連載版 ハイスクールD×D ~タイコの戦士、異世界に現る~ (アゲイン)
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第一章 【不死鳥再炎上】
時は流れ、闇夜の街に戦士が現る


どうも、お久しぶりです。
アゲインです。
リハビリがてら新しい連載を始めていこうと思います。
できる時に更新というようなやり方になると思いますが、どうかお付き合いいただければと。
それではどうぞ。


 ―――戦いがあった。

 

 それは遥か昔のこと、「聖書」で語られている神と悪魔、そして堕天使たちが戦いを繰り広げた。

 何か別の勢力も混ざっていたらしいが、それをよく知る者は少ない。大戦と呼ばれたその戦いによって多くが死に、真実を知る者が口を閉ざしてしまったからである。

 それ故に現代では本当の結末を知る若者はおらず、新しい世代の彼らは自らの信じる生き方に従って、この人間たちの世界でそれぞれ生きていた。

 

 力ある存在として、社会の影で生きる彼ら。

 そんな彼らにとって無力といっていい存在である人間は格好の標的であり、悪魔は欲のために堕落を、天使は信仰のために導きを、堕天使は叡知のために収集を、それぞれ行ってきた。

 

 それは俺たち人間にとって侵略と違いなく、彼らの身勝手な行いによって起こる理不尽は多くの悲しみを撒き散らした。

 その中には、俺の両親もいる。

 

 

 

 ―――あれから数年が経ち、俺は今……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――……これで、終わりだ」

 

 狭い路地を抜け、行き止まりを背にした異形に刀を突きつけた。

 何度も逃げられ、ようやくここへと追い詰めたのだ。

 

「ちくしょう! 何なんだよお前は!?」

 

 人間のような格好に、背中から翼、頭には角を生やしたそいつは、悪魔と呼ばれる存在。

 こいつは夜な夜な人を襲い、多くの命を奪ってきた。

 俺はこいつの凶行をある筋から知らされ、こうして始末をつけるべくこの地へと来ていた。

 ここにくるまでに既に片腕を奪い、奴の足元には滴る血で小さな水溜まりができている。

 

「知らないって? それもまあ仕方ないことさ、最近になってちょいと名が売れ出したもんでな。こうして仕事をするのも簡単に数えられるくらいなもんさ」

「人間ごときにこの俺を……!!」

「ご同輩ならよかったか? それとも天使? どっちにしろここで終わるあんたなにゃ後はねぇ。

 

 ―――大人しく、死ね。あの世で命の償いをしろ」

 

 最期の抵抗かその鋭い爪を伸ばして飛びかかってくる。

 雄叫びをあげ、自らの死の脅威を打ち倒す覚悟を顔に浮かべている。

 だがな、

 

「……そんな顔を見せるなら、どうして殺したよ」

 

 ―――死にたかないのは、お前が殺した人たちだって同じだったはずだ。それなのに、お前は何人も殺したんだぜ。

 そんな思いを込めて、言葉にしても。

 

「死ねぇええ!!!」

「理解できねぇよな、分かってる」

 

 ―――それが分かっているのなら、そもそも殺すなんてことをしない。

 だってこいつは悪魔で、人間のことなんて下等生物としか思っていなくて。

 そして何より、これまでの生で奪われた経験なんてないような、そんな幸せな奴だったんだから。

 

「―――斬り捨て、御免」

 

 ―――だから俺の刃は、何の抵抗もなくそいつを斬り裂いた。

 

 力量差を考えれば当然の結果、所詮は格下しか相手をしてこなかった相手だ。確実にその命を絶つその一撃を、避けることすらできずに身に受け地面に倒れ伏す。

 力の抜けたその体が徐々に崩壊していく。俺の一撃を受け死んだ存在はこうして散っていく。それは悪魔に関わらず、命を奪った奴は等しくこうなる。

 

「……地獄で深く反省しな」

 

 どうせ届きはしないと自覚しつつ、それでも言わずにいられない。

 どれだけ言葉を尽くしたところで、自分とは違う常識の元で長く生きた相手の考えを変えることはできない。

 奴等にとっては遊びでも、こちらにとってはそれこそ生死を掛けた出来事。

 しかし。

 

「そうじゃなきゃ悪魔じゃないか。因果なもんだな」

 

 狐を狩るのなら、熊に出会うことを警戒しなければならない。

 それを怠って調子に乗った、馬鹿な奴だったという、ただそれだけのことだ。

 

「さて、行くか」

 

 依頼を終えたのだ、もうここにも用はない。

 俺は原型をなくした亡骸を背に、夜の細道を歩き出す。

 

 

 ―――俺の名前は「旗本 奏平」、悪魔に両親を奪われ人生を大きく変えられた男。

 烏天狗の師匠と世界を旅し、今は人間に害をなす存在を狩る傭兵として活動している。

 明日もまた、両者の境界線を犯す者を狩るために、どこかで刃を振るうだろう。

 

 ―――しかし、運命はまさかを繰り返す。

 

 この後に出会う依頼者によって、俺はこの世界で一番の騒動が起こる場所へと誘われる。

 それはまるで引力のように、自覚なく。

 そこではこれまでにないほどの衝撃が俺を襲うことになるのだが、この時の俺はそれを知らない。

 

 今はただ、あの悪魔に殺された人たちの冥福を祈るばかりで、

 

 

 

「―――ああ、こんな時でも……月が綺麗だ」

 

 

 いつか見た夜空に似た景色に、ほんの少しだけ思いを馳せるのだった。




読了ありがとうございました。
感想など大募集しておりますのでよろしくお願いいたします。
評価、ブクマも御一考


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依頼者は言う、かの地にて異変あり

どうもです。
二話目の投稿です。
早速の評価、感想をいただけたこと感謝いたします。
更新ペースは遅くなりますが、ちまちまと進めていけたらなぁ、と。



 ―――昨晩の戦いで悪魔を滅ぼした俺は、それを依頼した人物のところへと出向いていた。

 

 喫茶店の奥のテーブル席。

 指定されていた場所へと向かえば、そこに座ってコーヒーを啜る老年の男性が静かに佇んでいた。

 俺は特に挨拶をすることもなく、その人の前の席へと腰を落とした。

 

「終わったぞ」

「……君は情緒がないな。そして愛想もない」

 

 俺の短い台詞に若干の落胆を持ちつつも報告に安心した表情を見せるのは、俺に裏の伝を使い依頼をしてきた男だ。

 あまりそこら辺については知りすぎないようにしている、彼との関係はただの依頼者とただの執行者。

 

「ありがとう、これで安心して眠れる。私も、街のみんなもな」

「元市長さんだったな。仕事を確実にしてほしかったなら、俺みたいな奴じゃなくてもっとビックネームを頼ればよかったんじゃ」

「始めにも言ったが、君が一番近くにいたからさ。それだけの理由だが、君を選んでよかったよ。こんなにも早く事態を解決してくれるとはね」

 

 それは何よりだ、お互いにな。

 

「これが依頼料だ」

「……確かに」

 

 懐から取り出した封筒はそれなりに分厚く、おそらく色をつけてもらっていることが伺える。

 それを黙って受けとり、こちらの懐に納める。

 

「……それでなんだが」

「ん?」

 

 これでこの仕事も終わりか、そう思ったとき。

 彼の口からは何やら続きがあるようなことが発せられる。

 

「……君のその働きを見て、少し話したいことがある」

「なんだ、次の依頼か?」

「まあ、そう受け取ってもらって問題ない。君は『駒王町』というところを知っているだろうか」

 

 依頼というにはまずは問いかけるような口調である地域のことを聞いてきた。

 しかし、駒王町か。

 

「確か……上位貴族クラスの悪魔が治めているところだったか。そこがいったいどうした?」

「実はな、そこで堕天使が活動していたらしい。もう担当悪魔とその眷族が倒したらしいが、そこで無視できない情報があるのだ」

 

 

 ―――龍が現れたらしい、と。

 

 

「……本当か? もしそうなら……今代の」

「そうだ、『赤』の方であるらしい。これで『白』と出揃った。伝承通りであるのなら、世界が混乱に陥ることは確定している。

 そこでだ、君にはその『赤』のことを見てきてほしいのだ。世界が乱れるというのなら、せめてそのタイミングくらいは掴んでおきたくてね」

 

 元市長の言葉には街の人たちを守りたいという気持ちに溢れている。会うのは二度目だが、ここまで真っ直ぐに気持ちを向けてきてくれるのは、この短い間に信用してくれたということか。

 だが……。

 

「騒動の中心になるというなら、それ相応に危険ということでもある」

「そうだな、しかし私は君に頼みたいのだ。君は私の思いに真剣に向き合ってくれた。こんなことを言うがらではないが……はっきりと言おう。感謝と共に、憧れていると」

「……」

「いつか見た、正義の味方のようだった。多くを語らず、死者の無念を晴らすために悪を誅する。力を持ちながらそれを弱者のために使うのは、君にそれなりの理由があるからだと思う。ならば、こんな小さなところで活動を続けるのではなく、もっと大きな場所で多くの人間を救ってくれないだろうか。

 龍が暴れれば、それだけで多くの犠牲が出るだろう。それだけではない、龍の力を欲して様々な組織が動く。そしてまた、我ら力無き者が犠牲にされる。そうならぬよう、どうか力を貸してくれないだろうか。

 頼む、我らを救ってくれ、強き戦士よ」

 

 真っ直ぐにこちらを見据え、その思いを真摯に向けてくる。

 老年といっていい彼の瞳には、しかしそれを感じさせない熱量を持っていることがその輝きで理解できる。

 彼もただ、争乱に備えるというそれだけのために言っているのではないのだろう。

 

 

 ―――救ってくれと、自分と同じように、そう……いうことなのだろう。

 

 

「……ヒーローか、がらじゃないんだがな」

「……私からしたら、君は十分にそう見える。引き受けてくれるのなら勿論、できる限りの支援はさせてもらう」

 

 ああ……弱ったな……、そこまで言われちゃ心が動かないわけにはいかないな。

 期待に答えたくなってしまう。自分のやってきたことが、間違っていなかったのだと思うと、胸が熱くなってくる。

 

「分かった、やろう。長期の依頼も経験しておくべきだしな、何よりそんな面倒事が起きるなら、できるだけ関わっておきたい。事の起こりを見逃して、後悔するようなことはしたくないからな」

「おお……!! 感謝する、本当にありがとう。しかし……いいのか? 自分で頼んでおいてこういうのは何だが……一人で大丈夫なのか?」

 

 俺が依頼を引き受けたことに喜ぶ依頼人だが、俺が一人ということもあって依頼の達成を心配される。

 だがまあ、それは要らぬ心配というものだ。

 何故なら―――

 

 

「―――心配ご無用、俺の仲間は頼りになるぜ? それこそ、ドラゴンだって目じゃないくらいにな」

 

 不敵な顔をしてそう答えた。

 そう、俺は世界を巡るなかで、多くの協力者が味方となってくれた。その中には戦うことのできる奴もいて、それぞれがかなり手練れの戦士たちである。

 今は別のところにいるが、招集をかければ俺のところにやってきてくれるだろう。

 

「そんじゃあ、一足早く行かせてもらうかな。拠点の一つでも作っておいたほうがいいだろうしな」

「ああ、それなら任しておくれ。あそこには少し伝があってね、より近くで動けるよう手配をしよう」

「ほう?」

「確か君はまだ成人ではなかったね。そこでだ―――」

 

 そこで依頼人の老人が口にした内容は、想定していたものではなく寧ろ困惑するようなもので。

 しかし、それが用意できるものの上限と言われてしまっては、それを受け入れるしかなく。

 

 

「―――君には、駒王学園で学生として活動してもらおう。あそこには件の悪魔が学生として生活をしているらしいのでな。この方が何かと都合がいいだろう」

 

 

 と、いうわけで。

 転生者、旗本奏平。

 今生にて二度目の高校生活の幕が上がるのだった。




パタポン要素を早く出したい……
でも展開的にすぐには出せない……


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悪魔の治める地、駒王に戦士立つ

どうも、アゲインです。
三話目を投稿いたします。

駒王町って悪魔が治めている割にそこまで他の悪魔が住んでるわけじゃないんですかね?
調べた感じ学園に関係しない悪魔ってのがいないような……
その割にかなりカオスなキャラたちの巣窟となっているみたいですねぇ


 ―――そこは都会と言えるくらいには栄えていた。

 

 緑が少ない、ということもなく。

 しかしだからといって人の営みがないわけではない。

 それなりの繁栄をした、それなりの街。

 それがこの街を見て俺が抱いた感想である。

 

 

 

 ―――依頼者の協力により、手配された車両に乗せられた俺はそのまま空港まで移動して飛行機に乗り、目的地の近くまで空の旅を楽しんでいた。

 そしてまた車に乗せられて、この街の様子を眺めながら件の悪魔のところへと向かっている。

 

「……見た感じ、普通だな」

 

 運転手は寡黙なもので、道中では説明のとき以外は口を開かない。今の発言も反応されることなく、独り言となっている。

 しかし、ここの悪魔はどちらかといえば穏健派のようだ。みだりに人間社会に干渉することがないようで、街から不穏な気配などは感じない。これが頭の弱いやつならば、また違った雰囲気を感じることだろう。

 

 

 ―――リアス・グレモリー。

 

 

 この街を治める悪魔の上級貴族であり、確か現魔王である大悪魔の妹だとか。

 そんな大物がこの人間の世界で何をやっているのかと、道中でもらった資料で確認している。

 まあ、読んだときには頭が痛くなったがな。これじゃあただの女子高生だと、本当に悪魔なのかと、自分の中の常識を疑ったくらいだ。

 しかし街の様子を見る限りでは、これはこれでいいのだと思う。下手に厳格でも、下のもんに反発されて暴動が起これば元も子もないしな。

 眷族も年若い連中が多いとある、ある程度の甘さがなければ若者は着いてこないだろう。

 

「……まあ、だからといってそれだけでやっていけるかといえば文字通り「甘い」といったところか」

 

 箱入り娘には現実と理想のギャップがキツく感じることだろう。

 

「……あんまし勘違いしてないといいけどなぁ。貴族悪魔ってなんかやたらプライド高いし、……アイツとか、嫌な思いでしかないしなぁ」

 

 以前旅の途中で出会ったあの悪魔もまた、上級悪魔の貴族であった。奴とは意見というか、見解の違いというか、こっちにも勘違いがあったりしたからお互い様というところもあるのだが……とにかく反りの合わない奴なのだ。

 

 あの金髪とはまた決着をつける約束をしていたが、できれば今後とも会わないようにしたいものだ。

 

「ま、今はこっちのことこっちのこと」

 

 今はそんなことを思い浮かべるよりも、この土地でやっていけるかを心配しなくては。

 そうこうしている内にそれなりの大きさを持つ建物が見えてくる。おそらくあれが目的の場所、駒王学園だろう。

 校舎の外観を頭に入れつつ数分後、俺たちの車は来賓用入り口から敷地内に入る。

 車が停止し、運転手が降りて後方の扉を開き俺の降車を促す。

 

「ありがとう、お世話になりました」

「……いえ、仕事ですので」

 

 相変わらず言葉は少ない。

 しかしまあ、初対面の相手ならこんなものだと納得できるし、この人の言う通り仕事はきっちりしてくれている。愛想のなさをどうこう言うのは傲慢というものだ。

 

 施設へと歩き出した俺を深くお辞儀をしながら見送る運転手。彼にはまた拠点となるところまで送ってもらう必要があるのでここで待ってもらうことになる、挨拶は短く済ませよう。

 

 施設の受け付けで来客用の名札をもらい、ついでに彼女がいる場所を聞いておく。職員にも挨拶をしておくべきだろうが、まあ後でかまわないだろう。こっちは依頼主が書類等を用意してくれているし、某かの手段によってそれは既に受理されているらしいからな。

 

 廊下を歩き、階段を登り、徐々に強まる魔の気配に近づいていく。旧校舎を根城にしているらしい彼女たちはオカルト部なるものを隠れ蓑に悪魔としての活動をしているのだと。

 ……まあ、それがほどほどのものであるのなら俺がとやかく言うことはない。俺の標的はあくまで人間と幻想の境界を侵す者、それだけだ。

 

 そして一つの部屋の前まできた。魔の気配からしておそらくここがそうだろう。中から何か話し声が聞こえるが……時間もないし、お邪魔させてもらおう。

 そう思い扉を軽く叩いて中にいるはずの悪魔たちへ来客の存在を知らせる。少しして、入室を促す若い女性の声が聞こえてきた。

 それに従って中へと進んで―――

 

 

「―――てめぇ、何でこんなところに。焼き鳥野郎!!」

「―――こちらの台詞だ。貴様こそ何故ここにいる、人間!!」

 

 

 ―――進んで、中にいる面子を確認して、そいつがいた。

 

 お互いに、毛ほども相手に好意など持っていない。そんな相手であることがこのやりとりだけで周りに伝わるほどに、その二人の声は敵愾心とでもいうようなものに溢れていた。

 

「な、何? 何なのあなた……?」

 

 俺の登場でいきなり剣呑な雰囲気になってしまった室内で、この部屋の主であろう少女が疑問の声をあげている。

 しかし俺たちはそんなことに使えるような優しさなど持ち合わせておらず、ひたすらに目の前の怨敵を睨み付けるのみ。

 眼光で殺す。

 そんな意図さえ込めた視線のやりとりがしばし続き、別の女性悪魔にことの次第を聞いてくるまで続いた。

 

 ああ、どうしてこうなるのやら。

 幸先の悪さにどうにも嫌な予感がしてきた俺は、席に促されながら奴を睨み付けることをやめない。それは相手も同じ、一瞬たりとも視線を切らない。

 その美男子というような顔を憤怒に染め、今にも襲いかかってきそうなところをギリギリ押し止めている。

 

 

 

 ―――ライザー・フェニックス。

 

 

 悪魔の上位貴族であり、祖に不死鳥を汲む存在。

 そしてかつて俺が戦った相手であり、自分の未熟ゆえに決着を着けることができなかった相手。

 そんな奴が何故、こんなところに?

 疑問は尽きないが、しかし。

 この敵地とも言えるような場所ですることはまず、自身の立場を説明することであると考えて大人しくするのだった。




読了ありがとうございました。

というわけで、ライザーとのフラグが立ちましたね。
主人公と関わったことがある彼がどう変わっているのか、今後の展開にこうご期待。


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顔合わせ、品定めはお互いに

どうも、アゲインです。
多くの方に読んでいただけてとてもありがたいです。
今回はリアスたちとの初顔合わせ。
はたしてどうなるのか……。


 因縁の相手、ライザー・フェニックスとの突然の邂逅。

 反射的に向け合った敵意によって空気が重くなり、一触即発の状態となってしまう。

 お互いに警戒を高め合う俺たちの様子に誰も口を開けない中、不意にライザーが不敵な笑みを浮かべて背を向けた。

 

「話すべきことは話した。後はそちらでどうとでもするがいい」

 

 ではな、とそれだけ残し魔方陣を展開させその場を去っていくライザー。何とも肩透かしな態度のにいささか驚いたが、それはそれとして。

 一先ず話をややこしくなるような存在が消えてくれたことに安堵した俺は、改めてリアス・グレモリーたちとの顔合わせを行っていた。

 

 

△     △     △    

 

 

 テーブルを挟み、赤髪の女悪魔と対峙してる俺を観察するように彼女の眷属がその背後に控えている。

 割合は女子がほとんど、それなりに強そうな雰囲気を漂わせているのが三名程いるが、俺が注目するべきは男の方だ。

 

 優男風な奴の隣にいる、この中にあって違和感を感じさせる黒髪の悪魔。

 何故か敵視されているようで眉間にしわの寄った表情を向けられてきているが、記憶の中の情報と照らし合わせてみる限りその理由に思い当たるフシはない。

 

(……しかし、これが今代の赤龍帝か)

 

 名前は確か、……そう兵藤一誠というんだったか。

 転生悪魔でもあったはずだし、成り立てではこんなものだろうか。こうして面を付き合わせているが、脅威と感じるほどのモノを感じない。

 

「それで、あなたはいったい誰なのかしら?」

「……すまんね、自己紹介が遅れたのは謝るよ」 

 

 観察に時間を掛けすぎたのか、何も言葉を発しなかった俺に対して少し苛立った様子で話しかけてくるグレモリー。

 それに対して謝罪しつつ、今度は目の前に彼女に視線を移す。

 

「俺は旗本奏平、各地で依頼を受けて活動するフリーの傭兵みたいなものだ。

 今回はある依頼人からの指示でこの学園に入学することになったもんでな、それにあたって御宅らに顔見せしといた方がいいと思ってこうして参上したわけだ」

「傭兵……? たかが傭兵がどうしてライザーと関わりがあるのよ」

「それは俺の専門がもっぱらあんたらみたいな人以外の連中だからさ。まだ活動して日は浅いが、それなりにやらせてもらってる」

 

 俺は今十八歳。

 十五になるまではひたすら修行して、師匠のお墨付きが貰えるようになってからも旅をしたり何だりで実際に傭兵として活動してきているのは一年を少し越える程度の若僧だ

 そんな旅の途中で出会ったのが、あの焼き鳥野郎なわけだ。

 

「標的を追ってる最中に奴とかち合ってな、『横取りは許さん!』とか言われてやむ無く戦いになったのよ。酷い目にあったがなんとか痛み分けに持ち込めたってんで、まあ目の敵にされてるのさ」

「ライザーと戦ったっ!? それも、引き分けたですって!!」

 

 俺と奴のことを話すと、目の前の彼女は思わずといったようにして席から立ち上がった。

 まあ、ただの人間が上位悪魔と戦って生き延びられるはすもない。それもフェニックスの末裔であるライザーが相手であったのだ、驚くのも無理はないだろう。

 

「こっちもそれなりの代償を払ってのことだ。戦闘後は一月ほど身動きすらできんかったんだからな」

「それにしたって……いえ、何か強力な『神器』を持っているのなら……」

「まあ……そんなところだよ。さて」

 

 思考に入ってしまった彼女は置いといて、顔見せも出来たことだし帰るとするか。

 僅かに警戒の色が濃くなった部室の中から退散しようと腰を上げようとしたのだが、

 

「―――待ちなさい」

 

 それはこの少女によって押し止められた。

 

「何だ? 話はこれで終わりってことでいいだろ? 依頼内容についちゃ守秘義務で話せないぜ」

「それについてはどうでもいいわ。それよりも、傭兵というのなら私たちに協力しなさい。報酬は出すわ」

「……協力って?」

 

 

 

「私たちは一週間後、ライザーと戦うわ。それにあなたも参加しなさい」

「そうか、断る」

 

 

 

 やっぱりそんなことかと、投げ掛けられた言葉に切り落とす勢いで拒絶を告げる。

 そのあまりの切り返しの早さの二の句が告げないグレモリーの彼女を余所に帰り支度を済ませた俺はそそくさと部室から退散したのだった。

 後ろから聞こえてくる怒鳴り声を尻目に、これからのことについて頭を巡らせる。

 彼女たちがライザーに掛かりきりになるのなら、暫くこっちにちょっかいをかけてくることもないだろう。

 久しぶりとなる学生生活、騒動に関わるまではせいぜい楽しませてもらおうか。




まあ、断りますわな。
巻き込まないでよね、そんな面倒なこと。

読了ありがとうございました。


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駒王学園、俺は異色の高校生

どうも、アゲインです。
顔合わせも一先ず済んだところで、ようやく学園に潜入です。

人界の魔境、駒王学園。
何かここまで変な奴らが多いと一般の生徒や教師に隠している意味ってのが薄い気がするんですけど、そこんとこどうなんですかね?


「―――と、いう訳で今日から皆と同じ高校生になった旗本 奏平だ。色々と事情があって今まで休学してたんだが、この度無事に復学するに至った次第だ。

 年は上だが君たちよりも学生として後輩だ、どうかお手柔らかに頼むぜ」

 

 オカルト部での邂逅から数日後、俺は黒板を背にしてこれからしばらくの間一緒の生活を送ることになる学生たちへと自己紹介を済ませていた。

 依頼主の伝によって俺は今まで病気によって休学していたことになっている。この学園の理事はあの悪魔に従ってはいるものの、そこまで融通が効かないわけでもないらしい。事情を話してみれば快く応じてくれたようだ。

 そんな学園側の協力もあってか、俺の潜入はとてもスムーズに進んでいる。

 

「それじゃあ、旗本の席はあそこの空いてる所だから」

「分かりました」

 

 彼の指示に従い空いていた席へと腰を下ろす。

 様々な視線がこちらに突き刺さってくるが、それを遮るようにして担任が手を叩いて注意を促す。

 

「はいはい、質問なんかは後にしてくれ。今の時間で皆に伝えなきゃいけないことがあるんでな。

 んじゃまずは……―――」

 

 そこからは特に言うことはなく、ただの連絡事項が伝えられていくだけだった。

 皆への第一印象もそこまで悪いもんじゃなかったみたいだし、上手く潜り込めたようで出だしとしてはまずまずといった所だろう。

 このままの調子でここの悪魔たちが普段どんな暮らしをしているかをじっくりと調べさせてもらうとしよう。

 

 

 

△     △     △ 

 

 

 

 それからは授業の合間に今までのことを質問されたり、逆のこちらから質問をしたりなどを繰り返して徐々にこの学園についての情報を得ていった。

 悪魔が根城にしているだけあって中々常識的とは言えない出来事もあったようだが、話を聞く限りでは奴等が何か悪事を働いているようなことはないようで安心と言えば安心だ。

 ……しかし。

 

「どうもにも、評判が悪いのが何人かいるようだな」

 

 悪魔がいる影響と言えばいいのか分からないが、はっちゃけが著しい奴がいくらかいるらしい。

 その中でもかなり評判が悪い男子三名、これには少しばかり頭が痛くなるほどだ。

 

「……何やってんだこいつら、モラルってもんがねぇぞ」

 

 いくら思春期の男子とはいえ、やっていいことと悪いことはあるだろうに。

 この年でまだ覗きなどをやってるのもどうかと思うし、それを見咎められて逆ギレするとか……どういう神経をしているんだか。他にも明らかになっている悪行の数々、そのほとんどが彼らの性欲による行動だ。

 

「しかもの一人がよりにもよってあの男かぁ……」

 

 兵藤一誠。

 あの時の元人間の転生悪魔、更には赤龍帝という危険物を身に宿す、今後というか既に騒動の中心になりつつある存在が、だ。

 そんな奴が、上位悪魔の庇護下にいるのだ。

 感情的に振る舞う主人、そしてそれを諌めることもない眷属たち。

 

「……これがまだ、理性的な性格なら良かったんだがなぁ……」

 

 身内に甘いというのも考えものだな、これじゃあ相手のことを省みるとかは期待できそうにない。

 

 ……まあ、まだ結論を出すには早すぎるか。

 俺はまだ周りの意見しか聞いていないし、結局は直接あいつらの話を聞くまでは何も決めるわけにはいかない。

 一先ずはこちらの地盤を固めながら、ゆっくりと情勢を伺わせてもらおう。

 幸い奴等はライザーとの戦いで忙しい、こちらにちょっかいを掛けてくるまではほっとくことにしよう。

 

 

 

 そうして奴等が帰ってくるまでの間、俺は拠点の内装造りや情報収集、仲間への連絡や別の依頼主などとの仕事の調整などを行いながら時間を過ごしていった。

 久々に煩わしさを感じずに行動できる幸せというのを噛み締めていたんだが、それを神様がよく思わなかったのだろう。

 

 

 ―――戦いを終えたらしい問題だらけの転生悪魔が、校舎を歩いていた俺の前にどう見ても面倒事を抱えてるって表情で出向いてきたんだからな。




読了ありがとうございました。

感想でパタポンのこと知っている方が多くて結構嬉しいですね。
もう少し先でないと要素が出せないのがもどかしいですが、どうかお待ちください。
それでは。


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不本意な対峙、それは俺には関係ない

どうも、アゲインです。

屋上って憧れませんか?
自分の通っていたとこは解放されてなかったんでちょっといいなぁ……なんて思ったり。
まあそんなところに呼び出されるのは勘弁ですけど。


 話があると言って奴に連れてこられたのは、普段は解放されていないらしい校舎の屋上であった。俺たちはいつぞやのように向き合いながら、屋上を囲うフェンスを背にそいつ―――兵藤が口を開くのを待っている。

 

「さて、話ってのは一体何だ? わざわざこんなところに連れてこられたんだ、内密なもの、と認識していいんだろうな」

「……力を貸して欲しい」

 

 ん~?

 そいつは一体どういうこった?

