世界最凶の個性『らしい』(憑) (枝豆%)
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プロローグ

 「──個性はなくても、ヒーローは出来ますか!?」

 

 緑色の髪をした、癖毛の目立ついかにも根暗そうな少年が声を発した。発した先はこの国にいれば誰もが知っている人物、いや、この世界なら彼の名を知らない人はいない。

 

『オールマイト』

 唯一無二の絶対的平和の象徴。

 

 2人の体格差は歴然としており、まさにオーラが違うとも言える。

 

 片や王道をあゆみ続けた英雄。

 片や王道を外れた落ちこぼれ。

 

 それは個性社会が生み出した格差とも言える。

 派手な個性と人の良さで登りつめた象徴としての席、何か一つでもなければその場所へと辿り着けなかっただろう。

 そして、その全てを支える『個性』が落ちこぼれの少年にはなかった。

 

 

 「個性のない人間でも……貴方みたいになれますか!!??」

 

 

 心を振り絞ってだした言葉。

 今のご時世、個性が無いだけで虐められることなどざらだ。更にいえば個性がない、つまり無個性の事を悪と捉える人たちもいる。

 片や底辺と頂き。ただの有無だけで彼の人生はお世辞にも良かったとは言えなかっただろう。

 だが、その少年が勇気を振り絞り、覚悟を決め、残酷な現実へと立ち向かった。

 

 

 ───だが返ってきた答えは残酷な現実だった。

 

 

 大人なら濁すことも出来ただろう。だがそれをしなかった、それはオールマイトが彼に感化されたからだ。あの熱意に、あの意地に。

 

 生まれた時から先天的なもので生き方が変わる世界。

 そしてその『個性(才能)』がなければ務まらない職種であるヒーローに憧れてしまった憐れな少年。

 

 夢を見続けていた少年は、やっと夢から醒めた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 そして、その少年は帰る。

 何も無かった自分には、やはり何も出来ない。

 その事実だけが重荷になってのしかかった。

 

『夢を見ることは悪いことじゃない。分不相応なものを──』

 

 言われた言葉が頭から離れない。

 トップに立つオールマイトですら重症を負ってやっとの状況でヒーローをやっている。

 

 それなのに……。僕は……。それでも僕は、、、、。

 

 

 

 

 「今日は散々だったな……」

 

 

 ヴィランに襲われている幼馴染を助けたら、プロのヒーローに怒られた。

 

『無個性が出しゃばるんじゃない』

『君がそんなことをする必要はなかった』

『君の行動がどれだけの人に迷惑をかけたのか分かっているのか』

 

 

 口には出さないけど僕は「なんで?」と思った。

 

 有利な個性持ちが来るまで待機?

 

 それってヒーローなの。

 

 

 僕が憧れたヒーローは、そんなの関係なく笑顔で人を助けていたのに。

 

 

 「……なんで、なんで僕には個性がないんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──何言ってんだ坊主」

 

 

 「え!?」

 

 誰もいなかったはずなのに…。

 今まで周囲に人は居なかったはずなのに…。

 

 その疑問が疑念に変わる頃、真っ黒な髭をしたオジサンは手にあるチェリーパイを齧った。

 サクサクとこちらの気持ちもよくなるほどいい食感だということが、こちらにまで伝わってくる。

 

 「ゼハハハ!!このチェリーパイはやっぱり最高だ!!」

 「アナタは……」

 

 「なぁに、ちょいと坊主のことを見てたんだよ。オールマイトと会った所からヴィランから友達を助けようとした所をな」

 

 一瞬少年に悪寒が走った。

 ずっと付けられていた??

 

 その事を理解した途端、少年は背中に冷汗が渡ったことが分かる。

 

 

 

 「──なれるぜ、ヒーロー」

 

 「え?」

 

 

 言われた言葉に詰まる。

 訳の分からないオジサンだけど、諦めたハズの道を肯定してくれた。

 

 

 

 「プロヒーロー(アイツら)のいうヒーローなんて糞だ」

 

 チェリーパイを置き、オジサンは酒瓶で流し込んだ。

 僕は子供だから分からないけど、とても満足そうな顔をしている。

 

 「子供が夢を見るのは分不相応だって?え!?おい!ゼハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 まだお酒が残っている酒瓶を上に挙げて、勢いよく地面に叩き付けた。

