、ぱっちりとした金の瞳を瞬かせ、奇跡的なバランスで配置された美貌は歓喜に満ちる。

 歳の頃は9かそこいら。小娘と呼んで何ら間違いはなく、数年も経てば絶世の美女に化けるだろうが今はただの幼子だ。

 

 切っ掛けは唐突だった。

 ある日突然、何の前触れもなく彼女の前に現れた青い肌の男女が歴史がどうこうと意味の分からない事を言いながら彼女に襲いかかり、やはり何の前触れもなく登場した剣を持った銀髪の青年がそれを止めた。

 歴史の変化だの修正だの、後で邪魔になるだの、何かよく分からない事を言いながら両者は激突し、少女には全く見えない速度でしばらく戦った後に空へと飛んで行った。

 どちらにせよ、今の彼女にとってそれは些細な事なのだろう。

 エイジ暦500――銀河の辺境地球の、そのまた辺境の田舎に住む少女リゼットはある日突然に前世の記憶というものを取り戻した。よくわからない連中が空を飛んだ時に爆風で転んだのが原因かもしれない。

 いや、果たしてそれを取り戻したと形容すべきか。

 取り戻したというよりは得た――この表現の方がしっくり来ると彼女は自答する。

 なにせ全てが虚ろで不確かで、何より断片的だ。

 前世の自分の人格などはまるで取り戻せておらず、それはまるでスクリーン越しに映画を見るかのように、自分とは隔絶した存在としてしか捉えられない。

 記憶はある。『自分』が経験した人生の出来事が脳の記憶領域に突然現れて勝手に居場所を作って己の許可もなく居座った。

 だが他人事としか思えない。確かに経験したはずの過去を、自分の過去と繋げられない。自我の連続性がそこにない。

 ああ、何か自分の前世らしいどこかの誰かの記憶を得たけど、これ私じゃないよね。

 彼女の偽りない感想がそれだった。

 

 例えを出そう。

 突然に見知らぬ誰かの人生をダイジェストで垂れ流されて、最後に『これは貴方の前世です』と言われてそこに自分を見出す事が果たして出来るだろうか。

 過去に自分が確かに歩んだ足跡と同じように、それを自らの足跡であると実感出来るだろうか。

 ……無理だ。だって途切れている。

 足跡のサイズも歩幅も何もかもが違う。他人の足跡にしか思えない。

 『ああ、そうですか』としか言いようがない。

 

 だから前世の人格などというものは彼女にとって至極極めてどうでもいいものだった。

 自分はもう『自分』ではない。記憶をいくら得たって、もう他人だ。

 前世の『自分』の自我は死んだその瞬間に途切れてしまっている。連続性がないのだから自分と繋げる事が出来ない。

 記憶喪失の人間ですら喪失前の己と喪失後の己を繋げられないのに、どうして完全に別人になって繋ぐ事が出来る。

 無理なのだ。本当に自分と『自分』を繋げて連続性を持たせたいなら、今ここにいる自分を消して上書きしてしまうしかない。

 無論そんなのはお断りで、既に終わったはずの誰かに己の人生を明け渡してやる気など毛頭ない。

 

 故にそれはもうどうでもいい。

 肝心なのは、記憶の中身だ。

 

「ありえません」

 

 リゼットは一言呟く。

 ああ、何だこれは。ありえないだろう。

 記憶の中に眠る数多の架空世界。

 娯楽目的で生み出されたフィクションの絵空事、実在しないはずの空想の具現。

 紙の上にインクで描かれた在り得ざる平面の世界。

 その中にある、一際記憶に強く焼き付けられた『ドラゴンボール』の単語。

 これが何より有り得ない。

 

 知っている。

 ああ知っている、知っているぞ。

 私はこの単語を知っている。御伽噺に聞かされた事がある。

 7つ集めればどんな願いも叶う奇跡の玉。

 今からほんの40年程前から真しやかに囁かれるようになった都市伝説の類。奇跡の球。

 そしてこの世界の年号を表す『エイジ』の単語。

 道行く先々で目にする、犬とも人とも猫とも付かぬ、獣と人を合成したかのような亜人獣人竜人達。

 

 伝説の武闘家、武泰斗がピッコロ大魔王を倒して世界に平和を齎したのも40年前。

 これは誰もが知る御伽噺であり、英雄譚だ。

 きっと後100年もすれば忘れられてしまうのだろうが、今はまだ人々の記憶に焼き付いている。

 

「なんてこと」

 

 思わず天を仰ぐ。

 その先にいるだろう神様に恨み言の一つもぶつけたくなる。

 無論彼に罪はない。きっとこの生まれ変わりに彼は一切合財微塵も関わっていない。

 いや、彼だけに留まらず恐らくはこの世界の転生を司る閻魔やその上に座する界王、更には界王神すら預かり知らぬ事だろう。

 こんな……こんな『原作知識』などと、馬鹿げた記憶をそのままに転生などさせるはずがない。

 神々すら更に上の彼方から、紙上より眺めていた観察者の記憶などどうしてそのままに出来る。

 

 思い出さなければ良かった。得なければよかった。気付かなければよかった。

 そうすればきっと、何も知らぬままにこの世界で生きてこの世界で死ねただろうに。

 時代が主人公達と致命的にズレているのだから、そのまま天寿を全うする事だって出来た。

 だが駄目だ。もう黙って死ねない。

 

 だって、もう知ってしまったから。

 

 自分の知る常識は常識ではなかった。

 世界はこんなにも広くて、こんなにも狭くて、こんなにも予想外の事が目の前にある。

 平凡なだけの人生、それも悪いとは言わない。幸せな事だ。

 それが一番賢い生き方で、最も美しい死に方だ。

 

 だが――だが、もう駄目だ。ワクワクした心が止まらない。

 望めば空を飛べる。

 遥か遠い空間への移動も、手からビームも、宇宙の彼方への旅だって出来る。

 やろうと思えばどこまででも飛べる。

 そんな世界に生まれて、ここがそんな世界だと気付いて、それで平々凡々に生きて死ぬなど……それは余りに勿体無いだろう。

 

 好奇心。

 リゼットは人一倍それが強かった。

 いつか大きくなったら世界を旅してみたいと思っていたし、ドラゴンボールもいつか探してやると決めていた。

 『前』がどうだったのかは分からないが、少なくとも今のリゼットはそんな、冒険心の塊のような少女であった。

 

 だから死ねない。

 まだ自分は空の彼方まで飛んでいない。

 深海の底まで潜っていない。

 宇宙の果てを見届けていない。

 見たいものが沢山あって、やりたい事が山ほどあって、この世界ならそれが出来ると記憶が証明してくれた。

 愛おしきこの世界、されど自分はまるで知っちゃいない。

 愛しているのに、愛した物の実体すら解っていない。

 これではただの恋わずらい。一方的な世界への片思いだ。

 

 ならば見よう。ならば往こう。

 この世界の全てを解き明かし、全ての地を摩訶不思議大冒険しよう。

 死ぬのはそれからでいい。

 この心を占める未知が全て既知に変わった後でいい。この世界を愛し抜いた後でいい。

 ありとあらゆる全てが既知感で埋め尽くされて退屈になったなら、その時こそ満足と共に永遠の眠りに就こう。

 だから今は生きたい。

 生きて、生きて、生きて、満足して死にたい。

 

 見ているか前世の己よ。

 既に消えてしまった前の自我よ。

 私は貴方に心から感謝する。記憶をくれてありがとう。

 貴方の記憶がなければ、この世界の価値に気付けなかった。

 こんなにも未知と可能性に溢れている、何でも出来る夢の世界だなんて思わなかった。

 ここが私の生きる世界、生きる道。

 貴方が決して来れなかった、架空の先の果ての夢。

 けれど確かにここは現実で、己は確かにここに立っていて――。

 

「――私は、生きている!」

 

 

 

 それが、リゼットという少女の真の産声。

 己と記憶と世界を認識し、心から叫んだ第一声。

 そして同時にそれは、本来あるべき運命が捻じ曲がる不吉の音でもあった。



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第二話 不老不変

 記憶を得てからリゼットが真っ先に行ったのは戦闘力を上げる修行であった。

 この世界はドラゴンボールの世界、となれば物を言うのはとにもかくにも戦う力だ。

 格闘技の経験などリゼットにはなかったが、それは実の所大した問題ではない。

 確かに技術は大事だろうが、それよりまずこの世界は基礎スペックが強さのほとんどを占める。

 格闘技の経験などなかろうと戦闘力に大きな開きがあればそれだけで勝てるし、何よりリゼットの記憶が正しければフリーザや魔人ブウなど、明らかに己のスペックのみで戦っている輩が大勢いる。

 サイヤ人だって格闘技の経験などあるかどうか怪しいものだ。

 恐らくはほとんどが実戦の中で各々が見出した野生の獣染みた本能のままの体術だろう。

 無論それは戦闘種族だからこそのものであり、地球人であるリゼットが真似しようと思えばどれだけの年月がかかるか分からない。

 しかし、それは後で身に付ければいい。

 何よりもまず、今は基本的な体力や腕力、敏捷さを身に付ける事こそが優先される。

 

 強さを上げる当てはやはり記憶の中にあった。

 それは『重り』だ。

 ドラゴンボールの修行において基礎能力を上げるならば重りは決して無視できない。

 少年時代の孫悟空の亀の甲羅に始まり、神様から貰った重い胴着、10倍重力、100倍重力……身体に負担をかける事で、軽くなった時の強さを上げる。

 なるほど、理に適っている。現実でも使われている修練だ。

 マラソン選手が高山の上でトレーニングしたり、ボクシングの選手が足に重りを付けたりなどは決して珍しい事ではない。

 もっとも10倍重力なんてものはまさにこの世界だから可能なトンデモ修行であり、元の世界でやれば普通に死ぬだろう。

 血液が脳に回らないのは当たり前。恐らくは細胞も異常をきたし、強くなるどころではない。

 しかしリゼットはそれを思考から除外した。

 きっと物理法則そのものが違うのだ。世界が違うのだから元の世界では、などという仮定に意味などない。

 

 まずは自作のバンドを作り、そこに鉄を仕込んで手足に付ける事から始めた。

 裁縫は幸い得意だ。

 鉄を入れる専用のポケットも付け、慣れるにつれて少しずつ重りを追加した。

 靴も重くしてみたり、服に縫い付けてみたり、とにかく出来そうな事は出来るだけやった。

 リゼットにとって幸運だったのは、ここが辺境の田舎であり、男女関係なく体力が求められていた事だろう。

 主な仕事は畑仕事に森林採伐。斧を振って木を倒すあれだ。

 童話などでは池にボロい斧を落とせば神様が金の斧をくれるが、勿論そんな事はこの世界でもない。

 そんな事情もあり、リゼットの修行も体力と腕力を上げる為のものとして普通に黙認してもらえた。

 都会だったらこうはいかない。母親に大目玉を食らうところだ。

 畑仕事も素手で行い、最初こそ苦労したが慣れるにつれて鍬などの道具を持った大人よりも早く畑を耕せるようになった。

 

 1年経つ頃にはバンドが物足りなくなってきたので、外にいる間は岩を背負う事にした。

 常に岩を背負って歩く岩少女とはなかなかにシュールな光景だが、人は慣れる生き物だ。

 最初こそ奇異の視線を向けられたものだが、いつしか村の人々もリゼットの姿に何も言わなくなり、岩娘という渾名だけが定着した。

 順応早いな、この世界の人々。

 

 更に1年経つ頃には岩も大して重くなくなり、身近に背負う物がなくなってしまった。

 どうやら思った以上に重りの特訓は上手くいったらしい。

 試しに村一番の腕自慢と腕相撲をしたら、相手が両腕でもまるで勝負にならず圧勝した。

 これは旅をする為の基礎体力と腕力は身に付いたと考えてもいい頃だろう。

 ゴリラのようなパワーのはずだが、腕は未だ少女のしなやかさと柔らかさを保っている。

 まあクリリンとかが戦闘力一万を超えてもビスケット・オリバみたいにはならなかったので筋肉の構造も元の世界とは違うのかもしれない。

 多分この世界の人類、外見や構造は似ているがホモ・サピエンスじゃない。

 リゼットはそう確信した。

 

 となれば、次にするべきは旅だ。

 この村にいても、もう得るべきものは何もない。

 年齢は11歳。少女が一人で旅をするには早過ぎる年齢だ。

 親からは当然のように止められたし、ここまで育ててもらった恩義を忘れるわけではない。

 だがこんな小さな村で普通に暮らして普通に結婚して死ぬなんて御免だ。

 世界を見て回りたい。望めばどこまでも行けるこの世界を漫遊し尽くしたい。

 あらん限りの言葉を尽くして力説したリゼットにとうとう7日目で両親が折れ、年に一度は必ず帰る事を条件に許可をもぎ取った。

 

 

 旅に出て3年。リゼットは自分が確かに強くなっている事を確信していた。

 大岩を持ち運ぶなど最早日常。素手で砕くのも容易く、走れば100mを8秒以内に走り抜けるのも容易だ。

 相変わらず技術はないものの、基本的なスペックは確実に超人と呼べる域に及んでおり、試しに出て見た格闘の大会などでもまるで苦戦する事なく優勝賞金を掻っ攫える。

 

 リゼットの旅の目的はドラゴンボール。

 まずは寿命を克服する。そうしなければ世界を堪能し尽くす事など夢のまた夢だ。

 彼女にとって幸いだったのは、この時代にドラゴンボール探しのライバル足りえる者がいなかった事だろう。

 ドラゴンボールの噂が世に広まって40年、未だ誰かがそれを集めて願いを叶えたという話はなく、そもそもドラゴンボール自体の認知度が低い。

 これは恐らく、まだ誰も願いを叶えていないからだ。

 事実かどうかも分からない伝説。そんなものの為に世界を巡る者などそうはいない。

 レッドリボン軍もいないし、桃白白などは既にいるものの何を考えているのかサラリーマンをやっていた。

 ピラフ一味など生まれてすらいない。

 だから容易かった。だから妨害に遭わず、こうも順調に集められた。

 

 無論困難でなかったわけではない。

 何処に在るかも分からぬ小さなボール。加えてレーダーなどという便利なものはまだ存在しない。

 だがリゼットは幸運だった。

 どんな探し物でも見付けてくれる、未来すら見通す占いババがこの時代、既に生きていた。

 聞けば250年以上昔から占い稼業をしていたらしい。化物か。

 彼女の出す試練もまたリゼットの知るそれより難度が低く、繰り出される五人の戦士の質も大した事はなかった。

 多分アックマンはまだ雇ってなかったのだろう。

 

 占いババから貰った情報を元に世界を巡り、ボールを集めた。

 そして今、7つの球がリゼットの手中にある。

 全てが彼女にとっていい方に作用したからこそ3年で集める事が出来た。

 後に悟空達は1日で全て集めるようになるが、あれは彼等の桁外れの飛行速度あってこそのものだ。

 今のリゼットならばこれで十二分に上出来なのである。

 

『さあ願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』

 

 出てきた龍は神々しく輝き、夜空を照らす。

 なるほど、圧倒される、とリゼットは思った。

 しかし見惚れてばかりもいられない。願いを言わなければ。

 

「願いを増やして下さい」

『それは出来ない。叶えられる願いは一つだ』

 

 物は試しとやってみた願いはあっさり却下された。

 やはり駄目か。

 まあ、これは予想出来た事態なのですぐに本命の願いを口にする。

 

「私、リゼットという存在を不老不変のものとして下さい。

老いず衰えず失わず、私は全盛期のまま強くなり続けたい!」

『…………』

 

 不死は望まない。不老はともかく不死を望んだ者の末路はいつだって悲惨だ。

 そして同時にこの願いは一つの賭けでもあった。

 ――願いを二つ言っている。

 不老を願い、更に姿の不変までも願っている。

 この不変とはつまり変わらぬ事。髪を染めようが肌を焼こうが、腕や足を欠損しようが元の形状に必ず回帰するという事。

 解り難いのなら、吸血鬼にならずその不老性と再生能力だけ得ると考えればいい。

 

 リゼットはこれを『出来る』と予感していた。

 だって実際原作で出来ている。

 例えば不老不死だ。あれは『不老』と『不死』の二つを叶えている。

 『○○に殺された者達を生き帰らせてくれ』なんて、その最たる物だ。

 死んだ人間の数だけ願いを叶えている。

 『地球を元通りにしてくれ』はもっと酷い。建物の一つ一つ、個人の持つ所持品や衣服、食料、砂の一粒に至るまで再現させている。言葉にすればたった一つの願いであるが、この時に神龍が叶えている願いは数億数兆に匹敵するだろう。

 そう、即ち神龍は結構融通が利く。

 言い方次第では複数の願いを叶える事も不可能ではない。

 更に細かい条件付けも可能だ。

 『若返らせてくれ』の後に『最もパワーに溢れていたあの頃に』と条件を加えればちゃんと叶えてくれるし、『悪人を除き』と言えばちゃんと悪人を取り除いてくれる。

 しかも恐らくだが、読心の類を使って願いを正確に把握してくれているはずだ。

 でなければ、前述の『最もパワーに溢れていたあの頃』だけで伝わるわけがない。

 ナメック星人の長い寿命では、いつが最盛期かなんか分からないのだ。

 

 つまり曲解しない。

 正確に望んだ願いを叶えてくれるし、無理なものは無理と言ってくれる。

 どこぞの外道魔法マスコットや万能の願望曲解機とは格が違うのだ。

 だからきっと、『姿が変わらないから筋肉も変わらないので強くはならないよ』とかはやらないだろう。

 一応それに釘を刺す意味で『強くなり続けたい』と加えているし、大丈夫なはずだ。

 そして、リゼットの読み通り神龍は頼もしい言葉を口にする。

 

『容易い事だ』

 

 神龍の目が輝き、リゼットの身体を包む。

 特に何かが変わった感覚はないが、それは後で試せば分かる事だろう。

 

『願いは叶えてやった。さらばだ』

 

 神龍は事務的に告げると姿を消し、7つの球は再び世界各地へと飛び散った。

 何はともあれ願いは成就された。

 これで寿命は気にしなくていいだろうが、問題はもう一つだ。

 不変がどこまで叶えられたのか……それを試さなくてはならない。

 

「……まずは、髪から」

 

 足首まで伸びていた髪を小刀でバッサリ切り落とす。

 これでショートカットになったわけだが、さてどうなるだろう。

 流石に斬ってすぐに再生とはいかないらしく、そこらの岩に座って時間を潰す。

 すると大体10分くらいかけて髪が生え、元の長さへと戻った。

 よし、大丈夫だ。

 しかし冷静に考えると髪を切ってから願いを叶えるべきだったかもしれない。

 これで一生、この馬鹿みたいに長い髪の毛と付き合う羽目になってしまったのだから。

 

「傷はどうでしょう」

 

 次に小刀で掌を斬る。

 血が滲み、地面に赤い斑点を刻んだ。

 それから1分……傷は完治し、元通りの綺麗な掌へと戻るのを確認した。

 願いは間違いなく滞りなく、己の望んだ形そのままに曲解される事なく果たされた。

 ああ、素晴らしい。どんな願いでも叶う、というのは誇張ではなかった。

 神の力を超えぬ限りならば、文字通りどんな願いでも叶えられるのだ。

 

 即ち不老、即ち不変。

 老いず朽ちず衰えず砕けず、死なない限り死にはしない。

 ならば次は力だ。

 不変の願いが真に果たされたならば、恐らくどれだけ鍛えようとゴリラのような外見になる事はあるまい。

 リゼットもまた女性。鍛えすぎによる外見の筋肉化は避けるべき事態だった。

 だがその不安も最早なく、思う存分に磨く事が出来る。

 というか何で未だに筋肉らしきものがほとんど付いてないのだろう。二の腕とか触るとプニプニしているし。

 巨岩を持ち運べる筋力でこれだけの変化だった、というのが既に驚きだ。

 だがよく考えたら、ビルだろうと持ち上げられるクリリンや天津飯だってあんなスマートなんだから、岩を持ち上げる程度ではそんなゴツくなどなれないのかもしれない。

 とはいえ、やたらゴツイくせに弱い人間とかもいるので油断は禁物だ。

 というかどういう基準でゴツくなるんだろうこの世界。

 

 

 不老となってから10年。

 休みなく修練を続け、世界中を巡り様々な格闘技を修めてきた。

 最初は格闘技など要らないと思っていたが、実際に学んでみると奥が深い。

 その傍ら、体内の気を感じ取る修行も並行して行い、何とか気の操作も出来るようになった。

 悟空が3年、クリリン達が1年、ベジータに至っては見ただけで即習得した事を思うと何とも遅い習得だが、幸いリゼットには時間がある。

 とりあえずこれからは気弾と空を飛ぶ練習も行っていくといいだろう。

 それよりリゼットには一つの目的があった。

 それはカリン塔に行き、雲のマシンを手に入れる事である。

 勿論普通の雲には乗れないだろうが、確かあそこには邪心を持つ者専用の黒い筋斗雲もあったはず。

 ついでに独学の限界を感じたというのもある。

 格闘技は修めたがそれは全て常人が使う事前提のもの。

 リゼットのような超人的な身体能力を前提とした体捌きなど教えてはいない。

 役に立たないわけではない。だが不足だ。

 だからリゼットはカリン塔に登る事を決意したのである。

 

「……で、ここまで登ってきたわけじゃな」

「はい」

 

 リゼットの前に立つのは白い体毛に覆われた二足歩行の猫。

 武の神様とも呼ばれるカリン様である。

 二足歩行こそしているものの、その姿はまさに猫そのもの。

 手足は短く、猫本来の愛嬌をそのままに残しており、壮絶にモフりたくなる。

 というかとりあえずモフってみた。失礼とは分かりつつも衝動を我慢出来ずに喉の辺りをくすぐる。

 するとカリンはゴロゴロと喉を鳴らした後、ハッとしたようにリゼットの腕を止めた。

 

「いきなり何するんじゃ」

「す、すみません……私、猫好きなのでつい」

 

 名残惜しさは感じたものの、ここで不興を買うのはまずい。

 カリンから手を離し、リゼットは頼みこむように頭を下げた。

 

「私を弟子にして下さい、カリン様」

 

 

 

 後ついでに撫でさせて下さい。

 前半はともかく、後半の願いは無情にも却下され、リゼットは失意に暮れた。




【リゼットの身長】
身長:153cm
クリリンと同じ大きさだが、DBにおいてクリリンは実際の身長よりも小さく描かれてしまうので、同じ身長のはずなのに一緒に並ぶと何故かリゼットの方が大きいという謎現象が発生する。
例えばクリリンは身長153でビーデルが身長157と割と近いはずだがDB超のOPで並んだ時、クリリンは何とビーデルの胸にすら届いていなかった。
多分彼の身長153は鯖を読んでおり、実際は140くらいしかないと思われる。

Q、ドラゴンボールに願ってサイヤ人にならないの?
A、最初に『不変』を願ったので無理です。種族はもう変わりません。
それとメタ的に言うとそれやるくらいなら最初からサイヤ人オリ主でやってます。


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第三話 神との邂逅

 カリン様の元で修行して10年。

 実年齢にして三十路半に到達したところでリゼットは、カリン様から『もうお前に教える事ないよ』と言われて追い出されてしまった。

 格闘どころか仙人が扱う超能力的なものまで得てしまったリゼットに最早カリン様では何も教えられなかったのだ。

 あれからも欠かさず気のコントロールを試していた甲斐もあり、遂に気の感知と操作、更に舞空術をも身に付ける事に成功したリゼットはカリン様から卒業祝いに黒い筋斗雲を貰ったものの邪心不足で乗れず、黄色の雲を貰った。

 リゼットはそこまで心が清らかでないと自覚しているが、普通に乗れたので邪悪でさえなければ乗れるらしい。

 まあよく考えればコラボ作品で海賊のはずのルフィとかも乗っていたし、実は条件が緩いのだろう。

 しかし次の目的地は神様の神殿だったので筋斗雲の出番はなく、リゼットは自力で空を飛んだ。

 筋斗雲涙目である。

 尚、余談だが一年に何度かのペースでちゃんと実家には顔を出している。 

 筋斗雲が手に入ってからは移動も楽になり、実家帰りの頻度が上がった。

 筋斗雲ドヤ顔である。

 

 ならば、と次にリゼットが向かったのは前述の通り神様の住まう神殿だ。

 普段は地球とは別次元に存在していると言われる神殿だが、如意棒でカリン塔と接続している間だけ現世に実体化するらしい。

 もっとも、実体化しているといっても飛行機などで入る事は出来ない。

 如意棒を伝った移動以外は全てバリアによって弾かれてしまうのだ。

 幸いにして如意棒はまだカリン様の手元にあり(亀仙人が貰う前だったようだ)、リゼットは無事に神殿へと行く事が出来た。

 

 さて、神様の元へ行ったリゼットだが実の所彼に弟子入りする気は微塵もなかった。

 だってもう気の操作出来るし。

 だから神様に頼む事は一つ。『重い服下さい』ただこれだけであった。

 

 一方の神様はといえば、こちらも実の所大混乱であった。

 何せ神に就任して以来、初めて下界の人間が来たと思えば言う事がそれである。

 しかもその人間、よく見れば初めてドラゴンボールを使用して願いを叶えた不老少女だ。

 というか現状、彼女以外にドラゴンボールを集めて願いを叶えた者がいない。

 まあ、神としては悪しき人間が願いを叶えさえしなければそれでいいのだが、問題は彼女がここに来た理由であった。

 

「……重い服? それだけかね?」

「はい、それだけです」

 

 この娘、神殿を服屋と勘違いしとりゃせんだろうか。

 というかそんなの下界で用意しろ。わざわざここまで来るな。

 馬鹿なのだろうか? というか馬鹿なのだろう。

 服貰う為に神様に謁見とか無礼にも程がある。神罰下すぞこら。

 いや、下さないけど。

 

「修行を付けてやってもいいのだぞ?」

「大丈夫、気の操作は覚えましたから。

後は伸ばしていくだけです」

 

 何か独学で気の操作をマスターしていた。何この娘凄い。

 天才じゃったか。

 やはり天才か……。

 大した奴だ……。

 というか明らかに最初から気の操作という概念を理解している。どういう事だってばよ。

 何はともあれカリンが認めた証の鈴もあるし、折角の来客だ。手ぶらで帰すわけにもいくまい。

 

「服……服か。わかった、特別に力作をプレゼントしてやろう」

 

 弟子入りもしないというなら、せめてこちらに本気を出すしかない。

 神様だって出番が欲しいのである。

 まず彼女の容姿を見る。

 白金の髪の毛に透き通るような白い肌。宝石のような瞳。

 驚く程に白で統一されたその姿は神聖さすら感じさせ、まるで妖精か天使を思わせる。

 ならば衣装もそれに準じたものがいいだろう。

 なるべく彼女のイメージを崩さず、かつ見栄えをよく。

 

 現在の服装は――言ってしまえば貧相そのもの。

 別に汚くはないのだが、何というか村娘そのままといった出で立ちだ。

 どうせならもっと美麗に。彼女の持つ神聖さを強調する服装にしてやろう。

 何せ史上初めてドラゴンボールを使い、神様と相まみえた人間だ。そのくらい特別な方がいい。

 

「よし、これなどどうだ。サービスで自動修復機能も付けてやる」

 

 リゼットの服装が一瞬で変わる。

 それはケープのかかった、純白のゆったりしたヒラヒラのドレスだった。

 スカートはフワリと広がり、彼女本来の白い容姿と相まって清廉さを感じさせる。

 靴は有名な童話になぞらえてガラスの靴。サイズもピッタリ合わせ、履き心地も悪くないはずだ。

 ついでに固い。宇宙最硬のカッチン鉱とまでは流石にいかないが、地球最硬の物質である天命石にも匹敵する硬さだ。

 頭には天使の羽根を模した髪飾りを付け、彼女の妖精染みた神聖さを引き立てる。そして肘から先には白の長手袋。

 初見でこれを見れば神の遣いか天女と見紛う者も出るだろう。

 無論優雅なだけでなく重い。ケープと靴、手袋を合わせて200㎏は下らないはずだ。

 

「……あの、ヒラヒラしてて凄い動きにくいんですが」

「それも修行だ」

 

 無論嘘だ。神様だって嘘くらい吐く。

 実際のところは服一つ貰うためだけにここまでやって来た彼女への嫌がらせが8割といったところだ。

 リゼットは納得がいかないのか、頬を膨らませてしばらく服と格闘していたが、やがて諦めたらしく肩を落とした。

 

「あの、神様……これではいざという時に重装備を外せません」

「安心せよ。ケープは簡単に取れるようになっておる」

 

 神様に言われ、気付いたようにリゼットがケープを外す。

 なるほど、本気で戦う時はケープと靴と手袋だけ取ればいいわけだ。

 そう思ったが、直後にリゼットは顔を赤くして悲鳴をあげた。

 

「これケープ取ったら肩露出するじゃないですかヤダー!」

「ふっふっふ」

 

 神様流の嫌がらせ炸裂である。

 人間よ、神を侮辱した罪を知るといい。

 別にリゼットとしては侮辱したつもりはないのだが、神様にしてみれば神に就任して以来初の来客で気合入れて威厳たっぷりに出迎えて『よくぞ来た。褒美に神の修練を受ける権利を授けよう』とかドヤ顔で言ったら『そういうのいいんで、服だけ下さい』である。

 これはいくら何でも怒る。というかヘコむ。

 わし神様よ? 偉いのよ? 凄いのよ?

 なのに服屋の代わりでそれ以外用はないとかチト酷すぎませんかね。

 気合入れたわしの高揚返せ。

 何ともせせこましく、茶目っ気に溢れた小さい仕返しであった。

 まあ、神様を(本人に自覚がないとはいえ)侮辱してこの程度なのだからむしろ寛大さに感心するべきなのかもしれない。

 善良なナメック星人は相手が悪人でない限り、基本的には本気で怒ったりしないのだ。

 

 

 神様に嫌がらせをされて更に幾年、幾十年もの年月が経過した。

 親が天寿を全うして他界してからは実家に帰る事もなくなり、リゼットは世界各地を転々としながら時に悪人を懲らしめたり、時に犯罪組織を潰したり、時に虐げられている民を救ったりしていた。

 例を挙げるならばグルメス王国の暴君であるグルメス大王を懲らしめてみたり、太陽を破壊しようというとんでもない計画を立てていた魔族を纏めて叩きのめしたり、といったところだ。

 勿論それらは善意からの行動というよりは、単に戦いを求めての行動である事は言うまでもない。

 単にぶちのめしても問題なさそうな悪人に積極的に喧嘩を売って実戦経験を稼いだだけであり、少なくとも無償の人助けとはほど遠い行動であった。

 しかし結果として、彼女の後ろにはいつだって弱者がいた。虐げられている民がいた。

 助けられた側が彼女の本音を知るわけもなく、その神秘的な容貌と相まっていつしかリゼットは御伽噺に語られる天女の如き扱いを受ける羽目となった。

 『龍天女』……だったか。

 史上初めてドラゴンボールを集めて願いを叶え、雲のマシンに乗り、神にも認められた存在。

 弱き人々を救う見目麗しき少女。

 無論本人はそんなイメージとは程遠い存在であり、龍天女などという恥ずかしい名前で呼ばれるようになっていた、と知った時は赤面して奇声をあげながら転げ回った。

 

 天女扱いされた最大の要因は恐らく、リゼット自らが編み出したパクリ……もといオリジナル技のせいだろう。

 気の操作を極めていくにつれ、リゼットは一つの考えに行き付く。

 それは『自分で技作れるんじゃね?』というものだ。

 亀仙人のかめはめ波だって元を辿れば彼のオリジナルであり、それ以外にも類似技は沢山ある。

 どんな凄い技だって最初はオリジナルだ。

 ならば自分にだって出来ない道理もあるまいと考えての事だ。

 そこで何を血迷ったか、リゼットが挑戦したのは気功波系ではなく、界王拳のようなドーピング系だった。

 体内の気を爆発させ、平常時を遥かに超える出力を生み出す。

 これが出来れば超サイヤ人にだって追いすがれるはずだ。

 

 そんな無謀とも思える試みはしかし、何故か成功した。

 

 運がよかったとしか言えない。

 奇跡的に相性が噛み合い、奇跡的に思い付いた気の動かし方が正解だった。

 だが所詮は真似事。エセ物のパチ物だ。

 望んだ通りの効果は得られたものの、その技は明らかに界王拳ではなかった。

 炎のように燃えるあの外見とはまるで異なり、雪のように白い輝きが粒子として溢れる。

 全身が白く、それでいて静かに発光し、まるで雪が舞い散るように白い気が全身から溢れるのだ。

 例えるならば初進化したエンジェモン。何かキラキラした光をずっと出し続けていたあれだ。

 無意味なまでに神々しい。だから私そういうキャラじゃないって。

 正直界王拳の方が格好いいので何度もああならないかと試行錯誤したが、試せば試すほど何故か神々しくなり、グロー効果までかかってしまった所で遂に諦めた。リゼットは泣いた。

 

 しかし見た目はともかく、効果としては完成に近い。

 使えば力やスピード、気の出力など全てが倍になるし、なによりこれは修行に適している。

 全身の気を最大限解放して身体に負担をかけ、疲労困憊になってから休む。

 まるでハンターハンターの修行のようだが、これを繰り返す事で確かに気が増えているのをリゼットは実感した。

 この世界の人類の肉体というのはどうも、苛めれば苛めるほどに反発して強くなるらしい。

 でなければ重力修行とか出来ないと解ってはいたが、効率が凄まじい。

 だからリゼットは可能な限りこの技を使い、どうでもいい悪党相手でも使用して圧倒した。

 それが災いしてしまったのだろう。

 

 追い立てられ、虐げられ、救いを求める人々の前に文字通り舞い降りる白い少女。

 純白のケープドレスを纏い、白い輝きに包まれ、無償で救いの手を差し伸べて微笑み、そして去って行く。

 なるほど、まるで童話だ。

 単に強くなりたいだけ、という彼女の本質と目的を知らなければ救いの天女だ。

 100年ほどそうして、ようやく鈍間で間抜けな本人が気付いた時にはもう手遅れ。なんか崇拝してる連中が山ほどいるし、変な宗教も出来上がっていた。

 しかも本人そっちのけで宗教戦争までしてた。天女様のパンツは白だのピンクだのと死ぬほどどうでもいい争いに何故か命まで賭けて全霊で戦争していた。千人単位の軍隊を結成して戦車まで引っ張り出してガチバトルしてた。

 何あれ怖い。

 自分を模した像が神殿に普通に突っ立っていた時は目を疑ったものだ。

 これに対し、元凶ともなった服を贈った神様はこう言った。

 

『久しぶりに爆笑した』

 

 リゼットは無言で神様を殴った。




※ちなみに宗教戦争時はギャグ補正が全力で仕事をしていたので実際には死者は出なかった模様。
アラレちゃんのようなポップな絵柄になり、戦車が爆破されても中の人は黒焦げになるだけで普通に這い出して来る。
ギャグ時空である初期DBだから出来る事。

ちなみにドロワーズなので両軍不正解。


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第四話 この世で一番強いヤツ(前)

 リゼットの住む家は標高5000mを超える山の、その頂上にある。

 以前までは気ままに放浪してそこらの宿に泊まっていたのだが、この服のせいで目立つ上に天女扱いされたせいでそれも出来無くなったのだ。

 なので仕方なく、リゼットは自らが就寝出来る場所を自分自身で用意する他なかった。

 そこでリゼットはミスターポポを拉致……もとい協力者として招き、彼の協力の元二人で超能力を無駄遣いして家を作った。

 しかしそこに何故か無駄にハッスルした神様が乱入し、『暇だからわしも手伝ってやる』と一瞬で豪華絢爛な白亜の聖堂に変えられた。一人でここに住めってか。部屋余りすぎるだろこれ。

 挙句、リゼットの承認もなく地上における神様の代理人的な役目も押し付けられた。

 当然リゼットはそれに断ったが、『ぶっちゃけ偉そうにふんぞり返って、わしに伝えるべき事があれば伝えるだけでいいよ』と軽く言われたので、その程度ならばと仕方なく受け入れてやった。

 いよいよもって本格的に神様の巫女化してきた気がしないでもない。

 しかもこの聖堂、神様の神殿への直通経路まである。

 勝手に家を繋げるなナメック星人。

 

 まあそれはいい……それはいいのだが……。

 

 

 

「なんか筋斗雲が巨大化してる……」

 

 リゼットはそう呟き、妙に大きくなってしまった己の雲を見上げた。

 カリン様から貰った時は確かにリゼット一人が横になれる程度の大きさだったはずの筋斗雲は、何かここ数年で明らかに巨大化し、今では長さにして10m近くにまで達していた。

 理由として考えられるのはあれか……ここ近年で急激に筋斗雲の乗り手が減っている事だ。

 信じられない事だが、この世界において筋斗雲は珍しい存在ではない。

 乗り物として割とポピュラーな存在であり、結構色々な人が乗っていたのだ。

 だが近年に入って人々の心が悪しき方向へ傾いたらしく、乗り手がすっかり減ってしまった。

 そして乗り手を失った雲は行き場を失い、他の乗り手……つまりリゼットの所へ集まってしまったわけだ。

 

 リゼットはこれを見て孫悟空の誕生が近い事を確信した。

 悟空が世界を巡る頃にはもう筋斗雲の乗り手はいなくなってしまっていたはずだ。

 そしてそれを語った人物は『若い頃にはまだ沢山あった』と言っていたのだ。

 ならばもう、原作までの時間はそう長くない。

 あって精々60年か70年……少なくとも100年はないだろう。

 ……あれ? まだ結構あるぞ。

 とはいえ、リゼットの今まで生きた年月を思えばそう長い月日でもない。

 何せ生まれてから今日までで既に180年は経過しているのだ。

 

 期待がある。不安もある。

 あれからずっと休まずに――とは言わないが、怠る事なく修行はしてきた。

 今までに得た格闘技の長所を合わせ、実戦の中で研磨し、己だけの流派とも呼ぶべき戦い方を編み出した。

 界王拳モドキ(リゼットはこれをバーストリミットと名付けた)を倒れる寸前まで行う事で気の底上げと身体の耐久力を上げる修行は暇さえあればやっている。

 気の操作も磨き、様々な応用が出来るようになった。

 切断、操作、追跡は勿論の事SGカミカゼアタックのような簡単な自律思考を持つ気弾だって作り出す事が出来る。

 ドラゴンボールも暇潰し代わりに集め、今度は『どんな環境でも生きられるようにしてくれ』と願い、生身で宇宙へも飛べるようになった。

 とはいえ、今のままではまだ速度不足なのでちょっと大気圏抜けて帰って来るくらいが限度だが。

 ついでにここでリゼットは一つの裏技を使用した。

 飛び散るその瞬間に跳躍し、ボールのうちの一つを確保したのだ。

 もしかしたらまたドラゴンボールを必要とする時が来るかも知れないし、その時に一つでも最初から持っていれば苦労が全然違う。

 手にしたのは……5星球。まあ4星でなければどれでもいい。

 流石に4星は確保する気がない。あれを持ったままにしてしまうと最悪この世界の未来そのものが滅茶苦茶になってしまうからだ。

 

 リゼットは憂鬱気に瞼を伏せ、それから空を見上げる。

 背中からゆっくりと白い気が溢れ、しかし散る事なくその場に留まる。

 すると気は純白に輝く光の翼となり、リゼットの身体を宙へと運んだ。

 これが180年の修練の成果。気の操作を極めた先にある『気の固定化』。

 やっている事自体は劇場版でサウザーがやった気の斬撃とそう変わらない。

 本来散るはずの気をその場に留めて形にするだけだ。

 だがこうして生まれた翼は舞空術を補佐し、本来よりも遥かに複雑な変則飛行を可能としてくれる。

 宇宙で飛ぶ事を想定して編み出した飛行補助用の技だ。

 飛行速度そのものも実力以上に上昇させてくれるので、リゼットのお気に入りでもある。

 難を言えば色は赤がよかった。その方がデスティニーガンダムとかみたいで格好いい。

 白はないだろ、白は。どんだけ私に使われてるカラーパレット少ないんだ。

 

 空を舞う。

 翼をはためかせ、自由に空を遊泳する様は正に天使か天女そのもの。

 リゼットは思考を纏める時、よくこうして空を飛ぶ。

 重力という束縛から自らを解き放ち、自由な空に飛び上がれば思考も冴える。

 自らの実力を疑ってはいない。

 きっと自分は強いのだと信じている。

 だから期待がある。自分がどこまで届くのか知る時が来たと。

 宇宙に通じるか、それとも地球止まりか。

 いずれ悟空が大人になればぶち当たるだろう宇宙の壁。サイヤ人編以降のインフレ。

 宇宙にはそんな連中が溢れていて、世界の果てまで既知で塗り変えるというリゼットの目的を考えるならば、己の実力を知るのは必要最低事項。

 少なくともサイヤ人などに後れを取るようではその程度。宇宙などとても目指せない。

 絶対に途中で死んでしまう。

 

 まだ先だ、まだ未来の話だ。

 そう思い、誤魔化し、修行に明け暮れ、とうとうカウントダウンが始まった。

 70年……普通の人間が幸せに天寿を全うするならば充分な時間。

 もう“たったそれだけしか残っていない”。

 

「――私は、通じるんでしょうか」

 

 弱音が自然と口をつく。

 スカウターなんて便利なものはない。

 戦闘力の数値化など出来ない。

 だから自分の強さがどの領域にあるのか分からないのだ。

 一応の比較対象として神様がいるし気は読めるので推測くらいは出来るが正確ではない。

 一応神様を1とするならば今のリゼットは50はある。

 確か神様は300とかだった気がするので、リゼットは15000前後というところか。

 

「あ、やばい。ベジータ以下だ」

 

 リゼットはショックを受けたように呟く。

 いや知ってた。うん知ってたよ。

 この程度の推測はとっくに出来ていた。

 大丈夫、私にはバーストリミットがある。散々身体に慣らしたから軽く5倍くらいまでなら出力を上げられるし、無理すれば7倍くらいまではいける。

 つまり7万5000は固い。おお、私強いじゃないか。

 地球でこれって破格と言っていいだろう。

 

「……ギニュー隊長以下かあ」

 

 うん、僅か数年であっさり超えられる数値だ。

 数年どころかナメック星編のインフレ具合では1日で超えられる。

 サイヤ人がちょっと死にかければすぐだ。

 フリーザ第一形態なんぞもっての他。手も足も出ない。

 地球の科学者がちょっと頑張って人造人間作っただけで億を超えるのに180年生きて自分はこの程度。なんだか涙が出てきた。

 

「もっと頑張らないと、ですよねえ……」

 

 実戦を積もうにも、もう相手がいない。

 実力差がありすぎて誰を相手にしても弱い者苛めで、これならまだ岩でも叩いてる方がいい。

 強さを目指すにあたって、この地球は環境に恵まれているとは言い難かった。

 ……競う相手がいないのだ。

 同じ力量の相手が一人でもいれば効率は跳ね上がる。実力の伸びは飛躍する。

 だがリゼットは強くなりすぎた。彼女の相手足りえるのは彼女自身しかおらず、一人で黙々と修練する以外に方法がない。

 天下一武道会というファンなら注目するしかないあの大会の記念すべき第一回にも参加してみたが、まるで敵がいなかった。

 全て戦闘にもならず、片手を軽く振っただけで終わりで物凄くガッカリしたのを覚えている。

 強過ぎるというのも考えものだ。

 

「――……」

 

 いや、訂正しよう。

 やはり強さは必要だ。でなければ、身に降りかかる火の粉すら払えない。

 リゼットは翼を広げ、油断なく下を見る。

 そこには見知らぬ老人と、どう見ても人間ではない化物が5体。

 明らかに平和的に話し合おうという雰囲気ではなく、自分に何かしらの悪しき用があって来たのだろうと推測出来る。

 この聖堂に来客とは珍しいが、招かれざる客である事は疑いようもない。

 リゼットは翼を解除せぬまま、地上へと降下した。

 

「美しい……お会い出来て光栄ですぞ、龍天女よ」

「何者です?」

「儂の名はDr.コーチン……貴女を迎えに来ましたぞ、この世で最も強き者よ」

 

 Dr.コーチン……原作にはいない名前だ。

 しかしその名前には聞き覚えがある。

 禁忌の研究に手を伸ばし、学会でも爪弾きにされている者の名だ。

 そして確かサイヤ人編をインスパイアした劇場版、『この世で一番強い奴』にそんな名前の奴がいた気がしないでもない。

 どちらにせよ、友好的な人物でないのだけは確かだろう。

 

「私と共に来て頂きましょう。Dr.ウィローがお待ちです」

「……そうですね。貴方に案内して頂きましょうか」

「――何!?」

 

 リゼットの目つきが鋭く変化する。

 それと同時にコーチンの周囲に控えていた化物達が粉々に四散し、コーチンの右腕が消し飛んだ。

 見ればリゼットは何時の間にか指を突き出しており、その指先からは煙が上がっている。

 何の事はない。コーチンには知覚出来ぬ速度で攻撃動作に移り、そして護衛とコーチンの腕を気で消し飛ばした。それだけの事だ。

 

「私を連れ出して何をする気だったのかは知りませんが、相手が悪かったですね。

その無知を悔いて永久に眠りなさい」

「……! く、くくく、なるほど……流石は伝説に謳われし龍天女。

バイオ戦士では相手にもならぬか……ならば!」

「――!」

 

 周囲に強い気を感じ、リゼットは表情を変えぬまま新たな来客へ視線を向ける。

 彼女を取り囲むように現れたのは3体。いずれも人間ではない異形の者だ。

 緑色の肌の、小柄な異形。

 黄色の肌の、ゴムのようにブヨブヨした肥満の怪物。

 赤いモヒカンの、ピンク色の肌の怪物は棘付きの肩パッドを付け、まるで世紀末に出て来るモヒカンのようだ。

 名前は確か――何だったっけ? エビフライとかミソカツとか、そんな美味しそうな名前だった気はするのだが。

 

「わしが作り出した凶暴戦士達だ! さあゆけい! 天女を捕らえよ!」

 

 コーチンの命令と同時に3体の異形がリゼットへ迫る。

 だがリゼットには微塵の動揺もない。

 繰り出される拳を避け、左手で掴み、右手で軽く殴り飛ばす。

 それから掴んだ肥満の化物を投げ、小柄な緑色へと叩き付けた。

 

「え、ええい! エビフリャーよ、凍結拳で凍らせてしまえい!」

 

 どうやらエビフライというらしいピンクのモヒカンが手から冷気を放出する。

 モヒカンのくせに冷気とは嘆かわしい。火炎放射器を使え。

 しかしどちらにせよリゼットには通じない。あらゆる環境でも生存可能な彼女の、その生存区域には当然宇宙すら含まれる。

 極寒の宇宙空間でも生きられるものが、たかがマイナス数百度の冷気程度に怯むはずもない。

 リゼットはまるで何でもないとばかりに冷気の中を歩き、エビフライの胸に手を当てる。

 そして、気弾で胸部を貫いてその機能を停止させた。

 

「な、馬鹿な! ならばキシーメ、電撃鞭だ!」

 

 緑色の異形が鞭を伸ばし、リゼットはそれを容易く掴む。

 直後、掴んだ鞭から電流が流れリゼットの全身を駆け巡った。

 だがそれがどうした。

 リゼットはまるで表情を変えずに鞭を通じてキシーメを引っ張り、体勢を崩した彼の頭部を気弾で消し飛ばした。

 そして最後に止めとばかりに気を円盤状にした斬撃気弾で残る肥満体の五体を切り刻む。

 確か記憶が正しければこいつは某海賊漫画の主人公みたいなゴムゴムだったはず。

 ならばこういう攻撃が効果的だろうと思ったのだが、その通りだった。

 ギア2を習得してから出直してこい。

 

「馬鹿……な……!わしの、凶暴戦士達が……!」

 

 唖然とするコーチンの前へ無造作に歩み、微笑を浮べてリゼットは彼へお願い――もとい、脅迫をした。

 

「さあ、案内して頂きましょうか。貴方の主、Dr.ウィローの元へ」




・以下、ちょっとした解説

【この世で一番強いヤツ】
ドラゴンボールの劇場公開作第5弾。
悟空が界王拳と元気玉を習得し、悟飯がピッコロを尊敬している事からサイヤ人編以降である事は確実。
しかし悟空が超サイヤ人化を習得していないのでナメック星以前であり、恐らくはピッコロがナッパに殺されずにナメック星に行く必要がなかった世界線と推測されている。

【Dr.ウィロー】
かつては「不世出の天才」と呼ばれていたが狂気に染まっていた為に学会を追放され、ツルマイツブリ山に潜伏して何かやばい野望を抱いていた人。
その途上で病に倒れたが、助手であるDr.コーチンの手を借りて脳だけを生命維持装置へと移植され、そのまま研究所の最深部で生き延びていた。
が、間抜けにも異常気象によって永久凍土に閉じ込められてしまい50年間放置された。
劇場版では50年ぶりに助手のコーチンが彼を永久凍土から解放し、当時地球最強の肉体の持ち主と思い込んでいた亀仙人の身体を乗っ取る為に行動を開始する。
この作品は永久凍土に閉じ込められる前にリゼットの存在に気付き、リゼットの身体を奪う為に動いた。
ちなみにこいつ自身のサイボーグボディの戦闘力は推定で3万以上。
バイオテクノロジーで生物を作り出す事も出来る。
お前そんだけ頭いいなら自分で自分の理想のボディ作ればよかったんじゃ……。

【Dr.コーチン】
ウィローの助手。
こいつもサイボーグだが、大した事はなかった。
50年かけて永久凍土から自力で脱出し、ドラゴンボールを集めた努力の人。
そこまで頑張って尽くしたのに、映画本編ではウィローが壊した床の崩落に巻き込まれて死亡した。

【キシーメ】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
電撃鞭を使う。映画パンフレットによると戦闘力は7000。ナッパくらいなら倒せる。

【エビフリャー】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
モヒカンで肩には棘が付いているが汚物は消毒しない。
相手を凍らせる凍結拳という技を使う。
映画パンフレットによると戦闘力は7500。ナッパを余裕で倒せる。

【ミソカッツン】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
ゴムゴムの実を食べたゴムバイオ人間。懸賞金は3000万ベリー。
映画パンフレットによると戦闘力は4300。こいつだけ妙に弱いがギリギリナッパを倒せる。
こいつらが存在している世界線で何故ラディッツやベジータがスカウターで気付かなかったかは不明。
永久凍土の中にまでは電波が届かなかったのだろうか。


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第五話 この世で一番強いヤツ(後)

皆様こんばんわ。
前話辺りからじわじわと評価が入っているようで、感謝しております。
これを励みとし、完結までのんびりとやっていこうと思います。
話数的に大体、全120話くらいを予定しておりますので気長にお付き合い下さい。



 ツルマイツブリ山。

 遙か北方に位置するこの巨大な氷山は太陽の熱でも決して溶けない為、永久氷壁の名を欲しいままにしていた。

 その山の奥へ進むと、場に不釣合いな機械仕掛けの研究所が見えてくる。

 コーチンを捕らえたリゼットは白い光の軌跡を残しながら大空を飛翔し、研究所に一撃の気弾を見舞う。

 すると爆煙が上がり、研究所の屋根に大穴が開いた。

 正面から入るという選択はない。どんな罠が仕掛けられているか解ったものではないからだ。

 敵の拠点に乗り込むのに、わざわざ敵の用意した入り口を通る必要がどこにある。

 リゼットは自らが開けた穴より飛び込むと研究所へと音もなく着地する。

 

『よくぞ来た……この世で最も強い肉体を持つ者よ』

「貴方がDr.ウィローですね」

 

 研究所の奥に鎮座するそれは、まさに科学の異形。

 バイザーで覆われた入れ物の中には透明な液体が満たされ、脳だけが浮いている。

 そしてその脳を支えるのは機械仕掛けの身体だ。

 その身体は何とも形容し難く、昆虫のようでもあり魚のようでもあった。

 

「ロクでもない事だろうとは思いますが一応問いましょう。

何の用があって私を招いたのですか?」

『この世で最も優れた頭脳の持ち主である私が、この世で最も強い肉体を得る。

お前の身体を私に寄越せ』

「ご冗談を。身体が欲しければご自慢の科学力で自作してはどうです?

他人の身体を奪うより余程迷惑でないと思いますが」

 

 他人に、ましてや異性に身体を明け渡すなど冗談ではない。

 これはいよいよ話し合いの解決など望むべくもない、とリゼットは早々に見切りを付けた。

 元より、コーチンなどを寄越してあんな凶暴戦士をけしかけてくる時点で望みなど1割もなかったが、今完全にゼロとなってしまった。

 

『お前に拒否権はない。その老いず朽ちず、如何なる環境でも生存出来、そして強く美しき肉体。私が貰い受けてこそ意味がある』

「生憎と私の身体は私の物です。諦めて下さい」

 

 リゼットは話しながら相手の潜在パワーを探る。

 その戦闘力は――かなり大きい。正直驚いた。

 サイヤ人編の時期の劇場版の敵なのだから精々ベジータクラスだろうと思っていたが、多分それ以上だ。

 神様を1として数えても130はある。戦闘力にして大体39000か。

 つまり素の状態ならばリゼットよりも上だ。

 まさかこれ程の相手が既に地球にいようとは。

 リゼットは知らず笑みを浮かべ、そして戦意を昂揚させていく。

 

『そうはいかん! その身体、渡してもらうぞ!』

「来ますか……」

 

 ウィローが起動し、巨大な腕を振り下ろす。

 リゼットの近くにコーチンがいるというのにまるで配慮がない。

 哀れなコーチンは敬愛するはずのウィローに叩き潰され、鉄屑と化した。

 リゼットはその場から高速で離脱し、指先に気を一点集中する。

 そして連射!

 機関銃のように威力を指先一点にまで収束させた気弾を連続でウィローへ叩き付ける。

 だがダメージは左程ない。やはり戦力の差によりほぼ防がれてしまっている。

 それどころか即座に反撃に移ったウィローの豪腕に殴られ、派手に吹き飛んでその華奢な身体を壁にめり込ませた。

 

「くっう……! やはり素の状態では歯が立ちませんか……!」

 

 解ってはいたが、やはり戦闘力の差というものは絶対的だ。

 大きく差が開いていれば技術など限りなく無意味に近付く。

 悔しいが、今の自分ではまだ普通にやっても勝てない。

 だが、ならば普通でない方法を使えばいい。

 

「いきます――バーストリミット・トレース!」

 

 バーストリミットは界王拳をモデルにリゼットが編み出した戦闘力底上げの術だ。

 そしてトレースとはラテン語で『3』。つまりこれは名前こそ違うものの界王拳3倍に相当している。

 もしここに劉鳳さんがいたら『バーストリミットは英語でトレースはラテン語だ!』と文句を言われるかもしれないが、いいじゃないか。そういうオサレな名前の技って結構あるし。

 どこぞのスーパーロボットなマジンカイザーなんて日本語とドイツ語の合体だけど恰好いいし、要は響きさえよければいいのだ。

 というかそもそもこの世界に英語はあってもラテン語はない。

 

 リゼットの身体が白く輝き、光の粒子が溢れる。

 これで計算上、戦闘力は(多分)45000前後。

 ウィローを上回り、こちらが優位となった。

 リゼットの身体が消え、捉え切れない速度で以てウィローを蹴り飛ばす。

 

『ぬうっ、小癪な』

 

 ウィローが反撃で拳を振るう。

 だがリゼットは左手でその一撃を容易く受け止め、そのまま滑るように腕の下を潜って右手で突き上げるように掌底を叩きこんだ。

 ウィローの腕の関節駆動部位を見切っての、関節破壊だ。

 鉄がへし折れる音と共にウィローの片腕がもがれ、火花を散らした。

 サイズ差など知った事ではない。

 リゼットの身長150に対しウィローの全長は4m以上。だからどうした。

 戦闘力の差があれば、こうした無茶苦茶な事だって不可能ではない。

 

「“ランス”」

 

 リゼットが続けて行うのは気の固定化。

 本来拡散するはずの気をその場に止め、一つの武器として使用する。

 現在も背から生やしている翼は言うに及ばず、槍や剣すら不可能ではない。

 リゼットが戦う上で問題となるのがその体格の小ささによるリーチの短さだった。

 それを補う意味でも、この技術は有用だ。

 というか武器を持つのと持たないのでは持ってる方が強いに決まっている。

 ドラゴンボールでは邪道だろうが、そんな事をいちいち気にする気などない。

 生成した光の槍を突き出し、膝の関節を貫く。

 生まれてより200年近くを武に費やしてきたのは伊達ではない。世界を巡りあらゆる武技を修めたのはハッタリではない。

 素手に始まり剣、槍、棒、暗器、手裏剣、鞭、刀、ブーメランにハルバード、果ては弓矢に鎌。

 薙刀にナイフ、ボウガン、ハンマーやモーニングスターの扱いまで心得ている。

 武芸百般――拳銃以外ならば使えぬ武器などない。

 

 え? 拳銃?

 あれは駄目だ。誰が使っても威力が一律だからこの世界では泣けるほどに弱い。

 マシンガン乱射しても亀仙人レベルで手をパパパパパ、と動かすだけで全弾キャッチされ、当たっても最初期悟空すら倒せない。

 戦闘力が100を超えるならば、そこらのパチンコ玉でも指で弾いてた方がまだマシだろう。

 残念ながらこの世界の拳銃は刃牙世界のムエタイ(ロシア人)にも等しい。

 

「“デスサイズ”」

 

 続けて生成したのは気の大鎌。

 リゼットの思うがままに伸縮し、刃のサイズすらも変化する自在変化の死神だ。

 その魔器を振るい、残っていた片腕を斬り飛ばす。

 だがまだ片足が残っている。

 未来の話ではあるがピッコロ大魔王も片腕を残して悟空に負ける。

 ならば油断は出来ない。

 

「“クレイモア”」

 

 最後の武器は巨大な光の剣。

 それを手から離し、指先を動かして遠隔で操作する。

 繰気弾みたいで弱そうとか言ってはいけない。

 リゼットのお気に入りの技の一つなのだ。

 果たしてそのお気に入りの剣は見事最後の片足を切断し、これでウィローは達磨となった。

 

『お、おおおおお……!

おのれ! おのれえええーーーーッ!!』

 

 ウィローが激昂し、ジェット噴射で空へと発つ。

 四肢を潰されてからの飛行。実に賢い手だ。

 孫悟空も未来でそれをやってマジュニアに勝つのだし、選択としては正しい。

 しかし正しいからといって勝てるとは限らない。

 それがこの世界だ。

 

(上空で気が高まっている……地球ごと私を消す気ですか。

支配しようとしている地球まで消して、その後どうする気なのか……)

 

 ウィロー最後の攻撃を察知しながら、リゼットもまた迎え撃つべく気を集中させる。

 全身の気を全て右手の中へ。

 限りなく凝縮した白い極光を掴み、上空の気の高ぶりに合わせて投げつけた。

 

「往きなさい――spark(スパーキング)!」

 

 spark(炸裂)という何の捻りもない名前そのままに、凝縮させた気を投げつけて炸裂させる。

 言ってしまえばただそれだけの技だ。

 だがそれだけが単純無比。シンプルな技ほどこの世界では強い。

 解き放たれた白の光球は上空から迫るウィローの破壊光線すらも押しのけ、押しやり、押し返し、その先にいた哀れな科学者へと炸裂する。

 白の輝きが爆ぜ、それを見計らってからリゼットは翼をはためかせて宇宙へと飛翔した。

 

 高く、高く、高く、遥か高く――!

 空を越え、大気圏を越え、母なる星を越え、リゼットは既に死に体のウィローと対面した。

 四肢を失い、あちこちが砕けてショートし、脳を保護するフィルタすら砕けて溶液が零れている。

 そんな姿になって尚ウィローは幽鬼のように、おぞましく、既に肘から先のない機械の腕を伸ばした。

 

『カラ、ダ……カrダ……ワタ、シno……カラ、da……』

「“ソード”」

 

 リゼットは目を閉じ、腕を静かに振る。

 すると彼女の背後に数百、数千の気の剣が顕現し、一斉にその矛先をウィローへと向けた。

 

「……さようなら。哀れな天才」

 

 千の刃が一斉にウィローへ殺到し、突き刺さり――そして爆発。

 哀れな男を跡形もなく消し飛ばした。

 

 

 狂った天才、Dr.ウィローは倒した。

 そして後は彼の研究成果を闇へ葬るだけだ。

 リゼットは氷の瞳を研究所へ向け、そして彼という天才を惜しむ。

 

 掛け値なしの天才だった。

 あのバイオ戦士も、ウィロー自身も、力の使い方さえ誤らなければこの惑星の守護者にだってなれたはずだ。

 後に現れるサイヤ人すら返り討ちに出来る程に彼は天才だったのだ。

 だから惜しい。

 彼という存在が心底、勿体ないと思う。

 

 欲に忠実な事を責める気はない。リゼットだって同じ穴の狢だ。

 要は欲の向き先がどこに向かうかという、それだけの話。

 正義の味方の代名詞みたいな悟空だって、己の戦闘欲には忠実なのだから、これだけを以て悪だなどと断じる事など出来ない。

 しかしその欲と才能を悪しき方向へ傾けてしまうならば、それは討たなくてはならない。

 この素晴らしき世界。一人の為に塗り替えられ、滅びていい道理などどこにもないのだ。

 

 故にリゼットは神の代行人として判決を下す。

 顕現する武器は巨大な鉄槌。

 それがリゼットの手を離れ、研究所へと堕ちていく。

 

 衝撃。

 雪崩が起き、永久氷壁が研究所を覆い潰していく。

 太陽の熱でも溶けないこの氷に封じられては、研究所が日の目を見る事はもうないだろう。

 本当に惜しい。

 技術自体は責めるべきものではなかった。むしろ何百年も先を行く素晴らしいバイオテクノロジーだった。

 使い方さえ変えるならば、多くの人の命を救える技術。

 だが、今の世界にこれを撒くのはあまりに早い。

 この先、レッドリボン軍や多くの悪人たちが世を跋扈する。

 そこにこんな技術を残していては、どんな悪影響を及ぼすか分からないのだ。

 だから――。

 

「いつか、この技術を得るに相応しい人が現れるまで」

 

 そう誰にともなく告げ、リゼットは白翼をはためかせる。

 そして光の残滓だけを残し、大空へと飛び去って行った。




というわけで、今回は『主人公はこんな戦闘スタイルです』と説明する為のチュートリアルバトルでした。
ウィローは犠牲になったのだ……リゼットの戦闘スタイルの説明……その犠牲にな……。
ウィロー「リゼットェ! お前は俺にとっての新たな(ボディ)だ!」

【スパーキング(Sparking)】
リゼットの技の一つ。
片手に気を集中し、白い気弾を投げつける。
敵に命中すると同時に炸裂し、破壊する。
ぶっちゃけただのクラッシャーボー(ry
名前はゲームから。

【バーストリミット(Burstlimit)】
リゼット版界王拳。効果は本家とほぼ同じ。
情報だけを頼りに真似したのが悪かったのか、見た目は完全に別物。
全身が白く発光し、白く輝く気が粒子のように全身から放出される。
この手の戦闘力倍化技がないと地球人はインフレに付いて行けない。
名前はゲームから。


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第六話 物語の開始

✪ 皆様こんばんわ。
作者のマジカル☆さくやちゃんスターでございます。
投稿当初は存在感空気で感想もほぼなかった本作ですが、皆様のおかげでじわじわと日刊ランキングを登っております。
これほど嬉しかったのはかつて、東方妖々夢で咲夜さんのサポートアイテムとしてお呼びがかかった時以来でしょうか。
これからもよろしくお願いします。


 エイジ737。

 リゼットの研ぎ澄まされた感覚は何者かが地球に来た事を感じ取っていた。

 気配は決して強いものではない。

 か細く、頼り無い気の小ささだ。

 しかし念のためと外に出て、気の大元を確認する。

 そして見た。地球へ今まさに降下しようとしている球状のポッドを。

 明らかなまでの宇宙船を。

 

「――遂に、来たのですね……」

 

 リゼットは普段は呆けている表情を珍しく引き締め、一人呟く。

 この世に生まれてより250年。

 不思議と色褪せる事なく覚えている前世の知識、そこに刻まれた運命の子がとうとう地球にやって来た。

 遥か遠い宇宙の彼方で数多の気が消えたから、まさかとは思った。

 自分では逆立ちしても敵いっこない強大極まる気(多分こいつがフリーザだ)の存在も感知した。

 だからもう、その時はすぐそこだと分かってはいたのだが、こうして本当に来ると否応なしに緊張が高まる。

 

「知っているのか?」

「……神様。いつからそこに?」

「何、わしも今来た所だ。宇宙から来たアレが気になっての」

 

 普段はお茶目でも、流石に地球の神か。

 その表情は険しく、そして問い詰めるようにリゼットの横顔を見ている。

 

「……遠い場所で数多の命が消えるのを感じました。

今までに感じた事もないような、強大過ぎる悪のエネルギー……その者により、一つの星が消されました」

「儂はそこまで感知は出来ぬ……が、お前が言うならば事実なのだろうな」

「その悪に最期まで立ち向かった勇敢な戦士……その血を継ぐ者が、今地球に来た運命の子です。

これより先、地球は彼を中心として運命が巡る事でしょう」

「占いババのような事を言う……それは予言か?」

「いいえ、予感です」

 

 予感というか知識です。

 という事は流石に口に出さず、黙っておく。

 神様はふむ、と呟くと遠くを見るように視線を上げる。

 

「その悪に、お前では勝てぬか?」

「今はまだ勝てません。その者は文字通り次元が異なります」

「……にわかには信じられんな。お前が太刀打ち出来ぬ者が存在するなど」

「事実です。宇宙は私達が思うよりもずっと広い」

 

 フリーザの気は感じた。その強大さに身震いすらした。

 駄目だ……今はまだ勝てない。戦いすら成立しない。

 250年研磨して届かなかった。

 ならばやはり、方法は一つ。孫悟空達と共に強くなるしかない。

 

「しかし猶予はあります。

巨悪もしばらくはこの星に目を向けないでしょう。

彼が成長し、一人前の戦士となるに充分な時間はあるはず」

「もしも、なければ?」

「その時は私が時間を稼ぎます。巨悪さえ来なければ私でも何とか出来ますから」

 

 孫悟空はこの惑星の希望となる男だ。

 彼が来た事により地球は危機に晒されるが、だからといって悟空がいなかったならば誰もフリーザを止めず、ましてや魔人ブウなど対処の仕様もない。

 孫悟空による英雄譚。それがこの宇宙には必要だ。

 いずれ己が果てまで旅するこの宇宙。誰かに壊されるなどあってはならない。

 だからリゼットは悟空を必要とする。守ろうと考える。

 彼という英雄をこの世界は求めている。

 

 運命は動き出した。主人公が遂に地球に降り立った。

 ならば後は乗るかそるか。

 もう止まらない。物語は今、開始されたのだ。

 

 

 そして更に、12年の月日が流れた。

 

 

「次のドラゴンボールは……うん、間違いない。ここだわ」

 

 エイジ749。

 カプセルコーポレーション社長令嬢であるブルマは自作のドラゴンレーダーを片手に確信したように言う。

 7つ集めればどんな願いも叶う不思議な球、ドラゴンボール。

 彼女達は現在そのうちの5つを確保しており、6つ目の球の反応を追ってここまでやってきていたのだ。

 しかし問題がないわけではない。

 天女が住むと伝説で伝えられるこの山、とにかく高いのだ。

 標高5000m。そんな所に住むなと言いたい。移動とか不便すぎるだろうこれ。

 

 ブルマはすっかり途中でへばってしまい、同行者の野生児――孫悟空に背負ってもらっている。

 この悟空がなかなか便利で、人間離れした凄まじい強さと体力を誇る。

 彼がいなければあるいは、この旅は頓挫していたかもしれない。

 もう一人……否、もう1匹の同行者は豚のウーロン。

 どんな物にも変身出来る変身術の使い手だが、あまり役に立った試しがない。

 加えてとんでもないスケベで、隙あらばブルマの痴態を見ようとしてくる。

 そんな、何とも言えないおかしな仲間二人と共にブルマはせっせと山を登っていた。

 

「ぐへへへ……天女様かあ。さぞやお美しいんだろうなあ」

「あんた馬鹿じゃない? そんなのが本当にいるわけないでしょ」

 

 ようやく山を登り切り、その頂きにて存在感を主張する聖堂を3人は目にした。

 白一色の、まるで他の色が使用されていない、雪で作ったかのような聖堂。

 その周囲には亡霊のように淡く光る女性が数人徘徊し、畑を耕したり果物を集めたりしている。

 これはリゼットがSGカミカゼアタックの真似で作り出した自律思考気弾だが、無論そんなのをブルマ達が知る由もない。

 

「……本当に、いるわけ……」

「な、なんか本当に居そうだぞこれ」

 

 存在感が違う。

 本当に何か神聖なものが住んでそうな雰囲気がある。

 というか周囲の亡霊がまず有り得ない。

 物怖じするブルマとウーロンだったが、悟空が特に何の警戒もなく亡霊に話しかけた。

 

「おいオメェ、ここにドラゴンボールっちゅうんはねえんか?」

『ドラゴンボール……ああはいはい、ありますよ。

それでしたら主様がお持ちです』

 

 悟空に話しかけられた亡霊はにこやかに対応し、悟空達を聖堂へと招き入れる。

 どうやら天女とやらは来る者拒まずの性格らしい。

 見るだけで圧倒されそうな聖堂内部を進み、至聖所へと入る。

 その中央、宝座の上に彼女はいた。

 

 年齢は14前後といったところだろう。

 白……と言うよりは白金とでも言うべき輝く頭髪。

 新雪のような穢れのない肌。

 黄金の瞳はブルマ達の心の奥底まで見通すような不思議な輝きを湛え、身に纏う装束も白一色。

 ロイヤルケープを肩から掛け、ヒラヒラとしたドレスを着こなす。

 スカートはフワリと広がり、まるで妖精を思わせた。

 そして何より、神々しく輝いている。

 淡く、白く発光し光の粒子が溢れている。

 一目で解る……やばい、これ本物だ。

 本物の、神とかそういうのに連なる何かだ。

 さしものウーロンもこれには何も言えず、スケベ心すら発揮出来ない。

 造形が整いすぎていて、何より位階の違いを思い知らされ、性欲すら抱けないのだ。

 そんな初めて見る存在にただ圧倒されるブルマ達に、彼女は静かに微笑んだ。

 

「ようこそ、願いを求める旅人よ。

よくぞここまでおいでくださいました」

 

 正直な所ブルマは楽観していた。

 何か凄い人と言われる亀仙人もパッと見ではただのスケベ爺だったし、どうせ今回もそんなオチだろうとタカをくくっていた。

 まさかここまでガチの天女が出て来るとは予想もしていなかったのだ。

 

「あ、あはは……そ、そそその、本日はご機嫌うるわしく……?」

 

 呂律が回らない。

 緊張で舌が麻痺する。

 見ればウーロンもガチガチに固まっており、平然としているのは悟空くらいのものだ。

 そして彼は何の気負いもなく天女へと近付くと、いつものようにその股間を叩こうと手を伸ばした。

 生まれてからブルマと出会うまで女性というものを知らなかった彼は見た目で男女の区別が出来ない。

 だから股に付いているかどうかを確認して男女を確認しようとしているのであり、そこに下心の類は一切ない。

 しかし悟空の手は虚しく宙を空振り、いつの間にか背後へ回っていた少女に逆に頭を撫でられた。

 

「ヤンチャな子ですね。

でも駄目ですよ、そんな事しちゃ。

本気で嫌がる方だっているんですから」

「えっ!?」

 

 動きがまるで見えなかった。

 その事に驚き、悟空は後ろを振り返る。

 だが居ない。少女は再び宝座の上へと戻っていた。

 

「お、おっでれえた。おめえ妖術使いか?」

「仙術なら使えますが、今のはただゆっくりと動いただけです。

鍛えれば貴方でも出来るようになりますよ」

 

 クスクスと楽しそうに笑う少女に驚きが止まらない。

 だがそこで驚いてばかりいないのも孫悟空という少年だ。

 彼はワクワクしたような声で少女へ遠慮なく話しかける。

 

「すっげえ! おめえ強えんだな!」

「ふふ、それほどでもありませんよ」

 

 宝座から浮き、少女は全員を見渡す。

 その表情は変わらぬ微笑だが、機嫌を損ねればどうなるか分からない。

 とりあえず悟空が勝てないのは今ので証明された。

 つまり今までの『いざとなれば悟空が倒してくれる』はここでは通じない。

 

「さて、貴方たちが求める願望の球は確かに私が持っております。

しかしこれは使い方次第では世を混沌に導く事も出来る万能の願望器。悪しき者に委ねるわけには参りません。

故に問いましょう――汝等、何を求めて龍球を望む?」

 

 氷の瞳が全員を射抜く。

 嘘偽りは認めぬと言わんばかりの視線。

 やばい、とブルマは思った。

 この雰囲気で『素敵な恋人が欲しい』とか凄い言い難い。

 

「オラは特にねえよ。ブルマが付いて来いって言うから来ただけだ」

「無欲なのですね。大変よろしい」

 

 どうやら少女は悟空の事を御気に召したようだ。

 心なしか彼と話す時は楽しそうにしているように見える。

 これ、最初から悟空だけ行かせておけばよかったんじゃないだろうかと思うも、既に後の祭りだ。

 どうしよう、言葉が出ない。

 そうして黙っているブルマとウーロンを見て、少女は不意に表情を緩めた。

 

「――なんて、ね。

そう畏まらないで下さい。願いを抱く事は必ずしも悪しき事ではないのです。

貴方達に大きな邪心は感じません。ならば、この球を委ねる事も出来るでしょう」

 

 微笑ましいものでも見るように少女はブルマ達を見る。

 言っている事は回りくどいがつまり、ブルマ達に球を預ける事に不服はない、という事らしい。

 白い少女は「しかし」と付け加える。

 

「何の条件も付けないのも味気ありません。

そこでどうでしょう。今夜一晩、貴方達の旅の話を私に聞かせて下さいませんか?」

 

 パン、と手を叩きさも名案であるかのように少女が条件を出す。

 圧倒されそうな神聖さに反し、意外と軽い性格をしているようだ。

 無論これを断る理由などない。ちょっと冒険の話を聞かせれば球を譲ってくれるのだから、破格の条件と考えていいだろう。

 ブルマはこの条件に快く頷き、自身が経験したこれまでの旅を語って聞かせた。

 

 

 どうしよう、凄い楽しいし嬉しい。

 リゼットは己が今、ドラゴンボールというかつて見た物語の世界にいる事をかつてなく実感していた。

 孫悟空がいて、ブルマがいて、ウーロンがいる。

 聖堂の外には彼等を尾行してきたらしいヤムチャとプーアルの気も感じ取れる。

 彼等のここまでの旅の話も、既に知っているはずの話だというのに心を昂揚させてくれた。

 どうやら今は牛魔王と出会った後に当たるらしい。

 自分がボールを一つ抱えていた事でブルマが本来所持しているはずだった球が二つから一つに減り、そしてここに来たようだ。

 その願いも何とも欲が無い事で、『素敵な彼氏が欲しい』と来た。

 その程度なら、わざわざドラゴンボールなどに頼らずともブルマなら容易く叶いそうな気がしないでもない。

 美人だしスタイルいいし、資産もあって才能と頭脳もある。

 うん、超優良物件じゃないか。黙ってても男が放っておかないぞこれ。

 

 ウーロンは『ギャルのパンティ』……うむ、何も言うまい。

 まあ『世界中の女をハーレムに入れる』とか言い出さない辺り、根はそこまで腐っていないのだろう。

 ちょっと性に興味が出た小悪党、くらいが限度のようだ。

 放置してもさして問題はあるまい。

 

 悟空に至っては願いなし。

 あえて言うならば『腹一杯飯食いてえ』くらいだった。

 しかしそれはこの場で叶えてやったので実質願いはないに等しい。

 (ただしこれのせいでリゼットが溜めていた食料50人分が消し飛んだ)

 

 原作主人公組だからこそ贔屓した、というのは否定しない。

 実際彼等が主人公でも何でもない見知らぬ誰かだったら、ここまで親切にはしなかっただろう。

 よくも悪くもリゼットは己の欲と好みには正直で、公明正大とはかけ離れた人物なのだ。

 

 

 

 そして翌日、悟空達は再びボール集めの旅へと出発した。

 この先の運命は勿論知っているが、大きく変えようというつもりはない。

 今はただ、黙って傍観者に徹するのみだ。

 

(でもちょっとくらいなら近くで視てもいいですよね?)

 

 

 ――などと謙虚に徹する事など出来るわけもなく、リゼットはこっそりと悟空達の後を尾ける事にした。



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第七話 大猿

✪ 皆様こんばんわ。
昨日から評価が沢山入り、日刊ランキングの一位になる事が出来ました。本当にありがとうございます。
これほど嬉しかったのは東方輝針城に咲夜さんが8年ぶりに自機出演した時以来でしょうか。

尚、私は『お前咲夜のイメージに合わんから出演()るな』とレミリアお嬢様に倉庫に放り投げられました。


 悟空達がリゼットの元を訪れてより数日。

 リゼットは気配を限りなくゼロにし、上空より彼等の旅を見守っていた。

 言うまでもなくマスコミ染みた観察欲に起因するものである。

 物語として見たあの旅が現実に展開されている。

 それを見ないのはファンとして間違えているだろう、という勝手な判断による高みの見物だ。

 残念だったのは既に悟空達が6つのボールを集めている事であり、この旅の残るイベントが兎人参化との対決と、ピラフ一味に捕まる事ぐらいだった事か。

 

 兎人参化は改めて見るとインチキもいい所の能力だと実感させられる。

 とはいえ、恐らくだがあまりに戦力の離れすぎている相手には通じないだろう。

 悟空によって月に運ばれてしまったが、流石に可哀想なので後で助けてあげてもいいかもしれない。

 悪党には違いないが、一応殺生などはしていないようだし、何よりあれは罰としても重すぎる。

 しかも月は後に破壊されてしまうので、その後彼等は宇宙を彷徨う羽目になるらしい。

 これはいくら何でも哀れに過ぎる。

 

 ピラフ一味との対決は大体知っている通りの流れだった。

 悟空達がピラフの城に入ってからの事は上空からでは分からなかったが、まあやはり捕まってしまったらしい。

 そして呆気なくボールを奪われ、伝説の『ギャルのパンティおくれ』へと繋がるわけだ。

 これには上空で観察していたリゼットも爆笑したが、よく考えたらあれ誰のパンツなのだろう。

 『ギャルの』と条件付けている以上新品は有り得ない。

 とりあえず神龍にパンツ盗られた人はご愁傷様といっておこう。

 しかし悟空達は悪運が強い。

 捕らえられた日が偶然満月だったおかげで大猿化して脱出出来るのだから、怪我の功名というものだろう。

 後はヤムチャ達が頑張って悟空の尻尾を斬るだけだ。

 

 ……と、思っていたのだが何故か自家用機で逃げたはずのピラフ達が戻ってきた。

 そして大猿化した悟空に機銃を浴びせて翻弄している。

 はて、こんな展開あったかな、などと思いつつも何せ前世の記憶だ。

 抜けがあっても何ら不思議ではない。

 機銃では埒が飽かないと判断したのか、ピラフ機からミサイルが発射される。

 多分今の悟空ならば問題ないと思うのだが、しかしリゼットは不安に駆られた。

 もしこれで悟空が死んだら?

 無い、とは言い切れない。この時点の悟空の戦闘力は10。

 つまり大猿化して10倍になっても100程度という事だ。

 100ならばミサイルの直撃を受ければ死んでも不思議はない数値だ。

 

「――“レイピア”」

 

 気の固定化で白いレイピアを己の横に生成し、指先を動かして操作する。

 要するにレイピア型繰気弾である。弱そうとか言ってはいけない。

 細剣をミサイルへ突撃させ貫き、悟空に届く前に爆散させる。

 余波でピラフ達も吹き飛んだが、まあ彼等は無駄にしぶといので死にはしないだろう。

 ……後に大魔王を復活させて間接的に大勢の人々を殺す事を考えるとここで殺してしまった方がいい気がしないでもないが。

 ついでにGTでは究極のドラゴンボールを使って間接的に地球すら破壊しかけるので、益々ここで殺した方が世界の為な気もするが。

 ……あれ? 割と冗談抜きであいつら消した方が世の中の為なんじゃない?

 そんな物騒な思考に支配されそうになるが、リゼットは首を振ってその考えを追い出した。

 ピラフなどどうでもいい。それよりも今は悟空だ。

 

「天女様!」

 

 ブルマの弾んだ声が聞こえる。

 流石に攻撃を行えば空にいてもバレるか。

 本当は手出ししないつもりだったのだが、ついやってしまった。

 リゼットはやっちゃったなあ、などと思いつつ高度を下げてブルマ達の前へと舞い降りた。

 

「私達を助けに来て下さったんですね!」

「え、ええ……まあそんな所です」

 

 言えない……まさか本当はただ漫画を見るノリで見に来ていたなどと。

 それにしても『天女様』とは随分くすぐったい。

 有象無象にそう呼ばれても多少恥ずかしいだけだったが、原作キャラにそう呼ばれるのがこんなにも居心地悪いとは。

 これは早急に呼び名を改めさせるべきだろう。

 

「リゼット」

「え?」

「私の名前です。天女などと呼ばず、遠慮なく名前で呼んで下さい」

 

 ブルマ達に笑顔を向け、全員の反応を窺う。

 ブルマは遠慮がちに、「そ、そう?」などと言っているが、この様子ならじきに慣れるだろう。

 ヤムチャは……固まっている。そういえば女性が苦手って設定あったっけ。

 ウーロンは顔を赤くして何かゴニョゴニョ言っている。

 プーアルは何か眼を輝かせている。子供みたいな反応で少し可愛らしい。

 とりあえず印象としてはそう悪いものではないだろう。

 

「そ、その、天……じゃなくてリゼット様!

あれ、信じられないかもしれませんけど孫君なんです!

何とか元に戻す事は出来ませんか?!」

 

 ブルマが縋るように懇願してくるのを見て、リゼットは睫毛を伏せる。

 うん、言われなくても知ってる。だって見てたし。

 なんて暴露する事など勿論出来るはずもなく、ただ一言『把握しています』とそれっぽい事だけ言っておいた。

 

「……見た所、満月のエネルギーが尾に集まっているようです。

ならば尻尾を断ち切れば元に戻るかもしれません」

 

 見て理解したような事を言っているが、これは半分本当だ。

 原作でクリリン達はそこまで気付かなかったようだが、100年単位の気の練磨は伊達ではない。

 遥か宇宙の彼方のフリーザの気すら感知出来る今のリゼットにとって、その程度は眼を凝らすまでもなく見抜ける事だった。

 リゼットは腕を振るい、白い軌跡を生み出すと4人へ声をかける。

 

「私が悟空君の動きを止めます。貴方達はその間に尻尾を切って下さい」

「え? と、止めるってアレを?」

 

 ブルマが不安そうにしているが、リゼットは構わず気を固定化し巨大な鎖へと変える。

 そして遠隔操作。大猿をグルグル巻きにし、その動きをあっという間に封じ込めた。

 いかに大猿だろうがこの時点では戦闘力100ちょっと。リゼットの敵ではない。

 あの鎖を引き千切ろうと思うならばリゼットと同格の気が必要となる。

 無論、今の悟空では例え奇跡が起こって超サイヤ人になろうが到底届くものではなかった。

 その余りの光景にポカーンとしているヤムチャへ、静かに告げる。

 

「さあ、今です」

「……。……あ、ああ! そ、そうだった! プーアル!」

「はい、ヤムチャ様!」

 

 変化! の言葉と共にプーアルがハサミへ変化し、大猿の尾を断ち切った。

 ヤムチャ自身はもとより、その相棒の有能さには舌を巻く。

 何にでも変化出来て、時間制限もなし。

 そして主に忠実で外見も猫のようで愛らしいといい所尽くしだ。

 カリン様とセットでペットに欲しいなあ、などと思わないでもない。断じて思っていない。

 

 それはさておき、尾を切られた事で悟空も無事人間へと戻る事が出来た。

 それにしてもサイヤ人というのはアホなのだろうか。

 悟空は元々地球を制圧する為に送り込まれたらしく、地球に月があるから大猿化して制圧する、というのが当初の予定だったらしい。

 しかしいくら何でも、あの程度の大猿じゃ軍隊に殺されて終わりだ。

 地球人がいくら弱いといっても科学力はあるんだから、あれじゃ制圧など夢のまた夢でしかなく、叶うわけがない。

 そもそも食料も積んでいない一人乗りのポッドに乗せてそのまま赤子一人放逐とかアホの所業だ。

 孫悟飯が拾わなかったらそのまま飢え死に一直線でしかない。

 リゼットはそこまで考え、軽く溜息をついた。

 

 まあ……要するにそこまで地球侵略は真剣に考えられていなかったという事だろう。

 数年スパンの計画である事もそうだが確実性に欠ける。

 大方下級戦士の子供など、どうでもいいと思って適当に放り投げているに違いない。

 実際ラディッツが思い出すまで誰も思い出さなかったほどだし、この考えに大きな間違いはないだろう。

 

「ふう……た、助かったあ」

「本当ね。リゼット様が来てくれなきゃどうなってたか」

 

 来なくても実は自力でどうにか出来ました、と教えてあげたい衝動に駆られる。

 しかしリゼットは言葉を呑み込み、悟空に指を向けた。

 すると裸だった悟空が一瞬にして前と全く同じ胴着を着た姿となる。

 暇を持て余した神様から50年かけて教わった神仙術のちょっとした基本、物質生成だ。

 周囲の元素だか何だかを物質へ変換する神族の基本技能らしい。

 キビトなども同じ事が出来るので実は難易度はそう高くないようだ。

 

「うおっ?! 服が一瞬で!?」

「仙術です。伊達に天女と呼ばれてはいません」

 

 250年も生きれば結構色々出来るようになるものだ。

 というかこの天女のイメージは明らかに神様によって作為的に作られたものな気がしてならない。

 気付けばすっかり神様代行人に仕立て上げられてしまった。

 神様どんだけ神殿から動きたくないんだ。

 

 それから待つ事一晩。

 悟空が目覚めて尻尾がないと騒いだり、すぐに気を取り直して、まあいっかと軽く納得してしまったり、ヤムチャが気付いたら女性恐怖症を克服していたりと色々あった。

 ブルマの素敵な彼氏が欲しいという願いと、実は女性好きだったヤムチャは当然のように意気投合。

 大喜びの二人はダンスなど踊ったりして、熱々ぶりを見せ付けてくれた。

 

(でもブルマと結婚するのベジータなんですよね……ヤムチャェ)

 

 今のヤムチャの幸せぶりを見てると何だか涙が出てきそうだ。

 ともかく、もうここに用はない。

 悟空達も1年間はドラゴンボールを探せないのでここで解散する事に決めたらしい。

 ブルマとヤムチャ、ウーロンとプーアルはブルマの実家がある西の都へ。

 悟空は亀仙人の所へ弟子入り、とそれぞれの目的へ向かうようだ。

 リゼットもまた彼等に軽い挨拶をし、山の頂上にある聖堂へと帰って行った。

 

 

 聖堂に帰り、やる事は今までと同じだ。

 ひたすら修行修行修行&修行である。

 重りを常に付けて動き回る事で基礎能力を上げ、限界以上まで気を振り絞りバーストリミットを続ける事で気の底上げと身体を負荷に慣れさせる。

 特に後者の重要性は計り知れない。

 何せリゼットは地球人だ。つまり超サイヤ人なんて反則変身はない。

 それを補う為のバーストリミットだが、これは要するに見た目だけ変えただけの界王拳であり、その倍率は超サイヤ人以下だ。身体にかかる負担だって無視出来ない。

 ならばもう、後は負荷に耐えられる身体を作り、身体を慣れさせ、通常よりも大きな倍加を引き出す以外にない。

 50倍までいけるようになれば超サイヤ人化も同然……彼等に並べる。

 しかし今のリゼットが出来るのは精々が7倍。

 彼女の戦闘力――体感では大体2万前後を思えば驚異的な倍率だ。

 しかし、たかがそれだけだ。

 何十年も慣らし続けてここまでにしかなっていないのだ。

 これでは駄目だ。その時が来たらこんなの一日であっさり超えられてしまう。

 

 何か、新しい修練法を考える必要がある。

 リゼットは聖堂で目を閉じ、思案を巡らせた。

 何がある? 自分に何が出来る?

 

 まず思い浮かぶのは精神と時の部屋?

 あれならば1日で1年の修行。10倍の重力もかかり、己を鍛えるには申し分ない。

 だが人生で入れる時間は2日だけと決まっている。

 出来ればもっと、切羽詰って強さが必要になるまでは残しておきたい。

 

 ブルマに頼んで重力室を作ってもらう?

 これは……うん、これは候補に入れていいだろう。

 お金もあるし、ちゃんと払えば作ってもらえるはずだ。

 出来ればホイポイカプセルで持ち運び出来る物がいい。

 

 死にかけてパワーアップ?

