ブラック・ジャックをよろしく (ぱちぱち)
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本編
ブラック・ジャック


一発ネタ予定でした。ちょっと手直し。(2.11)

誤字修正。名無しの通りすがり様、椦紋様、化蛇様kuzuchi様、たまごん様、仔犬様ありがとうございました!




世界は物語に満ちている。

例えば本の中に、例えばテレビの中で、例えばインターネット上に、例えば人の話の中でもいい。

舞台は現実世界に近いものから近未来、過去であったり完全な異世界もあるだろう。

ちょっと想像するだけでも、頭の中に幾つも名前が出てくるはずだ。

 

そんな世界が一つに纏まったらどうなるだろうか。

 

ああ、言いたい事は分かる。そんなに世界が纏まるか、とかそもそも住む所が足りないだろうとか、普通に考えて問題は沢山出てくるだろうな。

この問題に対してこの事態を引き起こした奴の解答は、最高にクールだった。

グルメ界って知ってるかい?

 

ドンドン、ドンドン

 

詰らない考えで時間を潰している時は詰らない用事が入ってくるもんだ。玄関を叩く音に俺は顔の上に乗せていた雑誌を退けて起き上がる。

 

事務所兼住宅兼作業場にしているこの山荘に人が来ることなんて稀だ。たまに噂を聞いた馬鹿な物好き(おきゃくさま)が来る程度。中には居ついちまう奴もいる為、この山荘の近隣は奥深い山の割りにぽつりぽつりと家がある小さな村のような状態になっている。

どいつもこいつも世間の慌しさに疲れ果ててセミリタイアしている世捨て人共だ。

 

「おい、レオリオ」

 

弟子志望だと名乗る小間使いの名を呼ぶが、返事が無い。そういえば麓の方まで買出しに行くとか言っていたな。明日まで戻る事はないだろう。

玄関のノック音は止む事がない。仕方なくソファから立ち上がって、俺は玄関に向かった。

 

 

 

時空統合事変から3年の時が経過した。

数多の世界、それこそ次元の違うような存在が犇く世界から現代日本と変わりない、しかし若干の違いを感じるような世界、海ばかりの世界、そもそも人の居ない世界。

いきなり発光現象のような物に包まれ、訳も分からず隣にいきなり現れた彼ら彼女らは、まず最初に最も原始的な対処を隣人達に行った。暴力による事態解決である。

 

勿論、互いに被害者同士で殴り合っても事態は元に戻らない。ある程度時間が経つと互いの状況が飲み込めてきて、自分達がやらかした事を理解できた連中は良い。

だが、飲み込めた後にこれはチャンスだと更に勢い良く闘い始めた連中も居た。人々は纏まることなく争いで無為な時間を過ごし、ついに破局を迎える。

 

大量の宇宙怪獣の進撃とBETAの来襲だ。

この宇宙から(世界によっては宇宙という概念すらなかったが)の侵略によって結構な数の世界や国が滅んで、そこでようやく人類や知的生命体は気がついた。

自分達は決して安全な揺り篭の中に居る訳ではないということに。

 

「・・・ここに居るんやね」

 

人間同士で争っている場合ではないと気づいた人類及び知的生命体の集団は互いに条約を結び無駄な争いを取りやめ、知性もつ存在にとっての害悪達に対して協力して当たる事を決定。

瞬く間に戦況を覆し、外敵の排除に成功。統合暦3年を迎えた今。この広大な世界は小康状態のような情勢を迎えていた。

 

「うん・・・・・教えてもらった座標はここで間違いない」

「こんな小さな村に・・・・・・」

 

さて、この人類及び知的生命体の集団、通称防衛機構は数多の政府や国家が所属しており、彼らの組織を一つに再編し戦力化することで強大な外敵に対抗しているのだが。

この政府の中でもとりわけ規模の大きな組織の一つに、時空管理局という数多の次元を管理していたという組織が存在する。

 

「・・・この家だ」

 

 

 

ドアノッカーを数回叩く。返事は無いが、内部には誰かが居る反応はある。時間帯は昼を少し過ぎた辺り。昼寝でもしていたのか、動きは鈍い。

もう一度ドアノッカーを叩くと、サーチャー越しにノロノロとした動きを感じる。どうやら本当に寝ていたようだ。

 

「良いご身分やなぁ・・・私らは激務の合間を縫って来とるのに・・・羨ましい」

「はやて。最近寝れてるの・・・?」

「タンクベッド睡眠を使ってようやく捻出した時間やで・・・・・・」

 

フェイトの言葉に八神はやてはため息をついた。

疲れは取れるけどなぁ・・・と思いながら、はやては自身の後ろに立つ少女を見る。彼女の親友、高町なのははずっと無言ではやて達の後ろに付いて来た。

 

その手には魔力封じの腕輪が付けられており、更にいつも彼女が身につけているレイジングハートは今はやてが預かっている状態だ。その顔には生気が無く、ただじっと暗い眼をして俯いている。

 

こんな顔の親友を見たくなかった。

自分の今までの馬鹿さ加減を振り返り、はやては歯噛みする思いだった。はやてが過去を振り返ろうとしたとき、山荘のドアが開かれた。

 

「・・・・・・どちら様かな?」

 

イメージよりも大分若い声がはやて達の耳に届く。頭髪の半分が白髪で、もう半分は黒々とした黒髪が覆っている。

そして、顔の一部分は手術跡を刻まれており、褐色の肌をしている。間違いない。

 

「ブラック・ジャック先生・・・本当にここにいた」

 

この世界が統合した際、初めてドラえもんを見た時の感動が蘇ってくる。

自分達が知っている声よりは何故か高い声だったが、アニメで見るときと現実で見るときは違いがあって当然だ。世界の中には自分達がアニメになっていた場所も有ったらしいし、そちらは似通った声だったので少し驚いたが。

ブラックジャック、と言われて男性は少し苦々しそうな顔になった。厄介ごとだと思われたのだろう。事実、その通りだった。

 

「先生、お願いがあります。報酬はなんぼでも払います」

「・・・・・・人違いだ。私はブラック・ジャックなどという人間では」

「先生が統合軍に追われていたのは知っています。名前を隠して隠棲している事も。でも、お願いします。私達の、私の親友を助けてください・・・!」

 

防衛機構が発足される前。

地球系の組織を束ねた統合軍という組織があり、彼らはその名声からブラックジャックを追っていた。彼の医療技術はこの統合世界であっても決して色あせておらず、統合当初から各地を回って現地の医療技術を習得。

その地でも類稀な功績を挙げて惜しまれながらも世界を回り続け、当時は最も有名な地球系の人物として名前の挙がる人物だった。

 

だが、有名であったり実力があるという事は決して良い要素があるわけではない。

ついには魔法技術による医療まで習得したブラック・ジャックを、その名声と技術に目がくらんだ統合軍と名乗っていた武装組織が拉致しようとし、結果統合軍と幾つかの世界が戦争を開始。

 

 彼の存在は、BETAの侵攻まで続く人類間の争いの一つの原因になってしまったのだ。

 

 そして、そこから2年。防衛機構は隠棲している彼に対する、言わば御用伺いという形でエージェントを派遣する事を決定し、今私達はここに居る。

 

 といっても、仕事なんて二の次だ。

 

 自身に縋り付くはやてを見る彼の目は、幾分困惑気味だ。彼と面識のある人物や、彼の事が記されている書籍・・・漫画と言う物を読ませてもらったが、それらで知れる彼の人となりは決して悪性の人物ではない。

 

 そんな彼が、年端も行かない少女に縋り付くように懇願されれば困惑もするだろう。

 

「一先ず、中に入りなさい。春とは言え山の風は冷たい。ああ、君らのバリアジャケットはそういった物は関係ないのだったか。1人だけバリアジャケットを着ていないようだが」

「・・・・・・お言葉に甘えさせていただきます」

「・・・・・・」

 

フェイトに促されるようになのはも後に従う。その様子をじっと見ているブラック・ジャック先生は、「さ。君も立ちなさい」とはやてに声をかけて室内へと促した。

はやてはぺこり、と頭を下げて、玄関のドアを潜る。

中はまさに山荘といった様相をしており、原作の彼が住んでいたボロ屋をイメージしていた私達の予想を良い方向に裏切っていた。室内も清潔で、掃除が行き届いた様子だ。

 

彼はまず、来客用だろう座り心地の良さそうなソファに3人を誘導し、テーブルの上に3人分のティーカップを置いた。

手伝おうとしたフェイトを手で制止し、魔法瓶のような形をしたポットをもってそれぞれのカップにお茶らしき飲み物を入れる。

 

「以前、とあるエルフ族の下で魔法を習っていた時に仕事の対価として貰った物でね。無限にお茶が湧き出るポットらしい」

「そんな物があるんですね。いただきます」

「ああ。味は保証しよう」

 

カップに一口つけて驚く。一口目はお茶だと言うのにすっきりとした甘みを感じ、二口目にはさっぱりとした喉越しを感じる。

一口ごとに味が変わるという不思議な体験に、同じく口をつけていたフェイトも驚いたのか目を白黒させながらカップを傾けていた。

 

「・・・君も飲むと良い。体を温めるのにはうってつけのお茶だ」

「・・・・・・頂きます」

 

それまでじっとブラック・ジャック先生を見ていたなのはちゃんの視線を受けて、彼はそう言った。

なのはちゃんはその言葉に従い、少し間をおいてカップに口をつける。

 

小さく「おいしい・・・」とだけ呟いて、無言のまま彼女は少しずつカップを傾けている。

 

彼ははやてを見るとおかわりは良いか?と尋ねてきた。気づいたら自身のカップの中身が無くなっていたのに気づき、はやては少し恥ずかしい思いをした。

結局、本題に入るまでの10数分の間。私達は言葉少なにお茶を楽しむ事になった。

気分は決して持ち上がっていないが、長旅の疲れが楽になった気がする。もしかしたらここまで視野に入れてお茶を入れてくれたのだろうか。期待と不安がより大きくなるのをはやては感じた。

 

 

 

「余命は2年という所か。良くぞここまで壊したものだ」

 

ブラック・ジャック先生になのはの診察を頼み、数十分。

診察室に通されたはやてとフェイトを待っていたのは、蒼白になったなのはと、無慈悲な宣告を告げるブラック・ジャックの言葉だった。

崩れ落ちそうになるフェイトをはやてが支える。

兆候はあったのだ。自身だって、フェイトだって気づいていた。なのはが無理をしているのは知っていた。

 

1年前の大戦終了間際。大きな戦いがあった。その時、彼女はBETAの大群に孤軍奮闘し、味方の救援が駆けつけるまで戦線を維持し続けていた。

撃墜判定を何度も受けるような大怪我を治療魔法で何度も癒し、彼女は闘い続け、戦線は維持され全体の戦局は防衛機構側に有利な形に持っていき。

 

最終決戦に繋げる事が出来たのには間違いなく彼女の存在が大きな要因だった。

管理局出身のエースオブエースの活躍は当時、大きな扱いになった。特に防衛機構は管理局のノウハウを元に形作られた部分も多い為、彼女は英雄として賞賛される事になった。

 

その英雄は、無理のしすぎが祟り重度の魔法障害を発生。魔法を使用するだけで全身に激痛が走り、しかも寿命をドンドン削っていく状態になった。

防衛機構側は彼女が無理をしなくても良いようにという名目で閑職の名誉職に彼女を押し込め、彼女を客寄せパンダとして式典などで使い倒す始末。

そしてつい先日。発作を起こし倒れた彼女を待っていたのは、栄誉ある引退という事実上の解雇通達であった。

 

「英雄が勤務中に病死なんて、そら堪らんやろうなぁ。でもなぁ、皆の為に体を張って、頑張って頑張って、頑張りすぎて。その後に待っている結末がこれって、あんまりや。あんまりやないか!」

 

慟哭するはやてに、フェイトはただ静かに涙を流してなのはを抱きしめる。

顔面蒼白状態のなのはは、ただぼうっとした表情で自身の体の内部を写したというレントゲンのような物を見る。

その写真には、心臓に近い部分にある何かを中心に、ボロボロになった自身の臓器や血管の画像だった。

 

「お前さん方のようなタイプはこのリンカーコアだったか。ここを中心に魔力を取り込み蓄積し、外部に放出するんだったな。これはこの器官が破壊されたせいで魔力を外部から取り込んだ瞬間に漏れた魔力の余波が周囲の臓器を傷つけているんだな。激痛どころか2、3日動けなくなってもおかしくない。場合によってはショック死しかねないはずだがな」

 

その魔力封じの腕輪が無ければここに来るまでに死んでいてもおかしくなかった。そう彼は言った。そして、よく治療されている、とも。

今この場に居ないはやての騎士、ヴォルケンリッターははやて達が抜けた穴を必死で埋めてくれているはずだ。

 

その内の1人、なのは達の主治医を勤めている湖の騎士の、無力さを悔やむ顔が思い出される。彼女が居なければ、なのははここまで命を繋ぐ事すら出来なかった。彼女の努力は、決して無駄ではなかったのだ。そして、彼女達の前には、間違いなく現在の世界でも最高峰に位置する医者が居る。

 

「先生・・・お願いします。どんな、どんな対価でも払います。なのはちゃんを、助けてください」

「駄目だ」

 

懇願するはやてに対してブラック・ジャックはバッサリと切り捨てた。

絶句するはやてとフェイトを尻目に、ブラックジャックはなのはを見る。

未だに顔を青くしたまま、友人にされるがまま流されている少女の目を、彼は見た。

 

「この世界で私の欲しいものなんて無い。金も名誉も、女も永遠の命だって私は興味が無い。だからお前さんを助ける理由が今、私には無い。わかるな?」

 

問いかけるように尋ねるブラック・ジャックの言葉に、無言のままなのははブラックジャックを見る。

 

「先ほどから見ていれば何を絶望しているのか知らんが、お前さんの態度は目に余る。親友の影に隠れて震えているのも良いが、結局お前さんは何をしたいんだ?どうなりたいんだ?」

 

恐らく、前の世界では高校生位の年齢の彼女に問いかけるには重い言葉かもしれない。

だが、ブラックジャックは聞いていないのだ。

彼を動かす為の彼女の言葉を。

 

「わ・・・・たしは・・・・・・」

「私はなんだ?」

 

急かす様に問いかけるブラック・ジャックにフェイトが声を上げそうになるが、はやてが押し止めた。

これは邪魔してはいけない。これは、試練であり儀式なのだ。

なのはが生まれ変わる為の。生き直す為の。

 

「わたし、は・・・・・・」

「大きな声で言ってみろ!」

「私は、生きたい!まだ、死にたくない!」

 

堰が切れたように彼女は叫んだ。

 

「まだ、生きていたい!お父さんやお母さんに甘えたい!お兄ちゃんやお姉ちゃんと話したい!フェイトちゃんやはやてちゃんともっと一緒に居たい!すずかちゃんやアリサちゃんと笑いあいたい!素敵な人と出会って、恋をして、結婚をして、子供を生んで、幸せに生きたい!まだ・・・・・・死にたくない!」

「そうか。なら、聞かなければいけないな」

 

なのはの叫びを聞いたブラック・ジャックは、彼女の涙に濡れた目を真っ直ぐ見つめた。

 

「私の報酬は高額だ。一生かかっても払いきれない人物も居る。貴女に払いきれますかい?」

「・・・払います。一生かかっても、必ずお支払いします!だから・・・・・・助けて!」

 

 

「その言葉が聞きたかった」

 

 

 

 

結論から言えば、彼女は助かった。

魔術を用いた壊れたリンカーコアの摘出手術を行い、これを除去。

彼女は魔法を使えなくなったが、これ以上内臓や体を傷つける事はなくなった。

 

といってもここからが本題で、傷ついた状態が常態化した内臓のリハビリと治療を行わなければならない。魔法による病状でもっとも面倒なのは、治療魔法という便利な存在による安易な回復の結果、体が変質してしまう事だろう。まぁ、病状を悪化させる物を取り除いてよかっただけ今回はマシだ。気長に治して行けば良い。

 

「レオリオ、なのは君はどこに居る?」

「ああ、何でも七実さんに稽古をつけてもらうんだと」

「止めろ馬鹿。あの子は病人だぞ」

「いや、そう言われても止まらないものは止まらないですよ先生。ああいう奴他にも知ってますがね。あの手の奴はぶっ飛ばさないと」

 

そのぶっ飛ばして止める役割をお前に担って欲しいんだが。

いや、そうか。こいつああいう可愛い子には極端に弱いんだったな。人選ミスだったか。今度はトキ先生に頼もう。

 

「しょうがないか。診察があると言ってつれて来い。七実君も合わせて検査を受けろと言っておけ」

「了解です。ブラック・ジャック先生が呼んでるとあればすぐに来てくれるでしょうね」

「七実君も気難しい子だからな」

 

後、俺はブラック・ジャックじゃないんだが。

何度言っても信じてもらえない言葉を飲み込んで、間黒夫(あいだくろお)は空を見る。

こんな奴が1人居ても良いよね、等と言って彼をこの世界に送り込んだ超存在に向かって呪詛を送ってみるも返事は来ない。

ため息をついて、ならば他の神やら何やら何でも良い。

 

次の統合があるというなら、ブラック・ジャックをよろしく。

 

 




間黒夫(あいだくろお):ブラック・ジャックにそっくりな外見でこの世界に落とされた転生者。医療に関してのみ適用される能力『最適解』を有しており、どんな病気も怪我も命が繋がる状況なら直す為の道筋を見つける事ができる。その為に必要な技術や魔法の習得の『最適解』も分かる為、当初は調子に乗っていたが統合軍を名乗る組織に狙われた際に全部嫌になって逃亡。彼に命を救われた人物や彼の技術を尊敬し手助けする人々に匿われながらとある山に隠棲している。外科手術の腕前は本当にブラック・ジャック級のため、違うといっても信じられない。

レオリオ:黒夫の医療技術に魅せられて弟子入りを志願。ピノ子枠だけど可愛くない。キメラアント編終了時点位で世界が統合されてしまい、右往左往しているときに黒夫の手術を垣間見る機会がありシンパ化。

高町なのは:リハビリとして村に住み着く。最終的には外部で修復したリンカーコアを入れて魔法を使えるようになる、と言われているが、防衛機構に戻るつもりは無い。黒夫の「その言葉が聞きたかった」と言った時の微笑みにキュンとなった模様。

フェイト・T・ハラオウン:防衛機構の法務執行官。親友が無事助かったのはいいが、戻ってこなさそうだなぁと寂しいやら応援したいやら複雑な気分。

八神はやて:三人で一番忙しいはずの自分に何故春が訪れないのか。おかしい、こんなことは許されない。

トキ先生:名前だけ登場。北斗の拳出身。医者として黒夫の技術に魅了されたが、同時に危うい所も感じており何かと彼を助けている。

鑢七実:お前のような病人がいるか枠。生来の病を複数患っている為長生きは出来ないと諦めていた所に唐突に生存の道筋を出された。今は弟と一緒に村で療養をしている。毎晩黒夫の寝所に忍び込もうとしてトキ先生とやりあっている。


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レオリオ

続けてしまった(呆然)
文章をちょっと手直し(2.13) チートの名前を『最適解』に統一しました

誤字修正。ヒーロー大好き人間様、亜蘭作務村様、五武蓮様、名無しの通りすがり様、化蛇様、乱読する鳩様ありがとうございました!

あとすみません、ここの主人公は私的な場面だと『俺』という一人称が多くなるので、折角の修正ですが手を加えさせていただきました。

それとレオリオの系統と前後の文章を修正しました!
ご指摘頂いた卵掛けられたご飯様、赤頭巾様ありがとうございました!



「お前は医者を目指してるんだろう。何故自身の手で友人を助けようとしない?」

 

 これは夢だ。

 

「力が無いから。知識が足りないから。どれも間違ってないだろうが。自分では治せない。何も出来ないと諦めたな?何故だ」

 

 夢の場面の俺は先生の足に縋り付いて無様に助けを乞うていた。

 場所はよく覚えている。スワルダニシティーの病院だ。初めて先生に会った時、彼はジン=フリークスに連れられてゴンの病室を訪れていた。

 

 弟子になった後、何故あそこに居たのかを尋ねた事がある。返ってきた答えは、本当にたまたま、だったそうだ。

 当時何をどう間違えたのか新しい世界の調査中だったジンと出会い、こちらの技術・・・念に興味を持ち同行していたらしい。

 

 定期報告の為に戻ってきたジンの元に息子の惨状が知らされ、ジンはその報告を聞くと先生に「治せるか?」とだけ尋ね、先生は「診なければ何とも言えん」と答えたらしい。

 先生達はハンター協会の用意した飛行船に乗ってスワルダニシティーに向かい、そこで俺達は出会った。ほんの数年前の話だというのに、随分と久しぶりのように語っていたのを思い出す。それだけ、落ち着かない日々だったという事だろう。

 

 場面が切り替わった。これは、統合軍から逃げている時だ。統合軍の基地から脱出する際、手助けをしてくれたオルガという青年が統合軍の兵士に撃たれ、血だらけになって倒れた。

 

 どう見たって致命傷だ。助かるわけが無い。兵士達は銃を構えながら俺達の方へ向かっている。先生を逃がさなければ。それなのに先生は血だらけになったオルガを治療しようとしている。

 もう助からない、早く逃げなければ。俺の叫びに対して先生は拳で答えた。

 

「また諦めたな、レオリオ」

 

 先生はそう言って、俺から視線を外した。オルガの血で体を赤く染めながら、先生は俺に語りかけるように話し続ける。

 

「諦めるのはな、レオリオ。患者の権利なんだ。俺達医者の仕事じゃない」

「俺達の仕事は患者を治す事だ。たとえ治せなかったとしても。望みが無いようなものでも」

「医者が諦めちまえば、患者は一人ぼっちになる」

「だからな。レオリオ。諦めは、人間を殺すんだ」

 

 俺に目線を向けず、先生はそう言いながらオルガの治療を続けた。

 銃弾の嵐の中で、うわ言のように止まるんじゃねぇ・・・と繰り返すオルガに、大丈夫だ。必ず助けると何度も声をかけながら。

 

 この後、俺達が捕まる前に巨大な鉄人形に乗ったオルガの仲間達に助け出され、輸血が間に合ったオルガは命を永らえる事ができた。

 目の前の命を諦めようとしなかった先生の意思が、彼を救ったのだ。

 諦めが人を殺す。医者は諦める事を許されない。レオリオはその時、心にその言葉を刻み込んだ。

 

 そして、頭に強い衝撃を受けてレオリオの意識は現実へと引き戻される。

 

 

 

「良いご身分じゃないか小間使い」

「いってぇ・・・」

 

 頭を抑えて起き上がる。周囲を見渡すと豪華な装飾を象った客間のような場所にレオリオは居た。

 ヒリヒリとする頭を抑える。若干コブが出来ているようだ。レオリオの頭を拳で叩いたのか、先生が手をヒラヒラとさせながら顔を顰めている。

 頭がはっきりとしてくる。そうだ、思い出してきた。

どうしても手に入らなかった医療器具を仕入れる為に、自分は先生と一緒にこの都市にやってきたのだ。

 

「やれやれ、石頭め」

「す、すみません先生!つい、ウトウトと・・・・・・」

「・・・・・・頭を切り替えろ。ここは勝手知ったる山荘(わがや)じゃないんだぞ?」

 

 真剣な先生の言葉に一気に意識が覚醒する。

 そうだ、ここはこのエリアの有力者の屋敷だ。医療器具を求めてこのエリアを訪ねてきた俺達に、器具を提供する見返りにここに住む人物が先生の手術を見たがった。

 先生はそれを快諾し、この都市にある最も大きな病院で、数時間前までレオリオと先生はとある老人の手術を行っていた。

 

 結果は勿論成功。かなり難易度の高い手術だったが、回復の魔法で体力を維持させ、念能力でその外科の技術を一切ブラさずに行使できる先生からすれば大した苦労ではなかったらしい。

 秘蔵のメスを使うまでも無く、その病院の機材だけであっさりと手術は終わった。

 

 その結果を見た医療器具の提供者は大喜びで先生の手腕と手術の成功を称え、上機嫌な彼はその後是非にとの事で先生を屋敷に招き、俺達は先ほどまで豪華な晩餐に舌鼓を打っていた。

 ここ最近、野山の新鮮な食物にすっかり舌が慣れていたと思ったが、やはり手の込んだ料理は素晴らしい。

つい食べ過ぎてしまい、居眠りをしてしまったようだ。時計を見れば晩餐から1時間は経過している。

 

「・・・まあ、良い。屋敷の主人とは話がついた。荷物を受け渡すから運び屋を呼んでくれ」

「わかりました。すぐに!」

「・・・・・・おい、レオリオ。特に気分は悪くないか?」

 

 衛星携帯を取り出し電話をかけようとしたところ、不意に先生がそう言ってきた。体調を心配されているのだろうか。そういえば、先ほども疲れが出てしまったようだ。

 

「いえ・・・ただ、少し疲れが出ているかもしれません。気づいたら意識が落ちてまして・・・・・・」

「ん。まぁ、他のエリアまで出てくるのは稀だからな。カセイにさっさと帰ろう」

 

 納得したように頷いて、先生は部屋に備え付けられたコートハンガーに足を向け、彼のトレードマークである黒いコートを手に取る。

 先生のコートは中に何十本ものメスや医療器具を内蔵している代物で、防弾・防刃に加えて魔法への耐性まで付いているらしい。

 オリハルコン繊維という特殊な糸で作られており、実際に持つと驚くほどの軽さだった。コートの中を少し探るように眺めて、先生はコートを羽織る。

 

「すまんな」

「・・・はい?」

「いや・・・なんでもない。少し気に食わない事があっただけだ」

 

 唐突な先生の言葉にレオリオは視線を彼に向けた。しかし、そのタイミングでコンコン、と客間のドアがノックされる。

 

「ブラック・ジャック先生、レオリオ先生。ホテルまでお送りする準備が整いました」

「ああ、ありがとう。行くぞ、レオリオ」

「あ、はい」

 

 紫色のスーツを着た大男がドアを開けて用件を伝えてくる。かなり鍛えられた人物だ。恐らく屋敷の使用人兼護衛と言った所だろう。

 彼の先導に従って歩く。屋敷の使用人たちと時たますれ違うが、皆非常に整った顔立ちをしている。仕事ぶりも堂に入ったものだが、容姿も恐らく選抜基準になっているのだろう。

 

 屋敷の主人は少し不気味な形相の人物だったが・・・・・・帰り際に少し目の保養が出来た。失敗をして落ち込んでいた気分が少し上向きになる。

 失敗、そうだ。運び屋に連絡を入れなくてはいけない。レオリオは先導する大男に許可を貰い、携帯していた衛星電話をかけた。

 

『あいよ。こちら運搬・護衛何でもござれ。鉄華団のオルガ・イツカだ。ご用件は何だい、レオリオ先生』

「先生は止してくれ、こっ恥ずかしい。機材の運搬を頼む」

『了解だ。ブラック・ジャック先生と一緒にいる屋敷につければ良いかい?』

「ああ、ええと。少し待ってくれ。ミスター?」

「フリンチだ」

「ああ、申し訳ない。受け渡しの業者を手配しているんですが、何時頃なら大丈夫ですかね?」

 

 先導する大男、フリンチと名乗った男はレオリオの問いに少し考えるそぶりを見せる。

 

「流石に今夜は遅いな。明日の朝方からなら大丈夫だ」

「わかりました。オルガ、明日の朝だ。こっちに車を付けて、それ以降はフリンチさんの指示に従ってくれ」

『フリチ・・・すげぇ名前だな、了解』

「フリンチだ。積み込みが終わったら俺達の用事は終わる。そっちの首尾はどうだ?」

 

 今回、レオリオ達は旅路の足として鉄華団のシャトルを使わせて貰っている。エリア間の行き来は何かしらの航空機、出来れば宇宙規模の移動が出来る艦艇クラスの船が無ければ難しいからだ。

 一応地続きになるため徒歩でも移動は可能だろうが、カセイエリアとこの都市のあるモクセイエリアは数十万キロは離れている。並の飛行機ならあっという間に燃料切れを起こしてしまうだろう。

 

『ああ、買付けは終わってる。流石はモクセイエリア、デケェだけはあった。民生品だけでもとんでもない利益になるぜ!』

「阿漕な真似はするなよ?今回のは特例だ。先生の顔に泥を塗ったら・・・」

『レオリオよぉ』

 

 レオリオの言葉を遮る形でオルガが声を挟んだ。

 

『カセイの人間がBJ先生に恥かかせるって、その意味がわかってて言ってんだよな?』

「・・・すまん」

 

 先程までの陽気な声は鳴りを潜め、殺意すら滲ませるオルガの言葉にレオリオは素直に謝罪の言葉を口にした。

 

『・・・こちらこそ悪い。ついカッとなっちまった。お前の立場ならそう言わなきゃならねぇからな』

「ああ、そう言ってもらえると助かる」

『何、その分次の診察で返してくれれば良いさ』

「バッカ、手加減して困るのはお前だぞ?」

 

 そのままオルガと軽口をニ、三言交わして電話を切る。思えばオルガとの付き合いも長くなったものだ。二年前、初めて会った時は変な髪型の小僧だとしか思わなかったが、話してみれば存外気が合った。

 

 先生に付いていると荒事に巻き込まれる事も多くなる。護衛としても運搬役としても優秀な上に、気心も知れている鉄華団は大事な仕事のパートナーと言えるだろう。

 

「ブラック・ジャック先生、レオリオ先生。本日はありがとうございました。いずれまた」

 

 車に乗り込む際に、フリンチが恭しく頭を下げる。先生はその言葉に一つ頷くと車の中に入っていった。俺も一礼して車に乗り込む。フリンチは姿が見えなくなるまで頭を下げていた。

 

 

 レオリオ達の住むカセイエリアは人類圏にある太陽系の名前を模したエリア郡の、一番外れの方に位置している。鉱物資源は豊富だが土壌の悪い世界が多い。

 その立地故にBETAの侵攻の際にはBETA側の主目標になり、人類側の最前線となり、そして決戦の地となった。その際主戦場になった東側はかなりのダメージを受けてしまい、BETAを勢力圏から叩き出して1年が経った現在ですら、カセイエリアは被害から立ち直っていない。

 

 それでもカセイエリアが何とか回せているのは、西側の生産力をフルに回して何とか体制を整えようとしている防衛機構の官僚達の努力と、防波堤になるカセイエリアが立ち行かなくなれば次は我が身となる他エリアからの支援による物だ。

 ナノマシンによるテラフォーミングも行っているが、その成果が出るのはまだまだ先になるだろう。

 

「先生、今回融通していただいた機械はどういったものなんですか?」

 

 ホテルまでの帰り道。静かな空気に耐えかねたレオリオは先生にそう尋ねた。

 

「・・・ああ。クローニング用の培養槽とコンピューターだよ」

「クロー!っいてぇ」

「狭いんだ。騒ぐな」

 

 つい声を大きくしてしまったレオリオの脇を先生が肘で抉る。綺麗に入ってしまった為痛みにわき腹を押さえるレオリオに先生はため息をついた。

 

医療特化の特質系(オレ)の肘打ちで護衛役(お前さん)がそう簡単にやられてどうする。たく、まだ呆けてるのか?」

「す、すんません・・・けほっ」

「仕方の無い奴だ・・・・・・自然治癒に任せるよりは取り替えた方が早い。そういった臓器は意外と多いんだ。機械での代用にも限界がある。クローニングして作られた臓器なら拒否反応も無いからな・・・俺が噂通りの奇跡の担い手なら必要ないんだが」

 

 自嘲するようにくすくすと先生は笑った。

 この世界には実際にそういった奇跡を扱う人物は数多く存在する。そういった存在から見れば自分はなんと矮小な存在なのか。先生はいつもそう言って悲しそうに笑っている。

 

 だが、レオリオは知っている。そんな奇跡の担い手でも治せないような、もはや呪いと言える様な物に、彼がメスと己の体だけで抗い、最後には救って見せた事を。

そこに患者が居るというだけで、彼が死を振りまくBETAの海に1人潜って行った事を。

 

 全身を蝕む病を、心まで歪ませる病を全て取り除いて見せた事を。銃弾の雨の中、自身も体に弾を受けながら、最後まで医療を続けた姿を!

 レオリオ()は、ずっと見続けていたのだ。憧れたのだ。こんな医者になりたいと、心の底からそう思ったのだ。

 

『俺の報酬は高額だ。お前の人生をかけたって払いきれないかもしれない。それでも良いのか?』

『払います!一生かかったって、絶対にお支払いします!だから、ゴンを・・・俺の友達を、助けてください』

 

 夢の中の場面の、続きが頭を過ぎる。

 先生は俺のその言葉を聴いて、少し嬉しそうに、だけど何故か困ったような笑顔を浮かべてこう言った。

 

『その言葉が聞きたかった。手伝え、レオリオ。長丁場になるぞ』

 

 コートを着たままゴンの呪いに向き合った先生の姿を今でも覚えている。そして、俺はあの時、先生の右腕に。握り締めたメスに、確かに神様が微笑む姿を見たのだ。

 先生から言い渡された報酬は確かに高額だった。俺の人生なんか10回以上繰り返したって到達できるとは思えないほどに。

 だが、諦める事は医者の仕事じゃない。

 だから、俺は必ずブラック・ジャック先生以上の医者になる。

 

『私への報酬?そうだな・・・・・・私以上の医者になってくれ。それで十分さ。十分すぎる程だ』

 

 そして、その時に必ずこういうのだ。己の名前のせいで戦争を起こしてしまった事を悔やみ続ける先生に、先生こそが最上の癒し手ですと。貴方こそ最も偉大な名医であると。

 貴方のお陰で俺は、俺たちは救われたんだと。

 

 必ず。

 

 

 

side.M

 

 遠ざかる車を眺めながら、男は静かに考えに耽っていた。

 彼の思考はつい数十分前に遡る。

彼はその時、転移してからこちら感じたことも無い高揚を感じていた。目の前に座る黒髪と白髪のツートンカラーをした髪型の男。近隣のエリアでは知らぬ者も居ない名医ブラック・ジャックとの会話だ。

 

 楽しかった。非常に長い年月を生きた彼にとって数多の人間は馬鹿にしか感じられない。しかしブラック・ジャックは違った。彼の医療技術は、知識は自分ですら知らない未知の物が多分に含まれていた。

 たったの数十分の会話だというのに、まるで数年もの間語り続けているように自身の中の知恵が、知識が刺激を受けているのが分かった。

 だからつい、その言葉を口に出してしまったのだろう。

 

「君に永遠の命を与えてやろうじゃないか」

「断りましょう」

「・・・・・・何だって?」

 

 上機嫌に話す長い白髪をカールにした肌色の悪い男の言葉を、一顧だにせず彼はそう答えた。

 思わず聞き返すも彼からの返事は無い。先ほどまでの上機嫌さは消えてしまい、今は渋い顔で先ほど召使が出した紅茶を啜っている。

 

 いや、肌色の悪さで言えば彼もそう人の事を言えない姿をしている。何せ自身の肌は全て灰色をしているが、件の彼は顔の一部、つぎはぎの部分だけの色が違う。

 彼の方が不健康な色合いだ。何せ自身は特に何かを患っているわけではないのだから。

 

「あー、ミスター」

「ロックウッド。ハワード・ロックウッドだ。君にならハワードと呼ばれても惜しくは無いな」

「そうか。ありがとう、ミスターハワード。私は医者で、貴方は科学者。成る程、求めるモノが違うな。なら意見が違っても仕方が無いでしょう。先ほどまでの貴方の科学に関する講義は非常に為になりました」

「こちらこそ。神の領域と言われる君の手術を見せてもらった礼にはいささか足りないかもしれんが・・・」

「いえいえ。貴方の知識はそれだけの価値がある。良い勉強になりました・・・少し長居をしてしまいましたね。そろそろお暇しましょう」

「少し待ってくれ」

 

 そう言って彼が立ち上がろうとするも、そこにロックウッドと名乗った男は待ったをかける。

 彼にはどうしても聞かなければいけない事があったからだ。

 

「何ゆえ永遠の命を求めないのかね?」

「私にとって価値が無いからですな」

「老いることなく、そのままの体で生きられる事は幸福な事だぞ」

「幸福?誰も彼もが自分を置いていく中1人生き残るのは御免被りますね」

「君の技術が惜しいんだ!」

「何百年も医者を続けるのは御免でさぁ。いや、何を熱くなっているんでしょうね我々は」

 

 途中から自身の物言いに可笑しくなったのか、彼は一頻り笑ってからロックウッドに目を向ける。

 

「永遠の命。永遠の若さ。成る程、素晴らしい物なんでしょうね。世の権力者と呼ばれる方々は皆求めている。・・・・・・ですがね、ミスターハワード。我々医者は一生懸命に生きている誰かを治す為に技術を磨いていくんですよ。少なくとも私はそうだった」

「・・・・・・なるほど」

「私の技術を惜しむという言葉、嬉しいものでした」

「いや、私も詮無い事を聞いてしまった。やはり君は素晴らしい名医だよブラック・ジャック君」

「・・・・・・私はブラック・ジャックではありませんよ、ミスター」

 

 困ったように笑って、ブラック・ジャックは部屋を出て行った。

 その背に声をかけようとして、ロックウッドは考え直す。

 彼は自身が決して狭量な人物だと思っていない。彼のように明確な意思で拘りを持つ技術者が嫌いではないのもあるだろう。

 自身に逆らった人物に対しては残酷な一面を見せる彼だが、気に入った人物には非常に寛容になるのも彼の特徴の一つだった。

 

 数分の間、物思いに耽っていた彼はつと目を開けて部屋の中に振り返る。見えない空間を探る様に指を動かすと、先ほどまでティーカップを置いていたテーブルが変貌し科学的なスクリーンに変わった。

 

「幸いにもDNAデータは手に入った。今回はこれで我慢するとしよう・・・しかし惜しい。惜しすぎる」

 

 悔やむように何度か呟き、ロックウッドは再び空間を探るように指を動かす。テーブルは再び元の姿を取り戻した。

 彼のクローンが彼を再現できるとは思えない。だが、少なくとも何かを残す事はできるはずだ。

 ハワード・ロックウッドは非常に珍しい事に、完全なる善意でもって彼の姿を残そうと行動を開始した。

 

 

 

side.K もしくは蛇足。

 

 ホテルに戻ってきた際、何故か涙ぐんでいるレオリオを気遣って部屋に送ってやり、俺はようやく自身に割り当てられた部屋に戻る事ができた。

 安堵のため息をつく前に部屋の中をクリーニング。盗聴器の類が無いかを確認する。どうやら何も無いようだ。ため息をついて、俺はソファにもたれかかった。しかし予想以上に頭の可笑しい奴だったな、あの爺さん。

 

 俺の医療に対する技術と科学技術の交換会のような話し合いをした後、唐突に「君に永遠の命を与えてあげよう」とか語り始めたときは正直どうしようかと思った。

テロメアの問題も解決できてない状況で永遠の命もクソもあるまいに。途中からは鷲羽さんの爪の垢でも齧って来いと言いそうになるのを必死に我慢する羽目になった。

 

 鷲羽さん、今は何処に居るんだろう。戦争終結の際は玄孫が、とか婿が、と言っていたから家族と一緒に居るんだろうか。あの人こそ最高の科学者だと思うんだが。

クローニングの機材を手に入れるにはここが良い、と『最適解』さんが案内してこなければ彼女と最後に会ったチキューエリアに真っ直ぐ向かったんだがなぁ。

 

 まぁ、手術一回でこれだけ高額な機材をポンと出せる人物なんだ。凄い奴なんだろう。使える物は藁でも使う。田舎暮らしには大事な事だ。

 

 しかしついに高性能なクローニングの機材を手に入れる事が出来た。

 これで今まで経過観察が長くなりすぎると手を出せなかった阿頼耶識の除去やナノマシンの暴走による脊髄、内臓にダメージを受けた人間の治療に入れる。

 

 いや、今まででも出来たんだがな。神経からナノマシンを取り除くのに数ヶ月付きっ切りに成りかねなかったからな。彼らには頼みたい事も色々あったし後回しにしてしまった。

 ナノマシンを取り除く為の手法はすでに研究しているんだが、ダメージを受けていたり変異した神経等はいっそ交換した方が早い。

 

 これらに付随してナノマシンの暴走による身体障害の治療を本格的に研究していく事になるだろう。カセイは悪い意味で実験体に事欠かないしな。

 今回他エリアでの物資調達や密貿易に近い事をやらかす代わりに、防衛機構のホシノ中佐からも念押しされている。

 それにオルガや鉄華団の連中には色々迷惑を押し付けているしな。借りはさっさと返すべきだろう。

 

 借りといえばレオリオの奴、随分と助手としての姿が板についてきた。

 この調子であいつが成長すれば俺もさっさと引退してあいつにブラック・ジャックの名前を引き継いでもらったり・・・・・・は流石に無理か。『最適解』さんというチートが無ければ名前負けとか言われかねんからな。俺だって『最適解』(これ)が無ければとっくに死んでいたんだ。

 疲れて眠ってしまってたみたいだしこき使いすぎてるかな。帰ったら1週間位休暇でもくれてやるか。

 

 それにしても……『最適解』(このチート)、使用したら本当にその時最善の行動を俺に取らせるから死にそうな場面でも平然と治療したり出来るんだが、俺自身はめちゃくちゃ痛いんだ。撃たれながら人の体を治したりとか、死なないと分かっててもめちゃめちゃ怖いし。血がダラッダラ流れてるし本当の意味で血の気が引いたね。

 

 BETAの海を泳いだときやオルガを治療した時は本当に死ぬかと思った。未だにオルガの顔見るとその時のトラウマでちょっと顔が引きつるんだよなぁ。

恐怖を紛らわす為に柄にも無く頑張れ、とか患者に対して語りかけたりしてたらしい。後からレオリオから聞いて恥ずかしさで死にそうになった。

 

 やっぱり俺、ブラック・ジャック向いてないわ……

 頼む神様。次の統合を早く起こしてくれ!そして今度こそ、ブラック・ジャックをよろしく!




この話を書くときは基本、ジェンガを積んでる気分で書いてます。多分クロオも同じ気持ちで周りの反応を見てると思います。



レオリオ:覚悟ガン決まり。本当の名医を見つけ出したと思ってる。

オルガ・イツカ:B・Jに命を救われ、それ以降も世話に成りっぱなしだと思っている。仕事をかなり格安で請けたりして少しずつ返そうとしているが、またドでかい借りが出来てしまう模様。

ハワード・ロックウッド:一体何マモーなんだ。あ、違ーう!


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オルガ

大分難産でした。全然ジェンガが詰めてないのに文字数だけ1万超え・・・・・・
前回より大分クオリティ下がってしまったと思います、申し訳ない。
(前回がクオリティ高かったとは言ってない)

手直し入れる可能性がある為、その時はタイトルに記載いれますのでご了承お願いしますm(_ _)m
→人物紹介に1人抜けがあったので追加。この一文を入れたくて後半書いてたのに・・・

文章をちょっと手直し(2.13) チートの名前を『最適解』に統一しました

誤字修正 とくほ様、焼きサーモン様、WILLCO様、あまにた様、化蛇様、ヒーロー大好き人間様、竜人機様、kuzuchi様、ハクオロ様、赤頭巾様、名無しの通りすがり様、SERIO様、リード@様、たまごん様ありがとうございました!


side.O

 

「よう、お兄さん方。お隣同士仲良くしようや」

 

 独房の空気は暗く冷たい。ここに閉じ込められてから半月が経過していたが、変わらない状況に変わらない要求。いい加減退屈していた所に兵士に連れられてやってきた隣人に、オルガは親しみを込めてそう話しかけた。

 

 黒いコートを着た、白黒の髪をした奇妙な男。そして、赤いジャケットを着てにやにやと笑みを絶やさない男。ここに閉じ込められるという事はあの山賊共にとって都合が悪いか利用したいかのどちらかだろう。つまり広い意味でご同輩という訳だ。

 

「あーららお兄さんやっさしいのね。おじさん達こ〜いうトコ苦手で。色々教えて欲しいな〜なんて」

「よく言うぜ、泥棒め」

「ホ〜ントだって。俺、ほとんど捕まらないからさぁ」

「その手錠、お似合いじゃないか」

「クロちゃん手っ厳しいなぁおい」

 

 赤いジャケットを着た男が戯けた様子でそう言うと、黒いコートを着た男がため息をついた。

 出来の悪いコントを見ている気分になって、オルガは思わず吹き出してしまった。二人の視線がオルガに向いた。

 

「笑われてるぜ、先生」

「お前がな」

 

 それが、俺と彼ら………ブラック・ジャック先生との出会いだった。

 

 

「それで、その後はどうなったんだよ、団長!」

「キャンプファイヤーしたんだろ!」

「ええい、やかましいわお前ら!静かにできねぇのか!」

 

 続きをせがむ年少の団員達を叱り飛ばして、オルガはこの場の責任者たる先生が消えた作業室のドアを見る。

ドアの傍にある簡易的なランプは手術中をあらわす赤いランプが点灯したままだ。

 

 先生と三日月が中に消えてからまだ30分も経っていない。まだ時間はあるだろう。

 だが、この場は大恩ある先生の家。年少の連中はどう止めたって騒ぐだろうし、この場にはお手伝いさんとはいえ場の管理を任されている人物も居る。

 

 オルガの中にも、先生の姿を語りたいという欲求はある。あるが、他者に迷惑をかけてしまう可能性がある以上、弁える分別を彼は持っていた。こちらを見る看護服を着た女性にオルガは頭を下げた。

 

「すみません、ガキ共はすぐ黙らせますんで」

「いえ、気にしてませんから。それより続きが聞きたいんですが」

「なのはさん、看護師代理がそれで良いんですか?」

 

 思わずオルガは真顔になってそう尋ねた。

 

 

「といっても、俺も見ていただけで先生達が何をやっていたのかは想像しかできないんですがね」

 

 一つ前置きをおいてオルガは続きを語りだす。

 牢屋に閉じ込められた彼ら二人は兵士が離れた瞬間に談笑しながら鍵を開けて外に出た。

 余りの速さに一緒に談笑していたオルガすら何が起こったのか理解できなかったほどだ。彼らはそのままオルガの牢屋の鍵も開け、ちょいちょいと口元に指を当てて手招きをしてきた。

 

「凄かったなぁ。スパイ映画って見た事あるか?実際にすっげぇ腕の良い奴はな、牢屋なんてあってないような物なんだぜ」

 

 赤いジャケットを着た男はどこに持っていたのか小さな針金のような物を手に持ち、自身や先生、そしてオルガの手錠をさっさと外し、それらを先生に手渡した。

 そしてキョロキョロと辺りを見回したかと思ったら飛び上がって換気扇らしき場所に飛びつき針金を使って換気扇の解体を始める。先生はその様子を見て、手錠を持ったまま兵士達が消えたドアの脇に姿を潜ませる。耳を壁にくっつけ、外の様子を窺っているらしい。

 

 彼らは何か相談している様子は無かった。だが、互いに何をするべきなのか、何も言わずに把握して自らの役割をこなしていた。

 プロフェッショナルとは、こういうものなんだろう。唐突に垣間見る事になった一線級のプロの世界に、指示された場所に身を隠しながらオルガは暫し呆然としていた。

 

 が、途中で折角の好機を棒に振っていることに気づき、頭を振って彼らの行っている事を理解しようと努めた。民兵だと告げた自身に、彼らがこの宝の山のような作業風景を見せてくれているのは、恐らく見て学べと言う事なのだろう。

 

 暫く作業をしていると、唐突に赤いジャケットの男が先生を指差した。準備が整ったのだろう。先生が頷くのを見た男は、ネジやらなにやらを地面にぶちまける。

 大きな甲高い音に外がにわかに騒がしくなり、どたばたと足音が聞こえてくる。慌てた様子で兵士達が中に入ってきて、入ってきた兵士達は全員先生に叩きのめされた。

 

「6人だったかな。全員、あっと言う間に腕や足の骨を外されて動けなくされていた。小乃流骨法って言うらしいんだが、勿論一人も殺さないでな」

「すごい!さっすが先生!」

「それなんで捕まったんだろ」

「馬鹿。基地の中に入り込む為に決まってるだろ!」

 

 年少組よりも大喜びではしゃぐ看護師(代理)に言いたい事があったが、オルガは唾と一緒に言葉を飲み込んだ。

 BETA戦の英雄とは言え、彼女はオルガよりも年下の少女だ。羽目を外したくなる事だってある。

 そう心の中で呟いて、オルガは続きを話し始めた。

 

 

「赤いジャケットの男とはそこで別れた。そのまま換気扇から排気口に入っていって、それ以降合流もしなかった。ただ、途中でいきなり基地が爆発したのは多分あの人がやったんだろうな」

 

 猿顔の男は『また会おうぜクロちゃ~ん、ありがとよ!』とだけ言って排気口の中に姿を消した。

 先生はその姿を見て一つため息をつくと、兵士達が持っていた手錠を回収し、一人の衣服を剥ぎ取った。ああ、勿論変な意味じゃない。その服を先生は俺に着せて、自分はさっき外した手錠をつけているように見せかけたんだ。

 効果は抜群だった。兵士がつけるヘルメットで顔を隠した俺に奴らはまるで気づかなかった。先生を護送中に見えたんだろう。

 

「そして、先生の荷物を回収した後、衛星電話で基地に潜入しようとしていたレオリオに連絡をとった所で基地が爆発してな。その隙に逃げ出そうとして、しくじった。後はお前らも知ってる通りさ」

 

 甚平型の病院服の上から胸をなぞる。ここにはその時のしくじりの跡が今でも残っていた。

 結構でかい血管と肺に穴をあけられていたらしい。即死していても可笑しくない傷だそうだ。

 

 だが、生き残った。

 

「団長、その傷だろ」

「ん、ああ……そうだ」

 

 胸をなぞる動作を見ていたのか。年少組の団員にそういわれたので頷いた。

 別に隠す事じゃない。仕事の際は上半身裸で居る事も多いし、自身にとってこの傷は戒めと勲章の意味合いがあった。

 この場に女性が居なければ見せびらかしたかもしれない。

 

「あの時の事は今でも覚えてる。ぼんやりとした意識の中で、先生の言葉だけが俺をこの世に繋ぎとめていたんだ。『必ず助ける』『諦めるな』って」

 

 オルガは、少し懐かしそうにその言葉を口にした。

 あれから2年の月日が経ったが、今でも夢に見ることがある。オルガの血を浴び顔を真っ赤に染めながら。自身も銃の雨に晒されながら、オルガに向かって語りかける姿を。

 ガキ共はその時の様子を思い出して。なのはさんは………………自分を重ねているのかもしれない。彼女がここに居る経緯を、オルガは本人から聞いている。

 

「小っ恥ずかしい話はそこまでにしろ。オルガ、次はお前さんだ」

「先生、そりゃねぇっすよ」

 

 唐突にドアが開き、渦中の人が作業室から姿を現した。その横には弟分の三日月の姿もある。

 

「オルガ、中まで聞こえてたよ。騒ぎすぎ」

「すまねぇ、ガキ共となのはさんが離してくれなくてな」

「ああっ!ちょ、オルガさん!?」

「………なのは君?」

「ひゃい!」

 

 オルガの言葉に看護師(代理)が悲鳴のような声をあげるが、既に遅い。

 先生の低い声での問いかけに、ピシッとなのはは居住まいを正した。

 先生はいつも寛容な人だが、一度怒ると本当に怖い。特に医療関係で怒らせた時は考えたくも無いほど恐ろしい。なのはの冥福を祈りながら、オルガは三日月に視線を移す。

 

「よぅ、ミカ。どうだ、気分は」

「ん。IFSを入れた時は言われた通り気持ち悪かったけど、すぐ慣れた」

「そうじゃねぇって。いや、そっちもだがよ。背中は、どうなった」

「ああ………ちょっとまって」

 

 オルガの言葉に合点が言ったのか、三日月は甚平の前を開き背中を晒す。

 

「…………すげぇ」

「ん。ちょっと違和感があるや」

「うわぁ、ヒゲがない!」

 

 鉄華団の前身であるCGSに入社する際、彼ら年少の少年兵達が入社する条件として、阿頼耶識という有機デバイスシステムの施術を受けることを強制される。

 その為、CGSを乗っ取った際に居た古参の社員達はほぼ全員がピアスというインプラント機器を脊髄に埋め込まれており、三日月は特にこのピアスを3つも背中に埋め込まれていたが、その特徴的な突起が綺麗さっぱり背中から取り除かれていた。

 それも、たったの30分で。

 

「肌の部分は自前の細胞から培養したものだ。脊髄の一部も入れ替えてあるから2、3日は荒事は控えろよ」

 

 お説教が終わったのか。先生は直立不動で端の方に立つなのはさんから視線を逸らし、三日月にそう言った。

 

「この後、七実にMWの操縦を教える約束なんだけど」

「………………論外だ。トキ先生の負担が増える」

 

 若干先生の眼が泳いだ。やっぱり苦手なんだな、七実ちゃん。

 長い付き合いで、先生の表情の動きや趣味嗜好も大分分かってきたが、七実ちゃんは正に最も苦手な部類の相手なんだろう。七実ちゃんももう少し素直に感情表現をすれば、ここまで苦手意識を持たれる事も無いだろうに。

 

 逆に好むタイプはなのはやレオリオのように一度決まれば一直線、という直情系なんだろうが………直立不動で立たされ、若干涙を浮かべているなのはを見てオルガはため息をついた。

 この娘(なのはさん)地味に地雷踏んでいくタイプだからなぁ……まりもの姐さんも後一歩押しが弱いし、こんな事じゃいつになったら先生に春が来るのか。

 

「ミカ、ビスケットかメリビットさんに次の奴来るよう伝えてくれ。お前さんは帰って良いぞ」

「ん。わかった」

「アトラとクーデリアによろしくな」

「うん」

 

 オルガの言葉に三日月はそう頷いて部屋を出た。

 BETA戦の影響で男女比3・7というカセイエリアでは、大幅に減った人口を増やす為の苦肉の策として複数の人間と籍を入れる事の出来る重婚制度が取られている。

 1年前、立案されてすぐのこの制度がニュースで話題になった時。フラッと数日休暇を取ると言って消えた三日月が、帰って来た時に何かと縁のあるクーデリア・藍那・バーンスタインとアトラ・ミクスタを連れて来た時には腰が抜けるほど驚いた覚えがある。

 

 その日の夜。三日月と交わした酒は、人生最高と言える位に旨かった。

 三日月は言っていた。飲み慣れない酒をちょびりちょびりと口付けながら。

 本当の居場所を、見つけたと。俺達はもう、たどり着いていたんだと。

 

 

「さて、さっさと施術を済ませてしまおう。人数が多いからな」

 

 少し思考を飛ばしてしまっていたらしい。オルガは先生に促されて作業室のドアを潜る。なのはさん、立ったままなん………いや、よそう。

 作業室に入ると、奥の方で緑色の手術着を来たレオリオが水筒のような形をしたガラスのケースを選り分けていた。

 

 こちらに目を向けたので笑顔を浮かべて手を上げると、目元を微笑ませて親指を立ててくる。

 手術台にうつ伏せになって寝かされる。初めてピアスを植えられた時を思い出して少し気分が落ち込む。

 気持ちを誤魔化す為に、オルガは先生に声をかけた。

 

「今日は何人分までの予定なんですか?今、宿舎の方でうちのモンに順次シャワーと着物を着せてますが」

「……うん?勿論全員の予定だが」

「は?」

 

 オルガは聞き間違えたのかとうつ伏せの状態から身を起こして先生の顔を見る。

 その顔はマスクで大部分を覆われているが、いつもと全く表情が変わっていないように見受けられた。

 

「一番面倒な三日月で大体の流れは掴んだ。1本2本ならナノマシンの処理を含めても10分かからんよ」

「いやそれは………ええ?」

 

 さも簡単な事のように言われて混乱するオルガは、この部屋に居るもう一人の男に目を向けるも。

 その近くを見ているはずなのに若干遠くを見るような視線を受けて、オルガは彼の言葉が本気であると認識した。

 

 

side.R

 

 会議室の中は静かだった

 

「以上が先日モクセイエリアで行われた手術の様子です。提供はチキュウエリアのバスク大佐から、ありがたい事に無償で頂いてます」

 

 画面の中では一人の男が手術終了の宣言をしている。

その画面を食い入るように見る4人の男女。いずれもカセイエリアで有数の知恵者達だ。

 彼らは映像が止まったと言うのに言葉を発する事もなく、ただ静かに止まった画面の男の姿を見ている。

 

「…………いくつか言いたい事はあるけど、この映像を無償で送ってきたそいつは聖人かとんだ馬鹿よ」

「うむ………………どれだけの価値がこの映像にあるのか理解できておらんのじゃろうな」

 

 芝居掛かった長髪の女の言葉に、四角い鷲鼻をした老人が頷いた。

 香月夕呼とアイザック・ギルモア。彼らは主に機械やコンピューター、物理学を専門としているが、医学や生物学にも通じている。その二人が口をそろえて、ただの手術の映像にこれだけの評価を下している。

 

 カセイエリア行政府の軍政官として、自身が彼らを呼び寄せたのはどうやら間違っていなかったようだ。残りの二人に目を向ける。すると我に返ったのかコホン、と一つ咳払いをして金髪の女性───イネス・フレサンジュは口を開いた。

 

「神業ね。同じ人間が行った手術とは思えないわ」

「同感ですね。いや、僕は医学はそれほど詳しくないんですが」

「あんたにそっちは期待してないわよ」

「ですよねー。まぁ、僕の視点で見るならこれ───このメスにつかわれてるエンチャントですね」

 

 香月夕呼の言葉にシロエと呼ばれるハーフアルヴの青年は苦笑を浮かべた。彼はバーチャルの姿と自身が何故か融合したというタイプの人間であり、ここに居並ぶ他の人間のように非常に優れた学問の知識を持っているという訳ではない。

 

 いや、少し違う。彼自身、『城鐘恵』は23歳の工学部に通うただの大学院生であったが、もう1人の彼は違う。

 異世界『セルデシア』にて賢者として名高かった彼の半身、シロエの知識と魔法の力を得た彼は、科学に偏っているカセイエリアでは貴重な魔法と科学両方に知識を持った頭脳労働者としてこき使われている。

 

「ああ、やっぱりそれ魔法系統なのね。切った端から繋がっていくから何かと思ったわ」

「はい。凄く精細なエンチャントですね。必要な部分だけ切除とかよっぽど集中してないと出来ませんよ。医学的には簡単な手術なんですか?」

「並の名医って呼ばれる奴で、開腹手術は大体2~3時間って言われてるわね」

「…………5、6箇所全部含めて1時間も経ってないように見えるんですが。え、ブラック・ジャックってこんな化け物なんですか?」

「知らないわよ。実際出来てるんだからそうなんでしょうね」

 

 一応事前知識として、彼らにはブラック・ジャックの原作となる漫画は読んでもらっている。

 その前提知識を持った彼らからしてみても、実際に手術の内容を現実としてみると呆然とする事しかできない。

 それが、統合から三年経ったブラック・ジャック(今現在の彼)という存在だった。

 

「………あいつ、本当に隠居する気あるの?」

 

 不機嫌そうに香月夕呼は問いかけてきた。自身を天才だと言って憚らない彼女は、ブラック・ジャックに複雑な思いを抱いていると聞いている。

 命を助けてもらった恩義。技術に対する尊敬。そして…………劣等感だろうか。

 

 BETAの海から神宮司まりも少佐と共に救出された時の事を彼女は決して話してはくれない。何度か粘ってみたがその時の事を思い返すたびに顔が真っ青になり卒倒してしまい、起き上がった後は物凄い速さで罵詈雑言が飛び出す為、現在でもカセイ行政府ではタブーとして扱われている。

 

「先生の隠居するする詐欺はいつもの事として、皆さんにお願いしたいのはこの映像の資源化。ここから読み取れる情報を現場にフィードバックできないかと言う事です」

「…………あんたも可愛い顔して意外と言うじゃない。まぁ、貴重な資料になるけど、これ他の人間に求める作業レベルじゃないわよ?」

「魔法の方もかなり難しそうじゃが、このレベルのメス捌きが出来る人間が何名居るか…………少なくともこの精度でメスを振るう事は儂には無理じゃな」

「それでも構いません。高等技術を現代に落としこむことはイネスさんが得意なので」

「………………ルリちゃん。無茶言わないで欲しいわ」

 

 引きつった顔で苦笑を浮かべるイネス博士に、私は笑みを浮かべる。

 自身は軍政官としての仕事に忙しく追われている中、彼女が頻繁に職場を抜け出してとある山中に向かっているのは知っている。

 

 互いに抜け駆けをしないという淑女協定は、どうやら機能しなかったようだ。となればこの位の意趣返しは許されるだろう。

 彼らに会議の終了を告げ、「ちょ、ルリちゃん!?」と言い募ってくるイネスを尻目にさっさと部屋から退出し、ホシノ・ルリは廊下に設置されていた屋内移動用のエレカに乗り込んだ。

 

生き残った者達(フラグ・ブレイカー)

 

 防衛機構内のある一定以上の役職に位置する人間にこう呼ばれる者達がいる。

 先ほどの会議に居た香月夕呼や、彼女の配下に居る神宮司まりももその1人だ。

 

 防衛機構の人間達は、所属する際に必ず自身の原点、『原作』を確認する事を義務付けられている。

 これは、事前に自身の弱点や死因を確認しておく事で任務に支障をきたさないようにする為の処置だ。

 

 ルリ自身も勿論見ており、アニメで葛藤する自身を見るのは随分と気恥ずかしいような、もどかしいような複雑な気持ちを抱えたものだ。

 香月夕呼のように18禁作品じゃなかっただけマシなのだろうが、自身を振り返るという意味では確かに重要な事なのだろう。

 

 問題は、『原作』において死亡した者達の事だ。

 ホシノ・ルリがその職責の中で調べた限り。原作の死亡フラグを突破できた人物はほぼ居ない。

 

 少なくとも防衛機構が機能してからのこの1年間、生き残った者達(フラグ・ブレイカー)と呼ばれる人物で自力でこの死の運命(フラグ)を乗り越えた人物はルリが知る限りでは巴マミと伊藤誠の2名のみ。そしてこの二人が生き残った理由も判明している。

 そのルートではなかったからだ。恐らく似たような理由で生き残った者は沢山居るだろう。

 

 だが、明確に死亡すると言われているキャラで生き残っている人物となると一気に減少する。この事実はかなり上位の高官にしか知らされていない。

 とんでもない規模の騒動が起きると目に見えているからだ。

 

「フラグ・ブレイカー…………違う。本当のフラグ・ブレイカーは恐らくただ1人」

 

 病死、他殺、自殺。大差あれど、死亡すると決まっている人物は死亡するのだ。本来ならば。

 香月夕呼も神宮司まりもも、死亡するはずだったのだ。あのBETAの海の中で。

 

 オルガ・イツカは射殺されるはずだったし、トキは放射能症で命を終えるはずだった。はず、だったのだ。

 死の運命(フラグ)を真の意味で乗り越えられる人物は、結局ただ1人。その男の名は――

 

「ブラック・ジャック……」

 

 そして、だからこそ自分にとって、今の状況は最善を通り越して、神からの福音だとすら思えたのだ。

 イネス・フレサンジュ。自身の人生の中で紛うことなく最高の天才だと思っていた彼女をして、もって2年。

そう言われていた彼女の家族を───大切な人を。診察が終わった後に「少し手間がかかるな」の一言で片付けた男。

 ブラック・ジャックがこのエリアに流れ着き定住した時、ホシノ・ルリは生まれて初めて神に感謝した。

 

 考え事をしている間に自身の執務室の前にたどり着いたようだ。

 チキュウエリアに『バカメ』と返事を送り、部下が持ってきた決裁書の山を処理する。コミュニケを使えばさっさと終わるのだが、まだまだIFSの普及が進んでいない為、非効率的な紙媒体の書類が多い。この辺りを改善するのも自分の務めだろう。

 

 ある程度目処をつけたら郡政府に休暇の申請を行う。明日は久しぶりに休みを取ろう。自家用機を飛ばして山に向かうのだ。

 療養中のアキトさんと……ユリカさんは、きっと笑って自分を出迎えてくれるだろう。

 机の脇に置かれている、二人に囲まれた幼い自分が写った写真を見ながら、ルリは静かに微笑んだ。

 

 

side.K あるいは蛇足。

 

 流石に100人近くに施術をするとなると時間が掛かったが、どうにか夕飯前には全ての手術が終わった。

 最後に昭弘の施術を終わった際、責任者として残っていたオルガが「ありえねぇ………」と呟いていたがこちらの台詞だ。こんなん入れられて良く今まで生活できてたな。

 

 いや、むしろ良く生き残れたな、の間違いか。

 脊髄に直接針を突き刺すというこの論外な手法といい、欠陥品同然のナノマシンといい…………フィードバックで脳をやられるってなんだ?自殺特攻用なのか?

 まあ、こんなものを何度も見せ付けられてたら医者としての沽券に関わるからな。意地でも今日中に終わらせるつもりだったが何とかなってよかった。

で、十分反省したかな、なのは君?

 

「ひゃい!ごめんなさい!」

「手術中に気を取られるのはミスの原因になる。以後気をつけてくれ」

「はい! ……うぅ、足が………」

 

 罰として正座したまま手術に参加した人物の名簿付けを行わせていたなのは君がヨロヨロと立ち上がった。

 精々2、3時間で大げさな。数十分に一度は足を崩しても良いと伝えていたはずだが。オルガの奴、加減を誤ったか?

 

 そう。オルガといえば随分と昔の恥ずかしい話をしていた。あの基地への侵入は今思い返しても恥ずかしい失態だった。

 まさか酔って前後不覚の状態で潰れていたら拉致されてしまうとは。

 

 あのこそ泥、やけに酒を勧めてくると思ったら。何が「相手してくれて助かったぜ!いや~どう中に入るか悩んでたんだなぁ」だ。

 幸いにも発信機を持っていた為レオリオからの救援は見込めたし、魔法でアルコールをさっさと抜く事もできた。

 相手には念能力者も魔法使いも無い通常の兵士達ばかりだったから、一度相手の監視が外れた後の対処は楽なもんだった。

 

 骨法、余り有名な流派じゃないが凄く便利なんだよな。その後に北斗神拳をトキ先生から手ほどきされたが、医療には兎も角戦闘用としてはあれは強すぎる。

 チキュウエリアの東風君は元気だろうか。骨接ぎの技術を習ったきりになってしまったが、あの初心な青年の恋が実ると良いのだがな。

 

 しかし、オルガの奴も未だにあの傷跡をそのままにしているのか。あの時の戦闘は本当に怖かった。敵の攻撃の中で立ち止まるってのは本当に怖いんだな。鉄華団の連中はそんな中で戦うんだから凄いもんだ。俺はたった一人を助けるので精一杯なのにな。

 

 あの恐怖に比べれば夕呼やまりもを抱えてBETAの海を渡った時の方がマシだったな。戦車級や兵士級を楯にほいほい飛び回るだけの簡単なお仕事だ。

 ただ、あの後から夕呼が俺の顔を見るたびに卒倒するようになったのは何故だろうか。あれだけは未だに分からん。

 

「先生、そろそろ夕飯の準備が出来ます。なのはちゃんもどうですか?」

「うん………ああ、テンカワか」

 

 今現在、長期療養の為に集落の住人となっているテンカワアキトは、元々コックだったがある事件の影響で味覚を失ってしまったらしい。

 体の中のナノマシンが悪さをしていたせいとの事だったので、一先ず致命的な暴走ナノマシンを『最適解』と念能力を駆使して取り除き、後は体の感覚を馴染ませながらゆっくりと元の体に戻している最中だ。

 

 内臓や血管といった部分はクローニングの技術もあり入れ替えてしまえば良いが、失った感覚を思い出すのは手間が掛かるからな。

 今は味覚の感覚を思い出しながら料理人の真似事をしてもらっている。彼の作るチャーハンは、所々足りない物を感じるが、男やもめの俺やレオリオが作るよりかは大分美味い。

 元の腕を取り戻せたら、料理人として奥さん共々働きたいと言ってくれているが、君の奥さんは出来れば受付か何かにして欲しい所だ。

 

「あ、じゃあ、ご馳走になります!」

「ああ、勿論いいよ。出来れば感想も聞かせて欲しい。久しぶりに作った料理でね………」

 

 朗らかな笑みを浮かべるアキトと、談笑するなのは君。このまま食堂に行くと恐らくアキトは奥さんの手により酷い目にあうのだが、リア充に対する慈悲を残念な事に俺は持ち合わせていない。ユリカさん、イネスさんに加えホシノ中佐まで怪しいというハーレム系主人公もかくやというモテ男には良い薬になるだろう。

 

 というか、先生の代わりをやっていて俺に春は来るのだろうか。暗い予想に俺は頭を数回振った。

 

 頼む、神様。早めに次の統合で先生をこっちによこしてくれ!ブラック・ジャックをよろしく!

 




赤いジャケットを着た男:クロオを酔い潰して囮にし、基地内に潜入。何が目的だったかは不明。一体ルパン何世なんだ・・・・・・

オルガ・イツカ:鉄華団団長。本当は統合軍の銃撃できぼうのはなが流れる予定だった模様。しかし生き残った。

三日月・オーガス:鉄華団団員。オルガの右腕。嫁さんが二人。片方は子供も作っている。子供の名前は暁。自分の背丈が子供に遺伝しないといいなぁと思っている。

高町なのは:最近は体力もついてきたため色々お手伝いをしているが、大概空回りしている。が、理数系に関しては集落でも1,2を争う為診療所や鉄華団の経理を手伝ったりしている。七実とは『同年代』という事も合って非常に仲良くなった模様。

トキ:七実という日に日に強くなっていく激流を制する凄い人。クロオの癒し枠。

七実:現在の身分は虚刀流六代目代理。父に成り代わり弟を立派な当主とするべく恋に鍛錬に草むしりと忙しい日々を送っている。なのはとはかなり相性が悪いはずが逆に変にかみ合ったのか仲良くしている模様。

ホシノ・ルリ:防衛機構中佐にしてカセイエリア郡軍政官。前線司令部のナンバー2に辺り、タイヨウ系エリア郡全体でも上位5本に入る権限を持っている。前回のクロオの渡航を支援したり色々彼を助けているが、全ては家族を取り戻す為。そしてその思惑は報われた。

イネス・フレサンジュ:機動戦艦ナデシコの誇る説明おばさん。今回はほとんど説明できなかったので機会を見つけて説明すると思う。休みのたびにテンカワアキトの元に行っているらしい。

香月夕呼:物理学の天才。BETAと戦い続けていた世界から統合。周囲エリアへの警告を何度も発していたが結局間に合わずBETA戦がおきた。その際、とある基地内で脱出が間に合わず死亡する所をクロオに助けられたが、その際に非常に酷い目にあっておりクロオを見たりその時の話を聞くだけで卒倒する。

神宮司まりも:防衛機構所属の軍人。現在は教官としてBETAの再侵攻に備えて新人を鍛え上げる毎日を送っている。クロオに夕呼と共に救助され、以降彼を慕ってアプローチをかけているのだが直前で気後れするのかクロオには伝わらず、毎回スルーされている。

アイザック・ギルモア:ユダヤ系ロシア人の科学者。サイボーグ技術を専門としているが、同時に医療分野の見識も持つ。自身が手がけたサイボーグ、00ナンバー達と一緒に悪の秘密結社から逃れた過去を持つ。防衛機構カセイ行政府に所属後は、その技術をエリアの為に使えないかと日夜研究を重ねている。

シロエ:別名腹黒メガネ。元々工学部の大学生だったという意識と賢者と呼ばれるハーフアルヴだった意識が交じり合い、1人になった。非常に柔軟な思考と、カセイエリアでは数少ない魔法系統の知識を持っているため日々こき使われている。

テンカワアキト:現見習い料理人。現在は集落に居を構えて五感の治療中、テンカワユリカという奥さんが居るが、複数の女性に言い寄られている模様。彼はもう黒い王子様ではない。


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クロオの休日。人を救わなかった日の話

次の話が詰まってたので他の話でもと思って書いたら8000文字を超える事態に(震え声)

同じパターンで固まってしまってるとの声があったので、今回は普段とは逆に主人公主体の文をメインにしてみました。
ただ、日常回のつもりだったんですが盛り上がりのない文章になってしまったので、読み辛い方は飛ばしても大丈夫です!
クオリティを維持してかける作者さんは凄いですね・・・精進します。

追記 何の登場人物か分からないとの声があったので夜に人物紹介でも作ります。


誤字修正、ハクオロ様、五武蓮様、名無しの通りすがり様、佐藤東沙様、竜人機様、狛犬2207様、kuzuchi様、名無しの通りすがり様、ななかま様、匿名鬼謀様いつもありがとうございます!

後、フェイリスちゃんはフェイリスが正式名称なんでちょっと修正してます。→そういやまゆしぃだけフェリスちゃんって呼ぶんでしたね()
すみません、自分のミスでした!

文章をちょっと手直し(2.12)


「まさか大事な用件とやらが荷物持ちだとは思わなかったな」

 

 少し皮肉を込めて呟くと、対面で電子部品をにやにやと眺めていた男がバツの悪い顔をした。

 ウリバタケ・セイヤ。俺の住まう集落でも……いや。カセイエリア全体でも1、2を争う技能を持った技術者だ。

 あの山に居を構える時、防衛機構から紹介という形で流れてきたこの男は、集落有数のトラブルメーカーでもあり、ムードメーカーでもある。やらかす事の規模も迷惑さも大きいのにどこか憎めない、そんな不思議な印象を人に与える男だ。

 

「悪かったな、先生。機械部品はどうしても山じゃあなぁ」

「…………いや、構わんさ。俺も助かっているしな。たまには外を出歩くのも良いだろう」

 

 鉄華団の人間を除けば唯一と言っても良い技師のウリバタケが、どうしても私に頼みたい事があると言って来たのは昨日の事だった。

 大体の機械類に精通している彼は集落の便利屋のような存在だ。彼のお陰で我々は近代的な生活をあんな山の中で送れているといっても過言ではない。

 

 最近見ていたリリカルなのはも見終わってしまったしな。新しいDVDを購入しようと思っていた所でもある。

 ウリバタケの頼みを断る理由も意思も持っていなかった私は、護衛役としてホシノ中佐から派遣されてきた朧君と相談し近隣でも特に治安の良い世界の東京・秋葉原に来ていた。

 

 と言っても勿論、護衛を引き連れての行動になるが、な。どうにも不自由な身の上だ。簡単な外出でも一騒動起きてしまう。

 恐らく今周辺で遠巻きに俺達を見ている店員や客の中にも朧君の配下が紛れているのだろう。

 

 何せ彼女も、彼女の配下も忍者らしいからな。

 らしいというのは、そうは見えない程に本人は非常に可愛らしい少女なのだ。だが、配下の忍び達は非常に優秀な人物が多く、トキ先生が南斗の拳士に比すると評価していたし間違いはないだろう。

 ただ、格好が少しアレなのはな。彼らの時代ではあれが普通だったのかもしれないが。

 

 彼等とはすでに数週間の付き合いになるのだが、少し苦手だ。何というか、俺をまるで殿様のように扱ってくる所が。

 彼等にとって俺は英雄で、命に代えても守り抜かなければいけない存在なのだという。

 とんでもない話だ。勿論、悪い意味で。

 

 俺は医者であってそれ以上でも以下でもない。ブラック・ジャックと誤認されていようといまいと、そこだけは変わらない。

 人を治す事以上の物を求められても、それはそっちで勝手にやってくれとしか言えないのだ。

 

 何より俺を守る為に命を投げ出しても構わないというその気概は大したものだが、俺からすれば悪い冗談にしか聞こえない。

 こちらは命を救う為に必死なのにその俺を守る為に命が散らされる。俺のキャパシティがどの辺りで限界になるか見物だな。

 

 そこまで考えて、ふと気づく。

 ……もしかしたらこの外出も気晴らしの一環かもしれない。何だかんだでウリバタケは面倒見の良い男だ。

 俺がストレスを溜めているのに気づいていたのだろう。これは、後でウリバタケには礼を言わなければいけないな。

 

「ウリバタケさん。これは何かわかりますか?」

「ああん…………そらおめぇ。そいつを用意してくれたメイドさんの愛がヤバイ位篭ったオムライスだよ。絶品だぞ?」

「…………ユリカに怒られなければ良いんだが」

 

 アキトの言葉に考えを脇に置く。朧は先ほど店員に話しかけて席を立っていた。今、この場にはこの外出の企画者であるウリバタケと俺。そして運転手代わりに連れてこられたアキトの3名だ。

 

 ウリバタケの言葉に眉を寄せて、アキトはメニューを睨みつける。

 味覚が戻ってから何かと食べ歩く事を趣味にしている彼に、丁度良い機会だからと今回身内の護衛がてら足を出してもらったのだが、少し悪い事をしたかもしれない。

 

 流石に以前のようにマントはつけていないが、黒いスーツに身を包んだ彼と黒いコートを羽織った俺は明らかにこの店舗では浮いている。

 店員だろう少女達も怖がって近寄ってこない。

 

 作業着姿のウリバタケでも少しキツイ印象だが、持ち前の空気が馴染むのか彼は自然体でこの店に溶け込んでいる。

 今まで物資の調達の際に何度かここに来ているらしく、店員も俺やアキトが入店した際その出で立ちに顔を引き攣らせた後、入ってきたウリバタケの顔にほっとしたような表情を見せていた。

 

 もしかしたら店に入った時、来た事もないのに言われた「お帰りニャさいませ、ご主人様」という言葉に答える必要があったのだろうか。

 どう答えれば良いのか分からずそのままウリバタケに任せてしまったが、俺も返事をするべきだったかと少し悔やむ。

 

 ……等と考えていると、一人怖がる素振りも見せずに笑顔を浮かべて近付いてくる少女がいる。ピンクの長い髪をツインテールにしてドリルのように巻いている。

日本系の世界では珍しい髪の色だ。

 

「セイヤさん、お久しぶりニャン! そして初めましてニャン! フェイリスはフェイリス・ニャンニャンだニャン! ご注文はお決まりですかニャ?」

 

 注文を取りに来たらしいフェイリスと名乗る少女は、伝票を持つと笑顔でそう尋ねてきた。

 お久しぶり、と言うからにはウリバタケとも面識があるらしい。

 

「フェイリスちゃん、今日も可愛いねぇ! オムライス一つ頼むぜ」

「…………オムライスを一つ。先生もそれで良いですか?」

 

 少し思案した後にアキトはそう答え、俺を見る。

 メニューを受け取り、少し流し読む。大体のメニューはこの体になる前、ただの間黒夫だった時に行った喫茶店と大きく違いはないようだ。

 ただ、世界がヤバイ、だとか、メイドさんの愛情たっぷり、といった付属の言葉が良く分からない。アキトが戸惑ったのも頷ける内容だった。

 こういう時に日本系統の世界では魔法の逸品がある。俺はメニューを閉じてフェイリスにこう尋ねた。

 

「ふむ……すまないがボンカレーはあるかな」

「ありませんニャ。というかあると言ったらお店的にとっても困りますニャ」

「………………………………そうか」

 

 残念だ。非常に。行きつけだった喫茶店は300円でボンカレーを出してくれたのだがなぁ。

 研修医時代はあれが貴重なエネルギー源だった。何よりどんな下手糞が作っても精々温めが不十分な位で美味しいのだ。

 本物のブラック・ジャック先生がうまいと言う理由もわかる。彼ほど世界中を股にかける人物なら、どこで食べても同じ味というのがどれだけ貴重な事なのか理解していたのだろう。

 

 帰りにボンカレーを仕入れなければいけないな。後カップヌードルも。

 ウリバタケやアキトに習い、この場はオムライスを注文する。

 フェイリスは元気良く「注文承りましたニャ。オーダー! 世界がヤバい! オムライス3つですニャ~!」と声を発し、手際よく伝票を記入してカウンターへ歩いていった。

 

「で、お目当ての物はあったのか? このエリアの統合時の時間軸は2000年代。俺からすれば故郷のように感じるが、お前さんからすれば古臭すぎるだろう。後…………不貞をしたら、覚えているな?」

 

 その後姿をニヤついた顔で……若干下向きに目線が行っている気がするが……眺めるウリバタケに声をかける。

 以前、不倫でもしたら集落全員で死にたくなるような目に遭わせると本人には伝えている。

 

 流石にこの男でもあんな子供に手を出す事はないだろうが、この男は当時18歳の少女に不倫を持ちかけた事がある前科持ちだからな。

 釘は刺しておく必要がある。あれだけ美人のオリエさんに子供が4名も居て、何が不満なのか。俺には相手も居ないと言うのに。

 ウリバタケはその言葉に若干顔を青くしながら引きつった笑顔を浮かべて頷いた。

 

「わ、分かってる。下手な事はしねぇよ、死にたくねぇしな……バラしたパーツもレストアしたり他のパーツの部品に使ったり、やりようはあるのさ。金属自体が手に入れば自作しても良いし。それに、他のエリアから流れる部品も落ちてるから落穂拾いも意外と馬鹿にならねぇんだ」

「それが出来るお前さんは本当に優秀だよ。・・・それと、本当に頼むぞ。お前さんの去勢なんぞ俺はやりたくないんだ」

「…………じ、自重します」

 

 深々とテーブルに頭を下げるウリバタケにアキトと俺の視線が突き刺さる。

 重婚が制度化されているカセイエリアだが、不倫や愛人といった物に関してはかなり厳しい目で見られる事になる。

 重婚という制度が認められているのは、余力がある人物が多数を娶るという前提があるからだ。

 それだけカセイエリアの環境は……特に東側は厳しいものがある。ミカヅキのように即日この制度を適用してくるぐらいの男らしさを是非見せてほしいものだ。

 

「おっ、お待たせしましたにゃ! 世界がやばい! おむらいす3つお待たせにゃん!」

「お、おお! 来た来た! さ、早速食べよ……」

 

 天の助け、とばかりにウリバタケが頭を上げ、そして固まった。釣られてそちらを向いた俺とアキトも思わず虚を突かれる。

 

 そこには、先ほどから姿のなかった朧君がスカート丈の短いメイド服を着て、恥ずかしそうに顔を赤らめながらオムライスをもつ姿があった。

 頭の上にある猫耳が、時折ピコピコと揺れている。

 何度か瞬きをして俺とアキトはテーブルの飲み物を脇においてテーブルを空ける。

 

「…………お、おぼろ・にゃんにゃんです、にゃん」

「ああ、可愛いよ。そういった衣装も似合うんだね、朧君」

「…………ありがとう、ございますにゃん」

 

 朧は笑顔のままオムライスをテーブルの上に置き、がくり、と膝から崩れるように地面に座り込んだ。

 彼女の背後に居たフェイリスが信じられないものを見た、というような表情でこちらを見るが。意表は突かれたが考えれば護衛である彼女が場に溶け込もうとするのは当然の事だろう。

 

 同じ立場のアキトも動揺せず受け入れていたしな。

 ただ、同じ立場の割にはこちらは明らかに目立ちすぎている。

 いや、役割分担と考えればこれで良いのか。アキトが目立ち、朧君達が目立たないように動く。

成る程、良く考えられている。

 

 朧君に関してはちと演技に羞恥心が残っているのがマイナスポイントだが、彼女の努力は認める。故に極力騒ぎが起きないように対応したのだが、緊張が限界を超えてしまったらしい。

 手を貸して立ち上がるよう促し隣に座らせる。少し気負いすぎてしまっているようだし、年長者として声をかけるべきだろう。

 

「良いかい、朧君。君がとても努力しているのは知っているし、君達が私の為に身を粉にして働いてくれているのもわかっている。余り伝わっていないかもしれないが感謝しているよ」

「うっ」

 

 私の言葉に小さなうめき声が聞こえてくる。

 ……余り気負わないように言葉をかけたつもりなのだが。顔色を見るに体調が悪いわけでもあるまい。不思議に思いながら言葉を続ける。

 

「その格好も任務の為なのだろう。恥ずかしい気持ちを我慢してくれたんだね。頭の下がる思いだ」

「本当に申し訳ありませんでした」

「何故謝るんだい?」

 

 思わず尋ねるも勘弁してくださいとだけ言って彼女はテーブルに頭を突っ伏し、フルフルとその頭に付けたネコ耳を震わせる。

 本心を語りかけているつもりだったのだが、余計にショックを与えてしまったらしい。

 やはり人を使うと言う事は俺には出来ないな。

 

 

 

「ありがとうございましたにゃ!」

 

 随分騒がしい客だったはずなのにフェイリスは笑顔で店の前まで出て笑顔で我々を見送ってくれた。

 プロ意識と言う奴か。一度も嫌そうな顔を浮かべなかったのは凄いと正直に思う。随分と迷惑をかけたはずなんだがな。

 

 最後に記念写真を、と言われたので朧君を含めて4人と、フェイリス。それに数人のスタッフの方々と一緒に写真を撮り、その内の1枚をその場で現像して頂いた。若干朧君が涙目なのが引っかかるだろうが良い写真だ。

 

「ありがとう、また機会があれば来るよ」

「フェイリスちゃん! また来るぜ〜!」

「お世話になりました…………ウリバタケさん。少しお話が」

「う、ううう。ご迷惑を、おかけしましたぁ」

 

 俺がペコリと頭を下げるとウリバタケとアキト。そして未だにショックから立ち直れない様子の朧君が頭を下げる。

 彼女は、俺達の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

「ありがとう、ウリバタケ」

「ん?何だ一体」

「いや。良い店を紹介して貰った。サービスも良かったし、また機会があれば来たいな。良い気晴らしになった」

 

 俺の言葉にウリバタケはへっ、と鼻で笑い前を向いた。

 偶にはこんな日もあって良い。さて。皆に土産でも買っていこう。

 

 

 

 

Side.F

 

 彼等の姿が見えなくなるまでフェイリスは手を振った。そして、彼等の姿が完全に見えなくなった時に店内から一人の男が出てくる。

 

「ご協力ありがとうございました。店長さんにお礼を渡してあります」

「あ、はい、ですニャ……」

「それでは我々はこれにて」

 

 顔の無い男が頭を下げると共に、ぞろぞろと店内から仲間と思わしき人間が店を出る。中には何度か見たこともある常連の姿も、と思ったら急に別人の顔に変化してしまった。変装という奴だろう。信じられない速度で別人に切り替わっていた。

 

 彼等は口々に「美味しかったです」だとか、「次は個人で来ます」と頭を下げて店を離れていく。

 フェイリスは彼等の見送りも笑顔で行った。

 最後の一人が人混みに消えた後。フェイリスは笑顔を浮かべたまま店のドアを開け、店内に入る。

 そして、ドアに背中をもたれさせ、ズルズルとその場に座り込んだ。

 

「フェリスちゃん! お、お疲れ様!」

「まゆしぃ……フェイリスはやったニャ。ギアナ高地での修行が天国に思える緊張感の中やり遂げたニャ。もうゴールしても良いよね……」

「フェリスちゃん! 寝たら死んじゃうよ!」

 

 親友に肩を借り、フェイリスは立ち上がった。

 彼等が入店する数分前。突如入ってきた防衛機構を名乗る男達から、これからVIPが来店する為協力して欲しいと通達され、訳も分からず店に居た他のスタッフやご主人様方と指示に従っていた時、彼等はやってきた。

 

 一目で分かるほどの存在感だった。

 この街は秋葉原。彼のコスプレをする人間だって沢山居るし、中には本物と見分けも付かないようなレベルの物もある。

 ただ、今日。彼を初めて見たこの場にいる全員が、一瞬でこれが【本物】なのだと理解させられてしまった。

 今まで見てきた物はどれだけ高いクオリティを持っていようと、所詮は真似事だという事を。

 そこに居るだけの彼に、それをフェイリス達は分からされたのだ。

 彼こそが【本物】。ブラック・ジャックなのだと。

 

 静寂に包まれていた店内は、それまでが嘘のように騒がしくなった。抑え込まれた興奮が爆発したのだろう。店内に居る人間全てが先程の体験を口々に語る。

 疲労の極みに達していたフェイリスはまゆりに連れられて控室へ向かう。店長からは今日は上がっていいとのお達しも出ている。

 

 疲れた足を心地良い興奮で誤魔化して、フェイリスは先程ブラック・ジャックと撮った写真を見る。

 凶真に見せびらかしてやろう。きっと羨ましがるだろう。

 

 

 

Side.U

 

「おう、帰ったぞ」

「あ、セイヤさん、お疲れ様です」

「父ちゃん、お帰り!」

 

 ガラリ、と自宅の引き戸を開けると、玄関先で長男と鉄華団のヤマギが工具を持ち出して何やら怪しい機械を弄り回していた。無線機だろうか? アンテナを見る感じ受信用みたいだが。

 

「何してんだお前ら?」

「盗聴」

「トキ先生にぶっ飛ばされる前に止めとけ。ヤマギ、お前、後でサレナのオーバーホールな」

「うえぇ!?」

 

 靴を脱ぎながらそう言って部屋に入る。

 ガキ共は俺の血が濃いのか周りの環境が悪いのか。随分と悪ガキに育っちまった。良い事だ。今の世の中、品行方正なんぞより多少悪くても行動力に優れている方が生き残れるのだから。

 

 鉄華団の宿舎に隣接される形で作られたウリバタケの家は、鉄華団工房の真横にある事もあって鉄華団の整備班の溜まり場になっている。雪之丞とは技術屋同士話も合うし、少年兵達に情が湧いたのもある。飯位食わせてやったり、手習いレベルだが整備のイロハを仕込んでやっても罰は当たらないだろう。

 妻のオリエが育児で困っている時、補助もして貰っているしな。

 

 今日、大事な用事があるのは本当だった。付き合わせてしまったブラック・ジャックには悪いが、この村では彼を巻き込めば大抵の事は通る。移動用の高速連絡機を動かす事も容易なのだ。

 

 本人には帰る際に事情を説明し、出来れば家族には秘密にしておきたかったと伝え、許しを得てある。ニヤニヤと笑われたのと、女性に対するだらしなさで苦言を呈されたのは、まぁ、しょうがあるまい。

 

 つい衝動的に動いてしまうのは長年の悪い癖だ。ただ、ヒカル以降、本気になった事も本気で口説いた事もない。もし、あの時に重婚制度があればと考えた事もあるが、恐らく結果は変わらなかっただろう。

 己よりもあの娘は大人だった。それだけの話だ。

 

「ただいま」

 

 ナデシコを降りた後、妻と何度も語り合った。

 時には喧嘩もしたし、仲直りもした。

 そしてようやく分かった事がある。どうやらこの口煩い妻の居る所が、己の帰る場所らしい、と。

 

 オリエは台所で夕飯を支度しているらしい。返事はない。まだ機嫌が直ってないのだろう。

 結婚記念日なのにと、出掛けの時にぶつくさと文句を言っていたのを思い出す。

 

 さて。買ってきたネックレスで少しでも機嫌が取れれば良いんだがな。

 ウリバタケは恐る恐る台所に足を踏み入れた。

 

 

 

Side.A

 

「アキト、メス猫の匂いがする」

「良く分かったな」

 

 玄関先でそう言われ少し驚いた。特に意識していなかったのだが、あの店の匂いが体に染み付いて居たのだろうか。それとも、帰り際に朧ちゃんを慰めた時の物だろうか。

 アキトの答えにユリカが膨れ面を見せる。

 この顔は嫉妬だろう。エリナとイネスを妻に迎えると伝えた時と全く同じ表情だ。

 一つ答えを間違えれば地獄に落ちる。経験からアキトはそう考えた。

 

「アキト。またなの?」

「いや、今回は違う」

 

 荷物を肩から下ろし、中身を開く。

 女性の心の機微は残念な事に未だに良く分からない。だから、同じ女性にアキトは尋ね、実行した。

 荷物の中からメイド服と猫耳を取り出し、アキトは言った。

 

「きっとユリカに似合うと思ってお店の人に色々尋ねたんだ。上質の物を選んでもらった」

「アキト。たまにアキトの考えてる事が分からなくなるけど大好き!」

「俺もだ。愛してるよ、ユリカ」

 

 ひしっと抱き着いてくるユリカを抱きしめる。

 何故か少し涙が見えた気がするが……首を傾げながらアキトはユリカを抱き抱えて部屋に入った。

 

 

 

 

Side.O ではなくA

 

 布団の中に潜り込みシクシクと泣き濡れる朧の姿に、朱絹はため息をついた。

 夫の弦之介から自身が居ない間の里衆の統制を任されて一月経ち、ホシノ中佐の元で働く弦之介の期待に応える為にあれこれと行う朧の試みは、大体が斜め上か下に転がる結果になっている。

 

 彼女が努力している姿によってこの集落にも受け入れられつつある為、決して無駄ではない。むしろただ黙々と仕事を熟すよりも早く溶け込めている気がしないでもないし、伊賀と甲賀の蟠りも少しづつ改善して行っているのだが、失敗を繰り返している当人からすれば気休めにもならないだろう。

 

「朱絹殿」

「小四郎殿!」

 

 襖越しに声をかけられ、少し声を上擦らせながら朱絹は手早く身嗜みを整えて、そっと襖に手を掛ける。

 少しだけ襖を開け、その姿を確認した朱絹は静かに襖を開いて外に出た。

 

「ひ……朧様は、お休みですか?」

「少し、そっとしてあげましょう。今は時間だけが何よりの薬となります」

「えっ……あ、いや。では、明日挨拶をさせて頂きます」

 

 武家屋敷の形に誂えられた伊賀の屋敷の庭先は、植生が違う為元の通りとはいかないが日本庭園のような姿に整えられている。

 その庭先で、恋人達は久々の逢瀬を楽しんでいた。

 

「それでは、弦之介……様達は順調に勲功を重ねているのですね」

「はい。天膳様が死んでおられる事にも最近ようやっと慣れたと仰られていました」

「まぁ。天膳殿は相変わらずなのですね」

 

 その様子を思い浮かべ、二人は堪らず笑いだした。

 考えられない事だ。三年前まで会えば殺し合う間柄だった伊賀者と甲賀者が、今では肩を並べて共に戦っているのだから。

 あの統合から全てが変わった。彼等の里は外敵の多い世界に接していた。憎み合っていた伊賀と甲賀は、互いが生き残る為に手を結んだ。元々不戦の条約を交わし、婚礼同盟を結ぶ予定だった事もある。

 それから一年。襲い来る鬼のような生物との戦い。我武者羅に戦って、戦って、戦い続けて。生き延びた彼等を待っていたのは、どうしようもない絶望……BETAの侵攻であった。

 

 そして、我々の里は。生まれ育った故郷はBETAの海に飲まれて消えた。

 伊賀も甲賀も等しく死んだ。前頭領のお幻も、甲賀の前頭領甲賀弾正もBETAの海に轢き潰されて死んだ。

生き残った者は両方の里を合わせて100名も居まい。

そして、生き残った者達もその後に同じ運命を辿る筈だった。

 BETAの海から二人の人間を抱えて現れた、黒いコートの男が居なければ。

 

『我々はかの御仁に生かされた。故に命の礼は命で返す。各々方、異論があらば前に出よ』

 

 ブラック・ジャック様の慈悲により、彼の脱出に合わせて命を拾った我々の前で、甲賀弦之介……現頭領がそう宣言し、その言葉に誰も歯向かうものは居なかった。

 あの天膳殿ですらも。

 それだけ、あのBETAの海が我々に与えたものは大きかった。

 

 弦之介の妻である朧が色を使ってでもブラック・ジャック様に取り入ろうとした事を、誰も問題視しなかったのはその為だ。結果は成功とは言えなかったが、彼の心の内を朧は引き出す事が出来た。それだけでも十分過ぎる程の成果である事に彼女だけは気付いていないが。

 

『感謝している』

 

 この言葉がどれだけ嬉しかったか、彼には分からないのだろう。彼は常に感謝され続けている人物だ。彼にとっては、当然の事なのかもしれない。

 

「小四郎殿、お戻りはすぐになるのですか?」

「頭領からは、数日は骨を休めよと仰せつかっておりますが……」

「ご報告したき事がございます。実は……」

 

 朱絹にとって朧は仕える主であると共に、手の掛かる妹でもある。

 そんな妹のあげた大戦果を、朱絹は嬉しそうに語り始めた。




ウリバタケ・セイヤ:機動戦艦ナデシコの誇る?「こんなこともあろうかと」枠。劇中で10歳年下の女の子にマジで不倫を持ち掛けているが、きっちり振られている。ただ、何故か奥さんとは仲直りして劇場版では新しい子供まで生まれてる。爆発しろ。

テンカワ・アキト:元黒の王子様。現見習いコック兼護衛兼運転手。とても似合っていたらしい。

朧:ピチピチスーツの方だと思った人は挙手。
弦之介と婚姻。子供はまだだが仲睦まじい模様。また、朧の猫耳メイド姿の写真は無事小四郎経由で弦之介の元に届いた。

フェイリス・ニャンニャン:クロオとの2ショット写真をフェニックスパレスに見せた所、無事羨ましがられた模様。その場に居たダルはむしろウリバタケの方に反応していた。

朱絹:実はメイドの中に紛れていたり常に朧の近くにいた。彼女にとって出来の悪い妹の奮闘が実った目出度い日なのだが朧にとっては完全に黒歴史入りなので、褒められる度に心を鑢で削られているのに気付いてない。

筑摩小四郎:朱絹から必ず弦之介に渡すようにと封筒を渡された。中身は開けるまで知らない。なお全く関係ないが、アニメ版バジリスクでは小四郎は朧に片思いをしてるくさい描写が何度かあった。深い意味はない。

トキ:最近七花に見知った南斗聖拳を伝授している。

七実:力を貯めている。


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ハインリヒ(注意・今回完全にオッサン向け)

彼、大好きなんですよね。


誤字修正:50ノーティカルマイルの空様、ハクオロ様、ミスターパンプキン様、kubiwatuki様、とくほ様、竜人機様、五武蓮様、Gifld様、亜蘭作務村様、佐藤東沙様、KAORI@マーク様、名無しの通りすがり様、オカムー様、薊(tbistle)様、kuzuchi様、ドン吉様、キテレツ様ありがとうございました!
それと今回、結構な部分佐藤東沙様の添削を受けたので次回はもう少し頑張ります(震え声)


「…………終わったぞ」

「ああ……ありがとよ、先生」

 

 上着を羽織る。肌の感覚が鋭敏過ぎて眩暈がしそうだった。

 いや、これが普通の人間の感覚か。数十年ぶりで忘れてしまっていた。生身の部分も多い他の仲間たちは、こんな感覚なんだろうか。

 右手を見る。彼の硬質な指は全て人の肌色で覆い隠され、その下の凶器は影も形も見えない。

 完璧な仕事だった。

 

「素直に全身をクローニングすればもっと手早かったんだがな?」

 

 皮肉るように笑うブラック・ジャックの言葉に、心が揺れるのを感じた。

 生身の体。オレ達が望んでやまないソレは、この世界では比較的容易に手に入るものだった。

 

「10年前に聞きたかったよ」

 

 本音と皮肉を半々に混ぜて返すと、ブラック・ジャックは苦笑を浮かべた。この男も、似たような経験を持っている。下らない質問をしたと思っているのだろう。

 

 今更。そう、今更だ。恋人を失い…………体を改造され、人から兵器になった。仲間たちと組織から逃げ出してからは、逃れる為、生き残る為に戦い続けた。

 そのうち銀色に光る右腕に愛着すら感じるようになり、宿敵との戦いにケリをつけて。そして、組織の残党を少しずつ潰し、ようやく平和な生活を送れるかと思った矢先に統合に巻き込まれた。

 

 神様という奴が碌でもない野郎だという事は知っていたが、戦いに次ぐ戦いの果てに待っていたのがこのクソみたいに混雑した世界だというのは、流石に酷すぎるだろう。

 

 オレ達にとって唯一幸いだった事は、近隣の世界がまともな文明と知性を持っていて、まず対話する事からスタート出来た事だ。もしこれでチキュウエリアのように人類間の戦争に駆り出されていたら、心の弱い仲間は、あるいは耐えきれなかったかもしれない。

 

 ……服を着終わった。体を触る際に柔らかい感触を感じ、所々戸惑いながらの着替えだった。

 戸惑う、というよりは思い出す、だろうか。

 柔らかい金属。ブラック・ジャックはオリハルコンと言っていた。様々な金属と混合させることによって多種多様な性質を持つこの合金を、彼はオレ達の人工皮膚と人工筋肉に組み入れた。

 

 その結果が、これだ。

 右手を眺める。そこには普通の人間の手があった。開いて、閉じる。違和感はない。

 専門外の分野とはいえ、この男の施術でそんな物が出るとは思わない。だが、試さずにはいられなかった。

 今までの人工皮膚とはレベルが違う。感覚まで、完璧に再現されている気がする。

 

「ナイフを出しても?」

「ああ、構わんよ」

 

 部屋の主に許可を取り、左手からレーザーナイフを出す。使い慣れたナイフの感触と、慣れない自身の皮膚を焼き切る感触。幸いな事に痛覚はない。

 機能は損なわれていないようだが、早めに試しておいて良かった。違和感に足が取られたらそこでお陀仏となりかねない。

 

 そして、今度はナイフを仕舞う。さて、どうなるか。

 レーザーナイフが消えた後は、切り開かれ焼け焦げた跡が残っている。これだけでは意味がない。問題はここからだ。

 理論上は問題ないと分かっている。だが、実際に目で見て確かめないと信頼が置けない。兵器は何よりも信頼性が重要だ。

 兵器として生まれ、裏切った者(オレ)が言うのだ。間違いない。

 

「……良いね」

 

 傷口を見守っていると、ミリミリと音を立てて周囲の皮膚が傷口を覆い隠していく。カバーの速度も中々だ。

 これならナイフを出している所を見られなければ早々問題はないだろう。

 同じ要領で肘や膝の仕掛けを動かしてみる。こちらも裂けた皮膚が数秒で治り、元の様に覆い被さった。

 

「他の連中にも施しているがお前さんのは特別仕様だ。調整の具合はどうだ?」

「痛みを感じない事以外は、人間にしか思えんな。本当にこっちの知識はないのかい?」

「機械系統の知識はない。人にやり方を聞いてようやく…………といった所だな。結果の良し悪しがわからんから、あまり専門外の事はやりたくないな」

「…………あんたを知れば知るほど世の天才とやらが霞んで見えるよ」

「そいつぁ光栄だ」

 

 冗談めかしたブラック・ジャックの言葉を聞きながら、傷の消えた左手を握る。先程までの傷は欠片も残さず消えている。この難しい施術を、この男は本心から大したことじゃないと思っているのだろう。

 香月夕呼が苦手とする理由が分かった気がする。これと比べられるのなら天才なんぞと呼ばれたくはないだろうな。

 

「暫くは慣らしてから現場に出てくれ。それと、ギルモア先生に間が勉強になりましたと言っていた、と伝えて欲しい」

「ああ、必ず伝えておく………………なぁ、先生」

「うん?」

 

 了承の意を伝え、そしてそのまま部屋を後にしようとした時。思わずオレは振り返った。

 心の片隅で彼に問いかけようと思っていた言葉。もしかしたら、という思いがずっと燻っている言葉。

 そのまま何も無かった事にして去るのが最善だとは分かっている。分かっているのだ。

 だが、一度開かれた口を閉じる事が何故か出来ない。

 

「もし、もしだ…………」

 

 

 

 ブラック・ジャックの診療所を後にする。ドアを開けた時体中で感じる情報量の多さに少し困惑を覚える。

 風が吹き付けるだけでこれか。慣れるまでは実戦は控えた方が良さそうだ。

時刻はまだ昼を少し越えた辺りだろう。迎えの時間まではまだ間がある。少し、散策でもしようか。どうしようもなく歩きたい気分だった。

 

昼時だからか、朝方訪れた時には煩いほどに多かった少年兵たちの姿は無く、彼らが家屋を建てているのだろう工事現場には、重機代わりのMWが乗り主不在の状態で置き去られている。昼飯でも食べに行っているのだろう。

 無用心な、と思ったがこの集落の鉄壁さを思い出し考え直す。

 

 以前、初めて訪れた時。ただ訪れただけなのに殺す気で襲ってきたあの恐ろしい女を思い出す。あの時は本当に死ぬかと思った。

生身の女・・・・・・しかも娘と呼ばれる年齢の・・・・・・が009相手に加速装置を使わせ、そして、その速度域に対応してみせた時、オレはあの娘をスカールやボグート並の強敵と認識した。

 トキと名乗る医師が割って入らなければ、恐らくオレ達の誰かとあの娘は死んでいただろう。オレに002、005、009。フルメンバーとはいかないが、戦闘向きのサイボーグ4名がかりで誰かが犠牲になると思わされた。後に鑢六枝の娘であると聞いたが、化け物の娘はまた化け物だったという事だ。いや、もしかしたら娘の方がより…………。

 

 そこまで考えて、右手を眺める。少し悪い方へ考えが寄っていた。

 自分達がここに攻め込むなんて事は天地が裂けてもないだろう。立場的にも、恩義としても。カセイエリアの行政府は何故かあの男を特別視している。

 命がけで守れと言われる事はあるかもしれないが、攻めるなんてことはそうそう起きまい。

 戻ったら、ギルモア博士に感謝しなければならない。あれだけ気難しい男に電話一つで依頼を飲ませたのだから。

 しかも、ブラック・ジャックの口ぶりを考えるに感謝までさせたのだ。どれだけの手札を切った事だろうか。

 

「やぁ、ハインリヒさん。今日で終わりですか?」

「ああ…………レオリオ君か。先ほど見てもらった。特に異常は感じないから、暫くは様子見をしろ、だそうだ」

「成る程……少し、見せてもらっても?」

 

 ラフな格好で現れたレオリオがそう声をかけてくる。了承し、右腕を彼に見せると、しげしげと眺めながらズボンからボロボロのメモ帳を取り出し、書き込みを始める。

 ブラック・ジャックの弟子だと言うが、非常に向上心のある青年だ。

 ここを訪れる際、彼が窓口になる為何度かやり取りをしているが、その実直さと見え隠れする優秀さに00ナンバーズ内でも彼の評価は高い。

 診療されたら改造されると専ら評判の医療部門に来てくれないだろうか、と同僚との話のネタにしているほどだ。

 

「しかし、あんたの専門は医療だろう。こいつはブラック・ジャック本人も言っていたが完全に専門外だぜ?」

「人しか治さないなんて時代じゃないでしょう。サイボーグ化した人物の治療も行うと考えれば、少しでも知識は蓄えるべきなんだ。先生も、皆さんのお陰で勉強になったと喜んでましたよ…………皆さんには、直接言わないでしょうがね」

 

 レオリオの言葉に思わず成る程、と思ってしまった。

このカセイエリアには掃いて捨てるほどに失った体の一部をサイボーグ化して生活している人間が居る。

 彼らが病気になった時や怪我をした時、それらを診るのは医者の仕事になるのだ。

 治したは良いが機械化部分が壊れて余計に危ない事になるなんて、笑えない事態も起こりえる。最低限知識は必要だろう。

 しかし、喜んでいる、か。

 偏屈な部分が目立つが、ここに引き篭もっていても新しい知識に関しては未だに貪欲らしいな。

 

「……ありがとうございました。本当に普通の腕と見分けが付かない……素晴らしい」

 

 メモを取り終えたレオリオはそう言って軽く頭を下げた。

 その賞賛の言葉に同意を込めて頷く。

 

「ああ、流石の出来だ。感覚まで再現されているからな……そうだ。右手のギミックを動かしたいんだが、どこかに銃を撃っても良い場所はないかな?」

「ああ。なら俺も今から行くんでご案内しますよ」

 

 時間もあるし軽く慣らしでもしようと思ってそうレオリオに尋ねると、レオリオは自身の行き先と一緒だと案内を買って出てくれた。

 特に異論もないし、ただ歩くだけよりも誰かと話しながら歩いた方が憂鬱な気分が紛れる気がしたため、連れ立って集落の中を歩く事に決めた。

 レオリオから聞くところによると、行き先は集落の外れにある、新しい開拓予定地らしい。

 何故そんな場所で? と尋ねると、ただそこが最も被害にあっても問題がないからだとレオリオは簡潔に答えた。

 被害と言う言葉に一抹の不安を感じながら、彼の行先についていく。

 

 そして、5、6分ほど歩いて集落の外れから森の中に続く獣道に入ると、被害と言う言葉がけして比喩表現ではないという事を知った。

 その森の中で開けた一角はまるでそこだけ大きな嵐にでもあったかのように荒れ果てていた。

 木々が半ばから折れていたり、二つに裂けているものもある。地面には隕石でも落ちてきたのか大きな穴が開いている箇所が数箇所あった。

 極めつけは、広場の真ん中に刺さっている数本の巨大な樹木だろうか。

刺さっている。そう、これも表現などではない。そうそうお目にかかれないほどの太さの幹を持つ巨大な樹木が、逆さまになってむりやり広場に打ち込まれている。

 

「…………クレイジー」

「あ、やっぱりあれおかしいですよね。最近慣れちまったからなぁ」

 

 思わず呟いた言葉にレオリオが嬉しそうに反応した。この光景を慣れたで済ませるお前さんも大概なんだがなぁ。

 言葉を飲み込んで、広場を見渡す。広場の中央では黒い長髪の男と黒い長髪の女が拳を交えている。

 いや、あれは拳を交えていると言う言葉で表して良いのだろうか。

 女が拳を振るう度に地が裂け、風が吼える。見覚えのある光景だ。

 

「相変わらず凄まじい女だ」

「ああ。ハインリヒさんは七実ちゃんと戦ったことがあるんでしたっけ」

「思い出したくもない。我ながら良く生き残ったもんだよ」

 

 思わずその一挙手一投足に目を奪われる。

 武と舞は根幹の部分で同じだと聞いた事があるが、成る程。確かに鑢七実の戦う姿は美しかった。

 そして、それは相手の男にも言える事だ。

 鑢七実の武が動であるとするならば、対する男トキの武は静だろうか。

 七実の巧みな足運びにも反応せず、同じ場所から動かずに構えを変え、向きを変え。

 傍から見れば、まるで型稽古を連続して行っているように見えるだろう。

 勿論、そんなわけがない。そう見えるほどに最小限の動作で、あの男は七実の全方位から繰り返される攻撃を捌ききっているのだ。

 ただの一度も自身から攻撃を行わずに。

 

「成る程。あれがトキか」

「ええ。あれがトキ先生です」

 

 思わず賞賛の意味を込めて名前を呟くと、まるで我が事のようにレオリオは嬉しそうに言った。人格も申し分ないようだ。

 何度か防衛機構がスカウトを打診して、その都度断られていると聞いていたが、あれは確かに放っておく事はできないだろうな。

 彼が同僚であればどれだけ助かる事か。思わずため息がこぼれる。

 

「レオリオ君。すまないがどの辺りなら試し撃ちをしても構わないかな」

「ああ、それなら……」

 

 あれを見ていると思わず声をかけてしまいそうになる。

 目を逸らす意味でも、この場に来た目的を果たそうとレオリオに声をかける。彼はその言葉に頷いて、空き地の端の方を指差そうとし、ぎょっとした表情を浮かべて顔を両腕で守った。

 ドガン、と音がして、レオリオの姿が視界から消える。そして、代わりに見知った顔の長い髪の女が先ほどまでレオリオが居た辺りでくるりと宙返りをして、ぴたりと立った。

不味い。と思った瞬間に体が動いて後ろに飛ぶ。人工筋肉の反応速度が速い。自分の理解が及んだ瞬間に、体が勝手に動いたようだ。が、それが功を奏したらしい。

 

「…………あら? 打ち込んだと思ったのだけれど――」

 

 オレが居た場所を貫手で打ち抜いた姿勢のまま、七実は不思議そうに首を傾げた。

 首を傾げたいのはこちらの方だ。防護服を着こんで来れば良かったと、まさか思うことになるとは思わなかった。

 チラリと吹き飛ばされただろうレオリオの方に目をやる。ダメージは無かったらしく、慌てたようにこちらに向かっている。

 

「襲われる覚えはないんだがな」

「その体を試しに来たのでしょう? 以前いらっしゃった時には半端をしてしまいましたから――お詫びにお付き合いしようと思いまして」

 

 そう言って、七実は可愛らしい笑顔を浮かべて姿を消した。

 速い、というよりは迅い。サイボーグである自身は確かに通常の人間よりも、圧倒的に反射神経が優れているが、何かに意識を取られたりすれば勿論そこに集中してしまう為、周りに対する反応が遅れてしまう。そして集中していたからこそ一度対象を見失ってしまえば、手痛いしっぺ返しがくる事になる。

 咄嗟に前転しようとし、間に合わず背後から切り裂かれる事になった。

 

「グゥッ」

「咄嗟に反応されるとは思いませんでした。以前の時も思ったのですが、貴方はかなり上手い方――なのでしょうね。ああ、勿論傷つかないように調整してあります。貴方の筋肉を抜く事は出来ない程度にですが」

「そいつぁ、ありがとうよ!」

 

 スーパーガンをパラライザーに設定。威力を最低にまで落として七実を撃つ。が、再び霞むように消えた七実の身を閃光が穿つ事はなかった。

 まただ。或いは音速ですら反応する自身の反射神経を彼女はあっさりと振り切った。

 足に力を込めて跳躍する。あれに慣れるには時間がかかる。少しでも距離をとらなければいけない。

足の膝に仕込まれたミサイルを地面に撃ち込む。爆風に煽られて少し体勢が崩れるも、視界の端で七実が爆風から逃れたのが見えた。

 姿が見える。やはり最初の移動が全ての要なのだろう。

 けん制代わりにパラライザーを連射し、相手の出鼻をくじく。

 

「恐らく初速。そこが全ての要って所か。今オレが撃ってるのは麻痺銃だ。当たっても問題ないぜ?」

「ご明察です。やっぱり貴方は上手い方なんですね――もっと色々見せてください」

 

くるりと体勢を整えて七実に向き直る。着物の汚れが気になるのかぱんぱんと服を払い、七実は静かに構えを取った。

 既視感を覚える。この姿を自身は見たことがある。ここではなくどこか。もっと血生臭い場所で。

 不味い、と思った瞬間、七実の首筋にトキの手刀が突き刺さった。

 ぐらり、と揺れる娘の体を、優しくトキが抱きとめる。

 

「すまないな。どうにもこの娘は少し血の気が多くてね」

「…………止めるなら、早めに止めてくれよ」

「君ほどの戦闘巧者との手合わせは、貴重な経験だからな。咄嗟の判断、洞察力。見事なものだった」

「……そいつぁ、光栄だ」

 

 真顔でそう言い切るトキに、先ほどブラック・ジャックに言われた言葉を返す。

 皮肉を言われても面の皮一つ動かない、か。いつでも飛び出せるよう準備してた辺り人格者ではあるのだろうが、武芸者特有の精神性は持っているらしい。

 強くなる為なら本当に何でもやるからな。武芸者(こいつら)は。

 

「トキ先生! クロオ先生のお客さんに何て事してんすか!」

「クロオ君からは事前に聞いている。彼らはいわば新しい体を授かったばかり。一度動かしてみるのが一番手早いリハビリになる」

「色々文句はあるが……まぁ、そうだな。確かに反応速度やら色々確認しとかなきゃいけない物は見えた気がする」

 

 反射速度が上がりすぎて、咄嗟の行動でとんでもない事が起こりえる。この空き地でソレが分かったのは確かに僥倖だったかもしれないが、それはそれだ。

 トキに対して貸し一つ、と伝えると、彼は黙って頷いた。

 

 

「よう、どうだハインリヒ。新しい肌は」

「ああ…………お前かジェット。ああ、良好だよ。良すぎてビックリしちまった」

 

 迎えに来た垂直離着陸機に乗り込むと、そこには同じ00ナンバーサイボーグの仲間、002、ジェット・リンクの姿があった。

 わざわざ任務の途中で迎えに来てくれたらしい。

 機体に乗り込み、そのままヘルメットを被る。マッハにも耐えられる構造をしている彼らにGスーツは必要ない。

 キャノピーが閉じられると、ジェットはエンジンに熱を入れた。

 

「で、どうだった、あの子」

「あん?」

 

 重力制御システムによって浮き上がり、徐々に角度を変えていく機体の中ジェットがオレに尋ねてきた。

 良く意味が分からずに聞き返すと、ジェットは「ほら」と呟きクイクイと親指を外に向ける。

 指が向いている先を見ると、そこには笑顔で手を振る七実の姿があった。

 

「初めて会った時はおっそろしい子だと思ったがよ、話してみたら可愛い良い子だったな。お前とジョーに御執心で偉く話をせがまれたぜ」

「……よせやい。もう、そういうのは良いんだ」

「…………そうか。すまん、な」

 

 口ごもったジェットに、いや…………とだけ返して、俺は外を見る。

 人は、生き返らせることは出来ない。それは、医者の仕事ではない。

 当然の事だった。質問するまでも無いことだ。

 ただ、何故かあの時。俺はこの言葉を止める事が出来なかった。

 

 

side.T

 

「七実君」

「はい。あら、トキ先生。先ほどはどうも」

「ああ。加減はしたが、痣にはなっていなければいいが」

「お気になさらず。修練に傷は付き物――なのですよね?」

 

 問いかけるように尋ねる彼女に、トキは一つ頷いた。

 強すぎて修練で傷を負う、という事が彼女には殆ど無いのだ。

 彼女の弟は毎日のように生傷を絶やさず修練している。

 その事を見て学習している彼女は、自身に経験は無いが修練とはそういうものだと仮定してこう言葉にしたのだろう。

 

 歪である。非常に。北斗の者に生まれていれば…………或いは女子の身で伝承者にすらなれたやも知れぬ才。

 その才を妨げていた病は彼女から消えうせ、阻む物が無くなった彼女の拳は日に日に鋭く、迅くなっていく。

 或いは後10年も修行を積めば、無の境地にすら届くやも知れないと思わせるほどの拳才。

 それゆえに、トキは惜しいと感じていた。

 ただ才に任せて伸ばした拳では決して伝承者には届かないのだから。

 

「時に七実君。確認したいのだが」

「――はい?」

「あの構え、私は君に見せた事はない。どこで見た?」

 

 故に、トキは自身に役目を課した。クロオという異才を見守るという役割とは別に、もう一つ。

 トキの質問に、七実は目を輝かせて口元を綻ばせる。

 その笑みは、父親に褒められる事を期待した幼子のような笑顔だった。

 

「――北斗」

 

 七実は両掌を相手に向けるように腕を伸ばし、膝を曲げて腰を落とす。

 馬歩の構え。

 

「羅漢撃」

 

 可憐な声と共に無数の腕の残像を生み出し、七実はトキに向かって真っ直ぐに突き進んだ。

 全力を出さずとも勝ててしまう彼女の全力を受け止める。

 己に課した役目を全うする為、トキは静かに構えを取った。

 

 

side.K あるいは蛇足

 

『すまぬなぁ。面倒をかけてしまって』

「いえ。私も良い勉強をさせていただきました。また何かあれば連絡をお願いします。それでは」

 

 電話先の渋い声に声が弾みそうになるのを抑えながら、俺はギルモア博士との電話を終えた。

 ハインリヒは約束通りに伝言を伝えてくれたらしい。電話で言えば良い? 恥ずかしいから嫌だ。

 今回、完全に専門外の分野だったから殆ど『最適解』さんに頼ってたんだが、『最適解』さん気を緩めるとすぐに彼らを生身の体に戻そうとするから非常に疲れる手術だった。ハインリヒに対してつい生身に戻した方が楽って言っちまったけど気にしてないだろうか。

 

 まあ、それよりもギルモア博士だ。うん、凄いなギルモア博士。

 勉強になりました、尊敬してます。

俺の手元にあるクローニング技術を使って、オリハルコンを元にした人工筋肉を作ってそれをサイボーグの人工筋肉に入れ替えて戦力アップを図る。という計画らしいんだが、この計画書の最初の部分だけを見たらマッド感漂っているが、中身を見たら外観は人間そっくりに。もしそれが出来なかったり、本人達が望むなら人間の体に、という親心としか思えない内容で思わず二つ返事で受け、昔のツテをたどってオリハルコンの加工技術を調べたり色々頑張ってしまった。

 

 最初の施術の時はギルモア博士にも色々手伝ってもらったしな。人を治すためだけ以外に手術をしたのは…………ドラえもんも含めれば初ではないのか。あっちは修理だったが。非常に糧になる一件だったが、正直、未知の知識が頭になだれ込んできていて暫く難しい手術はしたくない。

 あと、今回施術の前に力を借りたいと防衛機構に頼んだ結果、鷲羽さんに連絡を取れたのがある意味一番の収穫かもしれない。ドラえもんの修理の際も彼女には本当に世話になったし、借りばかりが溜まってしまっている。今度チキュウエリアに行く時は菓子折りを持っていかないといけないだろうな。

 

ハインリヒのカルテを書き終える。さて、次は005、ジェロニモ・ジュニアか。面積こそ大きいがハインリヒほど複雑な手術は必要ない。一番の山場は越えたといっても過言ではないし、残りのメンバーも早めに終わらせるとしよう。

 

 しかし…………うむ。やはりな。

 日課になるブラック・ジャックの単行本を読み返す。デザインが全然違うのに本間博士とギルモア博士が似通っているように感じてならない。やはり鼻が大きいのと大きなゲジ眉のせいだろうか。

 実際に会ってみると全然違うのは分かるのだが、不思議と彼の言葉には素直に頷いてしまう自分が居る。

 

 単行本の中では、玄関先で嘆くブラック・ジャック先生に本間先生の幻影が慰めるように声をかけている。

 この話を、俺は必ず一日に一度読むことにしている。

 生き物の生き死にを自由にするなんておこがましいことなのかもしれない。この言葉を、胸に刻みつけるためにだ。

 こんな命の軽い世界で、こんな『最適解』(チート)を持ってしまった自身を縛る為に。

 俺はブラック・ジャック(本物)ではないのだから。

 

「やっぱり英雄なんて柄じゃないよなぁ…………」

 

 苦笑を浮かべながらそう呟いて、俺はブラック・ジャック(原作)に向かって手を合わせる。

 お願いします手塚先生(神様)。次の統合ではブラック・ジャックをよろしく!

 




アルベルト・ハインリヒ:サイボーグ009より。00ナンバーサイボーグの火力担当。後悲恋担当。普段は長距離トラックの運転手に扮して色々な世界で諜報活動を行っている。

ジェット・リンク:サイボーグ009より登場。00ナンバーズの空中戦担当。足のジェット機能で空中をマッハ5で飛べる。加速装置を有するなど戦闘能力も悪くないのだが、七実はあまりお気に召さなかったらしい。

レオリオ:昼飯時だった為鍛錬組への声かけとぶっ倒れているだろう七花とアキトを介抱する為に広場に向かっていた。尚、鍛錬組の昼飯を用意しているのはユリカなので、アキトはぶっ倒れる前に七実に帰される場合もある。

トキ:今回は後書きが本番じゃなかった。七実の羅漢撃を受けきり投げ飛ばした模様。ケンシロウに連絡を取るか迷っている。

鑢七実:今回は後書きが本番じゃなかった。強敵との手合わせで満足していた所にトキに対して全力を出せた為かなりご満悦状態。割と全力で放った羅漢撃を受けきられて更にドン。そもそも彼女と羅漢撃はかなり相性が悪い技なのだがそこには気づいていない。

ギルモア博士:サイボーグ009より。サイボーグたちの生みの親であり天才科学者。大きな鷲鼻と白髪、またサイボーグたちに対する姿勢にクロオは尊敬の念を抱いている。ただしマッド気質もある。


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ゴブリンスレイヤー(旧題:とある少年の話)

暫くこのタイトルになります。
最近、30歳以上向けにばかりなっていた為少し最近の話からチョイス。
一人称オンリーで作ろうとしてるんですが、やはり難しいですね。

誤字修正、とくほ様、五武蓮様、ハクオロ様、佐藤東沙様、燃えるタンポポ様、椦紋様、不死蓬莱様、影鴉様、あまにた様、名無しの通りすがり様、竜人機様、匿名鬼謀様、名無しの通りすがり様、赤頭巾様ありがとうございました!


 その人を姉さんが見つけてきたのは、ある雨の日の事だった。

 

 当時の俺はまだまだ子供で家の手伝いも大してできず、雨の日は自宅の中で退屈を持て余していた。そんな時、薬草園の様子を見に行っていた姉さんが男を背負って家に飛び込んできたのだ。男はずぶ濡れで、顔の一部は黒く変色しており一見すると死んだようにしか見えなかった。

 

「大変……体が冷え切ってる」

 

 姉さんは言って男の服を脱がせ始め、俺は姉さんの指示を受けて急いで暖炉に火をおこし、暖炉の前に毛布を並べた。毛布の上に男を寝かせた後、姉さんは薄着になって男の体の上に覆いかぶさる。少しでも温度を上げる為の知恵らしい。体温が低くなれば人は緩慢な死に向かう。

 

「狩人だった父さんが、そう教えてくれたの」

「……父さんが?」

 

 物心付く前に亡くなった両親の事を俺は覚えていない。俺の問いに姉は少し寂しそうに頷いて、また男の体に自身の体を密着させる。

 途中交代しながら、俺と姉さんは男の顔色に血の気が差すまで男の体を温め続けた。男の顔色が戻ったのを見計らって、姉さんは村長を呼びに行くと言って家を出て行った。俺はその間に男の衣服を纏めて置き、死んだ父さんの服を男に着せる。父さんと男の体格は似通っているらしく、着せるのに苦労する事はなかった。

 

「……すげっ」

 

 男に服を着せながら、俺は彼の体を隅々まで見ることになった。彼の引き締まった体は全身に縫い合わせたかのような傷跡があり、更には痣か何かになって変色したと思っていた顔の一部は、全く違う肌色をしている事に気づいた。今までに見たことの無い、異貌の持ち主だ。そして彼の着ていたコートの中には沢山の刃物が入っていて、とてもまともな職業の人間だとは思えない。俺はこの時、もしかしたらとんでもない人物を助けてしまったのではないかと考えた。

 

 それから程なく、姉さんは村長や隣家のおじさんを連れて帰ってきた。村長は男を一瞥し、こんな容姿の人間は見た事も聞いたことも無い。もしや魔族なのではないかと疑い始めた。隣家のおじさんは兵士だった経験がある為それを否定したが、しかし確かにこんな人間は見たことが無いと警戒感を露にした。

 すぐに追放した方がいいのではないか、という村長の言葉に俺もその方が良いのではないかと思ったのだが、姉さんはその言葉に首を横に振る。

 

「この人の体からは……とても強い火酒の匂いと薬品の香りがします。もしかしたら、旅の途中のお医者様や薬師なのかもしれません」

「むぅ……もし、そうなら確かに、村にとって貴重な機会ではあるが……」

 

 辺境の村では医者も薬師も居ないという場所もままある。幸いにもこの村には姉さんが居るが、その姉さん自体が母さんが病死した為に急場で薬師を継ぐ事になった半人前だ。もし、彼がそのどちらかであるならば、その知識の価値は計り知れない。

 姉さんはそう言って村長達に目覚めるまで猶予が欲しいと訴えた。急に跡を継ぐ事になった姉さんはまだまだ薬師としての信頼度は低い。もしこの男が姉さんの言うとおりに医師や薬師なら万々歳。仮に違ってもたった一人くらいはどうとでもなる。村長はそう考えたらしく、姉さんの提案を受け入れた。

 

 勿論、姉さんと俺の姉弟二人暮らしのこの家に、余所者の男が居て万が一があってはならない。兵士としての訓練を受けた事がある隣家のおじさんと村長の息子さんが念の為、今夜はうちにいてくれる事になった。姉さんは二人に頭を下げて、迷惑をかけたお詫びに、と夕食のシチューを二人に振る舞った。二人は美味しい美味しいと姉さんの手料理を食べ、交代で寝ずの番についた。

 

 ここから先は村長の息子に後に聞いた話になるが、男が目覚めたのは夜更け過ぎだったらしい。その時分は子供だった俺はベッドの中に居て良く覚えていないが、男はいきなり跳ね起きると何かに怯えるようにベッドから転げ落ち、外に逃げようとしたらしい。その時当番だった村長の息子が慌てて取り押さえ、その騒ぎに起き出してきた隣家のおじさんと一緒に彼が落ち着くまで押さえ込む羽目になったと、後ほどこの時の事を語った村長の息子は愚痴っていた。

 

 一度落ち着いた後の男は非常に理性的な人物だった。ニホンという遠国からとんでもない化け物の手でこの辺りに転移の魔法で飛ばされてしまったそうで、姉さんの考えていた通り母国では医者を営んでいたらしい。助けてもらった事には非常に感謝しており、何かできる事があれば何でもすると村長達に言ったらしい。良い方向に予想が当たった村長は気を良くして、村の空き家の一つを彼に貸し与えて体調の悪い者を診て欲しいと頼んだ。後、出来れば姉さんに手ほどきをして欲しい、とも。

 

 知識は宝にも等しいものだ。特に医療や数学と言った知識、技術は精通すればそれだけで飯が食える。命の恩という大きな借りがあるとは言え、男は笑顔でその申し出を受け入れ、次の日からは姉さんと小間使いに俺を連れて村中の人間を診察していった。

 間違いではない。村中の、だ。

 

「ほ、本当に今から全部?」

「無論だとも。時間が惜しい。道案内を頼む」

 

 隣家のおじさんが畑に出る前に捕まえて軽く診断したのを皮切りに隣家のおばさん、その子供、そしてそれが終わったらまた次の家に、人が居なければその人物の畑に行き、といった具合に男は健康状態に問題があるかないかを歩いて見て回り、多少の風邪や持病の持ち主まで村人全員の健康状態を2、3日で把握すると、今度は狩人を捕まえて山の中に入っていった。

 流石に山の中まで案内してくれと言われずにほっとした俺と、見るもの全てが勉強、といった具合でここ数日動き続けていた姉さんが家で体を休めていると、持っていった籠一杯に薬草やら虫やらを詰め込んだ男が家に戻ってきて、姉さんに声をかけた。

 

「調合をしたい。設備を借りてもいいかな?」

「……あの、その背中にあるのは。あと、蛇が籠から垂れて」

「全て薬になるものばかりだ。あと、その蛇は毒蛇だからすでに絞めてあるが、垂れる液体は猛毒らしい。気をつけてくれ」

「あ、はい」

 

 笑顔を浮かべてそう言う男に姉さんは何かを言おうとして諦めた。俺は調合用に使っている部屋に案内される男の背後から付いてくる、大きな猪を背負った狩人を見た。非常に疲れた顔をしており、山の中で何があったのかがその表情だけで察せてしまった。彼はその後も男……先生の無茶振りに付き合わされるようになり、俺が知っている限りあの村で姉さんや俺の次に先生から影響を受けた人物だと思っている。今は王都で冒険者として名が通っているらしい。

 

 そして、先生はその山から採取した怪しい物体を使って本当に色々な薬を作り出した。打ち身の薬、風邪の薬。下痢止めから頭痛止め。どれもこれも素晴らしい効き目だった。効き目がありすぎて今までに作っていた薬が無用の長物になったと姉さんが嘆いたほどだ。何でもサイテキカイという辞典から得た知識を元に作ったらしい。先生と別れた後に姉さんや諸国の医術者が探し回っているが、そんな辞典はどこを探しても見つからなかったそうだ。恐らく古の知識を纏められていたものではないかと今は言われている。現存するレシピは姉さんが知る僅かなものしか残っていない。

 

 少し話が逸れてしまったな。そんな風に村の中で大暴れをしていた先生が近隣で噂になるのはそれほど時間も掛からなかった。辺境の村に名医が居る。しかも、とんでもないほどの。魔神との戦争の最中、そんな噂が流れれば当然その力に引き付けられる存在は居る。当時、激しくなる魔神軍との戦いで軍の消耗に頭を悩ませていた王国の首脳部は真偽を確かめる為と、もしも真であるならば軍医として雇い入れる事を目的に銀等級の冒険者チームを辺境の村に派遣した。

 

 俺が初めて見た冒険者チームだ。今でも覚えている。森人の精霊使いをリーダーに只人の剣士、圃人の斥候、只人の女神官。彼らは村長にまず話を通すと、混乱する村長を道案内に先生の診療所と化していた俺達の家に訪ねてきた。その当時は近隣から噂を聞いてやってきた隣村の村人も先生の診察を受けに来ていた頃で、俺達の家の前には長蛇の列が出来ていた。その様子に彼らは噂が正しいと言う事を悟ったらしい。

 

 尋ねてきた彼らは非常に丁寧な対応で先生に接していた。困惑する先生に対し、森人の精霊使いは現在の魔神と人類の戦いの状況を語り、先生の力が必要なのだと力説していた。森人というのは随分情熱的な種族なんだなとその時は思ったものだ。後ほど、他の森人と出会ってあの精霊使いが特殊なんだと分かったが。

 

「……話は、わかりました」

「ではっ!」

「いえ。その前に……村長。私は恩を返しきれたでしょうか」

 

 彼らの言葉に先生はため息を吐くと、村長に対してそう問いかける。その言葉に、村長は動揺したようだった。この時、村に彼が来てから一月程が過ぎていた。その間の彼の働きは、全て姉とこの村に救われた命の恩を返す為だけに行われていた。その事を、恐らく村長は彼の口から言われて思い出したのかもしれない。

 たった一月だけだというのに、それだけ村に彼が馴染んでいた、というのもある。ただ、恐らく村長はこの時まで、彼が務めを終えたら帰ってくるとでも思っていたのだろう。だが、ここで彼を手放せばもう戻ってくる事はない。そもそも、この村は彼には狭すぎる。そんな事はその場にいる全ての人間が感じていた。恐らく、村人全てがそう感じていた。

 

 だから、あの時姉さんは笑顔でああ言ったのだろう。

 

「先生。先生の力は、もっと大きな場面で使うべきです……十分すぎるほどに、恩を返していただきました」

「……今まで、世話になった」

 

 先生は数瞬無言で姉を見て、静かにそう言った。それから先生はいつにもまして診察の速度を上げ、日が落ちる前に全ての患者を診終わると村の面々に別れを告げて村を去っていった。最初に着ていたコートだけを持って。残り全ての荷物は村の物だと、診察のお礼に近隣の村の者が置いて行った財貨や食べ物などは全て家に置かれていた。この村で行っていた事は村への恩返しであると。最後まで先生はその姿勢を崩さなかった。

 去っていく馬車を村人総出で見送りながら、俺は姉さんと並んで手を振り続けた。先生は一度だけこちらを振り向き小さく手を振って、そして木々の中へと馬車は消えていった。泣きじゃくる姉さんの手を引きながら、俺達は先生の居ない家へと帰った。

 

 そして、その晩。俺達の村はゴブリンの群れに襲われた。

 

 

 

「はぁ!?」

「え、その、今の流れで、ですか」

「……ああ。奴らにとって俺たちの営みなどは関係ない。隙を見出したならばそこに付け込んでくる」

 

 俺の話を聞いていた妖精弓手と女神官が驚きの声を上げるが、奴らの生態を調べれば調べるほど当時の俺達の村の無用心さは際立ってくる。元兵士が居るとは言え防備もおざなり。周囲の森から村までの距離も近く、接近に気づくことが出来ない。仮に気づいたとしてもそれを周囲に知らせる手段が人の声だけだ。これではいつでも襲ってくれと言っているようなものだろう。

 そして、奴らはそんな状況に付け込んだ。その結果があの夜の襲撃だった、というわけだ。

 

「え。じゃあその村ってどうなったの? あんたが生き残ってるって事は」

「ああ。襲撃を無事に乗り切った。といっても数年帰っていないから今はどうなっているかわからんがな」

「そ、そうだったんですか……びっくりしました」

 

 俺の言葉に安堵したように二人がため息を吐く。そう、無事に襲撃を乗り切る事ができた。村の中まで入り込まれてしまったせいで数人の犠牲は出てしまったが、ゴブリンが村まで入り込んだ後と考えればないに等しいレベルの被害だ。全滅していてもおかしくなかったのだから。

 今でもあの夜の光景は目に浮かぶ。押さえつけられた俺の前で衣服を破り捨てられ、ゴブリンに嬲り者にされそうになっていた姉さん。先生が残した財貨を手に姉さんに覆いかぶさったゴブリン。そして、先生の名前を叫ぶ姉さんの声に、静かに応える声。

 

「本当の英雄というものは、ああいう人の事を言うんだろう。俺は、ああはなれない」

「……ゴブリンスレイヤーさん?」

「なんでもない」

 

 席を立ち、カウンターへと向かう。受付嬢が俺の姿を見て頬を緩める。恐らく、ゴブリン退治があるのだろう。

 幼い頃。たとえ勇者になれなくても冒険者として人々を守りたいと夢を見た。その夢は今もこの心に宿っている。俺には才覚は無い。一流の冒険者と皆は言ってくれるがとてもそんな力は持っていないと自覚している。だが、そんなものは関係ないのだ。

 あの時。無力だった自分。何も出来なかった自分が許せなかった。ゴブリンに拘り続けているのも、もしかしたらそんな女々しい心情故なのかもしれない。師匠はそんな俺を嘲笑っていた。そして、ただ一言、やれとだけ言って俺に訓練をつけた。

 

 力が無くて何も出来なかった自分はもう居ない。憧れは遥か遠く。恐らく俺の歩みでは到達できない場所にあるだろう。だが、決して見失う事はない。あの人のように大勢の人を救うことはできなくても。俺は俺のやり方で道を行く。

 それが、俺なりの彼への恩返しなのだから。

 

 

 

side.K あるいは蛇足。

 

 随分と懐かしい夢を見た。あれは統合に巻き込まれた最初の頃だったろうか。

 あのクソみたいな神だかなんだかわからない化け物に絡まれて住み慣れた日本から遠い場所にぶっ飛ばされたのが全ての始まりだった。三日三晩山の中をさまよい歩いた俺は三日目にしてようやく『最適解』さんの存在に気づき、人里にたどりつく事が出来た。ぶっちゃけ死ぬかと思っていた。

 当時はまだ『最適解』さんの切り方も分からなかったし、ずっとONにしたまま過ごしてたんだよな。暴走ってああいう事を言うんだろう。なんだよ半日で山を一周って。この体の体力は確かに優れてるが当時は念も魔法も習得してなかったし死ぬかと思ったわ。

 

 あの頃といえば、やっぱり思い出すのはあの娘の事だ。可愛かった……今にして思えばあの娘俺に惚れてたのかも知れん。ゴブリンに襲われそうになった時めっちゃ俺の名前叫んでたし。いや、でも、ないか。純粋に医者として尊敬してるって感じだったしな。

 

 盛大に見送って貰ったのにコートの中身を忘れて戻ってきた俺を優しく抱き締めてくれたっけ。凄く恥ずかしかったが、まぁ、役得だったな。結局あの後は王国に雇われることになったのだが、ゴブリンに襲われた事がトラウマになったのか震えて縋り付いてくるから、あの世界を出るまでずっと彼女に助手をお願いしていた。魔神との戦いとやらで七日七晩徹夜で治療して三日三晩寝るというとんでもない荒行に耐えられたのも、彼女の献身的なサポートがあったからこそだ。

 ……また、会えれば嬉しいんだがな。

 

 あの子といえば弟君も元気だろうか。いっつもむすっとした顔をしてるが、姉思いの優しい子だった。最後にゴブリンに襲われてた時、連中の返り血浴びせちゃって怖がらせちゃったからな。悪い事をしてしまった。確か最後にあった時は冒険者になるって子供みたいな背格好の爺さんに弟子入りしてたっけ。お姉さんが心配してたけど、元気で居てくれれば良いんだが。

 

 さて、今日は地主の依頼で診察が数件か。何だか隠居したのに以前とあんまり忙しさが変わってないんだが。偶にはのんびりと休ませて欲しいぜ。クソったれな神様以外の神様、頼む! 早くのんびりする為にも次の統合ではブラック・ジャックをよろしく! でも火の鳥は勘弁な!