 割れるのではないかと思えるほど強い衝撃。

 僕は今このオジサンに圧倒されている。

 

 

 「人の夢は──終わらねぇ!!!!!」

 

 

 その衝撃に近辺の家の人達が出てきた。

 大の大人が、などと笑われているがオジサンはそんなことお構い無しに続ける。

 

 

 「そうだろぉ!!!!!」

 

 

 無個性だって医者に言われてから僕がずっと欲しかった言葉。謝罪や否定なんかじゃない。

 肯定だった。誰かから『ヒーローになれる』そう言って欲しかった。

 だから見ず知らずのオジサンに言われた言葉が僕の胸に刺さる。

 

 親からも憧れの人からも、決して言われることのなかった言葉。

 堪えなければ泣いてしまいそうだ。

 

 

 「人を凌ぐってのも楽じゃねぇ。ゼハハハハハハハハ!!!!!」

 

 オジサンはそう言いながらも笑う。

 羞恥など微塵も感じさせない。

 

 近隣の人はこのオジサンを子供に見せないようにしたり、後ろ指を指したりして笑っている。

 

 

 でも、僕にはそんな風には見えなかった。

 ただただカッコイイ。

 

 僕の中でこのオジサンはオールマイトに匹敵するくらいにかっこいい存在になっていた。

 

 

 「笑われていこうじゃねぇか。ゼハハハハハハハハ!!!!」

 

 一頻り笑ったらオジサンは地面から立って愉快に立ち去った。

 

 「っと、邪魔したな坊主」

 

 「ぼ、僕は──」

 

 

 ──ヒーローになれますか?

 このオジサンに聞いておきたかった。僕のことを馬鹿にしない、夢を見ろって言ってくれたこのオジサンに。

 

 でも言葉が出てこない。

 オールマイトみたいに拒絶されたらと思うと……僕にはあと一歩進むことが出来ない。

 

 

 

 

 「なれるといいな、最高のヒーローに」

 

 

 僕は応えることが出来なかった。

 やっと欲しかった言葉を言われたから、やっと僕を肯定してくれたから。

 だから僕は──。

 

 無個性でも、最高のヒーローになる。

 誰に何と言われても構わない。

 

 

 だってこのオジサン以外誰も僕の本物を見つけてくれなかったんだから。

 ならなんて言われても関係ない。

 

 

 無個性だから無理?

 違うだろ。そうじゃないだろ。

 

 

 無個性でも出来るんだ。

 無個性だからこそ出来るんだ。

 

 

 

 

 僕は………最高のヒーローになる。




「人の夢は終わらねぇ」がワンピースで一番カッコイイと思う。
異論も反論も認める。


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1話

 とある昔。個性が発現し始めたほど昔のことさ。

 そこではとって狙ったかのような都市伝説がでたのさ。無個性な奴でも食べれば忽ち個性が発現するってモノがな。

 当然眉唾だと嘲笑ったよ。そんなものある訳ねぇってな。個性に関して全く研究が進んで切った時代だ、無個性がいる時点で、その理由が判明していない時点で有り得ねぇって。

 

 だが今になって思う。

 あれは存在していたんじゃないかってな。

 

 食べれば忽ち個性が発現し、その代わりに世界から嫌われる。こんな島国じゃデメリットが多すぎる代物だ。

 

 

 

 名前?おいおい探す気かよ。そうだなー、確かすんげぇ物騒な名前だったな。

 でもかなり前のことだったし俺も記憶が朧気なんだよ。

 

 

 あー、そうだったそうだった。

 

 

『個性の果実』又の名を『悪魔の実』って呼ばれてたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 「ゼハハハハハハハハ!!久しぶりじゃねぇか!オールマイト!!!」

 

 「HAHAHA!やぁ『黒ひげ』今日こそ捕まえちゃうぞ!!」

 

 

 パツパツのヒーロースーツを着た筋肉の塊が、黒ひげと呼ばれた男に拳を向けた。それはNO.1ヒーローであるオールマイト。

 そして向けられた黒ひげは、ウィスキーをラッパ飲みして独特な笑い方で声を荒らげている。

 

 

 「ゼハハハ!無駄とは言わねぇぜ!!この世に不可能なんてねぇんだからよ!!なぁ!オールマイト!!」

 

 パツパツのヒーロースーツは破けてしまうのかと思うほど筋肉が肥大化して拳を握る。

 