 ……いや無理。地球人は死を乗り越えても強くなりません。

 アンサートーカーに覚醒出来るならやる価値は十二分にあるが、まあ無理だろう。世界違うし。

改めてサイヤ人はズルイ。もし自分がサイヤ人だったら瀕死パワーアップ繰り返しで今頃凄い強くなってるのに、と思う。

 前世で見たサイヤ人系オリ主さん達が簡単に数十万とか超えてたのを思い出すと割と本気でへこむ。

 

「……とりあえず重力室、買いにいきましょう」

 

 まずはカプセルコーポレーションに行こう。

 それから並行して新しい技も開発する。

 やる事はいくらでもあるのだ。




・自家用機でリターンしてくるピラフ
アニメ版オリジナル展開。
リゼットも一応見ていたがすっかり忘れていた。

・悟空が飛ばされた理由
この辺りは旧シリーズと新シリーズで明確に違うので一部新シリーズの設定を取り入れつつ基本は旧シリーズ準拠。
例えば旧アニメの『たったひとりの最終決戦』では悟空は明確に赤ん坊の頃に素っ裸で地球に飛ばされているが、新シリーズはそうではない。
これについて、このSSでは旧シリーズの方を採用している。
なので勿論バーダックも優しいサイヤ人などではなく、自分の息子に『戦闘力たったの2か……クズが!』とか言っちゃう人である。


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第八話 天下一武道会

 カプセルコーポレーションから重力室のカプセルを購入した、というよりは特注で造ってもらったリゼットは早速それを聖堂の隣に設置し、修行を開始した。

 買いに行った時は『何で天女がそんなの欲しがるの?』といった顔をブルマにされてしまったが、まあ気にしないでおこう。

 重力は最大で300G。無論今のリゼットがそんな重力をかければ潰れてしまうが、後まで長く使う事を考えれば多少最大値は高くした方がいい。

 とりあえず、当面の目標は戦いが激化するまでに――つまりサイヤ人襲来までに重力150倍くらいを克服しておく事だろうか。

 100倍を克服した悟空が確か戦闘力9万くらいだったので、多分13万くらいにはなれるんじゃないだろうか……なれるといいなあ。

 

「とりあえず慎重に……まずは10倍から」

 

 下手に高く設定して、それで潰れて死んでしまってはただの自殺だ。

 だからまずは10倍にする。

 今の自分の実力ならどうという事はないと分かっているが、念のためである。

 

「……ふむ。十倍くらいではこれといった負荷は感じませんね。

では20倍……25倍……」

 

 メモリを少しずつ調節し、今の自分にとって丁度いい辛さの重力を選ぶ。

 10倍は軽くて多分修行にならない。

 20倍は負荷を感じるが、まだ気にならないレベルだ。

 30倍まで行くと一気に身体が重くなり、まるで全身が重りと化したような錯覚を覚えた。

 どうやら今の自分にとって修行に適しているのはこの辺りのようだ。

 そう判断したリゼットは30倍でメモリを止め、早速基礎トレーニングに入る。

 バーストリミットは使わない。素の能力を上げるのが目的なので使う意味がない。

 というより下手にバーストリミットを使うと重さが感じられなくなり、修行にならないのだ。

 かといってバースト状態で重いと感じる重力にしては解除時に重さで即死しかねない。

 故にここで能力増幅を行う理由はどこにもなかった。

 

「よし、久しぶりに実力の伸びが実感出来る修行になりそうです」

 

 これで自分は強くなれる。

 その確信を抱き、リゼットは演舞のように身体を動かした。

 

 

 ――重力修行舐めてた。

 重力室購入より1年。リゼットはこの修行の効率のよさを思い知らされていた。

 具体的に言うと強さが一年で3倍以上になったのだ。

 数字にして……200神様といったところだろうか。

 大体6万前後と考えていいだろう。

 よく考えれば悟空も1週間で8000だった戦闘力が90000になるくらいなのだから、それは効果があるに決まっている。

 やはり重力による負荷はそれだけで身体を鍛えてくれるのだ。

 ベジータが後の方までずっと重力修行を愛用する理由が分かるというものだ。

 

 ……冷静に考えれば1年で3倍は、悟空と比べると泣ける遅さである。

 何せ向こうは1週間で10倍以上だ。話にならない。

 いくら瀕死パワーアップを駆使したとはいえ、この差は泣ける。

 やっぱりサイヤ人って凄い。リゼットは深くそう思った。

 

 さて、今日もまた重力修行と洒落込みたい所だが一時中断だ。

 何せ今日は天下一武道会当日。

 漫画で見た数々の試合を生で見れる大チャンスなのだ。逃す手はない。

 今のリゼットにしてみればレベルの低い試合である事は違いないが、だからといって楽しめないわけではない。

 例えは悪いが、総合格闘技の世界王者だってカブト虫とクワガタの戦いを楽しめる。それと同じ理屈だ。

 それに単純な数値では測れない技術というものがある。

 亀仙人の試合は見ても損をしないだろう。

 

 武道会場へ行くと早速一番前へ飛んで行き、観客席の囲いの上に座った。

 当然こんな入場の仕方をしては周囲は驚くし、特に顔見知りでもあったブルマ達(最前列にいた)は尚更だ。

 しかしリゼットは自分が目立つ事に関してはもう諦めたらしく、まるで気にした様子はない。

 

「リ、リゼット様! 何でここに?!」

「暇なので悟空君の応援に来ちゃいました」

「ひ、暇ってあんた……」

 

 リゼットの言葉にブルマが「そんな理由で」と言っているが、実際暇なので嘘は言っていない。

 たまに神様の神殿に行ったり、神仙術を教わってみたりしてはいるものの、基本的にあの山はリゼット一人しかいないのだ。

 ずっとくる日もくる日も延々、修行漬けの日々。

 自分の強さが上がるのを実感出来るのは嫌いではないが、それは別にしてやはり暇にはなる。

 だから今回の観戦はちょっとした息抜きのようなものだった。

 

 1回戦のヤムチャ対ジャッキーチュンに変な感動を覚え、ランファンにたじろぐナムに笑い、バクテリアンの臭さにたまらず一時退却し、鼻がないのに高速戦闘の最中に鼻糞を飛ばすクリリンに驚いた。

 そうして試合を見ながらこの後の展開を何となしに思い出す。

 決勝戦は悟空対ジャッキーチュン。ファンとしては是非間近で見たい試合だった。

 確か途中で悟空が大猿になってしまうので、亀仙人のMAXパワーかめはめ波を見る事も出来る。

 

「…………あ」

 

 ――兎人参化忘れてた。

 いけない、そのうち助けてあげようと思って今の今まですっかり忘れていた。

 そして今日観戦に来なければ忘れたまま、後になってしまったと気付いた事だろう。

 リゼットは囲いの上から浮くと、高度を上げる。

 

「あれ? リゼット様どこに行くの?もう決勝戦始まるわよ」

「ちょっとやるべき事を思い出しまして」

 

 今からならばまだ間に合うだろう。

 これから始まる試合を見れないのは少し残念だが、まあ見殺しにするわけにもいくまい。

 この時、真上に飛ぶのではなく斜め上に飛ぶのがポイントだ。

 足元まで届き、ヒラヒラフワフワしているスカートは多少の角度があれば絶対に中身を見られる事ははない。

 だがこのまま垂直に上に上がってしまうと、ウーロン辺りに覗き込まれないとも限らないのだ。

 250歳のお婆ちゃんだが、心は少女だ。えっちいのは嫌いです。

 

 大気圏を抜け、月面へと着陸する。

 すると――いた。

 兎人参化とその部下二人が餅を丁寧に量産しているのが見える。

 もしかしてあれからずっと餅を突いていたのだろうか?

 

「兎人参化さんですね?」

「ええ、いかにも私が兎人参化ですが、これは珍しい。こんな月面にお客様とは。

……ささ、どうぞ。餅しかありませんが」

「あ、これはどうも。頂きます」

 

 兎人参化は心なしか嬉しそうに言い、つきたての餅を皿に載せるとお茶と一緒に差し出してくる。

 その姿にはかつて人々を恐れさせた盗賊団首領の面影はなく、ただの餅突き兎そのものだった。

 餅を突き続けているうちに毒気が抜けてしまったのかもしれない。

 リゼットは差し出された餅を一口食べ、それからここに来た目的と自分の素性を語る。

 

「自己紹介が遅れました。

私はリゼットと申します。人々の間では龍天女とも呼ばれていますので、そちらの方が解り易いでしょうか」

「おお、貴女があの亀仙人や鶴仙人と並び称される伝説の3人のうちの一人……なるほど、噂に違わずお美しい。お会い出来て光栄に思います。

……ささ、どうぞ、黄粉も付けてお召し上がり下さい」

「あ、どうも。頂きます。

……それでですね、実は近いうちにこの月が破壊されてしまうんです」

「ファー!?」

 

 先程まで落ち着いていた兎人参化が驚きを露にする。

 まあ、こんな所まで送られた挙句月破壊とか嫌過ぎるだろう。

 いくら知らない事とはいえ、亀仙人も結構酷い事をする。

 

「ですので、もう悪い事をしないと約束して頂けるなら私が地球まで戻してあげますが」

「も、勿論ですとも! 私達は心を入れ替えたのです! な、なあお前達!」

「へ、ヘイ親分!」

「そ、その通りでさあ!」

 

 既に邪心はほぼ失せている一団だが、何かの拍子にまた悪事に走らないとは限らない。

 だが、こうして軽く脅しを入れておけばもう悪さしようという気にはならないだろう。

 リゼットは3人の返事に頷くと、超能力で3人の身体を浮かす。

 そして飛翔。

 3人と、ついでに何故か月にいた本物の兎数匹を連れて地球へと降下した。

 それにしても何故彼等は宇宙空間で平然と生存出来るのだろう……実に不思議だ。

 

 地球にある己の聖堂へ兎人参化達を降ろす。

 今の彼等は文無しの歩く兎だ。このままそこらに放り出しては生活が厳しいだろう。

 仕事をしようにも前評判が悪すぎる。

 誰が好き好んで元盗賊団を雇うというのだ。

 だからまずは、生活の目処が立つまでの間の面倒くらいは見てやろうとリゼットは考えている。

 せっかく更生しても、生活が出来ないのでは犯罪に走ってもおかしくない。

 それを防止するのもまた、拾った者の義務と彼女は考えていた。

 

 それらの事を彼等に伝え、至聖所以外ならばどこを使っても構わないと告げる。

 至聖所は一応リゼットの私室に当たり、また神様の宮殿と繋がっているのもここなので流石に立ち入りさせるわけにはいかない。

 月にいた兎達には後で専用の小屋を作ってあげてもいいだろう。

 

 そうして彼等の処遇を決めた後にリゼットは会場へと戻った。

 それと同時に轟音が響き、閃光が爆ぜる。

 どうやら丁度亀仙人が月を破壊した所だったらしい。

 MAXパワーを見逃した事を残念に思いつつ、リゼットは一番前の囲いまで戻った。

 

「あ、リゼット様! この大変な時にどこ行ってたんですか!?

孫君が変身しちゃって大変だったのに!」

「ええと、月の兎さん達を回収に」

「え?」

「何か月に人がいたようでして……その方々を回収しておりました」

「…………そ、そう、なんですか」

 

 ブルマとウーロンは流石に心当たりがありすぎるのか、それ以上何か言ってくる事はなかった。

 いくら悪人でも、流石に月と一緒に消し飛ばされていいとまでは思わないらしい。

 その後は悟空とジャッキーチュンの試合を見る事に集中し、やがて忘れたかのように盛り上がっていた。

 試合結果は――記憶と同じだ。

 共に疲労がピークに達した二人が最後に蹴りを放ち合い、リーチの差でダメージが浅いジャッキーチュンが勝利した。

 この結果についてリゼットは順当な結果だと思っている。

 そもそも大猿化というアクシデントがなければ萬國驚天掌で決まっていた勝負であり、それが現時点での両者の差というわけだ。

 

 ともかく、やはり生は違う。

 単に強いだけでなく、実にユーモアに溢れた試合だった。

 惜しむらくは最後の方しか観戦出来なかった事だろう。今の今まで人参化を忘れていたのが悔やまれる。

 

 次の天下一武道会は3年後。

 次こそは見逃さず最後まで見るぞ、と変な決意を固めながらリゼットは優勝者に惜しみない拍手を送った。




【鼻のない地球人(?)】
クリリンに鼻がない理由は、皮膚呼吸が出来るから(!?)
これはこのSSの独自設定などではなく、鳥山明先生が自ら語った公式設定である。
ここで重要なのは鳥山先生が『鼻はないが皮膚呼吸が出来る』ではなく『鼻が無い理由は皮膚呼吸が出来るから』と答えている事。
これは似ているようで全然違う。
鼻が無いから皮膚呼吸を会得したわけではなく、皮膚呼吸が出来るから鼻が退化したのだ。
つまりクリリンは突然変異などではなく、進化の過程でああいう姿になった、あの姿で完成している生物である。
……こいつ実は宇宙人なんじゃないかな……。

ちなみに、ファミコンソフト『ドラゴンボール 神龍の謎』ではクリリンそっくりの『クリリアン』というクリーチャー(!?)が登場する。
彼の二つ名は『宇宙一の殺し屋』。つまり宇宙人である。
また、彼は四本腕の宇宙人だがそのうちの二本をブーメランのように飛ばす事が可能。

……クリリン……お前本当に地球人なんだよな?
ブーメランにした腕を紛失したクリリアン本人とか、その末裔とかじゃないだろうな?


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第九話 ピッコロ大魔王

 天下一武道会が終わった後、兎人参化達は結局山を降りる事はなかった。

 月から救ってくれたお礼をしたいと言い、そのまま聖堂に住み着いてしまったのだ。

 まあ実際リゼットも一人で暮らし、自分で生み出した自律思考気弾に雑用をやらせるのは何だか虚しかったので、まあいいかと受け入れた。

 とりあえず彼等には雑用や聖堂の掃除、来客(ほとんど無いが)の対応などを任せ、家事を行う必要のなくなったリゼットは以前にも増して修練に集中出来るようになったのでそう悪い事でもない。

 

 至聖所で膝を突き、目を閉じる。

 顔は俯かせ、両手を組み合わせてその中に意識の全てを割く。

 これはリゼットが最も多くの気を感じ取れる、いわば最も集中出来る姿勢であった。

 普通こういう時は座禅ではないのか、と思うのだが座禅は逆に落ち着かない。

 まるで祈りのような姿勢。

 修道女染みたその姿勢は彼女のどこまでも白く透き通る容姿と相まって、神聖な絵画を思わせる。

 

 祈り――その言葉はあながち間違いではない。

 事実祈っている、願っている。

 教えて欲しい、応えて欲しい、ほんの少しでいいから受け入れて欲しい。

 森羅万象、この惑星に生きるありとあらゆる物。人間、動物、植物――総ての命に対し願い、祈っている。

 気とは生命のエネルギーそのもの。気を分け与えれば死にかけている者でも立ち上がらせる。

 ならばその逆。借り受ける事も不可能ではないはずだ。

 だから祈っている。何も持っている気の数割を貸せだなどと、そんな図々しい事を言うつもりはない。

 ほんの少しでいい。ほんの僅か……健康な成人男性であれば、たった一歩歩くだけの気をわけてくれればそれでいい。

 強制的に吸い上げるのではない。

 あくまで借り受ける。

 生き物が普段生きる時に無意識に余らせている気をほんの少しだけ分けてもらう。

 言葉として語りかけるわけではなく、それぞれの無意識へと祈りを飛ばして助力を乞うのが、今リゼットがやっている事だった。

 もしこれが叶うならば、一つ一つは微小な気でも集めればきっと大きな力となる。

 

 リゼットが作り出そうとしている技。

 それは元気玉に発想を得たものであり、彼女流の元気玉とでも言うべきものだ。

 あれを使うとき、悟空はいつも語りかけていた。『大地よ、海よ、生きている全ての皆。オラにちょっとだけ元気を分けてくれ』――つまり元気玉とは術者の意志だけでは成立し得ない。

 実際、元気を与える側が手を上げる事で供給される元気の量が変わるのだから、恐らくは相手の無意識の同意が必要な技だ。

 だから悪の気を持つ者には絶対に使えない。相手が同意してくれないのだから気を集める段階で失敗する。

 普遍無意識への祈り、語りかけ、懇願。それが元気玉の正体だとリゼットは考える。

 ならば必要なのは気の強さではなく、無意識へ語りかけるテレパシーにも似た意志伝達能力。

 だから悟空はきっと、他の戦士にはない読心能力や遠視の力を随所で発現させたのだ。

 元気玉を使う事で育まれた気の疎通。

 それがあったから、超能力染みた芸当が可能だった。

 

 普遍無意識に語り、祈り、願い、そしてほんの僅かな恵みを得る。

 故にリゼットは無意識のうちに祈りの姿勢をとっていた。

 願い、祈りに適した姿を無意識のうちに悟り、これこそが最も在るべき姿勢だと理解したのだ。

 そしてきっと、これは間違いではない。

 手応えを感じている。

 僅かではあるが、周囲の命たちが気を分けてくれるのを感じる。

 完成には程遠い未完成の技。

 しかし、確かな完成への道が見えた気がした。

 

 

 3年間、リゼットはこの期間を己を見詰めなおす事のみに使用した。

 レッドリボン軍との戦いは何も手出ししない。

 自分が手を貸すべき事など何もなく、またその必要もない。

 ペンギン村だけは少し興味があったので少し散歩がてら寄ってみたり、アラレちゃんと遭遇してみたりしたがそれだけだ。記憶の通りの元気すぎるめちゃんこ娘であった。

 やった事と言えば、何か付近を飛んでいた羽虫のような小型機械を捕まえた事くらいか。

 一体何の為の機械なのか分からないが、何となくよくない意志を感じる。

 とりあえず放置していい事はなさそうなので、ガラスケースに入れて倉庫の奥に封印しておいた。

 

 意志――気はなく、そこにある思想の残滓。

 リゼットはここ最近、そうしたものを感じ取る能力が増していた。

 恐らくは気を感じ取る能力の、もう一つ上のステージ。

 研磨の果て、リゼットは己がその領域に片足を踏み入れたのを感じていた。

 気を感じる事で遠くの情景が分かる。

 そこに自分がおらずとも、誰が何をしているのかを把握出来る。

 恐らくは心臓病から目覚めた直後の悟空と同じ領域。気の感知を極めた先の遠視。

 

 この進化を招いたのはきっと、3年間続けてきた祈りによるものだろう。

 重力室の修行と並行して毎日欠かさず行ってきた祈りは、リゼットの気を感知する能力を飛躍的に伸ばしていた。

 遥か遠くにある生き物の無意識に語りかけて、気を分けてもらうという離れ技。

 その域に近付くという事は必然、感応能力も上昇する。

 

 不思議と祈りを続ける事は苦ではなかった。

 己が生まれた世界、生きる世界、そこに生きる人々。

 その息づかいまでが近くに感じられるようになるほどの、普遍無意識への接近。

 生命の脈動が今までになく感じられる。

 その健気さ、尊さ、優しさ、力強さが肌で感じられる。

 愛おしく思う。

 守りたいと思う。

 それはきっと、祈りを続ける事で届いた一種のトランス状態なのだろう。

 だがそのトランス状態が、リゼットを確かに上のステージへと昇華させているのもまた事実だった。

 

 

 

「いや、キャラじゃないですってば」

 

 トランスから覚めると結構恥ずかしい。

 何だあれ。私そんなキャラじゃないでしょ。

 リゼットはゴロゴロとベッドの上を転がり、顔を真っ赤にする。

 そもそも、あれは思い出すと結構恥ずかしい。

 祈りの姿勢が一番気を感じ取れるからああしているが、外でやる時どうすればいいんだ。

 祈るのか? 敵の目の前で跪いて祈りを捧げると?

 アホか。狙いうちにされるに決まってる。

 技として欠陥品もいい所だった。

 敵の前で祈るなら背後に観音像でも出してぶっ叩いた方がまだマシだ。いや出来ないけど。

 

 しかしそれはそれとして、副産物で得た遠視能力。これはいいものだ。

 何せ現場にいずして現場が視える。

 つまり聖堂でおやつを食べながら悟空の活躍を鑑賞する事が出来るというわけだ。

 世界を知り尽くしたいという願いを持つリゼットにとってこれはまさに万金に値する能力といえる。

 最近はこの遠視を用いて深海の底を探索するのがマイブームだ。

 視力ではなくあらゆる存在――それこそ微生物や植物すら含んだ気を全て感じる事で詳細を把握し、全体像を『視る』能力なので明度などは関係ない。

 光の差さない深海であろうと昼間のように見渡す事が出来る。

 深海は化物染みてグロテスクなお魚さんの宝庫であり、暇潰しにはもってこいだ。

 生き物ってこんな面白い進化するんだ、と感心させられる。

 

 そして例えば悟空達の動きだってこれを使えば、ここに居ながらにして分かる。

 例えばヤムチャ。ブルマや亀仙人、ランチや天津飯と一緒に武道会会場にいて松葉杖をついている。

 例えばクリリン。……気が感じられない、ただの死体のようだ……。

 

「…………」

 

 リゼットは頭を抱えた。お魚さん視てる場合じゃない。

 どう見ても出遅れてます、本当にありがとうございました。

 次こそは見逃さないと決意してたのに天下一武道会丸々見逃した挙句、もう大魔王編始まってるとか笑い話にもならない。

 とりあえず悟空だ。悟空を探そう。

 悟空は――いた。森の中で倒れている。

 気も大分減っているし、かなり傷付いているようだ。

 いや、というかこれ死んでない? 心臓止まってない?

 

「こ、こうしちゃいられない!?」

 

 リゼットは青褪め、ベッドから飛び起きるとパタパタと駆け出した。

 こんな所で悟空が死ぬなんて記憶にない。あってはならない事だ。

 聖堂を走り、何事かと驚く兎団をスルーし、跳躍。

 悟空の気目掛けて全力飛翔をした。

 背中からの気の放出により光翼を展開。千里すら一瞬にして詰め、音を超えて消えかけている悟空の気を辿る。

 

 ――いた!

 

 森の中で倒れている悟空は何も映さない虚ろな瞳を虚空に向け、倒れている。

 その向かい側には大魔王。

 リゼットは即座に悟空と大魔王の間に割り込み、悟空を守るように大魔王と対峙した。

 これに驚いたのは大魔王だ。

 何せスピードが違う。

 彼にしてみれば、突然の白光と共に未知の敵が出現したようにしか見れない。

 つまり得体が知れないし、大魔王ではリゼットの底を計りきれないのだ。

 

「な、何……? 貴様、何者だ?」

「……貴方に名乗る名はありません」

 

 リゼットはチラリと悟空を見る。

 気は限りなく小さく、呼吸も心臓も止まっている。

 不味い……非常に不味い状態だ。

 一刻も早く処置を施さないと本当に死んでしまう。

 大魔王と戦う時間すら惜しいし、そもそもここで大魔王を殺してしまうと後のピッコロさんが誕生しない。

 かといって殺さない程度に加減して戦ってやる暇と余裕など今はない。

 故に、構えを取った大魔王へ強い語気で告げる。

 

「戦る気ですか? その老いた身体で、この私と」

「……ッ!」

 

 大魔王は老いている。全盛期には程遠い。

 ましてや今は悟空と戦った消耗もあるだろう。

 得体の知れない敵に加えて己の消耗。それを考えれば、自ずと最適解が出るはずだ。

 大魔王は屈辱に歯を噛み締め、呪いの言葉を吐くように言う。

 

「……命拾いしたな、小娘」

 

 そう言い残し、大魔王は去った。

 だがその前に、大魔王の乗る飛行艇……そこに乗るピラフ一味に釘だけは刺しておくべきだろう。

 リゼットは彼等を睨むように見上げ、よく通る声で告げる。

 

「そこの貴方達……このような事はもうお止めなさい。

いつか、己の首を締めますよ」

「……ッ!!」

 

 ピラフが息を呑むのが解った。

 これで少しは効果があるといいのだが、正直期待は薄いだろう。

 それでも言わずにはいられなかった。

 彼等の行動は完全に超えてはいけない域をはみ出している。

 少しは悔いてくれればいいのだが……。

 飛行艇が発つと同時にリゼットは悟空へ駆け寄る。

 気は完全に消えているわけではない。まだ命の灯火は残っている。

 指を悟空の胸の中心に当て、気を送り込む。

 とりあえず心臓を動かしてみれば息を吹き返すんじゃないかという、割と考えなしな試みだ。

 

「……かはっ!」

 

 ……本当に復活してしまった。サイヤ人の生命力恐るべし。

 これもしかして、自分が慌てて来なくても勝手に復活したんじゃないだろうか。

 というか、したのだろう。今になって冷静になってみればこの展開はあった気がする。

 そうだ、確か悟空は大魔王との戦いで一度呼吸と心臓が止まって仮死状態になったはずだ。

 つまりこれは運命通りの予定調和であり、慌てて出て来る必要など何処にもなかったのだ。

 そして……そう、確かこの後ヤジロベーに助けてもらうはずであり、実際横を見れば、木の陰にヤジロベーが隠れてこちらを見ているのが解った。

 

「あの、そこの方……」

「! ち、違うんです天女様! お、オラァ別にそいつの事を見殺しにしたわけじゃあなく、たまたま通りがかっただけでして……さ、さいならー!」

「え!?」

 

 ――ヤジロベーが逃げ出してしまった。

 呆然とするリゼットの視界でどんどんヤジロベーの背は小さくなり、やがて完全に見えなくなった。

 彼が逃げたのはひとえに罪悪感があっての事だ。

 ヤジロベーは大魔王との戦いに恐れをなし、遠巻きに観戦する事しか出来なかった。

 つまり形としては悟空を見殺しにした形になるのだ。

 無論リゼットにそれを責める気などない。

 己の命を最優先に考える事に罪などないし、怖いと感じるのは仕方の無い事だ。

 だがヤジロベーから見れば、明らかに悟空の味方の天女が出て来て、自分は悟空を見殺しにした。

 責められると思ったのだろう。

 咎められると思ったのかもしれない。

 その結果が逃亡。本来ならばここで悟空の味方になるはずの男の、まさかの離脱である。

 

「…………や、やってしまいました」

 

 ポカンとするリゼットの真上を一羽の鴉が飛ぶ。

 その鳥はまるでリゼットを嘲るように「アホー」と一声鳴いた。




✪ リゼットは長生きしている分、時間感覚が少しずれています。
なので一つの事に熱中すると、今回のように『気付いたら数年経ってました』とかいう事態にもなります。
まあ今回の一件で反省するでしょうから、以降はそんなに同じミスをしないでしょう。
多分。


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第十話 まさかの修行イベント

 悟空を抱えて空を飛ぶ。

 その向かう先はカリン塔。本来ならばヤジロベーが登って悟空を届けるはずだった場所だ。

 しかしそのヤジロベーはリゼットのポカにより逃走してしまい、結果リゼットが運ぶしかなくなっていた。

 過ぎた事を言っても仕方ないが、これからはもう少し冷静になるべきだろう。

 やはり不用意な介入はロクな結果にならない事がよく分かった。

 ヤジロベー逃走はリゼットにとってかなり高い勉強代となってしまった。

 

「す、すまねえなリゼット……お礼はきっといつかするよ」

「ふふ、そうですか? ではいつか、私が危なくなった時には助けに来て下さいね」

「おう、任せとけ」

 

 冗談めかして言ってみたが、この言葉は割とマジである。

 後になればなるほど戦いのレベルはおかしくなるし、魔人ブウ編では人類全員が死んでしまう。

 だがここで悟空に助けて貰えるフラグを立てておけばあるいは生き残れるかもしれない。

 そんな結構切実な願いがあるなど無論悟空が知る由もないが、何せあの孫悟空との約束だ。

 安心感が違うというものである。

 まあ、どのみちまだまだ先の話だ。今はまだリゼットが彼を救う側である。

 リゼットは塔の頂上へ着くや、カリンに向けて声を放った。

 

「仙豆様! 悟空君にカリンを!」

「逆じゃ馬鹿者! 仙豆が本体みたいな言い方をするでない!」

 

 まったく、などと怒りながらカリンが仙豆を投げる。

 悟空はそれを受け取り、ポリポリと噛み砕いた。

 すると悟空の傷があっという間に治り、顔のツヤもよくなる。

 相変わらず凄まじい効果だ。

 色々な物を真似してきたリゼットだが、彼女でもこの仙豆だけは真似出来る気がしない。

 

 その後は、本来ならば悟空が更なる力を求めて超神水を飲むはずだった。

 しかし悟空がそれを飲むのは、それ以外に短期間で強くなる手段がなかったからだ。

 カリンを既に超えてしまい、教わる事がなかった。

 だから超神水という劇薬に手を出さざるを得なかったのだ。

 しかしこの世界は違う。

 カリンを超えても、まだ超えていない強者がここにいる。

 故に強くなりたいと言う悟空に対し、カリンが超神水を提案せずにとんでもない事を言いだした。

 

「悟空よ、リゼットから学ぶがよい。

そやつはこの地球でも並ぶ者なき実力者……お主を更なる高みへ引き上げてくれるじゃろう」

 

 ――何か仙ニャンコ様が余計な事を提案して下さった。

 リゼットは笑顔のまま固まり、予想外の展開に内心パニックを起こす。

 え、何この流れ。私予想してないんですけど。

 そもそも修行ったって他人に教えた事なんてないので、何を教えればいいのか分からないのですが。

 そう無言で訴えるリゼットだったが、カリンはこれをスルーした。

 

「ええっ? リゼットってもしかしてカリン様よりも強えんか?」

「うむ、わしなどよりも余程な」

 

 リゼットは表面では笑顔を保ちながらも、内心では今すぐ逃げたい気持ちで一杯だった。

 確かに自分は現状、この惑星で多分一番強い。

 しかし強いからといって、イコール他人に教えるのが上手いとは限らないのだ。

 だが悟空はそんなリゼットの内心を知らず、ワクワクとした顔でこちらを見上げてくる。

 今更「嫌です」なんて言えない雰囲気だ。

 仕方なく諦めたリゼットは、せめてもの意趣返しとして猫じゃらしをカリンの前で振ってみせた。

 するとカリンはニャンニャン言いながら猫じゃらしにじゃれつき、ハッとしたような声をあげる。

 威厳ブレイクだ。ざまあみろ。

 

「修行……ですか。

とはいっても、短期間でそう都合よく強くなれる修練など……」

「あるんじゃろ?」

「……まあ、ありますけど」

 

 心でも読めているのだろうか、この猫。

 あ、そういえばそんな能力ありましたよ、この猫。

 意外と忘れられがちだがカリンは他者の心を読める。

 リゼットに関してはカリン曰く『何か読みにくい』らしく、前世の記憶を読まれた事はないが表層の思考くらいは読めるのだ。 

 リゼットはそんな事を思い出しながら、悟空の前にしゃがみ込んだ。

 リゼット自身は人に教えた事などないし、経験もない。それは紛れもない事実だ。

 しかし彼女には本来あり得ない知識がある。

 二次元だから可能だったはずの修行の数々を覚えているし、そのうちのいくつかを己で実践している。

 だから、悟空を数日で強くする方法も知らないわけではないのだ。

 

「悟空君。手を出して下さい」

「わかった」

 

 差し出された悟空の両手の手首に指を当てて気を留める。

 次に両足。これも足首に気を残留させ、そして一言。気の固定化を宣言した。

 

「“ギプス”」

「ぎっ!?」

 

 瞬間、悟空の両手と両足が白い輝きに拘束され、まるで磁石で貼り付けたかのように手首同士、足首同士がひっついてしまった。

 当然そんな状態で満足に動けるわけもなく、まるで連行される囚人のような体勢で悟空は棒立ちするしかない。

 気の固定化により行われる両手足の拘束。これは今の悟空では気によって強引に千切る事など出来るはずもなく、彼の自由を完全に奪い去っていた。

 悟空はしばらく腕力で外そうともがいていたが、やがて無駄と悟ったのかリゼットへ視線を向けてくる。

 

「リ、リゼット……これ、一体なんなんだ? 動けねえ……!」

「この光の手枷は力では決して外せません。

外す為のキーワードは教えますが、それを唱えるのは大魔王と戦う直前です。今唱える事は認めませんよ」

 

 悟空の耳元で解除の為のワードを囁く。

 そのワードとは勿論『開(アンテ)』。元ネタに準じている。

 某霊界探偵漫画に登場した霊力養成ギプスを気で再現したものがこの手枷足枷であり、試してみた所実際に効果があってリゼットを喜ばせたものの一つである。

 

「気の開放――と言っても分からないでしょうから、かめはめ波を撃つ時の力の流れをイメージして、両手と両足に力を入れて下さい」

「ぐ、ぐぎぎぎ……う、腕はともかく、足はキツイぞ……。

で、でも……動く……動けるぞ……」

「その枷を付けている間、常にその力の操作を行って下さい。

修行中は勿論、食事している時や寝ている時もです。

最初はきついでしょうが、それが苦にならなくなったならば、外した時の貴方の力は今の何倍にも高まりますし、かめはめ波も今よりずっと短時間でスムーズに撃てるようになるでしょう」

 

 悟空は汗を流して辛そうにしていたが、最後の何倍にも高まる、という言葉を聞いて目の色が変わった。

 やはりサイヤ人。強さを求める本能は凄まじいものがある。

 彼は好戦的に笑うと、全身を震えさせながらも必死に立ち上がり、リゼットを正面から見た。

 

「私との修行は常にそれを付けた状態で行います。

とりあえず最初の目標は、その状態のままこの広場を100周する事。

なるべく手は大きく振り、全身の筋肉を使うように歩いて下さい」

「お、おう! わ、わかった!」

 

 余談だがリゼット自身も勿論これを付けている。

 目には見えないよう工夫しているが、この枷を付けたまま恒例の気の全開放修行を今この瞬間も続けているのだ。

 常在戦場――何気なく話しているように見えて、リゼットが己を鍛えていない瞬間など存在しない。

 歩いている時、本を読んでいる時、カリンを猫じゃらしでからかっている時……いつだって彼女は気を開放して己の限界を責め続けている。

 もっとも、ある程度の強さに達してしまうとそれすら最初ほどの劇的な効果は見込めなくなるのが辛い所だ。

 

 何はともあれ、まさかの原作主人公にして後の宇宙の英雄の師匠モドキになるという罰当たりイベントが始まってしまった。

 まあ、悟空より強い時期など今だけだし、こういうのもいいかもしれない。

 それでカリンや亀仙人、界王様と一緒に『悟空に呆気なく抜かされた師匠ズ』の端に並んでみるのも一興だ。

 いや、こうなったらせめて、『抜かされるまでの期間が一番長かった師匠』くらいにはなってやる。

 リゼットはそんな事を考え、必死に歩く悟空を見守った。

 

 

 ――サイヤ人って凄い。

 リゼットは呆然と呟き、隣にいたカリンは唖然としている。

 場所はカリン塔。二人の視線は遠見の鏡に固定され、地面に転がる無様な大魔王を見ていた。

 大魔王は悶え苦しみながら地面を転がり、血反吐を巻き散らして辺りを自身の血の色である紫に染めている。

 そしてそれを見下ろす悟空自身にもまた驚きの色が強く表れ、隣で転がっている天津飯はただ唖然としていた。

 

 結論から言おう……『一撃で終わった』。

 

 リゼットからわずか数日の修行を受け、枷を付けたまま大分楽に歩けるようになった悟空は意気揚々と大魔王に挑み、彼の前で枷を解除して飛び蹴りを叩き込んだ。

 やった事はそれだけであり、それが全てだった。

 ただの一撃……それだけで大魔王は立ち上がる事すら出来なくなり、こうして無様にのたうち回っている。

 リゼットはもう内心で汗ダラダラである。

 どうやら少しやりすぎたらしい。大魔王を倒すどころかオーバーキル出来る強さになってしまった。

 原作名イベントの一つである『貫けー!』は当然カットである。そもそも戦いが成立していない。

 

「お、おいリゼット……これはちょっと強くなりすぎじゃないかの?」

「……私もそう思います」

 

 とりあえず、これは少し不味い。

 何故なら大魔王が卵を吐く暇がない。

 つまりマジュニアが生まれない事になり、このまま大魔王が死ぬと神様まで死んでしまう。

 リゼットはまたもやらかした。悟空の成長速度を侮ったのだ。

 彼女としては大魔王と互角くらいになるように調整したつもりだったのだが、悟空はその予想の上を行った。

 何はともあれ、このまま大魔王を死なせてしまうわけにはいかないだろう。

 リゼットは頭痛を抑え、カリン塔から飛び降りる。

 そして飛翔し、戦場であるキングキャッスルへと高速で飛んで行った。

 

 リゼットが白翼を広げて空より舞い降りる。

 バーストリミットを使う事で純白の輝きに満たされ、ついでに彼女が現れる事で暗雲が晴れて光が差し込む。

 実際は急ぎのあまりバーストリミットまで発動し、暗雲を高速移動の衝撃波で吹き飛ばしてしまっただけなのだが、傍から見れば神秘的だ。

 だがそれより妙なのは悟空だ。

 彼は大魔王に止めを刺す事も出来ず、振り上げた拳をそのままに固まっている。

 ……無理のない事だ。

 実力伯仲ならばともかく、これではただの弱者いびり。強者が蟻を踏み潰す行為に等しく、ただの嬲り殺しにしかならない。

 つまり無抵抗なのだ。

 今の大魔王は悲しいほどに悟空に抵抗出来ず、動かない赤子を殺めるも同然に殺せてしまう。

 それが逆に悟空の腕を止めた。

 未来の話になるが、悟空は仲間達を殺したナッパにすら止めを刺さなかった程に甘い男だ。

 一度はフリーザすら見逃そうとした。

 リゼットはそんな彼の拳をそっと両手で包み、彼の意識を己へと向ける。

 

「! リゼット……オラは……」

「いいんですよ。――それでいいんです」

 

 これはもう戦いではない。ただの一方的な殺戮だ。

 両者の実力が開きすぎてしまえばそこに戦いの概念は成立せず、一方的に殴る後味の悪さだけが心に残る。

 いや、殴るだけなら出来るだろう。倒すだけならば葛藤などない。

 実際悟空はこれまでも圧倒的に実力差の開いている相手を倒してきた事があるし、それを気に病んだりはしなかった。

 時には笑顔で勝利を喜びすらした。

 だがその上で、無抵抗の相手の命すらも奪うとなれば話は変わる。

 戦いの中で相手を死なせてしまう事はあっても、終わった後に追い打ちをかけて命を奪う事は出来ない。孫悟空とはそういう男だ。

 ベジータのような者ならばそれでも嬉々として戦うのだろうが、悟空がそれをやるには優しすぎる。

 だから、ここから先は自分の出番だ、とリゼットは考えた。

 自分の失態が招いたこの事態。ならばせめて己がケリを付けねば格好が付かない。

 

「ピッコロ大魔王には私が止めを刺します」

 

 悟空をやんわりと後ろへ追いやり、大魔王へと歩み寄って行く。

 一歩、二歩、三歩……まるで警戒する事もなく、隙だらけにすら見える姿で無防備に歩く。

 天津飯が『危ない!』と叫ぶ。悟空が息を飲む。

 だが彼女は止まらず、それを大魔王が見逃すはずもない。

 悟空に対する逆転の一手、人質。

 それを実行すべくリゼットの手首を掴み――膝から崩れ落ちた。

 

「あ……が……!?」

「愚かな」

 

 掴んだのは大魔王だ。

 天女の細い手首を確かに掴み、動きを止めようとした。

 だが実際に動きを封じられたのは大魔王の方であり、まるで巨岩を被せられたかのように重さがのしかかり、動けない。

 それどころか、己が掴んでいるはずなのに手を離せない。

 掴んでいる側が一方的に操られるという理不尽。

 合気道によって成る、妖術の如き攻撃の無力化。

 それが大魔王を崩し、その全身を押さえ込んでいた。

 そうしたまま、まるで何でもないかのように開いている片手で胸元を探り、『封』と書かれた小瓶を取り出す。

 蓋を外したそれを指で弾くと、見事なコントロールで少し離れた位置に垂直に設置された。

 

「まっ、まさか!?」

「そのまさかです」

 

 リゼットは指先を動かし、気の操作を行う。

 するとまるで大嵐が起こったかのような奔流が起こり、大魔王を飲み込んだ。

 これぞかつて武泰斗が大魔王を封じ、世界に平和を取り戻した奥義。

 気の消費が激しく、相手との実力差がありすぎる時に使うと死に至る魔の封印。

 ――魔封波であった。

 

「ま、まさか、こんな結果になるとは……!

だ、だが、これで悪の根が消えるわけではないぞ!」

 

 大魔王が何やら叫びながら、口から卵を吐き出す。

 それを見計らい、リゼットは大魔王を小瓶へ押し込んだ。

 こんな事になってしまい、どうやってマジュニアを出させようと考えていたので、今の行為はまさに渡りに舟。大歓迎すべき誤算だった。

 ならばもう用はなしとばかりに大魔王を封印し、蓋を閉める。

 少しばかり本来の流れと違ってしまったが、まあ結果オーライだ。

 悟空も強くなったし、全体的に見ればプラスと言っていいかもしれない。

 というかプラスと思いたい。




歩いている時、本を読んでいる時、カリンを猫じゃらしでからかっている時……いつだって彼女は気を開放して己の限界を責め続けている。

――そして、そんな彼女が使う猫じゃらしを追うカリンも実はひっそりと戦闘力が上がっていた。
具体的には大魔王に勝てるくらいには。
(戦闘力190→270)

【気霊錠】
幽遊白書の呪霊錠のパクリ。
気を総動員しなければ満足に動く事すら出来ず、これを付けたまま日常生活を送れるようになれば戦闘力が数倍になる。
数日程度ならば数割強くなる程度で悟空が大魔王と互角になるくらい……とリゼットは思っていたが、悟空の才能はそんなものではなかったので強くなり過ぎてしまった。
現時点での悟空の戦闘力は600くらい。


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第十一話 ドサクサ紛れの後継指名

 ピッコロ大魔王を封印したリゼットは悟空を連れて神殿へ訪れていた。

 カリンが認めた証である鈴を無視して来てしまった上に如意棒すら使っていないが、まあ問題はあるまい。

 リゼットは神の代行者という役割を持っており(というより押し付けられており)、カリンを通さずとも彼女自らが神殿に連れ込んだとなれば充分に資格ありと見なされるのだ。

 これについてカリンは「わしの出番……」と嘆いていたので、お詫びに小さめのダンボール箱を渡しておいた。

 そんなのでいいのかと思うかもしれないが、本人は箱にスッポリ入ってご満悦だったので問題なかろう。

 

 その後はポポに任せてリゼットは早々に立ち去ったのだが、後日神様に文句を言われた。

 神様と大魔王の顔が同じである事は事前に悟空に教えておいたので悟空が神様に襲い掛かる事はなかったが、問題はその前だ。

 Mr.ポポが悟空の未熟さを教える為に彼と戦ったのだが……何とここで強くなり過ぎた悟空は気の操作など知った事かとばかりにポポを返り討ちにしてしまい、しばらくポポが動けなくなってしまったのだ。

 何はともあれ、これで神様に悟空が弟子入りし、ついでに神龍も復活するわけだ。

 悟空からはまたあのギプス付けてくれとせがまれたが、適当に理由を付けて断った。

 数日であれなのに、3年も付けたらマジュニアが殺されてしまう。

 とりあえず修行に関しては完全に神様に一任し、リゼットは早々に自分の聖堂へ引き上げて行った。

 

 悟空が神様の元で励み、マジュニアが自己流で色々頑張っている間、リゼットもまた新たな領域へ足を踏み入れていた。

 日課のように続けている重力修行はとうとう100倍を克服し、150倍に突入。

 悟空の克服速度を思うと泣ける鈍間さだが、これで基礎能力はかなり高まったと自負出来る。

 というか重力修行の克服速度が遅いのは服のせいだった。

 リゼットの着ているケープドレスは合計200㎏であり、リゼット自身の体重の4倍以上である。

 つまり倍数にして実に500倍の重さを己に課してしまっていた。これでは克服が遅れて当たり前だ。

 ついでに気の手枷&足枷も付けたままである。ちょっと自分を縛りすぎている。

 今、私どのくらいの強さなんだろう、と少しだけ好奇心が疼いた。

 まず重りを付けているから、本来の強さの……まあ7割くらいには落ちていると思う。

 それとギプスもあるので、そこから更に1/3……くらい? だろうか。

 それでいて、今の戦力は多分10万以上はあるはずだ。神様の350倍くらいはあるし多分間違いじゃない。

 というかそろそろ神様で計るの厳しくなってきた。戦力測定する装置が切に欲しい。

 仮に自分を10万と仮定し、全ての制約を解除すると恐らく40万くらいだろうか。

 バーストリミットも、身体を負担に慣らしたおかげで現在は10倍までいけるので……よし、大方の予測値が出た。大体フルパワーMAXで400万くらいだ。

 少し身体への負担が大きいが無理して20倍まで引き上げれば800万も夢ではない。

 やった、私強い。凄い強い。フリーザ第3形態までなら倒せるぞこれ。

 重力修行万歳!

 

『僕の戦闘力は1億2千万です』

 

 そんな声が聞こえた気がした。勿論気のせいである。

 うん、最終形態の前じゃゴミだねこれ。

 やっぱりナメック星編のインフレ激しすぎる。8000だった悟空が帰って来る頃には1億5千万とか舐めてるのか。

 「年齢から考えてこれまでのような急激なパワーアップは無理と判断した」とか言っていたドクターゲロさん涙目である。無理どころか1万8千750倍になって帰って来ました。

 でも予測してなかったくせに、それより圧倒的に強い人造人間作ってたとか、あの人どうなってるの……?

 あの爺さんこそ本物のチートだ。

 結局この程度ではすぐ抜かされてしまうので、やはり休まず修練あるのみであった。

 

 ついでに修練の傍ら、リゼットは時折神殿を訪れては悟空に足りない一般教養や常識、学問などを半ば無理矢理叩き込んだ。

 結婚は食べ物ではない事を始めとして、文字の読み書きや小学生レベルの簡単な計算……とりあえずは九九をそらで言える程度までには何とか仕上げておいた。

 また子供向けの絵本などを読ませる事で様々な事を学ばせ、彼の足りない知識を補完していく。

 子供向けの絵本と馬鹿にするものではない。あれらは子供が飽きずに楽しみつつ、様々な事を学べるように考えた上で作られているのだ。

 そうして、三年間は穏やかに過ぎ去っていった。

 

 

 3年待ち、そして開かれた天下一武道会。

 今回はリゼットも見逃す事なく、悟空の出発に合わせて彼と合流した。

 勿論、万一に備えて仙豆はしっかり持ってきた。

 この三年間で悟空は随分と男前に成長し、リゼットを驚かせた。

 勿論知識としてこの3年でいきなり悟空が成長するのは知っていたが、この急変ぶりには驚くしかない。

 実はサイヤ人は敵を油断させる為に一定の年齢までは幼児体型で、ある時期を境に一気に急成長するという特性があるのだが、残念ながらそれをリゼットは知らなかった。

 

 そのまま悟空と談笑しながら一緒に会場に行き、ブルマ達と合流。

 リゼットは参加する気0なのでここでブルマ達応援団の方に交ぜてもらった。

 「よく下界に降りて来る天女様ね」とブルマに笑われてしまったが、ずっと山の上に居ても暇なのだから仕方ない。

 ついでに顔は知っているものの自己紹介はしていなかったクリリン、天津飯、チャオズ、亀仙人とも自己紹介を済ませておく。

 特に亀仙人とは亀仙人、鶴仙人、龍天女の3人で並び称されていたにも関わらず本人同士の交流がゼロというおかしな状況だったので、話が弾んだものだ。

 どさくさ紛れに胸をつつこうとしてきたのは……まあ、愛嬌という事で怒らないでおこう。

 ブルマが代わりに殴ってくれたし。

 

 観客席は、ランチさんが銃を乱射するまでもなく人々がモーゼの十戒のように割れて一番前を譲ってくれた。

 リゼットが常時纏っている高位の存在っぽいオーラは健在だ。

 こういう時だけは実に便利である。

 何か観客の中の何人かが跪いたり拝んだりしてきて、少し鬱陶しいのを除けば、だが。

 

「リゼット様は参加しないんですか?」

「私、見ている方が好きですので」

 

 ブルマの疑問は軽く流しつつ、試合を観戦する。

 過去2回、共に決勝を見逃してしまったので今回は特に気合が入っている。

 今この時だけは天女ではなくただの応援少女だ。リゼットは試合の流れに一喜一憂し、童女のように盛り上がっていた。

 悟空とチチの試合では二人の結婚にテンションが上がり、ヤムチャと神様の試合は失礼ながらヤムチャが股間を打って悶絶したシーンに笑い、天津飯VS桃白白は意外と格好よかった天津飯に思わず拍手を送ったり。

 クリリンとマジュニアの試合はかなり喰らいついてみせたクリリンに惜しみなく賞賛を送ったり。

 リゼットはそれはもう、試合をこの上なく楽しんでいた。

 

「た、楽しそうだな天女様」

「落ち着いた方と思ってたから意外だわ」

 

 ウーロンとブルマがそんな事を言っているが、不老といっても人間なのだ。

 試合観戦したら盛りあがるし、楽しいものは楽しいのである。

 しかしそんな楽しい気分も神様とマジュニアの試合で台無しとされる。

 神様が魔封波返しで封印される直前に余計な事をほざいて下さったのだ。

 

「そ、孫よ! こいつを倒して世界を救ってくれーい!

そしてリゼット! 次の神はお前だ! 後は任せたぞー!」

 

 ……アーアーキコエナーイ。

 何かお爺ちゃんが叫んでるけど、きっと聞き間違いだ。

 そうしてリゼットが無視していると、神様が更に吸い込まれそうになりながら叫ぶ。

 

「聞こえとるのかリゼット! 次代の神はお前に任命する!

後は任せるぞー!」

 

 何かお爺ちゃんが中々吸い込まれず、何か喚いている。

 いいから早く封印されて下さいよ。後でちゃんと助けてあげますから。

 マジュニアさんも神様の意外すぎるしぶとさに汗流してるじゃないですか。

 そしてようやく神様の身体が瓶に入ったのも束の間、神様が首から上だけをしぶとく瓶の外に出し、また叫ぶ。

 

「こらリゼット、耳を塞ぐな! お前が次の……むがっ!?」

 

 飽きもせず何か喚いていた神様の頭をマジュニアが抑え付け、無理矢理瓶に押し込めて蓋をした。

 グッジョブマジュニア。マジグッジョブ。

 リゼットは思わず親指を立ててサムズアップし、敵のはずのマジュニアを称えた。

 一方のマジュニアは同情したような視線をリゼットに送り、そして呟く。

 

「……貴様も苦労してるようだな」

「はい……そりゃあもう」

 

 ここでちょっと気にかけてくれる辺り、やはり新生ピッコロは根っこの部分が悪人とは程遠いと改めて確信する。

 まあ神様と分かれた悪の心は先代であって、このピッコロではないから不思議はない。

 ナメック星人は元々善良であり、いかに記憶と力の全てを受け継がせようと、いかに生まれ変わりに等しい存在であろうと、それでも完全な悪になどなれないという事だろう。

 

「あの、リゼット様……今のは?」

「……その事について皆さんにお話しする事があります。

悟空君と一緒に、一度会場裏まで来て下さい」

 

 リゼットは額を押さえ、とりあえず状況の説明をするべく全員を招集した。

 神様も全く余計な置き土産を残してくれたものである。

 代替わりすべき相手はデンデであって自分ではないというのに、どうしてこうなった。

 

 

 

「それで、どういう事か話してくれるのでしょうな?」

 

 場に集まったうちの一人である亀仙人がリゼットへ問いかける。

 今ここにいるのは悟空、クリリン、ヤムチャ、天津飯、亀仙人、ブルマ、チチ。

 その7人の視線がリゼットへ集中する中、リゼットは言葉を選んで口を開いた。

 

「まず結論を先に言ってしまうと、あのマジュニアという者の正体はピッコロ大魔王です」

「な、なんだと!? 馬鹿な、ピッコロ大魔王ならば貴女が封じたはず! 俺は確かにこの目で見たぞ!」

 

 マジュニアの正体を語ると、まず真っ先に反論したのは天津飯だ。

 そういえば彼もあの場にいたな、と思いながらリゼットは彼の疑問に答える。

 

「はい、確かに封じました。大魔王を封じた瓶は今も神殿の奥に厳重に保管されています」

「な、ならば何故! まさか大魔王が二人いるとでも言うつもりですか!」

「そのまさかです」

 

 あっさりとリゼットから帰って来た肯定に天津飯の言葉が止まる。

 いや、彼だけではなく悟空を除く全員が信じられない、という顔になった。

 当たり前だ。ピッコロ大魔王が二人だなんて話は聞いた事がない。

 疑うのも無理はないだろう。

 

「大魔王は封印される直前に卵を残し、そこに自身の全てを託しました。

だからその卵から生まれたマジュニアは大魔王の息子であると同時に大魔王そのものでもあるのです」

「ま、まさかピッコロ大魔王とは……こいつは厄介な事になりそうじゃわい」

 

 リゼットの説明で一早く現状を察した亀仙人が唸る。

 やはり武の神と呼ばれる男。普段はふざけていても、こういう時の察しの良さは頭一つ抜けている。

 

「し、しかし俺は見たぞ。今の魔封波でシェン選手から……」

「そうだ、シェン選手の身体からもピッコロのような奴が飛び出して瓶に吸い込まれた。

後なんか、変な事を言っていたな……リゼット様が次の神様だとか……」

 

 ヤムチャと天津飯が尤もな疑問を口にする。

 出来れば神様の余計な発言は無視していてくれると有り難かったのだが、やはりそうはいかないようだ。

 

「あれはただの変なお爺ちゃんです。

ボケててちょっと変な事を口走ってしまうんです。気にしないで下さい」

「いや、それは流石に無理がありますぞ」

「ですよねー」

 

 とりあえず駄目元で誤魔化しを口にしてみたものの、呆気なく亀仙人に突っ込まれた。

 コホン、と咳払いをし、仕方ないので真面目に説明しようと気を取り直す。

 

「……あの方は大魔王ではありません。

人間の身体を借りてピッコロと戦っていた神様です」

「か、神様だと!?」

「神様とピッコロは元々一人の人間でした。

しかし神になる時に悪しき心を捨て、それがピッコロになってしまったのです。

だから、どちらも相手を殺せば自分も死んでしまう……神様が大魔王を止められなかった最大の原因がそこにあります」

「なるほどな……そういう事じゃったか。

自分を殺さずに相手を殺すにはまさに魔封波はうってつけじゃ」

 

 やはり最も早く察したのは亀仙人だ。

 何故神様が魔封波を使ったのか、そして何故今更になって出てきたのかをあっという間に理解した。

 普段からこれならば威厳もあるというのに、勿体ない限りだ。

 そこで、ハッとしたようにヤムチャがリゼットを見た。

 

「あれ? てことは……今はリゼット様が神様って事か?

確か封じられる直前にそんな事を言ってたような……」

「…………」

 

 自称荒野のロンリーウルフが激しく余計な事を口走り、リゼットは咄嗟に視線を逸らした。

 いや、神様ってそんな簡単になれるものじゃないし。

 あの神様だって神になる為に悪の心捨てたりと結構苦労してたのに口頭で伝えてはいお終いって、そんなのでいいのか。

 と思うも、よく考えたらデンデもそうだった。

 悟空に連れてこられて『今日からお前神様な』で終わりだ。

 いやでも私、邪悪とまでは行かないけど普通に人並みの欲とかあるし、いいのかな。

 ……でもアニメオリジナルのガーリックJr.編で出た歴代の神様達も結構自分勝手というか、どうしようもない人達だった気がする。

 地球の一大事だっていうのに自分達の寝所に入られただけでひたすら神様を妨害し続けるとか頭悪いとしか思えない。

 そんな事を考え、やがてリゼットはこの話題をスルーする事に決めた。

 

「神様は魔封波で閉じ込められてしまいましたが、ピッコロから取り戻せば解放する事も出来るはずです。悟空君、頼みますよ」

「ああ、任せておけ神様。オラが先代様を取り戻してやらあ」

「やめて! 早くも呼び方変えないで!?」

 

 せっかくスルーしたのに悟空が話題を戻してしまった。

 しかも無情の神様呼びだ。

 何これ、逃げ場なし? もう私神様固定?

 リゼットは何だか泣きたくなってきた。

 

「ま、まあ神様の後継云々は後で考えるとして……頼みますよ悟空君。

ピッコロがわざわざこの大会に出てきたのも貴方を恐れているからです」

「その通りかもしれんな」

 

 話しているリゼットの後ろから、ピッコロの声が割り込む。

 気配で接近は既に感知していたが、他の皆は違うようだ。

 驚く全員の前でピッコロは腕を組み、そして自信に溢れた声で言う。

 

「確かに孫悟空の存在は俺にとって邪魔以外の何者でもない。

修行を怠けていた先代などよりずっとな」

「……貴方も既に先代呼びですか」

 

 リゼットの抗議を無視し、あっさり神様を先代にしてしまったピッコロが笑う。

 まさかの大魔王からの神認定だ。全然嬉しくない。

 

「だが今度は絶対に貴様の息の根を止める。

そして修行をして力を付けた後はそこの神を殺し、俺様が世界を征服してやる。

素晴らしい魔の世界が待っているのだ!」

 

 意外と冷静に戦力分析をしていたピッコロに感心しつつ、自分のせいでせっかくの台詞が微妙にしょっぱくなってしまった事を申し分けなく思う。

 ほら、クリリンとかヤムチャがこっち見てる。

 『いざとなれば、新神様で倒せるんじゃねこれ?』みたいな顔してる。

 

「言っておくが今度のピッコロ様の実力は3年前に一撃でのされた父とは比べ物にならんぞ!」

「オラだってあの時より気の扱いが上がってるんだ。負けはしねえさ」

 

 しょっぱい。会話がしょっぱい。

 リゼットは何だかいたたまれない気持ちで一杯だ。

 3年前に鍛えすぎたせいでピッコロの台詞が悲しい事になっているし、悟空も3年前とあまり強さが変わっていない。

 ちなみに二人とも強さにして神様の倍くらいの気は感じる。

 つまり数値にして大体600前後という所か……ピッコロさん凄い頑張ってるなあ、と感心した瞬間だった。




ピッコロ「寝る間も惜しんで血反吐を吐きながら原作以上の猛特訓をして追い付いたぞ!」
リゼット「……なんか、その……ごめんなさい」

ピッコロさんはやれば出来る子。

【Mr.ポポの戦闘力】
ポポの戦闘力は1030と言われるが、これはサイヤ人編以降の数値。
初登場時のポポは『神様もっともっとすごい』と言っており、この時点では神様>ポポ。
彼の戦闘力に関しては、サイヤ人襲来に備えて戦士達を鍛えているうちに自分も強くなったと考えるのが自然。

もっとも彼はアニメで超サイヤ人の悟天とトランクスの二人がかりの攻撃を防いだりしているので底が見えない部分は確かにあるが……。

【悟空の数学力】
原作、Z、GTなどでは計算をしている描写がほぼない為に不明だったが、『超』でとりあえずペーパーテストでギリギリ50点を取れる程度の学力がある事が判明した。
ただしこのテストで出た問題は小学生低学年レベルであり、加えて悟空は漫画版で指を使って数字を数えていたので彼の学力は小学生の1年生か、よくて2年生レベルであると考えられる。
二桁の足し算と引き算をギリギリ出来るくらいだろうか。
このSSではとりあえずリゼットが四則演算までは覚えさせたので、小学校6年生レベルまで上がっている。
三桁くらいなら暗算もいける。元々の地頭は悪くない。

【読み書き】
アニメの方の『超』でチチからお使いを頼まれた際、渡されたメモには文字ではなく絵が描いてあった。
この事から悟空は読み書き出来ないと誤解されるが、上記の通りペーパーテストで50点を取り、一応自分の名前もちゃんと書けているので最低限の読み書きは可能。
(もし悟空が読み書き出来ないとなると、そもそも第六宇宙との試合に出る事すら不可能だった)
ついでに幼少期には亀仙人の修行で官能小説を読まされた事もある。
このSSではとりあえずリゼットが小学生卒業レベルの漢字の読み書きまでは叩き込んだ。

ちなみに何故チチがお使いでわざわざ絵を描いたのかは不明。
悟空は文字を読めないと思い込んでいるのかもしれない。


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第十二話 オラの悟飯をかえせッ!!(前)

✪ あまりにも同じ感想が続くので、新規読者の方が同じ疑問を抱かないように2話の後書きに少しだけ追加しておきました。
サイヤ人オリ主は……高性能すぎて逆に使いにくいんですよ……。


 悟空とピッコロの戦いは無事、悟空の勝利に終わった。

 途中何度かハラハラさせられる場面もあったが、終わってみれば勝つべくして勝ったと言える。

 ピッコロが苦し紛れに放った口からビームもしっかり避け、文句のない完勝であった。

 将来発症し、GTで悪化の一途を辿る悟空の舐めプ癖を今のうちに矯正出来ないかと、最後まで油断しないように言い聞かせておいたのがよかったのかもしれない。

 そして皆が解散し、ひとまず地球の危機は去った。

 それはいい……それはいいのだが……。

 

「リゼットよ。儂はこれから先代として隠居する。

ドラゴンボールは残しておくから心配はするな」

「あの、ちょっと待ってください。無事に助かったんですから、無理に私に譲らずとも……」

「いや、儂は今回の件で力不足を痛感したのだ。

これからの地球にはお前のような強き神が必要だ」

 

 結局リゼットは、神の後任にされてしまう事は避けられなかった。

 これに伴い、神様――いや、先代は今までリゼットが住んでいた聖堂に移り住み、逆にリゼットが神殿に住む事となってしまった。

 やけに豪華な建物を作るなとは思っていたが、もしかして最初から自分が暮らす気だったのだろうか。

 だがそれだけでは終わらず、先代が更に言葉を重ねる。

 

「まず、神としての権限をお前に譲る。

これにより、お前は地球上であればどこでも転移出来るようになり、あの世とこの世を自由に往き来可能にもなるだろう。

更に、地球上であれば自分以外の他者をも運ぶ事が可能だ」

 

 結構便利な能力である。

 そういえばこの人、悟空をあの世に運んだりしてたな、などと思いつつ続きを促す。

 

「それから、就任の挨拶だな。

まずは儂と一緒にあの世に向かい、閻魔様に顔見せをせねばならん。

そこで正式に地球の神として認められるのだ」

 

 さあ行くぞ。

 そう言う先代を後ろから蹴り飛ばしたい衝動に駆られつつ、リゼットは彼の後に続く。

 後でどうせデンデに譲る事になるだろう立場だが、とりあえずここで閻魔様と知り合っておくのは決して損ではないはずだ。

 あの世に行くと閻魔から「お前地球の神にしては戦力ありすぎじゃね?」と文句を言われたり、「界王様より強い辺境の星の神とかないわー」とか言われたりしながらも初顔見せを終え、その後は引越しだ。

 聖堂から重力室と私物を移動させ、ついでに兎人参化とその部下達も神殿の小間使いとして移動させる。

 普通の兎達はそのまま聖堂に残したが、先代はまんざらでもなさそうに面倒を見ているので問題はないだろう。

 ミスターポポには何か言われるかと思ったが、彼はあっさりと神の代替わりを受け入れた。

 

「新しい神様来てポポ嬉しい」

 

 彼はもしかして神様なら誰でもいいんだろうか、と少し思ってしまった。

 ついでにカリンにもこの事を伝え、まさかの立場逆転にカリンは何とも言えない顔をした。

 とりあえず挨拶としてマタタビをプレゼントしたらゴロニャンしながら床を転がっていたので、そのまま放置し神殿へと戻った。

 

 

 

 神殿暮らしを始めて、まずリゼットが行ったのは神殿の奥に安置されていた地球破壊爆弾……もとい究極のドラゴンボールの処分だった。

 これは大魔王と分離する以前の先代が作り出したものであり、通常のドラゴンボールとは比較にならないパワーを持つ。

 GT時点での悟空すら子供に変えてしまうのだから、そのパワーははっきり言ってリゼットに制御し切れるものではない。

 ましてや願いを叶えれば、その惑星を1年後に破壊する上に宇宙中に散らばるという嫌がらせとしか思えない特性まで秘めており、遠慮なく言ってしまえばこの世に不要としか言えない物体だった。

 今はただの石だが、ピッコロと先代が融合すればこれは必ず復活する。

 故にリゼットは、7つ存在する玉のうち3つを持って精神と時の部屋に入り、力の限り全力投球してこれを放逐した。

 精神と時の部屋は地球と同じ広さを持ち、それでいて変わり映えのしない白い空間のみがどこまでも続く。

 そこに放り投げてしまえば、もうリゼットすらどこにあるか分からない、という寸法だ。

 もしピラフ一味が入り込んでも、発見すら出来ずこの部屋の過酷な環境に耐えれず死ぬか、生き延びても帰れず部屋に閉じ込められるだろう。

 要するにこれで、誰も究極のドラゴンボールを使えないというわけだ。

 あえて3つしか放逐しなかったのは、万一、億が一にも誰かが偶然中で揃えてしまうのを阻止する為だ。

 精神と時の部屋に3つ、外に4つ。これを揃えるのは限りなく至難だろう。

 

 それから1年。

 以前から研磨していた元気玉モドキをようやく完成させる事に成功した。

 地球中のあらゆる生物、植物からほんの少しずつ気を分けてもらい、己へと蓄積していくこの技を使えば不思議と腹も空かず、試しに何日か食事を摂らずに不眠不休で行動してみたが、まるで疲労する事がなかった。

 ほとんど植物と同じと言っていい。

 何も地球に限定せず、太陽の気を少しわけてもらうだけで活力を得る事が出来る。

 流石に水くらいは飲むが、この力を得てからというもの食事も不要になり、トイレに行く事もほとんどなくなったのは得といってよいだろう。

 

 ……いや、うん。これ元気玉じゃないじゃん。

 

 リゼットは途方に暮れた。

 やはり実物を見もしないで記憶だけで真似るのは無理があった。

 界王拳の時もそうだったが、今回も同じ失敗をしてしまったわけだ。

 懲りない少女(260歳)である。

 一応自分に気を集める事は出来るので、劇場版で悟空がやったみたいに己に気を取りこんで自分を強くするドーピング的な使い方は可能だ。

 というかそれしか出来ない。玉として発射とかどうやればいいのか、皆目見当もつかない。

 もういっその事あの世経路で界王星に行く事も検討に入れるべきだろうか。

 そのような事を考えながら、リゼットはこの新しい技の錬度をとりあえず上げる事にした。

 

 

 神として神殿に暮らすようになって4年目。

 時々訪れる悟空に修行をつけたりして生活しつつ、案外ここも悪くないんじゃないかとリゼットは考えていた。

 重力室はこちらに持ってきたから修行環境は悪くなっていないし、むしろこの神殿だからこそ可能な修行というものがある。

 その一つが『時の部屋』だ。

 名前こそ似ているものの精神と時の部屋とは異なり、この部屋で出来るのは精神のみの時間跳躍である。

 己の精神を過去へと飛ばし、そこで過去の人物達と戦う事が出来るのだ。

 一体どうやって精神のみの移動で過去に肉体を出しているのかは分からないが、恐らくは肉体の強さを再現した質量を持った幻のようなものなのだろう。

 これを使い、リゼットは己の精神を過去に飛ばす事で擬似的な実戦経験を積んでいた。

 修行抜きにしても、過去への旅は魅力的だ。

 何よりこれは、惑星間すら越えた旅も可能としてくれる。

 いつか宇宙を旅したいと願うリゼットにとって、この時の部屋はまさに最高の娯楽施設であった。

 目を閉じ、時の流れに心を委ねる。

 時の旅は一瞬の間に起こる出来事で、実際には時間の経過がない。

 そして仮に向こうで死んでしまったとしても実際には傷一つ負わないと、いい事尽くしだ。

 

 一方で精神と時の部屋は未だほとんど使っていない。

 究極のドラゴンボール(地球破壊爆弾)を放逐する際に一度訪れたが、それは部屋の時間にして僅か30秒の出来事。

 中に入って、玉を投げて、部屋を出て。本当にそれだけだ。

 これはほとんど使用していないも同然の事であり、外から見ればリゼットが入ったと同時に外に出てきたようにしか見えなかっただろう。

 いつかはリゼットもこの部屋を使う事になるのだろう。

 しかしそれは今ではない。

 少なくとも今、リゼットが精神と時の部屋を使うほどの脅威はこの地球に存在していなかった。

 

 ――もっとも、使うまでもない程度の脅威ならばいるようだが。

 

「リ、リゼット……」

「先代様? 一体どうしたんです?」

 

 以前までリゼットが暮らしていた聖堂と、この神殿は繋がっている。

 だから先代はいつでも神殿へ訪れる事が出来るし、その逆も然りだ。

 しかしリゼットの記憶にある限りでは、彼女が神に就任して以来の四年間、先代がここまで血相を変えて神殿を訪れた事はなかった。

 彼は胸を苦しげに抑え、激しい発汗を起こしながら、今にも倒れそうによろめいている。

 余談だが、以前は『神』だった胸のマークは『先』に変わっていた。

 

「ピ、ピッコロがやられた……過去の因縁が、牙を剥いてきたのだ……」

「ピッコロが……? その様子からするに、殺されてはいないようですが、手酷くやられたようですね。

……ともかく、まずは落ち着ける場所へ行きましょう。横になった方がよさそうです。

Mr.ポポ、先代様を寝室へお連れしなさい」

「はい、神様」

 

 

 先代の話を要約するとこうだ。

 今より300年前、リゼットが生まれる40年昔の事。

 かつて神の座を競い、先代に敗れた者がいた。

 名をガーリックといい、多大な野心を身に秘めた男だったらしい。

 しかし先々代の神はその野心を見抜き、先代を神へと選んだ。

 無論それで終わるわけもなく、ガーリックは先々代に反逆し、そして討たれたらしい。

 『300年後に必ず復活する』と断末魔をあげながら……。

 

「……そのガーリックという者が、復活したと?」

 

 リゼットは先代へと気を送り、治療をしながら問いかける。

 随分と気の長い復活もあったものだ。

 というか何故300年なのだろう。わざわざ時期を指定するのに何か理由でもあるのだろうか。

 

「恐らくはな。今この地球にいる者でお主と孫悟空を除けば奴しかピッコロを害し得る者など存在せん」

 

 リゼットは思わず、既に製作が開始されているであろう人造人間や、封印されたまま迷惑にも地球に放置されている魔人ブウを想像する。

 以前に戦ったDr.ウイローの件もあるし、案外今のピッコロくらいなら倒せるの沢山いるのでは? などと思ってしまったのも仕方の無い事だろう。

 というか、Dr.ウイローが造り出した量産型やられキャラのバイオマンですら戦闘力は1000を超えている。やはりあの男の科学力はおかしい。

 

「一応、探ってみましょうか」

「頼む」

 

 目を閉じ、遠視を行う。

 気を探ってみれば確かに4つ、異質で大きな気がこの地球にいる事が確認出来た。

 大きい、と言ってもそのうち3つの気はピッコロ以下だ。

 頑張れば多分天津飯でも勝てるだろう。

 残る一人は流石にピッコロや悟空を上回っている。

 そこに焦点を絞り、視界を飛ばす。

 すると確かに、魔族と思しき……というかどちらかというとピラフの親戚のような小柄な男が一人、ドラゴンボールを集めて高笑いしているのが視えた。

 

 というかあれだ。これ、かなり初期の方の劇場版の敵だ。

 

 リゼットはここにきてようやく、その存在感の薄い敵の事を思い出した。

 ああそうだ、いたいた。こんなの確かにいたよ。

 まるで敵だけ取り換えて、ラディッツ戦の焼き直しを行ったかのような敵が確かにいた。

 しかし実の所、リゼットにとってこんな敵などどうでもよかった。

 『ああ、そんなんいたね』程度の存在であり、言い方は悪いが羽虫と何ら変わらない。

 リゼットがその気になればいつでもぺチッと潰せてしまう存在だ。

 

 問題はドラゴンボールである。

 確かドラゴンボールは使い過ぎるとマイナスエネルギーが溜まり、邪悪龍が生まれてしまうはずだ。

 その浄化には100年の周期を必要とするため、以前にリゼットが叶えた願いのマイナスエネルギーなどはとっくに時効を迎えて消滅している。

 しかしこれから先は違う。悟空やその仲間や、あるいは敵が気軽にポンポン使うせいで100年の浄化どころではなくなってしまうのだ。

 確かGTはアニメオリジナルや、一部の劇場版までカウントされている歴史のはずなので、物凄い頻度で使われている事となる。

 特に劇場版は酷い。1公開で一度使われているような勢いで使われる。

 酷い時は山火事で焼けた山を元に戻す為に使用し、挙句やっぱり森は破壊されて無駄撃ちに終わりましたというパターンすらあった。

 そりゃ邪悪龍も生まれるというものである。

 一応神に就任した後にドラゴンボールを集めて、精神と時の部屋に100日間放置してマイナスエネルギーを浄化させてから地上に戻したが、それでもアホみたいな理由でポンポン使われては邪悪龍がすぐに発生してしまうだろう。

 

「あー……うん。確かにいますね。ドラゴンボールを集めてるお馬鹿さんが4人。

何故か悟空君の息子さんを誘拐して、無駄に悟空君を引き寄せているようです。

名前は……ええと、読めました。

ガーリックJr.に、ジンジャー、ニッキ、サンショ……。

どうやら本人ではなく息子さんのようですね」

「息子に穢れた野心を引き継いだか……親が親なら、子も子よな」

 

 リゼットは遠視をしつつガーリックJr.達の心を読み、ついでに彼等独自の技の使い方などを盗み見していく。

 そのほとんどは魔族由来の使い物にならない技だが(肉体を剣に変化させるなど)、ガーリックJr.が使える『デッドゾーン』という技だけは中々優秀だ。

 これは一切の光が届かない虚数空間に相手を放逐するブラックホールのような技で、飲み込まれたが最後、術者本人すら脱出出来ないらしい。

 ……どう見ても不老不死になった後の自滅専用技です。本当にありがとうございます。

 前言撤回、少し改良して使う必要がありそうだ。特に自滅部分はどうにしかしないと危なくて使えたものじゃない。

 

「それで、どうするのです?」

「無論、過去の決着を付けねばならん。

リゼットよ、共に来てくれぬか?」

 

 先代の言葉に、『ああやっぱり巻き込まれる流れなのか』と思いつつ、リゼットはその頼みを了承した。

 とりあえずドラゴンボールの無駄な使用は防いでおくべきだろう。

 ガーリックはどうでもいいが、邪悪龍は出たら困るのだ。




ちなみに、原作ではガーリック三人衆が不意打ちの三人がかりでピッコロさんを倒しましたが、このSSの世界ではピッコロさんが三人を返り討ちにしかけたので、慌ててガーリックJr.も参戦しての4人がかりで倒しています。


【オラの悟飯をかえせッ!!】
ドラゴンボールの劇場公開作第4弾。ドラゴンボールZとしては1作目に当たる劇場版アニメ。
悟飯がおり、悟空が生きているのでラディッツ戦の前の出来事と思われるが、悟飯とクリリンに面識があるなどラディッツ戦後と思われるような描写も存在する。
この映画のボスであるガーリックJr.は後にアニメオリジナルで再登場をしたので『Z』の世界線ではパラレルではなく、がっつり本編に組み込まれている。

【ガーリックJr.】
300年前に神の座を争い敗れて封印された、ガーリックの息子で生まれ変わり。
ピラフの親戚のような外見だが関係性は不明。
アニメで再登場した時は何故か声までピラフと同じになっていた。
もしかしたらピラフはガーリックの子孫なのかもしれない。
物語序盤でピッコロを亡き者にする事で神を殺そうとしたが、神が死ぬとドラゴンボールが消えるので実はこいつの計画は最初から破綻している。
そんな穴だらけの計画でも何故か神龍で永遠の命を手に入れ不死身になる事に成功してしまった。
しかし律儀にも自滅専用技の『デッドゾーン』を習得していた事で敗北。
ただ不死身になるだけではなく、その後の対処法まで自前で用意してくれるサービス精神に溢れたナイスガイ。
そればかりか、再登場時も不死身に胡坐をかかずに前回の敗因であるデッドゾーンを惜しげもなく使ってくれた。
不死身なので勝ちは出来ずともデッドゾーンさえ発動しなければ絶対に負けないのに、それでも使ってくれる。こいつは偉い。
どこかのザマスと違ってお約束をしっかり理解した悪役の鏡。

【ジンジャー】
ガーリックの部下の一人。
生姜焼きと叫ぶ事で何故か巨大化する。
パンフレットに記された戦闘力は350。

【ニッキー】
ガーリックの部下の一人。
喉飴と叫ぶだけで何故か巨大化する。
パンフレットに記された戦闘力は350。
他の二人が生姜焼きやうな重を叫んでいる中、一人だけ喉飴で我慢している偉い奴。

【サンショ】
ガーリックの部下の一人。
うな重と叫んで巨大化する。
こいつだけやけに掛け声が贅沢。喉飴で我慢している上の奴を見習え。
マントを付けたままのピッコロにフルボッコにされたがパンフレットに記された戦闘力は350。
ちなみにマントを着ている時の当時のピッコロは322。
戦闘力で勝ってるはずなのに「1人ずつでは他愛もない奴ら」とまで言われて雑魚扱いされてしまった。
戦場でうな重などと叫ぶハングリー精神のなさが敗因と考えられる。


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第十三話 オラの悟飯をかえせッ!!(後)

 カメハウスより南方。

 紅海の中央に聳え立つ宮殿がある。

 その場所こそ、かつて先々代の神に反逆したガーリックの息子であり、そして神への復讐を誓うガーリックJr.の宮殿だ。

 部下のジンジャー、ニッキー、サンショを従え、まず当面の目的として狙うのはドラゴンボールによる不老不死の実現。

 先代の神を討つのに、彼自身が生み出したドラゴンボールを使う。これほどの皮肉があろうか。

 ボールは既に6つ集め、後は一つで不老不死が実現する。

 そうして決して死なぬ永遠を得てから憎き先代の神、さらに今代の神をも始末し、世界を手中に収めるのだ。

 

「後一つでドラゴンボールが揃い、俺は永遠の命を手に入れる。

そうなれば俺はもう死ぬ事がない。永遠にこの世界を支配し、全てを地獄へと塗り替えるのだ!」

 

 己の野望を声高らかに叫び、部下の3人がそれに合わせて平伏する。

 魔族が支配する世界がすぐそこに来ている。

 今代の神は歴代の神の中でも特に飛び抜けた力を持つらしいが、それでも永遠の命には敵うまい。

 だが、彼は一つの失敗を犯した。

 永遠を欲してドラゴンボールを集めるなら、まずはそれに終始すべきだった。

 ピッコロ大魔王に手を出すべきではなかったのだ。

 確かにピッコロと先代は一身同体、ピッコロを殺せれば先代も死ぬ。

 しかし一身同体故にピッコロの身に何かが起これば先代にそれを知らせるも同義であり、仕留め切れなかった時のしっぺ返しは大きい。

 彼はそれを失念しており、そしてまさに今、その代償を払わされようとしていた。

 

「永遠の地獄ですか。それは穏やかではありませんね」

 

 光の柱が天より降り注ぎ、ガーリックJr.達の前へと突き刺さる。

 その中より現れたのは、よく知る憎き先代の神。

 そして白いケープドレスを着こなし、淡く輝く白の女神。

 今代の神――リゼット。

 2柱の神が孫悟空に先んじて、ドラゴンボールが集まるよりも早くこの宮殿へと乗り込んできたのだ。

 

「先代の神と……今代の神か!

ちいっ、忌々しい……もう少しで永遠の命が手に入ったものを!

ジンジャー! ニッキ! サンショ! やれい!」

 

 ガーリックJr.の号令に従い、配下の3人衆が飛びかかる。

 だが先代は動じず、リゼットだけが前へと出る。

 しかし前に出るだけで何の構えもなく、ただ一言、『命令』を告げた。

 

Mortes tres personae, ibi(死よ、三つ在れ)

 

 瞬間、三人衆は音もなく崩れ落ちた。

 その顔には生気がなく、白眼を剥き、二度と動く事はない。

 死んでいる――ただ一言、『死ね』と命じられただけで死んでいるのだ。

 

 この手品の種を明かしてしまうのなら、何て事はない。

 格上に通じない事に定評のある超能力の一つ、金縛り。

 それを全身のみならず、脳と心臓にまで与えて強制的に絶命させた。

 それだけの事であり、わざわざラテン語で発した命令には実の所何の意味もない。

 かめはめ波を実は無言で撃てるのを、あえて気合を入れて「かーめーはーめー波ー!」と引き伸ばしが酷い時は数分かけて叫ぶのと同じであり、単なるリゼットの気分出しでしかなく、実は何も言わなくても使える子供騙しだ。

 知識の中にあった『デビルマンG』のダンテの技が格好よくて神様っぽかったので真似て再現してみただけのリゼットの遊びである。

 しかしそんな物でも、やられた側にすれば驚愕に値するだろう。

 事実ガーリックJr.は何が起こったかも認識出来ず、ワナワナと震えている。

 

「無駄だガーリックJr.……今代の神は儂や歴代の神とは比較にならぬ力を持つ、宇宙からの危機に対抗する為の戦女神。

お前如きがどう背伸びしても太刀打ち出来る相手ではない」

 

 何もしてないのに何故か偉そうな先代が威厳に満ちた声で告げる。

 しかも勝手に戦女神にされている。

 どちらかというと旅の神とかの方がリゼット好みの呼び方だ。

 

「だっ、黙れえ!」

 

 やはりというべきか、言葉で引き下がるガーリックJr.ではない。

 全身の筋肉が膨張し、今までピラフ並の身長しかなかったものが、一瞬にしてマッシヴな巨漢へと変貌した。

 しかし悲しいかな、戦力に差がありすぎる。

 殴りかかってきた巨腕はあっさりとリゼットに指先一つで止められ、軽く指で弾いただけで5回、6回転して地面に這い蹲った。

 

「馬鹿な、こんな、こんな事が……」

 

 実力の差は既にこれ以上ない程に思い知っただろう。

 それでも尚諦め切れないのは流石というべきか、引き際を知らないというべきか。

 ガーリックJr.は憎悪に曇る視線でリゼットを睨み、そして手を上空へと掲げる。

 気が高ぶり、何もないはずの空間に黒い虚無が生まれ、何もかもを飲み込もうとする。

 ガーリックJr.の切り札であるデッドゾーンだ。

 こうして実物を見ると、まさにブラックホールそのもの。上手く使えば実力の及ばぬ相手であろうと倒せる可能性を確かに秘めている。

 だが――。

 

「無駄です」

「ぐがあっ!?」

 

 ガーリックJr.を見据え、無動作からの気合砲を放つ。

 手を振るう必要すらない、睨むだけで発動するノーモーションの便利な技だ。

 すると見えざる気の圧力が彼を弾き、彼自らが生み出したデッドゾーンへと吹き飛ばした。

 確かにデッドゾーンという技自体は格上殺しだ。上手く決まればリゼットだろうと倒す事が出来る。

 しかしそれを扱うガーリックJr.が強くなるわけではなく、実力に差があれば飲み込まれるより先にガーリックJr.をデッドゾーンに叩きこむという勝ち方が出来てしまう。

 

「おのれっ! おのれええええええ!!」

 

 結局の所、運命なのだろう。

 ガーリックJr.は悲鳴をあげながらデッドゾーンへと吸い込まれ、そして術者が消えた事によりデッドゾーンも解除された。

 後は主を失った宮殿の残骸が残るばかりだ。

 リゼットは顔にかかった己の髪を指で払いのけ、小さく溜息を吐く。

 それから超能力で6つのドラゴンボールを世界各地へと飛ばし、後片付けとばかりに宮殿跡を消して更地へと変え、そこに植物の種を適当に撒いて気を与えた。

 これで数ヶ月もすればここは森に変わり、以降は多くの動物を育んでいく事だろう。

 

 そうしてやる事のなくなったリゼットは眠っている悟飯を抱え、ここに向かってきた悟空と合流。彼の息子を無傷で引き渡した。

 

 

 リゼットが神の座を継いでより5年。

 地球は気が抜けそうなほどに平和な日々が続いていた。

 先代より神としての業務を学んだり、天気をバランスよく変えたり、修行したりと色々してはいるが慣れればどれも楽なものだ。

 ガーリックJr.からパクったデッドゾーンも改良を進め、そろそろ使い物になるという所までは漕ぎ付けている。

 技名は――まあ、ヘブンズゲートとかでいいだろう。

 デッドゾーンと魔封波の合わせ技で、対象を吸い込んであらかじめ用意した封印の壷の中に入れてしまうというものだ。

 要するにただの道具無し魔封波とか言ってはいけない。作るのに苦労したのだ。

 一応送り先の封印壷は天命石でポポに作らせた特別製で、簡単には壊れず、また邪悪な気の持ち主以外は封印されてもすぐに出られるようにしてある。

 これで万一自爆してしまっても大丈夫というわけだ。

 また、この技は改良の結果空間移動としても使用可能になり、リゼットが一度行った場所……というよりは、座標を覚えている場所ならどこでも行けるどこでもドアとしても利用出来るようになった。

 まあ、瞬間移動のようにすぐに移動出来るものではなく、咄嗟に使えるものではないので戦闘中の回避行動などには全く役に立たないのが難点だが……移動用と割り切ればそこそこ使えない事もない。

 

 それと並行してリゼットは、いずれ来る地球の危機に先んじて戦士を育てるという試みを始めていた。

 といっても、その対象は現在Mr.ポポと兎人参化の二人だけだ。

 他にはナムやチャパ王も一応候補として考えたのだが、どう考えても途中で年齢による劣化が入り、使い物にならなくなるのでスカウトはしなかった。

 Mr.ポポと兎人参化は一応、現時点でも悟空やピッコロと同等程度には強くなっているので、もう少し修行すればサイヤ人との戦いにも投入出来るかもしれない。

 特に兎人参化は触れるだけで相手を人参にしてしまうので、格闘戦が成立する程度のレベルならば基本的に必勝だ。

 ドラゴンボール特有の格闘戦なぞしようものなら、その瞬間彼の勝ちが確定する。

 一方でヤジロベーは……もう諦めた。

 それによく考えれば、彼がいる事で仙豆が激減してしまうので、これはこれでよかったのかもしれない。

 カリン塔の仙豆は未だ全く減っておらず、これから1年後にはわずか2粒になってしまうなど考えられない事だ。

 要するに、そういう事だ。

 本来の運命で仙豆があれだけ減ってしまったのは結局ヤジロベーが原因だったのだろう。

 仙豆は一粒食べれば10日は食べなくても済むほどに栄養満点だ。

 しかしヤジロベーが原作でカリン塔に住み着いてからサイヤ人編までは実に10年近くの時が経過している。

 10日に一粒食べると計算しても、サイヤ人編までに365粒は食べてしまう計算だ。無くなって当たり前としか言えない。

 それをリゼットが変えてしまったものだから、この世界では仙豆が余るほどに残っている。

 時々カリンがおやつとして食べているが、それでも無くなる気配がない。

 

 準備は万端といっていいだろう。

 そして、運命の歯車を回す孫悟空の兄も地球へ訪れたようだ。

 とりあえずリゼットが気を抑えて地上を観察していると、まずラディッツはピッコロの元へと赴き、その後に悟空の所を訪れて悟飯を誘拐した。

 それに対し悟空はピッコロと共同戦線を張り、ラディッツと戦う事にしたようだ。

 ここまでは運命通りだ。リゼットの知る内容と一致する。

 

 しかし戦いの内容がおかしかった。

 ラディッツが妙に強い。

 悟空とピッコロを圧倒し、更に怒りを爆発させた悟飯の突撃すらも回避してしまう。

 今の悟空とピッコロは同時期の原作よりも強い。なのにラディッツが優勢に進めている。

 これは妙だ、そして何より不味い。

 悟飯から受けたダメージがないと悟空では抑え込む事など出来ない。

 となれば、倒す事が出来ないのだ。

 

「私がいるせい……? 運命がズレてしまっている?」

 

 リゼットは背筋に冷たいものを感じていた。

 明らかに運命の歯車がズレている。

 自分はラディッツに対し何かした覚えなどないが、バタフライエフェクトという言葉もあるように、ちょっとした行動が未来への影響を与えかねない。

 ともかく、このまま傍観しているのは不味い。

 リゼットは即座に超能力を発動し、遠く離れたラディッツの動きを制止させる。

 確かに多少は強くなっているが、それでもリゼットならばまだ余裕で封じ込める事が出来るレベルだ。

 

(さて……彼には悪いですが、そろそろ倒れて頂きましょうか)

 

 リゼットの黄金の瞳が鈍く輝き、ラディッツの心臓を圧迫した。

 何をする気か――そんなものは問われるまでもない。

 彼はサイヤ人の脅威を悟空達に教えた。一年後にさらに強いサイヤ人が来る事も語った。

 これで戦士達は危機感を抱き、爆発的に強くなる事だろう。

 後は悟空が界王星で修行を積むだけだが……これは別に死ななくとも出来る。

 ドラゴンボールを使い、悟空を界王星へ転移させてしまえばいい。

 界王星はあの世から続く場所にあるが、しかし決して別次元にあるわけではない。

 瞬間移動で到達できる事からも分かるように、この宇宙のどこかに存在している惑星だ。

 ならば悟空を見殺しにする必然性はない。

 ラディッツをここで潰し、ドラゴンボールで悟空を生きたまま向かわせる。

 リゼットだけならばドラゴンボールなど使わずとも生身で界王星まで行く許可が降りるだろうが、流石に神でもない悟空が生きたまま向かう許可は降りない。

 故にドラゴンボールをここで使う。本来ならば悟空を蘇生する事に使うはずだった願いを前借りする形だ。

 そして帰りは……まあ、こちらは悟空に自力で頑張ってもらおう。

 その判断のもと、リゼットはラディッツを葬るべく念力を強めた。

 しかし、それと同時に下界から突如として紅い気功波が飛来した。

 

「っ!」

 

 リゼットはこれを咄嗟に避ける事が出来ずに被弾してしまった。

 吹き飛ばされ、空中で回転して何とか着地する。

 一方地上では悟空がラディッツを羽交い絞めにし、ピッコロが魔貫光殺砲で悟空諸共ラディッツを撃ち貫いていた。

 これで本来の運命通りになってしまったわけだが、しかしリゼットはもうラディッツを見てはいなかった。

 そちらに目を向けている余裕などなかったからだ。

 

 悟空達から少し離れた位置。

 そこに見慣れぬ――恐らくは魔族だろう妖艶な女が立っている。

 赤いボンデージのような衣装に身を包んだ、白髪青肌の女。

 手には杖を持ち、隣には同じく赤い衣装の体格のいい男が佇んでいた。

 男は掌をこちらに翳しており、今の攻撃は彼が放ったものだと分かる。

 直後に何処からともなく現れた仮面の……気のせいか悟空とよく似た髪型の男が魔族の男へ殴りかかり、高速で戦闘をしながら何処かへと消えてしまった。

 あの二人は一体……見覚えはないが、只者ではない事は確かだ。

 

 ……見覚えがない? 本当にそうか?