 

「漠然としすぎててどうとも言えんね。帰ってきてるってことはライザーとの戦いなら終わったんだろ。今さら必要とは思えんが」

「このままじゃ部長が好きでもない奴と結婚しちまうんだよ!! あのライザーって野郎と、政略だかのためだけに!! そんなこと許せるわけないだろうが!!」

「……ああ、そういうことか」

 

 なるほど、よくある話か。

 貴族社会というものを形成している悪魔の間では珍しい事ではない。家同士の関係を強化するために婚約関係になるのは人間でもしていることだ。

 今回のもそういった事情に納得できなかったグレモリーの令嬢が条件を出してきたってことだろう。そんであえなく負けてしまい、泣く泣く相手に従うことになったと。それをこの男はまだ諦めきれないらしい。

 

「俺たちはライザー一人に手も足も出なかった! でもお前は前にライザーと戦ったことがあるんだろう? 頼む、部長を取り返すために力を貸してくれ!」

 

 つまるところ傭兵である俺にカチコミの手伝いをしろと言っているのだ、この男は。

 頭を下げて頼み込む姿には真摯さしかなく、話に聞いたような卑しさなど欠片もない真っ直ぐな姿勢を見せている。

 しかし。

 

「断る」

「なっ!?」

 

 だがそれを、俺が了承することはない。

 兵藤は俺が断るとは思ってもいなかったのか、驚いた表情でこちらを見返してくる。

 それに対し、俺がこいつに向ける感情はひどく冷めたものだ。

 

「俺の仕事のモットーとしてはな、それぞれの社会にあまり干渉すべきではない、というのがある。人間社会に悪影響を与える連中にはそれこそぶち殺すまで選択肢は広がるが、この件に関しちゃ悪魔の身内でのこと。

 ここに余計な手出しをすれば、悪魔の面子を潰したとして報復なんかが行われる可能性がある。もしそれが俺の周囲に降り掛かるだけじゃすまなかったら? 無関係な人間がもし、犠牲になれば……―――

 

 

 ―――その責任をどう取るつもりだ、お前?」

 

 悪魔貴族に喧嘩を売るということは、当然ながらそういうことが起きうるということだ。いくら穏健派が主流とはいえ、あいつらにとって俺たち人間は下等生物に過ぎん。こいつらみたいに悪魔の関係者ならまだしも、完全部外者の俺が手を貸したとなればそれを理由に他の連中がこちらに矛先を向けるかもしれない。

 

「そ、それは……」

「それに、報酬もない依頼を請け負うわけにはいかない。仮にも上位悪魔とやりあおうってんだ、それこそ命を賭けられるだけのもんがねえぇととてもじゃねぇが……無理ってもんだぜ」

 

 悔しそうに顔を歪ませる兵藤、奴にとっては最後の頼みの綱でもあっただろうが、

 

「悪いが俺には関係のないことだ」

「……見捨てるっていうのかよ」

 

 

 

 

 

 

「―――悪魔の分際で人情語られても、寒いだけだぜ?」

 

 

 

 それだけ言い残し、俺はまだ何かを言いたげだった兵藤をそのままにして早足で屋上を立ち去った。悪魔の中にも人間に近い感情や思想を持った奴等がいることは知っているが、それはどうしたって上からの目線に過ぎない。分かち合えない価値観というのを、どうしたってお互いが持っているのだから。

 そしてグレモリーの眷属たちが主にどんな感情を抱いているにせよ、それを理由に俺が動くことはない。

 

「……悪魔のことだ、身内のことくらいどうにかしてくれよな」

 

 ただでさえこっちの社会のことで大変なんだ、そのくらいのことはそっちで解決してもらわないとこっちの身が持たん。あいつらは当事者だ、ならば解決はあいつらの手でするのが筋というもんだろう。

 

(―――しかし、気になることを言っていたな。ライザー一人に……どういうことだ?)

 

 生徒でごった返す廊下を歩きながら、奴の話の中で唯一気になったことを頭で反芻する。

 悪魔の今流の戦いと言えばレーティングゲームとか言う、スポーツ染みたものだと聞いている。お遊びであっても当然魔法だなんだというのが飛び交い、魔剣やなんかを斬りつけあうのだ。

 

(たしか複数人でやりあうものと聞いていたが……あの焼き鳥野郎、どうやらかなり実力を上げてきたようだな)

 

 脳裏で囁く予感のようなものを感じながら、それでも今しばらくはこの生活に身を浸しておくことにする。

 兵藤のあの様子なら、どうしたって事態は動く。直情的な奴ならば、自分の恩人のためにそれこそ命を投げ出すことも躊躇わないだろう。それまではこのささやかな平穏を楽しんでおいてもバチは当たらないだろう。




読了ありがとうございました。

ライザー強化フラグ、需要があるとは思いませんがオリジナル要素ということで。
どうかお許しください。


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招待状、かの地へと誘うは因縁

どうも、アゲインです。

フラグは立った、強制イベントってやつだ。



 兵藤から協力を乞われた、その日の夜。

 拠点としている一軒家のリビングで、テーブルに着きながら俺は手に持つそれについて少しばかり頭を悩ませていた。

 特に危険ではないものの、特別感が漂うそれはどうみても厄介事を招くこと確実だろう。

 

「……何つうか、機先を制されたって感じだな、こりゃ」

 

 あいつと面合わせて何もないとは思ってなかったが、こうも直接的な手に出てくるとは。

 

「しかしなぁ……」

 

 戸惑いというか、こうもあからさまとなるとどう扱っていいものか判断がつけられないな。絶対罠だろうし、じゃなけりゃ俺を招く意図がわからん。

 

「とりあえず読んでみるしかないか、この手紙」

 

 何はともあれこの危険物を処理しなければ事態が進まんのだ、それならこのやけに高級そうな封筒を開く以外に選択肢はないだろう。

 できれば見たくはないが、やらなければもっと面倒なことになりそうだしもうやるっきゃないよ。本当は嫌だけど。

 封をしてある蝋、火の鳥のような紋様をしたそれを丁寧に剥がし、三つ折りにされた中身を取り出して内容に目を通していく。

 

「ええっと……、はあ……うん? ああ……えぇ……マジで?」

 

 やっぱだったわ、クソ面倒なやつだったわ。

 

「『婚約発表の場に余興として参加してください』って……頭沸いてんじゃねぇかあの野郎」

 

 手紙の内容は色々と長ったらしい表現で綴ってあったが、要約するとそういうことになる。

 近々フェニックス家とグレモリー家、両家が交わしていたライザー・フェニックスとリアス・グレモリーとの婚約を公式のものとして発表するのだという。

 俺にはその場にて行われる余興に是非とも参加していただきたいとかなんとか、何とも笑わしてくれるご要望が書面にて記されていた。

 

「こんなもん誰が行くかっての」

「おや、そんなことおっしゃらないでくださいまし」

 

 ―――っ!!

 

 背後から声、聞き覚えのないそれを耳にした瞬間思わず飛び上がりテーブルを越えて相手に向き直る。

 あまりにも唐突に現れたその存在に、警戒心が一気に上昇する。この拠点には師匠仕込みのそれなりに感度の高い結界を張っている。侵入者がいれば一発で俺に分かるようなやつをだ。にも関わらずこいつはそれに一切引っ掛かることなく、喋り出すまでこれっぽっちも気配を感じさせないで俺の背後に現れてみせた。

 

「……やってくれるな、こいつはいよいよ腹括るべきか?」

「まあ、そのように警戒なさらないでくださいませ。私はお兄様から出席の念押しをしておくようにと言われただけで、あなた様に危害を加えることはございませんから」

 

 そういうと目の前の少女はスカートの裾を掴み優雅に挨拶をしてみせる。

 

「フェニックス家が末子、ライザー・フェニックスの妹にして眷属、レイヴェル・フェニックスと申しますわ。レーティング・ゲームでは『僧侶』を担っておりますの」

 

 

 ―――どうぞお見知りおきを。

 

 

 因縁の相手とも言えるライザーからの使者。

 奴の血縁者を名乗る少女はその容姿と言動とは裏腹に、肉食獣のように獰猛な笑みを浮かべ瞳には爛々とした光が宿っている。

 姿勢を正した彼女に促され、俺は近くの席へと座り直した。

 彼女はその場に立ったまま楽しげな様子で話をし出す。

 

「あなた様に出席を願う余興とは、言うまでもないことですが、我が兄との因縁の解消でございます。

 御兄様が現魔王の妹リアス・グレモリーとの婚姻を結ぶに当たって、拭わねばならない唯一の汚点。あなた様と戦い、痛み分けるという悪魔貴族として無視できない事実。

 

 ―――それをそそぐために御兄様が望むのは、完全なる勝利です。

 

 婚姻発表の場には多くの貴族が来られます。その場にて力を証明できれば誰も文句の付けようがなくなる。御兄様にとって願ってもいないこの機会、逃すわけにはいきません」

 

 そこで言葉を切った少女は改めて姿勢を正し、綺麗なお辞儀をしてみせる。

 

「こんなことを願うのは無礼であることは重々理解しております。ですが、私どもにとってこれほどの好機が今後訪れるとは考えられないほど都合のよい条件が重なっています。

 それこそ、これが運命の采配であるかのように。

 どうか我ら眷属、そして主たる人の願い。聞き入れて頂けないでしょうか」

 

 頭を下げ、最大限の礼をもって懇願の姿勢を見せる少女。

 それほどまでに、彼女がこんな姿してみせるほどに、奴の願いは重いものなのだろう。それを理解しているからこそ、人間ごときにこうまでできるのだろう。

 それは傲慢こそ美徳とするような、普通の悪魔の姿ではない。

 主のため、何よりも家族のために、どこまでも真っ直ぐな少女の行動は、何よりもその願いを叶えたいという思いからくる誠実さに溢れていた。

 その姿はこれまで出会ってきた奴等の中で、仲間と言える者たちに勝るとも劣らない心の輝きがあることを俺は彼女の内に感じている。

 それは覚悟の光だ。

 この少女はこの一瞬のために自身の全てを擲つという覚悟をしてここにいる。

 

「……頭を上げてくれ」

 

 ―――ならば。

 

「返答を、いただけますか」

「悪魔の貴族の娘とあっても、こうまでされちゃあ男が廃る」

 

 

 ―――ならばこちらも。

 

 

「俺はな、悪魔だとか天使だとか、とにかく聖書に出てくる連中ってのが嫌いだ。あいつら人間の社会ってのをどうしてか軽視してるしよ、滅茶苦茶だ……やってることが。これっぽっちも世界を平和にしちゃあくれない。

 傭兵まがいのことをしてるのは、そんな世界をどうにかしたいと思ったからだ。そして依頼を受けてる以上、今の俺はそれを達成できない状態になる可能性を出来るだけ避けなきゃいけない。

 

 

 

 ―――だがいいだろう、丁度いい機会だ。実に劇的な展開だ。

 因縁の相手との戦いに、こうもお膳立てをしてもらって尻込みしてちゃあ、俺は戦士として失格の烙印を師匠に押されることだろうぜ」

 

 

 

 ―――容赦はすまい。

 

 

 

「その余興に付き合ってやるよ。あの野郎に伝えときな、

 

 

 

 ―――全力で叩き潰して、完膚なきまでに勝利するのはこの俺のほうだってな」

 

 再戦、望むところ。

 溢れる武威を呼気に込め、やり返すかのように圧を発する。

 それを受けた少女は驚いたのかややふらついたものの、この俺が兄と戦うに相応しいと認めてくれたのか、それでこそだとでもいうようにまたあの好戦的な表情を浮かべ笑う。

 

「そのお言葉、確かにお伝えいたしますわ。日取りが決まり次第、追って連絡を致します。

 それではまた、次は決戦の場にてお会い致しましょう。ふふ、ふふふ」

 

 優雅な笑い声を響かせながら、足元から生み出した闇に身を投じ消えていく少女。そして来たときと同じ様に物音をさせることなく、闇の幕もまた消えていった。

 それを視界に入れながら、俺の思考は既にライザーとの戦いについて目まぐるしく動いていた。

 眷属である少女であの力量、ならば主であるライザーの力とは果たしてどれほどのものとなっていることだろうか。

 計り知れないその脅威―――しかし、受けて立つと宣ったのだ、俺は。

 

 

 完全に少女の存在が消え去ったリビングを後にした俺は、今できる最高戦力を整えるため幾ばくもない準備の時間を無駄にしないよう早速行動を始めるのだった。

 慌ただしく数日を過ごした後、またもや手紙による通知を受けたのは準備が整ったその日のこと。

 レイヴェル・フェニックスに連れられて、冥界へと降り立ち。

 

 

 

 

 

 ―――そして俺は、因縁の相手と対峙した。




読了ありがとうございました。

果たしてライザーはどこまで強くなっているのか。
主人公がそれに対抗する術とは。
はたまた別の展開が待ち受けているのか。


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不死鳥の男、執念にて過去を越え

どうも、アゲインです。

ようやく強化ライザーのお披露目ができる。
不死鳥がドラゴンに劣るって?
それドランザーの前でも言えんの?


 冥界の空は俺たちの世界とは違い、何となく不安になるような色合いをしていた。空気にも独特なものがあるものの、特に苦しいということはなく体調は極めて良好だ。

 堅い地面を踏みしめて、円形に囲まれた会場の中心に立ち迎え撃つかように不動の構えを取っていた奴が、俺とレイヴェルが現れたのを機に瞑っていた瞳を開ける。

 

「……来たか、旗本奏平」

「……よう、ライザー・フェニックス」

 

 名前を呼び、お互いの存在を確かめ合う。

 部室での短い邂逅とは違い、邪魔の入らない近距離で相対すればこの男がどれほどの鍛練を積んできたのかがある程度理解できる。

 

「とりあえず、おめでとうございますって言っとこうか。俺たちからすりゃ結婚ってのは人生の墓場だなんて言われちゃいるが、おたくら悪魔にとっちゃそれこそ死活問題だ。だけど眷属たちのケアはキチンと考えとけよ? あんまし奥さんに構ってばっかいると悲惨な事態になるからな」

「ふん。会って早々減らず口か、変わらん奴だ。

 だがその手には乗らん、それで以前は痛い目に会っているからな」

 

 かつてこの男との戦い。

 お互いに瀕死に成りかけるまでの死闘を繰り広げたときも、こんな風に舌戦のようなものから始まったのを思い出す。

 あの時はまんまと挑発に乗ってくれたもんで、飛び掛かってきたところを思いきりぶっ飛ばしてやったもんなんだがな。

 

「残念、まあいいさ。あん時みてぇに何でもありの場面じゃねぇ。正々堂々、真正面から戦わねぇと意味がない。今は、そういう場面だもんな」

「その通りだ、これは余興という名の決闘。己の誇りを賭けた戦いだ。観衆に囲まれたこの場において、薄汚い手段を使うことは許されん。

 そして何より―――」

 

 

 

 ―――そのようなことはせずとも、今の俺は十分強い。

 

 

 

「……っ!!」

 

 熱風の圧、それも生半可なもんじゃない。

 例えるのなら火災現場、山火事が真正面に突然現れたかのような暴風。一瞬で体表の水分を蒸発させられ、皮膚の薄い部分に裂傷が走る。

 一瞬にして現れた壁とでも言うしかない炎。それを成しているのはたった一人の悪魔、しかし奴はそれをまるで準備運動だとでもいうように魔力を更に高めていく。

 

「不死鳥の力は破壊と再生を司り、敵対するものに死を与え自身に不滅の護りを与える。相反する性質の火焔を押し固め、身を覆う鎧と化した。

 これこそが、お前を打倒するために編み出した力の集大成っ!

 刮目せよ!! 両極を体現する、我が『相剋せし不死鳥の獄炎鎧(デッドエンド・バース)』を!!!」

 

 目の前に迸っていた炎の壁が、その威圧感を上昇させ人形のシルエットへと収縮していく。徐々に小さくなっていき、遂に完全な姿を見せる頃には最早先ほどまでとは比べ物にならないほど、

 

「……化物が、何もそこまでしなくていいだろ。お前そりゃもう……御本家と遜色ねぇんじゃないのかよ」

 

 

 

 ―――今まで見てきた悪魔の中で、一番と言っていいほど悪魔染みていた。

 

 

 

「現魔王サーゼクス様は、その御力を解放したとき『滅びの魔力』そのものとなられる。その力を持つが故に超越者とも言われ、本気になられたあの方の前にはかの二天龍とて敵うまい。

 

 これもまた、それに倣って会得した。

 自身の魔力、その真髄に迫ることで悪魔としての本質、力の限界を越えた今の俺は上位神器たる神滅具に差し迫る」

 

 鍛え上げられた肉体を包むのは、硬質的な質感を感じさせる赤を基調とした重厚な鎧だった。

 炎と鳳の意匠を全身に刻み、所々に金と黒の装飾が施されたその鎧の威容。しかし、一番に注目するべきところはその背面で浮かぶそれらであるだろう。

 

「天使どもの真似事のようで癪だが、円環を用いることによって魔力を循環させるこの方法が一番安定して力を扱うことができる。

 さて、こちらの準備はこれで完了した。

 

 ……次はお前の番だ、旗本奏平」

 

 光帯、と言い表すしかないような熱量を秘めた炎の集合体。それが円を形取り、奴の背中に控えている。

 そこからさらに三対、計六枚の翼が円の中心から存在をこれでもかと主張して周囲の空間を占領している。異常な熱量によるものだろう、歪んだ景色を生み出していることからその翼にも十二分な殺傷力があることを物語っていた。

 

「……スゲーな、こりゃあいつらじゃ敵わんわけだ。数で押しきれるもんじゃあねぇ、あのお嬢様も災難だったな」

「リアスとその眷属どものことか。それぞれ脛に傷を持つ奴等だが、所詮はそれを理由に甘やかされてきたのだ。これまで安寧に身を浸しておいて、誇りを賭けた戦いにまで勝とうなどと……笑わせる。だから少しばかり力の差というものを分からせてやったのだ」

 

 ごもっとも、実に納得のいく答えだ。

 

「ま、そこはどうでもいいや、どうせ自業自得なんだからよ。そういう社会で生きてるんだ、備えをしてない奴が悪い。こっちが必死の思いで、ちょっとでも強くなろうって血反吐にまみれてるっていうのによ」

 

 全くたまったもんじゃない、あの時誘いに乗らなくて良かったってことだろう。こいつと戦うのに足手まといがいたんじゃあ本気も何もあったもんじゃないからな。

 

 ……んじゃ、そろそろ。

 

「お前の手に入れたその力、確かにあの時以上だ。

 だが、それは俺だって同じだよ。

 お前との戦いから、考えを改めたことだってある。もっと力をってな。色々やってきたぜ……それこそ折れてない骨が無いし、何度か体が千切れ飛んだこともある。こうして五体満足に見えちゃあいるが、欠けては生えてを繰り返して正直悪夢の方がマシってレベルの生活だったぜ?

 

 

 ―――でもその分、テメーを相手に役不足ってことにならねぇだ「その婚約ちょっと待ったぁあーーーーー!!!」……おいおい、そう来るかよ……」

 

 こちらも覚悟を決め、とうとうやるかと構えようとした、その時。

 俺の台詞を遮って待ったを掛けたのは、この場で一番聞きたくはなかった、争乱を呼び起こすとされている存在を宿した男の声だった。

 




読了ありがとうございました。

主人公は空気を読まないもの、それがいいか悪いかは別として。


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乱入者たち、綻びが呼ぶ災禍の足音

どうも、アゲインです。

前回乱入した兵藤くん、しかし彼は気づいていなかった。


「…ッイッセー!?」

 

 見知らぬ女性に連れられて現れた兵藤一誠、その姿を目にしたリアス・グレモリーが思わずといった様子で群衆の中から一歩躍り出てくる。その瞳には涙を湛え、胸の前で手を組む様は丸で救出されるのを待つお姫様かのようだった。

 

「部長っ!」

 

 それに気付いた兵藤も無事な彼女の姿を見て安心した表情を見せ、その後異形の力を曝すライザーへと向き直り指を突きつけて宣言した。

 

「ライザー!! 部長の意思を無視した婚約なんて絶対間違ってる! そんなんじゃ部長が幸せになれるわけがないからだ!

 いくら力があるからって、部長を幸せにできない野郎にあの人の未来を決めさせはしねぇ!!!

 勝負だライザー、一対一の真剣勝負! 俺が勝ったら部長を自由にしろ!!!」

 

 

 赤龍帝、兵藤一誠。

 主人の窮地に現れた、救世主かのように振る舞う男。

 場の空気なんぞ気にしない大胆なまでの蛮勇、向こう見ずな行動力。熱さを感じさせるその言動を、英雄性の発露だと好意的に見る者がいることだろう。あの女性も、この性質が故にここへと連れてきたのだろう。

 

 

 

 

 ……まあ、そんなこと俺には関係ないんだけどよ。

 

 

 

 

「―――邪魔」

「おぶッ…!ガ……っ!?」

 

 腰に差していた刀を鞘付きのまま、勢いよく兵藤の側頭部へと叩きつけた。意識の外からの攻撃に、反応の出来なかったこいつはまともな防御も行えず吹き飛ばされる。

 

「な、なに…し……?」

「黙ってろ、お前はお呼びじゃねえんだ」

 

 衝撃とダメージで頭が働かないのであろう兵藤の動きはひどくノロノロとしたものだ。それでも立ち上がろうとして、そこでようやく自分の体に起きている異変に気付いたように顔を歪ませる。

 

「か、体が……!?」

「動けないだろう? そういう類いの波長を叩き込んだからな、当然そうなる。横槍はマナー違反だぜぇ……こっちのこと無視して何勝手に話を進めようとしてるんだって話だよな。

 とどのつまりは俺が先、ってことになるわけよ」

 

 突然の俺の行動に、兵藤に関わる人物であろう二人の女性の息が止まる。どちらも驚愕の表情を顔に張り付け、兵藤と俺、どちらを見るべきか視線をさ迷わせている。

 

「困るんだよなぁ……ここは一応とはいえ招かれた奴らしか要られない場所なんだよ。そこに何の断りもなく無関係な奴を連れてこられちゃ、話がこんがらがるじゃあねぇか。

 だろう、そこのあんた。こいつは大変失礼なことなんだぜ?」

 

 俺はその内の一人、兵藤を連れてきた女性に視線を向け話しかける。

 

「っあなた、いきなり何を!?」

「おいおい。名前も名乗らず、場がどういう状況かも理解せず、自分勝手に乱入しといて何もされないとでも思ったのか? だとしたらとんだ常識知らずだぜ。

 今は俺が、婚約発表というお祝い事に花を添えるべく呼び出されたこの俺が、口上をすませてようやくさあ始まるぞってところっだったってのによ。今回の主賓であられるフェニックス家の坊っちゃんに、身勝手な理由で喧嘩を仕掛けるってんだから止めない訳にはいかないだろう?」

 

 

 ―――例えそれが、知らんわけでもない顔の奴だとしても、だ。

 

 

 一の疑問に対する返答としてはいささか多すぎるが、これでも言い足りないぐらいには頭にキている。

 

「旗本奏平、その御方はサーゼクス様の奥方だ。あまり無礼な態度をとるべきではないだろう。

 グレイフィア様、数日ぶりで御座いますね。ここには来られないとお聞きしていたはずですが、一体いかな御用でしょうか。奴も言ったように、この場に立つ者は既に決まっております。もし、先ほどその男が言ったように今一度の戦いを望むのならばそれは後日レーティング・ゲームの中で行いましょう」

「……ライザー、あなたの言っていることはわかります。貴族という者が行うにしては決して褒められないことではありますが、若者の願いを聞き入れ導くのは大人の役目です。

 この少年はリアスのため、自分の全てを賭けてここにいます」

「それは魔王様の判断である、ということでしょうか」

「あなたとの婚約に反対であるということではありません。しかし、一考の余地があるということです」

「未熟な下級悪魔が、神器を得た程度で俺の敵うと?」

「彼の神器は聖書の神ですら手こずった二天龍が片割れ、赤龍帝ドライグの神滅具です。以前のレーティング・ゲームではまだ完全とは言えない状態でしたが、この一戦に対する彼の心に龍が呼応しました。

 

 ―――彼は今、神器の強化形態『禁手』を扱えるのです」

 

 美貌の女悪魔グレイフィアの口から告げられたのは、俺にとってはかなりありがたくない事柄であった。

 思わず兵藤の方へと視線を向ければ、しばらくは動けないはずの奴が徐々にだが体の自由を取り戻しつつあった。

 

「成り立ての転生悪魔にゃ十分すぎるほどの波長を叩き込んだはずだ……禁手の影響ってやつか、流石に龍に効く波長は知らねぇ」

 

 だがそれでもすぐに動けるというわけでもないらしい。主導権が悪魔である兵藤にある以上、完全にその力を扱えているわけではないように見える。

 

「もう一発、強めに打ち込んでおくか?」

「辞めなさい。これ以上彼に手を出すことは私が許しません」

 

 邪魔をされないよう今度は気絶するくらいの波長を打ち込もうと兵藤に近付こうとし、それを女悪魔に体を割り込められる形で遮られる。

 

「おい、邪魔すんなよ。俺はただ、ちょいとばかし眠っててもらいたいだけなんだよ。具体的には二日は目覚めないでもらいたい。後でぐちぐち言ってこようが、こっちは奴との決着さえつけれりゃその他のことはどうでもいいんだよ」

「それでは魔王様の不況を買うばかりですよ。今聖書の陣営はこれまでの不毛な争いから脱却すべく動いています。この婚約もまたその政略のためのものでしたが、事態は変わったのです」

 

 はっ、こすっからく脅してきやがるか、この女。

 ただでさえ機嫌が悪いってのに、こうも自分たちの都合ばかりで話をされちゃあたまったもんじゃねぇ。

 頭の奥が冷たくなっていく感覚が、自然と体の末端にまで広がっていく。良くない兆候だ、こういう感覚が出てくる時は大概悪い事態を引き起こしちまう。

 冷静になろうとする俺のことなど気にすることなく、グレイフィアは話を締めにかかる。

 

 

 

 

 ―――しかし、俺の状態とは関係なく状況は最悪のものへと一気に転がり落ちていく。

 

 

 

 

 

「何っ!?」

「そんなバカなっ……!?」

 

 動きを取り戻しつつあった兵藤から、急激に吹き上がる魔力。

 それは悪魔のものではなく、一種異質なそれは身に宿す龍のものとしか思えない凶悪なものだ。ビリビリと空気を震わせながら、立ち上がる兵藤の顔には正気を保っているとはいえず、瞳から光が放たれているのが奴が今尋常でない事態に陥っていることを物語っている。

 その魔力が全身を覆い、そして―――

 

 

 

 

 

 

 ―――完全に龍と融合した姿、赤い装甲を纏った人龍となった奴は咆哮をあげ、こちらへと襲いかかってきたのだ。




そう! 背後に主人公がいることに!!

邪魔者は排除するけどいいよね? 答えは聞いてない!

読了ありがとうございました。


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凶龍顕現、不死鳥猛攻

どうも、アゲインです。

暴走人龍、しかし何故か他の作品の暴走状態よりもときめかない。
最近ならビルドのハザード然り、ちょっと前だとナルトのペイン戦然り。
まあ、出すんですけどね、結局。

そして今回感想欄にエスパーがいました。(何でかわからないけど日朝マンたちもいます)
かなり近い展開、というか技のチョイスをした方がいましたね。

―――何故わかったし。


 少し触れただけで簡単に命を奪いそうな鋭い爪が、はためく翼の勢いそのままに差し迫ってくる。

 その標的は俺の後ろの位置にいるライザーであり、前にいる俺とグレイフィアを先に片付けようとでもいうように躊躇のない突貫を仕掛けてくるもんで、奴の正気が失われているのが簡単に分かる。

 

「どけ」

「あいよ」

 

 だがそれを飛び出したライザーががっちりと阻止。

 龍の膂力に負けることなく、その場に押し止めている。

 

「レイヴェル、結界を張れ。周囲に被害が出ることは許さん」

「はっ、避難誘導は?」

「仮にも悪魔の貴族、有事に動けぬ者はいるまい。せいぜい見物でもさせておけ」

「分かりましたわ。それでは皆さん、お仕事の時間ですわ」

 

 龍との力比べをしながら冷静に眷属へと指示を出し、それぞれの配置に着いていたライザーの眷属はレイヴェルを中心に動きだし瞬く間に会場から俺たちを隔離するように半球状の結界が展開される。

 

「これなら持つか、さて……」

 

 結界が張り巡らされたのを確認したライザーは改めて目の前で抵抗しようとしている人龍へと意識を集中させる。

 暴走状態であるからかその力は押さえ込むので精一杯、先ほどはああ言ったがこの状況では周りを気にしなければならない自分が不利であろう。周りに結界があるとはいえこのまま戦闘を続ければその結界も壊れるかもしれない。

 どうしたものかと考えるとともに、その原因たる存在の煩わしさが癪にさわる。

 

「―――ヴゥゥウウウウ…………!!!!」

「全く、邪魔ばかりをしてくれる。折角の場が台無しだ」

 

 自分が招いたこととはいえ、ライザーはこの状況にうんざりしていた。

 かつて自分は退け、手傷を与えた人間の戦士。

 それまでに感じたことのないほどの屈辱、それを払拭するための地獄の鍛練はその黒い感情を糧に自分に一つの目標を掲げさせるに到った。

 強さを手に入れる過程で脳裏を掠める、自分と相対した人間の姿。特に、その瞳が持つ鋭利なほどの感情は、それまで自分が経験したことがないほどの熱量があった。

 不純なく、ただ真っ直ぐに。

 自分を打倒せんと剣を振るい、傷付こうとも前進を止めない。

 

 振り返る。

 自分はどうかと。

 己はこれほどまで、何かに真剣になったことはあるだろうかと。

 

 悪魔という貴族の社会に生まれ、既に強者であった自分。

 そこには研鑽など考える必要がないほど、磐石に等しい力があったからだ。

 だがそれは、一重に自分がフェニックス家の者であったから。

 ただそれだけだった。

 他には何もない、半端なだけの自分がさも強者であるかのように驕り、その結果の体たらく。

 

 

「……馬鹿にするなよ」

「ッヴァ!?」

 

 

 それに比べ、この男はどうだ。

 堕天使に殺されかけたその境遇は同情してもいいかもしれない。

 所詮は身に余る強大な力を手に入れただけの男、それだけの、取るに足らない存在でしかない。

 だが、そんな奴が、あろうことか自分の目の前にいて、宿願の成就を妨害している。

 

「……たかだか低級悪魔の……神滅具を手に入れただけの、薄っぺらい希望なんぞを抱えただけの分際でぇ……この俺の戦いを邪魔するのかこのクソッたれがぁあああああああああ!!!!」

 

 ―――もはや、許さん。

 

 それまで押さえ込んでいた魔力を全開に、周りの被害など考慮しない全力の炎をブースターにして無理矢理に龍の体を押しきり上空へと持ち上げ、

 

「死に散らかせ!!」

「ゲェアアァアアア!!!!」

 

 土手っ腹を蹴り上げ距離を離し、すかさず特大の炎弾を叩き込む。

 衝撃に吹き飛ぶ龍、それに終わらず囲むように繰り返し炎弾を放つことで自由を奪う牢獄を形成する。

 

「『天蓋球』―――地獄の灼熱をも越える熱量に包まれて、苦しみながら逝くがいい」

 

 既に小さな太陽というようなまでになった巨炎球を憎しみすら込めた視線で油断なく中心の敵を見下ろすライザー。

 まるで溺れているかのように手足をバタつかせている人龍はその強靭な肉体が徐々に炎に焼かれていく痛みによって耳障りな咆哮をあげているようだ。空気など存在しない炎球内では無駄でしかない行動、いたずらに消耗していく姿に所詮は暴走しただけの木偶でしかないかと落胆していた。

 

 

 ―――その時である。

 

 

「……やはり堕ちても龍か、本当に度しがたい存在だ」

 

 敵を殲滅するまで永遠にあり続けるはずの炎球に異変が生じた。

 苦しむだけであったはずの人龍からこれまで以上の魔力が放出されはじめているのを敏感に感じ取ったライザーは余計なことをさせまいと炎球に更なる魔力を注ぐ。

 

 しかし敵の魔力の上昇速度はライザーの上限を軽々と越え、遂には炎球の拘束を食い破らんと牙を剥く。

 

「……クソッたれが、神滅具とはこういうものか」

 

 話に聞く赤龍帝の『倍加』の能力、暴走することで遥かに強化されたそれによって炎への耐性を高めるに留まらず傷ついた体すら癒しつつある。

 神器となっても変わらない脅威を示す赤き龍の力、ライザーは自分の想定が崩れつつあるのを理解しつつも意地のみを支えにして力を振り絞る。

 

「くっ、最早拘束は無理か! ならば!!」

 

 拘束も後数秒も持たない、そう判断したライザーは残る魔力を総動員し炎球を操作して小さく圧縮していく。

 

「星の終焉を体験せよ。押し潰されたその末に核が辿るのは、その身を覆いし外殻を吹き飛ばす程の大爆発であるという。

 貴様にもその一端を味逢わせてくれよう、食らうがいい!!