 

 「DETROITSMASH!!!!」

 

 「黒水(くろうず)

 

 

 天候が変わってしまう程の暴力。

 その目にも留まらない速さで放たれた攻撃を片手で受け止める黒ひげ。

 方や音速を超えた拳、方や光を飲み込む闇。

 

 「ゼハハハハハハハハ!俺に個性は効かねえ!!」

 「そんなこと知ってるさ!!だから君が処理できないスピードで連打すれば!!!!」

 

 一発一発が天災。その攻撃を何度も受け凌ぐが、化け物と張れるほどの身体能力は持ち合わせていない黒ひげ。

 更に引き付けやすい体質の黒ひげからすれば、オールマイトの拳は二倍増しで自分の体に引き付けられる。

 

 凌ぎ続けた黒ひげだが、限界を迎える。

 一瞬、目に見えただけでも五発モロに食らってしまった。

 骨が砕ける音と共に黒ひげは吹っ飛ぶ。

 その巨体はビルを砕き進み、電柱をへし折る。

 そうやって幾多もの障害物に衝突して、やっとの思いで黒ひげは止まった。

 

 

 「痛てぇ!!痛てぇ!!ちっくしょう……あの野郎、殺す気で殴りやがったな」

 

 数秒ほどのたうち回り立ち上がる。

 頭から血が流れており、今にも医者に見せなければいけないほどの重症だ。

 

 「チッ、あの野郎本気で俺を捕まえる気じゃねぇか、ゼハハハハハハハハ!!!」

 

 吹っ飛んだ黒ひげを高速で追ってきたオールマイト。

 直ぐに追撃を仕掛けようとするが、防戦一方だった黒ひげが初めて先制した。

 

 

 「黒水(くろうず)

 

 オールマイトのパンチを受け止める為に使っていた技。

 それを最初から使う意味をオールマイトはまだ理解していない。

 だがオールマイトが理解する前に、体が先に動いた。

 

 「引き寄せられている!!」

 

 

 慌てて踏ん張ろうとするが、高速移動してきたばかりのオールマイト。自分から向かっていた力もあり、留まることが出来ずに黒ひげの真っ黒な手に顔を握りしめられた。

 

 

 「オラッ!!」

 

 

 ドン!!と地面が揺れる。

 オールマイトがコンクリートの地面に叩きつけられ、地割れを起こしたのだ。

 

 「おっと、まだだぜ!」

 

 黒ひげはオールマイトの顔を握ったまま、真っ黒い影のようなものを放っていた手が急に光を発した。

 その異変に今度はオールマイトの長年の勘が訴えかけた!!あれはヤバいと。

 

 黒色じゃ無くなったからか、力も入るし引き寄せられる力もない。故にその手からの脱出には成功した。

 巨体にも関わらずスルりと抜けたし、黒ひげから距離を取るオールマイト。

 

 自分がいた場所が更に地割れを起こし、街中にもかかわらずに地震(・・)のような揺れが起こり始めた。

 

 

 「ゼハハハハハハハハ!!上手く避けたじゃねぇか!!それでこそNO.1ヒーローってもんだぜ!!」

 

 「黒ひげぇぇぇぇえええ!!!!」

 

 鬼のような形相でこちらに強力な攻撃を使用とするが、黒ひげはピクリとも動かない。

 オールマイトは最初このことを技の後遺症のようなものだと思ったが、それは違うと直ぐに理解出来た。

 

 黒ひげが笑っていたのだ。

 それも満面の笑みで。

 

 「おいおい!いいのかよオールマイト。今の地震でいくつものビルが壊れたぞ。確かここら辺には老人ホームがあったよなオールマイト。ゼハハハハハハハハ!!!!」

 

 「いいのか?ここで暴れちまって。俺は一向に構わねぇぜ!!ゼハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

 「ヒーローは多いよな、守るものが!!」

 

 

 黒ひげが余裕になった理由が分かったオールマイト。

 確かにこのまま続けば確実に死者が出る。オールマイトはそれが分かっているが、それでも今黒ひげを捕まえなければ取り返しがつかないと直感する。

 黒ひげ自身が悪の王様、オールフォーワンと同等の存在になるような気がしたからだ。

 

 だがオールフォーワンほどの不気味さは感じられない。精々小悪党が限界だろう。

 だが拭い切れない何かがある。

 