 否、あの二人の魔族とはどこかで会っているような……。

 彼女はこちらの視線に気付いたのか、微笑を浮べるとまるで最初からいなかったかのように姿を消してしまう。

 今のラディッツの変貌は間違いなく彼女によって起こされたものだ。

 だが何の為に? 何が目的で?

 

(おかしい……あんなのは私の知る記憶の中にいない。

一体何が起こっているというのですか)

 

 リゼットは、かなりドラゴンボールに詳しい方だと自分では思っている。

 原作は勿論として無印やZ、劇場版、GT、更にはゲームまで網羅している。

 アニメオリジナルの細かい所は流石に怪しいが……まあ、ほぼ知らないキャラクターはいないレベルだ。

 その中には魔人オゾットというファンでもあまり知らないようなマイナーなゲームのオリジナルボスや、フリーザに吐息だけで殺されてしまったアニメオリジナルの戦闘タイプのナメック星人まで含まれている。

 リゼットの前世は2012年で死亡しており、知識もそこまでで途切れている。

 だが、それでもテレビシリーズ最終作である『GT』から15年経っており、ドラゴンボールを知る上では十分だろう。

 それこそ、十五年以上経った後に再ブーム(・・・・)が始まって新シリーズや新作ゲームが登場していない限りは、リゼットの知らない相手などいないはずだ。

 だがそんな彼女でも、あの魔族二人には全く心当たりがない。

 

 

 得体の知れない存在の出現。

 その事にリゼットは、心がざわめくのを止める事が出来なかった。




・ちなみに、無情な話だが結果的にはここで悟空が死んで正解。
リゼットのプランは例えるならばカリン塔を登らずに飛行機でカリン様の所まで行くようなもので、初対面でこんな事をやって修行を付けて貰えるかは疑問。
てゆーか多分無理。
蛇の道はただ長いだけの道ではなく、界王の修行を受けるに相応しいかを試すテストである。
かといって神龍に頼んで蛇の道の前に悟空を移動させても、それはそれで閻魔の許可を取らずに無断侵入している事になるので、やはり問題。
結局の所、ソウルジェムが魔女を生むなら悟空が死ぬしかないじゃない!

【もし悟空が生き残ったら】
悟空がラディッツ戦で生存するIFルートは『強襲!サイヤ人』ゲームで見る事が可能。
悟空が生きたままラディッツを倒すと神様が現れ、1年後にやってくるサイヤ人を倒すには界王様の所で修行するしかないと教えてくれる。
その際の台詞がこちら。

かみさま「よく たたかった! しかし 1ねんごに
やってくるサイヤじんの つよさは
そうぞうをぜっする! そこでだ・・・」

かみさま「ゴクウよ! おぬしを カイオウさまの
もとにおくり しゅぎょうをしていただこうと
おもうのじゃ! カイオウさまはぜんうちゅうの
かみさまの ちょうてんに たたれている
おかただ! さいごの のぞみなのじゃ!」

かみさま「ただし そのためには ゴクウよ!
しなねばならんのじゃ! しんだものしか
カイオウさまのもとへ いけぬのだ!!」

!?

そして ゴクウは みずからの いのちをたち
かみさまとともに あのよへむかった・・・・

!?


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第十四話 一年後に備えて

✪ 皆様新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 ラディッツとの戦いが終わった後、リゼットは悟空の死体を回収してあの世へと訪れていた。

 この後の事を考えれば悟空に界王の修行を受けて貰うのは必須事項だ。

 界王拳もそうだが、特に元気玉は覚えて貰わないと後々不味い事になるのである。

 リゼットが全ての敵を倒せるならばこんな回りくどい事をする必要もないのだが、リゼットは恐らく自分がそこまでの高みには至れないだろうと考えていた。

 何せリゼットは地球人だ。超サイヤ人にはなれない。

 フリーザくらいならば、最終形態になる前に倒してしまえば何とかなるかもしれないがセルや魔人ブウまで行くと手に負える気がしない。

 ならば安全策として悟空に強くなっておいて貰うのは決して間違えた選択ではないはずだ。

 変に自分が出しゃばり続けて私TUEEEEEして彼等の活躍と成長の機会を奪い続けた挙句、宇宙が滅びましたでは笑い話にもなりゃしないのだ。

 ……もっとも、当初の予定では悟空が死ぬはずはなかったのだが。

 

「どうでしょう閻魔様。悟空君の蛇の道への挑戦、認めては頂けませんか?」

「うーむ、孫悟空か。確かにそいつの功績は素晴らしいがな。

しかしいいのか? 黙っていれば天国に行けるものをわざわざ蛇の道へ挑むなど」

 

 勿論いいに決まっている。

 むしろ悟空に黙って天国などに行かれては地球のみならず宇宙全体が最終的に詰みだ。

 その未来の英雄はリゼットの気など知るはずもなく、閻魔にラディッツの事を尋ねていた。

 

「なあおっちゃん、オラがここに来る前にラディッツっつう奴が来て暴れなかったか?」

「ん? ああ、そいつはお前の兄貴だったな。

勿論暴れたが、わしが取り押さえてやったわい」

「あ、あんな強え奴をか……お前すげえんだな。

なあ神様、オラこのおっちゃんに修行して貰おうかな?」

 

 悟空の言葉に、リゼットは黙って首を横に振る。

 閻魔は確かに弱くはない。

 ラディッツくらいならば取り押さえられる強さは確実に持っているだろう。

 だが所詮はラディッツより強いという程度でしかなく、界王様のように多くの技を持つわけでもない。

 こんな所で修行などさせても、とても1年後のサイヤ人に太刀打ち出来る実力までは伸びないだろう。

 

「いえ、やめておいた方がいいでしょう。

閻魔様はとても忙しい方です。貴方一人に修行を付ける余裕などありません。

予定通り、悟空君は界王様に弟子入りをしてきて下さい」

「ま、残念だがそういう事だな。

しかし地球の神よ、修行ならお前が付けてやればよいではないか。

サイヤ人などそれで充分だろう?」

 

 せっかく悟空を説得できそうだったのに、閻魔が余計な事を言う。

 確かにリゼットならば界王よりも悟空を強くする事は出来るかもしれない。

 だが元気玉は無理だ。

 戦闘力は後でどうにかなる。界王拳も紛い物とはいえ同じ効果の技がある。

 だが元気玉だけは界王に会わねば覚えられないのだ。

 何より、ここで悟空と界王の繋がりを作っておく事はかなり重要な事である。

 

「買い被りですよ、閻魔様」 

 

 リゼットは閻魔の質問を飄々と受け流し、話を打ち切る。

 そして『神様ってもしかしてオラが思うよりもずっと強えんか?』などと言っている悟空をあえて無視し、笑顔を返した。

 

「それでは悟空君、頑張って下さいね。

生き返る日になったら、また迎えに来ますので」

「え? お、おう」

 

 追及を逃れる最も手早い方法は話を終わらせてしまう事である。

 リゼットは悟空に四の五の言われる前に彼の背をグイグイと押して蛇の道へと無理矢理送り出し、それから地球へと戻った。

 

 

 

 神殿へと戻ったリゼットはすぐに次の行動へと移った。

 これから1年後、二人のサイヤ人がこの地球へと襲来する。

 その時に備えてクリリン達に修行を付けるべくポポに彼等を連れてくるよう頼んだのだ。

 本来ならばそれは先代がやるはずだったが、しかし神の座は今やリゼットにある。

 ここまではやや傍観者気味でいたリゼットだが、これからはそうもいかない。

 何か一つ、ボタンをかけ間違えれば地球が破滅してもおかしくないインフレバトルがここから始まるのだ。

 そして傍観者などを続けていればあっという間に抜かされ、いざという時には自分が何とかしよう、なんて言ってられなくなる。

 つまりここからは彼等と同じ場所に立ち、一緒に強くなっていかなければまずい、という事だ。

 しかし同じくらい私TUEEEEEのやりすぎにも注意する必要がある。実に面倒な話だ。

 

「神様。言われた通り戦士達、連れてきた」

「ご苦労様です、ポポ」

 

 ポポに声をかけられ、振り向く。

 そこには確かに彼に頼んだ通り、クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子の4人がいる。

 ヤジロベーは、まあ、もう、いいや。

 どうせサイヤ人との戦い以降は何もしないし、それにベジータとの戦いならばぶっちゃけリゼット一人でどうにでも出来る。

 油断さえしなければ少なくとも地球側の負けはない、言ってしまえば勝ち確の戦い。

 今はまだそのレベルの戦いだ。

 この戦いでリゼットが気を付けるべきは負ける事ではなく、いかに彼等を鍛え、そして死者を出さずに乗り切らせるかだ。

 勝つだけならばこの段階ならばまだ余裕。極論から語ればベジータとナッパにリゼット一人で突撃して消し去ってしまえばいい。

 しかし後の戦いを思えば、彼等には少しでも強くなってもらいたい。

 何より、同じ地球人として悟空の背を必死で追う彼等は何か応援したかった。

 

「ようこそ皆様、よく来て下さいました」

「あ、ど、どうも」

 

 リゼットが微笑んで出迎えると、クリリンが顔を真っ赤にして頭を下げる。

 そういえば彼は女の子にモテたいという願いがあった気もする。

 真面目な印象が強いが、案外これで女好きなのかもしれない。

 とはいえ、彼は後に18号という美人の奥さんを貰う勝ち組候補だ。こんな新鮮な反応が見られるのも今だけだろう。

 

「既に事情は聞いていると思いますが、これから1年後、強大な力を持った野菜……じゃなくてサイヤ人というエイリアンがこの地球を攻めてきます。

皆さんにはそれに備えてこれから1年間、ここで強くなって頂きます」

「サイヤ人……孫とピッコロが手を組んでようやく倒せた化物らしいですね。

それも、孫の奴を犠牲にして……」

 

 リゼットの説明に、天津飯が冷や汗をかきながら補足を入れる。

 孫悟空とピッコロ大魔王といえば、この地球の誇る二大戦力だ。

 その二人が手を組んで戦うなど、ほんの数日前までは想像すら出来ない事であったし、ましてやそこまでやって尚悟空が死ぬなど、彼等にしてみればあり得ない事だ。

 しかも1年後にやってくるサイヤ人は、その怪物より更に上なのだ。

 

「その通りです。

とはいえ、言葉だけで説明しても実感は沸かないでしょう。

ですからまず、修行に入る前に皆様には実際にサイヤ人と戦って頂きます」

 

 リゼットの発したとんでもない言葉に4人がざわめく。

 サイヤ人を迎え撃つためにサイヤ人と戦う。

 そんな出鱈目が成立するのかという疑いも含んだ驚愕なのだろう。

 

「こちらです。付いて来て下さい」

 

 リゼットはこれといった説明もせず、彼等4人を時の部屋まで案内する。

 こういうものはいちいち説明するより見た方が早い。

 神殿の奥へと進み、やがて振り子時計が揺れる暗い部屋へと到着した。

 

「こ、ここは?」

「『時の部屋』といいます。この場所では過去、現在、未来の全てが混ざり合う。

今から皆には精神だけを過去へ飛ばし、サイヤ人と戦って頂きます。

勿論あちらで死んでしまっても実際には傷一つ負いませんので御安心を」

 

 クリリンの言葉に、ここで初めてリゼットはこれから行う事の説明を加えた。

 まずは一度、自分達が戦おうとしている相手の強さを体感させる。

 そうする事で、今の自分がいかに通じないかを彼等は痛感する事だろう。

 敵の強さを知る、というのは大事な事だ。

 

「面白い。神様、早く俺を送ってくれ」

「ああ、腕が疼いてきたぜ」

 

 自信に満ち溢れた声で天津飯とヤムチャが好戦的に言う。

 まだインフレに置いて行かれる前だからか、己の腕に絶対の自信を持っているようだ。

 続けてクリリンとチャオズも前に踏み出し、全員が参加の意志を見せた。

 それを確認し、リゼットは彼等4人を部屋の中央に立たせる。

 

「目を閉じ、時の流れに身を委ねて下さい。

そうすれば後はこの部屋が貴方達を過去へ導いてくれます」

 

 戦う相手は……ラディッツと同格の最下級戦士を一人と、お供のサイバイマン1匹くらいでいいだろう。

 相手の強さを教えるにしたって、いきなり強すぎるのとぶつけては、自信喪失してしまいかねない。

 その点ラディッツ級ならば、とりあえず戦いは成立するはずだし、上手く行けばどちらか一人くらいは倒せるかもしれない。

 

 後は、彼等が戻ってくるのを待つのみだ。

 

 

 クリリン達が目を開けると、そこは見知らぬ惑星だった。

 紫色と桃色を混ぜたような毒々しい色の空。

 大地は赤黒く、恐らくは植物なのだろう木々らしき物は捻くれ曲がり、錆びた鉄の色をしている。

 至る所に積み上げられた異星人らしき死体はどれも、クリリン達から見れば怪物染みている。

 二足歩行のゴキブリ……とでも言えばいいのだろうか。

 まるで人間をベースにしてゴキブリの特徴的な器官だけを付けて強引に擬人化した……そんな気色悪い生き物だ。

 衣服はなく、まるでワセリンでも塗ったかのように肌がテラテラと気色悪く輝くそれは、ピクリとも動く様子がない。

 

「うえっ、何だこいつら……気持ち悪っ!」

「この星の原住民か……?」

 

 生理的に嫌悪感を催すその外見にクリリンが顔をしかめ、天津飯が油断なく辺りを見渡す。

 今回の敵はサイヤ人だと神が言った。

 しかしこのG人間がこっちに襲いかかって来ても全く違和感はないし、むしろこいつ等の方が敵に見える。

 

「て、天さん!」

 

 餃子の悲鳴染みた叫びに、一斉に全員の緊張が高まる。

 視線の先――そこで動いている個体がいる!

 フラフラと頼り無い足取りで、こちらへと近付いて来ている!

 

「……㌍㌫㍗㍑」

 

 何を言っているのかは分からない。

 しかしきっと彼等の言語なのだろう。

 G人間はまるで助けを求めるようにクリリン達へ手を伸ばした。

 

「㌶㍊㍍……」

 

 再び何かを言おうとしたのだろう。

 もっともその意味をクリリン達が知らぬ以上、仮に言葉を全て発したとしても微塵の意味もなく、結局の所彼の運命は定まっていた。

 後ろから飛んできた気弾が醜悪な異星人の頭部を破砕し、血らしき液体を撒き散らしながらG人間は絶命する。

 その入れ替わりとばかりに姿を現したのは、戦闘服に身を包んだ大柄な男だ。

 見た目は地球人と近く、しかし決定的な差異として猿のような尻尾が生えている。

 隣には緑色の小柄な怪物が控え、クリリン達を好戦的に睨んでいた。

 

「ほう、こいつは驚いた。

コックローチ星人以外の宇宙人がこの惑星にいたとはな。

大方旅行ってところか? 運がなかったなあ」

 

 髪型はおかっぱ。

 でっぷりとした肥満の身体に、不潔な印象を抱かせる髭面。

 いかにも私は悪人ですといった悪党面を歪め、ニヤニヤと笑っている。

 

「お前等に恨みはねえんだがよ。

この惑星の住民は醜いから皆殺しにしろっつうフリーザ様のご命令だ。

悪く思うなよ」

「フリーザ……?」

「おいおい、フリーザ様を知らねえのか?

どんな田舎の惑星から来たんだよ」

 

 肥満のサイヤ人は呆れたように溜息をつき、それから目元の機械でクリリン達を見る。

 話に聞いていたスカウターというやつか。

 確かあれで相手の強さを計るらしい。

 

「戦闘力は206に250、177と92……ちっ、本当にただの旅行者かよ」

「なにぃ……?!」

 

 肥満男の言葉にヤムチャが苛立ちを見せる。

 いや、ヤムチャだけでなくクリリンや天津飯も怒りの度合いこそ違えど、等しくプライドを傷付けられたような表情を浮かべた。

 彼等は地球では指折りの、上から数えた方が早い腕利きの戦士達だ。

 それを捕まえて、戦力を計って出てきた言葉があろう事か『旅行者』。とても許容出来る事ではない。

 

「言ってくれるじゃないか」

「ただの旅行者かどうか」

「その身で味わってみろ!」

 

 ヤムチャ、クリリン、天津飯の順に吼え、一斉に突撃する。

 それと同時に餃子が距離を取り、超能力によるサポートに入った。

 ヤムチャとクリリンが疾走し、緑色の化物へと飛びかかる。

 それと同じタイミングで天津飯がサイヤ人を相手取り、激しい攻防が始まった。

 まずは弱そうな緑色から先に倒し、全員でサイヤ人を袋叩きにしようという戦法だ。

 

「ハイ! ハイ! ハイィーッ!」

 

 ヤムチャが狼の如き俊敏な体捌きを以て緑色――サイバイマンを果敢に攻める。

 掌は握らず、広げず。あたかも鋭利な爪で裂く獣のように爪を立てた独特の握り。

 彼の俊敏な動きと相まって、それはまさしく野生の獣そのものといった激しい攻めだ。

 だがどうしたことか、見た目的にはまるで大した事がなさそうなサイバイマンに軽くいなされる、弾かれる、逸らされる。

 避けられ防がれ、余裕を持って見切られる。

 手加減しているわけではない。

 油断しているわけでも、相手を舐めているわけでもない。

 ただ単純に通じない。至極明快な事として、相手がヤムチャよりも遥かに強いのだ。

 

「おりゃああああ!」

 

 ヤムチャと並ぶようにクリリンも攻撃に加わる。

 二人同時の左右挟み撃ちの挟撃。残像すら残す速度で放たれる拳と蹴りの弾幕。

 だが弾く、逸らす、避ける。

 サイバイマンは二人の全霊の攻撃を、それぞれ片手のみで捌いてしまっている。

 いや、それどころではない。

 その状態からあろう事か反撃にすら転じ、二人の顔に同時に拳を叩き込んだ。

 

「がっ……!」

「ぐあ……!」

 

 重い、まるで数百キロの鉄の塊で殴られたかのような衝撃。

 それに二人がたたらを踏み、それでも何とか倒れる事を拒む。

 だがその隙にサイバイマンは次の動作へと移り、クリリンの腹へと蹴りをめり込ませた。

 

「が……」

 

 口から鮮血が溢れる。

 折れた。たったの一撃で肋骨が滅茶苦茶に砕け、内臓に突き刺さった。

 クリリンは無様に地面を転がり、蹴られた腹を抑えて転げ回る。

 ダメージが重い。意識がぼやけて、まるで腹が千切れてしまったようだ。

 そこに跳躍したサイバイマンが飛びかかり、クリリンの首の上に着地した。

 無論、ただの着地ではない。着地というよりは蹴りと形容すべき重い一撃だ。

 クリリンの下の地面に蜘蛛の巣状の皹が走り、不吉な音が響く。

 

 意識が断ち切られる感覚。

 脳髄と身体が切り離される感覚。

 首をへし折られる感覚……死の感覚。

 クリリンは虚ろな眼を見開いたまま一度大きく、陸にあげられた魚のように全身を跳ねさせる。

 ……そして、それ以降動く事はなかった。

 

「き……きっさまあああああ!」

 

 ヤムチャが激昂し、両手の手首を合わせる。

 そして相手に肩を向けて半身になり、合わせた手は後ろへと引く。

 亀仙流の奥義である『かめはめ波』。それを放つための特徴的な前動作を行い、付け合わせた手の中に膨大な気を収束させる。

 ――発射。

 青白い気の塊が解き放たれ、避ける間もなくサイバイマンを飲み込んだ。

 瓦礫に突っ込んだ怨敵の生死も確認せず、ヤムチャは続けて攻撃へと入る。

 左手で右手の手首を掴み、全ての気を右手一本へ集約。

 掌大の気の塊を生み出し、更に気を込める。

 するとそれは3m大の気の塊へと巨大化し、ヤムチャの指先の動きに従うように自在に飛び回った。

 

「特大の繰気弾をお見舞いしてやるぜ! くらえッ!」

 

 繰り出された気を、咄嗟に起き上がったサイバイマンが避ける。

 だがそれを見越したように気弾も旋回し、サイバイマンの上空を通過した。

 続けてヤムチャが指先を動かすと、それに合わせて気弾が飛び回り、サイバイマンを翻弄する。

 避けてもまたすぐに襲ってくる手動の追跡気弾。これを防ぐには耐えるか、術者であるヤムチャを止めるかの二通りしかない。

 

「とーっ!」

 

 サイバイマンの動きの隙を見抜き、最良のタイミングで繰気弾を叩き込む。

 防御も間に合わず直撃を浴びたサイバイマンは倒れ、直後に気弾が爆発。

 地面にクレーターを作り、地震の如く大地を揺らし、爆煙をあげて敵を焼いた。

 

「……やったか?」

 

 煙が晴れない中、ヤムチャは警戒だけは忘れずにゆっくりと歩く。

 まだ生きているのか? それとも死んだのか?

 やけに乾く喉を唾で湿らせ、一歩一歩確かめるように前進する。

 サイバイマンは……倒れている。動く気配もない。

 仕留めたのだろうか。それとも気絶しただけだろうか。

 どちらにせよ、念のため止めを刺すべきだろう。

 ヤムチャはそう考え、サイバイマンとの距離を詰める。

 ダメージは確実に与えたはずだ。仮に生きていても、動きは鈍っているはず。

 ならばきっと、勝てない相手ではないはずだ。

 

 その考えは、しかし甘すぎた。

 確かに勝てない相手ではないだろう。

 しかし負けない相手かどうかを考えるべきだった。

 力の落ちた相手でも、まだこちらを殺し得る牙があると警戒すべきだった。

 一定の距離に近付いた瞬間サイバイマンが残る全ての力を総動員してヤムチャへと抱きついた。

 行動は一つ、抱きつく事だけ。

 それだけに全ての力を振り絞り、後の事などまるで考えてすらいない。

 故に、まだそれだけ動けると思わなかったヤムチャは不意を突かれてその抱き付きを受けてしまう。

 そして、その瞬間に全てが決まった。

 

 爆炎が上がった。

 

 己の身体そのものを用いた最期の咆哮。刺し違え上等の一撃。

 使い捨ての兵士だからこその自爆攻撃。

 それがヤムチャの油断を狙い撃ち、彼の全身を蹂躙した。

 爆煙の晴れた瓦礫の中……そこにサイバイマンはもういない。ただの肉片となって散らばっている。

 そしてその中心にヤムチャはいた。

 物言わぬ死体となって白目を剥き、無念の表情で倒れている。

 

 もう動かないし立ち上がらない。

 ヤムチャは、この精神の旅を『死』という形で終えたのだ。




・ちなみにギリギリまで、このSSのヤムチャを転生ヤムチャにするかどうか考えていたのはここだけの秘密。
結局、話がややこしくなるという理由でノーマルヤムチャのままにしました。

インフレ「新年明けましておめでとうございます! 今年からこの作品で働く事になりましたインフレです! よろしくお願いします!」
リゼット「帰って(切実)」


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第十五話 サイヤ人襲来

「気功砲---!!」

 

 天津飯がありったけの力を込めた渾身の気功砲を放つ。

 気の消費量が極めて大きく、身体への反動の大きさから命の危険すら伴う禁断の奥義、それが気功砲だ。

 仮に生き延びる事が出来たとしても確実に寿命を縮める、本来ならば使ってはならない技であり、しかし、そのデメリットに見合った威力を備えているのも確かだった。

 それを相打ち上等の覚悟と気概で、MAXパワーで解き放つ。

 上がる爆煙、吹き飛ぶ戦闘服。

 大地が抉れ、射線上にある全てが薙ぎ払われる。

 震える腕を降ろし、霞む視界の中天津飯は煙の向こうを凝視した。

 

「ふうっ……おどかしやがって」

 

 しかし肥満のサイヤ人は生きていた。

 服はボロボロになり、決して無傷ではない。

 だが五体満足のまま、未だ余裕を持って大地に立っている。

 天津飯はそれを見届けると、力無く地面に倒れ込んだ。

 

「む、無念……」

 

 サイヤ人との力の差は彼が思った以上だった。

 しかしこれは収穫だ。次に活かせる。

 遠く離れた位置で既に事切れて、きっと先に戻っているだろう餃子を一瞥し、天津飯は3つの目を閉じる。

 この敗北は糧とする。必ず今後に活かしてみせる。

 そう決意し、そして彼もまた精神の旅をここで終えた。

 

 

 

「死んだか……しかし何だったんだこいつ等。

おかしな技ばっか使いやがって」

 

 天津飯達を殺した肥満のサイヤ人――パンブーキンは動かなくなった地球の戦士達を見渡す。

 戦闘力が低いかと思えばいきなり上昇したり、太陽の如く眩く輝いたり、4人に増えたり、腕が増えたり、目から光線を発射したりと、とにかく意味が分からない敵だった。

 それに何といっても最期の技だ。

 両者の戦闘力の差を思えばダメージなど通るはずもない。

 しかし通った。この身体に傷を刻まれた。

 何とも不気味で、得体の知れない敵だった。

 

「おい、パンブーキン!」

 

 上空から己を呼ぶ声がして、パンブーキンは顔をあげる。

 そこにいたのは、肩部分のない軽装の戦闘服に、特徴的な髪型をした仲間の一人だ。

 彼とは逆方面を攻めていた戦友であり、そして彼の仲間の中では最も高い戦闘力を誇る自慢の友でもあった。

 

「テメエ、こんな都市の制圧にいつまでかけてやがる。

俺達はとっくに住民を皆殺しにしちまったぞ」

「待ってくれ、違うんだよバーダック。ちょっと面白い奴等がいてさ」

「あ? 面白い奴だ?」

 

 バーダックと呼ばれた悟空似の男は怪訝そうにパンブーキンを見る。

 それに対しパンブーキンは天津飯達の死体を指差そうとするが――いない。

 先程まで確かにそこにあった死体が、跡形もなく消えている。

 まるで最初からそこになったかのように、忽然と紛失しているのだ。

 

「あ、あれ? いない……?」

「……お前何やってんだ?」

「ま、待ってくれ、どうなってやがる?!

さっきまで確かにここにいたんだよ、バーダック!」

 

 バーダックは一応はパンブーキンの言葉を信じたのか、スカウターで周囲を探る。

 だが当然のように反応はなく、呆れたように溜息をついた。

 

「ああわかった、わかった。いたって事にしてやるよ。

だからさっさとこの惑星を制圧して帰るぞ」

「いや本当なんだって! 3つ目のおかしなハゲがさっきまでいたんだよ!」

「はいはい、3つ目のハゲね……って、そりゃ3つ目星人だろうが。

ったく……あの連中がこんな惑星にいるわけねえだろ」

 

 バーダックがそう言うと同時に残りの仲間達もパンブーキンの元へ集結した。

 いずれも下級戦士で、しかしいくつもの戦いを供にした仲間達だ。

 そのうちの一人、紅一点であるショートカットのセリパがパンブーキンの肩に手を置く。

 

「ほら、いいからさっさと終わらせるよ。

バーダックがさっさと帰りたくて、さっきから苛立ってるんだから。

……今日はギネさんとの結婚記念日だもんねえ」

「うるせえ! いいからさっさとこんな惑星、制圧するぞ!」

 

 からかうようなセリパの言葉にバーダックは乱暴に怒鳴る。

 元々そういう性格なのか、それとも照れ隠しなのかは分からない。

 しかし彼を見るサイヤ人達は、いずれもがニヤニヤと面白そうに笑っていた。

 

 

 リゼットから見て、それはほんの数秒の事だった。

 目を閉じ、過去の世界へと旅立ったクリリン達が一斉にハッとしたように目を開ける。

 どうやら無事に全員戻ってきたらしく、各々が自分の身体を撫でたり仲間の顔を見たりと、無事を確認している。

 その様子から見るに、向こうでは全滅してしまったのだろう。

 リゼットは戦士達の前に歩み出ると、まずは彼等を労わる事にした。

 

「お疲れ様でした、皆様。過去の旅は如何でしたか?」

 

 リゼットが胸元から鈴を出し、涼やかな音を鳴らす。

 すると兎人参化がどこからか現れ、トレイに人数分の紅茶を載せてクリリン達の前へと差し出した。

 ヤムチャが何やら驚いた顔をしているが、そういえば彼は確か面識があったはずだ。

 とりあえず、もう兎人参化は敵ではありません、とだけリゼットは伝えた。

 

「……完敗でした。あれがサイヤ人……俺達が戦うべき敵……」

 

 天津飯が悔しそうに言い、クリリンとヤムチャも黙って俯く。

 余程こっぴどくやられたのか、負け惜しみすら吐き出さない。

 餃子も落ち込んでおり、少しやりすぎたかと不安にさせられた。

 しかし天津飯はすぐに顔をあげると、覚悟を決めたような顔でリゼットへ頼みこんだ。

 

「神様、俺は自分の未熟を知りました。

俺はもっと強くなりたい……どうか俺を鍛えて下さい!」

「お、俺もだ! 今度はあんな訳の分らん緑色の化物の自爆なんかにやられはしないぜ!」

 

 天津飯に共鳴するようにヤムチャもまた力強く吼える。

 どうでもいいが、どうやら彼は向こうでもサイバイマンの自爆にやられたらしい。

 どれだけサイバイマンと相性が悪いのだ、この男。

 ……いや、ある意味相性ばっちりなのか?

 

「お、俺も! このままじゃ俺は悟空の足手纏いだ!」

「天さんがやるなら僕も!」

 

 クリリンと餃子も呼応し、これで4人全員が修行への参加を表明した。

 リゼットはそれに満足そうに頷き、指を鳴らす。

 するとクリリン達4人の腕と足が急に重くなり、まるで身動きが取れなくなった。

 悟空にも施し、そして現在進行形でリゼット自身も付けている気のギプスだ。

 

「うおっ!?」

「か、神様、これは?!」

「気の強制制御ギプス……気霊錠と私は呼んでいます。

これは気を最大に上げ、手と足に集中する事で自由に動けるようになります。

これからの1年間、この神殿で修行している間は常にこれを付けていて下さい。

外した時の気の最大値が2倍にも3倍にもなります」

 

 以前悟空にもしたのと、ほぼ同じ説明を口にする。

 使い回しとか言ってはいけない。リゼットだって結構面倒に思っているのである。

 

「まずは気の操作と、それを感じる所から始めましょう。

とはいえ、何せ時間がありません。

悟空君はこの修行に3年間を費やしましたが、皆には半年で会得して貰います」

「孫の1/6の時間で会得しろという事か……いいでしょう、望む所です。

そのくらいじゃないと、界王様とやらの所で修行している孫に追いつくなんて無理そうだからな」

 

 リゼットの定めた制限日数に天津飯が挑戦的に笑う。

 汗を隠せてはいないが、このくらい鼻柱が強い方が丁度いい。

 ギプスを動かすくらいの気の開放は既に全員が出来る。

 要はかめはめ波やどどん波などを撃つ時と同じ要領であり、そうでなければギプスなど付けはしない。

 最大戦闘力を上げるくらいならば、亀仙人だって出来るのだ。

 だが自在なコントロールや気で相手の位置や動きを探るのはまだ無理だ。

 だからまずは、それを身に付けさせる。

 そうでなければ地力で勝るサイヤ人相手では話にもならない。

 

「さあ、では早速始めますよ」

 

 パン、と手を叩きリゼットは笑顔で修行の開始を告げる。

 しかし、後にクリリンはこの時の事をこう語る。

 可憐な笑顔を浮かべる女神の背後に鬼の幻影を見た、と。

 それと同時にクリリンはこの1年間の修行が地獄になる事を確信し――実際その通りだった。

 

「外見はいかにも慈愛の女神って感じだけど、騙されちゃ駄目だ。

あの人の本質は戦神だよ……マジで容赦ねえ……」

 

 1年の修行を終えた後にクリリンはこう語り、そして身震いした。

 

 

 1年間。

 長いようで短いこの猶予期間の間に、リゼットは出来るだけの事をやった。

 ピッコロに(無理矢理)気霊錠を付けてみたり、カリンと遊んでみたり、ポポと兎人参化を修行に参加させたり、カリンをじゃらしてみたり、並行して自分自身の修行も少しハードなものに変えてみたり、カリンをモフってみたり、思い付く事はとりあえず実行に移してみた。

 ついでに悟空とブルマ達の念話に割り込みをかけ、生き返る時はちゃんと帰り道にかける時間も計算に入れておくようにも忠告も行った。

 これで本来のような大幅な遅刻はしないで済むだろう。

 更に魔人ブウの卵の所へと赴き、完成したヘブンズゲートで卵ごと封印しておいた。

 何かの間違いで本来より早いタイミングで復活などされては詰みかねないので、とりあえず誰も手出し出来ないようにしておこうというわけだ。

 最後に止めとばかりに封印した壷は精神と時の部屋に安置しておいたので、万一復活しても出て来る事はない。

 卵と壷、そして精神と時の部屋の三重封印だ。

 

 また、魔族の故郷である魔凶星が地球に接近している事を察知したリゼットはこれを気弾で爆破、破壊した。

 この魔凶星は魔族の力を増幅する厄介な特性があり、下手をするとガーリックが復活してしまう恐れがある。

 それ以外にも、最も恐れるべきは後に登場するダーブラが魔凶星の影響を受けてしまう場合だ。

 ただでさえ強いダーブラがパワーアップなどしては、とても手に負える気がしない。

 故に先手を打って早々に消してしまうのが得策と判断したわけだ。

 放置しておけば後数年で地球に接触していた可能性もあるので、決して間違えた選択ではないはずだ。

 

 そして1年。遂に運命の日の1週間前となったところでリゼットは修行を終えた。

 流石に修行漬けにしても疲れるだけだし、休暇を与えるべきだと考えたのだ。

 

「皆様。この1年間よくぞ私の修行に耐え抜きました。

もう私が貴方達に教える事は何もありません。

1週間後、遂にサイヤ人がこの地球へやってきます」

「いよいよか」

「腕が鳴るな」

 

 リゼットの言葉に怯むでもなく、天津飯とヤムチャが好戦的に応える。

 やはり彼等も戦士。サイヤ人ほどではないが、己の力を試したい欲求があるのだろう。

 

「残る1週間は休みとします。

各自、しっかりと身体を休めて万全の状態で挑んで下さい」

「はい!」

 

 全員が力強く答え、その場は解散となった。

 とりあえず戦闘力はかなり上がったはずだし、もしかしたら本来とは違ってクリリン以外にも一人くらいは生き残る事が出来るかもしれない。

 しかしやはり、ベジータの強さを思えば死んでしまう可能性も0ではない。

 ならば1週間……せめて楽しんで欲しいと思ったのだ。

 

 ……思っていたのだが、4人は地上に戻った後も飽きずに修行をしていた。

 どうやらリゼットの気遣いは無用のものであったらしい。

 ついでに前日ギリギリに帰って来た悟空も、休まず修行を行った。

 もしかして彼等は修行ジャンキーなのだろうか?

 

 

 そして運命の日。

 地球は遂に二人の宇宙人の侵入を許してしまった。

 強大な気が二つ、地球へ降下した事を一早く感知したリゼットは遠距離の念力で小型ポッドを弾き飛ばす。

 彼等は本来ならば街の中央に落下し、そこで多くの人々を殺傷するがそんなのは許可しない。

 突然の衝撃に対し、宇宙船から出る事も出来ない宇宙人二人は何も出来ずにパプリカ荒野へと強引に墜落させられた。

 そこでは既に悟飯とピッコロが待ち構えており、要は本来の決戦場所に最短距離で送り届けてやったのだ。

 無事、狙い通りの場所へ落とした事を確認してからリゼットはフワリと浮き上がる。

 

「さあ、行きますよ。

着いて来なさい、兎人参化、ポポ」

「いよいよですねえ」

「わかりました、神様」

 

 兎人参化とMr.ポポを連れ、リゼット自らもパプリカ荒野へ飛んだ。

 流石にサイヤ人の侵略ともなれば、今まで結構呑気していたリゼットといえど自ら動く。

 彼女が着くと、丁度サイヤ人二人もポッドから這い出してきた所らしく、まさにベストのタイミングで二人の前にリゼットが舞い降りる形となった。

 

「ようこそ、異星の方々。

我が星は貴方達の来訪を歓迎しましょう」

「我が星、だと……」

「なるほど。お待ちかねだったわけだ」

 

 ポッドから這い出しながら二人が不敵に笑う。

 勿論締まらない姿であるのは言うまでもないが、余裕は崩れていないようだ。

 立ち上がると埃を手で払い、偉そうに腕を組んでリゼットを見る。

 それに合わせるように兎人参化、Mr.ポポ、ピッコロ、悟飯もリゼットと並び立った。

 

「念のために聞くが、貴様等何しに地球に来やがった?」

「その声……そうか、ラディッツを殺したのは貴様だな?」

 

 ピッコロの質問にベジータもまた質問で返す。

 スカウターは通信機の役割も果たす。

 ピッコロの声から、ラディッツ殺しの犯人は彼だと瞬時に理解したのだろう。

 

「おいベジータ、あいつナメック星人だぜ」

「らしいな、ラディッツが殺されても無理はないわけだ」

 

 ナメック星人――明らかに宇宙人を指すだろう呼び名だ。

 ここにきて初めて自らが宇宙人であると知らされたピッコロは流石に意外だったらしく驚きが顔に出ている。

 

「そうか。聞いた事があるぞ。

ナメック星には集めればどんな願いも叶うという不思議な玉があるというが、あれは本当の事だったんだな。

ナメック星人は高い戦闘力の他に、不思議な力を使えるという。

ドラゴンボールを作ったのも貴様だな?」

「……へっ、ありがとよ、おかげで俺様のルーツの事が何となく解ってきたぜ。

だが生憎ドラゴンボールを作ったのは俺じゃない。俺は戦いが専門なんだ」

 

 ピッコロが構える。

 それに合わせて悟飯も臨戦態勢に入り、リゼットも自然体のまま顔つきを鋭くした。

 そんな彼女を見て何を思ったのか、ナッパが嫌らしい笑みを見せる。

 

「ほう、チンケな星と思ったが、顔の作りは特上じゃねえか。

それともこの女だけか……? どちらにせよ、物好きな連中に売れば下手な惑星より高く売れるぜこいつは。

おいベジータ、この女持って帰っていいだろ?」

「ナッパ。貴様のポッドはいつから二人乗りになったんだ?」

「あ、そうか……ちっ、しゃあねえ。現地で遊んで捨てるしかねえか」

 

 二人の会話を聞いてリゼットの表情が微笑みに変わる。

 まるでこれから戦うとは思えぬ、柔らかな表情だ。

 その微笑のまま、リゼットは無動作の気合砲をナッパの股間に一点集中で炸裂させた。

 

「~~~~ッッ!!!?」

 

 ナッパが、まるでこの世の終わりのような顔で悶絶し、股間を押さえて地面に倒れる。

 いかに強靭な身体を持つサイヤ人だろうが鍛えられない部位というのは存在するのだ。

 睾丸とは言わば、薄皮一枚のみに保護された剥き出しの内臓。

 決して鍛える事が出来ない絶対の急所。男である以上どうしようもない弱所なのだ。

 痙攣するナッパと、それを興味深そうに見るベジータ。

 そんな二人に対し笑顔を向け、リゼットは冷たく言い放った。

 

「御免なさい。私、下品な殿方はあまり好きではありませんので。

次は潰してしまいますので、気をつけて下さいね」

 

 

 冷静に見えるベジータだったが、その額を一筋の汗が流れていた。




【各キャラ戦闘力】
※悟空の戦闘力に元々伸びていた分が計算されていなかったので原作から少し上昇

・リゼット
基本戦闘力:120000
重装備解除:150000
気霊錠解除:450000
バーストリミット(最大20倍):900万

・孫悟空
基本戦闘力:8500
界王拳2倍:17000

・ピッコロ:9000

・Mr.ポポ:5700

・天津飯:5400

・クリリン:5100

・ヤムチャ:4950

・兎人参化:4300

・餃子:4000

・孫悟飯:981
・孫悟飯(怒り):2800

・カリン様(不参加):4200


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第十六話 凶悪化

【感想に関して】
一度感想返信を終えたものを『追記』などの形で上げ直す行為はやめて頂くようお願いします。
私は返信する際に自分の返信を『ここまでは返信を終えた』という一種の目安にしているので、返信したはずのものを上げ直されてしまうと、未返信の感想を見落としかねません。


 サイヤ人の出現に気付いたのは、当然ながらリゼット達だけではない。

 悟空、天津飯、クリリン、ヤムチャ、餃子もリゼットのように星間距離があろうとすぐに気付くとまでは行かずとも、地球に降下すれば嫌でも気付く。

 故に彼等がパプリカ荒野に集結するのは至極当たり前の流れであり、ここに地球の戦士9名と神の1柱、計10名が集まる事となった。

 人数差は歴然……しかしベジータに動揺はない。

 腕組みを解く事すらせず、隣で相変わらず蹲っているナッパを気にする事もなく、不敵に笑っている。

 

「来ましたか、皆」

「ああ……こいつらがサイヤ人なんだな?」

 

 リゼットが視線すら向ける事なく、戦士達の到着を歓迎する。

 それに対し、悟空もまた視線をサイヤ人から外す事なく会話を交わす。

 既に戦いは始まっている。視線を逸らす油断など晒せない、という事だろう。

 ナッパが視線どころか隙をこれでもかと晒しているが、そこは攻撃してやらないのが男の情けだ。

 女であるリゼットに、この痛みはきっと理解出来ない。

 

「おやおや、団体さんのお出ましで。

ならこっちも、少し数を揃えてやるとするかな」

 

 ベジータが余裕を崩さず、戦士達を見る。

 スカウターに計測された数字で、とりあえず警戒に値すると判断出来るのは悟空の5000くらいか。

 しかし地球の戦士達は戦闘力を自在に変化させる事が分かっている以上、これは全く当てにならない。

 ナッパを悶絶させたあの女も今の所は戦闘力僅か1000だが……きっと、そんなものではないだろう。

 もしかすると、カカロットよりもあちらの方が危険な手合いかもしれない。

 そう、ベジータは何となく勘で察していた。

 

「ナッパ、確かサイバイマンが6粒残っていたな。出してやれ」

「…………ちょ、ちょっと、待ってくれ……まだ、動けな……」

「……もういい、俺がやる」

 

 ベジータは這い蹲るナッパからサイバイマンの入った瓶を奪い取る。

 だがそこで妙な事に気が付いた。

 サイバイマンの元となる種……その数が明らかに多い。

 ナッパからは6粒と聞いていたのだが、明らかに10粒以上ある上に、どういう事か高級品であるテンネンマンやジンコウマンの種まで混ざっていた。

 

 テンネンマンとジンコウマンはサイバイマンの上位改良品種だ。

 特にジンコウマンの戦闘力は凄まじく、その戦力は単騎でナッパに匹敵する。

 そこそこの環境の惑星を5個は売り飛ばして、ようやくこれ一粒と釣り合う価格、といったところだろうか。

 ナッパめ、何時の間にこんなものを買っていたのだろう。

 

「まあいい。使わせてもらうぞ、ナッパ」

 

 敵の戦力は予想を超えている。

 無論自分が負けるなどとベジータは考えていないが、カカロットの戦闘力5000は正直に言って予想していなかった。

 白い女も未知数であり、この全員を相手にするのは少し面倒だ。

 だから雑兵で数を減らせれば、それはそれで楽になる。

 ベジータはそう考え、地球の土に種を植えていく。

 

 サイバイマンの成長は早い。

 土に植えてほんの数秒もすれば勝手に成長して生えてくる。

 ベジータが植えた人造兵士達は瞬く間に成長し、奇怪な鳴き声をあげながら土から姿を現した。

 緑色のサイバイマンが10体。

 桃色のテンネンマンが5体。

 そして白のジンコウマンが2体。

 合計17体……これで地球側を数で上回ってしまった。

 その不気味な容貌にクリリンが冷や汗を流す。

 

「うえっ、何だこいつら、気持ち悪っ!」

「皆、油断しないで。各自、最初から全力で当たりなさい!」

 

 リゼットの号令に従い、後ろから一斉にピッコロ達の『アンテ』の声が聞こえる。

 それと同時に悟空以外の全員が一気に戦闘力を上げ、ベジータが感心したように声をあげた。

 本来ならばここで『ゲーム』と称して一体一体かかってくるはずだが、どうもそうはいかないらしい。

 悟空が最初からいるからなのか、それとも別の要因か……。

 ベジータと、ようやく立ち直ったナッパを含めた19人が同時に飛びかかる!

 その目は一瞬真紅に輝き、全身から黒いオーラを放つ様は前知識があるはずのリゼットをして、違和感を感じるには充分なものだった。

 おかしい……何かが違う。

 それに、全員の気が明らかに上昇している!

 

「っ、私が7体を引き受けます! 皆は残りを!」

 

 この戦力と数は不味い。

 せっかく修行で強くした戦士達すらも殺されてしまいかねない。

 そう判断したリゼットは素早く人差し指を立て、空へと向けるように突き上げる。

 すると彼女を中心に大気が爆ぜ、2体のジンコウマンと5体のテンネンマンを空へと跳ね飛ばした。

 とりあえず意味のわからないイレギュラーは消してしまおうという算段だ。

 

「――Kinect(キネクト)

 

 気の固定化により、自らが発した気を神話に語られるヴァルキリーの姿に変容させる。

 SGカミカゼアタックを参考に編み出した自律思考気弾であり、要は形を変えただけのSGカミカゼアタックだ。

 生み出された白の戦女神達は無駄に剣まで備え、術者の号令を待つ。

 

「散開!」

 

 7体のヴァルキリーがそれぞれの敵へと飛びかかる。

 逃げようがどこまでも追尾し、防御すればその場で爆ぜる。

 初見殺しの自律追尾気弾だ。子供の考えた技だと馬鹿にしたものではない。

 軽く放ったものだが、それでもあの程度の敵ならばそれぞれ一撃で仕留めるだけのパワーは持たせた。

 そしてどうやらテンネンマン達は見事に初見殺しに嵌ったようだ。

 全員が防御や迎撃を試み、自律気弾――キネクトに触れてしまっている。

 

 爆破――空が爆炎で揺れた。

 

 

 

「ば、馬鹿な! テンネンマン達がああも容易く……!」

「どこを見てやがる!」

 

 いとも容易く葬られたテンネンマン達にナッパが驚きを露にする。

 だが今は戦闘中。そんな暇などない。

 余所見をした彼の頬をピッコロの肘が打ち抜き、歯をへし折る。

 更に追撃の蹴り上げ。今度は顎に罅を入れられ、ナッパは空中で1回転して地面に顔から墜落した。

 

「ぐっ、こ、このナメック星人め……やりやがったな!」

 

 怒りに任せ、黒いオーラを纏いナッパが飛びかかる。

 ピッコロもそれと同時に駆け、両者の間で拳と蹴りが飛び交う。

 防ぎ、避け、弾き、逸らし、その弾幕の間を縫ってピッコロの拳がナッパを捉える。

 鼻血が吹き出し、だがナッパは倒れない。

 呆れたタフさで踏み止まり、拳を突き出した。

 

「遅いぜ!」

 

 ナッパの拳を顔に届く寸前で受け止め、握力に任せて拳を握る。

 万力で締められたような痛みにナッパが呻き、その隙を見逃さずピッコロがナッパの顎を膝で蹴り上げる。

 更に挟みこむように肘を頭へ叩き込み、さしものナッパもこれには一瞬意識を飛ばされた。

 

「……くたばれ!」

 

 間髪入れず、全霊の拳を鳩尾へ打ち込み、ナッパの身体を「く」の字に曲げる。

 最後に彼の腕を掴み、空中へ投擲。

 身動きを取れなくし、口から破壊光線を発射した。

 

「ちっ、畜生! ちくしょォォォォーーーッ!!!」

 

 ナッパの全身が破壊光線の奔流に焼き尽くされる。

 腕が焼かれ、足が焼かれ、顔が焼かれ、全身が焼かれる。

 無駄にタフな彼といえど、この戦力差から放たれた攻撃を耐えるなど出来ない。

 哀れなサイヤ人は無様に地面に墜落して動かなくなり、それを見届けたピッコロは口角を釣り上げた。

 

「ひええっ……」

「さ、流石はピッコロだ……いずれまた敵に戻るのかと思うとゾッとするぜ」

 

 サイヤ人の一人をあっさりと倒してしまった大魔王の戦闘力に、クリリンと天津飯も畏怖を隠せない。

 だがそういう彼等もまた、地球の精鋭。

 その足元には既に事切れたサイバイマンが3体転がっており、戦いの結果を明らかにしていた。

 

「なあに、その時は俺達が止めりゃいい。そうだろ?」

「大丈夫、天さんも強い」

 

 声の聞こえた方向をクリリンと天津飯が振り返る。

 そこには、どうやらこちらも片を付けたらしいヤムチャと餃子が余裕の表情で佇んでいた。

 遅れて、そこに兎人参化とMr.ポポ、悟飯も集まる。

 ポポの足元には首を千切られたサイバイマンの死体が二つ転がり、悟飯もどうにか1体は倒したようだ。

 そして人参化の手には二つの人参があり、バリバリと喰らっている。

 サイバイマンがどうなったのかは……まあ、見ての通りだ。

 

 しかし殺したと思っても油断出来ないのがサイバイマンだ。

 木っ端微塵にするまで気を抜いていい相手ではない。

 悟飯の足元に転がっていたサイバイマンが突如立ち上がり、彼に飛び掛かったのだ。

 完全に不意を突いたその攻撃に天津飯達は反応が間に合わず、悟飯は絶望に目を見開く。

 

「――狼牙風風拳!」

 

 しかしそれを予期していたようにヤムチャが飛び込み、狼の牙を模した拳打がサイバイマンの頭を打ち砕いた。

 続けて、まだ原型を残しているサイバイマンの死体に気弾を撃ち込んで爆破。

 今度こそ完全にサイバイマンを仕留め、しかしヤムチャは残心を忘れずに小さく息を吐いた。

 

「へっ、そう来ると思ったぜ。お前等の自爆は予習済みなんだよ」

「あ、ありがとうございます……助かりました」

「なあに。俺も一度はあれに引っかかった身だ。偉そうな事は言えないさ」

 

 悟飯の礼に返事をしながら、ヤムチャは思い出すように笑った。

 修行前にリゼットにやらされた精神の旅は決して無駄ではなかった。

 あの時の屈辱の体験があったからこそヤムチャはサイバイマンの自爆を予期し、こうして仲間を守る事が出来たのだ。

 あの時のサイバイマンとは別個体だが……それでも、確かに雪辱は果たさせてもらった。

 

「皆、どうやら無事のようですね」

 

 最後に7体を始末したリゼットが着地し、全員の無事を確認した。

 多少敵も謎の強化を果たしたようだが、リゼットの影響で更に強くなった戦士達には及ばなかったようだ。

 その事に安堵し、しかしすぐにリゼットは表情を引き締める。

 まだ一人、肝心な人物がここにいないからだ。

 

「悟空君はベジータというサイヤ人の相手をしているようですね」

「あいつか……奴だけは桁違いの強さを感じた。

いくら孫が界王の修行を受けたといっても、一人で勝てる相手ではなかろう」

 

 リゼットの発した呟きにピッコロがすぐに反応する。

 流石に敵の強さを見抜く目は一流だ。

 すでにこの時点でベジータと悟空の力関係をほぼ見切ってしまっている。

 悟空には界王拳があるので、実際には彼が思うほど差は大きくない。

 しかし、それを計算に入れても尚ベジータが上回っている。

 ましてや今のベジータは謎のパワーアップをしており、本来よりも上だ。

 とても勝てる相手ではない。

 

「ええ、急ぎましょう。いくら悟空君でも長時間は――」

 

 その瞬間。

 リゼットは……いや、ここにいる戦士全員が同時にそれを感知した。

 ベジータの気が、明らかに異常とも呼べる増幅を始めたのを。

 気の開放、なんて温い話ではない。

 明らかに2倍、3倍、4倍と膨れ上がっている。

 悟空も2倍や3倍くらいにはなっていたが、ベジータのそれは段違いだ。

 

「そんなっ!? 早過ぎる!」

 

 この異常事態に真っ先に気付いたのはリゼットだ。

 というよりも、知識を持つ彼女以外にこの異常事態を正確に把握出来る者はいない。

 ベジータは確かに悟空との戦いの中で大猿になる。それは間違いない。

 だが早過ぎる! まだ戦いが開始されてからそんなに時間が経っていない。

 本来そこにあるはずの、戦いの過程を飛ばしていきなり大猿になるなど、ベジータらしくない。

 

「お、おい。何だあの空に浮かんでるの……? あれ、満月か……?」

「馬鹿な! 月は俺が消したはずだ!」

 

 クリリンが空に浮かぶ光球を指差し、ピッコロがそれを否定する。

 無論彼等はパワーボールの存在など、知る由もないだろう。

 いや、それを知るリゼットですらこんなに早くパワーボールを出すなど完全に予想外の事だ。

 何せ、まだベジータは悟空に追い詰められていない。

 実力で上回っているのに、余裕を見せずにいきなり変身するなど、どうかしている。

 おかしい……一体、何が……?

 

 その時リゼットは一瞬、確かに見た。

 遠視の能力を持つ彼女だからこそ気付けた、その存在。

 遥か遠くからこちらを見て、哂っている女がいる。

 ラディッツの時にもいた、あの魔族の女がこちらを見て嘲笑っている!

 

「――っ!」

 

 リゼットはすぐにそちらに視線を移し、掌を向ける。

 だが、いない。

 既にその姿は影も形も失せている。

 まるで瞬間移動でもしたかのように、完全にいなくなっているのだ。

 

(馬鹿な……! 一体、あの女性は……!)

 

 知らない、あんな人物など私は知らない。

 戦慄するリゼットへ、天津飯が遠慮がちに声をかける。

 

「神様……早過ぎる、というのは一体どういう事ですか?

貴女は、サイヤ人のこの力を知っていたのですか?」

「……その説明は、向こうへ向かう道中でお話します。とにかく、今はまず急ぎましょう」

 

 リゼットは言うや否や飛翔し、その後に戦士達が続く。

 リゼット一人であれば、それこそほんの数秒で悟空の所へと辿り着けるのだが戦士達の速度に合わせる必要があるのが今は苦痛だった。

 特に餃子。お願いだからもう少し速く飛んで欲しい。

 

「……サイヤ人は満月を見る事で巨大な猿へと変化します。

その戦力の増幅は、以前の悟空君から推測するに凡そ10倍……そして条件としては、尾がなければ変身は成立しない、という事が分かっています。

もっとも、これはピッコロやクリリン君、ヤムチャも知っている事ですが」

「その通りだ。だから俺はそれを見越して月を破壊した。

にもかかわらず、奴は変身したな。

……リゼット、貴様、奴が満月抜きで変身出来ると知っていたな?」

「はい、知っていました」

 

 ピッコロの疑問に、リゼットはあえて偽りなく答えた。

 あの失言をしてしまった以上、隠しても意味などない。

 それよりはさっさと認めて、話を進める方が重要と思ったからだ。

 

「一部のサイヤ人は自ら編み出した気の塊と、惑星の酸素を混ぜ合わせる事で人工の小さな満月を生み出す能力を有しています。

そしてベジータとはサイヤ人の故郷である惑星ベジータの名前そのもの。

即ち彼は王族に連なるサイヤ人であり……“それ”を作る能力を有しているだろう事は、最初から確信していました」

「な、何故それを孫に言わなかった!?」

「言う必要がないと思っていたからです。

ベジータと悟空君の実力差ならば、悟空君には失礼ですが変身する事はないか、あるいは変身するにしても戦いが佳境に入ってからと予測していました。

……私の予定では、ベジータが変身する前に悟空君と合流してからベジータの尻尾を切り、皆で一気に倒してしまうはずだったのです」

 

 それに、とリゼットは言葉を続ける。

 

「それに……悟空君は幼い頃、大猿と化して自らが敬愛していた祖父を踏み殺しています。

……何も知らずに済むなら、それが一番だった……」

「……つまり、この状況は貴様にとっても予想外と?」

 

 ピッコロの言葉が胸に刺さる。

 責めているようなその視線が、リゼットの良心を苛んだ。

 知らずに済むならそれが一番だった。

 辛い過去など知らなくてもいいと思っていた。

 だから、本来と違っていてもベジータを早々に倒してしまおうとリゼットは考えていたのだ。

 そう。変身させてやる気などなかったのだ。

 

 だが、全ての予定は崩れ去った。

 何故かベジータは余裕のあるうちから大猿になり、悟空は真実を知ってしまった。

 おそらくはあの魔族の女が何かしたのだろうが……何の為に?

 そもそも、あれは一体何者なのだ?

 

「……はい、全ては私の計算違いです。

ベジータがこんなに早く変身するなんて思っていなかった……」

 

 そう、この流れは本来ありえない事だ。

 ベジータのプライドの高さを思えば、大猿化はまさに最後の手段。

 自分が相手より劣っていると認めているに等しい屈辱の切り札。

 それを、相手より上回っている状況で使うなどあり得ない。

 

 妙に禍々しいサイヤ人の気。

 明らかに本来より上昇している戦闘力、増えていたサイバイマン。紛れ込んでいたテンネンマンとジンコウマン。

 そしてベジータの脈絡のない大猿化に……あの魔族の女。

 偶然ではない。恐らくはあの女が本来の流れに手を加えている。

 自分と同じような知識持ちの転生者か?

 それとも、未来トランクスのような歴史の介入者?

 自分が知らない、アニメオリジナルかゲームオリジナルの敵?

 ……わからない。推理材料が少なすぎる。

 

「……急ぎましょう。何か嫌な予感がします」

 

 知識があるのに……否、知識があるからこそ、状況が全く分からない。

 リゼットは唇を噛み、飛行速度を上げた。




・描写されなかった悟空VSベジータの流れ
1、ベジータが原作より強いので悟空がいきなり界王拳3倍
2、これでようやく凶化ベジータを上回る
3、何故かベジータがここでいきなりもっと凶悪化し、大猿化←今ここ
ゼノバースだと追い詰められてもいないのに大猿になるベジータは本当鬼畜やで。


【各キャラ戦闘力】
・ベジータ
基本戦闘力:18000
凶悪化:23400
Pボール発動後:15000
大猿化:150000

・ナッパ
基本戦闘力:4000
凶悪化:5200
リゼットによる初撃ダメージ:3500

・ジンコウマン×2
基本戦闘力:4000
凶悪化:5200

・テンネンマン×5
基本戦闘力:2400
凶悪化:3120

・サイバイマン×10
基本戦闘力:1200
凶悪化:1560

Kinect(キネクト)
リゼットが編み出した技の一つ。
戦乙女を模した気弾を生成し、敵へけしかける。
放たれた戦乙女は自らの判断で敵を追い、ただの追尾気弾では不可能な動きで敵を追い詰める。
フェイントは勿論、他の戦乙女と協力して逃げ道を塞ぐように追い詰める事も可能。
命中するまでどこまでも追いかけて来る上に、追いつけないと判断した時にはあえて撒かれたふりをして寝込みを襲う。
リゼット版ゴーストカミカゼアタック。
しかし術者の差により、ゴテンクスのそれよりも数段えげつない方法で追いかけて来る。
敵に触れても爆発しない繰気弾タイプもある。


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第十七話 大猿ベジータ

 リゼット達が到着した時、悟空は既に死に掛けていた。

 大猿の両手に掴まれ、握り締められている。

 あれではいかに悟空でも一たまりもあるまい。

 恐らく、気の減少具合から見て全身の骨が砕けてしまっているだろう。

 

「ま、まずいぞ! 悟空の気がほとんど残っていない! 死ぬ寸前だ!」

「お父さん……!」

 

 クリリンと悟飯が焦燥から速度を上げるが、リゼットはそれを手で制した。

 残念ながら戦力差は歴然だ。この二人を突っ込ませても死人が無駄に増えてしまう。

 今この場で大猿に対抗出来るのは自分しかいないだろう、とリゼットは分析した。

 

「私が大猿の相手をします。皆は隙を見て尻尾の切断を」

 

 大猿と化したベジータの戦力は今のリゼットよりも上だ。

 しかし、決して絶望的な数値ではない。

 恐らく、このくらいならばまだ気霊錠の解除や重装備を脱ぐ必要はないだろう。

 しかし予想外に予想外を重ねた今回の戦い、油断は出来ない。

 故に万全を期してバーストリミットを発動し、リゼットはその戦力を倍まで跳ね上げた。

 

「――“巨神の制裁(ゴッドハンド)”」

 

 気の固定化により、何の捻りもない拳を空中に作る。

 ただしその形状こそ捻りのない拳だが、サイズは規格外。

 大猿すらも殴り飛ばせる、100m級の巨人の腕。神の拳だ。

 リゼットが拳を握り、何もない空間に対して突きを繰り出す。

 無論、これは届かない。距離がありすぎるしサイズが違い過ぎる。

 だがそのリゼットの動きに呼応して気の拳も繰り出され、大猿を横合いから思いきり殴り飛ばした。

 

 殴る。

 ただそれだけの攻撃で大気が爆ぜ、周囲の岩場が崩壊し、ようやく追いついてきた仲間達すら風圧で吹き飛ばした。

 無論、殴られた本人はたまったものではない。

 悟空を手放し、ベジータは岩を削りながら遠方へと吹き飛んで行く。

 リゼットはそこに、追撃とばかりに拳を突き上げる動作をする。

 すると、倒れているベジータの下からまたも巨腕が出現し、倒れている彼の顎を跳ね上げて強引に立ち上がらせた。

 続けてリゼットが何かを踏む動作を行う。

 次の瞬間、大猿の10倍はあろうかという巨大な足が虚空より降り、大猿をまるで蟲か何かのように踏み潰してしまった。

 そしてどうでもいいが、ゴッド“ハンド”と言いながら足で攻撃している。酷い名前詐欺もあったものだ。

 

「……す、すっげえ……」

「ああ、流石は神様だ」

「……ちっ」

 

 リゼットの猛攻にクリリン、天津飯が偽りのない驚きと賛辞を送る。

 一方ピッコロは不機嫌だ。

 世界征服の障害が予想以上に強大だった事に気付き、舌打ちを抑えられない。

 

「きっさまああ! サイヤ人の王子である、この俺を足蹴にしやがったな!」

 

 大猿が激昂し、その巨体からは想像出来ない俊敏さでリゼットへ飛びかかる。

 だがリゼットはその小さく、細い腕を前に突き出し――己の数十倍はあろうかという大猿の拳を片手で受け止めた。

 その衝撃でまたも周囲が砕け、リゼットの白金の髪がなびき、スカートが揺れる。

 だがそれだけだ。肝心のリゼットに拳が届いていない。

 少女の頼り無い細腕に、巨大な猿の一撃が止められてしまっている。

 

「なん、だとぉ……!?」

「私本体ならば弱いとでも思いましたか? ……温いですよ」

 

 今の一撃で腕が痺れてしまったのを表に出さず、サイズの差を活かして大猿の懐へ飛び込む。

 そして掌底。

 大きさの差など知らぬとばかりに大猿の顎を跳ね上げ、無理矢理空中へと上げる。

 そして再度気の固定化により、巨大な拳を顕現。

 大猿すらも掴めるほどの白い気の腕を以て、大猿を握り締めた。

 先程悟空がやられていた事の再現だ。

 

「くっ、くそっ……!」

 

 逃げ出そうと必死にもがくベジータの顔の前まで行き、彼を見下ろす。

 その顔には笑みも何もない。ただ、侵略者に対する無情なまでの氷の無表情があるだけだ。

 

「今です、クリリン君」

「は、はい!」

 

 リゼットの指示に応え、クリリンが気円斬を放つ。

 地味にこれが初披露の格上殺しは空気を裂きながらベジータへと向かい、自由に動く事の出来ない彼の尻尾を容易く切断してみせた。

 するとベジータは呻き声をあげながら身体を縮ませていく。

 大猿への変身は尻尾がなければ成立しない。

 つまり尻尾を切れば変身もそこで解除されてしまうわけだ。

 後は元に戻ったベジータを皆で倒すだけだ。

 

 しかしここでベジータはリゼットの予想外の動きを見せた。

 身体が縮む事によって巨腕の拘束から逃れたわずかな一瞬。

 時間にして1秒にも満たぬ間。

 その空白を狙い、地面に向けて口から光線を放ったのだ。

 

「――!」

 

 無論、こんな光線はリゼットには痛くも痒くもない。

 戦力に差がある上に明後日の方向へ撃たれた攻撃の余波などではダメージも受けない。

 だが地面には悟空がいる! 皆がいる!

 咄嗟にリゼットはバーストリミットの倍数を上昇させ、刹那の間に悟空を拾う。

 そして戦士達の前に移動してバリアを展開。彼等全員をベジータの攻撃から守った。

 

 吹き荒れる爆煙。

 視界を塞ぐ砂塵。

 その全てをリゼットが起こした風が吹き飛ばし、視界が晴れる。

 そして彼等はベジータの今の行動の真意を悟った。

 

「い、いない……?

ベジータがいないぞ!?」

 

 ピッコロの声に全員が動揺する。

 ベジータが――逃げた。

 爆発で目晦ましを行い、リゼットが他の皆に気を取られた瞬間を狙ってこの場からの離脱を成功させたのだ。

 彼のプライドからは考えられぬ戦略だった。

 きっと彼自身にとっても屈辱だっただろう。

 要するに彼は、リゼットを己よりも上だと認めたのだ。

 そして元に戻っては到底勝てないと悟り、大猿であるうちに撤退した。

 驚く程の機転、切り替えの早さだ。

 これぞ戦闘の天才、ベジータの真骨頂。

 彼は戦力で劣りながら、見事にリゼットを出し抜いたのだ。

 

 とはいえ、リゼットならばここからでもベジータに追い付いて彼を仕留める事は十分出来る。

 何なら転移で宇宙船に先回りして破壊してもいい。

 しかしリゼットは、あえてベジータを見逃す事にした。

 今は敵だが、しかしベジータが今後果たす役割は大きく、無視出来るものではない。

 トランクスの誕生を考えれば、猶更ここでベジータを殺すわけにはいかないだろう。

 そもそも、リゼットは最初からベジータを『倒す』つもりではあっても『殺す』気などなかった。

 倒した後に宇宙船に押し込んで帰してしまうつもりだったのだ。

 ならばむしろ好都合。これならば逃がしてしまったという事で皆に説明をする手間が省ける。

 とはいえ、とりあえず追いかけるポーズくらいは取っておくべきだろう。

 そう考え、リゼットはあえて速度を落としてベジータを追跡した。

 

 

「畜生……まさか俺がこんなレベルの低い惑星の連中相手に引き返す事になるとはな」

 

 ベジータは歯を食い縛り、宇宙船に向かいながら必死に屈辱を抑えていた。

 彼はプライドの高い男だ。

 しかし正確に戦力を分析出来ないほどの愚者ではない。

 込み上げる怒りを、自制心を総動員して封じ込む。

 とにかく、まずは一度引き上げだ。他はともかくあの白い女にだけは勝てないと認めるしかない。

 神、とか呼ばれていたか……恐らくはこの惑星の神なのだろうあの女。

 正直桁外れだ。まさか大猿になっても勝てない奴がフリーザ以外にいたとは思わなかった。

 

「くそったれ……頭に来るぜ……!」

 

 ベジータがよく口にする『俺が宇宙一だ』という台詞は大猿も計算に入れての言葉である。

 大猿にさえなれば、醜くはなるがあのギニューにすら勝る。

 唯一勝てないのはフリーザだけだと思っていた。

 だがそこに、もう一人勝てないのが出て来てしまった。……とんでもない屈辱だ。

 

「今に思い知らせてやる。宇宙一はこのベジータ様だという事を」

 

 とにかく今は退く。

 退いて、それでナメック星に向かうしかない。

 ナメック星にはどんな願いも叶う不思議な玉がある、と言われている。

 ただの下らない伝説だと思っていたし、だからこそフリーザもベジータも今までそこに興味を示さなかった。

 どこの惑星にもある御伽噺、神話の類だと思って無視していたのだ。

 しかし地球にはそれが実在し、死んだはずのカカロットも確かに生き返って来た。

 そしてそれを作ったのは、恐らくナメック星人だ。

 ならばその本場……ナメック星にいけばきっと同じものがあるはずだ。

 だからまずは、それを手に入れる。

 そして不老不死となり、またこの地球に来て今度こそあの女を殺してみせる。

 その為に、今は一度退くしかなかった。

 宇宙船は地球に入ると同時によく分からない力によって墜落させられたが、壊れてはいないからまだ飛べるはずだ。

 ……今にして思えば、あの墜落もこの星の神のせいだと分かる。

 つくづく、腹の立つ女だった。

 

「……べ、ベジー、タ……。た……たすけて、くれ……」

 

 パプリカ荒野へ行くと、そこではまだしぶとく生きていたらしいナッパが這いずり、助けを求めてきた。

 その姿にベジータが抱いた思いは同情か、哀憐か……。

 否、そんな感情などベジータにはない。

 無様なナッパの姿を見て感じるのは不快感。

 これでもサイヤ人かという侮蔑の感情のみ。

 

「じ、自分じゃ動けねえ、んだ……。

た、たの、む……俺を、ポッドに……運んでくれ……」

「……クズが」

「……え?」

「見苦しいと言っているんだ。

本当なら俺がこの手でぶっ殺してやる所だが、そんな暇もない。

勝手にそこで死んでやがれ」

 

 そう吐き捨て、ベジータはナッパに構う事なく宇宙船に乗り込む。

 そして手早く行き先のセットを済ませると、そのまま宇宙へと飛び去って行った。

 同族への情けなど微塵もない。

 その姿にナッパは怒りに震え、地面を叩く。

 だが、これは彼自身もまた行ってきた事だ。

 ラディッツを弱虫と嘲り、見捨て、死後も侮辱した。

 それが今度は自分の番だった。それだけの事でしかない。

 

 それから遅れる事十数秒。リゼットが他の戦士を置いて一足先にパプリカ荒野へと到着する。

 ベジータはどうやらもう出発してしまった後らしく、影も形も見当たらない。

 宇宙船も一つ減っているので、もう宇宙に行った後と考えていいだろう。

 残っているのは……しぶとくもまだ生きていたナッパと、彼の宇宙船だけだ。

 

「見捨てられましたか……哀れな」

 

 リゼットはナッパの近くまで歩き、彼に掌を翳す。

 躊躇などそこにはない。

 彼は敵で、そして残忍なサイヤ人だ。

 和解など期待出来る人格ではないし、心底殺しと破壊を楽しむような下劣な男だ。

 そこに情けをかける余地などありはしない。

 だから彼を消してしまう事に躊躇などあるはずもなく、リゼットは一切の感情を排し気を固形化、ギロチンを創造する。

 狙うは首。せめて長くは苦しまぬよう一撃を以て葬り去るつもりだ。

 しかしそこに、声が割り込んだ。

 

『ま、待ってくれ、神様!』

「――!」

 

 ギロチンの刃が罪人の首を刎ねる直前。そこで断罪が止まった。

 リゼットは腑に落ちないような顔をしながらも、テレパシーで声の主へと返答を送る。

 一体どういうつもりで止めたのか、まずはその真意を問わねばこの刃も振り下ろせないからだ。

 

『……一体どういうつもりですか、悟空君』

『わ、悪い神様。す、すまねえがそいつの事を見逃してやっちゃあくれねえか』

『正気ですか? 彼はこの惑星を滅ぼそうとした者の片割れですよ。

今見逃しても、後で必ず同じ事を繰り返すでしょう。

まさかとは思いますが、見逃したからといって心を入れ替えるかも、などと甘い事を考えてはいないでしょうね』

 

 リゼットはこの悟空の我侭に覚えがあった。

 そうだ、確か漫画にも確かにこんなシーンはあった。

 だがその対象はナッパではなくベジータだったはず。

 しかし対象どうこうの問題ではなく、孫悟空というのはこういう男なのだろう。

 戦闘時ならばいざ知らず、それが終わってしまうとどうしても本来の優しい性格が前面に出てしまう。

 だからピッコロにも仙豆を与えたしベジータも助けた。

 ギニュー特戦隊にも情けを与えたし、あのフリーザすらも一度は見逃そうとした。

 そして何より困った事は、リゼットはそんな悟空の事が――いや、そんな悟空だからこそ好ましく思っているのだ。

 きっとこれはリゼットだけではなく、クリリンやヤムチャ、天津飯達もそうだろう。

 馬鹿だしドジだし戦闘狂だしと困った所ばかりの悟空だが、それでも不思議と憎めない。

 気付けば皆が惹かれている。

 これがナッパ本人の命乞いだったならば、『例えば貴方が昔、捨てられて震えていた仔犬を助けたとしましょう。でも死ね』と一切の躊躇なく始末出来ただろうが悟空からの命乞いでは躊躇もしてしまう。

 

『わ、わかってるさ……でもよ、何かそいつが哀れすぎてさ……。

頼む、そいつにチャンスをやってくれ……そいつとんでもなく悪い奴だったけどよ、このまま使い捨てられて死ぬんじゃあ……敵ではあってもやりきれねえ』

『…………見逃すのは一度だけです。

もしも彼がまた悪事を働こうとしたら、今度こそ消します。それで構いませんね?』

『ああ、悪いな神様……』

 

 リゼットは小さく溜息を吐くとギロチンを消し、代わりに気をナッパへと与える。

 勿論与えるのは最小限。ギリギリ動ける程度のものだが、少なくともこれで死ぬ事はなくなっただろう。

 何故止めを刺されないのか不思議そうにしているナッパへ、リゼットは本心を消した笑みを向けての最初にして最終の通告を下す。

 

「一度だけ貴方に生きるチャンスを与えましょう。その拾った命で平穏に生きるならばそれで善し。

もしも懲りずに同じ事を繰り返せば、その時こそ本当にその首を落とします」

「た……助けてくれるってのか? この俺を……。こ、この惑星を侵略しに来た俺を……」

「はい。正しい選択を期待しています」

 

 笑顔を浮かべ、優しい声色で告げる。

 勿論こんなものは本心ではない。

 笑顔にしている理由は、そうしないと嫌悪が顔に出てしまいそうだから。

 声色を無駄に優しくしているのも同様の理由だ。

 それに対しナッパが取った行動は、リゼットの予想を遥かに――そして悪い方向へと突っ切っていた。

 

「し、信じられねえ……親からも『名門の恥晒し』と言われ、ベジータの付き人になってからは王子の金魚の糞と陰口を叩かれ、フリーザやザーボン、ドドリアには腰巾着の猿野郎とかハゲとか呼ばれ、自分だってMハゲのくせにちょっと髪があるからってラディッツの野郎にはハゲと陰口を叩かれ、挙句ベジータに捨てられ……そんな俺を助けてくれる奴がいるなんて……」

「え?」

「あんた――あんた、俺の女神様だァァァ!!」

 

 ――どうしてそうなった?

 漢泣きにむせびなくナッパを前に、リゼットは何を間違えたのかも分からず引きつった笑顔を続けるしかなかった。

 




【ゴッドハンド】
気の武器化バリエーションの一つ。
武器ではなく巨大な拳を創造して敵をブン殴る。
『敵がでかいなら、こっちはもっとでかい拳で殴ればいいじゃん』という単純な発想から生まれた。
気弾の一種ではあるが爆発しない。拳の形をした巨大な繰気弾と思っていい。
そしてハンドといいつつ蹴りも出す。
どうでもいいがこの主人公、やたら繰気弾もどきを多用している気がする。


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第十八話 リベリオンドライバー

 人と人の出会いは、時に偶然によって成立する。

 例えばベタで使い古された、何の捻りもない例えを一つ出すならば曲がり角でぶつかる、などといったものがそれだ。

 もしかしたらそのぶつかった二人は男女なのかもしれないし、それが切っ掛けで知り合い、交友を結ぶかもしれない。

 そこから発展して交際するかもしれないし、上手くすれば結婚して子供を儲けるのかもしれない。

 万分の一、億分の一の可能性に過ぎないだろうが、その子孫のうちの誰かから偉人が出て歴史そのものに名を連ねるのかもしれない。

 しかし、もしもほんの少し時間がずれたならば……あるいは他の誰かに呼び止められたなら、その出会いは成立しないし、後の歴史も全く違うものとなるだろう。

 これは言うまでもなく極端な例であり、全てがそうであると言うわけではない。

 しかし決して有り得ない事でもないのだ。

 

 歴史の転換は偶然だった。

 本来存在しない異分子が、過去に戦士を送り修行をさせた。

 その結果サイヤ人の一人パンブーキンが、本来制圧すべき都市をなかなか制圧出来ずに無駄に時間を費やした。

 しかしここまで語っておいて、こう言うのは酷だが、これからの話にパンブーキンは全く関係ない。

 

 これからの話に大きく関わるのはパンブーキンの遅れのせいで巻き添えを喰い、本星への帰りが遅れた他のサイヤ人達のうちの一人、最下級戦士のバーダックだ。

 最下級戦士の出でありながら、その戦闘力はエリート戦士を凌ぐ程であり、勇猛さにおいて並ぶ者なし。

 一部のエリートやサイヤ人の王にすらその名を記憶されている、と言えばどれだけ彼が秀でているのか分かるだろう。

 その彼が妻の待つ配給所へと急いでいる最中の事。

 あまりに急いでいたのが悪かったのだろう。バーダックは道すがらで一人の子供を跳ね飛ばしてしまった。

 無論故意ではないし、悪意もない。

 しかしぶつかってしまったのは事実であり、非はこちらにある。

 サイヤ人にしてはそこそこの良識を持つバーダックは、倒れてしまった子供を見ると、面倒くさそうに手を差し出した。

 

「っと、悪かったな。急いでたんだ。立てるか? 小僧」

 

 言いながら相手の顔を見る。

 そしてバーダックはわずかに目を見開いた。

 そこに転んでいる子供……その容姿が自分とそっくりだったのだ。

 特に、妻からも特徴的と呼ばれる髪型などそのままだ。

 もしこの二人を並べれば、きっと親子と勘違いする者も出るだろう。

 あえて違いを言えば、バーダックと比べてやや色黒というくらいか。

 

「なんだ、オッサン。俺の容姿がそんなに気になるか?

別におかしな事じゃねえ……俺達使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな……。

そりゃあ、こういう事もあるさ」

 

 不敵に笑いながらバーダックの手を払い除け、少年が立つ。

 どうやらバーダックと似た外見に違わず、かなりの跳ねっ返りのようだ。

 しかし不快ではない。サイヤ人とはこのくらい威勢がよくてナンボの人種だ。

 バーダックもまたニヤリと笑い、少年に悪態をつく。

 

「確かにその通りだが……こうもソックリだと、流石に気味が悪い。

お前、ターレスだな? 俺にソックリのガキがいるって、噂だけは聞いてたぜ」

「へっ、そういうアンタはバーダックだな?

下級戦士にしちゃ、やけに腕が立つ奴がいるって評判だ。

……一度、手合わせ願いたいね」

 

 サイヤ人は戦闘種族である。

 戦えば戦うほど強くなる特性に、大猿化への変身、高い平均戦闘力。

 そしてそれらの特性を支える、旺盛すぎる戦闘意欲を共通して備えていた。

 戦闘意欲の薄いサイヤ人など、バーダックの妻であるギネくらいのものだろう。

 

「威勢のいい小僧だな。

いいぜ……今日はちと用事があるから受けてやれねえが、明日にでも受けてやる。

場所は第5トレーニングルーム……どうだ?」

「面白い。同い年のガキ共はどいつも腑抜けでつまらなかったんだ。

アンタのガキのラディッツってのも含めてな。

親父のアンタが息子とどれだけ違うのか確かめてやるぜ」

 

 

 

 ――結果は、ターレスの惨敗だった。

 

 無理もない事だ。

 いかに強いとはいえ、まだ幼年であるターレスと大人の中でもトップクラスのバーダックとでは始めから結果が見えている。

 しかしターレスは一度の勝負ではへこたれなかった。

 二度、三度、四度……その日より彼は幾度となくバーダックに勝負をふっかけ、とにかく暇さえあればバーダックに喧嘩を売った。

 己よりも遥かな高みにいる男、その出会いに生き甲斐を見出したのかもしれない。

 いつかバーダックを倒し、跪かせて命乞いをさせてやると鼻息荒く彼は語った。

 そしてバーダックもまた、そんなターレスの挑戦を面倒臭そうにしながらも、決して断らなかった。

 時には惑星侵略にすら彼を連れ出し、命令違反を犯して戦闘経験を積ませた。

 いつしか彼等は常に一緒にいるようになり、その様はまるで本当の親子のようであった。

 口は悪く、何かといえば罵声を飛ばし合う間柄ではあったが、そこには気の知れた友人のような気さくさがあった。

 

「おいターレス……お前、親はどうした? 一度も見た事がないが」

 

 ある日の配給所で、ギネの運んでくれた肉を頬張りながらバーダックはターレスに親の事を聞いた。

 普通ならこういう時はもっと遠まわしに、それとなく聞くものだが、生憎とバーダックにそんな器用さなどない。

 そして問われたターレスもまた、気にした様子もなく肉に齧り付いていた。

 

「ああ、死んだ。侵略先の星で原住民に抵抗されてあっさりとな」

「……辛いか?」

「いや全然。あの男が死んだのは、あいつが弱かったからだ。

所詮は下級戦士、無様なもんだ」

 

 ターレスはまた、肉を齧る。

 そして咀嚼もそこそこに、テーブルを強く叩いた。

 

「だが俺は違う! 俺は強くなってみせる!

そしていつか、フリーザに取って代わり、この全宇宙を俺の前に跪かせるのだ!」

 

 思わずバーダックとギネは周囲を見渡す。

 もしここにザーボンやドドリアがいて、今の発言を聞かれていたらその場で処断されている危険発言だ。

 しかし幸いにも彼等はいなかったようで、ほっと一息をついた。

 

「へっ……大した野心だ。俺に一度も勝てねえガキがほざきやがる」

「他人事みたいに言うなよ。

もしかしたら、アンタ譲りかもしれないんだぜ?」

「……?」

 

 バーダックとターレスに血の繋がりはない。

 したがって、譲るも何もない。

 ターレスもそれは充分に承知しているはずなのだが、にも関わらず出てきた言葉にバーダックは目を丸くした。

 

「知ってるか? アンタのガキ……ラディッツと俺だが、もしかして取り違えたんじゃないか、って噂があるんだぜ。丁度育児ポッドも隣だったしよ。

俺も眉唾物とは思うんだがな……ほら、誰が見ても俺の方がアンタと似てるだろ。

性格も、下級戦士離れした戦闘力も、な……。

無様に死んだあの男も、俺とは似ても似つかない前髪が後退したロンゲ男だった。

もしかしたら――もしかするかもしれないぜ……なんて」

「はっ! ばぁか!」

 

 ターレスのその言葉に、バーダックは彼の頭を押さえつける。

 そして自らとよく似たその髪の毛をわしゃわしゃと乱暴に撫で回した。

 

「誰がお前みてえな可愛げのねえガキ欲しがるかよ。

お前みてえのはな……弟子で充分だ! それもとびっきり可愛げのねえ、出来の悪い弟子だ!

わかったら二度と下らねえ事ほざくな!」

「わったた……痛っ、いてえってば!」

 

 ターレスは不機嫌そうにバーダックの手を払い除ける。

 そしてしばらく彼を見た後、いつも通りの笑みを浮かべた。

 

「そうか、弟子か……俺はアンタの弟子……。

……へへっ……なら、それでいい」

 

 そう言って、ターレスは満足そうに笑った。

 

 

「よおバーダック、次男が生まれたんだってな?」

「ターレスか」

「聞いたぜ、戦闘力2だってな。

隣のガキ……ブロリーってのが1万ってのを考えると、ひでえもんだなオイ」

 

 数年経ち、以前よりも逞しくなったターレスがバーダックへと話しかける。

 今や二人の容姿はほぼ変わらず、僅かに顔立ちや肌の色が異なるのみだ。

 いや、まだ若干バーダックの方が身長が上だろうか。

 

「全くだ。このバーダックのガキともあろうものが……クズがっ!」

「だが、喧嘩して隣のガキを泣かせたらしいじゃねえか。

戦闘力は低くても根性は大したもんだ。間違いなくカカロットはアンタのガキだぜ。

……強くなるぜえ、そいつはよ。何ならこのターレス様が鍛えてやろうか?」

 

 そう言い、ターレスは育児ポッドの中の赤子を見る。

 穏やかに眠るそのあどけない表情はなるほど、母親の面影を思わせる。

 しかし特徴的な頭髪は父親そっくりだ。

 ターレスはポッドを乱暴に叩き、からかうように話す。

 

「よおカカロット、てめえよく生まれたなあ。

誇れよ、お前。お前の親父はこのターレス様も認めている男なんだ。

……早く大きくなれよカカロット……んでよ、大きくなったら俺と一緒に暴れようや。

好きな星をぶっ壊し、美味い物を喰って、美味い酒に酔う……こんな楽しい生活はないぜえ」

「おいターレス、てめえ人のガキに何教えようとしてんだ」

 

 バーダックが容赦のない拳骨をターレスへと叩きこむ。

 戦闘力も大分近付いた事もあり、バーダックの突っ込みには容赦がない。

 無論それは、ターレスならば大事に至らないというある種の信頼が取らせる行動だ。

 そしてターレスもまた、言葉にこそしないがそれを理解していた。

 

 それはターレスにとって幸福な日々だった。

 超えるべき目標、超えたくない目標。

 いつものようにバーダックに突っかかり、負けて、一緒に飯を喰い。

 共に肩を並べて戦い、背を守り、守られる。

 何かあれば口汚い罵声を飛ばし合い、喧嘩に発展してまた負ける。

 負けるのは屈辱であったが、しかしターレスは心のどこかでそんな日々が続く事を望んでいた。

 ずっと続くのだと、思いたかった。

 

 しかし永遠などない。

 終わりはいつか訪れる。

 

 

 

 それは、ターレスが辺境の惑星を攻めている時の事だった。

 バーダックが妙に勧めるから、気乗りはしないが向かってみたものの、やはり拍子抜けする程に雑魚しかいなかった惑星を攻め落とした日の事。

 その日、ターレスの持つスカウターはやけに調子が悪かった。

 いや、というよりは通信システムだけが意図的に弄られていたというべきか。

 その事に気付いたのは星を滅ぼした後であり、ターレスは仕方なくありあわせの機材でスカウターを修理し、バーダックへの通信を飛ばした。

 

「お、ようやく繋がったか。

おいバーダック、こっちはお前に言われた惑星を今、潰した所だ。

しかしわからねえな。こんな星に一体何の価値があるってんだ?」

『…………』

「だが途中で立ち寄った星で面白い物を見付けたんだ。

神聖樹っていうらしくてよ。こいつを食えば戦闘力が……って、聞いてるのか? バーダック」

 

 一方的に話していたターレスだが、バーダックの様子がおかしい事に気付き、言葉を止める。

 通信はちゃんと直ったはずだ。

 なのに返事がないとはどういう事だろう。

 周波数はちゃんとバーダックに合わせているし、聞こえていないはずはないと思うが。

 まさかスカウターそのものを付けていないのだろうか?

 そう考えているとスカウターから聞きなれた、しかしバーダックのものではない女性の声が響く。

 

『その声……ターレスかい?』

「ギネ。何であんたが……?」

『バーダックなら、もういないよ。

フリーザを止める為に行ってしまったからね』

「フリーザを……? おい、そりゃどういう事だ?」

 

 ターレスの背筋を悪寒が走りぬけた。

 今までに感じた事のないような、嫌な予感だ。

 まるでこれから、全てを失ってしまうような……そんな取り返しの付かない事が起ころうとしている。

 何故だか、それは確信染みた恐怖を伴ってすらいた。

 

『フリーザが私達を裏切ったんだ……トーマ達も殺されてしまったらしい。

バーダックがそう食堂で叫んでたって、私もさっき聞かされたんだ。

他の皆は信じてないようだったけどね……』

「! トーマ達が……!?」

『バーダックはフリーザを倒す為に一人で飛んで行ってしまったよ。

……けど、どうやら……駄目だったみたいだ』

 

 スカウターの向こうから聞こえるギネの声には、泣き声のような嗚咽が混ざっていた。

 恐らく向こう側で彼女は泣いているのだろう。

 それに――何だ? 何かが迫っているような音が聞こえる。

 何かとてつもなく大きな、炎か何かが迫っている音だ!

 

「おい! ギネ! 何だこの音は!!

一体そっちで何が起こっている! ギネ!!」

『ターレス……私は、あの人と一緒にこの星と運命を共にするよ。

きっと、一人じゃ寂しいだろうからさ……。

ああ、そうだ……バーダックの提案で地球にカカロットを飛ばし子として送ったんだけどね……あんた、あの子の事を……』

 

 ギネの言葉はそれが最期だった。

 まだ言葉の途中だったろうに、直後に聞こえた爆発音に全てが飲み込まれたのだ。

 鼓膜を破るような音はほんの一瞬のみであり、後は通信切れの雑音が響くばかりだ。

 恐らく、向こうのスカウターそのものが破損したのだろう。

 

「…………おい?

おい、ギネ? ……お、おい。冗談が過ぎるぜ?