因みにゴブスレさんとクロオの時間軸は大分ずれてます。ゴブスレさんは統合から10年後位。

とある少年改めゴブリンスレイヤー:出展・ゴブリンスレイヤー
ぱちぱちの脳内だとさまようよろいの額に殺の文字で出てくる人。狂気に走るきっかけが大分マイルドになった為ゴブリンにかける情熱もマイルドに。でも全力で殺しにいくスタイルは変わらない。

少年の姉:出展・ゴブリンスレイヤー
原作では死亡。この話では最初のフラグ・ブレイカー。ゴブリンに玩具にされて惨殺される所をクロオの投げナイフで危機を脱した。その後、その時のトラウマが、という口実を得てクロオに付き従い王国軍に参加。彼の医療技術を間近で学び『神医の愛弟子』の称号を得る。
現在は王都で王宮の典医長を勤めており、何とか防衛機構に参加できないかと躍起になっている模様。

女神官:出展・ゴブリンスレイヤー
少しだけ登場。この話でも原作の流れ沿いで救出されるが、ゴブスレさんが大分マイルドな為早めに打ち解けた模様。

妖精弓手:出展・ゴブリンスレイヤー
少しだけ登場。女神官に同じくゴブスレさんが大分マイルドな為打ち解けるのも早かった模様。また、ゴブスレさんも冒険自体に興味が無い状態ではない為何度かゴブリン抜きの冒険に誘う事に成功している。



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ジャギ

今回は過去の話と今の話が混合する形でまとめてみました。
『』で台詞が囲まれているあたりは過去になります。分かり辛いと意見があったら頭に【―2年前】とか入れようと思うのでお教えください。

誤字修正。竜人機様、亜蘭作務村様、とくほ様、kuzuchi様、日向@様ありがとうございました!


『アンナァ! どこに居るんだ!』

 

 全てが核の炎に焼き尽くされた廃墟の町を一台のバイクが駆ける。疾走するバイクに跨る男は必死の形相を浮かべて叫び続けた。この声が彼女に届くように。彼女が彼の声を聞いて姿を現してくれと、願いを込めて。

 すでに声は枯れ果てている。喉が裂けたのだろう、鉄の味を感じながら男は尚も声を上げて叫び続けた。リーダーから聞いた奴らのアジトはもぬけの空になっていた。その場に残された衣服の残骸を見た時には逆上しそうになったが、冷静さを失っては不味いと必死になって心を落ち着かせる。奴らの姿もないと言う事はアンナは何かしらの方法で逃げ出したと言う事だ。ならアンナはどこに逃げる。どこなら安全だと考える?

 

 脳裏に浮かび上がった北斗の寺院へとバイクの頭を向けて男は……ジャギはバイクのスロットルを開けた。アンナはあそこを知っている。この混沌とした時代に駆け込むとしたらあの場しかない。半ば信じ込むようにジャギはそう考えて、アンナの名前を叫び続けた。この叫びが続く限り彼女は無事なんじゃないかと。生きていてくれるのではないかと願うように

 

 ジャギの願いは、半分だけ叶う事になる。

 明らかに暴行を受けたと思われる裸の女とその女を抱える黒い男を見つけた時、彼の中に残っていた理性は限界を超えた。野獣のような咆哮をあげて襲い掛かるジャギに、男は強い眼差しを送る。それが黒い男とジャギの、短いようで長い日々の始まりだった。

 

 

 

「お偉いさんってのはどうも肩が凝るもんだなぁ。ええ? 野比よぅ」

「君も部下を持つ身だろうに」

 

 カチャ、カチャ、と機械を弄るような音が狭い室内に木霊する。野比と呼ばれた男はソファに座る男の声に答えながら、自身の親友の外装の一部を外し少し調子が悪いといっていた接触部分を弄る。一度機能停止してしまって以降、彼の親友は時たま不調を訴える事がある。製造元のマツシバ・ロボット工場も、彼らが知りえる最高の科学者である白眉博士も特に問題は無いと言っていたが、野比は自身の目で親友の状態を見たいと訴え、彼女にある程度のレクチャーを受けて以降は定期整備以外は全て行っているそうだ。

 

 故あれば一から親友を作り上げるつもりだったという野比からすればこの程度は造作も無い事だったらしい。以前酒の席で聞いた話では、別世界の野比のび太という男の中には、機能停止した親友を蘇らせる為だけに人生の全てを捧げた者も居たらしい。そんな彼に比べれば偉大な先達も居て、環境までも整っているこの世界で泣き言を言う訳には行かない、と野比は語った事がある。

 無論、その後に件の親友自体から口すっぱく注意をされたそうだが。あくまでもこの場に居る野比のび太と偉大な科学者・野比のび太はたどった歴史も違えば能力も違うのだ。自身を見失ってはいけない、と。とはいえその親友自体もこの野比に体を診てもらう事を喜んでいる節がある為、あくまでも口頭でのお小言程度しか効果はないようだが。

 

「あぁ、そこそこ。のび太君のマッサージはやっぱり気持ち良いねぇ」

「内部を弄られるマッサージねぇ」

「人間とおんなじさ。ロボットだって痛いものは痛いし気持ち良いものは気持ち良いんだ。そうだろう?」

 

 青狸にしか見えない猫型ロボットの言葉にへっ、と鼻で笑ってジャギはカップに手を伸ばす。相変わらずの人間臭さだと思いながらコーヒーを口に含み、ジャギは室内を見回す。ここは野比が昔住んでいた家の自室を模した部屋なのだという。押入れに寝かせたドラえもんの背中を弄り回しながら、野比は「ああ、そうだ」と振り返って机に座るジャギを見た。

 

「そこの引き出しはトラップになっているから開けないでくれ。この部屋を見たら皆そこを開こうとするから面白くて仕掛けてあるんだ」

「おいおい、物騒な部屋だな」

「こんな立場だとね。私生活なんてあってないようなものだが、どうにもそれを理解してくれない人が多い。どこかに隠された『と思われている』ものを暴こうとする連中へ備えをするのは当然だろう?」

 

 よし、と優しくドラえもんの外装を元に戻し、野比のび太は『のび太』から野比代表へと戻った。畳の上に座布団を二枚敷いて片方に座ると、椅子に座るジャギに目を向ける。その圧力に一瞬拳士としての本能がざわめき、慌てて浮き上がった腰を椅子に下ろす。丸腰のガンマンに釣られた未熟に歯噛みしながら、ジャギは誘いをかけてきた男にクレームをつける。

 

「おい、てめぇ自分の立場を考えろや」

「ふふっ。ここ最近慣れない仕事ばかりで肩が凝っていたからね。ここに君が居るとついつい互いの立場を忘れてしまうんだ、許してくれ」

「……どうしたんだい、二人とも」

 

 苛立つジャギとそれに笑顔で返す野比。その二人の様子を押入れから降りたドラえもんが怪訝な顔で眺めている。確かに、面子こそ違うが懐かしいと思える光景だ。ジャギがのび太に突っかかり、のび太がそれをあしらって。その様子を興味深そうにクロオが眺めている。レオリオの奴はたまに巻き込まれてはぶつぶつと文句をつけていた。思い出というにはまだ新しい記憶だ。

 

 

 

 ジャギは男を殴り飛ばした。黒い男は何かしらの武術を齧っているような動きを見せたが、ジャギの敵ではなかった。身を翻した男に蹴りを入れ、堪らずアンナを離して倒れこんだ男の体を数発蹴り上げる。黒いマントのようなコートは何かしらの特殊な素材で出来ているのか不可思議な感覚がジャギの足からは伝わってきたが、骨を折った感触は感じた為、ジャギは男を無視し、アンナへと駆け寄った。

 

『アン…ナ……』

 

 駆け寄って、ジャギは膝を地につけた。体中を汚された恋人は息も絶え絶えで、このまま放置すれば遠からず命を失うのは目に見えている。ジャギの心の中に残っていた理性が急速に力を取り戻した。医者を、医者を探さなければいけない。アンナが死んでしまう。

 恋人を抱き抱え、急いでバイクへ向かおうとしたジャギの足を誰かの手が掴んだ。目を向ければ、先ほどの黒い男が彼の足首を掴んでいる。顔を蹴り飛ばし突き放そうとするが、黒い男は頭や目から血を流しながらもその手を離そうとはしなかった。苛立ちを覚えたジャギは殺すつもりで彼の頭を踏み潰そうとして男の目を見た。いや、見てしまった。

 ただの一瞥で、北斗神拳の伝承者候補であったジャギは動きの全てを封じられてしまった。あれほどに心を暴れ狂っていた怒りは消え失せ、何故自分はこんなにも荒れ狂っていたのかと戸惑うほどに落ち着いていた。男の目は、殺されそうになって居る者が殺そうとしている者に向けるモノではなかった。もっと別の。あれは、親が悪さをした子供を見るような、そんな温度の視線だった。

 

『がぼっ……』

『あ、す、すまねぇ、大丈夫か?』

 

 血を吐き出しながら身を起こそうとした男に手を貸して立ち上がらせる。良く良く考えれば、この男は連中の仲間ではない。まず身なりからして全く別物だった。もっと早く気付くべきだったのに頭に血が上って遮二無二動いてしまった。彼はアンナを助けてくれたのかもしれないというのに!

 

『あ、あんたも医者に行かねぇと! さっき骨を折った感触がしたし、血、血も』

 

 ジャギの言葉に、黒い男は血を口から吐き出しながら首を横に振った。内臓を痛めているのかもしれない。焦るジャギに対して男は近くを見回してからこう答えた。

 

『その子の処置を……早くしなければ、間に合わん』

『処置? あ、あんたもしかして』

 

 ジャギの言葉に、男はふらつきながらも強い視線のまま頷いた。

 

『私は医者だ……げふっ。この子を、どこか寝かせられる場所へ』

 

 

 

「先生関連といえば」

「あん?」

 

 頭の中を過ぎった懐かしい出来事に思いを馳せていると、唐突に野比がそう口にした。

 

「実は頼まれ事をされていてね」

 

 そう言って立ち上がった野比は、部屋の隅に置かれている本棚から一冊の本を抜き出し、その中に挟んであった封筒を取り出した。電子式の封筒、開けば映像が流れるタイプの物だろう。随分と無用心な、とも思ったが見られて困るような代物でもないという事だろう。カセイの行政府からの書簡らしき印が入っていると言う事は向こうの人間も見ているという事なのだから。

 野比から受け取った書面をなぞる。筆跡は覚えのある文字だった。どうやら、元気にしているらしい。書簡を開きながら、ジャギはここで読んでも良いのか、と問うつもりで野比を見る。その視線に野比は苦笑して頷いた。どうやらそれほど大きな問題ではないらしい。……いや。書面に出てきた人物にジャギは盛大に顔をしかめた。野郎、嵌めやがったな。

 

「おい、野比」

「じゃあ、今から迎えに行ってくれ。○○空港に今日到着予定なんだ」

「てめぇ、もうすぐじゃねぇか!」

「明日から数日休んでも良い。例の件もあるからわからんでもないが、最近うちの嫁が奥さんに愚痴られてるんだ。一緒に会って来いよ、家族だろう?」

 

 そう言って含み笑いを浮かべながら、野比は部屋の襖を開けて部屋から出て行った。それについていくように青狸も俺に手を振って意地の悪い笑みを浮かべて去っていった。最近嫁に尻に敷かれていると思われたのかもしれない。昼ドラとかの見すぎだろうあの狸。

 ため息をついて、ジャギは立ち上がった。今から急いでいけば、家に寄ってから空港へ行く事も可能だろう。携帯端末を開いて、アンナへ連絡を入れる。最近確かに忙しさにかまけてアンナへの対応を疎かにしていた気がする。野比なりの気遣いという奴なんだろうが、それにしたって少し意地が悪すぎる。

 

「ったく。この忙しい時期に」

 

 手紙の中で久方ぶりに見るクロオは相も変わらぬ様子だった。といっても何事も無いかのような表情で無茶を押し通す奴だ。今もあっちでは周りを振り回しているんだろう。

 何せカセイ行政府を巻き込んでトキの兄者とその弟子の世話を行ってくれというだけの依頼書を他のエリアに送りつけてくるのだ。この手紙一通の為にどれだけの人間が動いたのか……あいつは自分の影響力を分かっているんだろうか。多分分かっていないのだろうな。

 

『もしもし。ジャギ? どうしたの急に』

「ああ、アンナ。聞いてくれ、実は――」

 

 振り回された奴ら(だと思われる人間達)の顔を思い浮かべて意地の悪い笑みを浮かべ、ジャギは用件をアンナに話し始める。電話越しに伺える喜色に、野比に対して借りが出来てしまったと内心ため息をつきながらジャギはのび太の私室を出る。今日も忙しい一日になりそうだ。

 

 

 

『あんた、自分が死んだらどうするつもりなんだよ』

 

 原型が残っていた空き家の中。血を吐きながらアンナの手当てを行う黒い医師に対して、ジャギは畏れすら感じながらそう尋ねた。

 その問いに、黒い医師は一瞬だけ彼に目をむけ。静かに言葉を紡ぐ。

 

『……それでも、人を治したいんだ。私が私として生きる為に』

 

 彼がアンナを治療し終えるまで、ジャギはその場に佇んでいた。アンナを治療し終えた黒い医師が倒れた後ジャギは彼をベッドに寝かせ、3日後に彼とアンナが目覚めるまでその場に立ち続けて彼らを守った。そして、彼がこのチキュウエリアを離れるその日まで、彼の傍で彼を守り続けた。父の墓を守る為。アンナの為。チキュウエリアを彼が離れる際に、ジャギは船が見えなくなるまで頭を下げ続けた。それが、心の底から惚れ込んだ男に対する礼儀だと信じて。

 

 

 

side.K 或いは蛇足

 

「これが、最近流行の手紙か。ビデオメール的なものなんだろうか」

「どうですかねぇ」

 

 チキュウに居るジャギに対してトキと鑢姉弟をよろしく、とメッセージをこめて手紙を封筒に入れる。組織の長としてこういったやり取りに慣れてそうなオルガを捕まえて操作については尋ねる事が出来たのだが、どうも基本的にビスケットにその手の行動はやってもらっているらしく記憶があやふやで、結局終わるまでに2時間もかかってしまった。まぁ暇だったから特に時間については問題ないんだが。

 それにしてもジャギか。もう別れて1年も経つのか。トキさんといいジャギといい北斗神拳伝承者候補の連中は気の良い連中が多かったな。ラオウも敵だったからアレだが、何度か話した感じ一本筋の通った男のように感じたし。ケンシロウ君は良い人過ぎて逆に苦労しそうだなぁと思ったが、まぁ奥さんと仲良くしてるだろう。

 

 ジャギといえば初対面の時にボコボコにされたのはキツかった。いや、あれはまあしょうがないんだ。あいつの嫁さんが敵対組織に暴行されてた所を通りかかり、流石に見過ごせずに上手い事助ける事が出来たまでは良かったんだが、その際にレオリオと逸れてしまいアンナちゃんを俺が抱えて移動している時にあいつと出会っちまったんだ。そりゃ俺が襲ったと思うわ。身体能力にはそこそこ自信があったんだが、そんなの関係ねぇとばかりにボコられてオリハルコン製のコートでガードしてたのにそのガード越しに骨を折ってくるという圧倒的な戦力差に本気で死ぬかと思った。

 

 あの時は内臓も痛めてしまったので密かに『治癒(リカバリィ)』の魔法を使って傷を癒した後、『念』まで使って何とか鎮静化させたんだが、『最適解』さんの助けが無ければ本当に途中で死んでたかも知れん。『治癒(リカバリィ)』の魔法を使ったせいで体力が尽きて、ジャギを沈静化させた後の事は夢うつつでよく覚えてないんだが、あいつがガードしてくれたおかげで倒れた後も暴漢に襲われることも無かったしその後に北斗の寺院という寝泊りできる拠点も手に入り、あの出会いは俺にとって万々歳な結果に終わった。でもあそこで『最適解』さんの力を過信してその後かけっ放しにしたせいでオルガの時にトラウマを植えつけられたんだがな。

 

 あいつにも後で土下座までされて謝罪されたし俺としてはあいつの件は気にしてないつもりなんだが……今回も同行するかと問われたときに二の足を踏んでしまったのは、ああも連続で死に掛けたのが原因かもしれんな。鷲羽さんには会いたいが、暫くあのエリアには行きたくない。カセイエリアを離れるのにも何かと理由は必要だし、早くブラック・ジャック先生と交代して気軽な身分になりたい。邪神とかじゃなくもっと普通の神様、お願いします! 次の統合では何卒、ブラック・ジャックをよろしく!

 




ジャギ様:出展・北斗の拳(極悪ノ華仕様)
 道を踏み外せば北斗の拳最悪の外道になれた男。最後の一線を越える前に恋人を救出され、人間の枠に踏み止まった。なお、この話では最初から最後までプライベートの為いつものヘルメットは着けておらず、のび太の私室から出て来る時も誰なのか分からず誰何される羽目になる。治安維持局の暗部側に籍を置いている為、彼が連絡も無く現れる事をチキュウエリアの高官は恐怖している。アンナとの間に男の子がおり、ジャギはこの男の子に羅門と名をつけている。羅漢撃は極めた模様。

野比のび太:出展・ドラえもん(全劇場版終了後)
 現チキュウエリアの代表。ジャギとは統合軍が暴れていた頃からの悪友。当時前線指揮官として動いていた彼とジャギはクロオを通して知り合い、以後何かと張り合う間柄になった。ジャギがヘルメットで現れると趣味が悪いとせせら笑うため、彼の前ではジャギはヘルメットをつけない。

ドラえもん:出展・ドラえもん(全劇場版終了後)
 野比のび太の親友にして秘書。統合軍に良いように扱われていた際に一度機能停止をしており、その際にクロオと鷲羽ちゃんに助けられた。ただ、それ以降何か体の一部がむずがゆく感じる時があるらしく、現在はのび太が時間があるときにマッサージとしてその部分を調整して貰っている。

アンナ:出展・北斗の拳 外伝極悪ノ華
 極悪ノ華の(悲劇の)ヒロイン。極悪ノ華では敵対組織に集団暴行を受けて、最後の力でジャギに会いたいと北斗の寺院までたどり着くもジャギに会う前に力尽きた。今作では暴行を受けている最中にクロオとレオリオ(ガチギレ)が乱入。レオリオが全力で暴れている間に助け出され、その後紆余曲折あったが現在はジャギの妻として、ジャギとの子、羅門の母として北斗の寺院を切り盛りしている。

オルガ・イツカ:出展・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 割とポンコツだという事が判明。

トキ:出展・北斗の拳
 ニートをしているケンシロウに弟子を見せる為にチキュウエリアにやってきた。いつの間にか叔父さんになっていた事に密かにショックを受ける。

鑢七実:出展・北斗のじゃなくて刀語
 自身が初めて使った北斗神拳の使い手に会えると大喜びで『勿論』羅漢撃をジャギに打ち、指先一つで全て返されて更にテンションが上がった所をトキに鎮圧される。

鑢七花:出展・刀語
 大暴れをした姉の代わりに周囲に謝罪し、「姉より(人格的に)優れた弟だ」とジャギ様から褒められるという快挙を達成。


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パタリロ

翔んで埼玉が実写化したと聞いてパタリロをひたすら立ち読みしてしまってつい書きました()

※今回パタリロを知らない人は全く面白くないと思うので読み飛ばしちゃってOKです。

一応クロオの住んでる土地は彼の治めるマリネラという島国になりますので、いつか出そう出そうと思ってたんですがそれ以上重要な情報はないので()

ついでに短編で別枠として投稿しようかと思ったくらい通常の話とは違う実験作になってるので、読みにくかったらすみません。場合によっては別枠にするか消しますのでその時はご容赦下さい(平伏)

誤字修正。吉野原様、リード@様、洋上迷彩様、ドン吉様、あまにた様、とくほ様、亜蘭作務村様、kuzuchi様、ゆっくりしていきやがれ様、北犬様、牛鍋SMASH様、名無しの通りすがり様、五武蓮様、竜人機様、SERIO様、名無しの通りすがり様、仔犬様ありがとうございました!


 苦手な人間、というものはどんな人間にも存在するだろう。性格が合わない、といった理由もあれば過去に何かあって、結果苦手になった、という場合もある。ああ、容姿が気に入らない、という身も蓋もない例もあるか。

 様々な理由で誰かを苦手になったり嫌いになったりと言う事は、どんな人間にでも起こりえる事であって決して悪い事ではないと俺は思っている。そういった相手には近づかないのが一番の対処法だとも。

 

「クロオさん……貴方に折り入って相談があります」

「……あの。ミセス、今は問診中でして」

「ミセスだなんて他人行儀な。エトランジュと呼んでと言っているのに! 聞いてちょうだい、あの子ったらまた成人病等と――」

 

 そして、そんな苦手な相手と月に数回は顔を合わせなければいけない自身の現状を呪って、悟られないように小さくため息をついた。

 

 

 何とか宥めすかし、ミセスの屋敷から退出する。俺が今間借りしている土地の主からの頼みで、そういった借りのある相手からの要請は断らないようにしている為、疲れはするがこの依頼を欠かした事はない。家主に逆らっても良い事は無いからな。それに、あの年中春という環境を気に入っているのもある。

 まぁ、ミセスの事は大変苦手だが嫌いという訳ではない。むしろ好意的に思っている相手だ。ただ……彼女にはどうもペースを狂わされてしまう。

 

 最初に会った時はこうではなかった。非常に理性的な女性で、時たま悪戯っぽく笑う姿が素敵だった。数度目の問診の際に一人息子と離れて暮らすのが辛いと涙ながらに語る彼女の手を取って必ず健康にしてみせると誓ったのは本心からの事だった。多分……いや、間違いなく。はっきり言って! 当時の俺は、彼女に惹かれていたのだろう。

 

 その淡い思いは病弱気味だった彼女の体の体質を改善し、彼女を息子の元に返した所で終わりを告げた。たまたま訪れていたというとあるイギリス人と彼女が見つめ合う姿を目にした時、俺は自身の思いに蓋を閉じ身を翻した。その日はトキ先生とレオリオに付き合わせて潰れるまで酒を飲んだ。生涯でも1、2を争うほどに苦い酒だった。

 

 彼女はどうもあれ以来、俺の事を無二の親友だと思っているのか、何かにつけて相談事をされている。しかし顔を見るだけで心をヤスリにかけられている俺は、気の利いた言葉も言えず聞き役に徹する事しかできなかった。

 

 それがどう見えているのか、彼女は俺に息子の事、亡き夫の事、そして今の思い人の事。相談という名目で彼女は俺に様々な事を話してくれた。彼女の楽しそうな姿を見ると文句を言う気にもなれず、そのままずるずると俺と彼女のおしゃべり会は続いている。

 

 ただ、今の思い人に関する愚痴は少し勘弁して欲しい。俺の心情的にも。私情を抜きに話を聞いても関わってはいけない類の男にしか聞こえないし、そうとしか答えられん。そもそもその相手の男は同性愛者なのかバイなのかはっきりしてほしい。いっそ媚薬でも飲ませて手込めにでもしてはと言ってみるか……エトランジュならやりそうで怖いな。

 

 

 エトランジュの屋敷から出ると迎えの車が門の前に待たされていた。タマネギのような髪型の兵士がペコリと頭を下げてドアを開ける。目礼し、開かれたドアから車に乗り込む。態々送迎用に側近の兵士を貸してくれる辺り、気を使われているのだろう。

 

「先生、エトランジュ様の様子はどうでしょうか」

「ああ。元気なものだよ、えぇと」

「タマネギ1号です」

 

 運転席に座った男、タマネギ1号はそう言って車を発進させる。彼らの部隊はこの国でも最精鋭の部隊らしいが、全員が見分けの付かない変装をしており一見では誰かが分からないようになっている。何でも400名近くがこの格好だそうだ。確かに肩幅や声で見分ける事は出来るだろうが、これほど自身の色を消して国に奉公する集団はそうそう居ないだろう。窓の外を見ながら考えてみる。

 

 思いつくとしたらそれこそ朧君の元にいる忍び達くらいか。最近何故か3人に1人位の割合で獣耳をつけているのだがあれは何かの変装なのだろうか。子供がしていれば微笑ましいのだがムキムキスキンヘッドの偉丈夫がしてもただのテロとしか思えないのだが。獣耳といえばチキュウエリアに旅立つ前に何故か七実君が獣耳をつけて寝巻きで歩いていた事があった。トキ先生と最後の稽古をしていたようで互いに傷だらけで折角の綺麗な寝巻きが傷だらけになっていた為、コートをかけて家に帰したのだ。七実君達は元気だろうか。ケンシロウ君は兎も角ジャギはひねくれているから喧嘩をしていなければ良いのだが。

 

 こちらをタマネギ1号がちらちらと見ているのを感じ、咳払いをする。そういえば今日はいつも運転手をしてくれているタマネギパルン号とかいう青年ではないのか。真面目そうな印象の中に、何故かあの忌々しい赤ジャケットに似通った雰囲気を持った不思議な人物だった。あいつ程人を食った感じはなかったがな。

 

 彼は非常に愉快な人物で、前に「一度の往診でどの位ふんだくってるんですか?」と臆面もなく言ってきたので「10万円」と答えたら愕然とした顔をしていた。流石にただの問診でこんだけふっかけてるとは思わなかったのだろう。

 施設は鉄華団に建てて貰ったし医療設備に関しても殆どが貰い物ばかりだ。本当は土地代として往診位は無料で行っても良かったのだが、何故か依頼主とホシノ中佐の連名で止められたのでしょうがなくそこそこの料金を貰っている。往診に来る度に大層持て成して貰ってるので貰い過ぎているのではないかと気になって仕方がない。

 

 

 タマネギ1号の運転する車は滑らかな動きで宮殿へと向かう。エトランジュの屋敷は空気の良い山の麓に作られているため、先方は一々移動の度に車を用意してくれている。そこまで気を使ってくれなくても良いのだがな。

 

「失礼します!」

 

 宮殿の前に到着すると、バタバタとタマネギ武官が駆け寄ってきてドアを開ける。頼みもしないのに荷物まで持ってくれる為高級ホテルにでも泊まったかのような高待遇だ。薄ら寒いものを感じてネクタイを締め直す。これから会うのは国家元首。気を緩めたまま会って良い相手ではない。

 

「先生、こちらへどうぞ」

 

 タマネギ1号の先導に従い宮殿の中に入る。埃一つ落ちていない良く手入れされた廊下を歩き、目的の部屋の前に立つ。恐らく殿下の護衛だろう、部屋の前に立つタマネギ武官はこちらを確認するとペコリと頭を下げ、コンコン、とドアを叩いた。

 

「ウチは新聞は取ってないよ」

 

 その返答にタマネギ1号はクルリと振り返って俺に一礼すると、返事も待たずにドアの中へと消えていった。

 

「殿下、いつものボケの所失礼しますが今日は診察を受ける日です」

「新冊か。この前100巻が出てたな」

「そりゃ新刊です。そんな事はどうでも宜しい! ブラック・ジャック先生が! 来る日だと言ったじゃないですか!」

「ああ。そう言えば今日はクケ〜〜!?」

 

 絞め殺された鶏の様な声が響いたかと思うといきなりドアの向こう側で戦争でも始まったのか爆音が鳴り響き、ドアが縦に横にと動き回る。

 いやいやそうはならんだろうと思いながら暫く見ていると、全身に包帯を巻いたタマネギ頭の武官がドアから姿を表し「ど、どうぞ」と言った後にその場に倒れ伏した。

 

 流石にこの怪我人を放置する気にもなれず、彼の手当を行う。多少依頼主を待たせる事になるかもしれんがやむを得まい。傷は、裂傷が多いな。多少大袈裟に包帯が巻かれているが、抑えている場所は的確だ。念の為に【治癒】(リカバリィ)の魔法もかけておき、部屋の前に立つタマネギ武官に彼を預ける。

 ……あの後にこの中に入るのは、少し勇気がいるな。

 

「失礼します。殿下、ご無事ですかな」

「わぁ、先生! いらっしゃいませ!」

 

 一言断ってから室内に入ると、部屋の中は思ったよりも荒れてはいなかった。部屋の中央には何故かボロボロになったタマネギ1号と、ふさふさの髪をたらした金髪の少年が立っていた。頬までかかる金髪はあでやかな光沢を持ち、彼のぱっちりとした目は星のような光沢を放っていた。普段着ている国王の正装とは違い、黒い子供用のタキシードは彼の子供らしい丸みを帯びた体をより小さく見せている。

 一言で言えば別人である。

 

「殿下は忍術の心得もお有でしたか」

「いやだなぁ先生! 言われたとおりダイエットに成功したのですよハッハッハッ」

「成る程。では問診を始めましょう。そのカツラと服を脱いでください」

「……駄目。月が見てる」

「まだ昼前ですが」

 

 よよっ、と少し服を肌蹴てしなを作る少年、御歳10歳のマリネラ王国国王、パタリロ・ド・マリネール8世は節目がちにこちらを見るが、俺には少年愛の気はない。こういった人をからかう悪癖が無ければ才能豊かで優しい少年なのだが。エトランジュが彼を何かにつけて心配するのも仕方の無い事だろう。しかし、彼のような少年に無理やり診察を受けさせるのも気が引ける。

 これは困ったと傍に居るタマネギ1号に目を向けると、彼はコクリと頷いて胸のポケットから笛らしきものを取り出し、ピピィー!と吹き鳴らした。

 

「緊急集合だ~!」

「また殿下が何かやらかしたのか!」

「もしかしたら賞与が」

「「「それはない」」」

 

 どたどたとドアから窓から床から天井から、ぞろぞろと現れるタマネギ頭の武官達。先ほど怪我をしていたタマネギ武官まで仲間に肩を借りて現れている。何が起きたのかと呆然と見ていると彼らは1号の指示に従って一斉に自らの主人であるパタリロ殿下に襲い掛かり、その体から衣装やらカツラやらを剥ぎ取っていく。誰もそこまでしてくれとは言っていないんだが、止める間もなく殿下を素っ裸にした彼らは一礼するとまた床や窓、ドアから部屋の外へと出て行った。

 ぺちゃん、とうつ伏せのまま床に倒れこんだ国王の真横にタマネギ1号が立ち、俺を見て言った。

 

「さぁ、先生。どうぞお願いします」

「……君達は、この国の兵士なんだよな」

「勿論です」

 

 何か見てはいけない物を見てしまった気がして俺はそう尋ねたが、何を当たり前の事をと言わんばかりに彼はそう返事した。もしかしたら俺が間違っているのだろうか。

 

 

「成人病の塊ですな」

「ふにゃ」

「猫の物まねで誤魔化そうとしても駄目です。しかし、殿下の身体能力なら成人病どころか大抵の病気はあっちからお断りだと思うんですが」

「お前は僕を一体何だと思ってるんだ」

「何でしょうかね。少なくとも人ではないかと」

 

 手持ちのサブマシンガンをタマネギ1号に向かって乱射して追いかける国王を尻目に、俺は診察をした結果を見る。前回と全く同じ、か……

 体質改善という難しい事柄を最近成し遂げ、少し取り戻していた自信が急速に萎えるのを感じる。もしかしたら俺は医者としては無能なのだろうか。この姿になる前は町医者として外科も内科も行っており、そこそこ手広く出来る自信はあったのだが。『最適解』さんも体を入れ替えろとありがたい答えを返してくる為、余り頼りにならんのだ。体ごと入れ替えろってそれはもう他人なんじゃないだろうか。というかそんな事をしてエトランジュに泣かれたらどうする。死ぬぞ。俺の心が。せめて綺麗な思い出で彼女との関係を終わらせたいというのに。

 

「殿下。それでは今回の分の薬は処方します。殿下の消費カロリーを見るにお腹が減ってしまうのは仕方ないでしょうがせめて薬を飲んでから食べてください」

「うん? ああ、薬ね。もちろん毎食前に飲んでるよ。虹色の奴だろう?」

「……精神方面の薬は処方して居なかった覚えがあるのですが。また~日後に参ります。それでは」

 

 西部劇に出てくる悪徳地主のような服装でタマネギ1号を鞭でしばきながらそう答えるパタリロに首をかしげながら俺は一礼して部屋を出る。さて、次は警察長官か。何故彼は地下牢に住んでいるのだろうか。ちゃんと換気をマメにしていれば良いのだが。

 

 

 

side.P もしくは蛇足

 

「……行ったか?」

「はい。足音は地下へ向かっています。この後は警察長官の下へ向かわれるのでしょう」

 

 ブラック・ジャックが去った後。暴れまわっていたパタリロとタマネギ1号は静かに肩の力を抜いた。服装の乱れを直した時、タマネギ1号は自分が大量の汗をかいていた事に気付く。体は正直なものだ、と苦笑しながらタマネギ1号はメガネを外しレンズを拭いた。

 

「信じられない魅力でした。パルン号が任務から外れたいと言った時は半信半疑でしたが」

「うむ。あの曲者が今までの自分を見失うほどというから何事かと思ったが、お前でもそうなのか」

 

 数ヶ月に渡りブラック・ジャックの専属運転手兼案内人をしていたパルン号が、リーダーである1号に辞表を持って来たのは前回の来訪の時だった。普段は飄々とした態度を取る奴が鬼気迫った表情で直談判をしてきたのだ。このままでは自分が自分ではなくなってしまう、と。その様子に1号は事態を深刻に捉えてパタリロに報告。彼と接した事のあるパタリロは特にそう言った認識を持ったことが無かった為首を傾げつつも1号の言葉の通り今回の訪問の際、役割を変える事を了承。そして今、1号のただならない様子にパタリロは意識を悪戯好きのクソげふんげふん少年からマリネラ王国国王へと切り替える。

 

「似たような奴を知っているが、あれとはまた別のベクトルだろうな」

「似たような奴?」

「バンコランだ。奴の美少年キラーの魔眼に近いが、お前の様子を見るに若干違うように思う」

 

 ああ、と頷いて、1号は先ほどまでの彼……ブラック・ジャックとの会話を思い出す。

 とても楽しかった。彼の言葉は間違いなく本心を語っていて、その中身は思いやりに満ちていた。エトランジュ様が窓から手を振る姿に微笑を浮かべていた姿を見た時の事を思い出す。強烈な光。人を引き寄せて放さない引力を持った何かを、確かに1号はあの時に見た。そして、心の底から怖いと思ってしまった。

 この身はマリネラ王家に忠誠を誓い、命さえも預けたモノ。そんな自分が、忠誠心をそのままに引き込まれそうになった。その事に気付いたからだ。

 

「……陛下。彼は、危険です」

「……」

 

 1号の言葉に何も言わずに窓の外を見るパタリロ。その姿に、1号は更に詰め寄ろうとし、パタリロが上げた左手に制される形で止まった。

 

「それは、出来ん。2重の意味でだ。防衛機構とマリネラ王国との間で結ばれた関税条約によりマリネラは他世界へのダイヤモンドの販路を確保する事が出来た。軍事的な援助もある。どれだけ我々が恵まれた立場にいるのかという事がわかるだろう」

「……確かに、仰るとおりです。ですが!」

「そして! ……母上と一緒に暮らせるようにしてくれた恩人なのだ。仇で報いるような事は……したくない」

 

 尚も詰め寄ろうとしたタマネギ1号に、パタリロは本心を持って答えた。

 そう。恩人なのだ。元々体が弱かった母・エトランジュは父の死にショックを受け、静養のために国を離れていた。仮令(たとえ)どれほど図太い神経の持ち主であろうと、10歳で両親との別離を経験させられたことは、パタリロにとっても辛い事であったのだ。そんなエトランジュが、長年の虚弱体質を改善してマリネラに帰ってきた時。どれほど嬉しかった事か。

 かの医師に対する母の信頼。そして、当人が決して悪性の人物ではない事もあるが故に、パタリロは彼をマリネラから遠ざけるという選択を取る事はできなかった。

 

「彼と接する人間は交代制で決めてくれ。時間が経てば収まりもするだろう」

「……はっ。詮無き事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」

「構わん。今日は、お前がそのまま担当してくれ。明日は休んでもいい」

 

 主君の言葉にタマネギ1号は一礼をして部屋を後にした。パタリロは1号が退室した後も窓の外、山のふもとに見えるある屋敷を見ながら考え込んでいた。

 

「……バンコランと同じ、か。あいつとぶつけたら面白いかもしれんな」

 

 恩人でも面白そうならオチョくり倒す。それがパタリロという少年である。彼にとってこの位は仇で報いる事にならないのだろう。

 

 

 

side.K 間違いなく蛇足

 

「警察長官。余り働きすぎては駄目ですよ」

「いやいや、この位。家族がひもじい思いをしない為ですから。ははは」

 

 鎖につながれ書類の山と格闘する警察長官に、どこもお偉いさんはこんなもんかと呟きながら俺は栄養ドリンクを差し入れる。

 しかし、彼の家族はマリネラでも有数の富豪の筈なのだが。この間招待を受けた時には大きな屋敷で優雅な生活をしていた彼の家族を思い返し、クロオは首をかしげた。この国はどうも良く分からない事が多すぎる。本物のブラック・ジャック先生ならこんな富裕層とも上手く付き合えるのだろうか。

 このままこの国に深入りすると俺の庶民的な感覚が毒されてしまいそうだ。神様、俺が変な思考に染まってしまう前に、早めにブラック・ジャックをよろしく!




パタリロ・ド・マリネール8世:出展・パタリロ!
 設定が多すぎて書き切れない。この話では母親思いの部分がクローズアップされてますが本来はこんな大人しくありません。

エトランジュ:出展・パタリロ!
 パタリロの母親。原作では病弱の為スイスで静養している。原作ではバンコランというイギリス人の男に恋をし、彼に媚薬を持って思いを遂げる位アグレッシブ。尚バンコランは恐らく同性愛者よりのバイである。今作では病弱な体質をクロオの助力で解消した為常時アグレッシブモードに入っている模様。

タマネギ1号:出展・パタリロ!
 マリネラ王国精鋭タマネギ部隊のリーダー。全員がタマネギ頭をして口の形が◇みたいになっているが、これは変装であり実際は全員美形の上戦闘能力が高く、また頭脳も明晰。軍・官のトップ400名が所属している事実上の政府組織。飽き性のパタリロに代わり彼らが国を運営している為マリネラは栄えている。
 クロオの危険性を初見で見抜いたが、それがどうしようもない類のものだった為、敬して遠ざけるを選択する。

タマネギパルン号:出展・パタリロ!
 手癖の悪いタマネギ部隊の新人教育担当の1人。天才盗賊少年だった疑いがある。かなり人を食った性格をしているのだが、長い間クロオと接したせいで絆されそうになり任務を辞退。今は療養中。

警察長官:出展・パタリロ!
 メガネを外したら凄いイケメンのナイスミドルの有能。家族は彼が仕事をする代わりに豪遊できているのであながち間違っては居ないがもう少し待遇がよくてもいいと思う人。
 
トキ:出展・後書き
 最後の最後でやらかそうとした弟子との修行中(阻止)、現れたクロオが数秒で事態を終わらせた為少し弟子に同情している。現在はチキュウエリアで南斗聖拳巡りツアー中

七実:出展・後書き
 最後の最後でやらかそうとしたが服が汚れていると心配されコートをかけられる帰される。割と勝負を決めに行っていたらしい。数日悶々としたがジャギに襲い掛かることでストレスを解消した。現在は南斗聖拳道場破りの旅の最中。五車星は最高だったと供述している(二人負けた模様)


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カセイへの道中

さらっと作るはずが凄い時間かかってしまった。非情に難産でした。
道中の話のため起承転結は無く、こんな事があったんだなぁ、位の話です。

この頃は彼も友人の兄位の立ち位置だったので、彼の視点ではBJという呼び名で統一されています。
また、最後の没ネタは掲示板の時のノリを最大限使ったので捨て難かったんですがその後の展開がこじれそうなのでやむなく封印。

活動報告のほうに入れなおしました。作品の中に入れるこっちゃなかったですね。申し訳ない!


誤字修正。亜蘭作務村様、名無しの通りすがり様、五武蓮様、不死蓬莱様、torin様、蓬月 瞠様、名無しの通りすがり様ありがとうございます!
後、手弱女をちょっと違うんじゃないかと声があったんですがら少し古いセンスの言葉としてこのままにしてあります。ご了承下さい


『背を撃たれここで朽ちるもまた我が道。後悔などはない……』

『兄者、何故!』

『これは我が不覚のツケよ……臓腑をえぐられたか』

 

 トキを庇う様に両の腕を広げ、血反吐を吐きながらラオウは吠えた。

 

『生きよトキ! 生きて、生きて生き抜いて……この混沌とした世に北斗の名を刻むのだ! 達者で暮らせ、弟よ――』

 

 

 

「……チキュウが、あんなにも遠く」

 

 眼下の景色を眺めながら無意識に紡がれたトキの言葉に返事は無い。この場にはトキとBJしか居らず、BJは何も言わずにただ過ぎ去っていく景色をその瞳に映しているだけだった。旅慣れている彼にとって、このような別離は珍しくは無いのだろう。

 

 彼はトキにとってなんとも形容のしがたい人物だった。まず間違いないことは命の恩人である事。自身が一度は諦めていた命を永らえる事が出来たのは彼のおかげであるし、先ほどまで見送ってくれた義弟にとっては最愛の妻の命の恩人だ。末弟は彼のあり方に情を持つという事の辛さと厳しさを教わった。まだまだ未熟な男であるがすでに拳士としての自身を超えた末弟であればジャギと協力して北斗の名を守ってくれるだろう。後に憂いは、ない。

 

「先生」

「……何か?」

「いえ。何か、お飲みになりますか?」

 

 つい声をかけてしまい、何と言えば良いのかが不意に言葉に出来ずトキはそう尋ねた。ああ、と考える素振りを見せた先生は少し考えた後コーヒーをと言ったが、流石にコーヒーメーカーは備え付けられていないようだ。少し部屋を確認し冷蔵庫を見つけた為、中に入っていた黄色い缶のコーヒーをテーブルに置く。BJは缶コーヒーに少し驚いたような様子を見せ、そして苦笑してそれを受け取った。トキは同じ冷蔵庫に入っていたお茶の缶を取り出し、ピンっと指で弾いて蓋を飛ばす。おお、と感嘆の声を上げるBJにトキは少し恥ずかしそうに笑った。

 

「北斗の寺院には缶切りが無かったもので、鉄製の缶だとつい」

「なるほど。地域によって違いがあるのかもしれん」

 

 トキの言葉に思わずBJがクスリと笑って自身はプルタブを使って缶を開ける。そのままゴクリと一口飲み、テーブルの上に缶コーヒーを置く。

 

「それで、何を尋ねたいんだ?」

「……お分かりになりますか」

「そりゃあそれだけ何か言いたそうな顔をされればね。レオリオも雁夜も暫くは戻らんでしょう」

 

 そう言ってBJは足を組み、頬杖をついてこちらに目を向ける。真剣に聞くという態度ではない。あくまでも世間話で、という無言のメッセージにトキは頷く事で返事を返し、そして手を組んで少し考え込む。

 さて、どう切り出したらいいだろうか。どういう形でも答えは返ってくるだろうが、こちらを気遣ってくれた向こうの意図を無下にしたくは無い。しかし、余り的から外れた質問を投げかけてもそれはそれで失礼になってしまうだろう。数例ほど頭に思い浮かべた後、トキは単純に最も大きな疑問から尋ねる事に決めた。

 

「そうですね……何故、貴方は私について来てくれたのですか」

「一秒でも早くチキュウから離れる為ですね」

「……あ、はい」

 

 余りにも余りな物言いに、トキはそう返す事しかできなかった。むしろなぜそんな事を聞くのか、というもの問いたげな様子にもしかしたら自分がおかしいのだろうかと考え直し、トキは義弟から聞いていた彼の人となり……率直な物言いを好み、情に厚い性格をまず計算に入れ、自身が治療された時に感じた医師としての使命感に燃える人格をベースにして再度先ほどの質問の答えについて考える。

 何度考えてもただチキュウエリアが嫌だから離れたと言う答えに行き着き、トキは質問を重ねる事に決めた。

 

「その、何か、嫌な事でも」

「そうですね……まず、チキュウエリアに降りて数日で核戦争が勃発して焼け野原に放り出され、たまたま見つけた少女を暴行犯から助け出したら少女の恋人に暴行犯と間違えられて殺されかけ、何とか誤解を解いて一息つけるかと思ったら、また何故か自ら王とか名乗る巨漢に見込まれたのか何なのかひたすら追い回される生活に陥りまして、そこから一先ず逃げ出せたと思ったら」

「大変ご迷惑をお掛けしました」

「まだ最初の一月も終わっていませんが」

「いえ、そこで勘弁してください」

 

 その先を聞くことが怖くなり、トキは彼の言葉を遮った。自身と出会う前の出来事は軽くジャギから聞かされていたが、改めて本人から実感の篭った口調で話されると申し訳なさが先に立ちまともに話を聞くことが出来なくなってしまう。この後にはまだ末弟との合流の話もあるのだ。そこまで聞いた時、自分が平静を保てているかの自信がトキには無かった。

 

 少なくとも、今の口調を聞く限り彼がチキュウエリアから離れたいと思うのも致し方ないことだろう。自身が合流した後も苦難の連続であり、その合間合間に彼は様々な場面でそのメスを光らせてきた。そのメスの輝きに目が眩んだ俗物達が更に騒ぎ立てて、彼の居場所を奪っているのだ。あの地は、彼にとって生き辛い場所なのだろう。

 

「俺の移動に関しては完全に俺の都合です。トキ先生が気に病む事ではありませんよ」

「……クロオ先生」

「いや、こいつは少し自惚れが過ぎましたかな? もし別の意味で質問をされていたならお恥ずかしい限りですが」

 

 そう言ってニヤリと笑うBJに、図星をつかれた気恥ずかしさをトキは苦笑で隠す事しか出来なかった。

 

 

 プシュン、と音を立ててドアが開く。トキとBJがそちらに目を向けると、先ほど部屋を出た間桐雁夜の姿があった。旧知の艦のクルーに挨拶に行って来ると出て行ったにしては早い戻りだ。その表情は硬く、何事かがあったという事を如実に表している。共に出かけたレオリオの姿は無い。

 

「間桐さん、どうなされました」

「慌しくて申し訳ありません。クロオ先生、そしてトキ先生、急いで来て頂きたい」

「雁夜。何だ今度は。俺は何が来てももう驚かんぞ」

 

 間桐雁夜の硬い表情にトキは訝しげに声をかけるが、その問いに雁夜は一言謝罪を入れると二人に付いて来いと言った。諦めたようなBJの言葉に雁夜は言い辛そうに一度視線を宙に向け、意を決したように口を開く。

 

「カセイエリアが敵性存在から大規模な侵略を受けているそうです。この艦は緊急事態として通常任務から離脱。最大速度でカセイに向かう事になりました」

「……今度は到着すらしてないな」

「最短記録おめでとうございます。今度お祓いを受けると良いんじゃないですか? 今丁度そちらに強そうな方が来ているから、相談してみるのも手かもしれませんよ」

 

 嘆くように手で目を覆うBJに開き直ったのかにこやかに笑いかけて間桐雁夜は、促すように手でドアの外を示す。

 

「……誰が来ている」

「八雲紫」

「あの巫女に肉体言語以外の技能があるのか?」

 

 苦々しい表情を浮かべてわき腹をさするBJの表情に、何事か問題のある人物なのだろうとトキは考えた。その表情を見た雁夜は、ああ。と一言呟き、「歩きながら話そう」と言ってドアの外に消えた。追いかけるように立ち上がったBJと共にトキはドアを開けて外へ出る。

 

 艦内は先ほどこの部屋に通された時と大きな変化はないように思えた。先を歩いていた雁夜はこちらが追いかけてきたのを確認し、そのまま歩き始めた。その歩みにトキが急ぎ足で追いつくと、雁夜は話を始めた。

 

「八雲紫というのはチキュウエリアではなく、別の地域にあるゲンソウエリアという場所の代表者です。別名スキマ妖怪。別の場所に瞬時に移動できる能力を持っているみたいですが詳しい事は誰にも分かりません」

「妖怪、なのですか?」

「ええ。彼女は人間ではありません。見目麗しい女性の姿をしていますが、接するときは気をつけてください。人とは比べ物にならない力を持った存在です。そして非常に胡散臭い」

 

 最後の文字を付け加える時、間桐雁夜の姿が割れ目のような何かに飲まれて消えた。咄嗟に反応できなかったトキは自身が何かに飲まれ掛けている事に気付き、身を翻そうとするもその肩をBJが掴む。先生、と声を上げようとしたトキにBJは首を横に振る。そのまま割れ目に飲まれたと思った彼らは不可思議な空間に身を落としていた。周囲全てから見られていると言えばいいのか。視線を感じキョロキョロと周囲を見回すトキに、BJが声をかける。

 

「これがスキマですよ、トキ先生」

「これが、先ほどの」

「そら、出口です。放り出されますから気をつけて」

 

 言われて自分たちが何かに向かって進んでいる事に気付いたトキは、先に見える割れ目を見る。光に包まれたその割れ目にまっすぐトキとBJは飛び込み、急に視界が開けた先には間桐雁夜と、彼をにこにこと笑いながら詰問する女性。そしてレオリオに、この艦の艦長と言われていた人物の姿があった。

 

「こんなか弱い手弱女を捕まえて胡散臭いなんて……酷い言い草ですわね」

「美しい女性だとは思いますがね。貴方の雰囲気はそれ以外に形容する言葉がありませんよ、八雲代表。なぁ、レオリオ君」

「雁夜さん、その度胸は本当に凄いと思いますが俺を巻き込まないで下さい」

 

 BJを支えながら地面に降り立つと、彼らの視線はこちらに集まる。ありがとう、とBJは礼を言って彼の肩から手を離した。美しい女性だった。年の頃は20……30にはいっていないように思える。もしかしたら同年代なのではないかとすら思えるほどの若さを持った、端正な顔立ちをしている。服装は洋服なのだろうか。飾りの多い可愛らしい衣装だった。

 彼女は愛用のものなのか、扇子を取り出して口元を隠しながら話し始める。

 

「あら先生。お久しぶりですわね?」

「お久しぶりです、八雲代表。チキュウエリアに飛ばして貰って以来ですな」

 

 にこやかな様子を崩さない八雲と呼ばれた女に、BJは常と変わらない表情で接する。彼女の周囲に居る他の面々が硬い表情でいる中、にこやかに話す二人の様子はそこだけ別の空間に居るかのように流れる空気が違っている。雁夜やレオリオ、艦長からは確かに感じる怒りや恐怖といった悪感情がBJからは感じられない。先ほど、脇腹をさすっていた時の表情は何だったのだろうか。

 

「八雲代表。こちらはトキ先生という方です。優秀な医術の持ち主でもあります」

「あら、初めまして。八雲紫と申します。間先生がそう仰られると言う事はとても優秀な方なのですね」

「……トキと申します」

 

 隣に立つ自分を紹介するBJの言葉にようやくこちらに気付いた、とばかりに八雲紫は扇子を閉じてトキを見る。こちらを見定めようとしているのが視線から感じられる。成る程、確かに見た目どおりの人物ではないらしい。視線に対してまっすぐ見つめる事で返すと、口元をにまぁ、と開いて嬉しそうに彼女は笑った。

 

「結構なことですわ。先生も優秀な護衛を見つけられたのですね……レオリオ君だけだと少し心配だったけれど、これなら大丈夫かしら?」

「……カセイの状況はそれほど悪いので?」

「タイミングが悪いのでしょうねぇ。ほら、あのチキュウエリアから流れてきていたアレ。アレが丁度行動を起こしたタイミングで変な物がちょっかいを出してきたみたいで」

 

 BJの問いに嘆くように八雲紫は首を振りながら応える。その中のチキュウから流れてきた、という単語にトキの体が一瞬強張りを見せ、そんな彼の様子に八雲紫はキョトンとした目で見ると、すぐに面白そうな物を見つけたとばかりに幼子のような微笑を浮かべて口を開こうとした。

 だが、トキを庇うように前に出たBJの姿に意外なモノを見るような表情に変わり、手に持った扇子で彼女は自身の口元を隠した。

 

「随分と過保護だこと」

「八雲代表。余り若者をイジメるような真似は止して頂きたい」

「まぁ。イジメるだなんて……ただ私は彼の知りたがっていそうな(・・・・)事を教えてあげようとしただけですわ」

 

 そう口にした後、八雲紫は彼女の背後に現れた不気味な目が浮かぶ空間に腰掛ける。その光景に思わず身構えそうになったトキをBJが手で制す。振り返ったBJは一度だけトキを振り返って首を横に振る。聞かないほうが良い。何も言わないが彼からのメッセージを受け取り、トキはただ頷くしかなかった。

 二人のやり取りを眺めて、八雲紫は一息ため息を漏らすと扇子を閉じる。戯れは終わったとばかりに彼女は本題を切り出した。

 

「今からこの艦はカセイに直行します。私手ずから移動を行わせていただきますわ。先生、貴方は形はどうあれ部外者。ここで降りる事も出来ますけれど」

「魅力的な案だが辞退させて頂こう。降りた先が地獄ではない保証もないしな……それにまだチキュウが近過ぎる」

 

 最後だけやけに情感が籠もったBJの言葉にぱちぱちと目を瞬かせ八雲紫が周囲を見回すが、誰一人その視線に答えようとする者は居なかった。

 居たたまれなくなったトキがごほん、と咳払いをする。

 

「随分と面白い事になっているみたいねぇ。モモちゃんと遊んでないでこちらも見ておくべきだったかしら」

「勘弁して下さい。超越者の玩具になるのもされるのももう沢山だ」

「あら、男を弄ぶのは良い女の特権ですわ」

「……弄ぶ、ねぇ」

 

 雁夜が何か言いたそうに口を開く。しかし、彼が次の言葉を吐く前にスキマが彼の背後に現れ、雁夜は諦めたような表情を浮かべてスキマの中に消えた。

 

「……八雲代表。雁夜と遊ぶのも程々にして頂きたい」

「ほ、ほほほ。少しお灸をすえてお返ししますわ。では、また後ほど」

 

 ため息混じりのBJの言葉に頬をひくつかせながら、八雲紫は腰掛けていたスキマの中に身を沈め消えていった。そして彼女の姿が消えると共にそこに開かれていたスキマが閉じられ、まるで誰も居なかったかのように場は静寂を取り戻した。BJは気が抜けた様子の艦長に目を向ける。

 

「艦長、早めに準備をした方が良い。彼女の事だ、戦場のど真ん中に放り出されていてもおかしくはない」

「う、む。さようですな。少しあてられていたようだ。みっともない所をお見せしました。それでは先生、申し訳ありませんが」

「私とトキ先生はこのまま医務室に詰めさせて頂きます。運賃分の働きは約束しましょう」

 

 慣れを感じさせるBJの言葉に艦長はペコリと頭を下げ、部屋を後にした。これから指揮所へと戻るのだろう。

 

「レオリオ、医務室の場所はわかるか?」

「この艦の構造は頭に入ってます。こちらへ!」

「頼む。トキ先生、行きましょう」

「はい」

 

 レオリオの先導に従い歩き始めると、廊下に出た辺りで艦内放送が流れ始めた。非戦闘員の避難勧告が繰り返し流され、バタバタと周囲が騒がしくなる。中に入った時は気付かなかったが、随分と若い乗員が多く感じる。自身と同年代か、それ以下の者もいるようだ。

 彼らの移動の邪魔にならないよう道を開けたり、或いは譲ってもらったりとするうちに彼らは医務室だろう十字のマークを名札の下にぶら下げた部屋にたどり着く。室内に入ると、数名の医師や看護師らしき人物たちが居り、彼らはBJの姿を認めるとすぐに席を立ち頭を下げた。その姿にBJはぺこり、と頭を下げると、この部屋の長だろう医師に歩み寄り、何事かを話し始める。

 話が付いたのか、BJは数名の医師に声掛けをして部屋の間取りを弄り始めた。この状態では急患の数に恐らくパンクするとの事で、近隣の区画を今のうちにあけて緊急時に野戦病院代わりに運用するとの事だ。この艦内で緊急時? と頭に疑問符が浮かぶが、間違いなく必要になるとゴリ押ししたらしい。

 

「クロオ先生」

「はい?」

「随分と、その。手慣れているのですね」

「……まぁ、片手で足りない位には経験を積んでいるものでして」

 

 トキの問いに、苦笑を浮かべながらBJはそう答えた。

 

「俺は、軍属では無いんですがねぇ。まぁ、安心してくださいトキ先生。2日過ぎれば貴方なら体が慣れますよ。ああ、今のうちにたっぷり食べておくことをお勧めします。どこで食べても上手い料理の備蓄もありますしね」

 

 不吉な言葉を笑顔で語りながら、BJはトキの肩をぽん、と叩いた。

 

 

 

 この時のBJの言葉は現実の物となる。完全な消耗戦となったBETAとの戦いは、BETAの侵入口にされた東端から近い各地のセカイが丸ごと滅ぼされる騒動になり、崩壊した戦線の穴埋めと救助に借り出された彼らはほぼ1週間を休む暇無く転戦する羽目になる。その間、BJの指揮の元各地の軍属、難民問わず人員を治療し続けた彼ら医師隊はほぼ不眠不休で戦い続ける事になり、栄養ドリンクと北斗の秘術とボンカレーが彼らの心の拠り所となるのにさして時間は掛からなかった。

 

そして、この転戦はある出会いを彼らにもたらす事になる。

 

 

「あら」

 

 海の上にぽつんと浮かぶ小さな島。父の流刑地である不承島の海辺で、1人の少女が空を見上げていた。

 

「お空を飛ぶ、船? 父さんなら何か、知っているかしら」

 

 背を向け島の中へと消えていく彼女はこの時思いもしなかった。

 この数時間後、自分の人生を真逆に狂わせるような、劇的で唐突な出会いがあると言う事を。




間黒夫:主人公
 まだバリバリトラウマが残ってる頃。ここから一年かけてチキュウ怖い病を癒やす事になる。描写にないが鉄華団は先にカセイに向かっている。八雲紫の名前に反応したのは彼女のエリアにいるとある巫女さんに肋骨をへし折り内臓まで抉るレバーブローを貰った事があるため。彼女本人には特に思うところは無い。
 この話だと終始落ち着いた話し方だが、これはコーヒーを頼んだらマッ缶が出てきたことに感性の違いを感じ、トキとどう喋って良いのか分からずとりあえず無難にこなそうと思っていたため。マッ缶が分からない人はマックスコーヒーという名前を調べてみて欲しい。恐らく日本の缶コーヒーで一番甘いコーヒーのような何かが出てくる。
 トキを庇ったように見えたあたりは悪い大人に好青年が弄ばれそうなのを見ていられなかったのと、そのまま会話が進むと雁夜とゆかりんが互いに傷を抉りあって面倒くさそうになりそうだった為。
 最初の魔神との戦い以外軍属だった事はないはずだが何故かこういう事態に対して経験豊富らしい。


トキ:出展・北斗の拳(原作)
 まだ後書きの魔力に囚われる前のトキ先生。彼のフィーバータイムはカセイ移動後。カセイへの移動は実は彼の仇討ちの為で、勿論クロオ自身にはまた別の理由が会ったが移動のタイミングと行き先が決まったのは彼に合わせたから。場合によってはモクセイに行っていたかもしれない。
 この頃はまだ人外と殆ど接した事が無い為話中かなり縮こまっていたが、以後彼の強者ボーダーは八雲紫に設定されてしまうので大抵の相手に飲まれる事は無くなった。そしてこのBETA戦を乗り越え、兄の仇を討った時後書きの魔力が彼を変質させる事になる。

間桐雁夜:出展・Fate/Zero
 この頃まではクロオの旅路に同行していた。自身のフラグを乗り越えた後から急に怪談やら妖怪やらに好かれている男。
 ゆかりんにやたらと突っかかっているのは初めて遭遇した時、鬼の酒を飲まされてグデングデンになっていた雁夜が誤ってゆかりんに「おかあさん」と言ってしまい情状酌量抜きで半殺しにされ、気恥ずかしいのと恐怖感の混じった複雑な感情を抱いている為。
 この後藍に救出されるまでスキマを漂う事になるが、慣れているらしく至って健康だったらしい。

レオリオ=パラディナイト:出展・HUNTER×HUNTER
 今回は完全に居るだけの男。

艦長:出展・マクロスシリーズ
 ちょい役として登場。何グローバル艦長なのかはまた後日別の話で。

八雲紫:出展・東方シリーズ
 ゲンソウエリアの代表、というよりはそこに所属する幻想郷の代表兼管理人。雁夜の一件以降掲示板等から新しい知識を(主に骨とカエルから)得ては使ってみて感性の若さをアピールするようになり藍と橙を困惑させている。
 ちなみにこの後は他のエリアを回って戦力の運び屋のような事を(藍が)行い、久方ぶりにたっぷり(藍が)働いて良く眠れると布団に入った所で宇宙怪獣がエントリー。彼女について行ってもクロオは結局地獄絵図の中に飛び込む事になっていた。

とっても可愛いとある島の女の子:出展・不明
 不承島という小さな島で父と弟との3名で暮らしている。何者なのかはまた別の話で明らかになるであろう。



没ネタ

「今からこの艦はカセイに直行します。移動は私手ずから行わせていただきますわ。伏羲様に直接お願いされちゃったもんねー」
「……成る程」

 キャピっと両手で頬を包むようにポーズを決める八雲紫の言葉にBJはただ一言そう返した。すぐに真顔に変わった八雲紫は助けを求めるように周囲に視線を向けるも雁夜もレオリオも艦長もそっと目を逸らすだけに留まる。余りにも哀れなその様子に見ていられなかったトキはつい口を開いてしまった。

「ず、随分とハイカラな言葉遣いですね。八雲代表はそういった文化にも詳しいので?」
「そ、そうですわね。決して嫌いではありませんわ。最近はモモちゃんみたいに随分若い子とも親しくお喋りしているし、決して、決して時代に乗り遅れてるわけではないのよ?」
「うわキツ」

 雁夜が言葉を言い切る前に彼の姿はスキマの中に消えていった。あ、と声を出す間もないその一連の動きに周りの人間が固まる中、BJはため息を一つつく。

「八雲代表。トキ先生は80年代の知識はお持ちですが修行漬けで余り世俗に詳しくはありません。そう言った話し方では混乱してしまいますよ」
「しゅみましぇん」

 消え入りそうな声で八雲紫はそう答えた。


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ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章

途中でドキュメンタリー風にしようとして失敗したりと。うん、ちょっと尻切れトンボな話になってしまいました。もう少し書き方が合った気がするんですが……申し訳ない。
多分心理的な物もあると思うんですがこの相手でどう頑張っても重厚な医療シーンが想像できない(言い訳)けど好きだから使ってしまう。難しいですね。

ちょっと修正。大事な台詞が抜けてました。

誤字修正。Will様、kcal様、五武蓮様、亜蘭作務村様、佐藤東沙様、名無しの通りすがり様、syu_satou様、オカムー様、kuzuchi様、ゆっくりしていきやがれ様ありがとうございました!


「TVの取材? 治療の様子を取材したいというのか?」

「はぁ、そうみたいですね。ルリちゃんからは受けても受けなくても良い、と。どちらにしても先生の所在が割れるような事は起こさないそうです」

 

 歯切れの悪いレオリオの言葉に俺は眉を寄せる。ホシノ中佐からの依頼の割には妙に投げ遣りな内容だった。彼女が俺に依頼する場合、大体が俺と彼女双方に益があるのだ。今回のように受けても受けなくても、という事は確かにあったが、これは明確な要請の形を取れば後々面倒なことになりそうな場合位で、そういった物は事前に連絡があったりする。それらもない以上、今回の依頼は本当に彼女にとっては重要ではないという事になる。

 それはそれで気になるが、まぁ隠居した俺がわざわざ動かなくてもいい、という事なんだろうか。

 

「断るか。態々受ける理由もないしな」

「わかりました」

 

 以前は時折聞こえていた山に響く狼の雄たけびも聞こえないし、最近は00ナンバーズの時のような急な依頼もない。往診以外に特に仕事は無い為正直暇ではあるが、わざわざ仕事を増やすのもバカらしい話だ。まだ見ていないアニメでも消化する事にしよう。そういえば、七実君や七花君の出るアニメはまだ見ていなかったな。丁度いい機会だし消化するとしよう。

 確かウリバタケが持っていたはずだし借りてくるか、と席を立ったところで、レオリオが返信の為に処分予定の手紙を開く。中には依頼文らしい手紙と一切れの写真が入っていた。

 

「えぇと、超人レスラーキン肉マン? うわ、ブサイクなマスクですね。先生、確かにこれは断ってせいか」

「暫く予定は無かったな? すぐに了承の返事を返せ。丁重にだぞ」

「……はいぃ!?」

 

 

 

side.MあるいはS

 

「先方から許可が出た? ほ、本当ですか!?」

「はい。BJ先生は快く受けてくれたようですね」

 

 ホシノと名乗った少女はそう言ってミートに笑顔を向ける。モクセイ・カセイ間での交流が目的の催しに参加して数日。普通のレスラー相手である為問題なく戦えているが、ここ最近悪化の一途をたどるスグルの体調は、そろそろ日常生活にも影響を及ぼしかねない状況になってきていた。

 

 モクセイエリアの名医と呼ばれる人物たちは口を揃えて年単位での長期療養……しかも回復するかは分からない……しか手が無いと言っていたが、キン肉星(今は星ではないが)の大王でもあるスグルにはそれは無理な話だった。何とかならないか、と一縷の望みをかけて方々に声を掛けていた所、モクセイエリアのとある重鎮から「最高の名医がカセイエリアに居る」という情報を貰う事ができた。

 

 彼、ハワード・ロックウッドは自身が所有するTV局の取材を受ける形であればカセイに渡る便宜も図るとまで言ってくれた為、藁にもすがる思いでその条件を承諾。彼が用意してくれたモクセイ・カセイ間の親善レスリング試合のメインイベンターとしてスグルはねじ込まれ、また、その手術を受ける様子や回復していく様子も撮影させる事を条件に、カセイエリアの防衛機構に渡りをつけてくれたのだ。

 

 その渡りをつけてもらった相手、ホシノ中佐という若い少女と引き合わされ待つ事数日。BJという人物について話を聞くにつれ、断られる可能性が高いのではと不安に思っていた中、ついに連絡が取れ、しかも了承してくれたとの報告にミートは飛び上がらんばかりに喜んだ。

 

「それで、何時頃お会いできるんですか?」

「それに関してですが、設備の兼ね合いもありますのでこちらから向かうことになります。あ、最初にお話ししたとおり、どこにどうやって行くのかは秘密になりますのでご了承ください」

「はい、勿論です。ここに来た時と同じく、外が見えない車に乗ってそのまま運んでもらうんですよね?」

「ご理解いただけて何よりです。部屋のほうに迎えを寄越すのでしばしお待ちください」

 

 ぺこりと頭を下げてホシノ中佐は席を立つ。ミートも立ち上がって返礼として頭を下げ、彼女が退室したのを見届けてから慌てて部屋を飛び出した。急いで自室で痛めた体を休めている彼の主に報告をしなければいけないのだから。

 

 

 

 奇跡を起こすと呼ばれたある超人レスラー。

 

 彼の体は、長年の戦いの日々により蝕まれていた。

 

 これは、そんな彼の復活と、そこに携わった一人の医師の闘いの記録である。

 

 

【太鼓の音と共に流れるOPテーマ曲。歌うのは失踪からの復帰を果たしたとあるアイドル】

 

 

――ドキュメントX。今回は皆様もご存知の、あの方の劇的な復活にまつわる話をしていきたいと思います。

……恐らく世界中で知らない方は居ないだろうという程の人物ですね。またの名を奇跡の逆転ファイター、アイドル超人と呼ばれる方々のリーダーとも言われる人物です。

――それではVTRをご覧下さい。

 

 

 

「という感じで放送されると思います~」

「ほぉ~、成る程のぅ。最近のTVは色々な番組があるのだなぁ」

「スグルさんは別の世界の人じゃないですか~」

「それもそうだな! どわーはっはっは!」

 

 周囲が見えないように仕切りをしたバスの中に詰められた彼らは、この移動時間もカメラを回して撮影を行っている。映しているのは相手役として今回抜擢された、最近失踪していたとされるあるアイドルと、今回の主目的である手術を受ける予定の超人レスラー、キン肉スグル。キン肉星の大王にして、超人レスラーの中でも正義超人と名乗る一派の代表的な男だ。

 

 彼は普段のレスリング用の服ではなく、ジーンズにジャンパーという出で立ちでバスの最後部の席に座っている。というのも、他の席では少し彼にはせまっ苦しく、最後部の広い場所に陣取る方が、ゆったりと痛めた腰を休めることが出来るからだ。そう、彼の最も被害が大きな部分は腰と背中。場合によっては歩行すらままならないほどに激痛が走る。幸いな事に、超人レスラーほどの相手ではなかったため親善試合では問題なかったが、いつ倒れるかミートは気が気ではなかった。

 

『ご歓談中申し訳ありません。そろそろ到着の時刻になるため席にお戻りください』

 

 無機質な声が全体アナウンスのようにバスの中に響き渡る。このアナウンスは発進の際にも行われたもので、バスの車内は走行中とは思えないほどに揺れず快適だが、僅かに揺れるような時にはこのような形で注意が呼びかけられる。場所の情報などは一切漏らさないよう徹底されているが、それ以外の部分ではかなり気を使ってくれているようだ。

 

 アナウンスに従って席に戻ると、数分ほどして車が止まったのか前後に揺れ、少し経った後に出入り口がプシュゥ、と音を立てて開く。バスの運転手が顔を覗かせて「どうぞ、気をつけて降りてください」と声掛けすると、スタッフらしき人物がそそくさとカメラを持って外に出る。ここから先は撮影の許可を貰っている為、バスから降りる風景を撮影したいのだろう。

 

「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか」

「お医者様じゃないかしら~」

「そりゃそうだ。なはははは!」

 

 馬が合ったのか談笑しながらキン肉スグルと三浦あずさが連れ立ってバスから降りる。こう見えて既婚者であるスグルが、あずさをエスコートするように手を貸してバスから降りさせる。その様子を撮影する取材陣を尻目に、スグルは笑顔を浮かべながら周囲を見渡した。野山の中を切り開かれた山村といった物だろうか。かなりの奥地にあるのが見て取れる。場所が露見する事を警戒しての事だろうか。いや、その割には生活感がある。噂話は聞いていたが、本当に隠棲していたのか。

 

「ようこそ、陛下」

「うむ。世話にならせてもらうぞ」

 

 歩み寄ってくる男にスグルは意識を向けた。異貌の男だった。成る程、確かに顔の一部が変色している。あれが友から譲り受けたという肌か。友情を何よりも力とする正義超人にとって分かりやすいそのシンボルは、彼に対する僅かな親近感をスグルに抱かせた。彼は周囲の取材陣を一瞥すると、「こちらへ」とだけ告げて背を向ける。歩む先に見える山荘が彼の住居なのだろう。彼の迫力に押された取材陣達を置いて、スグルは歩みだした。

 

「成る程。ミート、お手柄じゃい。あれは本物じゃろうなぁ」

「はい。完璧超人、ネプチューンマンさんを前にした時のような威圧感を感じました」

 

 彼の歩みにただ1人遅れずについて来た従者にだけ聞こえるように言って、スグルは背後を振り返る。その動作に呆気に取られたような表情を浮かべていた取材陣とあずさが正気を取り戻したのか、慌ててついてくる姿が見えた。いや、あずさは慌てているというよりも別の方向に歩こうとしていただけか。スタッフが慌ててそれを追いかける姿を見ながら「あの娘も大物じゃのう」と苦笑を浮かべてスグルは再び歩き始めた。

 

 

 

「成る程。他の医者が断るわけですな」

「うむ、ほとほと困っておった所に噂を聞いてな。何とかならんかのう、先生」

 

 カメラ越しの視線を受けながらうつ伏せになって背中を見せるキン肉スグルとそれを見るBJは、互いに談笑を交えながら、しかし真剣な表情で会話を重ねていた。出来れば協力している姿を撮りたい、という撮影陣の要望もあったが、治す者も治される者も互いの事を知ろうと普段にも増して口数が多くなっているのも理由の一つだろう。スグルは信用出来るかを確認する為、BJは他に何か隠している症状が無いかの確認、だろうか。背中と腰以外の部分も気にしている彼の様子にミートはそう予測を立てた。

 

「腰と背中だけではあるまい」

「……わかるか」

「俺を信用できないのならこのまま帰ってもらってもいい。患者が治ろうとする気持ちがあってこそ、医者の治療は効き目があるんだ」

 

 そう言ってBJはスグルの腰から手を離した。慌てて立ち上がったミートを、起き上がったスグルが手で制した。

 

「すまん。わたしはお主を見誤っていた」

「……肩、両膝、肘。一番酷いのは首か」

「ああ。首がやはり一番酷いか。悪魔将軍にフェニックスとさんざん痛めつけられたからのう」

 

 起き上がり頭を下げたスグルに、ただ一回頷き、BJは椅子に座る。彼から伝えられた患部はミートにとって寝耳に水だったが、どこも覚えのある場所だ。激戦に継ぐ激戦だった。その後遺症に彼の主人は何も、誰にも言わず苦しんでいたのだ。

 

「だが、わたしは大王として、一人の超人レスラーとして長期不在にするわけにはいかん。今回はかなり無理をして時間を作ったのだが、それこそ二週間が限度なのだ」

「せいぜい三日で終わるが」

「そうだろう。他の医者のように年単位で無いだけお主が本当に優秀なのはわかった。わたしの我が侭のせいで医療を受けられないのは甚だ申し訳ない」

「大王様……御労しや」

 

 うっすらと目じりに涙を浮かべてBJに頭を下げるキン肉スグルの姿に、ミートは涙を流す。その様子にBJは途方に暮れた様にカメラに視線を向けて、再度同じ言葉を繰り返した。

 

「いや……三日で終わるが」

「……えっ」

「えっ」

 

 

 

side.K 或いは蛇足。

 

「ふんぬぅぅぅぅ!」

 

 大きな綱を手に持ったキン肉スグルは雄たけびを上げながら、反対側の綱を持ったMWを振り回す。通常なら人とMWの力比べが勝負になるはずがないが、彼は超人・キン肉マンである。軽々とMWを投げ飛ばし、「へのつっぱりはいらんですよ!」と叫んで次の相手はと振り返り、準備万端のバルバトスを見て後方へ向かって全力で逃げ出した。その動きにはつい先日まで体調に不安を抱いていた面影は欠片も残っておらず、今こそが全盛期であるとばかりに力が漲っている。

 

 彼の症状は大雑把に言って経年劣化だった。細かい筋肉の断裂が何度も何度も繰り返された結果起きた、ある種の超回復による弊害である。念のために秘蔵のメスを使って患部を切りながら再生させたが、効果はバツグンだったようだ。ついでにヘルニアも切除して、腰の痛みも取り除いた。その手術の際に「脊髄ごと入れ替える方が楽なんだがな」と漏らしたらミート君がガタガタ震えていたが、いかんな。完全に誤解されてしまった気がする。

 

 念の為に魔法も使って回復力を高めておいたのだが、これについては体力を消耗したキン肉マンの食欲を甘く見すぎていたと言わざるを得ない。七実君とトキ先生が居ない為、普段は年少組の相手をしている一方君や鉄華団まで総動員しての山狩りで食料を確保し、その日は宴になった。キン肉スグルがまさか野牛一頭を牛丼にして食べ切るとは思わなかったな。その他の食材もキワモノが多かった為調理班が潰れてしまい、翌日は久しぶりに一日ボンカレーとインスタント麺になってしまった。美味かったから不満はないが。

 

「あ、飛びましたね」

「飛んだなぁ」

 

 本当に屁で空が飛べるとは思わなかった。そしてそれを追いかけるバルバトス。途中で止めるべきか? いや、取材陣も喜んでいるしまぁいいか。予想以上にあっさり終わって彼らも困っていたしな。

 

「いやぁ、体が軽いわい。まるで初めて超人オリンピックに出た時のようじゃ!」

「それまるで戦ってなかった頃の話じゃないですか」

「ちゃんと怪獣を退治しとったじゃろうが」

 

 こちらに飛んで逃げてきた彼らの軽口を聞きながら、うーん、本当にキン肉マンが目の前に居ると改めて実感する。キン消しコンプした事もあったなぁ。幼少時、殆ど漫画を読まなかったがジャンプだけはキン肉マンを読むために必ず買って購読していたんだ。月1000円しか貰えなかった小遣いの殆どは、ジャンプとキン肉マンに消えていた気がする。ホシノ中佐、俺が彼のファンだと伝えた事を覚えていてくれたのだろうか。今度菓子折り持って行かないといかん。

 

 彼らはその後3日ほど経過観察を行い、問題がないと判断した後に帰っていった。かなり無理のあるスケジュールでここに来ていたらしい。名残惜しいが、彼はキン肉星の大王。星ごとモクセイエリアに飛んでしまったらしく、余り長く留守にする事が出来ないそうだ。彼を困らせるのは本意ではない。再会を約束して彼らに別れを告げた。

 

 しかし、キン肉マンが何とか体を急いで治さなければいけないと判断した理由は驚きだった。何でも彼らのエリアでは、年一で格闘技の祭典のような物が行われているらしく、彼は出場を期待されている選手なのだという。前回は王位を受け継ぐ為の戦いで不参加だったから、今回は出来れば出場したかったそうだ。他のアイドル超人はどうしたかというと、彼らは全員が長年の戦いの影響で療養中らしい。王としての政務の為に現状動けるのはアイドル超人以外の超人ばかりで、代表格となれる人物は居ないそうだ。

 

 また、他のエリアではキン肉マン=正義超人という認識だそうで、彼の出場は第一回から期待されており、スグルとしてもその声は無下に出来ないらしい。最初は他の参加者が普通の人間ばかりであるから問題ないだろうと思っていたらしいが、前回の大会の詳細を見聞きし、特に四強、陸奥、オーガ、セクシーコマンドー、そして優勝者である風林寺の戦いを見た後にスグルは自身が敗れている場面が目に浮かんだそうだ。

 

 全快の自身でも敗れかねないとも評価していた。彼らは全て普通の人間であるが、技と鍛錬だけで超人に匹敵している、と。人はそこまで強くなれるのだと、輝くような笑顔で彼は嬉しそうに笑っていた。

 

 彼らのバスを見送り、その姿が見えなくなるまで佇んだ後背を向ける。今回の治療は非常に満足のいく内容だった。サインももらえたし。長年BJ先生の偽者としての名前に苦しめられていたが、たまにはこういう事もありだよな。神様、今回はありがとうございました。この余韻が残っているうちにお願いです、BJ先生を呼んで引継ぎをしてください。次の統合ではブラック・ジャックをよろしく!

 

 

 

「所で貴女はいつ帰るんですか?」

「あら~?」

 

 何故か山荘の居間でのんびりとお茶を啜るあずさにそう声をかけると、彼女は困ったような笑顔を浮かべて首を傾げた。

 レオリオに投げよう。奴ならうまくやるだろう。




キン肉スグル:出展・キン肉マン
 超人レスラーにしてキン肉星の大王。統合後に王位継承戦をしたので36巻でフェニックスをお姫様抱っこした後くらいの人。ダメージが大きいのは統合後の混乱期にも戦っていた為。クロオさんが出会った原作持ちのキャラでぶっちぎりで好感度が高い人である(ファン的な意味で)
 (絶対に登場させたいけど中々登場できなかったキャラの1人)

アレキサンドリア・ミート:出展・キン肉マン
 キン肉スグルの世話係にしてセコンド・頭脳労働担当。彼の台詞を「大王」とする時が一番違和感が凄かった。「王子!」って呼ばせたいと何回書き直そうとしたかわからない位。

三浦あずささん:出展・アイドルマスター
 実は名前が出たのは2回目。今回は迷子じゃない。

ホシノ・ルリ:出展・機動戦艦ナデシコ
 今回の仲介で何故かクロオがお礼を言いに来て困惑。彼女的には逆に普段のお礼だった模様。




あと設定集のほうでやってる話はある程度貯まったら纏めて外伝として扱う予定です。ちょっとずつ書き溜めていくのでもしお目にかけたときはよろしくお願いします。
とりあえず寝よう……


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ブラック・ジャック拉致作戦

ちゃんとした話が詰まってるので小ネタとしてみたら予想より長くなってしまった話。

割とぶれっぶれの文章なんですがダイジェストっぽく書こうとして失敗しました。予想以上に纏めきれないので途中からそういうネタのつもりで書いたんですが全然安定してないですね(白目)

>ちょっと急いで書き過ぎた感あるので、修正かけるかもしれません

誤字修正。名無しの通りすがり様、ゆっくりしていきやがれ様ありがとうございました!


 ろうそく一本の明かりの下。数名の男たちはそのか細い光の中、囲んだ机の上に置かれた地図を真剣な表情で眺めていた。

 地図はとある山地の全体像を表している。傾斜などの大まかな情報と河川、それに断崖。彼らにとって必要な情報は全てそこに記入されていた。

 

「よくぞこれほどの地図を……」

「ふふっ。どこにでも金に転ぶ輩は居るという事です」

 

 地図を入手してきた幹部の1人は人好きのする笑顔を浮かべてそう答える。その外見から人に取り入り諜報を行う事を得手とする彼は、つい先日潜入先の王宮で伝手を構築、利用してこの地図を入手。休暇を装って潜伏している仲間達の下へとこれを届けたのだ。

 

「かの山地は王宮内でも把握し切れていない危険地帯。しかし、大まかな地形はこれこの通り。現地の生態や環境が分からないのは不安の残る点ですが」

「いや。今まで闇雲に突き進むしか手が無かった事に比べれば雲泥の差だろう。それで、王宮側の警備が厚いのは」

「ここ、そしてここの側面からの侵入は不可能でしょう。森林を経由していくルートが現実的ですが、周辺の森は広大です。山までにどれだけの損耗があるか」

「いっそ空からアプローチをかけてはどうだ? 例の忌々しいロボットも日中は鉱山の中に居る以上、スピード勝負をかければ」

 

 喧々囂々とした様子で会議は進む。長期の潜伏の果てに掴んだこの好機を逃してなるものか。彼らは己の持ちえる知識を駆使して2パターンのアプローチを考えた。

 

 まず一つは森林から森を伝い秘密裏に標的の住まう山村に強襲をかけるプラン。難点としては森林自体がこれまで彼らの企てを阻み続けていた難所であり、地図が手に入ったとは言え容易く突破できるルートではないという事。代わりにこのプランが成功すれば現地勢力であるマリネラ軍と戦闘を行う可能性はかなり低くなる。

 

 次に陽動作戦を行い、マリネラ軍の戦力を集中させて目をそらし現地に空挺部隊による強襲を仕掛けるプラン。これは成功率が高く思えるが、現有戦力でマリネラ軍の目を誤魔化せるのかという問題と、万が一強襲が失敗した場合戦力が完全に枯渇する事になる可能性が高く非常にリスクのあるプランだ。

 

「あくまでも奴の拉致は我々の悲願達成のため。その為に戦力が枯渇しては意味が無い」

 

 最上位者の判断により、地図を頼りにした潜入が選択され、彼等は成功を期して盃を交わした。統合軍全盛期の隆盛は影も形も無く、今やこの支部に残された備蓄も後僅か。最早組織としての統合軍の残滓でしかない彼等だが、野望だけは潰えることなく渦巻いていた。

 

 ブラック・ジャックの蓄える莫大な資金を接収し、奴の名声に群がる有象無象を取り込んで組織の復興を図る。この計画が成功すれば非主流派だった彼等が統合軍の後継者として認知される。

 そしてゆくゆくはカセイエリアを制し、その戦力で以て防衛機構という名ばかりの軍事組織に統合世界を統べる者が誰であるのかを世に知らしめるのだ。

 

「それでは私は妨害工作の為に王宮に戻ります」

「うむ、君の働きは忘れない。無事復権した暁には相応の待遇で遇する事を約束するぞ!」

「期待しております……将軍閣下。それではまた」

 

 贅沢品である酒を仕入れた王宮に潜入している工作員は一口もそれ等には口を付けず、最上位者に暇乞いを行い綺麗な敬礼を行って姿を消した。

 

「見事な敬礼だ。あれ程の男が工作員等とは何と勿体無い」

「例の少佐殿の麾下だったとか」

「成る程。血吸いであるのか。やけに色が白いと思えば」

 

 酒が入り、普段抑圧されていた為か口々に好き放題言い合う部下を尻目に、最上位者は先程言われた将軍という呼び名の余韻に浸っていた。閣下という単語とは縁遠い自分がよくぞ。将官用の軍服を着用した己が大軍勢を率いる姿が見えたのだろう。ニヤリと笑って彼は手元の盃を飲み干した。

 

 

半ば宴会場と化した支部から離れて、工作員は一度、チラリと背後を振り返る。誰かがつけてきている様子はない。

 

「ありゃ、駄目だろうな。下には何名か『人物』がいるが一番上があれじゃあなぁ」

 

 彼等は失敗する事を恐れてはいない。後が無い故に。その為、死兵と化して敵に突撃する姿は練度以上の力を発揮する。

 だが。先が、希望が見えた時にそういった兵士がどうなるか。答えはこれから彼等が教えてくれるだろう。アジトから抜け出した工作員は自身のデベソを押し、体を変形させ鳥に変身する。

 

「さぁて、警備訓練に協力してくれる方々も見つかったし急いで戻るとするかね。仮に先生の所まで行かれたら、トキ先生に大目玉食らっちまう」

 

 バサリ、と羽音を立てて大きな鷲が舞い上がる。

 

 賽はここに投げられた。

 

 

 

「これよりブラック・ジャック拉致作戦を決行する!」

 

作戦決行当日。司令官は興奮した様子を隠そうともせずに作戦決行を宣言する。やる気に溢れる司令部と恐怖に怯える隊員達は一斉に森林地帯へと足を踏み入れた。

 

 

以下村落に至るまでのDieジェスト

 

森林地帯 

第一アプローチ ×

 

 森林から最短ルートで突入を開始。現地生物のライオンに似た原生生物と遭遇。銃にて応戦するも小隊全滅。

 

第二アプローチ ×

 

 川沿いに山へと抜けるルートを選択。途中道が無くなり川を渡ろうとした所、半数がピラニアの餌食となり撤退。撤退中に美しい少女を見たと連絡が入った後に音信不通となる。

 

第三アプローチ ○

 

 パワードスーツを着用した虎の子の部隊により断崖側からのルートを確保。難所である森林突破の橋頭堡を作る事に成功。

 

パタリロ山 

第四アプローチ ×

 

 橋頭堡から山岳地帯へと抜けるルートの開拓。予想通り謎の少女を発見。パワードスーツによる捕獲を試みるも何故かパワードスーツが破壊されたとの連絡が入る。

 

第五アプローチ ×

 

 これ以上貴重なパワードスーツを失う訳には行かないため機甲部隊全機を使って突貫を開始。連中も恐れを成したようで妨害らしいものは何もない。これは勝ったなと司令官が祝杯の準備の為に席を外した隙に、敵人型兵器によりパワードスーツが全滅したと部下から言い渡される。

 

第六アプローチ ○

 

 散兵戦術により相手の的を散らすしか手が無い。事ここに至っては仕方なし、と弾除け用の少年兵を含めた歩兵隊に銃を持たせ一斉に森へと駆け込ませる。敵勢は的を絞れずに混乱しているらしく、こちらの精鋭が村に取り付く事が出来た。司令官は勝利を確信するも先ほどの轍を踏まないようにその場にて待機、吉報を待つ姿勢をとる。

 

 

Dieジェスト終了

 

 

魔境

第七アプローチ 小隊長視点。

 

 我々は村に侵入した後に各建物を占領に掛かる。これは奴が逃げ込む場所を削る為と、村外に出て来ている化物女に対する人質を兼ねている。丁度村の入口近くに建つ何かしらの宿舎らしき所には女子供の姿が見受けられるという。護衛らしき姿も無く、なまっちょろい白髪の小僧が一人でガキ共の面倒を見ている姿が見えたそうだ。丁度良い、あの小僧とガキ共を人質としよう。

 

「殺すなよ」

「了解」

 

 そう言って合図をすると、隊員の一人がライフルを持ち上げ、数発発射する。小僧の足を狙った射撃は真っ直ぐに飛ん。だ、筈が。なぜ、おれのむね、に、穴が……

 

「ンだよ七実の奴。こンだけ通しやがって」

 

 ざく、ざく、と草地を踏む音がする。視界が霞んで見えない中、小僧の声が近寄ってくる。悲鳴を上げる味方の声。銃声。倒れ伏した自分。

 

「わりぃが、こっから先は一方通行だ」

 

 そんなけたたましい騒音の中、何故かその声だけは綺麗に小隊長の耳に届いた。

 

 

第八アプローチ 少年と料理人視点

 

 悲鳴を上げて逃げ出す敵部隊に一方通行はため息をついた。そして、その内の一部がとある店へと逃げ込むのを見て「あ〜ぁ」と声を漏らす。

 ある意味一番酷い所を選んだ敵に憐憫を懐き祈ってやる位の善意を少年は持っていた。無力化した連中を鉄華団の少年兵が拘束するのを見ながら軽く手を合わせ、彼は遊んでくれと全力で絡んでくるガキ共の世話に戻る。

 

 さて、心優しい少年に心配された彼等はどうなっているかというと意外にも無事な様子で椅子に座っていた。顔はパンパンに腫れ上がり身動きが出来ないように拘束こそされているが、彼等が何をしに来たかを考えれば非常に穏便な処置だろう。少なくとも彼等を拘束した人物はそう考えていた。

 

 その人物、張々湖は鍋を振るう弟子の一挙一動を鋭い眼差しで眺めていた。少しでもミスがあれば厳しく指摘し修正を入れる。張々湖は見た目通りの陽気でおおらかな人物であるが、こと料理に関しては一切の妥協を許さない鬼と化す。

 

 その視線を一身に受ける最新の弟子、テンカワアキトの真剣な様子を眺めながら、張々湖は気付かれないように少し口元を緩める。不幸な出来事で料理人としての道を断たれた彼と自分たちの境遇を重ねてしまう為か、張々湖は贔屓にならない程度に彼を可愛がっているのだが、それを血肉に出来るひたむきさをこの青年は有していた。

 

「師父、炒飯上がりました!」

「うむ、盛り合わせはしっかり気を配るネ。見た目が悪ければ全部台無しアル」

「はい!」

 

 視線を常に鍋と火に向けるアキトの様子にうん、うん、と頷き、張々湖はさて、とばかりに振り返り拘束した兵士達に問い掛ける。この連中が飢えているのは同僚から連絡を受けていて知っている。わざわざ見栄えのする炒飯を作らせたのもこの者達に見せつける為だ。

 

「あれはお客様用の料理ネ。もし知ってる事お話してくれる人はアレが食べれるアル」

「ふ、ふざ、ふざけ……るな」

 

 ゴギュルルルと凄まじい音をたてながら、視線を炒飯から一切離さずに男の一人が啖呵を切ろうとして失敗するのを見て、もしかして予想以上にあっさり終わるかもしれないと張々湖は全く逆の理由で不安になった。せっかく用意したユリカの料理を食べてくれる者が居なくなるかもしれない。

 

 料理は食べられてこそ、という信条を持つ張々湖はユリカの技術上達の礎になってくれる気骨のある侵入者がいる事を切に願いながら、再度の声掛けを行うのだった。

 

 

第九アプローチ

 

「吸息・旋風鎌鼬!」

「うぎゃぁ!」

 

第十アプロ

 

「すこしあたまひやそうか」

 

第十一

 

「ダアホ…

 

第…

 

 

 

 ボロ雑巾のようになった兵士は、震える足を必死に引きずりながら前へ前へと進み続けた。

 振り向けばそこには地獄が広がっている。振り向けば地獄に落ちる。当初の目的などはもう兵士の頭には無かった。ただ後ろから地獄の鬼どもがやってくる。その恐怖だけが兵士を動かしていた。

 

 やがて、兵士はある山荘の前に辿り着く。玄関前の階段を登ろうとして、もう足が上がらなくなっている事に気付いたがすでに遅く、階段に倒れそうになり…

 

「随分とひどい怪我だな」

 

 腕を摑まれ引き起こされる。ふらつきながら立ち上がると、そこには顔の一部を変色させた異貌の男が立っていた。標的、という単語が頭を過るが、直ぐに頭を振ってその考えを捨てる。今更彼を確保してどうすると言うのだ。仲間も全て死に絶え、残るは己一人。どうせあの本陣でふんぞり返っている上官殿(クソ野郎)もとっくにおっ死んでいるだろう。なら、何をしたって意味が無い。

 

「せめて……苦しまないように、殺して欲しい」

「殺す……何故?」

「私は、侵入者だぞ!?」

「警備訓練のだろう。聞いているよ」

 

 鼻で笑うようにそう言ったブラック・ジャックに、兵士は思わず笑いがこみ上げてくるのを感じた。そうか。これは警備訓練だったのか。この、ここに来るまでの、至るまでの地獄は、全て……!

 涙を流しながら笑う兵士にブラック・ジャックは心底同情したような表情を浮かべて、兵士に肩を貸し促すように自宅の山荘へと歩き始めた。抵抗する事も無く兵士は山荘の中へ連れ込まれ、そして辺りは静かになった。

 

 

 

 その全てを司令部で聞いていた司令官は、最後の隊員の反応が消失した瞬間に立ち上がり「撤退」とだけ小さく呟いた。その声に従って動き始めた司令部の面々はしかしその動きを途中で強制的に止められる事になる。

 

 白い胴着のような物を着た、凛々しさの中に優しさを感じさせる顔立ちの男だった。にこにことした表情を浮かべた美しい少女だった。栗色の髪をした優しげな風貌の、赤い服を着た男だった。黒いマントを羽織った黒尽くめの男だった。黒い忍び装束を着た者達だった。周囲を見渡せばあちらにも、こちらにも。気づけば無数の人間達に囲まれていた事に気づいた司令部の人員は、手に持つ武器を地面に放り出し、両手を上げて降参の意を示す。

 そんな男たちの姿を静かに眺めながら、白い胴着を着た男は静かに口を開いた。

 

「貴様らには地獄すら生ぬるい」

 

と。

 

 

 

「レオリオ」

「あん?」

 

 そのままにしていても森の獣が掃除をしてくれるだろうが、変に放置をして疫病にでもなられては困る。MWで適度な穴を掘る作業の合間、オルガは傍らに立つレオリオに声をかけた。

 

「弾除けに使われてたっつーガキ共は、うちが引き受ける。他人事じゃぁねぇからよ」

「……そうか、助かる」

「村に入り込んだ連中で生き残ってるのは、グレートさんに引き取ってもらった。先生はどうしてる?」

「怪我人の手当てをした後は山荘に戻ってる。ホシノ中佐……ルリちゃんに礼を言っていたよ。臨場感ある訓練だって」

「……信じらんねー肝っ玉だな」

 

 そう言って首をすくめるオルガに違いない、と返して、レオリオは村へと引き返していく。医者である自分にはもうやる事がないからだ。この襲撃は最初から仕組まれていた。仕組まれていた以上当然準備は入念に行われており、更に念を入れて医療班としてスタンバっていたが、結局コチラ側の被害はほぼ0。レオリオの仕事は主に相手が囮に使った少年兵の治療を行う事になった。そして、それらももう終わり後は後片付けの時間。こうなると人力よりもMW等の機械が役に立つ。

 

 今回の訓練(駆逐)でこの辺りの残党はほぼ根こそぎになっただろう。以前から小まめに掃除はしていたが、そろそろ一網打尽にするべきだとルリちゃんが判断を下し、先生に許可を取りこの警備訓練(オトリ作戦)は実施される事になった。トキや七実が暫く留守にすると言う事も関係しているだろう。彼らほどこの山を知り尽くしている人物はこのマリネラ王国にすらそう居ないのだから。

 

「あ、そうだ。一方通行君に後で礼を言っとかないとな」

 

 静養中である彼に無理な働きをさせてしまった事を思い出し、レオリオは先に鉄華団の宿舎によるか、と行先を変更。時刻は昼過ぎ。ついでに飯でも奢ってやるか、と呟いてレオリオは歩き始めた。

 

 

 

side.K 或いは蛇足

 なんか派手にバルバトスが暴れてたし皆頑張って訓練しているんだな。怪我人が出るほど訓練に熱中するのは確かにありがたいが命は一つ。気をつけて欲しいもんだ。

 

 しかしとっくに壊滅した統合軍残党が襲撃してきたなんてシナリオでやったにしては相手の装備がお粗末だった。流石に吸血鬼部隊やゾンビアーミーは無理でももう少し機甲戦力があった方が良いんじゃないだろうか。まぁ下手な機体を用意してもどうせバルバトスが無双するんだろうが。

 

 怪我人の少女もグレートの奴が引き取って行ったし、そろそろアキトの所に行って飯でも食べるか。今日は損得抜きで久しぶりにただ人を救うことが出来たし気分が良い。このまま本物のブラック・ジャック先生が来てくれたら天にも昇る気持ちになれるんだが無理かな。無理だろうなぁ……神様お願いします、次の統合ではブラック・ジャックをよろしく!

 さて、今日は焼き飯でも頼もうかねぇ。




グレート・ブリテン:出展・009
 またの名をサイボーグ007.006張々湖と並んでサイボーグナンバーズ年長組。大抵の物には変身する事が出来る為潜入調査などを主に行っており、今回の『訓練』の仕掛け人。

一方通行(ひとかたみちゆきかもしれない):出展・とある魔術の禁書目録
 ちょい役として登場。保育士。

張々湖:出展・009
 またの名をサイボーグ006.グレート・ブリテンと並ぶ00ナンバーサイボーグ年長組。中華料理の達人であり料理人として再起したテンカワアキトの現在の師匠。

テンカワアキト:出展・機動戦艦ナデシコ
 久しぶりにマントを羽織ったが流石に恥ずかしい格好だと自覚。ユリカからは好評で少し彼女のセンスを疑っている。

白い胴着をきた男:出展・後書き
 弟の名台詞を躊躇無くパクる兄の鏡

にこにことした表情の美しい少女:出展・後書き
 先生と離れるのは辛いが北斗・南斗巡りツアーが待ってるのが楽しみで仕方が無い。

栗色の髪の青年:出展・009
 初登場だけど台詞なし

レオリオ=パラディナイト:出展・HUNTER×HUNTER
 先生、自分を囮にしているのにまるで動じていない、と目指す頂の高さを改めて実感。債務は今日も積もっていく。

オルガ・イツカ:出展・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 今回弾除けとして扱われていた少年兵達の状態に義憤を抱き彼らを鉄華団に迎える事を選択。せめてこっちに話は通せとビスケットに叱られるも、流石は団長だとその後褒め称えられ恥ずかしさで頭をかくことになる。
 おい、そこの作業、止まるんじゃねぇぞ!

間黒夫(あいだ くろお):出展。なし
 渡された資料の頭に書かれている『警備訓練』の文字で「なら大丈夫だな。よろしく頼む」と許可を出した。何度も安全性は問題ないと事前に言われていた事もあるが最近横着が過ぎている模様。


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ifストーリー 鴨川源二(オマケも統合)

始まりと終わりに関しては、もしもこの世界が50年位持ったら、という仮定での話になります。

くっそ長くなって難航してたんですが、朝方「ちょっと更新が空いてるし貯まったオマケを投稿すっか」と安易に判断して投稿したら低評価付きで「オマケが読みたいんじゃないんだよ! 最新話で出したら勘違いするだろ!(勝手な意訳:お前の新作が見たいんだよ!)」とボロカスに怒られたので奮起してやった。

ちょっと反省している(睡眠時間的な意味で)

誤字修正。Kimko様、ハクオロ様、名無しの通りすがり様、佐藤東沙様、オカムー様、仔犬様ありがとうございました!


「……目をつむれば」

 

 チャンピオンベルトを写真立ての隣に置き、呟くように鴨川は言葉を紡いだ。

 

「目をつむれば鮮明に思い出せる……敗戦のショックと貧困。世界統合による混乱。日本人(わしら)はそれでも立ち上がらなければならなかった。復興に向けて活気を取り戻さねばならなかった。熱い……時代じゃった」

 

 固唾を飲んでこちらを見る教え子たちとかつての宿敵。降りしきる吹雪の中、鴨川は古い写真に目を向ける。

 若かりし頃の自身と宿敵がにらみ合い、その二人の間で困ったように笑う女性。そして……右端で、我関せずといった顔をする異貌の男。

 目をつむれば鮮明に思い出せる。あの日、あの時。あの時代。ワシ等は……俺達は、確かに出会った。

 

 

 

 だんっ、と音を立てて出された銀シャリを受け取り、浜団吉は掻き込むように米粒を口の中に押し込んだ。数日前の拳闘で稼いだ金は後わずか。白米を食べるのもこれが最後になるだろう。名残を惜しむように飯茶碗から口を離し汁物をすする。そして出された沢庵を数切れ口の中で咀嚼し、飯茶碗に口を寄せた時にどすん、と音を立てて両隣に誰かが座った。

 

「奢れ団吉」

「貴様だけ銀シャリさ食べるなんざ許されんダニ」

 

 鴨川源二と猫田銀八。団吉と同じ拳闘屋だ。

 

「ふざけるな! この間の拳闘で死に物狂いで稼いだんだ! ヌシ等も拳闘屋なら拳で稼げ!」

 

 団吉の言葉に二人の顔が歪む。先週この二人が行った試合はドロドロの引き分けにもつれ込んだ。勝ち負けをきっちりさせないと試合が組みにくいこの時代では、ドロドロの泥仕合は敬遠される。そのため、二人は試合を組まれる事が無くなったのだ。

 

「あれは俺の勝ちだった!」

「貴様へろへろだったのに偉そうダニな!」

 

 席から立ち上がり互いの胸倉を掴む二人に団吉は呆れた様な顔を向ける。

 

「やめろやめろ。互角でいいじゃねぇか」

「貴様こそ弱いクセになんだ?」

「銀シャリとは生意気ダニよ」

「因縁つけてんじゃねーぞ……」

 

 飯を食べ終わった団吉が立ち上がり二人に向かってメンチを切る。やるのか、とばかりに鴨川と猫田が視線を向け、その彼らをパンパン、と手を叩いて彼らの注意を引き付ける男が居た。赤色の随分とハイカラなスーツを着て眼鏡をかけた男だ。

 

 アメリカ兵か? いや、連中にしてはやけに身綺麗だ。目線で鴨川と猫田、浜は目を合わせ頷き合う。この闇市でも異人は極力邪魔をしないというルールがある。それを守らなければ排除されてしまいかねない。三人はすっと道を開け、それに満足したようにスーツを着た男は頷いた。

 

「サトル様、先生。こちらが空きました」

「すまないなデミウルゴス。いやぁ、一度こういう場で食べてみたかったんですよねぇ」

「ご相伴に預からせて頂きましょう」

 

 スーツの男は先程まで団吉が座っていた場所にハンカチを広げると、すっと背後に立っていた男二人に頭を下げる。片方は日本人のようだが随分と血色がいい、どこぞのお坊ちゃんだろうか。そしてもう一人は……日本人、なのだろうか。顔の三分の一程の色が黒い、不思議な肌色をした男だった。

 

 男たちは鴨川達を一瞥した後に興味を無くしたように飯屋の椅子に座る。「これはどういうメニューなんですかね先生」「ああ、それは」等というやり取りをしながら彼等は飯処に意識を集中させた。

 

 やる気を削がれた鴨川達はため息をついてその場を立ち去る。金もないのにこんな場所に居ても腹が減るだけだ。明日も試合があると言う団吉を激励がてらからかいながら歩き去っていく。

 

 そんな彼等の背中を、先生と呼ばれた男はじっと眺めていた。何かを思い出すように。

 

 

 

 団吉が試合に負けた。それも圧倒的な力の差で。相手は米兵の元ボクサーで、技術も体格も何もかもが圧倒的に上の相手だった。彼は適度に手を抜かれて負けたらしい。まるで相手にされていなかった。

 

 金髪の米兵はニヤニヤと、悔しそうに震える団吉と鴨川達を見下した。彼は下から睨め上げる鴨川達の視線を心地よさそうに受けて、脇に立つ部下に合図を送る。

 

 彼等は配給用の物資を詰めた段ボールを持ち、リングの上から民衆に向かって中身を投げ始めた。地面に落ちた服やチョコ、ガムやパンを拾い集める民衆を眺める為に。

 

「女子供が優先ダ!」

 

 日本語を話す米軍人の言葉を聞き、群がる様に集まる群衆達。それらを見下ろしてニヤニヤと笑う米兵達。猫田が「止めろ」と叫んだ。奴らはただ日本人を見下す為にリングの上から笑っているのだと。

 

「たった今、日本人さ殴られて、それなのに……こんな……っ!」

 

 アリのように物資を拾い集める群衆に、猫田の声は届かない。戦場で出会っていれば間違いなくハチの巣にしていた。悔しさを堪える様に猫田は歯ぎしりをした。

 

「こらえろ、猫田。時代なんだ……そういう時代なんだよ」

「だからといって……地面さ投げつけられたもんを……」

 

 そんな猫田を、鴨川は止めた。彼とて怒りで頭が真っ白になりそうだった。だが、彼等も必死なのだ。必死に、誇りを捨ててでも生きようとしているのだ。だが、この胸に来るやるせなさを誤魔化す事はできない。失意の中リングを降りる二人の足元をチョコの包みが転がっていく。

 

 踏みつぶしてやろうか。頭の中に思い浮かんだ八つ当たりに鴨川は頭を振った。そこまで落ちぶれるつもりはなかったからだ。つい目でチョコの行方を追う。すると、街路樹にもたれかかった女性の足元でチョコの包みは止まった。

 

 その女性は足元のチョコに見向きもせずにじっと木に寄りかかっていた。今の時代、先程の憤りは兎も角として食べる物にすら事欠く有様だ。軽い親切心のつもりで猫田は女性に声をかけた。

 

「君は、拾わないダニか? 早くしねとなくなるダニよ」

「とりあえず貴重品だぜ」

 

 そんな二人の言葉に、彼女は小さく首を横に振った。

 

「一つ拾えば……一つ捨てなきゃならないもの」

 

 街路樹から背を離し、女性は強い意志を持った瞳で二人を見る。

 

「日本人の誇りを」

 

 その視線に、鴨川と猫田は射竦められる様に動けなくなった。か弱い女性から放たれた言葉の、その中に詰め込まれた意志の強さを感じたからだ。

 

「ユキくん」

「先生」

 

 そんな一種のにらみ合いのような時間はそれほど長くはなかった。彼女を呼び止める人物が声をかけてきたからだ。

 その人物は異貌の男だった。顔の一部が黒く変色しており、それ以外の部分はアジア系の顔立ちをしている。最近どこかで見かけた様な気がする、と鴨川は感じたが、霞がかかったように思い出せなかった。女性はにこやかな笑みを浮かべてその人物に向き直り、鴨川達にぺこり、と頭を下げると異貌の男と共に歩き去っていった。

 

 まるで狐につままれたような心地でその場に立ち尽くした二人は、よろけるように歩く団吉の姿を見つけて慌ててそちらに駆け寄る。すでに手当を受けているようだが、足に来ている。家まで送ってやろうと彼に二人は肩を貸した。

 

 

 

「団吉の奴、大したこと無くて良かったな」

「一発で倒されたのが良かったんダニ。こう、交差した瞬間にバタリと倒れて」

「クロスカウンターって奴か!?」

 

 団吉の家からの帰り道。二人は下駄の音をカランコロンと鳴らしながら今日の事を話し合っていた。試合の事、技術の事。そして、拳闘とボクシングとの差。10年程度の遅れではないだろう。団吉は少なくとも彼ら二人以外に負けることはほぼあり得ない男だった。そんな団吉を一撃で倒した男。体格差もあった。恐らく4~5階級上の相手だ。だが、それでも一撃で倒されたのは技術の差だ。

 

「俺はよ、猫田。もっと強くなれるなら、それらを学んでみたいんだ。お国は負けたがよ、個人は別さ。拳一つでどこまで行けるのか。俺はそのためだったら何でも身に着けるさ」

「けっ。米国かぶれめ。俺はとことん拳闘でやってやるダニ」

「おい、猫田」

「わかってるダニ。今日は頭冷やすダニよ……希望も見たダニからな」

 

 猫田の脳裏に、拳闘場で見かけた女性の言葉がよぎる。良い言葉だった。あんなイキな台詞を言える女性がこの世の中にまだ居たなんて、と猫田は上機嫌に話す。美人に弱い猫田の言葉だが、鴨川も彼女の美しさを認めて頷いた。

 

 そんな二人の前に、異貌の男が姿を現した。

 

「……あんた」

「君たちは……確か昼間の」

 

 歩く二人の前。黒いコートを羽織った男……昼間は気づかなかったが、頭の半分を白髪に染めた男は鴨川の声につい今気づいたという風に二人を見た。この暑い中コートを羽織っているのもそうだが、その下も黒いスーツ。季節感を感じさせない服装だった。

 

「……思い出した。あんた、確か」

「きゃああああぁ!」

 

 鴨川が既視感の正体に気付いた時、彼らの背後から女性の悲鳴が響き渡る。振り返った二人を車のライトが包み、猫田の胸に悲鳴の主が飛び込んでくる。驚く猫田。ライトで眩む視界を手で押さえて確保しながら鴨川は悲鳴の主を見た。

 

「君は、昼間の」

「ユキくん」

「間先生! ああ、よかった!」

 

 鴨川が彼女の正体に気付いたと同時に、先ほどまで彼らの後ろにいた黒いコートの男が彼女の側に来る。男の存在に気付いたユキと呼ばれた彼女は猫田から離れ、黒いコートの男に縋りつく。少し残念そうな顔をした猫田の頭を小突いて、鴨川は車を見やる。

 

『その娘を離せ。日本人(ジャップ)

 

 米軍のジープから身を乗り出すように立ち上がった男が、ガムを噛みながら彼らに語り掛ける。昼間に団吉を倒した男だ。

 

『もう一度言う。その娘を離せ、日本人(ジャップ)

『断る。彼女は俺の患者だ』

『……貴様、英語が出来るのか』

 

 黒いコートの男が英語で返答を返すと、意外な物を見た様な顔で米兵が声を上げた。男は胸元から小さな紙を取り出すと、それを広げて米兵に見せる。怪訝そうな顔でそれを見た米兵は、『Mr.B!?』と叫ぶと次の瞬間に慌てたように車から降りて敬礼を彼に捧げた。

 

『彼女は私の患者で協力者でもある。連れて行くが構わんね?』

『は、はい! 申し訳ありません』

『では、消えてくれ。私は今気が立っているんだ』

 

 苛立ちを露にする男に米兵たちは口々に謝罪の言葉を紡ぎ、慌ててジープに乗って彼らの前から去っていった。静けさを取り戻した町の中で、男は「さて」と呟き、鴨川と猫田を見る。

 

「すまんがこの近くに食事処は無いかな。彼女を探して何も食べていないんだ」

 

 腹をさする男の様子につい鴨川達は吹き出した。

 

 

 

「お医者様ダニかぁ。そいつはすげーダニ」

 

 間という男の話を聞いて、猫田はがつがつと飯を掻き込みながらそう言った。隣でもぐもぐと米粒を掻き込む鴨川もうんうんと頷いて間の話を聞く。

 

「払いは道案内代として俺が持つ、と言ったが。お前ら遠慮しないで食べるなぁ」

「本当ですね」

「君もだよユキくん」

 

 彼らは闇市で夜の仕事をしている者向けの食堂に来ていた。昼に開いている飯屋よりも少し値段は高いがその分味は良いし、何より払いは他人持ちだ。欠食児童のように掻き込む拳闘家二人に、自分と似たような食事をとっているはずの女性。明らかに自分の倍は食べている三名に間は苦笑を浮かべる。

 

「二人は拳闘家なんだな。俺も少し心得があるが」

「先生、デカイからな。あのクソッタレ米兵より少しデカイ位じゃねぇか?」

「俺に先生くらいのデカさがあったら、あいつあの場でボコボコにしてやったダニ」

「あほ。あっさりカウンター貰うのがオチだろうが」

 

 ギュッと拳を握る猫田に鴨川が苦い顔で苦言をもらす。そんな二人の様子をけらけらとユキが笑ってみる。その様子を、間は微笑ましそうに見ている。

 

「そういえば先生。あの米兵共、先生にヘーコラしてたけど何があるんだ?」

「ああ。ちょっと医学実験で米軍に協力していてな。米兵からは優遇されてるんだよ」

「おお! 米兵が先生に頭下げるなんてすごいダニよ! 久しぶりに胸のすく話ダニ!」

 

 誰もが米兵を見れば下を向く今の日本で、逆に頭を下げさせる日本人が居る。それが痛快だったのか、猫田は頻りに凄い凄いと子供のようにはしゃぎ回った。そんな様子を鴨川が迷惑そうに見るも、否定する気も起きないのか黙り込む。

 

「暫くはあそこの病院に居る。もし何かあれば訪ねてくるといい」

「そいつはありがたいダニ。拳闘家さやってると怪我とは友達ダニ」

「お前、最近パンチに当たってばっかりだからな。猪突が過ぎるんだよ」

 

 二人のやり取りを笑って間は立ち上がり、二人にピッと名刺を渡した。難しい漢字が並んだその名刺に二人が委縮するように端っこを持つのを見て間は笑い、店の払いを済ませてユキと共に店を出る。

 ユキは店を出る前に、二人に小さくぺこりと頭を下げて戸を閉じた。その様子に猫田は顔をニマつかせて鴨川の肩を掴む。

 

「ユキさん……良い名前ダニ。拳闘さ好き言うてたからまた会えるダニかねぇ」

「……お前な。あの娘は」

「わかっとるダニ。お邪魔虫はしないダニよ……でも、可愛かったダニィ」

「……はぁ」

 

 上機嫌にユキの事を話す猫田に鴨川はため息をつき、ふっと笑みをこぼす。団吉の試合では日本と米国との差を思い知らされた気持ちだった。だが、同じ日本人にも米国に頭を下げさせる男が居る。その事が鴨川の心に燃料を齎す。

 いつか彼に会った時は、もっと別の舞台で。もっとデカく、強くなって会う。そんな小さな決意を胸に、鴨川は猫田と共に店を出た。

 

 

 その後は、町で異貌の男と出会うことはなかった。何度か拳闘を見に来ていたユキに話を聞くと、偉そうなスーツを着た男といつも飛び回るように動いているのだとか。彼女は彼の患者としてとある病気の治療を受けており、現在はその治療も終えて経過観察のような段階なのだという。広島出身だという彼女の病というのは例のピカの後遺症なのだろう。それを治療できるのが日本人、しかも同年代であるという事に鴨川も猫田も燃えた。

 

「何でも、コスモクリーナーって機械なんだそうです」

「へぇ、宇宙清掃機か。面白い名前だな」

「鴨川、英語さできるダニか?」

「勉強中なんだ。あの米兵の試合を見た。奴は嫌いだがやはり技術は凄い。一度米国に渡って俺はあの技術をモノにしてみせる」

「けっ。俺も見たダニがあんなのただのデクの坊ダニ。あんな大振り俺には当たらんダニよ」

 

 ユキの前だからか何時もよりも見栄が多いが、確かに猫田の速さならばあの米兵にも対抗できるかもしれない。と言っても奴と戦う理由はない。階級の違う相手に勝って悦に浸っている奴なんざ無視して良いのだ。それよりも自身を更に高める為に、鴨川は訓練を自らに課していく。そんな鴨川を「修行僧ダニ……」と猫田は渋い顔で言って、ユキにひそひそと何事かをささやいた。どうせろくでもないことだろう。

 

 あの黒いコートの男は新聞にも顔を見せているらしい。広島での実験によって広島で広まっていた病害をかなりの率で治すことに成功したとの事で、日本人の誉であると書かれていた。例の異貌についても触れられているが、これは人の皮膚を移植した後遺症であると書かれていて、どうにも信ぴょう性のない話だがやけに納得できる理由だ。

 新聞を猫田に見せると、猫田はまるで国が勝ったかのように喜び騒いでいた。騒ぎすぎて奴の住居の橋の下から立ち退きを求められたと荷物を抱えてやってきた。その時はたたき出してやろうかと思ったが、気持ちはわかる為仕方なく住んでいたバスの片方を提供した。

 

「なぁ、猫田」

「おう。俺達もやるダニ。同じ日本人にこんな人がいるダニ。腐ってる場合ではないダニよ」

 

 猫田は拳闘以外にも輪タクを始めたらしい。生活費だと幾ばくかの金を持ってきた彼に鴨川は追い出す理由がまた減ったと嘆くが、身近に練習相手がいる環境をひそかに喜んで二人は互いに競い合った。一歩走れば世界が前に広がっている。そしてそこにたどり着いた時、今度こそあの男に胸を張って会うのだ。そんな大それた夢を持って二人は坂の上を走る。競い合うように。

 

 

 

 だが、再会は彼等が思い描いていたよりも早く。そして彼等が思い描いていたよりも深刻で、救いのない状況で訪れた。

 件の米兵と猫田の試合が組まれたのだ。

 

 猫田はこれを快諾。持ち前のスピードを用いてあと一歩の所まで米兵、ラルフ・アンダーソンを追い詰めるが、後頭部を揺らされる反則の一撃を受けて昏倒。そのまま昏睡状態になった。医者からの診断は、このまま死亡する可能性すらある。仮に治っても間違いなく後遺症を覚悟してほしいという物だった。

 

 そして、今。鴨川は、間の前に猫田を抱えて立っている。猫田の症状を他の医師に聞かされ、そして鴨川の頭に過ったのはあの異貌の医師の姿だった。病院まで猫田の輪タクを使って彼を運び、駆け込む。たまたま受付にいたユキさんの姿に助かったと鴨川は駆け寄り、間先生に取り次いでほしいと頼み込んだ。

 

 間先生の元へはすぐに通された。ちょうど人と会っていた所らしく、彼の部屋には以前見かけた派手なスーツを着た男と上品な服を着た男、そして間先生が椅子に腰かけていた。客が居ようが鴨川には関係なかった。猫田を背負ったままその場に土下座し、頭を地面に打ち付ける様に下げる。

 

「先生、急な来訪、申し訳ねぇ」

「……用件を聞く前に、彼をこちらに寝かせなさい」

 

 土下座、と驚く上品そうな男の言葉に目もくれず、鴨川は目の前に座る間黒夫に頭を下げたまま語り掛ける。それを咎める事もせず、間先生はひとまず猫田の容態を気にした。再度地面に頭を打ち付けて感謝を示し、先生の部屋……おそらくここは診察室を兼ねているのだろう……にあるベッドに猫田を寝かせる。先生がいくつかの指示をユキさんに出し、そして彼女は頷いて場を離れた。

 

「それで、用件とは?」

「あんたに、頼みがある。猫田を、治してくれ」

「今の外傷程度なら直に治る。症状は?」

「……パンチドランカー」

 

 一瞬言葉を飲み込み、鴨川は病名を口にした。脳の障害。明らかな不治の病だ。だが、もしかしたら、という一縷の望みをかけて彼はここに来た。自身が知る最も優れた医者だと思う人物にかけたかった。

 

「……あの、先生、パンチドランカーとはどんな病なんですか?」

 

 ソファに座ったままの上品そうな男がそう間先生に尋ねる。男と男の話を邪魔されて不快に思ったが、彼らの邪魔をしたのは自身だと思いなおす。今、この場に入れてもらえただけでも僥倖。自身は頼みごとをしに来たのだから。

 

「慢性外傷性脳症。脳を揺らされた事による脳内の傷が元で起こる障害です」

「なるほど。この世界ではまだ治療法が確立できていないのですね」

「ええ。まぁ……脳の分野は長らく進歩が遅かったので」

 

 初めて聞く病名と原因に鴨川は歯噛みする思いだった。やはり自分か。猫田を壊したのは。そんな体でリングに上がっていたのか、猫田は。握りしめた拳の爪が皮膚を貫き破る。口惜しさと情けなさで胸が一杯だった。そんな状態であれ程の拳闘を繰り広げた男に対して、鴨川は心の底から尊敬の念を抱いていた。

 

「先生……何でもします、俺にできる事なら何でもやります。だから、頼む……お願いします。猫田を治して下さい」

 

 再度地面に膝を突き、今度は勢いではなくぴたりと額をこすりつけた。先程打ち付けた額から血が流れるのを感じるが構わない。ただ、この時命を捨てる事になったって構わない。あの偉大なボクサーに少しでも報いる事が出来るのならが、惜しくはない。

 

 そんな鴨川の様子を興味深そうにスーツの男が見やり、そして、間黒夫に視線を向ける。彼の主はすでにこの男に興味を持っている。君がやらないのならば私が動く、とばかりの視線だ。その視線を受けた間は小さくため息をついて、鴨川の後頭部を叩いた。

 

「いっでぇっ」

「男の何でもするなんて聞いても嬉しくもなんともないぞ」

「えぇ~、そういう話ですか先生」

 

 上品そうな男の口ぶりに間は苦笑を返した。

 

「私の手術は高額だ。お前さんに払いきれるか?」

「必ず。必ず! お支払いします!」

「良いだろう。なら彼を再びリングに立たせられるように治してみせる」

 

 鴨川の返答に満足そうに笑って、間黒夫は顔を上げた彼の手を取った。

 

「だからお前さんは、世界チャンピオンになってまた私に会いに来い」

 

 

 

 随分と高い手術代だったと、鴨川は苦笑する。その後、鴨川は猫田の仇を討つ為に米兵・ラルフ・アンダーソンと対戦。その試合を見に来た彼の側にいたスーツ姿の男、デミウルゴスからマネジメントの価値がある、と補助を得てアメリカに留学してボクシングを学び、世界に挑戦。復帰した猫田と共に日本人初の世界王者として君臨する事になった。その試合をわざわざ見に来た間黒夫に熨斗を付けて手術代を返済した、と伝えると、彼は「私の手術代を完済したのはお前さんが初めてだよ」と笑っていた。

 

 次元統合という事態が明るみになり、混乱する世界の中。デミウルゴスとの関係で他所よりも多少恵まれていた鴨川は鴨川の引退を機に拳闘家から足を洗った猫田と共にジムを起こし、そしてそれから数十年。彼の教え子から、ついに世界王者が誕生した。

 

「師弟での世界王者か……改めて聞くと凄いですよね」

「と言ってもわし等の頃は人間しかボクシングに参加しておらんかったからな。現状とは大分ルールもスタイルも変わるが」

「いやいや。それでもですよ。僕、感動しました」

 

 自身の愛弟子とも呼べる若い青年の言葉に鴨川は笑みを浮かべる。口では皮肉気に言うが、かつて世界に挑戦し頂点に立ったという自負がやはり彼にもある。

 

「しっかし、会長があのブラック・ジャックと知り合いなんてなぁ」

「先生さ大変な人だったダニ。今でもあの人の医術は再現できないダニよ」

 

 何せ未だに魔法を使わなければ治せないと言われているパンチドランカーを、戦後の医療施設で、しかも外科手術で治してしまったのは後にも先にもこの一件だけだと言われているほどだ。彼の話で盛り上がる盟友と教え子たちに鴨川は目を細めて笑みを浮かべる。あの日、あの食堂で自身と猫田が語り合った姿を幻視したためだ。

 

「さて、そろそろ飯にするか」

 

 照れ隠しにこほん、と咳を一つつき、鴨川は声をあげる。

 

「おぉいユキちゃん。飯にしよう」

「はぁい」

 

 長年連れ添った妻の屈託もない声に頬を緩ませて、鴨川は席を立った。その様子に猫田が苦々し気に「鴨川さやっぱり性根の腐ったスケベダニ」と呟くが負け犬の遠吠えだろう。先生がこの世界を去った時、悲しそうにしていた彼女を慰めたのは決して助平根性ではなかった。その時点でヘタレた猫田が悪いのだ。

 愛妻の作る料理は何でも好きだが、今日は、そう。あの日食べた銀シャリと漬物の味が恋しくなったな。そう考えながら鴨川は会長室を後にした。

 

 

 

side.K あるいは蛇足

 

 思い出した。ここはじめの一歩だ。そう言えば近場の食堂でボンカレーを待っている間に読んだ事のある顔だった。戦前戦後の話はあんまり見たことがないから最初はピンと来なかったんだよな。いやー、どっかで見たことがあるなぁと思ってたんだ。その様子に気付いたデミウルゴスさんが調べてくれてようやく発覚したんだが、作品に入る前の世界ってのもあるんだな。

 

「興味深い話だね。作中時間の約4~50年前。これは人間の時間で見れば決して短い期間ではないよ」

「似たような事で見逃している世界も意外とあるかもしれませんねぇ」

 

 ずずっとお茶を飲みながら鈴木サトル……人化したモモンガさんの呟きに、デミウルゴスさんが「慧眼、恐れ入ります」と頭を下げようとしているので止める。ついやっちゃうのは分かるけど、モモンガさん今はプライベートでそういうのは苦手だって言ってただろうに。

 

 俺の様子にはっとその事に思い至り、「も、もうしわ、ごめ、もうし」とどう言えばいいのかがパッと出てこないデミウルゴスさんの姿にモモンガさんが苦笑を浮かべて手をひらひらと泳がせる。構わないでくれって事だな。

 

「まぁ、彼らの事も気になりますがやはりコスモクリーナーの実証実験が出来たのは嬉しいですね」

「まさか戦後すぐなんて状態の世界なんて都合の良い場所があるとは思わなかったからな。やはり他世界については一刻も早く調べる必要がありそうだ」

「はい。超高高度から見た世界の現状を見るに、この周辺はかなり密集した世界群があると見受けられます。我々に等しい存在も出てくる可能性がある以上油断できませんが」

「うむ。危険なら危険で早く確認するべきだろうな」

 

 ちょっと魔王風のロールにモモンガさんが戻すと安心したようにデミウルゴスさんがいつもの論調に戻る。この二人、何かと気を抜きたがるモモンガさんと何かと気を引き締める傾向のあるデミウルゴスさんという妙にかみ合わない組み合わせのはずなんだが、結局うまい事回るという不思議な人たちなんだよなぁ。

 

 前回接触を持ったヤマト世界でも彼らの微妙なかみ合わなさが功を奏して協力関係を築けたし、これが彼らなりの処世術って奴なんだろう。

 あ、待てよ。ここ戦後間もなくの世界なんだよな。もしかしてワンチャンブラックジャック先生生まれてるんじゃないか? 