 「CAROLAIMASMASH!!!」

 

 

 先手必勝。

 あの引き寄せられる前に、先にオールマイトは仕掛けた。

 これ以上暴れさせないために。

 

 いつもの黒ひげならトンズラこいて逃げるが、今回はそうじゃない。

 そしてこれ程までに強い個性だったことにオールマイトは焦りを感じている。

 もし黒ひげが地震を起こせる個性なら……

 考えただけでもゾッとする。本物の天災が目の前にいるのだ。

 

 それを悪用することに躊躇いなどは一切ない。

 

 

 確実に捕まえなければいけない。

 

 

 

 両手をクロスして、黒ひげに手刀を繰り出すオールマイト。

 

 それに比べて黒ひげは、左の手で拳を作り大きく振りかぶっていた。

 それはオールマイトとは違い、カウンターを狙っているかのように。

 

 

 オールマイトの高速移動で手刀が黒ひげの首に到達すると思われたその一瞬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が割れた。

 

 

 「海震!!!!」

 

 到達すると思われた手刀が止まる。

 空気が割れ、空間が裂け、大気が震える。

 

 少し前に引き寄せられたオールマイトは、全く逆の斥力を感じることになった。

 しかもその衝撃は震えているかのようにこちらに伝わる。

 

 

 そしてオールマイトは黒ひげをぶっ飛ばしたお返しと言わんばかりの速さで、ビルを突き破り遥か彼方へと飛ばされた。

 

 

 「帰ってこられたら困るからな、ここいらでトンズラさせて貰うぜゼハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

 



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2話

 

 

 薄暗いBARの中、顔面に手のマスクをつけている異端児とBARのバーテンダーがいる。

 そして異端児、死柄木弔はモニター越しにある人物と対面していた。

 

 

『死柄木弔、彼は手放してはいけないよ。間違いなく君に成長を齎してくれるだろう』

 

 「あんなオッサンさっさと殺した方がいいって」

 

 モニターに写っているのはノーフェイスとでも言うのか顔がない。

 ガリガリと首の大動脈付近を爪を立てて掻きむしっている。

 

 「ゼハハハ!!つれねぇこと言うなよ死柄木。仲良くやろうじゃねぇか!!」

 「馴れ馴れしいんだ、のクソジジィ。塵にするぞ!」

 

 

『黒ひげも死柄木弔の事をよろしく頼むよ』

 「任せておけオールフォーワン。俺の為にも死柄木は必要だ」

『成程、ところでそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?君の目的とやらを』

 

 「そいつは野暮ってもんだぜオールフォーワン。お互い不干渉ってのが組む条件じゃなかったのかよ。この調子じゃ同盟も長く持ちそうにないなゼハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 「この──!!!」

 

 笑っている黒ひげに耐えきれずに死柄木弔が五本指を立てる。

 辺りにいた黒霧も動揺するが、それは杞憂に他ならない。

 

 「なんだ?どうしたの死柄木、俺様に触りたくなったのか??俺に男色は無いぜ!ゼハハハハハハハハ!!!」

 「は!?なんで効かねぇんだよ!おい!黒霧!!」

 

 動揺する死柄木弔。

 それもそのはず、自分が五本指で触れたものは何もかも塵として来たのにそれが目の前の男には通用しない。

 

 その事実だけが死柄木弔の脳裏に酷く焼き付いた。

 絶対だった自分の個性が、何の変哲もない小悪党のようなオッサンに効かない。

 そしてその事実が許せなかった。

 

 

 「私にも何が何だか」

 

 黒霧も顔は見えないが動揺している。

 死柄木弔の個性が効かないとしたら、もしや自分も……と。

 

『あまり虐めてくれるなよ、黒ひげ』

 「なーに、俺は何もしてねぇぜ。俺はただ黒霧のチェリーパイを食ってるだけだ。おい!次もってこい」

 

 「は、はい。ただいま」

 

 黒霧は皿拭きをしていたが、オーブンの方へと慌てて駆け出し。先程から作っていたチェリーパイを持ってきた。

 その数およそ10枚。

 

 サクサクと食べながら雄叫びを上げるかのように笑い、酒を飲む。

 

 

 「このチェリーパイは格別にうまい」

 