なあ、これは何かの嘘だろう? ふ、二人で俺を驚かせようとしてるんだよな?」

 

 何度も周波数を合わせ、通話を試みる。

 何度も何度も。何度も何度も。

 だが彼女の声は聞こえない。バーダックの声も聞こえない。

 

 動揺する一方で、ターレスの冷静な戦士の部分は考えていた。

 あの不吉な音はきっと、巨大なエネルギー弾か何かが惑星ベジータに迫っていた音だ。

 ギネとの最期の通信で記録されている座標も惑星ベジータだから、間違いはない。

 そして恐らく、その気弾の直撃によって惑星ベジータとギネは消滅してしまった。

 

 彼女の最期の言葉から察するに、犯人はフリーザだ。

 というより、あいつぐらいしかそんな事を実行に移せない。

 そしてバーダックはそれを察し、カカロットを地球とかいう惑星に飛ばし子として逃がし、単身フリーザに挑んだ。

 そしてその結果は……。

 

「……フリーザ……」

 

 怒りで拳から血が溢れる。

 歯を食い縛り、身体中の血液が沸騰しそうなくらいに頭が熱くなる。

 脳裏に浮かぶのはあの、自称宇宙の帝王フリーザ。

 その顔を思い浮かべるだけで殺意に全身が支配される。

 

「フリィィィィィィザァァァァァーーーーッ!!!!」

 

 叫ぶと同時に地面が爆ぜた。

 それでも晴れぬ感情を少しでも冷ますかのように、ターレスは辺り一面に気弾をバラ撒く。

 もう壊滅した惑星へのオーバーキルであり、当然その行為に意味などない。

 それでも、こうして何かに当たり散らさねば怒りでどうにかなってしまいそうだった。

 

「くそっ!」

 

 分っている。この行為に意味などない。

 フリーザは今頃高笑いをあげているだろうし、あのバーダックが敗れた以上、自分ではその仇など討てやしない。

 

「くそっ! くそっ!」

 

 だが、このまま終わりはしない。

 終わってなどなるものか。

 まだサイヤ人は滅びていない、まだ自分とカカロットが残っている。

 ならば何時の日か……いつの日か、フリーザを玉座から引き摺り降ろしてやる。

 全宇宙を支配し、あいつの頭を踏み躙って虫ケラのように岩場に叩きつけ、跪かせて命乞いをさせてやる! その上で屈辱の中で殺してやる!

 

「くそおおおおおおおおおおーーーッ!!!」

 

 ――この日を境に、ターレスは残忍な悪のサイヤ人へと変貌した。

 元々悪に偏っていた男だが、この一件で完全に悪として振り切れてしまったのだ。

 いつか必ずフリーザを殺す――その執念だけで彼は強くなり、星々を侵略して己の養分へと変え続けた。

 そして十数年後、やがて彼はその惑星に目を付ける事となる。

 

 その惑星の名は地球。

 かつて、カカロットが飛ばし子として送られた銀河の辺境であった。




Q、このSSではターレスとラディッツは本当に取り違えてるの?
A、違います。ラディッツは正真正銘バーダックの息子ですのでご安心を。
ターレスの発言は、『そうだったらいいな』という彼の願望に過ぎません。

時の界王神「……よし、あの部屋壊そう。やばいわアレ」
トキの部屋「最早ここまでか……死兆星が私の頭上に輝いている……」

※時の部屋が何かの法に接触したようです。


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第十九話 地球まるごと超決戦(1)

「あれが地球か」

 

 宇宙船の中、髪をおさげにした赤い肌の巨漢が地球を眺めて感心したように呟く。

 その隣では青い長髪を首の後ろで束ねた男が腕を組み、素直な感想を口にした。

 

「美しい星だな。辺境の惑星も捨てたもんじゃない」

「……まさか……地球は確かカカロットが送られた星のはず。

とっくに滅びていてもおかしくないはずだが……」

 

 青髪の男の言葉に被せるように、別の男の声が割り込んだ。

 その声は、もし悟空を知る者が聞けば彼と勘違いしてしまうだろう。

 暗がりの中から歩み出たその男の容姿は、例えるならば肌黒い悟空といったところか。

 黒い戦闘服を着用し、左目にはスカウター。

 戦闘服の上から白いマントを羽織り、宇宙船の窓から地球を眺めた。

 

「それにしても美しすぎるな。

カカロットめ……サイヤ人の本分も忘れたか?」

 

 男――ターレスはフリーザの抱える軍団の一つ、『クラッシャー軍団』の首領である。

 しかしフリーザ一味に属してこそいるものの、その心に忠誠などはない。

 だからといってベジータに忠誠を誓っているかと言えば、これも違う。

 ベジータなどとうに眼中にないし、フリーザにしても今はまだ従っている振りをしているだけだ。

 いずれは自分がフリーザに代わり全宇宙を支配する……そんな悪しき野心を、彼は心に秘めていた。

 そしてその野心の成就の為に、この地球に目を付けたのだ。

 

「ベジータのお坊ちゃんを退けたようだが、俺はあいつとは違う。

俺は絶えず最前線で戦い、何度も死にかけてきたんだ……バーダックのようにな。

願いが叶うというドラゴンボールも、この星の豊かな土壌も、全て俺が頂く。

そしてカカロット……貴様は息子共々俺の配下に加わるのだ」

 

 ターレスは野心に歪んだ笑みに口の端を釣り上げる。

 かつてバーダックの教えを受けた男と、バーダックの息子。

 その邂逅は、すぐそこにまで迫ってきていた。

 

 

 ナッパはあれから、リゼットに言われた通りどこかへと飛んで行った。

 どうせすぐに人殺しなどに手を染めて、結局自分が処断する事になるのだろうと思っていたリゼットだったが、ナッパは今の所何も悪事を働いていないようだ。

 それどころかとっくの昔に消えたと思っていた龍天女教へと入信し、毎日毎日五月蝿いくらいの祈りを捧げている。

 正直意外……というか完璧に予想外過ぎた。何がどうしてああなった。

 

 いくつか理由を挙げるとするならば、まずその一つにサイヤ人の女性の好みが挙げられるだろう。

 サイヤ人というのは今更語るまでもなく戦闘種族であり、必然的にその女性も好戦的かつ気の強い女ばかりになる。

 ならば子孫を残すという意味でもサイヤ人の男はそういった女を好きになるよう本能で仕込まれており、彼等は一部の例外を除き気の強い女性を好む傾向にあった。

 勿論強い女というのも大好きだ。何せ戦闘力は遺伝による要素も大きく強い子供を残すならば伴侶も強い方が望ましい。

 つまり戦闘力、気の強さ共に強い女というのはサイヤ人の男にとって理想の女性像なのである。

 リゼットはその見目はともかく、一見すると穏やかな女性でありサイヤ人の好みには合わない。

 実際ナッパも最初は見目の麗しさ以外に興味を持ちはしなかった。

 だが実際蓋を開けてみればナッパのセクハラ発言に痛烈なカウンターを返すわジンコウマン達を相手に全く怖気付かないわ挙句の果てに大猿になったベジータすらボコるわで散々であった。

 こうなれば流石にナッパも気付く。『あ、こいつ滅茶苦茶気が強いわ』と。

 そしてそこに、聖母の如き微笑みと見逃し宣言である。

 実際は裏で悟空の命乞いがあったり、笑顔は嫌悪感を隠すための仮面だったりしたのだがナッパがそこまで察するはずもない。

 ついでに言うならばナッパは散々叩きのめされた後にベジータに見捨てられて屑とまで呼ばれるトリプルコンボを喰らった後であり、心が酷く弱っていた。例えるならば世界的に有名なボクサーが絶対に負けるわけもない地方の高校のボクシング部にドヤ顔で殴りこんだら一方的にボコられてコーチから『え? お前そんな雑魚かったの? ……ないわー』と絶縁状を叩き付けられたようなものだ。これは心が折れる。

 更に加えるならばナッパは誰かに優しくされた経験が皆無であった。

 名門出のエリートと自称はしており、実際に戦闘力4000は名門として恥じるようなものではないが、しかし飛び抜けているわけでもない。

 あの王子の側近をするならせめて6000はないと厳しい。

 例を挙げるならば、ナッパ同様に名門出のエリートであったパラガスという男は戦闘力9000である。

 更に加えて言うならば、下級戦士のバーダックは9000、トーマが5000、パンブーキンが4200、トテッポが4000であり、ますますナッパの肩身は狭かった。

 その為周囲からは名前だけの名門などと蔑まれ、更に我侭なくせに戦闘力18000の王子のお守りを毎日続けねばならない。

 繰り返すがナッパは決して弱くない。ただ比較対象が強すぎただけだ。

 そんなストレスからとうとう彼の頭髪は完全に失われ、彼は見事なハゲとなった。

 ここで思い出して欲しいのがサイヤ人の頭髪の特徴である。

 サイヤ人は生まれた時から無駄に頭髪が変化しない――つまり地球人のように頻繁に抜けもしないが生えもしない。

 故に一度ハゲとなったナッパに髪が生える希望はなく、彼は生涯ハゲをここで決定付けられ、彼への陰口が一つ増えてしまった。

 サイヤ人が絶滅した後もフリーザやその側近に馬鹿にされる日々……腰巾着と呼ばれ、金魚の糞と呼ばれ、ハゲと言われる。うるせえぞドドリア。お前だって髪なんかねえだろ。

 黙れザーボン。ちょっと顔がいいからって会う度に醜いと連呼するな。

 

 我侭過ぎる三十路王子のお守り……。

 隠す気もなく続く陰口の数々……。

 圧倒的な戦闘力格差……。

 ベジータとの差が大きすぎる為に言われる『あの二人いらなくね?』のその通りすぎる言葉……。

 サイバイマンを買う為に軽くなり続ける財布……侵略の度にベジータの思い付きで無駄に減らされるサイバイマン……。

 唯一の格下であるラディッツの死。それによって自動的に成立するヒエラルキー最下位……。

 存在しない居場所……労わられない日々……増え続ける仕事……増え続ける心労……。

 休日なき日々……たまの休暇でも呼び出される……無駄にプライドだけは高い王子様……ベジータの引き立て役……。

 ナッパはもうとっくに限界だった。そう、限界だったのだ。髪が全て抜け落ちる程に限界ギリギリパワーだったのだ。

 

 そこにかけられる優しい言葉。

 見目麗しい少女の微笑み。

 溢れ出る神々しい後光。

 そしてリゼットもあまり自覚していない、何時の頃からか会得してしまっていたカリスマ性。

 具体的には天女と呼ばれ始めた頃から芽吹き、信仰を集める事で成長し、そして神となる事で花開いてしまった人が自然と頭垂れて信奉してしまう人ならざる文字通り神がかった存在感。

 それが弱りきったナッパにジャストミートした。クリティカルヒットした。オーバーキルして死体蹴りした。

 故にこその結果であり――だがリゼットがそれを知る方法はなかった。

 

 ともかく、これで犠牲なしでサイヤ人との戦いを乗り切る事には成功したわけだ。

 悟空も重症ではあったが仙豆によりすっかり回復し、今では前よりも調子がいいくらいだ。瀕死パワーアップ美味しいです。

 リゼットは天界より下界を見下ろしながら、次の事を考える。

 本来の流れならば、この後はナメック星編だ。

 死んだ仲間達を蘇らせる為にナメックの星へ行く必要があるわけだが、ここではその必要がない。

 では、もし自分達が行かなかったらどうなるのだろう。

 まずベジータは、永遠の命を得られないだろう。

 6つまでは集められるかもしれないが、最後の一つは最長老の所にある。

 そしてベジータではネイルに勝てないのだから、その一つを得る事は決して無い。

 後はギニュー特戦隊の登場でベジータが殺されて、それで終わりだ。

 

 かといって、フリーザも願いを叶える事は出来ないだろう。

 まず最長老の寿命が尽きてしまうだろうし、その前に集めたとしてもナメック語が分からない。

 もしかしたらデンデ辺りを脅してポルンガを呼び出す所までは行くかもしれないが、結局願いを言うのはデンデだ。

 つまりナメック星人側には必ずチャンスが訪れる上に、デンデがここで何を願ってもフリーザには分からない。

 だからここで『フリーザ以外を別の惑星に逃がしてくれ』とでも頼めば、そこで終わる。

 フリーザの事だから、もしかしたらナメック星人達を見付けてしまうかもしれないが、どのみちもう最長老は死んでいるだろう。

 そうなれば次にフリーザが目を付けるのは……。

 

「……このままだと、そう遠く無い未来にフリーザが地球に来てしまいますね」

 

 私情を抜きにして冷酷に考えるならば、一番いいのはフリーザがナメック星を滅ぼした後にそのまま地球をスルーする事だが、そう都合よくいくとは思えない。

 地球にもドラゴンボールがある事は既に伝わっているだろうから、遅かれ早かれ絶対にフリーザはこちらに目を付けてしまう。

 それにナメック星との友好関係が結べないのも後々を思うと辛い。

 何より、戦力面はどうだ? 

 地力だけならば地球でも上げる事は出来る。

 リゼットが修行を付ければ、きっと悟空やその仲間達はナメック星に行くのと遜色ない強さまで伸びてくれるだろう。

 だが超サイヤ人は? あれはフリーザとの戦い抜きでなれるものか?

 …………。

 ……いや、待て。冷静に考えるとあれ案外、条件軽いかもしれない。

 悟空の名シーンに眼を曇らせがちだが、別に覚醒するのに名シーンである必要などない。

 悟飯が妄想で覚醒していたし、恐らく最も厳しいのは感情よりも、覚醒に必要な最低戦闘力だ。

 逆にそれさえクリアしてしまえば、後は妄想の怒りでも覚醒出来てしまうだろう。

 しかし最大の問題はやはり、ナメック星とのパイプが出来ない事。

 これはどうにかしないと、後々に本当に詰む。具体的にはブウ編で詰む。

 

(……ピッコロ達を死なせてしまう方が正解だった?

違う、そんなはずはない。見殺しにするのが正解なわけがない。

考えろ……私の持つ最大の利点はこの知識。

どうすれば、有利に立ち回れる? この星を守る事が出来る?)

 

 ……まず、重要な点は二つ。

 ナメック星のドラゴンボールで万一にもフリーザかベジータが不老不死になってしまう事。

 そして、ナメック星人の全滅により今後の運命が悪い方向へと流れる事。

 要は、まずこの点に注視してそれを防げばいい。

 

(ドラゴンボールを使って、ナメック星人全員を地球へと転移させる……。

……いや、無断転移では信用を得られません……まずは最長老に話を通さないと。

悟空君を通して、界王様経由でまず私からナメック星の危機を伝えて同意を得る。そうすれば……)

 

 外面は涼しげな顔のまま、頭の中で必死に今度の展望を巡らせる。

 まずはナメック星人全員をドラゴンボールで地球へ転移させてしまうというのはどうだ?

 当然向こうも戸惑うだろうが、理知的なナメックの人々ならば事情を説明すれば理解してくれるはずだ。

 そうすればとりあえずフリーザとベジータはしばらく、ナメック星で混乱してくれるだろうし、上手く潰し合ってくれるかもしれない。

 フリーザはその後、当然地球に来るだろうがこちらも準備をするだけの時間は得られる。

 ナメック星のドラゴンボールも使わせてもらえるなら、フリーザ一味の宇宙船を宇宙空間で破壊してしまうという手も可能だ。

 そうすれば宇宙空間で生存可能な宇宙人以外は死滅するだろうから、地球に来るフリーザの軍勢も一気に減るし、上手くすればそのままフリーザが宇宙の迷子になってくれるかもしれない。

 

 ……いや、駄目だ。この手は使えない。

 ドラゴンボールは悟空の蘇生に使ったばかりで、次の使用には1年の期間を待たなければならない。

 1年など待っていたら、ナメック星人が滅びてしまう。

 つまり地球に残ったままどうにかする、という選択は取れない。

 

(やはり、ナメック星に向かうしかないようですね……しかし、どう皆に説明したものか。

理由はないけど、とりあえず行きましょうと言った所で誰も来ないでしょうし……。

私一人で行っても、多分フリーザには勝てませんし……)

 

 いっそナメック星がベジータやフリーザに狙われているとぶっちゃけてしまおうか?

 そうなると、当然『何故知っている』という話になるが、そこは気の探知でナメック星を狙うフリーザが視えたとでも言えばいいだろう。

 実際嘘ではない。リゼットが本気で気の探知と遠視を行えば、遠く離れたフリーザの姿だろうと視る事が出来るし、実際にフリーザはナメック星へ向かう準備もしている。

 

 しばし目を閉じ、思案していたリゼットだが唐突に思考を中断して弾かれたように顔をあげる。

 地上で何か、妙な物が蠢いている事に気が付いたのだ。

 それに、よく探って見れば気の質もおかしい。

 慌てて下界を覗き見れば、不気味に育つ妙な樹の存在が嫌でも目に入った。

 今はまだ育っている最中だが、もしこれが育ちきれば地球の養分が全て吸い取られてしまう。

 ぼーっとしている場合じゃない。

 

「これはまさか、神精樹!?」

 

 神精樹――神のみが口にする事を許された禁断の果実だ。

 そしてそれは、この地球の神殿にも一つだけ種が保存されている。

 しかしリゼットはそれを使った事などないし、地球に向けて使うつもりもない。

 惑星フリーザとかを見付けたら使ってやろうかという気持ちはあるが、少なくとも己が守護すべき地球に使うなどという本末転倒な使用法を実行する気は皆無だった。

 つまり誰かが宇宙から持ち込んだとしか考えられない。

 その時、突如としてリゼットの脳裏に何者かの声が響いた。

 

『地球の神よ、聞こえるか? 儂は北銀河一帯を治める界王だ』

「! か、界王様?」

 

 その存在は知っていたが、声を聞く事はこれが初めてである。

 リゼットは余りに唐突な銀河の神からのコンタクトに、流石に声を上ずらせた。

 

『地球は今、大変な事になっておる。

神精樹の事はお前も知っておろうが、その種が地球に植えられたのだ』

「……やはり、そうでしたか」

『悟空達は既に元凶の元へ向かっておるが、彼等だけでは神精樹をどうにかする事は出来ん。

神精樹に対処出来るのは地球の神よ、お前だけだ。

悟空達に手を貸してやってくれ』

「畏まりました界王様。地球の危機への協力、ありがとうございます。

――兎人参化、来なさい! 地上へ向かいます」

「はい、仰せのままに!」

 

 界王に礼を言うと、リゼットは兎人参化を連れて天界から飛び降りた。

 そして背中から翼を出し、加速。

 降りる最中、爪とぎで爪を研いでいるカリンが見えた。あの猫はいつでもマイペースである。

 悟空達ですら肉眼では追えぬ速度となり、一気に神精樹との距離を詰める。

 問題の場所では既に悟空、クリリン、天津飯、ヤムチャ、餃子が異星人達と相対しているのが見えた。

 ピッコロはまだおらず、悟飯は……まあ、どうせチチに止められたのだろう。

 翼を羽ばたかせて減速し、風を巻き起こして悟空達の後ろに着地する。

 その突然の登場に悟空、異星人達が共にぎょっとし、リゼットへ視線を集中させた。

 

「神様!」

「遅れてすみません。話は既に界王様から聞いております。

神精樹は私が何とかしますので、貴方達は敵を掃討して下さい」

 

 悟空に対し、余計な説明を省いた頼みをする。

 神精樹の対処は流石に手間であり、邪魔をされては面倒極まる。

 敵を全て消してから対処する事も可能だが、その場合は時間がかかるので地球の被害が広がる一方だ。

 神精樹は発芽してしまう前に枯らし、潰してしまうのが一番いい。

 その為にも、余計な戦闘は全て省きたかった。

 

「おい聞いたか悟空。何とか出来るってよ。流石はうちの神様だぜ!」

「ああ、これでオラ達はあいつらの相手に集中出来る」

 

 敵の数は今の所5人。こちらもリゼットを除いて6人。

 人数は勝っているが、気は悟空は例外とし、やや敵側が勝っている。

 数値にして敵は大体8000前後といったところだろう。

 他の五人が抑えているうちに悟空が一人ずつ潰して、そして手の空いた仲間と一緒にまた別の誰かを潰して回るというのが理想的か。

 

「皆、任せましたよ」

「おっと、行かせるとでも……」

 

 飛翔しようとするリゼットの前に赤い巨漢が飛び出る。

 だが彼ではリゼットの妨害など出来るはずもない。

 構わず飛んだリゼットに正面から激突し、まるでトラックに衝突した一般人のように『撥ねられた』のだ。

 かくして神は来て早々に戦場を離脱し、後には地球を守る戦士達と侵略者だけが残された。

 

「……どうやらあの女、俺達全員でかからないと危ない相手らしいな。

仕方ねえ、まずはこいつ等を倒して全員で向かうぞ」

「果たしてそう上手くいきますかねえ?」

 

 イヤリングやネックレスを付けた青い髪の男が一早くリゼットの妨害には全員が必要だと悟り、戦闘へと思考を切り替える。

 それを迎え撃つように兎人参化が立ち塞がり、サングラスを輝かせた。

 

「つまりこの戦い、勝った方がそのまま神精樹に向かい、今後を左右出来るってわけだ」

「どうやらそうらしいな」

 

 身長の低い、全く同じ容姿の宇宙人が二人並び立つ。

 名をレズンとラカセイといい、未知の技術を持っていると言われているビーンズ人だ。

 しかし相手が二人ならばこちらも二人。

 地球からは天津飯と餃子がこれを迎え撃つ。

 

「全員ぶっ潰してやるぜ」

「出来るもんならやってみろ」

 

 先程リゼットに跳ね飛ばされた巨漢が立ち上がり、戦士達を見下ろす。

 それに対抗するように前に出たのはクリリンだ。

 

「ローンの恨み、晴らさせてもらうぜ!」

『……ンダ』

 

 最後にヤムチャがよく分からない事を言いながら構え、それに対し全身機械のサイボーグが立ちはだかる。

 実にどうでもいい事なのだが、ヤムチャは彼等が神精樹の種を植える時に放った気弾の余波に偶然当たり、ローンで購入した新車を壊されてしまったのだ。

 無論そんなのは彼等の知る所ではなく、知ってもどうでもいい事でしかない。

 

「よし、ならオラは……」

 

 そして一人余る事になった悟空は、まず仲間達の援護をする事を決めた。

 この戦いは先に一人崩した方が圧倒的に有利となる。

 何せ一人余れば、その一人は別の誰かの援護に向かい2対1の状況に持ちこめてしまうからだ。

 だから仲間達の援護という選択は決して間違いではない。

 ……相手側に、6人目が控えてさえいなければ。

 

「暇そうだな。俺が相手になってやるぞカカロット」

 

 声が響いた。

 悟空の声とよく似た、しかし冷たい声だ。

 声の聞こえた方向を振り向き、そこで悟空は一瞬そこに鏡があると勘違いをした。

 しかしすぐに気付く。違う、鏡ではない。

 己とよく似た容姿の、そして遥かに巨大な気を持つ何者かだ!

 

「お、おめえは……!」

「俺の名はターレス。

貴様は俺の事を知らないだろうが、俺は貴様をよく知っているぜ。

……なるほど、親父にそっくりだ」

「そ、その顔は……」

「ああ、俺が貴様に似ているってか? 無理はない。

俺達使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな」

 

 口の端に弧を描き、ターレスは余裕を感じさせる声で語る。

 スカウターに表示された悟空の戦闘力を見ても、尚その余裕は微塵も揺るがない。

 

「しかし、顔は同じでも中身は貴様とはまるで違うぞ」

「何!?」

「かかって来いよカカロット。俺と遊ぼうや。

バーダックの倅の力、俺に見せてくれ」

 

 指をクイ、と動かしてターレスは悟空を挑発する。

 その瞳には剣呑な輝きが宿り、同時にどこか過去を懐かしむような憂いも混ざっていた。




【地球まるごと超決戦】
『ドラゴンボール』シリーズの劇場公開作第6弾。
悟空達がサイヤ人の事を知っており、かつ誰も死んでいないので、犠牲者なしでベジータ&ナッパを撃退した世界線であると考えられる。
『この世で一番強いヤツ』と同じ世界線だろうか。
ボスのターレスはともかく、取り巻きのクラッシャー軍団も異常に強く、全員がナッパを軽く捻れる実力者。
どうでもいいが、この劇場版でピッコロさんが突然戦闘力18000に急上昇している。飲料水と間違えて超神水でも飲んだのだろうか。

【ターレス】
クズロット素材として大人気のお方。
ブロリーMADを見る方ならば『死ねえー!』、『サイヤ人はサイヤ人らしい生き方をしろ』、『仲良くしようや』、『こんな楽しい生活はないぜ』、『虫けらのように岩場に叩き付けるのだ!』、『全宇宙を跪かせるのだ!』などの台詞を吐くクズロットを一度は目にした事があるのではないだろうか。
映画パンフレットに示された戦闘力は19000だが、当時戦闘力30000だった悟空の界王拳10倍を返り討ちにしているので、どう低く見積もっても戦闘力30万以上はあると思われる。強い。
後に登場するスラッグと違って結構部下の存在を重要視しているのか、至る所で仲間を勧誘しているらしい。
クラッシャー軍団は全員、ターレスが自ら勧誘した者達。
上司としてはかなり優秀な部類かもしれない。

【ダイーズ】
クラッシャー軍団の副リーダーっぽい人。
映画パンフレットによると戦闘力は8400。
元はカボーチャ星プキンパ王朝の王子だったらしい。
パンブーキンとの関係は不明。子孫だろうか。

【カカオ】
クラッシャー軍団の一員。
イコンダ星で起こった星間大戦の際に作られた戦闘サイボーグ。『ンダ』しか言えない。
映画パンフレットによると戦闘力は13000。こいつだけやたら強い。

【アモンド】
クラッシャー軍団の一員。
宇宙警察機構(銀河パトロール?)によって逮捕されナッツ星の刑務所に収監されていた凶悪な犯罪者。
語尾に『でっせい』と付けてキャラ付けをしている。
映画パンフレットに示された戦闘力は9100。
外見がやたらボラと似ており、声まで同じ。
ボラ「ま、まさか貴方は幼き日に家を飛び出していった兄さん……!?」

【ラカセイ&レズン】
クラッシャー軍団の一員。
双子で戦闘力は7600と8000だが、どちらが8000でどちらが7600なのかは分からない。
どちらも自分の方が強いと思ってそう。
未知の技術を持っているとされるビーンズ人で、ターレスの乗っている巨大宇宙船はこいつらが造った。
つまりは科学者なわけだが、戦闘の際には武器も持たずに素手で自ら前線に突撃する。
自分達が戦死したら誰が宇宙船を整備するのかを全く考えていない、男気に溢れた二人。


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第二十話 地球まるごと超決戦(2)

「繰気弾!」

 

 ヤムチャが掌に気を集中し、己の意志で自在に操作出来る気弾を生み出す。

 見た目こそ何も変わらないが、修行により確実に威力が増しているそれを敵のサイボーグ戦士――カカオ目掛けて発射する。

 右、左、上と目まぐるしく移動し、繰気弾はカカオを翻弄する。

 防御するならば背後に回り、避けるならばその移動先へ先回りする。

 自動追尾には出来ない細かいコントロール。それが繰気弾には可能だ。

 

「はっ、とう!」

 

 やがてカカオの隙を見付けたヤムチャは、がら空きになった彼の腹部に繰気弾を叩き込んだ。

 防御も許さないクリーンヒットにたまらずカカオが吹き飛び、地面に転がる。

 すかさず追撃で気弾を叩き込み、爆発させた。

 手応えあり! 勝利の予感にヤムチャは頬を緩め、爆煙を見る。

 

「ンダ!」

「!?」

 

 だが煙を裂いてカカオが飛翔してきた事でその顔は驚愕へと変わった。

 繰気弾を命中させ、倒したと思った直後の隙だらけの硬直。そこにカカオが身体ごとぶつかり、ヤムチャを岩場に押し付ける。

 サイボーグの身体と岩場との間に挟まれるサンドイッチだ。

 ヤムチャはその威力に吐血し、白目を剥いて崩れ落ちた。

 

 

 

「気円斬!」

 

 ヤムチャ達から少し離れた戦場。

 そこでクリリンは気を集約し、円盤状に薄めていた。

 それを高速回転させる事で敵を切り裂く切断技、気円斬。殺傷力という点において彼の最高の技だ。

 発射される気円斬。それに触れれば多少の戦闘力の差があれど容易く切り裂く事が出来るだろう。

 それに対し赤い巨漢――アモンドは身体を高速で回転させた。

 

「勝ちたかったら、こうするんでっせい!」

 

 そして、回転したまま気円斬と恐らくは同系統だろう緋色の薄い気弾を放つ。

 その二つは中央で衝突し、相殺。

 互いに弾かれ、それぞれの術者の元へと跳ね返って行った。

 

「んなっ!?」

 

 クリリンは咄嗟に反射されてきた気円斬を避け、アモンドも同じく己の気弾を避ける。

 技自体は互角。むしろ術者の気が劣っているのに相殺したという点ではクリリンの気円斬が勝るかもしれない。

 だが気円斬が通じないというのはクリリンにとって致命的だった。

 何故なら、これが効かないという事はクリリンが彼に勝てる技がないという事になってしまうのだから。

 

「そら、次でっせい!」

 

 妙な語尾を付けながらアモンドが突撃する。

 クリリンもそれに対し必死に応戦し、激しい攻防が始まった。

 だが地の能力ならばアモンドが上だ。

 彼の拳がクリリンの頬を打ち、膝が腹を蹴り上げ、クリリンが呻いた所を狙い澄ましてダブルスレッジハンマーを頭部に叩き付ける。

 衝撃に意識が飛び、止めとばかりに固い地面に墜落する。

 そしてクリリンが立ち上がらないのを確認し、アモンドは勝利を確信した。

 

 

 

 天津飯はレズンとラカセイの双子を相手に一人で奮戦していた。

 先程までは餃子もいたのだが、既にやられてしまったらしく気が殆ど感じられない。

 双子故の一糸乱れぬ連携に晒され、必死に防いでいるのは流石というべきだろう。

 だが限界はある。拳が、蹴りが、天津飯を確実に捉え始め、攻撃を受けるたびに動きが鈍くなっていくのが自分でも分った。

 

「く、くそっ!」

 

 せめて1対1ならば……。

 そう思うも、それは叶わぬ事だ。

 レズンの拳が顎を跳ね上げ、ラカセイの蹴りが鳩尾にめり込む。

 

「ぐあっ……が!」

 

 視界が薄れ、膝が地面に付く。

 何とか倒れまいとする意志とは裏腹に、身体が言う事を聞かない。

 薄れゆく意識の中で双子の勝ち誇った笑い声を聞きながら、天津飯は崩れ落ちた。

 

 

 

「ははっ、その程度か兎野郎!」

 

 青髪の優男、ダイーズの猛攻に晒されながら兎人参化は必死に耐えていた。

 相手の男のあまりの速さに防御が間に合わない。

 手で触れる機会がない。

 拳がめり込み、顔を蹴られ、無様に地面を転がされる。

 

「やれやれ、とんだ雑魚だったな」

 

 ダイーズが勝利を確信した笑みを浮べながら兎人参化へと近付いた。

 その瞬間、人参化は立ち上がって掌底を突き出す。

 しかしダイーズは余裕の表情で、いとも呆気なくそれを弾いてしまった。

 

「へ、そんなのが最後の抵抗かい?」

「……触りましたね」

「あ?」

 

 ――次の瞬間、彼は人参へと変わっていた。

 触れれば相手を人参へと変える。

 その恐るべき特異体質を以て、圧倒的に格上であったはずの彼を見事打ち倒してみせたのだ。

 落ちた人参を素早く踏みつけると、グシャグシャと跡形もなくなるまで砕き散らす。

 人参になったままならば、まだ元に戻る事は出来る。

 しかしこうして砕いてしまえば、もう手遅れだ。

 これでとりあえず、クラッシャー軍団の一人は倒した事になる。

 

「ふう、何とか倒せましたね。

さて、他の皆さんは……」

 

 言って、空を見上げる。

 するとそこには、丁度戦士達を倒してきたクラッシャー軍団の4人が滞空し、こちらを殺意の眼差しで睨んでいる所であった。

 

「…………どうやら、全員負けてしまったようですね」

 

 諦めの心境で呟く。

 ああ、これは無理だ。

 4人とも今の場面を見ていただろうし、実際近付いてこようとしない。

 遠くから気弾の連射で仕留める気満々といった顔だ。

 4方向から一斉に発射される気弾の嵐を眺めながら、兎人参化は己の敗北を受け入れた。

 

 撃たれる、撃たれる、撃たれる。

 気弾が全身に当たり、地面を砕き、それでも尚足らぬと気弾が浴びせられる。

 サングラスが砕け、毛皮が血に染まり、意識が朦朧としていく。

 このまま攻撃が続けばものの10秒も待たずに兎人参化は死んでいただろう。

 しかし悪運が強いのか、それとも死ねないからこそ運が悪いのか。

 結果を言えば、彼は死ぬよりも早く助けられる事となった。

 

「やめろーーー!!」

 

 叫び声をあげながら悟飯が空より降下する。

 どうやらチチの目を盗んで抜け出してきたらしい彼は、怒りのままにレズンを蹴り飛ばした。

 しかし勢いよく飛び込んできたはいいものの、悟飯の戦闘力は戦士達の中で最も低い。

 残念ながら餃子にすら劣っているだろう。

 その理由は、サイヤ人を待つ1年の間に彼だけがリゼットの気霊錠を付けていなかった事に起因する。

 リゼットが戦士達に気霊錠を付けた時、彼だけが気のコントロールどころか戦い方すら知らない子供だった。

 だからリゼットは彼に気霊錠を与えず(与えてもただの拘束具にしかならないからだ)、それが今になって明確な差として響いて来たのだ。

 

「このガキ!」

「邪魔だ!」

 

 飛びこんだ事で、とりあえずクラッシャー軍団は兎人参化から悟飯へとターゲットを移した。

 だがそれは獲物が変わっただけに過ぎず、肉食獣の群の中にシマウマが自ら飛び込んだに等しい。

 クラッシャー軍団の猛攻を受けて悟飯は瞬く間に傷だらけになり、岩に叩き付けられる。

 彼の戦闘力では己が何をされているかも解らず、ただ高速で動く複数の影に滅多撃ちされているとしか認識出来ない。

 

「止めだ!」

 

 動け無くなった悟飯に、先程蹴られたレズンが飛びかかる。

 狙いは首、そこに手刀を突き立てればいかにタフなサイヤ人と言えど生きてはいられないだろう。

 しかしまさにその魔手が悟飯に当たる直前に、割り込んで来た緑色の腕がレズンの腕を鷲掴みにする事で悟飯の命を救った。

 

「……あ……」

 

 呆然と見上げる悟飯の前で、白いマントがはためく。

 レズンの腹に拳が突き刺さり、胸倉を掴み上げて強引に引き戻す。

 最後に顔の前で気功波を放ち、レズンの首から上を消し飛ばした。

 

「……大丈夫か、悟飯」

「ピッコロさん!」

 

 悟飯を庇うように立つそれは、敬愛する師匠であるピッコロであった。

 彼の登場に、先程まで余裕を見せていたクラッシャー軍団も警戒したように距離を取る。

 レズンを一蹴したその実力を見て、只者ではないと理解したのだろう。

 素早くスカウターを操作すると、アモンドはピッコロの戦闘力を計った。

 

「戦闘力9000……なるほど、こいつは手強そうだ」

「だが俺達3人でかかれば、どうとでもなる数値だぜ!」

「ンダ!」

 

 ピッコロの戦闘力は他の戦士を上回る。

 だがそれはラカセイからすれば僅差でしかなく、アモンドとカカオに至ってはピッコロに勝ってすらいる。

 レズンが一蹴されたのは恐らく、油断を突かれたからだろう。

 3人はそう判断し、ピッコロを取り囲んだ。

 

「へっ……そいつはどうかな?」

 

 だが3人を前にしてもピッコロの余裕は崩れない。

 それどころか不敵な笑みを浮かべ、そしてその全身が真紅のオーラに包まれた。

 戦闘力を瞬間的に跳ね上げる『界王拳』特有の、炎のように燃え上がる気。

 それがピッコロのマントをはためかせ、戦闘力を一気に上昇させる。

 

「な……せ、戦闘力18000でっせい!?」

「ンダ!?」

「そ、そんな馬鹿な!」

 

 アモンド、カカオ、ラカセイが表示された数値に目を見張る。

 その隙を逃さず、ピッコロはまるで爆ぜたかのようにその場を飛び出した。

 ピッコロの蹴りがアモンドの胸を抉り、胃液が逆流する。

 

「ずえりゃあああああ!」

 

 アモンドがたまらず屈んだ所で頭を掴み、膝を叩き込む。

 のけぞれば、今度は追い討ちのストレートで顎を打ち抜き、倒れかければそれよりも早く腹にエルボーをめり込ませる。

 

「野郎!」

 

 ラカセイがアモンドを救うべく拳を突き出す。

 その一撃は見事貫通し、ピッコロのマントを貫いた――マントだけを。

 瞬間、マントを外したピッコロがラカセイの頭上に現れ、肘を頭部に打ち込む。

 この時点でスカウターは瞬間的に戦力値22000を計測していたが、残念ながらラカセイがそれを見る事はもうない。

 今の一撃で完全に意識が飛んでしまったからだ。

 

「かあっ!」

 

 意識を失った相手に対する容赦のない止め。

 気功波が防御も出来ないラカセイの身体を粉々に吹き飛ばし、それを見届ける事もなくピッコロはカカオに狙いを変える。

 ヤムチャを倒したカカオのジェット噴射を正面から受け止め、足場を削りながらその勢いを殺す。

 そしてカカオの速度が鈍った瞬間に目から怪光線! カカオの顔を焼き、彼を激痛で悶えさせた。

 

「っりゃあ!」

 

 だがピッコロの攻めに休みはない。

 カカオの頭を掴んで引き寄せると膝蹴りを叩き込み、更に回転。

 遠心力を上乗せして、カカオの身体をアモンドへと投げ付けた。

 当然、サイボーグボディのカカオなどぶつけられればアモンドといえどたまったものではない。

 二人は衝突によりダメージを受け、無様に地面を転がる。

 

「……くたばれ!」

 

 そこに連続エネルギー弾!

 両手から次々と繰り出される気弾が弾幕を展開し、カカオとアモンドを飲み込む。

 避けようにも、重なり合った互いの身体が邪魔で動くに動けない。

 防御も回避も満足に出来ないまま、二人はピッコロの気弾を浴び続けるしかなかった。

 

「魔貫光殺砲!」

 

 だがそれで耐えれるかと言えば、答えは否だ。

 ピッコロは更に気を高め、以前よりも格段に発射時間を短縮した必殺の一撃を放つ。

 一条の光が奔り、直後にその後を追うようにもう一つの光が螺旋を描きながら追従する。

 まるでドリルのように貫通力に特化させた、かつてラディッツ諸共悟空をも殺した奥義。

 それが虫の息のアモンドとカカオを仲良く貫き、絶命させた。

 それを確認し、ピッコロは赤いオーラを解除する。

 

「ピ、ピッコロさん……今の技は……?」

「……孫の奴が界王の所で学んだという界王拳だ。

力、スピード、タフさ……これを使えば、全てが倍になる」

 

 ピッコロは悟飯の方を振り向き、ニヤリと笑う。

 その笑みはどこか、自嘲をも含んだものだ。

 

「孫の奴に置いて行かれるのは屈辱だが……奴を真似るのも同じくらいの屈辱だったな」

 

 ピッコロは、前回のサイヤ人との戦いで己の無力さを悟った。

 悟らずにはいられなかった。

 界王の所で修行してきた悟空は基礎的な強さこそピッコロと変わらぬが、しかし悟空の気を常に追っていたピッコロには分かっていた。彼の気が時折、明らかに倍以上に膨れ上がっていたのを。

 つまりこれは倍以上の差を付けられたのと同義であり、もはやライバルなど名乗れるものではない。

 だがその悟空ですら大猿と化したベジータには手も足も出ず、そのベジータすら今代の神には太刀打ち出来なかった。

 

 弱い……俺は何と弱いのだ。

 これで世界征服だなどと、いい笑い話だ。

 これでは弱者が必死に遠吠えをしているようなものではないか。

 何と滑稽で、何と惨め。大魔王だなどと、一体どの面を下げて名乗ればいい。

 

 故に、ピッコロはプライドを一時捨てた。

 孫悟空に組手を持ち掛け、連日彼と戦って打ちのめされた。

 その中で悟空の気の動きを観察し続け、界王拳を体得するに至ったのだ。

 無論屈辱であった事は言うまでもない。

 言葉にして教えてくれと言ったわけではないが、それでも悟空に教えを乞うも同然の行いで、考えるだけで自殺したくなるほどに無様だった。

 しかし、今のままでは己は惨め過ぎる。

 ……ならば耐えるしかない。

 この屈辱を噛み殺し、まずは力を付ける。

 そうしなければ世界など手に入らない。守護者たるあの女にはまるで届かない。

 

 強くなりたい。その一心のみで大魔王は必死に足掻く。

 いつか掴むべき、世界を手にするその日まで――。




リゼットのせいでピッコロさんが妙に苦労人になっている気がしないでもない。
そしてそこまでして戦力を上げても瀕死パワーアップであっさり引き離される。
頑張れ、一応この悟空は劇場版本編よりは弱いぞ。

【各キャラ戦闘力】
―地球側―

・孫悟空(ベジータ戦で瀕死パワーアップ)
基本戦闘力:15000
界王拳2倍:30000
界王拳3倍:45000
界王拳10倍(一瞬のみ):15万

・ピッコロ
基本戦闘力:9000
界王拳:18000
マント抜き:22000

・ナッパ:7000
※瀕死パワーアップ

・以下、前回から変化なし

―クラッシャー軍団―

・ターレス:82万

・アモンド:9100

・ダイーズ:8400

・カカオ:13000

・レズン:8000

・ラカセイ:7600

―(今の所)不参加―

・リゼット
基本戦闘力:12万
最大戦闘力:900万


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第二十一話 地球まるごと超決戦(3)

 ピッコロ達がクラッシャー軍団と戦っているのと同時刻。

 リゼットは全精力を費やして神精樹の処理に当たっていた。

 その全身は淡く輝き、キラキラと白い粒子が彼女を照らしながらその身体へと取り込まれて行く。

 髪やドレスはまるで緩やかな風でも受けているかのようになびき、その光景だけを見れば酷く幻想的だ。

 

 リゼットが行っているのは、先日完成した元気玉モドキを用いての神精樹からの気の吸出だ。

 この神の樹が地球から吸い出した生命力をリゼットが吸収し、開放する事なく己の内に止めている。

 神精樹に寄生された地球は今、生命力を失い荒廃しつつある。

 それを正しい姿に戻すには、奪われた生命力を還元しなくてはならない。

 だが問題は、神精樹があるうちにそれをやってしまうと、またこの樹に吸い取られるだけの循環になってしまう事だ。これでは意味がない。

 だからまずは、一度地球の生命力全てをリゼットの内に溜め込む必要があった。

 そうして奪われた生命力を全てリゼットが己の内に封じ、神精樹を破壊してから地球に還元する。

 そうする事で初めて、この惑星を救う事が出来る。

 

「……く、う……、ぁ……くぁ……っ」

 

 リゼットがその美貌を歪め、歯を食い縛る。

 額からは汗が流れ、顔は熱でも出したかのように上気し、指先は震えている。

 この方法の最大の問題は、肝心のリゼット本人への負担にあった。

 一度地球の生命力全てを一個人の身体で受け止め、封じ込めるという蛮行。

 その負担は凄まじく、今現在リゼットの身体の中では凄まじい勢いで地球の気が荒れ狂っていた。

 

 本家の元気玉と異なり、リゼットの作り出したこの技はエネルギー体として留める事が出来ず、リゼット本人の強化のみにしか使用出来ない欠陥技だ。

 他者に気を分け与えるのと同じ要領で気を還元する事は容易いが、『元気玉』という気の塊として悟空のようにその場に残す事が出来ない。

 リゼットのキャパシティをオーバーしない程度であれば、それは強力な自己強化術となる。

 未来の話になるが、悟空が己よりも勝る合体13号を屠ったように格上すらも倒せるかもしれない。

 しかしキャパシティを超えてしまえば、それはただの自滅だ。

 彼女の身体を内側から蹂躙する津波でしかなくなり、身体が砕けてもおかしくはない。

 己の限界を超えたエネルギーを得る事で自滅する……物語においてはよく起こる事故であり、リゼットはまさにその事態に陥りつつある。

 

 辛いし、苦しいし、全身が今にもバラバラに千切れそうで気が狂いそうだ。

 もう限界だ。今すぐに神精樹を破壊して、この気を地球に解き放ってしまいたい。

 しかし未だ神精樹に奪われた生命力の9割程度しか回収しておらず、そんな状態で神精樹を壊しては、残る1割の生命力が地球に戻らぬままだ。

 勿論それでも地球は救われるだろうし、明日以降も続いて行くだろう。

 だが還元されなかった分の影響が必ずどこかで出る。

 森のいくつかは砂漠と化すだろうし、動植物の中に本来よりも遥かに早く死ぬ者が大勢出るだろう。

 リゼットはそれを解ってしまっているからこそ、こうして苦悶の中で必死に気を留めるしかないのだ。

 

 だが――だが、それでも限界というものはどうしようもない。

 リゼット一人では地球の生命力など到底受け止め切れない。

 

(も、もう、限界……です……っ!

これ以上は私の方が砕けてしまう……神精樹を砕くしか、ない……!)

 

 既に限界は超えている。

 バケツに水を汲み、それでも尚入れたいからとバケツを無理矢理広げてぎゅうぎゅうに押し込んで蓋をした。

 今のリゼットはいわばそういう状況にあり、しかし限界を超えれば容器を中から壊してしまう。

 既に全身が軋んでいる今、これ以上の吸収にはリゼットの身体が耐えられない。

 もう、開放してしまうしか選択がないのだ。

 

 そんな彼女の後ろに巨漢が一人、突如現れた。

 

「……!」

 

 神精樹の処理に全霊を費やしているリゼットは他に気を回している余裕などない。

 だから今、悟空達の戦いがどうなっているかも分からないし、接近にすら気付く余裕がない。

 敵か? それとも無事敵を倒してきた悟空達のうちの誰かか?

 出来れば後者であって欲しいと思いながら、リゼットは視線を後ろへ向ける。

 

 果たして、そこにいたのはサイヤ人であった。

 

「よお、随分辛そうじゃねえか」

 

 キラリと輝く頭部。

 サイヤ人の髪は生後不気味に変化しないので、二度と髪が生えないその頭部は清々しいまでのスキンヘッド。

 太い眉毛に、粗悪さを全面に押し出したような目。

 髭の生えたその顔は、まるで『私が悪人です』と大々的に書いているかのようだ。

 首は太く、その肉体は一目で鍛え抜かれたものだと解る。

 地球人に怪しまれない為に現地調達したのだろう、その衣服は上下黒のジャージ。

 どうせ動き易い服を適当にチョイスしたのだろうが、それは不思議と似合っていた。

 毛を刈ったゴリラ――とでも表現するべき、自称エリートのサイヤ人。

 ナッパと呼ばれていた男が、リゼットの背後に悠然と立っていた。

 未だ幼さを残す身長153の少女の後ろに立つ、2m超えのゴリラハゲ男のその姿、まさに不審者の如き。

 即通報されても仕方のない、極めて犯罪臭い絵面がそこに完成していた。

 

「貴方は……!」

 

 最悪だ、とリゼットは思った。

 いつかどこかで逆襲してくるだろうとは思っていたが、ここで出て来るとは何てタイミングだ。

 そして過去の己に対し、ありったけの罵声を飛ばす。

 ほら見ろ、言わんこっちゃない。絶対後悔する事になるって解っていたのに。

 完全にこちらに従うような言動はしていたが、あれはやはりブラフだった。嘘だったのだ。

 それはそうだ。普通に考えれば分かる。あのナッパがあんな事を言うわけがない。あれ? 何で私ちょっとほっとしてるんでしょう?

 ともかく不味い状況だ。勿論戦えば負けはない。

 しかし衝撃で、せっかく集めた気が霧散してしまう可能性は充分過ぎるほどにあった。

 

「へっへっへ、今なら俺でも勝てそうだなあ」

「くっ……!」

 

 咄嗟にナッパを排除しようとするも、手が動かない。

 溜め込みすぎた気はリゼットの動きすら阻害し、わずかに身じろぐだけで激痛を与えてくる。

 そんな彼女の華奢な肩に無骨で巨大な手を乗せ、ナッパは告げた。

 

 

 

「俺に『それ』を預けてくれ女神様、あんたの手助けがしてえ!

タフさにゃあ、ちょいと自信あるんだ。少しくらいは役に立つだろうぜ」

 

 

 

「――え?」

 

 リゼットは一瞬、己の耳を疑った。

 ここからどんな汚い暴言を吐いてくるかと身構えていた所に、この言葉だ。

 というかぶっちゃけその方がマシだった。

 リゼットの間違いでなければ、これはまるで協力すると言っているようにも取れる。

 そんな、困惑する彼女にナッパは更に言葉を続けた。

 

「どうした? そんな驚いたような顔をしてよ。

もしかして、俺が受けた恩を仇で返すとでも思ってたか?」

「……」

「思ってたのか。ま、無理もねえ事だがよ。

確かに俺は悪党だし、多くの惑星やそこに住む住民をぶっ殺して来た。

鬼だの悪魔だのといった言葉は聞き飽きたし、そう言われて当たり前の悪行は積み重ねてきた。

だがな、そんな俺でも通すべき最低限の筋って奴くらいは通すつもりだ」

 

 ナッパはその厳つい髭面をニカリと歪める。

 

「命の恩は命で返す。

色んなルールや決まり事や、惑星ごとでコロコロ変わる法律なんかは破ってきた俺だがよ……流石にこれは破れねえ。

俺は悪党だが、それやっちまったら悪党以下になっちまう。

何より、今の俺にはアンタへの『信仰』がある! アンタの為なら惑星フリーザの裏側からだって駆け付けるぜ」

「……手伝って、頂けるのですか?」

「やらいでか。ベジータが捨てた俺の命を拾ったのはアンタだ。

だから俺の命はアンタのものだ。死ねと言われりゃあ死んでやるし、戦えっつうんならフリーザにだって挑んでやらあ」

 

 これはリゼットにとって完全な誤算であった。

 勿論嬉しい誤算なのだろうが、喜びよりも困惑の方が大きい。

 しかし降って沸いたチャンスである事は変わりなく、これに頼らぬ手はない。

 ナッパを怪しまないわけではないが、もうそんな事を考えている余裕すらリゼットにはなく、今だって荒れ狂う気を必死に抑えるので精一杯だ。

 

「わかりました。貴方の協力に感謝します。

……覚悟はいいですか?」

「常在戦場。サイヤ人はいつだって戦場に立っている。覚悟を問うのは無粋だぜ」

 

 ナッパがさっさとやれと催促し、リゼットもそれに頷く。

 そして彼に向け、膨大な気を送り込んだ。

 思わぬ援軍の登場により、もう少しだけ神精樹から生命力を取り戻す事が出来そうだ。

 これで地球を元通りにする希望が出てきた。

 後は悟空達が侵略者を倒すだけだ。

 

(私はまだ、ここから動けない。頼みますよ、悟空君……皆)

 

 

「さあ来い、カカロット!」

 

 ターレスが悟空を挑発し、それに悟空が乗る。

 全身から赤いオーラを出し、戦闘力を倍加させてターレスに拳を繰り出すも、難なく掌で受け止められた。

 ターレスは受け止めた悟空の拳を強く握り、ニヤリと笑う。

 

「戦闘力3万か……悪くねえ。

昔の惑星ベジータなら、最強を名乗れる数字だ」

「っ!」

「だがそれじゃあ、俺には届かない。

神精樹の実を食べ続けてきた俺と貴様との間には、天と地程の力の差があるのだ」

 

 ターレスは軽く悟空の腹を蹴り上げ、吹き飛ぶよりも早く頭部を強打する。

 悟空はそれに防御すら満足に行えず、地面に向けて高速で叩き付けられた。

 ターレスはそこに追撃をかける事もなく、悟空が立ち上がるのを待つ。

 

「どうだカカロット。俺と一緒に来る気はないか?」

「な、何……!?」

「俺と一緒に来りゃあ、お前はもっと強くなれる。

神精樹の実を食べりゃあ、その戦闘力が更に飛躍的に上がるんだ。

そうすりゃ、あるいは俺すらも超えるかもしれんぞ」

 

 ターレスは悟空に、彼にしては優しい声色で告げる。

 一気に本気を出さず、こうして加減して戦っているのも彼を引き込みたいからだろう。

 しかし悟空は、それに対し当然のように否を示した。

 

「ふざけるな! オラ、お前達の仲間になんかならねえぞ!」

「俺達は生き残ったサイヤ人のわずかな仲間……そう邪険にするなよ。仲良くしようや」

 

 悟空は再び飛び出し、ターレスに猛攻を仕掛ける。

 だが当たらない。

 避けられ、防がれ、まるで子供の相手でもするかのように軽くいなされてしまう。

 

「宇宙を気ままに流離い、好きな星をぶっ壊し、美味い物を食い、美味い酒に酔う。

こんな楽しい生活はないぜ?」

「オラ、そんなの楽しいとは思わねえ!」

「ち、どうやら頭を打ったってのは本当らしいな。

とてもサイヤ人とは思えねえぜ」

 

 繰り出される悟空の両拳を容易く掴み、動きを封じた所で蹴りを放つ。

 重い衝撃。悟空の呼吸が一瞬止まり、すかさずターレスは彼の、自分とよく似た髪を鷲づかみにした。

 

「このポンコツの頭をもう一度ブッ叩けば元に戻るか?

サイヤ人はサイヤ人に相応しい生き方をしろ、カカロット」

「……っ、オラは小さい頃に頭を打ってよかったって思ってる……。

じゃねえと、お前みたいな酷い奴になってたかもしれねえ」

「…………よかっただと?」

 

 悟空の言葉に、ターレスの顔つきが変わる。

 それまでは余裕のある笑みだったものが、まるで今にも暴れ出しそうな怒りに満ちた顔となった。

 彼は悟空の頭を強く掴み、低い声で語る。

 

「名前を忘れ、生まれた惑星を忘れ……テメエをこの星に逃がした両親の事すら忘れ、それでよかったと云うか、貴様!」

「に、逃がした……? 何を言ってる?

オラはこの地球を侵略する為に送られたってラディッツが言ってたぞ!」

「あんなのはただの方便だ。そうとでも報告しなきゃ、貴様はフリーザの部下に撃墜されていた。

よく聞け、カカロット……貴様がこの地球に送られた理由は、貴様を生かす為だ!

惑星ベジータの最期を一早く予感した貴様の父が、我が子を生かす為に『飛ばし子』として貴様をこの辺境の惑星にまで飛ばしたのだ!」

 

 かつて悟空は実兄のラディッツに『お前は侵略の為に送られた』と教えられた。

 しかしその事実はここで覆る。

 悟空が送られた理由は侵略の道具にする為ではなく、守るため。

 親に捨てられたのではなく、愛されていたからこそ。

 だから、こんな人材と資源に何の価値も見出されていない、大した戦力もいない、それでいて環境だけは宇宙でも随一に整った都合のいい惑星に飛ばされたのだ。

 

「そして我が子を逃した後に、たった一人で絶望的な戦いに向かい、運命に抗った男がいた!

それこそが貴様の父であり、俺の師であるバーダックだ!

俺がこの世で唯一人、真に尊敬した戦士の名だ!

貴様にはその男の血が流れている――それを忘れたなどとは言わせんぞ!」

「!!」

 

 瞬間、悟空の脳裏を過ぎったのは見知らぬ――しかしどこか懐かしさを感じる夫婦の顔であった。

 一人乗り用のポッドに乗せられる、赤子の自分。

 それを外から眺める、自分とよく似た男と、柔和な笑顔の女性。

 

『カカロット、満月の夜は月を眺めるなよ』

『この事はラディッツにも伝えておく。頑張って生きるんだよ!

後で必ず迎えに行くからね!』

 

 知らない二人だ。

 しかし悟空は、それが誰なのかを瞬間的に理解していた。

 恐らくはこれこそが、ターレスの語る己の両親。

 ラディッツの語った虚言とは異なる、真実の記憶。

 過去に記憶を飛ばす悟空を突き飛ばし、ターレスは荒々しく猛る。

 

「かかって来い、カカロット。

バーダックに代わり、俺が貴様の腑抜けた頭を叩き直してやる。

サイヤ人の戦いを教育してやるよ」

「……オラは地球で育った、孫悟空だ」

「そうかい。なら俺をぶっ飛ばしてそれを突き通してみせな」

 

 ギラギラと燃え盛るサイヤ人の闘志。

 相手が完全な格上だというのに、悟空は不思議とワクワクしている自分に気付く。

 あるいはそれは、己を真っ直ぐに見るターレスの背後に、己の父の幻影が重なるからだろうか。

 

 身体に負担のかかる界王拳を10倍にまで無理矢理跳ね上げ、悟空が飛ぶ。

 それをあえて正面から受けるターレスと彼の姿は、まるで兄弟が戯れているかのようであった。




ラディッツ「えっ!? カカロットって侵略の為に送り込まれたんじゃなかったのか!?」


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第二十二話 地球まるごと超決戦(4)

・前回多かった質問への返答
Q、地球の気でナッパの頭部も復活したりしないかな?
A、
地球「人間は何かを破壊して生きていると言っていい生物だ。
その中でお前の質問はこの世のどんな事よりも優しい。
だが……生命が終わったものはもう戻らない。
どんなスタンドだろうと戻せない……」


 短時間とはいえ、10倍界王拳は今の悟空にとって負担の大きすぎる技だ。

 そもそも悟空が引き出せる限界は精々3倍程度であり、10倍などとても耐えられるものではない。

 無茶な力の引き上げは筋繊維を痛め、身体を鉛のように重くする。

 気もほとんど使い果たしてしまうし、まるで割に合わない。

 それでも悟空が10倍の使用に踏み切ったのは、そうしないと勝負にすらならないと感じたからだ。

 ターレスが言った通り、二人の間の戦力差は天と地の開きがある。

 ならば10倍にでもしなければとても勝てない。

 そう感じた悟空の判断は正しく、しかしそれでも尚届かぬ現実があった。

 

「ほう、戦闘力15万! こいつは驚いた!」

 

 ターレスは嬉しそうに言いながら、相変わらず余裕の表情で悟空の攻撃を捌く。

 悟空とて遊んでいるわけではない。

 時にフェイントすら織り交ぜながら、己が出来る限界以上の攻撃を繰り出している。

 しかし届かない、当たらない。

 紅蓮の炎の如き闘気を纏った拳が悉く、虚しく空振る。

 

「あありゃあああああ!」

 

 悟空が吼え、更に拳の速度を速めた。

 互いの腕と足が高速で交わされ、秒間数百もの接触をし、肉と骨がぶつかる音が響く。

 姿が消える――直後、空気が爆ぜた。

 余りに高速で動いている為か互いの姿は見えず、打撃の音だけが遅れて響き渡る。

 足場が崩れ、岩が砕け、残影が走り、幾度となく空気が爆ぜる。

 常人の目でこの戦いを見たならばきっと、空気が幾度も爆ぜながら、まるで大砲のような音が響き続けている……としか認識出来ないだろう。

 

「だが温いぜ!」

 

 ターレスの肘打ちが悟空の頬を打ち、吹き飛ばす。

 一瞬吹き飛ぶ意識。それでも悟空はかろうじて己を繋ぎとめ、空中で回転する。

 そして再び決死の界王拳。全身を紅蓮に包み、ジェット噴射のような加速で飛び立つ。

 赤い軌跡を残して飛び、空中で方向転換!

 まるで直角に曲がるかのようなありえない軌道を描き、ターレスへと迫る。

 しかしターレスは消えたも同然の悟空の高速移動を捉え、カウンターの蹴りを延髄に叩き込んだ。

 

「がっ……!?」

 

 炎が消え、悟空が地面に崩れ落ちた。

 決死の覚悟で行った10倍界王拳すら通じなかった。

 その事実と、そして界王拳の反動が悟空から立ち上がる力を奪う。

 駄目だ、実力で挑んでも勝てない。

 あのターレスという男の強さは、大猿と化したベジータすらも上回っている。

 この地球の神であるリゼットですら勝てるかどうか……。

 萎えかけそうになる一方で、それでも立とうとするのはサイヤ人の本能ゆえか。

 そんな悟空の隣に、クラッシャー軍団を蹴散らしたピッコロが着地した。

 

「孫、元気玉だ。奴を倒すにはそれしかない。

貴様が界王の所で学んだと言う元気玉を使うんだ」

「ピ、ピッコロ……駄目だ、奴を前に元気を集める時間がねえ」

「なら、それまでは俺が稼いでやる!」

 

 ピッコロが真紅のオーラに包まれ、ターレスと相対する。

 無論、実力差は明白だ。戦闘力にしてピッコロが精々3万にも届かないのに対し、ターレスは80万を超える。

 だがそんなのは知った事ではない。

 敵う気がしないので放置したら地球が滅びました、なんて言い訳にもなりはしない。

 やれるかやれないか、ではない。

 やるしかないのだ。

 

「戦闘力18000……悪くはねえが、その程度で俺に敵うと思うのか?」

 

 ピッコロの烈火の攻めをターレスは面倒そうに片手で捌く。

 悟空はそれを見ながら、両手を宙へと掲げた。

 元気玉が完成するまでの時間は約10秒間。

 だが1秒が10秒にも等しい高速体感戦闘の中において、それはあまりに長すぎる時間だ。

 1秒の中で攻防を繰り広げるなど、それこそ子供の頃のクリリンだって出来た事なのだ。

 それをこのレベルで行い10秒稼ぐとなると、それはもう気の遠くなる程の時間だ。

 

「孫! ピッコロ! 目を瞑れ!」

 

 上空から天津飯の声が響く。

 クラッシャー軍団との戦いに敗れた彼だが、どうやらまだ戦えるようだ。

 仲間の健在を嬉しく思うと同時に彼の狙いを悟った悟空が目を閉じ、ピッコロもそれに続く。

 目を閉じていないのは狙いを把握出来ていないターレスだけだ。

 

「太陽拳!」

 

 視界を焼く眩い閃光が辺りを照らす。

 太陽拳の事を何も知らないターレスが光を直視し、目を抑えてよろめいた。

 眼球というのはいかにサイヤ人でも脆い。

 そこに太陽の如き光を浴びせられれば、誰であろうと目を瞬間的に守ろうとしてしまう。

 これは生物の本能と呼んでもいい防衛行動であり、即ち防ぐ事は不可能に等しい。

 

「気円斬!」

 

 そこに、天津飯と同じく立ち直ったクリリンが斬撃を飛ばす。

 戦闘力の開きはあれど、うまく当たればこれでターレスといえど切断は可能だろう。

 しかしターレスは目が見えない状態でありながら音で何かが飛んで来ている事を把握し、更に空気の音を聞く事でその細かな形すらも一瞬にして把握してみせた。

 

「ほう、面白い技を使うな」

 

 そして、飛んできた気円斬を指先で摘んで投げ捨てた。

 これには攻撃した側のクリリンが度肝を抜かれ、動きが止まる。

 ターレスはその隙に目を閉じたまま、音が聞こえた大体の位置に当たりを付けて気弾を放つ。

 するとクリリンは成す術もなく吹き飛ばされた。

 それと入れ替わる様にヤムチャが飛び込み、狼牙風風拳でターレスへ挑む。

 しかし視界を塞がれた状態で尚、ヤムチャの拳打は悉く防がれ、逆にターレスの拳がヤムチャを打った。たったそれだけの事でヤムチャは糸が切れたように崩れ落ちる。

 だが彼が稼いだ僅かな時間で気の充填を済ませていたピッコロが指先を向けた。

 

「魔貫光殺砲!」

 

 ピッコロが魔貫光殺砲を放つ。

 瞬間戦闘力上昇にして3倍以上、今の界王拳を使っている状態ならば5万の戦闘力にも匹敵する一点集中の一撃だ。

 ターレスはそれに僅かな警戒を抱いたのか、瞳が太陽拳の影響から回復すると同時に掌を翳した。

 閃光が爆ぜ、貫通力に特化させた一条の輝きがターレスの手に当たる。

 ――結果は、無傷。

 ターレスは笑みを崩さぬまま、魔貫光殺砲を受け切っていた。

 

「……少しは効いたぜ」

「な、あ……!」

 

 驚愕するピッコロに、掌を向けた体勢のまま気弾を放つ。

 この時、もしも素のピッコロであれば間違いなく死んでいただろう。

 しかし界王拳を使っていた事と、魔貫光殺砲によって瞬間的とはいえ戦闘力が跳ね上がっていたのが幸いした。

 気弾に全身を焼かれながらも、かろうじてピッコロは命を繋ぎ止めていたのだ。

 

「ちいーっ!」

 

 最後に天津飯がやぶれかぶれの特攻を行う。

 だがそんなものがターレスに通じるはずもない。

 まるで虫でも払うかのようなぞんざいな裏拳一発で天津飯の意識はブラックアウトし、壊れた人形のように地面を転がった。

 この間、僅か10秒。たったの10秒で地球の戦士達は一人のサイヤ人の前に敗れ去った。

 しかしその時間は決して無駄ではない。

 彼等が稼いだ時間に、悟空が元気玉を完成させたのだから。

 

「……! ほう、驚いたぜ……。

まだそんなものを作る力が残っていたとは。

それにその構え……偶然だろうが、ソックリだ」

「……?」

 

 元気玉を右手に持ち、今にも投げつけようと構える悟空の姿に、ターレスは在りし日のバーダックを見た。

 そう、奇遇にも今の悟空の構えは彼のそれと似通っていたのだ。

 

「確か……こんな感じだったな!」

 

 そう言い、ターレスは悟空と鏡合わせのような構えを取る。

 構えた右手に気を集約し、一点の威力を高める。

 それは己の気と、周囲から集めた気という違いこそあれど、非常に似た構えの技であったのだ。

 

「……! す、すげえ気だ……!」

「さあ、最強の秘技同士の激突だ。どっちが勝つかな?」

 

 発射前の二人の気の胎動だけで周囲の瓦礫が浮き上がる。

 大地が揺れ、地球全体がその激突に怯える。

 悟空の右手には地球からかき集め、神精樹からすらも元気を吸い取った元気玉。

 ターレスの右手には己の気のみを最大限にかき集めた、サイヤ人の魂の一撃。

 

「元気玉ーーー!!」

ファイナルスピリッツキャノン(これで最後だ)!!」

 

 二人の中央で最大の技が衝突し、拮抗し合う。

 紫電が弾け、空気が爆ぜる。

 その余波だけで悟空は倒れ込み、ターレスもまた風圧を必死に堪えていた。

 二つの光球が幾度も押し合い、消し合い、互いを喰らい尽くそうと牙を剥く。

 数秒にも渡る衝突――やがて勝利したのは元気玉だった。

 

「っ、ちいい!」

 

 ターレスは己に迫る気の塊を、腕をクロスして防御する。

 爆炎が彼を覆い、今までよりも一際大きな振動が地球を揺さぶった。

 

「や、やったか……?」

 

 悟空は地面に倒れたまま、勝利を願う。

 もう立ち上がれないし、動けない。

 あの元気玉には残っていたありったけの気すらも込めたのだ。

 それどころか、今はもう倒れている仲間達の気すら借り受けている。

 つまり正真正銘最大最後の一撃であり、あれが効かなければ後がない。

 

 そしてターレスは、煙の中から五体無事のまま姿を現した。

 

「……ッ!!」

「……く、くく……やるじゃねえかカカロット……嬉しいぜ。

やっぱお前、俺が思った通りに強くなったなあ」

 

 ターレスは生きていた。

 全身が傷付き、戦闘服が砕け、血に濡れながらも未だ健在で地面に立っている。

 ここに勝敗は決した。

 もう動けない悟空と、満身創痍ながらも動けるターレス。

 この構図を見て、勝敗が分らぬ者などいない。

 悟空は無念に拳を握り、ターレスはそんな彼を嘲るでもなく、心底嬉しそうに笑う。

 

「カカロット、やっぱお前、俺と一緒に来いや。

確信したぜ……フリーザの野郎をブチ殺すのはお前だ。お前しかいねえ。

お前がサイヤ人の仇を討つんだ、カカロット」

「フリー、ザ?」

「俺達サイヤ人やベジータの裏にいる奴さ。

そいつこそが数々の惑星を滅ぼすように俺達に命じていた張本人であり、諸悪の根源と言っていい。

……ま、俺達サイヤ人が悪くねえなんて言うつもりはねえがよ。だが流石の俺もあいつの悪党ぶりにゃあ負ける。

あいつに比べりゃ俺や、ベジータのお坊っちゃんなんて小悪党みてえなもんさ」

 

 フリーザ。

 初めて聞くその名前に悟空は震えた。

 それは恐怖からの震えかもしれないし、あるいは強敵を求めるサイヤ人の本能が起こした武者奮いかもしれない。

 

「この地球にとっても他人事じゃない。

奴は今、ナメック星に向かっている……ベジータもな。

この意味が分かるか?」

「ナメック……? ま、まさか!?」

「よし、頭の回転は悪くねえな。

そうだカカロット。奴等はナメック星人を皆殺しにしてドラゴンボールを得て、そして永遠の命を手にするつもりだ。

それでどちらかが不老不死になってみろ。

ベジータなら、当然この地球を真っ先に砕きに来るだろう。

今度来る時は不老不死だ。お前等に勝ち目はないぜ」

 

 ターレスの言葉に悟空は険しい顔をする。

 確かに、それは勝てない。

 何をしても死なない大猿ベジータなど、想像するだけで絶望しそうになる。

 

「そしてフリーザが不死身になりゃあ……世界の終わりだ。

宇宙はこれから未来永劫、あいつの恐怖に支配される事になる。

そして真っ先に壊されるのはこの地球だ。

ドラゴンボールがあるこの星を放置して、それで折角の不老不死を無効化とかされちゃかなわんからな。

俺がフリーザなら、確実にそうする」

「……!」

「分かるかカカロット。もうこの宇宙には猶予がねえんだ。

誰かが今、フリーザを殺さなければならない。

奴が不死身になる前に!」

 

 ターレスは倒れている悟空に手を差し出す。

 さあ掴め、という事だろうか。

 俺と共に来い。俺と共にフリーザを倒そう。

 その誘いを前に、悟空はしかし動けない。

 

「俺と一緒に来い、カカロット。そうすりゃあ地球の事は諦めてやる

お前には戦闘力を超えた何かがある。

俺と共に来れば、必ずフリーザを殺せる男になれる!

そして……」

 

 そこまで話し、ターレスはニヤリとその顔を邪悪に歪めた。

 

「フリーザを殺したら、俺達で宇宙を手に入れようや。

サイヤ人の天下を俺達の手で築き上げるのだ」

「――最後の一言さえなければ、悪くない申し出でしたね」

「っ、!?」

 

 悟空を誘うターレスの後ろに、光球が降りる。

 よく見ればそれは、眩い輝きに包まれたこの惑星の神、リゼットの姿であると分かる。

 神精樹からの気を取り込みすぎて、今のリゼットは膨大な気を蓄積した状態となっている。

 その余剰分が外に溢れ、このような光の玉と化してしまっているのだ。

 そして、彼女の登場と同時にターレスの付けていたスカウターが爆散した。

 

「この惑星の神か! いい所で邪魔を!」

「貴方の植えた神精樹は既に処理し終えました。

そして今、神精樹に蓄えられていた気の殆どは私が保持しています。

この意味、貴方ならば分りますね?」

「――っ!」

 

 リゼットの言葉にターレスの顔色が変わる。

 神精樹の集めていた生命力を殆どこの神が奪ってしまったという。

 もしそれが本当ならば、彼女は言わば神精樹の実を全て食してしまったも同然の状態にあるという事だ。

 ならばその戦闘力は?

 ベジータを倒した戦闘はターレスも見ていた。その時点でこの女は戦闘力24万を叩き出していたはずだ。

 そこにこの惑星の気を全部上乗せしたとしたら?

 ……100万? 1000万? 1億? あるいはそれ以上かもしれない!

 とてもターレスの太刀打ち出来る存在ではない。

 

「貴方の負けです。大人しくこの星を去りなさい」

「……畜生!」

 

 地球の神からの退去宣告。

 それに逆らうという選択肢は、ターレスに与えられていなかった。




リゼット(早く立ち去って下さいお願いしますもう限界というかこれ以上気を抑えていられないんです漏れちゃう漏れちゃうからもう抑えてられない気が溢れる高まる早く早く早くあああああ)

※実は戦いどころではない模様


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第二十三話 インターミッション

 戦いは終結した。

 単純な戦闘の勝敗を語るならばターレスの勝利、と呼んで間違いはないだろう。

 彼は悟空を倒し、ピッコロを倒し、クリリン達をも蹴散らしてみせた。

 無論無傷というわけではなく、決して軽くない傷を負いクラッシャー軍団も壊滅したが、それでも最後に立っていたのは彼だ。

 しかし勝敗を語るならば彼は負けた。

 いかに悟空達を蹴散らそうと、神精樹を枯らされた上に地球の気の大半を取りこんだリゼットを最後に残してしまってはどうしようもない。

 それに悟空の元気玉で受けた傷も深刻だ。

 残念ながらここは退くしかない。そうターレスは結論付けるしかなかった。

 

「カカロットよ」

「……何だよ?」

 

 仙豆によってすっかり回復した悟空に、ターレスが視線を送る。

 彼を連れて行くという計画は完全に台無しとなった。

 神精樹も作れず、更に部下達までも失うという大損害だ。

 しかし収穫はあった。

 あのバーダックの息子の成長と、その可能性。

 ターレスはその可能性を見ただけでも、この星に来た価値はあったと確信していた。

 

「俺の言った事を忘れるな。

この星にドラゴンボールがあるという情報をフリーザが得ている以上、お前達はいずれ必ず奴と戦う宿命にある。

……ナメック星で待っているぞ!」

 

 きっとカカロットは来る。

 そう確信したような声で先に行く事を告げ、ターレスは宇宙船に乗り込んだ。

 ドアが閉まり、宇宙船が浮遊する。

 それを見上げる悟空の表情は複雑であり、別れを惜しんでいるようにすら見える。

 そして、ターレスを乗せた宇宙船は遥か遠くの宇宙へと飛び立って行った。

 

 

 

「……ふう」

 

 宇宙船が地球の外にまで出たのを感知し、リゼットは気が抜けたように息を吐く。

 しかし、まだ終わってはいない。

 これから地球を元に戻さなくてはならないのだから。

 彼女はナッパを連れて天高く飛翔すると神殿に着地し、そこで虚空に手を掲げる。

 ――解放。

 己の内に留めていた膨大な地球の気を、万遍なく地球全域へと降り注がせる。

 まるで雪でも降っているかのように白い気が地球全土へ祝福のように降り注ぎ、枯れていた大地や萎えていた植物達が生気を取り戻して行く。

 ついでにナッパに貸していた生命力も元気玉モドキで回収し、地球へと還元した。

 

「これで、地球は元に戻るでしょう。

ご苦労様でした、ナッパ」

「おう。すげえもんだな、惑星のエネルギーってのはよ」

 

 生命力を全て地球に還元した事で今回のリゼットの役目も無事終了だ。

 今回の戦いはリゼットの予定外の事であったが、終わってみれば収穫の大きな戦いであった。

 何といってもターレスが悟空達に齎した情報が大きい。

 これでリゼットからも無理なくナメック星への出発を切り出せるというものだ。

 内心、どうやって悟空達をナメック星に行かせようかと悩んでいた彼女にとって今回の件はまさに渡りにターレス。棚から落ちたナメック星だ。

 

 しかし同時に一つハッキリとした事がある。

 ここまで来ればもう、疑いようもない。

 この世界には劇場版やアニメオリジナルの者達が普通に生きている。

 という事は、今後スラッグやクウラといった者達と出会う確率も高いというわけだ。

 スラッグはまあ、いい。まだリゼットなら何とかなる相手だ。

 しかしクウラは無理だ。

 今より強くならないと、とても手に負える気がしない。

 

(やはり、ナメック星に行き潜在能力を引き出してもらう事は必須事項……。

全体のレベルアップも計らないといけませんね)

 

 原作ならばフリーザ、人造人間、セル、ブウ辺りを警戒すればそれでよかった。

 だが劇場版込みならば、ここにスラッグ、クウラ、人造人間13~15号、ブロリー、ボージャック、ジャネンバ、ヒルデガーンを加えなければならない。

 全く、頭の痛くなる話だ。

 幸いなのは、自主的に地球を狙ってくるのがスラッグくらいだという事か。

 

(……これ、悟空君達と私だけじゃ厳しくないですか?

いっそパラガス見付けたらコントロール装置奪ってブロリーをこちら側に……いや、悟空君近くにいたらすぐ暴走しますね)

 

 

 問題は、あまりにも山積みだ。

 ともかく、あれこれ考えても仕方ないので今はナメック星行きについて考えるとしよう。

 

 

 次の日。

 カプセルコーポレーション前に集った悟空達はリゼットが心配するまでもなくナメック星行きを本気で検討していた。

 リゼットの疑問としては、何か当たり前のように参加しているナッパの存在だろう。

 凄い普通に紛れ込んで普通に会議に参加しているが、それでいいのだろうか?

 誰か突っ込めよと思うも、誰一人としてナッパに突っ込みを入れない。

 しかも今日の服装はアロハシャツだ。舐めてるのかこのハゲ。

 

「オラは、ナメック星に行くべきだと思う。

フリーザって奴の事はよくわかんねえけど、ベジータが不老不死なんかになったらとてもじゃねえけど手に負えねえ」

 

 まず、ナメック星行きを強く推奨したのは悟空だ。

 実際にベジータやターレスと戦い、その強さと恐ろしさを実感したからこその重い言葉である。

 

「俺も行くぜ。

俺は戦いたい……俺の生まれ故郷だという、その星で」

 

 次にピッコロが拳を握り締め、ナメック星行きに賛同した。

 この様子だと、悟空達が行かなくても一人で行ってしまうかもしれない。

 そう思わされるくらいには、彼の決意は強かった。

 

「あのターレスという奴の口車に乗るのは癪だが、ベジータを不老不死にするわけにはいかん。俺も行くぞ」

「天さんが行くなら僕も」

 

 続いて天津飯と餃子が名乗りをあげる。

 餃子は自分の意思というよりは天津飯に追従しただけに見えなくもないが、これで賛同は4人だ。

 

「ちょ、ちょっと怖いけどよ。俺も行くぜ。

役に立てるかわからねえけどな」

「勿論、俺の事も忘れるなよ」

 

 最後にクリリンとヤムチャが賛同し、これで戦士達全員の意思は決まった。

 彼等は意見を求めるようにリゼットへ視線を走らせるが、これはリゼットとしても望む展開だ。

 反対の言葉などあるはずもない。

 しかし、誰も言わない以上ここで一つの問題点を提示しておく必要はあるだろう。

 

「私からの反対意見はありません。

ただ問題はナメック星との距離です」

「距離?」

 

 リゼットの言葉にクリリンが緊張したような顔で聞き返す。

 恐らくその表情は『嫌な予感がする』といった類のものだろう。随分顔に出やすいようだ。

 そしてその予感は大当たりであった。

 

「ナメック星人の気を探ってみたのですが、地球とは少し距離が開きすぎています。

SU83方位の9045YX座標……これ、今の科学力で到達出来る距離じゃないですよね?」

「げ……え、えーと、そうなの?

ブルマさん、何とかならないかな?」

 

 リゼットの出した数字にクリリンはよく分からなそうな顔をしてブルマへと話を振る。

 すると、ブルマは既に電卓を取り出して青い顔で計算を行っていた。

 

「じょ、冗談じゃないわ。

父さんが作った世界最高のエンジンを載せた宇宙船でも4339年かかるわよ!」

「げえっ!? な、なんとかならねえのか?」

 

 流石に学の浅い悟空もこの数字には驚くしかない。

 4339年……そんな時間を待つくらいならば地球でフリーザかベジータが来るのを待ち構えた方がマシだ。

 しかし慌てる彼等に、意外な所から助け舟が出た。

 

「それなら俺の宇宙船を使えばいい。

それにカカロットが地球に来た時の宇宙船もまだどこかにあるはずだろう」

「ナッパ!」

「……勘違いするな。女神の為に協力してやるだけだ」

 

 失意に沈みかけた皆が一斉にナッパを見る。

 彼はつまらなそうに目を逸らしているものの、これで宇宙へ行く光明が見えたわけだ。

 勿論それだけでは全員が宇宙へ行く事など出来ない。

 サイヤ人の宇宙船は一人乗り用のポッドであり、今のままでは二人しかナメック星へ行けないからだ。

 お、お前と一緒にナメック星に行く準備を……。

 一人乗り用のポッドでかぁ……?

 しかしそこは地球一の天才、ブルマ。

 サンプルさえあれば、それが例え未知の技術で作られた異星人の宇宙船だろうと分析し、同じ性能……いや、それ以上の物を作り出す事が出来る。

 

「これならいけるわ。早速宇宙船を回収しましょう」

「後は宇宙に行くメンバーだな。ブルマ、その宇宙船は元々一人乗りのようだが、何人乗りくらいにまで改造出来るんだ?」

「うーん、実物を見ないと何とも言えないけど……まあ、私に任せなさい。

ちゃんと全員乗れるようにしておくわよ」

 

 ヤムチャの問いに、ブルマは頼もしく答える。

 普通は現物を見たからといって、それを分析出来るとは限らない。

 例えば遠く離れた過去の人間に現在の最新鋭機械を見せた所で理解は出来ないだろう。

 リゼットの前世で言うならば、室町時代の人間に平成の世の飛行機を見せて「さあ分析して同じ物を造れ」と言っているようなものだ。

 これは別に誇張表現でも何でもなく、むしろそれどころかまだ抑えた表現ですらある。

 それほどに地球と惑星ベジータの科学力は隔絶し切っているのだ。

 4339年かけてようやく辿り着ける文明に対し、僅か7日の航行で到着するサイヤ人。

 倍数にして凡そ22万倍もの開き。これを埋めろなど無茶難題もいい所だ。

 出来るわけがない、不可能だ。今の科学で模造出来る領分を完全に上回りすぎている。

 

 だがブルマは出来る。彼女は出来る。

 何故なら彼女は常識など完全に踏み越えた天才だからだ。

 

 ブルマはよく悟空達を出鱈目呼ばわりする。

 滅茶苦茶で常識外れな連中だとヒステリックに喚く。

 だがリゼットに言わせれば彼女こそが本物の常識外れであり、出鱈目を具現化した存在であった。

 22万倍の差……それがどれだけ途方もない科学力の差なのかは、科学者ならぬリゼットには想像出来ない。

 しかしきっと、ライト兄弟の時代に宇宙船を持ちこむ程度の文明差では済まないだろうとは確信していた。

 

「では、全員乗れると仮定してよさそうですね。

兎人参化、貴方も同行してあげなさい」

「え? 私ですか?」

 

 リゼットは本来原作にいなかった兎人参化をあえて投入する事にした。

 どうせもう原作なんて砕け散っているのだし、むしろイレギュラーが発生しすぎている現状で歴史通りに進むのはかえって危険だ。

 土壇場で戦力不足になるのが見えきっている。

 ともかく、敵が増えているのだから、こっちも数を増やさないと話にならない。

 

「俺も行っていいかい。ベジータの野郎は一発ブン殴らねえと気が済まねえ」

 

 続けてナッパが名乗りをあげた。

 やはりベジータに見殺し(死ななかったが)にされた事は相当腹に据えかねたらしい。

 つい先日まで敵で、しかも侵略者だった男だが悟空達は特に反対しなかった。

 まあ、この世界でのナッパのイメージは……こう言っては何だかベジータのオマケ程度でしかないだろう。

 誰も殺せていないし、ピッコロに一蹴されていい所なしだ。

 つまりそれほどのマイナスイメージは抱かれていない。

 

「あ、あの……神様は来てくれないんすか?

正直、ベジータやあのターレスって奴がいるとなると神様には来て欲しいっていうか……」

 

 クリリンが助けを求めるような目でリゼットを見上げる。

 将来的なものはともかくとして、現状の戦力を言うならばリゼットがダントツだ。

 未だ一度として全力を出していないし、本気を出せばフリーザの第3形態までなら何とかなるという確信もある。

 そしてリゼット自身としても、勿論ナメック星には行くつもりだ。

 最長老の潜在能力開放は余りにも魅力的で捨て難い。

 

 しかしリゼットは必ずしも宇宙船に乗る必要などない。

 その気になれば、それこそ今すぐでもヘブンズゲートによる空間移動で単騎ナメック星突入すら可能なのだ。

 つまりリゼットにとって宇宙船搭乗には何のメリットも存在していないのだ。

 

「私はパスです。それに皆が宇宙船に乗っている間、地球に何も起こらないとも限りませんし」

「そ、そんなあ……」

「まあ、そう心配しなくても皆がナメック星に着いたら私も合流しますよ」

「へ?」

「空間転移というやつです。私なら宇宙船に乗らなくても、一人でナメック星まで跳ぶ事が出来ます」

 

 リゼットは不安そうにしているクリリンを安心させるような笑顔を浮かべ、己の持つ能力を説明した。

 

「私の持つ能力の一つで、ヘブンズゲートといいます。

本来は敵を亜空間に放逐してしまう技なのですが、これを応用すれば対象をナメック星に飛ばす事も不可能ではありません」

「ほえー、すっごいんですね、神様って……」

「……先代はそんな事出来なかったがな」

 

 リゼットが語った宇宙船以外の移動方法にクリリンが感心し、ピッコロが舌打ちしながら補足を入れる。

 神が凄いのではない、この女がおかしいのだ。

 ともかくこれでナメック星に行く方法は決まった。

 戦士達は宇宙船で。リゼットは空間転移で。

 それそれの手段で移動し、ナメック星で落ち合えばいい。

 そう決まりかけた所で、先程から無言だった悟飯が遠慮するように言葉を挟んできた。

 

「あ、あの……それ、神様のヘブンズなんとかって力で皆でナメック星に行けるんじゃ……」

「――あ」

 

 

 この瞬間、宇宙船の価値は消失した。




ヘブンズゲート「あ、俺いるから君等もう来なくていいよ。勿論ギャラもなしね」
ポッド「なん……だと……」
神様の宇宙船「ありえない……こんな……理不尽……っ!」

【以下、リゼットが気付いていない最速攻略法】
・ヘブンズゲートでの星間移動が可能なので実はここで18話でリゼットが不可能と判断した方法が復活しています。具体的には以下の手順。
1、ヘブンズゲートでリゼットがナメック星へ移動。
2、ナメック星人達を説得して地球へ移動させる。
3、ナメック星でベジータ、フリーザ、ターレスに潰し合いをさせる。
4、↑の間に地球で悟空達を鍛えまくり、最長老の潜在能力解放もして貰って、何度か瀕死&仙豆パワーアップもさせて悟空を超サイヤ人になれるまで鍛え上げる。
5、ついでにドクターゲロの研究所に先回りして人造人間の誕生も阻止しておく。ゲロは殺す。ついでにゴブリンも殺す。
6、フリーザの移動を感知した所でポルンガ召喚。フリーザの宇宙船をどこかのブラックホールか恒星に転移させて抹消する。
7、↑でフリーザは死ぬか、万一生き延びても宇宙の迷子になるはずだが、それでも地球に来たら総がかりで叩き潰す。

多分これにリゼットが気付いて実行してしまった並行世界もあるでしょうが、それだと物語になりません。
なのでこの物語はリゼットがそれに気付かなかった世界と思って下さい。


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第二十四話 いざ、ナメック星へ

「え、えーと……ゴホン。

とりあえずナメック星へは私の力で送るとしまして、問題は今すぐに送るわけにはいかない事です」

「な、何でだよ神様! 早く行こうぜ!」

 

 悟飯の正論すぎる突っ込みにここまでの議論が無駄だった事を悟らされて数秒。

 何とか気を取り直したリゼットは平静を装い、今すぐの転移を拒否した。

 無論それに黙っているわけにもいかず、悟空が反発する。

 

「一つ、最大の問題が残っています」

「問題だと?」

「はい……結論から言います。

今の皆の力でナメック星に行っても、死ぬだけです」

 

 リゼットが発した言葉は、要するに『貴方達弱いんです』という事でしかなく、プライドを抉る一言だ。

 しかし反論は出来なかった。

 ベジータに敗れ、ターレスに敗れ、彼等は充分なまでに己の無力さを思い知らされている。

 ただ、悔しそうに拳を握りこむ事しか出来ない。

 

「ですから1ヶ月……皆は可能な限りの修行を行い、最低限の戦力を身に付けて貰います。

私の感知が正しければ、少なくともフリーザやターレスは後1ヶ月はナメック星に到着しません」

 

 原作をあまり鵜呑みにしてその通りに行動するのは危険だが、とりあえずフリーザの到着時期はそう原作と変わらない。

 遠く離れたフリーザの気、その移動速度から見てもナメック星に到着するには大分猶予がある。

 ターレスの方もそれは同じで、とりあえず30日近くの時間がこちらには与えられていた。

 移動時間をヘブンズゲートで0に出来る以上、これを活用しない手はない。

 

「まず悟空君とピッコロ以外は界王星に向かい、そこで修行をして貰います。

少しきついかもしれませんが、何とか1ヶ月で可能な限り強くなって下さい」

 

 そこまで話し、リゼットは意識を研ぎ澄ませて遠く離れた界王星への波長を合わせる。

 そして念話を用い、界王へのコンタクトを試みた。

 

『……と、いう事なのですが、そちらに地球の戦士を送ってもよろしいでしょうか?』

『まあ儂は構わんが、どうする気だ地球の神よ。そいつ等を殺して蛇の道を歩かせる気か?』

『いえ、その必要はありません』

 

 リゼットは虚空に手を掲げ、気を開放する。

 すると上空に白い『穴』が開き、遥か遠方へと通ずるゲートが完成した。

 ガーリックのデッドゾーンをモデルに編み出した『ヘブンズゲート』の初披露だ。

 

「ひ、ひええ……!」

「これがヘブンズゲート……神様、あれを通れば俺達は界王星へ行けるのですね?」

 

 空中に突如出現したゲートにクリリンが怯み、天津飯が戦慄しながらも行く気満々といった声で尋ねる。

 それに対しリゼットは頷き、悟空とピッコロを除く戦士達へと告げた。

 

「あれを通れば、後は自動的に界王星に着きますので、そこで界王様の修行を受けて下さい。

1ヶ月経ったら私が迎えに行きますので、帰りは心配しなくていいですよ」

「ず、ずっるいなー、おめえ達! オラなんて半年もかけて蛇の道を走ったのによ!