 ちょっとデミえもんさん、相談があるんですが。そうそう、もしかしたらの実証でですね。はい同じ人物が複数人居る可能性も含めて。そうです、ブラック・ジャックをよろしく!

 

 

 

 

鴨川のオマケ

 

「バカな練習はやめろ!」

「猫田のパンチで顔を歪めてた。奴は腹が弱ぇんだ」

「骨が折れちまう! 拳を壊せば試合どころじゃねぇぞ!」

「そうなったらそれまでの拳だったって事さ。俺には、猫田みたいな反射神経も勘もない」

 

 河川敷。土手に突き入れられた丸太を、鴨川はテーピングを巻いた拳で打ち付ける。

 

「図体のデカい奴とパンチ交換すればこっちが先に参っちまう。ならば」

 

 ぎゅぅ、と右手を握りしめて。鴨川は叫んだ。

 

「一撃だ! 一撃必殺の拳を作るしかねぇんだ!」

 

 ドスン、と右こぶしを丸太に打ち付け、そして左拳を打ち付ける。早さも何もかもを捨てた一発。ただ一度相手の腹に決まればそれで倒す。それが出来なければ鴨川に勝機はない。

 

 なんて無茶な、と団吉は思う反面、鴨川の武器であるこの意志の固さにごくりと唾を飲み込んだ。鴨川は技巧派のボクサーだと周囲の人間は思っているが、実際に戦った事の有る団吉や猫田から言わせれば違う。この男の最大の武器は、この鉄のように固い意志の力で支えられた粘り強さにある。

 

「だが、こんな無茶な特訓……幾ら意志が固くたって」

「ふっ…ふっ…」

 

 黙々と拳を丸太に打ち込む鴨川は、すでに団吉の事など頭から消し去ったかのように没頭している。その姿に期待を持つ反面、拳友の身が持たないのではないかと心配した団吉は、かつて猫田が自慢していたある医者の事を思い出した。おしゃべりなあの男が真面目な顔で凄い人だと語る人物。猫田の入院にも力を貸してくれたというし、何か力になってくれるやもしれないと、団吉はその場を離れて猫田への見舞がてら、彼が入院している病院へと足を向けた。

 

 

 

 テーピングした拳が血で染まる。鴨川は痛みに顔をしかめながら、拳を丸太に打ち付ける事だけは止めなかった。倒れた友は命の危険の中で日々を過ごしていた。自身がどうなっているのか、どうなっていくのか。不安だったろう、心細かっただろう。そして、憎かっただろう。そんな激情をにこやかな顔の下に隠して、ずっと一人で戦っていたのだ。

 

 なんて凄い男なんだろう。尊敬するよ。自分は命がかかったわけでもないのに、こんなに拳が痛いと逃げ出しそうになっているのに。あいつは逃げ出しもせずにあのリングに立ったのだ。

 

 置いて行かれたなぁ、と思い、鴨川は右ストレートを丸太に叩きつける。

 

「そろそろ休憩にした方がいい」

 

 背後からかけられた声に鴨川はビクン、と肩を揺らす。ゆっくりと振り返ると、その場にはあの異貌の男、間とユキが立っていた。心配そうに鴨川に駆け寄るユキに鴨川は小さく首を振って、両拳に走る痛みに顔を歪める。皮膚が裂けているか。

 

「何だい先生、今練習中なんだ……あんたの支払いの」

「猫田の手術が成功した」

 

 練習を中断させられた事に苛立ち紛れの言葉を言いかけ、鴨川は止まる。彼の言い放った言葉が信じられず、飲み込むのに少し時間がかかった。何度か瞬きをして、傍らに立つユキに目を向ける。彼女は笑顔を浮かべて強く頷いた。

 

 その姿に、言葉の意味を飲み込むことがようやくできた鴨川は、一粒の涙を流した。

 

「今は術後の経過観察の途中だが、ほどなく目を覚ますだろう」

「ほ、ホントにか、本当に、猫田は」

「言ったろう。治してみせる、とな」

 

 にやり、と笑う間先生の手を取り鴨川は深く頭を下げた。そんな鴨川に間黒夫は微笑みを浮かべて。その両手の傷に眉をしかめる。

 

「随分と無茶をしてるじゃないか鴨川」

「あ、その……こいつは、あの男に勝つために必要な事なんです」

 

 間の苦笑を見て自身の馬鹿げた練習を笑われたのかと考えた鴨川は、怒りよりも恥ずかしさを覚えて頬を掻く。彼のような人間からすれば自分がやっていることは馬鹿げているだろう。それは鴨川にだって理解できている。

 

 だが、そんな鴨川の言葉に、間は真面目な表情のまま首を横に振った。

 

「構わんさ。君が世界王者になる為に必要な事なら手助けするのが債権者の義務だろう……ユキくん」

「はい♪」

 

 間がユキに声をかけると、ユキはにこりと笑って肩にかけたバッグから緑色の包帯のようなものを取り出した。手を見せろ、間に言われた為、鴨川は土手に腰を降ろして彼に両手を見せる。

 

 テーピングの下の拳は皮膚が裂けて筋肉が露出し、酷い有様になっていた。息を呑んだユキに鴨川は苦笑する。女子供に見せる代物ではなかったか、と。

 

「……よし。鴨川さん、先に右手を見せてください」

「おいおい、無理しなくても」

「無理をしてるのは、鴨川さんじゃないですか!」

 

 ぎゅっと口を噛み締めて彼の右手に手を添えるユキ。鴨川はその姿に思わず声をかけたが、ユキは首を横に振って彼の右手の手当を始めた。

 

「猫田さんの試合、浜さんに聞きました。あの米兵がもう何人も日本人を倒していて、だから皆に勇気を分けたくてやったんだって」

「……団吉の奴、そんな事を」

「そして鴨川さんは、そんな猫田さんの仇を討とうと頑張って、こんな無茶をして」

 

 表情を歪めながら、ユキは緑色の包帯を鴨川の両手に巻きつける。ひんやりとした感覚が心地よく、あれ程迄に両手を苛んでいた痛みが消えていくような不思議な感触だった。

 

「カッコいいじゃないですか。応援、したくなるじゃないですか。私だって、日本人なんだから」

「……ありがとう、ユキさん」

 

 包帯を巻き終えたユキの手が鴨川の両の拳を包む。その両拳から、鴨川の体に熱い意志のような物が乗り移ったように感じる。

 

「さて、手当に関してはこれで良いとして。後の問題は君自身だな」

 

 ユキと鴨川のやり取りを微笑まし気に眺めていた間は、顔を引き締めると鴨川の体を見る。右腕を触り、肩や腹と言った筋肉の付き具合を見て、「ふむ」と一言漏らした後に眉を寄せる。

 

「今の君の体では、おそらく想定した一撃を放てば拳が壊れてしまうだろう。体が脆すぎる」

「……覚悟の上、です」

「それではいかんだろう。君には世界王者になってもらわないといけない。私も暇ではない以上、毎回当てにされても困るんだ」

 

 鴨川の言葉に間は首を横に振った。鴨川の言葉のどこかに、恐らく自身の存在を頭に置いているのを感じた為だ。確かに拳を壊したとしても間が居れば何とかなるだろうが、それは間が居ればの話。サポートはしてもかまわないが、世界王者になるのはあくまでも鴨川自身の力によるものでないといけないと間は語った。

 

 心のどこかで間の存在を頼っていた、という指摘に鴨川が首をたれる。確かに、どこかで助けてもらえるのではないかという考えを思い浮かべていたかもしれない。こんな様では猫田になんと言われるか分からない。

 

「鴨川君。一度病院に来てほしい。猫田君もそうだが、君のこれからの方針について少し話がしたい」

「方針、ですか。猫田の件については是非もありません。すぐに駆け付けるつもりですから構いません」

「そうか。その君の両手を覆っている包帯、これは前に君も会った鈴木さんの会社の発明なんだが、そこにな……」

 

 並んで歩きながら間は今後の事を語り始めた。その言葉を真剣な様子で聞きながら時々質問をする鴨川と、そんな二人の後をにこにこと笑いながら追いかけるユキ。3名の姿は雑踏の中に消えていった。

 

 

 

鉄拳

 

「拳に魂を込める、というのは言葉にすると簡単ですが実際は非常に難しい物です」

 

 パァン、と老人の左手が空を叩く。その音に鴨川は戦慄を覚えた。何かを叩いて音を出しているのならば簡単だ。だが、老人の拳は何も無い空間を叩いて音を出している。鞭がそんな現象を起こすのは見た事があるが、人間が拳でそれを起こした事が鴨川には信じられなかった。

 

 これ等は全身の筋肉や関節を用いて拳速を加速させる事により出来る様になる絶技だという。勿論習得するには多大な時間を修練に充てる必要がある。それだけの時間、この目の前の老人は武道に向き合って来たのだろう。

 

 彼の名はセバス・チャン。間の知り合いで、先日顔を合わせた派手なスーツの男の同僚だという。スーツの上からでも分かるほどに立派な体格を持つ初老の男性だ。

 

 先日、猫田の手術が成功した折に病院を訪れた際、間から彼と引き合わされた鴨川は、現在彼の指導を受けて肉体改造に励んでいる。鴨川が今までキチンとした指導者の元で学んで来なかった事による弊害、全体的な鍛え方の偏りを間が指摘した為だ。

 

 そして実際に彼から話を聞けば、これが確かに理に適っている事を鴨川は感じた。例えばコマを例にしてみても、片方に比重が傾いていればそのコマは直ぐに失速してバランスが崩れてしまう。人間の体も同じで、一つの部分だけを鍛えてもそれはそこが肥大化するだけで本当に力をつける事にはならないのだ。

 

「パンチを打つ時にどの筋肉がどのように動くかを意識した事はあるか? それ等の筋肉の効率的な鍛え方は?」

「……わかり、ません」

 

 セバスと鴨川のやり取りを聞いていた間の質問に、鴨川は答える事が出来なかった。だが、間は失望する様子もなく当然だと頷き、それが日本と世界との差でもあると語った。優秀な指導者と理論に則った体作り。基本のようだが、基本だからこそこの二つを疎かにすれば結果(選手の質)に明らかな差が出る。

 

 ならば、どうするか。それに対する間の答えがこのセバス・チャンという人物の紹介だった。鴨川は彼が勤めるAOG商会の現地雇用員として雇われ、午前は配送の運搬要員として、午後はセバスの指導を受けて肉体改造に。夜は只管に丸太に拳を打ち付けるという地獄の様な日々を過ごした。

 

 普通の人間ならば途中で折れるか体を壊してしまっただろう。だが、鴨川の鋼の様な意思はその地獄に耐え切り、間による適切な治療や食事全般のメニューの見直し、ユキの衣食住での細やかなサポート、そしてセバスによる技術指導が、鴨川の肉体の限界値を引き上げる。

 一月もしない内に、結果は現れた。

 

 

 

ドゴンッ!

 

 ハンマーで殴りつけた様な衝撃音が河原に響く。ユキが腰掛けた丸太が地面越しにその衝撃を彼女に伝えてくる。音と衝撃が止んだという事は、どうやら今日のノルマが終わったらしい。カバンを肩にかけて立ち上がり、荒い息を吐く鴨川へと歩み寄る。

 

「鴨川さん。お疲れ様でした」

「ああ、ふぅ、ありがとうユキさん」

 

 汗まみれになった鴨川にタオル(AOG商会の支給品らしい)を渡す。鴨川は体が冷えないように顔と上半身の汗を拭き取り、タオルを肩にかける。さて、ケアの開始だ。

 

 ユキは彼の両手のバンテージを外す。このバンテージは彼の勤める商会の商品で、通常の物よりかなり頑丈な布地で作られているらしい。鴨川の荒行は、普通のバンテージではたった数十分で擦り切れてしまうのだ。バンテージを外すと、浅黒く変色した彼の両拳が姿を表す。

 

「随分と色が変わりましたね」

「ああ。だが、まだまだだ。試合までに本物の鋼のように鍛え上げなきゃ、この拳も意味はねぇ」

 

 セバスに師事をしてから、必ず欠かさずにやっている事。それは拳の強度を上げる事だ。骨の強化の為、毎日の食事と会社から支給される健康食品で栄養を取り、拳を砂利を敷き詰めた箱に突き入れをしたりして皮膚を強くする。勿論終わった後は傷だらけになっている。

 

 こんな無茶がまかり通るのも、今ユキが自身の手に巻いてくれている緑色の包帯のお陰だろう。この包帯は凄まじい効果を持っている。販売元は鴨川も勤めているAOG商会なのだが、セバスによればこの包帯の常に湿った部分が傷を刺激し、人間の再生能力を限界以上に引き出してくれるのだそうだ。たったの一晩でこれ程の荒行の傷が消えるのだから、人間の持つ本来の力という物は大したものだ。

 

「さ、帰りましょう。セバスさんも出張から帰って来られるんですよね?」

「ああ。言われた本数を何とかギリギリ達成したが、やっぱあの人はすげぇや。俺の限界を見極めてたんだろうな」

 

 鴨川はポン、と自身が土手に埋め込んだ丸太に手をかける。鴨川の拳を打ち付け続けた丸太には、彼の拳の形に穿たれた痕がくっきりと残っている。もしも事情を知らない人間が見れば、歪な形のハンマーで殴りつけたと思うことだろう。

 

 完成した。彼は包帯に包まれた己の両手を見やり深く頷いた。体格差と技術力の差を覆す一撃必殺の拳、鉄拳が。後はこの一撃に耐えられる拳を己が作り上げるだけだ。

 

 勿論、相手を舐めるなんて心境はこれっぽっちもない。そもそも5階級は上の相手。リーチも技術もパワーも相手が圧倒的に上なのだ。相手を戦艦に例えるなら、自分はさながら戦艦にむけて両翼の爆弾を抱えて特攻する複葉機のような物だろう。あっという間にハチの巣にされても可笑しくはない。

 

 だが、そんなリスクはすでに覚悟の上だった。準備はした。心構えも。戦う理由だってある。

 

 ならば、戦るしかない。

 

 

 己が土手に打ち込んだ20本近い丸太を眺めながら、鴨川は戦意を高めた。既に自身が人類の限界に到達している事に彼はこの時まだ気付いては居なかった。




鴨川源二:出典・はじめの一歩
 本編時間軸では現在30歳位。デミえもんの「原作とは違う道筋を歩いた原作キャラのその後」という実験のために補佐を行われ、現在留学中。IF時空はそこから4~50年後でその間に世界チャンピオンになっている。

猫田銀八:出典・はじめの一歩
 鴨川のライバル。クロオの手術を受けて脳のダメージを抜き、悲劇からの劇的な復活というストーリー付きで現役復帰。世界的な人気ボクサーになる。鴨川とは数度世界タイトルをかけて争っており、彼らが現役の時代バンタム級は「日本人の庭」と呼ばれていた。

ユキさん:出典・はじめの一歩
 共同生活を送る代わりに病院で原爆症の治療を行っていた。コスモクリーナーによる放射能の除去とクロオによる変異した細胞の修復を行い、原作よりも長生きしたようだ。
なお鴨川の嫁に収まっており猫田は。

鈴木サトル、またの名をモモンガ:出典・オーバーロード?
 人間の姿で登場。次元統合という未曽有の危機に対して自身陣頭に立って立ち向かっている。骨の姿にもなれるらしいがご飯を食べる際に支障をきたすので人化姿が普段着代わりになっているらしい。

デミウルゴス、またの名をデミえもん:出典・オーバーロード
 モモンガが例えどのような姿でどのような思想を持っていても彼に対する忠誠は嘘偽りなくデミウルゴスの心に宿っている。クロオや鴨川に対するスタンスは興味深い駒。



オマケの感想

???「現地民に対する教導で新しいスキルやジョブが覚えられるかの実験。更に商会でしか作れない商品の宣伝と、現地民の英雄の囲い込みまで行える。一石何鳥なのかもわからない。流石はアイ、サトル様(びくんびくん)」

???「そういう意図じゃないとあれほど」


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カリーヌ

少し開いて申し訳ない。
ちょっと色々手直ししたんですが、うん(目そらし)

誤字修正。五武蓮様、蓬月 瞠様、椦紋様、赤頭巾様、洋上迷彩様、名無しの通りすがり様、ドン吉様、mr.フュージョン様、オカムー様、仔犬様ありがとうございます!


 人を治して、感謝される事は良くある。逆に力不足によって恨まれる事もあれば、憎まれる事だってある。今までにそんな事は何度も経験しているし、恐らくこれからも何度も経験する事になるんだろう。それは、医者として生きている上では避けられない事だし、避けてはいけない事だと俺は思っている。

 感謝を当たり前だと思ってはいけないし、恨まれる事を、憎まれる事を恐れて何もしなくなるのは論外だ。それ等の結果も含めて背負って、初めて医者という者になるのだから。

 

 だがしかし。手術が成功し、満足のいく報酬も受け取り。何事もなく終わった案件だと思っていた事柄に、『報酬が少なすぎる』と支払った側からクレームをつけられるというのは、流石に想像した事も経験したことも無かった。

 

「貴方がブラック・ジャックという医者ですね?」

「……いえ、私は間 黒夫という者ですが」

「つまりブラック・ジャックですね?」

 

 ピンク色の長髪を揺らしながら、彼女は再度俺に問いかける。彼女の傍らには力尽きたように倒れ伏す元依頼主……平賀才人とその恋人の姿がある。彼等もこの御仁を止めようと尽力していたようだが力尽きてしまったらしい。

 

「お母様、乱暴な真似は…」

「わかっています、カトレア。何も心配せず母に任せなさい」

 

 そんな彼女の勢いに待ったを掛けるように、先日俺が施術した女性、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌが声を掛けるが、その言葉もこの御仁を止める力は無かったようだ。申し訳無さそうにチラリと此方を見るカトレアに苦笑を返して俺はドアを開けて彼らを迎え入れる。今日の読書タイムは諦めるしかないようだ。

 

 薬品類の整理をしていたレオリオに茶菓子を持ってくるように伝えて、彼らを客間に案内する。「汚いところですがどうぞご自由に」と声をかけて俺はソファに腰掛ける。清潔にはしているつもりだが、貴族等という連中を入れる目的で整えられた部屋ではない。

 不満を漏らしてくるかなと少し身構えていたが、彼らは部屋を一瞥すると特に何事を言う事もなく、促されるままにソファに腰掛けた。さて、まず本題に入る前に確認しておこうか。

 

「カトレアさん。その後のお加減はどうですかな?」

「……この度は、本当に……先生から施術して頂いてからは不調もなく、ゆっくりと養生しております」

 

 患者である彼女に声をかけると、彼女は酷く恐縮している様子だったが、顔色も血の気が戻ってきており特に問題は無さそうに見える。施術から1月も経っておらず、まだ長期の旅に耐えられる体ではないという判断から暫く養生して貰っているのだが、その判断は間違いではなかったようだ。

 貴族である彼女をいつまでも山小屋に押し込めておくのも不味い為、今は山の麓にあり設備の整ったエトランジュの屋敷で養生してもらっている。この様子ならば近々故郷へ戻る事も可能になったと診断を下すことになるだろう。

 

 コンコン、とドアを叩く音がしてレオリオが茶菓子とカップ、それにティーポットを持って部屋の中へ入ってきた。

 

「失礼します」

「ああ、作業中にすまんな。後はこちらでやるから、作業に戻ってくれ」

 

 レオリオは客人の前にカップを並べ、一つ一つに茶を入れていく。この魔法のティーポットは常に新鮮なお茶を適度な温度で供給してくれる優れものだ。心得のない者が淹れても最大限パフォーマンスを発揮するように作られているため、少し舌の肥えたお客人でも満足いただけるだろう。茶菓子はなのは君が作ってくれたシュークリームだ。

 何でも体が治った報告のために実家に戻った際、レシピをお母さんに譲ってもらったらしい。彼女の実家は確かツキエリアだったか。彼女が所属していた管理局の本部は別のエリア群に存在しているし、もしかしたら同じように元々管理局と関係のある世界が他にも出てきているかもしれないな。何せ彼らは多次元組織。世界と世界を行き来する今の防衛機構のシステムは、彼らの組織体系をベースに出来ているのだから。

 

 さて。どうやらこのお茶とお菓子は彼らの、特にとある御仁のお眼鏡に適ったらしい。少し驚いたような表情を浮かべて、彼女は再びカップに口を付けた。隣に座る才人が美味い美味いとシュークリームにがっついているのをカトレアさんの妹が止めているが、そちらにも気づかないくらいに真剣な様子でお茶を味わってくれているらしい。

 

「素晴らしい香りですね。これは一体」

「とある世界で魔法を学んだ折に、現地の住民から頂いたものです。ああ、貴方方の世界ではありませんので、探す等という事はなさらないでください。そちらの婿殿に頼るのが一番ではありませんかな」

「……彼はまだ婚約者で婿という訳ではありませんが」

 

 そう言いつつも少し熱の篭った目線で隣に座る才人を彼女は見る。見られた本人は恋人であるカトレアの妹と仲良くしていてパッと見そうは見えないが、何だかんだで雁夜経由で私に行きついたりと優秀な男だ。

 才人の現在の職場と私がこのポットを手に入れた世界は同じエリア群の中にあるし、本当に手に入れてきてもおかしくはない。しばしお茶を楽しんだ後、私たちは改めて向き直り話を始めた。

 

「まずは挨拶を。私はカトレアの母、カリーヌと申します。以後お見知りおきを」

「これはご丁寧に。間 黒夫と申します。それで、今日はどのようなご用件で……報酬についてはすでに決着のついた話の筈ですが」

 

 お茶を楽しみ、大分落ち着いたのだろう。玄関を乱暴に叩いていた時とはまるで様子の違う彼女の姿に警戒心を解いて俺は尋ねた。才人は結構な額の貴金属と俺が欲しいと伝えた水の秘薬を持ってきてこれらを対価として置いて行ったし、またマリネラ王国に対しても滞在費を彼らは支払っている。金銭関係にうるさいパタリロも満足していたし、金銭的な意味では十分な物の筈だ。

 

「はっきり言えば、貴方に支払った金額は我々の想定した金額の半分にも満たない物でした」

「えっ」

 

 夫人の言葉に実際に交渉に当っていた才人が驚きの声を上げる。全権を任されてると俺に語っていた筈なのだが、どうも事情が違うらしい。まぁ、俺としてはすでに十分すぎる物は貰っている以上殊更騒ぎ立てるつもりはないのだが。

 というか普通に一財産位の財貨だったんだがあれで半分以下というのは流石に凄すぎるんじゃないだろうか。支払いの際は才人が事前にどこの世界でも価値があるものを厳選した貴金属が多かったのだが、換金の手間を引いてもあれだけで恐らく豪勢な屋敷を建てるくらいの金額にはなった筈なんだが。

 

「あの、全権は俺にって」

「最初から上限ギリギリの値段を提示する事はありえません。流石にそうそうありませんが、倍額吹っ掛けられても良いようにある程度の余裕は持つものです」

「そりゃそうでしょうが。何よりも今回は誠実さをと事前にお話ししたはずです!」

 

 カリーヌの言葉に食って掛かるように才人が立ち上がった。そんな彼を鋭い視線でカリーヌ女史が見やり、二人の隣に座るカトレアさんと妹さんがそんな二人のにらみ合いを心配そうに見守っている。仕方ない、か。

 コホン、と咳ばらいを一つすると、才人がハッと我に返り、席に座って頭を下げてくる。気にするな、と右手を上げて彼に答え、俺はカリーヌ女史に目を向けた。才人に向けていた鋭い視線がそのままこちらに向かっている。女傑という単語が頭に浮かび首を振ってかき消す。そういう単語を思い浮かべるとつい気圧されてしまう。彼女はただの患者の家族。それ以上でも以下でもない。

 

「成程、そちらの想定よりもこちらが満足した金額が低かった、と。通常ならばそれは喜ばしい事なのでは?」

「ええ。通常金子が思ったより出なければそれに越したことはありません。ただ、今回は娘の命が懸かった治療費です。それが予想よりもかなり、いえ。大幅に安く上がってしまった。それは別種の心配を生んでしまうものになります」

「……仰りたいことは分かりました。私の施術が不安になったのですね」

「いいえ。最初は勿論そういった考えもありましたが、ルイズの魔法で見たカトレアの様子でその懸念が誤りであるのは分かっていました。この場まで来たのはまた別の用件となります」

「要領を得ませんな。お前さん、俺に何を聞きたい」

 

 何が言いたいのかが読めず、少しキツい言い方になってしまったか。才人の顔が少し強張っている。対してカリーヌ女史は全く表情を変える事もない。これは一人で応対したのは間違いだったかもしれん。こういう時にトキ先生が留守にしているのが悔やまれるな。

 

「……ここに来ようと思ったのは、娘が受けた施術の内容の確認が一つ。そして、もう一つ。これは娘の様子を見て確認したいと思ったことですが……貴方はどうも報酬を受け取りたがっていないように見える。それが理解できません。働きに対価を求めるのは当然の権利。他世界にそれほど造詣が深いわけではありませんが、これはどの世界も同じ筈。そして貴方ほどの技術を持っていればそれに対して正当な対価を求めるのは当然の事でしょう。聞けば貴方は彼が提示した金額をよく見もしないで即決したと聞きます。そこに疑問を抱きました。それが娘に関係があるのか、否か。私の懸念はそれだけです」

「……なるほど」

 

 一息に言い切ったカリーヌ女史の言葉に俺は一つ頷いて、カップに口を付けて唇を湿らせる。要するにこの御仁は俺がカトレアさんに懸想して値引きしたとでも言いたいのだろうか。なら答えは……少し考えるが、NOだ。流石に最近大きな失恋をしたばかりだからな。暫く恋愛事は近寄りたくない。

 しかし、そうか。基本的に金銭の額を気にせずに仕事をしていたが、それが逆に気になるという人もいるのか。盲点だった……ブラック・ジャック先生も割と報酬を受け取らない事が多かったから、誤魔化せるかと思ったのだがなぁ。それらを全く知らない人から見れば不自然にしか見えないのか。できれば口外したいような内容ではないのだが……

 俺が思い悩むような表情を見せると、何を勘違いしたのかカリーヌ女史の娘たちがそわそわとした様子でこちらを見ている。余り引っ張る事は出来無さそうだな……仕方ない。

 

「実を言いますとね。俺は正直、金銭を報酬として貰いたくないんですよ」

「……それは、何故」

 

 観念したように話す俺にカリーヌ女史が不思議そうな顔で尋ねてくる。まぁ、そうだろう。普通はそうなるだろうな。金が欲しいかと言われて欲しくないなんて言葉が出てくることは通常は無いだろうさ。俺だって今のような状況になるまではそう思っていた。あのクソ野郎に無理やり大金を握らされるまでは。

 

「才人。お前さん、防衛機構の人間なら統合軍という言葉は聞いたことがあるだろう」

「ここで俺? あ、いえ。勿論です。統合軍という名前で幾つかの世界の軍事組織が一つに纏まって、防衛機構に反旗を翻した。再発防止の為に俺も走り回った口なんで」

「その統合軍の規模は知っているか?」

「ええっと……チキュウエリアで、あとはカセイもだから……」

 

 いきなり話を振られた才人が混乱した様子で幾つかの組織の名前を指折り数えながら、最後には数えきれない、と諦めて首をすくめた。大小の差はあるがかなりの数であるのは間違いないからな。パッと振られて思い出せる規模ではあるまい。怪訝そうな表情を浮かべる彼らに、俺はため息を一つついた。

 

「その統合軍の財貨の半分ほどが、俺の名義で防衛機構預かりになっている」

「へぇ、半分……はんぶん?」

「金額換算した数字は各国によってレートが変わるから確認したことは無いがな。一個人のポッケには過ぎる玩具だろう?」

 

 そう言って苦笑を浮かべる俺に、呆けたように才人が再度尋ね返す。他の3名には少し想像しづらかったかもしれない。まぁ、実際俺も想像できないのだ。幾つかの世界を纏めて買い上げられそうな財宝なんて物は。

 持ち主が判明しているものは全て返還してもらっているので、流石に多少は目減りしているだろうがな。恐らく俺が数十回転生して豪遊しても使い切れない金額だろうし、文字通り一個人が持つべきものじゃない。

 

「俺がチキュウエリアで最後に行った手術は、統合軍の首魁の一人の治療だった。その時の対価として頂戴したものだ」

「そ、それよく防衛機構側もOKしたっすねぇ……ガチでエリア予算レベルじゃないですか」

「俺にその手術を依頼したのがその防衛機構だったからな。断る為の口実だったんだが」

 

 シュークリームを頬張る。うむ、美味い。あまり考えたくないことを考えさせられたせいで少しエネルギーを使ってしまったからな。この糖分が頭に届く感じが素晴らしい。

 

「まぁ、要するに一個人として使い切れないほど貯め込んでしまっていましてね。例の水の秘薬であればまた欲しい位なので、もし報酬の増額を、と思っているならあれを用意してもらえればありがたい」

「……成程。いえ、不躾な質問に答えていただきありがとうございました。私はまたてっきり」

「……てっきり?」

 

 残念そうな、安堵したような表情を浮かべたカリーヌに疑問の言葉を投げかける。割と深い所まで話したんだからそろそろ納得してほしいものだが。

 

「カトレアに懸想して依頼料を気にせず手術をして頂けたのかと思っておりました」

「……ハハハ。ご冗談がお上手ですな」

「いえ、本気ですが」

 

 空気を読んであえて濁していたと思ってたんだが言っちまったぞこの人。左右に座る娘達はアワアワしているし才人は諦めたように放心している。おい、何とかしろよ娘と婿。そんな周囲の混乱をよそに、カリーヌ女史は手に持った鞄から大事そうに一枚の書類を取り出した。見た事のない文字と様式の書類だ。彼らの故郷の物なのだろうか。

 

「初めてお目にかかる書類ですな。これは一体?」

「カトレアの婚姻届け並びにラ・フォンティーヌ領の相続証明となります。女王陛下に骨を折っていただき用意いたしました。貴方の人となりを見させて頂きましたが娘を預けるに足る人物だと」

「お引き取りください」

 

 羽ペンを書類の側に添えてそう真剣な表情で話すカリーヌに、俺は真剣な表情でそう返した。

 

 

 

side.H

 

「もう、お母様! もう!」

「……ごめんなさい、カトレア。貴女があんまりにも嬉しそうに彼の事を語っていたから、少しでも助けになるかと」

「ああ、ちい姉さま。ちい姉さまがこんなにも荒ぶって」

 

 ぽこぽこと母の肩を叩くカトレアにそんな彼女の様子にほろり、と涙を流すルイズ。俺……平賀才人はそんな様子を見ながらなんだかなぁとため息をつく。次女に猛烈に詰め寄られているカリーヌ女史は、普段は中々崩さない鉄仮面を崩して娘を必死に慰めている。流石に母子の会話に入るわけにもいかないので、ヘリの窓から外を眺める。先程までいた村落がもうあんなにも遠い。上から見れば本当に小さな村だ。あんな偉い先生が住んでるなんて誰も思わないくらいに。

 

 しかし、統合軍の財貨の半分か。話半分に聞くにしても相当な額になるだろう。もしそんな金額が手に入ったら自分ならどうするかと考えて、いやどっちにしても防衛機構に預けるか。怖いわ。と考えを改めた。

 

「でも先生。怖がってるというか……」

 

 ついぼそり、と呟きが漏れてしまったが、ヴァリエール家の3名は互いのやり取りに夢中になっているらしく、俺のつぶやきは耳に入っていなかったらしい。少し安堵して、再度ヘリの窓から外を眺める。あの時。財貨について語る時の先生の様子を思い浮かべる。あれは、怖がっているというよりも……そう。

 憎んでいた。

 

 

 

side.K

『やぁ、初めまして』

 

 格子の向こうから男は俺に語り掛けてきた。豪奢な椅子に座り、湯気の立つコーヒーカップを手にゆったりと寛ぐ姿は、彼が囚人であるという事を一瞬だけ忘れさせる物だった。

 

『ああ、すまない。今は食後の一時を楽しんでいたんだ。バンホーテンは好きかな? 甘い物は良い。私は見ての通りのデブだから甘い物には目が無いんだ。ここの食事は私には少し物足りない量だが味に関しては一級品だよ』

 

 そう言って男は手元にあるコーヒーカップに口を寄せ、香りを楽しむように一息吸い込むとカップに口を付けた。ごくり、と喉を鳴らして男はココアを飲み込むと、名残を惜しむように口を話してカップをテーブルに置く。

 

『どうかね、君達も一杯』

『何故、私に治療を依頼した』

『……ようやく君の声が聴けた』

 

 そういって金髪の小太りな男は口を歪ませるように笑った。

 

『君は私の宿敵にはなれない。なろうとも思わない類の存在だ。ただ、そう。何故かな……一度会ってみたかった』

『そうか。私は会いたくなかったよ』

 

 嘘偽りない本音を聞かせると、小太りの男は嬉しそうに笑った。何が可笑しかったのか、ずっと。俺が席を立った後も、奴はずっと笑い続けていた。

 あのクソ野郎から受け取るのは金銭だけだ。それ以外の何もかもを俺は奴から求めなかった。求めてなんかやるものか。

 

「真剣に治りたいと思う人の心を見るのは……金銭以外でも良いですよね。BJ先生」

 

 才人達が去った後。自室で一人、BJ全集の前で俺はぽつりと呟いた。あれ程に美味しいと感じたお茶の味が感じられない。

 少し、疲れてしまった。あの仕事を受けた事を今でも失敗だとは思わない。奴からの情報提供で、幾つかの世界がウェスカーの魔の手に落ちるのを阻止する事が出来たからだ。のび太からも、ジャギからも感謝された。望まぬ仕事をさせたと、何度も何度も謝られた。あの二人に思う所は、決して無いとは言えないが……だが、仕方のない事だと理解することは出来る。だが。

 

「……いかんな。少し、寝るか」

 

 気落ちしてしまっては正常な判断は下せない。こういう時には一度休んで気持ちをリセットしなければいけない。ああ、だがなぁ。やはり、俺にこの名前は重いです。神様、頼む。次の統合がもしあるならば……ブラック・ジャックをよろしく。




カリーヌ夫人:出典・ゼロの使い魔
 カトレアとルイズの母親。

平賀才人:出典・ゼロの使い魔
 現在は防衛機構の軍人。雁夜経由でカトレアの治療をクロオに依頼した依頼人。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール:出典・ゼロの使い魔
 ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁあああ(ry
 詳しくはルイズコピペを見よう(違)

カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ:出典・ゼロの使い魔
 ルイズの姉。先天的に体に欠陥があり、不治の病として明日も知れない状況だった。

クソデブ:出典・???
 演説が有名な人。またの名を世界一カッコいいデブ。黒夫にとっての天敵。



ちょっと加筆修正して人物紹介にまた後日あげます。今日は力尽きました。


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サイタマ(旧題:かみのはなし)

最近BJ(偽)の話を書こうとすると非常に手が重くて動かないので、出来るだけ軽い話を書きました。


誤字修正。五武蓮様、日向@様、名無しの通りすがり様、不死蓬莱様、オカムー様ありがとうございました!


「よし、これで大丈夫だ。そのテープを外さなければ直ぐに治る」

 

 手を怪我した、と子供達が駆け込んできたのは夕方に差し掛かる頃合いだった。

 モビルワーカーの運転訓練中に操作を誤って横転。体はベルトで固定していた為問題なかったが、横転の際に咄嗟に右手で体を庇おうとしてしまったらしく、右腕を強く打ち付けてしまったらしい。

 

「ありがとうございます、先生。たく、気をつけろよ?」

「はい、タカキさん」

 

 監督をしていたユージンは彼に簡単な手当てをした後、念の為に俺に診せて来いと年少組を二人つけてこの少年を送り出したそうだ。

 手当てされた右腕を見るに鉄華団の青年達は、何度か教え込んだ応急処置の心得をしっかりと身に着けているらしい。最終的な判断を医師に任せるのも正しい。素人判断って奴はどんな分野でも悪化の原因になるものだからな。

 それに付き人として付いてきた二人も、患者に無理をさせないようにしっかりとフォローを行っているようだし、この様子なら実際に仕事場で問題が起きても対処できる確率は高いだろう。

 

「あの、先生」

「うん?」

 

 俺が処置された右手に満足そうに頷いていると、タカキと一緒にフォロー役でついてきた少年……ヤマギという、確か整備にいる子だったか、が話しかけてきた。年少組のリーダー格であるタカキと違って余り言葉を交わしたことは無いが、控えめだが率直な物言いをする子だった筈だ。

 だが、今日は少し様子がおかしい。自分から話し掛けてきたというのに何故かビックリしたような、どうすればいいのか分からないという表情をしている。何か悩み事でもあるのだろうか。気分を入れ替えて、俺は彼に向き直る。

 

「どうした。何か聞きたい事や、話したい事があるのか? もし職場の人間に話すのが難しいというなら……タカキ、すまんが」

「はい……ヤマギ、大丈夫か? 俺席外すぜ?」

「あ、いや。そうじゃなくて、その。先生に少し聞きたい事があるだけなんです」

「俺が答えられる事なら答えよう。どんな質問だ? 医学関連ならありがたいんだがな」

 

 そう冗談めかして3人を座らせる。怪我をした子には少し悪いが、フォロー役なしで帰すのもまた気が引けるからな。場合によってはタカキと二人で帰す事も考えたが、それは話の内容で考えるとしよう。

 レオリオに何か甘いものを持ってくるように言って、3人のカップにお茶を注ぐ。話をする際は出来るだけ落ち着ける環境を作った方が良い。難しい年代の子が多い鉄華団の精神的なケアについては前々からオルガと話し合っていたし、もし少しでも問題があるのなら報告も上げた方が良いだろう。

 

「それで?」

 

 安心させるように笑顔を浮かべてヤマギに先を尋ねると、彼は少し躊躇したようにタカキと年少の子を見た後に、意を決したように俺の顔を見る。

 

「……あの。先生は、どんな手術でも成功する事が出来るって、本当ですか?」

「難しいな。実を言うと、私も何度か失敗はしているんだよ」

「ええっ!?」

 

 ヤマギの言葉に何故かタカキが驚きの声を上げた。

 

「い、いやいや嘘でしょう!? 阿頼耶識のヒゲを、あんな短時間で全部抜いちまった先生が出来ないって」

「……ううむ。あれは正直それほど難しい手術じゃなかったからなぁ」

 

 学園都市の先生も、長時間連続でするのは難しいが、手術自体はそれほどの難易度じゃないって同意してくれたし。正直一方通行君の脳再生の方が、時間も手間もかかるから何倍も難しいと思っている。あちらはまだ終わっていないしな……そのせいで暫く秘蔵のメスが使えないのも痛い。

 

「あの。それは、どんな手術なんですか?」

「ん、うむ。何というか……本来はあんまり難しいものではないはずなんだがな」

 

 興味津々、といった様子のヤマギにこれもケアに繋がるなら、と俺は自身の失敗の記憶を語り始めた。

 そう、あれは自身の技術向上と諸事情……の為に世話になっていたAOGの元を離れ、『最適解(チート)』の勧めのままに八雲紫を頼った時の話だ。

 

 

 

 竹林の中にぽつんと建つこの屋敷に逗留してから1週間が経過している。家屋敷の形から見るに、恐らく日本と関わりのある土地なのだと推察するが、この体になる前は聞いたことのない地名なので、恐らくは似たような世界か並行世界のような場所なのかもしれない。

 そんな意味のない事を縁側に座って考えていると、ギシリ、と床を歩く音が聞こえる。ちらりと音のした方向を見ると、この屋敷の主人の従者……と名乗る女性の姿があった。長い銀髪を三つ編みにして纏めて、ツートンカラーの看護服に似た衣装を身に纏った彼女の名は、八意永琳。

 

 この世界に落ちて様々な医術や魔法を目にしてきたが、その全てを網羅しているのではと思わされるほどの知識と医療技術を持つ、神医と呼ばれるに相応しい人物だ。私の理想とするブラック・ジャック先生すらも或いは上回っているかもしれない。

 

「間さん、お加減は如何ですか?」

「もうすっかり良くなりました。1週間も逗留させて頂きありがとうございます」

 

 俺は彼女の患者としてこの場所に居る。1週間前、この世界に渡ってきてすぐに大怪我を負ってしまい、止む無く治療に専念する事になった為だ。その時の事を思い出してつい脇腹を摩るも、すでにそこに穴はない。少し前に診たボクサーが「腹に穴が開いたと思った」と言っていたが、成程。こんな感じの衝撃を受けていたのか。あのアメリカ人にももう少し優しく接してやればよかったかもしれない。

 

「いえいえ、同じ医の道を行くものとしても色々と勉強になりましたから。所で今日はどうされますか?」

「まだまだ未熟なこの身で八意先生にそう言われるのはこそばゆいですな。それでは今日も甘えさせていただいてもよろしいでしょうか」

 

 この療養期間中、俺は目の前に居る八意先生から薬学についての基礎を教えて貰っている。代わりにこちらからは異世界の医療技術や魔法についての知識を伝えているのだが、彼女の知識量は膨大で、正直に言ってこちらから返せる物が少なすぎる状況だ。その点を指摘しても「後進の手助けをするのは存外面白いのだ」と返されてしまった。こう言われると、教えを受けるこちら側としてはもう言う事がない。

 今日もこれから薬学について、実際に薬を作りながら知識を分け与えてもらう予定だ。本職は外科医ではあるが、小さな医院では駆け込みで色々な患者が訪れる為、内科の勉強も欠かすことは出来ない。この体になる前から内科の知識も少しは持ち合わせていたが、彼女の前では素人も同然にしか見えないだろう。学べる機会がある内にしっかり学ぶ。これは非常に大切な事だ。

 

 だが、俺のその日の予定は、慌てたように駆け込んできた鈴仙さん……一応姉弟子にあたる女性の登場により、予定していた物とは若干違う物に変わる事になった。

 鈴仙さんでは対処できないような患者が、幻想郷の外からやってきたそうだ。

 

 

 その人物を一言で表現するのなら、眩しい、だろうか。

 

「先生、この人物がこの近隣世界で一番の医者だという女性です」

「おお、そうなのか。よろしく」

 

 客を通すために作られたものだろう和室には、金髪の全身を機械化した青年と、彼に先生と言われた黄色いタイツスーツのような物を着た、頭を丸くした男が座っていた。彼らは胡坐を組んで鈴仙が煎れたものだろうお茶を飲みながら談笑していたようで、鈴仙さんが慌てて駆け込むような重篤な患者とは思えない。

 

「急な患者と言われたので慌てて来たのですが……鈴仙?」

「あ、そのぉ、とても私では対応できない物でしたので」

 

 ジト目で鈴仙さんを見る八意先生。気まずそうに頭を掻く彼女は、少しおっちょこちょいな印象を受けるが、彼女は八意先生の弟子だ。外科ならそうそう劣る気はしないが、内科、薬学に関しては優秀な人物である。そんな彼女がそのまま師に話を持ってきたという事は、相当な難題があるという事になる。

 もしかしたらこの青年を生身の体に、とでも言われたかな。それならば確かに八意先生を頼るのは良い手だ。彼女の医療技術は多岐に渡るが、あの暴力巫女に腸をえぐられた俺を、魔法を使ったとはいえこれほどの短期間で快復させられるのだから。或いは全身の再生手術も行う事が出来るかもしれない。

 

「それで、お前さん方は一体どういう症状でこの永遠亭に? 見る限り外界の方だと思うが」

「そういうお前は?」

「ああ、すまない。私も最近外から流れてきた医者でね。間 黒夫と言う」

 

 鈴仙さんと八意先生の話し合いはまだ終わりそうにない。患者をただ待たせるのも悪いだろうと俺は彼らに話しかけた。どうやら応対はこちらの全身を機械化したサイボーグの青年が行うらしい。『最適解(チート)』が先程から彼を治せ治せと表に出たがっているから、もしかしたら本当に彼の全身再生手術が目的なのだろうか。

 

「そうか。私はジェノス。近隣の世界でヒーローという職業についている者だ。こちらは私の師の」

「サイタマだ。趣味でヒーローをやっている」

 

 自身も医師であると告げると、ジェノスと名乗る青年はペコリ、と頭を下げてきた。ヒーローか……最近よく聞く職業の名前だな。師という程に年齢差はないようだが、もしかしたらこのサイタマという青年もどこぞのNO.1ヒーローのように、年齢が分かりにくい老い方をしているのかもしれない。

 

「それで、そちらの青年を人の体に戻す目的で来られたのかな? 流石に一朝一夕で出来るような話ではないと思うが」

「……それがもし出来るのならばいつかお願いする可能性はあるが、今回はまた別件になる。出来れば八意女史とだけ相談したいのだが」

「いや、出来れば男の間、先生にもこの場にいて欲しい。その、やっぱり女には、分かり辛い悩みかもしれないし」

 

 少しづつ声が小さくなっていくサイタマに首を傾げていると、鈴仙さんから話を細かく聞き出していた八意先生の深いため息が耳に入った。ため息? 何故?

 そちらを見ようとする前にガバリ、とサイタマが頭を下げた。

 

「なあ、間、先生。八意先生も。頼む、俺のハゲを治してくれ!」

「お、おう」

 

 顔を真っ赤にして頭を下げるサイタマ。確かにその内容は女性には言いづらいわな。というか鈴仙さんには一度言ったのか。

 

「ウドンゲェ……」

「ご、御免なさいお師匠様。この人、すっごく必死だったんで」

「八意先生……これは仕方がありません。男にとってはそれこそ死活問題ですから」

 

 頭が痛いと額を抑える八意先生に鈴仙さんが必死になって言い募る。同じ男としても気持ちがわかる為、俺は鈴仙さんを援護するように声をかける。俺の援護に再度八意先生はため息をついて、「少しお待ちを」と言って部屋から出て行った。

 

「すまん」

「なぁに構わん。同じ男として当然だ」

 

 俺達はそれ以上語らずに右手を差し出しあい、握手を交わした。実を言うと父方も代々髪が薄くなる家系で、俺としても他人事ではないのだ。この体になってからはむしろ毛量が多くて若干悩んでいるが、油断することは出来ない。奴らはいつ何時その身に降りかかるのかわからないのだから。

 そんな俺とサイタマのやり取りを、先ほどのお礼でも言うつもりだったのか口を開けたままきょろきょろと見回す鈴仙さんに「気にしないでください」と告げると、彼女はにこっと笑ってお茶を淹れてくれた。俺としても今のやり取りは若干恥ずかしかったから、出来れば本当に気にしないでほしい。

 

「お待たせしました。こちら、毛生え薬になります」

「「おおおおおおおお!?」」

「あの……間さんまで何故?」

「あ、失礼。男にとってはいつか訪れる悩みな物でして」

「はぁ……そういえば月の方でも内密なお願いと聞いた覚えが……」

 

 その事は忘れてあげた方が相手の為になると思います。八意先生。

 

「ああ、その薬は全身の毛量も増やしてしまうので、出来れば外で行ってくださいね。鈴仙」

「はい。剃刀を持ってきます!」

 

 八意先生の言葉に鈴仙さんがパッと立ち上がってパタパタと部屋から出ていく。その後を追って俺達も部屋を出て、そのまま廊下を通ってから庭先に出る。

 

「す、すまんジェノス。力んで瓶が割れそうだから持っていてくれ!」

「はい! お任せください!」

 

 庭先に出るまでガタガタと震えるサイタマを宥めすかして俺達は鈴仙を待つ。全身の、となるとそれこそ服を脱がないといけないからな。パタパタと駆けてきた鈴仙に礼を言って剃刀を受け取り、屋敷方面から間違って見えないように立ってからサイタマに服を脱いでもらう。パンツ一丁になったサイタマが震える手で瓶を開け、ごくり、と一息にその薬を飲み込む。

 

「まっず! あ、あれ、おおおお!?」

 

 効果は劇的だった。まず顕著なのが眉毛だろう。あっという間に長くなった眉毛は目元を覆うような長さになった。そして胸や腕、それに股間といった毛量の多い場所もふさっとした毛に覆われて、日本人風だったサイタマは、あっという間に欧米人のような毛深い毛に覆われた状態になった。

 頭以外は。

 

「………どういう事?」

「うーん。毛根が死んでしまっている場合は効果がないみたいねぇ。失敗だわ」

「……もうこん……」

 

 いつの間にか庭先に現れた八意先生は、そう言ってサイタマの様子を冷静に判断している。先生、その言葉でサイタマが死にそうなんですが……仕方がないので一先ず、全身の毛を剃刀で切ろうとするも刃が通らず、結局メスを使って体毛処理をする事になった。サイタマから泣いて感謝されたが、流石にもう一度同じ状況になったらやらないので、こんな事はこれっきりにしてもらいたい。

 

 

 次のアプローチとしては外科的な毛髪の増加。つまり植毛を試みる事になった。幸いなことに先程サンプルとなる毛は大量に手に入ったし、これらを用いて髪の毛を培養。それを頭に直接植え付けるという物だった。

 

「自身の細胞を使うなら、確かに定着する可能性は高い、ですか」

「毛根が無事な皮膚があれば、そこから髪の毛自体を培養することは出来るんだけど、ね。次善の策としてはこの位でしょう」

「培養するとしたらどの位の日にちがかかるんですかね?」

 

 俺と八意先生、それに鈴仙さんの三名は、先程の失敗を踏まえて長期戦に移る覚悟を決めた。八意先生としても先程のサイタマから採取した毛……S毛と便宜上呼称している……に興味津々で、これほど強靭な毛髪組織はそうそう見る事がないと興奮気味だった。

 本人曰く、月から地球にジャンプしても燃え尽きなかったという事なので、この毛に代表されるように、サイタマの細胞は信じられない程の力を持っていることになる。この辺りに恐らく彼の髪の毛が生えない謎を解くカギがあると我々は結論付け、彼の細胞を用いた毛髪を取り付ける事で対応できるのではないかと考えた。

 

「植毛する髪の毛が培養できるまで時間がかかるから、暫くは足止めになっちまうか」

「まぁ、しょうがないな。すまんなぁジェノス、付き合わせちまって」

「いえ。先生の側で学ばせてもらうのが弟子の務めですから」

 

 準備が出来るまで数日かかる為、その間暇になったサイタマとジェノスは幻想郷を少し見回ってくると言って永遠亭を出て行った。そういえば数日連れに連絡もしていないことを思い出したために俺も付き合おうか迷ったのだが、流石に八意先生と鈴仙さんにだけ準備を押し付けるのも気が引けた。人里で待って居る筈のレオリオとそろそろスキマから戻ってきているはずの雁夜という連れに伝言をしてほしいと伝えて二人を見送り、俺は八意先生の小間使いのような形で彼女の仕事の補佐を行った。

 数日後、戻って来た二人は何故か服がボロボロで、ジェノスに至っては一部の体のパーツが入れ替わっていた。何があったのかと尋ねたら「河童が……」と言ったきり黙り込んだので、深く聞かない事にする。

 

「執刀は……植毛の場合は施術で良いか。俺が行う。毛穴を広げる為に麻酔を塗り込むが、シビれた感覚がしても気にしないでくれ」

「ああ、頼む……俺の()、お前に賭けるぜ」

「止めてくれ。失敗しそうだ」

 

 この時、確かに俺とサイタマの間には友情が芽生えていたと思う。同じ悩みを持てばそれだけ相手に親身になれるもんだからな。俺も気合を入れて、1時間のうちに手作業で何とか2000本、彼の頭に入れ込む事に成功した。

 といっても僅か2000本では本当に一部しか埋めることは出来ていない。だが、確かに今まで不毛の大地だったサイタマの頭部には、髪に覆われた森が出来上がったのだ。後は定着するかどうかだが、一先ずは喜ぶべきだろう。

 

「お、おおおおおお! 髪がある! 俺の、頭に!」

「まずは定着するかどうかがあるからこの状態が続くが、問題なく定着できたと判断したら少しずつ範囲を広げていく。しかし流石に2000本は疲れた

 

パンッ

 

ぞ……」

 

 目の前ではじけ飛ぶ、サイタマの頭にあった髪の毛達。呆然とする俺の視界を、ゆらりゆらりと髪だったものが風にまかれて飛んでいく。その光景に俺はこの1時間余りの作業が無駄だった事と、このアプローチが失敗したことを悟ったのだった。

 

 

side.現在

 

 かつて幻想郷で過ごした日々を思い返しながら、俺はカップに入ったお茶を口に含む。苦い、とても苦い味がする。あの光景は俺にとってある種の敗北の光景だった。誰が何と言おうとあれは俺の手術で、その結果がアレだったのは、つまり俺の手術が失敗したという事だ。

 事前に予測するべきだったのだ。奴の頭皮が信じられない程の強さを持っているのは分かっていたのだから、毛髪が耐えきれない可能性もあるという事を。

 

「……それは、その。辛いっすね」

「うん……心底同情する」

「かわいそうなサイタマさん」

 

 話を聞いていたタカキ達も暗い表情でサイタマに同情の言葉を投げかける。

 

「まぁ、その後何とかなる道筋は出来たんだがな……さすがは八意先生という所だった。俺が二番目に尊敬する医者だよ、彼女は」

「え、何とかなったんですか!?」

「またパーンってなるんじゃないの?」

 

 子供たちの声に俺も頷く。確かに今までの話を聞けばそういう感想になるだろう。だが、それに対して八意先生は、真っ向からのアプローチで持って答えたのだ。「耐えきれる毛髪を作ればいい」という至極真っ当で、非常に困難なアプローチを。

 結果は成功。莫大な時間とエネルギーを使うが、見事にサイタマの頭皮圧に耐えきる毛髪の開発に成功したのだ。

 

「すげぇ、普通の毛じゃ耐えきれなかったのに」

「八意先生ってすごいんですね!」

「それで、時間がかかるってどの位かかるんですか?」

 

 口々に八意先生を褒め称える彼らに、この後の流れをすでに知っている身としては非常に言い辛さを感じながら、俺は口を開く。

 

「……一本につき一月かな」

 

 口にした瞬間、三人の動きが止まった。

 最近目にしたサイタマの写真を三人に見せる。そこには頭部の天頂部分に生える数本の髪の毛を、大事そうにブラッシングするサイタマの姿があった。撮影者は雁夜だ。あの男、この間の才人の件での謝罪と言って頭を下げに来たのだが、こんな劇物を送り込んできやがった。

 勿論一発で許したさ。その場で笑い転げなかった自身を褒めたね。

 

 部屋の中を子供3人の爆笑が包む中、俺はそういえばヤマギの悩みは何だったのかと思い出した。まぁ、今大きく口を開けて笑っている姿を見るに深刻な悩みという訳ではないんだろうが……後で帰る前にこそっと聞いてみるとするか。

 しかし、うん。過去の失敗というのはやはり辛いものがある。この時は特に友情を感じていたサイタマだったからな……できれば自分で髪の毛を生やしてやりたかった。これがブラック・ジャック先生なら多少手間取っても治していたんだろうなぁ。俺ではやっぱりこの名前は力不足に過ぎる……

 神様、次の統合があるんなら何卒。何卒ブラック・ジャックをよろしく! 

 

 

 

 

 

 

今回の蛇足

 

「所で、結局相談事というのは何だったんだい?」

「あ、はい。その、実は同僚に好きな相手が居て……でも、彼は女性にしか興味がないんです。どうすれば良いのか分からなくて……女性になりたいと思って」

「……あ。うんええと……よし、少し落ち着こう。相手の事も考えないといけないしね」

 

 このあとめちゃくちゃオルガを呼んだ。




(頭が)軽い話、如何だったでしょうか。
いや、何というか本当にシリアスな話が書けなくなってるんですよねぇ(震え声)
何日かしたらサブタイはサイタマに変更予定です。ヤマギでもいいんですがね()




タカキ・ウノ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 鉄華団年少組のリーダ格

ヤマギ・ギルマトン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 鉄華団年少組の一人で整備班所属。割と公式でこんな感じ。相手は鉄華団幹部のノルバ・シノ

八意永琳:出典・東方シリーズ
 えーりん!えーりん!
 恐竜が生きてた時代から生きているらしい医者。東方シリーズの便利枠。

鈴仙・優曇華院・イナバ:出典・東方シリーズ
 可愛い

暴力巫女:出典・東方シリーズ?
 一体何代巫女なんだ……?

サイタマ:出典・ワンパンマン
 大好きなキャラなんです。正直BJ(偽)で始める前にこいつに憑依する没ネタが会った位に()
彼の強さを表現するのが出来なくてクソ時間かかったのでその部分がバッサリなくなるという愚挙に出たぱちぱちを許してください。

ジェノス:出典・ワンパンマン
 実は登場は2回目。雁夜が初めて彼と出会ったのはここです。


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クロオの失敗

遅れた上にあまり話も動かず。申し訳ありません!
仕事が忙しくなって体力が厳しいですね。
連休も普通に仕事だし……皆さん連休を楽しんでくださいね!(白目)

誤字修正。フリスケ様、adachi様、五武蓮様、名無しの通りすがり様、椦紋様、竜人機様、不死蓬莱様、オカムー様ありがとうございます!


 その連絡が入って来たのはある日の朝だった。慌てて駆け込んできたレオリオに叩き起こされた私は、眠い目をこすりながら無線機の受話器を受け取った。

 

『ああ、ブラック・ジャック……先生! お願い、助けて……パタリロが……私の息子が!』

「落ち着いてくれ、エトランジュ。直ぐに行く」

 

 受話器から漏れ出る声に一気に意識を覚醒させる。何とかエトランジュを宥めすかして、待つように伝えて無線を切り、そのまま無線機を使って鉄華団の当直に緊急の要件だと足を用意してもらう。

 足の到着を待つ間にレオリオに医療器具の準備を頼み、シャワーで冷水を浴びて眠気を飛ばし、着替えを済ませるとズシン、と山荘が揺れる。  

 

「レオリオ」

「はい。俺もお供を」

「いや、お前は残っていてくれ。場合によっては何か用意して貰うかもしれんしな。その時は無線で連絡する」

 

 俺の言葉に頷いたレオリオから視線を外し、ドアを開けて山荘の外へと出る。山荘を出た瞬間、そこには見上げるような巨人が身を屈めて鎮座していた。ガンダムバルバトス……確かウリバタケスペシャルだったか。ブラックサレナの技術を使い飛行能力を得たというが、確かにこいつならあっという間に麓へと移動できるだろう。

 ……だが、その前にやる事が一つ増えてしまったようだ。俺は三日月に手で合図をして少し待つように伝えると、山荘に戻ってレオリオに声をかける。

 

「レオリオ、すまんが宮殿に連絡を入れてくれ。デカいのが行くが攻撃しないでほしい、とな」

 

 俺の顔を見たレオリオが苦笑を浮かべて了承し、無線機に手をかける。味方からの誤射なぞ二度と勘弁願いたい。三日月なら全て回避して到達しそうだが、要らんリスクと手間は避けるに限る。

 

 銃弾の雨をかいくぐるのはもうごめんだからな。

 

 

 

「いやぁ、驚きました。何しろ凄い回復力で。あれ程強靭な生命力の持ち主はそうそう居ないでしょうね」

「とにかくしぶとい奴ですよ」

 

 王宮の廊下を歩きながら、俺は隣に連れ立って歩く男と話をしながら先の事態を思い出す。バルバトスのコクピットから王宮に降り立った俺を待っていたのは、号泣するエトランジュとバタバタと周囲を慌ただしく走り回るタマネギ部隊員、それに土気色の顔をしたパタリロ陛下の姿だった。

 

 結果から言えば俺は間に合った。パタリロ陛下が賊に打ち込まれた微毒は、彼の弱り切った内臓を蝕みあわやという所まで追い詰めたが、ディクリアリィの魔法……体内の毒物や劇物を中和し無力化できる魔法によって事なきを得る。出来れば魔法の力に頼り切りになりたくはないのだが、今回は事情が事情だ。俺の信念で患者を……しかも10歳の男の子を死なせるわけにはいかない。

 

 元々生命力が強い子であったのが幸いだったのだろう。パタリロ陛下は、ディクリアリィによって毒素を抜かれた事で瞬く間に生気を取り戻し、数日間の点滴と栄養摂取によって、ほぼ通常時に近い状態まで体力を回復させることが出来た。勿論暫くは通い詰めになるが、少なくとも容態が急変するような事はもう無いだろう。

 

 しかし、今回は本当に危なかった。何でも事の発端は、先代の王であるヒギンズ3世がフランス外遊中にある女性と恋に落ち、子供を産ませたという書類と、その子供に渡してほしいという、マリネラ王国の紋章が入った宝石を持ち込まれたことから始まった。この話を持ち込んできた弁護士は、フランスで大きな法律事務所を抱える腕利きの弁護士であり、スイス銀行との関係からこの事実を知り、宝石と子供を連れてマリネラへとやってきたのだという。

 

 これらの話はマリネラ王国の首脳陣にとっては寝耳に水の話であり、筆跡鑑定から本物であるらしいという事が判明してからはてんやわんやの大騒ぎとなったそうだ。思い返せばここ1週間ほど、宮殿からの依頼や連絡もなかった。それだけ大変な状況だったのだろう。

 

 そんなてんやわんやの状況の中、今回の事件は起きた。訝しんだパタリロ国王は、混乱する国内ではなく国外にいる知り合いのエージェントに調査を依頼。そのエージェントからも特に怪しい所はないと言われたようだが、むしろ怪しい所が一切ないからこそ、父親の人柄と実際に起きた事の食い違いに違和感を覚えたパタリロ国王は、偶然隠し子が偽物であることを突き止め、口封じに殺されそうになったのだ。

 

 つまり俺は今回、マリネラ王国の中へ入り込んだ彼らによって起きた、パタリロ国王暗殺未遂事件の事後処理という形で呼ばれた事になる。間に合ってよかった。それが今の偽らざる感情だった。俺は所詮通いの医師であり、常駐している訳ではない。当然この王宮には常駐医が居て、連中はこの常駐の医者を買収し、パタリロ陛下に少しずつ内臓の働きを弱める薬を盛っていたのだ。

 

 はっきり言えば俺にとってもこれは失態である。明確な毒物という訳ではなく、少しずつ内臓の働きを弱める薬。この薬自体は通常の薬品の一種で、糖尿病の気がある陛下に処方してもそれほどおかしな物ではなかった。俺はこの常駐医とも面識があったが、彼が処方した薬品の中にこの薬が混ざっていても、おかしくはないと判断を下していたのだ。

 内科の師でもある八意先生に合わせる顔が無い、とんでもない失態だった。穴があれば入ってしまいたい程の。歯ぎしりしそうになるのを堪えて、俺は隣に立つ人物に話を振る。

 

「普通ならあの状態で毒物を入れられれば、すぐに危篤状態に陥るのですがね。俺としては助かりましたが」

「毒なんて生ぬるい。あいつを殺すには熱湯をかけるくらいしなければいけません」

「俺は陛下の話をしているんだが」

「わたしもです」

 

 足を止めて隣に立つ男に目を向ける。長い黒髪の男だった。アイシャドウの入った瞳が特徴的な、怪しい美しさを持つ男だ。今回の騒動で実行犯を捕えた人物であると聞いている為、先程まで会話をしているのだが、俺は正直この男が苦手であった。

 

 何故ならばこの男こそがエトランジュの思い人であり、俺にとっては元……そう。元恋敵なのだから。向こうからすれば俺の事などは眼中にも無かったのだろうがな。

 バンコランと名乗った男は何度か怪訝そうな目で俺を見るが、俺にとってはこの男は視界に収めたくない相手だ。小さく息をついて目的地のドアを叩き、返事を待たずにドアを開ける。彼との付き合いもそこそこ長くなってきた。遠慮するべき場所と遠慮すべきでない場所がなんとなく分かるくらいにはな。

 

 果たして室内に入ると、そこには大きなバーベルを持ち上げるパタリロと、そのパタリロの口に切りそろえたリンゴを持っていくエトランジュの姿があった。

 

「おお、先生にバンコラン」

「……陛下。2日前に殺されそうになったばかりのはずですが」

「うむ。体が鈍るので運動をしていたところだ」

 

 悪びれずにそう言うパタリロ陛下にため息をついて、俺は手に持った医療カバンを机に置く。共に来たバンコランは、エトランジュと少しの間見つめ合った後に、パタリロ陛下と漫才のような掛け合いを始めた。俺がこのマリネラに居つく前からの付き合いだというから、そのやり取りはこなれた漫才師のような見事な物だ……相方役のバンコラン側は不服そうに思うだろうがな。

 

「そういえばあいつらはどうした」

「あいつら? ああ、銀ぎつねか」

 

 陛下に処方する薬を用意しながら彼らの会話を聞いていると、聞きなれない言葉が耳に入ってきた。銀ぎつね……会話の流れを聞くに実行犯の事だろうか。しかし銀ぎつねか。面白い響きの名前だ。狐といえば数名ほど頭に思い浮かぶが、もしかしたら妖怪なのだろうか。国際刑事警察機構に引き渡したというが、もし妖怪であるならば通常の警察組織では対処できない気がするが……いや、流石に気の回しすぎだろうか。蔵馬君レベルの妖怪がポンポンと出てくることは無いだろうしな。

 

 ……一応、この世界の日本について調査を依頼しておいた方が良いかもしれない。

 

「短い間とは言え、お兄さんが出来たようで楽しかったんだがな」

「……パタリロ」

 

 少し寂しそうにため息をついたパタリロ陛下を、エトランジュが優しく抱きしめた。そんな母子の様子を、俺とバンコランは何も言わずに静かに見守る……時々忘れそうになるが、彼もまだ10歳の小さな子供だ。折角できたと思った家族が偽物だった。それが堪らなく悲しいのだろう。

 

 エトランジュの抱擁は、この場に二人ほど部外者が居る事を思い出したパタリロの「母上、そろそろ……」という声で終わりを告げる。俺としては特に問題は無かったのだが、気恥ずかしそうに頬を染める珍しい陛下の姿に免じて何も言わずにおくことにしよう。ニヤつくバンコランにパタリロが噛みつく中、俺はエトランジュに声をかけた。

 

「エトランジュ。君もここ数日陛下の看病で疲れているだろう。目の下に隈が出来ているよ」

「いえ、息子の大事に……」

「医者として言わせてもらおう。陛下はもう大丈夫だ。むしろ君の方が問題が大きい……分かってくれないか」

 

 元々体力的に優れていたパタリロ陛下と違って、エトランジュは最近体調を改善したばかりだ。元々病弱だった事もあり、無理が祟ればまた寝込んでしまう可能性もある。不服そうな表情を見せているが、これだけは断固として聞き入れてもらうぞ。

 

 

 タマネギ部隊員に渋るエトランジュを託し、王宮にあるという彼女の寝室へと連れて行ってもらう。その姿を見送った俺は部屋に戻り、パタリロ陛下とバンコランの視線に頷きを返す。

 

「やれやれ。母上にも困ったものだ。まだ僕が年端もいかない子供だと思っている節がある」

「貴方は紛れもなく10歳児でしょうに」

「人間であれば確かに年端もない子供の年齢だろうな」

「バンコラン。お前とは一度ゆっくりと話をつける必要があるな」

 

 俺の言葉にバンコランが茶化すように答え、その答えにパタリロ陛下はバンコランを指さして言った。普通ならば不敬罪にでもなりそうだが……それだけ信頼関係にあるという事なのだろう。

 

「陛下。本日の分のお薬はこちらになります」

「うむ、しかしあの常駐医には腹が立つ。金をもらって変な薬を混ぜていたのだろう。高血圧だとか糖尿病の薬だとかいって」

「分量がおかしかっただけで、陛下の糖尿病と高血圧は本当ですよ」

「ふにゃ~」

「猫の物まねをしても誤魔化せません」

 

 どさっと紙袋に大量の薬を入れて、陛下のベッド脇に置く。自身で診断して処方したとはいえ、何度見てもこれが10歳の子供に処方する薬の束だとは思えない。それでいて成人病以外は五体が完全に健常なのだから、凄まじい体質だと言えるだろう。一度八意先生に無理を言って診察してもらえれば、何か面白い新発見があるかもしれないな。

 

「時に先生」

「はい?」

 

 診断の為にパタリロ陛下の背中を触り、呼吸音や心音に異常が無いかを確認していると、少し真面目な口調でパタリロ陛下が声をかけてきた。はて、何か問題があったのかと返事を返すと。

 

「……陛下と呼ばれるのが少しこそばゆいので殿下と呼んでほしいんだが」

「はぁ。構いませんが」

 

 ズルッ、と音を立ててバンコランが視界の端で滑ったのが見えた。はて、あの辺りは濡れていたのだろうか。立ち上がったバンコランはフラフラとした様子で立ち上がると、燃えるような視線でパタリロ陛……殿下を見る。もしやあの辺りに食べ残しでも落ちていたのだろうか。清潔な環境は、病室や病院と言った場所には必要不可欠な物だ。後で担当の者に注意しなければならないだろう

 

「あー。その、ですね」

「はい」

「母上の、事なんですが」

「エトランジュ……様が? 如何されました」

 

 つい呼び捨てにしそうになったのを言いなおし、問いかける。パタリロ殿下は何度か逡巡するように「あー」だとか「えぇと」だとか呟いた後。

 

「カトレア嬢と最近仲が良いので、どこかに旅行に行こうかと言っていました」

「成程。主治医としては特に異論はありません」

 

 そうか、旅行に出れるほどに二人とも元気が出ているなら素晴らしい事だ。体調的な意味では二人の状況に特に問題は無い。後は体力の向上に精神が追い付いてくれればと思っていたのだが……何せカトレア嬢は生まれた時から病弱な娘さんだったからな。難しい所だったがこの様子なら心配はいらないだろう。

 

 

side.K

 

 具体的に旅行の話が決まったなら、ぜひ連絡を欲しいと伝えて俺は部屋を後にする。今日の送り迎えはアキトが行ってくれている。最近アキトは毎日マリネラ市に朝夕と通っているので、これに便乗させてもらっているのだ。これはアキトとユリカさんのリハビリが上手くいき、ある程度生活が問題なく送れる状態まで回復したので、念願のラピスちゃんを加えた家族3名による生活が始まったからだ。

 

 イネス女史の元からやってきたラピス嬢は非常に大人しい、美しい少女であった。アキトの元へやってきたラピスを、鉄華団幼年組や打ち止め(ラストオーダー)といった子供たちは大変歓迎し、同年代の友人という今までいなかった存在に、彼女も大分集落に打ち解けてくれたのだが……。

 

 うちの集落では一つだけ出来ないこと。学業の問題があり、アキトがオルガと話し合いを持った結果。朝と夕方、希望者にはマリネラ市内の学校へ通うヘリを動かす事になったのだ。この費用はホシノ中佐経由で防衛機構が出してくれており、俺は今日の朝も、学校に通う為に十名くらいの少年少女を乗せたヘリに便乗させてもらう事になった。

 

 彼らはこれまで学ぶことのなかった学問に触れて、毎日楽しそうにしており、その様子をみた他の年少組も、近々参加したいと言い出しそう、とは年少組のリーダーであるタカキの言葉だ。彼も今回の学校へ通う組に参加しているため、帰りにはまた色々と聞かせてもらう予定だが……場合によっては集落に教師を招き、そこで学校を開くのも良いかもしれないな。

 

 しかし今回の騒動は肝が冷えた。間に合ったから良かったような物の、もっと前段階で気づくべき予兆は数多かったにもかかわらずの体たらく。恐らく俺も今の生活に慢心してしまっていたのだろう。反省の多い事件だった。

 

 これがブラック・ジャック先生ならば、こんな事態になる前に事件は発覚。銀ぎつね等という、蔵馬君のパチモノのような連中に好き勝手させる事も無かっただろうに。やはり俺にこの名前は重いんだな。神様、頼む。次の統合では今度こそ! 本物のブラック・ジャックをよろしく!

 

 

 

side.Bというか本当に蛇足

 

「おい」

「すまん」

「常駐医に任命したいと、話すんじゃなかったのか?」

「ふにゃ」

 

 BJが室内を出た後。ため息をつくようにバンコランがそう言うと、パタリロはベッドわきの壁に手を突き、反省の意志を体で伝えた。バンコランが手に拳銃を握ると猫の真似をして誤魔化そうとしたので、数発足元に打ち込んでやる。

 

「ど、どうされました」

「いつもの事だ」

「何だ騒がせないでくださいよ」

 

 部屋の外で待機していたタマネギ部隊員が、銃声に驚いて室内に飛び込んできたが、バンコランとパタリロの様子を見比べて安心したように部屋の外に戻る。これで良いのかと思うが、この宮殿では稀に良くある事なので皆気にしていないのだろう。

 

「良い訳あるか! どうなっとるんじゃここの防衛体制は!」

「バンコランさんが殿下に銃を向ける原因を作らないで下さい」

「何てことを。お前は僕に息をするなと言うのか!」

「今息の根を止めてやった方が良いかもしれんな」

 

 パタリロの叫びに合わせるようにドアを開けて室内に入ってきた1号の言葉にパタリロがそう返し、バンコランは脳天に狙いを定める。流石に冗談ではない事に気付いたのかピタリと動きが止まったパタリロに、つまらなそうにバンコランは銃を胸のホルスターに戻した。

 

「先生はお帰りになられました。よろしかったのですか? エトランジュ様との仲を取り持つつもりだとお伺いしていましたが」

「ああ……いや。何というか言い辛くてなぁ」

「エトランジュ様もまだまだお若い上に、年齢的にも立場的にもこれ以上ない良縁。断腸の思いではありますが、先生ならば我々も納得できる……可能性があるんですがね」

 

 納得できるとは言い切らない辺りがタマネギ部隊の総意だろう。彼ら、特に初期メンバーは、エトランジュのファンクラブのような存在なのだから。

 

「しかし、少佐がこの件に協力して頂けるとは思いませんでした」

「……私とエトランジュには何もない」

 

 探るような視線でバンコランを見る1号に、居心地の悪さを感じてバンコランは視線をそらした。惹かれる物が無いとは決して言わない。ただ、他の女性とは違うとは感じていても、バンコランにとって伴侶たるはマライヒだけであった。エトランジュを大事に思う気持ちは偽りではない。だからこそ今回の件では、余計な事を口に出さないようにという要請を彼は受けたのだ。

 

「そういえばお前、やたらと先生に目線をやっていたが、お前の趣味の方こそ変わったのか? 先生に手を出そうとしたら、お前どころかマリネラが消えるかもしれんから何もするなよ」

「……かった」

「うん?」

「いや……何でもない」

 

 パタリロの言葉にバンコランは小さく呟き、何でもないと首を横に振った。何の手ごたえもなかったなんて言うつもりはなかった。それはバンコランにとって、ある種プライドを傷つけられる結果であったからだ。

 どんな相手でも同性であれば魅了する自信があった。たとえ趣味の範疇外であったとしてもだ。それが通じなかった。

 

「……間、黒夫か」

 

 己の中に一つの傷をつけた男の名をバンコランは口にする。握りしめた手袋の感触がやけに気に障った。




ジャック・バルバロッサ・バンコラン:出典・パタリロ!
 終身名誉男色家。視線で同性を魅了する魔眼を持ち、そのとっかえひっかえ美少年と床を共にする様子からパタリロに「世界で唯一エイズ免疫を持つ変質者」などと呼ばれている。
 趣味の範囲は十代後半の大人しい美少年だがちょっと気合を入れたらどの年齢の男も魅了できるらしい。が、黒夫には通じなかった模様。

ラピス・ラズリ・テンカワ:出典・機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness
 通称劇ナデにてテンカワアキトの補佐を行っていたマシンチャイルド。同じような境遇の打ち止め(ラストオーダー)に引っ張られるような形で集落に溶け込み始めている。



あ、Twitter初めました。@patipati321
ハーメルン作者間の企画小説とかにも参加してみたんですが圧倒的実力者の皆様にもまれる結果に。ハーメルンは魔境やでぇ……
夜中の仕事中(ここ重要)に現実逃避がてら呟いたりとかしてるんでもし興味があればよろしくお願いします。


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鎬紅葉

お待たせして申し訳ありません。
誤字修正は起きたらやります(夜勤明け)

誤字修正。日向@様、ソフィア様、五武蓮様、名無しの通りすがり様、不死蓬莱様、オカムー様、たまごん様、仔犬様ありがとうございました!


 鎬紅葉は紛れもなく天才であった。子供の頃から、彼は何かしらで自分より優れた同年代を見た事が無く、仮にその時の彼よりも優れた人物を見かけたとしても、それらはすぐに追い越せる程度の相手であった。

 

 それは年を経て中学、高校、大学と学歴を重ね、医師になった後も同じ事だった。知能だけではない。己の知識を駆使して育んだ己の肉体は正に『超肉体』とも呼ぶべき領域へと至っており、世のアスリートを纏めて相手しても相手にならない程の差をつけて叩き潰せるだろう代物だった。

 

 そう……ある日まで、鎬紅葉は自身を神の如き存在であると確信していた。

 たった17歳の少年に敗れたその時まで。

 

 

 

 縁のある徳川翁に呼び出された鎬紅葉は、冷静さを一気に奪い取られる程の衝撃を受けていた。

 

 その日、これ迄にも数度訪ねた事のある徳川屋敷に布かれていた、物々しいとさえ形容できる程の警備体制。かつて地下闘技場で名を馳せたファイターも含めた圧倒的に武に偏った警備網。

 

 これ以上の武力となると、かの米国大統領のセキュリティくらいのものだろう。それこそA級の闘士による殺害予告でもあったのかと言わんばかりの警備の厚さに、肝を抜かれたのは確かだ。

 

 いや、それだけなら良い。徳川翁の立場を考えればこれ位の警備は――それが毎日となれば流石に問題だろうが――あっても可笑しくはない。一瞬とはいえ鎬紅葉の眉を上げる事に成功したが、それだけでは彼をここまで驚愕させる事は出来ない。

 

 それだけならば。

 

「そんな……馬鹿な」

 

 彼をして一瞬思考を放棄せざるを得ない程の衝撃と驚愕。それは今、彼が目にしている光景に全てが集約されている。

 

 日本人にしては……というよりその年代の人物としては大柄な体格。180近い身長に、限界まで鍛え抜かれて詰め込まれた筋肉。60近い男性とは思えない程の力強さを全身から醸し出している男……愚地独歩。

 

 泣きじゃくる最愛の妻を抱きかかえる彼の優しい眼差しは、闘士としての彼しか知らない鎬紅葉にとって初めて見る姿であり、当然そこにも驚いたのだが……違う。それもまた、違うのだ。

 

「……おぉ、ドクター。恥ずかしい所を見せちまったな」

「い、いえ」

 

 紅葉の視線に気づいたのか。少し顔を赤らめた独歩の言葉に紅葉は首を横に振った。こちらを向いた事で、より詳しく彼の顔を確認する事が出来るようになり、そして鎬紅葉は自身が覚えた驚愕が勘違いなどではなく……失った筈の右目と深く抉っていた古傷の完治が確認できたことを知り、思わず無意識のうちに一歩、二歩と独歩に歩み寄るように近づいた。

 

「その……右の、目は」

「……あんたならそりゃあ気になるだろうなぁ……嬉しい事に本物さ。夏恵、そろそろ離してくれよ……な?」

「独歩ちゃん……だって、だって……」

 

 妻の肩をぽんぽんと叩く独歩の様子に、紅葉は正気を取り戻した。そうだ。これ以上ないほどに目出度い事である。祝福を送るべきだろう、送るべき……筈である。

 だが、紅葉は喉まで出かかった祝福の言葉を、口の外に出すことが出来なかった。

 

 その御業がどんな代物であれ、自身が出来ない事を誰かがやった。その方法は、一体誰が。頭の中を乱気流の様に渦巻くその思考を、或いは愚地独歩は見透かしたのだろうか。苦笑を浮かべて彼は紅葉を促し、部屋の奥へと入っていく。

 

 彼についていく形で部屋の奥へと進んでいくと、徳川翁が良く使う座敷の間へと彼は向かっているようだった。その場であるなら何度も通された場所だ。道案内も必要ないというと、愚地独歩は至極真面目な顔を浮かべたまま、ふるふると首を横に振った。

 

「お前さんが暴れ出したら不味いからな。もしもの時の抑えだと思っておいてくれや」

「……それは、その。どう判断すれば良いのか」

「見りゃわかる。おったまげるぜ?」

 

 いたずらっぽく笑う彼の表情に、紅葉は予感のようなものが確信に変わるのを感じた。この先に、居るのだ。彼を施術した、およそこの世のモノとは思えない技術を保有した何かが。そして独歩はその人物を知っている。故に紅葉が正気を失う可能性があると。そう思い共に連れ立って並んで歩いている。暴走した自分からその何かを守る為に。

 

 頭の中で予想を立て、そしてそのどれもを否定しながら歩く事数分。広い屋敷の中の一室の前で、恭しく頭を垂れる使用人に頷き返して紅葉と独歩は襖をあけて室内へと入る。弾む胸を意思でねじ伏せながら中をのぞき込む、と……

 

「おお、良く来たのぉ、ドクター」

 

徳川翁の陽気な声が耳に入る。だが、その言葉に返事を返す事が紅葉には出来なかった。彼の神経は全て、徳川翁の目の前にいる男に向けられているからだ。

 

「……馬鹿な。そんな、ありえない」

「うむ。それがまかり通る世の中になったという事じゃな……紹介しよう間君。彼がこの世界でも一等腕の立つ外科医師、ドクター紅葉じゃ」

「……お噂はかねがね」

 

 視界の中、徳川翁の紹介に従って頭を下げる、白髪混じりの黒髪をした人物。全身を黒い衣装で統一したその男を、紅葉は最初良くできたコスプレだと断じた。彼が知るその人物は創作の中の登場人物で、こんな日本屋敷の一室で、胡坐をかいて座っている訳が無いのだから。

 

 だが、医師としての鎬紅葉は、彼の顔に走る手術痕と皮膚の色が、決して偽物のリアリティではないと判断を下していた。どちらにしろ近づかねば分からない。確かめなければならない。

 

 ブラック・ジャックが目の前にいるなんてッ! そんな事が起こりえるのならばッ! 私はッ!

 

 思考のままに行動しようとした鎬紅葉を制したのは、肩に添えられた愚地独歩の手だった。力強く掴まれた肩の痛みに、紅葉の精神は無意識下から戻ってくる。振り返って独歩を見やると、彼はニヤニヤと。さも予想通りの事が起きたと言わんばかりの得意げな顔で紅葉を見ている。

 

 湧き上がった羞恥心に顔を赤くした紅葉の肩を、今度はポンポンと優しく叩くと、彼を誘う様に独歩は部屋の中央へと足を踏み入れる。独歩に急かされるように徳川翁の前まで進んだ紅葉を、徳川翁はうんうん、とほほ笑みながら手招きし、彼と隣り合う形で座らせる。

 

 間近で見た彼の顔の手術痕は、間違いなく本物であった。ちゃちな特殊メイクやマスクなんかじゃ断じてない。勿論実際に触れるのが最も確実ではあるが……それでも、この距離で自分が見て見間違う事はあり得ない。

 

「……まさか……本物の」

 

 口の中でその呟きを噛み殺し、紅葉は必死の思いで右手を向きそうになる自分を律して徳川翁へと視線を向ける。それを分かっているのか。サプライズが成功したかと無邪気そうに笑う徳川翁は、紅葉と黒衣の男を見比べ、その日の用件を口に出した。

 

「紅葉君。儂はどうも癌らしい」

「……そう、ですか。検査はもう?」

 

 呼び出された用件を理解した紅葉が徳川翁にそう問い返すと、彼は何も言わずにパンパンっ、と手を叩く。控えていたのだろう使用人の小坊主が、恭しくお盆に乗せた封筒を持って室内に入ってくる。翁に指示された小坊主は、その封筒を載せた盆を紅葉の前に置き、静かに室内から去っていった。

 

「拝見します……」

「うむ。お主の忌憚のない意見が欲しい」

 

 翁の問いかけに頷きを返して、紅葉はその封筒の中身を見る。そして、吐息に悲痛さを滲ませながら目を伏せる。

 

 ――助からない。全身に転移したがん細胞を見て、紅葉は確信を持った。すでに余命は数ヶ月。持って半年という所だろう。

 

「……私も拝見しても?」

「うむ、勿論じゃとも……すまんが、ドクター」

「ええ、どうぞ」

 

 思考が空回りしそうになるタイミングで間と呼ばれた男……仮称・ブラック・ジャックが徳川翁に声を掛けた。にこやかにレントゲン写真を渡しながら、彼の頭は高速で回転を始める。

 

 自身の顔に動揺が見られないか。医師としての鎬紅葉は自身に問いかけ、問題が無い事を確認。患者へ不安を与える事だけは不味い。どう言葉にするべきか。対応を頭に思い浮かべ……

 

「何もしなければ、余命2ヶ月といった所でしょうな」

「やはりそうか」

「…………!ッ!? おい、君ッ!!」

 

 平然とした口調で余命宣告をした仮想・ブラック・ジャックに、鎬紅葉が慌てた様に腰を浮かし……思った以上に穏やかな様子の周囲に困惑の表情を浮かべる。

 

「ドクター。分かっていた事じゃ。今更騒ぐような物ではない」

「し、失礼しました」

「構わんよ。それで、ドクターの診断はどうかな?」

「……そちらの間氏とほぼ同じ見解です。直ぐに入院の手続きを」

 

 徳川翁の言葉に、紅葉は自身の中で弾き出した最善の答えを口にする。投薬治療による自然治癒への期待。神に縋るような情けない決断かもしれないが、これこそが最善であると彼は判断を下した。

 

 仮に施術を行ったとしても、齢80を超えるこの老人の体力ではとても耐えきれない上に、そもそもの成功率が低過ぎる。自身の外科医術に絶対の自信を持つ紅葉ですら、恐らく10%を下回る難易度の手術。考慮にすら値しなかった。

 

 そんな自分の言葉に、徳川翁は少しばかり残念そうな表情を浮かべる。当然の話だ。遠回しに助からないと、再度宣言したような物なのだから。

 

 徳川翁は今度は自身の右手に居る間氏に目線をむける。彼の回答には、紅葉も興味があった。先程の余命期間、紅葉ですら明言は出来なかったそれに、凡そ同じ意見の2ヶ月という期間を言葉にしていた。しかも断定的に、である。

 

 先の愚地独歩の事もある。自分では辿り着けなかった何かをこの男は持っているのではないか。もしかしたら、という子供のような期待が紅葉の胸を埋め尽くす。

 

 この世界で自分以上の外科医は居ない。居るとしてもいずれは己が上に立つ……それも遠くないうちに。それは鎬紅葉にとって偽らざる本音だった。武闘家として敗北し、己の価値観を粉々にされた彼だが、医師としては依然世界最高の自負を持っていた。

 

 だが、予感がするのだ。そんな己の牙城が、まるでただそこに在っただけの砂上の楼閣であったかのようにぶち壊されるような、荒唐無稽な……想像の埒外の何かが巻き起こる予感が。初めて範馬刃牙と戦い、彼の最後の一撃を受けたあの瞬間の様に、全てが崩れ去るような圧倒的なカタルシスが来る。そんな予感が胸をよぎって、鎬紅葉の心を騒めかせる。

 

 知らず全身を力ませていた鎬紅葉の視界の端。ふっと小さく笑って間と名乗った男(ブラック・ジャック)は封筒の中にレントゲン写真を戻した。

 

「オペの準備を」

「……うむ!」

 

 立ち上がった彼の姿に徳川翁が目を輝かせる。紅葉は無茶だ、等とは口に出さなかった。ただ、自らが勤務する病院に連絡を入れ、緊急手術の準備を整えるように言伝、徳川翁へと視線を向ける。

 

「……私であれば、恐らく成功率は10%が精々でしょう」

「そうか。ならば、もし彼が失敗しそうであればお主が代わりにメスを持て」

「承知しました」

 

 言外に命を懸けるという決意を受け取り、鎬紅葉も覚悟を決めた。彼の助手は自身が務めよう。恐らく研修医時代以来になる手術助手だが、完ぺきに熟す以外の選択肢は彼には無かった。

 そんな彼らのやり取りを眺めながら愚地独歩はニヤニヤと笑い、事の顛末を楽しそうに見つめていた。

 

 

 

 チクチクと針を通す音とDVD機器の機械音。静かな部屋の中心で、TV画面の中の『彼』から目をそらさずに、彼は手に持った鳥肉だった肉塊に小さな針を通す。

 

 まるで魔法のように小さな針を使いこなす彼の両手はボロボロで、幾度も幾度もその小さな針を手に突き刺しただろう事は容易に想像できる。だが、彼の表情からは痛みや苦しみといった感情は見受けられない。

 

 ただただ無言で、何かを悟っているかのように。小さく微笑みすら浮かべながら、彼は額に汗を流して必死に小さな針を操作していた。

 

「……まるで速さが足りないな」

 

 ビデオの再生が終わる。自身の脳内シミュレートでは、まだ半分にも満たない地点しか達していなかったが、画面内の彼はすでに鎬紅葉が捌き切れなかった縫合まで手伝い、オペを終了させている。

 

 対してこちらは、メスを入れるどころか縫合だけに専念してこの体たらくである。彼がメスを入れ、患部を取り除き、それを縫合する。この一連の動作を信じられない程の速度と精度で彼は行った。行ってみせた。

 

 映像の中の自分に目を向ける。レオリオという彼の助手……この助手も素晴らしい腕の外科医だったが……彼と二人で担当を分け、縫合作業を行ってようやく0.5BJと言った位か。途中からは目から涙を流しながら針を振るう自身に対して、鎬紅葉は情けないだとか、そんな小さな感情を浮かべることは無い。

 

 ただ、羨ましいのと、勿体ないという感情が心を覆っていた。その涙で曇った眼では、彼の手術風景を綺麗に収める事が出来なかったからだ。こんな持ち込まれたビデオで撮影された映像ではなく、もっと間近に、ダイレクトに感じる事が出来た。その機会を一度不意にした事は……自分自身ながら非常に勿体ないとしか感じなかった。

 

――コンコン。

 

「入ってくれ」

 

 ビデオが停止してすぐに、彼のドアがノックされる。声に従い入室してきたのはこの病院の看護婦で、彼女は彼が行っていた鳥の心臓の縫合手術痕に目を丸くしながら「オペの時間です」と紅葉に声をかけた。その彼女の言葉に頷き、彼は練習に使用した鳥肉をビニール袋に入れてから、手を除菌ペーパーで拭う。

 

「生ものだからね。すまないが処理をお願いしても良いかな」

「あ、はい……あの、一体何を?」

「練習さ。手術のね」

 

 彼女の不躾な言葉にそう返事を返して、鎬紅葉は笑顔を浮かべる。そう、練習だ。

 メス捌き。縫合技術。経験。決断力。知識に関してはそうそう劣るものではないとも思うが、それも大きく差を開けるほどではない。結論から言えば、鎬紅葉はボロクソに医師として自分が劣っていることを自覚させられた。彼は手術が終わった後にBJに尋ねた。何故そこまで技術力を磨く事が出来たのか、と。

 

『実践で』

 

 帰ってきた言葉は単純明快だった。ぐうの音も出ない程の正論だった。この可笑しくなったらしい世界で、彼が執刀したオペの回数はすでに万の領域を超えており、その時間、密度、全てが異常としか言いようのないものだった。

 

 戦場を駆け巡るように人を救い続けてきたその行動に、うすら寒いものを感じた鎬紅葉は尋ねた。何故そんな事をしていたのかと。あなたほどの腕前の医師ならば、どこであろうと生きていく事に困ることは無いだろう、と。

 

 そんな彼の問いに、BJは不思議そうな顔を浮かべて逆に問い返してきた。その言葉が、未だに紅葉の心を穿ち続けている。

 

「人の命を救って……その人の人生を変える事が出来たなら。歴史が変わるかもしれない……か」

 

 臆面もなくそう言い放った彼の表情を思い出し、込みあがってくる笑いを噛み殺しながら手術着を身に纏う。

 

 あの日、ドクター紅葉は医師として大きな敗北を味わった。そして、それ以上の成長も。まずは映像の中の彼に追いつく……そして、いずれはまた共に手術台を囲んで。

 

 はるか未来を思い描き、ドクター紅葉は手術室へと向かう。その表情は夢見るようで、どこか晴れ晴れとしたものであった。

 

 

 

side.K もしくは蛇足

 

「成程な」

 

 動物の体は殆ど水分で出来ている。であるならばその水分を利用して、人体内部を破壊する事も可能……うん、医者らしい発想だけど、それを考えて実行するってすげぇわ。

 

 何をしているのかというと、護身用に以前教わった武術……いや、むしろこれは医術か。医術の試し打ちみたいなものだ。『打震』という打診を応用した技なんだがこいつがまた凄い。相手に打ち付けた打撃によって人体内部の水に波を立て、内部から破壊するっていうトンでも技なんだが、効果がエグすぎて中々使えないんだよな。

 

 打ち込み方によっては、心臓を潰したり脳を揺らして破壊するなんて事も出来るおっそろしい技なんだ。開発者のドクター紅葉は結構好青年に見えたんだけど、やっぱりあの人も結構危ない医者だったんだな。どっかのタンメン好きの医者に似てたし。イケメンロン毛はあかんな。

 

 手術中に泣き出したり、情緒不安定に見えたからどうかなと思ったんだけど予想通りだった。凄く良い外科医だったのにもったいない限りだ。モクセイエリアはあのロックウッドとかいう変な老人といい、危険人物が多すぎるんじゃないだろうか。

 まぁ、あのロックウッドという老人からは、徳川翁に対する手術とその映像の対価にクローン技術を譲り受けたし、ドクター紅葉からもこの『打震』を教えてもらったから完全に損って訳ではないんだが。

 

 キン肉マンに今度会いに行くと約束してるんだが、出来る限り関わらないようにしとこう。でも、これから向かう幻想郷だとこのレベルの技術でも力不足になるかもしれんからなぁ。一応もう少し練習しておくか。

 

 やっぱりこの世界で生きるには俺だと力不足だよなぁ。どんなに頑張っても俺じゃあトキ先生みたいに戦う力を持つことは出来ないし。頼む神様、次の統合ではブラック・ジャックをよろしく! 先生ならナイフ投げでラオウにだって勝てるだろうしな!




待たせたのにこの低クオリティ(血反吐)
ドクター紅葉と徳川翁が違和感あったら申し訳ない。



鎬紅葉:出典・刃牙シリーズ
 刃牙世界におけるスーパードクター枠。この件を機に更に自己研鑽を積み、名実ともにこの世界最高の医師と呼ばれるようになるが本人としてはまだまだ未熟なつもり。

徳川光成:出典・刃牙シリーズ
 刃牙世界日本で最後の大物と呼ばれる人物。地下格闘技場のオーナーとして強者同士に戦いの場を提供する事が己の役割だと自負している。統合に関しても詳しく把握しており、接触してきたマモーと交渉し自身の病魔を根絶する事に成功。オーガをとある格闘技大会へ参加させたのも彼。

愚地独歩:出典・刃牙シリーズ
 刃牙世界での日本最大の空手組織の長。徳川翁が手術を受ける前にクロオからの施術(クローニングのテストでもあった)を受けて右目を取り戻した。全身の古傷を消されたのはサービスだったらしい。


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ソーフィヤ

大変ご無沙汰しております(白目)
年末に間に合わせようと必死こいてなんとかギリギリとなりましたごめんなさい(白目)
誤字とか見直しとかは来年やります(白目
>やっぱり修正します

誤字修正、ソフィア様、酒井悠人様、たまごん様、佐藤東沙様、竜人機様、椦紋様、名無しの通りすがり様、Heldricht様ありがとうございました!


 胸倉を掴まれる。一瞬の浮遊感とすぐに襲い掛かる圧迫感。息が苦しい。呼吸が。でき……

 

『グッ、ガッ』

 

 口から漏れ出る悲鳴にすらならない声。懐から拳銃を抜こうとして弾き飛ばされる。強まる首の圧迫感、両手で血が出るほどに首を掻きむしるも奴の左手は小動もしない。

 

『……下らん』

 

 片手で私を宙づりにしながら、男は冷めた声で私に向かってそう言った。覚えのある声だった。何度も何度も夢見た忌まわしい声。視界が男の顔を捉える。金髪をオールバックにそろえたサングラスの男。

 

 何事かを呟いてそのまま、奴はゴミを放り捨てるように私を燃える教会の中に投げ込んだ。

 

 奴の瞳はもう、私を見ていなかった。その事が堪らなく悔しくて、情けなくて。紅蓮の炎に焼かれながら私は叫び声をあげる。

 

 この憎悪を奴に届かせるために――

 

 

 

「――ウェスカアアァァ!」

 

 ガバリと跳ね起きる。枕元に置いてあった銃を手に取り、構える。何千何万と繰り返したその動作は淀みなく射撃体勢を作り出し……荒く呼吸を乱しながらそこが自分の部屋だという事を確認して、ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ中佐は小さく息を整えながら銃を下ろした。

 

 ドムッ

 

 打ち付けた左手がベッドを軋ませる。

 

「ちっ……最低の目覚めだ」

 

 冷や汗で濡れた衣服に若干の気持ち悪さを感じながら、ソーフィヤはベッドから降りて立ち上がる。起き上がるときにシーツまで汗まみれになっている事に気づき、後始末の面倒さに若干の憂鬱を覚えながら彼女はシャワールームへと向かう。

 

 先ずは汗を流して、頭を目覚めさせなければいけない。面倒事も何もかもそれからの話だ。

 

 

 

 ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナという女は防衛機構チキュウエリアに属する軍人である。現階級は中佐。精鋭の歩兵大隊を率いている。

 

 二年前、祖国のある世界は次元統合の混乱の波に呑まれて、纏まり始めた防衛機構の保護下に入った。当時既に歴戦と呼んでもよかったソーフィヤと彼女の部下たちはその際に防衛機構所属の軍人となり……そして、統合軍との戦争が起きた。

 

 ソーフィヤは一流の軍人だ。一流の狙撃手であり歩兵であり、そしてそれら以上に超一流の前線指揮官でもあった。彼女の率いる遊撃隊(ヴィソトニキ)は数多の戦場を渡り歩いた歴戦の勇士達で構成された、チキュウエリアでも有数の精鋭部隊だった。

 

 戦女神とも謳われるソーフィヤの指揮を受けた彼らは目覚ましい戦果を挙げた。各世界の装備の違い、常識の違い。場合によっては種族すら違う者達を相手取り、それでもなお達成できない任務などなかった。

 

 ――なかったのだ。

 

 たった一人の男に、まるで寄ってくるハエを振り払うかのように仲間達が追い散らされたあの時までは。

 

「決意は変わらないのかい、ソーフィヤ」

 

 優しい声音で、目の前の男は直立不動の姿勢をとる彼女に尋ねた。

 

 先の戦争でソーフィヤの上司として戦線を共にした男は、今はこのエリア内で最も高い地位の椅子に座って彼女の前に居る。隣にいる秘書官である青いタヌキロボットの小言に苦笑を浮かべながら、以前と……大隊長とその部下という関係性の頃と同じような態度で。

 

 彼の気遣いに感謝の念を抱きながら、ソーフィヤは姿勢を崩さずに表情だけを綻ばせた。

 

「ええ……いえ、失礼しました。エリア代表閣下。ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ、本日を以てチキュウエリア第1歩兵大隊長の職を辞させて頂きます」

 

 敬礼と共に自分の離職を告げる。数年の時間を過ごした職場に対しそれなりの愛着は持っていたはずだが、思っていたよりもすんなりと言葉が出てきた。その事に少しだけ内心で驚いていると、エリア代表と呼ばれた男――野比のび太は小さく頷き、ふぅっとため息を溢す。

 

「先生といい君といい、皆チキュウエリアから居なくなってしまう。寂しくなるよ」

「はっ」

「君はもう軍人でもチキュウエリア所属でもない。僕相手にそんなに畏まらなくても良いさ。――また会おう、戦友(とも)よ。貴殿の健やかなる事を願う」

「……貴方も。野比大隊長」

 

 最後まで軍人らしさから抜け出せなかったソーフィヤに苦笑を浮かべ、のび太は椅子から立ち上がる。

 

 そして、互いに敬礼を交わしあい――ソーフィヤはくるりと背を向けると、振り返ることなく彼の部屋から立ち去った。

 

 その後姿を見送ったのび太は少しだけ感傷に浸った後、隣に立つ青いタヌキの小言に「はいはい」と頷きながら執務へと戻る。戦友を見送る時間くらいは大目に見てほしいものだとぼやきながら、彼はエリア内で偶然テロに遭遇した捜査官から上がってきた報告書に目を通す。

 

「……雁夜の悪運(ハードラック)に通じるナニかを持つ民間協力者か。ソーフィヤの抜けた穴を埋める事が出来れば嬉しいんだがね」

 

 かつての戦友のいつも酷い目に遭う姿を思い浮かべながら、のび太は小さく呟いて次の書類を手に取った。

 

 

 

 自宅の荷物はほとんど片付けられている。高級官僚である彼女の宿舎はそこそこの広さを持つ一軒家だが、そもそも彼女はあまり物を持たない主義でもあった。離職の準備に入ってからは必要の無い物をどんどん手放したため、今では一台の車に乗る程度の荷物しか残っていない。

 

「……いや……」

 

 机の上の写真立てに目をやり、ソーフィヤは荷物を纏める手を止めた。

 

 雑貨と一緒に梱包したつもりだったが漏れていたのだろう。写真立てに手を伸ばし――火傷を負い顔に包帯を巻いた自分と、戦友達の写る写真をじっと眺める。

 

 いつも黒いスーツを着ていた熱血漢のレオリオ。チンピラのような口調のジャギ。向こうからトラブルが寄ってくる間桐雁夜。野戦服を着た野比のび太。

 

 ――そして

 

 一人の男の顔に手の指を当て、ソーフィヤは数分目を閉じる。

 

 ふわりと香る薬品の匂い。普段のしかめ面がどこへ行ったのか、少し眉を寄せた困ったような表情。たった数か月、だがまるで数年に及ぶような感覚のあったクソッタレな戦場を共に駆け抜けた男の、初めて見せた表情に少しだけ驚いたのを今でも覚えている。

 

 あの時の表情を思い返すたびに、奴に対する憎しみが少しだけ薄れるのを感じる。

 

 前回の戦争の最後の戦い。一つの町を死都に変えたあの男を討つ為に彼女の部隊はあの町へと攻撃を行い、ウェスカーただ一人に壊滅させられた。

 

 指揮する部隊を失った彼女は、それでもただ一人ウェスカーへ立ち向かった。それが彼女の任務であり、仲間達の仇を討つという意思もあった。例え特記戦力が相手であろうと時間くらいは稼いでみせるという自負もあったのかもしれない。

 

 しかし、群に優る個に対して群を失った彼女では太刀打ちする事は出来なかった。文字通り、歯が立たなかった。

 

 彼女は確かに優れた兵士であったが、それは人間レベルの戦いの中での話だ。決して化け物と、ましてやその中でも上澄みと呼べるレベルの相手と戦える領域ではなかった。

 

 崩れ落ちた彼女の髪を掴んで引き立たせ、首に手を回して持ち上げる。

 

 その握力に首を絞めつけられてもがくソーフィヤを見ながら、ウェスカーはつまらなそうな表情で彼女の顔を見た。その時にボソリと呟くように言われた言葉を、彼女は生涯忘れることはないだろう。

 

「お前ではない、か」

 

 そう言ってウェスカーは彼女を燃え盛る教会へと放り投げた。

 

 投げられた際の衝撃で全身の骨がバラバラになり、更に重度の火傷まで負った彼女が生き延びる事が出来たのは、ただ運が良かっただけのこと。

 

 それと……その場に駆けつけた4名の男に、奴が気を取られたからでもある。

 

 そのままあの化け物は宿敵であるエージェントと伝説級のガンマン二人を相手に戦闘に入り、街を半壊に追いやった後最後には宿敵の手で討ち取られたらしい。

 

 治療を受けながらその報告を聞いたソーフィヤは、こみ上げてくる笑いを止める事が出来なかった。たった3名に、私の部隊が総力を挙げてかすり傷一つ残すことが出来なかった化け物は殺されたのだから。

 

『自身が一流の兵士であるという自負はあります。ですがね、大尉殿。あれはもう……次元が違うっていうんですかねぇ』

 

 一連の顛末を見届けた部下の一人はそう言って言葉を切った。

 

 あれは酒の席だったろうか。つい漏れ出てしまったのだろう本音に彼女は深く頷いたのを覚えている。次元世界が統合されてこちら、常識がどんどん切り替わっていくのを自覚しているが、それでも認めがたい事はあるものだ。

 

 そう。どれだけ訓練を重ね、実戦を以って鍛え抜かれ、抜群の連携を誇る兵士達だろうとあっさりと一個人に屠殺されてしまう事もある。この世界はそういった世界で、自分達は決して強者などではないのだ。

 

「……下らん感傷だな」

 

 パタリと写真立てを伏せ……そして、悩んだ末に梱包する荷物の中に写真立てを入れ直し……ソーフィヤは荷物を車に詰め込んだ。

 

 一応防衛機構に籍は残すためこの宿舎は今後も使用していいと言われているが、活動範囲的にこれからはほとんど戻ることもないだろう。家の維持のためにハウスキーパーの手配だけを行い、彼女は1年ほどの期間を過ごした我が家を後にした。

 

 

 

「新マクロス級か。ただの貨物船にするには随分と張り込んだじゃないか」

 

 軍港に停泊している防衛機構のフネの威容につい独り言を呟きながら、ソーフィヤはハンドルを手放す。艦側の誘導で自動運転に切り替わったためだ。そのまま艦内へと入り込む車両の中で、彼女は周囲をぐるりと見渡した。

 

 デカい。マクロス級には搭乗した事があるがこの船は更にデカい。これで居住区のある居住艦を除いているというのだから驚きである。

 

 彼女が自身の次の職場を確かめるように見ていると、指定の駐車場に到着したらしく案内が終了したという音声が車内のスピーカーから響き渡る。車両のエンジンを切り、さて荷物を運びこむ前に艦長に挨拶でもして、と予定を頭で組み立てながら車を降りると――

 

「お待ちしておりました」

「……ボリス」

 

 覚えのある声に、彼女はそちらを振り返る。彼女の視線の先。駐車場の暗闇の中から、一人の男が……いや。

 

「中佐殿」

「大隊指揮官殿」

 

 一人、また一人。

 

 停められていた車から、先の通路から。覚えのある男達の姿が現れてくる。

 

 彼女が祖国に居た頃から率いていた遊撃隊(ヴィソトニキ)のメンバー。防衛機構に所属してから彼女の部下になった者達。

 ぞろぞろと集まる彼らに何が起きているのか分からず、呆けた表情を浮かべるソーフィヤにボリスと呼ばれた男が厳めしい顔を緩めながら敬礼を行う。

 

 その動きに咄嗟に反応して答礼を返した彼女に、ボリスはいつもと変わらない声音で着任の挨拶を述べた。

 

「ボリス少尉以下104名。現時刻を以ってチキュウエリア所属を辞し、ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ殿の指揮下に入ります」

「ボリス、貴様――」

「どんな戦場であってもっ」

 

 声をあげようとしたソーフィヤを遮るように、ボリスは声を張り上げた。

 

「どんな戦場であっても貴女の元に居る限り道は開ける。そういうものと一同思っておりました」

 

 ボリスはそう言葉にして、口を閉じる。

 

「……私は、部隊を壊滅させた無能だ」

「あれを相手取って半数以上が生き延びれた。生半な指揮官では皆殺しにされていたでしょう」

「情けない敗残兵の我々が誇りを持って今日まで来れたのは、貴女が居るからなのです」

「中佐殿!」

「我々の指揮官は貴女しかおりません」

 

 口々に言い募る部下たちの言葉に、ソーフィヤは天を仰ぐように視線を上に向ける。

 

 馬鹿共め。

 

 そのままチキュウエリアに所属していれば歴戦の勇兵として遇された物を。好き好んで流浪の身になる事を選ぶなど。

 

 本当に――馬鹿な部下達である。

 

「……はぁ」

 

 ソーフィヤはため息と共に目元を伝う水滴を振り払う。緩む口元を引き締めるように力を入れて、彼女はその言葉を発した。

 

「大隊傾聴」

「――総員、気を付けぇい!」

 

 どうにも自分は結局のところ骨の髄まで軍人だったらしいと内心で自嘲しながら、彼女はボリスの一喝に一斉に姿勢を正す部下達を眺める。

 

「我々は現刻より我々の軍務へと復帰する」

 

 彼女の声に部下たちが敬礼を行い、それに対して彼女は答礼を返す。

 ここから先は栄光とは程遠い。薄暗く、影の中を歩くような道のりだろう。

 だが、この馬鹿共と共に在るならばそれほど悪い気分ではない。

 

「先ずはビジネスパートナーに挨拶を行う。ボリス、供を」

「はっ。中佐殿の荷物は住宅に運び込んでおけ。割れ物を扱う様に注意しろ」

 

 部下に指示を出すボリスを背に従え、ソーフィヤは歩き出した。

 

「忙しくなるぞ、なんせ商売範囲は広大だ」

「商売、でありますか?」

「運送屋だ。上はエリア群内の物流を活発化させたいらしくてな。その為に新造された新マクロス級を一隻用意してある。当然エリア群内が整えば他エリアも見据えているだろうな」

「成程」

「まぁ……たまには、御法に触れる事もしなければならんだろう」

 

 展望を語りながら彼女は、恐らく彼女が上層部から期待されている役割を思い口角を上げる。

 光ある所には闇がある。異なる世界という隣人の急な出現に今は混乱しているが、これが落ち着けば当然のように人々は未知を求めるだろう。

 他の世界には永遠の若さを保つ方法があるかもしれない。未知の美食を求めて、財宝を。

 人間の欲とはたとえどれだけ縛り付けた所で隙間から洩れ、やがて周囲を覆いつくしてしまうのだ。それらを一々規制したところでイタチごっこになるのは目に見えている。

 ならば、どうするか?

 最初から用意すればいいのだ。無秩序となるその前に、欲の受け皿となるものを。

 

「ありとあらゆる荷は我々の管理下に置かれる事が望ましい。勿論非合法な物も含めてだ」

「現行の少数居る、航宙艦を用いた運送業者などは」

「運航許可証を餌にぶら下げて全て傘下に入れる。利益は取らなくてもいい。ただ運ぶ荷だけはこちらが把握する必要がある。ああ、そう言えばオルガの小僧も今は運送屋がメインだったか。連絡を取っておいてくれ」

「了解いたしました」

「社名は……そうだな。我々の原作とやらに則ってホテルモスクワとでもしようか」

「マフィアの名ですか」

「やる事はマフィアと変わらんさ」

 

 冗談めかしたソーフィヤの言葉にボリスは苦笑で返し、つられるようにソーフィヤも笑い声をあげる。

 防衛機構の職員は必ず自身の原作を見る事が義務付けられている。当然彼ら二人もそれらを見ており、そして自分たちが何事も起きなければ(次元統合)どうなっていたのかを知り愕然としたものだった。

 それがどうだ。結果、行うことは違えど似たような状況に陥っている。いや、むしろ自ら望んですらいるのだ。

 これが笑わずにいられようか。

 

「そうだな。そうであるならば」

「……中佐殿?」

「バラライカ、だ」

 

 訝しむように声をかけたボリスに、ソーフィヤ。いや、バラライカはそう答える。

 

「私はこれからバラライカと名乗ろう」

 

 皮肉気に口元を歪めたまま、彼女はそう言って笑い声をあげた。

 

 

 

side.K あるいは蛇足

 

「先生、ソーフィヤの姐御から連絡が来ましたよ!」

「んぐふっ!」

 

 ある晴れた日の午後。昼食をテンカワ亭でとっていると、バタバタとした足取りでオルガが駆け込んできて開口一番にそう叫び声を上げる。

 そこで飛び出した名前に思わず咽そうになりながら何とか水で麺を流し込み、ひと呼吸を入れてオルガに向き直る。

 

「ふぅ……ソーフィヤから。火傷についての連絡か?」

「あ、いえ。何でも軍を退役して運送会社、というか防衛機構直の運送システムの責任者みたいな感じなんですかね、をやるからって。先生宛というよりは俺ら宛てですかね。今度そっちに行くって書かれてました」

 

 首を傾げるようにそう呟くオルガに「あ、ああ、そうか。連絡ありがとう」と返事を返し、アキトに勘定を渡して店を出る。お残しなんてしてしまったが空腹も全て吹き飛んでしまった。

 

 絶対に怒ってるよなぁ。ソーフィヤの美貌が修羅の笑顔に切り替わる様を思い出して身震いを起しながら自室に戻る。

 

 やっぱり勝手に火傷を治療したのが不味かっただろうか。ソーフィヤ、あの火傷の事めっちゃ気にしてたようだし、悔しさをバネに的な感じで考えてたなら凄く余計な事をしてしまったかもしれない。

 

 あれ以降やたらと態度がよそよそしくなったし最後の別れの時なんか怒りに体をふるふる震わせながら敬礼してきたし民間人になった今会ったら俺ぼこぼこにされるんじゃないだろうか。

 

 いや、まぁあの時は死に物狂いで『最適解』さんを常にONにしとかないと間違いなく死んでたんだけどな。全部『最適解』さんの暴走が悪いんだ。俺は悪くな……げふんげふん。

 

 しっかしウェスカーの野郎本当に碌な事しやがらないな。あの町一つバイオハザードの件もそうだしその前からちょくちょく方々でウィルスばらまきやがって治療に回るこっちの面倒考えろと何回言っても眉を寄せるだけで碌に話を聞きもしない。ロケットランチャーでぶっ飛ばされたのを見た時は思わずざまあみろと叫んでしまったぞ。

 

 しかしソーフィヤ来るのか……逃げたい。やっぱりこの末法の世の中、求められるのは俺の様な軟弱な男じゃなくてブラック・ジャック先生の様なタフガイなんだよ。神様、神様! 一刻も早くブラック・ジャックをよろしく! 出来ればソーフィヤが来る前で!




ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ:出展・BLACK LAGOON
原作での呼び名はバラライカ。軍籍はく奪される前にソ連が防衛機構に吸収され、そこで頭角を現した。統合軍との戦いでは個人プレーに走りまくる上官と同僚を必死こいてサポートした実質指揮官扱いで終戦まで従軍。火傷は治療されているが体を焼かれた恐怖と憎悪をウェスカーに対して抱き続けている。クロオに関しては……複雑な心境らしい。

ボリス:出展・BLACK LAGOON
ソーフィヤの副官。元は美少年だったが軍でしごかれてあの顔に落ち着いたらしい。

野比のび太:出典・ドラえもんシリーズ(劇場版全て含む)
非常に信頼できる士官が一人いなくなって結構困ってる。

アルバート・ウェスカー:出典・BIOHAZARD
故人。ウェスカーの死がチキュウエリアにおける統合軍の実質的な最後。クリスにロケランでぶっ飛ばされた。

オルガ・イツカ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
ソーフィヤにしごかれた経験があり大の苦手


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ルパン三世

何度か修正を入れては消してを繰り返し何とか形になりました。
それでも違和感がある。流石に彼は難しかった!

誤字修正。Kimko様、佐藤東沙様、 オカムー様、椦紋様、名無しの通りすがり様、仔犬様、ハクオロ様ありがとうございます!


「はっきり言えば少し驚いているよ。君がここに居るその事実にね。立ち話もなんだ。そこの椅子にでも腰かけたまえ」

 

 随分と不思議な空間だった。ギリシャ風の建築物が立ち並ぶ中。間違いなく屋内である筈なのに、何故か空があるその空間の中の一角。

 

 小高い丘の上にある彼お気に入りの場所で、彼は優雅にハープを奏でながらそう客人に話しかける。

 

 自身に向けられた銃口を気にする風でもないその態度に、客人は大きく鼻を鳴らした。

 

 歯牙にもかけられていない――わけではない。明らかに目の前の人物は自身を意識している。だが、その上でこの態度だという事は、だ。

 

「あららら。随分舐められちゃってまぁ……俺が引き金を引けないとでも思うのか?」

「君を信頼しているんだよ。例え未来がどうあれ、君が現在敵対している訳でもない人物にその引き金を引くことはない、とね」

「……俺はお前の死因だぞ」

「それは最早関係のない話だろう。君にとっても――私にとってもね」

 

 そう言ってハープを弾く老人。ハワード=ロックウッドと名乗る男は対面に立つ男に笑顔を向ける。

 

 

 

 

 世界が大きく変化した事に気づいたのは恐らく異変から数週間経った頃だろうか。後から思い返すと少し腹立たしいが、俺も世間一般で言う所の”常識”って奴に毒されていたのだろう。

 

 世界の外なんて物が本当にあるなんて想像する事が出来なかった。地球の果てなんてものが出来てしまうなんて思いもしなかった。

 

 だが、一度その事実に気付いてしまえば話は別だ。まだ見ぬ世界。誰も知らない新天地。そんな物が手を伸ばせば届く距離にあるんなら、手を出すのが人間というもの。

 

 かく言う俺もその口だった。数人の仲間と住み慣れた古巣を離れ、途中途中に拠点を作成して数か月。どこまでも続くゴムまりのような地面に飽き飽きしていた頃。

 

 少しこれまでと毛色の違う色合いの土地を見つけた俺達は期待に胸を膨らませてそこを訪れ、多くの驚きと感動、カワイ子ちゃんとの出会い……そして何よりも。これまでに想像したこともないお宝の数々と出会ったのだ。

 

 それらは俺達に確かな満足を与えてくれたが一つの成功では俺の冒険心を満たすことは出来なかった。

 

 そこを更に拠点として足を延ばし次、そのまた次の世界という形で行動範囲を広げていき、新たな冒険とロマンの数々を味わい七つの世界を股にかけ。

 

 やがて俺達は行く先々で小競り合いのような事象に巻き込まれることが多くなった。様々な世界を股にかける俺達と同じように、他世界にちょっかいをかけている連中が存在したのだ。

 

 統合軍。多数の世界を文字通り一つに云々とご高説を垂れるくそ共の集まりだ。

 

 元々はまた別の組織に所属していた連中の中でもはねっ返り共の集まりで、連中は自分たちが保有する武力と技術力をかさに着て別組織からの独立を図り。その結果、はた迷惑な人間同士の大きな戦争を引き起こす事になる。

 

 これが対岸の火事で済めば良かったんだが、連中は俺達が拠点にしていた世界にも粉をかけてきやがった。

 

 当然俺達にとって面白い事態じゃないが、仮にも相手は軍隊だ。一時的に出し抜くことは可能だろうが個人のグループが延々戦い続けられる相手じゃない。

 

 そいつらの敵対勢力に連中の情報を流し、それを対価に邪魔な連中を潰す。繋ぎを取ったバスクという将官は有能だった。

 

 こちらが渡した情報を有効に使い、ついでにこちらが望む報酬に対しても出し渋りしない。奴側からの余計な詮索もないという至れり尽くせりな関係だ。

 

 やがて統合軍と敵対組織……防衛機構の戦況は機構側が優勢となり、このまま押し切るのも時間の問題だと思われた、正にその時の事。

 

『見事。うぬらの妙技しかと堪能した』

『遊びが過ぎるぞ』

『許せウェスカー。戯れも時には良かろう』

 

 油断、だったのだろう。

 

 たった二人の男達に俺達は敗北し……薄れゆく意識の中海へと投げ出されたのがそこでの最後の記憶だった。

 

 

 

 

「さて、互いに忙しい身だ。用件を聞こうじゃないか」

 

 ハープを弾く手を止めてハワード=ロックウッド……マモーは客人にそう尋ねる。

 

 その言葉を聞いて嫌そうな顔を浮かべながら、客人は銃を下ろし、ドカリと椅子に座りこんだ。

 

「白々しいなぁとっちゃんぼうや」

「うふふふふ。君の口からその言葉を本当に聞くことになるとはな。彼との出会いは沢山の驚きを私に与えてくれる」

「ちっ、たくよぉ」

 

 皮肉気に語る言葉にもどこ吹く風とばかりに答えるマモーに客人は小さく舌打ちし悪態をつく。

 

 その様子を楽しそうに眺めながら、マモーはついっと手を上げて客人の背後を指さした。

 

「わかっているとも。そちらの彼に用があるんだろう?」

 

 マモーの言葉に釣られるように背後を向いた客人は、背後を振り返り。

 

「……先生」

 

 振り向いた先にあった懐かしい顔立ちに、客人は小さなため息をついた。

 

 

 

 

 最初に感じたのは、眩しさだった。

 

 浮き上がる意識の端を掴み、少しずつ眠りから覚める。感じる体の重さ。体中に巻き付けられた包帯の感触。自身が生きている事を五感で感じながら、俺は目を覚ました。

 

 知らない天井だ。少なくともどこかのアジトではない。体を動かそうにも固定されているらしく身動きが取れない。全身を貫く鈍痛から恐らくギプスで固定されていると仮定し、もどかしさを噛み殺しながら視線を周囲に配る。

 

 恐らく病室、だろうか。少し簡素だが白く、清潔な空間だと分かる。どうやら本当に一命を取り留めた状況らしい。

 

 動くにも動けず静かに周囲を見回していると、部屋のドアが開くような音が聞こえる。誰かが入室したようだ。

 

 医者だろうか、それとも。何ができるわけでもない状況だが、長年の癖が思考の回転を促す。

 

「どうやら意識を取り戻したようだな」

 

 思った以上に若い男の声。目だけを動かし、声のする方を見る。

 

 そこに居たのは、随分と奇妙な男だった。

 

「ああ、無理に動かなくとも良い。私は間。君の担当医だ」

 

 視界に入った男の顔には、大きな手術痕が刻まれていた。そこを境に色の違う皮膚が顔を包んでおり、また髪も一部分だけが白く変色している。

 

 間、という名前に恐らく日本人だろうと当たりを付け、言葉を発しようしてもがもがと口が動かない事に気付く。縫合されている、いや閉じられているというよりはむしろ顔の筋肉が動かない、と言うべきだろうか。

 

「喋らない方が良い。恐らく海に落ちた際の傷だろうが顔と胸、それに右腕と左の足は筋肉がズタズタになっていた。神経こそ繋いであるが、もう少し周囲が再生するまで魔法も使わん方が良いだろう」

 

 間と名乗る医師は淡々とした口調で今の俺の現状、そして何をしてはいけないのか、どこまでなら可能なのかを説明していく。

 

 それによると、基本的に体を動かすことは1週間は止めておいた方が良い事。今付けられている包帯は特殊なポーションが塗り込まれており、皮膚の再生をしてくれているので外してはいけない事。

 

 また、便意などがあった場合も最新鋭のスライム式おまるが装着されており、そのまま出してしまっても大丈夫だという。

 

 頷くことも難しいので返事は瞬きで返し、思った以上に大事になっている自分の状態と少なくとも命を繋いだ事実に二重の意味でため息を吐き……シュコー、と大きく音を立てる呼吸器の音で更に気分を滅入らせる。

 

「喉が渇いたと感じたら口に入れてある管を吸えば良い。ああ、暇つぶしに何か映画でも流そう。暫くは身動きすらできないからな」

 

 間医師がぴっぴと何かを操作すると、俺の顔のすぐ前に空中に浮かぶ画面が現れる。驚いた俺に対して間医師は相変わらず淡々とした口調でこれはコミュニケという電子ツールの機能拡張版で、視線での操作が可能な事を説明してくれる。

 

「いくつか入れているがアニメの映画しかないから暫く我慢してくれ。次の回診までには他の映画も用意しておこう」

 

 そう言って間医師は外部端末でコミュニケを操作し、映画再生の手順を口頭で説明しながら映画の一つを起動させる。

 

 間医師はその後も何か説明を行っていたようだが、俺はその時すでに始まっていた映画に意識を奪われていて彼の姿が消えている事に映画が終わるまで気づくことはなかった。

 

 その時に流れていた映像は『ルパン三世 ルパンVS複製人間』

 

 俺の姿をした俺の知らない誰かが、その画面の中に立っていた。

 

 

 

 

「違うな。お前は間先生じゃない」

 

 振り向いた先に居た特徴的な外見の黒い医師――ブラック・ジャックの姿をした何者かに険しい視線を向けて、客人――ルパン三世はそう言葉を放った。

 

「流石はルパン君。一目で見抜くとは……いや、当然だろう。一度しか彼と会っていない私ですらそう感じたのだからね」

 

 その言葉にマモーは機嫌良く笑いながら肯定の言葉を口にし、そして今度は残念そうにため息を吐く。

 

 彼にとってのライフワークの一つ、偉人のクローンの収集。それがこんな形で失敗したのは随分と久しぶりの事だからだ。

 

「身体的な意味合いでは99.9%彼と同じ存在であるのだ。だが、それ以外の何もかもが再現できない……その身に纏う空気、独特の圧力を持った視線。そして、何よりもあの神業と言わんばかりの技術……」

 

 指折り数える様にマモーはそう語り、そして再度落胆のため息を吐く。

 

 勿論このブラック・ジャックには医療技術を習得させている。マモー自身の長い経験による知見なども含めたこの偽BJの技術は世に名医と言われる人間たちすらも凌駕しているのは間違いのない事だった。

 

 だが、それでも彼と比べられる領域には辿り着いていない。ただ一度見たあの手術の映像を再現する事は出来なかった。

 

「彼との出会いは私に沢山の新たな発見を促してくれる。自身のクローン技術には些かなりとも自信があったのだがね」

「所詮は偽物って事だろう」

「ああ。銭形警部を騙せる程度の偽物だよ」

 

 そう言って再び不気味に笑う小さな老人に、ルパン三世は厳しい視線を向けた後に席を立つ。

 

 見るべきものは見た。そして、やはりあの男の再現は出来なかったという事も確認した。マモーが自分を欺いているかもしれない、とも考えるがこのプライドの高い男が自分に対してそんな小さな嘘を吐く事はない。

 

 何度も繰り返し見たあの映画。そして実際に会ったマモーという男。それらを踏まえて、ルパン三世は宿敵となったかもしれない男に背を向ける。

 

「おや、もうお帰りかい」

「見るもんは見れたからな。邪魔したぜ」

「またいつでも来ると良い。君と不二子、それにブラック・ジャック君に対して我が屋敷の門はいつでも開いているよ」

「随分とまぁ入れ込んでいるもんだ」

 

 マモーの言葉に振り返り、ルパンは揶揄するようにそう口にする。そして振り返った先を見て、ルパンは毒気を抜かれたように笑みを消した。

 

「当然さ。彼は尊敬に値する人物だ……私の最も好きな人種の人間だよ、あれは」

「……ああ。そうだな」

 

 まるで尊敬する偉人に出会った少年のようなマモーの表情にそう答える事しか出来ず、ルパンは曖昧な笑顔を浮かべてその場を後にした。

 

 

 

 

「ふむ。もう良かろう」

 

 俺が彼の患者になってから1週間。再生がある程度進んでからは魔法による治療へと移行し――先生は魔法での治療自体はそれほど好んでいないとの事だったが――そこから完治まではあっという間だった。

 

 ジョキジョキと包帯をハサミで切りながら、先生は俺の今後についてを語ってくれる。戦災被害者として救助された俺の身分は身元不明人のままになっており、登録や調査が必要なため専門部署に行って欲しい事。

 

 場合によってはすでに故郷が無くなっている、という事もあり、無策で戻ろうとするのはお勧めしないと彼はいつもの淡々とした口調で俺に告げる。

 

「戦sうは、まだ続いtいるのか」

 

 久しぶりに口の筋肉を動かしたからか、ろれつが怪しい事になっているが仕方あるまい。暫くはリハビリが必要だろう。

 

 幸い俺の質問は意味が通ったらしく、先生はいつもよりも眉間にしわを寄せながら戦乱は未だに続いている、と言葉少なに語ってくれた。

 

 この頃になると、どうやら目の前にいる先生は感情を表面に出すのが苦手なだけの割と他者にも気を配る普通の人物だというのが分かってきた。そして、びっくりするほどの腕前の医者であることも。

 

 動けない俺を気遣って彼は何くれと自分の話や知人の話をしてくれるのだが、その内容は新鮮を通り越して時折人間の限界とは何なのかを考えさせられるものが多かった。

 

 空中を飛び一度に数十人を殴り殺したという彼の友人。腰に佩いた二丁拳銃のみで一つの街を制圧した彼の同僚。果てには拳で山を吹き飛ばした男の話。

 

 彼自身の話も中々ぶっ飛んでいた。一度に200人の手術を行い成功させたという話を聞いた時はいくら何でも嘘だろうと思ったが、彼の助手らしきレオリオという男の口調からそれが事実だと知った時は頭の中を整理するのに少し時間が必要だった。

 

 世の中は広い、たった一人の男との遭遇が、改めてその事を俺に教えてくれる。自身の事を紛れもない天才だと思っていたが、己に匹敵する何かを持った者たちは数多いるのだ。

 

「ほう。随分と男前だったんだな、お前さん」

「おtこ、まえ?」

 

 体が治っていく事により抑えきれなくなった感情。まずは仲間たちとの合流、そして落とし前を付ける。頭の中でこれからの予定と段取りを整えているうちにどうやら包帯の切断が終わったらしい。

 

 感心したように呟く先生の言葉に違和感を覚え、俺はコミュニケを起動する。自分の顔にカメラを向け、今の自身の外観をコミュニケ越しに……

 

「bかな……」

「もしどこかを整形していたならすまんな。出来る限り元の状態に戻そうと思ったんだが」

 

 その画面に映る顔。幾度も変装し、変えていった顔。誰も知らない筈の素顔。

 

 完全に再現されたそれに衝撃を受けながら、彼はそれを為した医者へと目を向ける。

 

 間医師は手に持つカルテをいつもと同じような表情で記入しながら部屋に備え付けられた椅子に腰を下ろす。こちらに背を向けた彼の姿は完全な無防備だった。

 

 部屋には自分と彼の二人だけ。体の調子を確かめる様に足や腕を動かすが、1週間前に寝たきりになるほどの重傷を負ったとは思えない程に調子が良い。

 

 ――消すか?