 

 

 

 ―――『終滅・爆炎天球牢(ブレイジング・アセンション・ダウン)』!!!」

 

 

 一瞬にしてその大きさを狭めた炎球は、その次の瞬間には轟音と共に空間を震わすほどの大爆発を起こした。

 

 C4何百個分に匹敵するかという爆発は余波ですら眷属たちが張った結界を崩壊させかける程。その中心にいた人龍のおいては焼き焦がすという表現が生易しい、それこそ全てを崩壊させるというのが相応しい力の奔流をその身に受けているのだ。爆発の力の中心に浮かぶ影でしかその姿を確認できないが、爆発の勢いに身動きすらできずそのシルエットが端の方から崩れていっている。

 

「……これでどうにか、―――何!?」

 

 人龍から感じる魔力の高まりが途切れていくのを感じ、最早脅威は無くなった。そう考えていたライザーがほんの少し気を抜いた、その瞬間だった。

 何かが地上から放たれ炎牢へとぶつかり、たちまちの内にその囲いを食い破ってしまったのだ。

 

「これは、リアスっ! 貴様の仕業か……!!」

 

 それはグレモリー家の悪魔が持つ『破滅の魔力』による攻撃だった。地上からこちらを見上げていたはずのリアスがその手をこちらに掲げていることから、眷属を助けようとして行ったのだろうがそれはどう見ても悪手であった。

 穴を空けられた牢が人龍を拘束する力を維持できるはずもなく、凶悪な魔力を撒き散らしがら、人龍は遂に牢獄から解放されたのである。

 

 

 

 

「ヴゥウウウ……ウヴォアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 咆哮をあげ、傷を負わされた怒りを増幅する魔力と共にこの場に示さんとする人龍。

 消耗を重ね、ダメージはなくとも出せる手札に制限が掛かり始めたライザー。

 空中でにらみ合い、この戦いの決着を着けんと相対する二人。

 

 

 

 ―――始まりはどちらともなく、急接近からの乱打戦が始まった。




読了ありがとうございました。

ということでまずはライザーとガチンコしてもらうことにしました。
主人公の登場はその後、ということになりますな。
ちなみにルビは適当です。
つっこまんといてね。


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傍観の戦士、天が燃えるを期に動く

どうも、アゲインです。

二次創作のために原作を読んだり、考察やらwikiやらを見るんですが、この作品に関しては何ていうか……新しいことを知っていく度に兵藤一誠という奴に対して殺意が高まるんですよね。
なろうとかでよく見るご都合主義の塊のくせにとかくっそ思います。
熱血の定義が壊れる。


 ―――ライザーたちの戦いが始まり、空に小さな太陽ができていたいた、一方その頃の俺たちはというと。

 

 余興の決闘へと横やりをされ、俺がその制裁をしたことが原因で暴走してしまった兵藤。

 関わるのが面倒だった俺は戦いの相手をヤル気満々のライザーへと譲り、のんびり物見遊山と洒落込んでいた。

 

「うわぁ……エグい技使いやがるなあの野郎」

 

 あんなのを食らうかもしれなかったとか、考えるだけでも嫌なもんだな。厳しい戦いになるってのは予想してたが、正直あれは勘弁してほしいくらいだ。

 

「ちょっとあなた!」

「あ?」

 

 炎の塊の中で兵藤がじんわりいい焼き加減になっていくのを見ながら突っ立ていると、この催しのもう一人の主賓であるリアス・グレモリーが俺に突っかかってきた。

 

「ライザーを止めて! このままじゃイッセーが死んでしまうわ!」

 

 彼女もライザーのあの力には脅威を感じているのだろう。いくら自分の眷属が強くなったとはいえ確かにあのままではこの女の言う通り死ぬだろう。

 

「で?」

「で……って、あなた自分の言ってることがわかっているの!? イッセーを見殺しにする気!?」

「格上と戦うって覚悟でここに来たんだろ? なら、当然死ぬ覚悟もしてからここにきてるんじゃねぇの? 

 転生悪魔の下級兵士が上位貴族の催しに割って入ってただで済むとでも本当に思ってんのかよ、お前」

 

 転生悪魔と呼ばれる者たちの地位は低い。

 低級悪魔として扱われる彼らは元から悪魔である者たちからすればどうとでもなる消耗品に過ぎず、主に逆らえない彼らはどれほどの苦痛を与えられようが耐えるしかない。

 それに我慢できず主に牙を向こうものなら反逆者として殺され、よしんば主を殺害して自由になったとしても今度は主殺しとして悪魔たちから永久に追われることになる。

 

「話に聞くところじゃ、このシステムはあんたらのお仲間を増やすための手段らしいじゃないの。よく考えたもんだよな、神器が宿った人間を対象にすりゃ戦力も増えて万々歳ってわけだ」

「何ごちゃごちゃ言ってるのよ! いいからやりなさいよ!!」

「報酬もないのに?」

「なっ…! こんな状況で何を言っているのあなた!」

 

 助けるのならそれ相応のものをと、そう要求する俺に対しグレモリーはぶちギレる。

 

「あの中にちょっかいかけるんだぜ。ちょっとやそっとのもんじゃあ割りに合わねぇだろうが」

「あなた元々ライザーと戦う予定だったじゃない!!」

「余興としてな。これはもうその範疇を越えてる。当然別料金、悪魔のいざこざの解消は基本的に請け負ってないんだからさ。

 俺、人間だぜ?

 どうしてお前らのために無償で働かなきゃいけないんだよ、シバき倒すぞ」

 

 あくまで。

 あくまでここに来たのはライザーとの決着を着けるため。そのためだけであり、それ以外のことについては全くの無関係である。

 

「俺があの野郎と面識があろうとも、あんたのところの眷属であろうと、俺のちょっかいのせいで起こったことだろうと、それとこれとは話が別だ。

 何故なら、これはあんたが婚約に難色を示したことで起こったことだからだ。

 何故なら、これはあんたの眷属が何も考えてていないから起こったことだからだ。

 何故なら、これは龍というものの存在を軽く見て何も対策をしなかったからだ。

 その責任の所在は、あんたにこそあるんじゃないのか、

 

 

 

 ―――なぁ、リアス・グレモリー。あいつが死ぬのは、無能なお前のせいじゃないのか」

 

 赤々と光り輝く炎の塊が、上空にて人龍を焼き焦がしている。

 それとは正反対に、思いもしなかったことを指摘されてか血の気の失せた真っ青な顔をしてグレモリーはその場に佇んでいる。

 

「リアス、落ち着きなさい」

「ぐ、グレイフィア……」

 

 動揺を隠せないでいるグレモリーに近寄り、正気に戻るようにとグレイフィアが呼び掛ける。

 そちらの方の顔を向けるグレモリーは茫然自失としていた表情に若干の生気を取り戻すとそのままグレイフィアの肩を掴み必死な様で頼み掛ける。

 

「お願いよ! イッセーを助けて!! お兄様の眷属のあなたならできるはずよ!!」

「リアス、焦ってはいけません。危険な状況であるからこそ冷静にならなければいけません」

 

 直ぐに救助しなければと言い募るグレモリーに、なおも落ち着くよう説得を重ねるグレイフィアたちの様子を尻目に俺は燃える炎球の変化に意識を向けていた。

 

「……どうにも、このまま終わってくれそうにないな」

 

 球の中にいる人龍の魔力が段々と強くなっていっているのを感じている。このままじゃあ直に拘束も破られてしまうだろう。それをライザーの野郎がそのままにしておくわけがないだろう。

 案の定、炎球に更に魔力を込め始めたかと思えば急激にその規模を収縮させていく。

 

「まずいな、逃げねぇと」

 

 圧縮をしていくことからある程度の予想がついた俺は距離を取るために結界の端の方へと撤退する。グレモリーたち? 知るかあんなの、いつまでも言い争ってろ。

 

 不毛な言い争いを尻目にできる限り結界の端の方へと退避が完了したとき、タイミングよく炎球が大爆発を起こした。

 あまりの威力にこの位置にいても暴風が襲いかかってくるほどだ。

 

「おぉぉおおお…………!!?」

  

 危険を感じ咄嗟に身を伏せる。叩きつけられる風に四肢を地面に張り付けて耐え凌ぐことしばし。

 暴風の勢いが弱まりようやく体を起こせるようになるも、巻き上げられた土煙が視界を邪魔をする。

 しばらくおさまるのを待っていると徐々にだが、上空の様子を見れるようなってくる。完全に空が晴れるころには何がどうなったのかを理解できるぐらいの光景がそこに広がっていた。

 

「……いや、爆発してんだからせめて跡形もなくなれや」

 

 おそらくは、内部に爆発の威力が向かうようにした覆いの残骸だろう。余波ですらあの威力、しかしその中にいた兵藤は直撃を受けたにも関わらずその姿は健在であった。

 まあ、そうは言ってもかなりガタはきているみたいだな。感じる魔力にも陰りが見え始めている。

 

 

 ―――これは決まったか? などと考えたのが悪かったのだろう、油断していた。

 

 

 不意に、どこからともなく、空へと向かって魔弾が飛んだ。

 それは強固であるはずの炎球の囲いを貫き、一点の穴をこじ開ける。

 それによって乱れた制御を見逃さず、人龍・兵藤は強引にその囲いを食い破り、遂に完全な自由を得てその異形を再び冥界へと知らしめたのだ。

 そして始まる第2ラウンド、急速に接近した二人はそのままインファイトを繰り広げ始めた。これまでの一方的な展開とは違い、ほぼ同等といった様子の拳のやり取り。

 

「ああ、そうくるか。こんなにも早く消耗しちまうほどだったのか、さっきの一撃は」

 

 ライザーがわざわざあんな風に戦う必要はない。

 悪魔のお得意の魔力による攻撃をもう一度やってやればいい。

 それをしないということは、それに回せる魔力の余裕がないかあえてそうしているかだ。

 倍加の力のある兵藤相手に長期戦は不利と見て速攻で仕留めるために最初から飛ばしすぎたんだろう。だが相手の耐久力が高すぎた、さすがは龍。伊達ではないってことかよ。

 

 

 …………しゃあねぇか、ここで披露するつもりはなかったけどもちょいと頑張らさしていただきますよ。

 

 

 徐々に傷を増やしていく二人の戦いを見据えながら、刀を腰に戻し、しっかりとベルトを閉め直す。そして頭の中に戦略図を描きつつ速攻で行動を開始する。

 

 

 

 ―――さあ、精々目にもの見せてやりますかね。

 




読了ありがとうございました。

とりあえず修造に謝れ。


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選手交代、タイコの戦士

どうも、アゲインです。

主人公、参戦。
と見せかけて今回はまだ戦いません。
本当に申し訳ないと思っている。



 ―――……鈍い音が鳴り響いている。

 ―――……幾度も幾度も、空を穿つかのように。

 ―――……それが何から生まれているか、考える間もなく次々と。

 

 

 

 

「こ、のクソガァアア……!!」

 

 ライザーの拳が人龍に突き刺さる。

 岩をも砕くはずのその一撃は、しかし多少の傷を与えただけにとどまる。怯みを見せない人龍が爪の薙ぎ払いを繰り出すのに合わせ距離を離すも、すかさずもう片方の爪が伸びてくる。

 それを蹴りで振り払い、勢いを利用して肘鉄を放つ。それは攻撃をいなされ不安定な体勢の人龍の横っ面に突き刺さり、大きく敵を吹き飛ばす。

 

「鬱陶しい……どれだけタフなんだこいつ」 

 

 一見対等な格闘を繰り広げているように見えるこの戦い。

 しかしこれは先程から散々繰り返されてきた、いわば焼き増しのようなやりとりにすぎない。

 

 ライザーの消耗もあるが、その最大の原因は人龍の防御力にある。

 戦いながらも観察を続けた結果、倍加の力ももう打ち止めのようで今以上に強くなる気配はない。だが、それまでの強化で既に装甲が並みの攻撃では歯が立たないほどに強度になってしまっている。

 本能に任せた乱雑な攻撃は問題ではないが、ただその一点。その一点が勝利を阻む高い壁となっている。

 

(……それ故に、その一点さえ攻略できれば)

 

 もう一度最大火力の炎球に捕らえることができれば確実に倒せる。そう確信してはいるが、その隙をこの人龍が許すとは考えられない。攻撃の体勢を整える前に邪魔されるのがオチだろう。よしんばできたとしても、今状態では精々十数秒だけ拘束できるかどうか。

 

 

 決定打に欠けるライザーは、今まさしくじり貧という状況であった。

 

 

「―――関係ないな」

 

 ―――しかし、その状況においてもライザーの闘志に陰りはなかった。

 

 確かに強敵ではある。

 だが正気をなくし獣となった相手に、どうして恐怖を感じるだろう。

 こいつには意思がない、本能が命じるままに力を振るうだけだ。

 それはつまり、戦士ではないということだ。

 

「……ふん」

 

 その戦士というのに思い当たるのが仇敵であることに思い至ったライザーは、心底面白くないというような表情をして鼻を鳴らす。

 構えを維持し、体勢を立て直した人龍へともう一度攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 ―――その時であった。

 

 

 

 何かが高速で迫ってくる、その気配を感じとったライザーは咄嗟に身を翻す。

 それはまるでライザーのその動きを予測していたように体スレスレをすり抜けその先にいた人龍へと喰らいかかった。

 目の前の相手にしか注意しておらず、反応の遅れた人龍はその一撃をまともに受けるしかなく、

 

 

「―――ギィヤアアァアアァアアア!!!!!!」

 

 

 それは咄嗟に出した右腕を深々とえぐり、堅固なはずのその外装を切り裂いて腹部へと突き刺さっていた。

 予想外の痛みに混乱したのか、翼の制御を失った人龍は呻き声を上げながら落下していく。

 高度を落としていく人龍に突き立てられたその武器を見て、ライザーは思わず呟いた。

  

「槍……だと?」

 

 そしてそれが放たれたと思われる方向、地上へと視線を向けそれを行った人物へ即座に顔を向ける。

 そこには今まさに投擲を行った体勢で、空にいる自分に視線を向けている。その顔にある挑発するかのような笑みに、ライザーはこの攻撃の意味を察する。

 

「やはり貴様か……! 旗本奏平……!!」

 

 たった一撃で自分よりも深い傷を負わせたという驚きなどもはやどうでもいい。

 あのスレスレの軌道で自分に回避をさせたことにも意味があることになど、もうどうでもいい。

 それよりも先に、もう一度こちらで戦いの主導権を握らなければ。

 

「横取りする気かぁ……貴様ぁ!!」

 

 またあのときの、最初の時のように。

 

 

 

 ―――あの時、最初の時、先に逃げ出した悪魔を倒したのは奴だった。

 自分との戦いの中でも、本来の目的を忘れず勝利を掴み取ったのは奴の方だった。

 引き分けなどではない。

 断じて、引き分けではないのだ。

 だから勝ちたかったのだ。

 もう一度戦い、今度こそ勝利しなければならなかったのだ。

 

「先約はこちらだろう、忘れたか旗本奏平!!!」

 

 全力で戦い、勝敗を着けるのは自分が先だ。

 それをこんな、こんなふざけたような相手に対して使う気なのだ。

 奴が自分に使うはずだった、全力の、奥の手を!!

 

 

 

 

「―――悪いなライザー、こっからは俺の番だ」

 

 

 

 

 聞こえるはずのない上空で、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 落ちていく人龍のその先にいる奴が、また新たに構えを取る。

 顔を隠すように掲げたその手から、青白い光が発生しその体を包み、次の瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――全身を鎧で覆った、仮面の騎士がそこに現れた。

 

 

 

 

 

  

 

「……何ということだ」

 

 その姿を見たライザーは悟る。

 自らが認め、越えんとする戦士がその真の力を解き放ったのだということを。

 同時に沸き上がる歓喜の感情。

 挑むべき男の洗練された力の象徴とでもいうべきその姿から感じる瀑布のような圧力に、頭の先から末端まで痺れが広がり動き出すことができなかった。

 だからこそライザーは暴れまわるその感情に逆らわなかった。

 人龍を追うことを止め、その場に留まることを選んだのだ。

 そして戦いを終わらせる権利を地上の好敵手へと渡すことを決め、その行く末を見守るべく静観の構えを取る。

 

 

 

 

 ―――そして始まるのは、異端と原典、両雄主人公によるぶつかり合い。

 

 【タイコの戦士】旗本奏平

 

 対

 

 【人龍】兵藤一誠

 

 

 

 勝負―――開始。




読了ありがとうございました。

次回はほんと、本当に戦わせますんで、勘弁してください。
ちなみに、槍はフィーバー状態で投げています。
あとは分かるな?


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抜けよ真打ち、龍狩りのお時間

どうも、アゲインです。

遂に主人公が戦います、ここまで長かった……。
パタポン要素、と言えるほど出せているか分かりませんが楽しんでいただけたら幸いです。

兵藤一誠、

     ―――さあ、お前の罪を数えろ。


 俺の異能『四方太鼓』はゲームの機能を基準に、いくつかのコマンド入力によってコンボを重ね自己強化をしていくことができる能力だ。

 そのコンボが一定数越えたときに『フィーバー』という、全能力強化状態になれるのだが、これにはもう一つ、上の段階が存在している。

 

 

 ―――それが『ヒーローモード』、一つの分野に特化した形態。

 

 

 事前にフィーバー状態になっていなければならないものの、その能力はそれまでの俺を凌駕する。

 

「騎士の仮面、タテラーゼ。俺の持つ能力の根幹をなす三つの内の一つだ。

 この盾系統は主に前衛。

 物理攻撃及び防御に優れた動きができる。まあ例外はあるがこの姿の時はだいたいそういうもんだって思ってくれていい」

 

 上空から落下したにも関わらずそれによるダメージは全くといっていいほどないように、元気よく槍傷の痛みにのたうち回っている兵藤に向けて聞こえていないだろう説明を続けていく。

 

「おうおう痛ぇか、ざまぁねぇぜ。

 そいつは『飛槍パルキューラ』、よく飛ぶこともさることながらその威力、正確性はご覧の通り。他に特別なことはないが、カトンボを落とすのには十分過ぎるぐらいだろ?」

 

 腹部に突き刺さったままの槍を必死に引き抜こうと、傷のない方の腕で槍の柄を掴んでいる。しかし引き抜く時の痛みが邪魔をするのか、どうにも満足に引き抜けないでいる。

 その無様な様子は笑いを誘ったが、いい加減真面目にしなければ後ろに控えているお客様方にせっつかれてしまう。

 それは少々面倒、なので―――

 

「ほらよ」

 

 ―――手こずっている兵藤から、槍を俺の手に移動させた。

 俺の手から離れた武器、防具に関してはいつでも自分の意思で回収することができる。ゲーム時代の途切れない遠距離攻撃や投擲なんかを再現しているんだろう。

 そんなことは知らない兵藤は、突然異物が自分の体からなくなったことに驚いた様子を見せている。

 しかしそれもほんの少しの間のこと。

 機敏な動作で起き上がり、次の相手はお前かというような視線をこちらに向けてくる。

 

「ヴウゥゥウウウ……!!」

「おお、やる気満々じゃねぇの。そんな体でよくやるもんだ」

 

 全身を丸焼きにされ、右腕と腹部に深い傷を負いながらも衰えない闘争心。度重なるダメージによる強い怒りによって空気を振動させるほどの威圧が奴を中心に放たれている。

 目の前の邪魔者を消し去りたい、獣となった目がそう語り掛けてきているようだ。

 

 それに対し、俺の方は気楽なものだ。

 既に戦力的な測定は済み、勝ち筋など幾通りでも容易に組み立てられる。手負いとなり、そもそも冷静な判断もできないような相手など最早敵ですらない。

 

 

 だが―――それでも。

 

 

 命ぜられたオーダーがある以上、仕事は完璧にこなさなければならない。

 

「感謝してくれよな、実際のところ初撃でテメェのド頭ぶち抜くこともできたんだぜ。でもよう、依頼主様のご意向でその程度で済んでるんだからよ。

 『可能なかぎり命は保証する』って契約なもんであんまし強すぎるのにもなれねぇし、これでも最低限の力で加減できるよう配慮してるんだ」

 

 手にした槍を弄びながらぐちぐちと言っているのを好機と見たか、不意にそらした視線を隙と見たのか。

 こちらがほぼ棒立ちであることをいいことに、傷やダメージがあることを感じさせない速度でこちらに詰め寄り鋭い爪による攻撃を躊躇なく繰り出した。

 

「―――効かんね、生憎」

 

 だがそれは、俺の取り出した盾によって防がれる。

 大きな音と散る火花。

 鋼鉄も切り裂くだろうその一撃を防いだその盾は、しかし一筋の傷もなくその強固なる姿をもって敵を阻む。

 突然のそれの出現と、当たると思われた攻撃が防がれたことによって生じた兵藤の隙。

 それを見逃すはずがなく、今度は俺が動く。

 

「大人しく地面に膝着けや、クソ野郎」

 

 全身を使って、押し潰すように。

 瞬発的にぐぐっと力を込め、盾を壁として相手に押し付ける。

 その予想外の圧力に兵藤は徐々に膝を折り、地面に屈するような体勢になっていく。

 兵藤も抵抗してはいうものの、傷の影響か思ったような力を発揮できてない。このまま体が沈んでいくのを嫌ったのか無理矢理にもう片方の腕を振り上げ盾を横に弾こうとしてきたので、タイミングを見て体を引き屈ませる。

 攻撃を空かされ浮き上がる兵藤の体、その下に潜り込み、

 

「―――昇・竜・剣ッ!!」

 

 槍から持ち変えていた剣を使い、さらけ出された胸元を逆袈裟気味に斬り上げる。

 その一撃は先に槍によって付けられていた傷を更に押し広げるように深く、大きくしていく。

 だがそれで終わらない。追撃……いかせてもらぞ兵藤。

 

「烏天狗から直々に仕込まれた剣術だ、速いぜこいつは!!」

 

 本来であれば俊敏とは言えないタテラーゼであっても、それはあくまでゲーム内でのこと。システムの縛りがさほどない俺にとっては足枷にすらならない。

 

「でもってこいつは『竜剣ドリグレア』! 龍狩りにゃお誂え向きの得物だぜ!!」

 

 兵藤を斬り裂いた剣は湾曲した刃を持っており、凡そまともな用途で使うものではない。

 それもそのはず、これは本来竜を手間なくぶっ殺すために鱗だ骨だのをすっ飛ばして直接心臓を貫けるようにと設計された剣だ。切れ味は勿論だが、この剣自体に備わっている『竜特効』は所持している武器の中でも一二を争うほど。

 そんな魔剣で、龍を相手に、出し惜しみなく高等技術を行使する。

 

 

 

「蒼天流剣術、奥義が一つ―――【禊】」

 

 

 

 静の構えから一転。高速で繰り出された剣撃が、次々に兵藤の全身へと襲いかかる。

 容易に自身の体を斬り裂いた刃の脅威に、兵藤はこれ以上食らうわけにはおかないと身を捩り回避を試みる。しかし上下左右、時には背後から迫る刃の包囲網になす術なく。動きを止め、固く防御を行うしか選択肢がなくなっていた。

 

「それでいい。テメェにゃ死んでもらうわけにはいかねぇんだ。死んだら契約が達成できねぇ、それは不味いんだ。依頼主はテメェを正気に戻すことと、命を助けることを俺に注文してきた。

 生かさず殺さず。

 こいつは難しいオーダーだ、達成が困難な部類の依頼だ。

 だからよう、それならむしろギリギリの方がいい。ギリギリ生きていて、ギリギリ死にそうなくらい方が。

 

 

 ―――だから剥ぐ。

 

 

 テメェが死なない程度に全身の装甲をひっぺがして、ギリギリ生きていられる程度にな。これは、そういう技だ」

 

 禊―――転じて身削ぎ。

 体の内部ではなく外部を狙い、鎧もしくは肉を削ぎ落とすこの技。

 生身の相手に使えば容易に殺人剣となるが、こういった生命力がゴキブリみたいな相手だと程よく無力化できる技となる。

 

「ギッ、ィイィイアアァアアア……!?!?!?!?」

 

 徐々に徐々に剥ぎ取られていく痛みに呻く兵藤、この調子ならまあ瀕死に追い込むぐらいでどうにか終われそうだ。

 後はお嬢様のところの眷属にでも治療させれば問題ないだろう。いざとなればこちらも方法がないわけではないので躊躇する必要もないしな。

 徐々に欠けていく兵藤の鎧を確かめながら、仕上げに入るべく更に速度をあげていく。

 

 

 

 ―――決着はもう、時間の問題。だが、いつだってイレギュラーは付き物だってことを忘れちゃならない。

 相手はドラゴン、その底力がまだある。

 しっかりと固められたガードの奥で、ギラつく眼光がそう物語っていた。




読了ありがとうございました。

次回、決着。
長々と伸ばした第一章ももう少しで終わり。
一章終了後に活動報告の方で今後の予定をお知らせしますのでよろしければ覗いていってください。
その時に何かご質問があればできる限りお答えしようかとも思っていますので気軽にどうぞ。
それでは。


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幕引きの一撃、勝者は地に伏す敗者に構わず

どうも、アゲインです。

今回でイッセーくんとの戦いは終わりです。



 

 数えるのも嫌になるくらいの斬撃の雨あられ。

 それに身を晒され、もはや元の面影がないほどの姿となった兵藤は、全身から夥しい血を流しながらそれでもまだ息をしていた。

 翼はもがれ、尻尾も半ばから切断されている。

 流石に足が持たないのか、地面に膝をついてはいるがそんな姿であっても未だに戦意が衰えていないことがこちらを睨み付けてくるその眼から窺い知れる。

 しかしそれに反して手を出してこない、不気味な静けさを持っている。

 その原因に思い当たることがある俺はしばし攻撃の手を緩め、奴が持つ最後の手段であろう魔力が蓄積されつつある箇所へと目を向けていた。

 

「ドラゴンブレスってやつか? こそこそと面倒なことを……」

 

 ガードの奥、眼光潜むその影の中で燻るように。

 牙のシルエットを浮かび上がらせて、伝説的代名詞とも言える一撃が準備されている。

 この野郎、身を守るふりをしながら堂々と一発逆転の手段を進めていたのか。身を削られながらもそういうことができるとは、案外頭は冴えてはいるみたいだな。

 起死回生の一撃だが、そうと分かっていれば避けられないものでもない。所詮はブレス、直線上にしか攻撃できないのだ。脅威ではあれど対処できないほどでもない。

 しかし、これはこれでありがたい。

 

「依頼的には好都合だ。いいぜ、受けて立つ」

 

 恐らくあれが最後の手段、残る魔力を振り絞った一撃のはず。

 もう少し攻撃を重ねてからと思っていたが自分から手放してくれるなら願ったりかなったりってもんだ。

 

 最初のプランとしてはこのまま削り続けて弱ったところを一発デカイ波長を叩き込むことで戦闘不能にするつもりだった。

 何せ龍の魔力で出来た鎧だ、暴走している本人を大人しくさせようにもその強力な魔力によって中まで波長が通らねぇ。だからまずその外装をぶち壊す必要があった。

 俺の目算ではまだ少し時間が掛かるはずだったんだが、逆に自分からその魔力を手放してくれるならこれほど好都合なこともない。

 あれほどの魔力が蓄積されたブレスなのだ、その後の硬直はこれまでとは比較にならないほどに大きいはず。

 そして何よりも―――

 

 

「―――ライザーの野郎から横取りしといてこのままってのもどうかと思ってたんだ、どうせだから真っ正面から叩き潰す。テメェはこのまま、良いとこなしで退場しろ」

 

 

 テメェが決めてきた覚悟の、その薄っぺらさ。

 自分の力があれば、どうにかなるとでも思ってたか?

 年単位での修練をやり続けたライザーを、悪魔になって間もない運だけのお前の力で倒せるとでも思ったか?

 

 

 ……甘いなぁ、甘すぎる。

 

 

 俺たちがどれだけの時間を費やしてこの姿になることができたのか、テメェは知らねぇ。

 俺たちがどれだけの苦痛と困難を乗り越えてきたのかをテメェは理解できねぇ。

 この姿は、この鎧は、俺たちにとってそれこそ血と汗と努力の証。

 

 

 

 

 

 

 ―――それをただ幸運に恵まれただけの奴が、何故何の努力もなしに手に入れている?

 

 

 

 

 

 

「ふざけてんじゃねぇぞ。

 ふざけてんじゃねぇぞ……おいっ……!!

 ここだ……こいよ、ど真ん中だっ!!