 「おい!オッサン!」

 「なんだよ死柄木?まだオッサンに用でもあるのか?小便でも漏らしたなら愛しの先生にでも替えてもらえよ!えっ!!」

 

 

『そこまでにして貰おう黒ひげ』

 

 怒り狂いそうな死柄木弔をよそに、オールフォーワンは黒ひげを制止する。さもなければ内部抗争が始まってしまうと分かっていたからだ。

 そしてオールフォーワンは知っている、黒ひげという人物の危険性を。

 それこそ死柄木弔のように小さい頃から洗脳(教育)していれば、自分の後継者になれる器である位には。そして驚異になった今、手元に置く方が監視しやすく死柄木弔に良い影響を与えてくれると思ったのだが……。

 どうやら、その目論見は半分成功して半分失敗したようだ。

 

 

 「ガキを虐めるのも可哀想になったからな!そろそろ俺もお暇させて貰うぜ!!じゃあなオールフォーワン、仕事が入り次第また呼んでくれや。お互いの目的のために、俺は武力を提供する。そしてお前(オールフォーワン)は情報を提供する。いかにも悪党じゃねぇか!!ゼハハハハハハハハ!!!!」

 

『ああ、恐らく君の目的も我々の目的と当るずとも遠からずだろう。なんせ君の必要な情報はオールマイト(・・・・・・)なんだから』

 「腹の探り合いは止せオールフォーワン。その言い方だと、またいい情報でも掴んだな?」

 

『まぁね』

 「仕事のできる人間はモテるぜ色男。それで?掴んだ情報はどんなもんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──雄英高校での課外授業の事さ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「私思ったことなんでも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

 「あ、はい蛙吹さん」

 

 場所は変わってバスの中。

 緑谷出久はあの人生を変える分岐点から、ただひたすらに個性持ちと戦えるようになるために訓練を重ねた。

 憧れだった人の提案を断り、自分が無個性であることにこだわった。

 その結果が少し昔まで流行っていた都市伝説を実現することだった。

 誰も信じなかった都市伝説を、自分が証明して見せたのだ。その年代のシニア世代からは賞賛されたが、緑谷達若者世代からすれば訳の分からない力だった。

 

 「緑谷ちゃんって本当に無個性なの?切島ちゃんの個性と似てるように見えるんだけど」

 「ううん、僕の力は個性なんて大層なものじゃないよ。あらゆる生物が生まれた時から持ってるものを引き出しただけだよ」

 

 「それなら私にも教えて欲しいわ」

 「え?」

 

 

 蛙吹の一言に戸惑う緑谷。

 自分が模索した唯一無二の武器を教えてとは、つまり僕の存在意義が無くなる。

 

 「ごめん、流石にそれは…」

 「私も悪かったわ、無茶なお願いして」

 

 

 

 

 

 

 「まぁ!でも派手で強ぇつったら爆豪か轟だよな」

 

 「爆豪ちゃんは切れてばかりだから人気でなさそう」

 「んだと!コラだすわ!!!」

 

 楽しい談笑。

 その数分後に本来ヒーローが戦っているものを目の当たりにすることになる。

 ただ一人、ただ一人だけこの中から本物の英雄が誕生するのはまだ先の話。

 

 

 

 「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」

 

 担任の相澤の言葉でワイワイしていたクラスメイト達は一気に真剣な眼差しに変わった。

 何か決意を決めたものに、何かを誓ったもの、そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 「──以上、ご清聴ありがとうございました」

 

 

 13号先生による個性がもたらす危険性についての持論を語り終えた。

 個性でそうなら、なら僕は、無個性はどうなるんだろう。

 恐らく1人だけ、恐らく僕だけはそう考えた。

 別に珍しいことじゃない、個性を特別視する人達のことは。刃物や拳銃と同じだ、使う人によって目的が変わると言いたいんだろう。

 だけどここの人達は必ず個性が、とまず個性の話をする。それを僕は差別として捉えてしまう。

 

 これは僕がおかしいんだろうか……。

 

 

 

 「──!!!」

 

 緑谷は探知系の個性がない今、この集団で一番探知能力が高い。

 それは気配を読み取る力であり、個性では無い。野生の獣のように本能で気配を探知したのだ。

 

 遅れてプロヒーローであるA組の担任のイレイザーヘッドが気配に気付いた。

 