 

 むくり、と湧き上がった考えを頭から散らす。自身の素顔を知っている人物は可能な限り消さねばならない。だが、自分の信条と恩。その二つが頭に浮かび行動を取り止める。

 

「sん生……」

「うん?」

「sん生は、なぜ俺お助けたんですか」

 

 代わりに、言葉が出た。

 

 ベッドの中。声も手も足も出せない中、彼はずっと自分に語り掛けてくれた。そんな事は医者の仕事ではない筈だ。彼が忙しそうに他の患者を見回って、そして疲れた顔で自身の部屋に来る姿を見ていた。

 

 何故、ここまでしてくれるのか。彼の言葉を聞いていると彼は自分以外の患者にも同じように接しているという。一介の医者がそこまでする義理も義務もない筈だ。

 

 いつかは彼が潰れてしまうのではないか。柄にもなく男を心配してしまったが、恩があるのは事実。それを返す前に先生に死なれるのは寝覚めが悪すぎる。

 

 俺の質問に、椅子から振り返り先生がこちらを見る。患者であった頃は感じなかった独特の圧力のある視線に少しだけ驚く。

 

「一つ、勘違いがあるようだな」

「kん、違い?」

「医者はな。人を治す手伝いをするだけなんだ。治すのは本人で、本人の気力が治ろうとしているのを手助けするのが医者の仕事なんだ」

 

 そう言って言葉を切り、そして間医師は初めて俺が見る表情で笑顔を浮かべる。

 

「動かすなと言っていたのに、こまめに体を動かそうとしていただろう?」

「……sみ、まs」

「構わんさ……俺は、死に物狂いで治ろうとする患者と。その手助けをするのが好きなんだよ」

 

 リハビリも少なく済みそうだしなと冗談めかして笑いながら、先生はテーブルの上に置いてあったカップに何かを注ぎ「もう大丈夫だとは思うが」と言いながら俺の元へと持ってくる。

 

 持てるかい、と尋ねられたため頷きを返しそっと渡されたカップを手に持つ。久しぶりに感じる温かさ。豊かな香り。紅茶、だろうか。どこの茶葉かが判断出来ず、俺はそっとカップに口を付ける。

 

 そして、口の中に広がる豊かな味わいに思わずほぅっと息を吐いた。

 

「――u味い」

「そうだろう。そのティーポットからしか飲めないから余り人には勧められないが、滋養回復の効果もある」

「sごい……お宝」

「ああ……友人からの、大切な贈り物さ」

 

 そう言って先生は自分のカップにもそのお茶を注ぎ、飲み始める。

 

 消毒液や薬品の匂いで満たされていたその病室の中をお茶の匂いで上書きしながら。互いに会話をすることなく、ただ静かにお茶の味を楽しむ時間が過ぎていく。

 

 やがてお茶を飲み干し、先生が次の患者の回診があると席を立つ。

 

 部屋を出る際、先生は部屋の隅に置かれていたティーポットは自由に使って良いと言っていたが、これ以上飲むと欲しくなってしまいそうだから諦める事にした。人の思い出は盗めない。しかも恩のある相手だ。

 

 ベッドから起き上がり、全身をほぐす様に動かす。まだ固いがいずれ元通りにはなれそうだ。

 

「aりがとよ、sん生」

 

 ろれつの回らない口もどうにかしなければな、と思いながら病室から出る。まずは情報を集めよう。それと服を手に入れて変装もしなければ。それと俺の個人情報も出来る限り痕跡を消して――

 

 これから行わなければいけない山のような問題に少し頭を抱えながら、俺――ルパン三世は病院を後にした。

 

 いつか、この恩を必ず返しに来ると心に誓いながら。

 

 

 

side.K あるいは蛇足

 

「よぅクロちゃん。おっ久しぶりじゃな~いの」

「……お前か。茶しかないぞ」

「お、それそれ。俺そのお茶だぁいすき」

 

 唐突に来る客というのは大体が厄介な相手だったりするものだが、この男はその中でもブッチギリに厄介な男だった。

 

 その名をルパン三世。俺がこの世界に来る前から知っていた有名人の一人である。

 

 こいつとの因縁はあの忌々しい統合軍との争いの頃から始まった。連中、取り分けラオウやウェスカーとぶつかり合っていたこの男とその仲間達とはある時は協力し、またある時は利用し合う形で情報を共有。

 

 最終的にウェスカーが死亡しチキュウエリアでの騒乱が幕を閉じるまで、何かと世話になり、また世話をした関係である。

 

 この言葉だけなら割といい関係を築いているように思えるかもしれないがどっこい。この男がこちらを利用する形で接触してくると大概被害を受けるのは俺かオルガである。

 

 繰り返す。俺か、オルガである。あの軍事基地でトラウマを植え付けられたのを皮切りに、この男は何かと「クロちゃんなら死なないだろ」というノリで俺をとんでもない相手とぶつけてくるのだ。主にラオウとかな。

 

 剛掌波ってな。音が凄いんだぞ、ゴオウンって来るんだ。人の出して良い音じゃない。

 

 まぁ最終的に生き残っていたしアフターフォローはしていく奴だったので後で文句を言う位で済ませていたがな。

 

「そういえばクロちゃんさぁ。マモーって知ってるかい?」

「マモー……ああ、あのマモーミモーの」

 

 父親があのコントを好きだったからよく覚えている。俺も子供の頃は「マ! モー!」とか言ってたよ。ウッ〇ャンのコントでも特に有名な方の奴だったよな、確か。

 

「……俺の映画を見た事あったよな」

「子供の頃にな。ああ、そういえばその中にいたな、そんな名前の奴。モクセイエリアによく似た人が居るんで覚えているよ」

「あれ本人な」

「……マジで?」

 

 衝撃の事実に思わず尋ね返すと、呆れたような表情を浮かべてルパンが首を縦に振る。うわー、マジか。あの人本体脳みそなんだよな。

 

 うん? でもよくよく考えれば管理局のトップも確か脳みそ連中だったし別に次元世界では珍しい事でもない、のか?

 

「色々飛び回ってると常識が崩れるよなぁ」

「その言葉で済ませる辺り、クロちゃんは大物だわ。また恩を返しそびれたかねぇ

 

 ため息を吐く様にルパンが息を吐き、カップに入れたお茶を美味しそうに飲む。こいつこのお茶が本当に好きで、姿を現すときは大概3、4杯飲んでいくんだ。

 

 こんだけ美味しそうに飲む人は他に見た事……あ、居たな。防衛機構の病院で臨時勤めしてた時に。やたらと男前な青年だったからあのまま入院してたらさぞや看護師たちに大人気になってたろうって青年が。

 

 何故か記録が残ってない上に在院中は殆ど包帯でぐるぐる巻きだったから彼の素顔を俺以外は知らなくて、この話をするたびにその病院の看護師に残念がられたんだものだ。忽然と姿を消したが、彼は元気だろうか。

 

 というかあの病院良かったなぁ。何よりも危険から遠いのが良かった。二か月くらいしか居なかったがその後のトラウマ連発戦場勤務に比べたら天国としか言えない場所だったよ。少し忙しかったけど。

 

 やっぱり俺、この世界で医者やってくのは無理なんじゃないかと何度思ったことか。ここは一刻も早く神様に新しい統合を起こしてもらってブラック・ジャック先生を呼んでもらうしかないな。

 

 神様、神様! お願いします、次こそはブラック・ジャック先生を! ブラック・ジャックをよろしく!

 

 

 

「先生~患者が……何してるんですかね、あれ」

「お、レオリオか。ひっさしぶり。いつもの病気だよ」

 




ルパン三世:出典・ルパン三世
ご存じ世界的に有名な大泥棒。因みにマモーと戦う数年前くらいをイメージしてます。
今回の話の流れとしてはウェスカーとラオウという怪物二名とブッキングし抗戦するも敗北、大怪我を負った所を防衛機構側に救助された。
因みに本人的には恩返しをしようとして毎回酷い目に合わせてしまってる形なので少し気まずかったりする。多分クロオの運命力の問題だったり。
以後ウェスカーと次元、ラオウと五右衛門という人外対決が数回行われた(なおラオウ側は決着つかず)

ラオウ:出典・北斗の拳
故人。何かと名前が出てくるのはクロオ達が居る地域は彼らの担当だった為です

ウェスカー:出典・バイオハザードシリーズ
故人。この方も良く出てくる。彼の場合戦争序盤から最後まで実働部隊を率いていたというのもある。


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雷禅

明日から暫く忙しいのでこれが今月ラスト投稿となると思います(白目)
少し短め。申し訳ありません。

誤字修正。ドン吉様、佐藤東沙様、5837様、名無しの通りすがり様、物理破壊設定様、シフミ様、匿名鬼謀様ありがとうございます!


 ――はらがへった

 

 

 グゴゴゴゴゴと鳴り響く腹の音。自国の時計代わりにすら使われている、自分自身ですら五月蠅く感じるそれに慣れたのはいつ頃だったろうか。

 

 ただ頭の中を空腹と飢餓感だけが支配するその日常に慣れたのは、いつだったろうか。

 

 頭の中を駆け巡るかつて喰らった人々の顔。恐怖に歪んだ人間どもの表情を思い浮かべて――最後にあの女の目が頭を過り、途端に食欲が消えていく事に慣れたのは。

 

 数えきれない程の月日繰り返した思考。バカ息子が身の程も弁えずにじゃれついてくる時以外のほぼ全てを費やす暇つぶし。

 

 その身が朽ち果てるまで男はそれを繰り返す……つもりだった。

 

「――雷禅様」

「おう」

 

 部下からの呼び声に、雷禅と呼ばれた男は思考の海から意識を起き上がらせる。その過程で襲い掛かる空腹をその意思の力でねじ伏せながら、雷禅は眼を開いた。

 

 バカ息子がまた半殺しにされに来たのか? いや、それなら勝手に入ってくるだろう。部下が一緒に居る事はこれまでになかった。なら、これは――

 

「あぁ?」

 

 開いた視界に映ったそれに、雷禅は僅かに困惑して眉をしかめた。

 

「初めまして、国王陛下」

 

 そこに立っていたそれは、黒い男だった。

 

「私は間。間 黒夫と申します」

 

 妖怪ではない、魔族でもない――人間の男はそう名乗りを上げて、雷禅に向かって頭を下げる。ここは魔界の深部。そいつはこんな場所に居る筈の無い存在だった。

 

 困惑したままちらりと目線を横に向ける。部下の一人、北神は男の少し後ろに立ち、額に汗をかきながら直立不動の姿勢を取っている。

 

 他国からの策謀かとも思ったが、北神が通している以上その線は――無いとは言わないが薄い。そして、仮に策謀だとしても人間に何が出来るのか、という意識もある。

 

「なんだぁ、てめぇ」

 

 だから、この言葉が出てきたのだろう。理解できない状況。自然と口から出たのは疑問の問いかけだった。

 

 雷禅の問いに北神がビクリと肩を揺らす。だが、問いかけられた本人である黒い男――間はこくりと頷いて口を開き、己と目的についてを話し始める。

 

「私は医者です。友人からの依頼で、貴方の寿命を延ばしに来ました」

 

 雷禅の視線を受け止めながらそう男は告げ、そして口を閉じる。

 

 間の放った言葉が雷禅の耳に入り、脳がその言葉を理解するまでのコンマ数秒の沈黙。そして雷禅はのそり、と台座から起き上がる。

 

「分かった。死ね」

 

 光の速度にも匹敵する右拳で、間に殴りかかり――

 

 

 

 

 

 キュポン。トクトクトクッ

 

 蓋を開けた瞬間に感じる豊穣の香り。トクトクと注がれる黄金色の液体。

 

 目の前に置かれたテーブルの上。グラスに並々と注がれたそれに視線を奪われながら、雷禅は彼にしては優しい手つきでそのグラスを手に取った。

 

「酒は問題ありませんか?」

「注いだ後に言う言葉じゃねぇな。勿論好物だ――何年振りかも分からんがな」

「結構。では、一献」

 

 そう言って、間と名乗る男は手に持つ小さなグラスを持ち上げる。

 

 何故か殺す気が失せ。土産があると言う間の口車に乗って席を囲む。

 

 土産という一本の瓶に入った酒に視線を向けながら、雷禅は鼻孔を擽る感覚を楽しんでいた。

 

 人食いを絶ってからこちら、まともに酒を飲んだのはいつだったか。酒を飲むと人を食いたくなる。余計に腹が減るという事に気付いてから、飲まなくなった覚えがある。

 

 とはいえ、もうくたばり掛けのこの体だ。最後に一杯、土産だと用意された酒を口にするのも悪くはない。

 

 毒が無い事をアピールする為だろう。間は見やすいように口元にグラスを持っていき、くぴりと傾ける。口の中に酒が流し込まれるのを見ながら、雷禅も同じようにグラスに手を伸ばす。

 

 口元に持ってきたグラスから香る匂い。思わずほぅ、とため息を吐く。空腹だから、ではない。長い時を生きた雷禅ですら味わったことのない何かを感じさせる香り。

 

 上物。それも特別な――という枕詞が付く代物だろう。もし仮にこれが毒であると分かっていても、グラスを傾けたくなってしまうかもしれない。

 

 末期の酒にはちと上等すぎるか。頭の中でそんな考えを巡らせながら、雷禅は静かにグラスを傾ける。

 

 クイッと傾けたグラスから、口の中へと液体が入り込む。

 

 その瞬間であった。

 

「……っ」

 

 口に含まれた液体から口内、喉、そして脳へと向けて広がっていく得も言われぬ衝撃。味覚の暴力。美味いという感情を一つにまとめて液体にしたらこうなるのではないか。

 

 そんな場違いな感想を抱きながら、雷禅は何とかその雫を飲み下し――

 

「んぐっ!?」

 

 胃袋から走る衝撃が彼の五体を揺さぶった。

 

 ズドン、と音を立てるように彼の胃袋がその雫を受け取り、それは急速に全身に染み渡るように広がっていく。

 

 足りない。まるで、足りない。

 

 体中が悲鳴を上げる様にそれを欲しがっているのを感じながら、雷禅は血走った眼で酒が入った瓶を睨みつける。

 

「どうぞ、そのままお飲みください。これは貴方の為に用意されたものです」

 

 そんな雷禅の姿に、間は特に驚きもせずにそう伝えてテーブルの上の酒瓶を雷禅の方へと置き直す。

 

 奪い取るようにその瓶を掴み、口元に寄せ――そして、ふと気付いた時にはその酒は消えていた。

 

 時間が飛んだかのような感覚。全身が熱く感じるそれに、確かに酒精を感じて呆然と空になった瓶に視線を向ける。

 

「ふむ。消化器官が大分衰えていたようですが、その様子を見ると問題になるほどではありませんでしたな」

 

 カリカリと小さなメモのような物にペンを走らせながら、間はそう口にしながら雷禅に視線を向ける。

 

 瓶から間に視線を向け直す。何かを腹に入れた時の吐き気が襲ってこない事。全身に漲る活力。そして、それ程の異常を引き起こしながらなんら様子が変わることなく醒めた視線のまま手元のメモにペンを走らせる男の姿。

 

 その異質さに、雷禅は目を細める。

 

 強さ、ではない。恐らくその気があれば自分は1秒もかからずにこの男を殺すことが出来る。ただの人間の医者。その筈だった。

 

 だが。

 

「てめぇは……なんだ?」

 

 この男の底を何故、自分は読み切れない。 

 

「医者ですよ。先ほど言った通り」

 

 雷禅の言葉にさも当然であると言わんばかりの態度で間はそう答え、そして席を立つ。

 

「本日の往診はこれにて終了とさせて頂きます。次の往診は三日後に」

「……おう」

 

 はぐらかされた――訳ではない。恐らくこの男は本心からそう言っている。そう確信を持ち、そして余計に意味が分からなくなった雷禅は、一先ずこの男の事を「そういうもの」なんだと分類する事に決めた。

 

「それではまた後日」

「ああ……いや、待て」

「はい?」

 

 部屋から去ろうとする間の姿を見送ろうとし、ふとある事に気付いた雷禅は彼を呼び止めた。

 

 部屋のドアの前で振り返る間に視線を向けながら、雷禅は空になった瓶を名残惜しそうに揺らしながら口を開く。

 

「俺の治療を依頼した奴――いや、これはどうでも良い。お前、俺の寿命を延ばす為に来た、と言っていたな」

「ええ。そう依頼されてまいりました」

「それなら、もう終わってるんじゃねぇのか。この酒……信じられないが、ただ一瓶で死にかけの俺に命を吹き込みやがった。これならあと数百年は持つ……そう感じるほどの代物だ」

「でしょうな。ソーマという酒です」

「ソーマ、か……また飲みてぇもんだが、今はその話じゃねぇ。お前は依頼通りに俺の寿命を伸ばしたはずだ。治療は終わった筈だろう?」

 

 そう疑問を問いかけ、そして雷禅は口を閉じる。

 

 別に治療が受けたくないだとか、そういった事ではない。どうせ暇を持て余している身、上等な土産まで持ってきたこの風変わりな男の来訪なら受けても良いと雷禅は思っている。

 

 だから、この質問はただの世間話に等しい問いかけだった。特に理由が無くても気にもしない、そんな類の問いかけだ。

 

 故に、男の言葉は雷禅に驚きを与えた。

 

「確かに、貴方の寿命を伸ばすというだけならすでに目的を達してはおります」

「だろうな」

「そう。目的は達している……ですがね、国王陛下。根本的な原因を治す事もせずに治療を終了する、というのは私のような医者にとって業腹でしてな」

 

 そう語る間の表情は、それまでの能面じみた無表情とは打って変わり。

 

「鬼の拒食症等というものを治療するのは初めての経験ですが、実に得難い経験が出来そうだ」

 

 心の底から楽しそうに、笑っていた。

 

 その笑顔を見て、雷禅は苦笑を浮かべる。

 

「人食い鬼の拒食症を、人間が治すってか」

「それならばまずは人以外を栄養とすることが出来るのかを確認しましょう。私もまだ食われたくはない」

 

 その言葉に、雷禅は大きな声で笑い声をあげる。

 

 この男は正気を保ったまま狂っている。そんな矛盾した感想を抱きながら、雷禅は己の右手に目を向ける。

 

 最初の問答の際。この右手を振りぬけば、間違いなく殺していただろう。

 

 だが、自分は振りぬかなかった。振りぬけなかった。自ら手を止めてしまったのだ。

 

 自身の死を知覚しながらも微動だにしなかった男に興味を持った。それもある。

 

 ただ……一番の理由は。

 

「間よぅ」

「はい」

 

 表情の奥に潜む、瞳。あの女のように全てを醒めた視線で見るその瞳に、己は射すくめられたのだ。

 

 何かを語ろうとして雷禅は口を開き……そして口を閉じる。ふっと自身の感傷を鼻で笑い飛ばして、雷禅は再び口を開く。

 

「能面見てぇな面も悪かねぇが。今の顔の方がまだ人を見てる気になるぜ?」

「……良く言われますよ」

 

 ゲラゲラと笑いながらそう言うと、間は渋い顔を浮かべて頭をぺこりと下げる。気に障ったのか、それとも自覚があるのか。雷禅にとってはどちらでも構わなかった。

 

 三日後。バカ息子をこの場に呼ぶのも良いかもしれない。

 

 さぞ楽しい事になるだろう。半ば確信じみたその考えに、雷禅は口元を歪めた。

 

 

 

side.K あるいは蛇足。

 

 

 

 これまでにも危険な目にあった事は腐るほどにあったが今回はその中でも一等危ない目にあったと確信できる。なんせ相手は魔族の王様。俗にいう魔王って奴だ。

 

 うん、モモンガさんという魔王が居るだろうって? いやその通りなんだが彼はそこそこ人間味があるからな?

 

 今回のガチ魔族の王様相手と比べるのは流石にモモンガさんに失礼だろう。彼からの依頼でその魔王の治療に赴いたんだけどな。

 

 雷禅。それが私が治療した魔王の名前だ。闘神とも呼ばれる程の力を持つ存在で、モモンガさんとしては前々から彼の部下に話を付けて接触を図っていたらしい。

 

 というのも、かの雷禅という魔王が居るエリアがかなり重要な場所らしいのだ。そこは魔界と呼ばれている広大なエリアで、深部に行けば行くほど強力な魔族が住む地獄のような場所らしい。

 

 その凶悪さは調査を担当したデミウルゴス氏曰く、暗黒大陸に勝るとも劣らないとの事だ。

 

 で、なんでそんな危険地帯の王様にOHANASHIしようとしてるのかと言うと、純粋に暗黒大陸と魔界、両方を相手取る余裕がモモンガさんに無いから、だそうだ。

 

 暗黒大陸の封じ込めの段階でほぼほぼキャパオーバー。その上更にそこよりも難易度の高いエリアの封じ込めなんてやってられるか、とモモンガさんが匙を投げ、それをデミえもんに投げ。そのデミえもんから妙案とばかりに特攻かけさせられたのだ。俺が。

 

 うん、魔界に入ってからほぼ全ての時間『最適解』さんを全開にしてたよ。多分これしてなかったら余裕で2桁は死んでたんじゃないだろうか。死んだら蘇生する、とモモンガさんから言われているが正直死にたくない。

 

 まぁ、そのお陰かどうか。死の淵に立っていた雷禅様に治療を施した結果、魔界の勢力図が一気に塗り替わり目出度くデミえもんの目論見通り魔界の秩序を保つことに成功。また、どういうウルトラCをかましたのかバトル好きな魔族の一部を借りて暗黒大陸に充てる戦力の拡充に成功した、と。

 

 俺、めちゃめちゃ今回頑張った気がする。後半は雷禅様のご子息の幽助くんとやたらと馬が合ったらしいジンに連れられて魔界探検ばっかりしてたけど。

 

 雷禅様の拒食症もきっちり改善したしなんなら人以外でも栄養を損ねない食物も発見したしこれだけ働いていればたまの余暇くらい楽しんでも良いだろう。

 

 雷禅様と言えば、意外や意外、予想以上に話の分かる方だった。初対面の時にモモンガさんから巻き上げた特上の酒、ソーマを使ったのも良かったのかもしれない。彼の前では『最適解』さんを解除してても特に問題なかったしね。

 

 雷禅様自体もどうも『最適解』さんを使ってる時の雰囲気が好きになれないらしく、自然にしとけ、と何かと口にされていた。これは初めて言われたのだが、どうも『最適解』さんを使ってる時の俺の雰囲気はやたらと醒めたように感じるらしい。他の人に聞いても違和感を感じなかったそうなんだが、雷禅様だけはその事に気付いたのだとかなんとか。

 

 まぁ、どう考えてもヤバイ技能だもんな、『最適解』さん。でも使わないと死ぬんだよな、『最適解』さん。

 

 やっぱり、俺にはBJの真似なんて分不相応なんだろうか。最近いい感じにやってたから少し調子に乗っていたのかもしれない。

 

 神様、神様! 次の統合では俺の代わりにBJ先生を! ブラック・ジャックをよろしく!




時期的にはAOGに居候してた頃



雷禅:出典・幽★遊★白書
 幽★遊★白書主人公、浦飯 幽助の父(むしろ祖先?)
 作中最強の魔族だが、登場時にはすでに千年近い期間の断食生活を送っており死にかけ。だが死にかけの状態でも魔界を3分する力を持っていた。
 この話中、とある医師が手土産で持ってきた酒で全盛期の力を取り戻し、黄泉と骸を相手に全面戦争――する前にAOGが介入。恩と正直魔界統一なんぞどうでも良いと思っていた雷禅の思惑が合致し、魔界の長い歴史でも珍しい事に血を流さずに争いの日々が終わった。
 尚その後なんやかんやあって開催された魔界統一トーナメントは参加したが途中でめんどくさくなって棄権した模様。

北神:出典・幽★遊★白書
 幽助を迎えに行く際に接触を図ってきたAOGとの交渉により、国王の治療が出来うる医者の斡旋を受ける事に成功。人間だった事に驚愕する。


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博徒

少し間が空いて申し訳ありません。

今回ちょっと色々挑戦してみたんですが読みにくかったら申し訳ないです。



誤字修正。オカムー様、酒井悠人様、佐藤東沙様、adachi様、竜人機様、仔犬様、ランダ・ギウ様ありがとうございます!


 防衛機構の使いだという男が来たのは、常春のマリネラにしては珍しく少し肌寒い日の事だった。

 

「ダニエル・J・ダービーと申します。以後お見知りおきを」

 

 男は紳士然とした服装をした、目元の下から走る深い彫りとギラリと光る視線が特徴的な男だった。彼は名乗りを上げるとホシノ補佐官から渡されたらしい数枚の書類……渡航許可証とスケジュールについてが記された紙の束……をこちらに差し出し、レオリオが淹れた紅茶を美味そうに飲み始めた。

 

 渡航許可証。エリア間の移動は基本的に防衛機構の船でなければ行えない。仮に通常の艦船で移動する場合何年かかるかわからない為だ。エリア内の移動ならば鉄華団が所有するイサリビ改でも良いのだろうが、エリア外での移動を行う場合はせめてワープ航法などの超光速航法系統の技術を積んだ艦でないと時間がかかりすぎる。

 

 現在防衛機構では所有する艦船に急ピッチで波動エンジンやフォールドシステム等を積み込んでおり、広すぎる管理地域へ対応する為に技術者達が悪戦苦闘しているらしい。どこに何が出てくるかがわからない世の中だ。一日でも早く彼らの苦闘が実ることを祈っておこう。

 

 まぁ、中には八雲家やモモンガ、それにタイヨウ系エリア群超代表殿のようにそれらを無視できる人物も居たりするのだがそれは例外と言えるだろう。

 

「ありがとうございます。ミスター・ダービー。確かに受け取ったと、ホシノ補佐官に伝えて頂きたい」

「承りました。やれやれ、肩の荷がようやく下りた心地ですよ。何せホシノ補佐官からは第一級優先事項、場合によっては命にかえても届けるようにと脅しつけられておりましたので」

「ははは。彼女にしては随分物騒な冗談ですな」

「冗談であれば良かったのですがねぇ」

 

 口元をモゴモゴと動かすダービー氏に首を傾げながら紅茶のカップを傾ける。うむ、レオリオの奴、また腕をあげたらしい。執刀技術に関してはまだまだだが、丁稚としての技術はどんどん伸びているようだな。

 

 レオリオには常日頃お前のメス捌きならもっと思い切りよくやった方が良いと何度か指摘しているんだが。どうも臓器や脳にメスを入れる際に失敗の恐怖が頭をよぎるらしく動きが鈍るのがあいつの欠点だ。

 

 確かにそういった重要な臓器を相手にする場合、慎重さは絶対に必要だ。だが、繊細な部位であるからこそ決断と実行は思い切りよくやらなければいけない。一瞬の躊躇が患者の命を一秒削る。慎重であるのは美徳であるし重要なことだが、慎重と臆病を同一にしてはいけないのだ。

 

「慎重と臆病を同一にしてはいけない。至言でありますな」

「と、これは申し訳ない。口にしておりましたか」

「いえいえ。流石は名医ブラック・ジャック先生と感心する次第です。私も今でこそ防衛機構の職員でありますが、一介のギャンブラーとしては身に覚えのある言葉でした。それを違えて大きな、本当に大きな敗北を経験したこともある」

 

 首を横に振りながら何かを懐かしみ、思い出すかのようにダービー氏は眼を細めて宙を見る。敗北したという事柄を思い浮かべているのか不思議な表情を浮かべていた。

 

「先生は博打打ちとしても才能があるように見受けられる。これは、あの噂は本当でしたかな」

「私は博打なんぞ殆ど嗜みませんがね……はて。その噂とは?」

 

 数秒ほど物思いに耽った後。ダービー氏は眼を閉じ、大きく息を吸って吐き出す。彼が再び目を開いた時には先ほどまでの昔を懐かしむ壮年の姿は消え、不敵な笑みを浮かべた防衛機構の職員が姿を取り戻していた。

 

「実は私、ギャンブルを生業にしていた事がありましてね。現在こそとある事情で防衛機構に属しておりますが、自身としては未だにギャンブラーである事を、その誇りを捨てているつもりはありません」

「……ああ、なるほど。それで?」

「私は自身が一番の博打打ちであるという自負がある。故に己以上と評される博打打ちには並々ならぬ興味を持っていましてね……そこで、貴方の噂を耳にしました。医者であり、そして――」

 

 何となく話の流れが読めてきて、恐らくうんざりとした表情を浮かべているだろう俺の顔を見ながらダービー氏は手に持ったカップをゆっくりとテーブルに置いた。

 

「ブラック・ジャック先生。是非一戦、私とギャンブル(賭け事)をしてもらえませんか?」

 

 紳士然とした態度の奥から垣間見える博徒の顔。ダービー氏の言葉に紅茶のカップをテーブルの上に置き、ふぅ、と息をつく。

 

 ぶぶづけ、レオリオは作れるだろうか。

 

 

 

 

 コンコンとドアを叩かれる音。久しぶりの休暇に溜まっている本や漫画を処理するかと机に向かっていた俺は、そのノック音で短い休暇が終わりを告げたことを悟った。

 

 大きな作戦も終わり、戦場から病院へと職場を移したばかり。多少落ち着けるかと思っていたのだが、どこの世界でも医療関係の人材不足は変わらないという事か。

 

 実家の個人医院を思い出しながら椅子から立ち上がり、部屋のドアへと向かう。ノックなんて上等な行為をしてくる相手は大体決まっている。そして、その決まっている彼らは基本的に余程の事がなければ休暇だと言って部屋に籠った俺に声をかけてくる事はない。

 

 このドアを開ければ間違いなく面倒事が降りかかってくる、というわけだ。勿論逃げる事も出来ない。

 

 案の定、部屋のドアを開けた先には取次役として俺への依頼一般を取り扱っている女性士官が立っており、困惑したような表情で用件を言って俺に判断を仰いでくる。

 

 彼女の口から出てきた単語は、なるほど。誰であろうと判断に困るような案件だった。

 

「治ってない?」

「ええ。先方が仰るには治ったけど治っていない、と。いかがいたしましょうか」

「謎かけでもしているのかね、あの爺さんは」

 

 治ったけど治っていない、とは何とも面白い言い回しだ。何が言いたいのかが分かればなお良かったのだが。

 

 一つ溜息をついて、すぐに向かう旨の返事を返す。どちらにしろ一度会わなければ判断できない、か。

 

「よろしいのですか?」

「ああ。一度診なければ判断できないからね。パブロヴナ中尉、赤木さんを診察室にお通ししてくれ」

 

 俺の指示に敬礼を返す中尉に一つ頷きを返し、ドアを閉める。出かける準備……をする前に机の上に置きっぱなしになっていた『北斗の拳 イチゴ味』を棚にしまい込んでおく。これも支給品とはいえ原作の一つ。貴重な品だからな。

 

 ラオウの死により優先順位は低くなったとはいえ知識は武器だ。早めに読み進めたいところだったのだが。

 

 

 

 

 ああ、そういえばあの日はソーフィヤが部屋に来たのが始まりだったな。自分がギャンブラーだと思い込まれた一件。後から思い返すと恥ずかしい一件だった。

 

「ルールは簡単です。先生はブラック・ジャックをされた事は?」

「……ああ。毎日のように演じている(やっている)よ」

「グゥゥッド! それならば話は早い。ルールはスタンダードに。勝敗は……」

 

 嬉々とした表情でルールを決め始める紳士然とした男性、ダービー氏の言葉に、一つため息を吐く。

 

 何を勘違いしたのか、目の前の紳士……防衛機構からの使いだという男はどうも俺の事を一端以上のギャンブラーだと勝手に推測し、自分の仕事ついでに一勝負どうかと誘ってきた。

 

 本来ならば断るべきなんだろう。いや、実際に一度は断ったのだ。自分は賭博を趣味とする人間ではない。彼と勝負をする理由が無いのだ、と。

 

 ならば、何故このような状況になったのか。

 

 それは――彼が自身の身命を賭していた事と――これが治療であるからだ。

 

「ふっ。ふふふっ……手が震える。呼吸が……呼吸が出来ない」

「ミスター……」

「ふぅ、ああ、いえ。分かっていた事なのです。ふ、ふふっ……命がかかる、そんな勝負に、手の震えが止まらないだけでして」

 

 その症状が出始めたのは、彼がカードに触れてからだった。

 

 ガタガタと震える手。真っ青をこえて白く変わった顔色。呼吸も怪しく、本人は気付いていないのかだらだらと大量の汗が出始めている。

 

 PTSDかそれに近い精神的外傷。そう判断を下し彼に声をかけるも、彼はフルフルと手を横に振りカードを切ろうともがいている。

 

 ギャンブラーである。その事に誇りを持った彼は、しかし賭博に触れる事が出来ない体へと変貌していた。話を聞く限りはただ一度の敗北で、だ。それは彼の誇りや魂であるとかが根こそぎ粉砕され粉々になる程の『負け』だったのだろう。

 

「ふふっ……ただの、ただの相手では……はぁぁ……駄目です。一線級の……ふぅぅぅぅ……博徒と対峙しなければ」

 

 彼はそう口にして、深く息を吸い込みながら一枚一枚のカードを切る。自らの過去と行ってきた所業を語りながら。ギャンブルで何人もの人間の命を奪った男。勝負の対価として魂を刈り取る能力――幽波紋(スタンド)の持ち主。

 

 その生き方に、その所業に言いたいことが無いわけではない。だが、彼はすでに防衛機構で裁きを受けた後らしい。

 

 幽波紋(スタンド)という常人には見えず、対抗すら難しい能力の持ち主であるから捜査員の一人として危険地帯を渡り歩く――恐らく、彼が死ぬその日まで続く、償いの日々。

 

 また、許可なく幽波紋(スタンド)の能力を使えば待っているのは死。心臓に埋め込まれた指輪のような何かから毒が送り込まれ、苦しみ悶えながら死ぬことになるそうだ。

 

 身から出た錆である、と言えばそれまでだが。現在進行形で罪を償っている人間を悪し様に言う気も起きない。

 

 故に、気持ちを切り替える。二枚のカードを受け取り、俺はその手札を眺めながら彼に目を向ける。

 

 これは治療だ。少なくとも、俺にとっては。

 

 

 

 

「よう、先生」

「どうも、赤木さん」

 

 応接室代わりに使っている部屋のドアを開けると、中央に位置するソファにドカりと寝転がる白髪の老人の姿があった。彼の名は赤木しげる。

 

 詳しい事は知らないが俺と同じ民間協力者で、かつて俺の患者だった人物だ。

 

「今日はどういった症状で来られたのですか?」

 

 社交辞令を混ぜることなく単刀直入に用件を尋ねる。初めて顔を合わせてから数か月しか経っていないが、この爺さんへの対応はすでに身に沁みついている。

 

「用が無きゃ来ちゃ駄目かい?」

「ええ。ここは病院です。病気の方や医療関係者以外は来ない方が良い」

「違いねぇ」

 

 その言葉にくつくつと笑いながら、赤木は「よっこらせ」とソファの上で寝転がっていた状態から上体を起こす。

 

 裏社会に精通している彼は主に地元世界の情報源として防衛機構に手を貸している、らしい。本人の話以外に情報源が無いため、これが本当かは俺にはわからない。

 

 ただ、少なくとも防衛機構の関係者以外はこの病院に来ることは出来ない為、何らかの形で協力しているのは確かだろう。

 

 そんな彼が俺の患者になった経緯は単純で、彼の世界の医者では治せない病に彼が侵されていたからだ。

 

 記憶障害。アルツハイマー型認知症と呼ばれるそれに侵された彼は、伝手を使ってこの病院にやってきて、そして俺の患者となった。脳内部の欠損部位の特定に時間がかかり、結局完治するまでには一月も時間がかかってしまったが、その手術に関しては満足のいく出来栄えだった。

 

 実際に彼の記憶力も完全に往年の物を取り戻し、術後の経過を見た後に彼は満足げな顔で退院していった。一月ほど前の話だ。

 

 そう。彼は、あの時点で間違いなく完治している筈、だった。

 

「……記憶力はな。お陰さんで戻ってきた」

「ええ。そうでしょうな」

 

 歯切れ悪くそう口にする赤木を見据えながら頷きを返す。俺の言葉に赤木は小さなため息をついてテーブルの上に置かれたお茶に手を伸ばした。

 

 一口、二口。口を離して湯呑をテーブルの上に戻し、赤木は少しの間目を閉じ、やがて再度ため息を吐いた後に俺に視線を向ける。

 

「戻ってこねぇんだ」

「……戻ってこない?」

「ああ」

 

 思わぬ言葉に眉を顰める俺の言葉に頷きながら、赤木は小さく返事を返し――

 

「博打がよ。分からなくなっちまったのさ」

 

 

 

「ギャンブラーが……」

 

 血の気の失せた顔のまま、ダービー氏は言葉を発する。

 

「ギャンブラーが……賭博を封じられる……ふぅぅぅ。こ。これほど……辛い事はないぃぃ」

「……そうでしょうね」

 

 脂汗まみれになりながら、ダービー氏は震える手でカードをめくる。ディーラーである彼の手元には1枚のカード。エースのカードが見える。

 

「ふ、ふふふ……はぁ……ふぅぅ……これは、幸先のいいカードだ……後は……10のカードが来れば」

「ええ、そうですね」

 

 紅茶を一口飲み、呼吸を整えてダービー氏は言葉を続ける。これだけ悪条件であるというのに、彼の表情は顔色の悪さを除けばポーカーフェイスを維持し続けている。

 

 素晴らしい精神力だ。彼の敗北は精神を折られたものだと聞いているし、今現在もその時の後遺症で苦しんでいるというのに表情だけは薄い笑みを維持し続けている。

 

 一度折られた彼の、それが彼なりの誇りの通し方なのだろうか。その姿にかつて治療した博徒――赤木しげるの顔を頭に思い浮かばせる。

 

 なる程、彼等は同じ博徒。どこか似通う部分があるのかもしれない。

 

 ――で、あるならば。

 

「それでは、勝負と行きましょう。楽しい、楽しい勝負にしましょう」

 

 久しぶりにONにする『最適解』さんの感覚。勝手に口が動くのは、何度やってもなれないもんだ。

 

 

 

 

 博打が分からなくなった。問答か何かかと思いどういう意味なのかを尋ねると、どうやら感覚が鈍っている、という意味だったらしい。

 

「今までは見えていた先がよ、霞がかったみてぇに見えなくなったんだ」

「ほぅ……興味深い現象ですね」

 

 彼の話すその感覚は凡人である自分には非常に分かりづらいものだったが、あえて言葉にするならアムロ少尉のようなニュータイプという人種に近い感覚だろうか。いや、鋭すぎる先見の明とかそういったものかもしれんな。

 

 つまりは、だ。そういった能力の持ち主の脳を弄った結果、能力を失わせてしまった……という結果に陥ったわけだ。

 

 なるほど。これは俺の失態だ。赤木氏の来訪を迷惑だと思っていた数十分前の自分をぶちのめしてしまいたい程に恥ずかしい事例。むしろこちらから再度治療をやり直させて欲しいと頼み込むべき案件だろう。

 

 彼がアルツハイマー型認知症になる前から持っていた能力を消してしまったという事は、つまり元の脳の状態に戻せていなかったという事。仮にもBJ先生の代理人を名乗る俺が犯して良いミスではない。

 

「いや、先生の腕は信用してるんだが……ありがてぇが良いのか?」

「勿論です」

 

 全面的な協力を約束すると、赤木氏は怪訝そうな表情を浮かべる。まぁ最初は渋ってた俺がやたらと協力的なのが腑に落ちないのだろう。だが、まぁ。なんだ。

 

「患者を治すのが医師の仕事。それが全うされていなかったのなら、当然責を受けるのは医師になりますから」

「……そうか。なら、遠慮なく甘えさせてもらうさね」

 

 俺にも医者としての矜持がある。一度治ったと診断したのは自分。それが誤っていたのなら、責任を取るべきなのも自分だ。

 

 必ず治す。元の状態にまで。そう心に誓った俺の顔を、赤木氏は面白そうな表情を浮かべて見ている。

 

「だが、どうすればいいんだ。頭の中はどこもおかしくはなかったんだよな?」

「ええ。傷がついていた所や血管が古くなっていた所、全て処置してあります。もう一度スキャンをかけるのもまぁ手ではありますが……」

 

 だが、前回の診断にはそこそこ自信もあった。あの時点では確実に脳に余計な傷などはなかった筈なのだ。

 

 傷を治したせいで能力が使えなくなった、という事も考えられるが……いや、ここはもう『最適解』さんに頼った方が賢明か。

 

 自分ではどうにもならないと判断した時の最後の逃げ道、己の持つ摩訶不思議な能力『最適解』を頼る。その判断に自分の力不足を痛感しながらも俺は自身の脳内でイメージしているスイッチをOFFからONへと切り替える。

 

 ――切り替えてしまった。

 

「……どうした、先生」

「いえ、少し考え事を……ああ。赤木さん」

 

 勝手に動き出した口。懐に入れていた携帯端末を取り出しながら、俺の体(最適解)はにこやかな笑顔を浮かべたまま赤木氏に提案を投げかける。

 

「ちょっと今から一勝負(バクチ)しませんか?」

 

 

 

「ふぅぅぅ……一勝負(バクチ)……ですか? しかし、この勝負は」

「ええ。賭けているものがある以上賭博には違いありません。()が勝てば貴方の生殺与奪の権利を、逆に貴方が勝てば私の持つ『アカギ』への挑戦権を貴方に。随分と分の悪いリターンですね」

「……ふぅ。いいえ、決して見合っていないとは私は思いませんよ。貴方の治療後の彼の軌跡を考えれば」

 

 そう語るダービー氏の真剣な表情には、一切の誇張は見受けられなかった。そんな彼の言葉に頷きながら、()は口を開く。

 

「ふむ。しかし、こう言ったものは互いに『釣り合う』という感情が無ければいけません」

「それは……確かに。しかし、私にはこの身以外に差し出すものが」

「いえ、あと一つ。確かに持っている物があるでしょう」

 

 掛け金(チップ)の釣り上げだとでも思ったのか。眉を顰めるダービー氏に、()はにこやかな笑顔を向けたままこう答える。

 

「もしも私が勝った場合は――」

 

 

 

 

 その言葉を口にした時の赤木氏の表情は、恐らくもう見る事はないだろう。

 

 目は口よりも雄弁、というのは良く言ったもので、その視線には「正気なのか」「採算は」「どういうつもりだ」という様々な疑惑をふんだんに織り交ぜられている。

 

 まぁ、そうだろうな。言った俺自身がそう本気で思うんだから。というか相変わらず『最適解』さんの治療法はぶっとんでいる。

 

「こちらとしては報酬さえ貰えるなら構わん……そっちの爺さんと打たせて貰えるんなら、な」

 

 黒いシャツを着た男の言葉に、同じく黒い服を着た男が頷きを返す。いや、この二人だけではない。

 

 どこかの喫茶店だろうその店を貸し切り行われた顔見せ。この場には俺を含めて10名の人間が居る。

 

 黒シャツの男達のように大人も居れば、学生服を着た少女達の姿もある。年齢もバラバラな彼ら彼女らはそれぞれが思い思いに席に座りながらその視線は全て俺の隣。赤木氏へと向けられている。

 

「ええ、勿論です。この場に居る皆さんには彼、赤木氏と闘っていただきます。麻雀が良ければ麻雀で、ポーカーならばポーカーで。好きなゲームを選んでいただき、その全てに赤木氏が勝てば赤木氏の勝ち。誰か一人でも赤木氏に勝てれば皆様の勝ち」

 

 再度、最初に言った言葉と同じ言葉を口にする。二度目という事もあり、この言葉が冗談でも何でもないと理解したのか。彼等から俺に向かって、圧力さえ感じるほどの視線が向けられる。いや、いっそはっきり言えば敵意すら感じる視線だった。

 

 まぁ当然だろう。ここに集められた人々……彼らは皆防衛機構が所在を把握していた一線級の博徒たちだ。それこそ原作持ちレベルのギャンブラー達に「お前ら全員で赤木さんに一勝できれば勝ちでいいよ」なんて直球で言ったんだからな。

 

 多少なりとも誇りやら矜持やらがある人なら、普通はブチギレ案件である。間違いない。

 

 特に若い連中は軒並み目の色変えてる。あ、いや。一人赤いブレザー着た女の子はめっちゃ恍惚とした目で赤木さん見てるが。何あれ怖い。

 

「おい……」

「赤木さん、()……いえ。俺はもう口出ししません。」

 

 隣に立つ赤木氏の気配が変わる。これまでの好々爺とした印象は鳴りを潜め、鋭い視線をこちらに向けてくる。成程、これが博徒・赤木しげるの顔って訳だ。戦場で浴びる威圧感とはまた違った迫力にごくりと唾を飲み込む。

 

 だが、すでに賽は投げられた状況だ。この状態で『最適解』さんが解除されるという事はつまり、もうすでに治療は終わった……いや、こういった分野で話すんなら場は整った、というのだろうか。

 

「時に……そちらの司会の方。貴方は勝負には参加されないのですか?」

「ええ。私は見届け人と言いますか……貴方方とは違う形でこの勝負に参加しておりますので」

「ほぅ? 差し支えなければどういったものなのかお聞きしても?」

 

 黒服の一人の言葉に頷きを返す。この場に集まった彼らは全員、前払いである程度の報酬を受け取っている。その上で、赤木氏との勝負の確約それ自体が報酬として提示されている。

 

 俺も頼んでみてびっくりしたのだが、赤木しげるという名前は賭博師の間では結構なビッグネームだったらしい。上司に頼んで数日で、あっという間に想定以上の人数を揃えることが出来た。

 

 後は彼等と赤木氏がぶつかり合えば良い……いや。最後の一押しは必要か。

 

「まず今回の集まりは、赤木氏の治療行為の一環である、という事は事前に説明を受けていると思います」

「ええ。そして貴方は彼の主治医である、とも聞いております」

 

 黒服の男の言葉に頷いて返し、俺は今の赤木氏の状況と彼らを集めた理由を話し始める。

 

 脳手術の際に赤木氏の能力を失わせてしまった事。それが賭博に関する能力であった事。しかし脳にはどう検査しても異常が見当たらない事――そして、ある種の発想の転換を行った事。

 

「勝負に関する能力は勝負の中。死線の中でしか発揮されないのではないか。そう結論を付けまして、皆様にご足労を頂いた次第です」

「……あ、あの。死線って、何ですか? 私、ただ麻雀をしてくれって言われて」

 

 俺の言葉に含まれた剣呑さに、おどおどとした様子で一人の女学生が声を上げる。いや、彼女だけではない。集められた中でも若い人間には多かれ少なかれ動揺するような気配が漂っている。

 

「ああ、勿論皆さんに命をかけろ等とは言っておりません。皆さんは勝っても負けても当初の約束通りの報酬をお支払いいたしますし、その上何かを求める事はありません」

「――なら、死線を潜るのは誰だ」

 

 それまで無言を貫いていた一人の男が、俯いた姿勢のまま視線だけを俺に向ける。

 

 場の空気が張りつめていく。この男の言葉に生半可な言葉を返すことは出来なさそうだ。

 

「……俺です」

 

 だから、まっすぐ彼の視線を受け止めながら。俺は、自分の右腕を持ち上げる。

 

「外科医の命である右腕。もしも赤木さんが敗れた際は、この右腕を切り落としましょう」

「――何故、そこまでするんだ」

 

 息を呑む若者たちの声。俺の言葉を聞き、今度は最初に声を上げていた黒シャツの男が声を上げる。

 

「あんたは治療の一環だと言った。それは良い。だが、死線を潜るのは本人であるのが普通じゃあないのか。あんたが肩代わりするってのはおかしな話じゃないのかい」

「いいえ、おかしな話ではありませんよ」

「……なに?」

 

 黒シャツの言葉。普通の感性で言えば成程、道理である言葉。だが、この場合はそれは適用されない。

 

 赤木氏一人で何とかなる類の話であるならば、『最適解』さんがこんな条件を元にルールを作るわけがないからだ。合理性の化身である最適解(チート)がこの状況を作った以上、これが最も素早く、確実に赤木氏を癒す方法なのは確定している。

 

 であるならば、だ。

 

「この治療には赤木さんの誇りと俺の右腕()、この二つを賭けの場に乗せなければ成り立たないんです。一つでは駄目だ。二つあるからこそ意味がある」

「……あんた、何を言って」

「必ず治る保証なんてどこにもない。我々医者は神様なんかじゃないから、100%の保証なんてできない……だから人が人を治すなら、カケるしかないんだ。それが自分か、患者かの違いはあるがね」

 

 つい口調が崩れてしまったためか眉を顰める黒シャツの男。そして、俺の言葉に目を細める若者たちと面白そうだと表情に浮かばせながらこちらを見る男達。

 

 それぞれの反応を見ながら、くきり、と首の骨を鳴らす。あまり丁寧な言葉を続けるのも疲れてしまうな。ここからは砕けた口調で行こうと心の中で決めていると、隣に立つ赤木氏から声をかけられた。

 

「おい、先生」

「はい?」

「……なぜ俺を信じる。今の俺は勘も鈍った老いぼれにすぎんぞ」

「何故って」

 

 赤木氏の言葉に交じる困惑した雰囲気に、目をパチクリとさせながら答えを返す。

 

 まぁ今回に関しては最適解(チート)の存在もあるから思い切り全賭けしたが、結局は100%の医術なんてものはそうそうこの世にはないんだ。99.9%まで可能性を引き上げることは出来ても、決して100には至らない。それが医療だろう。

 

 だが、それでも一つだけ確かな事はある。

 

「自分の患者を信じるのは当たり前でしょう」

 

 医者は患者が治ると、治りたいという言葉を信じる。そして患者の治りたいという言葉を叶える為に、最大限努力するべき、という事だ。

 

「……それだけの、理由なのか」

「? ええ」

 

 至極当然な事を尋ねられたのでそう返すと、赤木氏から感じる困惑が更に大きくなり、やがて彼はくつくつと小さな笑い声をあげるようになった。

 

 何か笑えるような要素がどこかにあったかと考えるも思いつかず困惑していると、何故か最初に話をしていた黒シャツの男。俯いた姿勢の男、独特な雰囲気を持つ黒服の男にも伝染するように笑い声が広がっていく。

 

「くくっ……狂気の沙汰ほど面白い……まさか、今になって他人に教えられるとは、な」

「――あんた、狂ってるよ」

「医者やらせとくには勿体ねぇな」

「ふふっ。医療の道にも鬼は居た……か」

 

 集められた大人たちの笑い声。ドン引きする若い衆を尻目に、彼等は暫くの間くつくつと笑い声を上げて、やがて、ピタリと止まる。

 

「この4名で良いか」

「ああ、あの卓は使って良いんだろう」

「この勝負が終わったら若い連中も適当に揉んでいくか」

「あ、あの! 私、蛇喰夢子と申します。是非私もその一戦に」

「あ、ああ! まって、私達も」

 

 まるでそれまでの重苦しい空気が嘘であったかのようにのんびりとした空気で喫茶店の端にある卓へと移動する大人達。

 

 そして、精神的にタフだったらしい少女が彼等の方へと赴き、それにつられるように他の面々も卓のあるスペースへと移動していく。

 

 発起人ではあるが別に参加するわけでもない、俺を一人残して。

 

「……」

「あ、あの。お客さん。何か注文は?」

「……ボンカレーください」

 

 

 

 

side.K あるいは蛇足。

 

 

 あの店のボンカレーは美味かった。米が良かったんだろうな。

 

 今日の夜はテンカワ食堂ではなく、ボンカレーにしようと心に決め、目の前で項垂れるダービー氏に視線を向ける。

 

「エースとジャック。ブラックジャック、ですね」

「……ええ、ええ。左様ですね……ふ、ふひひ」

 

 俺のハンドから出たカード。エースとジャックのブラックジャックに、虚ろな視線を向けたままダービー氏は、震えるように笑い声を上げる。

 

 彼の手札はエースと9。ここから更にエースを引いてもナチュラルブラックジャックには勝てない。

 

 これが3戦先取などであればまた話は違ったろうが、この勝負は互いに一発勝負という約束で行われたものだ。故に、彼は敗者。

 

 俺……いや。『最適解』(チート)さんの提案を受けていなければ、この場で俺に人生を預ける事になっていた。

 

 だが、そんなものは俺にとってデメリット以外の何物でもない。故に、彼には今、選択してもらう。

 

「では、選んでもらいましょう。このままギャンブラーとしての道を諦め、従順な防衛機構職員として働いていくか、それとも赤木氏の下へ向かい、私と同じ……己の右腕()を他者に預け(賭け)るか」

「ひっ、ひっひっひっ」

「貴方がその身以外で唯一差し出せるもの――博徒としての誇り。確かに賭けてもらいましょう。さぁ、ベットorフォールド(賭けるか降りるか)

 

 浅い呼吸を繰り返すダービー氏。彼がどう答えても問題はない。これは、彼が乗り越えられるかどうかの問題。乗り越えられなくても乗り越えられてもPTSDに悩まされる事はなくなるだろう。

 

 全てを諦めるか、それとも誇りを胸に分の悪い賭けに挑むのか。それは彼次第であるが――

 

「わ、私は……っ!」

 

 例えどちらになるとしても。人が人を治すのには多少のカケは必要だろう。

 

 しかし、それでも少し気が重いのはやはり私が未熟だからだろうか。

 

 神様、次の転移があるとするならば、ブラック・ジャック先生を。

 

 ブラック・ジャックをよろしく!

 

「私は!!」

 

 

 

 ――その言葉が、聞きたかった。




ダニエル・J・ダービー:出典・ジョジョの奇妙な冒険
 原作終了後、廃人になりかけていた所を拾われ防衛機構に。リハビリを行った後に過去に行った所業の罪を問われ、首輪(毒入り)をつけられたうえで捜査員としてこき使われている。
 黒夫への使者に使われるくらいには真面目に仕事を熟していた模様。彼がどちらを選んだかは秘密。なおどちらを選んでも最終的には五体満足で終わらせるよう手配するつもりだった。

赤木しげる:出典・天~天和通りの快男児~
 またの名を老アカギ。アルツハイマー型認知症という不治の病を患っていたが黒夫のもとでの治療で完治。しかしそれが原因で博徒としての能力に陰りが出てしまった……のだが黒夫の右腕賭けの荒療治により完治。完治どころかリミッターを超えたのか未来予知じみた能力に全盛期の天運が戻ってきたらしい。

黒シャツの男:出典・???
 一体何雀聖なんだ?

黒服の男:出典・???
 一体何人鬼なんだ……?

俯いた男:出典・???
 哭いたら牌が光りそう

蛇喰夢子:出典・賭ケグルイ
 小まめにはぁはぁしてた。


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胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

超難産でした。綺麗にキャラが活かせてない(白目)
書き直すかもしれません。

誤字修正。佐藤東沙様、酒井悠人様、名無しの通りすがり様、たまごん様、s14me02様、吉野原様ありがとうございました!


 呼吸が、出来ない。

 

 ヒュー……ヒュー……

 

 動かなくなった肺に送り込もうとした空気が、体に留められず漏れ出ていく。息苦しさとは別の圧迫感。体の芯から感じる冷たさ。

 

 肺が、やられた。

 

 その事実に心が折れそうになりながら、刀を持つ手に力を籠める。

 

「いいねぇ、その目」

 

 嘲る様な、慈しむ様な、憐れむ様な男の声。酸欠で眩む視界の中、男の笑顔だけがやけにはっきり見える。

 

 騙された、であるとか。嘘つき、であるとか。

 

 男に対して言いたい沢山の言葉が頭を過って、消えていく。

 

 違う。自分が言いたい言葉は、そうじゃない。

 

 もしかしたら、分かり合えるのかもしれない。そんな希望を胸に動き、そして希望を抱いたまま、希望に裏切られて自分はここで死ぬ。

 

 裏切られた? 違う。ただ、見誤ったのと力が無かった。それだけ。

 

 ……それだけ? 本当に。それだけなのだろうか。

 

「――しのぶ」

 

 ごちゃごちゃと頭の中を過っていく言葉の中、最後に頭に思い浮かんだ一言。妹の名前を呟き……それが限界だったのか。力を無くした手から刀が零れ落ちる。もう、体は自分のいう事を聞かなくなってしまった。

  

 足がふらつく。酸欠で眩む視界と飛んでしまう思考を繋ぎ合わせるが、もう込める力も自分には残されていない。

 

 鬼、戦わ、ない……と……

 

 鬼が何かを言っている――良く分からない。意識が遠のく――もう、何もかもが分からない。ふらりと体が揺れてもそれを支え切れずに、私の身体はゆっくりと倒れていく。

 

 胸の苦しさは、もう感じなかった。感じる余力も、なくなったのだろう。

 

 私は、ここで。

 

 死――

 

「死なせない」

 

 急速に落ちていく意識の中。誰かの腕の中に抱かれ。

 

「もう、大丈夫だ」

「……ぇ」

 

 聞こえてきた優しい声音に僅かに動く瞼を開くと、そこには。

 

 黒い、男が。

 

 

 

「姉さんっ!?」

 

 ぐらりと、力を失ったかのように倒れていく姉の姿が目に映る。見たくなかった光景。信じたくなかった事実。来客に告げられた情報――最愛の姉胡蝶カナエの死が、今、目の前で起ころうとしている。

 

 信じたくないという思いで一歩鈍った足取り。そんな情けない自分よりも先に、共に走っていた二人の男は駆けだしていく。

 

 一人は元凶と思われる存在の前に。そしてもう一人の黒い外套を着た男は、姉が倒れる前に抱きかかえる様にその体を支える。そのまま脱力する姉の口元に耳を寄せた男は、しかめ面を浮かべながら淡く光り輝く左手を姉の胸元に翳した。

 

「ごふっ」

「姉さん!? 間さん、何をっ!?」

「応急処置だ。出来ればコレに頼りたくはないが……肺がやられている。この場での処置はこれしかない」

 

 ごぽり、と姉の口から血液が流れ出るのを見て声を上げる私に、間と名乗る医者はしかめ面を浮かべたままそう答える。その問答の間も男の掌から出る優しい光は少しずつ範囲を広げ、最初は姉の胸元から、やがて全身に広がるように姉を覆っていく。

 

 男の答えと、先ほどまでヒューッと掠れるような音を漏らしていた姉の口から聞こえる静かな呼吸音に、私は小さく安堵の吐息を漏らした。

 

「へぇ、普通は助からない筈なんだけどね。面白いなぁ」

「……お前が、姉さんを」

「おや。その子は君のお姉さんなんだね。姉妹で鬼殺の剣士かぁ。その若さで……可愛そうに」

 

 その鬼は、へらへらと笑いながらそう口にすると、ピシャンっと手に持つ扇子を閉じる。

 

 その鬼は頭から血を被ったかのような姿だった。にこにこと屈託なく笑い、おだやかに優しく喋る姿は鬼であるという事を忘れてしまいそうになる。

 

 だが。ただ一つだけ。

 

「さぞや辛い事があったんだろうねぇ」

 

 その虹色に光る瞳を見て、私は確信を覚えた。

 

「聞いてあげるよ、話してごらん」

 

 こいつは、どんな鬼よりも信じてはいけない生き物だ。

 

「しのぶ君」

 

 ここで殺さなければいけない。こいつは、生きていてはいけない。

 

 刀を抜いた私の考えを読んだのか。間先生は私を鬼から庇うように立ちふさがった。私が声を上げる前に、彼はちらりと私に視線を向け、静かに首を横に振る。

 

「――鬼殺の剣士は、鬼を滅する為の」

「分かっているさ。だが……たった一人の家族、なんだろう?」

「……」

 

 その言葉に、剣士としての胡蝶しのぶは答えることが出来なかった。口から出かかった一人の人間・胡蝶しのぶの言葉を飲み込んで、沈黙という返答を選ぶ。

 

 彼の言葉に含まれているものには気づいている。自分よりも強い姉が敗れた相手に、自分が挑んだとしても返り討ちに遭うのが関の山だろう。彼は戦いに関しては素人だと言っていたが、そんな彼ですら一目で理解する程に自分と目の前の鬼とは格の違いがあるのだろう。

 

 だが、それ以上に。

 

「酷いなぁ。目の前の俺を無視するなんて」

「無視している訳じゃない。信じているんだ」

「うん?」

「俺の仲間(ダチ)は、強いんでな」

「へっ」

 

 鬼の言葉に、姉を抱き抱えたまま。にやりと笑って、間先生は答えを返す。呆気に取られたような表情を浮かべる鬼と、先生の言葉を聞いて同じようににやり、と並んで立つ男が笑う。

  

 先生は、信じているのだ。戦えもしない自分が命を預けても良いと。もう一人の男の事を。

 

 バサリ、と男が羽織を脱ぎ捨てる。異国風の巻き付けるような帽子、丈の長い道中合羽のような着物の下から現れたのは、間先生と同年代だろう黒髪の異人。筋骨隆々という訳でも巨躯という訳でもない。けれど、その背中から感じる確かな力強さ。

 

 先生は確信しているのだ。目の前に立つ鬼『程度』(ごとき)に、彼が敗れないという事を。

 

 鬼殺の剣士でもないその男が、目の前の鬼を倒すのだという事を。

 

「ジン。暫く動けん」

「おう」

 

 だから短く。ただそれだけで彼らの言葉は終わり。

 

 そして、男――ジンの存在感が急速に跳ね上がる。

 

 ビリビリとした感覚。何かに触れている訳でもないのに肌が、心が感じる威圧感。先ほどまで感じていた鬼から感じた何もかもを塗り潰す程の迫力。右足を開き、踏みしめる様に地面に打ち下ろすと、ズシン、と周囲が静かに揺れた。

 

 少しだけ、驚いたかのように鬼が目を見開く。

 

「ふぅん?」

「しのぶ君。私の近くに――その位置では守れない」

 

 ジンと呼ばれた男から感じるそれらに押し潰されそうになる私に、間先生からの声がかかる。ハッと気を取り直し、言われたとおりに彼の傍へ近寄ると、彼と姉を覆っていた淡い光が私を包み込むように広がっていく。

 

「これで多少は”念”の影響を削れる筈だ」

「は、はい。いえ……間先生。この、光は?」

「少し説明が難しいが”念”という技術だ。君のその状態もそれが関係している」

 

 ちらりとこちらを見た後に間先生はそう答えた。言われて、自分が全身ぐっしょりと濡れる程に汗だくだという事に気付く。どんな鬼と対峙しても、命の危険を感じてもここまで酷い有様になった事は無かったのに。

 

 慌てて上着を脱ぐ私の横で、間先生は優しく、壊れ物を扱うかのように姉を地面に横たえさせる。顔色はそこまで酷くはない。先ほどまで浮かべていた死相はもうどこにも見受けられない。

 

 ほっと安堵の息をつく私に、間先生はふるふると首を横に振る。

 

「今の状況は一時的な物だ。肺の機能は私が代替しているが、これをいつまでも続けることは出来ない」

「そんな……!?」

「出来ればしっかりとした施設に移したいが、集中を維持するのが難しい。だから」

 

 そう言って一度言葉を切り、間先生はちらりとジンと向かい合う鬼へと視線を向ける。

 

「ここで、処置を行う」 

 

 その視線の先にいる鬼は、間先生の言葉に愉快そうな笑顔を浮かべた。とても面白い物を見たと言わんばかりにケラケラと、手に持つ鉄製の扇子をひらりひらりと回せて鬼は嗤う。

 

「随分と豪胆な医者だねぇ……面白いなぁ。君、鬼になってみないかい?」

「興味がないな」

「そうかい、それは残念だ」

 

 パキリ、パキリと周囲の壁や土が凍っていく。肌に突き刺さる様な冷たい空気。周囲を覆う光に氷の破片は除かれているようだが、冷たい空気だけは防ぐことができないのか。汗に濡れた衣服が冷え、ブルりと体が震える。

 

「まぁ、残念だけどしょうがない。君もそっちの娘達もついでにこっちのお兄さんも。みぃんな救ってあげるのが俺の仕事さ。共に、永遠を生きよう」

 

 おだやかな笑顔のまま、優しい声音で。そう嘲笑う鬼の言葉に、向かい合ったジンはふんっと鼻を鳴らして口を開く。

 

「……随分と暢気なんだな。鬼って奴は」

「うん? 一体なふぐっ!?

 

 凍り付いた地面を打ち抜く様に走る何か。まるで見えない拳で顎を打ち抜かれたかのようにひしゃげながら、鬼が宙を舞う。

 

 かき消える様にジンの姿が見えなくなり、次の瞬間に彼は鬼の前に姿を現していた。瞬きにも満たない刹那の動き。いつの間にか目の前に現れたジンに驚愕するように目を見開いた鬼に、ジンは右手の人差し指を向ける。

 

「場所替えといこうや」

 

 ポツリとそう呟いたジンの右手の人差し指から、光の塊が撃ち出され、鬼は光に押される形で吹き飛ばされていく。

 

 それを追いかける様にジンは走り出し――ふっと後ろを振り向いて、親指を立て――去っていく。

 

「……本人に許可とってんのかよ」

「えっ?」

「いや……なんでもない」

 

 その姿にぽつりと何かを呟いた後に小さく首を振り、間先生は口布を外套から取り出し身に着ける。彼の身に着けた外套の内側にはびっしりと医療器具だろう道具が括り付けられている。

 

 その中の一つ。やけに重厚な小箱を取り出した彼は、少しの間考えるように目を閉じると、小さく息を吐いてその小箱を開けた。

 

 中に入っていたのは、3本の小刀だった。それを目にした私は、何故だか目を捉えて離さない不思議な引力のようなものを感じ慌てて頭を横に振る。大きさも形もバラバラなそれらを間先生は指で撫でる様に触れ、その内の最も小ぶりなものを取り出し、箱を閉じた。

 

「このメスの事は……」

 

 そこまでを口にして、間先生は首を横に振った。言葉を切り、手に持った小刀を姉の胸元に向ける。衣服の上から静かに、何かを探るように刃先を滑らせ、ある一点でピタリ、と動きを止める。

 

「いや……君のお姉さんは、必ず助けてみせる」

「……はい」

「だから、少しの間。俺……いや。『私』を、信じてくれ」

 

 間先生は静かな口調でそう言った。まるで風一つない湖のような穏やかな口調。先ほどまでとは別人のような落ち着き払った彼の姿に、何故か強い安堵感を覚えて私は首を縦に振る。

 

 静かに、少しずつ姉の体内に入り込んでいく小刀。血も出ず、衣服すら破くことなく行われる非現実的な光景も、何故か当然のことだと思えてしまう事に少しの恐怖を覚えながら私は彼の行う治療を見続ける。

 

 それが姉の命を救う最善の道なのだと、確信を覚えながら。

 

 

 

side.K 或いは後日談

 

  

 キュッキュッと音を立てながら、用意したホワイトボードに文字を書き入れる。

 

「――このようにある特定の細胞が外部からの影響を受けており――」

 

 その部屋は、元々は和室だった。いや、今現在も畳張りの和室であるのは間違いない。

 

「――変質した部位は全身ではなく頭部を中心に――」

 

 元々は、という言葉をつけたのは、現状が少し和室であると言い張るには難しいからだ。

 

 突貫工事で改造を施されたその部屋は壁や屋根をセメントなどに張り替えたりと元の姿をほぼ失っており、しかも部屋の中央には患者の為のベッドまで備え付けられている。

 

「――遺伝病であるのは間違いありませんが、皆様が”呪い”と呼称する外的要因は産屋敷氏のある細胞にだけ働きかけ変質を引き起こしていました」

 

 そんな改造を施された患者の寝室の中。ホワイトボードを持ち込み、寝そべった患者にも見やすいように角度を付けたそれに張られた数枚の写真を指さしながら、俺はそう言葉を切って患者の反応に目を向ける。

 

「この外的要因を遮断さえすれば氏の病魔の進行を食い止める事は可能でしょう。そこからの快癒には長い時間が必要でしょうが――」

 

 何をしているのかは見ての通り。患者の症状についてを患者本人と家族や関係者に説明していた所だ。

  

 俺の説明を受けたのは患者本人と奥方、そして護衛として紹介された屈強な男性に、今回俺の助手として手伝ってくれている医学について知識があるという少女、胡蝶しのぶ君の4名だ。

 

 彼らは俺の説明を受けながら、忙しない様子でホワイトボードに貼り付けられた写真と手渡された資料を見比べている。出来る限り専門用語を削って話したつもりだが、これでもまだ理解しづらかっただろうか。

 

 いや、当然か。普通の民間人に細胞がどうたらと語ったところで理解できるわけがない。これは説明の仕方を間違えたらしい。

 

「……あの、先生」

「うん? なんだい胡蝶くん」

 

 さてどうしようか、と考え込んでいた時。助手として補佐についてくれた少女、胡蝶しのぶが控えめに手を上げながら声をかけてくる。

 

 目の前にいる患者は彼女にとっての上役、それも組織の長である為緊張しているのか。初めて会った時の射殺すような視線の鋭さは鳴りを潜め、柔らかな、しかし困惑を表情に浮かべながらこちらをみている。

 

「その……細胞の変質、という所なんですが」

「ん。ああ」

「それはつまり、呪いの元と思われる――”無惨”を討滅すれば全て解決するという事でよろしいのでしょうか」

 

 戸惑いがちな、だが断言するかのようなしのぶの言葉。よくよく考えればこの世界で細胞学とかってどうなってるんだろ。初歩的な部分でやらかしてしまったか、これは。等と考えていた俺は、その質問に目をぱちくりと瞬かせ、あー、と小さく声をあげながら周囲を見る。

 

 こちらを見る3対の瞳。彼等がうんうんと頷く様子にポリポリと頭をかき、腕を組む。

 

 あながちそれで間違ってなさそうなんだが、防ぐとか避難するとか色々な選択肢があるのにノータイムで滅ぼせばいいと来るとは思わなかった。嫌われすぎだろ”無惨”って奴。

 

 

 

 バタン、と車のドアを閉める。空調の効いた車内の空気が心地いい。後ろの座席には一行のスポンサーにしてある意味雇い主のモモンガ――人間の姿の時はサトルさん、か――が座っており、助手席には一応の護衛としてジンが。そして運転席にはサトルさんに仕えている老執事、セバスさんが居る。

 

 見送りに来てくれたしのぶ君に手を振り返し、セバスさんに声をかけて車を発車させる。彼女と会う事も今日で最後になるだろう。この世界での俺の役割は、終わった。

 

 とはいえ、だ。

 

「殲滅一択しか選択肢がないのは困りました」

「左様でございますか」

 

 言い訳がましい俺の言葉に、ハンドルを握った紳士然とした初老の男性が頷く。微笑であるとか曖昧な表情などではない。ただただ真顔での肯首である。

 

 今、俺達の居るこの世界は俺が生まれた日本と似たような歴史をたどる『別の』日本の、明治から大正くらいの時代らしい。車窓から見る行き交う人々の姿には確かに日本の古い時代を思わせる物が多く、全く見覚えが無い街並みなのに何故か郷愁を思い起こさせてくる。

 

 この時代にも車自体は超高級品だが存在するそうなので、モモンガさんが気を利かせて前の世界から持ち運んでくれたそうだ。この時代に空調のある車なんて持ち込んだら問題が起きるんじゃないかと思うんだが、その辺りはデミウルゴスさん辺りが考えてるだろう。

 

 最近の彼の言動を見るに、この世界に侵食するに辺り重工業を足掛かりに~とか位はとっくにやってそうだ。一つ前の世界は二次大戦終戦後くらいだったし、そちらから技術を流入するだけでもかなりの利益が見込めるだろう。本当に有能な人材、いや。悪魔材である。彼の爪の垢を煎じて飲めば俺のやらかし癖も減るだろうか。

 

 いや、だが一つだけ言わせて欲しい。「多分これが原因だろうな」というのと「これが原因だ!」というのは大分大きな差があるんだ。対応策も変わってくるし。

 

 今回で言えば”呪い”と言われていた正体不明の外的要因を特定した事で、その影響を受けないように対処する、という事も出来るようになった。これは本来ならとても大きい事だ。少なくとも対処さえ間違わなければ産屋敷氏の身体を健常者レベルに引き上げる事もできるだろう。

 

 俺としては先ほどの話の中で産屋敷氏に”呪い”すら届かない遠方、それこそ世界を渡って療養するか、”呪い”を排除する結界のような物を研究するという形に持っていきたかったのだ。

 

 満場一致で根本原因であるという”鬼舞辻無惨”を排除する、になるなんて……いや、うん。彼らの事情を聴いているとそうなるかもしれないとは、ちらりと考えたがね?

 

「く、くふっ……フッハッハッハッハッハ!」

「お前に笑われるのは腹が立つぞ、育児放棄のクズ」

「自分のしくじりをなんとかしましょうよ、ジンさんは」

「うっせー! いつまでそのネタ引っ張る気だてめーら!」

 

 俺と紳士のやり取りに、助手席に座るジンが笑いを堪え切れずに噴き出し――お前は笑ってる場合じゃないだろうと俺とサトルさんの言葉が飛ぶ。

 

 いつまでも何も、折角助かった息子を放り出してこんな場所に来ている段階でギルティだろうに。せめて息子のリハビリを手伝う位の甲斐性は見せるべきじゃないだろうか。

 

「甲斐性……アルベド……うっ、頭が」

「貴方も唐突にトラウマを刺激されないでください、モモ……サトルさん」

 

 等と思考していたのが悪かったのか。隣に座るもう一人の連れ、現在はサトルと名乗り絶賛家出中の友人がうめき声を上げながら頭を抱えだす。

 

 この一行におけるスポンサー役の彼も、正直ジンを笑える立場には居ない。いや、情けなさで言えばこちらの方が上かもしれない。なんせ彼は仲間の娘(の設定)に手を加えて自分に好意を向けさせたあげく、その想いに応えることが出来ずに逃げ出したんだからな。

 

 そのくせやたらと責任感はあるため組織の長としての仕事を出先でこなし、結果アルベドに所在がしれてそこから逃げ出して、という。堂に入った仕事に逃げるダメ亭主ムーブである。まぁその辺りの言葉はモモンガさんガチでへこむから口にすることはない。メンタルが強いのか弱いのか本当に良く分からんなこの人。いや、この骨。

 

「お前にだけは可愛いもんじゃねーか。ちゃっちゃと一発かましてこいよ、社会平和の為に」

「簡単に言いますがねぇ! 俺の責任とはいえ、仲間の娘だと大事に思ってた娘に寝込み襲われて童貞喰われかけたこの恐怖があんたらに分かりますか!?」

「――そのまま喰われれば良かったのに」

「そりゃないですよ先生……」

 

 何気なく放った俺の一言にショックを受けたようにモモンガさんが首垂れる。その姿に少し可哀そうだ、と感じるがいやいやと考え直して首を振る。

 

 モモンガさんがアルベドから逃げ続けているせいで一番迷惑を被ったのは間違いなく俺だからな。なにかある度に俺を連れて逃げるせいで彼女の中では俺は完全に怨敵レベルの存在になっているそうだ。この程度の嫌味くらいは言ってもバチは当たらんだろう。

 

「そ、その節に関しては本当に申し訳……」

「なまじっか力と頭があるのが厄介だな。そのくせ思い込みが激しくて執念深いと来てる。あんな危険ブツ放置してんじゃねーよ、デミウルゴスが抑えきれなくなったらどうするつもりだ?」

 

 本音なのだろう、ジト目でモモンガさんを眺めながらそう言うジンの言葉に、うんうんと頷きを返す。俺とジンだけの問題でもないからな。

 

 生身の肉体を得た自らの想い人に、感情が昂るのは分かる。だが、それを理由に暴走してしまうならそれは何とかしなければならない。それが当事者の責任という物だろう。

 

「――成程。であれば、間先生も責任を果たさねばなりませんな」

「……はい?」

 

 それまで黙ってハンドルを握っていたセバスが、小さく。けれど良く通る声で呟いた。

 

 その言葉に問い返すも返事はなく、代わりにキィっとブレーキをかける音が響く。車の窓から外を見ると、そこには暫くの住処としていた診療所の建物があった。

 

「ははは。嫌だなぁセバスさん。ここはもう引き払う」

「胡蝶様は今日退院する予定でございます」

「セバスさん???」

 

 にこやかな笑顔を浮かべながら間違いを正そうと声をかけるも、少しも聞く耳を持つことなくセバスさんはそう答えた。問い返すも微動だにしない彼の姿に、つぅ、と一筋の汗が背中を走る。

 

「あれだけ慕われていたのです。別れの挨拶もなし、というのはいささか人道に外れる行いかと」 

「いや、それはですね」

 

 震える声でセバス氏に語り掛けるも、彼はどのような言葉にも眉一つ動かさずじっとフロントガラスの向こうを見つめている。

 

 これは、ガチ目にキている。その事を察し、思わず口をつぐむ。流石にサトルさんを弄りすぎたか、と少しの後悔を頭に過らせながら口を開く。セバスさんがその気になれば俺に止める術はない。味方を、味方を作らなければいけない。

 

「サト――」

「さ、行きましょうか先生」

「ジ」

「自分で歩くのと引きずられるの。どっちがいい?」

「…………神は死んだ」

「これは異な事を。死の神であらせられるサトル様が隣に居られるではございませんか」

 

 助けを求める様に周囲に視線を向けるが、どうやら味方はいないようだ。狭い車内の中。ヒリヒリとひりつくような気配の高まりに、ごくりと唾を飲み込む。他の3名全てが自分を圧倒的に上回る強者である事をさし引いても、この状況は不味い。大変不味い。

 

 そもそも慕われてるとかってあれだ。吊り橋効果やら何やらで冷静になれてないだけで、彼女の感情は子供が教師に思い浮かべるあの感情と大差ないものだぞ。その上彼女は17歳でこちとらもうすぐ30の大台。倍近い年齢差の相手に惚れた腫れたの会話をやれというのか? 恥ずかしいにも程があるだろう。

 

 等と心の中で盛大に文句を喚き立てても現実は変わらない。抵抗らしい抵抗も出来ずに車から引きずり出された俺は、両脇をジンとセバスさんに持たれてずるずると診療所の中に連れ込まれていく。気分は捕獲されたエイリアンである。

 

 くそ、ブラック・ジャック先生ならこの状態でも抜け出せるかもしれんが、俺には難しすぎる。やはりブラック・ジャック先生の物まね程度じゃ困難な世界を渡っていけないという事なのか……

 

 神様、神様! そろそろ次の統合の時期じゃないですかね? 次こそはブラック・ジャック先生を!

 

 ブラック・ジャックをよろしく!

 

「いつものネタは良いからキリキリ歩いてください」

 

 あ、はい。セバスさん女性関係だとはいえごめんなさい。




時期としては一歩世界の後。クロオがAOGエリア群を旅立つ前。だらだらしたお話になってしまい反省。
この位の時期の出来事もう少し掘り下げていきたいです(願望)


※登場キャラ一覧※

胡蝶カナエ:出典・鬼滅の刃
原作では故人。今作ではそのタイミングでの介入により一命を取り留めた。この後クロオとは何もありませんでした。何もありませんでしたよ?

胡蝶しのぶ:出典・鬼滅の刃
原作では姉の後を継ぎ柱になるもこの世界ではそこまで伸びるか分からない。クロオのメスを直接見た数少ない医療関係者の一人として本人の知らない間に注目度が上がっていたりする。

謎の鬼:出典・鬼滅の刃
一体何童磨なんだ……なおジンとの戦いではジンの優勢のまま終了。生死は不明。

ジン・フリークス:出典・HUNTER×HUNTER
本編初登場。実はクロオの最初の旅の友であったりする。謎の鬼との戦いは終始優勢を取っていた。決着の形は不明。

サトル:出典・オーバーロード
またの名をモモンガ。人間の姿ではサトルと名乗っている。呼吸法の存在を知り、鬼殺隊を取り込めないかと接触を図っていた(デミウルゴスが)。
鬼殺隊当主の治療および鬼に対する戦力供給を名目に産屋敷氏に接触。産屋敷氏の伝手を生かして重工業に進出していく予定である(デミウルゴスが)
鬼の不死性についても若干興味があったが、知性が落ちる可能性がある為興味を失った。

セバス・チャン:出典・オーバーロード
サトルの執事。マイカーを購入できないかお伺いを立てている。

産屋敷耀哉:出典・鬼滅の刃
鬼殺隊当主。ヤバイ所に借りを作ってしまったがどうしようもないむしろ内部に入り込んで少しでも人類にとってよい道を選ぼうと新しい戦いを始める決意を固めたている。なお最も中枢に近い人類であるクロオはこの後すぐに旅立つ模様。



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八木 俊典(前)

今回長くなりすぎたので前後篇になりました。
後編は後書き書いたらアップします。

とりあえず一言言い訳ですがめちゃめちゃ苦戦しました遅れてすみません(白目)

誤字修正。ヒロシの腹様、たまごん様、酒井悠人様、匿名鬼謀様、名無しの通りすがり様、クラスター様、佐藤東沙様、竜人機様ありがとうございます!

文章修正:和服表現→スーツへ変更。asobi様ありがとうございました!


 それが起きたのはある日の午後だった。

 

 取り立てて普段と変わらない平凡な日常。縁側でお茶を啜っていた老人。公園で子供と遊んでいた母親。母親に手を引かれていた子どもや、両親と共に歩く少女。配達の為にバイクを走らせていた青年、営業回りの休憩で車を止めていた男性、昼ドラを見ていた奥様、買い物を済ませた主婦、夜勤明けで眠っていた青年達。

 

 彼ら彼女らは、今日もまた普段と変わらない日々が過ぎていくと思っていた。

 

 その瞬間。わけもわからない内に吹き飛ばされ、瓦礫の中に埋もれるまではそう思っていた。

 

 暫くして、幸運にも救助された者たちは口を揃えてこう話す。

 

 自分たちの日常全てが瞬き程の時間で吹き飛んでしまい、そして。

 

 ”彼”が来なければ、自分たちは今この場で話すことすら出来なかっただろう、と。

 

 

 

 ドゴォン、と断続的に続く爆発音。可燃物に引火したのだろう。そこかしこで火の手があがりかつて賑わった町並みは瓦礫と化していく。

 

 そんな町並みの中を平然と、その男は歩いていた。

 

 真っ黒な体。人型だがその頭に生える2本の触角がこの男が人類ではないことを教えている。筋骨隆々とした2m大のそれは鋭い視線を周囲に向けながら、燃える町中を歩いていく。

 

 えーん……うえーん

 

 その男の耳に、少女の泣き声が届いた。男は声のした方向に視線を向け、そこに生きた人間の少女の姿を確認する。

 

「パパー、ママー……どこぉ……」

 

 両手で涙を拭う彼女は、自分に向けて歩を進める男の姿に気づかない。ただ泣きくれる彼女に向かって男は右手を差し出して――

 

 グアブッ!

 

 瞬く間に鋭利な爪を生やし巨大化させた右腕で、男は殺意を持って空間ごと彼女を握りつぶす。

 

「……………む?」

 

 いや――正確に言うならば握りつぶそうとした、だろうか。

 

 開いた右手の中に誰も居ない事に気づいた男は周囲に視線を向ける。あの泣きくれるだけの少女に自身の手から逃れる術はない。ならば、居るはずだと彼の本能が教えてくれたのだ。

 

「何者だ、お前は」

 

 そしてその直感は正しかった。

 

 バサリと風に煽られてマントが揺れる。後ろ姿だけのその存在に、男は初めて口を開いた。

 

 言葉を受けたマントの男はフッと微笑みを浮かべて、しかしその質問には答えず。

 

 己の腕の中で震える少女の頭を優しく、親が子供を守るように撫でる。

 

 怖かったのだろう。心細かったのだろう。涙を止めない少女に眉を寄せて、男は強い決意と共に満面の笑顔を彼女に向ける。

 

「もう大丈夫!」

 

 大きな声だった。力強く、生命力に溢れたその声に涙に濡れた瞳を持ち上げ、少女が彼を見る。

 

「何故って?」

 

 その瞳の涙を拭いさるために、男は更に声を張り上げた。もう泣かないでも良いんだと。

 

「――私が来た!」

 

 救いは必ず訪れるのだと、彼女に伝えるために。

 

 

 

 

「オールマイト!」

 

 思考の底に落ちかけていた意識がその一言で呼び戻され、オールマイト――八木俊典は居住まいを正す。

 

「少し、長話が過ぎましたか」

「そうかもしれません、何せ彼は体が」

 

 失態だ。隣に座る校長のフォローの言葉に恥じ入る思いを感じながら、八木は眼前に座る2名……紳士然とした初老の男性とゆったりとしたスーツに身を包んだ青年に目を向ける。

 

 それは彼にとっても初めての経験だった。いや、厳密に言えば似たような思いを持ったことは過去に一度だけある。ものさしとして使えるのがその一度だけとも言えるのだが。

 

 ごくり、とツバを飲み込む音。それが八木の物なのか、それとも校長のものなのかはわからない。

 

 自然体のままソファに座り、紅茶を楽しむ姿。確かにスーツの上からでもわかる老人の体格、鍛え抜かれた刃物のような雰囲気。

 

 間違いない。八木は確信を覚えながらセバスと名乗った紳士に目を向ける。この紳士は、かつて自身を死の間際にまで追い詰めた、あの男と……いや。もしかすればあの男よりも。

 

「お話は私もお伺いしております。私の友人――知り得る限り最も優れた外科医曰く、そのまま亡くなってもおかしくはない重傷だったとか」

「! その、失礼ですがその方が……?」

「ええ、左様でございます」

 

 思わず口を挟む八木に視線を向け、老人――セバス・チャンは穏やかな口調のまま言葉を続けた。

 

ブラック・ジャック()はすでにこの世界に」

「……ブラック、ジャック」

 

 ブラック・ジャック。その名を告げた瞬間に向けられた視線の圧力を真正面から受け止めて、八木は小さくその名を口ずさむ。黒い男。それが何を意味するのかは今の段階では分からない。ただ、余りにも美味い話にすぎる今回の案件に宿敵の影が脳裏をちらつき、八木は快く首を縦に振ることが出来なかった。

 

 止まる会話。チクタクと時計の針だけが動く室内で、八木とセバス・チャンの視線が交わり続ける。互いに無言でにらみ合うかのような時間が過ぎていき――そして唐突に終わりを告げる。

 

「まぁ」

 

 カチャリ、と音を立てて陶器製のグラスがテーブルの上に置かれる。

 

 八木、校長、セバス。3名の視線を受けながら、グラスを置いたスーツ姿の青年はにこやかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「急な話でもありますし、急がないといけないってわけでもありません。一旦ここは持ち帰って御一考頂く、というのが筋でしょう。そうだな、セバス?」

「さようでございますな。いささか性急に過ぎました。申し訳ございません、モモンガ様」

「その言葉はあちらに言うべきだろう。申し訳ない、オールマイトさん」

「あ、いえ。こちらこそはっきりとお答えできず」

 

 会話に入らず、ただ黙ってやり取りを見ていたモモンガと呼ばれた青年の言葉に先程までの空気が霧散するのを感じ、横に座る校長が静かに安堵の息を漏らす。戦う力を失った自分と違い彼はそもそもが後方要員だ。先程までの重圧は彼にとっても負担が大きかったのだろう。

 

 背中にかいた冷や汗を意識しないように注意しながらぺこぺこと頭を下げるモモンガに頭を下げ返し、緊張感とは別のなんとも形容しがたい空気に応接室が包まれる中。目の前に座る青年に対して、違和感のようなものを感じ八木は彼に視線を向ける。

 

 先程のやり取りから、恐らく彼がこの老執事の主であることは理解できた。しかし、だ。この老人に規格外な何かを見出した八木にとって、それはいささか以上に”おかしな”ものに感じられたのだ。

 

 言ってしまえば、見る限り特に特徴のない青年が、これほどの人物に傅かれている。人は見た目ではないというが、余りにも普通にすぎる。あえて言うならば気弱そうな外見の青年と、明らかに逸脱している老人の組み合わせは、少し人間関係に疎い所のある八木から見ても大きな違和感を覚えさせるものだった。

 

 恐らく隣に座る校長はより強くそれを感じているだろうが――

 

「所で、オールマイトさん」

「……はい。なにか」

 

 そんな感覚でモモンガを観察していたからだろうか。唐突な声掛けに動揺を誘われ、一呼吸を置いて八木は返答を返す。

 

「こちらにも時間制限のような物がありますので、少し慌てて話を持ってきてしまったのは、その。申し訳ありません。ですが、決して我々は貴方を貶めようだとかそういった意図を持っているわけではありません。信じて頂けるかはわかりませんが」

「はあ」

「今回は一旦退散させていただきます。ただ、未来のことを語る事は難しいですが、ほぼ間違いなく貴方の体を回復させることは出来る、と我々は確信しています。そこだけはご理解頂きたい」

 

 そう語るモモンガの言葉は、気弱そうな外見とは裏腹に自信に満ちた言葉だった。

 

「……一つ、最後に一つお伺いしたいことが有る」

「はい、私に答えられる事であれば」

 

 隣に座る校長からの視線を半ば無視し、八木は口を開く。この話を耳にしたときからずっと尋ねたかった言葉。セバスに気を取られて結局途中まで尋ねることが出来なかったこの一言を、八木はどうしても目の前の青年に尋ねたかったのだ。

 

「何故、私なのですか?」

 

 それは本当にただの疑問だった。目の前に立つ彼らが世界の外からやってきた存在であるとは耳にしている。主に政府や国連といった国家組織間との話し合いをメインにする存在であることも、彼独自の伝手から耳にしている。

 

 問題は、だ。そんな明らかにスケールの違う存在が、今。かつては兎も角として今では全ての力を失った元ヒーローに目を向けたのか。今回の件に一切彼らのメリットも理由も見えない。AFOの存在が頭をちらつくが、しかし策略にしてもこう。どうにも目の前に座る青年からは謀略等といった匂いを感じないのだ。

 

 あくまで八木の感覚。しかし、悪や策略といった害意には鼻が利く彼の直感は、自身の人間関係以外には抜群の冴えを見せる。

 

「……ああ、そうですね。それは少し、私的な事情になるんですが」

 

 だからこそ、モモンガの口から出てきた言葉に。

 

「貴方が、正義の味方だったから。私の信じた、私の最も尊敬する正義の味方を思い出させる人だったから、ですかね」

 

 恥ずかしそうなその表情に、小さな驚きと納得の感情を覚えて、八木は小さく頷きを返した。

 

 

 

 

「私の名はワクチンマン! 地球意思により、環境汚染を繰り返す人間どもと害悪文明を滅ぼすために生み出された存在だっ!」

 

 対峙する巨漢と巨漢。走り去る少女から視線を変え、まず初めに口火を切ったのは街を廃墟に変えた黒い巨漢だった。憎悪と怒りを秘めたその言葉を対する巨漢……青いスーツに身を包んだオールマイトは彼の言葉を否定するでもなく、ただ静かに聞き続けた。

 

 ワクチンマンの言葉は、事実なのかもしれない。いや、怪人という者は基本的に何かしらの目的に合わせて生み出される存在だ。ここまではっきりとした目的を持つ彼が、地球の意思により生み出された存在であるというのは間違いないのだろう。

 

 だが。ちらりと焼け野原になった街に目を向け、そちらで動く影を目尻に捉えたオールマイトは少しの思索の後、ワクチンマンの意識を引くように彼に対して質問を投げかけた。

 

「成程。そちらの主張は分かった。だが、そうであるならば大きな疑問がある」

「何?」

「お前が地球意思により誕生した怪人である、それは成程間違いないのだろう。だが、そうであるならば分かるはずだ」

 

 問答無用で攻撃される可能性も考えながら、ゆっくりとした口調で言葉を続けるオールマイト。だが、懸念していた事態は起こらず、少なくともワクチンマンの注意を引くことは出来ているらしい。

 

 ならば出来る限り時間を稼ぐ。それに地球意思を代表するという彼に尋ねたいことがあったのも事実。

 

 自信に溢れた外面から想像できないほどに緻密で――有る種臆病とすら考えられるほどの思考を巡らせて、オールマイトは言葉を続ける。

 

「お前が地球意思の使徒であるのならば、この世界と外の世界について。その状況を知っているはずだ。理解しているはずだ。人類と戦っている場合などではない、という事に」

「……」

「1年前。全ての世界を襲った未曾有の大災害。世界が”一つの世界”に混ざり合うというこの事態をこの世界の地球はどう認識し、どう感じたのか。答えてくれ、ワクチンマン」

 

 自身の言葉に思案する表情を見せるワクチンマンに、オールマイトは視界の端で動く赤い影に意識を向けないよう注意しつつ、続けざまに言葉をぶつけていく。相手は間違いなく高い知性を誇る生命体。その誕生した経緯から人類と手を取り合う事は難しいだろう。

 

 だが、彼自身の言葉を信じるならワクチンマンは世界が混ざり合う事によって間違いなく最も被害を受けただろう”世界”そのものの代弁者とも言える存在だ。彼が持つ情報は、あるいは全く進まないこの世界の謎を解き明かす鍵になるかもしれない。

 

「……」

「……ワクチンマンっ!」

「……地球は、今も昔も変わらない。たとえその姿を変えようとも」

「…………」

「そして、私の役目もまた変わらない。構えるが良い、外の世界の人間よ」

「そう、か……」

 

 故に、少しの逡巡の後。憎悪とはまた違う表情を見せてその体を変質させるワクチンマンに、オールマイトは少し目を閉じた後。

 

「私はオールマイト――ヒーローを生業としているものだ」

 

 カっと目を見開き、かつて最高と呼ばれたヒーローは、倒すべきワクチンマン(ヴィラン)を見据えて口を開いた。

 

 

 

 

 考え事をしたい時ほど何故か体を動かしたくなる。最早骨身に染み付いてしまった感覚。衰えた体とボロボロの心肺機能を少しでも強く、そして何よりも己の後継者の母に伝えられた――生きて彼を導くという約束を果たすために。

 

 ほぼ日課となったジョギングをしながら、八木は先日の話を考えていた。

 

 最後の一言。あれを受けて、彼の中にあった疑念はきれいに消え去っている。だが、まだ八木はモモンガに返答を返しては居ない。

 

 ゴホッと咳を一つ吐き、もしこの話が6年前だったなら、一も二もなく飛びついただろうな、という確信を懐きながら、では今ならばどうなのか。と考えると……

 

「……今更、か」

 

 全てを受け継がせた後。ただの無個性へと戻った彼が回復したとして、かつてのような戦いに身を投じる事は出来ないだろう。

 

 いや、なまじ知名度と実績がある分、混乱を招くことも考えられる――何よりも。

 

「治すのならば」

 

 頭に過るのは、無茶ばかりしてしまう己の後継者の顔。かつての自分のように無茶ばかりをしてしまう緑谷出久を思い浮かべ、八木俊典は苦笑を浮かべる。

 

 モモンガからの話を断ってしまう事になるが、頭を下げて頼み込もう。後継者の為、というなら彼も悪くは思わないだろう。

 

 尤も、彼らが連れてきたという異世界の医者(ブラック・ジャック)が言うほどの実力を持っているならば、だが……

 

「……む?」

 

 八木がつらつらとそう考えながら林道を走っていると、林道側に設置された自販機の前で首を傾げる青年が見えた。困惑したような表情を浮かべる彼の姿を見て、無意識の内に走る速度が落ちていく。

 

「どうされました?」

 

 最早骨身に染み付いた感覚その2。困っていそうな人を見かけたら声をかけてしまう自分の性根に、奇妙なおかしさを感じながら八木は自販機の手前で立ち止まり、青年に声をかける。

 

「……はい?」

「っ!?」

 

 こちらに目を向ける彼を見て、思わず息を呑んでしまったのは八木にとって不覚と言える所業だった。

 

 左目周囲を覆う浅黒い肌と手術痕。頭の半ばから白く変色した髪。いや、それだけであるならば彼も声を上げるような事は無かっただろう。

 

 彼が驚いた事、それは。

 

「轟、少年……?」

「? いいえ、私は間という者ですが」

 

 その身体的特徴が、彼の教え子にそっくりであったという点だ。

 

 いや、厳密に言えば違うのだろう。彼の教え子である轟 焦凍の顔のそれは火傷であるし、目の前に立つ青年の髪の色は白と黒。対して轟 焦凍の髪の色は白に赤茶色というべきものだ。

 

 だが、それを差し引いても――

 

「と、申し訳ない。知り合いに、良く似た少年がおりまして」

「……私と……それは、その。失礼ですがその少年は間黒男という名前ではありませんか?」

「いえ、彼は轟という名前です」

「……………………左様、ですか。ありがとうございます」

 

 似すぎている。

 

「……所で、いかがされたのですか」

「ああ。そういえば」

 

 ここ数ヶ月の事件。活発化するヴィランの活動と、決着をつけたとは言えその残滓を世に放った宿敵の存在。警戒心を内に秘めながら、八木は彼に会話を促し。

 

「……お恥ずかしい話なんですが……実は万札しか持っておりませんでして」

「あ、ああ……」

 

 予想以上に普通すぎる困りごとに思わず肩の力を抜くことになる。

 

 

 

オォルマイトォォォォォ?」

 

 学生服を着たまま爆走し、師であるオールマイトの姿を探す緑谷出久は、目的の人物の姿を見つけ大声を上げながらそちらに駆け寄り――

 

「ひと目につく容姿ってのは分かるが、毎回職質されてもな。その、困るんですよ」

「分かる。私も最近、道を歩いてると病院から脱走してるって良く言われまして」

「それはその。親切な人が多いんだな、としか」

 

 林道側のベンチに座り、今までに見たこともない程くだけた様子でのんびりと缶コーヒーをすする恩師の姿に思わず目を点にさせながら立ち止まった。

 

「ん? おお、緑谷少年! どうしたんだい、君もジョギングかい!?」

「どうも。八木さんの教え子さんですかな?」

「ええ。彼は私の一番弟子のような存在で」

 

 息を切らせて姿を探していた師匠が知らない人と仲良く談笑していた場に突っ込んだ件。等という事が頭に浮かんだかは兎も角として、緑谷は居心地の悪さを感じながら深く呼吸を吸い、息を整える。

 

 急ぎの用事があり、出来ればこの話はオールマイト以外に聞かれたくはない。しかし、談笑している二人の邪魔をしてしまう事に罪悪感を覚えて緑谷がまごついていると、それを見かねたのか青年がふっと小さな微笑みを浮かべる。

 

「さて、どうやら彼も八木さんに用事があるようだし、私はそろそろお暇させて頂きましょう」

「すみません、気を使わせて……しま」

 

 黒い外套を羽織った青年の言葉に緑谷は軽く頭を下げ。こちらを向いた彼の容貌を見て、言葉を止めた。

 

「……あ、え。轟、くん?」

「緑谷少年もそう感じたか」

「八木さん、その話はもう止めておきましょう。先程も八木さんに言われたが、私の名は間。その轟君とは他人の空似という奴だろう」

 

 苦笑しながら間と名乗った彼は飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に入れると、二人に会釈をして歩き去ろうとし――ふと何かに気づいたかのように緑谷に視線を向ける。

 

「……君、その右手」

「へ?」

「見せてみなさい」

「間くん?」

「すみません、八木さん。これでも私は医師の端くれでして。これは少し見過ごせない」

 

 怪訝そうな八木の言葉に軽く頭を下げ、間は有無を言わさない口調で緑谷の右手を取る。混乱する緑谷を尻目に青年は目を細めながらじっくり彼の右手と腕を観察し、小さなため息をついて頭を掻いた。

 

「グチャグチャになった骨と筋肉が歪んだ形で定着している。どれだけ無茶をすればこうなるんだ」

「あ、あはは……」

 

 診察を受けた病院の医師と同じ反応に、緑谷は気まずそうに愛想笑いを返す。数回に渡る大怪我の結果、彼の右腕にはもう少しで使えなくなるほどの後遺症が刻まれている。全ては緑谷の未熟と無謀の結果である。それはもう、彼の中で受け止められているものだ。

 

「だが……優しい手だ」

 

 だから、そこから続いた言葉を、最初緑谷も。側で聞いていた八木も信じられなかった。

 

「メスを入れて、1週間はマッサージ治療と再生剤の投与が必要だろうな」

「あはは。ですよね……え?」

「……再生剤?」

 

 聞き慣れない単語に疑問符を投げかける八木に、間は「ええ」とだけ返して胸元からごそごそと何かを取り出し、呆然としている緑谷ではなく八木にそれ――一枚の名刺を手渡した。

 

「暫くそちらの病院に厄介になります。時間を見て、彼と一緒に訪ねて来て下さい。八木さん、貴方も一度診察を受けたほうが良い。今日のお礼はその時にでも」

 

 見慣れない病院の名前、AOG総合病院と書かれた名刺を受け取った八木に、間は会釈して背を向ける。

 

「ブラック・ジャックに呼ばれた。受付にはそう告げて下さい」

 

 

 

 

 



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オールマイト(後)

前後篇の後編

くー疲れました(ry

誤字修正。日向@様、adachi様、匿名鬼謀様、名無しの通りすがり様、酒井悠人様、佐藤東沙様、竜人機様、赤頭巾様、北犬様ありがとうございます!


「オオオオオオオオオオッ!」

「フンッ!」

 

 連撃。両手足を含めた五体を用いたオールマイトの猛攻を気にもとめず、ワクチンマンは巨大化した拳の一振りを放つ。だが、その拳を振り抜いた先にはすでにオールマイトの姿はない。

 

「ちょこまかとっ!」

 

 苛立つワクチンマンとは対照的に、内心で冷や汗を流しながらオールマイトは余裕の笑みを浮かべ、自身に向けて放たれた光球を上空に弾き飛ばす。まだ近隣の救助作業が終わっていない。間違ってもこいつを地上で爆発させるわけにはいかないからだ。

 

「(とはいえこれ、痛いんだよな~!)」

 

 表情は変えず。内心で吐き出せる弱音を吐き出して。今の役割を全うするために、オールマイトは痺れる右手に力を込め直し、再びワクチンマンへと攻撃を始める。

 

 戦闘が始まってから数分。彼を最大の脅威と見たのだろう、ワクチンマンの注意は完全にオールマイトに向いている。戦闘が始まってからは周囲に気を配る事は出来ていないが、恐らくそろそろ――

 

「ちぃ! 良い加減にっ!」

「むっ!」

 

 我慢の限界が来たのか。叫ぶとともにオールマイトから距離を取り、ワクチンマンは己の形状を変化させる。メキメキと人形から巨大化し、全身に棘を生やした二足歩行の怪物のような姿に体を変化させると、咆哮を上げながら大きく口を開く。

 

 大技、恐らくブレスに類する攻撃動作。何度も相手した(・・・・・・)竜種によく似たその動作に、オールマイトを覆う白い光が輝きを増す。

 

 後ろに通せば、どうなるか。頭を過ぎったその考えに小さく首を振り――全てを受け止めるために、彼は両手を大きく広げた。

 

「死ねぇいっ!」

「テメーがなw」

 

 だが、彼の覚悟はどうやら杞憂に終わったようだ。

 

ドゴォオオオンッ!

 

 変化したワクチンマンの口腔から滅びの一閃が放たれる前に。嘲るかのような調子で放たれた言葉と、真っ赤な閃光がワクチンマンを襲う。意識外からの一撃、溜め込んでいたエネルギーの暴発。爆音。

 

 閃光の走った方向に目を向ければ、赤いマスクとスーツを着たヒーローがけらけらと笑いながらこちらに親指を立てる姿が目に映る。

 

「サンレッド君……!」

 

 救助に回っていた彼がこちらに来たということは、つまり。

 

「グ、グギギッ……お、オノレェ! 卑劣な、人間どもメェッ!」

「制限を気にせず、暴れられる」

 

 爆炎により舞い上がった煙が晴れていくと、自身とサンレッドの一撃を同時に受けた事になるワクチンマンは見るも無残な姿をオールマイトの前に晒した。

 

「――<能力向上>、<能力超向上>」

「死ぃネェエエエエッ!」

 

 吠え猛るワクチンマンは、目の前に立つオールマイトに向けて駆ける。ワクチンマンにとって余計な横槍を入れてきた人間よりも目の前に居る男こそが脅威であるからだ。

 

 こいつは先に殺さなければいけない。生物としての本能と存在理由がワクチンマンを突き動かす。

 

 だが、それは誤った選択であった。

 

「<肉体強化>、<肉体超強化>! そ、し、てぇぇぇえええええっ!!」

 

 その姿に憐れみがないと言えば嘘になる。生まれる事自体に罪はないのだから。

 

 だが、オールマイトはヒーローで、ワクチンマンは人類を脅かすヴィランだった。

 

 ならば――力の限り、戦うしかないのだ。

 

「< 爆 肉 鋼 体 >」

 

 全身から溢れ出すオーラ。友から手ほどきを受けた念を用いて膨れ上がった体と力を一つに束ね、振りかぶる。

 

「テキサス――ス マ ッ シ ュ ッ !」

「グギャアアアアアアアアッ!!?」

 

 放たれた一撃はワクチンマンを粉砕し、その衝撃波は周辺の瓦礫を薙ぎ払い、空を覆う雲を散り散りに吹き飛ばしていく。

 

 晴れ渡った空から降りしきる日差しの中。粉々になって消えていくワクチンマンの姿を見ながら、オールマイトは握りしめた拳を緩めた。

 

 

 

 

 その連絡が来た時。彼は持ちうる限りの全速で名刺に書かれた病院へと走った。

 

 車を病院前に乗り付けて中に走り込み、ぜぇぜぇと呼吸を切らしながら彼の部屋を尋ね、そして彼の部屋に駆け込む。

 

「間くんっ!」

「八木さん? はて、受付からは」

 

 部屋の中の彼は休憩中だったのだろう、机に座り新聞らしきものを広げながらコーヒーを啜っていた。怪訝そうな顔を浮かべる彼に駆け寄り――

 

「頼むっ……力を、貸してくれ……」

「……八木さん」

「私の友が……長年の友が、死んでしまうかもしれないんだ……」

 

 八木は彼の右手を両手で掴み、頼み込むように頭を下げる。

 

 彼の頭の中を電話口で応対していたバブルガールの言葉が過る。

 

 助からない。もう、幾ばくもない。ただ二言のその言葉が、何よりも重く八木の心を抉った。

 

 ヒーローという仕事は過酷だ。殉職率も高い。その端くれであった八木も勿論、いつ何時命を失うかもしれないという覚悟を持って生きてきた。

 

「頼む――」

 

 希望があるなら、縋りたい。助けることが出来るなら、助けたい。

 

 話したい事が沢山あるのだ。仲違いしてからの6年の事。共に戦った頃の事。自らの後継者、緑谷出久の事。自らの気まずさから会うことも出来ず、ズルズルとここまで引っ張ってしまって。そして今、死別しようとしている。

 

 そんな事が、そんな事を許してしまう事が。許してしまう八木 俊典(自分)が、オールマイト(自分)には許せない。

 

「ブラック・ジャック!」

 

 その名を八木が口にした瞬間。彼は小さく息を飲み、そして。

 

「――良いでしょう。ただし、私の医療費は高額だ」 

 

 少しだけ悲しそうな声音で、そう答えを返した。

 

 

 

 

「拳で天気変えるってマジで出来んだなぁ」

「修行の賜物さ!」

「いや修行でなんとかなる範囲じゃねーだろ」

 

 へらへらと笑うサンレッドの言葉にそうかなぁ、と返しながらオールマイトはワクチンマンの残骸に目を向ける。大部分はオールマイトの拳に発生した熱量によって灰となったが、胴体の下半分はその場に血肉となって残ってしまっている。

 

 これを補助として連れてきたAOG所属の人員――変身能力の有るモンスターだ――が丁寧に梱包して運び出していく。世界意思そのものとも言うべきワクチンマンは貴重な資料になるのだという。

 

「しっかしまぁ随分物騒な世界だな。あのレベルの奴がポンポン出てくんだろ、ここ」

「週刊地球の危機、という言葉がよく合う世界だそうだよ!」

「ほーん。怪人半殺しにしてしょっぴけば良い金になるし、面白そうな世界じゃねーの」

 

 根っこの部分で戦いが好きなサンレッドの言葉に苦笑を返す。力を振るう事はあくまでもオールマイトにとって手段の一つ。他者と競う事の面白さは理解しているが、どうもこの彼の血の気の多さは共感できない。

 

 まぁ、こんな事を言っているサンレッドだが。怪人を殺したことがほぼ無かったり奥さんに良い服を買ってあげたくてこんな危険な世界まで単身赴任してくるなど、対人関係が下手くそ過ぎて複雑骨折しているオールマイトでも、思わずにっこり笑顔のピースサインを向けてしまう位に微笑ましい部分を持ったヒーローでもある。

 

 戦闘能力、精神面。共にこの修羅が集う世界を任せるにたる力を持っている。とある事情によりオールマイトはこの世界に長居出来ないが、彼なら良くこの世界を守ってくれるだろう。

 

「あれ? もう終わってんのか」

 

 そんな二人の背後から、瓦礫だらけのその場に不釣り合いなほどの平坦な声が響き渡る。

 

「来たか」

 

 何度も耳にした声だった。彼が現在世話になっているAOGから渡された資料。ブルーレイディスクの中に収められた声と姿が頭の中に浮かび上がる。

 

 振り返り、その姿を瞼に移す。間違いない。黄色いヒーロースーツにたなびく白いマント。決して良いとは言えない体格。そして極めつけの髪一本生えない頭。

 

「あー、遅れちまったか。折角連絡貰えたのになー」

 

 見た目だけで言えば決して強いとは感じない。だが――

 

「……成程」

「納得したわ。こりゃアカン奴だ」

 

 鍛え直す際に学んだ様々な技術、”念”や”気”。そして扱えこそしなかったが”魔法”という目では見えない概念を学んだ事により身についた、対峙した相手の大まかな実力を推し量る技術。幾つか存在するそれを持って彼を見たオールマイトとサンレッドは、共に一つの結論に達した。

 

「信じらんねぇエネルギーだ……人間の中に銀河一つ分は収まってやがる」

「詩的な表現だね! 惑星意思一つ程度じゃ、一蹴されるわけだ」

「ん? 誰だお前ら」

 

 ジロジロと自身を見る二人に気づいたのか。怪訝そうな声を上げる彼に、フッと笑みを浮かべてオールマイトがサンレッドの前に立つ。この世界に暫く赴任するサンレッドと違い、自分はただ彼に会いに来ただけなのだから。

 

「初めまして、サイタマくん。私はオールマイト」

「あ、おう。ん? なんで俺の名前を」

 

 首を傾げるサイタマの様子に、どうやら防衛機構は今回の件を伝えていなかったらしいと小さく安堵の息を漏らす。彼とはできるだけフラットな状態で話をしたいと思っていたからだ。

 

 故に、彼の質問に答える前に。

 

「ヒーローを生業としているものだ――君に会いたかった。ワンパンマン(ヒーロー)

 

 右手を差し出し、オールマイトはそう言って、微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

side.K 或いは蛇足。もしくはある種の始まり

 

 

 

 手術着を脱ぎ捨て、両手を洗う。初めて降り立った四方世界の戦場を思い出す、久方ぶりのハードな手術だった。あと10分手術が遅ければ、恐らくナイトアイという人物は助からなかっただろう。

 

 神業だ、天才だと囃し立てる助手についてくれたこの病院の医師に患者の関係者への説明を任せ、足早に病院の廊下を歩く。なぜだか酷く苛立たしい。

 

「……」

 

 目に写った喫煙室と書かれた文字に、ふらりとそこへ入ってしまったのはそんな精神状態だったからだろうか。

 

 片隅に置かれていた自販機に八木から教わったスマホのICを通す。身分証明も一緒に行ってくれるらしく、特に支障もなく購入できたタバコ。パチリと指を鳴らし、とあるエルフにならった火起こしの呪文で指先に炎を作り、咥えたタバコを近づけ――

 

 ガチャリ

 

「間くん、ここに……?」

「ウェホゲホゲホゲホ」

 

 肺に煙を入れ込んだ瞬間に開くドア。顔を見せた知人が声掛けをしてくるが、咳き込んでそれに返答する余裕がない。

 

 大体3,4分ほど咳き込み、心配する八木の介抱を受けながら待合室へと移動し。ようやく息が整った瞬間、苛立ちを込めて購入したばかりのタバコをゴミ箱に投げ込んだ。

 

「もしかして、吸えないのかい?」

「……吸えるはず(・・・・・)なんですがね。いえ、この世界に来て初めて試しましたが」

 

 脳裏に浮かぶブラック・ジャックの喫煙姿を思い返しながらそう口にする。恐らく意味がわからなかったのだろうが、八木は何かを感じたのか口をつぐみ、手近にある自販機を操作し、冷たい缶コーヒーを持ってきた。

 

「微糖で良いかい?」

「ありがたい。糖分が欲しかったんです」

 

 手渡された缶コーヒーの冷たさに心地よさを感じながら、蓋を開けて口をつける。錯覚だろうがカフェインと糖分が同時に体に満ちていく感覚がする。

 

 少し気持ちをスッキリとさせながら、はたと気づく。

 

「患者さんの側についていなくても大丈夫なんですか?」

「ああ。ナイトアイはまだ眠っているからね。あんまり皆がベッド側に居ても迷惑になると思って」

「なるほど」

「それに」

 

 まぁあの病室に10人近くも居てはな、と頷いていると、八木は俺の隣の席に座り、水の入ったペットボトルに口をつける。

 

「ふぅ……今回は、ありがとう」

「いえ。依頼は依頼です。報酬はしっかり頂きますよ」

「勿論報酬はお支払するよ。私の用意できる全てでもって……ただ、その。不躾な頼み方をしてしまってすまない。苛立っているように見えたから、少し気になってね」

「……苛立つ? 俺が、ですか?」

 

 予想もしていなかった言葉にもたれかかった椅子から身を乗り出し、八木に視線を向ける。

 

「ああ。手術の依頼をしてから、どうもね。急な依頼だったのは、その。申し訳ない」

「いや、そこは良いんです。緊急手術は急なものですから、それは仕方がない」

 

 頭を下げる八木に手を向けてそう告げながらも、頭の中ではグルグルと様々な考えが巡っていく。苛立つ、か。成程、確かに傍から見ればそうなのかもしれない。ぽりぽりと頭をかきながら、ため息を一つ吐く。

 

 苛立っているわけではなければ御大層な代物でもないのだ。ましてや八木さんが後ろめたく思うようなことでもない。

 

「……俺は」

 

 俺は、度し難いことに。

 

「本当は、ブラック・ジャックなんて大層な人間じゃないんです」

 

 真摯に頼み込む、俺をブラック・ジャック先生だと思い込む人々の姿を見て、負の感情にかられてしまっていたのだ。ブラック・ジャックの名を騙りながら、その名声を浴びながら。

 

 タガが外れたように動き出す口。この世界に落ちてきて、とある姉弟に命を助けられてからこっち。人を癒やし、時には争いに巻き込まれ。友と出会い、そして追われる日々を過ごし。気づけば残ったのは、以前よりも格段に上がった医師としての腕前と技術。そして途方も無いブラック・ジャック(よく似た他人)としての業績。

 

 それが悪いとは言わない。医師としての研鑽は当然のことだ。技術は人を救うのだから。腕の良い医師と呼ばれるのも良い。それは誰かを救ったという確かな自負につながるのだから。

 

「最初は、彼に似通っているというだけで。実は、嬉しかったんです。俺にとって憧れの存在でしたから。でも、月日が経つごとに、どんどん虚名が大きくなるほどに」

「……」

「心の中に、一本の釘が打ち込まれてるんです。そいつが、どんどん大きくなってくのも。分かるんですよ、なんとなく」

「罪悪感、かな」

「そうでしょうね。多分、罪悪感なんでしょう。」

 

 飲みきった缶コーヒーを手の中で弄りながら、感情を言語化出来ずに押し黙る。

 

 そんな様子の俺を隣で見ながら、八木さんは小さく「ふむ」と呟くと、ペットボトルに口をつけて唇を湿らせ。

 

「つまり、恩師とヒーローネームが被って貴方ばかり有名になってるのが罪悪感がわく、と」

「大分違う気がするんですが」

「まぁ流石にこの表現は冗談だけどね!」

「あ、はい」

 

 力強い言葉と共にいきなりボンッと巨大化しアメリカナイズな姿に変わった八木さんに二の句も告げずに頷きを返すと、八木さんはまたシュポン、と元の骸骨めいた姿に戻る。

 

 こういう個性なんだろう。強く見える姿に変身するというのは中々面白い能力だ。

 

「でも、そういう事態ならば打てる手は2つだろう」

「2つ、ですか?」

 

 八木はいいながらピンっと2本の指を立てる。わらにも縋る思いでその先を尋ねると、彼は頷きながら指を一本折った。

 

「まず一つ。こちらは今からでも出来るのが……医師をやめ」

「それは出来ません」

「だよね」

 

 失礼だが、彼が言い終わる前にその発言を止めさせてもらう。考えたことも無かったが、確かにその道を選べば楽になるだろう。だが、それを選ぶことだけはありえない。医師を志すものが、自身の小さな見栄や罪悪感で道を諦めて良い訳がないのだ。

 

 医師が諦めれば、患者は一人ぼっちになる。医師が諦めれば、患者を殺してしまう。

 

 殺人者にだけはならない。それがこの過酷な世界で生きて、それでも一つだけ曲げずに来た。そして今後も絶対に曲げることが出来ない、間黒夫の意地なのだから。

 

「なら、後一つ」

 

 そんな俺の言葉を否定もせずに八木さんはもう一本の指を折る。心なしかほっとしたかのような彼の視線を受けながら、八木さんの言葉に耳を傾ける。

 

「現状維持のまま本物のブラック・ジャック先生を探して、交代してもらおう」

「……は?」

「今の間くんは言ってみれば他人のふりをして他人の名声を引き上げているわけで。要は替え玉みたいな状態だよね」

「替えだ……ま、まあ。そう、ですね?」

 

 首を傾げるように「間違ってますか?」と尋ねてくる八木さんの言葉に、よくよく考えてみればまあそうとも言える、のだろうか。

 

「じゃあ、替え玉である間くんが積み重ねた実績とかもいずれはその人に引き継がれるのが自然じゃないか。本人なんだから」

「…………本人、に」

「そ。まぁ、それが無理そうなら全力で逃げるのも手じゃないかな。別に逃げた先で医師を続けるんなら、君の信条ともぶつからないんだろう?」

 

 ブラック・ジャック本人に後を任せる。今まで考えもしなかった自分の責任を全力でぶん投げるその行動に、呆けたように小さく相槌を返す。

 

 良いのか、そんな事が。許されるのだろうか、そんな事が。

 

 どうしようもない程の魅力的な彼の言葉に思わず首を縦に振りそうになりながら、けれども僅かに感じる責任感がそれを押し留める中。

 

「許されるさ。だって君はブラック・ジャックじゃない。今私の目の前に立っている、間黒夫なんだから」

 

 まぁ、名前を勝手に騙るのは悪い事だから、そこは謝らないといけないかもしれないが。

 

 そう締めくくる八木さんの言葉が、一年近くもの間積もり続けた心の中の汚泥を洗い流していく。

 

「……ヒーロー、か」

 

 たった2度しか会っていない人物の言葉。だが、そんな事は関係がない。

 

「――八木さん。貴方の治療は、全力で行わせていただきます」

「え、うん。よろしくおねがいします、間先生!」

「ええ、こちらこそ――貴方をきっと、オールマイト(最高のヒーロー)に……いえ」

 

 骸骨のような容貌で笑顔を浮かべる八木に最高のヒーローの姿を幻視し、右手に力を込める。

 

「貴方は今も最高のヒーローですかね」

 

 こういう時にもう何も怖くない、と言うべきだったかな。ここ一年感じたこともない全能感に包まれながら、八木さんに声をかけて診察室へと向かう。まずは現状を見てからの判断だが、臓器系の再生治療は少々時間がかかる。恐らく彼も俺も長丁場になるだろう。

 

 だが、そんな事はもうどうでもいい。重要なことじゃない。

 

「まずは神造臓器を……AOGからのアイテムも借り受けて……融合……」

「あの、間くーん? なんだか怖い言葉がでてきてるんだけど?」

 

 この最高のヒーローを万全の状態で世に送り出す。そのためなら出来うる手段は取らなければいけない。

 

 さて、最終的にぶん投げる事が確定した以上、下手に大人しく動いても後を引き継ぐブラック・ジャック先生に悪いからな。ここ最近ちょっと大人しくしてた分、今回は一切手を抜かずに対処しよう。内臓器官の再生、もしくは代替の用意。使える伝手をすべて使ってそれらを完璧に成し遂げなければいけない。

 

 ああ、ブラック・ジャック先生の宣伝もしておくべきだろうか。自分からこういう事を言っておけば先生と入れ替わる際も「ああ、あの言葉はそういうことだったんだ」とかいう話にきっとなるはず。多分、きっとメイビー。

 

 そうだな、ならば手術の度にこう口にするとしようか。

 

「ブラック・ジャックをよろしく」

「え、あ。ええと、よろしく?」

「貴方に言ったんじゃないですよ、八木さん」

 

 

――side.K 或いは蛇足。もしくはある種の始まり 終――

 




八木 俊典(オールマイト):出典・僕のヒーローアカデミア
 原作ではおっさん系メインヒロイン(勝手な解釈)、作中世界では一言で黒夫さんの背中を押して2年目の暴走を促した元凶。
 なお3年目に隠居する所までこの人のアドバイス通りなので今現在も最高のヒーロー枠は彼のままの模様。BJ(本)? あっちは黒夫にとって神なので比較されるレベルで尊敬はされている。
 受け継がせたOFAを流石に再度発現させることは出来なかったが、代替の技術を複数用いて過去の自分と戦えるレベルにまで力を取り戻した。が、まだまだどの技術も磨いている最中の為、全盛期8割くらいだと自分では思っている(なお周囲の目は)

ワクチンマン:出典・ワンパンマン
 原作ワンパンマン第一話に登場する地球意思によって生み出された人類文明絶対滅ぼすマン。なおワンパンでサイタマの前に沈んだ。
 作中ではサイタマと遭遇する前にオールマイトと戦闘。オールマイトとサンレッドのタッグの前に敗北し、その残骸はAOGによって回収された。

緑谷出久:出典・僕のヒーローアカデミア
 僕アカの主人公にしてオールマイトの後継者。今回の話ではほぼ出番はないがこの後師匠と共に絶対絶命魔界巡りや暗黒大陸横断ウルトラバトルに参加することになり良く掲示板でグチるようになる。

サンレッド:出典・天体戦士サンレッド
 溝の口発のヒーロー(真っ赤)。原作では嫁(彼女)のヒモだが今作では単身赴任中。怪人をボコれてお金まで貰える環境にニッコリ


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海賊王

前後に分かれている話です。
後編は今修正中。22時頃には上げられ……ればいい、なぁ(白目)


誤字修正。路徳様、flugel様、見習い様、佐藤東沙様、たまごん様、竜人機様ありがとうございます!


 どこまでも続く空。白い雲。そして、青く輝く海。

 

 潮風にコートをたなびかせながら、果てなく続く海に視線を送る。

 

 海には、男を虜にする魔力がある。この果てなき海の果てを見たくなるとでもいうのか。そんな、ロマンチシズムに走らせるような魔力が。

 

 全ての母とさえ呼称される母なる海の姿に、ここ数時間のやさぐれた精神が癒やされるのを感じながら、ただぼんやりと俺は海を眺めていた。

 

 いつまでみていても飽きない風景。代わり映えのないその光景こそが。

 

「あ、そーれ♪ あ、そーれ♪」

「やるじゃねぇか骨太郎! あ、そーれ♪」

「負けんじゃねぇぞ、サトル!」

「ドワッハハハハハハっ! おでん、ひっこめー!」

 

 ――背後の乱痴気騒ぎから、自身の精神を守ってくれるのだから。

 

 ため息をつきそうな気持ちを抑えて背後にちらりと視線を向けると、そこにはいつもの黒いローブを脱ぎ去り、盆を両手にこれぞ裸踊りとばかりに踊り狂う骨(モモンガ)と、何故かそれに付き合い見苦しい姿を見せる侍っぽい男。それを囃し立てる好奇心バカ(ジン)に、むさ苦しい男どもの群れ。

 

 船べりに肘を起き、木製のカップに並々と注がれた酒をちびりと飲む。それほど強い酒精ではない。確認する限りこの世界はどうにも歪な科学発展をしているが、こと酒に関してはあまり発展していないらしい。

 

「おぉい、お医者先生よぅ! 酒も肉もまだあるんだ! こっちに来て一杯酌み交わそうぜぇ!」

 

 そのまま宴が終わるまでのんびりと風景を肴に、とでも思っていたが、どうやらそうは問屋がおろさないらしい。

 

 むさ苦しい男どもの中でもとりわけ迫力のある男の腕が俺の肩に回される。目の前に差し出されたコップにこちらのコップを合わせて乾杯を行い、コップを口に運びながら横目に男を見ながら、ふぅと息を吐く。

 

 どうしてこうなったかはわかっている。が、やはりこの言葉を吐かずにはいられない。

 

「どうしてこうなった」

「あぁん?」

 

 怪訝そうな顔を向けてくる男――ゴール・D・ロジャーの視線を受けながら、この場に降り立つまでの事を頭に思い浮かべる。

 

 そう、アレはつい数時間前。

 

 発端はいつもの通り。あちらで騒いでいる骨、モモンガ(サトル)さんだった。

 

 

 

 

「透き通るような海。波の音、潮の香りを受けながら、晴れ渡った青空を行く。もちろん、気のおけない仲間たちと共に!

 

 アインズ・ウール・ゴウンの最重要拠点、ナザリック内は10層に位置する「最古図書館」(アッシュールバニパル)。かつてギルドに所属したメンバーによって集められた趣味の坩堝とでもいうべきそこで、文献を読み漁っていた俺とジンに向かいサトルは朗々とした口調でそう語り始めた。

 

 なにいってだこいつ、とつい漁った文献にあった口調を思い浮かべるも、わざわざ人化してキラキラした瞳で語り続けるサトルには届かないようだ。

 

 歴史書から視線をあげたジンが「どうするこいつ?」とばかりの視線を向けてくるがそんなのはこっちが聴きたいことだ。基本的にお前ら二人に付き合わされている俺が振り回してる側の制御法なんざ知るわけがない。

 

「いやー、最近発見した新しい世界と交渉中なんですがねー! そこが世界の殆どが海って珍しいタイプでして一度視察に行こうと思いまして! 最近休みも無かったしついでにバカンスを楽しもうとですね! もちろん、気のおけない仲間たちと共に!

 

 そんな仲間を連呼しなくても別に貴方の事は友人と思っているんだが、とは口に出さず。なんか変なこじらせ方をしている骨人間のウキウキした様子にもう一度ジンと目配せをし、「お前がやれ」「いやお前が」というやり取りを十数秒繰り返し。

 

 仕方なく、本当に仕方なく。俺はひくつく頬を抑えながら、サトルに質問を向ける。

 

「御高説を遮るようで悪いんだが」

「潮風ってベタつくのかなぁ! ……うん? なんですか先生」

「バカンスを楽しむというのは、まぁ良い。そこは良いとして――それはアルベドやデミウルゴスも承知の話なんだな?」

 

 一応確認だけはしておこう、というノリでそう尋ねると、にこにことした表情のサトルがピタリと止まり動かなくなった。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「……サトルさん?」

「デミウルゴスは了承をくれました」

「サトルさん?」

 

 一番大事な者が抜けてるんじゃないかともう一度問いかけるも、サトルはすぅっと緩やかな動作でその視線を横に向ける。

 

「か、家族同伴だとハシャげないかなって」

「そっちじゃねぇだろ」

 

 顔をしかめてそう口にするジンからも視線をそらし――サトルさんは人化を解いた。精神的に大分追い詰めすぎたようだ。

 

 はぁ、とため息をつく。半年ほど行動を共にして、この人のパターンはなんとなくわかってきた。おそらく、支配者ロールに耐えられなくなったとか、そういった辺りだろう。

 

 ジンに視線を向ける。仕方ねぇなぁ、と表情で語る奴の顔を見て、覚悟を決める。アルベドには恨まれるだろうが、今更か。

 

 ――それから二時間後。

 

 奇声を上げる守護者統括をパンドラズ・アクター(サトルさんの出来た息子)に任せ、アウラ嬢のペットのロック鳥に乗ってナザリックを出発。ほどほどの距離から足がつかないように転移を用いて世界移動を行い。

 

 そして、一面の海を視界に収めたと思ったら撃墜され今に至るというわけだ。

 

「そいつぁまた大変だったなぁ」

「撃墜した奴の言葉じゃなければ頷けたんだが」

「悪ぃ悪ぃ、いきなり上空にデッカい鳥が現れたからな! 面白そうな予感がぷんぷんしたからつい!」

 

 結局ロジャーの誘いから逃げられず、宴の輪に連れ込まれることしばし。

 

 何故上空に居たのか、というレイリーという副船長の言葉に事情を説明すると、原因その2ともいうべき男が自白と共に楽しそうな表情で謝罪の言葉を口にする。

 

 いや、これは謝罪なのだろうか。つい、で撃墜された方はたまったものじゃないんだがな。

 

「すまんな、その馬鹿はそれで本当に謝ってるつもりなんだ」

「……なんというか、凄いな。お前らの船長」

「あんまり褒めるな、クロオくぅん!」

「「「褒めてない(ねぇよ)!!」」」

 

 思わず正直な感想を口にすると、満面の笑みを浮かべてロジャーがそう答え、話に耳を傾けていた船員全てからのツッコミが船長に向かって放たれる。中身の入った酒瓶は投げるんじゃない、俺に当たる。

 

 そんな仲間たちの心温まる言葉になにぉう!とばかりに立ち上がり、ロジャーは話し合い(物理)だと右腕をぶんぶん振り回して駆けていく。

 

 その様子を幹部たちがゲラゲラと笑いながら酒や肉に舌鼓をうち、何故か話し合い(物理)に混ざったジンとロジャーの取っ組み合いに唐突な賭けが始まった。

 

 良い仲間たちだ。海賊であるという一事で無法なアウトローであると身構えていたが、予想に反して彼らは”楽しい”奴らであった。

 

「こっちの酒は薄いなぁ。いくらでも飲めそうだ」

「なにぃ、俺の注ぐ酒が不味いってかぁ?」

「ああ、そうさ。こんな物本当の酒じゃない。俺が本当の酒って奴を飲ませてやりますよ(キリッ)」

 

 それは、向こうで物理的に飲めない酒を頭から浴びて歌舞伎役者風の男と騒いでいるサトルを見ても分かる。仲間という存在に過剰なまでの執着を持っている彼が、あそこまで格好を崩して騒いでいる。

 

 このロジャー海賊団は彼にとって、かつての仲間たちを思い出す何かしらを感じさせてくれているのだろう。

 

「で、だ。ほら……さっきのアレをよ。もう一度見せてくれよ」

「さっき……ああ。続きで良いのか?」

「魔物ってのか? あいつらの軍団もいいけどよ。外の世界の冒険ってな感じのがあれば見てみてぇな」

 

 サトルの様子を見ていると、横合いから話し合い(物理)を終わらせたロジャーが声をかけてくる。目の辺りが青く腫れ上がっている辺り激戦だったようだ。

 

 まさかジンを倒したのか、と視線を向けると、あちらもあちらで顔を膨らませてゲラゲラ笑いながら酒瓶を傾けている。心配して損をした、と意識をロジャーに向け、彼の要望である映像端末を懐から取り出した。

 

 ここ最近使い慣れてきた端末を操作し、空中に映像を映し出す。オオ、と周囲から歓声が上がる。この世界にも電伝虫とかいう不思議生物が居るらしいが、テレビのように映像を映し出して楽しむ、という娯楽は未発達なのだろう。

 

 映像の照射範囲を弄り、船の上空に映像が映るように設定し、寝転がる。

 

 横に置いた端末から流れるさざなみのような音。やがて流れ出すオーケストラによる音楽。

 

 ザワザワとざわめく船員たちはある者は上空に映る映像を、ある者は音を流す端末へとそれぞれに視線を向けている。そんな彼らを尻目に、隣に座っていたロジャーは喜々とした表情でドサッと俺の隣に寝っ転がった。

 

 上空の画面では音楽に合わせるかのように光の波が画面を流れ、やがて画面いっぱいに巨大なドクロのマークが現れる。

 

宇宙の海は お~れ~のう~み~

 

 ぎゃあぎゃあと上空を眺めて騒ぐ海賊たちの反応を見るに、どうやらこれで正解だったらしい。海賊なら宇宙海賊の話も気にいってくれるだろう。

 

 酒精の薄い酒とはいえ随分と腹にいれてしまったし、今夜はこのまま眠ることにしよう。明日になればサトルも満足しているだろう。

 

 

 

 

「などと思っていた自分が恨めしい」

「アッハッハ! テンションが低いですよ先生!」

「すっかり馴染んでますねぇサトルさん。そんなにアルベドが怖いんですか?」

 

 ロジャーの船に居候して7日め。もはや完全に船員として船に馴染んでしまったサトルに苦言を呈する。が、露骨に「あーきこえなーい」等と耳を塞いで聞く耳を持たない彼に、ふぅ、とため息を一つつく。

 

 娘だと思いこんでいた存在に寝込みを襲われた事が、すっかりトラウマになっているようだ。骨モード(本性)だとそれほどでもないんだが、人化しているときは精神抑制とやらが効かず苦手意識を制御できないらしい。

 

 この点に関しては一度しっかり話し合ったほうが良いと思うんだがな。今回の件がなくても最近、アルベドの俺とジンを見る目がかなり、その。殺意が籠もった視線になってきているのだ。あれをこれ以上放置するのは良くないと思うんだがな。

 

 まぁ、だからといってそれが理由でサトルとの付き合いを変えれるほど、俺もジンも器用な生き方は出来ん。結局、なるようにしかならん、か。

 

「所でジンの奴は」

「あっちです」

 

 そういえば、と朝から姿を見ないもう一人のツレの話を尋ねると、サトルはついっと船べりから海の方を指差した。

 

 怪訝に思ってそちらに視線を向けると――

 

ドッバーーン!