帰る時だって必死に走ったのに!

神様、何であの時それやってくれなかったんだよ!?」

「あ、あの時はまだ未完成の技でしたので……それに初対面でいきなりこれをやっても修行をしてもらえるとは思えませんし……こ、今回は面識があったから出来たわけでして……」

 

 リゼットはそう説明しながらも、よく考えたら悟空が帰って来る時は迎えに行ってあげてもよかったな、などと思っていた。

 あの時は既に技も完成していたし、わざわざ帰りまで蛇の道を走らせる必要はなかった。

 

「さあ皆さん、強さを求めるならどうぞお通り下さい。

ただ、悟空君とピッコロはもう基礎が出来上がっていますので、このまま地球に残って次のステップに進んで頂きます」

 

 パン、と手を叩いて話を強引に進める。

 ブルマが「誤魔化したわね……」と言っているが、聞こえないフリをした。

 神様だって間違いくらいするのである。

 

「オラ達は界王様の所にいかねえんか?」

「はい。二人はもう界王拳を覚えていますし、次は界王拳に耐える頑丈な身体作りといきましょう。

とりあえず目標は界王拳10倍を使いこなせるようになる事です。

他の皆さんも、出来れば界王拳を習得してきて下さい」

 

 リゼットは説明しながらも、恐らく無理だろうけど、と内心で付け加える。

 もしこれが可能ならば、天津飯達は本来の流れでも界王拳をとっくに習得していたはずだ。

 しかし結局そんな描写はなかったし、界王様も悟空が現れるまで使い手はいなかったと語っていた気がする。

 自分だって紛い物とは言え、バーストリミットを開発するのには時間がかかった。

 とはいえ、それをわざわざ教える必要はない。

 それにもしかしたら、ピッコロみたいにイレギュラーな習得をしてくれるかもしれないではないか。

 クリリン達がリゼットの言葉を聞き、置いていかれてなるものかと早々にゲートへと飛び込んで行く。

 ついでに悟飯もチチの制止を振り切って飛び込んだ。

 最後に天津飯が飛び込もうとした所でリゼットは彼を呼びとめ、紙を渡す。

 

「神様、これは?」

「界王様に会ったら、ここに書いてある内容を一字一句違えず読みあげて下さい。

これで最初の試験はパス出来ますから」

「は、はあ?」

「多分この中じゃ貴方が一番苦労しそうですからね……タイムロスはなるべく減らしましょう」

 

 よくわかってなさそうな天津飯の背中を押し、ゲートを潜らせる。

 そして悟飯を追ってゲートに飛び込もうとしていたチチを制止し、改めて悟空とピッコロへと向き直った。

 

「さ、天界へ行きますよ。二人共着いて来て下さい」

 

 悟空とピッコロの二人を連れ、天界へと向かう。

 今回の修行で使うのは以前にブルマから購入し、以降使い続けてきた重力室だ。

 とりあえず二人にはここで、100倍の重力を克服してもらおうというのがリゼットの考えだ。

 ついでに二人が強くなってくれれば、同時に自らの修行相手にもなれるだろうという期待もあった。

 

 とにかく、この1ヶ月でギニュー特戦隊くらいは蹴散らせるようになってもらう。

 そうでなければ打倒フリーザなど夢のまた夢だ。

 

 

「ゆで卵を! 茹でた孫!」

 

 一方、界王星では開幕早々天津飯が親父ギャグを飛ばしていた。

 彼は本来こんなキャラではない。

 キャラではない……のだが、神から渡された用紙にそう書かれていたのだから仕方ない。

 きっとこれは合言葉とか、暗号とか、そういう何かだろうと大して疑問も抱かずに親父ギャグを口走る。

 誰でも思い付くような、何の捻りもないギャグ。

 しかしその効果は絶大だ。

 界王は打ちのめされたように地面に倒れ、腹をよじり、爆笑して笑い転げている。

 

「は、鼻糞の秘密をそっと話くそう!」

 

 続けてヤムチャが何に対抗したのか、親父ギャグを飛ばした。

 すると界王は涙すら浮べて、ますます苦しそうに腹を抑えて大笑いした。

 

「アルミ缶の上にあるミカン!」

「隣の塀に囲いが出来たってね。へーかっこいー!」

 

 更にクリリンとナッパのハゲコンビが駄洒落を追い討ちで叩き込んだ。

 そこに容赦なく餃子と兎人参化が追撃を仕掛けた。

 

「新しいのがあったらしい!」

「いいヅラ買ったの言い辛かったの?!」

「テメェ……何故俺がヅラを買った事を知っている……」

「!?」

 

 怒涛の4連発ギャグに界王はもうKO寸前だ。

 無論、下らない駄洒落である。笑うに値しない。

 しかし普段、この刺激のない小さな星で暮らし、僅かな出来事に一喜一憂している界王の笑いの沸点は限りなく低い。

 だからこの程度の次元の低いギャグであろうと、彼のツボを突いてしまう。

 そして何故かナッパが兎人参化に詰め寄っているが、それはどうでもいい事だろう。

 

「草刈ったら臭かった!」

 

 そこに、悟飯が止めを刺した。

 界王は衝撃を受けたようにえび反りになり、地面に倒れる。

 明らかな呼吸困難、笑い過ぎによる酸欠状態に陥っている。

 悶える事数秒……やがて彼は痙攣し、口から泡を吹いて動かなくなった。

 

 

 

「見事なギャグじゃったぞ。あやうく本気で死ぬ所だった」

 

 数分後。

 何とか立ち直った界王の前でクリリン達は正座していた。

 危うく、銀河の神をギャグで殺すという笑い話にもならない大罪を犯してしまうところであった。

 確かに天津飯にギャグを書いた用紙を渡したのはリゼットだが、その後の悪ノリは彼等自身のものである。

 しかし界王は怒るでもなく、むしろ嬉しそうに笑っていた。

 

「うむ、全員文句なしじゃ。弟子にしてやろう」

 

 危うくギャグで死にかけはしたが、界王を笑わせるという弟子入り条件は見事に全員が達成している。

 自分が提示する前に先制でギャグを飛ばすのはどうかと思うが、あれだけ見事に笑わせてもらえたのなら、文句も出ない、と界王は考える。

 

「ではまず最初は、バブルス君とグレゴリー君を見事捕まえてもらおうか」

 

 かくしてクリリン達は無事に界王への弟子入りを果たし、修行を開始した。

 同じ頃には悟空とピッコロもリゼット相手の修行を開始し、その戦力を伸ばしていく事となる。

 

 ――そして、1ヶ月後。

 

 

 地球のカプセルコーポレーションにて、戦士達は1ヶ月ぶりに集結していた。

 クリリン達は界王の修行を乗り越え、悟空とピッコロは重力修行を克服した。

 全員が1ヶ月前よりも実力を遥かに伸ばし、もう恐れるものはないと自信に満ちた顔をしている。

 この1ヶ月間の間、何のトラブルも起こらなかったのはリゼットにとって幸運であった。

 フリーザやベジータ、ターレスの気もまだナメック星へ到着していないし、これといった外敵も地球に現れなかった。

 てっきり、スラッグあたりが来ると思っていたのだが……。

 存在自体はしているのだろう。リゼットは数日前まで、確かに地球に接近しつつあったスラッグらしき気を感知していた。

 しかしどういうわけか、その気は突然進路を変更して別の星へ向かってしまったのだ。

 その行き先は、ナメック星だ。

 ……また何か、厄介な事になりそうな気がする。

 

「さあ、行こうぜ神様」

 

 リゼットの悩みなど知らずに悟空が弾む声を抑えもせずに言う。

 この1ヶ月で伸びた己の実力を試せる相手、それでも尚届かぬ相手。

 その邂逅を心より望み、楽しみにしているのだ。

 

「待って。出発前に貴方達の戦闘力を計らせて頂戴。

サイヤ人達の使っていたスカウターを更に改良した新型よ」

 

 ブルマがそう言い、スカウターを己の目に取り付ける。

 何時の間に回収、改良していたのかは知らないが彼女に関してはもう何でもありだと思うしかない。

 戦闘力を計る機械音が響き、ブルマが一人一人の数値を確認していく。

 

「へえ、皆凄いじゃない!

クリリン君、16400。ヤムチャ、16200

天津飯さん、17500。餃子君、14000

悟飯君、18000。人参化、15800

ナッパ、24000」

 

 まず界王星から帰還したグループにスカウターをセットし、その戦闘力の飛躍的な伸びを褒める。

 未だギニュー特戦隊はおろか、ナッパ以外はドドリアやザーボンにすら及ばない数字だが、これならば潜在能力の解放でどうにかなるだろう。

 とりあえず、リゼットの望むギリギリのラインはクリアといったところか。

 

「ええと、こっちは……げ。

ピ、ピッコロ、75500。

孫君、95000。

……神様……24万」

 

 尚、ブルマが知るはずもない事であるがピッコロは重い服を着ており、実際の戦闘力は94400にも届く。

 リゼットはピッコロよりも更に重い服と気霊錠を付けているので実際の戦闘力は既に90万に達していた。

 しかし驚くべきはリゼット以外の戦士達の伸び代だろう。

 数値にすれば未だリゼットが圧倒的なものの、1ヶ月前までは戦力差はこの比ではなかった。

 そもそもリゼットは実の所2倍程度しか強くなれていないのに対し、ピッコロなどは10倍以上のパワーアップを果たしている。

 他の面子にしても3倍程度の強さにはなっているのだから、笑うしかない。

 恐るべきは原作メンバーか。

 リゼットも一応悟空とピッコロを同時に相手にしてみたり、カリンを重力室に連れ込んでモフってみたり、カリン用の爪とぎを天命石で造ってみたりと色々やっていたのだが、伸び方が違う。

 しかしこれでも、今までを思えばリゼットは飛躍している方なのだ。

 たった一月で戦闘力が倍に伸びるなどという事は、今までのリゼットにはなかった。

 恐らくは前回の戦いで神精樹の気を限界まで取り込んだ事が影響しているに違いあるまい。

 あの経験でリゼットは、己の壁を一つ乗り越えたのだ。

 

 それに、あの戦いで得たものは他にもある。

 神精樹から吸い取った気は全て地球へ還元した。故にあの一件でリゼットの戦闘力が伸びたりとか、そういう事はない。

 しかし何と言うのだろう……自分の中の器が明らかに前より大きくなったような手応えを感じているのだ。

 例えばバーストリミットだ。

 今まではギリギリで20倍が限度だったが、あの一件以降は20倍が苦にならなくなった。

 今ならば30倍……戦闘力が上がれば40倍だっていけるかもしれない。

 神精樹を処理した際、リゼットは疑似的とはいえ一時的に超サイヤ人級の世界へと足を踏み入れていた。

 気は地球へと還したが、それでも強くなった経験を身体が覚えているのだ。

 だからこそ、バーストリミットによる無理な戦闘力上昇すら、今のリゼットにとっては受け入れられるものとなっていた。

 

「どうだ神様、これでもまだ不足かい?」

 

 自信に溢れたヤムチャの言葉にリゼットは首を振る。

 今の彼等は戦い方次第ではドドリアやザーボンとも戦えるレベルだ。

 少なくとも、ギニュー特戦隊到着前ならばそうそう不覚は取らないだろう。

 そしてここに最長老の潜在能力解放を上乗せすれば、悟空とピッコロはきっとターレスにだって勝てるようになるはずだ。

 

 フリーザに関しては、こう言ってはあれだが最初から悟空頼みである。

 そもそも数値がおかしいのだ、あれ。

 数百万単位で拮抗してた所でいきなり億とかふっ飛びすぎていて突っ込む気も起きない。

 リゼット自身も最長老の潜在能力解放次第ではあの域に届くかもしれないが、確実性を求めるなら悟空の超化の方がいい。

 だから、これに関しては最初からヤムチャ達がこの域に届く事を期待していなかった。

 というより、届けというのが無理難題だ。

 

「いいえ、充分です。

皆、よくここまで強くなりました」

 

 ただ一人、餃子だけが不安な戦闘力だが、まあグルドくらいにならば勝てるだろう。

 ともかくこれで全員、とは言わないが大半がリゼットの望む条件をクリアした。

 そして時期的にもフリーザがそろそろナメック星へ到着する頃であり、時間的猶予もない。

 つまり、どのみちこの戦力で突入する他ないのだ。

 念のためにホイポイカプセルにした宇宙船もピッコロに持たせているので、万一の時の退路も確保してある。

 不在中に地球に何も起こらない保証はないが、その時はカリンかMr.ポポが念話で伝えてくれるだろうし、地球との通信機も一応クリリンが持っているので大丈夫だろう。

 

「では、全員集まってください。

今からナメック星への道を拓きます」

 

 最初の転移先はもう決まっている。

 デンデが暮らしていた村。まずはあそこの付近へと飛んでデンデを救助する。

 その後はデンデを連れてヘブンズゲートで最長老の所へ行き、全員の潜在能力を解放してもらおう。

 フリーザ一味とはデンデ救出時以外はしばらく関わらない方向でいいとリゼットは考えている。

 そうすればしばらくはベジータとでも小競り合していてくれるだろう。

 

 さあ、ナメック星でのドラゴンボール争奪戦の始まりだ。




リゼット「(悟空君に持たせると失くしそうなので)宇宙船はピッコロ、通信機はクリリン君が持っていて下さい」
ピッコロ「わかった」

【各キャラ戦闘力】

・リゼット
基本戦闘力:240000
重装備解除:300000
気霊錠解除:900000
バーストリミット(最大30倍):2700万

・孫悟空
基本戦闘力:95000
界王拳(最大10倍):95万5000
※無理な瀕死パワーアップをしなかったので原作で1週間鍛えただけの悟空と大差なし

・ピッコロ
基本戦闘力:75500
重装備解除:94400
界王拳(最大5倍):47万2000

・ナッパ:24000

・孫悟飯:18000

・天津飯:17500

・クリリン:16400

・ヤムチャ:16200

・兎人参化:15800

・餃子:14000

―ナメック星編不参加(万一の際の地球の守りとして待機)―
・Mr.ポポ:16500
・カリン様:16000


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第二十五話 集う者達 

 高い戦闘力と不思議な力を持ちながら、争いを好まない宇宙人、ナメック星人。

 彼等は平和を愛し、ナメック星をかつてのような美しい星に戻す為にアジッサの木を栽培しながら静かに暮らしている。

 しかし今、そんな彼等の平和を脅かす勢力が同時にこの惑星へと襲来しつつあった。

 

 

「ここがナメック星ですね、ザーボンさん、ドドリアさん」

「はっ」

 

 ナメック星にまず到着したのは巨大な宇宙船。

 その中から出てきたのは一人乗り用の、椅子のような乗り物に乗った有角の宇宙人だ。

 両脇には緑色の美丈夫とピンクの醜男を従え、更にその背後には幾人もの兵士が並ぶ。

 その中に一人とて弱兵はいない。

 誰もが、それぞれの出身惑星で最強と呼ばれるエリート揃いで一番弱い者でも戦闘力1000を上回る。

 側近のザーボン、ドドリアともなれば戦闘力は2万を超え、そして中央のフリーザ――宇宙の帝王は53万を記録している。

 一度彼に目を付けられたならば滅亡不可避、とまで言われる宇宙の恐怖。

 それが部下を引き連れ、己の欲望を果たす為にこの平和な惑星へと降り立った。

 

 

 

「ここがナメック星か……ちっ、フリーザの奴も既に来てやがるな」

 

 フリーザ達と反対――南の方角に、また別の宇宙船が着陸した。

 中から出てきたのは奇抜な頭髪をしたヒューマンタイプの男だ。

 浅黒い肌に、サイヤ人の象徴である猿のような尻尾。

 サイヤ人、と呼ばれる戦闘種族の一人――ターレス。

 かの戦闘種族の中でも飛び抜けた戦闘力を誇る男は薄ら笑いを浮かべ、その場から早速移動を開始する。

 まず狙うは、ドラゴンボール。

 何も全部集める必要などない。

 要は一つだけ確保し、フリーザが揃えられないようにすればいい。

 その後で、きっと来るだろうカカロットと合流して、今度こそ息子共々手駒へ加える。

 そうしてからサイヤ人の力でフリーザを始末するのだ。

 

「待っていろフリーザ。最後に笑うのは俺達サイヤ人だ」

 

 ターレスは敗北などまるで考えない不敵な笑みを浮かべ、己の勝利を早くも宣言した。

 

 

 

「フリーザの野郎め……。

ドラゴンボールは絶対に渡さんぞ」

 

 西の方角にまたも宇宙船が降り立つ。

 前述の二つとは異なり、小型の一人乗り用のポッドだ。

 中から出てきたのは特徴的な生え際が輝くサイヤ人の王子、ベジータ。

 フリーザやターレス同様に戦闘服を纏ってはいるが、サイヤ人の象徴である尻尾はどこにも見えない。

 

「ちっ、ザーボンやドドリアも連れてきてやがる。

何とか隙を突いてドラゴンボールを奪わねばな……」

 

 ベジータの抱く野望は一つ、宇宙の支配。

 そして己こそがナンバー1であり、最強である事を証明する事だ。

 その為にもフリーザはいずれ殺さねばならない邪魔な存在であった。

 今も戦闘力では勝てる相手ではない。

 しかし不老不死にさえなれば勝機はある。必ずチャンスが巡ってくる。

 

「奴さえ消えれば俺がナンバー1だ。

全宇宙はサイヤ人の王子であるこのベジータ様が支配する!」

 

 いずれ来るだろう未来に思いを馳せ、ベジータは笑う。

 覚悟しろフリーザ、貴様の時代が終わる時がやってきたのだ。

 そう嘲笑い、そして己の栄光を掴むべく行動を開始した。

 

 

 

「不思議だ……この星は初めて来た気がしない。

儂の中の遠い記憶が呼び覚まされるような気がする」

 

 東の方角にもまた一つ、巨大な宇宙船が着陸していた。

 彼等は様々な惑星へ移動しては、その惑星を改造して自分達の宇宙船へと変えてしまう悪質な侵略者だ。

 元々は数日前、地球を改造しようと地球を目指していたはずだがスラッグは突如として移動惑星(宇宙船)の進路を変更し、この星まで来てしまったのだ。

 何故進路を変えてしまったかはスラッグ自身にも実のところよく分かっていない。あの時はただ、それが正しい事のように思えたのだ。

 部下が言うにはその時のスラッグは黒いオーラに包まれていたらしいが……まあ、どうでもいい事だろう。

 そう思えるほどにはスラッグは今回の進路変更は正解だったと思っていた。

 地球ほどの惑星ではないが、この惑星もなかなか環境が整っており、しかもそれが彼――スラッグにとってこの上なく居心地のいいものであったからだ。

 

「スラッグ様、この惑星を御気に召しましたか?」

「うむ」

 

 配下の魔族の一人に尋ねられ、スラッグは上機嫌に答える。

 ここはいい。ここがいい。

 この場所こそが、己が住むに相応しい惑星だと確信出来る。

 

「早速この惑星の改造に取りかかれ。

儂はここを次の安住の地とする事を決めたぞ」

 

 そこがまさに己の母星である事すら自覚しないままに、超ナメック星人とさえ呼べる天才は侵略を決定する。

 

 かくしてここに4人。

 フリーザ。

 ベジータ。

 ターレス。

 そしてスラッグという悪が集結し、それぞれの野望を果たすべくナメック星を舞台に行動を開始した。

 それはまさに、平和なこの惑星に降り注いだ悪夢そのものであった。

 

 

 リゼットの転移によりナメック星へ到着した悟空達は一斉に、この星を取り巻いている異常に気付いていた。

 妙だ……やたら強い奴の気がゴロゴロしている。

 そのほとんどは強い、とは言っても今の彼等に及ぶものではない。

 しかしごく一部、丁度彼等の四方を囲む形で配置されている4人のうちの3人が別格だ。

 

「と、とんでもねえ気だ……こいつがフリーザってやつか……」

「ターレスの気もありますよお父さん……それにベジータも」

「こ、こっちは俺と同じナメック星人か? しかし何か邪悪なものを感じるぞ」

 

 悟空、悟飯、ピッコロがそれぞれの方向を向き、気の出所を探る。

 そのうちの二つはよく知ったもので、ベジータとターレスのものに違いないだろう。

 一際大きなものはフリーザだろうが、それに匹敵するナメック星人らしき気まで感じられる。

 この惑星はどうやら、彼等が思う以上の激戦区と化しているらしい。

 この事はリゼットにとっても予想外の事であった。

 

「……幸い向こうはこちらにまだ気付いていません。

このまま気を消して、行動しますよ」

 

 悟空達はこの惑星に来る前から既に、リゼットの指示によって気を消している。

 フリーザ達がスカウターを持つ以上、わずかな戦闘力の発露でも場所を気付かれるし、偵察を送られるかもしれない。

 それを避けるためにも、まずは戦闘力を消して影のように動くのが好ましかった。

 不安材料は、悟空だろうか。

 この中では最もこういう行動に向いていないように思える。

 

「……っ。

どうやらフリーザが動いたようです。

皆、そこの洞窟に急いで隠れて下さい」

 

 フリーザと、その配下の気が一斉に行動したのをリゼットは感じた。

 方向からして恐らく、この先にあるナメック星人の気を目指しているのだろう。

 しかし問題は、その途上にいる自分達だ。

 このまま呆けていては当然フリーザ達に見付かり、交戦に入ってしまう。

 まだ、ここでフリーザと正面から敵対するわけにはいかない。

 故にリゼットは、この場は隠れるのが最適と判断した。

 

 彼女の指示に応じ、全員が洞窟へと隠れる。

 悟空は興味本意で顔を出そうとしたが、ナッパに無理矢理引き摺りこまれた。

 そして通過する、侵略者の一団。

 その中のほとんどは気にするようなものではない。

 2年前ならば脅威に感じただろうか、今の彼等にとってはただの雑兵だ。

 しかし中央の3人だけは別格。力を上げた今の彼等であっても恐怖を感じる絶大な気の持ち主であった。

 特にフリーザに至っては、今の悟空やピッコロでさえも警戒する戦闘力だ。

 

「な、なんだあれは……ターレスに並びかねないほどの気を感じたぞ」

「あれがフリーザ……なんて奴だ」

 

 ヤムチャと天津飯が声を震わせ、自分達が戦うべき敵の強さに戦慄する。

 いや、彼等だけではない。

 悟飯やクリリン、餃子、人参化、そして最近気を感じ取れるようになったナッパも等しく震えていた。

 悟空とピッコロは界王拳の出力を限界まで上げれば渡り合えない事はないのでそこまで恐れは感じていないが、やはり脅威には思っていた。

 この中で唯一、『現時点での』フリーザに何の脅威も感じていないのはリゼットだけだろう。

 

「あいつら、一体どこへ向かっていたんでしょう?」

「恐らくナメック星人の所でしょう。この先……大体14kmの位置にナメック星人の気が複数感じられます」

 

 悟飯の疑問に答えながらリゼットは思案する。

 フリーザはまだ第一形態……そして自分ならば恐らく簡単に倒す事が出来る。

 ならばいっそ、今戦いを仕掛けて変身させずに倒すというのはどうだろう。

 仮に変身させてしまったとしても第2、第3形態ならばまだ楽に勝てる。

 しかし、だ。

 何もフリーザが順番通りにしか変身出来ないという保証はない。

 もしかしたら段階を飛ばしていきなり最終形態になる事だって出来るかもしれない。

 もしそれが可能だった場合、死ぬのはこちらだ。

 加えて、あの魔族の男女の存在もある。

 この遠く離れたナメック星まで干渉してくるとは考え難いが、万一は常に想定しなくてはならない。

 

 ……やはり万全を期して、まずは潜在能力の引き上げを優先するべきだ。

 思案の末、リゼットは確実性の高い慎重策を選び取った。

 勝率は高ければ高いほどいい。

 

「か、神様。俺、様子を見に行きたいんですけど……いいでしょうか?」

「ぼ、僕も」

「俺は止めても行くぞ。俺と同じナメック星人を見ておきたい」

 

 クリリン、悟飯、ピッコロが村へ行く事を提案する。

 というかピッコロの中では既に決定事項のようだ。

 リゼットはその提案を聞き、小さく頷く。

 

「そうですね……折角の人数ですし、ここは二つに分けましょうか。

ピッコロ達と一緒にこの先の村を見るチームと、もう一つは他の村に先回りし、ドラゴンボールと村人を保護するチーム、というのはどうでしょう」

「確かに、二手に別れた方が効率はいいですね」

「いざという時の全滅も避けられるしな」

 

 リゼットの出した方針に天津飯とナッパが同意する。

 どうでもいいが、このメンバー、ハゲ比率が少し高すぎやしないだろうか。

 

「私達は10人ですから、5人ずつで分けましょう。

ただ、私と餃子君はテレパシーの為に別チームに振り分けます」

 

 今、ここにいるメンバーは10人。

 悟空、悟飯、ピッコロ、クリリン、天津飯。

 ヤムチャ、餃子、人参化、ナッパ、そしてリゼットだ。

 このうちピッコロ、悟飯、クリリンは偵察チーム行きが決まっているので、残る二人を決めれば編成完了となる。

 

「この先にはフリーザもいますし……悟飯君達には万一を考えて私が同行しましょう」

 

 そしてこの先にフリーザがいる以上、交戦しないにしても最悪の事態を考えればリゼットを入れるしかない。

 つまり、決めるべき面子は一人だけだ。

 

「じゃあ俺が付いて行ってやる。何か異論はあるか?」

 

 そして最後の一人にはナッパが名乗りをあげた。

 彼はフリーザの事を直接知る唯一の人物であり、その内情にも詳しい。

 つまりこの中では最も適した人材であると言える。

 無論、これに異論など上がるはずもなかった。

 

 かくして決まったメンバーは以下の通りだ。

 偵察班――リゼット、ピッコロ、悟飯、クリリン、ナッパ。

 保護班――悟空、天津飯、ヤムチャ、餃子、人参化。

 

「では、行って来ます。

悟空君、ドラゴンボールの確保は任せましたよ」

「ああ、神様も気を付けてくれ」

 

 リゼット達五人は悟空達を残してその場を発ち、気を抑えながら移動する。

 飛行などしてはスカウターで発見されてしまうので、止むを得ないのだ。

 それから進む事数分。飛んで行けばほんの数秒で着いただろうそこに、ようやくリゼット達は到着した。

 クリリン達はすぐに近くの丘の上にうつ伏せになると、気を完全に消して様子を窺う姿勢に入った。

 一方リゼットはクリリン達から距離を置き、フリーザ達からは見えない位置に立って気を消している。

 リゼットには遠視があるので、実のところわざわざ肉眼で確認する必要もなく、ああしてうつ伏せになる理由もなかったのだ。

 

「あの、神様……そこじゃ何も見えないと思うんすけど……」

「大丈夫です。私はここからでも視えますのでお気になさらず」

 

 リゼットに気を遣うようなクリリンだったが、本人が大丈夫だと言っているので仕方なくフリーザ達を観察する作業へ戻る。

 丘の下で行われているフリーザ達の所業はまさに外道そのものだった。

 ナメック星人を素直にさせる為に村人の一人の首を折り、更に続けてもう一人を気弾で殺す。

 村の危機を知り駆け付けたのだろう若者3人はフリーザの部下をほぼ壊滅させる奮闘を見せたものの、桃色の醜男によって皆殺しにされてしまった。

 挙句の果てにドラゴンボールを渡せば何もしないと約束しながら、いざ渡されればあっさりと約束を翻し、殺しにかかる。

 その鬼畜にも劣る所業に沸点の低い悟飯の怒りが頂点に達したのは無理のない事であり、義憤に駆られた少年はピッコロ達が止めるのも聞かずに飛び出し、ドドリアを蹴り飛ばした。

 

 

 ――やっぱ距離を置くべきじゃなかったかもしれません。

 そう呑気な事を考えながら、リゼットも悟飯を回収するべく即座に行動を開始した。




【超サイヤ人だ孫悟空】
『ドラゴンボール』シリーズの劇場公開作第7弾。
悟空達が地球にいて、ピッコロが生存している。
後に『サイヤ人絶滅計画』でターレスと共演するので『この世で一番強いヤツ』、『地球まるごと超決戦』と同じ世界線の可能性が高い。

この映画でナメック星人は口笛が弱点という設定が追加され、それが後にピッコロさんのキャラクター崩壊ソングである『口笛の気持ち』へと繋がった。
ピッコロ「全国1千500万人のピッコロファンのみなさん……たすけて……」

【スラッグ】
悪の心しか持たない超ナメック星人。
地球をクルーザーに改造したいというDB史上最もアホみたいな理由で攻め込んできた。
上司として考えた場合、歴代ボスキャラの中でも比類なき無能オブ無能。
『スラッグ様ももう御歳だ』と労わっただけの幹部を処刑し、地球改造に10日あればと答えた技術者も処刑した。
魔族は光に弱いので地球を分厚い雲で覆い、寒冷化させようとした。
しかしピッコロ大魔王は普通に太陽の下で戦っていたし、ダーブラも平然としていたので魔族の特徴というより、単にこいつ等が極端に太陽嫌いだっただけだと思われる。
(太陽の下では長生き出来ないらしい)
戦闘力はカードダスによると老で156万。後は不明。
最大で大体500万くらいというのがよく見る解釈。

【ゼエウン】
スラッグ軍の幹部。
『スラッグ様も、もう御歳だ』と言っただけで殺されてしまったクッソ哀れな人。
主に恵まれなかった。

【ギョーシュ】
スラッグ軍の技術者。
地球を改造するのに10日あればおkと答えたぐう有能。
しかしスラッグはせっかちだったので処刑されてしまったクッソ哀れな人。
主に恵まれなかった。

【カクージャ】
スラッグ軍の技術者。
ギョーシュの処刑を目の当たりにして3日でおkと答えて生き延びた。
しかし二人でも10日だったのに一人で3日以内に出来るかは疑問であり、恐らく詰んでいたであろうクッソ哀れな人。
主に恵まれなかった。

【ドロダボ】
スラッグ軍の幹部。
中ボスキラーピッコロさんに挑み、命乞いした挙句にあっさりやられたクッソ哀れな人。
見せ場があっただけマシか。

【メダマッチャ】
スラッグ軍の幹部。
コメダマッチャという自分の影をまとわりつかせてエネルギーを吸収するという、薄い本ならば引っ張りダコ間違いなしの有能。
しかし野郎ばかりのドラゴンボールでは宝の持ち腐れだったクッソ哀れな人。

【アンギラ】
スラッグ軍の幹部。
幹部の中では最もイケメンで大物感があったが、なかなか出番が回って来なかった。
いざ出番が来たと思ったら、よりにもよって相手が主人公の悟空だった為にいい所なくあっさりやられてしまったクッソ哀れな人。


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第二十六話 美しき野望

✪ 前話の『超サイヤ人だ孫悟空』の解説の一部に過りがあったので微修正しました。


「お前なんか! 僕がやっつけてやる!!」

 

 フリーザ一味の悪行に我慢出来無くなった悟飯はドドリアを蹴り飛ばし、声の限りに叫んだ。

 大口を叩いたように聞こえるかもしれないが、今の悟飯の戦闘力ならば実現出来なくはないだろう。

 実際ドドリアの戦闘力22000に対し悟飯は18000であり、決して戦えない相手ではない。

 だがフリーザ相手となれば話は変わる。

 例え、仮に界王拳を習得して戦闘力を10倍にしようと太刀打ち出来る相手ではない。

 とはいえ、そんな事を激昂した悟飯が考えるはずもなく、だからこそ他の面子の出番となる。

 

 立ち上がろうとしたドドリアを、今度はピッコロが蹴り飛ばした。

 その威力たるや悟飯の比ではない。

 ドドリアは一撃で家屋を突き破り、無様に地面を転がって血反吐をぶち撒ける。

 それを見てフリーザも己が動く必要があると感じたのだろう。

 素早く掌を向け、ピッコロに向かって気弾を発射した。

 しかしその気弾は間に割り込んだリゼットによって弾かれる。

 バーストリミットによる白い輝きを放ちながら舞い降り、宇宙の帝王が放った気弾をいとも呆気なくかき消したのだ。

 

「皆、退きますよ」

 

 リゼットが指示し、ナメック星人の子供を保護した戦士達が一斉にその場を離脱する。

 最後にリゼットが飛翔し、その場にはフリーザ達だけが残される事となった。

 無論それを黙って見逃すフリーザではない。

 

「追うんですよ、ザーボンさん、ドドリアさん!」

「……う、美しい……」

「ザーボンさん!」

「ハッ!?」

 

 ザーボンはヒューマンタイプであり、故にザーボンの美的感覚は地球人のそれと極めて近い。

 そして彼女はヒューマンタイプとしては最上とも呼べる美を持っていた。

 ザーボンはそれに見惚れ、しばし我を失っていたのだ。

 しかしそれは彼にとってこの上ない屈辱だった。

 生まれて初めて、自分以外の誰かの美に心を奪われた。

 心底美しいと感じ、見惚れたのだ。

 

 ザーボンは美しさと醜さを合わせ持つ戦士だ。

 故に醜い者は許せないが、自分よりも美しい者は更に許せない。

 

「ば、馬鹿な……この私が、己以外に見惚れただと……」

「早く行きなさいザーボンさん!」

「こ、心の底から美しいと感じた……私の姿を鏡で見るよりもずっと……。

嘘だ……ありえない。この宇宙に私よりも美しい者が存在するなど……」

「ザ、ザーボンさん!」

「ゆ、許せない……こんな屈辱は今までに受けた事がない……。

どこの誰かは知らんが、このまま終わらせてなるものか。

宇宙で最も美しいのはこのザーボンだ」

「いい加減にしなさいザーボンさん!」

 

 不意に、殺気を感じた。

 ザーボンがようやく我に返って振り返れば、そこにはまさに怒りに震える宇宙の帝王の姿があった。

 そうして彼は気付く。

 どうやら呆気に取られるあまり、フリーザの言葉すら無視してしまっていた己の過ちに。

 まずい、今すぐ行かなければ殺されてしまう。

 

「初めてですよ……この私をここまで無視したお馬鹿さんは」

「い、今すぐ行って参ります!」

 

 ザーボンは慌てて、逃げるようにそこから飛び去った。

 もし後1秒でも飛ぶのが遅れていたならば、きっとザーボンは物言わぬ屍と化していた事だろう。

 しかし、結論から述べるならば幸運は彼の味方だった。

 彼がドドリアに追いついた時、そこにはあの妙な連中や白い女こそいなかったが、代わりにベジータがドドリアと交戦状態に入っていたのだ。

 否、交戦はまだしていない。しかしドドリアは明らかに不意打ちを受けた様子であり交戦は避けられぬ状態にあった。

 

 ドドリアは結局リゼット達に追いつく事すら出来ずに引き離された。

 そこをベジータに狙われていたのだ。

 地球での戦闘を経たベジータの戦闘力は22000。ザーボンやドドリア相手でも不意を打って1対1に持ち込めば勝てる数値だ。

 故に彼等が単独行動するのを待っており、ドドリアが動いた時これを好機と思い行動に移った。

 だがそこに今、ザーボンが到着してしまった。

 この事はベジータにとっては最悪の不運であり、ザーボンにとっては今後の命運すら左右する幸運であった。

 

 余談だがベジータの戦闘力上昇はサイヤ人の特性である瀕死パワーアップが働いた結果であるが、リゼットの介入のせいでダメージが浅く済んでしまい、彼女の知る同時期のベジータよりも若干戦闘力が下がってしまっていた。

 とはいえ、この場でそれを語っても仕方あるまい。

 

「ドドリア!」

「来たかザーボン! 助かったぜ!」

「ちいっ、ザーボンか!」

 

 ザーボンの合流にドドリアがほっとしたような声をあげ、ベジータが忌々しそうに舌打ちをする。

 1対1ならば何とかなる。

 だが二人がかりならば、ベジータには圧倒的に不利だ。

 逃げられないように前後を固めるザーボンとドドリアに、ベジータは何とか突破口を見付けようと話を振る。

 

「へっ、てめえ等相変わらずフリーザの言いなりか。

情けねえ奴等だぜ……ドラゴンボールさえあれば手前等のような雑魚でも天下が獲れるってのによ」

「俺達が……天下を?」

 

 ベジータの揺さぶりに、単純なドドリアはすぐに動揺を見せた。

 ドドリアは元々世俗的な性格で、権力に弱い。

 しかしそこにザーボンが口を挟む。

 

「ドドリア、奴の言葉に耳を貸すな!

さっさと始末するぞ!」

「お、おう!」

「く、くそったれめ……!」

 

 

 

 数分後、ベジータは汚いボロクズとなって地面に転がっていた。

 さしものベジータも二人が相手ではどうしようもない。

 しかし勝ち誇るドドリアとは対照的に、ザーボンの顔は浮かないものであった。

 

「ドラゴンボール……か」

 

 先ほどのベジータの言葉が脳内を駆け巡る。

 別に天下など望んではいない。

 最強になりたいわけでもない。

 しかし、強く惹かれる。どんな願いも叶うというその奇跡の玉に。

 それさえあれば自分は永遠の若さを得る事が出来る。

 永遠の美を我が物に出来るのだ。

 

「永遠の若さ……永遠の美しさ、か」

 

 普段ならばこんなに本気で考えたりはしなかっただろう。

 ドラゴンボールは主が欲しているものであり、つまりそれを欲する事はあの恐ろしいフリーザへの裏切りとなる。

 だがザーボンは今、正常ではなかった。

 リゼットという己以上の美を目の前で見せ付けられた事で矜持に皹が入り、自尊心をこの上なく刺激されてしまった。

 美しくなりたい。美しさを永遠のものとしたい。

 かねてより抱いていた美への欲望。

 それが彼の中で、己でも制御出来ないほどに膨れ上がって行ったのだ。

 

「……ドドリア」

「あん? どうしたザーボン」

 

「――すまないが、ここで死んでくれ」

 

 それは紛れもなく暴走であった。

 一時抱いた美への渇望が取らせた最悪の行動。

 しかし不思議とザーボンの心に迷いはなかった。

 

「な、何を言ってやがるザーボン……てめえまさか裏切る気か!?」

「……いい機会だから言っておこう、ドドリア。

お前の醜い顔を毎日見るのは、私にとってこの上ない苦痛だった。

だがそれも今日で終わる」

 

 言うと同時にザーボンが地を蹴り、未だ困惑から立ち直れていないドドリアへ先制の突きを見舞う。

 固く握った拳がドドリアの顔面を打ち、彼の寸胴の身体が容赦なく弾き飛ばされた。

 そこに、仮にも仲間だったはずだというのに一切の躊躇なく気弾を放った。

 光が爆ぜ、巨大な爆煙が上がる。

 しかしドドリアもこの程度で死ぬほど柔ではない。

 煙の中から舞空術で飛び出し、ザーボンの前に着地する。

 

「ザ、ザーボン……てめえ……っ!」

「ふん、しぶといな。醜い者はその往生際までもが見苦しいか」

 

 ザーボンとドドリアの戦闘力はほぼ互角だ。

 それはつまり、どちらが先に決定打を入れたかがそのまま勝敗を左右するほどに重要となってくる。

 しかしドドリアは既に、悟飯、ピッコロ、ベジータの三人から不意打ちを受けた状態でザーボンが何もせずとも疲弊し切っていた。

 そこに更に攻撃を加えたのだから、今やドドリアは立っている事すらやっとだろう。

 最早その戦力差は歴然と言っていい。

 

「死ね! ドドリア!」

「ふ、ふざけやがって! ぶち殺してやる!」

 

 ザーボンとドドリアの姿が同時に消えた。

 常人の感覚では捉える事も不可能な超高速戦闘へと突入し、音を置き去りにしての戦いを開始したのだ。

 二人の影が幾度も宙を交差し、打撃音が後から遅れて響く。

 そうして二人は少しずつ場所を移動し、幾度も激しく衝突を繰り返しながら遠ざかって行った。

 後に残されたのは、瀕死の重症を負い、捨て置かれたベジータだけだ。

 

「……ち、ちくしょう……。

お、俺は死なん、ぞ……」

 

 サイヤ人という種族はとにかく生命力が強い。

 心臓が停止したと思っても、後になってから勝手に蘇生する事すらある。

 王子であるベジータもその例に漏れず、むしろ彼のしぶとさは同じサイヤ人と比べてすら際立って高い。

 既に死んでもおかしくない傷を負ってはいたが、彼はそれでも地面を這いずり、必死に動いていた。

 無論、それで状況が改善されるわけはない。

 孤立無援の状態でこのナメック星を訪れたベジータには助けてくれる仲間など皆無であり、傷を癒す手段もない。

 つまりは、もう詰みなのだ。

 

 それでも彼は地面を這うように移動する。

 その先に都合よく誰も使っていないメディカルポッドがあるわけでもないのに、死んでなるものかと這いずる。

 

「……ち、ちく、しょう……」

 

 だがサイヤ人にも限界はある。

 いかに頑強な身体を持とうと、瀕死の傷を負ったならば治療を受けねばいずれ死ぬ。

 これはサイヤ人であろうと避けられぬ生物の大原則だ。

 視界が暗く染まり、指先の感覚が失われていく。

 

 ――こんな所で死ぬのか。

 

 最後に彼が感じたのは無念だったか、怒りだったか。

 どちらにせよ、それが彼が今生で感じる最後の感情となるだろう。

 そしてそれを最期に、ベジータという人間は永遠に失われるのだ。

 

 

「おいおい、こいつはベジータ王子じゃねえか。

何だってこんな所で死にかけてやがる」

 

 その落ちて行く運命を、誰かが掴み取りさえしなければ。

 

 

 

「ふん……やっとくたばったか。

流石にしぶとかったな」

 

 ベジータから見て優に10kmは離れているだろう小島の上。

 そこでザーボンは息を切らしながら、動かなくなったドドリアを見下ろしていた。

 これで少しは動きやすくなるだろう。

 フリーザからドラゴンボールを奪い取るという極めて難度の高い目的を達するのに、ドドリアなどいちいち気にしてはいられない。

 後でどうせ邪魔になるのだから、今始末してしまうのが最善なのだ。

 

「永遠の美しさは私のもの。

この美しい顔と身体を永遠のものとするために……」

 

 ザーボンの心は今、かつてないほどに野心で燃え上がっていた。

 考えもしなかったフリーザの恐怖支配からの脱却。

 しかしドラゴンボールという存在が彼の秘めたる欲望を増幅した。

 永遠の美。永遠の若さ。

 それを現実のものとするために、ザーボンはフリーザを裏切り、ドラゴンボールを我が物とする事をここに決意したのだ。

 

「さて、とりあえずはベジータを倒した事を報告するか。

しばらくは従っているフリをしなくてはな」

 

 ザーボンはニヤリと笑い、かつての同僚には一瞥もくれず飛び立つ。

 しばらくの間は今まで通りフリーザに従おう。

 だがそれでは己の目的には届かない。

 仮に永遠の若さを得ても、フリーザが生きていれば追い詰められて殺されてしまう。

 死んでしまっては、それは永遠とは呼べない。

 

 だから――フリーザを殺す。

 奴の死なくしてこの野心は叶わない。

 フリーザが死に、初めてあの恐怖支配からの脱却が果たせるのだ。

 

 勿論実力で敵う相手ではない。

 不老不死になっても、この戦力差ではただのサンドバッグになるだけだ。

 (その辺ベジータは何も考えていないようだったが……)

 ならば殺せる相手とぶつければいい。

 フリーザすらも殺せる誰かと戦わせ、そしてフリーザを亡き者とする。

 その為の道筋も、既にザーボンには見えていた。

 

「フリーザに対抗出来るのは同じ一族だけ。

ならば奴を……フリーザの兄、クウラをこの惑星へ呼び寄せる以外にない!」

 

 美しさを求める野心はもう止まらない。

 そしてそれが、このナメック星に更なる混迷を招く事になろうと、ザーボンにとってはどうでもいい事だった。

 全ては、永遠の美しさの為に――。




クウラ「来たか……出演オファー!」ガタッ
ナメック星「来ないで(切実)」

・クウラがナメック星の戦闘にエントリーしました。

【各キャラ戦闘力】※今回は敵のみ
―フリーザ一味―

・フリーザ
第一形態:53万
最終形態:1億2000万

・ザーボン:23000~30000

・ドドリア:22000

・(故)キュイ:18000
※画面外で汚い花火になりました


―その他勢力―

ターレス:250万
大猿:2500万
(地球で受けた元気玉による瀕死パワーアップ)

スラッグ:156万
巨大化:450万
(老人のままなので500万より少し低め)

ベジータ:22000


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第二十七話 潜在能力開放

 ナメック星には夜がない。

 それはこの惑星が3つの太陽の周りを回っているからだ。

 だから必然的に朝や昼といった概念もなく、休むタイミングなどは個々に任される。

 これはこれで惑星の特徴として別にいいのだが、困るのは隠密などにまるで向かない惑星だという事だ。

 夜があればフリーザやターレスが寝静まるだろう頃もある程度計れる。

 だがずっと昼が続くのでは、いつ彼等が休むかも分からず迂闊に動けない。

 それでも何とかリゼット達は岩陰に身を隠し、情報を交換し合っていた。

 その傍らには悟空達によって連れて来られたツーノ村の住人20人が縮こまるようにして立っている。

 リゼットの記憶が正しければ、確かベジータによって壊滅させられ、そして後になってもドラゴンボールへの願いが『フリーザ一味に殺された者を生き返らせてくれ』だったが為に蘇生させてもらえなかった可哀想な人達だ。

 

「それにしても、よく俺達の事を信じてくれましたね?」

 

 クリリンはツーノ村の人々を一瞥し、改めて自分達地球人との差異は大きいと実感していた。

 向こうから見れば自分達はピッコロ以外まさに異星人の集団。

 そして、その肝心のピッコロすら彼等の説得には同行していなかったのに、こうしてこちらの言う事を信じて付いて来てくれた事に驚きを禁じえないのだ。

 

「ああ。俺もあまりに彼等が話が分る人達で驚いたよ。

どうやらナメック星人っていうのはかなり温厚な宇宙人らしい」

「顔はピッコロみてえなのにな」

 

 実際にナメック星人の説得に向かったヤムチャが、外見からは想像も出来ないナメック星人の温厚さと人の良さを語り、悟空がピッコロを見ながら余計な補足を入れる。

 しかしそれも無理のない事だろう。

 何せ彼等の知るナメック星人といえば初代大魔王とピッコロ、そして先代神様の3人で、3人中2人が大魔王である。

 これではナメック星人=怖いという図式が彼等の中に出来上がってしまっても仕方がない。

 

「あの、地球の方……少しよろしいですかな?」

 

 ツーノ長老が遠慮するように声を発する。

 その隣にはデンデがおり、彼の村……そしてこのナメック星で今何が起きているかは彼等にも伝わっているはずだ。

 最初はまだ疑いもあったようだが、デンデとの合流後は完全にこちらを信用してくれているように見える。

 

「今、このナメック星で起こっている事はデンデから聞きました。

そこで我々はひとまず最長老様の所へ行き、この危機を知らせようと考えております。

どなたか我等と共に来ては下さいませぬか?」

「構いませんが……それは全員でもいいのですか?」

「え、はい。それは勿論ですが、全員で移動するとなると流石に目立つかと……」

 

 ツーノ長老からの申し出はリゼットにとって渡りに舟であった。

 最長老の所へ行っての潜在能力解放は、フリーザと戦う事を考えるなら外せないイベントだ。

 打算にまみれた考えだとは自覚しているが、向こうだってこのままフリーザに蹂躙されるのは望ましくないだろう。

 だから最長老は必ず全員分の解放をしてくれるという確信があった。

 

「その点でしたら問題はありません――ヘブンズゲート」

 

 リゼットが微笑み、空間にゲートを開く。

 ガーリックJr.は呆気ない男であったが、彼の技は実に役に立ってくれる。

 悟空が後に会得する瞬間移動のような緊急回避能力はないものの、利便性ならばこちらが上だろう。

 

「さあ、行きましょう皆さん」

「神様のその技、本当に便利だよなー」

「全くだ。移動が楽でいい」

 

 リゼットが開いたゲートにまず悟空が入り、次に天津飯が入る。

 その後に全員が続き、更にツーノ村の人々もおっかなびっくりといった様子でゲートを潜った。

 最後に術者であるリゼットが通過してゲートを閉じる。

 たったこれだけで全員含めての長距離移動の完了だ。

 ゲートを通った先は最長老の家の前であり、そこではピッコロそっくりの顔をした男がまるで驚いた様子もなく立っていた。

 

「ネイル殿!」

「よくぞ来られた、ツーノ長老。それに異星の方々よ。

最長老様はおおよその成り行きを知っておいでだ。さあ、中へ……」

 

 言われるままに全員が入る。

 しかしツーノ村の住人は20人であり、そこにリゼット達とデンデを含めると31人になってしまう。

 ネイルと最長老を加えれば33人で、更に家主である最長老はかなりの巨体だ。

 つまり――狭い。

 まるでおしくら饅頭のようにぎゅうぎゅう詰めとなってしまう。

 

「……ネイル」

「も、申し訳ありません最長老様!

とりあえず地球の方々とデンデ、ツーノ長老以外は外でお待ち下さい!」

 

 ツーノ村の住人達を外へ追い出し、とりあえず圧迫から逃れたリゼット達は改めて最長老を見た。

 ……でかい。

 座っているはずなのに、この中で一番の長身であるピッコロよりも大きい。

 直立すれば恐らくピッコロの3倍……6m程に達するだろう。

 確かに一目で他のナメック星人と違うと分る貫禄に満ちていた。

 

「ようこそ。貴方がたは地球人ですね。

まず、我が子等を助けて頂いた礼を言いたい。ありがとう」

「初めまして、最長老さん。

私は地球の神を務めているリゼットと申します」

 

 リゼットが最長老に軽く会釈をし、微笑んだ。

 とりあえず、まずは敵意がない事をアピールしておく。

 最長老はそれに対し、「おお、初めまして」とにこやかに返した。

 

「あの悪党達のせいでこの星の我が子達も随分数を減らしてしまいました……残念です。

それに他にも数人、大きなエネルギーを持つ悪党がいるようですね。

ナメック星に住む者の知恵と力の証……希望の玉がまさかこのような事を招き寄せるとは……」

 

 ドラゴンボールは本来、その星に住む民の為を思って造られたものだ。

 それは地球もナメック星も共通している。

 しかし皮肉にも、そのドラゴンボールこそが星の危機を招き、フリーザやベジータという悪党を呼び寄せてしまった。

 残念そうに語る最長老へ、リゼットは回りくどい言葉をあえて選ばずに本題を切り出した。

 

「単刀直入に言います。貴方の持つドラゴンボールを私達に預けてくれませんか?

私達は彼等が不老不死になるのを阻止する為にここまで来ました。

彼等の手に7つの玉が揃うのは必ず阻止するとお約束します」

「確かに、私はもうここを動く事が出来ないし、あのフリーザという者が来ればそこにいるネイルですら守りきれないでしょう……。

私が持つよりも、貴方達に託した方がよさそうだ。

このドラゴンボールは貴方達に差し上げましょう」

 

 最長老はそう言い、椅子の背もたれに乗せていたドラゴンボールをリゼットへと渡した。

 地球のボールが精々野球ボール程度の大きさに対し、こちらはバスケットボール程度の大きさがある。

 流石は本場というべきか。サイズからして違う。

 

「それにしても、貴方達は地球人なのに飛び抜けた力をお持ちなのですね。

何人かは違うようですが……しかも勿体ない事にまだ眠っている力がある。

その力を起こしてさしあげましょう」

 

 最長老の大きな手がリゼットの頭へ乗せられる。

 記憶や過去を探られたら少し厄介かな、と考えてリゼットは常に精神に防壁を張っている。

 超能力者は相手の心を読む事が出来る。

 ならばその逆に、読まれないようにする事もまた可能なのだ。

 少なくともリゼット以上の気の持ち主でない限り、彼女の心を無断で読む事は出来ない。

 しかし最長老の表情が変わらない事を見るに記憶を探る事自体をしていないようだ。

 まあ、よく考えれば彼の性格上相手の許可も得ずに記憶を探るなんて事はまずやりそうもない。

 実に紳士的というか、優しい人なのだと改めてリゼットは感じた。

 

 そんな事を考えていたリゼットだが、しかしその余裕は次の瞬間に消し飛んだ。

 ――力だ。

 今までに感じた事もないような圧倒的な力が自分の内から湧きあがってきたのが解る。

 一瞬、無意識のうちにバーストリミットを発動してしまったのかと勘違いするほどの絶大な気の上昇。

 2倍? 3倍?

 否……恐らくは7倍近い戦闘能力の飛躍!

 期待していなかったといえば嘘になる。

 むしろドラゴンボールよりも、この潜在能力の解放を当てにしてここに来たと言っても過言ではない。

 だがまさか、ここまでとは……。

 

(……いける……勝てる……!)

 

 潜在能力の解放により、リゼットは自分でも驚く程の力を得た。

 ここに長年の重力修行と気霊錠。そしてバーストリミットを日頃から使い続ける事で得た『負担への耐性』を合わせれば、きっと短時間ではあるものの40倍の上昇にだって耐えられる。

 即ち、擬似的に超サイヤ人に近い域にまで踏み込める!

 

 バーストリミットは界王拳と同じく身体に負担を強いる技である。

 だがその負担への耐性は戦闘力も勿論だが、『慣れ』もまた一つの要素なのだ。

 例えば孫悟空は今でも無理をすれば10倍の界王拳に耐えうる。

 原作でもやはり、この時期の悟空は「10倍にだって耐えられる」と言っていた。

 だがその後、瀕死パワーアップを経て圧倒的に力を増したはずの悟空の限界はどういう事か10倍のままであった。

 数値にすれば基礎戦闘力9万から300万への飛躍的強化を果たしたにもかかわらず、である。

 つまり悟空とリゼットは下地が違う。

 確かに才能は悟空が勝るだろう。

 種族としての特性など言うまでもなく、地球人であるリゼットとサイヤ人である悟空の差は本来埋め難い。

 だがリゼットには積み重ねがある。今日まで生きてきた年月がある。

 その差が、そのまま耐えうる倍率の限界へと繋がっていた。

 加えて、神精樹の気を取り込んで一時的とはいえ戦闘力にして億クラスの世界を体験していたというのも大きかった。

 あの経験によってリゼットの身体は既に、この領域に耐えるだけの下地を完成させていたのである。

 簡単に言ってしまえば高出力のバーストリミットに耐えうるだけの器が既に出来ていたのだ。

 

 勝てる――!

 リゼットは既に、このナメック星での戦いの勝利を疑ってはいなかった。

 スカウターがないのが惜しまれるが、今のフリーザと比較すれば大体の計算は不可能ではない。

 今のフリーザと比較し、気霊錠などを解除した全力状態の自分は凡そ11倍から12倍。大体11.7フリーザ(第一形態)、2万666先代様といったところだ。

 数値にして620万前後。

 そこに30倍バーストリミットを重ねれば……約1億8千万!

 無理して40倍まで引き上げれば2億にも手が届く。

 勿論40倍はリゼットにとっても負担が大きく、加えて長時間は続かない。

 しかしこれならば出力を落とした30倍や20倍程度でも互角以上に戦えるだろう。

 油断さえしなければ負ける事はまずない。

 

(勝つだけならば、私だけでも容易……。

しかし私がそれをやってしまうと、悟空君の超サイヤ人化がどうなるか分りませんね)

 

 悟飯が後に妄想で覚醒するのだから、別に必ずしも劇的に盛り上げる必要などない。

 あれはあくまで物語で、悟空が主人公だからああいう盛りあがる覚醒をしただけであり、そんな事をする必然性などないのだ。

 ならばやはり、最善は己がフリーザをさっさと始末してしまう事か。

 リゼットはそう考え、しかし結論を急ぎすぎている自分に気付いた。

 

 ……いけない。どうも舞い上がってしまっている。

 自分は今、自惚れている。

 突然手に入れた大きな力に酔い、少し無謀な精神状態になってしまった。

 “油断さえしなければ負ける事はまずない”……などと。その思考自体が既に油断そのものではないか。

 

(いけない……少し落ち着かなくては)

 

 今なら、ピッコロが「俺は究極のパワーを手に入れたのだー!」とか叫んだり、ベジータが「俺は超ベジータだ!」とか恥ずかしい台詞を臆面もなく吐いてしまったり、潜在能力を引き出された青年悟飯が「勝てんぜ、お前は」とかドヤ顔で言ってしまった気持ちが分る。

 これは麻薬だ。

 急激な力の上昇というのは、こうまで人を酔わせてしまう。

 260年生きてきたが、これほどの高揚感はそうはなかった。

 少し冷静になってみれば、『勝てる!』なんて負けフラグもいい所だ。

 やはり少し、熱を冷ます必要があるだろう。

 今の自分は冷静に考えたつもりでも実際は熱に浮かされた判断だった、という事になりかねない。

 

「ありがとうございます、最長老さん。

おかげで、大分勝率も上がりました。

もしよろしければ、他の方の力も解放して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、勿論構いませんよ。

強い正義は一人でも多い方がいい」

 

 リゼットの後に続き、悟空やピッコロも潜在能力の解放を行う。

 これで全員が素の状態で特戦隊を完全に凌駕した。

 つまり、ギニューのボディチェンジにさえ気を付ければ負けはない。

 ターレスも、悟空とピッコロがこの強さに達した今脅威ではないだろう。

 

 確実に流れはこちらへと傾いている。

 リゼットは今、確かな手応えを感じずにはいられなかった。




1 一 俺は今究極のパワーを手にれたのだ
2 遊 このゴールデンフリーザの前では無意味ですよ
3 二 俺の分の仙豆はいりません。絶対に勝ちますから
4 中 俺はスーパーベジータだ
5 右 油断さえしなければ、まず負ける事はありえません 【New!】
6 三 究極の戦士ならもうここにいるだろう
7 左 勝てんぜ、お前は
8 捕 ここにいるのが貴様の最も恐れていたスーパーサイヤ人だ
9 投 消えろ、ぶっとばされんうちにな

※遊の天津飯選手はよく考えたら台詞を吐いた試合は実際圧勝していたので相応しくないと思い、フリーザ選手とチェンジしました。


【各キャラ戦闘力】

・リゼット:620万
バーストリミット(最大30倍):1億8600万

・孫悟空:68万
界王拳(最大10倍)680万

・ピッコロ:66万
界王拳(最大10倍):660万

・孫悟飯:25万
・ナッパ:24万
・天津飯:21万
・クリリン:20万
・ヤムチャ:18万
・兎人参化:17万
・餃子:15万



\俺の出番のようだな……/
・クウラ:1億5000万
最終形態:4億7000万


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第二十八話 一時退避

 ベジータが目を覚ました時、彼はメディカルマシーンの中で治療されていた。

 そこですぐに起きずに、眠っているふりを続ける咄嗟の判断力は大したものだろう。

 薄目を開けて周囲を注意深く観察しながらベジータは考える。

 自分はザーボンとドドリアに敗れた。屈辱的だが、まずはその事実を受け止める。

 そしてここはどこかの宇宙船で、メディカルマシーンの中。

 ならばまず考え付くのは、あの後ザーボン達に連れ去られて治療を受けている、というケースだ。

 少なくともナメック星にメディカルマシーンはない。

 そもそもこれはフリーザ一味が使っている道具だ。ならばこれがあるという事がすでに、この宇宙船がフリーザに属しているという事を意味していた。

 しかし助けられた理由がわからない。

 堂々と反旗を翻した今、奴等に自分を助ける理由などなく、それに宇宙船内部の構造も異なる。

 同じ技術で造られているのだろう船内は随所に似た所があるが、それでもやはりデザインが違う。

 ここは、フリーザが愛用している宇宙船の中ではない。

 

「よう、いつまで狸寝入りしてるんだ、王子様よ。

わかってるんだぜ? サイヤ人であるあんたの回復力なら、とうに目覚めているって事くらいな」

(この声……カカロットか!?)

 

 声を聞き、ベジータの脳裏にはすぐに地球で出会ったあの忌まわしい下級戦士の顔が浮かんだ。

 随分挑発的な台詞と口調だが、声は確かに奴のものと一致する。

 ならば、今メディカルマシーンの外には奴がいる!

 そう考え、ベジータは目を開く。

 果たしてそこにいたのは、予想通りの特徴的な頭髪に忘れるはずもない顔立ち。

 だが、その肌は褐色であり、更に黒い戦闘服と白いマントを着こなしている。

 極めつけはスカウターを付けたその顔だ。

 顔立ちこそ瓜二つだが、表情が違う。

 反吐が出そうになる、あの甘さを残す表情ではない。冷酷さに彩られた、自分と同じサイヤ人の表情だ。

 驚いている間にメディカルマシーンの水が抜け、ベジータを外気に晒す。

 そうしてまず感じるのは、身体の軽さ。そして漲る力だ。

 どうやら死を乗り越えた事でまた一つ強くなったらしい。

 しかし……それでも、目の前のカカロット似のこいつには、まるで勝てる気がしない。

 

「き、貴様、何者だ……? カカロットではないな」

「俺の名はターレス。あんたと同じサイヤ人さ。

それとも、こんな下級戦士の事は眼中にないか?」

 

 ターレス――その名前だけはベジータも知っていた。

 フリーザに仕えるいくつかの部隊の一つであるクラッシャー軍団。

 数こそ少ないが全員が戦闘力7000を超える強豪部隊で、その部隊の隊長がターレスという名前だったのを覚えている。

 しかしまさかサイヤ人だとは思わなかった。

 そもそもベジータは、自分とナッパ、ラディッツ、そしてカカロット以外に生き残りなどいないと思っていたのだ。

 いや、厳密に言えば他にも一人だけいない事はない。

 あまりにも性格が戦闘に向かない為に王族からも除籍されてしまった愚弟ターブル。

 しかし彼はベジータにとっての恥部でしかなく、故に弟の事はサイヤ人とすら見なしてはいなかった。

 

「何の目的があって俺を助けた?」

「あんた、フリーザから離反したんだってな?」

「それがどうした」

「なあに、それなら俺と目的は同じだ。

どうだ? 俺と手を組まねえか?」

「……必要とは思えんがな。くそったれめ」

 

 ベジータは顔をしかめ、露骨に舌打ちをする。

 認めたい事ではない。しかし気を探るに、こいつの戦闘力は恐らくフリーザすら上回っている。

 なのに自分の力を欲するなど、あまりに怪しいではないか。

 その考えが顔に出ていたのだろう。ターレスはニヤリと笑う。

 

「あんたが知っているフリーザの強さは、ほんの一部分だけだ」

「何っ?」

「フリーザの戦闘力53万は俺達の間じゃ有名だがよ……その程度なら俺一人でどうにかなる。

スカウターで計りきれねえから憶測になるが、今の俺なら戦闘力にして250万以上は確実だろう。

理性がなくなるが、大猿になりゃあ2500万だ。

だが、それでもまだ奴の全力には多分届かねえ」

「ど、どういう事だ!?」

 

 戦闘力53万。それがフリーザの全力だとベジータは認識していた。

 実際これはとんでもない数値だ。

 フリーザの次に強いとされるギニュー戦隊のギニュー隊長ですら、その戦闘力は12万。

 ならば53万はまさに破格の数値。宇宙の帝王に恥じぬ強さのはずだ。

 だが、それがまだ全力ではない?

 最大で2500万にも届くターレスが届かないだと?

 それは、ベジータにとって絶望にも等しい宣告であった。

 

「俺は一度だけ、奴の兄貴を見た事がある」

「あ、兄、だと?」

「ああ。奴が偶然フリーザの宇宙船に立ち寄った時に、俺はその付近の警備に就いていた。

……正直ゾッとしたぜ。俺も少しは戦闘力を肌で感じる事が出来るが……ありゃあ桁違いだ。今の俺が大猿になっても勝負にならねえ。

多分、戦闘力にして軽く1億は超えてるぜ」

「ば、馬鹿な……」

「おっと、絶望するにゃまだ早い。肝心なのはここからだ。

これもあんたは知らない事だろうが、フリーザは変身型の宇宙人って噂がある。

実際、奴の兄貴とフリーザの姿はまるで異なっていた。

……もしフリーザが、兄貴と同じ姿に変身出来るとしたら、どうする?」

 

 ベジータの背筋を冷たいものが伝った。

 今の彼の戦闘力は、死を乗り越えて上昇したものの、数値にすれば3万程度だ。

 全力どころか、今のフリーザにすら遥か劣る。

 これがもし、ターレスの言う通りフリーザに1億を超える形態があるとすれば、つまりフリーザは現状において全力の1/200程度しか見せていない事になる。

 1%どころではない。0.5%だ。

 つまりベジータがフリーザに並ぶには、少なくとも今の3000倍以上に強くならなくてはならない。

 

「だから、俺はとにかく戦力が欲しい。

王子であるアンタなら、いずれは俺を超えるかもしれない。

俺達サイヤ人の手でフリーザを討つんだ」

「……気に食わん。気に食わん、が……確かに今の俺ではフリーザには到底及ばないらしい。

いいだろう、手を組んでやる。ただし俺の足を引っ張ったらてめえから先に死ぬと思え」

「おお、怖い。だがそれくらい威勢がいい方が頼もしいぜ。

よろしくな、ベジータ王子様よ」

 

 狙うは、サイヤ人の怨敵フリーザの首。

 その為に二人の悪しきサイヤ人が手を組んだ。

 無論そこに仲間意識があるわけもなく、ただ便利だから利用しようという打算があるだけだ。

 しかしこれは決して彼等二人が特別に冷酷なわけではない。

 サイヤ人とは本来こういうものだ。利己的で、自己中心的。

 それこそがサイヤ人という人種であり、ある意味において彼等はこの上なく正常であると言えた。

 ターレスは口角を吊り上げ、しかしすぐに気を取り直したように宇宙船内に設置したモニタへと視線を走らせる。

 ベジータには言わなかったが、問題はフリーザの強さだけではない。

 フリーザとの戦力差を少しでも埋める為の策の一つである神精樹。この惑星に来ると同時に確かに地に植えたはずのそれが、全く発芽しないのだ。

 

(ちっ……どこの誰かは知らねえが、俺以外にもこの惑星のエネルギーを吸い上げてる奴がいやがるな? すぐにでも叩き潰してやりてえ所だが、あまりフリーザ以外に構ってる余裕はねえ。どうしたもんかな)

 

 

 

 スラッグは突然変異で生まれた超ナメック星人である。

 その戦闘力は老いて尚156万に届き、他を寄せ付けない。

 ナメック星人唯一の戦闘型と言われるネイルの戦闘力が4万2千である事を考えれば、彼がいかに逸脱した存在かが分かるだろう。

 加えてカタッツの子のような分離もせず、まさに最強のナメック星人と呼ぶに相応しい強さを誇っていた。

 しかしその心は悪そのもの。

 かつてナメック星が異常気象に襲われた際、極寒のスラッグ星に飛ばされた彼はそこで完全な魔族と化し、他の星へと攻め込む侵略者と成り果てた。

 生まれてからこれまで敵らしい敵と出会った事もなく、同格どころか己に迫る者すらもが皆無。

 第一形態――とはいえ、宇宙最強とされるあのフリーザですら53万なのだ。これでライバルと出会えるわけもない。

 故にこそ彼は何の警戒も、危機感すらも抱いてはいなかった。

 

「この惑星は儂の遠い記憶を呼び覚ます……そうだ、儂は覚えている。どんな願いも叶う奇跡の球を。

お前達、あれを……ドラゴンボールを探すのだ。そうすれば儂は、永遠の若さを得る事が出来る」

 

 スラッグが恐れるのは寿命のみ。

 いかに強かろうと生き物である以上、いつかは老いて死ぬ。

 それが彼には耐えられなかった。

 これほどに偉大な己が、寿命などという運命が決めた摂理に従うなど冗談ではないと思った。

 そしてこの星にはそれを解消する手段がある。

 寿命の楔から解き放たれ、永遠を手に入れる方法があるのだ。

 ならば、それを追わない手などどこにもない。

 

「ゆけ、我が僕達よ。ドラゴンボールを儂の前へ持ってくるのだ」

 

 だからスラッグは至極当然の判断として部下達を放った。

 いくつかの強い気は感じ取れるが、どれも己を脅かすほどではない。

 もしかしたら部下の何人かは犠牲になるかもしれないが、それでも最後には自分が勝つという確信があるし、いざとなれば真の姿である巨身術を使えばいい。

 その実力に裏打ちされた傲慢さはなるほど、決して何も考えていないわけではないのだろう。

 しかし彼はまだ知らない。この星にいる者の何人かは己の全力をも凌ぐ力を隠している事を。

 

「スラッグ様……お言葉ですが、この星は太陽が多すぎます。

我等魔族が住むにはいささか不向きかと……」

 

 スラッグの判断におっかなびっくりといった様子で意見を出したのは、彼の部下の一人でもあるゼエウンという男であった。

 ヒューマンタイプに近いが、頭から生えた二本とオレンジ色の肌はまるで地球人の想像する鬼のようだ。

 髪は赤く、腰まで伸びている。

 その服装はほぼ半裸であり、身に着けているのは青いパンツとリストバンド、シューズ。それから首からパンツにかけて繋がっている『Y』の字のベルトだけだ。

 そんな変質者チックな恰好の鬼は、しかし外見に反してまともな事を言っていた。

 彼ら魔族……というより、惑星スラッグに住む者達は太陽の光が届かない極寒の環境下に適応し、進化してきた種族だ。

 それ故に太陽というものに酷く弱く、陽光を浴びては一時間と生きていられない。

 つまり、太陽が3つもあるこのナメック星は彼らにとってあまりいい星ではないのだ。

 スラッグは元々がナメック星人であるから、それでもこの星に居心地の良さを感じているが部下はそうではない。何故スラッグがこんな星を欲するかまるで理解できないのだ。

 しかしスラッグはそれに説明をするでもなく、己に意見した無礼者へ無言で気功波を撃ち込んで黙らせた。

 哀れ、ゼエウンは心臓を気で焼かれ、断末魔の声すら上げることが出来ずに動かぬ死体と化してしまった。

 

「ならば改造すればよい。ギョーシュ、何日必要じゃ?」

「は、はい、10日もあれば……」

 

 一つの惑星を10日で改造できる。

 そう言い切る彼は、決して無能ではない。むしろ有能である。

 しかしその言葉はスラッグの気に召すものではなく、またしても無言で放たれた気功波がギョーシュを焼き殺してしまった。

 

「どうじゃカクージャ」

「み、3日でやり遂げてみせます!」

「ならば早々にやれ」

 

 残るもう一人の科学者であるカクージャは咄嗟に、助かりたい一心で出来もしない時間を口にした。

 それを聞いたスラッグは彼を処刑せず、何とかカクージャは命を拾う事が出来た。

 とはいえ、3日はどう考えても無理だ。最初に答えた時間の半分もない。

 トボトボと作業に戻るカクージャの背は、気のせいか煤けていた。

 

 

 地球の成層圏付近にある神殿。

 如意棒にてカリン塔と接続されている間は実体化するそこは、今は如意棒を取られて再び別次元へと潜っている。

 加えてバリアも復活しており、リゼットの許可なくしては先代以外の何者も立ち入れない状況となっていた。

 少し厳しいようだが、これは当然の措置だとリゼットは考えている。

 何せこの神殿こそは地球防衛の要であり、最後の砦と呼んでいい場所だ。

 地球の気の乱れなどもここで管理しており、普通に考えるならば必要な時以外は防衛機構を働かせておくべきなのである。

 原作ではそれをせず、常に如意棒を刺しっ放しにして、その上バリアまで解除していたものだからガーリックJr.やら魔人ブウやらがホイホイ侵入してしまったし、GTではピラフ一味という本来なら絶対に入り込めないはずの雑魚にまで侵入されて究極のドラゴンボールを使われるという大問題まで起こしたのだ。

 

 しかし普段は何者も立ち入らせないはずのそこに、今はナメック星人達が集まっていた。

 最長老とデンデ、ネイル、それからツーノ村長の村人達全員だ。

 彼等をこれ以上ナメック星に残しても、いずれベジータかフリーザに殺されるだけだと判断したリゼットは地球の神殿に彼等を避難させるべきだと考えたのだ。

 自分達が守っていればフリーザ以外は跳ね返せるが、それは行動の選択が狭まる事を意味する。

 悪く言ってしまえば足手纏いだ。

 その点、現状は安全な地球の、その中でも最も安全だろう神殿に連れてくれば彼等が殺される心配はない。

 何かの間違いでターレスやらスラッグやらが現れる事を危惧しないでもなかったが、何故か彼らは二人共ナメック星に来ているのでその心配も消えた。

 回復役のデンデまでこちらに逃がすのは少し迷ったが、足手纏いという点では同じだし、回復なら充分に余っている仙豆がある。

 万一ドラゴンボールを揃えた時にどう願いを叶える、という問題もあったがそこはピッコロがいる事で解決した。彼もナメック語くらいは話せるので、やはりわざわざデンデを残す意味はない。

 

「それでは皆様。少し狭いかもしれませんが、戦いが終わるまではここに身を隠していて下さい。

ポポ、彼等の事を頼みます」

「任せて下さい、神様」

 

 ポポにナメック星人達の世話を任せ、ついでにヘブンズゲートに手を突っ込んでカリンを引っ張り出した。

 何かあるとは思えないが、念のためにカリンもこちらに置いて守りに就かせておくべきだと思ったのだ。

 そうして再びリゼットはナメック星へと戻ろうとする。

 しかしその背を、最長老が呼び止めた。

 

「お待ち下さい、地球の神よ。

これは元々我等ナメックの民に降りかかった災難。

ならばせめて、ここにいるネイルを連れて行って下さい。きっと力になれる」

 

 最長老からのネイル同行の申し出。これは本音を言えば勿論有り難い事だった。

 実力はともかくとして、ネイルがいればピッコロとの融合が可能となる。

 そうなればピッコロは今よりも強くなり、フリーザにすら匹敵する実力者へとなれるだろう。

 今でさえ界王拳込みとはいえ、原作における同時期のピッコロを上回っているのだ。

 ならばそこにネイルを加えれば、確実にフリーザにすら迫る超戦士となれるはずだ。

 しかし……融合とはある意味、死よりも残酷な事だとリゼットは考えている。

 この世界にはあの世がある。天国がある。生まれ変わりだってある。

 死んでもそこで終わりではなく、死後に続く道があるのだ。

 だが融合をしてしまっては、それすらない。

 基本となる人格に吸収され、その者は失われてしまう。

 勿論死んでいないのだからあの世にも行けない。こんな残酷な事があるか。

 申し出はありがたい……ありがたい、が、無理して融合させるまでもない。それがリゼットの出した結論であり、彼女の甘さでもあった。

 

「いえ……彼は貴方達の守りの要のはず。私達の戦いに付き合わせて死なせるわけにはいきません」

 

 ネイルの同行を断り、今度こそリゼットはナメック星へと戻った。

 これが正しかったのかは分からない。

 もしかしたら、これが原因で何かが狂ってしまうのかもしれない。

 だが、それでも不必要にネイルを消すなどという選択を選ぶ気にはなれなかった。




リゼット「え? 融合させずにそのまま使う選択はないのか、ですって?
……いや、戦闘力42000が今更一人加わっても……その、守りながら戦う余裕ないですし……。
今からじゃ鍛える時間もないですし……。多分、潜在能力もとっくに解放済みでしょうし……」
訳:戦闘力42000なんか今更参入しても足手纏いです。

・Mr.ポポ:16500→17万
・カリン様:16000→16万5000
・ベジータ:22000→29000

閻魔「地球に派遣した人材がえらい事になってるんだが……」
※カリン様とMrポポはあの世から派遣されてきた人材。いわば派遣社員である。


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第二十九話 始動

カリン様「最近、挑戦者がすぐに諦めて帰ってしまうのお」


 リゼット達が戦闘力を上昇させていたのと同時刻。

 フリーザは既にこの惑星にいくつかの不穏分子が紛れ込んでいる事を掴んでいた。

 気を肌で感じる事こそ出来ないが、ナメック星人達の村に突然現れた正体不明の一団(悟飯達)に、ベジータ(もっともベジータは既にザーボンが始末したらしい)。

 そして今現在、この惑星の気温を変化させている誰かがいる。

 無論自分が動けば全て片付くという事を疑ってはいないし、脅威にも思っていない。

 だが面倒だとは考えていた。

 故にフリーザはそれらを片付けるべく、己が最も信頼する配下……即ちギニュー特戦隊を呼び出す事を決めたのだ。

 

「大変です、フリーザ様!」

 

 そこに、特戦隊への連絡を命じたザーボンが戻って来た。

 ドドリアを失うという僅かな痛手はあったものの、鬱陶しいベジータを見事討伐した彼は、しかし焦燥に満ちた顔でフリーザの前へと走る。

 

「我が軍に紛れ込んでいた内通者が『フリーザ様に謀反の意志あり』とクウラ様へ連絡を入れていました!」

「何ですって!? 一体誰です、それは!」

「アプールです! 既に奴は始末しましたが、連絡はクウラ様へ渡った後でした」

「ちっ、クウラめ……私に代わって不老不死を手に入れる気ですか?! そうはさせませんよ!

ザーボンさん、特戦隊はまだですか! クウラと戦うには戦力が必要です!」

「はっ! 後数時間で到着する模様!」

 

 ……無論、言うまでもなくその内通者とはザーボンその人であった。

 彼は己の力では逆立ちしてもフリーザに勝てないと判断し、毒を以て制す事を思い付いたのだ。

 最強に対抗出来るのは最強のみ。唯一フリーザが恐れる実兄クウラを呼び、フリーザと潰し合わせる。

 これは最悪、企みが露呈すればフリーザ兄弟から袋叩きにされる恐れもあったが、ザーボンはあえてこの手を選んだ。

 永遠の美しさを得るには危険な橋も渡る必要がある。その決意が彼にはあった。

 

(ふふふ、悪いなアプール……貴様には私の為の礎となってもらった。

あの世から眺めているがいい。私の掌の上で宇宙最強の二人が踊る様をな)

 

 美しき野望は止まらない。

 背に核爆弾を背負い、地雷原の上でタップダンスを踊りながら死地へと続く道を全力疾走する。

 その先に求める永遠があるのなら、躊躇いなどない。

 既にザーボンは死の恐怖すらも超越していた。

 

「ザーボンさん。私は少しここを離れます。後はお任せしますよ」

「わかりました。しかしどちらへ?」

「何、この惑星にいる目障りな有象無象をそろそろ始末しようと思いましてね……。

本当はギニュー特戦隊にやらせるつもりだったのですが、事情が変わりました。

クウラと戦う時になって余計な横槍を入れられては困りますからね。今のうちに皆殺しにしてしまいます。

幸い、貴方がベジータさんから奪ってくれたスカウターがあるおかげで場所も分かっていますしね」

 

 ザーボンの暴走は一つのイレギュラーを招いていた。

 それは、本来ならばベジータが自分で踏み潰してしまうはずのスカウターが無傷の状態で回収され、フリーザの手に渡ってしまった事だ。

 つまりフリーザはリゼット達の居場所を把握出来るのである。

 更にベジータが付けていたスカウターは最新型であり、数十万の戦闘力ですら感知出来る優れ物であった。

 それでもリゼット達が全力であればスカウターは許容限界を超えて爆散したのだろうが、普段は気を抑えているのが逆に仇となった。

 故に未だスカウターは壊れず、そしてフリーザはリゼット達の居場所を突き止めてしまう。

 

 宇宙の帝王が、ザーボンの暴走により本来よりも早く行動を開始した。

 その向かう先は――地球人達がいる場所だ。

 

 

「神様、これからどうします?」

 

 最長老達を地球へと送り、戻ってきたリゼットへと天津飯が問う。

 戦力は上がった。今生きているナメック星人達も助けた。

 ならば後は戦う以外にないのだろうが、闇雲に突撃をすれば最悪他の陣営からの袋叩きに遭うだろう。

 リゼットはそれらを踏まえてまず最初に慎重策を考えるも、恐らくそれではいずれ耐えられなくなった悟空が暴発するだろうと予想した。

 

「ところで、ドラゴンボールはどうしたんですか?」

「私が創り出した亜空間に保管しています。相手が空間に干渉する能力でも持っていない限り、たとえ私が殺されても奪われる事はありません」

 

 ヘブンズゲートの元となったデッドゾーンは本来、空間移動ではなく『自ら創り出した空間に敵を閉じ込める』技である。

 つまり空間移動だけではなく、空間作成の力でもあったのだ。

 技の錬度を上げたリゼットはその力を以て自分だけが出入り出来る空間を創り、そこにドラゴンボールや、ついでに持ち運びが面倒な私物のいくつかを放り投げた。

 擬似的な四次元ポケットのようなものだ。

 この空間はリゼットが死のうが消える事はなく、彼女が意図的にボールを出さない限り何者も手出しする事が出来ない。

 ついでにこの能力の完成を見たリゼットは地球に戻った際に、神殿に保管していた究極のドラゴンボール4つをこの亜空間へと移動させた。

 3つは精神と時の部屋。4つはリゼットの亜空間。これでますます揃えるのが困難になったわけだ。

 

「そりゃ凄い。つまり少なくともこれで、奴等は絶対に願いを叶える事が出来なくなったわけだ」

 

 ヤムチャが楽観的に笑い、目的の一つが遂げられた事を理解する。

 リゼットの手にボールが一つ渡ったこの現時点をもって、ナメック星で行われているドラゴンボール争奪戦の意味は消えた。

 何をしようが奪えなくなったのだから、もうフリーザ達に願いを叶える目は残っていない。

 

「ここから私達が取れる道は二つあります。

一つは、このまま動かずに彼等をしばらく潰し合わせる慎重策。

もう一つは、こちらから動いて積極的に敵を減らしていく脳筋策……というか策でも何でもありませんね」

 

 今の自分達の戦闘力ならば、どちらでも問題ないとリゼットは考えていた。

 他陣営の袋叩きに遭う危険も勿論あるが、それだってターレスとスラッグを悟空とピッコロに任せ、他の雑兵を天津飯達に任せれば充分いける。要はフリーザとさえ直接ぶつけなければいい。

 そのフリーザでさえ、今の自分ならば勝てる相手なのだからもう恐れる必要はない。

 だがそれはそれとして、勝率は高ければ高いほどいい。

 理想はフリーザ、ターレス、スラッグが潰し合ってフリーザ一人になってくれる事。

 最終的な勝者がフリーザというのは動かないが、ターレス達だって特戦隊くらいは蹴散らせるはずだ。

 もっとも、そんな消極的かつ漁夫の利狙いな策は悟空が嫌うだろう。

 

「オラは断然、2番目だな。相手が減るのを待つってのはオラ、あんま好きじゃねえな」

「同感だ。倒せるパワーがあるのに何を躊躇う。こちらから出向いて叩き潰せばいい」

 

 悟空とピッコロの二人が当然のように脳筋策を選ぶ。

 相手が勝るならば慎重になるくらいの機転はある二人だが、そうでないならば積極的に戦いたがる困った性質も持っていた。

 それに続くように天津飯が拳を握り締める。

 

「やりましょう、神様。今の俺達は強い。

充分蹴散らせますよ」

「天さんがやるなら僕もやる」

「俺の狼牙風風拳で全員纏めて片付けてやりますよ」

「俺もやるぜ。今までコキ使われた恨みを晴らしてえ」

 

 天津飯に追従するように餃子が賛成し、ヤムチャとナッパが自信に溢れた声で続く。

 やはり彼等は武闘家だ。上昇したばかりの力を試したくて仕方がないのだろう。

 クリリンと悟飯、人参化はあまり気乗りしないように見えるが、反対意見は出していない。

 どうやらこれは突撃決定かな、と少しゲンナリするリゼットだが実際に戦略としては悪くない。

 時には勿体ぶって慎重になりすぎるよりも大胆に動いた方がいい事もあるのだ。

 

「わかりました。ではフリーザ以外の陣営を最初に叩き、その後フリーザを……――。

いえ、待って下さい。これは……」

 

 だがやはりリゼットは少し慎重になりすぎていたのだろう。

 いや、この場合に限ってはこれでよかったのかもしれない。

 出遅れた、とも取れるが各陣営からの袋叩きを防ぐ事も出来た、とも言えるのだから。

 リゼットはその顔を僅かに険しくし、気の動きから察知した事を悟空達へと告げる。

 

「どうやら私達は出遅れたようですね……ターレスが移動を開始しました。

それにこの気……ベジータもいますね」

「ほ、本当だ……! 何でターレスとベジータが?」

「奴等はサイヤ人同士だ。別におかしな事じゃあるまい」

 

 リゼットに数秒遅れて気を感知したクリリンが困惑の声をあげ、ピッコロがつまらなそうに推測を口にする。

 実の所リゼットはとっくにベジータとターレスの合流には気が付いていたのだが、そこまで気にはしていなかった。

 それはピッコロの言う通り、打倒フリーザの目的の為ならば手を組んでいてもさほど不思議には思わなかったからだ。

 

「それにフリーザも……目的地は、どうやら此処のようですね」

 

 リゼットの理想はターレス、スラッグ、フリーザが勝手に潰し合う展開である。

 それを考えるとターレスとベジータ、フリーザがこちらへ接近しているこの展開はあまり望ましいものではない。

 しかも悪い事というのはどうも重なるらしい。

 遙か遠方、宇宙の彼方から巨大な気がこのナメック星へと移動している事をリゼットは感知していた。

 しかも更に深く感知――遠視して分かった事実は今のリゼットをして背筋を冷やすものだ。

 フリーザの最終形態によく似たシルエットに、紫と白のカラーリング……間違いない、クウラだ。

 一体何がどうしてこの事態を招いたのかは分からぬが、クウラがこの惑星に接近して来ている。

 しかも……流石にフリーザの兄だ。量産型のポッドとは宇宙船の性能が違うのだろう。

 移動速度が驚くほどに速い。このままでは僅か1時間もせずに到着してしまう。

 

(一体どうしてクウラが……? いえ、むしろクウラが来るからフリーザが自分で動いている?

わからない……けど、何か私の予想していない事態が発生している……)

 

 表面上こそ冷静なままのリゼットだが、その内心は大慌てであった。

 一体何故フリーザが自分で動く? 性格を考えればギニュー特戦隊が来るまで待つはずでは?

 いや、そもそも自分で動くにしたってスカウターがないはずだ。ナメック星人達が全部壊したはずなのに、何故こちらの居場所を把握出来る。

 どうせスカウターがないと踏んであえて気配を消す指示を出さなかったのは過ちだった。完全に気を消したまま動くべきだったと反省するも後の祭りだ。

 勿論こちらの気を感知してベジータくらいならば来るかもしれないと想定していたが、それは別によかった。

 ノコノコと出てきた所を倒せばいいだけの話で、むしろそれを狙ってわざと釣り竿を垂らしていた部分すらある。

 だがフリーザが一緒に行動を起こすなんて予想していない。

 だがそれでも、まだここまでは何とかなった。最悪、自分が全力で全員を蹴散らせばそれで済んだ。

 だがクウラだ。本当に何故こいつがこのタイミングで動く?

 意味が分からない。

 

(何かの作為が働いているとしか思えない……まさかあの魔族達?

それとも別の要因? どちらにせよ、早急に決断を下さないと)

 

 クウラと特戦隊の到着は気の移動速度から見て恐らく1時間以内。

 それまでに何とか他の陣営を無力化する必要がある。

 ここに来る順番は距離と速度からして、まずはターレスとベジータが最初だろう。

 上手くすれば彼等とは共闘も出来るだろうか? 

 フリーザは……仕方ない。こうなったら自分が終わらせてしまおう。

 最初は余裕こいて第一形態や第二形態で来るはずだから、本気を出す間も与えずに消滅させる。

 最早フリーザよりも後で来るクウラをどうするかを考えねばならず、フリーザに手こずっている余裕などない。

 何せクウラは最初からフリーザにとっての最終形態になっている。同じ方法では倒せない強敵なのだ。

 いや、何も戦う必要はないのではないか? クウラの宇宙船がここに来るタイミングでヘブンズゲートを発動し、遠くの宇宙へ飛ばしてしまえばどうだ?

 クウラの速度や宇宙でも生存可能な事を考えると避けられてしまう可能性も大きいがやってみる価値はある。

 

「か、神様! ど、どうします?! もう来ちゃいますよ!」

「ここで迎え撃ちます。まずは先に来るターレスに対処しましょう。

恐らく打倒フリーザの目的は共通のはず……上手くすればフリーザとの戦いでは共闘出来るかもしれません」

 

 まずはターレスを説得する。失敗すれば自分が早急に倒す。

 続いてフリーザも全力を出す間を与えずに消す。

 その後にクウラの宇宙船を遠くへと飛ばす。かなりギリギリだが、これしかない。

 スラッグは最後に倒してしまえばそれでいい。

 そう結論付け、リゼットは到着したターレスとベジータを見上げた。




内なるリゼット「何でクウラ来てるんですかヤダーーー!
あの魔族二人組絶対許しません!」
魔族女「濡れ衣よお……」


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第三十話 歴史の侵略者達

「よおカカロット。地球で会った時よりもずっと腕を上げたようだな。

そう身構えるなよ。別に戦いに来たわけじゃねえ」

 

 ベジータを連れて悟空達の前に現れたターレスは驚く程に友好的だった。

 いや、彼の目的は既に地球で聞いていたのだから別に意外でもないのかもしれない。

 彼が地球で語った目的――悟空と手を組んでのフリーザ打倒。

 あの時はターレスを危険と判断したリゼットが地球から追い出してしまったが、再び悟空とターレスはこのナメック星で再会を果した。

 ならば当然、あの時の勧誘の答えが聞きたくなるのだろう。

 それに対し、悟空はあくまで落ち着いた様子でターレスへと言葉をかける。

 

「悪いが時間がねえ。用があるんならさっさと済ませてくれ」

「わかってるさ。フリーザの野郎が来てるんだろう?