 「──一かたまりになって動くな!!13号!生徒を守れ!!!」

 

 

 

 

 

 「なんだありゃ、入試ん時見たくもう始まってるパターンか?」

 「動くな!!あれは──」

 

 

 

 

 

 

 

 「──(ヴィラン)だ!!!」

 

 

 

 

 真っ黒な煙の中から出てきたのは、途方もない悪意の塊。

 何度か見た事がある、だが自分が対面することになるなんて初めてだ。

 

 

 「13号にイレイザーヘッド、先日頂いたカリキュラムにはオールマイトがここにいるはずなのですが」

 

 「こんな大衆引き連れて来たのに、オールマイト…平和の象徴がいないなんて………ガキを殺せば出てくるかな?」

 

 

 そして僕は目を疑った。

 初めて見た時は確かに働いているようには見えなかったし、まともじゃないと思っていた。

 でも、僕を救ってくれた人が……。

 

 

 僕が道を進むことを肯定してくれた唯一の人が──。

 

 

 まさか(そっち)側に居るなんて。

 

 

 

 「ゼハハハハハハハハ!!!オールマイトがいないって?まぁいい、プロ二人に卵か、肩慣らしには丁度いい!!!楽しんで行こうじゃねぇか!!!!!」




ちょっとした謎なんですけど、低評価つけている人の名前だけ表示されてないんですけど……。バクですかね?


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3話

 「お!オメェあん時の坊主か!?」

 

 ヴィランとして対立しているのに、黒ひげは全く危機感のないことを言う。そして声をかけられた張本人である緑谷出久は、どうしていいか分からないがとりあえず頷いて見せた。

 

 「無個性でオールマイトにも捨てられたオメェが卵たぁ。いい!!いいじゃねぇか!!!!ロマンってモンが詰まってやがる!!!!持たざる者がこのステージに立てたんだ、まぐれでも何でもいいじゃねぇか!!!!!」

 

 褒めているのか、それとも貶しているのか…分かり難いから緑谷は考えることを辞める。

 この人の思考はかなり吹っ飛んでいる、対面したことは今回を入れてたったの二回だけど、それでも昔から知っているかのような扱いが出来た。

 

 

 「だから!!!!!生き残ってみろよ!!坊主!!!!」

 

 

 

 

 「──お喋りはそこまでにしとけ、ヴィラン」

 

 迅速。

 まさに忍者の如く速さとしなやかさで黒ひげとの距離を詰めたイレイザーヘッド。すぐさま個性を使い、得意の捕縛術で黒ひげを縛り上げる。

 

 「お!なんだこれ!?」

 

 イレイザーヘッドは所謂マイナーヒーロー。

 オールマイトのようにメディアにあまり晒されていないから、戦法が分からない。

 よってヴィラン側の対応が遅れる。

 

 そしてイレイザーヘッドはその隙を見逃さなかった。

 

 

 縛り上げられた黒ひげはイレイザーヘッドによって引き上げられ、そして地面に叩き付けられた。

 

 

 「ガバッ!!!」

 

 叩き付けられた衝撃で黒ひげは血を吐き人体に致命傷とは行かずとも、重症レベルの傷を負わされる。

 

 

 「いてぇ!がぁーー!!イッテェェエエ工!!!!!」

 

 数合わせの雑魚ヴィラン達と同じように広間に転がされる。

 瞬く間に広間には20人近くイレイザーヘッドによって転がされていた。

 

 

 「チッ、あのオッサン…舐めプしやがって」

 「それでは私は卵達の方を」

 

 死柄木弔は悪態をつき、黒霧は生徒と13号の所へと個性を使って移動した。

 

 そして黒霧は手筈通り、固まって動いていた生徒とプロヒーローを引き剥がし、別々の場所へと転移させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゼハハハ!!なんでも吸い込むってか!?掃除機かよ」

 「品のないヴィランですね!!」

 

 イレイザーヘッドにダウンさせられたと思った面々がここに居れば目を疑っただろう。何せ言動はデカいものの瞬殺された雑魚ヴィランがプロヒーローでありこの中の雄英組では最強に位置する13号と互角の戦いをしていたのだから。……いや、むしろ13号は劣勢とも言える。

 

 

 

 黒ひげは13号のブラックホールが発動したと同時に、そこいらで伸びている雑魚ヴィランを手に取って13号に投げつけた。

 