 

「うおっ」

「あ。また来た」

 

 派手な音を立てて波の壁とも言えるしぶきがあがり、船が大きく揺れる。その白い飛沫の向こう側に、イルカなのかクジラなのか判断がつかない巨大な海棲哺乳類らしき存在が姿を現した。

 

 船員達が言っていた海王類とやらだろうか。朝からやけに揺れると思ったらこんなバケモノが側にいたとはな。こちらに微塵も敵意を向けてこないし、人懐っこいタイプのやつがじゃれ付いて来ているのだろうか。

 

「いえ、その上です」

「上……」

 

 物珍しさに注視していると、サトルが見るところが違う、と指をデカイルカの上に向ける。釣られるように視線を上げていくと、見覚えのある男と最近見覚えを持った男二人が、楽しそうにデカイルカの上でハシャいでいる姿が見えた。

 

 ――やたらと相性が良いんだ、ジンとロジャー(あいつら)

 

 まぁ、ジンは元からこういうのが見たくて外の世界に出た経緯があるから分からんでもないが。たった1週間で順応しすぎだろう。

 

「先生もなんだかんだ楽しんでるじゃないですか。クロッカスさんと未知の病気について毎晩熱く語り合って」

「彼は良い医者だよ。それにこの世界固有の病気は中々興味深い物が多い」

 

 ブンブンとこちらに手を振ってくるジンに片手で応え、サトルの言葉に頷きを返す。あ、デカイルカが潮を吹いて二人が――あいつクジラだったのか。まぁ連中なら生きているだろう。

 

 この世界に来て1週間。サトルの魔法で風を吹かせているため船足こそ順調だが、向こうからトラブルがやってくるこの船は喧騒が絶えない。中には今みたいに自分からトラブルに突っ込む場合もある。

 

 帆船で海に潜るなんて想像したこともない経験もした。多少心得がある程度の一般人ではとても安心できるとは言えない環境。激動に次ぐ激動の毎日。

 

 一生分のスリルと興奮を味わってしまった、一週間の旅路。

 

「まぁ……」

 

 どの時間も濃密な、一時の冒険。

 

「悪くはないバカンスだ」

 

 振り返ればすぐに思い出せる一つ一つの出来事を思い浮かべ。ふっと小さく微笑んで、船べりから離れる。

 

 たまにはこういう旅も良いもんだ。サトルには後で礼を言っておこう。

 

 

 

 

 そして、物事には始まりもあれば終りもある。君主自身が範を示す、という名目で取られたつかの間の休暇も、気づけば今日で終わり、だそうだ。

 

 だそうだ、というのはAOGに所属しているわけではない俺とジンはサトルに付き添っているだけで、AOG側の名目であるとかそういう代物は関係がない。

 

 まぁ、予想以上に知見を増やすことが出来た今回の旅路は、俺としては非常に実りあるものだった。

 

 しかし、だ。

 

「お世話になりました、クロッカスさん」

「こちらこそいい刺激になった。また会おう」

 

 出会いもあれば別れもある。この数週間、毎日のように医学談義を行っていた人物との、恐らくは永の別れというのはやはり辛いものだ。

 

 辛気臭くなりそうな表情を笑顔で隠し、クロッカスと握手を交わす。辛気臭いのはおでんとおいおい泣きながら「兄弟、お元気で!」「骨太郎もな! あ、お前は元気もくそもないか」などと別れを惜しんでいるサトルさんくらいで良い。

 

 というかいつの間に兄弟分になったんだ。自由すぎるところがかつての仲間に似ている? お、おう。

 

 なぜそんな面々が作成したNPC達がああもお固くなったのか疑問に首を傾げていると、ぐいっと肩に腕を回される。

 

「よぅ、クロオ! どうだ、飲んでるか?」

「酒くせぇ」

 

 しっしと片手で顔を遠ざけるも、ゲラゲラと笑うヒゲ男――ロジャーの腕力には敵わず。ゆらゆらと前で揺れる木製のジョッキに、手に持ったジョッキを合わせる。

 

 それを合図にグビリっと一気。酒精が喉を抜けていく感覚にふぅ、とため息をつくと、何が嬉しいのかロジャーは笑いながらバンバンと俺の背中を叩いた。痛い。

 

「たった数週間だが、お前らは俺達の仲間だ。仲間の門出を祝って、かんぱぁい!」

「今飲み干したろうが」

「なに! 酒がないだと!? そいつぁいけねぇ。さ、さ。もう一杯」

「おい、レイリー! お前らの船長(こいつ)止めてくれ!」

「船長じゃない! 私の事はキャプテン・ロジャーと呼んでくれ。宇宙~のう~み~は~」

 

 ゲラゲラ笑いながらロジャーは下手くそな歌を歌い出し、俺を振り回しながら甲板の上で踊り始めた。俺を振り回しながら。

 

 視線で助けを求めるも、止められそうなレイリーは酒の肴と言わんばかりにニヤついているし、その他の海賊たちはロジャーに釣られるようにキャプテンハーロックを歌い出した。こいつらハーロックにハマりすぎだろ。映像端末も取られたし。

 

 最後の頼みの綱、ジンとサトルは……指差して爆笑してやがる。あいつら、後で覚えていろ。

 

 そのまま数時間。浴びるほどに酒を飲み、腹がはちきれそうなほどに食い物を食わされ。気づけばハーロック上映会が始まって、映像が終わる頃にはほとんどの船員達も眠りにつき。

 

 そして。

 

「――ま、一献」

 

 俺とロジャーは差し向かいに座り、暗い海と波の音を肴に、ちびりちびりと酒を酌み交わしていた。

 

「随分とまぁ馬鹿騒ぎしたもんだ」

「それが海賊よ。自由に船を走らせ、自由に冒険し、自由に戦って自由に騒ぐ」

「そして自由に野垂れ死ぬ、か」

「それも海賊よな」

 

 くくっと笑ってジョッキを傾け、ロジャーはごくりと喉を鳴らした。

 

「それで。話があるんだろう?」

「よく分かったな。見聞色を覚えたのか?」

患者の言いたいこと(・・・・・・・・)を汲み取るのは、医師として重要な技能だ」

「くっ。ちがいねぇ。クロッカスにはよく見透かされるよ」

「彼は良い医者だよ。腕も、心構えも」

 

 俺の言葉にロジャーは無言で数回頷きを返し、グビリとまた一口、酒で喉を鳴らした。

 

「……胸、おそらく心臓だな」

「ああ。持って1年。そう言われてる」

 

 ロジャーの言葉に首を縦に振る。この世界だと守秘義務がどうなっているか分からず口には出せないが、実を言うとこの船に乗った初期の頃からクロッカスにも相談を受けている。外の世界の技術でならロジャーの不治の病を治せるのではないか、と。

 

 急な喀血。激痛。肺に血液が溜まり、それを吐き出しているのではないか、とクロッカスは言っていたが……恐らくは心臓のどこかに、もしくは大部分に異常がある。

 

 今は心臓の働きを助ける薬の処方でなんとか誤魔化しているが、症状を遅らせるのが精一杯。

 

 それこそ血を吐くような表情で自身の無力を嘆く彼の姿を脳裏に浮かべながら、ロジャーを見る。

 

「結論から言えば、治る」

「……そうか」

「時間はかかるだろう。設備も足りない。この世界の隅々まで回ったわけではないが、少なくともこの世界の医療設備では難しい手術が必要だ」

 

 それこそ最悪、人工心臓への入れ替えすら視野に入れなければいけない。手術が成功したとして、場所が場所だ。経過を観察する必要もある。

 

 それこそ数ヶ月は入院する事になる。

 

「だが、助かる。助けられる」

 

 そう口にして、俺の話は終わった、とジョッキを傾ける。乾いた喉を酒で湿らせながらロジャーの反応を待つ。

 

 ロジャーは俺の言葉に考え込むようなそぶりで口元に手を置き、うんうんと唸りながら暗い海に視線を向ける。

 

「それは、どのくらい時間がかかるんだ?」

「心臓ごと入れ替える必要があるかもしれん。そこからの経過も見なければいかんから、数カ月は」

「あ、じゃあ良いや。悪いな」

「「「「ええええええええぇぇぇ!?」」」」

 

 治療期間を尋ねてきたロジャーに予想される日数を話すと、最後まで耳にすることなくロジャーは笑顔を浮かべて首を横に振り。

 

 狸寝入りしていた船員たちがガバリッと起き上がって驚きの声を上げた。

 

「なんでだよ船長! せっかく治るのに」

「船長じゃない! 私のことはキャプテン」

「それはいいから!」

 

 やいのやいのと騒ぎ出す船員達はロジャーへ詰め寄ると口々に翻意を促すが、ロジャーはそれら全てに首を横に振って答える。

 

 勿論、それで諦めるような船員たちではない。ロジャーの命が救える可能性を、笑って流せるような。そんな奴はこの船には乗っていないのだろう。

 

 それは、たった数週間の付き合いであるが、仲間と呼ばれた俺にも分かることだ。

 

「それが、お前さんの生き様なんだな?」

 

 だから、俺は口を再び開いた。

 

 ロジャーは折れない。船員たちも諦めない。ならば、一番付き合いが短く、どちらの事情も見えている俺が間に入るしかない。

 

「お前さんにとっては……たった数ヶ月の停滞すらも許せない程に、今の旅路が大切なんだな?」

 

 俺の言葉に、ロジャーに詰め寄っていた船員たちの勢いが陰る。彼らにとっても、分からない感覚ではないのかもしれない。

 

 この旅路にそれぞれ乗せている思いは違えど。この旅路を、誰しもが大切なものだと思っている。

 

 そして、言葉を向けられたロジャーは。

 

 自分に向けられた俺の一言に、彼は虚を突かれたようにこちらに視線を向けた後。少しずつ口元を歪め、そして獰猛さすら感じる笑みを型作った。

 

「そうだ。そうさ――それが、俺の自由(生き様)だ!!

「……そうか」

 

 身震いするほどの威圧感。ロジャーを中心に渦巻く、覇気としか呼べない圧力の塊。それを全方位にばら撒きながら、ロジャーは笑った。

 

 その笑顔を。その言葉を耳にして、思う。

 

 ――こいつはきっと、笑って死ぬ。

 

 そんな確信めいた予感。幻視すら出来るほどのそれを覚えながら。

 

 けれど。

 

「なぁ、ロジャー。最後に賭けをしないか?」

 

 医師の仕事に、”患者の命を諦めること”は含まれていないのだ。




話の時期としては胡蝶カナエやオールマイトの少し前。

ジン・フリークス:出典・HUNTER×HUNTER
 黒夫・サトルとトリオを組んでまだ見ぬ未知のため暴れまわっていた。なお大概他の二人は巻き込まれる場合が多いため、今回は珍しいパターン

鈴木サトル、またの名をモモンガ:出典・オーバーロード
 たまに家族から離れて羽を伸ばしたくなるときだってある


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ゴール・D・ロジャー

こちらは前後篇の後編になります。
こちらを先に開いてしまった方は、前編の「海賊王」から先に御覧ください。

女の子の方の名前間違ってたので修正。ミスターパンプキンさんありがとうございます!

誤字修正。佐藤東沙様、見習い様、酒井悠人様、ゴミ君様、椦紋様、竜人機様、タイガージョー様ありがとうございます!


side.R あるいは……

 

 

 

「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる!」

 

 全身を打つ雨。数千もの人間の視線。その全てを受けながら、顔は自然と笑顔を浮かべていた。

 

「探せ! この世のすべてをそこへおいてきた!」

 

 間に合った、という感覚。達成感。後に残す者たち。追いかけてくる者たち。それら全てが脳裏に浮かび、消えていく。

 

 ああ、あれはシャンクスか。バギーの奴も。ぶっさいくな面で泣いてやがる。次はテメェらの時代だっつうのに。

 

 音が聞こえる。振り上げた刃の音。どうせ放っといても死ぬ体。無駄に苦しまずに済むなら、それはありがたい。

 

 最後の最後。いよいよ死ぬ。ああ、そういえば。1年前。たった数週間の仲間だったクロオの奴が言っていた事があったな。

 

 あれは――確か――

 

「防げ!!! ロジャー!!!」

 

 雷雨の中、確かに響いた声。聞き間違えるはずのない仲間の声に、無意識に体が反応し全身をなけなしの覇気が駆け巡る。

 

 瞬間。

 

【 龍 雷 】(ドラゴン・ライトニング)

 

ドッゴォォォォォォン!!!

 

 派手な音と共に、自身が乗っていた処刑台をのたうつ雷が砕く。覇気で全身を覆ったとはいえ、死にかけの体には耐え難いほどの痛み。

 

 抗議の意思を込めて、上空に浮かぶ仲間(・・)へ叫び声を上げる。

 

「テメェサトル! 殺す気か!」

「死んでも復活させますんで大丈夫ですよ!」

「そういう問題じゃないわこの骨太郎!」

 

 ぐっと親指を立てる骨人間――サトルのどこかズレた回答にそう再び叫び、自然と口元が緩んでいくのを感じる。

 

 こいつが居るということは。

 

「いかん! 全海兵に告ぐ、ロジャーを――」

”神避”(かむさり)!」

「ぐぅっ!」

 

 視線の先。処刑の指揮をとっていたセンゴクに、見覚えのある男が一撃を入れているのが見える。絶、といったか。気配を薄めるあいつの技術は、なるほど。確かに奇襲めいた事をやるには便利な技能だろう。

 

 それは、良いんだが。

 

「俺の技パクってんじゃねぇぞ! ジン!」

「わり、便利だからつい!」

 

 謝ってるのか謝っていないのかよく分からん言葉を吐いて、ジンはセンゴクの周囲に居た海兵たちを薙ぎ払う。相変わらずの強さにくくっと笑いが漏れ出てくる。

 

「てーことは」

 

 そして。

 

「よぅ、クロオ」

「まだくたばっていなかったか。安心したぞ、ロジャー」

「抜かせ!」

 

 背後からかけられる声。聞き覚えのあるそれに振り返ると、あいも変わらず辛気臭い顔をした異形の男がそこに立っていた。

 

 居るだろうな、あいつらがこの場に居るのなら。お前が居ないわけがない。

 

 こみ上げてきた笑いがこらえきれなくなるのを感じながらふらつく足取りでクロオに近づき――肩に腕を回す。

 

「俺ァ死ぬ気だぜ?」

 

 腕に力を込め、そう呟くようにクロオに語りかける。もしかしたら仲間の誰かがこの場に来るかもしれないとは、思っていた。レイリーはない。相棒は、俺の意思を知っている。そして、ギャバンも同じく。

 

 だが、思い浮かべれば数名、この場に駆けつけそうな奴はいる。そいつらと、あとはバレットの野郎ももしかすれば。あいつの場合は、おそらく助けに、なんて殊勝なもんじゃないだろうが。

 

 そいつらが襲撃をかけてくる可能性は海軍側も想定していただろうし、仮にやってきたとしてもどうせ長い命じゃない。ならばどう使うのも俺の自由。

 

「そう、思っていたんだがなぁ」

「それがお前の”自由”だというなら好きにすればいい。私は、ただお前に確認をしにきただけだからな」

 

 そう静かに口にするクロオの瞳は、強い光を湛えながらこちらをまっすぐに見つめていた。ただ見つめているだけだというのに、重圧すらも感じる視線。ジンやサトルがただの医者である筈のコイツを、相棒と呼ぶ理由がようやく飲み込めた。

 

 ゴクリとツバを飲み込む俺に、クロオはふっと笑顔を浮かべて手に持った酒瓶をヒョイっと俺の前に差し出した。飲め、という事だろう。

 

 ――この乱戦の! この騒動の中で!

 

「大した度胸だな、お医者先生よぉ!」

「自分の死で時代を作ろうとした男には、言われたくないな」

 

 コツン、瓶同士を軽くぶつけ、瓶口を口に含み傾ける。よく冷えた――なんだこれは、ビールなのか? ガツン、とくる酒精!喉を焼くような発泡感!

 

 美味い!

 

 思わず叫び声を上げた俺に、クロオは「だろうな」とだけ感想を口にする。サトルの奴が酒が不味いと言っていたが、たしかにこれを飲み慣れればこの世界の酒は無味に感じるだろう。

 

 久しぶりの酒というのもある。一気に全て飲み干して、ゲフッとでかいゲップを吐き。

 

「別れた際の賭けを、覚えているか?」

 

 夢見心地だった世界に、クロオの言葉が入り込む。

 

 そうだ。別れ際の事だった。俺とクロオの間で交わした、賭けにもならないような”賭け”。今際の際に脳裏に浮かんだそれを思い出し、中身の無くなった瓶を放り投げてクロオを見る。

 

「私達は、その結果を見届けるために来た」

「……相棒」

「一年ぶりだな、ロジャー。ちなみにどうなるかの賭けは成立しなかった。クロオ一点買いばかりだ」

 

 懐かしい声。もう数十年を共にした声だ。聞き間違えるわけがないその声がした方向を見れば、そこには長年の相棒。シルバーズ・レイリーの姿があった。

 

 いや、違う。レイリーだけではない。

 

 ジンやサトルに目が行っていたが、警備の海兵と戦っているのは彼らだけではない。ジンと共に大将を抑えているのは、あれはギャバン。海兵を蹴散らしているのはノズドン、サンベル、ドンキーノ! いや、それだけじゃねぇ。どこから湧いてきたのか、バカヤロウども(ロジャー海賊団)の姿がそこかしこに見えている。

 

 一年前、解散したはずの海賊団の仲間達。そのほぼ全ての姿が、たしかにそこにあった。確かに、この場に彼らは来ていた。

 

「……バカヤロウどもが」

「そのバカヤロウどもの親玉に、さぁ。答えてもらおうか」

 

 ぐっと肩に腕を回されるのが分かる。クロオの腕だ。この雨の中、何故かやたらと熱を持ったその腕は、ただの医者とは思えないほどにこちらを力強く引き寄せてくる。

 

「最後の最後の瞬間まで」

 

 顔を寄せ、横目でこちらを見ながら。

 

「未練は、抱かなかったか」

 

 燃えるような輝きを放つ瞳でこちらを見ながら、有無を言わさぬ声音で、クロオはそう口にした。

 

「……未練、か」

 

 かつて船上で交わした言葉。脳裏を過ぎっていく、忘れもしない――在りし日の宴の後。

 

『賭けをしないか』

『賭けぇ?』

『もしも、だ』

 

 今と同じように酒瓶を手に、今と同じように肩を組合い。そして……そうだ。

 

 こいつの瞳は、あの時も燃えるような輝きを放っていた。

 

「もし、最後まで未練を抱かなければお前の勝ち。好きに生き、好きに死ねばいい。後のことは、任せろ」

 

 静かに、そう語りかけるように話すクロオ。その瞳から視線をそらし、海兵と戦う仲間たちへと向ける。

 

「もし……最後の最後。なにか未練を残しているのなら――」

「その先は、言わんでいい」

 

 ふっと息を吐き。ついで深く呼吸する。この問にだけは嘘を言ってはいけない。見抜かれるから、だとかそういった事ではない。

 

 一度でも。いや、今も仲間と思っている者が、己の魂を込めて問いかけている。それに嘘でしか答えられないようなら、そいつは男じゃない。

 

 そして、この質問に対する答えなど――今の俺には、たった一つしか存在しない。

 

 ふっと笑いながら息を吐き、俺は口を開いた。

 

「嫁さんは……ルージュの奴ぁ紅い髪が似合う美人でなぁ。笑顔が綺麗でよ」

 

 瞳を閉じれば瞼にはっきりと映るその笑顔。最後の最後、いよいよ死ぬと思った瞬間。思い浮かんだのは、半生をともにした相棒でも仲間たちでもなく。

 

「――俺によぅ。もうすぐガキが生まれるんだ」

 

 最後の別れだと告げた時。涙を浮かべながら、それでも笑って見送ってくれた最愛の女の姿。

 

「名前も決めてある。男ならエース、女ならアン」

 

 ぽつりぽつりと語るその言葉に、クロオも相棒も何一つ言葉を言わず。

 

 ただ、静かにこちらを見つめている。

 

「抱き上げてやりたかった……ああ」

 

 その視線に言葉を促されたわけではない。だが、たしかにそう。これは――

 

「――未練、だ……っ!」

「……その言葉が聴きたかった」

 

 俺の言葉を受け、クロオは小さく頷きを返した。

 

「ああ。私が見届けた。今回の賭けは、クロオの勝ちだ!!」

 

 俺たちのやり取りを眺めていた相棒が、大声でそう広間に向かって叫ぶ。

 

 その言葉に、その叫びに海兵達と戦っていた仲間たちが歓声を上げ、近隣の海兵を薙ぎ払うと嬉々とした表情でこちらに向かって駆けてくる。

 

 仲間たちを追おうと海兵達が広場に向かって走り込んでくるが、その直前。半透明の壁が広場を包み、海兵を遮った。おそらくは上空のサトル。相変わらずなんでも出来るやつだ。

 

「船長が負けたってのにやたらと嬉しそうにしやがって。なんて仲間甲斐のない奴らなんだ」

「ニヤついてるぞ、ロジャー」

 

 鼻頭が熱くなるのを感じながら憎まれ口を叩くと、それを見透かしたかのように相棒、レイリーがそう言ってこちらに拳を向ける。へっと鼻で返事を返し、互いの右手と右手をぶつけ合わせる。

 

 たった一年前までは日常のように隣りにいたその感覚が、何故かひどく懐かしい。そんな俺とレイリーを見ながら、クロオは淡々とした口調でこちらに話しかけてくる。

 

「賭けに負けた以上、お前の生殺与奪は俺が握った」

「そういう話だったか!?」

「無駄口を叩くな半死人。これから厳しい治療が待っているぞ、無駄に限界まで粘りやがって。数ヶ月どころか半年は入院させてやる」

 

 クロオの言葉にうへぇ、と舌を出す。今回のことで分かった。こいつは何があっても言葉を曲げることはない。特に、医療に関しては。

 

 やるといったら本当にやる。半年もベッドの上なんて冗談じゃないが、こいつは縛り付けてでも実行してくるだろう。

 

「自分の自由を通した結果だ。素直に受け入れろ」

「嫌だ」

「暇な時間に見る映像作品は用意する」

「よし!」

 

 クロオの言葉に親指を立てて頷くと、なんとも言えない表情でこちらを見てくる。ゲラゲラとその様子を笑いながら、視線だけを動かし、遠くこちらを腕を組んだまま見守るガープに向ける。

 

 その視線に含まれた複雑な感情につい頭を下げると、顔を真赤にして透明な壁を殴り始めた。解せん。

 

「しかしこの壁、雨は遮ってくれんのだな」

「どうせ散々っぱら濡れてるだろう」

「ああ。こんな嵐の中、どいつもこいつもご苦労なことだ」

「……そうだな。お前の船員らしいよ」

「へっ!」

 

 駆け寄ってくる仲間たちの顔につい憎まれ口を叩くと、さもありなん。とクロオが頷いてこちらを見る。

 

「『雨の中、傘も刺さずに踊る人間がいてもいい』」

「あん?」

「『自由とはそういうこと』らしいぞ、ロジャー」

「ほぉ……良い言葉じゃねぇか。誰の言葉だ?」

 

 ニヤリ、と笑ってそう口にするクロオに思わずそう尋ねるも、クロオはニヤニヤと笑ったまま首を横に振り。

 

ロジャー(・・・・)・スミスの言葉さ」

 

 そう言って、俺の肩を抱えたまま、仲間たちに向かってクロオは一歩足を踏み出した。

 

「……ック。クックック」

 

 クロオに体重を預け、引きずられるように歩きながら。

 

 口元から漏れ出てくる笑いが、止められない。

 

「会ってみてぇな。その、もうひとりのロジャーに。それにハーロックにもよ」

「会えるさ。生きてさえいればいつだって」

「……ああ、そうだな」

 

 どんどん膨れ上がっていく感情。抑えきれずにこみ上げてくる笑い。

 

「サトル! この膜みてぇなのは、音も遮るのか!?」

「あー……。通す、みたいですよ!」

 

 若干自信が無さそうな声に右手を上げて答え、クロオに呟くように一つ頼みごとをする。渋い顔をしたクロオになんとか、ともう一度頼み込んでいると、不意に左腕を持ち上げられる感覚。

 

「なにか悪巧みなら手伝おう」

「……すまねぇな、相棒」

 

 俺の左腕を肩に回し、支えるように立たせてくれるレイリーにただ一言そう伝える。その言葉に何も言わずに首を横に振り、俺たちは真っ直ぐ、未だに逃げずにいる群衆に向かって歩みをすすめる。

 

 こちらを見る群衆。海兵達との戦いが始まった後も逃げず、広場を囲むように様子を見ていた彼らに向かって、深く息を吸い込み、吐く。

 

「この世の全てをそこに置いてきたといったな!!」

 

 張り出せるだけの大声。先程飲んだ酒のお陰か、スムーズに出てくる声に内心で驚きながらも、こちらに視線を向ける群衆達に笑顔を向ける。

 

「――ありゃ嘘だ」

 

「「「ええええええええっ!!!?」」」

 

 ただ一言。自身の言葉の否定。それだけで、居並ぶ民衆も、すました顔でこちらを見ていた奴も、涙を流しながら話を聞いていた奴も全てが目ン玉を飛び出してこちらを見る。

 

 その様子につい口が歪むのを感じながら、俺は再び口を開いた。

 

「この世界の全てという意味なら、嘘じゃない。この世界の全てはあそこ。<ラフテル>に置いてきた」

 

 その光景の面白さにそのまま眺めていたい誘惑にかられるが、それじゃあ話は進まない。

 

 ジョイボーイの残したイタズラを、俺たちだけで終わらせるのは勿体ないにも程がある。

 

 だから、これは繋ぐため。俺の言葉は、後に続くものを作るためだけに残していく。

 

「世界政府が隠している事実がある! この世界の外には、無限に広がる荒野がある! 点在するように存在する幾つもの世界がある! この世界全てと同じだけの大きさの世界が、この世には無数に存在する!」

 

「一面が美味いもので埋め尽くされた世界! 国民全てが宝石の体を持つ人々! 数多の空駆ける船!! この世界では決して見ることの出来ない景色が、外の世界には有る!!」

 

この世界の全て(ワンピース)は<ラフテル>にある。俺は、全てを手に入れた! だから、この世界の全て(ワンピース)を越えて――俺は、外の世界へ行く!!!」

 

「まだ見ぬ世界を求めて――俺の自由(冒険)は、終わらない!!!」

 

 己の中に宿る熱。それを言語化し、そして口から放たれた言葉を、民衆にぶつける。1万分の1でもいい。後に残る者たちに、この想いが届けばいい。

 

 ――これで良いだろ、ジョイボーイ

 

 叫び疲れ、ふぅ、と一息を入れる。そんな俺の様子に苦笑を浮かべながら、クロオが口を開いた。

 

「旅に出るならジンと共にするといい。あいつは今、世界を発見するためにあちこちを飛び回っているからな」

「ん? トリオは解散したのか?」

「……サトルの内縁の妻を甚く刺激するからな」

 

 あの息のあった3人組が、と疑問を口にするも、渋い顔をしてクロオは目をそらした。女の嫉妬か。確かにあれは怖い。

 

 だが、一先ずは体だ。今の叫び声で体力を使い切った感触が有る。流石にこの体では長期間の航海には耐えられんだろう。陸地の旅を航海と呼ぶかは分からんが、最悪オーロジャクソン号を飛べるようにすればいい。サトル辺りなら喜んで手伝ってくれるだろう。

 

 ああ、いや。その前にまずはサトルやジンが発見している世界を知ることが先か。なんせこの世界が幾つも、という規模だ。一つの世界を知るのも一苦労だろう。

 

「頭の中で皮算用を叩いている所、悪いんだがな」

「ん?」

 

 そうやって頭の中で今後の予定をたてていると、唐突にクロオが声をかけてくる。ここからの脱出についてなにかあるのか。いや、それとも。

 

 声に反応するように顔を上げて。そして――

 

「……ルージュ」

「ロジャー……」

 

 ギャバンに付き添われるように立つ最愛の女の姿に、全ての思考が止まるのを感じた。

 

「未練を残したままでは、治療もくそもあるまい」

 

 雨で濡れないように傘を指した彼女は、ふるふると体を震わせた後。傘を放り出し、こちらに向かって駆けてくる。

 

「治療は長期に渡るだろう。長年の心臓の負担。どこにどんな影響があるか分からない。奥さんと二人三脚で乗り越えることになるだろうな」

 

 隣に立つクロオが何事かを言っているが、よく聞き取れない。いや、聞き取るだけの思考力をそちらに回すことが出来ない。

 

 ふらつきながら、一歩。クロオとレイリーから腕を離し、自分の足で一歩踏み出した。体が重い、力が入らない。そんな事はどうでもいい。

 

「ルージュ!」

「ロジャー!」

 

 抱きつかれ、それを全身で受け止める。自分の女も抱きとめられず何が男、何が海賊。精神力のみで体を動かし、震える彼女の体に両腕を回す。

 

「それが全て終わった時。どこに行くも、誰と行くのもそれはお前さんの自由――ああ」

 

 抱きしめたルージュの感触と熱を確かめながら、ただ無言で泣きじゃくる彼女をあやす。

 

 ――ああ、たしかに。これは未練だ。

 

 この女を置いていくなんて、もうできそうにない。

 

「もしどこかの世界で俺のそっくりさんを見かけたら、こう伝えてくれ」

 

 背後にかけられるクロオの言葉が、徐々に聞こえなくなっていく。世界が、俺とルージュだけになる。

 

ブラック・ジャックをよろしく(あとはまかせました)……聞こえてないか」

 

 もう、この手を放すことはない。たとえどこまでも続く旅路の果てだとしても。

 

 きっと。




前話「海賊王」から一年後。黒夫くんがチキュウエリアに移るちょっと前くらいのお話です。
交渉中の世界になんでモモンガ様堂々とぶっぱしてるかって?
交渉決裂してるからです

ゴール・D・ロジャー:出典・ONE PIECE
 言わずとしれた海賊王。大海賊時代は不発した?が世界政府はそれどころじゃない騒動に巻き込まれるので最大最悪の犯罪者の名前は不動のものとなる

ロジャー海賊団の面々:出典・ONE PIECE
 さらなる冒険の旅路が待ってるぜ! 美味い飯ばっかの世界ってどこ?と割とノリよく異世界移動。なお見習いはまだ早いと置いていかれた模様。


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テンカワアキト

古き良きナデシコ二次を目指しました(成功したとは言ってない)

誤字修正。げんまいちゃーはん様、たまごん様、佐藤東沙様、Paradisaea様、北犬様、乱読する鳩様、酒井悠人様、仔犬様ありがとうございます


なんか変な誤字?被り?があるので修正。もし他にもありましたら誤字報告頂ければ嬉しいです!


「少し、昔の話をしよう」

 

 

 

 

 ワイワイと騒ぐ店内。俺の料理に舌鼓を打つ人々。

 

 長年願った夢。奪い去られ、一度は完全に諦めた夢の光景。

 

 この光景を見る度に、胸をこみ上げてくる熱い感情と。脳裏に焼き付いた悪夢を思い出さなければいけない不快感を飲み込んで。

 

「酒の肴になるかは、分からんが」

 

 ちらっと店の最奥に目を向ける。そこに毎日のように座る人物は、突然押しかけてきた迷惑な友人とやらに絡まれて迷惑そうな表情を浮かべている。

 

 その姿にすっと不快感が消えていくのを感じ、夫婦揃って随分と依存してしまったと苦笑を零す。

 

 彼に頼まれたのなら、仮に命を賭けろと言われても否やはない。膨大すぎるほどの恩を少しでも返せるなら。

 

「全てを失った男が、復讐に走る。よくある話さ」

 

 昔の恥を口に出すなんて、どうという事もない。

 

 

 

 

 

 テンカワアキトの人生は、運命に翻弄されつづけるものだった。

 

 幼い頃、研究者だった両親を事故――後に暗殺だったと聞かされた――で失い、天涯孤独の身となり。それから18歳になるまで、両親が残した遺産で細々と火星で暮らしてきた。そのまま火星で一生を終えるのか。そう思っていた矢先に起きた戦争。木星蜥蜴と呼ばれる機械仕掛けの虫達によって故郷は焼かれ、助けようとした少女を助けることが出来ずに失い。

 

 虫達の攻撃で殺されたと思ったアキトは、気づけば火星から何故か見知らぬ土地――地球に降り立っていた。

 

 地球での生活は、厳しかったが楽しくもあった。土の痩せた火星では美味しい作物は育たない。だから、そんな作物を魔法のように美味しく調理するコックに憧れていた俺は、調理師免許を持っていたのもあり住み込みで働かせてくれる食堂にお世話になる事ができた。

 

 時折来る木星蜥蜴襲撃の報に怯えながら、食堂の主、サイゾウさんの指導を受ける日々。半年ほどそんな生活をしていたある日、アキトは食堂を追い出される事になった。臆病なパイロット崩れを雇えない、そう言われて。

 

 途方に暮れながら荷物を担ぎ、自転車を漕ぎ当て所なくうろついて。偶然出会った幼馴染を追いかけたら、宇宙戦艦ナデシコへ乗艦する事になり。気づけばコック兼パイロットとして木星蜥蜴と戦う日々の始まりだ。

 

 意味がわからないだろう? 笑っちまうが、本当に気づけば、としか言いようのない流れだった。

 

 今、思い返してもなぜそんなことになったのか。運命、としか思えない出来事ばかりの日々だった。友となれた筈の男と死に別れ。新たな仲間との出会いと別れ。そんな日々を繰り返し、必死にあがき続けて。そして戦争の元となった火星の遺跡を外宇宙へ捨て去り、地球と木星の戦いは終わった。

 

 ナデシコクルーは、それぞれの道を歩み始めた。

 

 戦争の結果に納得がいかなかった木星側の残党は気になったが、それも終わった出来事だと思っていた。軍を退役したアキト達が関わることはないだろうとの思いもあった。ユリカと、ユリカが引き取った元ナデシコクルーの少女ホシノ・ルリと共に、屋台を引きながらラーメンを売り歩く毎日。

 

 裕福ではなかったが、ようやく手に入れた穏やかな。幸せな時間。戦いの日々は過去の事になっていた。

 

 だが、ハッピーエンドの後も物語は続く。

 

 アキト――俺たちは、その事に気付くのが遅すぎた。

 

 全てが、遅すぎた。

 

 

 

「脳味噌を内側から捏ねくり回される、とでも言えば良いのかな」

 

 カラリ、と音を立ててグラスの中で氷が回る。

 

 過剰投与されたナノマシンは俺の神経をヤスリで削り上げるように攻め立て、耐え難い苦痛を与えてきた。空き時間、戯れのように兵士から受けていた暴行なぞそれに比べれば可愛いものだ。そのまま殺してくれ、と何度思ったことか。

 

 あの日。ユリカとの新婚旅行にでかけた日、シャトルに乗り込んだ俺達を待っていたのは、地獄の日々だった。

 

 事故に見せかけて連れ去られたシャトルの乗員たちは全てが火星出身者や関係者だったという。火星生まれの人間は遺跡とナノマシンの影響により、CCクリスタルがあればどこにでも移動できるA級ジャンパーとなる。

 

 つまりこのシャトル自体が、火星出身者を集めるための大掛かりな罠であり。俺とユリカもまた、その罠に捕らえられたというわけだ。

 

「最初に服を剥ぎ取られてね。連中、俺たちを完全に実験動物か何かにしたかったんだろうな。俺はYの2531だったかな。ユリカはSの……なんだったか」

 

 何度も呼ばれていた自分の番号は今でも思い出せるんだが。苦笑を浮かべるも、それに返ってくる言葉はない。まぁ、相槌を打つことも難しい話なのは分かっている。

 

「俺たちを捕らえた木連……木星側の残党は、ボソンジャンプという転移手段を手に入れようとしていた。この世界では使えないが、俺達の世界ではこのボソンジャンプが唯一の空間転移手段でね。これを手に入れた物が世界を制する、だとか。まぁ、そんな事を言われていたっけ」

「それを使うには、テンカワさん達A級ジャンパーが必要って事ですか」

「いや。正確に言えば俺たちは自分で転移先を決定出来るって位で、必ず必要って程でもない。必要なのはボソンジャンプの要である火星の遺跡。後は、ジャンプ先を設定する演算ユニットがあれば良いんだ」

 

 実際、ただ一人の演算ユニット以外は廃棄処分にされる予定だったのだから。ボソンジャンプを独占したかった奴らにとって、演算ユニット以外のA級ジャンパーは邪魔でしか無かったのだろう。実験に使えるだけ使ったら、後はポイっと捨てるだけだ。

 

 俺の廃棄処分が決まった日。実験――拷問を担当していたサディストは、嬉しそうにその事を俺に告げていたな。体をもがかせて逃げようとする俺を薄気味悪い笑顔で眺めながら、白衣を着た科学者は呪文のようにこう唱えていた。「正義のために」と。

 

 正義のために数百人にも及ぶ老若男女を使い潰し。正義のためにその数十、数百倍の人間を戦火に巻き込んだ。どれだけの人間が死のうとも、連中にとってはそれも仕方のない犠牲とやらだったんだろう。

 

 ――人間が、最も残酷になる時。それは自分が正義だと確信した時。その時、人は人の皮を被った悪魔となる。

 

 自分が正しいことをしていると思い込んだ時、善人の皮を被った悪魔は姿を表し、戯れのように厄災を振りまく。

 

「次元統合が始まったのは、正にその瞬間だった。運が良かったよ。統合が始まる前から救出部隊は動いていたらしいんだが、アレがなければ間に合わなかったかもしれん」

 

 なにせ統合によってボソンジャンプは使えなくなったのだ。自分たちの正義を執行するための玩具が使えなくなった。それを聞いた時の連中の顔は、中々に見ものだった。

 

「ボソンジャンプが使用できない理由は現在も判明していない。一番有力な仮説は時間移動に類する転移手段だから、というのだったかな」

 

 チキュウエリアにいるドラえもんというロボットが持つタイムマシン。ボソンジャンプと同じく統合以後使えなくなったその機械とボソンジャンプの共通項は時間を飛び越えるという点。

 

 他にも時間に関する技術はあるにはあるが、過去に飛ぶ力を持つ技術は全て使用できなくなった。現在では最もあの技術に精通していると言えるアイちゃん――イネス・フレサンジュも太鼓判を押す事実だ。

 

 もう、ボソンジャンプが原因で俺とユリカが何かに巻き込まれることはない。

 

 ――――それがなんの慰めになるというのか。

 

 ……月臣に助けられ、数日の間意識を失い、ようやく目を覚まし。視界に映るのは吊り下げられた点滴と白い天井。そして側で涙を流しながら縋り付くアイちゃんの姿を目にしたあの日。

 

 自分が生き残ったことに現実感を持てず、自分だけが助かったことに理解が追いつかず。ユリカが隣に居ないことにすら気づかず。

 

 体を動かすことすらままならない俺を補助するようにつきっきりで世話をしてくれるアイちゃんにか細い声で感謝の言葉を呟きながら。彼女の手に持つスプーンが口に運ばれたあの時を。

 

 あの時の事を俺は生涯忘れることは出来ないだろう。

 

「最初に食べたのは、確かおじやだったと思う」

 

『ああっ……ああああああああぁ!!』

 

 口の中に広がる感覚。何かがあるという事しか分からない。食感も、味覚も、何もかもが失われたその感触。

 

 味覚が戻った今は最早思い出すことも――思い出したくもない、無の世界。

 

「塩を取ってくれと頼んだんだ。味付けがされていないと思って」

 

 俺の言葉に笑顔で了承を伝えてきたイネスの顔を思い返す。泣き笑いのような、何かを悔やむようなそんな笑顔を無理やり浮かべた、酷い表情だった。

 

「どれだけ塩を振り掛けても、意味なんかないのにな」

 

『ああああ! あ”あ”あ”あ”あ”!!』

『テンカワ、止せ!』

『おにいちゃん、止めて!!』

 

「味覚がね。なくなっていたんだ。いや、感覚系統は全て、かな。特に酷かったのが味覚ってだけでね」

 

 その後の事は、実はよく覚えていない。俺を押さえつけた月臣曰く、俺はただただ絶叫しながら右手を壁に打ち付けていたそうだ。何度も、何度も。半死人と言える状況の中、信じられないような力で壁を殴り続けたそうだ。

 

「妻を奪われ。夢を奪われ。未来すら奪われ」

 

 瞼に焼き付いた地獄の底の底から見上げた正義の味方の目を思い出しながら言葉を吐き出す。思い出したくもない光景。だが、忘れられない光景。

 

「後に残ったのは、憎悪だった」

 

 拉致されたときでも、拷問を受けたときでもない。ユリカを失った事。味覚を失った事。その二つを自覚したあの時、あの瞬間がテンカワ・アキトの死だった。

 

 あそこでテンカワ・アキトは死んで、そして今のテンカワ・アキトが生まれた。

 

 

 

 リハビリには一年近くかけた。途中でラピスとの感覚の共有が出来なければ、まともに体を動かすことも出来ずに死んでいただろう。体が動くようになってきてからは、リハビリと並行して月臣による戦闘と機体操縦の訓練を受け。

 

 後に統合軍と呼ばれるモノに火星の後継者たちが参加した頃合いから、俺と奴らの戦いは始まった。

 

「連中、世界が違えど世界に自分を合わせる、なんて器用なことは出来ない奴らばかりでな。世界が無駄に広がったせいで各地に根を張ろうとしていたから、それを一つ一つ潰すのは手間だった」

 

 なにせ奴ら、タイヨウ系エリア群に防衛機構が入ってくる際に手を貸して、各地に自分たちのシンパを送り込んでいたからな。

 

 ユーチャリス(戦艦)があったとはいえ、ボソンジャンプが無ければただ空を征くしかない。エリア間の移動に難儀したのは、記憶に新しい。

 

「だが、防衛機構に中途半端に入り込んでいたのはこちらにとってもありがたかった。連中のリストと赴任先(居所)をルリちゃん……ホシノ中佐が把握できたからな」

 

 まぁ、ネルガルの隠し工房に彼女がやってきた時はどうすればいいか分からなくなってしまったが。

 

 防衛機構に所属する際、原作持ちであれば必ずあることをしなければいけない。

 

 そして、どうやら自分やルリちゃんはそういった原作持ちの中でも、中々に著名な存在であったらしい。

 

「工房に入ってきた時は、びっくりするほどの無表情だった。初めてナデシコに乗り込んだ時、初対面の時を思い出したよ」

 

 原作を見た彼女は、そのままネルガルにハッキングを仕掛け、俺達の居場所を突き止めたそうだ。

 

 護衛にサブロウタだけを連れてやってきた彼女は、最初に自分。その次にラピスと、ばつが悪そうな顔を浮かべるイネスに視線を向け。

 

 ポロポロと涙を流しながら、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 

「――駄目だな。女の涙には、勝てない」

「わかる」

「お前はそもそも嫁に勝てない、だろ」

「育児放棄のクズは言うことが違うな?」

「テメー、いつまでも引っ張るなっつってんだろうが! 今は一緒に居らぁ!」

 

 苦笑を浮かべながらそう口にすると、髭面の客人達と先生がゲラゲラと笑いながら相槌を打ってくる。場の空気が少しだけ軽くなったのを感じ軽く会釈を送っておく。

 

 そしてふと見れば、カウンターに座る面々のグラスが空いているのに気づいた。どうも集中しすぎてしまっていたようだ。すこし一息入れる意味も含めて、空いたグラスに酒を注いでいく。

 

 トキ先生の弟が作ったという酒。荒けずりだが、悪くはない。

 

「こっちにおでんを追加してくれ。仲間以外が作るおでんは初めてだが、こう、なんだ。出汁が違うっていうのか? こいつも悪くねぇな」

「こっちはラーメンをくれ。久しぶりに食いたくなってきた……ああ、カップヌードルじゃねぇぞ?」

「なぜ俺を見ながら言った」

「かしこまりました」

「あ、テンカワさん。こっちにもおでんを」

「肉」

「はいはい」

 

 一気に場が騒がしくなる。俺の邪魔をしないよう、皆気を使ってくれたのだろう。職務を忘れていた事に恥ずかしさを感じながら、注文を捌いていく。一通り注文を片付け、時計に視線を向けるともう結構な時間だ。

 

 余り引っ張るのも悪い。そろそろ本題に入るべきだろう。

 

「そこから先は、お客人以外の面々は知ってるだろう。カセイエリアに散って勢力拡大を狙う連中を相手に破壊活動を行っていた。連中が先生にご執心になってからは、良く顔を合わせたっけな」

「学園都市が最初だっけ。良い腕してるな、って思った」

「お前と空中ですれ違った時、正直肝が冷えた。こいつと北辰を同時には相手できないと思ったからな」

 

 迎撃のために打ち出されるミサイルや銃撃を軽々と躱し、右目から迸る赤い焔を牽きながら学園都市に向かって飛んでいく鬼神の姿を思い出す。負けるつもりはない。

 

 だが、勝てるかと言われれば厳しいと言わざるを得ない。

 

「それで」

 

 それまで黙り込んでいた、今回の主賓客。黒い様相の男が、グラスを一気に呷りそう口にする。

 

「なぜ、俺にその話を聞かせた」

 

 黒い男。ガッツと呼ばれた男の言葉に、テンカワ食堂の店内に再び緊張感が張り詰める。男の纏う空気が、一段と重くなったからだ。

 

「お涙頂戴のつもりか? それとも、復讐はくだらねぇ、とかいうおためごかしか?」

 

 一言、一言。ガッツが口を開く度に、彼の言葉に灼熱のような憤怒が散りばめられていく。

 

 浴びせかけられた怒気に、だがその事実が心地良い。

 

 くっと頬を釣り上げ、ガッツの言葉に静かに首を横に振り。

 

「――俺がアキトに依頼したからだ」

 

 俺が返答をする前に、店の最奥から声が飛ぶ。

 

「先生」

「すまんな、アキト。あまり吹聴したくない話だったろうに」

「いえ。この場にいる人間には、いつか話そうと思っていた事なので」

 

 先生――ブラック・ジャックの言葉に、首を横に振る。

 

 外との流通を一手に担うオルガ。先生の代わりに村医を務めることもあるトキ。欲を言えば今は村外に出ている忍び衆のまとめ役である弦之介にも知っていて欲しい事情だ。今の状況で自分たちが狙われる事はほぼ0だろうが、火星の後継者の残党が根絶やしになったとは限らない。外との関わりを持つ者。それと自身と妻の体を見せなければいけない相手には、情報を渡しておきたかった。

 

 ――まぁ、約2名ほど。先生に絡んで来た余計な人間がいるが。先生の友人という事だし下手に吹聴するような事はないだろう。

 

「今回の治療は、長期に渡る。施術は一度で終わるが、それからが本番と言えるものだ。心ってのはそれだけ面倒で、慎重にならなきゃいけない」

 

 そんな俺の内心をよそに、先生は淀みなく今後の予定をガッツに語り始める。そもそも俺は精神科医じゃないんだがな、とじろりと隣に座る男を睨みつけながら。

 

 先生の言葉に、男から感じる憤怒の感情が途切れる。彼にも分かるのだろう。この眼の前で友人に愚痴を零す人がどういった人間なのかが。

 

 この人は、裏切らない。患者を決して裏切らない。助けるとか、助けられないという話じゃない。そこじゃないんだ。

 

 医者の嘘は方便という言葉がある。望みがないのに信じさせ続けるのは残酷なことだと言う人もいる。事実だろう。それは、俺も分かっている。

 

『少し手間だな。だが、治せる』

 

 戦いも佳境。ほうぼうに散っていた残党を少しずつ潰し、後少しで復讐が終わるという時分。騙し騙し壊れかけた体を使っていた俺と初めて会った時。先生は少しの検診の後、そう俺に告げた。

 

 信じられなかった。

 

 俺の知る最も優れた科学者にして医者であるイネス・フレサンジュですら口を濁した俺を。俺の体を軽く見ただけの医者が、よくも治るなどと。

 

 激高し、胸ぐらを掴んだ。なんと叫んだかは、覚えていない。ただ、口汚く罵っていたことだけは間違いない。右拳を振り上げ、殴り飛ばそうとし。

 

『――――っ』

 

 合わさった視線。燃えるように静かに揺らめく瞳の光に射抜かれて、蛇に睨まれたカエルのように動きを止めた俺に。

 

『治るんだ』

 

 胸ぐらを掴む俺の左手に手を添えて、ただ一言そう告げた先生の姿。この人の言葉は、嘘や方便なんかではない。そう信じさせてくれる、残酷なほどの力を持っていた。言霊、とでも言うのか。ああ、そうなんだと、腑に落ちたかのように体の中に先生の言葉は染み込んでいった。

 

 ――脳裏に刻まれた正義の味方どもの姿は、もう生涯消えることはないだろう。だが、もうそれは俺にとってどうでもいい事になっていた。

 

『だから、諦めないでくれ』

 

 瞼の裏に焼き付いた正義の味方どもの姿を消し去って余りある、本物の姿。正義なんて言葉じゃない。人を救うのは、そんな言葉なんかじゃない。

 

 人を救うのはいつだって希望と、そして救われようとする自分自身の心なんだから。

 

 

 

side.K 或いは蛇足

 

 

 

「……つまり、キャスカの世話役に店主の」

「そうだ。女性にしか分からない、言えない悩みというものは多い。特に似たような境遇の存在は、弱音を吐きやすくなる」

 

 そして、”弱音を吐く”というのが本当に難しいものもこの世には存在する。

 

 目の前に座る男性、ガッツの恋人の話を聞き、最初に頭に浮かんだのはユリカくんの事だった。テンカワ夫妻は夫婦揃って人体実験の被害者となり、精神と肉体に多大な障害を負っていた。いや、今もまだ悪夢に魘される事がある以上、完治したとは胸を張って言えない状況である。

 

 本来ならば彼女に負担がかかるような事はしたくない。だが、これは一つの好機でもある。

 

 弱音を吐くという事が出来ないのは、ユリカくんも同様。夫であるアキトにも吐き出せないような心の闇は、彼女にも存在する。

 

 完全に同一の状況ではない。だが同じような経験を持つ存在と話す事は、彼女達の心理ケアに役立つだろう。

 

「…………わかった。よろしく、頼む」

「承った。全力を尽くそう」

 

 僅かな葛藤の後。頭を下げるガッツに頷きを返す。彼女の治療は、長期に及ぶだろう。だが、それほど心配はしていない。聞けば一度は完全に心を壊され、バラバラにされた彼女は今、正気を取り戻しているという。

 

 俺が行うのは最後のひと押しと、その後のケア。彼女の魂に根付く彼女を縛り付ける見えない茨を取り除き、心を落ち着ける事ができる環境を作り上げるだけだ。彼女やガッツの首筋に刻まれた印は闇に潜む何かを引きつけるというが、ここに彼らが到着してからこちらそういった妖の類が襲ってくるという様子も見えないし、ここに居る住民も病人にちょっかいを掛けるような者は居ない。

 

 ――病人としか思えない目の前の男にちょっかいを掛ける悪い娘は居たが、今はなのはくんが相手をしてくれている。明日になればケロッとした顔で姿を見せるだろう。

 

 ……なのはくんには、少し悪いことをしたかもしれん。後でなにか埋め合わせをしておくべきだろう。

 

 だが、今はその前にやるべきことがある。

 

「キャスカくんの話は終わった。次は、お前さんだ」

「なに? 俺は、どこも」

「右目と左腕。そして長い戦いで積み重なった全身のダメージ。それだけでも長期入院させたいところだが」

 

 白髪化した前髪に目を向ける。自身に向けて言うようでなんだが、白髪化なぞそうそう起きる事ではない。そして初めて会ってから感じる目線の違和感。自宅で出した茶を飲んだ時、その味に驚く周囲の中一人何事もないかのようにカップを傾けていた姿。

 

 あのお茶を初めて口にして、そんな反応を返したのはただ一人。

 

 被るのだ、この男の姿は。

 

 かつて、初めて会った時のテンカワアキトに。

 

「視界、大分狭くなっているな」

「……」

「それに味覚が狂っているんだろう。治療前のアキトを思い出す」

 

 俺の言葉に肯定も否定もせず、ガッツは小さくため息を付いた。

 

「何故、アキトに話をさせたのか聞いていたな。お前さんの境遇が、現状がアキトに似ていたからだ。だから聞かせた。今、そこに立つアキトの話を」

 

 明日の仕込みを無言で行いながら、アキトは俺の言葉にくっと頬を釣り上げるように苦笑を浮かべる。つい1年前まで、アキトはラピスの助けがなければ一人でまともに歩くことも出来ない状態だった。目の前に座るガッツよりも症状は酷かった。なにせまともに生きられるか、というレベルの状態だったのだから。

 

 俺の言葉に肯定も否定もせず、

「……で、お医者先生は何がいいたいんだ?」

 

 焦れたようなガッツの言葉。その言葉にふぅ、と一つため息をつく。そうだな、何がいいたいのか。この男にかけるべき言葉が頭の中を浮かび、消えていく。

 

「その腕で」

 

 下手な言葉をかけるつもりはない。無理やり治療をするなんてつもりも、ない。

 

「掴もうとしたものを掴み取れるのか?」

 

 だから、自然と口からは疑問の言葉が湧き出てきた。

 

 俺の言葉に、返答はない。虚を突かれたかのようなその表情を見ながら、湧き出る言葉を口にし続ける。

 

「その瞳で、守るべきものを見失わずにいられるのか?」

「…………」

「感覚を失い。髪が白く染まるほどのダメージを受けて体が無事でいられるはずがない。騙し騙し戦い続けられても、やがて限界は来るだろう。たとえどれほどお前の精神が強靭でも」

 

 精神力で肉体を支えている。それが出来る人間がどれほどいるか。ロジャーが気に入るはずだ、と内心で独り言ちながら、何も言わないガッツに視線を向ける。

 

「戦うなというわけじゃない。復讐を諦めろなんて詰まらんことも言わん。先に言った通り好きに生きればいい」

「だったら……」

「その前に。お前はここで、体を癒やすべきだ」

 

 ガッツの言葉を遮るように、そう口にする。少し喋りすぎたか、のどが渇いた。グラスに残った水を飲み干しテーブルの上に置く。

 

 カウンターの向こうで仕込みをしていたアキトが、それに気づいてすっと水差しを持ってくる。ありがたく水差しを受け取りコップに注いでいると、アキトはそのままカウンターの内部に戻らず無言で葛藤するガッツに視線を向けた。

 

「あんまり悩むなよ。この人、色々言ってるがお前を応援してんだぜ。ええと、ガッツ、さん」

「おい」

「……ガッツでいい」

 

 アキトの言葉に顔を上げたガッツ。じろり、とアキトを睨みつけると、苦笑を浮かべてアキトが軽く頭を下げてくる。余計なことをしているという自覚があるなら仕込みに戻って欲しいんだがな。

 

「こう見えてこの人。俺やお前さんよりも年季の入った復讐者だからさ。あんたを治したいってのも、掛け値なしの本音なんだ。この人は、そういう人なんだよ」

「おい、アキト。それぁ漫画の」

「分かってますよ、間先生。でも、今は良いでしょう」

 

 アキトの言葉に、ガッツは無言で俺を見る。いや、全然良くないぞ。それは俺じゃなくてブラック・ジャック先生の話であってだな。

 

「お前さんたちの世話は、俺とユリカが請け負う。暫く時間もある。だから、ゆっくり考えてみてくれ」

「………………ああ。そう、だな」

 

 その言葉に頷ける所があったのか。ガッツは小さく首を縦に振り、手に持ったグラスを眺めながら考え込むように黙り込む。

 

 無言でアキトに視線を向ける。ね、言ったでしょ? とばかりに微笑む姿に確かに助かったんだが違う、そうじゃないと首を小さく横にふる。折角先入観抜きで、医者として、接することのできそうな相手だったというのに。

 

 俺の視線に気づいてか気づかずか。そのままガッツと今後についてを話し始めたアキトに一つため息を吐く。

 

 助かったのは、事実だ。俺を見かねてか声をかけてくれたおかげで、アキトとガッツの間で接点が出来た。ガッツは話してみる限りかなり頑固な一匹狼タイプに感じるが、一度懐に入れた相手はかなり気をかけるタイプだろう。

 

 精神を癒やすのは時間と環境。この二人にとっても、互いの関係が良いものになってくれることを祈ろう。

 

 さて、仕事は終わりだ。俺は精神科医ではないというのに、あいつら医療関係なら俺に振ればなんとかなるとか思ってるんじゃないだろうな?

 

 神様、神様! どこからこっちを見ているかもわからない神様!

 

 俺の心の安寧のためにも! 次の統合ではブラック・ジャックをよろしく!

 




テンカワアキト:出典・機動戦艦ナデシコ
TV版と劇場版を連続視聴してその落差に本人すらため息が出たらしい。

ガッツ:出典・ベルセルク
キャスカの治療のため、自分の住む世界を離れマリネラ山中へやってきた黒い剣士。
烙印の影響がない夜に戸惑いを感じながら、仲間と過ごしている。

髭面の男:出典・ワンピース
前作主人公コンビの片割れ
面白そうな場所に住んでるなお前、と黒夫に絡んでいる

育児放棄してた男:出典・HUNTER×HUNTER
前作主人公コンビの片割れ
2軒めに行くはずがマリネラ山中で忍びと鬼ごっこになった。反省している。

オルガ・イツカ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
前作主人公コンビに巻き込まれて決死の山中踏破を成し遂げた。

三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
楽しかったらしい


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如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか

新年あけましておめでとうございます(白目)
大変遅くなり申し訳ありません。
こちらは前後篇の前編となりますので、合わせてご覧いただければ幸いです。

誤字修正、佐藤東沙様、拾骨様、コダマ様ありがとうございました!


 ――空を駆ける列車に乗り込み、私達は故郷の空をいく。

 

 

 

 行き先は分からない。ただ、安全な場所だという説明だけを受けての汽車の旅。知り合いも、そうじゃない人も。友達も、友達じゃない人も含めて私達は防衛機構に保護された。

 

 共に乗り込んだ友人の、くすん、と鼻を啜る音がする。窓の外を流れていく風景を眺めて頬に涙を浮かべる彼女を、傍らに佇んでいた彼女の双子の姉が無言のまま抱きしめた。

 

 二人の様子に、心の底に溜まったヘドロのような感情が表に出てきそうになるのを、大きく息を吸って堪える。彼女たちが悪いわけでも、私が悪いわけでもない。それでも、この現状が。泣き言を言いたくなる現状が、強いストレスとなって襲いかかってくるように感じて――ふぅ、とただ呼吸するようにため息を偽装して、胸の中のもやもやを口から吐き出した。

 

 視線を横にずらす。双子の家族と私の父が顔に暗い影を落としながら話し込んでいる姿が目に映り、余計に気分が落ち込んでいくのを感じて私は頭を振った。

 

 少し、席を外そう。できるだけ音を立てないように立ち上がり私達に割り当てられた寝台車から隣の車両へと足を向ける。

 

 なんで、こうなったんだろう。ぼんやりとした思考でそう考えながら、すれ違う人を避けながら、私はどんどんと先へと歩み続ける。

 

 漫画やアニメは好きだった。そう、それは嘘偽りなく言えることだ。

 

 作家をしている父親は所謂ヲタクと呼ばれる趣味嗜好の人物で、資料と称して様々な漫画やアニメのビデオを所有しており、幼い頃から彼を見て育った私が立派な漫画ヲタクになるのは、まぁ当然の帰結といえるだろう。

 

 漫画やアニメのキャラクターたちを見て育ち、当然のように彼らに憧れて。世界を救うような冒険をしたい。特別なナニカに目覚めたい。中二病なんて呼ばれる、ほぼ全てのヲタクが疾患する不治の病にこれまた当然のように侵されて。そしてそれを証明するかのようにあの人。

 

 黒い男が、目の前に現れた。

 

「……ふふっ」

 

 ピタリ、と足が止まる。思わず漏れてしまった笑い声。非日常をどこかで求めていた自分の前に、彼は唐突に現れた。あれが、全ての始まりだったのかもしれない。

 

 いや、彼が全ての原因だなんて言うことは出来ない。だって、彼はただ私と言葉をかわしただけ。私が彼を追い求めたのは私の都合だし、私達がこの列車に乗り込む事になった事に彼は少しも関与していない。私は私の望むまま、思うままに行動していたし、私達が故郷を追いやられることになった原因も、自分たちの都合で私達を襲ったのだ。

 

 いつか起きることが、たまたま今起きた。それだけの話だった。

 

 今回の顛末は、それだけの話なのだ。そして、たまたま。私達は、そうなる生まれだった。

 

 ――まさか、自分がその漫画やアニメの登場人物で。しかもメインキャラクターで。それが原因で、住んでいた世界を追い出されるように逃げ出す羽目になるなんて、少し前までは思いもしなかった。

 

「あはっ」

 

 つい先日。助けられた後に読まされた本。自分がメインキャラクターを演じている漫画を目にした時を思い出し、今度ははっきりと笑い声が出てくる。笑ってしまうしか無いだろう、あんなものを見せつけられては。笑うしか無いだろう。自分が創作物の登場人物なんだとはっきり見せつけられては。

 

 よろけるように近くの椅子にもたれかかる。この事を考えると、どうしようもないほどに体に力が入らなくなるからだ。まともに立っていることも出来ずにそのまま椅子に座り込む。

 

 黒い男を追い求め、色々と探っていた自分でこれなのだ。何の覚悟もなく襲われ、故郷を奪われた友人たちが憂鬱にくれるのも仕方のないことだろう。仕方のないことだと分かっているのだ。

 

 ――分かっているけれど、もっとうまく立ち回ることができていれば。自分がもっとうまく対処できていれば、彼女たちは住んでいた場所を追われずに済んでいたのでは。父が、母との思い出がこもった家を手放す羽目にならなかったのでは。

 

 そんな、どうしようもない後悔ばかりが頭に浮かんで、消えていき。

 

 こらえきれなくなった涙が視界を歪め、頬を伝い、そして――

 

「やぁ、お嬢さん」

 

 うつむいた私の頭上から、その声は降ってきた。

 

 見上げたそこには、赤。

 

「Fire Bomberは好きかい?」

 

 赤一色の服を着た黒髪の誰かが、滲む視界の中私を見下ろし。

 

 そう言って、笑った。

 

 

 

 

 

統合歴元年 始まりの日

 

 

 異物が混ざり込む瞬間というのは、存外分かりやすいものだ。

 

 その日。かつてドラキュラと呼ばれていた男は空を見上げた。世界がかつて己が知っていたモノではなくなった事を、夜空に浮かぶ月がもうかつてのものでないことを察したためだ。

 

 愛しき主にその事を告げると、彼女は訝しむような表情を浮かべながらも関係各所に連絡を取り始めた。彼の言葉は酷く抽象的で分かりづらいものだったが、無駄なことを口にする男でもない。明敏な頭脳を持つ彼女は彼の言葉をそう判断し、放置するべきではないと結論を下した。

 

 程なく、彼の言葉が正しかった事は証明された。

 

 地球は、球状ではなくなっていた。平べったい、果実を大地に落としたかのような楕円状に広がる何かへと成り果ててしまったのだ。

 

 イギリスから西に船を走らせてもアメリカにはたどり着かず、どこまでも続くようなゴムのような土が続く大地が広がっている。科学全盛の時代に天動説が蘇ったかのような光景。

 

 その果てになにがあるのかを確認するために旅立った者たちは帰ってこなかった。途絶えた衛星からの信号と一切の連絡が途絶えた調査隊の存在は、その果てにあるモノがどういう物なのかをなんとなしに示しているかのようだった。

 

 ――男の仕事が増えた。それを察知することが出来る存在は、それほど多くはなかった。故に、彼にお鉢が回ってきたのだろう。男にも男の仕事があったが、それは少なくとも現状、十分に替えが用意できるものだった。故に、外から来るナニカに備えるために、彼の上司は彼を動かした。

 

 

 

 そして、またもや彼の上司の判断は正しかった。

 

ジャイアント(G)ごきげんよう!』

 

 巨大な人型のナニカが眩く光る蝶を従え、人類の感知圏を超えて西の海を渡る。ロンドンに迫ったそれは警戒する空軍の戦闘機を羽虫のように散らし、人間の英知の結晶たる科学の名誉を丁寧に溝の底に叩き落とした後。彼の主人が仕える王朝の、宮殿前に降り立った。

 

 居並ぶ精兵達の銃口を物ともしない人型のナニカから放たれた言葉が、日本語の挨拶であると知ったのは後ほどの事だった。少なくともこの時、其の場に居た男にはその意味が伝わらなかった。

 

 だが、闘争の気配に気を昂ぶらせていた男にはそれで構わなかった。意味など伝わらなくても、相手の意図は伝わったからだ。

 

「極楽蝶を届けて早幾万里をかけ」

 

 巨大な人型から、人の声が聞こえた。

 

「果てることなき大地を征きようやく人の住まう地にたどり着いたと思っていればな」

 

 ふわりと、それは数十層のビルに匹敵する高さから飛んだ。豊満な肉体を包むドレスを風にたなびかせ、何十メートルもの高さから音もなく石畳の上に舞い降りたそれは、美しい女の姿をしていた。

 

 ゾクリと、男の鼓動を止めた筈の心の臓が昂ぶりを告げる。ただ降り立ち、言葉を発しただけのその女に、男は視線を奪われた。

 

「面白いモノが居るじゃないか」

 

 誘うような女の視線に、男は半月のように口角を吊り上げる。

 

 ――イイ女だ。おそらく人ではない。けれど、どこまでも人の気配がする。良い、女だ。

 

 むしゃぶりつきたくなるような魅惑の誘いに、男の足は自然と前へと踏み出される。

 

 浮遊感、少し経った後の衝撃。石畳のレンガに亀裂を刻みながら、彼の視線は女と同じ高さになる。

 

 導かれるように一歩、二歩。少しずつ縮む距離。互いの両手が互いに届くまで。息が触れ合うまで歩み寄り、そして息が触れ合うほどの距離へ。

 

 屈めば口づけが出来るほどの距離で、二人は互いを見つめ合った。その瞳から相手を深く知ろうと、恋人同士が見つめ合うかのように。

 

 数秒か、数分か。もしかしたら数時間もの間見つめ合う二人に、周囲を取り囲む者たちは固唾を呑んで様子をうかがい、そして。

 

 カラン、と。緊張に耐えかねた一人の兵士が手を滑らせ、銃底を地面に打ち付けた乾いた音が響いた時。

 

 ギャリィッ

 

 それが、はじまりの合図となった。

 

 金属がぶつかりあったかのような音。互いに笑みを浮かべ、無言のまま、彼の貫手と女の貫手がぶつかり合う。

 

 腕試しに近しいそれに、互いの笑みが深まっていく。強い、それはそれだけで素晴らしい事だ。

 

 言葉を超え、拳を交えてこそ分かる世界がある。それを体で体現しながら、二人の舞踏は続く。

 

 ――これが最も最初に彼らが遭遇した異世界の徒――葉隠(はらら)との遭遇の顛末。

 

 人命こそ失われる事はなかったものの、その邂逅は重要文化財の幾つかを崩壊させ、”世界”がこれまで通りのものではないのだという事を、この世界の人間に知らしめた。

 

 そして、未知が広がっているという事が既知に変わったこの瞬間。

 

 男にとって至福とも言える時代は、幕を開けた。

 

 

 

 

 

「まず押さえるべきは『PLANET DANCE』だ。この歌はFire Bomberのオープニング曲のようなものでね、デビュー曲であると同時にFire Bomberのテーマとも言える曲だ。そしてそこに続けるならやはり『突撃ラブハート』だろう。この曲からFire Bomberを知り、ファンになったという人物は多い」

「はぁ」

「といってもこの2曲のように激しい曲調がFire Bomberを代表する、という訳でもないのが彼らの凄いところだ。My Soul for Youのようにゆったりとした、聞かせてくる音楽も彼らは作ってくる」

「なるほど」

「わかってくれるか!」

 

 力強く語る真っ赤な服装の青年の言葉に相槌を打つと、青年と彼の隣に座る彼の連れだろう花束を持った女性が嬉しそうに笑顔を見せる。小さなスピーカーを使って自身で編集したというアルバムを聞かされ、その内容や各楽曲の特徴をとつとつと語られれば誰でもわかるようになるのではないかと思うが、そこに言及することはしなかった。

 

 好きなことを他人に説明するときは勢い任せになる。その事を経験談として私は知っている。父親が週刊飛翔のアニメ化作品を語る時に似たような様子だったので、慣れているというのもある。

 

 慣れているというのも……あるのだが。

 

「…………」

 

 落ち込んだ気分で。歌なんて、聞いていられる精神状態ではないと自分では思っていた。

 

 ――歌が、心を離してくれないのだ。

 

 彼が手に持つ小さなスピーカーから流れてくるメロディ。彼女の感覚からすると少し古い曲調のその歌に。落ち込んだ、深海のように沈みきった自分の心が、揺さぶられているのが分かるのだ。

 

 聞こえてくる力強い男性の歌声。そんな彼に合わせるように、時には負けないほどに声を上げる女性の歌声。二人の歌声を支えるように紡がれるキーボードの音。土台を支えるドラムの音。

 

 全ての要素が絡み合い、一つのメロディとなって。

 

「良いだろう。彼らの歌は」

 

 胸の中で燻っていた淀みが、歌という風で吹き飛ばされていくような。そんな錯覚に身を委ねていると、青年は分かっている、と言いたげに数回うなずいて口を開く。

 

「彼らの歌には、不思議な力がある。物理的なものじゃなく、もっとこう――根源的な部分を揺さぶってくるような、力がある。歌がうまいだとか、演奏が凄いだとかいうチャチな理屈じゃない。理屈じゃないなにかが、確かにある」

 

 スピーカーから流れる音を追いかけながら、目の前に座る青年の言葉を聞く。その声は落ち着いているようで、けれど熱く燃えるような感情の波を持っている。

 

 きっと彼は、その理屈じゃないなにかに魅せられたのだろう。

 

「お嬢さんが何かを抱えているのは見て分かった。私が予約した席に倒れ込むように座る姿も見ていたからな」

「それは……申し訳」

「その点についてなにか苦情を言うつもりはない。私も隣の彼女もFire Bomberの話を交わす以外にやる事がなかったからな。良い暇つぶしにもなった」

 

 頭を下げようとする私に青年は首を横に振り。

 

「だがまぁ、もし悪いと少しでも思っているのなら」

「……はい」

「また、暇を持て余した我々の話相手にでもなってくれればいい。新しいファンへの布教は、先達の義務だからな」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべて、そう口にした。

 

「……喜んで」

「くくっ。聞かせたいアルバムはまだあるんだ。明日は、それも用意しておこう」

 

 これは断れないなという諦めと、確かに彼らの歌に惹かれている感情がごちゃまぜになった、なんとも複雑な心境だ。その感情が表に出ていたのか、了承の意を伝えると青年は愉快そうに笑い声を上げる。

 

 この人、結構強烈な性格をしている。

 

「まぁ、そんな顔をしないでくれ。お嬢さんにどんな事情があるのかは知らんが、そういう時にこそFire Bomberの歌を聴くと良い。今はまだ効能が認められていないが、ガンにも効く万能薬だ」

「いやそれは流石に大げさですって」

「大げさなどではない。なんなら私は、彼らの――熱気バサラの歌で蘇った人間を一人知っている。直接この目で見て、確かめた事実だ」

 

 真面目な顔をして言い切る青年に思わずいつもの調子でツッコミを返す。確かに、彼らの歌で気分が上向いたのかもしれない。そう内心で思いながらもガンに効く、はないよなぁと思っていると、青年は真面目な表情のままそう言い切った。

 

 人が生き返る、そんな馬鹿な。それこそドラゴンボールでもなければそんな事なんて起こり得るわけが。

 

 そんな言葉が頭をよぎって、けれど口から出すことが出来ず私は押し黙る。彼の表情に気圧されたという事もある。だけど、もし。

 

 もし、本当に、そんな事が起きたのならば。死んだ人間を蘇らせる事が、出来るのなら。私の思いは、願いは。

 

 母さんの遺影を前に手を合わせる、父の背中。普段はおとぼけた様子の父が、何も言わず頭を垂れる姿が、頭をよぎる。

 

「……それは、本当なんですか?」

「ああ、勿論。確かに奴は、あの時。あの戦場で、心臓を撃ち抜かれ息絶えた、筈だった」

 

 私の言葉に相槌をうちながら、青年は言葉を続けた。

 

「あの日、あの場所で。あの戦場で。ああ、懐かしい……たしかにあの時」

 

 何かを思い出すように。その口の端を歪ませ、愉快な――とても愉快なものを思い出したかのように嗤って。

 

「ブラック・ジャックは、死んだ」

 

 青年はそう、口にした。




お嬢さん:出典・???
 いったい何泉こなげふんげふん

青年:出典・???
 Fire Bomberが好きな吸血鬼

葉隠散:出典・覚悟のススメ
 覚悟のススメの主人公、葉隠覚悟の兄にして姉。意味がわからない?それ以外に形容が出来ません(白目)

白い帽子の少女:出典・マクロス7
 所々でバサラに花束を渡せない少女。こちらの世界でもまだ渡せていない。


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アーカード

こちらは前後篇の後編です。
前編を未読の方は前編からお願いします。

誤字修正、見習い様、エーテルはりねずみ様、Kimko様、Mk-2様、佐藤東沙様、拾骨様、赤頭巾様ありがとうございました!

作品コードが不明なので明日まで少し弄くります(ました)


――統合歴2年 某日

 

 

 彼は、至福の中に居た。

 

 

 

 ゾブリと手のひらを貫く刀。持ち手の歪む顔に青さを見取り、口を歪めながらそのまま手を押し込んでいく。根本まで貫かせ驚愕に目を見開く少女の手を柄越しに握り――

 

 潰そうとする前に、文字通りの”横槍”が彼の顔を抉り削る。

 

「翼ッ!」

「か、かな……」

 

 横槍の持ち主の叫びに、声をかけられた少女の怯えたような声。それらを残った左の耳で楽しみながら。彼はくつくつと嗤って抉られた顔を再生させる。

 

 成程、聖遺物というのはこういった代物なのか。再生した筈の顔と左手に残る違和感。それすらも楽しみながら、吸血鬼はいたいけな少女たちに視線を向ける。

 

 怯えたような顔でへたり込む青い髪の少女の姿。そんな彼女を守るように立つ赤髪の少女の姿。それらを視界に収め、吸血鬼は小さく両手を叩き合わせる。

 

 パン、パンと叩き合わされる拍手の音。怪訝そうな表情でそれを見る少女たちを一瞥し、吸血鬼はくるりと踵を返す。出来れば小娘たちではなく、あの大柄な男の方にこそ手合わせ(・・・・)をお願いしたかったが。とっさの判断に、あの踏ん切りの良さ。まぁ、悪くはない。

 

 軽いつまみ食いのつもりが予想以上の美味だった。その事実を咀嚼するように噛み締めながら、彼は指定されたポイントへと足を運んだ。つまらない話し合いの、武力をちらつかせるための随行人。それが今日の彼の仕事なのだから。

 

 

 

 あの日――世界が入れ替わったあの瞬間から、大凡2年の月日が経過した。

 

 当初は自分たちの世界がどうなっているかすら分からなかったが、彼の上司も、彼の上司が所属する国家も、そして彼が所属する世界を構成する他国も、決して無能な椅子磨きばかりではない。それだけの期間があれば当然ある程度の現状把握を行うことが出来る。

 

 そして、把握したからこそ起こるトラブル――異世界との衝突。全くルーツの異なる技術や文明との、武力行使も含めた対峙。

 

 時には文を、時には銃を交えて。複数世界との交流は、彼にとっても満足の行く”仕事”だった。

 

 己すらも殴り飛ばす剛拳の使い手。

 ただの人間でありながら、銃の腕前だけで己に肉薄する青年。

 霊能力を操り、まともな闘いすら己にさせなかった美女。

 魔法と呼ばれる神秘を扱い、或いは己の全てすらも薙ぎ払いかねない少女。

 

 百年前、全身全霊を以って闘った己をたった4人で打倒した男たち。彼らにも劣らぬ輝きを持つ人間たち。

 

 素晴らしい。やはり、人間は素晴らしい。その事を再認識させてくれた彼らを吸血鬼は深く敬愛し、尊敬の念すら抱いた。

 

 空に浮かぶ偽りの月は忌々しいが、それすらも気にならないほどの愉悦。この状況を作り出した奴がもし目の前に現れたならダンスの一曲でも誘ってしまいたいくらいには、彼は現状を楽しんでいた。

 

 まぁ、現状に満足しているのは彼のような戦闘狂くらいなもので、そんな日々もそう長くは続かない。どれだけ銃弾を交わそうとも、どれだけ争いが起きようとも、人は食べなければいけないし営みは行われていくものだ。

 

 しびれを切らしたどこかの世界の上層部が、比較的価値観の合う他世界の上層部を巻き込んで協力関係を作り。その流れに乗って諍いを起こしていた世界達が纏まり始め、忙しない日々を過ごしていた彼の日常が退屈さを取り戻しはじめた頃。

 

 吸血鬼は、面白いものと出会った。

 

 

 

 それを見かけたのは、偶然だった。前々から目星をつけていた戦士にちょっかいをかける。軽い気持ちで赴いた世界で起きた大規模な戦闘。その現場にそいつは居た。

 

 夏場だというのに真っ黒なロングコートを羽織った、白と黒に分かれた髪を持った異貌の男。銃弾飛び交う戦場のど真ん中で、医療行為を始めた大馬鹿者。ついつい見入ってしまう光景に、先程まで考えていた予定も全て吹き飛ばして彼は戦闘が終わるまで男を見続けた。

 

「……その年齢で女装趣味は、どうかと思うが」

 

 そして、彼に声をかけた男の、第一声がこれである。

 

 彼は万に等しい数の命を啜り己のものとしていた。当然、その中には老若男女が含まれており、彼はその時、己が命を啜った存在、一人の少女の姿をしていた。それをこの男は看破し、そしてそう口にした。

 

 口角が吊り上がるのを感じながら姿を変じる。彼が最もよく用いる青年の姿。男の周囲の人間が息を呑む音を聞きながら、吸血鬼は再度男に声をかけ、尋ねた。なぜ戦場で治療を始めたのか。安全な場所で行うべきではないのか。

 

 ついつい口元に笑みを浮かべながら尋ねる吸血鬼に、男はため息交じりに答えを返した。

 

「患者を見捨てる医者が、居るものか」

 

 その答えに。そう真顔で、即座に言い切る姿に、吸血鬼は一瞬呆気にとられた後。

 

 なにかを噛みしめるようにその言葉を反芻し、羨むような表情を魅せ。小さく息を吐いた後、「ああ」、と小さくつぶやいた。

 

 その呟きを肯定と捉えたのか。彼から視線を外し、男は負傷者を探して戦場跡へと戻っていった。

 

 ああ。

 

 小さく、その姿に再び小さく呟きを漏らす。

 

 医者である。ただそれだけで、あの男はそれがどこであろうと構わず医者であり続けるのだろう。なんと愚かな男だ。医師になれるだけの知識があるならもっと賢く生きることも出来るはずであるのに。なんと愚直な男だ。己の生命を顧みず、他者の生命を優先する矛盾。

 

 そう内心で独りごち、彼は男の背中へと視線を向ける。その背中が、彼にはやけに眩しく感じた。

 

 まばゆいものを見た。魅せてもらった。

 

 やはり、人間は素晴らしい。

 

 吸血鬼は、しばらくこの男を追おうと思った。この男が。この信念と情熱と、そして行動力に溢れた男がどのような生を送るのか。それが見たくなったからだ。

 

 男には、仲間が居た。誰も彼もがまばゆい程の魂を持つ者たち。

 

 霞ジャギ、野比のび太、間桐雁夜、レオリオ・パラディナイト、ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ、風見農華。

 

 そして。

 

 そして、ブラック・ジャック(間 黒夫)

 

 彼らの旅路を。出来ればその結末までを。そう決めた後、吸血鬼は彼らに同行するようになる。

 

 時には助け、時には面白半分に邪魔をし。青臭い成り立て(・・・・)の農華に怪物としての闘いを教授する事もあれば、異世界の知識を教えられることもある。

 

 総じて言えば、彼は楽しんだ。彼らとのやり取りを、心ゆくまで楽しんだ。

 

 第二の至福の日々。彼らとの旅は、そうとも言えるほどに彼に満足を与えた。

 

 終わりがやってくる、その日まで。

 

 彼は確かに、彼らの仲間と言える存在だった。

 

 

 

 

 

――統合歴2年 某日 ロンドン

 

 

 

「…………ああ」

 

 唐突に開かれた戦端。現れた前大戦の亡霊。出身世界に戻り、上司からの小言と新しい命令を受けている矢先に起きた、潜伏していた不穏分子の、乾坤一擲の賭け――吸血鬼化した1000名のナチス残党による襲撃は、大いなる成果と多大なる被害をかの国に与えた。

 

 それらを見越し、備えに備え準備されていた全てはゴミクズにされ。守るべき民は吸血鬼たちにより戯れのように虐殺され。

 

 その様を見届けた、彼の上司は最後の切り札を切る。

 

私はヘルメスの鳥

 

私は自らの羽を食らい飼い慣らされる

 

 吸血鬼――アーカードの最大の権能。それは彼が吸収してきた命、その全ての放出だ。吸血鬼となった彼がその永き時間の間に喰らい続けた、数十、数百万にも及ぶ魂を死者の群れと変えて開放。彼を殺す事を夢見るある軍人が“運動する領地”と称したそれは、発動した瞬間に盤面をひっくり返す。

 

 知略も、武略も、策謀も。あらゆる思惑を問答無用でご破産にする死の河。瞬く間に街を埋め尽くした死者の群れが、殺し、殺され、蹂躙する。

 

 激変した戦況。街を、国を。或いは世界をも滅ぼす彼の全霊によって撃滅されていく敵勢力を尻目に、吸血鬼は街を飛ぶ。死を振りまくために。愚かな、怪物にも至らぬ狗どもを駆逐するために死を振りまく。

 

 数分にも満たない時間で、街に巣食ったなり損ないの吸血鬼どもの、その殆どを狗の餌と変え。

 

「死ぬのか、お前」

 

 己の手の中で息絶えた魔弾の射手を抱えたまま、アーカードは己が目で捉えた事実を、淡々と口にした。

 

 彼の視界の中。心臓を魔弾に撃ち抜かれた黒い男の姿。

 

 視線を巡らせる。のび太とソーフィヤ、農華の姿はない。恐らく別所で今も闘っているのだろう。ジャギを見る。格上の拳士を相打ち気味になりながらも倒したのか。息絶えた拳士のそばで、血だらけになったジャギは壁にもたれ掛かるようにして意識を失っている。レオリオを見る。吸血鬼達によって数多の銃傷を受けて、それでもなおレオリオは闘っている。雁夜を見る。機械化した右腕を打ち砕かれ、左手だけになりながらも心臓を撃ち抜かれた――ブラック・ジャックを、懸命に助けようとする、雁夜を見る。

 

 つい一時間前まで、いつもと変わらぬ姿で居たあの者たちが。著名なロックバンドが慰問に来ると楽しそうな声を上げていたレオリオとジャギのやり取り。それを愉快そうに見るのび太。落ちてきた花瓶をいつものように避けて騒ぐ雁夜、それを見てため息をつくソーフィヤ。成熟した姿をしていながら、内実は小娘にすら至っていない農華をあやす黒夫の姿が、アーカードの頭をよぎる。

 

 己が喰らう前。魔弾の射手が放った銃弾は、ブラック・ジャックの拙い防護を突き破り、その心臓を穿った。多少の心得こそあれど、ブラック・ジャックは戦闘者ではない。手練から引き離された彼を殺すことなど、造作もない事だったろう。

 

「そうか……」

 

  そこまで考えて――目の前の、まばゆい輝きを持つものの終わりを、アーカードはようやく受け入れた。

 

「クソッ! 畜生、止まれ、止まれぇ!」

 

 雁夜の声が夜の街に響く。必死になってブラック・ジャックの胸元を押さえる姿に、哀れみすら感じながら吸血鬼はその姿を眺めていた。その最後をこの目で見届けるのが、自身に課された義務だとすら思った。

 

「まだ死なないでくれ、先生! 俺も桜ちゃんも、まだアンタに何も返せて居ないんだ! 畜生! 止まれ、止まれよ! 目を開けてくれ、先生! 黒夫ぉ!」

 

 周りに集う有象無象を、彼は配下を使って押し止める。彼らの別れを邪魔させてはいけない。

 

 壊れてしまった宝物を眺める童子のように、アーカードは最後の瞬間を待つ。

 

 胸を刺すような痛み。人の命などどうとも思っていない彼だが、確かに今この瞬間、悲しみを感じていた。あれほどの輝きを持つ男が、こんな所で無残な死を迎える。それが戦、闘いであるとはいえ。

 

 幾度も経験したことの在る痛み。彼ならば、彼らならば己を打倒するのではという思いが塵と化した無念。複雑な思いをこらえ切れず、アーカードは空に浮かぶ偽りの月を見上げた。

 

 そして。

 

 アーカードは、それを目撃した。

 

 上空を駆けるジェットの音。無作為に機銃を乱射する、赤い塗装の戦闘機。英国空軍、ではない。見たこともない機体の姿に、どこぞの世界からの援軍か、と彼の頭がはじき出す。

 

 そいつはぐるりと戦場上空をめぐり、敵勢力の空中母艦や何もない市街地に銃弾をばらまいた。なぜ何もない場所に、という疑問が彼の頭をよぎり、次の瞬間に氷解する。

 

「戦争なんて…………」

 

 銃弾が打ち込まれた場所から響く声。スピーカー? わざわざ、この状況で軍の広報用の機体でも引っ張ってきたのか?

 

 戦場で呆気にとられる。戦闘者である彼には珍しい、それこそブラック・ジャックと出会ったあの日以来の出来事だ。

 

 思考が止まったアーカードは、それを為した戦闘機の姿を目で追いかけ。

 

「争いなんて、くだらねぇぇぇぇえええっっ!!!」

 

 絶叫が彼を。街を、死を貫いた。

 

「テメェら全員! 俺の歌を、聴けぇぇええええええええっっ!!!」

 

 

 

 

 木霊する。

 

 時折聞こえる爆発音と戦闘機が空をかけるジェット音以外の、全ての音を失った街に。

 

 戦闘機の主の声が木霊する。

 

 全ての人が、モノ(死者)が、怪物がそれを見た。上空を駆けるそれを見た。誰も彼もがそれを見上げ、奇妙なほどに静かな数秒の時間のあと。

 

 誰も彼もが動きを止めた中。

 

 ギターの音が。男の声が。

 

 静まり返った街を包み込むかのように。

 

「天使の声」(ANGEL VOICE)

 

 歌が、始まった。

 

 

 

 まばゆいものを見た。

 

 ――懐かしい、光景。

 

 美しいものを見た。

 

 ――あれは、いつだったか。思い出すことも出来ないほどの昔。かつて己が、ただ一人の人間であった頃。

 

 そう、あれは――

 

 吸血鬼がなにかを幻視するように赤い戦闘機を目で負っていると、ざわめき声すらも消えた街を空中母艦から発射されたミサイルの群れが引き裂いた。

 

 狙いは――赤い戦闘機。

 

「なんというっ」

 

 その光景に、アーカードは吐き捨てる。

 

 無粋。無粋の極みとも言えるミサイルの嵐。

 

 認識した瞬間、激高し飛び出そうとするアーカードを、眼下で必死に生きる間桐雁夜の声が押し止めた。

 

「く、黒夫! 生き、生きて」

 

 その声に、視線を向けたのは。未だに彼が、その事実を惜しいと思っていたからだろうか。ありえない事だというのは分かっていても、確認せずにはいられない。ブラック・ジャックが、彼の輝きがアーカードの一歩を押し留めた。

 

 そして、だから彼は、それを目にすることになる。

 

 血だらけになった雁夜のそばで起きている、ありえない事柄を。

 

「…………がふっ」

 

 死んだはずの男が、ブラック・ジャックが、間黒夫が。

 

 手を宙に伸ばし、血反吐を吐いて、起き上がろうとしている。

 

 間桐雁夜の、耳元で叫ばれた声に反応を見せず、ブラック・ジャックは血の気の引いた顔を歪めながら、なにかを探るように自身のコートを弄っている。その光景に、先程までとはまた違った意味でアーカードの心を冷ややかなものが駆け抜けていく。

 

 まさか、あれほどの男が。あれほどに人間としての誇りに満ちた男が、己と同じ怪物に堕ちたのか。

 

 そうとしか思えない光景に、そうであってくれるなと願う吸血鬼の疑問は、即座に否定された。

 

 ブラック・ジャックはなにかを探り当てると、なにかを呟いた後にそれを撃ち抜かれた()()()()()に打ち込んだ。一拍ほどの時間を置いて、ガフッ、ガフと血反吐を吐き散らし、えずくように呼吸を繰り返す。

 

 不死者、ではない。不死者となっているならば、呼吸はそもそも必要がない。

 

 その事実を認識した瞬間、上空で爆発音が響く。そちらを見やると、赤い戦闘機のすぐ側に小さな人影が見える。覚えの在る顔だ。たしか、野比のび太の戦友――いや、幼馴染だったか。

 

 どうやら、彼が赤い戦闘機の直掩について、無粋甚だしい魔の手から赤い戦闘機を守ったのだろう。赤い戦闘機は彼の周囲をくるりと回転すると、再びギターの音を響かせ始めた。そうか、また歌うのか。まだ、歌ってくれるのか。あれほどの無粋を受けて、それでもまだお前は――

 

「…………歌?」

 

 カチリと、なにかのピースがハマる音がする。頭の中で、今目の前で起きている奇跡の答え合わせが起こっているような感覚。

 

 声がする。これは、上空を飛ぶ戦闘機のものではない。吸血鬼の人間離れした聴力が捉えた微かな声。いや、これは――――歌だ。

 

 聞き覚えのある声だった。いつぞや遊んだ二人の聖遺物、たしかシンフォギアと呼ばれる物の使い手たち。いいや、それだけではない。これは、聖歌? 援軍と称してやってきた火事場泥棒(ヴァチカン)の、兵士が?

 

 次々と街中で上がる声。歌。

 

 自ら歌い始めるものも、誰かの歌に同調するものも、手に持った兵器を投げ出して。

 

 街が。たった数分前まで死で覆われていた街が、歌い始める。

 

「……雁夜」

「黒夫! 傷は」

「大丈夫、とは言えんが……がふっ……――コが間に合った」

 

 眼下では、ブラック・ジャックがボロボロの体を引きずりながら。間桐雁夜の肩を借りて、立ち上がる。

 

 そうか。そういうことか。

 

「――歌、か」

 

 どういった原理であるとか。どういった理屈であるとかではない。

 

 歌が。この街を、この戦場を覆う歌が。

 

 全ては、この歌によって。

 

 吸血鬼は両腕を広げる。街を覆う歌を抱き止めるかのように、両腕を広げる。

 

 清々しい気分だった。ここ500年感じたことのないような、素晴らしい心地だった。

 

 奇跡を目の当たりにした。水をワインに変えるでも、石ころをパンに変えるでもない。そんな、神とやらが戯れに行う奇跡などではない。

 

 人間だ。人間が起こした、人間による本物の奇跡。

 

 広げた両腕を、誰かを抱きしめるかのように閉じる。

 

「――――」

 

 人間は、素晴らしい

 

 その一言を口に出さず。

 

 吸血鬼は、その場を飛び立った。

 

 彼にはまだやることがある。もはや闘争の空気たり得ないこの場で、自身の行動もまた無粋の類であるのは理解しているが、収拾をつけるものは必要だ。

 

 死の河が戻り始める。この戦場で散った者共も含めた、数百万もの生命を新たに取り込んだ死の河が戻ってくる。

 

 ついでとばかりに生者をつまみ食いするのは、止めだ。闘りたい者同士、外れものの外道同士で殺して殺されるのが己達の決着には相応しい。

 

 感傷にも似た感情を懐きながら、アーカードは空を征く。決着をつけるために。無粋な蛇足を終わらせるために。

 

 そして。

 

 彼は、決定的な敗北を喫することとなる。

 

 

 

 

「吸血鬼殿。世話をおかけいたしました」

 

 生真面目そうな青年の声に、アーカードは思い出から現実に意識を引き戻される。視線を向ければ、(はらら)の弟が青い髪の少女を背負ってこちらに頭を下げている姿が目に映る。

 

 少女は、眠っているのか。壁にかかった時計を見れば、すでに夜中と言っても良い時間になっている。話に夢中になりすぎていたようだ。隣に座る連れの少女も、うつらうつらと船を漕いでいる。Fire Bomberの話題で彼女がこうなるか。

 

「どうにも、歳を取ると話が長くなっていかん」

 

 気にするなと伝えると、青年は一言「はい」と返事を返し、一礼した後に踵を返す。あの()と同じ血が通っているとは思えない姿にくつくつと笑い声をあげ、隣に座る少女に声をかける。一等車両の椅子は良いものだが、眠るならば寝台車に戻ったほうが良い。変に寝違えて、明日は寝台車から動けない、などという事態になれば暇を潰す手段がなくなってしまう。退屈は不死者の天敵だ。まだまだ次の停泊地までは時間がかかる以上、暇つぶしの手段は多いに越したことはない。

 

 ――そういえば、次の停泊地であるカセイには黒夫の奴も居るんだったか。

 

 くっと口元を歪め、右手で胸元を触る。

 

「そういえば――礼がまだだった、な」

 

 くつくつと笑いながら、吸血鬼は少女の手を引いて寝台車へと消えていく。

 

 己を殺した礼。さて、どう返してくれようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

side.蛇足

 

 

 

「随分とまあ、酷い有様じゃないか」

 

 コツリ、コツリと足音を響かせて。間黒夫は怪物に声をかける。

 

 ボロボロになったコートを風になびかせ。自らを保てなくなった怪物に、軽口を叩くような口調で声をかける。

 

 全身に浮き出た目が一斉に彼を見る。なぜココに、どうやって。そういった疑問を考える機能はもう怪物には存在しない。故に、間黒夫はなにも言わずにズル、ズルっと震える足を動かした。

 

 身動きせず、間黒夫を見つめる怪物。そんな怪物を、無言で見つめ返し。

 

 怪物の前で、黒夫は足を止めた。

 

「お前が、周辺を掃除してくれたのは知っている」

 

 胸元に手を伸ばし。返事も期待せずに黒夫は口を開く。

 

「俺は、いいや。()は、借りを借りっぱなしにするのがどうにも苦手でな?」

 

 言いながら、黒夫は胸元から取り出したメスを握り。

 

「だから、今」

 

そのメスを、怪物に。

 

「借りは返すぞ、アーカード」

 

 怪物の中の怪物(シュレディンガーの猫)に、突き刺した。

 

「――もしもまだ、お前の意識があるなら。この件で、貸し借りはなし、だ」

 

 絶叫すらあげず、ボロボロと体が崩れだす怪物から視線を外し、間黒夫は踵を返す。

 

「それについて文句があるなら、そうだな」

 

 そして振り返ることもなく言葉を紡ぎ。

 

ブラック・ジャック(本物)を、よろしく」

 

 その空間から、今度こそ。

 

 間黒夫は姿を消した。




青い髪のお嬢さん:出典・???
 いったい何泉こなげふんげふん

アーカード:出典・HELLSING
 このカオスな世界を心から楽しんでいるエンジョイ勢。自分好みな人間が余りに多くて目移りしていたらバサラにハートを撃ち抜かれた。突撃ラブハート。

葉隠覚悟:出典・覚悟のススメ
 覚悟のススメの主人公。アーカードの迷惑な人定めを喰らった事があるので苦手

間桐雁夜:出典・Fate/Zero
 『悪運』を使いこなせるようになった頃合い。自身の『悪運』が黒夫にピンチを招いたのでは、と距離を取る決断をする。

熱気バサラ:出典・マクロス7
 ほとんどセリフがないがどう考えても今回の主人公。行く先々で似たような事をしてる。

風鳴翼:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 アーカードの人定め被害者2号。熱気バサラの姿に、自身が進むべき道を垣間見る

天羽奏:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 アーカードの人定め被害者3号。熱気バサラの姿に劣等感とそれ以上の憧憬を抱く。


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とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

更新遅れている上に連続で番外編になり申し訳ありません(白目)

本編時間軸ですがとくに読んでも読まなくてもいいだらだらとした日常のお話です。

誤字修正、路徳様、酒井悠人様、佐藤東沙様、葵原てぃー様、名無しの通りすがり様ありがとうございます!


 ぎぃ、ぎぃ、と音を立ててワイヤーが軋む。

 

「ひっ……ひぃ……」

「大丈夫、落ち着いて」

 

 チラリと自身に抱きつく同乗者に視線を向ける。荒い息を吐き、自身に掴まる彼女の声にならない悲鳴に彼女を抱く手に力を込める。

 

「まだツイてる、か」

 

 落下したエレベーターが起こした破砕音。落下する直前に天井を右手で破壊し、とっさに飛び上がってみたが……もしあのままエレベーターの中に入れば、自分はともかく彼女は間違いなく死んでいただろう。

 

 さて、あれだけ大きな音が立てば確認に来る人間も居るだろう。ドアが開けば……いや。()()()()()()()()()()、と思い込みそうになったな。なら、このままでいたらそれは、酷い(悪手)ことになる。

 

 ぐっと体に力を入れてロープを揺らし、コンクリート壁に埋め込まれた梯子へと飛ぶ。腕の中の彼女の悲鳴を耳元で浴びながら、機械化した右手で梯子を掴む。

 

 背後で風を切る音――恐らく先程まで掴んでいたワイヤーが外れて落ちる音を背に、自身に抱きつく彼女を抱えたまま、このまま待機した方がいいという予感に逆らって彼は。

 

 間桐雁夜は、最も近いエレベーターの入り口へ向かって移動を始めた。

 

 

 

 

『――……』

「ああ、現象系だ。何かをきっかけに作動し、関連する人間を殺害する。そういう類のやつだろう。規模は分からないが」

 

 ウー、ウーとサイレンの音が鳴り響く。防衛機構から支給されたコミュニケの画面に向かって話しかけながら、雁夜はチラと地面にへたり込んだ、自身が助けた女性、水野沙苗に視線を向ける。

 

 ――なにも感じない。良い予感も、悪い予感も。であるならば、彼女はもう大丈夫だろう。

 

 そう確信を持った雁夜は、ではもうこの場から離れても良いな、と一歩足を踏み出そうとして。その予感に逆らうためにくるっとその場で振り返る。

 

 一拍おいて、彼が一歩踏み出そうとした場所に、花瓶が降ってきた。ガシャン、と大きな音を立てたそれに沙苗も含めた周囲の視線が集まった。

 

 おっと注目を集めてしまった。これは早く退散せねば。そう急かすように動きそうな足を()()()()()()()()させ、雁夜は沙苗に向き直る。

 

「水野さん、確か協力者が居ると言っていたが」

「え、あ、あの」

 

 雁夜の背後を、電信柱が掠めるようにして倒れ込む。

 

「現状、もうこれ以上の死者は出てこないと思う。ただ、藪を突けばどうなるか分からない。連絡が取れれば、暫くの間は大人しくしているように伝えてくれないか」

 

 そう口にしながら振り返りたくなる感情を押さえて、雁夜は一歩足を前へ進める。彼が立っていた場所を、ちぎれた電線が恨めしそうにしながら通り過ぎる。

 

 おっと、次は()()()()()()()()()()()()()()な。くるりと振り返ると、常軌を逸した形相を浮かべてこちらに走り寄る男の姿がある。右手には十徳ナイフ、振り返らなければ刺されていたかもしれない。

 

『――……』

「ああ。オカルト染みているが、これは鳴介では難しいだろう。現象ごと破壊できる人物か現象の根っこから弄れる人物が望ましい。遠野くんあたりは――」

 

 言葉にしながら、走り込んできた男を右手で頭から押さえ込み、地面に叩きつける。ゴスン、と凄まじい音を立てて男は動かなくなった。

 

「ひっ……」

「っと、ああ、殺しては居ないよ。その辺の力加減は慣れてるんだ」

 

 その光景を目の当たりにし、悲鳴をあげかける沙苗に安心するように語りかけ――

 

 自身に向かってどこからか飛んできた、包丁を右手ではたき落とす。

 

 乾いた音を立てて転がるステンレス製の刃物に苦笑を浮かべながら、どうやらネタ切れかな、と小さく呟いて。

 

 間桐雁夜は今度こそ、凄惨な事件現場になるはずだった場所に背を向けて歩き始めた。

 

 この事象を解決できる人間が来るまでおよそ48時間。その間、コレの標的を自身に向けさせなければならないが――

 

「まぁ、なんとかなるだろう」

 

 自身の胸の中。恐らく魂とでも呼ぶべきモノと同じ場所に在るナニカが、嬉しそうにニタニタと笑いながら雁夜の言葉に頷いたような感覚。悪寒とも呼ぶべきそれを自覚しながら、間桐雁夜はふぅ、と一つため息を吐く。

 

「慣れてるさ。ハードラック(悪運)と踊るのは」

 

 自身に言い聞かせるように吐いた言葉は、初夏の街並みの喧騒に混ざって消えていった。

 

 

 

 

 

「そこはヒロインと幸せなキスをして終了、じゃないのか?」

「お前は僕をなんだと思ってるんだ」

「……パニックホラー映画の」

「分かった、言わないで良い」

「拗ねるなよ。いい記事になりそうじゃないか」

 

 久方ぶりにあった友人、間黒夫の軽口に憮然とした表情を浮かべて、雁夜は同じく友人であり黒夫の助手であるレオリオが用意した茶請けに口をつける。ほんのりとした甘みの見慣れない菓子に口元を緩めて一口、二口。

 

 これはいい。後で桜ちゃんの分も用意してくれとレオリオに頼まなければ。

 

「そういえば、桜ちゃんは」

「ここに来る途中に、ほら。あの娘……ラスちゃんと呼ばれているあの娘だ。あの娘に腕を引かれて一緒に遊びに行ったよ。テンカワ飯店だっけ、そこの店長の子供がやってくるから、一緒に遊びに誘うそうだ」

「ああ……ラストオーダー(あの娘)か」

 

 雁夜の言葉に目を細めて黒夫はそう呟いて。

 

「暫くテンカワ飯店には近づかないようにしよう――なんだ、その顔は」

「いや……くっくっ」

 

 少し考えるそぶりを見せた後、黒夫は真面目くさった顔でそう口にした。その言葉に雁夜が思わずといった体で雁夜が失笑をこぼすと、黒夫は憮然とした表情を浮かべてふん、と鼻を鳴らす。

 

 ――押しの強い娘に弱いのは変わってないらしい。確か幼なじみを思い出すから、だったか。

 

 はて、ブラック・ジャック(彼の物語)にそのような人物が居たかな、と内心で考えながら雁夜はこの家に来た者すべてが絶品と断言するお茶を口に含んで口内をさっぱりとさせ。

 

「……所で平賀くん。いつまでそこで土下座しているつもりだい」

「いや、その。生まれてきてごめんなさい」

 

 共に黒夫を訪ねてきて即座に土下座を敢行した同僚に雁夜が声をかけると、彼は死んだような表情で、声を震わせながら、そう返事を返した。

 

 

 

「押しかけ女房は駄目じゃないかな」

 

 平賀サイトと、彼の婚約者家族が引き起こした一連の喜劇に一頻り笑った後、真顔でそう口にした雁夜にサイトはぐうの音も出ない、といった表情を浮かべてコメツキバッタのように頭を下げる。

 

「あれに関しては誤解もあった。それに、君が頭を下げるような事ではないだろう」

「いや……それでも、家族のやらかしだし……ですから」

「君は義理堅いんだな」

 

 サイトの言葉に呆れたような表情を浮かべ、口元を緩ませながら黒夫がそう口にする。少し軽率なところもあるが、平賀くんの人となりは黒夫が好むたぐいのものだと断言できる。だからこそ雁夜はサイトの求めに応えて、黒夫を紹介したのだ。

 

 まぁ、それが原因で今回のような面白……問題が起きてしまうとは思っていなかったが。

 

「おい。面白がっているな?」

「いいや。さっきから胸の中で悪い予感がズグズグと急き立てているよ。早く席を立て、この場から離れろ――ってね」

悪運(ハードラック)は変わらず、か」

 

 口元を歪ませる雁夜の言葉に、黒夫が再び表情を仏頂面に切り替えた。

 

 そして――その瞬間。

 

 至近距離で空気が爆発したかのような衝撃が、彼らを揺らす。

 

「平賀くん、落ち着け」

 

 体の芯から根こそぎ吹っ飛ばされるような衝撃にガタリ、と立ち上がったサイトを、黒夫が言葉で制止する。

 

 その言葉に怪訝そうな表情を浮かべてサイトは黒夫と雁夜を見比べ、どちらも取り乱してない事に気づいたのか不承不承、といった体で椅子に腰を下ろした。

 

「覚えがあるな、今の衝撃は」

「覇王色の覇気、とやらだ。おおかたジンとロジャーが殴り合ってるんだろう」

「ああ……アースラが戻ってきてるんだったか。ここに居たんだな、アイツら」

「会って行くか? おそらくは"運動用”の広場に居るはずだ」

「そうだな。そうしようか」

 

 懐かしい名前を聞いた、と小さく笑みを浮かべる雁夜に黒夫がそう尋ねると、彼は特に悩む素振りも見せずに頷きを返す。

 

「ご一緒してもいいですか?」

「構わんよ。ただ……ああ、いや。君はそこそこに動けそうだし問題ないか――レオリオ! 少し出てくる」

 

 どうにも熟れてない敬語で黒夫に話しかけるサイトに少し口ごもりながら黒夫がそう答えて、席を立つ。

 

 ――話に聞くメンツを考えるに、平賀くんを連れて行くと酷いことになりそうだが……

 

 主に可愛がり方面での危惧を抱きながら、雁夜は黒夫に続くように席を立つ。雁夜はロジャーが黒夫の治療を受けている間に知己となっており、彼と彼が率いる一味がどういう連中であるかを良く知っていた。連中に彼を引き合わせたら、どう反応するかも予測は出来た。出来たのだが。

 

 ――忠告してどうにかなる連中でもない、か。流石に命を落とすようなことはないだろう、多少の怪我も黒夫が居るし。

 

 そう自身の中で結論をつけて。ぽん、とサイトの肩を叩き、雁夜は口を開いた。

 

「じゃあ、逝こうか。いい経験になると思うよ」

「あ、はい」

 

 できるだけ優しい笑みを浮かべてそう声をかける雁夜の姿に、怪訝そうな表情を浮かべるサイト。

 

 10分後、彼はこの時の雁夜の表情の意味を知ることになる。




間黒夫:出展・なし
友人が遊びに来たので実はテンション上がってる

間桐雁夜:出展・Fate/Zero
本職はルポライターのおじさん。現在のお仕事は未調査のエリアの世界をまわり危険がないかの確認を行っている。そこで知り得た情報は文章で纏めて周知のために防衛機構が発行する情報媒体で掲載しているが、だいたい『いやそうはならんやろ』『なっとるやろがい』と突っ込まれる名物おじさん。悪運が全部悪い

平賀才人:出展・ゼロの使い魔
ロジャーさんに可愛がりを受けた。武装色の才能があるらしい

水野沙苗:出展・Another
本来ならばこのエレベーター事故によって圧死するはずだったが間桐雁夜の悪運に巻き込まれ生還。その後彼を襲う現象化した殺意とも呼ぶべき代物を間近で目撃し、趣味だったホラー作品を見ることができなくなった。


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登場作品・登場話一覧

どの作品のキャラがどこで出てくるかめっちゃ分かりづらかったので作成しました。
なんでこれだけで2000文字超えるの???
正直漏れがありまくると思うんで「俺の推しが抜けてるんだけど?」というのありましたら教えてくださいおねがいします


【登場作品一覧】

 

魔法少女リリカルなのはシリーズ

  登場:高町なのは、八神はやて、フェイト・T・ハラオウン、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ

  主役話:ブラック・ジャック

  キャラ登場話:本編に出てこない人たちの話2・3・4、原作ウォッチ、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話、とあるルポライターの手記2冊目

 

 HUNTER×HUNTER

  登場:レオリオ、ジン・フリークス、チードル

  主役話:レオリオ

  キャラ登場話:ブラック・ジャック、レオリオ、オルガ、ハインリヒ、カセイへの道中

 

 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

  登場:オルガ・イツカ、三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン、タカキ・ウノ、ヤマギ・ギルマトン

  主役話:オルガ

  キャラ登場話:レオリオ、オルガ、ジャギ、本編に出てこない人たちの話4、サイタマ(かみのはなし)、ソーフィヤ、とあるルポライターの手記2冊目、本編に出ない人たちの話 8

 

 サイボーグ009

  登場:アイザック・ギルモア、002、004、006、007、009

  主役話:ハインリヒ

  キャラ登場話:オルガ、ハインリヒ、ブラック・ジャック拉致作戦

 

 ドラえもん

  登場:野比のび太、ドラえもん、剛田武

  キャラ登場話:本編に出てこない人たちの話、本編に出てこない人たちの話2、ジャギ、本編に出てこない人たちの話4、ソーフィヤ、番外編 原作ウォッチ、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

 刀語

  登場:鑢七実、鑢七花

  キャラ登場話:後書き、本編に出てこない人たちの話1・5、ハインリヒ、ジャギ、翔んで埼玉実写記念、カセイへの道中(?)、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

 北斗の拳

  登場:トキ、ジャギ、ケンシロウ、ラオウ

  主役話:ジャギ

  キャラ登場話:後書き、本編に出てこない人たちの話1・2・4、ハインリヒ、ジャギ、翔んで埼玉実写記念、カセイへの道中

 

 バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

  登場:甲賀弦之介、薬師寺天膳、地虫十兵衛、室賀豹馬、朧、朱絹、筑摩小四郎

  キャラ登場話:クロオの休日、本編に出てこない人たちの話3

 

 機動戦士Zガンダム

  登場:バスク・オム

  キャラ登場話:本編に出てこない人たちの話2・5

 

 Fate/Zero

  登場:間桐雁夜、間桐桜

  主役話:とあるルポライターの話、アーカード、とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

 ゴブリンスレイヤー

  登場:ゴブリンスレイヤー、少年改めゴブリンスレイヤーの姉、女神官、妖精弓手

  主役話:ゴブリンスレイヤー

  

 機動戦士ガンダム(冒険王含)

  登場:アムロ・レイ(冒険王)、シャア・アズナブル

  キャラ登場話:本編に出てこない人たちの話3・5

 

 パタリロ!

  登場:パタリロ・ド・マリネール8世、エトランジュ、タマネギ1号・パルン号、警察長官

  主役話:翔んで埼玉実写記念

  キャラ登場話:翔んで埼玉実写記念、クロオの失敗

 

 ゼロの使い魔

  登場:平賀才人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ、カリーヌ婦人

  主役話:カリーヌ

  キャラ登場話:ブラック・ジャックを求める人々、カリーヌ、とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

 ワンパンマン

  登場:サイタマ、ジェノス、ワクチンマン

  主役話:サイタマ(かみのはなし)

  キャラ登場話:サイタマ(かみのはなし)、本編に出ない人たちの話6

 

 グラップラー刃牙

  登場:鎬紅葉、徳川光成、愚地独歩

  主役話:鎬紅葉

 

 BLACK LAGOON

  登場:ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ、ボリス

  主役話:ソーフィヤ、本編に出ない人たちの話8

 

 幽☆遊☆白書

  登場:雷禅、北神

  主役話:雷禅

 

 アカギ

  登場:アカギ

  主役話:博徒

 

 ルパン三世(映画版含み)

  登場:ルパン三世、次元大介

  主役話:ルパン三世

  キャラ登場話:オルガ、ルパン三世、本編に出てこない人たちの話2

 

 マジンガーZ

  登場:兜甲児

  主役話:本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

 ONE PIECE

  登場:ゴール・D・ロジャー、ロジャー海賊団

  主役話:海賊王、ゴール・D・ロジャー

  キャラ登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7 

 

 HELLSING

  登場:アーカード

  主役話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか、アーカード

  キャラ登場話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか、アーカード

 

 

 

 

 《b》機動戦艦ナデシコ

  登場:テンカワ・アキト、テンカワ・ユリカ、ホシノ・ルリ、イネス・フレサンジュ、ラピス・ラズリ・テンカワ、ウリバタケ・セイヤ、スバル・リョーコ

  キャラ登場話:オルガ、クロオの休日、ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話、番外編 原作ウォッチ、とあるルポライターの手記2冊目、本編に出ない人たちの話 8

 

 マブラヴシリーズ

  登場:香月夕呼

  キャラ登場話:オルガ

 

 ログ・ホライズン

  登場:シロエ

  キャラ登場話:オルガ

 

 STEINS;GATE(シュタインズゲート)

  登場:フェイリス・ニャンニャン

  キャラ登場話:クロオの休日

 

 マクロスシリーズ

  登場:艦長、バサラ?

  キャラ登場話:カセイへの道中、番外編 原作ウォッチ

 

 らき☆すた

  登場:泉こなた、柊かがみ、柊つかさ

  キャラ登場話:ブラック・ジャックを求める人々、厨学生いずみこなたのぼうけん、アーカード

 

 はじめの一歩

  登場:鴨川源二、猫田銀八、ユキさん

  主役話:ifストーリー 鴨川源二

 

 東方シリーズ

  登場:八雲紫、八雲藍、八意永琳、風見 農華(ガ板アレンジ)、巫女、射命丸文

  キャラ登場話:サイタマ(かみのはなし)、カセイへの道中、本編には出てこない超越者達、本編に出てこない人たちの話4・5、とあるルポライターの手記1・2冊目

 

 キン肉マン

  登場:キン肉スグル、アレキサンドリア・ミート

  主役話:ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章

 

 とある魔術の禁書目録

  登場:一方通行、ラストオーダー

  キャラ登場話:ブラック・ジャック拉致作戦、本編に出てこない人たちの話4

 

 覚悟のススメ

  登場:葉隠覚悟、葉隠散

  キャラ登場話:厨学生いずみこなたのぼうけん、アーカード

 

 BIOHAZARD

  登場:アルバート・ウェスカー

  キャラ登場話:ソーフィヤ、ルパン三世

 

 魔法少女まどかマギカ

  登場:鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ

  キャラ登場話:番外編 原作ウォッチ、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

 ジョジョの奇妙な冒険

  登場:空条承太郎、ダニエル・J・ダービー

  キャラ登場話:博徒、本編に出ない人たちの話6、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

 ドラゴンボール

  登場:孫悟空

  キャラ登場話:本編に出ない人たちの話6

 

 鬼滅の刃

  登場:胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、謎の鬼、産屋敷耀哉、煉獄杏寿郎

  主役話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事、

  キャラ登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

 武装錬金

  登場:蝶人パピヨン

  キャラ登場話:本編には出てこない超越者達

 

 めだかボックス

  登場:安心院なじみ

  キャラ登場話:本編には出てこない超越者達

 

 僕のヒーローアカデミア

  登場:八木 俊典(オールマイト)、緑谷出久、死柄木弔(AFO)

  主役話:八木 俊典(オールマイト)

  キャラ登場話:八木 俊典(オールマイト)、本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7、本編に出ない人たちの話 8

 

 天体戦士サンレッド

  登場:サンレッド

  キャラ登場話:八木 俊典(オールマイト)

 

 シティーハンター

  登場:冴羽獠、槇村 香

  キャラ登場話:とあるルポライターの手記1・2冊目

 

 ベルセルク

  登場:ガッツ、シールケ

  キャラ登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

 マクロス7

  登場:熱気バサラ、花束の少女

  キャラ登場話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか、アーカード

 

 マクロス7

  登場:熱気バサラ

  キャラ登場話:アーカード、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

 戦姫絶唱シンフォギア

  登場:風鳴翼、天羽奏

  キャラ登場話:アーカード、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

 サクラ大戦シリーズ

  登場:大神一郎、真宮寺さくら

  キャラ登場話:本編で描写しきれなかった人たちの話

 

 Another

  登場:水野沙苗

  キャラ登場話:とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

 エヴァンゲリオンシリーズ

  登場:碇シンジ、渚カヲル

  キャラ登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

 《b》幼女戦記

  登場:ターニャ・デグレチャフ

  キャラ登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

 《b》対魔忍シリーズ

  登場:水城ゆきかぜ

  《b》キャラ登場話:番外編 原作ウォッチ2



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人物紹介とかその他(10.28更新)

誰が誰だかキャラが多すぎて分からないとの声も合ったのでちょっとまとめてみました。
内容は随時変化してます。

誤字修正。ヒーロー大好き人間様、名無しの通りすがり様、algeo様、南田&終田様、匿名鬼謀様、椦紋様ありがとうございます!




10.28
番外編 原作ウォッチ2 追加


ファンアート

鳩平さんより

 

【挿絵表示】

 

ありがとうございます! ピノ子どこかで出さないと(使命感)

 

みもざさんより

https://www.pixiv.net/artworks/87660956

表紙が!どこかの少年雑誌っぽい表紙ができました!

 

彩辻シュガさんより

 

【挿絵表示】

 

素晴らしい雰囲気の間先生ですね本当にありがとうございます!

 

【登場人物】

 

ブラック・ジャックより登場

 

間黒夫(あいだくろお):出典・なし

 何者かに「こんな奴が居ても良いよね」と言われ、ブラック・ジャックにそっくりな外見でこの世界に落とされた人物。

 落とされた当初は自身の姿と与えられたチート『最適解』の力に酔って理想のBJムーブを行っていたが、それが原因で上がった名声により統合軍と名乗る武装勢力(いくつかの世界規模)に狙われるようになり戦争の引き金に。気落ちして今は最前線のカセイエリアの山中で(本人的には)隠居生活を満喫中。

 好みの人間は裏表のない人間だが、暴力に直結しているタイプは苦手。巫女装束を見ると脇腹が痛くなる。後は世界一かっこいいデブも苦手。金銭を受け取る時に奴の笑い声が聞こえる気がして割とトラウマ。

 また、熱烈なキン肉マンのファンでもある。

登場話:本編

 

高町なのは:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 BETA相手に生身で防衛線の役割を担った『カセイの魔王』。限界を振り絞りすぎて寿命を削り、後2年の命だった所をクロオに救われる。現在はクロオの住む山中の集落で療養生活中。

 酒に酔った際に大量の青少年の心にイケナイ感情を植え付けて自身は一切覚えていないという酷い事をした。

登場話:ブラック・ジャック、オルガ、本編に出てこない人たちの話2、本編に出てこない人たちの話4、番外編 原作ウォッチ、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

八神はやて:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 ツキエリアの軍政官補佐。ツキエリアの治安維持を一気に向上させた立役者だが、キャリアウーマンとしてのオーラと4人の小姑により出会いがない事を嘆いている。

 とてもかわいい。

 ちなみに小姑のチェックをクリアした人物は現在隣のチキュウエリアの代表くらい。

 最近ヴィータが隣のエリアのイケメンとデートしてホテルのバーに連れ込まれそうになったらしい。その連絡を聞いた彼女は。

登場話:ブラック・ジャック、本編に出てこない人たちの話、本編に出てこない人たちの話3、番外編 原作ウォッチ

 

フェイト・T・ハラオウン:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 なのはの親友。現在はカセイエリアに居る為、小まめになのはと会っているらしい。

CV.水樹奈々の為、後述の朧と会話すると次元が乱れる。

 自分の声優とはいえ歌が上手だね、となのはに言われた件がきっかけで人前で歌う練習を行っている。その場所がメイクイーンニャンニャンなのは色々段階がすっ飛ばしていると思われているが、本人的には楽しいらしい。

登場話:ブラック・ジャック、本編に出てこない人たちの話2、番外編 原作ウォッチ、とあるルポライターの手記2冊目

 

レオリオ=パラディナイト:出典・HUNTER×HUNTER

 親友を助ける為にクロオに手術を頼み、その医者としてのあり方と技術に惚れ込んで弟子入りした男。

その際に「手術の報酬は、俺よりも優れた医者になることだ」と言われ、知り合いからは「統合世界一の債務者」と呼ばれている。

登場話:ブラック・ジャック、レオリオ、オルガ、ハインリヒ、カセイへの道中

 

 

レオリオより登場

 

ハワード・ロックウッド:出典・ルパンVS複製人間

 モクセイエリアの重鎮。不死が多い世界なので統合後は情報収集に専念していたらいつの間にかある種の顔役になっていた。一体何マモーなんだ・・・・・・

登場話:レオリオ

 

フリンチ:出典・ルパンVS複製人間

 ○○チンじゃありません

登場話:レオリオ

 

オルガ・イツカ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

 鉄華団団長。止まるんじゃねぇぞ回数は3回。山中の集落に鉄華団の宿舎があるのはビスケットがどうしてもと要請しオルガ以外が賛成した為。ソーフィヤ相手に(精神的に)止まるんじゃねぇぞ……した

登場話:レオリオ、オルガ、ジャギ、本編に出てこない人たちの話4・8、ソーフィヤ、テンカワアキト

 

 

オルガより登場

 

赤いジャケットを着た男:出典・ル○ン三世

 一体ルパン何世なんだ。

登場話:オルガ

 

三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

 重婚制度が施行されたその日にアトラを連れてクーデリアの元へ行き、数日に渡る交渉の末無事に結婚。クーデリアは防衛機構の行政官でもある為、最初の施行ケースとして大体的に報道され有名人になった。後にその事を知った冴羽獠に驚きの声を上げられている。最近出来た特産品・マリネラりんご(のうかりんお手製)がお気に入り。

登場話:オルガ、本編に出てこない人たちの話4、とあるルポライターの手記2冊目、テンカワアキト、本編に出ない人たちの話8

 

アイザック・ギルモア:出典・サイボーグ009

 カセイエリア技術部の良心。生き残るためなら肌を鱗に改造したりする所もあるが、他がキツすぎたり説明おばさんなので彼が渉外担当になっている。

登場話:オルガ

 

イネス・フレサンジュ:出典・機動戦艦ナデシコ

 カセイエリア技術部の説明おばさん。分からない事があればどこからともなく現れて説明を始める。

登場話:オルガ

 

香月夕呼:出典・マブラヴシリーズ

 カセイエリア技術部のキツい方。クロオに助けられた事があり、その時の事がトラウマで卒倒する事がある。

登場話:オルガ

 

シロエ:出典・ログ・ホライズン

 ハーフエルヴの賢者シロエと日本人城鐘恵(しろがね けい)が融合した人物。融合後すぐに転移し、自身が居たアキバを纏め、その後防衛機構からの誘いに乗ってお役人に。楽ができると思ったらそれ以上の激務だった。

カセイエリアの防衛機構では貴重な魔法と工学両方に知見を持つ存在の為、扱き使われている。

登場話:オルガ

 

ホシノ・ルリ:出典・機動戦艦ナデシコ

 防衛機構所属。階級は中佐。かなり広範囲に影響力があり、実質的にはカセイエリアにある前線司令部のナンバー2。

クロオとの縁を最大限活用し、自身の家族を取り戻した。多分、意図的に縁を持った人物の中で一番得をした人物。その為、何かとクロオに便宜を図っている。

 とある理由で鉄華団の三日月が苦手になった被害者その2。村で遭遇すると一歩後ずさる。被害者その1は死にかけの所をビルに手を突っ込まれて引きずり出された一方通行さん。

登場話:オルガ、ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話、とあるルポライターの手記2冊目

 

 

テンカワアキト:出典・機動戦艦ナデシコ

 ルリ経由でクロオと出会い、二年で死亡する筈が生き延びた。自身と妻を治療し、ただの人に戻してくれたクロオに強い恩義を感じている。現在妻は3名。ホシノ・ルリの義理の父であり、他にラピスという義理の娘が居る。

登場話:オルガ、クロオの休日、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

本編に出てこない人たちの話より登場

 

野比のび太:出典・ドラえもんシリーズ(劇場版全て含む)

 全ての劇場版を乗り越え、30台になったのび太。長らく鉄火場から遠のいていたが、親友の危機に銃を取り立ち上がった。

 ジャギとは統合軍が暴れていた頃からの悪友。当時前線指揮官として動いていた彼とジャギはクロオを通して知り合い、以後何かと張り合う間柄になった。ジャギがヘルメットで現れると趣味が悪いとせせら笑うため、彼の前ではジャギはヘルメットをつけない。

登場話:本編に出てこない人たちの話、本編に出てこない人たちの話2、ジャギ、本編に出てこない人たちの話4、ソーフィヤ、番外編 原作ウォッチ

 

 

ドラえもん:出典・ドラえもんシリーズ

 大長編全て終えた後のドラえもん。のび太との再会を果たす。統合軍に囚われたり色々姫ポジっぽい感じだが声は大山のぶ代。

 統合軍に良いように扱われていた際に一度機能停止をしており、その際にクロオと鷲羽ちゃんに助けられた。ただ、それ以降何か体の一部がむずがゆく感じる時があるらしく、現在はのび太が時間があるときにマッサージとしてその部分を調整して貰っている。

登場話:本編に出てこない人たちの話、ジャギ、番外編 原作ウォッチ

 

鑢七実:出典・刀語

 後書きが本番の人。健康な体を手に入れ、その成長は留まる所を知らない。父の留守の間七花に虚刀流を伝授する傍ら、トキという最高の師の下で刀から拳士となるべく修行中(遊んでいる)

 とてもかわいい。

 最近、一部の北斗神拳も未熟ながら使用し始めている。ジャギに対して羅漢撃を放ったが指先一本で返されるなどまだまだ出来は甘い模様。

 北斗神拳伝承者より明らかにトキの方が強いことに疑問を抱いたがどっちにしろ強いので良いか、と組み手の日々。

登場話:後書き、本編に出てこない人たちの話、ハインリヒ、ジャギ、翔んで埼玉実写記念、カセイへの道中(?)、本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

トキ:出典・北斗の拳

 後書きが本番の人。健康体を手に入れたが、ラオウとの決着はつけられなかった。最近、七実や七花に稽古をつける事で後進を育てる事に自身の道を見出し始めている。それに合わせて、引きこもっている伝承者のケンシロウが失伝させないかが最近の懸念。

 何時の間にかジャギに子供が出来ており叔父さんになった事に少しショックを覚えている。

 初めて見た圧倒的強者は八雲紫。遭遇の際に完全に飲まれてしまった事を反省し、それ以降は大抵の相手に飲まれる事は無くなり自身の力不足を認識した結果、無事に人外の領域へと足を踏み出した。

 ラオウの墓前で仇を討ったと報告をしたらしい。

登場話:後書き、本編に出てこない人たちの話、ハインリヒ、ジャギ、翔んで埼玉実写記念、カセイへの道中、本編に出てこない人たちの話4

 

 

クロオの休日より登場

 

ウリバタケ・セイヤ:出典・機動戦艦ナデシコ

 機動戦艦ナデシコの誇る?「こんなこともあろうかと」枠。劇中で10歳年下の女の子にマジで不倫を持ち掛けているが、きっちり振られている。ただ、何故か奥さんとは仲直りして劇場版では新しい子供まで生まれてる。

登場話:クロオの休日、本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

 

朧:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 弦之介と婚姻。子供はまだだが仲睦まじい模様。夫が不在の現在、伊賀と甲賀の里の責任者。里は山のヌシである七実に許可を取り、集落から離れた山中に作られている。

登場話:クロオの休日

 

フェイリス・ニャンニャン:出典・STEINS;GATE(シュタインズゲート)

 本名秋葉 留未穂。ピンクのツインドリルロールを持つメイクイーンニャン×2のチーフメイド。

登場話:クロオの休日

 

椎名まゆり:出典・STEINS;GATE(シュタインズゲート)

 ちょっとだけ登場。メイクイーンニャン×2のメイドで未来ガジェット研究所のラボメン。未来ガジェット研究所が今後出るかは未定。

登場話:クロオの休日

 

テンカワユリカ:出典・機動戦艦ナデシコ

 最近夫がモテすぎて生きるのが辛いとスレたてして即効でルリにバレて折檻されたらしい。

登場話:クロオの休日

 

朱絹:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 バジリスク、伊賀側のセクシー担当。朧の補佐として里の雑務を受けている。筑摩小四郎と恋仲になった模様。

登場話:クロオの休日

 

筑摩小四郎:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 新しい世界の扉を開いたカセイエリア防衛機構所属のエリート()忍者の1人。1年付き合っている恋人が居るが未だ童貞。必殺忍法・吸息・旋風鎌鼬の使い手。だが本編では恐らく出番なし。普段はホシノ中佐の配下として働く弦之介の元に居る。

登場話:クロオの休日、本編に出てこない人たちの話3

 

 

ハインリヒより登場

 

アルベルト・ハインリヒ:出典・サイボーグ009

 又の名を004。死神とも呼ばれている。カセイエリアの技術部門に所属するギルモア博士直属のサイボーグ部隊00ナンバーサイボーグの一員。全身に兵器を詰め込まれている。恋人を自身の失策により失った経験を持ち、またそれ以降も数回の悲恋を経ている。

登場話:ハインリヒ

 

ジェット・リンク:出典・サイボーグ009

 又の名を002。カセイエリアの技術部門に所属するギルモア博士直属のサイボーグ部隊00ナンバーサイボーグの一員。足のジェット機能で空をマッハ5で飛べる空中戦担当。加速装置も保持している。

登場話:ハインリヒ

 

 

本編に出てこない人たちの話2より登場

 

次元大介:出典・ルパン三世

 早撃ち0.3秒の孤高のガンマン。彼より早いガンマンは結構居るが強いガンマンはそう居ない。チキュウエリアで獲物がブッキングして以来統合軍、特にウェスカーとは何度も渡り合ったらしい。

彼とは全然関係ないが、のび太のバイオハザードに突っ込む人が少なくて……あれ好きなんですよね。

 

バスク大佐:出典・機動戦士Zガンダム

 名前だけの欄から移動。初対面の人に怖がられるのが最近の悩み。

大分原作よりもマイルドだがやっぱりどこか狂っている。

 シャアがエターナルロリをデートに誘った件で彼女の主である八神はやてに謝罪を送り彼女の心に止めを刺した模様。バスクは気づいていない。

登場話:本編に出てこない人たちの話2、本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

 

ジャギ:出典・北斗の拳

 俺の名を言ってみろ。ケンシロウ? あのニートと一緒にするんじゃねぇ!

 色々運命が狂って何故か公務員になった男。最近の悩みは腑抜けた弟が本当に引き篭もったので北斗の寺院の維持が難しい事。

登場話:本編に出てこない人たちの話2、本編に出てこない人たちの話4

 

 

とあるルポライターの話より登場

 

間桐雁夜:出典・Fate/Zero

 ルポライターのおじさん。zeroは終わっている。桜を引き取って防衛機構に所属し、現在はマクロス級にのって各エリアの調査を行っている。調査とは平たく言うと危険な作品や人物に対する撒き餌の役割でかなり危険な仕事だが、聖杯戦争を生き延びて補正が生えたのか、今の所クロオのお世話になるような事はない。右手は義手。

登場話:とあるルポライターの話、アーカード、とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

間桐桜:出典・Fate/Zero

 雁夜に正式に引き取られて養子入り。頑なに彼の事を父と呼ばない理由は不明。ただ、彼の事を嫌っているわけではない模様。流石に調査中は同行することはなく、普段はマクロス内部の学校に通っている

登場話:とあるルポライターの話

 

ジェノス:出典・ワンパンマン

 ゲンソウエリア所属のヒーロー。師と一緒にマカイエリアの応援に行っていた。雁夜と出会ったのは実は幻想郷。最近、アラレという埒外の存在に目を付け彼女の技術を自身に適用できないか模索しているらしい。

登場話:とあるルポライターの話、サイタマ(かみのはなし)、本編に出ない人たちの話6

 

 

ゴブリンスレイヤーより登場

 

とある少年改めゴブリンスレイヤー:出典・ゴブリンスレイヤー

 ぱちぱちの脳内だとさまようよろいの額に殺の文字で出てくる人。狂気に走るきっかけが大分マイルドになった為ゴブリンにかける情熱もマイルドに。でも全力で殺しにいくスタイルは変わらない。

登場話:ゴブリンスレイヤー

 

少年改めゴブリンスレイヤーの姉:出典・ゴブリンスレイヤー

 原作では死亡。この話では最初のフラグ・ブレイカー。ゴブリンに玩具にされて惨殺される所をクロオの投げナイフで危機を脱した。その後、その時のトラウマが、という口実を得てクロオに付き従い王国軍に参加。彼の医療技術を間近で学び『神医の愛弟子』の称号を得る。

現在は王都で王宮の典医長を勤めており、何とか防衛機構に参加できないかと躍起になっている模様。

登場話:ゴブリンスレイヤー

 

女神官:出典・ゴブリンスレイヤー

 少しだけ登場。この話でも原作の流れ沿いで救出されるが、ゴブスレさんが大分マイルドな為早めに打ち解けた模様。

登場話:ゴブリンスレイヤー

 

妖精弓手:出典・ゴブリンスレイヤー

 少しだけ登場。女神官に同じくゴブスレさんが大分マイルドな為打ち解けるのも早かった模様。また、ゴブスレさんも冒険自体に興味が無い状態ではない為何度かゴブリン抜きの冒険に誘う事に成功している。

登場話:ゴブリンスレイヤー

 

 

本編に出てこない人たちの話3より登場

 

甲賀弦之介:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 愛する妻と一緒になれた幸せな男。現在単身赴任中。家族と里の皆の為に今日も頑張るぞと気合を入れた矢先、里帰りをしていた部下から封筒を手渡される。その結果、新しい世界の扉を開いたカセイエリア防衛機構所属のエリート()忍者の長。敵意を持って攻撃する相手に敵意を跳ね返し自害させるという目が見える相手には割りと無双できる瞳術を持っているが今回は暴走した形になる。

  瞳術が通じないBETA相手だったので重火器で対応した模様

登場話:本編に出てこない人たちの話3、とあるルポライターの手記 終

 

薬師寺天膳:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 天膳殿がまた死んでおられるぞ! 