 盾についちゃあ特にどうということもねぇ、ただ堅いだけの何の変哲もない初期装備ってやつよ。

 逃げも避けもしてやらねぇ。

 だからさっさと―――撃ってこい。その御大層な一撃が、どれだけ無意味なものかってのを分からせてやる」

 

 だから―――やるのだ。

 たとえそれがどんだけ馬鹿げていようとも、ここでそれを証明する。

 決して、決して退くことはできない。

 ここで安易な道を選び、早々に勝負をつけることは簡単なことだ。

 だがそれは、この道を進むと決めた自分を否定することになる。

 立ち向かうと決め、歩んできた道筋に一つの汚点を残すことになる。

 それだけはできない。

 

 この暴力を見逃すならば、もう俺は戦士ではない。

 俺は戦士だ。たとえ誰が否定しようとも、俺自身がそう自分を定義している。

 そして戦士とは、何もできない相手をいたぶり殺す者のことをいうのではない。

 それが獣であろうとも、一矢報いるその牙を有するならば。

 受けよう、受けてみせよう。

 そしてその上で、テメェに示そう。

 

「俺は旗本奏平、又の名を『タイコの戦士』と自称する男だ。

 この姿、この有り様をよくその目に焼き付けておくがいい。

 お前が未練も見せずに棄てた、人間っていう弱っちぃ存在が、たった一つの願いのために心血を注いでたどり着いたものこそが、この姿なんだからな」

 

 目の前の相手には決して届いてはいないだろうが、それでもこれだけは言っておきたかった。

 そんなこちらの意図を理解はしていないだろうが、奇しくも奴が狙いをつけたのは的の大きな俺の盾であった。

 

 ジリジリと高まる緊張感。まるでミサイルにでも狙われているかのような感覚だ。それが今か今かと、発射される時を待ち望むかのようにして魔力を集束させていく。

 それと同時に突き刺さる視線に宿るものが、言葉などよりも如実に奴の心境を語っている。

 だからこそ、合図は要らなかった。

 

 

 

 ―――咆哮と共に、紅蓮に染まった息吹が放たれる。

 

 

 

 絞りカスの状態から放たれたとは思えないほどのその一撃は、もはや巨大な壁そのものであった。

 地面を消滅させながら、数瞬と待たず極炎が盾の表面へと到達する。音で表現するならば、ジュワリというような容易さで大地を溶かすその一撃。触れれば即死は免れないと、目に見えて理解させる。

 殺ったと、確実に殺したと、人龍は手応えをもって確信する。

 この一撃を受けれるわけがないと、本能が邪魔者の死に歓喜をあげる。

 もういい、もうこいつは十分だ。さあ、次は空のあいつだ。今度こそ殺してやる。

 ブレスを止めた人龍の意識は既に目の前の存在ではなく、上空にいるライザーへと向けられていた。

 

 

 

 

 ―――だがそれはあまりにも、旗本奏平という男を過小評価し過ぎている。

 

 

 

 

「―――おい」

 

 ビクリ、と。

 聞こえるはずがないその声が人龍の耳に届き、思わずその体が震えを発してしまった。

 ライザーに向けられていた視線が上から前へと、自然に下がっていく。

 その先に、地面が融解し蒸気が立ち上るその中を―――

 

 

 

「何だよ、もう少しやってくれるもんかと思ってたがこんなもんかよ。正直拍子抜けだな、ドラゴンって奴もよ」

 

 

 

 ―――前に構えた盾以外に一切傷を負うことなく、堂々と。剣の一閃で煙を散らし、厚いベールを斬り開いて進み出てくるのは絶対のあり得てはならない存在。

 そいつは悪魔でも天使でも堕天使でもなく、ましてや神器使いですらない。それなのに、どうしてこいつは、こいつは……!!

 

 

 

 

 

 

「灰汁抜きはそろそろいいか、さあ―――」

 

 

 

 

 ―――往生せいや、クソドラゴン。

 

 

 その一撃に、もはや抵抗できるほどの余力が人龍には残っていなかった。

 鎧の男の姿が霞んだ、彼がそう思った瞬間に勝負はついていた。

 

「ふんっ!」 

 

 瞬く間に懐に踏み込んできた奴は、まず拳で顎をかちあげた。

 浮き上がる体が強制的に伸ばされ無防備になる、そこへすかさず叩き込まれる追撃。

 がら空きの胴体へと打ち込まれたその一撃が、鎧に致命的な罅を生じさせる。

 勢いのまま地面へ叩きつけられたかと思えば即座に跳ねあげられ、空中へと投げ出される。

 そして―――

 

 

 

「―――激震一閃、汝を穿つ」

 

 

 

 ―――この戦いの終わりを告げる、最後の一撃が放たれた。

 

 

 

「《大響吽(だいきょうこう)》」

 

 真っ直ぐな軌道を描いて繰り出した拳撃が、ひび割れた鎧の急所へと突き刺さる。

 拳に高出力で込められた波長はぶち破った鎧の内側へと浸透し、兵藤の本体へと作用していく。

 それにより乱れ狂う龍の魔力が沈められていき、人龍の姿を維持することができなくなった兵藤は殻が剥けるように自身を覆っていた鎧を霧散させていく。

 そして龍の支配より解き放たれた宿主は、その強力な力の代償というように意識を失い地面へと崩れていった。

 力なく倒れ伏す男を静かに見つめ、放った拳を解きほぐすと踵を返し歩き出す。

 

「……ちっ、踏み込みがいまいちだった。まだまだ改善の余地ありだなこりゃ」

 

 悪態を吐きながら、もう興味はないとばかりにその場を去り行く男の態度には戦いを切り抜けた疲労一つなく。

 これが勝者の姿と言わんばかりの、あまりにも堂々とした行進であった。

 

 

 

 

 後に残された敗者と、先に進む勝者。

 対照的な二人の姿が物語る、決着の光景。 

 ―――以上、勝負あり。

 

 




読了ありがとうございました。

二人の勝負はこのような形で一度終わりとさせていただきます。
次回の投稿でこの騒動の締めを行いたいと思います。


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不死鳥騒動の終息、さらば宿敵また会う日まで

どうも、アゲインです。

これにて一章は終わり。
一区切りつくところまで無事にくることができました。
これも応援してくださった読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。

また、その後押しもあり、念願のランキング入りを果たすこともできました。
重ねて皆様に感謝いたしますともに、これからも面白い作品を提供できるよう努力していきます。

前置きが長くなりましたが、一章最終話。
最後までどうぞ、楽しんでいってください。


 先ほどの戦い、戦いと呼べるものであったかどうか。

 猛獣相手に意地を張ったようで、どうにも据わりが悪いというか。

 こう……上げていたテンションの行き先を間違えてしまったせいか、今思うとやり過ぎたというかやらなくてもいいことをしてしまったというか。

 既にヒーローモードを解き元の姿へと戻っていた俺はそんなことを脈絡もなく考えながら歩いていると、ふと背後に誰かが降り立つ気配がしたので足を止める。

 

「……終わったな」

「ああ、まあな」

 

 自身もまた変身を解き、落ち着いた声色で語り掛けてきたのは案の定ライザーであった。

 

「……このようなことになったのだ、予定していたことの殆どは中止にせねばなるまい。この後他の貴族たちに対する説明や賠償交渉が待っているかと思うと頭が痛い」

「はっ、そんなもん全部あのお嬢様ん家に押し付けちまえばいいじゃねぇか」

「そうもいかん。婚約を破棄させていただかなくてはいかんのでな、この位の苦労は背負わねば魔王様に顔向けできん」

 

 当たり前のことのように言っているライザーだが、俺はその選択をしたということに少々驚く。

 

「なんでぇ、別れちまうのか?」

「もとより政略のための婚約であった。こうも嫌われ、邪魔をされるようでは、な。縁を結ぶ相手は俺ではなく、あの男の方であったのかもしれん」

 

 ふっと気が抜けたような雰囲気を漂わせているライザーの様子から、お嬢様が今とっている行動が手に取るように分かった。

 実際耳をすませてみれば、まるで鼻詰まりでも起こしたような音を響かせて男の名前を叫ぶ女の声が聞こえてくる。

 

「一応俺の方で傷の回復はさせておいた。そろそろ目が覚めていることだろう」

「バチくそ回復力の”フェニックスの涙”か。あのお高いもんをポンと出せるとは、稼いでるところの坊っちゃんはやっぱり違うねぇ」

「ぬかせ。俺がこれを持っていることなどお前は分かっていたのだろうが。出なければあそこまで無惨な姿にはすまい」

 

 俺がおどけたように振る舞えば、馬鹿にするなというように返してくるライザー。

 それが何だか面白くてクツクツと笑ってしまう。

 

「ははははは、いいなぁやっぱ。今のお前はどうにも悪魔って感じがしねぇぜ」

「……そう言われて俺にどうしろと?」

「別に、言ってみただけだ」

 

 さて。

 

「ほらよ」

「む?」

 

 俺の台詞にいぶかしむような表情を浮かべているだろうライザーへ向けて、背後を見ずに懐から取り出したそれを投げ渡す。

 しっかりと受け取ったライザーは手の中で淡い輝きを放つそれに思わず目を見張る。

 

「これは……」

「一応の保険だ。それもついでに兵藤にやっといてくれ。あんだけ暴れたんだ、神滅具の悪影響がどんな風に出てくるか見当がつかねぇ。野郎にゃまだまだ使い道がある。そいつを使えば死人も甦るってな具合で、最悪寿命が削られていようがある程度は持ち直すだろうよ」

 

 それは俺の持つ回復薬の中でも一番の効果を誇る隠し玉、ゲームの中でさえこれがあれば土壇場の起死回生もできるほどのそれは、今のところ俺にしか製造できないレアモノだ。

 

「『虹色の薬』という、俺もかなりお世話になった秘薬だ。愛しの眷属君がこれからも無事生きていけるってんなら、わがまま姫もお前の話に聞く耳持つだろうさ。それを使って魔王様からせいぜい良い条件を引き出すこった」

「ふっ、アフターフォローも仕事の内か、傭兵?」

「そりゃあもう、こういうちょっとしたことが中々馬鹿にできないんだぜ? 顧客の満足度がそのまま報酬に繋がることがざらなんでね」

 

 今回の依頼主はグレモリーではあるが、そもそも俺はライザーにお呼ばれしたからこの場にいるのだ。主賓の顔を立てずに去れば他の悪魔たちに顰蹙を買うことになるだろう。

 それを見過ごすくらいなら、この程度の出費痛くも痒くもない。

 

「よかろう、それではありがたく使わせてもらう。帰りはレイヴェルに任せよう」

「あいよ、んじゃ」

「待て、最後に一つ聞かせろ」

 

 別れの挨拶でも、と思った俺の言葉を遮ってライザーが真剣な様子で短く問い掛けてくる。

 挙げようとした手を腰に戻し、もう少しばかり話に付き合うことにする。

 

「何だ? まだ何かあんのか」

 

 急かすようにその内容を聞こうとすれば、問い掛けてきたはずのライザーは何故か言い淀むような雰囲気で言葉に詰まっている様子だった。

 いぶかしむ俺が振り返るのを見て意を決したか、向き合う俺の腰に視線と指を向けてくる。

 

「その、腰の剣を抜かなかったのは何故だ。

 お前ならばわざわざ別の武器を使わずとも、あの人龍に遅れを取るまい。ここで無駄に手札を晒す必要もないはずだ」

 

 それは俺が所持をしつつもついぞこの場では抜かなかった刀に関する疑問だった。

 後生大事に抱えたこいつがどうして使われなかったのか、ライザーはそれが疑問なのだろう。

 

「はっ、お前そんなことわざわざ気にしてたのかよ、笑える」

「くっ……ええい良いから答えろ!! それも何か特別なモノなのだろう、早く戦いの時のようにつらつらと話せ!!」

 

 こいつも男の子ということなのだろう。ああいう武器に心が踊るのも無理はあるまい。

 別に減るもんじゃねぇし、喋ってもいいが……。 

 

「教えねぇ」

「何!?」

 

 

 

 ―――それは、おもしろくないだろう。

 

 

 

「そんなに知りたきゃ今度こそ抜かせるんだな。そんときゃこいつの斬れ味、嫌になるほど味わわせてやる。

 

 

 ―――それまで誰にも見せねぇよ、こいつの次の獲物はテメェだライザー」

 

 

 ―――それまでお互い、精進しようや。

 

 

 言うべきことは言い切った。

 ライザーがそれに対してどんな表情をしていたかは、振り返ってしまった俺には分からない。

 だが歩き始めた俺の背に、奴の笑い声が高々と聞こえてくる。

 それが何とも楽しそうなものだから、俺もそれにつられて自然と口の端が上がってしまう。

 離れていくに従って遠ざかっていく笑い声、そして一頻り笑い終えたライザーは周囲に聞かせるように声を張り上げ檄を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

『―――聞けぇ!! この場に招かれた悪魔たちよ!!

 

 此度の余興、予想外の乱入者のお陰で大分予定から外れてしまい、皆を混乱させる事となってしまったことだろう!!

 

 だが! かの赤き龍の暴走も、協力者との共闘で無事に鎮めることができた!!

 

 赤き龍、恐るるに足らず!!

 

 しかし、これはほんの序章に過ぎぬのだ!!

 

 龍をめぐる混迷の世界に、これから我らは立ち向かわかねばならん!!

 

 その時が訪れたのなら、我らがすべきことは何か!!

 

 答えは一つ、戦うことだ!!

 

 我ら悪魔が他の奴等に戦線で遅れをとることなど、言語道断!! 許されることではない!!

 

 悪魔たちよ!! 栄えある貴族たちよ!!

 

 停滞の時期が終焉を迎えるぞ、動乱の世がすぐ側まで来ているぞ!!

 

 備え、鍛えんとする者たちに、我らフェニックス家は多大な支援をもって応えよう!!

 

 さあ!! この俺と戦列を共にする勇気ある者はいるか!! この期に名を上げんとする者はいるか!! 強敵を望む腕自慢がいるなら名乗り出るがいい!!

 

 

 

 魔王様の膝元に集いし我らの誇りを、今こそ天地に示すのだ!!

 

 

                              』

 

 

 

 いつの間にか側にいたレイヴェルが用意した転移の魔方陣を潜り抜けながら、悪魔たちの大歓声で溢れる冥界を後にする。

 何ともまあ、大したもんだなライザーの野郎。

 悪魔たちのあの熱狂ぶり、そんじょそこらのカリスマ性じゃああはならねぇ。

 どうにもこの一件で一皮剥けたみたいだ、これから奴がどれほど強くなることか想像できやしねぇ。その原因の一端が自分にあるのに言い表せぬ感情を抱きながら、もう少しあの場にいたかったという思いを振り切って魔方陣へと歩みを進める。

 

「旗本様、今宵は本当にありがとうございました。兄に代わり、心より御礼を申し上げます」

「構わねぇよ、おかげでこっちもモチベが爆上がりだ。お前の兄貴に火ぃ付けられちまったからな」

「それはよう御座いました。どうか次の機会では、お二人が満足のいく決着がつけられることを願っております」

 

 そんな会話をしていると、目の前の景色が移り変わりここに来る前にいた居間が現れてくる。

 そして無事に元の世界へと帰還し一息ついていた俺に向けて、レイヴェルは丁寧な礼をして別れを告げる。

 

「それでは旗本様、此度はこれにて。いずれまたお会いする時までどうかご壮健であらせられますよう」

「おう、そっちこそ闘り合うまでくたばんじゃねぇぞ、って伝えといてくれ。しばらくそっちはごたつくだろうし……ああそれと、リアス・グレモリーでもあのメイドっぽいのにでもいいからこう言っといてくれ」

 

 釘を刺しておくのを忘れていたが丁度いい、ついでだが言伝を頼んでおくか。

 

「―――『契約を忘れるな』

 

 それだけはきっちりとあいつらに言い聞かせておいてくれ。重要なことだから、忘れたなんて言わせないようにきっちりと、しっかりと頼むぜ」

 

 レイヴェルは俺の頼みに、深くを聞かず分かりましたと短く応え、もう一度礼をして魔方陣へとそのまま姿を消していくのだった。

 静かになった部屋に一人残された俺は、懐に押し込んでいた一枚の紙を取り出して、もう一度その内容を確認する。

 

「『―――傭兵・旗本奏平は上位貴族リアス・グレモリーの眷属である下級悪魔・兵藤一誠の暴走を可能な限り身命を維持した状態で阻止するべし。

 

 この依頼が達成されたとき、リアス・グレモリーは報酬として現魔王サーゼクス・グレモリーとの公式の会見を確約することとする』」

 

 実際にはもっと色々と書き込んでいるのだが、一番重要なことはこの書類にリアス・グレモリーの正式な署名がなされていることである。

 あの土壇場で冷静な判断が出来ていなかった彼女にはこの書面のガバガバ加減が理解できていなかっただろうが、既に出来上がったものにイチャモンをつけさせはしない。

 

「……ようやく一つ、機会を得られた。

 一歩ずつだが、進んでいるぞ、俺は。

 理想の実現にはまだまだ遠いが、とにかく一歩だ」

 

 この紙っぺら一枚、俺がこの騒動で手に入れたにしては安いものだと考える者もいるだろう。

 だがこれが俺にとってどれほどの価値を持つのか、それを正確に理解できる奴がいるだろうか。だからこそ、これは誰にも分からない切り札になり得るのだ。そのためならば手札に一枚や二枚、それこそ安いというものだ。

 

 確認を済ませた書類を丁寧に折り畳み直し、再び懐へと仕舞い直す。

 動き出した世界の行く末を想像し、そこにどれだけ食い込めるかわくわくしている自分を感じながら寝室へと向かう。

 やりたいこと、確認しなければならないことはあるが、今日は一先ず。このいい気分のまま眠ることにするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――こうして、不死鳥に端を発する一連の騒動は終息し、これを切っ掛けに新たな兆しが悪魔たちの中で生まれることとなる。

 一山越えたというべきだろうが、しかし。

 既に新たな騒動の原因が駒王町へとその狙いを定めていた。

 俺がそれを知ることになるのは、もう少し後のこと。

 今はただ、心地いい睡魔へと身を委ね、微睡みの世界へと意識を手放すばかりであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

この後、11時頃に活動報告の方を上げさせていただく予定です。
何分仕事の関係でこんな時間でないとゆっくり書き込めないもので、ご迷惑をお掛けしますがどうかご了承下さいますようお願いいたします。
これからもどうか、応援のほど重ねてお願いいたします。
それでは。


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第二章 【剣は如何にして聖なるかな】
一番勝負 廉造魔剣・木場裕斗 <序>


どうも、アゲインです。

本日より第二章、『剣は如何にして聖なるかな』を開始致します。
どうぞよろしくお願いします。


また、活動報告のほうでも挙げておりますが、仕事の関係で投稿ペースが更に落ちることになると思います。
皆様にはご迷惑をお掛けしますこと、この場を借りて謝罪いたします。



 ―――それはある日の放課後のことであった。

 

 

 噂を聞き付けた多くの生徒が既にひしめき合い、大きなざわめきが広い屋内で反響している。

 その視線の先には二人の男子生徒が向かい合うようにして佇んでいる。それだけならばここまで多くの生徒が集まることはないだろうが、問題はその二人が手に持っているものにあった。

 

 

 

 

 

 ―――それは競技用ではあるものの、扱い方を熟知している者が使えば怪我では済まないモノ。

 

 

 

 

 

 二人の手に握られているモノ、それは……竹刀であった。

 主に剣道に用いられる稽古用具でありながら、その構造上十分に相手を負傷させることもできる代物。

 ただでさせ防具を着用しても打ち身、脳震盪を引き起こすことができるこの竹刀。もし防具を着ていない状態でその一撃を受けたのならば、それ以上の大怪我を負うことは容易く想像できるだろう。

 

 

 ―――しかし、あろうことかこの二人、今からその防具を用いずに試合を行おうとしているのである。

 

 

 服装など上着を脱いだ程度であり、およそこれから戦おうというようなものではない。特に身を守るものは存在せず、手にある竹刀がなければ休憩時間をスポーツでもして過ごすかのような絵面ですらある。

 だが、二人の間にあるのはそんな爽やかな感情ではなく、ヒリつくような敵意がそこにはあった。

 

 ここにいる生徒たちは、どうして二人がこのようになっているのか、その正確なところを分かっているわけではない。

 ただ何か面白そうなことが起こっているとどこからともなく口コミで広がり、我も我もと集まってきただけなのである。

 だから何故、この二人が今にも戦い始めようとしているのか。何も分からないまま、いきなり始まったこのイベントの非日常さに心を踊らせていたのである。

 一見拗らせた生徒同士のただの小競り合い、だがその実態は決してそんなものではない。

 最近の裏の事情を知る者であれば、この二人がどうして戦うことになったのか想像がつき、同時に顔を青くすることだろう。

 何故ならば―――この戦いが、先の事件を起因にして始まったからである。

 

 

「……まさか二つ返事で来てくれるとは思わなかったよ。君は僕たちのことを毛嫌いしているようだったからね」

 

 まず始めに口を開いたのは竹刀を両手で前に構えている方の生徒。

 普段であればその甘いマスクで女生徒の黄色い悲鳴を受けているはずのその生徒は、今はその敵意を帯びた視線に相応しい厳めしさで眼前の相手を睨み付けている。

 

「別に、お前らみたいなのを全部嫌ってるわけじゃぁねぇ。ただ、俺の道理に合わないことをしやがるから嫌いなだけだ」

 

 それに対して肩に担ぐようにして竹刀を持ち、不遜な態度を見せるもう一方の生徒。

 どこか普通とは異なる風格を漂わせるこの生徒は、最近になってこの学園へと現れた異色の経歴を持つ男。普段の彼を知る他の生徒からすれば、とてもではないがこのようなことに関わる奴ではないと考えることだろう。

 だがその静かな出で立ちに、どこかしっくりとくるものを感じてもいた。

 

 

 およそ関連性のないように見えるこの二人。

 しかし、ある意味でこの二人がぶつかり合うことのは必然というべき理由が存在していた。

 仲間のことを思い行動したのだろう。それがどれだけ軽率な行いであるか指摘されるものにも関わらずこのようなことをしてしまうほどに。

 だからこそ、その愚かにも尊い行いに、逃げるようなことをせず受けて立つ選択をしたことは何もおかしなことではなかった。

 そう―――

 

 

 

 

「―――仲間を傷つけた君を許すことはできない。勝負だっ!」

 

 リアス・グレモリーが眷属であり、【騎士】の転生悪魔。神器より造り出した魔剣の使い手、木場裕人と、

 

 

 

「―――頭で納得できることじゃないってのは理解できてる。だがな、生憎黙ってやられてやるほどお人好しじゃないんだわ」

 

 世界を巡り人に仇なすモノを討つ傭兵。異能を操り数多の武具を駆使する、【タイコの戦士】旗本奏平。

 

 

 

 

 ―――共に剣を振るう者。言葉ではなく剣で語り合うことを選んだことは、もはや運命であるというしかないだろう。

 

 いよいよ始まる戦いの気配に高まる周囲の期待感。さながら闘技場の様相を呈してきた屋内で、二人の闘志がメラメラと燃えている。

 これほどまでに戦いへの激情を駆り立てる彼らがいつ、出会ったのか。

 それを語るには少しばかり時間を遡る必要があるだろう。

 

 

 ―――冥界にて暴れた龍を、人魔が鎮めた一件よりしばし。

 傷付いた兵藤の治療のため、リアスがアーシアを呼び、共に冥界へと赴いた眷属たちはそこで戦いの結果を知ることとなる。

 その時のことが起因となり、騎士はかの戦士との一騎討ちを果たすべく動きだしたのである。

 まずはそこから、順序に沿って話をしていこう。

 

 そう、それは冥界へと出立し、主を救ってみせると約束した仲間の無事を祈っていた時のことである―――

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

さて、奏平と戦うことを選んだ木場くん。
何が彼を突き動かすというのだろうか。


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回想―――魔剣士の憂鬱 前半

どうも、アゲインです。

地獄のランダム五連勤がやっと終わりました……。
ようやく続きが投稿できます、お待たせいたしました。



 事の発端は自身の主、リアス・グレモリーが婚約者であるライザー・フェニックスとの婚約解消を賭けたレーティング・ゲームを行ったことから始まった。

 

 主のために戦意をみなぎらせる仲間たち。必ずこの戦いに勝利するのだと、主の願いを叶えこれまでの恩に少しでも報いるのだと。

 そう固く決心して、戦いへと望んだ。

 

 

 

 

 

 ―――だが……それがどれほど脆弱な意思であったのか、それを思い知らされるのにさほど時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 通常それぞれの眷属たちと共に戦うはずにも関わらず、たった一人で戦場へと現れたライザー。

 ハンデだという彼は、自分の眷属には手を出させないことを約束し、そして実際に自分一人で僕たち全員を相手取った。

 その不遜な態度に、舐められてたまるものかと一斉に攻撃を食らわせる僕たち。

 

 

 イッセーくんのドラゴンショット。

 子猫ちゃんの拳打。

 朱乃さんの雷撃。

 部長の破滅の魔弾。

 僕も魔剣を造り出して攻撃する。

 

 

 ―――しかし、そのいずれもライザーには効かなかった。

 いきなり熱波が襲いかかってきたかと思えば、目の前のライザーが赤い鎧に身を包んでいた。

 急な変化に驚く間もなく、腕の一振りで発生させた巨大すぎる炎が僕らを攻撃全てを飲み込む。その赤い津波に接近していた僕ら前衛の三人は勿論、後衛で攻撃をしていた二人も逃げられずその炎を食らってしまう。

 掻き消される攻撃、唯一部長の魔弾だけが残りライザーに迫ったものの、奴はいつの間にかあった背中の翼のようなものでその魔弾を弾いてしまったらしい。

 そしてライザーはそのまま炎を繰り出し続け、一度もその場から動くことなく僕らを叩き潰した。

 ……というのも、これはアーシアから後で聞いた話だ。

 

 

 

 

 

 ―――炎によっていたぶられ、気絶させられた僕たちは、目覚めたときには部室に横たわっていた。

 咄嗟起き上がって部室を見渡すと、自分と同じように傷付いた仲間達が唯一無事だったらしいアーシアに治療を受けている様子が目に飛び込んできた。だけど、その中に部長の姿がないことに気付いて背筋が凍りついた。

 まだ少しだけふらつく頭を無理矢理押さえ、泣きじゃくっているアーシアへと近づき何が起こったのかを聞こうとする。

 イッセーくんの治療をしていた手を止めず、彼女の口からたどたどしく語られたのは―――

 

 

 

 

 

「……っくそぉ……!!!」

 

 

 

 

 

 ―――自分たちの、無惨な敗北の事実。

 

 

 

 

 

 あまりの無力感に、思わず拳で床を叩いてしまった。

 一矢報いることすらできず、ただ力の差を教えられただけ。上位貴族であっても、戦いなら負けるものかと意気込んでのこの体たらく。

 主から聞いていた相手の印象と実際に会った人物の性格の変化にもっと注意していれば、こんな結果にはならなかったのではないか。

 僕がそんな後悔を一人していると、アーシアの治療によって回復したイッセーくんが目を覚ました。

 

 一番に部長の心配をする彼に、残酷な事実を告げねばならないことに心を痛めつつ、それでもはっきりと、自分たちは主を守れなかったのだということを告げた。

 

 それを聞いた彼は目を見開き、愕然とした表情でこちらを見つめ、力なく天井へと顔を動かす。今だ傷の癒えない体を強張らせ、悔しさに声をあらげ涙を流す彼の姿を前に、僕は慰めることもできない自分が情けなくて黙り込むことしかできなかった。

 

 

 

 ―――その後、他の仲間たちも目を覚まし、それぞれが敗戦の事実を認識していく。主を守れなかったことに悲しみと後悔の涙を流して、その日は眠ることができなかった。

 

 

 

△     △     △ 

 

 

 

 それから数日が経ち、意気消沈している僕たちの前にライザーの眷属が現れ、彼女の口から婚約発表の日時が発表された。

 淡々とした口調で話をしていく彼女に対して僕たちが異を唱えることはできない。彼女はあくまでゲームの勝者としての立場からここにいるからだ。

 

 しかし、その中で一人、悪魔となって日が浅いイッセーくんがその慣例に反発する。部長の意思を無視したこの婚約を許すことができなかったのだろう。彼はメッセンジャーである彼女に食って掛かり、あろうことか再度レーティング・ゲームを行うこと提案してしまったんだ。

 その突然の申し出に、むしろ僕たちの方が驚愕してしまった。それは先日の戦いを経験し、お互いの力量差をまざまざと見せつけられたとは思えない発言だったからだ。

 もう一度戦ったところで勝てるなんて考えられないほどの隔絶したライザーという存在が、炎の痛みと共に脳裏へ甦る。体が自然と震え出し、冷や汗が背筋を伝うのを感じている。

 あまりにも無謀なその提案に思考が追い付かず、制止の言葉が出て来ない。

 

 その間にも使者の彼女に言い募る彼だったが勿論それが許されるはずもなく、すげなく断られてしまう。それでもなお言い寄るイッセーくんに、ライザーの眷属である彼女は分かりやすい手段を用いてきた。

 魔方陣をその手の中に発生させたかと思うと、イッセーくんの三方向にそれと同じものが浮かび、その中から魔力の鎖が飛び出し彼を縛り上げる。

 容易く自由を奪われた彼は床に倒れ込まされ、強制的に這いつくばらされてしまった。

 床の上で呻く彼に向けて、使者の彼女は見下すようにして言い放つ。

 

 

 

『―――戦士足り得ないあなたでは、お兄様の相手は勤まりません。無論、あなたの主を取り戻すなど、その様では出来ようはずもない。

 今のお兄様に敵う相手は、それこそあの御方ぐらいなものでしょう。

 どうです、話くらいは聞いてくださるかもしれませんわよ。旗本様も、元同族の頼みならば耳を貸してくれるやもしれませんし、ね』

 

 

  

 それまで頑として変わらなかった彼女の表情が、その名を口にした途端花が開くように朗らかなものとなった。

 彼女が語るあの方―――それが以前部室に現れた傭兵を名乗る男であることに驚きと疑問が頭に浮かぶ。

 何故、そのような顔をするのかというのもあるが、一番はあのライザーに敵うということを、その眷属である彼女が語ったからだ。

 

 ライザーの強さは僕が今まで出会った存在の中でも上位にあたるものだ。僕たち全員で戦っても、まるで歯が立たなかったというのに、彼女はまるで自分の主が倒されるかもしれないということまで仄めかしている。

 

 旗本奏平―――僕たちのような存在を相手にする傭兵とはいえ、彼は人間のはずだ。

 確かに昔ライザーと引き分けたというようなことは語っていたが、それも昔のこと。

 今のライザーにたかだか人間が敵うなど、とそんなことを思っていたらいつの間にか音もなく彼女の姿は消えていて、魔法の鎖もなくなっていた。

 胸の中にわだかまる感情、納得できない事柄を整理するのにしばらく時間が掛かった。

 他のみんなも同じようで、お互いに顔を見合いどうにか落ち着こうとしている。

 

 だからだろう、その時イッセーくんが浮かべていた表情に気付けなかったのは。彼がこの時何を考えていたのか、それを理解できていれば、僕は更なる後悔をせずに済んだかもしれないのに。

 




読了ありがとうございました。

しばらくは木場くん視点と第三者視点で話を進めていきます。
彼の視点で第一章で触れていなかったリアス陣営のことを振り返りつつ、彼が奏平と戦うことを選んだ経緯を語っていきたいと思います。


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回想―――魔剣士の憂鬱 後半

『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』を造り出すために必要な………神器「魔剣創造(ソード・バース)」と神器「聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)」……この二つの神器ってよォ~~~
神器「聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)」ってのはわかる……スゲーよくわかる
代表的な神器は聖剣と相場が決まっとるからなぁ…

だが神器「魔剣創造(ソード・バース)」ってのはどういう事だああ~~~っ!?
魔剣が聖書の神様に創れるかっつーのよ―――――ッ!
ナメやがってこの設定ぇ超イラつくぜェ~~~ッ!!
神器で魔剣が造れちまったら矛盾が生じちまうじゃあねーか!
説明できるもんなら説明してみやがれってんだ!チクショ――ッ

どういう事だ!どういう事だよッ!クソッ!
神器「魔剣創造(ソード・バース)」ってどういう事だッ!
ナメやがって クソッ!クソッ!