そこで相談だが、戦力が欲しくねえか?」

「オラ達に協力するっていうのか?」

「そういう事だ」

 

 ターレスからの共闘の申し出はまさに渡りに舟だ。

 地球に来た時もフリーザを敵と見なす言葉を口にしており、打倒フリーザに限れば最初から共闘の目はあった。

 しかも今のターレスは地球に来た時よりも更に気が強大だ。

 それでも今の悟空やピッコロならば勝てる相手だが、ターレスには尻尾がある。

 つまり最大で戦闘力10倍の大猿になるという奥の手もあり、それを使われてしまえば悟空達では勝てない。

 ターレスの隣にいるベジータは3万程度だが、リゼットの知識が正しければここから2回も瀕死になれば戦闘力がネイルと合体したピッコロ――つまりは100万以上――を上回る。

 成長性という点で見れば悪くない戦力だ。

 

「信じるな孫悟空。俺達を騙す気に決まっている」

「……いや、オラはそう思わねえな。こいつは確かに悪い奴だけど、フリーザを倒したいって気持ちは本物だと思う」

 

 ピッコロが疑り深く言うが、悟空はこの件に関してだけはターレスを信じてもいいと思っていた。

 何か根拠や理屈があっての事ではない。

 理由を問われれば『何となく』としか答えようがないだろう。

 あえて言うならば、悟空が記憶を忘れてよかったと発言した時のあの激昂ぶりだろうか。

 ターレスの事を完全に知っているわけではないが、それでも彼がバーダックという名の悟空の父を尊敬していたという事だけは確かに伝わってきた。

 だから悟空は、彼を信じてもいいと考えたのだ。

 

「信用してもいいんだな?」

「フリーザの野郎を倒すまではな」

 

 悟空の簡素な問いにターレスもまた簡潔に答える。

 それだけで二人にとっては充分だった。

 悟空が手を差し出し、ターレスが固く握る。

 決して信頼で結ばれた間柄とは言いがたく、仲間とは到底呼べない関係だ。

 だが少なくともフリーザを倒すという共通の目的を果すまでは敵ではない。

 今はそれで上出来だ。

 

「ところで、何でベジータが?」

「ああ。やっこさん、フリーザに反逆してこの星に来たはいいが側近の二人に半殺しにされちまったのさ。

で、それを偶然俺が見付けて拾ったわけだ」

「ターレス! 余計な事を言うんじゃない!

フリーザより先にてめえからブッ殺されたいか!?」

 

 ベジータは不機嫌を隠さずに怒鳴る。だがターレスは「おお、怖い」などと言いつつも本当に怖がっている素振りなど欠片もなかった。

 それも当然の話で二人の戦闘力には大きな開きが存在する。

 何も考えずに喧嘩を売っても負けるのはベジータの方なのだ。

 気付けば随分ベジータと他の戦闘力に開きが出来てしまっているが、リゼットはこの点についてあまり深刻には考えていなかった。

 どうせベジータは少しくらい差があっても勝手に猛トレーニングしてインフレの最前線にまで這い上がってくる男だ。心配する必要はない。

 むしろ今のベジータはまだ悪人であり、いつ後ろから撃ってくるか分からないので弱い方が都合がいいとすら思っていた。

 ……とはいえ、少し気の毒な事をしてしまったとは思う。

 ベジータの顔は屈辱に満ちており、彼は今、かつてない惨めさを味わっていた。

 

(く、くそったれ……どうなってやがる? 俺が地球でこいつ等と戦ったのはほんの一月前の事だ。

なのに何故、この短期間でどいつもこいつもここまで戦闘力を上げてやがる……全員、以前とはまるで別人だ……ナ、ナッパすらこの俺を遥かに凌駕してやがる……!

お、俺はあの時よりも遥かに力を増したはずだ……なのに何故……)

 

 それは、かつて体験した事のない恥辱だった。

 決して馬鹿にされているわけではない。誰かに指摘されたわけでもない。

 だが、それでも理解してしまう……今ここにいる中で、自分が一番弱いのだという事を。

 エリートであるベジータにとって、他人の上に立っているのは当たり前の事であった。

 故にこの状況は初体験。自分が一番の弱者であるという予想すらしなかった事態に困惑する他ない。

 

「よおベジータ……ちょっと見ねえ間に随分と弱弱しくなっちまったなあ」

「ナッパ……!」

「嘘みてえな話だ。絶対に敵わないと思っていたお前が今や、ちっぽけに見えるぜ」

 

 そんなベジータへと、ナッパが挑発交じりに声をかけた。

 ナッパとベジータの力関係は完全に逆転している。

 今や、ベジータがどう逆立ちしてもナッパには敵わない。それだけの差があるのだ。

 その事にベジータは怒りの形相を浮かべ、ナッパは嘲笑の表情を浮かべた。

 

「ナッパ、やめなさい。

貴方とベジータの間に確執がある事は知っていますが、今はそれよりもフリーザの事を考えるべきです」

「う……そ、そうだな。すまねえ女神様」

 

 一触即発の空気だったが、リゼットに窘められてナッパが矛を収めた。

 何かまだベジータに言いたい事はあるのだろうが、しかしリゼットに注意されては仕方ない。

 それに実際、今はベジータよりもフリーザに集中すべき時だ。

 ナッパはそう考えてベジータから意識を外した。

 

(随分ギスギスした共同戦線になりそうですね)

 

 そんなナッパの様子にリゼットは眉を顰め、それから一つの岩陰を見た。

 フリーザだけでも厄介なのに、どうも厄介事というのは続けてやって来るものらしい。

 しかし、一度“彼女達”とは話しておくべきだと思っていたのも確かだ。

 故にリゼットは、招かれざる客へ向けて声をかけた。

 

「……そこに隠れている者。何者ですか?」

 

 リゼットの鋭敏な感知能力はフリーザよりも先にここに来ていた何者かを捉えていた。

 スラッグではない。彼の気は未だ遠くにある。

 それにこの特徴的な気は以前にも感じた事があった。

 

「へえ、勘がいいわね」

 

 リゼットの呼びかけに応じ、岩陰から例の魔族二人が姿を現す。

 全身スーツの女に、その後ろに控える寡黙な男だ。

 まさか地球から遠く離れたこのナメック星にまで現れるとは、本当に神出鬼没な連中である。

 恐らくはリゼット同様に空間転移の能力でも有しているのだろう。

 何せヘブンズゲートの元になったデッドゾーンは元々ガーリックJr.の技だ。魔族が使えても不思議はない。

 

「な、何だ? フリーザの一味か?」

「いや、この気配……貴様等、魔族か?」

 

 突然の乱入者にクリリンが身構え、同じ魔族であるピッコロが即座にその正体を言い当てる。

 魔族の男女はそれに返答を返さず、リゼットだけを鋭く視線で射抜く。

 どうやら向こうの目的はリゼットらしい。

 

「地球の神……少し貴女と話したい事があるんだけど、どうかしら?」

「私が受けるメリットがありませんが」

 

 リゼットはこの後すぐに到着するだろうフリーザを迎え撃たなければならない。

 後にクウラが控えている以上フリーザに戦力を削られるのは避けるべきだ。

 だからリゼットがフリーザを瞬殺し、後に来るクウラに全戦力をぶつける。

 しかしここで魔族二人を相手にしていては、その予定が瓦解してしまう。

 

「受けるメリットはなくとも、受けないデメリットなら提示出来るわよ。

そうね……例えばこのまま、フリーザとの戦いに私達が乱入するとか」

「――!」

 

 女の言葉にリゼットは顔を険しくする。

 これは脅しだ。いいから黙って付いて来い、そうしないとフリーザに味方するぞと言っているのだ。

 これが並大抵の相手であれば「どうぞご自由に」とでも言って蹴散らすところだが、何せこの二人は未知数だ。

 最悪、仲間の誰かが殺されてしまう可能性すらある。

 つまりリゼットに拒否権など最初からないのだ。

 

(いっそ、一度皆を連れて地球まで逃げてしまいましょうか……。

……いえ、それは恐らく悪手。彼女達は私と同様に空間移動の能力を有している可能性が高い。

私が逃げたところで、最悪、戦場が地球に変わるだけ……)

 

 リゼットの取れる選択肢の一つに『逃げ』がある。

 ヘブンズゲートで悟空達を連れて逃げ、フリーザ、クウラ、ターレス、スラッグで潰し合いをさせてしまうというのは一つの手段に数えていいだろう。

 この場合の最終的な勝者はクウラになるだろうが、もしかしたら彼の性格上、地球を雑魚と見なして放置してくれる可能性もある。

 劇場版で地球まで来てしまったのは悟空がフリーザを倒したからだ。

 そうでなければ来ない可能性も低くはない。

 しかし……やはり問題となるのは、この魔族二人組だ。

 ここまでに判明している時点で、彼女達には『空間移動、あるいは瞬間移動』、『他者の行動を変える』、『パワーアップさせる』という3つの能力を有している事が分かっている。

 つまりリゼットが地球に逃げても、クウラやフリーザを連れて追ってきてしまう可能性が高いのだ。

 それならばまだ……ナメック星人達には悪いが、住人のいなくなったこの星を戦場にした方がいい。

 

「……いいでしょう。付いて来なさい。向こうで話を聞きます」

「ふふっ、物分りがいいわね」

 

 リゼットは遠く離れた小島を指定し、魔族の二人もそれに従う。

 こうなった以上、フリーザとの戦いにリゼットは参加出来ないだろう。

 この二人を速攻で倒してしまえば戻る事も出来るだろうが、それも難しいとリゼットは考えていた。

 今の自分が全力で戦って、勝負になるかどうか……それほどのポテンシャルをこの魔族からは感じるのだ。

 リゼットは悟空を手招きで呼ぶと、対フリーザの注意点を彼へと伝える。

 こうなってしまったからには、せめて悟空達がさっさとフリーザを倒してしまう事に期待するしかない。

 

「悟空君、決してフリーザに全力を出させないで下さい。

相手がこちらを舐めている間に速攻で倒すように。いいですね?」

「え? そんな強え奴なんか……オラそいつの全力と戦ってみてえぞ」

「負けるから止めて下さい」

 

 ……伝える相手を間違えたかもしれない。

 いや、一応ピッコロやターレスも聞いているはずだし大丈夫だろう。大丈夫と思いたい。

 リゼットはその場から飛翔し、後に魔族二人が続く。

 予想はしていたが、それなりに飛ばしているのに余裕で付いて来ている。これだけでも油断出来ない相手だ。

 

「……『(アンテ)』」

 

 飛びながら、己の力を抑えている気霊錠を解除した。

 この二人の実力は未知数、となれば加減している余裕などない。

 悟空達から大分離れた所でリゼットは着地し、魔族二人も彼女から少し離れた位置に降り立った。

 

「さて……率直に問いましょう。貴方達は何者ですか?

様々な戦いにちょっかいをかけているようですが、何が目的なのです?」

「嫌あねえ、ちょっかいだなんて。私達はただ、面白くしようとしてるだけよ?

けど、私達がせっかく頑張っているのに貴女がいるせいで上手く行かないのよね」

「それをちょっかいと呼ぶのですが」

 

 魔族の女はリゼットを見つめる。

 その視線はリゼットを計ろうとしているようにも見えるが、真意は分からない。

 だがどうやら彼女の眼鏡にリゼットは適わなかったらしい。

 一言、『違うわね』とだけ呟いた。

 

「おかしいわねえ。タイムパトロールの回し者だと思ったんだけど、本当に私達の事を知らないみたいだし……考え過ぎだったのかしら?」

「どちらにせよ目障りな奴だ。ここで始末してやる」

 

 彼女達が言っている事はリゼットにはさっぱり分からない。元より理解させる気すら相手にはないのだろう。

 だが一つ……どうやらやる気らしい、という事だけは嫌でも分かった。

 一気に気を高め、赤いオーラを放出する男に対しリゼットも白翼を展開して応じる。

 20倍バーストリミットを発動し、これでリゼットの戦闘力は数値にして1億2375万――フリーザの100%にも勝る数値となった。

 今頃悟空達はいきなり意味の分からない大きさになったリゼットの気に驚いているだろうが、それを気にする余裕もない。

 

「なるほど。この時代では破格の強さだ」

「はァ!」

 

 この気の大きさを見ても余裕を崩さないか……と思いながらリゼットは男の懐へと飛び込む。

 そしてまずは拳に気を集中しての連撃!

 しかし当然のように男はガードをし、微塵も揺らがない。

 

「どうした? 一人で俺達と向かい合う以上、余程腕に自信があるんだろう。

見せてみろ、その力を」

「……!」

 

 ただ一度の攻防。それだけでリゼットは相手と己の差を痛感していた。

 全力を出していない、という点では両者共に同じだが恐らく隠している実力に天地の開きがある。

 彼の言う通りに実力の全てを真正面から出しても簡単に叩き潰されるだろう、とリゼットは判断した。

 だからまずは体勢を崩し、一気に攻撃を仕掛ける。

 何とか、相手がこちらを侮っている間に片を付けねばならない。

 それが彼女の出した結論だ。

 

「――ふっ!」

「!?」

 

 堅牢なガードを維持している男の小指を握る。

 いかに戦闘力が多かろうと体重まで増加するわけではない。

 リゼットは掴んだ小指を支点に合気道の要領で魔族の男を投げ、頭を地面へ叩き付ける。

 普通ならばこれで小指もへし折れるのだが、流石に頑丈だ。皹すら入っていない

 男は小指を掴まれたまま空いている方の拳を繰り出す――が、その瞬間にリゼットが小指を捻り男の姿勢を崩す。するとまるで操られるように拳がリゼットを外れ、逆に勢いを逆用した掌底が男の顔を射抜いた。

 

(……今だ!)

 

 男の体勢が崩れた隙を狙い、リゼットはバーストリミットを瞬間で最大まで開放。

 気を固形化して創り出した拳を地面から発射し……男の股間へと出力全開で叩き込んだ!

 更に気の拳は素早く睾丸を鷲掴みにし、力の限り握りしめて捻る。

 

「――~~~ッッ!!? ~~~~~~~ッッ」

「あら、えげつない」

 

 さしもの魔族の男もこれには悶絶し、目を見開く。

 金的というのは相手が男である以上、どうしようもなく有効な攻撃だ。

 睾丸というのはいわば剥き出しの内臓。鍛えようもない、股間にぶら下がった明確な弱所だ。

 しかしやはり戦闘力が高いと皮の防御も厚いのだろう。

 リゼットとしては本気で潰すつもりで攻撃したのだが、流血の一滴すらも齎せていない。

 

「は!」

 

 再び倍率を20倍まで戻し、相手の体勢が戻るのを待たずに足払い。

 鞭のように足をしならせて相手の膝裏に足の甲を当てて強制的に座らせた。

 要は膝カックンと同じだ。曲がるように出来ているのだから、僅かな力を当てれば曲がる。簡単な道理である。

 そのまま蹴りの勢いを殺さずに回転。その際に長い髪が魔族の男の目に当たり、視界を奪う。

 眼球もまた剥き出しの弱所の一つだ。

 

「~~ッ!」

「ミラ、前!」

 

 魔族の女が何か言っているがそのアドバイスを活かす間など与えない。

 遠心力を上乗せし、バーストリミットを再び最大まで上昇。

 気の固形化を右脚に集約させ、蹴りに刃を纏わせる。

 ――直撃。

 魔族の男は額から血を噴出しながら吹き飛び、遠く離れた岩山へと衝突した。

 ……本当は頭部を切断してしまう気だったのだが、僅かに額が斬れただけとは異常に固い相手である。

 

「“リストレイント”!」

 

 体勢を崩している魔族の男の両手両足を対象に物質創造神術を発動。

 無から有を生み出すのは神としての基礎技能であり、これ自体は何も驚くべき事ではない。

 ピッコロだって何もない場所に服を創る事が出来るのだ。

 それと同じ術でリゼットが創造したのは、重りだ。

 『原作』において、このような場面がある。

 四肢に4トンの重りを付けて修行をしている悟空のもとへ南の界王がやってきて、詳細は省くが悟空の重りを10トンにしてしまうというエピソードだ。

 それは結局、超サイヤ人になった悟空があっさり動いてしまったことで南の界王が度肝を抜かれるという展開に終わるのだが注目すべきはそこではない。

 このエピソードで注目すべき点は一つ。

 

 界王クラスであっても、変身していないとはいえ、悟空が動けなくなるほどの重りを創り出せるという事だ。

 

 このエピソードで悟空に与えられた重りは合計40トン。

 大界王星の重力が界王星と同じ10倍と想定すれば400トンの負荷を与えられた事になる。

 そして今回リゼットが彼に付与した重りは……一つ1000トン! 合計で4000トンの重量を彼に強要し、その動きを封じ込めた。

 

「ぐ……お!?」

「“ギャロウズ”!」

 

 続け様に物質創造。

 絞首台を具現化し、男の首を縄で縛り上げて念力と合わせて浮かせた。

 狙いは無論、言うまでもなく、このまま彼の首をへし折る事である。

 戦闘力では今のリゼットでは魔族の男に遠く及ばない。

 しかし実力で及ばずとも、界王の重りの事例から分かるように、物質創造の使い方次第では格上だろうと行動不能にする事が出来てしまう。

 そして4000トンの重りによって首にかかる負荷は、リゼット自身が使うどんな攻撃よりも彼にダメージを与えるだろう。

 ギリギリと男の首が圧迫され、元々青い顔色が更に青くなる。

 

「ったく、世話が焼けるわね」

 

 しかしリゼットが神術を使うならば、相手も魔術を使う。

 女が杖を向けただけでリゼットが創造した拘束具と絞首台は一瞬にして消え――だがリゼットはそれを予期していたように即座に次撃へと移行した。

 

「千の剣よ、在れ!」

 

 間髪入れずにリゼットが右手を掲げる。

 すると空を埋め尽くす程に白い剣が創造され、一斉にその刃を魔族の男へと向けた。

 躊躇などそこにはない。

 放たれた刃が次々と男に炸裂し、その姿を覆い隠していく。

 だがリゼットはそれでも終わりと見なさないらしく、飛翔して空中で翼を広げた。

 翼から漏れた気がまるで羽のように舞い散る。

 そこから間髪入れずに両手を頭上でクロスさせて気を高め、かめはめ波と同様に両手の手首を合わせた状態で前に突き出した。

 それと同時にリゼットの周囲に二つの光球が生まれ、それらは彼女の周囲を旋回しながら光を強めていく。

 そして高めた気を全て掌の中に凝縮・チャージし――発射した。

 

Raging blast(レイジングブラスト)!」

 

 かめはめ波などに代表される単純明快な一方向へ向けての気の放出。そのリゼット版だ。

 放たれた白い奔流に合わせて2つの光球が桜色の気功波と化して中央の白い気功波に合流し、魔貫光殺砲のように螺旋を描きながら旋回した。

 言うならば『貫通力と突進力を強化したかめはめ波』といったところか。

 リゼットの全力で放たれたそれは星の地表すらも削り、岩山を消滅させて男を呑み込む。

 そればかりか惑星の成層圏すらも突き抜け、遠く離れた位置にあった小惑星へと直撃、爆砕した。

 

(……間違いなく今の私の全力の攻撃……これで駄目だったなら……)

 

 今のはリゼットが今行える最大の攻撃だった。

 これでどれだけのダメージを受けてくれるか……あるいは受けないかで実力差がある程度痛感(わか)る。

 無論実力差があるならばあるでやりようはある。カウンター狙いもいいし、ひたすらに斬撃を繰り返すというのも有効な手だ。

 太陽拳からの気円斬コンボも選択肢に入れていいだろう。

 だがやはり、出来れば少しくらいはダメージも入っていて欲しい。

 実力差を埋める手段はあれど、やはりそれで勝つのは楽な話ではないのだから。

 かくして、煙が晴れた時にそこにいたのは――。

 

「……こんなものか……期待外れだ。面白くもない」

 

 額の斬り傷以外に、これといって全くダメージを受けていない魔族の男の姿であった。




・ゼノバースにおいてミラさんをどれだけボコボコにしてもこの台詞を言われます。
ニコニコ動画とかだと「(震え声)」とかコメントが付きますけど、やはりこの時点のミラさんは勝ち目がない強敵なのです。
どれだけ一方的に殴って、こちらのHPが僅かにすら削れていないパーフェクト勝ちでも勝ち目などないのです。
こんなものか。期待外れだ。面白くもない(内股)


【リストレイント&ギャロウズ】
敵に合計4000トンの重量を与えて行動不能にし、その上で絞首刑にかける結構酷い技。
物質創造術の悪用。やろうと思えば多分界王様でも出来る。
リゼットはカッチン鋼を見たことがないので地球で一番固い物質である天命石(カリン塔を構成している石)で造っているが、このレベルの戦いでは天命石など木材のようなものなので、割と簡単に壊れてしまう。

【千の剣よ在れ】
リゼット版王子戦法。Dr.ウィローにも使った『ソード』を正式に技に昇華させたもの。
同時に千本の剣型気弾を創造し、敵に突撃させる。
千の剣と在れと言いながら実は正確な本数はリゼットの手抜きにより、微妙に千本を超えていたり足りなかったりする。
なので正確な技名は『四捨五入すれば大体千本くらいの剣よ在れ』である。
グミ撃ちの際に手を高速で動かすのが面倒くさいというリゼットの怠け心から生み出された。
剣の形状をしていて斬撃特化しているので殺傷力は高い。
しかし所詮は王子戦法なのでミラには通じなかった。
\トレースオン!/ \ゲートオブバビロン!/

【Raging blast(レイジングブラスト)】
リゼット版かめはめ波。
補助用の光球を先に出してから、手を頭上でクロスしてチャージし、敵へ向けて発射する。それだけの技。
3発の気功波を複合して放つ事で威力と貫通力、突進力でかめはめ波を凌駕する。
その攻撃力はかめはめ波の3倍。燃費の悪さも3倍。シャアは実は1.3倍。
光球を出さずに撃つ事も可能だが、その場合はただのモーション違いのかめはめ波でしかない。
名前の元ネタはゲームの『レイジングブラスト』から。
\コイツデトドメダ! クロスマッシャー!/ \ファイナルカメハメハ!/


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第三十一話 更なる混沌

「もう終わりだ。安心しろ、お前のエネルギーは俺が使ってやる」

 

 リゼットの渾身の連撃を受けて尚、さしたるダメージも受けていないミラが宣告を下す。

 二人の実力差は一目瞭然。リゼットが全力で攻撃を叩きこんでもダメージがない時点でもはや勝敗は決している。

 勝ち筋があるとすれば斬撃系の気弾で首なり胴なりを切断してしまう事だが、千の剣を叩きこんでも無傷の時点でかなり難しいと言うしかない。

 しかしそこに、今まで沈黙を守っていた女魔族が言葉を割り込ませた。

 

「待って、ミラ」

 

 女の制止に男が素直に止まる。

 感じられる気の大きさは男の方が圧倒的に勝るが、どうやら立場は女が上らしい。

 ならばあちらを仕留めてしまえば……と思考を巡らせるリゼットへ女が問いを発した。

 

「ねえ、貴女。もしかして後ろに誰かがいるんじゃない?」

「……後ろ?」

「そう、例えば時間を越える力を持つ奴とか。

誰かが余計な事をしたと考えないと、不自然なのよね。

貴女だけよ? 存在している時間軸と存在しない時間軸でここまで差が生じているのは」

「一体何の話を……」

 

 相変わらず、この魔族の言いたい事はいまいち分からない。

 だが出てきた言葉は見逃せるものではなく、どうも彼女達は本来の時間軸……つまりドラゴンボールの正史を知っているかのような素振りを見せていた。

 本当に一体何者なのだろう、とリゼットは考える。

 セルやトランクスのように未来から来たのだろうか? それとも自分と同じ記憶持ちか?

 もしかしたら自分が知らないだけで後年にドラゴンボールの続編なり外伝なりが登場して、そこで登場した新キャラか何かだろうか?

 ……まさかAFのような二次創作のキャラクターという事は流石にあるまい。

 

「ふうん。どうやら本当に知らないようね?

……まあいいわ。ミラ、もう少しだけ放っておきましょう。

もしかしたらこいつを通して、裏にいる連中を引き摺り出せるかもしれないしね」

「こいつを見逃すのか?」

「いいでしょ? 貴方にとってはどうせ雑魚よ。大したエネルギーにもなりゃしないわ。

今はまだ、ね」

 

 女はあくまで余裕の態度のまま、リゼットを放置する事を提案する。

 実際にあの男――ミラとリゼットの実力差は明白だ。放置しても問題のない相手と判断されたのだろう。

 女は挑発するように笑うと、リゼットへと向き直る。

 

「そういうわけだから、もう少しだけ生かしておいてあげる。

でも私達の邪魔をしたらすぐに消えてもらうから」

「逃がすとでも……」

「あら、いいのかしら? 私達ばかりに構っていて」

 

 女がからかうように言い、それと同時にリゼットは感じた。

 今まで確かに第一形態だったはずのフリーザの気が、突然巨大に……最終形態のそれへと変わったのを。

 

「なっ……!」

「あら大変、フリーザったらいきなり最終形態になっちゃったわねえ」

「馬鹿な……貴方達、一体何を……!?」

 

 フリーザの性格上、いきなり最終形態になるなど有り得ない。

 だがこれと似たような事は以前にもあった。

 追い詰められてもいないベジータがいきなり大猿になるという不可解な事態。今回のはそれと全く同じ展開なのだ。

 一体何をしたのかは分からないが、この魔族二人が何かをしたに違いあるまい。

 

「そして、ほおら。もう一つ……」

 

 次にリゼットが感じたのは、このナメック星に到着してしまった複数の気であった。

 ギニュー特戦隊に、クウラ機甲戦隊。そしてクウラ。

 それらが、何時の間にかこの星に到着していたのだ。

 

「ふふ、少しだけ時間を早めてあげたわ。どう? 楽しくなりそうでしょう?

ま、種あかしをしちゃえばちょっと先の到着寸前の未来から『持ってきた』だけなんだけどね」

「……!」

「それじゃ、私達は次の時代へ行くわ。また会いましょう……可愛いイレギュラーさん」

「待っ……!」

 

 リゼットは慌てて止めようとするも、それよりも早く二人の魔族は最初から存在しなかったかのように消え去った。

 すぐに気を探すも、もうどこにも見当たらない。

 このナメック星だけではない……リゼットが感知し得る周囲の宙域数光年に渡り、あの二人はどこにも居ないのだ。

 彼女達の言葉を信じるならば、別の時間へと飛んだという事なのだろう。

 信じ難い、そして信じたくもない恐ろしい力だ。

 

「何て事を……」

 

 あの二人のせいで事態は完全にリゼットの手を離れてしまった。

 フリーザはいきなり最終形態へと移行し、クウラまで到着してしまうなど最悪の予想を上回っての最悪だ。

 一体どうすればいいのか……リゼットは最早、正しい答えを完全に見失っていた。

 いや、そもそも現状に対して正しい答えなどというものが存在するかどうか……。

 

「一体どうすれば……」

 

 迷っていても時間は止まってくれない。

 刻一刻と変化する混迷の事態の中、リゼットは早急に次の行動を決めなければならなかった。

 

 

 一方その頃、クウラ直属部隊『クウラ機甲戦隊』のリーダーであるサウザーは宇宙船の前で腕組みをし、部下の帰還を待っていた。

 彼等がこのナメック星に到着してまず最初に行ったのはフリーザの真意を問うべく伝令兵を飛ばす事であり、未だその部下が帰還しないのだ。

 サウザーとしては今回のフリーザの反乱はとても信じられるものではない。

 確かに彼の主であるクウラと、その弟であるフリーザはお世辞にも仲のいい兄弟とは言えないだろう。

 しかし、だからといって表立って反逆する程に険悪なわけでもない。

 それに宇宙の支配者であるフロスト一族同士の本気の殺し合いなど、自ら栄光を捨て去るに等しい愚行でありコルド大王もそんなのは許さないだろう。

 だから今回の件は何かの間違いであり、フリーザとクウラもきっと、いつも通りに互いに嫌味を叩き合いながらこの件は納まると、そうサウザーは考えていた。

 だが伝令に送った部下は帰らず……代わりにやってきたのは、フリーザの側近であるザーボンであった。

 

「お前はザーボン……? 伝令に送った兵はどうした?」

「ふ、フリーザ様が始末なされた。私はクウラ様にお知らせしようと……」

 

 これが単なる一般兵士であればサウザーの反応も違っただろう。

 だがここにいるのは曲がりなりにもフリーザの側近であるザーボンであり、その言葉の重みが違う。

 彼がクウラにこのような事をわざわざ告げるという事。それは即ちフリーザへの裏切りに他ならない。

 つまり彼は今、フリーザに殺されてしまう危険を犯してまでここに来ているわけであり、嘘でこんな事を行うのはあまりにリスクが高すぎる。

 否、高いというより得る物がない。リスクしかないのだ。

 

「だがお前はフリーザ様の側近のはず。何故それを伝えに来た?」

「……それしか生きる道がないからだ。いくらフリーザ様でもクウラ様と本気でやりあえば勝ち目はあるまい……そんな戦いで捨て石にされて死ぬのは御免だ」

 

 苦渋の決断というわけか、とサウザーは考える。

 確かにフリーザとクウラが普段の兄弟喧嘩ではなく本気で殺し合えば間違いなくクウラが勝つだろう。

 本人同士の戦闘力は勿論の事、側近の戦闘力もクウラが勝るのだ。

 機甲戦隊は僅か3人のみのチームだが、3人が共にギニューを上回る戦闘力の持ち主だ。

 たかだか4万や5万の戦闘力しかない特戦隊など相手にもなるまい。

 唯一対抗し得るのがギニューだが、それとて3人を相手にして勝負になるものか。

 だからザーボンの選択は正しい。

 確かにクウラとフリーザの軍勢が正面から衝突すれば、その時真っ先に捨て石となるのはザーボンだ。ならばまだクウラに付いた方が生存率は高いと言えるだろう。

 

 この時、サウザーはまだ半信半疑であった。

 ザーボンがフリーザを本当に裏切っているのか……その確証が持てなかったのだ。

 故にこの後に起こった事はザーボンにとってはまさに不幸中の幸いであった。

 

「ザーボン……てめえ、よくも……!」

「ド、ドドリア!? お前生きていたのか!?」

 

 何と、殺したと思っていたドドリアが生きていたのだ。

 しかしザーボンは幸運だった。

 もしもこれがフリーザの宇宙船で、フリーザの居る前で起こった出来事だったならばフリーザからの追及を逃れる事は出来ずに裏切り者として消されていた事だろう。

 しかしここはクウラの宇宙船前であり、そしてサウザーには今まさに、『クウラの為にフリーザを裏切ってきました』というシナリオで話している。

 ならばこのドドリアの登場は、むしろプラスとなる。

 

「おのれ、フリーザめ! 裏切り者の私を始末しに来たか!」

「裏切りは、許さねええ……!」

「何だと……? やはりフリーザ様の謀反は本当だったのか……!?」

 

 フリーザの側近の片方が片方を裏切り者と呼び、その対象も裏切りを認めている。

 この事態を前にサウザーは誤解をした。ザーボンは本当にフリーザを裏切ってクウラに付く気なのだと。

 そしてその際にドドリアを攻撃し、しかし殺し損ねたドドリアがザーボンを殺す追っ手として差し向けられた、と。そう勘違いしてしまったのだ。

 何とも見当外れな事を考えるサウザーの前でザーボンとドドリアの戦いが始まり、そこには一切の手加減も演技もなかった。

 戦闘力17万のサウザーにしてみれば二人の戦いは低次元なものだが、少なくとも本気で互いを殺そうとしているのはよく解る。

 やがて勝負はザーボンの勝利に終わり、ドドリアは海へと沈められた。

 

「サ、サウザー、時間がない。フリーザはドラゴンボールを集めるべく高い戦闘力が集まっている場所へと向かった。このままでは本当に不老不死となってしまうぞ!」

「わ、わかった! 俺はすぐにこの事をクウラ様へと伝えてくる!」

 

 今まで現実味のなかったフリーザの反乱。それが現実味を帯びてきた事でサウザーは慌てた。

 ザーボンの言葉の裏も読まずに、彼から伝わったフリーザ反逆の件を正しいものと考えてしまったのだ。

 それが全てザーボンの意のままだと気付きすらせずに宇宙船の中へと走り、そしてクウラへとそのまま報告してしまう。

 そしてサウザーからの報告を受けたクウラもまた、そこに疑いを挟みはしなかった。

 

「なるほど……フリーザめ、愚かな奴よ。

この俺に正面から歯向かうほどに救いようがないとはな」

 

 元より彼等兄弟の仲は悪い。相手への信頼など皆無だ。

 だから『もしかしたら』、『彼がそのような軽はずみな行動に出るはずが』という疑いを持とうとしない。

 『まああの馬鹿ならやるだろう』くらいにしか考えないのだ。

 故に、クウラの中において既にフリーザはただの裏切り者であり、そして敵でしかなかった。

 

「フリーザと、そこにいるわけのわからん連中は俺が纏めて始末する。

サウザー、お前はギニュー特戦隊を潰して来い。

他はともかく、ボディチェンジ能力を有するギニューだけはフリーザと合流されると面倒だ」

「はっ」

 

 ギニュー特戦隊の討伐を機甲戦隊へと命じ、クウラは空へと飛び立った。

 そこに警戒などない。戦えば必ず己が勝つという強者の自負に溢れている。

 それに遅れてサウザー達も飛び立ち、後にはザーボン一人だけが残される。

 ここまでは順調だ。これでフリーザとクウラはしばらく戻って来ないだろうし、その時はどちらかが死んでいるはずだ。

 そして特戦隊は機甲戦隊が片付けてくれる事になった。

 それはつまり、今ならばフリーザの宇宙船がガラ空きという事。ドラゴンボールを奪う絶好の好機が到来したという事だ。

 

「ふふふ……近付いてきた、近付いてきたぞ。私の永遠の美が!」

 

 全てを掌で弄んでいる、とザーボンは思い込んでいる。

 否、実際にこのナメック星における混沌とした現状は紛れもなく彼が招いたものであり、彼はそれを上手くコントロールしていると言える。

 だがその彼もまた完璧ではない。リゼットという存在がいるせいで既にボールが入手不可能になっているという事を予想出来ていない。

 つまり、彼はもう詰んでいるのだ。

 何をしてもボールが入手出来ない以上永遠の美など得られるはずもなく、そしてフリーザとクウラのどちらが戻ってきても彼の悪行はいずれ明るみとなり消し去られるだろう。

 

 この戦場は混沌。誰にもコントロールなど出来やしないのだ。




【ドラゴンボールゼノバース】
2015年に発売された家庭用アクションゲームソフト。
未来を改変した罪により、未来トランクスがタイムパトロールとして働いているという設定から物語が始まり、そんなトランクスがドラゴンボールに願った『俺と一緒に戦ってくれる強い人を連れてきてくれ』という願いに応える形で神龍に拉致された戦士がプレイヤーとなる。
歴史を改変する者達から悟空達を守るために戦うというのが大まかな流れで、このゲームの時間改変は従来のパラレルワールド量産型とは異なるドラえもん式改変となる。
かなり細かいキャラエディットが可能で、自分の分身が悟空達と共に戦い、助けるというファン垂涎の展開が大人気となった。
トキトキ都という、あちこちでアバター達がビンゴダンスをしているカオスな空間を拠点として、歴史の敵達と戦う。

【主人公】
ゼノバース1の主人公。
神龍に拉致されてトランクスに協力する羽目になった苦労人。
決まった容姿や性別はなく、プレイヤーが自由に決める事が出来る。
種族は地球人、サイヤ人、ナメック星人、フリーザ一族、魔人の五種類から選択可能。
プレイヤーの分身という位置付けなので基本的に会話はせず、ジェスチャーだけでリアクションを取る。
ストーリー中のモーションは統一されているので、女の子アバターにしていようが当たり前のようにガニ股になったりするのが悲しい。
『1』では大活躍だったが、主役補正が消えた『2』での扱いは悲惨の一言。

このSSでは当たり前ながら、オリジナル主人公枠はリゼットに取られているので、ここに私のアバターを放り込むことは出来ない。
仮にそれをやっても、明後日の方向にかめはめ波を撃ち、栽培マンにすら負けるクソの役にも立たない雑魚が登場するだけである。
なのでこの1主人公の立ち位置には別のキャラを放り込んでいる。

【トワ】
ゼノバースに登場するエロい恰好の魔族のお姉さん。
大人のお姉さんが好きなパラガスも大満足。
ドラゴンボールの様々な歴史にちょっかいをかけてはキリ(エネルギー)を吸収している。
ダーブラの妹だが、全然似ていない。
多分ミラよりは弱いが、それでもダーブラ級の戦闘力はあると見ていい。

【ミラ】
トワの造り出した人造人間。
自分が最強である事に拘っており、1ではやや小物感のする残念なイケメンだった。
実力は大体魔人ブウ(デブ)と同じくらいと思われる。
2では最終的にブルー以上の強さになる。

【時の界王神】
界王神にあるまじき有能。
可愛らしい外見をしているが、実は7500万年以上生きているロリババア。


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第三十二話 とびっきりの最強対最強(1)

 サウザーへと偽りの報告を済ませたザーボンは一度フリーザの宇宙船へと戻っていた。

 その目的は勿論、宇宙船に保管してあるドラゴンボールを奪う事である。

 しかしここで彼にとっての誤算が起こった。

 てっきりフリーザの援護に向かったと思っていたギニュー特戦隊の一人であるグルドがボールの監視として残っていたのだ。

 

「お前は……グルド!」

「何だ、ザーボンか……雑魚が驚かせるんじゃねえ」

 

 グルドは宇宙の精鋭を集めたギニュー特戦隊の中で唯一、ザーボンにも劣る戦闘力の持ち主である。

 代わりに時間を停止させる能力を有しているからこそ特戦隊に数えられているが、この程度の相手に雑魚と呼ばれる事はザーボンにとって屈辱であった。

 その意趣返しに、ほとんど本音に等しい侮辱をグルドへとぶつける。

 

「喋るな、ナマモノめ。私の鼻が曲がるではないか」

「な、なんだとお! お、俺が一番気にしている事を……!?」

「……だが、どうやら貴様一匹のようだな」

「な、なんだってんだよ?」

 

 見張りがいたというのはザーボンにとって誤算だったが、しかしそれがグルド一人というのは幸運だった。

 もしここに残ったメンバーが他の4人のうちの誰かならば勝ち目など到底なかっただろう。

 だがグルドならば話は別だ。

 確かに彼の超能力や時間停止は厄介だ。チーム戦ならば半端な戦闘力などより余程戦闘に貢献出来る。

 金縛りの術で敵の動きを停めてもいいし、時間停止など使い方次第でいくらでも応用出来る。

 だが一対一ならば、さほど恐れる相手ではない。

 ザーボンは地面を蹴ると、グルドが反応出来ない速度で蹴りを叩き込んだ。

 

「がっ……!」

「消えろ、ナマモノめ!」

 

 続けて肘打ち! グルドの頭を打ち抜き、地面へと叩き付ける。

 更に追撃の気弾! 倒れたグルドの背に容赦なく気を叩き込み、何一つ行動させずに沈黙させた。

 所詮グルドの戦闘力は僅か1万前後。ザーボンと戦って勝てる道理などない。

 もし彼に勝ち目があるとすれば、それは先手で金縛りの術を使うくらいだろうがザーボンもそれは分かっている。

 だから何もさせずに奇襲で倒したのだ。

 

「ふん……ドドリアといい貴様といい、果てしなく醜くすぎる生き物だな。

私より美しい者は許せんが、醜い者も許せん。自分を見ているようでな……」

 

 ザーボンは美と醜の二面性を持つ。それが彼のコンプレックスであり、故に彼はグルドやドドリアの存在を許せない。

 そして、それと同じかそれ以上に自分よりも美しいと認めたリゼットの事もまた許せないのだ。

 

「さて、これでボールが5つ……残るボールはあの妙な連中の誰かが持っているだろうが私では奪えん。

フリーザが奴等を殺した所を狙って掠め取るしかないな」

 

 ザーボンは手に入れたドラゴンボール5つを持って移動を開始する。

 とりあえずまずは、誰にも見付からない場所に隠すのが先決だ。

 

 

 悟空達は今、かつてない危機を迎えていた。

 人数は悟空達一行にターレス、ベジータをも加えて11人。

 かつては敵として猛威を振るったベジータやターレスまでもが味方に加わっているという、普通ならば負ける気のしない戦力だ。

 だがそれもフリーザと出会うまでの話。今のフリーザと比べてしまえば、そんなものは何の慰めにもならない。

 見た目はシンプルさを限界まで追求したようなのっぺりとした異星人であり、背も低い。外見“だけ”を言えば今までの敵の中で最も大した事のない相手に見えるだろう。

 だが――強い! それも恐ろしいほどにだ。

 

「な、何て事だ……神様の言った事は本当だった……。

こいつだけは変身させちゃいけなかった……」

 

 悟空は心のどこかでフリーザを侮っていた。あるいは慢心していたのかもしれない。

 最初に現れたフリーザの戦闘力は数値にして53万程度であり、今の悟空ならば界王拳を使うまでもなく勝ててしまう相手でしかなかった。

 だから彼が変身した時も全力で止めなかった。

 黒いオーラを纏い、いきなり『最終形態を見せてやろう』とか言い出した時もむしろそれを望んでいたようにさえ思う。

 サイヤ人の悪癖だ。自分の方が相手より数段上の強さになってしまうと、そこに楽しみを見出そうとしてしまう。少しくらい苦戦したいと望んでしまうのだ。

 だがそれは間違いだった。リゼットが言ったように相手がこちらを侮っている間にあっさりと倒してしまうべきだったのだ。

 

「あ、あああ……」

「な、何て事だ……あ、あいつ、ここまで凄まじいなんて……」

 

 悟飯が震え、クリリンも掠れた声で呟く。

 ヤムチャや天津飯、餃子や人参化も同じだ。誰もがフリーザを恐れていた。

 ナッパやベジータといった戦闘好きのサイヤ人ですら震え、ピッコロやターレスですら表情を険しくしている。

 

「さあ、地獄以上の恐怖を見せてあげるよ」

 

 ゆっくりと手を広げて構えるフリーザを前に、まず弾かれるようにして悟空とピッコロが仕掛けた。

 出し惜しみなどしない。最初から全開の界王拳10倍だ。

 戦闘力にして650万以上にまで跳ね上がった二人は紅蓮のオーラを纏いフリーザへと飛びかかる。

 しかしフリーザは反撃もせずに悠々とそれを避け、続く連撃も軽々といなし続ける。

 

「特大繰気弾!」

「気円烈斬!」

 

 悟空とピッコロが距離を取った瞬間を狙い、ヤムチャとクリリンがそれぞれの最大技を放つ。

 気を限界まで集めた特大の繰気弾が複雑な軌道を描いてフリーザを狙い、連射された気円斬が直進する。

 だがフリーザは軽々と気円斬を回避し、蠅でも払うかのように繰気弾を叩き落とした。

 

「気功砲!」

 

 続けて天津飯が気功砲を放ち、フリーザへと直撃させる。

 一歩間違えれば自らの命と引き換えになりかねない大技であり、本人の力量以上の威力を叩き出せる彼の切り札だ。

 だがこれも効かない。悠然と無傷のフリーザが煙の中から姿を現す。

 

「キルドライバー!」

「く、くそったれー!」

「喰らええええ!」

 

 ターレスが両手の間に生み出した気の輪を放ち、ベジータが気を放出する。

 更にナッパが口から破壊光線を放ち、三条の奔流がフリーザへと向かった。

 だがフリーザはこれすらも片手で弾き、何事もなかったかのようにそこに佇んでいた。

 餃子はずっと超能力を使っているが、まるで通用していない。

 

「握手をしましょう」

 

 兎人参化がフリーザの前に歩み出て握手を求めた。

 勿論応じてもらえるわけがない。

 無言で尻尾で殴られ、兎人参化は失神した。

 

「それで終わりかな? もしそうなら、そろそろ僕も仕掛けさせてもらうけど」

「ぐっ……! 皆、同時に攻撃するんだ!」

 

 ピッコロが一斉攻撃の号令を出し、全員がそれに頷く。

 

「かめはめ、波ァー!」

「波ァ!」

「かめはめ波!」

 

 悟空、クリリン、ヤムチャの3人が同時にかめはめ波を放つ。

 

「魔閃光ー!」

「魔貫光殺砲!」

 

 悟飯とピッコロの師弟が一切のタイミングの乱れなく技を発射する。

 

「「どどん波ァ!」」

 

 天津飯と餃子が二条の光線を放ち、それに続いてベジータのギャリック砲、ターレスのキルドライバー、ナッパの破壊光線が並んだ。

 計10発の大技。だがフリーザの笑みは崩れずに、怯みすらせず前進。自ら気弾の嵐へと当たって行った。

 結果は――無傷。煙の中から再び絶望(フリーザ)が歩み出る。

 

「な、なあ……俺思ったんだけどよ、一度逃げて神様と合流しねえか?

さっき感じた神様の気なら、多分フリーザにも勝てると思うんだけどよ……」

 

 クリリンのその提案は弱気なものだが、確かに現状では最も確実な方法であった。

 あの妙な魔族二人組に連れて行かれてしまったリゼットだが、その気の強大さは充分に伝わってきた。

 フリーザがまだ本気ではない事を計算に入れても、恐らくリゼットが勝るだろう。そう思わされる程の巨大な気であり、それだけに土壇場で邪魔が入って彼女が離脱してしまったのが心底痛い。

 だが逆を言えば、あの魔族はリゼットですら警戒心を抱いて場所を変える程の相手だったとも取れる。

 もしかしたら、あれはフリーザ以上の強敵なのかもしれない。

 

「馬鹿め、よく気を探ってみろ。奴なら既にこちらへと向かって来ている。

……フリーザに似た、やばい気も別方向から来ているがな」

 

 そんなクリリンへ、まだ少しは冷静なピッコロが突っ込みを入れた。

 こちらが何もせずとも、既にリゼットは移動を開始している。

 だが同じように、余計なものまでここに接近しているようだ。

 状況はハッキリ言って全くよくなっていない。それどころか、これから益々悪化するだろう。

 それが分かるだけにピッコロの顔は苦渋に歪んでいる。

 

「さて、今度は僕からいくよ」

「――っ、来るぞ!」

 

 フリーザが指先を向け、閃光を連続で発射する。

 それに僅かにでも反応出来たのは悟空、ピッコロ、ターレスだけだ。

 悟空はクリリンを、ピッコロは悟飯を、そしてターレスはベジータを。

 それぞれ一番近くにいた味方を引っ張り、死の閃光からかろうじて身を逃した。

 だが残された天津飯、ヤムチャ、餃子、ナッパは避け切れない。

 4人は何も出来ずに胸を貫かれ、そして地面に伏した。

 死んだのか、それとも生きているのかは分からない。

 だが生きているとしても、もう立ち上がる事は出来ないだろう。

 

「ほお、避けたか。思ったよりやるね」

「……み、見えなかった……ただ、何かがパッと光ったようにしか……」

 

 たった1回の攻撃で人数を半分にされてしまった。

 その事にクリリンと悟飯が震え、ベジータが絶望する。

 駄目だ、勝てない。次元が違いすぎる。そう悟るに、今の攻撃は充分過ぎた。

 だが絶望は続く。フリーザは悟空をこの中で一番の実力者と判断するや、一瞬で彼の目の前へと跳び、首筋に蹴りを叩き込んだのだ。

 不吉な音が響き、悟空を覆っていた炎の如き気が消える。

 そして悟空は、まるで糸でも切れたかのように倒れ伏した。

 

「ごっ、悟空ー!?」

「お父さん!」

「さあ、次は誰にしようか?」

 

 あまりに突然の事にクリリンと悟飯は理解が追いついていない。

 ただ突然悟空がやられた、という事しか分からず混乱するばかりだ。

 そんな二人へと無情にもフリーザが接近し――。

 

「させるかァーッ!」

 

 横からターレスが割り込み、フリーザへ猛攻を仕掛けた。

 二人の間で激しい攻防が始まり、しかしフリーザの余裕は崩れない。

 そればかりかフリーザは実力差を見せつけるように腕組みをして足だけでターレスをあしらい、蹴り飛ばした。

 ターレスは血の放物線を描きながらも空中で回転して着地するが、たったこれだけの攻防で既に息が上がっていた。

 

「くそったれめ!」

 

 ピッコロも攻撃に加わり、ターレスと二人がかりでフリーザへ突撃した。

 だがそれでも当たらない。

 フリーザは腕組みすら解かず、嘲笑すら浮かべながら二人の決死の抵抗を楽しんでいた。

 ターレスはこのままでは勝てないと判断するや、フリーザを跳び越えて彼の背後へ回り込んだ。

 そしてフリーザを羽交い絞めにし、クリリンへ叫ぶ。

 

「地球人! あの気の円盤で俺ごとフリーザを斬れ!」

「なっ……い、いくらお前が悪人でもそんな事出来るわけ……」

「馬鹿野郎! 皆揃って死にてえか!?」

 

 このままでは勝てない。

 ならばせめて差し違える……その判断は決して間違いではない。

 だがクリリンが迷った一瞬があればフリーザは拘束から逃れる事が可能だ。

 フリーザの肘がターレスの腹にめり込み、強引に彼を吹き飛ばしてしまった。

 それでもターレスは何とか立ち上がるが、ダメージは浅くない。

 

「無駄な事を」

 

 フリーザは余裕の笑みを浮かべ、クリリンへと指を向けた。

 まずは厄介な技を使う彼から殺そうというつもりだろう。

 今度こそ万事休すか――そう思われた瞬間に音を遙か遠くに置き去りにして飛び込んできた巨大な白い拳が、フリーザを殴り飛ばした。

 

「がっ……!?」

 

 その拳は以前、ベジータとの戦いでクリリン達も見た事がある。

 リゼットが『ゴッドハンド』と呼んでいた気の拳だ。

 空を見上げれば案の定、そこにはリゼットが佇んでいる。

 

「神様!」

「すみません、遅くなりました」

 

 リゼットはクリリン達の隣に着地し、倒れ伏した仲間達を見る。

 まだ死んではいないようだが、全員瀕死だ。一刻も早く措置を施さないとまずい。

 リゼットは空中に手を伸ばし、空間の裂け目から袋を取り出す。

 自ら創り出した亜空間に収納しておいた仙豆を入れた袋だ。

 中から6つの豆を出すと、それを超能力で操作して仲間達の口へと放り込む。

 これでとりあえず、命に別状はないだろう。

 

「た、助かったよ神様……俺、もう駄目かと……」

「……いえ、まだ助かったと考えるのは早計なようですよ、クリリン君」

 

 安堵しかけるクリリンだが、リゼットの言葉で再び気を引き締められる。

 そう、安心するにはまだ早い。ここからがこの混迷の戦場の本番なのだ。

 リゼットが上へと視線を走らせ、つられてクリリンも見る。

 彼女が視線を向けた先にいたのは、岩の上に立つ宇宙人だった。

 フリーザとよく似た外見のそれは、信じたくない事にフリーザの気を上回っている。

 

「見付けたぞ愚弟(フリーザ)。一族の面汚しめ」

愚兄(クウラ)か……こんな星まで来るとは、余程暇なんだな」

 

 クウラとフリーザはどうも、あまり仲はよくないらしい。

 互いに憎悪を隠しもせずに睨み合い、今にも飛びかかりそうだ。

 いっそ、このまま兄弟喧嘩に突入してくれるのならリゼット達にとっても願ったり叶ったりだ。

 どちらが勝つにせよダメージは受けるだろうから、弱った方を叩けばいい。

 しかし意外というべきか……クウラは冷静に、リゼット達を見下す。

 

「弁解があるならば、そこの連中を片付けた後で聞いてやろう。あるならば、だがな」

「いちいち上から目線で鬱陶しいんだよ、お前。

そいつ等を始末したら次はお前だ。覚悟しておけ」

「弟を殺す覚悟か?」

「ほざけ」

 

 どうやら、そう上手く事は運んでくれないらしい。

 クウラとフリーザはまず、目障りなリゼット達を先に消す事に決めたようだ。

 大方、小物といえど自分達が戦っている隙に逃げられたりしたら面白くないとか、そんな理由だろう。

 どちらにせよ、状況は最悪の方向へと傾いていた。




【とびっきりの最強対最強】
ドラゴンボールシリーズの劇場公開作第8弾。
悟空がフリーザを倒したことが明言されているのでナメック星編の後である事は確か。
しかしその割に悟空が何故か超サイヤ人になかなか変身せず、まるで初覚醒であるかのようにすら見える。
その事からよく、『元気玉でフリーザを倒した世界線』と言われる。
しかし問題なのは、後の『サイヤ人絶滅計画』でスラッグ、ターレスと共演してしまった事。
つまり前2作と独立したパラレルワールドに出来ない。
ついでに言うとハイヤードラゴンがいるので『地球まるごと超決戦』から続く世界線である可能性は極めて高い。
しかしこの世界ではZ戦士は死んでいないので何故ナメック星に行ったのかが本当に不明。
ピッコロさんがホームシックにでもかかったのだろうか。
以下はこの話に続くまでの勝手な私の予想。

1、ラディッツ襲来前にガーリックJr. と戦う。
2、ベジータとナッパを犠牲者なしで乗り切る
3、Dr.ウィロー登場。『この世で一番強いヤツ』発生
4、ターレス襲来。『地球まるごと超決戦』発生
5、スラッグ襲来。『超サイヤ人だ孫悟空』開始。
6、ピッコロさんがホームシックにかかり、誰も死んでいないのに一同ナメック星へ。
7、宇宙船で悟空が鍛えて原作でのナメック星到着時くらいの戦闘力になり、油断せずにギニューを抹殺。フリーザは元気玉で抹殺。
ピッコロさんはネイルと融合せず大幅に弱体化。
8、クウラ襲撃。『とびっきりの最強対最強』発生。
この世界のピッコロさんはネイルと融合していないのでサウザーでも善戦出来る。
悟空も超サイヤ人化を覚えていない。
悟飯は原作では数回あった瀕死パワーアップ(VSリクーム、VSフリーザ等)がなかったので、サウザーに一蹴される程度の悲しい戦闘力しかない。
9、ピッコロさんが石に躓いてうっかりネイルと融合。原作の戦闘力に追いつく。


【クウラ】
フリーザの兄。普段からフリーザの最終形態に相当する変身で身体を慣らしている。
弟と違っていきなり本気に近い状態で突撃してくる大人げない奴。
しかしこの形態で何故かノーマルの悟空に圧倒されている。
もしかしたらこの映画の悟空は地球にまだ残っていた神精樹の実を食べてしまったのかもしれない。
神精樹の実を全て食べた俺と貴様の間には天と地ほどの差があるのだ!
Vジャンプに記された(多分最終形態の)戦闘力は4億7000万。
フリーザを『まだまだ甘い』と言っており、それを証明するように星を更地にしてしまう。
しかし彼等の仕事は『環境のいい星を売る』事であって滅ぼす事ではない。
せっかく環境のいい星があっても、生物が住めない更地にしてから売られては客も困る。
コルドが彼ではなくフリーザを優遇する理由はここにあるのかもしれない。

【サウザー】
南斗六星のうち、帝王の星「将星」を司る一子相伝の拳、南斗鳳凰拳の伝承者。
聖帝を名乗り、ラオウ同様に力によって世紀末の支配を企てていた。
先代の南斗鳳凰拳伝承者・オウガイの死により『愛など要らぬ』と考えるようになり、非情の帝王としてケンシロウの前に立ち塞がる。
最近では『南斗DE5MEN』というアイドルグループを設立し、強いだけではなく歌って踊れる帝王である事を見せてくれた。
好物はカレーライスで、土日はカレーライス以外認めない。
地球に襲撃に来た時も悟飯達がキャンプで作ったカレーを勝手に食べていた。
天敵はターバンのガキ。ターバンのナメック星人にも弱い。

【ドーレ】
クウラ機甲戦隊の一員。
宇宙プロレス連盟の元レスラー。惑星クウラNo.256出身。マグマの中に大陸がある星の出身で、鍛え上げられた非常にタフな身体を持っている。
対戦相手を全て殺してしまう残虐超人だった。
ジャンプ特集記事によると戦闘力は18万5000パワー。
サタデーナイトフィーバーの使い手であり、ポージングの際に彼の見事なフィーバー拝む事が出来る。

【ネイズ】
クウラ機甲戦隊の一員。
惑星クウラNo.6出身で首を引っ込めることが出来る。
どう見ても水タイプなのだが、何故か10万ボルトを発射。
しかしピッコロさんは特性『ちくでん』持ちだった為に全く通用せず、逆に跳ね返されて自分の技で即死した。
やっぱり水タイプじゃないか。
彼等が戦う際のBGMのタイトルは『未来から来た少年』だが、どの辺が未来でどの辺が少年なのかは分からない。
戦闘力は16万3000。


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第三十三話 とびっきりの最強対最強(2)

今回から『技だけクロス(刃牙)』タグを追加しました。


「まずは掃除だ。さっさと消してやろう、雑魚共」

 

 クウラが手に気を集約させ、リゼット達へと向ける。

 そこには遊びも、雑魚を甚振ろうという加虐心もない。

 弟とは決定的に異なる氷の如き無慈悲さ。それがクウラにはあった。

 やはりこの男を放置していたらあっという間に悟空達が皆殺しにされる。

 そう確信したリゼットは、己がまず倒すべき相手をフリーザではなくクウラと決めた。

 フリーザは多少なりとも遊ぶ傾向がある。強いからこそ相手を嬲り者にし、必死の抵抗を楽しもうとする。だがクウラにそれはないのだ。

 少なくともこの場面で真に怖いのはフリーザではなくクウラだ。

 リゼットは無動作の気合砲をクウラへと叩き込み、その身体を弾き飛ばした。

 

「ピッコロ、私はあの男(クウラ)を相手にします。皆を頼みましたよ」

「ちっ……簡単に言いやがる」

 

 リゼットは翼を出して飛翔し、吹き飛んで行くクウラを追う。

 空中でクウラもすぐに体勢を立て直すが、そこを狙い澄まして第二撃。腹に手刀を叩き込み、反撃の拳を紙一重で避けて顔面に掌底。

 更に突き出されたままのクウラの腕を左手で掴み、右手で突き上げるように肘関節を叩く。

 メキ、という音が聞こえるも流石に一発では砕けない。だがミラほどの異常な強度でもなさそうだ。

 掴んだ左腕を捻り、大きく弧を描いて地面へ投げ、超能力と気合砲を追撃で上乗せ。地面へ向けてクウラを『発射』した。

 

「ぐうっ……こ、こいつ!?」

Kinect(キネクト)!」 

 

 堕ちるクウラを追いながら気の固形化により、槍を持った戦乙女を5人創造。

 空中で何とか止まったクウラへとけしかけ、四方を囲ませる。

 当然クウラはこれに応戦して戦乙女達を殴るが――その瞬間に爆発。触れれば爆発する初見殺しは知識がない限りほぼ確実に引っかかる。

 爆発によりよろめいたクウラへと気のリングを発射して拘束し、更にリゼットは攻撃を続ける。

 ガラ空きの腹へと蹴りを叩き込み、超能力+気合砲の合わせ技でまた吹き飛ばす。

 海を割り、水平線の彼方へと飛んだクウラを追いゲートを展開。亜空間を通過し、一瞬でクウラよりも先へと移動。剣を生成し、飛んで来たクウラの背へとバットのように叩き込んだ。

 

(斬れ――ない!?)

 

 間違いなく切断だと思ったのだが、クウラは命中の瞬間に身体を何とか逸らして直撃を避けたらしい。

 薙ぎ払った気の刃はクウラの後頭部と背中の皮を僅かに削り、尾を切断するだけで留まってしまった。

 だがリゼットは空振りの勢いをあえて殺さずに回転。遠心力を上乗せし、自分を追い越して行ってしまったクウラへと剣を投擲した。

 ここにきてようやくリングを力づくで振りほどいたクウラだが、直後に飛んで来た剣に脇腹を貫かれて吐血する。

 背中を削られ、尾を切断され、脇腹を串刺しにされる。きっと今までに味わった事のない痛みだろう。

 その痛みと混乱から立ち直る間も与えてなるものかとリゼットが手を翳し、亜空間を開く。

 そして連続で亜空間へ向けて気功波を発射。それと同時にクウラの横に開いたゲートから気功波が放たれ、クウラを吹き飛ばした。

 一発で終わりではない。吹き飛んだ先にもゲートが開いてまたしても気功波でクウラを吹き飛ばす。

 その先にも更にゲートが開いて気功波が放たれ、その先にも更に――。

 まるでパチンコ玉のようにクウラの身体が次から次へと吹き飛ばされ、体勢を立て直す事を許さない。

 やっとクウラが攻撃に慣れたところで、今度は彼を囲むように一斉に複数のゲートが展開され、そこから一斉に気功波が解き放たれた。

 避ける事も出来ないクウラは亀のように丸まり、ただ耐えるしかない。

 爆炎が彼を包み込み、その体を焼き焦がす。

 やがて攻撃が終わったと思えばすぐに次の攻撃が始まり、何時の間にか接近してきたリゼットのしなやかな手がガードの隙間を掻い潜ってクウラの顎へ掌底をブチ当てた。

 頭を守れば腹! 腹を守れば頭! 反撃すればカウンター!

 『武』の錬度の差により、面白いようにクウラの防御を抜いてリゼットの攻撃が入る。

 それでもクウラが亀のように丸まって防御に徹すれば、手を鞭のようにしならせたビンタが腕を叩いた。

 

「~~~ッッ!!?」

 

 驚くべきは、その激痛(いた)み!

 まるで皮膚を削られたと思うような耐え難い、痛覚神経を直接刺激したような痛みがクウラを襲う。

 鞭打ちの拷問というものがあるが、その拷問の痛みは想像を絶するという。

 大の大人でも泣き叫び、場合によっては痛みのあまりショック死も引き起こしかねない。

 リゼットは極限まで脱力した状態から放つ鞭の如きその掌打を以て鞭の痛みを再現し、クウラへと与えたのだ。

 当然彼がそんな痛みを経験した事などあるはずもなく、思わずガードを開いてしまったとて誰が責められるだろう。

 だがガードを開けばそれは攻撃のチャンスに他ならず、リゼットは指先に気を集中させるとクウラの臍部へと遠慮なく指を突き刺した。

 

「――ッ!?」

 

 クウラが怯み、腹を守る。

 すると待ってましたとばかりに耳に指を突き刺し、血に塗れた指先を引き抜いた。

 

「ガァ、アアアアアアア!!」

 

 クウラが叫びながら、闇雲に拳を繰り出す。

 だがリゼットは冷静にその全てにカウンターを返した。

 一打目――真っ直ぐ突き出された右拳を避け、クウラの顔に掌底を放つ。

 二打目――やや上の方へ突き出された左拳を、姿勢を低くする事で避けて腹に手刀を見舞う。

 三打目――振り降ろすように飛んで来た右拳に合わせて起き上がるように腕を振り上げる。交差しつつ回避し、顎に掌をめり込ませた。

 四打目――避けるまでもない。見当違いの方向へ放たれた左拳を無視し、更にクウラの頬を張った。

 五打目――体勢を崩しながらの右のフック。少し身体をずらして胸の前を素通りさせて丁度いい位置に来た所で関節に手刀を叩き込み、関節を砕いた。

 六打目――体勢を何とか直しながらの大振りなテレフォンパンチ。軽く掻い潜り、胸に零距離で掌底を放つ。胸骨が折れる音がした。

 七打目――腕が動かないから今度は蹴り。軽く跳躍して避け、首筋に手刀を叩き込む。

 八打目――来ない。首を打たれた事で咳き込んでいるクウラへと遠慮なく攻撃させてもらう。

 

 打つ、打つ、打つ、打つ――!

 鞭のように手をしならせて少女の細い腕が次々とクウラの身体を打ちのめす。

 頬を張って左へ! 左へ飛んだ所をすかさず狙い打って今度は右へ!

 腹が開けば腹! 屈めば顎! 頭!

 頭部の守りがガラ空きになった瞬間を狙って気の刃を纏った指を薙ぎ、クウラの右眼球を切り裂く。

 様々な武を学んだからこそ、接近戦において発揮されるリゼットのえげつなさ。

 それを全身で体感しながらクウラは混乱していた。

 何だこれは、何が起こっている? 俺はやられているのか?

 いや、やられているどころではない……解体(こわ)されている!

 的確に、確実に、そして丁寧に。この女はあろう事かこのクウラを、完膚なきまでに解体(こわ)そうとしている!

 何だこの女。外見は弱そうなヒューマンタイプの女だというのに、攻撃が今まで味わった事がないほどに容赦ない。

 やばい、この距離は危険だ。離れないと……。

 

(……逃げる? 俺は今、逃げようとしたのか?)

 

 全身を打ちのめされながらクウラは考えた。

 今自分は何を思った? どうしようとした?

 危ないから離れようと、そう思ったのか?

 ――この宇宙最強たるクウラがか!?

 

(……ざけるな……)

 

「ふざけるなァァァァァーーー!!!」

「ッ!?」

 

 クウラの全身が発光した。

 身体が膨張し、頭部の形が変わる。

 眼は真紅に輝き、切断されたはずの尾と裂かれたはずの眼球までが再生した。

 リゼットは咄嗟に距離を取り、剣を生成してクウラの首筋へと放つ。

 だが通らない。クウラの全身を覆う気が刃を弾いてしまった。

 いくら剣の形にしようと気は気。ならばより巨大な気とぶつかれば消えてしまう道理だ。

 そうしている間にもクウラの変化は続き、口元のマスクを除いて変身は完了した。

 

「よくも……よくもこのクウラ様をここまでコケにしてくれたな、女。貴様ただで死ねると思うなよ!」

「変身、ですか……こうなる前に勝負を付けてしまいたかったのですが、難しいものですね……」

 

 リゼットは指先で汗を拭い、クウラと己の実力差を冷静に分析する。

 身体に負担のかかるバーストリミットの40倍を使うと仮定しても、相手の戦力はそれの約2倍。いや、ギリギリで2倍はないか? という程の差だ。

 絶望的、とまでは言わない。引っくり返す事はまだ可能なレベルだ。

 かつて悟空とピッコロが戦闘力にして3倍の開きがあるラディッツを倒した事を思えばそこまで無理な差でもない。

 問題は時間だ。いかにリゼットでも40倍は負担が大きい。

 そんなに長時間は続けられないのだ。

 勝ち筋があるとすれば大きく分けて三つ。

 

 一つ。斬撃系の気弾を高速回転させて――要するに気円斬を首に命中させる。

 それもただの斬撃気弾では駄目だ。先ほどの剣のようにかき消されてしまう。

 やるなら気をギリギリまで込めた最大出力でないと、あの首は取れない。

 

 二つ。ここぞというタイミングで一瞬のみバーストリミットを80倍まで跳ね上げて一気に消し去る。

 だがこれをやると間違いなくリゼットは動けなくなる。

 今でさえバーストリミットの錬度と身体の自己治癒力により限界以上の出力を出している状態なのだ。流石にこれ以上の無理をすればいくらリゼットの自己治癒力でもすぐには動けないだけのダメージを負ってしまう。

 フリーザがまだいる以上、出来ればこれは避けたい。

 

 三つ。ヘブンズゲートで遙か遠くの宙域へと放逐してしまう。

 いかにクウラが宇宙でも生存出来るといえど身体一つで付近に何もない暗黒の宇宙空間へ放り出されてしまえば上下左右もわからなくなり、まず帰還してくる可能性はないだろう。

 いや、いっそ太陽に送ってやるのもありだろうか?

 問題は、どうやってアレをゲートへ放り込むかだ。

 まあ、どれを選ぶかは戦いながら考えるとしよう。

 

「さあ――始めようか!」

 

 クウラが再戦を宣言し、口元をマスクが覆い隠した。

 それと同時に彼の巨躯が一瞬にしてリゼットの眼前に広がる。

 

(――速い!?)

 

 クウラが急接近し、拳を繰り出す。

 流石に速いが、それでもリゼットならばかろうじて反応出来る速度だ。

 リゼットの両腕を合わせたよりも太い腕を避け、相手の速度に合わせた掌底を顔に放つ。

 だがクウラに効いた様子はなく、すぐに第二撃が放たれる。

 それも避けてカウンターを取るも、すぐに次撃!

 避ける、当てる、避ける、当てる、避ける、当てる……。

 次々と繰り出されるクウラの攻撃を的確にいなし、リゼットの攻撃だけが一方的に当たる。

 これだけならば先ほどまでの焼き直しだが、決定的に違うのはリゼットの表情に余裕がない事だった。

 クウラの攻撃の一撃一撃、その悉くが重く、速い。

 カウンターは取れている。恐らくダメージも入っている。

 だがどれも先ほどのように体勢を崩すダメージにはならず、平然と撃ち返してくるのだ。

 痛みがないわけではないだろうが……失敗した。先ほどに散々叩きのめして痛みに慣れさせすぎた。

 加えて今のクウラには烈火の如き憤怒がある。多少の痛みなど最早無いに等しいのだろう。

 避けて当てて、避けて当てて……その繰り返しを二十は経ただろうか。

 リゼットの集中力がまさに途切れるか否かのタイミングで、クウラの尻尾が彼女の足を払った。

 

「しまっ……!?」

「もらったァ!」

 

 クウラの豪腕が遂にリゼットを捉える。

 咄嗟に自ら後ろへ飛んでダメージを最小限に抑るも、ダメージは大きい。

 少女の華奢な身体は弾かれたように吹き飛び、いくつかの岩に激突して砕き、尚も止まらない。

 ようやく地面に墜落した時、リゼットは満足に動く事も出来なかった。

 まるで麻痺したように指先が痺れ、身体がバラバラになったかのような痛みが腹部を中心に全身へ駆け巡る。

 

「かっ……はァ……! あ、あぁ……く、ぁ……!」

 

 このままでは不味い!

 痛みに支配されながらもかろうじてそれだけを考えたリゼットは自らの後ろにゲートを開いて落ちるようにその中へと飛び込んだ。

 とりあえず回復するまでのエスケープだ。

 10kmほど離れた位置にあった洞窟へと移動し、気を0に落とす。

 尚、この洞窟は以前にフリーザをやり過ごしたあの洞窟だ。どんな場所でも記憶しておくものである。

 クウラの気はリゼットが先ほどまで倒れていた位置に到着し、ウロウロしている。

 遠視で視ると、周囲一体を気弾で消し飛ばしていた。

 危ない……あのままあそこにいたら仕留められていた。

 

(い、いきなりいいのを貰っちゃいましたね……それにしても私、打たれ弱いんでしょうか?

悟空君とか、劇場版で戦闘力が倍どころじゃない相手にボコボコにされても戦闘継続してるのに、まさか一発でこれとは……)

 

 戦闘力倍くらいのパンチならば数発程度は何とかなると踏んでいたが、まさか一発でこれとは思わなかった、とリゼットは自嘲する。

 やはり不老になろうとあらゆる環境に対応しようとベースが地球人。打たれ強さが違うという事か。

 よく考えたら天津飯も戦闘力が倍とちょっと上程度のナッパの攻撃で腕がもげたり、ピッコロもナッパの一撃で気絶したりしていた。

 こう考えるとやはりサイヤ人が異常に打たれ強いのだろう。

 

(とにかく、相手の攻撃には当たらないようにしないと……。

さて、第3ラウンドを始めましょうか)

 

 リゼットは靴を脱ぎ、長手袋も外す。最後にケープを脱ぎ、今まで一度として外した事のない重装備を外した。

 このドレスはケープを取ると肩が露出してしまうデザインなので今まで取らなかったのだが、恥ずかしがってヤダーとか言っている場合でもない。

 ゲートを開き、クウラの背後へと転移する。

 まだ自分を探しているらしい彼に、なるべくダメージを感じさせない声で己の健在を示した。

 

「こっちですよ!」

「!」

 

 言うと同時に気弾を放つ。

 クウラの背で爆炎が上がり、再びこの惑星における頂上の戦いが始まった。




リゼット「私、紙防御じゃないですかヤダー!」
【悲報】リゼット、260年生きてきて初めて自分が紙防御であることを知る。
リゼットの脆さは、自分の倍くらいの戦闘力の相手に殴られると一発でHPが赤バーになるくらいです。
互角の相手でも10も受ければグロッキーになります。
なので劇場版の悟空みたいに格上にボコボコ殴られると、確実に死にます。
ちなみに『とくぼう』は高いので超能力や魔法などの特殊攻撃には耐性がありますが、DB世界でとくぼうが高くても……。


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第三十四話 とびっきりの最強対最強(3)

・『クロスオーバー』タグも追加しました。


「さあ、誰から死にたいんだい?」

 

 フリーザを前に、ターレスとピッコロが構えを取る。

 悟飯とクリリンはその二人から離れ、気絶した仲間達を集めていた。

 残念ながら居ても足手纏いにしかならず、出来る事といえば倒れた仲間を回収する事だけだ。

 瀕死の重症を負った仲間達は仙豆によって一命を取りとめているものの、仙豆に『意識を戻す』効果はない。

 つまり傷は癒えたものの、未だ悟空達は気を失ったままだ。

 ならば彼が目覚めるまでの間をターレスとピッコロが稼がねばならない。

 一方でベジータは戦いにも加わらず、傷が完治した悟空達を見て何かを考えているようだ。

 

「おい、勝ち目はあるのか?」

「そうだな……カカロットが起きてくれりゃあ、パワーが上昇してるはずだ。

俺達サイヤ人は死から立ち直る事で大きく戦闘力を伸ばす事が出来る。

伸び代次第だが、勝ち目が出て来る可能性がなくはない」

「なるほど。で……その時間は稼げるのか?」

「……自信はねえが、何とか稼いでやるさ」

 

 ピッコロとターレスは話しながらフリーザの出方を窺っていた。

 どうやら向こうからは仕掛けて来るつもりがないらしい。何とも余裕溢れる事だ。

 だがあまり膠着時間が過ぎれば向こうから動く事だろう。

 ならばそうなる前に、せっかくの時間を活かすのみ。

 ターレスは掌に気を集めてナメック星の酸素と混ぜる。

 そうしてパワーボールを作り出し、空へと飛ばした。

 

「弾けて、混ざれっ!」

 

 自らの気で人工的に創り出す仮初の月。

 一部のサイヤ人はこれを用いる事で満月の夜でなくともサイヤ人の本領である大猿化を為す事が出来る。

 ターレスは下級戦士だが、幾度も神精樹の実を食べてパワーアップする事でこの技を身に付けていた。

 

「先に言っておく……あまり俺に近付くなよ。理性が吹っ飛ぶからな」

「貴様、制御出来んのか?」

「生憎と下級戦士なもんでね」

 

 眼からブルーツ波を吸収し、尾が反応する事で変身が始まる。

 ターレスの身体は全長にして数十mを越す巨体となり、その眼からは理性が失われた。

 エリート戦士ならば変身しても理性を保ったまま戦う事が出来るが、ターレスにそれは出来ない。

 一度変身してしまえば尾を切断されるか月が消えるまでの間、本能に任せて暴れるだけだ。

 あまり近付くな、というのはハッタリでも何でもない。

 今のターレスに不用意に近付けば味方ですら攻撃されかねないのだ。

 

「グォアアアアアアアアアアッ!!」

「ふん、醜い猿野郎が」

 

 大猿が咆哮し、その叫びだけで周囲に嵐の如き風が吹き荒れる。

 だがその威容を見ても尚フリーザは余裕のままだ。

 大猿に対する嫌悪感こそ顔に出ているものの、自らが負けるなどとは微塵も考えていない。

 ターレスの巨拳がフリーザを襲い、彼は悠々と避ける。

 空振った拳が地面を貫き、大地を陥没させた。

 

「オオオオオオオオ!!」

 

 力任せに腕を振るう。

 それだけの攻撃が平常時の最大技に匹敵し、離れた位置にいるピッコロですら背筋が凍る。

 巨体というのはそれだけで強さだ。巨大というのはそれだけで速さだ。

 大猿の拳が大地を砕き、口から放たれた破壊光線が惑星の形状すらも変える。

 この変身こそ戦闘民族サイヤ人の切り札であり、彼等を最強の一族たらしめる所以。

 地球に来た時のベジータですら大猿と化せばギニューをも上回ってしまう超絶的な強化。

 ましてやターレスの戦闘力は250万であり、10倍となった今、そのパワーはまさに天地をも砕くものだ。

 

 だが相手は宇宙の帝王(フリーザ)。2500万程度(・・)の戦闘力では彼に届かない。

 

「――ま、こんなものだろうね。それじゃ、そろそろ僕からも攻撃させてもらうよ」

 

 フリーザが強者の笑みを浮かべ、ターレスの喉元へと飛んだ。

 そして蹴りを一撃。

 それだけの事でターレスの巨体が浮かび上がり、続けて放たれた尻尾の一撃で大きさなど無視したかのように跳ね飛ばされた。

 

「グゥ……オオオオアッ!」

 

 ターレスが空中で回転し、着地。

 それと同時に跳躍し、落下速度と重量を合わせての振り下ろしの拳を放つ。

 だがフリーザはそれをも片手で受け止め、あろう事かそのまま投げ飛ばした。

 大地を揺らしてダウンする大猿。余裕を保ったまま歩く小柄な異星人。

 その現実味のない光景は、しかし驚くほどフリーザに似合っていた。

 彼こそが勝利者。彼こそが征服者。

 相手が巨大だろうが何だろうが、常に頭を高きに置くのはフリーザだ。

 立ち上がろうとするターレスの前に着地し、腕組みをしたまま蹴り上げ、強引に立ち上がらせる。

 尚も喰らい付こうとするターレスをあしらい、足蹴にする。

 大猿化などフリーザには通じない。彼にとって大猿など、ただ耐久力が多少高いだけの巨大なサンドバッグでしかないのだ。

 

「う、嘘だろ……全然相手になってない」

「つ、強過ぎる……」

 

 最早戦いに加わる事すら出来ないクリリンと悟飯が震えた声を出す。

 最長老にせっかく引き上げてもらった力だが、全く役に立つ気がしない。

 大猿と化したターレスは彼等の中では間違いなく最強の戦力だが、それがまるで太刀打ち出来ていないのだ。

 唯一フリーザに対抗、あるいは勝利し得るのはリゼットのみだが、その彼女は別の場所で更にぶっ飛んだ敵と戦っている。

 残念ながら神頼みは意味を為さないだろう。

 

「か、神様が戦ってるクウラってやつの気が更にバカでかくなりやがるし……わ、悪い夢でも見てるみたいだぜ」

 

 悟空はまだ目覚めない。だがいくら悟空でも目覚めた所でどうにかなると思えなかった。

 それほどにあのフリーザは次元が違うのだ。

 だがそんなクリリンに、今までずっと考え込んでいたベジータが声をかけた。

 

「おい、ハゲ。カカロットの傷を治したあの妙な豆はまだ残っているのか?」

「は? 仙豆の事か?

そりゃあ何かあった時の為に全員1粒ずつは持っているが……それがどうしたんだよ?」

「全員一粒か……よし。おい貴様、俺を半殺しにしろ!

その仙豆とかいうのを全て俺に使いやがれ!」

 

 その言葉を聞いてクリリンは、こいつはとうとう恐怖で気が狂ったのかと一瞬思う。

 だがベジータは別に狂ったわけでもなければ、錯乱したわけでもない。

 至って冷静に、この状況を打破する道を探しているのだ。

 

「ターレスの奴も言っていただろう。俺達サイヤ人は死から立ち直るたびに大きく力を増すと。

俺が瀕死からの復活を繰り返せば、必ずフリーザに勝てる!」

「……だ、だが、それで勝てなければ仙豆の無駄遣いだ。傷の治療も出来なくなる」

「馬鹿が! フリーザに勝てなきゃ傷の治療もクソもない!

いいからさっさとやれ! 間に合わなくなっても知らんぞーっ!」

 

 クリリンは考える。こいつは今でこそ共闘関係にあるが地球の敵だ。

 出来ればパワーアップなどさせたくない。

 だが、確かにベジータの言う事も一理ある。

 ここでフリーザを倒さねば未来などない。ならば可能性に賭けてベジータに使うのはそう悪い使い道でもないのだ。

 問題は……首尾よくフリーザに勝てたとして、それでパワーアップしたこいつが自分達を見逃してくれるかだ。

 だが現状が詰んでいる事は間違いなく、破れかぶれで試すしかない。

 

「わ、わかった……それじゃ、やるぞ」

 

 クリリンはベジータに掌を翳し、彼の腹部を気弾で貫いた。

 

 

 ナメック星の成層圏付近。

 そこで二つの大エネルギーが幾度となく衝突を繰り返していた。

 一方は紫色のオーラを纏った巨漢の異星人。

 一方は純白のオーラを纏った小柄な少女。

 傍から見れば力の差は歴然であり、事実男のパワーは少女のそれを遥かに凌駕している。

 だが少女は技巧を駆使し、男との戦力差にも怯まず喰らい付いていた。

 爆発したかのように空が爆ぜ、常人の肉眼では視認も出来ぬ速度で二つのエネルギーが縦横無尽にナメック星を飛び交う。

 

「必中の槍よ、在れ!」

 

 気の凝縮により生み出した槍をリゼットが放つ。

 自律行動気弾の応用により、この槍は敵に命中するまで追い続ける特性を持つ。

 要するに追跡気弾の槍版だが、クリリンやピッコロが使う追跡気弾と決定的に異なる点は自ら判断して敵を追い、進路を変更する事だ。

 即ち槍版ゴーストカミカゼアタックであり、その追尾性能は他の追随を許さない。

 案の定避けたクウラだが、すぐに槍が旋回して彼の背後を取った。

 それと同時にリゼットが更に攻撃の手を増やす。

 

「千の剣よ、在れ!」

 

 後ろからは必中の槍。前方からは千の剣。

 挟み撃ちにされたクウラは忌々しそうに舌打ちをし、槍と剣の両方に掌を向けた。

 

「小賢しい!」

 

 圧倒的な気の奔流を放ち、剣も槍も纏めて消し去る。

 否、消し去ったと思った。

 だが剣と異なり槍は自律稼動し敵を追い続ける必中の攻撃。

 気弾のくせにクウラの気功波を避け、その肩に突撃した。

 

「ぬうっ……!」

 

 クウラの防御力は半端ではない。

 槍が命中しても貫通どころか深く突き刺さる事もなく、僅かに刺し傷を与えて終わりだ。

 だが僅かに怯ませたのならばそれで充分。今度はリゼット自身が剣を持ちクウラの首元へと切り込む。

 白刃一閃――咄嗟に後退したクウラの首の皮一枚だけを裂き、だがリゼットはそれを予想していたかのように更に踏み込む。

 

「はああああっ!」

 

 二百年の時間を武に費やしたリゼットはまさに武芸百般。

 扱えない武器は銃器以外にはなく、彼女の戦いは素手の殴り合いに限定されない。

 剣もまた彼女にとっては手段の一つ。取れる選択肢の一つなのだ。

 剣閃が煌き、無駄を極限まで削ぎ落とした錬度で斬撃が放たれる。

 使う剣術そのものは特筆すべきものではない。愚直に基本を極めた、正統派な……悪く言ってしまえば教科書通りの剣技だ。

 されど彼女の錬度と速度で放つそれは最早一つの技であり、同時に放たれる不可避の刃。

 基礎を極めたならば、全ての斬撃が奥義となる。

 次々と閃く剣閃がクウラの身体や腕と激突し、火花を散らす。

 この戦いにおいて武器の使用はリゼットにとって必須であった。

 少なくともこうして距離を詰めての攻防をするならば素手では強度が足らない。

 何せ相手はクウラ。戦闘力にして倍近い開きがある格上なのだ。

 ならば素手同士をぶつけた末路など語るまでもなく、一方的にこちらの拳や足が砕かれるのなど目に見えている。

 故にこそ直接はぶつからない。クウラの拳には武器を合わせる。

 

「ふっ!」

 

 僅かに距離が空いた瞬間に気の固定により今度は鎖鎌を生成。クウラの足首へと巻き付ける。

 刃が足に喰い込み、リゼットは即座に鎖を引っ張った。

 クウラを引っ張る? 否、そんなのは不可能だ。力比べをすれば勝ち目などない。

 むしろ逆。鎖を引く事で勢いを付け、リゼット自身が飛び出したのだ。

 

「馬鹿が! 自ら向かって来るか!」

 

 向かってくるなら好都合。

 クウラがそう判断して拳を突き出す。

 だが当たらない。突き出した拳はリゼットに届かず、逆にリゼットが繰り出した――何時の間にか生成していた棍がクウラの喉元へめり込んでいた。

 リーチの差など百も承知。誰が自分よりも大きい相手と素直に拳を交差させるものか。

 勢いを付けた棍の一撃を喉に受けたクウラが軽く咳き込み、リゼットが棍を構える。

 ヒュン、ヒュン、と空を切る音を立てて棍を自在に操り、まるで手足のように、それでいて蛇のようにしならせて棍をクウラへと連続で叩き込んだ。

 その柔軟さ、しなやかさたるやまるで鞭――否! 何時の間にか棍は鞭へと変化しクウラの体表を叩いていた。

 かと思えば今度は九節鞭。硬質さを持った鞭がクウラの眉間に当たり、ヌンチャクとなって顎を跳ね上げる。

 そしてトンファーと化し、リゼットの渾身の蹴りがクウラの腹へとめり込んだ。

 更に続けて放たれた蹴りを咄嗟にブロックするも、防御したはずの腕の皮が何かに引っ張られて防御がこじ開けられた。

 それを為したのは――足だ。

 靴を脱いで素足になったリゼットが、足の指でクウラの腕を掴んで体勢を崩したのだ。

 そこにすかさず刀がねじ込まれ、切っ先がクウラの眼を狙う。

 反射的にこれを避けたところで、狙いすましたように足刀。

 刃と化した足が唸り、クウラの耳孔を穿った。

 

「ぐあッ……!」

 

 打たれながらクウラは思う。これほどやりにくい相手は初めてだ、と。

 まさに変幻自在、千変万化。

 次から次へと目まぐるしく戦術が切り変わり、武器も変化し続ける。

 離れても近付いても相手の実体がまるで読めない。次に何をして来るのかが分からない。

 それでいて少しでも好機と見れば一時の迷いもなく真っ直ぐに首を獲りに来る。

 ほら、また武器が変わった。今度は双剣だ。

 華奢な外見からは想像も出来ない果敢さと獰猛さで斬り込み、剣がガードの上から傷を量産する。

 双剣を合わせて、今度は大剣。身の丈を遥かに超える馬鹿げたサイズの剣を振り降ろし、頭へと打ち込まれた。

 

「がっ!?」

 

 堕ちるクウラを追い、リゼットが加速。

 超能力の一点放出でクウラに更に衝撃を与え、速度を上昇させる。

 ゲートを通って地面に先回りをし、跳躍をして落ちてくるクウラの背中へ掌底を放った。

 脊髄狙いの一撃だが、これでもクウラはまだ戦闘不能にならない。

 空中で反転し、反撃の拳を繰り出す。

 だがリゼットはこれを紙一重で避けてクウラの顎を打ち、流れるような動きで彼の指を取る。

 合気――重量と大きさを無視したように少女がクウラを投げ、指を捻る事で関節を痛めつける。

 立ち上がると同時に放たれた蹴りをクウラはかろうじて避けるも、次の瞬間には砂が目に入って彼の視界を奪った。

 クウラが立ち上がるまでの僅かな時間に足元の砂を、足の指で掴んでいたのだ。

 姑息な目潰しではあるが、こんな原始的な攻撃というのが意外と効果的だ。

 クウラレベルともなれば眼球に砂が入った程度ではどうという事はないが、何かが目に迫れば反射的に目を閉じてしまう。

 その一瞬がリゼットにとっては好機。指先に気を集中させて喉を突いた。

 続けて追撃。両手の手首を合わせてかめはめ波を撃つ時のような構えを取る。

 そしてクウラの胸に当てて発勁! 体内に衝撃を送り込み、同時に気をも浸透させる。

 いかに外が強固だろうと体内は違う。クウラの体内で気が炸裂し、吐き出した血がマスクの内側から溢れ出た。

 だがクウラは吐き出す血も気にせずに動き、リゼットの右腕を掴む。

 

「舐めるなよ、小娘ェ!」

「!」

 

 腕を拘束してからの膝蹴り!

 それがガード越しにリゼットの腹にめり込み、吐血させた。

 続く第二撃。

 しかし腕を掴んでいるというのに、まるで操られるように身体が浮いた。

 自らを掴んでいるものを逆に、掴まれている部分を支点に投げ飛ばすという不可思議。

 だが最早クウラに動揺はない。この女との戦いでいちいち驚いていてはキリがないと学んだ。

 宙に浮かされたクウラへ、リゼットは瞬間的にバーストリミットを40倍に跳ね上げてからの気円斬を発射。しかしクウラは角のように鋭角化した頭部の突起を切断されながらも距離を詰めて拳の連打を放った。

 その悉くをリゼットが避け、カウンターを決めるもクウラは止まらない。

 多少の抵抗などものともしないだけの戦闘力とフィジカルの差があるのだ。

 しかしその直後、避けたはずの気円斬がクウラの背中に突き刺さったことで彼の攻勢は止まった。

 何の事はない。あえて避けさせた気円斬を遠隔操作でブーメランのように戻してクウラを後ろから強襲させただけだ。

 高速回転する気の円盤がクウラの背中を切り裂く。

 アーマーのように変化した身体を裂き、血飛沫をあげながら深く深く食い込んでいく。

 

「ぐ……舐めるなァ!」

「な……!」

 

 しかし今度はリゼットが驚愕させられる番であった。

 確かに決まったはずの気円斬が、しかしそれ以上進まない。

 クウラは決して、何か特別な事をしたわけではない。

 ただ単純に、力んだだけ……あろう事かこの男は、隆起させた筋肉だけで気円斬を食い止めてみせたのだ。

 

「俺は……愚弟(フリーザ)とは違う!」

 

 クウラの全身から気が放たれ、リゼットを直撃した。

 その一撃でリゼットがよろめいた隙に跳躍し、空へと飛ぶ。

 逃走? 否、これから始まる最大の攻撃の準備だ。

 クウラが虚空に手を掲げると炎の如き気弾が生成され、それが一気に膨れ上がる。

 

「俺が宇宙最強だ!」

 

 恒星の如き熱量とエネルギーを誇るその技の名を『スーパーノヴァ』。

 その名の通り超新星にも匹敵する破壊力を秘めたクウラ最大最強の切り札だ。

 この女は危険だ。己の最強の誇りをも揺るがしかねない。否、実際揺らいでいる。

 だからここで殺す。跡形もなく消し飛ばす。

 この惑星にいる愚弟諸共に、宇宙の塵へと変える!