 今回は本当にひたすらとばっちりだった人。瞳術に反応してしまったのは様子の可笑しい弦之介を押さえる為に動こうとした所、心の隅でまだ残っていた害意が反応してしまった為。

 本編以外の天膳殿は大体こんな感じなので彼の登場=どこかで死亡になる。ぱちぱちはドラマCDに入っていた女の子をナンパして山にシケ込もうとしたら熊に殺されて非常食にされかけた話が大好き。彼再生するんで幾らでも食べられるからね。(非常食にされても)仕方ないね

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

地虫十兵衛:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 四肢が無い異形の忍者。普段は籠を使って移動しているが、腹の蛇腹のようなものを利用し素早く移動する事も可能。舌も自在に動かし鞭の様に扱う事もできる。

戦闘面だけではなく占い等も得意で、その思慮深い性格と様々な知識を持っている事から知恵袋として活躍している。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

室賀豹馬:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 盲目の忍者。弦之介の叔父で彼の瞳術の師でもある。夜の間だけ弦之介と同じ瞳術を扱う事もできるのだが、今後その設定に出番があるかは不明。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

シグナム:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターのリーダー。普段は彼女の指揮下の部隊で隊長を務めている。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

ヴィータ:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。エターナルロリ。普段はシグナムを補佐して副隊長の任についている。その一切変わらない容姿に惹かれたのかはわからないがとある3倍の人に食事に誘われた事がある。

 どうやら食事に行ったらしい。次回の約束も取り付けてあるためそれほど相性は悪くないようだ。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

シャマル:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。街コンに参加しては? と言われたのが地味にショックだったらしい。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

ザフィーラ:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。ペット枠。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

シャア・アズナブル:出典・機動戦士ガンダム

 チキュウエリアのMS部隊を総括している人物。実はアムロが自身の知っているアムロじゃない事に気づいていない。防衛機構内部でもチキュウエリアの白赤コンビとして名が通ったエース。

 最近ヴォルケンリッターのヴィータとデートにこぎ着けたがホテルのバーに誘おうとして失敗。その様子をジャギに撮影されておりバスクからしたたか怒られた模様。

登場話:本編に出てこない人たちの話3、本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

 

アムロ・レイ:出典・機動戦士ガンダム(冒険王)

 機動戦士ガンダムをマジンガーZのノリでやった作品の主人公。「ええい、このスイッチだ!」でパンチが飛び出し「ガンダム、ゴー!!」と叫ぶと鉄腕アトムのように空を飛べる便利仕様のすさまじい内容だが、一番の違いはアムロ・レイの性格がGガンのキャラにでも出てきそうなくらいの熱血漢になっている所。防衛機構内部でもチキュウエリアの白赤コンビとして名が通ったエースで、エリア最強の機動兵器乗りとして知られている。

 シャアと決着をつけてめぐりあい宇宙をした後にホワイトベースクルーと合流しようとして1人(とコアファイター)だけ統合に巻き込まれ、性格の豹変に周りから酸素欠乏症だと思われている。統合に巻き込まれた際、周囲の連邦軍やジオン軍ごと統合世界の地表にめり込んでいたのでそれ所の混乱じゃなかったのも原因。

登場話:本編に出てこない人たちの話3

 

 

ジャギから登場

 

アンナ:出典・北斗の拳 外伝極悪ノ華

 極悪ノ華の(悲劇の)ヒロイン。極悪ノ華では敵対組織に集団暴行を受けて、最後の力でジャギに会いたいと北斗の寺院までたどり着くもジャギに会う前に力尽きた。今作では暴行を受けている最中にクロオとレオリオ(ガチギレ)が乱入。レオリオが全力で暴れている間に助け出され、その後紆余曲折あったが現在はジャギの妻として、ジャギとの子、羅門の母として北斗の寺院を切り盛りしている。

登場話:ジャギ

 

 

翔んで埼玉実写記念から登場

 

パタリロ・ド・マリネール8世:出典・パタリロ!

 設定が多すぎて書き切れない。この話では母親思いの部分がクローズアップされてますが本来はこんな大人しくありません。

登場話:翔んで埼玉実写記念、クロオの失敗

 

エトランジュ:出典・パタリロ!

 パタリロの母親。原作では病弱の為スイスで静養している。原作ではバンコランというイギリス人の男に恋をし、彼に媚薬を持って思いを遂げる位アグレッシブ。尚バンコランは恐らく同性愛者よりのバイである。今作では病弱な体質をクロオの助力で解消した為常時アグレッシブモードに入っている模様。

登場話:翔んで埼玉実写記念、クロオの失敗

 

タマネギ1号:出典・パタリロ!

 マリネラ王国精鋭タマネギ部隊のリーダー。全員がタマネギ頭をして口の形が◇みたいになっているが、これは変装であり実際は全員美形の上戦闘能力が高く、また頭脳も明晰。軍・官のトップ400名が所属している事実上の政府組織。飽き性のパタリロに代わり彼らが国を運営している為マリネラは栄えている。

 クロオの危険性を初見で見抜いたが、それがどうしようもない類のものだった為、敬して遠ざけるを選択する。

登場話:翔んで埼玉実写記念、クロオの失敗

 

タマネギパルン号:出典・パタリロ!

 手癖の悪いタマネギ部隊の新人教育担当の1人。天才盗賊少年だった疑いがある。かなり人を食った性格をしているのだが、長い間クロオと接したせいで絆されそうになり任務を辞退。今は療養中。

登場話:翔んで埼玉実写記念

 

警察長官:出典・パタリロ!

 メガネを外したら凄いイケメンのナイスミドルの有能。家族は彼が仕事をする代わりに豪遊できているのであながち間違っては居ないがもう少し待遇がよくてもいいと思う人。

登場話:翔んで埼玉実写記念

 

 

カセイへの道中から登場

 

八雲紫:出典・東方シリーズ

 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、ヤオヨロズエリア郡の代表代理兼ゲンソウエリアの代表兼そこに所属する幻想郷の代表兼管理人。スキマを操る程度の能力を持ち、どこにでもいつだって現れる神隠しの元凶。

 かわいい

 雁夜の一件以降とある掲示板等から新しい知識を(主に骨とカエルから)得ては使ってみて感性の若さをアピールするようになり式の藍と橙を困惑させている。

 ちなみにクロオをタイヨウ系エリア群に運んだ後は他のエリアを回って戦力の運び屋のような事を(藍が)行い、久方ぶりにたっぷり(藍が)働いて良く眠れると布団に入った所で宇宙怪獣がエントリー。彼女について行ってもクロオは結局地獄絵図の中に飛び込む事になっていた。

登場話:カセイへの道中、本編には出てこない超越者達、番外編 原作ウォッチ2

 

艦長:出典・マクロスシリーズ

 ちょい役として登場。何グローバル艦長なのかはまた後日別の話で。

登場話:カセイへの道中

 

 

ブラック・ジャックを求める人々から登場

 

チードル=ヨークシャー:出典・HUNTER×HUNTER

 現在はハンター協会の会長。ゴンの手術の映像を見てしまった人の1人。他の人は彼に対して治してもらう、施術してもらいたいと願っている中1人だけ「あの技術、身につけたい」と頑張っている人。レオリオとは文通友達。

登場話:ブラック・ジャックを求める人々

 

平賀才人:出典・ゼロの使い魔

 現在は防衛機構に相棒(デルフリンガー)と共所属。恋人兼主人の姉を治す手段を探して防衛機構に入り、恐らく一番望ましい形での回復はBJに頼る事だと結論。モモンガ様? 初手アンデッド化の提案でした(しかも超善意)多分他の手段でも何とかなると思っているが、一番後が怖くないのがBJと判断した辺りかなり危険に対する嗅覚が良い。現状はケモノエリアでエリア内のゴミ処理係。

 カリーヌの件で割と黒夫のトラウマを刺激してしまった為、後に雁夜からめっさ怒られたらしい。黒夫が気にしてない()ので不問になったが暫く雁夜への協力をすることになった。つまりモンスターハンターからゴーストスイーパーに。

登場話:ブラック・ジャックを求める人々、カリーヌ、とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール:出典・ゼロの使い魔

 ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁあああ(ry

 平賀才人の恋人にして主人。ぐうかわ。カリーヌの件で才人が雁夜に借りを作ってしまった為、才人共々暫く雁夜を手伝う羽目になる。

登場話:ブラック・ジャックを求める人々、カリーヌ

 

泉こなた(黒):出典・らき☆すた

 今回の登場人物で唯一の完全一般人。BJを糸口に防衛機構への所属を画策している。目的は龍球の確保とそれによる家族の復活。髪の毛は黒く染めている。

 感想の方で色々予想されてたので大幅追記しますが、龍玉を求めてるのはそーじろうの為にかなたを蘇らせたいからで別に現状が不幸だから、という訳ではありません。

 黒くなってるのは黒こなさんのビジュアルが好()日本人なのに変な色の髪は許せないとか言うのが統合軍にいたんじゃないですかね。そのままにしてるのは多分趣味か願掛けだと思います。

 後、小〜中前半の年齢で割と酷い現実(一つの国が丸ごとゾンゾンびよりとか)に気付いちゃって思春期に発症する不治の病的に「自分がやるしかない!」なモードになってるので彼女は何処までも本気で動いてますが周囲の視線は温かいです。でも黒こなさんの思考回路の方が現状生き残る率は高いので、この世界ではむしろ彼女は厨2回路ガン回ししてた方が良いかもしれない。

 もし次出す時があれば普通のこなたになってるかもしれませんが、たまにすっごい醒めた目をします。ちょっと醒めた感じのめがねこなた考えた人天才すぎる。

登場話:ブラック・ジャックを求める人々

 

 

ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章から登場

 

キン肉スグル:出典・キン肉マン

 超人レスラーにしてキン肉星の大王。統合後に王位継承戦をしたので36巻でフェニックスをお姫様抱っこした後くらいの人。ダメージが大きいのは統合後の混乱期にも戦っていた為。クロオさんが出会った原作持ちのキャラでぶっちぎりで好感度が高い人である(ファン的な意味で)

 (絶対に登場させたいけど中々登場できなかったキャラの1人)

登場話:ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章

 

アレキサンドリア・ミート:出典・キン肉マン

 キン肉スグルの世話係にしてセコンド・頭脳労働担当。彼の台詞を「大王」とする時が一番違和感が凄かった。「王子!」って呼ばせたいと何回書き直そうとしたかわからない位。

登場話:ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章

 

三浦あずささん:出典・アイドルマスター

 実は名前が出たのは2回目。今回は迷子じゃない。

 流石にこの後回収されたが何故か偶に里の中にいるらしい。

登場話:ドキュメントX ラスト5秒の逆転ファイターの章

 

 

ブラック・ジャック拉致作戦から登場

 

グレート・ブリテン:出典・009

 またの名をサイボーグ007.006張々湖と並んでサイボーグナンバーズ年長組。大抵の物には変身する事が出来る為潜入調査などを主に行っており、今回の『訓練』の仕掛け人。

 生き残った兵士達を引き取り犯罪者として連行したが、正気を失っていたり完全に歯車として動く職業兵士が多く責任を問うべき相手が軒並み穴の下に居るので難航しているらしい。だが作戦自体については気分はスカッとしたとの事。

登場話:ブラック・ジャック拉致作戦

 

一方通行(すずしなゆりこかも):出典・とある魔術の禁書目録

 ちょい役として登場。保育士。

 学園都市と防衛機構が衝突した際にこちらに亡命してきた人物。木原君をぶっ殺した辺りでクロオがカエル顔の医者に依頼されて拉致同然に連れてきたのだが、その方法がガンダムバルバトスでビルに手を突っ込んで打ち止め(ラストオーダー)事掴み出されるという非常に雑な方法だった為、未だに三日月に苦手意識がある。

 村に来て数か月だがこの村の魔境さとのんびりとした空気に大分毒されたらしい。酒に弱く酔ったら超陽気モードになって歌い始める。

登場話:ブラック・ジャック拉致作戦、本編に出てこない人たちの話4

 

張々湖:出典・009

 またの名をサイボーグ006.グレート・ブリテンと並ぶ00ナンバーサイボーグ年長組。中華料理の達人であり料理人として再起したテンカワアキトの現在の師匠。割とユリカの料理も進歩していた事にご満悦。

登場話:ブラック・ジャック拉致作戦

 

栗色の髪の青年:出典・009

 初登場だけど台詞なし。加速装置ごっこやりたい。

登場話:ブラック・ジャック拉致作戦

 

敵兵士の少女:出典・???

 クロオの所まで辿り着いた凄腕だがそこで力尽きその上に無自覚に心をべきべきに折られた可愛そうな娘。

 007に引き取られた後に療養と偏った知識による洗脳を解かれ自身の今までの人生に直面。また心がべきべきに折られる。

 サンタ・マリアの名に誓い、すべての不義に鉄槌を。この誓いの言葉も今は虚しい。

登場話:ブラック・ジャック拉致作戦

 

 

おまけ 厨学生いずみこなたのぼうけん

 

柊つかさ:出典・らき☆すた

 手がかりを求めて鷹宮神社にやってきたこなたと原作より3年も早く遭遇してしまった少女。割とキーマンっぽい動きしてるが本人は全て無自覚。

登場話:厨学生いずみこなたのぼうけん

 

柊かがみ:出典・らき☆すた

 つかさの所に遊びに来たこなたと出会い趣味友だと思って意気投合。BJファンクラブに入会しているとか。

登場話:厨学生いずみこなたのぼうけん

 

泉そうじろう:出典・らき☆すた

 こなたの父親。娘が危ない事になりそうだとは欠片も気づいていない。北斗の拳については名作だと思うが子供の教育には悪いと作中では若干常識人ムーブをしてるが一番非常識な人。

登場話:厨学生いずみこなたのぼうけん

 

葉隠覚悟:出典・覚悟のススメ

  強化外骨格「零」を瞬着し、零式防衛術を使って戦う戦士。防衛機構チキュウエリアに所属している。現在は長期出張が終わり休暇中。友人に町を案内してもらう予定だったが合流できなかった模様。らき☆すたは見たことがある為、こなたの見た目が違う事に驚いていた。

登場話:厨学生いずみこなたのぼうけん、アーカード

 

 

 

本編に出てこない人たちの話4より登場

 

ケンシロウ:出典・北斗の拳

 ジャギからニートだなんだと罵られまくっていた人。実際後の始末をすべてジャギに任せて自身はユリアと1年もイチャイチャしていたので怒られてもしょうがない。

 大分腕が衰えているがまだジャギといい勝負位には維持しているらしい。トキにはボコられた。

登場話:本編に出てこない人たちの話4

 

打ち止め(ラストオーダー):出典・とある魔術の禁書目録シリーズ

 男の多い村のガキ共でもムードメーカー兼トラブルメーカー。様々な人にしょっちゅう拳骨をもらっているが、それ以上に可愛がられているらしい。最近のお気に入りは一方通行が歌っていた歌なのだが名前がわからず正確な歌詞を探しているらしい。

登場話:本編に出てこない人たちの話4

 

風見 農華:ガ板(東方シリーズアレンジ)

 朗らかな人柄の農家の女性。いつも麦わら帽子を被っており、村で唯一専業で農業を営んでいる。非常に面倒見の良い性格で村の子供や大人たちにも何かあった時の相談などを受けている。

 しかし実は生まれてまだ3年しか経っていない年若い妖怪。

 元ネタは農業してそうな風見幽香⇒のうかりん。この世界では統合後に風見幽香から枝分かれする形で生まれた。正確には母だが根分けのような形だった為互いに姉妹だと認識している。仲が悪くなった原因は花を農作物として彼女が扱っていることに幽香がキレた為。

 ギターが趣味で代表曲は【熱情の律動】

登場話:本編に出てこない人たちの話4、本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

 

妙にジジ臭い口調の少年:出典・???

 偶に村に出没するらしい。見た目は10代半ばだが???

 変な桃を持っていたり謎の特技を持っている。

登場話:本編に出てこない人たちの話4

 

 

ifストーリー 鴨川源二

 

鴨川源二:出典・はじめの一歩

 本編時間軸では現在30歳位。デミえもんの「原作とは違う道筋を歩いた原作キャラのその後」という実験のために補佐を行われ、現在留学中。IF時空はそこから4~50年後でその間に世界チャンピオンになっている。

登場話:ifストーリー 鴨川源二

 

猫田銀八:出典・はじめの一歩

 鴨川のライバル。クロオの手術を受けて脳のダメージを抜き、悲劇からの劇的な復活というストーリー付きで現役復帰。世界的な人気ボクサーになる。鴨川とは数度世界タイトルをかけて争っており、彼らが現役の時代バンタム級は「日本人の庭」と呼ばれていた。

登場話:ifストーリー 鴨川源二

 

ユキさん:出典・はじめの一歩

 共同生活を送る代わりに病院で原爆症の治療を行っていた。コスモクリーナーによる放射能の除去とクロオによる変異した細胞の修復を行い、原作よりも長生きしたようだ。

なお鴨川の嫁に収まっており猫田は。

登場話:ifストーリー 鴨川源二

 

鈴木サトル、またの名をモモンガ:出典・オーバーロード

 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、AOGエリア群の代表。数多の魔法を修め、数多の魔を従える死の支配者。

 初登場字は人間の姿で登場。次元統合という未曽有の危機に対して自身陣頭に立って立ち向かっている。骨の姿にもなれるらしいがご飯を食べる際に支障をきたすので人化姿が普段着代わりになっているらしい。

 呼吸法の存在を知り、鬼殺隊を取り込めないかと接触を図っていた(デミウルゴスが)。

 鬼殺隊当主の治療および鬼に対する戦力供給を名目に産屋敷氏に接触。産屋敷氏の伝手を生かして重工業に進出していく予定である(デミウルゴスが)

 鬼の不死性についても若干興味があったが、知性が落ちる可能性がある為興味を失った。

 代表者会談に出席する度にかわいい部下のお茶目と同僚からの舌鋒に毎回机に突っ伏している。なお若干それらを楽しんでいるように見受けられるのは気の所為。実は勢力拡大エンジョイ勢。こんな感じで本人は楽しみながら仕事してます。

登場話:ifストーリー 鴨川源二、胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事、本編には出てこない超越者達、本編に出ない人たちの話 8、番外編 原作ウォッチ2

 

デミウルゴス、またの名をデミえもん:出典・オーバーロード

 AOGエリア群実務担当。モモンガが例えどのような姿でどのような思想を持っていても彼に対する忠誠は嘘偽りなくデミウルゴスの心に宿っている。クロオや鴨川に対するスタンスは興味深い駒。

 同僚の八雲藍とは仲良く喧嘩してる。別段嫌いという訳ではないのだが仕事の場では互いに不倶戴天のレベルでやりあってる。

登場話:ifストーリー 鴨川源二、本編には出てこない超越者達、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話、海賊王、ゴール・D・ロジャー

 

 

カリーヌより登場

 

カリーヌ夫人:出典・ゼロの使い魔

 カトレアとルイズの母親。又の名を烈風カリン。ゼロ魔では作中最強というチートだがこの世界では少し微妙。今回の行動は1から10まで親心の暴走であり、普段はもう少し冷静。

登場話:カリーヌ

 

カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ:出典・ゼロの使い魔

 ルイズの姉。先天的に体に欠陥があり、不治の病として明日も知れない状況だった。治療の際、常にカトレアを安心させようと力強く彼女を励ますクロオに心惹かれていたらしい。暫くエトランジュの屋敷で養生をした後に実家に帰る予定だが果たして。

登場話:カリーヌ

 

モンティナ・マックス:出典・ヘルシング

 故人。演説が有名な人。またの名を世界一カッコいいデブ。黒夫にとっての天敵(トラウマその2)。名前に関しては確定してるかはわからないがぱちぱちは彼の名前はモンティナだと思ってます。有明に突撃してたらもう少し無害だと思う。

 今回の話は割とこの男と黒夫の会話シーンの為に書かれてる。こいつが黒夫と会おうと思ったのは単純に会う機会があって自身と真逆の生き方を送っている黒夫に興味があったため。会ってみたら予想以上に面白い奴だったので満足している模様。

登場話:カリーヌ

 

 

サイタマ(かみのはなし)より登場

 

タカキ・ウノ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

 鉄華団年少組のリーダ格。並びに打ち止め(ラストオーダー)ファンクラブの一人

登場話:サイタマ(かみのはなし)

 

ヤマギ・ギルマトン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

 鉄華団年少組の一人で整備班所属。割と公式でこんな感じ。相手は鉄華団幹部のノルバ・シノ。真面目そうな外見だがウリバタケの息子と組んで盗撮用の機材を作ったり割と行動力が凄い。

登場話:サイタマ(かみのはなし)

 

八意永琳:出典・東方シリーズ

 えーりん!えーりん!

 恐竜が生きてた時代から生きているらしい医者。東方シリーズの便利枠。

 サイタマに髪を生やすという信じられない偉業を達成してしまう。この際にとられた手法はサイタマの頭皮圧()に耐えられる最強の毛髪を作り出しこれを植え付けるという圧倒的な力業であったが彼女はこれに成功。サイタマ自身から採取された他所の体毛を元に作り上げた最強S毛を頭に植え付けた。この最強S毛は一本作るのに多大なエネルギーが必要な為、精々月に1、2本出来るかという代物。

 この作品で恐らく1,2を争うくらいにクロオからの評価が高い人。鷲羽ちゃんと同列位?

 なおBJ先生が出たら1番は譲ってしまう模様。

登場話:サイタマ(かみのはなし)

 

鈴仙・優曇華院・イナバ:出典・東方シリーズ

 可愛い。それ以外に必要だろうか。

登場話:サイタマ(かみのはなし)

 

暴力巫女::出典・東方シリーズ?

 一体何代巫女なんだ……? クロオの初代トラウマ。この後にジャギやオルガの件があってちょっと緩和したが、クロオはこの人と話すと大体脇腹を抉られるので腹への防御が異常に上手くなった。このおかげでジャギからの攻撃に耐えきれたので結果オーライ。

登場話:サイタマ(かみのはなし)

 

サイタマ:出典・ワンパンマン

 大好きなキャラ。正直BJ(偽)で始める前にこいつに憑依する没ネタが会った位に()

多分肉弾戦においてDB勢と張り合える数少ない人間(ここ重要)

 数日間離れた隙に色々と楽しんでいた模様だがその様子は割愛しました。バトル苦手で全然話が書けませんでした……

力で押せる相手には概念と化す。強敵と合わせてやると言われるが延々ワンパンで終わっていたので大分フラストレーションが溜まっていたが、最終的に大満足だったらしい。

 尚、現在の髪型はオバQ。

登場話:サイタマ(かみのはなし)、本編に出ない人たちの話6・8、八木 俊典(オールマイト)

 

 

クロオの失敗より登場

 

ジャック・バルバロッサ・バンコラン:出典・パタリロ!

 終身名誉男色家。視線で同性を魅了する魔眼を持ち、そのとっかえひっかえ美少年と床を共にする様子からパタリロに「世界で唯一エイズ免疫を持つ変質者」などと呼ばれている。

 趣味の範囲は十代後半の大人しい美少年だがちょっと気合を入れたらどの年齢の男も魅了できるらしい。が、黒夫には通じなかった模様。

登場話:クロオの失敗

 

ラピス・ラズリ・テンカワ:出典・機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness

 通称劇ナデにてテンカワアキトの補佐を行っていたマシンチャイルド。同じような境遇の打ち止め(ラストオーダー)に引っ張られるような形で集落に溶け込み始めている。

登場話:クロオの失敗

 

 

本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

鑢七花:出典・刀語

 姉が流派創出の為に修行に入った為、ジャギに託される形で社会見学を行っている。姉に劣等感を持っているがそれはそれとしていつか追い抜けばいい位のポジティブさで周囲から教えを受けており、その姿勢にジャギが感動して連れまわしている()

 作中でジャギに向けてはなった技(焔螺子)は『あやかしびと』に出てくる九鬼流の技。と言っても七花の場合、技の元になっているのは虚刀流の鏡花水月や柳緑花紅であり、そこに捩じりを加えて形を作った物なので結果や形は似ていても実際は別物である。

登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

 

 

鎬紅葉

 

鎬紅葉:出典・刃牙シリーズ

 刃牙世界におけるスーパードクター枠。この件を機に更に自己研鑽を積み、名実ともにこの世界最高の医師と呼ばれるようになるが本人としてはまだまだ未熟なつもり。

登場話:鎬紅葉

 

徳川光成:出典・刃牙シリーズ

 刃牙世界日本で最後の大物と呼ばれる人物。地下格闘技場のオーナーとして強者同士に戦いの場を提供する事が己の役割だと自負している。統合に関しても詳しく把握しており、接触してきたマモーと交渉し自身の病魔を根絶する事に成功。オーガをとある格闘技大会へ参加させたのも彼。

登場話:鎬紅葉

 

愚地独歩:出典・刃牙シリーズ

 刃牙世界での日本最大の空手組織の長。徳川翁が手術を受ける前にクロオからの施術(クローニングのテストでもあった)を受けて右目を取り戻した。全身の古傷を消されたのはサービスだったらしい。

登場話:鎬紅葉

 

 

 

ソーフィヤ

 

ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ:出展・BLACK LAGOON

 原作での呼び名はバラライカ。軍籍はく奪される前にソ連が防衛機構に吸収され、そこで頭角を現した。統合軍との戦いでは個人プレーに走りまくる上官と同僚を必死こいてサポートした実質指揮官扱いで終戦まで従軍。火傷は治療されているが体を焼かれた恐怖と憎悪をウェスカーに対して抱き続けている。クロオに関しては……複雑な心境らしい。

 タイヨウ系エリア群の物流は彼女とホテルモスクワ(運輸業)が主体になって構築されます。

登場話:ソーフィヤ、本編に出ない人たちの話 8

 

ボリス:出展・BLACK LAGOON

 ソーフィヤの副官。元は美少年だったが軍でしごかれてあの顔に落ち着いたらしい。

登場話:ソーフィヤ

 

アルバート・ウェスカー:出典・BIOHAZARD

 故人。ウェスカーの死がチキュウエリアにおける統合軍の実質的な最後。クリスにロケランでぶっ飛ばされた。

 名前は良く出てくるが、彼の場合戦争序盤から最後まで実働部隊を率いていたというのもある。

登場話:ソーフィヤ、ルパン三世

 

 

 

番外編 原作ウォッチ

 

スバル・リョーコ:出典・機動戦艦ナデシコ

カセイエリア所属のエースパイロット。気になる男性が最近居るとの噂あり。

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

タケシ?:出典・ドラえもん?

 一体何ジャイアンなんだ……?

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

バサラ?:出典・マクロス7?

 歌が好きな人らしい

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

鹿目まどか:出典・魔法少女まどかマギカ

 アルティメットしなかった方。じゃああの災厄どうすんのかっていうとサイタマ

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

暁美ほむら:出典・魔法少女まどかマギカ

 デビル化しなかった方。ワンパンチで終わったので愕然としたが気を取り直して残った魔女の後処理などに奮闘している。残念ながらスペースほむらにも成れなかった。

登場話:番外編 原作ウォッチ、本編に出ない人たちの話6、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

美樹さやか:出典・魔法少女まどかマギカ

 魔女化しなかった方。自分の末路を見て意気消沈していたが自身が手にかけたに等しい杏子からの友情で持ち直してきている。

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

佐倉杏子:出典・魔法少女まどかマギカ

 自身がさやかを止めるために死亡するシーンにショックを受けるも、それに耐えてさやかを気遣う。現状は互いに互いを支え合っている状況。

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

巴マミ:出典・魔法少女まどかマギカ

 もう何も怖くない

登場話:番外編 原作ウォッチ

 

 

 

ルパン三世

 

ルパン三世:出典・ルパン三世

 ご存じ世界的に有名な大泥棒。因みにマモーと戦う数年前くらいをイメージしてます。

 今回の話の流れとしてはウェスカーとラオウという怪物二名とブッキングし抗戦するも敗北、大怪我を負った所を防衛機構側に救助された。

 因みに本人的には恩返しをしようとして毎回酷い目に合わせてしまってる形なので少し気まずかったりする。多分クロオの運命力の問題だったり。

 以後ウェスカーと次元、ラオウと五右衛門という人外対決が数回行われた(なおラオウ側は決着つかず)

登場話:オルガ、ルパン三世

 

ラオウ:出典・北斗の拳

 故人。何かと名前が出てくるのはクロオ達が居る地域は彼らの担当だった為です

登場話:ルパン三世

 

 

 

本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)6

 

空条承太郎:出典・ジョジョの奇妙な冒険

 キュゥべえをオラオラするためにご登場いただいた方(17歳)

 まどマギ初めて見た時にこれをやってほしかった。MAD技術があれば自分で行ったのに……(違)

 日本人という理由だけで見滝原に派遣され、ちょっとした奇縁の影響でほむらに協力していた。

 ワルプルギスの夜は自分では対処できないとサイタマを呼んだのも彼なのである意味MVP

登場話:本編に出ない人たちの話6、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

 

孫悟空:出典・ドラゴンボール

 とんでもなく強い奴がいると言われてホイホイ呼び出された男。大変満足したらしい。

登場話:本編に出ない人たちの話6

 

 

 

雷禅

 

雷禅:出典・幽★遊★白書

 幽★遊★白書主人公、浦飯 幽助の父(むしろ祖先?)

 作中最強の魔族だが、登場時にはすでに千年近い期間の断食生活を送っており死にかけ。だが死にかけの状態でも魔界を3分する力を持っていた。

 この話中、とある医師が手土産で持ってきた酒で全盛期の力を取り戻し、黄泉と骸を相手に全面戦争――する前にAOGが介入。恩と正直魔界統一なんぞどうでも良いと思っていた雷禅の思惑が合致し、魔界の長い歴史でも珍しい事に血を流さずに争いの日々が終わった。

 尚その後なんやかんやあって開催された魔界統一トーナメントは参加したが途中でめんどくさくなって棄権した模様。

 

登場話:雷禅

 

北神:出典・幽★遊★白書

 幽助を迎えに行く際に接触を図ってきたAOGとの交渉により、国王の治療が出来うる医者の斡旋を受ける事に成功。人間だった事に驚愕する。

登場話:雷禅

 

 

 

本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

テンカワユリカ:出典・機動戦艦ナデシコ

 テンカワアキトの妻。旧:ミスマルユリカ

 機動戦艦ナデシコにおけるメインヒロインであり、夫と共に劇場版ナデシコのメイン被害者の一人。演算ユニットに組み込まれて「人間翻訳機」として利用されていた。

 アキトと共に患者としてクロオの治療を受け、体は健常者となんら変わらない状態だが未だに心の部分で後遺症が見られる。

 アキトの浮気?に関してはひと悶着あったが、当人たちの間で決着はついている模様。ただしお替りは許されない。

登場話:本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

 

涼宮ハルヒ:出典・涼宮ハルヒの憂鬱

 【本編には出てこない超越者達】で正体が判明した() 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、タイヨウ系エリア群の超代表。己の想像を具現化するある種全能の能力を持つただの人間を称する人。

 元来破天荒な性格であるが、その自分が真面目に見える代表者会談に憂鬱を覚えている。どうやら恋人ともうまくやっているらしいが、最大の問題は忙しすぎて互いに時間が取れない事。

登場話:本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話、本編には出てこない超越者達、番外編 原作ウォッチ2

 

長門有希:出典・涼宮ハルヒの憂鬱

 【本編には出てこない超越者達】で正体が判明した()涼宮ハルヒにより『わたしのかんがえたさいきょうのうちゅうじん』を本当に体現させられた。端末さえあれば5つのエリア群どこにでもアクセス・掌握が可能な為、防衛機構全体通達、俗称【回覧板】の作成と発行も行っている。

 カセイエリアの軍政官にして防衛機構のタイヨウ系エリア群の指揮官。むしろ一時期彼女だけでタイヨウ系エリア群は持っていたとも言われる。

BETAに対する最終兵器という役割も持っている超多忙な人。でも安心院さんより働いては居ない。

登場話:本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話、本編には出てこない超越者達

 

 

 

博徒

 

ダニエル・J・ダービー:出典・ジョジョの奇妙な冒険

 原作終了後、廃人になりかけていた所を拾われ防衛機構に。リハビリを行った後に過去に行った所業の罪を問われ、首輪(毒入り)をつけられたうえで捜査員としてこき使われている。

 黒夫への使者に使われるくらいには真面目に仕事を熟していた模様。彼がどちらを選んだかは秘密。なおどちらを選んでも最終的には五体満足で終わらせるよう手配するつもりだった。

登場話:博徒

 

赤木しげる:出典・天~天和通りの快男児~

 またの名を老アカギ。アルツハイマー型認知症という不治の病を患っていたが黒夫のもとでの治療で完治。しかしそれが原因で博徒としての能力に陰りが出てしまった……のだが黒夫の右腕賭けの荒療治により完治。完治どころかリミッターを超えたのか未来予知じみた能力に全盛期の天運が戻ってきたらしい。

登場話:博徒

 

黒シャツの男:出典・???

 一体何雀聖なんだ?

登場話:博徒

 

黒服の男:出典・???

 一体何人鬼なんだ……?

登場話:博徒

 

俯いた男:出典・???

 哭いたら牌が光りそう

登場話:博徒

 

蛇喰夢子:出典・賭ケグルイ

 小まめにはぁはぁしてた。

登場話:博徒

 

 

胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

 

胡蝶カナエ:出典・鬼滅の刃

 原作では故人。今作ではそのタイミングでの介入により一命を取り留めた。この後クロオとは何もありませんでした。何もありませんでしたよ?

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

 

胡蝶しのぶ:出典・鬼滅の刃

 原作では姉の後を継ぎ柱になるもこの世界ではそこまで伸びるか分からない。クロオのメスを直接見た数少ない医療関係者の一人として本人の知らない間に注目度が上がっていたりする。

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

 

謎の鬼:出典・鬼滅の刃

 一体何童磨なんだ……なおジンとの戦いではジンの優勢のまま終了。生死は不明。

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

 

ジン・フリークス:出典・HUNTER×HUNTER

 本編初登場。実はクロオの最初の旅の友であったりする。謎の鬼との戦いは終始優勢を取っていた。決着の形は不明。

 現在は元気に異世界探索ライフを満喫中。こないだのネクロモーフといいエッグいのが多い世界軍だなぁと思いながらそれはそれで楽しんでる。

 なおゴッドハンドは流石に危険すぎると判断。接触は控えた模様。

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事、海賊王、ゴール・D・ロジャー、本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7、テンカワアキト

 

セバス・チャン:出典・オーバーロード

 サトルの執事。マイカーを購入できないかお伺いを立てている。基本善性な彼はこういう人間主体の世界でよく名代を努めてたり。

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事、本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話、本編に出ない人たちの話 8

 

産屋敷耀哉:出典・鬼滅の刃

鬼殺隊当主。ヤバイ所に借りを作ってしまったがどうしようもないむしろ内部に入り込んで少しでも人類にとってよい道を選ぼうと新しい戦いを始める決意を固めたている。なお最も中枢に近い人類であるクロオはこの後すぐに旅立つ模様。

登場話:胡蝶カナエ。或いは統合歴1年目の出来事

 

 

 

 

本編には出てこない超越者達

 

八雲藍:出典・東方シリーズ

 ヤオヨロズエリア郡実務担当。同僚のデミウルゴスとは仲良く喧嘩してる。別に嫌い合っているわけではない。上司の心部下知らず。ちぇぇぇんって叫んでほしい。基本的には苦労属性の九尾の狐(式神憑き)

 やる事の範囲が広がったせいで妖怪なのに過労死寸前。とある話ではなんとか則巻アラレの被害だけでも止めようと画策したが熨し付けて返される事になる。

登場話:本編には出てこない超越者達

 

蝶人パピヨン:出典・武装錬金

 シューエーエリア(仮)群の名ばかり実務担当。安心院さんが居るから安心。こんなんが実務担当なのはやる時はとっても頼りになるのと頼めば会議をサボらず出席してくれるため。人材は多いのに人材不足。

登場話:本編には出てこない超越者達

 

ゼロ:出典・???

 苦労人。怪しい仮面とマントを身に着けたCV.福山潤。いったい何ルルなんだ……?

 長門有希が来るまでは上階の会談にも参加させられていたらしい。

登場話:本編には出てこない超越者達

 

安心院なじみ:出典・めだかボックス

 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、シューエーエリア(仮)群の代表。1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ人外。

 エリアの名前に(仮)がついている理由は、代表を任せるに足る主人公が見つかればそいつに渡して名前を変えるため、との事。全エリアで最も仕事量の多い個人。

登場話:本編には出てこない超越者達、番外編 原作ウォッチ2

 

 

 

八木 俊典(オールマイト)

 

八木 俊典(オールマイト):出典・僕のヒーローアカデミア

 原作ではおっさん系メインヒロイン(勝手な解釈)、作中世界では一言で黒夫さんの背中を押して2年目の暴走を促した元凶。

 なお3年目に隠居する所までこの人のアドバイス通りなので今現在も最高のヒーロー枠は彼のままの模様。BJ(本)? あっちは黒夫にとって神なので比較されるレベルで尊敬はされている。

 受け継がせたOFAを流石に再度発現させることは出来なかったが、代替の技術を複数用いて過去の自分と戦えるレベルにまで力を取り戻した。が、まだまだどの技術も磨いている最中の為、全盛期8割くらいだと自分では思っている(なお周囲の目は)

 夢の満漢全席で回復したらすぐに修行を始めた修行バカ。失った力の代わりに念・覇気・呼吸といった新たな技術を手当り次第手を出して身につけていくなんかバグみたいな存在に

 自分の発想だとAFOに嫌がらせできそうにないからAFOに言われたことをアレンジして返した。ラストは勿論ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ。

登場話:八木 俊典(オールマイト)、本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

ワクチンマン:出典・ワンパンマン

 原作ワンパンマン第一話に登場する地球意思によって生み出された人類文明絶対滅ぼすマン。なおワンパンでサイタマの前に沈んだ。

 作中ではサイタマと遭遇する前にオールマイトと戦闘。オールマイトとサンレッドのタッグの前に敗北し、その残骸はAWGによって回収された。

登場話:八木 俊典(オールマイト)

 

緑谷出久:出典・僕のヒーローアカデミア

 。僕アカの主人公にしてオールマイトの後継者。ライバル(ヴィラン)師匠が捕まえてしまった件。今回の話ではほぼ出番はないがこの後師匠と共に絶対絶命魔界巡りや暗黒大陸横断ウルトラバトルに参加することになり良く掲示板でグチるようになる。

登場話:八木 俊典(オールマイト)、本編に出ない人たちの話 8

 

サンレッド:出典・天体戦士サンレッド

 溝の口発のヒーロー(真っ赤)。原作では嫁(彼女)のヒモだが今作では単身赴任中。怪人をボコれてお金まで貰える環境にニッコリ

登場話:八木 俊典(オールマイト)

 

 

 

とあるルポライターの手記1・2冊目・終 カセイ事変

 

冴羽獠:出典・シティーハンター

 またの名をシティーハンター。カセイ事変では黒夫と行動を共にしていた。

 ロイ・フォッカーについて語りたがらないのは同族嫌悪。

登場話:とあるルポライターの手記1・2冊目・終

 

ユーノ・スクライア:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ

 ブラックな職場からもう少しマシなブラックな職場に転職した

登場話:とあるルポライターの手記1冊目 カセイ事変

 

本屋ちゃん:出典・魔法先生ネギま!

 ネギまの序盤ヒロインは誰って彼女だと思うんだ異論は認める

登場話:とあるルポライターの手記1冊目 カセイ事変

 

ハルナ:出典・魔法先生ネギま!

 図書館探検部メンバー割と好きなんです。ベーコンレタスが嫌いな女子は居ません!とか作中で叫びそうなキャラ。勿論記者さんにも叫んでた。

登場話:とあるルポライターの手記1冊目 カセイ事変

 

ロイ・フォッカー:出典・超時空要塞マクロス

 即応集団、通称”マクロス大隊”の機動部隊隊長。コールサインの”スカルリーダー”がそのまま異名となって定着している。

 今作だと『初代マクロスは劇中劇』という設定を元にちょっと年代弄ってあるが、本名ロイ・フォッカーである事は間違いない。元軍人のヴァルキリー乗りで軍でも優秀だったが女性関係で揉めて軍を退職。生来の目立ちたがり屋で役者を志したらまさかの適正で名優と呼ばれるようになった頃に世界統合に巻き込まれた。

登場話:とあるルポライターの手記1冊目 カセイ事変

 

あややややな記者さん:出典・東方プロジェクト

 冴羽氏への取材中、股間のそびえ立つフランスパンを見て渡されていたハンマーで殴りました。

登場話:とあるルポライターの手記1・2冊目・終

 

神宮司まりも:出典・マブラヴシリーズ

バクっと行かれる前にクロオがインターセプトしたらしい。怪我は負っていたが数週間の療養で回復。黒夫にアタックしているらしいが一緒に酒飲みにいったのでかなり厳しい。

登場話:とあるルポライターの手記 終

 

 

 

本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

兜甲児:出典・マジンガーZ

 前回ちょろっと話が出た人。普段はヤオヨロズエリアで宇宙怪獣と戯れてたりする。

登場話:本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

 

 

 

海賊王、ゴール・D・ロジャー

 

ゴール・D・ロジャー:出典・ONE PIECE

 言わずとしれた海賊王。大海賊時代は不発した?が世界政府はそれどころじゃない騒動に巻き込まれるので最大最悪の犯罪者の名前は不動のものとなる

 元気に異世界探索ライフをエンジョイ中に気に入った奴が居たので勧誘した

登場話:海賊王、ゴール・D・ロジャー、本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7、テンカワアキト

 

ロジャー海賊団の面々:出典・ONE PIECE

 さらなる冒険の旅路が待ってるぜ! 美味い飯ばっかの世界ってどこ?と割とノリよく異世界移動。なお見習いはまだ早いと置いていかれた模様。

登場話:海賊王、ゴール・D・ロジャー

 

 

 

本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

煉獄杏寿郎:出典・鬼滅の刃

 まだ炎柱になる前。みるみる内に筋肉質になる八木の姿に食事の大切さを実感した

登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

ガッツ:出典・ベルセルク

 長い復讐の旅路の果て、ようやく正気を取り戻した想い人に盛大に拒否られた所を怪しいオッサン二人に唆された

 その後キャスカの治療のため、自分の住む世界を離れマリネラ山中へ。烙印の影響がない夜に戸惑いを感じながら、仲間と過ごしている。

登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7、テンカワアキト

 

シールケ:出典・ベルセルク

 リーダーが唆されたしわ寄せ(知識提供)を受けた。悲しい。

それはそれとして異世界の魔法技術には興味津々。

登場話:本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

 

 

本編に出ない人たちの話 8

死柄木弔(AFO):出典・僕のヒーローアカデミア

 僕アカの宿敵。ちゃぶ台ひっくり返された上に自分が言った言葉で煽り返された。仮にオールマイトに勝っても転移が封じられている上にどっかの魔王ロールの人と戦う事になったので実は詰んでた。

登場話:本編に出ない人たちの話 8

 

ユリ・アルファ:出典・オーバーロード

 基本善性なのでこういう人間主体の(ry

登場話:本編に出ない人たちの話 8

 

 

 

如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか

アーカード

アーカード:出典・HELLSING

 このカオスな世界を心から楽しんでいるエンジョイ勢。自分好みな人間が余りに多くて目移りしていたらバサラにハートを撃ち抜かれた。突撃ラブハート。

登場話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか、アーカード

 

葉隠散:出典・覚悟のススメ

 覚悟のススメの主人公、葉隠覚悟の兄にして姉。意味がわからない?それ以外に形容が出来ません(白目)

登場話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか

 

白い帽子の少女:出典・マクロス7

 所々でバサラに花束を渡せない少女。こちらの世界でもまだ渡せていない。

登場話:如何にしてその吸血鬼はFire Bomberの追っかけとなったのか、アーカード

 

熱気バサラ:出典・マクロス7

 ほとんどセリフがないがどう考えても今回の主人公。行く先々で似たような事をしてる。人も軍人も怪物も、この街にいる何もかもが彼の歌を聴いた。この話はこれだけの話。

登場話:アーカード、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

風鳴翼:出典・戦姫絶唱シンフォギア

 アーカードの人定め被害者2号。ツヴァイウィングの青い方。原作軸と違い奏を失っていないため若干精神的な弱さが見えていたが、熱気バサラに充てられジョグレス進化を果たす。この後Fire Bomberの追っかけになる。

登場話:アーカード、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

天羽奏:出典・戦姫絶唱シンフォギア

 アーカードの人定め被害者3号。ツヴァイウィングの赤い方。厄介系吸血鬼に目をつけられたり平和の祭典に参加したと思ったら地獄みたいな状況に放り込まれることになったり相棒が階段飛ばしで進化して置いてかれそうになったりと今作中一番可愛そうな目にあってる。この後Fire Bomberの追っかけになる。

登場話:アーカード、本編で描写しきれなかった人たちの話

 

 

 

本編で描写しきれなかった人たちの話

 

大神一郎:出典・サクラ大戦シリーズ

 帝国華撃団花組隊長。本来は自身がやるべき事を部下にやらせてしまい少し後悔している。戦闘後にオープン回線で叫ぶなと関係各所に怒られ、そして感謝された。彼の言葉に元気づけられた人も、居たのだ。

登場話:本編で描写しきれなかった人たちの話

 

剛田武:出典・ドラえもん

 全劇場版終了後のジャイアン。つおい。バサラを狙うミサイルはコエカタマリンで全部撃ち落としたしこの後絡んできた敵空戦部隊は全部彼が片付けた(エース級含む)

 

 

 

とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

水野沙苗:出展・Another

 本来ならばこのエレベーター事故によって圧死するはずだったが間桐雁夜の悪運に巻き込まれ生還。その後彼を襲う現象化した殺意とも呼ぶべき代物を間近で目撃し、趣味だったホラー作品を見ることができなくなった。

登場話:とあるルポライターの休日 間桐雁夜編

 

 

 

番外編 原作ウォッチ2

碇シンジ:出展・エヴァンゲリオンシリーズ

 父親に見てもらいたくてエヴァのパイロットになったは良いもののサードインパクトどころじゃない世界になってしまい色々な経緯を経て現在は対宇宙怪獣をメインに戦場に立っている。内向的な性格は変わっていないが環境が変わったためか原作よりはかなり社交的で同世代の友人も増えている。

登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

渚カヲル:出展・エヴァンゲリオンシリーズ

 この後二人とお風呂にいった。風呂は良いね、リリンの生み出した(ry

登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

ターニャ・デグレチャフ:出典・幼女戦記

 貧乏くじを引くことに定評のある幼女(中身おっさん)。出身エリアにいるのは気まずいだろうという甘言にのり防衛機構管理下の全エリア中一番人気のないマカイエリアに配属になり、更に後方勤務だと言われて部下と共に原作確認作業の監視員を引き受ける羽目になった。部下が可愛そう。

登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

水城ゆきかぜ:出典・対魔忍シリーズ

 未だに原作1を見れずわすれろ草のお世話になっているので次はアニメーションの方を見せられることになっている。

登場話:番外編 原作ウォッチ2

 

 

 

 

【名前だけ登場】

 

白眉鷲羽:出典・天地無用シリーズ

名前が出てる人で一番ヤバい人。

 

ゴン・フリークス:出典・HUNTER×HUNTER

ジンと一緒に冒険している

 

小乃東風:出典・らんま1/2

普通にめちゃ強い接骨院の先生

 

ビスケット・グリフォン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

鉄華団の渉外担当

 

メリビット・ステープルトン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

鉄華団の事務担当。後雪之丞の嫁

 

アトラ・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

三日月の嫁1

 

クーデリア・藍那・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

三日月の嫁2

 

神宮司まりも:出典・マブラヴシリーズ

バクっと行かれる前にクロオがインターセプトしたらしい。

 

伊藤誠:出典・School Days

綺麗な方

 

鳳凰院凶真:出典・STEINS;GATE(シュタインズゲート)

又の名を岡部倫太郎

 

ナディ・雪之丞・カッサパ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

美人の嫁を貰ったジイ様

 

則巻アラレ:出典・Drスランプ

名前だけ登場。桜と仲良くしている模様。ジェノスたちが合流するまでにマクロスを落とさないかは不明。

 

伏羲:出典・???

多分善と悪で分離できる。

 

範馬勇次郎:出展・刃牙シリーズ

 モクセイエリアにおけるとある格闘技の祭典に出場。4強の一人。又の名をオーガ。無敵超人に敗れる。

 

陸奥九十九:出展・修羅の門

 モクセイエリアにおけるとある格闘技の祭典に出場。準決勝で力のすべてを使い果たしており、決勝で無敵超人にあっさりと敗れた。

 

花中島マサル:出展・セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん

 モクセイエリアにおけるとある格闘技の祭典に出場。4強の一人。陸奥と互いの全能をかけて死戦を繰り広げるも一歩及ばずに倒れる。3位決定戦に出場できる体力も残っておらず表彰台を逃した。

 

風林寺隼人:出展・史上最強の弟子ケンイチ

 モクセイエリアにおけるとある格闘技の祭典の優勝者。又の名を無敵超人。次回の大会では本物の超人が参加してくるという噂を聞きトレーニングに余念がなく巻き込まれた弟子が危機的状況に陥っているらしい。

 

 

【登場作品一覧】

 

・登場キャラが主役になった作品

 魔法少女リリカルなのはシリーズ

 HUNTER×HUNTER

 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

 サイボーグ009

 ドラえもん

 刀語

 北斗の拳

 バジリスク 〜甲賀忍法帖〜

 機動戦士Zガンダム

 Fate/Zero

 ゴブリンスレイヤー

 機動戦士ガンダム(冒険王含)

 パタリロ!

 ゼロの使い魔

 ワンパンマン

 

・登場キャラがいる作品

 ルパン三世(映画版含み)

 機動戦艦ナデシコ

 マブラヴシリーズ

 ログ・ホライズン

 STEINS;GATE(シュタインズゲート)

 北斗の拳 外伝極悪ノ華

 マクロスシリーズ

 

 

 

【掲示板形式の話の登場人物】

 

軍曹:ケロロ軍曹(原作:ケロロ軍曹)

 

新聞記者:射命丸文(原作:東方シリーズ)

 

艦長:ミスマルユリカ(機動戦艦ナデシコ) 防衛機構所属じゃない?そこはげふんげふん

 

階層守護者:デミウルゴス(原作:オーバーロード)

 

赤い彗星:シャア・アズナブル(原作:機動戦士ガンダム)

 

勇者の子孫:破壊神を破壊した人(原作:ドラゴンクエスト2 ローレシア王子)

 

ラッキー:ラッキーマン(原作:とっても!ラッキーマン)

 

駆け出しヒーロー:緑谷出久(僕のヒーローアカデミア)

 

超越者:モモンガ(原作:オーバーロード)

 

ガンダールヴ:平賀才人(原作:ゼロの使い魔)

 

愉悦神父:言峰綺礼(原作:Fate/Zero)

 

執務官:フェイト・T・ハラオウン(原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ)

 

夜天の王:八神はやて(原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ)

 

白い悪魔:アムロ・レイ(原作:機動戦士ガンダム)

 

北斗使い:ジャギ(原作:北斗の拳)

 

ゆかりん:八雲紫(原作:東方シリーズ)

 

ルポライター:間桐雁夜(原作:Fate/Zero)

 

葉隠:葉隠覚悟(原作:覚悟のススメ)

 

新造人間:キャシャーン(原作:新造人間キャシャーン)

 

鬼サイボーグ:ジェノス(原作:ワンパンマン)

 セットで サイタマ(原作:ワンパンマン)

 

No1ヒーロー:オールマイト(僕のヒーローアカデミア)

 

教授:ウェイバー・ベルベット(原作:Fate/Zero) 

少しキャラが混ざった気がする。ノリで教授って書いたけどまだ若いので講師に修正するかもです。

 

ハンター:ジン・フリークス(原作:HUNTER×HUNTER)

 

勇者王:獅子王 凱(原作:勇者王ガオガイガー)

 

電子妖精:ホシノ・ルリ(機動戦艦ナデシコ)

 

 

 

【現在出ているエリアのまとめ】

 

タイヨウ系エリア郡

 チキュウエリア(代表:野比のび太)

 ツキエリア

 カセイエリア

 モクセイエリア

 

アインズ・ウール・ゴウンエリア郡(代表:モモンガ様)

 ナザリックエリア(代表:モモンガ様)

 マカイエリア

 アンコクエリア

 ケモノエリア

 キノコエリア

 (エリア不明)ゴブスレ世界

 

郡不明エリア

 ゲンソウエリア(エリア代表:八雲紫)

 ロトエリア

 

 

【世界の形】

上空から見ると世界地図を広げて上から貼り付けたような歪な姿。それらが固まっている場所をエリアと呼び、エリアとエリアが近しい郡としてエリア郡と呼称している。

広いエリアは2、30位の惑星型世界が固まっていたりする。チキュウエリア、モクセイエリア、マカイエリア等はかなり広い。

世界から外れたところはゴムみたいな土の土地があって隣のエリアまで歩けたりする(尚隣のエリアに入ったらいきなり深海だったりする模様)

水は垂れ流しでドンドンもれてるのに枯れない不思議仕様だし何故か大気も動いてる。世界に入った瞬間に「空気ウマッ!」となる事もあるらしい(とあるハンター談)

 

 

 




これ纏めるだけでめちゃ疲れました。
今後も随時更新していきます


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番外編
2次元キャラに遭遇したら書き込むスレ(掲示板形式)


2話同時更新
【注意・キャラの崩壊あり】

感想の中で是非やってみたいネタがあったので(勝手に)使用しました。
名無しの通りすがりさん、ネタ振りありがとうございました! 

誤字修正。亜蘭作務村様、南田&終田様、とくほ様、五武蓮様、おぎゅいせ様、赤頭巾様、名無しの通りすがり様ありがとうございました!


【誠】2次元キャラに遭遇したら書き込むスレ1428【生きてる!?】

 

1.名無しの軍曹【マカイエリア】

 このスレは遭遇した所謂原作持ちの人物を書き込むスレであります。

 

 現在判明している作品名簿一覧

 http://○○××

 

 次スレは>>9800が作成。無理なときは>>9900が。それも無理なら臨機応変な対応でよろしくであります!

 

 前スレ:【ジョインジョインジョイン】2次元キャラに遭遇したら書き込むスレ1427【ジャギィ】

 http://○×○×

 

 

 ※注意

 ・荒らしは厳禁

 ・一般への流出は硬く禁止!違反者は窓の外を見よ

 ・下ネタは適度に。未成年も見ているのを忘れないで下さい!

 

 追記

 分かる範囲で良いので原作、名称、後は写真なども添付して貼り付けてください。

 

 

2.名無しの新聞記者【ゲンソウエリア】

 >>1乙

 

 

3.名無しの艦長【カセイエリア】

 >>1おっつおっつ

 

 

4.名無しの階層守護者【ナザリックエリア】

 >>1乙。だが

 

 大事な大事な一文が抜けてるように見えるのだがね。

 

 

5.名無しの赤い彗星【チキュウエリア】

 >>1乙。認めたくないものだな。若さ故の過ちというものは。

 

 

6.名無しの軍曹【マカイエリア】

 >>4 ヒィィィィ!? も、申し訳ございませんっしたぁ!

 

 追記【大事!超大事!】

 この掲示板は我らが超偉大にして超カッコいい、アインズ・ウール・ゴウンエリア群代表にして群代表5名の1人で随一の良心枠! そして我らがBチャンネル管理人・モモンガ様の「こういう自由な意見交換の場も必要じゃないか」というお言葉により超々距離通信網を使用させてもらっています。理解出来たガガンボは三回モモンガ様バンザイと唱えるであります!

 

モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ!

 

 

7.名無しの勇者の子孫【ロトエリア】

 モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ!

 

 モモンガ様のおかげで勘当された実家に戻れました。彼女の実家も再興の目処が立ったし、全部モモンガ様のお陰です。

 

 

8.名無しのラッキー【アンコクエリア】

 モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ!

 

 モモンガ様のお陰で暗黒大陸に張り付かなくてよくなった!ラッキー!

 

 

9.名無しの駆け出しヒーロー【アンコクエリア】

 >>8 貴方は戻ってきてください。泣いてるオールマイトも居るんですよ!

 

 モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ!

 人員を増強して頂いてありがとうございます! 連中、偶に外に意識が向くから……いや、外に意識が向くと言うよりむしろ

 

 

10.超越者@管理人【ナザリックエリア】

 恥ずかしいんで止めてください。

 あ、軍曹さん。此間のオンセではお世話になりました。また誘ってくださいね。

 

 

11.名無しの階層守護者【ナザリックエリア】

 どうやら君に聞くことが出来たようだね。すぐに行くから待っていたまえ。

 

 

12.名無しのガンダールヴ【ケモノエリア】

 モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! 

 お疲れイッチ。フォーエヴァーイッチ

 

13.名無しの愉悦神父【キノコエリア】

 ナザリック名物蟲風呂か。是非感想を教えてくれたまえ

 

 

14.名無しの軍曹【マカイエリア】

 ヒィィィィ!? 

 

 

15.超越者@管理人【ナザリックエリア】

 >>11 よせ。彼とは趣味友なのだ。私の友人に手を出す事は許さん。

 

 このスレの趣旨から外れてしまっていますね。ここから修正しましょう!

 

 

16.名無しの階層守護者【ナザリックエリア】

 ハッ! 誠に申し訳ありません!

 

 

 

 

 君達。分かっているね?

 

 

17.名無しの軍曹【マカイエリア】

 >>16 サーイエスサー!

 

 

(以下数百に渡りモモンガ様万歳とイエスサーが続く)

 

 

 

487.名無しの執務官【カセイエリア】

 モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ! モモンガ様バンザイ!

 モモンガ様のお陰で交代要員にも目処が立って、最近ようやく旧友と遊びに行ける時間が出来ました。本当に感謝してます!

 

 

488.名無しの軍曹【マカイエリア】

 >>487 羨ましいでありますなぁ。こちらはそろそろ魔界統一トーナメントの時期で戦々恐々としてるであります。

 

 煙鬼殿がもう一度優勝してくれればありがたいのでありますが……

 

 

489.名無しのラッキー【アンコクエリア】

 大丈夫大丈夫。暗黒大陸と遊んでるのが楽しいってヨミ君言ってたから!

 

 

490.名無しの夜天の王【ツキエリア】

 >>487 とってもたのしそうやったね。うちもいきたかったわ

 

 

491.名無しの階層守護者【ナザリックエリア】

 こらこら。スレ違になっているよ。

 

 最近の目新しい報告はないかな?

 

 

492.名無しの赤い彗星【チキュウエリア】

 なら私から一つある。チキュウエリアの第8地球型世界で恐らく【よつばと】を確認した。

 

 【写真】

 

 

493.名無しの白い悪魔【チキュウエリア】

 >>492 ジャギさんこいつです

 

 

494.名無しの軍曹【マカイエリア】

 >>492 っべーわー。赤い彗星マジっベーわー。3倍は伊達じゃないでありますな!

 

 

495.名無しの赤い彗星【チキュウエリア】

 >>493 何もしていない! 見覚えがあったから義務に従っただけだろうが!

 

 

495.名無しの北斗使い【チキュウエリア】

 大佐、後で話がある。

 

 

496.名無しの赤い彗星【チキュウエリア】

 

 

497.名無しの執務官【カセイエリア】

 早い!

 

 

498.名無しのガンダールヴ【ケモノエリア】

 安い!

 

 

499.名無しの夜天の王【ツキエリア】

 美味いの!

 

 

500.ゆかりん@副管理人【ゲンソウエリア】

 丼!

 

 

501.名無しの軍曹【マカイエリア】

 お疲れっしたー

 

 

502.名無しの駆け出しヒーロー【アンコクエリア】

 チキュウエリアの第8地球型世界は確か【らき☆すた】が存在したはずですよね。

 やはり、考察スレが言っているように一つの世界に複数の世界が混在している事もありえるのでしょうか。

 

 

503.名無しの階層守護者【ナザリックエリア】

 その意見は度々耳にするね。確かに我がナザリックエリア内にある地球型世界にも似通った作品同士が重なっている世界は存在する。【明日のジョー】と【はじめの一歩】だったかな。

 

 

504.名無しの軍曹【マカイエリア】

 抉りこむように打つべし、打つべし、打つべし!

 

 我輩たちの出身世界があるケモノエリアも似たような感じでありましたなぁ。

 単身赴任から一年。キバヤシ殿のトンデモ理論が懐かしいであります。

 

 

505.名無しの勇者の子孫【ロトエリア】

 うちはご先祖様とは会えなかったけど、やっぱり同じ世界同士だと時間が違うせいで会えないのだろうか。

 

 

506.名無しのルポライター【キノコエリア】

 ハーロックとアルカディア号は居るがトチローは居なかった。少なくとも我々が把握している範囲ではな。

 

 

507.名無しの新聞記者【ゲンソウエリア】

 あの、そろそろ500に誰か言及を

 

 

508.名無しの赤い彗星【チキュウエリア】

 触れない方が良い事もある。

 

 

509.名無しの艦長【カセイエリア】

 そうそう。あ、ルポライターさんお久しぶり!桜ちゃん元気?

 

 

510.名無しのルポライター【キノコエリア】

 >>509バレバレでも少しは隠すようにしてくれ。

 

 とりあえず今回ケモノエリアを回ってみた結果を投げていく。すでに作品名簿一覧には登録している。

 初見殺しもいたから注意してくれ。

 

 

 両儀式 発見エリア【ケモノエリア 第1地球型世界】

 【写真】【原作:空の境界】

 要警戒。彼女の実家はキノコエリアにある。

 どうやってケモノエリアに移動したかは不明。

 直死の魔眼は非常に危険な能力だ。注意してくれ。

 

 越前南次郎 発見エリア【ケモノエリア 第3地球型世界】

 【写真】【原作:テニスの王子様】

 たまたまテレビで彼の試合を見かけた。

 まだかなり若い為、恐らく原作まで数十年先だろうね。

 

 三浦あずさ 発見エリア【ケモノエリア ケモフレワールド】

 【写真】【原作:アイドルマスター】

 彼女はタイヨウ系エリア群の住人のはずなんだが。

 保護しているから誰かモクセイエリアの人、確認を。

 

 則巻アラレ 発見エリア【ケモノエリア ハルケギニア】

 【写真】【原作:ドクタースランプ】

 迷子二人目。

 ゲンソウエリアの方。早く引き取りに来てください。

 

 

511.名無しの葉隠【カセイエリア】

 >>509 当方、マカイエリアからタイヨウ系エリア郡へ移動する途上にあります。

 チキュウエリアまでであれば護衛可能。返答を求む。

 

 

512.名無しの新聞記者【ゲンソウエリア】

 >>510 最近静かだと思ったらそっちに行ってたんですね

 

 

513.名無しの新造人間【モクセイエリア】

 >>510 こちらの方で行方不明届けが出ている。

 チキュウエリアまで俺が迎えに行こう。

 

 

514.名無しの葉隠【カセイエリア】

 >>513 了承。再会を楽しみにしている。

 

 

515.ゆかりん@副管理人【ゲンソウエリア】

 >>510 もうちょっとだけ休ませてください。

 ようやく、宇宙怪獣を片付けて復興が進みそうなのよ……

 

 

516.超越者@管理人【ナザリックエリア】

 >>515 こっちも暗黒大陸だけでもキャパ限界なんで無理です。

 早く引き取ってください。

 

 

517.名無しの鬼サイボーグ【マカイエリア】

 >>510 近々先生とゲンソウエリアへ戻る予定だ。

 その時でよければ連れて行こう

 

 

518.ゆかりん@副管理人【ゲンソウエリア】

 >>517 やめて!?

 

 

519.名無しのNo1ヒーロー【アンコクエリア】

 >>517 帰らないで!?

 

 

(以下数百に渡り一撃男の去就について話し合われる)

 

 

 

999.名無しの教授【キノコエリア】

 時にBJ氏の目撃情報が途絶えているのだが。

 

 

1000.名無しの軍曹【マカイエリア】

 ああ、最初期は色んな所に居るから分身してるって言われてた彼でありますな。

 

 今はカセイに落ち着いているそうでありますよ。

 あ、1000ゲト!

 

 

1001.名無しのハンター【航海中】

 >>1000オメ

 

 元気かねぇ……死にはしてないだろうが。

 繋がったついでに新発見の世界を一覧に入れておいた。

 ネクロモーフって愉快な連中がいる世界だ。アルカンシェルで消し飛ばした。

 

 

1002.名無しの艦長【カセイエリア】

 >>1000 オメ!

 

 >>1001 うわぁ……最近こんな世界ばっかだね

 

 BJ先生は隠居生活を満喫中だよ!

 こないだはモクセイエリアでクローン技術を手に入れてたし

 今は00ナンバーズの人工筋肉と人工皮膚を入れ替えてる最中。

 

 

1003.超越者@管理人【ナザリックエリア】

 >>1000 軍曹さんオメ!

 

 >>1001 3年の時間の流れか……

 やはりこういった力に抗えない世界は連鎖的に駄目になるみたいですね

 

 >>1002 違う。それは隠居生活じゃない。彼なにやってんの……

 

 

1004.名無しの新造人間【モクセイエリア】

 >>1002 すまん、その話を詳しく教えてくれ。

 

 

1005.名無しの勇者王【ゲンソウエリア】

 >>1002 頼む、その話を教えてくれ!

 

 

1006.名無しの電子妖精【カセイエリア】

 >>1002 艦長さん。後で話があります

 

 

(以下だらだらと話しが続く)

 




こちらの掲示板に書かれている各キャラは出てくるかもしれないし出てこないかもしれない人の寄せ集めになります。
こんな世界の掲示板があったらこうだろうな、という妄想を膨らませた産物なので、実在の掲示板と大分違う形になっていると思いますがその点はご容赦お願いします。

めっちゃ疲れました。



誰が誰なのかを知りたいという声があったので。一応今回登場している人の一覧を。
コレジャナイ?作者の技量不足です。申し訳ない。

軍曹:ケロロ軍曹(原作:ケロロ軍曹)

新聞記者:射命丸文(原作:東方シリーズ)

艦長:ミスマルユリカ(機動戦艦ナデシコ) 防衛機構所属じゃない?そこはげふんげふん

階層守護者:デミウルゴス(原作:オーバーロード)

赤い彗星:シャア・アズナブル(原作:機動戦士ガンダム)

勇者の子孫:破壊神を破壊した人(原作:ドラゴンクエスト2 ローレシア王子)

ラッキー:ラッキーマン(原作:とっても!ラッキーマン)

駆け出しヒーロー:緑谷出久(僕のヒーローアカデミア)

超越者:モモンガ(原作:オーバーロード)

ガンダールヴ:平賀才人(原作:ゼロの使い魔)

愉悦神父:言峰綺礼(原作:Fate/Zero)

執務官:フェイト・T・ハラオウン(原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ)

夜天の王:八神はやて(原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ)

白い悪魔:アムロ・レイ(原作:機動戦士ガンダム)

北斗使い:ジャギ(原作:北斗の拳)

ゆかりん:八雲紫(原作:東方シリーズ)

ルポライター:間桐雁夜(原作:Fate/Zero)

葉隠:葉隠覚悟(原作:覚悟のススメ)

新造人間:キャシャーン(原作:新造人間キャシャーン)

鬼サイボーグ:ジェノス(原作:ワンパンマン)

No1ヒーロー:オールマイト(僕のヒーローアカデミア)

教授:ウェイバー・ベルベット(原作:Fate/Zero) 
少しキャラが混ざった気がする。ノリで教授って書いたけどまだ若いので講師に修正するかもです。

ハンター:ジン・フリークス(原作:HUNTER×HUNTER)

勇者王:獅子王 凱(原作:勇者王ガオガイガー)

電子妖精:ホシノ・ルリ(機動戦艦ナデシコ)


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小ネタ(11.1追加)

色々考慮した末、更新できていなかったオマケを別枠にしました。
こちらは作中では諸事情あって使えない、けど思いついた小ネタを置いておきます。
実際にこんな事があったかは想像におまかせします。

現在4作品。基本くだらない話がメインです


1.

 

「ドラえもん、と先生か。珍しい組み合わせだな」

 

 それは、とある日の午後。戦況も落ち着き、親友も取り戻し。長い……それこそ幼少の頃からの付き合いの友が戦場を去った、ある日。

 

 その全てに関わり、その全てで命をかけた青年と自らが命を賭して取り戻した親友が向かい合う場面にたまたま出くわした野比のび太は、声をかけようとし――いやいや、と考え直した。

 

 珍しい組み合わせということは、ある種の好機である。

 

 片や最近自由になったばかりで仲間内にもまだ馴染めていない親友。片や気安い会話もこなせるがどこか超然とした部分の有る青年。

 

 そんな二人が出会い、向かい合って座っている。願わくば、互いに打ち解けあってもらいたいものだが、さて。

 

 のび太の思惑を察したのか。無言で向かい合っていた二人の内の片方。間黒夫はじっとドラえもんを見つめながら口を開いた。

 

「俺の友人に、鈴木サトルという人物が居るのだが」

「うんうん」

「この友人が何かと人に頼るタイプでな」

「へぇ。子供の頃ののび太くんみたいだねぇ」

 

 ぽつりぽつりと話し始めた黒夫にドラえもんがうんうんと相槌を打つ。なんだか雲行きが怪しくなりそうな会話に頬を引きつらせるのび太を尻目に、黒夫はぽつりぽつりとした話し方で話を勧めていく。

 

「俺の世界にも『ドラえもん』という作品はあったから、その様子を見て連想してしまってな」

「はずかしいなぁ。そっちでもボクはネズミ退治に地球を吹き飛ばそうとするキチガイだって思われてるのかっ!」

「まぁ、間違ってはいないだろう。話を戻すが、そのサトルをからかう為によく、頼られている相手をキミになぞらえて『デミえもん』と呼んでいたんだが」

 

 それAWGエリア群の実務責任者の事だろうか。思わず口から出そうになった言葉を噛み殺してのび太は盗み聞きを続けた。

 

「いざ実際に当人……いや、当機?」

「どっちでもいいんじゃないかな」

「じゃあドラえもんでいいか。キミを見るとな」

「うんうん」

「全然似てないなぁ、って」

「なるほど」

 

 成程じゃないだろ。

 

 心の中でそう呟き、のび太は彼らの居る部屋の中に入っていく。びっくりするほどのストレスを味わったが、盗み聞きなどという趣味の悪い真似をしてしまった罰のようなものだと割り切ろう。

 

 ああ、いやしかし。

 

「やあのび太くん」

「よう」

「や。ドラえもんに先生、二人で話してたのか」

 

 のんびりとした様子の親友におなじく気の抜けた表情の先生を眺めながら、思う。

 

 こういう日も、たまには良いものだろうか。

 

 

~チキュウエリアのとある日 終~

 

 

 

2.

 

 

「……なぁ、ジェノス」

「? はい、先生。どうされました?」

 

 とあるエリアでの移動中。

 

 彼らの移動の為に用意されたマクロス級戦艦内部にある都市、そこにあるショッピングモールをぶらりと物色していたサイタマは、ふととあるブースの前で立ち止まり隣を歩く弟子に声をかけた。

 

 はて、購入する予定の買い物はすべて終わったはず。首をかしげるジェノスを尻目に、サイタマは真剣な表情を浮かべてとある本を指差した。

 

 彼の指差した先にある本。ドラゴンボールの文字にパチクリと瞬きするジェノスに、サイタマは数秒の為を作った後に振り返り。

 

「どんな願いでも叶うドラゴンボールなら、俺の髪の増加速度を」

「先生。その願いは神龍の力を越えているかと」

 

 並大抵の神魔と呼ばれる存在はワンパンしてしまう師の力と神龍の願いを叶える能力。そして必死に植毛したブラック・ジャックの努力が無に帰した瞬間を思い返し、ジェノスは抑揚のない声でその事実を師に伝えるのだった。

 

 

~むなしき努力 終~

 

 

 

3.

 

「相談事?」

 

 カチャリ、とティーカップを小皿の上に置き、質問者に向き直ってそう問い返す。見知った顔の女性、山に住まう忍の一族の一員、陽炎は彼の視線を受けながら、小さく戸惑いがちに頷きを帰した。

 

「はい。先生に以前ご相談した事の、続きと申しますか……」

「以前の相談といえば、君の――体質の件だったね」

 

 女性である相手を慮って、具体的な内容をぼやかしながらそう問いかけると、陽炎は顔を曇らせながらまた小さく頷きを帰した。

 

 彼女の所属する忍集団はそれぞれが特徴的な忍術を保持している。その中でも彼女は対男性に特化した術、色香の術と毒息という体質を駆使する忍びであり、以前受けた相談というのはこの内の体質。毒息に対しての事であった。

 

 彼女の体内で生成される毒は彼女が興奮する事により発生し、吐息となって現出する。これが制御できるなら問題ないのだが、彼女自身でもこの毒息の現出は制御することが出来ず、これが原因で彼女は一度恋を諦めるハメになる。

 

 愛した男を殺してしまう。それが彼女の一族に代々纏わり付く因果なのだと、最初に相談を受けた時に陽炎は寂しそうに語っていた。

 

 まぁ、もっとも。

 

「しかし、吐息に関してならばすでに解決策が出ているはずだが」

「はい。お陰様を持ちまして」

 

 以前のという言葉の通り。実を言うと彼女の体質に関してはすでに対応してある。

 

 彼女の毒性は全て感情が高ぶった際、吐息によって振りまかれる。これをヒントに感情というスイッチによって活性化する呼吸器系を機械を使って調べ上げ、毒の成分抽出により解毒剤の開発。そして彼女が望むならばその機能を司る器官を切除する事も提案し、彼女はこれを受け入れ手術を行った。

 

 という所までが前回の話であるのだが。

 

 必殺の忍術は失ったとはいえ彼女は未だに里でも上位の実力者。留守を預かる朧くんの代わりに弦之介くんの役目を補佐する女手として忙しい筈の彼女が、たった一人で訪れての相談である。

 

 自然、険しくなる眉を意識しながら、彼女の口が開くのを待つこと、しばし。

 

「実は……」

「実は?」

 

 数分の沈黙後。ぽつりとした様子で口を開く陽炎に頷きを帰して続きを促す。さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。俺の手に負える話であれば良いのだが――

 

「長年、望んでいた好機が唐突に降ってわいたので、弦之介様にどう迫れば良いのか」

「七実くんにでも相談してくると良い」

 

 深刻そうな表情でつげる陽炎に眉一つ動かさず、そう答えて部屋から追い出した。もしかしたら彼ら、暇なのだろうか。

 

 

 

~暇ではありません 終~

 

 

 

4.

 

 

「うん?」

「どうしました、先生」

「ああ、いや」

 

 はた、と何かに気づいたかのように黒夫が足を止める。斜め後ろを歩くレオリオが怪訝そうな表情で声をかけるも、訝しげな表情を浮かべたまま黒夫は周囲を眺める。

 

 確かに聞き覚えのある声だった。この幻想郷で、しかも人里離れたこの辺りで聞き覚えのある声という事は紹介された事のある者でも妖怪、しかも人間にとって脅威度の高い者である可能性が高い。

 

 背後に控えるレオリオも戦闘能力を有する人物である。しかし、彼はサイタマのような人外もなにも関係のない埒外の力を有しているわけではない。

 

「……先生」

「ああ」

 

 最悪の場合を想定しながら周囲を警戒する黒夫とレオリオの耳に、風切り音が聞こえてくる。上、しかも高速。見上げるように上を向いた二人の目に、小さな点が映る。

 

 点は少しずつ近づいてくる。絶叫のように野太い声を発するそれから黒夫をかばうようにレオリオが立ちふさがり――目を丸くしてポカン、と口を開いた。

 

「――――ぁぁぁ”あああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!

 

 落ちいく人物、間桐雁夜の姿はやがて高速で地面へと衝突――せずにその場にパクリと開かれたスキマと呼ぶべき何かに消えていく。呆然とそれを見送った二人がその場に佇んでいると、数分ほど後にまた空の彼方から雁夜が落ちていき、そしてスキマに消えていった。

 

「……行くか」

「うす」

 

 今度は何をやったのだろうか。言葉を飲み込み、黒夫とレオリオは神社へと向かう道を歩き始めた。

 

 

~ラキスケの末路 終~



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本編に出てこない人たちの話

本編の書き貯めが進まないのと何だかんだ名前しか出てこない人たちが居るのでちょろっとまとめてみました。
普段にまして細かい話の寄せ集めなんで話のついた設定集とか巻末の小ネタとか読んでる気分で見てもらえればありがたいです。

文章をちょっと手直し(2.12)

誤字修正。 ヒーロー大好き人間様、焼きサーモン様、ソフィア様、めさじぇ様、椦紋様ありがとうございました!


カーテンの隙間からこぼれる朝の光が瞼を照らす。

 

静かに覚醒してくる意識の中、彼は手馴れた様子でベッド脇の棚に置かれたメガネを手に取った。妻はまだ寝ているようだ。無理も無い。昨日は一緒に夜遅くまでパーティーに出席。慣れない外交の場に疲れてしまったのだろう。

 

だが、そんな慣れない場でも期待以上の姿を見せてくれた。本当に聡明で、盆暗の自分などには勿体無い女性だ。

 

「いや・・・・・・これは駄目だな。悪い癖だ」

 

自分なんか駄目だと思い込んでしまうことは、一番駄目なことだ。

少なくとも自身の下には数え切れないほどの人が居る。そのトップが自嘲癖を持っていては彼らに失礼になってしまう。

初代チキュウエリア代表。それが今の自身の肩書きだった。妻を起こさないように気をつけながら彼は静かにベッドから離れる。

 

身なりを整えた彼は寝室フロアから執務室に移動するため、待機させていたエレカに乗り込み、メガネに映し出される報告書を読む。

縁のあるバスク大佐からの申請も却下されてしまったか。仕方ないだろう。彼にとってチキュウエリアは厄介ごとの思い出が強い。

 

半分は恩人に対する恩返しをしたいという欲求と、残り半分はエリア代表としての思惑。

素直に恩を返す事も出来ない自身の身を不甲斐なく思う反面、その道を自ら進んだのだと彼は自分に言い聞かせた。

 

統合軍との戦いは彼に守るものは自らの手で守らなければいけないと教えてくれた。

先生と白眉博士が居なければ、彼は親友と愛する家族を守る事すらも出来なかったのだから。

 

いや、最初から分かっていたのだ。何度も何度も繰り広げた冒険の中で、彼は理解していたのだ。

人は優しくなければいけない。だが、勇気も持たなければ何も守れない、と。

今の自分に勇気があるのかは分からない。

 

だが、たとえどこかでくじけてしまったのだとしても。倒れてしまったのだとしても。

ダルマのように何度でも立ち上がる覚悟を僕は、持っている。

 

「やぁ、のび太君。随分遅かったじゃないか」

「お待たせドラえもん。さ、今日も楽しい仕事の時間だ」

 

執務室のドアを潜ると、ドラえもん(僕の親友)はいつもと変わらない様子で僕に小言を言ってくる。

初代チキュウエリア代表、野比のび太(全劇場版終了後ののび太)はそう言って、自身の椅子に腰を下ろす。

 

今日もまた一日が始まった。

 

 

<ドラえもんとのび太の現在。完>

 

 

 

草木も眠るというけれど、はて草や木は眠るのだろうか。

唐突に思いついた疑問に対し、黒髪の少女は少し空を眺め、そして、どうでもいいかと結論をつける。

彼女の主治医は物事を考える事は大事な事だと言っていた。それはそうだろうが、にしたって何でも節操なしに考えるのもいかがなものか。

彼女からすれば彼女の主治医は考えすぎているようにしか見えない。もっとありのままを受け入れるのも必要なことではないかと彼女は常々思っている。

 

「しっ」

「ちょい」

 

彼女のその姿を隙だと見たのだろう。手足を持った草が彼女に触れようとしてきたので少し雑に引き抜いた。

口を持っている草だったので先に頭から離しておいたのは正解だろう。どこかの世界には引き抜いた時に呪いをかけてくる草もあるらしい。用心に越した事はない。

 

 ……ああ、そうか。これが考えるのは大事と言う事か。成る程、ようやく合点が行ったのか彼女はぽん、とわざとらしく手を叩いて見せた。

 その様子を見て草がぶるりと震え、すぐさま背を向けて駆け出した。

 残念。そのまま向かってくるなら毟り易かったのに。追いかけようとした彼女の足が、止まる。

 

「探したぞ、七実くん」

「トキ先生。珍しいですね」

 

 男とすれ違うようにして現れた青年の姿に七実は首をかしげた。彼が集落を離れる事は中々に珍しいからだ。

 

「この時間になっても君が戻らないと七花君に言われてな。随分と手間取ったみたいだが」

「少し数が多かったので。すぐ戻ります・・・弟がご迷惑を」

 

 七実が頭を下げると、トキと呼ばれた青年は笑顔で首を横に振った。気にしないでほしいのだろう。七実は頷いてそれに答えた。

 会話をしている間に、青年の背後から断末魔のような悲鳴が聞こえ、何かがひしゃげたような音と破裂音が夜の闇の中から響き渡る。

 

 さて、今日の草毟りは終了だ。病が無くなったとは言え運動不足の七実には、山一つを使った草毟り(オニごっこ)は流石に疲れるものだった。

 本来ならこのまま目の前の御仁と一遊びして家路に着くのだが・・・・・・

 

「そういえば、夕餉をまだ食べていませんでした」

「ならテンカワ君の所を訪ねると良い。今日は久しぶりにラーメンを作っていたよ」

「ああ、あの・・・・・・奥様は、手を入れては居ないんですよね?」

 

 不安そうに尋ねる七実に、トキは苦笑を浮かべた。

 夜闇の中、二人分の足音が集落へ向かい、そして消えていった。

 後にはただ、物言わぬ草の名残が残るだけである。

 

 

<草毟り。完>

 

 

 

「おかしい。こんな事は許されない」

 

 なのはから定期的に来る連絡を受け取った後、八神はやては俯いたままそう呟いた、

 画面上のなのはは終始笑顔で先生とのやりとりや集落での出来事。住民たちの事を話し、そんななのはにはやては終始笑顔を絶やさず対応した。

 

 彼女との会話が終わった後、10秒はその表情も持った。それを過ぎた辺りから表情筋が我慢の限界を向かえ、よろよろと椅子から立ち上がったはやては自室に備え付けてあるタンクベッドに向かう。

 夢も見ず、泥のように眠りたかった。

 

 はやては現在3徹目。3時間に一度、タンクベッドで10分ほど睡眠を取り仕事をこなしている。

 彼女は現在ツキエリアの軍政官補佐として任務に当たっている。ツキエリアはチキュウエリアと隣接しているエリアで、タイヨウ系エリア郡ではかなり後方に位置している。恐らくエリア郡内で最も小さなエリアになる。

 

 と言っても小さいから仕事が無いわけではない。その場所柄、他のエリア郡からタイヨウ系エリア郡に入る場合ツキエリアかチキュウエリアに立ち寄る必要があり、そういった交通の要所になる為治安維持にかなり気を配らなければいけないのだ。

 

 幸いな事にヴォルケンリッター(彼女の家族)は彼女の配下扱いで所属されている為、彼女個人の手札は多い。また、カセイエリアにいるフェイト経由で前線司令部とはパイプもあるため、他の補佐官に比べればかなり優秀な勤務成績を残していると自負している。

 原作でも自身は優秀な部隊長として評価されていた。このまま経験を積めば、近々ほぼ間違いなくエリア軍政官になれるだろう。仕事と私生活はまた別の話だが。

 

「家庭的で料理もできる。仕事も出来て経済力もある。容姿だって、決して悪くないはずや。なのになんでや。なんで私には一切そういった浮ついた話がないんや!」

 

 現実に言うとなのはは別に男を捕まえているわけではない。現在もあくまで治療中であり、彼女だってそれはわかっている。

 ただ、仕事の同僚は大体相手持ちだったり、圧倒的に年上だったりする自身と、先生以外の住人まで良い男ばかりの(あの集落に住んでいる)彼女とを比べる度に来るのだ。心に。

 

 これがただの嫉妬や羨ましいといった感情なのはわかる。自身だって若いしまだまだだと思っている気持ちもある。

 でも、想像してしまうのだ。10年後。白いウェディングドレスを着たなのはやフェイトを見送るスーツ姿の自身を。

 家に帰り、電気をつけ、ソファーに座ってビールを片手にTVを1人見ている自分を。

 ヴォルケンリッター(彼女の家族)がいる以上そんな状態になる事はまずないだろうが、思い浮かぶ悪い予想というのは中々止められない。

 

「・・・・・・寝よ」

 

 タンクベッドのドアを閉めながら、彼女は一言そう呟いて目を閉じた。

 

 

<八神はやて。嫉妬の心は母心 完>




野比のび太:因みにまだ30台。自衛のために2丁拳銃を腰に挿しています。

ドラえもん:統合軍にひみつ道具を悪用されそうになり、そこを当時チキュウエリアにいたクロオと鷲羽ちゃんに助けられた。多分以後出てくるかも分からない設定。のび太君からすると20年近くぶりの再会だがドラえもんからするとそんなに経ってない。

鑢七実:趣味は草むしりの家庭的な女の子。現在17歳。ユリカが努力しているのは知っているし進歩も分かるのだがそれでも根付いた意識は改善できない模様。

トキ:今回有情の拳は使ってません。

八神はやて:次の日、婚活パーティーのチラシをみて「流石に早すぎるでしょw」と同僚に言われ凄い目になる。


信じてもらえないかもしれませんが、ぱちぱちは八神はやてさん大好きです。


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本編に出てこない人たちの話2

今回2作同時投稿に挑戦してみました。理由はもう一つが掲示板形式だからです()
流石に掲示板だけだとあれなので、ちょろちょろ話題になってた人たちを投下。
なのはについてはちょっとした掲示板に繋がる小さなネタなので短めでごめんなさい。



誤字修正。日向@様、化蛇様、亜蘭作務村様、とくほ様、名無しの通りすがり様、kuzuchi様、五武蓮様、カッスラー様、佐藤東沙様、竜人機様、オカムー様、たまごん様ありがとうございました!


「こいつは少し困ったな」

 

 敵対している勢力が、まるまる一つの国を犠牲にして戦力を立て直そうとしている。そんな情報が入ったのはつい昨日の事だった。連中となにかとかち合っていたとある泥棒からもたらされた情報(ソレ)は俄かには信じがたい物であったが、その情報の中、恐らく核心部分に含まれていたある人物の名前が、真偽は兎も角確認する理由を上層部に与えた。

 ようやく情勢が落ち着いてきてお役御免になるかと期待していた彼の目論みは見事に外れ、久しぶりの骨休めを潰して訪れたこの都市に着いてすぐ参謀本部の思惑(希望的観測)もすでに外れていたことを悟る。

 この町は、もう死んでいる。

 

「1班から3班まで。武器の使用を許可する。生存者を探せ……辛い者は待機しても良い」

「いえ……せめて、弔いを」

「許可する。僕は恐らく騒動の中心だろう場所を片付けてくる。避難所に指定されている場所は必ず確認しろ。行動はツーマンセルを基本に。班長は常に無線に気を配れ。恐らくまだ元凶共は居る」

 

 誰一人待機を選ばなかった部下達の了解の言葉を聴きながら、彼は指示を出し終えると副長に後を任せ1人町の中へと入っていく。大佐なんて階級をぶら下げているが、彼は根っからのガンマンだった。人を指図するより銃を握り締める方が似合っている。

 大通りを真っ直ぐ。その先にある市庁舎へと。彼の歩みに合わせるように、方々に散っていた人の群れがゆっくりと彼の方へと向きを変える。

 いや、人の群れと言うよりは、人だったもの達の群れだろうか。道端で別の何かに顔を埋めているモノ。ぐしゃぐしゃになった車の中から上半身だけでずるずると這い寄るモノ。老若男女問わず、かつて人間だった何か達は、歩み寄る彼を新鮮なエサだと認識したのか。互いに貪り合っていたモノたちですらも今は彼に向かってゆっくりと進み始めた。

 一体一体は大した事はない。だが、流石に周辺全ての人間が変異したと思われるこの数は、そこそこの腕っこきである彼にしても骨だと思わせるものだった。そして、何よりも。

 

「親子連れ……か」

 

 血塗れのワンピースを着た少女だったモノと、手を繋ぎながら歩み寄る母親だったろうモノ。郷里の家族を思い起こさせるその光景は……少しばかり、堪える。少しだけ目を瞑って彼は祈りの言葉を呟いた。せめて、来世では親子仲良く暮らせるように。

 腰のホルスターから彼用にチューンされたショックガンを引き抜く。目測でも優に100を超える何かの群れを前に、部下を散らせた今彼はたった一人。通常ならば、生存すらも絶望的なこの状況だが、しかし。

 

「流石に数が多いな。指が疲れた」

 

 恐らく2、3秒ほどだろうか。彼は両手にショックガンを数度煌めかせた後、のんびりとした口調で町の外から歩いてきた時と同じようにテクテクと彼は大通りの真ん中を歩いていく。

 彼の行く手を遮るものは、もう何もない。

 

「化け物め。また速くなりやがったな」

 

 歩み去ろうとしたその時、頭上から唐突に聞こえた声に腰に手をやりながら周囲を窺うと、見知った顔の男が通り沿いの建物の窓から顔を覗かせている。情報提供者の仲間の1人。何かと彼と縁のある男だ。そういえば、やけに細かく新しい情報が届いていたのを思い出す。

 成る程、現地に仲間が居たのなら納得のいく話だ。

 

「たったこれだけでちょっと指が痺れちゃったよ。師匠に聞かれたら大目玉だ。そう思うだろう?」

「抜かせ」

 

 おどける様にそう言うと、男は鼻で笑うように返して窓からひょい、と通りに飛び降りた。どうやら行先は同じらしい。飛び降りる際、腰に挿したコンバットマグナムが一瞬だけ目に入る。この状況で尚、信念は変わらないのか。これがこの男の強みでもあるのだろう。

 

「ウェスカーは、市庁舎に居る」

「成る程、何時の情報だい?」

「20分前。何か準備をしているようだが手間取っているらしい。恐らくこの惨状も奴にとっては前段階なんだろうぜ」

「……へぇ。気に食わないね」

 

 口元だけに笑みを浮かべた彼に、男……次元は首を縦に振った。前段階でこの都市は死んだらしい。町の規模から考えても、恐らく数万人単位の死者が出ただろう……希望的観測でだ。

 

「奴さんにはいくつか借りがあってな。野比、俺は勝手させて貰うぜ」

「どうぞご自由に。こちらはこちらで勝手に狙わせてもらうからね」

 

 それきり二人は無言だった。何も言わず、通りすがる生物兵器を草のようになぎ倒しながら、黒いスーツを着た次元と戦闘服を着た彼……野比のび太達は、3丁の拳銃を携えて街の中心部へと歩みを進めた。この町を襲ったバイオハザード(覚めない悪夢)を終わらせる為に。

 真っ直ぐ、敵の居る方に。

 

 

【のび太のバイオハザード 完】

 

 

 

「あんの小娘がぁぁぁあ!」

 

 どかん、と音を立てて机が揺れる。八つ当たりされた机の上に置かれていた書類がバサバサと音を立てて崩れるが、今はそれどころではない。

 折角関係各所を刺激しないように細心の注意を払って文面を作成し、あまり謙り過ぎず、かと言って高圧的になり過ぎないように。しかも仲介を頼む形で行ったこちらの要望に対して、カセイエリアの軍政官、ホシノ中佐は簡潔な文書で返答を返してきた。

 

『バスク大佐へ

 カレの処遇に対してはエリア群代表より、特に

 命を受けている為、当方に権限はありません。

               ホシノ・ルリ』

 

「日本語ぉぉぉぉ!!」

「は、腹がいてぇ」

 

 わざわざ日本語で送られてきた文書に確認のハンコを力一杯押し付けて、バスクは文書を届けに来たヘルメットの男に目を向ける。上官の荒れる様にソファの上で笑い転げていた男は、一頻り笑うと引き攣りそうな腹を擦って立ち上がった。相変わらず制服の似合わない男だ。

 

「で、どれだけ動くと思う」

「こんだけあからさまな挑発をあんたが受けた。機会だと捉える野郎は多そうだぜぇ。のび太の思惑通りにな」

「ふん、悪名も使いようだな。それ位役に立って貰わねば困るが」

 

 それにしたってこの縦読みはないと思うのだが。事前に貰っていた通信の際の、ホシノ中佐の含み笑いを思い出す。あんなにも素直な少女がたった一年でカセイに毒されてしまった。BETA戦役の際、家族を取り戻す為に戦うと、涙ながらに語っていた姿を思い出してバスクはそっと目元を拭った。

 

「ジャギ。噂を流せ。バスクがカセイの挑発に激怒している、とな」

「あいよ。面白可笑しくばら撒いといてやらぁ。白赤には話を通しとくぜ?」

「うむ」

 

 バスクが指示を出し終えると、不格好な敬礼を浮かべてジャギは部屋から退出していった。相変わらず似合わない制服はともかく、敬礼に関しては再三注意したのに結局不格好なモノにしか出来なかった。自身の指導力不足に嘆くべきか、あんな奴に宮仕えをさせねばならないこの情勢を嘆くべきか。

 

 あれで多方面に気がつく使い出のある男なのだが。ニートをしている弟より余程世間の役に立っているのに、本人の柄の悪さとかつての悪行と、『本来歩む』歴史の悪行のせいで、自身と並んで歩くと噛ませ主従なんぞと言われてしまっている。せめて奴の悪行位は払拭してやりたいものだ。

 

 バスクは席を立ち、窓の外を見る。飛行場も隣接しているこの基地は都市から離れた郊外に建設されている。眼鏡を外して汚れを拭き取りながら、遠く離れた町並みを眺めるのがこの時間の日課だった。

 2年前、死の街と化したあの街を焼き払ったのは、まさにこの時間帯だった。当時、同僚だった野比代表の要請により、あの街を焼き払ったのは自分だった。その時の情景をバスクは良く覚えている。やはり、という部下達の表情と、くぐもった声の了解の声。そして、炎に包まれる町並み。

 あの街を死の街に変えた元凶は野比が片付け、そしてその後始末を自身が行った。それだけの話だ。汚れ仕事に忌避感はない。それが軍人の一面だと思っているからだ。

 だが。

 

「気に食わん」

 

 元凶は始末した。だが、その元凶と行動を共にしていた連中はまだ多くがこの世に残っている。奴らが全てを忘れて平然と呼吸をしている事がバスクには我慢出来なかった。

 この企みが決まれば連中の所業を白日の下に晒す事が出来る。あの日、自身の胸に残ったやるせなさをぶつける事が出来る。しかも、合法的に。誰憚ることなく。恩には恩を、仇には仇を。因果は巡るのだという事を、思い知らさなければならない。

 

「必ずだ……!」

 

 傷が癒えたとしても、一度狂った歯車は元には戻らない。彼の向けるべき矛先を失ってしまった狂気は、形を変えてこの世に姿を表した。

 その歩みがいつ止まるのか。止まれる場所が本当にあるのか。それはまだ誰も知らない。

 

 

【噛ませさん達の現況 完】

 

 

 

 

「なのは。本当に、本当にここなの?」

「うん。朧ちゃんに聞いたから間違いないよ」

 

 何度も尋ねるフェイトの言葉に、なのはは手元のメモ書きの文字を見る。間違いなくこの店の名前だった。

 先日、どうも様子がおかしいと思い、最近友人になった朧の元に尋ねた際の事だ。朧以外の面々がやる気満々といった顔で野良仕事や狩りを行っている姿を見て、一体どうしたのかと尋ねると、彼女は少し言いにくそうにしながら事の顛末を話し始めた。

 勿論その後数時間ほどお話ししたのだが、それはそれとして朧はとても重大な情報をなのはに渡してくれた。

 

 それは、クロオ先生がメイドを見て可愛らしいと言った、と言う事だ。なのはにとってそれは晴天の霹靂だった。何せあのクロオである。彼はもしかしたら性欲とか諸々が昇華してしまってるんじゃないだろうかと、そちらの方面は不得意ななのはですら感じてしまう時がある。七実ちゃんが定期健診に来た時、いきなり裸になった姿を見て「健康的だな。背中を見せてくれ」と表情一つ変えずに言ってのけたのは正直どうかと思うが、そんな男なのだ。ちなみに七実ちゃんはその日、テンカワ亭に夕食を食べに来なかった。

 

 そう。そんな男が、滅多な事では他人の容姿に言及したり、ましてや褒めるなんて事をしない人物が、他人の容姿を褒めたのだ。しかも、衣装が似合うと。可愛いとまで言った、というのだ。

 

「これはもう、突撃するしかないの……!」

「凄い、事なんだよね?」

「大丈夫、フェイトちゃん。ここから先は1人で行けるから……だから、心配しないで」

「何だかすっごく不安になる事を言い始めたよ! はやて! は居ないんだった……わ、私がしっかりしないと!」

 

 何故か微妙に乗り気になりきれていないフェイトに、やっぱり自分1人で行く、となのはは伝える。だが、彼女の親友は、心配だからと彼女の手を握って、一緒に行こう、と笑ってくれた。そう。自分はもう、1人じゃない。ここからは二人で行くのだ。

 

「さぁ、行こう、フェイトちゃん! メイクイーンニャン×2へ!」

「……うん!」

 

 希望の未来へ胸膨らませるなのはと、そんななのはを優しい目で見つめるフェイト。二人は扉を開け、店の中へと姿を消した。

 店内に新しい額縁が飾られる事になるのは、また数日後の話である。

 

 

【高町なのはさんじゅうななさい。めいどになる 完】




野比のび太:後のチキュウエリア代表。この当時はまだ内戦中で前線指揮官として活動中。10歳の頃は早撃ち0.1秒。なら今は?()
因みに現実の早撃ち世界記録は0.02秒らしい。他意はない。

次元大介:影でウェスカーとドンパチやってたらしい。ルパンが統合軍基地へ(クロオを囮にして)潜入した少し後。コンバットマグナム以外ならもっと早く撃てるらしいがそれは彼の美学に反する。

アルバート・ウェスカー:名前だけ登場。上記二人のガンマンと同時に対峙した今回の可哀想な人枠。

バスク大佐:原作より大分綺麗めだが狂気はちっとも薄まっていない模様。赤い彗星と名乗る男が死ぬほど嫌いで本人にもいつか殺すと言っているらしい。

ジャギ:制服をつけて上から例のヘルメットを被っている。因みに被っている理由は趣味と、このヘルメットを被っていると相手が油断してくれるかららしい。つまり。

ホシノ・ルリ:別にバスクは嫌いではないが彼の周囲に群がっている連中が嫌い。今回の一芝居に手を貸した理由もそれが主な理由であるのと、クロオの関心を買えるかも、程度の思惑である。

高町なのは:最近なのちゃん成分が多めになってる気がしないでもない。ネコ耳メイド服のなのはさん十七歳マジ見たいんですがどっかに画像ないだろうか。

フェイト・T・ハラオウン:今回の可哀想枠2.一緒に特に理由も無くネコ耳メイドになりました。超見たい。なお掲示板の方で話してるのはこの時の事で、この件をはやてに画像着き通信で送ってあります。尚特に書く理由はありませんがはやてはその時3日ほどタンクベッド生活をしていました。特に意味はありません。

追記
そう言えばシュタゲは2009年前後の話でリリなのはストライカーズが2007年でしたね。


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とあるルポライターの話

短くて申し訳ない。朝に一瞬だけ日間1位になってたので作成中の物の一つを仕上げてみました。
小ネタの一つなので本編とはまた別になります。掲示板のちょっとした流れみたいなものです。

3話くらいクロオが居ない気がする()

追記

左手と右手を間違えてたので修正。完全にボケてました(汗)


誤字修正。ソフィア様、名無しの通りすがり様、五武蓮様、佐藤東沙様、不死蓬莱様、kuzuchi様、亜蘭作務村様、ヒロシの腹様ありがとうございます!


とあるルポライターの話

 

 

「これでよし、と」

 

 今回の成果を掲示板に載せ、メガネ型PCを外す。どこにでも持ち運べる便利なPCなのだが、手書き癖が染み付いている彼には少し使い辛い。いや、これも時代の進歩なのだろう。自分の居た世界では金持ちくらいしか自宅に持っていなかったパソコンが、これほど小さく、しかも手軽に手に入るようになった。

 

 世界が違うといってしまえばそれまでだが、今では気軽に他所の世界に足を運ぶ事ができるようになった身としては、技術力が売りのはずが周回遅れになっている故郷に上手い事やってほしいと願う次第だ。帰ることは出来なくなったが、それ位の愛着は未だに彼も持っている。

 

「おじさん、電話だよ」

「ああ。ありがとう、桜ちゃん」

 

 部屋に据え付けられたコードレス電話機を持って、義娘がとてとてと駆けて来る。出来る限り穏やかな笑顔を浮かべて鈍色に輝く右手で電話機を受け取り、彼女の頭を撫でる。彼女は彼を義父と呼ぶ事は無い。恐らく生涯、そう呼んでくれる事はないだろう。

 自身がそんな。義理とは言え、父と呼ばれて良い人間ではないというのは……理解している。いや。理解させられた、か。自力で気づくことは恐らく出来なかっただろう。どれだけ自身が間桐を嫌っていようとも、どれだけ間桐を疎んでいようとも、彼は間桐の人間で、彼女は間桐の被害者だ。

 

 その事実から目を背けた。きっと救えると願ってしまった。そして……その結果がこの右腕と、実の父を殺した義理の父という歪な親子関係だった。たとえそれが事故の様な物であっても。半ば以上相手の自滅に近い物であったとしても、間桐雁夜が遠坂時臣の死因であると言う事は間違いないのだから。

 

「はい、こちら間桐です」

『お久しぶりです、雁夜さん』

「ああ、ジェノス君か。もしかしてアラレちゃんの事かな?」

 

 受話器から聞こえてくる声は以前聞いた事のある声だった。随分と若いが落ち着いている声。ヒーローという、自身がなりたくてもなれない職業に就いた若き俊英。以前、初めて会った時に面と向かって「貴方が有名なストーカーの」と罵倒なのか賞賛なのか良く分からない声音で言われた時はどうしようかと思ったが、良くも悪くも裏表の無い人物だ。

 彼の師匠も本当に考えた事をそのまま話すタイプなので、彼らの世界ではもしかしたらこれが普通なのかもしれない。

 

『はい。彼女の引き取りはそちらの艦で』

「ああ……移動の際は気をつけて。そっちは危ないだろうからな」

『ご心配には及びません。それではまた』

 

 用件だけを話して電話を切る。ジェノスとは一度縁が出来てからは何度かこうやって連絡を取り合っている。と言っても、こちらから連絡をかける割合が多い。雁夜自身が色々な地域を回る仕事についている為でもあるのだが、持ち前の悪運のせいか、雁夜はかなりの確率で危険な作品と遭遇する事が多いのだ。

 特に、何故か怨霊や悪霊と言った連中とは良く相対する羽目になる。まぁ、この悪運のお陰でモブ君や蒼月君……それに恩師と出会うことが出来たのだから差し引き0といった所だろうか。

 

「おじさん、お仕事ですか?」

「ん? いや。この間拾ったアラレちゃんの件だよ。彼女と一緒に行ってくれる人が見つかったんだ」

「アラレちゃん、帰っちゃうんですね……」

 

 雁夜の言葉に、桜は少し残念そうな顔を見せる。年恰好が近いせいか、随分と彼女に懐いているようだ。あれであの子は、一応高校生なんだが……いや、原作によれば生まれてすぐだろうから3,4歳か? どちらにしろ年齢は大分違うはずだが、彼女達の間には確かな友情が芽生えているようだ。よくよく考えてみると彼女の大らかな態度は、そのはた迷惑な行動を抜きにすれば魅力的なのかもしれない。何かある度にこの艦を落としそうになるのは本当に止めて欲しいのだが。

 「調査官と飛ぶ以上危険は付き物」とグローバル艦長は言ってくれているが、流石に朝一で艦の底が抜けたりする昨今の状況は肩身が狭い。早めにジェノス君とサイタマ君には彼女を連れて行って欲しいものである。

 

trrrr……

 

 机に置いたコードレスの電話がまた鳴り始める。この短時間に二度もかかるとは珍しい事もあるものだ。受話器を取り、耳に当てる。

 

「はい、こちら間桐です」

『ああ、間桐殿か! 私だ、八雲藍だ! 実は』

「駄目です。引き取ってください」

『そんな殺生な!』

 

 ため息をついて電話を切る。彼女の騒動を起こす能力は雁夜以上だ。それこそ音に聞く人間台風(ヒューマノイドタイフーン)をも上回るとさえ言われる程の。しかし、自身が生まれた世界から疎まれる悲しさという物を知っている雁夜としては、出来れば彼女には大人しくゲンソウエリアで暮らして欲しいと思っている。

 ……恐らく、無理だろうが。それが叶わぬ望みと分かっていてもつい願ってしまうのは、間桐の性のせいだろうか。深く知った今となっては父と間桐のしてきた事を全て否定するつもりはない。しかし、腐れ果てた末の父の末路は当然の報いだという感情もある。

 

 こんな自分の葛藤を、先生は笑うだろうか。

 右腕を見る。先日連絡を取った時、恩師はこの手を治せるといった。ようやく元に戻してやれる、と。あの時はそれが最善だったとは言え、彼の右腕は先生にとっては自身の力不足の象徴なのだろう。令呪ごと切り離された右腕に身体を蝕んでいた刻印虫が流れていき、雁夜は呪縛から解き放たれた。だが、あの人にとってはそれすらも満足のいく結果ではなかったということだ。思わず雁夜の口元に笑みが浮かぶ。嫉妬する気持ちすらわかない。

 本当に人を救える人間というのは、ああいう人の事を言うのだろう。

 成る程。自分は偽者止まりが精々の器だった、という事だ。

 

「……おじさん?」

 

 桜の声に、ふと我に返る。少し暗い方向へ考えが陥っていたようだ。何でもないと答えて、時計を見る。そろそろ昼時か。

 

「お昼は中華にしようか」

「うん! 娘々に行こう! アラレちゃんも誘っていい?」

「……あ。ああ、わかった。誘って、来ようか」

 

 思わず顔が引きつりそうになるが、桜を不安にさせないように気合を込めて笑顔を維持する。そんな雁夜の様子に桜は笑顔を浮かべて外出の準備を始めた。

 ため息をつきそうになるのを堪える。この年頃の子は敏感だ。余り歓迎していないような空気を出すだけでも遠慮してしまうかもしれない……桜には、自由に生きてほしい。自分につき合わせる形で様々な場所を巡る生活を送らせてしまっている。せめて、友人との時間位は確保してやらなければ。

 出来れば、本当に出来ればで良いのだ。何も壊さず、無事に食事を終えられますよう。

 ここには居ない恩師に神頼みがてら願掛けを行い、雁夜は桜の待つ玄関へと足を向けた。

 




間桐雁夜:ルポライターのおじさん。zeroは終わっている。桜を引き取って防衛機構に所属し、現在はマクロス級にのって各エリアの調査を行っている。平たく言うと危険人物や作品に対する撒き餌。右腕は義手。

間桐桜:雁夜に正式に引き取られて養子入り。頑なに彼の事を父と呼ばない理由は不明。ただ、彼の事を嫌っているわけではない模様。流石に調査中は同行することはなく、普段はマクロス内部の学校に通っている。

ジェノス:ゲンソウエリア所属のヒーロー。師と一緒にマカイエリアの応援に行っていた。

則巻アラレ:名前だけ登場。桜と仲良くしている模様。ジェノスたちが合流するまでにマクロスを落とさないかは不明。


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本編に出てこない人たちの話3

ここ最近、何だかこの作品がシリアスに見えるんじゃないかと思うことがあったので、原点に返るつもりでちょっとコメディよりに書いてみました。
ちょっとアムロの説明に追記。マゼランとかが出発前のヤマトみたいに地表に突き立ってると思ってください。

誤字修正。五武蓮様、不死蓬莱様、オカムー様、亜蘭作務村様、Leni様ありがとうございます!


 その封筒を受け取った時、弦之介の心にある予感が走った。これを見れば、今までのままではいられない。これは決して開けてはならないものだ、と。この封筒を彼に渡した彼の部下の1人、筑摩小四郎は久方ぶりの恋人との逢瀬で英気を養ったのか、やる気十分といった表情で脇に控えている。怪しい点は特に見られない。

 さて、どうしたものか。己の直感を頼るならばこの封筒を開ける事はありえない。だが、里の近況が書かれているというこの封筒をこの場で開けないのもおかしな話だ。暫く里に戻れていない者の中には、この近況を聞く為にこの場に集まった人間も居るのだから。少し目を閉じて考えた後、弦之介はつぃ、と自身の左手に座る男に目を向けた。

 

「天膳殿。すまぬが皆に聞こえるように読み上げてくれぬか」

「……私が、でございますか」

「弦之介様?」

 

 突然の指名に天膳と数名の甲賀出身の者が驚きの声を上げる。予想していた反応に弦之介は何でもない事のように笑った。

 

「うむ。この書状の書き手は伊賀出身の朱絹と聞く。勿論後で内容は検めるが、個々人宛の報告等で余人が知らない方が良い事も書かれているかも知れぬ。言葉にする内容を吟味して話して欲しいのだ」

「……はぁ。仰せとあらば」

 

 怪訝そうな顔を隠さずに天膳は頷き、弦之介の手から封筒を受け取った。周囲の困惑した空気に弦之介は言葉を続ける。

 

「ああ、勿論盛大に祝うべき事柄ならそのまま言って貰って構わぬ。小四郎の結納等の話であれば特にな」

「げ、弦之介様!」

「そういう話であれば否やはありませぬな」

「天膳様まで!」

 

 弦之介の言葉に天膳が頷き、慌てた小四郎の様子に周囲を笑いが包む。この純朴な青年の中々進まぬ恋は伊賀・甲賀問わず話のネタにされている。場の空気が穏やかになった事を感じ、弦之介は密かに右拳をグッと握る。勿論、彼の右側に座っていた地虫十兵衛には全ての動きが見えていたのだが、彼は自身の主の行動に呆れたようにため息を吐くに留め、余計な言葉を挟む事は無かった。

 弦之介から封筒を受け取った天膳は封筒の封を四苦八苦しながら丁寧に剥がし、中身をチラリと検め数枚の紙切れが入っている事に気づいた。大きな物は文章だろう。残りの小さな紙は……なんだというのか。

 念の為に手ぬぐいで右手を覆い、天膳は封筒を逆さにして中身を取り出した。

 

「おっと」

 

 文章が書かれているだろう大きな紙は首尾よく右手で押さえる事ができた。しかし、残りの数枚、小さな紙は封筒の中から右手の上に落ちてくる時にひらり、と風に舞い、天膳の手元から弦之介の足元まで流されていった。

 

「申し訳ありませぬ」

「いや、構わ……」

 

 思わずといった様子で足元の紙を拾い、そして弦之介の時間はそこで止まる。その紙には天女のように愛らしい朧の姿が映し出されていた。

 写真、という技術があるのは知っている。その場の風景や情景、物や文字。それらをそのままの姿で写し取る写真の技術は彼ら忍びにとってもかなり有用な技術であり、現在里から外に出ている忍び全てが様々な形態のカメラやビデオを扱えるように訓練を受けている。当然、弦之介もカメラを扱う技術に精通している。

 

 だが、これは。この写真の中に映し出されている朧の姿は違う。カメラとはそのままの姿を写し取る為の道具。そう弦之介は思っていたし事実そうだ。しかし、この写真の中の朧は獣の耳を頭につけ、西洋の割烹着のような物を見に纏っている。割烹着にしては露出が大きいがそれが尚良い。仮装、という言葉が頭に浮かんだ。そうか、これは仮装なのか!

 他の写真を見る。こちらも同じように、ただ服装が少し違っている。先ほどの西洋風割烹着が黒で統一されているのに対しこちらは白。まるで穢れを知らないかのような純白の色合いで統一された服を纏った朧のはにかむ様な笑顔は、弦之介の心を鷲掴みにして放さない。何だこれは。何ゆえだ。もっと見たい!

 心を吹きすさぶ感情の嵐に弦之介は思わず立ち上がり、その弦之介のわき腹を地虫十兵衛がどすん、と舌で突いた。

 

「ぐふっ」

「何をやっておられるか。全く……」

「じ、十兵衛。何ゆえ」

 

 信頼を置く腹心からの一撃に弦之介は戸惑いの声を上げる。その様子に深いため息をついた後、十兵衛は舌で弦之介の後ろを指差した。

 弦之介が振り向くと、そこには自身の脇差で喉を突き、自害した天膳の姿があった。その姿に弦之介は見覚えがあった。自身の瞳術を受けた者がこのような状態になるのだ。

 

「不覚……!」

 

 自身が瞳術を暴走させていたという事実に思い至り、弦之介は歯噛みする。其の様子と周囲の戸惑いに事態を察したのか、弦之介の師であった室賀豹馬が立ち上がった。

 

「何を見られたか分かりませぬが、興奮して術を暴走させるなど言語道断!」

「……すまぬ」

 

 豹馬の叱責に弦之介が肩を落とす。彼の手からはらりと落ちた写真はひらひらと風に乗って空中を舞い、末席の方まで流れて行き、筑摩小四郎の前で落ちた。一連の事態の原因。警戒しながらその写真を拾い上げようとした小四郎の動きが、不意に止まる。

 

「これ、は……」

 

 落ちた写真を拾い上げた姿勢のまま、筑摩小四郎は弦之介のように全てを忘れて写真の中の朧の姿に見入った。小四郎はかつて、朧に叶わぬ恋を抱いていた事がある。いかに才があれど天膳の抱える従僕にしか過ぎない彼には身分違いの恋だった。故に彼は早々にその思いを捨て去り、そして里が壊滅した後は自身の働きによって正式に中忍の1人となり、朱絹と恋仲になった。それは良い。彼はもう朧より朱絹を愛していると胸を張って言える。

 だが、この朧のあられもない姿は、それらのガードを全て貫通してこの童貞に致命的な一撃を与えた。

 

「ん、どうした小四……小四郎ぉ!?」

「こ、これは朧様! ありがたやありがたや」

 

 仲間達の声をぼんやりと聞きながら、小四郎は幸せそうな表情を浮かべていた。その鼻からは噴水のように血が噴出し彼の体を赤く染めていっていたが、それすらも気にはならなくなっていた。頭の片隅で小四郎は思う。これは、朱絹殿への土産にせねばならぬ、と。その様子を頭に浮かべて更に出血が加速し、血を失いすぎた小四郎の体はゆっくりと傾いていき、血の海の中に倒れ伏した。

 こうしてこの下らない一幕は二人の青年の心に致命的な皹を入れて幕を閉じた。彼らの心に特大の傷をつけてしまった今回の一件はその場にいた全員に緘口令が敷かれ、外部には詳細は伝わらず、ただ『猫の変』として里の歴史に名を刻む事になる。

 

「ところで天膳殿はどうした?」

「まだあそこで死んでおるよ」

 

 なお天膳は数分後に復活し、血の海に倒れ伏した小四郎の姿に弦之介の術を受けた為と解釈。逆上し弦之介に襲いかかろうとして周囲の伊賀忍を含む忍びから集中攻撃を受ける事になる。恐らくこの日一番不幸だったのは彼だろう。

 

 

『とても下らない甲賀忍法帖 完』

 

 

 

「すまない、はやて。僕らの関係を終わりにしよう」

「……な、なんや冗談きついわ」

 

 見詰め合う二人。その間にはきっと愛があると思っていた。だが、それは幻でしかなかった。ゆっくりと首を横に振る男の姿にはやては顔を青ざめ、縋る様に抱き着こうとして、拒まれる。

 愛があるなんて、彼女の中の幻想でしかなかったのだ。

 

「君は、僕には眩し過ぎる。すまない、そしてさようなら」

「ま、まって。お願い! いかないでぇ!」

 

 歩み去る男の背中に手を伸ばし、八神はやては叫ぶ。そして、悪夢はそこで終わりを告げた。

 

 

「し、史上最悪の夢見や……」

 

 久方ぶりのベッドでの睡眠。就寝前のルンルン気分は泡と消え、気落ちする体を引きずるようにはやては寝室から出る。

 

「主。顔色が悪いが……」

「ああ、ザフィーラ。ちょっと夢身が悪くてな――ちょっと、じゃないか。は、はは……」

 

 引きつるように笑うはやてにザフィーラは心配そうに彼女を見る。その頭を撫でて、はやては気分を入れ替えた。主である自分が落ち込んでいれば騎士達に心配をかけてしまう。それは彼女にとって望ましい事ではない。

 

「主失格やな……しっかりせな」

 

 自分に言い聞かせるようにボソリと呟いて、はやては洗面所へと向かう。その後ろを少し心配そうな顔を浮かべながらザフィーラが付き従う。

 

 

 顔を洗った後、軽く髪だけを整えてはやては食堂へと向かう。昨日は久方ぶりの料理でつい張り切って作り過ぎてしまい、冷蔵庫の中には昨夜の余り物がやや残っている。ヴィータが頑張ってはくれたが、流石に家族全員分の余り物を処理する事は出来なかった。

 

「んー、朝やから軽目に……ポテトサラダも良さそうやな」

 

 残り物を処理するといっても朝から重い料理ばかりでは食も進まない。温め直すついでに味付けをひと工夫し、さっぱりとした品も添えて食卓に並べる。

 

「主、おはようございます」

「おはようさん。ご飯出来とるで」

 

 シャワーを浴びてきたのだろう、濡れた髪を束ねたシグナムが食堂に入ってくる。この時間帯はいつもトレーニングを行っていたはずだが、はやてが家に居る為早めに切り上げてくれたのだろう。彼女の入室を皮切りに、続々と家族達が食卓に集まってくる。

 八神はやての大好きな、八神家の団欒の時間が始まった。

 

「ンー、ギガうめぇ!」

「ヴィータ、余り慌てて食べるな。みっともないぞ」

「あら、これ昨日とちょっと味付けが違う……?」

「お、気付いてくれた? そこはちょい気ぃつこてな」

「……けふっ」

 

 ここ数年、嵐のような忙しさのせいで各々が各自で食事を済ませる事が多かった。そんな状況を、八神はやては歯噛みしながら見続けていた。ようやく収まってきた仕事量。自身が整えた組織が順調に動いていく姿は、これまでの苦労が報われたようで彼女の心に強い達成感をもたらしてくれたが、そんな達成感すらも霞むほどに今この場の光景は彼女に癒しを与えている。

 彼女は家事が好きで、そして家族が大好きだった。だから、自分の料理を食べて嬉しそうに笑ってくれる家族の笑顔こそが彼女にとって最大の力になる。それを今、八神はやては痛感していた。

 そしてその為に今日から。時間的余裕という何よりも大きな武器を手に、彼女は今日この時から行動を開始するのだ。その為の第一歩はすでに整っている。リサーチは完璧。自身の経歴とアピールポイントもばっちり暗記している。勝敗は行動を起こす前に決まっているのだ。

 

「なぁはやて。纏まった休みが取れたんだろ? 海にでも行こーぜ!」

「あー、うん。今日はちょい忙しいからまた明日やなぁ」

「あら。はやてちゃん、今日は何か用事あったの?」

 

 初耳だ、と驚くシャマルにはやては少し頬をかいて目を逸らす。恥ずかしくて家族には言っていなかったのだ。このままゆっくりと用事の体で出かけようと思っていた為、少し言葉にするのが戸惑われる。だが、言わない方が流石におかしい、か。

 覚悟を決めて、はやてはその言葉を口にした。

 

「うん……そのー、な。ちょっと街コンってのに行ってみようかなーって」

 

 言った。言ってしまった。顔を朱に染めてはやては俯いた。視界の隅では困惑したような顔のヴィータの表情が見える。向かいに座るシャマルやシグナムも同じような表情を浮かべているのだろう。どう言おうか。彼らは応援してくれるだろうか。いや、きっと応援してくれる。頭の中をグルグルと色々な願望や希望が回っていく。

 

「……それはこの間、貴方は参加出来ませんといきなり連絡があったイベントの事でしょうか?」

「誰宛なのかわからなくてそのままにしてた奴、よね?」

「ちょぉ待てぃ」

 

 ヴィータがひぃっと小さく呻いたが、気にする余裕が無くなったはやては立ち上がってシグナムとシャマルを見る。困惑から若干表情を青ざめた二人に詰め寄るようにはやては尋ねた。

 

「え。何やそれわたし聞いとらんていうか参加できんってなんやねんわたしがこの為に何泊執務室に居た思とるん15やぞ15日!」

「は、はやてちゃん落ち着いて。ヴィータちゃんが怖がってるから」

「わたしは落ち着いとるわ! あ、ちょい待って。落ち着く。ごめんなヴィータ」

 

 荒くなった鼻息を大きく息を吸って無理やり落ち着かせ、はやては数回深呼吸を行った。そして両手を顔の前で組み、肘をテーブルにつけて目を瞑ると、事情を知るであろうシャマルとシグナムを見る。

 

「で、わたしが参加する予定やった街角コンパvol.12カフェで楽コンに何でわたしが弾かれたのか教えてくれんか」

「下限年齢が25歳だそうです」

「どこにも書いてなかったやないか!」

「HPの方では記載されてたみたいよ。あと、普通25歳以下で応募してくる人はサクラとかしか居ないから審査の段階で弾いてるらしいの」

 

 あと、流石に未成年は、という担当者の言葉をシャマルは飲み込んだ。むしろ貴方が参加してはどうですかと言われて少しムカっ腹が立ったのも、この事実を伝えたくない理由の一つだった。

 

「というか、あれは主が申し込んだのですか?」

「……そうや。今の職場では、出会いがまるで見込めん。良いなって思った人は大体嫁付きかコブ付きや」

「あたしらが居るはやても、言ってみればそうだしな」

「……もしかしてそれでツキエリアに配属されたんか? もしかして」

 

 その疑問に彼女の家族は答える手段を持ち合わせていなかった。ただ、目を逸らされたはやては絶望のような表情を浮かべて食卓に突っ伏した。彼女のその様子に隣に座るヴィータが慌てて声をかける。

 

「だ、大丈夫だ! はやてみたいな可愛くて、料理上手で、仕事も出来るなんて三拍子揃ったのを、良い男なら見逃さないって!」

「……そ、そうやな! わたしもまだまだ捨てたもんじゃないよな!」

「そうそう。それに、ツキエリアの職場が駄目なら他のエリアに目を向けようぜ。チキュウエリアとかモクセイエリアとか」

 

 ヴィータの言葉にはやては希望を見出したのか、チキュウかー、そう言えば結構かわいい子もカッコいい人もおったなーと仕事の関係で出会った人々を思い浮かべる。あそこは確かに色々問題があったが、エリアが広い為か人材が揃っている。モクセイもそうだ。あそこは曲者も多いが、その分有能だったり魅力的な者も多いエリアだ。後はやっぱりカセイだろう。男女比が場所によって1対9位になっている場合もあり女余りが激しいというが、その分頭に思い浮かぶ男達は粒ぞろいだ。なのはが住むBJの集落がある常春の国のように住みやすい場所もあるし、長期休みのたびにバカンスがてら愛を育むというのも大いにアリだろう。少し遠いのが難点といえば難点か。

 

「しかし、他のエリアにってなると今度はツテがなぁ。仕事上の付き合い以上の、なんて……やっぱりフェイトちゃんの居るカセイがええんかなぁ」

「ああ、それならこの間、ヴィータがチキュウエリアのMS部隊総司令と食事に行っていましたからそこから」

「あ、ちょ、シグナム!?」

 

 ヴィータの制止の声は間に合わなかった。

 この後、本当にただ食事に誘われただけで特に何事も無く連絡先を交換しただけで終わった、という事をはやてが理解するまで、ヴィータは半日もの間涙ながらに暴れ回るはやてを宥め続ける羽目になる。

 尚相手側は割りと乗り気だった事が判明し、更なる一波乱が待っているのだが、それはまた別の話。

 

 

『八神家の団欒 完』

 

 

 

「じゃあな、後は上手く合わせてくれや」

「ああ。バスク大佐に伝えてくれ。『勝利の栄光を貴方に』と」

「キレるのが目に見えてらぁな」

 

 そうゲラゲラと笑いながら、制服にまるで合わないヘルメットを被った男は去っていった。あの姿でこの場所に来たと言う事は、我々が通じていると相手に悟らせる必要があるのだろう。相変わらず悪意に対しては非常に気の回る男だ。惜しむらくは服のセンスが壊滅的な事か。あれで身奇麗にしていれば誤解されることもないだろうに。

 

「あれはあれで良いのさ。姿形で相手を見くびるような奴は、彼にとっては鴨なんだから」

「そうは言うがな、アムロ」

 

 ソファに座ってコーヒーを啜っていたアムロ・レイ少尉は、ジャギが持ってきた資料を分別しながらそう言った。一応彼はシャアの副官になるのだが、彼らの間に上下関係は存在しない。

 防衛機構という組織は、その発足の仕方から分かるように非常に歪な組織だ。必要だから役職を振り、必要だから戦力を整え、必要だからエリアを統治する。全てがその場しのぎで整えられた状況。階級もどれだけ人を率いる事に慣れているかの目安でしかない。だから、シャアとバスクは同じ階級であるのにまるで権限が違うのだ。自身がMS部隊に限定されているのに対し、彼は行政にまで口出しをする権限を得ている。

 これでも発足当初より大分マシになったのだから笑いが止まらない。内戦が終結し、野比がエリア代表になった時は過労で死ぬかと思うほどに組織の改変で働かされたが、今になってあれは本当に必要な事だったのだと実感する事になった。部隊ごとに将軍がいるような不思議な状態は、やはり可笑しかったのだ。

 

「へぇ。面白い人間の名前が結構あるぜ」

「ほう、誰だ」

「ハルバートン提督とかかな」

 

 にやり、と笑うアムロにシャアはため息を吐いてコーヒーを呷る。アズラエルとの不仲は知っていたし、彼らの原作を見た後は彼の危険性を重々シャアたちも認識している。しかし、これは。流石に軽挙としか言えない。シャアも名前の書かれたリストを見るが、誰も彼も現状の体制に不満があるような様子を見せない外面を持った人間ばかりだった。成る程、バスクが自分を囮にしたのも頷ける。こいつらを一気に引っ張れるチャンスはそうそう無いだろう。

 

「ふふっ、面白くなってきたぜ」

「おいおい、今は静かに機会を待ってくれよ」

「ちぇっ、分かってるよ。ぼくだってもう何も分からなかった小僧じゃないんだ」

「どうだか」

 

 シャアの知るアムロ・レイという少年は敵を見つけるやいきなり出撃して相手を縦横無尽に叩きのめし、ついでとばかりに戦艦を落としていく鬼神のような存在だ。ここ1、2年の間に色々な経験や出会い、別れを積んで大分男を磨いているが、その根底にある血の気の多さは少しも衰えていない。何せ、自分の嫌いな指揮官の画像がPCの画面に出てきたら殴って画面を破損させてしまうような奴なのだから。

 

「今回の戦いは静かな戦いだ。いつものようにただお前がガンダムで出て相手を叩きのめせば済む話じゃない……抑えてくれ」

「わかってるよ。ブライトにも話は通しておく」

「ああ。アルテイシアにもよろしくな」

 

 連邦軍最強のニュータイプ、白い悪魔と呼ばれた少年はシャアの言葉に上機嫌そうに頷くと、コーヒーカップをテーブルの上に置いて部屋から出て行った。兄としては、いい加減アルテイシアとフラウ君、両方の間で揺れるのはやめてほしいものだがな。

 

「……そう言えば近々ツキエリアにいく予定があったな。うぅむ、この状況で私がチキュウを離れるのは難しい、か」

 

 断腸の思いであるが、彼女には少し動けないと連絡を入れておこう。

 この連絡がまさか彼女の首を絞める事になるとは露知らず、シャアは通信機を手に取った。

 

 

『白赤コンビの話』




甲賀弦之介:出展・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
 新しい世界の扉を開いたカセイエリア防衛機構所属のエリート()忍者の長。敵意を持って攻撃する相手に敵意を跳ね返し自害させるという目が見える相手には割りと無双できる瞳術を持っているが今回は暴走した形になる。

薬師寺天膳:出展・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
 天膳殿がまた死んでおられるぞ! 
 今回は本当にひたすらとばっちりだった人。瞳術に反応してしまったのは様子の可笑しい弦之介を押さえる為に動こうとした所、心の隅でまだ残っていた害意が反応してしまった為。

筑摩小四郎:出展・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
 新しい世界の扉を開いたカセイエリア防衛機構所属のエリート()忍者の1人。1年付き合っている恋人が居るが未だ童貞。

地虫十兵衛:出展・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
 四肢が無い異形の忍者。普段は籠を使って移動しているが、腹の蛇腹のようなものを利用し素早く移動する事も可能。舌も自在に動かし鞭の様に扱う事もできる。
戦闘面だけではなく占い等も得意で、その思慮深い性格と様々な知識を持っている事から知恵袋として活躍している。

室賀豹馬:出展・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜
 盲目の忍者。弦之介の叔父で彼の瞳術の師でもある。夜の間だけ弦之介と同じ瞳術を扱う事もできるのだが、今後その設定に出番があるかは不明。

八神はやて:出展・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 おかしい。こんな事は許されてはならない。

シグナム:出展・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターのリーダー。普段は彼女の指揮下の部隊で隊長を務めている。

ヴィータ:出展・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。エターナルロリ。普段はシグナムを補佐して副隊長の任についている。その一切変わらない容姿に惹かれたのかはわからないがとある3倍の人に食事に誘われた事がある。

シャマル:出展・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。街コンに参加しては? と言われたのが地味にショックだったらしい。

ザフィーラ:出展・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 八神はやての騎士、ヴォルケンリッターの1人。ペット枠。

ジャギ様:出展・北斗の拳
 俺の名を言ってみろ。ケンシロウ? あのニートと一緒にするんじゃねぇ!

シャア・アズナブル:出展・機動戦士ガンダム
 チキュウエリアのMS部隊を総括している人物。実はアムロが自身の知っているアムロじゃない事に気づいていない。

アムロ・レイ:出展・機動戦士ガンダム(冒険王)
 機動戦士ガンダムをマジンガーZのノリでやった作品の主人公。「ええい、このスイッチだ!」でパンチが飛び出し「ガンダム、ゴー!!」と叫ぶと鉄腕アトムのように空を飛べる便利仕様のすさまじい内容だが、一番の違いはアムロ・レイの性格がGガンのキャラにでも出てきそうなくらいの熱血漢になっている所だろう。
 シャアと決着をつけてめぐりあい宇宙をした後にホワイトベースクルーと合流しようとして1人だけ統合に巻き込まれ、性格の豹変に周りから酸素欠乏症だと思われている。統合に巻き込まれた際、周囲の連邦軍やジオン軍ごと統合世界の地表にめり込んでいたのでそれ所の混乱じゃなかったのも原因。


因みに本来日曜日に上がるはずだったこの作品が遅れたのはサンライズ・ロボット漫画コレクションvol.1が中々届かなかったから。お恥ずかしい事に修正された大都コミックス版しか持ってなかったんですよね。本当に恥ずかしい。テレビ画面をぶち破る所を見ないでこの話は書けないと思ってました。
遅くなって申し訳ありません。修正とかは夜に纏めてやります。


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本編に出てこない人たちの話4

今回のテーマは良い酒と悪い酒。
後半の方は国が違えば法律が違う、で流してもらえるとありがたいです。

誤字修正。KUKA様、Kimko様、洋上迷彩様、SERIO様、五武蓮様、亜蘭作務村様、名無しの通りすがり様、オカムー様ありがとうございました!