という疑問に答えていただきたく、この後編を皆さんに捧げます。
ストックの心配はしないでください、睡眠をほんの四時間程度にするだけですから。何も問題ありません。
さあ!! いくぜパタポンズ!!
真の覚悟はここからだ!!



 

 ―――その日は結局、そのまま解散となった。

 僕の頭の中には部長のことと、旗本奏平という人のこと。その二人のことがグルグルと回ってとてもではない考えがまとまらなかった。

 そんな状態のまま日が進み遂に婚約発表の当日。どうしようもない現実が目の前にあることを見せつけられているようで、なおさら無力感に苛まれる。

 だけど―――そんな僕たちの前に、予想外過ぎる驚きの展開が待ち受けていた。

 

 

 

△     △     △

 

 

 

 当日の会場に招待されていない僕たちは、結局何もする気が起きずそれでも惰性のように皆で部室に集まっていた。

 部室の備えられた時計を確認すると、時刻はそろそろ婚約発表会が開かれる頃となっている。そんな鬱々と空気が蔓延する部室の中へ、突然魔方陣が出現した。

 それは転移の魔方陣、もしやまたライザー眷属の彼女が来たのか?

一体何の為に? 

 だけどそんな疑問は、その中から出てきた人の姿を理解したときには驚きで吹き飛んでしまった。

 

 魔方陣から出てきたその人は、何と部長の義理の姉、魔王様の奥様であるグレイフィア様だったんだ。そんな人が何の前触れもなく、何故かイッセーくんと一緒に現れた。

 その突然の登場に混乱する僕たちを制し、グレイフィア様からこれから起こることの詳細を聞かされる。

 それは一縷の望みと言えるほど、か細い作戦だった。

 だけど、僕たちにそれ以外の方法がないことも確かだった。

 

 

 

 ―――その作戦とは、簡単に言えば”殴り込み”としか言えないものだった。

 この数日の間に神器の『禁手』に目覚めたイッセーくんがライザーを倒すことで、婚約者としての正当性を不確かにする、というもの。

 

 

 『下級悪魔に敗北してしまうようでは、魔王の血族の伴侶に相応しくはないのではないか?』

 

 

 難癖のようなものではあるが、実力主義の悪魔の世界では割と通じる手段ではある。

 それをパーティーに呼ばれた他の悪魔貴族たちに、魔王の妻であるグレイフィア様が訴えることで婚約破棄の流れを確かなものとするということだった。

 

 力技というにはあまりに乱暴な作戦であったが、このチャンスを見逃すわけにはいかない。彼女が動くということは、これは魔王様の意思でもあるはずだ。

 そのことが、僅かに湧いた希望を信じさせるのに十分なほどで。

 僕たちは部長の自由を彼に、イッセーくんに託したんだ。

 無事を祈る僕たちに見送られたイッセーくんの背中を見送り―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして数時間後、彼が昏睡状況であることを、冥界から帰ってきた部長から告げられた。

 

 いつもの部長ではあり得ない、薄汚れた格好の彼女の表情はひどく焦燥に駆られていた。その様子から、冥界でとんでもない事態が起きたのだということは簡単に理解できた。

 全ての疑問は二の次だった。急いで全員で冥界の彼女の家へと連れていかれ、そしてそれを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そこには、全身くまなく包帯を巻かれ、ベッドの上で力なく倒れ伏す僕たちの仲間の姿があった。

 

 痛みに歪む顔。

 荒く震える呼吸。

 異常に吹き出る汗。

 

 何人もの悪魔が彼に回復魔法を掛けているようだったが、一向に状態が改善する様子はない。

 

 あまりの彼の姿に、僕は立ち竦むだけだった。

 アーシアだけは直ぐ様イッセーくんの側へと駆け寄っていき彼女の神器による治療を始めたが、子猫ちゃんは顔を青くしてその場に座り込み、朱乃さんはイッセーくんの側で呼び掛け続ける部長の体を労るようにして抱き支え涙を流していた。

 

 そんな中で、僕はグレイフィア様にどうしてこんなことになったのかを、イッセーくんから目を離さずに聞いていた。何故かは分からない。でも、その時の僕はそれを聞かなければならないんだと自然と考えていた。

 彼女はイッセーくんがこの状態になってしまった責任感からか、全てを包み隠さずに話してくれた。

 

 

 

 ―――発表会の場にたどり着いた時、既にライザーと旗守奏平との戦いが始まろうとしていたこと。

 

 ―――その戦いに横やりを入れるようにしたため、旗守により妨害を受けたこと。

 

 ―――それによって、イッセーくんが暴走してしまったこと。

 

 ―――それをライザーと旗本が、協力して抑えたこと。

 

 ―――暴走と戦いの後遺症で体が限界まで傷つき、寿命すら危うい状態になったということ。

 

 ―――フェニックスの涙や、旗守の持っていた秘薬によって一命はとりとめたが、それでも予断は許さない状況であること。

 

 

 また、イッセーくんが暴走してしまったことによって、そんな危険人物を不用意に連れてきてしまったことの責任をグレモリー家は追求されているという。

 これからその賠償について会議を開かないといけないとか、そのためにしばらく部長には学校を休んで貰わなくてはいけないとか。そういったことも聞かされていたけれど、頭の方にはまともに届いてはいなかった。

 目の前の光景と、かつての記憶が重なって、それどころではなかったからだ。

 

 

 

 ……そうして話が全て終えた後、僕は仲間に後を託し一人、人間世界へと戻った。

 やらなきゃいけないという、強い意思だけが、その時僕の心の中にはあった。

 その心が命じるままに、翌日僕は、同級生たちに囲まれる彼の前に立っていた。

 そして―――

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

次の更新までまた日が空くと思いますが、それまで気長にお待ちくださいますよう。
回答がいただけるようでしたら感想欄でも活動報告のほうでもいいので、お好きな方に書き込んでいただけると助かります。


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一番勝負 廉造魔剣・木場裕斗 <破…?>

どうも、アゲインです。

まずは投稿が遅れましたこと、お詫び申し上げます。
一度書いたはいいもの、中々煮詰まらず。こうしてズルズルと時間を掛けてしまいました。


また、感想欄や活動報告で多くの意見考察をいただけましたこと、誠に感謝いたします。
お陰様で自分の納得できる設定でこの章を進めていけます。本当にありがとうございました。
感想返しが出来ておらず皆様をご不快にさせていないかが心配です。できれば返信をもう少しだけお待ち下さると助かります。

今後も皆様と一緒に楽しい作品を作れるよう努力して参りますので、どうか応援のほどよろしくお願いいたします。



それでは続きをどうぞ。




 

―――そして今、彼らは刃を持たぬ剣を持ち、衆人環視の中雌雄を決しようとしていた。

 

 

 

 放課後の談笑中いきなり目の前に現れた木場の、突然の対戦の申し出。

 普段の木場とは違う尋常ではないその態度に周囲の生徒たちが唖然とする中、奏平が間を置かず了承したことで近くにいた彼らは思わずギョッとした表情で奏平の方へ顔を向けてしまう。

 それに構うことなく話を進める二人。

 

 ―――そしてあれよあれよという間に舞台は整い、こうして時間は元の場面へと舞い戻るのだった。

 

 

 

△     △     △

 

 

 

 目の前の相手の視界の中央に据えながら、深く呼吸を行う。

 木場にとってこの戦いは、今も床に伏している仲間ための戦いだった。

 それがどれほど愚かな行いか、彼自身も十分に分かっている。

 しかし、それでもここで動かなければどうしようもないほどに、彼の心は悲鳴をあげていたのだ。

 主も救えず、仲間を傷つけら、それでも剣士である自分には戦うことしか出来ない。

 このもどかしさ、悔しさ、怒り、後悔。

 様々な感情が入り乱れる心が求めたのは―――やはり、戦うことだった。

 

 どこまでいっても、自分は所詮剣士でしかないのだと、彼は理解している。

 そんな自分が仲間のためにできることは、戦って、一矢報いること。無惨にやられてしまった仲間のために、どうにかして一発この男に入れてやりたい。

 それだけを思い、彼は今”恥知らず”の汚名を被ることを覚悟してこの場へと立っていた。

 でも―――

 

 

 

 

 ―――でも僕は何故、彼に挑むのだろう?

 

 

 頭の片隅にあるその疑問が、少しだけ浮かんでまた沈んでいった。

 目の前の相手に集中していく意識がそれを押し込んだからだった。

 

 

 

△     △     △

 

 

 

 ―――そんな鬼気迫る木場とは対照的に、奏平は静かなものであった。

 木場の内心が燃え盛るようなものであるのに関わらず、それを受け動じぬ様はまるで『凪』。波一つない湖面のような静けさは、単にその過酷な経験からくるものであった。

 その経験から、この手合いに言葉による説得など無駄であり、自身の敵意こそを相手が望むことを理解していたからだ。それが目の前の相手に対する、最大限の敬意だと考えて。

 

 しかし彼はその敵意の高さに反するように、驚くほど冷静な状態でこの戦いに挑んでいる。

 今も木場に注意を向けながら、視界の端では周囲の観察を怠っていない。その結果、一般生徒とは違う種類の視線がいくつか向けられていることに気付いていた。

 こちらを探るようなその視線、その正体について思案するもある程度の候補は挙がるが答えは出ず。その答えに行き着くほどの時間がないことを動き出した木場によって察した奏平は、一先ずその疑問を忘れ去りこの剣士との一戦に没入するのだった。

 

 

 

△     △     △

 

 

 

「―――はぁっ!!」

 

 開始の合図はお互いになく、最初に仕掛けたのは上段に大きく構えをとった木場であった。

 並の競技者では追い付けないほどの加速を一歩で行い、あっという間に距離を詰める。

 間合いに入った瞬間、高速の一閃。

 容赦のない振り下ろしが奏平の頭部に襲いかかる。

 

「……」

 

 それに対し、奏平は敢えて半歩、前に出た。

 全力での一撃は途中でその軌道を変えることはできず、本来狙っていた場所から木場の有効打がズレる。

 その剣筋へ奏平の竹刀が軽く添えられるようにして置かれたかと思えば、接触の瞬間その軌道が大きく外側へと逸らされた。

 

「何っ!?」

「……」

 

 先の交錯、木場が先手を取ったかに見えたが実際は違う。

 奏平は木場の竹刀が振り降ろされる軌道を予測し、万全の力が入りきるその前には既に自身の竹刀を構えていたのだ。そして竹刀同士が当たる瞬間に、自分に当たらないよう軌道をねじ曲げたのである。

 あまりに自然な動作のよって敵対する者はおろか、観衆ですら見逃してしまった先出し。機先を制された木場の攻撃はそのまま奏平の意図する通りの動きとなり、最小限の力のみで容易く先程の一撃を受け流したのだ。

 

「くっ……!!」

 

 それをやられた木場の方は勢いに後押しを受けたようなもので、意図しない方向に自らの体が泳いでいくのを止められない。そのまま床に激突するか―――と、いうところで機敏な身体操作がそれを阻む。

 自身に御せないほどとなった勢いを、前に出した片脚を踏ん張らせることで減衰させる。更に床に胸が着きそうなほど異常なまでに低い姿勢となり、竹刀を片手に持ち変え自由になったもう片方の腕一本で残りの勢いを吸収する。

 

「せぇええっ!!」

「ほう……」

 

 奏平の後方に這いつくばるような姿勢から一転、回転と跳躍を腕の力だけで同時に行う荒業を披露してみせる木場。捻りを加えた一撃が、またもや奏平の頭部に振り下ろされる。

 その曲芸のような攻撃に対し、今度は迎え撃つようにして竹刀を振るう奏平。

 

 

 

 

 

 全体重を落下の勢いのまま腕力に乗せ、関節のしなりも使った先程の打ち込みを越える木場の"一太刀"。

 

 依然片手で竹刀を振るい、視覚の外から襲いかかる攻撃に不用意な対応をしてみせる奏平の"一太刀"。

 

 

 

 

 

 片や全力の攻撃、それに対するにはあまりにも不十分な迎撃を敢行した結果は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな」

「おお、やるじゃん」  

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あろうことか、押しつ押されぬ鍔迫り合い。

 

 

 同等の力がせめぎ合う、まさかの展開に流石に度肝を抜かれた木場だったが、それも一瞬のこと。

 その均衡を崩すべく、宙より舞い戻った両足でしっかりと床を踏みしめ更に前へ。

 

「はあぁぁっぁあああああああああ!!!!!!」

 

 そこから繰り出される乱打、乱打、乱打。

 息もつかせぬ連撃によってこの男の防御をこじ開ける。自慢のスピードにものを言わせ、対処のしようがないほどの攻撃を浴びせてやる。

 

 

 

「あああぁあああ!!!!」 

 

 

 

 そのつもりで放つ、

 

 

 

「あああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 そのことごとくが、

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 ―――まるで、意味を成さない。

 

 

「どうなっているんだ君は!?」

 

 常人では反応できない速度で繰り出されているはずの木場の攻撃。

それは嵐の中に立ち尽くしているようなものであり、一度でも受け損えばそこから崩されるほどのものだ。

 だが、

 

 

 

 

「―――おうおうおう、せわしねぇぜ」

 

 

 

 

 だがそれを、奏平は自然体のまま涼しい顔で捌き続ける!

 全身くまなく襲いかかる竹刀の猛攻を、その刀身が体に届く前に全て弾き返している。

 まるで目の前に壁でもあるかのように、木場の攻撃が一定の範囲から先に進まない。

 それも片手を体の後ろに回したまま、もう片方の腕のみで竹刀を扱い両手で攻撃を繰り出してくる木場に匹敵する威力と速度で対抗している。

 

 

  

 

 

 それが示すものは―――格差だ。

 圧倒的なまでの力量差が、二人の間に存在している。

 その格差を、他でもない木場自身が何よりも感じとっている!

 

 

 

 

 

「―――だけどっ……!!」

 

 それでも、と。

 それでも、この胸の内に込み上げる感情が相手への攻撃を駆り立てる。

 木場はその感情がもたらす力を全身にみなぎらせ、更なる攻勢を仕掛けるべく竹刀を加速させていく。

 だがそれは、自制していた力をも動員させるということで―――

 

 

  

 

 

「僕はっ!!」

「っテメェ!?」

 

 

 

 

 

 ―――それはつまり、悪魔としての力を解放し、人間を越えた挙動を発揮するということであった。

 

 瞬間的に高まる木場の圧力にそのことを察した奏平は、この戦いを終わらせることを即座に決めた。

 裏の事情に無関係な一般人が多くを占めるこの場で明らかにおかしい動きをしてしまっては、悪魔貴族のお膝元とはいえ流石に誤魔化すことは難しい。

 そうなる前に、次の一手で終わらせなければならない。

 

 

 そう判断した奏平は、ここで初めて自分から攻撃を仕掛ける。

 

 

 狙いは木場の竹刀を持つ手。

 振られてからでは遅すぎる故に、振られる前にその手から武器を取り上げるしかない。

 

「―――蒼天流剣術、奥義が一つ」

 

 そのために繰り出すは、自身が最速を誇る技。

 先の先を取ることだけを目指し、それのみに注力したその後を省みぬ捨て身の奥義。

 

 

 

「―――【一心剣】」

 

 

 

 誰よりも先に目の前の敵を倒す。

 ただそれだけを考え、ただそれだけを実行する。

 単純化された思考と動作が意識すら置き去りにし、戦闘の呼吸の間隙を突いて竹刀が延びる。

 本来は高速の斬撃により相手に何もさせないままに斬り伏せるその一撃は、今回ばかりは状況がそうもいかず一点集中の刺突がその代役を果たして木場へと襲いかかる。

 

 

 

 渾身の一撃を振り下ろさんとする木場、それを阻止せんと対抗する奏平。

 力と力が激突する。

 その最後の数瞬だった。

 

 

 

 

 

「―――そこの二人、動きを止めなさい!!!」

 

 

 

 

 

 途端、投げ掛けられる突然の制止命令。

 ほぼ届き掛けていた奏平の竹刀が、もしもに備え残していた意識に反応し反射的に停止する。

 しかし木場にその命令に従えるほどの猶予はない。両手に溜め込まれていた力を解放しようと留まることなく、奏平の脳天に容赦なく無刃の凶器が差し迫る……!!

 だが―――

 

 

 

 

 

「―――しゃあねぇな……!!」

 

 

 

 

 

 ―――だがそれを、それをも阻むほどに旗本奏平は【戦士】であった。

 

 

 

「……っ!?」

「ったく……」

 

 繰り出された凶撃は、狙いの頭に届くことなく。

 振りだされる、その寸前で差し出された左手で、武器を持たぬはずの左手だけで停められていたのだ。

 人外の膂力で繰り出されんとした一撃は、その始動から完全に塞き止められた。それは激流の前に板を立て、それのみをもってして河の流れに逆らおうというもの。

 

 

 

 それを成すのは、その人外に対抗できる力を持ちながらこの場にて尚人間の範疇に収まったままの、二十歳にもならぬ男。

 

 

 

 木場の手に伝わる感覚が、自身の竹刀に込められた力が何なのかを如実に伝えてくる。

 これはそんな力技ではないと。

 そんな荒くれた、粗野な技術ではないと。

 

 それを理解したとき、木場は目の前にいる相手の姿が途端に大きくなっていることに気付いた。まるで巨人がそこにいるかのような存在感が、リアルな感覚となって自分を圧倒している。

 今になって初めて、木場は自分が挑んでいる相手がどのような男であるかを理解した。それは先ほどの格差を分からせられるものよりも如実に、深く心に突き刺さる。

 途端に沸き上がる恐怖が戦意を蝕む。戦う意思が挫けそうになる。

 だがそれが、逆に彼を冷静にさせ周囲の状況に意識を向けさせることとなる。

 

 

 

 

 

「―――二人ともそこまでに!! この場は生徒会が預かります!! 今すぐ距離をとって、武器から手を離して!!」

 

 

 

 

 

 そしてようやく、自分達の他に誰かがいることに、戦いの場の変化に気付き。

 自分が何をしようとしていたかに気付き。

 そして―――

 

 

 

 

  

「―――この場は生徒会長、支取蒼那が取り仕切ります。あなたたち、こんなことをしてただでは済みませんよ!!」

 

 生徒会室で詳しく聞かせてもらいます、と。そう言いながら現れた彼女の存在に気付き。

 

 

 

 

 

 ―――その声を聞いて急激に、自分の中の感情が萎んでいくことにどこかほっとした感情を覚えて。そうすると、竹刀を握る腕の力を抜くことにためらいはなかった。

 

 

 

 その様子からもう戦う意思がないことが分かった奏平が彼から距離を取り、近寄ってきた他の生徒会役員に竹刀を渡す。対面で俯いていた木場へも同様に竹刀を手渡すよう促すが反応がなく、役員の生徒が恐る恐る彼から竹刀を抜き取っていた。

 

 その間にも他の役員たちが動き回り、決闘の空気に当てられた見物人の生徒たちを散らばらせていく。そして少し時間が掛かったものの、数名の、裏の事情を知る関係者たちだけがこの場に残ることとなった。

 無言の静寂が支配するその空間の中で、戦士はこの介入者たちがもたらす変化に一人、思考を巡らせる。

 

 

 

  

 

 

 ―――これこそが、新たな争乱の幕開け。それを告げる出会いであったことを理解する間もなく、彼らは未来に迫る危機に立ち向かわなくてはならない。

 異端者の存在によって歪み始めた世界の流れが、また一つ。本来の歴史から逸脱した戦史が紡がれようとしていた。




読了ありがとうございました。


これすらも序の口ということはもうお分かりだと思いますが、これからこの作品に足りていなかったモノがドンドンと出てきます。
タグ、あらすじ。
お前らはそのために存在していたのじゃよ。


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生徒会長、支取蒼那も悪魔である

どうも、アゲインです。

また期間があいてしまいましたが、私は元気です。



 

 「―――……さて、先ほどは木場君を止めて頂きありがとうございました。生徒会の長として、何より悪魔貴族の一人として、深く感謝致します」

 

 

 

 ―――と、いうような。

 こちらに対して腰の低い態度で話を始めた生徒会長を名乗る女生徒、支取蒼那に促され備え付けのソファーに対面するように座っている。

 あれから俺と木場は生徒会の奴らに連れられ、彼らの拠点である生徒会室へと場所を移していた。

 隣には木場も同じように座っていて、項垂れるような姿勢で彼女の話を聞いている。

 

「まずはライザーとの関係解消を発端とした先日の事件、四大魔王の一人『セラフォルー・レヴィアタン』の妹、ソーナ・シトリーとして謝罪いたします。

 本来無関係であったあなたにまで被害が及んだことはあってはならないことでした。

 

 こちらも今代の赤龍帝があのようなことになるとは思わず、この全くの想定外の出来事に対応が遅れる結果となってしまいました。それも上位貴族の眷属が起こした事態を赤の他人に解決させてしまったこと、重ね重ね謝罪致します。

 赤龍帝の彼は今も意識不明の重症を負いましたが、神滅具の暴走による後遺症を考えれば寧ろ軽いと言えるものでしょう。

 そうなるように配慮した戦いをし、更には貴重な回復薬もお譲りいただけたというのも、ライザーから聞いています。

 それについて、我々はあなたに感謝する立場であると認識しています」

 

 先日の戦いのことを悪魔陣営側がどう扱うのか。

 それを彼女は身分を示すことによって明らかにしてきた。

 四大魔王―――という、立場上同格とされていると推測できる家の親族が、グレモリー家の代行として謝罪をしてきたというところだろう。

 外交的なものを鑑みるに、グレモリー家側から”これで手打ちにしてくれ”、という申し出と受けとることができる。これはかなりの譲歩だろう。

 

 本来であれば眷属であろうと、自陣の者を傷つけられたならばその落とし前を着けさせるのが悪魔というものだ。

 しかし、それをしないということで報復の可能性がないことをこの女は言外に伝えてきている。

 

「私たちもこの不測の事態によって少々……そうですね、突き上げを食らっている、というのでしょうか。ライザーたちフェニックス家が率先して他の貴族を抑えてくれたことで暴動が起きることはありませんでしたが、それでも現状その対処のために各家は身動きができていません」

 

 ふむ……ここまでのソーナ・シトリーの説明を自分なりに解釈すると、だ。どうやらあの一件で、グレモリーの立場的なものがかなりヤバイことになっているらしい。

 まあ、あんなことになるなんて予想できるとは思えんが……しかしそうも言っていられんのが現状というか。兵藤の暴走がなければ話はもっと簡単だったのだろうが、それは俺がいた時点で回避はできなかっただろう。

 

 あの場は、俺とライザーのためのものだった。

 例えその前に、奴らの主がどうのこうのなっていようが、関係のない話だ。

 それに、奴らのやり方も何だかんだ奇襲染みていたもんだからその点も印象が悪ぃんだろうよ。いくら魔王の奥さまだろうと、あまり好き勝手やっちゃ反感買うのは目に見えてる。

 まあそのことを分かってんならそもそもやらかすような下手は打たねぇ、とどのつまりあいつら全員馬鹿だったってことになるんだが……さすがにここで言うことではないしなぁ。

 

 まあそのツケを今払わされていると考えればいいだろう。当分は身動きが取れないというのなら、こちらの動きも制限できないってことになる……とするとだ。

 

「勿論、そちらが納得のいくような罰を彼には負ってもらうつもりです。今回の件で裏のことが表社会に流出してしまうかもしれなかったのですから、それなりに重いものを課すことができますよ。

 ―――木場君、覚悟はできていますね?」

 

 こちらが脳内で考え事をしている内にも、会長の話は進んでいたようで。俺への状況説明が済んでいたかと思えば、その矛先が木場へと移り変わっている。

 

「……はい」

「本当に分かっているのですか? あなたがしたことは、リアスたちの立場を更に悪くしかねないものだったのですよ。

 リアスが婚約破棄を望んだことはともかく、レーティング・ゲームの結果に納得がいかないからとあのように式場に乱入した兵藤君の決断は、最悪の決断でした。

 あなたの行動も、それに匹敵するほどの愚行だったんですよ」

「……本当に、申し訳ありませんでした」

 

 戦いの時の激情が鳴りを潜め、沈痛な面持ちで謝罪の意思を示している様子の木場。粛々と自らの罪状を受け入れている。

 意気消沈といった有り様だが、彼女の言葉に少し疑問があったもので話に割って入る。

 

「ちょっと待て、さっきから聞いてると木場裕斗にばかり言及しちゃいるが、俺についちゃ何もねぇのが気になるな。俺も関係者な訳だし、こんな事態になったのも俺が受けて立ったからだろ? 兵藤一誠も、元はと言えば俺が原因と言っていい。

 

 それについて、あんたはどう思うよ。『こいつが余計なことをしなければ』とか、思ってんじゃあねぇのかい?」

 

 

 ―――なぁ、悪魔の貴族さん。お友達を悲しませている奴が目の前にいて、あんたどうも思わないのかい?

 

 

 

「匙っ!! 止めなさい!!」

「……っですが会長!! こいつっ……!!」

 

 見え透いた挑発に、背後に控えていた部下の一人が動こうとして直ぐ様彼女の止められた。

 匙と呼ばれた生徒は怒りで顔を歪ませこちらを睨み付けている。体を強張らせ、制止の命令さえなければ今にも殴りかかってきそうなほどだ。

 主の命令であれば自分の怒りすら抑え込んでみせるか。何とも美しい主従関係だこと、あいつらにも見習ってほしいくらいだ。

 

「……あなたも、あまりこのようなことは」

「OKOK、謝るよ。悪いね、こういう風に話し合いをしてくれる悪魔ってのは珍しいからつい意地悪をしちまった。

 ……で、どうなんだ? 俺の処遇は”おとがめなし”という判断でいいのかい」

 

 両手を掲げて降参ポーズ。これも煽りに見えたのか後ろの奴がまた動きそうになるが、それもまた生徒会長の彼女に窘められる形で思い止まる。

 

「……おとがめなし、どころか報酬を出していい程です。上が混乱している状況ですので今ここで、ということは出来かねますが」

「ああ……まあそれはいいわ。あの場で一応契約結んでるし、代わりと言っちゃ何だがよ」

 

 何かお望みはありますか、というソーナ・シトリー。

 それならば、と俺は隣を指差して提案した。

 

 

 

 

 

「―――こいつをしばらく俺の預かりにしてくれりゃいい。そのほうがお前らも面倒がねぇだろ?」

 

「「「……は?」」」

 

 

 いきなりの俺の提案に、固まるのは当然のことだろう。

 それぞれがそれぞれの理由で驚いていて思考が追い付いていないようだ。まあ、内容が内容だ無理ないだろうが。

 

 だが、その要求を拒否できるほど判断力が混乱している状態の彼らにある訳もなく。

 そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 ―――学園、放課後の帰り道。

 

 他の生徒たちが既に帰宅し、もしくは部活に精を出しているだろう時間帯。

 生徒会室から解放された俺と木場、お互いに口を開くこともなく黙々と歩いている。

 先を行く俺の背中を追いかけるようにして、とぼとぼと着いてきている木場はこの状況をどう受けとればいいか分からないって顔をしていることだろう。

 だがそれに、答えてやるほど親切でもなし。

 

 それから十数分、歩くことしばし。

 

「ここだ」

「……」

 

 目的地、辿り着いたその場所は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺の現在の拠点である、一軒家の前でだった。




読了ありがとうございました。

奏平の行動の真意とは如何に。


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若輩者たちの踊る対談

どうも、アゲインです。

今回は生徒会二人に焦点を当てた話となっています。
彼女たちが奏平たちにどういうスタンスで対応していくかがきちんと書けていればよいのですが。



 

 ―――木場と奏平の姿がなくなり、いつものメンバーだけとなった生徒会室。

 騒動の元凶たちがいなくなったことで軽くなった空気の中、今だ怒りが冷めやらぬ男が一人いた。

 

 ソファーから会長用の椅子に座り直したソーナ・シトリーだったが、その気持ちを落ち着かせる間もなく、眷属であり部下でもある男子生徒から先ほどのやり取りについて問い詰められていた。

 

「会長! どうしてあいつらを自由にしたんですか!! あんな危険な奴ら、こっちで監視しとかないと次何しだすか分かったもんじゃない!!」

 

 男子生徒の名前は匙元士郎、最近彼女の眷属になったばかりの転生悪魔である。貴族の御令嬢の部下になれたことに運命を感じている彼は彼女の夢に共感し、その実現のため研鑽の日々を過ごしていた。

 そんな彼だからこそ、今回の事態に憤っている。

 

「……匙、落ち着きなさい。ある意味でこの状況、悪くない。寧ろ良い方向に向かっているかもしれません」

「何を言って……あいつらは!! 片方は仲間を傷つけられた方で、もう片方はそれをやった奴なんですよ!