 

 惑星ごと消し飛ばす破壊の極光。それがナメック星目掛けて無慈悲に解き放たれた。




ナメック星「俺がー! 俺そのものがー!?」
ドーレ「クウラ様! 俺等もこの星にいるんですけど!?」
ネイズ「助けてくれー!」
サウザー「て、帝王に逃走はないのだ!」

追いつめられれば星ごと壊せばいい。それがフリーザ一族クオリティ。


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第三十五話 激神フリーザ

感想欄「タイムパトロールさっさと来い」
パトローラー「分かりました、今行きます!」


(……やるしかない!)

 

 ナメック星へと降下する炎の塊を前にリゼットが取った手段は気を最大――否、最大以上に高めての迎撃であった。

 ゲートに呑み込み相手に還すという選択もあった。

 だがあれだけのサイズの気弾を呑み込むゲートを創るには僅かなりとも時間がかかる。

 それは時間にして1秒にも満たない間であるが、その一秒の時間があればあの火球はナメック星に衝突し、そしてこの惑星にいる悟空達を消し去ってしまうだろう。

 だが今必要なのは、即座に使える迎撃手段だ。

 

「バーストリミット……オクトーギンター!」

 

 今の限界倍率である40倍。それを更に倍にして瞬間的に戦闘力を80倍にまで跳ね上げた。

 全身にかかる負荷が洒落にならない。

 血管が破裂するのが分かる。心臓が五月蝿いくらいに脈打ち、胸が貫かれたように苦しい。

 骨が軋む。口から血が零れる。

 だがリゼットはその全てを無視した。必要な代償と割り切った。

 

「ああああぁぁああああああああーーーーッ!!」

 

 吐血混じりの叫びを上げ、白の極光が溢れる。

 光の柱が空を貫き、ナメック星の暗雲を晴らす。

 限界を超えて無理矢理絞り出した気。その全てを掌へと凝縮し、流星の如き輝きを生み出す。

 

Sparking Meteor(スパーキング・メテオ)!」

 

 真紅の超新星に対抗するのは純白の彗星。

 かつてドクターウイローに放った『スパーキング』を発展強化させた大技だ。

 クウラのスーパーノヴァにも匹敵する巨大な光球が生成され、二つの大エネルギーの衝突エネルギーが辺り一帯を余波のみで破壊し尽す。

 瞬間的にとはいえ、リゼットが発した気は戦闘力数値にして4億9千5百万。クウラの最大戦闘力である4億7千万を上回り、その気全てを込めた白の輝きもクウラのスーパーノヴァを上回る。

 ジリジリと白の光弾が真紅の光弾を押し返し、クウラへと近付いていく。

 

「こっ、こんな……こんな事で、俺が……ッ!」

 

 クウラは必死に己の腕力で光弾を押し返そうとする。

 ここで退避という手段を取ればまだ結果も違ったのだろう。

 しかしそれは、彼の最強としてのプライドが認めなかった。

 むしろ、これだけの大エネルギーを僅かとはいえ腕力で抑えられる時点でおかしいとしか言えないし、彼は称賛されるべきだろう。

 しかし彼の超パワーをもってしても、自ら放ったスーパーノヴァすら含めた二つのエネルギーは押し返せない。

 凄まじい勢いで押しやられ、空を越え、大気圏を越え、あっという間に宇宙空間へと追放される。

 それでも尚止まらず、背後に見えたのは……ナメック星に三つあるという太陽のうちの、一つだ。

 クウラは自ら生成したスーパーノヴァとリゼットのスパーキング・メテオ。

 それと太陽に挟み込まれる形となってしまったのだ。

 

「こ、んな……事……がぁ……」

 

 想像を絶する熱さと激痛の中、クウラはそれでももがく。

 凡そ生物では耐えきれないだろう焦熱地獄に身を焼かれ、骨の髄まで炙られ、ボロボロと身体が炭化しては崩れていく。

 それでも尚、彼の心は敗北を認めようとしなかった。

 この期に及んで感じるのは、死への恐怖ではなく敵への憎悪。

 しがみつくのは生ではなく、最強の矜持のみ。

 それを支えとして、クウラは炎の中で意識を繋ぎとめる。

 その生と死の狭間……刹那の一瞬にクウラは、過去を垣間見た。

 かつてフリーザが惑星ベジータを滅ぼしたあの日、フリーザが取り逃がしたポッドをクウラは把握していた。

 その行き先も、知っていたはずだった。

 

『行き先は地球とかいう惑星か。撃ち落とせ』

『放っておけ。自分で蒔いた種だ。自分で刈らせろ。

フリーザも……まだまだ甘い』

 

 クウラは、フリーザに甘さを思い知らせるためにあえてそのポッドを放置した。

 だが……今になって思う。

 何故あの種の行き先をもっと調べなかった。地球という惑星の事を調べようとすらしなかった。

 どうせ大した生物のいない辺境の惑星だと高を括っていた……自分達の脅威になるような存在がいるなどと、予想もしていなかった。

 だがあの時少しでも調べていれば……いや、あの時にガキを撃ち落として、地球を念入りに破壊しておけば……!

 

 ――甘かったのはフリーザだけではなかった……。

 ――甘かったのは……!

 

 その思考と悔いを最後に、クウラの肉体は完全に消滅した。

 

 

「……はぁ……は、ぁ……っ」

 

 リゼットは力なくよろめきながら思う。

 強かった……本当に手強い相手だった。

 思えば初めての、格上との真剣勝負。今までの戦いは全てリゼットが相手より圧倒的に勝っており、多少の苦戦はしても本気を出せば勝てる勝ち確の戦いでしかなかった。

 だが今回は違う。苦しい戦いだったし、現在進行形で苦しい。

 だがいい経験をさせて貰った。気、身体能力、体格、体力、強度。その全てにおいて自分を勝る相手との戦闘経験はこれ以上ない財産になる。次に活かす事が出来る。

 

(こ、これで、クウラは倒し、た……後は、悟空君達とごうりゅう、して……いっしょ、に……フリー……ザ……を……)

 

 強敵はまだ残っている。むしろこのナメック星の戦いにおける本番はあくまでフリーザとの戦いであり、クウラは何故か沸いて出てきたイレギュラーだ。

 だから、もう少し頑張らねばならないというのに……。

 

(あ、れ……? からだ、うごかな…………。

めのまえ、が……まっくら、に…………)

 

 限界を超えた反動。

 いかに自己治癒能力を持つといえど、限界以上に振り絞った気はそう簡単には回復しない。

 むしろ死んでもおかしくない。悟空は限界出力の倍を出して全力でかめはめ波を撃った後に普通に動いていたりするが、あんなのはサイヤ人だから出来る事だ。

 加えて言うならば悟空には未だ覚醒していないものの超サイヤ人という変身がある。

 あの変身までもを潜在能力に計算するならば、つまり彼には界王拳で絞り出す『出元』があるのだ。

 何もない所から気を振り絞っているわけではない。確かに自分の中に存在する可能性から引き出している。

 だがリゼットにそれはない。何もない所から無理矢理出してしまったのだ。

 その代償がこれだ。限界を超えた身体は指先一つすらも動かず、力なく膝を突く。

 重く下がった瞼はやがて完全にその瞳を隠し、幼さを残す身体は音もなく地面に倒れ伏した。

 

 

 

「お? 何だこいつ」

「小娘がこんな所で寝てやがるぜ、ケケケケッ」

 

 どれだけの時間が経過したのだろうか。

 未だ地面に倒れ、眠り続けるリゼットの元へ最悪のタイミングで3人の男が訪れた。

 名をアンギラ、ドロダボ、メダマッチャ。

 悪のナメック星人であるスラッグの部下にして極悪非道の魔族達だ。

 メダマッチャはケラケラと笑いながら倒れているリゼットを蹴るが、まるで反応がない。

 死んではいないが、完全に意識が落ちている。

 

「おい、どうするよ、これ」

「持ち帰ってみるか? 兵士の玩具くらいにはなるだろう」

「ケケケケッ、それなら俺が遊んでいいか?」

 

 もしも彼女が目覚めたならば、それこそ虫を払うように殺されてしまうだけの実力差が存在する。

 だがそんな事を知る由もない魔族達は口々に勝手な事を言い、身動き一つ取らない少女を回収しようと手を伸ばした。

 刹那――リゼットを掴もうとしたメダマッチャが二つに『割れ』、更にその全身が細切れとなる。

 

「え?」

「メ、メダマッチャ!?」

 

 突然の惨劇に仲間の魔族達が慌てふためく中、そこに一人の人間が姿を現す。

 黒いコートに身を包んだ、銀髪の美青年だ。

 彼はその手に剣を携えており、今のメダマッチャの死も彼の神速の剣によって為されたものだと分かる。

 

「おい、貴様等……その人に汚い手で触れるな」

「何だ、こいつ……!?」

「知るか! とにかく消すダボ!」

 

 アンギラとドロダボは青年を挟み、同時に飛びかかる。

 だが瞬間、青年が“変わった”。

 銀色の髪は逆立ち、黄金となる。

 その全身からは金のオーラと青白いスパークを噴出し、先ほどのリゼットやクウラですら霞むほどの圧倒的な気を放ち青年は剣を振り抜いた。

 

 一閃。

 

 少なくともアンギラ達はそうとしか見えなかっただろう。

 だが実際は刹那の間に百を超える斬撃が放たれており、それすら認識出来なかった彼等は自分達がバラバラに分割されてしまった事にすら気付けない。

 気付いた時には既に死んでいる。それだけの力の差がそこにはあるのだ。

 雑魚3匹を始末した青年は収刀し、変身を解く。

 

「ふう……よし、誰にも見られてないな。

誰かに目撃されてしまったら、時の界王神様にまたどやされてしまうからな」

 

 青年は慎重に周囲の気を探り、誰もいない事を確認する。

 それからリゼットを抱えると付近の洞窟にまで走り、コートを脱いで地面に敷く。

 そして、そこに彼女を横たえ――光に包まれると同時に姿を消した。

 

 

「グゥ……オオ、オ……」

 

 大地を揺らし、大猿が倒れる。

 ここまでフリーザを相手に健闘していたターレスだが、遂にフリーザの猛攻の前に屈したのだ。

 互いの実力差を思えばここまでよくもったほうだろう。

 フリーザはターレスの尻尾を掴むと、力任せに振り回して放り投げた。

 更に気弾を発射してパワーボールを破壊し、ターレスを元に戻す。

 これで元々少ない勝ち目が更に減少した。

 といってもそれは、万分の一の勝ち目が億分の一になった、というどのみちどうしようもない勝ち目であるわけだが。

 

「ふん、猿など敵じゃないんだけど見た目が醜くて目障りだからね」

 

 人間の姿に戻ったターレスはその言葉に悪態を吐く事も出来ない。

 散々に打ちのめされた彼の身体はもう限界であり、余力がないのだ。

 そんな彼を一瞥もせずに、フリーザは空を見上げる。

 視界に映るのは今までと変わらぬナメック星の空だが、確かに先程、太陽が二つに増えたかのような火球が見えた。

 あれは紛れもなくクウラのスーパーノヴァであり、それには流石のフリーザも肝を冷やしたものだ。

 しかしそれがナメック星を砕く事はなく、柄にもなく安心してしまった。

 

(クウラめ……偉そうな事を言っておいて結局あいつもドラゴンボールを狙っているわけか。

そうでなければ攻撃を止めるはずがない。

だがドラゴンボールで不老不死になるのは、このフリーザ様だ)

 

 フリーザは、クウラが敗れたなどと考えていない。

 それも仕方のない事だろう。気に入らないがクウラはかなりの実力者だとフリーザでも認める他ない。

 それが負けるはずがないし、ならば攻撃を止めた理由はドラゴンボールの破壊を恐れたからに他ならない……と考えてしまう。

 しかしいい情報だ、とフリーザは思った。

 とりあえず、クウラがすぐに星ごとドラゴンボールを壊してしまう事はないらしい。

 

「どうやらここまでのようだね。いい運動にはなったかな」

 

 フリーザはパンパン、と手をはたくとターレスへ手を翳す。

 だが横から飛んで来た気弾に反応し、そちらを手で払い落とした。

 視線を向ければ、そこには何故か妙に自信に満ちた顔のベジータが立っている。

 先ほどまでガクガク震えていたくせに、一体何故あんなにも得意気なのだろうか。

 そう思い、フリーザは少しだけベジータへと興味を抱いた。

 

「ベジータか。これだけの差を見せてもまだ歯向かってくるとはね。

余程死にたいと見える」

「ふん、そうやって今のうちにヘラヘラ笑っていやがれ。

ここにいるのが貴様の最も恐れていた超サイヤ人だ!」

「超サイヤ人? ふっふっふ、相変わらずジョーダンきついね」

 

 馬鹿にしたように笑うフリーザに、ベジータもまた同種の笑みを返す。

 その表情にはサイヤ人の王子としての自信と勝利の確信が溢れ、気の高まりに応じて大気が鳴動した。

 瀕死パワーアップを幾度も繰り返した今、ベジータの気はターレスすらも上回り、遠くに避難していたクリリンと悟飯が戦慄するほどだ。

 

「カカロットの出番はないぜ!」

 

 ベジータが飛翔し、フリーザへと肉薄する。

 フリーザは腕を組んだまま姿を消すが、ベジータはすぐにその動きを視界に捉えた。

 戦闘力が上がるという事は速度も上がるという事。今ならばフリーザの速度といえど捉えられないほどではない。

 

「見えているぞ!」

 

 ベジータが猛接近し、手刀を振り下ろす。

 だが――不発。

 フリーザがまたも姿を消し、ベジータの攻撃が空振ったのだ。

 それは先ほどと同じ事であり、唯一違うとすればフリーザの速度だ。

 先ほどは確かに見えた筈のフリーザの動きが、今度はまるで見えなかった。

 

「はっはっは、少し速度を上げただけで付いてこれないようだね。それでも超サイヤ人なのかな?

これならまだ、そこで転がってる奴の大猿の方がマシだったよ」

「ば、馬鹿な……」

 

 ベジータの現在の戦闘力はスカウターで計ったならば、300万を超えていただろう。

 だが、そこが瀕死によるパワーアップの限界であった。

 ベジータは知らない事だが、サイヤ人のこの特性はある変身の条件を満たす為の補助輪のようなものなのだ。

 その条件の一つが戦闘力300万であり、瀕死パワーアップとは要するにそこに届く為の機能に過ぎない。

 つまり逆に言えば300万を超えてしまった時点でこの機能は意味を失い、ほとんど戦闘力が変わらなくなってしまうのだ。

 伝説の中にこんな一節がある。『どんな天才戦士も超えられない壁を越える天才』と。

 まさにここが、その境界線。

 『どんな天才戦士も超えられない』と述べられている300万の壁なのだ。

 たとえ凡才であってもサイヤ人なら誰でもここまでは来れる。何度も死にかけて復活し、それを繰り返せばこの領域に至る事は誰であろうと可能なのだ。しかしここからは違う。

 ここから先は死にかけて復活するだけでは超えられない。特別の壁は特別にならねば突破出来ない。

 界王拳や大猿化など、それを超える手段はいくつか存在するも、ベジータはその二つとも有してはいなかった。

 ベジータは強くなるために仙豆を全て消費しての瀕死パワーアップを測ったが、実はそれも300万を超えて以降は全くの無意味であり、ただ無駄に死にかけては仙豆を貪っただけでしかない。

 

「こ、こんなものなのか……? ここが俺の限界なのか?

う、嘘だ……俺は超サイヤ人になったはずなんだ……。

俺は、俺は……俺は超サイヤ人だーッ!!」

 

 ベジータは現実を直視出来ずに己こそが超サイヤ人だと叫ぶ。

 彼の不幸は、戦い漬けの日々ばかりを送っていたことだ。

 ベジータは戦いを好み、殺戮と血を好み、残酷で冷酷な、まさにサイヤ人らしいサイヤ人だ。

 王子の名に恥じず、誰よりもサイヤ人という存在を体現してきたと言っていい。

 悟空のような甘さはなく、穏やかさとも無縁で、子供の頃からずっと闘争の中で生きてきた。

 だが、それでは駄目なのだ(・・・・・・・・・)。 

 誰も解き明かせない超サイヤ人のメカニズム……何故サイヤ人は超サイヤ人へ変身出来るのか。

 そこには、サイヤ人の身体の中にある『S細胞』が大きく関わっている。

 このS細胞の量が一定値を上回ることで、サイヤ人は次のステージへ進む事が出来る。

 300万の戦闘力は扉の前に立つ『資格』であり、そしてS細胞は扉を開く為の『鍵』だ。

 ベジータは資格を得た。彼は今、伝説へと至る扉の前に立っている。

 だが……鍵を持っていないのだ。

 S細胞の量が絶対的に、彼には足りていない。

 

 S細胞は、穏やかになる事で増やす事が出来る。

 というより、穏やかでなければ増えてくれない。

 これが戦闘を好むサイヤ人にとっての最大の落とし穴だ。

 血と殺戮を好む戦士になるのに、必要な条件として正反対の穏やかさを求められる。こんな意地の悪い事があるだろうか。

 だから誰も覚醒出来なかった。

 ベジータを始めとして、サイヤ人は穏やかさなどとは無縁の存在だったからだ。

 一度穏やかになり、S細胞が増えた後に激しい怒りを引き金として伝説への扉を開く。

 そうする事で初めてサイヤ人は黄金の戦士へ至る事が出来るのだ。

 

 無論、これにも例外はある。

 極稀に……それこそ1000年に一度という奇跡に近い確率で、生まれながらに大量のS細胞を保有した子供が生まれる事はある。

 生まれながらの有資格者。最初から扉を開いている選ばれた者。

 それこそが伝説の超サイヤ人だ。しかしベジータはそうではない。

 

 また、親が超サイヤ人へ覚醒済みならば、その素質が子供に遺伝する事もあるだろう。

 最初から超サイヤ人に必要な量のS細胞を保有して生まれた子供は、戦闘力が足りずとも、些細な怒りを切っ掛けとして呆気なく超サイヤ人へ変身してしまうかもしれない。

 だがベジータはそうではない。

 

 もしもベジータが、ここに至るまでに少しでもそうした心を得ていればまだ話は違っただろう。

 敵に情けをかける。親兄弟を大切にする。仲間を大事にする。

 そして心を静かに保つ。

 それらの事を少しでも考えていれば、ほんの少しでも優しさというものを得ていれば、彼はそれだけで大量のS細胞を獲得する事に成功したかもしれない。

 己の弱さを自覚し、限界を自覚して、その弱さに憤る事が出来たならば……あるいは本当に限界の壁を超えて超サイヤ人として覚醒出来たのかもしれない。

 そうなれば、彼はフリーザを倒す事が出来ただろう。

 少なくとも条件の一つは満たしていたのだ。可能性は確かにあったのだ。

 

「くたばれフリーザー!!」

 

 だが彼は逃避した。こんなものではない、違う、自分の限界はここではないと己から目を背けた。

 これでは怒りなど抱けるはずもなく、最後の鍵を外すには至らない。

 S細胞が増えるはずもない。

 資格は持っているのだ。鍵穴の前に立っているのだ。

 だが鍵がどこにあるか気付けない。逃避して探す事すら止めてしまった。

 鍵穴を見ずして、そこに鍵があると理解出来るわけもない。

 資格はあった――だが、それだけであった。

 ベジータの全力を込めた逃避の気弾がナメック星の地表へと迫り、クリリン達が慌てる。

 だがフリーザは軽く跳躍し、その気弾をただの蹴りで跳ね返してしまった。

 

「……あ、あ……」

 

 その瞬間、ベジータの心は折れた。

 ベジータは生まれて初めて心の底から震え上がった。真の恐怖と決定的な挫折に……。

 恐ろしさと絶望に涙すら流した。これも初めての事だった。

 ベジータは既に戦意を失っていた。

 

 確かに資格は持っていた。

 だが開ける意志すら失ってしまってはもう終わりだ。

 ベジータは鍵穴の前に立ったまま――限界の扉を開ける事も出来ずに、開ける事そのものを放棄してしまったのだ。

 

「どうやら戦意を失ってしまったようだね。それじゃちょっと早いけど、止めを刺しちゃおうか」

 

 フリーザがベジータへと止めのデスビームを発射した。

 ベジータはそれを避ける気力もなく、このまま命を奪われるのだとその場の誰もが思った。

 だがベジータの前に割り込んだ男がビームを受け止め、フリーザの前へと立ち塞がる。

 

「サイヤ人を……舐めるなよ……!」

 

 それは死の淵から復活したナッパだ。

 一度死にかけた事により彼の戦闘力は爆発的に上昇し、今のベジータほどとまでは行かないが先程までとは比べ物にならないパワーアップを果たしていた。

 全身をスパークが覆い、気の圧力によって大気が歪む。

 

「ベジータァ! 何をボサっとしてやがる!

俺がブン殴りてえお前はそんな腑抜けじゃねえはずだ!」

 

 心の折れてしまったベジータへ檄を飛ばし、ナッパは単身でフリーザへと立ち向かった。

 実力で及ばぬ事は百も承知。

 だがそれでも、時間を稼ぐ事は無意味ではない。

 時間さえ稼げばリゼットが必ず、フリーザの兄とやらを片付けて戻って来る。

 そこまで持ちこたえれば勝利だ。

 だから、この身を盾にしてでも稼ぐ、守る。

 その為にナッパは捨て石になる事を決意し、その身を盾としてフリーザの前に晒していた。

 

「ナッパ……僕の恐怖を忘れてしまったようだね」

「おおよ! 生憎と出来のいい頭じゃねえんでなあ!

どうでもいい事はすぐに忘れちまうのさ!

俺は、何が何でもお前から……こいつ等を守ってやるって決めたんだよお!」

 

 やらせない、殺させない。

 やっと見付けた居場所なのだ。

 ここが俺の居場所だと、そう胸を張って言える場所をようやく見付けたのだ。

 だからフリーザなどに奪われてたまるか。

 その決意のもと、丸太のような腕で突きの連打を放つも、フリーザには掠りもしない。

 そればかりかお返しとばかりに放たれた蹴りの一発でナッパの身体がひしゃげ、何かが折れるような不吉な音を響かせて大地に沈んだ。

 

「何が何でも……だっけ? 大口の割には全然大したことないね」

 

 ターレスの気概も、ベジータの矜持も、ナッパの決意も。

 全てがフリーザにとっては塵芥だ。何ら心には響かない。

 ただ万物を絶対の力で蹂躙し、破壊する。

 だから彼は、宇宙の帝王なのだ。




謎のイケメン「読者の皆さん、安心して下さい。
この超最高イケメンのとてつもなく凄まじすぎる真のサイヤ人の戦士であるこの僕がいる限り、薄い本展開になどさせませんから!
頼もしすぎる……頼もしすぎるんですよ、僕は!」

【戦闘力】
・ナッパ:24万→150万
・ベジータ:29000→300万
※仙豆複数消費

【S細胞】
近年になって生えてきた新設定。
穏やかでないとS細胞は増えず、超サイヤ人にはなれないらしい。
ベジータが人造人間編で覚醒できたのはやはり、ブルマのおかげで少しだけ穏やかさを得たからだろうか。

【超サイヤ人への資格】
300万ないと超化出来ないのは、このSSの独自設定であって公式設定ではありません。
まあ超化するのに高い戦闘力が必要とは長年考察サイトなどで言われていたことではありますが。

【Sparking Meteor(スパーキングメテオ)】
リゼットの技。
ウイローに使ったスパーキングの超強化版であり、特大の気弾を投げつける。
スーパーノヴァと同系列の大技。
気弾は放出し続ける気功波と異なり、一度完成させてしまえば本人の戦闘力が下がっても威力が下がる事はないので一瞬だけ戦闘力を上げるバーストリミットとの相性はいい。
一瞬だけ倍率を上げてこの技を完成させてすぐに倍率を下げるという使い方をしたが、それでもリゼットはHPが低いのでダウンしてしまった。

Q、ブロリーとかセルとかブラックとか、明らかに300万より上なのに瀕死パワーアップしてるけど?
A、あ、あいつらは特別だし……(目逸らし)
とりあえずこのSSではそういう設定でやっていきます。


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第三十六話 最強のナメック星人

 死体が散乱していた。

 無造作に転がるその遺体を見るものが見れば驚愕に顔を歪めるだろう。

 何せそこに倒れているのはどれも、宇宙で名を知られた恐怖の戦士達なのだから。

 名をギニュー特戦隊といい、帝王フリーザの片腕として恐怖を振りまいてきたエリート中のエリート。

 それが4人、無造作に屍を晒しているなど一体誰が信じられる。

 それを為した者達の名はクウラ機甲戦隊。ギニュー特戦隊と同じか、それ以上に名を知られる精鋭達であり、人数こそ3人と少ないが全員がギニューを上回る強者の集まりだ。

 特戦隊と機甲戦隊。長年に渡り互いをライバル視していた二つの組織だが、実際に激突してみれば勝敗はあまりに呆気なくついた。

 そもそも戦闘力にして5万前後の特戦隊では一人すらも倒せるわけがなく、多少厄介なギニューは二人でかかればどうにでもなってしまう。

 ボディチェンジ能力とて最初から知られてしまっていては脅威にならず、使う間を与えなければそれでいい話だ。

 正史においては、戦闘力18万の悟空に手も足も出ずにボディチェンジを使うことでかろうじて勝利したのだ。

 ならば、それと同等の実力者が3人いる上に、ボディチェンジという能力を事前に知っている機甲戦隊に勝てる道理はなく……この結果は最初から分かり切ったものでしかなかった。

 特戦隊にも可能性はあった。グルドを連れてきていれば、彼の時間停止と金縛りの術を駆使する事でチェンジに成功したかもしれない。

 そうして身体を取り換えつつ戦えば特戦隊にも勝ち目はあっただろう。

 特戦隊と機甲戦隊が互角というのはあながち間違いではない。たがそれも、グルドを含む5人が揃っていればこその話。

 グルドを欠いたこの四人では、勝ち目などない。

 かくして長年の因縁はあまりにも簡単に終わり、宿敵を屠った機甲戦隊はスカウターに反応している妙な気を調査するべくその場を離れた。

 

 だがその機甲戦隊もまた、遠く離れた場所で屍と変わっていた。

 このナメック星で行われている二つの戦闘……フリーザとサイヤ人達。そしてクウラとリゼット。

 そのどちらにも参戦せずに佇んでいる戦闘力反応を追い、こんな所まで来てしまったのが不味かった。

 そこにいたのはナメック星人であり、機甲戦隊はドラゴンボールについて聞き出すべくそのナメック星人を襲撃した。

 だがそのナメック星人は他のナメック星人と決定的に異なる悪のナメック星人、魔族だったのだ。

 老体と思って舐めてかかった3人はスラッグによって容易く屠られ、今では物言わぬ死体として地面を転がっている。

 

「何だったのだ、この雑魚共は」

 

 スラッグは呟きながら玉座に座ったまま辺りを見回す。

 偵察に向かわせた部下3人は未だ戻る気配もなく、いつまで経ってもドラゴンボールが手に入らない。

 今襲撃してきた連中もドラゴンボールの事を知っていた事から推測するに、今この惑星ではドラゴンボールの争奪戦が行われているのだろう。

 だとすると、今も遠くで戦っている連中の誰かがボールを所持しているという事になり、偵察に出した3人は役立たずにも殺されてしまったと見るのが妥当だ。

 他の兵士も全滅してしまった。せっかくこの星を雲で覆ったのに、つい先程に立ち上った光の柱が雲を消し飛ばしてしまったのだ。

 元々ナメック星人であるスラッグはともかく、彼の部下達は陽光の下では一時間と生きられない。

 降り注ぐ光に怯えて、慌てて引き返してきた部下達を『それでも儂の部下か』と気功波で消し飛ばし、ついでに、あの程度で消し飛ぶ程度の突貫工事しかしなかったカクージャは処刑しておいた。

 

「ふん、儂自身が動かねばなるまいか」

 

 スラッグが重い腰をあげ、ゆっくりと立つ。

 彼には己こそが強者であり支配者であるという自負があった。

 実際それは間違いではない。彼の強さは破格だ。

 宇宙の中でも最強クラスの精鋭のみを集めたギニュー特戦隊。その特戦隊をも凌駕する機甲戦隊。

 そしてその機甲戦隊すらも容易に壊滅してみせたのがこのスラッグだ。

 だが上には上がいる。頂点に立ったと思っても、実際はそこが入り口に過ぎない事もあるのだ。

 スラッグも同じだ。彼はいままで負けた事などない。手こずった事すらもない。

 だがその彼ですらこの惑星で今起こっている戦いから見ればいい所中の上程度であり、フリーザやクウラには到底及ばない。

 

 死の連鎖は止まらない。己の実力と敵の強さを見誤った者から先に死んでいく。

 彼が次の犠牲者となるのも、そう遠い未来の事ではないだろう。

 

 

「…………ん」

 

 洞窟の中で、リゼットは目を覚ました。

 頭はボーっとしており、すぐには現状を把握出来ない。

 ただ、身体が酷く痛む事だけは分かった。

 試しに指先を動かそうとするも、指すら動かない。

 

(ゲートは……駄目ですね。ゲートを開く力すら残ってませんか)

 

 亜空間を開く事が出来れば、そこに収納してある仙豆を超能力で運んで口に入れる事も出来たのだが、それも出来ないのでは自然回復を待つ他ない。

 クウラ戦で仙豆をケチったのは少しミスだったかもしれないが、しかし乱用できない以上使いどころが難しいのも事実だ。

 何も勿体ないというだけの理由で使用しなかったわけではない。

 仙豆は回復機能ばかりが注目されて忘れられがちだが、一粒食べるだけで10日は食べなくてもよくなるほど腹が膨れてしまう。

 大喰らいのサイヤ人ならば一日に何度食べても平気なのかもしれないが、リゼットは無理だ。

 一粒食べただけで、しばらくは文字通りお腹一杯になる。

 一日に二粒以上は狂気の沙汰と言っていい。確かに回復はするだろうが、間違いなく気持ち悪くなって戦いどころではなくなってしまう。

 つまりリゼットは、仙豆を使うタイミングを間違えるとしばらく仙豆の恩恵にあやかれなくなるのだ。

 なので使う時は本当に危なくなった時だけと決めているが、今回はそのタイミングを見誤った。

 バーストリミット80倍と同時に食べておけばまだマシだったろうに……思えば、限界をあそこまで超えたのも初めての事だった。

 悟空とか10倍が限界の時期に100倍界王拳とかやってるのだから、自分だってちょっと限界を超えても仙豆を食べる程度の余力は残ると思っていたのだ。

 しかし結果は、まさかの即気絶である。悟空に比べて驚くほど耐久力がない。

 この経験は今後に活かせるが、勉強代は安くなかったという事か。

 今リゼットに出来る事は寝転がったまま気を感知する事と、呼吸する事。後は考える事くらいだ。

 

(それにしても、あの後どうなったんでしょうか……クウラを倒した所までは覚えているんですが、何で洞窟で寝てるのかが全く分かりません。何か下に敷いてくれてるみたいですし……。

状況的に見て私があの後気を失ったのは間違いないとして、誰かが運んでくれた……?)

 

 今のナメック星にナメック星人はいない。居るのは彼女の仲間達と極悪人だけだ。

 ヤムチャかクリリン辺りが戦闘に加われないからとこちらに来て運んでくれた可能性も考えたが、仲間達の気は全てあの場所から動いていなかった。

 流石に現状最大の戦力である自分に仙豆も食べさせずに洞窟に放置して帰ったとかはないだろう。

 

 遠視で戦況を視る。

 頼みの綱である悟空は未だ気絶中であり、ターレスもダウンしている。

 ベジータは戦闘力が数値にして300万前後に上昇しているが、やはり結果は変わらなかったらしくフリーザのサンドバッグにされていた。

 フリーザの悪癖が出てしまっているようで、その気になれば一思いに全滅させる事も可能なのをジワジワとなぶり者にしている。

 しかし皮肉にもそのおかげで多少の時間が稼げており、ベジータには悪いがもう少しだけ頑張ってもらいたいとリゼットは考えた。

 

(とりあえず、悟空君に呼びかけてみますか)

 

 身動きが取れず、気も枯渇していようと念話くらいは飛ばせる。

 リゼットは未だ気絶している悟空へと念話で呼びかけ、目覚めを促す事にした。

 とりあえず、まずは悟空が起きてくれないと話にならない。

 このままフリーザがベジータを殴る事に飽きてナメック星を消してしまえば、全員纏めて死んでしまうのだ。

 リゼットならば運がよければ生き残るかもしれないが、今のダメージが残った状態では星の爆発程度でもやはり死ぬだろう。

 この俺が星の爆発くらいで死ぬと思っているのか? はい、死にます。

 だから、ここは主人公に頑張ってもらうしかないのだ。

 この状況をどうにか出来るとしたらそれは悟空だけだ。

 今だってスラッグが登場してドラゴンボールを寄越せとフリーザに詰め寄っているが一撃で倒されてしまっている。というかこいつ何しに来たんだ。

 

(あ、巨大化して気が膨れ上が……あ、駄目だ。やっぱり一撃で負けた)

 

 巨大化してもスラッグの戦闘力は精々400万程度である。ただのでかいサンドバッグだ。

 残念ながら彼に関しては時期とタイミングが悪かったと言うしかない。

 もう少し前に登場していれば恐るべき敵だったのだろうが、このナメック星ではちょっと強い敵でしかないのだ。

 

(……あ、待って下さい。もしかしたらいけるかも?)

 

 だがリゼットはふと、スラッグの有効活用方法に気が付いた。

 そうだ、彼は超ナメック星人だ。

 なら、もしかしたらアレが出来るのではないだろうか?

 多分ピッコロとの相性もそう悪くないだろうし、現状を打開する一手になるかもしれない。

 非道な方法ではあるし、だからこそネイルの同行は断った。

 しかしスラッグならば話は別だ。

 リゼットは、ネイルという善人を消す事を躊躇って最善手を逃してしまう程度の善性の持ち主である。

 しかし同時に、かつてナッパを処刑しようとした事例から分かるように、悪党相手ならば割り切ってしまえる程度には合理的でもあるのだ。

 

(よし、そうと決まればまずは……)

 

 

 ピッコロは屈辱に拳を握り込んでいた。己のあまりの弱さに怒りすら感じた。

 リゼットの元で修行を受けて強くなったと思った。

 最長老に潜在能力を解放されて更に高みに至ったと思った。

 だが現実はどうだ? フリーザを前に挑む事すら出来ずにいる。

 今もベジータをいたぶっているフリーザに何も出来ないでいる。

 ベジータが嬲られている……別にそれはいい。奴も地球とナメック星の敵だ。どうなろうが知った事ではない。

 だがピッコロが許せないのはベジータを救えない事ではなく、恐怖から動けないでいる事だった。

 どの角度から、どのタイミングで仕掛けても返り討ちに遭う自分の姿が想像出来てしまう。

 途中でスラッグとかいうナメック星人が割り込んで来たが、あれと同じ末路を辿るのは火を見るよりも明らかだ。

 そんな時、彼の脳裏に声が響いた。

 

(ピッコロ……聞こえますか?)

(! 神か! 貴様今どこにいやがる!?)

(すみません、クウラとの戦いで力を使い過ぎました。しばらくはそちらに向かう事が出来ません)

(何だと!)

 

 こちら側で唯一フリーザに勝利出来る戦力がリゼットだが、彼女はあろう事か動けないと言い出した。

 ふざけるな、と思う。そんな悠長にしていたら皆殺しにされて最期はこの惑星も破壊されて終わりだ。

 だが彼女とて何も考えずに念話を送ってきたわけではない。

 一応逆転の手段くらいは考えているのだ。

 

(ですから、貴方が時間を稼いで下さい)

(出来るならそうしている。だが……)

(大丈夫、方法はあります。スラッグと“同化”すればあるいは、フリーザに匹敵する戦士になれるかもしれません)

 

 同化。その言葉がピッコロはあまり好きではなかった。

 ピッコロは元々は一人だったナメック星人が悪と善に分かれた存在だ。

 ピッコロにとっての同化とは先代と一つに戻る事であり、しかしそんなのはピッコロにとっては御免だった。

 相手が違うといえど、どうしても嫌悪感を覚えてしまう。

 

(ふざけるな。俺は俺のままでいたい。人格まで同化するのは御免だ)

(ベースを貴方にすれば人格は貴方のままです。同化対象は切っ掛けでしかありません)

(……本当だな? 少しでも気に入らなければすぐに追い出すぞ)

(ええ、それで構いません)

 

 ピッコロは己の弱さが許せなかった。

 どうしても今、力が欲しかった。

 このままでは自分達全員、それに悟飯も殺されてしまう。

 それを止める為に必要だというのなら……あえて呑もう、その条件を。

 同化という禁忌を。

 

(問題は、同化はベースとなる方が相手に手を当てて、取り込まれる側が同意した上で相手に向けて全エネルギーを放出する事なんですが……こればかりは相手の協力がないと難しい事です)

(そんな事か。それならば簡単だ)

 

 リゼットはいかに相手の協力を得るか、と考えているようだがやはり変な所で甘い。

 どうせスラッグは敵なのだ。そんなのに同意を求める必要などない。

 ピッコロは倒れているスラッグの前にしゃがむと、その胸に手を当てた。

 

「おい貴様。ドラゴンボールを探しているという事は俺達の敵だな?

ならばこのまま消されても文句は言えまい」

「なっ……!? ま、待て!」

「待ってやってもいいが、条件がある」

「条件だと?」

「そうだ。俺と同化しろ。

それでもしフリーザの野郎に勝てたなら、貴様も殺さずに生かしておいてやる」

「し、しかし……」

「安心しろ、俺も貴様のような奴と同化したままでいるのは御免だ。用が済んだら追い出してやる」

 

 ピッコロが取った方法、それは脅しだった。

 協力せねば殺す。協力すれば生かしてやる。

 単純な二択だが、それだけに効果的だ。

 実際、ピッコロが勝てば同化した彼は生き残るのだから嘘も吐いていない。

 何とも口の回る事だ、とリゼットは感心した。

 そして追い出してやるという言葉に嘘はない。ピッコロは本心からそう言っているし、かつて先代と大魔王が分離した事を考えれば分離は決して不可能ではないのだろう。

 何ならドラゴンボールを使うという選択肢もある。

 スラッグは読心の能力を持つがゆえに、それがよく分かった。

 

「ほ、本当だな? 見逃してくれるんだな?」

「ああ。嘘は吐かん」

「い、いいだろう……儂のエネルギーを貴様にくれてやる」

 

 スラッグはきっとこう考えているのだろう。

 とにかくまずは今を凌ぐ事だ、と。

 とりあえずここは協力して生を拾い、その後で態勢を立て直せばいい。

 きっとそう考えており、ピッコロはその隙を的確に突いた。

 

「も、もっていけ! 儂の全エネルギーを!」

 

 スラッグの全身が光り、胸に置かれたピッコロの手へと吸い込まれていく。

 こうしてスラッグとピッコロは『用が済んだら分離する』という約束を前提として融合したが……しかしここで、二人にとっての計算外が生じてしまった。

 ピッコロの言葉に嘘はなかった(・・・・)。彼は間違いなく、スラッグを捨てるつもりで融合したし、約束を果たすつもりでいた。

 計算外だったのは……融合後の性格の変化だ。

 今でこそ多少丸くなっているものの、ピッコロは元々神と別れた悪の化身である。

 そしてスラッグは純粋なナメック星人でありながら100%悪の超ナメック星人である。

 そんな二人が融合して、果たしてそれで敵との約束を守るような善の戦士になるものだろうか?

 ……否である。なるわけがない。

 融合を終えたピッコロは口の端を釣り上げ、そして嘲笑するように吐き捨てた。

 

「……くっくっく……馬鹿め。

この俺様が約束などを守ると思っているのか?」

 

 ピッコロの人格ベースはそのままに、スラッグを取り込む事でせっかく善に寄りかけていた彼の心は再び大魔王(マジュニア)時代へと逆戻りしてしまった。

 鋭い瞳はギラギラと野心に輝き、悟空と戦った時の凶相が蘇る。

 哀れ、スラッグという男はこの時を以て永遠に失われた。

 もう彼はどこにもいない。この世にもあの世にも存在しない。

 ピッコロと一つになり、パワーアップの切っ掛けとなって消滅したのだ。

 

「くくく……戻ってきた、戻ってきたぞ! 悪のパワーが俺様に戻ってきた!

勝てる! 負けるはずがない! 俺は今、究極のパワーを手に入れたのだ!」

 

 ピッコロは同化により上昇した己の気を確かめる。

 凄まじい……信じられないパワーが沸き上がってくるのを感じる。

 これが同化というものなのか。これほどに凄まじいものなのか?

 ――いける!

 これならばフリーザとも戦える!

 彼はその確信を抱き、フリーザを見る。

 悟空が目覚めるのを待つまでもない。あの男は今ここで、自分が討つ。

 そして地球で悟空との決着を着け、神を殺し、世界を支配しよう。

 素晴らしい悪の世界を父に代わり、自分が作り上げるのだ。

 

「ピ、ピッコロ、さん?」

 

 しかし、悪へ逆戻りしかけていた彼を悟飯の声が引き留めた。

 瞬間、脳裏を過るのは悟飯と共に修行した1年間の出来事であり、自分を慕ってくれる悟飯の純粋な眼差しだ。

 いかにスラッグと融合し、悪に傾いても……それでも、もうピッコロは完全な悪にはなれない。

 何故なら彼にはもう、大魔王としての使命などより大事な、ピッコロとして守りたいものがあるのだから。

 悟飯を視界に入れると同時にピッコロの顔から険が消え、元の落ち着いた表情へと戻っていく。

 そんな自分に、ピッコロは思わず自嘲してしまった。

 ――消えていく。

 自分の中の悪が。大魔王が消えていく。

 そうして残ったのは、ピッコロ大魔王ではなく、ただのピッコロだった。

 孫悟飯を守りたいと願うだけの、一人のナメック星人だった。

 

(……すまんな、父よ。

どうやら俺はもう、大魔王には戻れんらしい……)

 

 スラッグという悪の塊を取り込んで尚、ピッコロは悪に戻れなかった。

 そんな自分に不甲斐なさを感じつつも、ピッコロは悟飯の頭に手を置く。

 

「大丈夫だ、悟飯……俺はどこにも行かん」

 

 悪に傾こうが、善に傾こうが、それでもピッコロはピッコロだ。

 守りたいものは見失わない……見失えない。

 世界征服も悟空への復讐も、今は後回しだ。

 今はただ……守るべきものを守るために……。

 そう決意し、紅蓮のオーラを纏って突進した。

 

 そしてそれと同時に、ピッコロの気に感化されるように悟空が目を開いた。

 遂にここに役者は出揃い、戦いは最終決戦へと移行する。




ピッコロさんのカルマ値が急上昇しましたが、悟飯のおかげで踏み留まりました。
なのでちょっと悪っぽくなりましたが、今までとそんなに変わったりはしません。
そして今まで目立たなかった鬱憤を晴らすように次回はスラッグ(と同化したピッコロさん)が活躍します。

【戦闘力】
・ピッコロ(融合)
基本戦闘力:66万→660万
界王拳(最大10倍):6600万


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第三十七話 超サイヤ人だ孫悟空

 尾でベジータの首を締め、背に拳を叩き込む。

 互いの戦闘力差を考えれば一撃で死んでもおかしくない攻撃であり、今もベジータが生きているのは単にフリーザが加減しているからに他ならない。

 簡単に殺してはつまらない。自分に歯向かった愚かさをもっと思い知らせて恐怖と絶望の中で死なせてやりたい。

 フリーザはベジータの背に付いた蟹を掴んで丸ごと喰らい、また攻撃を再開する。

 既に戦意を失っている相手への過剰な攻撃。だがそこに割り込む者が現れた。

 フリーザとて全くの無警戒だったわけではない。もしかしたら誰かが飛び込んでくるかもしれないくらいは思っていた。

 だがその乱入者はフリーザの予測すらも上回り、彼の顔へと蹴りをめり込ませたのだ。

 

「がっ!?」

 

 ベジータを手放し、フリーザが蹴り飛ばされる。

 踏ん張りが利かずに射線上にあったいくつもの岩を砕き、貫き、いくつもの島を越えて尚フリーザが飛ぶ。

 あまりに突然の攻撃。それも重く、速い。

 体勢を立て直す間もなく先に回りこんだその者――ピッコロが吹き飛んでいる最中のフリーザを蹴りあげ、今度は空中へと飛ばした。

 まだ終わらない。飛んで行くフリーザを追って飛翔し、追い越してダブルスレッジハンマー。

 フリーザの頭を強打し、今度は地面へと送り返した。

 尚も続く追撃。ピッコロが急降下し、フリーザへと拳を振り下ろす。

 だがフリーザも咄嗟に起き上がり回避。外された拳が地面を貫き、一つの陸地を真っ二つに砕いた。

 

「逃がすか!」

 

 跳躍したフリーザへと爆力魔波。

 高出力のエネルギー波がフリーザへと迫り、咄嗟に片手で受け止める。

 だがフリーザといえど簡単に止まるものではなく、じりじりと押される威力だ。

 されどやはり帝王。簡単には獲らせてくれない。

 ピッコロ渾身の気功波は片手で防ぎ切られ、ほとんどダメージのないフリーザが怒りに満ちた眼でピッコロを見下ろしていた。

 

「ナメック星人め……!

今のは痛かった……痛かったぞーッ!!」

「ほざけえ!」

 

 空中でフリーザとピッコロが衝突。

 拳と蹴りが高速で交差し、打撃音が遅れて響く。

 姿が消える――瞬間、空間が爆ぜた。

 幾度となく爆発したように空が爆ぜ、周囲にある自然物を巻き込み破壊する。

 時折姿を現しては攻守交替する二人だが、その速度が速すぎてクリリン達の眼では追いきれない。

 

「つあああああああッ!」

「きえええええええッ!!」

 

 腕と腕、脚と脚、膝と膝、肘と肘。

 格闘に使える全ての部位を総動員してぶつけ合い、激しく攻防を繰り返す。

 その最中にピッコロが眼から怪光線を放つも、フリーザはこれを上半身を大きく反らす事で回避。

 さらにそのまま回転し、尻尾でピッコロの顎を打つ。

 だがピッコロもすぐに空中で停止し、腕を伸ばして反撃に出た。

 

「ッシャア!」

 

 フリーザが気円斬と似た攻撃――デスソーサーを放ち、伸びてきたピッコロの腕を切断する。

 だがピッコロは怯まない。

 片腕のままフリーザに接近し、無い方の腕を突き出した。

 その瞬間に腕が再生し、不意を打たれたフリーザの顔を鷲掴みにする。

 

「かああッ!」

 

 掴んだまま零距離の気弾!

 フリーザの顔面に気弾を叩き込み、更に急降下。

 力任せに地面へと叩き付ける。

 またも陸地が一つ砕け、それでも尚終わらずに二人は海へと飛び込む。

 ピッコロの腕を振り解いたフリーザとピッコロは戦いの舞台を海中へと移し、水の抵抗など無いかのように攻防を続ける。

 掌を掴み合い、力比べの姿勢へと入ったかと思えば即座にフリーザがピッコロを蹴り上げて再び戦場が空中へと戻った。

 

「うわたたたたァァ! うわりゃァ!!」

「キィエエエエエ!」

 

 互いに裂帛の叫びを上げながら尚も零距離での殴り合いを続行する。

 衝撃波が海を割り、大地を砕き、嵐を巻き起こし、その余波は遠く離れたクリリン達すらも脅かした。

 攻防の隙間。フリーザの僅かな緩みを突き、ピッコロの拳がヒットする。

 すると決して大柄とは言えないフリーザの身体が吹き飛び、射線上にいたクリリンと悟飯が慌てて避けた。

 その二人の間を超高速でフリーザが通過し、直後にピッコロが通過する。

 飛んで行くフリーザを追いかけながら両腕を組み、振り下ろす。

 だがフリーザは更に飛ぶ速度を上げて回避し、空中で制止。すぐに追いついてきたピッコロの顔を蹴り飛ばした。

 だがピッコロも怯まない。空中で回転すると眼から怪光線を放ち、だがフリーザもそれを避ける。

 

「す、すげえ……ピッコロの奴すげえぞ! 同化ってのはここまで凄まじいのか!?」

「や、やっぱり凄いや、ピッコロさんは!」

 

 完全に解説役となってしまったクリリンと悟飯が突然のピッコロのパワーアップに驚き、喜声をあげる。

 同化でここまで強くなるのは予想外で、置いていかれてしまったような寂しさもある。

 だがこれで勝利の可能性が出てきた。

 そしていい事は一つではない。もう一つあるのだ。

 

「いや、あのままじゃピッコロはやべえな。まだフリーザの方が強え」

「! ご、悟空! お前起きたのか!」

「お父さん!」

 

 首の骨をへし折られて以降、仙豆を食べたにも関わらず眠り続けていた悟空の起床である。

 だが無駄に眠っていたわけではない。

 サイヤ人は死から立ち直る時にその力を大きく増す事が出来る。

 悟空もまた、フリーザに敗れる前以上に力を増し、全身に気が漲っていた。

 

「待たせたな、もう大丈夫だ。オラも行って来る」

 

 悟空が飛翔し、丁度向き合う形で一時的に停戦していたピッコロとフリーザの前に参戦した。

 位置はピッコロの隣。二人がかりで挑む、という事だろう。

 出来れば1対1で戦いたいという気持ちもあるが、そんな事を言っていられる相手でないというのも一度負けて理解した。

 だから今は、過程はどうあれ勝利して皆で帰る事を優先する。

 足りない力は後で修行で埋めて、また同じような敵が出た時に今度こそ一人で勝てるようになればいい。

 

「悟空! ようやく起きたか!」

「ああ、待たせちまったな。だがもう大丈夫だ。オラもやらせてもらうぞ」

「へっ、また貴様と共闘か。反吐が出るが……今はそれが最善手らしいな」

 

 ピッコロと悟空が構えを取る。

 相手は格上。そしてこの戦いには宇宙の命運がかかっている。

 ここでフリーザを倒さなければ、今後も破壊される惑星が量産され、それこそ日々に億単位で人が死んでいくのだ。

 そんな事は許せないし、許してはいけない。

 だからこそ、今だけは武闘家としての拘りも捨てた。

 

「それにしてもピッコロ……おめえ、感じが少し変わったな。いや、戻ったっていうのか?

昔にオラと戦った時のギラギラした感じがするぞ」

「今までがぬるま湯に浸かりすぎていただけだ……覚えておけ、孫悟空。

奴を殺したら、次は貴様の番だという事をな」

「ああ。楽しみにしてるぜ」

 

 軽口を叩き合い、かつて宿命のライバル同士だった二人は共通の敵を見据えて笑みを消した。

 

「つああああああああッ!」

「うわりゃぁああああああ!」

「猿とナメック星人如きが!」

 

 ピッコロと悟空が同時に飛び出す。

 かつては宿敵同士であったからこそ、互いの手の内は知り尽くしている。

 そしてラディッツとの戦いでは一度組んでの戦闘も経験しており、故にコンビネーションは抜群だ。

 足りない実力を補うように悟空とピッコロが入れ替わりで攻め、フリーザもそれを的確にいなしていく。

 しかしそれでも戦いの天秤はフリーザに傾いている。今のままではまだ、フリーザから勝利を奪う事は出来ない。

 ピッコロを手強しと見たフリーザは、その力を70%近くまで解放しているのだ。

 フリーザの背後に移動した二人をフリーザの肘打ちが迎撃し、振り向きざまに気功波を放つ。

 咄嗟に避けるもすぐにフリーザが追撃し、ピッコロの前へと飛んだ。

 当然これに対しピッコロも反撃。蹴りを繰り出すがフリーザが姿勢を低くして避け、蹴りでピッコロの脚を払った。

 そのフリーザへと背後から悟空が猛然と飛びかかるも尻尾の一撃で弾き飛ばされる。

 

「ちいっ……!」

 

 ピッコロが人差し指と中指を立て、額に当てる。

 気を一点に集中して敵を貫く魔貫光殺砲の構えだ。

 チャージに時間がかかるという欠陥こそ抱えているが、上手く気を溜めて当てされすれば格上すらも屠る最大の一撃。ピッコロはそこに勝機を見出した。

 顔が見え無くなるほどに気を溜め、フリーザの攻撃を何とか片手のみで防ぐ。

 

「界王拳、20倍だあーっ!」

 

 悟空が無理矢理最大出力を超えてフリーザへと突進し、不意を打たれたフリーザの頬を殴り飛ばした。

 更に吹き飛ぶフリーザを蹴り、ピッコロとの距離を開ける。

 

「よし、いいぞ孫悟空! そのまま時間を稼げ!」

「か、め、は、め……!」

 

 ピッコロが気を溜めている間に悟空が更に力を振り絞り、気を掌へ集約させる。

 

「波ァァァ!!」

 

 限界以上の出力を振り絞ったかめはめ波がフリーザへと飛び、だがフリーザも身軽に避ける。

 しかし悟空が腕を動かすとかめはめ波が曲がり、フリーザを追尾した。

 

「小賢しい!」

 

 逃げても無駄と悟ったらしいフリーザが片手でかめはめ波を押さえ込む。

 しかしその威力はいくらフリーザでもそう簡単に防げるものではない。

 フリーザの掌を僅かずつ焼きながらかめはめ波が尚も進もうとする。

 

「かあッ!」

 

 だがやはり最後に勝つのはフリーザだ。

 悟空渾身のかめはめ波をも消し飛ばし、そのまま悟空へと突撃する。

 頭突きの一撃で悟空を吹き飛ばし、続けて空中で回転。尻尾の一撃で頭を打った。

 

「猿野郎が……このフリーザ様をあまり舐めるなよ」

「ぐっ、かはっ!」

「止めだ!」

 

 フリーザが悟空に止めを刺そうと掌を翳す。

 だがそのタイミングを見計らったかのように飛来したかめはめ波と魔閃光がフリーザに直撃した。

 更に繰気弾、気功砲、どどん波が後に続き、悉くフリーザへと命中する。

 無論ダメージはない。

 だが多少なりとも時間稼ぎにはなっており、その間にピッコロはますます気を高めた。

 

「ゴミ共が! まだいやがったか!」

 

 いかにフリーザから見て雑魚だろうと、こうも数が多ければ邪魔くらいは出来る。

 そしてダメージは通らずとも、怒らせる程度の事ならば可能だ。

 気絶から覚めたヤムチャ達の攻撃はフリーザに傷の一つも負わせていない。

 だが確かに、フリーザの注意を逸らすという大役を果す事に成功していた。

 そして一つの事に気を取られると、注意力が散漫になるのがフリーザの悪い癖だ。

 ヤムチャ達に気を取られたフリーザに、今度は横からターレスが飛び込んで右フックを叩き込んだ。

 更に吹き飛んだ先にナッパが回り込み、フリーザを蹴り上げる。

 その先にまたしてもターレスが先回りして蹴り落とし、すかさずナッパがフリーザの右腕を掴んだ。

 それに合わせるようにターレスがフリーザの左腕を拘束し、サイヤ人二人でフリーザの動きを停止させた。

 ちなみにこの総攻撃に人参化は参加していない。

 確かに彼も仙豆で復活はしていたのだが、自分では役立てないと判断してターレスとナッパに気を与えて再びダウンしてしまったのだ。

 

「今だ!」

「殺れええええッ!」

 

 ナッパとターレスが叫ぶ。

 無論、この好機を逃すほど彼は甘くない。

 

「――魔貫光殺砲!」

 

 直進する光閃と、その周囲を旋回する螺旋状の気。

 二つの気を以て敵を貫く必殺の一撃が雷すら超える速度で飛び、フリーザへ迫る。

 決まった……誰もがそう思った。

 だがフリーザの力はこんなものではない。

 フリーザは驚くべき力でターレスとナッパを吹き飛ばし、反射的に身を捩る。

 それでも間に合わずに魔貫光殺砲は彼の腹を貫いた。

 ……だが、急所を外している。

 大ダメージには違いないが、仕留め損ねてしまった。

 そしてそれこそが最大の隙となり、フリーザの放った反撃のデスビームがピッコロの胸を貫通した。

 仕留めたと思った時こそが最大の隙。攻撃の瞬間こそが最も警戒せねばならない時だ。

 それを失念してしまったピッコロは口から血を吐き出し、地面へと墜落した。

 

「ピッコロ!」

「この、屑、共がァ……! 一人たりとも逃がさんぞ!」

 

 フリーザの生命力は常軌を逸していた。

 ありえたかもしれない可能性の話になるが、気さえあれば上半身だけでも生き延びる事が可能なのがフリーザだ。

 彼の兄であるクウラに至っては脳だけで宇宙空間に放り出されても生存出来るほど生命力が高い。

 その彼がたかが腹を貫かれた程度で死ぬはずがない。

 痛みはあるだろう。重傷には違いないだろう。

 だがそれでも尚。それでも尚だ。

 それでも尚、彼を仕留めるには至らない。

 

「消えろォ!」

 

 フリーザがデスビームを放つ。

 狙われたのが悟空ならば、まだ反応も出来ただろう。回避も可能だっただろう。

 だが狙われたのはクリリンだった。

 もしかすると、斬撃系の攻撃を持つという事で警戒されてしまったのかもしれない。

 どちらにせよそれは不幸な事であり、遊び抜きで狙われてしまえばもうクリリンに打つ手などない。

 クリリンの頭を閃光が貫き、脳を焼く。

 ゆっくりと身体が崩れ――だがそこに無慈悲な追撃が入った。

 フリーザが超能力でクリリンの身体を浮かし、まるで悟空に見せ付けるかのように空に浮かべる。

 

「なっ、何を!?」

「よく見ておけ! これが俺に歯向かった報いだ!」

 

 もう死んでいる。もう動かない。

 だがフリーザはそれでも満足しないらしい。

 宙に浮かべたクリリンに更に圧力をかけ――その身体を粉微塵に吹き飛ばした。

 

 

 瞬間――悟空の頭の中は真っ白になった。

 絶望、嘆き、驚愕……様々な感情が頭の中を駆け巡り、しかしそれを上回る激情が理性を塗り替える。

 クリリンが殺された。

 たったそれだけの事を理解するのに数秒かかり、そして理解した後は悟空自身すら制御出来ない怒りが全身を焼き尽くした。

 クリリンは既に一度死んで、ドラゴンボールで生き返っている。

 つまり、もう二度と蘇れないのだ。

 その事実に、悟空の怒りが臨界点を超えた。

 

「ゆ、ゆ、許さんぞ……よくも、よくも……」

 

 悟空はかつて、これと同じだけの怒りを抱いた事が一度だけあった。

 それはまだ子供だった頃……ピッコロ大魔王の手下であるタンバリンにクリリンを殺されてしまった時だ。

 あの時も我を忘れるほどの怒りに身を焦がし、亀仙人の言葉すら無視してタンバリンに向かっていったものだ。

 だが今回は、当時と決定的に違う点が一つあった。

 それは悟空の戦闘力だ。

 悟空はあの時と異なり、“強さ”という名の資格を有していた。

 地球での暮らしは彼にサイヤ人らしからぬ穏やかさを与え、それはS細胞という名の鍵を彼に与えた。

 そして最後に、激しい怒りが彼の中のS細胞を一気に刺激し、活性化させる。

 “戦闘力”

 “穏やかさ”

 そして“怒り”

 今ここに、伝説の扉を開く資格と鍵は揃った。

 故にフリーザは目撃する。己が最も恐れていた伝説の戦士の誕生を。

 

 変化は、目に見えて明らかであった。

 悟空の髪が逆立ち、全身を黄金の輝きが包む。

 瞳は理性を失った白目となり、普段の彼からは想像もつかないような凶悪さが滲み出していた。

 ――『擬似超サイヤ人』。伝説の扉を開きかけた状態だ。

 

「――――!!」

 

 悟空が人ならざる叫びをあげ、クリリンを失った怒りで、可能性の扉を完全に開く。

 疑似という過程を通過して、地球育ちのサイヤ人は真の伝説へ至った。

 黒だった髪は黄金に。白目には再び瞳が戻り、されど先程とは決定的に異なる緑の瞳に。

 顔つきも再び理性を取り戻したが、しかし普段の彼とは明らかに異なる険しい表情でフリーザを見上げていた。

 

「な、なんだ、あいつの変化は……!?

サイヤ人は大猿にしか変わらんはず……どういう事だ……」

「カ、カカロットの奴は一体……まさか……。

そんな、そんな馬鹿な……あ、あいつは下級戦士のはず……まさか……」

 

 悟空の変貌にフリーザが驚き、遠くから観戦していたベジータが戦慄いた。

 今の悟空から感じられる気は、完全にフリーザを上回ってしまっている。

 そんな彼の見ている前で悟空はフリーザの前に一瞬で移動し、彼の手を捻り上げる。

 

「いい加減にしろ……このクズ野郎……。

罪もない者を次から次へと殺しやがって……ク、クリリンまで……」

「くっ!」

 

 フリーザは何とか拘束を振りほどき、悟空から距離を取る。

 だが掴まれていた腕は痛みを訴え、その圧倒的な力にフリーザは初めて恐怖を感じた。

 

「な、何故貴様にそんな力が……ま、ま、まさか……貴様……」

 

 恐れていたものが目の前にある。

 その事実を受け入れられず、フリーザは震えた。

 いや、震えているのは彼だけではない。ベジータは驚愕で、ターレスは歓喜で身を震わせていた。

 

「遂にやりやがったな、あいつ……間違いねえ」

「へへっ……下級戦士なんてランク分けも当てにならねえなあ」

 

 ターレスとナッパは地面に膝をついたまま、しかし嬉しそうに笑い合う。

 同じサイヤ人として悔しくはある。

 だがそれ以上に嬉しいのだ。

 今自分達は伝説を目撃している。サイヤ人の可能性を見ているのだ。

 

「カカロットはなれたのだ……超サイヤ人に!」

 

 ターレスの言葉にベジータとフリーザが、まさかという顔で振り向く。

 そんな彼らに答えを示すように、黄金の戦士の怒りが天地を震わせた。

 

「俺は怒ったぞーーーッ! フリーザーーーッ!!!」

 

 そして悟空の拳が、フリーザの顔面を殴り飛ばした。




悟飯「あの……それ、僕の台詞……」
ターレス「早い者勝ちだ」

【戦闘力】
超サイヤ人悟空:1億5000万
ターレス:250万→300万
ナッパ:150万→300万

【擬似超サイヤ人】
『超サイヤ人だ孫悟空』で悟空が見せた、超サイヤ人のようで超サイヤ人ではない変身。
超サイヤ人のような黄金のオーラを纏い、髪が逆立って白目になる。
この時点ではまだ超サイヤ人がどんなものか判明していなかったので、全国のチビッ子はこの姿こそ超サイヤ人だと信じて学校で『超サイヤ人すげえ』と語り合っていたとかいなかったとか。
そして後に本編で超サイヤ人になった悟空を見て『超サイヤ人だ孫悟空ってタイトルなのに超サイヤ人なってなかったやんけ』と語り合ったとか、なかったとか。


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第三十八話 超サイヤ伝説

(クリリン君の気が……消えた)

 

 洞窟の中で寝そべりながら、リゼットは眼を伏せる。

 遠視で見ていた戦いは、途中までは運命の路線変更を期待させるものであった。

 パワーアップしたピッコロと悟空のコンビネーションによりフリーザとも渡り合い、魔貫光殺砲で大きな傷も負わせた。

 それはリゼットをして超サイヤ人抜きでの勝利を予感させるものであった。

 だが結果だけを見ればピッコロは倒れ、クリリンが爆殺された。

 運命を変えるには後一手が足らなかった……という事だろうか。

 とはいえ、そう悪い結果ではない。

 少なくともこれで危惧していた超サイヤ人への覚醒は成ったわけだし、クリリンはナメック星のドラゴンボールで復活出来る。

 後は悟空がフリーザを倒すだけであり、何も問題は――。

 

(……ああ、いくつかありましたね)

 

 そういえば肝心のドラゴンボールが揃っていない。

 原作だとナメック星の崩壊後に地球に転移してきたが、誰かが所持している状態でまで転移するのかは正直不明だ。

 宇宙船は一応持たせているが、万全を期すならばリゼットが仲間達を地球に帰した方がいいし、フリーザの惑星破壊も出来れば止めるべきだろう。

 どうやら、まだやるべき事はあるようだ。

 幸いにして少しは回復してきた。まだ身動き一つ取れないが、ゲートくらいは開けるし超能力も使える。

 ならば充分。それは全回復と同義だ。

 リゼットはまず亜空間を開いて中に入っていた仙豆を一つ、超能力で運んで自分の口に入れる。

 すると断裂していた筋肉や破裂していた血管などが瞬時に回復し、気も最大まで戻った。

 全く、改めてチート染みた豆だと思う。

 続いて亜空間からクウラ戦の前に脱ぎ捨てたケープを出して装着。靴と長手袋はあえて戻さなかった。

 クウラがいないとはいえ、あまり重りを増やすのは得策ではない。

 

「……よし」

 

 これで完全復活。サイヤ人のように瀕死から立ち直っても何の特典もないが、気分的に少し強くなったような気がする。勿論気のせいだが。

 ドラゴンレーダーを出してボールの所在地を確認すると、嬉しい事に五つのボールが全て同じ場所に集まっていた。

 まずはこのボールを全て回収してしまうとしよう。

 感じる気も大した事はないし……というかこの気、ザーボンだ。

 何でザーボンがまだ生きてるんだろう? とリゼットは首をかしげる。

 

「まあ、いいですか」

 

 どの道ザーボン程度なら誰も居ないのと同じ事だ。

 亜空間を開くとその中に手を入れ、レーダーの位置に記された場所に出口を創る。

 そうして手を伸ばすと――あった。確かにドラゴンボールがある。

 超能力でボール五つを回収して亜空間の中へと収納し、リゼットは手を引っ込めた。

 恐らくザーボンからしてみれば、いきなり空間から手が生えてボールを奪ったようにしか見えないだろう。

 次にリゼットは背中から白翼を展開すると、バーストリミットをとりあえず20倍まで引き上げた。

 フリーザがいきなり惑星を破壊する危険がある以上、咄嗟に対応出来るだけの反応速度が必要だ。

 それを考えると最低限20倍――戦闘力1億2000万以上は保っておきたかったのだ。

 最後に地面に敷かれていた黒コートを回収し、亜空間へと入れる。

 正直見覚えのないコートだが、それでも顔も知らぬ恩人の物だ。

 再会した時に返せるように持っておきたい。

 

(さあ、行きますか)

 

 フワリ、と飛翔。

 そして次の瞬間には姿が消え、白い光となってナメック星の空を翔けた。

 彼女が通過した後に海が二つに割れ、距離にして6万kmは離れていた悟空達との距離が瞬く間に縮まっていく。

 時間にして1分もなかっただろう。リゼットは視界に悟空とフリーザの姿を収め、二人の前で停止した。

 勿論間に割って入ったわけではない。丁度二人と合わせて三角形になるように、一定の距離を保った位置に止まったのだ。

 悟空とフリーザは互いに驚いた様子でリゼットを見たが、悟空は僅かにほっとしたような様子を見せる。

 

「神様か。その様子だとそっちは終わったみてえだな」

「ええ。悟空君もどうやら“成れた”ようですね」

「……超サイヤ人の事を知っていたのか」

「噂程度には。見るのは初めてですけど」

 

 正直なところリゼットは感動していた。

 何せ超サイヤ人である。今でこそ様々なフィクションで似たような模造品が増えたものの、少年漫画における金色変身の元祖である。

 一方でリゼットの登場に焦燥したのはフリーザだ。

 彼女がクウラとやり合っていた事は知っている。

 だがまさか、クウラではなくこいつが戻ってくるとは思わなかった。

 ここにいるという事はクウラを始末したという事。即ち、超サイヤ人に匹敵する力を持っているという事だ。

 

「さて……覚悟はいいですか? 2対1ですが躊躇はしません」

 

 リゼットの気が上昇し、純白の気に包まれる。

 2対1だが可哀想だとか卑怯だとか、そんな気持ちは微塵も沸かない。

 リゼットは武を極めた武神としての一面を持つ。だが武道家ではない。武術家なのだ。

 正々堂々に拘る気などないし、いい勝負をしたいなどとも思わない。

 勝てる時に勝つ。それが彼女の中での最優先だ。

 だが、彼女がそうでももう一人はそうではなかった。

 

「待ってくれ神様。こいつは俺にやらせてくれ」

「……正直、言うと思っていました。ですが悟空君、これはスポーツではありません。

半端に傷付けて、それで生かしてしまっては地球だって危ないんです」

「あいつはクリリンを殺した! 一番の親友だった……本当にいい奴だったのに……!

バラバラにしやがって! クリリンはもう、二度と生き返れないんだ!

絶対にこいつだけは許せねえ!

俺がクリリンの仇を討つんだ!!」

 

 普段は滅多に見せない悟空の本気の怒りに思わずリゼットは肩を震わせた。

 あの悟空がここまで怒りを露にするなど、そうない事だ。

 普段は大らかだからこそ、今が本気で怒っているのだと分かる。

 しばしの睨み合い――やがて退いたのはやはりというかリゼットだった。

 

「……余計な情けはかけない事。止めを刺せる時に必ず刺す事……いいですね?」

「ああ。すまねえな、神様」

 

 悟空に任せる事の弊害はいくつもある。

 まずナメック星が崩壊するという事。

 きっと止めを刺せずに、後でフリーザが地球に来てしまうだろうという事。

 そして……悟空が必ず生きて戻るとは限らない事。

 何せ原作でもギリギリだったのだ。何か一つボタンをかけ間違えれば死んでしまう可能性は充分にある。

 そして悪い事に、ボタンなどいくつもかけ間違えているのが現状なのだ。

 むしろボタンを全部引き千切ってチャックに改造してるようなものである。もう何がどうなるか分からない。

 

「私は一足先に皆を連れて地球に帰還します。

悟空君……必ず、生きて帰って下さい」

「ああ、勿論だ」

 

 それでも、この場は悟空に任せる事に決めた。

 正直不安はあるが、それでもリゼットは振り返らなかった。

 戦いは遠視で観戦し、いざとなれば自分が割って入る。だがそれまでは、彼にやらせてあげたいとも思ったのだ。

 故にリゼットは悟飯達の所へと飛び、全員いるかどうかを確認してからゲートを開いた。

 

「え? か、神様? 何をするつもりなの?」

「悟空君はフリーザとの一騎討ちを望んでいます。私達は先に地球へと戻りますよ」

 

 悟飯、ピッコロ、天津飯、ヤムチャ、餃子、ナッパ、人参化、ターレス、ついでにベジータ。

 クリリンがここにいないのが辛いが、とりあえず生存者は全員揃っている。

 それにしてもベジータがまだ生きている事に地味にリゼットは驚いていた。

 あれだけの戦力差でサンドバッグにされてよく死ななかったものだ。

 フリーザが加減して遊んでいた事を踏まえても凄まじい頑丈さである。流石サイヤ人の王子。

 もしリゼットが同じ目に遭ったのなら間違いなく死んでいた。

 

「ま、待って下さい! 悟空を置き去りにするつもりですか!?

神様と悟空が二人がかりで挑めばフリーザにだって楽に勝てるでしょう!?」

「それが悟空君の望んだ事なのです。今あそこに割り込めば、それこそ私が悟空君に撃たれてしまいますよ」

 

 ヤムチャの反発にリゼットはあくまで冷静に返す。

 勿論、これは嘘……とまでは言わないが、限りなく可能性の低い憶測だ。

 いくら怒りに我を忘れていても、悟空が仲間を攻撃するなど有るはずがない。

 何せフリーザにすら慈悲をかけるくらいに優しすぎる男なのだ。

 それが彼のいい所であり、戦士としての欠点でもあった。

 

「行きましょう。……大丈夫です、本当に危なくなったら撃たれてでも私が割り込みますから」

「し、信じますよ」

 

 とりあえず、こうとでも言わなければヤムチャ達は納得しないだろう。

 リゼットは全員にゲートを通るように指示し、最後に自分が通る。

 後は信じるだけだ。孫悟空の勝利を。

 

「信じますよ、ですか。それは私の言葉なんですけどね。

……本当に、信じていますよ悟空君。貴方の勝利を」

 

 最後にそう呟き、ゲートを閉じた。

 

 

 天界の神殿に無事全員が脱出し、負傷しているピッコロやナッパ、ターレスとベジータはデンデが治療した。

 サイヤ人組は大怪我からの復帰だが、戦闘力に変化がない。

 やはり瀕死パワーアップにも限界というものがあるのだろう。

 道理でフリーザ編が終わった後に誰も瀕死パワーアップをやらなくなったわけだ、とリゼットは一人納得した。

 セルは平然ととんでもないパワーアップをしていた気がするが、まあアレはサイヤ人じゃない。

 多分サイヤ人のいい所だけを都合よく得ているのだろう。

 ナメック星人達も皆それなりに寛げているようで、最長老の近くでは先代様が同胞達と話を交わしていた。

 どうやら同胞の気配を感じて天界を訪れていたらしい。

 ナメック星人達と話す先代様は、どこか嬉しそうだ。

 

「神様お帰りなさい。無事でよかった」

「ええ、心配をかけましたね、ポポ。ところで……」

 

 リゼットはポポを労うと、神殿を怪訝な眼で見た。

 神殿の一部が、何故か崩壊していた。

 壊されているのは、『時の部屋』があるエリアだ。

 そこに気弾でも撃ち込んだかのように、無残に壊されてしまっている。

 

「何か、あったようですね」

「……はい。神様がいない時に、悟空に似た男、来た」

「悟空君に?」

 

 リゼットは思わずターレスを疑うように見てしまった。

 それに対し、ターレスは自分ではない事をアピールするように肩をすくめる。

 分かっている……彼ではない。ずっとナメック星にいた事はリゼット自身が知っているのだ。

 

「男、言った。『この部屋はあってはならない』と……。

そして部屋を壊した。ポポ、止められなかった……ごめんなさい、神様」

「壊されたのは時の部屋だけなのですね?」

「はい」

「ならば構いません。惜しくないわけではありませんが、それよりもポポ達が怪我しなかったことが一番大事です」

「神様……」

 

 感動したように目を潤ませるポポに微笑み、それからリゼットは考える。

 部屋を壊した悟空似の男……心当たりがあるとすれば、かつてトワ達に攻撃を仕掛けていたあの仮面の男だろうか。

 あれは明らかにトワやミラと敵対していたように思う。

 だが……何者なのだ? ターレスではない。悟空でもない。

 他に思い付く悟空そっくりの男といえば彼の父であるバーダックだが……まさか、そんなはずはあるまい。

 バーダックは既に故人であるし、万一生き延びていたとしてもわざわざ時の部屋を壊す理由などない。

 『エピソード・オブ・バーダック』と同じ出来事がもしこの世界でも起こっていたならば……いや、それでも無理か。その出来事があったとしてもバーダックが飛ばされたのは太古の世界だ。とても現在まで生き延びてはいられない。

 サイヤ人は若い時期が長いだけであって、寿命そのものは地球人と大差ないのだ。

 

「ポポ、時の部屋を直す事は出来ますか?」

「出来ない……時の部屋は元々、ここにあった時空の歪みを利用して創られた。

けれど時空の歪み、消えた。もう過去に精神、飛ばせない。

過去の映像を観るくらいなら、残滓を使って何とか出来るかもしれない」

「時空の歪み……ですか」

「宇宙には時々そういうのが出来る。時代の違う人間がそれに巻き込まれて未来や過去に行く事、ある。そういうの沢山あると困る。だから界王様よりももっと偉い、時の神様が消していると、ポポ聞いた事がある」

「なるほど……時の部屋はつまり、その時の神様の目に触れてしまったと」

 

 界王よりも上にいる時の神様……残念ながらリゼットの知らない神様だ。

 一応地球の神様であるリゼットは前知識として界王神の存在までは知らされている。

 しかし時の神様など聞いた事がないし、原作知識にもいない。

 ……まさかアラレちゃんに登場した亀仙人みたいな神様じゃなかろうな、と思ってしまった。

 

「仕方ありません。Mr.ポポ、出来る範囲でいいので時の部屋の修復をお願いします。

過去に精神を飛ばせずとも、情報庫として使えるならば意味はあります」

「わかりました、神様」

 

 リゼットの指示に答えてポポが壊れた部屋へ向かい、その助手として数体の戦乙女が同行した。

 その背を見送ってからリゼットは最長老の前へと歩いて行く。

 時の部屋は壊れてしまったが、それより考えるべきは過去ではなく今だ。

 フリーザとの最終決戦は悟空に任せた。

 だが、だからといってこちら側で何も出来ないわけではない。

 その為にも、まずは最長老の許可を得る必要があった。

 

「最長老さん、少しよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。何でしょう?」

「お聞きしたいのですが、ナメック星のドラゴンボールは死者の蘇生に関して何か制限はあるのでしょうか? 例えば自然死以外にも蘇生出来ない死に方があるとか、蘇生回数とか」

「なるほど、それを聞いてくるという事は地球のドラゴンボールには蘇生回数の制限があるのですね。

そして貴女達のお仲間のうちの二人が見えない事から、どちらか……あるいは両方共が死んでしまい、更に地球のドラゴンボールでは蘇生出来ないと……ご安心下さい。ナメック星のドラゴンボールなら自然死でなければ何度でも蘇る事が出来ます」

 

 勿論、今の質問内容とそれに対する返答はリゼットにとっては既知のものだ。

 だがこの質問を入れなければ、何故か地球とナメック星のドラゴンボールの違いを最初から知っているという矛盾が生じてしまう。

 故にこその、遠まわしな質問であった。

 

「それを聞いて安心しました。……ああ、そうだ、もう一つお願いを。

貴方達のドラゴンボールを使わせて頂きたいのですが、許可を頂けないでしょうか」

「勿論構いません。貴女達はナメックの恩人だ。

しかしナメック星のドラゴンボールはナメック語でしか使えません。デンデをお貸ししますので、彼に願いを代弁してもらうといいでしょう」

 

 これで最長老の許可は得た。

 とはいえ、あまりモタモタしていると彼の寿命が尽きてドラゴンボールが消えてしまうだろう。

 リゼットは指を振ると亜空間からナメック星のドラゴンボールを出し、地面に並べる。

 それを見て悟飯達も驚いたようにリゼットを見た。

 一体何時の間に揃えてたんだこの神様、とでも言いたげだ。

 リゼットはデンデを手招きすると、彼に事情を説明する。

 

「わ、わかりました。すぐに龍を呼びます」

「ええ、お願いします。……それとベジータ、願いに割り込もうとしても無駄ですからね?」

「ちっ」

 

 デンデを守るように立ち、ベジータを軽く威圧した。

 彼とて実力差が分からない男ではない。

 こうしてリゼットが近くにいる限り、願いの横取りやデンデを脅しての強引な不老不死化などは出来ないだろう。

 これでクリリンは蘇生出来る。

 後は、悟空の勝利を待つのみだ。

 

「……ああ、そうだ。申し訳ないのですが質問を追加してもよろしいでしょうか?」

「どうぞどうぞ。私の寿命が尽きるまででしたら、いくらでも」

「ええ、それでは。……かつてナメック星を異常気象が襲った時、宇宙船に乗ってこの地球の前の神……先代様は地球へとやって来ました。

そしてスラッグという者もまた同じ理由でスラッグ星へと飛び、そこで悪に染まっています。

だからというわけではないのですが、他にも同じ理由で宇宙船に乗って避難したナメック星人はいるのでしょうか?」

 

 リゼットが聞いておきたかったのは、今ここにいる以外にナメック星人がいるかどうかだ。

 これは些細な事なようで、世界すら左右し得る重要な質問である。

 何せナメック星人はドラゴンボールを創れる。という事はもしも悪のナメック星人が他にいて、ドラゴンボールを創って悪用を繰り返せば邪悪龍が誕生する可能性もあるのだ。

 そして、もしそうなれば宇宙の危機だ。地球も無関係ではいられない。

 その問いに対し最長老は笑い、安心させるように語る。

 

「ええ。勿論他にもいました。

しかしご安心下さい。皆、心優しい龍族の者達です。

悪に染まる事はありませんし、もしそうなっても貴女の脅威とはならないでしょう」

「しかし、ドラゴンボールが……」

「その心配も要りません。ドラゴンボールは正しき心を持つ者のみが創り出せる奇跡の玉。悪しき心では生み出せません。

事実、貴女の星にいたという大魔王を名乗っていた者も龍族でありながらドラゴンボールを創る事は出来なかったはずです」

 

 リゼットが懸念した悪しきナメック星人によるドラゴンボールの乱用はない、と最長老が断言した。

 ナメック星人の事ならば彼以上に詳しい人物はいない。

 その人物からの太鼓判を貰い、リゼットは自分の心配が杞憂であった事を悟り、胸を撫で下ろした。

 

「しかし……ナメック星は残念な事になってしまいましたな」

 

 先代が沈んだ声で、まだ見ぬ故郷を想って溜息を吐いた。

 まだナメック星は残っているが、超サイヤ人と宇宙の帝王の戦場にされてしまっては無事では済まないだろう。

 しかし最長老は朗らかに笑い、優しく言う。

 

「なあに。皆が生きていればどこであってもやり直せます。

貴方の後任のおかげで、私の子も多く救われました。

きっとナメック星も、分かってくれる事でしょう」

 

 最長老は既に、ナメック星の末路を予期しているように見えた。

 だがそれでも、皆が生きていればやり直せる。

 我が子達はきっと、新天地を見付けてやっていけるだろう……そう信じているのだ。

 それを聞いて先代は、静かに笑った。




ナメック星「やめろー! シニタクナーイ!
シニタクナーイ!
シニタクナーイ!!」


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第三十九話 次のステージに備えて

 過程が長くなるから、まずは結論を先に語ろう。

 悟空はあの後無事にフリーザを倒し、ナメック星を脱出した。

 フリーザも思ったよりは頑張っていたのだが、何せ戦闘力に差がある上にフリーザの100%はすぐにパワーダウンを始めてしまう。

 彼が惑星を壊そうとしてから実際に壊れるまでが5分なわけだが、100%になった時は残り3分程度にまでなっていた。

 そして残り1分程度の所でピークを過ぎてパワーが落ちる。つまりフルパワー持続時間は驚きの2分である。

 短い、短すぎる。ウルトラマンだってもう少し頑張るというのに、これはどうした事だ。

 リゼットの記憶ではフリーザのフルパワーは結構長い時間続くイメージがあったのだが、それは原作に追いつかないように薄く薄く引き伸ばされて、『残り1分』を数話に渡って放映したアニメのせいだ。

 実際に経験してみればまさにあっという間であり、遠視で悟空とフリーザの戦いを見守っていたリゼットはフリーザのパワーダウンのあまりの早さに『体力少なっ!?』と呟いてしまったレベルである。

 100%になるまでの時間が無駄に長くて隙だらけ。その上やっと100%になっても持続時間2分でそれを過ぎれば弱体化。

 なるほど、フリーザが100%になりたがらないわけだ。これならずっと70%くらいで戦っていた方がマシである。

 

 その後悟空はフリーザの宇宙船に乗って脱出しようとしたのだが、ここで一悶着が起きた。

 何と悟空が乗る前にフリーザの宇宙船が勝手に飛び立ってしまい、悟空を置いて脱出してくれやがったのだ。

 一体何事かとリゼットが遠視してみれば、船内には何故かまだ生きているザーボンが搭乗しており、宇宙船を操作していた。本当に何でこいつまだ生きてるんだろうか。

 ともかく悟空はフリーザの宇宙船に乗れなくなってしまい、リゼットは念話で悟空をギニュー特戦隊のポッドへと誘導した。

 本当はリゼットならば悟空をヘブンズゲートで回収する事も可能だったのだが、あえてそれはしなかった。

 というのも、悟空には是非ヤードラット星へ行って瞬間移動を会得して欲しいからだ。

 悟空の瞬間移動は今後、大局をも左右する重要な能力となる。

 取り逃しで地球滅亡とか、そんなアホな展開だけは御免だ。

 とはいえ、本来の流れと違う点はある。

 本来の流れでは悟空は瞬間移動を会得するまでは地球へと戻ってこれないが、この世界にはリゼットがいる。

 つまり彼女がヤードラット星と地球を往復する事で悟空は簡単に地球に帰還する事が可能となり、家族と過ごしながら瞬間移動の修行の時だけヤードラット星に行く、という事が可能となったのだ。

 ついでにリゼットも修行を見学して、瞬間移動を習得しておいた。

 

 フリーザとの戦いは終わった。

 いや、正確に言えば終わりではない。1年と260日経てばサイボーグになって再び元気な姿を見せてくれるだろう。

 しかしその点に関しては、ハッキリ言ってリゼットは全く気にしていなかった。

 どうせトランクスの噛ませ犬になって終わるだろうし、そうでないとしても最早敵ではない。

 サイボーグフリーザの戦闘力は1億5千万と聞いた事があるが、何て事はない。要するに変身していないクウラと同じだ。

 問題はその3年後。人造人間の登場である。

 時間にして約5年後に次の戦いが始まるわけであり、そして場合によってはここで詰む。

 少なくとも『絶望の未来』ではそうなってしまっており――そして、この世界線が『絶望の未来』の世界線でないという保証はどこにもないのだ。

 だから、“そうだった時”の事を踏まえて対処を考える必要がリゼットにはあった。

 

 まずリゼットが真っ先に思い付いたのは、当然ながらゲロの捕獲ないしは抹殺である。

 ここが絶望の未来でなければいいのだ。

 17号、18号、そして16号はそこまで悪い連中ではないし、むしろ彼らの出現に呼応して悟空達が強くなるのだから、これを排除してしまうのは危険ですらあった。

 もしリゼットが人造人間の登場そのものを阻止してしまった場合、悟空達の強さが伸びずにバビディの襲来に対応出来なくなってしまう恐れすらある。

 先にゲロを始末してセルも始末して……悟空達が今の強さのまま、バビディとダーブラが来たならば……その未来を想像すると、背筋が冷えた。

 

 氷上で成り立っているような危ういバランスではあるが、強敵の存在は戦士達を高みに押し上げるための試練にもなっている。

 実際、目指すべき高みがある時とそうでない時の伸び方の差は明らかだ。

 かつて天下一武道会が終わってからラディッツ襲来までの5年間は、悟空を始めとして他の戦士達もほとんど強さが変わらなかった。

 しかしいざ強敵の存在を示唆されるや、たったの1年間で数倍もの強さになってしまったのを忘れてはいけない。

 それは心の余裕の差が生むのだろうか。それとも戦士としての本能故なのだろうか。

 詳しい原理は分からないが、ともかく強敵がいる事によって悟空達は強くなれる。

 

 しかしここが『絶望の未来』ならば、そんな悠長な事を言ってられない。

 だからその時は、ゲロを消そう。

 研究所を吹き飛ばし、17号と18号の出現そのものを阻止するしかない。

 だがそれは出来れば避けたい事だ。

 先が全く分からなくなるし、後に現れる敵を思えば不安しかない。

 

 だからそうならない為にも、まずは悟空を生存させる。

 フリーザ親子襲来の日にトランクスが来ればそれでよし。彼から心臓病の特効薬を貰えばいい。

 もし来なければ、ドラゴンボールを使ってでも悟空を死なせない。

 そしてもう一つするべき事はリゼット自身の更なる強化であった。

 ここから先は超サイヤ人のバーゲンセールだ。超サイヤ人と超ナメック星人以外は戦線から置いていかれる。

 だがリゼットはそんな位置に甘んじるつもりなどなかった。あくまで喰らい付き、可能ならば引き離すつもりでいた。

 これでも地球の神なのだ。異星人ばかりに星の守りを任せて自分は何もしないで見守るなんて、そんな恥ずかしい真似はしたくない。

 押し付けられたに等しい地位ではあるが、それでもやるからには徹底する。

 この惑星を砕くならば、まず己を超えてみせろと敵に言い放ってやりたい。越えられない壁になってやりたい。

 だからリゼットはフリーザとの戦いが終わった次の日から修行に明け暮れた。

 まずは今まで通りの修行。服の重量を更に増し、気霊錠を常時付け、バーストリミットを常に発動し、重力室に篭った。

 気の固形化で空想の対戦者を創り出し、あえて自らの気を抑えて戦う事で対格上の状況を作り出し、経験を重ねた。

 ナメック星でのクウラとの戦闘はまさに僥倖であった。

 あれがあったからこそ自らの打たれ弱さに気付けたし、格上の恐ろしさとタフさを思い知った。

 リゼットは日々、気の固定により創り出したクウラを相手に限りなく実戦に近い模擬戦を繰り広げ、妥協のない訓練は時に彼女自身に深手をも負わせた。

 勿論仮想敵はクウラだけではない。今までに見た戦いの記憶を総動員する事により、出会った全ての戦士を再現して模擬戦に努めた。

 まさか悟空も予想すまい……自分が10人に増えて、何の遠慮もなくリゼットを袋叩きにしているなど。

 リゼットの創り出した仮想悟空はその動きをほぼ忠実に再現されているが、甘さだけはあえて再現されなかったのだ。

 他にもベジータ、ピッコロ、フリーザ、ターレス、クリリン、天津飯などを再現して、かつ強さだけはあえて己より上と設定して苦行の如き修行に励んだ。

 地球人の基礎スペックはサイヤ人やナメック星人に劣る。

 その上で彼等に並び、前を往こうと言うのだ。

 ならば相応の修行が必要になるのは必然。拷問染みた苦行を己に課した先にこそ彼等の前に立って戦うという未来が開ける。

 その為の痛みならば、彼女はあえて受け入れたのだ。

 

 

 

「ふッ!」

 

 リゼットの為だけに新設された修練場の中で白い少女が舞う。

 ケープドレスはそのままに、しかし全身には無数の傷と痣が刻まれていた。

 少女を取り囲み拳を振るうのは4人の戦士。いずれも今のリゼットの倍近い気と強度を持たされている。

 勿論リゼットがその気になれば容易く消し飛ぶ相手である。自分が創り出した気より自分が弱いなんて事は有り得ない。

 だがリゼットはあえて気を抑えている。故に今だけはこの仮想敵の力はリゼット本人を凌駕していた。

 

『だありゃああ!』

 

 髪を逆立てた、普段とは雰囲気の異なる悟空が突進する。

 これは超サイヤ人を仮定して創り出された仮想敵であり、他の仮想敵よりもワンランク上の強さを持たされている。

 彼が放った蹴りをスレスレで回避して脚を獲り、そのまま関節を極めて投げる、

 そして彼自身の攻撃の勢いをも利用して、独力だけではビクともしないだろう脚をへし折った。

 いかにサイヤ人だろうが身体の基本的な構造は地球人とそう変わらない。つまり関節技は効く。

 だが投げた直後に背中が爆ぜ、顔から地面に倒れ込んだ。

 すぐに地に手を突いて倒立し、追い討ちの踏み付けをかろうじて避ける。

 踏み付けを行ってきたのは、頭部がMの字に禿げたサイヤ人――ベジータだ。

 彼はリゼットが距離を取ったのを見るや、凄まじい勢いで気弾を連射し始める。

 俗に言う王子戦法だ。彼は何かというとすぐに気弾を連射してきて困る。

 だが気弾に対抗する技も最近完成した。

 ドラゴンボールではある意味お馴染みの防御であるそれは、バリアだ。

 超能力によって己の周囲の全てを遠ざける念動力の場を作り、更にその上からベジットやブロリーでも出来る気のバリアを展開。

 この二重の防御壁により、仮想ベジータの気弾をほぼ防ぎ切っていた。

 だがそうして防いでいると、今度は3人目の男が気弾の中を突っ切って蹴りを繰り出してきた。

 その姿は現状でリゼットが知る限りの最強の敵、クウラだ。

 彼の蹴りがリゼットの真中を捉え、宙へ蹴りあげる。

 だがリゼットは極限の脱力を以てあえて威力に逆らわずに衝撃を流し、フワリと浮いた。

 打たれ弱いのは理解している。だからこそ、それを補う防御が必要だった。

 その発想の元到達した答え――打たれ弱いからこそ、あえての脱力!