 「な!?」

 

 13号は急いで個性の発動を止める。

 当然意識のないヴィランはブラックホールの中に吸い込まれることは無かった。

 

 「おいおい、プロヒーローともあろうモンが悪党一人殺れねぇのかよ!!」

 「僕達はヒーローですからね、殺しはしないんですよ」

 

 「それは違ぇだろ、見たところお前さん人を殺せねぇな?」

 「何を根拠に」

 

 「なーに、簡単なことだ。殺れる奴と殺れねぇ奴には決定的な差がある。あっちの包帯の兄ちゃんはやる気になれば殺れる奴さ。だがお前は違う、いや、既にやってるからテメェにこびりついてるのかもしれねぇなゼハハハハハハハハ!!!」

 

 

 恐らく黒ひげの言葉は的を射ている。

 実際13号はヴィランを一人として吸い取っていない、身動きを取れなくさせるために個性を使っているだけだ。

 決定的だったのが、黒ひげがヴィランを投げた時に個性を自発的に止めたことだ。そこまで見ればどれだけ馬鹿でも答えにたどり着ける。

 

 

 「俺とお前さんの個性(能力)は似ている。だが俺とは決定的な差があるんだよ」

 

 

 「それは俺が悪党だってことだ!!黒穴道(ブラックホール)!!」

 「それは僕の専売特許で──」

 

 

 すぐさま異変に気付く13号。

 それはまさにイレイザーヘッドの個性のように、全く個性が発動しなかったからだ。

 だが黒ひげから放たれる闇は止まってくれない。それは13号の足元に海のように広がり沼のように沈んでいく。

 

 「なんで、僕の個性が!!!」

 「不思議か?自分の個性が発動しないことが?俺に言わせりゃ常に個性が使える方が疑問だぜ」

 

 

 

 「何故疑問をそのままにしておく?」

 

 「何故個性は生物に宿る?」

 

 「何故無個性は生まれてくると思う?」

 

 「何故個性婚は存在すると思う?」

 

 

 

 

 黒ひげから語られたのは、この世でまだまだ分かっていない未だ未知の部分だった。

 個性とは何か、突然あらわれた超常の力。

 それを日常的に使うが本当は分かっていない。例えば火を吐く個性があったとしよう。

 そしてその次の疑問は、それはどうやって起こっているのか。特殊な器官がある訳でも、息が特殊な訳でも何でもない。

 なのに何故火を吐けるのか。

 

 揃えて皆は口にするだろう「分からない」と。

 

 だが分からないのはいい。それはまだ誰も調べたことがないのだから。

 だが何故それを分からないままにしているのだろう。

 

 

 それこそが黒ひげの最凶最悪とも言われる所以だ。

 誰も黒ひげを理解していない。

 彼は一人の敵である前に戦士である。

 そして戦士である前に黒ひげという人物は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──学者である。

 

 

 飲み込んだのは13号だけに非ず、辺りに転がっているまだ息のあるヴィラン達も闇に飲み込まれた。

 辺りには人の欠片もなく、ただ黒ひげ以外はいない。

 

 

 「ゼハハハハハハハハ!!!!プロヒーローもこんなもんかよ。この調子じゃ雄英高校落とすのも楽勝だぜ!!!!」

 

 懐にあるウィスキーを飲み、独特な笑い方で周りを見渡す。

 どうやら、もう一人のプロヒーローは最初の中央広間にいるので、自分も其方へと向かおうと決めた。

 

 

 「おっと、忘れてたぜ。今出してやるよ」

 

 

 「解放(リベレイション)

 

 そう言って闇から放たれたのは大勢の人。

 ヴィランから施設の建物やらと飲み込んだ何もかもが吐き出された。そしてその中に先程まで黒ひげと戦っていた13号も出てきた。

 

 「お前の個性も中々だが、完全に俺の下位互換。必要ねぇな」

 

 黒ひげは意識のない13号にそう吐き捨て移動した。

 途中にラッパ飲みした勢いで、喉に絡まった痰を宇宙服を着て倒れている奴の顔面に吐き捨てた。

 

 

 

 




黒ひげは能力とか以前に知略に長けていると思う今日この頃。
そして自然と多くなってしまう「ゼハハハ」いや、黒ひげって基本的これくらい笑ってるけどちょっと字ズラだとウザイな。


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