 それが原因でさっきの騒動が起きたっていうのに、その二人をよりにもよって一緒に行動させるって……一体何を考えているんですか!?」

 

 匙からしたら会長の判断は聡明な彼女に珍しく間違っているとしか思えないものだった。

 木場のやっていることが逆恨みだということを理解している匙は、その対象を近くに置いておくことがどういう事態を引き起こすのかを危惧していた。

 それが分からないはずがないのに、会長は敢えて奴らを自由にしている。

  

「また起きますよ……さっきみたいなお遊びじゃない、本気の殺し合いが!! いいんですか!?」

 

 匙は叫ぶ。

 自分達しか動けない状況で、学園にあんな奴らをのさばらせておくことが本当にいいのかと。

 それに対し、ソーナ・シトリーは努めて冷静に自身の考えを語り出した。

 

「……匙、あなたは先ほどの戦いを見て、どう感じましたか?」

「どうって……何ていうか、終始木場の野郎があしらわれてたっていうか……」

「ええ、私もそう見えました。流石にライザーが評価するだけのことはある……暴走状態とはいえリアスの眷属が敗北したのも納得できます」

「そいつって俺と同じ時期に眷属になったんですよね? キャリアはあの、旗本って奴の方があるんでしょう? 傭兵だっていうし、だったら別におかしいことじゃあ」

「そう、キャリアがあるの。だから私は木場君の身柄を彼に任したのよ」

 

 そう言って彼女は机の引き出しを探り、匙の前へある書類を取り出す。

 

「これは彼、『旗本奏平』という傭兵について調べてもらったものです。時間がなくてあまり詳しいことは分からなかったけれど、彼がここに来る前に受けていた依頼についてはここにある通りです」

 

 彼女に促され、匙は渋々だがその書類を手に取った。

 元々頭の良くない彼はこういった細々とした文字列を読むことに抵抗を覚える質なのだが、わざわざ主人が用意したものを無下にするわけにもいかず、渋々と文字列に目を通していく。

 そして最後までそれを読みきって、思わずまた最初から読み始める。

 

「……これ、本当ですか?」

「嘘であればよかったかもしれませんが、残念なことに本当です」

 

 彼女は奏平が冥界で戦いを終えたときより、彼に関する情報を集めていた。

 人間でありながらあれほどの戦いを繰り広げ、謎の能力によって人龍の暴走を鎮めたのを彼女は他の悪魔たちと共に見ていたからだ。

 

「……他の地方の事件だったけど、これの解決に野郎が関わっていたのか……」

 

 書類に書かれていたのはここより遠くの土地で起こっていた『連続殺人事件』に関するものだった。犯人の証拠が見つからず未解決として扱われていたこの事件、その実態は悪魔による享楽的な狩りであったのだ。

 悪魔の犯行だ、当然人間の表の技術ではその正体を探ることなどできるはずもない。

 しかしそこに、件の彼が現れたのだ。

 

「調べたところ、この悪魔は上位悪魔の眷属であったようです。しかし主を裏切りはぐれとなったため、人間界へと逃げ込んできていたらしいわ。

 元々そういった認識を誤らせる能力を持っていたみたいで、居所を掴ませないように長年逃げ回っていたの。でも今回、狩り場を見つけたことから調子に乗ってしまったのね。やり過ぎた結果、そいつは自分の首を絞めることになった」

 

 そこの元市長の依頼によって駆けつけた旗本により得意の隠匿を看破され、追い詰められた奴はあっさりとやられてしまったらしい。

 注目すべきはその依頼を受けてから解決までの速度、状況を考えるに異常といっていい。

 

「相手は姿を欺くことに特化したような奴だぞ。それをたった一人で、しかも二日と経たず見つけ出して倒すなんて……」

 

 土地勘のないところでこんなにも早く標的を見つけることもそうだが、それを躊躇なく抹殺してしまう冷徹さ。

 出来る能力があるからといって、それを実際に出来るようになるには余程経験を積んでいなければならないはずだ。

 

「実際に彼を目にしてその実力、そして人柄というものを確認できました。彼ならば木場君のことも無下に扱うことはないでしょう。

 私たちもリアスが動けない間、彼女たちの代わりこの町を守らねばなりません。木場君の監視に割ける人員の余裕がない以上、彼らが一緒に行動してくれるのならこちらとしても願ってないことです。

 

 匙、あなたの憤りは分かります。ですがそれは、あなたがまだこの世界の浅いことしか知らないからです。それは同時に、この世界の悲劇も知らないということ。

 彼らの行いに怒りで応じるのではなく、その奥底にある思いを汲み取ってみるのです。私たちの夢の実現のためには、多くの思想に触れて受け入れる寛容さを身に付けなければなりません。

 ―――成長しなければならないのです、あなたも、私たちも」

 

 

 これはそのための試金石となるでしょう―――。

 

「……っ!!」

 

 そう真っ直ぐに言い切った主のその姿に、匙は自身の未熟さを感じ深く恥じた。

 

 『この人はただ喚くしかできなかった自分とは遥かに違う視点でこの一連の流れを見ていたのだ!!』

 

 そう自覚したとき、自分があまりにも小さく狭い考えの中にいたのかを痛感させられ、同時に感動で身震いするほどであった。

 そしてそんな人に期待されている、その事が彼の意識を猛烈に奮い立たせた。

 

「分かりました会長!! 俺、会長の考えに従います!! そうっすよね、今やらなきゃいけないことはあいつらに構うことじゃないですもんね!!」

「……何か語弊がありそうですが、おおまかに言えばそうです。これから夜間の見回りなどについて会議をしなくてはなりません。匙、事後処理を行ってくれている他の役員たちを呼んできてもらえますか」

「了解です会長! 行ってきます!!」

 

 ソーナの指示に元気よく返事をした匙はそのままの勢いで身を翻し、スタコラと駆けていく。その姿を見送りながら彼女は一つ息を吐き椅子の背もたれに身を委ねた。

 

「……あの子、素直なのが良いところだけど。見ていて危なっかしいのよね」

 

 生徒会長、ソーナ・シトリー。

 彼女は最近眷属になった彼、匙元士郎の他の眷属とは少し違う態度に若干困り気味であった。やる気があるのはいいことなのだが、どうにも先走り感が否めないというか。

 まあそれを今考えてもしかたがないか、と彼女はこれからやらなければならないことを纏めることに集中し出していた。

 しかし、彼女の頭の片隅にはここから去った二人、木場裕斗と旗本奏平のことについてのことが離れずにいた。

 

 先ほどああは言ったものの、彼女自身この二人について分かりかねている部分がある。

 しかし、彼女はあの時挑発してきた奏平の瞳を見て、何故か木場を任せても大丈夫だと思ってしまったのだ。粗暴な態度であるにも関わらず、戦士のその瞳に相手を嘲るような色がなかったことがそう思わせたのだろうか?

 

 いつしか彼女の思考は奏平のことばかりとなり、役員たちが扉を叩くときまでそれは続いた。

 自身の変調に戸惑いながらも直ぐに精神を立て直した彼女は、集まった役員たちとの会議に没頭していくのだった。

 




読了ありがとうございました。

次回、奏平初披露。


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迷える魔剣士にさっと場を提供できるフリーランスの傭兵

どうも、アゲインです。

今回は拠点の地下のお披露目と、ちょっとだけ彼らを出します。
木場は犠牲になったのだ、お披露目の犠牲にな……。





 

 

 

 ―――で。

 

 生徒会の二人があーだこーだと話し合っていた頃、その話題に挙がっていた方の二人はというと。

 

 

 

△     △     △ 

 

 

 

「―――おぼぁっ……!?」

 

 吹き飛ばされて床に倒れ込んだ挙げ句、腹部にのし掛かる重圧に耐えかね思わず汚ならしい声を出てしまっている木場を見ながら、俺は先ほどの”彼ら”との戦いについて評価を下していた。

 

「全然駄目じゃねぇか、舐めてんのかテメェ」

 

 全くもってなっていない。

 いくら意気消沈しているとはいえ、あのやられようはない。

 

「あのなぁ木場、一応お前が本気を出せるようにってこの”特別訓練室”を使わせてやってんだぞ? すこぶる頑丈で防音完備、バスケコート二面分という広さをこの『空間拡張術式』によって確保した自慢の一部屋を。

 そこんとこ分かってんのかテメェ、ぶっ殺すぞ」

「……無茶苦茶言わないでくれ、こっちは何が何だか分からないままなんだ」

「ああ? 知るかんなもん、今お前がするべきことはたった一つ」

 

 俺はうだうだとのたまう木場を、正確にはその腹の上に乗っかっている()()()()を指差して初めに言ったことをもう一度言い渡す。

 

 

 

「―――何も考えずに戦え!! クソッタレなテメェにできることなんぞ、今はそれくらいだろうが!!

 底辺這いつくばってる暇があったらさっさと立ち上がれ!! 男見せて見ろや木場ぁああ!!!」

「何で僕より君のほうが張り切ってるんだい!?」

 

 俺がわざわざこの拠点に木場を連れてきた理由。

 どこか影を持つこの悪魔の不安定な精神状態を感じ取っていた俺は、悪化して付け狙われる位ならばとこうして丁度いい相手をぶつけてやっているのだ。

 

「思い悩む余裕があるってんならよぉ……その余裕を剥ぎ取ってやるまでよぉ。徹底的にぃぃ、これでもかって位にぃぃ!! テメェが泣いたり笑ったりできなくなるまでシゴイてやるぜぇぇえええ!!!!

 

 さあ、指示を下すぜ ”パタポンズ”!!! 戦闘を再開しろぉおおお!!!!!」

 

 

『『『オオォォーーーーーー!!!!』』』

 

 

 俺の号令に従って、木場に乗っかっていた黒い物体、だけに留まらず。

 その周りを囲んでいた同じような奴らからも雄叫びが挙がり、広い室内に響き渡る。

 

 だが、彼らに口はない。

 あるのは身体の大部分を占める大きな一つ目と、短い手足だけ。

 だがその小さな体躯に秘められた力は、そんな見掛けの不利を覆すほどの可能性に溢れている。

 

 

 

 ―――それが”パタポン”、最果てを目指しあらゆる強敵に挑むことを恐れなかった勇敢な戦士たち。

 

 

 

 異能への理解がある程度進んだ頃を境に、呼び掛けに応えるようにして現れた彼らはそれ以来頼もしい隣人としていくつもの戦いを潜り抜けた戦友でもある。

 そんな彼らを十体ほど、木場のシゴキのために呼び出している。

 

「俺は悪魔に容赦はしねぇ。それが俺に敵対する奴ならなおのこと。他にも嫌いな連中はいるんだが、それは今関係ない話だからどうでもいい。

 さあ、木場裕斗。

 覚悟決めな……これから仲間が復帰するまでの間、テメェはここでしこたまボコられる。だが、そこから何を学ぶのかはテメェ次第だ」

 

 

  

 ―――だから頭カラッポにして、がむしゃらにやってみせな。

 

 

 

「うわぁぁあああああああああ!!!!!!」

 

 

 しかしたった今木場を中心に再開されたパタポンたちのシゴきによって、俺のありがたい激励は掻き消されて届くことはなかった。

 それを気にすることなく、ドタバタと騒ぎまわる彼らを眺めつつこの後控えている予定について思考を巡らせていた。

 

 

「くそっ! 小さいのに速い! 何て連携だ!!」

 

 

 冥界での一件により、俺は今の冥界を治めている魔王サーゼクス・ルシファーとの謁見を奴の妹であるリアス・グレモリーに約束させてある。

 だが、その場をいつ用意するかなどの条件を詰めきれてはいない。

 

 

「か、顔はよしてくれ! 何で執拗に顔を狙うんだ君は!?」

 

 

 あの時グレイフィアとかいう女悪魔の話から推測するに、おそらくの時期というのは見当はついてはいる。近々三勢力で和平を結ぶとか何とか言ってたし、たぶんその時がそうなんだと思う。

 

 

「ぐぅう…へぶっ、はがぁ!!」

 

 

 その時が来る前に、俺も俺で準備を進めなければいけないだろう。

 まず最初に戦力の集結、各地で仕事をこなしているメンバーの中でも腕利きには既に連絡をとっている。

 生憎距離が遠いせいですぐにとはいかないが、時間的な余裕はまだあるはずだしそこまで焦る必要はない。

 

 

「おっっ……ごぁはっ!?」

 

 

 次に情報収集。

 世界各地でやりたい放題の連中が一ヶ所に集まるんだ。それを狙って襲撃してくる奴らがいるかもしれねぇ。恨みを持ってる相手なんぞそれこそ数えるのもバカらしいほどにいるだろう。だが、それを理由に俺たちの行動を邪魔されるのはたまったもんじゃねぇ。

 集まるメンバーとは別に、周辺のゴミ掃除を担当してもらう必要があるだろう。

 

 

「くそっ…くそぉおお!! どうして、どうして僕はこんな……こんな!!」

 

 

 事前準備としては概ねこのくらい、だろうかね。

 あまり綿密な計画を立てたところでイレギュラーは付き物、そもそもが人の範疇から外れた存在たちだ。備えは必要だが、それで足が鈍るのもよくない。

 最悪の場合だけを考えて、そのためだけの対策を講じておいたほうがいい。そのほうが結局、自分の身を助けることになるだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて……」

 

 ある程度まで練っていた計画を脳内で反芻しながら、ボコボコにされた木場の様子を改めて見る。

 この短い間に中々いい感じになっているな。例えるなら使い古されたボロ雑巾だろうか。パタポンたちにはダウンしている状態の時には手を出さないように指示をしてあるため、木場を囲むようにして様子をうかがっている。

 木場は息を整えているのか、しばらくは倒れた姿勢のままだったが、ぐっと腕に力を入れ体を起こそうとしている。

 しかし足に力が入らないのか、うつ伏せの体勢から立ち上がろうとして踏ん張れず、何度も体を床に叩きつけている。

 

 だがそれでも、

 

「……ぁ、だ…!」

 

 今にも噛みついてきそうなほど鋭い眼光を宿すその瞳は、一切の諦めを映してはいない。

 奴にとってすこぶる理不尽なこの環境、しかしその中であってもあの眼をすることができるのならば。

 

 

 

「……ふむ、ちょいと見誤っていたか。案外根性がありやがる」

 

 

 

 

 

 ―――可能性、くらいは見えてくるかもしれない。

 

 あまり肩入れするべきではないと自戒しつつ、それでも何かを感じてしまうのは奴が抱えるモノによるものだろう。

 決して好奇心ではないが、この曖昧な感情に突き動かされていることは間違えようもない事実であり。

 準備を整えるまでの暇潰しとでも思うことで自分を誤魔化しつつ、今日はこれくらいでおしまいにするかと、倒れ伏す木場の元へ歩いていくのだった。




読了ありがとうございました。

次回から本格的にストーリーを進めていきます。
教会勢に待ち受ける、異端者の洗礼。
はたして彼女たちの運命やいかに。


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暗中模索の日々に終わりを告げる凶報

どうも、アゲインです。

三勢力の和平によって世界に安寧を、とか言ってる連中はどうして過去の清算について考えないんですかね。
何も納得できてない奴らを放っておいて自分達の主張だけ通そうとするから軋轢が生まれるって、ちょっと考えれば分かると思うんですがねぇ。
自分の組織の反乱分子を抑えることも出来ない、これ政治で考えればヤバイなんてもんじゃないですよ。



だからこんなこと(主戦派の暴走)になる、ふざけんな。(中指)


 それから木場は何とか立ち上がるも、それを戦闘再開の合図として動き出したパタポンたちによってもう一度叩き潰されて遂には気絶してしまった。

 初日としてはまずまずといった結果だ。繰り返していけばもう少しマシな動きになるだろう。

 

 そう判断した俺は今日はここまでにということにして、気絶した木場をパタポンたちに空いている部屋に運ばせることにしてその日はお開きとなるのだった。

 しかし、これはあくまで初日。最低でもリアス・グレモリーたちがこっちに戻ってくるまでは続けるつもりだ。

  

 

 

 

 

 

 ―――こうして、木場は普通に学園に通いながら放課後にはパタポンたちに気絶するまでど突き回され生活が始まった。

 何度意識を失っても強制的に覚醒させられて、体力の限界までシゴきが続行される。まるで○○学園の部活動のように容赦なく、余計な思考が入り込む余地を残さない徹底ぶりで奴の精神を叩き直しくれるわ。

 

 

 

 

 

△     △     △

 

 

 

 

 

 ―――と、いうようなことになっているという報告を俺は数日前に来たある場所で行っていた。内容についてはパタポンたちに関してだけボカしつつ、それ以外の部分についてはありのままを告げている。

 

 そしてその後の木場の様子を聞いているのはこの部屋の主、生徒会長ソーナ・シトリー。人払いでも済ませているのか、この場には彼女しかいないようで前よりは気軽な会話が出来ている。

 先日のようにテーブルを挟んで向き合って座る俺たち、彼女は自分で用意した紅茶を嗜みながら思案気にこちらを見ている。

 

「……なるほど、そちらはそんなことになっていたのですか」

「ああ、大人しいもんだろ? ギリギリまで体力を削ってるお陰で終わったらそれこそ虫の息だ、その後は俺の拠点で朝までグッスリって寸法よ」

「予想以上に厳しい扱いを受けているようで、少々心配になりますが……お陰様で監視も楽で助かっています」

「そいつはよかった。こうしてお茶に招かれるくらいだ、あんたからの信頼を得るのに十分な働きは出来ていたらしい」

 

 初日のシゴきから数日が過ぎた今、パタポンたちの木場転がしも大分こなれてきた。

 奴自身も彼らとの闘いに慣れてきたのか、今では武器持ちでの戦闘もできるくらいに進歩している。まあそれでもボコボコにされているのは代わりないがね。

 

「しかし、意外でしたね」

「ん?」

 

 ある程度の報告が済んで会話が途切れる。その間にカップに手を伸ばしたところで彼女から話を振られた。

 

「何が?」

「いえ、こうして私と話をしているのもそうですが、木場君の面倒を見てくださっていること。悪魔嫌いを公言しているあなたがここまで協力的なのが意外でして」

 

 ああ、そんなことか。

 

「別に、仲良しこよしをしようなんて思っちゃいねぇ。嫌いなのも悪魔だけじゃねぇしな。

 

 ただ、俺には()()がある。

 

 そのためには積み重ねなきゃいけない条件が多く、その条件を満たすのは困難を極める。

 そのために必要なことなら、俺は何でもやるってだけのことだ」

 

 木場を更正させているのもその一環。

 どうにも歪んだ思考が見られる奴を修正するには、言葉ではなく体験が必要だろうと考えたまでのこと。

 リアス・グレモリーという、あの中途半端な悪魔との交渉材料が多くなればその対処に必ずと言っていいほど負担が生じる。その負担をあいつの家族は見てみぬ振りができないはずだ。

 あの甘やかされた態度から考えればその程度、透けて見えるというもの。

 約束を完全に履行する保証がこちらの有する契約書一枚というのも不安になるほどだ。打ち込める楔は多ければ多い方がいい。

 

「あんたと仲良くしてるのも、そういう打算があるからさ。敵対行動をしてないだけで、俺が常にあんたの仮想敵であることに変わりはねぇ。

 こうしていい顔してんのも、あんたが魔王の妹だから。

 そうでなきゃこんなことはしねぇ、面倒なんでね」

 

 突き放すような言葉の連続、だがそこに嘘はない。

 俺の過去には、そうするだけの理由がある。その感情を否定することはできないし、忘れることなど出来ようはずがない。

 しかし、そこまで聞いて何を思ったのかは知らないが、彼女はどこか楽しげな表情をして俺を見ている。

 この女の理知な態度からはあまり想像できなかったその笑顔に、逆に俺の方が顔をしかめることになった。

 

「……何だ、何か面白いことを言ったか俺?」

「いえ、そうではなくて。何て言うんでしょう、その……あまりに自然だったもので」

「自然だった?」

「ええ。あなたは変わらない、ここに来てからずっと。口調や態度じゃなくて、雰囲気が。

 あなたの言うことにはどこか芯がある。ブレない一本の芯が。

 だからなのかどこにも違和感を感じない。それが何だか頼もしい、そう感じられたんです」

 

 

 

 だからつい、笑ってしまいました―――なんて。

 

 

 

 恥ずかしげもなくそう言ってしまう彼女の姿は、悪者の代名詞であるはずの悪魔何て思えないほど朗らかな雰囲気を醸し出していた。

 予想していたような反応でなかったことで若干面を食らった、のだが。そういう動揺を顔に出さないだけの精神強度でもってピクリとも表情を変えることなく会話を続行してみせる。

 

「はっ、点数稼ぎが好印象だったようで何よりだ。グレモリーの奴らが帰ってきたらそこんとこ伝えといてくれよ、あんたからの釘刺しがありゃ、あいつらも約束を破りにくいだろうからな。

 さて、報告も済んだことだ。ここいらでおいとまさせてもらうぜ」

「ああちょっと、待ってください!!」

 

 そう言い渡して会話を切り上げた俺は、退室のために扉に早足で向かう。

 もうここに用はないですとばかりに帰路を急ぐ俺を、しかし彼女は扉に手を掛ける寸前に待ったをかけた。

 

「あん? 話は以上じゃ? もう木場について話すことねぇぞ」

「いえ、それとはまた別の話でして。これはついさっき分かったことなのですが―――」

 

  

  

 

 

 

 …

 ……

 …………………

 ………………………………

 

 

 

  

「―――と、いう訳だ。お前も協力しろ」

「いや、唐突過ぎて何も理解できなかったんだけど。何に協力しろって? こっちはそれどころじゃないんだけど」

 

 いつも通りパタポンたちにシゴかれていた木場に向けて今さっき聞いたことを伝えたのだが、彼らの猛攻によってダウンしている奴は腹の上にいる個体をどうにかしようとしていて上手く伝わっていないようだった。

 

「しょうがねぇな、もう一回だけ言ってやるからきちんと聞いとけよ。

 いいか―――」

 

 俺はもう一度、ソーナ・シトリーから語られた内容を伝えてやる。

 生徒会室からの帰り際、彼女の口から語られたのはいつの間にやらこの街に紛れ込んだ連中のことと、それに対処すべく動きだした勢力のこと。

 そしてそれに協力すべく、悪魔陣営からも人員を選出するのだという。 

 そしてそれが―――

 

 

 

 

「―――『堕天使幹部コカビエルとその配下によって奪われし聖剣エクスカリバー、これを教会より派遣した者たちと共に奪還せよ』

 こいつが教会陣営から今しがた要請された依頼の内容だ。

 この聖剣奪還作戦に、生徒会長様は俺たちを推薦したのよ。何てったってその堕天使連中、この町に潜伏してるらしくてよぉ。この町で今動けてそれなりの働きができるってなると……まあ、丁度良いのが手の空いてる俺たちな訳よ」

 

 ソーナ眷属は今回フォローに徹し、実動部隊は俺と木場、そして教会から派遣されてくる奴らになる予定だ。あまり聖書の勢力に肩入れするのは個人的に嫌なのだが、ろくでもないこと企みがすぐ側で蠢いているというのなら働くのもやぶさかではない。

 そこまで聞いて、ようやく木場はとんでもない事態に巻き込まれたことを認識できたようだった。

 仰向けの体勢で聞いていた木場の表情が、みるみる内に驚愕の色に染まっていく。

 

「なん……だって………どうして聖剣が」

 

 だが、その驚きようはどうにもこの町に対する脅威云々にではなく、奪われたというエクスカリバーに対するもののようだった。

 次第に木場の瞳に浮かび上がってくる負の感情、それに呼応してかボロボロだった奴の体に力が満ちていく。ふむ、なかなかよろしくない兆候だ。

 

「眠らせろ」

『ムンッ!!』

 

 暴れだすと厄介なので、そうならないようパタポンに木場の顔面をぶん殴ってもらい意識を強制的にオトすことにした。聖剣について意識を割いていた木場は腹の上にいた個体に対応できず、床に思いきり後頭部を叩きつけられた。思惑通りしっかり気絶してくれたようで、強張っていた手足から力が抜けていて白目を剥いていることが確認できて一安心といったところだ。

 

「……ま~た何か、良からぬフラグが立ったみたいだな。まさかこうも都合よくこいつに関わる事件が起こるとは……因果ってもんなのか、それともこれも龍の影響なのか。

 ……ちょいと急ぐか、妙に嫌な予感がしやがる」

 

 木場の力試しにいいかと思ったが、こうなると人手が欲しい。

 行動不能になった木場の世話をパタポンたちに頼み、俺はある人への連絡を急いでいた。

 あいつら確か一旦集合してからこっちに来るはずだし、釘刺しときゃ余計な事仕出かすこともないだろう。

 高まる嫌な予感に急かされながら、仲間たちの自由奔放さが発揮されないことを祈り端末へコールを掛けるのだった。




感想ありがとうございました。

木場くんの修行描写はバッサリカット、時間は流れて奴らの影が遂に駒王町に。
次回、教会勢の彼女たちが異端の戦士と対峙する。


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二番勝負 圧壊聖剣・ゼノヴィア・クァルタ その一

どうも、アゲインです。

ようやく登場、教会勢。
グレモリーが引っ込んでることで色々変わってる所をどうにかこうにか、時間が掛かりましたができる限り矛盾が出ないようには……できたかなぁ?

何分正史とは異なる展開で削ってる場面が多く、その修正の多いこと多いこと。

でも愚痴ってる時間はないんだなぁ……これが。




 正直に言って、俺はこのエクスカリバーという存在がひっじょ~~~~に疑わしい。

 いや、聖剣かどうかを疑っているわけではなく、エクスカリバーという伝説上の武器がどうして十字教の勢力中にあるのか理解できないのだ。

 伝説がもし本当であるのならこの聖剣は湖の精霊に返還されたはずである。土着信仰の精霊である彼女に回収されたにも関わらずそれがどうして十字教の大戦なんぞに持ち出されてるんだ、いつか甦る王のために管理しっかりしてよ。俺はどこにこの憤りをぶつければいい? 

 マーリンとかいう魔術師か? 聖剣を託した湖の精霊か? それとも最後を頼まれた騎士にでも言えばいいのか?

 出来るかバーカ!! どいつもこいつも手の届かないところにいるから会うことすら不可能だわ!!

 

 ……しかし、いくら正体が怪しかろうと聖剣は聖剣、眼前にある存在感は神秘的なものを感じさせる。

 

 

 

 ……そう、眼前にあるのだ、その聖剣が。

 

 

 

 一人は背中に背負った袋の中、特別製のものに覆われてはいるものの、入っている物が物だけにはっきりと聖なる気配が感じ取れる。

 もう一人は一見その身に武器を帯びているようには見えない、にも関わらずその体からは隣の奴と同じような気配を漂わせている。

 気付く者には気付かれる、そんな気配を垂れ流しているにも関わらず、この二人は何の問題もないかのように振る舞っている。

 

 この悪魔が治める町で、聖剣を狙った堕天使たちが潜伏しているにも関わらず、この教会から派遣されて来た二人の信仰者たちの行動はあまりにも考え無しだ。どこにいるかもわからない敵対勢力に対し、餌をぶら下げたまま無防備にここまで来たというのだ、こいつらは。

 

 

「……バカかおい、何でそうなる」

 

 

 暗い雰囲気を維持したままの木場を引き連れ、先に待っていた俺たちの前に現れた教会から派遣されてきたという二人の戦士だった。

 シトリー眷属の案内によって生徒会室に連れてこられた彼女たちのその姿を見た俺の評価は急激に低下している。

 人数もそうだが何よりも心構えが舐め腐ってるとしか思えないこんなやつらが本当に増援なのか、そういう感情が咄嗟のことで抑えられずつい口を滑らせてしまった。

 

 入室した途端に言われた方は当然いい気はしないだろう。発言者である俺に対し、目に見えて怒りを宿した視線を向けてきている。

 まず口を開いたのは青髪の方、聖剣を袋に入れてる迂闊な奴だ。

 

「貴様、不躾にも程があるぞ! いきなり何だお前は!」

「いや、もっと隠せよ。何でそんな堂々と聖剣晒してんだ、敵に見つかる前に警察のお縄につくぞ」

 

 肩を怒らせ目の前に立つ相手を見上げ、何だと言われたので答えてやった。

 実際警察に職務質問されれば問題になるような装いだ、いくら宗教関係者とはいえ疑いの目は免れまい。

 既に最低評価の相手に対し遠慮などなく、そういうことやぞと忠告してやれば、

 

「何を言うか。これは聖なる行い、それを阻む者がいるものか」

 

 という、最高に頭の悪い発言が飛んでくるものだからどうにもならないのだろう。これだから狂信者は、神の教えを最上位のものとして掲げるのはいいがそれが表の世界でも通じると考えるのは如何ともし難いものだ。

 

「……そうじゃなくてもわざわざ敵に居場所を教えるようなことをする必要はないだろう。相手の戦力もまだ分かっていないってのに……」

「そうなれば迎え撃つだけだ、聖剣の使い手として、神の僕として私たちは必ず使命を果たす。例えこの命を失うことになったとしてもだ」

 

 青髪の信者はそれはもう自信満々といった様子で、こりゃ口でどうこう言ったところで動くような人種じゃないなということを理解する。こいつの自信の根底には『神様』の存在があるのだろう、その絶対性がこいつにこのふざけた台詞を吐かせているのだろう。全くもって反吐が出る。

 

「……そっちもそういうスタンスな感じ? 正直もう嫌になってきたんだけど」

 

 仕事に対するモチベーションが駄々下がりしているが、聞くべき所は聞いておかなければ何も始められない。嫌々だがそれでも何とか青髪から視線を切り、もう一人の方へと顔を向ける。

 俺と青髪の会話を聞いていた亜麻色の髪を二つに分けた、所謂ツインテールとかいう髪型の奴へと話を振る。

 

「当たり前でしょ、奪われたものは取り返す。神の膝元から所有物を盗んだ罪の大きさ、堕天使たちの命で償ってもらうわ」

 

 そして予想通りのこの反応、こいつも負けず劣らずの狂信者のようで嫌になってくる。どうしてこう、空気の読めない連中を派遣してきたのかとため息を吐きたくなる。

 

「ところでそっちの悪魔」

 

 そんな俺の様子などいざ知らず、彼女たちはその隣にいる木場の方に興味があるようだった。

 まあ、それも仕方がない。

 

 

 

 

 

「どうしてそんな格好をしている。何故そうも厳重に拘束されているのだ?」

 

 

 

 

 

 ―――何たってこいつ今、両腕をガチガチに固められているだけに留まらず、口も開かないように囚人用のモノで封鎖しているからな。

 だがしかし上半分、つまり眼だけはフリーでギンギラギンだ。

 視線の先にぶら下がっている標的に対し、その唯一自由な瞳だけででも成し遂げてみせるとでも言いたげな力をそこに宿している。

 

「……まあ、それも含めて話をしよう。立たせたままじゃなんだったな。すまんが会長さんよ、茶ぁ入れてくれや」

「分かりました、お二方もどうぞ席へ。準備する間に話を進めておいていただいても?」

「あいよ、自己紹介くらいはしとくわ」

 

 いつまでも嘆いてはいられない。近くにある脅威に対し動かなければ、この先もっと面倒なことになる。

 それだけは絶対に避けなければならない。ならば絡むのが面倒でもやるしかないのだ。そうしなければ最悪の事態になる、そうなる未来を避けないきゃいけないなら、それがどんだけ嫌な相手とでも組んでやるよ。

 

 

 

 そのことを理解できていない連中に囲まれながら、これを纏めなければいけないという事実が重く肩にのし掛かっていた。

 

 

 

 

 

△     △     △

 

 

 

 

 

 最悪な第一印象を与えあった俺たちだったが、一先ず今後の方針を決めるため各々用意された席に大人しく座っている。

 一応この場の説明役を仰せつかった俺から始めることにして、話を進行させていこう。

 

「さぁて、とりあえずは自己紹介……俺は旗本奏平、特に所属はないが傭兵をやってる。ここにいるのは生徒会長様に依頼されたからで、あんたらの手助けが主な仕事だ」

 

 木場の説明は後で纏めてやるとして、今度は教会側のお二方に名前を聞くとしよう。

 

「カトリック教派の聖剣使い、ゼノヴィア・クァルタだ。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の担い手だ」

「私は紫藤イリナ、プロテスタントの聖剣使いよ。私の聖剣はこの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)、こんな風に何にでも姿を代えられるわ」

 

 よし、ようやく名前を聞き出せた。ていうか名刺代わりに聖剣出してくんじゃねぇ。おもむろに袋から出したり、紐を剣に戻したりするなよ。木場が憎悪で憤死しそうになってるだろ。

 まあいい、とにかく青髪の方がゼノヴィア、ツインテの方が紫藤と呼ぼう。

 

「OK、把握した。そんで話の続きだが」

「いや、無駄な手出しは不要だ。この程度のこと、私たちだけで成し遂げてみせる」

「それで被害が広がったら元も子もねぇんだよ、いきなり市街地でドンパチ始める気か? 敵がそこらへん考慮してくれるとでも? そもそも、土地勘もねぇところで闇雲に動くのがあんたらの仕事の仕方なのか?」

「そうなる前に倒せばいいだけだ。神の御加護がある限り、我らに敗北はない」 

「ちゃんと話聞いてる?」

 

 ああもう、これだから狂信者という奴は!!