 墓石に刻まれた名前をじっと見つめながら、ゆっくりと盃をあげる。生前、袂を分かってからは語らう言葉は少なかった。言いたい事は全て拳に乗せて語っていたからだ。拳を交えられなくなった後は、ただ報告だけを墓石に向かって話した。そして、再び舞い戻ってきた今は、最後の決着をつける事ができなかった自分を恥じながら、師父と兄の墓の前で静かに時を過ごしている。

 

 何という様だトキ。そう言われているような気がして、トキは手に持った盃をクピリと傾ける。

 兄の仇を討った筈だった。だが、その後に残ったのはただ只管の無力感だった。彼の旅路に付き合ってくれた仲間たちが居なければ、トキは衝動に任せて自棄になっていたかもしれない。その未熟を、物言わぬラオウに責められたような気がした。

 

「やぁ、トキ先生。お隣、いいかな」

「……これは、代表」

 

 背後から声を掛けられ、それが思わぬ人物だった為にトキは少しの驚きを露にしながら頭を下げる。誰かがやってきているのは分かっていたが予想外の人物だった。彼とは余り接点がなく覚えがない気配だった為、声をかけられるまで彼だと気付かなかった。

 

 立ち上がろうとしたトキを手で制しながら、のび太はトキの隣に腰を下ろす。その手にはグラスと一本の酒瓶が握られていた。

 

「どうですか、一杯」

「……では、ありがたく」

 

 手に持った瓶をこちらに向けてそう尋ねるのび太にトキは軽く頭を下げて盃を空ける。そして盃を彼に差し出すと、のび太はゆっくりとした動きで盃に酒を注いだ。トキが頷いたのを見て彼は瓶を盃から離し、自分の持つグラスに酒を注ぐ。

 

「献杯」

「……献杯」

 

 亡き人への敬意を込めて盃を交わし口に含む。舌を刺すような強い刺激の若い酒だった。不味くはない。しかし、のび太が手に持つには随分と……

 

「キツいでしょう?」

「ええ。どこの酒ですかな」

「……この世界の新酒ですよ」

 

 そう言って、のび太はクイっとグラスを空ける。

 

「ジャギの努力の成果だ。ここに捧げるには一番の代物だとは思いませんか?」

「そこまで……復興しているのですか」

「コスモクリーナーとテキオー灯が無ければ難しかったでしょうがね。先生がコスモクリーナーの設計図を持っていて助かりました」

 

 盃を再度傾ける。荒々しい味わいの若い酒だ。だが、しっかりとした旨味も確かに感じる。これが、この世界で。胸に熱い思いが込みあがってくる。すっと何も言わずに酒瓶を差し出すのび太に頭を下げ、トキは盃を差し出す。

 

「彼とは戦場でしか相見えた事はありませんが、心の強い男だった。彼は彼なりのやり方でこの世界を何とかしようとしていたんでしょうね」

 

 静かに語り出したのび太の言葉を聞きながら、トキはかつての、統合軍を名乗る連中との戦場を思い出す。自身は治療のため中期からの参戦だったが、目の前の男は最初期から最後の最後まで戦い抜いた男だ。いや、その戦いは未だに続いているのだろう。途中で抜け出したトキには分からない戦いを、彼と弟は今も繰り広げている。

 

「兄とは直接……?」

「何度か。ただ、彼は僕には興味がなかったようですね。数回、時間稼ぎに相手をした事はありますが……彼の目線は先生とジャギを常に追っていた。貴方が復帰されてからは真っ直ぐ貴方しか見ていませんでしたがね」

 

 結局最後の最後まで強敵とは見られなかったらしい、と呟いて、のび太は空になった自分のグラスに酒を継ぎ足した。

 

 

 二人の男が静かに盃を交わしている姿を眺めながら、ジャギは踵を返した。今の怒気を孕んだ状態であの場に入る事が恥ずかしくなった為だ。

 

「兄さん、そろそろ離してくれ」

「やかましい。あの二人が戻ってきたらもう一度墓参りだ。オヤジの命日まですっぽかしやがって」

「すまない。日にちを間違えていたんだ」

 

 首根っこを引きずられて歩いてきたケンシロウを解放すると、ジャギはため息をついて末弟を見る。明らかに鈍っている。1年前からこちら、晴耕雨読と言えば聞こえは良いが碌な修行を行っていなかったのだろう。

 トキの兄者が戻ってきたらもう一度盛大に叱り飛ばしてやるか。ユリアにはアンナから言伝れば問題ないだろう。それまでは……七実の遊び相手でもしてもらうか。

 そう頭の中で結論付けて、ジャギは北斗の寺院へ向かい歩き出した。

 

 

【献杯 完】

 

 

 

「うわー! とっても甘いってミサカはミサカは言ってみたり」

「たっぷり食っで大ぎぐなれよぉ」

 

 ドサッ、と籠一杯に収穫されたリンゴを籠から下ろし、麦藁帽子を被った女性は特徴的な話し方の少女の頭を撫でる。常春という特殊な気温の上島国の為に耕作面積が少なく、このマリネラ王国は食料を自給できていない。

 

 彼女はこの食料自給率を少しでも引き上げる為に、非常に土の肥えた森林の一部を使って農作業に従事している人物だ。このリンゴや他にはブドウ、それにカブやブロッコリー等の野菜を栽培してもいるらしい。

 

「んじゃ、あどの荷物さ取ってぐるがら子供達よろしく」

「はい! あの、手伝う事はありますか?」

「そいだば全部食われねよう見とってぐれ。オリエさん居ねがらラスちゃん止めらんね」

 

 そう笑って農家の女性は腰をぽんぽんと軽く叩いて自身の畑へと戻っていった。彼女は収穫した食料のほぼ全てを、この村の台所であるテンカワ飯店に納入している。

 

 そして余った分、特に果実などは自前で発酵させて果実酒を作ったり、こうして子供たちのおやつになっていたりする。視界の端では打ち止め(ラストオーダー)が一方通行の口にリンゴを詰め込もうとしている様子が映り、慌ててなのはは駆け寄った。

 

 

「げほっ……あのガキ、洒落になンねぇぞ」

 

 哀れ子供軍にりんごを口に詰め込まれて窒息する所だった一方通行は、新しい生贄(高町なのは)の尊い犠牲により一時退避に成功。少し離れた所に積まれた木材の上に腰かけ、無理やり手渡されたリンゴを片手でぽん、ぽん、と弄ぶ。あのクソガキのせいで失った体力を回復するためにも休息が必要だった。

 

 シャクリと詰め込まれかけたリンゴを口にして、予想以上の糖度と濃厚な果汁に思わず「うまっ」と口にしてしまう。異常に早い生育といい、絶対にまともな品種じゃないと思ったが、それを言葉にする事は無い。一方通行の中にある勘のようなものが「あの農家には逆らうと不味い」と警告を発しているのもある。それに基本的に面倒見のいい女で打ち止め(ラストオーダー)も含めて何かと世話になっているので、無理に反発する気も起きないのだ。

 

「ちっ」

 

 甘くなっている。自分でも分かる程に鈍っている自身に舌打ちをして、もう一口リンゴを齧る。口の中に広がる甘みと酸味を味わいながら一方通行は静かに空を仰ぐ。

 

「……甘ぇなぁ」

「そりゃリンゴだからね」

「うぉっ」

 

 急に声をかけられて一方通行は思わず立ち上がった。そんな彼の様子を特に気にも留めず、声をかけた少年―三日月はテクテクと彼に近づき、先程まで一方通行が座っていた材木の上に腰掛けて、手に持ったリンゴをシャクシャクと齧り始めた。

 

「………」

「……何?」

「こっちの台詞だコラ!」

 

 急な声掛けに身構えていた一方通行に対し、三日月は訝しそうにそう尋ねる。肩透かしを受けたような心境になった一方通行は抗議するように声を荒げたが、三日月は眉を寄せて首を傾げた。

 

「……ああ。空いてる所に座れば良いじゃん」

「……いや、もう良いわ。ったく」

 

 ため息を一つついて、一方通行は材木の上に腰を下ろした。視線を戻すと生贄の子羊(なのは)はバリアジャケットを展開して、ガキ共を相手に遊覧飛行を行っている。成る程、連中の注意を引くという点では上手い手だ。肝心のリンゴがガキ共の手元にある点を除けば有効だろう。

 

「ったく。英雄が聞いて呆れるぜ」

 

 大して休憩も取れなかったか……と諦めて立ち上がろうとすると、隣に座った三日月が「ねぇ」と声を掛けてくる。今度はなんだ、とそちらに目をやると、ヒョイっと投げられたリンゴが視界に入った。咄嗟に反射しないように受け取ると、三日月はクイっと顎を動かしてある方を示す。

 

 そこにはノシッ、ノシッ、と足音を立てるようにゆっくりと、肩を怒らせながら子供達に歩み寄る鉄華団参謀、ビスケットの姿があった。

 

 

「頭がガンガンするってミサカはミサカは悲鳴をあげてみたり!」

「うっせェぞクソガキ。自業自得だろうが」

 

 バタバタと拳骨を貰った頭を押さえて呻く打ち止め(ラストオーダー)にそう返して、一方通行はシャクリ、とリンゴを齧る。視界の先にはあの恐ろしい農家の前でペコペコと頭を下げるビスケットの姿がある。背に籠を背負ってガキ共が散らした後を片付ける姿はやけに様になっている。

 

 そういやアイツも農家の跡取りかなんかだったな。といつぞやの歓迎の宴だかでへべれけになったビスケットに聞いた(絡まれた)際の身の上話が頭を過った。つい思い出してしまった宴という単語に一方通行は身震いする。何度思い出しても、あの宴は酷かった。

 

 途中までは良かった。狩りで仕入れた獲物や農家に譲ってもらった野菜を焼きながら、キャンプファイヤーのように炎を囲んで銘々がそれぞれ話を楽しんでいた。だが、偶に見かける妙にジジ臭い口調の少年がいきなり手品だとか言い出して飲み物に変な桃をぶち込んだのが全てのきっかけだった。

 

 その飲み物を美味い美味いとオルガが口にして、奴に釣られるようになのはと七実がそれを飲み、そして酔った。アッという間の出来事だった。様子がおかしいと思ったビスケットが近づいていくと、酒に変わった飲み物を口にぶち込まれて犠牲者となり、そこからは地獄の始まりだ。

 

 無駄にあるカリスマで酔っ払いを率いるオルガに、何度ぶっ飛ばしてもゾンビの様に寄ってくる酔っ払いども。そして抵抗する奴を無力化する七実と無力化された連中の口にガンガン酒を注ぎ込むなのは。一人、二人と抵抗虚しく敗れていき、自身も下手に反射等をやる訳にもいかず最後は女二人に抑え込まれ、無理やり酒を口に注ぎ込まれたのだ。

 

 その後はよく覚えて居ないが、一緒になって馬鹿騒ぎに交じっていた覚えがある。ビスケットの身の上話もその時に聞いたもので、それほど耐性がなかった一方通行はあっという間に意識を失った為に、その他の行動はよく覚えていない。

 

 ただある程度の時間がたち、アルコールの影響が抜けて一方通行が目覚めた時には世にも恐ろしい拳法家にその場に居た全員がボコられていた。余りの光景に思わず襲撃と勘違いして攻撃してしまったのだが、初撃はともかく2回目で何故か反射を無効化してきた時には、学園都市の第一位もどうやら大した名前では無かったようだ、と世の広さを思い知る事になる。あの拳骨は痛かった。

 

「嫌な事思い出しちまった……」

「一方通行はまた美少女二人にお酌させてた事を思い出してるの? とミサカはミサカはムッとしてみたり」

「止めろ。死にたくなる」 

 

 両腕を捻り上げられながら口に桃を詰め込むあれがお酌というなら、キャバクラとやらに行く連中はドMしか居ないことになる。あの光景を見ていたせいで打ち止め(ラストオーダー)も何かにつけて一方通行の口に物を詰め込んでくるようになった為、彼にとっては本当に百害しかなかった事件だ。

 

「でも一方通行のお歌が聞けたから、ミサカはミサカはまたやりたいかもって言ってみたり!」

「全っ然記憶にねェぞクソが」

「アラレ…? アラレちゃんだっけの歌をすっごいノリノリで」

 

 一方通行の左手に右手を繋いで打ち止め(ラストオーダー)はピョンピョンと飛び跳ねながら彼に語り掛け、面倒くさそうにしながらも一方通行は彼女の問いに答えを返す。この数か月の日々で確かに一方通行は甘く、温くなってしまったのだろう。彼女から伸ばされた手を自分から振り払う事ができないのだから。

 ただ、どうやら自分はそれを悪くないと思っているらしい事に気づいて、一方通行は静かに天を仰いだ。

 春の日差しはどこまでも心地よく、彼と彼女を照らしてながら静かに笑っている。

 

 

【ある晴れた日のとある村のお話】




トキ:出典北斗の拳(含あとがき)
 七実をどこかの南斗聖拳の後継者にしようと考えていたが、ケンシロウの状態如何によっては北斗神拳の伝承候補者にしても良いかと思い始めた。ケンシロウはこの後盛大に叱り飛ばした模様。

野比のび太:出典・ドラえもんシリーズ(劇場版全て含む)
 ジャギから兄が帰ってきたと聞いて公務の合間に顔を出した。ラオウとは3~4回戦場で遭遇しているが互いに時間稼ぎに徹して勝負にまで発展したことはなく、今思えば相手にされていなかったのか、と地味にプライドを傷つけられていたらしい。

ジャギ:出典・北斗の拳
 ようやく山からケンシロウを引きずり下ろしてきた。

ケンシロウ:出典・北斗の拳
 このまま静かにユリアと暮らそうと思っていたら血相を変えたジャギによって無理やり人里へと降ろされることになった。トキに全力で説教された後に紹介された2歳年下の女の子の才能に驚愕する。


打ち止め(ラストオーダー):出典・とある魔術の禁書目録シリーズ
 男の多い村のガキ共でもムードメーカー兼トラブルメーカー。様々な人にしょっちゅう拳骨をもらっているが、それ以上に可愛がられているらしい。

高町なのは:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 魔法の力を無事に取り戻した白き魔王。魔法が使えない期間にトキや七実から受けた手ほどきで近接戦まで対応するようになった。復職するつもりは一切ないらしくツキエリアの某えらいおんなのひとが涙を流した。
 宴騒動では妖艶な笑みで少年たちの純真な心を惑わしながら彼らの口に酒をぶち込み、次の日には何も覚えていなかった。ある意味一番たちが悪いことをした人。

一方通行(すずしなゆりこかも):出典・とある魔術の禁書目録シリーズ
 村の中でも1,2を争う位に酒に弱い。というか普段はアルコール成分だけ分解したりと対応するがこの酒はなぜか能力が効かなかった模様。酔うと終始上機嫌で何をされても怒らず歌を歌ったりと陽気になるが限界が早いため超陽気モードからいきなり寝落ちする。持ち歌はワイワイワールドらしい。

三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 リンゴ美味しい。

オルガ・イツカ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 宴騒動の副要因。トキ先生にぶっ飛ばされて次の日は清掃作業をさせられた模様。

鑢七実:出展・刀語(含あとがき)
 宴騒動の副要因。こいつが酔わなければ被害は拡大しなかったためむしろ主要因かもしれない。トキ先生にぶっ飛ばされて次の日は清掃作業をさせられた模様。



何名か紹介が抜けてますがそちらはまた後日どっかで出るかもしれないかも(目そらし)
後人物紹介と結構文章が違ったりするのでそちらも見ると面白いかもしれません。


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ブラック・ジャックを求める人々

クロオに治してほしいと思ってる人ってどんな人がいるか?
という質問があったので答えて見ました。統合軍系統は今回除いてあるのはどっかでチラ見せしたいからです。
明らかな悪役っぽいのは入ってませんのであんまり読み応えは無いかもしれませんが、話の補填くらいにお読みください。

誤字修正。カランカ様、竜人機様、日向@様、五武蓮様、佐藤東沙様、オカムー様ありがとうございました!


『ええ、こちらは問題ありません。先生からも良くして頂いてます』

「それならよかった。貴方から寄せられている医療コラム、とても評判が良いわ→レオリオ」

『ええ? いえ、そんな。先生が行った手術の様子とかを書いてるだけなんですが』

 

 電話越しに聞く青年の声は、以前よりも幾分落ち着きが増している気がする。初めて見た時は青さが残っていた彼も大分成長したらしく、話をしているだけで驚かされる事もある。特に医療関係の知識は、どれだけの戦場を潜り抜ければそうなるのか、実践経験に裏打ちされた内容の物が多い。彼が将来この世界に帰って来る事があるのなら、きっと医師として大成するだろう予感がある。だが、彼は恐らく帰ってこない気がする。

 自分が逆の立場なら恐らく帰ってこないからだ。

 

「謙遜しなくていいわ→レオリオ」

『いや、謙遜というか、まだまだ目指す頂はまるで見えないので……この間の手術の時なんか、その病院にあった機材だけで難しい手術を成功させてまして』

「へぇ? 例のメスは使わなかったのね→BJ」

 

 チラリと本音を混ぜて会話を誘導する。彼の言葉に対して自分が抱いている感情は本物だ。ただ、少しだけ方向を変える。軽い誘導だが、レオリオにはこの手の話し方が一番効果がある。

 

『最後に見たのはなのはちゃんの手術の時位ですねぇ。普通のメスじゃ切れないからって言ってましたが、あれから結構経つなぁ』

「魔法の組織を切るのに使ったのね→BJ どんな素材で出来ているのかしら」

『さぁ? 先生も知らないみたいですが、オリハルコンかもしれませんねぇ』

 

 レオリオの言葉に相槌を打ちながら、チードルはメモに『魔法組織を切る オリハルコン』と書き込んだ。そのまま二言三言会話を交わしてまたの連絡を約束し、チードルは電話を切る。彼との会話はチードルにとっても楽しいものだった。彼がこの世界を離れると言った際には思わず止めてしまった位には将来を切望していた若者だ。度々送ってくれる外の世界の医療関係の本や手術の内容などは非常に為になるものが多く、また本人の医療知識もどんどん磨かれている。彼が見つけた病気や見かけた難病に対する所見などは、医療に身を置くものでも思わず唸らされる物があり、今現在世界を離れているというのに一つ星ハンターにしてはとの声が上がっている位だ。

 

 そんな人物に間諜のような真似をさせてしまっている事に申し訳なさを感じながら、チードルは再び電話をかける。今手に入れた情報を報告する為に。

 

『――』

「失礼します、チードルです。BJの手術について新しい情報が入りまして」

 

 BJの医療は眩し過ぎた。彼が『ゴン・フリークス』に対して行った手術の映像は、この世界の力を持つ人間達にある幻想(不老不死)を抱かせてしまうほどに。彼の確保に失敗した権力者たちはアプローチを変え、彼の手術技術の秘密を盗む事に執着するようになった。つまり彼女がしているのもそんなアプローチの一つで、そして彼女はその立場を利用している人間でもある。彼の手術に魅せられたのは何も権力者だけではない。彼女もまた、あのメスの輝きに心を奪われたのだから。

 

 医学を少しでも齧ったものならばあれに心を奪われないわけが無いのだ。眩しい光を放つメスがゴンの体に入るたび、蝕まれたゴンの体が息を吹き返すように生命力を取り戻し、蝕む念が削り取られていく様を見せられれば。自身のようになりふり構わずアレを求めるに決まっている。アレが念ではないのは分かっている。伝え聞く魔法に近い気がするが、彼が魔法を学んだエリアにもそんな魔法は存在しなかったのは確認している。秘密はメスにあるはずだ。

 

 別にチードルは彼に対して悪意があるわけではないし、彼のメスを盗み出すようなつもりもない。ただ同じものを手に入れたいし、彼の医療技術を何とかして身につけたいと思っているだけだ。その為に手段を選ぶつもりは無いが、彼女にだって医療現場の第一人者としての誇りはある。法律学者としても犯罪行為に手を染めるつもりは無かった。

 まずは、オリハルコンだ。新しい情報も入ったことだし、一つずつ潰していくのが重要だ。その行動が報われるかは兎も角として、彼女は己の目的の為に今日も動き出した。

 

 

【悪魔の証明 完】

 

 

 

「おらぁ!」

 

 気合を入れた一撃が一つ目の何かを切り裂く。その気合に呼応するようにデルフリンガー(相棒)は輝きを増して煌く。

 

「かっこいー!」

「サイトすごーい!」

「はっはっはっは! まかせろー!」

 

 背に受ける声援に顔を緩ませて才人は彼女達に手を振り返す。彼からの攻撃がやんだ事を隙と見たのか一つ目の何かが近寄ってくるが、彼は即座に振り返って敵を切り伏せた。その様子に歓声を上げるフレンズ達にだらしない顔で応える。単身赴任の形でこの世界にやってきたが、この世界は彼にとって天国とも言える場所だった。

 

 まず、住人たちが可愛い。動物から変身したフレンズという存在らしいが、才人にとっては見た目ちょっと動物の特徴を持った可愛い女の子達にしか見えないし、衣装も露出が多くて素晴らしい。そして何よりも、彼女たちがとても良い子な事がサイトを喜ばせた。ちょっとエッチな目線で見ても「?」で済まされたのには正直罪悪感があるが、健康な哺乳類男子であるので致し方ないことだろう。少なくとも少し前まで居たマカイエリアに比べれば、ここは天と地ほどの差がある。あっちのそういう格好をした連中の危険度は洒落にならないからだ。

 

「でも対魔なんちゃらとかいう連中のがタイプなんだろ?」

「そらお前、あんなピッチピチの全身タイツとか見てくださいって言ってるようなもんじゃねーか。胸がすごいのが多かったし」

「ふーん」

 

 バスに乗って次のセルリアン出現地へと移動しながら、才人はかつて出会った存在自体がエロゲとしか思えない連中の姿を思い出して、思わず鼻の下を伸ばす。腰に差しているデルフが「あっ」と呟いたが、才人はそれに気付かず、かつての任地に思いを馳せる。

 

 とある目的の為とは言え防衛機構に志願した事を本気で悔やむ位に何時死んでもおかしくないエリアだったが、その分手当ても良かったしコネも出来た。あと視覚的な意味でも非常に素晴らしい場所だった。まずバルンバルンが当たり前である。大事な事なので繰り返すがバルンバルンだ。ティファニア並のサイズのお山が激しい動きに合わせて乱れ動くのを間近で見ると言う、大変股間に悪い職場だった。あの時はルイズの機嫌を取るのが本当に大変だったのと、正直いつ死んでもおかしくないと思ったので何とか任地を変えてもらったが、時たま思い返してしまうのは男として仕方が無い事だと思う。

 

「その割にはさっきもフレンズの子達に随分とまぁ鼻の下伸ばしてたじゃない」

「いやぁ、ああいう純粋な子達に応援されるとさ。何と言うか自分がカッコいいんじゃな……いかなって思い上がった犬をお許しください」

「おすわり♪」

 

 背後に空いた空間の穴に気付いた才人はすかさずバスの床に猛虎落地勢を行い、全ての生殺与奪権を穴からこちらを覗き見るピンクの髪をした少女に委ねる。笑顔でゲートの中から姿を現した少女が彼の頭を優しく撫でた後、バスの中には十分ほどの間、断続的に悲鳴が響き渡った。

 

 

「長い事放置した恋人に何か言う事はないの?」

「もうひわけありまへんでひた」

 

 顔中をパンパンに腫らした才人に横から抱きつきながらルイズはそう尋ね、死に体ながらも才人はそれに応えた。非常に美しい恋人同士の逢瀬のひと時である。才人は支給品のポーション(劣化する為消耗期限付きの物)を飲み込み、半分は頭から振り掛ける。少し濡れてしまったルイズが不満そうに才人を見るも、見る見る傷がいえていく姿に若干の驚きをこめてため息をついた。

 

「それで、どうしたんだよ急に。今は移動中だから良いけど、連絡もらえればちゃんと空けといたのに」

 

 言外に仕事中であることを匂わせる才人の言葉に、少し目を伏せてルイズが応える。

 

「ごめんなさい、大事なお仕事中なのに。お父様がね、お姉さまの件について詳しく聞きたいって。あと、一週間もサイトの顔を見てなかったから会いたかったの」

「許す超許す。ごめん、中々連絡が出来なくて」

 

 ルイズの肩に手を回して抱き寄せ、才人は謝罪の言葉を口にした。発生条件が余り良く分かっていないセルリアンの除去作業はいきなり忙しくなることもある上、現地の住民とトラブル無く対応できるコミュ能力を持つ才人には色々と仕事が振り分けられている。決して暇な訳ではないのだが、それは彼女を放置する理由にはならない。少なくとも才人にとっては。

 

「良いのよ。サイトのお陰で、ヴァリエール家(ウチ)は防衛機構とも関係をもててるし、お姉さまの件でも沢山苦労を」

「カトレアさんの件は俺だって治したいって思ってるんだ。全然苦労なんかじゃないさ」

 

 俯くルイズの額にキスをして、才人は彼女を抱き寄せる。防衛機構に所属して二年。各地を転戦する事でコネと情報を得ていき、そこそこ名前の通る存在になった彼はようやく当初の目的を達成する機会を得た。

 

「雁夜さんに頼み込んで、紹介してもらう約束も取り付けたんだ。大丈夫、きっとブラック・ジャックならカトレアさんを治せるよ」

「サイト……ありがとう」

 

 次の仕事場まで少し遅くなるかもしれないが、休憩時間は好きに取っても良いと言われている。多少は上役も目を瞑ってくれるだろう。才人は恋人の涙を指で払って、口付けを交わした。

 

 

【キミが突然現れた(空中から) 完】

 

 

 

229:名無しさんニュース:20××/○○/△△

 結局良く似たコスプレでFA?

 

 

230:名無しさんニュース:20××/○○/△△

 と思われ

 続報もないしあの画像以外はそれっぽい人も居なかったしね

 

 

231:名無しさんニュース:20××/○○/△△

 画像が偽物だったって可能性はないの?

 

 

232:名無しさんニュース:20××/○○/△△

 

 【画像】http:~~

 

 

 

「ダメか」

 

 PCの画面を落として椅子にもたれかかる。自作自演を含めて幾つかのスレを立てて情報を集めてみたが、個人で出来る範疇ではここが限界だろう。残念な事に知り合いにスーパーハッカーが居るわけでもない自分にはこの位が関の山だろう。そこそこ顔の広い知り合いに尋ねても大体が噂以上の情報を持っているわけではない。

 

 メガネを外して瞼を揉みながら椅子から立ち上がる。もう夜の2時を過ぎている。健全な中学生としてはさっさと眠るべきだろうが、幸いな事に明日は休日で予定も入っていない。いや、予定なら入っているか。いま正に行っている調べ物が自身の余暇の使いどころなのだから。

 

「ゆーちゃんの言っていた場所をもう一度調べなおすしかないか」

 

 従妹のゆたかが彼と出会ったのは随分と前の事。偉い人たちが地球の自転がどうだのと騒ぎ始め、衛星が無くなっただの地球一周が出来なくなっただのと言った明らかな異常が世に認知されてから、一年と少し経った頃だ。

 

 その当時、国連が非常事態宣言とやらを出して世界中が何が起きているのかも分からないのにパニックに陥っている中、唐突に空を飛ぶ船にのって防衛機構(連中)は現れ、私達の住んでいる場所(地球)を第8地球型世界と呼称し「科学力はそれほどでもないが十分に文化的な世界である為保護する」と一方的に宣言してきたのだ。

 

 勿論多くの人間や国家がそんな話を飲み込めるわけがないと立ち上がった。いきなりやってきて訳も話さずに、そんな状況に防衛機構(連中)は必要が無いならばしょうがない。もし必要があるのならばこの連絡機を使いなさいと言い残して空を飛ぶ船にのって去っていった。唐突にやってきて、唐突に去っていった明らかな超文明の存在に学者たちが喧々囂々とTVで持論を展開しては他の学者と喧嘩する様は当時のTVを大いに賑やかしていた。

 

 彼らが何をしに来ていたのかはその数ヵ月後、統合軍と名乗る連中がやってきた事で明らかになった。足りない戦力の補充と称した彼らの行動により国一つが消えた事で、私達の住むこの世界は自分たちが思っていた以上に危険で救いが無くて、残酷だという事に気づいた。いささか以上に遅すぎたが。

 

「……寝よう」

 

 頭が回らなくなっているせいで余計な考えばかりが思い浮かんでしまう。明日は起きたら分かっている事を整理しなおしてみよう。情報を集めるだけ集めきった感がある為、現状で取れる手は現場検証と情報の分析しか無くなっている事もある。

 最近、ゆたかの体調が良いという事から発覚したこの切り口を逃す事は出来ない。彼女の体調回復の原因である黒い男、恐らくその容姿からしてブラック・ジャックを探し出すのが、防衛機構の情報を得る最も手っ取り早い方法だろう。

 

 ブラック・ジャック。伝説の漫画家の書いたとある作品の主人公。そう彼は現実にいる人物ではなく、漫画の中に居る人物なのだ。彼のほかにも調べられる範囲では、救援に来てくれたバスク大佐はガンダムに出てくる悪役だという事がわかっている。と言ってもその作品と違ってバイザーではなくメガネをかけていた為、もしかしたら別人ではないかと思っていたのだが。ゆたかからの情報のお陰で彼女は確信を持つことが出来た。二次元の存在が、現実に存在しているという事を。

 

「ドラゴンボール……」

 

 きっとどこかにそれは存在するのだろう。そして、それはこの世界ではない。彼らの船に乗り込む必要がある。出来れば正式な一員として。

 もしかしたら彼らの規模ならすでにその所在も行方も、もしかしたら所持さえしているかもしれない。上空がいきなり暗闇になった事はないのだが、世界が違えば影響が出ないといった事もあるだろう。どんなファンタジーな設定が来たって驚く事はもうない。もし所持しているのなら、その使用を許可させるだけの働きが必要になるだろう。運動神経自体は良いがその程度は掃いて捨てるほど居るだろうし、得意としているコンピュータの技術とファンタジーなどの造詣を深める位しか役に立つ分野は思いつかない。やはり彼らの組織を知り、何が必要とされているのか。自分をどう適応させれば良いのか調べる必要がある。

 

 ブラック・ジャック。もし、彼が私が、泉こなたが生まれていた時に居てくれればお母さん(泉かなた)は助かったのだろうか。

 そんなどうしようもない仮定を考えながら、限界を超えて酷使された頭は休息を求めて意識を手放した。

 

 

【中学はむしろ黒く染めてた説 完】

 




チードル=ヨークシャー:出展・HUNTER×HUNTER
 現在はハンター協会の会長。ゴンの手術の映像を見てしまった人の1人。他の人は彼に対して治してもらう、施術してもらいたいと願っている中1人だけ「あの技術、身につけたい」と頑張っている人。レオリオとは文通友達。

平賀才人:出展・ゼロの使い魔
 現在は防衛機構に相棒(デルフリンガー)と共所属。恋人兼主人の姉を治す手段を探して防衛機構に入り、恐らく一番望ましい形での回復はBJに頼る事だと結論。モモンガ様? 初手アンデッド化の提案でした(しかも超善意)多分他の手段でも何とかなると思っているが、一番後が怖くないのがBJと判断した辺りかなり危険に対する嗅覚が良い。現状はケモノエリアでエリア内のゴミ処理係。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール:出展・ゼロの使い魔
 ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁあああ(ry
 平賀才人の恋人にして主人。かわいい。

泉こなた(黒):出展・らき☆すた
 今回の登場人物で唯一の完全一般人。BJを糸口に防衛機構への所属を画策している。目的は龍球の確保と母親の復活。そうじろうは生きてますし特に原作より不幸という訳ではありません。細かい話は長くなったので別記しました。


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本編に出ない人たちの話(一部は出る人)5

※ちょっと別の作品の更新がブラック・ジャックの方になってました。お騒がせして申し訳ない!

久方ぶりの番外編。
暫く最新話として置いといて、次の話の更新の時に番外編の欄に移動します。


誤字修正。オカムー様、名無しの通りすがり様、椦紋様、たまごん様ありがとうございます!


「はっ!」

「おっ」

 

 腕を捻りながら引き絞り、掌底に似た動きから掌を回転させて打ち込む。これまでに組み手では見せた事のない技。それこそ姉にすら隠してきた一撃。

 

 円の動きを加える事で威力を増したこの一撃。生半可なガードで止めようとすれば、たとえジャギの体と言えどもダメージは免れないだろう。

 

 そして、この一撃には二の矢がある。これ以上ない程の絶好のタイミング。取った! と七花は確信し。

 

「よっと」

「うわぁ!」

 

 すっと横にズレるように身を躱された。初撃をあっさりと空かされてバランスを崩し、足元を払われて尻餅をつく羽目になった。

 

 

「いってぇ……」

「打ち気が出すぎだ。それじゃあ避けてくれって言ってるようなモンだ」

「あー、クソ! イケると思ったんだけどなぁ」

「本物の隙をまず見分けられねぇとな。打ち込まされてちゃ世話ねぇぞったく」

 

 強か打ち付けた尻を擦りながら立ち上がった七花に、ニヤニヤと笑いながらジャギが答える。一瞬だけヒヤリとさせられた事は七花には話さない。言えばこの愚直な少年は試行を止めてしまいかねないからだ。

 

 この愚直な少年をジャギは気に入っていた。人柄もそうだし、何よりもその境遇と立場がかつての自分を彷彿とさせるからだ。

 

 と言っても、あの天才達との才能の差に絶望したかつての自分と、あの天才の弟であるというのに未だに折れずに抗い続けている七花では天と地ほどの違いもあるが。

 

 それにかなり劣化した……それこそ物真似にも劣る代物ではあったが、九鬼流の焔螺子に自力で行き着いたその努力を、ジャギは才能の一言で片付けるつもりはなかった。

 

 この愚直さは己には無かったものだ。義父は己にこの愚直さを求めていたのかもしれない。或いは、その心根さえ持っていれば、もしや。

 

 過ぎ去った事を考える頭を二度、三度と振る。終わった事を懐かしがるような時間は己には無い。

 

「さて、そろそろ移動するとしようか」

「おう! でも、本当に着いてきて良かったん……ですか?」

「敬語はもうちょい勉強だな。まぁ、乗れや」

 

 東京支部で借り受けた車両……白いハイエースの助手席に七花を乗せて車を動かす。勿論いつものヘルメットは着けていない。着けてハイエースなんぞ動かせばまず職質を受ける羽目になる。

 

 七花の格好も常とは違い、動きやすそうな青いジャージに着換えさせている。普段の格好ではこの世界では目立ち過ぎてしまうからだ。

 

「さっきの質問だが、お前の姉ちゃんからはむしろ頼まれたんだよ。暫く自分は動けないから世間を見せてやってくれってな」

「姉ちゃんが? でも、姉ちゃんが動けないって」

「あいつの拳才は大したものさ。だが、流石に今回はな……お前の姉ちゃんはな、流派の開祖になる事を選んだんだ」

 

 南斗聖拳との武者修行は七実に数多の経験と蓄積を与えた。ただでさえ類を見ない拳才の持ち主である七実がもっとも足りていなかった経験を埋めていった結果……勿論命はかけていないが……彼女の実力は飛躍と言ってもいい進歩を見せている。と言ってもまだまだ北斗3兄弟には一度も勝てていないのだが。

 

「アイツの拳はアイツだけの物だ。借り物の時点でこれだけの実力なら、下手な流派の拳技は逆に足枷になっちまうだろうさ……つくづく惜しい。そのまま北斗の後継者にしちまえば良いのによぉ」

「いや、ケンシロウ兄ちゃんと姉ちゃん、二歳しか違わないじゃん」

「どうせトキの兄者が帰ったらアイツは腑抜けるんだよ……その点お前の姉ちゃんは良い。あの飽くなき探求心。あれこそ北斗神拳の伝承者に相応しい」

「……姉ちゃんの探求心は行き着く先決まって……いや、ごめん何でもない」

 

 様子のおかしな七花に首をかしげながらジャギはハイエースを運転する。待ち合わせの時間までには余裕があるが、どうせあの真面目一辺倒の男はとっくに埼玉に入っている筈だ。あの男の拳技とあり方は七花にとって良い経験となるだろう。

 

―prrrrrr―

 

 順調に道のりを消化していた時に、仕事用の無線機から着信の音が鳴り響く。緊急用の音色だ。

 

「七花、俺の鞄から音が出てるものを出してくれ」

「あ、ああ。これか?」

「そうだ。それの緑色の所を押したまま、少しずつずらせ。そうだ、それでいい」

 

 後ろの席に放り投げた荷物から鳴り響く音に、ため息をつきながらジャギは七花に指示を下す。七花は言われた通りに、ジャギのくたびれた肩掛けの鞄から鳴り響く四角い物体を取り出し、ジャギの指示に従って画面を操作する。随分と危なっかしい手つきだが必要な事だ。この程度の機械の操作は教えておくべきだろう。

 

『もしもし、ジャギさん?』

「おう、オペ子か。どうした」

 

 無線機の電源を入れた瞬間に急に光が走り、空中に四角いビジョンが現れた。うぉっ、と声を上げて飛びのく七花に苦笑を浮かべて、ジャギはオペ子……ノエル・アンダーソン中尉のヴィジョンに目を向けた。

 

『最寄りの防衛機構職員全てに緊急配備要請。発信者は葉隠覚悟捜査官……これから会う予定だったでしょ? 一番近いのがジャギさんなの』

「何があった。敵の規模は?」

『何があったかはまだ調査中。近隣の電波が妨害されてて……ただ、固定回線の方は手付かずだったからそちらから連絡が来ました。確認できる範囲ではザク改2機』

「流石にMSは相手できねぇぞ。俺も葉隠もな」

 

 ラオウの兄者ですら不意を打たれて殺されたのだ。あれほどのオーラの使い手ですらも。未だにあの時のラオウには及ばないと実感しているジャギでは言わずもがな、という物だった。機甲戦力には機甲戦力を当てるのが鉄板であり定石。少なくともバスクが指示を出しているなら特攻させられる事は無いとは思うが。

 

『そちらは今、別の部隊が向かっています。恐らく1時間もしないうちには着ける筈です』

「了解。なら俺は何をすればいい?」

『……現地の状況が判明していないので、調査を。葉隠捜査官と共にお願いします』

「……了解。俺は休暇中だ、働かせた分の代休は寄こせと言っておけ」

 

 そう言葉にしてウィンドウズに手をかけて横に流す。出すときは少し手間だが片付けるのは簡単だ。

 

「おい、人を殺った経験はあったな?」

「……3人」

「上等だ。状況次第ではお前の手を借りるかもしれん。もしもの時は戸惑うな」

 

 ジャギの言葉に七花は強く頷いた。

 

「おう……無事でいろよ、覚悟」

 

 アクセルを踏み込む力を強めながら、ジャギは小さく呟いた。

 

 

【七花の社会見学。ジャギ様といっしょ】

 

 

「ギターが欲しい? 構わねぇがどうして」

「古巣さ居だ頃がら趣味でギター弾いでだんだ」

 

 ウリバタケは意外そうな顔を浮かべて彼女を見る。ウリバタケが知る彼女は、日がな一日幸せそうに農作物に向かい合う人物だった。

 

 自分が趣味と仕事を一緒にしているから、という訳ではないが、日頃の姿を知るものからしてみれば、その趣味は意外としか言いようのない物だった。

 

 そんなウリバタケの内心を感じ取ったのか、麦わら帽子を被った女は少し気恥ずかしそうに笑った。

 

「最初は作物に良がらって曲どご弾いでだんだげど、気付いだら楽しくなってだなぁ」

「ああ、成程。オーケー、次の調達の時に良い物買ってくるから期待しててくれ」

「よろしく頼みます」

 

 にかっと笑って彼女は降ろしていた鍬を担ぎ直し、ウリバタケに背を向けて歩き去っていく。その背を見ながら、先ほどまで彼女が抱えていた鍬が置かれていた地面を見る。鍬の接地面を中心にひび割れたその地面を見ながら、ボソリ、とウリバタケは呟いた。

 

「あんだけ容姿よし、気立てよしの子なんだがなぁ……」

 

 生物としての本能が下手な真似をするのを止めてくる。あれは逆らってはいけない存在だと。手を出したら死ぬのが確定しているのは流石に怖すぎる。

 

「しかし惜しい。惜しいなぁ……」

「何が惜しいんだい」

「いや、ノーカちゃんだよ。あんだけ綺麗な女の子が目の前にいるのにな……にも……」

「……あ ん た?」

 

 ヒュッと口から息を小さく吸い込み、ウリバタケは全力で走り出した。

 