 インパクトの瞬間に身体から力を完全に抜き、防御は気と超能力のバリアのみに任せる。

 どうせ自分自身がいくら力んでも防御力はそう変わらない。

 それよりも力を抜く事で、激流を制する静水のように……あるいは宙を舞う羽毛のように衝撃を殺し、ダメージを抑えるという答えに至ったのだ。

 だが敵は3人ではない。もう一人いる。

 

『キネクト!』

 

 4人目の敵――それは他ならぬリゼット自身を模した仮想リゼットであった。

 それが複数の気弾を自在に操り、リゼットを包囲した。

 あえて己自身を敵にする事で、敵視点でしか見えない動きの粗や隙を見付けることが出来るのだが……流石にリゼットのコピーだ。技がどれもえげつない。

 

『そこ!』

 

 偽リゼットは、まるでリゼットの動きが読めているかのように気功波を発射した。

 爆煙が上がり、バリアの上からリゼットにダメージを与える。

 小柄な身体が壁に叩き付けられ、少女の顔が苦悶に歪んだ。

 続けて両手に剣を装備した偽リゼットが急接近してきた。

 一刀目を跳躍して避け、二刀目を空中で回転して避ける。

 背後から飛んで来たベジータの拳を避け、腕を獲って投げた。

 狙いは同士打ち! しかし偽リゼットは気弾でベジータを破砕し、何事もなかったかのように攻撃を続行する。

 

『落ちなさい!』

「っ……」

 

 放たれた気弾を避ける。

 しかしその隙を突いてクウラがリゼットの背を蹴り、地面へと押し付けた。

 こうなると脱力も何もない。床や壁に押し付けられてしまえば効果を失うのがこの防御法の欠点だ。

 何とか脱出しようとするもパワーは向こうが上だ。

 二度、三度、四度とクウラの足がリゼットを踏み躙り、ダメージばかりが増していった。

 そこに畳みかけるように悟空がかめはめ波の構えを取り、偽リゼットが腕を頭上で交差させる。

 残念ながら、完全に詰みだ。

 

「神様、そこまで! それ以上は駄目!」

 

 万一の時の為に端で観戦していたポポの叫びが耳に入り、リゼットは言われるまでもなく気の固形化を解除……仮想戦士達を消失させた。

 ようやく踏み付けから解放されたリゼットは激しく咳き込み、荒く息を吐く。

 仮想クウラは実戦の厳しさや敵の容赦なさを存分に教えてくれる優秀な仮想敵だが、容赦がなさすぎるのが時々辛い。

 

「神様、やりすぎ。あそこまで自分を痛めつける必要、ない」

「はーっ……はー……。……はぁっ、はぁ。

……い、いえ、このくらいはやらないと、置いていかれてしまいますから。

特に、これからの戦いでは……」

「神様は今、この地球で一番強い。超サイヤ人になった孫悟空よりも強い。

なのに置いていかれると思っている。それ変」

「はは、今だけですよ、それは。

サイヤ人……特に悟空君の成長速度は驚異的です。

頼もしいのは事実ですが、同じくらい負けたくないと思う気持ちもありましてね。

ま……一応武術家の端くれですから、私も」

 

 悟空達には強くなって欲しい。それは決して偽りの気持ちではない。

 だが同じくらい、抜かれたくないという思いもあった。

 決して悟空達に弱く在って欲しいわけじゃない。しかしそれ以上に強く在りたいという気持ちもまたあるのだ。

 だからリゼットはこうして、日々己自身を限界まで追い込んでいる。

 別に限界まで身体を痛めつけた所でサイヤ人のようにパワーアップするわけではないが、それでも得るものはあるはずだ。

 

 だからリゼットは明日も、そしてその次の日も、この無茶な修練を続けるだろう。

 そして、その無謀な挑戦は確かに彼女の戦闘力を高みへと導いているのだ。

 そう……彼女自身の想像をも超えるほどに。




※リゼットがフリーザのフルパワーを長いと誤認していた理由

第97話 ナメック星消滅か!?大地を貫く魔の閃光(ここから残り5分スタート)
第98話 勝つのはオレだ…生き残りをかけた最終攻撃
第99話 神龍よ宇宙を走れ!! 迫るナメック星消滅の時
第100話 ボクは孫悟空の息子だ!! 悟飯、再び決戦場へ
第101話 俺はこの星に残る!!勝利への最後の闘い
第102話 とことんやろうぜ!!消えゆく星に残った二人
第103話 哀れフリーザ! 震えだしたら止まらない!!
第104話 悟空の勝利宣言だ!! フリーザが自滅するとき…
第105話 フリーザ敗れる!! すべての怒りをこめた一撃
第106話 ナメック星大爆発!!宇宙に消えた悟空(やっと爆発)

リゼット「……そういえば5分だったんですねえ」
ナメック星「本当なら5分で爆発するところを5時間近く粘った俺の努力は認められるべき」


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第四十話 美しき野望・完

 雪がしんしんと、降り続けていた。

 見渡す限りどこまでも続く雪景色は、宇宙ではなかなか見ないもので少し新鮮だ。

 そんな銀世界を眺めながら、一人の男が岩に腰を掛けて黄昏ていた。

 

「……どうしたもんかなあ」

 

 男――ターレスは、何というか燃え尽きていた。

 惑星ベジータが消滅したあの日からずっと、フリーザを殺す事だけを考えて生きてきた。

 奴を超えるためだけにクラッシャー軍団を結成し、様々な惑星を襲っては神精樹の養分へ変えながら流離い……そしてつい先日、ついに悲願は達成された。

 己の手によるものではないにせよ、バーダックの息子が伝説へと至ってフリーザを倒したのだ。

 それはいい事だ。本当に、夢のような事で……だが、夢であってほしくはない。

 しかし問題は、フリーザが死んだことによってターレスの目的が失われた事にある。

 フリーザを殺すためだけに生きてきたのだ。それしか考えていなかった。

 奴の死後は自分が取って代わって宇宙を支配してやろうなどとも思っていたが……何故だろう。驚くほどにやる気が出ない。

 決して出まかせを口にしていたわけではない。本心から宇宙を支配してやろうと思っていたし、常々その野望をクラッシャー軍団の連中に語っていた。

 

「ああ、なるほどなあ」

 

 そこまで考え、ターレスはやる気が出ない理由に気が付いた。

 何の事はない。単純すぎる話だ。

 大事な物は失ってから気付くとはいうが、まさにその通りだったという事だろう。

 

「…………あいつら(軍団)が、もういねえからか」

 

 ――同じ目的をもって笑い合える馬鹿共が、もういない。

 意外とセンチメンタルだった自分に思わず笑い、自分の我儘に付き合わせる形で死なせてしまったクラッシャー軍団の事を想う。

 打倒フリーザの為に集めた駒のつもりだった。

 ただの手下……それ以上の存在ではないはずだった。

 だが何だかんだでウマの合う連中だったのだろう。いなくなってみれば、妙な孤独感を感じてしまう。

 目的はもう達し、軍団も失った。

 ならばここにいるのは空っぽの、燃え尽きた一人のサイヤ人だ。

 やりたい事もなく、やるべく事もなく……ターレスは完全に、進むべき道を見失っていた。

 

「いっそ……このまま、ここで凍死()ぬか?」

 

 もう悔いはない。ならば一足先に地獄に行ったあいつ等の所に行ってみるのもいいかもしれない。

 そこにはきっと、バーダックもいる事だろう。

 ギネは……どうだろう。そんなに悪事を働いていないし、もしかしたら天国にいるかもしれない。

 などと少しばかり弱気になっていたターレスだが、不意に誰かが近づいて来るのが分かった。

 

「悟空! やっぱり悟空だわ!

うわあ、久しぶり……大きくなったわね。

分かる? 私よ、スノよ!」

「……カカロットの知り合いか」

 

 ターレスに駆け寄ってきたのは、青い防寒着を着た女であった。

 年頃は二十代前半といったところだろうか。

 赤い髪が印象的な、それなりに顔立ちのいい女だ。

 そんな彼女の後ろから巨漢の男が追いつき、慌てたように声をあげた。

 

「スノ、違う! その男、ソンゴクウじゃない! 似ているけど別人!」

「えっ?」

「ほう、よく分かったな。

そうとも、そのデカブツの言う通りさお嬢さん。

俺の名はターレス。悪いが俺はあいつじゃねえ」

 

 スノ、と呼ばれた女は別人と言われてもすぐには納得出来ないのだろう。

 ターレスを足から頭まで改めて見直し、本当に別人なのだろうかという顔をした。

 

「え……本当に人違いなの? 髪とか顔とかそっくりなのに。

……あ、でも、悟空に比べると少し目つきが悪いかも……それに肌も焼けてるし」

 

 ターレスと悟空は外見的にはほとんど同じだ。

 顔や髪型に始まり、身長や体格まで一致している。

 僅かな差異と呼べるのは肌の色くらいなものだ。

 つまり悟空が日焼けサロンなどに行ってしまえば本当に見分けがつかなくなる。それほどに酷似しているのだ。

 

「ねえ、貴方こんな所で何してるの? それにそんな変な服を着て……」

「変で悪かったな」

 

 ターレスの服装は、言わずもがな戦闘服である。

 つまりは肩アーマーの鎧で、下は生足という割とアレなファッションだ。

 フリーザ軍ならばこれが普通なのだが、地球では大の男がアーマーとパンツだけで徘徊するのは普通ではない。

 だからだろうか。スノは思いついたように手を叩いた。

 

「よし、貴方ちょっとうちに寄って行きなさいよ」

「はあ?」

「だってそんな服じゃ寒いでしょ。この雪の中で足を出しているなんて見てるこっちが寒いし、凍傷になっちゃうわ」

「いらん。俺達サイヤ人はこの程度の温度の変化など……」

「いいから! 野菜か何か知らないけど、さっさと来る!」

「お、おい……」

 

 スノはどうも、人の話をあまり聞かない性格なのだろうか。

 ターレスの言葉を遮って、無理矢理に彼を自宅まで引きずってしまった。

 幼い頃に行き倒れていた悟空を引きずって自宅まで持ち帰った腕力は伊達ではない。

 勿論ターレスならば抵抗しようと思えば出来るが……彼は、なんだかなあ、という顔でされるがままになっていた。

 ブルマの一存でカプセルコーポレーションに居候する事になったベジータといい、チチに押される形で結婚した悟空といい、サイヤ人の男は意外と押しの強い女には弱かった。

 

 

 その後ターレスは、この地球の服を与えられて半ば強制的に着替えさせられた。

 新しい彼の服装は黒い厚手のコートだ。

 そのデザインはかつて悟空がこのジングル村で着たものと同様で、色だけが異なっている。

 慣れない地球の服にターレスが顔をしかめていると、彼の前に温かいスープと、カットされたリンゴが置かれた。

 

「これ、食べてほしい、俺が育てた果物」

「ハッチャンはね、果樹園をやっているのよ」

「果樹園ねえ……こんな所でか?」

 

 酔狂な事をするものだ。そう思いながらターレスはリンゴの切り身を一つ口へ放り込む。

 すると、一瞬動きが止まった。

 ……美味いのだ。それも、今まで食べた果物の中でも一番と呼べるほどに。

 実は地球は宇宙全体で見てもトップクラスに食べ物が美味い惑星である。

 それがどれほどの水準なのかというと、数億年もの時間を生きてあらゆる惑星の美食を食べつくしてきた破壊神が『言葉を失うほど美味い』と絶賛するドンドン鳥の茹で卵が、地球の鶏の茹で卵と大差ないというレベルである。

 

「驚いたでしょ? 雪の中で保存したリンゴはシャキシャキした独特の食感を楽しめるのよ」

「……ああ、驚いた。こいつは大したもんだ」

 

 ターレスが驚いたのは無論、食感などではない。

 とはいえそれを教えてやる必要はないし、黙って残りのリンゴを口に入れた。

 

 

 宇宙の地上げ屋フリーザ。

 その名は銀河の果てまでも届き、宇宙に生きる全ての命にとって畏怖の対象だ。

 フリーザとその軍団の名を恐れぬ存在など、それこそ全宇宙の神である界王神やその上に位置する破壊神。遠い過去に封印されたヘラー一族や伝説の超サイヤ人、ツフル人や古の魔人、魔界の住民くらいしかいない。あれ? 意外と多いぞ。

 ともかく、そんな極一部の吹っ飛んだ者達を例外としてほとんどの命在る者はフリーザとその勢力を恐れていた。

 ある日突然攻め込んで来て、惑星の住民全てを殺し尽くして母なる星を奪っていく宇宙の帝王。

 その勢力はフリーザが致命傷を負って回収され、サイボーグ化手術を受けている最中であっても健在だ。

 今日もまたコルド大王の命令を受けて罪なき惑星へと攻め込み、破壊の限りを尽くしていた。

 

 オカカウメ星。

 地球人に酷似した外見を持つ、ヒューマンタイプの宇宙人オカカウメ星人が暮らす平和な惑星だ。

 だが今、その星は侵略達により未曾有の危機に陥っていた。

 環境がいい、というだけの理由で襲われてはたまったものではない。だがこれがフリーザ軍だ。

 宇宙の治安を守る組織としては銀河パトロールがいるが、彼等は頼りにならない。

 フリーザどころかサイヤ人にすら太刀打ち出来ない彼等は、フリーザ軍の蛮行を見て見ぬ振りをし、黙認しているのだ。

 即ち、フリーザの軍に目を付けられたらそれで終わり。惑星の終焉を意味する。

 仮に第一波を上手く退けたとしてもフリーザ軍の規模はあまりに大きく、質も量も宇宙最大だ。

 今までにフリーザに目を付けられて滅亡を回避した惑星は皆無であり、このオカカウメ星もまた同様の運命を辿ろうとしていた。

 

「撃て、撃て! 原住民は皆殺しだ!」

 

 当然惑星の住民も反発はする。

 何せ自分達の命運がここで決まるのだ。立ち上がらないわけにはいかない。

 星の軍隊を総動員し、戦える者は皆が武器を手にした。

 だが悲しいかな、力が足りない。

 サイヤ人との戦い以降、数字がインフレしてしまったが本来は宇宙において戦闘力が1000を超えれば一つの惑星における最強の戦士を名乗る事が可能なレベルだ。

 だからこそ下級戦士ですら戦闘力が平気で1000を超えるサイヤ人が宇宙一の強戦士とまで呼ばれていたわけであり、彼等こそが異常だったのだ。

 かつての地球を考えればいい。武術の神と呼ばれた世界最強の男――武天老師ですら戦闘力にして僅か120程度だった事実を。

 閻魔大王ですら2000であり、一つの銀河を管轄する界王ですら3500だった事を。

 ……農民の戦闘力が3000を突破しているナメック星人とかいう化け物もいるが、あれは計算に入れてはいけない。

 話を戻すが、フリーザ軍の戦士……特にフリーザに直接仕える戦士とはそんな、各惑星における最強の戦士ばかりを集めた精鋭中の精鋭だ。

 農民に蹴散らされた事もあるが、あれは相手が悪すぎた。

 繰り返すがナメック星人は基準にしてはいけない。

 

 更に絶望的なのがフリーザ軍内で量産されている人造兵士、サイバイマンシリーズだ。

 最も安価なサイバイマンで戦闘力1200を叩き出し、より高価なテンネンマンならば2400。

 高級品のジンコウマンに至っては4000という狂った数値を記録する。

 今回の侵略に用いられているのはジンコウマンが1体とサイバイマンが10体。平均戦闘力が10にも届かないこの惑星にとってはまさに絶望的な相手だ。

 

「ぎ、銀河パトロールは何をしてるんだよ!? 銀河王様は俺達を見捨てたのか!?」

 

 オカカウメ星人のその叫びは尤もだ。こういう理不尽な侵略を止める為にこそ銀河パトロールはある。

 だがその彼等ですら黙認するしかない巨悪がフリーザ軍なのだ。どうしようもない。

 誰も助けてはくれない。

 奇跡は訪れない。

 彼等はただ、今日という日に突如訪れた理不尽極まりない終焉を受け入れるしかないのだ。

 

 ――だが、奇跡はそこに在った。

 

 純白の翼が舞い、白い極光が天より降り注ぐ。

 ただの一つの例外とて逃しはしない輝きが惑星侵略に訪れていた全ての兵士、全てのサイバイマン、ジンコウマンに突き刺さり、その意識と命を一撃の元に断ち切った。

 並外れた気の感知能力による、惑星全域に及ぶ全ての敵対者への同時ロックオン。

 そこから放たれる、万を超える追尾気弾。それが全ての侵略者を平等に裁く。

 その光景はまさしく天の裁きであり、平和を蹂躙する愚者へ下された審判だ。

 銀河パトロールは彼等を、弱き民を助けない。

 あの世から遣わされた、各惑星に一人は存在しているその惑星の神も民を救えない。

 だが救済者はそこにいた。

 遙か遠くの異星より訪れた白い女神が無関係のはずの惑星を救い、民を守る。

 細い手を振るえば倒壊した建造物が元の姿を取り戻し、荒れ果てた地に緑が蘇る。

 見返りを求めぬ救済。傷付いた人々を安心させるような穏やかな笑顔。

 そして何よりも、限りない神聖さを感じさせる純白の輝き。

 少女は何も言わず、賛辞も感謝も受け取らず、翼をはためかせて宇宙へと飛び去っていく。

 そんな彼女の姿はある日を境に宇宙の至る惑星で目撃される事となり、フリーザ軍を恐れていた数多の惑星、数多の人々の心に希望の象徴として深く刻み込まれる事となってゆく。

 故に彼女に救われた人々は口を揃えてこう述べた。

 ――彼女こそが女神だ、と。

 

 

 先に言おう。

 見返りを求めぬ救済というのは原住民達の大いなる勘違いである。

 リゼットは見返りをこれでもかと求めているし、割と打算で動いていた。

 結論を語ればフリーザ軍を蹴散らしているのはただの修行である。

 惑星単位の超能力の使用や気弾の発射、気の感知などを実戦の場で試す為の丁度いい相手としてフリーザ軍を選んだだけの話であり、要するにこれは『あいつら殴っても誰も困らないし、あいつらで技を試そう』という、ほとんど辻斬りに等しい蛮行こそがこの救済の正体であった。

 建物の修復は物質創造能力の試し撃ちだ。ピッコロが原作において悟飯の剣と服を創ったあれを何度も大規模でやればそのうち能力が成長するんじゃないかと期待して行っているのである。

 尚、建物の元の形状などは原住民の記憶などを読んで行っているが、あまりに複雑で修復困難なものは時々変な形になってしまう。仕方ないね。

 植物の再生は元気玉モドキの練習だ。

 折れた木々などから気を吸い取り、それを惑星へと還元する。

 かつてターレスがやって来た時に行ったあれを再現して能力の錬度を上げているに過ぎない。

 

 しかしそんな知りたくない実情はどうあれ、彼女はまさしく宇宙の人々にとって救世主であり、女神であった。

 銀河パトロールですら救ってくれない危機に颯爽と現れ、脅威を排除して無駄に神々しくキラキラと輝いて去っていくのだ。

 あれよあれよという間に様々な星――特にヒューマンタイプの宇宙人の間で絶大な人気と信仰を獲得するに至り、やっぱりここでも変な宗教が設立された。

 そしてやはり彼女のパンツの色が白かピンクかで戦争が起こった。何なんだお前等。

 あれ? これ神様じゃなくてアイドルじゃね? とか言ってはいけない。

 銀河アイドルとか言ってるとランカスレイヤーさんが来てしまう。ワザマエ!

 フリーザ軍がリゼット一人の修行のせいでガタガタになる頃には宇宙でも知らぬ者のいない有名人になってしまっており、信者の数は文字通り惑星単位――兆を通り越して京にまで至っていた。恐らく界王神すら差し置いて宇宙で最も有名かつ信仰を集めている神様だろう。

 というか界王神は顔が笑い話にならないレベルでフリーザそっくりなのでフリーザの兄弟と誤認している惑星もあるらしい。

 

 さて、ここで一つの話をしよう。

 この世界において、人々の念というものはなかなか侮れない。

 例えば超サイヤ人3すらも退けたジャネンバなどは悪の気の集合体であるし、ピッコロ大魔王だって元々は先代から分離した悪の心だ。

 サイヤ人への怨念を増幅する事で生み出されたハッチヒャックという敵も存在する。

 ならば信仰が力を持っても何ら不思議はなく、宇宙の人々の信仰はリゼットを一つ上のステージへと押し上げる事となった。

 リゼット自身が異常に気付いたのは、青い顔をしたポポや人参化が自室へと押し寄せてきた時の事だ。

 リゼットを見て心から安堵する彼等に困惑したリゼットは何があったのかを聞き、そこで初めて己の身に起こっている異常を知った。

 

 ――気が感知されなくなっている。

 

 リゼットの気が消えたわけではない。確かに彼女の気は存在しているしリゼット自身は今まで通りに感じている。

 だが彼女以外から見てリゼットの気というものがまるで感知出来無くなってしまったのだ。

 まるで透明……クリアになりすぎた気を誰も感じ取る事が出来ない。

 強さを計る事も出来ないし、位置も分からない。

 この現象はリゼット自身にとっても予想外であり、原因もさっぱり分からなかった。

 だがその疑問は界王に念話で尋ねる事で氷解を迎えた。

 曰く。

 

『それは神の気じゃな。お主は立場だけではなく、存在そのものが神へと近付いたんじゃ。

儂等よりも遙か上――破壊神ビルス様という方がおられるが、その方の気もクリアであるが故に神以外には感知出来ん。

お主は不完全ではあるが、宇宙中から集まった信仰によって高位の神のステージへと至った。

これで少なくともお主よりも弱い、神ならざる者ではお主の気を感じ取る事は不可能となったわけじゃ。

……お主はこれで神としては儂よりも上になってしまったわけじゃが……立場を忘れるでないぞ。

あくまで立場は儂が上じゃ……いいな?』

『アッハイ』

 

 破壊神ビルスとかいう聞いた事もない名前が出てきたが、とりあえずリゼットは自分の気がクリアになった事だけを理解した。

 ビルスとかいうのは、まあ放っておいていいだろう。

 原作どころかその後を描いたGTでも見た記憶がないから、多分設定だけのキャラだ。関わる事はあるまい。

 それにドラゴンボール世界の神様は界王神が最高位のはずなので、実力も自動的にその下となる。

 全宇宙の神様が超サイヤ人に驚くだけのリアクション要員な世界で今更破壊神とか言われても、という感じであった。

 ……実際は全然違うのだが、今のリゼットがそれを知る術はない。

 

 その後もリゼットはとにかくフリーザ軍を相手に迷惑極まりない修行を続けた。

 ついでにクウラ軍残党もボコった。

 決して自分からフリーザ系列の惑星を侵略するような真似こそしなかったが、他の惑星に向かうフリーザ軍がいれば嬉々として叩き潰した。

 1年も経つ頃には宇宙中で猛威を振るっていたフリーザ軍……否、コルド大王の勢力はすっかり衰退してしまい、見る影もなくボロボロにされてしまっていた。

 これも全てリゼットのせいである。

 しかし彼女が修行と称してコルド大王の勢力をサンドバッグにすればするほどに宇宙の人々は諸手を挙げて大喜びし、益々信仰が集まる。酷い循環だ。

 更に追い討ちをかけたのが、かつてフリーザ軍に所属していた元幹部、ザーボンの裏切りである。

 彼は何を血迷ったのか『永遠の美』というリゼットのファンクラブを開設し、全宇宙に声をかけて打倒コルド一派の旗を掲げた。

 勿論、本心からリゼットのファンなどになったわけではない。

 彼女の美を認めない訳にはいかないし、ぶっちゃけ結構惚れているのだが、それでも己よりも美しい者は許せない。だから心までは屈していない。

 要するにこれは利用だ。コルド軍を消さぬ限り己に未来はないと考えたザーボンは彼等を追い落とす為の都合のいいシンボルとしてリゼットを持ち上げ、偶像に仕立て上げたのだ。

 何よりもかつてフリーザの側近であった彼の口から語られた『ぶっちゃけクウラもリゼット様に倒されました』発言は全宇宙を震撼させ、人々に希望を抱かせた。

 あの圧倒的な強さを持つクウラですら彼女に敗れた。消えぬ悪など存在しない。

 宇宙よ、今こそ女神の名の下に集い、巨悪を討ち滅ぼす時だ。

 こうして本人の預かり知らぬ所で勝手に宇宙一の女神兼アイドルにされてしまったリゼットは、今日も今日とて宇宙中から勝手に集まってくる信仰によって仙術――否、神通力を益々強めていた。

 

 そしてザーボンは宇宙最大規模の組織である『永遠の美』の総帥として巨万の富と栄誉を手に入れた。

 今や彼は銀河パトロールの出資者であり、銀河王ですら頭が上がらない。

 まさしく大出世である。人生何がどうなるか分からないものだ。




ザーボンさん「世界を制するのは美と知略。そして金。
妖星が告げておるわ……神が私を選んだと!」
【戦闘力】
ザーボン:3万→40万(神精樹の実)
第二形態:60万

まさかのザーボン大勝利ルート。銀河パトロールも金の力で掌握しました。
金の出所は主に、リゼットを偶像に仕立てて開催したイベント等。
ちなみに今のザーボンさんの恰好はファー付きのコートにサングラス、両端には常に美女を侍らせているという酷い状態です。
自室は金ピカの趣味の悪いゴールドな部屋で、ネックレスやアクセサリをジャラジャラさせつつ、群がる女には餌代わりに金貨やダイヤをばら撒きます。今の彼は宇宙一の金持ちです。
どうしてこうなった。


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第四十一話 復活の『F』(1回目)

_人人人人人_
> 復活のF <
 ̄YYYYY ̄


 ナメック星での戦いが終わってより130日後。

 ナメック星のドラゴンボールが復活し、地球のドラゴンボールでフリーザ一味に殺された者達を蘇生させる事に成功したナメック星人達は新しい惑星を見付けてそこに移住していった。

 更にそこから1年と130日……地球には強大な力を持つ二人の侵略者が近付きつつあった。

 

「あれが地球だよパパ……僕をこんな目に遭わせた超サイヤ人もあそこにいるんだ」

 

 宇宙船の中で声を発するのは、確かに悟空が倒したはずの因縁の敵、フリーザだった。

 何ともしぶとい事に彼はまだ生きており、身体のほとんどを機械化する事によって以前よりも力を増して復活したのだ。

 もしも技術力が更に進んでいれば、あるいはサイボーグ化の必要すらなく生身のまま再生出来たのかもしれないが、その技術の完成には後10年はかかると言われている。

 力を増したフリーザの隣にいるのは、そのフリーザよりも更に強大な気を持つ巨漢であった。

 

「小さな星だ。一発で消してしまえばよかろう」

「それじゃあ気が済まないよ。あいつに思い知らせてやりたいんだ、パワーアップした僕をね」

「超サイヤ人はともかく、白の女神だけは何としても消さねばならん。どんな手段を使ってもだ。

あいつ一人のせいで我が勢力の権威は地に堕ちた……これを回復するには奴を惨たらしく殺し、宇宙中にその死体を晒して我が一族への恐怖を再び植え付ける以外にない」

 

 男――コルド大王は一族の異端児である。

 元々彼らの一族とは、宇宙空間でも生存出来るほどの強種族には違いないが、1億を超えるような馬鹿げた戦闘力を持つ宇宙人ではない。

 尊大でプライドの高い者が多いのは事実だが、どちらかといえば大人しい宇宙人だ。

 だがある日、一族の中に異常とも言える力を持つ突然変異が生まれた。それがコルドだ。

 彼は生まれ持った絶大な力で瞬く間に宇宙中に名を知らしめる事に成功し、様々な惑星を支配して一大帝国を築き上げた。

 だが規模が大きくなれば管理も難しくなる。

 彼には既にクウラという息子がいたが、残念ながら息子は天才ではあったもののコルドの強さを受け継いではいなかった。

 そこでコルドは己の要素を色濃く継いで生まれたもう一人の子供に、他の星域の管理を任せる事にした。それがフリーザだ。

 嬉しい誤算だったのは、フリーザの登場により劣等感を感じたクウラが猛トレーニングを始めてフリーザ以上の戦士となった事か。

 流石は我が子、やれば出来るではないか。

 コルドは感心し、クウラにもフリーザと同じだけの規模の星域を与えて管理を任せた。

 こうして優秀な息子を二人得たコルドは効率よく様々な惑星を支配し、更に勢力圏を強めていたのだ。

 ……唯一の悩みの種は息子同士の仲が悪い事だろうか。

 クウラは何の努力もせずに力を持って生まれたフリーザを苦労を知らない甘ちゃんと呼んで軽んじているし、フリーザは生まれつきの強者ではないクウラを自分や父とは違う劣等種と呼んで見下している。

 しかしそのクウラも白の女神によって殺された。

 今やコルド大王が築いた帝国はかつての見る影もなく、衰退している。

 戦闘力が1000を超える優秀な戦士は悉く遠征先で白の女神に消され、戦力不足に陥った軍は様々な惑星の独立戦争を許す事となった。

 更に彼女の登場からしばらくして『永遠の美』とか名乗る組織が出現し、今もその規模を増し続けてあちこちでコルド大王の軍を蹴散らしている。

 ……あのザーボンとかいう裏切り者もいつか消さねばなるまい。

 しかしすぐに実行に移せないのは、ザーボンの組織と正面からぶつかり合えばこちらも無事では済まないからだ。

 ザーボンは『宇宙一の傭兵』と名高いレジックを護衛に雇う事で己の安全を図り、更にいくつかの惑星と同盟を結ぶ事で守りを強固にしていた。

 結果、いくつもの惑星や星系がコルド大王の傘下から離反して彼の勢力は急速に衰退させられた。

 クウラに任せていた星域などはほぼ全滅だ。完全に支配域ではなくなってしまっている。

 

「これから起こる事は全宇宙に発信される。奴等の見ている前で希望の象徴とやらを殺すのだ。

そうする事で初めて我が一族の権威は復活する」

 

 この日の為に宇宙の様々な惑星で親しまれている宇宙テレビ局を制圧し、番組を一つジャックした。

 目的は勿論、そこに女神の最期を映して人々の希望をへし折る為だ。

 ただ殺すのでは生温い。全ての尊厳と誇りを踏み躙り、恥辱と屈辱の中で後悔しながら死んで貰わなければならない。

 無様に命乞いをさせ、映像を見ている全ての者に失望の念を抱かせる。その義務があの女にはあるのだ。

 

「楽しみだ……あの強者を気取った顔が恐怖に歪んで命乞いをする時がな」

 

 コルド大王は己の勝利を疑いもせず、青く小さい惑星を眺めていた。

 

 

 ――来たか。

 リゼットは神殿の中から、フリーザ親子の来襲を誰よりも早く感知していた。

 遠視で見る限り、どうやらいきなり地球を消してしまうつもりはないらしい。

 あくまで地球に降り立って、素手で決着を付ける気のようだ。

 勿論いきなり地球を砲撃されてもリゼットならば対処出来るが、降りてきてくれるならその方がやりやすいのは事実だ。

 とはいえあまり戦いが長引くと地球が戦いの余波で滅んでしまいかねないので、早急に片付けねばなるまい。

 リゼットはポポと人参化を連れて神殿から飛翔し、地上へと向かった。

 

 地上で待つ事数十分。

 まず最初にやって来たのはピッコロだった。

 彼はリゼットを見るなり、「今までどこにいたんだ?」などと聞いてきたが、ずっと神殿にいたとだけ返答した。

 どうやら彼もリゼットの気は感知出来ていないらしい。

 やがて悟空を初めとするメンバーが勢ぞろいし、全員が出会いがしらにリゼットの気に関して尋ねてきた。

 何でも、もしかしたら死んだんじゃないかと本気で心配されていたらしい。

 

「大丈夫ですよ。ちょっと修行の影響で他者から気を感知されにくくなっただけです。

先代様や界王様といった、私と同じ神様なら私の気も感知出来ます」

「神様だけが持つクリアな気かあ、すっげーなあ。そんなんもあるんか」

 

 気の感知というのは戦いにおいて大きな要素である。

 例えば目だけに頼って戦っていた場合、背後に回られてもすぐには気付けない。

 だが気の感知があればすぐに場所を特定して反撃に移る事も可能となり、悟空達が多少ならば格上と渡り合えるのもこれがあるからだ。

 だがこれから先、リゼットの気を感知して戦うという事は出来無くなるのだ。

 それは全力を出したまま気配を消して動いているに等しく、それだけで戦いの天秤が大きく揺らぐほどに有利な能力だ。

 もっとも、悟空達とリゼットが戦うという事がまず有り得ないわけだが。

 

「ところでターレス……ですよね? まだ地球にいたんですか?」

「ああ。結構住み心地がいいんでな」

 

 リゼットが視線を向けた先にいたのは、黒いシャツをラフに着こなした悟空そっくりの男、ターレスであった。

 肌の色が黒いので悟空との区別が付かない事はないが、二人が並ぶと一瞬どっちがどっちだか分からなくなる。

 

「今はどちらに?」

「ジングル村って場所だ。今はそこで果樹園をやってるぜ。

果物を育てるのは嫌いじゃないからな」

「そのお金は一体どこから?」

「金ってーか、元々あったモンを手伝ったっていうか、引き継いだっていうか……まあ元手がないわけじゃねえ。

持っていたスカウターをあのブルマって女に渡したら大金をポンとくれたしな。

気前がよくて嬉しくなるね。本当は俺の宇宙船もくれてやりたかったんだが、ナメック星と一緒に宇宙の塵になっちまったからなあ……。

ま、一度遊びに来いよ。流石に神精樹はないが、大体の果物は揃えてるぜ。

地球には存在しない果物もいくつか取り扱ってるしよ」

 

 こいつ神精樹以外にも果物の種を持ち歩いていたのか。

 そんな意外な一面に驚きながらも、リゼットは曖昧に頷いておいた。

 

「そうそう、ナッパの奴は野菜の栽培をやってるんだぜ。これがなかなか……」

「話はそこまでだ。来たぞ!」

 

 ピッコロが叫び、それと同時にフリーザの宇宙船が彼等の頭上を通過した。

 相変わらず無駄に大きい宇宙船だ。

 リゼットは顔を上げると宇宙船の着地した方向へと無言で歩を進める。

 戦いを避けるという選択はない。奴等はここで倒す。

 そのリゼットのすぐ後に続いたのは悟空、ピッコロ、ターレスだ。

 戦いが始まればこの4人を中心とした編成で挑む事になるので、この順番は正しい。

 リゼット達が宇宙船の前に立ち、フリーザ達が出て来る。

 隣にはフリーザ第二形態のような巨漢が立ち、その前を守るようにゾロゾロと兵士達が沸き出てきた。

 

「これはこれは。お揃いで出迎えご苦労様」

「フリーザ……おめえやっぱ生きてたんか」

「おかげさまでね」

 

 フリーザが一歩前に歩み出し、彼と因縁の深い悟空、ターレス、ベジータ、ピッコロが迎え撃つ体勢を取った。

 コルド大王や部下は動く様子を見せない。

 超サイヤ人相手では雑魚をいくらぶつけても無駄と悟っているからだろう。

 大王自らが動かないのは……目的が他にあるからか。

 先ほどから、憎悪を込めた視線をずっとリゼットへと向けている。

 

「悟空君。フリーザを半端に追い詰めるような事はせずに。一気に倒してしまうように。

彼がその気になれば地球を消せる事を忘れないで下さい」

「ああ、わかっている」

 

 悟空は上空を示して飛翔し、それに続いてフリーザも飛んだ。

 リゼットはその場に留まり、コルド大王と相対する。

 コルドは余裕の笑みのまま腕組みを解き、一歩前へと出た。

 

「おい、こいつの戦闘力は?」

「そ、それが……故障でもしたんでしょうか? 先ほどから計っているのですが数値が出てきません」

「ふん。新型もアテにならんな」

 

 今のリゼットの気は神でなければ計る事が出来ない。

 当然機械などで計測出来るわけもなく、実際に戦うまでは誰もリゼットの実力を掴めないのだ。

 だがそんなコルド大王達を嘲笑うようにブルマが懐から出したスカウターをセットしてコルドに合わせ、そして驚いたように言葉を発した。

 

「ちょ、ちょっと! 神様、あいつやばいわよ! 戦闘力2億あるわ!?」

「……計れるんですか? それ」

「ええ。ターレスから貰ったスカウターを改造して最大で10億まで計測出来るようにしたわ。

やっぱり私って天才よね!」

「否定する言葉が見付かりません」

 

 リゼットはブルマの天才ぶりに心底呆れていた。勿論感心もしているのだが、あまりにブルマがぶっ飛んでいるせいで感心が一周して呆れになってしまったのだ。

 コルド大王も同じ感想のようで、表情を崩して目が点になっている。

 それはそうだ。最新式のスカウターでも数十万を計測すれば壊れてしまうのに、ブルマは10億までOKというふざけた発言をしているのである。

 コルド大王はすぐに表情を戻すと、ブルマへと声をかけた。

 

「おい、地球人の女。どうだ? 儂の部下になってその頭脳を活かしてみる気はないか?

こんな辺境の惑星でその頭脳を埋もれさせるのは余りにも惜しい……宇宙の損失と呼んでも過言ではない。貴様の頭脳はこんな小さな惑星ではなく宇宙で発揮されるべきだ」

「はん、おっ断りよ! 誰が侵略者なんかに付いて行くもんですか!」

「貴様が望むままの待遇を与えよう。惑星だろうが富だろうが好きなだけくれてやる。

宇宙の最先端医療技術で永遠の若さも与えよう。

必要ならばこの星に手を出さずに帰ってもよい……その女神だけは殺すがな。

フリーザも儂が言い聞かせる。どうだ……考えてはみぬか?」

「しつこいわよ!」

「……そうか」

 

 コルド大王は残念そうに溜息を吐き、それからブルマの付けているスカウターを物欲しそうに見る。

 やはり彼女ほどの天才はそう簡単には諦められないのだろう。

 

「おいお前達。儂が白の女神を殺している間にあの女を生け捕りにしろ。

傷は決して付けるな。それとあのスカウターは後で儂に渡せ」

「はっ!」

 

 ブルマが首を縦に振ってくれないので結局強硬手段に出るようだ。

 こういう所は実にフリーザの父親らしい。

 しかし、技術者の大事さとブルマという存在の得がたさを知っている辺りは流石大王というべきか。

 気に入らなければすぐに消してしまうフリーザとは違う。

 

「待たせたな。そろそろ始めようか」

 

 マントを翻し、コルド大王が構えた。

 リゼットもそれに合わせて構えを取る。

 とはいえ、それは傍から見れば構えには見えないだろう。

 あらゆる格闘技を身に付けたリゼットに決まった型や構えは存在せず、状況と敵に応じて構えそのものが変幻自在に変わる。

 故に彼女が最初に取るべきスタンダードな構えとは、無型。

 両手を下げて自然体とし、どの構えにも瞬時に移行出来るように備える。

 気弾を二つ生成。繰気弾のように打撃性を与えたそれはリゼットに近付かず離れず、クルクルと彼女の周囲を旋回し続ける。

 これは彼女の手が足らない時に敵の攻撃を自動で防ぎ、また敵が隙を見せれば自動で攻撃、迎撃を行うサポート用の気弾だ。

 最後にバーストリミットの倍率を上げ、コルド大王にも匹敵する戦闘力まで上昇させた。

 もっとも傍から見れば彼女の纏う輝きが一層強まったようにしか見えないだろう。

 

「ええ、闘争(はじ)めましょうか」

 

 あくまで微笑のままそう告げ――リゼットは一瞬でコルドの懐へと飛び込んだ。

 




【各キャラ戦闘力】

―味方陣営―

・リゼット
基本戦闘力:1400万
バーストリミット(最大40倍):5億6千万
(重装備や気霊錠はあるものの、面倒なのでここからは省きます)

・孫悟空(免許取得)
基本戦闘力:500万
超サイヤ人:2億5千万

・ピッコロ(免許取得)
基本戦闘力:1500万
界王拳(最大15倍):2億2500万

・ベジータ:500万
・ターレス:490万
・ナッパ:470万
・孫悟飯:50万
※瀕死強化をあまりしなかったから……

・天津飯:44万
・クリリン:42万
・ヤムチャ:42万
・兎人参化:40万
・餃子:35万
・Mr.ポポ:38万
・バーストポポ:76万

・岩陰に隠れている謎のイケメン:450万
超サイヤ人:2億2500万

―不参加―

・カリン様:37万
・バーストカリン:74万

―フリーザ陣営―

・サイボーグフリーザ:1億5千万
・コルド大王:2億


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第四十二話 ソリッドステート・スカウター

 脱力――全身から力を完全に抜き、余計な力みを捨てる。

 己自身がまるで空になったかのようにイメージし、力の伝達を妨げる一切を排除。

 そして、そこから地を踏み抜く事で助走も前動作も省き、瞬間にして最高速度を叩き出した。

 残像すらも残さぬそれはまさに瞬間移動にも等しい速度を生み出し、リゼットの身体をコルド大王の懐まで無音で運ぶ。

 

「!?」

 

 驚くコルド大王がすぐに迎撃しようとしたが、その腕をサポート気弾が弾いた。

 そうしてガラ空きになった胸元に掌を当てる。

 その状態から踵、膝、腰、背中、肩、腕、手首へと続く27箇所の関節を連結加速させ通常の攻撃を遥かに超える加速を生み出した。

 通常の、戦闘力にして10程度の格闘家でもこれを完全に使いこなしたならばあるいは音速を超えるやもしれぬ絶技。それをリゼットの身体能力で行えば、その速度は最早光にすら軽く匹敵する。

 この加速を乗せての掌底! コルド大王の胸を衝撃が貫き、内部に気が浸透する。

 ピンポイントで狙うのは心臓だ。この戦いを派手にする気などリゼットには毛頭なく、長引かせる気すら皆無。

 いざとなれば地球ごと爆破すればいいと考えている相手に時間と暇を与えるのは最大の愚行だ。

 だから何もさせない。

 

(捉えた――心臓)

 

 内部へと気を送り込み、心臓付近に浸透させたソレを爆発させる。

 夥しい量の血を吐き出しながらコルド大王が崩れ落ち、何時の間にか立ち位置を変えていたリゼットは返り血の一つも浴びる事なく大王を見下ろしていた。

 それは何と早過ぎる決着だろうか。

 そして何と呆気なく、何と簡単な終わりだろうか。

 生まれてより今日まで強敵と出会った事すら皆無。宇宙の帝王として君臨し続けてきたコルド大王の、生まれてより初のダウン。

 何故銀河の辺境の惑星の神がこんな意味のわからない強さなのだ、と思わずにはいられない。

 成人男子の平均戦闘力が5にも満たない弱小種族が地球人だ。

 突然変異であろうと100を超えれば上出来……ならばそこに居る神の強さなど、300もあればお釣りがくる。

 だがこの女神の戦闘力は軽く見積もっても、2億のコルド大王を一撃で下すものであり、完全に地球という惑星のレベルと一致していない。

 

「がっ……はァ……! お、お……!」

「まだ息がありますか。心臓を潰したはずなのですが……生命力も段違いという事なのでしょうね」

 

 リゼットが指を動かす。

 するとリゼットの周囲を旋回していた光球が鎖へと変化し、コルド大王の両手両足を拘束した。

 先も述べたが、コルド大王には何もさせない。

 例え死にかけていようが、彼ならば地面に手を付いた状態から本気の気弾を撃つだけで地球を壊せてしまう。

 だから手は上に向け、大の字にするように縛り上げた。

 その上で白い剣を創造し、刃をコルドへと向ける。

 

「ま、待て……っ! た、たのむ、見逃して、くれ……。

わ、わしが悪かった……こ、この星には何もしない……頼む……」

 

 コルドは恥も外聞も捨てて己の身の安全だけを懇願した。

 彼は生まれた時より強者だった。

 苦戦した経験などなく、敵すらいなかった。

 故にここまで追い詰められた事などあるわけもなく……逆境を知らぬが故に酷く脆かった。

 この戦いが他ならぬ彼自身の指示によって宇宙中に配信されている事も忘れ、宇宙の人々が見守る中で彼は己の命を助けてくれと叫んだ。

 何たる皮肉。こうなるべきは女神の方だったはずで、彼女の無様な最期を演出する為に舞台を整えたというのに。

 気付けば主演女優は舞台監督となり、己こそが主演となっていた。

 タイトルは『処刑』。主人公は己の最期を悟って惨めに命乞いをして尊厳を地に落とし、それでも許されずに殺されてしまうという救いのない三流芝居。

 彼はそれを自ら演じる事となってしまったのだ。

 そして、監督が変わったからといって脚本は何も変わらない。

 変わったのは役者と舞台監督のみ。結末は何も手を加えられず、そのまま執行される。

 

「でしょうね。死人はこの星に手出しなど出来ません」

「ま、待っ……!」

 

 構わずに超能力で剣を射出。

 剣はコルドの上で1回転して勢いを付け、そのまま彼の身体を両断した。

 更に鎖が深く絡み付き、コルド大王の遺体を上空へと運ぶ。

 ――爆破。

 コルド大王の遺体を塵へと還し、もう用はないとばかりにケープを翻して背を向けた。

 否、背を向けたのではない。唖然としているフリーザ軍の兵士達全員へと向き直ったのだ。

 絶対だと思っていた自分達の主の余りに呆気ない末路に呆然としていた兵士達に向け、リゼットは腕を一振りする。

 

Mortes innumerabilia,ibi(死よ、無数に在れ)

 

 視界を焼く光が一瞬で全兵士の間を駆け抜け、その命を停止させた。

 超能力により脳と心臓の両方を強制的に停止させられた兵士達は音もなく崩れ落ち、その死体を大地の上で晒す。

 命在る格下では決してリゼットには勝てない。何故ならこれがあるからだ。

 実力の差があるならば戦いという行為すらそこには要らず、超能力による金縛りを体内に送り込む事で脳と心臓を止めてしまえば、それで終了だ。

 リゼットは常に対格上の戦いを考えて修練を積んでいる。

 だが彼女は同時に最悪の格下殺しでもあるのだ。

 余りにも一方的な決着にヤムチャ達はゴクリと喉を鳴らし、苦笑いをするしかなかった。

 

 

「そ、そんな……パパが!」

「ヒュウ、さっすが神様。また強くなったんじゃねえか?」

「気が測れんから分からんが、確実に以前よりも腕を上げているだろう」

 

 コルドの瞬殺劇にフリーザが絶句し、悟空とピッコロが関心を向けていた。

 勿論これに焦ったのはフリーザだ。

 父の実力はサイボーグと化した自分よりも上だった。

 それがああまで容易く殺られたのだ。

 つまり、あの女がいる時点で己の勝ちはほぼ消えているという事になる。

 もしもフリーザが気を測る力を持っていたならば、そんな事には地球に来る前に気付けたかもしれない。

 クウラの最大戦闘力を4億7千万と正確に認識さえ出来ていたならば……それを倒した女がいる時点で勝ち目などないと理解出来たのだろう。

 だがフリーザにそんな事が出来るわけもなく、仮に気を測る事が可能な部下がいたとしても『クウラ様の方が上です』などとほざけばフリーザに殺されるに決まっているので嘘を吐くしかない。

 無論直接対決などコルドが認めるはずもなく、フリーザは自分とクウラの戦力差を把握出来ぬまま今日という日を迎えてしまった。

 その代償がこの、詰み確定の状況である。

 

「ハッ、どうしたよフリーザ。こんなはずじゃなかったってか?」

「ぐ……黙れ! 雑魚風情が!」

「おいおい、雑魚だなんて酷え言い草じゃねえか。

それじゃあ……こうすりゃあ話を聞いてもらえるのかな?」

 

 ターレスが不敵に笑い、拳に力を込めた。

 すると彼の気が変質し、頭髪が逆立つ。

 黄金の気が全身を包み、疑似的な超サイヤ人へと変化した。

 悟空も一度は見せた、超サイヤ人へ変身する前段階の姿だ。

 

「なっ……!?」

 

 これにはフリーザだけではなく、悟空やベジータも度肝を抜かれた。

 まさかの予期せぬターレスの覚醒である。

 いや、違う。今まさに覚醒しようとしている。

 超サイヤ人の条件は3つ。

 一つ、最低限の戦闘力である300万への到達。

 二つ、穏やかな心。

 そして三つ、激しい怒り。

 最初の条件である300万にはナメック星での戦いで到達した。

 二つ目の条件は穏やかになる事で増すS細胞……ターレスとは本来無縁だったはずのそれだが、しかし地球での生活とスノとの出会いが彼に穏やかさを与えていた。

 そして最後の激しい怒りだが、こんなものはターレスにとって条件でも何でもなかった。

 怒りなど常に感じていた。

 惑星ベジータを消され、バーダックとギネを殺されたあの日からずっと、己の無力さと、『家族』を奪ったフリーザへの怒りが尽きる事はなかった。

 今ここにすべての条件は満たされ、彼は伝説へと至る資格を得た。

 ならば怒れ。

 この怨敵へ、サイヤ人全ての仇へ。今こそ怒りをぶつけろ。

 一度はカカロットへ譲った……己の無力さ故に譲るしかできなかった望みを今こそ果たすために。

 今度こそ、この手で決着を着けるために。

 

「おおおおおおおおおおおーーーッ!!」

 

 ターレスが吠え、逆立った髪が黄金に変色した。

 彼を中心に突風が吹き荒れ、目の前に出現したそれにフリーザは震えた。

 黄金の髪。緑色の瞳。

 どれも見間違えるはずがない……その姿は、紛れもなく超サイヤ人と呼ばれるものであった。

 

「超サイヤ人は一人じゃねえ……ここにもいたというわけだ」

「そ、そんな……まさか、貴様までもが……」

「――俺の勝ちだな」

 

 ターレスが飛び込み、フリーザの頬へと肘をめり込ませる。

 更に腹に拳を打ち込み、サイボーグの機械の上から強引に衝撃を与えた。

 フリーザも咳き込みながら拳を振るうがターレスの方が速い。

 背後に回り込み、フリーザを羽交い絞めにしてから背中に容赦なく蹴りを何度も叩き込み、彼の身体を宙へと上げた。

 更にその先に回り込み、ダブルスレッジハンマー。フリーザの頭部へと拳をめり込ませ、地面へ叩き落とす。

 

「この猿野郎がぁ!」

 

 フリーザが激昂し、跳躍すると空中へ手を掲げた。

 追い詰められた時の手段が被っている辺り、やはりクウラと兄弟なのだろう。

 かつて惑星ベジータをも滅ぼした業火の如き巨大な気の塊……スーパーノヴァを以て惑星諸共ターレスを消す事を選んだのだ。

 それに対しターレスが取ったのは迎撃。

 右拳にありったけの気を集め、不敵に笑う。

 その姿にフリーザは一瞬、かつて己に歯向かってきた彼そっくりのサイヤ人を幻視した。

 

「『……これで全ての因縁が決着(おわ)る』」

 

 気を更に高め、ターレスが呟く。

 その背後に見えるサイヤ人(バーダック)の幻影と声が重なり、フリーザは一瞬、過去にタイムスリップでもしたかのような錯覚を受けた。

 

「バーダックの運命……ギネの運命」

 

 悟空達はあえて手を出さない。

 万一の時にいつでも動けるように備え、戦いはターレスに任せていた。

 彼だけの、譲れない因縁があると悟ったのだ。

 

「貴様の運命」

 

 フリーザには益々、今の状況があの日の光景と重なって見えた。

 たった一つ違うのは相手が超サイヤ人だと言う事。

 違う、負けるわけがない。

 俺は宇宙最強だ! その自負を以て火球を更に巨大にする。

 

「そして、この俺の運命も……!

――これで最後だああああああッ!!」

 

 ターレスが掌から解き放ったその技の名こそファイナルスピリッツキャノン。

 かつてバーダックが使用した彼の最大の技であり、フリーザをいつか倒すならばこの技しかないと決めていたものだ。

 激突する青い気弾と赤い火球。その光景はかつての焼き直しであり、だが結果は異なった。

 かつては飲み込まれて消えた青い輝きは決して消えず、逆にフリーザの火球を押し返している。

 

「ば、馬鹿な……! この俺が……フリーザ様が……下等な、猿野郎などに……!

こ、こんな……こんな……!」

「くたばれフリーザーーーーッ!!」

「こ、こん――」

 

 火球がフリーザを呑み込んだ。

 それだけに終わらず、火球を貫いてきた魂の砲撃がフリーザへ迫る。

 その刹那、フリーザは確かに観た。

 

 ――己へ迫る気弾が、あの日確かに殺したはずのサイヤ人(バーダック)の姿になるのを。

 

 その光景を目に焼き付け、今度こそフリーザは宇宙の塵となった。

 

 

 この日、宇宙は真の意味でコルドやフリーザの恐怖から解放された。

 いかに勢力が衰退しようと、やはりコルド大王やフリーザという悪の帝王は人々にとって抗い難い恐怖そのものだったのだ。

 しかしそれが地球に訪れた事で地球の神や、そこに住むサイヤ人によって死を迎え、宇宙の様々な星域に映像配信されたのだ。

 無論、この機を逃す反乱組織ではない。

 いくつもの惑星から義勇軍が発足され、惑星連合となってフリーザ達の残存戦力を徹底的に叩いた。

 特に獅子奮迅の活躍を見せたのが高い戦闘力を誇る『永遠の美』の若き総帥ザーボンだ。

 彼は白いコートをはためかせ、女性達の黄色い歓声を浴びながらいくつもの戦場に姿を現し、フリーザ系列の惑星を執拗なまでに攻撃した。

 かつて栄華を誇ったフリーザ傘下の星々も、こうなれば惨めなものだ。

 今まで他者を食い物として甘い蜜を吸い続けてきた報いとばかりにあらゆる惑星から非難を受け、ついに重い腰をあげた銀河パトロールからも『第一級犯罪星間』として指定された。

 特にフリーザと密接な関係を築き、他の惑星を買い取っていた星には重い罰が下され、銀河パトロールによる『絶滅爆弾』の投入も珍しくはなかったという。

 勿論抵抗はあった。

 いかに大将を失ったといえど、相手は宇宙最強の軍隊フリーザ軍だ。

 様々な惑星のエリートを集めたその軍勢に人々は苦しめられ、多大なる苦戦を強いられた。

 だが宇宙の人々は女神の名の元に手を取り合い、宇宙の自由の為に戦った。

 更に戦局を動かしたのが、かつてフリーザ一味の勝手な欲望によって絶滅の危機に瀕し、しかし地球からやってきた女神達に救われ、地球のドラゴンボールで蘇生された者達――即ち、化物集団ナメック星人の参戦であった。

 実はザーボンとの間にも一悶着あったのだが、ここで幸いだったのはザーボンが殺したナメック星人の数が少なかった事だ。

 そのほとんどはドドリアや手下が行っており、ザーボンのやった事など老人二人を殺したくらいである。

 勿論大罪には違いない。だがザーボンは『フリーザに命令されて仕方なくやっていた。女神と出会って心を入れ替えた。今は償いの為にこうして戦っている』と熱弁。人の好すぎるナメック星人達はこれを信じ、過去を水に流してしまった。お人よしすぎる。

 しかし人はよくとも戦闘力はまさに化物。

 畑仕事をしているだけの若者が戦闘力3000を超え、戦闘タイプのネイルに至っては42000の頭のおかしい集団は次々とフリーザ軍残党を叩き潰し、瞬く間にその勢力を削った。

 だが何よりもやばいのが、こいつの存在である。

 

「ポルンガ! フリーザ軍残党の持っている武器を全部消して下さい!」

『オッケー』

「ポルンガ! フリーザ軍残党の食料を全て消して下さい!」

『オッケー』

「ポルンガ! フリーザ軍残党の物資も全て消して下さい!」

『オッケー』

 

 もはや何でもありであった。

 ほら、お前等はこの龍に用があって平和なナメック星を侵略して星を爆破までしやがったんだろう?

 喜べよ、これがお前等の欲しがってた龍だぞ。

 そう言わんばかりに激怒したナメック星人達は躊躇を捨ててポルンガを投入し、反則としか呼べない所業に出た。

 普段温厚で優しい人ほど本気で怒ると怖いのだ。

 一つ目の願いで全ての武器を奪われ、二つ目の願いで全ての食料を奪われ、三つ目の願いで物資も全て奪って星を更地にされた。一体ここからどう逆転しろというのだ。

 これによりとうとうフリーザ軍残党は何も出来なくなってしまい、やがて全面降伏を経て組織そのものの完全解体へと移行する事となる。

 

 そして女神への熱狂的な信仰は留まる事なく、今日も増え続けている。

 これからもきっと、様々な惑星にて世界を救った神話として語り継がれ、信仰が消える事はないだろう。

 尚、それら全てが本人の全く預かり知らぬ話であった。

 一方ザーボンは崩壊したコルド軍を吸収し、ますますその勢力を拡大。

 銀河パトロールの大株主となって実質上頂点に君臨し、更に自費で銀河パトロールの類似組織をいくつも設立することで銀河パトロールの価値を相対的に下げて発言力と影響力を低下させた。

 それでいて、銀河パトロールと同等の規模の組織をいくつも下部組織に持つことによって自らは銀河王を上回る発言力と影響力を手にし、実質的に銀河を支配してみせた。

 いつしか人は彼を、超銀河王ザーボンと呼んだ。




|0M0) オレノデバン……
↑未来トランクスルー
リゼット「あっ」

~???~
タイムパトローラー「………………」
謎のイケメン「あの人、何か今日は凄い上機嫌ですね」
時の神様「ええ。あの歴史を見てからずっとニヤニヤしてるわ」


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第四十三話 ボクの父はベジータです……謎の少年の告白

子供「この超サイヤ人になれる謎の少年は何者なんだ!
正体が明かされる次回が楽しみだ!」
次回予告「ボクの父はベジータです……謎の少年の告白。ぜってえ見てくれよな!」
子供「 ( ゚д゚) 」

子供「 ( ゚д゚ ) 」


 フリーザが完全に消えたのを確信し、リゼットは軽く緊張を解いた。

 まさかフリーザを倒すのが悟空ではなくターレスだとは驚きだが、どちらにせよこれでとりあえずの脅威は去ったと見ていいだろう。

 とはいえ、これは所詮前哨。これから3年後に起こる戦いのプロローグに過ぎない。

 リゼットは悟空の近くまで歩いて行くと、彼にだけ声をかけた。

 

「悟空君」

「お? 何だ、神様」

「少しよろしいでしょうか。悟空君にだけお話ししたい事があります」

 

 これからする話は悟空だけに聞かせるべき事だろう。

 どうせピッコロ辺りはその優れた聴覚で勝手に聞いてしまうのだろうが、彼ならば問題もない。

 案の定、すでに興味深々といった様子でこちらをチラチラと伺っている。

 

「おう、いいぞ。オラも久しぶりに神様と話してえしな」

「では、あの丘の方まで行きましょう」

 

 リゼットが指定した場所。そこには一般人程度にまで落とされた……それでいてリゼットならば確実に気付くだろう一つの気が存在している。

 フリーザ戦で出て来なかったので少し不安だったのだが、どうやらちゃんと『彼』はこの時代に来ていたらしい。

 これでとりあえず、この世界線が絶望の未来ではないと判明した。

 悟空を連れて丘の上にまで行くと、そこには銀髪の青年が佇んでおり、こちらを見ている。

 父親譲りの鋭い眼に、母親譲りの整った顔立ち。そしてカプセルコーポレーションのロゴが入った上着に背中の剣。

 間違いない。トランクスだ。

 

「お待ちしていました、リゼットさん。……いえ、神様」

「……どうやら、私の事を知っているようですね」

 

 リゼットには一つの懸念があった。

 それは『果たして未来に自分はいるのか』というものだ。

 何せ今ここにいる自分がそもそものイレギュラーだ。前世の記憶なんてものを取り戻さなければきっと、ただの村娘として一生を終えていたはずである。

 だが今のトランクスの反応で確信した。未来にも自分は居る……あるいは、居た。

 

「何だ? 知り合いか、神様」

「いえ、初対面です。尤もあちらは私達の事を知っているようですが」

 

 不思議そうに尋ねてくる悟空に、リゼットは正直に答えた。

 敵意がないので悟空も警戒はしていないようだが、顔には疑問が張り付いている。

 そしてトランクスもまた、笑みを見せながらも困ったように汗をかいていた。

 

「お、驚いたな、本当に聞いた通りだ。貴女は俺と初めて会うはずなのに、俺の事を知っている」

「……その情報は、“私”から?」

「そこまで知っているんですね。流石は神様……ならば俺が来た目的も御存知なのでしょう」

 

 トランクスの問いに小さく頷く。

 とはいえ、自分からペラペラと説明するつもりはない。

 悟空に聞かれた時に誤魔化す自信はあるが、説明が面倒だからだ。

 トランクスは悟空に超サイヤ人になるよう頼み、自らも超サイヤ人へと変身する。

 そして悟空とトランクスの軽い手合わせが終わった後に、トランクスは話を再開させた。

 

「貴方達には全てをお話しします。けど、これから話す事は全てお二人の胸の中へしまって下さい」

「安心してくれ。オラ口は固いほうなんだ」

「まあ、無駄にペラペラと情報を漏らす性格ではないと思います」

 

 そしてトランクスの語り始めた内容は、途中まではほぼリゼットの知っている通りのものだった。

 彼が20年後の未来からやって来た事。ベジータとブルマの子である事。

 そして3年後の5月12日。午前10時頃、南の都の南西9キロ地点の島に人造人間が現れる事。

 しかし話は途中からリゼットの予想をも超えた方向へと飛んで行く事となる。

 

「その二人、20号と19号は神様が倒したのですが問題はそこからです。

その翌日、人造人間18号と17号が起動し、更にその数日後には13号、14号、15号が加わって地球全土を舞台とした戦いが始まったのです」

 

 ……ちょっと待て。

 リゼットは思わずそう叫びそうになった。

 何か原作のイベントに平然と劇場版の敵が紛れ込んでいる上に、未来世界では登場しないはずの19号と20号がしっかり参戦してしまっている。これはどういう事だろう。

 いや、そもそも何故人造人間が出現した?

 未来の自分はゲロの研究所を破壊しなかったのか?

 

「未来の私は、ゲロの研究所を放置していたのですか?」

「い、いえ……襲撃をかけたらしいのですが、ゲロは既に研究所を廃棄して行方を眩ませていたそうです。未来の貴女自身が言うには、貴女の遠視から逃れるためにゲロが場所を変えてしまった可能性が高いと……」

 

 私のせいですか……。

 リゼットは変な納得をし、むしろそれを予期しなかった自分の間抜けさに笑いそうになった。

 あの天才ドクターゲロならば、自分のようなイレギュラーがいる時点で身を隠してもおかしくない。

 恐らく13号達を造り上げたコンピューターも知っている位置になかったのだろう。

 

「この戦いの中で奴等に対抗すべくピッコロさんと先代神様が同化し、地球からドラゴンボールが無くなりました。

これにより一時的に有利になったのですが、13号が破壊された14号と15号を取りこんで超13号へと変貌し、まずは父……ベジータさんが殺されました」

「……ベジータが真っ先に脱落、ですか」

「はい。貴女はこの戦況を変えるべく新ナメック星の位置を界王様より聞き、新ナメック星へと赴いた……しかしそこで貴女にとっての誤算が起こったのです」

「誤算、ですか?」

「はい……ナメック星が、ビッグ・ゲテスターという機械惑星によって支配されており、ドラゴンボールが入手出来なかったのです」

 

 リゼットはこの時点で頭を抱えたくなった。

 いやいやちょっと待って、クウラを倒した場所違うよね? 地球じゃなくてナメック星の太陽に突撃させたよね?

 もしかしたら生きているかもしれない、くらいには思っていたが何故ビッグ・ゲテスターがそこで登場する。

 

「その核となっている者の名はクウラ。

貴女が倒したはずの者なのですが……どうも、貴女自身が言うには前提が逆だったそうです」

「逆?」

「はい。貴女はビッグ・ゲテスターの存在をどういうわけか知っていました。

そしてクウラは絶対にそこに辿り着けないと思っていたようなのですが……それが間違いだったのです。

クウラがビッグゲテスターに辿り着いたのではなく……ビッグゲテスターがクウラに引き寄せられた。

クウラの凄まじい怨念に、ビッグゲテスターが引き寄せられた。だからクウラの位置が変わろうと、必ずこの両者は合流してしまう……らしいです」

「…………」

 

 それを聞いてリゼットは己の認識違いを悟った。

 クウラは映画で『運よくビッグゲテスターに流れ着いた』と語っていた。

 だが広大な宇宙の中で、どれだけ運がよければビッグゲテスターに流れ着けるというのだ。

 砂漠の中でコンタクトレンズを探すどころの話ではない。まず不可能と断じていい幸運だ。

 だがこれが幸運ではなかったとしたら? 必然だったとすれば、話は全く変わる。

 クウラ()ビッグゲテスターに流れ着いたのではない。クウラ()ビッグゲテスターが辿り着いたのだ。

 前提が全く逆だったのだ。

 ならば出会ってしまう。クウラが太陽系で死のうとナメック星で死のうと、ビッグゲテスターがクウラという頭脳を求めてやって来るのだから、この両者は絶対に合流する。

 まるで運命の赤い糸だ。相性がいいにも程がある。

 

「その後、メタルクウラの軍団が地球に侵攻し戦況はますます激化……追い討ちをかけるようにかつて父さんの父さん……つまり俺の祖父に辛酸を舐めさせられたというサイヤ人のパラガスと、彼の息子である伝説の超サイヤ人ブロリーが襲来し、この戦いでピッコロさんやターレスさんといった地球側の主力はほぼ死んでしまい、後を追うように天津飯さんやクリリンさん、ヤムチャさん、餃子さん、人参化さん、ナッパさんも死んでしまった。

そうして戦える戦士は貴女と悟飯さん、そして幼い俺だけになってしまったのです」

 

 リゼットはもう、この時点で神殿に帰って布団にくるまって寝てしまいたかった。

 何だこの劇場版ラッシュ。ブロリーとか本気でどうしろというのだ。

 だが更に絶望は続き、トランクスの口も止まらない。

 

「更にサイヤ人に恨みを持つツフル人の科学者ドクター・ライチーと彼が造りあげた怨念戦士ハッチヒャックや、遠い銀河からやって来たヘラー一族も加わり、地球は様々な勢力が戦う戦場へと変わってしまいました」

「…………それは……うん、なるでしょうね……戦場に」

「更にこの世とあの世のバランスが崩れて地獄から、かつて倒した死者が次々と復活し、魔導師バビディ率いる一団や、異星より襲来した怪物ヒルデガーンまでもが地球に現れ、地球はまさに滅亡の危機を迎えたのです」

「…………」

 

 そりゃ滅亡しかけるでしょうよ、とリゼットは心底思った。

 何、このギャグみたいな劇場版ラッシュ。どいつもこいつも自重なしに地球に来ないで下さい。

 というかこれ、もう無理だろう。

 ブロリーとボージャック、ヒルデガーンとダーブラに超13号、ハッチヒャックにメタルクウラ軍団とか手の打ちようがない。しかも多分あの世にはジャネンバまで登場してる。

 マジで詰んでる。

 むしろこれでよくまだ生きてるな、未来の私。心底リゼットはそう感じた。

 というか封印されているはずのボージャックが何故湧いている。意味が分からない。

 

「この地球の危機を前に貴女は最後の決戦を挑み、全ての敵対勢力を亜空間に封印して中で同士討ちをさせ、最後に残ったブロリーを一騎討ちで倒して何とか地球は救われました」

 

 リゼットはここで思わず、おおっと声をあげた。

 やるじゃん、未来の私! 超頑張ってる!

 ブロリーを一騎討ちで撃破とか一体どうやったのかは分からないが、とりあえず凄い。

 

「しかし……この戦いで敵の注意を引き付ける役を買って出た悟飯さんが戦死してしまいました。

また、最後の戦いで全ての力を振り絞った貴女もまた、深い眠りに就いてしまい、未だに目を覚ましません」

 

 結局最後はトランクス一人になるのか、とリゼットは少し肩を落とした。

 トランクスは深い眠り、と言っているがこの分だと未来の自分も死んでいるだろう、というのがリゼットの予想だ。

 未来の己が何をしたのかは分かる。何せ自分の事だ、分からぬはずがない。

 恐らくだが、未来の自分はバーストリミットを限界よりも遥かに高出力で使用して強引にブロリーに勝利したのだ。

 だが界王拳もそうだが、余りに限界を超えた出力を出すと身体への負担が大きくなる。

 ましてやブロリーに勝てるレベルの倍率など、反動で死んでしまってもおかしくないわけで……きっと、未来の自分はそれで力を使い果たして死んだのだ。

 しかしリゼットにはドラゴンボールで叶えた『不変』の特性があり、例えバラバラになっても身体“だけ”は完全に元の状態へと回帰する。――そこに魂がなくともだ。

 だから外から見ればただ安らかに眠っているようにしか見えず、トランクスも死んだと判断出来ないのだろう。

 

「こうして地球は救われました、多くの戦士の犠牲の上に……。

なのに……なのに、地球人自らが、それを壊してしまった。

愚かな科学者が、異星人達に対抗しようとブロリーの遺伝子から最強の戦士を造り出そうとしたのですが、出来上がったのは知性のない、到底制御など出来るはずもない、ただの怪物でした。

俺達がバイオブロリーと呼んでいるその怪物は、周囲の物を取り込んで際限なく巨大化し続ける化け物であり……そして、あまりにも強すぎる……」

「……対抗手段はないのですか?」

「奴は海水を浴びると石化してしまいます。ですから、すぐに海を越えてくる事は出来ません。

そのおかげで人類はかろうじて生き延びています。

しかし……それでも、少しずつ海水すら取り込んで着実に巨大化を続けていて……母さんの見立てでは、後10年もすれば地球全土を飲み込んでしまうだろうと……」

 

 何やってくれてんの、未来の人。そうリゼットは叫びたかった。

 何で平和になった後にバイオブロリー作ったの? 馬鹿なの?

 

「結局、多くの犠牲の後に残ったのは全てを失った地獄のような地球だった……。

俺以外の戦士は皆死んでしまい、新ナメック星もビッグ・ゲテスターによって滅びてしまったから、ナメック星のドラゴンボールも使えない……。

失った物を取り戻す方法が、俺達には残されていなかった」

 

 トランクスが泣きそうな顔をするが、リゼットはもっと泣きたかった。

 未来世界が原作なんか比較にならないEXハードモードすぎる。

 何だこれ、何でこんな意味の分からない事になっている?

 いや、一応劇場版ボスの登場タイミングは合っているので、単に倒せないうちに次のボスが来てしまって、それを倒せないうちに更にボスが出て来て……と繰り返してしまった結果なのだろうか?

 改めて悟空君って凄い、と思った。

 なるほど、劇場版のある世界は悟空が彼等を速攻で倒してくれるから平和だったのだ。

 で、それが出来なければこうなると……酷い話である。

 前言撤回。私もっと頑張って下さいよ。

 

「ま、待てよ、オラは? オラはどうなったんだ?

オラもやられちまったのか?」

「貴方は戦っていない。今からまもなく病気におかされてしまうんです。そして死んでしまわれる」

 

 やはり悟空は死んだのか、とリゼットは妙な納得をした。

 まあ、そうでなければそこまで酷い事にはならないだろう。

 しかし問題は何故死んだかだ。ドラゴンボールは使わなかったのか?

 そう思っていると、その答えをトランクスが口にした。

 

「神様はドラゴンボールを使う事を真っ先に思い付いたようなのですが、間が悪すぎた。

悟空さんが心臓病で倒れる僅か数日前に、ドラゴンボールは他の誰かが使ってしまった後だったのです」

 

 ……何て間の悪い。心の底からリゼットはそう思わずにはいられなかった。

 他の誰か、という言い方を見るに恐らく仲間の誰かが使用したわけではなく偶然地球人の誰かが集めて願いを叶えてしまったのだろう。

 それは決して悪い事ではない。自分だって2回も使っているのだから他者を責めるのはお門違いだ。

 だが何故このタイミングなのだ。せめてあと1年後か前に使っていれば、と顔も知らぬ誰かに文句を言いたくなるのは仕方のない事だろう。

 

「発病から死までの期間もあまりに短すぎた……神様が言うには、超サイヤ人になって修行していたのが不味かったそうです。超サイヤ人になると一気に病気が進行してしまうんだとか。神様は何度も止めたらしいのですが……」

「悟空君! 死にそうになるまで修行する人がいますか!?」

「いや、オラに言われても……」

 

 何という事だろう、未来の悟空も思った以上にアホだった。

 超サイヤ人になれば心臓病が一気に進行する、とはベジータの言葉だったか。

 いや、あるいは未来の悟空は先に待ち構える絶望の未来と強敵の出現を何となく予感していたのかもしれない。

 悟空に超能力はないはずだが、彼は時々そういう神がかった力を発揮する事がある。

 だがその焦りが無茶な修行を課し、結果として早死にして未来を悪化させてしまうとは何たる皮肉か。

 

「くっそ~、死んじまうのか……悔しいな。

闘いてえよ、そいつらと」

「……た、闘えないのが残念なんですか。恐怖はないのですか?」

「そりゃ怖いけどよ。すっげえ強え奴等なんだろ? やってみてえよ」

 

 悟空のその返答はネジがいくつか吹っ飛んだ言葉だ。

 しかし、だからこそトランクスには彼が頼もしく思えた。

 今の話を聞いて尚恐れず、それどころか闘いを望む生粋の戦士。

 あの絶望の未来を覆すのなら、まさにそういう存在が必要なのだ。

 

「やはり貴方は本物のサイヤ人の戦士だ。母さんや悟飯さん、リゼットさんの言った通りの人だった……頼もしいですよ、来てよかった」

 

 言いながら懐に手を入れ、一つの小さな瓶を取り出す。

 

「俺達は、こんな絶望の世界を変えたかった。

そんな時に貴女が以前呟いた言葉を思い出したのです。

『悟空君さえ生きていれば、こうはならなかったのに』……と。

俺は、その言葉に賭けてみたくなった。リゼットさんがそうまで信じた孫悟空という男に賭けたくなったのです。

……症状が現れたらこれを飲んで下さい。20年後には心臓病の特効薬があるんです」

 

 それこそ、未来を変える一手だった。

 『孫悟空を生存させる』。たったそれだけの、しかし何よりもの改変を齎す最後の希望。

 それが確かに、孫悟空の手へと委ねられた。




!!!!!!!!!
17ごう が あらわれた!
18ごう が あらわれた!
19ごう が あらわれた!
20ごう が あらわれた!
メタルクウラズ が あらわれた!
ビッグゲテスター が あらわれた!
13ごう が あらわれた!
14ごう が あらわれた!
15ごう が あらわれた!
ブロリー が あらわれた!
パラガス が あらわれた!
ボージャック が あらわれた!
ザンギャ が あらわれた!
ブージン が あらわれた!
ゴクア が あらわれた!
ビドー が あらわれた!
ライチー が あらわれた!
ハッチヒャック が あらわれた!
ジャネンバ が あらわれた!
ホイ が あらわれた!
ヒルデガーン が あらわれた!
バビディ が あらわれた!
ダーブラ が あらわれた!
プイプイ が あらわれた!
ヤコン が あらわれた!
バイオブロリー が あらわれた!

未来リゼット「」

※ちなみにこのタイミングでドラゴンボールを使用した馬鹿とはピラフ一味の事。
若返りの願いで赤ん坊になりました。
また、セルは書き忘れたわけではありません。トランクスの話の中に出ていないのにも理由があります。

【戦闘力に関して】
ここからは公式の数字が無くなる為、唯一判明しているブロリーを例外として後は私の解釈で決定していきます。なので自分の考える数字と違っても『このSSではこの数値』で納得して頂きたいと思います。
ちなみにブロリーは下記の数値でいきます。

通常:14億(Vジャンプ)
伝説:1400億

リゼット「もう おうち かえる」


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第四十四話 絶望を変える戦い

 トランクスは話を終えた後、3年後にまた来ると言い残してこの時代を去った。

 未来の出来事を聞かされた戦士達は3年後より始まる過酷な戦いを生き延びるべく、それぞれが厳しい修行に励む決意を固め、リゼットもまた今まで以上の修行をする必要があると痛感していた。

 正直に言って、リゼットは3年後の闘いを甘く見ていた。

 人造人間くらいならば悟空抜きでも何とかなると思っていたのだ。

 セルだって完全体になる前に倒してしまえばいいわけで、仮に太陽拳を使われても自分ならば余裕で対処出来る自信があった。

 だが違った。3年後より始まる劇場版ラッシュはその程度では到底切り抜ける事が出来ない。

 今まで通りの修行では駄目なのだ。

 ならばどうする? どうすれば劇的に力を増す事が出来る?

 リゼットは考えた。

 まず一つ……超神水の使用。

 猛毒ではあるが、それと引き換えに潜在能力を解放させるあの水を使えば力を上げる事が出来るだろう。

 問題の毒にしても上手く行けばリゼットには通用しない。

 というのも、リゼットは『あらゆる環境で生存出来る』能力があり、毒もその範囲に含まれるからだ。

 そもそも毒というのは定義上、正確な呼び方ではない。

 例えば玉葱なんかも猫や犬にとっては毒だが、人間にとっては食べ物だ。

 逆に人間にとって毒でも他の生物にとっては無害なものもある。

 毒というのは要するに『その生物にとっての害』であり、厳密に言えばどんな物だって毒になりうるし、毒を秘めている。

 極論を語れば酸素だって毒だ。

 他の宇宙人にとっては生存に欠かせない空気中の物質があったとして、それが地球人にとっては毒かもしれない。

 いちいちそんな毒で死んだり生きたりしているようでは、とても『あらゆる環境で生存』なぞ出来ないだろう。

 だから環境一つで変わる毒やウイルスなんてものはリゼットに対してはほぼ無効だ。

 だから使用そのものに問題はない……はずだ。

 問題は使用のタイミングだ。リゼットは最近も最長老に潜在能力を解放してもらったばかりであり、今使っても効果は少ないだろう。

 使うならば3年後、ギリギリの時まで待つ必要がある。

 

 次に、常に限界を責め続ける荒行。

 気霊錠を強化し、重力室のGを増やし、それでいて限界近くまで気の解放を行いながらの修行を繰り返す。要は今まで行ってきた事の強化だ。

 だがそんな事をすれば身体が先に限界を迎えて修行どころではなくなるだろうし、そのたびに仙豆を使っては仙豆の無駄使いだ。

 だがその解決方法はもう見付けてある。

 リゼットはフリーザの宇宙船にあったメディカルマシーンの分析をブルマに依頼し、完成したら譲って欲しいと交渉したのだ。

 勿論ブルマはこれに快く了承を示し、自分の分も欲しがったベジータには普通にオリジナルのメディカルマシーンをプレゼントした。

 ここでリゼットがあえて急がずにオリジナルをベジータに譲ったのには勿論理由がある。

 ぶっちゃけブルマに解析させて後から完成したブルマ製メディカルマシーンを貰った方が絶対に性能がいいと分かっているからだ。

 ついでにデザインも、出来れば神殿に合ったものがいいと駄目元で頼んでみたところ、見事にブルマはこれを叶えてくれた。何この超天才。

 形としてはでかい水晶、という所だろうか。

 中が空洞になっており、入る事で治療液が満たされる仕組みだ。

 尚、本来のメディカルマシーンにはある呼吸器は存在しない。どんな環境でも生存できるリゼットには必要のないものだからだ。

 こうして完成したリゼット専用のメディカルマシーンだったが、傍から見るとまるでクリスタルに閉じ込められて眠っているようにしか見えない、という事に本人は気付いていない。

 本人の神秘的な容姿と相まって絵にはなるのだが、これでは治療中ではなく封印中だ。

 しかし効果は絶大で、僅か1時間の休息で体力を全快にしてくれる。

 これのおかげでリゼットは今まで以上に無茶が出来るようになり、己の限界を責め続けた。

 改良された重力室を使っての300倍重力下での演舞に、仮想敵との組み手。

 限界までバーストリミットの倍率を上げて、気が枯渇したらメディカルマシーンで回復を繰り返す。

 過酷な戦いの中でも怯まないように痛みへの耐性を得る必要があったから、時には仮想敵に一方的に己を痛めつけさせた。

 極限の脱力による防御法も1年経つ頃には完成し、剣の一撃でさえ羽毛と化した彼女に傷一つ付ける事が出来なくなった。

 更に1年が経つ頃にはバーストリミットの最大倍率も50倍まで上昇した上で問題なく扱えるようになり、この50倍こそを一つの完成として以降は無理に倍率を増やさずに常時その状態を持続する修行を開始した。

 原作でも悟空がやっていた常時超サイヤ人になる事で慣らす修行だ。

 バーストリミットは超サイヤ人と異なり界王拳に近い技だが、だからこそ慣れが大事である。

 

 勿論鍛えるのはリゼットだけではない。

 こうなったらパワーバランスなど知った事かと戦士達を天界へ集めてベジータも無理矢理拉致し、リゼット指導の下で鍛えさせた。

 そして更に1年が経過し、そのタイミングで超神水を使用した。

 

 ――結論を言えば死にかけた。

 リゼットに毒が効かない……それは確かな事だ。その推測に間違いなど無い。

 だが超神水の毒は、そんなものではないのだ。

 身体の内にある潜在能力を無理矢理引き出す。それが超神水の効能で、毒のような症状が出るのはただの副作用でしかない。

 いわば気に作用する猛毒だ。どんな環境に適応しようと、こんなものにまで都合よく適応など出来るはずがない。

 結局の所リゼットの考えはただの楽観視でしかなく、彼女はその代償を数日に渡って支払う事となってしまった。

 ついでにリゼットだけを苦しませるわけにはいかないと、何故かポポとナッパも超神水を飲んでしまった。

 更に神殿に遊びに来たカリンが出しっぱなしの超神水を飲料水と勘違いして飲み干し、4人で仲良く死にかけた。何やってるんだこいつ等。

 

 しかし成果はあった。

 一週間以上に渡る激痛との苦闘の末、リゼットはようやく己の限界の壁を一つ壊す事に成功したのだ。

 戦闘力は劇的に跳ね上がり、通常状態でもフリーザと戦えるだけの力を得る事が出来た。

 これならばいける……リゼットは少なくない手応えを感じ、苦闘の末に得られた報酬を噛み締めた。

 また、ナッパだけは基礎戦闘力の上昇がなく、代わりにいつでも大猿のパワーを解放出来るようになっていた。

 

 その後、続いてヤムチャが飲んだ時に事件が起きた。

 何とヤムチャの呼吸が止まり、心肺停止してしまったのだ。

 これにはリゼットも大慌てで、気を送り込んだり念力で吐かせたり、心臓マッサージをしたりして何とかヤムチャの蘇生に成功したが、結局ヤムチャの強さは変わらず、以降は危険すぎるという理由で超神水を封印した。

 

 

 5月12日。

 集合場所である南の島にリゼットが到着した時には、既にベジータとトランクス以外の全員が集まっていた。

 ブルマもおり、その腕の中には赤ん坊のトランクスもいる。

 分かってはいたが、本当にベジータとくっついたらしい。

 かつて、若き日のヤムチャとブルマが手を繋いでダンスしていた姿を知っているリゼットとしては酷く微妙な気持ちにさせられる光景だ。

 それと、人参化は今回は神殿に待機させてある。

 もしかしたら神殿が襲撃を受ける可能性もあるので、彼はそちらの担当だ。

 

「あっ、神様! 来てくれたんですね!」

「ええ。地球の一大事ですからね。それにしても大きくなりましたね、悟飯君」

 

 嬉しそうに駆け寄ってくる悟飯の頭を撫で、後数年したら身長で抜かれそうだな、などと考える。

 今の悟飯はまだ9歳なのでリゼットの方が身長も高いが、14歳で成長を止めてしまったリゼットの身長は153cm程度しかない。

 こうして頭を撫でてやれるのも、後少しだろう。

 

「悟空君、心臓病の薬は?」

「え? ああ、家に置いてきちまったよ。結局病気にかからなくてさ」

 

 リゼットは悟空を注意深く見る。

 確かに今の所心臓病の症状は出ていない。一見すると健康体だ。

 原作ではこの後に症状が出るが、ここは既に色々とズレてしまっている世界でもある。

 今後、どのタイミングで発病するかは全くの未知数と言えた。

 

「なあに。仮にカカロットが心臓病にかかっても、そんときゃ俺が敵を片付けるさ」

 

 自信に溢れた声で言うのは、黒いシャツをラフに着こなしたターレスだ。

 上からは白いコートを羽織り、すっかり地球に染まっている。

 話しながら齧っているのは神精樹の実……ではなく、ただの林檎だ。

 

「神様、妙だとは思いませんか? 10時はとっくに過ぎているのに敵の気配が全く感じられません」

「それは当然です。彼等は人造人間……生物が持つ気など持っていません」

「! そ、そうか! 機械に気などあるわけがない!」

 

 天津飯の疑問にリゼットが答えると、全員が納得したような顔になり緊張感が高まった。

 そう、気が感じられないからまだ現れていないのではない。

 もう現れているのに気が感じられないのだ。

 その事に気付いた全員が顔つきを険しくし、街を見下ろす。

 もうこの瞬間にも、敵はいるかもしれないのだ。

 

「皆、気を引き締めて下さい。気で探せない以上肉眼で探す他ありません」

「へっ……かつては地球を滅ぼしに来た俺が今度は地球人を守る為に殺人兵器を探す、か。

皮肉な話もあったもんだぜ」

 

 リゼットの言葉にナッパが笑いながら答える。

 だが言葉とは裏腹に目は真剣だ。

 彼も随分この地球という星に馴染み、好いてくれているらしい。

 そのような事を考えていると、二つの人影が街へ降下するのが一瞬だが確かに見えた。

 更にリゼットは他の者には出来ない意思の感知をする事で、その姿をも完全に捉える。

 間違いない、あの老人と肥満体の男は20号と19号だ。

 

「い、今のは……!」

「ええ、現れたようですね」

「どこだ!? どこにいる!」

 

 リゼットに次いで気付いたのはピッコロのようだ。

 だが彼も一瞬しか見えなかったらしく、どこに降りたかは捉えていない。

 その隣では天津飯が完全に焦り、必死に人造人間を探している。

 

「戦闘力を感じないんじゃ仕方ねえ。俺達が降りて直接探すしかねえってわけだ」

「よし、みんな散って探そう。ただし深追いはするな。

発見したらすぐ皆に知らせるんだ」

 

 比較的冷静なターレスが降りる事を提案し、悟空もそれに賛同を示した。

 ともかく、まずは敵を見付ける事だ。

 発見が遅れるたびに被害者が増えるこの状況では1分1秒の遅れが死者を一人増やす。

 悟空達は街へと降下し、人造人間の姿を目視で探し始めた。

 リゼットもまた、出会い次第超能力で動きを封じてそのまま破壊してしまおうと物騒な事を考えながら街を散策する。

 場所は分かっている。そこにある悪しき意思も捉えている。

 ならば後はそこに行くだけであり、リゼットは迷う事なく人造人間二人を目指して歩いていた。

 そして、その彼女の前に早くも敵が姿を現す。

 しかし、その姿は彼女が想定していた老人と肥満体の男ではない。

 一人は黒い髪をおさげにした、白い肌の大柄な半裸男。

 もう一人は黒いサングラスをかけた、紫の肌の小柄な男。

 最後の一人は上半身裸の上にサスペンダーと上着という変態的な服装を