 威勢はいいものの考え無しなのは何も解決していないのだが、それが分かる相手であればこうも話をするのに苦労はしないだろう。

 心の底から面倒臭い、できれば今すぐここを立ち去りたいくらいだ。

 だがしかし、ここで見放したらもっと面倒になりそうな予感がすることと、一度引き受けた仕事を投げ出すのはどうかという葛藤が何とか逃げ出したくなる気持ちを押し留めている。

 

「……本来この土地はグレモリー家が管理してるのは知ってるよな」

「ああ、まだ会ったことはないが、それが?」

「今奴らは俺がボコした眷属の治療のために冥界に引きこもってる。残ってるのは横にいるこいつと……もう一人って話だったか?

 そんでまあ治療が済むまでの間シトリー家が管理を代行してるんだが、慣れない業務でこっちの厄介事にまで手が回らねぇ。出来ても見回りによる情報収集、実働までにはどうしても人員を割けない」

 

 そういう訳で、

 

「つまり今動けるのは俺と、こいつだけだ。木場裕斗っていうんだが……こいつもちょいとばかし訳有りでよ、そのせいでこんなことになってる始末さ。

 もう少し待てば俺の呼んだ増援が来るが……、お前らはそれを待たずに動くつもりだろう?」

「無論、そちらがそのような状態では協力など寧ろ邪魔だろう」

 

 わーおバッサリ、めげそう。

 こりゃ増援の正体とか知ったら十中八九反対されるだろうなぁ。

 しゃあない、さっさと手札を切ろう。先に恩を売っておいた方が話が進みそうだ。

 

「拠点の候補だった教会は整備不足で住めるもんじゃなかったろう、別の拠点……というか俺の拠点に部屋を用意してある。

 初対面で信用なんてないと思うが、悪魔が手配した所より幾分か安心できるだろう。部屋のランクもスイート並みとは言えないが、それなりに快適な寝食を保証する。

 

 その代わり、あんたらの仕事に俺たちも同行させてほしい。こちらは増援が来るまでに解決できればよし、出来なくても四人固まっていれば流石の敵さんも容易に手を出してはこないだろう……と思うんだがねぇ」

 

 

 

 どうだい、そこんとこ―――と。

 二人の信者に対してこちらが出来ることを提示すれば、そういえばそうだった、みたいな顔をしている。よし、事前調査が上手い具合に効いてるぜ。

 この感じならこちらの提案も受け入れてもらえるだろうと考えていると、

 

「ふむ、どうだイリナ。いい提案だと思うが」

「お金が掛からないのはいいわね。男と一つ屋根の下ってのはどうかと思うけど」

「一時的なものだ」

「ん~~それなら彼のところがよかったなぁ、久々に会いたかったんだけど」

 

 というような話し合いが彼女たちの間で行われている。

 紫藤の方に若干気になるワードがあるが、はて誰のことだろうか?

 こんなときに無関係な奴を巻き込むようなことをしてほしくないのだが、正直そいつのところにお泊まりしたいならこれが終わってからにしてほしいもんだ。

 そんなことを考えている内に方針が纏まったようで、二人の視線がこちらへと戻る。

 

「いいだろう、傭兵。お前の提案を受けよう」

「おお、そりゃよかった」

「ただし―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――足手まといはいらん。傭兵、貴様の力量を見せてもらおうか」

 

 

 

 そういって、青髪の彼女は背中の聖剣に手を伸ばしながら立ち上がる。真っ直ぐと突き刺さる好戦的な眼差しが、それが冗談の類いでないことをもの雄弁に物語っている。

 この感じ、どうやら騎士様の肩慣らし相手に選ばれたようだ。

 

「……」

 

 ちらりと横に視線を動かす。

 聖剣に対する憎悪を絶やすことなく睨み続ける木場の様子を視界に入れ、内心ため息を吐きながら立ち上がる。

 これっぽっちの会話の間にもうガス抜きが必要なくらい高ぶっているとは、目の前の存在がよっぽど憎いのだろう。

 だが、それを理由に暴れさせるわけにはいかない。

 

「……わかった、ただあまり時間を掛けたくない。町だの拠点だのの案内もある――――――十分(じゅっぷん)だけだ」

十分(じゅうぶん)だ、それだけあれば見極められる」

 

 小癪な言い回しに口角を上げるだけに反応を留め、最近こんな役回りばっかりだと嘆く思考を意識して頭から追い出す。

 どうにもならないこの流れだが、前向きに考えれば丁度いい機会でもある。

 

 

 

 

 

 ―――そのために精々、励むとしよう。




読了ありがとうございました。

教会勢の口調ってこれであってるんだろうか?
違和感があるようでしたらどなたか指摘していいただけると助かります。


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二番勝負 圧壊聖剣・ゼノヴィア・クァルタ その二

どうも、アゲインです。

相変わらず展開が遅くて申し訳ない、今回もまた話が進行しないです。



「あのぉ……私がお茶を入れてる間にどうしてこんなことになってるんですか?」

 

 ソーナは自分の目の前で繰り広げられている光景が嘘であってほしかった。

 自分がほんの少し席を外してした間に交わされた彼らの会話は、途切れ途切れであったが届いていた。

 少なくとも友好的な雰囲気ではあったはず。

 

「それがどうして……こんなことに?」

 

 でも目の前の光景は、それとは逆。

 教会から派遣されてきた二人の騎士、その内の一人が今回の事態にあたって協力を依頼した傭兵と戦っている。

 慌てた様子の眷属たちに連れられて来たはいいものの、突然の事態に思考が追い付かない。

 

 

 

 人目のつかない旧校舎の片隅で繰り広げられている剣劇の応酬は、そんな彼女たちを差し置いて激化していく。

 それはまさしく、力と技のぶつかり合いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やるではないか、傭兵!!」

「―――はっ、こっちはとんだ肩透かしだが?」

「―――ぬかせ!!」

 

 軽い攻防を繰り返し、お互いの力量をだいたいだが測ることはできた。今は鍔迫り合いによって単純な力比べをしているが、こんな(なり)にも関わらずかなりの膂力を発揮してこちらを押し切らんとグイグイきている。

 

「私の破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)は文字通り、破壊力に特化した聖剣だ。並みの武器では打ち合うことすら不可能な代物だが、貴様のそれはその基準を満たしているらしい。まさかこの聖剣に匹敵する剣があるとはな!」

 

 ゼノヴィアの持つ聖剣はロングソード程度の大きさしかないはずなのに、威力はまるで鉄の塊でも叩きつけられているような感じだ。なるほど、こいつらが自慢するのも理解できる。

 しかし、

 

「生憎、得物の性能なら負けてねぇ。この『護剣フェンダス』は使い手に堅固の守りをもたらす守護の剣。いくらお前の剛剣だろうと、俺にとっては十分防ぎきれる程度の攻撃だ」

 

 それはこちらも同じこと。奴の聖剣が矛ならば、俺のは剣の形をした盾のようなもの。そしてこと剣の扱いにおいて、聖騎士相手だろうと負けるような柔な鍛練は積んでいない。

 

「さあどうした、もう五分もねぇぞ!! 一介の傭兵相手に情けねぇな騎士様よおお!!!」

「ほざくな傭兵!! ならば次の一撃で終わりにしてくれる!!」

 

 そして煽り耐性もない、こう言えば簡単に動いてくれるだろうという俺の思惑通りの行動をこいつはしてくれた。

 こちらの挑発に即反応したゼノヴィアは鍔迫り合いをふりほどこうと剣に更なる力を込める。弾き飛ばして体勢を崩し、必殺の一撃を食らわさそうということなのだろう。

 

「―――狙い通りだ」

「―――何!?」

 

 タイミングさえ分かっていれば対処は簡単、手押し相撲の要領で腕を引き押し付けられる力を受け流す。それはまるで剣と剣が吸い付いているかのような奇妙な現象、ゼノヴィアもこれには驚いた。

 前に流されていく体は完全に相手に制御され、抵抗しようにも枠に囚われたかのようにその外へ動かすことができない。

 

(馬鹿な……!? 触れているのは剣先のみのはず……!! 何故ここまで逆らえんのだ!!)

 

 ゼノヴィアは剣士であるが故にそれ以外の戦闘はどちらかといえば不得手である。

 世の中には相手の力を利用する技術があることは知っているが、それも格闘技のような素手主体のもののはずだ。武器でもできないことはないだろうが、それでも限度というものがある。

 

「剣術なのか、これは……!!」

「蒼天流剣術、奥義が一つ―――『柔剣・(かいな)』」

 

 戸惑いの声を挙げるゼノヴィアへ、あえてその技の名を告げる。

 飾った物言いが苦手な師匠がつけた名前はシンプルそのものだが、それは正しく名前通りとでもいうべきか。

 まるで本当の腕によって掴み取られたかのように相手の剣を誘導し、果ては体の動きすら操ってみせる。

 柔剣の極意に触れるこの奥義を前にして、この聖騎士程度の実力で抗うことは不可能に等しい。

 最早掌の上といった所、レールの上を動くが如く大きく体勢を崩すゼノヴィアの下に体を滑り込ませ、腹に掌打を食らわす。

 

「ぐっ!」

 

 それは彼女の体を浮き上がらせ、遠くへと放り飛ばす。

 だがそこは流石聖騎士、空中で体勢を立て直したゼノヴィアは驚愕したような表情を浮かべながらもしっかりと地面に着地する。

 

(何なんだ!? この私が実力を見切れないだと!!)

 

 ゼノヴィアは戦いが始まってからこれまで、勝ち気な台詞とは裏腹に相手の繰り出す見慣れない技の連続に完全に惑わされていた。

 こちらの攻め気が高まる度、的確にそれを阻まれてしまう。いつもならそれごとパワーで打ち砕いてきた彼女だが、今回の相手にはそれが通じない。

 高い技量によって受け流されているのだと頭では分かっているが、だからといってそれをどうにかできるほどの策はない。こんなところで力一辺倒でやってきた弊害が現れることになるとは思ってもいなかった彼女は久々に背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。

 

「……なるほど、言うだけのことはある」

 

 屈んだ姿勢から既に立ち上がっている奏平を見据えながら若干手詰まりなのをバレないように表情を引き締め剣を構えるゼノヴィア。

 余裕の姿勢を崩さない奏平は攻め込んでこない彼女に対し、地面に剣を突き立て再開を促す。

 

「どうした? まだ時間はあるぞ」

「……!!」

 

 その立ち姿に、ゼノヴィアは何とも言いがたい圧力を感じ腰が引けてしまっていた。

 聖騎士と言えども彼女もまだ十代の少女、経験不足は否めない。

 そんな彼女にとって奏平という戦士はこれまで戦ったことのあるどのタイプの敵とも合致しない。圧倒的強者特有の、気配ともいうべきものを感じないにも関わらず確実に勝てると断言できない。

 

 

「……いや、もういいだろう」

 

 

 そう判断した彼女は大人しく剣を納めることを選んだ。

 それを見た奏平も同じく剣を回収し、重くなっていた空気を払拭させる。

 

「お前の実力は今ので分かった。こちらの動きについてこれないこともないようだ」

「ご理解いただけて嬉しい限りだ。それなら同行の件、問題はないな?」

「私はいい。イリナ、お前も構わないな」

 

 二人の戦闘体勢が解けたことを確認したのか、観客たちが近寄ってきている。

 その中から感心したような表情をしている紫藤が会話に加わってくる。

 

「驚いたわ、あなたがここまで攻めあぐねるなんて」

「見ての通りだ。在野にここまでの使い手がいたとは思わなかったよ」

「身を守るのが得意そうだったし、私もいいと思うわ。これなら背中を気にせず戦えるしね」

 

 しばらくそうして話をしていた彼女たちだったが、それである程度意見が纏まったのかこちらへと向き直りこの後のことについて聞いてきた。

 

「どうする、こちらはすぐにでも行動を始めようと思っているが?」

「大丈夫だ、フットワークの軽さには自信がある。怪しい所の情報は事前に集めてもらってるんで、そこら辺の案内しながら敵の拠点を探すことになるが……」

「いいじゃない、こそこそ隠れてるなら燻り出してやろうじゃないの」

「そうだな。傭兵よ、早速その候補地に案内してもらえるか」  

「分かった、おい木場ぁ!! 行くぞついてこい!!」

 

 こちらで話を進めてしまっていたために立ちっぱなしになっていた生徒会メンバーの中から、ゆっくりとした動作で進み出てくる木場。

 拘束具は外されているものの、相変わらず悪感情に彩られた瞳を聖騎士の二人に向けている。

 それに嘆息しながらも、こいつに約束させたことを守っている以上何かを言うことはできない。そのくらいは許してやらなければこいつも自分を抑えることは出来ないだろうしな。

 

 

 

 

 

 そうして聖騎士二人に俺、木場を加えた四人はその他の面々をおきざりにし早々に行動を始めるのだった。

 そのとき何とも言えない表情でソーナ・シトリーが俺たちを見ていたのが妙に印象に残っていたが、呼び止められることもなかったので

特に反応することはなかったのだが……はて、何か忘れていたような気もするんだが?

 

 それが思い出せないことに若干頭を悩ませつつ、結局は道案内に集中するためにそれも忘れてしまっていたのだが。

 とにかく堕天使討伐のために動き出した俺たち、まずは候補としてあげられていた場所の一つの目指して歩みを進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そしてそれを、遠くから監視している存在がいた。

 

 影の中で佇むその男は動き出した刺客たちを見据え、実に楽しげな表情を浮かべている。嗜虐的なその表情は、これから起こる事に対する期待で暗く輝いていた。

 そして自らの望みのため、すぐさま背後に控えていた配下に指を振り指示を下す。

 それに男の配下の一人、数本の剣を携えたカソック姿の青年が応え姿を消した。

 

 

 

 

 

 これにより事態は急速に動き始める。

 聖剣をめぐる戦い、その前哨戦はすぐそこまできていた。




ソーナ「あの……私が入れたお茶はどうしたら?」


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三番勝負 邪心光剣・フリード・セルゼン 上

どうも、アゲインです。
 
人数が増えるとどうしても描写に時間が掛かる。
そんな投稿者ですが何卒お許しくだされ。

さて、遂に行動を始めた四人の行く末や如何にといった感じで今回も始めていきますよ~。





 

 

「―――……で、本当のところはどうなの。あの旗本って奴のこと、信じたわけじゃないんでしょう?」

 

 目の前を先導する二人の背中を注視しながら、紫藤イリナは隣を歩くゼノヴィアに囁くようにして話しかけた。

 

「……何故そう思う?」

「だって派遣していた神父が既に殺られてること、話してないでしょ? 少なくともコカビエルにはそれ相応の手下がいることは分かってるのに、それを黙ってるんですもん」

 

 奏平たちが何やら話をしているのをいいことに、イリナはゼノヴィアが会議の時にあえて語らなかったことを声に出して指摘していた。

 それに迂闊な奴めと少しだけ思いながらも、前の二人に反応がないことを確かめたゼノヴィアはどうしてそんなことをしたのかを話し出した。

 

「……今回の悪魔側の対応、色々とおかしいとところがある。いくら眷属のためとはいえ、仮にも領地持ちの悪魔が非常事態にも関わらずそのまま引っ込んでいるというのはあまりに不自然だ」

「んー、そうかしら。ここの悪魔にとってその眷属がよっぽど大切な奴だったんじゃない? わざわざ別の悪魔に代行を頼むくらいだし、それだけそいつの治療に集中したかったとか」

「私はそうは思わん。むしろ戦力の公開を避けたのではないかと踏んでいる。こちら側に知らせたくない情報があったからこそ、あえて一人だけを戦力として選出したにではないかとな」

「いや、そうだとしたら最悪な人選じゃない? あいつ、私たちのことヤバイくらい睨み付けてたじゃない」

 

 そういってイリナは前を並んで歩いている左の方、先ほどまで拘束具に身を包んで威圧感を放っていた方に視線を向ける。

 

「訳ありだっていってたけど、何なのかしらあいつ。あの様子だとよっぽど恨みがありそうだったけど」

「確か私たちが聖剣を披露したときに一番反応していたな」

「そうよ! あの時のあいつ、今にも襲いかかってきそうだったじゃない。あんなに背中預けるとかありえないわよ!」

 

 その時のことを思い出したのか、イリナは身を守るように自分の体を抱き締めて大袈裟に振る舞ってみせる。

 相方のその様子に呆れつつも、ゼノヴィアは会話を続けていく。

 

「そうだ、そんな奴らに雇われた傭兵だぞ? いくら腕が立つとはいえ、悪魔側であるのは疑いようもないことだろう。どんな契約を結んでいるか分からん以上、余計なことを話すわけにはいかん」

 

 得体の知れない相手なのだからと、ゼノヴィアは警戒心を露にして奏平の背中を睨み付ける。

 グレモリーが協力できない原因となったと自分で言うわりには悪魔たちとの関係が悪いように見えず、むしろ良好な間柄を築いているようだった。

 プライドが高い悪魔たちが、身内に近い者を傷つけられてそんな風に振る舞えるだろうか。ゼノヴィアのこれまでの経験からすれば、それはありえないことだった。

 むしろ先ほど言ったような、戦力を隠匿するための方便として奴は連れてこられたのではないか。そう考えるとこの傭兵の存在にも納得できる部分があるのだ。

 

「コカビエルは好戦的な奴だ。必ず手下を使って仕掛けてくる……そうなればイリナ、分かっているな」

「ああ、そういうことね……了解よ」

 

 刺客の情報は自分たちだけが知っている。仕掛けてきたそいつを叩きのめしてコカビエルの居場所を聞き出してやろうと彼女たちは画策しているのだ。

 信用ならない相手と行動を共にするくらいなら、自分達だけで動いた方がいい。

 

 そう考えている彼女たちの後ろから、足音を消し近づく影が―――

 

 

 

 

 

△     △     △ 

 

 

 

 

 

「―――……で、どうだったよ。本物の聖剣とやらを見れたんだ、感想の一つでも語ってもらおうか」

 

 後ろからついて来ている教会の奴らを意識の端に入れつつ、隣を歩く木場に話を振る。

 俺の言ったこととはいえ、これまで大人しくさせ過ぎたせいでかなり鬱憤を溜めさせてしまっていることだろう。その証拠に極めて不機嫌だというのを全身で表現している。

 

「……実に不愉快だったよ。みんなの命を奪う原因になったエクスカリバーが目の前にあったんだからね。自分でもよく我慢できたと思っているよ」

 

 実際木場は俺との取り決めがなければ、最初の邂逅の時すぐにでも戦いを仕掛けていただろう。そうしなかったのは一重に、俺に暴れることを禁止されていたからである。

 

「『許可を出すまで教会側と戦わないこと』―――そんなことに従う義理はないけど、約束を破ったら今度はどんな目に合わされるか分かったもんじゃないからね。

 それだったら堕天使側と戦った方が早い、あっちのエクスカリバーなら壊したところで文句はないだろ?」

「どうせ元から奴らのもんじゃねぇんだ、いくら壊したところで顰蹙を買うのはあちらさんだ」

 

 それに、

 

 

 

 

 

「―――お前が本当に復讐するべきなのは、コカビエルについてる奴の方だろう?」

 

 グレモリーの眷属は全て転生悪魔であるらしく、その中でも木場の元々の所属は教会なのだという。教会暗部の実験によって当時の仲間を理不尽に殺され、自身もまた命尽きようとしていたときグレモリーに救われたのだとか。

 仲間の命を奪う原因となったエクスカリバー、その存在を木場に消えない心の傷を残している。

 

「大戦を生き残った幹部なんだ、エクスカリバー何ぞなくても大抵の願いは叶えられる。そんな奴がわざわざ聖剣なんぞを持ち出して、一体何をしようってんだ?明らかに余計なことじゃあねぇか。

 

 

 でも、お前は”知ってるはず”だ。

 

 

 どこまでも聖剣のこだわるような、そのために大勢の命を奪うような、そういう自分の都合だけの屑の存在をお前は知ってるはずだ」

 

 

 

「……バルパー」

 

 

 

 木場が呟くようにして、一つの名前を口にした。

 それが、コカビエルに協力している男なのだろう。

 それは木場の仲間たちを実験に使い、最後に処分と称して全員を毒ガスで殺した男の名前なのだろう。

 それこそが、木場が本当に倒さなければいけない、乗り越えなければいけない、本当の仇なのだろう。

 

「あいつらはあの聖剣のためにどれだけの命が散ったのか、何にも知らないだろうさ。どんな過去があるのか、そりゃ知りもしないだろうさ。

 そんな奴らが嬉々としてその聖剣を振るってるんだ、当事者のお前としちゃいい気分にゃなれないだろう。

 でもな、あいつらがお前の仲間を殺したのか? 違うだろ?

 殺したのはバルパーだ、聖剣が殺したわけでもなければ騎士どもが協力したわけでもない」

 

 間違えるなよ、剣を向けるべき相手を。

 

「所詮聖剣も道具だ、道具に意思はねぇ。壊したところで一時満足する程度のこと、そんなことを目標にして本当の解放が訪れることはねぇ。

 やるなら元から絶て、お前の歩みを縛り続ける、その因縁の根本をな」

 

 その後にそれでもというなら、いくらでも戦わせてやる。

 そう木場に言おうとして、ふと後ろに気配がないことに気付い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――な、にぃいいい!!!!?」

 

 

 

 思わず振り返り、驚愕に声を張り上げた。

 視界の中に、ついてきているはずの二人の姿が見当たらない。そればかりか、俺たちが本来目指していた道とは違うところを進んでいる。

 それがいつからなのか分からない、分からないが既に”何か”が起こっているということだけは理解できる!!

 

「あいつらがいない……どういうことだ?」

 

 木場もおかしいことが起こっているということに気付いたのか、回りを見渡して疑問の声をあげている。

 

「一本道、一本道だったはずだ……! 俺たちは()()()()に一本の道を進んでいたはずじゃあねぇか!!

 いくらお前との話に集中していたって、それを勘違いするほど抜けてたわけじゃねぇぞ俺は……!?」

 

 急いで端末を取り出してGPS機能で今いる位置を確認する。

 

「やっぱりだ……やっぱり違う。違う道を俺たちは進んでいる!!」 

 

 地図機能と一緒になっているこれを見る限り、目指していた方向とは少し違うところに俺たちはいる。

 俺は急いで道を戻り、その途中にあるそれを見つけた。

 

「ここだ、この分かれ道だ……! 入り口は少し小さいが、方向からすればこっちがそうだ!!

 いくら話に夢中になっていたって見逃すほどじゃねぇ!」

 

 ちくしょうが、そういうことか。もう仕掛けてきていやがったのだ。

 敵がコカビエルだけではないと木場に言っておいて、俺こそが油断していた。

 潜伏しているということをいいように考え過ぎていた、目的の達成のために大人しくしているものだと勘違いしていた!!

 

「……幻覚と透過、悪用するのに十分すぎる……! 行くぞ木場、奴らが危ない!!」

「ちょっと待ってくれ! 一体何が!?」

 

 奪われた聖剣の名前を思い返している今、遅れて来た木場に説明する時間すら惜しい。

 見逃されていた、いや隠されていた本来の道を全速力で駆ける。

 形振り構わない俺の行動に、木場も事態を理解してはいないものの置いていかれまいと追従して走り出す。

 

「旗本!!」

「仕掛けてきてたんだよとっくによう!! まんまと出し抜かれて分断された挙げ句、別れてからどんだけ時間が経ったかすら分からねぇ!!

 あいつら、もう倒されてるかもしれねぇぞ!!」

「そんな!!」

「黙って走れよ、兎に角急がなきゃならねぇんだ!! 敵に聖剣奪われてみろ、もっとまずい事態になるぞ!!!」

 

 コカビエルは主戦派とはいえたった一人、堕天使側から付き従う奴が出たとは聞いてねぇ。だがこんなことを奴自身がするはずもない。

 襲撃犯はおそらくバルパーが引き込んだ傭兵かはぐれ、それも金やなんかで仕事を引き受けるような奴じゃない。こんなことに手を貸すのは教会か悪魔に恨みがあるような奴に違いねぇ!

 

「一人……多くて二人!!」

 

 二人がまだ無事であることを祈りつつ、ただひたすらに道を走り抜ける。

 しばらく走り続けると道が拓け、広い道路が見えてくる。

 そしてその先には―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――くそ」

「―――いったぁ……」

 

 

 

 ―――体の至るところに傷をつけられ、今にも倒れそうになっている騎士の二人と、

 

 

 

「―――おやおや~、まーだ粘るんですかい? 流石にしぶといしぶとい!!!」

 

 

 

 ―――それを嘲笑うようにして見下している、カソック姿の男。

 

 その手には一本の剣が握られ、更には腰の両方に一本ずつそれぞれ剣を吊り下げている。

 それらは全て同じような、ゼノヴィアたちが持つエクスカリバーと同等の聖なる気配を放っている。

 合計で三本の聖剣、そしてこの状況。間違いない、こいつがコカビエルの刺客!!

 

「あいつは……フリード・セルゼン!!」

 

 追い付いた木場の叫びに反応し、フリードと呼ばれた男がこちらに視線を向ける。

 それと同時にゼノヴィアたちに向けられていた敵意もこちらに移り、奴は凄まじい跳躍と共に間髪なく襲いかかってきた。

 大胆不敵な襲撃者は、先に戦っていた疲労感など感じさせない軽快な挙動とウザったらしい口調で近づいてくる。

 

 

 

 

 

「はっはーーー!!! 入れ食いじゃあーーりませんか!!! 異端者狩りは楽しいゾイ!!!

 さあ、俺ちゃんの聖剣で先に逝かされたいのどっちの子羊ちゃんかしらーーーん!!!」

 

 

 

 堕天使との前哨戦、敵は三本の聖剣を使うフリード・セルゼン。

 一筋縄ではいかないであろうことを予想しながら、俺は奴を迎え撃つための行動を始めるのだった。

 

 




読了ありがとうございました。

というわけで、フリード参戦(最初から完全装備)
正直こういう使い方のための聖剣じゃないのかのか思うくらいには汎用性が高いですよね。
幻覚、透過、敏捷増、いくらでも使い道がある正にコンボのための聖剣。
だがしかし、それは君たちだけのものではございませんので。


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三番勝負 邪心光剣・フリード・セルゼン 中

どうも、アゲインです。

フリード君の襲撃に会い、まんまと分断されてしまった奏平たち。
聖騎士たちが先にやられてしまい、そのために不利な状況から戦わざる得ない奏平たち。
三本の聖剣を操るフリードに対し、奏平たちは如何にして戦うというのか!
答えはこの後すぐ!!