 

 ~~~♪

 

 ぱちぱちと燃えるかがり火の前で、彼女は新調したギターでゆっくりとした曲調のメロディを奏でていた。ウリバタケが調達してきたフラメンコギターは、彼女がかつて使っていた物よりも幾分音の良い物だった。仕方ないだろう。かつての相棒は、とある店の主が拾って来たものを安く譲ってもらったものだった。それを何とか修復し、音が出るように手入れして。

 

「随分と久しぶりじゃないか」

「ああ。クロオ先生」

「あっちに居た時に聞かせてもらったな。前に座っても?」

 

 そう尋ねるクロオに彼女は一度頷き、またギターを奏で始める。思えばこの人物との縁も不思議な物だろう。彼と初めて出会ったのは大体3年ほど前。それこそ自分が生まれてすぐ位の頃だった。

 

 当時の自分は自身の妖力すらも満足に扱えない雑魚妖怪で、姿形が姉に似ているからと、姉への鬱憤晴らしにそこらの妖怪に襲われても逃げ回るしかない無力な存在だった。姉はそんな自分を疎んでいた。いや、今思えば自らと同じ顔をした弱者の存在が、苛立たしかったのかもしれない。

 

「……」

 

 クロオは何も言わずに、時折焚き火の中に薪を投げ込んでいる。何か考え事をしているのだろう、何かを見ているようで見ていない。

 

 何かに思い悩む時。この男は誰にも何も言わずに黙り込んで、虚空を見つめる続けることがある。昔、誰も居ない場所でそれをやって死にかけた事があり、それ以降は信頼できる誰かの側でしか行わなくなった悪癖。彼女の元に来たという事はレオリオが居なかったという事だろうか。

 

「……歌は」

「ん?」

「歌は歌わないのか?」

 

 ふとこちらを見て訪ねてきたクロオの言葉に、彼女はうーん、と悩む素振りを見せる。明朗な受け答えをする彼女にしては珍しい仕草にクロオが驚きで少しだけ目を見開いた。

 

「歌うと、姉っちゃどご思い出すがら」

「……そうか。すまない」

「良いんだ。おいは歌苦手んだんて」

 

 すまなそうな顔で頭を下げるクロオにそう返す。

 

 ……一度だけだ。一度、自分の演奏に合わせて姉が歌を歌った事があった。歌詞などない、ただ声を合わせるだけの歌。記憶の中でただ一度姉と自身がぶつからずに何かを終える事ができたあの時。

 

 姉にとってはただの気まぐれだったのかもしれない。だが、彼女にとってはそれはただ一人の家族との大事な思い出でもあった。

 

 今では顔を合わせればその瞬間に殺し合いになりかねないが、彼女は別に姉を憎んでいる訳ではないのだから。勿論、もし仮に今、目の前に姉が居たら躊躇なく首を折りに行く。殺らなければ殺られるのだから仕様がない。

 

 花を愛でる姉と作物を愛する自分とでは決定的に相容れないのだ。互いに距離を取った方が無難であるし……出来るなら戦いたくはない。

 

「近々、一度幻想郷に顔を出すつもりだ。自分の未熟を実感してね……」

「そいだば、えの畑で採れだ野菜幾らかたがいでいって」

「ああ、ありがとう。お姉さんに……風見さんに何か伝えるかい?」

 

 その言葉に寂しそうに笑顔を浮かべて、彼女は首を横に振った。そんな事を頼めばこの先生は律義にあの姉の元へと行きかねない。それは誰にとっても不幸な結末を招くことになるだろう。以前の時のように規格外の武力(サイタマ)が居るとは限らないのだから。

 

 そんな彼女の小さな気遣いにクロオは気づいたのか。彼は何か言いたそうに口を開き、少し逡巡してから別の話題を口にした。

 

「歌なら……歌なら、なのは君が得意だった気がする。確か何度かアニメの歌を歌っていた筈だ」

「なのちゃんがぁ。こっちに来でがらの子はまだ話出来でいねぁ」

「他の地域での仕事も一段落したんだろう? 丁度良い機会だし、若い子達と接してみてはどうだい。農華君」

 

 クロオにそう言われ、農華と呼ばれた彼女(風見 農華)は少し考えた後に彼を見てこう言った。

 

「おい、姉っちゃがら分がれてまだ3年位しか経ってねぁがら、ラスちゃん達のが年近えんだげど」

「精神年齢と見た目で考えよう。その方が建設的だ」

 

 至極真面目な顔でそう二人は話し合い、農華は近く行われる若者たちの宴に参加する事になる。

 

 なお、間違っても飲酒が起きないよう(恐らく問題はないだろうが)実年齢を公表した際には数人が膝から崩れ落ちるように倒れる事態になり、村が俄に騒がしくなるのはまた別の話である。

 

 

【頭は子供、体は大人 その名はのうかりん3歳】

 

 

 カチリ、と音がする。薄暗い部屋の中を電気の明かりが照らし出す。中央に位置する四角いテーブルを挟んで、シャアとバスクは向かい合いながら座っていた。

 

「……残念だよ、大佐」

「……言っている意味が良く分からないな」

 

 バスクの口から洩れたその呟きにシャアは片眉を上げて苛立ちながらそう答えた。久方ぶりの休暇から帰ってきてみればいきなり呼び出され、この部屋で基地司令であるバスクと向き合う事十数分。いい加減に何故こんな状況になっているのか辟易していた所にコレである。1年戦争の頃に比べれば多少は温厚になったという自負があるシャアとてすでに我慢の限界を迎えていた。

 

 シャアの言葉にバスクは小さな封筒をシャアの前、テーブルの上に置いた。それほど大きくはない、それこそ手紙を3つ折りにでもして入れるようなサイズの封筒だ。封筒とバスクを困惑気に見比べるもバスクは何も言葉にしない。ただ、彼の表情は決して憎しみや怒りといった感情で塗りつぶされてはいない。怪訝に思いながらもシャアはその封筒に手を伸ばす。

 

「これは……写真か?」

 

 触った封筒の感触にそう声が漏れた。封を開け、封筒を逆さまにして中に入っていた写真を取り出し……

 

「……」

「……本当に残念だよ」

「違うんだ。私は何もやっていない」

「誰もが最初はそう言うんだよ大佐」

 

 その写真に映し出されていた白地のスーツを着た自身と赤い髪に映えるワンピースを付けた少女、ヴィータが手を繋いで歩く姿にシャアは一瞬意識を失い、手から落ちた写真はハラり、とテーブルの上に落ちた。

 

「この数日。休暇を申請してから行先がツキエリアとなっていたから何事かと思えば……」

「友人に会いに行くのに何か可笑しい事があるのか!」

「この絵面がおかしくないと貴様は思っているのか!」

 

 そう。彼はこの数日、溜っていた休暇の消費がてら連絡を取り合っている少女……ヴィータと会う為に隣のツキエリアまで旅行に出ていたのだ。当然司令級の高官である彼の渡航には色々な制限があるが、そこは無駄に有能なこの男。しっかりクリアして、ついでに視察もかねてエリア間で行われている定期便を使って移動までしている。

 

 因みにヴィータは元々夜天の魔導書の守護プログラムであるため、年齢的には一応成人されているとなっているが、それらの要素を全く加味せずに容姿だけを見れば小学生であり、そんな相手と勝負着で歩いている20代の男を見かければ、事案であると認識されるのは至極当然の話だった。

 

「そうだ! 彼女はもう法律的には成人している立派なレディだ。仮に彼女とデートを行ったとして私に何の非が……」

「そうだな。彼女は年齢的にも、また社会的にも立派な成人であり、彼女を貴殿がデートに誘おうとも本来は何の問題もない」

「なら…………これは?」

 

 シャアの言葉にバスクは重く頷いた後に、胸ポケットから一枚の写真を取り出し、すっとテーブルの上に置く。シャアはいやな予感を覚えながらその写真を受け取り、恐る恐るひっくり返し……すぐに写真を胸にしまい込んだ。

 

「勿論それは焼き増しのものだ」

「バスク准将、貴様……!」

「やかましい! いくら何でもその見た目の少女をホテルのバーに連れ込もうとするんじゃない! 大体貴様とアムロは毎回毎回……」

 

 シャアの言葉を叩き切るように切って捨て、バスクが烈火のごとく普段の怒りも含めて怒鳴り散らす。

 

 ヴィータを連れて高級ホテルのバーへ入ろうとして、ドアマンに必死に止められているシャアの姿が映し出された写真は、この後に彼女の主の元に事情説明と謝罪文を含めて送られ、無事に八神はやての心を冷たくすることになるのだがそれはまた余談である。

 

 

【赤い彗星の肖像】




1話と2話は伏線(全然伏せてない)
3話はまあ頃合いを見たら続報が来るかもしれません(来ない可能性あり)



鑢七花:出典・刀語
 姉が流派創出の為に修行に入った為、ジャギに託される形で社会見学を行っている。尚ジャギ様的には銃弾数発位なら良い勉強だと思っているので割と鉄火場まで連れ込まれる予定。

ジャギ様:出典・北斗の拳
 シャアの写真を撮影した後に入れ替わる形で休暇に入る。旅行に来ていた旧知の友人との再会前に厄介事が舞い込んできた模様。

鑢七実:出典・後書
 大体の南斗の拳を味わい至福の極みに居たが、自身の才を活かしきれると感じる流派が無くならば作ろうと思い至る。名前は思いつかないので募集したい。

トキ:出典・後書き
 このままケンシロウが真面目に伝承者をしてくれればいいなと願いながら七実の新流派創設に力を貸している。


ウリバタケ・セイヤ:出典・機動戦艦ナデシコ
 この後めちゃくちゃ怒られた。なお彼は農華の実年齢を知らなかった為、後で知って膝落ちた一人。奥さんは知っていたのでめっちゃ怒られた(大事なry)

風見 農華:ガ板(東方シリーズアレンジ)
 元ネタは農業してそうな風見幽香⇒のうかりん。この世界では統合後に風見幽香から枝分かれする形で生まれた。正確には母だが根分けのような形だった為互いに姉妹だと認識している。仲が悪くなった原因は花を農作物として彼女が扱っていることに幽香がキレた為。
代表曲は【熱情の律動】


シャア・アズナブル:出典・機動戦士ガンダム
 ヴィータとの初デートに無事こぎ着けた模様。なお結果は振るわなかったが次回の約束は取り付けたらしい

バスク・オム:出典・機動戦士Zガンダム
 同僚の尻拭いは彼の仕事。夜天の主に止めを刺したのは無自覚


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番外編 原作ウォッチ

ちょっと思いついたので投稿。

誤字修正。佐藤東沙様、名無しの通りすがり様、オカムー様、亜蘭作務村様、タイガージョー様ありがとうございます!


 防衛機構

 

 ごく近年、次元統合などという未曽有の災害に対処する為に場当たり的に設立され、拡大されていったその組織は幾つかの特権と義務を所属する職員に与えている。

 

 その中でも義務に、そしてある意味では特権にも当たるとある『知識』を得る際、職員は専用のブースに入り第三者からの監視を受けるよう指示が出される。

 

 これは絶望のあまり自殺しようとする人間が後を絶たなかった事から急遽義務付けられた事柄であった。勿論、監視者は同性となっている。

 

 とはいえ、だ。

 

「恥ずかしい事なのは変わらないの」

「うん……そうだね」

『ま、しょうがねーさ。我慢してくれ』

 

 なのはの言葉に隣に座るフェイトが頷き、彼女たちの会話を聞いていた第三者――今回の監視役である女性の声がブース内に入り込む。

 

「あ、リョーコちゃん」

『今回の監視者は私だから、まぁ気楽にしてくれや』

 

 声音に喜色を浮かべてなのはが監視役――スバル・リョーコの名前を呼ぶと、ブース内の空間に映像が浮かび上がり良く見知った緑色の髪が画面に現れた。

 

 彼女たちと同じく戦闘を専門とする部隊の一つ、カセイエリア第3機甲師団、通称ナデシコ戦隊と呼ばれる部隊の隊長格であり、自分たちと同じく『原作持ち』。

 

 カセイでは何かと肩身の狭い他エリアからの出向組であるなのはやフェイトにも他の隊員たちと同じように接してくれる、裏表のない女性だ。

 

「良かった……知らない人だと、やっぱり恥ずかしすぎるから」

「私、また叫んじゃいそう」

『ああ、うん。まぁ気持ちは分かるから安心してくれよ。あたしの番の時は……頼むぜ』

 

 そっと画面の中のリョーコが目をそらし、その様子に少しの安堵感とやっぱり湧き上がる羞恥心に身悶えしながら、なのはとフェイトはこくりと頷いて返す。

 

 その様子を見たリョーコは『じゃ……頼まぁ』とだけ返事をするとコミュニケを閉じる。

 

 さて……どうやら、もう時間が来てしまったようだ。

 

 なのはとフェイトが座る席はゆったりとしたシートになっており、ブースに入った人間に快適に『映像』を見せるよう考えられた造りになっている。

 

 また、一度映像が始まったら止まる事自体はトイレや何かの異常事態以外に起きないが、ジュースや軽くつまめるスナック菓子などは手を伸ばせば届く距離に設置されていて、補充まで行ってくれる親切仕様だ。

 

 人によってはこの時間が楽しみであるという者も居る位にそのブース内は快適な環境を保たれていた。なのはとフェイトにとっては牢獄に等しいが。

 

 そして、二人の心の準備が整う前にブース内は暗くなり――

 

 彼女たちの前にある大きな画面には、今のなのはより若干年上の姿をしたなのはが現れ、音楽が始まり。

 

【魔法少女リリカルなのはStrikerS】

 

「魔法少女じゃないのおぉぉぉぉぉ!!!」

「な、なのはー!!?」

 

 タイトルロゴを見るたびに毎回来る凄まじい羞恥心に今日も今日とて田村ゆかりボイスが叫び声をあげるのだった。

 

 

「フェイトちゃん、歌上手いんだね」

「私じゃなくて、声優の人だから……」

「それもそうだね。あ、フェイトちゃん変し」

「いやああああああ!!?」

 

 まぁ、作品が始まったら純粋に楽しめたりもしているようである。なんだかんだ言ってこの二人もまだ十代の少女。アニメを楽しむ余裕があるのは良い事だ。

 

 

 

【原作ウォッチ。なのはさんとフェイトさんの場合】

 

 

 

 自身の原作を見る。これは結構な人間にとって負担になる事柄だった。

 

 何せ、客観的に自身の行い、もしくはこれから起こる事を見てしまうのだ。人によってはそのまま死んでしまっている場合もあるのだから笑えない。

 

 まぁ死んでしまった方が良い、なんて場合もあるのがこの次元統合世界の恐ろしい所ではあるが、そういった事情からこの自身の原作確認は非常にストレスの高い物になりやすいのだが……世の中には例外と言える人物もまた、結構な割合で居たりする。

 

「懐かしいなぁ。キー坊に助けてもらったんだよね」

「そうそう。まさかあのキー坊があんなに立派になってるなんてねぇ」

 

 例えばこの人物などは正にその例外に当てはまると言える。

 チキュウエリア代表、野比のび太。

 

 数多の冒険を突破し、その全てで生き残り。次元統合という大災害すらも乗り越えた彼にとって、それらの冒険の数々は大事な思い出であり自身の血肉だった。

 

 隣に座る相棒を失いかけた時は流石の彼とて冷静では居られなかったが、それすらも乗り越えた今。

 

 彼にとってこの程度の思い出語り(原作確認)はむしろ激務の合間の骨休め程度にしかならないのだ。

 

「そういえば、結局今回も来なかったねぇ」

「あいつにとっては過去なんてどうでも良いんだろうさ。……次はどこまで行ったかな?」

 

 ドラえもんの言葉に過去、自分と何度もぶつかり合い、その度に和解し、そしてまたぶつかり合う。そんな悪友とも、親友とも呼べる巨漢の姿を思い浮かべて、のび太は朗らかな笑みを浮かべる。

 

 自分は友に恵まれている。こうやって振り返るたびにそう思う。経済に強い友は企業として、学力に優れた友は学者として。そして、誰よりも勇気を持っていた彼は戦場で共に自分を支えてくれた。

 

 尤も、その男は今頃自身に与えられたフネを使ってどこぞを旅しているのだろう。それでいい、とのび太は思っている。

 

 手が出るのこそ早いが、根っこの部分では正義感の強い男だ。ドラえもんを助けるというのび太の思いを知って協力してくれていたが、戦争という行為自体を苦々しく思っていたのは彼も感じ取っていた。

 

 恩は返し切れない程にある。なら、あいつのやりたい事を応援してやるのがせめてもの恩返しになるだろう。自分の中でそう結論づけて、のび太は画面へと視線を向ける。

 

 遥か遠くの空の下を翔ける友の姿を思い浮かべながら。

 

 

 

「へーっくし!」

「風邪か? タケシ」

「へっ。どっかのファンが俺様の噂をしてるんだよ。おい、バサラ! 次はどこで歌うんだ?」

「さぁな。俺は歌いたい時に歌うだけさ」

「……そりゃそうか。違いねぇ」

 

 ゲラゲラと旅の友の言葉に笑い声を上げて、大柄な男は頷いた。

 

 故郷を出て早幾月。

 

 旅は始まったばかりである。

 

 

 

【原作ウォッチ。のび太とドラえもん。或いは遥か空の下の友とその仲間(全劇場版終了後のジャイアン)

 

 

 

 

「……ひっく」

 

 映像の途切れた画面の前。

 

 暗いブースの中を、少女のしゃくりあげるような音が木霊する。

 

「ごめんね」

「……まどか」

「私のせいだよね。ほむらちゃん……ほむらちゃんが、あんな」

「違うわ! まどかの、まどかのせいなんかじゃない!」

 

 自らの隣の席ですすり泣く鹿目まどか(最愛の友)を抱きしめ、ほむらは強く否定の言葉を口にする。

 

 まどかの責任? ありえない。あれは徹頭徹尾インキュベーターが起こした悲劇だった。奴らが有史以来地球を食い物にしてきた責任を何故まどかが負わなければいけないのか。そんな事はありえない。絶対にだ。

 

 故にほむらは抱きしめる。少しでもその苦しみを拭い去ってあげたくて。自分はここに居るのだと、その思いを彼女に伝えたくて。

 

「……杏子。あたし」

「言うな。お前はここに居るんだろ。なら、良いよ」

 

 まどかとほむら達の座るブースの隣。彼女たちと同じく自らの『原作』と結末を見た二人の少女は、暗い表情のまま顔を俯かせる。一歩間違えれば殺し合っていた。その事実を飲み込んで、二人は静かに互いの手を取り合う。

 

 この温度は決して嘘ではない。その事を心に刻み込むように。

 

 そして、更にその隣。

 

「……ふぅ」

 

 人数の関係上ただ一人で自身の『原作』に触れる事になった少女は、小さく息をついて備え付けられたティーカップに手を伸ばした。

 

 一口、二口。味わうように暖かな紅茶を楽しんだ後。

 

「体が軽い……こんな幸せな気持ちは初めて」

 

 自身が死亡する未来をスルーしたと確信した彼女は小さく右手を握りしめる。

 

 その死亡の状況から、意地の悪い同じ職員から散々に「あ、マミるちゃんだ!」やら「口の大きな魔物には気を付けないとね!」等とネタバレを食らっていた彼女は、ここ数か月の眠れぬ日々が遂に終わる事を喜んだ。

 

 だが、彼女は一つだけ失念していた事がある。

 

「もう何も怖くない」

 

 安堵のあまり自身が特大のフラグを踏んでしまったという事に彼女が気づくのはもう少し先の話。

 

 

 

【原作ウォッチ。とあるフラグクラッシャー?】

 

 

 

 ブースの中は無言だった。

 

 特別に誂えてもらった『家族全員で入れる』映像ブース。最初の頃はわいわいと。途中からは沈痛な、そして最後の方では誰も言葉を発さなくなったそこで、八神はやてはぽつりと呟いた。

 

「25歳、か……」

 

 びくり、と隣に座るザフィーラが体を震わせる。その事を気にも留めずにはやては彼の背中を撫で上げるとブースの席から立ち上がる。

 

「え、映像の中のはやてちゃんは後数年後ってくらいかしらね?」

「あ、ああそうだな。あの年齢で部隊長、主の努力の成果だろう」

「そ、そうそう! それに見ない顔も結構いたな! ミッドチルダの方に居るかもしれねぇな」

「そやね。19歳まで必死に仕事に打ち込んだらきっと私もああなるんやろうね」

 

 にこやかなはやての一言に再びブースの中が沈黙に包まれる。

 

 といっても、別にはやて自身に悪気があるわけではない。彼女たちが変に気を使いすぎているだけ。そう、それだけだ。

 

「来週は、チキュウエリアに出張やな」

 

 静かな決意を胸にはやてはブースを後にする。

 

 25歳までに彼氏を。出来れば結婚まで行きたい。

 

 それは自身の未来図を見て最初に思った、彼女の心からの願いだった。

 

 

 

【原作ウォッチ。八神さん家】




なのはさんの出番がそろそろ欲しかったとかもある。
あとリョーコ忘れてたので追加

スバル・リョーコ:出典・機動戦艦ナデシコ
カセイエリア所属のエースパイロット。気になる男性が最近居るとの噂あり。

タケシ?:出典・ドラえもん?
 一体何ジャイアンなんだ……?

バサラ?:出典・マクロス7?
 歌が好きな人らしい

鹿目まどか:出典・魔法少女まどかマギカ
 アルティメットしなかった方。じゃああの災厄どうすんのかっていうとサイタマ

暁美ほむら:出典・魔法少女まどかマギカ
 デビル化しなかった方。ワンパンチで終わったので愕然としたが気を取り直して残った魔女の後処理などに奮闘している。

美樹さやか:出典・魔法少女まどかマギカ
 魔女化しなかった方。自分の末路を見て意気消沈していたが自身が手にかけたに等しい杏子からの友情で持ち直してきている。

佐倉杏子:出典・魔法少女まどかマギカ
 自身がさやかを止めるために死亡するシーンにショックを受けるも、それに耐えてさやかを気遣う。現状は互いに互いを支え合っている状況。

巴マミ:出典・魔法少女まどかマギカ
 もう何も怖くない


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本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)6

二日連続更新頑張りました()
原作ウォッチャーの更新の時からこれ入れたいなと思ってた場面を作成。

誤字修正。佐藤東沙様、椦紋様、Backwheat様、オカムー様ありがとうございます!


 消えていく。

 

 絶望が、消えていく。

 

「うそ……」

 

 その一撃は絶望の魔女を貫き。暗雲を吹き飛ばし。流星が夜闇を貫く様に空を奔り、そして消えていった。

 

 雄たけびのような断末魔を上げて消える魔女――ワルプルギスの夜の姿を目にしながら、それが信じられなくて私はただ何度も目をこする。

 

「――バカな」

「言った筈だ。バカはテメェーだってな」

 

 その光景を見ながらありえない物を見た、というインキュベーターの言葉に、私の傍らに立つ男が答える。

 

 防衛機構と名乗る胡散臭い組織の人間。私と同じく時間停止の能力を持ち、そしていつも帽子を身に着けている変な男。

 

 その男は、右手に持ったインキュベーターをポイっと上空に投げ――

 

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!

 

 弾丸のような拳の嵐を浴びせかけた。

 

 細切れになるほどの乱打。いつ終わるかもわからないその嵐は数分の間続き、そして唐突に止んだ。細切れの様にすり減ったインキュベーターの残骸に対し男は静かに口を開く。

 

「宇宙の為だとかあーだこーだ言ってたが」

 

 細切れの残骸はふわりと風に乗り、宙へと消えていく。

 

 私の絶望も、これまでの戦いも。呪いも怒りも何もかもが、消えていく。

 

「てめーの失敗はたった一つだぜ……インキュベーター。たった一つのシンプルな答えだ」

 

 何故だろうか。嬉しい筈なのに……解放されたと思っているのに。

 

てめーはオレ達を怒らせた(・・・・・・・・・・・・)

 

 なんで私は今、涙を流しているんだろう。

 

 瞳からあふれ出るように流れ出す涙に視界を塞がれ、私は慌てて涙をぬぐう。

 

 こんなにも綺麗な空なのに。ずっとずっと。それこそ何千回も繰り返して見たかった空の筈なのに。

 

「ヒッ……グスッ」

「……ちっ」

 

 どうしても涙が止まらないのだ。

 

「どしたん承太郎」

「泣かせたのか?」

「ちげーよ」

 

 ドスンッ、という大きな音。続いてジェット機のようなエンジン音。

 

 ワルプルギスの夜を倒した二人が――いや。一人が帰ってきたのだろう。

 

 涙に濡れた視界の中。特徴的な黄色い人影に向かって、私は大きく頭を下げる。

 

「あ”の”っ! だ……たすけてくれて、ありがどうございます……っ!」

「おう」

 

 涙と鼻水でぐずぐずになった声を何とか整えて、私が言った言葉に彼はなんでもない事の様に返事を返す。

 

 きっと彼にとっては本当になんでもない事なんだろう。私の苦闘も、何度も行ったループすらも、彼にとってはただの一撃で片の付く事柄だったのだから。

 

 心の中にささくれの様にその事実が突き刺さり、私は別の意味で瞳に涙をにじませた。

 

 正にその時、ぽん、と私の肩に彼の手が置かれた。

 

「ずっと頑張ってたんだってな……お疲れさん」

「あっ……」

「じゃあな。またどっかで会おうぜ」

 

 そう言って、彼は――ヒーローは去っていった。

 

 後日またやってきた帽子の男、空条承太郎によると、彼は別世界でプロのヒーローとして活動している人物で、災害規模の脅威を力尽くで止める専門家のような人、らしい。

 

「力で止められる問題なら全部解決できる。波平みたいな頭してるが、すげー奴だ」

 

 俺じゃああれは倒せなかったからな、と皮肉気に笑う空条さんの言葉。それは違う、貴方が居たから彼は間に合ったのだ。もしも貴方が居なければ、私は今頃アレに挑み、そして敗北していただろう。

 

 その私の言葉に帽子のつばを押さえて空条さんはため息を吐く。その動作に少し照れ臭いのだろうか等と考えながら、私は彼から現状の説明を受ける。

 

 この地域のインキュベーターは文字通り彼等の組織、防衛機構によって殲滅されたらしい。宇宙のエントロピーだどうだという話も今の世界では完全に意味のない話。

 

 連中が行っているのはもはや何の意味もない人類の家畜化でしかなく、それは空条さん曰く「上層部にとって甚だ不愉快な」事なのだという。

 

「空条さんじゃなくて承太郎でいい。年も2、3しか変わらねーだろうが」

「……貴方、お幾つなんですか?」

「17だ」

「嘘……」

 

 衝撃の事実に思わず言葉を失う私に、空条さん……承太郎はふんっ、と不愉快そうに鼻をならし、「で、だ」と言葉を続ける。

 

「本当に、入るのか。この胡散臭い組織に」

「……ええ。インキュベーターが駆逐されつつあるとはいえ、私たちも何かの拍子に魔女化する可能性があるもの」

「確かにそれが何とかできそうな奴に数名、心当たりはある。だが、俺達は人間相手に戦う場合もある」

「拒否権はあると貴方自身が言ったじゃない」

「……ちっ」

 

 揚げ足を取る様な形になるのは心苦しいが、これは自分たちにとっても必要な事だ。尚も何か言いたそうに承太郎がこちらを見るが、それ以上は何も言わなかった。自身の発言を盾にされた以上、強く否定する事が出来なくなったようだ。

 

 まぁ、どちらにしろ一度彼らの組織に魔法少女達を保護してもらう必要はあるのだ。ワルプルギスの夜、それにインキュベーターが消えたとはいえ、魔女の災厄自体が完全に消えたわけではない。

 

 少なくとも魔法少女達……とりわけまどかが魔女化する可能性は消さなければいけない。この世界ではもう巻き戻しは使えないのだから。

 

 まぁ防衛機構に所属するとはいえ、暫くは残っている魔女を退治して回る必要があるだろうが、それはそれ。かつてのように絶望的な状況ではない以上、やりようはいくらでもあるだろう。

 

 それに、だ。

 

「いつかは、また会えるかもしれない」

 

 口の中でだけ小さく呟き、彼女はあの時の情景を思い浮かべる。

 

 何か、凄まじいエネルギーが迸ったのを感じた後。上半分を跡形もなく消し飛ばされ、光の粒子になって消えていくワルプルギスの夜。

 

 雲が消え、青空が広がっていく光景。

 

 涙のせいで綺麗に見えなかったあの景色を、もしかしたらもう一度。今度ははっきりと見れるかもしれない。

 

 そんな小さな欲求を胸に仕舞い込んで、暁美ほむらは小さく微笑んだ。

 

 

 

【無敵のワンパンでなんとかなった話】

 

 

 

 何時からだろうか。

 

「ほいっと」

「グギャアアアア!」

 

 戦うという事がこんなにも単調でつまらないものになったのは。

 

「流石は先生!」

「おう。帰ろうぜ、ジェノス」

「はいっ!」

 

 目の前ではじけ飛ぶ怪物の姿を無感動に見つめ、弟子を名乗るサイボーグに言葉をかけて踵を返す。

 

 かつて足で悪を探していた頃と違い、今は事前に討伐対象の捜索や移動手段まで用意されている。かつてと比べれば数段ヒーローとしての活動は楽になったが、それに比例するように消えていく感動。

 

 ただの作業と化した戦いは、サイタマのやる気と人間性をどんどん削っていく。

 

「間違ったかなぁ……」

「……どうかなさいましたか、先生」

「いんや、何でもない」

 

 つい口に出た言葉を弟子に聞きとがめられるも、やる気なく首を横に振り、用意された戦闘機に乗り込む。

 

「サイタマさん、お疲れ様でした!」

「ああ、じゃあ今日もよろしく」

「はいっ!」

 

 環境は、間違いなく良くなっている。以前のようにヒーローだとすら認識されず地道に活動していた頃と違い、現在の自分は超広範囲の対厄災級事件担当のヒーローとして様々なバックアップを受けてヒーロー活動に勤しんでいる。

 

 以前の様に生活費に困る事もなく。

 

 一日パトロールと称して何とも出会わずに帰る様な徒労もなく。

 

 果ては彼に何かと突っかかってくるような程度の小さな問題は防衛機構側の付き人が対処してくれる。正に至れり尽くせりといった状況だった。

 

 だが。

 

「…………」

 

 時折、感じてしまうのだ。

 

 虚しいと。

 

「そういえば、次はまたマカイエリアに戻るんでしたね! あちらはかなり厳しい状況だと言いますし、頑張ってくださいっ!」

「お、おお。ありがとう」

 

 つい呆けていたが、どうやら戦闘機のパイロットは延々自分に語り掛けていたらしい。悪い事をしたな、と思いながら彼の話すマカイエリアについて思いをはせる。

 

 マカイエリア。別に全体が魔界というわけではなく、いくつかの世界の中でも特徴的なモノが魔界という世界と暗黒大陸と呼ばれる地域だけのため、そう呼ばれているエリアの事だ。

 

 あそこは確かに酷い場所だった。彼としては特に脅威を感じないが、やたらと攻撃的で凶悪な見た目の連中がやたらと凄い繁殖力で増えまくっているのだ。

 

 魔界と暗黒大陸が隣り合う場所にあって本当に助かっている。あの二つが離れてしまうと明らかに現地の戦力だけでは手が回らなくなってしまうのだ。

 

「まぁ、あっちは今もオールマイトやらが頑張ってるだろうしな。早めに行ってやらんと」

「ああ、オールマイト! お噂は良く耳にしますが、何でもサイタマさんに匹敵するようなヒーローだとか!」

「うん、そうだな。凄いヒーローだよ」

 

 この世界にやってきて。そして、防衛機構という組織に所属して良かったと思った3つの出来事の一つは彼との出会いだろう。

 

 熱い男だった。ヒーローとしての在り方もそうだし、人としての在り方もそうだった。

 

『君ほどの力を持った人間が、空虚な心を持ったままではいけないよ』

 

 彼はサイタマの考えるヒーローの理想のような存在だった。力では、正直な話負ける気はしない。だが、彼ならばなんとかしてくれるという安心感。そして、実際に何とかしてしまえるその底力にサイタマは自身がヒーローを志した瞬間を思い出せた。

 

 こんな男になりたくて、自分はヒーローを志したのだ。

 

 巨悪に立ち向かえる男に、自分はなりたくて体を鍛えたのだ。

 

 そして……強くなりすぎてしまった。

 

 パイロットの話を半分聞き流しながら、サイタマは思う。この空虚な心が満たされる日は来るのだろうか、と。

 

 もうお別れだと思っていた髪は戻ってくる可能性を示された。あの日ばかりは彼女と彼を紹介してくれた防衛機構に心の底から感謝をしたものだ。

 

 そう、もしかしたら髪と同じように、自分の空虚さを満たしてくれるまだ見ぬ強敵がどこかにいるかもしれない。そう考えて上層部、彼の場合は八雲紫に頼み込み、強者との戦いを優先的に回してもらうようにした。

 

 だが、強いと言われている災害級の怪物と戦っても一向に心は満たされない。最近倒したワルプルなんちゃらという存在は少しだけ手ごたえを感じたが、それも一撃で終わってしまった。

 

 自分に感謝の言葉を述べる少女の姿に、別の意味で心が満たされる事はあったが……何よりも求める強敵と遭遇する事は、この世界にやってきてから3年、終ぞ叶うことはなかった。

 

 もしかしたら、この広い世界にすら自分を満たす強敵は存在しないのかもしれない。

 

 そんな諦めにも似た心境の中、サイタマは毎日を過ごしている。

 

 いや。

 

 過ごして、居た。

 

 

 

 頬をヒリヒリと走る”痛み”。はっきりとしたそれを感じるのは、何年ぶりだろうか。

 

「イッテぇ~!? 殴ったオラの手が痛くなっちまったぞ!」

「何を手間取っている、カカロット! そいつはサイヤ人でも何でもない、地球人だろう!?」

 

 彼にとっては全力の一撃だったのだろう。光るオーラを纏ったその拳を無抵抗で受けたサイタマは、感じた痛みに思わず手加減を忘れて拳を出し――その一撃は対戦相手に避けられる事になる。

 

 だが、サイタマの拳に脅威を感じたのだろう、対戦相手は距離を取り、そして殴りつけた右拳を痛そうにひらひらとさせる。

 

 そんな様子を見ながら、サイタマは痛みを感じる頬にそっと手を添える。

 

「オラの全力でも全然堪えてねぇか。へへっ、オメェすっげー奴だな。オラワクワクしてきたぞ」

 

 そんなサイタマの様子をこちらも見ながら、対戦相手……孫悟空は己の身に纏う金色のオーラを変化させ、青く輝くオーラを身に纏う。

 

 強い。少なくとも、無防備に受けていい一撃ではない。それらの言葉がゆっくりとサイタマの頭の中で、彼の決して優れているとは言えない頭脳に染み渡っていく。

 

「俺も」

「ん?」

 

 ふと小さく口に出した言葉に孫悟空が眉を顰める。その様子を気にすることもなくサイタマは――にやりと笑顔を浮かべて、再度口を開いた。

 

「俺も、楽しくなってきた」

「……おう!」

 

 ゆっくりと構えを取る。誰かに構えるという事自体、強くなってからはしたことのない行為だった。

 

 その事実に再度喜びの感情を抱きながら、サイタマは迫りくる孫悟空の右拳に拳を合わせた。

 

 

 

【ワンパン出来なかった相手の話】




暁美ほむら:出典・魔法少女まどか☆まぎか
残念ながらスペースほむらには成れなかったが別の進化パターンは残されている模様

空条承太郎:出典・ジョジョの奇妙な冒険
キュゥべえをオラオラするためにご登場いただいた方(17歳)
まどマギ初めて見た時にこれをやってほしかった。MAD技術があれば自分で行ったのに……(違)
日本人という理由だけで見滝原に派遣され、ちょっとした奇縁の影響でほむらに協力していた。
ワルプルギスの夜は自分では対処できないとサイタマを呼んだのも彼なのである意味MVP

サイタマ:出典・ワンパンマン
力で押せる相手には概念と化す。強敵と合わせてやると言われるが延々ワンパンで終わっていたので大分フラストレーションが溜まっていたが、最終的に大満足だったらしい。

ジェノス:出典・ワンパンマン
サイタマの弟子。サイタマが嬉しそうで嬉しいのとまだまだ自分は弱い事を自覚し更に修行の日々。最近、アラレという埒外の存在に目を付け彼女の技術を自身に適用できないか模索しているらしい。

孫悟空:出典・ドラゴンボール
とんでもなく強い奴がいると言われてホイホイ呼び出された男。大変満足したらしい。


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本編に出てこない人たちと最近出てこない人たちの話

お久しぶりです。遅くなり申し訳ありません。

誤字修正。佐藤東沙様、日向@様、オカムー様、赤頭巾様、Paradisaea様ありがとうございます!


 周囲を貫く閃光。それは雷鳴のように地を撃ち、空を駆ける。

 

 爆ぜる地面。舞い上がる土煙に紛れる様に地を這い、転がるように森の中へと入り込む。

 

「ハァ……フゥ……」

 

 荒く弾む呼吸を整える。無呼吸での移動は流石に堪えたが、呼吸すらも邪魔になる集中を持続させなければすでに捉えられていただろう。無茶をした甲斐はあった。しかし、打開策はまだ見つからない。

 

 脱ぎ捨てていた着物を身に着ける。形部の術を真似て接近を試みたが、姿を現す前に地面ごと抉られた時は思わず苦笑が漏れた。

 

 清々しいまでの大雑把さ。だが、それこそが最適解である事もまた、間違いのない事。

 

 近づく。ただそれだけの為に行われた3度の試みは全て失敗に終わっている。

 

 いや、確かに一度は近づけた。極近距離まで、それこそ手が届く範囲へと。

 

 だが……

 

 

「ねぇ、七実ちゃん」

 

 声が響く。

 

「びっくりしちゃったよ。いきなり地面から出てくるんだもん」

 

 七実にとって、その人物は決して脅威とは言えない人物だった。魔法と言う力を失い、自信を失い、戦う力と覚悟を失った小娘。

 

 同年代であり、気質こそ正反対に等しいが、とある事情からなにかと会話する機会が増えた。そんな存在。

 

 それが彼女にとっての声の主――高町なのはに対する印象だった。

 

「もしかして……今のが七実ちゃんの奥の手、なのかな?」

 

 だが――

 

「だったら正直……期待外れ、かも」

 

 ミシリ、と空気が震えるのを感じ、七実は瞬時にその場からの離脱を行う。その直後、先ほどまで彼女が立っていた場所を桃色の閃光が貫いた。

 

 受ければ敗ける。そんな威力の砲撃をよけ続けてかれこれ十数分。

 

 対して自身は近づくことも出来ず、近づけたとしても。

 

「貫けない……か」

 

 七実は血の滲む右拳をチラリと眺め、そして視線を切る。とはいえ身を隠していても結果は変わらない事は事実。

 

 仮に隠形が通用するならそれを主軸にしても構わない。だが、現実には痛痒すら与えられずに離脱する羽目になった。

 

 ならば、みっともなくこそこそと動くよりは――

 

「……へぇ」

 

 木々の間から姿を現した七実に、高町なのはは視線を送る。その瞳には一切の油断が無く、完璧なまでに敵として友と称した相手を捉えていた。

 

 普段の快活な様子からは想像できないその姿。込められた覇気に、七実の脳裏に”BETA戦の英雄”という単語が過る。

 

 BETAの姿。かつて自身と家族が住んでいた島を覆いつくした連中の存在を、七実は片時も忘れた事は無かった。自身がBJに執着を持った原因。圧倒的に劣ると思っていた存在に命を救われたあの日。

 

 あの存在を相手に生身で立ち向かい、一つのエリアを守り切ってみせたというその力。眉唾に思っていたその話。己を超える武人であるトキが語った時も半信半疑でしかなかったそれを今、確かに自身は感じている。

 

 目の前の女は、あのどうしようもない程の人類の天敵(BETA)の、天敵と呼ばれた女。その在りし日の姿だった。

 

 七実が知っている高町なのは。頭は良いのにどこか抜けていて、ほがらかな笑顔をいつも浮かべている少女とは真逆のその表情に、七実は――

 

「なのは」

「なに? 七実ちゃん」

「……私、今。初めて貴女自身に興味を持てた気がします」

「え、今!? 今、それカミングアウトするの?!」

 

 覇気に満ちた表情から一転。年頃の少女のような顔が見え、思わず七実は苦笑を漏らした。

 

『七実くん。人は、君が思っているよりも複雑で、君が思っているよりも単純で。何より面白い存在だよ』

 

 なる程、確かに。確かに人は、面白い。家族以外は須らくゴミだと思っていた彼女の価値観はあの日確かに木っ端みじんとなっていたが、それでも根付いていた他者への蔑視が間違っていたのだと痛感する思いだった。

 

 「と、友達だって思ってたのに」と嘆くなのはに「いえ、私も友達(玩具)だと思ってましたよ?」と返しながら、七実は薄い笑みを浮かべる。

 

 友人であるなら対等であるべき。今、限界を超えずしていつ超えるというのか。

 

 己の両手に魂を込めて、七実は居住まいを正し声を張り上げる。

 

「仕切り直しましょう。虚刀流、6代目当主代理――鑢 七実、参る!」

「あ、うん――管理きょ……ううん、ただの高町なのは――行きます!」

 

 形勢は圧倒的になのはが有利。それがどうしたと七実は笑い、それがどうしたとなのはは真剣な表情で名乗りをあげる。

 

 勝負はまだ終わっていない。最後の最後に勝負をひっくり返す、そんな事態に陥ったって決しておかしくはない。実力差は確かに勝敗に大きく影響するが、勝負を決めるその瞬間まで勝ちか負けかは決まらない。

 

 その事を経験則としてなのはは知っていて、天性の感覚で七実は理解していた。

 

 そして、二人は己と己の魂をぶつけ合い。ぶつかり合って、闘いは終わる。

 

 この日――七実はトキからある種の合格点を貰い、いくつかの選択肢を与えられて旅立ちを決意し。

 

 なのはは実家の門を叩く事を決断した。

 

 二人の勝敗。それは――

 

 「今回はそちらに譲りましょう」

 「次は負けないの」

 「いえ、あの瞬間、貴女の砲撃が」

 「ううん、結局拳が届いてたし」

 「だから――」

 「だけど――」

 

 恐らく二人の間でしかわからないだろう。

 

 

 

【仲良く喧嘩しな! 鑢七実VS高町なのは】

 

 

 

「アキト~~~!!!」

「……うん、ああ。ユリカ。おはよ」

「アキトアキトアキトアキトアキトアキト!」

「……ああ、ユリカ。俺だ。俺は、ここに居る」

 

 縋りつく様に自らの胸に頭を擦り付ける妻、テンカワユリカの頭を、アキトは優しく――壊れものを扱うかのように繊細に――抱きしめる。

 

「アキト、アキトだ。アキトが居る……ここに居る」

「ああ。ユリカ、俺はここだ。ここに居るよ」

 

 鼓動の音を確かめる様にユリカは自身の胸に耳を当てる。彼女の呼吸と自身の鼓動が一致するように重なり、やがて強張ったユリカの体から少しずつ力が抜けていく。

 

『体は治した。だが、心は決して一朝一夕で治る様なもんじゃない……彼女の場合は、特に。お前さんが居る、それ以上の薬は彼女には存在しないよ』

 

 何度も思い返す言葉。それを言った時の先生の、心苦しそうな表情を今でも覚えている。あの先生は存外に欲張りだ。自分の目の届く範囲で何かしらを患っている(・・・・・・・・・・)人間が居るのが我慢できず、それに手出しが出来ないと自分を責めてしまう。

 

 隠居なんて出来る筈がない。何せ隠居先のこのカセイで俺と先生(BJ)は出会い、何の得にもならないのに彼は俺を助けてしまったのだから。それどころかこうして生きる場所と、体と……何よりも最愛の妻と娘たちを取り戻す手助けまでしてくれた。

 

「アキト……ごめんね」

「何を言ってるんだユリカ。俺達は夫婦だろ。互いに助け合って……乗り越えていこう」

 

 ギュッと自分の体に腕を回すユリカに、抱きしめる腕に力を込めて答える。

 

 フラッシュバックするように襲ってくるこの発作も大分頻度が減ってきた。だが、今でも数週に一度の頻度で悪夢を見た時に起きてしまうらしい。

 

 悪夢の内容は……聞きたくもないし想像もしたくない。再会した当初、自分が触る事にすら拒絶反応を示した妻の姿が思い起こされるからだ。

 

 似たような悪夢を自身も見る。全身が弄り回される。感覚が、神経が、何もかもをぼろぼろにしてしまう、白衣を着た男達の手。

 

 手術着を着た人物に対しても拒否反応を示してしまう俺達に、先生は特注の黒い手術着を着て執刀してくれた。

 

 だから俺とユリカの寝間着は黒いものしか存在しない。起きた時、目に入る色が黒であれば安心できるから。

 

 私服も黒い物が多いせいで、テンカワ夫妻は黒い服が好きだと誤解を受けてしまったのは……苦笑いしか出てこないが。

 

「……ありがとうアキト。もう、大丈夫」

「いいよ。そろそろ仕込みの時間だし、起きようか」

「うん……今日も頑張ってお料理、作ろうね!」

「ああ。そうだユリカ。仕込みの合間に朝食を――そうだな。今日は少し冷え込んでるし豚汁にしよう。一緒に作ろうか」

「うん! 頑張って覚えるね」

 

 起き上がり、妻にそう声をかけると明るい声音で返事が返ってくる。

 

 最近ではユリカもポイズンクッキングとまで呼ばれた壊滅的な料理下手がなりを潜め――地頭がいい彼女にとって、手順を守るというルールさえ順守出来れば料理はそう難しい物ではない――簡単な料理や素材の仕込みなども手伝ってくれている。

 

 お陰で屋台を引いていた時よりも更に手際よく料理を出す事が出来る様になり、村の外からくる偶の来客にもテンカワ食堂は好評だという。

 

 勿論、元々村に住んでいる人間からは――戦友だという評価を差っ引いても――好評を貰っているのは間違いない。

 

「そういえば農華ちゃんが持ってきた野菜で幾つか」

「むーーーー!」

「……どうした、ユリカ。急にむくれて?」

「またアキトのちゃん付けが始まった!」

「はぁ?」

「イネスさんにもアイちゃん、久しぶりに再会したリョーコちゃんにもリョーコちゃん! ルリちゃん……はルリちゃんだから良いけど、この村に来てからもなのはちゃん、七実ちゃん、遂に農華ちゃんまで! アイちゃんやエリナさんとの関係といい、最近はルリちゃんも……! アキトはかっこいいし素敵だしお料理もお上手だから仕方ないけど、ユリカの王子様なのに!」

「……お前なぁ」

 

 ぷくぅ、と頬を膨らませる愛妻のかわいらしい嫉妬に苦笑を浮かべて、彼女の頭を撫でる。イネス……アイちゃんやエリナとの関係を彼女に伝えた時もこうやってむくれていたのを覚えている。勿論、頬に何度も良いのを貰ったのだが……いや。これは家族全員にされた事だったか。

 

「お前だって彼女たちにちゃん付けだろうが」

「私は良いの。女の子だもん」

「おい、26歳」

「ぶー。女の子はいつまでも女の子なんだよ!」

「はいはい。というかお前、それ以前に農華ちゃんはなりは大きいけど3歳だぞ」

「……あ」

 

 

 

【夫婦喧嘩は犬も食わぬ テンカワアキト×テンカワユリカ(旧姓:ミスマルユリカ)】

 

 

 

 その部屋は、この建物の最高権力者の執務室としては割合小さめな部屋であった。

 

 見栄えを考えた造りや調度品等で整えられた室内。部屋の主自体にその方面の拘りが無いため広報担当が自らのセンスのままに誂えたそこは壁紙からソファに至るまで柔らかな印象が持てるように手をかけられており、部屋の主の無愛想さを緩和する効果を期待されている。らしい。

 

 まぁ、今来訪してきてる人物には毛ほどの効果もないようですが。

 

 内心で独りごち、ホシノ・ルリは付き人のように壁の近くに立ち、自身の上位者2名(・・)のやり取りに意識を戻す。

 

 まぁ、やり取りと言っても――

 

「ぬわぁああんもう疲れたぁあああ!」

「お疲れ様」

 

 友人同士の他愛もないやり取りを傍で聴くだけという、ある種手持無沙汰の究極系のような状況なのだが。

 

 

 

 この部屋の主の肩書は多種に渡る。まず自分の上役としてのタイヨウ系エリア群最高軍政官兼カセイエリア軍政官兼防衛機構軍区画カセイエリア駐屯司令。この全てを一息で言えるのに少し手間がかかった覚えがある。

 

 そして彼女の肩書はこれだけに終わらない。各エリアにおいても彼女は何かしらの肩書を持ち、なんならタイヨウ系エリア群群司令部も彼女が実質切り盛りしているようなものだ。

 

 彼女の凄まじい所はその情報処理の能力と同時並行して行えるマルチタスクの多さだ。そして地味だがバカにならない”人間を圧倒的に超える”体力。

 

 各エリアも少しずつ体制を作り上げているが、タイヨウ系エリア群という枠組みが出来上がるまではほぼ彼女におんぶにだっこという凄まじい状況だった。

 

 そして、そんな彼女に馴れ馴れしい態度で接する相手。この人物もまた、とんでもない人物だ。

 

 何せ――このタイヨウ系エリア群の、主なのだから。

 

「つーかあれよあいつ! オティヌスってバカ!」

「バカ……仮にもあれは魔神という」

「バカで十分よ! 周りの迷惑を考えろって何万回言わせるつもりなのよあのバカ!」

 

 そんな彼女は今日も元気に喚き立て、自分の上司を困らせている。

 

 むしろこれが彼女達なりのコミュニケーションなのだろう。上司の原作を拝見した時にも上司はいつも彼女に振り回されていた気がする。いや、最も振り回されていたのは上司の上司――エリア群超代表と呼ばないと怒りだす――の恋人だろうか。

 

「ハァ……まぁ、あいつはもう良いわ。暫く暴れられないようにしてやったし」

「そう」

「次の問題は――先生か」

 

 散々上司に愚痴をもらしていたエリア群超代表は一息つくように呼吸を入れて、表情を変える。

 

 切り替えの早さはお見事。心の中で賛辞を送っていると、彼女はこちらに視線を向けて右手でピースサインを送ってくる。こちらの内心など筒抜けなのだろう。苦笑してピースを返す。

 

「今更八雲さんとこに先生が取られる事はないと思うけど、渡航許可証は?」

「問題ない。先生が成果を得るまで、という但し書きを付けてある。彼は律儀な人。この文面を読んで戻ってこない事はまずない」

「そうね。これが鈴木さんとこなら全力で邪魔するんだけど。先生が行きたいって言いだすって事は、絶対にまた向こうで何かあるわ」

 

 あのメガネ悪魔(デミウルゴス)、私嫌いなのよねぇと呟くエリア群超代表に思わずと言った様子で上司が苦笑を漏らす。鉄面皮とまで呼ばれる上司の珍しい姿に思わず心の中で賛辞を贈ると、意味深な表情をした超代表がこちらに笑顔を向けてくる。狙ってやったらしい。

 

「大体AOG(あそこ)で起きてる問題って半分が人間蔑視が問題じゃない。上が良くても下がこっちを下に見てるのが丸分かりだわ」

「否定はしない。彼等の配下には数多くの人間種が居るが、あのままではいずれ何かしらの無理が来るだろう」

「まぁ、他所の事情だからこれ以上突っ込まないけど……鈴木さん自体は嫌いじゃないんだけどね。あの狂い方、理解できるもの」

 

 ポツリと呟く様にそう言って、超代表は席を立つ。友人との他愛無い愚痴タイムは終わり、という事だろう。

 

「手が足りないわ。太公望さん、ふん縛って来ようかしら」

 

 ぼやきながら彼女は音もなく姿を消した。現れる時も出ていく時もドアを使わないらしい。いや、一時期は毎回ドアを壊していたそうだからむしろ進歩した、と言えるのだろうか。

 

 唐突に室内の凡そ9割を占めていた音源が消え、執務室の中を静寂が支配する。

 

 自分も上司もあまり会話をするタイプではない。むしろこれがこの部屋のごく一般的な状態と言えるだろう。

 

「ホシノ補佐官」

「はい」

 

 さて、ここからは壁の華から補佐官としての身分に戻る事になる。意識を切り替えて上司に視線を向ける。

 

「今聞いた話は」

「はい。私の権限の及ばない範囲は忘れる事にします」

「貴女はとても優秀。これからも頑張って欲しい」

「ありがとうございます。それでは私は自室に戻ります」

「ああ、少し。頼んでいた許可証は先生に?」

「はい。志願してきた捜査官。ダービー氏がメッセンジャーとしてすでに」

「そう」

 

 安堵したように口元を緩める上司。先生と彼女と超代表が口にする人物がどのような関係であるのかは分からないが、彼女たちは彼に対して常に最大限の便宜を図ろうとしている。

 

 自分が知らない何かを知る筈の彼女達の行動に、ルリは自分の予感――フラグブレイカーが存在するという事の確信を深めながら、現況の報告を行った。

 

「所で、先生が居る村には貴方の良い人も居ると記憶している。貴女が直接行っても良かったのだが?」

「いえ。そうしたいのは山々なのですが。アキトさんに会いに行く時は私事……プライベートの時だけにしているので」

「そう……何か理由が?」

「理由と言うか……公の立場で会うと私はホシノ補佐官としての立場であの人と話さなければいけません。あの人と接するときは、ただのルリとして会いたいんです」

 

 なんの事はない。嘘偽りなく100%ただの私情である。

 

 だが、その答えは上司にとっては想像だにしない回答だったのだろう。きょとん、とした表情を浮かべた彼女は数秒後に少しだけ口元を緩め、ついでふふっと空気を漏らした。

 

「いけませんかね?」

「いいえ……とてもユニーク」

 

 そう言って私と上司は互いに苦笑を交わし、私は彼女の執務室を後にした。

 

 さて、次の休暇はいつになるだろうか。BJの渡航後になりそうだなと嫌な予感を感じながら、ルリは屋内移動用のカーゴに乗り込んだ。

 

 

 

【タイヨウ系エリア群超代表とその側近の心温まる一日 byホシノ・ルリ】




テンカワユリカ:出典・機動戦艦ナデシコ
テンカワアキトの妻。旧:ミスマルユリカ
機動戦艦ナデシコにおけるメインヒロインであり、夫と共に劇場版ナデシコのメイン被害者の一人。演算ユニットに組み込まれて「人間翻訳機」として利用されていた。
アキトと共に患者としてクロオの治療を受け、体は健常者となんら変わらない状態だが未だに心の部分で後遺症が見られる。
アキトの浮気?に関してはひと悶着あったが、当人たちの間で決着はついている模様。ただしお替りは許されない。

超代表:出典・???
一体なにものなんだ……
どうやら恋人ともうまくやっているらしいが、最大の問題は忙しすぎて互いに時間が取れない事。

超代表の補佐官:出典・???
一体なにものなんだ(ぱーと2)
カセイエリアの軍政官にして防衛機構のタイヨウ系エリア群の指揮官。むしろ一時期彼女だけでタイヨウ系エリア群は持っていたとも言われる。
BETAに対する最終兵器という役割も持っている。


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本編には出てこない超越者達

お久しぶりです。遅くなって申し訳ありません。
挿入投稿でしくじったので再度最新話を投稿し直しました(白目)
しくじりの元になった登場作品一覧は一番上にあるので興味のある方は御覧ください。

あと今回バカ回です。人数がまた増えました()

誤字修正、路徳様、竜人機様、佐藤東沙様、たまごん様ありがとうございます!


「――以上が今季の主要な報告になります」

 

 そう〆の言葉を口にし、メガネを掛けた男はぺこりと一礼すると自分のために用意された座席に戻る。

 

 その空間は――非常に不可思議な形をしているが――会議室、のようなものだった。円卓のようなテーブルにつく先程のメガネを掛けた男を含んだ5名。その5名を囲んで見下ろすように作られた上階の座席5つについた5名。

 

 上階に座する5名の視線を浴びながら、実務担当者であるところの5名は上階からの質問の声が入らないかを十分な時間待機し確認した後。

 

 濃厚な殺意が、円卓の間を包み込む。

 

「で、ゲンソウエリア統括司令殿。君の所から上げられたサイタマ君の出張申請。これはどういう事かな? 以前の取り決めではマカイエリアの間引き作戦には間に合うという話だった筈だが。いや、その前にケダモノに言葉が通じているかを確認するべきだったね。コーン、コーン?」

「わざわざ低い方の役職を出さないとマウントを取りに来る事も出来ないのか? ああ、メガネが曇って文字が読めないのなら狐語で音読してさしあげよう。コーン、コーン? 意味は通じるかな? 随分と下手くそな狐語だったので心配だよ」

「おっとこれはすまない、たかが代表代理の使い魔ごときの事などすっかり記憶から消えていたからね。経緯を一から聞かなければ説明できないという事をすっかり失念していたみたいだ」

「悪魔の癖に痴呆症とは救いがたい無能だな。そんな分際が実務責任者とはな、程度が……ふっ」

 

 まず口火を切ったのは AOG群のほぼ全ての実務に携わると言われている男、デミウルゴス。右手の中指で自身のメガネを押し上げ、視線も送らずに隣に座るヤオヨロズエリア郡の実務者・八雲藍へと舌鋒を向ける。

 

 悪意と蔑みを込めたデミウルゴスの舌禍を、しかし八雲藍は風が優しく凪いだかのような表情で受け流し、倍の舌鋒で以って貫き返す。そんな2名の様子を、ため息を吐きながら。あるいはニヤニヤと笑顔を浮かべながら席を立つ二名の男。

 

「失礼しよう。君たちと違って私の時間は有限なのでな」

「じゃれ合いを見るのも悪くないがオレも忙しい。明日はロッテリやの一日テン蝶を務めねばならないからね!」

 

 返事も待たずに立ち上がったマントを羽織る仮面の男と、彼に合わせるかのように席を立つ全身タイツ型のスーツに身を包んだ蝶仮面の男。2名の言葉にそれまで一切視線を動かさなかったデミウルゴスと八雲藍が険しい表情で2名へと視線を向ける。

 

「じゃれ合い、だと?」

「訂正しろっ! パピヨン! ゼロ!」

「ノン、ノン♪ パピ♡ヨン♪ もっと愛を込めてっ♪」

 

 視線を向けられたパピヨンは、満面の笑みをその仮面の下に隠しながら己へと向けられた舌鋒を楽しむ。彼にとってはこの場も、ロッテリやの一日テン蝶も等しく同じ。己が楽しむための、暇つぶしのようなものなのだから。

 

「……私は、関係ないだろう」

「……ユニーク」

 

 そんなパピヨンとは裏腹に、逃げようと思っていた喧騒に結局巻き込まれたことを悟ったゼロと、一人我関せずと議事録作成を行っていた長門有希の言葉が重なる。互いに視線を向け合い、苦笑を浮かべて口を開けようとした、その時。

 

 

【控えよ】

 

 

 上階の一席から立ち上がった超越者の言葉に、ピタリと喧騒は終わりを告げる。

 

 騒ぎの中心であったデミウルゴスは直様にその声の下方向へと向き直る。膝を折り頭を垂れ、彼にとっての最上位者。文字通り神にも等しい超越者の言葉を待つ。

 

【デミウルゴス。徒に波風を立てる言動は慎め】

「ハッ……申し訳ありません、モモンガ様」

「ふんっ、良い気み」

【藍、貴方もよ】

「紫様っ!? しかしこの悪魔が」

 

 頭を下げるデミウルゴスに歪んだ笑顔を向ける八雲藍。しかし、そんな彼女の背後から冷水を浴びせるように、彼女の最も敬愛する主からの言葉が飛ぶ。

 

【しかしもかかしもないわよ。毎回毎回、うん百年も生きた大人がピーチクパーチク】

【時と場所と面子を考えようぜ?】

 

 そして、それは背後からだけではない。長門有希とパピヨンの背後、彼らの上司たる上階の主達からの言葉に、デミウルゴスと藍は歯を噛み締めて顔を伏せる。

 

 己が主が同格と認めた相手の言葉を無視することは、彼ら二人には出来ない。そんな事をすればそれは主自身を侮辱するようなものだからだ。

 

 しかし、ではあるけれど。

 

「…………………………………も、申し訳、なかった。八雲、殿」

「……………………………………………………………………ぐ、ぎ、こ。こちらこそ、申し訳……ない、デミウルゴス、殿」

 

 デミウルゴスは握りしめた掌から血をにじませながら、噛みしめるようにそう口にし。噛み締めすぎた口からはつぅ、と血をしたたらせながら八雲藍はその謝罪を受け入れる。

 

 文字通り、血反吐を吐くような形相で行われるそのやり取りに、巻き込まれる形でその場に『残らされた』ゼロが深い溜め息をつく。自分と同じく退席を邪魔されたパピヨンはすでに居ない。

 

 野郎、先に逃げやがった。

 

 内心でそうほぞを噛みながら、ゼロは上階の面々を窺うように視線を向ける。切実に帰りたい。そもそも俺の上司はどこいった。なんだあのクマの人形は代理だとでもいうのかあの野郎1週間飯抜きにしてやろうか。

 

 心を読んだわけでもないのに周囲に漏れ伝わる荒れ狂うゼロの内面を慮ってくれたのか。デミウルゴスと藍の様子に処置なしと思ったのか。上階から小さなため息が漏れた後、議長役を務めるアンデッド、モモンガが椅子から立ち上がり、音頭を取るように声を張り上げた。

 

【必要な伝達は終了したと判断するが、如何に】

 

 モモンガの言葉に欠席者1名を除く残る3名が賛同の意を込めて頷き、モモンガに視線を向ける。モモンガはそれに大きく頷きで返すと、下階で自らの言葉を待つ4名に向かい視線を向けて――

 

 ピシリッと背筋を伸ばし、絶妙の角度で頭を下げる。

 

【それでは第32回実務報告会議はこれにて終了させていただきます。皆様、お疲れさまでした】

【【【お疲れさまでした】】】

「「「「お疲れさまでした!」」」」

 

 労いの言葉を掛け合い、互いに向け礼を行う。自己主張の少ないモモンガが強行してまで進めたという始まりと終わりの挨拶を終えると、円卓上にある上階が野外ドームが閉じるかのように動き、やがて上階と下階を完全に隔てる。

 

 完全に締め切った後も一礼の体勢を維持していた下階の4名は、十秒ほどそのまま待機し、そしてふぅ、と誰からともなく肩の力を抜いた。

 

「ふぅぅぅ」

「はぁ」

「「やはりモモンガ(紫)様こそ至高の……あ”あ”んっ?」」

「……いい加減にしろ、貴様ら」

「主人の目が離れた瞬間に気を抜くのは良いことではない」

 

 最早処置なし、と疲れたかのように呟くゼロと、議事録を纏め終えコミュニケ型のインターフェースを閉じた有希の言葉に、睨み合っていた二人はバツが悪そうに視線をそらす。

 

「すまないな。どうも、その。会議等で八雲殿と意見がぶつかるとな。感情的になってしまうんだ。私もまだまだ精進が足りないらしい」

「私も売り言葉を買ってしまうのは、まあ……申し訳ない、反省している」

 

 僅かにずれたメガネを掛け直したデミウルゴスの言葉に、少し気落ちしたような声音で藍が返答する。それを主人の前でやってやれよとゼロ等は思うのだが、この二人はどうにも『ある意味』で相性が良すぎて主人の前だとバチバチと弾けあってしまうのだ。

 

「忠誠心が強すぎるのも困ったもの……そろそろ私は移動する」

「むっ……ああ、頼む」

 

 ゼロの心を代弁するようにそう言葉にして、有希は出口のドアに向かって歩き出す。防衛機構でも最上位の情報処理能力を誇る彼女は、有希が実務会議に参加を始めるようになった第24回目以降、会議の場での記録とこの後に行われる本番――代表者会談の議事録作成、及び全エリア群への通達の役割を担っている。

 

「長門君、君なら心配はいらないと思うが……」

「分かっている。会談の映像は後日各実務者限定で」

「うん、うん。頼むぞ有希!」

「善処する」

 

 俺が議事録をつけていた時はひたすらアインズ様の映りが悪いだの紫様に逆光がだのと文句を言っていたんだがなぁ。等とゼロがなんとも言えない感情を抱いていると、無表情な筈の長門が少しだけ可愛そうなものを見る目でゼロを見て、そしてドアの外に消えていく。

 

 何も言わない彼女の優しさが、少しだけしみる。

 

「……帰ろう」

「ああ、お疲れ様。来月もよろしく頼むよ、ゼロ君」

「どれ、転移ゲートまで送ってやろうか?」

「……頼む……」

 

 何かを言う気力も失せたゼロを藍のスキマが包む。その姿を見送って、デミウルゴスは軽く室内を見回し、異常がないかだけを確認して部屋を後にした。

 

 

 

【実務者達】

 

 

 

 

「ご苦労さま」

 

 上階に上がった長門有希は軽く身支度を整えると自身用に調整されたインターフェースを空中に映し、警備担当にアクセス。これから代表者会談を行うことを告げる。

 

 代表者会談の場には、資格を持った人物以外は決して立ち入れない。有希ですら無許可で立ち入ろうとすれば取り押さえられかねない警備体制が布かれているのだ。

 

 警備担当と2,3言会話を行い異常がないことを確認し、有希はとある扉の前まで移動する。

 

 大仰に【この扉をくぐる者は一切の希望を捨てよ】と文字を刻まれたこの扉は、別に地獄に繋がるわけではない。第1回か2回の会談の際に当時の代表者たちがノリで決めたものらしい。とある医者からの情報であるが、彼が何故それを知るのかまでは有希も知らない。

 

 ドアノッカーを使い数回のノック。中からの返事はない。小さくため息を付いて有希はドアノブに手をかけ、ギィ、と音を立てて扉を開ける。

 

「失礼する……はぁ」

 

 ドアを開き、中を覗き込むと――5つのエリア群を支配する最高権力者、5名(欠席1・代理1)のエリア群代表達の予想通りの姿が彼女の視界に映り込む。

 

 すなわち。下階と同じような円卓に突っ伏し、ピクリとも動かない、4名の姿が。

 

 

「あ」

「……あ?」

 

 円卓の側まで行き、用意された書紀用の机に移動した有希の耳に、上司――涼宮ハルヒのか細い声が届く。疑問に想い問い返すも、彼女はぷるぷると全身を震えさせるだけで続きを言葉にはしなかった。

 

「「あいつら、マジね(か)……」」

 

 続きを口にしたのは、別の者達――モモンガと八雲紫であった。

 

 そんな二人の嘆きの声に反応したのはハルヒではなく、もう一人。

 

 シューエーエリア(仮)郡代表、安心院なじみである。

 

「忠誠心厚い子飼いが居て羨ましいね。うちなんて代表の僕に全部の作業が降り掛かってくる超ブラック組織だぜ? あ、蝶ブラックのが良いかな。あいつほんと氏ね」

「なじみんのとこはもう少しなんとかしなさいよ?」

「無☆理。私は所詮主人公の器じゃないからね、周りがついてこないのさ! ――お願いハルヒちゃん、太公望さん頂戴。伏羲さんでも王天君さんでも良いんだけど。ほら、うちのエリア群の名前的に太公望さんはこっちでしょ? ね?」

「全員同じじゃない。あと、こんな世界じゃなきゃ伝わらないネタを使うな」

 

 若干自虐の入ったなじみの言葉に、苦笑を浮かべながらタイヨウ系エリア群超代表、涼宮ハルヒが返す。彼女からしても有能なのに全力でサボリ続ける前任者を働かせることが出来るなら働かせたい、のだが。全能に近い力を持つ今の涼宮ハルヒでも、あのサボり魔を勤勉にさせる道筋は思いつかない。

 

 仮に彼女が全力で己の力を行使したとしても、それで出来上がるのはロボットのような画一的な動きしか出来ないナニカだろう。それではハルヒと役目を交代する前の、辣腕とも言える彼の力を引き出すことは出来ない。

 

 いや、そもそもあの男。仮に無理強いしたとしてもいつの間にか身代わりを置いて消えているんじゃないだろうか。

 

「……駄目ね、そう思い込まされちゃってる」

「あー、んー……ハルヒちゃんでも無理か。全能笑」

「どやかましい」

 

 ほぼ無制限の空想具現化。現在判明している能力の中でもトップレベルの危険物を扱うハルヒだが、それでも不可能な事は多い。そもそも彼女は自らを人間だと肯定して生きている。どんな能力を持っていても、どんな立場であっても、どんな状況でも生き延びれる存在と成り果てたとしても、涼宮ハルヒは人間である。そう自分で決めたのだから。

 

「なじみさんのブラック勤務は対岸の火事じゃありませんからね。うち((AOG))としてもなんとかしたいと思うんですが」

「君んとこのNo2(アルベド)送ってくる、とか言うなら全力で拒否るぞ? クロオ君が余計うちのエリア群(シューエーエリア(仮)群)に寄り付かなくなるじゃないか」

「そ…………そんなこと思うわけ、ないじゃないですか」

「おいぃ? 4拍子も間を開けて白々しくないですかねぇ? にやにや」

「なじみもあんまりサトル君をイジメないで頂戴。はぁ……一番上はこんなに仲良しなのに……」

「これ、仲良しって言うんですか……?」

 

 延々と弄られ続けるモモンガ――サトルの姿に思わずハルヒが漏らす。

 

 まぁ、この会談とは名ばかりの雑談はどちらかというと重責を担う代表者達が互いの苦労を労いストレスを解消するために設けられている為、彼らが良いと言うならこれで良い訳ではあるのだが……

 

 鈴木さん、もしかしてエmいや止そうそんな勝手な考えをというか実現しかねない。咄嗟に飛びそうになった思考を頭を振る事で霧散させ、ハルヒは話を逸らすように己の左側――かわいいクマのぬいぐるみに【代役】と書かれた紙をはりつけたくそふざけたソレ――に目を向ける。

 

「まぁ、鈴木さんの特殊性癖は良いとして」

「特殊性癖!?」

「こっちのクマちゃんはどうするべきですかね」

「あー……そっちはゼロ君が頑張るから大丈夫でしょ」

「まぁゼロ君ならね……ゼロ君、またこっちの会議に来てくれないかなぁ」

「あの子が居た時は弄られ役も二分割だったしね?」

 

 口々に愚痴る彼らの言葉に、あぁやっぱりあの人そういう役回りなんだ、と半ば予想していた感想を想い、ハルヒは今度会う時はもう少し優しくしてあげようと決めた。 ゼロはハルヒや有希が参加する前は議事録作成を担い、この会談にも参加していた。相当おちょくられていたのは想像に難くない。

 

 まぁ、鈴木さんもそろそろ満足したろうし話を進めるべきだろう。ハルヒが一人話の輪から外れた所で全体を見ている有希に視線を向けると、視線を受けた有希が小さく頷きを返す。彼女は軽快な仕草でインターフェースを操作して、自らが作成した議事録の台本……カンペを各代表の前に出現させ、口を開いた。

 

「それでは皆様。少しお時間を頂きます」

 

 有希の言葉にそれまでだらけていた代表者達が居住まいを正す。彼女が会話に入ることは一つのトリガーなのだ。

 

「うむ。エー……【それではこれより代表者会談を開始する】

【えっへん】

「ちょっとなじみ? そんなの台本にないわよ。【まず先の実務者会議で――】

「ふたりとも、遊ばないでよ。【次回の要望としては――】

 

 各自、自らの目前、台本と共に映る『威厳ある支配者らしい自分』の画像を見ながら、割り当てられたセリフに感情を込めてあてる。生音声でないと熱狂的なファンの審美眼を突破できないのだ。

 

 彼らがあてた音声と撮影した画像は長門有希の手で編集され、後日各エリア群へ通達という形で配布される。彼女が議事録作成者に任命されて以降の通達は、「よく~様の魅力を引き出している」「前任よりもカメラワークが良い」「安心院さんちゃんかわいい」と一部界隈で評価を得ている。らしい。

 

 

 

【超越者達】




デミウルゴス:出典・オーバーロード
 AOGエリア群実務担当。モモンガが例えどのような姿でどのような思想を持っていても彼に対する忠誠は嘘偽りなくデミウルゴスの心に宿っている。クロオや鴨川に対するスタンスは興味深い駒。
 同僚の八雲藍とは仲良く喧嘩してる。別段嫌いという訳ではないのだが仕事の場では互いに不倶戴天のレベルでやりあってる。

八雲藍:出典・東方シリーズ
 ヤオヨロズエリア郡実務担当。同僚のデミウルゴスとは仲良く喧嘩してる。別に嫌い合っているわけではない。上司の心部下知らず。ちぇぇぇんって叫んでほしい。基本的には苦労属性の九尾の狐(式神憑き)
 やる事の範囲が広がったせいで妖怪なのに過労死寸前。とある話ではなんとか則巻アラレの被害だけでも止めようと画策したが熨し付けて返される事になる。

蝶人パピヨン:出典・武装錬金
 シューエーエリア(仮)群の名ばかり実務担当。安心院さんが居るから安心。こんなんが実務担当なのはやる時はとっても頼りになるのと頼めば会議をサボらず出席してくれるため。人材は多いのに人材不足。

ゼロ:出典・???
 苦労人。怪しい仮面とマントを身に着けたCV.福山潤。いったい何ルルなんだ……?
 長門有希が来るまでは上階の会談にも参加させられていたらしい。

長門有希:出典・涼宮ハルヒの憂鬱
 本編には出てこない超越者達】で正体が判明した()涼宮ハルヒにより『わたしのかんがえたさいきょうのうちゅうじん』を本当に体現させられた。端末さえあれば5つのエリア群どこにでもアクセス・掌握が可能な為、防衛機構全体通達、俗称【回覧板】の作成と発行も行っている。
 カセイエリアの軍政官にして防衛機構のタイヨウ系エリア群の指揮官。むしろ一時期彼女だけでタイヨウ系エリア群は持っていたとも言われる。
 BETAに対する最終兵器という役割も持っている超多忙な人。でも安心院さんよりはマシ。

モモンガ(鈴木サトル):出典・オーバーロード
現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、AOGエリア群の代表。数多の魔法を修め、数多の魔を従える死の支配者。
 初登場字は人間の姿で登場。次元統合という未曽有の危機に対して自身陣頭に立って立ち向かっている。骨の姿にもなれるらしいがご飯を食べる際に支障をきたすので人化姿が普段着代わりになっているらしい。
 代表者会談に出席する度にかわいい部下のお茶目と同僚からの舌鋒に毎回机に突っ伏している。なお若干それらを楽しんでいるように見受けられるのは気の所為。

八雲紫:出典・東方シリーズ
現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、ヤオヨロズエリア郡の代表代理兼ゲンソウエリアの代表兼そこに所属する幻想郷の代表兼管理人。スキマを操る程度の能力を持ち、どこにでもいつだって現れる神隠しの元凶。
 かわいい。
 雁夜の一件以降とある掲示板等から新しい知識を(主に骨とカエルから)得ては使ってみて感性の若さをアピールするようになり式の藍と橙を困惑させている。
 ちなみにクロオをタイヨウ系エリア群に運んだ後は他のエリアを回って戦力の運び屋のような事を(藍が)行い、久方ぶりにたっぷり(藍が)働いて良く眠れると布団に入った所で宇宙怪獣がエントリー。彼女について行ってもクロオは結局地獄絵図の中に飛び込む事になっていた。
 あととてもかわいい。

安心院なじみ:出典・めだかボックス
 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、シューエーエリア(仮)群の代表。1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ人外。
 エリアの名前に(仮)がついている理由は、代表を任せるに足る主人公が見つかればそいつに渡して名前を変えるため、との事。全エリアで最も仕事量の多い個人。

涼宮ハルヒ:出典・涼宮ハルヒの憂鬱
 【本編には出てこない超越者達】で正体が判明した() 現在防衛機構の勢力下にある5つのエリア群の一つ、タイヨウ系エリア群の超代表。己の想像を具現化するある種全能の力を持つただの人間を称する人。
 元来破天荒な性格であるが、その自分が真面目に見える代表者会談に憂鬱を覚えている。どうやら恋人ともうまくやっているらしいが、最大の問題は忙しすぎて互いに時間が取れない事。


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とあるルポライターの手記1冊目 カセイ事変

大変遅くなった上に分割話で申し訳ありません。

この手記は今の所一番情報の出てないカセイに渡った後半年をテーマに、数回に渡って書いていこうと思います。何回かやります(大事なry)
何名かのインタビュー形式をとったエスコンパロなので興味のない方は読まないでも大丈夫です。本編に影響はほとんどありません。

最近エスコンパロの良作を読んだのでつい……

誤字修正。ユウれい様、酒井悠人様、日向@様、ソフィア様、名無しの通りすがり様、赤頭巾様、竜人機様、Paradisaea様ありがとうございます!


『あいつの事?』

 

 壁に立てかけられた銃器がゴトリ、と音を立てる。ライフルと呼ばれる種類のそれは、しかし見知っている時代――昭和や平成と呼ばれる時代に扱われていた物とはかけ離れた姿をしている。恐らくは防衛機構経由で他所の世界から渡ってきた代物だろう。

 

『ああ、良く知ってるさ』

 

 その持ち主である目の前の人物は、勝手知ったるとばかりに廃墟とも見紛うばかりに荒れ果てた部屋の中に入り込み、痛みの少ない椅子を引き寄せて、そこに腰掛ける。男は私の傍らを飛ぶようについてくる球形の端末と手元のカメラに視線を送り、少し眺めた後にこちらを見る。

 

『長い話になる。たった半年しか一緒には居なかったんだが……沢山の事があった』

 

 そう語りながら、男は椅子の背もたれに体重を預けながら、目を閉じ。

 

『知ってるかい、記者さん』

 

 少しの沈黙。やがて目を開けた。

 

『英雄って呼ばれる奴には幾つか種類があるんだ。自分で何でもやっちまえる奴。どんな時でもなんとかしちまえる奴。こいつのためならって周りを奮起させちまう奴――』

 

 指折り数えながら、噛みしめるように言葉を切り。男は、どこか懐かしいものを見たかのような表情を浮かべたまま虚空を見つめる。

 

 やがて男は語り始める。

 

 半年にも満たない期間に行われた悲劇と英雄譚。チキュウエリアから飛び火した内乱。エリア半分を飲み込んだBETAの海の来襲。カセイ事変と呼ばれたそれを、その全てを最前線でブラック・ジャックと共に見届けた男。

 

 ――彼の相棒だった男。

 

『あいつは』

 

 ”シティーハンター”と呼ばれる彼の言葉から、最後の取材は幕を開ける。

 

『確かに英雄だった』

 

 

 

 

 

とあるルポライターの手記 カセイ事変

 

 

 

 

 

 カセイ事変。

 

 時空統合歴3年に突如として起きた人災、或いは天災とも呼ぶべき出来事。その前年に起きたチキュウエリアでの大規模内乱と合わせて『タイヨウ系統一紛争』と呼ばれることもある。防衛機構の膨張と統制の緩さがもたらした防衛機構の闇。そして、たまたま目を通したそれに関する文書に記載された、よく見知った名前。

 

 ブラック・ジャック。本名は間黒夫。

 

 防衛機構の成り立ちから関わりを持ち、そして大規模内戦の引き金にすらなった男。生粋のトラブルメーカーにして他の追随を許さない程の手腕を持つ天才外科医。関わった事柄が尽く秘匿情報とされる男。

 

 隠棲すると言いチキュウエリアを去った男の半年は、どうやら予想の斜め上を行く道行きだったようだ。エリア群間の情報網は一部を除けばほぼ存在しないこの世界、知りたいと思った事柄は全て自らの足で調べる必要がある。

 

 掲示板で必要な事柄を有志から聞き取り、宇宙怪獣の襲来で多忙を極める上司を騙くらかして渡航をもぎ取った私は、タイヨウ系エリア群に渡った後、群司令部の資料保管庫へと足を運び――膨大なその資料の束に、途方に暮れる羽目になった。

 

 束ねるだけで私の身長を軽く超えるだろう書類の山が所狭しと並ぶ机。この保管庫の管理を任されているという職員の少年――子供だろうが適正があれば使うのはゲンソウエリアも同じだが、世知辛い世の中だ――ユーノ氏は、未だに纏められていないそれらの山と、恐らくは編集作業中だろう職員達の様子に嘆息し、一つの申し出を行ってきた。

 

『ブラック・ジャックさんに関する事柄だけを集めましょうか? 資料纏めの過程で出てきたものになりますが』

『それは、ありがたいのですが。よろしいのですか?』

『ええ。こちらもテコ入れの必要性を感じてましたし……前の職場に比べたらこれでも大分楽な状況なので』

 

 そう言いながらユーノ氏は膨大な書類の山を見て、乾いた笑顔を浮かべた。

 

 今にして思えば、その申し出に飛びついたこの時の私は非常に勘が優れていた、と言えるだろう。ユーノ氏は司書長を任されるだけあって非常に有能であり、特に求めた事柄を抜き出す検索魔法と呼ばれる技術のエキスパートだった。勿論他の司書達が無能であるというわけではない。

 大まかな資料の選別を行った後、補佐についてくれた本屋ちゃんと呼ばれる少女は私が求めた事柄全てに答える能力をきちんと有していた。仮にもエリア群司令部に務める職員に能力のない人間は居ないのだ。

 

 しかし、彼はそんな他の有能な職員と比べたとしてもずば抜けて優れていた。

 

 膨大な資料の山を時系列毎に纏め、秘匿文書とそうでない物を仕分け、関連する事柄毎に振り分ける。ほぼ1年。しかも幾つかのエリアに跨った内乱に関する書類は非常に多岐に渡って残されており、それらを仕分ける事だけでも本来なら多大な時間がかかる作業量だ。

 内乱終結後からこの作業を行っていた職員も居たが、それでもまるで終りが見えない量の書類を職員たちに指示を出しながら仕分けていく手腕。しかもその過程で私が求めた資料を抜き出して……もし彼に協力を求めなかった場合、私の調査は最初の資料出しの段階で多大な時間の浪費を強いられていただろう。

 

『ありがとうございました』

『いえ、これも仕事ですし。記事、楽しみにしてますね』

 

 3日ほど振り分け作業を行った後、他の業務の為ユーノ氏は数名の司書に残りの資料の編纂を命じ、本来の職務へと戻っていった。そしてようやく、私は本来の目的であるBJの足跡を辿る作業に乗り出す事になる。

 

 保管庫の司書達と共に調べた結果、私はカセイエリアで起きた事柄の大まかな流れと、それにどうBJが関わっていたのかを知ることが出来た。資料に彼の名が出てくるたびに「何故そうなる」「なんでお前がここにいる」と司書達と共に驚愕し、或いは彼の起こした事柄に魅せられ、気づけば夢中になって共に彼の軌跡を読み漁った。

 大まかな資料をまとめ終えたときには、彼女たちももう根っからのBJファンと言える存在になっていた。

 

『なんていうか、神話の主人公みたいだよねぇ。憧れるし尊敬もするけど、直接お知り合いになりたいかって言われるとちょっと』

『日刊世界の危機みたいな人生歩んでますからねぇ。彼』

 

 司書の一人であるハルナの言葉が、彼に対する防衛機構側の総意かもしれない。恐らく防衛機構という組織が成り立った瞬間から今の時点までの。目の届く範囲に居ないのは怖すぎるし、かといって秘密裏に消すには彼を慕う者が多すぎる。

 それも統治者側に。あの名高き陰険クソメガネ(デミウルゴス氏)辺りがこの事をどう思っているのかぜひ取材してみたいものだ。

 

 司書達とは1月ほど寝食を共にし、特にハルナという司書からは様々な現代文化という物を伝えられ非常に世話になったのだが、その辺りは割愛しておくとしよう。後ほどこれも纏める機会があれば文章に起こそうと思う。

 

 さて、話を戻そう。

 

 司書達の協力によりある程度の情報を入手した私は、次にどう動くかを考える事になった。直接BJ氏に取材を行うのは、正直な話難しいと言わざるを得ない。なにせ彼は一応、防衛機構から許可をもぎ取ってカセイエリアに隠棲しているのだ。

 実態がどうであれ。タイヨウ系エリア群で私の有する伝手は防衛機構の物に偏っており、そちら経由で許可を取るのは難しいだろう。

 

 私はまずカセイエリアへ渡る前に正規の手順で取材の申請を申し込み――例え許可されなくてもこれは重要なプロセスである――次に、当時の彼を知る関係者達への取材を申し込んだ。直接の取材は難しくても、彼を知る。彼と行動を共にした人物はそうではない。

 司書達の協力により絞り込んだ人名リストから、特に関わりが深い。或いは面白い話が聞けそうだという人物をピックアップし、限りなく彼の視点に近いカセイ事変を再現する。

 

 彼ら、彼女らの口から紡がれるカセイ事変の物語に思い馳せ、胸を弾ませながら私は最初の人物の家を尋ねた。

 

 

 

 

【防衛機構タイヨウ系エリア群即応集団所属 ”スカルリーダー” ロイ・フォッカー】

 

 

『取材? 君のような美人さんなら幾らでも構わないさ』

『……明らかな異形でもそう言えるとは。本物ですねぇ』

 

 浅黒い肌に金髪。事前に友人となったハルナから聞いていた軽薄な男の見本のような姿かたちの男。しかし眼光の鋭さと明らかな異形である私すら口説きにかかる胆力は英雄の一人と呼ばれるに相応しいものかもしれない。

 

 彼の名はロイ・フォッカー。防衛機構タイヨウ系エリア群所属にして、現在は最前線となっているカセイエリアを中心に展開している即応集団、通称”マクロス大隊”で機動部隊を率いる人物。現在のタイヨウ系エリア群で主流となりつつあるフォールドシステム搭載型艦船。

 その中でも彼の属する『マクロス』は原型艦と呼ばれるもので、恐らくこの統合世界でも有数の知名度を誇る艦である。知名度に似合った修羅場も当然潜っており、母艦の移動能力の高さによりエリア間を飛び回る彼の名声は遠くヤオヨロズエリア群にも響いている。

 

 ”白い悪魔”等と並ぶタイヨウ系エリア群を代表する人物の一人だろう。

 

 そして、恐らく現状名前の上がるエースでもとびっきりに特異な経歴の持ち主でも有る。

 

『統合の時はそりゃ驚いたよ。ドッキリかなんかを仕掛けられたかと思って、艦長さんと二人で監督に詰め寄ったのを覚えてる』

 

 彼は世界統合前は元バルキリー乗りの俳優として一世を風靡した名優であり、世界統合によって人生を狂わされ役ではなく本物のエースパイロットになってしまった男だ。旧式のバルキリーと、近々退役し廃艦・再利用する予定だったために軍から許可を貰って手入れし、外装だけをSDF-1に似せたマクロス級。

 

 チキュウエリアで改修されるまでは、まともに飛ばすことすら困難だったその艦を、少数の軍役経験者と一から仕込まれた撮影スタッフで切り盛りし、3年。今では防衛機構でも指折りの実戦経験を誇る部隊の始まりは、そんな活動写真か何かのような始まりだったそうだ。

 

 その異色すぎる経歴は、機会さえあれば是非詳しく尋ねて世に知らしめたいものである。

 

『先生の事は、そうだな。確かにチキュウの頃から知っている。とはいえ、チキュウエリアでの戦いでは戦場を一緒にすることはほぼなかったがな。ただ、先生とつるんでいたジャギや間桐の奴とは縁があってな。カセイに来る前から色々話は聞いていた。まぁ、聞いていたそのままの人間だとは、流石に思っては居なかったがな』

 

 奥方が淹れてくれたコーヒーを口にしながら、その時の事を思い返したのか。これまでの飄々とした姿は鳴りを潜め、げんなりとした様子でフォッカー中佐は口を開く。

 

『初めて会ったのは、そう。あの島に降り立った日だ。初めてカセイエリアにデフォールドした時、間近にあった有人島。確か、不承島だったか。エリアとして登録されていても未発見・未調査の地域は山ほどある。なんせ一つのエリアに地球が幾つ入ってるか分からない位の広大さだからな』

『確かに普通の移動手段では、何年かかるか分からない範囲ですからねぇ』

『だからこそフォールド装置や、波動エンジンが着目されているんだろう。話を戻すが、そういった未調査の領域を見つけると、緊急事態以外では出来る限り周辺の調査を行う、というのが防衛機構内の取り決めにあるんだ』

『ええ、よく存じております。未統治エリアを発見した場合は可能な限り情報を集めること。また、専門の調査員が居ることも』

『ああ、記者さんは間桐の知り合いだったか』

 

 さもあらん、とうなずくフォッカー中佐に曖昧な笑みを浮かべて返事を濁しておく。実を言うと空を飛べるという特性と腕っぷしを買われて、一度調査員にならないかと誘われた事があるのだ。余りの多忙さと危険度、そして何よりも知りたいことが知れそうにない環境に一も二もなく断りを入れたが。

 

 この制度は膨大にすぎる領域を管理する為の苦肉の策のようなものだろう。特に文明が余り発達していない、もしくは歪な文明を形成している世界では全貌をその世界の者すら把握していない場合がある。

 そういった場所を発見した場合、防衛機構の人員は簡易的な調査員となり、後ほど手の空いた専門の調査員が大まかな危険度や文明の発展度……そして、何かしらの『原作』(厄ネタ)がないかを調べ上げる。

 

 間桐氏のように不死なのかと思えるほどの悪運か、本当に人類なのか疑いたくなる規格外(サイタマ)でもなければ長続きできない職業だろう。

 

 当然、簡易的なものとはいえ常に想定外の危険が予想される事柄に賓客とも呼べる人間を送り出せる訳がないし普通は行こうなんて言い出さない。立場の有る人間であればなおさら。

 

『……まぁ、あの人普通じゃないからなぁ』

 

 どこか諦めたかのような口調で、けれど懐かしむかのような表情を浮かべながら。

 

 フォッカー中佐は、少しずつ思い出すかのようにぽつり、ぽつりと話し始めた。

 

 

 

「あの島に降りる? 何いってんだあんた」

 

 予想を遥かに超える言葉を耳にした時、人間はどうリアクションをとるのか。どうやら自分の場合は呆れたものとなるらしい、等と他人事のようにそう考えながら、フォッカーは思ったことをそのまま口にし、目の前の人物を見る。

 

 前々から聞いていた。戦場を共にしたこの男を知る連中の口から、知らないものの口からも。多くの噂を耳にして、大げさだとすら思えるものも、それなりにはあった。

 

「この艦一番のVIPを、どんな危険があるかも分からない場所に降ろせるわけないだろうが」

「まぁ、でしょうな。しかしそこをなんとかして頂きたい」

 

 実態は、それらの噂が過小評価にすぎる位の問題児であったが。しかも、極めて有能な。

 

 彼の弁はこうだ。一応未だに防衛機構に所属する身としては義務を果たさなければいけないのは自身も同じ。これは間違いない。また、現状艦内で自分以上に数多の世界を渡り歩いた人間は居ない。これも、間違いない。むしろ防衛機構に属する人間で彼以上などという存在は、それこそ身一つで転移やワープが出来る化生の類くらいだ。

 その過程で得た知識と、植生や動植物についての知識を関連付ければある程度世界の傾向――我々の知る地球型の世界か、それとはまた別の進化をたどった世界か――を知ることも出来る。正しい。確かにそのとおりかも知れない。

 

 だが、それとこれとは話が別で、正直あんたにはじっと部屋で大人しくしていてほしいんだが。喉まで出かかった一言をなけなしの自制心で押し留め、フォッカーは何も言わずに首を横に振る。口を開けば罵詈雑言が飛び出しそうになるからだ。

 

 いや、むしろここで罵詈雑言を浴びせかけていた方が良かったのかも知れない。

 

 そうすれば、結局折れなかったBJの決意を被る形で自分が彼の護衛官をすることもなく。化け物のような親娘と遭遇し、死にかける事もなかったのだから。

 

 

 

『化け物、というと』

『見た目が、って意味じゃない……俺や当時艦内に居た人間は、チキュウでの戦いじゃ主に機動兵器を相手にしていたからな。本物の化け物のような一個人ってのに詳しくなかったんだ。誰それは怪物のように強い。一人で大隊に匹敵する。そんな人物は山のように知っている。だが、知っているだけで見たことはなかった。リアルじゃないんだ、感覚が。だからソレと対峙した際にどう動けばいいかを知らなかった。その結果がこのザマだ』

 

 そう口にして、フォッカー氏はシャツの右袖をまくりあげ、私の前に掲げる。右腕の半ば、肘の先に、腕が一周するように走る一本の線。それを左手で触れてフォッカー氏は深く息を吸って、吐いた。

 

『10代半ばを少し越えた位の年齢だったかな。ヤマトナデシコってのはこういう娘なのかと考えたさ。病弱だとは後で知ったが、透き通るように白い肌と緑がかった黒髪が印象深かった。儚げな印象の可愛らしい娘だった。時間が空けば声をかけようかとすら思ったよ。指で触れられただけですっと右腕が落ちるまではな』

『……それは、その』

『半狂乱になった俺の首を彼女の手が触れようとして、先生が割って入ってくれた。くっつけてくれたのも先生さ。手術まで少し間が空いちまったからな。線が残っちまったと、悔しそうにしていた』

 

 おかげで足を向けて眠れなくなったよ、と自嘲気味に笑みを浮かべてフォッカー氏は右袖を直し――カタカタと震える手で、コーヒーカップを手に取る。初めて妖怪を目にした人間と、襲われた人間がこのようになったのを見たことがある。現代社会ではトラウマと呼ばれる心の傷が、その時彼に付けられたのだろう。

 

『専門の護衛官を用意するって話が出たのもこの時の事が原因だった。先生の周囲を固める人間は居たが、彼らはみんな防衛機構の外の人間だった。防衛機構側が用意して、信頼でき、どんな状況でも対応できそうな腕っこき。そんな夢みたいな人材が必要だと思われたわけだ。2週間もしないであいつが来た時は冗談かと思ったよ』

『貴方が二人に増えたのかとめまいがしそうになったわ。あの時はね』

『あいつと一緒ぉ? おいおい待ってくれよクローディア。俺はあそこまで盛った猿じゃないだろ』

 

 軽口を叩くうちに震えが止まったのか。飛び散ったコーヒーを布巾で拭う奥方に抗議するようにフォッカー氏が声を上げる。そのまま少しの談笑と雑談が行われたのだが、ここでは氏の名誉のため記録することを控えておく。どこの世界でも妻というものは強いものだ。

 

 しかし、よくよく考えると手術まで間が空いた、というのはおかしい話である。伝え聞く彼の性格であれば、万難排して患者を優先すると思うのだが。

 

 疑問に思った点を尋ねると、フォッカー氏はああ、と軽く頷き、私の疑問に何事もないような口調で答えてくれた。

 

『それは仕方ないだろうな。なにせその後すぐ、マクロスは撃沈されかけたからな』

 

 いやぁ、あの時は死ぬかと思った、とケラケラと笑いながら答えるフォッカー氏に、「貴方も大概普通じゃないですね」と喉まで出かかったのを飲み込んで。私は曖昧な笑みを浮かべて一つ頷きを返した。

 

 

 

 

 

 

「長期の護衛任務? やなこった」

「やなこった、じゃないだろっ!」

 

 自室のベッドで揺り起こされ、寝ぼけ眼をこすりながら依頼内容を耳にし。彼はまず最初に思い浮かんだ単語を口にする。ブーブーと口を尖らせる相棒を尻目に、聞かされた仕事内容を再度頭の中で思い浮かべる。最近裏の界隈を騒がしているとある事実(・・)。異世界の存在とそれらを管理する巨大組織。ここ1、2年感じていた違和感の解答をまさか自宅で聞くことになるとは、さしもの彼も予想していなかった。

 

「依頼人の素性は?」

「ホシノ・ルリ。それ以上はわからなかったけど、声の印象は結構若い女の子だった」

「ほぉぉぉっ!」

「護衛する相手は男の医者なんだけどね」

「ほぉぉぉ……」

「あんたって人は……」

 

 明らかに下心でテンションを上下させる彼の姿に相棒は口元をヒクヒクさせながらため息をつく。

 

 そんな相棒に「だってやる気でないんだもぉん」と身振り手振りを交えて伝えながら、彼は自然な動作で部屋の窓を開ける。部屋を新鮮な空気と賑やかな喧騒の音が吹き抜けていく。新宿の町並みは、今日も昨日と変わらない様に見える。いや、変化はあるのだろう。常に変わらないものなど存在しないのだから。巡らせた視線の先でチカチカと光るソレに小さなため息を一つつく。

 

 ――相棒は、自分が口にした内容がナニに繋がっているのか理解しているだろうか。パズルのピースのように昨今の情勢が脳内でハメ込まれ、大凡の状況が予想できてしまった彼はもう一度小さなため息をついて振り返り、自分のベッドに腰掛けた相棒に目を向ける。

 

「香、コーヒーを入れてくれ。来客だ」

「……は?」

 

 そう言って着替え始めた彼に何も返さず、香と呼ばれた女性はぽかん、と口を開けた後。ピンポーン、と鳴らされた呼び鈴の音に、慌てて部屋を後にした。

 




シティーハンター:出典・シティーハンター
 一体何冴羽獠なんだ……

ユーノ・スクライア:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 ブラックな職場からもう少しマシなブラックな職場に転職した

本屋ちゃん:出典・魔法先生ネギま!
 ネギまの序盤ヒロインは誰って彼女だと思うんだ異論は認める

ハルナ:出典・魔法先生ネギま!
 図書館探検部メンバー割と好きなんです。ベーコンレタスが嫌いな女子は居ません!とか作中で叫びそうなキャラ。勿論記者さんにも叫んでた。

ロイ・フォッカー:出典・超時空要塞マクロス
 即応集団、通称”マクロス大隊”の機動部隊隊長。コールサインの”スカルリーダー”がそのまま異名となって定着している。
 今作だと『初代マクロスは劇中劇』という設定を元にちょっと年代弄ってあるが、本名ロイ・フォッカーである事は間違いない。元軍人のヴァルキリー乗りで軍でも優秀だったが女性関係で揉めて軍を退職。生来の目立ちたがり屋で役者を志したらまさかの適正で名優と呼ばれるようになった頃に世界統合に巻き込まれた。

記者さん:出典・???
 あからさまな口癖は避けたが結構わかりやすい気がする。どちらかはご想像とまた次の手記の時に。


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とあるルポライターの手記2冊目 カセイ事変

遅れて申し訳ありません。
私事ですが神奈川に引っ越しました。緊急事態宣言のタイミングで。。。
でもちょっと前まで居た東北よりだいぶ温かいですね。あと24時間のコンビニが多い。神立地かもしれん。。。

誤字修正。路徳様、佐藤東沙様、竜人機様ありがとうございます!

あと人生初のファンアートもらったので置いときます。
鳩平様、ありがとうございます!
ピノ子を出さないと(使命感)

【挿絵表示】



『初めて会った時。あいつは香が入れたコーヒーをしかめ面で飲んでいた。いや、後から思えばあの顔があいつの素、なんだろうな』

 

 その場面を思い起こしているのか。目をつむり、ふっと頬を歪ませて彼は初めて”彼”と遭遇した瞬間を語る。

 

『記者さんは、間との面識はあるのかい?』

『ええ。彼がヤオヨロズエリア群に居た頃、取材したことがあります』

『という事は俺と奴が会う一年以上前ってことか』

 

 冴羽獠。シティーハンターと呼ばれた男との会話は、予想以上に楽しいものだった。彼は確かに女好きという面が色濃く表に出るタイプで私との会話でもそれが透けて見えたが、それ以上に言葉の節々からは高い教養とユーモアが垣間見えるからだ。

 

 一つの事柄に対して思ってもみなかった切り口からの意見が出てくる会話というのは、非常に面白いものである。つい話に夢中になり、本題を忘れそうになる自分を心の中で戒める。

 

『隣に座っていたルリちゃん、初めて見たホシノ・ルリは美しかった。銀色の透き通るような髪に白い肌。妖精なんて呼び名は後から知ったが、あれは確かに人以外の何かを例えにしないと表現できない美しさだった』

『ほうほう』

『あと5歳年齢が上なら口説いたんだがなぁ。まぁそんな彼女もあの時のあいつの隣じゃ……』

 

 一度言葉を切り、冴羽獠は少し考える素振りを見せる。言葉を探すようにぶつぶつと呟き、やがて得心がいったのか。一つ頷くと、私に視線を向ける。

 

『そうだな。あれは眩むと言ったほうが良いかも知れない』

『……眩む、ですか。それは、眩しい時に感じる?』

『ああ。記者さんは、本気になった時のあいつの眼を見たことは有るかい』

 

 尋ねるような口調。質問の意味が分からず首を傾げると、彼は小さく頷いて、再び口を開く。

 

『あいつを知る奴に聞けば分かるだろうが。間黒夫には2つの瞳が有る。勿論、目玉が2つあるなんて意味じゃない。よっぽどの緊急事態か大手術の時だけだ。見るもの全てを引き込んでやまない、光り輝くブラックホールと言うべき代物が現れる』

 

 矛盾するような自身の物言いすらも楽しいのか。冴羽獠は口元を綻ばせる。彼は半年の間にそれを3度目にしたことがあるという。二度目は学園都市で一人の少年を助けるために。三度目はBETAの群れを前にして。

 

 そして、一番最初は。

 

『隣に座る電子の妖精すら覆い隠すその光が、まっすぐ俺を向いていた。気づけば俺は、奴の護衛を引き受けていたよ』

 

 少し悔しそうに、そして懐かしさを滲ませながら、彼はそう笑った。

 

 

 

 

【CHU-LU CHU-LU CHU-LU PA-YA-PA!!】

 

 急ごしらえで誂えたのだろう即席の舞台。その上でメイド服を着て踊る金髪の少女の歌声を背景に、私は二人目の取材を行う……べき、なのだ、が。

 

『ご注文が決まりましたらお声がけをお願いしますニャ』

『俺はコーラと……あれ。ボンカレー。そっちの記者の人?は……なんでもいい』

『うちのお店はボンカレーは扱ってませんニャ。あの先生の関係者はニャんで一度それを注文しないと気がすまニャいんですかニャ?』

 

 同じくメイド服を身に着けた給仕の注文を促す声も耳に入らず、取材対象に気を使わせてしまうという失態。後からこの時の、取材対象を目の前にしているというのに別の方向に視線を向けポカン、と口を開ける間抜け面の自分を録画画面で見た時は、自己嫌悪で死にたくなった。しかし、流石に今回は私は悪くぬぇ、と弁明させてほしい。

 

 なにせ舞台上で踊っている人物は、BJとは別口で先のカセイ事変と関わりが深い、正に英雄と呼ばれる人物だったのだから。

 

(フェイトちゃあああああああぁぁぁあああああ!!!)

(ホアッホアッホアアアアアアアアアアア!)

『皆ありがとう! この後もメイクイーンニャンニャンで楽しんでいってね!』

 

 ちょっとお近づきになりたくない人種の方々の声援を受けながら、その人物――フェイト・T・ハラオウンは舞台を後にし、店員用の扉へと消えていった。

 

 ヤオヨロズエリアの知り合いの口調を借りると、「ありのまま今起こった事を言葉にするなら、大事件の関係者に取材に来たら別口のスタァが現地ライブしていた」だろうか。スタァと表現するのが正しいかは分からないが、少なくともタイヨウ系エリア群では彼女は名のしれた存在だ。

 

 流石に雲霞の如く襲い来るBETAを相手に獅子奮迅の活躍をした高町なのはほどの知名度ではない。しかし、彼女はチキュウエリアから逃れてきた戦艦3隻を生身で拿捕し、それを皮切りにカセイ⇔チキュウ間の統合軍残党を根絶やしにした英雄として名を馳せている。見目の美しさから、防衛機構の軍部では広告塔としても活躍している女傑。人の身でありながら【雷公】と呼ばれる女。

 

 そんな女傑が、資料にあったままの顔でやたらと楽しそうについ先程までメイド服を着てノリノリで歌っていたのだ。仕事を忘れて呆けてしまっても仕方ないのではなかろうか。

 

『あれ、何をしてたんですかねぇ』

『フェイトの事? 見回りついでに宴会芸の練習だって』

『宴会げ……』

 

 二の句が継げない私を一瞥した後、取材相手は小さく「この店、防衛機構の警備対象だから」と情報を付け足して、メイド服を着た猫耳給仕の持ってきたコーラを飲み始める。

 

 ここから私が再起動するまでの間のことは記録に残っていない。記者として失格だと重々承知しているが、余りに恥ずかしかったため三日三晩悩んだ挙げ句一部の記録を削除した私の弱さを許してほしい。

 

『それで、取材って先生の事で良いんだっけ』

『はい。貴方が共に体験した間黒夫、特にBETA戦とカセイの統合軍残党との戦いについて』

 

 カレーを食べ終えた後、向かいに座る少年は、コーラを啜りながらやる気のなさそうな瞳をこちらに向ける。やる気がないというよりはこちらに興味がない、と言った所か。仕事だから仕方なく、そんな空気を感じながら手に持つ手帳にペンを走らせる。

 

 彼の名は三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン。最近、運輸会社として頭角を表してきた民間企業”鉄華団”の重機係、という表の身分を持つ少年。防衛機構の所属ではなく、身分としては一民間人にすぎない人物。だが、勿論ただの民間人に取材をする訳はない。

 

 この少年は、チキュウ・カセイエリアで起きた機動兵器戦ではエースの一角として名を馳せた傭兵、それこそ先程ステージ上で歌っていた【雷公】にも匹敵する程の戦果を誇り――そして、両戦争並びに現在に至ってもBJ氏と密接に関わりを持っている人物。

 

『英雄とか良く分からないけど。俺はオルガに言われた通りに戦って倒しただけだから』

『指揮官には指揮官の、兵士には兵士の誉があります。素直に褒められてるな、と思って良いのでは』

『ふーん』

 

 私の言葉に小さく頷いて、統合軍に【血涙の鬼神】と畏れられた少年は残ったコーラを飲み干した。

 

『カセイでの戦いだったら、あれかな。学園都市』

『学園都市、というと確か防衛機構と統合軍、両者の攻撃を受けたという』

『うん。裏で取引をしてたから、とかオルガが言ってた』

 

 裏で取引、という単語を手帳に走り書く。簡単に口にするという事は恐らく重要度はそれほどでもないか、すでにカタがついているか。のどか達に連絡を取れば詳細を知る事が出来るかも知れない。

 

『先生たちと別れてから2,3ヶ月だったかな。ようやく俺たち(鉄華団)がカセイに着いた辺りで、ホシノから連絡が来たんだ』

『ホシノ、というとホシノ・ルリ軍政官ですか?』

『あの時は中佐って呼ばれてた』

 

 ホシノ・ルリ。現在のカセイエリアの軍政官にして、実質的なNo.2にして、カセイ事変の教訓を元に現在カセイエリア全域をリアルタイムで監視・哨戒しているという”ヤマトナデシコ”システムの管理者。カセイエリアにおいてBJを調べる上で、必ず名前が出てくる人物だ。

 

 呼び捨てする程に親しい間柄なのか。彼女の為人はと疼く記者魂をぐっと堪えながら、私は彼の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

『頼むぞ、ミカ!』

「うん。任せて、オルガ」

 

 通信機から流れ出るオルガの声。少し焦りすら感じるそれに返事を返し、リアクターの出力を上げる。チキュウで改修を受けたバルバトスは唸り声を上げながら主の呼び声に応え、大型可変翼と高出力スラスターは青白い炎を吹き散らす。

 

 白い流星となって空を翔ける三日月とバルバトスは、程なく目的地を視界に収める。外壁で覆われた都市、際限なく打ち上げられる砲火、縦横無尽に飛び回る機動兵器、そしてその全ての頭上から、蓋をするように空を征く特徴的な姿の戦艦。

 

 それらを視界に収めた瞬間、バルバトスに鳴り響くロックオンアラート。視線を感じるような感覚に従って大型可変翼を操作し、真横にスライドするかのように機体を滑らせる。先程まで居た空間が鋼鉄で引き裂かれるのを横目にしながら、それらを振り切るようにスラスターを吹かし学園都市へと押し進む。

 

『おい、そこの青白いの!』

「……なに?」

 

 コクピット内に現れる空間モニター。視界の邪魔になるそれを脇にずらし、三日月は胡乱げに交信相手に横目を向ける。

 

『お前、鉄華団のパイロットだな!? あたしはナデシコのスバル・リョーコだ!』

「鉄華団、三日月・オーガス」

 

 画面に映る黒髪の女にそう返答すると、女はへ、と口元を歪めて笑った。

 

『機動兵器はこっちで引きつける! お前はそのまま』

「わかった。突っ込む」

 

 恐らく今の通信相手だろう。赤いカラーの機動兵器がバルバトスに近づこうとしていた足のない機動兵器に銃撃を加える。それを避けるように距離を開けた足なしと空戦を始める。

 

 援護を受けながら右に左にとジグザグに飛び的を散らせ、砲火の網を掻い潜るようにバルバトスは飛んだ。その折、視界の端に映る先程の女とは別の赤い機体と真っ黒な戦闘機のような機体の戦い。軽く動きを見ただけでエース級と分かる二機の戦いに、後続の仲間達が巻き込まれたら。早めに終わらせて加勢しなければ。

 

 頭の中でそう思考しながら、三日月は学園都市へ侵入する。

 

 PiPi!

 

「……?」

 

 学園都市上空に到達したバルバトスのコクピット内に、アラート音が響く。先程の女がまた? 訝しむように三日月が顔を歪めると、先程と同じようにコクピット内に空間モニターが開き、先程とは違う顔の女がそこに映し出されていた。

 

『お待ちしていました、鉄華団のオーガスさん。今からナビゲートしますので、そちらに向かってください』

「あんた、誰」

『ああ、すみません。少し焦りが出てしまって』

 

 青みがかった銀色に輝く髪、透き通るような白い肌、金色に輝く瞳。女性の容姿に対してそれほど意識を向ける事の少ない三日月でも、美人だなぁという感想が出てくる美貌の持ち主は、ぺこり、と頭を下げて三日月の言葉に謝意を示した。

 

『私はホシノ。ホシノ・ルリ中佐と申します。あの』

 

 ピッと右の人差し指で上を指差し、ホシノ中佐は言葉を続ける。

 

『戦艦の艦長を務めるもので……そちら(鉄華団)に救援を要請した者になります』

 

 

 

『救援要請、ですか』

『うん。後から聞いたら、本当に焦ってたんだって。先生につけてた目印が使えなくなった時に火星の統合軍残党が出てきたから』

『それは……』

 

 ホシノ軍政官も気が気ではなかっただろう。話に聞くに最優先護衛対象である筈のBJは行方知れず。しかもそのタイミングで統合軍残党が攻撃を仕掛けてきた、と。

 

 どう考えても策謀の匂いしか感じられない流れである。

 

『その後は、簡単な情報交換をして、先生の反応が消えたって場所に行って、そこにあったビルをぶん殴って壊そうとしたんだけど壊せなかった』

『成程なる……うん?』

『窓のないビルって先生は呼んでた。衝撃に関してなら、どんな物でも無効化出来るって。ウリバタケのオッサンはPS装甲みたいなもんって言ってたけど、詳しくは分からない』

 

 手帳に走らせていたペンを止めて彼に視線を向けるも、淡々とした表情で彼はビルについての説明を行っている。今、たしかに聞き捨てならない言葉が出てきたと思うのだが。私は彼の発言を頭の中で反芻し、頬を引きつらせながら口を開いた。

 

『……ええと、そのビルの中には間氏も居た筈、ですよね?』

『うん。あと、サエバさんとレオリオも』

『…………く、崩れ落ちたりとか考えは』

『先生だよ?』

 

 違う、そうじゃない。きょとん、とする少年の言葉に「あやややや……」と頭を抱えながら自分が間違っているのか、これが防衛機構的な常識なのかを考え、どう考えてもBJの周囲がおかしいとすぐに結論づけてペンを走らせる。

 

 壊せなかったということは何も起きなかったという事と同じだろう、防衛機構的には。実際にBJ氏には傷一つなく、事前に調べた彼の軌跡を考えてもこの段階で何かが起こったという事はない。そのシーンを眼にしただろうホシノ軍政官がどう思ったかは、また別の問題として。

 

『その後はビルから出てきた先生達を拾って、患者を迎えに行くって先生に言われたから殺されかけてた一方通行をビルから引っこ抜いて、それから設備の整った病院に先生たちを送って』

『待って。ちょっと、待ってください!』

 

 説明するのが面倒になったのか、矢継ぎ早に投げつけられる聞きたいことの山に必死になってペンを走らせながら、私はまず、初めにして最も知りたい事を彼に尋ねた。

 

『衝撃を無効化するビルの中に閉じ込められて、何故彼は出てこれたのですか!?』

 

 思わず張り上げてしまった声。いつの間にか着替えたのか、私服で店内に現れたフェイト・T・ハラオウンのキョトン、とした表情。他の客や店員達の視線を集めながら、私の問いに対し三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタインはポリポリと頬を掻く。

 

『そりゃ、切ったんだよ。メスで』

 

 大したことじゃないだろう、と言わんばかりの表情を浮かべながら、彼はそう私に答えを返した。

 

 

 

 

『三日月に会ったのか。ああ、勿論覚えてるよ。暇な時に銃の扱いを仕込んだんだ。学こそないが頭もいいし、クレバーだ。筋の良い奴だったよ……え、あいつ結局二人共嫁さんにしたの?』

 

 ここに来る前に取材した人物について。彼らの直近の情報を伝えると、彼は嬉しそうにロイ・フォッカー以外のかつての仲間について語り始めた。同じカセイエリアにいるとはいえ彼らとはそれほど連絡を取り合っていないそうだ。

 

『三日月と初めて会った時の事はよく覚えてる。なんせビルから出たらガンダムが目の前に降りてきたんだからな』

 

 何年か前にアニメで見た奴とは似ても似つかないが、と笑いながらその時の情景を思い起こすように冴羽氏は語る。

 

 彼の護衛としての任についた冴羽氏は、修復中のマクロスからナデシコCに乗り込んだBJと共に転戦。カセイエリアを渡り歩いたのだという。行く先々で医療行為という名の自殺行為を繰り返すBJの襟首を掴んで引きずり、時には共に暴れまわり。

 

 本人曰く「眠る時と風呂以外は一緒。かー、思い出したくもない」そうで、その時の事を思い出すのか。口をへの字に曲げる冴羽氏にお疲れ様の意味を込めて苦笑を返しておく。

 

『あん時も酷かった。やっこさん、治療の許可を取る、とか言って学園都市の理事長と話をしに行ったんだ。そうして向かってみればテレポートでしか入れも出れもしないビルの中に連れ込まれて、変な液体に漬けこまれてる兄ちゃんと楽しくもないお話会だ』

『あの、その会話の内容とかは』

『……あー、すまん。その辺りは口止めされてる範囲なんだ。学園都市と防衛機構の関係が悪くなりかねんからな、流石に公表できん』

 

 愚痴るように呟く彼に一縷の望みを持って尋ねるもけんもほろろに断られる。どの資料にも彼と学園都市の理事長、アレイスター・クロウリーがどんな会話をしたのかは載っていない。一説によればこの世界の成り立ちについてが話されたとも言われているが……一応民間人である彼でこうなのだ。これ以上を追求することは難しいだろう。

 

 気持ちを切り替え、「では」と口に出して手帳を開き、三日月との会話を記入したページを開く。そこに記載された中の一つ。三日月には簡潔に答えられてしまった一列の文字。

 

 BJはどうやって窓のないビルから脱出したのか?

 

 三日月によれば、そのビルは物理的な手段ではまず傷一つつけることも難しい建物だったという。彼の機体が全力で攻撃し、それでも内部に衝撃を通せなかったというとんでもない建造物。

 

 それを生身の、しかも医者が突破した。

 

 その答えを、目の前の人物は知っている。

 

『あれ……か』

 

 私の問いに彼はポツリとそう呟き、足を組んで考えるようなポーズを見せた。身を乗り出すようにして彼を見る私に冴羽氏は何も言わずに視線だけを向けてくる。

 

『う……む』

『お願いします! どうしても知りたいんです!』

『あ、ああ』

 

 視線だけを私に……というには少し下に感じるが……向けて、足を組んだまま彼は唸るように考え込んだ。もしや体調不良であろうか。よく考えればすでに話し込んで数時間。妖怪である私は兎も角、実力者とはいえ人間の彼が疲れを感じたとしてもおかしくはないだろう。

 

『あの、疲れたなら少し休憩でも』

『いや、とても立派なメロンをお持ちでついもっこ』

『はい?』

『ごほん。なんでもないとも! あそこから出た時の話だったな!』

『あ、はい』

 

 足を組んだまま大きく声を張り上げる冴羽氏に押されるような形で、私は椅子に再び腰を下ろす。何故か残念そうな顔を見せながら、冴羽氏は「といっても」と一つ前置きをおいて口を開いた。

 

『正直、三日月が言ったとおりなんだよなぁ、あの時は』

『三日月くんが、というとあの。メスで切った、ですか?』

『ああ。まぁ、それがとんでもないことだというのは俺も知ってる。あのビルに入る前、俺も手持ちの火器をあのビルに撃ち込んだからな』

 

 傷跡一つつかなかった時には自分の正気を疑った、と彼は笑う。

 

『当然、相手さん……学園都市の理事長もそれを知った上でアイツをあそこに呼んだ。そこから出るにはテレポート能力者が必要で、あの時俺たちにはそんな能力者は居なかったからな。ここから出たければ、とでも話を続けたかったんだろうが』

『……でも、そうはならなかった』

 

 私の問にああ。と何故か嬉し気に話しながら、冴羽氏は続ける。

 

『あいつのメス。確かキリコとか呼んでいた奴が綺麗に円を描いて壁に穴を開けたあの瞬間。あの理事長の顔、今でも思い出せるよ。あの時が二度目の、奴が本気になった時だった』

 

 控えめに言って最高だった、と笑って冴羽氏は足を崩した。

 

 

 

『……あ』




冴羽獠:出典・シティーハンター
 またの名をシティーハンター。ロイ・フォッカーについて語りたがらないのは同族嫌悪。
 一回目はなんでそうなったかって黒夫はキン肉マン連載時代のジャンプの大ファげふんげふん

あややややの記者:出典・東方プロジェクト
 渡されていたハンマーで殴りました。

三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 カセイ事変の後に付き合っていた彼女二人と結婚。子供も居る。

フェイト・T・ハラオウン:出典・魔法少女リリカルなのはシリーズ
 歌が上手だね、となのはに言われたので人前で歌う練習中。色々段階がすっ飛ばされてる。

スバル・リョーコ:出典・機動戦艦ナデシコ
 髪色は劇場版仕様。

ホシノ・ルリ:出典・機動戦艦ナデシコ
 この件を機に三日月が苦手になった被害者その2。村で遭遇すると一歩後ずさる。被害者その1は死にかけの所をビルに手を突っ込まれて引きずり出された一方通行さん。


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とあるルポライターの手記 終

遅くなって申し訳ありません。
ルポライターの手記は今回で終わりです。お付き合い頂きありがとうございました

誤字修正。佐藤東沙様、オカムー様、鮭類アレルギー様、ソフィア様、たまごん様ありがとうございました!

大事な物を忘れていた!
ファンアートを頂きましたのでこちらで紹介させてもらいます!

みもざさんより
https://www.pixiv.net/artworks/87660956
表紙が!どこかの少年雑誌っぽい表紙ができました!

彩辻シュガさんより

【挿絵表示】

素晴らしい雰囲気の間先生ですね本当にありがとうございます!


 長い年月を生きた。

 

 それこそ自身の住処である幻想郷が外界から隔離される前。日ノ本が平安と呼ばれる時代に烏として生を受け、寺の境内にて仏僧の読経を耳に仏法を学び。やがて妖に転じ、天命の軛から外れて幾星霜。

 

 様々な事があった。

 

 天狗の長、天魔の元で修行した若かりし頃。鬼に従い陰陽師や侍と戦った事もあった。幻想郷が成立した時分の事も、よく覚えている。その頃の自分はまだ若く、野心的で、自分が何をやりたいのかすらも分からぬままただ燻るような日々を過ごしていた。

 

 外界から流れ込んだ一枚の紙が、自分の運命を変えるまで。

 

 たった一枚の瓦版。最初は、それを見つけてきた天狗がなぜこんなにも騒ぐのか分からなかった。たかが一枚の紙切れ。よほど高尚な物でも書いてあるのかと見てみれば、~街の~が何をした、歌舞伎の花形が、といった大したことのない文面でしかなかったのを覚えている。

 

 こんな物に時間を使うくらいならば妖術の鍛錬でもしたほうが良い。そう頭では思いつつも、なぜかこの紙切れの事が頭から離れなかった。

 

 やがて流れ着く紙切れ――瓦版は、見つかるたびに天狗達の集落で回し読みされ、私もその輪に加わり――気づけばそれが見つかるのを心待ちにする日々を送っていた。

 

 そしてそれが数回続いたある日。天狗の中の誰かが、こう零したのが始まりであった。

 

『これを、我らも作ろう』

 

 ああ、よく覚えている。この言葉が出た場面だけは鮮明に覚えている。誰が言ったかは分からない。天魔か大天狗。或いは……もしかしたら、無意識に自分の口から出たかもしれない言葉。

 

 響き渡ったその一言に、ざわめきが起き、やがて静まり返った天魔の屋敷。重々しく頷く彼の姿は、今でも忘れられない。

 

 その時から、自分は記者だった。取材をし、事実を集め、記者として記事を作りそれを紙に起こす。瓦版はやがて新聞という名前となり、紙面の表現も変わっていった。だが、それを書き起こす自分はあの瞬間から何も変わらず、今も興味が惹かれた事件や人物を追い、記事を書き続けている。

 

 あの瞬間から山の烏天狗、射命丸文は文々。新聞の編集長、射命丸文へと生まれ変わった。

 

 私は、己が何をなすべきなのかをあの時に知ったのだ。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「ちょ、夕呼!?」

 

 とはいえ、そんな経験豊富な取材記者である私にも、経験したことがない瞬間というものは存在する。

 

 例えば目の前のように、取材対象が話を聞いただけで絶叫して泡を吹きながら白目を剥く、なんて事は。

 

 

~とあるルポライターの手記 カセイ事変~

 

 

「また香月先生が倒れたのか」

「最近少なくなってたのになぁ」

 

 口々にそう駄弁りながら、香月夕呼を乗せた担架を持った職員たちは彼女の執務室を後にした。手慣れた空気に会話、おそらくこれが初めてじゃないのだろうそのやり取りをメモしながら、さてと頭を切り替えて。

 

「で、あの。どうしましょうか」

「……わ、私が答えられることなら」

 

 頭を抱えたままの女性にそう声を掛けると、絞り出すような言の葉がその口から漏れ出てくる。それはそれで願ったり叶ったりであるため、私にとっても否やはない。

 

 彼女は香月夕呼の副官、神宮寺まりも。香月女史とは先程泡を吹いてぶっ倒れた女性の事であり、カセイエリア……いや、タイヨウ系エリア群でも有数の頭脳を誇る天才である。

 

 泡を吹いてぶっ倒れたが。

 

「申し訳ありません……その、香月は例の事変、というよりも、間先生の事柄に関してがとんでもないトラウマになっていて、その時の事を思い出すと」

「研究とかするより病院に掛かった方が良いのでは……?」

「研究している方が何も考えなくてすむから、と……」

 

 それはそれでどうなんだろうと思わないでもないが、本人にとって気が楽ならばそれが良いのだろうか。流石に卒倒するほどの精神的苦痛という物を味わったことがないために、曖昧な表情を浮かべていると、こほん、とわざとらしく咳払いをして神宮寺まりもは口を開いた。

 

「それで、その。間先生についての取材だと伺っているのですが」

「あ、はい。香月博士と貴女が、BJ氏によって救出されたと伺いました。ただ、その件について詳しい資料が残っていなくて」

 

 仕切り直したいのだろう彼女の言葉に頷いて、私は本題を切り出した。

 

 統合軍残党の蜂起と、同時期に起こった外世界からの侵略(BETAの侵攻)。これら同時期に起きた大規模な戦闘により、カセイエリアは甚大な被害を受けた。

 

 とりわけ彼女たちの生まれたエリアは後者であるBETAの第一目標にされていたらしく、BETAの駆逐に成功したとはいえ復興にはまだまだ時間がかかるらしい。

 

 そして、そんな激戦が繰り広げられた場所にあの男(BJ)が居ないはずもなく。

 

「……はい、たしかに、私達はあの時。崩壊した防衛機構の基地から、間先生に助けられました」

 

 当時、香月博士と彼女がその基地に居たかは、機密指定のため分からなかった。おそらく彼女の研究内容に関わるのだろうが……その辺りも出来れば本人に尋ねてみたかったのだが、どうやらそれは叶いそうにもない。

 

 であるならば、元々の目的はきっちりと果たさなければいけないだろう。

 

「その状況を、お聞かせ願えますか?」

「…………」

 

 私の問いかけに神宮寺女史は硬い表情を浮かべる。先程ぶっ倒れた香月博士の件を引き合いに出すわけではないが、当時の状況は外部が残している資料を眺めるだけでも地獄のような状況だったらしい。

 

 目の前に居る彼女も、生き残った後は数週間の療養生活が必要だったそうだ。あのBJが助けた患者が、である。そう考えると先程の香月博士の醜態も仕方ないのでは、と感じてしまう。

 

 しかし、たとえどれほどの地獄であろうとそれを思い起こして貰わなければならない。起きたことは誰かが伝えなければ、風化して忘れられてしまう。彼女が味わった悲劇も、ただどんな事が起きたかが、何名が亡くなったかというだけの記録しか残らないだろう。

 

「実は……」

「はい」

 

 やがて。何かを決意したかのように口を開いた神宮寺まりも――『狂犬』と呼ばれたエースパイロットは、私の目を真っ直ぐに見据えながらこう口にした。

 

「私が意識を取り戻したのは、間先生に救われてからで……基地が陥落して気を失ってからの記憶は、ほとんど残ってないんです」

「……は。は?」

「朧気に残る記憶で、黒夫さんにおぶわれていたのは覚えています。朦朧とする意識の中、私に彼は『頑張れ。必ず助かる』と、何度も。それだけは、覚えているんです」

 

 思いもよらぬ言葉に不覚にも間抜け面を晒した私に、彼女は申し訳無さそうにしながら肝心の部分の前後――香月博士の行動は軍機により語れないが、自分は基地内で新人の教育を行っていたこと。BETAの襲来は予想していたが、規模が段違いでかつ後方だと思われていた場所が襲われた為、対応できなかった事を語ってくれた。

 

 その辺りの情報は、正直に嬉しい。記録にも残っていなかった事なのだが、違う。違うのだ。私が今回求めていた情報、BJ氏に関わりのある情報とはかすりもしていないのだ。

 

 失意のままに頭に手を置く私に、神宮寺女史は慌てたようにしながら口を開く。

 

「あ、その。助けられた後は間先生とも結構な、数週間は一緒に居たわ。リハビリに買い物に付き合ってもらったり、退院祝いにお酒を飲みに行ったり」

「その辺は詳しく」

「あ、はい」

 

 求めていた情報ではなくても、それはそれとして気になる情報が出てきたため、トータルではイーブンという所だろうか。え、貴女結構飲めるんですね、この後一杯――

 

(ここから先はページが破り取られている。読み取れる最後の行には失敗した、の文字が――)

 

 

 

 

「おい、黒夫!」

「分かってる。少し時間をくれ」

「――っ! だー! そうもたんぞ!」

 

 叫びながら、手に持つ防衛機構からの支給品――レイガンを戦車級に向かって撃ち放つ。すっかり手に馴染んだ、最早愛用と言っても良い銃を連射していると、近くで何もせずに隠れていろと伝えた女の、明るい声が響き渡る。

 

「獠! 援護するよ!」

「待て香! お前は撃つなどわぁ!?」

 

 チュイン、と盲撃ちに放たれた銃弾が突撃級の装甲に跳ね返され、接近する兵士級の頭を撃ち抜き、更に勢い余って獠の足元を穿つ。

 

「お、ラッキー♪」

「ラッキー♪ じゃないわい!」

 

 撃てば当たるような状況で跳弾なんて器用な真似を起こした香に苦言を呈するも、香はどこ吹く風とばかりにへっぽこな構えで銃を前方に向ける。言っても無駄と振り返り、獠はそちらで一団を率いる青年に声をかける。

 

「忍者の色男っ! そっちは大丈夫か!?」

「火縄の扱いは心得ておりますゆえ!」

 

 その青年、甲賀弦之介を名乗る忍者集団の頭領は、BETAから逃げ回る途中で拾い集めた銃器を簡単なレクチャーを受けた後に身につけ、防衛戦の一角を自らと配下達で担っていた。

 

「う、うぅ……」

「大丈夫だ。必ず助ける。”私”を信じてくれ」

「先生! 腕を食いちぎられたご婦人が――」

「すぐに行く!」

 

 うめき声を上げる青年に優しくそう声をかけ、すぐさま自分を呼ぶレオリオに答えて黒夫は走る。BETAの襲来から半日、波のように襲い来るBETA達から逃げ続け、生き残った人間たちをかき集め。

 

 限界が来た者たちを治療するために、瓦礫になった防衛機構の基地だったモノに籠もって1時間。大型のBETAを引きつける”援軍”の存在もあり、簡易的に作られた野戦病棟は、足りない物資と断続的に襲い来るBETAに怯えながらも、なんとか機能していた。

 

「おい、もう持たんぞ!」

「分かってる!」

 

 だが、それもそう長くは続かない。戦える人間は数少なく、守るべき人間は多い。弾薬もいつまでも続かない。いや、いつ弾切れが起きてもおかしくない状況だ。

 

 自分の仕事はこのバカの首根っこを引っ張ってでも生き残らせること。こんな所で死ぬつもりはないし、死なせるつもりもない。

 

 ――仕方ない、か

 

 トレードマークの黒いコートを脱ぎ去り、白いYシャツを赤く染める黒夫……たった半年に過ぎない期間、一緒に居た相棒の姿を目にして、冴羽獠は唇を噛み締めた。

 

 この状況からでも、自分ならばこいつと香を抱えて逃げ切れる。おそらく忍者たちも。その他の人間は――

 

「リョウ」

 

 そこまで思考を進めた所で。

 

「頼む」

 

 一対の……悲しそうに眉をよせた視線が冴羽獠を貫いた。

 

 

 

――side.R あるいは手記の終わり――

 

 

『……駄目だった。あいつのあの目で見られちゃあよ』

『先程出てきた、例の本気になるときの、という』

 

 私の問いかけに小さく首を縦に振り、なんとも言えない曖昧な笑顔を浮かべたまま冴羽氏は天を仰ぐ。

 

 懐かしんでいるのか、それとも悲しんでいるのか。彼の心の中まではサトリでもない私では知るよしも無いが――少なくとも、悪い感情ではなさそうである。

 

 これで頭に特大のたんこぶが無ければ、様になったのだろうが。

 

『俺が奴の側を離れたのもそれが原因だった』

『護衛対象を危険に晒したから、ですか?』

『違う。私情をコントロールできなかったからだ』

 

 私の言葉に首を横に振って、冴羽氏はそう言ってポリポリと頭をかいた。彼にとってもその出来事は恥ずかしい事だったのだろう事が、その動作からは伺える。

 

 しかし、悪い感情ではないのは、やっぱり間違いなさそうである。

 

『……実際、奴の判断は。決断は、間違いじゃなかった。あの後すぐに、大型を相手してた援軍のあれ。特機って奴が来てくれたからな』

『ああ、たしかに特機が一機でも居ればなんとかなりそうですね』

 

 遠く離れた故郷、幻想郷が属するヤオヨロズエリアの事を思い出し、彼の言葉に納得の頷きを返す。ヤオヨロズエリアは散発的に襲いかかってくる宇宙怪獣に備えるため、特機が多く配備されている。

 

 かくいう私も彼らには数回、防衛機構の許可を得て取材を行っているため、大体の特機パイロットとは顔見知りと言っても良い。

 

 ――誰だったか確認して、後ほど取材をするのも良いかもしれない。少し離れた位置から現場を見ていた彼か彼女の話は、今回の取材の補強に役立つ可能性がある。

 

 そう頭の中で皮算用を立てていると、冴羽氏はふぅ、とため息を一つつく。

 

『判断が正しかったとはいえ、それは結果論だ。たとえ結果が悪くなろうが、俺はあの時あいつの首根っこを捕まえて引きずっていくべきだった』

『ええ。そうかもしれませんね』

 

 彼の言葉を否定せず。しかし、肯定もしない。結果だけを見るなら彼は最善を行ったと言える。しかし、彼が請け負っていた仕事は、そもそもBJ氏にそんな無茶をやらせない為のものだ。

 

 ……なるほど。なんとなく、彼が”彼”の元を離れた理由が見えてきた気がする。

 

『――奴との旅は、楽しかった。このままあいつに付き合っても良いかもしれん。そう思っちまうくらいに……ああ、くそっ! 何言ってんだ俺は』

 

 ガリガリと頭を引っ掻く冴羽氏から視線を外し、メモ帳にペンを走らせる。ように見せかけて、私は少しだけ彼が落ち着くのを待つ。感情的な今なら面白い話を聞けるかもしれないが、私が欲しい情報は、ただ面白い情報ではなく確とした事実である。

 

 ――あ、なんか一緒に行ったクラブの話とかも出てきた。これは奥様に後で伝えておこう。

 

『ま、まぁそれはともかくだ。あの、そのメモ後で見せてもらっても』

『私も守秘義務がありますので……』

『ですよねー』

 

 ぽくチン見たいな―、と甘えるような声で言われても、先程のもっこり事件で私の彼に対する好感度は天元落下している。大人しくまたハンマーを受けて欲しい。

 

 しかし、彼がBETAの海を泳いで渡ったという話は、そういう状況だったのか。大型のBETA相手にどうやって生き残ったのか疑問に思っていたのだが、それらを相手する特機が居た、というのは彼の言葉を聞くまで知らない情報であった。やはりヤオヨロズエリアに戻った折に話を聞いて置いたほうが良さそうだ。

 

『もしあの時の兄ちゃんに会えるなら、礼を言っといてくれ。あんたのお陰で命が繋がったってな』

『承りました。それで、その特機とは』

『確か鉄の城、だったかな。そう呼ばれていた』

『……ああ、なるほど』

 

 あの正義感の強い青年、鉄の城の主なら、助けた相手からの言葉は嬉しがるだろう。そのまま流れで話を聞くのも良いかもしれない、と考え。少し思考が脱線した事に気づいてふるふると頭を振る。

 

 取材も大詰め、と気が抜けていたらしい。取材対象を前にして、言語道断な態度である。

 

『では、これで最後の質問になります』

『OK、どうだいこの後食事でも――』

『それはまた機会があればという事で』

 

 上半身は男前なのに下半身は三枚目なのはなんとも面白い男だ、と感想を懐きながら。

 

 私は、ずっと彼に聞きたかった言葉を口にした。

 

『貴方は、なぜこの瓦礫の街。かつて新宿と言われた街に、今も居を構えているんですか』

『――』

 

 そう。取材が決まり、この街を訪れてからずっと思っていた疑問。防衛機構と関わりを持ち、おそらくは莫大な報奨を得ただろう彼が住まうにしては、この街は荒れ果てている。

 

 勿論、元はこの国の首都だった場所だ。やがて復興し、かつての賑わいを取り戻す日が来るだろうが――それはおそらくかなり先の事になるはず。

 

 生活することすら難しいこの環境を故郷だからと選ぶ、というのはそう出来ることではないだろう。

 

『随分と難しい質問をするんだな』

『ええ、記者ですから気になった事は尋ねるようにしてるんです』

『なるほど。あんた良い記者さんだったんだな』

 

 皮肉るような彼の言葉に笑顔で返し、私は彼の言葉を待つ。

 

 先程までの軽薄な雰囲気は消え失せ。シティーハンターと呼ばれる凄腕の仕事人の表情で、彼は何事かを言おうとし、苦笑を浮かべ。

 

『新宿は俺の――『シティーハンター』の街だからな』

 

 そう呟くように口にして、シティーハンター、冴羽遼は苦笑をやめた。

 

『もしもあいつに会うんなら伝えてくれ』

 

 あいつ、が誰を指すのかは明白である。

 

『どうしても困った時。俺の力が必要な時は、新宿駅の掲示板に例の言葉を書いてくれ。気が向いたら、依頼を受けてやるってな』

 

 二カッと笑顔を浮かべ。彼はそう言って席を立った。もう口にすることはない、という意思表示だろう。

 

 途中ハプニングこそあったが、良い取材であった。そう思えるほどに濃い数時間だった。

 

 彼が去った後。この数時間を軽く振り返りながらメモ帳を眺め、よし。と気持ちを入れ直して私も席を立つ。

 

「さて、後はこれらを纏めて添削して」

 

 メモ帳を片して脇に浮かぶ動画撮影用のドローンを引き連れながら、冴羽氏が消えた出口に向かって私も歩みを進める。

 

「ああ、そうそう」

 

 これから忙しくなるだろう予感と、心地いい疲労感を感じながら。記事作成の為、帰路につく私は、とある事を思い出してドローンのカメラを自分に向けた。

 

 確か、彼は何かに付けて締めにこの言葉を言っていたんだった。今回の取材は彼に関しての事。なら、撮影した動画データを締める言葉もまたこの言葉こそが相応しいだろう。

 

 少しの気恥ずかしさと、これを見た彼の反応を予測しながら私は苦笑を浮かべ、その言葉を口にした。

 

「ブラック・ジャックをよろしく。ふふっ」




推奨BGM:Get Wild

神宮司まりも:出典・マブラヴシリーズ
 バクっと行かれる前にクロオがインターセプトしたらしい。怪我は負っていたが数週間の療養で回復。黒夫にアタックしているが一緒に酒飲みにいったのでかなり厳しい。

甲賀弦之介:出典・バジリスク 〜甲賀忍法帖〜《/b》
 瞳術が通じないBETA相手だったので重火器で対応した模様


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本編に出てこない人たちと黒夫くんwith最適解さんの話

前回のあやや◯さんの話がシリアスにもギャグにも振り切れていなかった感じがしてもやもやした+アイマスの更新でストレスが溜まったので許してください!なんでも(ry

誤字修正、匿名鬼謀様、とくほ様、路徳様、たまごん様、ちさー様、佐藤東沙様、赤頭巾様,竜人機様ありがとうございます!


「…………」

 

 何も言わずにその船の長は、地上を映す映像を切った。軍人として生きてきて早数十年。こんな光景を見ることになるとは露とも思わなかった。次元統合とやらは本当にろくなものではない。

 

 ブリッジ内で所々から響く嗚咽、憤りの声――嘔吐の音がする方には視線を向けない。若い女性士官では、仕方のないことだろう。自分だって許されるならばこの場に跪き、天に向かって祈りを捧げたい気分だ。

 

 だが、立場が彼にそういった行動を許さない。彼はこの船の長であり、最高指揮官であり――現状を打破する力を、この場に持ってきた者なのだ。

 

 タイヨウ系エリア群の職員全てに配布されている通信端末、コミュニケを起動し、空中に表示された画面を指で操作する。半年ほどしか扱っていないが毎日のように使用した結果、淀みなく操作できるようになったそれを駆使して目的の人物への連絡を行い。

 

 自分の息子ほどの年端も行かない青年を地獄へ落とす事に、死にたくなるほどの後悔を味わいながら、彼は自分へ視線を向けるブリッジクルーに指示を出し始めた。

 

 やがて地獄は終わる。その後が、自分たちの仕事だ。

 

 だから……

 

「頼む、スーパーロボット……っ!」

 

 

 

 その頬を伝う雫は、涙などではない。

 

 目の前で貪り食われる男性。突撃級に建物ごと轢き潰される少女、要撃級の一撃でコクピットを潰され圧死する兵士。逃げ惑う人々を無差別に殺して回る異形の者どもを上空から眺めながら、彼はそう心のなかで呟いた。

 

 間に合わなかったという思考と、全滅する前に間に合ったという思考。相反するその感情を心の炉に焚べ、彼は吠える。

 

 意味のない、ただ激情を声にしただけの叫び。スピーカー越しに響き渡るその音に、おそらく音の届く範囲全ての存在の視線が彼に向けられる。

 

 それで良い。俺を、俺たちだけを見ろ。

 

 お前たちの死が来たぞ。お前たちはもう死を振りまく死神ではない。

 

 魔神が、お前たちに死を振りまくのだ。

 

 グイッと腕で頬を流れる雫を振り払う。

 

『ヤイヤイヤイてめぇら!』

 

 戦士に涙は、似合わない!

 

『この兜甲児とマジンガーZが来たからには、てめぇらの横暴もこれまでだぁ!』

 

 スピーカーを全開にし、全方位に音声を飛ばす。それに合わせるかのように数多のビームがマジンガーを襲う。数十、いや。数百を超えるビームの照射。その光景を見た人々が再び絶望しそうになり、そしてついで現れた風景に歓声を上げる。

 

 父が開発した超合金ニューZ、そしてそれらを別世界の技術で改良したマジンガーの装甲を、奴らのビームが貫くことはなかった。

 

 その様子を見て危機感を募らせたのか、単にそう命令されているだけなのか。大型種と呼ばれる敵対者達が一斉にその歩む先をマジンガーに向ける。その光景に不敵な笑みを浮かべながら、兜甲児は操縦桿を握りしめる。

 

 たった一機の特機。相手は数千か数万か。

 

 だが、恐れることはない。絶望することもない。

 

「特機だ! 特機が来てくれた!」

「あれは、くろがねの城だ! マジンガーZだ!!」

 

 特機とは特別な機体という意味ではない。

 

 特機とは――

 

『しゃらくせぇ! ブレストファイヤー!』

 

 スーパーロボットなのだ!

 

 

 

 そして、半日に及ぶ戦いは人類側の勝利に終わった。夥しい犠牲。決して華々しい勝利などと口が裂けてもいえないそれに、しかし生き延びた人々の表情は柔らかだった。

 

 人類は負けない。スーパーロボットが、人々が諦めない限り。

 

 きっと。

 

 

 

 

【黒夫くんが野戦病院で修羅場ってる時の話】

 

 

 

 鳴り響く電話の音。絶え間ない喧騒。

 

 シャカ、シャカ、シャカ

 

 時刻は午前10時過ぎ。最も活発に企業が、そこに勤める会社員たちが動き出す時間帯。

 

 シャカ、シャカ、シャカ

 

 室内のほぼ全てが慌ただしく動く、そんな中。

 

 シャカ、シャカ、シャカ

 

 男はただ一人窓際の机に陣取り、積まれた鉛筆にナイフを走らせていた。

 

 その場所だけが周りから隔離されたかのような空間。男の周囲だけ数デシベルは音量が引き落とされたかのような、そんな場所で。

 

 シャカ、シャカ、シャカ

 

 男はただ静かに鉛筆を削っていた。

 

「…………」

 

 時折、男のナイフが止まる事がある。削った鉛筆をジィっと見つめているときだ。

 

 丹精込めて削られた鉛筆には気合が乗る、と言われている。

 

 彼が、自身が削った鉛筆に何を見出しているのか。忙しい合間、それをチラチラと見ている他の社員が疑問に思う中、彼は少しの間を置いた後にまた新しい鉛筆に手を伸ばした。

 

 ここ1週間。毎日、朝8時に出社してから17時に帰宅するまでの間。彼はただひたすらに鉛筆削りを行っている。それが自分の仕事なのだと言わんばかりに、毎日、毎晩。

 

「……貴方、何やってるの?」

 

 が、勿論そんな訳はない。

 

 現場では頼りになる相棒、空条承太郎が延々と鉛筆を削っていると連絡を受け、自身の持ち場だった世界の探索を終わらせて帰還。その足で防衛機構内部にある総務課に足を運んだ暁美ほむらは、山と積まれている削られた鉛筆とそれを生み出す空条承太郎の姿に絶句した後、絞り出すような声でそう尋ねた。

 

「……暁美か」

「ほむらでいいと言ったわ。それより質問に答えなさい」

 

 ジロリ、と鋭い視線でこちらを見る承太郎の言葉を切って捨て、ほむらはそう言って近くにあった空席の机の椅子に腰掛ける。

 

 そんなほむらの様子にフン、と軽く鼻を鳴らすと、承太郎は手に持ったナイフを鞘に収め、彼女に向き直る。

 

「うちの爺さんがな」

「爺さん……確か不動産王のジョセフ・ジョースターだったかしら。貴方の世界では著名な人なのよね」

「ああ。そのジョセフ・ジョースターにな。こないだ帰省した時に出くわしたんだが」

「ええ」

 

 確か茨のようなスタンドを持ち、遠方を撮影するという能力がある人物だったか。頭の中で承太郎の関係者のリストを並べ、そこにあった彼の祖父の情報を抜き出しながら、ほむらは承太郎に続きを促した。

 

「その際に今の職場について伝えたら、軽く説教を受けてな」

「……それは、なんて?」

「働きの対価に給料を貰って生活する以上、今の俺らはサラリーマンだろう。それも、ペーペーの」

「……ま、まぁそう、なのかしら?」

 

 何度もループしたとは言え、サラリーマンという存在がどういうものなのかをほむらは知らない。故に疑問を懐きながらも承太郎の言葉に頷きを返し、続く彼の言葉を待つ。

 

「で、だ。ペーペーのサラリーマンってのは、爺曰く基本を身に着けなければならんらしい」

「なるほど。そういうものなのね」

「ああ。俺が鉛筆を削っていたのは、ペーペーのサラリーマンが行う作業で一番辛く苦しいのが鉛筆削りらしいから、だ。丁寧に削った鉛筆には気合が乗る。先輩方の仕事を助けるために、気合の入った鉛筆を用意する。俺が今やってるのは、そういう仕事だ」

「なるほど……なるほど?」

 

 うん、今の言葉にどこかおかしい場所が無かっただろうか。首を傾げながらそれを考え始めるほむらから視線を逸し、もう話は終わった、とばかりに承太郎は鉛筆を削り始めた。

 

 あれ。これおかしいのは私のほうだろうか、とほむらが周囲を見渡すと、こちらのやり取りを見ていた周囲の職員達が必死の形相で首を横に振っているのが見える。

 

 ――ああ、うん。そうよね。

 

 そんな彼らの様子に心が乾いていくのを感じながら、ほむらは鉛筆を削り続ける承太郎に視線を向け、口を開いた。

 

「貴方、自分の受け持ち世界を回るって仕事があるでしょ。休養が明けるまでちゃんと体を休めないと駄目じゃない」

「「「違う、そうじゃない!!!!」」」

 

 はぁ、とため息を付きながらのほむらの言葉に、その場に居たほむらと承太郎以外の面々の叫びが部屋中に木霊する。

 

 なおこの後無事にジョセフはオラオラされました。

 

 

【サラリーマン承太郎~鉛筆削り編~】

 

 

 

「今、なんと?」

 

 信じられない言葉を聞いたかのように目を見開き、黒夫は目の前で椅子に座る彼――デミウルゴスにそう問い返した。

 

「ですので、ソーマの使用は認められない、と言ったのです」

「……彼の治療に当たっては可能な限りの助力を頂けると、そういう話の筈ですが」

 

 ふつふつと湧き上がる感情。それらを押し込めながら話す黒夫に、デミウルゴスは内心をアルカイックスマイルで覆い隠し、ふるふると首を横に降った。

 

「それは勿論約束しましたとも。しかし、ソーマの使用は認められません。ユグドラシル産のアイテムが補充できるかは未知数。明日死亡する、というような状況でもなければ使用は控えたいのです」

「……彼の内臓関係の手術は成功しました。現状こそ点滴に頼っていますが、彼の体に新しい内臓が馴染むのは時間の問題です。その際、ソーマがあれば彼の回復は非常にスムーズな物になる」

「ええ。それは勿論そうでしょう。なんせ一ヶ月で餓死寸前だった雷禅氏を全盛期にまで回復させたのですから。しかし、言ってはなんですが今回の相手は人間。しかも世界の代表でも国家元首でもない人物です」

「……彼は、かの世界では精神的支柱とも呼ばれたヒーローだ」

「ええ、それは重々承知しています。ですので、数に限りがある物以外なら、どんな支援でもお約束しましょう」

 

 黒夫の言葉に重々しく頷きを返し、デミウルゴスは手元にある書類に目を向ける。話は終わった、という事だろう。

 

 その態度が、その言葉が。そして、黒夫自身の、かのヒーローに対する想いが、黒夫の中に残っていた自重という言葉を消し去った。

 

 瞳の色が変わる。深く黒く、そして輝くほどのエネルギーに溢れたソレに。しかし、自身の意思を無視して動く普段のソレとは違い、今の彼は一挙一動に至るまで彼自身の意思で動いていた。

 

 最適解(チート)と黒夫の意思が完全に一致した故の奇跡。しかしそんな事は勿論知る由もなく、黒夫は静かに席を立ち、デミウルゴスに背を向ける。

 

「わかりました。では、私は職務(治療)に全力で当たらせてもらいます」

「ええ。吉報をお待ちしています」

 

 言葉のみはにこやかなそれら。いや、デミウルゴス側はにこやかな、と付け加えるべきだろうそれらを交わし、そして黒夫は部屋を去った。

 

 一つだけ弁護するのならば、デミウルゴスには悪意はない。いや、主と黒夫の関係性を考えて最大限の配慮を行っているというべきだろう。なにせ補充の利く品物ならば無制限に使っていいと明言しているのだから。

 

 だが、しかし。

 

「――ああ、サトルさん。すまないが八雲さんに連絡を」

 

 自分の医療を邪魔された間黒夫(最適解)に、その理論は通らない。

 

 

 

「料理で人を……ああ、勿論いいさ!」

菊下楼 特級厨師劉昴星(リュウマオシン)

 

「カカッ! 本物の魔法みてぇな、と来るか! 良いぜ、秋山の魔法を見せてやる!」

五番町飯店 秋山醤(あきやまじゃん)

 

「ヒーローを一晩で。面白ぇじゃねぇか。いいぜ、やらせてくれ」

食事処 ゆきひら 幸平創真(ゆきひらそうま)

 

「半死人が飛び上がって食べるパンを作る! ジャぱん88号じゃ!」

サンピエール 東和馬(あずまかずま)

 

「外の世界の食材で……っとと、すみません。勿論、力をお貸ししますよ!」

ホテルグルメ 小松(こまつ)

 

 デミウルゴスは確かに約束をした。数に限りがないのであれば出来得る限りの支援をする、と。

 

 故に間黒夫(最適解)はまずモモンガに連絡を取った。彼の持つ物資と情報、そして八雲紫へとコンタクトを取るために。

 

 八雲紫につなぎを付けた間黒夫(最適解)はモモンガの持つ情報を頼りにある条件の下、人を探し回った。

 

 或いは、死人すらも料理で跳ね起きさせるような魔法の腕の持ち主。それらに該当しそうな料理人の選定と、彼らの持つ情報、技術、人脈。

 

 たった数日でそれら全てをフルに活かし、間黒夫(最適解)は場を整えた。

 

 後は、彼の目覚めを待つだけという状態まで。

 

 

 

「……ぅ」

 

 鼻孔をくすぐる匂いの群れ。これは、なんだろうか。ジューシーな肉を焼いたような。いや、或いは魚。スープかもしれない。

 

 長らく食欲という言葉と無縁だった体に襲いかかる匂い。それに導かれるかのように意識が浮上していき、やがて重い瞼がこじ開けられる。

 

 白い天井、知らない天井だ。ぐるりと回りを見渡す。おそらくは病室なのだろう、清潔感のある部屋。ここはどこだ。体中をめぐる違和感に突き動かされ、彼は意識を完全に取り戻す。

 

 ムクリと体を起こす。長い時間眠っていたのか強ばっている体をほぐすように伸ばし、ハタと体に襲い来る違和感の正体に気づいた。

 

 

 

 鳴り響く大きな腹の音。5年前のあの日から失っていたその感覚――空腹に突き動かされ、彼はベッドから降り自身の足で立ち上がる。

 

 強張った体を動かし、匂いの続く方――部屋のドアに向かって歩みをすすめる。予感がする。いや、間違いないだろうという確信を持って彼はドアに手をかけ。

 

 ガラリとドアを開けた瞬間。彼の全身を匂いという名の暴力が襲った。

 

 一面を覆い尽くすほどの料理・料理・料理!

 

 中華に和食・洋食からパンに至るまで。様々な種類の料理が所狭しと並ぶ姿。ゴクリと彼はつばを飲み込み、一歩前に歩みをすすめる。

 

 美味しさとは味覚だけで味わうだけではない。視覚、嗅覚。或いは聴覚すらもが美味しさという情報を伝えてくる。

 

「あ……あぁ」

 

ぐぅぅぅぅぅ

 

 そして、暴力的なまでのその美味しそうな匂いは、ただそれだけで彼の胃袋に目の前に並ぶ料理たちの美味しさを伝えてきた。

 

 美味い。間違いなく、美味い。

 

「よう、待ってたぜオッサン!」

 

 本能のままにもう一歩足を前に出そうとした彼の肩をぐいっと誰かが引く。そちらに視線を向ければ、鋭い視線を持つ青年の姿があった。青年は手に持ったスープらしきものが入った器を彼に手渡し、ぐっと肩に腕を回した。

 

「最初の一杯は俺のこいつがオススメだ! 滋養強壮、吸収率も抜群だ! それに固形物より最初は汁物で胃袋を慣らした方が良いぜ!」

「ああ、てめぇジャン! 抜け駆けはずるいだろーが!」

「やかましい! 最初に美味いって言わせんのは秋山の魔法だ!」

「ははは。僕も固形物よりはスープがいいかなって用意してたんですが」

「誰でもいいさ! ちゃんと食べて元気になって貰えれば」

「うーん。ワシのパンは流石に次以降かな」

 

 喧々囂々。調理師だろう青年たちが彼の周囲に集まった。どうやら目の前に用意された、一面を見渡すこの料理の数々は彼らが用意したらしい。

 

 手渡された器に視線を向ける。透明なスープ、いっそ水かと見間違うほどのソレは、しかし芳醇な香りを持ってその美味を彼に伝えてくる。

 

 ごくり、とツバを飲み込み、そっと器を口に寄せる。

 

 近づけば香る匂い。これは、コンソメだろうか。にしては色合いが。唇に感じる温かさ。そのまま器を傾ける。なんだこれは、凝縮された旨味。透明なスープからは思いもつかない濃厚さに目を白黒させながらごくごくと喉を鳴らし、瞬く間に器は空となる。

 

 胃袋に降りてきた温かい感触は、長年その仕事を忘れていた体に食を思い起こさせる。青年が言う通り抜群の吸収率で体中に染み渡るように栄養を伝えていくその感覚に、彼の体が覚醒の叫びを上げる。

 

 もっとだ、もっと食わせろ。栄養を! さらなる栄養を!!!

 

 その様子に料理人達が笑顔を浮かべ道を開ける。彼と料理を遮るものは、もはや何もない。

 

 一口、二口。食べるほどに空いていく胃袋。過剰摂取される栄養により全身を赤く染め上げ、蒸気すら拭き上げながら食べ続ける彼――オールマイトの姿が、段々と変わっていくのを背後から見つめながら、料理人たちは互いを見回し、笑顔を浮かべる。

 

 そんなオールマイトと自身が呼び込んだ料理人たちの様子を遠巻きに眺めながら、最適解を解きただの間黒夫に戻った男はうんうんと頷きながら口を開く。

 

「凄いな、人体」

 

 それで済ませて良いのか甚だ疑問が浮かぶ感想を呟き、間黒夫は背を向ける。治療は終わった。アフターケアもこれで良い。なら、次は自身が仕事をこなす番だろう。

 

 八雲氏に頼まれた厄介事を思い浮かべながら、間黒夫は部屋を出た。

 

 ああ、そういえば彼らにはまだ伝えなければいけないことがあった。今回の件の報酬はすでにAOG側から出してあるそうだが、頼み事をしたのは自身である。であるならば、彼らが何か困ったことがあれば自分も彼らの助けになるのが筋、というものだろう。

 

「セバスさん、彼らに伝えてほしいことが」

「はい、承ります。どのような言伝をすればよろしいでしょうか」

 

 歩みを止め。部屋の外で待機していた、今回の件で最初から最後まで黒夫を支援してくれたセバスに声をかける。一礼した後に要件を尋ねるセバスの言葉に少し考えた後、黒夫はふっと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「誰かを助けたい時、治療が必要な時。そんな時は――ふっ。いざ口にするとなると少し恥ずかしいですが」

「はい」

 

 頷くセバスの姿に苦笑を浮かべながら、少しの逡巡の後。黒夫は呟くようにこう口にした。

 

「【ブラック・ジャックをよろしく】、と」

 

 

 

【記念すべき第一回】




最後の話はちょっとシリアスでもコメディでもない気がするけど布石になる話なので!!!(多分)


兜甲児:出典・マジンガーZ
 前回ちょろっと話が出た人。普段はヤオヨロズエリアで宇宙怪獣と戯れてたりする。
彼のシーンの推奨BGMはFIRE WARSで(カイザーじゃないけど)


空条承太郎:出典・ジョジョの奇妙な冒険
 なにかおかしいとは思っていたが最近読んだ漫画で似たような場面があったのでそんなものかと仕事に邁進していた。作業自体も若干気に入ってた模様。

暁美ほむら:出典・魔法少女まどかマギカ
 この後ほかの同僚から間違っている部分を聴き赤面した。

デミウルゴス:出典・オーバーロード
 支援するとはいったけどさぁ、と事後に話を聞いた際に頬をひくつかせた

セバス・チャン:出典・オーバーロード
 誰かを助けるのは当たり前、と創造主ムーブが出来て嬉しい


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本編に出ない人たちの話(一部は出てる人)7

二話目、もう少し手を加えたかったけど精神的にヤバいので纏めました
数日して落ち着いたら改変するかもしれません……三浦先生……嘘だと言ってくれ(涙)

誤字修正。路徳様、亜蘭作務村様、佐藤東沙様、竜人機様ありがとうございます!


 随分と痩せた男だと思った。

 

 骨と皮で構成された肉体。肉を失い、落ち窪んだ眼窩。その癖やたらと強い輝きを放つ瞳。

 

 数年ほど前までは見上げるほどの偉丈夫だったらしい。それが宿敵との戦いによりこの有様となり、最近ようやくまともな食事を摂ることが出来るようになったという。

 

 そんな男の世話係兼呼吸の指南役としての任を拝命し、最初は前線任務ではないことに落胆を覚えた。

 

 だが、それらの認識は数日ほどで覆る事となる。

 

「点滴が主食みたいな生活だったからね! あ、点滴と言ってもこっちじゃ分からないかな」

「いえ、最近蝶屋敷で使われている物の事ならば存じております。あれのお陰で重傷の者が助かっていると」

 

 まず、話してみると存外に博識で、会話の中でこちらが知らないだろう単語についても嫌味にならないような調子で教えてくれる。学校の教諭をしているというのも納得の話である。

 

 人格面で見ても、彼は尊敬できる人物であった。

 

 そして、それ以上に。

 

「これが炎の呼吸」

「心胆から発する熱を炎と変え、剣に乗せる流派です!」

「成程……ありがとう」

 

 住む所やお館様への挨拶など諸々の雑務を終え、ようやく本来の目的である呼吸の指南が出来る時間を作れたその日。

 

「うむ……型は、こう。いや、こう、か。ありがとう煉獄少年。覚えたよ(・・・・)

「…………いやはや」

 

 自身に才能などという物があるとは思っていなかった。今、評価されているのも父を始めとする先達の教えを守り、日々鍛錬に励んだ結果だと認識している。

 

 目の前で、自身が幼少の頃より毎日磨き上げ、己の物とした炎の呼吸をまるで苦もなさそうに再現した男の姿に、俺はそれが間違っていなかった事を悟る。

 

「いや、私の場合は昔取った杵柄というか……体を動かす動作というのは一通り全部体に叩き込んだからね! その動きを一つずつ組み合わせて型を再現しただけさ!」

「控えめに言って気持ち悪いですな! それが出来るという事が!」

 

 自身の体がどう動くのか、どう動かせるのか。それは武に生きる人間全てが極めんとしている事柄で、目の前の痩せた男は俺に向かってそれを苦もなく『出来る』と言い放った。つまり、この男は既に、何かしらの極みの領域に達しているという事実。

 

 実際に再現された動き。呼吸までは流石にまだ覚えられてはいないようだが、型に関しては文句のつけようもない領域のもので……彼はこと武という物に関して、自身よりも遙か先を行く先達である事を否応もなく俺に教えてくれた。

 

 故に、こう対応するのも当然の話である。

 

「八木殿……数々のご無礼、大変失礼いたした!」

「え、なに急に。無礼もなにも特になにもされてないよ?」

「内心の話ですからな! しかし、敬意を払うべき相手にそれを怠っていたのは我が落ち度! 謹んでお詫び申し上げる!!」

「お、え、えぇ……」

 

 道場の床に座し、頭を下げる俺に八木殿がわざわざ合わせるように道場の床に座り、ポリポリと頭をかいて困ったようにこちらを見る。

 

「いや、私はなんとも思っていないし……」

「しかしですな!」

「あ、いやわかった! わかったから」

 

 渋るような八木殿の言葉にずいずい、と膝を詰めると、慌てたように両手のひらをこちらに向けて落ち着くように声をかけてくる。

 

「そうだね……これからは後続の人たちに呼吸の修行と、AOGが手配したっていう波紋法の講師の方の受け入れ準備をしなければいけないから」

「さようですな! そのように伺っています」

「うん! なら簡単だ。煉獄少年には今後、私と同行してそれらの手伝いをしてもらいたい」

 

 ポン、と両手を叩いて八木殿は名案だ、と満足そうに頷きながら一つの提案を出してきた。

 

 現状、八木殿は先行する形で呼吸の修行を行っている。これが形になるにせよならないにせよ、数週間ほどしたらAOGという団体から選びぬかれた戦士たちが呼吸の修行をしにこの日の本へと渡ってくるのだという。言ってみれば彼は先触れというわけだ。

 

 そして、それらと並行する形で、我々が扱う呼吸と同じく呼吸法により特殊な力を扱うという技、『波紋法』を伝える人物がこの日の本へやってくるという。

 

 なんでもこの『波紋法』は太陽のエネルギーを生み出すことの出来る、文字通り鬼にとって致命とも言える能力で、柱合会議の場でも最近目に見えて健康的になったお館様から『恐らくかつて存在した日の呼吸につながる技術。必ず鬼殺隊に取り入れたい』とお言葉を頂いた代物。

 

 その技術の伝承者を受け入れるというなら勿論否やはないし、協力しろなどと言われなくても隊士全てが力を貸す所存であるのだが。

 

「いや、そういうのはありがたいけど話はもっと単純なものなんだ!」

「ふむ、と、言いますと!」

「私を例にしても良いかわからないが、ここ数日だけでも結構生活レベルで困ることがあってね!」

「生活、れべ、る? 申し訳ない。横文字は分からないのですが!」

 

 彼の言葉の意味が分からずに首を傾げると、八木殿は「そう。まさにそれ」と口にして指折りしながら彼がこの数日で戸惑ったという点を上げてきた。

 

 例えば風呂、例えば厠、例えば料理。飲水や移動手段その他諸々。彼が住んでいた場所はどうもかなり発展していたようで、彼が当たり前と思っていたこともこちらが用意した邸宅ではできないことが多いという。

 

「それらを纏めてAOGに報告するのは私の役目だけど、それとは別にこちらで何とか出来るものがあるならこちらで何とかしたいんだ。何とか出来るのかの判断を君と話し合いたい」

 

 そして、それらについての知識をこちらに住んでいる人物、特に気心がしれた人物に確認したい、というのが八木殿の考えだという。

 

「もちろん、お受けいたしますが! そのような事でよろしいのですか?」

「いやぁ、これ意外と大きな問題でね。ちょっと極端な例えになるけど、今の暮らしを離れて洞窟で数ヶ月過ごしてくれって言われると困るでしょ?」

「…………なるほ、ど?」

「文化が違う、っていうのも結構大きなストレス……ええと、精神的な消耗につながるからね。出来る限りそういった悪影響を及ぼすものは排除したい、というのが本音なんだ」

 

 実際僕もトイレがねぇ、と困ったように呟く八木の言葉によく分からぬまま相槌を返し。なるほど、確かに互いの認識や常識に齟齬があるのは困るな、と思い至る。

 

 そう考えればこの話は、これから訪れる戦士たちや波紋法の伝承者を快く迎える上で大事な仕事なのではないだろうか。

 

「まずは水洗トイレかねぇ。やっぱり。波紋法の人、聞けば欧州で生活してるって言うし」

「ふむ。先程もつぶやかれていましたがトイレ、というのは」

「ああ。厠の事を英語で言うんだが……」

 

 とまれ、だ。差し当たっては八木殿との認識の齟齬を埋める所から始めるべきだろう。水洗、そして厠。なんとも興味深い。彼が住んでいる場所はどのような場所だったのだろうか。

 

 きっと素晴らしい場所なんだろう。

 

 

 

【異文化交流1 そこは数百年後の貴方の故郷ですの巻 完 】

 

 

 

 

「確証はない。俺ぁ医者じゃねぇからな」

 

 無意識にヒゲに手を触れながら、そう口にする。本来ならば――今までの自分ならばもっと、はっきりとした言葉で口にする所だったろうに。

 

 それを口に出せない。弱くなったのか、それともついに己も大人とやらになったのか。

 

 50を過ぎたオッサンが大人もクソもねぇか。と心の中だけで呟いて、ボリボリと頭をかく。

 

「だが奴なら、或いは」

 

 そう言って、隣に立つ男を見る。己よりもより深く”奴”の事を知る男は、俺の言葉に同意も否定もすることなくただ佇んでいる。

 

 ――お前ェが口を出さないってェことは、そういう事なんだな、ジン。

 

「ブラック・ジャック……クロオなら、その嬢ちゃんの心を蝕む闇を、何とか出来るかも知れない」

「……本当だな?」

 

 ガシリ、と大柄な男に肩を掴まれる。力強い手だ。大きく、ガッシリとしていて。覇気や念といった特殊な何かを感じるわけじゃない。ただ鍛えただけの男の腕からは、何より強い気持ちが感じられた。

 

 片隅で震えている褐色の肌の嬢ちゃんを、余程愛しているのだろう。船に残してきた妻の顔が頭をよぎる。この男と同じ立場だったなら、己はどうしただろうか。

 

 ――まぁ、一通り暴れるのは間違いないだろう。

 

「待ってください。キャスカさんの心の闇は、彼女の心の臓を覆う呪いのような記憶が原因です。たとえそれがどんな神医であれ、記憶の中にある心の闇を取り除くことは……」

「難しい、だろうな、普通なら」

「では……!」

 

 三角の帽子をかぶった少女のその言葉を、否定せずに頷いて肯定する。実際に口にしている己ですら半信半疑、あるいは、という程度の確度でこの話をしているのだから。クロオを知らない彼らがこう反応するのも仕方ないだろう。

 

 だが。あいつを一度でも、少しでも知ってしまうと、もしかしたらという感情が芽生えてしまう。何よりもあいつの治療を受けた己自身が、思ってしまうのだ。

 

 たとえどのような傷や病であろうとも。もしかしたらあいつなら何とか出来るのではないか。信じてしまいたくなるのだ。あの瞳を見ていると。

 

「その嬢ちゃんの問題が、過去の記憶――凄惨な記憶にあるというなら、一番確実なのは時間だろう。時間は記憶を風化させる。忘れるんじゃない、感情ってのは時間の経過で少しずつ削れて、小さくなっていくもんだ」

 

 さて、どう言葉をかけるか。そう考えていた時にジンが口を開いた。

 

「――無理だ。あれは、たとえどれだけ時間が経っても忘れない。忘れられない」

「そう、か。お前さんはそれを……いや。そうだな、となると」

 

 ジンの言葉に静かに首を振る大柄な男、ガッツと呼ばれた男の言葉に、眉を寄せてジンが腕を組む。

 

「俺の知る範囲で確約できるのは、追手のかからない安全な避難先の確保くらい。あとは、それが解決になるかはわからないが、一部の記憶を消去するってのもある。そっちの嬢ちゃんの話だと、それでも難しそうな気はするが」

「記憶の……消去? そんな技術が。いえ、それも魔法ですか?」

「魔法、というには人が限られるが。まぁ似たようなもんだな。ただし、それで記憶を消したとしても」

 

 そこで言葉を切って、ジンはチラと部屋の片隅へと目を向ける、視線の先、少し広めの部屋の壁に寄りかかった女と金髪の少女の姿を見て、ガッツがギリっと歯を噛み締める音が聞こえた。

 

 金髪の少女に支えられるような形でそこに居る褐色肌の女。キャスカと呼ばれた女は、浅い呼吸を繰り返しながら目を閉じ、何かに耐えるように顔を歪めている。

 

 どんな目に遭えば、あそこまで人の心を痛めつけることが出来るのか。こいつらに出会うまでの調査で、バケモノだらけでヤバい世界だというのは分かっていたが……どうも更に下がこの世界にはあるらしい。

 

「おい、ジン」

「あん?」

「もったいぶるんじゃねぇよ。”なんとかなる”って確信があるから、話を切り出したんだろ?」

 

 だからこそ、というべきか。折角知り合えたまともな連中、それになんとも”見所のある”男と出会えたんだ。この機会を無駄にしたくは無ぇし、なによりも嬢ちゃんの姿が駄目だ。

 

 必死になってガッツを見ようとして、そして恐怖に青ざめ目を閉じる姿。その姿に再会した時の妻の涙を思い返し、ついつい必要以上に口を出してしまう。

 

「頼む、ジン」

「……お前なぁ。俺らも仕事で来てるんだぞ、おい」

 

 頭にかぶったターバンごしにガシガシと頭をかき、「あーーー」と天を仰いで、面倒になったのかターバンを脱ぎ捨てる。

 

「俺の息子の魂に刻まれた呪いを、奴は”切除”した。仮にその原因とやらが呪いだとかであっても、あいつなら”切れる”。その上で記憶の消去を行うかどうかは、そっちが決めろ」

「……!」

「ただし条件がある」

 

 ガタリ、と立ち上がったガッツの動きを手で制し、ガッツが座ったのを確認した後にジンは再び口を開いた。

 

「俺たちはこの世界を調査するために来た。ここに来るまでに結構な範囲を調べたが正直この世界は訳が分からん事ばかりだ」

「それは……仕方ないでしょう。この数ヶ月で世界は大きく変貌してしまったので」

「その辺りについても……いや、お前らが知っている限りのこの世界のことについての情報提供と、可能ならこの世界の調査についても協力してくれ」

「協力も、か?」

「念も覇気も通りはしたが、正直この世界のバケモノは”やりづらい”からな。専門家の力が借りられるなら借りるべきだ。無理しないでいいなら無理はしないに越したことはない」

 

 情報提供だけで全部終わるんならまぁそれも良いがな、とここまでに戦った連中を思い出したのか、難しい顔を浮かべるジンに同意の頷きを返しておく。

 

 この世界のバケモノはやたらとグロい姿が多い。未知の世界を旅するのはそれはそれで楽しいんだが、なんというか。そう、気疲れする、とでも言うべきだろうか。タフな連中も多いし、正直辟易していた所だ。

 

「……その程度で良いのか?」

「未開地への侵入調査なんて普通に死ぬかもしれんぞ?」

「構わねぇ。荒事は慣れっこだ」

「ガッツさん!」

 

 ジンの言葉にニヤリッと獰猛な笑みを浮かべるガッツに、シールケと呼ばれた三角帽の娘が抗議するように声を荒げた。先程からの会話といい、ガッツに対する態度といい。どうもこの娘が彼らの副長らしい。小さいなりの癖に、見かけによらないもんだ。

 

「そっちがどうするかは、まぁ話し合ってくれ。俺らは妖精の女王さんとお話してっからよ」

「花吹雪く王と?」

「あの菓子の旨さは聞き出すに足る価値があるからな。返事は、後で聞かせてくれ」

「船の連中も羨ましがってたからなぁ。妖精の菓子だなんだと」

 

 そう言って踵を返したジンの軽口に付き合いながら、俺達は連れ立ってガッツ達の部屋から外に出る。

 

「おっと」

「ちっ」

 

 そして、出た瞬間に放たれたジンの左拳を右手で受け止めると、ジンは舌打ちを一つしてため息を付いた。

 

「で、どうなると思う」

「はぁ……まぁ受けるだろ。あのチームはガッツが良くも悪くも中心だ。方針固める前ならサブリーダーのシールケが干渉する余地も有るが……いや。シールケもあの場じゃ反論してたがありゃ内心は賛成だ。途中で反論が他になければ、って体で賛成に回るだろ」

「だろうな。見聞色で見る感じもそんなもんだった」

 

 予想通りのジンの言葉にそう頷いて、ちらりと先程出てきた扉に視線を向ける。あの扉の向こうでは今頃、ガッツとシールケが結果の決まったじゃれ合いを行っているんだろう。

 

「気に入ったのか」

「あん?」

「ガッツをだよ。やたらと肩持つじゃねぇか」

「ああ……まぁ、な」

 

 揶揄するようなジンの言葉に曖昧な返事を返し、歩を進める。

 

 初めて会った時から心の強い男だと思っていた。その時はただの印象程度であったが、それはあいつの手が己に触れた時確信へと変わった。

 

 目的のために全てを犠牲にしてでも成し遂げる。それだけの覚悟と狂気を滲ませながら、そのくせ正気を決して手放していない。恐らくは仲間の存在があいつを正気と狂気の狭間で繋ぎ止めているのだろうが。

 

 それでも、人に頼りながらでもあれほどに傾いた心を保ち続けている。恐らく同じ経験をしただろう恋人は心を壊された(・・・・・・)というのに。

 

「仲間に加えてぇ。そう思ったのは確かだ」

「ほぉ」

 

 だから、この評価も当然といえるものだろう。俺の言葉にジンは少し驚いた、という表情を浮かべた後。ふっと笑って口を閉じた。こいつにとっても何かしら思うところはあったのかもしれない。

 

 まぁ、唯一の懸念は厄介事を投げられたクロオがブチ切れないかという点だが……患者を前にしたらあいつはどうせ何かしらぶーたれながら治療行為に入るからな。問題ないだろう。

 

 妖精の菓子でもお土産にすりゃ良いか。あのお茶とならよく合うだろうしな。

 

 

 

【異文化交流2 この後諸々話を聞いて厄ネタ世界だと確信するの巻 完 】




煉獄杏寿郎:出典・鬼滅の刃
まだ炎柱になる前。みるみる内に筋肉質になる八木の姿に食事の大切さを実感した

八木俊典:出典・僕のヒーローアカデミア
夢の満漢全席で回復したらすぐに修行を始めた修行バカ。失った力の代わりに念・覇気・呼吸といった新たな技術を手当り次第手を出して身につけていくなんかバグみたいな存在に

語り部:出典・ワンピース
前作主人公コンビ一号
いったい何ロジャーなんだ……!?
元気に異世界探索ライフをエンジョイ中に気に入った奴が居たので勧誘した

ジン・フリークス:出典・HUNTER×HUNTER
前作主人公コンビ二号
元気に異世界探索ライフを満喫中。こないだのネクロモーフといいエッグいのが多い世界群だなぁと思いながらそれはそれで楽しんでる。
なおゴッドハンドは流石に危険すぎると判断。接触は控えた模様。

ガッツ:出典・ベルセルク
長い復讐の旅路の果て、ようやく正気を取り戻した想い人に盛大に拒否られた所を怪しいオッサン二人に唆された

シールケ:出典・ベルセルク
リーダーが唆されたしわ寄せ(知識提供)を受けた。悲しい。
それはそれとして異世界の魔法技術には興味津々。


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本編に出ない人たちの話 8

遅くなって申し訳ありません!

7.20 ちょろっと修正。

誤字修正。路徳様、灰汁人様、酒井悠人様、竜人機様、椦紋様ありがとうございます!


「死…柄木……ッ!」

 

 ボロボロと崩れる体。自分を攻撃しただけで失血し震える手。

 

 ――――許せるハズがない。

 

「また……会おう」

 

 大勢を殺して、皆を傷つけた相手。

 

 だというのに。許してはいけない、そんな相手(ヴィラン)だというのに。

 

「待て……!」

 

 右手を伸ばす。届かない。このちっぽけな右手は力を、想いを受け継いだというのに届くことはない。

 

「お前を、必ず……!」

 

 ――あの時。僕の体の中でオール・フォー・ワンに飲まれたお前が……救けを求めたように、見えたというのに。

 

 僕は――まだッ!!

 

 グングンと遠くなる死柄木の姿。黒鞭、浮遊どれも間に合わない――背中に感触。地面? まさか、早すぎる! 衝撃が来る。身構え、いや、違う。この感触、これは、地面じゃない。

 

 ガシリと体を掴む誰かの腕。アレ程の勢いで飛ばされたというのに、なんの衝撃も感じることなく受け止められた。力の反動に悩まされている身だからこそ分かるその凄さにこそ衝撃を受けながら、咄嗟に振り返り。

 

 

「良く頑張った。緑谷少年」

 

 

 ふわりと耳に届く声。何度も聞いた、低く力強い声。

 

「……あ」

「――本当に、良く頑張った。君は私の誇りだ」

 

 ポン、と頭の上に置かれた手。大きくゴツゴツとした手のひらと、かつて知る姿からは少し細いけれど、筋骨隆々とした肉体に抱きとめられた感触。

 

「もう大丈夫」

 

 いつだってこの人は笑顔を浮かべていた。誰かを不安にさせないために。ヒーローの重圧と、そして内に湧く恐怖から己を欺く為に。

 

「何故って?」

 

 そんな貴方に憧れて。貴方のようなヒーローになりたくて。貴方のような、誰かを安心させる事のできるような。

 

「私が、来た!!」

「オールマイト……」

 

 ――この胸を満たす安心感を、誰かに与えられる存在(ヒーロー)に。

 

 僕は、なりたい。

 

 

 

 

 

 

「…………何故だ」

 

「……」

 

 唖然としたような声を上げるAFOを無視し、力を失う緑谷少年の体をそっと地面に横たえる。限界を迎えたのだろう。体はどこもかしこもボロボロ。気力だけでここまで動き続けたのだ。

 

 君は、私の誇りだ。

 

 もう一度、事実を確認するようにそう思考し、緑谷少年の頭を撫で――視線を前へと向ける。死柄木弔。知っている姿とは随分と様相が違っている。倒したと思っていた存在(宿敵)に侵食された師の孫。

 

「オールマイト……! あいつは……死柄木は」

「無理をするな、少年。わかっている」

 

 許せる筈がない存在だ。多くの人間を傷つけ、そして殺してきた存在。たとえ師の係累であろうともそれは変わることのない事実。

 

 だからこそ。

 

「捕える。ここで、確実に」

 

 メキリ、と音を立てて右拳を握りしめる。爆肉鋼体。新たに得たその力を全身に漲らせ、私はかつての姿を取り戻す。OFAを扱っていた頃の出力(パワー)は流石に取り戻せていない。だが、念能力を始めとした波紋法や武技、呼吸の技術は私にこの戦場に立つ資格を与えてくれた。

 

 ふぅ、と息をつき周囲に視線を向ける。エンデヴァーは茫然自失。ベストジーニストは巨人の確保。暴れる脳無を各ヒーローたちが抑えている。爆豪少年、無茶を……いや、轟少年もそうか。学生を戦場に出してしまった事実に胸が締め付けられるのを感じる。

 

「――それも、これまでだがな」

「…………君は確かに、OFAを失ったはずだ」

「ああ、私の中にはもうOFAはない」

 

 AFOの言葉に頷き、トン、と自分の胸を叩く。あの日、AFOの顔に渾身の一撃を打ち込んだ時、たしかに私の中に残っていたOFAの残り火は消えた。全てを燃やし尽くして、消え去った。

 

 死柄木弔に寄生したAFOから視線を外し周囲を再度見渡す。死柄木弔に向かって駆け寄るヴィラン連合の残党。それを追うジーニストの繊維。ジーニストはまだ余裕がありそうだが、このままでは敵の集結を許してしまう。短期決戦が望ましい、か。

 

 急速に暗くなる空にニィ、と口元を歪ませ、AFOに視線を戻す。

 

「ならば何をしにここへ来た? 個性を失った君がここへ来て、どうなる? 何が出来る?」

「…………」

 

 死柄木弔の口から漏れ出るAFOの言葉に肯定も否定も返さず、ゆっくりと歩みを進めていく。万が一にも逃してはいけない。その為の準備だったが、どうやら上手く行ったらしい。

 

 ならば、これ以上時間稼ぎ(茶番)を行う理由は――――

 

「何も出来やしない。どうやって体を癒やしたかは知らないが……力を失った君は、何も出来ずにただそこで」

「……ずっと、考えていたんだ」

 

 ――――ない。

 

「どう言えば、お前が嫌がるだろうか、と」

「……何を」

 

 得意げな、あの胸糞の悪いニヤケ面を浮かべながら言葉を続けるAFOの言葉を遮り、かつて自身が言われた言葉を言った本人に向かって放つ。師匠の孫を守れなかった。敵に渡してしまった。その事実にあの時、どれほどの衝撃を覚えたことか。どれほど悔やんだか。

 

 貴様には分からないだろう。例え言葉にしたところで、他者を思いやるという心を持たない貴様には決してこの感情は理解できないだろう。

 

「――なぁ、知ってるかい、AFO。この世界のどこかには、7つ集めれば(・・・・・・)どんな願いでも叶えてくれる魔法の球があるんだぜ?」

 

 だから、もうお前に向けて放つ言葉はない。この言葉は、私がただ自分の気持ちに折り合いをつけるための言葉だ。

 

「何をしにきたのか、と尋ねたな?」

 

 全身に力を滾らせながら。ニヤケ面を歪めた宿敵を笑いながら。己を見る生徒に背を見せながら。

 

「ちゃぶ台をひっくり返しにきた」

 

 私の言葉を合図に、私とAFOの戦いは幕を開けた。

 

 

 

 

【ちゃぶ台返し 完】

 

 

 

 

 

「初めてお前を見た時、彼はアレを連想したそうだ」

 

 遠見の水晶を操り、戦場を遥か遠くから眺めながら、その青年は傍らに立つ白髪の執事にそう声をかけた。

 

 日本人らしい顔立ちの青年だった。上質な和服に身を包んだ彼は、明らかにそれと分かるほどに洗練された執事とメイドを引き連れ、この国を代表する人物たちを傍らに控えさせながら彼らとともに戦いの顛末を眺めていた。

 

「それはそれは――光栄な話でございます」

「彼にとっての物差しがその宿敵だった、という事だろうが。この戦いを見るに中々評価されていたようだね。レベルやクラススキルもなく、只人がここまで強くなるとは……個性、というのは本当に素晴らしい可能性を持っている。もっとも――」

 

 そう口にしながら、満足げに一つ頷いて青年、モモンガは視線を遠見の水晶に戻した。

 

 体を崩壊させながら数多の個性を駆使して戦う死柄木弔と、全てを失った後に身に着けた技術でもって互角以上の勝負をするオールマイト。個性至上主義のこの世界ではなんとも皮肉な光景ではないか、と愉快げにモモンガは笑みを浮かべる。

 

「それでは総理。今回の騒動における死傷者は全てお約束どおりに。契約の履行はそれを確認してからでも構いません」

「は、はい…………」

「別にとって食いやしませんよ? 我々のエリア群に加入する上での決まりごとみたいなものです。そう遠くない将来国連を通して世界自体がAOG傘下になるでしょうし、少し早いか遅いかの違いですよ」

 

 青ざめた表情を浮かべて書類にサインする首相にそう答え、上機嫌な表情を浮かべたままモモンガは席を立つ。

 

「セバス、後は任せる」

「かしこまりましてございます。ユリ、供を」

「かしこまりました。モモンガ様、僭越でありますが供を務めさせていただきます」

「ああ」

 

 ユリの言葉に小さく頷いて、モモンガは自身と彼女にグレーター・テレポーテーション(上位転移)を使用した。万に一つの取り逃しもないよう、現地はすでにディメンジョナル・ロック(次元封鎖)で固めてあるし、仮に逃した場合も行き先を追う事は可能だ。

 

 では、なぜほとんどの状況が終わった段階で彼が動いたのか、というと――

 

「(先生、羨ましがるかなぁ。自慢できるよう活躍しないと)」

 

 最大限職務をこなしながら個人的欲求も満たす。それがAOGエリア群代表、モモンガの日常である。

 

 

 

 

【到着した瞬間にオールマイトの右拳が死柄木を捕らえました 完】

 

 

 

 

『――――鉄華団』

 

 舞台上に立つ女性の言葉に、ヒュッと口から空気が漏れる。

 

 周りを囲む同業者たちの阿鼻叫喚の声。笑顔を浮かべているもの、嫉妬に視線を尖らせるもの、そして圧倒的に多い悲嘆にくれるもの達の喧々囂々とした騒ぎの中、彼は呆然としたまま壇上に立つ女性――ホシノ・ルリに視線を送り続けていた。

 

 クイクイっと袖を引っ張られる感触。固まったままの表情でそちらに視線を送ると、長年の相棒がいつもの仏頂面をしたまま彼を見ている。

 

 その事を理解した瞬間。現実感を伴った望外の喜びが、彼――オルガ・イツカを駆け巡った。

 

「ッッッシャアアアアアア!!!」

「オルガ、うるさい」

 

 苦言を呈する相棒、三日月の言葉も耳に入らない程に喜びを表すオルガに、周囲の厳しい視線が向く。だが、そんな視線も今のオルガには全く気にならないものだった。

 

 なにせ、ついに。

 

「これで……! これでイサリビにフォールドシステムが積み込める!!」

 

 グッと拳を握りしめ、オルガは小さくそう叫んだ。

 

 惑星間にも匹敵する距離があるエリア間では物のやり取りが非常に限られてしまう。これまでは防衛機構側の艦船が空いた荷室を使って細々と物のやり取りをしていたが、防衛機構側の必要な物資に限られてしまうため必然、物品は偏り、物流と呼ばれるような物が形成されることはなかった。

 

 しかし不穏分子であった統合軍残党の勢力が”チキュウエリアで”摘発され弱まった事と、エリア間での物と人のやり取りを活発化させようという上層部の思惑が密接に絡まり、防衛機構側の審査を突破したある程度以上の自衛能力を持ち、ある程度以上の積載能力のある艦船がある民間業者にワープ技術の提供を、というお題目で会合が持たれる事となったのだ。

 

 モクセイエリアとのあれこれでエリア間の物流に噛むことが出来た現状、次に鉄華団が目指すべき目標は大量に一度に物資を運べる積載量の有る移動手段の確保。それこそ新たな艦船の入手を、と考えて動いていたオルガにとって、この会合は渡りに船だった。なにせ移動時間が大幅に短縮できるということは、一度に運べなくても複数回の運輸が可能になるという事なのだから。

 

 新しい艦船の購入資金、船員の育成を考えれば。既存の船の改修は必要であろうとも、それだけで済むと考えればどれほどありがたいことか。

 

 まぁ、それは自分たちだけではなく他のライバル企業にとっても同じこと。故に十数社という限られた枠に、数百名は入りそうなこの会場が埋まり切るほどの企業が集まって会合に望んでいたのだ。

 

 そして、自分たちはその限られた枠を、手に入れた。

 

 飛躍の時。頭の中を過った言葉に、オルガが身を震わせた――その時。

 

 ズガンッと頭を抜ける衝撃。「あーあ……」という三日月の声が耳に入る。

 

 なんだ、いきなり、襲撃? まさか防衛機構の施設で?

 

 ぐるぐると答えにならない考えが頭をよぎる中、膝をついたオルガに向かって優しく(・・・)女性が声をかけてくる。

 

「やぁ、オルガの坊や」

 

 その声が耳に入った瞬間、オルガの体は跳ね起きるように直立不動の体勢になった。ダラダラと流れる汗、冷や汗と呼ばれるそれを感じながら、声のした方角に体を向ける。

 

「自制も出来ずにはしゃぐほど嬉しかったようだな」

「ソソソソソソーフィヤ姐さん!!! ご、ご無沙汰してます!!!」

「ああ、元気そうでなによりだ。選ばれた企業は打ち合わせがあると、事前に伝えていた筈なんだが」

 

 ソーフィヤは終始ご機嫌な様子だった。青を通り越して白くなったオルガを見ながらニコニコとした笑顔を浮かべて、彼女は――普段より2段階ほど低い声音で、オルガに向かって言葉を放つ。

 

「後で、じっくりと話そう。積もる話もあるしな」

「ひゃい」

 

 笑顔とは本来攻撃的なものである。傍から見ていた三日月の頭を何故かそんな言葉が過り――まぁいいか。と三日月は引きずられるように去っていくオルガ達を見送って、おやつ代わりに持ってきたりんごをかじり始めた。

 

 

 

 

【精神的に止まるんじゃねぇぞされました 完】




緑谷出久:出典・僕のヒーローアカデミア
 僕アカの主人公にしてオールマイトの後継者。ライバル(ヴィラン)師匠が捕まえてしまった件。この後師匠と共に絶対絶命魔界巡りや暗黒大陸横断ウルトラバトルに参加することになり良く掲示板でグチるようになる。

オールマイト(八木 俊典):出典・僕のヒーローアカデミア
 自分の発想だとAFOに嫌がらせできそうにないからAFOに言われたことをアレンジして返した。ラストは勿論ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ。

死柄木弔(AFO):出典・僕のヒーローアカデミア
 僕アカの宿敵。ちゃぶ台ひっくり返された上に自分が言った言葉で煽り返された。仮にオールマイトに勝っても転移が封じられている上にどっかの魔王ロールの人と戦う事になったので実は詰んでた。

モモンガ(鈴木サトル):出典・オーバーロード
 勢力拡大エンジョイ勢。こんな感じで本人は楽しみながら仕事してます。
 ちなみに例の球に願った内容は『遡れる範囲でヴィラン()の犠牲になった人々を五体満足で生き返らせる』こと。この願いでDBの願いの範囲とどこまで過去に遡れるかを確認してました。

セバス・チャン:出典・オーバーロード
 基本善性な彼はこういう人間主体の世界でよく名代を努めてたり。

ユリ・アルファ:出典・オーバーロード
 基本善性なのでこういう人間主体の(ry

オルガ・イツカ:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 (精神的に)止まるんじゃねぇぞ……した人

ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ:出展・BLACK LAGOON
 終始ニッコニコ。タイヨウ系エリア群の物流は彼女とホテルモスクワ(運輸業)が主体になって構築されます。

三日月・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン:出典・機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
 最近出来た特産品・マリネラりんご(のうかりんお手製)がお気に入り。


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本編で描写しきれなかった人たちの話

※このお話は「如何にしてその吸血鬼はFire Bomberのおっかけとなったのか」「アーカード」の描写外のお話になります。

誤字修正、佐藤東沙様、匿名鬼謀様ありがとうございます!


「私たち、正義のために戦います」

 

 凛とした声が、彼女の駆る光武二式のスピーカーから響き渡る。街全体に打ち込まれたスピーカー弾から流れる青年の声が、彼女の言葉を後押しするように暗く淀んだ空気を吹き飛ばしていく、そんな中。

 

 その声に、先程まで怯え、惑い、竦んでいた気配は微塵も感じられない。

 

「たとえそれが、命を懸ける戦いであっても」

 

 平和の祭典に、参加するはずだった。

 

 半年近くに渡って続いた、人類史初の異世界間における戦いの幕引きが行われる――はずだった。

 

 背後に居る彼ら彼女らはそのために近隣世界から呼び集められた音楽家や歌手であり、そんな彼ら彼女らの演奏を見るために数多の人々がこの日、ロンドンに集まっていた。その多くは戦う力を持たない一般市民であった。

 

 そして、そんな一般市民にも容赦なく。統合軍の悪意は牙を剥いた。

 

「目をそらしたくなるような――凄惨で、悲しい戦いであっても」

 

 人口密集地域への生物兵器(BOW)投入。最低限、守るべき線すらも超えたその蛮行によって、その日倫敦は地獄と化し。

 

 そして、自分たちは守るべきものを背に――本来ならば守るべきはずだったものたちの成れの果てに刃を向けている。

 

 ギリッと奥歯を噛みしめる。

 

 平和の祭典のはずだった。だからこそ、人同士の争いで心身を傷つけた彼女たちを、元気づけるためにも参加に賛成した。こんな悪意の塊を、見せるためではなかった。

 

 予想外の敵襲。予期せぬ戦い。

 

 そして――怪物と成り果てた一般民衆の姿。

 

 限りない悪夢にさらされ、一人、また一人と仲間(彼女)たちが膝を折っていく中。

 

 赤い激情が、街を貫いた。

 

 折れかけた少女の心を繋ぎ止め。絶望さえ抱いていた民衆の心に希望の光をみせ。

 

 怪物と成り果てた彼ら彼女らすらも引き付ける輝きを放ち、彼は歌った。

 

「私たちは、一歩も引きません」

 

 その唄に。そして彼女の言葉に。一人、また一人と傷つき心折られた仲間(彼女)たちの瞳が輝きを取り戻していく。

 

「それが」

 

 彼女の言葉を引き継ぐように、言葉を紡ぐ。役立たずな隊長であるが――だからこそこれ以上、彼女に全てを任せるわけにはいかない。隊長としての――男としての小さな意地を振り絞って、張り上げるように声をあげる。

 

 ちらりとこちらを向くピンク色の光武二式に感謝と謝意がこめて頷きを返す。通信回線を開き、すぅっと息を吸い込む。

 

 街の全てに届けと。ここに我々は居るのだぞと声を張り上げるために。未だに戦う友軍へ、一人じゃないぞと声を届けるために――

 

「帝国華撃団だ!!!」

 

 大神一郎は、魂を込めてそう叫んだ。

 

 

 

【もちろん後でオープン回線でやるんじゃねぇと怒られたの巻 完】

 

 

 

「…………嗚呼」

 

 上空をかける赤い戦闘機の姿。街に響き渡る優しい歌声。

 

 その姿に、小さく。ほんとうに小さく、自分の口から声が漏れ出るのを感じながら。

 

 天羽奏は手に持つ愛槍を強く握りしめた。

 

 あれは、理想だ。

 

 歌唄い(私たち)の、目指すべき――そうありたいと願い続けるべき到達点が、あそこにある。

 

 自由に、気ままに、ただ信じるものを歌に込めて、歌う。

 

「嗚呼――」

 

 そうあれれば、どれだけ楽だろうか。そうなれれば、どれほど良いだろうか。自らも歌唄いであるからこそ。誰かのために歌うことに目覚めた今の自分だからこそ、わかる。

 

 この戦いの中。誰も彼もが憎しみと殺意を振りかざす地獄の中、ただただ純粋な怒りと悲しみを歌に込めて歌う。それがどれだけ尊く、難しく――そして眩いことかを。

 

 空を飛ぶ赤い戦闘機から視線をそらす。眩しさで、眼が焼かれそうになってしまったから。

 

 翼。余りのことに止まっていた思考が回りだす。隣に立っているはずの翼の姿を、無意識のうちに求めたその視線は。

 

 だからこそ、その瞬間を目撃した。

 

「天高く、轟け――」

 

 スピーカー弾から響き渡る歌に呼応するように、自身の半身が、半翼が両手を広げた。己の誇りとも呼ぶべき刀すら手放して、見える全てを抱きしめるかのように。

 

「つば――」

「波打つ想い束ねて」

 

 声をかけようとして、言葉が歌にかき消される。いいや違う。私が、私の声が、言葉が止まったのだ。

 

 眼の前で歌う彼女は、誰だ。

 

 一秒ごとに進化するかのように、急速に成長し続ける彼女は、誰だ。

 

 天羽奏の視界に映る彼女は。あの泣き虫で、少し抜けているところがある、風鳴翼は。

 

「真実の音色は――」

 

 青いシンフォギアを纏った少女は歌う。天に向かい、街の全てに届けとばかりに歌う。その姿に呼応するように、自身らと戦っていた敵方の兵士たちが武器を取り落とす。あれは国歌だろうか。よくわからない歌を。あちらは聖歌か。どこか聞き覚えのある歌を口ずさみながら、叫びながら、涙を流しながら彼らは歌い始める。

 

 嗚呼。

 

 たかが数秒。されど数秒。その『たかが』『されど』の間に。

 

 涙がにじむ。眩しいほどに輝く彼女の姿に、焼かれた瞼の痛みで滲んだ涙が頬を伝う。

 

 たった数瞬で、私は置いていかれてしまった。

 

 たった数瞬で、彼女は遠くどれだけ手を伸ばしても届かない高みに登ってしまった。あの上空をかける赤い戦闘機。彼に触れ、彼に焦がれ、風鳴翼は"進んだ"のだ。目をそらしてしまった自分などとは違う。彼女は、前へ進めたのだ。

 

 歌の技術が、じゃない。才能なんかでももちろん無い。そんなどうでもいい所ではなく、もっと根本的な部分で。

 

 もう、彼女と私では――釣り合わな

 

「奏!!!」

 

 流れていた音楽が途切れ、叫び声が私の耳を打つ。急速にクリアになる世界。

 

「歌おう、奏。私達で――ツヴァイウィング(二対の翼)で!!!」

 

 涙で滲んだ視界の中、鮮明に映る彼女の姿。

 

「奏が何に涙してるのかは分からない」

 

 私の、右手にと彼女の左手が重なる。この暖かさを、私は知っている。この温もりを、私は覚えている。

 

「けれど――真実の音色()は」

 

 そう口にしながら、彼女は――風鳴翼は、私の右手を導くように自身の胸へと導いていく。胸の中央。心臓に一番近い場所。確かに感じる、彼女の脈動。

 

 ああ。ドクンドクンと波打つ心の音が、私の鼓動と重なって共鳴する。

 

 翼だ。翼がここにいる。私の中でぐじゅぐじゅと燻っていた劣等感のような感情を洗い流すかのように、互いのシンフォギアが共鳴し音を放つ。

 

「ここにあるから」

 

 差し伸ばされた左手が。私を信じる暖かさが。ああはなれないと諦めた天羽奏の弱い心を叱咤する。激励する。引き上げて――そして。

 

 私と翼(二対)の歌が重なり合って、私たちは天まで届けとばかりに声を張り上げた。

 

 街の全てに届けと。ここに我々は居るのだぞと叫ぶために。

 

 上空を飛ぶ、あの赤い戦闘機にまで届くように。

 

 

 

【後のFire Bomberの追っかけであるの巻 完】

 

 

 

 それが始まったとき。彼は、脇目も振らずに自身の愛機に駆け込んだ。

 

 戦争が終わったと聞いていた。彼の歌を、傷つき疲れ果てた人々に聞かせて欲しいと頼まれた。だから彼は、この街にやってきた。彼の歌をこの街に響かせるために。

 

 けれど――戦争は終わっていなかった

 

 眼の前で、男が泣いている。

 

 野戦服というのだろうか。軍人が身につける服を身にまとい、頭に回転するプロペラのようなものをつけた恰幅のいい男だ。

 

 彼は、男に助けられた。上空から街中にスピーカーをばら撒き、胸を燃やす感情を声に乗せて歌っていた彼を、複数のミサイルが襲った。そのミサイルを、目の前の男が視覚化した声、としか言いようのないナニかを使って撃ち落としたのだ。

 

 礼を言わなければ。ちょうど歌い終わった所でもあった。通信越しに一言かけるくらいは。そう思ってギターを掻き鳴らし、ファイターからガウォーク形態へとファイヤーバルキリーを変形させた時。

 

 通信機ごしに、男の慟哭が響き渡った。

 

「俺は……俺たちは、ミュージシャンは……っ!!」

 

 途切れ途切れに。

 

「お前が正しい! そうなんだ、ミュージシャンってのは……アーティストってのは自由で!! こんな、こんな戦いなんか!!」

 

 ただただ、激情を言葉にしただけのその男の哭く声が。意味をなさない一つひとつの言葉が通信機越しに彼の耳と、心を打つ。

 

 大の大人が、顔をグシャグシャにして。嗚咽混じりに叫び声をあげて。傍から見れば、ずいぶんと情けない姿に見えるかもしれない。

 

 けれど――何故だろうか。

 

「分かる」

 

 マイクに向かって、彼はそう言葉を口にする。

 

 男の言葉は、まるで意味をなしていなかった。言葉としては、まるで意味がわからないそれらだけれど。

 

「分かるよ、おっさんの気持ち」

 

 眼の前で、涙を流す男の感情は。憤りと、悲しみと、後悔が。

 

 彼に言葉の限界を超えて、男の意思を伝えた。

 

「おお…………おおおぉぉぉっ!!」

 

 その事に、男は歓喜したように声を震わせた。死にそうなほどにクシャクシャになっていた顔に満面の喜色を浮かべて。

 

「分かるか、分かってくれるか……!」

「ああ、分かる。俺たちは、歌わなきゃいけない」

 

 こいつと。このおっさんと、歌いたい。

 

 きっと楽しい時間になるだろう。

 

 その彼の気持が、伝わったのだろうか。雄叫びを上げて。この街の全てに届けと言わんばかりに声を張り上げて、男は吠えた。

 

「そうだ――歌え! 何も気にせず! ただ心のままに歌え熱気バサラ!! 無粋な飛び入りは俺様が片付けてやる! だからお前は――歌え!!」

「ああ。わかった」

 

 元よりそのつもりであった。けれど、手伝ってくれるというのなら断る理由はない。

 

 ああ、だが。

 

「デュエットしたくなりゃいつでも入っていいぜ。おっさんがついてこれるなら、な」

「……はっ! おっさんじゃねぇ!」

 

 軽く笑みを滲ませてそう口にすると、おっさんが愉快でたまらない、といった声をあげる。

 

 そしてすぅっと息を吸い込み。

 

「オッレはジャイアーン!」

 

 高らかに。誇りと高揚を声に乗せて。

 

「剛田武。親しい友人は、ジャイアンと呼ぶ。よろしくな、熱気バサラ!」

 

 全劇場版終了後のジャイアン(剛田武)は、親指をたててそう言った。

 

 

 

【「わかった。じゃあタケシな!」「お、おう」の巻 完】




大神一郎:出典・サクラ大戦シリーズ
 帝国華撃団花組隊長。本来は自身がやるべき事を部下にやらせてしまい少し後悔している。戦闘後にオープン回線で叫ぶなと関係各所に怒られ、そして感謝された。彼の言葉に元気づけられた人も、居たのだ。

天羽奏:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 ツヴァイウィングの赤い方。厄介系吸血鬼に目をつけられたり平和の祭典に参加したと思ったら地獄みたいな状況に放り込まれることになったり相棒が階段飛ばしで進化して置いてかれそうになったりと今作中一番可愛そうな目にあってる。この後Fire Bomberの追っかけになる。

風鳴翼:出典・戦姫絶唱シンフォギア
 ツヴァイウィングの青い方。原作軸と違い奏を失っていないため若干精神的な弱さが見えていたが、熱気バサラに充てられジョグレス進化を果たす。この後Fire Bomberの追っかけになる。

熱気バサラ:出典・マクロス7
 人も軍人も怪物も、この街にいる何もかもが彼の歌を聴いた。この話はこれだけの話。

剛田武:出典・ドラえもん
 全劇場版終了後のジャイアン。つおい。バサラを狙うミサイルはコエカタマリンで全部撃ち落としたしこの後絡んできた敵空戦部隊は全部彼が片付けた(エース級含む)






描写外の大まかな倫敦攻防戦の流れ

統合軍、チキュウエリアから撤退。残存勢力をまとめてツキエリアを経由してモクセイエリアへ移動

防衛機構チキュウエリア支部、統合軍の撤退を“再三”確認し内戦終結を宣言。

終結記念に激戦区となったエリアで祭典を開催。各地のアーティストを招待

祭典の開催日、開催都市となった倫敦の各所にどこでもドアが出現。防衛機構支部の司令を統合軍首魁蘇妲己が襲撃。野比のび太、蘇妲己と対峙。

蘇妲己のテンプテーション(誘惑の術)で連合軍の半数が離反。倫敦に攻撃を開始。警備隊として配備されていた連邦軍部隊と戦闘開始。アムロ・レイ、キラ・ヤマトが交戦

離反した電脳対策班.hackersにより倫敦全域の電子装備がダウン。長谷川千雨、メインサーバーを犠牲に一時的に.hackersの攻勢をシャットアウトする。が、倫敦全域の電子網を失う

“少佐”率いる最後の大隊が倫敦上空に侵入。倫敦全域に無差別攻撃。及び各地のどこでもドアから統合軍所属部隊が出現。“ウェスカー”、“白銀”、その他ネームド

会場警備部隊が接敵。“烈火の将”、倫敦上空にて“白銀”率いる第二〇三航空魔導大隊と激突。

一部参加者、会場警備に合力。“ウェスカー”によりBOWが放たれる。アーカード、“ウェスカー”と接敵・撃退するも取り逃がす。

ヘルシング邸襲撃。風見農華、セラス・ヴィクトリアによって迎撃、撃滅。暁の出撃。

ブラック・ジャック(間黒夫)と愉快な仲間たち、戦闘に巻き込まれる。霞ジャギ、ユダと交戦、勝利。ブラック・ジャック(間黒夫)、銃弾で心臓を撃ち抜かれ意識不明の重体に

バサラ降臨

各戦線が停止。戦意喪失者多数。司令部にてテンプテーション(誘惑の術)から逃れたシェルビー・M・ペンウッド(英国無双)が蘇妲己を銃撃。蘇妲己負傷。タイヨウ系エリア郡代表太公望(伏犠)、司令部内に突入。蘇妲己撤退。ブラック・ジャック(間黒夫)復活

蘇妲己撤退によりテンプテーション(誘惑の術)の影響下にあった部隊が戦闘放棄。9割の戦線で戦闘が終結。

アーカード、シュレディンガーによって敗北

ブラック・ジャック(間黒夫)、アーカードの内部にあったシュレディンガー(患部)を切除。少佐、完全敗北

太公望(伏犠)、野比のび太と共に最後の大隊旗艦へ。“止まれない”残り一割の統合軍残存戦力に旗艦へ向かうよう呼びかけ。のび太、風見農華と共に1割の統合軍残存戦力を撃滅。戦闘終了。



これ全部書くとどのくらいかかるかわからなくなったので()歌に関係がある部分だけ抜き出しました


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最新話
番外編 原作ウォッチ2


番外編で申し訳ありません全然本編が進まなくてつい(白目)
ちょっとリアルの方でなかなか時間が取れずズルズル行ってますが今後も隙を見て更新はつづけるのでよろしくお願いします。

誤字修正、ソフィア様、#4c6cb3様、momotaro様、ユウれい様、ぼるてっかー様、路徳様、佐藤東沙様、名無しの通りすがり様ありがとうございます


 防衛機構において最も嫌われる仕事とはなにか。

 

 未知エリアの調査? なるほど、確かに未知とは危険である。文字通り何があるのかわからないこの世界において知らないというのは即座に致命傷となりえる代物だ。だがこの調査員が居なければ安心して生活できないこの世界だ。勇気をふり絞って、命をかけてエリアの調査を行う調査員という職種は、その危険度を上回る名誉ある職種とされており、存外人気のある仕事だ。

 

 危険エリアの封印管理員? 確かにすでに危険があると認識されている場所に縛られるのは誰でも嫌だろう。特にマカイエリアにおいてのそれはただ危険であるだけでなく、やれ感度が3000倍にされただの魂まで汚染されるだのという文字通り"どんな目にあうかわからない”という嫌らしさもあり、知勇を兼ね備えたヒーローでも二の足を踏む仕事ではある。だが、嫌がられる仕事の中でも上位の不人気ぶりではあるが、最もという枕詞がつけられるほどではない。

 

 では、防衛機構において最も人気がなく、嫌がられ、敬遠される仕事はなにか。

 

『ねぇ、甲児くん』

 

 女性の歌が途切れ、画面が真っ暗になった部屋の中。線の細い少年が、俯き気味に口を動かす。なんと返答を返せば良いのか躊躇する自分の言葉を数秒ほど待ったあと、少年は顔を上げ、光を失った瞳で部屋内部に設置されている監視カメラに視線を向ける。

 

 幾つもの感情をごった煮して絶望をブレンドしたような表情を浮かべた少年の表情にゴクリと喉を鳴らす自分に語りかけるように、彼は再度口を開く。

 

『僕は、このどうしようもない、やるせない感情を何にぶつければ良いのかな』

「お、おお。そうだな……」

『父さんのメガネをぶち割ってやれば良いのかな。それとも肩を叩いてやれば良いのかな』

「ええと、……その、だな」

 

 何とも答えづらい質問に言葉を濁そうとするも、少年はその言葉に聞く耳を持たないように言葉を紡ぎ続ける。

 

『母さんをエヴァから引きずり出すのが良いのかな。防衛機構なら出来そうだもんね。あ、でも母さんと顔を合わせてもこの感情はどうしようもないよね。守ってくれてありがとうというのも変な感じだし、なんで側に居てくれなかったのなんて泣き言を言うのも違う気がするし。ミサトさんに文句をつけるのが良いかな。アンタ等が乗れって言ったんだろうがって。でも、ミサトさんが僕を守ろうとしてくれていたのは確かだし――』

 

 ブツブツと呟くように少年は言葉を続けていく。助けてくれ、と監視カメラを動かして少年の隣に座る銀髪の少年に視線を向けるも、彼は首をすくめて"無理”というジェスチャーを返してくる。

 

 防衛機構において一番人気のない仕事。それは自身の原作を確認することだ。

 

 この原作確認によって自身のアイデンティティを粉塵爆発されるような人物もいれば、今目の前で映画を見終えて自身の感情と折り合いがつけられず虚無を背負う人物も居る。暴れ出さないだけ眼の前の少年は理性的であるとすら言えるだろう。

 

『その、だな。シンジ』

 

 頭を必死に働かせ、かけるべき言葉を絞り出す。監視役に選ばれる人物は、原作を確認する人物と親しい人物が選ばれる。彼、兜甲児は職種が同じパイロットで年齢が近いこともあり、引っ込み思案な原作を確認していた少年、碇シンジと友誼を結んでいた。

 

 シンジは少しウジウジとする女々しい所があるが、付き合っていく内に臆病であるが臆病であるからこそ他者を気遣う優しい性根の持ち主である事が理解できたからだ。

 

 今回の原作確認も、シンジに頼まれて監視役を彼が担うことになった。隣に座る渚カヲルとはそれほど付き合いのある方ではないが嫌っているというほどでもない。それにメンタル的に弱いところがあるシンジを隣に座ってフォローできるのは、同じ原作持ちでありメンタル的に安定していると思われている彼しかいなかった。

 

 故に兜甲児は碇シンジと渚カヲルの原作確認を監視する役を受けた。受けてしまった。

 

 そしてその結果、彼も彼らと共に見ることになった。

 

 旧TV版はキツかった。キツかったがまだなんとかなった。理解できない大人のエゴに憤りを感じる事も出来た。当事者だったシンジは憤りどころか虚無っていたがこの辺りは見終わったあとに共に飯を食べたり、同じく旧TV版を見終わったアスカにボコボコにされるシンジを助けたりと気を紛らわせる事が出来た。

 

 旧映画版は良く分からなかった。余りにも難解すぎたのと、シンジが実際に経験したものではなかったのでシンジもどう受け止めれば良いのか迷っているようだった。この辺りまでは励ます事が出来た。

 

 だがQは駄目だった。Qを見終わったあと、シンジは心を失ったかのように言葉一つ発することもできなくなっていた。心理的なフォロー役として座っている隣のカヲルの存在が余計にシンジにダメージを与える始末だった。

 

 元々Qはショッキングな場面があり、シンまで連続で見た方がいいと有識者にアドバイスされていたので、そのままシンまで進んだ。だが、そこまでのすべてを見終わったあとでも、反応がこれだ。

 

 気持ちはわかる。振り上げた拳の下ろしどころがない。映画の中のシンジは全てを飲み込めたようだが、それを客観的に見せつけられた眼の前の友人は感情を飲み込むことが出来ず、暴れることすら出来ないほどに疲弊していた。

 

 友人だ。付き合いはそれほど長くない、だが確かに友人だと思っている人物が、傷つき俯いている。その姿を見て、彼にかけるべき言葉も見つからない。友人を助けるための一助が、出来ない。

 

 最も人気のない仕事が原作確認であるのなら、原作を確認している人物の監視はその次点に困難で、心に来る仕事だ。

 

 胸を埋め尽くすほどの憤りとやるせなさ。それでもシンジが感じているほどではないだろう激情を無理やり胸の中に押し込んで、甲児は口を開く。

 

「とりあえず親父さんを殴るのは、許されると思うぞ」

『だよね!!!!!』

 

 我が意を得たり、と叫び声を上げるシンジに向こうからは見えないがサムズアップで返し、甲児はシンジのガス抜きに付き合ってやろうと心に決めた。

 

 

 

 

【メガネを割る前に乱入してきたアスカにシンジがボコられるの巻 完】

 

 

 

 

 今日も憂鬱な時間がやってくる。

 

『おはよう少佐。今日もよろしく頼む』

『おはよー。ねぇターニャ、どうせ退屈な時間になるんだし、見たってことにして出ちゃ駄目?』

『こら、ユキカゼ。少佐も仕事なんだぞ』

「ハハハハ……」

 

 画面の中の少女たちの言葉にターニャと呼ばれた少女は乾いた笑い声を上げる。その反応にブーたれていたユキカゼと呼ばれた褐色肌の少女がバツの悪そうな顔を浮かべ、そっと監視カメラから目をそらした。

 

 ユキカゼの申し出にターニャが困っていると勘違いしたのだろう。少し考え足らずな所があるが、彼女は友人関係にある相手には甘いところのある少女だ。それに困っているのは確かだ。彼女の申し出にではなく、彼女たちの反応に。

 

「それでは映像を開始します。前回見た内容は覚えていますか?」

『ああ、もちろん。と言いたいのだが、実を言うと前回・前々回と記憶が少し曖昧でな……』

『あんまり大した内容じゃなかったから覚えてないのかしらね?』

 

 良かった。曖昧にとはいえ少しは記憶に残っているのか。複数回の積み重ねも無駄ではなかったらしい。

 

 安堵のため息を噛み殺して監視室に設置された機材を操作すると、彼女たちの座る椅子が変形し両手両足を覆うような形になる。彼女たちにはリラックス用のマッサージ機能だと説明してあるが、もちろん映像再生中にやたらと戦闘力のある彼女たちが暴れ出さないよう拘束するためのものだ。マッサージ機能もあるが。

 

『あ、いい感じ……ねぇターニャ、これもうちょっと強く揉むように出来ない? こっちじゃ操作出来ないっぽいのよね』

「ふむ、強弱は自動検出機能で決まるらしい。少し弱いと言うなら、開発部にそう進言しておこう」

 

 嘘である。自動検出機能はあるが、このマッサージ機能は映像を見ている彼女たちの気を紛らわせられれば、という淡い期待を込められただけのものであり頑丈性にこそ重きを置いているため性能は二の次三の次という代物だ。

 

 このやり取りも彼女たち相手にこれで5度目なのだが、幸いと言って良いのかこの要望を投げてきたユキカゼはその事を良く覚えていないらしく怪訝そうな表情を浮かべながらも口を閉じた。

 

「さて、ではこちらからの声かけはここで終わりますが」

『うむ――ああ。その、ですね。少佐……』

「ええ、分かってますよ。貴方達の原作はセンシティブですからね。こちらからは何か起きない限り干渉しない様にしておきます」

『助かります。少佐が歴戦の戦士であるのは理解していますが、私達の世界は少々エゲつない。少佐の年齢ではまだ見ない方がいい場面もあるでしょう』

 

 キリッとした表情の似合う少女の言葉に感謝の言葉を述べ、数秒後に音声回線を閉じる。

 

 そのエゲつない目に自身があっている映像をこれから見ることになるのだが。口からつい漏れ出しそうになった事実を口を閉じることで葬り去り、ターニャはまだ熱を持ったマグカップに口をつける。

 

 これで5度目だ。これまでに彼女たちは自身の原作5回見て5回暴れまわり、その都度記憶を消されている。ターニャは彼女たちの3度目の視聴の時から受け持ちとなっているが、少なくとも彼女が受け持ちとなった後の3回全てで半分以上原作を消化することが出来ずに暴れだして記憶処置をされているため、この苦行はまだまだこれからも続くと予想されている。

 

 故国を離れ部下とともに心機一転。しかも念願の後方勤務であると喜んでいた半年前の自分を殴りたい。助走をつけてグーで殴りたい。これであの戦闘狂(シグナム)に付き纏われないで済むと感謝までした自分にフルバーストを叩き込んでやりたい。

 

 これも全て、あの存在Xの仕業に違いないと呪詛を呟きながら、ターニャは早速出番になりそうなひみつ道具『わすれろ草』を取り出し、ガタガタと椅子を揺らして暴れ始めた二人の鎮圧に向かった。

 

 

 

 

【貧乏くじがよってくる体質のたーにゃでぐれちゃふさんの巻 完】

 

 

 

 

 自身の原作を確認する。

 

 これは防衛機構に所属する職員全てに課された、数少ない義務の一つだ。

 

 防衛機構はその管轄内の生存権確保を主目的とする組織のため、管理エリアの維持管理と懲罰などの例外を除けば、職員を縛る決まりは殆どない。生きるために命を賭すのならば細かいことには口を出さない組織なのだ。

 

 であるならば何故、自身の原作を無理やり見せつけるような義務があるのか。これは、この原作を確認するという行為が自身の、引いては組織全体の危機を未然に防ぐかもしれないからである。

 

 原作を持つキャラクターの中には、意図せず大量破壊を引き起こすキャラクターも居る。その原作内で死亡する人物もいる。彼が自身の事を知らないで日々を過ごした結果、ある日周辺諸共消し飛ばすような大災害を引き起こすなんて事が起こりえるかもしれない。大事な任務中に持病が悪化して死亡し、他者を危険に晒す事になるかもしれない。

 

 大げさなどと思うなかれ。この世界は、本当に簡単に世界が滅ぶトリガーが多く眠っているのだ。

 

 故に防衛機構に所属する人間は全てが自身の原作を確認する義務を持っている。

 

 それは当然、最も位の高い者たちでも。

 

 

 バリボリと甘酸っぱいタレで焼き固められた煎餅を齧りながら、八雲紫はゲームパッドを握りしめた。必ずやかの邪智暴虐なる妹様を攻略してやると息巻きながら、彼女はつい妖怪の握力で握りつぶしてしまったゲームパッドのUSBを抜き、新しいゲームパッドをスキマから取り出して愛用のぱそこんに突き刺した。

 

 八雲紫はノーマルシューターである。その類まれなる反射神経を駆使し熱くなりすぎてゲームパッドを握りつぶすような事故さえ起こさなければExtraまでたどり着くことのできる腕前を誇っている。ハードは無理だった。

 

 むん、と可愛らしい気合の入れ方をする八雲紫の隣で、今日は気分なのか骨太郎モードで椅子に座るモモンガがついいつもの癖でいい香りのするお茶を口に含み、びちゃびちゃと床を濡らしながら、何回も読んだためか所々すり減っている黒い装丁の本を読んでいた。

 

 そんな二人と反対側の席に座った涼宮ハルヒはケラケラと笑いながら涼宮ハルヒちゃんと書かれた漫画を読み、その隣に座る安心院なじみは何を考えているのかめだかボックスと書かれた本を逆さまにして読んでいる。最後に残った椅子にはくまのぬいぐるみが置かれている。

 

 いつも通りの光景。最低でも月1で行われる原作確認。

 

 あと1時間ほどで今月の義務も終わるという頃合いになり、なにか思い当たったのか。安心院なじみはふと読んでいた漫画から顔を上げ、「そういえば」と口を開く。

 

 唐突に口を開いたなじみに場に居る全員の視線が集中する中、彼女は宙を漂わせていた視線をモモンガに向け、小首を傾げながら彼に尋ねた。

 

「この原作確認も随分長く続いたねぇ」

「ああ……第一回の代表会議から始めて18回ですか。確かにこんなに長く続くとは思わなかったですね。俺もう、原作の小説も漫画もアニメも見終わっちゃいましたよ」

「私もぱそこんなんて全然分からなかったのに気づいたら全作クリア(※ノーマル)しちゃったし。もう月に一回、のんびりできる休日みたいなものよね」

「最上位にある者だからこそ月に一度原作を確認し万が一の可能性を云々、でしたっけ。途中参加の私ももう見るものが無くなってきてるのよね」

 

 第一回の代表会議。それこそ防衛機構という組織の名前が決まった瞬間からの取り組みであるのか。最初期メンバーの言葉に軽く驚きを覚えながらハルヒがぼやくように呟くと、3名はうんうんと深く頷いた。

 

「まぁこの行事は元々、互いがどういう者なのかを確認するだけの意図で始まったものだしね」

「ああ、そうだったね。初回の会議は酷かった! 互いに互いを全力で警戒して碌に会話も進まなくってさ。みんな安心して私を信じてくれても良かったのに。安心い」

「自分の原作確認前に他の人の原作確認をして。紫さんだけダントツで難易度高いのなんなんです?」

「モモちゃんイージーシューターだものね。イージーなんて小学生しか許されないのよ?」

「私は評価するわよ? なじみ」

「優しさで涙がちょちょぎれそうだぜ」

 

 隣に座るハルヒの労りの言葉に目から目薬の液を流しながらなじみが答える。モモンガと八雲紫は目薬をポイッと床に放り捨てる安心院なじみを冷ややかな目で眺めたあと、手に持ったそれぞれの原作をテーブルの上に乗せる。

 

 どうせ内容など全て覚えているのだ。ならば昔話に花を咲かせる方が精神的に良いだろう。

 

 そう判断を下したのか、それとも気分なのか。骨太郎モードから人間形態に移行して尻がお茶で濡れる感覚に顔をしかめながら、モモンガ(鈴木悟)は懐かしそうに目を細める。

 

「信じられませんね。あれからまだ2年も経ってないなんて」

 

 少し熱を帯びた声だった。初回の代表会議を思い出す時、必然的にその場には彼の友人の姿がそこにある。彼に対して並々ならぬ思いを持つモモンガ(鈴木悟)は、その頃の事を思い出す度に"少し”感情的になってしまう。

 

 代表者とその腹心。そしてゲストを交えたこの円卓での会談。当時、彼らは今のゆるさからは信じられないほどに互いに互いを警戒し、故あれば全力で互いを殲滅する覚悟でこの会談に臨んでいた。

 

 ゲストであった彼は中立だった。その場に臨んだ代表者5名が名前を知っており、間違いなくこの男なら誰にとっても中立的な意見を出すだろうと――仮に依怙贔屓が発生しても問題なく潰せるという打算も含み――会談の立会を求め、やってきた知識人。

 

 張り詰めた会談の中。持参したティーポットでお茶を飲みながら本を読んでいた黒い男の姿が、古参である3名の脳裏に蘇る。

 

「『知らないなら知れば良い』。でしたね、先生」

「それまで我関せずでのんびりお茶を飲んでたのに、急に手に持っていた本を伏犠さんに投げたのよね、ポイーって」

「僕とモモンガくんがぶつかりそうになった時だったかな。あれには驚いたよ、本当に。そして最初に投げたのが僕の原作だった事も驚きだけどね。少年漫画みたいに読みやすかったのかな?」

「へぇ――二人がそうなるなんて想像出来ないわね」

「あの時は僕も若かったからなぁ。見知らぬ相手、しかも明らかに悪党面の人外に警戒心を持ってもおかしくはないだろ?」

「威圧感を出すためにオーバーロード姿で行ったのが問題になるとは……」

 

 どよんとした空気を纏うモモンガ(鈴木悟)に残りのメンバーが苦笑をこぼす中、一連の話を聞いたハルヒの脳裏にも彼らと同じ人物の姿が浮き上がってくる。

 

 ああ。簡単にその場面が想像できる。出来てしまう。言うだろうな、あの先生なら。小指の先ほどの力を向ければ自分を消滅させてしまえる存在同士がぶつかり合う中でも、なんの気負いもなく。おそらくはいつもの仏頂面で『お互いを知らないなら知れば良い。それを読むだけなんだ。簡単だろう?』なんて事もなげに言い放ったのだろう。

 

 精々バランサー程度の期待を込めてその場に彼を呼んだ面々がどんな表情を浮かべたのかを想像しながらハルヒがニヤついていると、隣の安心院なじみが「あ、そうだ」と手をたたきながらハルヒに視線を向ける。

 

「ところでうちのエリア群に蘇妲己がいるみたいなんだけ――」

「殺しに行くから捕まえといて。すぐに」

「ステイステイステイ。落ち着こうぜ、ビークールだよハルヒちゃん」

「涼宮さん、落ち着いて。ここ円卓、円卓ですから!」

 

 なじみの一言に瞬間湯沸かし器よりも早く熱く臨界点にまで達したハルヒの周辺の空間が歪み始める。溶けるように消えていく周辺物に、焦りを覚えたのか必死に彼女をなだめるなじみとモモンガ(鈴木悟)、その様子をコロコロと笑って眺める八雲紫。そして椅子に置かれた代理のクマのぬいぐるみで構成された超越者たちの会合は、今日もまた平和に終わりを告げる。

 

 

【原作確認は全職員の義務ですの巻 完】

 




碇シンジ:出展・エヴァンゲリオンシリーズ
 父親に見てもらいたくてエヴァのパイロットになったは良いもののサードインパクトどころじゃない世界になってしまい色々な経緯を経て現在は対宇宙怪獣をメインに戦場に立っている。内向的な性格は変わっていないが環境が変わったためか原作よりはかなり社交的で同世代の友人も増えている。

兜甲児:出典・マジンガーZ
 出会った当初はうじうじとした性格だったシンジに苛立つこともあったが、付き合いが続く内に彼の性根の根幹部分の優しさと臆病さに気づき、友人として接するようになる。次第に前向きになっていくシンジの姿に密かに喜んでいたが、今回の件を安請け合いしたのは間違いだったかと反省している。後悔はしていない。

渚カヲル:出展・エヴァンゲリオンシリーズ
 この後二人とお風呂にいった。風呂は良いね、リリンの生み出した(ry

ターニャ・デグレチャフ:出典・幼女戦記
 貧乏くじを引くことに定評のある幼女(中身おっさん)。出身エリアにいるのは気まずいだろうという甘言にのり防衛機構管理下の全エリア中一番人気のないマカイエリアに配属になり、更に後方勤務だと言われて部下と共に原作確認作業の監視員を引き受ける羽目になった。部下が可愛そう。

水城ゆきかぜ:出典・対○忍シリーズ
 ※18歳未満の人は検索してはいけないシリーズ出身の忍者。検索してはいけない(大事なことなのでry)
 未だに原作1を見れずわすれろ草のお世話になっているので次はアニメーションの方を見せられることになっている。

モモンガ(鈴木サトル):出典・オーバーロード
 愛読してた自分の原作が消滅してショックを受けている

八雲紫:出典・東方シリーズ
 妹様に勝てなかった

安心院なじみ:出典・めだかボックス
 不用意な発現はやめろとモモンガ様に詰められ少しだけ反省している

涼宮ハルヒ:出典・涼宮ハルヒの憂鬱
 涼宮ハルヒは決意した。必ずやかの邪智暴虐なる女狐の生皮をはぎ標本にして殺生皮とする事を心に決めたのだ。


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