 

 

「―――ずっ……ぱし!!」

 

 フリードと呼ばれた刺客の動きは速く、狂った言動からは考えられないほど正確な剣筋で攻撃を仕掛けてくる。

 その狙いは前に出ている俺、瞬時に武器を取り出そうとして、

 

「避けろ木場!!」

「え……うわ!?」

 

 咄嗟に背後にいた木場に警告と同時に蹴りを放ち、その場から強制的に離れさせる。

 当然自分に差し迫る刃は防げないが、

 

 

 

「……()()()()()

 

 

 

 ―――それは俺を傷つけることなく、体を通りすぎていく。

 

「いつっ……!!」

 

 そして逆に、標的ではなかったはずの木場の腕が薄く斬り裂かれていた。

 何が起こっているのか分からず混乱している木場に分かるよう、怒鳴るようにして声を挙げる。

 

「幻覚だ!! それに合わせて透明化してる!! 音で攻撃を判断して避けろ!!」

 

 斬りかかってきた姿はフェイク、幻覚を先行させ後ろから掛け声を挙げ居場所を偽装していた。自身は透明化して見えている虚像に意識が向いている木場を倒すといった算段だったのだろう。

 

「……そこか!」

『―――おっとぉおお!!』

 

 だがしかし、それで出し抜かれるようでは戦士として二流もいいところ。いくら姿を消せてもそこにいるのならいくらでも感知する方法は存在している。

 一つは嗅覚。周りから嗅ぎとれる血の臭いは、ゼノヴィアたちの返り血だろう。その臭いは奴の居場所を大まかにだが教えてくれる。それに従って数本の短剣を投げ付ければ、その内の一本が運良く奴に当たる軌道だったようで何もない空間で不自然に弾き飛ばされた。

 

「旗本!?」

「こいつの相手は俺がやる!! お前はあいつらの傍に行け!! そうすりゃこっちで何とかする!!」

 

 何とか牽制を打つことはできたが、依然として圧倒的にこちら不利なのには代わりない。

 急いで騎士どもを救援に行かなきゃならないが、その隙をこの襲撃者が見逃すとは思えない。木場に対処させるには荷が重い相手だ、ならば俺がやるしかない。

 

 

 

 「出ろ―――『四方太鼓』」

 

 

 

 俺は指示を出すと同時に、自身の異能は発現させる。

 背後に出現させた四つの太鼓は独りでに旋律を刻み始め、周囲を音で満たしていく。

 そして新たに短剣を両手に取り出し、次の攻撃に備え構えをとる。

 

「フリードの相手なら僕が……!」

「優先順位を間違えんじゃねぇ!! また目の前で殺させるつもりか!!」

 

 木場としては是が非でもこの敵と戦いだろう。

 折角聖剣を持って現れてくれたんだ、俺との約束を気にすることもないと考えているんだろうが、それを状況が許してくれない。

 またも幻影を駆使してこちらを撹乱してくる敵の位置を探りながら、中々動かない木場に激を飛ばす。

 

「また聖剣の犠牲者を増やすのか!! お前の仲間がクソみたいな目的のために殺されて、お前も死にそうになって!!

 お前はそれが嫌だったから、許せなかったから聖剣を憎んだんだろうが!! 破壊したかったんだろうが!!」

 

 かつての仲間と、騎士どもではどちらが木場にとって大切か、言うまでもないことだろう。

 だがそれでも、

 

 

 

「―――死なせるな!! これ以上、バカみたいな目的のために奪われる命があっちゃいけねぇ!! それを一番良くわかってんのはお前だろう!! お前自身だろう、木場!!」 

 

 

 

 こいつらもまた、聖剣の犠牲にされようとしているぞ。

 それを見逃すのか?

 それを許すのか?

 それで聖剣さえ壊せればいいなんて、仲間の前で言えるのか?

 

「……ッ頼む!!」

「任せろ」

 

 自身を苛む大きな葛藤に、それでも区切りを着けた木場の動きは早かった。自慢の速度でフリードの囲いを一気に突破し、騎士たちに駆け寄っていく。

 その姿を見送りながら、周囲を取り巻く幻影に睨みを利かす。

 幾体もの敵の幻影は、木場を逃したというのに全部が気色悪い笑顔を浮かべている。

 

「余裕って感じだな、お前」

「ん~~~、だってねぇ……あちらさんは兎も角御宅はマズイでしょ、自由にさせちゃ」

 

 移動を続ける声の元を探す俺に対し、圧倒的有利に立つはずのこいつは何故か異様に静かだった。

 殺気は相変わらず振り撒いているが、印象的だった狂ったような軽口は鳴りを潜めている。そして姿こそ見えないが、こちらを注意深く伺っている気配をどこからか感じる。

 

「あちらの奴さんらはどうとでもなりまさぁ、それこそ三分クッキングで合挽きハンバーグ作れちゃいますぜ。でも、その前に確実に俺がkillkillされちゃうでしょ?

 その構えといいよくわかんにゃい背中の奴といい、そういうお相手だとお見受けしますぜ」

 

 くそが……本当にやりにくい相手だ。

 搦め手ってのは奇襲でこそ最大の効果を発揮する、一撃が全ての戦法だ。失敗したなら即撤退が原則、だがこいつにその気配はねぇ。

 つまりはだ、こいつには正面きって俺とやりあえるだけの実力があるといっているようなもの。手の内を全く見せちゃいないが、俺が下手に晒せば更に不利になることは予想できる。

 そんなこちらの思惑を知ってか知らずか、フリードはニヤついた顔のまま会話を続ける。

 

「たった一回攻撃しただけでこっちのやり口を見抜くなんて、よっぽど戦闘経験がないとできやしませんぜ? 正直聖剣が三本もありゃ楽な仕事だと思ってたのに……計算が狂っちまったなぁ」

「そいつは悪いことをしたな、でもこっちも驚きだぜ。こうも簡単に分断させられたってのもあるが、どうにもお前木場と面識あるみてぇじゃねぇか。ここに来んのは始めてじゃあねぇな、テメェ」

「ええ、前の仕事でちっとばかし」

「……そうか」

 

 ここで起こった事件となると、順に考えれば赤龍帝が目覚めた時の奴か。あれも堕天使が関係した事件だったはず。犠牲者も何人かいたと聞いているが……。

 とことん面倒を引き付ける土地だな、ここは。どうしてこう、人間の世界でばかり……。

 

「……おいテメェ」

「お♪」

 

 あれこれ悩んでも仕方がないことだ、何も解決もしやしない。

 

「やるか、そろそろ」

「おや、いいんですか~い。もっと時間は稼がなくても?」

 

 フリードが言うように会話で気を逸らすのもここいらで限界だろう。木場もあいつらの所に辿り着けたみたいだし、俺の方も準備万端だ。

 

「ああ、こうして突っ立ってるだけなのも飽きただろう? 遊んでやんぜフリード君よぉ」

「はっ、そいつは楽しいお誘いですが―――」

 

 途端、台詞と共にフリードの気配がぶれる。

 幻影は木場たちへの道を阻むように配置を変え、まるで妨害するかのように立ちふさがる。

 

「てめ……ッ!」

 

 それがどういう意図での行動なのか、理解と同時に動き出した俺の初動を阻むようにその幻影の先から光弾が撃ち込まれてきた。恐ろしく正確なその攻撃は逃げ道を潰すように、確実に防がなければいけないような軌道と数でこちらに差し迫っている。

 この後に及んでこの野郎、万全の一人よりも手負いを含めた三人の方を狙いやがった!!

 

(捌くのに数秒はいる……! 間に合うか……!)

  

 武器を変える時間もない、体の端を掠めるようなやつを無視し必要最低限の光弾だけを斬って進む。

 多少の流血はお構い無しで強引に壁を突破し、その先でゼノヴィアたちを守ろうと魔剣を構える木場に襲いかかろうとしているフリードがいて……しかし、その視線はというと、

 

 

 

  

 

「―――こっちから先に逝かせてやんぜーーーーー!!!!!!」

 

「―――こい、フリード・セルゼンーーーーー!!」

 

 

 

 

 敵対していたもの同士、決着を着けんと絶叫を挙げる二人――――――ではなく、

 

 

 

「逃げろ、お前では敵わん!!」

 

「うぅ……!!」

 

 

 

 傷ついた体を必死に動かし、どうにか立ち上がろうとしているゼノヴィアたち―――でもなく、

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

 

 ―――彼らの頭上に飛来する、烏のような翼を持つその人に奪われていた。

 

 

 

 ぶつかり合おうとしていた二人の間に飛び降りた彼は木場たちを背に、抜き身の刀でもってフリードの聖剣を受け止める。突然の介入者に動きを止めるフリードの腹を蹴り飛ばし、奴を大きく後退させた。

 木場たちも戸惑いで動けない中、彼は一度刀を振り払いような所作を見せつける。

 

 

 

 

 

「―――やれやれ、もう少しはよぅ呼ばんか奏平。お陰で道に迷ったではないか」

 

 

 

 こちらの名をを知る老年の男性、彼こそ俺が今回の依頼のために呼び寄せた増援メンバーの一人。

 その正体は鞍馬山にて修練を積んだ烏天狗の剣士にして、我が傭兵団随一の実力者。

 蒼天流剣術伝承者にして俺の剣術の師匠。

 

 

 

「―――だが、間に合うことはできたようじゃな」

 

 

 

 『天晴(あまはらし)の蒼天』―――悪行を断たんと堕天使が潜む地に参上せり。




読了ありがとうございました。

若干クサイとは思いましたがこれが木場に対する奏平の偽らざる本音です。
木場の行動には否定するべき所と肯定するべき所、それぞれあると思っているのでこういう風になりました。
何か違うなぁって人がいるとは思いますが、それはそれで正しいことだと思うので意見感想など頂ければありがたいです。

そして短編からようやく再登場の蒼天師匠。
彼が何者か覚えていない方も多いでしょう。
その時はもう一度短編を見てくれよな!
ではまた次回!


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三番勝負 邪心光剣・フリード・セルゼン 下

どうも、アゲインです。

ようやく登場した第一の仲間、烏天狗の蒼天。
奏平の剣術の師匠である彼の登場で事態はどう動いていくのか。





 

 

 フリードによって傷つけられ、倒れ伏す聖騎士たち。彼女たちを守るために立ち塞がる木場と、今度こそ止めを刺さんと襲いかかるフリード。

 しかし激突の瞬間、間に割って入ったのは予期せぬ乱入者。 

 突然現れた異形の存在に目を白黒させている木場たちをそのままに、師匠は吹き飛ばされつつもすぐに体勢を立て直したフリードに視線を向けている。

 

「はてさて、飛び込んでみたはいいものの……ふむ」

 

 刀はそのまま、もう片方の手で顎を撫でている師匠。着流しの上にローブを纏うファッションセンスも相変わらずだ。

 どうやら来てくれたはいいものの、さっきのは流れでやったことらしく今がどういう状況かを改めて見定めているようだった。

 師匠は広げていた翼を折り畳みながら、

 

 

「ふむ……」

 

 

 後ろにいる木場たちに見、

 

 

「ふぅむ……」

 

 

 そしてまたフリードへと視線を返す。

 そうして何かを考える素振りを見せ、何やら残念そうな顔をしてみせる。

 

「何とも難儀な……腕はよいのに性根が曲がりきっておる。御主、剣が泣いておるぞ」 

「……は? 何いってんだこいつ」

 

 そして飛び出す台詞がこれである。

 長年連れ添った御方の相変わらずの行動と、それによって掻き乱されていく光景は懐かしさすら覚える。

 前にもこんなことあったなーとなんて思い返すのも程ほどにしつつ、もう使う必要のなくなった武器を回収していく。太鼓たちも役目は終わったことだし、もうしまっても問題ないだろう。

 

 

 

 おそらく、もう戦いにならないだろうからな。

 

 

 

「何なんだこいつ……おい爺!! 邪魔すんじゃねぇですよ!!」

 

 師匠の乱入によって木場たちへ攻撃を阻まれたフリードは自分の思い通りに行かなかったことに聖剣を振り回して憤っている。ここまでいいようにこちらを欺いては主導権を握れていたというのに、その最後の一歩を最高のタイミングで邪魔をされたのだからその不満は凄まじいものだろう。

 しかしそんなものこちらに、特に師匠には関係がない。

 

「まあ待つがいい、そう急いても何も変わらん。御主が小僧の言っておった堕天使の手先であろう? 儂は来たばかりで何が何やらといったところじゃが、そのくらいは分かる」

 

 今も『剣気に淀みがあるからのう』、などといって師匠は余裕綽々といった態度を崩さない。というか何か説法でも始めそうな気配だ。

 聖剣を持つ刺客を前にしてあまりにもな態度に口を挟めない周りの連中を置いてけぼりにしながら、師匠は自分勝手に話を進めていく。

 

「小娘共の傷跡、ありゃわざとじゃな。いたぶるための浅い傷ばかり……女子(おなご)の身体に酷いことをする」

「いやいやいや、爺さん何言っちゃってんの? お宅敵を気遣えなんておっしゃりたいわけ?」

「いいや、そうは言わん。結局のところこの世は強者の統べる世界、どれほど低俗な行いとて強き者が行えばそれは道理に反さぬ。

 強者の道理に、弱者は(こうべ)を垂れるのみ。

 

 

 ただ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それは儂の預かり知らぬところですべきだったな、下郎」

 

 

 

 ―――チン、

 

 

 

「げふぁああああああああ!!!」

 

 鍔鳴りの音が響いたかと思えば、突如口から血を吐き出したフリードが濁った絶叫と共に背筋を仰け反らせ地面に膝を着く。その体には先ほどまでなかった太刀傷が肩口から斜めに深く刻み込まれていた。

 背後には刀を鞘にしまった体勢で佇む師匠の姿があり、これがあの人の仕出かしたことだと察しがついた。

  

 

 あれは師匠が使用する奥義の一つ、『(ひらめき)』で間違いないだろう。

 

 

 本来移動しか行えないらしい『縮地』と呼ばれる仙術の最中に、その進路上の敵へと剣撃を見舞う必殺の奥義。消えたように見えたのはそのスピードが俺たちの目では追い付けないほどに速かったからでしかなく、自然と一体となる仙術の特性によって移動の余波すらほぼ起こらない。

 その難易度は師匠の元で長年修行を積んできた俺でさえまだ修得ができていないほど。そもそも俺では異能の関係で仙術が修得できないからいくら使いたくても無理なのだが。 

 

「な、何が起きたんだ……」

 

 しかし、それは俺だから理解できたこと。木場たちには今目の前で何が起こったのか理解できていないことだろう。術者以外はまるで時間が飛んだかのように感じていることだろうからな。それほどにこの奥義が与える衝撃は凄まじいものだ。

 しかし、それも当然か。突然謎の人物が現れたかと思えばそれまで苦戦していた敵にたった一瞬で致命傷を与えたのだ。先ほどの絶技も合わさって完全に彼らの理解できる範疇を越えてしまっている。

 

「がはっ…!……ううぅ……完全に…予想外でしょ、流石に撤退案件だわ…これ」

 

 そしてフリードも今ので師匠のヤバさが分かったのか、血が吹き出す傷口を押さえつけたまま聖剣の力を使い姿を霞ませていく。まだ師匠が背後にいるというのに形振り構わず逃げようというその行動、奴に余裕が残ってないことを物語っている。

 

「っ待て、フリード!」

 

 フリードがこの場から逃げようとしていることを察した木場は急いで追いかけようとしたが、しかしそれよりも先にフリードが撤退する方が早かった。

 既に全身を消し去ったフリードに魔剣を振り下ろすが、それは虚しく空を切る。既にその場から居なくなっているようで、木場は何とか行く先を特定しようと周りに視線を巡らせるが、奴はご丁寧なことに地面に血を振り撒いてどの方向に撤退したのかを分かりにくくしている。

 

 程なくして聖剣の効果が切れたのか、一際大きな血痕が道路の奥の方に伸びているのを確認できた。しかしそれも途中で途切れてしまっていて、これでは奴がどこへ行ったのか分かるような手がかりを得ることはできないだろう。

 木場もそのことを理解したのか悔しげな顔をしつつも闇雲に追いかけようとすることはなく、魔剣を持つ手が力なくしなだれている。

 

「何てことだ……奴を捕まえるチャンスだったのに」

 

 本来自分が果たすべき役目をかっさらわれ、挙げ句の果て敵には逃げられたのだからその心中は相当落ち込んでいることだろう。

 しかしその横を歩む師匠の顔にはそのような色はなく、寧ろ期待外れでもいうような表情でこちらを見ている。

 

「……やれやれ、来て早々面白くないことをさせる。奏平よ、もしやこんなことのために儂を呼んだのではないな?」

 

  おっと、いい加減見学に徹していたのがバレたか。鋭い視線がこちらに飛び、こちらに来いと言っている。

 そそくさと近寄った俺は師匠の前へと足を進め、先ほどの返答をする。

 

「あいつは所詮手下ですよ、師匠。親玉がヤバイってのは事前に伝えておいたはずですが?」

「分かっておるわそんなこと。あの程度の輩であれば、お前でも十分に討てたであろうに」

「まあ、状況が少しばかり」

「ほう……お前が言い訳とは珍しい、まあ面子が面子じゃからな。迷ったか」

「その通りで」

「精進が足りんな」

「おっしゃる通りで」

 

 やれやれここまでほとんど良いとこ無しの俺に対し、中々辛辣な評価を下してくださる。

 全く、この人は久々に会ったというのにすぐこれだ。窮地を救われていても、こうしてこちらの内心をズバズバと当てられては堪ったものではない。お陰で自然と頭が下がってしまう。

 そうして会話をしながら無遠慮に近づいていく師匠に警戒心を露にする木場を他所に、当の本人はその後ろにいるゼノヴィアたちへ視線を注いでいる。

 

「あ、あなたは……」

「まあ話は後じゃ。奏平よ、杖を出せ」

「治療ですね、分かりました」

 

 ある程度心を持ち直したらしい木場が改めて師匠に話を聞こうとするが、あえてそれを受け流し俺に指示を出してくる。

 ここでいう杖とは錫杖のことであり、その中でも『回復の錫杖』はより治癒能力を向上させた俺が持つ回復手段としてかなり使い勝手いいものだ。

 

「そんじゃ……『ミナヒール』!!」

 

 新たに手の中に出現させたきらびやかな装飾の錫杖をかざし、ゼノヴィアたちへ治癒の力を注いでいく。

 それによってみるみるうちに回復していき、彼女たちの体から見て分かるような傷は完全になくなっていく。

 

「これは……」

「き、きもちぃ……」

 

 ゼノヴィアたちもギリギリだったのだろう、心地よい癒しの力によってここまで二転三転とした展開の連続に張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのか、治療が終わる頃にはそのまま気絶するように地面に寝転んでしまったのだった。

 

「よし、では拠点に運ぶとしよう。奏平よ、案内せい」

 

 そして治療が終わるなりそういって先に行ってしまう師匠の背中から、俺たちは地面に寝転がる聖騎士たち視線を移す。

 思わず木場と顔を合わせれば、奴もまた同じようなことを思っていたようで。

 

「……彼女たちは僕たちで運べって?」

「そういうこった、そっちの金髪は頼んだ。俺はこっちのを運ぶよ」

 

 何時ものことだと割り切っている俺とは違い、葛藤を乗り越えたばかりの木場はやはりまだ戸惑いがあるようで。

 しかし、それも俺がさっさとゼノヴィアを肩に担いでいるのを見て動かないわけにはいかないと考えたのか、どうにも諦めた様子で紫藤を両手で抱えて隣に並び、ゆっくりと歩き出した。

 

「はぁ……色々と説明、してくれるんだろうね?」

「ああ、ちゃんとしてやるよ。納得するかは別としてな」

「そうだね。さあ行こうか」

 

 君の師匠も待っていることだし、という木場が示すように案内しろといいつつ先に行ってしまっている師匠の背中が遠くに見えた。

 

「……本当自由だわあの人」

 

 でも愚痴を言っていても始まらない。

 

 

 

 

  

 

 こうして、一先ずの危機を乗り切った俺たち。

 フリードを逃しはしたものの、欠員を出すことなくどうにか一つ目の山場を越えることができた。だが、この結果は師匠が来てくれたからであることを忘れちゃいけない。そもそもフリードに分断されたのは俺自身の気の緩みが原因でもある。

 この後どうせ師匠に言われることになるんだろうなぁ……と若干嫌な未来を想像しつつ。

 今後をどう挽回するかを考えながら気を失った騎士たちを運搬する木場と共に、拠点を目指して歩き始めるのだった。

 

 




読了ありがとうございました。

次回は拠点にたどり着いた所から。
フリード戦の振り返りをしつつ、今後のことについて話し合います。
どうして師匠が追撃をせず見逃したのかとか、太鼓の意味はあったのかとか。
その辺りのことの説明会になると思います。


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語る言葉と示す覚悟、状況はいつだって最悪

どうも、アゲインです。

今回の話は前回活動報告でお知らせしていた、改稿分の投稿になります。
諸々バッサリ切っているので前の展開とはかなり違っています。
なので3、4日は改稿前の話も消さずにいようかと。
そういった感じですので違和感あるなぁという方がいたらまたご意見聞かせていただけるとありがたいです。


 襲撃された場所から二人を拠点に運び、二階の空いていた部屋に寝っ転がすと時間は昼を過ぎていた。

 

 その後、先に一階のリビングで待っていた師匠について説明するため、ついでに俺たちの来歴についても木場に話すことにした。

 主に俺が話を進めていたので師匠が口を挟むようなことはなかったが、真剣な表情で聞いている木場の反応を見て何かを考えているようで、時折顎を擦ったりして話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「―――……とまあ、そういう経緯で俺と師匠は出会ったわけよ」

 

 俺の話す過去の出来事を神妙な顔で聞いていた木場は、話し終わった時にはその内容が予想していたよりも衝撃的だったのかどう反応すればいいか分からないというような顔をしていた。

 色々と思うことはあるだろうが、それを飲み込むのに苦労しているといったところだろう。

 

「……そう、だったのか」

「そ、だから俺は聖書の連中が嫌いだ。特に人様に迷惑掛ける奴は例外なく殺意が沸くし、お前んとこのお嬢様やあの騎士でもは典型的な自己中タイプだから一番嫌いだ」

「それは、その……」

「甘やかされて育ったんだとしか思えんな、あいつらの態度。兵藤も兵藤で意味が分からんし、お前んとこの奴ら頭大丈夫か?」

「……あまり仲間のことを悪く言ってほしくはないんだけど」

「知るか、お前も最初は自分の都合で俺に喧嘩売ってきただろうが。野郎俺とライザーの喧嘩に横やり入れやがって、折角の舞台が台無しだ」

 

 憤りを露にする俺の様子に言葉が出ないのか、黙り込む代わりに『ああ、イッセー君たちは何てことをしたんだ』……とでも言いたげな面持ちになる木場。お前がまだ良心的でよかったが、今はそう思い悩んでばかりいられないんだよ。

 

「そんなことよかこっからのことだ」

「ご、ごめん」

 

 今回の襲撃によって、騎士どもがあまり使い物にならないことがよく分かった。

 正直あれではコカビエルとの戦いについてこれない、言っては悪いが足手まといだ。

 

「……」

 

 黙り込む俺の顔を見て、何を考えているか分かったのだろう。木場が心配そうな表情をして聞いてくる。

 

「……彼女たちはどうする? 作戦を決めるなら……」

 

 言い淀む木場の意図するところはわかる。木場自身も俺と同じようなことを考えたのだろうが、

 

「決めるなら、むしろいない方がいい。それとも話し合ってフリードの相手を誰がするか決めるか?」

「……いや、奴との決着は僕が着けるよ。それだけは譲れない」

 

 煽るような言い方だったが木場もそうと決めていたようで、フリードと戦うのは自分に任せて欲しいと全身で物語っている。

 それでいい、お前のけじめはお前でつけるべきだ。

 しかし、そうなると尚更騎士どもが要らない子だな……。 

 

 

 

「……何やら話が進んでいるようだが、私たちのことを忘れている訳ではないだろうな」

 

 

 

 思考の狭間、リビングの入り口からの声に目が動く。

 そこには頭を悩ませる原因であり、もう暫くは眠っているはずの騎士たちの姿があった。

 

「なんだ、もう起きたのかお前ら」

「ああ、疲労はあるが動くのに問題ない」

「そうね。傷跡もないし、ほんと助かったわ」

 

 あれだけやられた後だというのにけろっとした顔した二人がいそいそと部屋の中に入ってくる。

 そして横に並んだかと思えば、二人揃って勢いよく頭を下げた。

 

「すまなかった」

「ごめんなさい」

 

 それが何に対してか、分からない俺たちではない。

 こいつらなりに覚悟を決めての謝罪なのだろう、その姿に木場も何と言っていいか戸惑っている。

 

「君たち……」

「私たちの勝手な判断でそちらをも危険に晒した」

「その挙げ句この有り様、申し開きもできないわ」

 

 

 

 

 

「「―――本当に、申し訳ありませんでした」」

 

 

 

 

 

 頭を下げた姿勢のまま、自分たちの行動が如何に愚かだったかについて語るゼノヴィアたち。

 こいつらの立場を考えれば、こうして俺たちに頭を下げることは酷く抵抗があるはずだ。だが今の彼女たちにはそんなことに構うようなところは一切ない。

 真剣に自分達の愚行を反省し、謝っている。

 

「……何とも見事な掌返しだ。とても教会の騎士とは思えない態度だな」

 

 しかしそれでもこいつらも評価が変わるわけではない。

  

「旗本、そんな言い方」

「黙ってろ」

「……わかった」

 

 木場よ、お前も随分と優しくなったもんだな。

 でもよ、こればっかりは口出し無しだ。

 

「あの独断専行。お前ら知っていたな、フリードのこと」

「……その通りだ」

 

 指摘に対し、是と答える。

 

「やっぱりな」

「それについても謝罪する。すまなかった」

 

 だがしかし、その潔さがどうにも気に入らない。

 

「別にそのことをとやかく言うともりはねぇ。だがな、お前たちがここまで変わる理由が分からねぇ。

 口を開けば神だの使命だの、他と変わらん下らねぇ連中だった」

 

 だがどうだ、今のこいつらには宿敵である悪魔の前で頭を下げるほどの覚悟がある。

 それを疑問に思う俺に対し、僅かに体を上向かせた騎士の顔に影が指す。

 そして椅子に座る俺と面と向かうように背筋を正すと実に申し訳なさそうにして話し出した。

 

「……私たちの心変わりに、疑心を抱くのは当然だろう。それにはそれ相応の理由がある。

 お前の語っていた話、それ我々も聞いていたのだ」 

 

 どうやらこいつら、俺たちが思っていたよりも早く目が覚めていたらしい。

 見知らぬ部屋のベッドの上で目覚めたゼノヴィアたち。戸惑う彼女たちは下の階から俺の声が聞こえてきたため、ひとまず一階に下りてみることにしたそうだ。

 そこで自分の過去について語る俺の話を聞いたというわけだ。

 

「盗み聞きをするつもりはなかったが、結果的にそうなってしまったことをまず謝罪したい。すまなかった」

「ごめんなさい」

 

 そして再び謝罪の意思を示す彼女たち。

 

「お前の過去に、何かを言う資格は私たちにはない。何を言おうと意味のないことだからだ。

 そしてお前の言う通り、我々はあまりに未熟だった。偏屈で凝り固まった考えで動き、周りに迷惑を振り撒いている。

 だがな、私たちも騎士の端くれ。言われっぱなしではいられないのだ」

「お願いよ、挽回の機会を頂戴。自分達の失態くらい、自分達でどうにかしてみせるわ。足手まといのままで終わるなんて、そんなカッコ悪いこと誇りが許さないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「旗本……」

 

 疑問に対する答えは、一応―――理解できた。

 理解に足る意思を、彼女たちは今、俺の目の前で示してみせたのだ。

 そしてそれに追い打ちを掛けるように、懐の端末が震えを放つ。

 

 

 

「―――……俺だ」

 

 着信は二つ。知らぬ間に来ていたメールは後にして、呼び立てる相手との通話に出る。

 

『―――、……、―――……』

「そうか―――分かった」

 

 短い内容の連絡だったが、それで十分。

 通話が切れた後メールも確認し、うだうだしてられないことを理解する。

 

「そういや、もう夜か」

 

 話に時間を割きすぎて、気付いたら窓の外は日が落ちていた。

 奴らにとって都合のいい、行動するにぴったりな時間帯だ。

 

「旗本、今のは」

「会長さんだ。野郎共が動いたってよ」

「何!?」

 

 全く大胆なことしてくれる。

 少ない手下の負傷してるってのに元気なこった。これじゃあそんなこと関係ないって言ってるようなものだ。これでますますお誂え向きな状況になってきやがった。

 

「コカビエルたちが動いた。野郎共は今、駒王学園に陣取ってやがる」

「そんな! 何でそんなところに!!」

「……さあね、でもそんだけ分かりゃ十分だ」

 

 どうせ下らない目的のためだ、俺らのやることに変わりはない。

 

「テメェら、そういうことだ。

 奴らがこうして動いた以上もう時間はない。会長さんたちは奴らを閉じ込める結界の維持で手一杯だと」

「旗本、すぐに行こう。僕らの学園を奴らの好きにさせてはおけない」

「ああ分かってる」

 

 

 

 ―――だがその前に、この二つの視線に答えなければならんだろう。

 

 

 

 

「……言っとくが俺はお前らを信用してねぇ。あんなもんで見る目が変わると思われるのも心外だ」

 

 下した評価に変わりはない。

 力不足、足手まとい、いくらでも言葉は用意できる。

 

「しかしだ、しかし。何とも都合の悪いことに敵さんの隠された戦力がお目見えとなる可能性が高く、こちらの増援は今しがたの連絡で遅れることが判明した。

 然るに、戦えるのは今ここにいる俺たちのみだ」

 

 だが、こちらを見つめる二人の瞳に浮かぶ覚悟、決意。

 

「戦えると言ったな」

「ああ」

「勿論よ」

 

 

 

 

 

 ここで退かせるには、少し惜しい。

 

 

 

 

 

「だったら見せてみろ、それを実戦で証明してみせろ。

 力不足でないと。

 足手まといではないと。

 

 敵は堕天使、コカビエル!!

 俺と師匠で奴を討つ!!

 その間、誰一人として介入させるな!! 何一つとして敵の自由にさせるな!!

 聖騎士の底力、ここが見せ場と心得ろ!!!

 

 

 

 

 

 ―――行くぞ、決戦だ」

 




読了ありがとうございました。

平成最後の投稿ができてよかった……。
新元号になってもよろしくお願いいたします。


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